やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ! (てっちゃーんッ)
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1話

身構えてる時には、ガチャで☆3は来ないものだよ、ハサウェイ。




 

あ、ありのまま 今 起こったことを話すぜ…?

 

 

おれは カボチャの頭を被っていたら

 

ウマ娘の世界に転生してた…

 

 

な …何を 言ってるのか わからねぇと思うが

 

おれも 何を言ってるのか わからねぇ…

 

 

カボチャの頭もどうにかなりそうだった

 

連邦だとか 反省を促すだとか

 

おふざけどころなもんじゃあ 断じてねぇ

 

もっと恐ろしい物の片鱗を 味わったぜ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 1時間前 〜

 

 

 

 

 

ガチャの天井は見慣れても、見慣れない部屋の天井は目を覚ますのに強烈だった。

 

最初は気のせいだと思っていたけど、でも部屋が変わっていて、それでこの部屋が自分の部屋じゃないことはすぐにわかった。

 

一気に駆け巡る恐怖心。

 

だけど違和感。

 

先ほどまで俺は思いっきりアウトドアしていた筈だ。

 

なのに気づいたら知らない天井の下で眠っていた?

 

それとも酒を飲んで酔って眠りこけたとでも言うのか?

 

それならアルコールの香りが口から漂うはずだが、そんな香りは一切ない。

 

 

思い出せ、俺は確か……

 

ああ、そうだ。

 

休日に友人と集まって遊んでいた。

 

それもスタジオを借りて集まるレベルの話。

それで、とあるおふざけのために取り組もうと準備をしていた。

場所は値段の安い地下のスタジオだったけど、学生時代に集まりやすくて楽しいところだったから、時の流れと共に成人した仲間にメッセージを流して予定を合わせた。

 

全力で悪ふざけをするため、動画作りのための機材を持ち込み、 購入した真っ黒なタイツとカボチャの頭を用意する。

 

それからとあるCDも持ってきた。

 

それは最近上映された映画の主題歌……の、風評被害と言ったらアレだけど、空前のブームで始まり、味の出るCMとその構文、そして反省を促すあの踊りの曲だ。

 

それを友達と踊って動画にしようと思い、先にスタジオ入りして、準備した。

 

仲間が来る前にカボチャの頭を被って使い心地を確かめていると…

 

 

それで、足場が揺れて…

 

建物が激しく軋み…

 

上から崩れるような音が響き…

 

一瞬だけ走った激痛を最後に暗転した…

 

 

これが最後に覚えてる記憶。

 

つまり俺は…

 

 

 

「………………」

 

 

 

 

 

思い出すのは、やめよう。

 

思い出せないなら、そうしよう。

 

脳がそうさせているなら、そうであるべき。

 

 

 

しかし…

 

そうか…

 

やはり、そう言うことなのか。

 

ぐむむ…

 

はぁ…

 

碌に、親孝行もできなかったなぁ。

 

悔やまれる。

 

でも、今の俺は何もできない。

 

仕方ないのだろう。

 

今はなんとか気持ちを入れ替えよう。

 

何か手軽な飲み物でも探し………む、これは??

 

 

 

「サプリメント?? いや、これは……薬??」

 

 

 

個室にテーブル。

 

分厚そうな本の隣に日記帳もある。

 

あと折り畳まれた紙もだ。

 

てかいまパジャマ姿か俺。

 

いや、今は良いや。

 

どれどれ?

 

日記帳あるなら判断材料としては申し分ないが…

 

開いてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2月1日

 

 

 

 

もう無理だ_______

____________

____________

____________

____________

____________

____________

____________

____________

________死にたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テーブルの上にあるのは睡眠薬。

そして、自害のための……毒薬。

 

睡眠薬はわかる。

病院に相談すれば手に入る。

 

でも毒薬を手に入れるなんて相当だ。

 

間違ってもそこらで簡単には手に入らないものであるのに、それがココにあると言うことは、探し求めてココにあると言うことだ。 まだ未開封だが準備していたということはつまり…

 

何がなんでも必要としてたからココにあると言う話。

 

それだけ…

この人は死にたかったと言うことだ。

 

 

 

「この日記帳、懺悔ばかり書いてるな。 いや、それ以外だけど、この三女神に願ったのが失敗だったと言うのは…なんだ?」

 

 

 

てか、なんだろう?

 

三女神ってワード…

 

うーん、どこかで聞いたよな…

 

 

 

 

 

 

 

 

日記を読む。

 

 

_願った。 願ったのだ。

_これで小娘達は逆らえない。

_やっと立場を理解するだろう。

_はっきりとした上下関係のためだ。

_指導者には頭を垂れさせる。

_大丈夫だ、私は天才なんだ…

_これで証明してやるんだ!

 

 

 

「…」

 

 

 

 

 

 

次のページだ。

 

 

_最初だけだ…

_良かったのは本当に最初だけ…

_奴らは頑なに私を避けようとした。

_なんなら人間さえも私から離れてく。

_最初は陰湿なイジメかと思った。

_だが職場だけではなく街中でも同じだ。

_視線を合わせれば顔を歪ませる。

_終いには子供が泣き保護者に詰め寄られる。

_故に気づいてしまった。

_これは"呪い"だったのだと。

_そして失敗であり、間違いだ。

_何故だ、何故なんだ…

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

次のページ。

 

 

 

_自分の力では無い。

_指導者でありながら間違いを犯した。

_願ってどうにかしようとした自分の過ちだ。

_どうやら私は愚か者だったようだ。

_あの像の怒りに触れたんだと今理解した。

_今となっては娘達のしぼる耳がよく見える。

_そして次に感じるのは…敵意。

_あの目線が、あの声が、あの娘達が、怖い。

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

次のページを読む。

 

 

_人よりも力が強い。

_人よりも足が強い。

_人よりも体が強い。

_強い、強い、強い。

_ひどく恐ろしい生き物だ。

_そうとも、私はそう思っていたんだ。

_だからそうならないようにしたかった。

_けれど彼女達はそうではないんだ。

_話せば理解して、理解して頷き、最後に走る。

_私は一人その光景を遠くから眺めていた。

_ターフを駆ける彼女達は真剣だ。

_なら私のやろうとした事は一体…

_ああ……私は、なんてバ鹿な奴なのだ…

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

次のページを読む。

 

 

_こんな資格、取ったところで意味はない。

_何のために勉強したんだ???

_こんな知識、蓄えたところで意味はない。

_何のために会得したんだ???

_こんな覚悟、違えたところで意味はない。

_何のために渇望したんだ???

_こんな時間、稼いだところで意味はない。

_何のために投資したんだ???

_実力を示そうとせずに、願った結果。

_愚か者の末路に相応しいのだろう。

_後悔しても、もう取り返しのつかない。

_ぁぁ、疲れた、なぁ…

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

次のページを読む。

 

 

_呪いをどうにかしようとした。

_しかし動けば動くほど刺激をする。

_終いには水の中に投げられてしまった。

_三女神の像が嘲笑い見下ろしている。

_しかし一筋の慈悲が私に見せる

_それは簡単だった。

_栄光ある結果を残すだけ。

_そこに寄り添いがある事だ。

_故にわたしは絶望した。

_無理だ。 無理だろう。 こんな事は…

_こんな呪いで叶うものか。

_出来るはずが無いッッ…

_それから騒ぎを起こした私は職質を受ける。

_周りからしたら理解し難い現状。

_私はストレスを言い訳に振る舞う。

_中央からは自宅謹慎を言い渡されてしまう。

_しかし最後にひとつだけわかった。

_私はトレーナーになれなかったんだ。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

次の日のページで厚みが薄くなる。

 

 

 

_家にいても考えが止まらない。

_けれど結局は同じ末路だろう。

_どれだけ頑張ってもダメなんだ。

_この呪いは指導者の存在を阻害するから。

_目を合わせれば怯えられる。

_でも最初はこれが正しいと思った。

_指導者の全てに屈服して、熟させるだけ。

_管理も全てこちらが行い、走らせるだけ。

_それが一番正しいと思っていた。

_しかし違う。 私は大事な事を忘れていた。

_二人三脚をいつのまにか忘れていた。

_そして目を合わせれば、怒りを買われる。

_とある日には目を合わせてしまい、殴られた。

_痛かった。

_すごく痛くて、でも報われないな、本当に…

 

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

 

次のページで最後だ。

 

 

_私は失敗した。

_もしくは私がダメなのか?

_答えは間違いなく後者だろう。

_そんな考えで指導者を果たそうとしたのだ。

_私と言う存在が失敗へと進んだ。

_なら私じゃ無ければいいのか?

_こんな愚か者に代われる指導者は居ないか?

_仮面でもいい。 虚栄でもいい。

_道化でもいい。 偽物でもいい。

_最悪、反面教師でも構わない。

_でも私が私じゃなければそれは答えか?

_いや、今となってはどうでもいい。

_もう私では無理なんだから。

_存在に価値はない。

_苦労して手に入れたバッジに意味もない。

_輝きも、道も、己で絶やした敗北者。

_私なんか一人消えたところで世界は動く。

_だからもういい疲れた…消えたい。

_この私は私から、消えたい…

____もう無理だ

____死にたい…

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

日記帳を閉じて、息を吐く。

 

この人間がなんなのかを理解する。

 

ふと、クローゼットを開けてみる。

 

そこには鏡があったが、ところどころヒビが割れている。 殴った後だろうか?

 

クローゼットの中身を見る。

制服やズボン、普通の服。

あとパーカーが異様に多い。

そして何故か……ハロウィングッズ。

 

部屋を明るくして鏡を見る。

ひどい姿が写っていた。

 

 

「!」

 

 

その眼は背筋を凍らせるようだった。

その眼は覗くだけ。

しかし恐怖心と警戒心が膨れ上がり、だんだんと抗いがたい怒りも湧き上がる。

自己防衛心とやらだろうか?

鏡を割って、視界から遮りたくなってくる。

 

 

 

 

__呪い

 

何となく意味が分かった気がする。

憎悪を込めて祟られたような感覚。

 

 

 

__後悔

 

自分がゆるせなくて仕方ない苛立ち。

けれど後悔したところで遅すぎた末路。

 

 

 

__反省

 

 

己自身を恨み、ひどく苦しみ、そして悲しみ、裁きを欲して報われたかった。

 

鏡を見てそんな感情が芽生える。

 

この体を通して、この存在が嫌で仕方ないのだろう。

 

再びハロウィンに目を落とす。

 

 

 

「携帯はあるな。 いくつか着信があるけど後だ」

 

 

 

俺は携帯を逆に持ち、そして自撮りする。

 

保存した後それを画像に大きく出す。

 

こちらに見えるように壁に立てかけた。

 

それからハロウィングッズをガサゴソと漁り、使うものを取り出す。

 

黒いタイツは流石に無いか。

 

諦めてカボチャの頭だけを___被る。

 

呼吸して、足首を少しだけ温めた。

 

後は……踊るだけ。

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

ひどい有様がうつされた画像。

 

俺は携帯に向けて 反省を促した(踊った)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

汗を掻きながら反省を促す、と言う新ジャンルを不謹慎ながらも楽しんだ後、シャワーを浴びることにした。

 

風呂場の鏡に映る自分に目が合うたびに気分が悪くなる。 日記に書かれていた呪いか。

 

慣れないといけない。

 

そもそも憑依した事についてもっと焦るべきか? でも日記帳のインパクトが強すぎて落ち着いた。 そしてどうしようもない現状に叩き落とされたと把握する。 本当に色々と手遅れでどうしようもない。 喚いたところで仕方ないのだろう。

 

今後の対策を考えながらお湯を浴びる。

 

身長は成人男性くらいなのに体は細っこい。

 

それと頬の(やつ)れと肌の荒れ具合を見る限り栄養不足だ。

 

あと髭も整えられてない。

 

この痩せ方はストレスだろう。

 

目に隈も出ているな。

 

睡眠薬を摂取しても眠れなかったのだろう。

これはひどい…

 

この家にスポーツドリンクはあるだろうか?

 

とりあえずあるものを少しずつ食すか。

 

元々力がなかったこの体で反省を促したんだ。

 

一気に疲れたし、空腹で少し目眩も起きそう。

 

風呂場を出て着替える。

 

台所を漁って、クラッカーが置いてある。

 

それを侘しく食していると、外の環境音に釣られて窓の近くまで歩みを進める。

 

どうやらここはアパートのようで上から道路を見下ろす形になっていた。

 

 

「普通に日本だな」

 

 

 

道路表記や左側通行。

 

あと車が右ハンドルだ。

 

よく見かけたことある自販機もある。

 

それで天気の良い中である大人と子供。

 

 

 

そして耳を生やした女の子。

 

 

へー。

 

 

 

それから耳を生やした奥方。

 

 

ほー。

 

そんでもって耳を生やした女性。

 

 

おー。

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

耳か。

 

耳、ねぇ。

 

でも可愛らしいな。

 

てか耳生やしてるのが流行りなんだ?

 

ふーん、エッチじゃん。

 

いや、でもピクピク動いて可愛いな。

 

へーぇ〜

 

 

 

 

 

 

「!?!?」

 

 

 

え!?

 

ええ!?

 

待て、待て、いや、え!?

 

どう言うことだ!?

 

いや、なんかピクピク動いとるぞ!?

 

てか…な、なんか既視感ある!

 

ええと、何だっけ…!?

 

 

っ!

 

テ、テレビだ!

 

 

電源を付け…って! テレビ無いやん!

 

携帯でも良い!

 

なんか情報を…!

 

 

ふむふむ。

 

なになに?

 

大阪杯??

 

ほー、たしか競馬だよな?

 

いや、まて、なんか違う?

 

動画がある。

 

再生。

 

ふむふむ…

 

え?

 

馬はどこ?

 

え?

 

女の子?

 

え?

 

何故に?

 

え?

 

ゲートイン?

 

え?

 

 

……は???

 

 

 

 

ふぁ!?!?

 

天然のウマ耳を生やした女の子が走っている!?

 

早っ!?

 

 

いや、で、でも、待てよ。

 

今ので理解した…

 

てか、理解せざるを得ない光景だ。

 

俺は知ってる。

 

知っているんだよ、コレを。

 

見たことあるんだよ。

 

実況の声を聞いて理解した。

 

これは…そうだ。

 

確か…

 

 

 

 

 

 

 

 

ウマ娘

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あ、うああぁぁあ!? お、思い出してしまったぁ!? っ、そ、そうだ! 確か! 俺! 事前登録したのにプレイしてなかったアプリゲームの奴じゃないか!」

 

 

けれども【ウマ娘】に関しては未プレイ。

 

その上アニメも未視聴の情弱野郎。

 

けれど過去に公式サイトだけは一丁前に流し読みをしていた。

 

友達や会社の同僚がウマ娘の話題で盛り上がっていたのは知っているし、ウマ娘の話も投げられたことがある。

 

そんな野郎達はウマ娘のソーシャルゲームにハマっていて、それで色々楽しんでるとか何とか。 休憩中にも携帯片手にポチポチやっていた姿も見ていた。

 

俺は「後でやるよ」とか言ってノータッチだった。 プレイ自体は楽しみにはしてたけど、稼働から1ヶ月くらい先延ばしにしていた事前登録勢に有るまじき姿を晒しつつ、それで……

 

俺は死んだらしい。

 

それなのに生きていて…

 

素性も知らぬ死に体な人間の体を貰っている。

 

言わばこれは"憑依"って奴だ。

 

しかもその先の世界が、ウマ娘ってことだ。

 

 

 

 

ふむ、なるほど。

 

 

 

 

 

「だぁぁあ!! 何がなるほどだ!! おいおい、ちょっと待てよ、これは…喜ぶべきなのか?? いや、いや、ちがうな! コレは呪うべきだろうよ!」

 

 

祝いじゃない、呪いだ。

 

マジでとんでもない野郎の体を貰ったようだ。

 

しかも、この持ち主だった奴、つまりそう言うことだ。

 

 

 

「ぐぎぎ、やはりトレーナーってやつか…」

 

 

ああ、うん。

可愛い女の子育てるゲームは知ってる。

 

そう言った話は聞いてる。

 

詳しくは知らないのに友達や同僚から、推しのウマ娘とか、システムとか、色々一方的に話投げられて相槌打つ程度にはウマ娘の話は聞いてた。

 

別にウマ娘じゃなくても競馬関連なら120億円がどうとかの話とかならある程度聞いてるし、多分120億円は関係ないけど競馬の中でゴルシって名前で親しまれてる馬が人気で凄いとか、あと有馬記念が冬にあるとか、まあ聞いたことある。

 

他にも競馬でも一着と二着を予想で選ぶとか、競馬の馬たちの名前は大体カタカナだとか、サラブレッドだとか、そこら辺はふんわりとした程度には知識ある。

 

だからといって今すぐ競馬のイロハを熱く語れと言われたら物陰にゲートインして知らないフリをする自信はある。

 

 

 

「でも、ここは…」

 

 

その競馬や歴史やらを擬人化して、それを美少女にしたウマ娘ってゲームの世界だろ?

 

 

ッッッ、いや、いやいや!

 

知らんがな!!

 

名前は聞いてたさ!

 

仕事中でも気になってた!

 

アニメだっていずれ見ようと思ってたよ!

 

でも、俺は別を優先したんだ!

 

大画面でカッコよかったんだ!

 

空中戦のあれは本当にすごかった!

 

そして何を狂ったのか俺は…!

 

反省を促すの方も見てた!

 

だから繁忙期落ち着いたら一気見を考えてた!!

 

それくらいは予定を立てていたよ!!

 

本当だよ!!

 

 

 

でも!

 

 

でも!!

 

 

でも!!!

 

 

死んだ!

 

 

亡くなった!

 

 

絶望した!!

 

 

 

▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂

うわああああああああああああああ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…と、とりあえず腹減ったのでなんかデリバリーで注文するか。 ちょっと俺の姿、外ではダメっぽいから、な、うん」

 

 

なんか自分で言ってて嫌だよなぁ。

 

でも仕方ないか。

 

日記帳が真実としたら呪われてるし。

 

実際に鏡で自分の顔を見て気分が悪くなった。

 

でも仕方ないで済まされない話だろう。

 

もしやコレもゲーム仕様なのですか?

 

流石にゲームの世界だからと言ってそんな超常現象は…

 

 

え?

太っても保健室で休めば状態が治る?

 

じゃあオカルトはアリじゃねーかこの世界!

ふざけんな!

 

 

 

「ええと、それで配達は、と」

 

 

 

デリバリーで、ええと…

 

何? U-mar Eats??

 

わ、名前おしゃれかよ。

 

前世にも似たようなのあったわ。

 

いや、まて、これつまり…

 

ウマが eats するって事?

 

 

 

た、頼んでみるか、試しに。

 

 

 

「ええ?」

 

 

 

わー、なにこれ?

 

はちみー、ドリンク??

 

気になるな。

 

買ってみよう。

 

でもこの飲み物すごいな。

 

これ体に大丈夫か?

 

まあ濃すぎたら栄養過多でならない程度に薄めればいいだろう。

 

幸い家には水はある。

 

あと春雨スープ。

いや、食細すぎだろ!

 

 

さて、それでとりあえず注文は押した。

 

住所は確認して間違ってなかった。

 

思いっきり都内だけど。

そうなると配達員も多いだろうな。

すぐ届くと思う。

 

 

「その間に少し出るか…」

 

 

この建物を確認するために外に出た。

 

もちろんパーカーは被っている。

 

俺としては自称陽キャとしてパーカーで視界を隠すの慣れないなぁ。

 

でも誰かと目線を合わしたらダメらしい。

 

ワイはシャイでガイな(SCP096)ヤベーヤツかよ。

なんか寂しいなぁ。

 

瞬きしてみな…飛ぶぞ?

いやこっちは173の方か。

 

てか飛ばされるの俺の方だわ。

ウマ娘パンチで一撃やぞ。

 

とりあえず探索する。

 

まず部屋の中は1Kと言った一人暮らし用のアパートで、建物はそう古くない。

建物の階層は5階未満で、家賃は東京内でもまあ安そう…か?

 

この体の持ち主だった人がどれだけの稼ぎを持ってるのかは知らないけど。

でも東京に住んでる且つ、日記帳の限りだと指導者…

いや、トレーナーと言う役職に就いて…いるのか?

それともこれから就くのか?

 

色々と調べないとな。

 

うーん誰か便利な身内は居ないか?

 

後で携帯でその人に確認しよう。

 

とりあえず今日が休日でよかった。

 

もし休日出勤のブラック企業に勤めているんだったもう既に無断欠勤でオワタだけど、まあ酷い会社なら辞めちまおうそのまま。

 

どうなるかは知らないけど記憶喪失で言い訳してやる。

 

なんなら栄養失調で追い込まれてました云々で労基に暴いてやる。

 

やったことないけど。

やってみな、飛ぶぞ。

 

とりあえず記憶を頼りに数分ほど歩き回り、フードデリバリーの事を考えて家に帰ってきた。

 

するとタイミング良く玄関の前にやってきた。

 

インターホンを鳴らす前にドア越しから玄関前に置いて欲しいと頼み、配達員は「わ、わかりました」と、どこか怯えたように答えて商品を置くと走り去る。

 

扉を開けて左右を確認。

 

配達員__またはウマ娘の後ろ姿をみる。

 

本当に足速いんだな…

 

 

 

「ウマ娘…か」

 

 

 

配達物を拾い上げて、ほんの少しだけ形崩れた牛丼と、はちみードリンクを手に取り、春雨スープと共に食す。

 

やや胃袋に重たい。

 

春雨スープで中和しながら今後を考える。

 

とりあえず携帯を開いてみた。

 

 

「……通知が95件分か」

 

 

 

ほとんどが仕事仲間のグループメッセージ。

 

恐らくこの俺には関係ないのだろう。

 

 

 

「今日はとりあえず出来るだけの情報を集めよう。 ある程度の記憶を頼りに動ける。 時折頭痛はするけど脳が動いてる証拠だ。 心の傷は思い出せないが、後悔して来た事は体に刻まれているみたいで、何が不味いのかが感覚的に把握できるな。 野生の本能とかそんな感じか? あとテレビは無いがPCはあるようだからこれを頼りに……やるしかない」

 

 

 

憑依に絶望してる暇もない。

 

それ以上にこの青年の業が深い。

 

それらと付き合いながら第二の人生か。

 

 

 

 

 

 

随分と 重バな事で…

 

 

つづく




・三女神に願ったら、呪われた。
・憑依して辛くてコンテニューゲーム。
・視線を合わせない方がいい… ←今ここ


この小説の説明欄の通り、閃光のハサウェイは小説も読んだことなければ、動画やSNS、チンパンのアーケードゲーム、映画では一回しか見たことないので、正直よくわかってないけど、雰囲気だけで進めます。 あと作業BGMは閃光です。 あたりまえだよなぁ?


好評だったら続けるし、なんならもう1話書き終えてるから、それ次第では即日投下します。


ではまた


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2話

今日は一人のトレーナーが自宅謹慎から戻ってくる。

 

半年以上のやや長い期間の謹慎であったが、それでもそのトレーナーは記憶に強く刻まれている。

 

初めて新人トレーナーと出会った時はまだ普通の様に感じられたが、時間が進むにつれ、仕事は上手くいかず、業務実績は乏しいの一言だ。

 

何よりウマ娘に対してうまくコミュニケーションが取れず、スカウトも上手くいかない現状。 トレーナーとして致命的な状態で足踏みを続けていつしか焦燥感を見え隠れさせていた。

 

ウマ娘をスカウトも出来ないまま、サブトレーナーとして活動するも生徒との距離の取り方も苦手な様で見ていて危く、在籍して数ヶ月経った頃には暴力的な部分が現れた。

 

手をあげて生徒に振るう事はないが、自身の情けなさに苛立ち、彼はトレーナーとして欠陥になりつつあった。 いつしか生徒が帰った後に三女神の前で佇んで、強く睨み、ある日には持っていたレンガをぶつけるなどあるまじき姿を晒す。

 

わたしはそんな彼を何度も止めたが、彼は時折三女神の像の前に立っては憎む様に睨み、最後は叫ぶ。

 

問題児と言われ始めた彼の処遇を考えたがある日、ウマ娘をスカウトしたのかチーム結成の認可を受けようと理事長室までやってきた。

 

どんな経緯でそうなったのか知らないが彼の人格を考える。

 

なので様子見が必要としてチームの申請は一度却下したが、メイクデビューで結果を出せたらチームの設立を許可すると言った。

 

彼は張り切るとスカウトしたウマ娘を連れてる。

 

 

 

数日後、その彼にスカウトされたウマ娘はわたしの方までやってきて「助けてください!」と救難を求めた。

 

そしてそのトレーナーの元まで歩みを進めると…また三女神の像の前に立っていて、ゆらゆらと動く。

 

その姿を見て背筋が凍る感覚に襲われる。

 

そんな彼と視線が合えばひどく息苦しくなり、身の毛がよだつ。

 

わたしは説明する。

 

すると彼は唖然とした様な顔をして、スカウトしたはずのウマ娘に詰め寄り、そしてそのウマ娘は「いい加減にして!」と殴り飛ばすと三女神の像の泉の中に身を沈める。

 

彼は何かブツブツと呟き、そして白目を剥いて倒れてしまう。

 

医務室に運ばれる。

 

目を覚ました彼は虚な目で「どうして…何故?」と三女神の方を眺めていた。

 

それから彼はメンタルケアを行い、わたしはその報告を聞く。

 

ストレスによるものだと診断されてた。

 

だが彼を見る。

 

在籍したばかりの頃の姿と重ねて随分と疲れ切っていた。

 

絶望したように三女神を眺めている。

 

このままでは彼も、そしてウマ娘も危ない。

 

一度距離を置く事と、今回の件とこれまでの件を考えて自宅謹慎を言い渡した。 長めに期間を置く事で現状を緩和しようと考えた。

 

ただ言い方を変えればお払い箱の様なもので「大人しくしていろ」と追い払った状態だ。

 

本当なら中央にそぐわない指導者だと見做してトレーナーバッジを剥奪することが一番速いのだろうが、まだ、もう少しだけ、彼にチャンスを与えたいと思った。

 

 

 

いや、やはり、ちがう。

 

そんなことじゃない。

 

問題を先送りにするように彼をとりあえず自宅謹慎させたのだ、わたしは。

 

 

トレーナーバッジを剥奪して辞めてもらうにも色々と手続きが必要であり、そう簡単にできることじゃない。

 

それにメイクデビューに勤しむ期間だったこともあり、彼だけのために時間は割けなかった。

 

だから一番簡易的で、一時的ながらも問題を先送りできるのは自宅謹慎を言い渡すことだった。

 

そこからもし彼が落ち着きを取り戻し、また一から始めれるならそれに越した事はない。 まだ彼も若い年齢だ。

 

チャンスはある……と、勝手に私は正当化して、そうやって彼を自宅謹慎として追いやった。

 

それから彼は半年以上をトレセン学園から姿を消して、彼のことをよく思わない者達は胸を撫で下ろした。

 

比較的平和な時間が訪れて、わたしも胸を撫で下ろして大好きなウマ娘達のために業務を全うした。

 

 

そして今日…

 

彼が帰ってくる。

 

 

気持ちが落ち着かない。

 

また始まるのかと頭痛がする。

 

自宅謹慎を経て整理できただろうか?

 

望みは薄いと思える。

 

 

もし、あの頃と変わってなければ…

 

もう、彼は……

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです、たづなさん!

今日からまたよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めっちゃ変わっとるやん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからポンポンと話は進んだ。

 

いや、まぁ、色々質問された。

 

とりあえず「すごく落ち着きました」と説明してみた。

 

もちろん怪しまれたし、むしろ心配されたが「トレーナーとして活動するにはメンタル面で問題ありません」と答えた。

 

わざわざ自分でそれを言って克服したと強めに発言してみた。 当然たづなさんからは目を見開かれたし、理事長からは鋭い視線で貫かれる。

 

この理事長は百戦錬磨って感じで、この虚栄は見抜かれるのではないかと思った。

 

いや別にこのハリボテな状態を見抜かれるのは良い。

 

ただ憑依してる事について見抜かれるのは困る。

 

でも俺自身がその時の彼を演じれるかと言うと無理な話だ。 それなら人格が変わってしまったくらいに思ってもらった方がいい。

 

そうすりゃあちら側も、悟りを開いたのか?とか、取り憑きものが落ちたのか?とか、勝手に憶測立てるだろう。

 

それにこれ以上人格面で問題を起こさない様に見せるのが大事。

 

言わば俺がこの学園で危険分子であることを少しでも多く拭うことだ。

 

もちろん業務で迷惑はかけるけど、まだ掛けていい迷惑とか、掛けてはならない迷惑だとか、種類がある。

 

俺の場合は前者であるつもりだ。

 

サポートされてもいい状態を生み出しておくことである。

 

 

 

「ふむ、ではトレーナーとして活動を再開するのだな?」

 

 

「はい。 もう、前回の様な事は起きない様に心がけます。 これまでご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした」

 

 

 

頭を下げる。

 

社会において頭を下げる行為は効果的だ。

 

そして自分の非を認めて、謝罪する。

 

建前だとしても、言葉に出して頭を垂れる。

 

それができる人間か、そうじゃないかの、社会。

 

なら俺は頭の一つや二つは下げてやる。

 

ここから生きていけるならな。

 

辛くてコンテニューゲーム。

 

ため息が出るけど、やるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、職質を終えると生徒達が帰った夕方の時間帯になる。

 

この時間を利用してから学園の見取り図を開いて歩き出す。

 

もちろんフードを深く被り、サングラス並みに色が濃ゆい黒い眼鏡をかけて視線を遮る量を増やす。

 

実のところ職務中も強く断りを入れてフードと眼鏡の着用を許してもらった。

 

何せたづなさんも俺の事は理解しているようで、視線を合わせると恐怖心が走る云々で許された。 すごく不思議な現象なんだけど理解はあった。

 

あと理事長も把握してたので特別に許してくれた。

 

 

__視線を合わせない方がいい…

 

飛行機の乗り込みテロかな?

 

 

 

「しかし、でも、トレーナーとして活動するなら致命的だよな、この呪い……嫌になるわ」

 

 

 

致し方ないにしろ本当にひどい。

 

憑依したならしたで、俺はソイツとは別人なのだから呪いは取っ払ってくれても良かっただろうに。

 

正直トレセン学園に来るまで何十回とため息を吐いている。

 

でも向き合うべきだろう。

 

本当に嫌なんだけど、もう仕方ない。

 

 

 

「あと、たづなさんと理事長はともかく、それ以外のトレーナー達もどうにかしないとな…」

 

 

付き合い方を考えないとならない。

 

俺の事は評判は絶対に良くないだろう。

 

一応帰ってくる事は伝えられてるはずだ。

 

理解者がいるとは思わない方がいい。

 

でもどうしようか?

 

こんな問題を起こしたトレーナーはどうしようもないだろうけど、トレーナーとして活動して見せると言った以上は対策が必要だ。 まあ簡単な話。 呪いは現状どうにか出来ないとして、この忌々しい視線を何かで強く遮るか、中和するかで考えなければならない。

 

その過程でこれまでのカルマを拭うようなインパクトもあれば良い。

 

道化や仮初の姿でも良い。

 

少しずつ拭うか、それとも塗り替えてしまうか…

 

 

 

「………」

 

 

 

過去の記憶を引っ張り出して、なにか対策はないかと模索する。

 

そして死んだ時のことを思い出す。

 

あまり思い出しくないが、それでも頭を捻る。

 

最後は何をしてたっけ?

 

スタジオでカボチャの頭を被って踊ってたよな…

 

 

 

踊る?

 

 

被る?

 

 

カボチャの頭??

 

 

 

 

 

「あ、これかぁ!!」

 

 

 

 

 

周りからしたら随分と狂った様な発想。

 

でも仕方ないだろう。

 

俺自身は憑依云々で随分と狂っている。

 

人格も変わった様になり、正体は異常。

 

でも周りからしたらそれは何なのか理解はできない。

 

そう、出来ないで良い。

 

形だけの異質で、塗り替えれば良い。

 

だから、狂ってるなら、狂ってやる。

 

正しく狂ってやる。

 

 

 

 

トレーナーなら、トレーナーになれ。

 

正しくトレーナーのようになってやる。

 

 

鳥の様になりたいなら、鳥の様になれ。

 

正しく鳥のようになってやる。

 

 

カボチャになりたいなら、カボチャになれ。

 

正しくカボチャのようになってやる。

 

 

 

身構えてる時には死神が来ない様に、この忌々しい呪いには身構えて、それで俺自身の全てを塗り替えてそうしてやる。

 

その道は険しく、でもそうするしかできない。

 

それに、そうしてやるしか出来なかった一人の主人公を知っている。

 

映画で見た"あの存知"の様に、道化でも、ハリボテでも、どうしようもなく奮ってやる。

 

 

 

 

だから、そのためには 道化(なまえ) が必要だ。

 

なら、俺が一番最初に浮かんだソレを使ってやろう。

 

それで、なんとでもなる筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

()が犯した過ちは、マフT(ティー)が粛清する!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、俺はカボチャの頭を被ることになった。

 

 

 

つづく




主人公完全なとばっちりで笑えないけど、マフTだから大丈夫。

あと理事長はまだ『秋川やよい』じゃないです。

あと、もっといいタイトルないかなぁ?
マフティー構文色々あるからタイトル困る…


あまり評価されると連邦に知られるから評価しないでね♡


ではまた


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3話

この小説ちゃんとマフティーしてる?
そこだけ不安(エクバと動画勢並の知識)


追記

ランキングに上がっとる。
連邦が動くなコレ。





ウマ娘の選抜レース。

 

トレーナーに選ばれようと張り切る時期であり、トレーナー自身も育てたいと思うウマ娘をスカウトするために張り切っていた。

 

ストップウォッチや手書きのメモ帳、この二つを兼ね備えた性能の良いタブレットなど、スカウトに必要な物をトレーナー達は職員室で準備していた…が、そのピリピリは別のモノに対しての空気だった。

 

もちろんスカウトのために気を抜けない日が今から始まろうとしていた。 だが今日はウマ娘ではないとあるトレーナーに対しても空気が張り詰められる。

 

 

皆は思い出す。

 

始まりはグループメッセージでのこと。

 

 

 

 

『今日からまたよろしくお願い致します』

 

 

 

 

トレーナーの中で一気に警戒レベルが爆上がり、仲の良いトレーナー同士では持ちきりとなった。

 

今年入った新人トレーナーからしたら何事かと思うが、昔からこのトレセン学園で活動する中堅、またベテランと言えるトレーナーの中では顔を歪めてしまうほどだった。

 

謹慎中だった彼の事を忘れていたトレーナーもこれには寝耳に水であり、春の陽気すら忘れてしまいそうな程に目を覚ます衝撃だった。

 

しかしその丁重なメッセージは彼を疑った。

 

もしや更生したとでも言うのか?

 

しかし彼の良くないイメージが染み付いている。 まさかと思って仕方ない。

 

だが一刻、一刻と、時は進み、張り詰めた空気の中でトレーナー達は時計を見る。

 

 

まもなく奴がやってくる。

 

謹慎期間を超えて奴が現れる。

 

 

 

そして、奴はやってきた。

 

 

 

 

ガラガラ

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

 

 

カボチャの頭を被ってソイツがやって来た。

 

 

廊下からは困惑するウマ娘の声が聞こえる。

 

 

トレーナーたちも一歩遅れて困惑する。

 

 

謹慎期間を終えてこの場に戻ってきた。

 

それは良い。

 

 

けれど何故……カボチャの頭を被っている?

 

ハロウィンにしては気が早く、悪戯にしては反応が悪く、正気にしては真っ先に疑えるその有様。

 

近くにいた、眼鏡をかけた気の強そうな女性のトレーナーが話しかける。

 

眼鏡越しからは強い視線を放っているが、流石にこのトレーナーも内心焦りで沢山だった。

 

しかし近くにいる以上は代表をして聞かなければならない。

 

だが、謹慎期間から帰ってきたカボチャ頭のトレーナーが先に口を開いた。

 

 

 

「皆には見えないだろうが、これはまず反省の証である」

 

 

 

いや、そうは見えんやろ。

 

 

だが彼は続ける。

 

 

「自分は物事が良く見えていなかった。 広すぎる視界に慢心して、物事を真っ直ぐ見ようとせず、未熟を晒した。 自分でも恥ずかしい限りだと思い、また皆様には迷惑をかけてしまった。 自分はトレーナーだと傲っていた、この顔が、指導者として、恥ずかしさで、沢山だった。 故に…隠した」

 

 

 

いやいやいや、待て。

 

前者はともかく後者はなんだというのか?

 

 

だが彼は続ける。

 

 

 

「たしかに表情を隠すにも、ほかの手段があるだろう。 またはそれこそこの面を外に見せることで、反面教師にされることが努めかもしれない。 指導者なら敢えてそこに堕ち、また間違いを犯したその顔を持ちながら、傷を晒しながらも、這い上がる必要はあるだろう。 指導者もまた生徒なのだから」

 

 

 

マジでお前なにがあった??

 

 

いや、良いことを言っていると思う。

 

もちろん肯定できる部分はある。

 

見つめ直す事ができる大人だと少しは認められる。

 

 

でも待て。

 

マジでお前はなにがあったんや??

 

 

 

「だが自分は違う。 自分はあの時の自分を超えて、染まらなければならない。 それを悟った。 ああ、もちろんこの愚かな顔を晒すのは簡単だ。 そして再び殴られ、罵倒を受け、嫌悪感を抱かれ、突き刺される視線の中で責務を果たす。 甘んじてやれるだろう。 だが…それだけではだめだ。 今の自分が、この自分を納得させられない」

 

 

 

いや、聞いてる私たちもこの現実に納得できない。

 

なにを言ってんだこの人は?

 

だが自分に罰を与えたいほどに、考えた結果なのだろうか?

 

そうなのだろか?とも、捉え始めている間にも彼はつづける。

 

 

 

「トレーナーは名誉だ。 指導者は顔だ。 世間を通して有名になり、またそのトレーナーと共に駆け上がったウマ娘達もそれは誇りになり、同じくトレーナーも自分とその教え子が誇りになる。 覚えられる顔はそれだけ重要な事だ。 舞台に立つ者はそうする必要があり、そこへ目指すだろう。 この中央に来たのなら、夢も、願いも、例えそれが野心だろうと、あのターフに乗せて覚悟にする。 指導者の顔とはそれだけ大事だ」

 

 

 

ああ、その通りだ。

 

指導者はウマ娘を育て、大舞台のターフに立てさせるために、その顔は重要だ。

 

表情も素性も知らぬ者ではウマ娘達の目印にはならない。

 

ウマ娘にも、世間にも、その後ろを辿るだろう後期の者達にも、覚えてもらう必要がある。

 

 

 

「だが、自分は違う。 それ以上に自分を罰する。 指導者としての顔を拭い、それ以上のモノを覆い隠した。 この行為は指導者として致命的だろう。 だが自分はこうすると決めた。 だから聞いてくれている皆にもう一度言おう。 自分はあの時の自分の顔が恥ずかしくて仕方ない。 仮にあのどん底からの挽回はあるのだろう。 だが自分はその広き道に身を落とさず、このカボチャを被る事で道を狭めて、また一から始めることにした。

最初に言った通り…

このカボチャは俺の__覚悟だ」

 

 

 

何故だかわからない。

 

ビリビリと威圧感が広がっている…気がする。

 

だがやっていることは狂人だ。

 

濁りなく狂っている人だ。

 

指導者として致命的であり、すでに欠陥だ。

 

覚悟だけでどうにかなるモノじゃない。

 

中央で容易に始められるドン底ではない。

 

 

けれど、今の彼は、何かが違う。

 

カボチャの目の奥の暗がりからは、強い視線と、並ならぬ精神力を感じた。

 

そこから始まろうとする彼の眼差しには、一体どんなターフを描いているのか?

 

ダメだ。

 

やはり狂っている。

 

けれど平気で狂おうとしている。

 

ソレに染まろうとする。

 

眼鏡をかけた女性トレーナーは尋ねる。

 

 

 

「なら、今のあなたは何者なの?」

 

 

「何者…ですか。 先程説明した通り、自分は愚かに愚かを重ね始めるトレーナーです。 でも、このカボチャ頭を背負うからには覚悟と共に"名"をつけました」

 

 

「名?」

 

 

「愚かながらも大それた意味を持つ名前のつもりです。 一つは真実、もう一つは救い主。 この二つ意味合わせ、この中央に見合うだろう言葉に変えれば『指導者』でしょう。 しかしこんな道化のカボチャ頭には大それたモノであり、過ぎたもの。 それでも自分のことは自分でしか哀れない。 だから、覚悟と共に刻んだ名前を付けた」

 

 

 

皆に見えやすい様にカボチャ頭を少し下げると、額に指を添える。

 

そこには何かのマークが書かれていた。

 

 

まず大きく三日月の様に横を向く。

 

良く見るとそれは"蹄鉄"だ。

 

 

その間に大きく十字架が刻まれている。

 

これは"罰"と"償い"の意味だろうか。

 

 

そして英語で『U』の文字が歪む様に割り込む。

 

恐らく"ウマ娘"の意味だろうか。

 

 

これが何なのか説明はされていない。

 

しかし色んな意味として捉えれる。

 

 

 

 

 

 

「マフティー」

 

 

彼は 名前 を言った。

 

 

 

「マフティー? それが覚悟の表れ?」

 

「はい。 自分は自分を底へと貶め、けれどそんな自分に救いを自分に求める、犯した誤ちと罰を背負う。 それが、このカボチャ頭です」

 

「ふざけてるわね」

 

「だと思います。 でも、そんな自分の事を自分でトレーナーと言うなら、今はコレが必要です」

 

「なら、それを必要と無くなるならいつかしら?」

 

「自分が許された…と、偽りなく思えた時でしょう。 簡単に言うならば、己の事をトレーナーとして納得の行けたらですね。 それを何度も繰り返して、その時にやっとこのカボチャ頭を外します」

 

「そう。 勝手になさい。 中央では甘く無いわ」

 

「マフティーなら、やります」

 

 

 

眼鏡をかけた女性トレーナーは自分の持ち場に戻る。

 

そしてカボチャ頭のトレーナーも前日たづなさんに伝えられたデスクに移動すると腰掛けて、カバンの中から資料などを取り出す。

 

コンセントを繋ぎ、トレーナー用に支給された大型のタブレットに充電器を刺して、整理を続ける。

 

窓の日も当たらない一番側に座るその姿は異色であり、慣れるには時間がかかるだろう。 いや、慣れるかも怪しいが今日はともかく慣れないのは確かである。

 

 

 

「本当にテメェなんなんだ?」

 

「?」

 

 

 

わざわざ一人の男性が近づく。

 

そして威圧する様に声をかける。

 

 

 

「なにと言われても先程言った通り、マフティーだ」

 

「ふざけんな! なにがマフティーだ! 謹慎期間に何があったか知らんがな、テメェみたいな狂ったやつはこの中央に必要は無いんだよ!」

 

「それはマフティーが決める」

 

「だぁー! 意味のわからない事言うな! そもそも仮初めが何だと言うんだ! この中央にカボチャ頭のトレーナーがいるなど正気かテメェ!?」

 

「正気じゃ無いからこそマフティーは現れ、仮初めに身を任せる意味にもマフティーが必要とされる。 本当のところこのカボチャ頭に名前なんかに意味はない。 罪と罰にも名が無いのと同じ。 だがそれでもこのカボチャは認識され、自分にも他者にも意味を欲される。 だから名を必要とし、そこにマフティーの意味を込めた。 どうであれこれは、マフティーだ」

 

 

 

学校のチャイムがなる。

 

今日は授業が免除されて選抜レースのためにウマ娘達が張り切って外に集まる。

 

トレーナーたちもそのチャイムの音を聞くと職員室を出始めて、詰め寄ったトレーナーも舌打ちしてその場を去る。

 

 

 

「マフティー……いや、マフT(ティー)かな」

 

 

 

そう呟いて立ち上がるカボチャ頭。

 

彼を知るトレーナー達は思う。

 

問題児が、問題児になって帰ってきた。

 

言葉にして意味がわからないが、でも強ちその通りであるため言葉に困るこの日、ウマ娘の選抜レースが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なーにが マフティーだよ!!

 

 

なーにが 仮初めだよ!!

 

 

なーにが 救いだよ!!

 

 

なーにが ジャベリンよ!!

 

 

 

もうやだ、俺マジでどうしようもねぇよ…

 

いや、なんか、こう、わからんけど…こう!

 

色々と乗ってしまったんだよ!!

 

思いっきり先輩達にタメ口だったし、その上強そうな眼鏡の女性トレーナーに目をつけられてしまったし、当然の様に文句言ってくる奴もいた。

 

 

いや、もう、本当、わかってるよ。

 

マジで狂っていると?

 

 

でも仕方ないよね。

 

サングラスとフードなんかでは呪いを抑えきれない。

 

カボチャ頭くらい思いっきり被らないと視線を遮れないし、目を合わせてしまう危険性を抑えれない。

 

 

 

__見るな、視線を合わせない方が良い…

 

 

 

いやー、キツいっす。

 

そう言う意味で使われるの知らないっス。

 

でも、汗だくだくで職員室に入って、とりあえずどうしようかと考えて、謝罪なり、土下座なり、色々考えたけど、近くにいたあの眼鏡かけた女性トレーナーを見て強張ってしまい、頭が真っ白になりそうなのを堪えてとりあえず何か発言して、それでカボチャ云々で色々と喋ってしまい、気づいたらマフティーしちゃった。

 

頭の中ハイジャックした結果だよ。

 

もうカボチャ中がミノフスキークラフト。

 

 

 

 

でも…

 

 

 

「ちょっとだけ楽しかった…」

 

 

 

けれどごっこ遊びじゃなくてマジな死活問題に入った状態なので、社会的な抹殺もあり得る始末。

 

でも助かったのはあの眼鏡をかけた女性トレーナーのお陰。

 

 

 

『結果を出せば良い』

 

 

 

そう答えられたから、聞いていたトレーナー達にやる事を示して、存在意義を確保した。

 

コレがあるからまだこの中央に足をつけれる。

 

自分を否定した様な振る舞いだったけど、でもトレーナーとしての生命はまだあり、バッジを剥奪されない限りはまだ足掻ける。

 

それに都合が良いのか、この脳みそにもトレーナーとしての知識が残っている。

 

元の持ち主の奴が精神的にも人格的に死んで、辛い記憶を除いてあまり活かされなかった記憶がむしろ残っていた。 それはトレーナーとしての知識。

 

戸棚も開けず、引き出しにしまったままの様な感じであり、俺がその戸棚を探り、引き出しを開ければ記憶が明るくなる。 そんな感覚でトレーナーとしての知識が脳に入り込んだ。

 

 

代償に頭痛がしたけど、冷蔵庫にしまっていたはちみードリンクを飲んで痛みはごまかした。

 

慣れない甘さで喉が危なかった。

はぢみ"ーィィィ。

 

 

とりあえず一難は去ったとして…

 

己のメンタルを確保しつつ外を歩く。

 

この学園に来た時からそうだけどウマ娘達からは注目を集めている。

 

 

怖がるウマ娘。

 

警戒するウマ娘。

 

面白がるウマ娘。

 

強張るウマ娘。

 

無視するウマ娘。

 

 

もうさまざまだ。

 

正直帰りたいし、出来ればトレーナーもやりたくない。

 

でもこの呪いを解く方法は日記帳に書かれていた。

 

 

 

__栄光ある"結果"を残す。

 

 

 

 

「いや、無理ゲーかよ」

 

 

毒薬で自殺したくなるレベルもわかる。

 

こんな呪いと付き合いながらウマ娘に栄光を取らせて結果も得るなんて無理に等しい。

 

カボチャ頭を被り、哀れな道化を演じ、マフティーを説くことで、今はやっとなんとかギリギリを歩けている。

 

 

コレを背負いながらトレーナーを始めるのだ。

 

 

もう、マジ、しんどいです。

 

やめたくなりますよ、活動ぉ…

 

 

 

「でも、やんないと、生きていけない」

 

 

 

まだ俺は本格的に苦しんで無いし、まだ狂っている事を理解したうえで狂おうとできる。

 

 

そしてここから苦しむ予定だ。

 

 

マフティーと同じ。

 

 

楽な道であるはずが無い。

 

 

俺がやることは苦行であり、そこから更に苦痛を足裏に感じながら見えない先を進む。

 

 

もういっそ、心を壊せば簡単だろう。

 

 

でも何故だかな。

 

 

そうはならないし、そうなってしまうほど今のメンタルは弱くなく、むしろマフティーを演じることでマフTに染まれる気がして、心が強く有れる。

 

 

ゲームの世界だからかな?

 

なにか体に補正でもあるのだろうか?

 

それとも憑依した結果として得た謎の産物か?

 

 

確かめようが無いけど、それが後押しになって、カボチャ頭を被ったマフティーたるマフTになれるなら、やれるさ。

 

 

 

__こっから先が地獄だぞ!

 

 

 

ああ、そうだな。

 

ハサウェイだって理解していて愚行に進んだ。

 

でも否定しないで、戦いを止めなかった。

 

なら、俺もマフティーに染まってやる。

 

 

 

 

 

__なんとでもなるはずだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとでもなりましたか?

 

 

 

「なんとでもならなかったんだよなぁ…」

 

 

 

即落ち2コマも良いところ。

 

自問自答しながら帰宅して、そそくさと家に帰り着き、カボチャ頭を外した。

 

ウマ娘一人も釣れなかった。

 

全員から避けられて声一つかけられなかった。

 

かと言って積極的に声を掛けた訳でもないが、今は記憶を頼りにウマ娘の姿と、走る時の姿を見合わせて、彼女達がどれほどなのかを見定めていたところだ。

 

感想としてはレースは見てて興奮した。

 

トレーナーやウマ娘のいる観戦席から離れて遠目から見ていたけど、ウマ娘の凄さはカボチャ越しに体感した。

 

本当に足が速いんだな。

 

 

「事前登録してただけの俺が少し悔やまれるな…」

 

 

アプリゲームのウマ娘を楽しんだことはない。

 

でもウマ娘のコンテンツを楽しんでいる人の気持ちがわかった気がする。 今の俺は画面越しではなくリアルの中でそれを体感しているが、健気で美しい彼女達を育成して頂点を目指そうとする。 中央と言う魔境の中で切磋琢磨築き上げていくこの厳しさを乗り越えた対価として、その先にあるのは広大な景色だろうか。 絶対に興奮が止まらないだろう。

 

カボチャ越しからそれを思い描きながらも、ひどく厳しい現実と、この不自由な体、蝕もうとする呪いと付き合いながら数年を生きていくのだろう。

 

でも、まだ折れることはない。

 

不思議と気持ちは落ち着いている。

 

絶望視できるけど、まだ完全に絶望している訳ではない。

 

保たれている。

 

道化と虚栄を演じた__マフティーが、この体とカボチャに備わっている気がして、俺を諦めさせない。

 

 

「まだ1日目。 期間はこの週のみ。 選抜レースはウマ娘に数回ほどチャンスを与えるらしいから、この日にウマ娘をスカウトできなくてもまだ後はある。 焦るな。 俺はマフティーであり、マフTに身を落とすんだ」

 

 

 

風呂場の鏡を見る。

 

つい自分の顔との視線が合い、遮る。

 

ざわつく気持ちを抑えながらももう一度、視線を合わせない様に自分の姿を見る。

 

前までやつれていた体だ。

 

栄養失調一歩手前の寂れた姿だったが、今一度この姿を見て少し目を見開き、でも何故だが納得もする。

 

 

「この目付きを除けば、顔立ちはハサウェイに見えなくもない。 どれだけ俺にマフティー性を望んでるのやら」

 

 

こうなる運命だったのかわからない。

 

でも、こうするしかない。

 

憑依した時から俺は既にマフティーだったのかもしれない。

 

マフティーに焦らず、マフティーに身を落とし、マフティーに染まりながら、中央トレセン学園のマフTで有る。

 

 

 

「なんとでもなるはずだ」

 

 

鳴らない言葉をもう一度でもない。

 

何度も描いて、されどマフティーは動く。

 

それが俺自身じゃなくてもマフティーは進む…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

運命の針は、死神のレースよりも早かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君もトレーナーさんかな? どう? 楽しい走りに見えたかい? それとも…ただ、すごかった様に見えたかな?」

 

 

 

今日も収穫なく外しそうな夕暮れの中。

 

どこか人懐っこそうな声が横から聞こえる。

 

現れたのは一人のウマ娘だった。

 

 

 

 

 

つづく

 

 




それっぽい事を書けば良い精神。
マフティーって結局コンビニの様なもんでしょう?


あとエイシンフラッシュのストーリーで出たんだもん。
急ぎすぎないで良いから今年中には実装されて欲しいなー
つまり遠回しに実装を促す小説だという事だぞ三冠馬。

あと競馬知識ゼロだから気にしないで。
マフティーならなんとかやるから(無責任)

ではまた


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4話

誤字脱字を促す報告ありがとうございます!
すごく助かっています!
あと沢山の評価もあざまる水産!




 

 

 

いつも通りカボチャを被ってトレセン学園に出勤する。

 

ちなみに通勤は徒歩です。

 

住んでる場所からそう遠くないけど、それでも10分程の通勤中の視線がかなり痛いです。

 

車買うべきかな。

 

幸い運転免許は取得しているみたいだが、カボチャ被っての運転は危険すぎるし最悪警察に捕まる。 これは一旦保留だな。

 

 

 

「…」

 

 

 

通勤中じゃなかろうとも、勤務中でも集められる視線にまだ慣れない。 けれど自分がマフティーである事を思い出せば気持ちは楽になる。

 

謹慎から復帰して3日目であり、人は慣れる生き物なのかカボチャ頭の俺に対してある程度の関心は無くなってきたようだが、それでも過去に問題を起こしたトレーナーと言う事で未だ警戒している人はいる。 もちろんカボチャを被る異色なトレーナーと言うことでも警戒されており、視線が刺さるし、刺さる。 いま4人くらいに見られてるのか? 暇な奴らだな。

 

しかしそんな俺もウマ娘のスカウトはまだ誰一人と成立していない。 このまま引きずるようにこの学園の金食い虫と化してしまう。 ある程度給料の保証はされるだろうが結果一つ残せないトレーナーはこの学園に必要とされないだろう。 追い出されたら呪いを解く方法がなくなるため、俺もあまりボーッとしてられない。

 

だが周りのトレーナーも他人事では無い。

 

口述巧みなベテラントレーナーはウマ娘をしっかりとスカウトして、更にメンバーを増やしてチームの設立も計画しているだろう。

 

だがウマ娘との距離の取り方、狭め方がまだうまく測れない経験の浅いトレーナーは俺と同じように燻っている。

 

まだ3日目だが選抜レースは早くも来週辺りで一区切りついてしまう。 もし今月の選抜レースが終わったら次は今年の秋に小規模で行うようだが、数ヶ月後のメイクデビューを済ませるならこの春にスカウトした方がトレーナー的にもウマ娘的にも良いだろ。

 

一応メイクデビュー戦の時期が終わっても未勝利戦に出ることも可能だが、出走経験のあるウマ娘が走るため、未出走のウマ娘はバ群に慣れず、レース中に怪我する恐れが高いため実のところあまり好まれない。

 

やはり理想的なのはメイクデビュー前にスカウトを受けて、トレーナーと地固めを行い、メイクデビューを超えてからジュニア期に気持ちよく挑む事だろう。 その方が成長もする。

 

もしその年がダメなら翌年に備えるだろうが、スカウトされない=中央で戦う才能が無いと言うことになる。

 

そのため自身の走りに絶望してほとんどが学園を去るらしい。 またこの学園で進学と卒業を決めて、ターフで走るのは趣味の範疇に抑えるなど様々。 でも昨日この学園を早々に去るウマ娘を一人見た。 中央は厳しいな。

 

なのでウマ娘も必死、そしてトレーナーも必死、既に取り合いの状態が始まっている。

 

対談の場などを設けてパートナー選びを行うなど、トレセン学園側も可能な限りウマ娘にはトレーナーと、トレーナーにはウマ娘とパートナーが作れる様にサポートを受けていた。

 

それでもまだ誰一人スカウトできてないトレーナー達は少しずつ焦り始め、もう既に余裕が無さそうなトレーナーはソワソワと掛かり気味。 一息つけると良いですが。

 

でもその焦りを緩衝させようとするために、スカウトの過程で俺と比較するトレーナーが多い。

 

 

 

_カボチャのアイツはスカウト出来てない。

_まだ負けていない。

 

_カボチャのアイツより先にスカウトした。

_こちらは問題ない。

 

 

 

俺を勝手に対抗心を燃やしてトレーナー達は動きだしているこの頃、俺がまだスカウト出来てないと聞いて胸を撫で下ろすトレーナーがいる。

 

そんなにカボチャ頭に負けたくないのか…

 

まあ、でも万が一だ。 マフTの俺が早い段階でウマ娘をスカウトしてしまい、未だスカウト出来てない出遅れたトレーナーからすると屈辱を味わうだろう。 あんな異端児に先を越されたら悔しくて仕方ない。 あんな意味わからんヤベーヤツに遅れを取れないと大半のトレーナーは必死になるだろう。 俺もなる。

 

そのためこの職員室ではじっとりとした嫌な緊張感と、プレッシャーが漂っている。

 

正直、居心地が悪い。

 

ちなみにウマ娘とパートナーを組んだトレーナーは既に職員室から拠点を移して部屋を貰っている。 もちろん朝はここに集まって仕事を貰う必要がある。 貰ったその仕事を自分のトレーナー室に持ち込んで仕事を熟すなどやり方は様々だ。 責務を果たせるならお好きにどうぞとある程度自由。

 

でもまだスカウトも出来ておらず、この空間から脱していないトレーナーは俺を見て勝手に焦りだす。 鬱陶しいな。

 

 

さて、視線が一人分だけ減ったことを感じながら、俺はウマ娘のデータを見比べる。

 

トレーナー用の共有ファイルの中には前日の選抜レースが録画された映像がある。 その動画を再生して、振り分けられた業務と共に視聴する。 人よりも早く駆けるウマ娘、自分なりにどの子が優秀なのか分析を行うが…やはり近くで見たほうがわかりやすい。

 

まあそもそも、どの子を育てれば良いのかわからない。 足の速いウマ娘、末脚鋭いウマ娘、体力のあるウマ娘、冷静沈着なウマ娘、愛嬌あるウマ娘、全身全霊なウマ娘、おとなしいウマ娘、もうさまざまだ。

 

なんなら誰でも良い…と、言うのは最終手段であり、育てるならこの子だと感じるウマ娘を探すべきだろう。

 

モビルスーツも同じ。

 

コクピットに乗り込んでコレだ!と思うような出会いはあるはずだ。 そこから共に化けていく。

 

でもそうなるにはやはり実際に交わさなければならない。 だがこのカボチャ頭と話をしてくれるウマ娘はいるだろうか?

 

いや、実は話しかけてくれたウマ娘はいた。

 

まぁスカウトの話ではなく「何故カボチャ…?」や「日光嫌いなのですか?」と疑問を投げるウマ娘。

中には「やべー!ウケるー!バイブス高くて頭パンプキンじゃん!超カボってるゥー!」と、急にはしゃぎ始めるウマ娘だったりと、スカウトにはなんら関係ない感じに話しかけてくれた。

 

こんな頭でも話しかけてくるウマ娘はいるんだなと彼女の健気さを理解するも、逆スカウトじゃないのかと少しだけガッカリだが、マフティーは常に堂々とマフティーする。

 

そんな雰囲気は漂わせない。

 

ちなみに「コレはマフティーたらしめる姿だ」と説明すればパリピギャルですら「え?」とマジトーンにしてしまった。

わけわからなかったよな、本当にすまない。

あとで鏡の自分に反省を促してくる。

踊るだけだけど。

あ、黒いタイツどこかで買わないとな。

 

 

「選抜レース3日目か」

 

 

昼過ぎになるとトレーナー達は職員室を出てトレセン学園のレース場に向かい始める。

 

俺も遅れて向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

収穫は無し。

 

今日の選抜レースが終わってからも俺は職員室でタブレットを開いてレースのおさらい中。

 

やはりミノフスキークラフトの風圧に推し退かれたごとく、このカボチャにはウマ娘は近寄ってこなかった。

 

やはりカボチャ頭はインパクト強くてむしろ興味だけでは近寄れない状態。 やはり前日は運が良かったのだろう。 外見で敬遠せず心底心配してくれるウマ娘か、テンションあげちくりのパリピギャルウマ娘くらいだろう、こんなトレーナーに話しかけてくれるのは。 ちなみに俺はオタクじゃない。 ガンダムは好きだけどギャルに優しくされたオタク枠じゃない。 そもそも都市伝説だぞ、あんなの。

 

 

それはともかく収穫に後悔しても遅い。

 

選抜レースの期間が2週間程度で短いのも、それだけに絞っているからだ。 中央はそれだけ厳しいと言うことだろう。 それでも皆に等しくチャンスは与えられている。 コレを勝ち取れるかは根性あるウマ娘。 出来ぬものは中央で走る資格無しと言うことだろう。 魔境だな。

 

 

そしてそれはトレーナーも同じ。

 

中央で結果を出せないのなら、トレーナーも中央で働く資格は無し。 それは俺も他人事ではなく、むしろ既にその刃が喉に食い込みそうなラインである。

 

サブトレーナーとして首の皮を繋げる道もあるし、なんならベテラントレーナーの元でトレーナーとして成長すれば将来的にも価値が生まれる。 そうして翌年にまた改めてスカウトを始めるなどトレーナーにも存続するためのチャンスは有る。

 

それを甘んじる行為と思うかは、その人の勝手だ。

 

無理ならトレーナーであろうと去るだけだ。

 

結果が全ての中央トレセン学園。

 

歌にもあったな。

アニメじゃない。 本当のことさ。

 

 

 

「あ、もうすぐ夜か…てか、天候怪しいな」

 

 

雨が降りそうか? それは困る。

 

周りを見渡すと悪天候を嫌がったのか既に殆どの人が帰っていた。

 

まもなく俺が最後の一人になるだろう。

 

少ない荷物をまとめてカバンを持ち、職員室を出る。 学園内にウマ娘はいない。

 

外を出る。

 

雨が少しずつ降り始めてきた。 これはだんだんと勢いが増してくる天気。 一応折り畳み傘はあるけど、傘はそこまで大きく無いので大雨は困る。 雨水はカボチャ頭である程度防げるけど水を吸うと重くなるから急ぐか。

 

 

 

ザッ ザッ ザッ

 

 

 

「?」

 

 

誰かが学園のターフを走っている。

 

いや、走っているけど、この場を味わうように走っている気がする。

 

でもその脚は早い。 タブレットの動画の中で見たウマ娘よりも鋭い脚力を持っている。 思わず足を止めて眺めてしまう。

 

 

「…」

 

 

自分の走りさえ、良ければ今は他のことに目も暮れない。

 

ウマ娘が、ウマ娘をしているみたいだ。

 

そして何よりも…

 

あのウマ娘は、どこか…

 

 

「楽しそうだな」

 

 

 

「?」

 

 

あ、気づかれたか。

 

ウマ娘って耳が良いんだっけ?

 

この距離でも聞こえるもんだな。

 

とりあえず邪魔すると悪い。

 

折り畳み傘を広げて去ろうとした…が。

 

 

「おーい! そのミスター・パンプキン・トレーナー!」

 

 

……これ、俺だよな?

 

周りにトレーナーもいなければパンプキンは俺だけだもんな。

 

折り畳み傘を一旦閉じて、そのウマ娘に振り返る。

 

するとそのウマ娘はピョコピョコと近づいてきた。

 

 

「君もトレーナーさんかな? それで、楽しい走りに見えたかい? それとも…ただ、すごかった様に見えたかな?」

 

「すごかった? 速いとは思ったが、すごいのか?」

 

「!」

 

「…あ」

 

 

いや、待て。

 

トレーナーとして「すごいのか?」の感想は些か不味いだろう。

 

ダメだ。

 

あまりウマ娘の走りについて会話などした事ないから客観的な反応になってしまう。 てか中央にいて「すごいのか?」はトレーナーとして欠陥だろう。 いや、カボチャの時点で欠陥ですけども、もっと褒めるとかあっただろうに。

 

ああダメだ! このままで本当にギャルに優しくされたオタクトレーナーみたいじゃないか!

 

違う! 俺はニュータイプだ!

 

 

でも、何故かな…

 

このカボチャを被ってるとお世辞なんて対応は取れなかった。

 

言葉は冷めたように、その代わり濁りなくまっすぐとしたような…コレもマフティー性って奴なのか?

 

違う。 純粋に俺が無知なだけだ。

 

中央のトレーナーとして相応しく無いな。

 

 

「ぷっ…くくっ、あっははは! そうなんだ! 君はそう思うんだね! 初めてだよ、すごいのか?だって言われ…っ、ぷくくくっ、ちょっと待ってね。 ふふっ、だめだ、ふふふっ!」

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ、大丈夫。 とても愉快な回答を得られてね、新鮮だった。 でもそうか。 あなたはすごいのか?って答えるんだね」

 

「カボチャの頭を被らなければならない未熟者でな、ウマ娘の凄さなど素人の俺にはわからない。 ただ楽しく速く走っていたように見えたんだけど。 気を悪くしたのなら、すまない」

 

「いや、良いよ。 とても嬉しかったから。 トレーナーからそんな風に見てくれるなんて、この年代になると無いのかって思ってたから」

 

「楽しそうに走ることがか?」

 

「それ以上に割り込むんだよ。 楽しいより凄い。 楽しいよりヤバい。 楽しいよりも強い。 大衆から注目を集めるトゥインクルとして仕方ないけど、アタシの原動力はこの気持ちなんだ。 誇り高い実績は良いと思う。 でもそこに意味を求められないならアタシはただ走るだけのマシーンだ。 アタシはそれをいつまでも忘れたく無い」

 

「中央に来てそれを言うのはどうなんだ? ただ楽しい走りなら中央じゃなくても良いと思う」

 

「かもね。 でもそれは半分間違いとも言える。 舞台も大きければ楽しさも増す。 あのマルゼンスキーとかはそう思っているよ。 もちろんアタシも」

 

「そうなのか」

 

「うん。 だからアタシは楽しさを膨らませるために、中央に来て、その楽しいを得る。 その過程で重賞なり、皐月賞なり……そのまま三冠なり…何でもだよ。 楽しんだ上で獲るから」

 

「もうトゥインクルにはデビューしてるのか?」

 

「んーん、まだだよ。 ここに来て一年越した」

 

「そうなのか」

 

「そう。 アタシは何事にもまずは楽しさを求める。 でも求められる条件に一致するトレーナーが居ない。 アタシの描いた『コレ』を見てくれるトレーナーが現れないからね。 ……あはは、怠惰で独りよがりかな?」

 

「いや、理想が高いのは構わない。 しかしココでは結果を押しつけられる。 そこに堪えて挑むか、放任になるかは自由だ。 でも楽しさを前提に走るのは悪いとは思わない。 それが君の原動力なら、それは大事にしておけ。 このカボチャもそれに等しい」

 

「何で被ってるの?」

 

「求めているからだ。 罰の中の救いと、己の反省を。 それが拭い切れるまではトレーナーとして活動する限りこのカボチャは外せない」

 

「そうなんだ。 ねぇ…それ、楽しい?」

 

「楽しくないな。 そのために被ってる訳でもないからな」

 

「そっか…」

 

 

雨が少しずつ降り始める。

 

俺は再び折り畳み傘を広げた。

 

 

 

「ねえ、もう一度聞いて良い?」

 

「なんだ?」

 

「アタシの走りはどうだった?」

 

「楽しそうに見えた。 凄いかは分からん。 だが凄いのかもしれない」

 

「そう…ふーん。 ならさ、ミスター・トレーナー? 明日の選抜レース見に来てよ。 そこでもの凄い走りをするからさ。 そしたらまた明日、選抜レースが終わったら感想を聞かせてね」

 

「?」

 

「ね、良いでしょ? 絶対に来てよ」

 

「そうだな、そこまで言うなら見に行こう。 だが…口約束じゃ困るだろう。 コレを渡しておく」

 

 

開いた折り畳み傘をウマ娘の彼女に渡した。

 

ピーンと尻尾が立つ。

 

何そんなに驚いてんだ?

 

 

「明日それを返してもらう。 その代わり、走るのは終わりにして、残りは明日にしておけ」

 

「あ、うん」

 

 

 

そう言ってトレセン学園を去る。

 

俺は楽しくはないと答えた。

 

でも明日は少なからず楽しみになった。

 

 

 

そういや名前聞き忘れたな。

 

…まあ、いいか。

 

どこか猫味ある人懐っこい感じのあの顔は覚えた。

 

あと、あの小さなシルクハットと英語2文字がトレードマークだろうから、すぐにわかるだろう。

 

……カボチャ頭、雨で少し重たいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや…? 今日はずぶ濡れにならずに帰って来たの…か? 珍しいな」

 

 

「ただいまルドルフ。 傘借りちゃってね。 でもお散歩は楽しかったよ。 あと、拾い物もした。 いや、言うならば収穫かな? まだ秋じゃないけど」

 

 

「??」

 

 

「んん、なんでもないよ。 それじゃあね」

 

 

 

 

タオルを用意して待っていたウマ娘…

シンボリルドルフは何かを感じる。

 

 

まもなく、ソレは動き出す。

 

そう予感した。

 

 

 

 

 

つづく

 

 





性格云々は独自設定だから気にしないで。
ただ可愛いなって思えば無問題だから!
3Dあるんだから実装はよ!(運営に実装を促す踊り)

ちなみにシンボリルドルフやマルゼンスキーはまだマブイ中等部です。

あとオタクに優しいギャルは都市伝説だから本気にしたらダメだぞ!


ではまた



作業BGM【ルパン・ザ・ファイアー】


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5話

しかしねぇ…実装されないからこうなるのでねぇ…

※未実装の彼女の性格云々は作者の独自設定です。
※認め切れない場合は作者に反省を促して下さい。

あと『アオハル杯』の要素は今の所無しで行きます。 何せ作者の考えるマフティーネタがURAにどれだけ影響与えるか試したい自己満足から始まったので。 ケ? 原作の小説? 読んだ事ないデース!


ではどうぞ


選抜レースも4日目。

 

 

 

目玉と言えるウマ娘、名門のウマ娘、名高いウマ娘、純粋に有名なウマ娘、このように注目を浴びていた大半のウマ娘は選抜レースを走り終えていた。 彼女らは当然のようにトレーナーを得てチームを組み、栄光ある道が約束されている頃、残ったウマ娘達が負けじと奮う番である。

 

残るウマ娘はどれも平凡な子ばかり。

 

周りからそう思われており、それもまま事実でもある。

 

ここから先は" 消化試合 "と思われるのも無理はない。

 

それでも中央に集まっているだけあって地方ほど実力の劣るウマ娘はそういないだろうが、やはり名門であるメジロ家などには劣り、そして中央と言う狭き門を潜り抜けてきたトレーナーの御眼鏡に適う脚を持ち合わせているかはまた別の話。

 

皆、常に必死だ。

 

そうして厳しい環境を乗り越えいこうとする中…

 

 

 

 

観戦していたトレーナーに一つの衝撃が走る。

 

 

「あのウマ娘はなんだ!?凄いな!」

「凄い追い込みだ! あんな子が居たのか!」

「ありゃ凄いな! 光るものがある!」

「待て、あのウマ娘は確か!」

「いい脚だ! 凄い可能性を秘めている!」

 

 

前半は緩りとした走り。

 

見たところ作戦は追い込みだろうか?

 

だが表情に闘争心は無く、ただこの選抜レースに挑むだけに見えた。

 

誰しもがそう思っていた。

シンボリルドルフを除いて。

 

 

しかし時は来る。

 

第四コーナーに差し掛かる瞬間だ、直線でもないにも関わらず物凄い勢いで追い込みに入る。 前のめりに体を倒しながらの走行は大きく膨らむコーナーで行うべきタイミングではない。 遠心力に耐えられず身体が外に投げ出されてもおかしくない速度だが、小さなシルクハットを被った彼女は表情を変えずにそのまま直線に入り、また速度が上がった。

 

 

 

__走り方が異常だ。

 

 

 

そして一着を取ったそのウマ娘は終始その表情は変えなかった。

最初から最後まで同じ表情。

 

レースを見ていたトレーナーやウマ娘達は皆が声を揃えて彼女を「凄い!!」と言う。

 

確かに凄い走りだ。

 

メイクデビューに出てないにも関わらずそのウマ娘は既に完成されているように見えた。

 

ここから更に磨きを掛ければどれほどに化けるのか? 既にクラシック級で猛走しているマルゼンスキーを連想する。 この選抜レースで一着を取った彼女をここから育てればそのくらいにはなるだろうか? この意味に興奮を隠せないトレーナーは一着を取った彼女に群がり、スカウティングを始める。

 

集まったトレーナー達に、彼女は言った。

 

 

 

__アタシのレースはどうだった?

 

 

 

皆は口を揃えて「凄い!!」「君なら栄冠も間違いない!」「伝説だって夢じゃない!」「伝説って?」「ああ!」と彼女の"強さ"だけに目を光らせた。

 

 

強さは、悪いことではない。

 

競技の中で駆けるウマ娘の強さは重要だ。

 

トレーナーの御眼鏡に適うモノだ。

 

 

 

けれど、彼女は困ったように…

 

__そっか。

 

 

やはりか、と思うように諦めを持って笑う。

 

彼女は全てのスカウティングを断りながら、観戦していた友人のシンボリルドルフの元まで歩くと、勝手に預かって貰っていた折り畳み傘を受け取る。

 

そして人気(ひとけ)の少ない場所まで歩き始めた。

 

 

「「「??」」」

 

 

 

スカウティングを受けていた時よりもやや雰囲気が変わる彼女にトレーナーは目を追ってしまう。 このまま去ってしまうのか?

 

いや、何か目的があっての足取りだと気づいたトレーナーはその後ろ姿を眺める。

 

それはシンボリルドルフも同じ。

 

 

そして、見守っていた者は衝撃を受ける。

 

 

 

「ねぇ、どうだった?」

 

「笑顔でやるような走りじゃないな。 素人並みに言えばあの走りは危なすぎるからやめておけ」

 

 

 

この学園に戻ってきた異端児と思われるカボチャ頭のトレーナーと楽しそうに会話を弾ませていた。

 

何故アイツの元に向かったんだ?

何故アイツと会話をしている??

 

皆そう思ったに違いない。

 

だが折り畳み傘をカボチャのトレーナーに返しながら一言、二言と挟む姿はとても自然体で、何より楽しそうだ。

 

 

「そうなんだね。 でも安心して。 あんな走りは基本的にしないつもりだから」

 

「基本的に…か。 それは最終的に出来ない奴の言葉だ。 力がある奴ほどやれる事をやらないのは難しい話、自制出来ないものさ。 自分のために成すこと尽きない君はまたどこかで間違いなくそうするだろう」

 

「あはは、手厳しいなぁ」

 

「仮に今回のようなレースじゃなかろうとも君はまた似たような事に手も脚も出す。 その先に描いた果てがあるなら…そうするさ。 君は自分で抱いたな? コレは独りよがりかな、っとな」

 

「ふーん? そのカボチャ頭のように?」

 

「コレは証にしたモノだ。 罰の中に救いを求めた、マフティーたらしめる姿だ。 子供が夜寝る時に描く妄想程度の姿ではない。 使命感に近く、そうしなければならないものをカボチャにしているだけ。 この意味が難しければ狂ってると思っていればいい。 マフティーはそれに否定はしないが、マフティーはソレを止める気はない」

 

「ふふーん、そうなんだ。 うん、それならアタシもあなたに共感するよ。 過程よりも、終結したところにアタシの臨んだソレがあるなら、アタシはどこまでもタブーは犯してやれる。 アタシはソレを止める気はないから」

 

 

レース中の笑みは別の笑みに変わっていた。

 

イタズラの計画を考え終えた子供のように純粋だが、そこに狂気を交えたような感覚。

 

だが二人にとってそれは正常であり、並の者では理解し難い有様。

 

この二人を止めれる者は居ないかもしれない。

 

 

 

「ミスター・パンプキントレーナー? あなたの名前を教えてくれたら嬉しいな」

 

「何故だ?」

 

「決めたからだよ、トレーナー。 アタシをターフで狂うように楽しませてくれるのはおそらくあなただってね」

 

「……まさかスカウトか?」

 

「トレーナーとウマ娘、二人が話すと言ったらソレしかないでしょう? カボチャは関係ないよ。 いや、まあカボチャのトレーナーってのもまた楽しそうだけど、あなたは周りとは違うカボチャ越しの視点を得てウマ娘を走らせてくれる。 禁忌やタブーにも理解があり、そこに常人ではない先を描けるなら求めさせる。 アタシはあなたにそのターフを描かせる、ってね」

 

「随分と上からの奴だ」

 

「あはは、そうかもね。 でもアタシはアタシが良ければとまず思うよ。 こう見えてアタシはやや頑固で困っっッた、ウマ娘だからね。 ささ、君の名前を教えてよミスター・トレーナー。 アタシと同じ独りよがりな自分の事をどう呼んでるのかな?」

 

 

 

人懐っこそうな猫味のあるその表情だが、猛獣のようにも見える。

 

でも彼女はそれが普通で、それがデフォルトで、それが正常である。

 

何せ、彼女の内側はひどく自己満足に燃えている、困ったウマ娘なのだから。

 

 

 

「俺の名を呼ぶなら、マフ T(ティー)と呼ぶが良い」

 

「マフT…か。 覚えたよ、マフT」

 

「では困ったくらいに独りよがりな君の名前を聞かせてもらう。 君の名前はなんだ?」

 

「あれ? 知らないの? そっか、ならマフTにアタシの名前を教えてあげる。 アタシの名前は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、一つの契約が終えたことによりトレセン学園には衝撃が走る。

 

 

カボチャの頭を被る『マフティー』と言われたトレーナーと…

 

 

自身のためにだけにレースで(禁忌に身を投じてでも)楽しみを得ようとする、後に三冠馬と言われる大いなる存在。

 

 

そのウマ娘の名前を皆はこう呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミスターシービー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

URAの危険人物(マフティー)に付きそう一人目のウマ娘である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、ありのまま 今 起こったことを話すぜ…?

 

 

折り畳み傘を返して貰ったら…

 

ウマ娘と契約していた…

 

 

な …何を 言ってるのか わからねぇと思うが

 

おれも 何を言ってるのか わからねぇ…

 

 

カボチャの頭もどうにかなりそうだった

 

独りよがりだとか 困っただとか

 

 

そこらの仲間イベントなもんじゃあ 断じてねぇ

 

もっと恐ろしい片鱗を 味わったぜ…

 

 

 

 

てか、これ本当にマジ?

 

なんか契約成立したぞ。

 

承諾得るために理事長に向かって、それで対応してくれたたづなさんが凄い顔してた。

マジで?って感じで。

 

いや、まあ俺としても契約してウマ娘を獲得する必要あるの知ってたし、それなりに焦りはあったから今日も隅の方で構えて選抜レース見に行ったさ。 それでその選抜レースが終わると昨日出会ったウマ娘とある程度会話挟んで、カボチャでそれっぽく話してたら互いの名前を告げあって、そのまま流れるように契約を完了しちまった。

 

しかもなんかヤバめで凄そうなウマ娘と契約してしまった。

 

 

俺、マフティーしてただけなのに?

いや、マフティーしてたってなんだよ…謎。

 

 

それにしてもミスターシービーか。

 

史実にいる馬なんだろうか?

 

ウマ娘ってゲームだから史実で活躍した馬をモチーフに作り上げた育成ゲームなのは聞いてるけど、事前登録勢で終えてプレイすらしなかった俺からしたら全くもって馬がわからん。

 

知ってても120億が飛んだ話くらいしかわかんないし、年末は有馬記念ってレースが開かれる程度にしか知識ない。

 

まだガンダムの方が知識ある。

 

そもそもミスターシービーが史実の馬だとしてもどれくらい凄いのかも知らない。

 

名前だけ見ると凄いことしそうだけどな。

 

だって…アーサーなんだぜ?

あ、いや、違う。

 

名前がミスターなんだぜ?

 

なんかやってくれそうじゃん? 名前的に。

 

 

 

「マフT、今日は何する?」

 

「走る」

 

「え? あ、うん、まあ、それは当たり前なんだけど、色々トレーニングとかあるでしょ?」

 

「あー、そうだな…」

 

 

精神や人格はこの脳に知識はある。

 

トレーニング方法も分かる。

 

だが…

 

 

 

「ミスターシービーは何が得意で何が出来ないのか、わからないな」

 

「えー? 選抜レースで見たでしょ? ぐんぐーんと追い込むスタイル」

 

「一番後ろから進むやつだな。 あれこだわってやってるのか?」

 

「!? ……よくわかったね?」

 

「なんとなくそう見えただけだ。 もしや追い込みが好きなのか?」

 

「うん!好き!」

 

 

めっちゃ良い顔で言われた。

 

てか好きだから追い込みやってるのか。

性格出てんなぁ…

 

でも気持ちはわからないでも無い。

 

まず見ていて痛快だし、追い込んでごぼう抜きする本人も楽しそうだ。 追い込みで仕掛ける際も普通の笑みを浮かべたような表情なんだけど、でも内側はギラギラとしている。 闘争心と言うには少し違うか。

 

 

「とりあえず好きに走っておくか」

 

「おお? 指示のようで、それ指示じゃ無いよね?」

 

「君はある程度完成している。 ならその完成度を保つようにすれば良い。 やる事はモチベーションの持続だ。 今は好きに走って良い」

 

「好きになんて言ったら怪我するかもよ?」

 

「したいならすれば良い。 しても良いならな」

 

「してやらないよーだ。 怪我して良いなんて言うトレーナー失格のマフTに怪我なんてしてあげない。 それじゃあ行ってくる」

 

 

そう言って走り出したミスターシービー。

 

速度は遅い。

 

ターフの味を楽しむように駆け巡る。

 

だが第四コーナーあたりで速めに走り出して、戻ってきた。

 

そこまで乱れもしない呼吸。

 

好きなようにペースを作らせた結果として体力は全然余らせている。 ウマ娘としてスタミナが多いのか、ミスターシービーが多いのか、判断に困る。

 

何せ知識はあっても経験は無い。 そもそもこの体に憑依してから2週間も経たない状態で、既にトレーナーとしてのスタートを切っている。

 

記憶頼りに、誤魔化さないといけない部分はマフティーして誤魔化しているが、ぶっつけ本番にしてはお粗末過ぎるコンテニューゲームだ。

 

故に、ミスターシービーを知らなければまだウマ娘も知らない。

 

だから彼女の凄さなんてちっともわからない。

 

周りの反応を見る限り多分凄いのだろうけど。

 

 

 

「イメージトレーニング得意そうだな」

 

「そう思うの?」

 

「第四コーナーを走る時だが、敢えてナニカを躱すように走ったな? 君の中で誰かを追い抜いたのか?」

 

「んー、まあ…色々と? あ、すごく便利なビジョンだよ。 アタシを1着にするためのね」

 

「なら、強敵と戦うイメージが無いってことか」

 

「そんな事ないよ? ただ、まだメイクデビュー果たしてないからわからないだけ。 なんならテレビもあまり見ないから。 だからその時になったら分かると思っていて、今だけ都合の良いビジョンを描いて走ってる。 マフTは言ったよね? モチベーションを保つために走れって。 ならそうするよ」

 

「今はそれで良い。 もしダメだったらその時に考えよう」

 

「ふーん? ここで、しっかり鍛えて勝とう!! …って、言わないんだね?」

 

「さぁな。 どうであれ互いにスタートラインを超えたからにはもうやるしか無い話だ。 勝ち負けに関しては人生の分岐点に関わるレベルの話になった時にでも考えれば良い。 もしくは何がなんでも"譲れない時"だ」

 

「……譲れない…ね」

 

 

あ、俺は普通に人生の分岐点に立たされてるからもっと焦るべきなんだろうけど、このカボチャを被ってるとひどく落ち着く。 これはむしろ良くない状態なんだろうけど、いまここで慌てるタイミングでもない。 彼女にも時間はいるし、俺にもまだ時間はある。 けれど不思議かな。 彼女なら何かしてくれそうに思えて仕方ない。 まだまだ分かり合えたつもりでもないのにな。

 

 

「さあ、もう一回走って来い。 俺は未熟過ぎてトレーナーらしくできないからな」

 

「わかった行ってくるね。 あと…トレーナーでも名ばかりよりはマシだよ? アタシはアタシを理解してくれる都合の良い人が好き」

 

「困ったやつだな」

 

「今だけは好きにやらせてねー!」

 

 

 

そう言ってまた走り去る。

 

彼女は俺を選んだが、それでもまだレース出場に名前を貸してくれる都合の良い存在だと思っているだろう、恐らくは。

 

そんでもってある程度は好きにやらせてくれる人で無ければ困ると言う身勝手な奴だ。

 

仮に彼女がそんな娘で無かろうとも俺自身がウマ娘を鍛えるなど、できるだろうか?

 

マフティーしていればいずれ出来ると思う。

 

 

 

「もっと、ウマ娘の事を勉強するか…」

 

 

 

俺は中央のトレーナーに相応しく無い。

 

そもそもトレーナーそのものに相応しく無い。

 

けれど俺はコレをやるしか無い。

 

もし他に方法があるなら、聞きたいよ。

 

マフティーはね。

 

 

 

 

つづく




マルゼンスキー=自分と共に周りに楽しみを与えて次世代にバトンを渡せるチョベリグなタイプ。
↑頼もしい。

ミスターシービー=まず自身に楽しみを見出さないと納得できない危険なタイプ。
↑危なっかしい。

マフT=彼は危険人物だ、URAの秩序を乱す…
↑すごく危なっかしい。


一応【勘違い】のつもりでもある。
すごい辿々しいけど、マフティーだから仕方ないね。

ちなみに作者はウマ娘が好きなだけで競馬知識無いぞ。
だから描写にあまり期待しないでください。


ではまた


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6話

お気に入り1000超えてる!!
それだけマフティーが集っているらしい!




 

 

 

カボチャの被りで顔を隠すトレーナー。

トレセン学園の危険分子と言われる異端児。

 

 

その名は マフT …

 

 

呼び方は『マフトレーナー』では無く、彼は自身を『マフティー』と呼ぶ。 マフティー、それは己に対しての罰でもあり、そして救いを求める哀れな存在だと自負していた。 はっきり言って訳のわからないトレーナーであり、この学園のトレーナーと言い難い有様だ。 たしかにトレセン学園にも変わったトレーナーは少数ながらも所属するが、マフTはそんな奴らよりも遥かに異端だった。

 

最初の数日はマフTの存在に慣れず、またマフTを名乗る前の彼自身の形跡は褒められたものではない。 ウマ娘との距離を間違えてしまい、ウマ娘から殴られてしまう、指導者としてあるまじき姿。 まだ若き新人トレーナーとして失敗は多く、それは私も同じだった。 気持ちはわからないではない。

 

だがいつしか彼からは気味の悪い雰囲気を漂わせ、ウマ娘達を怖がらせてしまうようになっていた。 ウマ娘は敏感に雰囲気を察する生き物である。 彼から焦りが生まれた結果だろうか、ウマ娘を怯えさせてしまう。 それが引き金となり、ウマ娘から一撃危害を加えられた彼はカウンセリングを受けて、そして一時的にこの学園から去った。

 

一定数だがそれを聞いた他のトレーナーは喜んだ。 なにせ彼の存在はこの学園にそぐわないと思う者はある程度居たようで、鬱陶しく思っていたみたいだ。 指導者であろうと弱ければ淘汰される。 中央の厳しさを改めて感じつつ時間は流れる。 頼れる味方も居らず、孤独に戦い、そして彼は負けた。 それだけの話なんだ。

 

 

しかし、彼はマフティーとなって帰ってきた。

 

 

彼を知る者はその変わりように驚いた。 全てが堂々としており、カボチャをかぶる。 奇行もここまで来るのかと少し恐れすら抱く。 正気じゃないがマフティーを名乗る彼は正気だった。 トレーナーからの野次も、視線も、牽制も、対話も、気にしないとばかりにマフTの名で活動する彼は変わらず責務を果たす。

その後ろ姿は異質だ。 彼を良く思わないトレーナーは遠目からでも視線で牽制する。 中には幼稚な行動だが消しゴムを投げてカボチャに当てる。 だが、その時、カボチャを軽く傾けて直撃を凌ごうとする。 生憎そのかぶり物は大きく、投げられた消しゴムは当たってしまう…が、でも後ろから何されるのかわかっているからこそ避けると言う行為を彼はした。

 

 

_後ろにも目が付いているのかよ!?

 

 

とあるトレーナーは戦慄する。

 

しかし彼は振り向く事なく、そんな幼稚に付き合ってられまいと責務を果たす。

 

だが…

 

 

_今3人が見ている。

_4人が睨んでいるな。

_また1人増えたか。

_良く飽きもしないで…

 

 

 

マフTは後ろを向いてるだけだ。

 

しかし何故だかわからない。

 

だが訴えるように彼から聞こえてしまう。

 

 

_本当に、後ろにも目が付いているのか……?

 

 

殆どのトレーナーは思った。

 

しかしタネも仕掛けもない。

本当に後方が見えている?

バカな、あり得ない。

エスパーでもあるまいし

 

 

彼を牽制してたトレーナーは戦慄する。

 

 

しかし驚くことはもう一つあった。

 

それは彼の集中力の高さだ。これには驚かされてしまった。 経験の浅いトレーナーにはわからないだろうが、修羅場を超えてきた本当のベテラントレーナーにはソレが何なのかを理解した。

 

幻覚と思えるだろうソレは、指導者にも稀に見られるナニカであり、またウマ娘にも起こりうるオカルト的な現象…

 

選ばれた存在のみに備わると言われた"オーラ"と言われるものだ。

 

これはトレーナーの中では都市伝説だと言われ、オカルトだと切り捨てられていた。

 

あり得ないと…

 

しかし中央と言う激戦区を乗り越えてきたウマ娘らはそれが見えるらしい。 しかしそれは目の肥えたベテラントレーナーのみ知ることが出来る領域である。 数多のウマ娘とレースを見てきたトレーナーだけが視認できる、まさに特別な出来事。

 

しかしそれはウマ娘のみ発せられる力だと言われている。

 

理由は簡単だ。

『精神で肉体を凌駕』したその時に、備わった力がオーラとなって見える。 また"プレッシャー"が形となるとも言われている。 どのウマ娘よりも鍛え抜かれたウマ娘だけが辿り着くと言われていたが、しかし同じように鍛えたとしてもそれは何千と言う中で有るか無いかと言われている。

 

有名なのはシンザンと言われる神バとも称えられた伝説級のウマ娘だろうか?

 

しかし当時もオカルトだと言われてそれは否定されていた。 だが今となってはそのオーラを纏うウマ娘がまた現れたらしく、視認したトレーナーの証言も多く、オーラは存在すると証明された。 当然私もその1人だ。

 

そのためウマ娘なら、精神で肉体を凌駕した時に備わる力だと立証された。

 

 

だが、トレーナーは違う。

 

トレーナーは基本的に人間である。

 

ウマ娘ではない。

 

そのため人間がそこに行き着くなどあり得ないし、あってはならないと思われている。

 

人間はウマ娘に勝てないことは常識。

 

トレーナーもある程度の対ウマ娘としての護身術は学ぶが、精神で肉体を凌駕する必要は当然ない。 そもそもトレーナーとして必要なのは管理能力である。 言わば必要なのは脳なのだ。 ウマ娘が動き、トレーナーが動かす。 指導者と生徒の関係となんら変わりない。

 

もちろんウマ娘と共に肉体を鍛えるトレーナーは存在する。 切磋琢磨共に築き合うとトレーナーはウマ娘にとって最高のパートナーだろう。

 

しかしウマ娘のようになるイレギュラーな人間はいない。

 

故に、肉体を精神で凌駕してオーラを兼ね備えた人外は存在しない。

 

 

 

だが、なんだ…?

 

彼からは…

 

ソレが湧き出ているように見えている。

 

もしやプレッシャーとでも言うのか??

 

 

 

いや、気のせいだろう。

 

それっぽい雰囲気が備わるだけで、カボチャの存在がそう錯覚させる。 恐らく気のせいだろうと、今の話に理解のあるトレーナーは憶測をそれぞれ考えを収束させた。 ヒトがウマ娘と同等に築き上げるなど、あり得ないのだから。 だから考えを放棄する様に視線を逸らす。

 

だがやはり思う。

 

あのトレーナーは謹慎期間中に何かがあってあの様な姿になったのか? また戻ってきた経緯は分からない。

 

顔を丸々隠してしまうカボチャ、彼はそれを罰と救いだと応えるのみ。

 

それをマフティーの単語に集約して、更に己をマフTと言う。

 

問題児として落ち着いた代わりに異端児になって帰ってきてしまった若きトレーナー。

 

だが何度も目に入ってしまう。

 

あの後ろ姿から見えてしまいそうになる不気味さはなんなのだ?

 

だがそれを探る意味を持たない。

 

警戒心の解けないトレーナー達は彼を気にし続けるが、彼は構わずタブレットを眺めながら振り分けられた仕事を続ける。 仕事自体はなんら問題ない。 今はまだウマ娘が忙しい時期であり、午前中までに事務作業も終わる閑散期だ。

 

トレーナーとしての活動はスカウティングがあり大変忙しい時期だろうが、事務作業はそう多くない。 マフTはテキパキと進めながらウマ娘の選抜レースを眺める。

 

 

あのカボチャからは何が見えているのか?

 

 

目の部分は三角に掘り当てられ、口元は英語の『W』のように横長く掘られただけ。

 

呼吸は困らないように大きめの穴あきボタンで空気器官は確保されている。 夏は困りそうだがあのカボチャを被るくらいだ、何か対策を遂げているだろう。 ただ顔全体を隠せる大きさであり完全に表情は見えないため、ハイジャックに使えそうなほど不気味を兼ね備えている。

 

いや、彼が被ることでそう思わせるのだろう。

 

 

だが思う。

 

何かが起きそうな予感。

 

強張る顔を誤魔化すようにわたしは眼鏡を動かしてウマ娘の資料を眺める。

 

そろそろベテランと言われる頃の私であるが、あまりウカウカしていると有力なウマ娘が取られてしまうだろう。

 

まだこの手で育てれるだけウマ娘を集めて強いチームを作りトレセン学園の貢献に繋げる。

 

そうしてトゥインクルシリーズの鮮度を上げていこう。 あのカボチャに怯んでいる場合じゃないのだから。 わたしも先陣を行く者として何事も冷静沈着に物事を進める。 そうして自身も環境も立ち上げてきたのだ。

 

マフティーと言われる彼に気を取られてる場合では無いのだから…

 

 

 

…と、そう思っていた。

 

期待は裏切る。

 

 

マフTがあのミスターシービーと契約した。

 

それを聞いてモーニングコーヒーで口を火傷しそうになり、資料を少しだけコーヒーの液体で染めてしまった。 あとでコピーで新たに出す必要があるか。

 

 

「何かが始まるわね、これは…」

 

 

私だけでは無い。

 

他のトレーナー達に衝撃が走る。

 

実際のところ前日からその噂は聞いていた。

 

選抜レースが終わった瞬間、沢山のトレーナー達にスカウティングを受けたミスターシービーだ。 中には腕に自信のあるベテラントレーナーも混じり、成績優秀で中央にやってきた新人トレーナー、安定感のある中堅トレーナーと選りすぐりの状況。 不満はないはず。

 

またウマ娘側も有名なトレーナーならそれなりに顔や名前を知っている筈だ。

 

ミスターシービーは現在2年目の中等部であり、確実に1年以上をトレセン学園で過ごしているためトレーナーや有名チームは知っている筈だ。

 

故に選べる筈なのだが、有力候補を断るとミスターシービーはそのままマフTの元に向かったらしい。

 

借り物である折り畳み傘を返した程度かと思ったが、個人での会話は長く弾まされ、トレーナー達の中で「もしかしたら…」の不安でたくさんだった。

 

しかしながらマフTにはあの不気味さが原因で基本的に誰も近づかないため、2人の会話を聞いていた者はいない。

 

だが機嫌良い足取りで選抜レースを後にするミスターシービーの姿は印象的だったと言う。 残念ながら私用があった私は選抜レースに赴かなかったが同僚からはそう話を伺った。

 

やはり何か起こると予感する。

 

そしてミスターシービーが選抜レースを走った次の日だ。

 

モーニングコーヒーで火傷する思いをするほどにそれは衝撃を受けた。

 

 

 

「おはようございます」

 

 

 

一気にざわつくトレーナー用の職員室。

 

しかしマフTは気にせず今日の事務作業を受け取りながら自分の机に移動して、いつも通りに始めようとすると、ひとりの訪問。

 

秘書のたづなさんだ。

 

 

「あ、マフTさん、コレを受けとってください」

 

 

渡されたのはトレーナールームの鍵だ。

 

 

そうだ、その通りだ。

 

彼はウマ娘をスカウトしたのだ。

 

なら、活動拠点を頂くことになる。

 

そこでウマ娘の育成プログラムを立てたり、情報収集を行ったり、与えられた事務作業を持ち込んで熟したりと自由である。 自分の環境を整えることができる一時的な勝ち組の状態。 そこから結果を出せるかはさて置きだが、それでもトレーナールームを貰うと言うことはスタートラインに立つ事ができた瞬間だ。

 

故に、そのラインにすら未だ立てていないトレーナーにとって衝撃を受けるには充分である。

 

悔しがり、歯軋りを行い、恨めかしく視線を投げるトレーナーの姿を見かける。 その上スカウトしたのはミスターシービーと言われる有力なウマ娘だ。 差をつけられたと思うのにそれは充分な材料だ。

 

 

「たづなさん、明日から事務作業はPC入力で大丈夫ですか? PCに落とし込めるならそうしたいのですが」

 

「え、ええ、可能です。 トレセン学園のファイルから読み込んで、マフTさんのIDを入力して頂きましたら、割り振られた仕事のファイルはPCにダウンロードできます。 ただし終えた分は送信ファイルに入れ忘れることはなく」

 

「わかりました。 では今日からこの机は使わないので別の方にお譲りください。 自分はこれから先はトレーナールームで活動しますので」

 

「わかりました。 では今一度マフTさんのトレーナールームまで案内します」

 

 

そう言うと、マフTはアナログな仕事は今日で終わりにすると言って机からあまり無い小道具を回収してバックに詰め込み、受け取った鍵をポケットに仕舞いながらたづなの後を追って職員室を出…ようとして、一度職員室に振り返る。

 

 

 

「「「「ッッッッ!?」」」」

 

 

 

静かだったマフTから溢れ出す威圧感。

 

この部屋にいるトレーナー全員が無意識に身構える。 まるで死神にでも見られたように背筋が冷たくなぞる。 カボチャの中の彼はどんな表情を浮かべているのかわからない。 カボチャの中からどのような視線がトレーナーを突いてるのかわからない。

 

だがマフTは何も告げずにこの場を去る。 だがトレーナー達は硬直が治るまで時間が掛かった。 ただ牽制したように見渡しただけなのに嫌なプレッシャーが蝕んだ、そんな感じだった。

 

恐らく、最後に試されたのだろう。

 

正直、私も未知なる雰囲気にややたじろいでしまう。

 

 

ふっ、バカにされたものだ。

 

 

しかし、それ相応に見せてもらった。

 

彼は危険人物である上に、このURAを揺れ動かしてしまう存在だということを。 もしかしたら秩序すら乱し、マフティーと言う名がこの業界に広まることで新たな時代が来るのかもしれない。

 

罪の中で救いを求める哀れな存在が、この先どうなるのか。

 

 

「マフT、見せてもらうぞ。 貴様のもがきとやらを…」

 

 

 

 

その果ては彼にとっても希望だろうか?

 

 

 

 

それは…

 

カボチャの中の彼にしかわからない事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイクデビューなんて前哨戦。

 

ミスターシービーの走りはそう思わせる。

 

8バ身の差をつけての勝利。

 

しかも…

 

 

「先行策か、思い切ったな」

 

「たまにはね。 楽しかったよ」

 

「だが走り方が大きく変わる。 シービーはトモが強いから良いが、少しでも疲れに違和感があるならやめておけ。 睡眠不足のまま高速道路で運転するのと変わらん」

 

「自己管理は出来てるつもりだよ。 さっ、ウイニングライブで次は皆を楽しませないとね。 行ってくる」

 

 

 

ミスターシービーをスカウトして既に6月が終わりそうになる。

 

つまりもうトレーナーになって1ヶ月が終了した。

 

時の流れは早いものだ。 彼女の要望でメイクデビューも早めに受けて走り切って、それで圧勝した。 学園に入学してすぐデビューしなかったのは不思議なくらいだ。 そんなに不安な走りでもなかった筈だが。

 

 

「ふー、カボチャが熱いな…」

 

 

一旦マフティーモード解除。

 

カボチャ頭をパカっと外す。

 

口元は結構大きいから呼吸に困らないし、一応暑さ対策として封系のチャックをつけるなり、穴あきボタンで通気性を良くしたりと方法がある。 もう既にいくつか穴あきボタンは着けているが。 冬は布で隠す感じだ。

 

でも直射日光はしんどい。

 

今日がまさにそうだった。

 

夏用に薄めのカボチャ頭が必要だろうな。

 

うん。

 

 

 

 

 

いや、違うだろ!?

普通に外させてくれよ!?

てかなんだよ、夏用のカボチャ頭って!!

 

呪いは100歩譲っても、夏もこれを被らなければならないのは死ねってことだろう三女神??

それとも別のを被れと言うのか??

 

やれやれ、ひどい呪いだ。

熱中症で直接殺す気か?

夏場にこれは普通に自殺行為だぞ。

 

 

そうなるとお面にするかなぁ…?

 

視線さえ遮れたら良いわけだし、そもそも何故か家にあったコレを被っている訳だからな。

 

ちなみに何故コレがあるのかは全くの不明。

 

この体の持ち主の趣味か何かだろう。

 

流石に黒いタイツは無かったけど。

 

ちなみにネット販売で黒タイツは使命感で購入した。

うん、圧倒的に……いらないな!

 

 

「しかしミスターシービー、あんなに強いのか。 …自由奔放だけど」

 

それでもある程度は提案したトレーニングに付き合ってくれる。 走るレース場やその距離に合わせたトレーニングに関しては彼女も前向きである。

 

坂路やプール、有力ウマ娘の対策、レース観賞、基本的なことは彼女もしっかりと付き合う。

 

しかし、あまりガッチリとしたトレーニングは無い。

 

だがその代わりだが、特別な事をしている。

 

言葉にすれば"イメージトレーニング"だが…

 

これがある意味ゲーム的なものだ。

例えば…俺が条件を出した上で、彼女にそう描かせて走らせる。

 

言葉にしてなんのことやら?

そう思うのは間違いじゃない。

俺ならそう思う。

 

 

そう、例えばだ…

 

 

 

_逃げが1人で先行が4人と差しが2人。

_距離は2000で芝は荒れている。

_観客は……今日は中山で3分の2くらい。

_だが差しの2人は末脚がシービーの6割ある。

_逃げのウマ娘は非常に弱い。 設定は以上だ。

 

 

_ふーん、今日は難易度4くらいかな?

_でも差しがある程度やるんだね? 6割か…

_ま、とりあえずやってみるね。

_あー、でも…観客はそこそこなんだ?

_じゃあ、ある程度のパフォーマンスかな。

 

 

 

そう言ってシービーは走る。

 

ご覧の通り。

馬鹿げたような妄想ゲームだろう。

 

 

だが、シービーは違う。

 

まさに俺が出したような条件からレースをイメージして、シービーは走ることが出来てしまう。

 

本当に追い込みをかけるように走り、本当に差しと牽制する様に走り、本当にウマ娘を躱すよう左右に動き、本当に公式のレースを走ってるような臨場感の中で、シービーは走る。

 

 

_まず、おつかれ。

_ほれ、ぬるめの水だ。

_それで、個人的に何着だ?

 

_うん、ありがと。 ぷはー! ぬるい〜。

_で、ええと、2着と2バ身差かな?

_うーん、ちょっとだけ手強かった感じかな。

 

_手強かった…か。

_2バ身でも充分な気がするがな。

_ちなみに今日はどうして2バ身差だ?

 

_んー、前の録画見て思った。

_ホープフルステークスだったら少し手強い。

_でも逃げが甘いなら差しとタメ張れるね。

 

_なるほど逃げが弱かったか。

_じゃあ趣旨を変えて次は先行7で行く。

_ただ1人は1800でG3のウマ娘が内枠出走だ。

 

_距離はさっきと同じかな?

_オッケー、じゃあ気分で大外枠にするね。

_あ、ゴールの瞬間写真は頂戴。

_あとで【描く】から。

 

 

こんな感じのイメージトレーニング(物理)

 

周りからしたら馬鹿げたような練習に見えてしまう。

理解し難い筈だ。

 

だがミスターシービーは恰もそのレースがその場に存在してるように描き、視界にそう染めて、そしてそれらと勝負することができるウマ娘。

 

俺も疑いそうになったし、そもそもミスターシービー自身も信じられなかった特技だとか。 けれど親睦を深めつつ、彼女の性質を理解すると一つ面白いことに気づいた。 彼女は理想の描き方が非常に現実的である事。 その描いた理想に自身を落とし込んで、どのようなビジョンで楽しみを膨らませ、どう描くのか? 聞けば聞くほど具体的だったし、むしろ情報量の多さに思考を投げ出しそうになるが、俺は彼女と共にそれを浮かべることができた。

 

 

_あー、つまりだな…

_シービーはこのように走っているのか?

 

 

チェスの駒を持ってくる。

紙に線を描き、それで駒を動かしてみる。

 

 

_ああ、そうそう! その内枠3番の先行。

_坂路で右を取るんだよ!それで差し切る!

 

 

猫目でキラキラしたような目で興奮しながら尻尾をブンブン振るう彼女は大変可愛らしかったが、彼女の浮かべたビジョンは聞いていた俺の脳内とマッチしていた。

 

それで試しに適当なレースを見せてからコースに向かい、ミスターシービーには内枠か外枠、さらに細かく観客の数や風向き、重賞経験のあるウマ娘の人数など、まるでシミュレーションゲームのように設定を立て、それで本格的に走ってもらう。

 

 

_うおおお!? これ案外手強いよマフT!

_うわ! 追い込みが遅れそう!ええ!?

_ちょちょちょ!? て、展開早い!!

_あっははははは!いやいや!!

_流石にこれは難易度高すぎてワロタ!

_ちょ、ちょ、これ、むーりー! あははは!

 

 

 

これがもう、めちゃくちゃの、くちゃくちゃの、どちゃくその、くっちゃくちゃを込めて楽しそうに走りやがるんだよ、ミスターシービーってウマ娘は。

 

条件とレース状況を出して見ている俺自身も本当にそのレースで走ってるように見えて仕方ない。

 

だが身も蓋もないことを言ってしまえば俺たちがやってるのは妄想ごっこの延長戦。 見えてるそれは幻覚なんだろうけど、だが俺もミスターシービーもそう言ったイメージやビジョンを浮かべやすく、実際にそこにあるように思い描き、更に臨場感をも味わっている。

 

 

余計な雑念すらむしろリアリティにしてくれる。

 

俺はこれを究極のイメージトレーニングだと思っている。

 

そして気づいた。

 

ミスターシービーは楽しむ才能が高い。

それをリアリティに『(えが)く』力が備わっている。

 

 

 

 

究極 の 妄想ごっこ

 

 

 

 

それがレースになった話。

 

イメージ力の高さがミスターシービーの強みであり、そこに自己投影できる豊かな想像力は誰よりも優っている訳だ。

 

更に言ってしまえば俺とミスターシービーは波長がとことん合う。

 

もしくはミスターシービーのイメージ力が高いため、俺の要望に応えれる力があるのかもしれない。 だが俺もミスターシービーの考えを頭に想像しやすく、彼女を理解してあげれる。

 

 

いやぁ…

これ、結構すごい事なんだと思う。

 

彼女はある意味、常識破りなウマ娘だ。

 

日々のトレーニングで思う。

そう思って仕方ない。

 

彼女は、とんでもなくすごいウマ娘だ。

 

 

 

「さて、そろそろライブ始まるか」

 

 

 

冷却スプレーをカボチャの中に注いでマフティー性をチャージした後、荷物にしまって控室を出る。

 

扉から出てくるカボチャにギョッとするスタッフとすれ違いながら奥へ歩き、始まっていたウイニングライブを遠目から眺める。

 

 

 

「今日も楽しかった! 皆ありがとね!」

 

 

 

メイクデビューとは言え、それでもジュニア級をスタートするウマ娘のデビューはまた重賞レースとは違って見ていた観客も湧き上がる。

 

それを発火剤にライブは盛り上がる。

 

 

 

夕日の中、センターを踊るミスターシービー。

 

彼女は今日も楽しそうだ。

 

 

 

 

つづく




なんかニュータイプしてないかコイツ…??(オーラ)

あと思ったよりわんぱくなミスターシービーかわいい。
まだ中等部なので落ち着き無いんだと思うと萌える。

ちなみにアニメ版もアプリ版も関係なくオリジナル。
ウマ娘の学年別はアプリ版を参考にやってます。
作者的にマルゼンスキーとメジロアルダンが最年長。
ちなみに史実は大体無視する。 これ、ウマ娘だし。

そんでもって感想にも多かったがCBでソレスタルビーイングはやはり芝2400でした。 これは確かに武力加入が捗りますね。
つまりマフティーだな!(ガバガバ理論)


あと作者は高卒故に国語力適正がFの弱々なので文章や単語に違和感あっても色々許して。 国語力を置いていつも一人歩きしてる。

ではまた


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7話

それっぽく書いてりゃマフティーだろ精神。
だってマフティーだし。

《追記》
ランキング上位かよ!?
ウッソだろお前!!(Vガン)

《追記》
なんか文章バグってる??
文章が連続してるのおかしい…



「あ、暑すぎる…」

 

「それ外したら?」

 

「無理。 外すと大変なことになる。 いや、外してぇ…」

 

「と、取り繕う余裕も無いんだね…」

 

「違う、マフティー性が熱で失われているんだ。 後で冷却スプレーでチャージする」

 

「凍傷に気をつけてね?」

 

 

 

あ、先に言っておく。

 

ミスターシービーにはマフティーって象徴は全くの演技であり、そう言うもんだってのはもう既にバレている。 口調も性格も本物じゃない事は折り畳み傘の時には既に悟られていたようだ。

 

まあ俺自身がそれをやり通せる精神力が有るかというとそうでもないし、まずミスターシービー自体が察し良く、あと普通に賢いためマフTがカボチャで無理してるのは把握済みらしい。 なんか恥ずかしいなそう思われると。 でも仕事モード的な感じだと思ってくれてるのでそう悩ますほどの問題でもないらしい。

 

まあ俺自身もスイッチのオンオフでマフティーするかしないかだし、そもそも致し方なくそうしてる訳だから俺の本心がマフティーな訳では無い。 何というか憑依が始まってから混乱しそうになる俺を鎮めるのに都合良かったし、マフティームーブしていれば凡そ舐められないと思ってるし、何よりこのカボチャとマフティー性の相性が合い過ぎて、俺自身が何故だか止まらないだけだ。

 

むしろこうしてマフティーしていれば口も中々巧みに進むし、頭も穴あきカボチャのようにスッキリしていてビジョンも描きやすい。

 

あと狭い視界だからこそ、それ以外が研ぎ澄まされているこの感覚は心に余裕が持ちやすく、程よい緊張感でトレーナー業に挑める。 ミスターシービーとの波長も合わせ、トレーニングに勤しみやすいこの感じはマフティーならではだ。

 

コンビニみたいに便利なマフティーだがそれを演じるためのマフティー性はチャージ式なので定期的にカボチャの中を冷却しないとオーバーヒートを起こして性格がハイジャックしてしまう。_神経が苛立つ!

 

 

プシュュュー

 

 

「……冷たっ!」

 

「あははは、シュールすぎでイメージトレーニングにおターフが生えてしまいそう」

 

「やかましいぞ、ミスター茂ビー」

 

「ダートから採れるカボチャに言われたく無いよ」

 

 

ミスターシービーとの関係は非常に良好であり、張り詰めすぎない感じにゆるりとしている。

 

トレーニングも至って真面目で、既に力の抜きどころを心得てるミスターシービーだからこそ張り詰め過ぎずに自身を鍛える。

 

あと究極のごっこ遊び(イメージトレーニング)が彼女の得意技なので比較的公式戦に近い雰囲気の中を走る事で、その経験を体に落とし込む。 そして更にそこから別のイメージを重ねることでこれまでのイメトレと照らし合わせ、そうしてレースの試行回数を増やし、それをまた究極のごっこ遊びに加える事で必要性の有無を暴き出し、走りの中で排除するべきか取り込むべきかを考えて、難易度を上げつつ理想に近づける。 そう描く。

 

しかも実際に本気で走ってるため鍛えられてるし、追い込みとしてのスタイルを持つ故が状況判断能力はジュニア級で収まらず既にクラシックレベルはある。 気が早いだろうが日本ダービーのイメージトレーニングもしたことがある。

 

過去の映像を見て、出走したウマ娘達の大まかな情報を整理して、ホワイトボードにそれらをまとめれば、あとはお菓子や飲み物を構えつつ1時間か2時間いっぱいを使って論争と提案、試走時の設定と攻略法、内枠か外枠の対策、王道か邪道で行くかなど、ミスターシービーとの時間を濃厚に設けて、この時にやっと彼女は走り出す。

 

ちなみにイメージトレーニングの中で日本ダービーを設定して試走したけど結果は大敗だった上に怪我する可能性が高いのでやめさせた。 まだG1レベルのフルゲートは慣れてないことが原因だ。 そこはミスターシービー本人も納得したし、想像として強く描けるからこそ危険だと言った。

 

もしそれでもやるなら俺が必ず付いていることが条件だと言って、ミスターシービーも頷いてくれた。 自由奔放な雰囲気漂わせといてけっこう素直なんだよね彼女。

 

あと話聞くかぎりイメージトレーニングばかりしてるように聞こえるが、これでも坂路でスタミナつけたり、プールで泳ぎまくって肺活量を増やしたり、バーベルで足腰に負担をかけたりと、鍛えるところはしっかり鍛えてる…てか、普通に優秀。

 

天才ってこの子の事を言うんだなとしみじみ思う。 しかしそれらを軽く凌駕するマルゼンスキーってウマ娘はよくわからん。 メジロアルダンも相当。 まあこの2人はクラシック級なのでジュニア級と比較するのはおかしいか。 強いやつはマジで強いんだなと。 なるほど中央を無礼るなよ…と。

 

ちなみにトレーニングの時間は普通に長いぞ? トレーニングのために外へ出ている時間は確かに周りのウマ娘と違って短く、むしろトレーナールームで活動してる方が長い。 もちろんレースのために鍛えているのだが、他トレーナーからは勘違いされてあまり良い顔をされていない。 こう言う時はマフティーして牽制すればある程度は無力化できる。

 

あとレースの出走数は指で数える程度だが全部1着でほとんど3馬身以上なのがミスターシービーだ。 これまで得てきた実績や結果は口だけのトレーナーを黙らせれるのに充分だった。

 

 

「夏はあまり頑張りたく無いな…明日は互いに休みにするか?」

 

「トレーナーのくせに不真面目だね」

 

「必要最低ラインやってる。 それに夏は凌ぐ時期だ。 体調管理に気を遣って程よく練習していれば秋に入っても持続する。 暑さの中で根性を鍛えるのも一興だがジュニア級でやる必要は無い。 必要なのは"慣れ"だ」

 

「そう。 じゃあ明日は休もうかな。 あ、一緒に出かけたりは?」

 

「勘弁してくれ。 カボチャが溶ける」

 

 

やはり呪いの関係でカボチャは外せず、家の中でしかキャストオフできない。 そのためオフ中はあまりシービーと一緒にならないし、そもそもカボチャ頭と出かけるなんて彼女にとってあまりよろしく無い。 あまり変な噂立てたくないし、トラブルも避けたい。 カボチャ被ってトレセン学園に赴くときはレースの時だけでそれ以外は無い。

 

なので俺の休日は基本的に家で過ごす。 元アウトドア系の俺としては辛いところだった…が、案外家にこもってのオンラインゲームは結構楽しい。 ウマ娘の世界だけど道楽は前世と同じくらい充実。 2リットルの麦茶を用意してクーラーをガンガン効かせた空間は快適と言えるだろう。

 

明日はフレンドの『Taishin』と『Festa』ってプレイヤー2人と交えてオンラインゲームだな。

前は『564』ってヤベーヤツも交えてオンラインしたけどめちゃくちゃ笑えて『Taishin』のチャットが芝でいっぱいだったな。 どんだけ笑ったんだよ。

代わりに『Festa』が半ギレだったのは本当に面白かった。 いや、ごめんて。

 

 

 

「ねぇ、マフTはいつになったら救われるの?」

 

「マフティーがそう思った時だ」

 

「具体的には? どうしたらそのカボチャはマフTをマフティーたらしめる事をやめるの?」

 

「……さぁな。 ただ、これは脱ぐのは先の話だ」

 

「それはアタシが関わってるのかな?」

 

「……」

 

 

 

関わっている。

 

彼女の活躍次第で俺はカボチャを脱げるのだ。

 

俺のコレは、シービーによって…決まる。

 

 

 

「どうかな?」

 

「……ああ、そうだ。 君も関わるさ」

 

「そう。 じゃあ今を続けていればいずれあなたはそのカボチャを外せるのかな?」

 

「悪いがその保証は出来ない。 だが、外せる時が来ると信じている…って、マフTそう思うよ。 だがその時が来てしまったとしてもマフティーである事をやめないだろう。 このカボチャは哀れな存在を便利に仮初めてくれるが、自他含めマフティーを求められた時に示さなければならない。 マフティーとはそうでもあるから」

 

「そっか。 そうなんだね」

 

「…」

 

「でも良いよ。 それでもアタシは変わらずだよ。 マフTがマフティーを続けるなら、アタシはアタシでマフTのミスターシービーを描き続けるよ。 鳴らない言葉があるなら一度だけじゃなくなんでも描く。 マフTがアタシに描かせてくれるなら、いつまでもね」

 

「そうか」

 

「うん」

 

「……そう…か」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

__ありがとう。

 

 

 

 

 

そう言えたらどれだけ良いだろうか?

 

 

 

だがそう言うのは間違いだ。

 

俺はこの呪いを解くためには大いなる栄光を必要とする。 日記帳にはそう書かれていた。 だから俺はミスターシービーを使って呪いを解こうとしなければならない。 控えめに言って利用している立場だ。 トレーナーと言い難き存在なんだろう。 だから俺はマフティーで誤魔化してこの場所に立っている。

 

そしてミスターシービーが惹かれたのはマフティーと言う象徴があるからだ。 マフTを器として、中身にマフティーが備わることでミスターシービーは理想を描ける。 マフティーならミスターシービーを走らせられるからだ。 だからマフTとしてのお礼は出来ない。 俺は彼女に告げることは叶わないのだ。

 

そしてマフティーは見返りを求めない。 マフティーである事で己を救いを見出し、また他者の救いにもなり、求めたモノにもなる。 恩を作らずただそこに、そう在るだけ。 だからマフティーはミスターシービーに『ありがとう』を言わない。

 

そしてマフTはそれを言う資格がない。

 

間違いだから。

 

 

 

「こっからが地獄だぞ」

 

 

メイクデビューを終え、夏を超えて秋がくればこれまで以上にマフTは動き、マフティーとして働く。

 

脆い器(マフT)神酒(マフティー) を溢さぬように、俺はこれからも呪いを飲み込んで虚栄を築き上げる。

 

 

だから、狂う準備は終えてるぞ…

 

 

 

 

 

マフティー…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて事ない日常。

 

そんな時こそターフに足をつける。

 

ウマ娘の本能そのままに身を任せる。

 

ただただ走るだけ。

 

アタシはウマ娘だから走って満足する。

 

それが好きなんだ。

 

だって楽しいから。

 

しかし皆はアタシの走りを凄いと言う。

 

アタシはそんな言葉が欲しい訳じゃない。

 

ただ走って満足を得たいだけなんだ。

 

でも中央ではそれは許されない。

 

結果を出すための走りだと思われているから。

 

アタシはこの満足感を高めたくて中央に来た。

 

走るだけの行為にもっと意味を見出したいから。

 

でもそれは叶わないみたいだから一年を越した。

 

スカウトも断って学園生活を送るだけの生徒。

 

走ると目立つから散歩もする様になった。

 

足を動かすのは楽しい。

 

でもアタシが何かすると皆は期待する。

 

だから注目を浴びない様に雨の中で描く。

 

あまり履かないトレーニングシューズ。

 

既に一年を越したんだと感じながら走る。

 

雲行きの怪しい空の下でアタシは自由を探る。

 

やはり楽しい、走るのは楽しい。

 

けれどもっとこの感情を突き詰めたい。

 

でもアタシだけでは限界なんだこの場所は。

 

中央と言う存在が楽しさよりも誉を押し付ける。

 

知ってるよ、そのためのトレセン学園なんだ。

 

自己満足だけで走ることは許されないんだ。

 

それが許されるのは最初のうちだけ。

 

だから気づいてしまう、この学園じゃない。

 

アタシはこの学園でそれ以上は求められない。

 

ああ、わかってる。

 

求められるそれは悪い事じゃない。

 

間違いでは無い、ここはそう言う場所だ。

 

憧れと栄光を求めて数多のウマ娘がやって来る。

 

けどアタシはただのわがままから始まっている。

 

自己満足を建前に好き勝手やってるウマ娘。

 

 

まぁ…でも、アタシにも目的や憧れはあるよ。

 

 

あのレースは走ってみたいと思ってる。

 

アタシの母が走った全力のG1レース。

 

もっとも速いウマ娘が勝つと言われるレース。

 

昔の映像を見てこれだけは憧れだった。

 

あんなに歪み切った様な笑みで走った昔の母。

 

ウマ娘としての喜びも。

 

己が描く理想が走りになった喜びを。

 

全部が敷き詰まったようなレース。

 

先頭に躍り出た母の眼は濃ゆかった。

 

そこは間違いなく楽しくて仕方なかった筈だ。

 

母からも直接聞いた。

 

あのレースは張り裂けそうな程楽しかったと。

 

あんなにも震えて奮えて慄えた事はないと。

 

鳴りを潜めていた母の眼だが一瞬だけ染まる。

 

描き切ったような景色で染まっていたから。

 

穏やかな母があんな笑みと眼を浮かべたんだ。

 

アタシは描きたくなる。

 

その舞台にはどれほどの楽しいを詰めたのか?

 

母と同じその場所を駆けたいと密かに思う。

 

 

でも…

 

そこはトレーナーと目指すべき舞台だ。

 

1人だけで歩むには重たすぎる。

 

トレーナー名簿だけ借りて出走はできるよ。

 

そうして走るウマ娘は少なからずいる。

 

だがそんな風に出来るビジョンは浮かばない。

 

G1の世界はそれほど甘く無い場所だ。

 

理想で描くだけじゃ走れない。

 

1人では限界もあるんだ。

 

でもここには自由奔放で困ったアタシがいる。

 

そして困ったくらいに高望みする問題児。

 

燻る様を誤魔化す様に楽しみを探るアタシ。

 

こんなウマ娘に合うトレーナーはいるのかな?

 

アタシが足並みを合わせればなんとでもなる。

 

アタシが妥協すれば良いだけの話なんだ。

 

でも…それでこれまでの築きが壊れないかな…?

 

走るこの理由を勝つためだけに収めたく無い。

 

栄光を勝ち取る中でも楽しさで心を奮わせたい。

 

アスリートとしての闘争心は忘れない。

 

でもアタシはミスターシービーなんだ。

 

一度しか訪れない機会だって己を忘れずに走る。

 

だから…

 

 

身勝手に走らせるこの筆に、これまでに無いほど濃ゆくて、眼奪う程に狂ったような色をしている、そんな色で染めさせてくれるトレーナーは現れないかな? こんなアタシを狂うように楽しませてくれる普通じゃないトレーナーはいるかな。

 

 

 

 

 

「楽しそうだ…」

 

 

 

 

 

あ、ああ……!

 

いた!

 

いるんだ!!

 

いるんだね!!?

 

いたよ! あそこにいる!

 

いた! いた! いたいたいたいた!

 

いたよ! いるんだ!! いたんだ!!

 

アタシのトレーナーがそこにいた!!

 

 

 

「マフティーと呼べば良い」

 

 

 

ああ、彼だ、彼しかいない!!

 

だから聞いてみた。

 

期待を持って尋ねた。

 

アタシの走りを…

 

アタシのターフを…

 

そしてこれまでにない答えが返ってきた。

 

 

 

「凄いのか?」

 

 

!!

 

 

ううん、すごくなんかないよ。

 

アタシはすごくなんかない。

 

すごく楽しみたいだけのじゃじゃウマだよ。

 

アタシの走りじゃない、アタシを見てほしい。

 

そんな我が儘を待ち望むウマ娘だよ。

 

カボチャから見えるその眼はどう写る?

 

アタシの描くソレをあなたは見える?

 

 

 

「わかった、明日見に行く」

 

 

 

渡してもらった折り畳み傘。

 

それが指先に触れる。

 

 

ッ!!!?

 

 

 

なにこれ?

 

なにが起きたんだ?

 

まるで拒絶するかのような感覚。

 

ウマ娘を遠ざけてしまいそうな憎悪。

 

いや、でも、なんだろう…

なにか少しだけ違う。

 

 

まるで…見抜かれたような悍ましさだ。

 

正面だけじゃない。

 

全てが丸裸にされたような感覚と、実際に丸裸にされてしまったアタシを見られたような背筋を冷たくなぞる感覚。 真上から見下ろされてしまい、細いこの腕と尻尾で得体を抱きしめて、その場に縮こまりそうだ。 恥ずかしさよりも恐怖心が駆け巡る。

 

震えが止まらない。

 

 

でも、何故かな…

 

アタシだけじゃない。

 

アタシの描くソレも、見ている気がした。

 

独りよがりも。 自己満足も。

この身勝手も。 望み高き理想も。

 

ああ、何もかも、そうだよ…

 

マフTと名乗る彼はアタシを見てくれている。

 

いや、違う、正しくは『マフティー』がアタシを見てくれたんだ。__楽しそうだ。 この言葉の中には色んなものを暴いた上でアタシを見てくれた。 だって皆はいつも「すごい」と言って走りの方を称賛して、誰もマフTのような言葉は言わない。 友人のシンボリルドルフもそう言わなかった。 でもカボチャを被り、それをマフティーだと描くマフTは違った。

 

アタシを見たんだよ。

 

全部を掌握したかのようにマフTはミスターシービーってウマ娘を暴いた。

 

 

ああ…

 

すごいなぁ…

 

すごいよ…

 

すごすぎる…

 

 

 

 

 

 

 

まるでウマ娘を支配したかのようだ。

 

 

 

 

久しぶりに傘をさしてアタシは寮に戻り、シンボリルドルフが迎えてくれる。 タオルを用意してくれた彼女に向けてついはしゃぎそうになってしまう。 けれどこの楽しみは明日に取っておきたい。 ポーカーフェイスが得意でよかったと思いながらも部屋着に着替えてからうずくまる布団の中で尻尾だけは興奮が収まらない。 ほんの少しだけお腹の底が熱い。 そんな興奮を抱えながら次の日の選抜レースで見てもらった。

 

 

マフTはいた。

 

約束通り見てくれた。

 

試しに楽しみよりも優先したすごい走りをしてみたけど、マフTは「すごかったのかわからない」と言って、むしろ危険だと最初に心配した。

 

ああ彼の視点は周りとちがうんだ。 アタシと同じようにズレているんだ。 でもそのズレはアタシと同じ方向だった。

 

それからマフTを逆スカウトをしてアタシは好きに走る。 自分の事を身勝手なウマ娘だと自負しても尚彼はアタシを変えることもなく好きに走らせて、見守ってくれている視線の中でアタシは描く。 少しだけど満ち足りてきた。 ここで満足しそうになった。

 

でも、そこから先は違った。

 

裏切られた。

 

でもすごく良い意味で裏切られてしまった。

 

マフTはアタシと同じように描く。

 

レースの背景も、理想も、想像も、紙にペンを走らせて、ホワイトボードに刻んで、マグネットでなぞり、アタシの描くソレを再現して、実際に外で走ってみればその通りになり、アタシが描いた中で走ることができる!

 

ウマ娘としての幸福感がこれまでにない程満たされた!

 

しかもマフTは次々とアタシの要求を暴き、ウマ娘と走らせて、ミスターシービーを走らせてくれる。 アタシはこれが運命の出会いなんだと理解した。 ロマンチストなのは嫌いじゃない。 むしろ理想主義に等しいアタシにとって運命と言う材料は必要なんだ。

 

そしてそれを満たすのはマフTであり、彼自身も理想のように描くマフティーと言う存在だ。 それを演じることができるマフT自身もアタシはすごいと感じている。 ただカボチャ頭を被っているだけじゃない、ソレを形にした結果がそうなんだ。

 

 

 

「マフT、次は何をすれば良い? 何をすればソレに行き着く? マフTが言うならなんだって描けるよアタシは」

 

 

「そうだな。 じゃあ次は__」

 

 

 

マフTから出される課題を力に変える。

 

マフティーが示すソレをアタシは描く。

 

 

アタシを走らせるマフティーはすごいけど、夏の暑さに萎びてしまいそうなマフTの姿もまた人間らしく可愛らしい。 そう思うとマフTもそこらと変わらない人間だと思い、ホッとしてしまう。 でも彼がマフティーとして全てを揺れ動かす時にまた期待してしまう。

 

鳴らない言葉をもう一度だけじゃない。

何度も描いてくれる彼は…マフティー。

 

 

 

後にURAの危険人物だと恐れられるが、それでもアタシにとって、マフティーと言うのは救いだ。

 

 

 

 

 

「ミスター・パンプキントレーナー、アタシを楽しませてね。 あなたのマフティーで描かせるんだから」

 

 

 

 

汚れを知らない真っ白なシルクハット。

 

しかし目の前のターフを色とりどりに染まる。

 

アタシの眼は楽しさで濁っているから。

 

 

 

 

 

つづく






《ミスターシービー》
控えめに言って天才。 彼女の中では走る楽しさが第一であり、過程は案外どうでも良い放任的な性格。 想像力が豊かであり、走る時に見える景色は空想や妄想で多く、そこに楽しさを第一に追求する。 マフティー性を兼ね備えたマフTと関わった結果、ある意味固有結界的な世界を視覚的に生み出して、そこに自己投影して走ることができる様になった。 故に究極のイメージトレーニングを編み出してしまう。
そのため練習毎の経験量(SP)が半端ない。



ではまた


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8話

そして伝説へ…




マフT… 

 

または、マフティー。

 

トレセン学園では既に有名人と言っても過言では無い異端児。

 

元々は問題児であり、私も都度都度彼の対応を取っていたため、彼が謹慎する前の姿は詳しい。

 

若きトレーナーとして中央の狭き門を潜ってきたが、成績は中央の中で最下位でありトレーナーとして期待するには厳しい人物。

 

いずれこの場所で一皮剥けて、周りのトレーナー達と肩を並べてくれるだろうと願っていた。

 

しかし彼は…

何というか、情緒不安定な人だった。

 

自信過剰な人であり、自分は天才なんだと言う。 それは後に虚栄心から始まるものだと理解した。 中央の入試を最下位で滑り込んだ劣等感を打ち消し奮い立たせるために。 しかし空回る。 ウマ娘との距離を測れずに右往左往している姿は新人トレーナーとしては良くある光景だった。

 

私は何度かサポートしてあげたが、彼は拘ってウマ娘を選ばないトレーナーだった。

 

そして後から気づいた。 彼は従順なウマ娘を従わせれば何ら問題ないと考えを持つ危険なタイプであること。 それにすぐ気づけた私は何度か注意して、最悪中央のライセンスは剥奪されると警告を行った。

 

その度に彼は食いしばる様に止まり、そして去り際の彼は不安な表情に染まる。

 

 

__この先やっていけるのだろうか?

 

中央の厳しさはウマ娘だけではなくトレーナーも同じであり、実力無き者はこの場を去るしかない。

 

彼もそのうちの1人になってしまう者だった。

 

だが彼は「じ、自分は天才なんだ…」と情緒不安定ながら虚栄を張ってトレセン学園で責務を果たす。 デスクワークは何ら問題無くそこだけは至って普通だが、ウマ娘が関わると彼はトレーナーとして振る舞うには未熟過ぎた。

 

選抜レースも終わり、メイクデビューが始まる頃だ。 彼は三女神の像の前で願う。 だが日が進むにつれ膨れ上がる焦燥感はいつしか睨むように三女神の像を見る。 ゆらゆらと揺れるように彼は目に隈を作りながらも惨めに願う。 そして彼はウマ娘をスカウトした。

 

だがスカウトしたその日の彼の雰囲気は恐ろしかった。 見るもの全てを歪ませる様な視線はウマ娘を怖がらせていた。 ウマ娘だけではない、トレーナーも彼を警戒した。 彼が纏うナニカは近寄り難い程に気味が悪く、私もそれが何なのかは分からなかった。 一つ分かることは今の彼は危険なんだと理解した。

 

そしてトラブルが起きた。

 

彼が担当するウマ娘に(はた)かれ殴られてしまい、トレーナーと担当の関係は失敗に終わった。

 

彼はカウンセリングを受けた後、謹慎期間を言い渡されてトレセン学園から去る。 いや、遠ざけられたと言う方が正しい。 何せ…そうしたのは私だから。

 

 

それから半年が経つ。

 

彼は謹慎期間を終えて戻ってきた。 しかしカボチャの頭を被って再びこのトレセン学園に現れた。 最初は何事かと思ったが訳ありだと言って頑なにカボチャ頭を外そうとしない。

 

けれど私は理解する。 彼はソレを被ることであの時の様な雰囲気を抑えているんだと。 理屈も原理も分からないが、謹慎期間中に探し出した答えがカボチャ頭であり、そして『マフティー』と言う象徴。 己の罰の中に救いを求めるための存在であり、そう言った名であり、仮初めなんだと言っていた。

 

意味も理由も難しく言葉を並べているだけの様に思えたが、最初の頃の彼を知る私からしたらどうにかして変わろうとして来た結果なのだろう。

 

だが同じトレーナーには強気の姿勢を持ち、先輩にも後輩にも関係なく堂々とした口調で対話を取る。 正直に言えば失礼極まりない社交であるが、私に対してはしっかりとした上下関係を持って会話を取り、最初の頃と比べて大分見違えていた。

 

しかし結果を出せなければ社交を知らぬ問題児に変わりない。

 

それでも私は見守るしかできない。

 

 

けれど、予感する。

 

マフティーを名乗る彼は何かが違う。

 

大きな影響を齎しそうな、そんな雰囲気を漂わせている。 もちろんあの時の気味悪さは変わらず、視線を向けられると何もかも暴かれそうな感覚に恐怖心すら抱く。

 

でもそこに悍ましさは無く、代わりに威圧感らしきモノが備わっていた。 それはカボチャ頭の所為だと思っていたけれど、やはり彼自身から溢れる圧だ。 悟りでも開いたのか?

 

わからない。

 

なんせ彼は何も語らない。

 

私には「ご迷惑をおかけしました」と過去を謝罪してコレから先を真っ直ぐ見据えていたその姿にヨチヨチ歩きを感じさせない。

 

彼は選抜レースでアピールするウマ娘の元に向かった。

 

 

 

そして結果が出るのは早かった。

 

 

ミスターシービーから逆スカウトを受けたことで職員の間では衝撃が走った。

 

その後のメイクデビューは余裕の1着を取ってしまう。 この時、トレーナーの中ではミスターシービーの才能でゴリ押しただけの話だと、マフTの手腕を認めない。 決してマフTの力では無いと否定していた。

 

しかしトレーナー同士で担当するウマ娘の模擬レースすらも怒涛の1着で実力差を見せつけた。

 

認めてしまうトレーナーと頑なに認めないトレーナーで別れたが、彼の過去を知らない新人トレーナーではマフTに期待を寄せている姿も見られた。

 

魔境と恐れられる中央で奮うその姿はマフTと同じ世代の希望なのか? またはマフティーとやらの象徴が新人トレーナーに希望を与えているのか? 影響を与え始めていた。

 

 

そして私も少なからず認めている。

 

スカウトを断り続ける上に、足並みを合わせ辛いと言われたミスターシービーだったが、マフTの手腕によって目覚ましく成長を遂げた。

 

先週は重賞を勝ち取り、そして次出走する予定のホープフルステークスも一番人気が揺るぎない。 着々と進む彼の歩み。

 

しかしマフTにとってはそれは通過点では無いかと思えてきた。

 

あのカボチャの中は一体どこまで先を見据えているのか?

 

 

恐ろしさと同時に…期待もしてしまう。

 

あんなにも楽しく走るミスターシービーを見て思う。 ウマ娘としての喜びが全身全霊から放たれている様に見えるから。 ウマ娘にとって自身を強くしてくれるトレーナーは喜びを与えてくれるのと同じ。 中には強い運命を感じてしまい関係が行き過ぎることも暫し、また卒業後はそのままゴールインなんて事もあるくらいにウマ娘は己を強くしてくれるトレーナーに惹かれる。

 

だがそうではなかろうともマフTには惹かれるモノがある。ウマ娘だけではなく、人にしてもそう感じさせる。だから嫌な考えも浮かぶ。彼の影響力がこのトレセン学園をどう揺れ動かしてしまうのか? 杞憂だと思いたい。けれどマフティーを演じるマフTは明らかにコレまで現れてきたトレーナーとは違う。

 

何か…

何かが始まりそうだ…

 

それはマフTが意図する進撃なのか?

または無意識から始まった出来事なのか?

 

 

それはカボチャの中のマフTにしか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園からトレーナーが在宅する寮までの距離は歩いて20分ほどであり、途中商店街の入り口の近くを通る。 実績を重ねたベテラントレーナーになると学園の真隣にある寮に移ることができて、もっと学園で活動しやすくなるだろう。

 

しかし俺はまだ新人トレーナーで実績は無しなので離れた寮で生活している。

 

ただ中央の所属だけあって結構綺麗なアパートで住みやすく、通勤距離も徒歩20分で済むなら良い方だと思う。 車やバイクを使えば5分程度で済むだろう。

 

悪くないと思う……

 

カボチャ頭で通勤する事を考えなければ。

 

 

 

「とりっく、おあ、いいとこ、ろ?」

 

「トリックオアトリートだな」

 

「それだ!! それ! せーの…鶏肉安藤伊藤ォー!! にんじんのお菓子をくれなきゃネオアームストロングサイクロンジェットアームストロングペガサスパンチでイタズラするぞ!!」

 

「なんだその、完成度高そうなウマ娘のパンチは? ……ニンジンの飴玉で良いか? しかも数字が入ってる飴玉だ」

 

「わーい! 1の数字だー! キャロットマンの敵からもらったー!」

 

「敵じゃないんだよなぁ…」

 

 

 

そう言って飴玉一つ貰ってはしゃぎながら走り去る小さなウマ娘を見送りながら帰り道に戻…れない。 今日は特に難しいらしい。

 

 

「あのぉ、トリックオアトリート……?」

 

「君もか。 はい、数字の入った飴玉」

 

「あ、ありが……ぇ、さ、さん!?」

 

「?」

 

 

尻尾をピーンとして受け取るどこか控えめそうな性格のウマ娘。

 

なんかちょっとだけ泣きそうになりながら走り去る。

 

え? なんで?? どう言う事?

 

いや、むしろ泣きそうなの俺なんだけど?

 

 

まあ、それはそれとして…

 

 

「もうハロウィンの季節だな。 そうなると俺がカボチャ被っていればそうなるか…」

 

 

 

夏は超えて秋の季節。

 

楽しい祭りでしたね……と、言えないレベルで大変だったよこのカボチャ頭で外の活動をするのは。

 

一応暑さ対策で色々調べてカボチャ頭でも過ごせるように努力したさ。

 

赤外線遮断用のシートで内側をカバーしてみたりと頑張って快適を目指した。 あと冷却スプレーもセットで安く購入した。

 

なんならカボチャの天辺をくり抜いて、空いたところに小型扇風機を取り付けてみたり試した。

 

かなりの力作だったので名前にミノフスキークラフトと付けてミスターシービーに説明したのだが…

 

 

__ダメだwww無理ww苦しいwww

__ファンの音で笑ってしまうwww

 

__この苦労を笑った過ちは…!!

__マフティーが粛清してやる!!

 

__やってみせろよwマフTwww

__ウマ娘相手にできるなら!!

 

__なんとでもなるはずだ!!

 

 

 

なんとでもなりましたか??

 

 

 

無理でした。

 

 

そのまえにウマ娘に勝てません。

 

あと生徒に手を出すとアウトなので物理的に何にも出来なかったのが正しい。

 

なのでこのカボチャを被る元凶の元凶となったあの踊りの一部を引っ張り出して、ミスターシービーに反省を促す踊りを見せつける。

 

両手で胸を叩く動作で小型扇風機のファンの音を強くして『ブォォォー!!』と迫真的に響かせるとその音に耐えられなくなったミスターシービーは腹を抱えて転げ始めた。

 

しかしキレッキレに踊り過ぎたことで小型扇風機に髪の毛が引っかかるアクシデント発生。

 

怒涛の連続コンボを見せつけられたミスターシービーは涙が出るほど床で転げてジタバタしていた。

 

最後は過呼吸で苦しませて、反省の促し成功。

 

対戦、ありがとうございました。

 

 

 

 

まあ、そんな苦労と笑いの夏も終わり、何故か絶好調な状態を継続しているミスターシービーを見守りつつ、秋が到来。

 

依然変わらずイメトレをメインに彼女を育てる毎日。

 

そしてハロウィンで騒がれる日になると子供達が物凄い勢いで俺のところにやってきて「お菓子か人参くれなきゃイタズラするぞ!」と強請ってくる。 そしてバックから飴玉を取り出してプレゼントだ。

 

ちなみに準備が良いのはミスターシービーから「用意した方が良いかもね」とアドバイスをもらったからだ。

 

なので飴玉と、ウマ娘用のニンジン飴を鞄の中に多く用意して帰宅していた。 するとミスターシービーの言う通り用意した飴玉は役立っていて、カボチャの俺から貰って満足気だ。

 

商店街の奥さんにも「ありがとうね」と微笑ましがられてしまう。

 

 

……と、言うか。

 

なんか結構親しまれているんだよね、俺。

 

こうなるとは思わなかった。

 

 

そりゃ最初の頃はヤベーヤツを見る目で見られてたし、一回だけ聴取にやって来た警察からもトレセン学園のトレーナーだとバッジやライセンスなど見せないとダメだった。

 

まあ、普通そうだよな。 俺もカボチャ頭被って歩いてる奴みたらあまり近寄りたくない。

 

そこは俺も諦めてたし、仕方ないと思っていた。

 

いずれ気にされなくなる、そう考えていた。

 

 

 

でも救いはあった。

 

ある日の事だ。

 

 

 

 

__ウェェイ!! 今日も超カボってんじゃん!!

__てかメンタルやばたにえんなんですけど!!

 

 

パリピなウマ娘が現れてはしゃぎだす。

 

このパリピなウマ娘は商店街では少し有名であり、彼女のアクションによって何か何かと周りは騒ぎ出す。

 

するとミスターシービーも現れては「アタシのミスター・パンプキントレーナーだよ!」と盛大に紹介しだして「バイブスあげあげじゃん!」とパリピウマ娘まで便乗する始末。

 

集まりだす人たち。

 

何か何かと騒ぎ出す声。

 

収拾がつかなくなり、俺自身も混乱してきた。

 

しかしここで逃げるのは不出来だ。

 

堂々としなければならない気がする…

 

そう乗り越えるには……

 

 

マフティーするしかない。

 

 

 

 

スイッチが入った。

 

 

 

_ご機嫌よう、奥様方、皆々様。

_俺の事はマフティーと覚えれば良い。

_そこらにいる1人のトレーナーであるが…

_だが、しかし!!

_このカボチャは違う!!

_これには秘めているモノがある。

_俺はそれをマフティーと名付けた。

_これは象徴であり、挑みでもある!!

 

 

「「「!!!」」」

 

 

そこからはマフティー性がビンビンに発揮しての演説が始まり、腕を組んでフンスとうなずくミスターシービーの姿と、余計にはしゃぎ出すパリピウマ娘の謎空間が出来上がる。

 

こうなった以上はやれるところまでやるしかないと考えてマフティーを解き放つ。

 

__こっからが地獄だぞ!

 

 

脳裏にその声が走る。

 

だがマフティーたらしめるこの姿を偽らない。

 

胸とカボチャを張って演説を始めた。

 

道化でも構わない。

 

やるしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

そして、誤算が発生する。

 

そして……ひとつだけ忘れていた。

 

 

 

この世界は ウマ娘 であること。

 

 

 

URAの大型エンターテイメントで成り立つ世界であり、ウマ娘が走るレースはこの世で最大の道楽と言っても過言ではない。

 

故にウマ娘のレースに関わるコンテンツならばなんでも盛り上がってしまう世界だと言う事を、俺は侮っていた。

 

 

 

_いいぞマフティー!!

_2人とも頑張れよ!!

_アレが噂のシービーとマフティーか!!

_応援してるよマフT!!シービー!!

_本日はマフティーセールでカボチャがお得!

 

 

 

本当、この世界すごいわ。

 

ウマ娘の事が関わると盛り上がりが半端ない。

 

経済を回してるウマ娘は訳が違う。

 

そしてその歯車を動かすトレーナーもまた違う。

 

ウマ娘ほどでは無いにしろ、トレーナーもレースのコンテンツに含まれている。

 

だからトレーナーも、ウマ娘のように注目を集める。

 

 

 

それだけこの世界__

 

ウマ娘プリティーダービーは凄いと理解した。

 

 

 

まあ、そんな感じに、カボチャ頭のマフTはいつしかトレセン学園の近くにある商店街では名物的なモノに収まってしまい、そしてハロウィンになったこの日、カボチャ頭のマフTを求めて子供達はやってくる。

 

ちょうど放課後だし、子供は多い。

 

 

 

「でさ……」

 

 

「?」

 

 

「なんでシービーもカボチャ被ってんだ?」

 

 

「ハロウィンだからね!こんな楽しいタイミングは逃せないよ!」

 

 

 

今日は練習を休みにした。

 

それで夜にならないうちに帰宅していたら散歩をしていただろうミスターシービーも商店街の入り口付近にいたのだが、カボチャのお面をつけて小さな子供達にお菓子を配っていた。

 

 

すると音楽が流れて……ふぁ!?

 

待て!まさか!?

 

 

「お前その踊りは!?」

 

「前にアタシを過呼吸に追い込んでくれたマフTの踊りだよ。 これ踊ると案外楽しいね! リズムや音楽は分からないけど、ある程度の音楽とマフティーするみたいだから問題なさそう」

 

 

いやいや、問題あるのですがそれは…

 

 

「それでは! 子供も大人も一緒に!!」

 

「「「「はーい!!」」」」

 

 

 

は!?

 

いやいやいや!!

いやいやいや!?

 

お前なんて事してんだよ!?

 

てか、キレ良すぎる!

さすが現役のウマ娘…

 

てか、おい待てい!!

それあくまでネタの一興で…

 

 

うわ!?

 

踊ってる全員カボチャのお面を被ってる!?

 

ひぇ…なにこれ怖い。

 

 

 

「マ、マジか……」

 

 

ミスターシービーと共に踊る。

 

それだけなら別に普通だ。

 

何せ先週に出走したG3で一着を取ってウイニングライブで花を飾った。

 

そのためジュニア級ではミスターシービーもそこそこ有名にはなった。

 

そんな有名バと踊れる経験なんてレアだから一緒に踊りたい気持ちはわからない事もない。

 

 

でもさ…この踊りにするチョイスは何ぞ??

 

 

 

「ウェェェェイ!」

 

 

お前もいたのかパリピウマ娘!?

 

てか絶対お前が筆頭で踊ってんだろ…

 

着火剤にしてはデカすぎる…

 

 

あと奥さん達も微笑ましく見てるし。

 

眺めてるウマ娘達も興味ありげだ。

 

 

マフティー性のハロウィンとか一体なんだよ…

 

ああ、もう無茶苦茶だよ…

 

 

 

 

 

 

 

この後、八百屋から無茶苦茶カボチャをサービスしてもらった。

 

 

 

 

つづく

 




パリピギャルウマ娘の罪は重い。




ちなみに『 w 』を生やしてる描写がありますが、基本的には書かないスラングなので今回は許してください。
ミスターシービーが笑い転げてる表現がコレだったので。
ちなみにアニメ並みのクールさや、アプリ並みの落ち着き用は今の所ない。
数年後に過去の自分を思い出して布団の中で悶えるシービーを連想してマフティーしてゆけ。

ではまた


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9話

誤字脱字報告と促し!本当に助かります!!
物語はどんどん浮かぶくせにその他はお粗末で…

え? プロット?
なんとでもなるはずだ!!(無計画)




なんだかんだでカボチャ頭のトレーナーとして名が広まってきた12月の後半。

 

一つの大舞台を終えたところだ。

 

 

 

「ウイニングライブおつかれ。 はじめてのG1ライブはどうだった?」

 

「走りも踊りも楽しみで溢れていた。 まだ心が躍っている。 ねぇ、帰ったら学園でも走りたい。 後でまた走って良い?」

 

「そうだな、付き合おう。 見てないところで無理されても困る」

 

「やったね」

 

 

 

真夏を超えて、秋が到来。

 

それでも変わらず彼女とはイメージトレーニングで鍛え、今回初めてのG1で1着を取って綺麗に今年を終えようとしている。

 

既にG3でも結果を出していた彼女だから今回のレースも良い結果を期待できると思っていた。

 

だが走ってみれば結果は3馬身差を付けて1着でゴールインしてしまう。 G1のレベルでこんな簡単に1着を叩き出して良いのか判断に困るところだが、恐らくミスターシービーが強すぎるのだろう。 もちろんホープフルステークスにシービーと同じトレセン学園のウマ娘は多く出走していたし、同じ環境とカリキュラムの中で成長してきた生徒達だ。

 

皆中央を駆け行く優秀なウマ娘であるのは間違いない。

 

しかしミスターシービーは周りとは違う。

 

他のウマ娘がどれだけ鍛えに鍛えたとしても、それ以上に沢山の準備(究極のごっこ遊び)をしてきたミスターシービーの経験量は覆せない。

 

彼女はレース中にどんな展開が訪れたとしてもイメージトレーニング(あらゆるレース場面)で培ってきた経験量を武器に走る。

 

経験が多ければそれだけ"択"が増えるし、追い込み策のウマ娘として判断力がつきやすい。

 

 

今日のレースを思い返す。

 

 

第3コーナを曲がり始めるタイミングで仕掛け始めるミスターシービーの走りに、他のトレーナー達からどよめきが走る。

 

仕掛けるには些か早いのでは?

 

 

これまで確実性の中でレースを運んできたミスターシービーの動きに驚いていた。

 

 

__初めてのG1に緊張して掛かったか。

 

そう判断するトレーナー。

 

実況でも「これはちょっと掛かり気味か?」とミスターシービーの走りの状況を追いかける。

 

レースに熱い観戦者からもミスターシービーの走りにどよめく声が広がる。

 

しかしミスターシービーは一切掛かっておらずむしろ冷静そのもの。

 

コーナーを曲がる際に真っ直ぐ伸び始めたバ群を見て仕掛けると強引に先行まで躍り出る。 彼女の武器であるロングスパートはそこに坂があっても止まることを知らず、臨場感に踊るその笑みは自分の勝ちを一切疑わない。 それは他のウマ娘から戦意を奪うほどだった。

 

他のウマ娘は強かった。 ジュニア級に500以上居るだろうウマ娘の中から選りすぐりで出走したG1レースのウマ娘が弱いはずが無い。

 

それでもミスターシービーはそれ以上だった。

 

何せジュニア級で敵は居ないのだ。

 

 

 

もちろんこれはそのままの意味だ。

 

今の彼女はもうジュニア級で勝負はしていない。

 

いま行っているイメージトレーニングは『クラシック級』だ。

 

負担を掛け続け、体幹を崩さぬよう綺麗に整え、悪条件の中で走るイメージトレーニングを何度も続けて、出走時の弱点を減らしつつ判断力を高め、レース中の択を一つでも多く増やす。

 

彼女は既にクラシック級にハードルを上げた究極のごっこ遊びで鍛えているのだ。

 

ミスターシービーがジュニア級で負けるはずが無い。

 

 

 

 

「ところで…感想を聞きたいな?」

 

「?」

 

「ほら、この勝負服だよ。 ね、改めて見てどうだった? 特にこのシルクのフレアパンツ、アタシ的に結構好みなんだよね。 風が気持ちいい」

 

「ああ、なるほど」

 

 

その場でクルリと回るミスターシービー。

 

勝負服でウイニングライブを行う姿を見てたがとても似合っていた。

 

感想を期待するミスターシービー。

 

耳がピクピクと動く。

 

 

「シービーらしさを感じる衣装だと思う」

 

「ふんふん、それで?」

 

 

まだ強請るか?

 

そうだな…

 

 

「まず解放的なトップスはポイントが高い。 あと薄い緑色はターフを連想させてくれて、君の求めるモノを映し出してるようだ。 ピッタリな色だな。 あとコルセット風なのは趣味か? とても良いと思う。 身軽さも兼ね備えて、鍛え抜かれた体を良く見せる。 とても良い勝負服だ」

 

「ふぇ?」

 

「いまの君はまだ中等部、この先で高等部に成長して今ある大人っぽさをもっと引き出せば魅力は引き立つ。 そうなればその勝負服はミスターシービーってウマ娘を思わせてくれる。 小さなシルクハットも君を表している。 その勝負服と共に成長すればもっとより良く映るだろう。 だからその勝負服はとても素敵だと思うぞ、シービー」

 

「!! ……ぁ、ぅ、うん、ぁ、ありが…と…」

 

 

 

勝負服が届いた時はすごく喜んでいて、お披露目してもらったことがあるが、走っている姿は今回初めて見せてもらった。

 

G1レースと言う絡み切った緊張感の中でも解放感を忘れないその姿が先頭に乗り出した時、ミスターシービーって存在を観客の瞳に刻ませてくれる。 そんなビジョンが既に俺の中で浮かんでしまっているし、それを疑わない。

 

あとさっきも言ったように今はまだ中等部だが、彼女が高等部になって大人っぽさをより引き出せたのなら違う魅力を引き出してくれるだろう。 シニア級になった時の彼女の姿がとても楽しみだ。

 

 

「しかしこの後はインタビューか。 やれやれ、商店街での人気は諦めたから良いが、今から世間的にも注目を集める羽目になるのか。 些か面倒だ…」

 

「……………はっ!? ……え? イ、インタビュー? ぁ、うん、そ、そうだね。 G1とってしまったトレーナーである以上避けられない道だもんね? もう諦めてマフティーするしか無いんじゃないかな?」

 

「マフティーするしかないのか…」

 

「うん。 それにさ、今回のインタビューで慣れた方が良いと思うよ」

 

「……それはどうしてだ?」

 

「これからもアタシがG1取っちゃうからだよ」

 

「……ふっ、言ってくれる」

 

「マフティーならアタシをそうさせてくれるでしょ? なら、覚悟決めるしかないよ。 ほら、カボチャと背中は押してあげるから行った行った! あと、後ろみないで……いま顔が熱いから…」

 

 

少し慌てさせられる形でミスターシービーに背中を押されて控室を出る。

 

そのまま報道陣の前まで躍り出た。

 

 

「「「!!」」」

 

 

 

シャッターの音が激しくなった。

 

通勤中に撮られる光よりも眩しく、沢山のカメラマンや記者で多い。 あと記者に関してはトラックマン(競馬記者)と言ったか? でも競馬の概念は無いからトラックマンでもただの記者になるだろう。 もしくはウマ娘記者? そのままの意味になるな。

 

 

 

「待たせて申し訳ない。 既に知っている者も居ると思うが改めて自己紹介を行う。 俺はマフT、トレセン学園のトレーナーだ。 こうしてレース後に報道陣の前へ姿を晒すのは初めてだろう。 しかしこれからはこの場に出る回数が増えると思う。 以後お見知り置きを」

 

 

わかる程度にお辞儀する。

 

するとまたシャッターの数が多くなった。

 

そんなにカボチャが何かすると不思議か?

 

 

うん、不思議だよな。

カボチャ頭がトレーナーなんだもん。

 

 

「あの!質問です!マフTさんは何故カボチャを被っているんですか??」

 

 

ほれ来た。

 

絶対来ると思った質問。

 

 

「被る必要があるからだ。 別に日差しがダメだとか、アレルギーを持っているとは関係ない。 だが過去に生み出した罪に対して救いを願ってこのカボチャを被っているだけだ。 これもまたマフティーと言う。 ちなみにこれは冬用だ」

 

 

「ふ、冬用??」

 

 

ざわざわ_どう言うことだ??

ざわざわ_戒め? そして救い?

ざわざわ_なんだよ冬用って…

ざわざわ_面白い人が出たな…

ざわざわ_ふざけているのか?

 

 

三者三様な反応は予想通り…と、言うか商店街で自己紹介した時の反応ににている。 いや、もう放送事故という名の事故紹介になってるがマフティーを辞める理由にはならない。 もうこのカボチャを被ってから半年以上が経過している。

 

あ、今被ってるのは冬仕様であり、普通にあったかい。 夏よりも需要ある被り物だと思ってる。 カボチャ頭最高。

 

※ちなみにこの発言で冬用のカボチャ頭が発売されるのは未来の話。 ウマ娘用もあり。

 

 

 

「マフTさん質問です。その姿に抵抗は無かったんですか?」

 

 

「無い。 あるのはこれを被るまでの後悔。 そうしなければならなかった己の脆弱さ。 そうしなければ求められない己の貧弱さ。 そうしなければ進めない己の軟弱さ。 全ての怠惰と拭えきれぬ罪の形を穴あきのカボチャにした。 故にマフティーと名付けてこの厳しい世界へ挑む事を決めた。 これは覚悟でもある。 トレーナーとしての。 あとは……好きに解釈するが良い」

 

 

「「「「……」」」」

 

 

歓声も無ければ声援も無く、罵倒すら無い。

 

あるのは理解し難い空気感と、マフティーと言う独りよがりな孤独感だけ。

 

それでも俺はマフティーとして堂々とする。

 

理解できないからする必要はない。

 

これは俺だけの戦い。

 

だがこのマフティーにナニカを求めるなら、マフティーは恐らく動くだろう。

 

 

「ほかに質問はあるか?」

 

 

「「「!!」」」

 

 

 

それからインタビューは続く。

 

 

何故マフティーなのか??

マフTとマフティーはどう違うのか??

なぜカボチャを選んだのか??

マフティーを名乗る先に何があるのか??

 

 

俺ばかりの質問が飛び交う。

 

もっとG1を獲ったミスターシービーとの話をしてくれても良いだろうにさっきから俺の事ばかりになる。

 

少し面倒な表情を出してしまうがカボチャの中で分かるわけもない。

 

ため息は押し込むとマフティーモードに切り替えて次々と答えた。 もちろんマフティーを理解できる人など一人も居なかった。 しかしこの覚悟は何人か受け止めてくれたような気がした。

 

すると一人の女性記者がミスターシービーと今後の進路を尋ねてくれたので、マフティー性を高め、マフティーである意味を示してくれるレースに挑み続ける。

 

そう説明したのだが拡大解釈した上に何故だが絶頂したかのような顔で「素晴らしいですぅ!!」と一人盛り上がっていた。 なんだコイツ? あと美人が台無しだ…

 

 

それから時間になってインタビューは終了する。

 

終始堂々としたマフティー性の高い姿勢でやり通して報道陣の前から姿を消して舞台裏へ。

 

 

待っていたミスターシービーの前まで来ると一気に力が抜ける。

 

 

「だぁぁぁ、づがれだ…!」

 

「お疲れ様。 とてもマフティーだったよ」

 

「しかしこれで有名人の仲間入りか。 ますますマフティーが止まらなくなるな」

 

「アタシもレースで止まんないからよ。 だからよ、止まるんじゃねぇぞ、マフティー」

 

「おい、その先は地獄だぞ」

 

「いやいや、希望の花だよ」

 

 

 

着替え終えて荷物を纏めていたミスターシービーから俺の荷物を渡される。

 

それを受け取ってからスタッフに伝えてレース場を後にすると、外がやや騒がしい。

 

どうやらレースのファン達が待っているようだ。

 

何故出てくるタイミングは知られているんだ?

 

 

あ、そっか。

 

そういやレースや会見も生放送だったな。

 

根強そうなファンなら会場から出てくるタイミングも測って待ち構えるか。

 

 

「「あ! シービー!」」

「おお!ミスターシービーだ!」

「レースかっこよかったよー!」

「次も頑張ってくれ!」

「マフT! またはマフティー!」

「おいおい、ネタじゃないのかよ!」

「本当にカボチャをかぶってるぞ!!」

「ママー!ハロウィンのマフティーだよ!」

「キャロットマンの方がかっこいいもん!」

「ウェェイ!!今日もカボってるー!」

「シービー!マフT!応援してるよ!」

「帰り道に気をつけろよ!」

「ハロウィンは終わってるぞマフティー!」

「マジかよ!本当にアレで帰るのかよ!?」

「おいおいおいおい、アイツカボチャだわ」

「アレが冬仕様なら逆に暑さ対策した夏仕様もある筈」

「どうした急に?」

 

 

ミスターシービーの姿を見たファン達は一気に沸き上がり、ミスターシービーもファンサービスで手を振る。 あと俺にも歓声が湧き上がる。

 

商店街の時と同じ感覚だ。

 

やっぱりトレーナーもウマ娘のように人気を集めてしまうのかな?

 

ただの悪目立ちなんだけど、これもウマ娘って世界なんだろう。

 

あとネタ的な意味でも若者受けになりそうだから大人だけじゃなくて少年少女も多い。

 

なんならカボチャのお面付けてる人も居る。

 

どれだけマフティー気に入ったんだよ。

 

 

ちなみに今回は東京レース場なので電車移動だ。

 

もし新潟まで行くことになったら車安定なんだけど外にいる時はマフティーする必要があるのでカボチャ頭で運転なんて出来ない。

 

なので長時間移動の電車で視線を浴びる他あるまい。 まあ、もう慣れたけど。

 

 

いや、考え方を変えれば車でも移動はできるよな? 少し経験が必要だが。

 

うん、少したづなさんと相談するか。

 

だが、シービーとの問題もある。

 

要検討だけどトレセン学園なら可能かもな。

 

 

まぁ、とりあえず…

 

今年は乗り切ったとしようか。

 

カボチャ頭があったかくて助かる。

 

 

ちなみに商店街へ寄り道したらマフティーセールで野菜が安く、カボチャのお面を掛けた子供達に群がれてしまった。

 

 

こんなつもり無かったんだけどなぁ。

 

どうしてこうなった??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アタシがマフティーと出会い、そして世間的にもマフTの存在が知られるにはそう時間はかからず、年を明けて春になった頃には全国に名は広まっていた。

 

それもそのはず。

 

カボチャ頭のトレーナーってジャンルだけで注目を集めてしまうのはそうだが、彼の演説が強かった。 あと存在そのものも影響が大きい。

 

ウマスタやウマイッター、若者に人気のウマウマ動画やウマチューブでは彼に因んだ動画が多い。

 

なんなら"在宅太陽神"ってアカウントの人が投稿した動画では、まだマフティーが商店街レベルの人気を集めていた頃に、ハロウィンの時期に皆でカボチャのお面をつけた踊っていたレア映像がある。 もう既に何千万回と再生されている動画で、それに合わせてBGMを流したりと派生する動画は多い。

 

あとその動画にはチラリだがアタシも写っている。 嘘でしょ…

 

いや、あのね?

去年ミノフスキークラフト(小型扇風機)で過呼吸にしてくれたマフTに向けての仕返しのつもりと、カボチャのお面つけて踊るのが案外楽しいことが理由で踊っていた。 丁度ハロウィンだったし、楽しいかなって軽い気持ちで。

 

でも、まさかこうなるとは思わなかった。

 

ああ、もう…

めちゃ恥ずかしいな! 黒歴史間違いないよ!

友人のシンボリルドルフにはバレてるし。

 

マフTからも「こっから地獄だぞ」と煽られた。

うるさいな! こうなったのもマフTが悪い!

 

 

まあ、そんな感じにホープフルステークスからマフティー性が世間に広まり、年を明けてもテレビではマフTの話題で持ちきりだ。

 

マフTが名乗る『マフティー』について考察するために評論家や専門家、なんなら有名なオカルトマニアすらテレビに出てマフティーの意味を探る始末。

 

 

少々度が過ぎるし過剰では?

 

でもこうなった原因はマフTのこの言葉。

 

 

 

 

__好きに解釈すれば良い。

 

 

 

 

春が訪れたら普通はお花見の話題になってもおかしく無いのに皆はマフTのマフティーに夢中だ。

 

話題は広がる。

 

何故マフティーって名前なのか? それがどう救いに繋がるのか? 本当にマフティーと言う名で通しているのか? などなど本人自身の事だけではなく、その名前に対しての追及が激しかった。

 

一部諸説があるとしたらアラビア語の『マフディー』は救世主を意味すると言っていた。

 

これにはテレビでも衝撃が走ったようで、マフTが願う己に対する『救い』の意味が少し理解できたと感じていた。

 

 

己に対しての救い……それは願い。

 

 

しかし何故こうなったのか?

 

本当にマフTの未熟さがそうしたのか?

 

実は己と言うのは別の意味でメッセージを渡したのでは?

 

己とはマフTの事だけではなく、マフティーの名を知り、救世主と言う象徴を見ている自分達にもそれを示してるのでは?

 

マフTはマフティーとして言った。

 

 

 

__解釈しろ。

 

 

 

私たちに答えを委ねた。

 

考えた。 考えてから、とある答えに行き着く。

 

自分達にも救いを求められると言うことなのだろうか? マフT自身が己の中に救いを求めるのは、マフティーと言う名を持っているから。

 

 

理解しようと広めようと動きだす。

 

 

カボチャを被れば皆は自分をマフティーと言う光景。

 

そして例の動画。

 

ハロウィンでカボチャのお面を付けて踊る姿。

 

何よりその光景を見せた『在宅太陽神』と言う名のアカウント名。

 

考察は広がる。

 

太陽神も『救い』と言う存在。

 

夜を照らして明るくする神様。

 

闇をも暴いてしまうそれは人に道を示す。

 

やはり意味は『救い』なんだ。

 

そして答え合わせは始まる。

 

マフティーは己に救いを求める形。 そうなると救いを求めるのは他者に対してではなく、自分の中にできたマフティーと言う形に対して求めること。 己は己で救うことはできる。 しかしそれは容易ではない。 むしろどこまでも孤独である。 けれど太陽神の様に形あるものをそこに作れば光はある。

 

それは遠回しなメッセージと受け止めた。 内なる元にマフティーと言う存在を編み出せば、罰した自身を救える。 そこにマフティーとして備わり、マフティーとして歩める。

 

そうだ。彼は敢えて言った。

 

 

__解釈すれば良い。

 

 

救いは示すものだが結局は己の中で考え、選び、最適に向かい、己を救うこと。 けれど生き物は弱い。 だから過程でマフティーを作り上げてより明かしてしまう。

 

そして救いをより強く求め、作り上げたマフティーにより、マフティーの力で報われようとする。

 

またこうも言った。 これは挑む姿だと。

 

救いはただ救われるだけじゃない。 楽な道など永遠と続かない。 挑みを与えて苦楽を体に染め上げる。 ただ助かることを求めず、また救世主と言う言葉に甘んじず、己の未熟さと罰を理解して行く。

 

だからマフTはマフティーを己の中に作り上げた。 罰も、救いも、挑みも、全てを、カボチャと言う形にしてマフティーを作った。

 

 

そして彼は__トレーナー(指導者)である。

 

 

人に道を導き示す者。

 

マフティーの理由もそうであり、そう解釈させて、人々に考えさせる。

 

 

まるで何かを【促す】ごとく…

 

マフティーはあの時そう言った。

 

そうやって世間に名を広めたのだと。

 

 

 

マフティーとは?

 

それを思わせるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、テレビで熱く語られていた。

 

 

 

 

「 あ ほ く さ 」

 

 

アタシの自慢するトレーナーはタブレットで例のテレビ放送を見る。

 

今日は練習がオフの日でマフTはトレーナールームでノートパソコンを開きながらトレーニングメニューと究極のごっこ遊びのデータをまとめて、それを再び活かせるように再構築する作業を進めていた。

 

そんなアタシは散歩も自主練も飽きてトレーナールームのソファーに寝転んで、だらしなくくつろぐ。

 

それでふと思いだして、前に放送されたらしいマフTの特集をマフTに見せてみた。

 

 

それで反応待ちだったのだが…

 

 

 

「こ れ は ひ ど い…」

 

 

「それ、すごいでしょ?」

 

マフティーの事についての考察がまるまる一時間も続くと言う不思議な番組。

 

しかし視聴率はまあまあ高く、これでまたマフTと言う名のトレーナーが広まった。

 

 

お陰で今のトレセン学園でマフTの名を知らない生徒はあまり居ないと思う。

 

マフTが学園の廊下を通るたびにマフTに視線が集まり、マフTが通ればそこは道は開くし、マフTの話題も広がる。

 

でも兼ね備える威圧感は近寄り難く、マフTに触れる事もしなければ、そのカボチャを外そうとするウマ娘はいない。

 

いや、それでも頑張ってカボチャ頭を外そうとしたウマ娘は何人かいた。

 

 

だがしかし、それは叶わなかった。

 

何せマフTの勘はとんでもなく鋭くて、後ろを見ずともカボチャ頭を外そうとするその手を掴んで止めてしまう。

 

それでもウマ娘としての筋力なら強引にその手を動かすことはできるだろうが…動かない。

 

まるで分厚い鎖で縛られたような感覚に囚われて、指一本動かせず全てが硬直してしまう。 静寂の中に聞こえるのは自分の心臓の音だけ。 そしてカボチャの眼の奥から覗かれた視線は全てを暴かれてしまった感覚に襲われる。

 

前も説明したとおり。

全てが丸裸にされてしまった感じだ。

 

何もかもがマフティーに覗かれている。

 

 

恐怖以外の何でもない。

 

手を出してしまったことに後悔するウマ娘。

 

だがマフTはその手を掴んだだけで特に何もしない。

 

イタズラ心でカボチャ頭を外そうとしたウマ娘のその手を優しく下ろして、解放するだけ。

 

そうして何も言わずに去るだけのマフT。

 

しかしその後ろ姿は目を疑うようなモノが見えてしまう。 禍々しい紫色のオーラを放つマフTの姿。 だがそれは彼に触れられてしまったウマ娘だけが見えてしまうオーラ。 周りで見ていただけの他のウマ娘に見えない。 だから彼にイタズラを仕掛けたウマ娘はこう捉えた。

 

 

__周りからは、見えない、わからない。

__つまり…自分だけに、そう訴えた。

__次、マフTに手を出したらどうなるか…

__まるで 支配 されたような感覚だった。

 

 

そう怯えるように語るウマ娘。

 

マフTの恐ろしさはまた別の形で学園内に広まり、彼のカボチャ頭を外すウマ娘は一人も現れなくなった。 下手に手を出すウマ娘がいなくなり、マフTを恐れる。

 

だが逆も然り。

 

そんなマフTに尊敬をいだくウマ娘も現れる。

 

実際に話しかけてみれば、会話の中で受け答えはしてくれるので何かを尋ねれば答えてくれる。

 

恐ろしく思うだけで実は無害なのでは?

 

それを加速させるのがそこそこ付き合いがながくなるだろうあのパリピギャルウマ娘。

 

彼女のせいでマフTの近寄り難さは程よく軟化してるため、マフTに興味を持って話しかけてみるウマ娘もそこそこいる。

 

秘書のたづなさんに頭を下げてお願いする姿なども見られているため、社会の中に生きる人間らしさもマフTにあるんだと安心させていた。

 

怖いけど、決して化け物ではない。

 

 

ただ、すごくマフティーしているだけ。

 

 

そのような認識に収まった。

 

まあ、そんな感じにマフTはカボチャ頭を外されることなく今もトレセン学園で活動する。

 

本当はアタシが牽制して止めようと思っていたけど、マフTはすごいから自分でなんでも解決してしまう。 だからアタシはアタシのできる特技で楽しみを追及し、強くしてくれる彼に走りで応える。

 

トレーナーと担当、至って普通なこの関係は年明けしても変わりない。

 

 

 

「来月になるとシービーも中等部の3年か? 1年経つの早いな。 よく頑張ったよ」

 

「いや、マフTもすごく頑張ってるよ?」

 

「それはシービーのお陰だ。 俺が独りよがりで頑張ってもこうはならない。 だから君が走ってくれるお陰だ」

 

「ううん、違うよ。 こんな面倒なアタシの事を理解してくれて、アタシをしっかり見てくれたマフTがいるからアタシは満足に走れる。 あなただけだよ? アタシの描くソレを共有するかのように理解するすごい人は? それもまたマフTの描くマフティーだから?」

 

「そうだな。 マフティーならやってしまう。 そう信じてるし、俺はそう求めている。 世間がどれだけマフティーに期待して、拡大評価してるかは知らんが、でもまずは俺の独りよがりから始めさせてもらう。 それがマフティーの形を創り描いた理由。 けれどそんなマフティーに求めるなら、マフティーでナニカを描きたいなら…」

 

 

マフTはノートパソコンのエンターキーをカタンと押して作業を終えて、アタシを見る。

 

 

 

「マフTがマフティーを求めるように、ミスターシービーがミスターシービーとして走りたいのなら、マフティーはミスターシービーを描くとしよう」

 

 

 

カボチャはいつもギザギザで笑う。

 

だから表情に変化はひとつもない。

 

でも今だけは分かる。

 

 

 

中身の彼はアタシに笑ってくれている。

 

 

 

「っ」

 

 

 

ああ、アタシのトレーナーはマフTだ。

 

そう思わせてくれるオフの日。

 

姿勢を正してアタシは口を開く。

 

 

 

「なら、こんなアタシでも密かに抱える"夢"は描いても良いよね、マフT」

 

 

「夢?」

 

 

「楽しいだけを求めてたアタシでも憧れくらいはあるんだ。 究極のごっこ遊びでは描けないアタシが夢見る_

大きな 栄光

 

 

「!」

 

 

「だからミスターシービーはマフTに求める」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三冠ウマ娘

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラシック級として本格的に始まる。

 

 

 

つづく

 




.

しかしねぇ…
どうであれパリピギャルウマ娘の罪は重いのだから。





そんなわけで次回からミスターシービーは2年目に突入。

既にステータスがオールCくらいあるかな?

天才ゆえに初期値が元々高くて、マフティー補正でブーストして、究極のごっこ遊びでガンガンSP貯めて、走るウマ娘のコツを吸収して、有りっ丈スキル習得して、散歩好き故に調子がいつも上がって、マフティーしてるから、強い感じ。
ジュニア級はステータスでゴリ押せたが、クラシックは通用するかわからないね。
スペかゴルシくらい何かないと基本的に負けないけど。


あとこれだけシービー促してるのに実装されないのマジ?
でも3D出てるから確定なんですよね。
アオハルしながら、ジュエル貯めて待つぜ!


ではまた


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10話

ちょっと今回はご都合主義しまーす!!
(二次創作の時点で既にご都合主義そのものなのですがそれは…)




ウマ娘の入学式が終わった。

 

ウマ娘を育てるだけのトレーナーと言えども学園に所属してる以上はこういった式典は手伝う。

 

もちろん先月もファン感謝祭のイベントを手伝ったのだが、感謝祭にやってきたお客さんの中でカボチャ頭のマフTを目当てにやってくる人やウマ娘もいた。 記念撮影のために足を止めてあげて、シャッターの中に収まってあげたりと、お手伝いが捗らなかったのは記憶に強い。

 

あと学園内では限定品のマフTと同じ手編みで作られたカボチャ頭が売られていたりと結構自由だ。 予告なしでの販売だったが1時間もしないで30個全て売れたらしい。

 

※後にプレミアムで数万する模様(転売のパリピ談)

 

 

そうしてファン感謝祭が終えればその数週間後は入学式が始まり、中央の門を叩いてやってきた新芽達を向かえ入れる。

 

ここでもマフTを見て「本物だ!」と騒がれる。

 

 

_おい、みろよみろよ!

_ふぁ!?

_本物だよ!

_マフTだ! うわー!

_テレビで見たよね?

_前回の弥生賞で見た!

_シービーの人だよね!?

_実物なの! すごいと思うの!

_なんやあの兄ちゃん? おもろいな!

_ここが日本の凄い所なんだね!

_随分とロジカルとは程遠い頭だな…

 

 

 

ホープフルステークスからマジで有名になっちまったよな。

 

前の弥生賞で1着取ってから皐月賞の出場宣言した事でもまた一段と有名になったし。

 

そんでもって勇気持って話しかけてきたウマ娘達と軽く会話してあげるとめちゃくちゃに尻尾ブンブンしてた。

 

ただ普通に「ようこそトレセン学園に」と言ってあげただけなのにね。

 

俺はアイドルかな?

 

いや、あながち間違ってないんだろう。

 

てか既に俺はそんな感じだ。

 

でも客寄せパンダになるつもりはない。

 

中等部3年になったミスターシービーとクラシック級で三冠を取りに行くと決めている。 あの残念美人記者を通して世間でもその挑戦は広まったので、余計に有名になる始末だ。

 

しかし一年前と違って随分と変わったな。

 

今となっては俺に噛み付いてくるトレーナーもいない。 牽制してた頃が懐かしく、ウマ娘から距離を取られていた頃が嘘みたいだ。

 

いや、今も近寄り難いトレーナーとして認識されていて、やはりこの呪いから放たれる威圧感の所為で遠ざけてしまう。

 

しかしそんな威圧感を物ともしない…と、言うよりあまり気にしないウマ娘は普通に近づいてくる。

 

おう、お前の事だよ、パリピギャルウマ娘。

そんなにカボチャ頭がお気に入りか?

 

あとそうだ、入学生の中にいたかなりヤベーヤツもそうだったな。

 

ええと、たしか…ゴールドシップだったか?

 

あのウマ娘も初対面で距離感バグってたよな。

 

両手にマヨネーズとバルサミコ酢で「亜種系の引き戸式専門の配管工として食えないカボチャは無いぜ!」とか言って闇討ちしてきた。

 

受け流してやるとバルサミコ酢が目に刺さって悶えてたが、4秒くらいで起き上がって「おっ!ゴルゴル星から通信妨害かぁ!?」と昇竜拳で飛び交う電波を対空しながら走り去ってたな。

なぜか一瞬だけ圏外になったな…

お前は一体何と闘っているんだ?

 

しかしゴールドシップとは初対面な気がしないんだよな。 どこかで接点ある気がしてる。 あんなにインパクトあるウマ娘ならすぐにわかるのにね。 気のせいか…

 

 

そんなこんなでファン感謝祭を終えてから次の月で開かれた入学式は終えて、忙しいひと時は一度鳴りを潜める。

 

 

そのまま夜になり、ウマ娘達は門限を過ぎる前に寮に帰ってしまう。

 

 

俺も帰る準備のためにトレーナールームに足を運ぼうとして、不意に足が止まる。

 

 

 

「三女神の像…」

 

 

 

この学園にある特別な像。

 

大昔にいた3人のウマ娘を女神化した像であり、ここにいる皆を見守っているらしい。

 

帰り際にお辞儀して帰宅するウマ娘もいるくらいなので特別なんだろう。

 

 

そして、俺にとっても特別だ。

 

 

カボチャ頭を被り、マフティーをする羽目になった元凶と言われる存在。

 

それをチョイスしたのは俺自身だがここまでの苦労はこの三女神から始まる。

 

この学園に来てまもなく一年が経過する。

 

その間も三女神の像を横切ったり、遠目から眺めてみたりと活動拠点の一部として割り込むが、特に何もない。

 

この1年間、三女神の像は何も反応しないのだ。

 

これでも何回かぐるりと周っては調べてみたり、なんなら靴を脱いで直接像を触って調べてみたりとしたが収穫は何も無い。 時には日記帳を見せつけてみたり、色々お声をかけてみたり、1時間くらい視線を外さずに眺め続けたりしたが、結局はそこに三女神の像って名前の石があるだけ。

 

 

でもまだ試してないことが一つだけある。

 

それを思い出した。

 

 

 

「…」

 

 

周りを一度警戒する。

 

誰もいない。

 

カボチャに手をかけて……

 

 

「よく見ろよ、三女神」

 

 

俺はカボチャ頭を外す。

 

まるでモビルスーツに乗り込んでいたパイロットがヘルメットを外すように、カボチャ頭を外して脇に収める。

 

鋭く息を吐いて素顔を三女神の前に晒した。

 

 

だが……何も反応は無い。

 

 

三女神の像からは何も感じられず、何もアクションは起きない。 それぞれの女神が抱えている壺から水が流れ落ちる音だけが響き渡り、虚無感と失望感だけが残る。

 

与えるだけ与えてその先は何もない。 それともトリガーとして少ないのだろうか? やはり日記帳に書かれていた『大きな栄光』が鍵なんだろう。 それを示されるまでは三女神の像から何も起きない。 随分と重たい罰を与えてくれたものだ。

 

俺は前任者ではない。 別の人格であり、過ちを犯したソイツでは無い。けれど三女神は何も言ってくれない。 中身がどうとかではなくこのトレーナー其の者に刻み込んだ、呪い。

 

呪い…

 

のろい…

 

 

 

 

 

__本当に呪いなのか?

 

 

 

 

 

 

「いや、でも、トレーナーとして欠陥だろうこの姿は。 昔ほどひどくないにしろ、今もウマ娘から遠ざけられているし、カボチャ頭は外せない。 トレーナーとして、欠陥で……」

 

 

 

 

 

 

__本当に欠陥なのか?

 

 

 

 

 

 

 

「…っ、それはマフティーだからどうにかなってる話だろう、こんな苦しみは。 カボチャ頭さえ無ければもっとまともに生きてたし、仮にトレーナーをやらずとも第二の人生は送れていた。 カボチャ頭でこんなにも苦労なんてする筈も無く、今も苦しんで……」

 

 

 

 

 

 

__本当に今も苦しいか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「結果論…だろ! っ、なら! これは! 一体何だと言うのだ…」

 

 

 

 

 

 

__願ったことでは無いのか??

 

 

 

 

 

 

 

「それなら、一体何を求めてやがるんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

__コレを求めたのは自分だろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、コレで一体何が出来ると言うんだ…」

 

 

 

 

これは呪い……?

 

それとも……祝い??

 

 

この状況が?

 

ウマ娘に恐れられる状況が??

 

 

人生の不自由を得てまでのカボチャが?

 

ここまで来たのは運が良かっただけだ。

 

こんなのは結果論に過ぎない。

 

やり方を間違っていれば社会的に終わってた。

 

自分で喉を掻きむしり、自分で喉を締めて、自害することだってあった。

 

普通ならそうなる筈だったよ。

 

でもまだそこから救われる手段はあった。

 

俺は知ってたからソレを演じることにした。

 

 

 

 

 

 

__マフティー(救世主)って存在を知ってたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、マフT……さん?」

 

 

「!?」

 

 

 

急いでカボチャ頭を被って後ろに振り返る。

 

そこにいたのはトレセン学園の秘書であるたづなさんだ。

 

こんな時間にどうしたのだろうか?

 

心配そうな顔が目に写る。

 

 

「たづなさんですか。 どうかしましたか?」

 

「い、いえ。 カボチャが見えたのですが、いつもよりも位置が低くて、それで…」

 

「ああ。 少しだけ外してました。 マフティーにも一息つく必要があります」

 

「そ、そうですか」

 

「…」

 

 

女神像の泉が静かな夜の中で響く。

 

時間になれば壺から流れる水も勝手に止まるだろう。

 

まだ電源が落ちるまで30分ほどは時間がかかるだろうが。

 

電源が落ちるのと共に今日の業務を終えて明日に備える。

 

ここから「お疲れ様でした」とたづなさんよりも一足早く帰る。

 

 

それだけだ。

 

 

それだけ…なのに…

 

俺は口を開いてしまう。

 

 

 

「たづなさん。 俺、記憶ないんですよね」

 

「え?」

 

 

このタイミングで言ってしまった。

 

誰にも明かせなかった、この苦痛はこの日に耐えれなかった。

 

互いに今は何もなく、後は帰るだけの状態なのに、俺はトリガーをひいてしまう。

 

 

「俺、過去に何かとんでもなく酷い事を起こした。 でもそれはハッキリとせず記憶が抜け落ちたようにしか覚えていない。 でも三女神に縋り、色々と焦り過ぎた結果、ウマ娘に殴られてしまい、三女神の像を囲う泉に身を投げ込まれた。 それは知っている」

 

「そ、それは…」

 

「でもそれ以外は記憶に無い。 その時の性格も、人格も、この体には何も残ってはいない。 あったのは……そう、マフティーだけだ」

 

「!」

 

「三女神の像は願いを託し、思いを託される、そう聞いたことがある。 この学園の七不思議だとミスターシービーから聞いた。 彼女は良く散歩をするからそのかわり色んなことを聞くらしく、そんな話を聞かせてもらったことがある」

 

「ええと…」

 

「違うのですか?」

 

「!? …い、いえ、この三女神の由来は詳しくわかりません。 大昔にいた3人のウマ娘が今の始まりであり、それは月蝕のように神秘的で女神のような存在だった、としか聞いたことありません」

 

「…」

 

「しかし、三女神に、祈りを、想いを、願いを、救いを、託し、そして託される。 噂程度ながらもそう神格化されてます。 中には大事なレースに出るため、三女神に無事を祈って願うウマ娘もいます。

時には…救いを求める事もありまして……

っ…

いえ、そんな…

だ、だとしたら…

もし、そうなら、あ…あなたは?」

 

「ああ…そうか、なるほど。 願ったのか……」

 

「!!!」

 

 

 

この三女神はやはりナニカを揺れ動かす。

 

でも、それはそうだろう。

 

この世界は元々アプリゲームであり、何か不思議な事が起きてもおかしくない。

 

俺にとってはウマ娘が不思議そのものであるが、前世の知識を思い出す。

 

友達が言っていた。

 

三女神が、継承が、因子が、どうちゃらこうちゃらと言っていた。 ならこの三女神はウマ娘ってゲームの世界では大きく関わる存在なんだろう。

 

どこまで関わってくるのかはハッキリ言って知らない。

 

だが育成ゲーと言う事ならどこかしらのシナリオで三女神は活かされてるのだろう。

 

でも今俺がこうなっていることを判断材料にするなら、三女神と言うのは大きく影響をもたらす要素だ。

 

それだけ大きな力を秘めている存在だ。

 

この体の前任者はそれほどの存在に縋り、願いを込めたんだ。

 

 

 

 

_願った。 願ったのだ。

_これで小娘達は逆らえない。

_やっと立場を理解するだろう。

_はっきりとした上下関係のためだ。

_指導者には頭を垂れさせる。

 

 

 

指導者としてそれは間違いである事も忘れて。

 

 

 

 

 

_指導者の全てに屈服して、熟させるだけ。

_管理も全てこちらが行い、走らせるだけ。

_それが一番正しいと思っていた。

 

 

 

指導者としてそれが最適なんだと思い込んで。

 

 

 

 

 

_自分の力では無い。

_指導者でありながら間違いを犯した。

_願ってどうにかしようとした自分の過ちだ。

_どうやら私は愚か者だったようだ。

_あの像から怒りに触れたんだと今理解した。

 

 

指導者としてそれを理解するのに遅過ぎた。

 

 

そう__支配 するかの様に考えるのは間違い。

 

 

トレーナーとしても、人としても、それは間違い。

 

そうしてウマ娘からも、人間からも、三女神からも、前任者は淘汰されてしまい、謹慎と言う名の檻の中に押し込まれてしまった。

 

それだけの話。

 

 

それだけの、話なのに…

 

三女神がこの体に宿したのは周りから恐れられるような力だ。

 

しかし考える。

 

これは、本当に間違いから始まったのだろうかとも思っている。

 

 

たしかに前任者の有様は指導者にそぐわないモノだった。

 

考えも偏り、自分を天才だと思い、ウマ娘を支配して管理する。 そう正しく思っていた。 でもウマ娘も人間と等しく生きている尊い存在。 それではダメなんだ。 理解して寄り添う。 ミスターシービーがそうだった様に。

 

けれどそうするにも力は必要だ。

 

弱くては出来ることも少ないだろう。

 

 

そうなると、たづなさんの言った話が真実なら、想われ、願われ、祈られた三女神は三女神として与えたに過ぎないのかもしれない。

 

 

__欲しけりゃくれてやる。

 

ウマ娘に対する考えを間違い、だがそれを正しいと思ってそう願った前任者に対する怒り。

 

 

でも呪いだと思えるくらいの力を与えられた。

これは歪みだろう。

 

ウマ娘に対する考えを間違い、だがそれを正しいと思ってそう願った前任者に対する怒り。

 

それでも、願われた三女神として、果たした。

 

しかし、対価はコレなんだ。

 

 

ミスターシービーとたづなさんから三女神のことを聞いたお陰で、そんな気がしてきた。

 

あまりにも理不尽過ぎるけど、そうしてしまうほどの結果故なんだろう。

 

前任者はあまりにも…自分を救えないくらいに弱過ぎた。

 

 

そして、俺がいる。

 

 

日記帳にも願われていた。

 

 

 

_私と言う存在が失敗へと進んだ。

_なら私じゃ無ければいいのか?

_こんな愚か者に代われる指導者は居ないか?

_仮面でもいい。 虚栄でもいい。

_道化でもいい。 偽物でもいい。

 

 

 

 

それすらも願われ…

 

いや救いを求めて__俺がここにいる。

 

 

 

仮面_それは自分で無くなる代。

 

虚栄_それは自分で無くなる形。

 

道化_それは自分で無くなる道。

 

偽物_それは自分で無くなる証。

 

 

 

 

まるで___マフティー(救世主)を求めたかのように。

 

 

 

 

 

「ぅ、ぅぅ、ご、ごめんなさい……わ、わたしは…ぅぅ…」

 

 

「!!?」

 

 

え?

 

ええ?

 

 

 

えええ!!?

 

た、たづなさん!?

 

いや、なんで泣いてるの!?

 

「わたしは、酷い事を…したん、ですね」

 

「え!? いや、ええ!?」

 

「あなたを変えたのは、私なんですね…ぁぁ、そんな。 そんな、事って…」

 

「ッ!?!?」

 

 

何故泣いてるのか!?

 

ダメだ、わからない。

 

知識はあっても、記憶は無い。

 

だからたづなさんが何に対して涙を流してるのか全くわからない。

 

とりあえず、俺は彼女を慰めることにしよう。

 

 

 

そして…

 

俺は……マフティーは聞いた。

 

たづなさんから、悲痛を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼に慰められて、なんとか落ち着いた。

 

でもまた苦しくなる。

 

わたしの責任だ。

 

彼を助けきれず、恐れてしまって、それで謹慎を言い渡して、彼を追いやった。

 

それでホッとしてしまった。

 

だが時が来て彼は戻ってきた。 不安だった。 また身構えていた。

 

けれど何もかもが変わっていて、自分を改めてトレーナーとして務めを果たし、今ここまで登り詰めた。

 

謹慎中に何が起きたのかはわからない。

 

でも彼はあの頃よりも頼もしく、可笑しな格好をしながらもそれを武器にして厳しい世界に立ち向かう。 今となってはURAを盛り上げる一端のトレーナーとしてウマ娘のレースに刺激を与える。 マフTは今となっては人気者である。

 

 

なんとか事が済んだのだと、私は忘れるようにして行く。

 

 

 

けれど、この日になって彼から聞いた。

 

 

記憶も無ければ、過ちも覚えてない。

 

日記帳に書いていたそれを見て彼は知る。

 

前の人格も分からず、今の人格がある。

 

今は無き彼が望んだ、彼がいる。

 

それが今のマフティーなんだと。

 

 

 

「目覚めたら自分は自分じゃ無い。 いや、自分なんだけど、その時まであった自分じゃ無い。 それを理解した」

 

「なら、あなたは誰なんですか?」

 

「仮面、虚栄、道化、偽物、そう願われて生まれてしまった別の人格、自分は…いや、俺はマフティーだと知った。 この姿を持ってマフティーとして前任者を救うんだと」

 

 

ああ、やはり違った。

 

彼はもう居ない。

 

 

ここにいるのはマフティーだ。

 

変わったんじゃなく、代わったんだ。

 

マフティーに。

 

 

 

「たづなさん、あなたが悔やむことじゃ無い」

 

「…」

 

「ソイツは間違ってたよ。 必死だったし、模索してたけど、ウマ娘のトレーナーに相応しく無い有様だった。 それはたづなさんも良く知ってる筈。 コイツは全てが間違いだった」

 

「でも、だからと言って……そんな、ことになるなんて、わたしは…」

 

「…たづなさんは優しい人ですね。 だから彼はそこまでたどり着けたんだな」

 

「ぇ…?」

 

「日記帳に書いてました。 自分は許されない事をしたと気付いて、自分はトレーナーとして相応しくなかったと理解して、自分は指導者として間違いだったと認めた。 彼はそれに気づくことが出来たよ。 こうなったのはたづなさんが根気よく助けてくれたからだ」

 

「!」

 

「記憶はほとんど抜け落ちているけど、でも形はありました。 彼は日記帳のほかに一枚の紙を日記帳の隣に折り畳んでいました。 そこには…たづなさんに対する感謝が書かれていた」

 

「ッ!!」

 

 

 

駿川たづなさんへ。

沢山のご迷惑をおかけして

大変申し訳ありませんでした。

本当は直接言いたいのですが

自分にはその資格はありません。

これまでご支援があった事で

自分は少しでも長く努められました。

最後は情けない姿を晒しました。

担当ウマ娘にも失礼な事をしました。

過ちに気づきましたが手遅れでした。

けれど、本当にごめんなさい。

凡ゆる事が阻害して歩めないのです。

もう自分では何も出来ません。

引き継ぎもなく去ってしまう事を

どうか最後に許してください。

そして__

これまでありがとうございました。

 

 

 

彼から受け取ったタブレット…の、写真に映された一枚の手紙を見て、私は胸を痛めて涙が止まらなくなる。

 

 

彼は酷かった。

 

スカウトも出来ず、サブトレーナーとして上手く行かず、なのに彼なりの拘りを捨てられず、遠くからウマ娘を眺めるだけで、トレーナーとしての責務も果たせないまま、事務作業ばかりに着手した。

 

でも歯も拳も食いしばりながらも一線は越えずに抗って、それでも最後は女神像頼みに堕ちてしまい、彼はウマ娘を怖がらせてしまい最後は謹慎と言う形で追い払われた。 のちに問題児だったとトレーナーから嘲笑された。

 

 

彼はトレーナーとして失敗した。

 

 

ウマ娘が中央で活躍できないように、彼は中央で活躍できずにフェードアウトした、それだけだった。

 

 

でも彼は代わってしまった。

 

謹慎と言う中に押し込まれて…

誰からも助けが無くなり…

自分では無い者として願った。

 

マフティーに。

 

 

「全体的に悪いのは彼だ。 やり方も、拘りも、考え方も、一つくらい変えればトレーナーとして立派に振る舞えた筈だ。 社会の中に生きる大人としてそうしなかった彼の失敗なんだ。 見捨てられても仕方ない。 でもそんな彼をたづなさんは支援して助けた。 あなたはすごく立派だよ」

 

「そんな、こと、ありません。 けっきょく、ひきがね、は、わたし、だった、の、ですから」

 

「それは結果論だ。 彼が変わらない可能性だってあった。 それで再び中央のトレーナーにそぐわない振る舞いをしていたかもしれない。 たづなさんは当然の判断を下したと思う。 生徒を守るために、トレセン学園を守るために、組織から危険分子を取り除く。 それは管理者の一端を請け負う者として真っ当な判断だ。 未熟者だろうと、大人として踏み込んだのだから甘んじさせない。 それが普通だよ。 それが世間で生きると言う事」

 

「……」

 

「色んなことが引き金になって、こうなったのはもう仕方ない話なんだ。 なってしまったのはもうどうしようもない」

 

 

私からタブレットを取って、仕舞い込む。

 

 

「本当はこの話をたづなさんにするべきじゃなかったかもしれない。 でも、マフティーとして、在るなら…俺はほんの少しでも彼を報いるべきだと思った」

 

 

だから彼は手紙を見せてくれた。

 

もう彼の中に居ない彼だが、それでも最後は形にして感謝と謝罪を手紙にした。

 

それを伝える資格はないと思って。

 

 

「俺は最初の俺が分からなかった。 でもやる事は直ぐにマフティーだとわかった。 だから理解もした。 求められた時にマフティーは現れる。 彼が求めた想いと願いにマフティーは応えた。 それだけに過ぎない。 でもマフティーは彼のことでも在る。 マフティーとして刻み、または染まり、罰の中に救いを求める意味をマフティーに込める」

 

「っ…」

 

「1年前の言葉はその意味でもある。

_己の罪の中に救いを求める。

彼がマフティーを望み、彼はマフティーとなり、マフティーである俺は彼の代わりにマフティーを果たす。 そうしてマフティーは今を動くんだ。だからもう泣かないで良い。 責めなくていいさ。 あとは…彼の事は俺に任せろ。 そのためにマフティーがいるのだ、たづな」

 

「マフティーさん…」

 

 

 

彼は、私の涙を、その手で優しく拭う。

 

見上げれば、カボチャの顔が私を見る。

 

暗闇でよく見えないカボチャの中の眼。

 

明るい外でも良く見えない彼の眼差し。

 

 

そこに恐ろしさはある。

 

奇妙な威圧感を秘めている。

 

 

でも今は何故か怖くない。

 

マフティーを見ることが出来る。

 

 

 

「彼を忘れろとは言わない。 だが彼のやってきた事は忘れてはならない。 あなただけは彼のために覚えてあげて欲しい。 俺と共にな」

 

 

「っっ、は、はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

__彼の過ちは、マフティーが粛清する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マフティーはそう強く言い放った。

 

私の代わりに、マフティーはいてくれる。

 

だから、もう泣く事も、苦しむ事もない。

 

マフティーが救うなら…

 

私はマフティーを見ている。

 

 

 

「マ、マフティーさん…!」

 

「?」

 

 

去り際の彼を止める。

 

 

 

「マフティー、わたしはこれからも変わらずあなたを助けます。 できることならなんでも言ってください。 彼がマフティーを望んで、あなたがマフティーとして在るなら、私もマフティーになりますから」

 

 

これは覚悟。

 

恐らく狂ったような覚悟。

 

マフティーを求めてしまう私の狂い。

 

 

 

「ここから地獄だぞ?」

 

 

「ッ、構いません! 私もあなたと同じです。 トレセン学園の秘書をしている以上、苦痛も苦難もやり遂げると決めたから、私は『駿川たづな』として名乗る事を決めたのですから」

 

 

「……」

 

 

「ッ……!」

 

 

 

そう、私は 駿川たづな だ。

 

マフティーと同じように、この名前がある。

 

 

でも彼は…

 

 

 

「ふっ、マフティーはやめておけ。 あなたが地獄に付き合う必要は無い」

 

「なっ!」

 

 

しかし彼は否定した。

 

けれど、言葉は続く。

 

 

 

「マフティーは素晴らしく聞こえるかもしれないが、コレは独りよがりでもある。 そうした形に溺れなければ救われない。 偶像崇拝と何ら変わりないモノだ」

 

「でも! それが霊的にじゃなかろうとも、意味を求めて救われるなら、ソレは間違いじゃありません!」

 

 

 

意味は必要。

 

無いモノには縋れない。

 

それが歪んでいたとしても。

 

 

 

「そうだな、それがマフティーだ。 それでもたづなさんがマフティーをやる必要はない。 これは俺だけに任せてくれ」

 

 

 

でも彼は大きく意味があるソレを請け負わせない。

 

 

 

「…………むぅ」

 

「そんな顔するな。 たづな」

 

「私だって…」

 

「気持ちだけいただく。 でも許してくれ。 マフティーなんてモノはたづなさんみたいなできる美人さんがやるべき姿じゃない」

 

「!?」

 

「では……お先に失礼します。 新学期からもよろしくお願いします、たづなさん」

 

 

 

最後は仕事口調に戻り、彼は去る。

 

そうして残された私は一人、しばらく佇む。

 

 

 

「…」

 

 

彼から聞かされた真実は衝撃的だった。

 

思わず私は自分を責めそうになった。

 

でもマフティーがそれを止めた。

 

そのためにマフティーは居ると言ったから。

 

そして彼は駿川たづなとして求めた。

 

これからも変わらずトレセン学園の秘書として。

 

涙を完全に拭い、頬を叩いて気持ちを入れ替える。

 

 

 

「明日からも、ウマ娘のために頑張らないと」

 

 

 

三女神の像から流れ落ちる水は時間で止まる。

 

しかし新学期は今日から始まる。

 

 

帽子の中の騒がしさを押しとどめて帽子のずれを整えて、わたしも学園内の中に戻って行った。

 

 

 

 

つづく

 

 







新学期であろうとパリピギャルウマ娘の罪は重い。






正直に言うとですね。
たづなさんに関してはこの展開で良いのか…??
そこら辺は迷ったんよ(感想で意見をください)

一応説明。
少なからずたづなさんは前任者を気にしてました。 なんだかんだで対応を取ってたので。 それで謹慎を越えた変わった事でホッとしましたが、つい打ち明けてしまったマフTの真実を聞いて自分の過ちを責めました。 でもマフティーしてるから大丈夫だとやや洗脳気味ている、そんなやり方で納得させて「あとはマフティーに任せろ」と「もう背負わなくて良い」と涙を拭いながら救いを差し伸べたマフティームーブなかなかマフティー性が高い解釈。

余計に考えさせない方が吉なのかな、コレ…
それとも今回で関わらせすぎなのか…?
知らぬが仏が正しいのか……ちょっとなぁ。

まあ、そんな感じにですね。
たづなさんのサポカ(マフティー強化版)が
練習に加わってミスターシービーが捗ります。



あ、そうだ(唐突)
更新速度が一端落ち着くかもだゾ
リアルが促してくるから、ごめんね?

ではまた


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11話

実装されないなら!促せば良いだろ!


前回のたづなさんに関しては結果論と言うことで。
言おうが、言わなかろうが…
伝えようが、伝えなかろうが…どっちでも良く。
でも、つい溢してほどにマフTは強く無かった。
だがマフティーとして前任者の書いた手紙に応えるべきだと思った故の行動です。 それは少なからず救いになり、結果的にマフティーとしての勤めを果たせた。 それだけの話だと言うことだ…


さて、ミスターシービーがGⅡレースの弥生賞を1着で勝ち取ると目指すべきはクラシック三冠の第一歩である皐月賞が待っている。

 

4月に開かれるのはホープフルステークス以来のG1レースであり、間違いなく強いウマ娘が集まる。

 

弥生賞で一度経験しているが中山の直線は短いし、仕掛けどころが悪ければスパートに乗り込めず、ポジションが悪ければ塞がれて前に出れず、パワーが無ければ勝負にすら参加できない。

 

強いウマ娘でなければ勝てないとわざわざ言われる辺りなるほど、と思える。 クラシック級におけるG1レースの恐ろしさだろう。

 

まあ、そんな訳なのでミスターシービーもイメトレだけではなく本格的に鍛えるのもアリだが、既に完成はしている状態。

 

これまで繰り返してきた究極のごっこ遊びによる視覚共有もより鮮明になってシービー自身が見ているモノもより見えるようになった。 そのためより意見や論議を交わし合って、伸ばすべき点や克服するべき点など着々と整えて行く。 認識のすれ違いを作らず、誤解なく共有して理解し合う。

 

互いに最高のパートナーとしてマフTとミスターシービーを作り上げる。

 

 

だが、ここはもうひと磨きするべきだろう。

 

あと彼女のモチベーションを保ちつつ楽しめるトレーニングが良い。 そして俺はひとつだけ考えていることがあり、また試したいこともある。

 

そのためたづなさんの元まで向かい、提案とお願いをすることにした。 それは…

 

 

「キャンピングカーですか?」

 

「はい。 トレセン学園にありますか?…と、言うよりありましたよね? 前のファン感謝祭で写真撮影のために利用してた事は覚えています。 恐らくレンタルだと思いますが学園の伝でキャンピングカーをお借りできたらと思いまして」

 

「ええ。 可能です…と、言うよりも、そうして頂くとむしろ助かります。 実のところ短日ではなく月間でお借りしてまして、今は使われず奥で眠っている状態なんですよ。 ちなみにいつ頃でしょうか?」

 

「次週の連休を利用してシービーに軽めの合宿を施したいです。 皐月賞に向けてもうひと磨き出来たらと考えてます」

 

「あら、それは素敵ですね。 分かりました。 ではこちらで手配の方はさせて頂きます。 あとはミスターシービーさん自身で寮長に空ける事をお伝えください。 マフTさん自身も外出届け……あれ? もしかして運転するおつもりで…?」

 

「はい。 運転します」

 

「なっ! き、危険ですよ!? まさかそのカボチャ頭を被って運転でもするおつもりですか!?」

 

「しません。 流石にその時は外します。 仮にカボチャ頭被って安全運転が出来ると真似する人が現れてしまうので、それは大変宜しくないと考えてます」

 

「そ、それはそうですが…いえ、ちょっと驚きました」

 

「自分は家に帰ったら流石にカボチャ頭くらい外しますよ? 流石にこの状態でシャワーを浴びたり、被ったまま寝たりなんてしませんから」

 

「そ、そうですよね。 でも…良いのですか? マフTさんはマフティーとしてあるために、そのカボチャで形にしている。 それを外して人の眼が入るだろう中に飛び込むのはマフティーとしての姿なのですか?」

 

「そこは対策など考えています。 なので問題ないと言えるでしょう。 まあ、仮にマフティーとしてカボチャを外してその行動を起こしたとしても、マフティーが失われる理由にはなりません。 何故ならマフティーは皆の中に残りますから。 俺と言うマフティー性は消えてしまう恐れもありますが、それでもこのカボチャを床に置く理由にはならない。 どうであろうとマフティーを果たします」

 

「そう…ですか、わかりました。 無用な心配でしたね。 マフティーなら私のことを呼び捨てにしてしまう程ですから大丈夫でしょう」

 

「…………え? 呼び捨て?」

 

 

せっかくのマフティー口調が崩れる。

 

てか、呼び捨てとは…??

 

 

「覚えてませんか? マフTさんが自身の存在を私に明かしたあの日、最後に私のことをさんを付けずに『たづな』と呼んだじゃ無いですか? ひどい人ですね。 その上秘書である私を口説こうとして…」

 

「!?…あ、あー、いや、アレはですね? ちょっと語るにしては色々と重た過ぎたと言いますか、自分自身もなんと言いますか、一度そうして濁すべきかと思いまして……その、すみませんでした」

 

「ふふふっ…マフTさんも案外不器用な人ですね。 ですがアレ限りで特別ですよ? あまりそうやって女性を口説こうとするのもよろしく無いかと思います。 あ、これ本当ですからね? 何せこの学園はウマ娘で集われています。 ウマ娘は何かと運命を感じやすい生き物です。 なのでそう言ったことに案外弱いものですから、軽はずみにそう発言してしまわぬよう気をつけてください。 もちろん仲が良い事は素晴らしいですが、その者が走り切るまではあくまで指導者と生徒の間柄でいてくださいね?」

 

「き、気をつけます…」

 

 

そうか、そうだったな。

俺はたづなさんにそんなこと言ってたよな。

 

いや、だってよ?

 

俺自身が世間的にマフティーである事を受け入れても、俺自身は憑依した一つの人格であり、マフティーである前に前任者の呪いに苦しんでいる一人の人間でもある。

 

世間的に美化されているマフティーであるが、俺にとっては誤魔化すための要素だ。

 

それもまたマフティーなんだけど、でも俺自身はこの1年間を耐えて、それで一人抱えてきた。 打ち明ける相手もなく、でも呪いのことを告げてもそこに解決は恐らくない。

 

でも何かヒントがあるならと思ってたづなさんに聞いてみた。 ある朧げな記憶。 でも手紙に書かれていたたづなさんに対しての感謝と後悔の文。 だから近くまでやってきた彼女に聞いてみた。

 

それで…まぁ、地雷を引いた訳だ。

 

言ったことに後悔はしたさ。

 

これで良かったのかも考えた。

 

でもそれとは別で伝えるべきだと思った。 あの手紙だけは前任者、唯一の正しい望みだ。 なら前任者の代わりとなった俺がそれを伝える必要はある。 ここにマフティーは介入していない。 俺の独断と弱さから始まっただけの話だ。 それでたづなさんも思った以上に前任者を気にかけていたし、それで人格の消失まで追い込んだのかと思って泣き出した。 俺はひどい男だ。

 

 

知らぬが仏って言葉がある。

 

この異常な有様はたづなさんにとってすごく不思議だったと思う。 でもいずれ気にしなくなり目の前に映るのはマフティーだけだ。 なら俺が前任者とは別の人格である事も隠し、有耶無耶に出来たんだ……俺が何も告げずに、俺だけが抱えて耐えればな??

 

けれど耐えれるのはカボチャを被ってマフティーを演じることだけ。 俺もマフティーって姿を求めなければならなかった。 そうして誤魔化すしか無かったんだ…この現状は。

 

でもそれ以外はどうだろうか?

 

マフティーでは無い俺自身が、三女神の像の前でカボチャの頭を外してしまった俺自身が、その瞬間だけマフティーであることを脱ぎ捨てた。

 

マフティーではない、憑依した哀れなオレ自身を三女神に見せた。 マフティーは仮初なんだとカボチャを外して訴えた。 けれど三女神からアクションは何もなく、たづなさんが俺の姿を見てやってきた始末。 慌てて被ったカボチャではたづなさんにマフティーを演じ切るのも半端だった。

 

だってマフティーは建前であり、そこに立っているのは俺なんだ。 でも1年間染み付かせたマフティー性があるから踏みとどまった。 俺が悲痛をあげる事は無く、変わりに前任者の痛みとこの呪いを知るためにたづなさんに聞いてみた。

 

そこにヒントは無く、泣き崩れてしまった彼女。

 

たづなさんに取って前任者は問題児のトレーナーだったのに、顔を抑えて泣いてあげた。 この人は優しすぎる。 この学園に100人か200人以上いるトレーナーの中でやや入れ込み過ぎだとも思うが、彼女は優しかった。

 

ウマ娘との間で苦しみながらも一線は越えずに、食いしばりながらトレーナーを勤めようとした独りよがりの前任者を気にかけていた。 そこから真実を聞いて泣いてしまうまでは予想外だったし、謹慎の手続きを半端強引に進めた自分が追い込んだと苦しんだ。 でもそれは違うと俺は言ってあげた。 たづなさんは何も悪くないから。

 

 

それで涙を指で拭ってから……気づいた。

 

 

__ここからどうやって慰める??

 

このまま「お前をコロす…(デデン!)」と言って指で拳銃を作れば良かったのか? え? ヒイロはそんな事言ってなければゼロは何も言ってくれない? ゼロシステムでマフティーの事を導いてくれないかなぁ……組み合わせ最悪かよ。

 

それで何を言い出したのかたづなさんも「私もマフティーになる!」と言い出した。 鳥になりたいな!って思うより危険だぞ。

__却下しちゃうんだよな!コレがぁ!!

 

それでなんとかマフティー取り繕いながらマフティーはやめておけって言ったけど、ここは鋼の意思のたづなさん。 いや、その意思はここで持たないでもろて…

 

それでまだなんとかマフティーでゴリ押すしかないと思い、美人さんがやるべき姿じゃないと告げるやり方しかその時思いつかなかった。

しかし、残念。

付け焼刃のマフティーでは流石にお粗末だった。

いや、付け焼刃のマフティーってなんだよ…

 

なので今日こうして注意を受けてしまう始末。

 

俺としてはすごく恥ずかしい。 これまでマフティーを建前にしてきたけど、マフティーを盾に口説いたのは初めてだ。 マフティーはそうじゃない。 たづなさんが美人なのは誰しもが認めるけど、でも流石にあのタイミングはマジで無いわ。 だから彼女本人から注意を受けて今やっと軽率なことに気づいた。 恥ずかしい。

 

これならまだ空気読まずにやって来てくれる筈のパリピギャルウマ娘に空気破壊して欲しかったわ。

 

けれどお前の罪は重バだからな? でも重バをなんとかするのもパリピギャルウマ娘とか、もうこれわかんねぇな。

 

 

とりあえず、たづなさんの件については経験不足故にテンパった若さ故の過ちです。

これはカミーユに殴られますわ。

あとついでにハサウェイも殴られとけ。

 

 

 

「あとマフTさん、私からもひとつトレセン学園の秘書としてお願いがあります」

 

「お願いですか?」

 

「ええ」

 

 

 

たづなさんからお願い?

 

なんだろうか?

 

 

「そのですね…? マフTさんは新人トレーナーである事は充分承知の上だと思っています。 ですが重ねてきた実績は本物であり、それ相応の力あるトレーナーであることも存じてます。 これまでミスターシービーさんが出走してきたレースは全てを1着に納めています。 G3、G2、G1と各一回ずつ出ている中で誰もが認める結果を出してきました。 あなたはトレセン学園の一端を担える一人のトレーナーです」

 

「!? きょ、恐縮です…」

 

「もう、そこはマフティーらしく堂々としてください! こほん…なのでマフTさん。 改めてトレーナーの腕を見込んでお願いがあります。

可能な範疇で構いません。

__あなたに受けてもらいたい話があります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__ 担当ウマ娘を増やすことは可能ですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンピングカーの使用許可が出たので早速出発することにした。

 

てか、女子生徒と二人でキャンピングを許されていることについて凄く気になったけど、レース出走のために遠出して泊まることとそこまで変わりないらしい。

 

もちろんたづなさんからも「くれぐれも、気をつけるように」と釘は刺されている。 もちろんマフTであり、マフティーとして信用されているので裏切るつもりはサラサラない。

 

あとせっかくのキャンピングなので楽しむことが好きなシービーと楽しむことにするのだが、運転時にカボチャの頭を外す必要がある。

 

ハイジャックじゃ無いにしろ流石に危険すぎる。 しかしカボチャの格好がマフティーたらしめる姿なので、人目が入る中で俺がそう簡単に外せるわけでもない。

 

 

なので……普通に考え方を変えた。

 

 

ハンドルを握り、首都高速を走る。

 

 

恐らくだが、ミスターシービーにとって新鮮な光景だろう。

 

 

夜の街中ってのは。

 

 

 

「おおおおお!! マフT、マフT!ねぇねぇ見て! アレ綺麗だよ!!」

 

「だな。 首都(こう)から見える夜の景色はなかなか良いと思うよ」

 

 

対策その1。

 

夜の中で運転すれば良いことだ。 人が寝静まった時間を使って移動すれば良い話であり、注目も集まらないだろう。 走っている車の数も昼間の1割以下である上にわかりづらいから、この移動時間を考えた。

 

 

対策その2。

 

実は今はカボチャ頭を外してサングラスをかけている。 夜にサングラスは危険だと思うだろうが、サングラスにも外側は濃ゆく塗られている事に対して内側からは良く見える種類はある。 あと大きめのマスクも付けている。 ゴールドシップの知り合いであるオルフェーヴルってウマ娘が色んなマスクを付けていたのでそこら辺は参考にした。

 

ちなみにミスターシービーにはカボチャ頭を外したサングラスとマスクの姿は見られている。 でも恥ずかしいからあまり見ないでね?って言ったら「いいよー」と返ってきて、今は助手席には座らず後ろのベッドでくつろぎながら外を見ている。 そのかわりシートベルト甘いの怖いなぁ…

 

てか、怖くないのかな? 俺のこと。

 

視線はサングラス、あとマスクでだいたいを覆ってるから呪いの影響は無いと思うが…

 

いや、今となってはそもそも視線で怖がらせてるかも怪しいな。 けれど鏡に映った俺自身を見て背筋が凍ったからこの認識は比較的間違いでは無いと思うのだが、本当にどうなんだろうか? かと言ってシービーや他のウマ娘に試したいとも思わないし、何か誤ってひどい惨事を招くくらいなら現状維持を決めるしか無い。 そのためのマフティーだ。

 

 

「マフT、そう言えばどこに向かってるの?」

 

「奥多摩」

 

「ぇ…うそっ!?」

 

「マジ。 せっかくキャンピングカーを借りれたんだ。 だから楽しもうか、シービー」

 

「っ〜〜!! マフT大好き!」

 

「褒めてもカボチャと蟹しかでない」

 

 

キャンピングカーのベッドの上で尻尾ブンブンしながらゴロゴロ転がりまくって喜ぶミスターシービーをバックミラーで確認しつつ運転する。 微笑ましい。

 

 

そして途中パーキングエリアで休憩を挟みながら進み、シービーは珍しく写真を撮っていた。

 

彼女はそこまでウマッターやウマスタにあまり触れないのだが、撮ったものでも投稿するのだろうか?

 

少し騒ぎになるから遠征が終わってからにしてとお願いする。

 

「コレは二人だけので誰にも教えないよ」と彼女は画像を見て微笑んでいた。

 

それからキャンピングカーの中で眠りにつくミスターシービーを揺らしながら、数時間が経過。

 

朝日の中で到着。

 

まだ眠っているシービーを残してキャンピングカーから降りる。

 

運転で縮こんだ体を伸ばしながら遠くを眺める。

 

朝日に染まる奥多摩湖がマジで綺麗だった。

 

キャンピングカーの上に寝袋広げて一眠りした。

 

 

 

 

 

ミスターシービーが起きたあと空気を堪能しながらトレーニングを開始。

 

あらかじめ作っておいたトレーニングメニューを渡してミスターシービーの体作りを始める。

 

今だけは究極のごっこ遊びも無く、奥多摩にある環境を全力で楽しんでトレーニングに励むミスターシービー。 環境が変われば気持ちの入り用も変わるし、こりゃ練習効率も高いな。 またそのうち計画するか。

 

 

ああ、それにしても良いなぁ。

 

カボチャ頭さえ無ければ俺だってこの辺りで気持ちよくバイク走らせるのに、ちくしょう。

 

 

そんなこんなで充実したトレーニングを終わってから蟹鍋を作って1日が終了する。

 

 

2日目も同じようにトレーニングを行い、ミスターシービーは坂道を往復して足を鍛える。

 

休憩する時も奥多摩湖を眺めながら会話を挟んでは皐月賞に向けての思いを語る。

 

 

彼女とこんな会話をした。

 

 

 

「アタシの母がウマ娘としての名前を持っている頃…そう"トウショウボーイ"は皐月賞を走ったんだよ。 その時の映像は見たことがある。 すごくね…ギラギラとしていたんだ」

 

「…」

 

「外に膨らみながら第4コーナーを曲がり終えた直線に入ったトウショウボーイは強引にバ群から放たれるとその脚で抜き去り、5馬身近くを切り離して皐月賞を勝ち取った。 圧倒的な勝利。 その末脚はアタシも真似できるか想像できなかったけど、でもそれ以上にトウショウボーイだった頃の母の眼を真似できるかもわからなかった。 だってトウショウボーイは勝利を得るのと同時に高揚感の中で滾る感情を全力で楽しんでいたから」

 

「俺も見たさ。 あの皐月賞は圧倒的だった」

 

「今の母はすごく落ち着いていてね、当時の皐月賞のことをはしゃぎすぎた過去の栄光だとコロコロ笑うの。 でも幼い頃に一緒にその映像を見たときの母の眼は一瞬だけ…鋭かった。 いつまでもあの時の高揚感は覚えていて、それは走って楽しかった証拠なんだとアタシは知った。 だからアタシは憧れたよ…母の皐月賞に」

 

「…」

 

「マフT、アタシはアタシだけの楽しみを描くよ。 そして皐月賞を勝ち取るよ。 母…いや、トウショウボーイが走ったあのレースでアタシも描いてやるんだ。 皐月賞の中でミスターシービーは隠せない程の笑みを浮かべてゴールを切り抜ける瞬間を、アタシは描いてやる」

 

 

休憩時間を終えてミスターシービーは再びトレーニングに身を投じる。

 

この時、究極のごっこ遊びは無く、ただひたすら皐月賞の栄光を夢見て彼女は走る。

 

描くのでは無い。

 

その瞬間を夢見てミスターシービーは自分の脚を作り上げる。

 

だからそんな彼女の姿を初めて見た気がした。

 

雨の中でも構わず散歩する彼女はたまに泥を被ってカラカラと笑っているけど、今だけは汗水を垂らして疲労に堪えながら歯を食いしばり、そのジャージ姿とトレーニングシューズを汚す。

 

その姿は皐月賞を本気で目指す一人のウマ娘であり、都合よく描くだけの子供じゃなかった。

 

 

まあ、それもその筈だ。

 

こんなに景色が良い奥多摩でわざわざ想像や空想を目の前に描かなくてもすでに彩り豊かなのだから描けるはずもない。

 

だから良かった。

キャンピングカーを使ってこの場所まで来__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Z________

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

なんだ!

 

か、感じるぞ…!?

 

 

この感じ…邪気か!?

 

いや、違う…

 

 

これは純粋な視線だ。

 

視線で牽制してたトレーナーの邪気とは違う。

 

でもまっすぐ見られているような感覚。

 

 

誰か見ている??

 

どこからだ??

 

 

どこに…

 

 

 

 

「じーーぃ…」

 

 

「ちょわっ!?」

 

 

 

び、びっくりした!?

 

キャンピングカーの影に誰かいた。

 

でも隠れる気もなく、ただ見ているだけ。

 

もしや厄介なファンか?

 

確かに今はカボチャ頭だし、いつでもマフティーできる状態だ。

 

それに世間的に有名になってしまった俺のことだ、カボチャ頭を見て興味が湧くのも普通だろう。

 

しかし最近はカボチャ頭を被ってマフティーの真似する一般人が多く、そこらにマフティーがいる。 だから本物の俺を見ても偽物のマフティーだと思う人もいるだろう。

 

それに今はミスターシービーも走り込みのために近くにいないのでトレーナーのマフTとも思われず、キャンピングを楽しみにきた一般通過マフティーもどきだと考える筈だ。

 

それと驚いて気づかなかったがウマ娘かこの子。

 

しかし格好が登山する時の姿であり、リュックサックを背負っている。 つまり登山のために奥多摩まで来たことになるのだろう。 また鍾乳洞が目当てか? そこらへんはまあ良いとして…

 

このウマ娘。

 

暗がりの中に光る目は金色で綺麗だけど少し怖いなぁ。

 

 

いや、でも待てよ?

 

どこかで見たよな?

 

 

もしや、トレセン学園の…

 

 

 

「見える」

 

「……へ?」

 

「いや、見えるようで見えない。 でもあなたはあなたじゃないナニカが見える。 これがマフティー?」

 

「!」

 

 

俺のマフティーを見破った…?

 

いや、演説の中で作り上げた姿だと解釈されるなら見破られたも同然だけど。 マフティーは演技だろ? そう言われたら否定できないが肯定してやるつもりはない。 俺なら「どうだかな」とはぐらかしてやる。

 

でも目の前のウマ娘が言う『マフティー』の言葉は違う。

 

俺がマフティーとしてあろうとする"別の人格"だと言うことだ。

 

つまり"憑依"したことが知られたと言うことになる。 でもまだ確信的ではない。

 

それもまたマフティーであることで染めるしかない。 俺はマフTだがマフティーになれる存在なのだから、小娘一人に暴かれるなど許さない。

 

 

 

「…あなたも見えるのかな? 私の周りを」

 

「え?」

 

 

 

周り??

 

……ああ、なんか、いるね。

 

 

 

「薄らだけど小さいのは見える」

 

「!!??」

 

 

 

なんかすごい驚かれてるな…

 

でも、見えているんだよなぁ…

 

シービーと究極のごっこ(イメージトレーニング)遊びしてるせいからか?

 

 

 

「な、なら! これがなんなのか見えますか…!?」

 

「え? いや、特には…」

 

「っ?!……っ、そ、そうですか…」

 

 

耳が一気にシュンとなる。

 

どうやら期待してたらしい。

 

 

でも、それは見えずとも何となくわかる。

 

 

 

「だが、これはウマ娘じゃないかとは思う」

 

「!」

 

「もしかしてコレは…

__君が思い描く走りたい相手か…?」

 

「ぁ、ぁっ! あぁッ!」

 

 

 

え? え?? うぇ!?

 

な、なに?

 

こ、怖いな。

 

めっちゃ目が見開いてるし…あ、でも暗がりの中に薄らと光る金色のハイライトが強まった気がする。

 

なにそれ、モビルスーツのモノアイかよ。

 

 

 

「ふー! ただい()フティーってね! トレーニングメニュー全部終わったよ〜、そろそろ夜ご飯とか……んん? お客さんかな?」

 

「あ、おかえりシービー」

 

 

シービーが戻ってきた。

 

てか坂道の往復だったろ?

 

奥多摩は場所によっては結構坂だぞ?

 

トモが強いなこの子。

 

 

 

「あれれ? よく見たら君は、確か…」

 

「こんばんは、お邪魔してます、シービーさん」

 

「珍しいね! あ、今日はここでお散歩?」

 

「い、いえ、今日は登山で…あ、でもコレもまたお散歩のようなものですか。 はい、それで間違いではありません」

 

 

二人は知り合いのようだ。

 

学年は違うそうだ。

 

あとやはりトレセン学園のウマ娘か。

 

 

 

「あ、マフT、この子とは初対面だよね? 私と同じトレセン学園の生徒で今年の入学生だよ」

 

「はじめ、まして…」

 

 

 

頭を下げて挨拶する不思議なウマ娘。

 

黒くて長い髪が靡く。

 

 

 

「ああ、初めまして。 恐らく知ってると思うが改めて自己紹介しよう。 俺はマフT。 またはマフティーと言ったほうが有名だろうな」

 

 

「はい、一方的に存じてます」

 

 

「そうか。 それで君の名前を伺って良いか?」

 

 

「はい、申し遅れました。 私は……」

 

 

 

 

薄い金色に染まる目と、黒くて長い髪の毛。

彼女が持ち合わせる雰囲気を揺らしながら…

 

 

「 マンハッタンカフェ と申します」

 

 

彼女は小さく微笑んで自己紹介をする。

 

 

 

 

「よろしく、マンハッタンカフェ」

 

 

「はい、よろしくお願いします。 私のトレーナー」

 

 

 

 

 

 

 

…??

 

 

 

「はい?? なんて??」

 

「はい、そうです」

 

 

 

いや、聞き間違いだろうか?

 

なんか最後言われたよな?

 

そう思っていたのだが…

 

 

 

「ふーん? もしや逆プロポーズかな? マフTはウマたらしのカボチャだったと言うこと?」

 

「………え」

 

 

 

ミスターシービーに揶揄われる事で理解する。

 

どうやら聞き間違いじゃ無かったようだ。

 

 

 

 

 

つづく




あー、奥多摩また行きたいなぁ…


高等部1年
マルゼンスキー、メジロアルダン

中等部3年
ミスターシービー

中等部2年
シンボリルドルフ、パリピギャルウマ娘

中等部1年
マンハッタンカフェ、ゴールドシップなど


察しの良い兄貴は多いと思いますが、担当一人増えます。
やったねタエちゃん! 仲間が増えるよ!

ではまた


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第12話 + 掲示板

アカウント消える前も掲示板は書いてましたがこの小説で改めて掲示板書いたので初投稿です。

あ、例のBGM流して呼んでね(閃光)


収まらぬ鼓動。

 

膨れ上がり続ける高揚感。

 

やっとこの場に立てた喜び。

 

そう、ここは母が走った皐月賞。

 

パドックで抑えるのが大変だったこのギラギラ感は、ゲートに入るまで耐えられるだろうか? こんなにも楽しいでいっぱいな感情はいつ以来だろうか? 中央に来るずっと前かな、初めて地方で走ってみた時以来だろう。

 

幼い頃の憧れはゲートから放たれることで弾けたが、この皐月賞は現地入りする前からもう既にどうにかなりそう。

 

ああ、落ち着かないと。

 

後で掛かってしまうな。

 

いやいや、こまったなぁ…ふふ。

 

 

マフTはアタシのことを誰よりも強いウマ娘とカボチャ頭で頷く。

そうして完成に近づけて来たミスターシービーが弱い筈ないと確信する。

そしてどのウマ娘よりもレースの中で楽しむ事が上手な特別なウマ娘だと言ってくれた。

 

強いウマ娘じゃない。

アタシを特別なウマ娘だと言ってくれた。

 

今まで言われたことないこの言葉にアタシは困惑したけど、でも今となっては気持ち良かった。

 

もちろんマフTはアタシを誰よりも強いウマ娘だと思ってくれている。

 

レースで1着とウイニングライブのセンターを勝ち取るたびにカボチャの中で喜ぶマフTがいる。

 

センターからそんな彼を見るのはアタシの楽しみになった。

 

だがそれ以上の達成感を求めたくなる、こんなアタシの独りよがりを良しとしてくれるマフティーがいる。 そんな彼に尊重されるアタシは楽しくなった。

 

 

アタシは自分だけを考える。

 

とても身勝手で困ったウマ娘なんだ。

 

実は独りよがりのミスターシービーなんだよ。

 

 

皆には隠してそう自負してたし、諦めすらもあったけど、この気持ちだけはどうしても譲れない。

 

皆と走るのも良いけど、でもまずは自分の気持ちから始めないとアタシは走れなかった。

 

だからあまり良い子じゃないんだよアタシって。

 

けれどそれすらも理解して、アタシの中にある目的も把握して、自由気ままなミスターシービーの足並みも、描く理想も、見ているものも、紛い無く共有してくれるトレーナーはマフTだけだった。

 

彼はトレーナーのライセンスを獲得した指導者たる生き物。 でも彼はトレーナーとしてじゃなくてただそこにいた一人の人物としてミスターシービーを見ていた。 雨が降りそうな中で帰り道を心配して渡してくれた折り畳み傘は今も覚えている。

 

本当はコチラを見ていた彼が怖かった。 カボチャ越しの威圧感は背筋をなぞる様に走る。 近寄ったことでウマ娘が彼を怖がる理由は良くわかった気がした。

 

でもソレだけ。

 

今だから分かる。 彼は至って普通だった。

 

アタシの強さじゃなく、アタシの走りを見てくれたカボチャ頭に興味を惹かれたからアタシは去りそうになる彼を追いかけた。

 

その時に少しだけ寂しそうな横顔が見えたのは気のせいじゃないと思う。 彼は焦ってないフリをしていただけ。

 

スカウトのために日々一人でポツンと佇んでいたトレーナー。 アタシは彼の事を知っていた。 だから普通ならアタシの走りを見たトレーナーはスカウトに急ぐと思っていた。

 

 

けど彼はそんな事はなく疑問をぶつける始末。

 

 

__楽しそうだ。

__凄いのか?

 

 

トレーナー失格な言葉。

アスリート選手を見る眼じゃない。

ただ走っている子供を見ていた様な言葉。

 

だからアタシは彼の事が気に入った。

 

だってマフTは子供のようなアタシだけを見てたんだ。

 

 

 

 

 

〈内枠の一番人気、ミスターシービー〉

 

 

 

ゲートインしてから実況の声が聞こえる。

 

ほんの少しだけ震える拳。でもこれは恐怖心ではない。 興奮が収まらなくて慄えているだけ。

 

でもその手を見て不意に思いだす。

 

 

折り畳み傘を渡してくれた時に、ほんの少しだけ触れた指先に強くナニカが走った感覚。

 

彼に対しての恐怖心は増大すると全てを丸裸にされたような感覚を味わう。 そのままの意味だ。 身に纏う衣類は一枚もなく、そのまま無重力空間に投げ出されたような感覚。

 

しかし今なら思い出せる。

 

あそこは周りは神秘的な宇宙で包まれていた。 そこはとてもキラキラとしていて、まるでアタシの描くソレの様だった。

 

マフTはそれすらも見ていた。

 

独りよがりなミスターシービーを理解してくれた。

 

 

 

 

〈ゲートイン完了、出走の準備が終えました〉

 

 

 

 

スタート前の実況が聴こえる。

 

レース会場は一瞬だけ静かになる。

 

 

そして……ゲートが開いた。

 

 

 

綺麗なスタートを切り、でもワンテンポ遅らせて後方に位置つく。

 

 

いつも通りの追い込み。

 

アタシが得意とする作戦。

 

真正面には沢山のウマ娘がG1を走る。

 

そして皆がアタシを警戒している。

 

 

そうだね。

そうなるよね。

アタシは強いもん。

こうなる事は既に理解している。

 

クラシックに入ればこうなることも分かってる。

 

 

だから、マフTとたくさん準備(イメージトレーニング)したんだよアタシは。

 

 

 

 

「あ、あは…!」

 

アタシの母…

トウショウボーイが走り抜いたこのレースで楽しめるための準備を…!!

 

 

 

「あは、あはは…!!」

 

アタシの描く…

いや描きたくて仕方ないこのレースを存分に走り切れる準備を…!!

 

 

 

「あはっ! あはははは…!!!」

 

アタシのマフT…

またはマフティーが連れて来てくれたこのレースで楽しむ準備を…!!

 

 

 

 

「描くっ…! 描く!! アタシだけの! 楽しみをこのレースの中で!! アタシとマフTで!! アタシのマフティーとこの皐月賞で!!」

 

 

 

第4コーナーを曲がり切る。

 

まもなく直線に入る。

 

理想的なレース運びに思えた…が。

 

一つ気づく。

 

 

バ群の固まり具合に道が狭い……!

 

 

なかなかにマークがキツくて、そう簡単に勝利も楽しみも描かせてくれやしない。

 

 

アタシだけじゃ無く、皆もこの皐月賞に対する思いが強いのは共に走って理解した。

 

これがクラシック級の世界で追い込みをやる事なんだろう。

 

中央の世界でジュニア級を超えて体作りが完成して来たウマ娘達のレース。

 

簡単なはずもなく、誰よりも多く重ねて来たイメージトレーニングでも皐月賞はそれ以上だった。 マフTとたくさんをこなしても実際に走ればこうも簡単じゃないのか!?

 

 

 

いや、違う。

 

違った。

 

そんな事はない。

 

 

アタシの足なら勝てていた。

 

 

「っ」

 

 

 

 

__どうやら掛かっていたみたいだ。

 

 

 

 

隠しきれない興奮が思ったよりもアタシを急がせてしまった。

 

隠しきれない高揚感が思ったよりもアタシを走らせた。

 

これでは逃げや先行のような走り。

 

それを強引に追い込みの脚質で抑えたんだ。 むしろよくギリギリを抑えた。 コレも究極のごっこ遊びで体に沢山落とし込んだ賜物だろう。

ああ!

マフTに感謝しかない…!!

 

だけど無意識に脚を早めて、それでバ群に埋もれている事に気づいた時にはもう第4コーナを曲がり切るところだった。

 

むしろここまで体力が保っているのは、アタシがそれだけ体を作れていたことだ。

 

しかしそれを今、全てを不意にしそうになる。

 

楽しみすぎてペース配分すら忘れてしまいそうになるのはアタシの悪い癖。 練習中もマフTに言われた。 楽しみすぎる故に無意識にやり過ぎてしまうと。

 

周りが見えなくなるのと同じ理論だ。

 

ここまでの失敗は今ある体力でどうにかなっているだけで、あと一つ間違えればアタシは1着を描けなくなる。

 

 

っ!

 

しかしここからはイメージトレーニングとは何ら関係ないミスターシービーとしての強さを発揮するタイミング。

 

根性の強さだけが競い合う泥臭い戦いの始まり。

 

だが中山の直線は短い。

 

 

溜め損なった脚で間に合うだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___ シービー

 

 

 

 

 

 

 

観客席の先頭にいた。

 

 

「ぁ」

 

 

いつもなら控え室で待っている彼がそこにいる。

 

今回も控室に居ると思った。

 

これまでカボチャ頭が目立つ故に仕方なく控室からアタシのレースを見ていた彼。

 

少しだけ寂しかったけどアタシも納得して控え室から彼に見守って貰っていた。

 

それだけでも力になっていた。

 

今となっては有名になったためもう関係ないのだろうけど、それでも少し居心地悪そうにしているマフTにほんの少しだけクスリと笑える。

 

 

でも、この皐月賞で走るアタシを近くで見ているマフTの姿が目に入る。

 

 

走りながら思い出す。

 

 

奥多摩の遠征で皐月賞の思いを告げて、それを静かに聞いてくれたマフTの優しさ。

 

 

トウショウボーイが走るレースに憧れて出走したいこの気持ちは、これだけは絶対に独りよがりじゃないことを伝えて「そうか」とそのカボチャ頭で頷いてくれた。

 

 

マフTがアタシの走りを観客席の 先頭 で見ている。

 

 

なのに今のアタシは 先頭 にいるか??

 

 

いや、いやいや…!

 

こんなのミスターシービーじゃ無い!!

 

 

アタシは!

 

未だ後ろの方で燻っているんだよ…!!

 

 

マフTのウマ娘として!!

 

 

 

 

「ッッ!」

 

 

 

 

こんなレース、今は楽しくない…!!

 

 

嫌だ、負けるのは絶対ッッッに嫌だ!!

 

 

アタシ"だけ"が負けるなら良い。

 

 

それなら今日も楽しかったで、終えられる。

 

 

でもこのレースにマフTがいる。

 

 

マフTがこの皐月賞にいるんだ。

 

 

ここには二人三脚で走ってきたんだ。

 

 

彼が、そこにいるんだよ!

ミスターシービー!!

 

 

 

 

〈中山の直線は短いぞ!後続の子は間に合うか!?〉

 

 

「っ!」

 

 

 

この1年間、マフTが一緒にいてくれた。

 

だからジュニア級を楽しく走り終えられた。

 

それ以外でも沢山の楽しいを与えてくれた。

 

レースも、練習も、ダンスも、例の踊りも、カボチャ頭が一年を与えてくれた。

 

 

今ここにミスターシービーがいるのは!

マフTが居たからに違いない!!

 

描いたこの憧れを!

マフTも描いてくれた!!

 

 

だから!

 

 

だから…!!

 

 

アタシは……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トウショウボーイ

同じモノを描くんだろ?

だったらさ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やって見せろよ、シービー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______ _ _ _」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

「なんと…でも、なる…!」

 

 

 

 

 

 

いや、違う。

 

 

マフTとなら!

 

 

アタシは!!

 

マフティーとならば…!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとでもなるはずだァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

直線に入った瞬間、アタシは脚を爆発させるように駆け出す。

 

他のウマ娘を強引に抜き去った。

 

 

囲まれていたそのバ群から切り抜けば…

 

見えたのはトウショウボーイと同じような光景。

 

 

そこにはアタシが望むモノが見えた。

 

 

 

「!!!」

 

 

 

 

ああ、今はすごく楽しいなぁ!!

 

これが、これが欲しいんだ!!

 

アタシはレースの中でコレが欲しい!!

 

他のウマ娘なんかよりも!!

 

アタシだけがコレを欲している!!

 

 

「ッ〜!」

 

 

 

 

_ねぇ…

 

_ねえぇ!

 

_見ている!!

 

_見ているよね!?

 

_ちゃんと! ちゃんと見てくれてるよね!!

 

_このアタシを!ミスターシービーを!!

 

 

 

 

「マフティーィィィ!!!」

 

 

 

 

 

 

〈ミスターシービー!! 1着でゴォォール!〉

〈皐月賞を制したのはミスターシービー!!〉

〈短い直線で5バ身差と切り離した走りは!!〉

〈春の冠を勝ち取るウマ娘と証明した!!〉

〈1着はミスターシービーだァァァ!!〉

 

 

 

 

 

 

 

 

その日

 

レースはアタシの中で一つの達成感を果たした。

 

数十年前にこの皐月賞で走り切ったトウショウボーイと同じ5バ身差でアタシは冠を一つ得て、ウイニングライブのセンターポジションを勝ち取って踊る。

 

 

そして観客全員に見せつけた。

 

ミスターシービーは強いウマ娘だと言うこと。

 

 

だが、それ以上にレースを楽しんだウマ娘であることも見せつけた。

 

 

それから…

 

アタシのトレーナーはマフTだと言うこと。

 

自慢できるトレーナーの元で楽しく走るウマ娘だと言うことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新聞の一枚写真にはミスターシービーの姿。

 

1着を走り切ったワンショット。

 

そこには楽しさを隠せないギラギラとした顔。

 

トウショウボーイと同じ笑みでターフを描いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ミスターシービー、皐月賞勝利】

 

1:ななしの一般観戦者 ID:BJqstbQMW

控えめに言って凄かった。

 

2:ななしの一般観戦者 ID:tgOyq4r1K

やっぱりミスターシービーなんやな

 

3:ななしの一般観戦者 ID:J0RY4wxVH

マルゼンスキーの再来じゃね?

 

4:ななしの一般観戦者 ID:QW0et9ypp

あのウマ娘は普通に規格外だからやめてもろて、そもそもクラシック級で既にトータル30バ身以上は流石に比べる対象がおかしい

 

5:ななしの一般観戦者 ID:4esZF3K0h

でもシービー掛かってたな。途中早過ぎた気がする。

 

6:ななしの一般観戦者 ID:o2wg3aERw

ペース早かったな。最後方がスタイルなのに差し並みに脚出てたわ

 

7:ななしの一般観戦者 ID:f0gWpSwNG

ごめんシービーの勝負服に目奪われてたわ。今度目を買ってくる

 

8:ななしの一般観戦者 ID:mLGALGFKu

その調子だと絶対足らなくなるからダース購入して

 

9:ななしの一般観戦者 ID:3FbRMjGAs

目奪われ兄貴はもうレース見るな

 

10:ななしの一般観戦者 ID:jVSnR2Uid

でもシービーの勝負服好きなんじゃ

 

11:ななしの一般観戦者 ID:1h7CdQ83l

わかる。シービーって感じで仕方ない

 

12:ななしの一般観戦者 ID:d1PVm5n7Z

アレマフティー提案したってマジ?

 

13:ななしの一般観戦者 ID:2rUYHijAg

トレーナーも勝負服考えるけどウマ娘の体に合わせて作るとかこれ遠回しにセクハラでは?

 

14:ななしの一般観戦者 ID:rJYC9+iAg

でもマフティーなら許されるんやろ?カボチャと目買ってくる

 

15:ななしの一般観戦者 ID:6U+wIkg34

目が奪われた奴多すぎだろ。片目瞑って後でもう片方の目で見ればええやん節約しろ

 

16:ななしの一般観戦者 ID:jc2ttEZ0H

節約するのは視力なんだよなぁ…

 

17:ななしの一般観戦者 ID:vJNv9EgxN

ワイもレース見たくて金節約したけど入れんかった

 

18:ななしの一般観戦者 ID:R8sybs/mU

だってミスターシービーの出走レースだろ?入りたいなら現地入りは3日前しろ

 

19:ななしの一般観戦者 ID:KUFZZDgpL

会社とゲート難なのでゆるちて

 

20:ななしの一般観戦者 ID:FoMqr1ZZv

シービーやっぱり掛かってたんか?

 

21:ななしの一般観戦者 ID:l8/v96N/8

過去のレースと見合わせたら足運び早かったわあれは掛かってたな

 

22:ななしの一般観戦者 ID:V7/mW3ta7

気持ちが行き過ぎてたね

 

23:ななしの一般観戦者 ID:JUN167pwV

他のウマ娘も行き過ぎてたから両成敗だろ

 

24:ななしの一般観戦者 ID:FR4tPYde5

シービーのハイペースに差しが追い込まれてたから後方のウマ娘が焦ってたのは確か

 

25:ななしの一般観戦者 ID:y169kgN5f

だとしたらアレって作戦でも何も無く純粋にスタミナが多くて出来たことなん?それで1着とかどれだけフィジカルあるんや

 

26:ななしの一般観戦者 ID:Yb8hVu0yF

マフティーのウマ娘だろ?そりゃマフティーしたから

 

27:ななしの一般観戦者 ID:b+kD2bcwa

マフティー(同士)

 

28:ななしの一般観戦者 ID:AFWZNfUpt

動詞の違いだろ?いや同士なんだけど

 

29:ななしの一般観戦者 ID:mqBT4ryAW

シービーも凄いけどマフティーなんやな

 

30:ななしの一般観戦者 ID:KUSp6ASHm

マフティーはクソ

 

31:ななしの一般観戦者 ID:HG16W3bCC

は?

 

32:ななしの一般観戦者 ID:c33ffZTIM

ここにもアンチおるんか

 

33:ななしの一般観戦者 ID:KOWHFPRPH

マフティー警察は反省を促されてもろて

 

34:ななしの一般観戦者 ID:Rstp7XZyZ

反省しろ

 

35:ななしの一般観戦者 ID:AH9p1ePr8

カボチャのお面でも被って反省しろ

 

36:ななしの一般観戦者 ID:Ds8PsFZSy

反省しろ(例の踊り)

 

37:ななしの一般観戦者 ID:Nv+WjnDcm

シャーマンかよ…

 

38:ななしの一般観戦者 ID:l5J/Znq0q

あながち間違いじゃねーだろマフティー。 あれってある意味宗教的な奴だろ?

 

39:ななしの一般観戦者 ID:ymU0K8rQB

年末のマフティーのコメンテーターは笑った

 

40:ななしの一般観戦者 ID:RMUqIWV2r

でもマフティーは純粋にすごくねーか?当初はカボチャ頭でわけわからんイカれた奴かと思ったけど今はすごい人気だろ?皐月賞通してまた盛り上がるし

 

41:ななしの一般観戦者 ID:dmlsuXBtf

カボチャ嫌いなワイ、カボチャ食べれるようになったからマフティーってすごいわ

 

42:ななしの一般観戦者 ID:xAEiT/+jd

トレーナーとしての腕は最高クラスだろアレは。全部1着だし

 

43:ななしの一般観戦者 ID:OYJ6sYQMn

ミスターシービーが強いだけ

 

44:ななしの一般観戦者 ID:RLbflHCMW

強いだけでG1レースは取れますか?(小声)

 

45:ななしの一般観戦者 ID:xOH3AghCv

G3でもやべーのにG1で5バ身差勝利とか中山でそうそうできるわけ無いんだよなぁ

 

46:ななしの一般観戦者 ID:lOWVxfyU2

かかってペース崩しても5バ身で勝てるのはそれだけ対策して来たからだろ?相当体に叩き込まないと出来ないぞ

 

47:ななしの一般観戦者 ID:/+9KwIPNY

反復練習的なのか?

 

48:ななしの一般観戦者 ID:43h2RDe5v

生き物って結局反射的衝動で動くやん?それがレースになるとそこに従うんや。しかもレースのように熱くなるとそれに逆らう理性って相当鍛えんと無理

 

49:ななしの一般観戦者 ID:/JhkZ8WCE

クラシックでやる事なんかコレ

 

50:ななしの一般観戦者 ID:m/SmTa4OA

シービーの場合沢山練習してきたやろ。パドックみたらわかるけど仕上がってたやろ

 

51:ななしの一般観戦者 ID:VD6E8lj41

一番人気に納得やった

 

52:ななしの一般観戦者 ID:iCwMxtfaA

めっちゃ強そうだった(小並感)

 

53:ななしの一般観戦者 ID:ogQWStG7H

シニア級のウマ娘やないのに一瞬だけ錯覚した

 

54:ななしの一般観戦者 ID:JjNucm51Z

あれ相当鍛えんと仕上がらんやろ

 

55:ななしの一般観戦者 id:f8XAB8gUw

ワイ、奥多摩でシービーらしき姿見た

 

56:ななしの一般観戦者 ID:IuXoI8QAn

マ?

 

57:ななしの一般観戦者 ID:ldVJ87o8C

マジ?

 

58:ななしの一般観戦者 ID:bBjIhHjrX

奥多摩とか洒落てんな

 

59:ななしの一般観戦者 Iid:f8XAB8gUw

鍾乳洞に行ってたらシービーと坂道ですれ違っためちゃくちゃ凛々しかったで。早かったわ

 

60:ななしの一般観戦者 ID:8JQfhNKh+

坂道強いよな

 

61:ななしの一般観戦者 ID:0psGqTMGL

マニュアル車の俺に効くからやめてもろて

 

62:ななしの一般観戦者 ID:DB6X5P5LE

オートマ乗ればええやん

 

63:ななしの一般観戦者 ID:iid:f8XAB8gUw

そんで邪魔は出来んから遠目で見てたんやけどマフティーもおそらくおったで。キャンピングカーあったわ

 

64:ななしの一般観戦者 ID:uiPKjFwtC

マジか…

 

65:ななしの一般観戦者 ID:i2dtWeIa8

え? それカボチャ頭で運転してんのか?

 

66:ななしの一般観戦者 ID:6Zj1hVaLO

流石にないやろ?危ないし

 

67:ななしの一般観戦者 ID:vtq/IeOUb

マフティーだし

 

68:ななしの一般観戦者 ID:cabGuiJvv

運転手でもおるんやろ。あ、でもキャンピングやろ? ならやはり運転手とかおったら邪魔になるからマフティーが運転したんかな?

 

69:ななしの一般観戦者 ID:6i+ZEh4eB

シービー運転したんちゃうの?

 

70:ななしの一般観戦者 ID:5aoQ9rQZR

お前中等部のシービー運転とか違反やで

 

71:ななしの一般観戦者 ID:QqKmAzJpA

ほなマフティーやないか

 

72:ななしの一般観戦者 ID:iid:f8XAB8gUw

でもワイが見たからにはな? もう一人近くにおったんや

 

73:ななしの一般観戦者 ID:EPW2uQKy3

ほなマフティーやないな

 

74:ななしの一般観戦者 ID:QIr97f2Q3

もう一人?どゆこと?やはり運転手?

 

75:ななしの一般観戦者 ID:Iiid:f8XAB8gUw

いや小さかったで? ウマ娘やった

 

76:ななしの一般観戦者 ID:OhxmT5HYX

それもしかして皐月賞の時に居た子か?

 

77:ななしの一般観戦者 ID:3zqjcNEoh

なんか長い黒髪の子のウマ娘がマフティーのとなりにおったよな

 

78:ななしの一般観戦者 ID:uiTMEWwI5

え?奥多摩の話がそうならその子ちゃうん?

 

79:ななしの一般観戦者 ID:XJeM6ku24

ほなら新しい担当って事やん。 マフティー長髪すきなん

 

80:ななしの一般観戦者 ID:Sunshinegod

ウェ? マジ??

 

81:ななしの一般観戦者 ID:YfDOEc2gf

髪長いウマ娘が走ると絶対いい匂いする

 

82:ななしの一般観戦者 ID:FugS+jN3+

わかりみ。それで逃げで早いと尚いい

 

83:ななしの一般観戦者 ID:bqgADW0aP

新しい担当、マフティーと居て絶対何か起きるやろ

 

84:ななしの一般観戦者 ID:wSIDKV2jL

マフティーやからな

 

85:ななしの一般観戦者 ID:Loh2UzQvc

マフティーやし

 

86:ななしの一般観戦者 ID:tUAjsOmvW

ちな中等部で小さかったから多分まだメイクデビューとか出らんやろ

 

87:ななしの一般観戦者 ID:Hda5cU8kt

なら2年か3年後くらいか?普通に楽しみやわ

 

88:ななしの一般観戦者 id:rJYC9+iAg

そうなると目の数足りなくなるわ

これもう手とか体にもつけた方がいいんちゃう?

 

89:ななしの一般観戦者 ID:MS3KWNNDu

百目ニキ絶対生活苦しむやろ

 

90:ななしの一般観戦者 ID:KnMXJomO9

レース好きの百目ニキは草

 

91:ななしの一般観戦者 ID:n9MtKYY4t

シービーの後輩とかなにそれ燃える

 

92:ななしの一般観戦者 ID:5N0DVKPc9

皐月賞で1着とったから先輩としての威厳見せたな

 

93:ななしの一般観戦者 ID:uWCQyEB5o

シービーはそんなのこだわらんやろ。あの子結構自由気ままやで?

 

94:ななしの一般観戦者 ID:l4KwfRhtu

その割にはゴール直前の笑み見てみ、めっちゃギラギラ顔で追い抜いたで

猫味ある可愛らしい顔で見開いた猫眼とかすげー心抉られたぞ

 

95:ななしの一般観戦者 ID:vNCp3k8qj

あの表情いいよな!皐月賞で一番楽しんだウマ娘

 

96:ななしの一般観戦者 ID:afmKY+cOM

バ群を強引に切り抜けたあの表情から一転してのあの強い笑みはマジで強者だったよな

マルゼンスキーとは全然ちがう感覚

 

97:ななしの一般観戦者 ID:RrmkdVMia

マルゼンスキーなぁ…勝ち過ぎてなぁ

前に出走拒否食らって可哀想やったわ

 

98:ななしの一般観戦者 ID:QNv24Z0l3

大阪杯で当然のように1着とってから寧ろ荒れそうになったよな、レースが強過ぎで

 

99:ななしの一般観戦者 ID:BeZp74nsq

勝ち過ぎると出走拒否とかあるん?

 

100:ななしの一般観戦者 ID:BdWGNzpc1

大昔にシンザンで一度か二度あったで

シンザン推しだった若い頃の親父が同盟組んで抗議のためにURAに乗り込もうとした事あったわ

 

101:ななしの一般観戦者 ID:4aCafaV14

え?それミスターシービーもそうなるん?

 

102:ななしの一般観戦者 ID:6ssmMa7A5

可能性はない事ない

たまに負けてバランス取れば良いと思うけど

 

103:ななしの一般観戦者 ID:fMkyeJglp

負けるとかマフティーが許さんやろ?

仮にミスターシービーがURAから出走拒否食らってもマフティーがなんとかするやろ

 

104:ななしの一般観戦者 ID:BSxbuDjc8

荒れ事にならないでくれると助かるんやけどなぁ

 

105:ななしの一般観戦者 ID:iV9aXuL/v

いやミスターシービーは流石にならんやろ

マルゼンスキーが頭おかしいほど強すぎておかしすぎるだけや

逃げウマ娘だから余計にそうなるだけやで

 

106:ななしの一般観戦者 ID:+K0YHHW/S

ミスターシービーは強いけど中央ならそれ以上に強いウマ娘とか現れるやろ

マルゼンスキーのはなんというか、本人は楽しんでるだけで可哀想やけど

 

107:ななしの一般観戦者 ID:NxgyOv9Ib

誰かURAの体制もう少し緩めてくれんかな? スポーツの取り締まりと言えども選手を束縛する権利は無いやろ普通

 

108:ななしの一般観戦者 ID:hvK5TmX7R

でもそれで出走権とか失う奴もおるんやで?強すぎるやつのせいで

 

109:ななしの一般観戦者 ID:43FGTZQky

世代が悪かったで納得するしか無いやんこんなん

そもそもアスリートの世界はそう言う事やろ

URAはファンの弾圧に少し弱すぎるわ。

 

110:ななしの一般観戦者 ID:kb1Gzy7a5

弾圧つうか出走選手が出走拒否して、それで試合成立しなくなる展開が起きると金が無駄になるからや

それで回せんくなるのが痛手やで?

 

111:ななしの一般観戦者 ID:z7P6VGyAZ

うーん、この…

 

112:ななしの一般観戦者 ID:DoH/clOaY

そう考えるとミスターシービーって普通に強いだけなんやな

 

113:ななしの一般観戦者 ID:ZkDQJHGgx

マルゼンスキーの強さがおかしすぎるだけやで。

ミスターシービーにマフティーが居るとはいえレースに絶対はないから

限りなく絶対に近づけるだけで絶対にはならん

だからレースは面白いんやで

 

114:ななしの一般観戦者 ID:/s0tW/cqu

それな

ワイはミスターシービーじゃなく他の子応援してた。それでシービー倒してくれるの期待してたよ。現地は熱かったで

 

115:ななしの一般観戦者 id:rJYC9+iAg

でもシービーが強さ示して三冠とるならそれも面白いやん

仮にURAが動いてもそれだけ強かった歴史になるやろ?本人がどう思うかはその時だけど、推しがそれくらい強かったら応援してた事に誇らしくなるわ、目が足りんくなっても構わん

 

116:ななしの一般観戦者 ID:0AJ0oLw9I

ファンの鑑

 

117:ななしの一般観戦者 id:ZkDQJHGgx

百目ニキかっこよくて眼が生えるわ

 

118:ななしの一般観戦者 ID:+0r4YZgWH

あかん濡れる。自前で目薬やんこんなの

 

119:ななしの一般観戦者 ID:BLPKKkzM1

自前目薬は気持ち悪くて草

 

120:ななしの一般観戦者 ID:iE8ve8doC

2階から目薬持ってこなくて良いとか最強かよ

 

121:ななしの一般観戦者 ID:oN+KQ9oXz

最高=マルゼンスキー。つまりマルゼンスキーは目薬だった?

 

122:ななしの一般観戦者 ID:0Xkz8Um69

目の保養にはなるで

 

123:ななしの一般観戦者 ID:W+71GYXnt

アレで中等部は無理でしょ

 

124:ななしの一般観戦者 ID:0YnAp7maS

いや、もう高等部で立派なシニア級やで

 

125:ななしの一般観戦者 ID:D+W2wTG32

シニアか…最後は有マ記念くらい出て欲しいわ

 

126:ななしの一般観戦者 ID:p10SNIC8C

シービーも有マ記念出るんかな?

 

127:ななしの一般観戦者 ID:cKa2Y3WrM

わからんけど、マフティー次第

 

128:ななしの一般観戦者 ID:VyBq5qOZd

走るところ見たいなぁ

 

129:ななしの一般観戦者 ID:wxwOpyVQc

有マ記念でマルゼンスキー倒してくれたらとか思う。そしたらURAも過ちに気づくだろう

 

130:ななしの一般観戦者 ID:7hIi9y2QG

実力的に多分無理やと思うけどシービーが有マ記念でマルゼンスキー倒したらレースに絶対強者が無いことの証明になるやろうな。出来るなら

 

131:ななしの一般観戦者 ID:Q8xQtcqkQ

シービーもマルゼンスキーも有マ記念でないかなぁ

 

132:ななしの一般観戦者 ID:QRW9F+B0+

人気投票結果やねそこは

 

133:ななしの一般観戦者 ID:Edjhw+ifd

URAの過ちは、マフティーが粛正する

 

 




ミスターシービー、とりあえず皐月賞で1着。
この調子でダービもサクッと取ります(ネタバレ)

あとマルゼンスキーは史実かなりやばかったらしいですね。
「合計で61馬身…?? どういう事??(宇宙猫)」
↑調べた時の反応

とりあえずマフティーがアップ始めました。
三女神の前に、先に反省を促す対象があるらしいですね??


ではまた


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13話

誤字脱字の報告と促し、本当に助かります。
適正な文法が有りましたら全然変えてください。
作者のマフティー性(想像力)はそれなりなのに、マフティー性(国語力)がまったく足りないんですね。



日本ダービーが始まる前の事だ。

 

トレセン学園では選抜レースが開始される時期であり、各ウマ娘達はアピールのために走りを魅せる大事な時期。

 

中等部も高等部も学歴に関係なく、トレセン学園に在学するウマ娘達は己の足でスカウトを受けようと奮闘している。 そしてトレーナー達もそれぞれ磨き上げたい原石を探しに出向いているところだ。

 

取り合いな状態なので少しピリピリしているが、今の俺には関係ない時期である。

 

何せ、俺自身も1人スカウトを終えているからだ。

 

いや、これは逆スカウトと言うべきか?

 

奥多摩でトレセン学園のウマ娘とたまたま出会い、そしてなんか目をつけられて、それで「私のトレーナー」と捕まえられた。

 

ちょっぴり怖かった…

 

とりあえずシービーとそのウマ娘をキャンピングカーに乗せて奥多摩からトレセン学園に戻り、たづなさんにスカウトの件を話した。

 

選抜レースに出ていないウマ娘のスカウトに大変驚かれたが、トレーナー不足の中で1人でも多くのウマ娘のスカウトされる事は大変喜ばしい話だったのでスカウトは認可された。

 

心配はされたがマフティーなら大丈夫と言うことで問題は無くスカウトが決まった。

 

たづなさんから信頼されてるなマフティー。

あ、俺のことか。

 

当然周りからのトレーナーに驚かれた。

 

でも「マフティーだからな」とある程度は納得もされた。 それで良いのか君たちは?

 

ちなみに俺のことを未だ好ましく思わない先輩トレーナーとかから目の敵にされる。 スカウトしただけなのに本当めんどくさいな。

 

そしてスカウトも間も無くシービーの皐月賞が始まる。

 

スカウトしたウマ娘 __マンハッタンカフェを連れて皐月賞までやってきた。

 

俺は悪目立ちしてしまうため、いつも通り控室で彼女の結果を待とうかと思った。

 

だがクラシック級に入っての一冠目、これは大事なレースであり俺だけが控室に待つべきだろうか? いや、良くないと思う。

 

控室で待つことをやめて一番後方の席からでもいいから皐月賞を走るシービーの活躍を見守ろうと思ったが、マフTが現れた事で観客席はどよめきが走る。

 

そして滝が割れるように道が開いた。

 

一番前が空いてしまったのでそこまで歩き、最前列で皐月賞を見守る事にした。

 

その時にマンハッタンカフェも一緒だったので

「あれは誰だ?」「誰だ?」

「誰だ??」「あれは?」

「もしかして新しい担当か?」

マンハッタンカフェの登場にもどよめきが走る。

 

いずれ明かされる事とは言えやや面倒になることを予測しているとレース開始のファンファーレが鳴り響き、観客の視線はゲートで準備するウマ娘に。 そして皐月賞が始まった。

 

 

シービーの結果は一着だ。

 

途中かかり気味に前に出てしまい、バ群に飲まれて彼女の走りが出来なくなると思っていた。

 

遅めのスパートで差せるのだろうか?

 

心配をしていたがシービーの表情が一転。

その笑みは知っている。

トウショウボーイと同じようなギラギラを描いてシービーは走り切った。

 

それから観客に向けてシービーは指を一本立てる。 大盛り上がり。

 

ただ手の甲を観客席に向けた指の立て方だったので、まるで周りに挑発してるかのように見えたから少しヒヤッとした。 まぁシービー自身そんなつもりは無いだろうけど。

 

それから盛大にライブが行われて盛り上がりは終わった後も保たれたまま終了。

 

そして記者会見だよ。

 

もちろんカボチャ頭でご登場。

 

 

「ミスターシービーの三冠を目指している。 ならそこへ尽力するまでだ」

 

 

至って普通の会見。

 

今回はしっかりミスターシービーの話題で広がってくれたので俺はホッとした。

 

まあシービー自身は自分の噂とか記事とかグッズ販売に興味は無く、ただレースの中で楽しみを見出したいだけのウマ娘なので気にはしてないらしい。 むしろマフTが悪目立ちして良い風除けになるとケラケラしていた。 はははこやつめ。

 

てか、そもそも悪目立ちを加速させたのは商店街でマフTのことを広めたシービーなんだけどね? もしこれが計算のうちだとしたら恐ろしい。

 

あとお前もやぞパリピギャルウマ娘。 そんでもって俺はギャルに優しくされるマフティーじゃないからな? これは否定しておく。

 

 

 

「マンハッタンカフェ、まず聞きたいことがある。 君は今年デビューを果たしたいか?」

 

「特には、考えてはいません…」

 

「ならこちらで決めた通り、デビューは長くて2年後を予定する。 早くても来年だな。 今年は体作りに勤しむ。 構わないか?」

 

「はい」

 

「なら来年までに仕上げよう…と、言ってもやることは地味な積み重ねだがな」

 

「あの…私も、アレをやるんですか?」

 

「え? あー、うん。 てか、アレはだなぁ…」

 

 

 

 

「ひゃほーい! いやー! 皐月賞の再現が体に響くね! しかし…なんだなんだ? ちゃんといつも通りのロングスパートを掛ければ皐月賞を余裕で勝てたって事じゃない! あっははは! もうアタシは困ったウマ娘だなー! ははは!」

 

 

 

遠くでシービーがターフを走っているが、皐月賞で得た経験を描き、それを究極のごっこ遊び(イメージトレーニング)として再確認していた。 すごいご満悦。

 

 

 

「あー、まぁ、アレは特別なウマ娘だから出来ることであり、真似は出来ないと思っても…」

 

「7バ身でゴールですか? たしかに、驚異的なスタミナがなければ難しそうです…」

 

「いや、7バ身はシービーが驚異的なスタミナがあるからで…………待て、なに?」

 

「外から滑らかに膨れ上がるロングスパート。 凄く理想的な追い込みです」

 

「…………まさか"見える"のか?」

 

「?? はい、なんと無く、ですが」

 

「!?」

 

 

これは驚いた。

 

たしかにミスターシービーが先程行った究極のごっこ遊びは外側から滑らかに膨れ上がる理想的なロングスパートで走り、皐月賞の再現を行った。

 

イメージトレーニングの結果としてはたしかに7バ身で勝利を得た形で終えたところは視認した。

 

そしてマンハッタンカフェと同じように遠目からシービーの走りを見ていた。 同じ光景が見えていると言う事になる。 まさか…

 

 

「なぁ、本当に見えているのか?」

 

「薄らとですが、わかる気がします…」

 

 

まだ確定じゃない?

 

でも……だったら。

 

 

「シービー、クールダウン終えたら弥生賞の時の走りをしよう」

 

「え!? もう一本走っていいの!?」

 

「ちょっとだけ予定変更だ。 本当は3本までだったけど、一つ確かめたいことがある。 だからもう一本くらいは良い」

 

「やった!」

 

 

マジで嬉しそうだな?

 

まあ今日は皐月賞明けであまり体を追い込むのは怪我に繋がるので本数は減らすように言ったのだが、シービーの体を見る限りまだ全然走れそうだから許可する事にした。

 

てか本当に丈夫だなこの子?

 

追い込みウマ娘()としての強さだろうか?

 

10分ほど休憩を取ったあと究極のごっこ遊び(弥生賞の再現)を始める事にした。

 

 

「ウズウズ、ウズウズ!」

 

 

どうやら掛かっているようですね。

 

 

 

「まさか出遅れたりしないよな?シービー」

 

「身構えてる時に出遅れは来ないものさ、マフ__」

 

 

 

___ガコン!!

 

 

 

「あ」

 

 

「見事に出遅れ、ましたね」

「ほーれ見ろ、コイツ」

 

 

「あああああああ!!」ダダダッ

 

 

 

周りからしたら何もないけど、俺やシービーからしたらそこにはちゃんとゲートがあって、それで出遅れた結果が広がっている。

 

あとマンハッタンカフェも『出遅れ』と認知した辺りやはり見えているのか?

引き続き確かめよう。

 

 

 

「今、シービーはどの辺りだ?」

 

「最後方…の筈ですが、シービーを除いた後続との間は既に1バ身を詰めています。 あと、速度の出し方が滑らかと言いますか…」

 

「その通りだな。 彼女はペース配分が器用だ。 いや、それだけじゃない。 レースに於いては何事も器用に調整する能力がある。 それが究極のごっこ遊びに繋がると考えてる。 他は不器用だがな」

 

 

 

実はミスターシービーは不器用なウマ娘。

 

缶ジュースとか開けるのが下手でよくかわりに開けてあげてる。

 

一年前に渡した折り畳み傘も開く時に苦戦したらしい。

 

しかしレースにその器用さを全振りしたのか、レース運びは凄く上手であり、追い込みを得意とするウマ娘であることがよくわかる走りをしている。

 

日常的な器用のステータスをレースに注ぎ込んだ結果がミスターシービーなのだろう。

 

 

「レース運びはどのウマ娘よりも上手いですね」

 

「ああ、ほんとに上手い。 追い込みウマ娘としての必要な能力は全て備わっている。 あとは究極のごっこ遊びの中でどれだけ磨けるかだ。 正直に言えば、次の日本ダービーは1着以外あり得ないと思ってる」

 

「……第4コーナー、中団を全員抜きました」

 

「ハイペースだな。 なら見えるならしっかり見てろよマンハッタンカフェ。 アレがミスターシービーの走りだ」

 

「…」

 

 

 

何もないターフの上。

 

本当のレースのように走るミスターシービー。

 

周りからしたら緊張感を込めた走りだけに見えてしまうだろうが、俺とミスターシービーは違う。 他の人には見えない光景が見えている。

 

シービーの他にもウマ娘がそこにたくさん居る。

 

しかし表情は暗がりで見えず会話もない。

 

ただウマ娘として走るだけの存在が視界の中に浮かび、再現率高くその時に得た記憶がイメージトレーニングとして形作る。

 

 

NPCのようなウマ娘だけじゃ無い。

 

ゲートもある。

 

観客の視線もある。

 

レースの緊張感もある。

 

その中に自己投影して楽しむミスターシービーの姿がそこにある。

 

 

彼女の妄想が憧れになる。

 

彼女の空想が描きになる。

 

彼女の理想が走りになる。

 

 

究極のごっこ遊び(イメージトレーニング)と名付けたそのターフでミスターシービーは今、弥生賞の光景を浮かべてその中で走る。

 

 

そして、こんな言葉を思い出した。

 

 

 

 

 

 

固有結界

 

 

俺/私 たちにとって便利な世界

 

 

 

 

 

 

これは『ゾーン』とはまた違う話。

 

そうだな…なんというか。

ガンダムに良くある現象だろうか。

 

 

ニュータイプ同士が行うような感覚。

 

それは【誤解なく"伝わり"合う】ためのセカイ

 

 

 

分からない モノ が、分かるようになる。

 

捉えられない モノ が、捉えられるようになる。

 

理解し難い モノ が、理解できるようになる。

 

 

 

それを視覚的に共有した俺とミスターシービーの2人で作り上げることができた現象。

 

元々あった彼女のこの才能と、俺の体に刻まれた呪いが今だけ便利に働き、それが究極のごっこ遊び(イメージトレーニング)として収まった不思議な練習法。 またはオカルト。

 

しかしそれは俺がマフティーだから成立した話だ。

 

普通のトレーナーでは絶対になし得ない特技だろう。

 

俺にはマフティーと言う仮初があり、見えてるモノが違ってしまえるから出来てしまっただけだ。

 

これらが"後押し"するかの如く、始まる。

 

ミスターシービーの独りよがり(描き)にマッチしたからこそ、俺も彼女の独りよがり(描き)を見ることができた。

 

 

だから理解した。

ミスターシービーの望んでいることを。

 

だからスカウトされた。

ミスターシービーに望まれたことだから。

 

 

 

「勢いよくゴール! ふー、流石にG2、重賞レースの空気に慣れた先行策のウマ娘は強いね! でもこの緊張感はやっぱり楽しいよマフT」

 

 

「7バ身差…皐月賞と同じ、走り方ですね」

 

「やはりそう見えるか? シービー的にはどうなんだ?」

 

「うん、皐月賞と同じ感覚で走ってみた。 と、言うより弥生賞の時の走りより完成度が高くてしっくり来るんだ。 他のイメトレでも大体これなら勝てる。 前なんかメジロアルダンにも勝てたからね。 あ、マルゼンスキーは無理、アレは論外」

 

 

 

結果としてマンハッタンカフェにも見えていた。

 

いや、これは違うな。

 

言い方を変えよう。

 

彼女も"見えてしまえる"が正しいのだろう。

 

それを"後押し"するのは…

 

 

え? ふふっ そうだね 君と似たようなことだよ

 

 

「…」

 

 

 

マンハッタンカフェには"イマジナリーフレンド"が存在している。

 

他の人には見えないモノが彼女の目には見えているのだ。

 

マンハッタンカフェだけのナニカ。

 

普通の人には見えない存在、または空想。

 

しかし普通じゃない俺には見えた。

 

マンハッタンカフェの周りに浮かぶ小さなウマ娘、まるで幽霊か守護霊のように現れる。

 

しかしマンハッタンカフェはそのウマ娘と対話を取り、会話を生み出し、本当にそこにあるかのように振る舞う。

 

見えない周りからしたら不気味な事この上ないだろう。 幻覚と喋っている異端者として見られてしまう。 彼女はトレセン学園でも入学早々にその扱いを受けていた。

 

だからマンハッタンカフェは…

__寂しがっていた。

 

 

理解者がいないことを。

 

でもそれは仕方ないとしていた。

自分が普通じゃないから。

 

けれどマフティーは違う。

 

彼は普通じゃないカボチャ頭のトレーナー。

 

だから彼女は希望を抱いた。

 

たまたま出会った奥多摩で運命を感じる。

 

 

__私のトレーナー。

 

 

または…

私の(ことを理解してくれる)トレーナー。

 

それが逆スカウトの様に衝撃を与えてしまう言葉だとして、でもそれこそマンハッタンカフェの願いだった。

 

だから俺はスカウトを考えた。

 

カボチャ越しから見えるマンハッタンカフェの事が気になったから、選抜レースにすら出ていない彼女のことをスカウトしてみることを決めたのだ。

 

ミスターシービーにした事と同じように、俺はマンハッタンカフェと言う名のウマ娘を見る事にした。

 

 

 

「シービー、練習は終わりだ。 あとは好きにして良いぞ」

 

「んー、じゃあ今日は展望台まで散歩でもしようかな。 あ、カフェもくる? 今日は晴れてるよ」

 

「え、ああ、そう…ですね。

え? 今日はいつもより綺麗な筈?

そうですね、そうしましょう…ではシービーさん、私も行きます」

 

 

 

今日は解散した。

 

シービーもマンハッタンカフェを受け入れてくれてるから二人の関係に困らない。

 

いや、この場合シービーのコミュ力が高すぎてむしろマンハッタンカフェがオドオドするくらいだろう。

 

関係は悪くないと思う。

 

 

 

さて、俺も今日のデータまとめたらさっさと帰ってゲームしますか。

 

今日こそ音ゲーでハイスコア更新して『taishin』泣かして『festa』にも煽ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先輩の言う通り、良く見える夜空。

 

門限がギリギリになりそうだけど、この空は今日だけだから出来るだけゆっくりと眺める。

 

 

 

「マフT、凄いでしょ?」

 

「え? あ、そうですね。 マフTはその、なんというか、期待を出来ると言いますか…」

 

「うん、分かるよその感じ。 だってアタシもそう思ってる。 マフTならアタシの独りよがりを預けれる。 そしてマフティーならアタシの走りを見てくれる。 だからアタシにとってマフTだけだった」

 

「凄く、信頼しているんですね」

 

「うん! 凄く信頼してるんだよ。 なんというか折り畳み傘を渡された時には信頼してたんだ。 これが選抜レース前、早いでしょ? あ、アタシってもしかしたらチョロインなのかな?」

 

「わ、わかりません…」

 

「だね。 アタシもわからない。 でも皐月賞を獲れてからはミスターシービーにとってマフT以外あり得ないと思う…って、表現以上の言葉が思いつかないくらいアタシって不器用だから…

こう……マフティーだな!って感じ」

 

 

マフティーは動詞なんだろうか?

 

でもそんな感覚なんだろう。

 

キャンピングカーで「マフティーはカタチだ」と運転席にいた本人からそう聞いて、ミスターシービーからも「マフTは形だね」ってマフTに肯定していた。

 

初めて聞く人からしたら意味のわからないそれっぽい空言を吐いてるのだと思われてしまう。

 

でも私はこの意味は理解できた。

 

 

 

__勝手に解釈しろ

 

 

 

いつだったか世間にそう言った。

 

だから私は勝手に解釈して納めた。

 

マフティーは何にでもなれる。

 

でもマフティーにとっては__なんとでもなる筈だ。

 

 

私はそう捉えられた。

 

 

だって私もマフティーになってみたから。

 

いつだったかカボチャのお面を付けて鏡の前に立ってみた。 見える世界が違うとするならマフティーにとってマンハッタンカフェはどのように見えるのか? それをマフティーをカボチャの形にして求めた。

 

答えは出なかった。

 

あるのはカボチャのお面をつけたマフティーごっこをするマンハッタンカフェの姿だけ。

 

 

でも、スッと胸の中に落ちたものがあった。

 

ほんの少しだけ。 ほんの少し…笑えたんだ。

 

マフティーになったところで何もかもが変わるわけではない。 でも理解しようとするためにカボチャのお面をつけたマンハッタンカフェは、マフティーに求めようとしたんだ。

 

そこに答えがあるとは限らなくて、解決に至るわけでもない。 でも「マフティーなら」と抱いたソレは間違いなく求めて、また求めて欲しいから始まった事なんだと理解した。

 

だからトレセン学園に来た。

 

1人で寂しい私と、私にしか見えないこの"お友達"はトレセン学園にいるマフTにどう捉えられるのか。

 

見えるのだろうか?

 

それとも周りと同じで見えないのだろうか?

 

カボチャ越しからマンハッタンカフェの何を見てくれるのだろうか?

 

そう思いながらも中々マフTに近づけなかった。

 

 

だって、マフTは怖かった。

 

遠目から眺めるだけで肌がざわつく。

 

視線が合うだけで背筋が冷たくなる感覚。

 

でも皆、マフTに興味津々だ。

 

怖くても、その場から離れることはなかった。

 

慣れてからは「怖い人がソコにいる」程度の感覚で収まり、中にはマフTのカボチャ頭を取り外そうとしているウマ娘もいた。

 

ウマ娘の身体能力を相手に人間は勝てない生き物だ。 ある程度の訓練を受けたトレーナーでもウマ娘に敵うわけでも無い。

ウマ娘はそれほどに強い生き物だから、例えマフティーだろうと人間に変わりないからカボチャ頭は外せる、そう思ってるウマ娘は多い。

 

でもマフTは後ろにも目が付いてるように回避して手を掴んで静止した。

 

 

普通じゃない動き。

 

マフTは普通じゃなかった。

 

Wi-Fiに対空攻撃を行いトレセン学園全体の通信環境を一瞬だけ圏外にしてしまうゴールドシップでさえマフTを捉えることはできなかった。

できれば希望にはしたくない最後の希望であるゴルシも悉く打ち破られたことでマフTの恐ろしさはトレセン学園に再度広まる。

 

やはり近寄り難く、マフTは遠いのか?

 

ミスターシービーのように選ばれたウマ娘でなければマフTに触れることも、マフティーに求めることもできないのか?

 

 

 

 

 

そんなことはなかった。

 

 

 

_バリっチョ、アゲアゲの、ウェーイ!!

_マー、フー、ティー!! 捕まえたー!!

 

_ぐへぇェ!?! な、な、何事だ!?

_え? ……なんだ、お前か。

 

_身構えてる時に来るパリピうぇーい!

_てかホールドまで凄早っしょ!足早くね?

 

_そうだな、やや反応に遅れた。

_あと背中は危ないからやめろ罪重バギャル。

 

_ボッチプキンに言われたナイアガラしょ!

_大人しくギャルに優しくされてなよマフT〜

 

_やれやれ、コイツは……それで何か用か?

_紙を握って後ろに隠してるみたいだが…?

 

_へ?ゃ、ぁ、えと…やっぱ無し!またにする!

_あ、あと! ヘタレじゃないし! 違うから!!

 

_はぁ? なんだあのパリピギャルは…

_てか、いてて、背筋が…

 

 

 

担当でも無いウマ娘が背中にしがみつこうと突進する光景が見られた。 選ばれたウマ娘だけがマフTに触れることができる訳でも無い。

 

ただ近寄り難いくらい怖いだけ。

マフTはそれだけ。

 

彼と接触できる可能性はそこにあった。

 

流石に私がパリピのノリでやるには無理に等しいが、マフTはしっかりと受け答えをしてくれる。

 

もちろんパリピじゃなくても勇気を持って話しかけたウマ娘にはしっかりと対話を取り、色々と答えてくれる。

 

ある程度濁しながら答えて、ウマ娘に考えさせるのはマフTのやり方なんだろう。

 

でも満足げに去るウマ娘はマフTに求めて、マフティーを得たということだ。

 

コミュ力の高いウマ娘が羨ましい。

特にパリピギャル、彼女は恐れを知らないのか。

 

けれど同じウマ娘。

私にもチャンスはある、そう思った。

 

 

 

そして奥多摩で出会った。

 

出会ったのは本当に急だった。

 

カボチャ頭を付けてマフティーの真似をする登山家はいたが、私はマフTを見間違えなかった。

 

だが勇気を持って話せない。

 

わたしでは話しかけるまで足が踏み出せなかった。 元々初対面の相手とあまり上手く話せない私だから。

 

求めるだけ求めてここまでなのか。

 

眺めているだけの私。

 

けれどマフTは分かっていたかのようにキャンピングカーの影に隠れる私に振り返る。

 

できる限りポーカーフェイスを作り上げて尋ねた。

 

 

_み、見えますか?

 

_もしや浮かんでいるのはウマ娘か?

 

 

マフティーに求めた。

マフティーとしての"期待"が返ってきた。

 

私は嬉しかった。 本物はちゃんとマンハッタンカフェを見ていた。 お面を被ったマフティーごっこでは絶対に分からなかった。

 

でもここまで来れたのは私にもマフティーがあったからだ。 お面を被るような悪ふざけ染みたマフティーごっこを過程に、私はマフティーに求めるところまで来た。

 

理解してくれる人がここにいる。 それは私だけじゃ無い。 他の人には見えない私の"お友達"だって見てくれた。 マフティーの意味を込めたカボチャ越しからマンハッタンカフェを暴いてくれた。

 

 

心が騒がしい。

 

凄く久しぶりな感覚だ。

 

レースには無い高揚感はむしろ怖かった。

 

なんというか、丸裸にされたような感覚。

 

 

これは…

 

これは__支配なのか?

 

マンハッタンカフェと言う存在を掌握して、手のひらに収めて全てを暴かれてしまう。

 

ああ、怖いな。

そう言葉にすると怖い。

でも何故だろう。

凄く心地よく感じている。

むしろ理解されてるからこそだ。

そこに凡ゆる"期待"を乗せられる。

 

だからミスターシービーの気持ちがわかった気がする。 先輩の言う「マフティーなら」の意味はどのくらい解放的で、委ねられるのか。

 

ミスターシービーは自分を「独りよがりなウマ娘」と自負しながらも、マフTに寄り添うのは彼の器の大きさに甘えてるからじゃ無い。

 

例え甘えたい気持ちがあったとしても、そこに預けたい最大の意味は【ミスターシービー】ってウマ娘をちゃんと見ているからだ。

 

これが最大の理由であり、彼女の描き。

 

 

_恐ろしく身勝手なアタシ。

_マフティーで無ければ見逃していたね。

 

 

 

ウマ娘は 走り で魅せる。

 

そして周りは魅せられる。

 

 

でもマフTは走る ウマ娘 を()ていた。

 

周りとは違っていた、そう聞いた。

 

 

分かる。

それは私も同じだった。

 

【マンハッタンカフェ】と言うウマ娘をマフTは捉えてくれた。

 

それが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

 

だから内心落ち着かない気持ちを無理やり抑えつつ言ってしまった。

 

 

_私のトレーナー。

 

 

いま考えたら凄く恥ずかしくてたまらない。

 

でも止められない。

 

マフTだけは譲れない。

 

だってここにいるのはマフティーだから。

 

 

 

でも…

 

 

 

「私は良いのかなって、思ったりもします…」

 

「カフェ?」

 

「先輩が言う通り、マフTはすごい人です。 ですが…」

 

「それ以上は言わなくても分かるよ。 アタシだってそう思ってたから」

 

「え?」

 

「アタシはね、自分だけの楽しいを優先するウマ娘なんて中央で活躍する資格なんてあるのかなって、思ってた。 そんなウマ娘がマフTほど大きな影響力を齎せるトレーナーの担当として走って良いのか何度も考えた。 だから何かの情動でマフTに手放される事を考えると…凄く怖かった」

 

 

あまり見せない表情。

 

耳は垂れ落ちて、その気持ちはどれだけ苦しいかを表現させる。

 

 

「だから色々頑張っちゃった。 走るレースは全て1着を取ることを決めたり、マフTの前で三冠を目指すと宣言したり、ミスターシービーを見せつけた」

 

「…」

 

「でもアタシなりの妥協も出来なかった。 やはり走る上で楽しみは見出したい。 だから何度も思う……アタシは凄く身勝手だって。 けれどマフTはその上を飛び越えた。 身勝手なりのアタシを走らせる手段を。

正直に言って、ぶっ飛んでるでしょ?

"究極のごっこ遊び"って練習をさ」

 

「そうですね。 何事かと思いました…」

 

「でもミスターシービーってウマ娘を見たマフTならではの手腕。 アタシの特技を練習にして、何より楽しいを優先した。 正直に言えば中央では無い、地方か、それ以下で勝手に一人でやっていれば良いようなアタシの小汚い望み。 でも中央でそれを叶えられた。 そこに甘んじてしまうアタシはどれだけダメなウマ娘なんだと思った。

でも、マフTがさ……悪いよ。

マフTがミスターシービーを見たんだもん。

マフティーがアタシを"支配"したんだもん。

だから耐えられないよ、この幸せ…」

 

「先輩…」

 

「カフェ、だからアタシはとことんやることにした。 後悔しないようにする。 マフTと走れる間は全力でそこに甘んじる。 その過程で結果が邪魔するけど、それすらもミスターシービーとして楽しませてくれるマフTが側にいるなら、その権利はミスターシービーだけのものだ。 例えカフェが可愛い後輩だとしてもそのターフは譲れない。

だってアタシは三冠を描くと決めた。

それがマフTにとって望まれたモノで、マフティーが『やって見せろよ』とカボチャ越しで訴えるならアタシいくらでも走って答えてやるよ。

__何とでもなるはずだ

 

 

 

展望台に映る星々よりも強く滾るミスターシービーの眼は星に願うよりも、願っている。

 

それは自身にか。

 

またはマフTにか。

 

それともマフティーに対してか。

 

 

恐らく、欲張って全部だ。

 

それがミスターシービーってウマ娘なんだ。

 

 

 

「もしカフェがマフTに触れて、マフティーに期待するならそれ相応に頑張らないと…全部アタシが『描く』からね」

 

「構いません。 マンハッタンカフェである私もマフティーに求めたウマ娘ですから、先輩のようになりますから」

 

「そう。 なら、お先に__もう一つ描くよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 描く 』____そう言った翌月の事。

 

東京レース場に ダービーウマ娘 が誕生した。

 

圧倒的な速さと強さで証明し、ダービーウマ娘の称号を獲得したシルクハットを被るウマは、その中央で二本の指を空高く立てる。

 

 

冠を二つ獲得した姿を見ていた皆に。

 

そして、カボチャ頭のトレーナーに描いた自分の姿を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_次で二冠だな?

 

 

_うん、そうだね。

 

 

_緊張は?

 

 

_ほんの少しだけかな、でも大丈夫だよ。

 

 

_そっか、なら……

 

 

 

 

 

「やって見せろよ、ダービー!」

 

 

「なんとでもなるはずだ!」

 

 

 

 

 

 

レース前のワンシーン。

 

それはマンハッタンカフェの私しか知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 




「なんとでもなるはずだ!!」
↑↑マフティーたるハサウェイのセリフ

つまりこのセリフを放ったミスターシービーもマフティーだったという事ですね。 後にマンハッタンカフェも言うとなると…エモいですね。

ちなみにスカウトしたウマ娘をチームに加入させる時は口頭を告げるだけではダメです。 正式に所属するのでしっかりと『紙』に名前を記載して提出する必要があります。 この説明に深い意味はないですよ。

ではまた


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14話

感想欄にニュータイプが現れやがった…
マジでビビったんだけど…
まんまやりたいこと書かれてビックリしたわ。

あとパリピ語ってなんだよ…
難し過ぎんだろ。 全然書けねぇ…


今年も夏が来た。

 

俺にとって一番困る時期。

 

夏の暑さにて発生するイライラはマフティー性を失わせる要因の一つであり「神経が苛立つ!」とハイジャックを受けてしまう。

 

熱によって失われてしまうマフティー性は冷却スプレーや冷たい飲み物でチャージする必要があり特に忙しい時期なのだ。

 

そんな時は搭載したミノフスキークラフトで抵抗するがやはり暑さというテロリストはそう簡単に鎮圧できない。 冷たいだけに。

 

なんとかこの状態に冷戦を求めようと俺は毎日苦労している。 冷たさだけに。

 

だが、今年はほんの少し違うらしい。

 

 

 

「マフT、渋みが入りました」

 

「ありがとうカフェ、助かる」

 

「いえ、コーヒーを飲める方がいて私も嬉しいですから…」

 

 

カフェの淹れるコーヒーは美味しい。

 

ホットも良かったがアイスも劣らずだ。

 

それにわざわざアイスコーヒー用として長いストローと大きめのグラスを購入して、冷蔵庫にはいつでも作れるように氷いっぱい用意してくれる。 前はタピオカも作ってくれたし、なかなかに尽くしてくれるタイプであることがわかった。 すごくいい子で泣けてきた。

 

 

「カー、フェー、アー、ター、シー、もー」

 

「だらしないぞ、シービー」

 

「ぶー」

 

「ふふっ、すぐに淹れますね」

 

 

クーラーの効いたトレーナールームのソファーでミスターシービーはだらしなく転がっており、後輩のマンハッタンカフェにアイスコーヒーを強請り、マンハッタンカフェも楽しそうにつぎのアイスコーヒーを用意する。

 

お先にアイスコーヒーを頂いてる俺はいつも通り究極のごっこ遊びで得てきた情報をまとめ、新たなる究極のごっこ遊びを作成しているところだ。 日が落ちて外で活動しやすい時間になったら俺たちは練習を始める、それまでそれぞれ自由に過ごして良いのだが、シービーもカフェもトレーナールームで寛いでいた。

 

シービーは「マフTがいるから」と言って勉強道具や暇つぶしのライトノベルを持ち込んでいつもソファーを占領している。 それが夏になるとクーラーで快適な部屋と化すのでそのトレーナールームで過ごす頻度は増す一方だ。 そうして何かに飽きるたびに俺に話しかけてはトレーニングの事や今後のレース目標、それらとは何ら関係ないたわいもない話を広げる。

 

一応シービー達が寝住まう寮にもクーラーはある筈だがシービーはこのトレーナールームが良いらしく、俺がPCから顔を上げればソファーを占領するシービーがそこにいる。 稀に目が合わさり猫味あるその顔でニヤッと返される。 なので引き出しのにんじんチョコレートを投げてやるとシービーは顔を動かしてパクっと受け止め…れないし、成功したことない。

 

レース以外は不器用なウマ娘。

 

それがミスターシービーだ。

 

 

「シービーさん、どうぞ」

 

「んー、ありがとう。 お砂糖ある? 3本ほど」

 

「3本…」

 

「もうそれ普通に甘いジュース飲めば良く無いか?」

 

「カフェが淹れるコーヒーが飲みたいの!」

 

「黒く着色した液体に砂糖を入れて渡せばシービーはそれで良く無い?」

 

「ひどっ!」

 

「ご、ご自由に飲んでください…」

 

 

でも実際カフェの淹れるコーヒーは香りがよく渋みがあるが、その分苦味が強い。

 

砂糖を入れたくなる理由は分からないでもないが、苦くて飲めないなら無理しなくても良いだろう。

 

 

「シービーにはカフェ・オ・レが良いんじゃ無いか?」

 

「実は牛乳を切らしてまして…今日は普通のコーヒーしか淹れることが出来ません…」

 

「ああ、なるほど」

 

あ"あ"あ"あ"、一本だけじゃ苦い!」

 

「掛かっているようですね。 コーヒーで一息付けると良いですが?」

 

「う"ぐ、そうす…あ"あ"あ"あ"、やっぱりにがい!!」

 

「無限ループって怖くね?」

 

 

ミスターシービーじゃなくミスター渋い(シービー)な彼女はともかくとして、俺たちにコーヒーを淹れてくれるカフェも基本的には寮で篭っていることは多く、コーヒーを淹れてのんびりと部屋で過ごしている。

 

しかしこのチームに入ってからはこのトレーナールームで過ごすことが多くなり、シービーと同じく勉強道具や小説を持ち込んだ。 更にコーヒーを淹れるための機材や煎るための豆も持ってきてカフェ専用のコーヒースペースが設けられている。

 

それから自分のために淹れたコーヒーは時間をかけて嗜み、テーブルで勉強したり小説を読んだりしている。 そんなカフェの姿は中々様になっている。

 

あとカフェにしか見えなかった筈の"お友達"は何故か俺にも見えているので、実のところPCの席から顔を上げて担当ウマ娘を見渡すと3人分見えている訳だ。 まあ基本的にカフェのイマジナリーフレンドはボヤけているのでその表情はよくわからない。 だがこちらと視線が合う感覚はカボチャ越しに伝わるので、カフェのイマジナリーフレンドと目が合えばその子は首を傾げたり、耳をピクピクと動かして反応する。

 

それにしても生きてるように見えるんだよなぁ。

 

最近はボヤけ方も随分と落ち着き、イマジナリーフレンドのフォルムが定まるとやはりウマ娘なんだと理解してからはウマ娘のように見ている。 仕草だけ見るとそこらの娘となんら変わりない。 投げ込まれる視線は気になるが基本的に無害な子だ。

 

ちなみにこのイマジナリーフレンドは現れるたびにサイズが違っている。

 

パターンは二つ。

 

一つは手のひらサイズ。 それでよくカフェの周りを無気力に浮いている。 ただいつのまにかPCの横にちょこんと座ってコチラをじーと眺めていることもある。 指で突っついてやると無気力にコロコロと転がる。 楽しんでるのか? 指に感触はないが触れた部分は一瞬だけ蜃気楼が切り別れたようになる。 ドライアイスの煙みたいだ。

 

またはカフェと同じ身長になってフラフラと動く。 今日はずっとトレーナールームの扉を眺めているようだが、俺の真横に立ってジッとこちらを観察したり、窓の外を眺めたりもする。 空いてる席に座って真上をボーと眺めたりを繰り返し、やや落ち着きない。 ただ頭に触れてやるとどこか嬉しそうにする。

 

 

__呪いが怖くないのか?

 

 

実を言えば俺は基本的にウマ娘を撫でたり、触れたりはしたことは無い。 最近は何かとパリピギャルが背中から抱きついてくることはあるにしろ、こちらからウマ娘に触れるアクションはこれまでしてきたことはない。 だが数センチ手を伸ばせば届く距離に迫られていてもシービーやカフェは俺を怖がることはもうない。 よくわからない。

 

そんな感じに未だこの呪いは解明されて無いところがある。 なので、もし触れた際に何かウマ娘にあると困るのでシービーやカフェの頭は一度も撫でたことないのだ。

 

まあ撫でられたい子は人懐っこいウマ娘くらいなので俺には無縁だろう。 シービーも特に撫でられたいとは思ってないだろうからこの辺りはあまり気にしてない。

 

しかしカフェのイマジナリーフレンドに関してはつい触ってしまい、やってしまった…と、後悔しそうになったが特に何も起きなかった。

 

イマジナリーフレンドだからなのか、本当は触れても問題ないのか? やはり呪いに対して情報が少なくて困り果てているが、それでもわかることは現状維持が一番だと言うことである。 あまり変にこちらからアクションは起こさずトレーナーを務めるだけ。

 

 

日記帳に書いてあった『大いなる栄光』

 

 

これを果たせば呪いは解かれる。

 

それを信じて俺はシービーに ___ 縋る。

 

本当…嫌になる。

 

俺はそのためにウマ娘を育てたい訳じゃない。

 

なんというか…最近はトレーナーとしてウマ娘を育てるのは楽しく感じている。

 

全身全霊を駆けるウマ娘の姿を見るのは心が躍るようになった。

 

 

ここに来たばかりの頃は…まぁ酷かった。

 

心底必死で、マフティーを仮初に振る舞って正常なフリを続けて、俺自身を騙してきた。

 

実のところ何度か家で吐いていた。

 

ひどくしんどかった。

 

どうにかなりそうだった。

 

あたまがおかしくなりそうだった。

 

体のツボを押して和らげようと必死になる。

 

それでも「マフティーなら…」と、俺自身を守るために作り上げた設定、なんなら人格といっても過言ではないだろうこの虚栄心にしがみつきながら俺は乗り越えてきた。

 

普通なら首でも締めてこの現状から俺も前任者のようにこの世を去ってしまいたくなるだろうが、それでも何故なのかはわからない。 脳裏には作り上げただけの存在のマフティーが訴えかける。

 

 

 

_なんとでもなるはずだ。

 

 

 

マフティーだった"ハサウェイ"はある意味独りよがりで、子供を捨てきれない愚者(大人)だった。

 

でも、信じた。

 

マフティーの名前の意味と、その大きさを。

 

だから俺も マフティー を信じた。

 

そして信じた結果、世間はマフティーに対しておかしく動くも俺は今もこのカボチャ頭と共にマフTと言う名のトレーナーとして続けている。 なんなら影響力も与え始めていた。

 

いつしか心に余裕が持てた事で落ち着き、風除けとして使っていた仮初のマフティー性も今となっては武器となった。 マフティーに認められた気がしたからだと思う。

 

いや、違うな。

訂正しよう。

 

マフティーは認めるとかじゃない。

コレはそうではない。

 

マフティーは過程であり目的である。

 

そしてそこに必要なのは…

 

 

 

子供を捨てきれない大人のような__純粋さ。

 

 

 

言わば"そこまで"をがむしゃらに出来るかどうかの話だ。

 

 

愚か者でも良い。

 

身勝手でも良い。

 

独りよがりでも良い。

 

求めることに意味があり、求めた上で手を伸ばすその働きに意味がある。

 

火星の王を夢見たあのキャラクターも同じ。

最後は一人の団員を守り、命を絶った。

当然の報いと、優しくない現実。

どこからどう見ても奴は愚か者だった…けれど、何もかもを求めたからこそなんだと思う。 結果論なんていつでも述べれる。 結末の最適解なんてどうでも良い。

 

そうするか、そうしないか。

この2択だけの話。

 

だったら選び取れる愚か者(選択)でも構わない。

 

俺は俺で愚か者を背負い、俺は独りでよがる。

 

マフティーに訴えられた通りにこのカボチャ頭で「なんとでもなるはずだ」とマフティーに意味を込めて俺自身はトレセン学園のマフTをするだけだ。

 

 

……脱線しながら長々と話したが、コレはそうしてきた覚悟の証ということ。

 

そしてそれは今も続き、マフティーとして定まっている。

 

 

それで、何が言いたいかと言うとだ。

 

俺も状況把握しながら冷却スプレーの用意も出来るくらいに落ち着き、このマフティー性も夏の暑さと戦いつつも安定している。 気持ちも整理がつき、ウマ娘の世界でマフティーとして足掻く覚悟も原作並みに決まっているつもりだ。

 

だからマフティーとしてではない俺の気持ちも考えた。

 

 

__トレーナーは楽しい。

 

 

乗り越えるだけの手段…と、言うにはトレーナーとしてやるしかなかったからいままでそうしているが、いつしか気持ちの整理がついて余裕が持てた頃にスッと体に入り込んだこの気持ちに疑いもなかった。

 

呪いの力を利用したインチキなのは紛れもない事実だが、それでもウマ娘と切磋琢磨してゆくこの時間は何というか…その、心地が良い。

 

皆可愛らしい女の子だから心が躍る理由もあるだろうけど、トレーナーとしてウマ娘と二人三脚ターフを踏みしめるこの職業はなかなかに漲るのだ。 恐らく俺はこの仕事を楽しんでいるんだろう。 そしてこの業界で愚かながらもマフティーとして振る舞うことに力が入り、それすらも含めて今が楽しいで溢れている。

 

もちろんやっていることは前任者が残した負の遺産から解放されるための足掻きであり、カボチャ越しから世界を眺めなければならない苦痛である。

 

マフティー補正でどうにかしてるとはいえ、マフティーを知らない者からしたら狂っている。 だから前任者は自分じゃない自分を望み、そして引っ張られてきたのがマフティーを知る俺なんだろう。

 

 

 

 

前任者(ひと)が犯した過ちは

マフティーが粛正する___ために。

 

 

 

 

 

やはり、どこまでもマフティーなんだな。

 

俺って。

 

 

 

「あ、そういやさ、強化合宿どうしようか?」

 

「強化合宿?」

 

「チーム"名"を持っているところは合宿に出ることは可能らしいけど、俺たちは無いからなチーム名。 なので個人で動く必要がある」

 

「え……と、言うよりチーム名が無いとダメな理由って何?」

 

「あー、なんというか…すごく下らないぞ? 金のある中央の癖して俺も納得いってない」

 

「?」

 

「そのな、昔からの習わしとか、続いてる伝統とか、先人が昭和のノリで作り上げた面倒なナニカなんだよね。 無名がでしゃばるなとか…そんな感じ」

 

「なにそれ!? 意味わからない!」

 

「俺も納得いってない。 前に会議で話したんだ、無くしませんかって? もちろん理事長にも話した。 けどあの人も年でな、動くのが遅くて今年は無理だった…」

 

「…」

 

「ここって変なところで実力主義だ。 それでチーム名ってのはトレセン学園から認められた証であり、お認めになられてないチームに割く必要はないと口論になったんだ。 なんのための強化合宿だよって思うんだけど、まぁ変わらなかったよね。 今年は諦めろってな」

 

 

職会で思い出す。

 

体制を変えられずに終わった俺をニヤニヤと見る先輩トレーナー。

 

特にマフティーが心底気に入らない奴らだ。

醜い……連邦軍かな?? そう錯覚しそうになった。

 

 

「まぁそんな感じにこの実力主義のトレセン学園では権限振り回してしまえる体制なんだよね。 だからなれない新人トレーナーは居心地悪くてやめるし、担当のモチベーションにつながらないし、悪循環で人手不足につながる。 たづなさんが来て多少マシになったらしいけど、それでも俺たちが週二回程度、なんなら一回しかプール使えないのもソレが原因だったりする…って、生徒の君たちに言っても仕方ないよな。 すまない」

 

「ううん、アタシも聞いたことある話だからある程度知ってたよ。 マフTが言ったことで確証につながっただけ…

だからシンボリルドルフは会長になって変えたいって言ってたのか……

 

 

そんでもってたづなさんに謝罪を受けてしまった。

 

不自由にしてしまったことに…

 

 

「でも気に入らないね。 それならマフTこそチーム名を貰うべきでしょ? マフTのウマ娘であるアタシは二冠だよ」

 

「わ、私はまだ特に……すみません」

 

「カフェは謝る必要無いさ。 さて…さっきも話したがチーム名を貰うにも条件がある。 トレセン学園側として重賞を取ったウマ娘を複数輩出した実績を持つトレーナーである事と、もしくは5人以上を担当して全員がメイクデビューを済ませていることが条件だと設けている。 これさえ果たせばそのトレーナーはチーム名を授かる権利を受けられるわけだ。 その先で担当が4人以下になろうと実績を残せるトレーナーとして許されるんだよ」

 

「かみ砕いていえば"信頼"が必要って事でしょ?」

 

「その通り。 シービーはよく言ってたよな『過程で結果が邪魔する』ってさ」

 

「……」

 

 

どれだけ有能でも、どれだけ実力があっても、やはり目に見える実績で認めさせた上でのし上がらなければならない。

 

最初から便利になんでも権限があり、それでいてどんな選択技を選んでも淘汰されない存在ってのはゲームの主人公だけだ。

 

現実はそう甘くない。

 

 

「…でも、アタシは認められない」

 

「シービーさん…」

 

「アタシはマフTを知ってる。 そしてマフティーも知っている。 それを描く事はどれだけ凄いかをアタシは知っているんだ。 世間がどうとか、公式だとか言うけど、アタシはそれらを認められるほどまだ大人じゃ無い。 でも、マフTは誰よりも凄いと言うことをミスターシービーであるアタシは良く知っている…ッッ!」

 

 

 

彼女は悔しそうに握りしめる。

 

怒りを持ち、そして悲しそうに顔を顰める。

 

 

 

「でも、それでも認めさせる方法をトレセン学園が設けると言うなら、その条件でターフを走れと言い渡すなら…マフT、アタシ達はやるしかないよ。 もちろんカフェも」

 

「はい」

 

「だから、そのためには、まず…」

 

 

 

シービーは立ち上がるとトレーナールームの扉の前まで歩き…

 

そしてガラガラガラガラと勢いよく扉を開けた。

 

すると扉の先にいたのは尻餅をついたウマ娘が一人。

 

それも…

 

 

 

「チョ!? ま、マジ!? なんでバレンタイン(バレてんの)…」

 

 

 

そこにいたのは俺が良く知る女の子。

 

チームに入ってないにも関わらず接触率が高くて、何故か呪いによる威圧感に恐れを抱かないパリピギャルウマ娘だった。

 

 

 

「手伝え、ヘタレ在宅太陽神」

 

「ウェ!?」

 

「どうせマフTが目当てで来たんでしょ? それもわかるくらいにアピールしていて、気を引こうとしていた。 めちゃくちゃオープンキャンパス(オープンなキャラなのにパス)してるでしょ、このヘタレ」

 

「ヘ、ヘタレじゃないから!!」

 

「いえ、どう見てもヘタレでしたね」

 

「ぐえッ、後輩(カフェ)にも言われた…マジマイケル(泣ける)

 

 

するとミスターシービーはそのウマ娘の手を掴んで部屋の中に入れると扉を閉め、鍵をかけた。

 

確保されたウマ娘も鍵の音に悲鳴をあげて怯え始めた。

 

え??

マジで何してんのシービー??

 

 

「マフTは言ったよね? 戦いは数だよって」

 

「ま、まぁ、似たようなことは言ったけな…」

 

「だったらメンバーを増やして、このチームにも名前が貰えるようにしよう。 そのためまずこのヘタレギャルにいい加減応えてやらないとね」

 

「へ、ヘタレじゃないし!マジだし!」

 

「だったらそろそろ、そのしわくちゃになり始めた『紙』をマフTに渡したら?」

 

「!」

 

 

見てみると確かに何か持っていた。

 

 

「…どう言うこと?」

 

「すごく簡単な話。 このヘタレはマフTのチームに入りたくてずっとアピールしてんだよ。 でも中々勇気出せなくて、それでひっつき虫してるだけで満足しようとしてた。 アタシもカフェも遠目から眺めてたし、知ってたけどいい加減鬱陶しくなってきたから決めさせることにした」

 

「ぅ…」

 

 

耳が元気なく萎れる。

 

どうやらシービーの言う通りらしい。

 

そうなると。

 

 

「君はスカウトされたいと言うことか?」

 

「ぅぇ!!? ぁ、ぁ、ぅ、ぃゃ、その…ウチは……ええと…」

 

「……」

 

「その……ウチは…」

 

 

 

俺は立ち上がる。

 

そしてそのウマ娘の前までやってきた。

 

少し怯え始める。

 

けれどそれは呪いに対しての恐怖心ではなく純粋にこの状況に対しての恐怖心だ。

 

 

 

「チームに入りたいのか?」

 

「…………」

 

 

少し泣きそうになるパリピギャルウマ娘。

 

いつもの調子はなかった。

 

 

「…言い方を変える。 入ってくれないか?」

 

「ッ!? い、いい…の? ウチが入って…?」

 

「構わない。 ダメとは一言も言ってない」

 

「っ、その…ウチだよ?」

 

「どういうことだ?」

 

「だって、こんな凄いトレーナーに、ウチが入るんだよ? …マジ、無くない? こんなウマ娘がマフTのウマ娘なんて、わ、笑えるっしょ? 笑える…なくない?」

 

「どうしてそうなる?」

 

「!」

 

「君はパリピ、俺はマフティー。 それだけだろ?」

 

「ぁ…」

 

 

俺はパリピギャルから握りしめていた紙に目をやって手を伸ばして、胸元まで持ち上げる。 手のひらを優しく開いてパリピギャルウマ娘から何回も握りしめたくらいにしわくちゃになってしまった、チームへ加入するための大事な紙を受け取る。

 

これは本来生徒が容易く手に入れれるモノでは無く職員が管理しているもので、一体どこから手に入れたのかは知らないが、彼女はしわくちゃにしながらも何度も閉じて開いた跡を残していた。

 

俺はその紙を持って机の前に歩き、そしてペンを取り出すと慣れたように名前を書いて、最後は判子を押してファイルの中にしまった。

後でたづなさんに持っていくべきだろう。

申請するにはしわくちゃ過ぎる紙なので新しい紙で書く羽目になるだろうが…関係ない。

 

このしわくちゃの紙で通してやるさ。

 

 

 

「ぁ、ウチ…」

 

「君とは会うけどまだちゃんと自己紹介はなかったな。 初めまして、俺の名前はマフT。 またはマフティー」

 

「ぁ、ども…」

 

「さて…君がこの場所に来てマフティーを求めると言うならマフTは歓迎する。 そうでないのなら後ろの鍵はもう空いている。 そのまま何事もなく去ると良い」

 

「ッ、っ、良い…の? ウチのような変なパリピが、マフTってすごいトレーナーの元で走っても、マジで良いの?」

 

マジ

 

「!!」

 

 

尻尾がピーンとなり、元気の無かった耳が伸びてピクピクと動く。

 

どうやら彼女の顔色は良くなったようだ。

 

そして安心したようにも見える。 では仕切り直そう。

 

 

「もう一度聞こう。 恐怖を乗り越えマフティーを求めてこの場に来たのならマフTは拒まない。 そのかわり君の名前を君自身から聞かせて欲しい。 自身が抱える名前は"覚悟の証"だからな」

 

「!!……あ、は、はは、なんだ、そっか…簡単だった、えへへ…ウチ、ダサすぎ案件っしょ、マジ」

 

 

ほんの少しだけ流れそうになっていた涙を指で拭って、呼吸する。

 

そしてそこにいたのは俺が良く知るパリピギャルウマ娘だ。

 

 

 

「マフT! ウチはバイブス上げ上げのパリピ系ギャルティクウマ娘! カボってるマフティーに教えるウチのフォーエバーな名前は!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダ イ タ ク ヘ リ オ ス

 

 

 

マジでよろよろよろれいピッピー!

ってな感じで! これからオナシャス!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏にフォーエバーなウマ娘が加入する。

 

彼女の持ってきた覚悟の証をたづなさんに渡した。

 

正式に加入が認められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

G

 

U

 

N

 

D  ダイタクヘリオス new‼

 

A

 

M  マンハッタンカフェ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 




短編のつもりだったのにそこそこの長篇になりそう…
まぁいつものことだよな、うん。

さて G U N D A M で誰が入るかな?
まぁ、ある程度予想できるだろうけど。
(てか U はどうしようかな… ←今のところ無計画)

それよりいろんなところに反省を促す必要が出てきましたね。
はやく やよい理事長 就任してください。

ではまた


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15話

GUNDAMの流れで多くの感想が来てましたね。
多すぎて全部返せる気がしない。本当にすまない。




夏休みが終わり、秋が到来する。

 

強化合宿に向かった面々はそれぞれ満足のいく仕上がりを残しながら日焼け跡を作って帰ってきた。 ウマ娘達の成長も伺える辺りちゃんと強化合宿してきたようだ。

 

 

ちなみに俺達は特に何もしなかった。

 

個人で合宿にも遠征にも出ず、なんなら8月の後半で約10日分は練習もせずにそれぞれのんびり暑さを凌いでいた。

 

例えば俺はオンラインゲームに没頭していた。 フレンドの『taishin』や『Festa』とランキング上位を目指すために毎日5時間くらいぶっ続けでゲームしたりとクーラーの効いた部屋で贅沢にだらしなくしていた。 しかしあまりにもぐうたらし過ぎてたせいでカボチャ頭で2頭身になる夢を見た。 UMAのトレーナーからUMRのトレーナーになるところだった…

 

 

あとミスターシービーは相変わらず散歩と散歩で、たまにランニングをしたりプールで涼んだりと勝手にリフレッシュしていた。 同室で後輩のシンボリルドルフと買い物に出かけたり、外出のその先で二冠ウマ娘としてファンサービスを行ったりと彼女なりの夏休みを楽しんでいた。

 

 

逆にマンハッタンカフェはあまり外出は行わず、自分で淹れたコーヒーを片手に読書を嗜みながら彼女だけのイマジナリーフレンドと会話したり、時には俺と通話だけ繋いでインドアを楽しんでいた。 あとコーヒーの事になると話が長くなることはわかった。

 

それでダイタクヘリオスは夏休みの宿題に一つも手を付けてなかったため追われる、自業自得なパリピの罪は重バとして発表された。 出走遅れ気味なダイタクヘリオスのために後半は暇をしていたマンハッタンカフェが読解力で手伝ってあげたりと、たまにヘリオスから写メで問題集全体が送られてくるので仕方なく答えを書いてあげたりもする。

ちなみにヘリオスはカフェの1年先輩です。

チィ!情け無い奴め!!

 

そしたらシービーも残りの宿題を片付けようとカフェとヘリオスの勉強会にエントリー、勉強場所として使っていたトレセン学園のカフェテリアで中等部の1年と2年と3年の3人が揃って勉強会が始まり、家の中で干し南瓜系2頭身になりそうな俺と通話を繋いだりと平和である。

 

そして最終日はトレセン学園のカフェテリアに在宅ヘリオスしていたヘリオスに顔を出して夏休みの勉強を一気に終わらせる。 夏休みの勉強を乗り越えた達成感に涙目のヘリオスから「まふてぃぃぃありがとぉぉぉ」と思いっきり抱きしめられた。 力加減下手で絞められた両腕が痛かったし、それを見て揶揄ってくるシービー、どこかジト目のカフェ、最後は慌てだすヘタレは少しやかましかったがトレセン学園は今日も平和ですと言う事にした。

まあどうであれパリピギャルの罪は重バとする。

 

 

そんな夏休みは昨日でおしまい。

 

俺はカボチャ頭を被り、トレーナースーツを着こなして出勤する。

 

すると…

 

 

「?」

 

 

トレセン学園へ出勤したのだが大きな帽子を被った子供が正門の前でうろついていた。

 

生徒でも無ければトレセン学園の関係者とは思えない格好。

 

いや俺もカボチャ頭で人のことは言えないが、とりあえず不審者のライン手前まで来ているのでその子供に声をかける…前にこちらへ反応して驚かれた。

 

 

「驚愕ッ!? まさか本当にカボチャ頭のトレーナーがいるとは! ぐぬぬっ! なんと言うことだ! それほどに中央は廃れて無法地帯になったと言うのか!!」

 

 

 

あ、うん、なんか、ごめん。

 

でもカボチャ頭に関しては許してくれない?

 

俺だって好きで被ってんじゃ無いんだよ。

 

 

「粛清ッ!! やはりこの私が代わって全てを手直しするのだ!! それよりも…ぅぅ、たづなぁ! たづなぁ! お迎えはまだなのか!?」

 

「あ、もしかしてたづなさん? それならお送りしましょうか?」

 

「なんと!? いや、しかし…このような見知らぬ者に…いや、でも…ぐぬぬ」

 

 

なんか忙しい人だな?

 

とりあえず携帯を開いてたづなさんにメッセージを飛ばした。

 

すると『すぐに向かいます!』と返ってきたのでそれを伝えてあげた。

 

 

「有情ッ!! もしかしてお主は良いトレーナーなのか!?」

 

「良いかどうかは分かりませんがたづなさんのお知り合いだと言うなら放ってはおけませんね」

 

「感謝ッ!! お主からはなんとも言えないプレッシャーを感じるが良い人だったのだな! だから…すまない! 現トレセン学園の現状だけ聞いて色々と疑ってしまった…」

 

「現状…ですか?」

 

「う、うむ、その……あ、いや、何でもない。 これは極秘だった! ぐぬぬ、そうだ! ここで私と会ったことは忘れるのだ! お、お主は、ええと! うむ! トレーナーとして今日の勤めを果たすと良いぞ!」

 

 

いやいや、この子は一体何様なんだろうか?

 

しかしトレセン学園を気にしているようだ。

 

どこからかの派遣? もしくは監査か?

随分と可愛らしい役人だ。

 

まぁ、あとはたづなさんに任せて良いと思って俺はトレセン学園の正門を潜ってトレーナー室に向かいながら秋に向けてのスケジュールを考える。

 

 

「とりあえず…」

 

 

ミスターシービーの三冠。

 

目標レースは G1 菊花賞。

 

なのだが、その前に俺はやることがある。

 

それは…

 

 

 

ガラガラガラガラ

 

 

 

「まーふーてぃー!」

 

 

 

そう、突進してくるダイタクヘリオスの事で…

 

へ??

 

 

「ぐえっ!」

 

「おはおはチョリース!」

 

 

なんとか踏みとどまったが、脇がいてぇ…

 

 

「ヘタ、リオス、お前ぇぇ…」

 

「はぁ!? へ、ヘタレじゃねーし!」

 

 

ウマ娘パワーは強すぎるから気をつけてくれないとダメージがやばい。

 

 

「げっほ……てか、授業どうした?」

 

「うーん………サボり!!」

 

「夏休み明けから何やってんだ、行ってこい」

 

「はーい!」

 

 

そう言って去っていくダイタクヘリオス。

 

せっかく夏休みの宿題頑張って終わらせたのに初日から頑張りを不意にする気かな?

 

やれやれ。

来年は手伝ってやらないぞ?

 

 

「それと…」

 

 

チラリと何もない椅子を見る。

 

他の人からしたら見えないナニカ。

 

でも俺は薄らげながら見えている。

 

 

「カフェのイマジナリーフレンドもおはよう。 相変わらずそこが好きなんだな?」

 

『__』<おはよう、マフティー

 

「ああ、俺はいつも通りだよ。 スケジュール見直ししつつ、今日はダイタクヘリオスのメイクデビューを考える」

 

『__』<来年が好ましい

 

「そうだな。 たしかに来年でも遅く無い。 シニア級の時期は縮まるが栄光を取るなら遅くも無いさ。 けど…本人の強い希望だからな」

 

 

 

 

_ウチ、こんなウマ娘だからあまりトレーナー達から関心持たれなくてね、スカウトも無くずっと燻っていたヘタレでね……あはは…笑えるっしょ?

 

_でも、パリピってもウチはうまうまのウマ娘だから走りたいし、ノリとか抜きに運良くギリギリ中央のターフ踏めるくらいはヤレたし、何より大舞台でパリったいからやって来た。

 

_けどこんな(なり)だから、勉強の成績も悪くて、いざ始まる選抜レースもパッとしなくて、これ以上はノリだけで誤魔化せないからへらへらと笑うくらいで、その…気にしないふりをしてた…

 

_で、でも! ウチは本当は中央でも輝けると思ってる! あ、あのね! すごく身勝手なのは承知! けどウチの全てを見てくれたらヘリオスとして応えれる筈! ウチは少なからずそう思ってる!

 

_不真面目をやめれないウチはとんでもない傲慢だけど! でもマフTに走りを見て欲しい! ヘリオスを見て欲しい!

 

_お願いマフT! ウチは本当は凄いって証明するから! だからこんなウマ娘でも! マフTが走らせて! マフTなら見てくれるって思った!

 

_だ、だから!!

 

_お願い…ッ……します!!!!

 

 

 

 

 

ぎこちない標準語。

 

矛盾だらけの独白。

 

隠しきれないほど身勝手すぎる願い。

 

中央を無礼(なめ)たような不真面目さ。

 

震えながら頭を下げてダメな姿を売り込む。

 

子供にしては子供すぎる甘い考えだろうか。

 

 

_それなら最初から真面目に頑張れば良いだけの話。

 

 

恐らくみんなにそう言われてきて、みんなからそう思われてきたのだろう。

 

それでもパリピとしての個性は辞められない。

 

性格上勉強は苦手だったが、走りだけはなんとかギリギリトレセン学園に通用したウマ娘。

 

けれど彼女は………"まもなく"だった。

 

 

ダイタクヘリオスの成績データを見た。

 

 

彼女は "底辺" も良いところだった。

 

勉強は赤点ギリギリで、たまに授業は抜け出すような問題児。

 

ノリと勢いが強すぎる故か浅はかな考えをしている生徒と思われて、やや危険視されていた。

 

走りだけは唯一ダイタクヘリオスを繋ぎ止めれる力があり、中央で活躍する可能性だけは雀の涙ほどながら存在していたため、まだ咎められることはなかった。

 

けれど彼女は警告を受けた。

 

走りで結果を"出さない"上に、生徒として成績不良を続けるならダイタクヘリオスの籍は置けないと。

 

問題児として当然の処遇だ。

 

それは(前任者)も似た話。

 

学園側としてはむしろ正しい判断だ。

 

ならそれを撤回させるにはどうするべきか?

 

ここは実力主義だ。

 

結果さえ出せば大体何とかなる。

 

俺もそれは実感している。

 

それはダイタクヘリオスも理解していた。

 

 

 

「本当に、笑っちゃうほど身勝手だ」

 

『__』<実際舐めてるよ

 

「まあ…そうだろうな。 でも仕方ないよ。 誰しも『そうしてしまう』ってのは少なからず抱えている。 俺だってマフティーを抱えた。 なんならシービーだって同じだ」

 

 

まず自分が楽しむ事を考える。

 

そんな『描き』を作り上げる。

 

こんなミスターシービーを見てくれるトレーナーを求めていた。

 

けれどスカウトされる側、またはスカウトしてもらいたい側としてトレーナーに妥協すればその脚で重賞だって走れる上に、 自分の理想を描ける筈だった。 そうすれば簡単だった。

 

けれどミスターシービーは捨てなかった。

己のその身勝手さを。

 

そうでなければミスターシービーじゃないと拘っていた。

 

 

_ミスターシービーのアタシを見てね、マフT。

 

 

ただ速い脚を持つミスターシービーでは無い。

 

楽しみを見出したいミスターシービーを見た。

 

 

 

 

「ならダイタクヘリオスも同じだろ? パリピってるウマ娘はダイタクヘリオスって名前で、そんな自分を走らせてくれるトレーナーを探す身勝手さ。 俺からしたらミスターシービーと何ら変わりないな」

 

『__』<どうであれ身勝手

 

「それはそれで可愛いじゃないか? 意味を込めた自身を、それを大事に守りたい姿はとても健気だ。 だから彼女達は背負った名前で走れるんだと思う。 だってウマ()ってそうだろ?」

 

『__』<少しわからない

 

「なに、これはマフティーとしての感性だよ。 マフティーって名前にも意味があるからな。 だから彼女達がわかる。 あとは…そんなものだと納得するんだ。 そしたら何とでもなる筈だ」

 

『__』<未来を見据えているの?

 

「まさか、そこまでは。 だがマフティーは求めたら応える…ってな、思ってくれ」

 

『__』<あなたこそ身勝手だ

 

「そうでなきゃマフティーなんてやってられないさ…」

 

 

 

ノートパソコンの電源を入れる。

 

ダイタクヘリオスのメイクデビュー戦の申請を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9月に入った事で若干涼しくなった気がする。

 

冷却スプレーの消費量が減ったことに安堵しながら約1週間ぶりに練習トレーニングを開始。

 

シービーはいつも通り究極のごっこ遊び(イメージトレーニング)でターフを走り、それをカフェが観察することでシービーの走りを吸収する。

 

先生からお叱りを受けて遅れてやってきたダイタクヘリオスも夏休みの勉強明けからはしゃぐようにバイブスが上がっていた。

 

 

「ウェーイ!いつ見ても究極のごっこ遊びとかマジイケてんじゃん! 放課後のダブルオーごっことかよりもウマ娘らしいじゃん!」

 

「え? なにその…ダブルオーごっこって?」

 

「0時0分になると隣の教室に武力介入して昼食のダチを増やすってな感じ?」

 

「はい?」

 

「それで共食い(共に食べる)フレンズを作ってどったんバッタン大騒ぎ! 獣はいても除け者はいない!ただし漬物テメーはダメだ!何故ならウチはヘリオス!推すはあってもお酢が苦手! そんなウチはパリピの若手!

メケメケメケメケメメケメケメケメケメ!

 

「テンション高すぎ案件」

 

「まぁ! そんな感じに放課後にダブルオーで武力加入はチョー楽しいウイッシュ!!」

 

「放課後つーか、放火後だな、そりゃ」

 

「ウェーイ!ウェーイ!燃えてけェ!!」

 

 

 

 

 

トランザムゥゥゥ!!ダダダッ

 

 

CB(ソレスタルビーイング)だけにあちらでも武力加入を始めつつ楽しそうに走るシービーを背景にタブレットの画面を起動してヘリオスを手招きする。

 

タブレットを見せるとガバッと腕の中に潜り込んで背中を預けながらタブレットを眺めるヘリオスにメイクデビュー戦の日をチョンチョンと指を差して促す。

 

すると一瞬だけ静かになった。

それから「あざまる水産!」と叫びながら腕の中から出てストレッチを始める。

 

 

「既にヘリオスの走りは見てる。 ここから出来るレベルに仕上げるぞ」

 

「こんなのバイブス上げるしかないっしょ!」

 

 

尻尾をブンブンと振り回しながら屈伸したり前屈したりとバイブスを上げていくダイタクヘリオス。 いつもの調子といつものやかましさ。 マンハッタンカフェが若干引き気味だけどヘリオスはケラケラと笑いながら練習に向けてのモチベーションを上げる。

 

 

けれど一瞬だけ俺は見えた。

 

スケジュール表を見せられた時、タブレットの画面に反射して映る彼女の表情はすごく真面目だった。

 

どんなにパリピっても彼女は中央までやって来たウマ娘。

 

ターフに()ける想いはウマ1倍強いのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜ご飯の1時間前に練習は終わった。

 

シービーはそのまま散歩がてらランニングも挟んでくるとトレセン学園の外まで去ってしまい、カフェもイマジナリーフレンドと話しながら自室に戻り、ダイタクヘリオスは水を飲みながら芝の上に寝転がる。

 

俺も近くまで座って声をかけた。

 

 

「おつかれ」

 

「あははは、チョー、つらたん!」

 

「勉強漬けで1週間近く走ってないからな」

 

「いやー、その件はマジで助かりもうした」

 

「カフェにお礼は言っておけよ。 あと怒られない程度に上手くサボれるように努力しろよ」

 

「りょ!」

 

「…本当か??…あやしいな!!」シュー

 

「ぎにゃぁぁぁあ!んんんん!!」

 

冷却スプレーをカボチャ頭の中に注入する前にダイタクヘリオスのジャージのポケットに吹きかけてやると楽しそうに悲鳴を上げながらどこかに転がり、俺は転がるヘリオスの写真を撮りながらカボチャ頭に冷却スプレーを注入してマフティー性をチャージする。

 

タブレットの電源を落として冷却スプレーを振ってみる。 そろそろ中身も無くなるか。

 

冷却スプレーの補給は今月最後にしておこう。

 

 

「ねぇマフT」

 

「?」

 

 

転がり帰ってきた彼女は体を起こして語りかける。

 

気分が落ち着いたのか尻尾の揺れも大人しい。

 

一度パリピ具合を引っ込めながらも、彼女は柔らかに笑みんでいた。

 

 

 

「何で『入ってくれないか?』って言ったの?」

 

「チームにか?」

 

「うん。 押しかけるように入ろうとしていた私に負い目持たせないように言ったのかなーって、思って。 だから実は無理させたんじゃないのか、なんて…」

 

「そんな事はない。 俺は…そうだな。 君で助かったからな」

 

「?」

 

「情けない話さ。 俺は皆から怖がられている。 カボチャ頭を被った奇妙なトレーナーと思われるのは充分承知の上だ。 だがマフティーとして振る舞う事を決めた途端、怖がらせるようになってしまった。 それでも俺にはマフティーが必要だから、例えウマ娘を拒絶させてしまうような雰囲気を持ち合わせたとしても俺はマフティーを辞められない。 そう覚悟していたが…君は違ったな」

 

「!! …あっははは、なるほどね。 まぁ正直に言えば怖かったよ? マフTの威圧感がウマ娘を遠ざけようとする。 ウチも最初は近寄り難くて耳を絞っていたけど…でもでも! カボチャ頭でトレーナーとかマジで斜め上ってるし最高じゃね? ってなったんよ!」

 

「そうなのか?」

 

「マジマジ! 普通じゃないトレーナーってのがバチバチっしょ!! まぁ、その…マフT的にカボチャ頭はその目的じゃないとしても、ウチからしたらこれまでにないジャンルで突き進むマフTの姿勢がすごく気になったんよ。 そしたらあのミスターシービーをスカウトしたじゃん? めちゃん盛り上がリングって感じにバイブス上がったんよ! それですごく…こう、マフTのことが気になった、ってゆーか? そんな感じ?」

 

「ヘリオスはいい奴だ」

 

「うぇ!? ぁ、いや、そ、そんなつもりは無い…無いし? いやだってほら? ウチは鬱陶しウマ娘で、度々やりすぎては煙たがれる問題児。 でも楽しい事のために辞めらんねぇ止まらねんねぇイッツ・パリピストなウマ娘だから自己満足が優先される訳よ。 だから…スカウトの件も、結局はウチが楽しそうなマフT達の輪に入りたくて、そんな自分勝手な理由でマフティーに求めたんよ」

 

「…」

 

「ウチでも分かってん。 ココは実力主義者の集いで半端な脚と覚悟じゃ長続きしない。 この場所に居座り続けるには結果が全てだから、ウチのようなノリで許されるにも限りある。 だからこんな生半可で、バカにしたような気持ちで、中央の世界で走ろうなんて許されんやろうって、諦めてたけど……けど、マフTとミスターシービーはウチの求めてるモノを抱えて走ってたの見て、揺らんじゃった…」

 

 

そこに笑顔はない。

 

あるのは渇望の果てか。

 

そこに手を伸ばそうとする眼差しだ。

 

 

「どんなに重圧が襲いかかってもシービー姉貴は心の底から楽しそうに走って、マフTは尊重して見守っていた。 ウチはね、そのターフでウマ娘としての喜びを見た。 何度も遠くから見てたんよ。 それから重賞をとって、いつのまにか二冠になって、でもまだそれは三冠の過程で、絶対重くのしかかる栄光の筈なのにターフで笑いながら描くミスターシービーはすごく楽しそうで………すごく羨ましくて仕方なかった」

 

「…」

 

「ウチもそうしたかった。 けど段々とマフT達は高いところに行ってしまう。 だからウチなんてバカウマ娘が入る枠は無いんやって、思ってた。 でもウチはそこしか無い気がしたんよ。 ミスターシービーをミスターシービーとして走らせるマフTなら、パリピなダイタクヘリオスを走らせてくれる望みはあった。 中央でも一つの望みやった。 でも遠いと感じた…」

 

「…」

 

「そんでね、マフTが作り上げたマフティーってコンテンツがウチにとって面白くて楽しくて色々やって、それで頑張って満足しようとした。 例のダンスを踊ったり、マフティーの名前を叫んで盛り上げたりした。 そうしてマフティーに触れたら少しは近づけるかなってね。 そうして遠目から満足出来るかなって…思った」

 

「でも物理的に近づいてきたな、君は」

 

「あっははは! いやー、マジ無理ゲー! マフT見たらね! 止まらなかった! やっぱりウチはマフTなんだって尻尾グルグルエンジンアゲアゲのバイブスを抑えきれんかった! でもこの通り。 ウチは身勝手なくせに下手に身を弁えようとして、バカみたいに葛藤してはマフTにタックルして、それでも踏み出せないヘタレなパリピはどうしようもナイル川。 それで学園から在学の警告を受けてからはやはり中央では高望みかなって、やはり1番人気の諦めが1番前に出てしまった」

 

 

トレセン学園は極度の実力主義だ。

皆それを知っている。

 

強いやつには人権がある。

しかしそうじゃない奴は限られる。

 

ダイタクヘリオスは後者だ。

 

 

「でもシービー姉貴が後押ししてくれて、なんならマフTまでもが『入ってくれないか?』ってこんなパリピにも言ってくれて、それで誘ってくれてさ、もう…ウチ…は、あははは……うちは…あ、はは、は…ぅ、ぐすっ…ぅぅ」

 

「な!? なぜ泣く必要がある…?」

 

「え、えへへ、わ、わかんない、や。

あはは、だめ…なんかダサくね…?

とまらないなぁ……どうして?

ああ、でも、そっか…

思ったんよ…いいのかなぁて。

こんな底辺のウチが恵まれちゃっていいのかなぁ。

不安になる……ふぁんだよぉ、まふてぃ…」

 

 

これまで溜めてきたものが決壊したのだろうか、膝を抱えて涙を流し出す。

 

自分の愚かさを責めるように思い出して、いま後悔と不安が始まる。

 

 

でも!!

そうである必要はどこにもない…!!

 

 

 

「不安なモノか…ヘリオス!」

 

「!」

 

 

俺とヘリオス以外、誰もいないターフに声が広がる。

 

そして無意識に放ってしまう…プレッシャー

 

だが、俺は止まらない。

 

 

 

「マ、マフティー…? なんか…」

 

「あんなに握り締められてくしゃくしゃになった紙で申請したけど、ちゃんと通ったんだぞ? それだけ諦めきれなかった証じゃないのか? それだけマフティーに求めた上で願った結果だろ? ならそれで良いじゃないかヘリオス! お前の"勝ち"だろ!」

 

「!」

 

「それだけマフティーの事を求めてくれたから俺はダイタクヘリオスをスカウトしたくて『入ってくれないか?』と言ったんだ。 ならもうそれはバイブス上げまくったパリピとしての勝利だろ!」

 

 

1番人気に諦めがゴール……したつもりで、実は奥手な10番人気のヘタレパリピが1着でゴールした結末だ。 マフティー杯堂々の重賞ウマ娘だ。

 

他の奴らが文句を言ってもマフティーがそれを許さない。

 

 

 

「だが、それでも不安だと言うなら。 それでもまだそこに疑問を感じてしまうと言うのなら…」

 

「マ、マフティー? マフティー?」

 

「マフティーに選ばれたウマ娘って事を君が走って証明してみせればいい!」

 

「!?」

 

「求められたからにはマフティーとして応えてやる。 だからダイタクヘリオスも応えろ。 中央で走るパリピギャルウマ娘はマフティーに選ばれて走っているウマ娘なんだって世間に証明すれば良い!

_お前はヘリオス(太陽神)だろ!

_マフティー(王者)に並ぶ名を持つウマ娘だろ!」

 

「っ…!!?」

 

 

 

彼女は俺を選び、俺も彼女を選ぶ。

 

マフTとヘリオスはその関係だ。

 

今そう決めた。

 

 

 

「だから君は示さなければならない。 その証明として来週のメイクデビュー戦はマフティーのウマ娘として1着を勝ち取る…いや違う! マフティーのために勝ち取れ!」

 

 

「!」

 

 

「そしていつしか、今日泣いてたくらいに届かないと思ったマフティーに立ち並べたんだとバイブスを上げていくらでもパリピギャルらしく自慢しろ。 俺がそう言わせる。 マフTがそう届かせる。 マフティーがそう誇らせてやる!」

 

 

「ぁ、ぁぁあ…!」

 

 

「だから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

___やって見せろよ、ヘリオス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ」

 

 

 

 

彼女は震える。

 

でも、それは情けなさからではない。

 

 

 

 

 

 

「ぁ…!」

 

 

 

彼女は慄える。

 

でも、それは苦しいからではない。

 

 

 

 

「ぁぁっ!!……ぁ………っっ」

 

 

 

彼女は飲み込む。

 

決壊したモノを拭い、アイシャドウは崩れる。

 

だが、それすらも彼女の形にして立ち上がる。

 

しわくちゃの紙のように、震える息遣い。

 

すぅぅぅと呼吸して、こちらに振り向いた。

 

 

「!」

 

 

彼女らしい笑みをぎこちなく作り、3本指を目元に添えて…

 

 

 

 

あざまるッ、すいさん…!!(ありがとうございます!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晴天の空に明るい太陽は鬱陶しいくらいに熱い。

 

だがそれ以上にメイクデビュー戦で1着を取ったヘリオス(太陽)も鬱陶しいくらい底抜けに明るかった。

 

 

 

 

「マー、フー、ティー!」

 

 

 

パリピギャルウマ娘は手を振って笑う。

 

またほんの少しだけ流れる一滴。

けれど笑顔は絶やさず、彼女は走る。

 

 

 

そんなウマ娘を、マフティーは選んだ。

 

__誇らしく思うさ。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 




パリピなりにいろいろ考えていたと言うことでOK?

まぁ理解者がいるってホント大事だよね。
ヘタレ在宅太陽神はこれから元気に頑張ってほしい。


あといつも誤字脱字報告と促しありがとうございます!
いつも助かってます!本当に有難い限りです!!



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16話

三冠ウマ娘は伊達じゃ無い



 

 

 

「秋川やよい…さんですか」

 

「うむ! キミの事はたづなから聞いているぞ! 確かマフTと言ったな! トレセン学園の新風と聞いている!」

 

「新風かどうかは分かりませんが、これまでに無いトレーナーだと言うのならそれは否定はしません」

 

「そうだろうな! しかし、たづなも強く信頼を寄せている! ()してそのカボチャ頭も贖罪のために被ると聞いた! 何故カボチャなのかはわからないが、マフティーとしての意味を理解すればそれは分かるモノだとたづなは教えてくれた! …して、その頭とマフティーは譲れないモノなのだな?」

 

「ええ、もちろんです。 マフティーは自分にとって必要なモノです」

 

「納得ッ! キミに強い意志を感じた!!」

 

 

どうやらたづなさんは俺がこうなった経緯は隠してるようだ。

 

まあ、それもそうだよな。

てか、それでいい。

 

前任者の人格は無くなり、マフティーを演じるための俺と言う人格がこの体に宿りました…

 

とか言っても理解に苦しむだけだろう。

たづなさんの判断はナイスだと思う。

 

 

ちなみに、たづなさん自身もう前任者に対しての負い目は無く、忘れないようにすると乗り越えた。

 

__愚かながらもその人なりに頑張っていた

 

そんなトレーナーがトレセン学園に居たんだ…と、形で収まっている。

 

 

_あとは全てマフティーに任せろ。

_そのためのマフティーだ。

 

 

そう背負わせない方向に持ち込んでいる。

 

そのかわりサポートはお任せ下さいとより一層力を貸してくれるようになった。

 

たまに練習場に現れてはウマ娘が無理してないか確認している。

 

一人では気付かないことあるので遠目から見てくれるだけでも助かる。

 

俺は知識があってもこの体に経験は無いのでたづなさんのアドバイスは助かっている。

 

 

 

でも、たまに思って、考えてしまう。

 

俺の心が強かったら扱いは変わってたのか?

 

一人でマフティーを抱えて歩めたのか?

 

そんなのはわからない。

 

だが結果として、俺はそうではなかった。

 

カボチャ頭を外したことで一瞬だけマフティーを忘れてしまった俺は、俺自身を思い出す。

 

マフティーを演じない俺はそこまで強くなかった。

 

1年間抱え続けて、それで疲弊して、とうとう耐えれずにたづなさんに告げてしまった。

 

俺は前任者ではない人格だ。

そう言ってしまう。

 

 

でも今はそれが正解だったと考える。

 

これは正当化。

 

前任者に唯一残っていた良心(手紙)はこの体を貰うことになったマフティーとしての責任を持って伝えるべきだ。

 

前任者は消える前にマフティーを求めた。 その願いを聞き届けるために、俺はマフティーとしての役目を果たした。 なら、マフティーは応えるだけだ。

 

だからもう…

"お前"は気にせず、後はマフティーに任せろ。

 

俺はマフティーとしてそう飲み込んだ。

 

 

 

たづなさんに告げて、一つだけ重荷を拭う。

マフティーとしての在り方も強く定めた。

 

__ここからが地獄だぞ。

 

 

しかし、もう心は負けない。

 

それはマフティーだけではない、俺自身もだ。

 

このアプリゲームな世界を理解して、またこの世界で奮いたい理由を持ち、この世界でこの姿で歩むことを決めた。

 

ウマ娘を育てる一人のトレーナーとして、ミスターシービーを、マンハッタンカフェを、ダイタクヘリオスを、これから増える担当のために…!

 

俺はこのカボチャ頭にマフティーの意味を込めて敢然とマフティーするだけだ。

 

 

意味がごちゃごちゃしているだって?

 

ならこう捉えればいい。

 

 

 

 

これからも変わらずマフティーする。

 

ね? 簡単でしょ。

 

 

 

 

「秋川さんにマフティーとしての強い意志が伝わった事に感謝します。 もう間違いは犯さない所存でございます」

 

「反省ッ! 誰しも失敗はつきもの! 心機一転としてまた歩み直せるのならそれに越したことは無い! 覚悟ッ! キミにとってマフティーは覚悟なのだと私は見た! キミの強さはこの秋川やよいが深く理解したぞ! これからの健闘を祈る!」

 

「はい」

 

 

てか、マジでこの子はなんだろうか?

 

このトレセン学園で偉い人になるお方か?

※翌年の理事長(1番偉い人)

 

 

あと扇子に書かれている大きな二字熟語が閉じて開くたび変わっている。

 

これ純粋にすごいな。

俺の知らないモビルスーツとでも言うのか?

 

 

 

「帰省ッ!! 私はまた国外に戻る…だが! また直ぐに戻ってくるだろう! それまでこのトレセン学園を任せる!」

 

「え? あ、はい、任されまし…た??」

 

「うむ!!よろしくたのむ!」

 

 

あの、たづなさん??

あなた一体何を言ったんですか??

 

マフティーの事を強く信頼してくれるのは俺も嬉しいですけど、何かそれ以上に買い被りを起こしてませんか?

 

あのヘッドバン残念美人(乙名史記者)の妄想癖がエグザムシステム(素晴らしいですぅ!)することで過剰に受け止めてしまうのは仕方ないと理解しているが、たづなさんまでもが歯止め効かなくなるとマフティーとして少し困りますね??

 

 

「では! また会える事を祈る!」

 

「あ、はい、お気をつけて」

 

 

そうしてガラガラとキャリーバッグを引きずってタクシーに乗り込んだ秋川やよいを見送る。

 

しかし不安になり始める頭の中ではウッキー!今年は申年ィ!と全覚抜けしてそのまま覚醒落ちした時の状態で脳裏が思考を拒み始めていた。

 

 

え?

 

俺は未来で一体何をされるんだ??

 

 

 

………もしかしてマフティーダンス??

 

 

 

 

 

「いや、あの倍速結構疲れるからなぁ…」

 

 

しかしウマ娘の身体能力なら可能だったようで、去年シービーが過呼吸にされた仕返しとしてハロウィン中の商店街で例の踊りを再現度高く踊っていた。

 

踊ったのは一部分だけど、他は何かでアレンジしつつハロウィンらしさのある振り付けで盛り上げていたのは一年前の話。 あとパリピも踊ってた。

 

 

もしかして今年の秋もそうなるのか?

 

多分そうなるだろうな…

 

 

 

「マフTさん…」

 

「カフェか、どうした?」

 

「いえ、見かけたので、思い耽るあなたをずっと見てました」

 

「相変わらず人間観察が好きだな。 そんなに楽しいか? こんなカボチャ頭のトレーナー見て」

 

「はい」

 

 

断言された。

 

まぁ、ヘリオスも言ってたけどコンテンツとしては面白い方だからな、マフティーな俺って。

 

見せ物になったつもりは無いけど、こればかりは致し方ないとしか言えない。

 

 

「カフェはお昼食べたのか?」

 

「いえ、まだです」

 

「そうか。 俺は……皆の前では外せないのでお付き合い出来ない。 悪いな」

 

「いえ、大丈夫です。 マフTはマフティーとしてある為にその覚悟を脱ぐことは出来ません。 それはわたしも理解しています」

 

「でもカフェには助かっているぞ? 君が作るアイスコーヒーはカボチャ頭を外さずに長いストローで飲める。 唯一マフティー性を保ったままマフティー性を高めてくれるマフティー性ある飲料で俺好みだな」

 

「ふふっ、ありがとうございます。 まだほんの少しだけ暑い時期が続くので放課後にまたお作りします」

 

「ありがとう」

 

『__』冬はどうするの?

 

「え? んー、そうだな。 とりあえずストローは厳しそうかもな」

 

「ふふっ、そうですね」

 

 

 

そう言ってイマジナリーフレンドと会話しながら去っていくマンハッタンカフェと別れて俺もトレーナールームに戻ることにした。

 

 

 

ところでマフティー性の高い飲料って何さ……?

 

横格ブンブンで脳死寸前。

 

自分で言っててわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーム名はまだ貰えない。

 

チーム名を貰うくらいならもっとゆるい条件でも良いはずだが、長きに渡る伝統云々に厳しく、昔から染み付いたこのルールをそう簡単に変えることは出来ない。

 

だがチーム名がある事は中央にとって大きな誉なのでそれを目指そうと奮闘するトレーナーは多く、トレーナー達のやる気や目標に繋げたりと影響を与えている。 決して悪いことでは無い。

 

だが問題なのはチーム名=権力に強く繋がってしまうこと。

 

トレセン学園の場合チーム名の無いトレーナーは肩身が狭く、実力主義が重視される中央では横暴気味な先輩トレーナーに舵を捕られるパターンが度々起こっている。

 

例えば、グラウンドやプールにトレーニングルームは基本的に予約制なのだが、使用者としての優先順位はやはり地位や評価の高いトレーナーだったりする。 チーム名を授かっている実績も直結するため、入社したばかりで何も持たせない新人トレーナーは利用権を獲得し辛く、そうして省かれる事が多い。

 

もちろん俺もその一人であり、現時点でもそうだ。 いつも遅い時間にやっとグラウンドを使えるが門限の関係上で使用時間は主に1時間と短い事は良くある。

 

シービーが二冠を取ってからはマフTは成績を残せるトレーナーとして多少なりと認められているが、それでもまだ肩身が狭く行動を強制されている始末。 それもチーム名が無いだけでそうなる。

 

そのため雨の日は室内トレーニング施設を使えないことも珍しく無い。

 

先月の夏は強化合宿が始まるまでプールはほぼ使えない状態が続いていた。

 

8月に強化合宿が始まった事で半分程のトレーナーがトレセン学園から抜けてやっと自由にプールが使えた感じである。 それまで涼めない夏をしばらく過ごしていた。

 

まあ、こんな感じに実績の無いトレーナーは活動範囲が狭められる現状下、しかしここは実力主義の中央としての厳しさだと納得しなければならない。 かと言って実力主義の社会が悪いとは言わない。 大きなコンテンツを扱う世界で競争主義は必要な事だと思う。

 

しかし、方向性が良くない。

 

私欲を満たすために権力を獲得する目的は協調性が無く、いずれ反発を起こす。

 

その一端としてだ、将来有望と言われるほど成績優秀のトレーナーが狭き門を潜って中央まで来たが、トレセン学園の優しくない環境で上手くいかず、活躍もできないまま1年で中央を去ってしまう事が起きてしまう…てか、実際に起きてるらしい。

 

このトレセン学園にベテランとして長くいる東条トレーナーも何人か見てきたようだ。 サブトレーナーとして捕まえれば良かったトレーナーも何人いたようで、それで去ってしまう形にしてきたことを後悔していた。 ただでさえ人手不足が加速しているのにもったいないと悔やんでいた。

 

それなら新人にもチャンスを設けられるようにもう少し規制やら権限やら緩くして、トレーナー全体にトレセン学園の環境が行き届きやすくなれば良い…と、簡単に行動できるなら先駆者が昔から幾らでも行なっていた筈だ。 そうならないのが社会の難しいところだ。 けっこう面倒な話。

 

そうさせない者がいる。 トレセン学園に古くからいるトレーナー、あとそいつらに因んだ関係者とかだ。

 

 

 

_新人にも場を設けやすくしろ!

_もっと平等にチャンスを与えるべきだ!!

 

 

_ダメだ、今いるトレーナーで地固めを行う。

_下手に取らず、安定を取る方がマシだ。

 

 

 

どこまでが本音で建前なのかわからない。

 

だがせっかく中央までやって来た新人すらも土台として踏み潰して、今ある高みに縋り続けるのは如何なものか?

 

先駆者として、経験者として、後輩を育てる社会的義務があるだろうが、そうしない輩はチラホラといる。

 

だがそんなトレーナーでも経験豊富なので腕は確かであり、中央に存命する力があると言う事はベテランを意味する。 強いウマ娘を育て、トレセン学園やURAに貢献しているのは事実なのでソイツらを制御するのはそう容易く無い。

 

なのでそんな奴らが組織上で姿勢を変えない限りはこの環境を動かす事は難しい。

 

ならトレセン学園の全てをまとめる理事長にその現状を変えれるように頼めば良いのでは無いか? __無理だった。

 

今の理事長は風格だけは強くも、やはり歳を取ることで自然と安定を求める様になり現状維持を良しとしていた。

 

もちろん見逃せない事も多々あったみたいだがいつも行動が遅い。

 

話を聞くだけだと理事長が情けなく思えるが、老体故に昔ほどの管理力は無い。

 

現状を変えようと動いたとして、もしトレセン学園内の政策にミスを起こした場合、中央の戦力低下に繋がってしまう事態は避ける。 そのリスクがある故に理事長は現状維持を取ったのだと思う。

 

けれど俺はこれが英断とは思わない。

 

俺からしたら理事長が情けないと思う。

 

もっと早く手を打つか、そうならないための対策くらい立てるのが大きな組織を任された者の責任だろうに。 それを今からなんとかするために、トレセン学園にたづなさんが秘書として来たのだけど彼女自身も痛感してる。 正直に言えば焼石に水だ。

 

今は昔よりどうにかなっているがそれでも力不足を否めない。 いずれ未来ではまた収集がつかなくなり、たづなさんだけでは必ずキャパシティーが足りなくなってしまう。 そうなると次に被害を被るのはウマ娘の生徒達だ。 学園生活を不自由なく送ってもらわないと。 だからそこだけは絶対に死守しなければならない。

 

だからなのか、たづなさんは新人トレーナーを……まぁ、前任者のような奴でもどうにかトレセン学園で頑張って欲しくて良く気にかけているらしい。 やや入れ込み過ぎだと思うがそれだけの思いがあっての行動だろう。 トレーナーの存在がトレセン学園を支えるのだから。

 

けど支えるトレーナーの全てが良識を持ってるわけでもなく、今こうして困っている。

 

そんな訳なので新人トレーナーにとって弊害となってしまう奴らはたづなさんの抑止力があっても可能な限り権威を振る舞いつづける。

 

現時点で何も出来ないことを好機として自分が優位になるように根回しなどを行なって甘い蜜を多く啜るのだろう。

 

 

……聞くだけだとやはり連邦軍じゃねコレ??

 

でもそこまでは腐ってないし、なんなら原作はもっと酷いし、トレセン学園は善か悪かと言われたらまだ比較的善寄りだから腐り切ってはないよな。

 

ほな連邦軍では無いな…

 

けどオカンが言うにはな、腐らせようとする奴がいてそれが除去出来ないねん。

 

ほな連邦軍やないか。

 

 

「まあだからと言って、そいつらをなんとかするラプラスの箱がある訳でも無いから、まずはトレーナー達で何とかしないとダメだよな」

 

 

それでもトップがビシッと動かしてくれたら困らないんだけど、人手不足が加速している以上は現状維持が最適なんだろう。

 

あと俺はまだ恵まれてる方だと考える方だ。

 

一応これでも最低限はトレセン学園の機能を使わせて貰っている。

 

いや、だからといって最低限あるからヨシ!ってなって良い理由にはならないけどね?

 

共有施設なんだから平等に使えないとそれこそ共有じゃ無いし。

 

それに強化合宿の件は未だに納得していない。

 

そもそもマフTと担当するウマ娘のミスターシービーが二冠を取るほどで、将来的に有望な俺たちこそが強化合宿を使う権利があって良いと思う。 なのにチーム名が無いだけで抑制されるのは正直納得行かなすぎる。

 

あとこれ(のち)に知った話なのだが、ここ数年で俺よりも成績叩き出せてない先輩トレーナーが抜け抜けと強化合宿に向かったらしい。

 

しかもジュニア級のウマ娘も一緒に連れて満喫したとか?

 

 

いや、マジで(カボチャ)頭に来たよネ?

 

それならクラシック級に入ったシービーを優先して連れて行けよと神経が苛立ったモノさ。

 

お陰で紫色のオーラらしき物が体から出て怖いとパリピ語が消失したヘリオスに言われた。 怖がらせてごめん。

 

カフェのアイスコーヒーが無かったらマフティー性が即死だった。 ありがとう。

 

ちなみにシービーは「アタシにはマフTがいるからヘーキだけどね」と言って強化合宿に参加出来なかった事に関しては何も気にして無かった。 彼女のおかげでこの無力さは救われた気がした。 俺には勿体ないウマ娘だ。

 

 

まあここまで話したが、色々と不自由して面倒だけど最低限は保証されてるので頑張れていると言う話。

 

その中でチーム名が無いとトレセン学園で活動するのは厳しい現状下だよねって再確認。

 

それでも俺はミスターシービーのために三冠を目指している話だ。

 

 

 

 

 

だからさ…

 

 

 

 

「この模擬レースで倒せる算段がついてると思っているなら、とんだ愚か者だと思う」

 

 

秋川やよいを見送ったその日の放課後にメールが届いていた。

 

急な話だが翌日、模擬レースがトレセン学園内で開催される事になっていた。

 

いつもならマフTを仲間外れにしていたのだが今回は誘われていた。

 

怪しい……

 

なので信頼できるトレーナー、東条ハナさんに連絡して模擬レースの話を持ちかけると話自体は本当だと言っていた。

 

ちなみに模擬レース自体は1週間前から決まっていたらしく俺は知らなかった。

 

模擬レース自体は元々中堅レベルのトレーナーを中心に集まって模擬レースを行うようだったので、新人トレーナーにはあまり関係ない話だった。

 

しかしミスターシービーの強さは見逃せないようでマフTも誘う話になったらしく、模擬レースが開かれる前日にメールが届いた。

 

にしても開催がメールを受けた次の日にとかふざけてる。

 

それにあと1ヶ月後には菊花賞が始まり、それまでミスターシービーを仕上げる大事な時期だ。

 

例え、参加すれば経験として大きい模擬レースだとしても、下手に集まって怪我でもしたら危ないので普通なら回避するのが好判断。

 

てか、究極のごっこ遊びそのものが模擬レース紛いに経験値を重ねることができる練習なので別に改めて参加する必要もなく、俺やシービーにとって必要ではない。

 

そう考えていたが…

 

 

 

_へぇ……良いんじゃないかな?模擬レース。

 

 

ミスターシービーは参加の意思を見せる。

そのかわりやや好戦的な声だった。

 

普通なら「楽しそう」と理由にしてワクワク気味に参加するだろう。 もちろん今回の模擬レースは楽しそうだとは思っているだろうけど、シービーの雰囲気が少しだけ変わっていた。

 

それで後に知ったが、彼女も少しバカにされてると思ったらしい。 何よりマフTに対するぞんざいな扱いにちょっとだけイラっとしたようだ。

こんなシービーは初めてだった。

 

 

それで参加の最終判断は俺なのだが、ひとつだけミスターシービーに聞いてみた。

 

 

_参加の意思が強いのはどうして?

 

_皆にマフTのウマ娘は弱くないと教えたい。

 

 

俺がここで「NO」と言って参加を拒否すればシービーも「そっか」と気にしないだろう。

 

しかしこの時の彼女には「YES」と頷いて模擬レースへ殴り込みに向かいたい気持ちが強かった。

 

トレーナーとして感情に左右されてしまった判断は褒められたモノでは無い。

 

けれど俺とシービーは少なからず、周りに対して思うところはあった。

 

だから俺も考える。

 

 

_シービー、参加はするけど菊花賞が大事だ。

_だからこそタイミングが良かった…試せるな?

 

_うん、そうだね、丁度良かった。

_アタシも試したいことがあるから…

 

 

せっかくの参加だ。

なら参加した上で走りを試す。

 

それに強化合宿の参加の有無で差が縮まるとか安直なことを考えているトレーナーはいるだろう。 その考えがミスターシービーを相手に意味がないことを教えてやるに丁度いい機会だ。

 

参加を決めたその日に休みの予定だったダイタクヘリオスを呼んでミスターシービーと仕込みに入り…模擬レース当日になる。

 

姿を現せば俺のことが気に入らないトレーナー達から目線など牽制されるので、こちらも圧を飛ばせば、急いで逸らされる。 随分と弱気だな? マフティー相手にそんな惰弱で挑もうなど良く思ったものだ。

 

しかしトレーナー同士の優劣なんてのはこの場で意味がない。

 

始まるのは結果が全てとなる模擬レース。

 

 

 

「マフT、しっかり見ててね!」

 

「ああ」

 

 

 

ミスターシービーからシルクハットを預かる。

 

そのかわり彼女はシルクハットに付いていたCとBの文字を手に取る。

 

ダイタクヘリオスからお裾分けしてもらったアクセサリーの紐をCとBに通してソレを首に掛けてぶら下げる。

 

それから今日だけ目元には星の形をした小さなタトゥーシールを貼りつけて、気分はパリピ並みに好調としている。

 

2000メートルの模擬レースの外枠で出走。

 

 

 

「アタシが、アタシたちが…」

 

 

菊花賞の前哨戦として…

 

 

 

 

 

__マフティーだ!

 

 

 

 

 

 

 

ガコン!

 

 

 

 

 

 

 

「「「 「「 !!? 」」」」」

 

 

このためにわざわざ用意されたゲートが開く。

 

ミスターシービーが綺麗なスタートダッシュを決めた。

 

 

「「「 おい、まさか…!?」」」

 

 

既に何人か察したトレーナーからどよめきが走る。

 

 

「まさか…」

 

 

追い込みバは、集中し過ぎず、緊張も高め過ぎず、緩やかなスタートで良い。

 

程よく出遅らせる技術も必要とする。

 

けれど今日のミスターシービーはこれまでに無いほど集中して、場所を譲るまいと息を鋭く吸ってレースを待ち構える。

 

__身構えてる時に、出遅れは来ないものだ。

 

違和感に思った他のウマ娘はミスターシービーを一段と警戒する…が、遅かった。

 

ゲートインの時点で勝負はあった。

 

 

「おいおい、まさか掛かったのか!?」

「ふっ、初の模擬レースで緊張したわね…」

「G1ウマ娘が模擬レースで緊張するか!」

「ソイツの言う通りだ!良く見ろ!」

「まさか、あの位置は…!」

「ああ、アレは意図的な位置取りだ…!」

「くっ、これは…!! やられたか…!?」

「ほぉ、マフTの奴…なかなか頭がキレる」

「どう言うことだ??」

「掛かったのでは無いのですか!?」

 

 

トレーナーは三者三様の反応を示す。

 

それもそのはず。

 

ミスターシービーは" 先頭 "に躍り出たから。

 

 

参加していたトレーナーはシービーを見てこう言う。

 

奴の作戦は_____" 逃げ " だ。

 

 

 

「そんなバカな!?」

 

普通なら、バ鹿げてると思うだろう。

 

 

「追い込みバが逃げにシフトだと!?」

 

普通なら、リスクを背負ったやり方だろう。

 

 

「クラシック級の今でやる事かよ!?」

 

普通なら、急な脚質の変更は愚策だろう。

 

 

皆の意見はごもっともだ。

 

でもそれは皆が思う 普通なら の話だ。

 

 

ミスターシービーは周りと違うぞ?

 

 

 

「マフT、これはどう言う事?」

 

「あ、東条トレーナー、連絡の件感謝します」

 

「気にしないでいいわ。 あと辿々しさを拭えない敬語はマフTらしく無い、もういっそ辞めておきなさい。 それで…これはどう言う事?」

 

「これは厳しいな東条トレーナー。 さて、そうだな…俺としては君たちの意図はわかってる。 まずこの模擬レースは担当するウマ娘が強化合宿を超えて、強化合宿に参加しなかったミスターシービーに通ずるか試したいのだろう?」

 

「私はそんな疚しさでミスターシービーを見てないわ。 でもミスターシービーは菊花賞の壁なのは確かだ、皆がそう思っている。 だからこそ対策として強化合宿は足腰を重点的に鍛えた。 けれどこれは…」

 

「ああ、お察しのとおり。 王道を行く君たちに対して邪道を取らせて貰った」

 

 

 

ミスターシービーはどんどん皆から…逃げる。

 

CとBのアクセサリーを揺らして。

 

「戦いから"逃げる"訳ね……っ、やられたわ」

 

「合宿先にある砂浜や海での練習は自然とパワーが鍛えられ、夏の暑さで競り合いに負けないように根性も鍛えられる。 そうなると差しや追い込みに対しての突破力と足並みを合わせる時に力負けしないで済む。 砂浜は鍛えるには持って来いの環境だから、必然的にシービー対策として重点的に鍛えるトレーナーはいるだろう。 だが、そのために鍛えて来たウマ娘と勝負に付き合ってやるかは別だけどな」

 

 

アタシが後ろにいるから警戒される? なら前に出るからアタシ抜きで駆け引きしてね!

 

つまり、こう言う事だ。

 

 

「しかしマフT、あなたはこの模擬レースで担当ウマ娘を苦しめる気?」

 

「?」

 

「ジュニア級で脚質を模索するのは良い。 私も定める期間として設ける。 だがクラシック級では決めた長所を伸ばさなければウマ娘の負担が大きい。 余計な能力配分はウマ娘の力を削ってしまい怪我などのリスクを伴う。 追い込みバが逃げに切り替えるなんて危険よ…」

 

「それは承知の上だ。 けれどあくまでこれは模擬レース。 ただの調整期間であり凌ぐ時期だ。 むしろミスターシービーのことを考えた上の逃げを使ったレースだ。 それに見てるとわかる。 シービーは脚質の切り替えに苦しそうな顔してるか? むしろ……」

 

 

「あっははは! トランザムゥゥ!!

「むりー!」

「むりー!!」

 

 

 

「これまでに無いほど余裕面ね」

 

「シービーはレースだけは器用だからな」

 

 

ミスターシービーは一人でどんどん前に進み、既に先行策のウマ娘と3バ身差を作っていた。

 

第2コーナーを曲がり終えて直線に入り、ぐんぐんと前に行く。

 

ミスターシービーを対策していたトレーナーは焦りを隠せず、そのつもりは無かったトレーナーもこの奇行に驚きを隠せない。

 

また走るウマ娘達も"いつも通り"後方に位置付くミスターシービーをマークして警戒する予定だったが、それとは真逆の展開に焦りを生み出し、思考とペースが崩れて追いつこうと必死になってしまう。 今となってはクラシック級で走るウマ娘であることを忘れて皆ジュニア級のように必死だ。

 

 

「皆驚いてるな」

 

「やってることは真逆よ。 私も驚いたわ」

 

「しかし作戦に関してはそこまで驚くことか? 逃げは作戦じゃない。 ステータスをゴリ押すためただ前に出るだけの無策だと思ってるが」

 

「前者は同感する、しかし後者に関しては選手生命を考えると別よ。 後ろで溜める。 前で逃げる。 これは全くの別物よ? それを両立して出来ることなんて…」

 

「両立するつもりはない。 模擬レースくらい付け焼き刃(昨日やった)でなんとでもなるはずだと、思っただけだ」

 

「今回だから試したとでも…?」

 

「言ったはずだ東条トレーナー。 これは模擬レースだからと。 参加させてもらったのはありがたいがトレーナー達の思惑や私情に付き合ってやるほど俺たちの目的(三冠)は甘く無い。 これは菊花賞のための過程だ。 強化合宿で鍛えて来たウマ娘に対する試し斬りだ」

 

「先輩に対してリスペクトにかける考えね」

 

「耳痛く思うが、それ以上を強要したこのトレセン学園が悪い…って、マフティーは言わせてもらうよ」

 

「そう、なら示し続けないとならないわね?」

 

「謹慎明けにあなたに言われた言葉は覚えている、これからも果たすさ」

 

 

このレースの勝ちは揺るがない。

 

東条トレーナーも理解してるみたいだが、ほかのトレーナーはいまだ受け入れないものが多い。

 

やはり強化合宿の差で追い付き、追い越したと思ったのだろう。

 

しかしミスターシービーはそれ以上を行った。

 

特技と言えども反則技に近い。 ミスターシービーは究極のごっこ遊びで色々とやって来た。 それは誰よりも多くレース経験を積んだ"つもり"で走っている。 それが描いた空想の世界でも、その脚で走った事実に変わらず、誰よりも多くを重ねて来た。

 

恵まれた身体能力と天才肌、レースだけは器用なシービーだからこそ、逃げのやり方を今だけ感覚だけでやっている。

 

体に染み付いた追い込みの走り方は拭えないのは当然の話。 けれどほんの一回だけ試すならただのお試し期間として足の負担は気にならない。 それを後は二冠を取れるほどの身体能力で補うだけだ。

 

 

「それでもただ逃げるだけの練習では完成度は低かった。 しかし運がいい。 ミスターシービーと同じ感性で走るウマ娘(ヘリオス)が俺の近くにいたから幾らでも参考にできた。 レースだけは器用なシービーだからこそソレを可能にしただけの話」

 

「それなら…」

 

「お察しの通り、菊花賞で逃げはしない。 流石に追い込みの脚質で定まったその脚を逃げにシフトするのはリスクが高すぎる。 それに俺が個人的に嫌だからな」

 

「?」

 

「追い込みをするから ミスターシービー なんだ」

 

 

 

彼女の行方を見守り、付け焼き刃で行った逃げ戦法は1バ身差の1着を勝ち取った。

 

ミスターシービーは味わったことないこの疲労がむしろ面白かったのかゴール後も笑っていた。

 

 

「とりあえず無事にゴールしてくれて良かった」

 

「それなら模擬レースに参加しないこと自体が1番の安全策。 なのに参加したあなたも随分と人間なのね?」

 

「マフティーはただの形で、そうじゃない俺は東条トレーナーと同じ人間だ。 人間で沢山さ」

 

「そう……なら私も、この屈辱はあなたらしく次の菊花賞で晴らすことにするわ、マフT」

 

 

まだ少しだけどこか納得のいってない東条トレーナーだが、それがミスターシービーというウマ娘であることを再確認しつつ、マフTのことを"強敵"として認めてくれた気がした。

 

今日の収穫に満足しながら俺は東条トレーナーと反対の方向に歩き、ミスターシービーを迎えに歩き出してこの場を去った。

 

 

 

 

「………」

 

 

去り際に東条トレーナーは横目にマフTを伺う。

 

その表情は…

どこか悲しそうに見え隠れさせて、視線が俯く。

 

何かを考えるような素振りを見せて…

 

 

「ミスターシービーが三冠を取れるほど強いウマ娘なら、マフティーたるあなたがウマ娘に最強は存在しない事を世間に示してくれるなら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__あなたは あの子 を助けられる??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マブいレース……羨ましいわね、ふふ…」

 

 

 

おセンチにエンジンが凍え切ったスーパーカーは遠目に模擬レースを見下ろし、寂しさを感じないようにする。

 

大阪杯以来、理不尽ながらレギュレーション違反にされてしまったその脚はアクセルを踏むことも叶わず、諦めと共に車庫に収まった。

 

しかし…

 

それがクリスマス最後のレースで再びフルスロットルが叶うことをまだスーパーカーは知らない。

 

寒さすら感じなくなる、そのレースは後に歴史となることを……まだURAは知らない。

 

 

 

 

 

 

__URAの過ちは、マフティーが粛正する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー、ドキドキしたー、こえー」

 

「あっはは、やはり東条トレーナーは怖いね。 アタシも一年の頃にスカウトされたことあるけどアレはマフTとは違う怖さを持ってたね」

 

「でも良い人だぞ? ウマ娘の事をちゃんと見ている。 かなり厳しいトレーナーだけど、強くなる保証は付く。 あの人のことをベテランって言うんだろうな」

 

「でもアタシには向かないね。 マフTが良い」

 

「ありがとう。 それより脚は大丈夫か? 提案したのは俺だが君は乗り気でやってくれた。 正直に言うと心配だったし、東条トレーナーの言うことはごもっともだと考えてる」

 

「平気だよ。 それに……結果は得られた」

 

 

模擬レースで設けられた距離は2000。

それを逃げとして全力で走り切った。

何も考えずひたすらに脚を進めた。

脚質に関係なくひたすらに脚を進めた。

 

彼女にとってそれが手応えとなったから…

 

 

「菊花賞は、アタシが1着になる」

 

 

その眼は栄光を求めている。

 

その笑みは楽しさ以上を欲してある。

 

その表情はミスターシービーだ。

 

 

「自信あるみたいだな」

 

「うん、そうだよ」

 

 

 

だってさ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__アタシはマフT(マフティー)のウマ娘だから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

固定観念は生き物を制御するに過ぎない…

だから

 

 

 

 

 

そのウマ娘は、禁忌(タブー) を犯した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんと言うことだ!ミスターシービー!!』

『その脚は一体どこまで可能とするのだ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常識すら追い込み、すべてを追い越す。

故に

 

 

 

 

 

最後方から上り、一気に先頭へ出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『2回目の坂路も関係ない!彼女は加速する!』

『強者のその笑みに苦痛を感じさせない!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壊れそうなのは体ではなくその 常識 である。

だから理解する

 

 

 

 

 

そうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『減速すら感じさせないロングスパート!!』

『これが三冠を求めるウマ娘の強さなのか!』

 

 

 

 

 

 

 

 

見ていた者は思い出して、納得すらしてしまう…

ああ、そうだった

 

 

 

 

タブーは人がつくるものに過ぎない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(マフティー)のウマ娘は普通を置き去りにする!』

『先頭と3バ身以上!未だ!未だ!未だ加速する!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、京都レース場は一つの歴史を見る。

しかと見よ

 

 

 

 

そのウマ娘の名は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴォォール! 圧倒的な着差で勝利をした!!』

『栄光だ!歴史だ!三冠を達成したのは…!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミスターシービー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__ アタシはマフティーのウマ娘だから(あなたの愛バでよかったです)

 

 

 

 

模擬レース後に放った、言葉。

それはとても誇らしそうに微笑む。

 

 

だから彼女は描いて証明した。

 

三冠の栄光を マフティー に捧げることで…

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 




流れるような三冠ウマ娘…
俺でなきゃ見逃してたね…


Q_模擬レースとは言えミスターシービーは逃げで勝てるほど適正はあるのですか?

A_逃げを得意とするパリピが一時的にバフ(継承)ったのであとはステータスでゴリ押しました。

ちなみに模擬レースで"逃げ"の作戦で走らせたのは、なにかの間違いでバ群に飲まれて攻撃されないようにするため。
ロングスパートの加速具合を本場のレースで確かめるため。
模擬レースを通して菊花賞で逃げを思わせ揺さぶるためです。

それで三冠を取れたのでミスターシービーとマフTの作戦勝ちですね。
あとパリピのお陰。




あと前話(15話)ですが。
『__』のイマジナリーフレンドとの会話。
主にPC版で確認しやすいが、クリックしたまま横に伸ばしてみると良いことあるかもしれませんよ。
↑前話の時点で気づいた方は間違いなくニュータイプだと思います。
※ある条件を除いて基本的には見えません(携帯の設定次第)

ではまた


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17話

Q_マフTとマフティーの違いってなんですか?

A_マフTはトレーナーとしての名称、また本人のこと。 マフティーは、力、存在、概念、意味、とかそれっぽいこと。 ガンダムあるあるだからそこまで気にしなくていいです。 どうであれマフティーなのは変わりないので。





秋空は暗くなるのが早く、生徒達はそれぞれ寮へと戻る。

 

俺も仕事が終わったところだ。 有マ記念出走のために段取りを作っていたから遅くなったが特に苦痛は無く、むしろ伸び伸びと仕事をやらせて貰っているので不満はない。

 

トレーナールームの鍵を閉めて外に出る。 もう既に真っ暗で、トレセン学園の光を頼りに歩かなければならない。 時刻は20時を超えていた。 商店街も店仕舞いを始めているから、今日は家の作り置きのカボチャの肉じゃがでも食べるとしよう。 それで軽くオンラインゲームに雪崩れ込んで一日を終えようと考えて…何かそこにいた。

 

 

 

『_』マフT?

 

「!」

 

 

 

時間が来るまで肩に抱えている水瓶を流し続ける三女神の像の前にカフェのイマジナリーフレンドが立っていた。

 

 

「君はカフェに良く似てるから暗闇で見え辛かったよ。 それで何をやってんだ?」

 

『_______

________

________

________眺めていた。

 

「そうか」

 

……三女神は嫌い?

 

「……あまり好ましく思ってない」

 

うん、マフTはそうだね。 でも三女神はそうだから

 

「?」

 

マフティーは求められたら応える存在のように、三女神は願われたら叶えるだけ。 そのかわりそれ相応に背負わされる。 与えられるだけの世界は無い

 

「まぁ…それが正しいかもな。 でも前任者では無い、俺になったのならこの呪いは背負わさなくてもな…」

 

それは本当に呪いだと思ってる??

 

「……」

 

 

 

わからない。

 

俺は何度も思った。

 

これは本当に呪いなんだろうか?と、考えた。

 

 

 

前任者にとっても、マフTにとっても、それは呪いに感じたと思う。 けどそれは間違いなくだよ。 正当に叶えられたモノなんだよ

 

「三女神はそう言ってるのか?」

 

ううん、存在そのものが訴えている。 三女神はただ叶えたいだけ。 それは前任者にとって呪いのように強すぎた力なだけ。 マフTにとっても呪いに感じたと思う。 でも今はどう思ってる?

 

「呪い…………のように、強すぎる力だな」

 

そう、その通り。 それは。願って 叶えられたモノを与えられたにすぎない。 しかしその力は身体に刻まれた

 

「…迷惑な話だ」

 

そうだね。 その上…貴方の場合は更に叶えられてしまった結果として宿った。 何故なら前任者は自分ではない誰かに願った。 備わったその身体に相応しい誰かを欲した。 貴方と言う人格が継承された。 三女神の大き過ぎるエネルギーによって

 

 

けいしょう………継承…

 

 

ああ、思い出した。

 

たしか 因子継承 って言葉があったな。

 

俺は事前登録までで未プレイだったけど、前世の頃の友達がアプリゲームで因子継承を愚痴っていた。

 

それはウマ娘の世界に於いて重要なモノだと。

 

そしてオカルトも真っ青なシステムだと。

 

つまり俺がココにいるのは三女神に強く強く願い、その力に触れすぎた前任者の身体に、俺と言う人格が…

__マフティー()が継承されたって事なのか?

 

は、はははは……なんだよそれ。

 

ここだけはウマ娘プリティーダービーのアプリゲーム(ゲームシステム)をしていたって事か?

 

おいおい、異世界オルガも真っ青じゃねーか。

この時くらい三女神は休めよ。 あとタカキも休め。

 

でもその場合だと、俺は死後の世界に飛んでいたワケになるのか? 第二の人生が送れているのは人格が継承されたからであり、俺は前任者の代わりとしてまだ生きている。

 

始まりは弱くてニューゲーム…いや、実は強くてニューゲームだったこの生に喜ぶべきなのか? だけど感謝はしたくない。 どのみちマフティーで誤魔化さなければならないほど俺は苦しんだから。 今ココに在るのは全て結果論であり、あと運が良かっただけだ。 同じマフティーでもハサウェイではこうはいかない。 もしかしたらこの現状に耐えれず首吊って死んでたのかもしれない、そんな歩みだった。 だから俺は三女神に感謝もしなければ前任者を恨んでいる。 それは間違いない。

 

 

 

マフTは三女神が嫌いかも知れないけど、あまり恨まないで。 三女神はウマ娘の事を想っている。 そこにトレーナーが必要なこともわかってるから

 

「俺が恨んでるのは前任者の過ちであって、三女神は恨んでいない。 今はまだ好きになれないだけ。 もっと三女神からも語ってくれたら俺は納得もするし、意味を問いて理解しようと出来る。 それともコンタクトを取らないことに怒りを感じるのは間違いかな?」

 

三女神は叶えただけだから

 

「わかってるよ。 でも説明無しに苦しめたのは酷くないか?」

 

でも道は示した。 栄光を得ることによって解き放たれる…もしくは呪いの認識は変わり、それが力だと理解できる

 

「そこに怒りを交えられてもか?」

 

三女神の怒りは当然。 前任者に怒った。 でも願われたら叶えるだけだからそうした。 だからそれは大いに背負わされた。 でも果たされるモノとして叶えた

 

「金と銀の斧を選んだ奴の末路……まんま木こりの泉に出てくる女神の物語だな。 三女神だけによく出来てる……あ、これ皮肉な」

 

……やっぱり嫌いよね?

 

「嫌いじゃないけど好きじゃないよ」

 

それは嫌いに近い感情だよ、マフT

 

 

21時になる。

 

三女神の抱えてる水瓶から流れ落ちる水は止まり、次の朝まで稼働しない。

 

カボチャ頭で顔は寒くないが体は凍えてきた。

 

そろそろ帰ったほうが良いだろう。

 

 

 

マフTは呪いを大きな力であることを正しく認識して、マフティーとして強力な武器にした。 だからマフTは呪われたと思わずに呪いから解放されたと受け止めた。 でもその身体には三女神によって叶えられたモノが備わっていることを忘れないで。 そして…それはウマ娘のために正しく使って

 

「当たり前だ。 俺は間違えない。 独りよがりに振る舞うけど、三女神に対してもウマ娘に対しても間違えない」

 

貴方ならそれが出来る。 マフTならそう考える。 マフティーならそう身構える。 その力は全てが正しく振る舞おうとする。 完成された(ニュータイプ)ような在り立ち。 でも、一つだけが正解じゃない。 マフティーもまた人間に過ぎない間違える生き物。 呪いを克服した先でも貴方は危うい存在。 だからこう言わせてもらうよ…

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__マフティーのやり方、正しく無いよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

そう言ってイマジナリーフレンドは消える。

 

残されたのは俺一人。

 

三女神の抱えてる水瓶から零れ落ちる滴の音だけが静寂の中で広がる。

 

 

 

「正しいなんて思ってないさ」

 

 

ハサウェイも同じ。

もしこの世に正解があるなら教えてほしい。

大金を払ってでも知りたいくらいだ。

マニュアルがあるなら真っ先に手に入れたい。

 

でもそんなのは無い。

 

三女神からも与えられない…永遠の答え。

 

だから俺はマフティーを止めない。

 

 

 

「……」

 

 

 

カボチャ頭に両手を添えて、真上に引っ張り上げる。

 

視覚的にも感覚的にも解放感を得て、少しだけ頭がかるくなる。

 

夜風が頬を撫で、思ったより寒くて驚いた。

 

家以外で外したのはいつぶりだろうか。

 

あと秋空の星はこんなにも綺麗だったのか。

 

 

 

「金も銀も、素直な答えも、斧だって要らない」

 

 

 

三女神に振り向いて答える。

 

 

「このカボチャ頭に意味さえ込められるなら、俺は正しく無いままの独りよがりで構わない。 主人公のハサウェイ・ノアだってマフティーでそうして来たんだ。 なら俺だってハサウェイと同じで構わない。 身構えている時に死神は来ないから」

 

 

正当なる預言者の王ほど大それた道化は無い。

 

結局は俺はマフティー(道化)として演じるだけ。

 

ご都合主義を信じて、理想を描いて歩む愚者。

でも、それがなんだというのだ?

 

どけ! 俺はマフティーだぞ!

 

この縮図の!

このウマ娘の!

このアプリゲームの!

ウマ娘プリティーダービーの世界に於いて!!

 

 

「マフティーはこの俺だ」

 

 

 

溢れ出すプレッシャーを踏みつけながら俺はカボチャ頭を被り直してトレセン学園を後にする。

 

 

 

 

もうこの体に呪いは無い。

 

いや、もう呪いとして受け止めない。

 

この身体に有るのは三女神から授かった力。

 

この世界でマフティーたらしめるための武器。

 

弱かった自分とお別れをした。

 

 

だから……

 

 

ココからは本当の独りよがりを始める。

 

三女神の呪いや願いなど関係ない。

 

このカボチャ頭にマフティーの意味を込める。

 

だから脱ぐ事も無く、これからも被り続ける。

 

 

 

何故なら俺はトレセン学園のマフT。

 

または_____マフティー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし私が三冠ウマ娘の栄光を勝ち取れたら、マフTが踊ったあのダンスをちゃんと教えてほしい。

 

これが一つ目のお願いだとアタシは言った。

 

 

だがお願いは二つあった。

 

しかしもう一つは断ってもいいと言った。

 

なんというか…

多分、最低なお願いだから。

 

けれどお願いを言うだけならと考えて、アタシは二つ目の欲張りを言い放つ。

 

もし三冠ウマ娘としてマフTにその栄光をプレゼントできたらお願いがある。

 

 

 

 

 

__マフTの 素顔 を見せて欲しい。

 

 

 

 

 

マフティー性の皮を剥がす最低なお願い。

 

けれど…

 

 

 

 

 

__有マ記念でマルゼンスキーに勝てたらな。

 

 

 

 

 

マフTはそう言った。

 

彼の素顔が見れるかも。

 

アタシにもスーパーカーに劣らないガソリンが注がれて、マルゼンスキーを倒すためにまた練習が厳しくなる。

 

しかしこのお願いをするまでアタシは今年これ以上走る予定を考えていなかった。

 

正直に言えば無敗の三冠ウマ娘になってからはあまりその後の予定を考えて無かったワタシ。

 

だって近くにマフTがいて、いつも通り究極のごっこ遊びで楽しく走って満たされたらそこまで欲は湧かなかった。

 

秋のジャパンカップに出て大金を獲得するのもまた一つの権利だけど別にそこまでお金は欲して無かったし、それに菊花賞でやや無茶した走りを行ったから脚の負担を考えて公式戦に出ることは控えた。

 

アタシが出たいと言ってもマフTが止めたと思う。

 

まあ、究極のごっこ遊び自体が比較的公式戦に近い光景を描くからそれ相応に本気で走ってしまうけどね。 ただし菊花賞後の疲労を考えて脚を使いすぎないようにする。 だからその一回だけのレースを存分に楽しむようにしている。

 

ウマ娘の性としてもっと走りたい衝動に襲われるけど、アスリートとしてトレーナーの言うことは守らないとダメだから我慢する。 でもマフTのお陰でとても濃ゆいレースに身を投じられるからその一回でもありがたい限りだ。

 

 

てか、もうマフT抜きでは考えられない!

控えめに言ってダメな体にされちゃったね!

 

 

だって再現率が高く挑める上にマフTが居れば何度も出来てしまう。

 

本当にアタシが独り占めして良いの?って何度も思ったけどマフTが「一向に構わんッ!」って言うからアタシは考えないことにしてマフTを独り占めにする事にした。 あはは、ありがテェー。

 

でも途中から可愛い後輩のカフェの加入、あとヘタレパリピヘタレギャルヘタレウマ娘がやって来てマフTの時間は当然のように分散された。

 

でもアタシはマフティーを求めてやって来た二人の事を蔑ろにしたくないし、マフTがマフティーとして応えるなら文句はない。

 

なんだかんだでパリピギャルウマ娘のダイタクヘリオスもそれなりの……いや、違うね。

それなりなんかじゃない。

 

マフTの前では秘めきれなかった想いをマフティーに打ち明けて自分らしさを求めた。

 

当然のようにマフティーは求められたから応えてあげた。 それにヘリオスの想いはアタシと似ていたから親近感が湧いた。 それでヘリオスもマフティーに応えてもらえたからアタシも自分のように嬉しくなった。

 

それにマフTのことが結構気に入ってるみたいだから一緒にマフティーを盛り上げることにした。 教えてもらったダンスは楽しかったし、マフTが家から持ってきたカボチャ入りの肉じゃがはすごく美味しかった。

 

ア、アタシも少しは料理できるようになろうかな…?

 

あ、でもカボチャ頭を外さない…いや、違うね。

 

アタシがマフTのカボチャ頭を外させるんだ。

有マ記念でマルゼンスキーに勝つ。 それでカボチャ頭を外させたら素顔を明かして食べてもらおう。 だから今度ルドルフに料理の手解きをお願いしようかな。

 

え?パリピもそれなりに料理できるの?

あ、そうなんだ。

ふーん……?

べ、別に焦ってないし

追い込みバの執念は怖いから…ね?

ほんとうだよ!本当だから!

 

ぅぅ…どけ! アタシは三冠バだぞ!

 

 

まあ、そんな感じに今後のレースと料理も定まり、マフティーを楽しめる秋の季節は終わったのでアタシは気を引き締めて有マ記念に備える。

 

有マ記念まで2か月。

 

調整するには少しだけ短い期間である。

 

菊花賞の長距離で脚は慣らしていたから有マ記念の長距離はそこまで苦では無い。 得意とするロングスパートのタイミングだけは難点だがそこは究極のごっこ遊びで何度でもシミュレーションできるから無問題とする。 しかし菊花賞から疲れが抜けきってはいなかった。

 

それにハロウィンはマフティー性が高まってしまう時期だからはしゃぎ過ぎた。 モチベーションとマフティー性は高まったけど、総合値で表すならマイナス寄りだと思う。

 

学生だからそれが普通だとマフTは言ってたけど、アスリート選手として自己管理はしっかりしないとならない。 休息は大事だけどあまり甘えてられないので心機一転して有マ記念に向けて練習を開始する。 1日に究極のごっこ遊びは5回以上。 あのマルゼンスキーを倒すためにもっと強くならないとならない。 しかし公式戦並みの走りを1日に沢山やるのだ。 経験値は多いにせよ、かなりしんどい。 疲れも増えて事故率が高くなる恐れがある。

 

けれどここでマフTが動いた。

かなり驚いた事がある。

何とマフTがウマ娘に触れるようになった。

 

これまでマフTは自分からウマ娘に触れるような事はしなかった。 パリピが脇腹から責めるように愛情表現(妬ましい)することがあっても、マフTはその手でウマ娘を触れようとしなかった。

 

でもアタシは分かっていた。

 

マフTはウマ娘を怖がらせてしまうことを嫌がって、迂闊に触れることはしなかった。

 

マフTってウマ娘が怖がるような威圧感を放ってるから、その手で触れようとしない。

 

彼はその事を打ち明けなかったけどアタシはマフTを何年も見てるから知っていた。 なので頑なにその手で触れないようにしていた。 ほんのちょっとだけ寂しかった。

 

でもマフTに三冠の栄光を捧げてから大きく変わる。 なんと威圧感が鳴りを潜めていた。 カフェやヘリオスはわからなかったみたいだけど、マフTとの付き合いが長いワタシだからその変化を見逃さなかった。

 

それでもまだ何処かしら近寄り難いプレッシャーを放っているけどアタシが初めて出会った頃の怖さは無かった。 多分三冠を取るまで神経を尖らせていたからだと思う。 一区切り付いたからこそマフTの雰囲気が落ち着いたんだと思う。

 

 

でも、アタシはそこまでマフTを恐れて無い。

 

そりゃ最初の頃は得体も知れないカボチャ頭のトレーナーがいて、強いプレッシャーを放っていたけど、マフティーを求めて理解して、そのマフティーの内側に入ってからは違う。

 

こう、なんて言うのかな?

 

全て暴かれてしまって、それで…

諦めがつくと言うべきかな?

 

支配されたように、それで掌握されて…

 

それで、ええと…

心地よさを知ったと言うか…

 

他になんと言うべきか…

 

と! とりあえず!!

 

 

マフティーされたって感じ!!

 

 

……ごめん、自分で言ってて分からないや。

でも、何となく理解できるよね?

マフティーが好きなら理解できると思う。

この感じ。

だから理解できるよね。

てか、理解しろ(脅迫)

 

 

それでマフT自身、踏ん切りが付いたというべきか、ウマ娘に触れるようになった。

 

これが嬉しく思った。

 

それでマフTって実はマッサージが出来るらしい……てか、出来た。

 

因みにマッサージにも種類があるけど、マフTがやってくれたのは普通のマッサージ。 けどリフレクソロジーって種類の施術も出来ると言ってた。 やってることは指圧に等しいけどあまり周りに言わないようにって苦笑いされてた。*1

 

マフTがやってるとイメージダウンだからかな?

とりあえずお口はチャック。

 

そのかわりよだれ垂らしてねじまっだぁ(寝ちまった)よぉぉ…

 

でも終わったらすごい元気になったけど!!

 

 

あああー!! でもでも??

最初かなり恥ずかしかったんだよ??

 

アタシってあまり細かいこと気にしない雑な性格だからマフTがマッサージしてくれるって言った時も「おー!」って感じでワクワクしていた。

 

しかし、施術が行えるように短パンになって、うつ伏せで寝転がり、太腿やふくらはぎ、しかもお尻や尻尾を無防備に見せてるわけだから色々と恥ずかしかった。

 

それでマッサージだから当然触れられてしまう。 マフTも直接触っては坂路でよく鍛えられているって褒められてたけど、担当を褒めてくれた嬉しさよりよく恥ずかしさが勝った。

 

でも嬉しいことがひとつ。

 

ウマ娘って耳が良い。 マフTも緊張してたのか心臓の音が早かった。 それが分かってからなんか安心して、むしろマフTに身体を預けられた。

 

それからマッサージを受けた。

 

ウマ娘の筋肉は人と違うみたいだからマフTも最初は慎重に触っていた。 人間の何倍もパワーが備わってるウマ娘だから、体の筋肉の作りは人間とは違う。 だから触る以上はちゃんと勉強しないとダメみたいで、街中のリラクゼーションとかもウマ娘用の支店が存在する。

 

同じ麺類でも まぜそば と はるさめ くらい違いがあるから扱い方に注意しないとならない。

 

しかしトレーナーの仕事でマッサージは例外ではなく、ウマ娘のケアも仕事の内だからマッサージの勉強もしてる。

 

それに因んでウマ娘の筋肉の作りとかも叩き込まれてるので、いざ触っても大丈夫なように知識は叩き込んでるらしい。

 

しかしトレーナーがウマ娘にマッサージを行うのは稀だ。

 

担当と言えどもウマ娘はひとりの(むすめ)…つまり女性であり、特に男性のトレーナーはウマ娘に触れることがセクハラに繋がることを考えてあまり行わないらしい。 それは当然の判断と思う。 それが許せる関係じゃないと成立しないと考えたほうがいいだろう。

 

それに対して女性トレーナーは率先してやるらしい。 コミュニケーション込みで直接ウマ娘の体に触れて成長具合を確かめたりする。 それがサブトレーナーでも女性トレーナーに任せるパターンは多い。 適任なんだろう。 この点は男性トレーナーよりも一歩先を行く。 まぁ女性トレーナーだからといって、やらない人もいる。

 

ならその場合はどうするか?

 

実はトレセン学園にはその学園に付属してるマッサージ師がいる。 だから適当な者に任せて体を解してもらったりも可能だ。 ワタシもお世話になっている。 また街中でも学生証を見せれば割り引いてウマ娘専用のリラクゼーションで体を揉み解して貰ったりと手段は多い。

 

もちろんトレセン学園付属のマッサージ師は皆女性だ。 あと人間だけじゃなくて、国家資格を取った上で正式にマッサージ師として活躍するウマ娘もいる。 ウマ娘はウマ娘のことに詳しいから上手な者は多いので任せやすい。

 

あとマッサージ師に志願するウマ娘の生徒とかも、そこで勉強しながら学生アスリート選手の施術を行ったりする。 だから練習後は体を解さずに疲労物質を残したまま過ごしてる訳でも無いのだ。

 

そんな訳なので、男性トレーナーがウマ娘にマッサージを行うパターンは稀。

 

しかしあのマフTがウマ娘にマッサージする。

そのお初がアタシである。

そう考えるとなんかちょっぴり嬉しい感じ。

ワクワクを1番人気にゲートイン完了させてマフTの施術が始まった。

 

しかしやはりか、マフTはウマ娘の体に知識はあってもそれを活かす機会は無く、アタシの脚を壊さないように、まるで割れ物か腫れ物のように扱っていた。

 

大事にされてると思うとなんか嬉しかったけど、マフTなら気を許してるから少しは躊躇いを捨ててもらっても良かったし、そこら辺は若干不満だった。

 

 

しかしそれは数分ほどで終わる。

 

 

筋肉を確かめるようにふくらはぎをなぞり、たまにツボを押しては尻尾や耳の動きを見て反応を探り、マフTは鋭く息を吸う。

 

そして全身にナニカが絡みついた。

物理的では無い。

精神的な干渉を受けた気がした。

だがそれを思考する猶予を与えない。

 

マフTは見極めたように触れて、疲れの溜まっていた部分を揉みほぐした。

 

1日5回以上行っている究極のごっこ遊びにて、溜まりに溜まった疲れは揉み解される。

 

それでしっかり揉捻されていく。

 

ふくらはぎから、太ももまで、腰回り、一言断りを入れるとお尻まで、段々と本格的になってきた。 思ったよりも疲れが溜まっていたのか痛気持ち良さが広がる。 でも心地よい感覚と共に最初の1回目は無事に終わった。

 

時間は20分ほど。

 

しかし終わった後に「次は1時間以上は余裕を持ってやる」と告げられた。

 

どうやら本気でやるつもりらしい。

 

つまり、1時間以上は施術を出来るくらいにウマ娘の筋肉を理解したと言う事だろうか?

 

最初の1回目で?

マフTすげー。

 

 

それから1日に5回か6回、調子が良ければそれ以上に究極のごっこ遊びの中へ身を投じては体を追い込み、荒削りな部分を矯正して、マルゼンスキーに立ち向かえるレベルまで体を追い込み続ける毎日。

 

そしてその疲れを拭うためにマッサージ。

 

3回目あたりでマッサージ用のオイルや、練り込み用の茶葉、あとアロマ、他にも水素水とか飲み物までバッチリ完備されていた。

 

経験者……なのか?

 

もう10回以上は施術を受けてるから断言してしまうけど、マフTはトレセン学園付属のマッサージ師となんら変わりない腕前。

 

俗に言う プロ だった。

 

アタシの脚に溜まった疲れはピンポイントに解消する。 息を吸う間も与えないほどに手際良く、アスリート選手の体を理解した揉捻は最初の1回目を思わせない。

 

もしかしてトレーナーをする前はそう言う仕事でもしていたのだろうか?

 

でもマフTはまだ20代で若いから、トレーナー以外の仕事をしていた訳でも無さそう。

 

それならアルバイトで培った技術だろうか?

 

だから今日、気になった。

 

 

「スポーツ選手を主にな」

 

「え…それ国家資格が必要じゃなかった??」

 

「……要らないところもある」

 

「あ、はい」*2

 

 

マフTの心臓が少し早まった。

 

だから半分ほど嘘だと思う。

 

まあ、だからと言ってアタシはマフTを咎めるつもりも、暴くつもりもない。

 

不思議でいっぱいで、カボチャでいっぱいで、すごいトレーナーがマフTだから。

 

秘密があるくらいが丁度いい。

 

 

「体作りには詳しいつもりだ。 あの踊りとかできるのもそう言うこと」

 

「たしかに、納得す…ぅ、ぅぅぁぁあ! ああ、あっ…そ、そこ、効くぅぅ…んんっ」

 

「あれだけ坂路やったんだ。 今日もしっかりやる」

 

ぬ え へ へー 、お ね ぇ ぎ ゃ い し ま ひ ゅ ぅ…

 

「蕩けすぎだろ…まぁ、その方がやり易いが」

 

 

練習もそうだし。

日常もそうだし。

マッサージもそうだ。

 

どうやらアタシは。

 

マフT無しではダメな体になったらしい。

 

 

 

 

つづく

 

*1
基本的に資格が無いとダメ

*2
※普通に必要です




朗報 : マフティー上方修正をお知らせします。


つまり…

呪いのように強すぎた願いであり、それを力として認識して、正しく扱えば、前任者が願っていたムーブも可能であること。 そこにマフティー性を注げばマフティーとして完成します。 でもその頂まで登れたのはミスターシービーのおかげですね。 一人では絶対に成立しない果てですね。


意識して、認識して、理解して、隣人を必要として、でも一人苦しみながら物語の歩みは止めれず、ニュータイプとして開花しても、一人特別にまた進み始める……けど、仲間がいるからニュータイプは一人じゃない、ただのさみしい生き物だった…




__まるでガンダムみたいだろ??





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第18話 + 掲示板

Q_ウマ娘で最高な部分はドコですか??

A_キングヘイローとハルウララが同室なとこ


「異論は 認 め ま せ ん ! !



ちなみにこの小説ではミスターシービーとシンボリルドルフが同室の設定になってます。 あとシンボリルドルフがひとつ年下です。 稀にたぬきです。

《追記》
お気に入り5000が超えそう!?


 

 

 

__ご褒美が欲しい。

 

 

 

頑張った者に与えられる望み。

 

しかしミスターシービーはあまりそんな事を言わない。 マフTがいるだけで満足してると言う彼女は無欲であり、マフTがいる事で成立する究極のごっこ遊びがミスターシービーを満たすから何かを強請る彼女はあまり見た事ない。

 

しかしそう思ってたのは栄光ある三冠……に挑む前の話である。

 

 

彼女は言った。

 

もし、三冠ウマ娘になれたらお願いを二つ叶えて欲しい。

 

そのうちの一つは断っても良いと言っていた。

とりあえず俺は一つ目の願いを聞いてみた。

 

それは…

 

 

 

「絶対ハロウィンのためにお願いしただろ」

 

 

仕事を終わらせて夕方頃に帰宅。

 

商店街の入り口までやって来たのだが…

 

去年と同じ光景が広がっている。

 

 

「ウェェェイ!! バイブスあげあげっチョー!」

 

「「「「 ウェェェイ!!」」」」

 

 

盛り上げることが好きなダイタクヘリオスの声が商店街の入り口を中心に広がる。

 

カボチャのお面をつけて。

 

 

 

「皆もできる範囲で好きなように踊ってね!」

 

「「「「 はーーい!! 」」」」

 

 

楽しむことが好きなミスターシービーの声が商店街の入り口に広がる。

 

カボチャのお面をつけて。

 

 

 

「………」

 

 

恐らく半分ほど無理やり参加させられただろうマンハッタンカフェもポツンと佇んでいた。

 

カボチャのお面をつけて。

 

 

 

そして、はじまるのは俺が三冠のご褒美として教えた"例の踊り"である。

 

例の踊り…または"マフティーダンス"に関して断片的にしか知らなかったシービーが全てを教えてほしいと言った。 俺としては二人だけの悪ふざけで終わらせたかったが、シービーの頑張りに応えれる範囲だと考えたので三冠を獲得したら教えても構わないことを約束する。

 

 

そして結果はご覧の通り。

 

三冠を取ったミスターシービーはめっちゃニコニコ顔で「教えて!!」と乗り込んで来たので約束を果たすことに。

 

ミスターシービーが三冠を取ることは確信してたのであらかじめ用意してた黒いジャージ姿を身に纏い、手取り足取りシービーに教えることに。 相変わらず変な踊りなんだが不思議な振り付けに興味津々なシービーは純粋だった。 それから勝手に便乗してきたパリピも交えてマフティー性の片鱗を担当に落とし込んで、数日後だ。

 

カボチャ頭の意味でマフティーの季節となったこの商店街でハロウィンのイベントが始まる。

 

そして始まるのは去年と同じ光景。

 

 

もうあれから1年経つ…懐かしい気分だ。

 

あの頃はまだマフティーがただの恐怖対象として認知されていたけど、ちょっとした演説から興味を惹き、結果を出し続けているといつの間にか認められ、今となっては名物になる始末。

 

同じようにミスターシービーの名も広がり、自由な彼女のスタイルは人々から幅広く受け入れられる。 そしてマフティーダンスを会得したミスターシービーを筆頭にカボチャのお面つけて踊れば皆もマフティーダンスを踊る。 元凶は俺なんだけど。

 

てか、踊りの完成度たけーなオイ。

 

 

「それより踊ってる人多くないか…??」

 

 

去年と同じ雰囲気なのだが、今年はかなり盛り上がっているみたいだ。

 

カボチャ頭のマフティーが一つのブームとして世間で流行っているのか、商店街を歩く人々の殆どがカボチャのお面、または手作りのカボチャ頭をつけていた。 こちらも完成度が高い。

 

あ、もちろんハロウィンなのでお化けが怪物の姿などでその雰囲気に恥じない格好をした子供たちがイタズラするぞ!と奮闘している。

 

俺も先程イタズラされないようにお菓子をあげていた。

 

本来ならカボチャ頭を被っている俺がイタズラを仕掛ける側だと思うけど、菓子を上げる側になったのは多分子供達がそこまで理解してないのか、大人からお菓子を貰うことが子供にとって普通なのか、楽しさを優先してあまり考えてないかのどれかだろう。

 

まあ、今年もシービーからお菓子を用意したほうが良いと言われたからハロウィンのために用意している。

 

去年の倍は用意したのだがもう半分近く無くなっているが。

 

 

「マフティー! お菓子ちょうだい!!」

「イタズラするぞ!」

「するぞー!」

「このゴルシちゃんにお菓子をくれないとどうなるかわかんないんだから!」

「やい! お菓子をくれなきゃペガサスジャンプキックでイタズラするぞ!」

「お菓子をくれないとイタズラしますぞー」

 

 

俺よりもちゃんとした奇行種なウマ娘はともかくとして、イタズラの域を超えたイタズラ(飛び蹴り)は勘弁なのでお菓子用に用意したバッグに手を突っ込んでにんじんチョコレートの包みを渡す。

 

去年の飴玉とは違って今年はチョコレートにしているがこれも数字が刻まれていた。

 

最後にチョコレートを受け取った鹿毛の子ウマ娘が3の数字に悲鳴を上げている姿を見送りながら商店街の中に進むと人々は「マフティー!」と歓迎してくれる。

 

三冠を祝われながら行きつけの八百屋さんまで足を運ぶと、ミスターシービーを無敗の三冠ウマ娘に導いたトレーナーとしてマフティーセールが今年も開かれていた。 あとハロウィンのイベントが加速させているのか大量入荷されたカボチャが安い。

 

もちろんマフティーセールは八百屋だけでは無く、八百屋と同じくらいお世話になってる精肉店やたまに魚介を食べたくなる時にお世話になる魚屋、あと夜中どこかの峠を走ってる噂の豆腐屋もハロウィン中にマフティー補正を上乗せさせて繁盛していた。

 

 

「「「マフティー! お菓子をくれないとイタズラするぞ!」」」

 

 

商店街にマフティーが現れた噂を聞いた子供達がまた現れる。

 

微笑ましそうに眺める人達の視線の中でお菓子用のバッグに手を突っ込んでお菓子を渡した。

 

受け取った子供達はまた何処かに去り、俺はお菓子用のバッグを揺らして中身を確認する。

 

もう空っぽだ。

 

これ以上は渡せないので買い物を終わらせて商店街を後にして入り口まで戻ってきた。

 

入り口の騒がしさは落ち着いていた。

 

どうやらファンサービスは終えたらしく、カボチャのお面を外して水分補給をするミスターシービーの姿。

 

今回も便乗したのだろうダイタクヘリオスは恐らく撮影のために使っていたのだろうスマートフォンのスタンドを片付けている。

 

あと何もしてないけど疲れた顔で缶コーヒーを飲むマンハッタンカフェの3人。

 

俺の自慢の担当達。

 

 

「!」

 

 

するとダイタクヘリオスと目が合い…

 

「マー!フー!ティー!」

 

バイブスが上がったまま手を広げ、ウマ娘の速度でこちらに走り出すダイタクヘリオス。

 

少しは加減を覚えてくれたのか途中減速してくれたが、それでもアガったバイブスは誤魔化せない。

 

そのまま勢い良く横腹からガバッと抱きつくと「んーッ!」と嬉しそうに尻尾をブンブンブン!とさせる。 ウマ娘パワー強い。

 

 

「ヘリオス、痛い……あと、よくわかったな?」

 

「えへへっ、めんごめんご! それとマフTの事はチョーわかりみってるから!」

 

 

俺以外にもカボチャ頭を被っている人は多く、トレーナーの証であるバッジやスーツは上着で隠しているのでカボチャ要素さえ除けばそこら辺の人達と変わりない格好をしている。

 

なら呪いによって放たれるこの威圧感で見分けたのか?

いや、その筈はない。

 

何せ…

 

 

 

__呪いからはもう解かれたのだから。

 

 

 

 

 

「マフTはキッズにお菓子をアゲアゲのプレインしてたん?」

 

「ああ。 無事に全部無くなった」

 

 

100人分のお菓子も1時間で消化された。

 

これもマフティー性が高い結果だろう。

 

 

「ちなみにウチがマフティーにトリックオアトリートって言ったらイタズラはアイノリ(合法)のアリ?」

 

「かもな」

 

「ヒュー!ならイタズラ決行結構コケコッコウ!」

 

「テンション高いな」

 

 

マフティーダンスを踊った後なのかテン上げのダイタクヘリオス。

 

イタズラはノリだとして、今はただ単に構って欲しいだけなのだろう。

 

けれど今はハロウィン。

 

お菓子を用意して無くてないなら甘んじてイタズラを受けなければ無作法というもの。

 

 

「それで? ヘリオスは俺に何のイタズラをしてくれるのかな」

 

「へ?」

 

 

急に固まり出すヘリオス。

 

 

「俺にイタズラしてくれるんだろ??」

 

「あ、えと…う、うん……」

 

「ノリの良いパリピならハロウィンのルールに乗るしか無いだろこのビッグウェーブ? なら存分にイタズラしてくれても良いぞ?」

 

「だ、だよねー、 あはは! も、もちろん、するする! うん、する…よ? それで…えと……イ、イタズラを、マフティーに……する…」

 

 

耳がしなしなとヘタレ化を起こして…

 

 

「ヘタレパリピギャルが何躊躇してるのかな?」

 

「姉貴!? あとヘタレじゃねーし!!」

 

「目に見えてヘタレでしたね」

 

「ぐっえ、カフェちん、マジレスはつらたん…」

 

 

助けは入ったがヘタレなのは事実だ。

 

するとシービーがヘタレパリピを押しのけて割り込む。

 

 

「トリックオアトリート」

 

「お菓子は無いぞ、シービー」

 

「ならイタズラするね」

 

「シービーは流石に警戒するかな」

 

「大丈夫だよ。 君との思い出を残すだけだから」

 

 

そう言うとカボチャのお面を半分だけズラすように顔に付けて、携帯をマンハッタンカフェに渡すと俺の横に並ぶ。

 

 

「カフェ、よろしく」

 

「はい」

 

「ウェ!?」

 

 

シービーの声と不意を打たれたヘリオスの情けなさそうな声と共にカフェは携帯のボタンを押した……その一瞬にフサッとした感触が腰回りに広がり、巻きつくように絡みついた。

 

感触が気になって俺の視線は斜め下に向くと、カメラアングルを気にしながらもこちらに向かって柔かに笑うシービーと視線が合う。

 

秋空の下でシャッター音がする。

 

 

「ふふっ、イタズラ完了かな」

 

 

こちらに向けて舌をペロっと出してながら、満足そうな声と共に軽い足取りでカフェから携帯を受け取る。 ブレひとつ起こさないワンショットはシービーの携帯の待受画面として決まったらしく、ハロウィンの収穫は上々らしい。 これには追い込みバとして完璧な立ち回りだったと感心する。

 

あと今の一連が羨ましかったのかゲート難のヘタレパリピギャルは携帯を取り出すともう一度ガバッと抱きついて即座に自撮りする。 ヘタレなりに頑張ったイタズラはなんとか完了したようで、テン上げを維持しながらスマホスタンドを回収してパリピは学園に去る。 この後も寮でハロウィンパーティーとかで*1騒ぐのだろう。

 

 

ちなみに後日になるとアイスコーヒーを淹れてくれたマンハッタンカフェがおずおずしながら「あの…わたしも、写真良いですか?」とお願いしてきたので、仲間外れにしないために了承すると、尻尾を揺らしながらカフェは携帯を壁に立てかけてぎこちなく俺の横に並ぶ。

 

しかし待機していたがいつまでもシャッターは鳴らない。

 

緊張のあまりタイマーのセットを忘れたらしく、カフェは慌てたように動こうとして……俺と彼女だけしか聞き取れない声がした。

 

耳をピンとして立ち止まったカフェ。 俺はその声が誰なのか理解する。 そしてシャッターの音が鳴る。 仄かなコーヒーの香り漂うトレーナールームで無事に一枚が撮れたみたいだ。

 

さりげなく物理的な干渉を行った事に対して凄いなと思いながら、見えない誰かに向けて慌てたよう会話するマンハッタンカフェを眺めつつ、今年最後のアイスコーヒーを俺は飲んでいた。

 

 

 

『__』 このウマたらし

 

 

いや、別にそのつもりは無いけどな?

 

可愛らしい自慢の担当だとは思ってるけど。

 

 

 

 

そんなハロウィンの時期を超えて冬が訪れる。

 

今年を締め括る大イベントに、俺は身構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

57:名無し ID:9l4ySDVSB

いつ見てもこの坂路で加速する脚は笑うわ

 

58:名無し ID:aoOaTYpqC

ぐんぐん追い抜いてたよな

磁石でも仕込んでいるのかと勘違いするくらいに加速してたわ

 

59:名無し ID:vNcMzmNjl

周りのウマ娘が坂で減速する中シービーだけが減速しなかったから加速するように見えてただけやで

 

60:名無し ID:NZE1ru8Dp

いや加速してただろ

 

61:名無し ID:IJVU2pprn

してようがしてなかろうが減速せずにロングスパートが安定してた時点でおかしいしそもそも長距離で絶やすことなく走ってたんやぞ

シニア級かよ

 

62:名無し ID:dJCgB6haD

近くで見てたけどぶっちゃけパドックのお披露目でシニア級かと疑うような仕上がりで勝ち確信したわ

 

63:名無し ID:OXSf523I1

現地組羨ましいわ

 

64:名無し ID:I5rFBYXtX

数日前から現地入りしてる奴が居て芝生えたわ

 

65:名無し ID:Vd5iKW5Bp

早朝行ったけど既に人多くて断念しそうになったし、外にも大型のモニター取り付けられていて色々と察したわ

 

66:名無し ID:lNBv2tn4/

無敗三冠の瞬間が見られるんやぞ

しかもマフティーのウマ娘ってなるとマフティーのガチ勢はやばい

 

67:名無し ID:TrTz/X+FX

カボチャのお面つけてる奴多くてイベント会場間違えたかと錯覚しそうになったからマフティーの影響力やばいわ

 

68:名無し ID:jfsIKjXBE

それでシービーが三冠取るんやもん

マンションで人々が吠えてたわ

 

69:名無し ID:GsUC0fci5

シービーが1着入った瞬間隣のアパートとか全部屋から雄叫びが聞こえたぞ

 

70:名無し ID:lQJVS3d1w

やはり皆見てたんやな

 

71:名無し ID:paGhVlt6u

せやで仕事中でも見てたわ

 

72:名無し ID:6TZBzUNiS

やはり坂路の加速は目を疑ったわ

あれだけ育てたマフティーも凄いけどそれをやってのけたシービーがマジで凄いわ

 

73:名無し ID:K9hJCIz95

ミスターシービーってウマ娘凄いだけだろ

トレーナーとか関係ない

 

74:名無し ID:eIzix4fs9

G1に導いたトレーナーが、関係ない……??

 

75:名無し ID:EOVlhszzR

それマジで言ってんの??

 

76:名無し ID:qTx4O8s8v

つまり東条トレーナー相手に面向いて同じこと言えんのかすげーなお前

 

77:名無し ID:2Pqkr1uzW

マフティーは普通にトレーナーとして凄いやろ

 

78:名無し ID:qKreQwV+U

重賞じゃなくて頭が重症だから放っておけそんな奴

 

79:名無し ID:24f3SOI1a

でもマフティー何したんやろ?

シービーが劇的に強くなるのは見てたけどあれ程強くなるのは薬とか疑ってしまうわ

 

80:名無し ID:xpc+8jQFq

マフティーはそんなことせんやろ

シービーの伸び代を上手いこと活かした

 

81:名無し ID:vGoi2X+If

元々強かった奴をさらに強くするって凄くない??

 

82:名無し ID:d15wunEJc

ゲームでも良くあるけどレベ高いと経験値多くなるやろ?そうなると成長遅くなるやん

それでも衰えず安定して伸びてるならつまりそう言うことや

 

83:名無し ID:893mNVg5z

マフティーはぐれメタル説

 

84:名無し ID:s4z8xQBZW

ただでさえ例の踊りに新たな振り付けが増えて考察班が動いてんのに

 

85:名無し ID:amp10eVQ3

どゆこと?

 

86:名無し ID:dG0Eq5jK2

トレセン学園の近くに商店街があるんやけどハロウィン始まってまたシービーが例の踊りをしてたんやで

それで更に振り付け多くやってたんや

 

87:名無し ID:r3/7v8s7Q

マフティーはスーダン語で王とか主って意味やからスーダンとかの民舞や鼓舞から同じ振り付けないか探してその歌詞からマフティーの存在意義を照らし合わせたりとかな

 

88:名無し ID:L6PXhMWp5

ワイの知り合いがマフティーガチ勢の考察班でグループ入ってんねんけどそれらしい意味あったらしいで

胸を叩く動作が何故両手なのか?とか前にいくつか話上がったわ

 

89:名無し ID:bDLDTHzon

考察はその辺にするんやぞ

続きはそれ専用のマフティーのスレで論議かましてくれや

 

90:名無し ID:vGnrh0Hi3

やだよ(拒絶)

半分ほどカボチャ料理のスレに変わっちまったからあまり行きたくない飯テロされるんじゃ

 

91:名無し ID:JzvfsdQy2

菊花賞終わったばかりなのに休み挟まずファンサービス行うとかシービー大したもんだわ

 

92:名無し ID:JOI4WkXzO

カボチャのお面つけてるのに歌のお姉さんみたいなシービー可愛らしかったで

子供だけじゃなく大人や老人にパリピまで加わって楽しそうやった

 

93:名無し ID:DfNYrwcDh

案外行ってる人いるんやなあそこの商店街

 

94:名無し ID:MKQluEddp

マフティーセールとかで賑わってたぞ

 

95:名無し ID:zlm9BwQQW

何でもかんでもマフティーつければ良い訳でもないやろうに

 

96:名無し ID:Fp/735AzW

でもマフティーセールって言葉がなんか好き

 

97:名無し ID:qOISgccnK

スーダン語かなんか知らんけどマフティーって名前は可愛らしい部類やと思うけどな

 

98:名無し ID:TT8eV3r1c

つまりマフティーは女の子やった?

 

99:名無し ID:wRIdMaKbF

男の子やぞ

 

100:名無し ID:nYqYYAU5q

おまらシービーの話してくれよ

 

101:名無し ID:hFIg6cAkx

シービーもマフティーみたいなもんやろ?だからマフティーの話をしていればシービーの話にもなるから(暴論)

 

102:名無し ID:27zk4/mM6

つまりマフティーがシービーでシービーがマフティーだった?それともマフティーはマフティーでシービーはシービーだけどマフティーに集約されるからマフティーもシービーもマフティーだった?

 

103:名無し ID:0kIkLTyhe

マ、マフティーとは……うごごご…

 

104:名無し ID:RtmNtjXk2

カボチャのお面つけてる時点でマフティー定期

 

105:名無し ID:Gxnak1839

ならワイもマフティーやないか!

 

106:名無し ID:nDwEushs8

でもおかんが言うにはな?

キャロットマンのお面じゃないかって言うねん

 

107:名無し ID:SIN3IL6jZ

ほなマフティーやないな

 

108:名無し ID:BWquQ4Ehm

キャロットマンが正義ならマフティーは悪って事?

 

109:名無し ID:TO2aGQiA9

悪の正義やないの?

 

110:名無し ID:KIVXPw68p

また考察班が暴れるからその辺りにしてくれ

 

111:名無し ID:IgODmDAAj

代わりに江戸ニキが暴れてくれるから心配せんでええで

 

112:名無し ID:V/OdjwtoC

シービーの勝負服のおへそすごく良い

 

113:名無し ID:Rsyss/8uB

わかる

ヘロイン

 

114:名無し ID:PQDGyy1UH

えっど

 

115:名無し ID:bH6r8gNwl

あ、ばか

 

116:名無し ID:60fiUOO4p

江戸時代に江戸幕府が置かれた日本の政治の中心地として発展した。また、江戸城は徳川氏の将軍の居城であり、江戸は幕府の政庁が置かれる行政府の所在地であると同時に自身も天領を支配する領主である徳川氏の城下町でもある。

 

117日:名無し ID:dRXR2ESls

でたわね*2

 

118:名無し ID:qS+xZ0Z8J

江戸ニキおつかれさまです!本日も異常無しであります!

 

119:名無し ID:lRLMftAZB

帝国ルートでいなくなる門番さんおっすおっす

 

120:名無し ID:THPygri42

マフティー帝国の回し者説

 

121:名無し ID:D+GTbIXFW

だからマフティーの正体とかその関連は他所でやれや!

 

122:名無し ID:muTLbPGMk

でも帝国の覇王ならあり得てくるんだよなぁ…

 

123:名無し ID:zR3XFOPJ3

仮に覇王と言うことで政体を変えるならURAに向けて欲しいんだが

 

124:名無し ID:9TlA9tHSy

別にURAは変えるほど悪く無いやろ

ほんのちょっと民衆の弾圧に弱いだけやで…

 

125:名無し ID:bYwWbBdqN

弾圧とか関係なしにマルゼンスキーの件はゆるさねえからな

 

126:名無し ID:xkOLId14M

シービーが出てるのにマルゼンスキー出れんのは納得いかないんだが正直

 

127:名無し ID:4cLpQec98

せめて有マ記念くらいは出て欲しいわ

 

128:名無し ID:Q7zDgnRJA

マルゼンスキーまだ学生で怪我なくめっちゃ元気に走れるのに出走が認可されないとかほんと可愛そすぎるわ

 

129:名無し ID:RTBDCeRcR

絶対勝ってしまうから周りのウマ娘も可哀想になるんだよなぁ

 

130:名無し ID:p2NjhUwh7

それがアスリートの世界だぞ

 

131:名無し ID:X5udvCGEV

今のシービーならマルゼンスキー倒せるんちゃうん?

 

132:名無し ID:tNjmCLhni

いやマルゼンスキーが勝つやろ

 

133:名無し ID:+aKH3nxIs

マフティー補正のミスターシービーなら勝てると思うんだけどなぁ

 

134:名無し ID:W37QRU4oq

勝率あっても2対8でマルゼンスキーやろ

 

135:名無し ID:COFA64MuT

流石に2と8は無いやろw

そりゃマルゼンスキーは強いけどシービーも劣らない程度に強いやろ

 

136:名無し ID:5SZSDohh3

有マ記念の距離ならシービー強いって

花京院の魂を賭けても良い

 

137:名無し ID:gxGDaxn+N

でもクラシック級で有マ出走してシニア級のウマ娘ぶち抜きまくってハナさで2着のマルゼンスキーはやはりおかしいで

 

138:名無し ID:fmA8hjS6d

マジそれな!

ハナ差でギリ勝てたタニノチカラ*3姉貴は心臓バクバクやったろな

 

139:名無し ID:37sj5hF7u

姉貴本人はマルゼンスキーの大阪杯見送ってからシニア級卒業したけど後一年シニア級を走れたとしても今後マルゼンスキーには勝てる気がしないってコメント残してたで

 

140:名無し ID:tlxp4eLP2

あの姉貴より強くなるとかマジ怪物やなマルゼン

 

141:名無し ID:TxYerz78Q

タニノチカラ姉貴結構強いのに当時のマルゼンスキーがまだクラシック級と聞いてワイ何がなんだかわからんかった

 

142:名無し ID:J0JLG15MI

二人は同じ東条トレーナーのチームだけどこれと言ってバトンタッチとか無かったんやと聞いて、こう…ね??

 

143:名無し ID:VYJKUh6jB

孤独って奴やろ?仲の良いチームメンバーはいるんやろうけど孤独感あるよな

なぁ、誰かマルゼンスキー助けてあげれんの?

 

144:名無し ID:MGcdj+TAY

レースで対等に戦う話ならシンザンとか

あと同じ距離得意とするタケシバオーとかじゃ無いと無理やて

 

145:名無し ID:zXGu3E2uK

いつの話や

もうおらんぞその二人

 

146:名無し ID:jhg84m/yJ

仮に世代が同じでもマルゼンスキーが1番強いやろうな

 

147:名無し ID:B7tkaJwMK

でもマフティーとミスターシービーならなんとかしてくれる…筈。

 

148:名無し ID:PggaYwxdU

URAが動かないと何にも起こらないよ

 

149:名無し ID:LIFVAOd0f

マジやるせ無い…

 

150:名無し ID:xXVBYxE7m

はー、つっかえ

 

151:名無し ID:yCdYkCENL

またスーパーカーの走るとこ見たいんじゃ…

 

152:名無し ID:NP5Wv5AhS

ふぁ!?

 

153:名無し ID:uHMHbJ61y

え? え?

 

154:名無し ID:V+EEK7qhd

待って、なに?

これ、URAからよな??

 

155:名無し ID:8sBu+zTF4

どうしたん?

 

156:名無し ID:D7nssGVt5

何騒いどんの????

 

157:名無し ID:2rgWZED9R

いやニュース開けかみよろのほろ

 

158:名無し ID:eXr3jznfm

誤字る程の話なのか…

 

159:名無し ID:x0vWWSlHU

見たけどこれってマ?

 

160:名無し ID:xYPiq+BhL

マ(フティー)

 

161:名無し ID:1uXBQzCw/

マジで言ってんのURA!?

 

163:名無し ID:kUR8lOGJC

ちょww

やりやがったwwwww

 

164:名無し ID:tH9lBm68O

これ絶対そうだろ!!

 

165:名無し ID:wx7VGNjfQ

やってみせたよマフティー!!

 

166:名無し ID:RvS6S2jzK

なんとでもなりやがった!!www

 

167:名無し ID:T89rcyXft

いやいやいや!!1!

これすごいことなるなぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるスレが加速する、その日の夕方。

 

ハロウィンを終えて一つの情報が入る。

 

これを見た人々は驚いた。

 

それはURAから有マ記念に出走するウマ娘の人気投票の報告だった。

まだ12月では無いのに発表は早くないか?

 

その疑問は正しく、今はまだ菊花賞が終わったばかりの11月。

人気投票期間として設けられている時期である、

なので決定されるわけが無い。

 

一体何のつもりなのか?

 

これを見た人たちは困惑しながらも、有マ記念出走にするウマ娘の名前に誰が載っているのか?と、プレゼント箱を開けるごとく展開された情報に目を通す。

 

 

記載されてたのは上位5名のウマ娘だった。

既に出走が確定されてる参加メンバーの報道。

 

なるほど、と頷きながらもやはり謎のタイミングに首を傾げつつ確認する。

 

 

 

ミスターシービーの名前。

 

 

これに喜ぶ者達は多く、当然だとばかりに頷き、ハロウィンの延長のようにカボチャのお面をつけて喜ぶ者達で溢れた。

 

 

 

しかし、その喜びが吹き飛ぶ名前が1名乗せられていた。

 

ミスターシービー以上に驚く名前があったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マルゼンスキー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この名前に世間は大いに騒ぎ立てた。

 

 

 

しかし、彼だけは至って冷静だった。

その時が訪れるまで身構えながら…

 

 

「URAの過ちは、マフティーが粛清する」

 

 

スーパーカーのキーを回した彼は呟く。

 

被り続けることを選んだカボチャ頭と共に。

 

敢然とマフティーするだけだった。

 

 

 

つづく

*1
この後めちゃくちゃ友達に自慢した

*2
※そもそもウマ娘の世界に江戸時代があるのか??

*3
強い強いタニノチカラ強い




流石に【無敗の三冠】に関しては三女神で無かろうとお認めになる他ない偉業ですね。

あと競馬知識ゼロの身としてアプリで狂うように重賞を取ってますが実際G1を一つ取ってるだけでも凄いんですね(小並感)

Q_そう考えるとテイエムオペラオーってマジで覇王なんやな。
しかもそんなのとバチバチに戦った
メイショウドトウとか "も" 普通にヤベー奴やん……え? 何でこの話の流れになったのかって?? いやいや、セイちゃん的に特に深い意味はないですよー


ではまた


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19話

《追記》
楽曲コード消えていてビビった。
とりあえず急いで追加しました。


空を見上げれば晴天の空で、真冬を感じさせない陽の光が祝福する。

 

中山レース場でアタシは勝負服を身に纏っていた。

 

昂り始める気持ちを抑えつつ、準備を終えた者からゲートインして行く。

 

アタシはもう少しだけ気持ちを落ち着かせようと足首を捻って準備運動。

 

深呼吸して中山のターフに染まろうとすると、一人のウマ娘が近づいて来た。

 

 

 

「シービーちゃん、今日はよろしくね」

 

「あはは、やっと一緒に走れるね」

 

 

 

みんなのお姉さんのような、マブいウマ娘。

 

それはこの日、出走が認められた…一人の 怪物

 

 

 

「ここに立っていられるのはあなたのトレーナーのお陰よ」

 

「そう思う必要は全く無いよ。 マフティーはただマフティーとして応えただけだから」

 

「マフティー本人にも言われたわね。 礼を言うなら東条トレーナーに…ってね」

 

 

 

マフTから聞いた話。

 

菊花賞の後に東条トレーナーから頭を下げられて、マルゼンスキーを助けて欲しいとお願いされた。

 

いまあるマフティーとしての影響力がどこまで行き届くか分からないが、マフTがアタシを無敗の三冠ウマ娘に導いた力は本物だからURAに話を持ち込めた。

 

その過程で秘書のたづなさんにパイプを作って貰い、マフティー性にお熱なヘッドバン残念美人(乙名史記者)に根回しを行い、URAに一つずつ駒を進めて、最後は促す。

 

有マ記念にマルゼンスキーの出走を認めさせた。

 

ただURAも最初は渋い反応だったらしい。

 

でもマフティーの手腕は認めざるを得ない。

 

更にマフティーはたたみかけた。

 

 

 

__ミスターシービーならマルゼンスキーを倒せる。

 

 

 

これはURAを動かすに充分な手札だった。

 

もしくは…

URAもやっと動けるとマフティーに希望を抱き…期待した。

 

 

でもマフTはそんなURAの有様にため息を吐いていた。

 

運営として考えれば、マルゼンスキーの処遇は当然の判断だ。

コンテンツを保つためにもその判断は恐らく間違いではない。

 

小を切り捨て、大を選び取る。

 

後から襲う批難よりも安定を選んで一人の生徒からターフを奪い取った。 しかしそれはURAとしての苦渋だったと思う。 でもURAはその手段を選び取った。

 

でも、中央のトレーナーとしてマフTは許せなかった。

 

生徒を……まだ子供からそんなことで未来を取り上げるなどあってはならないと。

 

それが例えそうせざるを得ない出来事だとしても、大人の事情を理由に起こってはならない惨状だと認めなかった。

 

でも誰もそれを変える力がないからそうなってしまったと、マフTは語る。

 

 

弱さは罪では無い。

けれど弱さの放棄は罪だと言った。

 

それを聞いた人は、マフティーに言った。

 

 

なら、お前はできるのか?

 

そこまで言うのなら…

そこまで言えるのなら…

 

やって見せろよ、マフティー。

 

 

 

___なんとでもなるはずだ。

 

 

 

マフTはマフティーとして動いた。

 

今ここにいる誰よりも強いから。

 

アタシを栄光ある頂きまで導いたから。

 

求められたマフティーは、応えた。

 

その結果として、スーパーカーのキーを手に入れたマフTは車庫から怪物を放つ。

 

あとは……アタシ次第だ。

 

 

「アタシね、マルゼンスキー先輩の気持ちわかるつもりだよ。 そのベクトルは違うけど、楽しいから走っているのは少なくとも同じつもり。 だからアタシもマルゼンスキー先輩の出走を願ったよ。 ここに来てくれてありがとう」

 

「シービーちゃん…」

 

「だから___あとはアタシの走りに負けるだけだね」

 

 

「「「「!?!?」」」」

 

 

耳を立てていた他のウマ娘達はこちらに振り向く。

 

会場で見ていたお客さん達もゲートイン前に注目していたから、アタシに集まる視線を見てざわざわと騒ぎ出す。

 

実況も少し盛り上がってきた。 どうやら宣戦布告でも行ったと思われてるらしい。

 

まぁ、間違いでは無いかな。

 

 

「マルゼンスキー先輩は凄いと思う。 アタシはいくら走っても追いつけない光景ばかり描かざるを得なかった。 でも、それは三冠に挑む前の話。 栄光を掴めたアタシは違う。 マフティーは怪物 ()()にミスターシービーは恐れないよ? だって本当に凄いのはマフティーだって信じてるから。 なら、アタシは怪物と並ぶくらい凄い筈だよね? ミス・モンスター」

 

 

「 _____ _ _ 」

 

 

 

そこにいるのはトレセン学園の先輩…ではない。

 

そこに現れたのは…

 

 

 

「___ふ、ふふっ」

 

 

 

そのターフに君臨したのは、赤色の怪物。

 

エンジンが暖まった最強と恐れられるウマ娘。

 

スーパーカーはアクセルを蒸かすように闘争心を鳴らす。

 

 

 

「そうなのね、あなたは……………なら……」

 

 

 

ターフがざわつく。

 

ウマ娘もその威圧感に身構える。

 

会場も威圧されたのか、ざわつきが一瞬引き…

 

 

 

 

お姉さん、本気で走るわね

 

 

 

スーパーカーのキーは完全に回された。

 

 

あは…

あはは…

あははは!

 

すごいなぁ、このエンジンの圧力。

これが先輩のフルスロットル??

 

すごい威圧感だ。

 

 

ああ……でも、そうしてくれないと困る。

 

そうじゃ無いとアタシも果たされない。

 

マフTの素顔を見るためにも、アタシは本気のウマ娘(マルゼンスキー)に勝たないと意味がない。

 

 

 

「あははは…!!」

 

「ふふふっ…!」

 

 

 

思わず、笑ってしまう。

 

他のウマ娘たちは何焚き付けてんだと恨めかしそうに睨んできた。

 

あはは、ごめんね。

 

 

しかし大変だなぁ。

 

このレース、もうただでは勝てなくなったよ。

 

 

 

「マフT…」

 

 

 

これは二つもあなたにお願いした代償なのかもね。

 

ただでさえ、マフTがいる事でこれ以上にないほど全てが満たされてるのに、アタシはそれ以上を求めてしまった。

 

その結果として本気の怪物に挑むレースだ。

 

 

でも、アタシとマルゼンスキーは同じ。

 

レースを楽しむ目的は同じ。

 

でも先輩は純粋に強いからそうなった。

ターフを描けなくなった。

それは不幸なのか分からない。

レースの中で楽しみを見出せなくなるとしたら、それはウマ娘としての不幸だ。

 

中央を去って地方で走る選択なら楽しみを継続できるかもしれないけど、でもそれは多分自己満足で終えてしまう悲しい脚になる。

 

でも将来そうなってしまう荒れたターフからマフティーが救い出してくれた。 それはアタシのことをミスターシービーってウマ娘として見てくれた時と同じ。 アタシの独りよがりを彼は受け止めて、許して、認めてくれた。

 

なら、アタシだって怪物程度受け止めてやる。

 

アタシがマフティーするだけの話だ。

 

 

 

 

__ここからが地獄だぞ??

 

 

 

 

 

マフティーが出来るならアタシだって出来る。

 

なんとでもなるはず、だから。

 

 

 

 

「勝負だよ、マルゼンスキー」

 

 

 

 

これ以上は語るまい。

 

あとは、走りで応えるだけだ。

 

 

 

 

『ウマ娘ゲートイン完了、出走の準備が完了しました』

 

 

 

 

緊張感はゲートの中に閉じ込められる。

 

ウマ娘にとってこの1秒がとてつもなく長い。

 

そう感じている。

 

でも、アタシは不安じゃないよ。

 

アタシを愛バとしてくれる 彼 が見てるから。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

マフティー、アタシは今から絶対に挑むよ。

 

本気になった躊躇いのない絶対のウマ娘に。

 

 

そして、マフティーの言った通りに描くよ。

 

彼女が 禁忌 だとして…

 

URA(人々)が作り上げた 恐れ(タブー) があるなら。

 

 

それを破るのが ミスターシービー なんだって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開いたゲートから 怪物 が放たれる。

 

アクセル全開で 先頭 に躍り出た。

 

エンジン違いをわからせるように 彼女 は走る。

 

何バ身も先に行くその ウマ娘 は最初…

 

 

 

 

 

 

 

 

あどけない夢を掲げた

痛みの知らない赤子のようだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、それが許されなくなった頃。

 

楽しみすらもターフに描けなくなる。

 

大阪杯を最後に彼女は終わった。

 

その走りも、その心も、押し留めた。

 

そうせざるを得なかった。

 

なんとか無理して笑い、気にしないフリした。

 

でも、ウマ娘として、奮えて…

震えてしまう…

 

 

 

 

 

 

 

 

揺れる心を隠した

痛みを覚えた子供のように

 

 

 

 

 

 

 

 

『マルゼンスキーが先頭!! これは早い!! 早すぎる!!? 復活したこの怪物に衰えは無い!! 2番手のウマ娘とは既に6バ身差!! フルスロットルのスーパーカーが中山のターフを駆け抜ける!!』

 

 

 

 

 

 

絶望すら覚える……いや、思い出す。

 

その走りはウマ娘の見ている光景に刻んだ。

 

同じシニア級を走ったウマ娘達も息を飲む。

 

あのメジロアルダンでさえ、焦りを見せる。

 

マルゼンスキーはやはり早かった。

 

そして、マルゼンスキーも理解する。

 

やはり自分はとんでもなく早かったと。

 

その気持ちは複雑に染まり…

ターフに向けた…

 

 

 

 

 

 

 

当たり散らして乱れる

認めたくない過去を思い出して

 

 

 

 

 

 

 

 

先頭を走る彼女は気にしないようにする。

 

でも今あるこの結果が突きつける。

 

最強に収まらず、絶対にしてしまった。

 

その脚は己のターフを変えたと理解する。

ああ、そうなのか…

 

 

 

 

 

 

 

気づけばいつのまにか

新しい世界に染まり出していた

 

 

 

 

 

 

 

 

変わることもない。

 

だって絶対にしてしまったから。

 

最強は超えられる筈。

 

でも絶対は覆さないレッテル。

 

嬉しさよりも、孤独感が心を締め付ける。

 

楽しいだけだったはずなのに、何故……?

 

心臓の音は、高揚感を表さない。

 

結局、怪物は怖がられるだけだ。

 

孤独にターフを描くだけ。

 

そう思い、覚悟を決めなければならない。

 

そう感じていた。

 

そう感じる他…

 

 

 

 

 

 

 

__やって見せろよ! シービー!!

 

__やって見せるよ! マフティー!!

 

 

 

 

 

 

聞こえないはずの声が 二つ 聞こえた。

 

怪物は、それがすぐに分かった。

 

 

 

 

『ミスターシービーだ!! ミスターシービーが第3コーナー前から追い上げる!! やはり常識破りなこのウマ娘に坂道など関係ない!! あるのは1着かそれ以外だけだ!!!』

 

 

 

 

 

後方から追い上げてくる無敗の三冠バ。

 

中山レース場の苦しさを感じさせない。

 

それは絶対に届こうとして…いや、違う。

 

そのウマ娘に禁忌(絶対)など関係なかった。

 

 

 

 

 

『第4コーナーを曲がり終えてそこにはマルゼンスキー!! 3番手のメジロアルダンを追い抜き2番手に迫ったのは無敗の三冠バ! ミスターシービー!! 追い上げ!! 追い越し!! 追い縋る!! 中山の短い直線に入ったこの二人の一騎打ちだァァァ!!!』

 

 

 

 

 

中山レース上に爆声が広がる。

 

マルゼンスキー、ミスターシービー。

 

それぞれの鼓動と足音しか聞こえない。

 

先頭と後方の二つだけだと思われた。

 

だが怪物の視界横に一人のウマ娘が割り込む。

 

 

 

 

__追いついたよ!! マルゼンスキーッッ!!

 

 

 

 

『並んだ!!! 並んだぁぁぁぁぁ!!!』

「「「「「___!!!!」」」」」

 

 

 

 

観客の声でレース場が弾けるターフで怪物は目を見開く。

 

受け入れるには少し喉がつっかえる。

 

 

 

___彼女は本当に追いついて来たんだ。

 

 

 

だから、ちゃんと信じれば良かった。

そう後悔する。

 

信じられない諦めが1番人気だった。

 

 

しかし、そのウマ娘は否定した。

 

レースに絶対なんてない。

 

1番人気が必ず勝つなんてあり得ない。

 

だってここは有マ記念。

 

人気の順番なんて関係ないレース。

 

絶対なんて無いから、彼女はミスターシービー。

 

 

 

 

 

鳴らない言葉なら、もう一度…

いや違う

彼女は何度も何度も"描いて"見せる。

 

 

 

 

 

 

__あんたが正しい(絶対)と思うなら!!

__アタシが勝って描いて見せる!!

 

 

__ッッ!! ッ、負け…ない!!

__負けないから! ミスターシービー!!

 

 

 

__勝つのはアタシだ!!

__そして!! マフティーだァァァァ!!

 

 

 

 

一人の怪物は、そうさせていた自分を忘れた。

 

 

勝ってしまう、1番人気じゃない。

 

 

勝ちたい気持ちの、2番人気が前に出た。

 

 

それは怪物にとって忘れていたターフだった。

 

 

だから…

 

その一瞬が、怪物の終わりを描いた。

 

 

 

 

「___ぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

赤色に染まる時間を置き忘れ去れば

哀しい世界はもう二度となくて

荒 れ た 陸 地(ターフ)

こ ぼ れ 落 ち て い く

 

 

 

 

 

一筋の光へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミスターシービー抜けた!! 抜け出したあ”あ”あ”あ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、見ることはないと思われた光景。

 

1番しか描けないターフだった。

 

しかし、その先に一人のウマ娘が割り込んだ。

 

まるで否定してくれるかのように描く。

 

マルゼンスキーは孤独じゃなかった。

 

周りとさほど変わらない。

 

負けることもある、ウマ娘になった。

 

 

 

 

 

 

 

『ミスターシービー!!1着でゴォォォォール!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、怪物は存在しなくなった。

 

存在したのは 1着 と 2着 のウマ娘だけ。

 

そして皆は理解する。

 

レースに絶対は無い。

 

禁忌破りのウマ娘がそれを証明してくれたから。

 

 

 

 

タブーは、人が作り上げるモノ。

 

固定概念は、人が編み出したモノ。

 

しかし…

 

それを破るのは ミスターシービー

 

彼女は 閃光 の如く 怪物 を追い抜いた。

 

 

 

 

これは有マ記念で行われた伝説のレース。

 

いつまでも、そう語り継がれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐいぐい………

 

カポっ…!

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

 

 

息を吐き、開放感を味わう。

 

首を回して肩のコリを軽くほぐす。

 

そして目の前の彼女は……

 

 

 

「………うん! 至って普通だね!」

 

 

「カボチャ頭外させて反応がそれかよ」

 

 

 

カボチャ頭を机の奥に置き、ストロー無しで飲み物を飲む。 首をコキコキと鳴らしてシービーの反応を考えた。

 

やはり顔つきは普通なのかな?

 

ほんのりとハサウェイ寄りな顔つきなのは鏡見て知ってたけど。

 

まあそもそもハサウェイの顔つきがイケメンなのかはわからないけどな。

 

 

 

「でもイケメン寄りな、フツメンかな?」

 

「それ褒めてるのか?」

 

「マフティーらしさある、顔つきかな」

 

「それカボチャ顔ってこと?」

 

「カボチャ被ってそうな顔かな!」

 

「猫被ってるの感覚で言われてもなぁ…」

 

 

てかカボチャ被ってそうな顔とか地味にパワーワードだよな。

 

聞くだけだとただの狂人じゃねーか。

 

てか、狂人だったわ。

 

てか、俺やん。

 

てか、マフティーやん。

 

 

「もっと、こう…なんか驚くようなリアクションあるかと思ったんだが? 俺としても外すのに心の準備とかしてたんだけど」

 

「パリピ呼んでくれば無条件でリアクションが倍増されるかもよ」

 

「シービーだけに見せないとご褒美にならないだろ? パリピ達は次の機会だな」

 

「あはは、アタシだけ特別か……ふふーん、特別ねぇ。 ……う、うへへへぇぇ」

 

 

特別が嬉しかったのか、有マ記念の時のようにキリリとした顔はそこに無く、ふにゃりとした顔つきになり…

 

 

 

「まー、ふー、てぃー」

 

「うおっと!?」

 

 

 

倒れ込むように接近してきた。

 

こぼしそうになる飲み物を急いで机に置く。

 

寄りかかれながらウマ娘パワーでソファーに押し倒されて、そのまま胸元に顔を擦り付けて満足そうな声を漏らす。

 

まるで甘える猫のようだ。

 

猫味ある顔だからむしろネコ娘かと間違えそうだ。

 

 

「んふふ〜」

 

 

尻尾を揺らしながら声をこぼす。

 

ウマ娘パワーに逆らえない俺はソファーの半分の面積を占めるように寝転がされて、背中でクッションを押しつぶす。

 

ミスターシービーはその上に乗るように倒れ込んでこちらをガッチリ抱きしめながら喉を鳴らし、特に意味もなく耳がテシテシと俺の頬や喉元を叩く、なんてことない物理的な愛情表現をしばらく行っていた。

 

 

 

「なんか、やっと君に会えたって感じ」

 

「シービーが三冠の頂まで登り詰めたから、その頂で出会えたって事だろうな」

 

「それだと毎日会いにいくには大変だね」

 

「じゃあ、どうする?」

 

「………一緒に住む、マフT抱えて下山して」

 

「拉致じゃねーか」

 

「がおー、ウマ娘はつよいんだぞー」

 

「知ってる。 知ってるよ。 君は強い…ウマ娘だよ」

 

 

頭を撫でる。

 

手入れするのが大変で少しだけボサボサしてる髪の毛だけど、それがミスターシービーって感じだ。

 

少しだけ指を立てて髪を撫で下ろすようになぞる。

 

されるがままの彼女は息を漏らして、いつまでも身を預け続けた。

 

 

「君が最強だよ、ミスターシービー」

 

「……うん」

 

「来年は最強か分からないけどな」

 

「別にそれでも良いよ。 アタシがマフTの愛バなら、もう本当にそれ以上は求めない」

 

 

身を捩らせながらもぞもぞと這い上がり、背中に腕を回しながら胸元まで顔を寄せる頬擦りするように深く体を預ける。

 

 

「アタシはマフティーのミスターシービーだ、それ以上でもそれ以下でもない。 いつかは後輩にマフティーを譲らないとダメかもしれないけど、今だけはキミと勝ちたい

 

「…」

 

「アタシはワガママで困ったウマ娘だから」

 

「それなら俺だってカボチャ頭を被ろうとした困ったトレーナーだ。 素顔見せるためにマルゼンスキーに勝たないとダメだと言うほどだ。 付き合うに大変なトレーナーだよ」

 

「それでもあなたはマフティー。 そしてアタシだってマフティー。 求めたら応えるウマ娘だから」

 

 

意味さえ込めれば誰だってマフティーになれるから。

 

だからマフティーとして彼女に返す言葉無く、マフTとして甘えるその頭を撫でるだけだ。

 

力なく耳は垂れ落ちて、キリッとした目は猫のように細く虚ろに染まる。

 

尻尾はゆっくりと揺れている。

 

 

「もう少しこのままで良い?」

 

「門限までなら、な」

 

「ん」

 

「……シービー」

 

「…」

 

「お疲れ様」

 

「…ん………出会ってくれて……あり…がとう…」

 

 

 

まもなく今年が終わる。

 

 

恐れられた怪物を追い抜き、絶対的な固定概念を覆し、勝利を見せつけた事でURAに反省を促し、そして日本のウマ娘の中で最強となった彼女は、今だけ俺の懐で寝息を立てている。

 

 

俺の素顔を知ったように、俺しか知らないミスターシービーの素顔を俺が知る。

 

 

無敗の三冠ウマ娘…

 

マフティーとして誇らしく、マフTとして誇らしく、俺はそんな彼女と共に今年を走り切ったことを誇らしく思う。

 

 

底辺だったマフティーは、今やっと…

 

頂点に立てたのかもしれない。

 

それは間違いなく、彼女のお陰だ。

 

 

「お礼を言うのは俺の方だよ、ミスター・ウマ娘」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禁忌破りのウマ娘

 

その名は

 

 

 

 

 

ミスターシービー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 




マフティーはある意味、禁忌破りな存在。
つまりミスターシービーもマフティーってことですね。
だから作者はマフティー性高いこのウマ娘を選んだ。
(嘘です普通にかわいくて好みだったから。 あと実装を促すため)

とりあえずURAに 促し を完了。
シービーの勝利を受け止めて 反省 してね。


ちなみにマルゼンスキーに勝てたのは適正距離差。
あとマフティー補正の差ですね。
それでもマルゼンスキーが強いと考えてます。
てかマルゼンスキーはそうであって欲しい気持ちがある。


▽ 以下、やや適当なステータス表 ▽

ミスターシービー(クラシック級)
スピード C+
スタミナ B
パワー  C
根性   C
賢さ   B

マルゼンスキー(シニア級)
スピード A+
スタミナ B+
パワー  B+
根性   B
賢さ   B

アプリゲーム並みの強強ステータス。
強すぎんだろこのスーパーカー。
リトルココンと充分タメを張ますね、これは。


▽ おまけ ▽

メジロアルダン(シニア2年目)
スピード C
スタミナ C
パワー  C
根性   C
賢さ   A

ダイタクヘリオス(ジュニア級)
スピード D
スタミナ F
パワー  F
根性   F
賢さ   G


とりあえず今回の話で何が言いたいかと言うとですね。

Alexandrosの[ 閃光 ]は普通に名曲ですね。
ネタにされてるけどフリージアもです(鋼の意思)

※使用楽曲はコードに乗せて許可を得てます。


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20話

気性難なあのウマ娘とマフティー構文を合わせたあのMAD好き

よく似合うッッ!!



全身黒タイツは流石にまずい。

 

それだけはダメと思う。

 

でもアイデンティティだから黒は外せない。

 

 

なので…

代わりに黒いジャージを使うことにした。

 

 

当然だけどカボチャ頭も忘れずに装備。

 

ちなみにMK-3強襲型スプリングタイプ(春仕様)使用のカボチャ頭であり、これも立派なマフティー性を兼ね備えている。

 

カボチャは秋に収穫されると言ったな?

あれは嘘だ。 春も収穫できる。*1

 

 

「…」

 

 

待ち構えてる時に死神は来ないものだが、カーテンが開けば人々の顔が見えるとその歓声は大きくなり、トレセン学園の一角に浸透する。

 

そして…その奥には三女神の像も見える。

 

 

「ヨロたんウェーイ!」

「楽しんで行ってねー!」

 

 

横に立つ2人は見に来てくれた人達にファンサービスを行うつもりでいまから踊るのだろう。

 

あと罰ゲーム感覚で踊らされた俺もそのつもりだけど、少しくらいは私念を込めても許されるだろう。

 

だからこれを機会として俺は三女神に向けて反省を促すことにした。

 

 

 

〜♪

〜♪

 

 

音響担当のカフェがボタンを押す。

 

すると、俺が1番詳しい例のBGMが鳴る。

 

しかしこれはまだ前奏。

 

だが、盛り上がりは勢いを増す。

 

 

 

「ふっふー!」

「ウェーイ!」

 

 

俺の隣には担当ウマ娘である、ミスターシービーとダイタクヘリオスが黒いジャージを身に纏い、カボチャのお面をつけてモチベーションはマフティーする一方だ。

 

ウズウズと掛かりそうになりながらも、最高の舞台にしようと紅潮する気持ちを抑えながらポージングする。

 

ちなみに前奏中に必要なポージングはマフTが提案して欲しいと2人から無茶振り込みで強請られたので、とりあえず前世の知識から引っ張り出した結果として。

 

 

シービーには三ガンダムのポーズ*2を。

 

ヘリオスにはペーネロペーのポーズ*3を。

 

俺は初代ガンダムのポーズ*4を行う。

 

 

ジオン軍も真っ青なステージが完成した。

 

お陰で観客はより一層盛り上がってしまう。

 

 

いや、何故こうなったし。

 

ああもう!

 

厄介なモノだな! 生きると言うのは!!

 

そんでもって抱えているんだ! 色々とな!!

 

 

こんな感じに心情やけくそ気味だけど、ステージに立った以上はマフティーとしての責務を果たすまで。

 

なんとでもなるはずだ!の気持ちで全身全霊する事にした。

 

 

「「「!!」」」

 

 

英語版の歌詞(閃光) がBGMと同時に広がる。

 

ちなみに歌詞は俺が刻んだ。

 

ある程度アレンジしているがそこまで崩れていない。

 

改めて周りを見る。

かなり多くの人が集まった3月の学園祭。

 

 

盛り上がりの一端を抱え…

 

マフティーダンスで促しを開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バ カ 受 け だ っ た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盛り上がった学園祭から2週間が経過。

 

俺からしたら黒歴史の瞬間だったけど、しっかりキレ良く踊って、マフティー性でカバーしたのでダメージは抑えたつもりだ。 普通に盛り上がってたしマフティー性ある誇りある実績にした。

 

 

さて、それはそれとして新入生としてトレセン学園の門を叩いてやって来たウマ娘達も中央の環境に慣れつつあるだろうこの頃、俺もコントロールできる様になったこの呪い……いや違うな。

 

三女神から授かりしこの力をしっかり制御しながら街中でブラブラとしているところだ。

 

この環境にも随分慣れたと思っている。

 

その証拠として…

 

 

「あ! マフティー!」

「ええー? あれ本当に本物??」

「本物だよ!偽マフティーじゃない!」

「年季の入ったカボチャ頭だから本物だな」

「だ、誰の頭がカボチャ並みにでかいと…!」

 

 

年季の入ったカボチャってなんだよ? そんなワードを聴きながら街行く人々に軽く一挙一動しつつ俺も街中を歩く。

 

 

「少し濃いめで、あとは普通。 それと出来れば長めのストローで頼む」

 

 

長いストローを刺したはちみードリンクを購入して喉を潤す。

 

いや、これは潤わないな。

これは飲む毎に喉が渇いてしまうな。

スポーツドリンクと同じ感じだろうか?

 

これを濃いめ、硬め、マシマシが飲めるシービーとヘリオスは素直に凄いと思う。

 

量はともかく俺はそこまで甘く無くて良いかな。

 

そんなことを考えていると急に列が出来た。

 

 

「マフティーが飲んだからなんかあるよ」

「なら私達も飲もう!」

「お母さん!わたしも飲みたい!」

「そうね、半分こしましょう」

「これは!まさしく!福がきたりまっす!」

 

 

マフティーが飲んだってだけでこの有様。

 

お店の売り上げに貢献したと思えばそれで良いかもしれないが、マフティーが購入したから何かご利益的な物があるのでは?と、期待込められてしまうのは濃いめ硬めのはちみードリンク並みに重い気分だ。

 

俺はマフティーだけど、神様でも無いただの人間なんだよなぁ。

 

もしかしたらアムロもこんな気持ちだったのかな? 自身が恐れられるNTだとしても周りと変わらない普通の人間として扱って欲しかった、そんな彼の切実さはもしかしたらこうだったのかもしれない。 やっぱり戦争って悲しさしか生み出さないな。 そりゃシャアもアクシズ落として世直ししたがる。

 

 

「少し静かな場所に行くか」

 

 

担当ウマ娘のために身を削るのは構わないが疲れ過ぎるのは好きで無い。

 

慣れない人混みにハイジャックされて神経が苛立つ前に俺は街を出て…公園までやってきた。

 

街中よりも人は少ないが、それでも休日故に親子連れが多く感じる。

 

俺は目立たない様に移動しながら、半分くらい飲んだはちみードリンクを揺らしてベンチに座り、タブレットを開く。

 

先程の飛んできたメールを確認する事にした。

 

 

「?」

 

 

件名入って無いな。

 

でもトレセン学園からのIDだからイタズラメールじゃ無いと思うが。

 

さて、どれどれ。

 

 

 

『速報ッ! 明日の放火後に来て欲しい! _りぢぃちょう』

 

 

 

 

「……これ理事長だよな?」

 

 

4月に入ってから新たに変わった理事長こと秋川やよいからのメールだと思う。 あとメール慣れて無いみたいだ。

 

放課後が放火後になってるし。

 

_随分と躊躇いもなく撃つじゃないか?

 

 

 

それより何か話だろうか? そう考えているとたづなさんからもメールが届いた。 次はちゃんとした文章と先程のメールの謝罪の文だった。 早速苦労してるみたいだ。

 

でも秋川やよい理事長の熱意はトレセン学園の環境を変えてくれるはず。 俺もそろそろ動く必要が出てくるので身構えておくべきだろう。

 

たづなさんには『かしこまりました』と一文だけ返した。 とりあえず明日の放課後に理事長室まで足を運ぶ必要があるらしい。

 

 

「さてさて」

 

 

軽く頭の中が仕事モードに入ってしまったのでそのままタブレットを開いて明日の仕事内容だけでも確認しようとした、その時だ。

 

とある人から声をかけられた。

 

 

「あ、すみません、あの……ちょっと場所をですね……その…」

 

「?」

 

「ぇ、まさか、本当のマフティー!? あ、い、いや、もしかしたら偽物の可能性が…」

 

「いや、本物だ」

 

 

プライベートでも持ち歩く様にしている中央のトレーナーバッジを見せると、その人は本物であることを理解して青ざめ始める。

 

その間に俺は周りを見渡す。

なるほど。

 

 

「撮影か、なら邪魔をしたな」

 

「いえ!む、むしろこちらが! あはは…すみません。 一般人なら背景になりますがそのカボチャは目立つので…」

 

「気にするな。 そろそろ帰ろうと思っていた頃だ」

 

 

仕事内容の確認なら家でも良いだろう。 タブレットを荷物の中にしまってベンチから立ち上がる。 集まり始めるスタッフを横切りながら一体誰を主役に撮影するのだろうか? 少し気になったので軽く周りを見渡すとスタッフから怯まれてしまう。

 

威圧感もプレッシャーも放ってはいないがマフティーとしての知名度が人を退かせてしまうらしい。 あと周りを見渡すだけで牽制されたと思われてしまう。 別にそんなつもりは無いけどな。

 

呪いは無いとは言えあまりカボチャ頭被って外出しない方が良さそうだな。 この格好が許されるのは商店街くらいだろう。

 

怖がらなくてもこのマフティーは軍資金調達しなくても大人しく帰りますよ。

 

 

「あ!! ちょ、ちょっと待ってくれない!?」

 

「?」

 

 

次は別の人…いや、別のウマ娘だ。

スタッフか? もしかして…モデルさん?

綺麗なウマ娘だな。

 

大きな上着を着ている。

 

 

「どうした?」

 

「あの、あなたトレセン学園の…マフティー?」

 

「この世には色んなマフティーが存在してしまっているが、トレセン学園のマフティーかと言われたら俺のことだな。 これがトレーナーのバッジだ」

 

「!!」

 

 

しかし綺麗な髪の色してるな。

 

これ芦毛…だっけ?

……いや、全然違うな。

 

なんだったか、この毛色は。

 

 

「な、なら! あの…!!」

 

「その前にすまない……()()()()?」

 

「へ?」

 

「「「!!??」」」

 

 

え?

 

何その反応??

 

俺なんか間違えた??

 

いや「君は誰だ?」は流石にまずいか。

 

 

「あ、えと……アタシを知らない感じ?」

 

「ああ、知らないな」

 

「!」

「ちょ、ちょっとあなた!」

 

 

すると女性のスタッフさんが詰め寄ってくる。

 

もしかしてこの人はマネージャーさんか??

それより怒っているのか?

 

え? なに?

マジでなんなの??

 

もうやだ。

こわい。

 

まふてぃーおうちかえしえよ。

 

 

 

「あなたこの()の事知らないの!?」

 

「知らない物は知らないな」

 

「!」

 

「有名だからと言って皆が知ってるとは限らないだろう」

 

「「「!!!」」」

 

 

何?そんなに驚くほどの有名人?

いや、この場合有名ウマなのか?

 

申し訳ないけど、あまりアイドルとかモデルとか知識が無いからな。

 

 

「ちょ、ちょっと! マネジ! ストップ! 熱くなり過ぎ! アタシは大丈夫だから!」

 

「ぁ…………ご、ごめんなさい、少し落ち着くわ。 それで、その…」

 

「気にするな。 こっちも色々と浅かった。 トレーナーとして未熟故むしろ世間に対して疎くてな。 普通に知らなかっただけだ」

 

 

実際に俺は疎いと思う。

 

担当ウマ娘の事と、休日に時間を潰すオンラインゲームのことばかり考えていたからな。 こうして外を歩くことはあまり無くて、やっとレース以外の情報を得る様になった頃だ。 これからやっと色々を知って行くと思う。 もっとヘリオスから最近のトレンドとか聞いてみるか。

 

 

「あの、ごめんなさい。 ちょっと最近上手くいかないことが多くてマネジも焦ってた……って言ってもあんたには理不尽だよね」

 

「気にするな。 知らなかったとは言えこっちも言い方が悪かった。 謝る。 そちらも気にしないでくれると助かる」

 

「…ん、わかった」

 

 

たまに厄介な追っかけがいて、話が通じない輩は存在するがこの子はちゃんと話は通じるみたいだ。

 

一人の人間として対話とってくれる辺りとてもありがたい。

 

 

「君は随分と愛されてるな。 そのマネージャーは大事にするんだ」

 

「あ、うん。 言われなくてもね、とりあえず、ありがと。 それで……本当に私を知らないんだね?」

 

「ああ」

 

「! ……そっか」

 

「………そんなにショックなのか?」

 

「え? ああ、いやいや! ち、ちがう! 全然ちがうから! むしろ…その逆! 全然知らなくて良い! 知らないでそのままでいて欲しい! あ、でも! 今日会ったことは覚えていて欲しい! そしたら助かる!」

 

「ぇぇ…ぇぇ?」

 

 

わ、訳がわからん。

 

ええと?

 

彼女は有名人らしいく、知らない方がおかしい感じだけど、有名な彼女は知らない方が助かる、でも私は覚えておけ…って事か??

 

言ってることが難しいぞ。

試作1号機の操縦くらい難しいな。*5

 

「とりあえず!もうバイバイだから! そんじゃ!」

 

「あ、はい」

 

 

嵐のようなウマ娘って訳でも無いけど、マフティー性が消え去るほどにヤベー奴だった。

 

てか、あのウマ娘はモデルさんか。 大きく上着を羽織ってたからわからなかった。

 

それで皆の反応を見てやっと理解した。 そのウマ娘はジャージを羽織っていても、その顔を見たらわかるくらいに知名度があるのだろう。

 

しかし俺が至近距離で顔を伺っても「誰だ?」と言って驚かれた感じだ。

 

マネージャーさんが焦るくらいだからおそらく世間的には有名って事なんだろう。 もしくは若者に人気と言う感じか?

 

気になる……って、待て待て。

 

俺は彼女は知らなくて良いと言われたから、彼女のことを知ろうとしない方が良いのか。

 

でもマフティーにも人権は有るよな?

けど彼女には覚えていて欲しいって言われたし…

 

ああ、もう!!

 

意味がわからん!

 

 

神経が苛立つ…!

よく喋る…!

 

 

「帰るか…」

 

 

大人しく家の中でオンラインゲームしていれば良かったと思いつつ、疲れたような足取りで公園を去る。 途中商店街まで向かって夜ご飯を買い込んだ。

 

すると商店街で子供達に見つかり、ハイジャックされて八百屋まで連行されてしまう。

 

俺は身代として未来のマフティーたちに軍資金(50円玉)を差し出すと子供の武器(お菓子とか)を購入するために撤退した。 なかなかの手腕だと褒めてやりたいところだ。

 

本編でもこのくらい余裕で軍資金を調達できたら良かったのにね、あのテロリストたちも。

しかしねぇ? マフティーを名乗るからと言ってうまく行く訳では無いのだから…

 

 

 

「マー!フー!ティー!」

 

「げっ」

 

 

パリピに見つかって横腹が犠牲になった。

だから手加減しろよ…いてぇ。

 

あと長ネギ*6 も犠牲になった。

メケメケじゃなくてメキメキと音が鳴る。

 

仕方ないので頭をぐしゃぐしゃと撫で回して追い払おうとしたが「きゃー!」と嬉鳴を上げながらパリピ仲間のもとに走り去る。

 

すると俺に向けて指と腕を伸ばすとブンブン振るいながら「あれがウチのマフT!」と自慢する。 パリピ仲間も「ちょ!ヤバっじゃん!」とか「カボってんじゃん!」と目をテン上げでキラキラとさせていた。

 

やべっ、商店街の大人たちはホッコリとしている。

 

このままだとマフティーに優しいギャルの絵が完成してしまう。

 

その場を立ち去ると「マフTまた明日!」とヘリオスから大声で呼びかけられた。

 

 

「ああ、また明日…」

 

 

後ろ姿を見せながらだが、手を挙げて反応してあげると再びパリピの盛り上がる声が上がった。 今頃尻尾ブンブンさせてバイブスが最大まで上がっている頃だろう。

 

モチベーションの上げ方が激しいウマ娘だ。

 

やれやれ……よく喋る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上ッ! 話はここまで!その件はよろしく頼むぞ!」

 

「はい、かしこまりました」

 

「…むぅ、私達の前だけならもっとマフティーらしくあっても良いぞ」

 

「……了解した。 後に知らせよう」

 

「うむ!やはりそれでこそマフティーだ!!」ビシッ

「あはは…」

 

 

 

随分とマフティーがお気に召したらしい。

たづなさんも苦笑い。

 

さて、ファンネルミサイルをばら撒いた放火後…ではなく、ファンネルミサイルの様にウマ娘が放たれ始める放課後の事だ。 俺は昨日受け取ったメールの通りに理事長までやってきた。

 

それで理事長の秋川やよいから話を聞くと『チーム名』を考える様にと言われた。 てかここの学園にいるトレーナー全員にそれぞれのチーム名を考える様に指示を出したらしい。 行動がミノフスキークラフト並みにお早い。

 

 

これには独立したばかりの新人トレーナーも驚いていた。

 

そのかわり一部の古参トレーナーが反発していたが、理事長はこの話を一歩も譲らずに進めていた。 強い姿勢は頼もしく、東条トレーナーも彼女に一眼置いている。

 

まあ仮に昔のままでも俺の実績ならチーム名を授かってもおかしくなかっただろう。

 

しかし去年は有マ記念とか、URAに促す作業とさ、色々忙しかったのでチーム名は後回しだった…と、言うより意識してなかった。

 

つまり俺はチーム名を考えてすらいなかった訳だ。 なのでこれから何か考える必要がある。

 

ちなみにこの学園では星座の中で輝く星の名前を付けているらしい。

 

東条トレーナーならリギル、何やら最近戻ってきたらしい甘党なトレーナーはスピカ、筋肉モリモリマッチョマンなサングラストレーナーもそれ相応の名前を持っている。

 

こんな感じに腕の立つトレーナーは1等星や2等星の明るい星の名前が多いみたいだ。

 

これは普通に良い格付けだと思ってる。

なら俺はどうするべきか?

 

ミスターシービーは無敗の三冠ウマ娘になったから高い実績を叩き出した訳だから、ここは思い切って1等星か2等星でも付けるべきだろうか?

 

それとも無難にチームマフティーとかでも良いんじゃ無いだろうか?

 

今度東条トレーナーに聞いてみるかな。

 

去年の有マ記念が終わってからは関係も深まったのか「困ったことがあったらなんでも頼って構わない」と頼らせてくれるので、行き詰まったらベテランに頼るとしよう。

 

それでも名前の件については今年までには考えるようにと言われた話なので、ゆっくりと星を決めるとする。 今後を考えながらトレーナールームに戻るとシービーが入り口で待っていた。

 

 

「マフT、お客さんがホイホイと来てるよ」

 

「あぁん? おきゃくさぁん?」

 

 

マフティー相手に歪みねぇな…?

 

呪いを引っ込めたとは言えそれでも備わってしまったマフティー性が近寄り難い雰囲気漂わせてるから、わざわざトレーナールームまで来てマフティーに近づくウマ娘は俺の担当か、秘書のたづなさんか、当時のヘタレパリピ以外あまり存在しない。

 

しかしそれ以外に可能性あるとしたら今は4月でアスリート選手になりたいウマ娘はトレーナー求めて活発になる時期だ。

 

つまりトレーナーであるマフティーを求めてやって来たと言うことだろう。

 

とりあえずトレーナールームに入ってその訪問者を伺う事にする。

 

扉を開くと。

 

 

「あ…」

 

「!」

 

 

記憶に新しい姿。

 

そこにいたのは、昨日のウマ娘だった。

 

 

「こ、こんにちわ、どうもです…」

 

「ああ、昨日の……確かよく喋るウマ娘か」

 

「よくしゃべっ!? は、はぁ!? なんだって!? あんたそういう認識なの!?」

 

「え? なにー?マフT知り合い?」

 

「昨日会った。 なんか有名らしいなこの子」

 

「え……若者の中で有名だよ?」

 

「知らないな」

 

「……ふーん?」

 

 

「何故だろう、今頃ちょっとだけショックになったかもしれない…」

 

 

軽く項垂れる。

 

感情豊かで、あとやかましいな。

 

 

 

「どうであれ君がマフティーにそう求めたんだろう? ならマフティーとして応えた話だ。 それで君は誰かな? 知名度はともかく名前くらいは知っておきたい」

 

「!」

 

 

そう言うと彼女はわざとらしく「こほん」と咳き込み、気持ちを切り替える。

 

姿勢を正すと、まるでモデルさんだ。

 

彼女はこちらを見て言い放った。

 

 

 

 

 

ゴールドシチーです、どうも」

 

 

 

 

 

 

100年に一人と言われるほど綺麗だけど、その代わりとても気性難なウマ娘。

 

 

そんな彼女が___4人目になる。

 

そのことをまだ、マフティーは知らない。

 

 

 

 

 

 

つづく

*1
※限られてます

*2
大型ビームサーベルの構え

*3
ファンネルミサイル放出の構え

*4
ラストシューティングの構え

*5
マニュアルがかなり分厚い機体

*6
首領パッチソード




あなたの夢、あなたの予想は当たったかな?

とりあえず【G】枠を"ゴールドシップ"に賭けた読者トレーナーはその馬券を握り締めたまま120億と共に星の屑作戦と化して、どうぞ。

あとノルマ達成。
さりげなく三女神に反省を促したぞ。
次は…堕落したお前ら中央のトレーナーだぞ??



それと…ランキング見て…驚いた。
近くで、最後を見送れた気がした。
本当に、ありがとうございました…ッッ!


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21話

おれの勝ち。なんで実装されたか。
明日まで考えといてください。
そしたらガチャは回せる筈です。
ほな、頂きます(カフェ)

※ガチャ結果、無償のみで70連。


とても綺麗な髪を靡かせて、とても綺麗な空色の眼を見開いて、とても綺麗な肌は憧れにしてきた。

 

珍しい尾花栗毛を持つウマ娘の中でも100年に1人と讃えられた。

 

それは……まぁ、嬉しかった。

 

アタシは特別だと思ってた。

 

それでモデルとしてスカウトされてアタシはゴールドシチーをその世界に描いた。

 

モデルは楽しい。

自分をもっと描ける世界。

ゴールドシチーを描ける。

 

でもアタシはウマ娘としてのゴールドシチーを見て欲しかった。

 

 

ウマ娘は走る生き物。

 

使命と言っても過言ではない。

 

この名前を授かったから意味はある筈。

だからアタシはウマ娘として走るべきだ。

綺麗なだけのお人形に収まらない。

 

だけどこの世に良不良が存在する。

 

アタシは綺麗なウマ娘として生まれた代わりに、走りはダメだった。

 

当然人間よりも早いけど、周りのウマ娘よりは劣ってしまう。 地方なら良いところまで行けたかも知れない……は、慰めだと気づいた。 そのくらいに酷かった。 でもアタシは自己満足のためだけに走りたくない。 ゴールドシチーの名を背負って大きなターフに描きたいこの使命だけは他のウマ娘に負けないつもりだった。

 

たしかに、アスリート選手としての素質も無いことは自分でもわかった。 でも諦めきれなかった。 希望を抱いてこのトレセン学園の門を叩き、この熱意を伝えて入学した。

 

そうして一歩だけ踏み出させたから、それはアタシにとっての希望だった。 アタシなら進めると思っていた。

 

モデルの仕事をしながら中等部1年を過ごし終える頃に……隠していた焦りは大きくなる。

 

周りのウマ娘は急激に成長する。

 

アタシも同じように成長してる筈なのに、その差は大きかった。 ここは中央だからそう言ったウマ娘は目立ってしまう。 上澄みの上澄み。 選りすぐりの選りすぐり。 そんな猛者達が集っているのだからそれは当然だ。

 

アタシはその現実に……絶望しそうになる。

 

ゴールドシチーは素質がない??

 

いや違う。

そんなの認めない。

 

急ぐようにトレーニングした。

モデルの仕事もしっかり努めて、練習も絶やさずに頑張った。

 

焦りを無理やり麻痺させて、中等部の二年になったアタシは1回目の選抜レースに参加する。

 

 

散々な結果。

 

でもまだ一回だ。

 

何度も挑戦すれば……いつかは。

 

 

 

_あのウマ娘すごいな!

_あれがビワハヤヒデか!

_やりますねぇ。

_見ろよ! あれも磨けば光る原石だな!

_ほほう? あっちのウマ娘も凄いな。

_2着だけど良い走りをするなあの子は。

 

 

 

見向きもされない。

 

いや、見向きはされた。

 

でも求めていた反応はない。

走った後は誰からにも語りかけられない。

 

綺麗なお人形がそこにいただけ。

それだけ。

 

走らないでその身は飾れば、輝かしい。

そんなの言われたところで嬉しくない。

 

でも、ダメだった。 負けてもがむしゃらに挑戦しようと考えていた選抜レースからアタシは逃げてしまった。 まだ始まったばかりの選抜レースだから、長い目で見ればこの先もチャンスはある。 でも中央は弱者に優しくなかった。

 

綺麗なお人形ごときが、その足で早く走るなんて、夢物語も良いところだと訴える。

 

でもアタシはウマ娘だから走った。

 

走って、走って、走って、走って……走る。

 

体を痛めるだけで早くならない。

 

でもウマ娘だから走らないと。

 

そうして、認めさせ、皆から見て貰わないと。

 

 

 

 

ゴールドシチーは……

 

 

ゴールドシチーは…………

 

 

ゴールドシチーは………………

 

 

 

 

___弱い弱い、ウマ娘だった。

 

 

 

認めない。

 

認められない。

 

認めたくはない。

 

もっと体を追い込まないと強くなれない。

 

しっかりトレーニングしてレベルアップする。

 

 

けどモデル仕事も果たさないとならない。

 

モデルの仕事は別に嫌いじゃない。

 

でもこの仕事があるから強くなれない??

 

なら、辞めれば強くなれる??

 

二足の草鞋だからゴールドシチー(お人形)ゴールドシチー(アタシ)を邪魔する?

 

もし、それがそうなら。

 

そうしたら…

 

 

 

___違う、そんなの関係ない。

 

 

 

アタシは純粋にアスリート選手としての素質が無い。 美貌を与えられたかわりに走りを奪われたんだ。 それだけなんだ。 だからアタシはお人形として扱われる事が正しい。

 

そうして諦めが1番人気にゲートイン。

 

 

でも、かろうじてゴールドシチー(アタシ)が繋ぎ止める。

アタシは諦められない。

 

 

けれどこの脚はどうしたら描ける?

 

モデルとして一年活動した。

 

有名になった。

 

トレセン学園でも、それ以外でも。

 

だから世間のゴールドシチーは走れない綺麗なお人形扱いだ。 見せてるのは飾られる空っぽなお人形なアタシだった。 そしてアタシも認めそうになる。 ウマ娘なアタシはどうしたらゴールドシチーになれるのかな?? それとも、お人形が何かに変わるなんて……そんなこと出来ないのかな?

 

 

もう、誰もゴールドシチーを見てない。

 

ゴールドシチーを忘れてしまって……

 

 

 

 

 

「君は誰だ??」

 

 

 

 

 

その言葉は冷たく感じたのに、冷え切ったゴールドシチーにとって暖かいモノに感じた。

 

カボチャ頭の不思議なトレーナー。

 

普通じゃない異端児。

 

アタシよりも知名度のあるその人は。

 

中央トレセン学園のマフティー。

 

 

 

 

「アタシを知らないんだ…?」

 

「知らないな」

 

 

 

なら、この人なら、違うかも。

 

アタシを知らないなら、何か変われるかも。

 

それにこの人はマフティーだ。

 

ゴールドシチーになる事が出来るかもしれない。

 

 

だからアタシは、尋ねた。

 

この人に尋ねた。

 

 

 

「マフティー、教えて。 アタシはどうしたらゴールドシチーになれる?」

 

「どちらも欠けなければそれはゴールドシチーだろうな」

 

 

意味が分からなかった。

 

どちらも欠けてはだめ??

 

つまり……お人形もゴールドシチー??

 

 

 

「嘘を言わないで! お人形はゴールドシチーじゃない! アタシはお人形なんかじゃない!」

 

「俺は君をよく知らない。 だから今日こうしてゴールドシチーを知った。 浮かぶ答えはどっちもゴールドシチーだと言うことだ」

 

「っ!! もう良い!! 期待したアタシがバカだったよ!!」

 

 

 

大した答えは無かった。

 

結局彼はカボチャ頭を被った見た目だけの変人ってだけで、それ以外と何ら変わらなかった。

 

希望を抱いてまた裏切られた!

 

もう!

もうたくさんだよ!!

アタシは走れないと言うの!!?

 

 

「やほー! シチー!おいおーい!!」

 

「!」

 

 

ハッとなる。 友達の呼ぶ声。 振り向けば" トーセンジョーダン "がアタシを見かけてやってきた。 モデルのアタシと違って彼女はすごく自由な女の子。 アタシはモデルのゴールドシチーだから、周りから一歩退かれているにもかかわらずトーセンジョーダンは仲良くしてくれる。 アタシの大事な友達。

 

 

「なんかチョー元気無くね? 補習でも言い渡されたとか??」

 

「アンタじゃないからそりゃ無いでしょ」

 

「うはー!その正論はヤバ目にヤバでしょ!」

 

「ヤバいのはジョーダンの点数でしょ?」

 

 

彼女と話して気が楽になる。 ああ、アタシも尾花栗毛のウマ娘として生まれず、彼女のように自由ならこんな風に苦しまなかったのかな? 特別じゃなければ良かったのかな。

 

 

「あ、あそこに居るのって!…オーイ! ヘリオー!」

 

「え?」

 

 

トーセンジョーダンが遠くにいたウマ娘を呼ぶ。

 

その子は彼女の友達で性格も方向性もピッタリなパリピのウマ娘。

 

その名はダイタクヘリオス。

そしてマフティーのウマ娘だ。

 

 

「ウェーイ! パリピってるー? って、シチーじゃん! おひさー!」

 

「あ、うん、久しぶり」

 

「んん? すんすん……すんすん…」

 

「??」

 

 

ダイタクヘリオスは鼻をひくひくしながらアタシの周りを回る。 そして尻尾をピーンとさせるの納得したように笑んで…

 

 

「シチー、もしかしてマフTの所にいた??」

 

「!?」

 

「あ、やっぱり! 仄かにコーヒーの香りしたんよ! カフェちんのコーヒーの香りと同じやん!」

 

「マジィ? シチーあのマフティーの所に行ったの! ヤバっ! 勇気あるじゃん!」

 

「っ!」

 

 

 

マフティー…!

 

マフティーがなんだって言うんだ!

 

あの人ならと!

 

アタシにとって最後の砦だったのに!!

 

 

 

「ごめん。 もう、行くから…」

 

「「え?」」

 

 

この怒りを友達にぶつけることはしたく無い。

 

アタシは気性が荒いのは知ってる。

 

だからと言って友達に向けられないから、堪えて堪えて二人の元から去る。

 

 

「え、ちょ…シチー??」

 

「………」

 

 

ジョーダンの声と、見送るだけのヘリオス。

 

アタシは二人から逃げるように去った。

 

 

去って。

 

去って。

 

走り、去った。

 

 

もう!! もう!!

 

ああああああ!! もう!!!

 

なんだって言うんだよ!!

 

 

結局この世界はゴールドシチー(アタシ)を許さない!!

 

ゴールドシチー(お人形)だけしか認めないと言うの!!

 

 

ああああ!!

 

ウザイ!!ウザイ!!

 

うざったい!!うざすぎる!!

 

ああああ!!

 

うるさい!! ムカつく!!

 

めんどくさい!!

 

消えろ!! 消えちまえ!!

ゴールドシチーなんか!!!

 

こんな!! こんなァ!!

こんな尾花栗毛なんか!!

 

あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!

あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!

あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!

 

 

 

 

「あ、ああ、あ、あぁぁ、ァァァ…」

 

 

がむしゃらに走って、河川敷に。

 

制服にも関わらず、服装が乱れる。

 

モデルにあるまじき姿だ。

 

 

ああ、そっか…

 

そういやモデルか。

 

モデルなんだよね、アタシ。

 

今は そっち を意識したんだ。

 

そうなんだ。

 

アタシはゴールドシチーになるしか無い。

 

そういうことなのかな。

 

この体も、尾花栗毛も、存在も。

 

名前だけは立派なウマ娘だった。

 

夕日に映されるアタシはひどくちっぽけ。

 

何も映し出されない。

 

心が崩れそうだ。

 

夢も決壊してしまう。

 

でも分かっただろ、ゴールドシチー。

 

アタシはそうだってこと。

 

最初から与えられたモノを理解してしまう。

 

そうして中央から去るウマ娘は多い。

 

アタシも、その一人に……

 

 

 

 

「大丈夫?」

 

 

「!!」

 

 

 

優しい声が聞こえる。

 

その声はいつも活発なんだけど、分け隔て無く接する彼女は魅力なんだと思う。

 

それに驚く。

 

がむしゃらに駆けて、息が乱れて、汗でひどいアタシに対して、この子は難なく追いついた。

 

 

「ヘ、ヘリオス…」

 

「ほらハンカチ。 とりあえず拭かね?」

 

「……」

 

「…ね?」

 

 

 

アタシはこのウマ娘が、ほんの少しだけ好きになれない。

 

とてもいい奴だって知っている。 すごくうるさくて、すごく明るい、ヘリオスの名に相応しい、そんなウマ娘。

 

そしてマフティーのウマ娘だから、今は苦手になっている。

 

 

「ハンカチ、ありがとう…」

 

「ううん、気にしないで。 なんか放っておくとヤバそうだったからジョーダン置いてきちゃった」

 

「……走るの速いんだね、ヘリオス」

 

「んー、そう? ウチなんて前のきさらぎ賞は6着だったし、入着出来んかったんよ。 初めての重賞レースやったのにマフTに1着をプレゼン出来んで拗ねちゃってさ。 マフTは頑張ったって頭撫でてくれたからウチ的にプラマイゼロ。 でも悔しさが勝ったんよ」

 

「でも、アタシには輝かしいよ…ヘリオス」

 

 

ヘリオスは幸せそうに笑う。

本当に幸せそうだ。

 

その笑顔が今はアタシにとって直視するに耐えない。 逃げるように適当なベンチに座ると、いつの間にか消えていたヘリオスは自販機まで一走りしていた。 そしてすぐ戻って来た。

 

ミネラルウォーターをアタシに渡して、ヘリオスも蓋を開けて飲み始める。

 

味の無い水なのに美味しそうに喉を鳴らす彼女は太陽の夕日よりも彩る。

 

 

「マフTとなんかあったん?」

 

「別に……ただ、アタシが勝手に期待して困らしただけ。 アタシが弁えなかったから」

 

「……それは、自分の在り方に対して?」

 

「!」

 

 

 

アタシは驚いたように顔を上げてダイタクヘリオスを見る。

 

そこにはいつもの笑みは無い。

 

いや、違う。 やはり変わらない。

 

タトゥーシールを飾る頬は彼女らしさを忘れないように柔らかい。 だから笑んでるように見える。

 

けれどその眼はアタシの知る彼女では無くて、アタシの悩みがよく分かっているような先駆者としての眼差しだった。

 

 

まるで__自分もそうだったように感じた。

 

 

「シチーはマフTに何を言ったん?」

 

「っ、それは…」

 

「あ、別に咎めるとかせんよ? ウチはただ単にズッ友の悩みを聞いてあげたいだけ。 シチーの"くしゃくしゃ"はウチもわかるんよ。 それとも、やはり言えない??」

 

「……」

 

 

マフティーのウマ娘なら何か分かる??

 

それとも彼女もマフティーと変わらない??

 

でも、ダイタクヘリオスは変わった。

 

マフティーのウマ娘になって彼女らしさが膨れ上がってからは、いつも皆にマフティーのウマ娘である事を自慢していた。

 

すごく柔かに笑ってバイブスを上げては喧しいと生徒会に怒られていた。

 

そのくらいに彼女は止まらなかった。

 

 

「…アタシさ、マフティーに聞いたんだ。 最後の砦だったから縋ったんだ。 ゴールドシチーとして走るにはどうしたら良いって」

 

「うん」

 

「モデルでお人形なゴールドシチーも、アスリート選手としてのゴールドシチーも、両方だってマフティーは言った。 それってさ、アタシはお人形である事から逃れられないって事だと分かった。 マフティーなら違う道を示してくれるって思ってた。 あの人は違うから、違うことを言ってくれるって……思ってたのに…」

 

「うん、そっか」

 

 

涙が溢れそうになる。

 

いや、とうに溢れていた。

 

諦めるしか無い答えを繰り返して苦しくなる。

 

皆と違うマフティーなら、違うって期待を抱いたから。

 

でもそれは彼からも叶えられないと理解して悲しくなる。

 

アタシはゴールドシチー(アタシ)になれないって…

 

 

「シチー、それはマフティーとして最高の答えを与えてくれたんよ」

 

「ぇ…」

 

「やはりマフティーってスゴ味がやばたにえんだね。 うまうまのウマたらしなトレーナーやね」

 

「な、何を言って…」

 

 

ベンチに座るダイタクヘリオスは少しだけ下に視線を向けて、足をぶらぶらとさせながら思い耽る。 幸せそうに眺めていた。 まるで救われたように見えたから、アタシはそのウマ娘から目が離せなかった。

 

 

「ウチさ、楽しい事が好き好きなパリピった問題児ウマ娘で、よく先生や生徒会から注意受けてたんよ。 今も変わらんけど、まずそれがダイタクヘリオスだったんよ。 それが(ウチ)やったから」

 

「それが…私」

 

「そう。 でもその前にダイタクヘリオスの名前を背負ったウマ娘。 走る事が好きなウマ娘。 どんなにパリピってもターフに楽しいを描いて走ることが好きなダイタクヘリオスだったから、トレセン学園のように大きなレースで楽しみたかった。 でもそれは間違いなく周りからしたら場違いなウマ娘だったんよ」

 

「でも、それは夢でしょ…? 場違いなんて…」

 

「トレセン学園は実力主義だから弱いウマ娘に()権なんか無い。 それは頭の悪いウチもちゃんと理解してた。 だから自己満足と独りよがりだけで駆け抜けれるターフはそこに無い。 何もユメを描けない。 求められる結果に追われるウチは間も無くだった……けどね」

 

「?」

 

「やはりウチはダイタクヘリオス(パリピなウマ娘)を辞めれなかった」

 

「!!」

 

 

 

彼女は立ち上がってアタシの二歩ほど前に立った。 夕日に照らされるヘリオスの後ろ姿は大きく見える。 小柄なのに、まるでその背を大きくして貰ったような暖かさが彼女を映し出している。 決して夕日に照らされてるから大きく見えてるわけではなかった。

 

 

「やはりウチはパリピとしてユメヲカケタイ。 それでいてトレセン学園に残って中央の世界で走りたかったんよ。 ワガママで身勝手なウマ娘。 諦めざるを得ないとしてもウチはダイタクヘリオスを辞めたくない。

そうして渇望して___マフティーを見てた。

そこにいたシービー姉貴も見て、ターフでウマ娘の喜びを感じた。 それは喜ばしくて、羨ましくて、縋りたくて仕方なかった。 だから彼ならと希望を抱いてウチはマフティーに求めた。 ウチはヘタレパリピで仕方なかったけどマフティーはちゃんと応えた(答えた)

 

 

 

 

 

_君はパリピ、俺はマフティー、それだけだろ?

 

 

 

 

 

「!!!」

 

 

マフティーは応えたんだ。

 

ダイタクヘリオス(パリピな君)ダイタクヘリオス(走りたい君)も、その名を背負って走れば良いって。 それが独りよがりでもマフティーはそうして良いと肯定して、彼女にそう描かせた。

 

それがここに居る__ダイタクヘリオスなんだ。

 

 

 

 

 

_マフティー、教えて。

_アタシはどうしたらゴールドシチーになれる?

 

_どちらも欠けなければ。

_それはゴールドシチーだろうな。

 

 

 

 

 

「ぁ」

 

 

そっか、アタシ。

 

そうだったんだ。

 

両方あるからゴールドシチーだと。

 

その二つでゴールドシチーをするんだと。

 

ダイタクヘリオスを通して理解した。

 

マフティーはアタシにそう言ったんだ。

 

 

「ヘリオスはマフティーに、それで良いって言われたんだ?」

 

「うん! ウチはそれで良いって! だってウチはダイタクヘリオスだから! パリピギャルウマ娘だから!! それがマフティーのウマ娘だって誇らせてくれた!!」

 

 

 

 

 

__お前はヘリオス(太陽神)だろ!

__マフティー(王者)に並ぶ名を持つウマ娘だろ!

 

 

 

 

「ウチはダイタクヘリオス。 パリピなウマ娘、それ以上でもそれ以下でも無い…って、マフティーは言ってくれるかな!」

 

 

「………」

 

 

「えへへ、参考になった…?」

 

 

「え…?」

 

 

「シチーの顔、ウチは良く知ってるから」

 

 

「!」

 

 

 

やかましいウマ娘な筈なのに、モデルのアタシよりもお日様のように輝いて見える。 マフティーに認められて、マフティーに応えられて、それが嬉しくて仕方なくて、彼女は今も尻尾を振る。

 

応えられたウマ娘がそこにいる。

 

モデルとして飾れるアタシなんかよりも、夕日をバックにしてアタシに笑う彼女はマフティーのウマ娘だった。

 

 

「……ごめん、アタシ、行ってくる…」

 

「ん、わかった。 頑張リーヨ!」

 

「ありがとう、ヘリオス…先輩」

 

「ズッ友なシチーは敬語も先輩も要らないっしょ! ほら! 有限と有言で実行しておいでって!」

 

 

 

ミネラルウォーターをベンチに忘れてアタシは駆け出す。 あと味の無いはずの水だったのに、空っぽなこの体に彩が注がれた気がしていた。 アタシはまだアタシを諦めていない。

 

 

「!」

 

 

走る。

 

走りゆく。

 

ウマ娘だからやはり走るのが好きだ。

 

これがアタシ、ゴールドシチーなんだ。

 

尾花栗毛を靡かせながらトレセン学園に戻る。

 

廊下を駆けて、誰も寄り付かない部屋に行く。

 

マフティーを求めるアタシは扉を開けた。

 

 

 

「はぁ…はぁ……はぁ!」

 

 

 

カボチャ頭を見つけて安堵するのと同時に心が騒がしくなる。

 

マフティーしかいないこの部屋でアタシの荒れる息がしばらく広がり、呼吸を整える。

 

するとマフティーはタブレットを閉じてアタシの前に来た。

 

 

「忘れ物か?」

 

「ッ……忘れ物! アタシの! 忘れ物…!」

 

「そうか。 では忘れたそれは…何を求める?

 

 

カボチャ越しに見下ろされるアタシ。

 

その視線は何もかもを暴こうとする。

 

怯むな。

アタシは一度逃げたんだ。

 

でも、期待を抱いて彼に求めろ!

 

マフティーにはそうするんだ!

 

この名前で求めるんだ!

 

アタシは!

 

アタシは…!!

 

 

 

「アタシは! ゴールドシチーになりたい!! 」

 

 

「…」

 

 

「だから!アタシを走らせて! マフTの貴方が走らせて!! ゴールドシチーの事を思いっきり走らせてよ!! やってみせてよ!! マフティー!!」

 

 

 

礼儀もへったくれも無い。

 

頭を下げることも忘れてアタシは縋る。

 

そのかわり涙が溢れそうになる。

 

困らせるだけのダメなウマ娘。

 

愚か者だ。

 

本当にアタシは愚か者のバ鹿だ。

 

どうしようもない問題児だ。

 

こんなので求めようとしている。

 

身勝手もここに極まった。

 

けれど…

それも忘れて必死になる。

 

勝手に期待を抱き、勝手に失望して、勝手に怒り散らして、勝手に逃げて、勝手に諦めて、勝手に理解して、勝手に戻ってきて、勝手に願って…

 

彼なら…!

 

マフティーなら!

 

貴方ならゴールドシチーを走らせると!

 

 

 

「それはこっちのセリフだ」

 

 

「ぇ…」

 

 

「__やって見せろ? …違うな」

 

 

「ぇ、ぇ?」

 

 

 

急に溢れ出す威圧感。

 

これがマフティーだと思わせる。

 

でも今は怖いとかそう思わない。

 

彼なら、マフティーなら、そう期待が高まる。

 

そして、ゴールドシチー(アタシ)に向けて言った。

 

 

 

 

「やってみせるのは__ゴールドシチーだろ」

 

 

「_______ぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レースも

モデルも

やって見せろよ、シチー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとでもなりそうだ。

 

そう思える。

 

そう思えてしまう。

 

応えられて、満たされる。

 

空っぽにマフティーが注がれた。

 

マフティーとなら、ゴールドシチーなら。

 

 

__なんとでもなるはずだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開いたゲートから、ウマ娘は走る。

 

ターフは絶好の良バ。

 

尾花栗毛のウマ娘は一人だけ。

 

え?

 

綺麗に見えるだって?

 

ありがとう。

 

それは普通に嬉しいよ。

 

でも、それを含めてアタシはターフを描く。

 

だから、そこでよく見てて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このランウェイの主役はアタシだから

魅せてあげる!

ゴールドシチーとして

最高の走りで勝ちに行く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月の下旬。

 

未勝利戦を全力で駆け抜ける。

 

1着に ゴールドシチーの名が刻まれた。

 

何故ならそのウマ娘は彼女らしく走ったから。

 

 

 

__これがアタシ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

G  ゴールドシチー new‼

 

U

 

N

 

D  ダイタクヘリオス

 

A

 

M  マンハッタンカフェ

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 





加入に関しては若干ハイテンポだったけど、まあ良いかなと。

それよりシチーほんま閃光が似合う。
歌詞もそうだけど勢いが好き。
あとゴールドシチーとマフティー構文のMADがようつべにあるからソレも参考にした。 短いけど一本満足だから兄貴たちは是非見て、てか見ろ(変貌)


あとこのまま在宅太陽神も実装して。
どうぞ(促し)


※感想欄からNTとして感受した結果、ヅダに乗りたい方が発生したためガチャアンケートに『爆死ィィン』を入れました。 そのため今回のアンケートがリセットされました。 投票して頂いたいた方には申し訳ありません。
あと感想はなかなか返信出来ませんがモチベーションとマフティー性の向上に繋げてます。 本当に感謝してます。 いつもありがとうございます。


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22話

オカルトパワーもいいところだと思った…
なんやこのチート…(ドン引き)



とある一角の奥にひっそりと構える部屋。

 

しかしその知名度はひっそりとは言い難く、未知なる魔物が住んでいる。

 

 

最初は、ただの異端児から。

 

薄気味悪いオーラと謎の威圧感はウマ娘を怖がらせるプレッシャーとなり、興味だけでは近づけない。

 

トレードマークであるカボチャ頭をユラユラと揺らさせながらそのトレーナーは一人歩きを始めた。

 

常に警戒されて、同じトレーナーからも敵意を持たれ、異色なその者は一人省かれながらも悲痛を上げずに前を見続けて、どん底から這い上がる。

 

その名を広め、その存在を伝えて、その意味を知らしめ、禁忌を捻じ曲げ綴る一人のウマ娘を無敗の三冠バとして頂きに導き、伝説のレースと言われた有マ記念で"絶対"を打ち破った。

 

見る者たちを魅了させ、いつしかそのトレーナーは『王』と言われ始めていた。

 

走る者も、見る者も、レースに触れる者達でその名を知らない者は居ない。

 

そう言っても過言では無く、そのトレーナーはレース業界に於いて有名となった。

 

今となっては、その一角に構える部屋は王が住んでいる事になる。

 

無名から始まったどん底の平民が、富と栄誉を掴み取り王となる。 何が起こるか分からないレースのように、そのトレーナーはフルゲートの大外枠18番人気並みの最下位から差し切った。

 

 

くくっ、熱いねぇ。

 

熱すぎるもんだ。

 

 

奴にとって賭けたのはベット(賭け金)で無くヘッド()だろうが、一体何を考えてそのカボチャ頭に全て賭けるような大勝負に出ようと思ったのか?

 

そして何故それに勝ってしまえたのか?

 

そこに生ぬるさなんて無い。 益荒男すらも顔を顰める地獄道。 身構えてる時に死神は来ないだろうが、気を抜いた時にその死神の鎌はカボチャごと頭を刎ね飛ばしてしまうだろう。

 

だが奴は勝った。

勝ってしまった。

 

 

いや、違うか。

 

奴は勝てるから、勝ったんだ。

 

細い糸に繋がれた狭き狭き道に可能性を信じ…た訳でも無いだろう。 大雨が止まない重バ場はひどく歪んだ悪道で、光の一つも無い。

 

だがその平民は王へ這い上がれる打算が、また確信があったから、そこに全てを賭けたんだろう。

 

しかしどうであれ大勝負なのは間違いない。

 

一歩間違えれば二度と後戻りなど出来ないその姿はまさに、ウマ娘が全身全霊で最後の直線に身を投じたようだ。 末脚の2文字なんて生ぬるいほど。

 

それこそ"ありったけ"を投入したんだ。

 

 

は、ははは。

 

こんなにも内側がグツグツと唆らせる奴は初めてだ。

 

とあるオンラインゲームでも似たような奴がいたが、画面越しではない真に存在するカボチャ頭はマジもマジだった。

 

 

半端な勝負師なんてチリも同然だ。

 

名を馳せる勝負師なんかでは届かない。

 

歴戦練磨の勝負師すらも躊躇わせてしまう。

 

 

誰も賭けないだろう勝負に挑み、そして勝ち、だがそこに飽き足らず未だに挑み続ける。

 

そのカボチャはぬるま湯程度で茹で上がらない。

 

だから、その一角に住まう王の部屋に足を運ぶ。私は今日奴に挑む。

 

 

その扉を叩いた。

さあ、出てくるのは誰だ?

 

 

深淵を覗くポーンか?

 

双璧を飾るルークか?

 

太陽神のビショップか?

 

禁忌破りのクイーンか?

 

 

 

 

 

ガラガラ…

 

 

 

 

 

出てきたのはカボチャ頭のキング。

 

トレセン学園の___マフティー。

 

 

 

「どうした、何か用か?」

 

 

「______ぁは…

 

 

 

緊張感は好きだ。

 

重圧感はもっと好きだ。

 

そこに身を投じるとこで抗い、砕き、賭ける。

 

しかし彼から放たれるプレッシャーは味わったことない威圧感だった。

 

遠目からは幾らでも見たことある。

 

いつか挑むべきだとマフティーを見ていた。

 

だが、あと一歩踏み出せば触れられてしまうであろう、その距離でこちらを見下ろすその眼差しは、私ですらも震わせ、奮わせてくれる。

 

つい零してしまった嬌声も私は気づいてない。

 

何せそこにいたのは紛れもなくキングだ。 もうバレているだろう、その笑みは誤魔化せない。

 

しかしせめての虚栄だ。

 

名も無き挑戦者として。

 

その城を一人で攻め、王の首を取りに来た。

 

 

私は 放浪のナイト として…

 

こう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、デュエルしろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「引き分けか」

 

「いや、これは私の負けだな」

 

「何を言う? 数字は同じだろう」

 

「違うな。 認めざるを得ない数字だ」

 

 

マフティーにもトレーナーとしての果たすための時間がある。

 

彼にとっての1分は私なんかにその時間を捧げて釣り合うモノでは無い。

 

それでも勝負狂いなこんな私に割いてくれるこのひと勝負に全力を捧げる。

 

だから分かりやすくブラックジャックで勝負した。

 

私は5枚もトランプを引いた。

並べたのは 2、4、6、5、4 の数字。

数字は『21』と最大だ。

 

臆せずにこれだけ引いて出した。

このために研いできた完璧な勝負勘。

 

ナイトとして渾身の連撃だろう。

 

 

しかしさすがマフティーと言うべきか、彼もピッタリと21を叩き出して来た。

 

互いに同じ21。

どう見ても引き分けだろう。

 

 

 

 

しかし、私は負けを認めた。

 

 

 

 

「はは、なんだよ、それは…」

 

 

 

 

キング(13)エイト(8)スリー(3)

 

 

しかも勝負の終わりに気づいた。

 

テーブルの上に置いた8のトランプはこちらに見せつけるよう横に傾けて『∞』にしている。

 

つまり、その座は無限()に終わらぬ(キング)を表している訳だ。

 

更に言えば8は特別な数字だ。

 

あらゆるカードゲームで8は何でもなることが多い。 万能だと言うことだ。 流石にジョーカーの劣化だが、私の出したつまらない少数なんかよりも、それは特別に強かった。

万能だと言うことだ。

 

そして3はあの禁忌破りを三冠に導いた栄光ある数字…

マフティーだからこそ叩き出せた意味ある数字。

 

 

はっ、ははは…

なんだよ、2、4、6、5、4 って…

 

こんな弱たらしい数字で戦って、それで引き分けに持ち込めた?? バカを言うな。

 

奴はキングの13と禁忌破りな3の数字を出した上に8の数字を傾けて『∞』にしたんだ。 それもマフティーたらしめるような示し方。 紛れもなく彼は皆が恐れるマフティーだ。

 

最大の21を出せて満足な私に対して、マフティーは更にその手札でその意味を見せつけてきたんだ。

 

 

あーあ。

 

なるほどな。

 

 

そりゃナイト如きでは勝てない訳だ。

 

挑むだけ愚かだった訳か。

 

 

けど挑まずして何が勝負師だと血が騒ぐ。

 

私はその武器を振り下ろしたが、その刃は5回も振るって、王には届かなかった。

 

 

 

やれやれ、まったく誰だよ?

 

ウマ娘に人間が勝てるわけがないと言ったのは?

 

ああ、もちろんその力関係は種族差故にわかりやすいが、例えばその勝負性…また"勘"と言っても構わないだろう。

 

勝負の世界に全力なウマ娘は実のところ"勘"すらも人間よりも鋭く、そちらも人間よりウマ娘が勝っているとも言われている。

 

なんならとある実験ではカードゲームや運が絡む勝負を延々と行わせて、ウマ娘は人間に勝っていると証明されていた。 オルフェーヴルが付けていたテレビをたまたま見ていたが、信憑性の薄い実験に私はくだらないと切り捨てた。

 

しかしこの話が本当ならウマ娘は人間より強いことになる。

 

だから人間がウマ娘に敵わないとしたら、全てにおいてそうなのだろう。

 

 

しかし結果はどうだ??

 

私はヒトであるマフティーに負けたのだ。

 

勝率も五分五分に分けられた純粋な戦いに挑み、鍛え上げた勝負勘で5枚もカードを引いて、最大の21を出せた結果()()に満足してしまった。

 

しかしマフティーは21を()()の様に叩き出した。 まるで私が21を出す事が判るようにたったの3枚だけで勝負をした。 そう、彼はこの先の展開を分かって引き分けにした。

 

そしてこんな遊びに()()()()は引き分けにして、その結果はまず妥協する。

 

だがこの引き分けは私だけが感じていたもので、彼からしたら()()()()の引き分けに収めず、叩き出した数字に意味を込めて、そしてマフティー性を込めて勝負し私を下した。

 

 

出した数字はキングとエイトとスリー。

 

 

認めざるを得ない数字の意味。

 

ただ相手よりも高い数字を出して戦えば良い訳でも無い。 彼はマフティーらしく示した。

 

マフティーの言葉に意味があるよう、この数字にも意味を伝えた。 そうして挑戦者に訴えた。

 

もし私がこれに気づかず満足していたら、それこそマフティーからしたら愚か者だった。

 

だから私はその意味を理解して気付けたことに安堵した。 負けた事すらも心地よく、それがマフティーだからこそ、納得もしている。

 

更に言えばこんなゲームのためにマフティーの片鱗を私なんかの勝負師に見せてくれたんだ。

 

感謝しかないだろう。

 

ナイトのヘルムを外して王に跪くべきか。

それとも代わりにこのニット帽を外そうか?

 

 

「時間をありがとうマフティー、また挑ませて貰うぜ」

 

 

それでも私は挑戦者である。

 

だから挑ませて貰う。

 

いつか勝ってみせる。

 

 

 

あとこれも信じてる。

 

この世に"絶対"はない。

 

マフティーがそう証明した。

 

 

ならマフティーも絶対では無いのだろう?

 

だったらいつしかキングに勝ってみせる。

 

だから今日は惨めに敗走させて貰おう。

 

ポケットに入れたトランプ。

 

山札に乗せられたキングは忘れないさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、言いたいことは?」

 

「いや、なんかさ? 俺とブラックジャックをしたいウマ娘がいたから相手しただけだぞ?? 適当に3枚だけトランプを引いて、それで引き分けになったけど、なんか相手が勝手に負けを認めてそれで去った。 なので別にそれ以上は無いぞ? 本当だぞ?」

 

「だからすれ違ったんだ、なるほどねー? …このウマたらし」

 

「好きでたらしてないぞ」

 

「愛バを放ってカードゲームなんてマフTもいい御身分ですこと」

 

 

ソファーでブー垂れるシービーに嫉妬されながら俺は相変わらずタブレットに連携させたPCにデータ入力を行っている。

 

ゴールドシチーも加入した今その量は増えている感じだ。 でも一年半前からシービーを通してある程度のタスクは完成させてるので、シチーならシチーの、ヘリオスならヘリオスの、カフェならカフェのプロセスを作り上げている。

 

あとは成長の変化、究極のごっこ遊びに対する日々の浸透率、日々変動する練習成果など、色々と数値化して、記録に残しながらこれまで土台として作り上げてくれたシービーのデータを比較して必要なモノと不必要なモノを暴き出す。

 

これはその作業の連続である。

 

だから定時には帰ろうと思えば急いでデータを打ち込めば全然帰れるし、シービー達も自分でやろうと思えば多分やれるだろう。

 

そのうちアプリ化して成長過程が目に見えるようにしようかとも考えているが、半分ほどは究極のごっこ遊びによる記録依存だから現実的では無い。

 

しかしその片鱗だけ情報化して別のアプリに統合して作り替えれば新たに記録用のアプリとして作れるはず…ってのをおハナさんに話したら試したいから是非頂戴と言われた。 あとエアシャカールからも。

 

おハナさんもデータ育成だから俺と同じタイプまである。 持ってるタブレットも同じで、手書きのバインダーは使った事ない。 そのかわり練習育成方法は全く別のベクトルである。

 

おハナさんは競争主義で沢山のウマ娘同士を競わせる。

 

つまり某野球ゲームに例えたら毎ターン延々と友情トレーニングしてる訳で、追加トレーニングすらも友情トレーニング並の補正になる事だろう? 準チートかな??

 

俺は究極のごっこ遊び……まあ、シービーの趣味であり彼女専用と言われた素敵な素敵な練習法だけど、三女神から授かった力も段々とマフティー性に触れて別の方に変化してることにより…

 

 

こう、なんというか………かなり化けた。

 

 

NT並の感受が出来るようになったと言うべきか?

 

その、例えば…だ。

 

シチーに映像やホワイトボードを見せて…

「このレースはこうしてこう」

「だからこの展開に発展する」

「そこにシチーを投影したらこうなる」

「じゃあ変化はこの程度に収まる」と、まるでゲーミングの中身の正体や情報をペラペラと明かしていく。

 

それでシチーが走ったら、それがスイッチとなってこう発展する……って事を、俺が遠距離からシチーの意識に触れて光景を伝えるよ! って事をしている。

 

カミーユも真っ青なオカルトパワーだ。

 

テレパシーを伝えるどころか、ララァのように見ているモノを見せる。

 

かなり馬鹿げてるだろ?

でも俺は現にシービーとそれが出来るわけだし。

 

それも一年前から。 だからこそ『ごっこ遊び』って名前なんだけどね。

 

 

そんなわけでシービーの趣味に俺のマフティー性でより鮮烈に描かせる。 当時は"呪い"と思っていたモノは三女神から授かったとんでもない"力"だった。 それはマフティーとしてニュータイプの方向に変化した。

 

そしてマンハッタンカフェもイマジナリーフレンドのこともありそう言った超常現象は見える。 高い読解力が備わったその金色の目は良く見えて、よく分かるみたいだ。 あと彼女のお友だちも一緒に走ってるらしい。 俺も見えてる。

 

それでダイタクヘリオスもノリでわかるらしい…と、言っても逃げだからあまり気にならないと言った方が良いか。

 

でも何事も楽しむパリピはある意味ミスターシービーと同じベクトルだ。 なのでマフティー性に触れたヘリオスはやや半端ながらも究極のごっこ遊びの中に身を投じて描く事が出来る。

 

だから幻影でも後方からの圧はノリを含めて伝わるらしい。 まあそこは俺がNTのオカルトパワーで補強してる。

 

 

そしたらゴールドシチーもそうなのかと言うと彼女はシービーと同じレベルで熟してしまう。

 

正直これには驚いたが、そもそもモデルとして『演じる』事に慣れているのでその技術が加速させていた。 なので究極のごっこ遊びで走る事は苦じゃなかった。 あとはマフティー性に触れたシチーをNTのオカルトパワーで補強すればカフェやヘリオス以上に究極のごっこ遊びの中に身を投じて走る事が出来る。

 

 

それで彼女は言っていた。

アスリートとしてのセンスが無い。

 

いや、それは全然違うな。

 

ゴールドシチーはトレーナーのような専門家やその手のプロフェッショナル無しで、ただがむしゃらに鍛えてただけである。 そりゃ中央のレベルや環境に追いつけないのも当たり前だ。

 

てかシチーの場合は自主練が下手なだけで育てるべきポイントを自分で把握しない。

 

トレーニングはちゃんとしてきた()の認識だった。 あと起床難として限定的に練習もしてきたためアンバランスに体を育てていた訳だ。 がむしゃらな走り込みは根性を鍛えてたから、直線の伸びだけ良かったのはそう言う事だろう。

 

ステータスの偏りって奴だ。

それが許されるのはサクラバクシンオー*1だけ。

 

 

でだ、ちゃんとゴールドシチーを見た。

 

伸び代はしっかりあった。

てか、伸び代しかなかった。

 

まず根性あるウマ娘だから揉めば揉むほど抗って、それを力にするから練習でボコボコにしてやればその分強くなる。 あと要領は悪くない。 努力家でしっかり練習成果を吸収する。 それと理解力も高い。

 

RPGゲーム風に言うと経験値獲得量1.5倍のスキルがシチーに備わってると言ったら良いだろうか。

 

起床難で気性難なのはご愛嬌だとして、ゴールドシチーはちゃんと強くなるウマ娘だ。

 

ただ自分を理解してないから自主練が下手だった。休憩も碌に取らないし、モチベーションの持続も上手くいかず、無理した練習は効率が悪かった。 俺に出会うまで追い込まれてたから八つ当たりな走りは体を苦しめるだけだった。

 

だから経験値のバフがあっても、ステージの一面の雑魚敵ばかり倒してるような練習では伸びるわけもなかった。

 

あとはモデルとしての仕事があるから純粋に時間も取れていないことも練習効率の悪さを加速させて、トレーナーが付かない彼女は弱いままだった。

 

しかし環境を設ければゴールドシチーの成長は加速する。

 

一面のステージでしか経験値稼ぎ出来なかった彼女を、常にボーナスステージな究極のごっこ遊びに招き入れる。 そこは体力が続く限りエンカウント回数は無制限である。 負けてもペナルティー無しで経験値を多く貰える。 強敵を通してレースのコツを掴める、まさにボーナスステージ。 レース風に言うならボーナスステークスか。 得るのは金じゃなくて経験値だが。

 

それで分からないところは俺やシービーが理解できるまでちゃんと教えてあげる。

 

カフェの濃厚な読解力がジュニア級の感覚で伝えるのでデビューしたばかりのウマ娘に分かりやすい。 これに関してはヘリオスも随分と助けられたようだ。

 

そして回数を熟すほどマフティー性を高めてNTのオカルトパワーもより感受性も高まる。

 

そうすれば究極のごっこ遊びの浸透力が高まって更に得る経験値も全体的に多くなり、あとは同じように繰り返すだけ。

 

だから延々と強くなる。

 

だからこそ、ミスターシービーは強い敵に対して強くなり、禁忌破りのウマ娘と言われた。

 

マルゼンスキーに勝った彼女は伊達じゃない。

 

 

そりゃ、おハナさんも俺のやり方に首傾げるよな。

 

マルゼンスキーに勝ったからマフティー性に触れた成長は事実だけど、絶対に真似できないと分かってから理解を止めた。 それで普通なので構わないし、俺がおハナさんなら宇宙ネコ出来る。

 

 

てな…訳でね?

 

三女神は凄い力を寄越した、そう感じた。

 

そりゃ前任者に扱える訳無いんだよなぁ…

俺もここまで来れたの奇跡だから。

 

 

だから、もし…

 

ミスターシービーがいなかったらと思うと…

 

ああ! 嫌だっ!!

ッッ、考えたくないッッ!!

 

 

 

「ひゃ! ちょ、マ、マフT…!?」

 

「ニット帽のウマ娘とのカードゲームでそんなに嫉妬されるとは思わなかった。 でもこれは本当だから。 担当が多くても俺の愛バはミスターシービーだから」

 

 

隣に座るとガバッと彼女を引き寄せて頭を撫でる。

 

何度もマッサージして気づいたけど耳の付け根が弱点なのでそこを少しなぞる様に触れると身を捩らせて驚く。

 

そしてそのまま後ろ髪を梳かすように撫でてあげると徐々に無言になって耳が垂れ下がる。

 

 

「わかってるよそんな事。 マフTが大事にしていることくらい。 アタシは知ってるから…」

 

「そうか。 なら良い」

 

 

互いに困ったように軽く笑い。

 

俺はその場から離れようとする。

 

 

「ぁ、だめ……もうちょっと撫でて」

 

 

腰に尻尾が絡みつく。 俺は離れずに再びソファーに腰掛けて頭を撫でる。

 

 

「ん…」

 

 

こうなったのも一つのチャンスだと思ったのかここぞとばかりに擦り寄って頭を差し出した。

 

高等部になっても2年前から変わらない愛らしさ。 あとこうなると彼女のウマっ気はしばらくは止まらない。

 

完全に太ももに頭を乗せて膝枕である。

 

打って変わって「ん〜」とご機嫌な声を漏らす彼女に対して、俺はPCをスリープモードにして置けば良かったと少し後悔しながらその頭を撫でる。

 

するとシービーはテーブルの引き出しに手を伸ばして、とあるモノを取り出す。

 

 

「!」

 

 

 

細く長い棒と、ローションオイル。

 

俺はそれを受け取る。

 

シービーは仰向けになった。

 

甘えるように目が「シて…」と訴えた。

 

 

 

俺はカボチャ頭を外す。

 

 

 

「ぁ……まふてぃ…♪」

 

 

あまりみせない素顔が嬉しかったのだろう。

 

細めた目は恍惚に染まったように声を溢す。

 

あと高等部になってその声も大人っぽさも増した気がする。

 

嬉しそうに頬を染めてソファーから飛び出した尻尾は揺れる。

 

そして目を閉ざして完全に身を任せた。

 

俺はウマ娘のローションオイルを手のひらに取り出して、指で少しだけ絡めとり…

 

 

そして…

 

 

 

 

シービーの耳に塗る。

 

それから細くて長いモノ……… 耳かき棒だ。

 

ウマ娘用に少し長めの耳かき棒だ。

 

耳かきの綿の部分でサラサラと耳に付着するオイルを広げて、付け根に触れる。

 

 

「んっ、ぁ…」

 

 

くすぐったそうにするシービーの反応を伺いながら綿を戻して、ヘラの部分に耳かき棒をひっくり返して本格的に始める。

 

カリカリとヘラの部分で耳をかき、オイルを充満させながら奥に入れてかく。

 

ちなみに……この状態ではあまりウマ娘の耳は見えない。 少し傾ければ良いだろうが俺はそうしない。 自然体のままで耳かきを行う。

 

ライトを照らしたり、ライトの付いた耳かき棒を使えば良いだろうが、必要ない。

 

 

 

――――――

 

「………」

 

 

 

ミスターシービーに触れてわかる。

 

俺には彼女の気持ちが伝わる。

彼女が隠したいと思う部分はわからない。

 

でも耳かきで気持ち良い部分は明かされる。

だからそこに触れてあげるようになぞるだけ。

 

そしてちゃんと込めてあげる。

愛バを大切にしている気持ちを。

 

今だけはちゃんとした1人のトレーナーとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んふふ〜」

 

「シービーさん、ツヤツヤしてませんか?」

 

「ヤバ!マジなんか超潤ってね? 何やったん??」

 

「ぁ、後で私も……ぁ、いや、何でもないです…」

 

コイツらうまぴょいしたんだ

 

 

シービーの耳かきが終わり、カボチャ頭を被り直したタイミングで集まった担当バ達。

 

とりあえず今日はミーティングなのでカフェがアイスコーヒーやアイスカフェ・オ・レを用意してる間に俺はホワイトボードを傾ける。

 

それぞれ飲み物を受け取ると、シービーとシチーはソファーに座り、人もウマ娘もダメにするクッションにヘリオスが寝転び、カフェは少し離れた縦長の椅子にちょこんと座る。

 

俺もアイスコーヒーでマフティー性をチャージしながらマジックで四人の名前を書き殴った。

 

 

 

「さて、とりあえずだ。 これから俺の苦手な季節は本格的に始まるだろう」

 

「だったらそれ脱げば?」

「さっき脱いでたけどね」

「え、それってマ(フティー)??」

「ふぅ……美味しいです」

 

 

ちなみに俺の素顔は全員見てる。

 

シービーが10回以上。

 

ヘリオスやカフェがそれ未満。

 

シチーが片手で数えるくらい。

 

あまり脱がない方がマフティー性高いけど、一度見られてる以上はもう関係ないだろう。

 

なのでこの部屋くらいは外す。

 

あと見られるのが担当バならまだ良い。 俺もこれから何年も隠し切れるとは思わないのでいっそ「見せて?」と言われたら一度だけ意図的に見せるようにしているつもりだ。 あとは基本的に見せないスタンスで行くつもりだ。 マフティーだし。

 

ただし先程の耳かきのように必要あらば外す。

 

その時に見られる分は仕方ないだろう。

 

担当バなら良い。

 

 

まあ事故で秘書のたづなさんに一度見られてしまったけど、シービーが手作りで頑張ってくれたアナベルショコラ……あ、違う。

 

ガトーショコラが優先だったので10秒くらいもぐもぐしてから、カボチャ頭を被って、固まっていた秘書のたづなさんに声をかけたら頭の上で星の屑作戦(お星様ぐるぐる)してたのでその混乱状態解いてから一度帰して、生徒が帰った後に改めて謝られた。

 

俺の記憶には無いがたづなさんもこの素顔は覚えてたのか懐かしそうにしていた。 昔よりも逞しい顔になったと教えてくれた。

 

それで「もう一度外しましょうか?」と冗談で言ったが、たづなさんは「あなたは前任者ではないマフティーだからその頭は大事にして下さいね」と言われた。

 

あまりにも高すぎるこのマフティー性の解答を受けて、俺は軽率な冗談だったと謝罪してから解散した。

 

なのでマフティーに信頼を置いてくれるたづなさんは一回だけ素顔を見られたが、たづなさんのマフティー性がノーカウントにした。

 

トレセン学園の秘書は伊達じゃない。

 

 

 

「さて、おとといシチーが未勝利戦を堂々の1着でゴールした。 それを起点に今後の方針を再確認する。 シービーは春天2着で惜しかったから夏合宿挟んでから毎日王冠で慣らして、秋天だな」

 

「いやー、マルゼンスキー強かった」

 

 

メジロアルダンがトレセンを卒業してから基本的にミスターシービーとマルゼンスキーの2強になった。 それでマルゼンスキーが天皇賞の秋をラストに飾ると天皇賞(春)のインタビューで面向いてシービーに言ってたので是非、春秋制覇の盾は阻止してやろうとシービーも意気込んでいる。

 

あと天皇賞の春は距離的に勝てる筈だった。 でもクビ差でシービーの負け。 それでも3着のウマ娘とは6バ身差だった。

 

それでゴール直前のシービーとマルゼンの写真がめちゃくちゃ売れていた。 大怪物と禁忌破りの2強はURAを熱くさせている。

 

そんでもっておハナさんも熱くなったのか、去年の有マ記念を通して躊躇いを捨てると天皇賞の秋に向けて元々強いマルゼンスキーの強化に勤しんでる。

 

いやー、それは流石にキツいっすよ。

 

ただでさえシンボリルドルフが菊花賞で三冠目を目指してるのにその勢いに便乗されたら簡単には止まらねぇだろ。

 

これにはオルガ団長もニッコリかな。

あとタカキは休め。

 

 

 

「はいはい! ウチはマルチャン!」

 

「マイルCSな? エプソムカップは1着だったから、あと一つくらいレースで入着以上の結果残せばマルチャンは選ばれるだろう。 なので夏合宿は頑張るぞ」

 

「ヨロたんウェーイ!!」

 

 

エプソムカップは結果を残した。

堂々とした逃げの1着ゴール。

 

 

しかし、その前のきさらぎ賞は6着と結果を出せなかった。 その汚名は返上した。

 

いや、ヘリオス的には自分じゃなくてマフティーに傷ついた汚名を返上したらしい。

 

俺はマフティーの名は気にせず走ってくれと言ったが「ウチはマフティーの太陽神だから!」といつものように笑って……いや、目はそこまで笑ってなかったかも知れない。

 

多分ヘリオスも知っているのだろう。 きさらぎ賞の後日に『マフティーのウマ娘6着で敗れる!?』と新聞に載せられていた。 それでテレビでも度々流れていた。

 

てか、わざわざ6着のウマ娘に狙い定めるとかひどく面倒だった。 もっと入着のウマ娘を称える方針で報道しろと思った。 この世界でもマスコミは碌でもないようだ。

 

まだヘッドバンの残念美人はまともだぞ?

まともじゃないけど、まともだぞあの方。

 

 

だから…失敗したと考えた。

 

ミスターシービーの築き上げたマフティーとしての期待値はヘリオスにとって高すぎた。

 

そしてヘリオスがそこまで意識するとは思わなかった。 学園に帰った後、切り株の近くで腰かけていた彼女を慰めてから、挽回するようにユニコーンステークスで1着を取った。

 

これでプラマイゼロにしたつもり。

彼女の心は一旦晴れた。

でも……………まだ心配だ。

 

トレーナーとして、しっかり支えないと。

 

 

 

「シチーの目標は阪神JFだな」

 

「うん、そこだね、調整よろしく」

 

 

ゴールドシチーはマイル中心のつもり。

長すぎるのは無理。

短すぎるのも無理。

 

でもエリザベス女王とか出走させたいかな。

なんとなく似合ってる、気がする。

 

え? これではお人形扱い?

 

いやいや、違う違う。

 

お人形のように綺麗だけどめちゃくちゃ強いウマ娘って証明する流れだから。 ならレースもそれ相応に飾った上でゴールドシチーを魅せれば良い話だろ? 本人もそれで良いと納得してたし。

 

てかエリザベス女王ってG1だろ? ならお人形扱いどころの話じゃないのですがそれは。

 

上澄みの上澄みでマジで強いやつしか勝てないのが重賞だから俺もそう軽く見ていない。

 

 

もし仮に、ゴールドシチーを勝てるレースしか出さないで、綺麗な姿だけ飾れば良いとか戯言を吐くトレーナーがいたらソイツはかなりのアホだろう。

 

その感覚で中央に挑めるなら日本のレースとか滅んでるレベルだぞ。 俺はトレーナーとして2年目になってよく理解した。 中央は魔境も良いところです。 マルゼンスキーが目立ってただけでそれ抜きにしても中央は激戦区。

 

 

 

「カフェは来年か再来年にデビューだな」

 

「はい……」

 

「焦るなよ? 体は段々と丈夫になっている。 いざデビューしても、これまで蓄えた知識力は絶対に誰よりも先に行く」

 

「うん、それはアタシも保証するよ。 カフェはずっとアタシの走りを見てたからね」

 

「はい……がんばります、シービーさん」

 

 

カフェは体が丈夫ではない。

 

無理すると身体のどこかしらを痛めたりと弱い。

 

奥多摩で出会った時にはキャンピングカーに乗せてトレセン学園に帰ったんだが、実は足の爪が割れていたから歩かせるには見逃せなくてキャンピングカーに乗せて帰ったのだ。 ヒッチハイクじゃない限りは見知らぬ人にホイホイ乗らせるのもいかがなものだが、心配になって乗せた判断である。

 

あとカフェは痛むことにあまり敏感でない。

 

なんならカフェのイマジナリーフレンドが知らせるまで気づかないことはあるらしいが、なんというか反応がやや鈍い。

 

それを知ったから放っておけなくなった。 そうでなければあんな忙しいタイミングでカフェの加入申請に手をつけてない。 シービーの日本ダービーが終わってから話を進めれば別に遅くもなかったが、虚げに揺れるこの摩天楼は今にも崩れそうで怖かった。 日本ダービーに連れて行ったのも近くに置いておくためだ。 マフティーの新たな担当として騒ぎにはなったけど、別にそこはよかった。

 

でだ、ここまで話したようにカフェは体が弱い。

 

なので練習はあまり走らず、主に見学で済ませている。 たまにシービーが直々に走りを見てあげてるが1週間に一回ペースだ。

 

無理に負荷をかけるのは得策ではない。 今は食生活で整えたり、マッサージで体の活力や代謝を上げたりと、少しでも丈夫な体を作ろうとしている。

 

なのでデビューする気配が全く無いのはそういうことだ。

 

ちなみにカフェは中等部2年だ。 俺のところに来たのは中等部1年であり、カフェはかなり早い段階でトレーナーを捕まえた。

 

彼女が俺を選んだ理由は色々とあるが、俺はどんなカフェでも受け入れたと思う。 もちろんカフェのことは心配だったが、マフティーに恐れずマフティーを求めてくれた事が俺にとって救いであり、存在意義になった。

 

なら俺も彼女を救ってあげたい。

 

なんとでもなる筈だ(覚悟完了)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夏合宿が始まる。

 

暑さは何とかなった。

日陰とか、夕方に砂浜を使えばやり過ごせた。

 

なんとでもなる筈だ(満身創痍)

 

 

 

つづく

*1
実はまだ未デビュー




NTと究極のごっこ遊びの説明が難しい。

シャドーボクシング的な感覚で伝わったらいいけど。 グラップラーで例えると『リアルシャドー』で説明すれば、わかる人にはわかると感想欄から分厚いマフティー性をいただきました。 ありがとうございます。

そもそもNTってそんなんだから分かり辛いよね??
【固有結界】と考えたら話が早いかな??
生成するのはレースで丸写しされた幻影のウマ娘たち。
描写に関しては作者の力不足ですね。
本当にごめんなさい。

・マフティー性に触れると道が開通する。
・マフTはサイコミュ的なパイプの役割。
・三女神から授かった力はNTに変化する。
・ファミチキ並みに直接イメージが届く。
・見ている景色に描いたモノが映し出される。
・レースと同じ臨場感を得る(VR的な状態)
・そうして究極のごっこ遊びに身を投じる。
・身体は闘争を求める。
・アーマードコアの新作が作られる。

ちなみにシービーはこれが1人でできる。
マフTがいると負担が軽くなってより鮮度が上がる。

ほかの担当はできないので、これを行う前にしっかりマフTと息を合わせて、段取りをとってから行う。 だがその代わり感受するウマ娘側にもセンスが無いとだめです。

・シービー 100%
元々自分でできてたのでこればかりは語らずとも。

・カフェ 98%
元々その素質がある。アプリでカフェの育成をやるとどれだけ異常なのかわかる。

・シチー 85%
モデルとして演じる力がある。 カフェほどじゃないにしろ吸収力が高いためNTの感受性が高い。

・ヘリオス 70%
一定のノリで熟せてしまう。 逃げウマなので実のところあまり気にしなくていいので後方の圧力だけ感じる。

これが相互理解によるニュータイプの力です。
そりゃ東条トレーナー(おハナさん)も首傾げて思考を放棄しますね…
俺ならそうなる、うん。
圧倒的なオカルトパワーだけど、これがガンダムだから仕方なね(投げやり)

そもそもNTに関しての解釈って作品によって色々あるので、複雑なんですよ実際に。
あまり考えないでそんなもんだと受け止めてください(他力本願)

それとシービーは5話とか6話(中等部二年)で比べると高等部になって後輩ができたから段々と落ち着いたキャラになりましたね。 自身が楽しむためなら禁忌に触れてでも危ない走りもする独りよがりな姿から、ちゃんと大人になってるあたり無敗の三冠ウマ娘の貫禄出てる。

そんなわけだから…
カフェも実装されたし、シービー実装まだですか?
かわいいやんちゃだといいなぁ。
あとヘリオスも実装してね。
なんならシチーの新衣装でもええよ。
どこぞの8番人気な勝負師でも全然OK(よくばり)


まぁそんなわけなので…
とりあえず 太陽神 ”編” のつもりで進めるから。
彼女には、ほっっっ…んの少しだけ曇ってもらうね(予定)



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23話

新衣装ゴールドシチー素敵すぎる。




 

 

__悲報

__マフティーのウマ娘は無念の6着。

 

 

 

 

そんな記事やネットのニュース、なんならよく聞こえるテレビでも紹介された。

これを今の自分では笑って誤魔化すには辛かった。

 

 

結果一つ残せなかったきさらぎ賞からトレセン学園に帰ると大きな切り株に叫ぶ。

 

いつもならどうでも良いような事を叫んでストレスを発散していた。 だから自分はその程度でしか感情を荒ぶらせた事しかなく、喉が焼けるほどに叫んだのは初めてだった。

 

 

レースで入着なんか出来なくても「ウェーイ! 今回は無理無理かたつむりィー!」と騒いではあまり気にしなかった。

本当に気にならない。

 

それ相応に走って満足して、それ相応に走って達成して、それ相応に走っていただけ。

 

そのくらいの余裕な気持ちを作れるから、これは自分の武器だって考えていた。

 

弱ったらしい気持ちをパリピで誤魔化せることは得意だった。

 

だって自分だけ気にしていればよかったから。

 

 

でも彼と…

 

マフTと出会ってから自分だけじゃない。

 

マフティーのウマ娘として誇らせてくれた。

 

独りよがりな自分の事を肯定してくれて、マフT達の一員になれてそれは嬉しかった。

 

そこにパリピが居ても問題無くて、パリピとしてマフティーに触れる事ができた。

 

ヘタレ気味に遠くから眺めて、我慢できなくなって後ろから抱きしめていた、そんな自分に「入ってくれないか?」と言ってくれた。

 

だからすごく報われた。

 

 

ここは実力主義なトレセン学園。

 

レースで成績も振るわず、まともに結果も叩き出せないことで去るウマ娘は珍しくない。 それが中央であり、自分もその一人になる予定だった。 パリピだろうと関係ない。

 

中央と言う上澄みにそぐわないウマ娘なら誰であろうと弾き出されてしまう。

 

けどマフTはこんなウマ娘を選んでくれた。

 

握りしめていたくしゃくしゃの紙でマフTが加入申請してくれた。 好きがもっと好きになった。

 

自分もマフティーと同じように応えたくて、誇らせてくれる自分をターフに描いた。

 

取り柄しかないこの笑顔も、いずれ獲得する重賞も、マフティーに全て捧げたい。 マフティーの太陽神として許されたこの脚で果たして見せる。

 

 

そう意気込んで……挑んだ、きさらぎ賞。

 

初めての重賞レースで6着。

 

 

マフティーの名を汚した気がした…

いや、汚した。

 

 

自分の事は何言われようが構わない。

 

鬱陶しがられるのも、めんどくさがれるのも、嫌がられるのも、なにもかも慣れている。

 

 

でも、お願い。

 

マフティーだけはやめて欲しい。

 

お願いだよ、やめて。

 

それはウチだけにしてよ。

 

 

しかし中央の世界だからこそ免れない。

 

どこよりも良く目立つ舞台だから。

 

 

だから思う。

 

そうさせたのウチが弱いから。

 

だから初めて、荒ぶったこの感情を切り株の中に叫んで…涙がこぼれ落ちてしまう。

 

 

情けない。

 

情けない。

 

情けない。

 

情け無いよ…ッ!

 

何故、ウチはこんなに情けない??

 

 

デビューが遅かったから?

 

違う、ウチはもっと理解すべきだ。

 

マフティーのウマ娘である事を理解すべきだ。

 

ターフに描きたいその心が足りない。

 

その想いが足りない。

 

ウマ娘としての欠陥だ。

 

だから、もうヘラヘラとし過ぎるのは終わりなんだ。

 

でも笑う事はやめない。

ウチはそれでもパリピだから。

 

けれどマフティーのウマ娘として誇らせてくれるこの意味はもっと大きなモノなんだと胸に秘めるべきだ。 パリピとして笑いながらも、その気持ちは誰よりも負けてはならない。

 

 

ミスターシービーを思い出す。 マフTとの時間も練習も楽しすぎていつも笑っている。 しかしレースに()ける想いは果てしなく強かった。

 

三冠を夢見て、マフTと果たそうと駆けたから無敗の三冠ウマ娘となり、マフTのウマ娘として誇れる存在になった。

 

 

有マ記念も忘れない。

 

あの" 絶対" を倒した伝説のレースだった。

 

 

 

__やって見せろよマフティー(シービー)!!

 

 

 

この熱量も、この情動も、この閃光も。

 

ミスターシービーがマフティーのウマ娘である意味を有マ記念のターフに示した。

 

 

禁忌(タブー)破りのウマ娘。

 

 

誇り高いこの名を彼女はマフTに捧げた。

 

誰もが憧れる人バ一体を魅せた。

 

本当にすごいウマ娘だと思った。

 

 

 

だから (マフティー) が高い。

 

切り株の中に叫ぶ。

 

ウチは__描けない。

 

そんなターフを描ける気がしない。

 

こんなパリピに何か出来るのか??

 

 

 

「ヘリオス?」

 

「っ!!!」

 

 

 

声が聞こえた。

 

急いで涙を袖で拭う。

 

笑みを絶やさないウマ娘だから泣いてる姿なんて彼に見せたくない。

 

けれど袖についた黒いタトゥーシールと滲んだアイシャドウは誤魔化せない。

 

パリピの仮面が崩れていた。

 

 

「ち、違っ……ウチ…は」

 

「そう悲しむな。 ヘリオスはよく頑張った。 だから次は1着を取ろう」

 

 

練習中や業務中、マフティー性高い口調でトレーナーを務めるけど、今こうして担当ウマ娘と二人でしかいない時は優しい口調で彼は接する。

 

そのギャップもまたマフTの一つだと思わせてくれる人間味はウマ娘にとって心地よい。

 

マフTのウマ娘でなければ誰も知らない特権だ。 色んなモノが溶かされてしまう。

 

シービー先輩は良く言う。

マフTはウマたらしだって。

本当にその通りだと思う。

 

そんな彼がトレーナーだから……

 

 

 

「次は、ウチが1着を取る…ッッ!」

 

 

 

自分がパリピであることを忘れて、情けないダイタクヘリオスが許せない自分は覚悟を決める。

 

 

マフTは言う。

 

遅めのデビューだったから地固めが甘かったと言ってた。 それは先輩のミスターシービーも同じように頷き、もうひと磨きすれば次は必ずと言って良いほど1着を取れるだろうと告げていた。

 

マフTもそうだし、マフティー性に多く触れているミスターシービーの言う事ならそれは間違いない。

 

だからウチは信じて走る。

 

ウチはウチとして走り、ダイタクヘリオスを強くした。 でもその代わり友達は言う。

 

 

少し雰囲気が変わった??

なんか面構えが違くない??

 

 

中等部三年になって少し大人っぽさが増えたのなら多少なり変わったと思うけど、それは多分ウチの心構えだと思う。

 

本気になったウマ娘は雰囲気が変わるらしいから、多分それだと思う。

 

でもウチは誤魔化した。 それが何故か自分らしくなくて、マフティーのために独りよがるだけだから語るほどでもないと思ったから。 ウチは純粋に自分が許せなかっただけだから。

 

マフTのウマ娘だからそうなれた。

周りにはそう誤魔化した。

 

それは間違ってないと思う。

 

こんなにもマフTに応えたいで溢れてるから、マフTによって変わったのは間違いではない。

 

もちろん笑顔は忘れてない。

 

パリピなダイタクヘリオスはそうであるから。

 

でも笑う回数は多分減った……と、思う。

 

 

でもそれだけ本気だ。

 

慣れてきた究極のごっこ遊びに身を投じる。

 

逃げとしての脚質をこれまで以上に理解して走る。 後ろからの圧力をむしろ追い風に走る。

 

コーナーの走り方も強く意識した。

 

これが重賞を目指すウマ娘なんだと考えながら、シービー姉貴にも並走を頼んでこの先に浮かぶ自分を描く。

 

 

マフTのウマ娘として誇れるようにダイタクヘリオスを描く。

 

弱くて良いはずがない。

 

マフTのウマ娘なら強くないと……!!!

 

 

 

 

 

 

__ ダイタクヘリオス! 逃げ切った!!

__ エプソムカップは1着ゴール!!

 

 

 

 

 

自分にとってのリベンジ戦。

 

レースで一着を勝ち取り、センターを踊る自分の姿をマフTに捧げた。

 

いますごく笑えている。

 

パリピとしても、ダイタクヘリオスとしても、マフTのウマ娘としても笑えている。

 

笑えてる()だ。

 

 

 

 

__今までの弱い自分とは、お別れをした。

 

 

 

 

でも、これはプラマイゼロだ。

 

いや、少し違う。

6着のきさらぎ賞から、今回のエプソムカップまで3ヶ月ほどの期間があった。

 

その分を返上するとしたらまだマイナス。

 

マフTのウマ娘としてまだまだ。

 

だから、もっと笑える自分のために。

 

マフTのウマ娘として誇れるために。

 

誇らせてくれるマフティーのために。

 

 

 

「次は、マイルCS……」

 

 

 

タトゥーシールを貼り終えた自分の顔が鏡の前に映し出される。

 

今日もウチらしく笑っているよね?

 

 

うん、笑っている。

 

こんなにも笑っている。

 

パリピだから笑ってるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

__それでダイタクヘリオスは良いの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん、ぜんぜん良いよ。

 

チョー、アリありのアリ。

 

アリが10匹、ありがとう。

 

あざまる水産。

 

 

ほら、笑えているっショ??

 

だって、ウチはマフTのウマ娘だから。

 

なにも間違ってないよ。

 

 

 

 

これがマフTのダイタクヘリオスな…筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレセン学園で…

 

腐敗が広がってしまって数年目。

 

内部では下手な独裁が続いては、残された新人は浮かび上がり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドカアアアァァァン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

てな、訳で!

 

始まってしまった内部告発!

 

公にされて早口になり始めるベテラントレーナー達!

 

甘い蜜を啜るのが好きな独裁者って奴だ!

 

ちなみに、共有施設を占領して上澄みで安定させようとするのが勝ち組、改正の反対派。

 

そんな反対派にふざけんな!と噛み付いたのが負け組、改正の賛成派。

 

二つの党派はトレセン学園の改正または改変を求めたり否定したり叩いたり、チーム名が無いだけで権限をギャン!言わせてたが、基本的には長くいるベテランか、経験浅いトレーナーの取っ組み合い。

 

戦いは経験量だよ兄貴ッ! って等の前理事長が安定求める故にそうしてたように、奴らの独裁に押されて賛成派は一時的に敗北。

 

チーム名の無い底辺はハイハイと聴くしかない現状が出来上がる。

 

中央なのに見苦しい話だろ?コレ。

 

それでは収まらないって賛成派は巻き返すよどこまでも!

 

 

でもコイツら聞き分けなくてダメ!

 

アイツも過去の栄光に縋ってダメ!

 

ソイツは後輩の教育を捨てたからダメ!

 

 

じゃあてなもんで! 東条トレーナーも動いたがスレスレの一触即発なので下手に動けず…

 

オイオイこのままでは独裁をまた許しちゃうの!?

 

 

だがところがどっこい!

 

実は最初から高められていた飛んでもパワーのマフティー性! 過ちを犯した者から片っ端に反省を促して! そんなマフティーに魅力を感じて世間は大ブーム!

 

おっとそれでは俺たち立場やばいよってんで、反対派は全抵抗。

 

しかし皮肉にも反対派はマフTに敵わなかったのかガバが表れ、結果も! 成績も! 実績も!

 

マフティー性によって勝ち負けが左右させられ、反対派は慌てて鎮圧を開始。

 

試しても捗らない? じゃあ隙だらけな反対派にマフティー性が爆誕。

 

マフTを見下してた過去も何だったのか?

 

施設占領や夏合宿を置き去りと弄り回すもんだから、倍返しだって起こる。

 

ほぉらやっちゃった??(倍返し)

 

しかも怒りに溢れた秋川やよい理事長の暴走事故にて、例の如くやらかしまくった反対派だから、逃げ場を失う反対派や賛成派はマフTに俄然注目!

 

反対派のほとんどが解体されたが、支えを決めようと争奪戦が始まった。

 

 

__マフティー性に秘められた力は…

 

__ウマ娘の幸せを解き明かし…

 

__URAに永遠の安定を約束する…

 

 

 

 

 

 

ってオイ!?

 

これやっぱり別の人が良いんじゃないの!?

 

大丈夫!?

 

と、思った総リーダー! マフT登場!!

 

ウマ娘のために促して!!

 

 

ロングランヒット(長距離並に促し)しちゃうんだよなぁコレが!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、現実逃避できない茹でカボチャだったのか。 ふっ…俺って不可能を可能に…」

 

「さっきから何言ってんの?」

 

 

浴衣姿のカボチャ頭はシュールだとして、モデル業のゴールドシチーは浴衣姿が大変似合っている。

 

しっかり1日目に「綺麗だな」って言ってあげたら「はいはいどうもー」と慣れたような反応が返ってきた。

 

ちなみに一連を見ていたパリピも褒め言葉が羨ましかったのか急いで浴衣姿になると横腹に飛びついて来て尻尾ブンブンと感想を促してきた。 しかし着慣れてなかったのか浴衣姿の結び方を間違ってたので俺とシービーはそれを指摘しながら同じタイミングで写真撮って「大事にするよ」と言ったら頭真っ赤にしてヘリオスは爆逃げを開始。

 

それを見たシービーは「ねぇねぇねぇ!!」と撮った写真掲げながらヘリオスに追い込みを掛けて、ヘリオスは混乱しながらも顔を赤くしながら逃げていた。 G1ウマ娘に背後取られるとか怖すぎる。 そのままシービーは赤面する後輩を虐めながらめっちゃ写真撮ってた。 夏でも元気だよなあの三冠バ。

 

ちなみに浴衣姿が1番似合ってたのはカフェでした。 まだ中等部の彼女も黒髪美人に早変わりでシチーと「おおー」と感想を残す。 褒められ慣れてないカフェは反応に困りながら頬染めて行き場の無くした指をモジりながらモジってた。

 

シチーの場合は口紅を塗って、お化粧して、簪とかもっと飾れば誰よりも似合うだろうけどシンプルな浴衣姿はカフェに軍配が上がる。

あれ?黒髪美人=エクシア。

つまりカフェはガンダムエクシアだった…??*1

 

 

カフェしか勝たん

 

 

そこは同意するけど勝ち負けの案件ならお前レースでカフェに勝たせないだろう何言ってんだコイツ?って言ったらイマジナリーフレンドからアイアンクローされた。

精神体が物理攻撃してんじゃねーよ。

 

しかもさりげなくカボチャ頭のⅠフィールド(マフティー性)を突破してダークネスフィンガーしてきたのはビビった。 しばらくイマフレとガンダムファイトして最後は押し入れにぶち込んで閉じ込めてやった。 ガンダムファイト国際条約に沿って頭部が破壊されなかったから俺の勝ちですね。

 

 

マフティーのやり方、正しくないよ(怒)

 

お前それ言いたいだけだろ??

 

 

 

さて、そんな1日目はともかく念願の夏合宿を満喫して1週間が経過した。 実はあと3日で帰ることになるがこれは仕方ない。 俺が短めの期間を選択したから。

 

それよりも俺はこれまで起きた怒涛の展開を頭の中で整理していた。

 

公式でゾルタンが3分で説明してたので俺も一旦整理するため脳内で3分間に纏めようとしたがご覧の有り様である。 ゾルタンあっかんねーで実験に失敗したフェネックスのようにオーバフローした。

__ 鳥 に な り た い な

 

 

あと現実逃避が捗らない俺の一人部屋にゴールドシチーがいるのはこっちの方が静かで寛げるからだ。

 

寝泊まりする部屋にヘリオスがトーセンジョーダンを呼んで、元気有り余ってるシービーが便乗したことでかなり騒がしいからだとか。 あとカフェは逃げ場を無くしたようだ。 3機の元気なデルタプラス相手に孤立したような状態だ。 可哀想に。

 

 

 

「それで? マフTは何悩んでんの?」

 

「さりげなく重役の席に座らされてまだカボチャ頭と脳が追いついてないだけだ」

 

「ふーん、パンプキンしてる訳ね」

 

「やかましいわ。 よく喋る」

 

「あー!もう! それやめろっての!!」

 

「フっ………よく喋るッッ!!」

 

「だぁー!神経が苛立つ! このバカボチャ! 南国に返してやろうかそのカボチャ!」

 

「ゴールドシチーは起床難の幽霊なんじゃないかってなwww

 

ま”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ふ”ぅ”ぅ”ぅ”で ぃ”ぃ”ぃ”い”い”!!!

 

 

そう言って耳を絞った(◬掛かりぎみ)ゴールドシチーは飛びついてきた。

 

普通ならウマ娘パワーとその高速移動に勝てないけど、NTの勘で先読みして受け流すとシチーは「ちょ!?」と驚きながら座布団の上にビターン!と潰れる。

 

そのまま座布団で蓋をして俺の勝ち。

 

 

「ちょうしのんなー!」

 

 

天井まで座布団が噴火する。

 

俺は後方に逃げるがウマ娘パワーでなんなく捕まってしまう。

 

そのまま畳の敷布団に押し倒されると馬乗りにされてカボチャ頭に手をかけられた。

 

そして、カポっと脱がされてしまった。

 

 

「このまま別国へ島流しにしてやるから!」

 

「マフティーが外来種になるだろ!」

 

「元々カボチャは外来でしょ!」

 

「マフティー性は国産だ!」

 

「うっさい!」

 

「よく喋る!」

 

 

それから品質改良(精神)されたカボチャの争奪戦はゴールドシチーに軍配が上った。 ウマ娘パワーに勝てない人間の俺はかけ布団で全身をグルグル巻きにされて放置される。

 

こればかりはNTで解決出来ないので俺は白旗を上げてシチーのハイジャックが終了した。

 

あとカボチャ頭脱がされて拘束されたりとそこまで原作再現に忠実じゃなくて良いから。

 

 

「動けない、起こして」

 

「自分で起きればー?」

 

「あー、なるほど。 コレが本当の起床難か」

 

「うっさ」

 

 

俺の素顔を見ても対して反応しなくなったゴールシチーはカボチャ頭を指でくるくると回しながら「耳の部分を開けたらウマ娘用になる?」と尋ねて来たので「ヘリオスが試してた」と答えながら自分でぐるぐる巻きから抜け出す。

 

一定の戯れ合いが終わったのでシチーからカボチャ頭を返してもらう。 被る気の無くなったカボチャ頭はテーブルの上に置いて、座布団にライドオン。 タブレットの電源を入れてこれまでの練習成果を確認することにした。 軽めのワーカーホリックだけどトレーナー業が楽しくてやってるから寧ろ軽めの症状が丁度いいくらいだ、構わずデータ入力を始める。

 

シチーも取っ組み合いに乱れた髪を整えるため、適当に座ると俺のバックから担当用に使う櫛を勝手に取り出して髪の毛を梳かす。

 

しかし尾花栗毛はいつ見ても綺麗だよな。 今年やっと夏合宿に参加できたブリッジコンプとかのウマ娘も同じ尾花栗毛だが、それでもシチーは100年に1人と言われる美毛持ちだ。 梳かす度にキラキラしてやがる。

 

 

 

「マフTはこれからどうなるの?」

 

「それは人柱にされた事か? 心配せずともいつも通りトレーナーとしての勤めを果たす。 総リーダーとして名前だけは偉そうに身構えるだけだ。 そうすりゃ死神も来ないからな」

 

 

マフティー性に希望を抱くたづなはマフTの存在が強力な抑止力になると考え、トレーナー達の総リーダー的存在になって欲しいと言われた。

 

俺はそこまで大それたこと出来ないとやんわり却下したが、東条トレーナーから推薦で逃げ道が無かった。

 

秋川やよいからも「適任ッ! マフT頼むッ!」と大いに期待されて。

 

たづなからも「私に出来るなら何でもしますから!」と迫られて。

 

東条ハナがトドメに「私が認めたトレーナーで無ければ推薦なんてしないわね」と囲われる。

 

3人からジェットストリームアタックを受けて俺は無事に撃沈である。

 

NTの俺がジェットストリートアタックを乗り越えれないのはアムロじゃ無いからだろう。 例えマフティーだろうと女性は難関だ。 ギギが分かりやすい証拠だと思う。

 

 

「でもマフTが人柱にされる事で…それで、ええと…反対派? の様なトレーナーが生まれなくなるから形だけでも居座って欲しいなんだっけ? やはり抑止力として使われてるよね」

 

「今となっては()()()()()()マフティーは皆から恐れられてるからな。 まぁ理事長とは就任する前からに一度コンタクトを取っていてな、それでマフTのことは目をつけてたらしい。 それで有マ記念の実績がトドメとなってこれを利用しない事はないと。 俺も賛成派だから反対派の鎮圧は自然と始めるつもりだったが総リーダーとしての大役は予想外だ。 うーん、東条トレーナーじゃダメなのか…?」

 

「マフTはマフティーとしての力があるでしょ? そこに現るだけで揺るがせてしまう誰にも無い武器が。 ただの強面がそこに居るのとは全然違う。 そりゃ理事長もマフTの人格を気に入ったらそうするって。 マフTほどの味方は心強いと思うけどね。 現にアタシがそうだし? あのマネジを折れさせたのはマフティーならでは」

 

「いつからマフティーは脅迫材料になったんだ」

 

 

いや、むしろマフティーはそれが普通なのか。

 

役目として果たすのは組織の粛清と反省の促しのテロリスト紛いな行動だが、危険人物として他者を大いに警戒させる影響力を持っている。

 

原作でもマフティーの名を借りて軍資金の調達をするくらいだ。 よくよく考えたらマフティーはそのくらい影響力を与えてしまう。 俺は凡ゆる方面で誤魔化すためにマフティーを演じただけで、テロリスト紛いなマフティーは求めてなかったが、それでも行き着いた先は危険人物として恐れられるマフティーだ。

 

URAも最初は俺のこと警戒してたし、今も変わらず異端児のトレーナーだと警戒してるが、ミスターシービーの実績も合わせてURAは過去最高の盛り上がりに繋がった。

 

 

無名のカボチャ頭から中央トレーナー。

 

マフティーダンス。

 

空前のマフティーブーム。

 

無敗の三冠ウマ娘のトレーナー。

 

そして、伝説と言われる有マ記念の激闘。

 

 

カボチャだけに大豊作だなオイ? そりゃURAも盛り上がるわ。

 

俺がお茶の間ならマフティーもウマ娘のレースも追いかける間違いなく。

 

でもURAは危険人物として扱うらしい。 比較的好印象だけどやはりマフティーであることが先行(閃光)して今も危険に思われてる。

 

まあ、これもマフティーとして名乗った者の末路だろう。 寧ろこれを楽しんでおけと言うべきか。 いや無理だろ。 いま絶賛頭を悩ましているところだ。 総リーダーとしての重役とかカボチャ頭より重たいし正直楽しむどころじゃ無いんだが?

 

何より前任者による三女神の願いも合わさって気づいたら俺もハイブリッド化してるし。

 

あれ?

実は俺って成り上がりの異世界チート転生系??*2

 

 

 

 

 

タイトル

マフティーが異世界に転生したようです。

 

 

 

 

 

 

いや、これ売れる? *3

 

普通にハサウェイの原作でよくない??

いや、その前にこの世界にガンダムないから無理だ。

 

 

 

「とりあえず現実逃避のために練習メニュー(究極のごっこ遊び)を構築する。 こ、この悩みは明日のマフティーに任せよう。 な、なんとでも、な、なるはず、だ…」

 

「震え声で芝1400なんだけど」

 

 

1400とかデンドロビウムかな?*4

 

 

あとゴールドシチーこそ、デンドロビウムだろ。

もちろん花言葉の意味でな。

いや、気性難なだけで少し違うか。

 

 

「ほんと、マフTって面白いね。 最初はスゲー!ってアタシも思ってたけどカボチャ頭()を開けたら見事に裏切られたし」

 

「ダイタクヘリオスがいる時点で気づくだろ?」

 

「そんな事ないよ? ヘリオス先輩はマフTの事をめちゃくちゃ自慢してたけど、それってありのままを許していたと受け止めてたからさ、パリピだろうと許したマフTって寛大なんだって皆思ってる。 だからこそ選ばされた者で無ければマフTのウマ娘になれないと思ってるし、中にはそれが神格化のようなモノとして繋げてるよ」

 

「俺は人間だぞ? カボチャ頭を被ったな」

 

「しってるよ。 だからいい意味でも裏切られた。 素顔を晒せるマフTは人間で沢山なんだって。 特別だけど、特別だからと言ってそこまで遠くないから安心した。 多分それってミスターシービー先輩も、ヘリオス先輩も、カフェも同じ。 あと秘書のたづなさんもかな。 マフティーのマフTを知ってる人は皆そう思ってるよ。 それがまたアタシにとってよかったかな」

 

 

髪を梳かし終わったゴールドシチーはアルコールティッシュで櫛を消毒しながら続ける。

 

 

「あのさ、アタシは尾花栗毛のウマ娘として生まれて特別だったよ。 最初はそう思ってアタシだけの自慢だった。 でも途中からその特別に嫌気が差した。 周りのウマ娘と世界もターフも違う気がして、気づいたらお人形のゴールドシチーってウマ娘になって勝手に遠くなった気がした。 トレセン学園の門を叩いて特別でもなんとも無いアタシを証明しようとして、力不足だった。 飾られれば綺麗なお人形になるゴールドシチーは特別過ぎたから、特別では無い走れるゴールドシチーにランウェイは無い。 特別が優った。 でもマフティーは違ったよね」

 

 

消毒の終えた櫛を乾いた布で拭きながら更に続ける。

 

 

「まず最初に貴方は特別だった。 その特別をどうやって制御してマフティーとしての力にしてるのか気になった。 だからマフTのトレーナールームまでやってきた。 でもマフTから言われた言葉は最初わからなかった。 あー…ここら辺は思い出すと恥ずい話だから飛ばすけど、すごく胸にスッと入ったよね」

 

 

__モデルもレースもやってみせろよ。

 

 

 

モデル(特別)がそうならレースも特別に出来るゴールドシチーにすればそれは良い。 ヘリオス先輩からもそう聞いた。 今考えたら随分と脳筋気味た応えた方だけど、マフTはちゃんとそれがアタシに出来るようにしてくれた。 未勝利戦を突破して次のプレオープンも計画している。 だから、何というかさ、全否定しない貴方はおそらくだけど、マフティーは特別だけどマフTは特別じゃ無いと受け止めてるから。 マフTはマフティーだし、マフティーもまたマフTだって事だよね? あー、言ってることわかる?」

 

「わかるよ。 それにさっきシチーが言ったろ? 人間で沢山だって。 ただ俺はさ、このカボチャ頭は必要だったからそうしなければならなかった。 過ちも、救いも、このカボチャ頭にマフティーの意味を込めて特別にした。 でもそれは俺が特別では無い人間だから出来た。 最初はなんて事ない普通から始めたんだよ俺は。 素顔を見せられるのはその証だ」

 

「うん。 そうだね。 コレと言ってイケメンでも無いね」

 

「そんなシチーは綺麗なのに気性難だよな。 担当の中で1番困ったウマ娘だ」

 

「知ってる。 コレがアタシだから」

 

「ああ、そうだな。 だからモデルもレースも、やってみせようとする君は濁りなくゴールドシチーだ。 そこに特別の優劣なんか入れるな。 どっちも誇れ。 楽しみたいだけで走るミスターシービーも、パリピを捨てたく無いダイタクヘリオスも、摩天楼に搖れるマンハッタンカフェも変わりない。 それぞれが受け止めた名前と、そこにある個性を誇れ。 俺がカボチャ頭にマフティーの名前を付けたようにな。 仮にそれが独りよがりだろうと構わない」

 

「…ん」

 

「俺が、許す」

 

「あはは、そんなに熱弁しなくてもいいよ…………ありがと」

 

 

 

櫛を俺のカバンの中に入れると「おやすみ」と言って部屋から去る。

 

その横顔は嬉しそうに見えた。

 

ウマ娘としての喜び。

 

 

 

「……ああ、それで良い」

 

 

 

タブレットから目を離し、横に置いてあるカボチャ頭に目を向ける。

 

 

 

「君は…いや、君たちは、まだ一人よがるべきだ。 この学園にいる以上は好きに描くべきだ」

 

 

 

 

思い出す。

 

出会いは湿った夕方の空。

 

 

 

 

 

 

_おーい!

_そのミスター・パンプキン・トレーナー!

 

 

 

彼女はマフティーからしたら一人目。

 

 

 

 

_君もトレーナーさんかな?

_それで、楽しい走りに見えたかい?

_それとも……

_ただ、すごかった様に見えたかな?

 

 

 

 

尋ねられて答えたのは「すごかったのか?」と疑問に放った言葉。

 

トレーナーとしての欠陥。

それはそうだったと思う。

アスリート選手としての力を見てない。

 

ただそこにウマ娘が走っていただけ。

 

今はわかる。

彼女はとんでもなく凄かった事を。

デビューする前のその脚は立派だった。

 

でも、今でも、ただ、それだけ。

 

 

やはり俺は感じたのは…

 

 

 

 

 

 

__ねえ、もう一度聞いて良い?

 

 

 

 

 

なんだ?

 

 

 

 

 

__アタシの走りはどうだった??

 

 

 

 

 

 

 

 

「そりゃ、ウマ娘らしかったさ」

 

 

ミスターシービーってウマ娘らしい走り。 ターフに楽しみを描きたいだけのウマ娘。 トレセン学園にそぐわないと思われた一人のウマ娘。 もっと自由意志が尊重されるならもっと幸せに描けただろう。 だから惹かれた。

 

マフTは彼女に。 彼女はマフティーに。

 

その在り方に惹かれあった関係だ。

 

今はミスターシービー以外にも担当がいる。

出来れば不自由はさせたく無い。

だから俺は君たちの代わりにマフティーする。

 

 

安心しろ。

 

いくらでも独りよがれ。

 

いくらでも求めていけ。

 

マフティーはそれでも大人だから君たちに応える。

 

 

 

「だからこのマフティーがウマ娘やトレーナーにとって、哀しい世界は二度と起こさせない」

 

 

カボチャ頭を手に取る。

そしてカボチャ頭をみる。

マフティーの意味を込められたこのカタチを。

 

 

「…」

 

 

 

目を閉ざす。

 

カボチャ越しに聞こえた声は幸せだけではない。

 

マフティーだからこそよく聞こえた__世界の声。

 

 

 

 

 

 

 

 

__よくも!!よくもおまえらは!!

 

 

 

 

 

__もっとウマ娘のための学園だろ!! どうして君たちは!!

 

 

 

 

 

__あの子のためにもっと俺はしてあげられた筈なんだ!! あの子の!! 担当の…!!時間を返せ!!

 

 

 

 

 

__あと少しでブリッジコンプは初めての重賞を取れたはずだった! しかしお前らのような屑が居たから…!!

 

 

 

 

 

__パルフェは…パルフェはな…! いま!泣いているんだぞ…!

 

 

 

 

 

__ジュエル、ごめんね……何も出来なくて……私が、弱くてごめんね…

 

 

 

 

 

__トモエナゲにもっと満足なトレーニングをしてあげたかったさ!! もっとなぁ!!

 

 

 

 

 

__後輩の教育を捨てたトレーナーの屑だって、はっきりわかんだね。

 

 

 

 

 

__あの子はな! 優しいから笑顔で学園を去ったんだ! 僕を心配させないためになぁ!

 

 

 

 

 

__担当のターフを奪ったお前らなんか! あんたってヤツはァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カボチャ頭を被れば凡ゆる悲痛が聞こえる。

 

それはマフティーだから鮮明に拾った声。

 

その痛みはマフティーだからよく感じ取れる。

 

 

 

何故トレーナー達の悲痛が聞こえたのか?

 

 

 

それはマフティーだから。

 

痛みを怒りに変える存在。

 

悲しみを憤りに変える存在。

 

 

変えてほしい。

 

救ってほしい。

 

助けてほしい。

 

 

それをマフティーに求めているから。

 

それをマフティーに期待してるから。

 

それをマフティーに希望を抱いてるから。

 

 

だから理由なんて呼吸する様に普通である。

 

疑問に介入の余地はない。

 

何故なら俺がマフティーだから。

 

なら、マフティーとしてやることは一つ。

 

 

 

 

 

「トレセン学園の過ちはマフティーが粛清する」

 

 

 

 

もう何度目だろうか、この言葉も。

 

カボチャ頭で染める度に決まる覚悟。

 

そうやって繋げて自己暗示はここでも俺をマフティーたらしめる。

 

なら、マフティーするだけだ。

 

 

 

俺は明日もこのカボチャ頭を被る。

 

ただそれだけ。

 

 

 

 

 

つづく

 

*1
OOガンダムのOP参照

*2
はいそうです

*3
勝手にパリピが書いてプレミアムがついた

*4
直径140mのモビルアーマー




運営や内政の描写苦手だからゾルタンに3分でまとめてもらった。
便利だった(小並感)


一応大まかな流れは以下のように。

・6月、騒ぎは起こった。
・秋川やよい、立つ!!
・トレーナーのクリーン作戦開始。
・招集ッ! ウマ娘の幸せはここだ!!
・皆!マフTの集え!(扇子を真上に掲げ)
・マフTだ!
・マフティー性の魂!
・そうだ…ッッ!!
・トレセン学園の調和は我らにある!
・うおおおおおおおおお!!!!!!
・うおおおおおおおおお!!!!!!
・マフT(やよい盛りすぎじゃね…?)
・たづな(いえ、とことんやりましょ^^)
・マフT(コレたづなも限界来てたか…)
・被害にあったトレーナー達の悲怒が爆発。
・「謀ったな…!マフT…!!?」
・「君たちがいけないんだよ…反対派」
・有無言わせず粛清が開始。
・この時だけ独裁者となった秋川やよい。
・「さぁ!貴様の罪の数を数えろ!!」
・反対派の9割が学園から消える。
・反対派にいたウマ娘を回収、担当振り分け。
・URAはこれを聞いて激おこ。
・マフT「お前らはマルゼンの件忘れてないぞ?」
・URA「(´・ω・`)その件はマジごめんって…」
・ここでシンボリルドルフが会長に就任。
・トレセン学園の内政を変え始める。
・共有施設がちゃんと共有施設するようになる。
・当然のように人手不足が加速する。
・マフT「地方に飛んでったTを集めない?」
・やよい「なら目印が必要だな!」
・たづな「総リーダー作ろうぜ!」
・東条T「お前(マフT)ボールな!」
・マフT「( ˙-˙ )スン…」←いまココ


ゴールドシチーが未勝利戦に向けて頑張ってる間にこんなことが起きていました。

マフティー性に触れたやよいがクンタラに引けを取らない独裁者となって次々と選別、解雇、左遷、粛清を行い腐敗を潰し回った。 マフTも手伝ったけど、この時マフティーよりマフティーしてるのは秋川やよい理事長だったと思う。 子供の理事長だと思って高を括ってたやつらは見事に打ち砕かれましたとさ。

あと反対派のトレーナーに育てられていたウマ娘は色々あった。 同じように甘い蜜を啜って良しとしたウマ娘、なかなか抜け出せず負い目を持ってるウマ娘、そんなトレーナーでも慕ってた故共に学園を去ったウマ娘いろいろと。 こればかりは引きずり続けていた情けない学園が悪い。

てなわけで、雑に反省を促して、やよいが粛清してくれました。
もちろんマフティーがあってこそのトリガー。
まぁおそらくマフTがいなくてもやよいは何とかしたと思うけど、マフティー性のバフが掛かって勢いが凄まじかったし、前理事長と違うことを証明してトレーナーやウマ娘の希望になったと思う。 多分秋川やよい強化はこの小説ならではだとおもう。
彼女もまたトレセン学園のマフティー()である。

そんな感じで連邦軍なトレーナー達との睨み合いの末はあっさりしてるけど、サクサク進まないと作者のキャパが大気圏突破して破裂するから許してくれ。


ではまた


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24話

太陽はね。
沈んだらまた上がってくるんだよ。




 

 

 

 

ガコン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世間は"彼"に求める。

 

 

 

 

世間は"彼"に注目する。

 

 

 

 

世間は"彼"に期待を抱く。

 

 

 

 

だからこそ、そこに集うウマ娘もまた同じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『上がれない!? 上がりきれない!!』

『苦痛を浮かべて差し掛かる第三コーナー!』

『常に笑顔の彼女はどうしたと言うのだ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は____マフティーは大きくなった。

 

 

URAの業界に於いて影響を与える。

そんな存在になった。

 

 

しかしそれは1人では無い。

 

隣に禁忌破りのウマ娘がいたんだ。

 

 

故に……

 

それは大きなプレッシャーとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『後続が追いすがり!そして追い抜いた!!』

『追い抜かれた!! 残り200メートル!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次々と阻まれた。

 

絶望が絡みつく脚をなんとか動かす。

 

 

息を切らして…ゴールした。

 

現実を、結果を、振り切るように走り切った。

 

 

初めてのG1を駆け抜けた。

 

 

 

しかし目の前には16人のウマ娘達。

 

ヘトヘトな体に鞭を打ち見上げる。

 

そこに書いてあったのは…

 

 

 

 

 

 

17着の悪夢だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__おいおい嘘だろ??

 

 

 

 

 

 

 

声が、届く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__マフティーのウマ娘だろ?

 

 

 

 

 

 

 

声が、届いてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__これは一体全体どうなってる??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声が、届いてしまった。

 

 

 

 

 

吐き気が止まらない。

 

耳鳴りが止まらない。

 

どうして?

 

どうして??

 

どうして???

 

 

 

 

なぁ?これは一体?? どうしてこんな結果に?? なんだというのだ?? これは演出のつもりののか?? いや違うだろ?? これはなんという結末だ?? さすがに冗談だよな???これは一体どういう事だ?? 何が起きたんだ説明してくれよ?? マフティーのウマ娘がこんなことになるのか?? ありえないですよね?? いやいやそんな事ないだろうだってマフティーのウマ娘だぜ?? 選ばれたウマ娘なんだから何かの間違いだろ?? 禁忌破りに対して荷が重いんだよ?? それは甘えなのでは?? マフティーの元に集ったウマ娘だって?? きみはまんぞくなんだ?? しかしねぇ…マフティーのウマ娘だからと言って強い訳じゃないのだから?? 本当にそう言える走りなのか?? 入着すらしてないね?? 下から数えて早い走りだろ?? 調子が悪いにしてはおかしすぎるだろ?? 何か失敗したのか?? それともわざとなのか?? ええ?? マフティーはそんなことしないだろ?? それはそうだよな?? 太陽神の名前にしては呆気ないな?? なんでダイタクヘリオスって名前なんだよ?? 何があってこんなことになるんだ?? 意味が分からないな?? 彼女にはマフティーに相応しく無いのでは?? 勝負の世界にしては情けない結果だろ?? おいおいおい?? これで良いのかよマフティーのウマ娘?? いい訳がないよな?? 君はただ憧れただけだろ?? そうだきみはお飾りさ?? マフティーに好意だけ持った走りだよね?? 満足してこれで終わりなのか?? これがマフティーのウマ娘?? マフティーの走りなのかい?? マフティーに捧げたのか?? マフティーのためか?? マフティーに17着かい?? マフティーに?? マフティーにか?? マフティーにとっての結果?? マフティーに見せれたのかい?? 本当にマフティーの?? マフティーのウマ娘?? 君はマフティーのウマ娘だった?? マフティーか?? マフティーでは無いな??

 

 

 

 

 

 

いやだ。

 

嫌だ。

 

いやだ。

 

いやだ。

 

いやだ。

 

嫌だ。

 

いやだ。

 

いやだ。

 

もうやめて。

 

もうやめてよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お 前 は マ フ テ ィ ー に 相 応 し く ナ イ よ ? ? ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッッ……ッッ!!??!??」

 

 

 

 

 

ドロっとしたような汗が背中に張り付く。

 

背筋を撫でる不快な冷たさ。

 

心臓が圧迫されたような感覚。

 

頭を殴られたような痛み。

 

その痛覚は目を覚まさせる。

 

 

 

「ぇ…」

 

 

 

 

だから、それが安心した。

 

 

 

 

 

「ゆ………め???」

 

 

 

周りを見渡す。

 

ウマ娘の穏やかな息遣い。

 

同じ部屋で眠る者達。

 

寝返りを打つミスターシービー、姿勢を正しく眠るマンハッタンカフェ、音楽を聴きながら寝息を立てるゴールドシチーの3人。

 

同じターフで築き上げる同じ担当。

 

 

 

 

「っ……ッ……ぅぁあッッ……ぁ…」

 

 

 

 

だから薄暗いこの部屋で目を見開いて、現実だと理解する。

 

着こなした浴衣もぐしょぐしょで、脱ぎたくてたまらない。

 

けどパジャマを忘れたバ鹿な自分だから、替えは効かない。

 

これで我慢するしか無い。

 

笑顔がアイデンティティな自分を忘れて、顔を歪めてしまう。

 

本当にひどい有様だ。

 

 

 

「……ぅ、ぅぅぁ……ぉぇ」

 

 

 

潰れそうだ。

 

暗いこの部屋に耳鳴りがはしる。

 

体が熱くてしんどい。

 

 

 

 

「……っ」

 

 

真夏の季節でも、夜の砂浜なら涼しい筈。

 

寝室を出て、旅館の草鞋を履き、貸し出された部屋を出る。

 

フラフラとロビーを歩き、外に出れば太陽に負けじと照らす月の光は自分を否定するようだ。

 

夜空から目を逸らしながら旅館の側近にある砂浜に続く階段を降りて夜風と潮風が混ざった中に佇む。

 

タトゥーシールもメイクもウチ()も洗い落とした素顔はとてもじゃ無いけど笑えたような姿では無い。

 

今は笑えなくて、笑い飛ばすこともできない。

 

悪夢を思い出す。

 

まるで実際に存在したような感覚。

 

 

 

「ぁ…ぁぁ………」

 

 

 

 

11月に開催されるG1のマイルCSで走った夢。

 

 

 

プレッシャーが襲いかかる。

 

自分が得意とする笑いに変えれず、何も考えれずに、背負ったこの誇りはあのレースで呆気なく終わった。

 

 

自分は違った。

 

 

 

「…はは、リアル過ぎるのは…流石にないわ………」

 

 

 

禁忌破りのウマ娘はそれ相応の強さが有ったから隣に相応しくて、それで誇らしかった。

 

あの人にとっても存在意義の証明になり、その名を世間にもターフにも広めた。

 

それは、ミスターシービーだから出来た。

 

なら、パリピ程度の自分は??

その程度のウマ娘は自分は??

 

 

 

「相応しく無いのかな…」

 

 

 

あの人は___マフTは誇らせてくれた。

 

マフティーの太陽神(ヘリオス)としてこの名前を誇らせてくれた。

 

それがどうしようもなく嬉しかった。

 

パリピとして辞めれない独りよがりなウマ娘でもマフティーは手を差し伸べてくれて、くしゃくしゃな紙で通してくれて、それで憧れを走らせてくれたから。

 

そして彼が居てくれるならこんな自分なんかでも、もっともっと誇れるウマ娘にしてくれると思ったから彼に惹かれた。

 

元々惹かれていたようなモノだから、それはもっともっと加速して、彼のウマ娘であることがこの上なく嬉しかった。

 

 

けど、憧れで走れるほど中央は甘くない。

 

 

2月のきさらぎ賞。

 

初めての重賞レース。

 

結果は入着することすら叶わない6着で終える。

 

周りからの声はあった。

 

 

 

_おいおい嘘だろ??

_あれマフティーのウマ娘だよな?

_緊張して力が出せなかったのか??

_でもあの人のウマ娘なんだぞ??

_マフティーにもこんな事があるんだな。

_まあ仕方ないよ。 初めてでよく走った。

 

 

 

 

緊張??

 

あの人の??

 

こんな事??

 

仕方ない??

 

 

 

「ッッ…」

 

 

 

マフティーのウマ娘として無様を晒す。

 

レースを走る前にマフティーから「好きに走って良い」と言葉を貰って、それが安心感があったから自分らしく走ってた。

 

だが実力の足りなさと、重賞の緊張感は誤魔化せなかった。

 

何より自分は遅すぎるデビューだったから、未勝利戦のから重賞レースであるきさらぎ賞のまで3ヶ月程度の期間しか無かった。 だから荒削りな走りをしていた。 こんな自分でも自分の事だから分かる。

 

特に自分はミスターシービーやマンハッタンカフェのように感受率が高くはない。 当時は究極のごっこ遊びに上手く身を投じる事があまり出来なかった。

 

今やっとマフTから発信される力の感受率も高まって、マフティーを理解して触れるほどに段々とその鮮度が上がる。 出来るほどに楽しくなった。 シービー先輩が夢中になる理由もわかる。

 

ただの練習よりも経験量が多くて、頭の悪い自分でもその効率が違うと思った。

 

だからミスターシービーが無敗の三冠ウマ娘になったカラクリと理由が理解できた。

 

マフTは本当に素晴らしいトレーナーだ。 他のトレーナーには絶対無いモノを持ち合わせた、すごい人だ。

 

 

だから理解した。

 

そのくらいすごい人の力が90%で、そんな自分は10%くらいだと思う。 もしかしたらそれ以下なのかもしれない。 こんな上澄みの世界で今走れているのはマフTが側にいるからだ。

 

最初の未勝利戦も、この前のエプソムカップで1着を取れたのもマフTの力があったから。

 

断じて……自分の力では無い。

 

もしトレーナーがマフTじゃない人だったら自分はこんな結果にはならない。

 

なんなら中央トレセン学園から追い出されて、どこかで適当なウマ娘をしてたんだと思う。

 

それこそパリピとして延々と独りよがりが続いていたと想像に容易く、今ほどの幸せなんか知らずにパリピを続けて、そうして誤魔化して、重賞レースは夢見ただけで忘れようとしてた筈だ。

 

 

そんな自分の姿を思い浮かべやすいから、それが苦しかった。

 

想像に容易いから。

 

 

 

「ぅ…ぅぅ……」

 

 

 

そう思うと、心が震える。

 

夜の夏風が冬のように冷たく感じる。

 

自分は……

 

ウチはマフティーのウマ娘で良いの?

 

このままマフティーのウマ娘で走れるの??

 

 

 

「そんなこと、無い…はず……」

 

 

 

 

思い出に浸ることで塗りつぶす。

 

笑って塗り潰す。

 

塗り潰せ。

 

 

 

 

__入ってくれないか?

 

 

 

 

嬉しかった。

 

あの人のウマ娘になれて嬉しかった。

 

毎日が楽しくて仕方ない。

 

皆に自慢できるくらいに誇らしい。

 

 

けど、あの人にそぐわないこんなパリピ程度のウマ娘がこれからマフティーのウマ娘として誇れるのか??

 

太陽神のように描けるのか??

 

喜びは最初だけだったのか?

 

それは、怠惰だったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__ねぇ、ウチはさ。

 

__その先はどうだった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘリオス」

 

 

「!?」

 

 

 

後ろから声が聞こえた。

 

降り向く。

 

そこにいたのはウマ娘。

 

誰もが知る、ミス・ウマ娘。

 

 

 

「あねき…」

 

「ひどい顔だね」

 

 

 

マフティーの隣にふさわしいウマ娘。

 

それが……ウラヤマシイ。

 

 

 

「ううん。 ちょっと夢の中で、危ない遊びをしていただけだから」

 

 

 

嘘を言って突き放してしまう。

 

 

__そうじゃない。

 

 

 

 

「だから気にしないで大丈夫」

 

 

 

 

嘘を言って遠ざけようとしてしまう。

 

 

__そうじゃない。

 

 

 

 

「だから、あね、きは……」

 

 

「おいで」

 

 

 

抱きしめられた。

 

 

「ぁ…」

 

 

いつもウチと同じようにはしゃいで、楽しむウマ娘がいまは一番の年上として姉貴分として抱きしめた。

 

優しい香り。

 

頼もしさしかない温度。

 

 

 

「寝言、聞こえてたよ。 吐きそうだった声も…」

 

 

「…………ぅぁ…ッ…!」

 

 

 

海風のなかで優しい声が聞こえる。

 

沈んだ太陽の冷たさは、涙となって…

 

 

 

「いやな夢でも見たんだね?」

 

「…ぅぁぁぁ…ぁぁぁッ…!」

 

 

 

こんなにも脆かった。

 

太陽神の輝きは…こんなにも。

 

 

「大丈夫だよ、みんないるから」

 

「ああああ…!! しーびぃぃ…ウチは…うち、は!…ぁぁぁ…」

 

 

 

しずんだ太陽はごまかせない。

 

自分はそんなに器用じゃないから。

 

 

「よしよし」

 

「ごめん…! ごめぇん…!! ウチは、ズットモを…! 姉貴の事を…! マフTを…!」

 

 

 

 

 

 

ミスターシービーが羨ましい。

 

羨ましい。

 

 

 

 

彼女の強さが羨ましい。

 

羨ましい。

 

 

 

 

マフティーのウマ娘が羨ましい。

 

羨ましい。

 

 

 

その醜さに涙が止まらない。

 

場違いな怒りと嫉妬に胸が痛い。

 

お門違いな悲痛はどうにもならない。

 

 

 

でも無理だ。

 

 

 

ウチは嘘なんかつけない。

 

ミスターシービーは羨ましいかもしれない。

 

でもそれと同時に尊敬している。

 

このウマ娘に自分はあこがれている。

 

だから、憎いとか、嫉妬とか、全然そうじゃなくて、ウチはただ…

 

 

 

___ミスターシービーのようになりたい。

 

 

 

誇りたい。

 

マフティーのウマ娘として。

 

ウチは…

 

ダイタクヘリオスが……

 

 

 

 

 

「なら、マフティーにそう求めなよ」

 

 

 

 

 

簡単にそう言う。

 

 

 

 

「絶対に応えてくれるよ

 

 

「………」

 

 

 

 

うん、知ってる。

 

マフティーはそうだから。

 

 

 

 

「手伝ってあげる、ヘリオスはヘタレだから」

 

 

「……」

 

 

 

うん、知ってる。

 

ウチはそうだから。

 

 

 

「ね?」

 

 

「…」

 

 

 

涙は落ちた。

 

冷え切ったモノは水となって。

 

おぼれたお日様は、少しだけ顔を出せた気がしたから…

 

 

 

「……………………………うん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____今日もウチらしく笑っているよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんね。

 

笑えてなかったみたいだね。

 

今日のダイタクヘリオスは笑顔じゃなかったよ…

 

 

 

でも大丈夫。

 

私がダイタクヘリオスの名前なら。

__なんとでもなるはず。

 

 

そう思ってるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさい、マフTさん」

 

「ただいま。 たづなさんは夏合宿行かないんですか?」

 

「今年は見送ることにしています。 今はトレセン学園の政策面で力を入れなければならないタイミングなので」

 

「そうですか。 お疲れ様です」

 

 

お土産一つ買ってこなかった自分のミスを後悔しながらも、たづなさんの顔を見ると秋に入ってからどうするべきか考え始めていた。

 

やはり俺ってワーカーホリックだろうか?

 

しかし俺の中にあるマフティー性が次々と促して政変を齎したいと荒げている……気がする。

 

落ち着けってマフティー。

とりあえず終わっただろ?

 

次必要な時にまたマフティーすれば良い。

 

 

「ところでマフTさんはどちらへ?」

 

「少し荷物を取りにトレーナールームまで。 回収したら帰りますよ」

 

「そうですか。 このまま仕事するのではと心配になりました」

 

「それは明日から頑張りますよ。 人柱として」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「……もう少し負い目とか抱かない?」

 

「マフTさん以外適任が無いので。 あと秋川やよいに対する責任です…かね?」

 

「責任…??」

 

「はい」

 

 

 

定期会議という名の大粛清。

 

それは秋川やよいから始められた。

 

まるで重賞レース中のウマ娘のように放たれる圧力は誰もが息を呑む。

 

それから集められたトレーナー達。 特に独裁を築いていたトレーナー達なのだが、秋川やよいにて次々と選別され、淘汰され、粛清され、短鞭の代わりに振る扇子は喉を切る如く。

 

下手な独裁者よりも、秋川やよいは独裁者として汚職を働いた者達を裁いた。

 

しかし見た目は小さな子供。

 

反論してきた者も現れた。

 

だが…

 

 

 

 

 

 

__中央を無礼(なめ)るなよ?

 

 

 

 

 

 

 

鶴の一声で止められた。

 

新たな会長として就任するシンボリルドルフも定期会議に参加していたが、秋川やよいから放たれる圧力に耳をピンと伸ばしていた。

 

ウマ娘は圧力とプレッシャーとかに敏感だからその場に居合わせて少しだけ可哀想だったけど、新理事長としての威厳は見せたはず。

 

しかしそうなったのは…

 

 

「マフティーが参考になったから…と、言うよりマフTさんの影響です。 お陰で秋川やよいは理事長として理想的な姿勢を持てるようになりました。 理想も、思想も、野望も、マフティーと言う象徴があったからこそ、それに強く感化され、秋川やよいは力強く備えた。 新たなる理事長(独裁者)として」

 

「……」

 

「マフティーの貴方なら分かるはずです。 貴方の中にいた前任者に代わり、マフティーを知るマフTが備わり、マフティーたらしめるその道を歩んだ。 菊花賞よりも長くて辛い道のり。 それを走り切った。 でもソレが達成されたのは…」

 

ミスターシービー(理解者)が居たからだな」

 

「はい、その通りです。 もちろん貴方自身の強さは疑いません。 貴方はそうなること(ここからが地獄だぞ)を覚悟していたから、走り切った。 そして今、秋川やよいは貴方の次にマフティーに染まろうとしている。 独裁者としての危険人物(マフティー)として」

 

「つまり……俺は彼女(危険人物)のお目付役ってことか?」

 

「独裁者は絶対にうまく行かない存在。 これは凡ゆる歴史に刻まれてます。 独裁主義は禁忌です。 ですが絶対(禁忌)を覆すことが出来た貴方なら、マフティーにとってのミスターシービーのように、秋川やよいのマフティーになれるはず。 その成功例は貴方自身ですから」

 

「……」

 

「私はそれを良しとしている。 マフティー性に可能性を感じている。 そこに希望を抱いている。 マフティーに成ろうとする秋川やよいに私は求めている。 マフTさんが同じマフティーなら、それは貴方に求めるのと同じな筈です…

__応えてくれますか? マフティー」

 

 

 

その眼は、何度か見たことある。

 

『マフティー』と言って、俺に求めてきた。

 

ミスターシービーも。

 

マンハッタンカフェも。

 

ダイタクヘリオスも。

 

ゴールドシチーも。

 

マフティーに集ったウマ娘達が、求めて…

 

 

 

「それとも、マフティーである貴方が()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うなら、私は人間として、では無くて……」

 

 

 

駿川たづなは帽子に手を掛ける。

 

それを外そうとして………俺は手を伸ばす。

 

緑色の帽子に触れたその手を止めた。

 

 

 

「美人さんと言うのは、困ったことに卑怯な言い方がお得意なようだ」

 

 

「………軽蔑しますか?」

 

 

「そこに純粋さが無ければ軽蔑する…って、マフティーは言うよ」

 

 

「純粋じゃ無いとダメですか?」

 

 

「子供が涙を流せば心を震わせてるように。 大人が怒りを買えば心を奮わせるように。 誰しもが無重力圏の宇宙(そら)に心を慄わせるように。 純粋とそれに等しく有ればマフティーは応えるに値する。 君は駿川たづなとして求めろ。 それも君としてのマフティーだろ?」

 

 

指先で、ぽんぽんと軽く数回だけ、ウマ娘の耳の位置を気にするように、俺は今だけ彼女達と同じように触れる。

 

 

 

「俺は駿川たづなって秘書を知っている。 そして改めて知った。 だから値したんだ」

 

 

伸ばした手を引っ込めて下がる。

 

そして、放つ。

 

 

 

今日マフティーは求められた。 なら応えよう

 

 

マフティーするだけ。

 

俺はマフティーたらしめる、何度でも。

 

 

 

「……ありがとうございます。 そう言って貰えてホッとしてます」

 

「君もだぞ? お目付け役を全うするのは」

 

「もちろんです。 私も助けます。 貴方が私をマフティーと言うならそれは同じです。 ……だから」

 

 

 

彼女は帽子に再び手を掛ける。

 

そして、俺がカボチャ頭を外す様に、彼女は被り物を外した。

 

 

 

 

「これでおあいこです。 マフティー」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

ウマ娘の耳。

 

帽子に隠れる程度に小さく、ピクピクと動く。

 

 

 

「前に見てしまった貴方の素顔はノーカウントにしましたが、マフティーとして純粋に等しい証が必要ならば、私はそれを濁さない。 これはその意味だと受け止めてください」

 

 

 

目の色も少し変わる。

 

綺麗な緑色の眼は濃く、または鋭く。

 

そしてウマ娘の様に__描く

 

俺は何度も見てきた。

 

その眼をミスターシービー(ウマ娘)から。

 

 

 

 

 

「過去の栄光はトキノミノル

__そしてマフティーたらしめる私は駿川たづな

 

 

 

 

 

 

今日ここに、同伴者が現れた。

 

描く理想は秋川やよいを通すことに。

 

マフティーはウマ娘のために。

 

その意味を込めてマフティーに求めて。

 

マフティーは応えようとする。

 

それは呼吸するように。

 

地球が回る様に。

 

人類が重力に縛られる如く。

 

 

そこから始まるのは 閃光 なのか?

 

それとも…

 

 

 

 

 

 

「ここからが 地獄 だぞ」

 

なんとでもなるはずだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どっちもだろう。

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 




 
 

マフT「ちなみに戦績ってのは?」
だづな「秘密です♪」

※この後無茶苦茶調べた。カボチャ頭が真上に吹き飛んだ。


もう一回、閃光が流れそうですね。
やってみせろよ、レースも、実装も、パリピな太陽も。


《追記》11/7
そっちが実装されるのかぁ!
なるほどなぁ…やられた。


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25話

__ヘリオスとデートしてくれない?

 

 

 

 

シービーからそう言われた夏の終わり頃。

 

マフティー性を失わせる季節の中で俺はもうひと頑張りする必要があるらしい。

 

 

今日は8月31日。

 

子供にとって楽しい時間が終わる。

 

 

そしてそれと同時に終わらせないとならない。

 

彼女の悩みを。

ダイタクヘリオスの不安を。

 

もしかしたら。

俺は指導者として失格なのかもしれない。

 

そんな不安がある。

 

 

 

「お、お待たせ…マフT」

 

「!」

 

 

片手に紙袋をぶら下げて現れたダイタクヘリオス。

 

デートスポットにしては殺風景な展望台。

 

しかしダイタクヘリオスがそこにいるだけで多くが飾られている気がする。

 

でも、足りない気がする。

 

彼女から。

 

 

 

「悪いな、気が利かない男で」

 

「ううん、マフティーはソレを外せんからね」

 

 

カボチャ頭さえ無ければ俺は彼女のために街中までデート出来たんだと思う。

 

まだ見ぬトレンドに触れさせてもらい、パリピならではの楽しみ方を教えてもらっていたはず。

 

だが世間にマフティーたらしめた、この体は、この器は、容易にひっくり返すことも出来ない。 マフティーは王だ。

 

庶民の中で裸の王様になることも叶わない。

 

これは外せないのだから。

 

 

「えとね? はちみードリンク持ってきたんけど、飲まね?」

 

「ありがとう」

 

「マフT用の長めのストローもあんよ。 ちゃんと用意周到できマフティー!」

 

「気が利くな。 俺には勿体無いウマ娘だ」

 

「!………とりあえず、座ろっか?」

 

 

デートと言うには程遠い雰囲気。

 

女性と男性ではなく、指導者と担当の関係。

 

ソレが健全であるからマフTとしては困らない。

 

けれどはちみードリンク以外何も味付けない時間。

 

ただ二人で座ってはちみードリンクを飲み、何も語らず展望台のベンチに座っているだけ。

 

ストローの啜る音が終わりの夏空に浸透する。

 

しばらく無言が続いた。

 

 

唐突な彼女とのデート。

 

もしくはシービーが大袈裟にそう言っただけだろうか。 彼女はそういうところは大いにあるからそうかもしれない。 俺はカボチャ越しに何か口を開こうとして……先にヘリオスが開いた。

 

 

 

「ウチさ、ミスターシービーに憧れてるんよ」

 

「そうなのか? ……いや、そうだったな」

 

「うん。 シービー姉貴ってさ、すごく強くて、すごく立派で、すごくカッコよくて、すごく優しくて、すごく…暖かい。 無敗の三冠ウマ娘だから本当ッッに憧れてしまう。 ウチだけでは無い、皆が注目するくらいに。 それでウチは一番近くにいるからちょっと優越感あるんやけど、でもそれと同時に分かってしまう。 憧れにしては…高すぎる」

 

「…」

 

 

 

ミスターシービー。

 

禁忌破りのウマ娘と恐れられる存在。

 

有マ記念でマルゼンスキーを倒したウマ娘。

 

その評価は去年の時点でとてつもなく高い。

 

 

「マルゼンスキーも凄いけど、ウチ的にはやっぱりミスターシービーが良い。 姉貴のようなウマ娘になりたい。 けどね。 ウチのソレはね、ただの拗らせから始まってた」

 

 

振り返る。過去に。

 

 

「きさらぎ賞は入着も出来ず、レースは終えた。 世間はマフティーのウマ娘がどうだとか騒いで、ウチはパリピの癖に笑い飛ばすことを忘れて、バイブスはどん底やった。 マフTは「次は一着を取る」と言って、ウチも頑張ってエプソムカップで有言実行した。 ウチは初めての重賞レースでトロフィーを獲得できてチョー上がった。 でも何故か満足感が足りなかった。 理由は簡単やったよ。 G3ではマフティーのウマ娘じゃ無いって」

 

 

「!?」

 

 

「うん、分かってる。 そんなの間違いだって分かってる。 マフTはそんなこと考えてない。 G3で1着は普通に凄いことだって知ってる。 紛れも無い重賞レース。 だから本来のウチならめちゃくちゃ喜んでたはずなんよ。 もう理事長室で勝手にパジャマパーティーするくらいにはバイブス上げてたんやと思う。 でも自分がちゃんと笑えてるかも分からないくらいに拗れていた。 マフティーのウマ娘として誇る思いは、いつしかミスターシービーのようなウマ娘としてマフティーの誇りとなるってね、ダイタクヘリオスを忘れてた。 ウチらしく無い。 拘り過ぎた」

 

 

半分ほど飲んだはちみードリンクは膝の上に置かれているが、使い捨てのプラスチック容器からミシミシと音が鳴る。

 

それはヘリオスの悲痛のように音が鳴る。 硬いはずの液体が分かるくらいに震えていた。

 

 

「それからさ、夏合宿で悪夢を見たんよ。 今年の秋マイルCSで走った夢。 G1の世界がソコにあった。 ミスターシービーの憧れを抱えて走ったのに、姉貴のように走れず、弱過ぎたウチは17着の悪夢を突きつけられた。 眠りの中で見せられた夢なのに、現実のように襲い掛かったベタつきにウチは現実を見た。 そして何かが噛み合わなくて、ウチのアイデンティティいつのまにか脆くなってた」

 

 

ダイタクヘリオスは良く笑うウマ娘だ。

 

くだらなそうなことも心の底から笑う。

 

病気にならなそうなほど笑う。

 

それが彼女。

 

でもここ最近の彼女は…いや、エプソムカップの終わりからどこか変わっていた。

 

俺は選手としての感情が芽生え、引き締まったのかと思っていた。 でもそんなことない。 俺は失敗した。 指導者として見失った。 彼女は変わらずダイタクヘリオスであろうとして、外れそうになっていたことを。

 

 

 

「それですごく嫌になった。 憧れが届かないと分かって、姉貴が羨ましくて、それで嫌になりそうだった。 これまで抱えた事ない感情に対してウチは分からんくなった。 でも、やはり憧れは止められなかった。 やはりウチはミスターシービーのようになりたかった。 これだけは譲れないんよ…まふてぃ……」

 

 

禁忌破りと讃えられた、無敗の三冠ウマ娘。

その名は__ミスターシービー。

 

ダイタクヘリオスだけじゃない。

 

皆が憧れるウマ娘の一人だ。

 

だからダイタクヘリオスが抱える憧れは健全であり、正常である。

 

だがその代わりその頂きは果てしなく高く、そこに並ぶことが出来るのは夢の中だけと思わせてしまう。 今後現れるかもわからないその偉業は、希望を与えるのと共に絶望になる。 それがアスリートの世界。

 

そこは選ばれた者だけの栄光だから。

 

 

「いつもなら俺は投げやり気味に『やって見せろよ』って言うけど…今は違うよな」

 

 

 

マフTとして向き合う。

 

失敗した指導者として向き合う。

 

 

「ヘリオス。 君は覚えてるな? マフティーの太陽神として誇らせるって言ったこと」

 

「うん、覚えてる。 その言葉がすごく嬉しかってん。 その上『パリピだろうと構わない』ってくしゃくしゃの紙で申請して、ウチのことをチームに入れてくれた。 めちゃくちゃ嬉しかったよマフT」

 

「俺はその言葉も想いも嘘じゃない。 マフTとして、またはマフティーとして、ダイタクヘリオスをそうすると決めた。 この気持ちは今も変わらない。 でも、俺は少し間違ったね」

 

「ぇ…?」

 

「マフティーとして慢心して、マフTとして甘かった。 俺は……未熟故に、今回のようなことにしてしまった。 もっとデートらしく出来たかもしれないのに」

 

 

はちみードリンクをベンチ横に置いて立ち上がり、彼女と向き合う。

 

そして俺はカボチャ頭を外す。

 

ダイタクヘリオスは目を見開き、驚く。

 

 

 

「マフティーたらしめる過程で、君がそこまで悩んで苦しんでたとは思わなかった。 本当に申し訳ない。 ダイタクヘリオス。 俺はトレーナー失格だ」

 

「ぁ、ち、違っ…! 違う!! ウチがアホみたいに拗らしただけで! ウチがマフティーに拘って、それで忘れてただけで! マフTは…!!」

 

「でも俺はその前に生徒を預かった指導者だ。 担当が苦しんでしまったのに、何もしてやれず、こうしてシービーがデートとして場を設けなければ俺はおそらく君に気付かなかった。 それがマフティーでも気付かなかった。 俺は指導者として未熟だった。 本当に申し訳ない…」

 

 

 

東条トレーナーに言われたことがある。

 

生徒に入れ込み過ぎるな…と。

それは指導者として一番正しい事だ。

 

教えて、教わらせる。

 

その線引きをしっかり行った上でウマ娘と接して、アスリート選手を仕立て上げる。 それがトレーナーという者だ。 東条トレーナーの言ってる事は正しい。 だからウマ娘の頭を撫でる行為は実のところタブーである。 褒められたいウマ娘は頭を撫でられて喜ぶから、そうしてしまうトレーナーは多いが、それは線引きを忘れてしまった者の行為。

 

だからまぁ、ウマ娘の卒業と共に攫われていく男性トレーナーは都度都度現れるらしいが、とりあえず指導者としてウマ娘との距離感は大事である。

 

間違えたとしても線引きを忘れてはならない。

 

 

俺は、それに反している。

 

俺はマフティーとしてウマ娘に入れ込む。

 

マフティーたらしめるから、そうしている。

 

それは抗えない禁忌。

 

だからどこまでも沈み込む。

 

だから俺は指導者として未熟だ。

 

線引きを出来ないトレーナーだ。

 

()()T()なんて言葉、ただのネタであり、駄洒落に落ちた産物である。

 

それはいまここに表れている。

 

 

 

「マ、マフTは悪くない。 マフティーほどの、ト、トレーナー、に、あ…頭下げさせた、ウチがダメなんよ。 ウチなんてパリピがマフティーにそぐわないだけ…で…」

 

 

 

だから、嫌になる。

 

怒りが込み上げる。

 

何故…!!

そんなこと言わせたんだよ、マフティー!!

 

何故…!!

そんなこと言わせたんだよ、マフT!!

 

彼女にそんなこと言わせるな!

認めさせるな!!

 

俺は……ッッ!!

 

俺が許せなくてたまらない!!

 

 

 

 

「そんなわけあるか…!」

 

 

「!!」

 

 

「俺が選んだんだぞ! マフTとしても! マフティーとしても!! 俺がダイタクヘリオスを選んだ! そんな訳あるか!! それとも誰かが君にそう言ったのか!? ならそいつの事は俺が粛正してやる!!」

 

 

「ち、違う! 違う! ウチが勝手にそう思ってるだけで…」

 

 

「なら思う必要なんかない!!」

 

 

「!!」

 

 

 

__君はパリピ、俺はマフティー。

__それだけだろ?

 

 

 

「俺たちに、そぐう、そぐわないなんて無い! そんなこと言わせない! 思わせない! 君は俺のウマ娘だ! 周りなんて関係ない!」

 

 

「!!」

 

 

「俺は…俺は…!! おれは、さ……君に救われたんだよ…ヘリオス」

 

 

 

マフティーだったから。

 

マフティーでなければ。

 

俺はダメだった。

 

 

潰れそうだった。

 

歩けなかった。

 

呪いに苦しめられて、マフティーが無ければそれこそ自殺だって考えた。

 

そのくらい追い込まれてたから俺はマフティーとしてカボチャ頭を被り、トレセン学園の門を叩いた。

 

そこでミスターシービーと出会い、俺がマフティーたらしめるためにも走り、周りから異端な者として視線を向けられても、彼女と三冠を目指しながらマフティーし続けた。 互いに互いを求めて。

 

 

そして、その過程で…

 

 

「ヘリオスは俺を怖がらないで真正面からやって来た。 正直、凄く驚いたんだよ。 くしゃくしゃな紙まで用意して、それでマフティーを求めてやって来た。 俺はマフティーとしても動いたけど、マフTとして応えたくなった」

 

 

 

__入ってくれないか??

 

 

マフティー性のカケラもない言葉。

気を抜いた先で吐き出された縋るような言葉。

 

 

 

「俺は、本当に報われた。 俺は君に助けられたんだ」

 

 

 

 

__情けない話さ。

__俺は皆から怖がられている。

 

 

 

 

「俺はマフティーをやめられなかった。 そうし続けなければならないから。 だからシービーやカフェのように特別な子で無ければマフティーが邪魔するのかなって、少しだけ諦めがあったんだよ…」

 

 

 

 

__俺はマフティーを辞められない。

__そう覚悟していたが…君は違ったな

 

 

 

 

「でも、パリピな君が現れて、俺は救われたんだよ。 間違いなく、俺は君がそこに現れて嬉しかった」

 

 

 

 

__ヘリオスはいい奴だ。

 

 

 

 

「くしゃくしゃの紙を、たづなさんに持って行って『紙は新しく変えましょうか?』と言われて俺は必死にその紙で通してほしいとお願いした。 マフティーのために握りしめてソレがお日様のよう温かったからさ…」

 

 

「マフ…てぃ…」

 

 

「そしてダイタクヘリオスを担当ウマ娘に出来て嬉しかったんだ。 マフティーきメてたけど、カボチャ頭の中ではニヤケそうになる顔で仕方なかった。 何度も言ってるけど、嬉し過ぎたから」

 

 

「そんなに…ウチのこと……」

 

 

「同情なんかじゃない。 マフティーとして応えるためにも君をスカウトした。 でも最初はマフTから。 そこはちゃんと知って欲しい。 だから自分がマフティーにそぐわないとか思わないで。 そうじゃないと俺は困ってしまう…」

 

 

 

初めて、彼女に弱いところを見せた。

 

いや、カボチャ頭(マフティー)が無ければ俺は弱い。

 

それは明らかだった。

 

でも、カボチャ越しじゃないからこそ伝わった事もある。

 

 

 

「そう、なんや…ね。 いや、そうやった、ね。 ぅぅ…マフ、てぃ…ご、ごめんね…うちって……ほんどうに"…バが…ぅぅぁぁ…」

 

 

 

俺はダイタクヘリオスを大事にしている。

 

カボチャ頭が無かろうとも大事にする。

 

俺が初めて、このウマ娘をスカウトしたいと思ったのがダイタクヘリオスなのだから。

 

 

 

「泣かないで、ヘリオス」

 

「ぅぅぁぁぁ…!」

 

「ごめんね、マフTが弱くてごめんな」

 

「うぁぁぁぁあ…!!」

 

 

 

カボチャ頭を地面に落として、泣き崩れる彼女を慰める。 抱きしめて、涙を覆い隠すか、黙って胸を貸すかだ。

 

俺に女の子を慰めるなんて器用は無理だ。

 

 

__他のやり方あるならば。

__教えて欲しいってマフティーは聞くよ。

 

 

マフティーが知るわけがない。

 

女の子の慰め方なんか。

 

そして俺もよく知らない。 だからマフティーならと少しでも考えていた俺は嫌になる。

 

マフティーが無くなった途端コレなんだから、俺はどうしようもなく、俺が嫌になる。

 

 

 

__厄介なものだな、生きると言うのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マフTごめんね、ギャンギャン泣いて」

 

「いや、良いよ。 …ごめんな」

 

「もうそれ無し。 ウチも、マフTも、互いに拘らない。 もう少し……落ち着かんとね」

 

「…アイシャドウが崩れたな。 ハンカチあるけど使うか?」

 

「ありがとう。 使って良い?」

 

「良いよ」

 

「ん、マフTは優しいね」

 

 

 

優しい…か。

 

君の方が果てしなく優しいと思う。

 

俺に比べたらな。

 

 

 

「はちみードリンク、少し温くなったね」

 

「飲み干すさ……ぐぇっ、おぇ…」

 

「あはは、ウケる……おぇぇぇえ!」

 

「ヘリオスの方がよっぽどだろ」

 

「あっはははは!」

 

 

未知の味だ。 ぬるい蜂蜜がこんなにもしんどいとは思わなかった。 違う。 ストローで勢いよく飲もうとして失敗した。 マフティー性が足りないようですね。 もっと賢さを上げた方がいいでしょう。

 

 

 

「姉貴には頭が上がんないね」

 

「…そうだな。 そもそも、俺がもっと君たちと時間を増やせば良かったんだよな」

 

「元々あったと思うよ? 練習終わりにマフTがマッサージしてくれるから、それで二人っきりになるでしょ? 時間はあったと思うんよ」

 

「でも、こうして何もない時間はあまり無かった。 故に足りなかった。 悔やまれるかな」

 

「もう、気にしナイル川! 泣いてスッキリギリスで高跳びバイブス上げちょウィーい! マフTもね!」

 

「君はやっぱり優しいな」

 

「褒めても何もで出ないないバー!のいないないバー!」

 

 

ほんの少しだけの元気。

 

彼女らしさはほんの少しだけ。

 

でもまだからげんきだ。

 

俺はそれが分かっていて、ヘリオス自身も見抜かれていることが分かってた。

 

らしくなく彼女は落ち着く。

 

 

 

「マフTは、ウチのことが特別なん?」

 

「…少し違うかな」

 

「そこは嘘でもハイかYESで答えんとダメージコントロール」

 

「悪いな。 でも普通よりは、特別だよ」

 

「なら許す!」

 

「チョロいな」

 

「マフTに言われたく……なーーい!」

 

「!」

 

 

 

真正面から抱きしめてきた。

 

それから「ンふー!」と声を零しながら顔を埋めて尻尾をブンブンさせる。

 

俺は数秒だけ驚き、手を伸ばして彼女の頭に置いて撫でる。

 

尻尾の勢いが無くなるけど激しい喜びより、柔らかな喜びが尻尾に表れる。

 

しばらく撫でると無言になり、彼女は一言。

 

 

「ありがと」

 

「?」

 

「ウチは、マフティーにそぐわないとか、マフティーに相応しく無いとか、悪夢の中でもそう言われたから、思わないで良いことを勝手にそう思い込んで、マフTを信じなかった。 ごめんなさい」

 

「…こちらこそ本当に悪かった。 そこまで追い込まれてたとは思わなかった。 やはりシービーには頭が上がらないな」

 

「本当だよね。 ウチも泣いてるところ姉貴に抱きしめられて、それでデートと言う名目でこの場を与えられて、やっと…色々と整理できた。 やはり姉貴はすごいよ。 その憧れが更に高くなる」

 

 

完璧なウマ娘…と、までは行かないけど俺はなんだか嬉しくなる。

 

2年前は「まずアタシが楽しむ」と言って走っていた。 自分がまず最初であることにこだわって彼女はターフに楽しみを描いていた。 それが後の究極のごっこ遊びだけど、ミスターシービーらしさの始まりでもある。

 

けど三冠となり、シニア級になるのと同時に高等部へと成長して、気づいたら俺と同じくらいの身長になっていた。 それでお姉ちゃんというよりお姉さんと言う方が似合う風貌を備えるようになり、今となっては可愛い後輩3人のために並走したり、俺の代わりにカフェテリアで一緒に食事してあげたりと色々と頑張っている。 俺はミスターシービーにすごく助けられている。

 

そんな彼女だから…

 

 

「ウチは、ミスターシービーに憧れる。これからも変わらない」

 

 

その憧れは、理想となる。

 

ミスターシービーは数多のウマ娘が目指すべき存在となった。

 

 

「それと同時にマフティーの誇りになれるように頑張る。 これからも変わらないよ」

 

 

俺はミスターシービーほどの器か?

 

マフティーはそうだろう。

それを演じるマフTも同じだ。

 

なら、俺もそこに誇るべきだろう。

 

 

「だから求め続けて良いよね? マフTにも、マフティーにも、ダイタクヘリオスは応えてもらうために走って良いよね?」

 

「もちろんだ。 俺からも頼む。 マフTはヘリオスが必要だ。 そしてマフティーは君を選んだ。 だから俺が君を誇らせる。 ミスターシービーと同じくらいに誇らせる」

 

「……うん」

 

 

 

抱きしめていたヘリオスは離れて、俺は落としていたカボチャ頭を拾い上げて、汚れを払って再び被る。

 

 

 

「マフT」

 

「なんだ?」

 

「マフティーに求めたら、応えられるのは、これからも??」

 

「ああ。 そこに濁りなく、純粋となら」

 

「そっか。 ならさ__マフティー

 

 

 

彼女は問いかけた。

 

俺はカボチャ頭を被って答えを示す。

 

お前の目の前に居るのはマフティーだと。

 

 

 

「マフティーに聞きたい事がある」

 

 

 

ダイタクヘリオスは展望台の先まで軽い足取りで走り、そしてこちらに振り向く。

 

その時に、夕焼けのオレンジ色が強くなった。

 

 

 

「!」

 

 

 

彼女の背後に映る太陽は沈むのに、まるで朝明のように上がっている。

 

でも、後ろの太陽は沈む。

 

まだその太陽は、ナニカが足りない。

 

 

 

「ウチはさ、どう足掻いてもマイラーだから姉貴のような三冠なんて無理。 デビューも遅れたし、夏合宿も最後は調子崩して、成長幅がシチー以下。 今から何か取る強さも無い。 出来るのは秋のマルちゃん(マイルCS)だけ」

 

 

 

ダイタクヘリオスは今から伸びる。

 

言い方を変えれば、やっとこれからだ。

 

 

 

「でもウチはさ、ミスターシービーに憧れ続けたい。 だから…」

 

 

 

太陽を背にしてぴょこぴょこ跳ねていた彼女はその場に留まると、パリピの軽い雰囲気を消して、真っ直ぐとマフティーを見た。

 

 

 

 

「マフティー、ウチはそれ相応になりたい」

 

 

 

 

 

濁りないその眼で。

 

 

 

 

「マフティー、ウチは憧れを追いかけたい」

 

 

 

 

変わらないその心で。

 

 

 

 

「マフティー、ウチは誇りたい! だから!!」

 

 

 

 

彼女らしさをそこに乗せて。

 

 

 

 

「マフT!! ウチのために!!

__やって見せてよマフティー!!」

 

 

 

「___」

 

 

 

三女神の呪いよりも強い、言葉の呪い。

 

合言葉の如く、マフティー動かす呪文。

 

それさえ口ずさめば踊ってくれる。

 

ありとあらゆる動画でそれは証明された。

 

だから、俺はマフティーするだけだ

 

 

 

「3つだ」

 

 

 

マフティーとして応えるために。

 

マフTとして前から考えていた。

 

 

今、それを言う時だろう。

 

彼女がターフに『描く』とその覚悟あるなら。

 

 

 

「マイルCSを、3回だ」

 

「!」

 

 

 

彼女が憧れを追いかけ続けるウマ娘なら、可能な、はずだ。

 

いや、違う。

言葉にするなら…

 

___なんとでもなるはずだ。

 

そう秘めてマフティーすればいい。

 

 

 

 

ダイタクヘリオス(きみ)だけの三冠を取ろう」

 

 

 

 

この時、史実は壊れたらしい。

 

でも俺は全く知らないのだ。

 

何故ならダイタクヘリオスって()がどれほどなのかを俺は知らないから。

 

実際に存在したかも分からないし、調べる手段もない。 だから分からないまま。

 

けど、マフティーには関係ない。

 

求めてきた者に対して応えるための存在だ。

 

だから「やって見せてろよ」と言われたのなら、俺がやる事は一つだけだから。

 

呼吸をすることが当然の如く……俺だって。

 

 

 

「やって見せろよ、ヘリオス」

 

 

 

マフティーの隣に立つための名前を兼ね備えたパリピウマ娘の少女に言う。

 

君が太陽神(ヘリオス)なら、憧れに上り詰めてみろ。

 

その名前と共に、なんとでもなるはずだから。

 

 

 

 

「あざまるッ! すいさん…!!」

 

 

あの時と同じ彼女らしさで答える。

 

涙はない。 何故なら憧れもなったウマ娘が拭い取り、その場所まで預かったから。

 

大丈夫。 届くはず。

 

彼女なら、上り詰めれる。

 

故に…

 

 

 

 

「!」

 

 

 

夜に落ちたはずの太陽が上がる。

 

錯覚だったが、その理由はすぐにわかった。

 

 

 

世界は夜に沈んでも、底抜けに明るい太陽を俺は知っている。

 

後ろのお日様は落ちた。

でもまだ明るい。

 

何故ならそこに太陽神(ヘリオス)がいたから。

 

 

 

 

つづく

 






太陽は沈んでも必ず昇る。
それは二度だけでは無い。
三度も日を登らせたから。

てな感じのポエム(?)を添えてダイタクヘリオス編を終了します。

てかダイタクヘリオス編のつもりはないけどしばらくスポットを当てたような進行でした。
正直に言えば流れは無茶した。 あと変に拗らせてしまった。 らしくないことしたのでは?とビクビクしてます。 でもこれで実装されるんじゃないかなと、淡い希望を抱いてます。
ほら、確か10日後にマイルCSあるし。
てかトーセンジョーダン来たんだからそのままギャル仲間を実装してサイゲさん(促し)

あと文章読みにくい案件は…
楽しすぎて調子乗りました!!
ガンダム乗りこなしたあの感覚です!
ほんますんません。
お詫びにタマモ貯金を貯める権利を与えます。
(今も貯めてる人いる??)


朗報ッ!! 大変嬉しい報告だ!!
なんと初のファンアートを頂いた!
感謝ッ! この場で喜びを表す!!
6年間書いて来て本当に良かった!
刮目ッ!! 是非見てくれたまえ!!


【挿絵表示】

絵師さん『 んこにゃ 』様から頂きました!
マフティー性の高いイラストです。
ありがとうございます。
本当に嬉し送り物でした!

小説の"目次"では『タイトル付き』の一枚も載せてるのでそちらも是非ご覧ください!!よろしくお願いします!!

ではまた!!


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第26話(挿絵有り)

「オレは、鉄華団団長、中央のトレーナーだぞ、この程度なんて事ねぇ…」

 

「ねぇ? 僕たちはこの先何をやれば良い?」

 

 

 

「とりあえず戻って来ないか?」

 

 

夏合宿に参加出来るようになったとはいえ、俺は訳あってキャンピングカーを使い、担当ウマ娘を一人連れて遠征に出ていた。

 

それで途中でとある地方のトレセン学園に向かい、そして色々あって中央から抜け出したトレーナーとコンタクトを取ったところだ。

 

中央から抜け出した、または追い出されたと言う表現も正しいだろうか。 反対派に嫌気がさして中央を出たり、奴らに追い込まれて追い出されたり、活動の継続が難しくなって中央を去ったりとさまざまだ。

 

そんな元中央のトレーナーだった者に「みんなー!中央は良いとこだぞー!早く戻ってこーい!」と何処そのムーンレイスよろしく、こうして集めているところだ。

 

それで何故俺が勧誘してるかと言うと現在キャンピングカーを使って担当ウマ娘と絶賛遠征中なのだが、秘書のたづなが元中央のトレーナーだった者のリストをまとめると俺のメールに転送して「ついでに勧誘して来てね」とマフティーの事を顎で使ってくれたからだ。

 

随分と躊躇いなく(文字を)打ってくれるじゃないか、このダービーウマ娘(トキノミノル)、なかなかやってくれる。

 

まあ人手不足だから誰かが動かないと解決に至らないので、それがマフティーたる俺だとしても使えるものは使う精神だ。

 

あとマフティー性が込められた人柱だからこそ普通の勧誘とは違うわけで、その期待値が高いらしい。

 

これなら「バエルの元に集え!」って言う方が早いんじゃ無いか? 特にこの希望の花咲かせそうなトレーナーなら…

 

いや、そうなると結末があかんわ。

辞めておこう。

 

 

「そうか、仲間たちの元に戻れるのか……」

 

「うん、戻れるみたいだね、またあの場所に」

 

「そうだな、出来れば戻りたいとは思ってた」

 

「なら、やることは一つだね」

 

 

てか、この二人は大丈夫か??

 

トレーナー(団長)サブトレーナー(悪魔)であることはまあいいけど、この二人の名前がまんまそれだよなぁ…

 

完全に宇宙ネズミでオルフェンズしている二人なんですがそれは。

 

いや、まあ、すごい頼もしい異世界オルガしてるような二人だけど、やはり中央は本当の意味で魔境なんやなと、再確認した。

 

まあ良いや。

そもそも俺もマフティー(危険人物)だし。

 

ヤベーヤツが居るのは上等だ。

ゴルシとか、ゴルシとか、ゴルシとかな?

 

あとゴルシだな。

 

 

「後にこの番号から掛かってくる筈だ。 そしたら駿川たづなから案内が来る。 その時にまだ戻る意思があるなら伝えてくれ。 その都度案内が来る筈だ。 では俺は行く。 中央で会える時を楽しみに待っている」

 

「ま、待ってくれ! お前は…!」

 

「今はウマ娘のためにマフティーたらしめるだけだ。 だから何も問わずに決めろ。 中央で成せるならその続きはそこで描けば良い。 気まぐれなジャックオーランタンがその橋渡しをした程度に今は受け止めておけ。 …止まるんじゃねぇぞ」

 

「…ッ……恩に着る!!」

 

 

 

俺は背を向けながら左手をあげて返す。

その時に人差し指だけ伸ばして、さよなら。

 

そのまま地方のトレセン学園を出ると、途中途中で学生のウマ娘から「ほ、本物だ…」とヒソヒソ話が聞こえたがもう慣れたことだ。

 

世間に対するマフティー性の影響力を再確認しながらしばらく歩き、キャンピングカーで待っていたウマ娘に声をかけた。

 

 

「待たせたな、ヘリオス」

 

「問題無い無いナイル川! あ、それでエンカは出来たん?」

 

「出来たよ。 俺に負けず劣らずなイロモノだったけどその眼は中央のトレーナーだった。 戻ってくるなら期待できそう」

 

「マフTにスカウトされたらもうアゲてくしか無いっショ! だってマフティーやん!」

 

 

随分と信頼されている。

 

いや、ダイタクヘリオスはそうだったな。 彼女は無条件と言って良いほど心を寄せてくれる。

 

ちぃ! やはりマフティーはギャルに優しくされてることになるらしいな! ええい! 情けない奴め! オタクにもマフティーにも優しいギャルは都市伝説だろ!!

 

 

「マフT、どったん? もしかして疲れたん? ならウチがかるく肩揉んだげようか?」

 

「大丈夫だよ、ありがとう。 出発しよう」

 

「了解しマングース!」

 

 

(優しさが)圧倒的じゃないか!!

 

てかギャルが優しいと言うよりダイタクヘリオスって女の子が優しいだけだと思うんだよね。

 

普通に良い子すぎなんだよ、この子。

 

そもそもウマ娘は良い子が多くて泣けるわ。

元が馬だからこそ、温厚なんだろうか。

 

 

そのかわり変わり者は多い。

 

おう、お前だよ、アグネスタキオン。

 

お前が騙して飲ませた薬のせいで赤く発光してマジでトランザムしてしまったじゃねーか。

 

歩いたら赤い残像が生まれて、周りのウマ娘は怯え始めたから、仕方なくトレーナールームに篭ると、それを見てミスターシービーが他人事のように腹抱えて笑いやがった。

 

俺は八つ当たりにトランザム状態でマフティーダンスを行い、振り付けのたびに残像を生み出してやると、シービーは強烈な音を立てながらバタバタと笑い転がってそのまま顎が外れた。

 

シチーの呆れた視線を受け止めながらシービーの顎を戻して、次はそれを見て笑い過ぎたダイタクヘリオスの顎が外れたから結果的にアグネスタキオンを恨むことにした。

 

それでカフェが代わりに謝ってたがコラテラルダメージと茶化していたタキオンにお仕置きが必要と考えたので一枚だけ適当な紙を睨んで燃やしてやった。 後方の悲鳴を聞きながらイマフレと話しつつ去った1日を思い出す。

 

アグネスタキオンとはあまり関わりたく無いかな。 色々と困る。

 

だから誰かモルモット(緩衝材)になってやれよー!

はー、やー、くー!

ほらー! はー、やー、くー!

なって、くれよーぉー!

 

 

 

「ところで何処にゴーしてんの? なんか結構遠くまで来てるくね?なくなくね?」

 

「そりゃ青森まで向かってるからな」

 

「めちゃ遠いやん! なんか見に行くん?」

 

「光のアゲハチョウって言ったら分かるか?」

 

「分からん!」

 

「ちなみに、むつ市だ」

 

「分からんラン!」

 

 

パリピギャルに地理を求めたのが間違いみたいだ。

 

あ、ちなみにカボチャ頭は外して運転してる。

 

外からは見えないスモークガラス性にしているので外部からのプライバシー云々は守られている。

 

そのかわりダイタクヘリオスだけは隣の助手席に座って、足をプラプラとさせながらこちらを見ている。 今だけマフTの素顔を独り占めしてるから機嫌が良いみたいだ。

 

 

「マフTの運転、ウチの気分が開店」

 

「だけど頭は無回転、回らぬ寿司屋は閉店」

 

「それって純情? 惨状? カメ参上!

メケメケメケメケメケメケメケメケ!!

 

「メケるのはえーよ」

 

「あっははははは!!」

 

 

運転中は眠くなるし、事故率が高い。

 

しかしダイタクヘリオスを隣に添えれば眠気なんて無縁に思えるほどで、1日で到着した。

 

ちなみにヘリオスは騒ぎ過ぎて途中眠くなって後ろのベッドで眠った。

 

俺は眠気覚ましの代わりにゴールドシチーと通話を繋いだら話し相手になってくれた。 彼女はよく喋るから運転中は助かった。

 

そしたら「また帰りにかけなよ」とありがたいお言葉を頂いたので是非甘えるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

さて、かなり遠くまで来た。

 

片道6時間は余裕ではなかった。 パーキングエリアでちょいちょい休憩を挟んでいたけど、かなり疲れた。

 

それでも北端から南端まで物流を回してくれる長距離トラックドライバーには頭が上がらないとして、キャンピングカーの中でうずうずしていたヘリオスはむつ市に到着後、海が見える適当な駐車場に停車した瞬間キャンピングカーを飛び出して砂浜に出た。

 

いつのまにか私服からジャージ姿に変わっていて、それでウマ娘らしく走り回っていた。

 

そのまま夏合宿の続きと言うべきか、砂浜でトレーニングに励んだ。

 

それで、なぜ遠征に出たのかと言うとヘリオスは夏合宿であまり伸びなかったから。 主にモチベーションの関係で熱中症も起こしたりと、ダイタクヘリオスが一番夏合宿を楽しめてなかった。

 

それで俺は改めて彼女を連れて遠征することを決めた。 彼女を伸び悩ましたのは俺自身の責任だ。 パリピらしく楽しんで欲しかったから、気分転換も目的に彼女を連れたのである。 たづなさんも直ぐにキャンピングカーを手配してくれた。 てかもう自分で買おうかなキャンピングカー? 色々種類あるらしいね。

 

それで比較的綺麗な砂浜を選ぶと夏合宿で消化しきれなかった練習をヘリオスに施したところだ。

 

到着した今日から2日間はこのむつ市でヘリオスと楽しむ予定である。 最後は温泉でも入って帰りたいところだ。 呪いが無い以上俺も上手いことマフティーであることを誤魔化して温泉に入る予定だ。 楽しみである。

 

トレーニングを終えてキャンピングカーのシャワーを浴びた後、夜ご飯を食べてから涼しそうな夏服の姿になったヘリオスを連れて展望台に登った。

 

時刻は夜20時。

 

季節的に真夏の大三角形が消えそうな夜空だが、下を見渡せば…

 

 

「ウェェェイ!!バリすげェェぇぇえ!!」

 

「すごい綺麗だな」

 

 

釜臥山展望台から見渡す夜景は驚くほどに綺麗だった。

 

ヘリオスはポケットから取り出して携帯を取り出して写真を撮り、俺の名を呼ぶとすかさず二人分の自撮りを行った。

 

学園に帰ったら仲間達に自慢するのだろう。

 

 

「マフTはこれを見に来たかったん?」

 

「ああ。 一度見たいとは思ってたから」

 

 

呪いがあった当時は奥多摩が限界だった。

 

それでも連れてきたシービーも満足してくれたし、奥多摩の坂路で鍛えたことで母トウショウボーイと同じ皐月賞ウマ娘となったのはもう1年前の話だ。

 

あと奥多摩で登山していたカフェにも出会ったりと随分と懐かしく思う。 良くここまで来たものだ。 今となってはダイタクヘリオスと共にむつ市までやって来たほどだ。

 

本当にここまで良く頑張ったよな、おれ。

 

 

「ぷはっ、夜風が気持ちいいなこれ」

 

「あたまオフって大丈夫?」

 

「少しくらいは良いだろう。 もし誰か来たとしてもわかるし、ウマ耳のヘリオスなら気づくだろう」

 

「ウェーイ! バリバリにスリルってんねぇー!」

 

 

カボチャ頭を脇に納めて光のアゲハチョウを眺める。 トレセン学園から少し離れた展望台から見下ろす街の夜景も悪くないが、釜臥山展望台は余計な光が入らないため周りは暗い。 その分光がよく見えるのでむつ市内は綺麗だ。

 

俺が知ってる夜景の中で一番かもしれない。 この調子でもっと他のところにも行ってみたい。

 

しばらく二人で眺めていると…

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Z________

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

「!」

 

 

二人だけの展望台も終わりらしい。

 

耳をピーンと立てていたヘリオスは俺の袖を引っ張り、俺は頷いてカボチャ頭を被る。

 

身構えてる時に死神は来ないが同じ旅行客は現れる。 土日祝を使ってこの場所にやって来たのは俺たちだけでは無いらしい。 展望台の階段を登る音を聞き、二人でそちらに視線を向けると…

 

 

「ぇ………ぇぇ!?」

 

 

やって来たのは一人のウマ娘。

 

あとやはりというべきかカボチャ頭の人間を見て声をこぼした。

 

その反応は間違いじゃないとして、展望台にやって来たそのウマ娘は思ったより小さかった。 見たところ小学生だろうか。

 

てかこんな時間に一人?

大丈夫なのか??

 

 

「……ほ、本物?」

 

 

怖がって去ってしまうかと思ったが、案外肝が据わってる見たいで、おずおずと近づきながらこちらを見上げる。

 

 

「さぁ、どうかな」

 

 

しらばっくれてみる。

 

まだまだマフティーブームは続いてるみたいでカボチャ頭を被ってマフティーのマネをする一般人は存在する。 ハロウィンになればまた増大する勢いだろう。

 

そのため至る所でカボチャ頭の人やウマ娘を見かけるのだが、その中で本物のマフティーがいるとは思わないだろう。 しかし…

 

 

「待って……ダイタク、ヘリオス…?」

 

「やっほー!」

 

 

ヘリオスが調子良く反応したことで簡単に答え合わせが出来る様になってしまう。

 

展望台に来たそのウマ娘は俺の顔とヘリオスの顔を交互に見て、ややひき気味に。

 

 

「ほ、本物だ……」

 

 

「ちょっとパリピ?」

 

「あはは!めんごめんご!名前呼ばれて百之助!思わず返しちまってん!」

 

 

お陰で中央トレセン学園のマフTであることがバレてしまった。 もしこの展望台に沢山の人がいたからどうなっていたか?

 

やはり本物じゃないか!と、大騒ぎだろう。

 

 

「てかウチのこと知ってんのね!姉貴の知名度に隠れてるん思ってたんけど!」

 

「え、えぇ…」

 

 

ダイタクヘリオスのコミュ力が高すぎなのかそのウマ娘は押され気味だ。

 

俺はヘリオスの頭をポンポンと軽く叩いて静止させると「あはは!めんご!」と謝りながらそのウマ娘から離れる。

 

元々物憂げな表情をしているがウマ娘だが、パリピのせいで疲れてより一層影が差しかかったように見える。

 

俺の担当がなんかごめんな?

 

 

「もしかして一人なのか?」

 

「ぁ、いえ親は旅館にいます。 場所は離れてますがウマ娘だからすぐなので大丈夫です」

 

「そうか。 一応これでも指導者だからな。 子供一人は心配はしてしまう」

 

「いえ、大丈夫です。 ありがとうございます」

 

 

物憂げなウマ娘は光のアゲハチョウとして彩るむつ市を一瞬だけ見て、夜空を見た。

 

光のアゲハチョウは興味無いのだろうか?

 

 

「あ、マフT! ウチいまからフレとTELってくるけん先に戻んね!」

 

「わかった」

 

 

ヘリオスはウマ耳に携帯電話を当てて騒がしく展望台を降りると一気に静かになり、俺は物憂げなウマ娘と残されてしまう。

 

俺も去ろうと思ったがこの場所に子供一人にするのも少し気が引ける。 まあそれを言うならヘリオス一人にするのも心配だけど、下の駐車場なら誰かしらいるからまだ良いだろう。

 

なんなら俺と同じように他のキャンピングカーも停まっている。 考えることは同じらしい。

 

あと中央のウマ娘に勝てるわけもないのでヘリオスは大丈夫だと思うと判断して、もうしばらく光のアゲハチョウを眺める事にしたのだが隣のウマ娘に釣られて俺も夜空を見た。

 

 

「…」

 

「…」

 

 

夏の大三角形は秋空に消えそうだ。

 

そう考えてしばらく眺めていると…

 

 

「貴方が本物のマフティーなら、宇宙にある星の声は聞こえる?」

 

「星の声?」

 

 

物憂げな彼女は頷く。

 

星の声か。

 

アムロやララァならこの場で聞こえるかもしれない。この二人はニュータイプだから。

 

俺はどうだろうか? ウマ娘の幸せを願う三女神から授かったこの力はマフティー性を加速させるために、いつしかNTとしての力に変化した。

 

そんな俺はマフティーたらしめるだけの器。

 

これはある意味シャアの真似事をするフル・フロンタルのようなモノで、そうたらしめるだけの器にすぎない。

 

だから俺は宇宙の声を拾えるアムロやララァのように純粋なニュータイプでは無い。

 

どちらかと言えば強化人間紛いなインチキの果てでNTになってしまっただけであり、己でそれを開花したわけでも無い。 ヒトと言う種族の中で特別性に仕立て上げられた。

 

言わば三女神と言うご都合主義の中で俺は変わったと思う。 だとしたら自己満足に始まったひどい脚本だろう、俺と言う存在は。

 

 

「…声、か」

 

 

俺はこの世の憑依者。

 

その意味では宇宙のように浮いた存在なんだと思うけど、宇宙に浮かぶ星の声が聞こえるような芸当は出来ない。 俺はマフティーとして求められたら応えるだけ。

 

だから語りかけてるかも分からない星から声を聞くなんてのは無理だと思う。

 

けれどこの世界のウマ娘は無限大にユメヲカケル存在だから、もしかしたら聞こえる子もいるだろう。

 

イマジナリーフレンドを抱えるマンハッタンカフェが良い例だから、もしかしたら星の声を拾うかもしれない。 でもマフティー"が"聞こえるかと言われたら…

 

 

「分からないな。 星は見守るだけだ」

 

「……そう。 やはり、そうなんだ」

 

「俺はマフティーだけど全知全能では無い。 夜空に星を作り、それを星と名付けた者にしか分からない事だ。 もし星々が重力に引かれた者達に聞いて欲しくて、それで語りかけていると言うのなら教えてほしい…って、マフティーは言うよ」

 

「………」

 

 

まるで宇宙の奥深くに潜む5等星のように静かで物憂げな表情から何一つ変わらないウマ娘。

 

あまり語らない彼女だけど宇宙を見て答え合わせをしている気がする。

 

そして不意にこちらへ話しかける。

 

 

「マフティーは、重たく無いの?」

 

「重たいな、すごく重たい。 でもそれは背負いたい重さ。 だから軽かろうと、重かろうと、これは背負うと決めている」

 

「っ……背負いたい重さなんて、そんなの…」

 

使命感だとでも言いたいのか?」

 

「!」

 

 

彼女は目を見開いた。

 

しかし、向けられたその眼は……

 

 

「心配なのか?」

 

「!」

 

「気にしなくて良い。 俺は平気だよ」

 

 

ああ、そうとも。

 

平気だとも。

 

俺は、そうたらしめ続けて来た狂人だ。

 

正常なんてかなぐり捨てて、異常をまともに変えてきた狂人だ。

 

今頃、可哀想だとか、哀れだとか、そう思って欲しくてマフティーをしている訳では無い。

 

今は本当に必要で、本物になったからこそ俺はそこに身を投じるだけ。

 

だから…

 

 

「小さな子供に心配されるほどでも無いさ。 俺は望んでそうしてる。 この名を背負うと決めてウマ娘と共にターフを征く。 それは俺が独りよがる使命感から。 だがそれと同時に背負い続けると決めた名前だから。 そうでなければこんな暑苦しいカボチャ頭なんて被らないさ」

 

「……苦しく無いんだ」

 

「苦しくは無い。 暑"苦しい"はあるけどな」

 

「だとしたら、ただの変な人…」

 

「カボチャ頭を被る中央のトレーナーだぞ? 変人の他に何と言えば良いんだ?ってマフティーは聞きたいね」

 

 

わざとらしくやれやれのポーズを行う。

 

それで一瞬だけ例のダンスでそれらしいポーズがあったからその部分だけ踊りそうになったところを耐えた。

 

厄介な物だな、マフティーすると言うのは。

 

 

「星の声は聞こえない。 マフティーの声も聞こえない。 だから代わりにソレを背負って発するんだ。 その時にやっと周りは星の声が聞こえたと言う。 ただし自分は"役割"として『たらしめる』だけだから聞こえたわけでもない。 誰かのために便利に描いただけの器。 しかし歩んだ過程やその先の結果は見える。 概念は見えない物だけど、ちゃんと意味としてそこに残る筈。 俺はそう信じてる」

 

「なんの話?」

 

「さあ、何だろうな。 ただマフティーてのは結局独りよがりから始まった話だ。 自他共に使命感に駆けてしまった哀れな生き物。 マフティーはとてもすごいけど、 それだけ脆く、カボチャのごとく無惨に砕け散る。 でも俺はマフティーをやめない。 これは、辞めてたまるか」

 

 

 

子供を相手に俺は何を言っているのだろうか。

 

でも何となく、マフティーは何なのかを聞かせた方がいい気がした。 この少女の眼は欲しているように思えたから。 いつも通りの『求める』で『応える』のやり取り。 それは呼吸するように自然とだ。

 

もしくは。 俺が自惚れてるだけで、アホみたいにマフティー自慢をしてる酔いどれの通行人だろうか。 だとしたら俺はマフティー以前に厄介な生き物だ。

 

お喋りは楽しいかも知れないけど、展望台は静かに眺める場所である事を忘れてはならない。

 

 

「もうすぐ閉まる頃だろう。 帰る時間だな」

 

「わたしはギリギリまで見ていく。 もしかしたら今日であの星が見えなくなるかもしれないから」

 

「見えなくなると言ったらそれは夏の大三角形かな? たしかにどんどん離れてるけどまだ見えるだろう」

 

「でも見える時は見ていたい」

 

「そうか。 ちなみにどれが好きなんだ?」

 

「それは夏の大三角?」

 

「ああ」

 

「…」

 

 

彼女は少し考えて。

 

 

 

 

「好きかどうかわからない。 でも…」

 

 

 

こちらを見た見た彼女の眼は、既にそれ相応の強さを秘めているように見えた。

 

それは俺にとっても既視感があった。

まるで、俺がマフティーに染まるように…

 

彼女もまた……危うい。

 

 

 

「貴方にとってのマフティー(使命感)があるなら、私にとってのマフティーもそこにあるから」

 

 

そう言って、彼女は夏空に指を伸ばす。

 

 

 

「今日一番、輝いてくれてる気がする」

 

 

 

まだほんのりと明るい夏の夜空。 それでも下では光のアゲハチョウは綺麗に彩る。

 

上を見上げればそこに負けじと輝く一等星がひとつだけ。

 

 

 

 

わたしは、あの星を背負って生きていく

 

 

 

今日だけ織姫星(ベガ)はよく輝いていた。

 

そう感じた。

 

 

 

 

つづく




いや、ヘリオスはサポカかよ!?
ぜんぜん嬉しいけどぉ!!

でもキタサン欲しくて石が削れた瞬間にダイタクヘリオスのサポカ実装はマジ卍(自己責任)
ここで脱出術しなくて良いんだよ…

タマモ貯金? 知らない子ですねぇ…とか言ったら何気に最初の頃からいるアイネスフウジンはいつになったら出るんだろうね? お姉ちゃん属性が足りなくなって来た今実装すべきじゃ無いかな?


あと!
今回も素敵なファンアートを頂きました!

【挿絵表示】

この小さなウマ娘の正体は一体…?(ゴゴゴッ
作者は『んこにゃ』様です!
ありがとうございました!



ではまた


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27話

いつも誤字と脱字の報告また促しありがとうございます。
すごく助かっています。
本当にありがとうございます。


 

 

遠征と言えども、やってることは殆ど観光に近い。 もちろん練習もしている。

 

てかそもそも遠征を始めた理由が過去に夏の強化合宿に参加できなかったことが原因だ。 反対派の独裁によって合宿と言う楽しいイベントに参加させてあげれなかったミスターシービーのために半ば無理して遠征したことが始まりである。 今となってはあの苦労も懐かしく思いつつ、釜臥山展望台から離れたビーチまでやってきた。

 

前日もこの砂浜でヘリオスと練習を行い、汗を流してから釜臥山展望台までキャンピングカーで移動して、むつ市が鮮やかに彩る光のアゲハチョウを見に行った。 呪いに苦しまなくなってからはカボチャ頭も外せる状態になったのでマフティーを一度忘れてこの眼で見た。 遠くから来たかいはあった。 青森も中々良いところだな。

 

まあ、その道中で宇宙ネズミでオルフェンズしてそうな元中央のトレーナーに会ったけど。

やはりどう見ても希望の花しそうな人だったよな?

 

てか名前がまんま『イツカ』で、そのサブトレーナーが『三日月』って苗字だった。

 

なんなら雰囲気までもがまさにソレだったからマジで異世界オルガしてるのでは?と疑ったけど、よく考えたら俺も憑依者だった。 どうやら、この世界は案外なんでもアリみたいだ。 なんだったら俺の場合は前任者の願い、または三女神から施された因子継承によって降り立った魂だけど。 ウマソウルがあるようにオカルトが許されたこんな世界だから考えてもキリがないのだろう。 元がアプリゲームだからこの世界はそんなものだと受け止めるほか無いとして…

 

 

「君とはよく会うな? そんなにマフティーが気になるのか?」

 

「こ、これは、たまたま、だから…」

 

 

俺よりも、ダイタクヘリオスよりも、小さなウマ娘。 その物憂げな表情はよく覚えていたから、その子は14時間前の夜に出会ったウマ娘だとすぐにわかった。

 

一人でランニングして、この場所まで来ていたらしい。 そして本当にたまたまこの場で出会った。

 

 

「一人で鍛えてるのか?」

 

「…悪い?」

 

「いや、別に? 一人で良くやってると思う」

 

「当たり前……私は一人で走ると決めたから」

 

 

物憂げな表情だけど、その眼の奥には強さを秘めていた。 しかしそこに危う気さを隣り合わせにしている気がして、どこか自分と重なる。

 

 

「ねぇ、貴方がマフティーなら昨日の質問の続きして良い?」

 

「?」

 

 

普通の会話。

 

だけど、語りかけるその眼は普通じゃない。

 

マフティーに答えを欲するそんな眼だから、俺はマフティーとして受け止める。 そこに子供も大人も関係ないから。

 

 

「貴方のそれは使命感だとしたら、その先で果たされたモノはあるの?」

 

「果たされた…か。 それなりにあったな。 まず救われた。 そう感じた。 あと()()()()と思ったかな」

 

「!」

 

「けど、それは現時点での話だ。 まだ俺は終点に行きついていない。 報われたと思ったそれはもしかしたら、報われてなかった事になるかもしれない。 だからその意味が自分にとって裏切りで無いように、そうで有るように独りよがり続けるんだ。 俺はこの器でマフティーたらしめ続けられるまでこのカボチャ頭を被り続ける。 何故ならマフティーはそうだから」

 

「………そう」

 

「欲しい答えは貰えたか?」

 

「………多分」

 

 

そう言うと彼女は立ち上がってまた走り出す。

 

方向は釜臥山。

 

その歳で随分とまた遠くまで走る。

 

しかし走り慣れたように彼女は足を進める。

 

だからその後ろ姿を見て理解する。

 

彼女はミスターシービーとは正反対。

 

好きだから走るのではなく、走らなければならないから走っている。 それは孤独な使命感に見えたから痛々しく感じた。

 

 

__貴方にとってのマフティー(使命感)があるなら

__私にとってのマフティーもそこにあるから。

 

 

「小さな子供が抱えるような眼じゃないな。 何が一体そうさせてしまう?」

 

 

健気さとは程遠い。 宇宙を見るときのそのウマ娘はどこか嬉しそうだった。 だが今日出会った彼女はそうじゃない。 ナニカにこだわり続けて、縋ることをやめた、哀 戦士な大人のようだった。

 

 

「ヘリオス、そろそろ終わろう」

 

「いやまだ2時間よ?まだバリバリ行けるっしょ!」

 

「けどそろそろ暑くなってきた。 それに…」

 

 

タブレットを開いて時刻の11時を見せる。

 

人が多くなる頃だろう。

 

つまり…

 

 

「なぁ、あれってマフTか?」

「いや、ただのファンでしょう」

「けどあのウマ娘って…確か」

「ダイタクヘリオスじゃないか?」

「もしかしたら、もしかしたらかも…」

 

 

「日曜日は流石に増えてきたな」

 

「やはりカボチャ頭外してくれば良かったんじゃね?」

 

「そしたら走ってるウマ娘がダイタクヘリオスとバレて、俺の顔もバレてしまうだろ? 君はマフティーのウマ娘として有名なんだ。 残念だけど時間切れだな」

 

「マ、マフティーのウマ娘……! え、えへへ、そ、そっか! ま、昨日はかなり走ったし!んじゃ今日はエンドって事で!」

 

「じゃあ軽く汗ながしたらそのまま帰るぞ。 それで途中人気の少ない温泉でも行こうか

 

「了解しマングース!」

 

 

 

尻尾ブンブンさせながらぴょこぴょこと軽い足取りでキャンピングカーに戻るダイタクヘリオス。 俺はその後を追いかけたが…

 

 

「あ、あの!」

「このビート板にサインください!」

「マフTさん! 水着にサインを…!」

「すみません私もこちらにくださいな!」

 

 

軽く囲まれた。 一応サインの練習とかしてるので書こうと思えば書けるが…

 

 

「悪いが、今日は俺の大事な担当ウマ娘のために時間を割いているんだ。 また今度にしてくれ」

 

 

そう言って強引に進む。 人混みは滝のように割れて俺はヘリオスの後を追いかけた。 ミスターシービーほどファンサービスが出来ないつまらない野郎で申し訳なく思っていたが…

 

 

「あれこそがマフティーだ…」

「か、カッコいい…!」

「ウマ娘のためのマフティーは本物だ!」

「やっぱり本物だった! すごい…!」

「うおおお! めちゃくちゃかっけぇー!」

「興奮しすぎだ。 鼻血出てるぞ」

 

 

非難はそこまでなかった。

 

ホッとしながらキャンピングカーに戻るとダイタクヘリオスが外で待っていた。 日差しの中にいたのか少しだけ顔が赤く焼けている。 待たせたか?

 

 

「マ、マフTってやっぱりウマたらしだと思うんよ」

 

「へ?」

 

 

そういった彼女はキャンピングカーの中に消えて行った。

 

軽く暑さにやられているせいで彼女の言葉が理解できなかったが、とりあえず俺は車の鍵を閉めてヘリオスのシャワーを待つことにした。 そう言えばウマたらしってどう意味だったか?

 

タブレットを開いて調べようと思ったが熱で失われたマフティー性のチャージが先だ。 そして冷却スプレーで涼んでいるうちに調べることも忘れた。 思い出せないと言う事はおそらく大したことでは無いのだろう。 そう考えて時計を見た午前11時半。 もう九月だけどまだ暑さは健在だ。 対マフティーの季節はまだ続くらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_わたしが、いもうとを、うばったの?

 

 

 

残酷な言葉。

 

純粋な疑問。

 

そこから弾き出された答えは「違う」だった。

 

 

 

_なら、なんでわたしは、ひとりなの?

 

 

 

妹の命を奪い、私は生まれてきた。

 

言葉に出して、疑問をぶつけて、そう感じた。

 

命の重さは理解できる年齢だった。

 

寡黙な父が初めて大声を出して否定する。

 

「1人じゃない!君の中にいる!いるんだ!」

 

小さな私を抱きしめてそう答えが返ってきた。

 

伝わるその震えは理解できた。

 

そうであって欲しいと言う……淡い望み。

 

星に求めるような淡い願い。

 

 

 

_なら、わたしが、かわりに、はしるよ。

 

 

 

涙を流す父に抱きしめられながら、覚悟する。

 

この体には亡き妹の分が備わっている。

 

なら、その分を私が走るんだ。

 

震える父に抱きしめられながら外を見る。

 

今も覚えている。

 

その日の夜は織姫星が良く見えていたから。

 

 

 

 

 

 

 

「………ん」

 

 

 

揺られる車の中で目を覚ます。

 

旅館を出るギリギリまで走り込み、急いで汗を落とす。

 

少ない荷物をまとめてからチェックアウトする親の元まで向かい、そして車に乗り込んでから釜臥山を遠目に眺めてむつ市を出たことを思い出す。

 

 

助手席に座る私は横の運転席を見る。

 

父親が運転している。

 

そのかわり母親は居ない。

 

生きてるけど、母親は側にいない。

 

都内の大きな病院にいるから。

 

そして私たちは引っ越しの途中だ。

 

私が数時間前まで青森にいたのは良く知ったその土地から離れる前にその宇宙を見たかったから。 都内は明るすぎて星が見え辛いと聞いたから、わがまま言ってむつ市で一泊して、走って、星を眺めて、走って、思い残さないようにするため。

 

そして、そこにいたマフTはまぐれだ。

 

 

「起きたか」

 

「……」

 

 

父に声をかけられて小さく頷く。 必要以上に喋ろうとしない可愛げない娘だけど、父も寡黙であまり喋らない。 そこら辺は似てしまったかもしれないが、姉妹として一人になってしまった私を愛してくれる。 だから私は今の家族に不満も無い。

 

揺られる車の中で不意にカーナビを見る。 目的地まであと2時間だが、目的地の東京では無いところにピンが刺されていた。

 

 

「ここは?」

 

「水戸だ。夜ご飯は此処で取る。 風呂もある。 引っ越し疲れは溜めると面倒だ。 少しでも休めよう」

 

 

特に意見も何もない。 茨城も一度は行ってみたいとは思っていた。 展望台はあるだろうか? そこの星は綺麗だろうか? 潮風は優しいのか?

 

 

「また走っていい?」

 

「……なら、泊まるとしよう」

 

「良いの?」

 

「ああ。 元々3日は掛けて向かう予定だ」

 

 

父は私を止めない。

 

1秒でも多く、強くなろうとする私を止めない。

 

そして父は私を止めようと口を出さない。

 

何故なら私は一人で強くなると決めたから。

 

だから父には止めないで欲しい。

 

 

別に、父が嫌いだとかそうではない。

 

ただ、私はこの体が二つ分だから、そこにもう一つ加えるなんて強欲は……痛いから。

 

だからそれを振り払うように走る。

 

わたしは一人で強くなる。

 

あの日そう決めたから。

 

 

 

 

 

 

 

水戸に到着した。

 

比較的山奥で人は少ない場所。

 

古そうな旅館地。

 

検索すれば隠れた名店だった。

 

お風呂もそこまで大きくないがそれは良い。

 

静かなのは好きだ。 父も同じように。

 

騒がしくない館内を歩き、脱衣所で服を脱ぐ。

 

独占状態な温泉に浸かる。

 

お風呂は二つだけ。

 

一人だけ入っていたが気にしない。

 

夕焼けの空だ。

 

引っ越し業者は既に都内に居るみたいたが、私たちはゆっくり向かう。 最初からそう予定されてるから急がずに。 けどわたしは一人急ぐように強くなる。 お風呂を上がったらまた走ると思う。 体は休める。 でもその分追い込んで、追い込んで、二人ぶんを追い込むんだ。

 

そうでなければ、私が存在する意味なんて無いから。 そう考える。

 

 

 

「……」

 

 

 

思い出す。

 

たまたま出会えた"あの人"に。

 

 

_独りよがる使命感。

_背負い続けると決めた名前。

_使命感に駆けてしまった哀れな生き物。

 

 

あの人は……マフティーは狂っていた。

 

いや、狂うフリをした狂人だった。

 

なぜなら『独りよがり』と認識して、そこに身を落としているから。

 

でもマフTは大きかった。 それは体の大きさではない。 存在の大きさ。 危うさしかないそれは人によって、ウマ娘によって、救世主となる。

 

そう感じさせて、希望を抱かさせる様な雰囲気。

 

その異質はテレビ越しでもそう感じていた。

 

だから展望台で言葉を交わした時、この人は『本物』で『本気』なんだと感じた。

 

ウマ娘に狂うトレーナー。

 

狂うことを良しとて、ウマ娘に狂えることがマフティーだと飲み込み、そこに狂える変人。

 

彼が狂わなくても良いはずの役目を勝手に背負う。 なのにそれを「使命感」と言った。

 

ぐちゃぐちゃなトレーナーだ。

 

故にわたしとすこしだけ違った。

 

 

彼は、分かっていて、背負うことを決めた。

 

私は、分かったから、背負うことを決めた。

 

 

マフTは、マフティーを背負う。

そこに狂いたいだけ。

 

でも私は、あの一等星を背負わなければならない。

それが此処にいる意味だから。

 

彼は狂い、私は狂う。

 

同じようで、これは違う。

 

 

けど、けど…

 

けれど……

 

彼には聞いて欲しいと思った。

 

私の覚悟はそんな彼からどう見えるのか?

 

だから答えた。

 

 

__わたしは、あの星を背負って生きていく。

 

 

 

「うぇぇ、へへ、ま”ぁー、ふぅー、でぃー、ぅぇへへへ」

 

 

のぼせているウマ娘の声。 一人で浴場を占領できなかったことは少しだけ残念に思う。 そう思って夕焼け雲を見る。 今日は一等星が見えるだろうか? あとで走りながら見上げてみよう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、情けないところを…」

 

「いえ、大丈夫です。 お疲れですか?」

 

「はい。 引っ越しの最中でして…」

 

「それは大変ですね。 どちらへ?」

 

「東京の方です。 妻が都内に入院しているので、北海道から…」

 

「そうですか。 それはかなり遠くから。 そうなると都内までは高速を使って水戸から2時間程度でしょう。 しっかり休んでください」

 

「はい」

 

 

 

本当はあまり見知らぬ人と接触したくないが、NTの勘が働いて後ろを振り向いたのが運の尽きだ。 風呂場でよろけて倒れそうになった男性を見かけたので紙一重で支えた。 危なかった。

 

見た目暗そうな人だけど、それは疲れが後押ししているからだろうか? とりあえず俺はその人を支えながら湯船に案内したところだ。

 

いや、この場合上がらせた方が良いのか?

自己管理できない大人は少し嫌だな。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

会話は無く、天井を眺める。

 

ヘリオスも大人しく天井を眺めてるだろうか?

 

男湯に二人だけしかいないココは隠れた名館。

 

夏休みも終わったから人は少ない。

 

だからこそ、俺はカボチャ頭をキャンピングカーに置いてここまでやって来れた。 そして思いっきり湯船に浸かることができた。 正直言ってかなり感動している。 シービー。 本当にありがとうな。

 

 

「あー、寝てませんよね?」

 

「……大丈夫です」

 

 

心配だな、この人。

大丈夫か?

いま危なかったのでは??

疲れた体に温泉は気持ちいいかも知れないけど、そのまま寝ちまわないでくれよ?

 

 

「話し相手になりましょうか? そしたら眠らないで済むと思います」

 

 

あと、何故か…放って置けなかった。

 

俺よりも目上な方だが、弱さが見えたから。

 

 

「……少しだけ、良いですか?」

 

「はい」

 

 

俺はうなずく。

 

するとその男性は湯船を両手で掬い上げると顔を洗って軽く目を覚ます。

 

それから虚げに…

いや、物憂げに上を見た。

 

その目線は既視感。

どこかで見たような気がした。

 

 

「私には娘がいます。 ウマ娘です。 そんな私は元トレーナーでした。 地方レベルでしたが、数年ほどトレーナーとしてウマ娘を育てていました」

 

「立派じゃないですか」

 

「ありがとうございます。 ですが元トレーナーの私は…娘を止める事は出来ません」

 

「?? トレーナーなら暴れたウマ娘を抑えるための技術も知ってるのでは?」

 

「いえ、そうではないのです。 私は…娘に強いてしまった。 強いてしまった故に止める権利も資格も無い。 親である私たちの弱さが娘を縛ってしまった。 そして娘はそこに囚われる事を良しとした」

 

「……なにがあったんですか?」

 

 

後悔する様に。

 

それしか選択が無かったように。

 

不器用な自分が弱くて悲しむ男。

 

元トレーナーとしてウマ娘を指導していた面影もなく、自身の過ちに怯えているように見えた。

 

男は言った。

 

 

「…マフティーと同じですよ」

 

「!!」

 

 

湯船が静かに。 だが重く揺れた気がした。

 

 

「娘はマフティーのようになってしまうかもしれない。 いや、もしかしたらもうマフティーの様になったのかもしれない。 その()を背負い、その()のために、ウマ娘である自分を捧げる。 娘は使命感(マフティー)の中に身を落とした」

 

 

男は目線を下げる。

 

揺れる湯船に映る顔は歪みきっていた。

 

水面は後悔と共に揺れ動く。

 

 

「私はマフティーを意味や概念、または覚悟と聞いた。 それはこの世に有りもしない名前だが、それをマフティーと言葉してカボチャ頭を被った。 私はそう学びました」

 

 

間違ってはいない。

 

ミスターシービーが初めて走ったG1ホープフルステークスで初めて報道陣の前に出てマフティーの意味と、カボチャ頭の意味をインタビューに応えた。 前任者に対する反省の促しも込めて、俺自身もマフティーすると決めた。 それはミスターシービーのトレーナーとして最初の覚悟。 それは今も続けているつもり。

 

 

「狂人は見たことあります。 ですがマフTはウマ娘のトレーナーとしてマフティーを演じようとした。 それも中央の世界で。 それは誰も真似できないような、とてつもなく重たい覚悟の現れだった。 私は同じトレーナーだった者としてそこに慄きながらも、マフTの強さに感心を抱きました。 彼はURAに於いて危険人物ですが、ウマ娘の為にある心は本物だった。 結果としてミスターシービーを無敗の三冠バにした。 そして有マ記念で証明に証明を重ねて皆を認めさせた。 そこには確かにマフティーがあった」

 

 

なんか褒められてこそばゆい。

 

これまでいろんな人が「マフTは凄い」とか「マフティーは本物だ!」など褒め称えていたが、マフTである事を隠した状態で言われたのは初めてだ。 あと男がマフティーの話をすると少しだけ微笑んでいた。 しかし直ぐ物憂げな表情に変えて続ける。

 

 

「ですが、それは地獄の様な道だ。 踏み外せば二度と戻れない。 想像できない程の苦しみが舞い込む。 カボチャ頭を被るだけならそれは簡単だ。 遊びのように子供でもできる。 しかしマフティーは簡単じゃない。 マフティーはもっと人が思うよりも異質だ。 アレは…とんでもなく重たすぎるモノだ」

 

 

この世のマフティーとは、ウマ娘の為に狂える存在になった。 俺の働きによってこの世界ではそのように形作られた。 なぜならマフティーはそう言った概念図として人に見せつけたら、地球の重力に引かれた生き物たちはマフティーをそのように受け止めた。

 

その証拠として、新たな理事長として就任した秋川やよいがその断片を見せていた。ウマ娘の幸せを第一に考えるウマ娘狂いな理事長から始まった夏合宿前の大粛清は怒涛の勢いだった。

 

 

__中央を無礼るなよ…??

 

 

彼女はそう言った。

 

これは誰からそう言われた訳でもなく、誰から指示された訳でもない。 ただひとつだけ近くにあったソレが、理想の後押しになると信じたから、生き物として正常な感情を力に変えて言い放った。 彼女はカミーユ・ビダンのようにその身を通して訴えかける。

 

皆から見えた秋川やよいはウマ娘の為に狂えるマフティーのようだった。

 

 

マフティーは簡単ではない。

 

その通りだ。

 

 

誰もが秋川やよいのように映せない。

 

または俺のように狂える筈がない。

 

この世界にとってのマフティーはそうだから。

 

しかし、それを…

 

 

「娘はまだ子供だ。 まだ子供なんだ…」

 

 

マフティーになるとは言わない。 だがマフティーのように狂い出すとしたら、それは間違いを犯さなくなる。 リセットボタンのような救済処置は用意されてない。 後戻りだって許されず、足場を外すことも論外である。

 

トレーナーだったこの男はわかるのだろう。 人生経験的にも、トレーナーとしての苦労を知る先駆者だからこそ、マフティーを背負った上で歩むビジョンは耐えがたいと。

 

ああ……そうだな。

 

……俺は、耐えがたかったよ。

 

 

「もし娘が中等部で、トレーナーの目がある環境の中で慄えるなら、それはもう構わない。 既に遅いから。 だがそこにある心は、娘自身を苦しめる。 蝕んでしまう。 だがそうしてあげなければ娘は生まれた意味に疑問を感じて苦しむ…」

 

 

話が、ほんの少し。

 

ほんの少しだけ見えてきた。

 

しかし原因がわからない。

 

何をそこまで駆り立てるのか?

 

 

 

「娘さんには何があったんですか?」

 

 

 

俺は尋ねて……少しだけ後悔した。

 

 

 

「死産……です」

 

「!」

 

 

目を見開く。

 

 

「娘は…双子です。 姉です。 しかし妹は産まれてすぐ亡くなりました。 妻は悲しみ、弱ってしまいました。 私は不器用だからそばにいてあげる事しか出来ませんでした。 しかし亡くなった妹娘を忘れることができない。 だから妹娘の名前を姉娘に重ねました。 どうか健やかに、亡くなった妹娘の分も共に生きて欲しいから。 しかし…ソレが間違い……だった…!」

 

 

男は湯船の中で手を握りしめる。

 

物憂げな眼の色は濃くなる。

 

 

「私の娘はとても賢い。 そして強いウマ娘です。 まるでそれぞれが二人分あるように。 だからある日尋ねられた。 どこから聞いたのか分からない。 亡くなった妹の事を。 娘は母親譲りの優しい子ですから、自分だけ生まれたことに悲しみ、そして苦しむ。 いつまでも自分を攻め続ける。 私はどうしようもなく不器用な父です。だから娘に…言ってしまった。

___君のなかにベガは居るんだと」

 

 

「……………」

 

 

 

__俺はマフT、またはマフティーだ。

 

 

呪いのような言葉だ。

 

俺は、それをよく知っている。

俺は、それがどれだけ残酷か理解してる。

 

だからこの男の言った事はわかった。

 

そして理解した。

 

その娘さんは、ひどく重たいモノを背負った。

 

下ろせないモノを背負ってしまったんだ。

 

背負い続ける必要があり、それがこの世に降り立った役目として、亡き者の代わりを進む。

 

それでは、まるで…

 

 

 

 

__前任者の過ちは、マフティーが粛正する。

 

 

 

 

「っ…」

 

 

その痛みと、残酷さを良く知ってる。

 

良く知ってるとも、俺は。

 

マフティーしなければ歩めなかったあの日々を。

 

何度も吐いて、何度も魘され、マフティーとして誤魔化し続けたあの苦しみを、しんどくてたまらなかった最初の一年を俺は知っている。

 

誰かの代わりを、その命と時間と名前を、己が果たすべき使命感として背負うと言うのは、そういうことだと。

 

マフティー(使命感)に投じるとは、そうなんだ。

 

 

 

「妹娘に与えるはずだった織姫星の名前がこうなるとは思わなかった。 ただ私達は健やかに生きて欲しかった。 しかし…それは二つ分の願いだから娘は二つ分の苦労を背負った」

 

 

「……」

 

 

「娘は本当に凄い子です。 勉強も運動も完璧と言えるほどです。 しかし娘は体に二人分だから備わったから出来るんだと言った。 なら二人分を捧げないとダメだと言った。 そうでなければ自分が産まれた意味が無いと言った。 幼いその瞳にそう覚悟させてしまった。 ああ…何故なのです…」

 

 

 

【鉄華団】って組織を思い出す。

 

団長を筆頭に止まらない組織だった。

背負ったモノの数が多すぎた。

だからそれを背負い続けた。

背負わないと、前に歩けないから。

だから命を降ろすことなく進み続けた。

 

その先は破滅だった。

当然の結末だった。

わかりきった結果。

 

しかし過程は輝かしかった。

 

囚われながらも、潰れるしか無い未来しかなくても、そこに狂えるから鉄華団は素敵だったんだ、当事者たちからしたら大事な居場所で、心の在りどころだから。

 

 

 

【マフティー】も同じだ。

 

大人になれない子供なハサウェイ。

 

独りよがりにトリガーを引き続けた。

 

苦楽の中で争ってきた。

 

故にテロリストの終わりは破滅だった。

 

当然のように奴らの物語は終わった。

 

しかし過程は輝かしかった。

 

囚われながらも、打ち滅ぼされる未来だとしても、そこにたらしめる事に意味を感じたから素敵に思えて、当事者たちからしたら革命の響きは、どうしようもない愚かな形だとしても、それは存在意義だったんだ。

 

 

だから織姫星と言う輝かしい一等星を背負ったそのウマ娘は、同じ未来を辿るかもしれない。

 

それでも救いは、まだ準備期間であること。

 

俺はホープフルステークスで定めた。

 

それまでこの世界におけるマフティーとしての在り方を確かめつつ、ミスターシービーとターフを描き続けた。 結果的にミスターシービーってウマ娘を通してマフティーたらしめる理由を得た。 ウマ娘の為に狂える存在として。

 

URAの危険人物で、中央の異端児としてカボチャ頭で描き続けた。 道化の如く俺はマフティーたらしめた。

 

 

でも、たらしめる前に道はもう見えていた。

 

どうなるのか聞こえていた。

 

 

 

 

___ こ こ か ら が 地 獄 だ ぞ ? ?

 

 

 

 

 

 

 

「娘さんは、分かっているんですね…」

 

「ええ、分かってます。 これから厳しい世界で織姫星と共に駆けることを。 だからタイミング的に私は妻が入院している都内まで引っ越す事にしました。 娘もそこを目指している。 それに…あそこなら、中央なら、少しでも救われる気がしたから」

 

「……」

 

「私はもう娘を止められません。 止める権利も何も無い。 ただの親として、その道を選んだ子を見守るだけ。 背負わせてしまった家族の弱さと、託してしまった願いが果たされるように。 星に願うようにその下で…」

 

 

後戻りはできないようだ。

 

いや、マフティーに後戻りはない。

 

役目を捨てることは出来る。 でもその責任は間違いなく自分に降り注ぐだろう。 そうなれば己は潰されてしまう。 落としてしまった、降ろしてしまった、踏み外してしまった、そんなペナルティーのように苦しむ。

 

だから後戻りの先に希望はない。

 

でも…

 

そのウマ娘が、もしマフティーのようなら。

 

それが使命感になると言うのなら。

 

彼女は間違いなくたらしめようと進み続ける。

 

鉄華団のように、ハサウェイのように。

 

 

 

「もし……」

 

 

 

男は声を溢す。

 

 

 

「もし、マフティーの様になってしまう娘に、理解してくれる者が居たとしたら。 それは…」

 

 

 

叶わないと思う願いでも、言わずにいられなかった自分の弱さを噛み締めながら、呟く。

 

 

 

「マフTだけだろうか…」

 

 

 

 

湯船が揺れる。

 

いや、俺の中にある役割が揺れる。

 

それが、水面に浸透しただけ。

 

だから、呼吸する様に自然と……俺は。

 

 

 

 

「__それは、求めている…のですか?」

 

 

 

「………かもしれません」

 

 

 

 

 

まるで夜の宇宙を見上げるように答える。

 

男の物憂げな眼は既視感を残して。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 




もうバレているとおもけど、あの一等星なウマ娘です。ぶっちゃけ実装されたらどのようなストーリーになるか楽しみで仕方ない。多分重たいシナリオになりそうだけど、それ系も重要だから実装はよ。


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28話

やはりマフティーって難しい…
作者だって急に分からなくなる。


 

 

水戸市にある千波湖。

 

湖のそばでキャンピングカーを停めて日曜日をやり過ごすことにした。 帰りは祝日の月曜日を予定している。

 

現在の時刻は夕方の6時。 キャンピングカーの中でヘリオスが干し芋を齧りながら宿題を片付けてる間に俺は購入した乾麺を湯がいて、刺身として売られていた鯉の身をタレにつける。

 

水戸は納豆のイメージが強いが鯉も美味しいと聞いた。

 

あと干し芋も名物の一つみたいなのでヘリオスと同じ物を齧りながら夜ご飯を支度する。

 

本当はそのまま館内で夜ご飯を済ませてもよかったがダイタクヘリオスは何気に有名なので俺がマフTである事がバレてしまう。

 

一応、メイク無し彼女なら一目見ても分かりづらいかも知れないが、それではダイタクヘリオスでは無い。

 

なにより俺が彼女に「そのパリピらしさでダイタクヘリオスをしろ」と強言してチームに迎えたから、彼女は寝ている時以外はタトゥーシールやアクセサリーを外すことはない。

 

なので、のぼせ気味に温泉を上ってからも彼女はタトゥーシールを貼り直してダイタクヘリオスを再開した。 あ、もちろんメイクは落として温泉に浸かっている。 彼女はそこら辺のモラルはしっかりと守るウマ娘だ。 とても良い子である。

 

あとキャンピングカーがあるからこそキャンピングしないと意味が無いとヘリオスが言ったので夜ご飯は乾麺を湯がいて食べることにした。

 

そんな訳でキャンピング最終日。

 

宿題で頭がパンクしそうなヘリオスを呼べば割り箸を割って乾麺を啜る。 んー!と美味しそうに食べる彼女を眺めながら俺も一杯だけ啜って腹を満たすとカボチャ頭をかぶる。 軽食な生活ばかり進めていたからあまりご飯は食べなくなった。 食べようと思えば沢山食べれるけど、憑依前の前任者がゼリーばかり啜って生きてるような生活をしてた故にこの体の胃袋がそこまで大きく無い。

 

毎日少しずつ食べる量を増やせば一般男性以上には食べれるようになるだろうけど、俺の場合あまりカボチャ頭も脱いで居られないので軽く食べてすぐ被れる方がいい。 もしこの後お腹空いたらキャンピングカーの中で干し芋を齧れば良いと考えて、おかわりをねだるヘリオスの為に乾麺を湯がいてタレにつけていた鯉の刺身をトッピングして渡すと尻尾ぶんぶんバイブスがテンアゲの天元突()リピしていた。 お気に召したようで何よりだ。

 

 

「マフT、偶然って怖くね?」

 

「どうした?」

 

「いや、温泉でタコっ(のぼせ)てたんけどね、別のお風呂にあの子とエンカしたんよ。 声は掛けなかったけどバイブス無さげな物憂げは確かにそうやったんよ」

 

「…それって、釜臥山展望台の子か?」

 

「そう!」

 

「そうか。 だとしたら俺はその親にあったことになるな」

 

「マ? それってダディー? でもマミマミはエンカせんかったよ?」

 

「母は都内に入院してるらしい。 それで東京に引っ越すとさ。 で、俺たちはその親娘と同じ温泉で出会ったらしい」

 

「うわー! それガチャの運に回したくね? なんか沢山のプレ達の万円ゆきっちー*1が確率のアゲサゲのカツアゲされてんよ。 ガチャで星3がノーエンカバリってるから"親の顔よりも見た天井"で悲鳴アゲてるアンケとか見たことあるし」

 

「ヘリオス、それ以上はいけない」

 

 

おい、その先は地獄だぞ。

 

さもないと神経が苛立つからな…(白目)*2

 

 

「てか、マフTはその親はわかるん? 人は少なかったけど」

 

「なんとなく分かったよ。 てかその人と二人だけだったからな。 ま、色々あって話することなってな、それで結構色々あるらしい。 特に娘さんの方がな…」

 

「なんかマフTにお熱やったんね。 ウチがマフTのウマ娘なのに嫉妬するんけどー?」

 

「悪かったよ。 でもマフTである以上は仕方ないから許してくれ。 ほら、まだお変わりも鯉の刺身もある。 食べてくれないと残っちまう」

 

「ウェーイ! あざまる水産!!てかマジ水産じゃん!ウェーイ!!」

 

 

食べ物で気を逸らしつつ火加減を気にしながら乾麺を湯がいて俺はあの後を考える。

 

ヘリオスの言う通りあのウマ娘が同じ温泉内に居たらしい。

 

それでその親があの疲れ気味に湯船の中で危うかった男だった話。

 

本当に偶然………??

 

いや、それとも…

 

 

「…」

 

 

八月は終わって九月。

 

まだ夏の暑さはある程度引き継いでいるが宇宙を見上げれば星は見え出している。

 

青森から何百キロと離れた茨城へ移動しても星座や星の数が同じ宇宙がここでも見える。

 

俺はロマンチストは嫌いじゃない。

 

そもそもマフティーが独裁者は理想主義なところから始まっている。

 

もしかしたら星に導かれて俺たちはこの場に集われた。

 

ロマンチックにそう考えなくも無い。

 

そもそもここは元々がゲームの世界だ。 俺と言うストーリーにフラグが立ってるのかもわからない。 もしかしたらコレが何かの巡り合わせなんだろうか? もしマフティーと言う主人公がこの世界で働いてるとしたら今この瞬間が分岐点なのかもしれない。

 

ロマンチストな人間ならそう思うだろう。

 

シャアが案外そんなところあったな。 あの人は大人になれきれない子供だからこそ、そこらへんに惹かれる部分は多かった。 でも世界は優しく無いから裏切られてばかりだった。 カミーユが切っ掛けになり、そして最後だったと思う。 それからアムロにも負ける。 元々酷い奴だったがそれでも散々な男だ。

 

沢山の可哀想に包まれたが、救えない男だ。

 

けどシャアのロマンスはニュータイプに対して希望を抱いていた。

 

狂気的なニュータイプの可能性を秘めたカミーユに対してそう抱いたように、ララァと同じようにニュータイプが改革を世界に確変を齎してくれると信じていた。 原作*3でもニュータイプってそうだったから。

 

戦争の道具に染まりすぎたけど、人は信じてた筈だ。 ニュータイプに。

 

それはかなり先のUCで証明した。

 

シャアにとっては遅すぎる証明だったが。

 

だからフル・フロンタルがその器(シャア)として見送ったんだろう。 相対するニュータイプの敵として。 皮肉だな。

 

 

語りすぎたな。 ゾルタン・アッカネンが言った通りガンダム好きがガンダムを語らせると止まらないと言った3分間のアレは本当だな。

 

面倒なモノだな。

ガンダム好きで生きると言うのは。

 

 

話を戻す。

 

まあそれでも結局ニュータイプの話になるが、三女神から授かった力にせよ俺が原作と同じようなニュータイプの人間だとしたら、このウマ娘の世界でも原作のようにニュータイプに惹かれて、そしてソコに集われるのだろうか?

 

そこにロマンスも有るとしたら、地球の引力によって宇宙見上げるしかできない生き物が、そういった星に導かれるのはごく自然なんだろうか?

 

もしこれがそうならあの親娘と温泉で巡り合わせてのは『偶然』ではなく『必然』になるかもしれない。

 

 

これがもし二次創作小説ならとんだご都合主義だな。

一気に駄作へ丸代わりする展開だろう。

 

 

でも、俺がこの世界に居て。

 

俺がマフティーとしてたらしめて。

 

このウマ娘プリティーダービーのストーリーがマフティーに「そうして欲しい」と求めるとしたら、三女神が願う通りに俺はマフティーするだけだろう。 スマホゲームの如くそこに用意された選択技をタップして選び取り、俺自身を進めるしかないのかもしれない。

 

 

「…」

 

 

キャンピングカーの中に戻ったヘリオスは勉強を再開する。

 

俺はカボチャ頭をかぶりながら彼女を置いて散歩に出ることにした。

 

まだ夏空を引きずる九月の夜空だが星はしっかり見えている。

 

その中で輝く一等星はその名に恥じない輝きを放ちながら千波湖を見下ろす。

 

湖を歩き、先程の温泉旅館が見えた。 隠れた名館だった。 次はカフェかシチーを遠征に連れてこの場にまた来ようかと考えれば、もうマフティーはウマ娘のことに夢中だ。

 

カボチャ頭を被れば考えるのは担当ウマ娘の事だ。 やはりウマ娘の為にいるらしい、マフティーと言うカボチャ頭は。

 

これは二度と覆せない存在意義だろう。

 

ならこれからも理解した上で狂う。

 

 

「夏の大三角か…」

 

 

顔をあげる。

 

この世は現実だ。

 

呼吸もする。 食事もする。 痛覚もある。

 

でも元がゲームの世界だ。

 

なら、そこにロマンチスト(ご都合主義)があったとしたら誰も文句は居ないだろう。

 

画面をタップしたらその人(プレイヤー)はトレーナーだ。

 

この物語はウマ娘プリティーダービーとして展開する。 例え、俺がマフティーなトレーナーだとしても。

 

だから…

 

 

 

「また…会ったな」

 

「!!」

 

 

偶然と必然の境で出会い、物憂げな表情をしたウマ娘と出会うことだって、それはごく自然な事かもしれない。

 

ガンダムの作品で訴えていた。 有象無象の価値は同じ人間が烏滸がましく決めても、運命力というのは必ずそれぞれに備わり、人はその時の役目がある。

 

バナージ・リンクスが獣の可能性としてユニコーンガンダムのために用意された登場人物のように、ヒイロ・ユイが子犬と少女を何度も殺さなければならない残酷な役割を用意された登場人物だとしたら…

 

 

 

マフティーたらしめる俺はこの運命は…

 

多分…

 

 

 

 

 

__それは、求めている…のですか?

 

 

__そうかも…しれない。

 

 

 

 

 

 

用意された、俺だけの瞬間(イベント)なんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

都合が良いって?

 

残念だけど、それは仕方ない事だよ。

 

だって。

 

哀れで、憐れで、可哀な生き物ってのが…

ニュータイプ(マフティー)なんだからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏の夜空まだ続く。

 

明るいから星は見えづらい。

 

でも"私"は見えやすい星だから、そこまで気にならない。 でも夏が終わる事で星が見えやすくなる代わりに夏の大三角は何処かへと消えてしまう。 それがなによりも嫌だ。

 

回り続けるだけで、どの季節でも存在するこぐま座が羨ましい。 冬の季節くらい星座ごと冬眠すれば良いのにアレをこぐま座と名付けた人は性格が悪い。

 

夏しか見ることができない一等星よりも存在し続けるなんて否定されたように感じる。

 

ランニングの足が止まった。

 

気づいたら息が上がって、足が疲れを訴える。

 

うるさい。

 

私は二人分あるんだ。

 

なら私が代わりに走るから、もっと動け。

 

そうじゃ無いと、意味がない。

 

 

 

「また会ったな」

 

「!」

 

 

 

けど、その足は強制的に止められた。

 

カボチャ頭の訪問者によって。

 

此処で彼を登場させるなんて、そんなシナリオを書いた奴は恐らくこぐま座よりも…間違いなく性格が悪い筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回は俺がたまたまだ。 別に君を追いかけた訳ではない」

 

「それにしては、わかったように向かって来たような気がしたけど…」

 

 

あまり驚かない彼に、私は疑いながら睨む。

 

しかしエリートトレーナーとしてウマ娘慣れしてるのか、そんなの気にならないように同じ宇宙を見る。

 

私の足も完全に止まって休もうとしていた。

 

仕方ないから近くのベンチに座る。

 

 

 

「分かったように来たのは、星が訴えたからな」

 

「!」

 

「…って、言えたらロマンチストだろうな」

 

「……はぁ」

 

 

ほんの少しだけ期待した。

 

この人は掴みどころが分からないけど、それでもあのマフティーだ。

 

だからもしかしたらと希望を抱いたけど、簡単に裏切った。

 

 

 

「残念だが、星は語りかけない。 俺がマフティーだろうと聞こえるわけでもない。 そこに名前があるだけだ。 ……そう存在がたらしめるようにな」

 

 

でも私の思考を読むように後付ける。

 

やはりそうなんだと『現実』を見せるように。

 

 

 

「それでも、私は一人で戦って勝つの…」

 

「それは立派な事だ。 一人で戦える力を備えた生き物は強さと弱さを知りやすい」

 

「…」

 

「でも、君に質問されたことで一つ教え忘れてた事がある。 どうやら君は賢いウマ娘と聞いたから、これは聞かなければならなかった…」

 

「?」

 

 

賢いとは言われたことある。

 

二人分の力があるから。

 

でもそんな情報を知るのは家族くらいだ。

 

やはり、この人は見えて…いる??

 

それは『本物』なの?

一体あなたはどこまでがマフティーなの??

 

 

 

「『独りよがり』の対義語って何だと思う?」

 

 

 

賢い、イコールが、学力とは限らない。

 

一応……学力は前まで通っていた学園一番だ。

 

かと言ってそれを自慢したいとは思わないが、その前に私はまだ小学生だ。

 

中等部までまだ2年分の時間を必要とする年齢だ。 けどマフTは構わず尋ねる。

 

わたしは考えて……

 

 

 

「…………わからない」

 

 

「そうか。 答えは『現実』だ」

 

 

「!!」

 

 

分からないと素直に伝えて、即答される。

 

そして、胸を……

 

抉られる感覚だ…っ。

 

 

「本当なら『協調性』って言葉が対義語として正しい。 だがマフティーの場合は『現実』になる。 何故ならこれは()()()()()()()()()質問だからな」

 

「………っ」

 

 

マフティーに対する??

 

それは自身の使()()()に訴える事だ。

 

訴えると言うのは、肯定とはまた違う。

 

否定する部分があるから訴えるになる。

 

 

「独りよがりは過程から生まれる表現だ。 始まりは誰しも『コレ』だと思った者に目を向けて愚直になる。 それはそれが正しいのか? または独りよがっているだけなのか? それをどうかを判断する。 その独りよがりに対して否定し、対義させるとしたらマフティーたらしめるそれは『現実』になるんだ。 何故なら…」

 

 

 

やめろ。

 

やめろ。

 

 

 

「俺のマフティーは現実に無いからな」

 

「ッッ!?」

 

 

 

何故そんなこと言うの?

 

やめてよ。

 

何故私が貴方に質問したと思うの?

 

わたしのソレは…

 

だって私の名前は…

 

 

 

「あ、貴方はマフティーだ…!! あなたは…!!」

 

「ああ、そうだな。 けどそれはこのように無い非現実から生まれた存在だ。 名前がマフティーじゃなくても、エリンとか、ナビーユとか、別の名前になったかもしれない。 または日本語ではない、スーダン語、アラブ語、古いアイルランド語だって突拍子も無いところから生まれたかもしれない。 それを全部繋げたひどいメドレーのような名前にも出来たかもしれない。 だからマフティーは非現実から生み出した俺のなまえだ」

 

「………そんなの…」

 

「使命感として決壊してるとでも? バカらしい。 そもそも覚悟は名前じゃないだろ」

 

「!!!」

 

「たらしめる本義と、たらしめたい独りよがりから生み出して、原動力に変える。 名前は結局意味を込める為に都合よく生まれた」

 

 

 

__飾りだ。

 

 

 

 

「嘘だ!!!」

 

 

 

 

その声と共に千波湖は波紋を作る。

 

ザァーと流れる夏風と水面が揺れた。

 

 

 

「それは! それは! そんなのって!」

 

「独りよがりの意味を思い出せ。 俺は呼吸するように、それを口遊み、何度も俺は独りよがりだと自負する。 そう自覚してるからな」

 

 

 

彼はマフティーを否定する。

 

何故? あなたはマフティーであることを誇る。

 

苦しいけど、辛いと思うけど、それを辞めてたまるかと、私が尋ねても無いのにそう強言してたのに、何故そんな悲しい事を言うの??

 

ダメ、だめだ。

 

わたしはあなたと同じな…筈。

 

狂い方は違う。

 

でも方向性も、その名前を体に備えた意志と覚悟は間違いなくマフティー(使命感)から来ている。 だから私だって、先駆者の貴方に言ったんだ。

 

 

_わたしは、あの星を背負って生きていく。

 

 

久しぶりに笑えた。

 

マフティーたらしめる貴方に、自分のマフティー(使命感)を聞いてもらえた気がしたから、貴方に質問して、照らし合わせて、質問して、確かめて。 独りよがれるから出来るんだと。

 

それは自分にとって間違いじゃ無いと受け止めたい。

 

なのに、何故そこで『現実』を対義語にして否定してしまうの??

 

そんなの…

 

そんなの…

 

そんなの…

 

そんなの…

 

 

 

「ベ、ベガ、が、意味なくなるよぉ…!!」

 

 

「…」

 

 

「そんなの…そんなのって……! 自分が『そうしたい』が空っぽじゃないの! わ、私は、あなたに! マフティーとして戦う貴方に…! 同じかどうか確かめた! 偶然出会った展望台だけど、宇宙を見上げるスターゲイザーのように淡いご都合主義があるなら! それは星の下で導かれた筈だ! わたしはベガを信じてる! だから…!」

 

 

「…」

 

 

「だから……だから………悲しい事を言わないでよぉ……自分の名前を否定しないでよ……そんなの、本当に独りよがりなだけで救われないよぉっ…!!」

 

 

 

わたしは一人で戦う。

 

わたしは一人で走る。

 

あのベガと言う名前が私なら、それがマフティーのように背負わなければならないなら、そこに身を投じていける。

 

証明してくれた彼がいたから、わたしは確かになった筈だ。

 

 

分かってるよ、分かってるよ…

 

そんなの。

 

私は悲しい事をしてるって。

 

でも、じゃないと、私は生まれた事に意味が無いじゃないか。

 

私が産まれたのは、妹を取ったから。

 

だから、その分を走る必要があるんだ。

 

この名前に!

 

妹からもらった!

 

この名前に…!!!

 

 

 

 

「だから、証明し続けると言っている」

 

 

「……ぇ?」

 

 

「独りよがり? そんなの充分じゃないか。 結構で、上等じゃないか。 そもそも『独りよがり』ってのはな!

__マフティーにとって負の表現じゃない!」

 

 

「!!!」

 

 

 

初めて彼は声を荒げた。

 

まるで(たが)えるなとカボチャ頭の奥に潜む目が訴える。

 

 

 

「現実はあるさ。 否定されたさ。 笑われたさ。 蔑まれたさ。 苦しんださ! でもな? 俺は君に言ったよ」

 

 

 

 

 

 

『それは現時点での話だ。 まだ俺は終点に行きついていない。 報われたと思ったそれはもしかしたら、報われてなかった事になるかもしれない。 だからその意味が自分にとって裏切りで無いように、そうで有るように独りよがり続けるんだ。 俺はこの器でマフティーたらしめ続けられるまでこのカボチャ頭を被り続ける。何故なら…』

 

 

 

 

 

 

「マフティーはそうだから」

 

 

「ぁ」

 

 

 

 

答えはちゃんとあった。

 

マフTは、マフティーとして答えていた。

 

 

 

「名前は確かに大事さ。 生きてる間の大事なキーだ。 でも名に囚われる以上に必要なのは、それ相応に持ち合わせた志だ。 そうでなければ本当にただのお飾りになってしまう。 だから証明を続ける。 それが俺にとって本当であるように。 マフティーたらしめるというのは俺にとって独りよがるという言葉だ。 この世界に於けるマフティーって概念はそう飾られる。 マフティーはそこまで素敵な意味でも名前でもないさ。 意味さえ変えればなんとでもなる脆い象徴だから」

 

 

 

意味が分からなかった。 その名前は誇りじゃなかったのか? マフティーはそれだけ意味ある名前じゃなかったのか? なら、私は、マフティーたらしめようとしたこの意味は、なんだ? 飾りだったの??

 

 

 

「だから、マフティーと言えば良いだけじゃない。 そもそも、君はマフティーたらしめるための…ウマ娘か?」

 

「……」

 

 

 

答えられなかった。

 

なぜなら、彼マフティー本人に言われて、答え合わせが済んだから。

 

私の使命感は『マフティー』と表現するのに見合わな過ぎたから。

 

 

 

「君はまだマフティーじゃないな」

 

 

 

突きつけられる。

 

 

 

「入り口には至ってない。 理解したフリをして、理解はまだ足りていない。 君の現状はマフティーたらしめるソレに似ているだけ」

 

 

 

分からなくなる。

 

わたしは、分からなくなる。

 

もう、なにがなんだか、わからなくなる。

 

 

 

「たしかに重たいだろうよ…その命は。 幼少期から苦しんで来た。 よく頑張った。 そう思う。 俺は…君を理解するよ。 なぜなら俺だって同じように"そうだった"からな」

 

 

「!」

 

 

 

マフTは星を見る。

 

過去を嘆くように、小さくため息を吐いて。

 

 

 

「もう終わった事だけど、でも俺はマフティーたらしめるのはそうしてきた使命感を自分に裏切らせないため。 マフティーは続くよどこまでも。 何故なら今の俺はウマ娘のために狂いたいから」

 

 

 

彼はどこまでもマフティーだ。

 

マフTであり、マフティーでもある。

 

私から見て、完璧な有り様。

 

___背負っている。

 

 

 

「君はさ、俺が答えて『多分』って返したよな? ならまだ君はマフティーじゃない。 知ってるだけだ」

 

「っ、だったら…」

 

 

今から始めれば___!!

 

そう言おうとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

コ コ か ら が 地 獄 だ ぞ ? ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______ぅ、ぁ…」

 

 

また否定された。

 

でも、何も発せない。

 

 

何故なら重たい言葉だった。

 

重たい言葉が私達に絡み付いた。

 

引きちぎれない鎖が私を巻く。

 

幻聴も聞こえる。

 

そして身構え損ねた事で 死神 が見ていた。

 

その先で、こちらを見ていた。

 

 

 

 

 

 

_マフティーなら、やります。

 

_こっからが地獄だぞ。

 

_やって見せろよ! シービー!

 

_マフティーが粛清する!

 

_俺は被り続けるよこのカボチャ頭を。

 

_それでも…! それでも……!

 

_そう聞きたいってマフティーは言うよ。

 

_俺は……俺は……おれは……オレは…

 

__マフT、またはマフティー

 

 

 

 

 

 

 

 

地獄を見た。

 

 

地獄を__見た。

 

 

いずれ辿る…地獄を__見た。

 

 

 

 

 

「……マフティーは、なんなの…」

 

 

崩れた膝を小鹿のように立たせる。

 

マフTの元まで足を引きずり、服を掴む。

 

目に溜めた涙と共に、彼を睨む。

 

 

「答えた通り、意味や概念、または覚悟。 それはそこに狂うための勝手な使命感から」

 

「……嘘つき」

 

 

 

服を握りしめる。

 

ウマ娘のパワーで、この痛みを押し付ける。

 

 

 

「マフティーって、それだけ重たいから」

 

「………嘘つき…」

 

 

服を握りしめる。

 

初めて駄々を捏ねるように、振り絞る。

 

 

 

「ごめんな。 でもこの世界に於けるマフティーってそうだから。 それが許されるのは、ウマ娘に狂える者だけだよ。 君はただのウマ娘だ。 もしウマ娘でマフティーを名乗るならミスターシービーくらいにならないと、それは無理だな」

 

「…………うそ…つき…」

 

 

もう、握りしめる力は無い。

 

そのまま膝から雪崩れ落ちそうになって…

 

支えられた。

 

 

「でも、君はそれでも、ベガを背負って走る事を辞めてはならないよ」

 

「!」

 

「君はマフティーには成れない。 それは絶対だ。 でも君はマフティーじゃ無くても走れるだろ? あの一等星の下で幾らでも走れる。 そう続けて来たのはマフティーでもない、()()()だろ?」

 

「!、!!」

 

 

 

そうだ。

 

その通りだ。

 

私たちは、そうしてきた。

 

マフティーはわからなくても、わかったふりをしていても、始まりはマフティーでもなんでもない私からだ。

 

 

 

「デネブもアルタイルも翼を持った星だけど、翼のないベガだけは地を駆けるただ一つの織姫星だ。 なら君は常にそうである筈だ。 君はベガを背負っているんだろう? ならマフティーじゃ無くても、対義語の現実に怯えなくても、独りよがりじゃ無くても、君はベガのウマ娘なら…」

 

 

 

__なんとでもなる筈だ。

 

 

 

 

 

 

聞いたことない言葉なのに。

 

言われたことない言葉なのに。

 

それは来ることが分かったように受け止める。

 

マフティー(使命感)に染まろうとした私は本物のマフティー(独りよがり)に否定されたから、そうやって現実を突きつけられたことでやっと身構えることが出来たから、マフティーに応えられたソレを理解できるようになった、そんな気がした。 こころは、落ち着く。

 

 

 

「……マフT」

 

「なんだ?」

 

「私は、ベガのマフティー(使命感)じゃ無くても、あの一等星の為に走れる?」

 

「出来る。 マフティーにならなくても君はできる。 何故なら君は一人で強くなって来れたウマ娘だから。 そこに余計なモノ(マフティー)なんて必要無いだろう??」

 

「……そっ…か」

 

 

 

 

わたしは一人で強くなる。

 

存在意義を問われるから。

 

だから走って、強くなる。

 

独りよがるようにそこに身を投じる。

 

あの一等星(ベガ)を背負って、そして捧げる。

 

でも理解はしていた。

それはとても大変だと言う事を。

 

嫌にも賢いから、幼い頃から理解していた。

 

だから確かにしてくれるナニカが必要だった。

一人でも強く慣れる確かなナニカ。

 

 

その先駆者が___マフティーだった。

 

 

後ろ指刺されても、独りよがるカボチャ頭。

 

ガラスのロープを目隠しで歩く。

 

一人寂しい子供のような心で揺れてる。

 

でも、たらしめ続けて、本物にした。

 

愛バを 皐月賞 で叶えさせる。

愛バを 日本ダービー で1番にする。

愛バを 菊花賞 で栄光を飾らせる。

愛バを 有マ記念 で伝説に仕上げた。

 

一等星よりも、大きな宇宙で輝くソレは…

 

 

 

「でもマフティーに憧れてくれて、ありがとう。 そんなに目標にされるとは思わなかったよ。 汚れて狂い切った名前だけど、誇らしくもなるさ。 俺はマフティーだから」

 

「………否定された、けどね」

 

「こればかりは違うからな。 君には知って欲しかったから。 先駆者として…な?」

 

「…どうせ私は、子供ですよ…」

 

「それはいい事だ。 子供だからこそ夢中になれる気持ちはその時の特権だよ。 だから君らしさは辞めるな。 ベガは、背負って。 ただし…」

 

「マフティーたらしめるのはダメ…でしょ?…もう言わないで。 本人に直接言われたら諦めるしかないから。 安心して。 そこまで聞き分けないつもりは……無いから」

 

「少し言葉に詰まったように思えたがまあそれは良かったよ。 なら俺も君を信じれるように、信頼できる形を見せないとな」

 

「え?………ぁ!!!!」

 

 

 

そう言ってカボチャ頭を外した。

 

そこにはなんて事ない男性の顔だ。

 

 

 

「俺は、人間で沢山だ。 でもマフティーに狂う異端児だ。 ウマ娘よりも弱くて脆い生き物。 けれど俺はマフティーたらしめる為に、この器はそうする。 マフティーに独りよがり続ける素顔があるから『被る』が出来るんだよ」

 

 

 

そう言ってマフTはカボチャ頭を被る。

 

 

 

「今のは人として。 ウマ娘に狂おうとする一人の人間として君に歪な全面(フル・フロンタル)を…まぁ、素顔を見せたって事だ。 でも此処から先はマフティーに狂ってる存在だ。 これは使命感に駆けるカボチャ頭のマフT、またはマフティーだ。 故に君に…促す

 

 

「!、!!」

 

 

 

数歩だけ退きそうになった。

 

プレッシャーがマフTから感じ取られる。

 

再度理解して、認知する。

 

この人は、この人は…マフティーだ……

 

 

 

「君はあの一等星を背負い、あの一等星のために捧げる。 それは間違いないな?」

 

「あ、う、うん…」

 

「君は生まれた意味を示す為に、あの一等星と共に駆ける。 それは間違いないな?」

 

「も、もちろん……わたしはそうだから…」

 

「君は織姫星として地を駆けて、あの一等星のように戦う。 それは間違いないな??」

 

「ま、間違いない…!」

 

 

 

なに?

 

え? なに??

 

わたしは何を問われてるの??

 

 

 

「なら、マフティーは言うよ」

 

「…っ!」

 

 

 

 

息を呑む。

 

目の前の本物が言う。

 

 

 

「君を【スカウト】したい」

 

 

「!!」

 

 

「君はマフティーに成れない。 だが、君のマフティーたらしめたい使命感がソコにあるなら、飾られるだけではない名前が己をそうさせるなら、この中央のマフTに――――

―――― 背負わせろ

 

 

ッッッッ!!!!」

 

 

 

 

中央のトレーナーだ。

 

わたしはトレーナーにスカウトされている。

 

そしてマフティーに見定められている。

 

マフティーたらしめさせろと、促される。

 

あ、あ、あ、ああぁ!?

 

き、決めるの!?

 

わ、私は!?

 

何故こんな展開に!?!?

 

 

 

「マフティーは、求めれば、応える存在だ」

 

「!」

 

 

 

テレビで見た。

 

テレビで聞いた。

 

なんて事なく言った言葉。

 

冗談混じりなのか、本気なのか測れない。

 

でも、今、それは…

 

マフティーの言葉だから吐かれた!

 

ここにいる私に!

 

 

 

「……てか、面倒だな、コレ」

 

「…………へ?」

 

 

 

彼は口調を崩す。

 

プレッシャーも無い。

 

威圧感も消えていた。

 

すると首を回して、伸ばしていた背筋は力が抜ける。

 

え、なに…??

 

 

 

「まあ、俗に言うとマフティーに狂えそうなほど頑張れる逸材のウマ娘を見て、一人のトレーナーとしてスカウトしたくなった。 まあそういうことだ。 そこまで身構えるなよ。 別に死神が来るわけじゃ無いから」

 

 

 

やれやれのポーズをすると何故か左右に小躍りする。 どこかで見たことあるような振り付けだから、なんかバカにされてる??

 

 

「ッッー! あ、あのね…! いまわたし…!」

 

「迷ってくれたか? そりゃ良かった。 あまりトレーナーらしい事はしてやれない異端児だからさ…ちょっとそれらしく頑張った!」

 

「っっ〜!! ………はぁぁぁぁ……子供で遊んで楽しい? 楽しいの…?」

 

「楽しいとかじゃ無いけどな? まあ、マフティーはそんなもんだよ。 狂いに狂うけど、その前に俺と言う器があって成立する。 だからマフティーではなく、マフTとして君に話したいんだ」

 

「……それでスカウトを? もう少し、上手く流れを持ち込めないの…?」

 

「いや、まずはマフティーたらしめるその眼は心配だったから、警告もかねてちゃんと話したかった。 その後はなんとでもなる筈だと流れに任せたが…いま、 すごく俺はウマ娘に狂いそうになっている! そう! これは! 正しく愛だ…!」

 

「……」

 

 

携帯どこだったかな…

 

ちっ、置いて来たか。

 

 

「舌打ちするな、可愛くない」

 

「かっ!? ……と、とりあえず、スカウトに関しては…」

 

「それは本気だよ」

 

「!」

 

 

彼は再度カボチャ頭を外す。

 

重たいはずのマフティーは、軽く外す。

 

いや、でもそれは本当に重そうだ。

 

簡単に被れそうにない。

 

だからこのトレーナーはそれなんだと理解する。 だから私は本物の中央トレーナーにスカウトされていると再度身構える。 その眼はトレーナーであり、いつでもマフティーたらしめる事が出来る存在だ。 先程の言葉の通り求めたら、応えてくれる。 そう体現してこの世界にいる。

 

 

__マフTまたはマフティー。

 

この重みは計り知れないのかもしれない。

 

 

 

「さっきも言った。 一人で強くなる。 それは良いと思う。 立派だ。 素敵な強さだ。 でも中央ではそうは行かない。 嫌でも"現実"を見る」

 

「!」

 

「コレは独りよがるとかじゃない。 中央はトレーナー無しでは絶対ッッと言って良いほど夢は叶えられない場所だ。 コレは俺がミスターシービーやマンハッタンカフェ、ダイタクヘリオスやゴールドシチーと言ったウマ娘を育ててるから言える事だ。 絶対に甘くないことだと、中央を目指す君に言うよ……こっち側の先駆者としてな」

 

「っ!」

 

「別にトレーナーは俺じゃなくても良い。 俺以外にも優秀なトレーナーは中央に多い。 でも一等星を背負って戦い抜くなら、君はその想いを誰かに託せる人に預けるんだ。 ミスターシービーはそうだったから」

 

 

憧れを崩すような言葉。

自分の知る範疇の現実に、現実を被せて喉を詰まらせる。

ひどい大人のやり方だ。

 

けどっ…マフTが言うならそうなのかもしれない。

何より…

 

マフTであり、マフティーであるダービーウマ娘の名前を出されたら私は志すその脚が止まりそうだ。

 

 

 

「ッッ、せこ…い!」

 

「ひどいやり方なのは分かってる。 子供相手に驕り高ぶっていることも。 俺もこんなの間違ってると思う。 でも君は理解力の高い賢い子供だから濁さないよ。 忖度なく今の君とは目線の高さを合わせてあげない。 俺は中央のマフTで独裁者を意味する王だから」

 

「っ……マフTのやり方、間違ってるよ…!」

 

「だな。 でも俺からしたらいずれスカウトするつもりだ。 遅かれ…早かれな。 それなら、今のうちにその一等星を背負うウマ娘の星は俺が刻む。 だが君のマフティー性はこのマフティーが背負う。 それは紛れもなく俺だけにしかできないことだからな」

 

 

 

オンリーワンって言葉にロマンスは感じる。

 

星を眺めるくらいだ。

 

ただ一つの星に、愛しみだって感じる。

 

だから、この言葉を言えるのはマフTだけ。

 

それを実行できるのはマフティーだけ。

 

私がやろうとしたマフティー(求める)を、彼がマフティー(応える)と言うのだ。

 

それは、此処にいる彼だけ。

 

何故ならこの世界でマフティーするのは。

 

彼だけだから。

 

この人だけだから……

 

 

 

「…良いよ……いいよ…! そこまで言うなら…! すごく腹立たしいけど…! マフティーに求めるから…!」

 

 

 

否定されすぎて、少し苛立ちがある。

 

褒めてくれたけど、でも一人じゃ無理だとハッキリ言われた。

 

でもあの一等星の為に走る私を、彼は尊重してくれた。

それは、間違いなく嬉しかった。

 

マフティーたらしめるのはダメだと言った。

 

これは悲しかった。

 

でも存在意義は否定しない。

 

私の頑張りを、立派だと言ってくれた。

 

もちろん、気持ちは変わらない。

 

恐らく一人で強くなると刻んだこの覚悟に歪みはない。 けどそれを一緒に背負うと勝手に自惚れるマフティーがいるなら、それは非現実から放たれた存在の言葉だから、私自身の意味はコレからもずっと変わらないだろう。 それは約束された気がしたから、この一等星を彼に言うべきだろ。

 

 

 

 

アドマイヤベガ

 

 

 

初めて、彼に名前を言った。

 

 

 

「わたしは、一等星の名を背負ったウマ娘」

 

 

 

背負い続けるこの私達の名を。

 

 

 

「あの子の為に私を証明し続ける。 私の為にあの子に勝利を捧げる。 だから私達を…!」

 

 

 

彼はカボチャ頭を被る。

 

マフティーがいる。

 

なら……求めろ。

 

この体に刻まれた一等星と共に。

 

 

 

「ダービーウマ娘にし…………いや、違うッッ…!!」

 

 

 

ここまで荒ぶった心は久しぶりだ。

 

でも、苦しくない。

 

こんなにスッと眼を見開けて、応えて欲しいと思えるのは!!

 

この人が本物のマフティー(独りよがり)だから。

 

だからマフティー!

 

本物になれる貴方がソコまで狂えるなら!!

 

そうたらしめれると言うのなら…!!!!

 

 

 

「私達をダービーウマ娘にしろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

___やって見せろよ!マフティー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉は呪いだ。

 

マフティーを動かすキーだ。

 

だからカボチャ頭が私達を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけなので、噂の飛び級です」

 

「「「 このウマたらし…!! 」」」

 

 

 

トレセン学園の奥に構えるトレーナールームで声が広がる。

 

 

 

「あと最近その単語を調べたけどそうじゃない!!断じてな!!」

 

『マフティーのやり方、正しくないよ』

 

「(お前本当それ好きだよな?)」

 

『(ファミチキください)』

 

「(コイツ!? 直接脳内に!?)」

 

 

 

無敗の三冠バ、パリピウマ娘、尾花栗毛の有名人、その3人と牽制しながらも少し視線をずらして見えない何かに訴えてるのはマフティーならではなのか? やはりこの人は色々と狂っている。

 

 

「ま、そんなマフTに惹き寄せられたアタシが言うもんじゃないけどね。 でもウマたらしなのは確定だから。 どうしようもないね」

 

「よく喋る」

 

「っ!!だー、かー、らーぁ!! それ言うなってんの! もぉぉぁぁぁお! マジでうざっ! うっざい! もう! うざすぎる! この品質改悪品バカボチャ頭!」

 

「起床難で気性難で希少難も負けてないぞ」

 

「だぁぁぁァァァァァァ!!!」

 

 

 

雑誌の印象が全く無くなる尾花栗毛のウマ娘、ゴールドシチーは頭を抱えて叫ぶ。 よく口喧嘩してそうな関係に見えるけど仲は悪くない。 むしろ許し合ってる関係だからこそ出来ることなんだと見えた。

 

 

 

「でもウチが宿題に悪党苦戦してる間にナンパってたのは事実よね?」

 

「人聞き悪いな。 スカウトだよ。 強引にしたのは認める。 あと悪党苦戦じゃなくて悪戦苦闘な?」

 

「悪党なうまうまウマたらしパンプキンにピッタリですしお寿司」

 

「でも寿司じゃないけど刺身の鯉は美味かったろ?」

 

「それはマジもんのあざまる水産物!」

 

 

パリピギャルウマ娘代表格のダイタクヘリオスはチョロそうに、もしくは調子良さそうに受け答えする。 ある意味頼もしそうだが多分だけど私が一番苦手とするタイプだと思う。

 

 

 

「とりあえず新人歓迎として取っておいたお土産頂こうか」

 

「賞味期限大丈夫かそれ?」

 

「焼けばいけると思う」

 

「干し芋を焼くのか。 なるほど」

 

「ね? 最高でしょ!」

 

 

この中で唯一の高等部かつ無敗の三冠バであるミスターシービーだが、皆と変わりない雰囲気で楽しみ、そしてさり気なくマフTと距離を狭めた状態での尻尾がペチペチと物理的な愛嬌を示す。 まるで猫のようだ。 猫味ある顔だから余計だ。

 

 

 

「飲みますか? リラックスできますよ」

 

「え? あ、ええと…」

 

「ここはとても賑やかです。 静かすぎる私はそぐわなさそうな雰囲気に感じましたが、でもそんな事は有りませんでした。 ここはとても心地の良い場所です。 だから安心してください。 それでも何か不安がありましたら遠慮無く言ってください。 わたしは良く此処にいますから」

 

「あ、はい、ありがとう…ございます」

 

 

日本ダービーの中継に映された観客席で見たことあるマフティーの二人目、マンハッタンカフェはもう疲れそうになる私に声をかける。 とりあえずこの先輩とすぐ仲良くなれそうな気がした。

 

 

 

「ま、とりあえず干し芋は賞味期限とか関係なく焼くとして、勧誘祝いを始める。 さあ、グラスを待て!」

 

「「ウェーイ!!」」

 

「あっはは…元気ありすぎ、先輩達」

 

「とりあえずニンジンジュースをどうぞ」

 

「あ、はい、ありがとうございます…」

 

 

 

注がれたグラスを持ち、同じ高さに合わせる。

 

 

 

「彼女の目標はダービーウマ娘だ。 マフティー性の高い志。 挑める覚悟。 彼女の強さをこの日にマフティーたらしめることを、このマフTがここで再度誓う」

 

「!」

 

 

1ヶ月前に、千波湖で言われた言葉が再臨する。

 

マフティーのその姿勢と、狂える言葉が、またあの日を思い出させる。

 

夏が終わって10月。

 

もう夏の大三角は見えない。

 

でも……

ああ、今、わたしは、この場所にいる。

 

私の代わりにマフティーたらしめようと、ウマ娘に狂えるトレーナーと共に今この場に立っている。

 

 

「…と、まぁ、カボチャ頭だけに息苦しいからここまでだ。 マフティー性の高い飛び級生としてトレセン学園に来た一等星の彼女に!」

 

「「「「かんぱーい!!!」」」」

 

 

 

 

騒がしいのは苦手だ。

 

静かなところが好きだ。

 

でも、それを併せ持つ、マフTとマフティーだからその居心地の良さはもうすでに感じていた。

 

なるほど、ウマたらしの意味がわかった。

 

たしかに彼は、狂えるトレーナーだと感じた。

 

ここなら、私らしさで背負える。

 

この名前と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の名前

ア ド マ イ ヤ ベ ガ

 

宇宙の一等星 に誓って決めた…!!

わたしは、あの星を背負って生きていく!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

G  ゴールドシチー

 

U

 

N

 

D  ダイタクヘリオス

 

A  アドマイヤベガ new‼

 

M  マンハッタンカフェ

 

 

 

 

つづく

*1
諭吉

*2
ガチャは悪い文化

*3
Zガンダム





なんかごちゃごちゃしてる……?
まあ、つまりですね。
《要約すると》

A「星の声が聞こえなくても!マフティーたらしめることで報われるなら…!」

T「おい、その先は地獄だぞ? 背負った使命感にせよソコに投影するな。君にとってマフティーのやり方は正しく無いよ」

A「否定しないで!マフティーたらしめた貴方が言っちゃイヤ! 私にそんな事を言わないでよ!悲しいよ!!」

T「君はマフティーとしての在り方で狂う必要なんか無いから。 強き一等星として普通に走って」

A「それで対義語(現実)に挑めるの!?私は先駆者の貴方で強くならないとダメなの!」

T「ならお前の使命感(マフティー)! 俺に預けさせろ!ぶっちゃけ君のその強さに惚れてんだよ!だから黙って俺に着いてこい!アドマイヤベガ!」

A「トゥンク……」

↑こう言う事。

NTばりの運命力(ロマンス)を勝手に感じた結果として、小学生相手にマフティー(ウマ)たらし(める)する事で、スカウトさせてしまうヤベーヤツの話しだったと言うことであり、小さな女の子を相手に惹かれてしまったマフティーってシャア・アズナブル(ロリコン)の亡w霊wじwゃwなwいwかwっwてwなw…の巻でした(暴論)

そんな訳で【A】は『アドマイヤベガ』で決定です。 あとA枠をアグネスタキオンで外した方はモルモット君になる権利を与えるわ。 なーに大丈夫さ。 すこし体が7色に光るだけさ。

あと『飛び級』に関してはニシノフラワーやスイープトウショウがそうじゃ無いかと考えてます。 実力主義の中央だから走りさえ認めさせれば気性難だろうが許される場所じゃ無いかと考えてる。 秋川やよいのことだしなんとでもなるはずだ!で、やっちまいなよそんな固定概念なんかで許しちまうからヘーキヘーキ。


ちなみ裏話。

当初(9/30)予定したA枠は"アイネスフウジン"でした。
彼女が前任者の頬を殴った展開だった…が。
学生の関係上無理なので出すのをやめました。
(てか暴力はガイドラインにスレスレやぞ…)

長くなったけど、異常で以上です。

ちょっとだけ今回の展開に自信ないのは内緒…


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第29話 + 掲示板

掲示板のシステムがあるハーメルンは控えめに言って最高だと思う(筆記者視点)


今考えたら半ば強引なスカウトだったと思っている。

 

だがマフティーと言うその姿は私達にとって憧れに近い感情だったから、その本人からの言葉は正直に言うと嬉しさはあった。

 

蓋を開けたら変人寄りの一般男性でテレビの印象とは全く違う一面ばかり。

 

まだ二十代前半らしいから青年時代の子供っぽさを引きずるそんな大人だった。

 

だからなのか、まあそこまで気を張り詰めなくて良いと感じている私がいる。騒がしすぎるのは好きじゃないが、気を張り詰めすぎるのもそこまで好きではない。

 

いや自身を厳しく追い込んでいたこの身で言うのはおかしいかも知れないけど、私に足りない距離感をマフTが与えてくれた気がする。

 

ダイタクヘリオスさんの近すぎる距離感は流石に苦手だが、マフTに集ったウマ娘達だからと言って皆は気を張り詰めず、むしろ自分らしさが大いに引き出された居所だと分かった。 それは名を背負ったウマ娘からしたら理想的な環境だと思う。

 

私もアドマイヤベガとして、その名前を背負う私らしさでこの先のターフに挑める気がしている。

 

勿論不安はある。 いつも一人孤独に鍛えてきたとけど、そこに「マフティーなら」と期待を抱かせてくれる彼の元で走れるのならそこまで苦しくない。

 

__君のマフティーを俺に背負わせろ。

 

 

頼もしさ。 心強さ。 ウマ娘のために狂いながらマフティーたらしめる。

そこから引き出される言葉が『ウマたらし』らしい。 ミスターシービーさんがそう言っていた。 たしかにその通りかもしれない。

 

 

もう一度言う。

 

私は半ば強引にスカウトを受けたような状態だ。

 

 

相手がマフティーたらしめた先駆者だったから魅力的だったけど、スカウトの言葉自体はそこらのトレーナーと変わりないマフTとしてだ。

 

だから……ハッキリ言って小学生相手に警察案件な展開だ。

マフTはそこらへんの危機感無いのかな??

 

流石にゴールドシチーさんがそこら辺を追及して締め上げてくれたけど 襲いかかるウマ娘相手に善戦するマフTも絶対におかしいと思う。

 

特にあの反射神経。 基本的に肉体面で人間はウマ娘に歯が立たない。 これが常識。

 

しかし視界の悪いはずのカボチャ頭を被ったまま、未来予知するかのように動いてゴールドシチーさんの攻撃を回避するあのトレーナーはおかし過ぎると思う。

 

これが中央のクオリティーなんだろうか?

 

 

実のところその認識は間違っていない。

 

歩き回れば飛び級生として注目を集める故に居心地の悪さを感じながらもマンハッタンカフェさんにトレセン学園を案内を受けていたのだが、ウマ娘に劣らずクセが強いトレーナーも複数存在した。

 

例えば芦毛にドロップキックを喰らった飴玉咥えたトレーナーがいたけどピンピンしていたり、鉛玉でも撃ち込まれたごとく何故か満身創痍になりながら自己紹介するトレーナーとか、心の種を弾けさせると目のハイライトを消して物凄い速度でタスクを熟すヤベーヤツとか、センチメンタルで我慢弱い乙女座が独り言のように愛を叫ぶ姿があったり、どこからともなくジャズが聞こえるとそれが合図として現れるトレーナーが存在すれば、俗物に対して大層厳しそうな上に女性ながらもカリスマがあるトレーナーはとても怖そうで、革新者として最高傑作の成長を約束させる少し気味が悪いトレーナーや、逆に真面目にやり過ぎるとバカを見るとその劣等感をウマ娘に打ち消させるトレーナーが居たり、昔は明鏡止水に至る事でウマ娘と同格になったらしいと噂される年老いた師匠的なトレーナーが佇んでいたりと……この情報量は一体なに??

 

これを魔境って言葉で収めて良いのかわからないくらいに魔境。

 

いや深淵って言葉が正しいかもしれない。

 

それをトドメとしてカボチャ頭を被って世間にマフティーたらしめたウマたらしのトレーナーが中央に存在してその魔境具合は加速する。

 

ツッコミどころが多過ぎるから考えるのをやめたら、マンハッタンカフェさんはそれで正解だと肯定した。 カフェしか勝たん。

 

どっからとも無く肯定するような声が聞こえたがそうだと思う。 カフェしか勝たん。

 

それでもマフT曰く、今年の夏まで教育者同士で睨み合う時期が続いてたようで、前理事長の情けなさと年功序列から始まる独裁があったため、そこに埋もれて動きづらいトレーナーが多かったらしい。

 

それで教育環境がガラリと変わればその個性がハッキリ表に出やすくなり、トレーナー達も活き活きとしだした。 てかむしろ活き活きし過ぎだと思う。 もうだめ。 わたしは考えるのをやめる。

 

静かに星座を眺められる場所さえ確保できるならそれでいい。

 

わがままは言わないから練習以外で疲れ過ぎるのは勘弁してほしい。 練習はどんなにキツくてもあの星と共に頑張る。

 

ここなら私のマフティー(使命感)を預けて私らしさ(アドマイヤベガ)をターフに描けると信じてやって来た。 マフTと共にあの一等星と日本一のウマ娘になるんだ…!!

 

……と、初めての練習に参加すると思いきや。

私は予定を開けてマフT達に連れてこられた先は…

 

 

 

 

 

『来た! キタァ!! やって来た!! ミスターシービーだ! 第4コーナーから姿を見せた禁忌破りが!! いまマルゼンスキーに追い縋る!!』

 

 

 

「逃がすかァァァァァァ!!!」

 

「待ってた……わよ!!」

 

 

 

 

「ッッ!!」

 

 

頬を撫でる重圧感が第4コーナを広がる。

 

その女性はいつだって自由で。

 

その先輩は分け隔てなく気さくで。

 

その先人は誰よりもマフTの近くに立ち。

 

どのウマ娘よりもマフティーたらしめてる。

 

 

「ぁ、ぁ!、!!」

 

 

私が密かに憧れるダービーウマ娘の本気は、その人のために『応えたい』と『君と勝ちたい』を全身全霊に乗せている。

 

その眼も、その耳も、その笑みも、凶悪に染まっていた。

 

それがミスターシービーたらしめる、走り。

 

 

「マルゼンスキーィィィ!!」

「ッッ!?!?」

 

 

第三コーナーに入る前から仕掛けるそのロングスパートは真似できる気がしない。

 

だって脚が持つわけがない。

 

最後の坂が苦しめるから。

 

しかし坂路だって関係なく加速力を続けるその走りは理解が出来なかった。 でも理解なんて出来なくて当然なんだろう。 何故なら禁忌破りと言われてるミスターシービーだから。 そこに固定概念なんて関係なかった。

 

だから今、そのウマ娘はクビ差で勝ち取った。

 

 

 

「「「「うおおおおお!!!」」」」

「「「「うおおおおおお!!!」」」」

「「「「うおおおおおおお!!!」」」」

 

 

 

 

…!?

 

 

耳を塞ぎたくなるような大歓声が東京レース場を埋め尽くした。

 

最前列だからそれは余計だ。

 

感じたことないこの爆声に耳をピーンと立てるが、怖くなって耳が萎れるそのタイミングで後ろから抱きしめられる。

 

 

「あははっ! 驚いた? 耳がチョーヤバくね? ベガっちの辛たにえんとヤバたにえんはチョーわかりみが深いんよ!」

 

「!」

 

 

ダイタクヘリオスさんが爆声の壁になってくれる。 半減したけどそれでもウマ娘故によく聞こえてしまう。 まだキーンとする。

 

そう考えるとマフTのカボチャ頭がそれなりの防音効果を作っているので羨ましい。 被ろうとは思わないけど…

 

 

「今回は合法的にシュキシュキホールドするんけど、次回は自分でディフェンスはヨロたんね」

 

「次回…?」

 

「うん、だって次は。 ウチが走るんよ」

 

「!」

 

 

顔を上げる。

 

わたしを抱きしめる彼女はミスターシービーを見ていた。

 

今回を最後のレースとして飾ったマルゼンスキーと強く抱きしめ合っているそのウマ娘をダイタクヘリオスは見ていた。

 

憧れを眼の奥に染めながらも密かに激っている太陽神の熱は、抱きしめられているからこそ強く感じられた。

 

わたしは顔を下げて前を見る。

 

観客に手を振るそのウマ娘はマフTの愛バ。

 

秋の盾を飾ったマフティー(禁忌破り)は観客に手を振るとまた一段と声援が広がり、東京レース場を揺らす。

 

そしてこちらを見てピースをしながら、一瞬だけ私と目が合い…

 

 

__ここまで君は来れるかな? ミス・ベガ。

 

 

 

「!」

 

 

訴えられる。

 

マフティーを通して。

 

 

 

「……必ず、強くなってそこに行くから」

 

 

私はアドマイヤベガだ。

 

あの一等星を背負って走ると決めた。

 

今は仲間と共に強くなる事になった。

 

でも私()で、戦うことはやめない。

 

それが私の"独りよがり"だから。

 

貴方と言うミスターシービー(独りよがり)に並んで見せるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、ヒリつくレースだったなぁ。 ははは、羨ましい限りだ。 なぁマフT、わたしは未だにキングとスリーとエイトのカードを忘れられないぜ? 次挑む時そのカボチャをめくれば一体何が飛び出す? マフティーたる王か? それともマフTな平民か? それとも、なんとでもなる…」

 

 

 

__ジョーカーか?

 

 

 

 

 

 

ニット帽を揺らしながら去りゆくウマ娘。

 

そのカードはまもなく捲られようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天皇賞(秋)を語るスレ

 

 

 

 

 

 

21:ななしの一般観戦者

またマフTのウマ娘かよふざけんな。

 

22:ななしの一般観戦者

もう認めろよマフTの手腕を。カボチャ被って楽になろうぜ?

 

23:ななしの一般観戦者

あまり真面目に対応してるとバカ見ちゃうよぉ!!って言えたら良いが正直嫉妬するレベルに仕上げ方が上手くて泣けるし一体全体何したんだオイ!?

 

24:ななしの一般観戦者

マフTを認めない奴まだいるのか…

 

25:ななしの一般観戦者

てかさり気なく同業者いた?となると中央トレーナーか?

 

26:ななしの一般観戦者

今回でマルゼンスキーが最後とかマジ!?まだまだはしれんだるうんうんぅおん!!

 

27:ななしの一般観戦者

落ち着け

 

28:ななしの一般観戦者

そんんだわぞ取り乱しすぎるんらる

 

29:ななしの一般観戦者

お前も取り乱しすきだろ

 

30:ななしの一般観戦者

でもマルゼンスキー最後かぁいやまあ事前に言ってたから身構えてたけど今回で走らなくなると思うとさみしいな

 

31:ななしの一般観戦者

誤解招くな?走る舞台が日本じゃなくて海外に移るだけだろめでたいじゃないか

 

32:ななしの一般観戦者

あの強さを海外のレースで観れるとか激マブすぎる

 

33:ななしの一般観戦者

そう考えるとマルゼンスキーって海外の雰囲気に合うなぁ

 

34:ななしの一般観戦者

大丈夫?激マブのチャンネーだよ?

 

35:ななしの一般観戦者

未だにPS2が最新ハードと思ってるらしいからキンハ好きのゲーマーと仲良くなるんじゃね?

 

36:ななしの一般観戦者

マルゼンスキーがスマブラに参戦するってマ?

 

37:ななしの一般観戦者

なんの話やごっちに混ぜんなし

 

38:ななしの一般観戦者

マゼルンスキー

 

39:ななしの一般観戦者

混ぜるのか…

 

40:ななしの一般観戦者

異種合成さんはもうちょいエンカ率上げて中層で詰むから

 

41:ななしの一般観戦者

シレンでミレンでデレンな風来人は大人しくフォーチュンタワーで救助待ちしてて

 

42:ななしの一般観戦者

てかマルゼンスキーは有マ記念は出ないの?

 

43:ななしの一般観戦者

出ないらしいな。燃え尽き症候群か?

 

44:ななしの一般観戦者

純粋に後輩達に舞台を譲ったんだろ。 秋の天皇賞で最後にすることを春天で言ってたやん

 

45:ななしの一般観戦者

URAマジゆるさねぇ…

 

46:ななしの一般観戦者

マフTが反省促したからもう許してやれよ

 

47:ななしの一般観戦者

仮にURAとマルゼンスキーの件が無かったとして激マブは海外に行ったんかな

 

48:ななしの一般観戦者

わからん。ただウマ娘って走らなくなると走る熱意を失うケースが多いからレース業界からフェードアウトしてた可能もあるのでそこら辺考えるとマフTとミスターシービーが有マで挑んでくれなかったらマルゼンスキーは晴れないままレースの世界を去ったと思う

 

49:ななしの一般観戦者

もしかして紙一重?

 

50:ななしの一般観戦者

紙一重やと思うぞ。それでマルゼンスキーほどのウマ娘が消失するんやぞ

 

51:ななしの一般観戦者

URAマジゆるさねぇ…

 

52:ななしの一般観戦者

URAもしんどかったと思うからもうやめてやれ。運営する側として当然の判断だしマルゼンスキーも理解した上で発言しなかった訳じゃん

 

53:ななしの一般観戦者

ただのいい女かよマルゼンスキー

 

54:ななしの一般観戦者

どうみても間違いなくいい女だるぉぉぉ!?

 

55:ななしの一般観戦者

ファンサもシービー並みに良いし後輩にめっちゃくちゃ優しすぎるG1の激マブやぞ

 

56:ななしの一般観戦者

京都まで修学旅行に来た学校の生徒とたまたまドライブでやってきたマルゼンスキーが旅行生集めてスーパーカーの前で写真撮ったウマッターとか見るとファンサの塊だろ。写真羨まし過ぎるわ

 

57:ななしの一般観戦者

高等部とは思えないくらいに大人の余裕ある激マブなチャンネー過ぎるだろ

 

58:ななしの一般観戦者

結果論にせよマルゼンスキーは耐えたから今があるんやで?

 

59:ななしの一般観戦者

マフTまじマフT

 

60:ななしの一般観戦者

マフTほんまスーパーカーの救世主やん

 

61:ななしの一般観戦者

URAを叩くと勝手に評価が上がるマフTと、その激マブ具合に惚れるマルゼンスキーにワイ脱毛

 

62:ななしの一般観戦者

脱帽な?

 

63:ななしの一般観戦者

また髪の話してる…… 彡(´・ω・`)ミ

 

64:ななしの一般観戦者

おターフ生えますわよ

 

65:ななしの一般観戦者

頭ダートでダーと涙が流れますわよ

 

66:ななしの一般観戦者

適正率上げろ

 

67:ななしの一般観戦者

上げれたら苦労しないんだよなぁ(30代)

 

68:ななしの一般観戦者

ふぁ!?30でダートは不味いって…

 

69:ななしの一般観戦者

芝生やせ

 

70:ななしの一般観戦者

ワイ現地民で隅っことは言え最前列取れたんやけどシービーの坂路見たら禿げてたわどんだけ踏み込んでるんやアレ

 

71:ななしの一般観戦者

は?あのウマ娘に坂なんて無いやろ?

 

72:ななしの一般観戦者

シービーに坂とかwwエアプかなwwww

 

73:ななしの一般観戦者

あのスラっとした体から放たれる脚質は正直言って化け物だろ

 

74:ななしの一般観戦者

驚異的なスタミナ量も目立つけどそれを支えるパワーが現シニア級で最強クラスなのは流石シービーとしか言えん

 

75:ななしの一般観戦者

それな、スタミナも褒める点だと思うけどシービーは正直言ってパワーの方だと思うわ

 

76:ななしの一般観戦者

第3コーナー?しっかり加速しますね!

第4コーナー?ここも加速しますね!

直線コース?もちろん加速しますね!

心臓破りの坂路?はい!加速します!

とりあえず坂路の辞書を開いてくれ…

 

77:ななしの一般観戦者

シービーだけ重力がおかしく働いてんじゃね?

 

78:ななしの一般観戦者

そもそもシービーに坂路なんて無い定期

 

79:ななしの一般観戦者

けど前回の春天は長距離でシービー有利だったのにマルゼンが勝って、今回の秋天は中距離でマルゼン有利なのにシービーが勝つのなんなの?

 

80:ななしの一般観戦者

マルゼンスキーのモチベーションが高かったからだろうな。有マを超えてからめっちゃ元気になっていた時期だったから自重なんか捨ててぶっこぬいたら春天勝った訳だし

 

81:ななしの一般観戦者

マフTも春天後のインタビューでマーク不足だったと素直に負け認めてたね。ウマ娘の気持ちのバロメーターを測り損ねた結果としての敗北だったとか

 

82:ななしの一般観戦者

それでも1/2バ身差で2着まで漕ぎつけたシービーも大概なんだよなぁ…

 

83:ななしの一般観戦者

自重を捨てたマルゼンスキーの激マブなニッコニコ顔の一着と、めっちゃくちゃ必死に追い縋ろうとして最後一歩分届かない事を悟った絶望顔のミスターシービーまじ唆る

 

84:ななしの一般観戦者

わかる。歯を食いしばって片目見開いて、もう片目が届かないと悟った悔しさを滲ませていたあのゴール直前の表情マジで良すぎた

 

85:ななしの一般観戦者

勝負の世界に全力投球な女性アスリート選手は美しいなぁ…

 

86:ななしの一般観戦者

あの瞬間があったから秋天は絶対見ようと思った

 

87:ななしの一般観戦者

マルゼンスキーに盾を制覇して欲しかったなぁ…

 

88:ななしの一般観戦者

それなら切符まで代わりに盾を海外に持ち込んで欲しかったわ

 

89:ななしの一般観戦者

対してミスターシービーはジャパンカップ出るんだってな。頑張りすぎじゃね?

 

90:ななしの一般観戦者

1ヶ月あるし……いけ、るやろ?

 

91:ななしの一般観戦者

マフTなら問題なく走らせるよ…な?

 

92:ななしの一般観戦者

正直言って1ヶ月では完全に疲れは取れないと思われ。

練習もちゃんと挟んで体力落とさないように仕上げないとダメだからそう簡単に回復は出来んぞ

 

93:ななしの一般観戦者

疲労回復に関してはマッサージで早めるらしいな。

血流を早めることで体のウマコンドリアが活性化して、成長を促すと同時に回復力も高めてくれるからマッサージはかなり大事と聞いた

 

94:ななしの一般観戦者

中央やし腕の立つマッサージ師は多いだろ

 

95:ななしの一般観戦者

でもマッサージ込みで回復早めたとして1ヶ月で回復するの?

 

96:ななしの一般観戦者

普通は足りない。追いつかない

 

97:ななしの一般観戦者

じゃああとはマフTやん

 

98:ななしの一般観戦者

マフTだよなぁ…

 

99:ななしの一般観戦者

ならマフTがなんかする訳だよなその1か月で

 

100:ななしの一般観戦者

ドーピング……

とか、ここで発言したら不味いよね…??

 

101:ななしの一般観戦者

それは反するやろ。てかマフTがそんなことする訳ないだるるぉぉ??

 

102:ななしの一般観戦者

まず中央がそんなこと……してたかも知れんな。

 

103:ななしの一般観戦者

まじ驚いたよな。中央のトレーナーの30人が不正やなんやらで辞めたらしいな

 

104:ななしの一般観戦者

年功序列持ち込んだ結果としてマフTを筆頭に革命起こして、レコンギスタしたらしいで

 

105:ななしの一般観戦者

大粛清の間違いでは?

 

106:ななしの一般観戦者

マフTの場合だと大粛清だよな

 

107:ななしの一般観戦者

筆頭者が変わるだけでこんなに言葉が変わるのか

 

108:ななしの一般観戦者

いや、革命の中に粛清が含まれてるからどっちでもいいんやで。

ただマフTの場合大粛清って言葉の響きが似合うからそう言ってるだけや

 

109:ななしの一般観戦者

またマフティーしたのか

 

110:ななしの一般観戦者

マフTならなんとでもなる筈だから

 

111:ななしの一般観戦者

ならマフTがマッサージ以上をしてるとしても普通なのか?

 

112:ななしの一般観戦者

トレーナーだしマッサージくらい学んでるやろ。

 

113:ななしの一般観戦者

カボチャ頭は外して施術してるのかな?

 

114:ななしの一般観戦者

常にカボチャ頭被ってたらストレスで頭がカボチャになるだろ。息抜くときは流石に外すだろう

 

115:ななしの一般観戦者

カボチャ頭の下りはカボチャ料理用のスレと化したマフティー専用のスレでやってくれ。

 

116:ななしの一般観戦者

あそこ怖いからヤダ!秋の季節になるとスレが活性化するもん二度と覗きたくない

 

117:ななしの一般観戦者

マフTほどのトレーナーなら1ヶ月での回復を見込めるからジャパンカップの出走に乗り込んだわけやろ? ならマフTがなんかしてるやろ

 

118:ななしの一般観戦者

純粋にミスターシービーの回復力が異常なだけでは?

 

119:ななしの一般観戦者

それもあるけど秋天であんな走りした1ヶ月後にG1とか普通なら出たくないだろ

 

120:ななしの一般観戦者

それな!あんな凄い走りしてからジャパンカップに乗り込むのは正直疑う

 

121:ななしの一般観戦者

全力の出し方を理解してるからこそ回復に目を向けないとダメなわけで中距離有利なマルゼンスキーとクビ差で競り合ったよう走りの後に襲う疲労と付き合うとしたらかなり重くのしかかるよな。 疲労は半端ないと思う。

 

122:ななしの一般観戦者

ドーピングはあり得ない。

マッサージ師では補えない。

食だけでは足りない。

回復力も追いつかない。

もしかして……マフT??

 

123:ななしの一般観戦者

マフTだろどう考えても

 

124:ななしの一般観戦者

じゃあマフT本人が回復させるために何か出来るとしたら…

 

125:ななしの一般観戦者

それこそマッサージとかじゃないの?中央にいるくらいだし。

そもそも体の回復ってボディーケアが優先的だからね

 

126:ななしの一般観戦者

指導者と生徒とは言え男性と女性やん?そこら辺は大丈夫なん?

 

127:ななしの一般観戦者

問題ないんじゃ無い?あのミスターシービーを見たら分かるよ

 

128:ななしの一般観戦者

めっちゃ仲良いよね。正直に言うとあの二人かなりてぇてぇ…

 

129:ななしの一般観戦者

分かる!カボチャ頭とウマ娘のツーショットだけどあの距離感は凄くいい。なんというか…こう、すごく良い!

 

130:ななしの一般観戦者

語彙力ぅ…

 

131:ななしの一般観戦者

でもインタビュー中のマフTとシービーって何気に仲良いよな!

なんだかんだでマフTはユーモアとか分かってる見たいです最初の頃よりも柔らかさがあるからカボチャ頭に込めた意味を乗り越えたように見えるし恐らく余裕が出た証拠だろ

それに対してシービーがマフTに向かってニッコニコ顔で「だよねー?」とか冗談を挟んでマフTを少し困らせてやりたいニコやかな顔からそれが伺える!

そしてやんわりと肯定したり否定したりとシービーのお茶目に付き合えてるあたり日常的にそういったやりとりを繰り広げてるに違いない間違いない!

だから報道外でも仲良さそうなの画面越しでもめちゃくちゃ伝わるから見ている側として凄い色々と捗るし!

てか半年前の学園祭でマフTと踊ってたことを考えるとアレは信頼関係が無いと無理なのは確定明らかだからそこまで築き上げられた関係として受け止めると物語性高くてマフティー性高すぎ!

結論から言うと好き。

 

132:ななしの一般観戦者

長文乙だけど、分かり味が深くて辛い

 

133:ななしの一般観戦者

ぁぁ!もう無理っ……!耐えられないよぉ…!

しゅきっ…

 

134:ななしの一般観戦者

まーた誰かが尊死しとるわ、これで何人目?

 

135:ななしの一般観戦者

カボチャの数だけあるぞ

 

136:ななしの一般観戦者

仲良いのならお体に触れても良いのそれ?

 

137:ななしの一般観戦者

何度も言うけどあの二人なら大丈夫じゃね?さも無いと『もしかしてマフT?』の解答に行きつかないだろ?

 

138:ななしの一般観戦者

もしマフ以外にも答え出してもろて

 

139:ななしの一般観戦者

マフTが何かしなかったらあとはイタズラ好きの妖精さんくらいしか理由がいないだろ良い加減にしろ!!

 

140:ななしの一般観戦者

ほなマフTやないか!

 

141:ななしの一般観戦者

じゃあマフTでいいや

 

142:ななしの一般観戦者

主体性が行方不明で芝

 

143:ななしの一般観戦者

マフTは無条件勝利だから

 

144:ななしの一般観戦者

エクゾディアかな?

 

145:ななしの一般観戦者

慢心しない英雄王だろ

 

146:ななしの一般観戦者

マフTやんそれ

 

147:ななしの一般観戦者

慢心しないとマジで強いからな

 

148:ななしの一般観戦者

慢心を捨てて革命も粛清も躊躇わないマフティーとか永久に禁止カードやん

 

149:ななしの一般観戦者

それがマフTたるマフティーだし!

マフティーせずして何が王か!!

 

150:ななしの一般観戦者

お体が触りますねも王だからこそ許されるのか。中世かな?

 

151:ななしの一般観戦者

お前らいっつもマフティーばっか話してるよな?

 

152:ななしの一般観戦者

は?悪いか?

 

153:ななしの一般観戦者

そうギスギスするな。

ほらこっちに来い、おじさんのお稲荷さんと大きなニンジンさんをあげよう。

 

154:ななしの一般観戦者

そのベビーキャロットしまえよ

 

155:ななしの一般観戦者

ニンジンだけならともかくニンジン『さん』まで言うと何故か卑猥あ染まる日本語怖いやだよ実家の群馬に帰りたい

 

156:ななしの一般観戦者

そこも日本だぞ

 

157:ななしの一般観戦者

グンマーは日本じゃないゾ

 

158:ななしの一般観戦者

てかエクゾディアでマフTのことを考察してて気づいた…てか、気になった事があるんやけど、あのウマ娘誰??

 

159:ななしの一般観戦者

誰?誰も何もマフTのウマ娘やろ?

 

160:ななしの一般観戦者

いやそうじゃ無くてな?

考察班としてエクゾディアで左手がシービーで右手がヘリオスとか色々と繋げてたんやけどそん時にもう一人おったウマ娘を不意に思い出してな

ぶっちゃけるとあの小さいウマ娘は誰なん?

 

161:ななしの一般観戦者

考察班だ!囲え!

ま、ワイもそこは気になってた

 

162:ななしの一般観戦者

せや、それは思ってた

 

163:ななしの一般観戦者

スレの関係上語るか迷ってもんな

お前考察班なのにやるやん

 

164:ななしの一般観戦者

いや迷ってただろ

思いっきりスレから逸れてただろ

 

165:ななしの一般観戦者

激マブの話題から既に100スレ近くが経過してる件について

 

166:ななしの一般観戦者

でも気になるの分かる

あのロリウマ娘誰?

 

167:ななしの一般観戦者

トレセン学園の制服着てたよな?

そうなると生徒って事?

 

168:ななしの一般観戦者

それにしては幼くね??

 

169:ななしの一般観戦者

中央トレセン学園って普通に飛び級生のウマ娘もいるよ?

片手で数える程度しかいないけど走る実力が認められたら飛び級生として入学出来るからなあそこは。

 

170:ななしの一般観戦者

実力主義は凄いな

中央だからこそ権利を獲れるのか。

 

171:ななしの一般観戦者

でもそれって外部からスカウトされた前提だよな?

正直言って中央でも無い者が中央の実力をちゃんと測れるわけでもないからその実力を測れるのは中央の関係者だけだろ?

なら外に出て飛び級生を捕まえた訳じゃんそれ

 

172:ななしの一般観戦者

中央って事になると、容易くは無いな。

 

173:ななしの一般観戦者

じゃあ中央の人間が、あのウマ娘をスカウトして、飛び級生として迎え入れたって事?

その引き金は?

 

174:ななしの一般観戦者

もしかして、マフT??

 

175:ななしの一般観戦者

マフTやろ、ここまで来ると

 

176:ななしの一般観戦者

マフTがスカウトしたってことか!!??

 

177:ななしの一般観戦者

マフTに見出されたウマ娘とか何が始まるんです?

 

178:ななしの一般観戦者

大惨事大戦だ

 

179:ななしの一般観戦者

はえー、飛び級生まで引き入れてしまうんですねあのトレーナー。

一年前の奥多摩と言いフットワーク軽すぎだろ

 

180:ななしの一般観戦者

いやいや、もしかしたらたまたまそこに居合わせた訳じゃ無いのか?

 

181:ななしの一般観戦者

ならヘリオスに後ろから抱きしめらながら一緒にシービーを称えるワンシーンに飛び級生と無関係だとでも?

 

182:ななしの一般観戦者

なにそれ尊い

 

183:ななしの一般観戦者

そんなことしてたのかヘリオス?

 

184:ななしの一般観戦者

多分東京レース場の爆声に怯えてたから抱きしめて落ち着かせたんじゃね?

 

185:ななしの一般観戦者

太陽神かよアイツ!?あ、太陽神だったわ

 

186:ななしの一般観戦者

マジ優しいなあのパリピっぴ

 

187:ななしの一般観戦者

てかあの顔は誰にでも優しそうやん?

パリピギャルって側面を取ったらただの優しいだけのウマ娘やぞヘリオスは

 

188:ななしの一般観戦者

そんなのヘリオスじゃ無いんだよな…

 

189:ななしの一般観戦者

パリピだからこそダイタクヘリオスなのは満票一致だとして飛び級生を爆声から守るために先輩として優しく対処したとしたらあのウマ娘は間違いなくマフTのウマ娘としてスカウトされた事になるよな?

 

190:ななしの一般観戦者

しかもその先にあった光景が秋天の盾を勝ち取ったミスターシービーやろ?

もし仮に彼女に憧れてるとしたらまたマフTから始まるストーリーがある訳やん?

しかもこの後ダイタクヘリオスのマイルCS控えてるし、ゴールドシチーがいきなりホープフルステークスに挑む訳だし、最近になってマンハッタンカフェの名前が分かったあの子はマフTの元で力を蓄えてんだろ?

ワイはマフT達を無料で追いかけて良いんですか?

 

191:ななしの一般観戦者

良いんやで、そのかわりグッズとか購入したり仲間に促すんやぞ

 

192:ななしの一般観戦者

いまから有給確保に勤しむワイ無事撃沈

 

193:ななしの一般観戦者

ワイなんとかマイルCSの有給確保

 

194:ななしの一般観戦者

あの、その日はたしか土曜日なんだが?

 

195:ななしの一般観戦者

おい、触れてやるなよ…

 

196:ななしの一般観戦者

おい、その先は地獄だぞ。

 

197:ななしの一般観戦者

ダイタクヘリオス頑張れよマジで

 

198:ななしの一般観戦者

ジャパンカップのシービーも気になるけど次注目集めるのはヘリオスだよな、初のG1

 

199:ななしの一般観戦者

G2の経験なく、G1とか行けるのか…?

 

200:ななしの一般観戦者

マルゼンスキーも似たような事しただろ

 

201:ななしの一般観戦者

アレは強くてニューゲームだったから

 

202:ななしの一般観戦者

つまりヘリオスはマルゼンスキーだった?

 

203:ななしの一般観戦者

マルゼンスキーのようなウマ娘がポンポン産まれてたまるかよこえーよ

 

204:ななしの一般観戦者

でもマルゼンスキーが海外行って居なくなったらマイラーとしてシービーの相対的な位置に着くのってダイタクヘリオスなのでは?

 

205:ななしの一般観戦者

流石にミスターシービーとタメを張れないだろ

 

206:ななしの一般観戦者

でもマフTなら何とかするんじゃね?

 

207:ななしの一般観戦者

もしかして、マフT??

 

208:ななしの一般観戦者

もしマフやめてやれよ

マフTが過労するからよぉ

 

209:ななしの一般観戦者

既に飛び級生を得てる時点で過労は確定だろ

 

210:ななしの一般観戦者

何気に担当増えたよなぁ。

……これ以上増えないよな?

 

211:ななしの一般観戦者

流石に増えないんじゃ無い?マフTも人間だしそのキャパシティーを考えるとしんどいのでは?

 

212:ななしの一般観戦者

でも東条トレーナーと同じデータ主義らしいから沢山のウマ娘を担当できるタスクは確保してるだろ。だから増えたところでワイは驚かない

 

213:ななしの一般観戦者

でもマフTのことを考えるとまともなウマ娘が集うとは思えない。

あ、これ悪口とかじゃ無くてね?

 

214:ななしの一般観戦者

クセが強いとかそう言うことだろ?そもそもウマ娘はクセが強い子が多い

 

215:ななしの一般観戦者

てかクセが強いからこそ強いウマ娘が中央に残る的なのあるからな

 

216:ななしの一般観戦者

そう考えるとマフTって絶対に飽きないよね

 

217:ななしの一般観戦者

しばらく安泰だわ。

これからも追いかけるよ

 

218:ななしの一般観戦者

もうシービーのグッズ売り切れかよ!早く量産して!やくめでしょ!

 

219:ななしの一般観戦者

ヘリオスも売り切れたぞ

 

220:ななしの一般観戦者

ここゲート難多いな

 

221:ななしの一般観戦者

社会的ゲート難も多いから許してやれ

 

 

 

つづく




中央は魔境(トレーナーも含めて)
※もしかしてGジェネ??

アドマイヤベガの3話分がカロリー高くてしんどかったから今回は軽めに書いた。
しばらくフワフワした小説に戻りそう。 元々フワフワしてたのかもわからないがマフティーするのは変わらないと思う。
とりあえず頑張る。
なんとでもなるはずだ(自己暗示)


ではまた


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30話

保健室の方が一番オカルトなんだよなぁ…


 

究極のごっこ遊び。

 

ぶっちゃけると俺とミスターシービーが異常だったからこそ編み出せた練習法であり、説明して欲しいと言われても他のトレーナーが宇宙ネコするレベルなので、説明したところで理解できるトレーナーはいない……と思っていたが、実は説明して納得出来る部分が存在する。

 

同じデータ主義で刻まれた数字を優先とする東条トレーナーも一度は宇宙ネコしていたが理解はしてくれた。

 

 

さて。

 

ウマ娘にはそれぞれ必殺技的なモノが備わっている。

俗に言う【固有スキル】 って奴だ。

 

ロマン溢れるだろ?

 

で、ここから何が説明出来るかと言うと、コレも一部のトレーナーにしか通じない話なのだがウマ娘に備わった固有の力がレース中に解放された時、そのウマ娘の個性に比例して解き放たれるチカラが眼に見えるらしい。

 

それは備わったウマソウルの濃さによって眼に見えやすく、必殺技として解き放たれやすいのだが、あまりにもオカルト過ぎることで否定派が多い。

 

しかし何十年とウマ娘を見て指導して来た超ベテランと言えるほどのトレーナー(玄人)からは肯定的な発言もあった。

 

まあそれでも指で数える程度だが、それだけウマ娘を見てくると分かるらしい。

 

今も中央に在席する玄人トレーナーの一人が「ワシの教え子に一人だけ見せてくれたウマ娘がいたが、基本は見えないモノだとして受け止められるため信憑性が低いのは当然だ」と言っていた。やはりオカルト性が高い故に存在しないモノとして受け止められるんだろう。

 

だがその玄人トレーナーは現役時代の嫁さん*1 が海外の化け物クラスのウマ娘とバチバチにやり合った頃に必殺技を持ってたらしく、電影弾して最後方からぶち抜いて凱旋門賞ウマ娘になったらしい。なにそれ凄く見たい。

 

一応当時の映像はあるらしいが画質の古さとか関係なく画面越しでは()()()()()にしか見えないので、見ている人々の証明にもならない。

 

だから論文に出されたところでオカルトだと切り捨てられてしまう。

 

まあその玄人トレーナーは特に気にして無いみたいで、電影弾したそのウマ娘の必殺技は今より未熟だった二人だけの若しき頃のアオハルとして胸に秘めているらしい。カッコ良すぎる。

 

 

ちなみにウマ娘を研究しているアグネスタキオンは肯定派だ。

 

「元々ウマ娘は謎が多い生き物だからねぇ。そもそもウマソウル以前に人間とは変わらない肉体から放たれる筋力だって説明がつかないのだよ。その摩訶不思議から引き出される必殺技とやらも今のところ証明には至らないが、絶対にありえないと断言できた証明も生まれてない。 現に必殺技の有無についての話が出ている時点でゼロでは無いのだからね、カボチャのトレーナーくん」

 

 

ウマ娘の練習を遠目から眺めながめる横顔はまだ中等部の子供だったが、大人じみた視点は持ち合わせる彼女の言葉は「何故?」を促させてくれる。その不思議を研究するウマ娘は必殺技に肯定的だった。

 

あとウマソウルの濃さに比例して放たれる必殺技の論文もちゃんと読んでるらしい。正直に言うとアグネスタキオンとは話してて面白かった。まず俺がこの世界がアプリゲームだと知っている憑依者として摩訶不思議を体現してるからだ。だからあり得ないと切り捨てない。まあそれ故にタキオンから興味を持たれてしまったのは失敗したが。あとモルモットにはならないぞ。

 

ちなみにマンハッタンカフェも肯定的で必殺技の存在は認めている。アグネスタキオンと同意見なのは嫌なカフェだったがウマソウルの濃さによって、その名前に相応しかった光景が必殺技として映し出されている。でもその必殺技は本人の努力とソウルの個体差。

 

つまりウマソウル、ガチャ。

 

 

「事前登録勢で終わった俺はなぁ…」

 

「?」

 

現れるウマ娘は史実を元に創り出されていることを。だがに関しては全く知識も無いし、12月に有マ記念があるって情報くらいしか分からない。もし競馬に詳しく、馬の事に詳しかったらどれだけのアドバンテージになったのか。

 

だからミスターシービーって馬が史実ではどれだけ凄いのかもわからない。しかしこうして三冠バになったくらいだらそれ相応に史実は強かったのか?それとも今あるこの功績は史実よりも下回る実績なのか?それともマフティーとして運良く史実以上を勝ち取ったのか?元の情報も知らないから測れない。

 

けど…ここにいる彼女は、違う。

 

ミスターシービーだけど、そのミスターシービーではない。

 

ウマ娘として走るのが好きな女の子だ。

 

 

「ミスターシービー、今回は大外枠で大阪杯を走ってもらう。理由としては今年の大阪杯はハイペースだったから今回の調整材料として利用価値が高い。今のスタミナ量に合わせてロングスパートのタイミングを早めた上でコーナーを修正する、いいね?」

 

「うん、ジャパンカップではパワーがあるウマ娘が海外から来るもんね。しっかりコーナリングを仕上げれば隙は無しかな?」

 

「…伸ばせるところはまだ伸ばす。君はまだまだコレからだ」

 

「!!……あははは、言うねー!ならもっとだよね」

 

 

俺はロープを取り出して、それを握る。

 

ミスターシービーもロープを受け取って握りしめて目を閉ざすと………立っている場所を中心に一瞬だけ世界が歪み、宇宙空間に投げ出された感覚と共に世界が動いた。

 

流れ星達が俺たちを中心に円弧を描くとその星々からウマ娘が降りてくる。

 

 

目を開く。

 

ミスターシービーの世界は今大阪杯の時と同じ臨場感が、マフティー性に触れた俺たちにしか見えないものとして映し出された。

 

 

「ッ〜! よーしっ!!」

 

 

ミスターシービーは心底楽しそうに笑みを浮かべる。

 

 

「…」

 

 

出会った時から……見ていた。

 

ターフに楽しさを描き続けたくて走るそのウマ娘の笑みはあの頃から変わらない。スカウト受ける前からいつだってごっこ遊びの様にターフを走っていた子供の様だった。

 

当時、彼女の憧れは皐月賞。もう果たされた夢だが母トウショウボーイと同じ栄光を求め、ミスターシービーはそこに夢見続けた。

 

でも彼女は「まず自分が楽しまないと走れない」と独りよがる。

 

それが産まれつき備わっていたミスターシービーと言うウマ娘の原動力、またはウマ娘として走るための要求(ベクトル)は他のウマ娘と違った。

 

しかし、己が生まれつき抱えて来た、ターフに楽しみを描きたいその使命感(マフティー)は実力主義のトレセン学園の環境にそぐわない姿勢だった。力強い走り。あらゆるトレーナーに期待されるウマ娘。しかし見て欲しいのはそんなミスターシービーでは無い。

 

彼女は、ミスターシービーらしさを求める。

 

それは己にも、他者にも、ターフに楽しみを描く要求に応えてくれるワガママな自分。しかしそれがミスターシービーだからと独りよがりを止めずに、許される限りターフに楽しみを見出して、走って、走って、皐月賞の様なレースをごっこ遊びにして走って、雨が降りそうな夕焼けの中で俺に出会った。

 

ミスターシービーはそんなウマ娘。

 

 

三女神から授かったこの呪い()が彼女の求める光景や願いに反応した。

 

VRゲームの様に作り上げたターフの中に自己投影できる彼女の特技が、この呪い()によってそれを加速させた。ウマ娘の幸せを望む三女神の要求が、マフティーとしての使命感が、そのウマ娘の存在価値が、干渉して究極のごっこ遊びを作り上げた。

 

 

俺や彼女にとって、とても便利な世界(独りよがり)

 

ハサウェイの様に、なんとでもなるはずの世界(独りよがり)

 

 

言葉は便利な 形 となり。

形は三女神の 証明 となり。

証明は使命感としての 狂気 になり。

狂気はニュータイプとしての 力 になり。

その力はウマ娘のための マフティー となる。

 

 

これは、見えないモノ。

 

故にオカルトパワーとなんら変わりない。

 

果たされた先でも、果たされようとする過程でも、三女神の呪いが俺達をそうさせた。

 

今は便利に使われる力だ。

反則技に近い、賜物だ。

だがマフティーたらしめるために俺に躊躇いはない。これはマフティーたる俺の力だから。

 

 

 

「!」

 

 

何もない学園のターフ。綺麗に手入れされた芝と柵しか無い場所だが、マフティー性に触れたミスターシービーと俺にとっては公式レースで扱う様なゲートが見える。そこに収まった大外枠のミスターシービーと、周りにウマ娘が身構えている姿も見える。

 

ただし表情は暗がりで見えない。

 

それもそうだ。

 

その走りだけが究極のごっこ遊びとして現れているから表情も感情も分からないから。

 

けど大事なのは、走るウマ娘がいる事。

 

大阪杯と同じ空気感が広がり、その緊張感の中で見えないゲートが開いた。

 

大外枠のミスターシービーは走る。

 

最後方に位置付き、そしてタイミングを測る。

 

早めのロングスパート、G1レベルのウマ娘に迫り…そしてゴールする。

 

 

「はぁ…! はぁ…! はぁっ…! あ、はは! はぁ…! あはは…! えへ、へへ! はぁ…!」

 

 

同じ臨場感の中で彼女は手を抜かない。

 

いつだって公式戦の様に注ぐ。

 

だから息が荒れる。

 

普通の練習以上の緊張感を駆け抜け切った、荒れる息を整えながら、彼女は笑う。

感情の激しさが___伝わる。

 

 

__楽しかったから。

 

__ミスターシービーたる私は楽しかったから。

 

_もう一度走りたい。

 

__もっと! もっと! 走りたい!

 

__まだまだ楽しいはずだ!

 

__え?ジャパンカップが近い?

 

__なのにこんな激しい調整で大丈夫だって?

 

__はは! 何を言うか!!

 

__そんなの関係ないよ!!

 

__私がマフティーに求めて応えられているんだ。

 

__私がマフティーと走っているんだ。

 

__私の独りよがりに世間の声など意味が無い。

 

__これは私のごっこ遊びなんだ。

 

__余所者が邪魔するな。

 

__ミスターシービーを邪魔するな。

 

__心配なんて必要無い。

 

__このアタシに心配は不要。

 

__なぜなら問題無いから。

 

__それは…

 

 

__だって…

 

 

___だって…!

 

 

___だって…!!

 

 

____だっって…!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マフTのマッサージで全回復だからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、意識共有の中で聞こえとるからな?」

 

「あっははは! 人バ一体だからね!」

 

「純粋に感受率が高いだけなんだよなぁ…」

 

「つーまーり? アタシとマフTの相性が頗る良いって事だよね!」

 

「誤解招くな。 ウマソウル(ミスターシービー)の濃さで感受率が高い事を示してんだよ」

 

「ふーん…?? そんなこと言うんだ…?なら……」

 

「!??」

 

「すぅぅぅぅぅ…」

 

 

 

 

 

 

 

すき!

すき!

好き!

好き!

すき!

好き!

好きぃ!

好きだよ!

マフTが好き!

いつもありがとう!好き!

アタシ! マフTの事が大好きだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アアアアアアアアアアアアアアアア!!

いきなりクソデカ感情を打ち込むなぁ!!情報量が多くて神経がぁぁ!んぎゃァァァ!!」

 

 

「あっはははは!あはははははは!!!うぇ!か、かぁ、カボチャ頭が回って…る!! ぎあっあっはは!なんか知らんけどミノフスキークラフトも勝手に作動して!!あっははは!無理ぃ!!あっははは!腹痛くて立ってられぇない!あっはっはっはっは!面白すぎるてアッハハんんぐぅっ!?

げほぉ!ぐっ、おぇえっ…!

げっほ!げっほ!ッッ、げっほぉぇぇ!!!」

 

 

 

 

きたない(確信)

 

 

「また、先輩とあのバカボチャやってるよ」

「うぅぅぅ…! マー、フー、ティー!」

「シービーさん、子供の様ですね……」

「あの、何が起きて…??」

 

 

 

慣れた3人からは「ああ、またか」と感じに何も知らないアドマイヤベガは混乱している。

 

そして…

 

 

or2 チーン…

orz げっほ…

 

 

二人揃ってうつ伏せターフに倒れる。

これはひどい。

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

 

ミスターシービーはレース後に笑いすぎて詰まった呼吸を整えて、俺は突然入り込んだクソデカ感情(毒電波)を処理しながらキャパを整える。

 

いつだったかマフティーダンスでミスターシービーを笑わせて過呼吸に追い込み、俺はカボチャ頭のミノフスキークラフトに髪の毛を引っ掛けてしまい、そのまま同じ床に撃沈した時を思い出す。

 

自分にも反省を促す好プレーを思い出しつつ立ち上がり、マフティースイッチをオフにして意識を切り替えて究極のごっこ遊びを終える。大阪杯の再臨で幻影として走ったウマ娘も視界から消え去れば、ピクピクしているミスターシービーと、何も飾られていない学園のターフに戻る。

 

 

「レース結果が、ええと、一着で、2番手の右側を、ええと…」

 

 

タブレットを取り出してデータを刻む。ミスターシービーのイタズラが原因で頭に残った記憶がごちゃごちゃしているが、マフティー性でカバーしつつ入力を終える。

 

立てていたカメラスタンドの録画も止めてから俺は肩下げバックから冷却スプレーを取り出してからミスターシービーの耳の付け根を狙って吹きかける。すると悲鳴を上げながら数メートル先まで転がって行き、そして尻尾をピーンとさせたまま猫のようにシャー!と威嚇する。

 

猫味ある顔だから余計に猫だよなコレ。

 

 

「おいウマ猫娘、この後どうする?」

 

「フー!! 散歩に行ってくるニャァー!」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

「シャー!」

 

 

 

高等部になっても子供っぽさの抜けないそんな彼女を見送る。

 

そして脇腹に強烈な一撃が入った。

 

 

「まー、ふー、てぃー! ウチだってマルちゃんエントリーするんだからウチにも構わんとイヤイヤー!」

 

「ぐぇっ…いでぇぇ…よぉ…」

 

 

ウマ娘パワーで突進して来たダイタクヘリオスが練習を促してきた。

 

ゴールドシチーも呆れた様にジト目の視線を突き刺し、アドマイヤベガもウマたらしだったことを思い出しながら元々のジト目にジト目を重ねて突き刺し、マンハッタンカフェはイマフレと会話をして俺を助ける気はない。そんな俺たちの練習風景。

 

 

担当が増えてからこんな感じだ。

 

練習はちゃんとしてる。

 

でもウマ娘パワー相手に体が持つかは、別だ。

 

 

でもそこに苦しさは無い。

 

呪いに苦しんでたあの頃よりも、俺はトレーナーを出来ているはずだから、頑張れるんだ。

 

 

 

 

そうだろ?

 

マフティー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、マフT」

 

「なんだシービー?」

 

「マッサージにその水素水いる?」

 

「普通いらない。 まあ喉乾いた時に飲んだりとか、あとローションが硬い時に混ぜて柔らかくする時に便利かなと」

 

「贅沢だねぇ……ぐぇぇ、そこ効くぅ…」

 

「今回は大外枠から走ったし、内側へ切り込んだ脚首に負担が掛かるからな。 絶対疲れなんて残させないから」

 

「ぁぁ、そこぉぉ…うへぇへぇ…だぁめぇぇ、まぁふぅでぃにぃだぁめぇにぃさぁれぇるぅぅぅ…」

 

「蕩けすぎだろ」

 

 

全身の力が抜けてるならやりやすい。

 

あと彼女がアスリート選手だからこそピンポイントで前世の技術が活かせるのは大変ありがたい限りだ。疲れの溜まりやすいポイントを重点的にほぐしながら、活力の沸くツボを押しつつ施術を続けていく。

 

特に足腰。若いうちは湯船に浸かって、しっかり寝れば回復するけどアスリート選手は別だ。若いうちでもちゃんとケアはしないとならない。怪我につながる。特にウマ娘は疲れを残した状態での練習は危険であり、事故率が高い。

 

一応この学園にはマッサージ師がいる。あと将来的にマッサージ師を目指すウマ娘の生徒もその手のプロから手解きされながら、同じ生徒に施術を行ったりと技術を教わっている。

 

しかしトレーナー自身もそこら辺の技術は必要だと思ってる俺だが、その技術を習得するかは別だ。

 

 

なんというか…ウマ娘は女性だけしかいない。

 

 

さて、あとは何が言いたい大体かわかるだろう。

 

男性トレーナーの場合異性に対するリスクが潜んでるこの職業。そのため男性トレーナーがその手の技術を学ぶケースは少なく、仮に学んだとしても発揮する機会は無いに等しいと考える。あと必須科目として課せる養成施設は少なく、任意での習得になる。点数は増えるが基本女性トレーナーくらいしか学ばないと考えた方がよい。なのでマッサージが出来るトレーナーってのは結構貴重だ。ちなみに前任者は習得してない。学んだ記憶がない。管理能力は高いのに。

 

 

「ぅにゃぁぁ……」

 

「ここは痛いか?」

 

「んー、あまりぃ…」

 

「…こっちは?」

 

「…!」

 

「ん、わかった」

 

 

少し尻尾が動いたミスターシービーの反応を見て触り方のアプローチを変える。

なに、すぐ良くなる。

 

名前はそのままだが"スポーツマッサージ"は普通のマッサージとは違う。

怪我予防、怪我療治の効果が高く、パフォーマンス向上も見込める。

 

俺にとっては過去の賜物だけど、男女問わず色んなアスリート選手の施術は行って来たつもりだから、大事な担当ウマ娘の施術くらいはこなしてみせる。

 

しかし…

 

 

「ぁぁ、そこ良い……ぁ、良くなった…かも」

 

「…」

 

 

ミスターシービーの回復力が高い?……と、思っていた時期が俺にもあった。

 

もちろん彼女の回復力は高い。

 

俺がまだ呪い苦しんでた頃、この掌でウマ娘に触れることが怖くてマッサージなんて出来る筈もなかった。だからミスターシービーもトレセン学園のマッサージ師に任せていた疲労回復を行なっていた。もちろん集まっている者達はプロの技だから疲れを取る見込みは高い。まあそれでも完璧とは言えないため、体の疲れを取るには本人の努力も関わる。しっかり寝て、しっかり食べる。

 

だがミスターシービー曰く、俺がマッサージした方が一番疲れが取れると言っていた。

 

これはお世辞とかでは無く、本当に俺の方が誰よりも効果的と言っていた。

 

なんならゴールドシチーもそう。

 

施術後の調子が全く違うと言っていた。

 

あ、ダイタクヘリオスはわからないらしい。

 

 

「……ここ、痛いか?」

 

「んー、少し……響くかも…」

 

「そう…か」

 

 

医療系の国家資格を勉強して資格保有者になった。

 

プロかどうかともかく恥ずかしくないレベルの施術はできてるつもり。

 

だから中央トレセン学園に所属するマッサージ師もプロとして変わらない筈だ。

むしろ俺より上手いかもしれない。

 

 

もう一度言う。

ここは中央だ。

エリート達の、体を預かる立場にいる。

 

適当なマッサージ店とは違う。

 

だから下手な筈がない。

アルバイトを雇わない限りは。

 

 

「…」

 

 

 

この世界は今の俺にとって現実だ。

 

でも、元がアプリゲームだ。

 

ウマ娘と言う謎は多い。

 

それはウマソウルも、必殺技も、人参が好物なのも、人間以上の筋力も、設定も何もかもだ。

 

けどそれは、この世界の人間にも言えること。

 

この世界の人間は、俺の前世と同じなのか?

 

同じだと思う。

変わらないと思う。

 

価値観とかは、まあゲーム特有の設定があるから俺の知ってる倫理観とか色々食い違いがあるかもしれないけど、そこまで気にしすぎないで良い部分と比較すれば現世と前世に大差ないと思っている。

 

だが…異常な事がある。

 

 

俺はダイタクヘリオスに良く横腹に突進されて痛めることが多い。手加減はしていると思うけどウマ娘のパワーは尋常じゃない。故に手加減してるけど「メラゾーマでは無い、メラだ」がリアルに起きてる可能性は高い。

 

この世界の人間……の、肉体。

 

何かと丈夫過ぎるのだ。

これは、もしかしたら…

 

 

「(ウマ娘の血が流れてるからか…?)」

 

 

いや、わからない。

 

それは断言できない。

 

でもこの世界の基準値を考えると俺が生きていた前世よりも肉体面での強固さが違っている気がする。 俺はそこまで筋肉質じゃないし、前任者がゼリーばかり食べて痩せ細っていたような体付きだった。あの頃よりはかなり時間は経って健康体だが、少食を続けるこの肉体はお世辞にも鍛えた体とは言い難い状態だ。

 

けど体の真正面よりも、弱い横腹からダイタクヘリオスの突進を受けて骨の一本や肉離れなど起こしてないこの世界の体は前世よりも強い。不思議なんだけどそれがゲームの世界基準だからと納得するしかない。それこそオカルトパワーを『正』と認めない人々の感覚と同じである。俺からしたらこの肉体がオカルト(可笑しい)と受け止める側だ。

 

 

__じゃあ、つまりだ。

 

 

この話をした上で俺が何が言いたいのか?

 

丈夫な体にも筋肉量や骨の強度はもちろん、神経や血液、またそれを動かす脳みそ。

 

体の凡ゆる部分が弱そうなこの肉体でも認識以上の力を秘めている。

 

それはこの世界に生まれ育った人間の身体(からだ)が、前世で培った俺の知識や想像よりも異端だと言うこと。 順応する、それが人間という生き物ならばウマ娘と共存できる強い体を持つ人間に成長していると言うことだ。それでも力の差は歴然だがギャグ補正として語るには収まらない物理的干渉ということだ。

 

 

この世に降り立ったのは俺は【魂】だけ。

 

【肉体】は前任者の続きである。

 

 

なら、この世界の人間の体は前世よりも変わっている。

 

そしてウマ娘の肉体も未だ研究が続くレベルで変わっている。

 

 

 

__結論を言う。

 

 

 

俺のマッサージは前世の人間に施して来た技術である。 言わばパラレルから持ち込んだ技だ。

 

そして前世とは体の作りが違う、この現世の生き物達。 この世界のウマ娘や人間たち。

 

 

そこから叩き出される回答。

それは…

 

 

 

「んんー!ふぁぁ…寝てたぁー!」

 

「おはよう。 体はどうだ?」

 

「うん! めっちゃ動ける!疲れて無い!」

 

「そうか」

 

 

 

前世から持ち込んだこの技術は、ウマ娘に肉体に対して大いに影響を与えてる事だ。

 

そうじゃ無ければ説明がつかない。

 

 

 

「じゃあ今日はここまでだ」

 

「うん!ありがとう、マフT!」

 

 

 

この世界の基準で習得されたマッサージ技術はこの()()()()()()()()()()()()()()編み出された。

 

だがこの世界でない前世のマッサージ技術はこの世界に於いて施術が異なる故に、この世界の生き物の肉体にそれ以上の効果をもたらしてしまった。

 

その結果がほんの2時間程度の施術で()()()()()()()()()()()()と言うことだ。

 

 

 

「………」

 

 

 

ウマ娘は不思議な生き物。

 

アグネスタキオンは言っていた。

 

筋肉の作りも、体の中にある細胞も、骨の強さも、時速70キロだって出すことが出来る説明付かない肉体も、全てが謎であることを。

 

俺はここがゲームの世界だと知る。

 

しかしここは現実。

 

前世が介入する余地なんか無い。

 

この世界が作り上げたルールとして、この世界が育んだ基礎が、全てだ。

 

それが解明されない話が多くても、それはこの世界にとって現実であり、この世界から始まる研究対象であり、この世界で続くだろう疑問であり、この世界の絶対とする正しさから。

 

だから、俺は戸惑いながらもそれが普通なんだと順応していく。それは何度だってこの世界で繰り返してきたのだから。

 

 

 

「……?」

 

 

片付けていると携帯から音が鳴る。

 

確認する。

 

ダイレクトメッセージだ。

 

 

 

《マンハッタン》

お疲れ様です。突然すみません。

あなたに見せたいモノがあります。

学園のターフにいます。

もし忙しければ明日でも構いません。

 

 

 

俺は『10分後に向かう』とメッセージを刻んで手早く片付ける。

 

結局今日も使わなかった水素水を飲み干してからカボチャ頭を被って、トレーナールームを出る。

 

少し急ぐ程度に足を早める。

 

そしてターフまで到着するとジャージ姿のマンハッタンカフェが星空を見て待っていた。

 

 

「カフェ?どうした?……練習してたの、か?」

 

「あ、マフT、突然で、すみません」

 

「いや、構わないが…どうしたんだ??」

 

「はい、あのですね…自主練してまして…」

 

 

マンハッタンカフェは下を向いて、足を差し出すように少し前に出した。

 

 

「もしかして、爪割れた??」

 

「いえ……違います。 逆です。 何も割れてません。 逆なんです」

 

「?」

 

「私は前に深く爪を割ってしまった走り方をしたことあります。 そして、先程誤ってその走りをやったのですが……割れずに、済んだようです…」

 

「…え?」

 

「爪…どうやら、昔よりも…強くなっているかも知れません」

 

「!」

 

 

顔をあげる。表情の変化がミスターシービーやダイタクヘリオスほど激しく無いウマ娘だが、とても嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

 

「ふふっ…マフTが、毎日10分ほど足のマッサージと、定期的な物理治療があったから、それが結果を出してくれた、みたいです……」

 

「!!」

 

 

 

マンハッタンカフェは爪が弱過ぎるウマ娘だ。

 

走り方を間違えると簡単に割れてしまう。

 

彼女の爪はそのくらい脆く、悪化しないように長い長い治療を続け、足先に負担のかからない走り方も強制され、現役で走るためには根気を必要とする処置と付き合い続けなければならない。

 

マンハッタンカフェはそのくらいのハンデを持ち合わせていた。 だから少しでも回復するために足のツボを押したり、血流を良くしてあげたりと爪が少しでも、ほんの少しでも良くなるように、強くなるように、毎日と言って良いほど彼女の足をマッサージしていた。

 

 

「それで、少しだけ、見てほしい…走りがあります」

 

「見てほしい走り?」

 

「はい、マフTなら、すぐにわかるかと…」

 

「分かる?」

 

 

そう言ってマンハッタンカフェは走り出す。

 

爪先に負担のかからない走り方。

 

ローペースに走り、少しずつ調子を上げる追い込みに近い差しの脚質。マンハッタンカフェは長い距離で競わせる方がもしかしたら結果を出しやすく、爪の脆さと付き合いやすいかも知れない。そのかわり常に爆速を必要とする短距離な走りはタブーだ。彼女には危ない。

 

だからマンハッタンカフェにはローペースで走り続けてもらい、スタミナを付ける練習ばかり行っている。たまにミスターシービーと並走してレースの感覚を鍛えたり、調子の悪い日は見学している。あとはイマジナリーフレンドが見えるマンハッタンカフェだから、ミスターシービーの究極のごっこ遊び(オカルト)を見て学んだりもする。

 

そんな感じに爪の脆さを意識したうえで、治療を進めながら彼女なりに基礎作りを3年を予定して作り上げていたのだが…

 

 

「!!?」

 

 

マンハッタンカフェを見る。

第3コーナーに入るタイミングでスパートを掛けた。

 

 

 

「なっ!? カ、カフェ……!?」

 

 

 

まだデビューもしていない彼女にとって、ロングスパートは厳しすぎる。

 

そのためのスタミナは彼女にあるかもしれないが、ペース配分と脚の負担を測りながら最後までそのスタミナを無駄なく全てを使い切らなければならない。身体能力だけで演じれない走り。

 

 

無駄のないロングスパート。

 

それは天才だから出来る技術。

 

 

 

__天才。

 

 

俺にとっての天才はミスターシービーを連想する。

 

彼女はレースのセンスが高く、追い込みバとして全てが詰まっている最高のウマ娘だ。

 

無敗の三冠バが証拠だろう。

 

だから、ミスターシービーを天才と俺は言う。

 

 

なら、今、マンハッタンカフェが見せてくれるあの走りはどうだ?

 

センス=天才が直結するとは限らない。

 

感覚の良さも大事。

どれだけ自分を把握してるのかが重要だから。

 

でも、けど、あれは…

 

 

 

ミスターシービー????」

 

 

 

思わず、カボチャ頭を外す。

 

良く見える。

 

見えてしまうから、分かってしまう。

 

ああ、間違いない。

 

俺が言うのだから間違い無い。

 

あの走りは……

 

 

 

「はぁ…はぁ……マフT、はぁ…」

 

「……カフェ、お前…いつのまに」

 

 

言葉が出ない。

 

驚いているから。

 

カボチャ頭を被ればマフティーとしての言葉は出せるだろうが、俺は彼女を見る。

 

 

 

「わかり…ました…か?」

 

「……ああ。 分かったよ。 理解できた」

 

 

なんとか冷静なフリをするが理解が少し追いつかない。

 

だが目の前にいるウマ娘は演じた。

 

俺がよく見て来た走りを。

 

 

「そう…ですか。 爪も、大丈夫です。 でも、無茶はダメですから、今のは、今回だけにします。 けど、証明になったのなら、私も、あなたに誇れるウマ娘に……だから…」

 

 

息を整えた彼女は顔を上げて俺を見る。

 

マフTを、マフティーを見て…

 

 

「走れます。 マフティーのウマ娘として」

 

「!」

 

 

ターフに秋風が舞い込む。

 

俺と彼女以外いないにこの場所に摩天楼が揺れ動いたから…

 

 

「カフェ」

 

「はい」

 

 

すこしだけ聞き取りつらい、彼女は特有の静かな声だが、この場に二人だけしかいないターフだから余計なモノが割り込まない。

 

 

「今の走り、今の爪の状態と合わせて調整して、もし先程の走りが君の強さに直結するのなら、その()()に考えがある」

 

「はい」

 

「カフェは賢いからこれは先に言っておきたい。 その上で自主練でも、イメージトレーニングでも、意識してその影に投影し続けてほしい。 出来る?」

 

「はい、大丈夫です。 何故なら……私はあなたの担当の……2番目ですから…」

 

 

 

そう言って彼女は笑みんだ。

 

俺は彼女の頭を撫でる。

 

黒髪美人なその肌触りからほんのりとコーヒーの香りが広がった。

 

されるがまま受け入れて、ほんのりと頬を染めて彼女は目を細めて委ねる。

 

数秒ほど撫でたその手を下ろしてから、カボチャ頭を被り…

 

彼女に言い放った。

 

 

「明日から追い込みとしての練習法を考える。 だから君が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__天才(ミスターシービー)の走りを引き継げ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女だからこそ出来る脚質がある。

 

その摩天楼は恐らく、ミスターシービーの頂きに届くのかもしれない。

 

そのビジョンは、この先で起こり得るか?

それとも一時(いっとき)にユメヲカケルだけなのか?

 

 

それは俺の手腕と、彼女の走り次第。

 

でもこの世にウマ娘の想いが"継承"される概念があるなら、マンハッタンカフェは「もしかしたら」に期待させてくれるかもしれない。

 

 

 

 

つづく

*1
フウウンサイキ




彼女の代表とするスキル"登山家"は『坂路』に強い効果を持ち、同じイニシャルの『M』を背負う漆黒の摩天楼のウマ娘。 マフティーのウマ娘としてミスターシービーの2番目に続いた彼女の名は次世代ステイヤーとしてターフを描き、その姿を幼き一等星もまた同じように眺めている。何故なら追い込みバは常にウマ娘の後ろから追いかけ続ける役割を持つから、そうなるのは必然だった…




みたいな妄想と共にカフェ強化です。

一年以上の期間をミスターシービーと並走したり、感受率の高い中で見学としたりと、常にミスターシービーを見ていたお陰で追い込みの適性を上げながら、デビュー前から爪を治療したり補強したりしてたのでデビュー後は爪に悩まされず走りは安定するでしょう。

またミスターシービーが後続のため土台を作りながらマフTの呪いを救ったので、マフTもトレーナーとして安定した働きが出来るので、このマンハッタンカフェはアプリ版以上に最高のスタートを切って走れる状態です。

正直に言えば。
作者もこのマンハッタンカフェがこの先どうなるのかわからない。



ちなみにマッサージ技術に対する前世と現世の件、あと人間の体が丈夫や解釈はタグの通り『独自設定』からです。
まあウマ娘に蹴られて生きてたり、王子様に夢抱くプリンセスなウマ娘と3年間付き合ってきたトレーナーがいるくらいだし、へーきへーき。

ではまた


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31話

お ま た せ

今回は短いです(スマーン!)



 

 

「はっ…!はっ…!はっ……もう、一本!」

 

 

走る。

 

学園のターフを走る。

 

秋空の下で芝を蹴る。

 

何故なら来週はマイルCS。

 

楽しみだけど、大事な、大事なレース。

 

マフTと約束した、三冠を得るためのレース。

 

しっかり温めて、仕上げないとならない。

 

 

「はっ…!はっ…!…まだ、行けるっしョ!!」

 

 

 

だからこうして自主練も怠らない。

 

でも前まで怠っていた方だ。

 

週2だったのが、週6ペースくらい。

 

だから自主練は最近になって多くなった。

 

勉強は怠け癖あるのに、走りは真面目だ。

 

皆は私を見て「変わったね」と揶揄ってくる。

 

かもしれない。

 

ウチはそこまで勤勉じゃない。

 

でもマイルCSに()ける想いはマジだから。

 

そのために温める。

 

 

「?」

 

 

視線を感じたので、周りを見渡す。

 

すると誰かが見ている。

 

誰だろうか?

 

マフTでもシービー姉貴でもない。

 

カフェちんでも、シチーんでも、アベちんでもない、知らないウマ娘。

 

いや、違う、逆だ。

 

知らない人はいない。

 

むしろ誰もが知る、有名なウマ娘とエンカした。

 

 

 

「あら、もしかしてお邪魔虫かしら?」

 

「!」

 

 

 

ウチの憧れ(シービー)と何度も戦ってきた日本最強を誇るウマ娘。

 

 

「マ、マルゼンスキー?」

 

「ええ、そうよ。 後輩ちゃんがすごく元気だったから勝手に見てたわ。 もしかして気が散ったかしら? ふふ、ゆるしてちょんまげ」

 

 

最強で最恐の走りを見せるスーパーカー。

 

海外に行くことが決まった日本のウマ娘。

 

 

「えっと、こんにちは……ですね?」

 

「いいのよ、そんな畏まらないで? あなたらしくて良いのよ、次世代のマイラーさん」

 

 

マルゼンスキーは楽しそうに笑う。

 

 

「じ、次世代のマイラー…?」

 

「あら、知らないの?シービーちゃんが言ってたわよ。ダイタクヘリオスは次世代のマイラーとして名を馳せるウマ娘だって」

 

「!」

 

「高く評価してたわ、あなたのこと。だから海外へ行く前にこうして一度あなたを見てたかったの」

 

「えっと! その…こ、光栄…です、ます!」

 

「ふふふ、畏まる必要なんて無いわ。ええとパリピ語だっけ?あざまる水産って、イケイケじゃないの!うぇぇぇぇい!」

 

 

高等部の2年生が子供らしく盛り上がる。

 

けど手が『∞』を描くように動いている。

 

あと声のトーンもなんか違う。

 

パリピって言うより雰囲気が激マブだ。

 

なるほど、これがマルゼンスキー…

 

 

「あの、ウチのこと、本当にシービー姉貴が?」

 

「うん、本当よ。あなたのことすごく褒めてたし、すごく期待してたわ。自分に負けないくらい面倒で、でもその分誰よりも一途で、とても心優しいウマ娘だって」

 

「ぁ、えっと、そ、そうなんだ……えへへ」

 

「ふふふっ」

 

 

そうか、シービー姉貴がそんなことを。

 

そんな風に褒めてくれたのは初めてだ。

 

素直に嬉しくなる。

 

 

「それでヘリオスちゃん、私も走って良いかしら? 実は走ることが目的で来たのよ。海外へ飛ぶ前に最後くらいはね?そしたらあなたがいたからつい眺めてちゃった」

 

「え? あ、はい! どうぞどうぞ!」

 

「ふふふ、ありがとう。 あ、せっかくだから並走しましょ?」

 

「うぇ!?」

 

「お姉さん、後輩ちゃん見ると嬉しくなっちゃうの。 一緒にかっ飛ばさない?」

 

 

普通ならパリピとして家紋(カモン)ベイビーだけど、初対面かつ最強を目の前にして戸惑う。

 

あと急なお誘いは激マブの特権。

 

だがここで断っても、怒らないと思う。

 

すごく優しい先輩なのは知ってるから、あまり気にしなさそうだ。

 

でも…

 

 

「ヨロ、たん、うぇぇーい!」

 

「いぇぇぇい!」

 

 

せっかくのチャンスだと思う。

 

この人の…

G1ウマ娘の走りを近くで見れるのは。

 

だからパリピ語で誤魔化しながら、緊張を紛らわせて、並走することにした。

 

 

 

 

そして、走った。

 

マルゼンスキーは早かった。

 

ミスターシービーか、それ以上だ。

 

このスーパーカーは、本物だった。

 

 

「並走は楽しいわね! 心躍っちゃう!」

 

「はぁ…はぁ……げっほ…」

 

「あー、でも。 あまりヘリオスちゃん走るとマフTさんに怒られちゃうかしら? 正直彼には頭上がらないもの」

 

「え?あ、その…大丈夫です。 マフTがインしてるなら全快するので」

 

「そう? でも少し休憩しましょ」

 

 

そう言って芝の上に座る。

 

なんとか追いつこうと走って、でも追い付かなくて、ウチはこんなに息が上がってるのに、マルゼンスキーは息一つあげず額にほんの少しの汗が残っているだけ。

 

実力の差は歴然。

 

これが中央で最強のウマ娘…

 

 

 

「スタートダッシュ、とても滑らかで良いわね。代わりに直線上の加速力にムラがあるけどそれは多分疲れてるだけで、コンディションが最高なら先頭を維持してる限りシニアでも通用する。なにより最高速度を出してからの減速が全くない走り。ふふ、良く集中してる証拠よ」

 

「え?」

 

「だから、もっと早くなれるわ」

 

「!!!」

 

 

アドバイスを貰った。

 

唐突で驚いたけど、最強のG1ウマ娘が言うのならそれは間違いじゃない。

 

もっと早くなれる。

 

その言葉に、心臓は早まる。

 

彼女は続けた。

 

 

「力みを捨てて、でも前へ。そして前へ走る。恐れずに、荒ぶらずに、でもウマ娘としての走る楽しさを欲する。それが逃げとしての強み。目の前の景色を譲らない。それが逃げとしての強さの秘訣。後方でコレは己のレースだと周りに知らめたい独占欲とは違う。逃げは前へ、前へと進み、先頭を欲する。楽しむのはまず自分であり、周りについて来い、お前が付いてきやがれ。そう訴えるように掌握し、全体を無理やり率いて…1着を食い破る」

 

 

ウチはそこまで賢くない。

 

飛び級のアドマイヤベガにすら劣る。

 

地頭は良くない、ノリで生きている。

 

でも、最強の言葉は、わかる。

 

 

 

スピードイーター…それは共に走るウマ娘の速さを喰らうプレッシャーラン。それはマイラーとしての精神力と加速力で距離感覚を狂わせる」

 

「スピードイーター…??」

 

「ただ全力で走る技じゃないの。これは後方のウマ娘を無理やり追いつかせようとするプレッシャーラン。でもそのかわり自身の走りと、その強みを忘れずターフに乗せる必要があるわ。どれだけ己の持てる強さを『促せる』かに懸かっているの」

 

「……その、ウチにできるかな…」

 

「マフTのウマ娘なら、出来るわ」

 

「!」

 

 

 

 

断言する。

 

 

 

 

「ミスターシービーが出来たもの」

 

 

 

 

 

__追いついたよ!マルゼンスキー!!

 

__あんたが正しい(絶対)と言うのなら!

__アタシが勝って描いてみせる!!

 

__勝つのはアタシだ!!

__そしてマフティーだァァァァ!!!

 

 

 

 

「プレッシャーが襲いかかった。 感じたことがないほどの憤りが後ろから突き刺さった。 距離適正なんて関係なく、ただ一番前は許さないとばかりに促されてしまった。 その先を諦めたのなら、譲らせないって」

 

「…」

 

「ミスターシービーはそれだけの想いを乗せて私に勝ったわ。マフTの想いと、マフティーとしての思い。そのレースに乗せた」

 

 

近くで見ていた。あんな風に走るミスターシービーを初めて見た。

 

絶対に勝ちたい。

 

キミと(マフティーで)勝ちたい』を全身全霊に乗せた1着を忘れない。

 

憧れは頂きへと登り、もっと憧れになったから。

 

 

「あなたの近くにはマフTがいる。 なら彼の想いを何か一つでも良い。 あなたの『キミと勝ちたい』を全身全霊に乗せる。 そのターフに()ける想いを他のウマ娘の目に見せ付け…いや、ヘリオス(太陽)なら文字通り焼き付かせるのよ」

 

 

 

今の自分にそれができるのだろうか??

 

ノリとパリピでできる要素ならためらわない。

 

なんでもチャレンジャーに盛り上がる。

 

でも、G1としての駆け引きでそれができるのだろうか?

 

このダイタクヘリオスにできるだろうか?

 

 

「G1レースは気持ちで負けないで。 自分も皆も強いのは当たり前。 なら残ってるのは気持ちだけの勝負。 そこに負けなければヘリオスちゃんは必ず勝てるわ。 だって…」

 

 

 

__それで負けを知ったお姉さんが言うもの。

 

 

 

G1ウマ娘だからこそ、その言葉は重い。

 

敗北を知っている最強が笑って言うんだ。

 

笑って、その記憶を楽しそうに…嚙み締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートが開く。

 

レースが始まれば、そこはウマ娘の世界。

 

日本ダービーで、誰がそう言っていた。

 

確か、それは憧れがそう語っていたはずだ。

 

ウマ娘と言う、想い詰まった走りがあるから。

 

それが、求めている冠なら尚更だろう。

 

 

 

 

『さぁウマ娘が走った!!先頭はダイタクヘリオス!だが、ペースが早い!!』

 

 

 

 

その場を走り去る、横暴な駆け足。

 

または"急ぎ足"と言った方が正しいだろう。

 

掛かったように駆け行く。

 

いや、実際には掛かっていた。

 

そのウマ娘は、とある約束を乗せているから。

 

過ちを反省して、誇るために駆ける。

 

必死ではなく、全力で走ることを決めた。

 

3つを得るために、そのトレーナーのために。

 

そのウマ娘は、前へ、前へと、進む。

 

 

 

 

『先頭はダイタクヘリオス!!だが、どんどん飛ばしていく!!』

 

 

 

 

 

走るための本能が、ターフに浸透する。

 

それだけ集中すれば、吐く息は染まるだろう。

 

渇望の中で、本能が周りを促す。

 

絶対に前を譲るまいと、心が荒ぶる。

 

その背中は遠く、内側は狂走に飢えている。

 

そう思わせるような、向かい風が襲った。

 

だが…

 

 

 

 

『第四コーナーを曲がった!!直線勝負に入った!!後続の子は…4バ身後ろだ! これは間に合うのか!?』

 

 

 

 

それが向かい風だけならどれだけ良かったか。

 

何故だか、目が眩むような熱さを感じた。

 

日差しは後だ、目の前に日射は差さない。

 

差すのは私達、追いすがるウマ娘。

 

なのに、何故こんなにも照りつくのだろうか?

 

答えはすぐに分かった。

 

コーナーを曲がり終えた先に待っていた。

 

太陽神 の 日の出 だったんだ。

 

 

 

 

『残りの200メートル!後続はなんとか追い縋る!!』

 

 

 

 

このレースに弱者はいない。

 

王者を求めて強者が集った。

 

賭ける夢も、駆ける脚も、描ける眼も。

 

全部込められた京都レース場を演じる。

 

でも、相手が悪かったのかも知れない。

 

 

何せそのウマ娘は……

 

___マフティーを背負う太陽神だから。

 

 

 

 

「!!!」

 

 

 

 

カボチャ頭のトレーナーと太陽神のウマ娘はすれ違う。

 

 

ゴールの白線を切り、いまはここに示した。

 

マフティー() に並ぶ チャンピオン(王者) が誕生する。

 

 

 

それはまさしく…

 

 

 

 

 

__お前はヘリオス(太陽神)だろ!

__マフティー(王者)に並ぶ名を持つウマ娘だろ!

 

 

 

訴えかけられて、そう促されて。

 

誇れる自分を示された。

 

そして今日、やっと果たされたのだから。

 

 

 

 

「誇らしく思うさ…」

 

1着と載ったその名を見て、彼は呟いた。

 

 

 

 

 

 

マイルCSの王者。

 

その名はダイタクヘリオス。

 

後に、3つの冠を勝ち取る三冠の王者。

 

そう呼ばれるのは先の話の記録である。

 

 

 

 

 

 

__やって見せろよ、ヘリオス!

 

__やって見せたんよ! マフティー!!

 

 

 

 

マフティーとして。

 

またはマフTとして。

 

二人は誇れる約束を果たした。

 

 

 

つづく




※あくまでイメージです。

無敗の三冠の因子
↪︎マンハッタンカフェ

最強の激マブの因子
↪︎ダイタクヘリオス

次世代に走りを託すって素晴らしいね。
ではまた


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第32話 + 掲示板

後数話で多分言えるぞ、あのセリフを。




マフティーの季節になった。

 

 

 

そして、この季節になると俺の担当ウマ娘が騒がしくなる。

 

やる事は一つ。

 

商店街の入り口は既にハイジャック済みだ。

 

 

「ヘリオスー!!」

「マイルCSおめでとーう!」

「太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!」

「パリピでウェェーーイ!!」

「「ウェイ!ウェーイ!!」」

 

 

「シービー!次は有マだ!頼んだぞー!」

「ジャパンカップの屈辱晴らしてくれ!」

「ミスターシービー!お疲れ様ー!」

「やばい! めっちゃっかわえええ!」

 

 

マフティーの風物詩って奴だろうか、恒例行事の如くハロウィンになるとお決まりの様にマフティーダンスを披露するミスターシービーとダイタクヘリオスの二人…なのだが今回は少し違った。

 

カボチャ増量である。

 

 

「ゴールドシチー!」

「阪神JF楽しみにしてるぞー!」

「やばい、すごく綺麗…」

「マフTまじ裏山! かー、羨ましい!」

 

 

カボチャのお面をズラしてつけるゴールドシチーも苦笑い気味に手を振りながらミスターシービーの隣に立っていた。

 

そう、今回踊るのは3人だ。

 

 

「犠牲者増えてるなー」

 

「マフTは、踊らないんですか…?」

 

「買い物帰りだよカフェ、豆腐が悪くなる」

 

「なるほど、です」

「ぇぇェェ…」

 

 

カフェはもう慣れたみたいだが、マイルCSで王者となったG1ウマ娘と、無敗の三冠バのウマ娘と、尾花栗毛が綺麗な人気ウマ娘の3人がカボチャのお面をつけてファンサービスする姿に、アドマイヤベガは今も信じられなさそうにしていた。

 

おいおい何を驚いてる?

 

これが中央(魔境)だぞ、アドマイヤベガ。

 

 

「魔境の意味絶対違う…」

 

それでもカフェしか勝たん

 

 

ちなみにこのファンサービスはミスターシービーが筆頭として動き、俺はあまり関与してない。

 

関与してると言うなら、ジャパンカップでシンボリルドルフに負けたその憂さ晴らしに「マフティーダンスをアタシにおさらいして差し上げろ!」と掛かり気味にお願いされたので、ダンススタジオ貸し切って再度踊りを見てあげたくらいだろう。

 

てか、なんでウイニングライブと同じくらい気合い入ってるんですかねぇ?相変わらず好きだねぇ、この踊り。

 

 

そんなパリピは過去最高のテンション。

 

17着だったあの悪夢(今までの弱い自分)とはお別れをしたダイタクヘリオスの心は太陽神のように晴れる。

 

しかも勝利後のウィナーズサークルで「やって見せたんよ!マフティー!」と尻尾ブンブンしながら高らかに叫び、京都レース場はヘリオスコールとマフティーコールが交互に行われるほど盛り上がり、ウイニングライブはバイブス全開で踊りきった。

 

そしてマイルCSから帰ってきた後もセーフティー解除された彼女のマフティー性がこの瞬間を待ってたんだ!とばかりに(テン)アゲ突破すると近くにいたゴールドシチーは巻き込まれてダンススタジオにドナドナされてしまう。

 

パリピに時間をハイジャックされたゴールドシチーだったが、マフティーダンスにはそこそこ興味あったらしく、要領の良い彼女は完璧にマスターすると満足気に帰った。

 

そして今日のファンサービスに関してはシービーにお願いされて、ゴールドシチーは参加を決めたらしい。

 

あとシービーが「参加したら後でマフTが高いモノを奢るから!」と勝手に決めてゴールドシチーはホイホイ釣られたらしい。

 

そんなご機嫌ウマ娘達を見たアドマイヤベガが説明を欲してたので、教えてあげたら口をポカーンと開けて宇宙猫していた。

 

(小学生が)なんて顔っ、しやがる…!

 

それから見かねたマンハッタンカフェがアドマイヤベガの頭を撫でながら落ち着かせてゆっくり説明してくれた。しかし逆効果だったのか宇宙猫に宇宙猫を重ねてしまう。さすが空に浮かぶ星の名を背負ってるだけあって宇宙顔もお手の物だな。

 

 

太ももを蹴られた。

 

めちゃくちゃ痛かった。

 

 

 

「さて、俺は撤収しようか…」

 

 

ちなみに今年はお菓子は配っていない。

 

俺以外に配っているカボチャたちがいるから俺の役割はない。

 

なのでトレーナースーツは上着で隠して、一般人として今年は買い物を終える。

 

八百屋さんはわかってたみたいだが、俺が本物であることは黙っていてくれた。

 

 

 

〜♪

 

 

『閃光』の曲が流れる。

 

歌詞は英語版。

 

しかしある程度アレンジしている。

 

曲は耳コピで刻んだモノだ。

 

呪い故に家から出れない時期があったからオンラインゲームする以外にも家に篭って作る時間は多かった。それで元の歌詞を翻訳しながらも頑張って作り上げたマフティー性の高い努力の結晶は現在、商店街の入り口で担当ウマ娘が踊っている。

 

感情深く思う。

 

この曲を俺の担当ウマ娘が踊っていることに。

 

 

「みんな楽しんでねー!」

「バイブス上げてけ!ウェェーイ!!」

「こうなったら最後まで完璧に…!」

 

 

しかし、こんな運命になるとは。

 

カボチャのお面やカボチャ頭を被った者達が『閃光』の曲と共にマフティーダンスを行う。

 

マフティーダンスの振り付けに関しては今年()の学園祭で俺とシービーとヘリオスの踊った姿がネット上に流れて、その動画を見て学んだ人が大半だとか。しかも真剣に踊ってやがる。

 

改めてみるととんでもない光景。

 

首を左右に動かしたり、やれやれのポーズで左右に揺れ動いたり、マラカスの様に腕を払い、両胸を叩いては、パントマイムの様な奇妙な動きがそこら中にある。カボチャ被って。

 

何も知らない人がみたら儀式中のシャーマンかと勘違いしそうだ。

 

 

 

 

「へぇ、こりゃ本物が居たわけだ」

 

 

シュールな光景を横目に帰る俺だったが、その声に反応して横を振り向く。

 

飴玉咥えたニット帽のウマ娘だ。

 

 

「よく俺がホンモノだと、わかったな」

 

「何度か挑ませて貰ったからな。 こればかりは雰囲気で分かるさ」

 

「そうか。しかし前のリベンジでとうとう負けてしまった訳だ。もう俺に接触するとは思わなかったが?」

 

「だからと言ってその縁は切れないな。こんなにヒリつかせてくれる人間はそういない。もうしばらくはマークさせてくれよぉ?」

 

「だとしたらそのベット(賭け金)はお高く付いてしまうな」

 

ジャック()オー()ランタン(3冠)が揃っている最強な手札を初手で見せてくれたんだ。ならそのヘッド()に躊躇いなんて無いさ」

 

 

ニット帽を揺らしながらそのウマ娘はくつくつと笑い、咥えているロリポップがカタカタと揺れる。

 

立ち姿は今時のワルを楽しむ女の子。

 

しかし、その眼は…

 

 

 

「なぁ、マフティー。 私をさ、今よりももっと熱くさせて()けさせてくれないか?」

 

 

 

唐突な(いざな)い、または(さそ)い。

 

その言葉は彼女らしさで訴える。

 

それは走りたいウマ娘からのサイン。

 

 

ああ、マフティーを動かす引き金は簡単だ。

 

ただ『求める』だけで容易い。

 

俺の中にあるマフティー性が反応する。

 

ウマ娘に狂うマフティーが慄える。

 

 

 

「それは()けるの違いでは無いのか?

______ナカヤマフェスタ

 

 

 

「___ぁ

 

 

 

挑戦的な笑みだが、まるで恍惚したかのようなヒリつきに慄えると咥えていたロリポップが口から零れ落ちそうになった。

 

俺は指を伸ばして、小さな棒をトンっと押さえる。ナカヤマフェスタの口から飛び出るロリポップを奥に押し込み、コロコロと飴玉の音が彼女の口の中で奏でる。片方の頬が飴玉で小さく膨らむと咥え直した事を確認して手を引っ込めた。

 

 

「ぁぁ…悪いな。 ちょっと悪い癖なんだ」

 

「この勝負狂いめ」

 

 

少し困ったように評価を下すが、ナカヤマフェスタは悪びれることもない。

 

そして俺はポケットから先程の買い物をした釣り銭を取り出して、それをナカヤマフェスタに渡した。

 

 

「なら…この小銭でこの先を賭けてみろ」

 

「……」

 

 

渡したのはなんてことない50円玉だ。

 

強いて言うなら18年と刻まれた硬貨だろう。

 

 

 

「……ああ、賭けてやるよ、マフティー」

 

 

 

彼女は「表…いや、裏だ」と、硬貨を弾く。

 

 

「…」

 

 

 

閃光の曲が流れたカボチャの群衆。

 

 

ほんの数分の邂逅から、弾かれる熱。

 

 

形崩れないカボチャとニット帽。

 

 

ウマ娘の耳と尻尾、マフティー性が揺れる。

 

 

彼女の視線を混じり合わせ、重力に従う硬貨。

 

 

回り回る18年の数値が、一瞬だけ見える。

 

 

俺は手の甲で硬貨を受け止めて、蓋をした。

 

 

鉄の手触りと、ほんの少しの熱。

 

 

そこに差し入る視線は勝負に狂う渇望から。

 

 

蓋をしていた手を退ける。

 

 

その結果は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【マフTのウマ娘を語るスレ】

 

 

145:名無しのカボチャ頭

やはりヘリオスしか勝たん

 

146:名無しのカボチャ頭

それな

 

147:名無しのカボチャ頭

ぶっちゃけマイルCSのヘリオスはまんま太陽神として神ってたわ

1600を全力で先頭を維持しながらも笑いながら走り切ったあの太陽神マジで太陽神

 

148:名無しのカボチャ頭

最初はいつものヘリオスらしくだったけど、第四コーナーの辺りから少年漫画のようにギラつかせてたよな。

日本ダービーに挑んでたミスターシービーを連想させる

 

149:名無しのカボチャ頭

それ分かる。

皐月賞のシービーもなかなかだったけど、日本ダービーのシービーはなんか一味違ってたよな

 

150:名無しのカボチャ頭

マフTのために走ってたんやろうな

 

151:名無しのカボチャ頭

誰かのために走るウマ娘は尊いなぁ…

 

152:名無しのカボチャ頭

そりゃ『君と勝ちたい』って歌詞があるくらいだし、トレーナーとG1までのし上がった絆力ぅは伊達じゃ無いです

 

153:名無しのカボチャ頭

やはりあの二人推せる

 

154:名無しのカボチャ頭

それな

でもマフTと言ったらミスターシービー

 

155:名無しのカボチャ頭

は?ヘリオスだろどう考えても

 

156:名無しのカボチャ頭

ミスターシービーなんだが??

 

157:名無しのカボチャ頭

去年はミスターシービーだけど今年はダイタクヘリオス一択だってそれよく言われてるから

 

158:名無しのカボチャ頭

てかマイルCSでヘリオスは入着どころか10着以下の結果で終わるとか言った奴誰だよ?

 

159:名無しのカボチャ頭

(あんな走り出来るとか思わ)ないです

 

160:名無しのカボチャ頭

脚質は逃げなんだけど、それ以上の逃げだったから先行はマーク外されて完全に崩されたよな

 

161:名無しのカボチャ頭

超逃げてたよな?普通スタミナ持たないだろ

 

162:名無しのカボチャ頭

知性ある追い込みバのミスターシービーはマフTのウマ娘って感じするけど、マイルCSのダイタクヘリオスはなんか違ったよな

 

163:名無しのカボチャ頭

あれこそ「君と勝ちたい」の体現だろ

これまでマフティー"で"勝ちたいだったけどマフT"と"勝ちたいになったからこその走りだと思う。

過去に挑んだG3と明らかに顔つき違うし

 

164:名無しのカボチャ頭

半年前と比べてなんか落ち着いたよな。

マイルCSはギラギラしてたけど

 

165:名無しのカボチャ頭

エプソムカップは必死だったけど、マイルCSは必死と言うより全力って感じだったよな

 

166:名無しのカボチャ頭

そりゃマフティーの世間評価大きくて、それがプレッシャーになってたんやろ。

もしワイがマフTのウマ娘ならマフティー背負えずその重圧の中で吐いて終わるわ

 

167:名無しのカボチャ頭

あのパリピに使命感とかあるんか?

 

168:名無しのカボチャ頭

有るとか無いとかよりヘリオスがマフTの元で走れて幸せなら、おーけーです!

 

169:名無しのカボチャ頭

それな

 

170:名無しのカボチャ頭

やはりヘリオスしか勝たんわ

 

171:名無しのカボチャ頭

太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!

 

172:名無しのカボチャ頭

それでも追い込みバのミスターシービーが追い抜いて、ヘリオスよりもマフTの元へ到着するからシービーしか勝たん

 

173:名無しのカボチャ頭

いや!ヘリオスが逃げ切って勝つな!

シービーに関してはジャパンカップでルドルフに負けてたし、時代は太陽神なのだよ!

 

174:名無しのカボチャ頭

てかインフレやばっ…

 

175:名無しのカボチャ頭

マルゼンスキーがバグってただけでミスターシービーを基準に他の子も普通に強いからな?

マルゼンスキーがバグってるだけで

 

176:名無しのカボチャ頭

いつぞやの螺旋門賞ウマ娘を思い出すわ

 

177:名無しのカボチャ頭

また古いの出たなぁ…

 

178:名無しのカボチャ頭

でも当時のフウンサイキに関しては今の国内レベルのウマ娘なら倒せるのでは?あの頃も突発して彼女だけ強かったし、今で言うマルゼンスキー枠がフウウンサイキだった

 

179:名無しのカボチャ頭

今の螺旋門賞はフウンサイキじゃ無理やろうなぁ、多分ミスターシービーも厳しい

マルゼンスキーはワンチャンある

 

180:名無しのカボチャ頭

海外の水準やばっ…

日本もまあ悪くないんだけど…

あと凱旋門な?螺旋してどうするし…

 

181:名無しのカボチャ頭

日本は異様に突発してる者がチラホラいて、海外は全体的に満遍なく強いから

 

182:名無しのカボチャ頭

やはりマルゼンスキーはバグか

 

183:名無しのカボチャ頭

マルゼンスキーは激マブのバクだけどマフTとか言う修正パッチをミスターシービーに搭載して証明したから強者いるだけで絶対強者はこの世に無いです

 

184:名無しのカボチャ頭

レースに絶対は無いから

それが有マなら尚更だよなぁ…

 

185:名無しのカボチャ頭

今年シービー有マ出るよね?

 

186:名無しのカボチャ頭

出るよ、公表してるし

ルドルフとまた対決だな

 

187:名無しのカボチャ頭

世代交代ってあるんやな

マルゼンスキーの枠にミスターシービーが収まって、ミスターシービーの枠にシンボリルドルフが収まって、それで上へ上へと代わって行く感じか……

なによりマフTの登場が影響して来年から絶対にインフレすごいぞ

中央トレセンの環境も改善されたし、フットワーク軽くなったらしいから新芽が活きるよこの流れは間違い無く

 

188:名無しのカボチャ頭

間違い無く革命だよな。

え?やはりこれ有料コンテンツじゃなくて良いんですか?

 

189:名無しのカボチャ頭

無料やぞ、その代わりグッズとか買って課金するんやで

 

190:名無しのカボチャ頭

先生!バナナは課金に入りますか!?

 

191:名無しのカボチャ頭

こっちのバナナは無課金やぞ(ボロン)

 

192:名無しのカボチャ頭

そのナッツしまえよ

 

193:名無しのカボチャ頭

残念それは私のお稲荷さんだ

 

194:名無しのカボチャ頭

お稲荷さんで思い出したけど、ヘリオス可愛くね?

 

195:名無しのカボチャ頭

可愛いのは認めるけどお稲荷さんの共通点どこにもなくて芝2500なんだが

 

196:名無しのカボチャ頭

どうしたらお稲荷さんからヘリオスに繋がるしふざけんな

 

197:名無しのカボチャ頭

ヘリオスが可愛いの認めるし、ミスターシービーが可愛いのも認めるし、お稲荷さんが美味しいのは認める

 

198:名無しのカボチャ頭

そんなわたくし一押しのウマ娘はゴールドシチーです(実況)

 

199:名無しのカボチャ頭

マフTマジなんなん?クソ可愛いウマ娘を引き連れて、それでモデルさんまで引っ張ってくるとか何をしたん?気づいたら飛び級生もいるし

 

200:名無しのカボチャ頭

シチーはウマッター見たらわかるけど充実感が濃くなって今が楽しいらしいよ

 

201:名無しのカボチャ頭

さりげなくマフTに感謝してるような文みるとマジ唆る

 

202:名無しのカボチャ頭

遠回しにマフTとの出会いに有り難み持ってるよなアレは間違い無く

 

203:名無しのカボチャ頭

そんな中でカボチャを見ると少しイラッとしてしまうウマッター見た時クスッと来た

仲良しすぎんだろ

 

204:名無しのカボチャ頭

マフT意識してんなぁ、すげー可愛い

 

205:名無しのカボチャ頭

カボチャに対するヘイト高くて芝なんだ

 

206:名無しのカボチャ頭

カボチャ(食品)とカボチャ(マフティー)は別物なので

 

207:名無しのカボチャ頭

いや、結局カボチャだろw

マフティーの意味を込めたのもカボチャのような器で、考察班曰くジャックオーオーランタンの意味は示してたし。

しかもタイミング的にホープフル(希望)ステークスで、マフティーの意味を示してその姿を表したのもハロウィン終了後の話だったし、タイミング的にピッタリだろ

 

208:名無しのカボチャ頭

タイミング??ドゆこと?

 

209:名無しのカボチャ頭

聞くな聞くな…

あと考察班は巣に帰ってくれ…

 

210:名無しのカボチャ頭

囲え!考察班だ!カボチャの中に敷き詰めろ!

 

211:名無しのカボチャ頭

考察班は健在だなぁ

 

212:名無しのカボチャ頭

でも最近マフTのアクションが昔よりも少なくて考察班の勢いが無くなってるのはマフティーとしてのコンテンツが薄まってるからなんかな?

 

213:名無しのカボチャ頭

コンテンツとしてはまだしばらく盛り上がるけど、己に対するマフティーとしての役目はほぼ終わった状態だからなぁマフTって…

今はウマ娘のためにマフティーたらしめてるわけだし、URAに対する反省の促しも終えて本来あったマフティーの役目は終わったんやろうなぁ…

やはりあの有マ記念は伝説だよなぁ

 

214:名無しのカボチャ頭

そうなるとカボチャ頭外せたよなぁ

ホープフルステークスの発言から頑張ったわ

何と言うか、良かったよかった

 

215:名無しのカボチャ頭

え?外せたん?

 

216:名無しのカボチャ頭

外しているんじゃない?

ミスターシービーの距離感見るとわかるぞ

あれは完全に信頼から生まれてるし、それ以上に結ばれてる結果だろ

その過程でカボチャ頭は外した筈だ

 

217:名無しのカボチャ頭

ミスターシービーはマフTの素顔見たんやろうなぁ

俺たちはまだなんかなぁ?

 

218:名無しのカボチャ頭

マフTはマフティーを求める者がいる限り被るからまだまだ外そうとはしないだろう

 

219:名無しのカボチャ頭

正直、URAに反省を促しただけでもお役目として充分果たした気がするんだが…

 

220:名無しのカボチャ頭

最大の役割は果たしたやろうな

有マ記念でマルゼンスキーを倒して示したし

 

221:名無しのカボチャ頭

その前に無敗の三冠バを導いたし

 

222:名無しのカボチャ頭

その前にマフティーたらしめると公言してから有言実行まで漕ぎ着けたし

 

223:名無しのカボチャ頭

もうっ…休め…!!

 

224:名無しのカボチャ頭

しかしその後は中央トレセン学園で大粛清を行なって不届き者をマフティーしたもよう

 

225:名無しのカボチャ頭

マフティーした(促し&粛清)

 

226:名無しのカボチャ頭

だとしたら飛び級生まで引き入れたのってトレセン学園の幅を広めるためにってこと?

 

227:名無しのカボチャ頭

わからんけど、マフTならやりそう

 

228:名無しのカボチャ頭

モデルだろうとウマ娘として走らせるマフTだからゴールドシチーがそこにいる訳だし

やはりウマ娘は選んで世間に促してんのかなぁ??

 

229:名無しのカボチャ頭

だとしたらまだマフティーは健在やん

 

230:名無しのカボチャ頭

え?それってどんなメッセージなん?

 

231:名無しのカボチャ頭

そこは考察班に任せてろよ

 

232:名無しのカボチャ頭

尚考察班スレの大半は秋のマフティーブームとしてカボチャ料理スレ侵食されてしまったらしい

 

233:名無しのカボチャ頭

ああ、考察班囲ってからカボチャに詰めるってそう言う…

 

234:名無しのカボチャ頭

普通にカボチャ料理のスレと化したけどな

まあ荒らしとそこまで変わりないけど

 

235:名無しのカボチャ頭

スレの圧縮としてカボチャに変えただけだろ

 

236:名無しのカボチャ頭

それなんて魔人ブウ?

 

237:名無しのカボチャ頭

カボチャになってしまえー!

 

238:名無しのカボチャ頭

心配せずともワイらは"名無しのカボチャ"なんだよなぁ

 

239:名無しのカボチャ頭

あー!次の学園祭楽しみすぎる!!

次はカボチャ頭買って帰ってやるYo!!

 

240:名無しのカボチャ頭

開店ダッシュでウマ娘に勝てないから友達のウマ娘に頼んで買ってもらうことにするわ

 

241:名無しのカボチャ頭

ウマ娘の開店ダッシュやめさせろ

普通にあぶねぇだろ

 

242:名無しのカボチャ頭

それな

 

243:名無しのカボチャ頭

公道とか日常的に走るのは良いけど、競わせた上で走らせるの怖くて近寄れないから開店ダッシュはマジ勘弁して、怖い

 

244:名無しのカボチャ頭

基本若いウマ娘は競う時は温厚であること忘れて躊躇わないからなぁ

 

245:名無しのカボチャ頭

走ると性格変わるとかどこのバイク警官だよ

 

246:名無しのカボチャ頭

アスリート選手になるともっと変わるからな

例えばミスターシービーとか

 

247:名無しのカボチャ頭

シンボリルドルフも結構変わるよな

 

248:名無しのカボチャ頭

ジャパンカップのあの二人は…

いやー、スゴイっす

他のウマ娘は置き去りでしたね…

 

249:名無しのカボチャ頭

海外勢とかおらんかったんや…

 

250:名無しのカボチャ頭

でも海外勢のブロワイエって子、めちゃくちゃ差し鋭くなかった?

 

251:名無しのカボチャ頭

3着の子か

シンボリルドルフとかに比べて小さかったけど、かなり仕上がってたよな

 

252:名無しのカボチャ頭

ブロワイエってまだジュニアハイスクールだったから、この先もっと強くなるんだろうな

 

253:名無しのカボチャ頭

また日本に来るだろなブロワイエ

この負けはいずれとか、言ってたし

 

254:名無しのカボチャ頭

その時にミスターシービーはおらんかもしれんなぁ

誰が立ち向かうんやろう?

 

255:名無しのカボチャ頭

マフTのウマ娘が立ちはだかる

 

256:名無しのカボチャ頭

名無しの飛び級生?

それともゴールドシチー?

もしくは未だにデビューしてない黒髪美人??

 

257:名無しのカボチャ頭

んなもんわかりませんぜ大将ぉ!

 

258:名無しのカボチャ頭

ダイタクヘリオスに一票

 

259:名無しのカボチャ頭

パリピじゃ流石に相性悪いって…

てかそもそも長距離走るんかヘリオスは?

 

260:名無しのカボチャ頭

有マ走ってくれたら嬉しいけどマフT的には無理させないだろう。まあ今年は無いな

 

261:名無しのカボチャ頭

ミスターシービーのフィジカルが化け物級なだけでG1で連コインは体が強靭じゃ無いと無理ゾ

 

262:名無しのカボチャ頭

来年はゴールドシチーに期待するわ

 

263:名無しのカボチャ頭

シチーは阪神JFだろ?てかいきなりG1か…

 

264:名無しのカボチャ頭

マフT結構鬼畜で芝

 

265:名無しのカボチャ頭

ヘリオスはG3挟んでマイルCSだったけど、ゴールドシチーはプレオープン一回走っただけでそのままG1の阪神JFは少しかわいそう、か…?

 

266:名無しのカボチャ頭

うーん、別にローテとしては珍しくは無いんだけどステップアップ的な意味で考えると流石にG3とかで重賞を馴らしてG1に挑むのがセオリーなんだけど、マフT何考えていきなりG1とか走らせたんかねぇ?

 

267:名無しのカボチャ頭

そういやミスターシービーもいきなりホープフルステークスだったよな?それで1着取ってしまうから不思議

 

268:名無しのカボチャ頭

イメトレで走ったつもりになってるのでは?

 

269:名無しのカボチャ頭

そんな器用なこと出来る?

いや、マフTなら或いは…

 

270:名無しのカボチャ頭

わからん。でも挑めると確信して出走してる訳だろ?それでG1は確実に取ってるし、マフTはそこら辺わかった上で走らせてそうやな

 

271:名無しのカボチャ頭

魔法使いかよ

 

272:名無しのカボチャ頭

ちゃんと見極めてるあたりマフTも相当だわ

 

273:名無しのカボチャ頭

じゃあゴールドシチーが阪神JFで出走決めたのも1着を取れる確証があるからなん?

 

274:名無しのカボチャ頭

確証はあるだろうな。

これまでの流れを見たら

 

275:名無しのカボチャ頭

一か八かとじゃなくて、ちゃんと測ってるあたりエリートだわ

 

276:名無しのカボチャ頭

エリートな上に、担当してるウマ娘は愛嬌たっぷりとかマフT物語の主人公かよ

 

277:名無しのカボチャ頭

マフTは主人公だろ

 

278:名無しのカボチャ頭

はえー、選ばれた者っスね

 

279:名無しのカボチャ頭

その選ばれた者に、選ばれたウマ娘がミスターシービーだろ?

やっぱり主人公じゃねーか!

 

280:名無しのカボチャ頭

でもワイ、これがミスターシービーじゃない場合の世界線とか気になる

 

281:名無しのカボチャ頭

マフT=ミスターシービーの印象強くてこのウマ娘以外考えられないわ

 

282:名無しのカボチャ頭

それな

 

283:名無しのカボチャ頭

ワイトもそう思います

 

284:名無しのカボチャ頭

いーや!ダイタクヘリオスを推すね

 

285:名無しのカボチャ頭

今年はダイタクヘリオス

 

286:名無しのカボチャ頭

ミスターシービー定期

 

287:名無しのカボチャ頭

ここでゴールドシチーはダメですか?(小声)

 

288:名無しのカボチャ頭

ダメだ(大声)

 

289:名無しのカボチャ頭

ミスターシービーしか勝たん

 

290:名無しのカボチャ頭

パリピだるるぉぉぉ???

 

291:名無しのカボチャ頭

太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!

 

292:名無しのカボチャ頭

どう考えてもミスターシービーだから

古事記にも書いてる

 

293:名無しのカボチャ頭

お前マイルCSで「まー!ふー!てぃー!」って大声で叫んでピースしてたヘリオス見てないんか?

 

294:名無しのカボチャ頭

めっちゃ健気でしたね。

あれはガチでしたねぇ、こるぇは…

 

295:名無しのカボチャ頭

くっそ可愛くてカボチャが沸騰したわ

あとヘリオスG1ウマ娘おめでとう

 

296:名無しのカボチャ頭

カフェしか勝たん

 

297:名無しのカボチャ頭

それに対抗する、ゴールドシチー

次の阪神JFは楽しみだわ

 

298:名無しのカボチャ頭

ウマッターでマフTに対する好意を見え隠れさせてるゴールドシチーが差し切って勝利ですね

 

299:名無しのカボチャ頭

ゴールドシチーも捨てがたいなぁ…

 

300:名無しのカボチャ頭

でもみんな最終的にミスターシービーに行き着くからな?みてろよみてろよー

 

301:名無しのカボチャ頭

黒髪美人と飛び級生もいるから

 

302:名無しのカボチャ頭

黒上美人はマンハッタンカフェな?

飛び級はまだ知らん

 

303:名無しのカボチャ頭

なんやこの有料コンテンツ…

 

304:名無しのカボチャ頭

追いかける分は無料やぞ

 

305:名無しのカボチャ頭

金はかかるので…

 

306:名無しのカボチャ頭

ちげーよ!!

金かけても良いけど、かけれないんだよ!!

 

307:名無しのカボチャ頭

グッズ追いついてなくて金が使えない定期

 

308:名無しのカボチャ頭

かける金がない?

かけてやれよ、デミグラスソース

 

309:名無しのカボチャ頭

にんじんハンバァァーグ!!

 

310:名無しのカボチャ頭

なお中央の近くにある商店街のハロウィンイベントで1等賞がにんじんハンバーグだった模様

 

311:名無しのカボチャ頭

デカすぎィ!

 

312:名無しのカボチャ頭

知ってる、あれはウマ娘サイズでしたね…

 

313:名無しのカボチャ頭

人間の癖にウマ娘用のくじ引き回すの度胸あって芝なんだ

 

314:名無しのカボチャ頭

ハロウィンはそこら中カボチャ頭だらけでマフTどころじゃなかったわ

 

315:名無しのカボチャ頭

年季入ったカボチャ頭がマフTやぞ

 

316:名無しのカボチャ頭

完成度高くてわからんかった

 

317:名無しのカボチャ頭

もうみんな!

マフティーになるしか無いじゃない!

 

318:名無しのカボチャ頭

俺がマフティーだぞ

 

319:名無しのカボチャ頭

ワイもマフティーだぞ

 

320:名無しのカボチャ頭

わたしもマフティーする

 

321:名無しのカボチャ頭

マフティーのマフティーを行う

 

322:名無しのカボチャ頭

マフティーのマフティーをマフティーする

 

323:名無しのカボチャ頭

マフティー最強!マフティー最強!マフティー最強!マフティー最強!マフティー最強!マフティー最強!マフティー最強!マフティー最強!マフティー最強!マフティー最強!マフティー最強!マフティー最強!マフティー最強!マフティー最強!マフティー最強!

 

324:名無しのカボチャ頭

太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!

 

325:名無しのカボチャ頭

最強の最恐してる奴はもちつけ

 

326:名無しのカボチャ頭

餅ついてどうする、落ち着け

 

327:名無しのカボチャ頭

ペッタン!ペッタン!もちぺったん!

 

328:名無しのカボチャ頭

餅かぁ…

 

329:名無しのカボチャ頭

もうそんなじきになるのか…

 

330:名無しのカボチャ頭

コメくいてー

 

331:名無しのカボチャ頭

餅くいてー!

 

332:名無しのカボチャ頭

おしるこ!

 

 

 

 

 

つづく

 




てか、マフティーの季節ってなんだよ…
普通に意味わからん…

そういやサイゲは正月搾り取ってくると聞いたからタマモ貯金が容易く崩壊するらしいですね。つまり身構えても死神は来ちゃうパターンか……がんばろ。


ではまた


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33話

過剰なカフェイン摂取にご注意



阪神JFを1着で走り切ったゴールドシチーのネット新聞の記事を映し出したノートパソコンをパタンと閉じて、先程「コトン」と横に置かれたマグカップに視線を移す。

 

ゆらりと登る湯気と味わい深い香ばしさ。

 

カボチャ頭を畳んだノートパソコンの上に置いて、マンハッタンカフェの淹れてくれたコーヒーを飲みながら、この世界に来て被り続けた苦労の塊を眺める。

 

相変わらず不気味な笑みを浮かべるカボチャ頭がそこにあるだけ。そんな代物に前世の知識から引っ張りだしたマフティーの名前を刻み、マフティーたらしめる意味を込め、世間にその存在を広めて促した。

 

今考えても随分と狂い切ってた所業だ。

 

この世界がウマ娘だと理解したから、ウマ娘と言う存在(特別)に狂う者達がいるように、マフティーと言う存在(特別)に狂えるのではと打算を考えた、とてつもない悪い賭けだった。

 

それでもマフティーなら「なんとでもなるはずだ」と、気づいたら自己暗示のように己をマフティーたらしめる器として変革させる。そう何度も飲み込んできた。

 

それでもカボチャ頭を外せば弱い人間に戻る。

 

だから己自身もマフティーを求めて縋っていた。

 

 

身も蓋もないことを言えばただの、偶像礼拝。

 

適当な岩に適当な神様っぽいものを刻んで、拝んで、その気になるだけの話だ。

 

心の安定に繋げて、自己暗示を行い、役割として飲み込み続ける。

 

だが皮肉にも三女神の呪いがあったからこそ前任者のように狂っちまえるから、まともを忘れるフリは幾らでも出来た。

 

でもその原点は 願い から始まった。

 

前任者が間違ってしまった望みだが、願いを叶える役割を持つ三女神の力には変わりない。だから呪いは願いとして働き、俺を苦しめるのと同時にマフティーたらしめる姿を支える形になっていた。

 

最後に 呪い は 力 となって叶えられた。

 

ミスターシービーを頂きに導いたマフティーに与えられた勲章または報酬、もしくは前任者の願いがそこでやっと叶えられただけの話。

 

だがそれと同時に三女神からも求められた。ウマ娘に狂えるマフティーなら、その力を渡す代わりにこれからもウマ娘のために在れと、まるで訴えるように力を与えられる。

 

故にウマ娘を近寄らせないプレッシャーはマフティーたらしめる性質がNTへと変化した。

 

俺はこれをマフティー性として受け止める。

 

ニュータイプに感化され、感受し、その影響を受けると生き物は見える。

 

無重力空間の中で研ぎ澄まされる精神は聞こえないはずの声と音はよく聞こえるようになる。

 

まるで囚われのない宇宙だ。

 

誤解なく理解が深まり合う。原作通り。

 

それがウマ娘だった場合、魂の煌めきが、駆け抜けて来た"馬"としての闘志が、その瞬間強く訴える。

 

 

__ターフを描きたい。

 

 

それぞれのウマソウル()がその名を背負わせたウマ娘に訴える。

 

例を挙げるならミスターシービーは良く『描く』と言ってた。

 

究極のごっこ遊びに行き着く前も、彼女は自分の世界を作り上げ、ごっこ遊びの中に身を投じた。

 

それは彼女のウマソウルがとてつもなく濃い個体だから、それを特技の様に扱えた。

 

だからミスターシービーは、ごっこ遊びでターフを描くたびにウマソウル()が訴えていたから無意識に「描く」と口ずさんでいた。

 

彼女はそれほどにミスターシービーへ染まる。

 

 

だからだろうか。

 

皆にミスターシービーらしさを見て欲しくてスカウトを断っていたのは。

 

俺がトレーナーらしくない間抜けな受け答えをして、それがミスターシービーの琴線に触れたから今があるが、マフティー性を感受した彼女がミスターシービーとしてターフを描くためにマフティーと言う色を欲して、求めることを選んだ。

 

究極のごっこ遊びはここから始まった。

 

二人にとって『たらしめる』のに便利な世界だから、そう変化した。

 

まるで分かり切ったように、互いのマフティーが共振し合った。

 

そう言うとことだろうか。

 

 

いや、そうに違いない。

 

だってそのカボチャ頭で見てきたのだから。

 

 

「まるでサイコフレームか何かだな…」

 

「マフT…??」

 

「いや、なんでもない、カフェ」

 

「??」

 

 

座り疲れたデスクチェアーからソファーに移動して、座り込む。

 

そして視線の先には縦に長い椅子にちょこんと座り込んだマンハッタンカフェがコーヒーを飲んでいる。

 

俺の呟きに首を傾げるその姿は、目を離すと何処かへ消えてしまいそうで、まだ彼女一人だけでは支えれなさそうな脆さを見え隠れさせているその小柄な体には、確かな愛らしさが備わっている。

 

しかしその脚は打ち止めになりそうな強さを引き継ごうとする力が備わり、その頂きが見えない摩天楼の素質はイマジナリーフレンドが夢中になる理由の一つだろう。故にカフェしか勝たんらしい。もちろんミスターシービーも同じくらいカフェのことを可愛がっているのは確かだ。

 

コーヒーを膝の上に起き、マグカップから伝わる温度だけではどうやらこの肌寒さを誤魔化せないようだ。なので横目にこちらを見ていた彼女を手招きすると尻尾を一瞬だけピンと伸び、少し戸惑うマンハッタンカフェ。少しだけ時間を置けば、縦長の椅子から降りて遠慮気味にこちらへ足を進めるが、ほんのりと見え隠れさせている嬉しそうな足取りは微笑ましい。

 

マンハッタンカフェが隣りに座る。

 

俺はテーブルの引き出しから布掛けを取り出してカフェに渡すとそれを膝の上に乗せた。すると少しだけ肌が触れそうな距離まで詰めるマンハッタンカフェだが、耳をへなりとさせて視線を合わせずコーヒーに集中しようとする。

 

久しぶりに二人だけのトレーナールームだ。

 

手招きされて勇気を出した結果だろう。

 

外を見れば雪が降っており、このコーヒーにはミルクも砂糖も入れてない。

 

湯気と渋みが香りとして混ざり合い、カボチャ頭を外して軽くなった頭は上に、俺は力を抜いてボーと天井を眺める。

 

 

「………」

 

 

まあかく言う俺自身もマフティーがどこからどこまでとか、実際のところ測り切れた訳でもない。

 

何度も言うけどこれは誤魔化すのに『便利』だったから、最初はそうしていた。

 

今は三女神がお求めになるほどの存在と化したから、今も求められる限りそうたらしめるだけで、実際のところ辞めようと思えばいつでも辞めてしまえる仮初のカボチャ頭。

 

けど、そうしないのは多分。

 

 

 

「(マフティーも、御し難いな…)」

 

 

 

ミスターシービーのウマソウルが濃いことでターフに描きたいように、俺はマフティーが濃い事でウマ娘に狂いたいだけだ。

 

 

だって…

 

この世界って俺からしたら、そうだから。

 

 

「…あの、寒くないですか?」

 

「??」

 

「ぃ、ぃぇ……」

 

「…」

 

 

精一杯の 差し だろうか。

 

デビュー前の彼女にしては上出来だろう。

 

なのでマフTとして応える。

 

 

「少し寒いかな」

 

「!!…でし、たら、その……少しだけ…」

 

 

彼女はコーヒーをテーブルに置いて、一人分に折りたたんでいた膝掛けを二人分に伸ばすと俺の膝に乗っける。

 

それで終わったと思い…

 

 

 

ドンっ

 

 

 

「!?」

 

 

簡単に折れそうな漆黒の彼女が膝に倒れ込む。

 

 

 

「……俺がコーヒー持っていたらどうするんだ?」

 

 

 

犯人は分かりきっている。

 

しかし何も答えない。

 

そして何処かに消え去った。

 

 

「相変わらずというか。おとなしいようで、実はヤンチャなようで、そしてイタズラ好きは年明けても変わらなそうだなお友達は」

 

「ぁぅ…」

 

 

膝の上にコテンと転がる虚げな彼女は随分と可憐で、やはりしっかり支えてあげないと全てが折れそうだ。

 

優しく扱うことを再確認した俺は膝の上にあるその頭に手を置いて髪をなぞる。

 

 

「ぁ…」

 

「シービーとヘリオスは帰家した。シチーも阪神JFの1着も相まって突発なロケで開けてる。アヤベも実家に帰った。なので君のお友達曰く年明けはトレセン学園に残るカフェしか勝たん…らしいな」

 

「…ぇ、…」

 

「そんな俺も明後日は1週間くらい家でダラダラする予定だから…そうだな。だらしなくならない程度にカフェインでも摂取するよ」

 

 

あと女性は体温が高いと言うがそのようだ。

 

もう既に膝が暖かい。

 

 

で、でしたら…か、過剰に取ることは…お、おすすめはしません…

 

「そうだな。わかった」

 

 

コーヒーが飲みやすい温度に冷めるまでしばらく担当ウマ娘の温度を掌で感じながら飾ってある写真たてを見る。

 

ダイタクヘリオスが帰家する前に集合写真を撮ろうと言って、撮影した一枚だ。

 

 

「…」

 

 

有マ記念でシンボリルドルフにリベンジを果たしたミスターシービー。

 

寒さに負けないパリピって仕方ないダイタクヘリオス。

 

マグカップを片手に微笑むマンハッタンカフェ。

 

少し寒そうにマフラーで身を包むゴールドシチー。

 

慣れなさそうに緊張しているアドマイヤベガ。

 

 

そして…

カボチャを被った、マフTまたはマフティー。

 

 

 

マフTの自慢と、マフティーの誇りが揃う。

 

そんな、今年の終わりを迎えた一枚だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カフェしか勝たん(邪魔するな)

 

『 ナンノヒカリィ!? 』

『 アッシマーガー!! 』

 

 

ちなみにヤツは外で悪霊を薙ぎ払っていた。

 

カフェと二人の時に良く起きる現象だが…

 

まあ慣れたもんなので、放っておく事にした。

 

 

やれやれ、今年も大変だったな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠りそうになったマンハッタンカフェを起こして寮に帰し、俺も年納めとして最後の仕事をしていたこの頃、年明けまで残り2日だ。

 

気づいたら23時になっていた。

 

たづなさんがトレーナールームまで訪ねてくれなかったら徹夜になるところだったが、そんなたづなさんもまだ忙しそうに動き回っていた。

 

ウマ娘だから体力はあると思うが休めてるのだろうか?まあ俺も12月に入ってからはギリギリ確保していた睡眠時間は崩壊したけど、まあなんとでもなる筈だ精神でミスターシービーが出走した有マ記念は乗り越えて、少し楽になったが、気は抜かない。

 

帰りの荷物を持って出るとカフェテリアの一角が明るい。

 

誰かいるのだろうか?

俺はカフェテリアまで脚を進めて扉を開ける。

 

すると、そこには…

 

 

「!」

 

 

一人のウマ娘がお茶を飲んでいた。

 

 

「シンボリルドルフか」

 

「お、お疲れ様です、マフT」

 

 

まさか俺がまだトレセン学園に居て、ココに来るとは思わなかったのだろう。まあ、まだこの時間になっても仕事で残っている職員はいるがカフェテリアのキッチンスタッフとかは帰っている。年が明けるまで戻って来ないだろう。

 

 

「こんな遅くになっても休憩を挟んでたのか? 帰ることをおすすめしたい」

 

「お気遣いありがとうございます。ですが心配は無用です。有マ記念も終えてひと段落着きました。あとは来年に向けて調整するだけ。業務の量は多いですが大した事はありません。そちらもご無理はないですか?」

 

「そうだな。俺も仕事中はいつまでも、このカボチャ頭を被るから、首元が気触(かぶ)るばかりだよ」

 

「!!」

 

 

尻尾がピクンと揺れる。

 

どうやら今のでわかったらしい。

 

同室のミスターシービーが言ってた通りだ。

 

 

「被るから、気触る…か!ふむ、なるほど…」

 

「皇帝のお気に召したようで何よりだ」

 

 

少しは肩の力を抜かせれただろうか。

 

くつくつと笑い、そしてハッとなる。

 

 

「その…なんと言うか、貴方ほどの者に皇帝と呼ばれるのは恐れ多い限りだ…」

 

 

困ったように笑う。

 

もしかして彼女は自分が俺よりも下の方だとか思ってるのか?

 

今の環境で生徒会長となって、これからも実績や功績を積み上げれば間違いなく俺以上の影響を持ち、秋川理事長と同じくらいの権力を持つ存在になるだろうに。

 

謙虚さは大事だが、それではいけない。

 

 

「恐れ多いものか、シンボリルドルフ。次のマフティーは君だと決まっている。そうなると廃れていく俺なんかとは対等かそれ以上だ。恐らく来年にはこの学園で秋川理事長と同じくらいの権力を握りしめて、この学園を掌握する存在になる。それこそ皇帝としてな」

 

 

今年を締めくくるレース、有マ記念ではミスターシービーに負けてしまったが、彼女もまた三冠ウマ娘としてこの中央に君臨した。それは皇帝と名乗るに相応しく、その立ち姿は誰もが認めなければならないほど。

 

もちろんミスターシービーもシンボリルドルフと同じ三冠ウマ娘であり、皆から尊敬が集まるレース業界の先駆者。最強の名を馳せるマルゼンスキーと肩を並べたほどのウマ娘。だがミスターシービーはシンボリルドルフのようなカリスマを持つことも無く、己の要求のみ優先する独りよがりから始まったウマ娘だ。悪く言えば周りにさほど関心は無いような女の子だ。

 

もちろん母トウショウボーイの皐月賞のターフに憧れたり、マフティーの為にも三冠を掲げたミスターシービーは全てが無関心という訳ではない。だがシンボリルドルフと同じような思想は持ち合わせず、この学園に在籍する一人の生徒として謳歌してるだけだ。

 

ミスターシービーはマフTさえそこにいれば他は要らない。そう言った。

 

 

だからシンボリルドルフは違う。

 

このウマ娘は上に立つべき存在だ。

 

 

「マフT、貴方には大変感謝しています。この学園でマフティーたらしめた事により、悪雲は切り開かれた。中央は本物の中央としてウマ娘のために息吹く。だからこそ、私はこうして無事に皇帝として座ることができた。全ては貴方のお陰だ」

 

「おいおい、東条トレーナーが泣くぞ?」

 

「無論、東条トレーナーの手腕にも感謝している。ミスターシービーに続いて三冠を得れたのはトレーナーのお陰だ。しかし、だからと言ってこの場に脚を付けられたとは限らない、シンボリルドルフでは砕けぬモノはあったはずだ。私はそこにぶつかった時が……一番怖い」

 

「…」

 

 

 

同室のミスターシービーはシンボリルドルフより一つ年上でよく話をする。時に雨の中の散歩から帰ってきたミスターシービーにタオルを渡して、後ろ髪をドライヤーで乾かしてあげたりするほど仲は良い。ミスターシービーが身勝手だと思うが、そんな先輩ウマ娘にシンボリルドルフは距離を狭めている。

 

だからこそ、弱音を聞いたこともある。

 

中央が中央としての機能を失い始め、年功序列を優先として教育方針を疎かに、そして新人トレーナーに場は与えられず、その連鎖として大半のウマ娘に悪環境を強いてしまい、レース水準が保たれず、URAの管理も追いつかない結果として、マルゼンスキーが孤立してしまった頃の中央トレセン学園。

 

 

今も、誰かが言う。

 

 

マフティーが存在していなければ、中央はどうなってたのか?

 

彼が中央の危険人物として、促す役割を全うしなかったのなら、この業界はどのように変化してたのか?

 

衰退し続けるこの中央に斬り込める者は現れることなく、仮に現れたとしてもすり潰されてしまうことも、想像に容易い。

 

だからこそカボチャ頭を被るほどのトチ狂った様や、マフティーの意味を世間に促そうとする狂気ほどの存在で無ければ、変わることなかったのでは?と。

 

そして、そこに感化された秋川やよいもマフティーを知り、マフティーたらしめ、果てに大粛清を行なって中央は本物の中央として息を吹き返した。マフティーがあったからこそ、ウマ娘は本当の幸せに進もうとしている。

 

 

それを…

 

三冠を得た程度の皇帝なんかに務まったのか?

 

シンボリルドルフは、皇帝として君臨する前から常に不安を抱いていた。ミスターシービーはその弱音を受け止めていた。

 

 

「この学園のマフティーが悪雲を晴らし、眼を凝らさずとも見える道にしてくれたのは、マフティーたらしめたマフTの他ならない。私は踏み外すことなくシンボリルドルフとして君臨することが許されたんだ。だから貴方には深く感謝している、マフT」

 

 

シンボリルドルフとは職員会議で顔を合わせたり、業務中の廊下ですれ違ったり、挨拶程度に会話することがありしも、こうして二人だけで話すことは一度も無かった。

 

だから、皇帝が頭を深く下げる姿は…

誰もが見たことない。

 

 

 

「顔を上げてくれ、シンボリルドルフ。俺はただ必死だっただけだ」

 

「…」

 

 

そう言われ、彼女はゆっくりと顔を上げる。

 

だが、その眼は不安を隠せていない。

 

そうだったかもしれない世界の歪みを見て、痛みを知った赤子のようだ。

 

そして、彼女はそう見抜かれたと理解して、どこか困ったように苦笑いしながら俺から目を逸らす。

 

そのウマ娘に、皇帝のような姿はなかった。

 

 

「俺は自分に必死で、マフティーする事に必死で、未熟者に与えた罰をこの体にカボチャ頭を与えた。だがミスターシービーを見て、ウマ娘の喜びをカボチャ頭越しに見て、マフティーとして見たんだ。その過程でマフティーたらしめる本当の意味を理解しただけだ。そのくらい揺れ動くほどに、これはとてつもなく脆い象徴であり、故に誰もがマフティーすることができることが理解できた筈だ。秋川やよいが大粛清の中でそれを示した。

__ウマ娘に狂う事で、マフティーは促せる」

 

「…」

 

「俺はそれを体現した器に過ぎないよ」

 

「器……か…」

 

 

憑依した俺はマフティーを知ってた。

 

だがマフティーを知らなければ、そこまでだ。

 

だからマフティーたらしめた器に過ぎない。

 

ココまでのカボチャ頭は、そう言う事だ。

 

 

「…」

 

 

俺は、多分……この世界に生きて変わった。

 

ウマ娘のトレーナーだから。

 

アドマイヤベガにも言った。

 

マフティーを独りよがりとして認めて、そこに狂うことを躊躇わなくなったことを。

 

何故なら。

この世界はウマ娘プリティーダービー。

 

ウマ娘のために作られた世界なら、ウマ娘のために幾らでも狂うはずだ。

 

 

「マフTが言うのなら、それはそうかも知れない。この世界でマフティーたらしめた原点は貴方だから。それは器として働いた。それがカボチャ頭を被り始めた意味。だがそれでも、私は貴方に言うよ。

_____マフティーは貴方だ」

 

 

 

俺が、俺をマフティーでないと否定しても。

 

それでもこの世界がマフTを働かせる。

 

カボチャ頭を被った、呪いは今も尚、続く。

 

救われたけど、まだ、求められてるようだ。

 

 

 

「それに理想__だったからな」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

__中 央 を 無 礼 る な よ ? ?

 

 

 

 

 

 

「あんなにも、中央のために、そしてウマ娘のために、望まれようとした姿は初めてだ」

 

 

 

秋川理事長の事だろう。

 

年功序列を正義とする改正反対派のトレーナー達が秋川やよいに猛反発した瞬間だ。

 

凍りつかせるような鶴の一声。

 

いや、"彼女"の一声だ。

 

全てを物語らせたような、言葉。

 

そこに介入の余地など無い。

 

立派な 独裁者 がそこにいた。

 

それは皇帝が目指すべき強さなのだろう。

 

 

 

「こほん……」

 

「?」

 

 

 

シンボリルドルフは咳き込んで。

 

喉を「ん"ん"」と鳴らして調整する。

 

そして…

 

 

 

 

中 央 を 無 礼 る な よ ? ?

 

 

 

 

 

精一杯の皇帝。

 

 

けど…

 

 

 

 

「かわいいな」

 

「ぐっ………そ、そうか。 むぅ…ダメか…」

 

 

 

まだまだ未熟者らしい。

 

しかし…

 

シンボリルドルフなら……と、そう期待する。

 

まるで、マフティーかのように。

 

 

 

 

「これからだよ、シンボリルドルフ。強いて言うなら来年から。だからしっかりと身構えておけ。そうすれば死神も来ないからな。それに…」

 

「?」

 

「君に憧れているウマ娘がいただろ?」

 

「!」

 

「なら大丈夫だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__なんとでもなるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今年は終わる。

 

そして、次が始まる。

 

ウマ娘の"次"が始まろうとする。

 

 

そして、マフティーもまた次が始まる。

 

種を地に植えた、カボチャのように。

 

それは…

 

ごく自然なことだからな。

 

 

 

 

つづく

 




いやー、濃い3年目でしたねマフT。

ダイタクヘリオスを加入して。
ゴールドシチーが加入して。
アドマイヤベガは加入させて。
ナカヤマフェスタに絡まれて。
どいつもこいつも大変そうだなぁ…

Q_ 担当にしたいですか?

A_ いやー、きついでしょう!



ではまた


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34話

「んー、楽しかったー!」

 

「マフT!また後でエンカするからヨロー!」

 

 

被っていたカボチャのお面を外し、真っ黒のジャージから制服に着替えて控室から出て行くミスターシービーとダイタクヘリオスの二人。

 

控室の入り口を見張っていた俺は手を振って二人を見送ると、先程使っていた舞台は次の催しが始まったことで再び歓声が広がる。

 

司会のサクラバクシンオーの澄んだ声が響き渡っていた。

 

 

「予想はついてたが、やはり今年もやり遂げてしまったか…」

 

 

そう、今日は学園祭だ。

 

そして20分前までマフティーダンスを披露していたところだ。

 

しかもたづなさんが許したのか今年はテレビ局のカメラまで回される始末。

 

そのうちどこかで放送されるんだろう。

 

マフティーの熱はまだ冷めぬ世間らしく、その証拠として観客の数も去年に比べて倍ほど多かった。

 

その上、見にきた人達はカボチャのお面やカボチャ頭を忘れずに装備して、黒いジャージを羽織って完備する者まで。

 

しかも黒いタイツ姿の猛者達も現れたり、更にその姿でキレ良く踊る変態が現れたりと今年のカオス具合が半端なかった。前世の倫理観からすると控えめに言って頭おかしいと思う。

 

お陰でミスターシービーは笑い堪えるのに必死であり、ステージから降りて控室に戻ったあと我慢が解かれたのと同時に笑い転げていたのは何も言うまい。

 

ダイタクヘリオスもノリノリな雰囲気に満足だったのか一番やり切ったような顔でマフティーダンスを終えた。その後もバイブスは上がったまま仲間の元に合流へと駆けて行った。なんとも切り株でお嬢様がルアっ(釣れ)たらしく、その新顔を連れて仲間と共に学園祭を回るらしい。

 

 

ちなみに踊った俺は……色々と疲れた。

 

ツッコミどころ多いけど考えるのをやめた。

 

NTなら考えるな、感じろ。

 

 

ちなみマンハッタンカフェは去年と違って音響の手伝いはせず、どこかでひっそりと喫茶店を開いてる。

 

アドマイヤベガもそのお店のお手伝いをしている。

 

カフェはともかくアヤベに関してはせっかくの学園祭だから回れば?と提案したが、あまり興味が無いみたいで、この騒がしさから逃げるように喫茶店のお手伝いをしている。

 

まあ、本音を言えばマンハッタンカフェの側から離れたくないのだろう。

 

静かな場所で一人が好きなアドマイヤベガのことだ。人混みが苦手で、ひっそりと構える喫茶店に居心地を感じてるらしい。あと純粋にマンハッタンカフェの側からあまり離れたくないのがポイントだろう。マンハッタンカフェもそこは理解して、敢えて口には出さず、飛び級生の彼女を優しく見守っている。

 

そんな二人にイマジナリーフレンドは微笑ましそうに見守っていたが、それでもカフェしか勝たんらしいが。年明けでもコイツは変わらないらしい。

 

あとゴールドシチーはちょっとしたウマ娘の美容室を開いたが、日本ダービーの出走を表明したことで人気店になったらしく、彼女のようなモデルさんに憧れる同じウマ娘達の後が絶たない。来店したウマ娘はマネジ力も高い彼女の手腕にて髪や尻尾を綺麗に手入れしてくれるだろう。

 

そんな感じにマフTの担当ウマ娘はそれぞれを楽しんでる事にして、俺はマフティーダンスで使った黒いジャージやカボチャのお面をカゴの中にぶち込み、トレーナールームまで運んでからスプレーなど吹きかけて洗浄したあと、一息つくためにポットからお湯を出して紙コップに注ぎ、ゆっくりお茶を飲む。

 

 

「いてて、足が…」

 

 

それはともかく疲れた。

 

正直に言う。

あの踊り、マジでキツい。

 

元が倍速なので、無理なく踊れるようにアレンジはしているがそれでもアレは大変だ。

 

しかも踊りに関しては断片的ではなく、曲の始まりから終わりまでしっかり振り付けを新しく入れて完成させた。

 

曲名が『閃光』だけあってカッコいいため、名前負けしないよう恥ずかしくない程度にかっこよさも追求している。

 

もちろんあの奇妙さもリスペクトする精神でウマ娘の世界のマフティーダンスを作ったが、かっこよさと奇妙さの緩急に振り回されるため何気に難易度が高い踊りになってしまった。

 

踊りに関してもベテラン級な東条トレーナーでさえも悩ます難しさに仕上がる。

 

しかしこの奇妙な難しさとカッコ良さが上手く調和しているマフティーダンス(閃光)は学園内で人気になってしまい、ウマ娘もトレーナーも問わず、マフティーダンスは習得困難な踊りとしてむしろ熱が入って皆が必死だ。

 

もちろんあの踊りは世間でも人気であり、特にハロウィンは全国のマフティーファンが活性化して踊り出すのは慣れた光景であり、今となっては有名人もマフティーダンスの動画に出してマフティー性を供給してる始末。

 

しかも非公式なのにURAにマフティーダンスの採用を促す運動があったりと、改めて「彼は危険人物だ」としてURAから認識された。

 

ここで原作やらなくて良いから。

 

それを聞いたミスターシービーは他人事のように笑って顎が外れ、パリピも勝手に盛り上がり、マフティーガチ勢の秋川やよいと駿川たづなも同じような感じに盛り上がる。

 

なんならトレセン学園もマフティーがまたURAに影響を与えたと勝手に誇らしくなる始末。人柱にされた結果がコレだよ。俺の立ち位置は今年もそのままらしい。

 

しかもゲームセンターにあるダンスゲームとかでも高難易度として採用される噂も出たりしている。世間はどれだけマフティーの事好きなんだよォ!?

 

そのためURAでもトレセン学園でもなく俺の許可を得る必要があるらしい。

 

実際に今年に入って話が来たから困った。

 

それでパイプとして動く秘書のたづなさんも悪ノリしているのか…

「(許可を)やっちゃいなよ!そんな踊りなんか!」と目で訴える。後ろ盾が無くなった。

 

(そのため俺に味方がい)ないです。

 

 

 

「そういやこの後、クイズ大会を手伝う予定だったな。 まだ早いけど向かっておくか」

 

 

飲み干して空っぽになった紙コップを捨て、トレーナールームを出て廊下を歩く。

 

ここら一帯は広場から離れて静かだ。

 

先程の俺と同じくトレーナールームで休んでいるウマ娘が数人ほど潜んでるようだ。

 

 

「あ、俺、そういや…」

 

 

先程の飲み物を思い出して、カボチャだけ少し頭を抱える。

 

壁越しに伝わる高い質量…まあ"ウマソウル"と言うべきだろう、カボチャ頭を被っていると勝手に伝わってしまうウマ娘の強い魂。

 

ウマ娘に狂うマフティーの象徴(カボチャ)を被っていることが原因だ。

 

あと 緑茶 を飲んだことも原因の一つ。

 

マンハッタンカフェが淹れるコーヒーには劣るが、緑茶はどうやら前に飲んだジンジャーエールよりマフティー性の高い飲み物判定のようでNTの能力も昂まってしまう。理由は分からないけど心が落ち着くからだろう。

 

__宇宙の心は和だったんですね!

 

そう言うところやぞ、カトル。

 

 

そのため強い魂__まあ先程、言ったウマソウルに意識が惹かれまう訳だ。

 

ニュータイプ同士が惹かれあうように、ウマ娘に狂うマフティー(カボチャ頭)を被ってる事で、強いウマソウルに惹かれてしまうマフティーが完成してしまうだけの話。

 

これは究極のごっこ遊びに活かせるから練習前に皆でコーヒーやお茶を呑んだりして、マフティー性の感受率を高める。

 

ちなみにこれはドーピングじゃない。某携帯獣玉でカテキンはドーピングアイテムになるけど、俺は正当なる王(マフティー)として、真っ当な指導者(トレーナー)として否定する。

 

いやマフティーは真っ当とは程遠いけど、でもドーピングは絶対にしないぞ??

 

しかし気を抜くと余計な情報が入り込むあたり面倒なところもある。カテキン一つでゼロシステムできるのは流石に茶葉生えるなぁ。エピオンとかいらなかったんや。

 

てか飲み物で強化人間(ニュータイプ)して、それで質量の高い物を見定めるとか俺はギュネイか何かかな?

 

どうやら緑茶一つで大佐を超える男になれるらしい。

 

 

「ほんと、必要ない設定がこの体に次々と…」

 

 

これもこの学園でマフティーたらしめた結果だろう。

 

それで三女神の願いはかなり強力だった事が伺える。

 

ウマ娘のために働けば働くほどそれはどんどん強くなってしまう。

 

まるで人間から…ウマ娘のような異端がホンモノになりつつある。

 

 

「…」

 

 

もしトビア・アロナクスがこの場に居るなら聞きたい。

 

俺はまだ人間で沢山だよな?

腕にナイフを刻めばその血は赤く流せるか?

 

……大丈夫だろう。

 

失明したカーティスでも吐血は赤かった筈だ。

 

 

もしこの場にキンケドゥ・ナウがいるなら尋ねたい。

 

俺はまだ人のままか?

パン屋を営めるほどの人間性に戻れるか?

 

……大丈夫な筈だ。

 

フォントに命を飲み込んで戻れる事を伝えた。

 

 

 

「物語の存在と言え、それでもNTの先駆者がいる。それが何よりの救いだな…」

 

 

 

カボチャ頭を外せばこの鬱陶しさもある程度はマシになる。

 

そして、そのままマフティーを辞めれば良いだけの話。

 

しかしこの学園にいる限りマフTまたマフティーは俺なのだから仕方ないとしか言えない。

 

己を器として言った以上は受け止める他あるまいし、その覚悟はしてきたつもりだ。

 

 

 

「すぅぅ……ふぅぅぅ」

 

 

 

今日は学園祭、ウマ娘のための日だ。

 

マフティーだろうと、中央のトレーナーだろうと関係ない。

 

この場にいる限りはウマ娘のために作られたこの場所で、ウマ娘のために働くだけだ。

 

それがウマ娘プリティーダービーなんだろう。

 

片手に遊べてしまうこの画面越しに誰もが憧れてしまう世界だ。

 

ならこの世界にとって普通な事だ。

 

俺は…いつも通りにすれば良い。

 

 

 

「なにさっきから独り言呟いてるの?」

 

 

通りすがろうとしたトレーナールームからウマ娘が扉から顔を出していた。気だるげな表情だが調子が悪いわけではなさそうだ。

 

 

「やはり君かナリタタイシン……サボりか?」

 

「悪い? てか、私がトレーナールームにいること知ってたの?」

 

「さぁて、な。…サボりは構わないが、ほどほどにしろよ」

 

「……強制参加が言い渡された競技はちゃんと出るから放っておいて。それとあのお節介(トレーナー)あのやかましい奴(ウイニングチケット)にここにいる事は何も言わないで」

 

「聞かれない限りは言わないさ」

 

「あっそ」

 

 

 

 

__ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!!!

__タイシン!タイシン!タイシン!

__タイッッシィィィンッッ!!!

 

 

 

 

「うわっ………」

 

 

心底嫌そうにしながらトレーナールームに隠れるナリタタイシン。

 

ちなみに壁越しに感じたウマソウルはナリタタイシンである。

 

あの小柄に対してウマソウルが強い。

 

あと末脚が化け物だった。

 

 

ちなみに彼女とは初対面だったけど、どこかで出会ったことあるような気がしていた。

 

それはウマソウルが強かったから…だろうか?

 

まあ、分からないと言うことは恐らく大したことではないのだろう。

 

疑問はそのままに、学園祭へ戻っ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Z__________

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

NTの話をすればこれだ。

 

まるで引き寄せられた如く、都合よく俺に知らせる。

 

ここは誰もいない。

 

そのため余計なモノを捉えない。

 

故にわかりやすく、それは定めやすい。

 

俺は強い視線を感じ取る。

 

 

「…」

 

 

視線の方へ、静かに向き合う。

 

誰もいない外だ。

 

だが隠れ切れていない耳が少し見える。

 

ゆっくり近づき、窓に手を掛けて一気に開ける。

 

視線の主を見下ろした。

 

 

 

「うひゃぁぁ!!??」

 

 

 

屈んで隠れていたのだろう。

 

しかし驚いて尻餅をついて悲鳴を上げる。

 

やはりウマ娘だった。

 

 

「じぇじぇ!?」

 

「何か用か?」

 

 

 

学園祭へ遊びに来たウマ娘だろうか?

 

制服ではなく、私服だ。

 

つまりこの学園のウマ娘では無い。

 

 

 

「ど、どどど、どでんするっぺよ!? それよりどうしているのわかったんだ!?は…!も、もしやこれが都会の恐ろしさってヤツか…!!」

 

「都会は関係ないな。強いて言うならここが中央だからだろう」

 

「それはすごいっぺな!! んだんだ、あのマフティーが言うなら間違いないっぺ!」

 

 

感情豊かな女の子だ。

 

それと訛りが強い。

 

しかしこの純粋さは素敵だろうか。

 

 

 

「それで、何か用か?」

 

「そ、そうだ!マフTだから聞きたいことがあったんだ!」

 

 

そのウマ娘は立ち上がり、マフラーを揺らしながらこちらと向かい合う。

 

 

「えっとな?急で申し訳ないんだけど、うちは…そのぉ、シ、シチーガールに憧れてんだ。けどここ思ったよりも広くて、それで…」

 

「なるほど、事情はわかった」

 

「ぅえ?」

 

「時間はある。そこまで案内しよう」

 

「ほんどか!!?」

 

 

窓から身を乗り出して食い気味になるウマ娘。

 

ほしかった案内に尻尾を揺らし、目をキラキラさせて喜びを表す。

 

あとやはり田舎からやって来たような雰囲気は気のせいではないようだ。それを頑張って隠そうとしているが、からまわっては「あわあわ」と慌てふためいたりと微笑ましい。

 

 

 

「その前に____君の名前は?」

 

「は…!こ、これは失礼しました!」

 

 

乗り出した身を退いて、姿勢正しくピーンッと体を伸ばす。

 

耳と尻尾も元気よくピーンだ。

 

 

 

「う、うちの名前は__!!」

 

 

 

 

この世界は分からないことが多い。

 

別にこのウマ娘が喋る方言に対して、では無い。

 

分からないことは、あらゆることに対して。

 

 

特にそれは 運命 だったりもする。

 

だから…

 

 

 

 

ユキノビジンです!よろしくお願いします!」

 

 

 

どこでもいるような、なんてことない普通のウマ娘。

 

そんな彼女を案内する。

 

ただそれだけなのに、どうしてこうもマフティーは騒がしいのか?

 

それはおそらく、後に分かるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

間も無く、始動ス__!!!

 

 

 

 

 

 

つづく




 



作者(マフティー)のやり方、正しくないよ」









カボチャ頭の豊作を祈って、来年もよろしくお願いします。


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35話

トレーナーとして指導はできてるのか?

 

そう聞かれたとしたらそれは永遠のテーマだろう。

 

もし誰かと比べられた場合ならおおよそ答えやすいのかも知れない。

 

なら俺は、マフTは、中央を代表とする東条トレーナーと同じレベルの指導を行えてるかと比較されたら、それは『否』と答えてしまう。

 

マフTとしてできることは見守るくらいだろうか。

 

この世で生を受け、この世で一から学び、この世に足を付けている者達に対して、俺がやってきたことはオカルトの一言で済ませるような反則技から。元はなんでもありなゲームの世界と言え、俺が成してきたモノは全て三女神のギフトによって奮った産物。

 

そりゃスタート地点は最悪だった俺のトレーナー人生だけど、説明のつかない事ばかりしてきた俺の行為はトレーナーの部類からしたら周りに対する侮辱行為だとそう考えなくも無い。それでも周りの者達は俺のやる事、成すことを神格化する様に、マフティーにとってそれが普通なんだと受け止めてしまう。何故ならここはウマ娘の世界。ウマ娘のために働く者は歓迎されるようにシステム化された居所なのだから。

 

 

だから、俺だけが別世界(前世)から持ち込んだ価値観や倫理観の違いに苦しんでいるだけであり、余計に負い目を持ち込んでいる。

 

考えすぎなんだ、この世界で。

 

俺は散々苦しんだ。

 

苦しんだ先で報われたんだ。

 

それは三女神からの報酬だ。

 

マフティーたらしめた果てだ。

 

狂人として飲み込み続けた姿だ。

 

この世界のカボチャ頭のトレーナーとして。

 

その名はマフTとして。

 

いまはウマ娘に狂うだけの存在。

 

 

ああ、たしかに、そうだな。

 

俺はここまでのハンデを背負って生きてきた。

 

この世界の人生はまだ3年程度。

 

それでも耐え難く、そして呪いと息苦しさはカボチャ頭を被ることで誤魔化した。

 

それは乗り越えた。

 

でも、割りに合わない。

 

自害すら考え得る、死は隣り合わせに。

 

身構え続けて、死神は来させない毎日。

 

乗り越えれた。

 

ああ、でも、割りに合わない。

 

ウマ娘が存在する喜びなんて感じずに。

 

ここまで苦しんだ。

 

割りに合わない。

 

前任者のカルマはミスターシービーがいなければ払われなかった。

 

それ以外に考えられない俺がいる。

 

割りに合わない。

 

ここまで苦労を重ねさせておいて。

 

割りに合わない。

 

 

 

 

 

マフ…T……

 

 

 

 

???

 

 

 

 

___マフT、聞こえてるの?

 

 

 

 

「!」

 

 

顔を上げれば、こちらを覗き込むアドマイヤベガの姿。少し心配そうにしている。

 

 

「悪い、少し考え事をしていた」

 

「そう………疲れてるの?」

 

「んー? そう見えるか?」

 

「最近はいつも疲れてそうに見えるね」

 

「そうか。だとしたら指導者失格だな」

 

 

誤魔化しながらタブレットの画面を開いてアドマイヤベガの練習メニューを確認する。

 

 

「ねぇ、坂路…やったらダメなの?」

 

「別にダメではないかな。やりたいの??」

 

「やりたいと言うよりは…」

 

「まぁ君にはあまりやらない練習だからな。…少しやってみるか?」

 

「!」

 

「カフェがさっきやってたもんな」

 

「か、関係な…ぁ、ぁ!ちょ…!きゅ、急に撫でないで!」

 

「悪い、良いところに頭があるからな」

 

 

アドマイヤベガに振り払われながら奥のターフを眺めると、ミスターシービーとダイタクヘリオスがバチバチにやり合っている。どちらもファンサービス盛んで楽しいこと大好きな二人だけど、実績を残したG1ウマ娘なのは間違いない。

 

ターフの外では視察に来ている記者や、入学生として一足早く寮入してこの学園にやって来た生徒のウマ娘達が遠くから眺めていた。見ている者達は中央の走りに夢中である。

 

アドマイヤベガも平謝りされた俺に対して少しだけ膨れっ面になりながらも、釣られて先輩ウマ娘達の走りをその場から眺める。

 

そしてバチバチにやり合っているG1ウマ娘の400メートル後方で並走しているマンハッタンカフェとゴールドシチーにも視線が向いた。

 

 

漆黒と黄金。

 

相対するような色合いがターフを疾る。

 

 

「あの二人は綺麗に走る」

 

「ゴールドシチーさんが聞くと怒りそうね」

 

「そう言う綺麗じゃないな。姿勢や体幹を崩さず一律に脚を運べる能力ってのは、日常的にも意識して長く続けないと身につかない。そう考えるとフィギュアスケート選手や競輪の選手はどれだけ凄いことか。それでシチーの場合モデルとして気を使っていた産物だろう。センスがある」

 

「二人ってことは、カフェさんも?」

 

「カフェは脚の爪を意識して走ってたことで無意識に仕上がった走り姿だな。この日まで700日分はそうしてきた。あとお手本となったミスターシービーが並走したお陰。それでイマジナリーフレンド……は別に良いか。あと彼女はものすっっごい集中力がある。どんなに息を切らしても姿勢が崩れないし、シチーとは違う方面で根気良い。それでも相対するウマ娘の二人だな。ゴールドシチーが根性なら、マンハッタンカフェは体力(スタミナ)ってとこだろう。マフTからしたらそう言う評価」

 

「それこそゴールドシチーさんは怒りそうだけど…」

 

「俺はあの泥臭さ素敵だと思うけどな。さてアドマイヤベガ、少し休憩挟んだらお望み通り坂路だ。ストップウォッチ渡すから、20秒は余裕で切れるように頑張れよ。もしできたらご褒美のウマスタソーダを贈呈しよう」

 

「何故ウマスタソーダ?? あと別に、ご褒美は……」

 

「カフェが気になってたから頼んでおいた。終わったらあとで飲むらしい」

 

「…………………そ、そう」

 

 

長い間を置きながらも耳をピクッ、ピクンと反応させながらポーカーフェイスで坂路の方まで去るアドマイヤベガから視線を外して、走っている担当ウマ娘達に視線を向ける。

 

 

「…」

 

 

やはり尾花栗毛のゴールドシチーに見惚れるのはわかる。夕日に反射するその髪は綺麗に輝いていて、後方ではその姿に声を漏らす人たちがいる。しかしその様子が不満だったのかゴールドシチーはチラリとこちら側に視線を向けたあとコーナーに入った瞬間マンハッタンカフェを切り離すように速度を上げた。

 

そこには飾られるモデルではない、アスリート選手に早変わり。見ていた者はその速さに驚いていた。ウマッターでも今より早い走りを投稿して驚かしたことがあるが、今日はギャラリーが多い。日本ダービーに向けての仕上がりを見せつけようと張り切っていた。ゴールドシチーは早いウマ娘になった事がよくわかる瞬間だろう。

 

 

「やはり、似てるな」

 

 

皆はゴールドシチーに目を奪われているが、俺はマンハッタンカフェに注目していた。

 

もちろん彼女も可憐さを魅せるすらっとしたモデル体型なので、しっかり着飾ればモデルさんのような美人の出来上がりだろう……って思うのは当然だとしても、やはり気になるのは、その走りだ。

 

 

「シチーが一気にカフェを切り離したように見えたけど、その前からカフェがちょっとずつ加速している。シチーはおそらく気付いてるな。距離があるほどジリジリと最後方のラインを上げてウマ娘を文字通り追い込む……なんだっけ?」

 

 

たしかスタミナグリードだったか?

 

ミスターシービーがそんな事を言ってカフェに教えていたな。

 

 

「そんでもって…」

 

 

 

横を見る。

 

ちょうどだった。

 

 

「ウェェェイ!!1着ゥゥ!!!」

 

「はぁ…はぁ…! 首差で負けたぁぁぁ!!」

 

 

ダイタクヘリオスの場合だと最前列のラインを強引に上げて、後続のウマ娘にプレッシャーを誘う技があったな。

 

こちらはスピードイーターだったか?

 

なんともマルゼンスキーが教えてくれたらしいが、引き金はミスターシービー。

 

お陰でダイタクヘリオスは前よりも走りやすくなったと言っていた。

 

最前列を欲することでウマ娘にトップスピードを要求させ、マイラーとしての加速力で精神力を喰らい、その他のウマ娘の距離感を狂わせるプレッシャーラン。

 

がむしゃらに驀進するのとはまた違う。ドンドン前に出るのに、掛かってない余裕ある走り姿は大いにプレッシャーになる。

 

精神力(賢さ)が低いウマ娘は冷静さを取り戻すのに苦労して大変だろうな。そんなダイタクヘリオスはテンアゲで爆逃げするだけだ。マイラーとして厄介極まりない。

 

まあだから、あの有マ記念では駆け引きなんて気にならない己だけのターフを求めたミスターシービーにとって、マルゼンスキーの後ろ姿なんてのは最後は追い抜けたらそれでよかった対象に過ぎなかったのだろう。距離適正の関係もあるが、マルゼンスキーのプレッシャーに臆せず着いていけたのはミスターシービーくらいのウマ娘だろう。あとは卒業したメジロアルダンくらいか。さすがメジロ家の令嬢で精神力はある。あと見た目は凛々しく賢そうだし。

 

 

「クールダウンして来い。終わったらウマスタソーダで乾杯だ」

 

「マジぃ!?超うれC!!ビタミンCィィ!!」

 

 

ぴょんぴょん跳ねながら軽くランニングに向かったダイタクヘリオス。

 

いや、クールダウンなんだから速度落とせっての。

 

記者達にピースピースしながら去りゆく姿は写真映えするだろう。

 

 

 

「あー、しかし、もう、そうなのかなぁ…」

 

「…」

 

 

 

そして空を眺めるミスターシービーの姿。静かに笑んでいるが、諦めが混じり合ったような眼差しと、その声はどこか寂しそうだ。

 

 

「ま、いいか、アタシもクールダウンしてくるね」

 

 

そう言って去り行くシービー。ヘリオスと同じような記者や入学生にニコッと笑って軽めのファンサービスを行いながら姿を消す。

 

その後ろ姿を見送りながら俺は一瞬だけ、意識を切り替える。

 

カボチャ頭越しから見えているモノが変わる。

 

 

 

「受け入れるしかないか…」

 

 

 

彼女のウマソウルは…小さい。

 

まるで灯火のように、揺れるだけ。

 

出会った頃よりも、その魂はおとなしい。

 

ミスターシービーってウマ娘の濃さは、あの頃よりも薄まっていた。

 

 

 

「………短いな、ウマ娘って」

 

 

 

俺の呟きは誰も拾わない。

 

こればかりはトレーナーの手腕どうとか、実力で克服とか、そんな事では揺れ動かせない。

 

これはそれぞれに'定められた"モノ"だ。

 

だからこそ彼女は、俺と選ぶ必要がある。

 

自覚してるから、考えなくてはならない。

 

それに向き合って、決めるべきだろう。

 

今年も、大変になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

____キーン!!

 

 

 

「!」

 

 

 

 

弾かれた音。

 

反応して片手を伸ばし、受け止める。

 

顔の前に持ってきて、手を開く。

 

そこには、18年と書かれた小銭だ。

 

 

 

「今日、この時間だと思ったぜ、マフT」

 

 

 

声の主を見る。

 

春になって暖かくなったのに、それでも被り続けるニット帽のウマ娘。

 

それはどう考えても一人だけ。

 

相変わらずギラギラとしていた。

 

 

いや、違う。

 

今日は、すこし違った。

 

 

 

「なにか用か?」

 

「ウマ娘にターフ。その意味は一つだろ?」

 

「なるほど、君にとってその時か」

 

「ああ___賭け(駆け) に来たぜ」

 

 

 

ロリポップを咥えた、ウマ娘。

 

ナカヤマフェスタは鋭くこちらを見る。

 

もう一度、意識を切り替えて、目を凝らす。

 

 

 

「!」

 

 

 

眼を見開く。

 

彼女のウマソウルがここ1番に激っている。

 

なるほど、そう言うことか。

 

本人はどうやら理解してる"側"のようだ。

 

だから、ここに来たのか。

 

 

 

「俺じゃないと、気が済まないか?」

 

「求めたら応えてくれる。 それはウマ娘にとって毒だ。 だから応えてくれよマフティー。 正直に言うとな?お前に堪らないんだよ、私なぁ…」

 

「そうか。だが変化は起きるものだ、ナカヤマフェスタ。 今のマフティーは君に相応するマフティーである事を認知した上で、選び取った倍率なのか?」

 

「ああ、お前だ。 私にとっては今だ。 だからこの勝負で確かめる事にした」

 

「だとしたら悪い賭けをするな。ナカヤマフェスタ。智略も無い。ただの運試しに極まった。ああ、でも、いいだろう。 そんなにマフティーを求めるのなら、存分に応えてやるよ」

 

「くくっ、そう来ないとな」

 

 

 

指にコインを置く。

 

弾くのは俺であり。

 

結果を待つのは彼女だ。

 

準備はできた。

 

あとは…

 

 

 

「表だな」

 

 

 

迷いなく彼女は『表』と告げる。

 

その眼に揺らぎはない。

 

俺は指でコインを弾き、キーンと音が響く。

 

ターフの外では、俺とナカヤマフェスタを見ていた記者は何事かと騒ぎ出した。

 

世間的に有名なマフTの目の前に、デビューすら果たしてない無名のウマ娘が対立する。

 

その光景に誰もが驚いてしまうが、宙を舞うコインに皆が注目する。

 

 

 

「マフTまたはマフティー、だったな」

 

 

 

ナカヤマフェスタは不意に言葉を放つ。

 

 

 

「表裏あるように聞こえるセリフ。そりゃ数年前ならそれは正しかったのかもしれない。ハッキリと分かれていた。だが、()のマフTに何度も勝負を挑んで理解したよ。今のマフTは、裏に穴のない()だったって仕掛けがな」

 

 

 

コインが重力に従って落ちる。

 

その過程で、夕日の中に収まり輝く。

 

まるでラストシューティングのように光る。

 

まっすぐと手元に目掛けて落ちて来た。

 

手を伸ばして、受け止める。

 

手の甲に、大勝負の果てが収まった。

 

 

 

「…」

 

「…」

 

 

 

静まりかえるターフ。

 

誰かが息をのむ。

 

被せていた片手を引き、手の甲を見せる。

 

そこには…

 

 

 

「表だな」

 

「表だ。どうやら君の勝ちだな」

 

 

 

叩き出された結果は間違いなく、表。

 

どうやら彼女は賭けに勝ったようだ。

 

マフティーを相手に。

 

彼女は勝負を勝ち終えた。

 

 

 

「なら_____()()通りにだな、マフT」

 

 

ニカっと笑うナカヤマフェスタ。

 

その笑みは純粋な喜びから。

 

 

 

「ふっ……わかった! 認めるよ、ナカヤマフェスタ」

 

「!」

 

 

 

勝者を認めなければならない。

 

勝ち得た者に、与えられる権利がある。

 

それが正しい姿であると頷く。

 

するとナカヤマフェスタは震え…

 

そして…

 

 

 

「よし、よし!! よっしゃぁぁっ!!!」

 

「!?」

 

 

 

唐突に喜び始めるナカヤマフェスタ。

 

両手の拳をグッと握りしめた。

 

尻尾も興奮気味に動いている。

 

彼女からこんな姿は見たことない。

 

勝ち負けに慣れてるよう感じられたが、今回の勝利はそんなに嬉しかったのか??

 

あとロリポップが口から飛び出したので、棒の部分に指を伸ばして掴み取る。

 

 

 

「そ、そんなにか??」

 

「あっははは!そりゃな!大勝負の果てで勝ち得たんだ!ッ、くぅぅぅう!!やはりヒリつく勝負は最高だ。思わず自分を忘れてしまいそうだ」

 

 

たかがコイントス。

 

表裏を決めるだけの勝負。

 

しかし、ここにいる彼女は周りと違う。

 

これだけの出来事でも、相当嬉しかったようだ。

 

 

「飴飛び出るほどだったようで、何よりだ」

 

「おっと、悪い悪い!また世話かけたな」

 

「構わないが…しかし、ギャップに見合わないリアクションに少し戸惑いを感じる。ほれ、口を開けろ」

 

「んぁ」

 

 

ロリポップを口に押し込んでコロコロと音が鳴る。

 

勝利の美酒では無いが、味を楽しんでいるの耳がピクピクと動いている。

 

尻尾はまだ落ち着きがない。

 

よっぽど嬉しかったらしい。

 

 

「やれやれ。 別の気性難がまた来るのか」

 

「おいおいマフT?本人の前でそう言うなって。私はヒリつく勝負が好きなだけだぜ? ま、これからはファストパス並みに利用はさせてもらうけどな」

 

「マフティーも安くなったもんだ」

 

「私にとっては、その倍率は高いさ」

 

「俺はBet(ベット)違いのカボチャhead(ヘッド)だぞ?」

 

「そりゃ…()ける方も好きだが…」

 

「?」

 

「私はウマ娘だ。だから()ける方も頼むぜ、マフT」

 

「!!」

 

 

 

ああ、俺はいつも通り。

 

ウマ娘に狂い始める。

 

例え勝負狂いのニット帽だろうが関係ない。

 

ウマ娘が駆けたいと、求めるのなら。

 

マフティーは容易く動くだろう。

 

 

 

 

 

「え?? は?? な、なにこの状況??」

 

「ああ、なるほど……ウマたらしですか…」

 

「!?」

 

「紙コップと豆、増やす必要がありますね」

 

「は、坂路で、足が、プルプル、する……」

 

 

 

担当の三人だけではない。

 

ターフの外にいた記者や関係者、凡ゆる観客がこの一連にどよめきを。

 

そして察しの良い者は驚きを隠せない。

 

それぞれの感情が混じり合う春を迎えた夕方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前か??

私は

ナ カ ヤ マ フ ェ ス タ

 

生ぬるい勝負じゃ、スリルを感じねぇ…!

ヒリつかせるようなターフで、共に狂おうぜ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

G  ゴールドシチー

 

U

 

N ナカヤマフェスタ new‼

 

D  ダイタクヘリオス

 

A  アドマイヤベガ

 

M  マンハッタンカフェ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




 

正直に言えば、ナリタタイシンで迷った。
2525でマフティー構文のMADあるくらいだし。
でもフェスタには実機で実装してほしいから。

あとは……ただの趣味だ!!!



ではまた


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36話

ウマソウルの減少。

 

それは本格化を終えて、体が全盛期から衰退することだろう。そしてウマ()として走りたい要求はターフで奮わなくなり、駆けていた足は過去の栄光となってしまう。そんなケースも珍しく無く、ウマ娘としていずれ迎えてしまう瞬間だろう。

 

では、トレーナーとしてそのウマ娘とはどのように向き合うべきだろうか?

 

ウマ娘は無理してアスリートを続ける必要はなく、トレーナーの大半はアスリートから身を引いてもらうように提案する。

 

衰え始める肉体で時速70キロを駆ける足がその速さに耐えれず、後遺症を残すような怪我を起こしてしまう危険性が高いため、()()()()()()()に身を投じることを指導者としてお勧めしない。

 

だがウマ娘は走りたくて仕方ない生き物だ。

 

大人として心が成熟するまでは激しく揺れ動く未熟な心身が存在意義をターフに追い立てる。

 

しかし誰もがマルゼンスキーの様に長く現役で居られるわけでもなく。

 

誰もがナリタタイシンのように大きなウマソウルを持っている訳でもなく。

 

誰もがナカヤマフェスタのようにタイミングを理解してるわけでもない。

 

始まりは急で、終わりも急である。

 

そしてそれは抗えない。

 

どんなにウマソウルが揺れ動いても、それがすり減ってしまえば、体と魂は噛み合わせの悪いクラッチの様にエンストを起こし、走りに支障を出してしまう。

 

エンジンと言うのは消耗品、劣化してしまう。

 

変えようが無い。

 

 

「マフTは、知ってたんだね」

 

「知ってたよ」

 

 

二人でマンハッタンカフェの走りを眺める。

 

その走りは少しずつだがミスターシービーが駆ける姿と重なっていく。

 

坂路に強く、早い段階での加速、最後列から目に見えて追い縋る影、スタミナも多く、ロングスパートも滑らかで、レースに対する読解力の高さ、常に落ち着いた観察眼は賢いレース運びを行えるだろう。

 

それだけの実力を秘めながらやっと今年デビューするマンハッタンカフェは、誰よりもレベルの高いスタートを切れる。既に学園内でこの話は持ちきりであり期待されているウマ娘だ。もしかしたらシンボリルドルフと同じくらいの期待があるのかもしれない。

 

それもその筈。

 

彼女は約二年の長い時間を使ってミスターシービーの走りを観察して、並走して、マフティー性に対する高い感受率を活かして、何度も自己投影してきた。

 

その眼で、その脚で、その頭で。

 

そして寝ている時すらも夢の中でも高い自己投影力は毎日のようにイマジナリーフレンドと競い合う。

 

脆かった爪はマフティーを求めてチームに入った頃よりも強固になり、彼女には弱点が無くなった。

 

俺と言う存在が、マンハッタンカフェをそこまで強くしてしまった。

 

ミスターシービーの存在が、マンハッタンカフェをそこまで完成させてくれた。

 

 

これが偶然なのかわからない。

 

だが当時はミスターシービーとマンハッタンカフェしか居なかった。マンハッタンカフェはミスターシービーの近くにいたことで、誰よりも彼女の走りを参考にしていた。無敗の三冠と言う頂きに届くのは漆黒の摩天楼なのかもしれない。

 

それが……今の彼女だと言うことだ。

 

 

 

「アタシがどんどん衰えて、それで全盛期が終わって、マフTはこの脚が落ちていくことがわかってたから、その走りをカフェに引き継がせた。そう言う事だよね?」

 

「そうだ」

 

「それは、いつから気付いてた?」

 

「シンボリルドルフに勝てなくなった頃だ。ジャパンカップ辺りから確信に繋がった」

 

「そっか。やはりマフTには隠せないか」

 

「……シービー。 君は、いつから__」

 

「小学生の頃かな。本格化は早かったよ」

 

「そう、か…」

 

「本当はもう少し抑えれたかもしれない。脳に信号を送ってさ、肉体の成長期を少しでも遅らせて、それでタイミングは合わせれたかもしれない。医学もそれだけ進歩してるから薬でも使えば少しくらいは躊躇わせることもできたと思う。けどね、ターフで楽しく描きたいミスターシービー(ウマソウル)は我慢できなかった。これは、その結果だよね」

 

「…」

 

「自分では長いと思ってたよ。なんなら成長期は2回に分けて起きて、それで長いと思ってた。でも波は落ち着きを知らず、いつまでも高く高く聳え立つ様な波だった。そのお陰で夢見てたトウショウボーイだった母の皐月賞も、その時夢見れた三冠の栄光も、そして夢見たようだった有マ記念ではマルゼンスキーを相手に得た勝利も、このウマソウルが激しかったおかげ。でもこのウマソウルの大波は一回だけ起こせば満足したかのように引潮のごとく、この脚はどんどん全盛期から引いていった」

 

 

過去を振り替えながら自分のウマソウルと向き合いながら語る。

 

マンハッタンカフェを見る彼女の横顔は穏やかに見える。

 

しかし終わりを迎え始めている自分にどこか寂しさを見え隠れさせている。

 

耳が少しだけ不安に揺れていたから。

 

 

「もっと走りたい気持ちはある。でも満足の行くところまでアタシはターフを描けた。これは間違いないよ。アタシの独りよがりをマフTが受け止めてくれた。そうした事実が今この瞬間だと考えるなら、今だってぜんぜん悪く無いかな」

 

 

そう言って彼女は笑う。

 

ウマ娘として走りたい本音はありしも、彼女の浮かべる笑みはここまで走る事が出来たその誇らしさが詰まっていた。

 

だから、俺はそこに救われた気がした。

 

 

「シービー、シニア2年目になっても中央で走れるウマ娘はそう多くない。皆それぞれの進路を決めて歩き出す頃だ。君はまだ立派に脚が動いてる。それは非常にすごい事だと思う。だから俺はそんな君のことを勝手に誇らしく思うよ」

 

「あはは、アタシもアタシ自身が誇らしいよ。まだまだターフに笑えるつもりだけど、でも引き時だって考えてる。後ろから追いかけてきてくれる後輩達にターフを譲ってさ、それで腕組んで偉そうに教える事だって面白いかも、とかね?」

 

「なんだい?トレーナーにでもなるのか?だとしたら中央は喜ぶだろうな。地方からどんどんトレーナーは戻ってきてるが、それでも不足気味なのは変わらない現状。シービーは好かれる子だから良さそうだ」

 

「んー、でも、楽しそうを通り越して大変そうだからトレーナーにはならないよ。それにマフTが代わりにやってくれるからアタシ別に良いかな。だからアタシは、適当に、こう、支える程度の距離感でいいかな〜、なんてねぇ〜、とか、色々と…ね?」

 

「?」

 

 

ミスターシービーはニコニコと笑いながら夕日のオレンジ色を頬を染めて、頭の後ろに腕を組みながら口笛を吹く。しかしレース以外は不器用な彼女だから下手な口笛だ。

 

イタズラ心が芽生えた俺は指を伸ばしてミスターシービーの横耳をススッ!と跳ねると、驚くのと同時に綺麗な口笛が噴き出された。

 

上手いじゃないか、と揶揄えば少し頬を膨らませながら「もう!もう!」と肩をバシ!バシ!とセクハラに対してのパンチをお見舞いされる。

 

手加減はしてくれているがウマ娘パワーはやはり痛い。

 

悪かったと軽く謝り、その代わり後で耳掻きを要求された。それで許してくれるようだ。

 

 

「まだごっこ遊びは出来るか?」

 

「マフT無しではキツイかな。やはりマフTが見てくれないと鮮度が落ちるかも。一人だけだと一緒に走るウマ娘の幻影もなんとなくそこにいるくらいにしか感じ取れないし、やはり魂を揺れ動かしてくれるマシーンが無いと三冠目指してた頃のイメージトレーニングもキツいな」

 

「それでも充分にすごいと思うが…」

 

「アタシはカフェ程じゃ無いけど彼女と同じようなタイプだよ。見えないモノやナニカを感じ取れる不思議ちゃん系。あとヘリオスだってノリと勢いとパスタで見えてるつもりらしいね。不思議ちゃんとは程遠いヘタレパリピだけど」

 

「でも、どちらかと言えばシービーは両方じゃ無いのか?カフェとヘリオス合わせて割ったような感性」

 

 

カフェのような資質の高さ。

 

ヘリオスのような実行力の高さ。

 

もしくは大人しかったり、やかましかったりと清濁併せ持つような雰囲気。

 

 

「………」

 

「どうよ?」

 

 

それを指摘すると思考を巡らし、カタカタと震えて。

 

 

「…ちょっと待って、アタシってヘリオス成分もあったんだ!?」

 

「みたいだな? シービーもパリピ出来るぞ」

 

「うぇーい!?」

 

「ほら、出来た」

 

「っ!?……な、なんか負けたー!」

 

「俺の勝ち。なんで負けたか、有マ記念まで考えといてください。そしたら何かが見えるはずです」

 

「猶予ありすぎ記念!?」

 

 

やはりヘリオス成分もあるのかノリが良い。

 

だから畳みかけることにした。

 

 

「そりゃ、ラストランは有マ記念だからな」

 

「へ? あー、なるほど。それで有マ…………え?」

 

 

カフェのように冷静になり、言葉の意味に傾げる。

 

そして眼をパチクリさせて、耳がピーンとなる。

 

愛らしさ満点な彼女に俺は…

 

 

「最後に飾ろう、シービー」

 

「!!」

 

 

有マ記念、いまから8ヶ月先のレース。

 

年を納める最後のレース。

 

誰もが望む誇り高きレース。

 

 

 

「勿体ない君が、俺は嫌だな」

 

 

トレーナーの視点はない、俺個人としての言葉。

 

指導者失格なお願い。

 

だが、ミスターシービーを走らせたい。

 

次は使命感も無く。

 

追われることも無く。

 

誰かのためでも無く。

 

自分のために。

 

彼女自身のために、もう一度。

 

俺は、ミスターシービーを見ていたい。

 

折り畳み傘を渡したあの日の彼女を俺はまだ覚えているから。

 

ミスターシービーが、走ってたから。

 

 

「うん、良いね……有マか…!」

 

 

その言葉に賛同する。

 

眼の中に、魂が灯された気がした。

 

 

「それ良いと思うよマフT! アタシ、有マ記念走りたいな!」

 

 

ぴこぴこと揺れる耳が本音を隠さない。

 

猫味のある表情も素直さしかない。

 

だからその言葉が本心であることがわかる。

 

 

 

「じゃあ、決まりだな?」

 

「決まり!」

 

 

 

簡潔に決められたレース。

 

多くは語らない。

 

なぜなら互いにわかってるから。

 

それが俺と彼女にとって正しいことが。

 

これが間違いじゃない事が分かるから。

 

 

「じゃあ……調整よろしくね、マフT!」

 

「ああ」

 

 

 

理由を交わさず、ラストランは唐突に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉貴、まさか、有マっちゃう感じ……?」

 

 

 

ウマ娘は耳が良い生き物だ。

 

だから。

 

よく聞こえるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三女神の像に対してカボチャ頭を脱いだのはいつ以来か?まだ俺にとって三女神が理不尽の塊でしか無い認識の時に、この顔を晒して訴えたのは覚えている。

 

それからマンハッタンカフェのイマジナリーフレンドが開けない口の代わりにその意味を教えてくれた。

 

俺は『因子継承』として前任者の体に魂が宿った。

 

前任者の愚行に怒りを交えながらも願われた三女神はただ役割を果たしたに過ぎず、それはマフティーと同じように『たらしめる』だけの話だった。俺からしたら理不尽極まりない不可抗力からこの世界で苦しんだ。強くてニューゲームどころか弱くてコンテニューゲームの物語としてまともでは打開できないスタートを切ったから、俺はバグ技の如くマフティーを引き出して物語を進めた。

 

前任者が望んだ『代わり』として俺がコントローラを握った。それがカボチャ頭を被ったマフティーだった話である。

 

 

まあ、今となっては呪いも乗り越えた先でミスターシービーは三冠ウマ娘になり、見事に前任者の苦しみは解かれて、俺自身もカルマを拭うことはできた。それでも三女神が俺にウマ娘に狂えるマフティーを求め続けるから、俺は今もカボチャ頭を被って応え続けているだけ。

 

マフティーを辞めようと思えばいつでも辞めることは出来る。秋川やよいがマフティーの意味を理解して、彼女もまたマフティーたらしめる(ウマ娘に狂える)存在となったから、俺が世間にこの概念を広める役割も終わった。

 

今となってはこのカボチャ頭も軽くなった。

 

アドマイヤベガをスカウトするときもコレを簡単に外せるくらいにはなった。

 

だから俺はもう訴える意味も持たない、俺個人としてウマ娘に狂ってる本当の独りよがりを今も続けているに過ぎない。されどおれは器だから。マフティーを知っているだけの異端な人間だから。

 

 

「……」

 

 

夜の22時。

 

業務を終えて三女神の像を見上げる。

 

抱えてる水瓶から溢れ出る水流はシステムでストップされ、次の朝まで流れることはない。

 

夜の春風と満月が静かに三女神を彩る。

 

こうやって眺める回数も随分と減った。

 

役割を課せようとしないゼロシステムが何も言わないように、役割を課せようとしない三女神だって何も言わない。今の俺は前任者から脱しただけの空っぽな器だ。穴あきカボチャのように薄っぺらい道化として被っているだけのトレーナーだから。それがマフティーの果てで完結してしまった【オレ】と言う存在。

 

どうであれ、やはり『知ってるだけ』なんだ。

 

マフティーというのは、あやふやながらも危険と狂気に染まれる便利な自己投影か、または偽名から生まれるご都合主義だ。何も知らない人がマフティーを聞いたら強制的に首を傾げてしまうだろう。まあそれも仕方ない。ガンダムの作品から生まれただけあって厄介なモノなんだよ、マフティーと言うのは。

 

俺にとってはカボチャ頭に意味を込めただけだから。

 

わかりやすく、便利に、そうしただけ。

 

蓋を開けるようにカボチャ頭を開ければ大した種もない、スプーンでくり抜かれたその中身に哀れな人間が入ってるだけだから。

 

それは前任者でもあり、俺でもある。

 

 

 

「でも、俺は中央らしくないな」

 

 

 

心はウマ娘のために奮いたい。

 

それは間違い無い。

 

けど、ここに立っているのは引き継ぎから。

 

スタートは最悪でも、俺の力でこの中央に入れたわけでも無い。少なくとも前任者は勉強してこの中央に就職できて。それは控えめに見てもすごい事だろう。成績はそこそこだったがそれでも通ずる資格を得て中央のトレーナーバッジを授かった。日本全国のトレセン学園からしたら誇り高い称号だろう。

 

 

まあ……そこに人間性が含まれてるかは別だ。

 

幾ら勉強が出来ても、コミニケーション能力が無ければ組織で働くなんて無理に等しい。

 

そして前任者は失敗した。

 

ウマ娘に対する接し方と、指導者としての佇まいを間違えた。ウマ娘のために存在する三女神が怒るのも当然だろう。中央レベルの実力は備わっていただろうに前任者は間違えて破綻してしまった。俺からするともったいないことをしたバカ野郎の認識だ。

 

それからその知識や能力は俺が引き継いだ上でマフティーの味付けと共に始まった。

 

結果として俺はウマ娘を指導する能力に困ることなく、ミスターシービーの練習を見ることはできた。

 

まあ大体は『究極のごっこ遊び』で自己投影のお手伝いをするために、走るミスターシービーを眺めている時間の方が多かった気がする。

 

なんだかんだで彼女は一人で練習して走りを確かめれるタイプだから。それこそ本格化が早かったから、湧き上がる本能と生まれつきのセンスが噛み合って己を育てることに己が困らなかった。何せ彼女は天才だから。

 

だから俺は特別すごい指導なんてしていない。

 

俺はユニコーンガンダムのように心を注ぐマシーンなだけで、そのトリガーを引くのはミスターシービーだった話。

 

俺と言う存在は誰かがいなければ一人動けない冷たい鉄屑に過ぎない。

 

天才的なエースパイロット(ミスターシービー)が導いてくれたから俺はマフティーたらしめることが出来た。

 

何度も言う。俺はトレーナーとして大したことは出来ていない。

 

なのに…

 

 

「有マ記念か……」

 

 

ウマソウルも減少して、いつしかパタリと究極のごっこ遊びが出来なくなるだろうミスターシービー。

 

俺が側に居れば「まだ出来るよ」と言っていたが安定するとは限らない。お役目終えた俺もこのマフティー性を保ち続けられるか正直わからない。

 

いや、マフティーの象徴だったこのカボチャ頭を被り続けばそれは保たれるだろう。

 

マフティーは応えようといつものようにマフティーするから俺に関してはまだまだ心配ない話だが、だからと言って肉体の衰えを感じ始めたミスターシービーに究極のごっこ遊び(公式戦並みの走り)の中で駆けさせるのも如何なものだろうか。

 

本気(マジ)な世界に自己投影する走りは正直に言うと消耗が激しく、バイタリティ溢れるウマ娘で無ければ早々手を出せない領域だ。

 

ぶっちゃけると2日に1回、調子が良い日は連日通してやってのけるミスターシービーの回復力と肉体が異常なだけ。あと前世に培った技術として俺の施術*1 がウマ娘の疲労を九割型回復させてしまうイレギュラー(嬉しい誤算)があったから長く続いてるだけで、これが俺じゃ無ければ成立しない。

 

他の人には出来ない俺たちだけの特別。

 

 

だが、今のミスターシービーにとって…

 

そうではない。

 

 

結論から言う。

 

 

ミスターシービーは()()()()()()調()()しながら有マ記念の日まで鍛えた肉体を落とさないように、俺がトレーナーとして管理しなければならないのだ。

 

それはトレーナーとしての手腕が物語る。

 

 

「……」

 

 

 

俺の担当が彼女一人ならまだキャパシティーの関係でなんとかなるかもしれない。

 

それこそ「なんとでもなるはずだ!」と負けん気で彼女を支えれる。

 

これまでそうだったから彼女と変わらずそんな形で歩めたと思う。

 

けれど今の俺はマフティーを求めて集われたウマ娘のためにも働かなければならない。ミスターシービーひとりだけに時間を割くわけにもいかない。

 

ゴールドシチーは【日本ダービー】に。

ダイタクヘリオスは次の【マイルCS】に。

 

これだけ二つもG1レースが待ち構えている。

 

つまり 日本一 と チャンピオン の戦いを抱えている。重たい役割だ。

 

しかもそこにマンハッタンカフェのデビューも重なっている。世間的にも期待が大だ。

 

あと急遽加入してきたナカヤマフェスタも自身の本格化と照らし合わせつつ今年が出走なのかを見定めている。もしかしたら半年後、急に走り出すのかもしれない。アクションはすぐにとれるようにした方がいいだろう。

 

身構えてる時に、気性難は唐突に来るものさハサウェイ。

あと起床難(シチー)も……え?

 

クェス・パラヤ と キギ・アンダルシア??

 

あれもあれで  でしたね?

ハサウェイ。

 

 

 

マフティー

 

「この季節になると待ち構えたように出てくるな?死神でも現れたか?」

 

 

そして声をかけたのはイマジナリーフレンド。

 

急に現れる存在だが、そう驚かない。

 

そしてこのタイミングで現れたと言うことは、意味がある。

 

 

 

心機一転の季節、だから三女神は今だけ

 

「俺が三女神に求める物なんて無いよ」

 

物じゃなくても、ならいるよ

 

「…………」

 

三女神の絶対とした役割。それはあなたも自身も証明。なら回帰だって有り得る。それがウマ娘のために繋がるなら三女神は()()()()()()()に微笑んで応えてくれる

 

 

いつもならマンハッタンカフェとは正反対にはっちゃける事がある愉快なイマジナリーフレンドだけど、暗い夜はマンハッタンカフェと同じようにおとなしい。

 

だが放つ言葉はハッキリとしている。

 

躊躇いがこの者になく、でも冷淡だ。

 

なんと言うか…()()()()()()()のようなウマ娘だ。

 

 

 

「正しく狂える…か」

 

何ができるか、わかっているんだ?

 

「少なくとも、俺は三女神のソレに比較的似た存在だよ。この体を補うファクターとして備わった俗物だけど、人として脚をつける狂いモノと言うのなら俺も三女神と大差ない」

 

なら貴方は"その半端"を受け止めるべき。いや、受け止める権利がある。貴方は貴方だが、その身は前任者のモノであり、どっちも間違いなんかじゃ無いんだから

 

「君はわかるんだな。 でもそれはさ…中央のトレーナーとして正しい事なのか? この世界でカボチャ頭を被ってた俺が言うのもおかしい話だが、戸惑いがある」

 

………私は、敢えて言ったよ

 

 

 

 

 

 

 

 

マフティーのやり方、正しく無いよ

 

 

 

 

 

 

 

 

何故なら元からカボチャ頭に良し悪しなんて存在しない。貴方は歪んだ器だとして、そこに注ぎ込まれた正義なんて誰も測れない。

だってマフティーは正しくないから。やり方も。在り方も。示し方も。進み方も。言い方も。指し方も。眺め方も。導き方も。備え方も。被り方も。求め方も。応え方も。狂い方も。

そのように染まった貴方は正しいなんて言葉では言い表せない。

それでも歪んだ器に注がれた飲み物があるのなら、その舌を焼き殺してでもマフティーの意義と価値は『なんてとでもなるはずだ!』って飲み込み続けるのがカボチャ頭のトレーナーだって私はわかっているつもりだよ…!

 

 

 

感情荒ぶるイマジナリーフレンドは、それはとてもじゃ無いがまるで生きている様に言葉があり、そして…

 

どこか重ねている様にも感じられた。

 

 

理不尽に噛みつけ」それがマフティーなら、それを正しくないと勝手に否定する奴がいるのなら、見てきたモノを否定させないことが、今のマフTだ

 

 

 

 

 

宇宙(そら)に とある男 がいた。

 

愚かな人間に粛清を与えしパイロットが。

 

 

 

宇宙(そら)で とある男 がいた。

 

人類の光を信じた奇跡のパイロットが。

 

 

 

宇宙(そら)と とある男 がいた。

 

痛みを知った赤子のようなパイロットが。

 

 

 

 

それは子どものまま大人になって、それが己にとって正しいからテロリストに成り果て、救われない結末を疑いながらもマフティーを名乗ったホンモノの独りよがりが、短い物語にいたんだ。

 

 

 

__ガンダム。

 

宇宙を駆ける意志の証明。

 

 

 

そしてカボチャ頭。

 

なんてことないテロリストと紛い物。

 

 

 

 

だが、俺にとって、それは。

 

意志を持った紛い物____だとしても。

 

注がれるべき歪みきった器があるのなら。

 

それを飲み込んでいくのが マフT()だった。

 

 

 

 

「俺はマシーンだ。……映すための」

 

 

マフティー…

 

 

「だが、俺だって乗れる筈だ、マフティーに」

 

 

『…』

 

 

 

 

三女神の像を見上げる。

 

外したカボチャ頭を脇に添えながら。

 

その立ち姿は、宇宙に想いを馳せる一人のパイロットのように立ち尽くす。

 

 

 

「随分と悩んだけど迷うことはやめた。赤いエゴに狂信するマフティーを演じたハサウェイだってそうだった。この世界でのマフティーの役割は終えたつもりだけど…」

 

 

 

つもりだけど。

 

まだマフT()には役割がある。

 

それなら。

 

俺のエゴだって、独りよがりだって。

 

カボチャ頭を被る俺にとって、正しい筈だ。

 

だったら、躊躇う必要はない。

 

 

 

マフティーのやり方、正しくないよ

 

「でもマフTが、正しくするさ」

 

 

 

問いかけられた言葉は、俺が応える。

 

マフティーではない、マフTが。

 

 

 

『…………ん、そうだね、マフT…』

 

「!」

 

 

 

優しそうな声に横を振り向く。

 

イマジナリーフレンドはもういない。

 

 

 

「…」

 

 

でも……微笑みながら俺を見送った。

 

それは理解できた。

 

 

 

 

「なんとでもなる筈だ」

 

 

 

お決まりとなった強がり。

 

だが俺には必要な合言葉。

 

脇に抱えていたカボチャ頭を手放す。

 

重力に従い、大地に落ちた。

 

その象徴は今だけ地面の冷たさを知るだろう。

 

だが俺は気にせず、三女神を見て…

 

 

 

 

 

 

 

前任者に会わせろ

 

 

 

 

 

 

 

怪しく湧き出るプレッシャーを踏みつけ。

 

大地に落ちたカボチャ頭に絡みつく。

 

噴水に満たされた水面に映る、その瞳は。

 

カボチャ頭の中で染まる狂気の色。

 

誰もが恐れる。

 

マフティーのようなトレーナーだった。

 

 

 

 

 

 

つづく

*1
スポーツマッサージ




マフT本人は別にトレーナーとしての勉強をしてなかった訳じゃないが、それ以上に色々有り過ぎてミスターシービーほどのウマ娘を支える技量は前任者が蓄えた能力で補ってる感じです。

まあ、つまり…前任者はそれなりには優秀だったんですよ。 中央のウマ娘を育てる能力だけは…ね?

人間性がね、向いてなかったんや。



ではまた。


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第37話(挿絵あり)

 

 

「なぜ……」

 

 

向かい合った その男 は呟く。

 

 

 

「何故…私がまだ生きてると、分かった?」

 

 

 

宇宙空間のように無重力で、ナニにも縛られないそんな場所に放り出されたような気分だが心に不安はない。

 

備わったマフティー性でその経験は幾度なく行なってきたから。

 

だから驚きもない、納得のみがこの空間に漂う。

 

 

()()()の錠剤」

 

「!」

 

「アンタは服用する前に俺が代わったんだ。机の上にあった未開封の錠剤を見て、恐らく魂は生きてるだろうと見た。それからしばらくしてその魂は三女神の中にあることは何となく察した。願いは三女神から始まったならその在りどころもココだとな」

 

「……君は、やはり私が求めた人格だ」

 

「俺は人格じゃない。お前のように生きていた意志を持った人間だ。アンタが理想とした()()()を知っていた俺が成り代わっただけの話で、それを俺が演じたに過ぎない道化師だ。勝手に神格化されても困る」

 

 

マフティーとしての役割も果たし、あとは個人的なマフTとしてウマ娘に狂うだけの延長戦を続けている、世間的には成功しただろうトレーナーがこうしてもう居ない存在(前任者)にで会うことは理解に苦しむだろう。

 

でもそれは本人じゃ無いからこそ、そう思うだけで、俺本人の苦悩はまだカボチャ頭の中で続いていた。

 

感じているのは『力不足』の3文字。

 

故に…

 

 

「俺は恨んでるが、アンタを認めている」

 

「!」

 

「何があってそんなにねじ曲がっちまったのかは知らないが、ウマ娘を育てるための知識はたしかに備わっていることが、この身で理解できたんだ」

 

「…」

 

 

 

最初は後始末の出来ない大人だと思い、その情けなさを軽蔑していたが、ウマ娘のトレーナーとしての能力はあった。

 

だが俺にとっては付焼きの刃であり、最初に担当したミスターシービーは自分でなんでも出来る天才だったから、俺はカボチャ頭を被って眺めてるだけのようなハリボテトレーナーとして一年を終えた。

 

でも少しずつウマ娘の教育に慣れて、ウマ娘の理解も深まるごとに前任者の知力は確かに中央のレベルだったのだと実感していた。

 

 

「今は他に担当を持てるくらいにはなんとか出来ている。でもそれは中央に入るためアンタがちゃんと勉強したから。それは間違いない。日記帳の通りに自称してた天才だったよ」

 

「……」

 

「理不尽云々とか抜きにして、アンタはたしかに育てるための知恵と知識は出来ていた。その人格を除けば、その腕前は普通に中央のトレーナー。期待できる新人の筈だったからたづなさんも気にかけていた」

 

「手紙、そこで渡してくれたようで…」

 

「前任者の人格は破綻してマフティーたらしめるために俺の意思が備わったと、そう伝えて彼女は泣いてたよ。俺からしたらたづなさんはやや入れ込み過ぎだと思ってたが、中央の現状が最悪な頃の話だ。ウマ娘の幸せを考えてる彼女だからこそトレーナーを必要としていた。少なくともお前にもな」

 

「そうだね。…知ってるよ。三女神様とそこで見てたから」

 

 

 

認めてるけど、許されない。

 

それがコイツだ。

 

俺は前任者のことを何発か殴っても良い筈だ。

 

けどそんなことをしたところで意味はない。

 

それに今回は恨言晴らしたくて出会ったのではない。もしその心を持って向かい合おうなら三女神が許さないだろう。三女神を通して求めてきたこの場が嘘になるから。

 

 

「言い訳だけど聞いてほしい。……だめかな?」

 

「……聞くよ、今のお前ならば。人間は誰か一人くらいに言い訳しないと不公平だ」

 

「ありがとう。___マフT、私は間違った。それは認める。私は傲慢だった。それも認める。私は愚かだった。それも認める。でも私は怖かった。ウマ娘と言う生き物が」

 

「…」

 

「ウマ娘は人智を超えた生き物だ。彼女達には弱点は有りしも、その力は人間を軽く凌駕している。私はその異色な生き物が怖かった。でもそれを抑制する手段を知ったんだ」

 

「…何をだ?」

 

「徹底管理主義の教育方針だ。私はトレーナーとしてウマ娘を導ける絶対的な指導者になることが恐怖の克服に近いモノだと理解しから」

 

「おい待て。何故そこでトレーナーになる?少なくとも日本にはウマ娘と隔離された場所は幾らか用意されているだろう。そこなら怯えずに済むはずだ…」

 

「だね。けどそうしなかった。なぜなら私には姉と慕っていた従姉弟がいたから。今はURAで働く姉だが、トレーナーとしてもウマ娘と共存していた。でもその時の私はそれを"共存"とは捉えずに支配と認識していた。指導者と言う意味を"従わせる存在"だと履き違えていたから」

 

「愚かな…」

 

「否定はしない。何せ、そのくらいに私は臆病だったからね」

 

 

どうだろうか。

 

でも怖がるからこそ、その克服を目指す。

 

それが出来るくらいには前任者は動けた。

 

その行動力は間違いなく……

 

間違わなければ出来る人間の筈だ。

 

 

「私は周りと違って生まれが普通だったけど、凡ゆることを早期に認識できる天才だったよ。物覚えは良かったと言われる。だからウマ娘が強いことは危険なんだと理解するのも早くて、私は出来るだけ籠るように勉強したさ。それ以外に分配するくらいならリソースを一点に集中させれることで学べる量は増えると思って必死にトレーナーの勉強をした。そして中央を目指した。その優越感は傲慢な性格を加速させたけどね…」

 

「でもその努力は素直にすごいと思うがな…」

 

「ありがとう。今考えたら勿体ないだらけになったけど勉強は頑張ったよ。自分で言うのもなんだけど天才だと思っていたから。でもそれが強みになるならと分かって、傲慢ながらもそこに必死だった」

 

 

天才だから怠らない、それは立派だ。

 

でもそれは抜きに、バカと天才は紙一重。

よく出来た言葉だと思う。

 

前任者は…その頃から余計に考え過ぎていた。

 

 

「それからだ。私はこの徹底管理主義の講師として来ていた従姉弟(あね)からその教育方針を知って私はその方針で勉強して、中央のライセンスを獲得した。そして先駆者がいてこの学びは間違いなかったと、同じ道を志した私はその力が誇らしかった。けどこれが傲慢となり私は周りから否定された。前から指摘されていたが元の性格もその傲慢さが当時の私は一体何がダメだったのか分からなかった。あと臆病だったから、自分を守るための道を閉ざさないためにも声は閉ざした。そしてそれが間違いだったと知ったのは日記帳に書き殴るその時だった…」

 

 

 

この世界は俺がいた世界とは違う。

 

倫理観も、価値観も、世界観も。

 

俺はこの世界のウマ娘が優しい生き物だと知っているから、憑依後もそこまで身構えてない。

 

そりゃ力を振るわれたら恐ろしいことこの上ないけど、ウマ娘は争いを好まない。

 

駆ける世界で『勝ちたい』と言う闘争本能は強いがそれは傷つける暴力的な意味ではなく、競い合える勝負世界に身を投じるだけ。

 

俺はこの世界に来て再度そう認識した。

 

でも、この世界に生まれた人からしたら前任者のそう言った認識があるのもおかしくない。

 

例えば幼少期の保育所などウマ娘と人間を一緒にしないなどの処置もされてるくらいに、ウマ娘は優しいが力は人を超えた生き物であることを学び、その種族差との付き合いを失敗しないように成長する。

 

だか、そこから恐怖心が生まれるのはおかしくない。

 

悪く言えばこの世界の『洗脳(設定)』に囚われず”現実”を知った。

そう…

 

とある歌詞から引き出すなら『痛みを知った赤子』って言葉が似合うだろうこの前任者には。

 

 

 

「だがトレーナーになって上手くいかない。周りのウマ娘は怖い。だが学んだ知識が恐れぬ強さになると信じている。恐怖に支配されぬよう恐怖を飲み込んで私は支配者(指導者)として『たらしめよう』と奮起していた。だがよく見てなかった。ウマ娘は人と同じように生きていることを」

 

「そりゃ、同じだからな…」

 

「その力だけを除けばね。でもそんな彼女達のスカウトは上手くいかず、日々トレーナーとは程遠い業務を済ませた。その時はウマ娘とは関わりない仕事だったから心に焦燥感もなく無事に終わらせていた。たづなさんもそこはホッとしてくれてたね。今思い出したよ。だが勧められたサブトレーナーの仕事は、自分の学んだ強さと、その理解を全否定されてる気分で何よりウマ娘から逃げている気がして嫌だった」

 

「……」

 

「いつしか私は追い詰められる日々の中で三女神の噂を知った。なんとしてもウマ娘を『支配』してでも、指導者としてウマ娘を得て、恐怖と向き合う必要があった。けど私はまだ理解しない。ウマ娘は心のある生き物だ。力こそ人を超えているが心優しい生き物だと言うことを、中央と言う濃い世界にいて全く気づかない。それもそのはず。私はウマ娘としてではなく、ただひどく恐ろしい生き物として見ていたから」

 

 

 

そう言いながらも、前任者の眼はウマ娘に対する恐怖心がまだある。

 

幼い頃から知ったその力関係に彼は知り過ぎたんだろう。

 

それを大人になっても引きずり続けた。

 

これは別に珍しい話じゃない。

 

大佐となった赤い彗星のシャアでも、アクシズと共に消えるまでそうだったから。

 

それはハサウェイも同じだ。

 

間違ったモノを引きずり続けるのは人間の得意技であることを、誰もが宇宙世紀で学ぶ。

 

 

 

「生き急いだ私はスカウトに失敗して、その力自慢のウマ娘に泉の中に殴り飛ばされる。溺れそうになる水の中で三女神様の怒りを知って、呪いの絶望を知る。この呪いから解かれるにはトレーナーとしてウマ娘に栄光ある結果を授けて、トレーナーとして寄り添いがあること。ウマ娘の幸せを望む存在がひどく怒っている。その時にやっと、私はバカ者であることを自覚した。天才だったから自覚するのは早かった。見せられた光景がこの呪いを抱えて果たされる可能性は無いに等しいと。私なんかでは無理なこと。徹底管理主義を自衛のために覚えて、それをウマ娘の支配と掌握を目的とした思想は呪いで抑制されてしまった」

 

「…」

 

「謹慎を言い渡されてからそこで初めて自分の間違いを見つめ直して、日記に字に刻むごとに私は刻まれる感覚を得た。早い段階で知った恐怖心は罪ではない。けど優しい生き物であることを認めない私が、彼女達に歩み寄らないことが何よりも罪だった。よく考えればそうだ。ウマ娘がいて成り立つ世界がある。私はそれを鳥籠なんだと恐れていた。だが違う。彼女達はそんなつもりはない。世間ではウマ娘が力で人間に脅迫した事件とかはある。けど皆がそれを望まず、ヒトと歩み、そして求めている。ウマ娘もヒトの存在を」

 

「……今頃知るなんて、可哀想だよアンタ…」

 

「ああ、そうだね…マフT。三女神様とこの学園をゆっくりと見て、私のソレが間違いであることをよく知ったよ。痛いほどに知ったよ。後悔もしている」

 

「…」

 

「別に周りを恨んでない。教えてくれたのなら、なんて言い訳はしない。私は私の道を貫いてトレーナーたらしめた。作り上げたプロセスにも自信を持ってきた。ただ私はこの世界に怯え過ぎたんだ。受け入れる姿勢は幾らでも作ってくれた世界にすら怯えて、私は死神に身構えたんだ」

 

「……アンタのやり方、正しくないよ」

 

「知ってるよ、マフT」

 

 

 

前任者の言い訳はそれ以上出なかった。

 

ただ聞いて欲しかったんだろう、俺に。

 

間違いに気づけた自分を見て欲しかった。

 

優しいウマ娘がいることをこの世界が望んでいるように、前任者も過ちに気付いた自分をこの世界に望んだ。それがいま俺であることを。

 

この世界がウマ娘の存在する『ウマ娘プリティーダービー』と言うタイトルから作り上げられた世界と知る俺に、そんな自分を見て欲しかったんだ。

 

やはり、どうあがいても子供だ。

 

痛みを知った赤子の頃から、成長をやめてしまった臆病な子供の傲慢な大人がここにいる。

 

哀れだ…

 

可哀想だ……

 

 

 

「聞いてくれてありがとうマフT。私はやっと三女神様に頭を下げてこの世から…」

 

「っ、待て、その前に待て…!!」

 

「?」

 

「俺がココに来た理由はある!アンタの懺悔を聞きに来た訳じゃない!アンタのことは哀れんだけどそれとこれは別だ!!俺はお前に用があるんだ!!」

 

「マフティーが、私に…??」

 

「違う!マフティーじゃない!俺が!マフTとして!中央のトレーナーとしてだ!」

 

 

 

このまま満足げに去りそうな前任者を止める。

 

俺の姿を写したような……男の子。

 

まるで甘んじて処刑を受け入れようとするテロリストのようなこの男を俺は止める。

 

 

くっ…!

やめろ…やめろ!!

 

その顔をして、その顔で達観するのを…!!

 

 

 

「俺はマフティーたらしめた器だ!世間にマフティーの意味を知らしめた体現者だ!けど…俺はそこまでなんだ!マフTとしてはそこまでなんだよッ…ハサウェイ!!」

 

「ハサウェイ…?……だれ?……いや、でも…君はマフティーだろ?なら…」

 

「マフティーは概念であり神様ではない!俺はトリガーを引いてもらわなければ動けない哀れな冷たい鉄屑だ。そこに誰かがいなければ動けないほど脆い象徴なんだよ。例えν(ニュー)に続くギリシャ文字のΞ(クスィー)が大きくそこに健在としても、それは意志を持ったパイロットがいなければ証明すらならない役目を失ったなり損ない。俺には自分があっても足りないんだよ……この身は、未だ力不足を感じる……情けないッ…」

 

 

 

こんなので、俺がミスターシービーを有マ記念のターフに描かせることなんて出来ない。

 

彼女が俺を乗せてくれた。

 

もしくは彼女が俺に乗って動かしてくれた。

 

マフティーと言う……Ξ()を。

 

 

「でもそうなったことに怒りも感じるさ!…っ、身勝手なんだよ!お前は!!」

 

「!」

 

「哀れだよ。可哀想だよ。もっとアンタの周りが優しければ、世界がアンタを見てくれたのなら良いトレーナーになった筈だ。俺なんかよりも狂わずにまっすぐとしたトレーナーが中央に神風を齎して変えてくれた筈!アンタは天才だから俺なんかよりもトレーナー出来たさぁ!!羨ましいよ!天才のお前も!天才のミスターシービーも!羨ましいよ!俺だって…!俺にだって…っ!!同じくらいに寄り添える力があるのなら、カボチャ頭なんかに頼らず今頃は外してたよォォォォ!」

 

「……」

 

 

精神しかない空間だから、握りしめた拳から血は溢れないが、震える拳は無力を思わせる。

 

カボチャ頭を被れば、今からでも解決はできる。

 

それはマフティーだから、魔法の合言葉のように『なんとでもなる筈』だからそうすれば不安なんてない。

 

だってマフティーだから。

 

 

 

 

___けど マフT は どうだ??

 

 

 

 

中央にマフTはそこにいるのか?

 

別にマフティーを脱ぎ捨てたい訳じゃない。

 

まだこれを必要する者がいるなら、それはマフティーも応える権利があり、その器として俺が働く必要もある。

 

 

 

「でも……でも…!!」

 

 

 

でも、その前に俺はマフT。

 

人間で沢山だ。

 

どこかの失敗作だって、人と同じように傷つくし、涙だって流す。

 

兵器として作られた生き物でも、その心は哀れな生き物と変わりない、期待されたかった人類だ。

 

なら俺も同じだ。

 

俺は概念で生きてない。

 

概念を知った上で人間として生きている。

 

この世界でも。

 

ウマ娘プリティーダービーでも足をつける。

 

重力に縛られてそれでも生きている人類だ。

 

 

___苦しくないなんて一言も言っていない!!

___苦しくて仕方ない一方なんだよ!!

 

 

 

 

「割りに合わない…」

 

 

 

 

 

ああ、割りに合わない。

 

 

 

 

 

「割りに合わない……」

 

 

 

 

 

そうだな、割りに合わないな。

 

 

 

 

 

「割りに合わない………」

 

 

 

 

 

ああ、そうだよね…

割りに合わないよね。

 

ここまで来て、あとは空っぽだよ。

 

経験は得たけど、でも足りない。

 

俺にはこれからまた走るミスターシービーを支えるための力が足りない。

 

今から勉強しようにも、足りない。

 

もちろん、時間があれば勉強はしてきた。

 

わからないことも分からないで済ませず、調べて来た。

 

時には東条トレーナーやたづなさんにも質問をして情報交換を行ってきた。

 

でもマフティーの名は重たい。

 

そう安安と誰かに聞けるわけもない。

 

耐え難い。

 

だって、カボチャ頭を外してもまた被るのはそう言うことだから。

 

もう有マ記念まで勝負が始まっている。

 

8ヶ月も経てばすぐ始まる。

 

今からミスターシービーを調整するに出端を挫けない。それで怪我なんてさせたくない。

 

俺は有マ記念を走る、囚われのないミスターウマ娘の走りを見たい。

 

そのために、もっと知識が必要だ。

 

ただ育てるための知識ではない。

 

その知識を蓄えた過程も必要だ。

 

1+1は2を常識として知るのでは無く、何故答えの数字が2になってしまうのか?

 

答えを知ってる前に仕組みも知る必要がある。

 

教科書に書いてるモノだけではなく。

 

ノートに刻んだモノ(過程)までも知りたい。

 

世間がマフティーの概念(道筋)を知ろうとしたように、俺も前任者の概念(道筋)を知って理解する。

 

それだけで随分と変わる筈だから。

 

 

 

今はマフティーじゃない。

 

これは、マフTとして…

 

だから。だから。

 

 

 

「いいよ、マフT……わかった」

 

 

「!!!」

 

 

「ここは三女神様の作り上げた想いが伝わる空間。マフTの苦しみは伝わる。だから本当にごめんね。そしてありがとう。貴方が代わりになってくれて」

 

 

ッッ…!そうだなッ!!ホントだよな!!迷惑だったよ!!こんなのは…!!」

 

 

「うん…そうだね。本当に申し訳ないことをした。許されないことをした。終わって良かったなんて私が言う権利なんて無い。私はマフTに頭を垂れ続けなければならない」

 

 

 

大罪だ。

 

コイツは許されない。

 

終わって良かったなんて……絶対にない。

 

だから俺は考えなくもない。

 

終わった今だって時々考えてしまう。

 

もし__

___マフティーに失敗したら??

 

いろんな不安が身体中を蠢いて、吐き気すらしてしまう。

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…!んグゥっ……!!?」

 

 

 

嫌だ、嫌だ。

 

 

いやだ、いやだ…

 

そんな未来だったかもしれない恐怖。

 

 

嫌だ…いやだぁ…

 

あり得たかもしれない世界線。

 

 

間違った先に訪れる結末。

 

 

ぅぁぁ、嫌だなぁ…

 

 

それは間違いなく、残酷の言葉じゃ甘い。

 

惨たらしいカボチャ頭が完成する。

 

 

ァァァぁぁぁ…

 

嫌だ、いやだ、いやだぁ…

 

 

その前にだ。

 

もし…

 

 

__ミスターシービーに出会えなかったら??

__ソンナコトガ、あっていいのか????

 

 

 

「_______」

 

 

やめろ、そんなの

 

きおくに、いらない

 

ぁぁあ…

 

やめろ…だめだ…

 

かんがえるな…

 

おわったんだよ…

 

だからおわらせろ…

 

やめろ…

 

さいあくのけつまつをとじこめろ…

 

か、か、カ…??

 

カボチャ、あた、ま、は、どこだ??

 

あれ…??

 

どこにおいた?

 

どこに、おいたんだ…??

 

どこにある???

 

あれが、あれば…

 

まだ、おれは まふてぃ でぇ…

 

ぁぇ、しょうきが、もてる、はずだ、ぁ…

 

ぁ……???

 

??

 

あぁれ?

 

どこに、かぼちゃぁ、あだまぁ?

 

ぇぇ???

 

おいたんだぁ???

 

まふてぃ??、????、?????

 

???????

 

ぅぇ???????

 

あれぇ???

 

あれぇぇ…ぇぇ??

 

ェェ??????

 

おれはぁ…??????

 

ァァァ???????????

 

ぁェェ????ァ??????????

 

ァ?ァ??????

 

??????????????

 

あああアああアあア???????

 

アあああアあアアアああああ?あアアあ?????

 

ア?あアアああアあ”ア??あ??アあ???あ””??

 

????あ”あアアあ?あああ”???

 

?あアアああ?あああ”アア”ア”あアアあああアアあア

 

アア”ア”アああ????????

 

??あ”ア”ア??あアアあ?ああ??あ”?

 

アあアああ?ア????ああ””アあ”ア??アあ?????

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不安 と ストレス でどうにかなりそうだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__マフT、聞こえてる??

 

 

 

 

 

 

 

 

ぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

__ねぇ、マフT、聞こえてる???

 

 

 

 

 

 

 

あれ…

 

この声って…

 

たしか…

 

 

 

 

 

 

「マフT…!!」

 

 

 

眼を覚まさせるような大声が耳を(つんざ)く。

 

悪い思考が一気に払われた。

 

 

 

「っ、本当にすまなかった!!本当にすまなかった!!だからマフT!!頼む!!貴方はどうか壊れないでくれ!!私と同じように力(呪い)に壊れないでくれ!!頼むからぁ!!」

 

 

 

 

「ぁ、ぁ…」

 

前任者に揺らされて、俺は正気に戻る。

 

考えないようにしていた、マフティーが失敗して世間から処刑されてしまった未来。

 

 

 

「ぁぁ、……ッ、ちくしょう…」

 

「!」

 

 

 

はぁ…

はぁ…

はぁ…

 

 

危ない。

 

危なすぎる。

 

カミーユのように壊れるところだった。

 

危険だったぞ…いまの。

 

やばい、一度思考を止めろ。

 

ニュータイプとして過去(悪意)を感受しすぎだ。

 

 

 

あと、さっきの声は…

 

 

 

あ、そっか。

 

そう言えば、そうだっな。

 

……助かった。

 

ありがとう。

 

そう言えば一度だけ、止めてくれたよな。

 

考え過ぎて溺れそうになったところを。

 

ありがとう。

 

____アドマイヤベガ

 

 

 

 

「大丈夫だ、もう安心しろ……大丈夫だから」

 

「……わたし…は…」

 

 

 

罪悪感と後悔。

 

負い目を感じながらその場から引き下がる前任者。

 

やってしまった罪に掻き立てられる。

 

ここまで俺が追い詰められたのは全部誤ってしまった前任者から。

 

 

 

「俺は…抱えているモノが多い。マフティーならなんとでもなる筈だけど、俺はマフTとして約束した。だから俺は…」

 

 

 

俺は前任者の眼を見る。

 

喉を焼きながらもすべてを飲み込む。

 

そして前任者は俺を見て、頷いた。

 

 

 

「貴方の願いは当然だ。私は知識だけ置いて、記憶を閉じ込めて、行動を放棄して、理解を放置させたんだ。だからこそマトモを捨てた貴方が足りない分をマフティーたらしめた。でも今の貴方がマフティーの部分に染まらないと言うのなら、次は…………」

 

 

 

しかし、前任者は眼を伏せる。

 

まだ後ろに引きずっている。

 

自分はその資格があるのかと。

 

 

 

 

マフティー・ナビーユ・エリン

 

「え____?」

 

 

 

顔が上がる。

 

 

 

「スーダン語・アラブ語・古アルランド語、ひどすぎるメドレーのようで、こんなのを名前と言うには歪すぎる。だが俺はそれを知った上で一等星に思いを馳せるウマ娘に言った。名前は飾られるだけに過ぎず、迷い人にとって導となるなら名前はなんだって良いことを。だから俺がカボチャ頭を被ったとしても、マフティーって名前じゃ無かろうとも別にそれは構わなかった。けど俺自身がマフティーと言う既存するその存在(名前)が導となったのなら、今の俺にとってこの名前(マフティー)に意味はある」

 

「マフティー、ナビーユ、エリン…」

 

「この名前は元々知ってた。マフティーの正式名称を。しかしこれまで誰にも言わなかった。だから今は初めてアンタに教えた」

 

「!!」

 

「アンタはもう()()()()()に足をつける資格は無いんだろう、この体で。でも重ねてきた存在意義が誰かに借りられるとしたら、それは意味を込めれるだろう名前に想いだけでも託せば良い。

___俺は……構わない

 

「ッ…!マフティー…」

 

「マフティー・ナビーユ・エリンは長いから、もし名乗るにしてもマフティー・エリンだとして…

__そのエリンって部分がアンタの証として示せるのなら…」

 

 

 

 

 

 

__お 前 の 命 を く れ

 

 

 

 

 

アクシズを止める作戦というのは、それこそ死に物狂いな話だった。

 

ラー・カイラムで押し返すくらいに指揮官は必死だった。

 

 

『皆の命をくれ…』

 

 

敬礼してそう言った言葉は、これから全てをこの場所に託してほしいと言う、命懸けから。

 

 

 

 

「あなたは……私……???」

 

 

 

 

この顔つきは随分と変わった。

 

栄養を摂取して、顔色も良くなった。

 

この人が絶える前の…

いや、呪いが原因で放たれる視線の気味悪さに鏡すら直視できない。

 

自身の顔からも拒絶されてたから、前任者は自分の顔を覚えていない。

 

でも今の俺は、マフティーではないマフT。

 

もしくは、前任者 の続きである。

 

ヒトの姿を持って、この人に見せた。

 

 

 

「……」

 

 

 

ちょっとした記憶。

 

中央のライセンスを獲得して、喜ぶ彼の姿。

それだけが今だけ一瞬記憶に過ぎる。

存在してなかったが。

いまは存在したことになる記憶。

彼の人間性は褒められない。

でも、中央のトレーナーだった。

それまで沢山の時間をトレーナーに割いた。

彼の能力は、確かに努力で成り立つ。

だから……中央の先人である彼に敬礼した。

ウマ娘のトレーナーになった、この天才に。

俺は少なからず、敬意はあったから。

 

 

 

 

「___それでも記憶は私のモノだから。結末を知ったのなら貴方に必要無いと思う。だからそれ以外の全てをマフTに託す。私をマフティーに続くエリンにして」

 

 

 

前任者の体は薄くなり光の塊に変わり始める。

 

ここは三女神の空間。

 

彼のファクター(因子)が俺に継承される。

 

 

 

「私がこの言葉を放つ権利は無い。けど私を中央のトレーナーとして見てくれるなら、私は中央のトレーナーだった者として最後に見送らせてほしい」

 

 

 

前任者は完全に光の粒となり。

 

言葉を残こした。

 

 

__どうか頑張って、マフT。

 

 

 

 

「ああ……そうだな」

 

 

 

__なんとでもなるはずだ。

 

 

 

そう言って宇宙のような空間は光の中に引っ込み。

 

周りを見渡せば真っ暗な世界が広がる。

 

なにも見えない 真っ黒 の空間。

 

なにも見えない。

 

すると真横に 二つの光 が通りすがる。

 

自然とだが追い掛けるべきだと察した。

 

俺は光に追いつくようなウマ娘では無い.

 

だがカボチャ頭を被ってないこの体だから軽々と脚が進む。

 

二つの光を追いかけると、眩く輝く入り口だ。

 

そこに向かって走った。

 

 

 

 

___ねぇ、マフTって……なにかな?

 

 

 

 

 

声が聞こえた。

 

ありきたりな質問だ。

 

でも真面目に考えたとして。

 

それは永遠のテーマだ。

 

ウマ娘によって、トレーナーの意味は変わる。

 

トレーナーによって、ウマ娘の意味は変わる。

 

だから一番正しい答えなんてない。

 

だがマフTとしてその質問に答えたとするなら。

 

トレーナーとして、存在する意味は。

 

 

 

「倍速に揺れ動く、瞬く暇も無い、歪な促し」

 

 

 

 

 

 

俺はそれを。

 

閃 光 の ハ サ ウ ェ イ って考えているよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わ、私は、桐生院葵!!

 

ここは中央トレセン学園で!!

 

初めてきました!!

 

あ!?

 

いや、違います!

 

オープンキャンパスで何度か来たことがありますが、今は新人トレーナーとしてこの場所にやって来たんです!

 

今回はトレーナー白書と共に!

 

でも、改めて来ると凄い場所です。

 

広くて大きな敷地に、トレーナーや関係者、生徒などを合わせて2000人近くがこの学園にいます。

 

私なんてちっぽけです。

 

だから不安になって仕方ありません。

 

ぅぅ、でも頑張らないと…!

 

が、頑張れ、葵!

 

 

 

 

「この学園の門を叩きし新人、各家(かくい)に告げる。

 俺は マフティー・エリン だ。

 しかし、今回の対面は"まだ"粛清ではない。

 諸君達の時間を引き換えに、目の前に座位する理事長と意気込みを調達する。

 完了すれば、諸君らは解放される。

 もちろん、不幸にも圧迫面接と捉えている臆病者もご同様だ」

 

 

 

 

ひ ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ い い !??

 

カボチャ頭が練り歩いているぅぅぅ!?!?

 

いや!違う!!

目の前にカボチャ頭が立っている!!!

 

だから中央は怖いって言ったんですよ!!

 

そ、それより…

あわわわ!

 

本物だァァァ!!?!?

 

こ、怖い…!!

 

それと何故だろう!?

 

『悲鳴をあげるな』と訴えられた気がする!?

 

そのまま『神経が苛立つ!』とまで言われたような感覚に背筋が冷たい!!

 

ま、周りを見る。

 

本物のマフティーに後退りそうなトレーナーも何人かいるが、理事長室に案内してくれた駿川たづなさんが扉の前でニコニコと佇んでいるからこの場から逃れる事も許されないらしい。

 

ああ、これが噂の圧迫面接…!!

 

マフティーの横に座っている小さな理事長もだけど、深く被られた帽子から覗かれる眼差しはまるで闘争に飢えたウマ娘の如く!!

 

あ、葵!?

本当にここが中央なのよね!?

 

 

「静粛ッ!!

……では、まず右の者から聞かせてもらう」

 

 

 

わ、わたしから!?

 

あ、えと、その…!!

 

うぅぅ!

 

こういう時こそ鋼の意志よ!!

 

 

 

「わ、私は!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから頭が真っ白になりながらも、ウマ娘のために育てれる力を得てきたこと、たくさん勉強してきたこと、それがURAの貢献にもなることも伝えた。

 

もちろん私と同じように理事長室に案内された周りの新人トレーナーも、これから出会うだろうウマ娘に対する想いやトレーナーとしてのビジョンを、目の前に座っている秋川理事長と、その横に立っていたマフティーに告げた。

 

隠し事なんでできない威圧感の中で私達は必死だった。

 

そして終わるのと同時に私たちはこの二人に見極められていることがわかった。

 

この中央に相応しいトレーナーなのか。

 

この中央で頼れる指導者としての姿なのか。

 

もちろん面接の練習はしたことある。

 

姿勢や声の音量、またPRのタイミング。

 

あと真実は嘘を混ぜると効果的である事も。

 

あ、でも!

 

もちろん私はそんなことしない!

 

私は正直者過ぎて嘘なんて付けない人だと揶揄われながらも褒められていたから。

 

そして無事に終わったタイミングで理事長から放たれる威圧感はスッと消えて。

 

 

 

「合格ッッ!!素晴らしい!!」

 

 

 

扇子にバッと開かれた『感激』の二文字。

 

私達に喜ぶ姿を見てなんとか上手く想いを伝えれたんだと事が分かった。

 

それから…

 

 

「悪いな、怖がらせて」

 

「「「「!!!」」」」

 

 

マフティーさんも先程とは違って優しさの含まれた声で謝罪する。

 

 

「ご存知の通りこの学園は過去に色々とあった。ウマ娘の幸せを考えない愚か者が黒染みのように根付いていた。粛清後に少しずつ良くなっているが、未来それを無碍にするのも俺たちトレーナーに次第になるだろう。だが心配はするな。この学園に集まった同志達はウマ娘の幸せを願い、集っている。もちろん色んな人が集まる学園故トレーナーにも癖が強い者がいる。…代表的に俺だな」

 

「うむ、そうだろうな」

 

 

今のでユーモアがある人だと理解できて、また一段と肩の重さが無くなる。

 

あと今のでホッとしたのか何人か笑っている者達もいる。

 

それを見てマフTは「否定はできん」と肯定を重ねさせて理事長室の空気を軽くする。

 

マフティーは……いや、マフTさんはこういうのが得意なのだろう。

 

 

「今日この瞬間、君たちは中央のトレーナーだ」

 

「「「!!!」」」

 

「しかし明日にはそうで無くなるかもしれない」

 

「「「!?!?」」」

 

 

それは相応しくないと判断された時だろうか?

 

彼は続ける。

 

 

「俺はカボチャ頭を被っている。

 だがトレーナーとしての個性は二の次だ。

 必要なのは結果と行動力の二つ。

 ここが中央であることを自覚するんだ。

 実績を残すための厳しさも必要とされる世界。

 だからこそウマ娘もトレーナーも必ず苦しい場面は避けられない。

 しかし垂れるな。

 ココではウマ娘に狂え。

 この世界(中央)に求めてやってきたウマ娘に応えられるマフティーは俺だけではない…

 ____君達がなるんだ

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

その言葉は一体どれほど重かったのか??

 

私は三年前から見てきた。

 

マフTの活躍を。

 

マフティーの意味を掲げた一人の狂い様を。

 

彼は栄光ある頂きまで上り詰めた。

 

ウマ娘と共に、カボチャ頭で証明した。

 

それを見た誰もが、出来ないことだと声を揃える。

 

その通りだ。

 

本当にすごいことをこの人は行った。

 

だが、その認識は少し変わった。

 

体現者がここにいて、私達に伝える。

 

マフティーはそう遠くない存在である事。

 

そして彼がそれを強く望んでいることを。

 

それは私達にもマフティー性があることを。

 

彼は言う。

 

マフティーは私達にも出来るんだと。

 

 

 

「あ、あの!!」

 

「どうした?」

 

 

私はいつのまにか声を上げていた。

 

何故こんなことをしたのか?

 

わからないけど、それは呼吸する様に自然と吐き出されたから…

 

 

 

「わ、私は桐生院葵と申します!その…ええと、よろしくお願いします!!」

 

 

 

言葉は出なかったから自己紹介で誤魔化す。

いや、これでは事故の紹介だ。

 

恥ずかしくなる。

 

しかし…

 

彼は優しく笑った気がする。

 

本当はカボチャ頭の中で見えない。

 

でもなんとなくわかる。

 

まるで…

 

その眼差しはウマ娘に向けた感情。

 

優しい熱が込められたトレーナーの__愛情。

 

そんな気がして…

 

 

 

「ああ、よろしくな」

 

「!!!」

 

 

 

すごいなんて言葉では言い表せない人。

 

隣に立つ事さえも叶わないだろう偉人。

 

でも、この方は。

 

実はそう遠くないトレーナーなんだ。

 

 

 

「はい!がんばります!」

 

 

 

マフTは…

 

マフティーはただ…

 

ウマ娘のためにトレーナーをしている。

 

それは私達と同じであり。

 

私達にも出来ることだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅぅ、惜しかったですね、マフTさんとゴールドシチーさん。首差ですか…」

 

「にちゃくー、でも直線が凄かったー」

 

「そうですね!私達もいずれあの様にマフティーが出来る筈です!

さ、ミーク!今から練習に行きましょう!

日本ダービーの熱に当てられて何故だか脚がソワソワしますので!!」

 

「ソワソワー??」

 

 

 

 

 

 

トレーナー白書を持って彼女は先にターフへ向かう。

 

後から追いかける芦毛のウマ娘と共に。

 

いつか自分もマフティーのようになれることを憧れながら。

 

今日も中央でウマ娘のために狂うだけだから。

 

 

 

 

 

つづく

 






『マフティー・エリン』の真名は二人だけの証。
その体はやっと、中央のトレーナーとなった。

ガンダムに生きるNTは誰かが居て完成する。
今回はそんな話でした。



【挿絵表示】

ウマ娘のためにカボチャ頭を被る異端者。
彼はもしかしたら危険人物かもしれない。
「俺の名はマフT、またはマフティー」
この中央で”応える”異質な存在だった。

挿絵は『んこにゃ先生』から頂きました。
ありがとうございます!!

ではまた


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38話

 

「おい、デュエルしろよ」

 

「またこの子は唐突に…それで何の勝負をするんだナカヤマフェスタ?」

 

「そうだな………腕相撲とか、どうだ?」

 

「おい、お前、オイ、おまえ」

 

「二度も繰り返すなよ、マフT」

 

 

 

腕相撲だと??

 

人間がウマ娘に勝てるわけ無いだろ!!

良い加減にしろ!!

 

 

「さて?この勝負にどうしてくれる?」

 

「賭けとか関係無しに俺を試してるのか?とんでもなく生意気な奴だな」

 

 

そう言いながらも俺はテーブルにタオルを置いて肘を付けば、同じようにニヤニヤとしながらタオルの上に肘をついたナカヤマフェスタの手が差し出される。

 

俺をそれを掴み取り……んん?

 

 

「手、スベスベで柔らかいな」

 

「……うるせぇよ…」

 

「こんなフニフニのお手てで賭け事やってるのか」

 

「だから、うるせぇ」

 

「こうして触れてみると女の子だな」

 

「…………」

 

「どうした?耳に動揺が見えるぞフェスタ。もしかしてお口に飴玉ないから落ち着かないのか?」

 

 

調子を崩すつもりはあったが握りしめた彼女の手は女性特有の柔らかさがある。あまりやり過ぎるとセクハラで訴えられるだろうが、勝負を仕掛けた側であるナカヤマフェスタはそんなことしないと考える。まあこの辺りにして仕掛けるとしよう。

 

だがその前に俺は平謝りしながら飴玉を取り出して彼女の口元に差し出す。

 

 

「ほれ、飴玉だ」

 

「んぁ…」

 

 

 

なんとも無防備なお口だろうか。

 

オイオイなんだこの子?

 

澄まし顔してるくせに素直にお口開けて飴玉もらうとか可愛すぎだろ。

 

 

 

「因みに" サルミアッキ*1 "って知ってるか?」

 

「んぐっッゥふ!!??」

 

「はい、よーい、スタート」

 

「げっほッッ!!おまっ!?お、おぇぇ…!!」

 

 

すかさず肘を倒す!!!

 

 

ガンっ!

 

 

勝ちを得た瞬間にボタンを押して終了!!

 

タイムは2秒でした。

 

それでは完走した感想ですが。

 

これはフェスタのガバに助けられましたね。

 

もし飴玉を間違えたら再送案件でした。

 

しかし絡め手を使っての撹乱は効果的で大。

 

あと予定より動揺した事に救われたでしょう。

 

もし追走する方がいらっしゃいましたら、一つだけ気をつけて欲しいことがあります。

 

それは…

 

 

ヒ ト は ウ マ 娘 に 勝 て な い。

 

 

これを忘れないようにしてください。

 

絶対とは言いませんがウマ娘に勝てるのはとても稀なケースです。

 

もし走る場合はチャートにちゃーんと書くようにして、コレを怠らない程度に、程よくガバを起こすようにしましょう。

 

以上で終了と致します。

 

おわりッ!!

閉廷!!

以上!!

 

 

 

 

「ま、まさかウマ娘相手に力技でいなされるとは……おぇ、やはりまずいな、コレ…」

 

 

 

口元を押さえながら絶不調になるナカヤマフェスタの姿だが、少しやりすぎたか?

 

 

「まー、ふー、てぃー!ウチも構ってぇぇー!」

 

「ぐへぁ!!」

 

 

そして痺れを切らしたバイブスアゲアゲのパリピに突進される。

 

突進を食らった俺は横に吹き飛び、頭からカボチャ頭がすっぽ抜けてトレーナー室の中で宙を舞った。

 

俺はまたか…と、悟りながらそのまま地面に倒れるとダイタクヘリオスは「んふッー!」と尻尾をブンブンしながら顔を擦り付けるように抱きしめる。

 

 

てか、痛い!!

 

ちょ、マジで痛い!!

 

ウマ娘パワーやめろ!

 

さっき凌いだばかりなのに!

これではマトじゃないか…!!

 

 

 

「あの…マフT、コーヒーが煎りました」

 

「いててて!あ、ありがとうっカフェ!そ、そこに置いといてくれ!! ああ、なんならフェスタに渡してくれないか?サルミアッキでお口がフェスタしてるから」

 

「わかりました」

 

「おえっ、うぇ……くっ……」

 

「あははは!超フェスタってんじゃん!」

 

「ねー、マフT、そろそろ耳かきしてよ」

 

「マフT、この後の練習についてなんだけど…」

 

「そうそうバカボチャ、前の日本ダービーなんだけどさ」

 

 

 

担当が多いと言うのはそれだけ要望に応えなければならない。

 

それだけのキャパシティがなければ出来ないことである。

 

俺の場合担当ウマ娘が6名だから…まあそういうことだ。

 

皆お利口さんだからそこまで困らないが肉体が持つかは別である。主にパリピが原因だが。

 

 

ちなみに俺は担当を多く請けている方だ。

 

 

これは例えだが、この学園にトレーナーが100いたとしてウマ娘は1000近くが在する。

 

もし1000人にいるウマ娘全員がアスリートを希望をしていたらトレーナーは5人ほど担当を請け負わなければ中央は回らない。この学園からしたら一人当たりのノルマそのくらいだろう。

 

かと言って新人トレーナーに「5人ほどお願いします!」と言うわけにもいかない。

 

それでトラブル起きる方が一番危うい話。

 

そして中央の現状として人手不足は否めない。

 

だが中央で働いていたトレーナー達が地方からマフティーと言う旗印に中央へと戻っているため人手不足は少なからず解消されつつある。

 

さらに地方にいた頃のトレーナー達が地方で優秀だと判断したトレーナーを引き抜いて中央に集めているため、少しずつだがその数は増していく。中央の理事長である秋川やよいの評判も良い形で届いてるため、今年は新人トレーナーの数も多い。それに比例してウマ娘の数も増えていくが人手不足の四文字は将来何とかなるだろう。

 

それこそ「なんとでもなるはずだ!」が今の秋川やよいであり、秘書の駿川たづなは終始暴走気味なやよいに手を焼いているが暗黒時代より充実してるためそこまで不満はないらしい。

 

 

 

「ヘリオス、そろそろ離れてくれ。充分に構ってやっただろ」

 

「えー」

 

「そろそろ離れろパリピ」

 

「ぐぇ!」

 

 

シービーがヘリオスを持ち上げてソファーに投げ飛ばしたあと倒れていた俺の手を取って引っ張り上げてくれる。

 

俺はシービーにお礼を言いながら立ち上がりカフェからコーヒーを貰ってシチーを手招きするとノートパソコンを起動する。

 

前回のレース結果と今後のスケジュール表を見せながらシチーのモデル業のスケジュールと照らし合わせる。

 

 

「日本ダービーは惜しくも二着。だけど走り自体は完璧だった。もしこれが内枠だったら結果は更にわからなかったけど、こればかりは仕方ない。でも世間はアスリートの君に夢中だ。よく頑張ったと思う」

 

「うん、そうだと思う。SNSでも大きく反響があった。アタシが求めていたモノだよ。だからマフTに感謝してる」

 

「そう言ってくれると報われる。そして今度は秋の天皇賞を予定してる。枠が空いたら出走したい」

 

「そだね。可能なら今年もう一回くらいはG1に出たいよね。もっと世間に走れるゴールドシチーを魅せたいから」

 

 

首差の二着とは言え日本ダービーの時点でゴールドシチーの証明は充分すぎると思うが、天皇賞まで目指しているなら枠が空き次第エントリーしたいところだ。

 

まあトライアルは無しでゴールドシチーの成績なら秋の天皇賞の出走は認められると思うが今年になって中央は活発になって来ている。

 

今まで東条トレーナーの一強だったが、マフTである俺や、中央がまともに機能したことでウマ娘やトレーナーを含めて、埋もれていた原石達が次々と芽と蕾と花を咲かせている。なんなら地方から戻って来たトレーナーの後押しもあって今の中央は勢いがある。

 

あと秋川やよい理事長のいつもの暴走(マフティー性)が中央を盛り上げているからこそだろう。だがやよいの功績は大きく、輝かしかった頃の中央が帰ってくることを確信している東条トレーナーも「呆けていると抜かされるな」と何処かワクワク気味に微笑んでたのは印象深かった。

 

俺も頑張らないとな。

 

タカキも頑張ってるし。

 

 

 

「それとアドマイヤベガは再来週だったな。覚えてるか?」

 

「ええ…地方のレースでしょ?」

 

「ああ、地方の模擬レースだ。ちゃんと芝でピックしてある。地方は広くない故に距離は800だ。まあ毎日カフェと2000近い距離を走り込んでるから距離的にはあっという間だと思う」

 

「そうね、そうだと思う」

 

「こっちきなよ、ベガっち」

 

 

手招きしたゴールドシチーがアドマイヤベガに場所を譲り、招かれた彼女はピョこっと顔を出してノートパソコンを見る。

 

物憂げな表情は変わらないが模擬レースの話を聞いてその眼は闘志に染まっていた。ゴールドシチーもその眼に気づいたらしく、彼女のそれが気に入ったのか口元を笑ませながら小さな一等星を見守っていると…

 

 

「マフT、私は反対です…」

 

 

カフェが意見する。

 

アドマイヤベガは実力を示す機会だとして何かと乗り気なのだが、面倒見の良いマンハッタンカフェは反対気味である。

 

初等部と中等部による体格差の違いで事故の危険さを考えてるため、カフェはアドマイヤベガの身を案じて参加して欲しくないようだ。

 

 

「カフェの考えてることはごもっとだ。けどアドマイヤベガの走りを見たらそこまで心配は無いと判断した」

 

 

そもそも体格差で勝負する気は無い。

 

彼女は、中団で争うような走りはしないから。

 

 

「それでも地方まで向かってやる意味は?」

 

「早い段階で実戦に慣れていれば今後の練習でもコントロールしやすくなる。何より彼女はこの学園に入学するまでとことん走り込んでいた娘だからな。()()()()()()()修正も兼ねて早い段階で見極めた方が俺も今後指導しやすいからな。手は先に打っとくさ」

 

「そう、ですか…」

 

 

説明したがカフェは心配なご様子。

 

するといつのまにか移動してたアドマイヤベガはマンハッタンカフェの袖をチョンチョンと引っ張り…

 

 

「あ、あの、カフェ先輩。わたしはあの星と確かめてみたい。だから走ってみたいです」

 

「!!」

 

 

そう言うが少しだけ不安そうに触れる尻尾。

 

だが、走りたいその意志は強い。

 

これまでよく面倒を見てもらい、頼れる先輩としてお世話になっているマンハッタンカフェだからこそその気持ちを伝えたアドマイヤベガ。

 

カフェはその言葉に驚き、同じように戸惑いを示すが…

 

 

「カフェ、別に良いんじゃないかな?」

 

「シチー?」

 

「志が強いなら走れる筈だよ。少なくともアタシはそうだったし」

 

「!」

 

「それにアタシが走った日本ダービーで一番釘付けだったのって、この()だったでしょ?そうなると今すぐにでも走りたい気持ちに溢れている…違う?」

 

 

ゴールドシチーは最後にアドマイヤベガを見ると、問いかけられた彼女はとっさに片腕を抱きながら少しだけ困ったように斜め上に視線を逸らして、耳と尻尾は正直に白状していた。

 

ちなみに困り顔がよく似合うステークスだとアドマイヤベガが一枠一番人気だと思う。

 

 

「おいバカボチャ、雑念見えてっからな?」

 

「気性難の尊重に、俺はアグニカ・カイエルが見えただけだ。気にするな」

 

「は?ぶっ飛ばすぞ?……それで話戻すけど、このバカボチャが大丈夫と判断するなら信じてもいいと思うよ。少なからずアタシはこんなカボチャトレーナーでも信頼は置いてるしさ」

 

「この一年で随分と扱いが雑になったよ」

 

「は?意味わかんねーし。マジでうっざ」

 

「よく喋る」

 

「ああもう!本当にうっざいな!!」

 

 

とりあえずゴールドシチーはアドマイヤベガの意思を尊重する側だ。

 

参加するレースは学年が上になってしまうがゴールドシチーは特に心配はしない。

 

挑む姿勢を崩さないアドマイヤベガに好感を持っているようだ。

 

するとマンハッタンカフェもその意思が変わらないアドマイヤベガを見て…折れる。

 

 

「そうですね。たしかに、これは貴方のターフでした。私が止める権利は有りません」

 

「あの…心配してくれることは、とても嬉しいです。でも、やはり、わたし…」

 

「大丈夫です。何度も言わずとも。…わかってます。貴方なら間違いなく勝てるでしょうから」

 

「!」

 

「ミスターシービーさんの走りを受け継いだ私の走りを隣で見ている貴方なら、そう負けません。これは確信してます、ふふっ」

 

 

レース中の怪我を心配してるけど、レース結果の心配はしてないマンハッタンカフェ。

 

慕っている先輩からそのお墨付きを貰ったのかアドマイヤベガの表情も嬉しそうになる。物憂げな表情がデフォルトだからその変化量はわからないだろうが耳が、ピコピコと動いて嬉しそうにしていた。そして期待されてる視線の中が慣れてないのか斜め上に視線を逃すような困り顔に変わる。マンハッタンカフェもそれがなんなのか分かっているため、優しく彼女に微笑んでいた。

 

…いい関係だよな、この二人。

 

 

「アタシの走りか。 あれ、なんか責任重大な感じかな?」

 

「もし負けたらミスターシービーの敗北になるからな」

 

「うわー、清々しいほどに指導者を放棄した責任転嫁だコレー!しかしそうなるとアヤベには勝って貰わないとね。秋はまた一段と盛り上がるからアヤベの走りで皆にバトンを託してもらわないと」

 

「!?」

 

「じゃあ、よろしく頼むね、未来の一等星」

 

「!?、!!?」

 

 

さりげなく高くしたカフェのハードルに対して俺とミスターシービーが悪ノリを起こした結果アドマイヤベガに責任が重くのしかかってしまい、本当に困り顔を起こすアドマイヤベガは周りを見渡して助け舟を求める。

 

だが彼女にクツクツと笑うだけで助け舟を出さないナカヤマフェスタと、今もソファーに沈んでるダイタクヘリオスは役立たず。

 

その上誰よりも信頼を置いているマンハッタンカフェもアドマイヤベガの勝利を疑わない。

 

彼女も心配してたのは怪我だけであるが、その走りが本物なら問題ないと飲み込んだ。

 

ゴールドシチーもにやにやとアドマイヤベガを見守るムーブで助け舟はもう出ない。

 

残されたのは地方でレースに挑む本人のみ。

 

最初はただの挑戦者だったが、今は役目を背負いし期待の勇者だろう。

 

 

さて、慣れない後輩いじりに困り果てた顔をしていたので俺はノートパソコンから離れてアドマイヤベガの頭に手を置いてわしゃとひと撫でする。

 

 

「ぁ!…ちょ!」

 

「一等星なら、なんとでもなる筈だ……ってマフティーは言うよ」

 

「!」

 

「スカウトする時も言った。君は賢いから俺は濁さない。それは今も変わらない。だから君には勝つか、負けるかのどちらかでしか述べてやらない。君のマフティーを託されたマフティーだった俺が言う。アドマイヤベガなら勝てる」

 

 

 

彼女は飛び級生である。

 

それは、中央に挑める強さを持っている。

 

それでも現時点ではまだまだデビューに満たない強化選手であり、デビューするその時まで鍛錬を積んでいる途中だ。

 

しかし土台作りとして彼女は幾度なく走り込んできた。どんな時でも()()()走り込んで来たストイックなウマ娘の初期値は高い。逸材とはこの子のことを指すだろう。東条トレーナーも一等星の彼女に興味を持っていた。

 

あとアドマイヤベガの父が元トレーナーだったところもあり、足が壊れない範囲で保たせながらも放任的に練習を見守っていた。

 

まあ放任主義はトレーナー失格なんだけど父の心情を考えると致し方ないのかもしれない。

 

そんなアドマイヤベガは分かってたのか誰にも頼らず、疲労や痛みでボロボロになりながらも負けじと走りを重ねて来たことで厳しさに耐える精神力は誰よりも高い。

 

それはマンハッタンカフェも同じ。彼女は爪が壊れるまで走ることを繰り返していた。壊れても気づかないまま走ることもあり、イマジナリーフレンドに後頭部を殴られるまで走り続けるようなウマ娘。お陰で俺に会うまでは爪の回復に手間取っていたが、それも懐かしい話。

 

そんな経験があったマンハッタンカフェはアドマイヤベガをどこかしら自分と重ねている。あとは純粋に可愛がれる後輩として受け止めている。アドマイヤベガも先輩のカフェに対して満更でも無く、二人の相性は悪くない。だからこそカフェインレスできない過保(かふぇ)護気味になってしまうカフェの気持ちはわからないでもない。

 

しかしマンハッタンカフェにもわかる。

 

同じで、似たようで、重なるから、その読解力で描きやすい。アドマイヤベガの走りがどれほどなのかを頻繁に並走してきたマンハッタンカフェはその力量を正確に測れる。地方のレースなら早々負けないだろうと。

 

まあ故に期待が大きくなった。

 

でもそれを確信に変えるのが俺の役目。

もしくは『支え』を作るのが俺の約束。

 

マフティーとしての誠意を挑める一等星に。

 

 

「決まったとは言えレースは再来週だ。時間はある。だからその日まで、確信を確定に、確定を断定に、星座の如く言葉の意味を君の掲げていたマフティーまで繋げて俺が証明にする__だから、勝つぞ」

 

「!!」

 

 

カボチャ頭を外す。

 

あの時と同じような角度で見下ろし、俺の眼が嘘じゃないことを。

 

 

 

 

「っ、わたしは、あの星と一緒に勝つから…!」

 

 

 

 

 

そして2週間後。

 

 

地方に赴いた飛び級生のウマ娘。

 

マフTの登場に少しどよめきが走る。

 

しかし次に感じた視線は落胆に近い感情。

 

周りの半数から指を差される一等星。

 

そしてスタートを切り、その星は最後方から。

 

注目は最初だけで、バ群に置いていかれるような展開。

 

流石に勝てるわけもないと、誰かが言った。

 

しかし、横にいた誰かが言った。

 

 

 

「踏み込みが強い。直線で伸びるだろう」

 

「君は?」

 

「ああ、突然ですまない……少し気になったんだ」

 

「か、構わないが……その大量の焼き芋は?」

 

「これか?デザートだ。少し足りないが…」

 

「あ、そう…」

 

 

 

胃袋を疑うような芦毛が焼き芋を頬張る。

 

そして次の瞬間__織姫星(ベガ)が瞬いた。

 

 

 

「「「!!」」」

 

 

 

遊び気分だったウマ娘を一気に追い抜き。

 

この中で一番強いだろうウマ娘に追いすがり。

 

気づいた時には……もう手遅れだった。

 

漆黒の影を見てきたそのウマ娘は強かった。

 

 

 

 

わたしは、あの星を背負って生きていく

 

 

 

 

勝つことがもう一人との約束。

 

 

そこに理屈など関係ない。

 

 

勝つ必要があるから、勝つだけ。

 

 

それがアドマイヤベガと言うウマ娘であり。

 

 

マフティーを求めた、一等星の独りよがり(使命感)だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アオハル杯のテストレース?」

 

「試験ッ!過去に発案されたアオハル杯に関してなのだがまだ公式に取り組むことは決まっておらぬ。だが現段階で計画しておるURAファイナルズの進行が安定するようになった時、更にこの計画にも取り組む予定だ。まあ軽く見積もって10年は先になると見越してるが、それでも実戦の流れを一度確認しておきたい。まあテストレースと言えどもやることは大規模な模擬レースになってしまうだろうが一見に如かずと言うだろ?イメージは付けておきたい」

 

「なるほど。しかしアオハル杯か…」

 

「うむ、全てそこに書かれてる通りだ」

 

 

 

出された資料を見る。

 

そこにはチーム戦によるレース。

 

短距離、マイル、中距離、長距離、ダート。

 

五つの種目に分けて勝敗を決める。

 

参加するチーム数によってドローも発生する。

 

 

 

「アオハル杯は聞いたことないな。URAファイナルが個人戦なら、アオハル杯は団体戦。そんなところか」

 

「その認識で正しい。少しずつ息吹を返してる中央で切磋琢磨築き上げるには良き興行だと思うが…どうだろうか?」

 

「催し自体は良いと思うな。だが走るのはウマ娘で体はひとつだ。正直に言えばURAファイナルズと同時進行で行うのは怪我のリスクが高いと思う。選手生命を考えると欲張れないのがトレーナーとして真面目な見解」

 

「うむ、やはりそうだろうな。それは私も理解しておる。だからあくまで初期計画段階で収めておる。あ、これ、たづなに続いて教えたのはお主で二人目だからよろしくな?」

 

「相変わらず人柱でけぇなオイ!?」

 

 

なーんでそんな大事な話を俺にするんですかねぇこの理事長は??

 

俺は役割としてただ身構えてるだけの話の筈だったろ?ちなみに死神も来ないのに身構えてる理由は簡単だ。

 

マフティーの作り上げた影響力の関係上そうする事で地方などからカボチャ頭を目印にトレーナーが集まりやすくなる。

 

そのため総リーダーって名ばかりを俺は背負わされて、あとは偉そうに腕を組んでるだけの存在。

 

正直そのような役割は東条トレーナーとかの大ベテランにやって欲しかったが、マフティーほどの存在感は俺だけしか出来無いことらしい。

 

何より中央の大粛正と改革は俺が居て成り立ったからである。

変えたのがマフティー。だから俺が適任とか。

 

……まあ、100歩譲ってそれは請け負う。

 

あと新人トレーナーを見極めるために面接官紛いな役割だって請け負う。

 

俺も今の中央を保ちたいからそりゃ危険分子は秋川やよいと見極めていたい。

 

だが、このような大型の興行は普通なら定期会議の時でもいいから沢山の者から意見を集めるべきでは??

 

 

 

「これ…やよい個人で俺に持ち込んだ話か?」

 

「そうだ!!」

 

「そうだ!!キリッ、じゃねーよ!信頼が厚すぎてカボチャ頭が貫通してるわ!」

 

「たづなの次にお主のことを信頼してるからな!」

 

 

扇子に『信頼』の二文字をバッと広げてケラケラと笑いながらパタパタと扇ぐ子供店長。

 

ただのトレーナーが秘書の隣に並べるくらい心寄せられてる現状に荷が重い。

 

いや、よく考えたら俺はただのトレーナーと評するには些か酷か。

 

カボチャ頭を除いたこの実績を考えるとなんだかんだでマフTは無敗の三冠ウマ娘を中央から出して、その後はマイルCSでチャンピオンウマ娘も一人出して、6番人気で大外枠だった日本ダービーでも頑張った。あと地方とは言え学年一つ二つ上の相手に飛び級生に勝利をもたらしたりと、中央を管理するやよいからしたらカボチャの色眼鏡なしに俺はかなり評価されるトレーナーなんだろう。

 

それでも長く続けている東条トレーナーには負けてる気がしてるが、やよい本人の心からすると気軽に話せる相手と言うのは俺なんだろう。

 

 

 

「それで……どう思う?アオハル杯は…??」

 

「どう、思うか……」

 

 

なんとしてもマフTから意見が欲しいらしい。

 

ガンプラファイターでは無いがその本気に応えるべきだろうと考えて、俺は数枚の資料を再度手に取って確認する。

 

手に取った資料の隙間から目の前に座る秋川やよいを見る。

 

ソワソワ気味に座っているがほんの少しだけ不安な色を眼の中に潜ませる。

 

秘書のたづなに聞いてみたとは言え、それでもこのプロジェクトをひっそり考えた孤独感はあるらしい。

 

やれやれ。どこまでウマ娘に狂うやら。

 

 

「真面目な話。もしコレをウマ娘に本気で取り組ませたいとしても流石にURAファイナルズと並行してアオハル杯を開くのは選手生命を考えてあまり開けない。皆がそこまで丈夫じゃ無いから」

 

「うむ、やはりそうだろうな。いや、その言葉が指導者から聞けたのならそれで良__」

 

「だが」

 

「??」

 

「この企画はとても良いと思う。俺は出来るならアオハル杯は開きたい」

 

「!!!」

 

 

これは結構いいと思う。

 

これまで個人戦(重賞)を主軸に置いてきたレースだった。もちろんそれはそれで良い。

 

一人一人の熱い勝負になるし、それは単純かつ大いに盛り上げれる。URAもそれは安定卓としてこれからも引き続きレースを取り締まるだろうから。

 

それに対してアプローチを変えた団体戦(アオハル)()()()()()()として考えるなら企画としては良いモノだと思う。俺は出来るなら賛成したい。

 

 

「ただこれを大規模で開くのは難しい。しかしある一定の規模に抑えた興行としてなら大賛成だ。中央におけるレコンキスタ(回復運動)の一つとして喜べる。だがそれだけのウマ娘やトレーナーが必要になるだろうし、芝だって多く必要になる。でもそれは結果的にURAファイナルズを設立すればアオハル杯だって着手が出来る流れだ。だから将来的に考えればアオハル杯は開ける」

 

「!!」

 

「だがそれを踏まえてもう一度言う。ウマ娘の優先順位を考えた上でアオハル杯は開く。学園を盛り上げるための祭り事も大事だが重賞レースの栄光がなによりも優先される。それが中央としての存在意義だから。それで怪我に繋げるのは却下だ」

 

「ふむ。では、そうなると…」

 

「例えば甲子園のように開催するとかな。春と秋。G3やG2を蔑ろにしてるわけではないが、G1と被らない程度に開けるならあとはトレーナーの手腕でなんとでもなる筈だ。何せこれはあくまで…」

 

「学園の祭り事だな?」

 

「そうだ。言い方は悪いが本気のレースを開く訳ではない。あくまで祭り事。学園祭で開かれる長距離マラソンとかそんな感じ。まあアオハル杯の規模はそれらよりも大きくなるだろうが中央の管理力で広がりすぎない程度の範囲を抑えれる。開く自体は賛成だって、マフティーは言うよ」

 

 

まあ基礎となるURAファイナルズが出来なければアオハル杯は無理だろう。

 

それはやよいも理解してる。

 

だから空論上の計画はここまでだ。

 

渡された資料に書かれている規模で開く場合は10年とか先になるだろうが、レコンキスタが目的なら早いほうがいい。

 

上手くコントロールすれば5年は掛からないと考える。

 

でもやはりURAファイナルズ次第だろう。

 

だから目の前のものから片付けよう。

 

 

「と、なると、テストレースか」

 

「やってくれるか!」

 

「こっちが本題だろ? 短距離、マイル、中距離、長距離、ダート。ウマ娘の調整として走らせる程度なら問題無い。まあ他にもウマ娘は多く必要になるだろうがその一旦として抱えるならテストレースは参加する。他にも呼ぶんだよな?」

 

「無論ッ!全体における参加者は最低でも30人必要だ。その中でマフTの担当ウマ娘の力を借りたい」

 

「わかった。因みに参加者の選出は?」

 

「トレーナー1人に対して約3人ほどだ。マフTは6人だったな。その中で半数ほど頼めるか?」

 

「良いよ。こっちはシービーとヘリオス、あとマンハッタンカフェを出そう。了承してくれたらの話だが、この三人は秋まで重賞に出ないから走る自体に問題はない」

 

「決定ッッ!これでアオハル杯を開けるぞ!」

 

「あくまでテストレースだからな?」

 

 

まあでもミスターシービーのようなウマ娘が出るなら学園の盛り上げに繋がるだろう。

 

恐らくシンボリルドルフとかも出てくる。

 

……少しだけ楽しみになってきたな。

 

でもこれは調整として走る。

 

やりすぎない程度に抑えよう。

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

始まったアオハル杯テストレース。

 

混合チームだが俺は"セカンド"と仮名が付けられたグループに入る。

 

 

 

そして相手はチーム名のファースト。

 

しかし、そこには…

 

 

 

 

 

 

「…………あなたは…」

 

「!」

 

 

 

記憶に無いが、記憶にある。

 

俺にはないが、奴にはあった。

 

いずれ会う事になるだろう人物。

 

前任者の始まり、トリガーとなった存在。

 

それこそ始まりの ファースト(初 代) として。

 

その人物がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

つづく

*1
不味い飴ちゃん




ガ ン ダ ム(ファースト) だ と ! ! ?

ではまた


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39話

※アドマイヤベガ実装された日

リディ「ガチャの可能性なんて!捨てちまぇぇ!!」

バナージ「うおおおおおおおおおおおッッ!!!」

石(バナージ…)

バナージ「!!!」

石(悲しいね…)

バナージ「引けませぇぇぇん!!」

アドマイヤベガ「」


※天井分はあるけど次の情報待ちでまだ引けない軟弱者です。だって次でミスターシービーなんて実装されたら投稿するモチベ下がってしまうから今引くことは危険なんですよ!カテジナさん!!しばらくは無料で粘るんやで…


ではどうぞ



 

誰かが言った。

 

 

 

__彼は危険人物だ。

__URAの秩序を乱す者だ。

 

 

 

それは私が言った。

 

私と同じ『名』を持つ者だから。

 

そして、私は彼の事を知っていたから。

 

 

 

 

マフTとは?

 

カボチャ頭のトレーナー。

 

素顔を見せない異端な指導者。

 

 

 

 

マフティーとは?

 

意味、概念、存在、名称、象徴、など。

 

マフTに備わる形のない表現。

 

 

 

なら、彼は一体何者だ?

 

樫本?

 

いや、ちがう。

 

マフTまたはマフティー。

 

 

 

 

「ウェーイ!1着取れチャブルだから!ご褒美おなシャースッ!」

 

「それは次の安田記念でな」

 

「うはー!ハドール高すぎ謙信!上杉謙信!目指す彼方も(あげ)スギ献身deウェーイ!」

 

「とりあえずタオルで拭いて来い。タトゥーシールが汗で崩れそうだ」

 

「マジィ!?あっはははは!行ってクルクルクールダウンってくる!」

 

「元気ありすぎだろ」

 

 

 

ウマ娘とコミニュケーションを取るその姿はあの頃の危険性を感じさせない。いや、本来はあの姿が普通であり、表舞台に出る時以外はウマ娘に寄り添うお手本のようなトレーナーなのだろう。URAの幹部職員としての視点を除けば周りと変わらぬトレーナーだ。

 

それでもマフティーとしての役割を果たした如くその落ち着きを見せていた。

 

それはマフTを警戒していた管理職員として一眼見てわかった。

 

どこかしら近寄り難いオーラも無く、生き物を遠下げるような雰囲気もない。

 

だから今はカボチャ頭を被ってるだけ。

 

でも担当ウマ娘だけにマフティーたらしめている、そんな気がした。

 

だから担当ウマ娘からしたら彼はまだマフTでありマフティーなんだろうか。

 

 

「トレーナー!次行ってきます!」

 

「ビターグラッセ、これはあくまで調整です。次の秋華賞に向けてのイメージとして走りなさい」

 

「わかりました!本気のド根性はその時まで溜めておきます!」

 

「それでよろしくお願いします」

 

 

私もマフTと変わらぬ普通のトレーナーとしてウマ娘を支える。

 

その姿に大差はない。

 

 

「…」

 

 

だからそれとは別で気になる。

 

マフTと言えども人間と変わらない。

 

そして『マフT』はカボチャ頭を被ったことで名乗った偽名。

 

私たちと同じ。

 

もしくはわたしと同じ『苗字』を持つ者。

 

それは……

 

 

 

「悪いが、今は詳しく語れる言葉を持たない…って、マフティーは言うよ」

 

「!!………言葉に出ていましたか?」

 

「こうしてマフティーするときはそう言うのに敏感でな。視線で分かる」

 

「便利ですね…」

 

「そうでも無いさ。時折鬱陶しくもなる。マフティー性のある飲み物を飲んで落ち着くときは余計だ。まあ、こればかりはマフティーたらしめた結果故だ。粛々と受け止めるさ」

 

 

少しながら理解が追いつかない。

 

しかし彼の言ってることが事実としたらまるで別の生き物だ。

 

人間だけど、人間以上の何かだ。

 

そう感じる。

 

 

「さて、URA幹部職員として牽制するしかない現状も込みで声をかけることを躊躇ったみたいだが、貴方から見て俺はまだ危険人物か?」

 

 

過去を振り返り、彼の危険性を未だに引きずるならそれはYESだ。

 

けれど今の彼の評価は変わった。

 

異端者である事には変わりないが、彼の成してきた成果や功績は認めざるを得ない。

 

 

「危険人物… と、言う認識は未だ引きずる傾向にあります。カボチャ頭を被る貴方はそれほどだった。だがマフT、貴方はURAに於いて高く評価されている人物でもあります。それも中央の世界で…」

 

「ありがとう、充分に伝わった」

 

「!」

 

「質の悪い質問をして悪いな。別にURAを目の敵にしている訳ではない。だが俺がマフティーだった時、この世に求められた立ち位置は皆等しいとは限らなかった。凡ゆる物事が敵となった。それは仕方ないことだ。しかし人類が地球の引力に囚われるように、固定概念からは簡単に離れることはできない。それこそ(まなこ)に当て嵌め続けた理解と知性を全て拭わぬ限り、真実は訪れない」

 

 

唐突に難しいことを言う。

 

まるで正当化に急ぐ政治家のように。

 

聞いてる側は試されているみたいだ。

 

だがなんとなく理解する。

 

今はマフTである以上にマフティーとして。

 

その両方が語っている。

 

 

「同じ枝分かれなのか、確かめたいんだろ?」

 

「!!」

 

 

尋ねたいことが分かっているように彼は言う。

 

そう言われた私は…

 

 

「……あとで、時間はありますか?」

 

「申し訳ないが、恐らくこの後は秋川理事長にお呼ばれされるだろう」

 

 

そう簡単に時間は許してくれない。

だとしたら、私はここまで___

 

 

「そのため今日は無理だな。しかし明後日__」

 

「空けます」

 

 

 

即答する。

 

 

 

「なら東京レース場で会おう」

 

「……その日の担当はいいのですか?」

 

「問題ない。安田記念の前のエプソムカップを見てから控え室に入る。そのタイミングで担当とは落ち合う予定だ」

 

「随分と放任的ですね…」

 

「むしろその時くらいしか非放任的だがと思うがな。もう少し距離感があっても良いが… いやこれは俺の甘さか。どうやらマフTはウマ娘に弱いらしい」

 

 

やや呆れながらもその事実を受け入れてるが如く視線は先程ウマ娘ダイタクヘリオスに向けていた。カボチャ頭で見えないが一人のトレーナーとしてその眼は担当ウマ娘を見守る優しさが含まれている。そんな気がした。

 

 

 

「わかりました、では東京レースで」

 

「悪いな、足を運ばせて。……言っててなんだが別の日でも構わないぞ?」

 

「明後日と決めました。それで構いません」

 

「わかった、では明後日だな。さて… この中距離が終わったら次は長距離レースだ。そしてマンハッタンカフェは自慢の担当ウマ娘だ。摩天楼を上り詰めた先で世代は間違いなくマンハッタンカフェのものになる」

 

 

それだけを言ってマフTは担当ウマ娘の元に去っていく。

 

いま中距離を走っているビターグラッセは1着になった。そして同じく走っていたミスターシービーはギリギリの入着。

 

もうあの頃の走りはない。

 

しかし今こうしてまだ走らせていると言うことは、まだ何か考えてると言うことだろう。

 

それは私以外の指導者も同じ考えをしている。

 

まだミスターシービーが走るのか?

 

それとも()()()()()()なのか?

 

だがマフTがそんなことするのか?

 

わからない。

 

だがマフTなら…と、そう期待してしまう。

 

 

 

そして…

 

 

 

「一人だけジュニア級か」

「しかも長距離レースと来たぜ?」

「既に担当は決まってるが、トレセンでは目玉となってるウマ娘だぞ」

「マフTの担当ウマ娘だ。計算の上だろう」

「だが長距離はどうなんだ??」

「実戦投入がないだけで長く走ってきた強化アスリート選手だ。期待はできる」

 

 

 

最後は長距離レース。

 

距離は2600。

 

周りが話すようにそこには今年デビューしたばかりのウマ娘、マンハッタンカフェが出走準備を行っていた。

 

長距離ではおおよそ最低値の2600だがそれでもデビューしたてのウマ娘からしたら長すぎる。

 

2000でも充分に長い。

 

だが、マンハッタンカフェの表情を見る限り不安や緊張感は全く見当たらない。

 

むしろクラシック級やシニア級のウマ娘と同じくらいリラックスしている。

 

見て分かる。

 

あれは本番に強い。

 

けれどそのメンタルどうやって経験を積んだ?

 

学園で行う模擬レースならともかくここ中山レース場はURAが管理する大舞台だ。非公式戦とは言え、周りの重賞ウマ娘に恐縮することもなくいつでも持てるポテンシャルを引き出せる状態はジュニア級の中では理想的な姿だと思う。

 

基本的にはジュニア級で足りないのがメンタルだ。実際に出走するレースでしか経験を重ねることができない。だがマンハッタンカフェには足りている、その強さが。

 

……イメージトレーニングで重ねたのか?

 

それもたくさん。かなりたくさん。

 

実戦を知らない以上はそれでしか経験を積むことしかできない。

 

だとしたら才能だ。

 

イメージの中で走れる才能だ。

 

もしくは……マフTか。

 

そういえばマフTの担当するウマ娘は皆デビュー戦で一着しか取ってない。

 

例え緊張の中で駆けていようと、実力を満遍なく発揮しての勝利を得ている。

 

これがマフTの手腕だとしたら、マフTの断言も理解できる。

 

 

__世代はマンハッタンカフェのものになる。

 

 

ステップを多く踏んで無ければ出来ない発言。

 

よーいドン!の位置が全く違う。

それがマフTの言う、マンハッタンカフェ。

 

 

「……」

 

 

長距離かつジュニア級のウマ娘はマンハッタンカフェだけ。周りは大舞台に慣れたクラシック級やシニア級ばかりだ。私の担当ウマ娘も重賞経験があり、長距離は走っている。故にマンハッタンカフェの結果は乏しくなる。実力は違うのだ。それはマフTも理解している。

 

だからマフTの自信は一体なんだ?

 

マンハッタンカフェの走りで何を見せてくれるのか?

__ゲートが開く。

 

 

 

 

ガコン

 

 

 

「!!」

 

 

ああ、なるほど。

 

すぐにわかった。

 

たしかにその通りだ、マフT。

 

マンハッタンカフェは最後方。

 

周りからしたら「最後方に置いて行かれた」と思うだろう。

 

いや、寧ろ逆だ。

 

最後方に位置取ってバ群を見極めている。

 

 

___思い出す。

 

 

私は覚えている。

 

あれはマフティーのウマ娘だった。

 

皐月賞も、日本ダービーも、菊花賞も。

 

そして有マ記念でも。

 

あの走りで全てを促した

 

マフティーのウマ娘の再臨なのか。

 

 

 

「そう言うことですか…」

 

 

 

彼の言葉を理解した。

 

あれは、間違いなく()()()()()()()

 

()()()()()()()に追いつこうとしていた。

 

 

 

そして、それを…

 

__私の知る『男』が指導している。

 

約束したその日に確かめなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおー!いけー!」

「差せ!差せぇぇ!」

「がんばれー!」

「いけー!頑張ってー!!」

「私の推しバは凶暴ですよ」

 

 

 

 

 

東京レース場で行われる重賞レース。

 

安田記念が始まる前とは言え、エプソムカップも盛り上がりを見せている。

 

そして溢れる観客席の最後方に彼はいた。

 

周りの人々から「本物か?」と不思議がられている。壁を背もたれに腕を組んでレース場を眺めている彼以外を見渡せば他にもカボチャ頭を被っているマフTもどきな観客はいる。

 

しかしその風貌と威圧感はただの一般人では備わらない姿だ。その違いがわかる人は「もしかして??」と彼の姿を伺っていた。マフティーの大ブームは終わったが、それでもマフTのファンは多くいるため、未だに真似をする者もいれば、秋になればそこら中がマフティーを思い出させるようにカボチャ頭のマフティーをしている。

 

中央を走るアスリートウマ娘はアイドルのようなものだが、マフTもそれに負けず劣らずなアイドル性があるため、憧れて真似する者も珍しくない。

 

私は彼を存じている。

 

迷わずその元へ歩き、互いに挨拶を交わしながら私はそのまま横に並んだ。

 

 

「ウマソウルって知ってるか?」

 

「?…ええ、知ってます」

 

「なら話は早い。俺はソレだ」

 

「…え?」

 

 

 

ガコン

 

 

 

唐突に出された話題と共にゲートが開き、重賞レースに慣れたウマ娘、また今回重賞が初めてだろうウマ娘達が一斉に飛び出した。

 

始まったエプソムカップは歓声に包まれる。

 

 

「マフティーとはそのような現象だと思っている。この体にも別の魂が入り込み、この体の前任者に成り代わった。それだけの話だ」

 

 

早くも確かめたかった結論が言い渡された。

 

…思考が追い付かない。

 

だが、もしかしたら…と、思っていた考えが先頭に躍り出た。

 

しかしそれは最初に否定しなければならない。

 

 

「疑わしそうだな」

 

「…貴方はヒトです」

 

「そうだな。だが人間にその現象が無いとは限らない。現におれは『マフティー』と名乗っている。それがなによりも理由だ」

 

「それは……」

 

 

 

違う___と、断言できなかった。

 

最初は『マフティー』をふざけた偽名のようなものだと思っていた。

 

しかし彼は世間の渦で大々的に名乗った。

 

カボチャ頭の中に込められた、有りと凡ゆるモノがマフティーの名前によって集約されたナニカだと。

 

だから姓名にマフティーなんて名前はない。

 

何故ならマフティーの前にこの男は私たちと変わらぬ人間であり、そして『名前』がある。

 

生まれつき貰うはずの、名前が……()()が。

 

 

 

「別に俺がウマ娘って訳じゃない。俺は人間で沢山だ。この血肉はナイフ一つで冷え切った床を赤く染めてしまえる。そんな生き物。ヒトと変わりない。けど魂は皆違う。この体にあった魂はこの世に怯えてしまい、宇宙(そら)に溺れて散った。痛みを知った赤子と、怯え切った子供を忘れなかった故に、理不尽な解に応えるために超越した紛い物を欲した。それがマフティーだとしたら、俺がここにいることは叶った依代なのかもしれない。ああ、もちろん覚えてるさ。

__確か、前任者のそれは……」

 

 

 

 

 

___ 樫 本 と言う名だったな。

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

まるで他人事のように言い放った。

 

その名前は過去形のように。

 

……残酷だった。

 

 

 

「だとしたら、貴方は…」

 

「その通り、俺はもう()()()()()()ことを。それは恐らく貴方と同じ『樫本』だからこそ、貴方はこの違いがわかる。俺は『マフT』またはマフティー、それ以上でもそれ以下でも無い。そしてマフティーを求めた樫本に応えるがためにマフTである俺がこのカボチャ頭で示した。素顔を晒さないのは俺が貴方の知る樫本ではないから」

 

 

 

まるで自己暗示のようにも感じ取れる。

 

だが、そうたらしめようとする歪な強さも感じ取られた。

 

応えようとする役割。

 

それと同時にたらしめようとする使命。

 

どこか似ている。

 

そう…例えば。

 

言葉にするならば___独りよがり

 

そのカボチャ頭にはそれが似合った。

 

 

 

「本当に樫本はいないのですか?」

 

「もういない。マフティーである俺に全てを託した。そして消え去った」

 

 

淡々と告げた言葉はエプソムカップの歓声の中に消えさる。

 

…私はいまどんな表情をしている??

 

このような事実を聞いて何を思うか?

 

私は…ただ確かめたかった。

 

正体を知りたかった。

 

この男が()()()()出来る人間とは思わないから。

 

だから危険人物だった、その意味でも。

 

あのような狂い方、出来そうにない。

 

まるで別の世界から来たような狂気だから。

 

それを行うなど…

 

私が知る『樫本』がたらしめるなど…

 

 

「何も残ってないのですか?」

 

「いや、むしろ…」

 

 

 

___沢山、残されていた。

 

重たそうに言葉が吐かれた。

 

マフTの視線が下を向く。

 

どこか眼を合わしたくないように。

 

もしくは視線を濁すように、弱々しく思える。

 

でも…

 

 

「それが役割だから、マフティーとして」

 

 

__マフティーとして。

 

『求める』ことで『応える』存在になる。

 

それがカボチャ頭を被ったマフTの役割。

 

ウマソウルのように備わりし魂は、樫本だった男に応えた。

 

だとしたら、それは…

 

 

「それは、何に向けて?」

 

「無念や後悔だ。喉を掻きむしったように形として残った。それを払拭する… いや、代わりにこの傷跡を抱え、その傷はカボチャ頭で覆い隠し、応える意義によってマフティーはこの体で生きた。だから俺は同時に樫本だったこの体でURAも見ているホープフルステークスの中で言い放った」

 

 

__あるのはこれを被るまでの後悔。

__そうしなければならなかった己の脆弱さ。

__そうしなければ求められない己の貧弱さ。

__そうしなければ進めない己の軟弱さ。

__全ての怠惰と拭えきれぬ罪の形を穴あきのカボチャにした。

__故にマフティーと名付けてこの厳しい世界へ挑む事を決めた。

__これは覚悟でもある。

____トレーナーとしての。

 

 

 

「それが初めてマフTとしてのG1、そして前任者への手向け。言うならば反省と促し。ウマ娘の中のウマ娘が示してくれた」

 

 

カボチャ頭の異端者がミスターシービーと共に1着を勝ち取り、マフティーは本物であることを促した。

 

それから始まった、世間への 促し が。

 

そして彼の中にあった魂への 反省 が。

 

世間に対してマフティーが始まった。

 

 

「しかし、マフティーは神様ではない」

 

 

この男は人間だ。ウマソウルが備わった話が本当だとしても、その肉体は周りと等しい。

 

あっちも人間、こっちも人間。

 

カボチャ頭を外せばなんてことないヒトの素顔がそこにあるんだろう。

 

 

「時折カボチャ頭と答え合わせをしていた。マフティーたらしめる世界の魂なのか。己にも前任者にも、求めるに値する役割なのか?しかしそれしか残らない道筋に進めるしかないこの足を託されたとしたら、マフティーはトレーナーとして果たすことが決まった。それを役割として飲み込み、もしくはウマソウルのように名前と共に受け渡された使命としてターフに駆けるべきマフティーだと世界が指すのなら、それが世間に促した『王』と言う存在だった」

 

 

まともではない。

 

そんな考えと、そのようなストーリーテラーに身を投じるなど、普通はありえない。

 

狂っている、この魂は…

 

別世界の生き方だ。

この世界にない狂信的な歩みだ。

 

マフTにとって、マフティーとはそれほどなのか??

 

 

「人間だからこそ…そこに狂えた」

 

「ああ。何せ、器用にカボチャ頭を被るなんて人間くらいだろ?つまり、そういうことだ」

 

 

東京レース場の観客席を今一度見渡す。

 

マフティーのようにカボチャ頭を被って応援する者もいる。

 

それは神様ではない、人間だからできる所業。

 

そしてマフTはそれを『まとも』にした。

 

これが狂えたカボチャ頭の成果。

 

そしてURAが恐れた存在の力。

 

樫本に代わって、この世界にたらしめた結末。

 

 

 

「だから何度でも応え返そう。俺は君が知る樫本ではない。なぜなら俺はマフTまたはマフティー。ウマ娘に狂うことで応える存在だから。それは前任者に代わって成すことを決めた魂だから」

 

 

 

ウマ娘達が第四コーナーに差し掛かり、観客席の盛り上がりが再燃し始める東京レース場。

 

その光景を後ろから眺めるマフTの姿は、とてもじゃないが隣に並んでいるにも関わらず遠く感じた。

 

 

「まだ聞きたいことはあるか?」

 

「いえ…もう充分です」

 

「そうか」

 

「…」

 

 

これ以上、聞くことはない。

 

そして聞こうとも思わない。

 

ここにいるのはマフTと言う存在。

 

そしてカボチャ頭がその証。

 

それが何よりも答えだから。

 

 

「…後悔の中に、樫本には誇れるモノがあった」

 

「誇れる…?」

 

「徹底管理主義と言う教育方針の信条」

 

「!」

 

「それは樫本にとって誇れる賜物と化した。その指導はウマ娘に対する自衛のため、歪んだような目的だったが…その能力は本物だった」

 

「…それは、今も?」

 

「ああ、知識として生きている。だからわかる。樫本は傲慢な人間だったが間違いなく樫本と言う血筋の天才だ。怯えすぎた故ウマ娘に違えたが積み重ねてきたその力は彼の中でマフティーのようなものだ。たらしめよう(支配と克服)とする意志から始まった間違った強さだけど、認めなければならない努力だよ」

 

 

その男に樫本の遺伝子は生きていた。

 

そして…

 

 

「だから樫本理子、貴方のお陰で樫本は生きようとした。この世界で」

 

 

もう生きていない、魂。

 

マフティーを求め、委ね、託し、消え去った。

 

しかし、その知識はまだ生きていた。

 

それは喜ばしく思うべきなのか…

 

わからない…けれど、マフティーが代わりとしてその努力に応えてるとしたら、樫本にとってうれしいことであって欲しい。私にとってそう望むほかないから。

 

 

「ありがとうございます。少しだけ報われた気がしました」

 

「…」

 

「少なからず、気にかけていましたから」

 

「_____誰も悪くないんだ……誰もな」

 

 

 

その言葉は何か濁すように吐き出される。

 

そして観客たちの歓声でかき消される。

 

最後の直線に入ったウマ娘の姿に盛り上がりはピークだ。

 

 

 

哀戦士って…聞いたことあるか?」

 

「あい、せんし?」

 

 

単語だけならある。

 

だが聞いたことない言葉だ。

 

 

「死に()く漢たちに向けた(わか)(うた)

 それは、愛とか、哀とか、逢とか、色々とある。

 言葉にするだけなら『あい』それだけだ。

 しかし形にするなら様々だ。

 何故なら時によって変わるから。

 それは歌詞のように物語を綴って行く。

 そうやって意味が求めだすため。

 …つまりだ。

 この体にいた樫本は『哀』だったけど『』になった。

 もうこの体に樫本の魂はいない。

 しかし逢するその者から託された。

 この世界に生きていた哀しい生き物が…

 どうかウマ娘で()()()()()ように告げたから…」

 

 

エプソムカップのレースに決着が付く。

 

湧き上がる歓声の中に哀しさなど無い。

 

しかし最後方から眺めるターフは不思議と寂しさがあるような気がした。

 

今だけ、そう感じている。

 

 

「連絡を確認すると担当ウマ娘が到着したようだ。俺はそろそろ行くよ」

 

「貴重なお時間をありがとうございます、マフT」

 

 

 

彼は背もたれにしていた壁から離れ、観客席の歓声を横目に歩き出す。

 

不意に一つだけ思い出した。

 

 

「最後に尋ねたい事があります」

 

「?」

 

 

マフTは足を止める。

 

カボチャ頭だけ振り向いた。

 

 

「貴方はビターグラッセ(殴ったウマ娘)覚え(知っ)てますか?」

 

「……」

 

 

 

しばらくして。

 

 

 

「申し訳ない事をした、彼はそう言ってたよ」

 

「そうですか」

 

 

 

その会話を最後に彼は立ち去る。

 

エプソムカップの次に安田記念が始まるから。

 

「……」

 

 

まだ幾らか理解が追いついてない部分がある。

 

しかし私は()()()()()から答え合わせをするごとに納得する。

 

その素顔はあまり覚えてない。

 

けどその人間が何者だったのか記憶にある。

 

 

「ウマ娘に怯えていた、そんな男…」

 

 

この世界を考え、この世界を知り、この世界に怯え、この世界に縮む。

 

ウマ娘に寄り添えない人間だった。

 

だが彼は中央を目指していた。

 

しかし中央は広い。

 

そして門は狭い。

 

どこかで朽ちたと思った。

 

音沙汰ない現状。

 

少しは心配した__分家の彼を。

少しは意識した__本家の私は。

 

 

そして……

 

マフティーが現れた。

 

 

 

「ウマソウル…」

 

 

研究者が出した論文でも読んだ事がある。

 

なんなら在学中のアグネスタキオンと言うウマ娘の論文も読んだ。ロマンチストな部分を見え隠れさせながらも興味は惹かれた。

 

故に理解する。

 

別人だということ。

 

もう彼は マフT と言う人物だ。

 

登録名義は『樫本』に変わりない。

 

しかし彼は自分を『樫本』だとは思わない。

 

 

 

「託されたと言うのなら、マフティーを知った私はその事実を受け止めるしか無い。恐らくそう言うことだろう」

 

 

 

これを__死んだと言うのは違うだろうか。

 

しかし、消えたと言った。

 

それで完全に成り代わったと言う事。

 

樫本はいない。

 

そういうことだ。

 

なんとも、表現し難い事だろうか。

 

 

「ですが…」

 

 

傲慢ながらも、歪ませながらも、彼は挑んだ。

 

ウマ娘が集う中央の世界に、樫本の血筋を持って資格を得た。

 

それは、同胞として、少しは誇らしくも思うことだ。

 

けど、私も同じ人間だ。

 

だから無いものだって求めてしまう。

 

 

 

「貴方がもっとこの世界に寄り添えて、この世界がもっと応えてくれたのなら、貴方はもっと樫本家の人間として、ウマ娘の一陣の風になってくれたのかもしれない」

 

 

 

 

痛みを知って、変わろうとした。

 

もうこの世に亡き…男の物語。

 

たしかに_____哀・戦士だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たづなさんだけ、そう思ってたけど」

 

 

まあそもそもたづなさんに打ち明けたのは俺が弱かったから。アレはつい吐き出してしまったから。

 

そしてそこまで前任者に入れ込んでたとは知らずに泣かせる結果になった。そこは反省している。まあ当時の中央は中央だったから、そりゃ希望一つは抱きたくなるわ。それでたづなさんも現状の打破がはかどらず追い込まれていた状態でのマフティー当時だから、そりゃ色々感情が押してくるわ。反省してます。

 

まあ結果としてマフTの正体を打ち明けてくれた事に対してたづなさんも自分がトキノミノルであることを明かした。

 

それは中央を支える同胞としての証。

 

共に秋川やよいを支えてウマ娘に正しく狂える学園を作ること。

 

誓いのようなものだろう。女性って強い。

 

良い女ってあの人のことを言うんだろう。

 

 

 

「しかし樫本理子か」

 

 

まさか本家の人間がURAの幹部職員として働いてるとは思わなかった。

 

もちろん樫本家のことは調べている。

 

並行して桐生院家とかウマ娘に強く関わってきた家系はいくつかピックアップしている。

 

でもURAにまで樫本がいる事に意識が向いてなかった。

 

それで中央に樫本の名前は俺一人なので勝手に安心していた。死神では無いが身構えてなかった結果だろう。まあ一応アオハル杯のテストレース前日に名前が知れたからまだ良かったけど、確認した時は非常に驚いた。

 

だから接触してくること前提で身構えて今日この日である。本当は対話自体いつでも良かったが、あまり俺のこと話してるとたづなさん以上に余計なことまで打ち明けてしまいそうで怖かったから、当日のエプソムカップを見に行くことにして担当の安田記念を理由に離脱する。それで対話の時間を調整したつもりだ。上手く行ったと思う。

 

なにより樫本理子の食いつきが良かったから今日この日に取り付ける事にできた。あと幹部職員だけあって特にマフティーを知りたい人間だっただろうから、今日仕掛ける事にした。

 

まあ……大凡真実は告げた。

 

色々まだ隠してることもあるが、この世界で生まれて生きている人間がそれ以上知る必要が無い。三女神なんて知る必要は無い。

 

これは俺と前任者の話だ。

 

マフTであることを知ってもらう。

 

それが目的だから。

 

 

 

「まー!ふー!てぃー!」

 

「ぐぇぇ!!」

 

 

そして廊下から一直線に向かってきたのは勝負服に着替えまダイタクヘリオスであり、一気に目の前に突っ込んできた。

 

そのまま地面に押し倒されて、尻尾ブンブンしながら「ンふー!」とグリグリ顔を擦り付けてきたが、途中スンスンと鼻を動かして。

 

 

「別の女の香りがする」

 

「パリピ語抜き怖いからやめろ」

 

 

真顔で言われる。

 

しかもパリピ抜きのヘリオス。

 

いや!こんなのダイタクヘリオスじゃないわ!

 

ただの在宅ウマ娘よ!!

 

 

 

「なーに?またウマたらし??」

 

「待て、今回は違うぞ、シービー」

 

「へー?何がどう違うのかな?」

 

「そりゃ…」

 

 

出会ったのはウマ娘じゃない。

 

俺が出会ったのは…

 

 

「ヒトだからな」

 

「「________ヒト?」」

 

 

 

 

するとミスターシービーとダイタクヘリオスの眼の色が変わる。

 

え?

 

え?

 

なに?

 

 

「……俺、なんかやっちゃいました?」

 

「ヒトかー、なるほどー」

 

「はえー、そう言うことー」

 

 

あ、これ、あかんヤツや。

 

そう思って遅し。

 

耳を絞ったシービーに腕を掴まれ。

 

真顔のヘリオスにもう片方の腕を掴まれ。

 

呆れ顔でドアノブを回したシチーが待ち構え。

 

ジト目で見ているアヤベの視線が突き刺さり。

 

少しだけ同情するカフェに見送られ。

 

興味なさげに飴玉転がすフェスタを添えて。

 

 

 

「ちょ、待て、力強い__(カチャン」

 

 

用意された控室に連行された。

 

 

 

 

__身構えてる時でも、女難は来るものさ。

__ハサウェイ。

 

 

やかましいわ!!!

 

このあと、無茶苦茶いろいろ強請られた。

 

 

 

 

つづく

 




たづなさんに続いて2人目です。
SSR持ちの友人サポカ枠は頼もしいですね。

え?桐生院葵?あの子は無垢だから可愛んですぅ。なんならお友達と遊ぶ事に憧れている彼女をダート距離1814広さの公園に連れてから砂遊びで子供のようにお目目キラッキラさせてから公園の水道水でお手てを一緒に洗いたいステークス。


ではまた


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第40話 + 掲示板

アドマイヤベガは引けました(生存報告)



 

完走した安田記念の感想を語るスレ

 

 

1:名無しの視聴者 ID:do3fmIP6d

ヘリオスぶっちぎりじゃね??

これG1だよな?安田記念だよな??

 

2:名無しの視聴者 ID:4A9qJ+TSg

マフティーのウマ娘はそうなるんやて…

 

3:名無しの視聴者 ID:WOMoVxZpv

なんかフウウンサイキ思い出した…

 

4:名無しの視聴者 ID:kM70CNNYL

凱旋門賞ウマ娘は言い過ぎだろ?てかフウウンサイキといつの頃の話だよ…ヘリオスはそりゃ凄かったけどさ

 

5:名無しの視聴者 ID:HqkliOb/O

どっちかと言えばマルゼンスキーじゃね?去年のマイルCSでも既視感あったわけだし

 

6:名無しの視聴者 ID:quqPWKsRC

大逃げでバテバテの筈なのにさらにスピード上がるとか頭おかしいわ

 

7:名無しの視聴者 ID:2KAco6W11

ヘリオスってスタミナや根性あるタイプだっけ?スピードあるのは分かるけど最後まであんなに速度保てるウマ娘かと言うとわからん

 

8:名無しの視聴者 ID:t4C+yyx7R

「スタミナがない?それならスタミナ無い分を切り離せばええやん!」

 

9:名無しの視聴者 ID:jkaT7kaBT

それが出来たら逃げは苦労しないんですがそれは…

 

10:名無しの視聴者 ID:Wmm/690Ya

なら漕げばいいだろ!

 

11:名無しの視聴者 ID:g/h5mcPzL

空手の稽古が入ってても出来ない

 

12:名無しの視聴者 ID:hyT4UKyGh

最後にバテると言ったな?アレは嘘だ…

 

13:名無しの視聴者 ID:L+ZC5pQCt

実際にヘリオスバテてるか分かんないからな

最後までめっちゃいい笑顔で走ってるし、バテてようがどんな時でも笑顔絶やさないし、しかも愛嬌あってファンサ強強ウマ娘とか推す理由しかねーよこんなのふざけんなグッズの供給追いついて役目でしょ!

 

14:名無しの視聴者 ID:ORRbCtajB

おじいちゃん、グッズは昨日再販したでしょ?

 

15:名無しの視聴者 ID:lhmT3Ze3s

マ(フティー)?ちょっと調べて購入してくるわ

 

16:名無しの視聴者 ID:V6YiEmGaB

あの笑顔はプレッシャーだわ

後ろから見ても笑顔絶やさない余裕マシマシの姿しか浮かばないから、その背に追いつこうとするウマ娘はプレッシャーしかないだろうな

 

17:名無しの視聴者 ID:PYWxK5xMH

G1じゃ笑顔で牽制してくるとか怖っ…

 

18:名無しの視聴者 ID:ihldp9ffJ

マイル覇者すげーな

なんだかんだ言ってマイルCS獲って安田記念も獲ったんだろ?

もしかさて、ヘリオスってただのパリピじゃない??

 

19:名無しの視聴者 ID:UINBRd0Ji

アレがただのパリピだったら周りのパリピは一体なんなんだよ…

 

20:名無しの視聴者 ID:lBiE/7pil

ヘリオスはニッコニコのあんな感じだけど現時点で最強のマイラーウマ娘だってことちゃんと理解した方が良いぞ

そのせいでパリピの真似する女の子増えてるし

 

21:名無しの視聴者 ID:IA6Pywxnj

ええやんパリピ

かわよ過ぎる

でも陰気には辛すぎんよ…

 

22:名無しの視聴者 ID:9RUPXc0Fg

ワイの陰キャ仲間が太陽神に触れて陽気になりました

 

23:名無しの視聴者 ID:GgDO0uvKp

内側の闇すら照らしてしまうパリピ製の荒療治

 

24:名無しの視聴者 ID:AYM74Spd3

太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!

 

25:名無しの視聴者 ID:tjo/oI4x5

最強はミスターシービー定期

 

26:名無しの視聴者 ID:mnt4koUzA

もうシービーは最強じゃ無いだろ…

悲しいけど、悲しいけど…

 

27:名無しの視聴者 ID:QFqLaGB/w

シービーってもう走らんの?

 

28:名無しの視聴者 ID:xPZoKzTgv

走らないことはなく無いか?

まだ引退表明してないし

 

29:名無しの視聴者 ID:ratIhwWzj

引退表明しなくてもフェードアウトする重賞ウマ娘はいるでしょう

まあシービーほどのスターあるウマ娘がスッと消えやしないだろうし、マフTもそこら辺ちゃんとしてくれるはず

 

30:名無しの視聴者 ID:yfvIjtKbd

せやな。だからまだ安心してるけど今年に入ってまったく走ってないし、少し心配やな

 

31:名無しの視聴者 ID:vNkFG0YHI

特に情報無いよな、そこら辺

 

32:名無しの視聴者 ID:aIN/t5TJ5

シービーは力を蓄えている!! ▽

 

33:名無しの視聴者 ID:QvjpHQFWC

まあ仮にシービーがフェードアウトしちゃってもヘリオスが継ぐやろ

 

34:名無しの視聴者 ID:Utmz4txOQ

ヘリオスじゃなくてマンハッタンカフェな

 

35:名無しの視聴者 ID:7wAO/AZhz

ここマフティーのウマ娘スレじゃ無いんだが…

 

36:名無しの視聴者 ID:MXp0jV3Mk

でもヘリオスのインパクト強すぎてどうしてもマフティーに行き着くんや

 

37:名無しの視聴者 ID:NXBMgkP4p

てか安田記念で5バ身はやりすぎ

せめて3バ身にしろ

 

38:名無しの視聴者 ID:VrT2MA9P8

3バ身も充分にやり過ぎなんですがそれは…

 

39:名無しの視聴者 ID:h+jR00tOw

3バ身でも遠慮して欲しいレベルだろ

 

40:名無しの視聴者 ID:zdKJPZ3T6

 

41:名無しの視聴者 ID:jBNYX7dFs

今考えても5バ身はえらい切り離したよな?

安田記念って1600だっけ?

 

42:名無しの視聴者 ID:2zQy5D6oI

マイルCSとまったく同じやぞ

東京かつ1600で左なのも同じ

 

43:名無しの視聴者 ID:mJLlhve5T

そりゃヘリオス勝つわ

 

44:名無しの視聴者 ID:37avdYLY2

マイルCSと同じ感覚で走ったとして、それで安田記念では5バ身差まで切り離せるくらいにレベル上げたとか今期最高の成長具合だろこれ

しかも出走メンバーマイルCSとそこまで大差ないし

出来レースやん、こんなの

 

45:名無しの視聴者 ID:YohCzyYGz

G1に出来レースって発言は流石ゲームのやり過ぎだと思う

 

46:名無しの視聴者 ID:cIDmMnz+L

G1だろうと何かの拍子で負けるからね?

 

47:名無しの視聴者 ID:Rl9Ttrl5L

マルゼンスキーとミスターシービーが対決した有マ記念見直してこい。レースに絶対が無いことを証明しただろ

 

48:名無しの視聴者 ID:VU7HSxrsN

まーたURAの脳が破壊されるのか…

 

49:名無しの視聴者 ID:J99fsbABk

まだG1を3つ獲ったくらいだろ

その程度で破壊されるか

 

50:名無しの視聴者 ID:wIovWZzaR

その程度(三冠目)

 

51:名無しの視聴者 ID:1TCpubVFh

一冠だけでも充分なんだよなぁ…

 

52:名無しの視聴者 ID:osCAovKoY

なんならG2で1着も相当だと思う

 

53:名無しの視聴者 ID:FQHLi5VHv

てかG3でもすげーよ

入着するだけでも誇らしいわ

 

54:名無しの視聴者 ID:2AXOROECi

中央こわっ…

 

55:名無しの視聴者 ID:saQThcPei

それが中央やぞ

 

56:名無しの視聴者 ID:KAkInauEM

ならまだURAの脳は保たれているか

 

57:名無しの視聴者 ID:tSRAN9zsM

むしろ既に破壊されてるのでは?

 

58:名無しの視聴者 ID:OR5pMBpSY

2年前にマフティーとミスターシービーに破壊されてるからもう破壊されるところないぞ

 

59:名無しの視聴者 ID:WbA1aNmoj

怖いもの無しかよURA

 

60:名無しの視聴者 ID:bkUC0/Oe6

なんというかマフTがまだ健在なの嬉しい

 

61:名無しの視聴者 ID:chevZNX1v

それな、分かる

 

62:名無しの視聴者 ID:nzAQX0m4P

でもなんか色々と静まったよなマフティーって

 

63:名無しの視聴者 ID:2ZApwRZp8

色々と役割を終えた空気感はあるよな。本人がそう言ったわけじゃ無いが

 

64:名無しの視聴者 ID:+ageBrwer

でもトレーナーとして今も続けているからマフT推しなワイは純粋に嬉しいわ

 

65:名無しの視聴者 ID:TFZjFb9SG

わかるマーン

 

66:名無しの視聴者 ID:pzhrWvjY4

てかマフTとヘリオスが並んでる姿好きなんだが?

 

67:名無しの視聴者 ID:lvoX/QMnx

いつも尻尾を、ブン、ブンの具合で振ってるところマフTの隣に立つと2倍マシにブンブン!ブンブン!と無意識に揺れ出しているパリピかわいい

 

68:名無しの視聴者 ID:dvAXqgwFz

愛嬌○かよ

 

69:名無しの視聴者 ID:uOzRpMv7g

○ どころか ◎ は行くだろ

 

70:名無しの視聴者 ID:IzO4qK/UI

パリピで愛嬌たっぷりとか無敵かよ

 

71:名無しの視聴者 ID:O2XFBizHU

そりゃ最後までチョコたっぷりだもん

 

72:名無しの視聴者 ID:QWZ7MMAg3

安田記念のレースも最後までパリピでたっぷりだったな

てかこの子こんなに強くなるとは思わんかったわ

 

73:名無しの視聴者 ID:eTLvpltEN

ヘリオスはマイルCSで化けた感じあるよな

 

74:名無しの視聴者 ID:VswiMbSJP

正直に言うと『マフティーのウマ娘』って言葉が一人歩きしてると思ってた

 

75:名無しの視聴者 ID:2lmqiA4Qn

そりゃミスターシービーのようなウマ娘がポンポン出てきてたまるかよ

 

76:名無しの視聴者 ID:EhdZGOMui

その一年後にシンボリルドルフとか言う三冠もいるのですがそれは…

 

77:名無しの視聴者 ID:Y6ZPDlDIr

この世代は間違いなく何かが起きているよな

 

78:名無しの視聴者 ID:b2YmjK4XQ

正直すげーよ、シービーの世代から

 

79:名無しの視聴者 ID:0NuZyJlYv

マフTはこれを狙ってたんじゃないかと言うくらいにタイミングだったよな

 

80:名無しの視聴者 ID:DPW31lg4+

それで中央も変わるし、URAは破壊されるし

 

81:名無しの視聴者 ID:QE8qE7YDw

パリピは激かわだし、マルゼンスキーは激マブだし

 

82:名無しの視聴者 ID:SAESylgr3

マルゼンスキー関係ねぇだろww

 

83:名無しの視聴者 ID:QZFpoWlgz

ヘリオスの走りがマルゼンスキーのそれだと言う幻覚が見えるニキ多いのですがそれは

 

84:名無しの視聴者 ID:x1uWTPRmo

ヘリオスがマルゼンスキーから手解き受けたとかなら分かるけどそう簡単にスーパーカーされてたまるかよ

 

85:名無しの視聴者 ID:7dzUn77F+

でもマフティーのウマ娘だぞ?間違いなく普通じゃないから

 

86:名無しの視聴者 ID:ddQbvgH+1

マイルCSであんな走り見せられて安田記念で繰り返されたら太陽神がマジで太陽神なの疑えなくなる体になっちゃう

 

87:名無しの視聴者 ID:rmFKHtWCo

は?普通に太陽神なんだが?

 

88:名無しの視聴者 ID:W4QRaQcv8

ヘリオスは太陽神定期

 

89:名無しの視聴者 ID:6U7yr6LlO

太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!

 

90:名無しの視聴者 ID:iYGFjXwFs

最強はミスターシービーだゾ(新たな火種)

 

91:名無しの視聴者 ID:TJE3+OTtW

最強はマルゼンスキーだろ

なんでも走れるし

今もバリバリ激マブ込みで国外走ってるし

 

92:名無しの視聴者 ID:3GmorA0me

結果にコミットしてる激マブすげーよ

 

93:名無しの視聴者 ID:nHQRaKZmR

シンボリルドルフの方が強いだろ

 

94:名無しの視聴者 ID:1Rmn7d2EC

ミスターシービーの可能性見てそれ言う??

 

95:名無しの視聴者 ID:nac29Hu+x

可愛さ込みならパリピが全一なんだよなぁ…

 

96:名無しの視聴者 ID:6A3Fqa/97

そんな俺はブリッジコンプを推す

ターフを駆ける尾花栗毛綺麗ですき

 

97:名無しの視聴者 ID:JPgOq1lvC

そんなわたくし、一押しのウマ娘はゴールドシチー、心の一番人気です

 

98:名無しの視聴者 ID:GIcfvsJH0

やっちゃいなよ!そんなターフなんか!

素直になれない一番人気のゴールドシチー

 

99:名無しの視聴者 ID:zCmUJ9lRc

やっちゃいなよ!そんなマフTなんか!

実は凄く感謝してる一番人気のゴールドシチー

 

100:名無しの視聴者 ID:6I6mjLiGF

やっちゃいなよ!そんなレースなんか!

負けん気の強さは一番人気のゴールドシチー

 

101:名無しの視聴者 ID:TDHifDuFP

やっちゃいなよ!そんな愛バなんか!

独占欲高いと思う一番人気のゴールドシチー

 

102:名無しの視聴者 ID:R7CkRYILk

素材力たけーなこのモデル

 

103:名無しの視聴者 ID:rud5e6ZXf

ウマッターみると想像捗るぞ。

なお本人はマフTに対するリスペクトは否定してる模様

 

104:名無しの視聴者 ID:7RGyqeOWn

クソ可愛いなオイ

 

105:名無しの視聴者 ID:+fONq9ebo

とても素直なダイタクヘリオス vs 素直になれないゴールドシチー……ファイ!!!

 

106:名無しの視聴者 ID:qdhZda/m3

そんな二人を後方から追い越すのがミスターシービー

 

107:名無しの視聴者 ID:ljaqZ/oDC

そんな三人を最後方から追い抜くのがマンハッタンカフェ

 

108:名無しの視聴者 ID:291ovBHfA

そんな番狂わせはニット帽ウマ娘

 

109:名無しの視聴者 ID:oDeeF4wAi

それってアドマイヤベガちゃん?

 

110:名無しの視聴者 ID:HqD8T93+g

いや知らん

でもなんかいつのまにか居た

 

111:名無しの視聴者 ID:UcrXEZDZy

それナカヤマフェスタだろ?取材していた記者達の前でマフTにコイントスを挑んで担当にしてもらったヤベー奴

 

112:名無しの視聴者 ID:VrxS8rQml

え?なにそれ、すげー気になる

 

113:名無しの視聴者 ID:Jw7a9q1EI

オープンキャンパス中の話やぞ

こっそり記事になってた

 

114:名無しの視聴者 ID:69HYQKXRZ

まーたマフTなんか濃ゆい奴担当してるし

 

115:名無しの視聴者 ID:6n+L/KrTU

範囲広過ぎだろマフT

飛び級生もいるし

 

116:名無しの視聴者 ID:1H2aSCTt3

それがアドマイヤベガな

しかも中等部のレースに参加して1着だったぞ

 

117:名無しの視聴者 ID:/K7g0KyiV

地方の模擬レースだろ?

笠松で記事になってたな

 

118:名無しの視聴者 ID:rXoAqm2bo

ワイは現地で見たぞ!最初は偽物のマフTかと思ったけど付き添いで来ていたマンハッタンカフェの姿と、あと運営のざわつき具合に本物だと確信した。レース後は笠松で噂になってたな

 

119:名無しの視聴者 ID:1ue0qNyYz

そりゃすげーな

てか笠松まで向かったのか

 

120:名無しの視聴者 ID:dY8zagn9m

地方と言えども体格差の関係で一着になれんの?

 

121:名無しの視聴者 ID:G8/5VsMlR

アドマイヤベガは小6だろ?あと一年で中学だしそこまで差は無くね?

 

122:名無しの視聴者 ID:+yx1hOru2

いや体格差による歩幅の関係上普通はきついぞ

足の回転が相当速くないと補えないって

 

123:名無しの視聴者 ID:Ly0jek99x

マンハッタンカフェと比べるとやはり小さいよなアドマイヤベガ

 

124:名無しの視聴者 ID:fsByMNTHy

ウマ娘は成長期が訪れたら走るための体になるため一気に伸びるから

 

125:名無しの視聴者 ID:c1UziaWiM

アドマイヤベガはまだ成長期来てないんだろ?

地方とは言えよくやるわ

 

126:名無しの視聴者 ID:Ka2A0U4CV

地方をバカにしてる訳じゃ無いけど中央の空気を吸って走るウマ娘はそんなに差が出るの?

 

127:名無しの視聴者 ID:0G4Z0kaK8

出るぞ。だってプロ中のプロが育成してるし

 

128:名無しの視聴者 ID:5KG7/mZ1l

あと中央は育つための環境揃ってるから

食事も栄養豊富な食材が使われてるし、芝の状態が頗る良いから満遍なく鍛えられる

でも成長期来る前のウマ娘を育てるって相当博打が効いてるよな

 

129:名無しの視聴者 ID:8HzXJ7DJj

それだけアドマイヤベガが丈夫って事なんじゃね?

もしくは中央来る前に鍛えられてたのか

 

130:名無しの視聴者 ID:TOBODbeAt

そりゃマフTからスカウトされるくらいだし目に見張るモノがあったんだろ

 

131:名無しの視聴者 ID:GJfuWARfV

はえー、あのカボチャ頭マジで中央のトレーナーなんだなぁ

 

132:名無しの視聴者 ID:zss72k9jy

指導力あってもちゃんと見極める力が無いとやっていけないのが中央って世界やぞ

 

133:名無しの視聴者 ID:ZZpELCZgo

陰キャのワイには無理や…

 

134:名無しの視聴者 ID:bYVHEpvUD

ぶっちゃけコミニケーション能力が欠けてる奴は中央はやっていけないわ

 

135:名無しの視聴者 ID:HMePf95yY

でも数年前の中央は暗黒期でいくら能力があっても関係無く押し潰されて新人達は去ってしまうからな

 

136:名無しの視聴者 ID:WKm+nBwga

年功序列はクソ、はっきりわかんだね

 

137:名無しの視聴者 ID:MMJWLXRpg

ただの蛮族やん

 

138:名無しの視聴者 ID:jVXgWxjTt

そう考えるとマフティーすげーわ

 

139:名無しの視聴者 ID:9e+UcSJY/

だからマフTは救世主だと言ってんだるるぉぉ??

 

140:名無しの視聴者 ID:GJjr+tLVg

マフティーいなかったら今のURAは無いからな

 

141:名無しの視聴者 ID:3gYrZb5vW

救世主っているもんだな

 

142:名無しの視聴者 ID:ZcvSkbMpA

そうなると素顔を隠してるの正解だわ

それをカボチャ頭にする事でその意味を世間に促して周りに考えさせのもマフTの打算だとしたら完璧すぎる

 

143:名無しの視聴者 ID:avST2wniS

有マ記念でミスターシービーがマルゼンスキーに打ち勝ったのもタイミング的に最高だったな

あの歩み方は誰にもできねーわ

 

144:名無しの視聴者 ID:hQYQq98JV

やはりマフTのウマ娘はミスターシービーやな!

 

145:名無しの視聴者 ID:4QG/hn7np

は?ヘリオスだろJK

 

146:名無しの視聴者 ID:eVt+8C2JZ

何をどうしたら常識になるんや…

 

147:名無しの視聴者 ID:NlBNKTxY2

何JKって?女子校生??

 

148:名無しの視聴者 ID:rOXjx5Q8D

『J』常識的に『K』考えて

 

149:名無しの視聴者 ID:5EoxrqaGi

まあヘリオスはたしかにJK

 

150:名無しの視聴者 ID:SGD0Ig+Sy

なんかやだ、その表現やめろ

 

151:名無しの視聴者 ID:4IZ3ORrTp

いかがわしくたまらないの芝

 

152:名無しの視聴者 ID:H30133Nk3

JK分からん時代か

 

153:名無しの視聴者 ID:3XUjKXRUD

激マブ表現やめてクレメンス

 

154:名無しの視聴者 ID:lwMpRSWlN

激マブほどじゃ無いだろう

 

155:名無しの視聴者 ID:5iQy4T3Ai

そうだぞ!激マブに失礼だろ!!

 

156:名無しの視聴者 ID:dSBNPpvXw

ごめんあそばせ

 

157:名無しの視聴者 ID:nekVVNS2U

許してちょんまげ

 

158:名無しの視聴者 ID:zhrry3kNQ

安田記念の話しろお前ら

 

159:名無しの視聴者 ID:n4FtC+0n+

安田さんより鈴木さんの話しようぜ!!

 

160:名無しの視聴者 ID:ougon120oku

佐藤さんの方が良いだろ!ゴルゴル星3丁目の管理人やぞコラァ!

 

161:名無しの視聴者 ID:0UoD8bvx9

そんなわたくし、一押しのウマ娘はゴールドシチー、一番人気です

 

162:名無しの視聴者 ID:/4e8XfoHk

やっちゃいなよ!そんなダービーなんか!

 

163:名無しの視聴者 ID:eAmLvKl/e

やっちゃいなよ!モデルも!レースも!

 

164:名無しの視聴者 ID:AV50JZzT3

やぁっちゃぁいなぁよぉ、にぃっすぅぁぁん

 

165:名無しの視聴者 ID:7cOA6Q7F6

唐突な自動車に芝

 

166:名無しの視聴者 ID:1BPbvsue7

ここのスレいつもエンストしてんな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安田記念の勝利はマフTと約束した『誇れる自分』に変われた気がした。爆逃げの全力疾走から引き離した5バ身差はダイタクヘリオスの強さを証明するのと同時に弱かった頃の自分とお別れが出来た。大歓声を浴びながらファン達と決めポーズをとって栄光あるセンターを勝ち取ったパリピって仕方ないウマ娘を東京レース場に刻んでやった。あんなに嬉しい瞬間はマフTが居てくれたから出来たことだ。感謝しかない。

 

それからマフT達と称えあい、その調子でパリピ仲間とバイブス有頂天パーティーを夜通し行ってお祝いをした。

 

そしてそのまま夏になり、マフTのカボチャ頭が夏仕様に衣替えすると第一陣として7月に入ったタイミングで夏の強化合宿へと乗り込んだ。

 

足が軽い。

 

去年とは全く違う。

 

成長を実感しながら並んで「よーいドン!」で走れば誰よりも早く、ビーチフラッグは負けなしだった。それから合宿で数日を過ごし、過酷な環境に体が慣れてきたころのとある夜だ。

 

 

「姉貴、こんばん〜」

 

「おや、ヘリオスか」

 

 

浴衣姿を着こなして、砂浜に黄昏れるミスターシービーの姿を見て私は駆け寄る。

 

相変わらず綺麗な立ち姿で、誰もが認めるようなミスターウマ娘だ。

 

 

「久しぶりの砂浜だけど筋肉痛とか無い?」

 

「無いよ。今もハートがアゲっちゃブルで、今年は調子が頗るヨキヨキってんよ」

 

「そう、良かった。去年はこの場所で泣いてたくらいに弱弱しかったから」

 

「あー、あはは…それは、大変恥かしゅうございマングース」

 

「良いよ。その後はマフTと話して吹っ切れてくれたみたいで。それで応えてくれたようだから」

 

「うん、そやったね」

 

 

思い出すと恥ずかしい思い出話。

 

当時はマフTの担当ウマ娘になった喜びと、マフティーのウマ娘ってレッテルが誇らしく、パリピって走ることがダイタクヘリオスだと肯定してくれた彼の言葉が嬉しくて、だから私は走った。

 

でもマフティーのウマ娘ってのが、ミスターシービーのようなウマ娘であることだと思い込んでいた。けどマフティーの名前はそれだけ重たいモノだから、それに見合った走りが出来るウマ娘で無ければと…私は勝手に追い込まれていた。

 

だって憧れだったから。

 

それから無敗の三冠バとなったミスターシービー(マフティーのウマ娘)に追いすがりたい想いと焦りからレースの結果を求めるようになって、それで苦しんできた。

 

しかしマフTはダイタクヘリオスに結果を求めてなかった。

そこに囚われる必要が無かった。

 

だから私が勝手に一人で空回って、夏の強化合宿も台無しにして、笑えるパリピを忘れた私は17着の悪夢に苦しんでいた。そしてこの場所で泣き崩れた。

 

だってミスターシービーが羨ましくて仕方なかったから。マフTと共にいるそのターフが私にとって輝かしくて仕方ないから。そんなウマ娘に憧れていたから。

 

彼の元ならこんなウマ娘でも許されるのではと希望を抱く。何度もくしゃくしゃの紙を渡そうと葛藤したくらいに私はマフティーを求めていたから。

 

そして__嫉妬に近い感情。

 

けどその卑しさをミスターシービーにぶつけそうになった自分がひどく惨たらしく、何よりマフTがパリピで笑えるウマ娘であるダイタクヘリオスをスカウトしたのに、私自身がダイタクヘリオスを忘れていた。

 

あまり感じたことない自己嫌悪を起こすそんなもう一人な私に私は苦しんだ。

 

もう、それは酷かった。

 

ダイタクヘリオスってウマ娘じゃなかった。

 

夏場なのに寒気のする中で姉貴に抱きしめられてからは泣き崩れた。

 

どうしてこんなにも苦しんでいるのだろう。

 

純粋な話。

考え過ぎたからダメだった。

マフTはそこまで求めない。

 

これは別にマフTが私に期待をしてないとかでは無い。私がダイタクヘリオスらしく走ってくれるウマ娘であって欲しかった。マフティーのウマ娘って言葉に囚われずパリピって仕方ないウマ娘で有り続ければ良かっただけ。

 

私は身勝手に走っていた。

 

それだけだった。

 

 

「あのさ、何で姉貴は聞かなかったん?」

 

「んー?」

 

「ウチが泣いてた理由。それで…拗らせていた理由」

 

「あー、それ?別に大した理由じゃないよ。ヘリオスは言いたく無さそうだったから。あと私じゃ無くてマフTなら解決できると思ったから深く聞かなかった」

 

「そっか。そうなんだ…」

 

 

あー、ダメだ。

 

敵わない。

 

私はミスターシービーに敵わない。

 

これはマフティーのウマ娘だからとか関係無くて、ただこのウマ娘は何もかもが違う。

 

そう感じさせる不思議なモノを持ち合わせている。

 

だからこそだろう。

 

マフTとミスターシービーは互いに琴線に触れ合ったんだ。

 

不思議だから、どちらも。

 

 

「あのね、ただの嫉妬なんよ」

 

「?」

 

 

今なら、なんとでもなるはずだ。

 

パリピらしく、笑い話に出来るほどに私は成長できたはずだから。

 

 

「ウチは姉貴に憧れてるよ。今も憧れてる」

 

「知ってるよ、それは知ってる」

 

「そやね。だからウチは羨ましくて仕方なかったんよ。マフティーのウマ娘ってのがミスターシービー以外あり得なさ過ぎるから。それが憧れにもなったけど、嫉妬にも繋がって、それでパリピのくせに色々と考え過ぎて勝手に苦しんだ。あまりにもバカやってんね」

 

 

マフTの考えも知らなかった。

 

マフティーではない、マフTとして欲した事。

 

世間に齎す名前では無い、一人のトレーナーでえるマフTとして、ダイタクヘリオスの持ってきたくしゃくしゃの紙が嬉しかったから。

 

 

「バカなんて思わないよヘリオス。皆何かに憧れる。私だってそうだ。マフティーに憧れた。全く違う世界から来たようなカボチャ頭のトレーナーが、贖罪の為だとか難しいこと言いながらも、ミスターシービーの走りを見てくれた。それは私が求めていたような立ち姿だったから、そのトレーナーがすごく好きになれたんだ」

 

「うん。 マフTって……面白いよね」

 

「でしょ?本当にそう思う。夢中になってしまう毒だよ、アレは。世間にもウマ娘に狂えるトレーナーなんて、ヒトの枠に収まらないような異端だから。私はそんな囚われの無い眼を持つ存在が気に入った。絡み付くような威圧感は折り畳み傘を通して私の手と心に絡み付いた。まるで彼のようで彼では無い。何かを求める彷徨うように、でも計り知れない存在がそこにある。だがカボチャ頭だけに蓋を開ければなんてことない人間さんがそこにいる。少しだけ頼りなそうな感じは気のせいじゃ無さそうだけど、カボチャ頭を被ればあの人は紛れもないマフティーだ。すごい人だよ。本当にすごい人なんだ」

 

「あははは、めっちゃ語るやん、姉貴」

 

「マフティーはそれだけ深いからね。大義とか、業とか、役割とか、罪滅ぼしとか、色々と詰まりきったカボチャ頭だから。故に未だ謎は多いと思ってるけど、でも重要なのはそこじゃないんだ。私たちウマ娘はマフティーに甘んじて求めて良い。彼がそうすると言うなら、そうしてもらうだけ。無条件なんだから。そう、彼は無条件なのだから……だからさ」

 

 

 

 

__独占すらしたいと思うよね。

 

 

 

そう言った時のミスターシービーの眼はとんでもなく濁り切っていた。

 

でもその色はすぐに鳴りを潜めて、人懐っこい猫味のある表情に戻る。

 

だが私はその眼の色に驚きなどない。

 

ウマ娘には良くあるから。

 

今よりも強く、そして今よりも早く走らせてくれるパートナーをウマ娘は絶対に離したくない。それがヒトとの関係。

 

ミスターシービーが言った通りに『無条件』なのがウマ娘にとって強力な毒だから。

 

 

「ヘリオスは分かってるよね。アタシの全盛期は終わって衰えていく。正直、走りから退くべきタイミングだ」

 

「うん、そやね」

 

「でもマフティーは走らせてくれる。終わりそうになるターフに道を作る。ゴール地点は伸びた。なら走るために生まれたウマ娘がまだ走れるなら、やることは一つ。まだターフを描けるなら、マフティーがそれを許すなら」

 

「…」

 

 

 

__なんとでもなるはずだ。

 

 

灯火のウマ娘なのに、滾るような熱がある。

 

終わるはずの魂なのに、奮えるように進む。

 

ウチの憧れるウマ娘はまだ、終わってない。

 

 

 

「……姉貴は、有マ記念だよね?」

 

「うん、そうだよ。……あれ?言ったっけ?」

 

「ううん、言ってない。でもウチは知ってる」

 

「そっか。知られてたか」

 

 

 

誰にも言ってない出走予定。

 

ミスターシービーはもう少し走りたいからマフTの元にいる、そんな感覚。

 

そしてそれがミスターシービーらしさだから誰もそこに疑問を持たない。

 

いずれ走るのを止めるのか、どこか簡単なレースに出るような延長戦を行うのか、そう噂されながらも自由性高きこのウマ娘に誰も予想できない。そして些細ながらもまた大きなレースに出てくれるのではと周りは彼女に期待を寄せている。

 

でも彼女の全盛期は終わった。

 

それは中央で走っているウマ娘ならわかることだから、フェードアウトしていくのだと皆は敢えて気づかないフリをする。

 

でも…

忘れてはならない。

 

そして私は忘れない。

 

だって彼女は『マフティーのウマ娘』だ。

 

それを思い出せば、その独りよがりは続く。

 

それこそ「なんとでもなるはずだ」って。

 

 

 

「……おけマル」

 

「んー?」

 

「いや、何でもナイっちゃブル!…それで、まだ黄昏れてる?」

 

「うん、あの大きな雲が流れ切って、星が見えるまでは」

 

「ベガっち連れて来ようか?ほっしーぼっしーの事詳しいよ?」

 

「疲れ果てて寝てるでしょ? 起こさないであげて」

 

「りょー」

 

 

 

そう言って私はそこから離れる。

 

潮と夏風を感じながら浴衣姿を揺らして旅館に戻り、そのまま廊下を歩く。

 

まだ起きているウマ娘に「ウェーイ!」と調子良く挨拶しながら奥に進み、トレーナーが使う奥の部屋までやってきた。

 

そこには一人用の広さと、部外者厳禁。

 

その素顔を明かせない故に担当ウマ娘か秘書のたづなさんのみ許される戸に手をかけながら自分の名前を告げる… 前に「入って良いぞ、ヘリオス」とまるでエスパーのように把握してる彼に驚きは無い。もう慣れたことだから。

 

彼に名前を呼ばれて招かれたことが嬉しいから、尻尾を揺らしながら引き戸を閉めて向かい合う。

 

私は彼の素顔を何度も見て来た。

 

それはマフTのウマ娘だからこそ許される特権。

 

今はそれが嬉しくて、自慢である。

 

 

 

 

「マフT」

 

 

 

 

目の前にはマフTがいて、マフティーが在る。

 

なら、求めるウマ娘がやることは一つだ。

 

 

 

 

 

 

有マ記念に出たい」

 

 

 

 

 

 

憧れに挑む時。

 

それが誇れるようになった自分が今できることだから。

 

 

 

 

つづく

 




どっちが勝つんやろうね(投げやり)


ではまた


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41話

 
設定は公式から生まれました。
二次創作ではありません。
サイゲのオリジナルです。
しばし筆記の遅れを取りましたが。
今や巻き返しの時です。
「生地は好きよ」
ふわふわ系が好き?
結構…!ますます好きになりますよ。
さぁさぁどうぞ。
ファースリッパのニューモデルです。
快適でしょ?
ああ!おっしゃらないで!
素材は生地。
でもレザーなんて見かけだけで。
夏は暑いし、よく滑るわで。
蒸れるわで、碌なことない。
天井はたっぷりありますよ(ガチャ)
どんな爆死の方でも大丈夫(無責任)
どうぞ回してみてください(10連)
いいふわふわでしょ?
余裕な満足感だ。
馬力が違いますよ。
「一番気に入ってる」
なんです?
「布団乾燥機よ」
ああ!?なにを!?
待って!
ここで動かしちゃだめですよ!
待って!!!
止まれ!!!




夜更かし気味が治った▽





 

 

夏合宿を終えたが、まだ8月。

 

マフティー性を奪い取る季節はまだ続く。

 

さて、強化合宿で担当ウマ娘は存分に追い込んだため8月が終わるまでは全員フリーにしてある。

 

つまり練習はひとつもない。

 

9月からまた再開する予定だ。

 

それでも自主練を行うウマ娘はいる。

 

それもオーバーワーク気味に。

 

ただ一人、アドマイヤベガだ。

 

 

 

「その年で三週間丸々参加したんだ。疲労が抜けてないのに自分を痛めるように走り込んでは夏の頑張りがパーになるぞ」

 

「今回は…たまたまよ。少し攣っただけ。心配ないわ。ケアは怠ってないから」

 

「君がケアはちゃんとしていることも知っている。自主練のデータもちゃんと報告してくれるのもな。でも俺の眼に付いた以上は君を制限する」

 

「なに?罰でも与えるの?」

 

「おお?むしろ欲しい?それならシービーが喜んでやってくれるぞ」

 

 

ガラガラ

 

 

「やほー、アタシを呼んだかな?」

 

「!?」

 

「噂をすればだな」

 

 

ガラガラとトレーナールームの扉が開く。

 

夏休みなのにこの場所までやってきた彼女の姿にアドマイヤベガは驚くが俺はそこまで驚かない。

 

何故なら去年も、その前もあったから。

 

さて、休日にも関わらず軽くワーカーホリック拗らせてトレーナールームにいる俺の姿はともかく、珍しくアドマイヤベガもいるこの賑やかさにピコピコと耳に喜びを表すミスターシービー。

 

その片手には数冊ほど持ち込んだライトノベルと袋に詰め込まれたハンバーガー達。

 

クーラーの効いた涼しいこの場所で今日は過ごすつもりだろう。

 

それよりよくわかったな?俺がいることが。

 

実はお気に入りのオンラインゲームがメンテナンス中で何も出来なかった。なので午後は休日返上してやって来たのだが、たづなさんに見つかって「ええ!?」と驚かれてしまった。

 

ちなみに「たづなこそ休日にいるじゃないか」と返せば「それはそれ!これはこれですぅ!」と眼の色がトキノミノルして怒っていた。

 

ほんの少し怖かったのは内緒である。

 

夕方までには帰ることを条件に仕事を片付けようと思ったら、学園の窓からアドマイヤベガがターフに向かう姿を見かけたので気になって様子を見に向かったら、ちょうど脚を痛めたところだ。

 

見てしまったからには指導者として止めることにした。

 

彼女にはシャワーを浴びたらトレーナールームに来るように告げると素直に戻ってきた。

 

なので軽く注意をしようとしたそのタイミングでミスターシービーがやってきたところだ。

 

 

「アドマイヤベガがお仕置きを受けるってさ」

 

「はぇ…!?」

 

「ふーん?…どんなことするの?」

 

「そうだな。とりあえず…ほぐすか」

 

「文字だけに表すとセクハラだね」

 

「ケアと言え。とりあえずその悪い子を後ろから捕まえたままソファーに座って」

 

「りょうかーい。それじゃお一人様ご案内」

 

「!、!?、!!」

 

 

いつのまにか回り込んでいたミスターシービーに驚くアドマイヤベガ。

 

知らなかったのか?

無敗の三冠ウマ娘から逃げられない。

脚質的な意味でもそれは仕方ないのだ。

 

 

「ぁ、あ!ちょっと…!」

 

 

後ろから抱き上げられたことでジタバタ始めるアドマイヤベガの耳元にミスターシービーが「おやおやおやおや」とか「悪い子ですね」とか「アヤベは可愛いですね」と深淵を込めてニヤニヤとしていた。

 

お前の愛情はヤベー方だぞ。

 

まあガンダムにも似たような奴はいたが。

ちなみに被害者ウッソ・エヴィン。

 

それで「か、かわいくなんて …!」と否定するアドマイヤベガだが、ミスターシービーには通じない。

 

実のところ夏合宿で着せ替え人形にされていたアドマイヤベガ。まだまだ子供だけど素材の良さは可愛がられる対象となり、ダイタクヘリオスから写メとして送られてきた浴衣姿のアドマイヤベガと同じ浴衣姿で並んでいたマンハッタンカフェとのセットは随分と可愛らしかった。

 

馬子にも衣装ってそう言うことかな。

 

 

「う、腕だけで…!? ぐ、ぬぬっ…! 力が、強い…!!」

 

「で、どうするの?」

 

「とりあえず脚を見るのでそのまま座っていて」

 

「わかった」

 

「っ、せめてもっと普通のやり方にしてくれない…!?」

 

「ミスターシービーの膝の上とか早々ないぞ?それに彼女は助手だ。何の問題もない」

 

「とりあえず大人しくしようね?アヤベの脚を気にしてるのは間違い無いから。それで断らせないための処方だから。なので今は力ずくに移らせてもらうよ、アヤベ」

 

「っー!」

 

 

強引なのは否定しないが、個人的なわがままを通して断られても困るので同じウマ娘のミスターシービーの力を借りながらアドマイヤベガを大人しくさせる。

 

そして容易く腕だけで押さえている。

 

やはり彼女のパワーはすごい。

 

それから観念したアドマイヤベガの靴とソックスを脱がして、アルコールで消毒しながら足首やふくらはぎに触れる。

 

 

「いっ…!」

 

「気づいてない痛みだな。これが引き金になると怖いところだ」

 

 

アドマイヤベガの表情を確認しながらあらゆる箇所を触れて、捻って、押したりと、繰り返して、ついでに片足の調子を確認する。

 

生まれつき歪んでいた脚だ。

 

元トレーナーだったアドマイヤベガの父がアドマイヤベガの脚を矯正していたが、専門では無い。その日その日に騙す程度。まあそのおかげで今も走れているからトレーナーとして正しいことを続けていた父に感謝する。

 

それを台無しにするのは俺が許さないし、マフティーに求めていたアドマイヤベガの父のためにも、マフティーたらしめてきた俺がマフTとしてアドマイヤベガの脚を守る必要がある。

 

 

「それでもただの疲労だな。力が入りづらくなってるからコーナーで加速する際に負担が掛かる。それで耐えれずに捻った感じだ」

 

「…」

 

「そんな顔するな。すぐ良くなる。てかここで俺が治す」

 

「マフTのマッサージは別格だからね」

 

 

ただのスポーツマッサージなのだが、この世界では肉体の作りが違うから前世の技術が噛み合った結果、殆どの疲労を取り除いてしまう。

 

そんな嬉しい誤算から始まっただけの話。

 

まあ真実を話すとややこしくなるのでこれに関しては隠しておく。

 

 

「……また、走れる?」

 

「走れる」

 

「そう…わかった。なら、もう勝手にして」

 

「アヤベー?そんな態度は良く無いよ?」

 

「ぅ…」

 

「別に構わないよ。さあ、本格的に始めるぞ」

 

 

彼女は一人で戦ってきたこと座の戦士だ。

 

一人で二人分なんでも熟してきた。だからこうして支えられることに慣れてないだけの話。

 

あとは純粋に思春期だからと言うことにして俺はタオルとマッサージ用のオイルを取り出す。

 

ミスターシービーは抵抗しなくなったアドマイヤベガをソファーの隣に下ろしながら、力を抜いてもたれ掛かれるようにクッションなどで場所を作る。

 

この子はなにかとふわふわが大好きなので、人もウマ娘もダメにするクッションは購入している。

 

届いた時真っ先に機嫌が良くなったのはアドマイヤベガなのは皆知っている。

 

本人は否定していたが、そこら辺を分かっているマンハッタンカフェは微笑ましそうに彼女を見ていた。愛されてんな。

 

 

「力は抜いて。脚は任せて」

 

「……うん」

 

 

まだまだ未熟な一等星の足にオイルを塗り込んで皮膚を柔らかくして滑りをよくする。

 

一応夏合宿中や学園に帰った後もマッサージなどで全員分のケア、または施術は行って予防している。

 

まあそれでも心の疲れは取り除けない訳で、心が体が追いつかないアンバランスな状態で体作りに行き急いでも怪我するだけだ。

 

特にアドマイヤベガはまだまだこれからで、まだまだ成長段階の真っ只中。

 

本格化も来てないその状態で急いだところで骨をすり減らしてしまうだけだ。

 

こんなところで故障を起こして走れなくなるなんてもったいない。そんなのスカウトした俺が許すわけがない。

 

大丈夫、アドマイヤベガは強くなる。恐らく本格化に入った時ジュニア級で最強になる。マンハッタンカフェのように、誰よりも先を進んだ状態で中央に挑めるようになる。

 

そしてそれはマンハッタンカフェ以上になるだろう。

 

そんな一等星のウマ娘。

 

この世でここにしか存在しないのだから。

 

 

 

「ここはいつもよ……いつもよ。いつも、いつも…うるさいんだから……」

 

 

 

溢すように。

 

諦めたように、アドマイヤベガは呟く。

 

 

「そうか?ヘリオスがいないから特段静かだと思うけどな」

 

「そう言う意味じゃ……ああ、もう…!」

 

「冗談だよ。まあでも、そうだな… 窮屈に生きることが自分のためだと思っていた者からしたらこの学園はなかなか落ち着かない場所だ」

 

「マフTはカボチャ頭で窮屈だからね」

 

「誰にも理解されないだろうその孤独を覚悟した結果だ。窮屈なのは仕方ない。…… シービーのお陰で俺はそこまで窮屈には思わなかったけどな」

 

「あははは、そうだね」

 

 

笑いながら肯定するミスターシービーは俺の隣に落ち着くとそのまま肩に寄りかかってきた。

 

少しやりづらいがそんなミスターシービーは気にしない。彼女は続ける。

 

 

「でもアタシだって静かな場所は欲しいよ。皆が去り行く雨の下でアタシは一人ずぶ濡れになる。これは誰もやりたがらない世界だから、その孤独感は時折心地よくなる。そして… これはアタシにとって必要な窮屈だよ」

 

 

そう言いながら腰に尻尾を巻きつけて、施術の邪魔にならない程度に密着する。

 

それからフサフサのウマ耳がてしてしとちょっかいをかけてくる。

 

ああ、たしかに……これは窮屈だな。

 

 

「もしくは、アヤベにとってのうるさいは熱なのかもね」

 

「熱…?」

 

「うん」

 

 

__例えば、こんな感じかな。

 

そう言ったミスターシービーは立ち上がるとアドマイヤベガのとなりに座って、先程俺に行ったことと同じように密着する。

 

唐突な接近を受けたアドマイヤベガはクッションに預けた体を起こしそうになるが、ミスターシービーが人差し指で彼女のおでこを押して起き上がらせないようにした。

 

 

「こんなこと誰にもされたことないでしょ?いや、そんなことないかな。あのパリピが色々とゼロ距離してくるから、その鬱陶しさが星空だけ眩しい暗がりの下で歩んできた自分にとって未知数なんだ。アヤベはそうなんだと思う。恐らくこれまで隣に眩しくて、鬱陶しいモノなんて無かったかな?」

 

「…」

 

 

彼女は常に一人で戦ってきた。

 

それが正しいと考えて、それが使命と覚えて、それが一等星に対する贖罪だと感じたから。

 

唯一、マフティーは救いに繋がる正しいモノだと信じていたから、俺の真似をすることで果たされるならその概念をどうにかして背負おうと走っていた。だから人肌に頼ることは元トレーナーだった父を除いてアドマイヤベガには常に孤独がある。

 

しかしそれが寂しいなんて思わない。

 

彼女はそんなことを思わない。

 

それを窮屈だなんて考えない。

 

彼女のデフォルトはこれまでそうだったから。

 

 

「この学園では一人で走るなんて少なからず無理だと思うよ。ここは特別な世界。何かに染められてしまう恐ろしい世界。秘密に塗れたウマ娘が走るそんな世界。それが中央と言う魔境なんだから、自分一人だけが進むなんて不可能だよ。望まない熱だとしてもこればかりは退けれない。

だから__狂うんだ」

 

 

アドマイヤベガのおでこを抑えていたミスターシービーの人差し指はいつのまにか頭を優しく撫でていた。

 

振り払う素振りはない。

 

彼女の言葉に込められた意味を考えていたから触れられる頭は気にならない。

 

むしろ心地よさを感じているのかは、それは本人だけが知る感情。

 

まあ前者だろうが。

 

 

「断言出来るよ。アヤベは絶対にこの意味を理解して走るようになる。そしてアヤベ自身が証明するよ」

 

「証明…?」

 

「この学園で一番強いと言うこと」

 

「わたし、が…?」

 

「うん。だってスタートラインはアヤベが過去最高に早いんだよ。アタシも大概だったけどアヤベは格段に違う。何故だか分かる?アヤベは幼い頃からマフティーを知ったから」

 

「!!」

 

 

ミスターシービーが言うからその意味の重さは変わる。

 

マフティーの元で駆けた彼女だからこそ言える言葉があり、彼女はマフティーを証明した。

 

 

「アヤベはアタシと同じだね。マフティーを知った者同士だ。そしてマフティーを求めて走ろうとしたウマ娘だ。カフェも似たような感覚だけど、でもアタシの半分くらいかな。カフェは見えないモノが見えると思ってマフティーを欲したから。マフTはウマたらしだからホイホイ受けちゃったけど」

 

「人聞きの悪いことを」

 

「いいのか?ホイホイ請負って。マフTはウマ娘だって構わずたらしちまうトレーナーなんだぜ?」

 

「たらしてるつもりはない。あとカフェに関しては奥多摩でたまたま出会っただけだから」

 

「あっははは!そういえば奥多摩だったね!あーあ、また行きたいな。奥多摩まで走りに」

 

「………そうだな。考えておくか」

 

「本当?好きー」

 

「…こいつは……」

 

「あっははは、カボチャ頭ないから表情に困るね、マフT」

 

「あってもなくても変わらなそうだけどな、シービー」

 

「そうかな?…うん、そうだね。そうであって欲しいかな…」

 

 

その言葉はどんな意味だろうか。

 

仮にその意味が分かったとしても俺は気づかないフリをして施術を続け、シービーはその沈黙に対しても満足気な顔をしながらアドマイヤベガの使っているクッションに寄りかかって目を閉ざし、色々と無抵抗になったアドマイヤベガはシービーの言葉の意味を虚気に考えながら天井を半目で眺め、自動で動くクーラーの音だけ響き渡る。

 

それからしばらくしてアドマイヤベガの足の疲れを取り除き、日々の矯正もこのタイミングで完了した。

 

自分の手と、アドマイヤベガの足を消毒するとその冷たさに耳がピクンと動き、少しだけ眠そうにしていたアドマイヤベガの眼が開く。

 

起こしただろうか?

 

俺は「そのままで」と一言。

 

アドマイヤベガは首を傾げずとも眼で「まだ何かやるの?」と傾げる。

 

俺はその場から立ち上がり、アドマイヤベガの後ろに回るとクッションの位置を調整して「頭触るぞ」と一言失礼する。

 

 

「んぇ…?」

 

「眠気と戦いすぎると凡ゆる管理能力が下がって効率が悪くなる。アスリートの場合、練習効率だな。育成ゲームで良くある事故率的な感じだけど、まあそこは気にしなくて良い。少しだけ頭は任せてくれ」

 

「へんなこと、しないでよ…」

 

「保証はするし、効果の保証もする」

 

 

スポーツマッサージはあくまで肉体疲労の回復を目的とした技術だが、回復力を上げるには血行を良くするのが大事。

 

そして血行を良くした上での食事が大事。

 

まあ食事が云々は彼女たちに任せるとして、スポーツマッサージの技術は純粋にリラクゼーションとして疲れを取り除くこともできる。

 

スポーツマッサージもリラクゼーションも過程は違うが、目的は一緒。

 

サッカーとフットサルくらいの違いだが、脚を使ってゴールネットにボールを放り込むことは変わりない。

 

そんな勝手な印象だとして、俺は過去でスポーツマッサージ師だったけど普通にマッサージも出来る。

 

それこそヘッドマッサージとかも可能だ。

 

 

「ぁ、ぁ、ちょ、それ、まっ…」

 

「まだ初等部だけど鍛えられている結果だよな、この疲れも。シービーの言う通り、君はすごいウマ娘だよ」

 

 

中等部に比べてまだ肉体は追いてない。

 

だが走り込んできた量は違う。

 

目的を持って鍛えた体は全く違う。

 

それは元トレーナーだったアドマイヤベガの父がいたお陰であり、地方のレースで中等部を相手にアドマイヤベガは勝利した。突然現れた芦毛のウマ娘も大量の焼き芋を頬張りながらアドマイヤベガに注目していたくらいに、彼女は結果を出した。

 

年齢も、学年も、劣る。

 

だがその強さを皆に証明はした。

 

それがこのウマ娘だ。

 

アドマイヤベガの父の同情を抜きにしても、俺自身がマフTとして、担当したくなったウマ娘だ。自慢にならないわけがない。

 

 

「(なぁ、樫本。俺はまだカボチャ頭を被る歪な器だけど、君が望んだトレーナーとして俺は歩めてる筈。だから羨ましいだろ?トレーナーだった者として)」

 

 

もうこの世にない、魂。

 

この世界に怯えきって、怯えきった上でこの世界に生きれなかった、魂。

 

語りかけてもこの体にあるのは前任者から貰い受けたファクターのみ。

 

それは語らない。

 

けど、もし、この場に前任者がいたとしたら。

 

歪ませながらもトレーナーになろうとした前任者は羨ましがる筈だろう。

 

多分、その筈だ……

 

 

 

 

 

 

「すぅ………すぅ………んん……すぅ…」

 

「随分とお疲れだったようだね、アヤベ」

 

「まだ自己管理が難しい年齢なのは仕方ないが、なにかと休むのが下手なんだよこの子は」

 

「頑張りすぎることが正しくて、頑張り過ぎなければ自分が許されない、そう思ってるみたいだからね。しかしそれが原動力になってるのかな、夏の強化合宿でも弱音なんて溢さず三週間丸々頑張って着いてきたんだもん。すごい子だよ、アヤベは」

 

 

ヘッドマッサージを受けて、溜まっていた疲れに勝てなかったアドマイヤベガがそのまま寝落ちすると、フカフカのクッションを膝に置いて横たわらせたミスターシービーはその頭を撫でる。

 

安心したような寝息を聞きながら一仕事を終えた俺もソファーに座ってタブレットを開く。

 

施術のデータ入力を行ってアドマイヤベガの練習メニューを再確認しながら気になるところだけ調整して、ほんの少しだけ質を落とす。まだ頑張りすぎる時期ではない。アドマイヤベガが中等部になるのは来年だ。本格化と合わせて練習量を増やせばそれで良いのだから。

 

 

「今年中にもう一回はレースに出したいな」

 

「アヤベの事?」

 

「ああ。夏超えたことで大いに変化しただろう身体能力を確かめたい。強化合宿に参加したんだからな。例外じゃないさ。冬頃の出走を考えて調整するかな」

 

「また地方に行くの?」

 

「デビューしてないから中央の息が掛かってないレースが必要だ。そのため地方になる」

 

「カフェがまた心配するよ〜?」

 

「梅雨明けに地方のレースでカフェは同行してアドマイヤベガの走りを見てたけど、心配いらないことがわかったらしい。まあ今年もう一度走ることを告げたらまた軽く一悶着起きそうだけどな。可愛がるのは構わないが、お気に入り故に過保護ってしまうのは困りものだな」

 

「マフTが言うと、そこそこ重たいね」

 

「俺はただ、君に走って欲しい。何も囚われないあのレースでもう一度ミスターシービーを見ていたい。無敗の三冠バがレースに絶対が無いことを証明してくれた、有マ記念で…」

 

「そっか…」

 

 

アドマイヤベガを撫でながら、隣に座った俺の肩にミスターシービーは顔を置いて、彼女の耳が触れる。

 

二人並んだ視線の先はこれまで出走したレースのトロフィー達。

 

その中に思い出深い真冬のレース、有マ記念が飾られている。

 

 

「もう、二年前なんだね…あのレースも」

 

「ああ、早いな…時の流れは」

 

「… ふふっ、君のカボチャ頭を外させるためにアタシは走ったよ。マフTの素顔を明かして貰いたくて、アタシは頑張った」

 

「そうだったな…」

 

「そしてカボチャ頭の中にあったのはなんてことない男性の顔。ほんの少しだけ冴えなさそうなお顔。でもマフティーたらしめて世間に促したアタシのトレーナーだった。それは間違いなくマフTと言う存在で、やっと出会えたような感覚だった…」

 

 

どこか愛おしさを込めたような声色と共に寄りかかっていた重さは一段と上がる。体の殆どを預けるように、そして全て委ねることに躊躇いのない彼女は目を閉じて、こちらの体温を奪い取るように密着する。

 

 

「マフT、あなたのお願いは聞くよ。

アタシはマフTの愛バだもん。

でも、代わりにね。

___アタシのお願いを聞いて欲しいな」

 

 

 

ああ、覚えている。

 

マルゼンスキーに挑む前の彼女から同じ言葉を聞いた。

 

お願いがある__そう、求めてきたミスターシービーを覚えている。

 

あの頃よりもまた一段と身長が伸びて、大人っぽさも引き立ったウマ娘が、俺がまだカボチャ頭を外せなかったマフティーだった頃を思い出させるように、繰り返して求める。

 

 

「アタシがもし一着になったらさ、マフTには選んで欲しいな」

 

「選ぶ??」

 

「そ、選ぶ。__マフTか、マフティーをね」

 

「??…どっちも俺だぞ?」

 

「そうかもね。でもこの意味はね、色々とちがうんだよ。でもそれは今度また教えるから。だから約束。アタシが勝ったら選んで欲しいものがある。マフTは差し出されたソレを絶対に選ぶこと。それがアタシのお願い」

 

 

マフTか、マフティー。

 

マフTまたはマフティーでは無いと言うこと。

 

どちらかを選び取る。

 

それは……なんだ??

 

 

「わかった、君が一着になったら、君の差し出されたモノを選ぶ。どんな意味でもな」

 

「ん、なら良い……ねぇ、まだこのまま寄りかかっても良いかな…」

 

「…動いたらアドマイヤベガが起きるかも知れないからな。だからもうしばらくは構わないよ」

 

「ん、ありがと」

 

 

そう言って腰に絡みつく尻尾は、独占欲。

 

それを察しながらも俺は言葉にも表情にも出さない。

 

気にしないフリをしながらタブレットを開いて出走表を見る。

 

 

次は毎日王冠を走るゴールドシチー。

 

調子が良ければそのまま秋の天皇賞。

 

もし参加するシニア級を相手に一着をもぎ取れるのならジャパンカップだって走るだろう彼女なら。

 

それからマンハッタンカフェ。

 

彼女はプレオープンを一度走ったきり今年は未定である。

 

数年かけて治した爪だが、まだ様子を見ながら今年はゆっくりと力を蓄えて、クラシック級で漆黒の摩天楼は聳え立つ。ミスターシービーを再来させるような走りを見せれる筈だ。マンハッタンカフェなら間違いなく。

 

 

そして、もう一人。

 

マイルCSを走るダイタクヘリオスのレース。

 

そして……憧れに挑むための有マ記念。

 

そこで初めて、俺の担当ウマ娘が勝負する。

 

まだ出走を表明していない。

 

ミスターシービーは誰にも話していない。

 

唯一、たづなさんにだけは告げている。

 

そしてダイタクヘリオスは知ったようだ。

 

ウマ娘は耳が良いから、どこかで聞かれたか。

 

でもダイタクヘリオスなら、よかったのかもしれない。マイラーに長距離レースは厳しくなるが、ウマソウルが太陽のように燃えたぎるダイタクヘリオスを見たらその心配はもしかしたら無いのかもしれない。

 

 

__なんとでもなる筈だ。

 

 

そんな言葉が無条件に流れる。

 

もしかしたら。

もしかしたらかもしれないから。

 

 

「……」

 

 

再度、目の前に並ぶトロフィーを眺める。

 

眩しい栄光の数々だ。

 

 

なあ、マフティー。

今の俺は担当たちのマフTか?

 

 

その問いかけは、永遠とテーマになる。

 

概念を背負ったピエロの演劇では無い。

 

これは間違いなく、俺の物語だから。

 

 

そして、ひとつの物語が今年で終わる。

 

いつのまにか増えている寝息。

三冠バだったウマ娘の穏やかな表情。

それはまだ休息であってほしい。

終わりじゃ無い、ちょっとした休息。

 

 

そして受け入れなければならないラストラン。

 

その日まで、その灯火を消させやしない。

 

だから。カボチャ頭を被せてでも火消から守る。

 

その姿はまるで…

 

 

 

ジャック・オー・ランタン…なのかもな……」

 

 

 

カボチャ頭の中の灯された鬼火のような___魂。

 

それは正に。

 

今の言葉の通りなのかもしれないから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、あれは本気か?」

 

「どうした、ナカヤマフェスタ?」

 

「ヘリオス先輩だ。あの眼は本気だな」

 

「…」

 

 

 

夏休みも終わり、九月。

 

まだ少し暑いが、走るには良い季節だ。

 

すっかり疲れも取れたアドマイヤベガを筆頭に皆は秋冬に向けて走り込む。

 

手加減する気のないダイタクヘリオスはゴールドシチーとマンハッタンカフェを置き去りにして走る、走る、走りきった。

 

笑みは絶やさない。

 

彼女らしさだから。

 

だかその眼は………本気だ。

 

 

 

「挑む奴の眼だな。それから初めて染めたような色だ。ぎこちなさを見え隠れさせている」

 

「ぎこちなさか…」

 

「ああ。だからこそ。その初々しさは生きていて一度だけの激情になるな。こりゃまた一つ楽しみが出来たな」

 

「経験者のように語る」

 

「私の場合そこに魅入られただけさ。それが今も続いているだけの話。ヘリオス先輩の場合はどうだろうな?()()()()()

 

「… 危険な事はわかっている。だがこの器がまだウマ娘に狂えるとしたら、それは正しいのかもな」

 

「他人事のように語る」

 

「今の俺はただのマフTだ。もちろんマフティーのことは信じているが、あったかも知れない概念であり、それは過去形だ」

 

「だが今もカボチャ頭を被れているのはその軌跡があったからだろ?なら心配なんかしてないだろうに、あんたと言う生き物は」

 

「それを大声で言えるほど過去から遠のく俺は強くないな」

 

「昔に比べて落ち着きすぎたな……あんたも」

 

「このカボチャ頭は役割から始まった。そして今は迷わないための目印だ。マフティーを知った者のために俺は未だここに囚われている」

 

「そうかい。つまりあんたは真っ当なトレーナーになっちまった訳か」

 

「…かもな」

 

 

 

昔ほど生き急いでいる俺は無い。

 

呪いもなく、追われることもなく、収まるべき場所を見つけ、そして樫本だったこの体に樫本が有った魂と悲痛を交わし合い、樫本理子との会話で俺は確立させた。

 

今は中央のマフTになろうとしている。

 

ああ、そうだな。

 

確かに、ナカヤマフェスタの言う通りだ。

 

マフティーだった頃の立ち姿から遠いているのは間違いない。マフティーだったから始めることが出来た究極のごっこ遊びも新学期に入ってからあまり手を出していない。

 

それは樫本のファクターが全てこの器に浸透したから。半端に引き継いでた頃の知力は過去の話であり、今は中央のトレーナーとしてまともな指導を行なっている。

 

そして、そのまともに後押しをしてくれたのは樫本理子だ。

 

 

「…」

 

 

愛用しているタブレットを開いて、大幅にアップデートされて練習メニューに目を通す。まるで東条トレーナーのように隙のない濃密なデータが画面に映る。メニューを考えたのは俺自身だが、ここまで手を込める事ができたのは樫本理子が渡してくれたデータのお陰だ。

 

安田記念が終わった数日後、再び樫本理子と出会う。

 

そして彼女からUSBとメモを一枚受け取った。

 

PCに差し込んで渡されたメモを解読してパスワードを入力し、ダウンロードしてPCの中に引き出されたのは数十年に渡って樫本家が幾度なく刻んできたウマ娘に対する教育法。

 

莫大なデータが画面いっぱいに出てきた。

 

桐生院が持ち歩いているトレーナー白書の様に分厚い参考資料はウマ娘の教育をミノフスキークラフト並みに加速させてくれる、それはすぐに理解した。そのためしばらく思考が追いつかない脳内で全身タイツのハサウェイとケイネスとレーンがマフティーダンスを踊っていた。そのくらいに衝撃を受けた。樫本家の歴史がマジで凄すぎたから。

 

 

「やはり、俺はトレーナーになろうとしてるらしい」

 

「少なくとも三年前だってトレーナーだったんだろ?」

 

「それはどうかなナカヤマフェスタ。基本的にミスターシービーが自分で完結していた。彼女は天才だから。そして俺は天才じゃないから見てただけ。俺が出来たのは心をターフに映してあげるだけのマシーン。カボチャ頭が応えていただけだった」

 

「そして始まったのが究極のごっこ遊びか。くくくっ、アレは凄いな。随分とオカルト染みた内容だが本物のレースの様に幻影が走る。そしてその高揚感は紛い物じゃない。内側が無条件に熱くなる。走るために生まれたウマ娘をホンモノにさせてくれる様な感覚は、口では説明出来ないな。だがわかる。これは理解じゃなく、感受から始まった」

 

「この世界でウマソウルの存在が証明されている以上それは必然だ。別世界から名前を抱えた魂がターフに映し出す。ミスターシービーはよりミスターシービーとして、彼女はそこに深く身を投じた。だが素直すぎるくらいだから、マフティーと言う引き金は指を掛けるだけで簡単に放たれたんだ。でも誤算だった。ミリ単位だったよ、その厚みは」

 

 

彼女が初めてだったから、他に比べようがなかったが、でも今こうして担当ウマ娘を多く引き受けてるからわかる。

 

ミスターシービーは別格だった。

 

どのウマ娘よりも、マフティーに感受する。

 

この世で一番だった。

 

だからマフティーのウマ娘と言えるのだろう。

 

ミスターシービーって存在は。

 

 

 

「やはり危険人物だな、マフティー」

 

「彼女とは相当相性が良すぎ… っと、この表現はやめておこうか。ただ、その魂とマフティーの概念はマッチし過ぎた、そう考えるよ」

 

「……改めて聞くが、マフティーは概念だよな?」

 

「実際にはよく分かってないが、表現として当てはめるなら概念の表現が近しい。それが正解とは言わないが。けれどそこにマフティーがあった。それはこの世界にウマ娘がいて、この世界にマフティーもいる。それだけの話だよ」

 

「そうか」

 

「…答えがなくてつまらないか?」

 

「答えを欲してるように見えるか?」

 

「見えないな。そうでなければ俺にコイントスで挑まないだろ」

 

「あっははは!違いねぇ!…… なァ、マフT?私はな、マフティーがどこから来たとか、マフティーが何者だとか、ぶっちゃけそこまで興味はねぇ。ただマフティーと言う概念を抱えたお前と言う存在に惹かれてんだよ、私は」

 

「…」

 

「異質極まりない異端者が、色褪せたカボチャ頭を被り、無敗の三冠ウマ娘を率いながら中央の世界でトレーナーをやっている。それだけで充分にヒリつけるじゃねぇーか?」

 

「判断材料としては充分だな」

 

「ああ!そうともさ、詳しい理由なんか要らねえよ。ただそこにウマ娘がいて、マフTまたはマフティーがいる。私がここにいる理由なんてそれで充分だ」

 

「賭け金のご利用は計画的にと学ばなかったのか?」

 

「ベットの高さは重要だ。それに対する比率もな。だが勝負ってのは賭けるに値する魅力ってやらだ。そうでなければ賭け事なんて本気じゃねぇ。私の勝負感が訴える。()けるならマフTだってな」

 

 

ギラついたような笑み。

 

そう表現するに正しい。

 

だけどこれは彼女の満面な笑みだ。

 

心の底から挑む彼女の掛け金は、金ピカの硬貨として差し出されていた。

 

 

「そうだな。さて…それなら、どうしようかな」

 

「んぁ…?」

 

 

タブレットの画面を切り替える。

 

今年のレース表だ。

 

 

「この世には、デビューを果たさずそのまま重賞レースに出てはダメなルールは無いらしい」

 

「……へぇぇ?」

 

「そもそもデビュー戦は秋までだ。けど諸事情があって出れないウマ娘だっている。だからデビュー戦は出れるなら出てくださいが主流であり、必ず出なければならない絶対的なルールはないらしい」

 

「くくくっ、ああ、なるほど」

 

「仮に例えるならその倍率は… そうだな。ノープランからのG3になるけど、()けにはハイリスク過ぎるかな」

 

「でもリターンは大きい。嫌いじゃないな」

 

「じゃあどうする?」

 

「この世にウマソウルがあるんだろ?ならツキを合わせるさ。なに任せとけって。無敗の三冠バとなった大先輩を見てある程度は見通しついたさ。……11月だ。その頃まで間に合わせる」

 

 

残りの飴玉を噛み砕いて去りゆくナカヤマフェスタ。

 

俺は意識を切り替えて彼女のウマソウルを見る。

 

ジャージのポケットに手を突っ込んだスタイルで歩み去るが、全身を薄く纏っている青いオーラは見間違いじゃない。

 

蓄えていたモノを更に練り出したような感覚。

 

ツキを集めて、その時に合わせる。

 

この言葉とその勝負勘が正しいなら。

 

 

 

「本当にその日まで出ないんだな」

 

 

 

走ろうと思えば走れる。

 

実際に練習でも並走している。

 

本気で走るところも見た。

 

実力は申し分ない。

 

けど、彼女はまだ挑もうとしない。

 

だがそこに焦燥感は無く、常に見定める。

 

測れているからこそ、蓄えるが出来る歪さ。

 

それがナカヤマフェスタと言うなら、マフTとしてナカヤマフェスタたらしめる彼女を支えるのと同時に、マフティーとして応えるだけだろう。

 

 

 

 

 

 

数ヶ月、デビュー戦の回数は特段と減り、出走チャンスは無くなった。

 

そしてナカヤマフェスタはデビュー戦を走らなかった。

 

けれど充分に走れる体だ。

 

走れば入着は確実。

 

 

 

「……」

 

 

 

故に皆が後ろ指を差す。

 

__何故結果を出さない?

 

 

 

彼女は言う。

 

__出す結果は大きい方が良いだろ?

 

 

 

理解は得られない。

 

でもそれがなんだ。

 

駆けるのはいつだってウマ娘。

 

勝負師だって賭ける時を選ぶ。

 

そこに大差はない。

 

 

__いや、違うぜ。

__レース結果には"大差"がある。

 

 

 

そして11月の重賞レース。

 

プレオープンすら挟まず、とあるニット帽のウマ娘は出走した。

 

低めの12番人気の印を押されてしまい、悪い意味でも注目が集まる。

 

だが、彼女は気にしない。

 

分かっているから。

 

だから恐らく、揺らせばこうなるだろう。

 

 

 

「は、はは…!!」

 

 

 

ポケットに溜め込んでいたダイスを転がせば全てゾロ目になる。

 

そんな不気味さを込めながらも確信に至る。

 

コイツは賭けて、返すだろう。

 

 

 

()()が見えたァッッ!!」

 

 

 

サテライトキャノンでも撃つつもりだろうか?

とある界隈なら勘違いしそうなセリフ。

 

だが、そのくらいの火力を溜め込んだこのウマ娘のレース結果は固定概念を崩しきった。

 

賭けるにも、駆けるにも、大差はない。

 

だが賭けて、駆けた結果に『大差』はある。

 

掲示板に乗った結果は皆を裏切った。

 

初出走にて、重賞レースで初勝利。

 

ナカヤマフェスタとはそんなウマ娘であることをウィナーズサークルで世間に見せつける。

 

 

 

「もっとヒリつかせてくれよ、もっとな…!」

 

 

 

大いに揺るがした大事件。

 

復帰したてなURAの脳を再起不能にした大番狂わせな物語。

 

 

だがこれで終わりじゃない。

 

賭け事と言うのは、膨らみ続けるモノだ。

 

【重】なり続ける【功績()】の倍率。

 

ナカヤマフェスタにとって重賞に()けるとはそう言うことだ。

 

そして今だ、そのコインとダイスは増え続ける。

 

今日も咥えた飴玉で味を占めながらニット帽を揺らしていた。

 

 

 

 

つづく

 




気づいたら40話超えてんのかこの小説…
よく書いたよなぁ、こんな一発ネタ。


ではまた


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第42話

このカボチャ頭と付き合いながら秋の季節を迎えたのはこれで3度目か4度目だろうか。

 

マフティー性が高まるこの季節は実家のような安心感がある。

 

まあ半分は冗談だとして、ハロウィンが近づく街中では相変わらずカボチャ頭で溢れている。

 

もちろん学園から近い商店街もカボチャ頭の飾り付けで多く、既に準備を終わらせたお店でたくさんだ。まだ秋イコールでマフティーを意識してるところもあるらしい。

 

それでも昔と比べて勢いはそこまでなく、カボチャ頭は元々ハロウィンの中で飾られる象徴だったことを思い出させるように元の形へ戻ろうとしていた。そのくらい緩やかに秋のイベントが始まろうとしている。

 

 

 

さて、それとは他所に俺はとある担当の付き添いとして学園から離れた撮影地。

 

とある旅館まで足を運んでいた。

 

 

「こんな感じかな?」

 

「いいね!とてもいいよ!ゴールドシチーさん!」

 

 

パシャパシャと瞬くシャッターの中でいろんな立ち姿を見せるモデルのゴールドシチー。

 

綺麗な着物とほんのりと妖艶に飾られた化粧は秋の中で彩る。

 

ぶっちゃけ美人さんすぎる。

 

この大人っぽさに憧れるシチーガール達の気持ちもわかる気がした。

 

 

 

「こうしてみると、たしかにモデルだよな」

 

 

別に彼女がモデルであることを忘れていたわけでは無いが、彼女がモデルとして活動しているところを見たことある回数は片手で数える程度であり、たしかに現役であることをこの目で再確認する。

 

そんなことを考えていると小休止に入ったゴールドシチーがこちらまで戻ってきたのだが、俺の目の前まで来ると睨むように仁王立ち。

 

 

 

「聞こえとったからな」

 

「何が?」

 

「アタシのことをモデルだったのかとか能天気なことを言ってただろ!担当ウマ娘の耳ナめんな」

 

「ああ、なるほど…?まあ、そうだな。なんというか…」

 

「は?」

 

「いやいや、なにせ俺がよく見てきたゴールドシチーは走る方だからな。レースに直向きなウマ娘だと感心していたから」

 

「ッ……!!」

 

「おととい走った天皇賞の秋。ギリギリの入着で終えて、それで君はとても悔しがっていた。その姿はモデルと二足の草鞋であることを一瞬忘れさせてくれた。このウマ娘は本気なんだと。だから俺は君がゴールドシチーであることを忘れてしまい、ゴールドシチーが眼の中で万華鏡のように映し出された。そう思っているんだ」

 

「なっ、ぁ…!!」

 

「君は頑張り者なんだな。すごくきれいに映っている」

 

「っ、ッッ〜!!!…バカァ!うるさい!やかましい!!」

 

「え…なんでここで罵倒されてしまうの?」

 

「うるさい!うるさい!バカ!うるさい!アホ!バカ!バカボチャ!うざい!ウマたらし!おたんこにんじん!バカマフティー!不意打ちした!せこい!こっち見んな!勝手に見んなぁ!もううざい!うざいぃい!バカ!バカ!バカァ!!」

 

「えぇぇぇぇ……」

 

 

耳を絞って必死に吐き出された罵倒の特盛は静かな旅館の中で響き渡り、その根元で俺は立ち尽くす。

 

マネージャーもこめかみを押さえ、カメラマン達はいつもより元気な罵声に苦笑い。

 

俺は急に荒れ始めるゴールドシチーには慣れているがこの場でこの気性難は少し困る。

 

ギャルに怒られるマフティー。

 

随分と弱くなったものだ。

 

いや、強かったつもりはなかったが。

 

 

「そう言えば前に天皇賞の秋が終わったら話したい事があると言ってたな。そろそろ話せることか?」

 

「あー、それね。なら今度話すよ」

 

「わかった、なら待っていよう」

 

「お利口ね、バカボチャ」

 

「何様だよ、起床難ウマ娘」

 

「なにそれ。うっざ」

 

 

 

「あんなゴールドシチーさん、あまり見られませんね。おもわずオフショットを逃してしまった」

「しかし先週の天皇賞はすごかったな。ギリギリの入着だとか言ってたが、あのG1の世界で上澄と渡り合ったことになる。正直凄すぎてほかに言葉がない…」

「モデルもレースも、やってしまうんだな…… なんて努力家なんだろうか…」

 

 

 

「!……ふふっ」

 

 

小休止中に聞こえてきたスタッフ達の声。

 

その言葉にゴールドシチーはこっそりグッと拳を握って、その嬉しさに耳がピコピコと動く。

 

もう飾られるだけのウマ娘はいない。

 

それが証明された秋。

 

隣で飲み物を飲んでいる彼女を再度見る。

 

思い出す。息を荒させながらノックもなく「忘れ物」を取りに戻ってきたあの頃のゴールドシチーは過去の話であり、今はあんなにも欲していた忘れものは回収して、モデルらしくしっかり肩にぶら下げているように見える。足元もしっかりして、見るべき方向に迷いもなく、その直向きさは担当ウマ娘の中で一番だろうか。

 

やはり俺からしたら普通のウマ娘だ。

 

100年に一人と言われるウマ娘だけど、でも俺からしたらそれだけで、彼女はターフを駆ける努力家の塊だと思っている。

 

そうでなければシニア級が混じった天皇賞でクラシック級の彼女が入着なんかできるはずがない。

 

俺は彼女が誇らしい。

 

 

「さっきから何ジロジロ見てんだよ?あ、まさか本気で見惚れてんだ?…へぇー」

 

「ああ、君はちゃんと綺麗なんだな」

 

「はいはい、それはもう知ってるよ。だってアタシはゴールドシチーだし」

 

「それは俺も知ってる。だからこの後もしっかりゴールドシチーしてこい。レースと同じくらいちゃんと見てるから」

 

「ふふっ、見惚れて倒れても知らねーぞ」

 

「やってみせろよ」

 

 

 

そう言って撮影を再開する彼女はたしかにゴールドシチーだ。

 

木漏れ日の中でも天女のように彩る彼女の姿を焼き付けて、しばらく見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

 

撮影が終わり、トレセン学園に到着してゴールドシチーを見送ろうと寮まで足を運ぶと、カチューシャをした一人のウマ娘が目をキラキラさせてこちらまでやってきた。

 

 

「お、お疲れさまです!」

 

「やっほ、ただいま」

 

 

口ぶりからして友達だろう。

 

ゴールドシチーの雰囲気が柔らかい。

 

さて、俺はお邪魔だろう。

 

そう考えて去ろうとして…

 

 

「あ、待って、いま丁度いいタイミングだから」

 

「?」

 

「前に話があると言ったでしょ?それって実は紹介したいウマ娘がいるんだよね。だから今ここで紹介するよ」

 

「え、ぇぇ!?な、なんでずが急に!?」

 

 

紹介されようとするウマ娘の驚き様を見ると、どうやらこの話はゴールドシチーの独断で進めてるようだ。しばらく様子を見ようかと思ったが生憎ながら俺はこのウマ娘を知っていた。

 

 

 

「彼女はユキノビジンだろ?知ってるよ」

 

「お、覚えでくれてたんですか!!?」

 

「半年前の学園祭で出会ったな。シチーガールに憧れて、それでシチーに尻尾を手入れして欲しくて学園を彷徨っていたのは覚えている。しかし君もこの学園に入学してたのか。あ、それと…」

 

「?」

 

「今年になって君の同室はマンハッタンカフェになったらしいな。それでカフェが世話になってる。ありがとう」

 

「そ、そんなことないですよ!?むしろわだしが世話になってるというべきでしょうか。ちょくちょくコーヒーを頂いて、落ち込んだり、迷ったりした時も、心を落ち着かせるためにわざわざ淹れてくれたりと、色々お世話になってるのはわたしの方でして…うえへへへ」

 

「なんだ、マフT知ってたんだ。なら話は早いよね」

 

「それが本題だったな。なんの話だ?」

 

「ああ、実はね……」

 

 

 

 

それからして…

 

 

 

 

「ふぅー、良い汗かいた」

 

「撮影終わったその日に良くやる」

 

「ぜぇ、ぜぇ…はぇぇ、こうぇーなぁ…」

 

 

ジャージ姿になったゴールドシチーとユキノビジンの二人。

 

説明後にゴールドシチーが「走るぞ」と言い出し、ユキノビジンを連れて学園のターフまでやってきた。

 

 

「そ、それでどうですか…?」

 

「根性はある。だが走り方が悪いためスタミナの消費量が多くて長持ちしないな」

 

「そ、そうですか…」

 

「だが今度のテストでは合格ラインにはなるだろう。タイムはしっかり切ってるからな」

 

「ほ、本当かべ!?」

 

「ああ。とりあえず問題は無いとする」

 

「よかったじゃん、ユキノ」

 

「あ、ありがとうだべ!」

 

 

 

デビュー前のウマ娘達に対して定期的に開かれる模擬レース。ある意味テストのようなものだが生徒同士で結果は照らし合わされれる。水準を満たして無いからと言って退学処分を受けるとかは無いが、これは生徒達に危機感を持たせるための行事。

 

これから先、中央の世界で戦えるかどうかを確かめるために学園側が、そして生徒個人が各々に走った結果を受け止めさせるためだ。

 

そしてここが彼女達の分岐点。

 

中央のレベルに絶望して去る者が増える。

 

追いつけない高みを理解させられ、次々と夢を()()()()()()()時間の始まりだ。

 

それだけ厳しい世界だと言うこと。

 

それが中央。

 

そして今年入学したユキノビジンは次の模擬レースに参加する。

 

しかしいまいち走りに自信が持てず、友人のゴールドシチーに相談した結果として今このような事になる。

 

つまり、走りを見て欲しい。

 

それがゴールドシチーのお願いだった。

 

それが話したい事だったらしい。

 

 

「あのぉ、ほ、本当によかっべか?マ、マフTさんからお時間をお取りして…」

 

「それは問題ない。もし担当ウマ娘の指導中ならそれは話が別になるが、今はこのワガママ娘のために見てあげてるだけだ。天皇賞終わったばかりなのにオーバーワークで怪我されても困るからな」

 

「は?自己管理くらいできるから」

 

「シービーでも無いのに雨の中泥まみれになってまで学園のターフで走ってたのは誰だ?あれは少しヒヤッとしたぞ。悪天候でも体を動かしたいならせめてトレーニングルームで走れ」

 

「はいはい、ごめん、って」

 

「… まあ、この通りだ。なので今は特に何もなくは自主練に付き合ってるだけ。だからついでに君を見る程度問題ない」

 

「そ、そうだべか」

 

「だがもしこれが担当だったりするならこの程度では済まさせないぞユキノビジン。自主練だからと言って見てる以上はちゃんと厳しく測る」

 

「うぇ!?」

 

「マフTはカボチャ頭の変なトレーナーだけど厳しいよ?特に坂路に関しては減速なんて許さないし」

 

「ど、どう言うことですか?」

 

「マフTの担当って追い込みの脚質を得意とするウマ娘が多いでしょ?アタシやナカヤマフェスタは差しだけど位置取りはかなり後ろの方だし、カフェ先輩も元々差しだったけど追い込みに脚質を寄せたから最後方のスタイル。だからレースでは後ろから均等に加速させてぶっこ抜く戦法を主流においてるため坂路で減速なんて絶対に許されない」

 

「シチーの言う通りだ。追い込みはスピードよりパワーを重視している。ミスターシービーを始めとして持続性の高さを武器としている。本番で『力が出ませんでした』なんて言い訳も出来ないからな。負けるくらいなら全力出して負けて欲しいところだ」

 

「ほえー、これがマフTさんの方針なんだべか…」

 

「あとシチー、少し語りすぎだ」

 

「あ、ごめん。でも別に隠すほどでも無くね?皆知ってるよ、マフTの練習とか」

 

「それでもあまり言わないものだ。隠している方がらしいだろ?」

 

「秘密はカボチャの中って事?ま、気をつける。そんじゃ、もう一周行ってくるから」

 

「撮影後と言うのに元気だな」

 

「走りは別腹。モデルのゴールドシチーはお疲れだけど、アスリートのゴールドシチーは走りたくてたまらないだけだから。そんじゃまたタイムよろしくね」

 

「す、すごいっぺ…」

 

 

 

尾花栗毛を靡かせて走り出すゴールドシチー。

 

彼女はG1の世界を走るアスリートウマ娘。

 

その走りは上澄みの三文字に相応しく、そしてまだまだ成長の余地がある。

 

シニア級になると次はどのような走りを見せるのか育てる者として楽しみだ。

 

 

 

「やはりシチーさんは素敵だぁ…」

 

「そうだな。素敵なウマ娘だ。その反面、根性バカだけどそれもゴールドシチー」

 

「で、でも、そんなシチーさんはとても美しいっぺ。モデルの姿も好きだけど、こっちも憧れるっぺ…」

 

「……」

 

 

 

やはりゴールドシチーはそう思われるウマ娘になったようだ。

 

彼女が「そうしたい」と求めていた結果は今となってはこうして応えられる。

 

飾られるだけでは無い、泥臭くも走るウマ娘として認識されて、そして周りに夢を与える。

 

それは恐らくすごいことだろう。

 

俺は求められたからそこに応えただけ。

 

結果を出したの彼女自身だと言うこと。

 

 

 

「マ、マフTさん、わたしもあんな走り方が出来るでしょうか?」

 

「それは、脚質か?それともフォームか?」

 

「え!?え、ええと……ぜ、全部です!」

 

「そうか。まあ、無理ではないな」

 

「!」

 

「でも今はやめておけ。正しい走り方が出来てない段階で誰かの真似をするなどケガにしか繋がらない。まずはユキノビジンを磨くんだな」

 

「そ、それって?」

 

「自分を理解してない者が、他者を理解するなど不可能だ。それは走りも同じ。自分の仕組みを理解して改良する。自分を育てるとはそう言うことであり、その時にやっと首を回して周りを意識するんだ」

 

「そ、そう言うことべか。その、まるで…カボチャ頭みたいですね」

 

「! …ああ、そうかもな。そうかもしれない。しかしなるほど、君は面白いことを言う」

 

「ほ、本当べか?え、えへへへ、なんかわかんねえけどほめられたっぺ…」

 

 

案外、この子は侮れないかもな。

 

しかし、回すモノがカボチャ頭か。

 

なるほど、そういう風に考えるか。

 

俺もまだまだかもな。

 

 

 

「ユキノビジン、次の模擬レースはいつだ?」

 

「うぇ!?ええと、明後日ですが…」

 

「なら明日もこの時間に来い」

 

「!」

 

「近くで見学しに来い。それで走りも少しだけ見てやる」

 

「ほ、本当べか!!?」

 

「今日の数倍は見てやる。だがその分君も頑張らなければならない。中央のゴールドシチーに憧れるなら、そのくらいにはこの中央でやってみろよ、ユキノビジン」

 

「__!!」

 

 

いろんなウマ娘、いろんなウマ娘に憧れる。

 

それはさまざまな形でターフを繋ぐ。

 

この子も、その一つなんだろう。

 

 

 

 

ちなみに次の日、練習が始まり。

 

 

「「はいダウト!!ウマたらし!!」」

 

「だから違うぞ」

 

「ど、どういうことべか…??」

 

 

皆からそう言われた。

 

たらしてるつもりは無いんだけどな。

 

とりあえずだ。

 

ユキノビジンの走りをその日だけ本格的に指導した。

 

走り自体はまだまだ未熟そのもの。

 

しかしユキノビジンの今だけ吐き出せるありったけの走り、そして最後まで厳しい練習に食いついたその根性はまだ忘れ物があったゴールドシチーを思い出させてくれる。

 

そんな走りを彼女を見せてくれた。

 

 

そしてデビュー前のウマ娘を限定とした走行テストで、ユキノビジンは成績を上位に収めたとゴールドシチーから聞いた。

 

どうやらちゃんと、やってみせたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度も聞いた、ゲートの音。

 

京都レース場を震わせる歓声。

 

先頭に躍り出れば皆が注目する。

 

太陽神の熱に当てられたが如く、熱狂した。

 

それはダイタクヘリオスだと言うこと。

 

マフTが選んでくれた、最強のマイル。

 

それが……ウチだと言うことをッッ!!!

 

 

 

「あはははは!!すぅぅ…はぁぁぁぁァァァ!!!!!」

 

『早い!早い!これはもう独走状態!!ダイタクヘリオスの後ろには誰もいない!!』

 

 

 

 

「す、すごいなあの子…」

「本気の顔って感じだな!」

「笑顔なんだけど、こう…なんか違うよな?」

「ギラギラって感じする……すげぇ良い」

「あんな顔で走るヘリオスもあるんだな…」

 

 

 

G1レースと言う上澄みの中の上澄み。

 

簡単なレースでは無い。

 

しかし息を吸うように一着をもぎ取った。

 

そこに疑問は感じない。

 

だってウチは、マフTのウマ娘だから。

 

 

 

『ダイタクヘリオス!一着でゴォォォォール!!!マイラーのチャンピオンは去年と変わらず笑顔の太陽神が寒さ満たされた京都レース場の熱にもたらしてくれました!!二着は__』

 

 

 

マフTと約束をしたウチだけの三冠。

 

ミスターウマ娘に対するあの憧れを抱きながらも、ダイタクヘリオスらしさを忘れない。

 

そのための約束。

 

それがマイルCSの冠を3つ取ること。

 

アタシだけが描ける三冠。

 

今年で2個目。

 

そして来年で3個目を取る。

 

そのたびに自分は強くなれる。

 

だから弱かった頃の自分とお別れをした。

 

だが、その前に…

 

うん、その前に、だ。

 

確かめよう。

 

やってみせよう。

 

ウチはダイタクヘリオスとして挑む

 

追いかけた、あの憧れに向けて…

 

 

 

「姉貴」

 

 

 

大歓声湧き上がる京都レース場。

 

チャンピオンを選ぶこのマイルの世界で全力を尽くして走ったウマ娘達は膝を地面に付けている。

 

だがウチはまっすぐ立っている、今も。

 

マフTのお陰だ。

 

名前負けしない太陽神のように二度と崩れぬ笑顔を観客席に向けてガッツポーズをする。

 

皆がこの太陽神の名前を呼ぶ。

 

その声に応えるように観客で応援してくれていたファンや、ウチの大事な大事なズッ友達に手を振り、そしてその中にいる一人に視線を向ける。

 

 

 

「ウチはそこに…憧れに挑むから」

 

 

 

「!!……」

 

 

周りの声にウチの呟きは聞こえない。

 

だけどそのウマ娘は少しだけ驚いた顔をして、そのあと納得したように笑みんだ。

 

 

 

それからインタビューが始まり……

 

 

 

「ウチ!有マ記念に出たいんよ!だから投票のほう!ヨイっちゃぶるでオナしゃーす!!」

 

「「「「ええええええ!!!!!??」」」」

 

 

 

会場が騒ぎ立てた。

 

中継を通して外でも聞こえる、驚きの声が。

 

もちろん舞台裏で見ていた仲間も驚いたように目を見開いた。

 

それはもう沢山の人たちが驚きの声をあげる。

 

唯一、マフTは驚かず。

そして…

 

 

 

「なら、アタシにも投票してほしいな」

 

 

「「「「ッ!!!????」」」」

 

 

 

インタビューに混ざってきたウマ娘。

 

少しずつその存在が薄まろうとしていたそのウマ娘の名前はミスターシービー。

 

シルクハットに飾られたCとBを揺らしながら舞台に躍り出ると、カメラが一斉に彼女に向けられる。

 

まるで「とんでもねぇ!待っていたんだ!」ばかりに振り向いたから、ウチとミスターシービーは一瞬だけど目を点にしたあと、横にいたウチと顔を合わせてから少しだけ笑い合い…

 

 

「元々出る予定だったよ。でもここでヘリオスが言ってしまうならアタシも舞台裏で大人しくは聞いてられなかったね。だからアタシもこの場を借りて言わせてもらったよ」

 

「ならウチも合わせて姉貴も有マ記念に出走できるようにヨロヨロってことで!」

 

 

 

この日、日本中が騒ぎ立てた。

 

学園でも、URAでも、ネットでも。

 

ダイタクヘリオスの出走。

 

そしてミスターシービーの出走。

 

それは早めのクリスマスプレゼント。

 

だけどウチ達が一番プレゼントしたい人は…

 

 

 

 

 

「「やってみせるよ、マフT」」

 

 

 

 

 

 

勝つのは『 ウチ / アタシ 』なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6: ID:7nFfm9NAI

あ、ありのまま今起こったことを話すぜ…?

おれはヘリオスの一着を祝っていたら

シービーが有マの出走を表明した…

な、何を言っているのかわからねぇが

俺も何が起きたのか理解が追いつかなかった

頭が尊みなどでどうにかなりそうだった…

中山の直線だとか、超スピードだとか

そんなチャチなもんじゃ断じてねぇ…

もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…

 

7: ID:6HeroDeGiTal

しゃれぇでも尊みに溺れてしまひゅ

 

8: ID:7eKX6nigX

おいおいおいおいおいおいおいおい

アイツも俺も死んだわ

 

9: ID:vHQ8Qu6t7

もう既に何人か尊死してるだろ!

良い加減にしろ!!

 

10: ID:vI572s8ZJ

マジ?ね?マジ??マジなの??

 

11: ID:2UjxsIgGk

どんな徳を積んだらこんな機会に巡り会えんの?バカなの?死ぬの??

 

12: ID:ygbGjwjiX

結局死ぬことに草

 

13: ID:SJedzri1g

天国への直線は短いぞ!?

後続の子は間に合うか!!?

 

14: ID:2tdc0e1PL

G(地獄に)1(一番近い)死神のレースやめろ

 

15: ID:0ncdgyRJk

頼むからこれ以上死人を出すな

 

16: ID:rhbVMZOzf

奴はこの先のサプライズについて行けない

だから置いてきた

 

17: ID:GkyCWgAij

てか、マジなんですか?

マジなんですね??

 

18: ID:bmz858QCv

それよりヘリオス2500走れんの??

 

19: ID:fUJbu/Minami

マイラー寄りな中距離のウマ娘が有マに参加する自体はそこまで珍しく無い、だがヘリオスは1600がベストマッチしたマイラー、だが有マそれより長い1000をプラスに最後の坂道が最高速度とスタミナを容易く奪い取ってしまう、それを乗り越えれるかどうかの瀬戸際だと言うことだ

 

20: ID:wOVYg/Masuo

どうした急に?

 

21: ID:lNP1L8vew

それだけやべーことが起きるってこと??

 

22: ID:9Eto0OG1S

とんでもないことが二重で押してきたよな

 

23: ID:IWk7HBDhe

ヘリオスの出走も大変驚いたけどミスターシービーのカミングアウトかつ有マ記念走ることに感無量なんだが??やはり俺、死ぬのか??

 

24: ID:Ya9ukkEFL

生きろ!生きて帰るんだ!!

 

25: ID:C7MHnLFgG

お前は死んだんだ!

ダメじゃないか!!

死んだ奴が出てきちゃぁ!!!

 

26: ID:AqLQE++ad

やめてよね。

唐突な情報量な僕に勝てるわけ無いじゃない。

 

27: ID:RUmPkDy+t

命売るよ。

 

28: ID:+4S84FZO1

左翼!何やってる!スレが薄いよ!

 

29: ID:woBnFHRbM

やばい!!スレ民の命がダンチだ!!

 

30: ID:ZgVKgz5ZN

見よ!スレ民は赤く燃えているぅ!!

 

31: ID:f4l/lLleV

今日の俺は阿修羅すら凌駕する状態だ!!

 

32: ID:1XBK+LcNA

会いたかったぞ!!シービー!!

 

33: ID:o459JHcDC

センチメンタルなおとめ座のわたしには惹かれるものがあるらしいな。

 

34: ID:dQH5EQ3Nd

敢えて言う……死ぬなよ!

 

35: ID:FUlxr1Ae5

これは死ではない!!

次に繋がる…!!明日へと!!

 

36: ID:RZAKgwaZo

変な電波拾いすぎだろ、もちつけ

 

37: ID:Ud9OfFXus

餅ついてどうする、喉でも詰まってんのか?

 

38: ID:e9X9GX6eE

詰まってるのは重バな人生なんだって

 

39: ID:7x2ZvSLHF

おじいちゃん、お正月は終わったでしょ?

 

40: ID:sxH52zpt1

変態ばかりに集いやがって

 

41: ID:Z1iWovfNz

それだけ混雑してんだろ、今年のハロウィンも盛り上がったし、頭も体も追いつかん

 

42: ID:ES7cadeth

情報を今一度まとめろ

 

43: ID:OJ1d4l/L9

とりあえずまとめようか、うん

 

44: ID:zddPTFKTc

今北産業

 

45: ID:7DgP5HEGv

ヘリオス

シービー

有マ記念出走

 

46: ID:0Ck8RGIHa

おいおいおいおいおいおい俺死んだわ

 

47: ID:TFAluu06g

まただよ(失笑)

 

48: ID:DBwDU13Ns

でもすごいなこれ

 

49: ID:Au7EuZsAX

ほんそれ

シービーの出走は願ってたけども

 

50: ID:SwOJ9gcO8

しかし粋なことするなぁ

ミスターマイラーとして勝利たらしめた後輩がインタビューで有マ記念に出ると言って、その先輩であるミスターウマ娘が待ち受けるとかまるで二次小説のようなみたいな展開だなオイ

 

51: ID:gEnvDyVs6

め い さ く

 

52: ID:2Mg/XQT4B

マフティーの物語はまだ続いていた…!!

 

53: ID:QljG2MAPR

カボチャ頭はまだこのためにあったんや!

 

54: ID:GiQn0SLXv

太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!太陽神最強!

 

55: ID:1X7OBp1w0

今年のジャンパンカップも凄かったのに今回のことで吹き飛んだわ

 

56: ID:XgsCoLgC9

だって皆待ち望んでたことやぞ

そりゃ、そうなるわ

 

57: ID:3ChAuonBQ

はー、有給取らねーと

 

58: ID:m0MAAZ+7t

有給?なにそれ美味しいの?

 

59: ID:W7PVs8sqq

URAがざわついてるぞ

 

60: ID:99HYbcF4r

また大型モニターの出番だな

 

61: ID:DXyQOFKfl

2年前の有マ記念はモニターは2つだっけ?

 

62: ID:gGwbgPyFz

せやで、入口に二つ大きいのがあった

 

63: ID:R3OU7rqTr

これ会場六万人収まるだろうかコレ…

 

64: ID:8mpjtl9i6

収まんねぇよな、確実に

 

65: ID:hzCguKfWG

神回じゃん

 

66: ID:ytLY1RMwQ

前世の俺、ありがとう

 

67: ID:p6W3wRDjU

前世のワイ、徳を積んだことにマジで感謝

 

68: ID:KdAbHFRUN

これどうなんの?現状じゃ実力はどっちが上なん

 

69: ID:rwGd/3Q/a

距離的にシービー

でも全盛期入ったヘリオスもワカンねぇ

 

70: ID:ce+/qy63z

出走するかわかんないがシンボリルドルフじゃない?

 

71: ID:xEBMvCWuj

まあ冷静に見たらそうだよな

勝つのはルドルフだと思う

 

72: ID:8t/DyFiNP

シンボリルドルフかダイタクヘリオスと言ったら前者だよな

 

73: ID:E9arewX1O

シービーは…

いやぁ、でもなぁ

 

74: ID:hG4n4P5wk

シンボリルドルフが抜きん出てあとは大体同じくらいかな…

 

75: ID:kP2kjVVDZ

また走れるところが見れる←これ大事

 

76: ID:voGGy4ung

それな!

 

77: ID:6XFqHt4af

ありがてぇ、ありがてぇてぇ…

 

78: ID:YrglH7OIS

たしかにマフTとシービーはてぇてぇ

 

79: ID:VcOUBbL18

ヘリオスの方が良くない?なくなくない?

 

80: ID:pa7MpuETC

マフTはどう考えてもシービーだろ

なにせ始まりはこのウマ娘だからな。

はい証明、ETC

 

81: ID:f6GIDX63/

それを言うならQEDな?

知力が差し込まれてねーぞお前

 

82: ID:8Om/3K3is

賢さが足りて無いようですね

重点的に鍛えましょう

 

83: ID:6y+wgbveP

てかIDに差し込まれとるやんww

なんだテメェww

 

84: ID:CaIN9FciR

しかし早いクリスマスプレゼントだ

今年は良い子にしてよかったわ

 

85: ID:lMaJUcQxC

悪い子誰だ?

 

86: ID:pKV5KUvtq

それ寝ない子誰だだろ

 

87: ID:ttk1dm2UP

それは俺だよ

16時間超えて徹夜だよ

 

88: ID:XF8nucjS0

徹夜ニキは早く退社して労基に足を運んで

 

89: ID:nhEcvNZvU

社畜はデフォルトだとしてもちゃんと寝てもろて

 

90: ID:TLQ1r7ey7

良い子はヘリオス定期

 

91: ID:nz1IaOgI/

わかる。どうあがいてもめっちゃ良い子

 

92: ID:SBLLt4UX4

オタクにも優しいギャルは存在していた…??

 

93: ID:wo8jRwyBq

オタクじゃなくても誰にでも優しいから

 

94: ID:Jcd2TnEgL

彼女は危険人物だ

オタクの秩序を、乱す者だ

 

95: ID:bCczosvyR

太陽神に乱されるなら本能だろ

 

96: ID:U1HfSdODx

これから乱されるのはURA定期

 

97: ID:IewqAgbLS

まだマフTはURAを許さないのか

 

98: ID:SNyoD/Xdk

いつまでも反省を促すのいいぞコレェ

 

99: ID:e0ZHRKhry

ナカヤマフェスタでリスキルしたばかりなのに死体蹴りまでするのか容赦ねーなマフTさすがだぜそこに痺れる憧れるぅ!

 

100: ID:HN1ajamXw

まだ峰打ちだから

 

101: ID:EsPK3ixkZ

初出走の初勝利が重賞で峰打ち…?

 

102: ID:ahLIJCsGi

重賞つーか、重傷だろ

 

103: ID:trXBnwvyg

問題ない!致命傷だ!!

 

104: ID:cxCDfoY9C

あと二ヶ月で有マとか早い

中山の直線かよ

 

105: ID:e0BTe74Dl

そりゃ中山の直線は短いからな

 

106: ID:wiCu0UPxk

中山の直線だし当たり前だよな?

 

107: ID:NxOJC/LAY

中山の直線に狂わされる兄貴多すぎだろ

 

108: ID:k35BBLud8

ぶっちゃけ中山の直線の良さを知らない人は中山の直線の短さくらい人生を損してるゾ

 

109: ID:VZGvet+32

そこまで損してなくて芝

 

110: ID:+xvibNHY8

お前らどれだけ中山の直線好きなんだよ

 

111: ID:lYWLrUCjc

それ以上は中山の直線スレで話してもろて

 

112: ID:RhhZYv26u

中山の直線警察だ!ここから先は坂がある!

 

113: ID:RPtc+ypav

おい、ここから先は地獄だぞ

 

114: ID:rVT5T7rS5

ここからが地獄だぞ!

 

115: ID:0rxqdK0Ah

もう地獄みたいな時間は終わったんだからそろそろマフTも解放したれよ…

 

116: ID:nMK9CtfLj

しかしねぇ、マフTが自らカボチャ頭を外さない限り、彼の物語は終わらないだから…

 

117: ID:gZl9g/mR+

シービーの終わりがマフTの終わりなんかな…

 

118: ID:4BklVuNOR

マフTは続くよどこまでも

ミスターシービーがマフTよりも先に追い越して待つんやで

 

119: ID:JjP1kpfFe

有給取ろうとしたら既に上司が取っていたからこれから談義にはいる

 

120: ID:GiD1G88mr

肉体言語は最高だぞ(拳)

 

121: ID:xT6h8cJPP

そのための右手

 

122: ID:mUB+5O94H

拳じゃなくてちゃんと言葉で交わしてもろて

 

123: ID:2Q9+m8PQE

ああでもああああ!!!

あああなんというか!!

シービーがまたあああああ!!!!!!!

 

124: ID:n7NMr8wgu

別スレでも脳が破壊されてるニキ多くて芝3200

 

125: ID:tjxmYIYRB

ぶっちゃけ嬉しすぎるからな、もうこのまま走らなくなると思ってたし

 

126: ID:8tPArcaj/

正直かなり頑張ったウマ娘だからこれ以上求めるのも酷なのかなとか、勝手に思ってたりしてたし

 

127: ID:yiHi4K0et

正直シービーはマフTと共に良くやったよ

今のトレセン学園は間違いなくシービーがマフTのウマ娘として応え切ったおかげでもあるし

 

128: ID:mYDDOIIrF

英雄じゃん

 

129: ID:dI/VABL+s

尚本人はそんなつもりはなく学園近くの街や商店街でファンサービスたっぷり振りまいてる歌のお姉さんやぞ

 

130: ID:WJ4vLxGvw

シービーまじシービー

 

131: ID:d060boXzs

また走ってくれるのか…

めちゃくちゃに嬉しい…

 

132: ID:s0dtBbG9U

一着を取れるならそれはもう最高なんだけど現状厳しいと考えてしまう

 

133: ID:wree7g3Xg

また走れるところが見られる。これが1番のサプライズなんだから今回は気負わず走りきってほしいわ自分のために

 

134: ID:o4XLe/zIJ

んだんだ、無事にその日走って欲しいわ

 

135: ID:QM9BEiw+V

そっか。もう2年前の有マ記念とは違って今は自分が出たいがために表明したのか。平和になったなURA

 

136: ID:1A46FSOGs

そのURAはまたマフTのウマ娘で震えてるけど

 

137: ID:HeoSsV3JN

ナカヤマフェスタに続いて容赦なさすぎるww

 

138: ID:Wr85yJ9vH

マフTのウマ娘マジでマフティーしてんな

 

139: ID:jWFTkqx5N

マフティー(動詞かつ同士)

 

140: ID:FEllPdx3j

どけ!俺がマフティーやぞ!!

 

141: ID:LoNfCjqMf

カボチャ頭被れば皆マフティーだ

 

142: ID:ENXiCHnmy

お前も富士山だ!感覚で言われてもな

 

143: ID:MUf5yNsNH

お前もマフティーだ(ファミリーパンチ)

 

144: ID:296JEk0HX

俺は…マフティーだった?

 

145: ID:bHFn7Vrdx

カボチャ頭を被ってからタイツやジャージなどで全身黒くして学園祭のあの踊りを踊ればマフティーとして公認されるぞ

 

146: ID:RYobTiTn0

儀式かよ

 

147: ID:95UtyqB3c

実際にウマチューブとかで多くの有名人がカボチャ頭被ってマフティーダンスした動画投稿してどちゃくそ伸びてるからな。今も伸びてるし

 

148: ID:y3Pb4gTYS

564ってアカウント名の葦毛ウマ娘のキレッキレな踊りすこ

 

149: ID:lby7BbRYy

ヤッベェ、一気に静まったはずのマフティー性が盛り上がってきたな

 

150: ID:hdcnB6x3S

ちょっとカボチャ頭買ってくるわ

 

151: ID:lh4It+xwd

もし被ってレース見に行くならちゃんと小さめの買うんやぞ?大きさ間違えると案外場所取るからなカボチャ頭

 

152: ID:8OC8Nj7g5

マ(フティー)ナーを守って正しく狂え!

 

153: ID:KJSh6j97m

ついでにコーナーで差をつけろ!!

 

154: ID:FwaVGHjF1

まあたしかに有マのコーナーは大事だよな

非根幹距離だからこそ中途半端に走れないし

 

155: ID:pa7MpuETC

とりあえず今から中山レース場で待機してくる

 

156: ID:OiXfUlV52

はえーよホセ

 

157: ID:yDbCo3AVN

掛かっているようですね?

一息つけるといいですが

 

158: ID:Q+0NECWBb

やっぱETC差し込んでるやつはダメだな

 

159: ID:0X/tr2Q55

ついでにマグロ食ってるような奴はダメだな

 

160: ID:BXmIyM41d

はい次!

 

161: ID:CH9Wm9eHT

指パッチン(骨の折れる音)

 

162: ID:HmwsQfWsh

体弱々かよ…ダメじゃねーか

 

163: ID:e+2ZBdiub

ここのスレに集う奴も大体ダメ定期

 

164: ID:2AzeoAPXe

勝利者などいない、戦いに疲れ果て

 

165: ID:x6yGACHwF

いつも通りということで

 

166: ID:b43J1sroL

せやな

 

167: ID:SileNce/SunDaY

カフェしか勝たん

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




ユキノビジンの同室はマンハッタンカフェです(公式)
つまりそう言うことです。



ではまた


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第43話

前世では良くアウトドアをしていた。

 

社会人になっても月一で友人と集まれるくらいには謳歌していた身だ。それこそ瓦礫の崩壊にて死ぬ寸前のダンススタジオで俺が一番乗りで現地入りして、後に合流する友人達とマフティーダンスの動画を撮ろうとしたくらいには元気よくはしゃげていたと思う。

 

だからこそキャンピングカーを動かして遠出するくらいは余裕だった。今はカボチャ頭のマフティー故にバリバリのインドアと化したけどあの頃を思い出すようにハンドルを握りしめてアクセルを吹かせる。

 

キャンピングカーのベッドでゴロゴロ転がりながら目的地の到着を待っている一人のウマ娘の鼻歌を聴きながら進路を走っていると…

 

 

「ねぇ、あのスーパーカー見たことない?てかあの車タッちゃんじゃない?」

 

「はい?」

 

 

いま走っているのは高速道路。

 

その横を見る。

 

赤いスーパーカー。

 

ウマソウルを捉える暇もなく一気に追い越して行った。

 

だが一瞬だけ古めかしいサングラスを額に引っ掛けている激マブのチャンネーの姿を視認。

 

それは正しく…

 

 

「ぶふっ…!?おいおいおい!!?」

 

「あっはっはっは!!マルゼンスキー先輩日本に帰ってきてたんだ!!」

 

 

俺はいまカボチャ頭を外してサングラスとマスクを付けたペーネロペーのスタイルだが、あまりの衝撃映像に顔面から全部パージさせそうな勢いで噴き出してしまう。強引にオデュッセウスさせてくる激マブのスーパーカーとかマジ怪物じゃねーか。

 

てか、あれ?

 

彼女はもう現役終わったんだったか?

 

いや、マルゼンスキーはまだ走れるらしいからそれは無いから。レース好きだしそんな簡単に身は引かないだろう。

 

一時帰宅?それともまさか日本でかっ飛ばすためにざわざわ帰ってきたのか?だとしたら怪物の名に恥じぬバイタリティすげーな。アイダホの長い道路も悪く無いだろうに良く戻ってきたなマルゼンスキー。

 

 

あ、なんかよく見たら豆腐屋の車も並走して…

Deja Vu_⁉

は、え?

なにあれマジ??

おいおいおい…

 

ダメだ、これ以上考えるのはやめておこう。

 

ただでさえ中央のトレーナーの中にGジェネしている奴も存在しているのに峠で掟破りしている奴も含めたらこの世界の人間は人間辞めてることになるぞジョジョー!

 

まあそれを言ったらニュータイプしてしまったマフティーも大概だけどな。

 

しかし運転中に考え事は事故につながる。

 

だからマフTは考えるのやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥多摩。

 

大都会のイメージある東京に存在する山岳地帯であり、キャンプ地や綺麗な河、鍾乳洞など徒歩で満喫するにはとても良い場所だ。

 

人間もそうだが、この世界だからこそ存在してるウマ娘のために敷かれたジョギングのコースもあるため、おそらく前世より横幅広く道路が整備されている。

 

もちろんここは山。

 

そのため坂路が続くお陰で…

 

 

「ふー!ただいまー!」

 

「お帰り」

 

「空気と景色が綺麗で思わず足が止まっちゃった!」

 

「そうか?2年前よりも7分早いぞ」

 

「そりゃあの時はまだクラシック級のヨチヨチ歩きだったからね。流石に体も大きくなって歩幅も増えたから。ほら、もうマフTと身長同じくらいだよ?」

 

「カボチャ頭の分を減らしたらシービーが数ミリくらい俺より高いな。随分と大きくなった」

 

「あははは、入学した時から身長はそこそこ高かったけどね。でも更に伸びたかな」

 

「大人になったという事だ」

 

 

ここでは厳しい練習は設けていない。

 

坂路の続くこの道を上り降り往復させるだけの走りもなかなか足腰に来るだろうが、学園で設けたトレーニングよりは緩くてただジョギングを楽しむ程度に収まってしまう。

 

だがそれは別に構わない。

 

リフレッシュを目的としているから。

 

そしてモチベーションの確保。

 

とある育成ゲームに例えるならお出かけコマンドとかその辺りの話だろう。

 

あとは…

 

 

 

「約束通りに連れてきたが、気分はどうだ?」

 

「最高!」

 

「なら良かった」

 

「ありがとうね、マフT」

 

 

 

連れて行ってやる、そう約束したから。

 

半ば強引気味に決まったけど、もう一度くらいこの場所に連れてきたいとは思っていたから不満はない。

 

またこのような彼女とこの場に来れたこと、懐かしく思っている。

 

 

「エンジンは入れてある、水なら暖かいぞ」

 

「ほんと?ならシャワー浴びるね」

 

「ああ。その間に夜ご飯は用意しておく」

 

「ん、わかった」

 

 

ダイタクヘリオスを連れた時と同じように乾麺を湯がいて適当に味を付ける。特段彩りあるような夜ご飯ではないが秋の真っ只中で暖かい麺類は身に染み渡るだろう。

 

それから早めにシャワーから上がってきたシービーと夜ご飯を頂いて、俺はお茶を淹れながら秋の奥多摩を楽しむ。前世とこの世界は酷似しているがウマ娘の存在故に変わっている部分もある。

 

キャンピングカーを停めている大きな駐車場から公道を見下ろせばウマ娘用の歩道レーンが伸びている。

 

そしてミスターシービーと同じようにジョギングをしているウマ娘もちらほら見かける。

 

運動の秋と言うやつだろう。

 

 

「暗くなるのも早いね」

 

「まもなく11月も終わる。そうすれば冬も本格的に始まる。暗くなるのも早い。既に星もよく見える」

 

「またアヤベがソワソワしそうだね」

 

「星を眺めるのが好きだからな。あの歳で随分とロマンチストだ」

 

「… ふーん、やはりそうやってアヤベを口説き落としたらしいね」

 

「……はい?」

 

「アヤベから聞いたよ。マフティーしようとしたらマフTが『それは俺がやるからお前は一等星として走れ』みたいなこと言ってスカウトしたんだって。やはりウマたらしだ」

 

「人聞きの悪い。俺はただその歩みが地獄に等しく厳しい道であることを体感した本人だからこそ、まだ幼い彼女がその眼をするのに苦しかっただけの話だ」

 

「アタシはアヤベからアヤベ自身のことを詳しく聞いた訳じゃない。でも知ってるつもりだから、マフTが差し伸べた意味と行動がアヤベにとって、またウマ娘にとってどれほど嬉しい事なのか理解できるよ。アタシをミスターシービーとして走らせてくれたように。もうこうなるとマフT無しでは走れないよね。 ……やはり狙ってる?」

 

「それこそ人聞きの悪い。ただアドマイヤベガがその幼い年齢でその心境へ身を投じてしまうに危うかっただけだ。だがな。マフティーたらしめる先に救いがあると信じていたその眼はすごく惹き込まれた。ああ、この子はこれまでとんでも無く走ってきて、この後も顧みずに走るんだと」

 

「……アヤベはマフTでよかったよね、見つけてくれた人が」

 

「さぁ、どうかな。彼女は賢いから俺じゃなくてもアドマイヤベガらしく走るだろう。あの子はとても強い。君が言った通りもしかしたら最強になれるかもしれない。そんなウマ娘だ」

 

「でも責任取らないとね。マフTが宇宙の一等星を見つけてしまったんだから」

 

「随分と躊躇いもなく言葉にして重たくしてくれるな」

 

「だってそれほどなんだよ君は。何せ…」

 

 

 

__アタシがそうだったからさ。

 

 

そう言って笑う彼女の横顔はスカウトした時よりも随分と大人びてしまい、今よりもまだ落ち着きなくはしゃいでいた頃の彼女は数年前だったと感じさせる。

 

そのくらいに、彼女は走ってきた。

 

片手で数える程度の年数。

 

でも俺たちにとってそれだけ濃い時間。

 

ほんの少しは寂しさも思う。

 

でも今の彼女を誇らしくも思う。

 

 

「さ、片付けよう。明日も朝から走りたいし」

 

「そうだな。帰りは温泉にでも行こう」

 

「それは嬉しいけどマフTはキャンピングカーでお留守番?」

 

「穴場がある。そこなら問題は無い。ヘリオスの時もそうだったからな」

 

「そっか。なら良かった」

 

 

 

でも…

 

いつかは…

 

そのうちは…

 

この重さを世界が外してくれる時が来るとしたら…

 

 

いや、違うか。

 

そんなことは起こらないだろう。

 

その考えを振り払い夜ご飯の後を片付ける。

 

横から聞こえる鼻歌を拾いながら今日もカボチャ頭を揺らす。

 

それを繰り返すだけだろう。

 

この世界がそうする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2段ベッドがあったとしたらアタシは何となくだけど上が好き。1段目は階段を登らずにそのまま布団へ転がるには楽だけど、ちょっとした階段を登って、登った時にほんのちょっとだけ襲ってくる疲労感に身を任せてだらしくなく布団に転がる。結構好きかな。

 

だからキャンピングカーでも寝るときは2段目を使った。奥多摩へ来るときは1段目でゴロゴロしていたけど、今その1段目はマフTが使っている。それからキャンピングカーのカーテンを締め切り、鍵を閉めた後カボチャ頭を外して首を鳴らしていた。

 

そんな彼を真上から見下ろして、だらしなく腕を垂らしてヒト耳を突っつこうとして、避けられてしまう。

 

 

「貴様ぁ〜、なんで分かるかなぁ」

 

「分かるんだよ、マフティーだから。それよりなんだその口調は?」

 

「ええとね、結構前におばあちゃんがいる海外に遊び行ったらアイルランドから小さな客人が来てね。急にそれを思い出した。それでお目付役の人たちにそう言って少し困らせていた」

 

「お目付役…??まあ、いいや。それでミスターシービーは何をしたんだその客人に?」

 

「ジェラートのお店を案内しただけだよ。その日は少しだけ暑かったから。あと四葉のクローバーを耳飾りにしてかわいかったな。同じウマ娘でかわいかったよ。昔のアタシみたいでとてもかわいかった。……チラッ?」

 

「寝るぞ、シービー」

 

「ええー!少しは構ってよー」

 

「お前は寝れない修学旅行生かよ」

 

「アタシはバリバリ学生だもーん。特におかしいところ無いもーん」

 

「じゃあ顧問の俺は学生と同じ部屋を共有しちゃまずいな。なので上の寝袋で星を眺めながら寝るとするか」

 

「あ、ならアタシも同じにしよ」

 

「絶対面白いだけで発言してるだろ?」

 

「うん」

 

「 し っ て た 」

 

「 い き が い 」

 

 

 

あとどうやらそう簡単に「可愛い」とは言ってくれないらしい。

 

まあ特段言われたいわけでもないけど。

 

言われたらそりゃ嬉しいかもしれないが、可愛いと言われるより「素敵」と言われたいからそこまで求めてない。

 

なので寝る前にマフTの素顔を眺めながら言葉を交わし合って、ぐっすり眠るに充分な満足感を胸に込めて転がる。

 

キャンピングカーの狭い面積。

 

だから天井は近い。

 

寝ぼけたら思わず頭をぶつけてしまいそうだ。

 

そんなこと考えていると電気が消える。

 

夜の9時。または21時。

 

早いけど本格的に寝る時間だ。

 

一段ベッドから光が刺す。

 

 

「何してるの?」

 

「ヘリオスから写真付きのメッセージ来てたから返しているところだ。だが写真を見るとなんか高いところにいるみたいだがこれは展望台か?寒いのによく行く」

 

「パリピって何よりね」

 

「だな。彼女は彼女でちゃんとリフレッシュしてるらしい。強敵だな」

 

「だね。1番の強敵だよ、アタシからしたら」

 

 

 

そう、彼女は強敵。

 

距離によっては全盛期のアタシでも彼女に勝てるか分からない相手。

 

そして今のヘリオスはとんでもなく強い。

 

最強のマイラーであり、太陽神の名に恥じない頂きで輝くウマ娘。

 

それはアタシも無敗の三冠バになった時はそうだったように今はヘリオスの時代。アタシが登っていた頂きはいつしかその場から降りて真上を見上げている。

 

だから似ている、皆。

 

 

「マフTの担当するウマ娘って、みんな等しいよね」

 

「?」

 

 

タブレットの電源を落とす音が聞こえる。

 

マフTもメッセージを返して転がったらしい。

 

 

「皆、"高み"を目指しているかな」

 

「それはマフTの担当で無くとも誰も同じだろ?」

 

「んー、なんと言うかな。例えばだけど、マンハッタンカフェは漆黒の摩天楼って期待されてるでしょう?なんか表現が高いじゃん」

 

「え?…あ、あぁ、そう言う『高い』って意味か…なるほど」

 

「あっははは!なんかごめんね語彙力無くて。奥多摩が良すぎて気が抜けているかも。でも言わんことわかるでしょ?」

 

「わかる。そうなるとダイタクヘリオスは太陽神としての高さかな?…こんな感じか?」

 

「うんうん、そんな感じ。そうなるとシチーはステージの高さかな。あと人物像や目標としての高さも込みで。モデルもレースもやってみせろよ!って感じ」

 

「そうするとナカヤマフェスタはベットとしての高さだな。重ねてきたコインの枚数は相当だろう」

 

「そしたらアヤベは一等星が光る宇宙の高さだよね。物理的に考えたらアヤベが最強かも」

 

「君がアドマイヤベガは最強になると言っていたな。強ち間違いでは無いかもしれない」

 

「かもね」

 

 

なんてことない会話。

 

アタシはそれが好き。

 

こんな時間がもっと続けばいいのに。

 

 

「シービーは…」

 

「んん?」

 

「ミスターシービーはどんな高さだ?」

 

「アタシ?んー、それはマフTが言ってよ」

 

「俺が?言わなくてもわかるだろ」

 

「あっははは、そだね。でも言って欲しいな、マフTが」

 

「…そうか。なら、ミスターシービーは」

 

 

 

 

 

 

 

__マフティーのような高さ。

 

 

 

 

 

 

 

その言葉は燃料だ。

 

 

アタシをミスターシービーにしてくれる。

 

 

だから終わりを迎えそうなこの脚でも。

 

 

終わりそうになる自己満足だとしても。

 

 

最後の数滴にしかならない振り絞りだろうと。

 

 

アタシを見てくれた彼が言葉にする

 

 

マフティーである彼がそう言ってくれるなら。

 

 

ミスターシービーであるアタシは。

 

 

 

 

 

 

なんとでもなるはずだ

 

 

 

 

 

 

「「「ワァァアアァァアアア!!」」」

 

 

 

 

 

 

目を開ける。

 

周りを見渡す。

 

溢れんばかりの歓声と、それを埋める観客。

 

中山レース場の外からも聞こえる。

 

真冬のターフが熱量で揺れていた。

 

 

 

「姉貴……いや、ミスターシービー」

 

 

 

声をかけられて振り向く。

 

彼女らしく飾られているメイクと勝負服。

 

だけどその色とは正反対に滾る。

 

真冬を忘れさせてくれような、その名に相応しい彼女がアタシの前に来る。

 

アタシの名を呼んで。

 

 

 

「何かな、ダイタクヘリオス」

 

「決着、付けるからね」

 

「それは……マフTのウマ娘として?」

 

「その通りだよ、マフティーのウマ娘

 

 

 

ゲートインする前にアタシと彼女が向かい合えば会場の盛り上がりはまた一段と増す。

 

だが気にならない。

 

目の前にいる。

 

アタシの前に太陽神たらしめるウマ娘がいる。

 

 

 

 

「勝つから」

 

「_」

 

 

 

 

一瞬だけだ。

 

パリピらしさを捨てた彼女は……少し怖かった。

 

 

 

「…」

 

 

 

ダイタクヘリオスらしさを飾る。

 

それがマフTとの約束。

 

だけど、今の彼女は『マジ』ではない。

 

『本気』を全身に出している。

 

なんなら青いオーラすら見えしまう。

 

マルゼンスキー先輩の覇気を思い出す。

 

彼女も"怪物"だったから、そう見えた。

 

でもここにいる彼女はダイタクヘリオス。

 

けど、彼女もソレを迎えている。

 

ヘリオス(太陽神)としての魂が全身から。

 

ああ、そう言うことか。

 

震えてるのは中山レース場じゃない。

 

アタシの方かもしれない。

 

だけど。

 

けれど…

 

 

 

「マフティーのウマ娘に挑むと言うのならそれは簡単じゃないよ」

 

 

アタシだって譲れない。

 

目の前のウマ娘は強いと認めている。

 

誰もが認めて、自分自身も認めようと走る太陽神の名に相応しいウマ娘。

 

彼に応えるためにターフを駆けるウマ娘。

 

だから負けるな。

 

その形に負ける。

 

さぁ応えろ。

 

ここにいるのは誰だ?

 

この場に立っている自分は誰だ?

 

この名前はなんと言う??

 

考えずとも簡単。

 

それはアタシが一番よく知っている。

 

多く語る必要は無い。

 

多く吐き出す意味はない。

 

そうやって彼がアタシを見てくれたから。

 

なら、いつものように、描くだけ。

 

 

 

 

 

「負けないから」

 

 

 

 

 

 

 

アタシはミスターシービー

 

それだけで十分でしょ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 




 


次回

ミスターシービーVSダイタクヘリオスVSダークライ


ではまた


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第44話

『この学園にいるカボチャ頭知ってる?』

『チョー知ってる!あれやばく無い??』

『カボチャ頭ってだけでイカれてるっしょ!』

『それよりオーラも凄くね?近づけねぇわ』

『あれでも学園の関係者らしいよ?…マジ?』

『さすが中央ってところだねぇ』

『率直に言うとトレーナーにしたいですか?』

『いやー、キツイでしょう』

 

 

 

 

それでも。

 

 

彼のことは。

 

 

自分にとっては。

 

 

あの人は。

 

 

太陽神のように大きな存在だから。

 

 

だから今の自分が、今この場所にいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今頃乗り込んでる頃かなぁ…」

 

 

いつもより目覚めが1時間早い。

 

頭は不思議とスッキリしている。

 

二度寝も考えたが眠ろうとは思えない。

 

崩れた寝癖を整え、布団を綺麗に折り畳み、着なれたジャージに着替えてから同室で寝ている子を起こさないように部屋を出る。

 

顔を洗った後は携帯してる簡単な道具でメイクして、いつものタトゥーシールを張り付ける。

 

皆が知るダイタクヘリオスが完成した。

 

それをウマスタにあげた後は軽い足取りで外に出て背筋を伸ばす。

 

まだ少しだけ暗い空だ。

 

日は少しだけ出ている。

 

つまりここにいる自分が一番乗りだ。

 

 

「んー、どこまで行こうかな」

 

 

なんならキャンピングカーを追いかける?

 

なーんてね。

そんなの無理無理カタツムリ。

 

マフTと姉貴の道のりの安全を願いつつ、目的地も無いのになんとなく走り出す。

 

すると…

 

 

 

「あら?もしかしてヘリオスちゃん?」

 

「!」

 

 

信号待ちに声をかけられて横に振り向く。

 

そこには赤いスーパーカー。

 

だが一番驚いたのは乗っている女性。

 

その脚はスーパーカーと恐れられるひとりのウマ娘であり、日本にいないはずの先輩がそこにいた。

 

 

「マ、マル姐!?マジ!!?」

 

「うふふ、久しぶりね、ヘリオスちゃん。あなたの頑張りは聞いてるわよ」

 

「うはー!久しぶりやない!?もしかして帰ってきたん?」

 

「ええ、少し休養も兼ねて戻ってきたわ。あとタッちゃんと一緒に日本が恋しくなってね。だから年明けるまでは日本でしばらくカッとばすつもりよ」

 

「うぇーい!ジャパニーズホームシックってんねぇ!あ、それで、どこ行くん?」

 

「ふふふ、ちょっと遠出する感じね。なんなら一緒に来る?朝ごはんも兼ねてイタ飯でも奢るわよ?」

 

「ウェーイ!!ごちになりまーす!」

 

 

唐突なお誘いは大歓迎。

 

朝から超キマってるエンカにお目目も覚めた。

 

青信号へ切り替わる前に助手席に乗り込んでシートベルトを付ける。それから全く知らない年代の渋い音楽が車の中で響き渡る。すると青信号に切りわかって一気にスーパーカーが動き出した。

 

 

「うひょぉー!」

 

「さあ!ガンガどこまでもカッ飛ばすわよ!」

 

 

マルゼンスキー先輩の車には何度か乗ったことがあり、助手席から見えるこの光景は久しぶりだ。

 

サイドミラーを見る。早朝で誰もいない道路を突っ切る赤い車のタイヤが紅くアスファルトを切り裂いて走る姿が目に映る。

 

しかし気づいたら国道に出ていた。

 

あれ?

 

どこまで行くのだろうか?

 

するとウインカーを出して車線を切り替える。

 

そして首都高を走っていた。

 

 

 

「うぇ?ちょっと遠出って、どこまで行くん??」

 

「んー、そうね。例えるなら掟破り出来そうな場所かな」

 

「へ?」

 

「なーんてね。うそうそぴょーん。あ、その代わりにもう一台来たようね」

 

「うぇ?」

 

 

マルゼンスキー先輩に釣られて横を見る。

 

一台の車。

 

何処かで見たことある車。

 

あ、思い出した。

 

トレセン学園の近くにある商店街で構える豆腐屋の車だ。それと同じ。

 

んぇ??

どう言うことだ??

 

 

 

「あらら、これは偶然かな?でも…盛り上がってきたわね!」

 

「え?え?ええ?」

 

 

爆上げなパーティーは大歓迎。

 

しかし、限度はあると思う。

 

自分の中にあるハザードランプが「警告ウェーイ!」と勝手に盛り上がる。

 

するとマルゼンスキー先輩はアクセルを吹かした。

 

 

「うひゃーーぁ!!!?」

 

「ガンガン行くわよー!!」

 

「うああぁぁ!!ああ!あああ?!!」

 

「FOOO!!!」

 

「あ!あー!ああー!あ、あははははは!!!」

 

 

 

気づいたら恐怖心をかき消すように笑っていた。

 

法定速度は守られてるのか??

 

いや、そんなこと確認する暇もない。

 

とりあえず速いことだけはわかる。

 

大型トラックや一般乗用車に大型バイク。

 

キャンピングカーなどを抜き去る。

 

 

 

「やはり日本の道路も良いわね!」

 

「うぇぇーいい!!」

 

 

同調する様にいつのまにか気分は爆上げ。

 

しかし悪くない。

 

朝早くから完全に目を覚まさせてくれるようなアトラクションにバイブスを上げる。

 

楽しそうにハンドルを回すマルゼンスキー先輩とサイドミラーに映る豆腐屋と書かれた車と共にしばらく首都高を突っ切った。

 

 

 

 

 

 

 

自分はそこまで頭は良くない。

 

だからここがどこなのかわからない。

 

気づいたら都内を抜けて田舎道を走っていた。

 

それから景色の良い山に停車。

 

マルゼンスキー先輩が車のキーを外して運転席を降りたので自分もシートベルトを外して助手席から降りる。

 

アトラクションのように駆け抜けた重圧感から解放されるが如く、綺麗な空気を肺にいっぱい詰め込んで体を伸ばす。

 

んー、やはりここがどこだかわからない。

 

そもそも東京の外なのか?

 

でも何故だか身が引き締まる。

 

この場所はどこか戦場のようにも感じられた。

 

この場所で何が起きているのだろうか?もしかしたら並走していた豆腐屋のお兄さんが知ってそうだ。しかし寡黙な故に少しだけ話しかけづらい。普通ならパリピ全開で絡みに行くところだが少しだけ疲れたからパリピっぴ属性はしばらく充電するとして…

 

 

「有マ記念、走ると聞いたわよ」

 

「!」

 

「どう?楽しめそう?」

 

「え?あ、うん!!もちのロン!バイブス超上がってんよー!バリっちょ楽しみ!」

 

「ふふふ、それはとてもいいことね。レースは楽しむことが大事。ヘリオスちゃんはそれが百点満点はなまるブイだから心配無いわね。でも今の貴方はそれ以上のことでいっぱいそうね」

 

「!!」

 

「ナニカに挑むことは…初めてかしら?」

 

「ぁ…」

 

 

 

有マ記念は楽しみだ。

 

多くのファンが投票してくれた。

 

マフティー補正込みとはいえあのシンボリルドルフと同じくらい投票された。

 

だがそれ以上にミスターシービーの投票が多くを占めていた。

 

他にもスターウマ娘はいるのにそれだけ彼女の走りは望まれていて、そしてその舞台で走る自分も同じくらい望んでくれている。

 

正直、このような感覚は初めてかもしれない。

 

見ている人達、応援してくれる人達。

 

そして自分自身がダイタクヘリオスの走りを見せたくてターフを走る。

 

そしてマフTの誇れるウマ娘として知らしめるようにパリピたらしめる。それが彼と約束した日から始まった太陽神の名前。

 

数年前に見たあの憧れに追いつきたくて始まった自分の独りよがり、から。

 

けど今は……挑みたくてその舞台に立つ。

 

それは恐らく…

 

いや…

 

間違いなく「あのウマ娘に勝ちたい」から。

 

何かに勝ちたい。挑戦に夢中なんだ。

 

生きていてあまり抱いたことない衝動。

 

慣れないこの感覚に少しだけ戸惑いはある。

 

それを笑顔で誤魔化しているところ。

その焦りはナカヤマフェスタにはバレてるようだが。

 

けど、この感覚は多分だけど…

 

 

 

「でもそれは間違いじゃない。正しく奮い立つあなたのハート。周りのためじゃない。自分のために慄える鼓動。それは正しい」

 

「…」

 

「それでも、すこしだけ怖い?」

 

「………正直、ウチはそんなウマ娘とは、言い難く思ってたから、かな…」

 

 

ウチがギラギラして睨むように__挑む。

 

そんなの自分のキャラじゃない気がする。

 

そう…脳死するが如く、はしゃぐ。

 

それが走りになり、笑顔になり、ダイタクヘリオスとしてただ証明する。

 

それだけだった。

 

別にそれでも良かった。そこに笑えるウマ娘がいて、応えてくれたマフTがいる。

 

それは充実だ。満たされる。

それだけで良いと考えていたから。

 

 

けど、けれど…

 

 

 

「でも、どこかでウチは強く望んでいたんだとおもうんよ」

 

「…」

 

 

 

ウチにとって今ある原点は姉貴と同じところから。それは同じ。仲良し。

 

でも今はそれだけじゃダメ。

 

ウチは必要だからそうする。

 

それはダイタクヘリオス(マフTのウマ娘)としてたらしめるために、

 

それと同じウマ娘に挑む。

 

だから、これは…これは……

 

ええと…

 

だから…

 

これ…は……

 

なんといえばいいか…

 

 

 

「無条件なんだ」

 

 

「!!」

 

「あら、珍しいわね」

 

 

 

静かに遠くを見ていたその人は呟くように言った。

 

それ以上の言葉はない。

 

でも、何故だか……スッと、身に入った。

 

 

 

「そっか、そうだ。これは…そうなんよ」

 

 

 

理解した。

 

これは、マフティーだ。

 

マフティーのようなモノだ。

 

そう、これは"無条件"なんだ。

 

そうしたいから、そうしている。

 

ウチは「キミとカチタイ」から、走る。

 

約束を果たすために、示すために。

 

なら、戸惑ってる意味なんかない。

 

そんな必要なんか無い。

 

そうしなければ__マフティーじゃないから。

 

 

 

「すぅぅぅ……」

 

 

 

呼吸する。

 

大きく息を吸う。

 

太陽に少しだけ近いこの場所で。

 

太陽に向けて。

 

 

 

「ウチはマフTのウマ娘、ダイタクヘリオス」

 

 

 

__俺の名はマフT、またはマフティー。

 

同じように言葉にする。

 

 

そうすれば、自然と定まる。

 

カボチャ頭を被るように、視える。

 

 

 

「迷ってる訳じゃない。ほんの少しだけ戸惑っていただけ。でも、今、ちゃんと決めた」

 

 

 

顔をあげる。

 

朝日が登り切った。

 

見下ろした大自然はオレンジと緑色に染まる。

 

緑色は心が穏やかに、でも陽の光で熱が灯るように、ここから自分自身を見る。

 

 

 

「そうだね。マフT。ウチは挑むよ。挑んでみせるよ」

 

 

憧れに挑む。

そして、マフTのウマ娘になると。

 

 

「……えへへ、やっぱなんか違うね」

 

 

やはりキャラじゃ無いかもしれない。

 

恐らくそんなウマ娘じゃない。

 

でも今回だけは『マジ』じゃない。

 

本気(マジ)』として、正しく字にする。

 

それだけ本気(ほんき)なんだから。

 

 

 

「なら、そんなヘリオスちゃんに、お姉さんからひとつだけアドバイスするわ」

 

「?」

 

 

すると私の真後ろに立って、両肩に手を乗せる。

 

軽く手を乗せられただけ。

 

でも、ズシっと重い。

 

重みがある、マルゼンスキーと言うウマ娘に込められた重さ。

 

 

 

「最後に走る中山の直線は、望みなさい」

 

「望む…?」

 

「ミスターシービーが後ろから来てくれることを望みなさい」

 

「!」

 

「そしたらそのレースは、挑戦する者にも、挑戦される者にも、その脚と魂は、本当の本気になれるから」

 

 

 

その意味は少しだけ難しく思えた。

 

でも、わかった気がするんだ。

 

あとついでに豆腐屋のお兄さんもその意味にほんの少しだけ微笑んでいるように見えた気がする。

 

 

 

「……!!」

 

 

 

ウチは望んでる。

 

そうであって欲しいレースに。

 

 

 

 

の代わりに、あの子を打ち負かしてね」

 

 

 

 

 

その言葉を受け止めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝つから

 

負けないから

 

 

 

 

真上に登り切ったその太陽は。

 

過去最高に__神ってるから!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その男は最初、誰にも理解されない。

 

そうせざるを得ないカボチャ頭と共に。

 

しかし一人を除いて、彼と足並みを合わせる。

 

彼の存在が正しく狂ったモノとして。

 

たらしめれたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートの開かれた音は始まりの合図。

 

 

始まった。

 

始まってしまった。

 

大歓声の中で夢を背負ったウマ娘が走る。

 

埋まりきらない人々の数、会場の外にも大型のモニターが建てられており、一部の道路は通行禁止にされて道路には屋台や椅子などが並べられている。現場スタッフもレースを気にしながら行方を見守っていた。

 

そんな会場の一番前の席にいる。

 

カボチャ頭を被ったトレーナーが。

 

 

 

「…」

 

 

 

もう見慣れた姿だ。

 

レースの固定概念を変え、トレセン学園も変えてしまい、ウマ娘のために現れた存在。

 

未だに謎は多く、未だに明かされ続ける。

 

その男が見ていた。

 

この有マ記念を。

 

ただ敢然とそこに立っている。

 

どこまでもマフティーだ。

 

 

 

 

いや。

 

本当にそうだろうか?

 

 

 

「………」

 

 

 

カボチャ頭の中は見えない。

 

その素顔を知る者は指で数える程度だ。

 

だからわからない、この男の顔を。

わからないからこそ、表情は明かされない。

 

しかし、それは幸運か、または不運なのか。

 

カボチャ頭のトレーナーは…

 

 

歪みそうになるその表情を…堪えていた。

 

 

 

「……」

 

 

 

マフTは、冷静なフリをしていた。

 

体に表れずとも、それは大きく揺れていた。

 

 

__どちらを応援する?

 

__自分はどちらを応援すれば良い?

 

__違う、どちらも応援するに決まっている。

 

__頑張る彼女達を応援する。

 

 

分け隔てなく、平等に……なのに。

 

それを拒んでいた。

 

 

心と頭が「一つを決めろ」と訴える。

 

思わず、拳に力が入る。

 

 

 

「…」

 

 

 

ウマ娘達が目の前を通過した。

 

蹄鉄によって芝がめくれる。

 

先頭にはダイタクヘリオスが。

 

そして中団には多くのウマ娘。

 

シンボリルドルフの姿もある。

 

大歓声をかき分ける有力なウマ娘が通り過ぎる。

 

そして最後方にはミスターシービーだ。

 

マフティーのウマ娘が走っている。

 

囚われなく自分のために駆けている。

 

 

 

「………っ」

 

 

「……マフT?」

 

 

 

大歓声の中で隣に立っていたマンハッタンカフェだけは気づく。

 

心配するように声をかけた。

 

他の担当は目の前のレースに夢中だ。

 

だからマンハッタンカフェの声と、どこかひび割れそうなマフTの音は周りに聞こえない。

 

 

 

「心配無い。少し……うるさいだけ、さ」

 

「……」

 

 

 

堪えるようにこぼす。

 

その声色にマンハッタンカフェは心配だったが、レースに集中した。

 

ウマ娘達は第二コーナーを曲がる。

 

その後ろ姿を見送る。

 

熱を感じた。

 

太陽神の後ろ姿だ。

 

1000mを超えても脚は衰えずまだ回る。

 

 

 

 

「俺は…」

 

 

 

 

__ウチは誇れる自分に…!!

 

 

その言葉は、見ている光景が答えとなって返ってくる。

 

マフティーに囚われず、マフティーの重力に潰されず、太陽神(ヘリオス)として誇れる自分を目指すためにカボチャ頭を外したマフTと約束した。

 

彼女は立派になった。

 

周りが認めるほどになった。

 

だからこのレースで走っている。

 

ダイタクヘリオスが駆けている。

 

皆にその姿を見せることで。

 

 

そして何より、マフTに見せることで。

 

 

 

『さぁ向正面に入った!先頭を走るダイタクヘリオスは3バ身先!その脚は衰えない!!』

 

 

 

マイラーとしての距離はとうに超えた。

 

これからが厳しい。

 

ダイタクヘリオスの土俵外。

 

 

そしてこの長さはミスターシービーの土俵。

 

だがその3バ身は縮まらない。

 

向正面を走り切り、第3コーナーを曲がる。

 

 

横顔しか見えなかったウマ娘の必死な顔が見え始める。すると中団に位置づいたシンボリルドルフが大きく動きだす。いつもより少し速いが仕掛けてきた。差が開く前にダイタクヘリオスを差すつもりだ。

 

その皇帝から始まった勝負の仕掛けに中山レース場の熱は一段と高まり、そして周りのウマ娘も第4コーナーを入る直前に仕掛ける。

 

 

___ここでなら追いつける!!

 

 

集ったウマ娘は皆、重賞レースで挑んできた強者ばかりであり、弱いはずがない。

 

だから走りに間違いなんてない。

 

多少の誤差を有りしも、それを実力で補える者たちだ。

 

12月の最後まで走ってきたその自信を脚に込めて走ろうとして…

 

 

 

___喉が焼けるような熱波が襲った

 

 

 

 

「「「「「ッッ!!!???」」」」」

 

 

 

 

驚く。

 

走っているウマ娘だけではない。

 

見ている者達もその姿に驚く。

 

なぜなら笑っていないから。

 

先頭を走る彼女は笑わない。

 

ダイタクヘリオスは、笑っていない。

 

タトゥーシールが崩れるくらいに歯を食いしばり、目の奥は溶鉱炉の如く滾り、12月の寒さに包まれた中山レース場の冷風はダイタクヘリオスを中心にかき消される。

 

 

 

「(これはッ…!!)」

 

 

シンボリルドルフは"見て"理解する。

 

その不気味さを。

 

 

 

また。

 

 

 

「(こ、この感覚ッ、どこかで…!!)」

 

 

 

7番人気で参加していたビターグラッセも数年前に感じたことのあるこの不気味さに思わず足が止まりそうになった。

 

分厚く頬を撫でる恐ろしさ。

 

いつだったか、とある人間と対面し、初めて心の底から恐ろしくなり思わず殴ったことのある痛い記憶が一瞬だけ過ぎる。

 

恐怖心が封じ込めていた記憶だ。

 

しかし深くは思い出せない。

 

だが感じたことが有る故に、ビターグラッセはそれを連想する。

 

それでもただ感じるだけ。

 

だが中団にいたシンボリルドルフだけは感じる他にソレが見えていた。

 

強くなったウマ娘のみがその高みを理解するようになり、見える。

 

ダイタクヘリオスから赤いオーラが。

 

喉を焼くような。

 

目が眩みそうになるような。

 

熱波のようなプレッシャーが。

 

 

 

「(まるで陽の熱…ッ!だが、ァ…!!)」

 

 

 

シンボリルドルフは折れない。

 

鍛えられてきた精神と肉体はダイタクヘリオスに負けない。

 

皇帝として"絶対"を見せる。

 

この有マ記念の注目がマフTのウマ娘だろうと一着を取って、皇帝の名に恥じぬウマ娘として証明するから。

 

そう気持ちを切り替えて、踏み込もうとして…

 

 

 

 

 

 

 

レースに絶対は無いよ、ルドルフ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「____」

 

 

 

一瞬、躊躇いそうになる。

 

聞こえてしまったから。

 

でもそれはすぐにわかった。

 

プレッシャーは一つだけじゃ無い。

 

もう一つこのレースにあったんだ。

 

 

 

 

『ミスターシービーが上がってきた!!ミスターシービーが最後方から上がってきた!!やはりこのウマ娘は上がってきましたミスターシービー!!』

 

 

 

 

第3コーナーからロングスパートを掛けていたミスターシービー、しかしその速度上昇はあまりにも緩やか。

 

どこか距離的判断ミスでも起こしていたと思っていた。

 

けれどそんなことはない。

 

利用された。

 

ダイタクヘリオスのプレッシャーに。

 

そこに意識を奪われた、ほんの数秒。

 

切り替えようとして溜めた脚を解放しようとした呼吸一つ分。

 

だから、不意をつかれる。

 

それを板挟みにする形で…

 

 

 

「(真後ろかッッ!?いつのまに……!!)」

 

「(何が衰えだよ!全然じゃないか…!!)」

 

 

警戒していた位置取りに不意を打たれたシンボリルドルフと、その少し後ろにいたビターグラッセは計り損なった上にそのパワーの違いに驚きを隠せない。

 

まだクラシック級とはいえ秋華賞を取ったことは実力の高さを証明する。だからビターグラッセは周りに劣っているつもりはなかった。しかしそれはもう意味がない。実力以上のナニカを感じていた。

 

 

 

「っく…!!」

 

 

それよりもやばい完全に射抜かれている。

 

最後方から、マフティーのウマ娘に…!!

 

 

 

「(油断してたわけではない。警戒はしていた。だが私に一歩分遅れを取らせるためにヘリオスを利用してさらに畳みかけるこのピンポイントな牽制力を…!!だ、だが、それはつまり…!!)」

 

 

 

ダイタクヘリオスを信じていた。

 

その強さを。

 

それが無ければ成立しないこの現状を。

 

プレッシャー。

 

前方から襲いかかる熱心と、後方から襲いかかる重圧、思わず毛を逆立ててしまうような流れは完成しなかった。

 

 

 

「(ッ、マフティー(マフT)のウマ娘がぁぁ!!)」

 

 

 

思わずだ。

 

思わず、悪態をついてしまう。

 

素直にいえば、怖かったから。

 

こんなの経験にない。

 

こんなの、正しく説明できない。

 

別にこれまでプレッシャーを感じたことの無いレースを走ってきたつもりはない。

 

むしろ皇帝の名に恥じぬ活躍を望まれたプレッシャーだらけのアスリート人生。

 

だから慣れている……つもりであり。

勘違いをしていた。

 

 

これは____駆け引きだ。

 

 

 

これは 期待 と言う重みでは無い。

 

これは…

 

こ、これは…

 

 

 

 

マフティーと言う重みなんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先に行くよ。

ルドルフ。

 

 

 

「っ!!!」

 

 

 

呟いたわけでもなく、目で訴えられた訳でもなく、追い越してしまうその姿が解答。

 

もうアレに追いつけない……かもしれない。

 

 

 

「(まだだ!まだ終わらんよ!!)」

 

 

 

遅れそうになったがまだ距離はある。

 

この直線で差し切る。

 

そして勝つ。

 

シンボリルドルフは目を開き、声を振り絞るようにミスターシービーの後を追いかけて、その声を埋め尽くす大歓声は中山レースの地を揺るがすと、同じ中山(ナカヤマ)の名を持つナカヤマフェスタは思わず飴玉をこぼす。

 

またゴールドシチーはモデル業で歓声に慣れていたが、今回ゴールドシチーの付き添いに甘えてやって来ていたユキノビジンは都会の迫力に目を回していた。

 

それからマンハッタンカフェもG1の歓声に慣れているためそこまで驚かず、あとイマジナリーフレンドが不思議なパワーで耳を緩和していた。

 

だからマンハッタンカフェは夢中になりすぎて爆声の対応策を遅らせてしまったアドマイヤベガの耳を代わりに両手で押さえる。

 

それでも片目を瞑って煩さに堪えるその表情はウマ娘の苦労が伺える。

 

そして唯一、反応が薄く思われるトレーナー。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

ただ、敢然と見ている。

 

変わらない。

 

いつだって変わらない。

 

数年前のミスターシービーの皐月賞も、日本ダービーも、菊花賞も、有マ記念も、天皇賞だって、静かに見守るだけだ。

 

だからマフTはいつでも変わらない。

 

そう思っていた。

 

そう思っている。

 

周りはそう考えて。

 

 

 

 

「……ぁ…ぁあ……!」

 

 

 

 

そう見えるだけ。

 

全てをかき消すような歓声の中で声が密かに震えていた。

 

 

 

 

「ぁ__ぁぁ、ぁ…!!」

 

 

 

 

 

無意識だ。

 

見ている光景に対して、無意識だ。

 

それと同時に 選択 が襲いかかる。

 

走っているこの光景が締め付ける。

 

どうして??

 

なぜならマフティーだから。

 

そしてマフTなんだから。

 

 

 

_頑張っているんだ。

 

_果たそうとしているんだ。

 

_たらしめようとしているんだ。

 

_なのにどうしてこうも揺れ動く??

 

 

 

彼は自分が強く無いことを理解して、カボチャ頭がなければ挑めないことも承知する。

 

理不尽の中で戦えたのは概念があるから。

 

そう言った知識と記憶。

 

ソレは無条件だから、この世界で作り上げたマフティーと言うのは。

 

だから彼自身はそうじゃない。

 

今この場に立っているのはマフT。

 

マフティーではない。

 

だがマフティーなら無条件だ。

 

叫べる筈だ。

 

叫ばなくても伝えれる筈だ。

 

 

やって見せろよ、シービー

やって見せろよ、ヘリオス

 

 

そのくらい簡単だ。

 

ならこのカボチャ頭の重みを思い出してマフティーに染まれば、いつものようにマフティーすることはできる。

 

だから「やって見せろよ」と言え。

 

いつものように言えばいい。

 

そうすれば、間違いない。

 

そうできたらマフティーとして正しい。

 

だから、言うんだ。

 

 

 

そうすれば__

 

そうすれば___

 

そうすれば______

 

 

 

 

 

 

 

「___違う」

 

 

 

 

 

 

 

 

『中山の直線に入りました!!先頭はダイタクヘリオス!!決死の想いで坂を駆け上がり!!そして外からミスターシービーが来ている!!ミスターシービーが来ている!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

やって見せろ___よ

 

 

 

 

 

 

 

 

『だがミスターシービーが追い縋る!!残り200メートルだ!!これが短いかはたまた長いのか!!しかしこの直線は二人の世界だ!!今ここに二人しかいません!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

やって見…せ__ろ___

 

 

 

 

 

 

『残り100メートル!!シンボリルドルフ少しきついか!?ああ!ミスターシービーが並んだ!!いやダイタクヘリオスが前を出る!!だが並ぼうしている!!互いに!互いに!譲らない!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

やって見せ______

 

____

 

___

 

__

 

_

 

 

 

 

 

 

 

 

「__……ば…れ

 

 

 

 

 

 

こぼす。

 

 

 

 

 

 

 

うおおおぉぉぉぉおおおお!!!

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!

 

 

 

 

 

 

はしる。

 

 

 

 

 

 

 

…ん……ば…れ

 

 

 

 

 

 

こぼせ。

 

 

 

 

 

 

 

ウチがぁぁ!!ウチがァァァア!!

アタシが!!!アタシがぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

さけべ。

 

 

 

 

 

 

 

……ん、ば……れ…ぇ…!

 

 

 

 

 

 

 

さけんで。

 

 

 

 

 

 

シービーィィィィィィッッ!!!!

 

ヘリオスゥゥゥゥゥゥッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

さけぶんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

…がぁ…ん、ばれ…っ……!!!!

 

 

 

 

 

 

 

これでいいのか…??

 

 

 

 

 

 

「っ……!!」

 

 

 

掠れた声は、カボチャ頭の中だけ。

 

それは、絶対に響かない。

 

マフティーで無ければ、それは響かない。

 

促せやしない。

 

届きや、しないんだから。

 

だからまたこの便利な頭に頼るのか?

 

それともマフTとして見守るそれが正しのか?

 

なにを…

 

なにを選ぶと言うのか??

 

分からない。

 

分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なら、マフティーで無ければいいんじゃない

 

 

 

 

 

 

 

 

ぇ…

 

 

 

 

声が聞こえた。

 

時間が止まったようだ。

 

それは聞いたことある、声だ。

 

まるで 日曜日の静けさ を思わせる、そんな音。

 

だからこう応えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マフティーのやり方、正しくないよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バサッ

 

 

 

 

 

「ぇ…」

「マフ…てぃ…い?」

「!?!?」

「なっ……!!」

 

 

 

 

握りしめて、それを手離して、ソレは落ちる。

 

 

目を開ければ視界が広がった。

 

 

呼吸しやすいその場所で息を吸い。

 

 

よく見える中山レース場から。

 

 

カボチャ頭を無くしたトレーナーは__叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やって見せろよォォォォ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはあまりにも残酷だった。

 

とても、とても、残酷極まりなかった。

 

このカボチャ頭で選ぶなんてできない。

 

約束を果たそうとする彼女にも。

 

最後を描き切ろうとする彼女にも。

 

どちらかなんて決めれない。

 

そうしなければならないから。

 

そこまで背負ったからこそ、必要だから。

 

でも、それで構わない

 

構わないんだ。

 

この選択を選び取り。

 

ここから地獄だとしても。

 

それでもここにいる。

 

自分自身応え(答え)だとするなら___

 

 

 

 

「ッッ、!!!」

「ッッ!!!!」

 

 

 

 

なんとでもなる筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マフTィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!

 

マフティーィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのレースは同着のように見えたらしい。

 

 

つづく

 

 




 

一人の”マフティー”として考えた結果。

これも一つの『応え / 答え』だと思っている。

ただ、それだけです。








あ、ちなみに写真判定はダークライに任せました。

ではまた


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第45話

オマタセシマシタ!!(実馬)
あとは”例のセリフ”を叫ぶだけや!!


 

 

中山レース場はあんなにも広く、あんなにも外の空気は冷たく、だが会場の熱は冬空を紅い色に染め上げている。

 

初めてだった。そう感じたのは。

 

マフティーの象徴を忘れ、マフTである事を忘れて、何もない俺と言う存在が、ウマ娘が走っていたそのターフに夢中だった。

 

だから狭かったその視界は、正しく狂っているカボチャ頭の中だけだからその重みは拭われたように感じて、カボチャ越しではないこの眼で見渡せたその世界は新鮮だったんだ。

 

そして思わず、この体は叫んだ。

 

この世に導かれた魂がウマ娘に惹かれたから。

 

ウマ娘の重力に囚われようとしたように、その存在はまるで地球の引力のごとく我々達を連れ去ろうとする。

 

真っ直ぐと力強いニュータイプに出会えた安心感を抱いたハマーン・カーンもこのような気持ちだったのかもしれない。

 

それはそうだ。俺だって目の前を駆け征くあの二人に惹かれたんだ。

 

安心すら覚えた、奮えと震えに襲われた。

 

俺のために二人が勝ちを得ようと巡り合っていた。

 

だから選べなかった。

 

けれど選びたかった。

 

軟弱に溺れず選びたかった。

 

だが選ぶなんて、それは出来なかった。

 

委ねる形だった。

 

 

__やって見せろよ。

 

 

そう言って、託した。

 

それはまるで…

 

 

 

マフティー(マフT)のようだったな…」

 

 

 

まるで他人事のように呟いたその日は年が明けて、ふと真夜中に目が覚めた。

 

実家に帰投した担当ウマ娘から年明けの挨拶のメッセージが数件ほど届いていた。

 

それぞれのメッセージに返事しながら厚着して、外に出て、初詣に向かう者達を見送りながら俺は別方向へ足を進める。

 

気づいたら三女神の前に立っていた。

 

それから三女神に背を向ける形で水を貯める石に座み、囚われのない宇宙(そら)を見る。

 

 

 

そして声をかけた。

 

 

 

「君がコレを外したんだろ」

 

外したよ

 

 

 

その場所にいた事に驚きはなく、俺は言葉をかける。

 

寒さを描く白い吐息はここにいる俺だけ。

 

隣の存在は日曜日の静けさを知らせるように白い息は吐かれず、俺とマンハッタンカフェだけがこの存在を理解できる言葉のみこの場に吐き出されている。

 

 

 

「君は悪いことをする。皆はターフに夢中だったから、俺の姿を認知した者は全くいない。誰か一人か二人は俺の横顔か、または後ろ姿を見たかも知れないが、やはりこの素顔は皆が抱いてしまった概念にかき消されてしまった。だからその真実は変わらずこのカボチャ頭の中だ。その結果として俺はあの中山レース場で外した後もこうして何事もなく被っている。また元通りだ」

 

 

「だから少しだけ期待してしまったよ。俺はもう『マフティーで無くて良いのか』と安堵や期待があった。この重みを外せるのかと、囚われることなく、正しい形で地球の引力に惹かれてしまった痛みを知る赤子と変わりない、そんな一人に染まれるのではと願いそうになった。でもまだこの世界はちゃんとした残酷に招かないらしい」

 

……されど、貴方はマフティー

 

「だろうな。そうに違いない。まだ俺はマフティーとして、またはマフTとしてこの世界に促さなければならない。そう言うことだろう。まだまだ俺はこれを被る必要がある。そう、だからだな。少しは君を恨みたくもなった」

 

そうだね、わかってる。……でも…

 

「ああ、わかってる。だからありがとう。あの時、君が後ろから外してくれたからマフティー(マフT)でしか選べなかったこの体は俺自身として叫ぶことができた。最後まで自分を描き切ったミスターシービーと、有マ記念のウマ娘として勝ち得たダイタクヘリオスの魂に、正しい形で惹かれた。これほど嬉しいことはない」

 

 

もう先週の話。

 

有マ記念を走り終えたウマ娘達。

 

特段焦った表情したマンハッタンカフェからカボチャ頭を受け取って、俺は民衆集う中で何事なかったようにまた被った。

 

俺の姿を、もしくはこの素顔を見た者は把握してない。

 

どこかで見ていた者がいたかもしれない。

 

だがイマジナリーフレンド曰く、あの瞬間は全ての視線も、熱意も、声援も、意識も、有マ記念を走るウマ娘達に向けられていた。

 

それはマフティーに惹かれる以上の出来事が目の前にあったから、賞味期限切れのカボチャ頭に視線は合わされず、その味を知っている担当ウマ娘達しかその異常に気づかなかった。

 

 

 

「…」

 

 

 

そしてあの後の担当ウマ娘の反応はそれぞれだ。

 

ゴールドシチーはやや呆れていたが気持ちを汲んでくれたのか俺の奇行に納得してくれた。

 

ナカヤマフェスタも最終的にロリポップを口から落として驚いていたがその意味を理解してたのか分からないが最後は笑って受け流していた。

 

アドマイヤベガはマフティーを知るマフTとして約束した俺の行動を見て何か考えるようにして視線は再びターフの方に戻された。

 

あとゴールドシチーに連れて来られていたユキノビジンはしばらく固まっていただけでその感情はわからない。

 

 

そして…

 

 

__ウチ、知ってる!聞こえた!見えてた!。

__だから!あざまる水産!

__そんなマフTのこと!ウチ!好きっピよ!

 

と、頬を描きながら。

 

 

__聞こえてた。聞こえてたんだ。

__だから、貴方(マフT)のウマ娘に勝ちたかった。

__貴方の道(マフティー)を貴方との願いにして、アタシを残したかった。

 

と、こちらの肩に頭を押しつけながら。

 

 

それぞれを乗せられた気持ちは、それぞれの言葉となって、俺はそれぞれを受け止めた。

 

マフTも、マフティーも、あの一瞬だけ忘れることができた。

 

「どちらを」とか「どちらも」ではない、ハッキリとしない答え。

 

それは結局「マフティーだから」としてあやふやにしながらも意味がそこに存在してるように子供騙しを繰り返して、けれどやはり意味は存在するようになってしまう。そんな流れを勝手に見出しながら、思い描きながら、深くは考えてなかった。

 

だが、後悔は無い。

 

あの時、外せることができた事実がある。

 

あの時、叫ぶことができた事実がある。

 

あの時、ただ一人として見ていた事実がある。

 

カボチャ頭の中で回答を描かない、俺自身が答えでもあったように、中山レース上は真冬の寒さに負けない熱量をこの素肌で感じ取れたのなら、間違いなんかでは無いはずだから。

 

 

 

今年も、マフティーするの?

 

「するだろうな。恐らくは」

 

 

 

年が明けても外してない時点でそれは答えだ。

 

何せもう去年となった最後のレース、有マ記念で外したのにまた被っているから。

 

拾い上げてくれたマンハッタンカフェから受け取って何事もなくマフTまたはマフティーに戻したから。

 

あの中でコレを外せたことに喜びはある。しかしまたコレを被れたことに抵抗もない。それとも慣れすぎた故にそれが普通となってしまったからなのかわからない。外せるなら、外す。被れるなら、被る。

 

結局、選びきれないだけ。

 

地球の引力に囚われた人間そのまま。

 

脚を地面に付けているから仕方なく歩く。

 

そのくらいマフティーはこの世に定まった。

 

しかし忘れてはならない。

 

ただコレはウマ娘プリティーダービーの世界で誤魔化すに便利だったからそうしていただけなんだ。

 

救われるために行った致し方なさ。

 

そこまで綺麗な産物では無い。

 

救いきれなかった哀れな魂が異物なジャック・オー・ランタンと化しただけの話だ。

 

それがこの体、そして魂。

 

もしくはこの世にある因子とやら。

 

マフティーを知ってるファクターなんだ。

 

だからこのカボチャ頭自体大したモノではない。だって。

 

 

 

「やはり、外すと外は寒いな」

 

 

 

こんな簡単に外せてしまう。

 

大したモノじゃない。

 

誰もが百均にある材料で創作できる頭。

 

前世から持ってきたマフティー性をカボチャ頭にしただけで、それが結果的に偶像礼拝のように神格化されただけ。ミスターシービーの頑張りによって世間に促せただけ。

 

見てみろ。中身を見ればなんてことない人間の顔が水面に映るではないか。

 

どことなくテロリストと化したマフティー・ナビーユ・エリンの顔立ちに似ている気がするがあの頃よりも一回り成長した。もう大人だから体に変化はないと思ってたが境遇が合わされば顔つきも変わるらしい。

 

あの頃は随分と弱々しい感じだったから、今はどうだろうか?

 

いや、わかりやしないか、そんなことは。

 

 

 

「……」

 

 

 

脱いだカボチャ頭を見る。

 

コレはマフティーとしての形。

 

概念をわかりやすくした、目印。

 

 

 

()()()()()()、か」

 

でも、間違いではない

 

「矛盾してるな」

 

好きの反対は"嫌い"じゃない。なぜなら好きの反対は"無関心"だから。そして正しさの反対は間違いではない

 

「なら、その反対は?」

 

正しさの反対は"不正"。それは正当ではないと言うこと。まともじゃないと言う意味

 

「それは結局間違いって意味じゃないのか?」

 

正しいとはまっすぐであること。まともじゃないと言うのはまっすぐじゃない歪さから。でも歪なだけで、進むべき道が報いになるならそれは歪みきった道標だろうとも正しくあるんだよ

 

「勝てば勝者だろ、それを言うなら」

 

あなたは正しかった。それがマフティーとしての正しい答え。でも言葉にするなら

 

マフティーのやり方、正しくないよ(歪んだとしても、それは間違いではない)…か」

 

 

肯定とも受け取れて、否定とも受け取れる。

 

どっちも俺であり、どっちも俺じゃない。

 

もしくはマフTでもマフティーでもない。

 

マフティーしていた、俺のみに対する解答。

 

 

 

そして…… どっちも言葉の通り

 

 

 

続く声に手元にあるカボチャ頭から視線を外し、その横を見れば暗がりで表情の見えない日曜日の静けさを思わせるイマジナリーフレンドがこちらを見て続ける。

 

 

 

有マ記念に引き込まれた貴方はマフTまたはマフティーとして見るべきじゃない。真っ直ぐとターフを見ていたのならそこに歪さなんて不正だ。だから言ったんだ。その時の貴方は本当の意味で正しくあってよかったんだと

 

「それでも、俺はトレーナーのつもりだよ」

 

『それは役割。けどあの時の貴方は中央のマフTでも無く、ウマ娘のマフティーでも無い、ウマ娘を見ていた()()()()()()()()()()

 

「…」

 

 

 

その言葉は、恐らく俺を忘れさせてくれる。

 

カボチャ頭を被っていた人間だったことを過去形にしてくれるんだ。

 

 

 

でも、これは…

 

 

 

呪いだからな」

 

 

 

三女神から与えられた怒り、または悲しみ。

 

そして最後は願いとして変化した。マフティーと言う概念がウマ娘の世界に促されたから。

 

だからウマ娘のために始まったんだ。

 

この体は呪われた。ウマ娘の三女神によって。

 

その呪いを再び…被る。

 

カボチャ頭として。

 

また狭くなる視界。

 

そしてほんの少しだけ減ってしまう酸素量。

 

夏は暑さで鬱陶しく、冬はそれなりに便利。

 

それが世間でカボチャ頭を被ると言うこと。

 

 

 

「俺はマフTまたはマフティー」

 

 

 

三女神を見上げて「それから…」と続ける。

 

もうこの世に亡き魂に向けて名を告げて。

 

 

 

「マフティー・ナビーユ・エリン」

 

 

 

それが元々あった名前の正しさ。

 

縮めてマフティー。

 

前任者の魂を乗せれば、マフティー・エリン。

 

呼び名はさまざまだ。

 

でも自分を名乗るなら。

 

 

「この学園ではマフT、それ以上でもそれ以下でもない」

 

 

月を見上げる。

 

月上がりに反射するカボチャ頭の額に刻まれた三つのマークだ。

 

蹄鉄は ウマ娘 として。

 

十字架は 贖罪 として

 

傾いた月は正しさを失った 歪さ として。

 

それを世間に促す。

 

マフティー・ナビーユ・エリン。

 

正当なる預言者の王。

 

俺自体はそれほど大それた存在では無い。

 

だがウマ娘がマフティーを求めると言うのなら、マフTとしてやることは一つ。

 

 

 

 

それと、マフT

 

「?」

 

 

 

 

 

この魂はいつだって__

 

 

 

 

 

「明けましておめでとう、これからもあの子をよろしくね」

 

「ああ。こちらこそ、今年もよろしくな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

応えるために在るのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁー、ふぅー、てぃー」

 

「ンふーッ!」

 

「…」

 

 

ぎゅぅぅぅぅぅ…!!

 

ブンブンブンブン!!

 

 

みしみしみしみしみしぃぃ… と、圧迫されてそこそこ苦しくなっている。

 

現状を整理。

 

ソファーの真ん中に座った俺。

 

そして右腕には有マ記念を最後に駆け抜けたミスターウマ娘が一人。

 

その反対の左腕には有マ記念の栄光を勝ち撮った太陽神が一人。

 

年明けに担当が帰ってきて早々にこれだ。

 

有マ記念が終わった後もこのような状況に発展したのだが、今年いきなりこの状態から始まるとは思わなかった。

 

さて、これが幸せと言える人がいるならその人はとても慕われているトレーナーの一人なのだろうが、かれこれ1時間はずっとこの状態であることを考えると流石に疲れる。

 

あとウマ娘パワーが怖い。

 

これが、G1ウマ娘の姿とでも言うのか…?

 

 

「おいたわしや、兄上……………ふふっ」

 

「カフェ〜?少しは助けてくれてもええやんで?」

 

「遠慮しておきます。重賞ウマ娘に勝てませんから」

 

「あ、はい」

 

 

二人目の担当ウマ娘だけあって今の俺たちに対する扱いを理解するマンハッタンカフェはアドマイヤベガとユキノビジンにコーヒーを淹れながら微笑ましそうに眺めるだけ。こちらを助ける気は無い。

 

またこちらを無視して携帯を弄るゴールドシチーからの助けは期待できない。

 

目線で訴えてもナカヤマフェスタも完全にこちらをスルーして飴玉を転がしながらスポーツ新聞を開いていた。

 

そのため左右からしがみつくこの二人の自制心に期待するしか無いらしい。

 

掛かっているようですね?

一息つけると良いですが。

 

 

「まふてぃー、まふてぃー、なんか色々とまふてぃー」

 

「雑な構ってちゃんだなオイ」

 

「だってぇ!だって!!なんだかんだで負けてお家帰ったもん!!」

 

「痛い痛い!やめい!耳のテシテシ痛い!」

 

「負けたー!まけたぁー!しっかり負けたし!頑張ってまけたんだ!まけたんだよー!負けヒロインだぁー!アタシは負けたヒロインなんだー!うああああああん!!」

 

「痛い痛い痛い痛い!耳元で暴れるな!神経が苛立つ!!」

 

「まぁ、ヘリオスに負けたのなら納得かな」

 

「うわ急に落ち着くな」

 

 

それでも耳のテシテシを止めるつもりないみたい。

 

てか「テシテシ」より「ベチン!ベチン!」って感じの愛情表現なんだが普通にウマ娘パワーで叩かれているから痛い。

 

ヘルメットがなければ即死だった…あ、いや、今なにも付けてねぇや。

てかヘルメットすら無いこの素顔で親にもブたれたことないのに!されてるのか。

 

アムロー、聞こえているかい。

漢は涙を(foo⤴︎)見せぬもの、見せぬもの。

 

 

 

「でも後100メートル距離があったらアタシが勝ってたと思うけどね」

 

「それな!!」

 

「ぐぇ」

 

「あ、めんご」

 

 

ミスターシービーの言葉に同調するダイタクヘリオスはブン!と顔を振り向かせるが、その時にまた耳がベチン!と頬を叩く。

 

に、二度もぶったな…!?

親父にもぶたれたことないのに!!

 

 

 

あ、でも、よく考えたら前任者が過去にビターグラッセからぶたれた事あったな。

 

……どうでもいいわ。

 

 

 

「でも正直に言うともう100メートルあったらウチは負けてたんよ。それは間違いないんね」

 

「全力で2000走った後に襲う中山の坂はキツかったでしょ?あれは足が壊れる」

 

「それな!マフTの施術が無かったらウチのあっしーがムリムリでカタツムリってた!でもお陰でウイニングライブはテン上げでガチアゲの超アゲちゃぶる!!今もあの日の峠超えてんねぇ!」

 

「……峠?」

 

「山!上!下!文字を合わせて峠!」

 

「タカトラバッタ風に言われてもね」

 

「それよりヘリオスさんは峠書けるんですね」

 

「カフェちんひどくね!?」

 

「でも後輩のアタシがヘリオス先輩の勉強教えてんだし、カフェの反応はごもっともじゃない?」

 

「シチーんの援護射撃きたァー!チョーつらたにえん!」

 

 

数日前まで有マ記念であんなに激熱していたと言うのにこの部屋に戻ればいつも通り。

 

ダイタクヘリオスを中心に騒がしい。

 

カボチャ頭の笑みも強まってる気がする。代わりに素顔の俺は時折本気で締め付けてるような痛みに堪えているけれど。

 

前任者、お前の体は思ったより丈夫だな。

 

 

 

「あ、あのぉ…」

 

「「「?」」」

 

「ひぇ!?」

 

「どうしたの?ユキノ」

 

「いや、その、ええどですね?わ、私もここに居ってよろしいのかと思いまして、なんかコーヒーも頂いて、すこぐおいしいんですけど、お邪魔してるのではと思いまして…」

 

「別に邪魔でもないよ?ユキノは友達じゃん」

 

「け、けどぉ…」

 

「まあ、そうね。強いて言うなら…」

 

 

ゴールドシチーの言葉に全員が振り向く。

 

ナカヤマフェスタもスポーツ新聞読みながら目線だけこちらにジロリと見せて、アドマイヤベガはコーヒーを啜りながらも突き刺すようなジト目でこちらに牽制して、テーブルに置いてあるカボチャ頭も俺を見ている。

 

そして、皆が口を揃えて。

 

 

 

「「「マフTの素顔を見たからかな」」」

 

「ひぇぇ、やはり都会は恐ろしいべ!!」

 

 

ダイタクヘリオスを除いた追い込みバ達の眼光に都会慣れしないユキノビジンは怯む。もちろんゴールドシチーやナカヤマフェスタのように脚質が差しのウマ娘もいるけどレースの位置取りは追い込み寄りなのでそこまで変わりなく感じている。

 

なので最後方から貫かれたようなプレッシャーはウマ娘を怖がらせるに充分だった。

 

これがマフTのウマ娘の性能だと言うのか!

 

 

「まあ素顔見た云々は冗談なんだけど、マフTはユキノのことそれなりに気にかけてたよ」

 

「え?」

 

「んぁ…?………あー、まぁ、そうだな」

 

 

そう話題を振られたことで耳テシによる現実逃避から引っ張り戻されて意識はゴールドシチーとユキノビジンの方に。

 

一応聞こえてはいたので気の抜けた表情を少し戻して言葉を送る。

 

 

「まあ、このお喋りの言う通りかな。あの後模擬レースで満足の行く結果を出せたのか気になってたよ。一応走りを見てやった身だ。その後もうまくいってるのか、多少なり…な?」

 

「お喋り言うなバカボチャ」

 

「よく喋る」

 

「はぁてめぇ年明け早々にぶっ飛ばすぞ」

 

「やってみろよ起床難。今年はちゃんと起きれるといいな」

 

「アッタマきた!ヘリオス先輩!シービー先輩!抑えてくれませんか?」

 

「このままでいるから別にいいよ」

 

「ヨロたんウェーイ」

 

「やめろー、やめろー、ウマ娘パワー反対!ちょっと落ち着けシチー!話せば分かる。そう、お喋りだけに話せばわかるから」

 

「ああもう!!うっざ!!!もういい!動くなよバカボチャ!!」

 

「心配せずとも動けねぇよ」

 

 

そう言って軽く耳を絞ったゴールドシチーに真正面からウマ乗りにされる。

 

香水の甘い香り。それから練習で鍛えられたモデル体型の整った体。

 

何よりこの至近距離だと顔は誰もが綺麗だと見惚れてしまうだろうが生憎俺からしたら落ち着きのない子供が気性難しているウマ娘に変わりない。煽ったのは俺だけど。

 

 

「言い残すことは?」

 

「相変わらず綺麗だな、シチー」

 

「それは知ってる。ありがとう」

 

「ああ、どういたしま_痛い痛い痛い痛い痛い!!耳テシやめろ!!本気でやってんじゃねーよ!?」

 

 

ミスターシービーとダイタヘリオスの耳テシが耳ベジに脚質変化して、シチーも追撃とばかりにウマ乗り状態から腹パンしてくる。

 

もちろん手加減はしてくれるけど、向かい合うようにこちらの膝に座るゴールドシチーによって俺はソファーに押し込まれてしまい、なんなら左右にはミスターシービーとダイタクヘリオスの拘束だったりと完全に逃げ場が無くて普通に辛いところさん。

 

もちろんマンハッタンカフェやアドマイヤベガはコーヒーで一息つくことを優先しているから見ているだけで助ける素振りもなく、ナカヤマフェスタに関しては眼中にないらしい。

 

なんならユキノビジンも「濁りねぇ笑顔で心許しきってるシチーさんも美しいべ… 」と何故か見惚れていた。ニューガンダム並みにシチーガールも伊達じゃ無いな。

 

てか、オレ、ニンゲン、ウマムスメ、カテナイ、タスケテ。

 

 

 

私メリーさん、いま貴方の後ろにいるの

 

 

 

気づいたら全方位されてるじゃねーか。

 

おまえら脚質ファンネルかよ。

 

てかマジで何だこの状況。

ユキノビジン関しては上京だし。

 

左右から両腕を圧迫かつ耳テシの刑。

 

目の前は腹パンかつ言葉責めの連続。

 

後ろからは強く感じるだけの視線。

 

残りは放置プレイ決めて助けてくれない。

 

あとシチーガールはヤミノビジンしてるし。

 

 

 

「はぁ」

 

 

 

なんというか。

 

個性豊かな担当ウマ娘に囲まれて。

 

それぞれ想い想いに今年を過ごし始める。

 

それと賞味期限切れのカボチャ頭がひとつ。

 

そして昔は威圧感で怖かったはずの俺。

 

マフティーも随分と安くなったモノだな。

 

そうだろ?三女神。

 

俺はこんなもんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことがあったんけど、都会って時間の流れが早くて激しいんだなぁ」

 

「どうした急に?」

 

 

 

まだまだ寒い季節。

 

あと数ヶ月もすれば学園祭。

 

それまで体を温めようとウマ娘は走る。

 

もちろん、カチューシャをつけたこの子もだ。

 

 

 

「あ、いえ、なんでも無いです。ただ電撃的な加入からもう一ヶ月経ったと思いまして、時の流れって早いんですねぇ、えへへ」

 

「あの時はシチーが掛かっていたようで、なんか悪かったな」

 

「き、気にしないでください!驚きとかいろいろありましたが、自分でも納得した上で加入させていただいたんで、あまり気にしないでください。それに…」

 

「?」

 

「遅かれ早かれトレーナーさんを見つけないとなりません。それで知っているトレーナーさんでしたら私としてはとても安心しちゃいますのでここでマフTさんやシチーさんに気にかけてもらえて良かったんです。まだ新学期なる前の少し早めのスカウトですが、素顔見たうえでスカウトされて良かったとか、勝手に思ったり、色々しちゃって、ええと、なんちゃって、えへへへ…」

 

「納得した上でここにいるならスカウトしてよかったよ。あと、素顔見たことに関しては気にするな。俺は分かったうえでそこに甘んじた。誰も咎められないよ」

 

 

ゴールドシチーはユキノビジンを気に入っていたからあの時あの場所にいた。俺も同行を断らなかった…と言うより、現地入りが早かったからユキノビジンが一緒に来てたことは後から気づいた訳で断るタイミングもなかった。まぁ特に断るつもりはなかったが、でもそれでカボチャ頭が拭われたあの展開だ。

 

しかし今こうしてスカウトされてしまった、またはスカウトした展開がイマジナリーフレンドの思い描いてた通りだとしたら、あの場所で、あのタイミングでカボチャ頭を外させた行為は計算ずくなのかもしれない。

 

ユキノビジンは問題なかった。そう言うことだろうか?

 

わからないな。もしくはたまたまなのかもしれないし、アドマイヤベガと巡り合った時のように俺へ用意された予定(イベント)なのか、それともこの世界の回答なのか、それは三女神すらも図れない事実だろう。

 

 

「でも、マフTさん、よかったです…」

 

「んー?なにが??」

 

「ぇ?…あああぁ!!ち、違うんですよ!そこまで深い意味は無いと言いますか、なんというか、あ、あははは…」

 

「気になるな」

 

「ええ…?!い、いや、大したことでもないんです。なんというか勝手にわだしが生意気ぶってるだけですから…そんな」

 

「生意気かどうかは俺が決めるよ」

 

「そ、そうですか?あはは…そ、そうですか……」

 

「聞かせて。マフティーに何を思ったんだ?」

 

「マフティーと言うより、マフTさんの方でして、その…あのぉ、何というか、その、マフTさんはマフティーすることが中央で必要だからと言うことでカボチャ頭を被ってたと教えて頂いたんですが、でもそれってマフTさんはマフティーで在ることを続ける大変さがあるんじゃないかと思いまして……それで、ですね…」

 

「ああ、心配してくれたのか?」

 

「!!…ぁ、その………………はい」

 

「そうか、ありがとうな」

 

「い、いえ、とんでもないんです」

 

 

マフティーすることも、マフTであることも慣れてしまったと言えばそれは間違いなんだろうけど、俺が征く道としては正しくなった。そして正しく狂うことができた。この世界だからこそ出来たことだ。だからユキノビジンが心配する必要はない、そう考える。それにマフティーとしての孤独な重圧はもうないんだから。

 

 

「あ…その、やはり、お尋ねしたいと言いますか、聞きたいことと言いますか、もしかしたら失礼なんじゃないかと思いまして、迷いまして…」

 

「言ってごらん」

 

「!!…はい。え、ええとですね。こう、なんというか、去年の有マ記念で叫んでたマフTさんを見て、実はホッとしたんですよ」

 

「ホッとした…?」

 

「はい」

 

 

そういった彼女は笑う。

 

いたって普通に笑う。

 

俺に対する安堵が込められたようで。

 

 

「マフTさんも、普通なんだなぁと」

 

「!」

 

「自分の事を重ねるように語って失礼するんですけど、私って見ての通り鈍臭くて、世間知らずで、シチーガールに憧れる特別なんて何一つないわだすですが、故郷の皆が応援してくれるから、そんな皆にこたえようと故郷に錦を飾りたくて、それで上京してきただけのウマ娘なんです。ほんどうにそこらへんのウマ娘。だからですね、マフティーに集う者って特別だからなんだと思ってたんですけど、いつだったかシチーさんに教えられたんです。案外あの場所はそんなことないって」

 

「やはりお喋りだな、アイツは」

 

「あはは… で、でも色々と良いことを教えてくれるんですよ。マフTだろうと、マフティーだろうと、そこに大差は無いんだって言ってくれたんです。特別に見えてそこまで特別にならない。カボチャ頭が他者を敬遠させるけど、案外身近なんだって」

 

「…」

 

「それが有マ記念でわかったんです。マフTさんがカボチャ頭外して、大きく叫んで、担当ウマ娘の名前を喉の奥から。そう見ると周りの人たちと変わらなかったと…」

 

「そうか」

 

「はい、そうです……え?…ああ、ああ!!べ、別に悪い意味じゃないですよ!?マフTさんが変だとかそうじゃなくてですね!?ただわだすは!!」

 

「ユキノビジン」

 

「は、はい!」

 

「君は名前の通りに、そう…いい女(美人)だな」

 

「ふ、ふぇ…?」

 

「君がそう感じたのならそれは正しい。なにせ俺自身もそこまで大それた者だと思ってない。やること成す事は狂いに狂って、でもたらしめることが出来た。けどそこにミスターシービーがいたから成り立った。俺はカボチャ頭を被って怖がらせていただけ。カボチャの中身は味気ない男がいたんだ、それだけさ」

 

 

 

何度も言う。

 

俺は一人では何も出来なかった。

 

ミスターシービーがいたから。

 

もうチームを抜けた彼女がいたから。

 

だから俺は今があるんだ。

 

彼女()がここまで背に乗せてくれたから。

 

 

 

「でもですね!こ、これは確かなんですよ!」

 

「?」

 

 

しかし悲観する暇もなく、彼女は続ける。

 

 

 

「マフTさんがいたお陰が学園にいっぱいあるんです!その中身が味気無い人物だろうとマフTさんがソレをやった!それが大事なんですよ!だからシチーさんはあんなに走っているんです!だから特別だからとかそこに関係ないんだって思えたのなら!わ、わたしだって!上京してきて私だって出来るはずです!中央で!」

 

「!」

 

「わたし!中央で走りたいです!普通でも構わないです!特別でなくても!味気無くても!走れる脚があるなら信じるっべ!私でも!ユキノビジンでも!なんとでもなるはずだ!そうに違いねぇんだ!」

 

「__!!」

 

 

 

 

ああ、そうだな。

 

特別でなければならない理由は無い。

 

集ったウマ娘がマフティーのウマ娘だからとか色々と言われるけど、別にそうじゃない。

 

このカボチャ頭を目印にして、ウマ娘がそのマフティー性に触れて求めるとしたら、応えてあげるのが役割なんだから。

 

そうすれば、いずれその名前が世界の中で特別になる。

 

中央のマフTと言われるように、ミスターウマ娘と言われるように、太陽神と言われるようになって、その後も少しずつ名前が広がる。

 

なら最初から普通で、それは正しい。

 

 

 

「ユキノビジン」

 

「!」

 

「君の目標は故郷に錦を飾ることだったな」

 

「そ、そうです!」

 

「なら、飾るか、その名の通りに」

 

「うぇ?」

 

美人(ビジン)だろ?ならその名に合ったオークスくらいは勝ってみせよう」

 

「!!」

 

 

 

俺は最初、違う意味で特別だった。

 

呪い殺されると言う意味で普通じゃない。

 

普通に憧れたし、普通を目指していた。

 

だがこの魂は役割だ。

 

マフティーを知っていたことによる歪み。

 

そしてカボチャ頭の色に染まった。

 

それが今の俺。

 

マフTまたはマフティー。

 

けどカボチャ頭を外せるくらいにはまともを受け入れて、再度被ってしまうくらいにまだまだ狂い続ける。

 

それが俺からしたら普通なこと。

 

でも忘れない。

 

俺は大した生き物じゃない。

 

腕に刃物を突き立てれば血は流れ、地面は赤く滲み、赤子の頃の痛みも思い出せる、痛みを理解する周りと変わらないヒト。

 

沢山だ。俺は人間で沢山だ。

 

普通であるんだから。

 

そして特別からそう遠くない存在。

 

もしくは俺の知る特別は実はそこまでかけ離れてないかもしれない。

 

それを知るいい機会かもしれない。

 

なにせ答えは一つじゃない。

 

応えることだって一つじゃないんだから。

 

 

「素顔の中を知った君なら、この特別とそう遠くないと強言ができるなら君は走ってみるか?この味気ないトレーナーと共に」

 

「ッッ!!や、やるっぺ!!やるんだ!!それが大変だろうと上京してここまで来たんだ!!雪国根性でいてこますっぺよマフT!!」

 

 

 

 

____なら、そこまで言うなら。

 

 

 

 

 

「やってみせろよ、ユキノビジン」

 

「なんとでもなるはずだ、べ!」

 

 

 

 

笑ってしまうほどに相変わらず呪いのような言葉だけど、根性論から始まるこの熱意はいたって普通な賜物で、それでいて特別感はない。でもこれは間違いなんかじゃない。

 

まだ降り積もろうとする雪の中で美人のウマ娘が意気込む。

 

またこうして応えようと冬空かき分けて動き出しただけの話。

 

マフティーする。

 

そういうことなんだ、この体と魂は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北から上京してきだ

わだしは

ユ キ ノ ビ ジ ン

 

雪国根性で駆け抜けて!

故郷に錦を飾ってみせるっぺ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

G   ゴールドシチー

 

U   ユ キ ノ ビ ジ ン new‼

 

N  ナカヤマフェスタ

 

D  ダイタクヘリオス

 

A  アドマイヤベガ

 

M  マンハッタンカフェ

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 




 

 
シチー「お前も『家族』だ(腹パン)」
ユキノ「!!?」

特別な何かがあったわけじゃないが、それだけ孤独に抱えていたマフティーと言う引力から離れていて、一瞬だけだが周りと同じになる。そう感じた彼女は案外マフティー性があるのかもしれない、そんな最後のウマ娘の加入だった。




長かったぞ!!ここまで!!!

ではまた


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第46話



___閃光のハサウェイが上映されて。

まもなく1年が経とうとしている____




 

 

 

「たづなさん、大事なお話があります」

 

「はい、なんでしょうか、マフTさん」

 

 

「「「「!!!??」」」」

 

 

何故かどよめきが起きる職員室。

 

別にそう言うことでは無いのだが…

 

 

 

 

 

さて、ユキノビジンをスカウトしてから真冬の寒さは穏やかになり、多少なり暖かくなる。学園の木々は芽を咲かし始める。

 

そんな俺は相変わらずカボチャ頭を揺らしながら学園内で脚を進めると道を開けてくれるウマ娘達がこの姿を見て様々な感情を、表情から、耳から、尻尾から色々と見せてくれる。

 

大半はもうカボチャ頭がいることに慣れたのか揃って「お疲れ様です!」や「こんにちは!」のように挨拶を交わしてくれる。

 

未だ警戒する者もいるが、四年前と違って学園に在籍するウマ娘の半数は入れ替わり、今となってはカボチャ頭のマフTが中央に所属している姿が見られて珍しいと思われる、それだけの話だ。

 

まあそれでもマフTまたはマフティーの実績はとてつもなく大きく、ベテランの東条トレーナーとは違ってこの恐れ多さに去年新しく入ってきた桐生院葵のように腰を低くするウマ娘やトレセンの新人役員は一定数存在してしまう。こればかりは仕方ないところだが…

 

 

「まー、ふー、てぃー!」

 

「おい!走ると危な…っと!」

 

「んフー!」

 

「まったくコイツは」

 

 

尻尾ブンブン、頭はグリグリ、周りに見せつけたかのようなコレのお陰で多少なり緩和される。

 

時代は変わってもギャルに優しくされてしまうマフティーの姿は変わらないらしい。

 

本当はウマ娘との距離は近すぎず、また離れすぎずの間隔を作った方が指導者として好ましいが残念、このウマ娘は既に最初の段階でゼロ距離である。今から修正なんて出来るはずもなくこのウマ娘にそれは不可能だ。周知事実だが。

 

彼女の愛嬌に諦めて頭をひと撫で、ふた撫でしてからその場を去ろうとして、ご機嫌な太陽から「ウェーイ!」と適当な声援を背中に受けて職員室に向かう。そして見つけた。

 

俺は彼女を呼ぶ。

 

たづなさんだ。

 

いつものスマイルを崩さずに対応に当ろうと近くまでやってくる。

 

 

 

「前から保留していた件なのですが、有マ記念も終えて落ち着いた今、やっと返事ができます」

 

「わたしに()()()ですか?」

 

 

 

「「「!!?」」」

 

 

 

__オイオイまじか?

__これはまさかですか?

__君の視線を釘付けにする…

__たづなさんとマフT??

__いや、むしろアリでは??

__二人にしか伝わない物ありますからね…

__しかしねぇ、職員室での大胆さは若者達の特権なんだから…

__よくしゃべる!!

__バン!バン!バン!(台パン)

 

 

急に職員室がざわめく。

 

なんだろうか?

まあいい。

 

 

 

「たづなさん」

 

「はい」

 

 

「「「!!!」」」

 

 

姿勢は正しく、それは一人の職員として。

 

緑の帽子がトレードマーク。

 

また、その帽子の中がトキノミノルであることを知るのは俺や秋川やよい理事長、また東条トレーナーのような方くらいだろうか。あと学園を卒業するマルゼンスキーも知ってるらしい。

 

そんな彼女の眼をしっかりまっすぐと見る。

 

優しい目だ。だが厳しい世界を走り抜けてきた強者でもある。だから頼もしい。

 

あと何故か職員室の者は何故か息を呑む。

謎の緊張感が漂う。

 

そして、俺は口を開き。

 

 

「お返事とは、チーム名の事です」

 

「あら、やっとですか!」

 

 

「「「「だぁぁ、そっち…!!」」」」

 

 

至って普通の話。ある程度の実績とある程度のウマ娘のスカウトを住んだトレーナーはチーム名を欲して、そこから一回り奮起する。

 

この学園ではよくある事だ。

 

昔はチーム名を持つ、イコール、地位的に偉く権利があると言うアホみてーな習わしがあったが、今は誰もが実績を示せば手に入れることが出来る。

 

だからと言って今は特別な特典は備わるとかそんなことは無いが、持てる実力を知らしめるにはチーム名はわかりやすい。東條トレーナーの場合リギルと言う名を聞けば誰もが理解する。

 

そんな感じだ。

 

なので今となっては普通な話。

 

そして個々による決定。

 

まあそのためか俺は皆の何かの期待を裏切ったらしく、聞き耳を立てていたトレーナー達はギャグ漫画のような形で何人か転げ落ちて、たづなさんも何事かと振り向く。

 

だが桐生院葵だけはなんのことか分からずど真ん中でキョロキョロとオドオドとしていた。

うん、なんだろう。

まあ、君はそのままでいて良いよ、葵。

 

 

「チーム名?」

 

 

東条トレーナーだけは落ち着いて呟いた。

 

ああ、その通り。

 

あなたに リギル があるように。

 

俺たちのチーム名を決める。

 

それだけの話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー、学園祭でサプライズか」

 

「ああ、ファンサービスのための学園祭だ。そのくらいはやらないとな」

 

 

いつも通りながらこのトレーナールームではカボチャ頭を外している。

 

ちなみにこの素顔は見られる心配はしていない。担当ウマ娘やたづなはともかくとして、もし他のウマ娘がこのマフティーを暴こうとイタズラ心でこっそり見に来たとしても、この体はニュータイプ故にウマソウルは壁越しだろうと捉えてしまう。マンハッタンカフェの飲み物がその効果を助長してくれる。

 

なのでこの素顔を見られるリスクはなく、たづなさんを除いてこれまで見られたことはない。

 

ちなみにたづなさんの時は彼女がトキノミノルだった現役から遠く離れてたのでウマソウルはまったく感じ取れなかった。それであの時は扉の開けっぱなしだったか何かしらの原因があって、結果的に一つの事故として見られてしまったが基本はノックしてくれる。てかそれは大人として当然の事だとして、まだ未成年な学生は仕方ない。

 

だがその心配はあまりなく、仮に何かあってもイマジナリーフレンドが何かしらして、何かしら起きて、ウマ娘に何が起きて、何かしらで回れ右するらしい。

 

それが原因でマフティーを探ろうとする愚か者は何かしらで罰されてしまうらしく、授業中は延々とシャープペンの芯が折れ続けたり、消しゴムを忘れたり、黒板消しにぶつかったり、ノートに書かれた黒歴史を見られたり、何かしら祟られるらしい。

 

おかげでトレセン七不思議の一つに入っている。

 

マフティーはそうじゃないんだけどなぁ…

 

とりあえず俺はこの部屋で担当ウマ娘やたづなに素顔を見られる心配もなく、目の前のテーブルにカボチャ頭と暖かい飲み物を二つ置いている。

 

そして腰掛けたソファーに並んで二人だ。

 

隣はミスターシービー。

 

 

 

「それで、この話を聞いたからにはシービーも踊るだろ?」

 

「当たり前じゃん!レースと同じくらい楽しいことがあるのに仲間外れとか嫌だよねミスターパンプキン?まあ既に仲間から外れた身ではあるけど」

 

「でも未だ遊びに来る辺り、君の心はまだここに在るんだろ?前も無意識にジャージを着て集合していた」

 

「あはは!そりゃ着ちゃうし、来ちゃうよね。ほら?だってアスリート卒業してもアタシはマフTの愛バなのは変わりないし、アタシがここに来ても違和感ないよね?なんだったらカフェもいつも通りコーヒー出してくれたし、ヘリオスもカモンカモンとうるさかったし、シチーもマニキュアでユキノと一緒に軽く手入れしてくれて、ナカフェスは少し驚いてたけどそれが当然とばかりに頷いてたし、アヤベはちょっと呆れ顔だったけど生意気だから抱き枕にしてやった。ここはアタシにとって一つのお家だよ」

 

「別にチームを卒業したウマ娘が来てはダメと言う決まりはない。君が来たいと言うのなら拒む者はいないさ。…ある程度の限度は考えてな?」

 

「限度ねぇ、限度かぁ…… じゃあ、限度に囚われない理由があれば良い訳ね。ふーん、なるほど… って言うことで」

 

「はぁ…?」

 

「まあまあ!そこはとりあえず良いじゃん!それでさ?今年も学園祭で踊るんでしょ!マフティーダンス!!」

 

 

そう言った彼女の尻尾が大きく動き出す。

 

マフティーダンス好きだからな、この子。

 

おかげでハロウィンの商店街では歌のお姉さんと化したし、どれだけマフティーは影響受けたのやら。

 

 

 

「踊るよ、今回は俺もな。振り付けも変えて」

 

「本当!?今年はマフT踊るんだ!」

 

「そしてサプライズとして応援してくれる者にも報告もする。俺たちの結果をな」

 

「!!」

 

「マンハッタンカフェ、ダイタクヘリオス、ゴールドシチー、アドマイヤベガ、ナカヤマフェスタ、ユキノビジン、この六人から始まる俺だけの知っている象徴を。それはカボチャ頭がマフティーと言う名のように必要なことだ」

 

 

 

そう、この六人だから思いついた名がある。

 

これは運命だろうか。

 

 

 

「……アタシは?」

 

「?」

 

「いや、なんというか、その担当六人が主軸とするなら、アタシは必要なのかな…と」

 

「いや必要だよ。だって…」

 

 

 

飲み物を一度飲んで、手元に収める。

 

彼女を見ながら。

 

 

 

「君は__俺と一緒だからな」

 

「〜〜!!!」

 

 

ソファーで隣同士に座っていた彼女の尻尾が勢いよくピーンとする。

 

その衝撃で飲み物が揺れて、指に溢れる。

 

少し熱い。

 

 

「あ、あ、ぁ、ご、ごめんね!」

 

「気にするな。良い感じに冷めていた」

 

「あ、うん……うん!うん!うんっ!!」

 

「なんだい?」

 

「ぅぅ!セコイ!マフTってやっぱりウマたらし!セコイ!セコイよ!なんでそんなこと言うかな!もう!もぉう!もう!」

 

「痛い痛い痛い、耳テシやめろ」

 

「ふーんだ、ふーんだ!ウマたらしのバカボチャ頭。君はそういう人だったね。ふん!…それで?何がアタシと一緒なの?」

 

 

ミスターシービーは座ってる位置から一気に真隣に引っ付き、密着したまま耳でテシテシと叩いてくる。

 

フサフサするけど叩かれたらそりゃ痛い。

 

それから先程までピーンと伸ばされていた尻尾はしなやかに伸びると腕に絡みつき、この場で独占欲が発揮される。

 

さて、言い放った言葉は特に誇張したつもりはないが、とりあえず説明するべきだろう。

 

 

「少しややこしいけど意味はある。今の担当ウマ娘が六人と、そしてシービーと俺が一緒である意味。それは次のステージに進むからこそ、その意味を込めた」

 

「どう言うことかな?」

 

「コレと言って難しくチーム名を付けたわけじゃない。だけど運命のように集われた気がしたのならマフティーに因んだもう一つの言葉を乗せても良いと思った」

 

「うん」

 

「だけど、その名を、その形を、その道を、その光を、その頭を、これまで作り上げてきたのは間違いなく俺とミスターシービーの二人なんだよ。俺たちが原点なんだ、コレは」

 

 

目の前のカボチャ頭を見る。

 

内側にワイヤーを通して固定しているが、年季物故に少しくたびれている。ちょっとだけ斜めに崩れているソレは、当時の苦労を思わせる。

 

呪いに振り回された傷跡。

 

俺一人がソレを抱え、しかし隣にいるミスターシービーが俺ごと背負ってくれたから、カボチャの馬車は大きなお城にたどり着いた。

 

このトレーナールームがお城と言えるほどなのかは分からないが、今やっと本当の意味で俺たちは()()するんだと思っている。

 

そこまで立ち上げてきたのはこのカボチャ頭とこれを被った俺と隣にいるウマ娘。

 

マフティーのウマ娘。

 

俺の愛バ。

 

その名は……ミスターシービー。

 

そうでなくては始まらない。

 

 

 

「このチームは大々的に告げる。皆がここにマフティーが存在することをわかるようにな。でもそこには君を必要とする。そして俺は君の隣に立ち、君が俺の隣に立つ必要がある。だからさ…」

 

「うん…」

 

マフティー(王 / クスィー)ために俺と描いてくれないか?」

 

「…」

 

 

 

それは呪いの言葉だ、彼女にとって。

 

何せ、彼女はマフティーに惹かれたから。

 

それを被る、俺について来てくれたから。

 

 

 

アタシね………………悔しかったんだ

 

 

 

俺の願いに対して、彼女は零す。

 

 

「有マ記念でね、ヘリオスに負けてね、マフTに負けてね、それでね、それでね、マフティーでは勝てなくて、それが悔しかったんだよ

 

「ああ」

 

「あの場所でカボチャあたまを外しくれたあなたにアタシは最をこぼしたんだ。でもね、こたえてはしりきった。そのつもりなんだよ」

 

「ああ…」

 

「こうかいはね、いつもり。はしりきって、はしって、はしったから、ね。でも、あたしね、あはは、あたしさ、またさ、あのとうにね、ま、まふてね、いわれたら、ね

 

 

 

震える。

 

震えて。

 

 

 

「あたし、こまるなぁぁ 、あ、あは、ははは,ぅ、ぅぅ…

 

「そうか…」

 

 

 

目線をマグカップに向けて、俺は頷く。

 

横にいる彼女の、弱々しい声は聞くだけ。

 

見ないようにして、その気持ちを受け取る。

 

 

 

__視線を合わせない方がいい。

 

 

 

腕に絡みついている尻尾は弱々しい、けどその声に比例して震えている。

 

横にいる彼女は手元にあるマグカップの温度よりも、指に零れ落ちた水滴よりも、いまは小さく小さく、熱く溢れている気がするから、今は視線を合わせない方がいい。

 

 

 

 

 

そして、しばらくして、落ち着いて。

 

ほんの少しだけかすれた声と涙を拾い上げて再度問いかける。

 

 

 

「手伝ってくれるか?」

 

「うん」

 

 

淡々と、迷いなく答えが返ってくる。

 

それは囚われのない彼女らしさ。

 

 

「マフティーがサポートとして欲しいなら、どんなの雨の中でも、泥を被っていたとしても、君はアタシを必要とさせるからね、この先もね」

 

「… 意味を示したいと言うマフティーだった俺のワガママであって、そこまで重くのし上げたつもりはないぞ?」

 

「ダメ、決めたから、今、これ絶対だから」

 

 

そう言って弱々しかった尻尾は再び独占欲を発揮したごとく強く締め付ける。

 

でも痛みはない。

 

だが尻尾の芳しさを擦り付けるようにやや強めに、だ。

 

 

「レースに絶対は無いことを知らしめた君が、絶対と言うんだな」

 

「うん。そうだよ。だから……ふふ!コレで限度に囚われない理由ができたね!よし、完璧!コレでまだここに入り浸れるってことだ!それで良いよね?ミスターパンプキン、君がアタシにタブーを犯したんだからさ!」

 

「それを破るのも君だったな」

 

「あはははは!」

 

 

元気を振る舞う。

 

もう湿らせる必要もない。

 

 

「大丈夫だよ。別に学業も疎かにしない。手隙が有ればそれなりに学園のお手伝いするし、ちゃんとはする。それなりに」

 

「それなりにか」

 

「アタシは自由が好きだから。エレベーターのようなモノは苦手だけど」

 

「それは初耳だな」

 

「そうだっけ?でもそうかな。マフTは走ってばかりのアタシを知ってる。そんなアタシの脚をマフTはなんでも知ってくれている。でもコレからはチーム名を支えになろうとするアタシがいる。ならこの、脚は、もう大舞台で走らないけど、アタシの知識と経験が、そしてマフTが落としてこんでくれた賜物があるならアタシはこのチームを少しでも強くするよ」

 

 

 

 

腕に巻かれた尻尾は解放される。

 

その場を立ち上がり、こちらに振り向く。

 

シルクハットのCとBを揺らして。

 

口元に人差し指を添えて。

 

微笑みながら顔を少しだけ傾ける。

 

そして、彼女らしさを差し出した。

 

 

 

「ぁ__」

 

 

 

懐かしさだ。

 

腕から香るまだ知らなかったウマ娘の記憶と合わせてあの頃を思い出す。

 

 

 

 

 

__君もトレーナーさんかな?

__どう? 楽しい走りに見えたかい?

__それとも…

__ただ、すごかった様に見えたかな?

 

 

 

 

そう、確か、これは…

 

彼女らしさだった。

 

初めて見た時に、マフティーは始まった。

 

覚えている。

 

ちゃんと覚えている。

 

あの頃のターフの香りも。

 

雨が降り始める天候も。

 

ほんの少し濡れた雫も。

 

そしてこのウマ娘が、ウマ娘で沢山なことも。

 

 

 

 

「君と……言う奴は…」

 

「アタシすらも原点であることをマフティーが促すと言うのなら、それを応えるのがマフティーのウマ娘なんだってね」

 

「俺のように理由をこじつける。随分とお偉くなったな?」

 

「だって、アタシもマフティーだから!!」

 

 

 

 

 

そう言った彼女はあの頃と変わらなかった。

 

俺の知ってる、ミスターシービーだ。

 

それは、ターフで走らなくなっても。

 

マフティーとして君はまだ奔る。

 

ああ、そうだね、シービー。

 

君はそういうウマ娘なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

そして。

 

 

それから……そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日は跨ぎ、大型の体育館。

 

年明けに一回、いつもなら三女神の像が見える場所に、少し小さめの舞台を設立すれば観客が3か400人程度立ち止まって見えるくらいには確保されていたが、この日は違う。

 

その数、四桁は収まるだろう大型の体育館に外は中が見えるモニターが建てられて、人の騒ぎすらかき消す音響で今日は手応えバッチリ。

 

時間になり会場の明かりが消える。

 

いよいよ始まる大イベント。

 

左右から、大音の引き金が引かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やって見せろよダービー!! 

 

 

 

 

右から、男性の声だ。

 

落ち着いた声たが、熱が込められた。

 

誰の声だろうか。

 

何人かは予想して、予想通りであり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとでもなるはずだ!!

 

 

 

 

左から、女性の声だ。

 

活発さを感じさせる、素敵な響き。

 

誰の声だろうか。

 

誰もはコレを予想して、予想通りだ。

 

 

 

 

 

 

 

「「「「__!!!!!!!」」」」

 

 

 

音響と興奮で埋め尽くされる体育館。

 

既にボルテージは最高だ。

 

今はまだ、静かにする必要がある。

 

でも抑えきれない。

 

抑えきれずに既に何人かは立ち上がっていた。

 

ソレに釣られて、先行する。

それとも『閃光』すると言った方が正しいか。

 

ペンライトは真っ暗な会場を閃光で埋めつくした。

 

そしてステージは弾ける大型クラッカーと共に明かりが照らされる。

 

そこにいる六人と、二人がポーズを取っている。

 

真っ黒のジャージ姿。

 

シンプルながらも格好良さとスタイリッシュさを兼ね合わせているが、それを打ち消すようにカボチャ頭のお面が。

 

 

 

彩りよくデコレーションされたお面

 

漆黒の色を織り交ぜた不気味なお面

 

魅入らせる如く妖艶に飾られたお面

 

一等星の輝きを大きく描いてるお面

 

飴玉のために下半分割っているお面

 

雪化粧したような冬を延長するお面

 

 

 

そして、CとBを飾った小さなシルクハットを被るおかげでそのウマ娘の正体は誰もが理解するがカボチャを被るこのウマ娘はマフティーであることを促し、その隣には正真正銘のマフティーが立っていた。

 

 

 

 

ここに、始まった。

 

本当の意味で始まったんだ。

 

誰もがそう感じて、誰もがまた理解する。

その言葉から、次は自然と促された。

このチーム名は会場全体に。

またトレセン学園全体に広まった。

誰もが言った。

マフティーに集われたこの名前を。

マフティーに囚われた皆が驚いた。

それは決まったように。

ウマ娘がこの世に存在するように。

 

 

叫ばれたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

やって見せろよダービー!なんとでもなるはずだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

G U N D A M

ガ ン ダ ム だ と ! ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはいつまでも語り続けられる、(クスィー)ガンダム。

 

カボチャ頭がある限り…

 

その存在がこの世界に促していたのだから。

 

 

 

 

そして、幾度無く月日が経った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回___最終話。

 







みなさん!いよいよお別れです!
世間を促すマフティーは大革命!
しかも、チーム名ガンダムへ姿を変えたウマ娘が!
URAに襲い掛かるではありませんか!
果たして、全ターフの運命やいかに!?
ウマ娘プリティーダービー最終回!
『ガンダム大勝利!希望の未来へレディ・ゴーッ!!』


ではまた


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第47話(おわり)

 

むかーし、むかし。

 

あるところに。

 

……いや、そこまで昔でも無い話。

 

それは指で数えられる程度に時間が流れた話であるが、それでも未だ人々の記憶に根付くとある歴史。それは始まった革命の二文字。

 

誰もが出来ないことを成し得たとある異端なトレーナーの話。ウマ娘の走りに魅入られた者ならば誰もが聞いたことある不思議な名前。

 

それは偉業の言葉に相応しい。

 

しかしある程度の時間も経ち、人々の中で「それは凄かった」と言える位の平穏に落ち着けば、その名前は日常の中でなんとなく呟かれる程度。

 

故にカボチャの如く賞味期限は切れてしまう。

 

食べ慣れた味はいつしか特別から普通なモノへと世間で変わり果てる。

 

それが世の中の流れ。

 

話題は新しさを求めて次へと動く。

 

それは正しい。

 

新しさを求め、新地点へと目指すのが生き物としての定め。

 

そう… 例えば。

増えすぎた人口をコロニーに移し、宇宙の深さと広さに魅入られた者達と、新しさを得ようと人類と、重力から解放されるためにヒトは進化を遂げようとする、そんな物語があるように次へと目指す。

 

それは宇宙世紀であろうと、ウマ娘プリティーダービーであろうと、もしくは史実通りに描いた馬達であろうと、皆等しく、次へ、次へ、と運ばれていくだろう。

 

この世界ではその出発地点にカボチャ頭があったことを時折思い出しながら、ウマ娘達は次の物語へとターフを踏みしめて目指していた。

 

 

無数の宇宙と共に。時は流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、広い、ここは何処なんだろう?」

 

 

 

新品の制服を揺らしながら学園を彷徨う。

 

中央の門を叩き、夢を抱いてこの学園に入ってきた。

 

しかしあまりにも広すぎるこの学園は誰もが必ず一回は迷子になってしまう。色んなものがある。色んなものがあり過ぎるから。

 

だから広すぎるこの学園の何処かで今は右往左往している。コレが中央と言う規模なんだろうか。

 

しかし冷静に状況分析するほど不安になる。

 

どこかこの学園全体がわかる見取り図は…

 

 

 

「ねーねー?どーしたの?」

 

「!」

 

 

するとひとりのウマ娘から声をかけられた。

 

活発な声に振り向けば春の香りが漂う。そこにはこの学園で指定されたジャージを着こなしたウマ娘が一人。見たところこの学園に在学する先輩だ。そして頬につけた絆創膏などや鉢巻は厳しい練習を乗り越えてきた証だろう。

 

しかしその眼は桜色に染まった強い意志を感じる。乗り越えてきた者の眼差し。

 

 

「え、ええと、迷子になりまして…」

 

「あ!そうなんだ!えへへ、でも仕方ないよね。ここは広いから!学園祭に来た人たちも良く迷うんだ。私も最初はよく迷ってたよ」

 

「はい、本当にすごいところですね」

 

「うんうん。あ、ところで何処かお探しかな?よかったら案内しようか?」

 

「ほ、本当ですか!?…ええと、ですね。ここに向かいたくて…」

 

「およよ?おお、なるほど、ふむふむ。だったら丁度いいね!実はその場所まで向かおうと思ってたんだよ!だから一緒に行こうよ」

 

「え?あ、はい!」

 

 

案内してくれるそのウマ娘は目的に向かおうと軽くその場でターンを行う。

 

そして一歩前に軽く踏み込んだ。

 

 

「!!」

 

 

踏み出されたその音は違った。

 

ただその場から一歩前に出てだけ。

 

しかし、見て、聞いて、理解する。

 

その脚並みは果てしない。

 

中央のウマ娘だ。

 

 

「こっち、こっち!」

 

 

風を切るように。

 

いや、砂塵を切り込むように見える。

 

そしてその走りを見て思い出す。

 

そう、確か___このウマ娘の名前は。

 

 

 

「あ!トレーナーだ!ちょっど良かった!」

 

 

案内してくれた先輩ウマ娘がひとりのトレーナーを見つける。それから嬉しそうな駆け足。

 

 

「どうした?」

 

 

歩きながらタブレットを確認していたそのトレーナーはこちらに気づいて声を返す。すると案内してくれた先輩のウマ娘は手を振りながら嬉しそうに近づく。見たところ普通の男性。

 

なんてことなさそうな、中央の関係者。

 

だが…

 

 

 

「!?」

 

 

 

一瞬だけ。

 

一瞬だけ感じるプレッシャー。

 

何だ?

今のは…

 

近づこうとする脚が一歩分拒む。

 

怖いから? いや、わからない。

 

だがこれ以上近づいたらどうなるか。

 

何かが警戒して、何かが警告する。

 

わ、わからない。でも何故かわかってしまう。

 

その男は__危険人物だ。

 

ウマ娘と言う存在はその男に深く溺れさせられてしまいそうな、普通とは違う異質な感覚。

 

ならウマ娘である自分はその男に近づいて大丈夫なのか?

 

わからない。

 

 

「?」

 

 

踏み出せない足と戸惑いながらもタブレットに吊り下げられたキーホルダーに目が入った。

 

 

 

「あれは…」

 

 

不気味に笑うカボチャ頭のアクセサリー。

それから『C』と『B』の二文字も添えて。

 

どこかで見たことあるトレードマークだ。

 

それがトレーナーの手元で一緒に可愛らしく揺れていたから不意に感じた恐ろしさを緩和させてくれた。あと人懐っこく耳をぴょこぴょこさせながら足元まで擦り寄る先輩ウマ娘は尻尾を嬉しそうに揺らしている。この雰囲気からしてトレーナーが悪い人に見えず、少しだけ近すぎたような距離感を除けば普通だ。

 

なら今一瞬だけ感じた恐ろしさはなんだったのか?もしくは()()()中央なのか?

 

 

「あのねトレーナー!この学園の新しい子を案内しているんだけどね」

 

「そうか」

 

 

するとそのトレーナーはタブレットの電源を落としながらこほんの数秒だけこちらを見て、ぴょこぴょことさせる先輩ウマ娘を見て…

 

 

「わかった、案内しよう」

 

「え?」

 

「さすがだねトレーナー!えっへへ、大丈夫だよ!着いておいで!」

 

「!」

 

 

何も話していない。

 

先輩ウマ娘も詳しく伝えていない。

 

だが私が探しているものは知ってるみたい。

 

迷いなく招かれる。

 

まるで超能力者のようだ。

 

だからこそ不安になってくるが、しかし『これが正しい』と根拠のない自信と感情がどこからともなく現れて、この背中を押す。脚は自然と動いた。

 

 

「トレーナーあのね!前のテストで50点取れたんだよ!すごいでしょう!」

 

「君は来年で卒業だろ?良いのかそれで?」

 

「去年の有マ記念が評価されたから、ええと、たしか、めんじょ… ?って事で少しは大丈夫なんだって!」

 

「普段ダートの君があの結果だ。そりゃ評価されるだろうが免除は今だけだぞ?本当に大丈夫か?」

 

「へーきへーき!ヘーキだから!パパパッとやって終わり!閉廷!」

 

「おい、その語録誰から学んだ?」

 

「ヘリちゃん!前に街で会ったんだ!」

 

「あんのパリピ… !いたいけな娘に要らん知識を落とし込みやがって…!」

 

 

後ろから見れば普通の苦労を背負って頭を悩ませる大人の姿。そして尻尾を揺らしながら会話を楽しむ担当と日常的会話を行う教育指導者。普通の姿だ。

 

やはり今のプレッシャーは気のせいか?自分でも気づかなかった緊張感に襲われて寒気でもしたのか?ここは中央。一部の人達からは魔境と言われる世界。ならば早々に慣れて走れるようにならないと。

 

何せ私は、あのレースに出て王座を飾りたい。

 

いや、違うか。

 

王座と言うよりは…

 

 

「ねぇねぇ!着いたよ!」

 

「え?…あ」

 

 

気づいたらとある部屋の前に辿り着いた。

 

メモ帳代わりにしていたパンフレットを見る。

 

辿ってきた道を見て、到着した場所を確認。

 

ああ、ここだ。

 

間違いない。

 

とりあえずお礼を言わなければ。

 

 

「あ、あの!ありがとうございました!」

 

「ああ。では…入ると良い」

 

「え…?」

 

 

 

そのトレーナーは扉に手をかけて……開いた。

 

 

「!」

 

 

 

ほんのりと香ばしさが鼻に触れる。

 

これはコーヒー?

 

そのまま香りに誘われたい衝動。

 

しかし、それよりも足が止まった。

 

 

 

「ッ」

 

 

 

知らない雰囲気だ。

 

コーヒーの香りと合わさって落ち着きがありそうな部屋の感じだが、その先に一歩踏み出すことを躊躇いそうになる。そんな重圧感。

 

だがそんな私を他所に案内をしてくれた先輩ウマ娘はまるで住み慣れた家に到着したかのように耳をぴょこぴょこと軽い足取りで入り、そのトレーナーも追うように脚を運ぶ。

 

この二人からしたらなんてことない。

 

いや、違う。

 

もしかしなくともこの二人は…

 

 

「っ」

 

 

退けない。

 

そのためにやって来たから。

 

溜まった唾液を飲み込んで、パンフレットは無意識に強く握りしめて、案内してくれたトレーナーとその先輩ウマ娘に続いて部屋に招かれる。

 

部屋に入れば少しだけ日差しに目が眩んだ。

 

まだ4月。今日はとてもいい天気だ。

 

再び感じられたプレッシャーを踏み締めながら次第にその光に目が慣れると眩んだ視界はまっすぐ見えるようになった。

 

 

「!、!?」

 

 

そこにはウマ娘が多くいた。

 

それはテレビ越しでも、ネット越しでも、見たことある強き者たち。

 

ここにいる者たちに足が一歩退けそうになる。

 

 

 

「あー!フラッグちゃん!何飲んでるの?」

 

「特別なコーヒーですよ。先輩が開いた喫茶店から少し分けていただきました」

 

「その落ち着き具合を見ると妹の君はあのゴルゴル星の宇宙人とは正反対だな、本当に」

 

「あ、トレーナーさん。いまから淹れましょうか?とても美味しいですよ」

 

 

 

真っ黒な黒髪美人のウマ娘。

 

トレーナーを見て嬉しそうに微笑む。

 

そしてこの中央の世界で走る、学園の先輩。

 

 

 

「あー!ナリちゃん!それってなーに?」

 

「これですか?はい、コレはですね、すごいモノでして、なんというかまずとしてすごいんですけど、ええと、そうですね!とりあえず、すごく、すごいんです!」

 

「そうか、わからないが色々とすごいのか」

 

「はい!すごいんです!」

 

 

 

すごい語彙力が飛んだウマ娘。

 

だが紛れもなくすごい走りをする。

 

強烈な世代を走り抜いた、学園の先輩。

 

 

 

「あー!スカーレットちゃん!ここでも勉強するの?」

 

「はい、そうですよ。私はいつだって一番の成績を残したいので、時間は無駄にできません」

 

「それは構わないが、練習前に区切りは付けておけ」

 

「ふふん、心配いらないわ。あともう少しだから」

 

 

 

優等生の香りがするウマ娘。

 

でも本当に優秀な走りをする。

 

有マ記念は圧倒的だった、学園の先輩。

 

 

 

「あー!マーちゃん!マーちゃん!そんなところでそんなに見てたらみんな驚いちゃうよー?」

 

「じー」

 

「相変わらずハシビロコウみたいでむしろ安心するよ」

 

「じー」

 

 

 

小さな冠と共にこちらを凝視するウマ娘。

 

でもそのレースと冠は本物。

 

走り出せば旋風を巻き起こす、学園の先輩。

 

 

 

「あー!ドトウちゃん!そんなことに隠れてると埃まみれになっちゃうよー?」

 

「あのぉ、そのぉ、お構いなくぅ、わたしなんか程度のウマ娘なんて、この場所で、隅っこで、端っこで、じゅうぶんなんですぅ」

 

「あの覇王と渡り合って『私なんか程度』ってのはまず無いだろ?そこから出てきなさい」

 

「は、はぃ、すみませぇん…」

 

 

 

まるでヒツジかヤギのように感じるウマ娘。

 

でもこの記憶が正しければこの中…最強格だ。

 

あの覇王すら怒涛に喰らった、学園の先輩。

 

 

 

「あー!そうだー!忘れてたー!にんじんプリン冷蔵庫にそのままだった!誰も食べてないよね??」

 

「変わらずお子様だな」

 

「えへへ、よく言われる。でもでも?卒業したユキちゃんも似たような感じだったよね?」

 

「シチーガールはどの年代でも憧れる。ただしにんじんプリンはそうじゃない筈」

 

「えー!にんじんプリンはいつでも美味しんだよ!」

 

 

とても活発で愛嬌たっぷりに見えるウマ娘。

 

しかし冬の最後を入着に飾った規格外。

 

真冬の芝を砂塵に塗り替えた、学園の先輩。

 

 

 

「まったく、個性的で飽きない奴らだ」

 

「「「「貴方がそれを言う?」」」」

 

「ニュータイプばりのシンパシー、身に染みるよ本当に」

 

「じぃー」

 

 

 

それからそれをまとめるトレーナー。

 

そしてここに集まったウマ娘達。

 

答えは定まった。

 

このチームで間違い無くて、そしてそのトレーナーはここに集われたウマ娘達を担当する者なんだと。

 

しかし、まだ少しだけ疑う。なぜなら首の上からトレードマークが見当たらないから。

 

でも、その人と、その者が、同じなら…

 

 

 

「さて、とりあえず改めて。まずはようこそ中央トレセン学園に。入学式でも堅苦しいマイクを握ってスピーチをやらせて貰ったが、そこまで緊張しなくていい。あとウマ娘パワーでパンフレットが引きちぎれるぞ」

 

「え?…ああ」

 

 

 

パンフレットは握力でくしゃくしゃ。

 

どれだけ体が固まっていたのか。

 

 

「まぁまぁ、とりあえずコーヒーでも飲みませんか?あまりコーヒーを飲んだことない人でもスッと飲めるモノを喫茶店の先輩から頂いたので」

 

 

横から腰まで長い黒鹿毛のウマ娘が声をかけてくれる。

 

しかし一瞬だけ。一瞬だけなんだが学園の前で何故か今川焼きを売っていた奇行種なウマ娘と姿が重なってしまう。しかしその佇まいと仕草は全く正反対だ。流石に宝塚記念で会場全体を悲鳴に染め上げさせてしまったあのウマ娘と重ねてしまったのは失礼かもしれない。

 

でも見た目は非常にそっくりだ。

白と黒。奇行と正常。

それさえ除けばよく似ている。

 

そんな彼女に招かれてソファーに座らされる。

 

後ろから視線を感じてそちらに振り向く。

 

牧場のヤギがヒツジのように姿勢低く震えているウマ娘と、どこからともなく現れた猫に背中に乗られてしまうなんとも言えない姿。

 

あと先程から小さな冠を傾けながらこちらを凝視するウマ娘が視覚内に入り込む。

 

少し怖い。

 

視線を前に戻しながら目を閉し、すぅぅと軽く呼吸して心を落ち着かせて、ゆっくり目を開く。

 

 

「じー」

 

「!」

 

 

 

先程後ろにいたのにいつのまにか視覚の中に収まっている冠のウマ娘。

 

え…いつそこに移動したの??

 

少しギョッとしてしまったので窓側を見る。

 

トレーナー専用のデスクには…

 

 

 

「あ、カボチャ頭…」

 

 

 

やはり__あった。

 

もうコレで確定的だ。

 

このトレーナールームにいる者達は間違いなく本物のだ。

 

そして見ていたデスクの横には再び視覚の中に収まっていた小さな冠のウマ娘。

 

い、いつの間に…

 

常にこちらを見ている。

 

 

 

「さて、お待たせしたな」

 

「!!」

 

 

 

トレーナーが二つ分のコーヒーを持って目の前に座る。

 

差し出されたコーヒーへ視線を移して液体に揺れる自分の顔を見る。まだ緊張している顔だ。でもいい香りに緊張が薄れていく。あとついでに冠のウマ娘の姿もコーヒーの液体に反射して映る。視線を横に動かせば数歩横に立っていた。気づかないフリをして一口だけ飲む。

 

 

「っ、美味しい…!」

 

「担当だったウマ娘がブレンドしてくれたコーヒーだ。今度喫茶店にでも足を運んでくれ。趣味で開いた小さな店だがこの味は好きになるよ」

 

「はい、とても美味しいです!」

 

「それはよかった。まあ、とりあえず……だ」

 

「?」

 

 

 

__ようこそ。

__チーム『GUNDAM(ガンダム)』に。

 

 

 

 

「__!!」

 

 

 

そう言って紙を差し出される。

 

このチームに加入するための紙だ。

 

コレにわたしが名前を書いて、この人が管理下に申請すれば認められる。

 

 

 

「あ、あの…わたし、何も…」

 

「その眼を見て俺がわからないとでも?」

 

「!」

 

「君は"求めて"に来たんだろ?ここまで」

 

 

 

 

私は憧れた。

 

ここにいた"先人"に。

 

 

 

私は見ていた。

 

ここにいた”先駆者”に。

 

 

 

私は抱いたんだ。

 

ここにいた"雪の女王"に…!!

 

 

 

 

 

__飾るっぺ!飾るンだ!飾ってみせる!

__わだしを応援してくれる皆のために!

__この名を!美人と誇らせてくれたッ!

__彼に応えるためにも!負けられない!

__絶対に負けられないンだぁぁぁぁあ!

 

 

 

 

今でも思い出す。

 

歯を食いしばりながら、眼の色は雪の冷たさに埋もれなかった熱く滾る情動の限りを尽くしていた。

 

最後の直線を激しく捲り上げるその脚と、トレードマークのカチューシャですら泥まみれに染まりながらも一着を勝ち取った季節の早い冬将軍。

 

北の大地に錦を飾ったその栄光を私は東京レース場で見ていた。

 

その後の宝物記念も、オークスでたらしめた走りを見せてくれた。

 

そんなウマ娘に、そんな走りに、描いてみたくて憧れたから。

 

 

 

「は、はい!」

 

「そうか。…… ここまで脚を運んで来てくれたのはトレーナーとしてすごく嬉しい。だが…」

 

 

そう言ってコーヒーを置いた彼はこちらを見る。

 

 

 

「このチームで無くとも果たせるはずの夢だと言ったら、君はどう思う?」

 

「え?」

 

「ここの場まで求めて来てくれた君に失礼なことを言ってるのは充分承知だ。しかしこの学園は随分と変わった。とても良い方向に。トレーナーの数も、質も、充実した。故に、俺よりもすごい奴は多く現れた。いろんな方面で。だから叶えたい夢にもっと近づけてくれるトレーナーだって俺以外にも多く存在する。それだけウマ娘の幅は広くなった世代だから」

 

「それは…」

 

 

たしかに、それ知っている。

 

この学園の昔をよく知ってる訳ではない。

 

今より酷かった…

そう口を揃える人は多くいた。

 

しかしこのトレーナーを中心として革命を起こし、改革した。

 

URAに危険人物として認知されながらもその実績は計り知れなく、中央の質は中央の名に相応しくなった。

 

去年開催されたアオハル杯はこの学園を支える秋川理事長と大成功のプランに収めたりとこのトレーナーを筆頭にトレセン学園は充実した学園に変わる。

 

そうなればトレーナーだって優秀な人が集うようになり、彼限定でなくともそれ以上はもっといる。彼の言うことは正しい。

 

この学園は中央として幅広くなった。

 

それだけ選択は多い。

だから彼の言ってる事は正しくて……

 

 

「はー、バカね。何が『自分以外だ、キリッ』とか言ってんのよ。ここ7年間ずっと有マ記念を占領しといて良く言ったものだわ、このおたんこにんじんバカボチャあたま」

 

「その7年目は君のせいだろう優等生?ぶっちぎり一着を獲ったじゃないか」

 

「うんうん!すごかったよねー!もう、バビューン!って感じに突き放して全然追いつけなかったなー!」

 

「いやいや何を言ってるんですか先輩!?普段はダートで走るのに入着まで漕ぎ着けたのは正直凄すぎると思いますけど!?ええ、本当にねぇ!?」

 

「その上こいつはまだまだ走るからなぁ。怪我にも強くて、長いし、元気だし、よく走るし、よく食べるし、ダート部門のチームリーダーにんじんプリンだし。どこまでにんじんプリンにこだわるんだよ」

 

「えっへへー!すごいでしょ!」

 

「じー」

 

 

 

危険人物とは思えない程穏やか。

 

いや、それはもう過去の話。

 

今の彼は昔と比べて名を広げていない。

 

すごいトレーナーには変わりないが。

 

 

 

「さて、賑やかすぎて悪いな。とりあえず言いたいことはそのくらいだ。だからそれを踏まえて尋ねる。何故ここを選んでくれたんだ?まだ君は入ったばかりだ。今から数週間先の選抜レースに出て実力を証明する機会だってある。そうすればもっとお眼鏡に叶うトレーナーも現れてくれる。この学園最強のチームリギルの東条トレーナーや、去年の中距離部門でURAファイナルズの覇者となった桐生院トレーナーもそうだ。俺だけに限らない」

 

「……」

 

 

このチームに憧れたから__と言えばその響きは素敵だ。

 

でもたしかに彼の言う通り。

 

その憧れはわざわざこのチームでなくとも叶えれる。周りには優秀なトレーナーは多い。

 

あと選抜レースはまだ三週間先だ。

 

そこで実力を示せば彼だけに絞らずもっともっと自分を早く走らせてくれる、そんな人に巡り会えるかもしれない。

 

 

 

でも。

 

 

 

「導かれたから、じゃ、おかしいですか?」

 

「!」

 

 

 

ここなんだ。

 

何故かわからないけど、ここなんだ。

 

私は、この場所なんだって思った。

 

もしくは……

 

 

 

 

__やっほー、未来のミスターウマ娘。

__東京レース場は素敵な場所だよね。

__え?アタシ?

__あはは、まあそこは良いんじゃない?

__今はもうただの過去の栄光だからさ。

__それにこの先の主役は君たちからだよ。

__……それで、何を見てるのかな?

__オークス?うん、それは知ってるよ。

__でもそうじゃないんだ。

__コレを見てナニと一緒に描きたいのか。

__それが大事なんだよ。

__早いとか、すごいとか、そうじゃない。

__ウマ娘を見てくれた、そんな隣人。

__雨の日に折り畳み傘を渡してくれる様な。

__ソレがあるなら、あとは簡単。

__走り出せば、主役は__ウマ娘(キミ)だよ。

 

 

 

 

 

 

 

「詳しくはわからないんです。でもその時になんとなく心に染まったんです。走るなら。描くなら。私のためにある。そんな場所が用意されている。そして気づいたら、ここでした。そうまるで…」

 

 

 

__地球の引力に惹かれたように。

 

 

 

すごくわかります!!

 

「うぇ!?」

 

「わかります!すごくわかりますその感覚!説明はすごい難しいですが、なんかこう、はい!すごくわかります!!」

 

「あ、は、はい…!」

 

 

語彙力がすごく飛んでいるが共感は得られた。

 

そして彼女だけではない。

 

にんじんプリンを食べている先輩ウマ娘もスプーンを咥えながら頷き。

 

コーヒーを飲んでいる黒鹿毛のウマ娘も微笑みながら頷き。

 

自身なさげな印象あったウマ娘もその言葉には力強く頷き。

 

なんならいつまでもこちらを凝視していた冠のウマ娘すらも瞬きなく開け続けていたに眼を閉じると同調するように軽く頷く。でもまた眼を開いてこちらをじーと見続ける。

 

そして…

 

 

 

「君も、そうなんだな」

 

「え?」

 

 

 

彼はコーヒーを飲みながら微笑む。

 

 

 

「いや、悪いな。ちょっと確かめたかったんだ。別に何か特別が無ければ加入を許さないなどそんな事はない。俺は昔と変わらず応えるための存在であるつもり。ならば求めてきた者に対してたらしめるがコレを被る者としての…役割」

 

 

 

そう言ってコーヒーをテーブルに置いて、代わりに置いてあったカボチャ頭を手に取って、目の前で__被る。

 

 

 

 

ッッッッ!!!!

 

 

 

 

雰囲気が変わる。

 

強引に酔わされたような。

 

もしくは狂わされたような感覚。

 

視覚や嗅覚ではない。

 

このウチなる魂が。

この体に名を与えてくれたウマソウルがそこに引き寄せられる。

 

ああ、間違いない。

 

間違いないんだ。

 

私は……()()()なんだ。

 

 

 

 

「俺の名は、マフTまたはマフティー

 

 

 

 

それは呪いだ。

 

私を……いや、ウマ娘を惑わせる呪いだ。

 

っ…!なにが賞味期限切れのカボチャだ…!

なにが過去の産物で…!

なにが終わった役割だ…!

 

これはとても危険だ。

 

その象徴が、その中に染まる男の眼差しが、無条件に思わせてくれる役割が、私に応えようと問いかけてくれる。

 

ああ、なるほど。

 

コレが中央のマフTで。

 

そしてマフティーなんだ。

 

 

 

「ッ、わ、わたし!このチームで走りたいです!」

 

 

 

本当はもっと会話を挟み、この学園の幅広さに甘んじてもっと考えるべきだ。

 

なのに、それはもう違う。

 

ここしかない。

そう思えて仕方ない。

 

なぜなら体の中に宿るウマソウルがこのカボチャ頭を目印として離れない。

 

そして私は気づかない。コーヒーの液体に映る自分の眼はもう既に怯えた姿は無い。カボチャ頭を被るこの存在に求めて染まり切ったような眼は、それ以外を見ていない。

 

だから…

 

 

 

 

 

「ああ、わかった___応えよう、ウマ娘」

 

 

 

 

 

簡単に言い渡された。

 

それが当然かのように。

 

だからこの日、私は始まった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぅぅぅ、はぁぁぁ…」

 

 

 

夢見た舞台は今ここに。

 

周りを見渡せば多くの観客。

 

東京レース場の芝と香り。

 

夢を乗せて走る時間が始まる。

 

 

 

 

「もう、あの言葉から一年か」

 

 

 

 

胸に手を当てて思い返す。

 

あの場所でウマ娘は始まった。

 

私は彼に応えられようとした。それはこれまでの担当ウマ娘のそうだったのかもしれない。

 

 

 

「ウマたらしの意味がわかったかも」

 

 

 

 

緊張感あふれる舞台。

 

そして夢見た舞台。

 

なのに私は笑っている。

 

GUNDAMの『U』としてオークスを走る。

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

観客席を見る。

 

そこにはこれまで共に走ってくれた仲間達。

 

私を応援してくれる。

 

そして、私を乗せてくれた彼に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__やって見せろよ、マフティー(ウマ娘)

 

 

 

 

 

 

 

 

そう訴えられる。

 

 

ああ、もちろんやってみせる。

 

 

ここまで頑張って来たんだ。

 

 

だから私はマフティーにこう応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとでもなるはずだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言い放てば後は簡単だ。

 

だってこの世界は。

 

このターフは。

 

走り出せば。

 

そこからはウマ娘の世界。

 

 

それをCとBを飾ったシルクハットのウマ娘とカボチャ頭の彼が教えてくれたから。

 

 

 

 

 

 

 

__いまここで一着のゴールイン!!

 

__見事にオークスを制覇しました!

 

__今ッッ!

 

__ターフの上から吠えたように!

 

__そんな風に映りました!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キ ミ の 愛 バ は 誰 で す か ? ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ!

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

 







ここまでお付き合いいただき!!
本当にありがとうございました!!







この作品の存在を ハーメルン に促しますか?
『はい』
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もしも の はなし
If story _ Z


書いたら出るって聞いたから書いた。
あと今回は自己満足だからよろしくぅ!


 

 

 

重すぎる呪縛。

 

耐えれぬ重圧。

 

酷すぎる惨状。

 

それを背負わされて何ができる??

 

前任者は何を強いられて、何を違えた??

 

俺は何故この世界に降り立った??

 

マフティーを知ってたから??

 

仮染めるに容易く、偽りの役割に酔いしれ、歪み切った使命の中へ無条件に投じれる、それがマフティーと言う概念の歪さ。

 

そして恐れるための偽名。

 

こんなモノを知ってる俺を三女神は選んだ。それは前任者に裁きを齎しながらも、しかし三女神は願いを叶える存在だからこそ怒りを交えて叶えた。それが俺??

 

ふざけるな。

何故、俺を選んだ??

 

瓦礫の下で死にゆく魂がマフティーを知ってたから、アプリゲームの世界でマフティーたらしめようとしたのか??ウマ娘と言う謎の存在だろうと、存在することが許される世界だからマフティーも惹かれたと言うのか??

 

サイコフレームの共振のつもりか。

皮肉だな、マフティー。

 

 

 

「…………」

 

 

 

マフティーする事で保てる心。

マフティーする事で戦える心。

マフティーする事で偽わる心。

 

この世界は便利だ。

 

謎に満ちたウマ娘がいるからこそ、マフティーのような異物が居たところで、このウマ娘の世界で示せるなら、周りはその行方を見守る。

 

俺が生きていた前世では考えられないほどココは何かとご都合主義であり、そして不気味すぎる。作られたアプリゲームだからこそ価値観や倫理観が違うのか、それともウマ娘の存在があって緩和された故なのか、この結果は。

 

わからない。

 

だが、問題はそれだけじゃない。

俺が……

 

俺がマフT、そしてマフティーとして、この世界で生きていけるのか??

 

苦し過ぎる。

 

何度も吐いて、何度も自害を考えた。

 

けどそれはできない。

 

死を経験している、瓦礫の下で。

 

例え経験がなかろうと、俺はそこに踏み込まない。

 

だからこの体をマフティーで誤魔化す。

 

騙すのに便利だから。

 

世界にも、世間にも、自分自身にも。

 

ああ、ハサウェイ。

 

君のマフティーより俺は覚悟も何もない。

 

だって俺には光も何も無いから。

 

 

「寒い…寒いな……」

 

 

トレセン学園を出て、逃げるように公園までやって来た。外にはあまり人はいない。だから呪いまみれで他者から恐れられ、カボチャ頭も合わさったこの近寄り難さもこの場所ではあまり関係ない気がした。まあそれでもこの公園にいる少数の人々も俺に気づいてこの場から去りゆく。

 

ため息しか出ない。

 

いや、ふつうならため息どころか喉を搔きむしって吐血して死んでいるところだ。そのくらいこの地に足を付けた俺は救いようが無い。今生きてるのは「もしかしたら」がマフティーに込められているから。この世界でならマフティーする事で生き長らえる事も出来るだろうから。

 

 

「栄光ある、結果……か」

 

 

それは何だ?

 

無敗か?

 

三冠バか?

 

世界レコードか??

 

天皇賞の春秋を制覇する実績か??

 

栄光とは??

 

それはなんだ??

 

凍えるこの公園でそれは定まらない。

 

もし俺が降り立った季節が春ならもっと余裕があったかもしれない。

 

いや、そんな事わかるはずもない。

 

公園の道の真ん中で見上げる。

 

雪でも降りそうなほど曇りきった空が広がっていて、俺は凍えそうになりながらもその歩みを止めていつまでも悩ませる。

 

遠くに見えるウマ娘の子供たち。

 

駆ける足は人間よりも早く、しかし人と同じ形をしてるにも関わらずその筋肉量に対してあの走りや力強さは納得はいかないが、滑ってしまわないか心配になる程だ。そんな思考が出来るということはトレーナーに染まろうとしてるらしい。元がトレーナーだった奴の体だからか。

 

失敗したこの体で出来ることなんて…

 

 

「あら?こんにちわ、お日柄はよくて凍えそうですわ~」

 

「…正直、お日柄は良くないがな」

 

 

俺に余裕はない。

けどカボチャ頭を被ればそこにいるのはマフティーだ。

 

だからこの口は__良く喋る。

鉛玉を打ち込まれても文句は言えないだろう。

 

俺はマフティーとして語る。

 

 

「ウマ娘だろうと、冷える時は冷えるぞ?」

 

「ご心配ありがとうございます。でもしっかりと厚着をしていますので、そこまでご心配には至りませんわ」

 

「なら、ここで何をしている??凍えそうになっても惹かれるモノがあったのか?」

 

「ええ、そうですわよ。お隣で見てくださいあの葉っぱを。よく見えますわ~」

 

「?」

 

 

それよりこの娘は俺を怖がらないのか?

 

カボチャ頭だけでも警戒対象だ。

 

そしてこの呪いは遠ざけたくなる。

 

特にウマ娘が強く嫌悪する。

 

そうやって呪われたから、前任者は。

 

だがこの娘は……なんだ??

 

カボチャ頭を被ることで何故かこの呪いは抑えれているが、それでも呪いは完全に抑えれたわけでは無い。少しでも気を抜いてしまえば溢れてしまう。

 

しかし気になった。

 

このウマ娘に対する何故??が。

 

隣に座ってみた。

 

だがこのウマ娘は気にしない。

 

いや、気にならない??

 

意味がわからない…

 

 

「必死にしがみつく葉っぱを、眺めて、眺めて、眺めていたんですよ〜」

 

「……飽きないのか?」

 

「???」

 

「悪い…違うな。恐らく、君はそういう子なんだろう」

 

「どういう子ですか〜?」

 

「今の俺にとって羨ましいモノだよ」

 

 

考えすぎた頭をクリアするのに今は落ち着きが必要だと勝手に考えて、俺もそのウマ娘と同じ視線の先を重ねる。

 

なんてこと無い木があり、枯れ枝が伸びて、一枚だけの葉っぱが真上に。

 

それはいつか風に乗って離れるのだろう。

 

それをただ、見送るか、見守るか、どっちかの作業だ。そこに価値はあるのか?

 

 

「君は俺が怖く無いのか?」

 

「あらあら、そういえばなんだかカボチャ頭のようなお顔をしていますわねぇ〜、まるでハロウィンに出てくるようなイタズラさんなご恰好ですわ〜」

 

「イタズラの範囲で済めばよかったけどな」

 

「あらぁ?でもよく見たらもしかしてカボチャ頭がそのままですの〜?あらあら、新しい防寒着でしょうか?面白いですわねぇ〜」

 

「…」

 

「あとついでに、なんだかお怖い雰囲気がありますわね?カボチャ頭とはそれほどなんでしょうか?面白い効果なんですね~」

 

 

なんというか、大物がいた。

 

そして本物がいた。

 

マジでいるんだな、アニメや漫画のような個性を持つキャラが。

 

いや、ここはアプリゲームだ。

 

ウマ娘ってだけで個性がアクシズ並みだ。

 

この世界では今頃なのだろう、これも恐らく。

 

 

「そうだな。これは俺だけの知る防寒着だ。そして素顔を隠すためのな」

 

「あらあら、まるでお忍びの王子様みたいですわ」

 

「そんな綺麗なモノじゃないさ。これは果たされなければ外せない。そう決められた…役割」

 

「!」

 

「俺はマフティーと言う名でこのカボチャ頭と共に中央を挑まなければならない。これは定めだから。カボチャ頭を被った者としての」

 

「…」

 

 

日は暮れて、暗くなり始める。

 

スローペースな彼女の所為で俺は、止まる。

 

生き急がなければならない俺を、緩める。

 

このウマ娘が俺を、鈍らせる。

 

 

 

「君も帰るんだ。遅くなる」

 

「あらぁ、もうこんな時間ですのね。もし私が一人でしたらドーベルがお迎えに上がってお小言が始まってしまうところでしたわ。今日はお一人で帰れそうですわね」

 

 

 

同じタイミングで立ち上がり、そして進む方向も同じ。

 

 

 

「あらあら?もしかして貴方がエスコートなさいますの〜?カボチャ頭のトレーナーさんは素敵な殿方ですのね」

 

「?……俺はいつトレーナーと言った?」

 

「あら?マフティーさんは『中央』と言いませんでしたか?それは恐らくトレーナーとしての意味とお伺いしましたが、お違いですか?」

 

「ああ、そう言うことか……いや、あってるよ。俺はとりあえずトレーナーだ」

 

「あらあら、なるほどですわ~、ふむふむ~、なるほどなるほど~」

 

 

 

のんびりで、緩やかで、歩みが遅そうな印象が深いウマ娘なのに、よく聞いていたようだ。

 

正直トレーナーバッジは上着で隠れている。そのため中央と言う魔境に属する関係者じゃ無いと思われたら、いよいよこの体に残るはこのカボチャ頭の要素のみ。

 

謎の威圧感を纏った不審者の完成だ。

 

今はこのウマ娘がいることでその印象は少し緩和されている。

 

正直、俺は情けない。

 

だからこの子のためにも俺は離れるべきだ。

 

 

「俺は先に帰る。あまり遅くなり過ぎないようにな。あとお邪魔したな」

 

「はい気をつけますわ。それとご一緒できて光栄でしたわ、マフティーさん」

 

「!!……君は、君の歩みを宇宙へと見ていけ。重力に従って垂れそうなカボチャ頭の視線は似合わないから」

 

「……」

 

 

 

そのセリフは自虐するように。

 

でも俺はこの子を遠ざけようとする。

 

マフティーはそうじゃない……はずだから。

 

 

 

 

 

 

しかしそう思っていたのは俺だけで。

 

 

 

 

「貴方の抱える息苦しい使命と、果たされようとしたい願望と、失意に飲まれないための意志は、必死にしがみつく枯葉のようでした」

 

 

 

あの日から数日後。

もしくは選抜レースの10日前。

 

また出会う。

 

そのウマ娘はジャージ姿で走っていた。

 

遅くて、ゆっくりで、早くは走れてない。

 

なのに俺なんかとは正反対な気がした。

彼女の走りには込められていた。

 

このカボチャ頭のように中身が詰まっている。

 

重たくて、重たくて、それを背負う眼が。

 

だからそれに釣られて、俺は声をかけた。

 

カボチャ頭を、彼女に向けて。

 

 

 

「憧れるお姉さまがいます。憧れたいお姉さまもいます。その者たちはまさにそれに相応しくて自慢です。けど私も同じです。お姉様たちと同じメジロのウマ娘のはず。そうでありたい。だから私は走るのです。そうでなければ…なりませんから」

 

 

 

その意志は、生まれ持って背負った名前があるから、彼女の眼に込められていた。

 

俺が背負う紛い物とは違うホンモノがこのウマ娘にある。

 

どんなに歩みが遅くても、どんなに走りが遅くても、そう『たらしめよう』とする強さは間違いなくマフティーよりもマフティーのように感じられた。

 

 

 

「……ゆっくり過ぎるんだ、終わりまで」

 

「え?」

 

「スパートのタイミングが合ってない。それだけだ」

 

「!」

 

 

薄っぺらく残された前任者が蓄えてきた知識。

 

豊富とは言い難いが、一人分のウマ娘を育てるには充分なキャパシティーがある。

 

だからある程度の理解も追いつく。

 

1+1が何故2なのか説明を付けれるようにマニュアル(仕組み)は体の中にあった。

 

まるでガンダムに初めて乗ったアムロ… いや、あの機械オタクは元々上手いこと動かせたんだったな。

 

俺は知ってるだけの存在だ。

 

だから、間違いなく俺はこの界隈でルーキーだ。

殻の付いたひよっこだ。

 

それをマフティーでなんとかしようとするイカれたカボチャ野郎なのだろう。

 

 

「まぁ、もしかして見てくださるのですか?」

 

「ウマ娘がトレーナーだと思ってくれたトレーナーは、ちゃんとトレーナーとしてウマ娘を見ようと思っただけだ」

 

「あらあら〜、あの時と同じように"見てくださる"のですね」

 

「ああ。重力に垂れてしまったカボチャ頭の視線と同じで良いなら」

 

 

 

俺はそう言って。

 

 

 

「いえ、それは違いますわ」

 

「!」

 

 

 

彼女から強く否定されて。

 

 

 

「あなたはわたくしと隣に座って上の葉っぱを見上げていました。重力に垂れるカボチャ頭はただわたくしの身長が低いからそこに合わせてくれているだけですわ。それはつまり同じ視線を合わせてくれる、大事な大事なカボチャ頭の重さです」

 

「!」

 

「わたくしは、その重さは大事だと思いますわ。

抱えるための目印。それは形。

そしてマフティーと言う名の証明。

時々、お首がお疲れになってしまい。

辛くなると思います。

でも歩めます。

足があり、心があるなら。

どんなに長くても…

どんなに長い長いターフでも…

背負うべき名前と、背負いたい名前が、そこにあるのなら…」

 

 

 

 

 

__なんとでもなるはず、ですわ。

 

 

 

 

 

 

 

俺はこの日。

 

狂い始める。

 

正しく、狂い始めた。

 

ウマ娘プリティーダービーで、その世界で走るウマ娘の魂と、その意志に。

 

運命のように抱えた名前を持って走り出す彼女たちに、運命のように抱えたマフティーが走り出すこの存在に惹かれた。

 

なら、カボチャ頭でたらしめようとする俺はマフティーとしてこの世界で応えるべきだろう。

 

そうとも。

 

それこそ、なんとでもなるはずだ。

 

そう飲み込んで、やるしかないんだから。

 

マフティーを知る、マフTのが。

 

この世界で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マフTさん、マフTさん、見えますか?」

 

「ああ、見えるぞ。満開だな」

 

「ええ、そうですわね〜、ぽかぽかとしていてあったかくて、ふぁ〜あ」

 

「また寝るのか?」

 

「はい〜、すごくお気持ちよくて〜、それでは〜、わたくしはこのままお膝の方を失礼しますねぇ〜」

 

「あ、おい」

 

 

そう言って寝転ぶ彼女は昔と変わらない。

 

あんなにもすごい末脚を持って春の盾を手に入れたと言うのに、走るのを一旦やめてからまた歩き出したら簡単に船をこいでしまう。

 

相変わらずと言うべきか。

 

 

 

「あー!またなのー!マフTのお膝に寝転んでいるのー!今回は猫なのー!」

 

「やーやー、お二人方いつも仲良しでございますねぇ。あ、これはこれは、ごちそうさまです」

 

 

 

いつでもサンバイザーが似合うバイト戦士なウマ娘と、商店街の人たちから愛されてるウマ娘から真っ先に揶揄われてしまう。

 

 

 

「シャキーン!ユニコーンとペガサスの融合によって超強いキャロットマンの完成だ!たんぽぽの綿毛はこのボクが守るぞー!」

 

「あらあら、たんぽぽは綿毛と共に空へ飛ばないと次に芽を咲かせれないんですよ。なのでこうして見守りましょう。あ、もちろん、たんぽぽは食べてはダメですからね?」

 

 

 

キャロットマンが大好きなウマ娘と、大和撫子な怪物2世のウマ娘は、訪れた春の陽気の中でそれぞれ想い想いに過ごして。

 

 

 

「まったく、あの二人は相変わらずなんだから……」

 

「あ、でも!絵本の中で見たようなワンシーンを思い出します!確かあれは英国騎士が安らぎを求めるとお忍びのお姫様も一緒に木漏れ日の下で一緒になりまして!!」

 

 

 

男性は苦手だけどカボチャ頭のお陰である程度苦手意識が緩和されているウマ娘と、英雄譚が大好きな読書家のウマ娘から俺たちの姿を見てそれぞれの反応を示す。

 

ここにいるウマ娘は皆、マフTの担当だ。

 

そして…

 

 

 

「すやすや、の、すやすや〜」

 

「こんなハッキリとした寝息があるか?」

 

「すや〜、すぅ〜、や〜、すぅ……」

 

「あ、違う。これマジで寝てるわ」

 

 

 

今は上を見ることなく、大木を背もたれにして、膝を勝手に使ったこのウマ娘を見守るために今だけ俺は下を向く。

 

もう消え失せた呪いだから、この手で触れることも恐れない。

 

だから触れてみた。

 

俺を見上げさせてくれたこのウマ娘に。

 

 

「ん〜、んふふ……まぁ、ふ、てぃ…」

 

「全く、気を抜くと簡単にズブいお嬢様に変わってしまう」

 

 

 

長い長いストローを伸ばして、相変わらず飾り続けているカボチャ頭の中に通して、少しだけ緩くなったはちみードリンクで喉を潤して、囚われのない宇宙を見上げる。

 

 

 

「……」

 

 

使命も、役割も、願望も、今こうして手のひらで触れているウマ娘と共に歩んだ。

 

躓きそうになりながらも、彼女と果たされる先まで上り詰めて、そして今がある。

 

振り返る。

 

今この瞬間は夢のように思ってしまう。

 

あんなにも大変だった日々は昔のようだ。

 

しかしそれはまだ数年程度の軌跡。

 

でも春と秋を制覇したこの奇跡は嘘じゃない。

 

いや、奇跡じゃないな。

 

これは二人のマフティーがあったから、当然の如くたらしめたんだ。

 

このウマ娘と共に。

 

 

 

「さあ起きて、そろそろ帰るぞ」

 

「あ…らぁ…?もう、こんなお時間ですか?」

 

「ああ、みんな支度している。だからそろそろ…次に行こうか」

 

「あらあら、もう少しゆっくりして、ゆっくりがいっぱいになりましたら、また急ぐ形でも遅く無いのでは?」

 

「……あまり歩みが長いと時折不安になるからな、少しだけ忙しくもなるさ」

 

「そんなこと無いですよ。わたくしも、あなたも、ゆっくりを、マイペースを、大切にして、大きく息を吸って、それを確実として繋げるためにわたくし達はゆっくり歩くんですよ」

 

「……ああ、そうだったな」

 

「うふふ〜、そうですね……えい!」

 

「!!」

 

 

そう言った彼女は、横から柔らかく抱きしめてきた。尻尾を揺らしながら、耳は幸せそうにピコピコと動かしながら、歩みが重たくなる。

 

 

 

「これで急げないですね〜」

 

「急げないってか、動けない」

 

「では、このままもうひと眠りを〜」

 

「ちょ、待て!この状態でか!?

ウ、ウマ娘パワー強い… !

てか狸寝入りするな!

今流行りのたぬき化って奴か!?

お、おい、ドーベル!

お前らメジロだろ!なんとかしろよ!」

 

「はぁ…!?し、知らない…自分でなんとかすれば…」

 

「それならそのままお姫様抱っこなのー!ファイトなのー!」

 

「やれやれ~、今は春真っただ中なのにここだけは夏みたいにお熱ですね、いやはや最後までごちになりました、ありがたやー」

 

「うふふ、殿方は女性を大切に扱わないとですね」

 

「お姫様抱っことかヒーローみたいだな!!」

 

「もしかして英雄譚に出てくるような英雄騎士ですか!?いえ、この状態は英雄騎士なのですね!!間違いありません!!おととい読みました!!確かあれはとある末裔が炎の剣、力の盾、霞の鎧といった三つの神器を集めることで本当の騎士としての!!」

 

 

 

まともに助ける気配もない担当たちの声。

 

重力に囚われることを理由にして下を向く暇もなく、常に新芽達を見守る毎日。

 

それがこの世界のマフティーなんだろう。

 

 

 

「まぁぁ〜、ふぅぅ〜、てぃぃ〜」

 

 

 

それは"明るさ"のみ許されるウマ娘。

 

どんなに暗雲が立ち込めようとも、見上げることをやめないウマ娘は少しの光も逃さず、そして必ずその芽吹きを見つける。

 

それはまさに bright(ブライト) のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

ー IF ー

ー 終わり ー

 




 

こっちが先にGUNDAMしてしまうのか(困惑)

担当ウマ娘は趣味です。
もちろん実装もお待ちしております。


〈答え(透明化)〉

Z【ゼンノロブロイ 
G【グラスワンダー 】
U【ビコーペガサス 】
N【ナイスネイチャ 】
D【メジロドーベル 】
A【アイネスフウジン
M【メジロブライト 】


これで出たらいいなぁ!!
無償だけでも!
なんとでもなるはずだ!!


ではまた。


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if story _ D

エイプリルフールだから仕方ないね(予防線)




 

 

 

___華麗であれ。

 

___至上であれ。

 

 

幼い頃からそう教えられ、そう教わり、その教わりを秘め、一族の至高として健在であろうと研鑽を積み続けて、今も尚、その私でいる。

 

 

 

___挫けることなかれ。

 

 

もしそこに甘んじるなら、それは容易く終わりを告げる。そうなれば一族の繁栄を、これまでの軌跡をたった一つの頓挫でその名を否定することになる。行先に迷い、その場で足踏みなど言語道断であろう。華麗であることは踊り続けること。足を止めてはならないのだから。

 

 

 

 

___絢爛たる勝利に、不変の喝采を。

 

 

それを願い続け、一族と共にそうであろうとするため、自身を先陣へと理想と共に置き続ける。そこに息苦しいなど考えたこともない。私は誇る。その一族の一人として駆けることがこの名を持って許されているのだから。

 

 

 

___常に最たる輝きを。

___それが我が一族の玉条。

 

 

 

だから……普通ではダメなんだ。

 

普通以上を欲する。

 

私をそうしてくれるためのパートナーが必要。

 

だが都合よく現れるだろうか?

 

この【名】を磨き上げてくれる研磨職人(トレーナー)が。

 

 

 

 

 

 

 

傲慢であろうか。

 

異質であろうか。

 

非情であろうか。

 

高望みであろうか。

 

ソレが現れることはなかった。

 

職人がそう易々と現れることは無かった。

 

私が提示する道に対して一つの狂いすら許されないそのワルツを踊りきれる者など現れず、一族の繁栄と誇りを夢見るストーリーテラーから一人ずつ離脱していった。

 

 

ええ……分かっている。

 

分かっています。

 

コレは容易くない。

 

そうしたのは私。

 

ソレを強要したのも私。

 

常人に与えられるモノではない。

 

走るための世界であまりにも場違いな内容を込めた選抜試験を参加者に求めたのだから。

 

テーブルマナー、社交ダンス、護身術など…

 

一般人には無縁たる姿勢を求める。

 

それがなければ私の隣に立つ資格はない、と。

 

 

だから、参加者全てがそこから絶った。

 

私に夢を諦めた。

 

私と歩く道から外れた。

 

ココには誰もいない。

 

30日の期間で研磨職人(トレーナー)は現れなかった。

 

 

 

「お嬢様」

 

「些か、厳しかったでしょうか。もしくは高望みが過ぎたのでしょうか。私を… 私たらしめる者が現れることを、ココが中央だからそれが存在すると、高望みに求めた私の………」

 

 

 

幼い頃から長年付き合ってくれた執事の言葉に私は思わず「間違いでしょうか」と、その弱音を見せることになりそうだった。

 

私は吐き出しそうになったその言葉を止めたが執事は既に吐き出しそうになったその先の言葉を汲み取るだろう。

 

しかし執事は何も語らない。私が至高を求め続ける限り何も言わない。否定することはない。

 

 

 

 

___華麗であれ。

 

___至上であれ。

 

___挫けることなかれ。

 

 

 

幼い頃から教えられた言葉がのしかかる。

 

苦しい筈なんかない。

 

むしろ誇らしくあった。

 

私がその一人として背負える名誉だから。

 

けれど現実を見る。

 

誰も現れなかった。

 

この30日間で誰も存在しない。

 

ではまたコレを繰り返すのか?

 

それとも質を下げ、妥協するべきか?

 

だがそれは華麗であることを疑い、至上であることを諦める意味になる。

 

定めたものから狂いを得てしまう。

 

それは良いことだろうか?

 

 

でもこのままでは…

 

 

何も成せない。

何も得ることない。

 

しかしその傲慢に()()()くれる者でなければ私は…私を()()()()()ことすら叶わない。

 

 

 

「トレーナー選抜試験、見直しを行います」

 

「畏まりました」

 

 

 

執事は多くを語らない。

 

ただ役割を全うする。

 

そして私は悟る。

 

一つの美しい枝を折ることになること。

 

その美しい枝があるから躊躇われる。

 

誰でも剪定できるような木々に成り代わる。

 

そう考える。

 

そう考えて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは………トレーナー選抜試験、表?」

 

 

 

届いた声に私は振り向く。

 

そこにはなんてことない、中央のトレーナー。

エリートであることは間違いないが。

 

でも今の私にとっては……

いや、なんでもない。

 

それより。

そのトレーナーは一枚の書類を持って呟く。

 

どうやら私は書類を一枚落としたみたいだ。

 

見直しのために持ち歩いていた書類。

 

どうやら思わず落としたらしい。

 

物の損失など、一族の怠惰。

 

忘却気味だった私自身の甘さと弱さを再度噛み締めながらその者に近づく。

 

するとそのトレーナーは私に気づいた。

 

 

「……もしや君の落とし物か?」

 

「はい、その通りでございます。拾って見つけていただきありがとうございます」

 

「そうか。少し見てしまった。すまない」

 

「いえ。大事な書類を落とした私の落ち度でございます。どうかお気になさらず」

 

 

 

少しだけくしゃくしゃになってしまった書類を受け取り、それをクリアファイルに収める。

 

私は……お辞儀をする。

……取り繕っている。

 

いま、動揺しているから。

 

それほどに弱っている私が少し怖いから。

 

だからせめて、お辞儀は忘れず。

 

その形だけでも魅せようとして…

 

 

 

「身構えてる時に、死神は来ないものさ」

 

「……え?」

 

「皆必死だ。凝視しない限りそれは分からないものだ。だから怯えず堂々としていれば良い」

 

「!」

 

 

何を…言い出すの?

 

何を言っているの?

 

私はなぜ?

今ほんの少しの言葉に、揺れている?

 

見透かされたの?

 

今の弱々しさを??

 

するとそのトレーナーは去る。

 

 

 

「待って!」

 

「?」

 

 

あまりにも単調な言葉。

 

私は、私であることを忘れて叫んでしまう。

 

そんな幼さはとうの昔に置いた筈なのに。

 

 

 

「なぜ?なぜ…?」

 

 

主語が抜けたまま問いかける。

 

あまりも伝わりづらい言葉だろうか。

 

それほどに私は動揺しているから。

 

一族としての至高は脆く崩れ落ち始める。

 

 

 

「似てたからな」

 

「似ていた…?」

 

「かなり昔の……俺にな」

 

「…」

 

 

 

見た目は若い人だ。

 

むしろそのトレーナーバッジを見れば汚れ一つない事がわかる。

 

つまりこの人は新人。

 

今年入学したばかりの私と同じ。

 

 

けれど…

 

なぜこの人はこんなにも長い時間を見てきたような眼をしているのか?

 

まるで私の執事と同じような眼差し。

 

その眼の奥はとても疲れたような…

 

いや、少し違う。

何かやり遂げたような眼差し。

 

例えるなら大役を演じ終えた役者の疲労感のように見える。視察先でそんな人を何度も見てきた。今は演じきったその大役を糧にその片鱗だけ指をなぞり、ゆっくりと歩みを進めるような落ち着いた佇まい。理想的だ。

 

だから理解する。その眼を。

若枝の中に込められた年季を。

 

 

彼は一体『何者』なんだろうか?

 

 

 

「あなたに、この書類を」

 

「?」

 

 

荷物の中のクリアファイルからトレーナー選抜試験表を一枚渡す。先ほど地面に落ちた紙とは違ってしっかりと綺麗な資料を一枚。それを特に説明もなく差し出す。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

それ以上の言葉を重ねない。

 

何も語らない。

 

なんとも不出来な交わし合い。

 

華麗なる一族として失格だ。

 

語れる口があるのに、説明も無く私は()()()

 

私はどうやらその道から狂ったみたいだ。

 

 

 

でも…

けれど…

 

 

褒められない憶測の先で…

 

それがこの人に対して『正解』な気がしたから…

 

 

 

 

「これ、まだ試験やっているのか?」

 

「はい」

 

 

「わかった」

 

 

「はい」

 

 

 

 

 

いや待って。

 

『はい』では無いが?

 

いえ…それは言ったのは私でございますが…

けれど、あまりにも………ええ、疑いのない。

 

狂っているのに、でも狂ってない。

それはこの人にとって当たり前みたいに…

 

 

 

「……この紙は返そう」

 

 

「…」

 

 

 

しかし返ってきた言葉は、否定。

 

形にして返される。

 

ええ……そうです。

 

それは間違いございません。

 

何度も言いました。

コレは常人にはハードルの高い試験。

 

一般人には無縁な項目ばかり。

この先の私のためだけに用意された舞台。

 

それをトレーナーに求める。

そこに研磨職人を欲している。

 

だから普通の反応でございましょう。

大丈夫です。責めることはありません。

 

それは、そうさせるために。

もしくはそれを乗り越えて欲しいがために。

 

一族の価値を磨ける手腕を選定(せんてい)するため。

一族の宝石を磨ける手腕で剪定(せんてい)するため。

 

華麗なる一族に相応しい者を選ぶため。

それを強く、厳しく、私は促している。

 

 

だから、敬遠されることくらいは……

 

 

 

 

 

「貰うなら、くしゃくしゃな紙の方でいい」

 

 

「______わかりました」

 

 

 

 

 

 

長い返事の先に、彼は応えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから彼はたった一人だけ選抜試験を受ける。

 

つい先月まで50人近くと選抜試験の参加者で賑わっていた筈なのに、今そこには一人だけ。

 

ただ一人だけ、この試験に挑む。

 

 

 

 

「樫本様、見事な護身術です。後ろにも目を付けたような動き。質量のある残像には大層驚かれました」

 

「中央のトレーナーだからな」

 

 

 

 

そうなの?

 

 

 

 

……そうですか。

 

なるほど。

 

世界は広いですね。

 

私もまだ未熟です。

 

もっと視野を広めなければなりません。

 

 

 

それからも次々と試験は進みます。

 

しかしあまりにもテンポが早い。

 

本来なら30日間の練習期間が設けられ、我が財閥が保有する試験内容にあったプロフェッショナル達が参加者にイロハを教え込む予定ですが、彼はこれまで参加してきた者達とは違って全てその日にやってのけました。

 

まず最初に護身術。まるで相手を先読みするような動き。しかもウマ娘を相手に見事な護身が出来ていました。質量を持った残像に関してはよく分からないのでノーコメント。申し訳ありません。でも手練れであることは間違いない。

 

次にテーブルマナー。よっぽどなことが無い限り庶民には必要とされない作法。しかし彼は名家樫本家の人間でした。しかしそのことに関して彼は枝分かれた分家と言ってましたが、その作法には確かな品性が込められてます。何より洗練された作法にはその年齢以上を思わせてくれる。彼は何者なのでしょう?

 

そして社交ダンス。ただ体を使って踊るということなら誰もが出来ることでしょう。しかし相手に敬意を持ち、その刻を共有する社交ダンスは違います。定められた要素でのみ許される踊りはとても細かいルールがございます。これには彼もそれなりの苦戦を強いられました。ですが踊りに関してはそれは見事でした。言うならば慣れているという表現が合う。おそらく難しい踊りの経験が彼の中にございましょう。

 

 

それからも試験は続き。

 

そして、とうとう終わりは告げます。

 

 

そして…

 

そして…

 

 

 

 

 

「お疲れ様です。ここまでよくついてこられました。お付き合い頂き感謝致します」

 

「なかなか新鮮な経験だった。疲れるが」

 

 

選抜試験中はそれはもうキリリとしておられましたが、終わってからの切り替えはとんでもなく早く、今はややだらしなく姿勢を作り首を回しております。慣れないことばかりで凝り固まってしまったのでしょう。

 

 

 

「で?どうなるんだ?」

 

「はい。合格でございます」

 

「そうか。しかしそれは今のところ、消去法で生まれた話だな」

 

「……」

 

 

 

痛い言葉をもらい、私は言葉が詰まります。

 

たしかに、その通りかもしれません。

なにせ、候補に誰もいないのですから。

 

ここに彼だけがいます。

彼しかいません。

 

しかしこれまでの参加者とは違い、脱落することなく最後まで残った彼が一人ココにいます。

 

ですが、たしかに、残ったというそれだけで価値を決めるのはあまりにも放棄的。それはこの人に対しても失礼。

 

何よりこの方に選抜試験表の資料を渡してしまった私があまりにも傲慢極まっています。

 

最終的に参加を希望したの彼ですが、この話に導いてしまったのは、選抜試験表の資料を落としてしまったわたしの落ち度です。

 

私が弱いのです。

 

私が……

 

母とは違って……

 

 

 

「だからそうならないようにしよう」

 

「え…?」

 

「次は俺が君を試す」

 

「試す…?」

 

 

 

それからターフに二人で集まりました。

 

周りは暗く、誰もいません。

 

このターフも残り30分程度で使用可能時間が終わりを迎えてしまいます。

 

 

 

「先に言っておく。俺は寝ぼけてる」

 

「寝ぼけ…て?」

 

「つい先月まで長い長い夢でも見てたような感覚だ。どこまで行き着いたのかも。どこまで辿り着いたのかも。わからん。だがとても濃い軌跡を地球の引力に縛られたこの足で自ら刻んでいた。確かだ。しかし今は何か取りこぼしたような感覚のままこの中央に新人として入ってきた。足りないと言った方がわかりやすいか。しかし今わかることはこの魂に記されたキーワードからして、ウマ娘に狂えば答えが見つかるってことだ」

 

「狂えば分かる?」

 

「簡単に言えば夢中になるってことだ。そうすれば俺はそうだったって事がハッキリする。そうなればこの魂は間違いなくソレを綴ってきたと実感できる。そのためにはウマ娘が必要になる」

 

「それが、私ですか?」

 

「俺はロマンチストってのに魅力を感じるタイプで運命ってのはそれなりにあると思う。まあ大体はウマ娘にご都合主義を夢見るマッチングアプリ(三女神)がそうしてるらしいが、でも俺はその先だろうとヒトは心に確かな意志を持てば身構えてなくても死神の招きに関係なく、何もかもが意味を持って集えると思っている。宇宙(そら)の下にあるターフで巡り合わせとはそういうものだと考える」

 

「では……私と貴方は今ここに意味があって集われたと?」

 

「ハロウィンになれば誰もがカボチャ頭を被ることになる。だがそれはその日が決まっているからそうなっているだけ。しかし俺と君がここに立っているのは今日、ジャックオーランタン(彷徨える魂)を救うために用意されたハロウィンだからとかではない。あのくしゃくしゃな紙程度の事で巡り合ったからここにいる」

 

「巡り合い…」

 

「でも"まだ"それまでの話。今の俺たちは使用時間ギリギリでターフに集っただけ。答えと応え次第ではこのままなにもせず寮へ帰る事にもなるだろう。しかしそれは今から君がその意味を確かにさせろ。だから俺に促せ

 

「!」

 

 

 

枝分かれの分家であろうともその血筋は樫本家のトレーナーであることに間違いない。与えられた課題はそつなくこなす。しかし平凡な人のように演じる。本家からかけ離れた分家だと自負しながらその程度に歩む。

 

けれど、言葉を重ねれば、重ねるほどこの人は眼に見えるものだけが答えとしない。

 

その内側に……ナニカを抱えている。

 

それがいま、ほんの少しだけ見えた。

 

表現し難い、彼のホンモノが見えた。

 

 

 

「得意な距離は?」

 

「マイルでございます」

 

「そうか。なら魅せてくれ__ウマ娘」

 

「!」

 

 

 

それはもう愛おしそうに『ウマ娘』と紡ぐ。

 

そこに印象的に感じながら私は位置についた。

 

彼からいつでも構わないと告げられる。

 

私はウマ娘だから走り出した。

 

脚質に合わせた走りを彼に魅せる。

 

それからスパートの位置を確認する。

 

その時にチラリと彼を見て…

 

 

 

 

「!!!」

 

 

 

 

それはもう、柔らかな笑みでした。

 

穏やかに表情をターフの先に見せる。

 

まるで子供に感情が芽生え…

いや、コレはもっと先かも知れない。

 

 

いうならば……

 

 

 

 

痛みを知った赤子のような。

 

 

その頃に芽生えたような、純粋さ。

 

 

 

 

ユラッ

 

 

 

「っ、少し、足が…」

 

 

 

気づいたら、足が重く感じる。

これは………?

 

いえ、単純な話でした。

 

体調管理を少し怠ったのかもしれない。

 

いや、怠った。

 

入学時から忙しく周っていたから。

 

でも、一番は心の乱れだ。

 

一族としての、心の揺れだ。

 

自分でも気づかない焦りから生まれたほんの少しの乱れ。

 

私はこんなに脆かったのか?

 

いや脆かった。幼い頃から脆かった。

 

脚も、体も、心も。

 

今こうして走れるのは願ったから。

母にそうでありたいと願った。

 

『ワガママ』があるから。

そして一族として背負いたいと言ったから。

 

けれど今の私は何を成せる?

 

考えるほどに乱れ切った足で何を示す?

 

品性?

至上?

栄光?

 

このような小さな体に何も満たない。

 

私はただ、ただ、そこに理想を残しただけ。

 

その理想を抱えたままこのターフで溺死しようとする。それが乱れを。

 

自分を疑いそうになる心の弱み。

走りを。

 

 

こんな弱い私は。

 

走る、私にとって、邪魔___

 

 

 

 

 

「やってみせろよ!!」

 

「!」

 

 

 

 

怒声に近い声。

 

でもそれは期待の声にも感じられる。

 

やってみせろ??

やってみせろ???

 

 

 

 

「ウマ娘なら!なんとでもなるはずだ!!」

 

 

 

 

理論もへったくれもない。

 

なんて、思考放棄な言葉だ。

 

流れだけに身を任せる愚かさだ。

 

そんなの私を、私たらしめるに不要な要素。

 

 

 

 

でも…

 

けれど…

 

いや、だけど……!!

 

 

 

「ッッ!!!」

 

 

 

 

こんなにも騒がしく、私は、私を忘れる。

 

それが間違いだというのに!

 

___脚が今、早くなる!!

 

踏み込むターフが教えてくれる。

 

思い出させてくれる。

 

この名を背負ったウマソウルが。

 

彼の声に狂っているんだ。

 

 

 

 

 

 

たぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!

 

 

 

 

喉の奥から、焼けるように叫んだ。

 

私らしくもない。

 

 

 

 

 

でも…

 

 

 

 

 

「それが君だな!ダイイチルビー!」

 

「!」

 

 

 

寝ぼけていた彼はとうとう目覚めたのか、興奮したような声と表情を初めて見せる。

 

 

 

「あのような…貴方様から声を頂けなければ未熟のまま走っていたわたしの走りが……良いんですか?」

 

「ダイイチルビーはダイイチルビーとしてウマ娘で走った。それで充分だ。お陰で俺は完全に目が覚めたよ」

 

「それは………ふふっ、良かったです」

 

「ああ。ありがとう」

 

 

 

私は思わず、ふわりと笑ってしまう。

 

だってこの人は、こんなにも走っていたウマ娘に喜んでいる。

 

 

ああ、なんて危ないのでしょうか。

それだけで私は狂わされようとする。

 

 

 

すると彼は跪いて、手を差し出した。

 

 

 

 

至高と至宝を夢見しお嬢様。その赤は真紅の稲妻、または赤い彗星となりソレを三倍に満たせましょう。枝分かれた小さな葉音ですがこの樫本が貴方の研磨職人として磨き上げます。どうかこの歪な魂をしたジャック・オー・ランタンと狂って頂けますか?

 

 

 

 

 

もし、私の前にトレーナーが現れなければ万が一のため、我が一族で保険として用意されているトレーナーを、その適正者この学園にお連れするか、もしくはこれから私はひとりで研鑽を積むだけでした。もちろんそのための知識は幾らかあります。

 

だがしかし、中央の世界に渡り合うにはこの門を正式に潜り抜けた者から選び取らなければなりません。一人で全てやれるなど容易く無い。

 

それほどにこの世界は厳しく、簡単ではないから。だからこの中央でトレーナーを選ばなければなりません。そうでなくては母と同じ道を辿ることすら出来ないから。

 

 

 

でも…

 

今は砕かれた宝石で新たな作品を作る。

 

それが私だけの始まりになりましょう。

 

 

 

 

 

 

「これから、よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしく。ダイイチルビー」

 

 

 

 

 

 

 

 

___彼は危険人物だ。

 

___我々一族の秩序を乱す、者だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ダイイチルビー!後ろからダイイチルビーだ!後方から一気に食い破り!そしていま一着でゴールイン!!!なんと桜花賞に続いて安田記念を制したのはダイイチルビー!!!紅玉を飾るクラシック級の至宝が!シニア級を交えた大舞台で栄光を手に入れました!』

 

 

 

 

 

 

母の道を辿るために欲するものが多い。

 

でもそれは一族として必要だから。

 

それを強く強く、求めました。

 

けれど、共にする者が一人と現れませんでした。

 

高望みであることはもちろん、紅玉を仕立てる研磨職人が現れないかもしれない、その考えは当然ございました。

 

それはその通りになろうとしていました。

 

私は一度、心がほんの少しだけ乱れました。

 

焦燥感に気づかず、揺れました。

 

……ほんの少しだけは言い訳になりません。

 

 

___華麗であれ。

___至上であれ。

 

___挫けることなかれ。

___絢爛たる勝利に、不変の喝采を。

 

___常に最たる輝きを。

___それが我が一族の玉条。

 

 

掲げた言葉が嘘になるから。

 

故に、私は、私に未熟を見せました。

 

そして、くしゃくしゃな紙を落としました。

 

コレが私だと表すように。

 

 

 

だが、それを、とある男が拾い上げました。

 

わたしの落とした歪を掴み取り、選びました。

 

綺麗な資料に取り替えず。

 

拾い上げたそれを握りしめて。

 

 

彼は____応えた。

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラガラガラ!!

 

 

 

「ウェイウェーイ!おじょぉぉお!!マジ今日もプリプリプリティーでダビッてんねぇ!ふーふー!!」

 

 

 

 

それにしても厄介なのが来ました。

 

 

 

「まーた来たのか、このパリピ」

 

「あー!樫本のかっしー!よろよろー!てかタブにぶら下げてるそのカボチャ頭のアクセサリー良くねぇ?てか季節外れがトレンディでさらにバエなんだけど!エグいつーかその上を行くアグいでアグいんだけど!つまりバエルでアグニカ!あはははは!バリっちょめちゃんこアグニカポイントたっけぇー!ふーふー!!!!」

 

「何を言ってるか分かりませんがダイタクヘリオスさん、私達はこれならミーティングでございます。足を運ばせ申し訳ありませんが本日はお引き取りください」

 

「うえー!!?えええええ…今日もお嬢が塩ィィィィィィィぼおおぉぇぇぇぇぇえておろろろォォメケメケメケメケメ……でも、ま! お嬢はかっしーがしゅきしゅきのしゅきピだから仕方ないね!」

 

「!!」

 

「やれやれ、どの世界線でも太陽神は太陽神に変わりないってことか…」

 

「んー?なんか言ったー?」

 

「なんでもない。それより君のトレーナーが探してたぞ。通知来てないか?」

 

「それってマ?ウチのことトレーナーのマッキー探してたん??……ぎゃぁ!ほんとだ!通知来てんね!気づかんかった!あはははは!かなり草ぁ!めんご!めんご!」

 

「わかったら行ってこい」

 

「ウェーイ!よろでございマングース!って事で、またねお嬢!今度まっきーに教えてもらったアグニカごっこ教えてあげんね!」

 

「結構です」

 

「ぎゃぁぁ!?やっぱめちゃ塩ィィィ…」

 

 

 

そう言って走り去ります。

 

やれやれ。

 

コレでやかましい人がいなくなりました。

 

やっとこの方と二人だけになれます。

 

 

 

「ではミーティングを始めましょう」

 

「わかった。そんじゃ次の最速を決めれるレースと言えば秋のG1である…」

 

「その前に姿勢が悪いです。だらしないです」

 

「別にこの部屋くらい良いだろ」

 

「ダメです。私たちは桜花賞に続いて安田記念を制しました。コレまで以上に注目が集まります。そのため日常時でも…」

 

「じゃあ腕に乗ってレース入りするの禁止な」

 

「!!?」

 

「いや、何衝撃受けてんだよ。実際問題指導者と生徒は適切な距離だろ?そりゃ世間はアグネスデジタルを筆頭に受け入れてるけど一族の至宝として考えたらもう少し丁寧な扱いでよろしいかと思いますが?」

 

「いえ、それに関しては例外でございます。我が一族を磨きあげる職人の腕に紅玉(ルビー)を乗せるのは違和感ございません。それに貴方は私のトレーナーであることを世間に証明するため大変必要なこと。故に問題点として挙げられる必要性は皆無でございます」

 

「このワガママ娘」

 

「そうさせたのは貴方です。それがダイイチルビーだと」

 

「そうかい。それなら俺は、マフ……」

 

「?」

 

「………いや、なんでもない。終わった役割を引きずるのも良くないな。俺は俺だな」

 

「……まだ寝ぼけてますか?」

 

「二度寝は社会人の楽しみだからな」

 

 

 

彼との会話はややインテリが過ぎます。

 

何かに影響されたが如く綴る。

 

しかしそうやって彼は完成を目指した。

 

私にとって先駆者です。

 

だから私はこの人を必要として、私が望む高みへと進む。

 

そのための__最速を駆けるウマ娘。

 

母とは違う道を目指し、私がダイイチルビーたらしめる、そのための道を彼は提示した。

 

なら、私はそれを信じる。

 

 

 

「貴方は貴方。私のトレーナー、不純物たるこの傲慢すら至宝の一部として磨いてくれる私だけの研磨職人でございます」

 

「そうだな。今はそれで良い。促された以上俺は君のトレーナーだ」

 

 

 

わたしは変わりました。

 

いえ、もしかしたらあまり本質は変わってないかもしれません。

 

でもそれが私。

 

私たらしめようとする先で完成されるだろう紅玉のわたし。

 

隣にいるジャックオーランタンが紅玉にカボチャ頭を被せて、その中で磨かれる。

 

一族の夢に、ウマ娘と狂って頂けてますから。

 

だから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとでもなるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり








Q_このトレーナーさりげなく周回してない?

A_この程度、ハーメルンでは嗜みだから。



じゃあ仕方ないな!!!





【内容・目的】
公式のシナリオでは消去法でトレーナーを掴んだがもし選抜試験に最後までトレーナーが残らず現れなかった世界線だとそれなりにやばかったのでは?その時三女神はふと閃いた!この内容はIFで使えるかもしれない!ってことでマフティー(動詞かつ同士)しました。どゆこと?その結果としてどこぞの肩に三毛猫を乗せたループ系主人公のマフティー性を感受するとリバースカードをオープン!女神が後出しで三体?来るぞ!遊馬!(カン!コン!)してしまう。そうやって夜のテンションで一夜中書き殴った暴走召喚で生まれたのがこの話。たぶん後で起きて後悔する。ともかくエイプリルフールなら許されると考えた俗物作者が原因だね。でもコレ系はなんぼあっても良いですからね。ええ。


【ダイイチルビー】
自分をワガママだと思っているウマ娘。別にそんなことは無いけど品格を求め過ぎた結果として試験内容のハードルの高さに合格したトレーナーが現れず、実はこれやばくね?と気づいてしまった故に焦り、自分の作り上げた理想やビジョンが崩れ躓きそうになるところでくしゃくしゃな紙を拾い上げたマフティーによって無事に脳が焼かれた。ゴールドシチー曰くコレをパンプキンケーキと呼んでるらしい。その後は母と同じ三冠を目指そうとするがトレーナーとの話し合いによってDなら最速しようぜ!お前最強のマイラーな!って事でクラシック級で殺人的な加速にて安田記念を制覇、マイルCSではレコードを出したり、URAの脳を破壊したり、最速を駆け抜いた一族として謳われることになる。トレーナーの腕にちょこんと乗る腕乗りルビーはトゥインクルシリーズで名物と化した。


【トレーナー】
ご存じの通りカボチャ頭してたトレーナーくん。前世はどこまで人生を歩んだのかあやふやなままも、精神と意識はハッキリしてたのでどうせ三女神が原因だろと呆れと怒りで半分ずつ。しかも身体にあるこの魂は前世の物か、または映し出された別モノの魂か、ループを繰り返すどこぞのクソボケトレーナーみたく彼の二周目が始まる。ニャー。しかし人の魂を簡単に弄っちゃうから…ほーら!やっちゃった!とゾルタン・アッカネンもドカーン!と愉快に実況しちまう状況だが、コレはウマ娘の世界でマフティーしていた魂。またウマ娘に狂えることに喜びもあり、とりあえず状況把握に努めると前任者がトレセンへ就職する前日である事を知り、学園でくしゃくしゃな紙を拾い、名家のウマ娘にマフティー構文するとスカウトしてしまう。お前精神状態おかしいよ…。まぁ変になっちまったのは仕方ないかもしれないが、それでも彼の宇宙の心は救われてるのでカボチャ頭のマフティーは学園祭以外ですることは無かったのでこの世界では【GUNDAM】をしなかったため彼のもとに多くは集っていない。それでも経験多きトレーナーとして、スカウトしたウマ娘の脚をミラクルさせて卒業の最後まで走り切らせたり、ルビーが殺人的な加速をした結果脳を焼かれてトールギスと化した真面目すぎた天才少女が逆指名してきたり、飽きない個性豊かな担当と共に至って普通の名トレーナーとしてこの世界を生きた。さてはオメー主人公だな??



そんな感じに、急に書きたくなった。
それだけの話です。


はい!これにて異常で、以上である!!
お兄ちゃんもエイプリルフールもお終い!!


ではまた


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if story ?? _ ∀




これは if story でもあり…
続編のような話でもある…







 

 

 

 

 

「……ココは?」

 

 

 

 

 

眼を開ける。

 

もしくは目を覚ます。

 

周りを見渡すと、宇宙が広がっている。

 

何が起きている?

 

次に感じ取ったのは浮遊感。

 

仰向けになって上を見ていた。

 

後になって気づく。

 

体が浮いていた。

 

まるで魂だけが誘われてるが如く、地球の引力に縛られない無重力空間に流され、無防備のまま宇宙(そら)を漂うだけ。

 

俺は一体どうしてココにいるのか?

 

 

 

 

 

 

 

__目が覚めましたか、マフT。

 

 

 

 

 

 

「?」

 

 

 

声が聞こえた。

 

俺は周りを見渡す。

 

するとソレは姿を見せた。

 

 

 

「久しぶりだね、マフT」

 

 

「なっ……お、お前は…!!」

 

 

 

俺は驚く。

 

目の前に現れたのはこの世界の設定(うまむすめ)に怯え切っていた男。

 

それは『前任者』と言える存在であること。

 

 

 

「どういうことだ??いや、何故…ココに?」

 

「そうだね、マフT。君は驚くよね」

 

「それはそうだろ!?だってお前…」

 

「うん、消えた。私は消えてしまった。そう思っていた。しかしね、少しだけそうじゃなくなった。私は消えずに"役割"を受けてしまったから」

 

「役…割…??」

 

 

コイツが役割?

なんの?もしや呪い?

 

いや、ありえない。

それは俺が背負って解決した事だ。

 

呪いも、その後の使命も、役割も。

 

だから、コイツは何も関係ない。

 

だって俺が『樫本』として成り代わったから。

 

そのためこの者に与えられたモノなど何一つ無いはず。

 

なのに役割って……コイツは一体?

 

 

 

「私はね。キミと同じ『マフティー』としての役割を受け__」

 

今すぐマフティーをやめろ!!そんなのお前が背負っていい概念じゃないだろ!!

 

 

 

俺は叫び、前任者は目を見開く。

 

何処までも広いこの宇宙で全身から放たれるプレッシャーと共に無重力空間を歪ませ、背筋すら凍り付かせるような重圧感がそこら中を埋め尽くす。空気があるかも怪しいこの空間を震わせながらさらにその嘆きは止まらない。

 

 

 

「それはおれがやるッッ!! マフティーを知っている俺が果たす!!そんな役割は俺だけでいい!!俺が出来るッ!!お前までもがマフティーに身を投じるな!!何かをたらしめるというなら俺が代わりに促す!!だからっ…! だからッッッ!!」

 

 

 

そんなの、俺以外が背負って良い訳がない。

 

カボチャ頭を用意したハロウィンで真似事する程度ならまだ可愛いお遊びだ。

 

しかし『役割』として背負うというのなら俺は何時ぞやの一等星の時のようにソレを否定する。マフティーは危険だ。それを知っている俺だから叫び訴える。だが前任者は困ったように笑う。

 

 

「マフT、貴方は優しい。まるで自分のようにそんなに苦しんでくれる。だからマフTの担当ウマ娘はマフティーたらしめた貴方に一等星を託したんだ」

 

「なぁ?なぁ…??お前がそれ以上は苦しむ必要なんてないはずだよな??お前は、だって…」

 

「___エリン」

 

「…………え?」

 

「今の私はエリン……貴方が私に示してくれた、貴方に続く名前」

 

 

 

 

 

 

_

__

___

 

 

『___マフティー・ナビーユ・エリンは長いから、もし名乗るにしても、マフティー・エリンだとして、そのエリンって部分がアンタの証として示せるのなら…___』

 

___ 

__

_ 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

「覚えているみたいね。私は【エリン】として名を持った。だから消えずココにいた。何故なら私はマフティーから同じ『視線』を貰ったマフティー()エリンだから」

 

「いや、それは……でも、けれど…!」

 

「それとも、()()()()()()()()()()()()??」

 

 

 

彼は少しだけ困ったように笑う。

 

出会ったこと自体かなり久しぶりだが、随分と子供のように表情を豊に見せる。

 

痛みを知った赤子の時は過ぎたように。

 

 

 

「何故、お前はそうなってしまう?たしかに俺は…それは……哀れんださ……アンタにとって世界がもっと優しいなら、マフTなんかじゃない樫本トレーナーとしてアンタが中央で生きていた。だって本当の身体と魂はお前のものだったから…!」

 

 

何度も考えた。

 

コイツにとってもっと優しいが沢山あったらこんなにも苦しむことはなかった。

 

 

「そりゃ当然、俺はお前を恨みはしたさ!こんなことになって!不必要に苦しんで!そしてお前を間違いだと言った!でも…けれど…! 違えながらも学び得てきたお前には少なからず敬意はあったから…! 潜り抜けた先に救いがあったのなら終着点だって変わっていたはず!だから少しは哀れんでしまった俺はお前のことを…!」

 

「マフティーたらしめたマフTが『樫本トレーナー』として中央に足を付ければ、その身体でそちら側に足をつける資格のない私だろうとほんの一滴だけそこに軌跡を残せる。だから私に『構わない』と言ってくれた。何故なら貴方はマフティーだから。私の全てのファクターを受け取った貴方がそう決めた。だから私をエリンにしてくれた」

 

 

 

 

 

 

 

_

__

___

 

 

『___それでも記憶は私のモノだから。結末を知ったのなら貴方に必要無いと思う。だからそれ以外の全てをマフTに託す。私をマフティーに続くエリンにして__』

 

 

___

__

_

 

 

 

 

 

 

 

「ああっ、そうだ!その通りだ!意味はそれだけなんだ!俺はお前をマフティーにしたかったんじゃない!この体が元は樫本だったから!だから後はマフティーに任せろと!『なんとでもなるはずだ!』と証明になると思ったんだよ!名前に意味を感じてくれたのならエリンとして俺はお前に代わると促した!ああ!それだけなんだ!俺はお前にマフティー・エリンの残酷を背負わせたくてそう示したんじゃない!!」

 

「わかってる。わかっている。貴方はマフティーだから。そしてマフティーは貴方だけ。だから私はマフティーをしない。大丈夫。わかっている」

 

「なら…なら?役割ってなんだよ??お前は何をそうしている??」

 

 

 

俺は尋ねる。

 

だってこの前任者は消えたはず。

 

俺に全てを託して光となった。

 

でも今の前任者は、与えられたエリンの言葉に意味を持ち、そして役割を述べた。

 

 

 

「心配しないでマフT。ただ私は君にエリンという命を返すために待っていた」

 

「返す、ため?」

 

「そうだよ。ねぇ、マフT、聞こえる?」

 

「こ、聞こ…える?な、何が…だ…?」

 

 

 

前任者は………いや、違う。

この者『エリン』は少しだけ上を見る。

 

次に眼を閉ざすと、何かを捉えようとする。

 

この空間で感じ取ろうとしているのか?

 

俺もエリンの視線に釣られて上を見た。

 

見た先で広がっているのは何もない宇宙。

 

しかし、何か……ナニカをこの場所から感じ取る必要があるみたいだ。

 

俺は呼吸し、この心拍数を抑え、この鼓動だけを無重力空間に響かせながらエリンの行先を掴み取ろうとする。感じろ……感じろ。

 

何処だ?

何処にいる??

エリンが促すそれはどこに……?

 

 

……

……………

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________アナタは、"何処"?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞こえた。

 

そして理解した。

 

この響きは…………ウマ娘だ。

 

証拠に魂がウマ娘に狂おうと揺れ始めている。

 

この先でナニカを探しているような声。

 

まだ…ほんの少しだけ幼い。

 

怯えた電子機器のような響きにも感じ取れる。

 

けれど年相応に迷える気持ちが心を撫でる。

 

俺はソレをしっかり感じ取れた。

 

するとエリンは満足げに頷いた。

 

聞き取れたことがわかったらしい。

 

 

 

マフT

 

 

 

そして…

 

エリンは真っ直ぐとコチラを見た。

 

俺は驚く。

 

まるで中央のトレーナーのような視線が突き刺さったから。

 

芯がしっかりとした者のみ放てる視線。

 

それを幾度なく見て感じてきた。

 

そんなエリンは口を開く。

 

 

 

「私は消えようとした。間違いない。でも貴方に与えられたこのエリンがマフティー性を感じた。すると『声』が()()()()()から聞こえた」

 

「別のところ?」

 

「うん。覚えているかな?私達が別れた場所は三女神がウマ娘を見守る場所。そして想いが重なる場所。そこは世界と世界のファクターが繋がりやすい場所。貴方の魂もそこから持って来られた。トリガーとしては私がウマ娘に殴られて三女神の像の泉に放り込まれたことかな。あなたならよく知っているはず…ココは外に繋がりやすい」

 

「ああ… 覚えてる。カフェのイマジナリーフレンドが遠回しに伝えてくれた。オカルトも良いところだな…」

 

「そうだね。ここは不思議が集う。だから繋がりやすいこの場所で私はエリンだから外を聞いた。そしてエリンはマフティーでもあるから、それが()()()だと感じ取った。だから消えそうな私はエリンとしてそれに応えようと思ってしまった。だからマフティーの君に一瞬だけ繋いだ」

 

「求める…?一瞬だけ?繋いだ?」

 

「うん。繋いだよ。するとマフTは去り際に答えてくれたね」

 

 

 

 

 

 

 

_

__

___

 

 

___ねぇ、マフTって……なにかな?

 

 

___

__

_

 

 

 

 

 

 

 

「貴方はソレを閃光のハサウェイだと」

 

「なっ!?ま、まさか!?…いや、もしや!?あの時の声って…!!」

 

「あれは()()()…私でも無く、三女神の誰でも無い、ファクターの一つとして外から繋がった外から届いた()()()()

 

「!?!?」

 

「消えかかりそうな私は『感受』した。何故なら私はエリン、またはマフティーだから。応えることがこの名前の意味。だからそれをマフTに届けた…いや、届けてしまった………だってあまりにも………寂し過ぎたから」

 

 

 

この世界でウマ娘を恐れ、向き合うべき道を違えた男が、今はウマ娘のために応えた。

 

求めるモノに向き合っていた。

 

それが驚きでもあり、また彼がマフティー・エリンとして役割を背負っていた事にも驚く。

 

ああ、だから…… コイツは贖罪の限りを刻んだあのメモ帳にマフティーのような強い者を求めれたのか?自分じゃない出来る誰か。それもまだ見知らぬマフティーに対してあのような?

 

 

ああ……狂っている。

 

コイツ自身にそれを出来る器があった。

 

ウマ娘に怯えていた(痛みを知った)赤子がエリンを背負える名があった。

 

 

 

「それならマフティー・エリンは…俺にどうしろと?」

 

「その声を____助けてあげてほしい」

 

「だから俺を待っていた?お前は消えずに?」

 

「そうだ」

 

 

 

それはあまりにも唐突で、残酷だった。

 

だって…

 

だって…

 

それは、つまり…

 

 

 

「俺はそこに()()()と…どうなる?」

 

「今の貴方はマフティーを知る存在。またはマフティーのファクター。泉の水面に反射する顔と同じ写し鏡。キミはキミとなり、枝分かれた因子の一つとしてそれはホンモノになる。だから貴方はマフティーに変わりない」

 

 

 

あまりにも突発的な内容に無意識な溜息が出る。

 

何せ、言わんことは分かるから。

 

 

 

「……」

 

 

 

前任者はエリンとなった。

 

だからマフティーが出来た。

 

故に消える瞬間、ファクターが通じやすい三女神の空間を通してその声を感受した。

 

するとエリンはコレを『促し』として捉え、マフティーと変わらぬエリンの名前がマフティーのように使命を受けた。

 

だから消えずに残った。

 

俺にソレを伝えるための、役割として。

 

では、それを聞いた俺はどうなるか?

 

簡単に言おう。

 

コレを、もう一度を『始めろ』と言っている。

 

そういうことだ。

 

 

 

「それなら……っ、お前がやれ!エリン!!」

 

 

 

俺は名指しする。

 

同じマフティーに。

 

 

 

しかし…

 

 

 

「それは…っ………ううん、ダメ、できない」

 

「何故だ!?エリンだってマフティーだろ!概念を受けた正当なる王の魂だろ?なら君がその声に向かって脚を運べるだろ!?エリンとしての役割が本当ならお前もマフティーだ!ならマフティーのファクターとしてその先幾らでも正当化しろ!促せる!それが許される!世界が違えようと関係ない!だからエリンッ…!いや、樫本!今なら!お前がもう一度マフティーとしてやり直す事くらい……!!」

 

「【約束】だから」

 

 

 

悲しげに笑みを浮かべる。

 

え、約束?

 

約束って何だよ…?

 

何故そんなにも悲しく笑える…!?

 

 

 

「私は言った、コレを『返す』と」

 

「な、なにをだよ…!?」

 

「マフTは、私に言った。『__マフティー・ナビーユ・エリンは長いから、もし名乗るにしてもマフティー・エリンだとして、そのエリンって部分がアンタの証として示せるのなら__』」

 

 

 

 

 

 

 

 

______ お 前 の 命 を く れ 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッッッッ!!?

 

 

 

 

 

 

ああ_____言った。

 

たしかに言った。

 

覚えている。

 

その命を貰った。

 

だから俺が『樫本』になった。

 

 

「…ッッ!」

 

 

そりゃ…前任者は許されない可哀想な魂だ。

ウマ娘との向き合い方を間違えた。

 

だから俺が怯えるお前に成り代わると応えた。

マフティーに続く『エリン』を与える。

 

そうすればお前をマフティーの中で意味示す。

怯えるだけのコイツにエリンの名を教えた。

 

 

だから樫本たるその命をマフティーに寄越せ。

 

そう言った。

 

それが一つの赦しになったから…三女神に対する贖罪と解答だから…前任者にとって悲しいこの世界から消えることができた。

 

 

 

しかし…

 

彼がこのまま約束通りその命を差し出さなかったら?恐らくマフティー・エリンの名に縛り付けられたまま消えることもない。

 

彼にとって悲しい世界から解かれることもなくこのまま救いを見出せないジャック・オー・ランタンとして彷徨えるだけ?だとしたらまたコイツは一人残されることになるのか?

 

それなら俺はマフティーとして何のためにエリンをコイツに与えたことになる?

 

俺が成り代わるからマフティー・ナビーユ・エリンを教えたと言うのに。

 

 

 

「私は満足した」

 

 

 

宇宙を見上げながらエリンは言う。

 

その表情に偽りはない。

 

 

 

「例え…その断片だろうと、私もこの魂でマフティー出来るんだって、わかったから」

 

「そんなっ…!!そんなことで…!!」

 

 

 

けれど彼は笑う。

 

混じりっ気もなく本心から。

 

__それが出来てよかった。

__分かることが出来て良かった。

 

そう見せる。

 

 

 

「私はウマ娘の声が聞こえた。怯えずに聞こえた。その声は『求める』声なんだと響く。そこに『応えてやりたい』と思えるほどにこの魂は今も温かい。だから分かるんだ。私はちゃんとトレーナーとして力になれる。そう思えるほどに『やっと』たどり着いた」

 

「それなら尚更!表に出てウマ娘に狂いやがればいいだろ!?こんな寂しいところで狂うフリなんかしなくたって!」

 

「良いんだマフT。そうなれる自分がちゃんとココにあるんだと分かったから。だからそれが大きな報酬。マフTのお陰で応えを得た。だって今はこんなにも…」

 

 

 

 

 

 

___なんとでもなるはずだ。

 

 

 

 

 

 

その独りよがりがこの宇宙空間に響き渡る。

 

どこまでも届かせる。

 

耳を塞いだとしても、その言葉から目を背けることも叶わないくらいにコイツはエリンとしてたしかに促した。恨めしいほどに。

 

 

 

 

「そう言えるくらいに自分はトレーナーとしてウマ娘と立ち会える。自信も勇気も。これまでの積み重ねてきた知恵を持って樫本家のトレーナーとしてウマ娘に応えれるって。何度も何度も思うよ」

 

 

「_____ぁぁ……っ、くっ…………くそっ

 

 

 

 

もう何も言えない。

 

俺はコイツに何も促せない。

 

だって、コイツは…エリンだから。

 

マフティー・エリンだから。

 

マフティーたらしめた正当化の王だから。

 

それがコイツにとって、完成している。

 

 

 

は、ははは……

 

あぁ………教えるんじゃなかった。

 

マフティー・ナビーユ・エリンなんて、歪なメドレーの名前を、コイツに聴かせるんじゃなかったよ。ただそのまま俺に任せておけと見送ればよかった。エリンなんかにするんじゃなかった……

 

 

 

「本当に……お前は、それで良いのか?」

 

「構わない。なんとでもなるはずだから」

 

「………………そっか…」

 

「うん」

 

 

 

 

俺はコイツを恨んだ。

 

あんなにも息苦しい呪いを背負わせ、それをマフティーなんて危険人物で俺に乗り越えさせた元凶だから。

 

でも哀れんだ。

 

コイツに対してもっと世界が優しければ。

 

もしくはコイツがもっとウマ娘と分かり合えるそんな心が一滴だけでも注がれたのならこんなにも苦しいことなんて無かったはず。そうすればコイツは正しくウマ娘に狂えたと思う。そんな幸せと未来はあった筈なのに…

 

 

 

「ッッ…!エリン……ッ!おれは……俺は…!!改めてお前の呪いを今また恨むッ!お前を許さないからな…!!」

 

 

 

ココにいる俺はただファクター。

 

本物の俺は今もウマ娘に狂っている。

 

そうしてくれている。

 

 

けれどこのファクターもマフティーだ。なら枝分かれた『俺』だろうともコイツを恨んだって間違いじゃない。そして呪いを背負うことになったって間違いじゃない。ココにいる俺がそう決めた。なら……応えてやるッッ!!!

 

 

 

「どうあがいても俺はマフティー・エリンの独りよがりに正当化されるらしい。何もかもな」

 

「……謝ることは、間違いかな?」

 

「独りよがりに謝罪なんてある訳ない。それを正義だと信じているから人は盲信のまま正当化を尽くす。それがマフティーなら尚更、正しくある。それが___」

 

閃光のハサウェイ……」

 

「そうだ。見る者に、また見せる者に、瞬きすら許されない」

 

 

 

俺が応えるのと同時にこの無重力空間に重力が生まれたかのように体が引っ張られる。するとガタガタと空間が震える。まるでこの答えと応えに対して共振しているかのようだ。ああ、それで良い。何故ならココにいる存在はマフティー・ナビーユ・エリン。正当なる予言の王。そのくらい普通だ。

 

 

 

「さあ、始めようか…エリン!」

 

「そうだね、マフティー」

 

 

 

互いに目を閉ざす。

 

そして互いに両手を合わせ合う。

 

すると俺と前任者の間に一つの光が生まれる。

 

まるで外に『継承』されるみたいだ。

 

ああ…

 

これがマフティー・エリンのファクター。

 

エリンから命を貰い、マフティーで注がれる。

 

確かな、ファクターだ。

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の命をくれ、エリン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリンが繋いだ声の先に意識は飛ばされた。

 

一つのファクターとして、俺は往く。

 

その先で、もう一度を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピピピ……?これは"SING"の測れない『ランデブー』…?でも"エンゲージ"が満ちている……これは……嬉しい……??」

 

 

 

 

 

その少女は、宇宙(そら)を見ていた。

 

その声が届くことを願い求めて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____また、聴きたいな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

next

 







かなり強引に『37話』の内容を伏線回収として扱った。
例えば…

>__ねぇ、マフTって……なにかな?
>「あなたは……私……???」

前者は『外の声』であり、後者は『前任者』である。特に後者のセリフはマフティーから与えられたエリンとして後は任せようとして、最後に問いかけだが、この時、外から届いたのは前者の声。マフティー性を秘めてなければ感受すら不可能であるが響きであるが前任者は『マフティー()エリン』だから聞けたんだと思い、それと同時に「ああ…私もマフティーが出来るんだ…」と自己完結(せいとうか)を行ったことで前任者はマフティーのファクターとして完成した。ただあくまで前任者は命を与える側のマフティーに続くエリンなため、外から届いた声の先で二周目は叶わなかった。それでも彼の中ではこの一瞬だけでもマフティーたらしめた"トレーナー"として在れたことが救いとなり"この世界から"は消え去った。



















そして……三女神はちゃんとそれを見ていた。



その後、エリンを知った彼の魂は消えることなかった。就任前まで戻り得たことに困惑する彼は無意識にクローゼットを開けると小さな時計を見つける。__これは夢だったのか?壊れて動かない時計の針はまだ真っ直ぐと、この正当化を曲げることは許されない。それを感じた前任者は二度とウマ娘に違えないと与えられたマフティー・エリンに誓い、そしてスカウトしたウマ娘と共に一人のトレーナーとして歩み始めることになったらしい。え?__この続きかい?申し訳ないがこの先の物語はマフティー・エリンから始まった痛みを知った赤子の独りよがり。虹に乗れなかった男が虹に乗ることができただけの、なんてことない三流作家が描く様な脚本なのだから…………へぇ?察しの良いNTだ。そうだね。あとほんの少しこの物語をなぞるなら彼がその後契約したウマ娘は至って普通の娘だ。出会いも繋がりにも特別なモノは何一つない。マフティー性だって皆無だ。強いて言うなら半分コのたい焼き。あと半分コの折りたたみ傘。なんてことない普通から始まりを与えられただけの二度目だ。ほら?大した物語じゃないだろ?語るほどの内容は無い。だって彼は危険人物にも何にもならない虹に乗れなかったトレーナーなんだから

それと完結から1周年記念として毎日投稿だ。
震えて促されて、どうぞ。

次回につづく


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if story ?? _ ∀+

ちょっと短めな話。
現状把握ってやつ。



 

 

 

 

この広大な宇宙には___我々には観測できない未知の生命体が存在する。

 

 

例えば、火星に。

 

そこには王がいるのかもしれない。

 

 

例えば、水星に。

 

そこには魔女がいるのかもしれない。

 

 

例えば、木星に。

 

そこには貴族主義がいるのかもしれない。

 

 

かもしれないは、一種の願望から。

 

だがそれでも、おとぎ話のように巡り合い宇宙はこの世に存在するかもしれないとロマンチストはいつだって望遠鏡に思いを馳せる。彼らにとって思考放棄した「ありえない」はピリオドにならないから。

 

 

しかしそれは『まだ』浅さはかだ。

 

ロマン溢れる地球外に思い馳せるのは当然だとしても、空を見上げることに夢中な人間は何故こうも考えれないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世には【並行世界(パラレルワールド)】が存在するということを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狂気の入口となった、その引き出しの中には真っさらなメモ帳だけが残されており、引き金となった薬物は見当たらない。

 

また正当化を被るために用意されていた舞台装置もクローゼットの中に見当たらず、新品のトレーナースーツだけが何着か取り揃えられてるだけ。変なモノは何一つない。

 

しかし、見たことある真っ白な天井と味気ない個室は未だに覚えている。この環境なのはそれ以外に余裕が無かった証拠なのか、または禁欲的な生活を望んでいたのかどちらかだろう。しかしそれらを確かめる手段は持ち合わせてないため考えたところで無駄だろう。いまは俺がこうなった現状を理解するための判断材料として扱われるだけだ。

 

それから携帯を手に取り、スケジュール表を確認しながらこの家を散策する。冷蔵庫には冷凍食品とエネルギードリンクばかりであり、生活力の低さに顔を顰める。しかしこの頃はまだちゃんと生きていたのだろう。

 

何せいま、手に持っている携帯画面から映し出されたスケジュール表は見事と言えるほど綿密に管理されている。これがウマ娘の育成法として徹底管理主義を覚えたトレーナーの片鱗なのだろう。これだけを見ればまあ優秀だ。新人トレーナーの中では中々のレベル。

 

しかしそれでも奴は道は違えてしまい、神秘との向き合い方を間違い続けた。それが一年後には()()()()()しまう。恐怖とは人を簡単に変えてしまうモノなんだろう。それはガンダムでよく見られた光景だ。

 

携帯の電源を落とし、胸に手を当てて集中してみる。ああ、俺はまたやったのか?この体の持ち主は何処に行った?それともこの瞬間から居なかったモノとして扱われたか?それともこのファクターのために都合よく用意されたイレギュラーか?確かめようが無い。

 

でもこの体にマフティーを知る魂が入り込んだということはつまり、この世界にマフティーを求めるナニカに促さなければならないということ。それは前任者が強きビジョンを求めたのと同時に三女神もウマ娘の幸福を願い、マフティーを知る魂を呼び寄せた。身勝手なご都合主義の始まりがこの俺。そしてそこから更にマフティーをファクターとして繰り返す。そうなったら俺はもう普通じゃない。

 

 

 

「やれやれ、もしこれが二次小説から生まれた物語と言うならなんとも酷い作品だな。笑えないな」

 

 

 

携帯をポケットに仕舞う。

 

そして明後日、始まるトレーナー人生。

 

そんな俺は二度目だ。

 

新人トレーナーの皮を被った紛い物としてこの世界で二度目を始める。

 

つまり強くてニューゲームって奴だろう。

 

 

 

「前回と比べて随分と救済処置が効くじゃないか…」

 

 

 

前回は弱くてハードゲーム。

 

呪いの装備であるカボチャ頭でスタートだ。

 

しかし今回はただのトレーナー。

 

狂気を正当化して乗り越えてきた知識がこの体にある。

 

なに、怖がる必要なんかない。

 

マフティーをしていた俺なんだぞ?

 

それ以外に対して何に恐れるというのだ。

 

 

 

「しかしココは同じ世界線なのか?だとしたら今のトレセン学園はどうなっている?そして…」

 

 

 

外から舞い込んだ『声』は何処から??

 

消えるはずだったエリンが役割(マフティー)たらしめてまで俺に届かせたかったその声は一体誰なんだ?そんなにも苦しいのか?外に響くまで悲痛があるというのか?誰だ?誰が俺に求めている?誰だ?誰が俺に応えてほしい?マフティーが掴んだソレは何だ?何がマフティーたらしめたい?

 

ああ…教えてくれ。

 

俺はマフティーのファクターとして中央のマフTから別離した紛い物の紛い物だ。いまもジャック・オー・ランタンのように彷徨える魂。それでも俺は声を聞いてこの場まで促しに訪れたマフティー・ナビーユ・エリン、独りよがりを続けてきた正当化の塊である。

 

もし声を響かせるだけで手足は動かせない痛みを知った赤子だというならこちらから応えよう。

 

この世界がそうさせたなら間違いなくそうなる。

 

大丈夫だ。

 

___俺は繰り返すよ、マフティー。

 

だって……なんとでもなるはずだ。

 

そうだろ?___ああ、そうさ。その通りだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ。随分と穏やかな中央じゃないか」

 

 

 

まあこれが普通と言うべきか、中央はよく統率の取れた良い環境なのがわかる。

 

腐敗した連中はいなかった。

 

いやまぁ、それでも年功序列を盾にした身勝手な奴らはそれなりにいたのだが、前回に比べたらかなりマシだ。新人トレーナーも生き生きしている。

 

それはウマ娘に幸せを夢見れなくなった三女神がマフティーを呼び起こしたいほど嘆いてしまう環境じゃないって事。そうなると前の世界は本当に酷かったことになるな。

 

だから…ありがとう、自由を愛するウマ娘。

君のお陰だよ。今の俺が健在なのもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マフT(キミ)がパートナーで良かった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ___それはそれとしてだな。

 

年功序列や立場を利用しただけの実力に伴わない悪質トレーナーは真っ先に粛清してやるよ??当たり前だよなぁ??正しくウマ娘に狂えない中央トレーナーはこの学園に不要だるるるぉぉぉお???

 

 

 

「うんしょ…うんしょ…」

 

 

 

中央の状況を確認しながら学園の廊下を歩いていると前から小柄なウマ娘が一人。その両手には頭よりも上に重ねた本の山。そして足元がおぼつかない。見ていて心配になるな。

 

 

 

「きゃ!」

 

 

そして案の定、両腕に抱えていた本の山は倒れ始めた。俺は手を伸ばして倒れる本を受け止める。それからそのまま半分ほど本を掻っ攫うことにした。また倒られても困る。

 

 

 

「あっ、あっ、あの…!」

 

「これだけの本、勤勉なのは関心だが、足元不注意なのは関心しないな。トレーナーとして見過ごせない」

 

「!?…ご、ごめんなさい!でもその本…」

 

「わかっている。図書室の本だな?俺もそこまで運ぼう。そう遠くない」

 

 

 

それから半ば強引に本を運ぶことにすると小柄なウマ娘は慌てたように跡を追う。

 

図書室にたどり着き、とりあえずテーブルの上に置いた。

 

 

 

「あの、ありがとうございます!」

 

「気にしなくていい。コチラが勝手にやったことだから」

 

「いえ、そんなことありません。トレーナーさんの言う通り危なかったのは確かです。心配おかけして申し訳ありません。その、なにかお礼ができることを…」

 

「そこまで言わなくて良い。何度も言うが勝手にやったことだ。あまり気にするな」

 

「ですが……」

 

 

若干おどおどした感じの大人しめな娘に見えるが中々引き下がらない。助けられたらしっかりとお礼をする辺り育ちが良すぎるのか、それとも彼女が本心からそうして生きてきたのか、どれかだろう。そしてこういうタイプはなかなか頑固だ。さてどうするか…

 

 

「それなら君の名前を教えてほしい」

 

「え?」

 

「この書物に刻まれているタイトルに夢見た英雄騎士とならんウマ娘が気になる。それだけだ。それで?汝の名は?」

 

「!」

 

 

少しだけ演技を加えてみる。マフティーをしてた身としてはそこそこ得意なところ。おかげで覇王なウマ娘がよく絡んできたことを思い出した。

 

 

 

「は、はい!わたくし!ゼンノロブロイと言います!」

 

「ロブ・ロイ……か、なるほど。それはとても良い名前だな」

 

 

 

英雄譚を好むウマ娘の名を覚えると俺は図書室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして俺はまだ知らない。

 

この彼女が外から聞こえてきた『声』に対するヒントを持ち合わせたウマ娘であることを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、この世界に来て早く一週間が経過した。

 

わかったことがあるとすれば。

 

 

 

 

『これは強い!これは強い!完全に抜け出した!二番手とのその差は三バ身!誰も追いつけない!そしていま1着でゴールイン!なんとなんと!今この瞬間!日本ダービーに続いて菊花賞を制し!クラシック栄光の頂きである三冠バとなりました!観客は大歓声!トレードマークのシルクハットを揺らしながらファンの期待を応えてくれました!二着はカツラギ__』

 

 

 

 

 

「こっちでも彼女は不変か。頼もしいな」

 

 

 

見ているのはこの世界では数年前の映像だ。

 

変わりない追い込みの脚質。

 

その脚で三冠を達成。

 

そして学園を謳歌した彼女は既に卒業している。

 

もうこの学園にその三冠バはいない、

 

なるほど。

 

どうやら……彼女達が先みたいだ。

 

 

 

「ま、それもそうか。外部から継承されるウマソウル次第では、段階的に走り出すのが速かったり、または遅かったりする。もしかしたら俺の知っているウマ娘は既にデビューを済ませているか、もしくは既に卒業してしまった子もいるんだろうな」

 

 

 

この世界はウマ娘ってタイトルの創作物。

 

史実の馬やレースがこの作品を形作っている。

 

けれどこの世界は自由極まってるプリティーダービーなため全てが史実通りに事進んでるとは限らない。この世界は酷似しているだけ。

 

そのため実馬の名前を受けたウマ娘がその時代に合わせてその通りに走っているのか?

 

もしくは史実とは違う時代で走っているのか?

 

または名が与えられたとしても走ってすらないないのか?ウマ娘次第では様々だと思う。

 

 

だから俺はこのトレーナー人生が2回目と言えども前回と全く同じだとは思わない。

 

前に出会ったゼンノロブロイって娘に関しては初めてだった。出会ったこともなければその名前も聞いたことなかった。全く知らない。

 

だから本当に、与えられたウマソウル次第。

 

本人の気持ち次第では歩み方が変わっていることも珍しくないだろう。

 

先ほど見ていた過去の菊花賞のレースに出走していた彼女が証拠である。そこにマフティーがなかろうとも彼女らしく走り、三冠バとなって人々を魅了していた。

 

 

 

「なるほど。今の中央がちゃんと機能しているのも過去に生徒会長していたシンボリルドルフが居たおかげなのかもな。有難いことだ」

 

 

この二度目は一度目の世界線は違う。

 

しかしウマ娘の影響を受けやすい便利な世界であることに変わりない。

 

ここはそういうところだ。

 

 

あと秋川理事長も既に居た。

これには少し驚いた。

 

もちろんたづなさんも一緒にいた。

二人は健在だった。

 

あの二人がいるなら大丈夫だろう、中央も。

 

もちろん力が必要なら俺も力を貸すが、今は新人も活動しやすいこの環境、ひたすら現状維持すれば良いだけの話だ。大きな問題にぶつかった様子もない。俺の知っている中央とは違って随分と平和なところだ。

 

 

 

「……」

 

 

しかし不思議な気分だ。

 

この世界に来て一週間経ったが今でも二周目が始まっているんだなとシミジミ思う。

 

いや正しくは三週目か?

 

カボチャ頭のマフティーしていた時は二周目であるが、生きたまま周回した意味ではコレが二周目になるだろう。

 

しかも今回は呪いもなく中央は平和で強くてニューゲーム。

 

ネットではウェブ小説とかでループ系を読んだことあるが、その展開が今の俺だ。

 

それが実際に起きている。

 

 

 

「あまりにも都合が良すぎて怖いな…」

 

 

 

俺は時々考える。

 

この世界は生きている。

 

俺を除いてまともだ。

 

全てが正常だ。

 

ああ、平和だ。

 

 

 

故に__マフティーなんていらない。

 

マフティーなんて紛い物は必要とされていない。

 

しかし俺はエリンの拾った行先に導かれてこの場所にやってきた。選ばれてここに来た。

 

 

しかしそれはマフティーとしてなのか?

 

それともマフティー()()()者としてか?

 

 

 

「これではポッカリと空いてしまった穴空きカボチャだな」

 

 

 

俺はマフティーを知る者。

 

もしくはマフティーたらしめれた器。

またはその魂。

 

URA風に言えば『危険人物』。

 

取り扱い注意なジャック・オー・ランタン。

 

必要とされたこの歪さをウマ娘の世界で完成させたのが『俺』であることを……俺自身が知っている。

 

G U N D A M 達がそうさせてくれた。

 

 

 

だが、それはもう過去の産物。

 

今は違う。

 

カボチャ頭を被らない一般人。

 

普通のトレーナーとして新たに始めた身。

 

呪いに苦しまない二度目の__樫本。

 

約束通り、命を返された者だ。

 

 

 

「俺に普通のトレーナーを全うしろ、と……そう言いたいのか?」

 

 

 

この一週間、学園を見て回ってきた。

 

苦楽を謳歌するトレセン学園。

 

厳しい実力主義の世界で皆が奮闘する。

 

何も促す必要がない。

 

イレギュラーなんかに居所がない。

 

そう考える。

 

 

 

 

 

けれど…

 

 

 

「聞こえた『声』には応えないと」

 

 

 

世間にマフティーは不必要。

 

これは確かだ。

 

表舞台に出る必要はない。

 

しかし外から届いたあの声は()()マフティーを必要としている。

 

なにせマフティーたるエリンが声を聞いた。

 

ソレが答えになっている。

 

ならマフティーだった俺はその声にだけマフティーとして拾い上げる必要がある。

 

なら今一度、正しく狂え。

 

そうしてまで欲するその声に応えろ。

 

この魂は既に独裁者としてたらしめた。

 

ならば()()()()()者としてまた始めろ。

 

それが二度目として降り立ったファクター。

 

その『声』だけのために求められろ。

 

 

 

「絶対に聞き届けてやる」

 

 

 

PCの電源を落として寝る準備をする。

 

明日はウマ娘の選抜レース。

 

中央を夢見た者達のアピールタイムだ。

 

それはトレーナーも同じ。

 

 

 

 

 

それと明日の天気は晴れ…のち曇りの様子。

 

あの日とはやや違う。

 

折り畳み傘は___一応、持って行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

next

 






結局、ウマ娘に正しく狂うだけの魂。
それは残酷か、または幸福か。
そう感じるのは本人次第。


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if story ?? _ ∀++


ぶっちゃあまり深く考えんで読んでくれたらうれしい。
それらしく書いてるだけだから(思考放棄)

あと誤字脱字報告、本当にありがとうございます!!
そそっかしい作者でほんとうに申し訳ない…!!




 

 

 

 

 

51%だけ、私を分かってくれる父がいる。

 

父は研究者だから、頭の良い人。

 

それでも私の全てを理解できない。

 

私はあまりにも___異質極まっている。

 

誰とも交信が叶わず、誰とも会話が出来ない。

 

理解するを妨げられ、拒絶が宇宙以外を招く。

 

それがこの世界にいる、(ぼく)という存在。

 

この世界線は私を助けてくれるのだろうか?

 

 

 

 

「…おーい……おーい……」

 

 

 

白色の袖をゆらりと振り回して呼びかける。

 

私にしか聞こえなかったあの導き。

 

 

 

宇宙(そら)の彼方に聞こえた『コネクト』は……『交信』………ぅんん……彷徨い果てた"指標"が見えない……困った……」

 

 

 

最近まで聴こえていた…ような気がする。

 

余計な光のない宇宙だから受け取りやすい。

 

けれどこの街はあまりにも眩し過ぎる。

 

夜になっても夜空は街の光で明るいから。

 

 

 

「誰…だったの?……宇宙の"未確認"は進行も無い"SECR"……ほんの一瞬だけのは"閃光"のような……うんん、わからない……なのに、とても……とても……"GEMN"…」

 

 

 

聞こえたこの魂が震えた。

 

奮えて、慄えて、震えていた。

 

まるで一つの歪みが双子座として新たに集い、宇宙に共振した。

 

それを感じ取ったあの日、虹のように広まった緑色の温かな光は気のせいじゃなかったかもしれない。触れたのも一瞬だけだった。でも温かで、新たな一歩で、たしかな導き。

 

忌々しい記憶と共に地球へ引き寄せられる隕石すら軌道を変えてしまう、そんな希望の証明。

 

 

 

でも…

でも…

 

ほんの少し触れただけ。

 

 

 

私は…

私は…

 

見ていただけ。

 

 

 

 

虹に乗りたかった………

 

 

 

あの時、感じれた光はもう見えない。

 

いまは無いものを探しに迷うだけ。

 

今日も拾うことなかったアンテナ代わりの白い袖をだらりと下ろす。

 

何も見えない。

 

何も聞こえない。

 

何も応えがない。

 

 

 

でも…

 

でも……嫌だ。

 

気のせいで終わらせたくない。

 

だって…

こんなにも……

 

あの響きは私にとって救いなってくれる。

 

こんな歪な魂に応えてくれる。

 

 

ねぇ?何処?

何処かな。

何処なら、それは聞こえるかな…??

あなたは今、何処にいるの??

 

 

ほんの一度だけ。

ほんの一瞬だけ。

 

応えてくれたあの答えは…

 

 

 

閃光のハサウェイ………

 

 

 

この世に……いや。

 

この世界に……いや。

 

この世界線に存在しない……概念。

 

それが(わたし)を救うはず。

 

いや……そうであって欲しい。

 

何故なら見えてしまう『先』に痛みを知っているから。

 

身構えていても死神は来る。

 

いずれ迫り来る『(ぼく)』の結末。

 

怖くなり、震える腕を押さえる。

 

今日も聞こえなかった。

 

早く…

 

ああ…はやくその虹を見つけたい。

 

そうすれば、未来も、今も、救われる。

 

 

 

「マフティーって………なにかな…」

 

 

 

息苦しさのまま私は歩みを進める。

 

この場所に居所がない気がしたから。

 

 

 

私はいつまでこうするのだろう…

 

そして…

 

いつまでコレを繰り返すんだろう……

 

答えと、応えが欲しい…

 

 

 

 

誰か……

 

誰か……

 

私を______聞いて。

 

 

 

助けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月の第二周目、今年1回目の選抜レース。

 

ウマ娘達がアピールのためこぞって参加する。

 

緊張したウマ娘から、緊張に慣れているウマ娘。

 

それはトレーナー側も同じ。良いウマ娘をスカウトできるか勝負に掛かっているが………いや、悲しいかな。そんなに甘く無いのが中央。

 

なぜならスカウトされるウマ娘も自分を確実に強くしてくれる手腕の良いトレーナーを求めてこのレースに参加しているから。それは当然の話。ウマ娘も信頼できる腕前の者にアスリート人生を委ねたいものだ。確実なのが良い。

 

そのため実績を何も持たぬトレーナー…… 特に新人のレッテルを持つトレーナーはウマ娘からスカウトの「良し」を受け辛い。

 

この時点で躓くことは良くある。

 

何せここは実力主義を掲げる中央の世界。

 

スタートラインから既に勝負が決することも珍しくない。そのため新人トレーナーにとってスカウトは最初の難問となる。

 

あとはコミニュケーション能力。

 

案外これが重要。

 

アスリート以前に相手は未成年である。

 

しっかり見聞きしてやらないと捕まえれるものも捕まえれない。

 

 

さて、そんな俺はこの中央にとってどんなトレーナーとして映るか?

 

前世のことを考えれば得てきた重賞は二桁を超えてはいる。あと何かの間違いかあの勝負師がフランスで世界一を獲りやがったり*1と、そこら辺を合わせればかなりの成果を持ち合わせてるトレーナーだと思うが、ココではそんなの俺の記憶だけにしか残されてない実績。

 

この魂に刻んできた記録は多く備わりしも、今世でその実績が目に見える形で残されてない。経験だけ語っても無理だろう。

 

ああ、やっはり、あの時、あの場所、あのターフであんなにも自由を愛するウマ娘と出会えたのは運命的だったってことだ。そのため今もたまに考えてしまう。

 

出会えたのが彼女じゃなかったら俺は今どうなってたか?

考えるだけ苦痛になる。

 

てか、やめろ、やめろ。

それを想像して贖罪中の前任者の前で苦しんだじゃないか。

もう終わったことだから想像するな。

 

 

そうとも。

ああ、そうさ。

 

今の俺は呪いに縛られていなければ。視線を合わせることで嫌悪感を与えてしまう鎖も無い。今はまともな新人トレーナーとしてこの場にいる。俺はとても正常だ。

 

なら、経験を活かせ。

 

コーナー(スキル系)で差を付けろ。

 

これまで積み重ねてきたコミニュケーション能力なら問題ないはず。得てきた経験は裏切らない。新人のレッテルはどうしようもないがウマ娘の夢を預かるくらいはできる。

 

あの時と同じだ。

 

くしゃくしゃな紙を握りしめたウマ娘。

 

一等星に思い馳せる片割れのウマ娘。

 

他にも何人かいる。

俺自らスカウトした子が。

 

比率的に逆スカウトが多かったが、しかしそれだけ必要としてくれたからトレーナー名誉に尽きることだ。それだけの経験はある。

 

 

 

 

だから、スカウトくらい!

 

なんとでもなるはずだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q__なんとでもなりましたか?

 

A__あ げ ま せ ん ! !

 

 

 

 

 

 

「なんつう即オチだよオイ」

 

 

いやまあ、スカウトしようとしたけど、それ以前に出来なかった。ちゃんと理由はある。

 

実は出走ウマ娘の参加人数、そう多くなかった。

 

新学期始まってからまだ1週間目かつ模擬レース1回目なためか、様子見するウマ娘が多い。

 

それでも選抜レースの参加者に有望株が何人かいた。中央で活躍できるレベル。しかしこういう時は大体ベテラントレーナーが(こぞ)って確保に向かってしまうため発言力の低い新人トレーナーに出番など無い。

 

当然、俺たちはどうやっても後回し。

 

マッチングアプリと化した三女神がご都合主義を抱かない限り新人に出番は少ない。

 

まあこの辺りは分かっていたことなので驚きはしなかったがココが改めて中央の世界だと再認識する。

 

 

 

 

Q_スカウトしたいですか?

 

A_いやー、キツイでしょ。

 

 

 

 

 

 

世界が分厚すぎるわ。

 

 

 

 

 

「うんしょ……うんしょ……」

 

 

 

成果的な意味で言えばスカウトは失敗。

 

これからどうしようか考えていると奥の方から小さな足取りで向かってくる生徒が一人。

 

代わりに前方の視界は本の山で見えなくなっている。やれやれ、またか。

 

 

 

「ゼンノロブロイ」

 

「ひゃい!?」

 

 

声をかけたことが失敗だっただろうか、前と同じように額の高さまで積み重なった本の山が崩れ落ちてしまう。

 

そのまま落下を見送る訳にも行かず咄嗟に手を伸ばして山から落ちる本を受け止めた。

 

 

 

「突然声をかけた俺が悪いけど、もう少し身の丈にあった運び方は無いのか?」

 

「ご、ごめんなさい!返却期限が迫ってたので焦ってしまいまして!」

 

「……まあいい。とりあえず受け止めた分はコチラで運ぼう。ちょうど暇してる」

 

「え?……あ、ありがとうございます!」

 

 

 

ふと思い、受け止めた本を見る。

 

『○○物語』のような良くありげなタイトルがズラリと並んでいる。

 

ぱっと見、英雄譚の書物だ。

 

 

 

「とりあえずココにおくぞ」

 

「は、はい!ありがとうございます!うぅ… またトレーナーさんにお手を煩わせてしまいました…申し訳ありません…」

 

「勝手にやったことだからそこは気にするな。ただもう少し安全な運び方を考えて欲しい。見ていると心配になる」

 

「あぅ…ごめんなさい」

 

 

 

この子はそういう性格なのか。

 

謝り癖がついているのか随分と腰が低い。

 

謙虚なのは美点だが、それは頂けない。

 

……とりあえず話題を変えるか。

 

 

 

「それにしても君は本が大好きなんだな。特に目立って伝記が多い。前に出会った時もこれだけの量を読んでいたのは覚えてる」

 

「っ、はい!そうなんです!わたし!逸話の中で活躍する人達が好きなんです!もちろんフィクションが多く混ざっていることも分かっています!しかしこれはそれだけ記憶に残したい証拠なんです!だから読めば読むほどその人が後世に伝えたい気持ちが伝わりまして!気づいたらその物語に身が溶け込むようなそんな感覚になるんです!」

 

「なるほど。溶け込むような感覚か」

 

「はい!特に王道な物語が大好きです!描かれた主人公の追憶を追いかける… して、その者がどのように歩みを進めたのか?それを読めば読むほど伝記というのは気になって仕方ない!次も求めたくて病まない!そして!そして!苦闘の先で報われた英雄たらん者が旗を掲げた時が一番好きなんです!…あっ!旗というのはですね!」

 

「証明、革命、英雄たらんとする証… など、それを一つのチェックポイント、またはその先に続くターニングポイントとして主人公が掲げた瞬間が読者として最高に染まれるタイミングだろう。溶け込むってそういうことだな?」

 

「はい!はい!!そうなんです!!その通りなんです!!己がここに健在である証明!!歩みを止めなかったからこそ生まれる伝記!!それは一つの答えなんです!なんですっ!!!」

 

「お、おう…」

 

 

 

眼鏡越しのお目目がすっごいキラッキラしてる。

 

文学系あるあるなのかな?

 

好きな物を語れる喜びがあるのか、めっちゃ表情がキラキラしてる。

 

耳もピコピコと揺らして随分と可愛らしく見ていて微笑ましい限りだ。

 

 

 

「あ、あの、トレーナーさんは何かお読まれになったりするんですか?」

 

「書物はあまり手に取らなかったな。手に取ったとしてもウマ娘の育成論文とか参考書とかそっちのタイプ。しかしコレはコレで先人が得て来た記録が書き付けって形で見られるため育成者として読む分には面白いとは思っている。これもある意味…伝記じゃないか?」

 

「はっ…! 確かにです!追憶をなぞるという意味ならそれはそれで伝記かもしれません!だってそれも立派な記録ですから!」

 

「本当はストーリー性があったほうが伝記として認識されるだろうが、レポートに英雄譚が描かれてる訳でもあるまい。いや、待てよ?もしかしたら筆記者の英雄譚じゃなくとも参考書の中に武勇伝のひとつまみくらいは何処かにあるんじゃないかな?論文を書く自分に酔いしれていた、とかで」

 

「ふふふっ、なるほどです」

 

 

 

話すほどザ・文学系少女って感じだ。

掛けているメガネもポイント高い。

 

え?アグニカポイント??

オメーじゃねぇよ。300年眠ってろ。

 

それから本を種類分けしていると一冊だけ気になる書物を見つける。

 

 

 

「おいおい…これはまた難しそうな本だな。天体観測の本…?いや、違うな」

 

「あ、そちらは私のじゃないんです。お知り合いの方がそちらの本を読み終えたようなので私からまとめて返却しようと考えて一緒に持って来たんです」

 

「この一冊だけか?」

 

「はい、これだけです」

 

 

 

無理やり運ばされた訳でもなく彼女がついでで持ってきたらしい。

 

それにしてもこれ学生が読むような本じゃないな?気になって目次を開いてみる。

 

 

 

「…」

 

あー、なんというか、星座の導きが云々、宇宙の真理が云々、無重力の圏内が云々、だったり随分と空を見上げたような項目ばかり目次に書いてある。

 

てかこれ、難解本って部類の書物だよな?

 

もしくは希書と言われるやつ。

 

中央とは言えどもよくこんなのがあったな。

 

とりあえず気になって目次の先を開いてみる。

 

 

 

「うわっ、文法滅茶苦茶じゃないか…」

 

「はい。実は私も読むのに苦労しました」

 

 

 

いや、苦労したってつまり読めたんかい。

 

中央の文学系少女はすごいな。マフティーに優しくするギャルも恐れ入ったけど、中央に所属する文学系も同じくらい恐れ入ったわ。

 

しかし、これ誰が読んだんだ?

 

読書というより読解だろ?元から理解させる気が無いというか、偉人かまたは異人が並ならぬ感性を持ってオセアニアじゃあ常識なんだよ!とか言い出して綴って来ただろうレベルのやつ。カエルのパレード。まぁこっちはカボチャ頭でパレードだったが。

 

 

 

「俺には無理だな。もしこれをスラスラと読めるならそいつは大したもんだ」

 

「あ、それ……実は、その通りなんです」

 

「?」

 

「お知り合いの方が理解した上でちゃんと全て読み切ったんです。ただ読まれた感想はその… 実のところそれをお読みになった本人もどこかわかりづらい方でして…」

 

「…あー、なるほど?」

 

「は、はい……そのため教室じゃ少しだけ浮いている方で……あ、いえ、違いますね!関係ない私たちがアレコレ言うものじゃないですね!」

 

 

 

どうやら彼女の知り合いに不思議な子がいるようだ。まあここは中央だからな。そのくらい普通だろう。今更そこに驚きはしない。

 

 

 

「しかしこの希書を一緒に返却しようと運んだ君のことだ。普段はその子のことを気にかけているんだろう?君は優しいな」

 

「ふぇぇ!?い、いえ、そんな!わたし、そんなやさしいなんて…」

 

 

褒められ慣れてないのか耳をピコピコ、あと指で頬をポリポリとなぞりながらモジモジと動作を見せる。

 

年相応な反応の彼女に俺も思わず笑みを浮かべてしまう。たしかに優しい心の持ち主だ。

 

……いや待て、ウマたらし言うな。

普通に褒めただけだろ!?

 

 

 

「しかし何でこんな奇書を手に取ろうと思ったんだが。しかも普通の本のように読める能力があるなんて」

 

「あ、それに関してなんですが、どうやら何かを探し求めていたようです」

 

「探す?……辞書とか参考書からじゃなくてか?」

 

「はい。その、彼女は普段は表情にあまり変化の無い方なんですけど、その書物を手に取っている間はどこか難しそうな… いえ、困っているような……いえ……ううん、ちょっと難しいですね…なんと言えましょう…………ただ…」

 

「?」

 

が聞こえたと…」

 

「___なに?」

 

「宇宙から声が聞こえた。だからこれに意味があるんだと……いや、ソコにあってほしい……そんな願望を込めて探していました」

 

 

 

こえ?

 

声だと??

 

空から?

 

いや……宇宙(そら)から??

 

これを読んだ子が?

 

 

 

 

なんだ……これはなんだ?

 

一体なんなんだ??

 

この落ち着きのないもどかしは…??

 

 

 

 

「あ、あの……どうしました?」

 

「……」

 

 

 

俺は今一度その本を手に取る。

 

そして適当にパラパラと開いてみた。

 

どこ開いても読めたもんじゃ無い。

 

だが、ページを捲るごとに少しずつ、このもどかしさに近づいているような、感覚がある。

 

 

これは____悲しさか??

 

 

 

「ゼンノロブロイ、その子はいまどこにいるかわかるか?」

 

「…え?」

 

「教えて欲しい、俺はコレを知っているかもしれない」

 

「!!……あ、その……い、いえ、ごめんなさい… わたしにはわかりません。放課後はいつも気づいたらいなくなってしまうんです。そして何処にいるすらも…」

 

「そうか…」

 

「お、お役に立てなくてごめんなさい…!」

 

「気にしなくて良い。俺()が勝手に探しているだけだから。君は何も悪くない。でも大丈夫だ。俺は英雄というには当て嵌まらない器だが、それでも案外、主人公補正とやらが都合よく効いてるらしいからな。記憶に強い」

 

「!」

 

 

 

奇書を手に取ってその追憶をなぞる。

 

しかしこれは読むんじゃない。

 

この冷たさから虚無に溺れそうな迷える熱を拾い上げる。それが出来るのは宇宙の寂しさを知っている者だけ。そしてソレを出来るのはココにいる俺だ。たった一人、マフティーを知る者。それが中央のマフTだったことも。

 

求めれば応える。

 

そうやって幾度なくウマ娘を拾ってきた。

 

 

 

「トレーナーさん…?なにを…?」

 

「……いま、探している。ここから」

 

「見つかる…のですか?」

 

「見つける、なんとでもなるはずだ」

 

 

 

なんてことない始まりから物語は生まれる。

 

それは英雄譚に刻まれた英雄達にも当てはまる。

 

そんな俺はこれと同じ英雄なのか分からない。

 

いや、マフティーは英雄というには程遠いか。

 

けれど物語の始まり。それは唐突に。

 

それが呪いだろうが、祝福だろうが関係ない。

 

宇宙世紀は常にそうだった。

 

それは全て、共通して宇宙か始まった。

 

 

例え…

 

ここにいる俺が『宇宙と』いう他人事ではないこの響きに惹かれ、いまこんなにも落ち着きを保つことに精一杯だとしたら、拠り所が無いと思われたこの魂は唐突に生まれたストーリーテラーに引き寄せられてるのかもしれない。

 

かもしれない。

 

何せそれはいつも急に明かされる。

 

いつだってマフティーにとって予定されてたように全てがそうだった。与えられた必然をこの魂に当てはめられてその先を望まれている。

 

 

そしてこれは初めてではない。

 

一度だけ経験したことのある騒がしさ。

 

それは、確か……そう。

 

同じ宇宙に向けての想い馳せていた琴座のアルファ彗星。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はあの星と共に生きていく

 

 

 

 

 

 

 

釜臥山展望台にある宇宙の下。

 

光のアゲハチョウを眺めながら一等星に思い馳せるウマ娘も巡り合った。

 

マフティーを知る彼女と必然的に宇宙の下で巡り合ったことを考えれば、あれば随分と仕組まれたストーリーだと呆れも含め、けれど必要だったからマフティーだったマフTはそこまでたどり着いた。その声を宇宙に届かせるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

___彼女はこっちだよ。

___私のお姉ちゃんのトレーナーさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視えた。

 

 

 

 

 

「ゼンノロブロイ、ありがとう」

 

「!」

 

 

 

 

放課後の図書室を出る。

 

外を見れば暗くなり始めようとしている。

 

あと予定通り天気も悪くなりそうだ。

 

雲行きが怪しい空。

 

しかし、この脚はそんな夜闇を気にしない。

 

常に被り続けていたあの狭い視界(せかい)を覚えてるならこの程度『なんとでもなるはず』だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__なによ、あの子?

 

__なに、を、言いたいの?

 

__なに、が、言いたいの?

 

__なに、に、言いたいの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気 持 ち 悪 い

そして

気 味 が 悪 い

 

 

 

 

 

 

 

理解されない。

 

理解を得られない。

 

それを繰り返して来た。

 

心が痛む。

心が蝕む。

心が歪む。

 

異常すぎるこの魂は他者から何も得られない。

 

私の親以外、こんな自分に耳を傾けれない。

 

しかしそんな親も全てを理解しない。

 

いや、理解しようとして出来なかった。

 

高い要求値はその他を躊躇わせる。

 

しかしその要求値を下げれるほどこの魂はあまり器用じゃ無い。だから結局このまま。

 

 

 

ああ……まただ。

 

 

こんな『私』は迷惑かけてばかりだ。

 

背負えずに夢見た"私自身"を置いていった。

 

 

あんな『僕』は悲しませてばかりだ。

 

背に乗って夢見た"あの人"を置いていった。

 

 

 

まるで酸素のない宇宙のように…

 

まるで無重力圏内のように…

 

息苦しいまま世間(せかい)から浮いてしまう。

 

 

 

「………」

 

 

 

それでも唯一、走りだけは認められた。

 

それが嬉しかった。

 

皆、やっと私を見る。

 

走りを見て、ウマ娘の私を理解してくれる。

 

だから、中央にやってきた。

 

宇宙を見上げるように夢見てやって来た。

 

ココなら、もっと『コネクト』できる。

 

これが『嬉しい』として出来るなら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そ ん な 君 が 出 来 る わ け 無 い だ ろ ? ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁ!!?……ぅぅ………!!」

 

 

 

 

胸を抑える。

 

拒絶が入り込もうとしている。

 

だから宇宙を見て私は誤魔化す。

 

同じような自分をココから見つめる。

 

でも、それしか得れるモノは見当たらない。

 

 

 

 

 

__何も良いことなかったじゃないか……

 

不死鳥(フェネック)に手を伸ばせなかった青年のように呟く。

 

 

 

 

 

違う、違うの。

 

聞きたいのはそんな声じゃない。

 

もっと、もっと、こんな自分を理解してくれる。

 

もしくは正当化してくれる。

 

それが独りよがりな始まりだとしても、この自分を見て、それで…

 

 

 

 

頷いて、求めて、応えて、語って

 

繋いで、笑って、促して、飲んで

 

砕いて、語って、伝えて、開いて

 

広げて、応えて、触れて、求めて

 

押して、決して、継いで、話して

 

交えて、伝えて、握って、触って

 

視えて、堪えて、頷いて、求めて

 

触れて、飛んで、願って、上げて

 

注いで、求めて、応えて、応えて

 

答えて、応えて、答えて、応えて

 

応える、応える、応えて、応えて

 

答えて、応えて、答えて、応えて

 

応える、応える、応えて、応えて

 

答えて、応えて、答えて、応えて

 

応える、応える、応えて、応えて

 

応えて、応えて、応えて、欲しい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうか、ココに存在してる、私を。

 

どうか、この世界線にいる、私を。

 

どうか、見上げれなくなる、私を。

 

その『声』は聞き届けてくれるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「… (あなた) は……何処に???」

 

 

 

 

 

 

 

 

都合よく見つかるわけがない。

 

だってこの宇宙はあまりにも広すぎる。

 

じゃあ、アレは…

 

私の聴き間違えだったのだろうか?

 

 

 

 

そんなの…

 

そんなの…

 

そんなの……

 

 

寂しいよ________マフティー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見つけたぞ、ウマ娘

 

 

 

 

時間は夜の8時。

 

隠れスポットの展望台。

 

宇宙に無縁たる者には踏み入れない場所。

 

なのにもう一人だけ現れた。

 

くしゃくしゃな切符を握りしめて。

 

 

 

「だ…れ?」

 

「俺の名はマフTまたはマフティーだった者」

 

「っ!」

 

「歪を知った彷徨える魂。このマフティー・エリンを通して、そう語られる名にその声は届いた。そう言えば分かってくれるだろうか?」

 

「!!!」

 

「その反応。どうやらそうみたいだな。ならよかったよここまで聞こえて。つまりカボチャ頭を外しているただのトレーナーで正解だった訳だなマフティー・エリン

 

 

 

要求値の高い、この改札口。

 

辿り着かない切符ばかりの販売機。

 

それを握りしめて……彼はそれを千切った。

 

そして、無理やりこじ開けた。

 

独裁者とばかりに彼も同じく周りを置いて。

 

歪な魂は____私に立ち並んでくれた。

 

それが答えであり、応えとばかりに。

 

 

 

「こ、これは"QUET"……?…貴方は?間違いない……聞こえた…声?」

 

 

「そうだ。俺は聞き届けた者だ。カボチャ頭を外せたからよく聞こえるようになった。つまりその日まで()()()()()裸の王様だ」

 

 

「それは"ZERO"…何も無い『フルフロンタル』…」

 

 

「ああ。今はただ独りよがった英雄譚の追憶なぞるだけのファクター。けれど今もソレに染まり足りているならなんとでもなるはずだ!と君に促しにやって来た『正統なる予言の王』になれるこの俺はマフティー・ナビーユ・エリン。誰にも()()()()()()歪なメドレーだ」

 

 

「!、!!!」

 

 

 

 

世界には同じ顔が3人いる。

 

しかしそれはたまたま折り重なったDNAが天文学的な確率で奇跡に奇跡を重ねて現れる。

 

けれど、魂はどれもオンリーワン。

 

ロマンス溢れるこの言葉の裏側には、誰にもならない、誰にも染まれない、そんな残酷の残酷も込められている。

 

つまり他者と同じは望めない。

 

分かり合えない。

 

だって外側は似せても、内側は別人だから。

 

だから私はそう刻まれる。

 

世間に、世界に、理解されない者として。

 

 

 

 

「貴方は……あなたは……」

 

 

 

けれど、もし…

 

もしも、私と同じように理解されなかった誰かに都合よく届くなら、会いたいと、求めたいと必ず思える。

 

 

 

 

__マフティー・ナビーユ・エリン。

 

宇宙から聞こえた歪なメドレー。

 

 

 

だから宇宙に向かって訪ねた。

 

__ねぇ、マフTって……なにかな?

 

 

 

 

そのメドレーは宇宙から返ってきた。

 

だから宇宙に向かって耳を傾けた。

 

 

 

 

 

__倍速に揺れ動く、瞬く暇も無い、歪な促し。

__俺はそれを。

__閃 光 の ハ サ ウ ェ イ って考えているよ。

 

 

 

 

 

聞いたことのない、言葉。

 

それはとても『スフィーラ』に響く。

 

ドキドキした。

ワクワクした。

 

まともじゃないメドレーに興味を抱いた。

 

もっと、知りたい。

もっと、解りたい。

 

理解し得ないメドレーに触れたい。

 

 

 

 

「貴方はもしかして____ハサウェイ?」

 

「!!」

 

 

 

その言葉に彼は驚く。

 

まるでそう訪ねられることを予想してなかったように。

 

でも…

 

 

 

「さて、それは一体どうかな…」

 

 

 

この質問に彼は戸惑いを見せ、苦笑いした。

 

その質問は少しは正しい()()放任的に。

 

つまり、答えは委ねられた。

好きにしろと。

 

そう促された気がした。

好きに捉えろと。

 

 

 

「ココはまだ宇宙がよく見えるな」

 

 

 

彼は見上げ、宇宙を眺める。

 

見ている先に何が見えているのだろうか。

 

それは彼のみ理解し得ない答え。

 

すると彼は言葉をつづける。

 

 

「向こうでは抱いた概念をカボチャ頭に詰めながら身を投じて狂気を正常にしてきた。でも今はエリンを通して降りてきた一つのファクターとして()()()()()と言える程度の自分なんだ。だからコッチではなんと呼ばれながら促すべきかまだ正直分かっていない」

 

 

 

彼も、私と同じように迷っていた。

 

理解されないモノを改めて理解しようとして再びカボチャ頭へ込めるべきか、それとも繰り返さない自分の【世界線】を選ぶべきか、地球の引力と共に縛られながら宇宙に想いを馳せる。

 

 

私と……同じ。

 

とても同じ、魂だ。

 

 

 

 

「意味を求めようと宇宙を見上げたウマ娘ってのは特段賢いことを俺は知っている。つまり君は賢いウマ娘だ。なら多くを伝えることはない。単刀直入に聞こう」

 

 

「なに…を?」

 

 

「簡単だ。君はそのをどうしたい?」

 

 

「っ!……わた…しは……」

 

 

 

取るべき体の引き出しは全て分かっている。

 

何が正しくて何が間違いか。これは無条件だ。

 

それほどに、簡単に示される。

 

 

 

 

「私は………わたし、は……」

 

 

 

喉の奥に釣っかかる声。

 

ああ……とても気持ち悪い。

 

このつっかえを諦めて飲み込んだとしても、この魂はいまココで彼に訴えろとソレを吐き出そうとしている。躊躇うことは許されない。今こうして返ってきたんだから。

 

 

 

「繋がりたい…っ…」

 

 

 

しかし、とびだしたのは普通の言葉。

 

伝えるには足りなすぎる。

 

けれど…

 

 

 

「もっと、もっとっ、知って欲しい……っ…!」

 

 

 

胸を抑えながら、私は嘆いた。

 

こんなにも落ち着かない『メトロノーム』は初めてだ。どう向き合うべきかわからない。

 

けれど…

 

 

 

 

「なんだ、普通に叫んで言えるじゃないか」

 

「……!!」

 

 

 

彼は満足そうに耳を傾けていた。

 

あれ?今のは……自分…?

今、叫んだのは自分だったのか……??

 

私は、理解されなかった私自身に驚く。

 

自分でも知らなかった。

 

こんなにも奥底から声を引き出せることに。

 

 

 

「わ、わたし…」

 

 

 

ああ……そうなんだ。

 

そうなんだね。

 

自分を忘れて、叫んでみてしまう。

 

無意識に引き出された自分。

 

例えるなら、指を引っ掛けるべき体の引き出しは分かっていても、その引き出しの奥には忘れていた小道具が潜んでいた。

 

それだけの話なんだ。

 

しかし彼は引き出し中身に飽き足らず引き出しごと全てその棚から取り出した。

 

選抜なんてしない。

 

全てを拾い上げる。

 

 

 

ああ、これがマフティー、だ

 

私が聞こうとした【マフT】って人物なんだ。

 

 

 

 

「君とはもっと色々話したい。だがそろそろ天気が悪くなってしまう」

 

「天気?」

 

 

 

上を見る。

 

いつのまにか雲が夜空を包んでいた。

 

星々は役割を終える。

 

『交信』できる時間も今日で閉幕。

 

少しだけさみしい。

 

 

 

「次また会えるよう、これを渡しておこう」

 

 

 

すると彼はとあるモノを取り出した。

 

それはなんてことない、折りたたみ傘。

 

 

 

「ウマ娘の足なら門限も同時に間に合うだろうが一応持っておけ」

 

 

どうやら引き出しの奥には折り畳み傘が転がっていたようだ。彼のお陰で見つかった。

 

私は差し出された折り畳み傘に手を伸ばす。

 

すると彼の指先が触れて……

 

 

 

「__!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

__君もトレーナーさんかな?

__どう? 楽しい走りに見えたかい?

__それとも…

__ただ、すごかった様に見えたかな?

 

 

 

 

 

 

マフティーを通して視える、とある追憶。

 

もしくはとある歪な英雄譚。

 

お互いの想いを乗せ、世間にマフティーたらしめたシルクハットがトレードマークのウマ娘。

 

彼にとっての、全ての始まり。

 

ウマ娘に正しく狂い、応える存在として確立された彷徨えるジャック・オー・ランタン。

 

そんな声と追憶が重たくのしかかる。

 

 

 

 

「"REQU"……貴方と、また『交信』したい………だめ…かな?」

 

「俺もまたキミと話がしたい。だからまた学園でな?」

 

「っ…!!ッッ、うん!…うん!貴方と"ANOI"……ふふっ、また声が聞きたい」

 

「わかった。……ああ、そうだ。ひとつだけ忘れていたよ」

 

「?」

 

「君の名前、聞いて良いか?」

 

 

 

その言葉は私のことを知ってくれる、意味。

 

それは折り畳み傘を受け取ったあのウマ娘の時のように私はこの名を紡ぐべき。

 

存在意義をこのトレーナーに『求める』ため。

 

 

 

 

「私は____ネオユニヴァース

 

 

 

 

 

夜空が好き。

 

曇りは少しだけ苦手。

 

見えなくなるから。

 

 

でも今日はこの折り畳み傘が好きになれる。

 

もう、遠くまで思い馳せずとも…

 

並び立った魂が声を聞いて辿り着いたから。

 

 

 

 

 

next

*1
因みにアチラでは『フウウンサイキ』ってウマ娘が超級覇王電影弾でぶち抜いて日本初をしている







一話の時点で分かっていたトレーナもいると思いますが声の正体は『ネオユニヴァース』でした。マフティー的にはかなりぶっ刺さった。


因みに天井(IFバリア)を突破して引きました(半ギレ)
でもシナリオが良すぎてプラマイゼロでした(尊死)
だからネオユニヴァースを書いたぞ(俗物)
当たり前だよなぁ???(促し)



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if story ?? _ ∀+++

 

 

 

昨日に引き続き、選抜模擬レース第二回目。

 

前日の雰囲気や緊張感に慣れたのか選抜レースに参加するウマ娘が一気に増えてきた。

 

それに合わせてスタッフの数も増えており、同じくスカウト目当てにやってきたトレーナーもストップウォッチやタブレットなどを持参、レースはまだかと待ち侘びている。

 

観客もウマ娘を中心に多く集われている。

 

賑やかなのは良いことだ。

 

 

 

「あれは…ゼンノロブロイか?」

 

 

丸メガネが特徴、あと低身長かつ文学系ってオーラを纏っている英雄譚好きのウマ娘。

 

周りのウマ娘に対して目立たない立ち位置だが、何度か顔を合わせて話もしたことある俺は彼女を覚えていた。

 

そんな彼女は模擬レースようのゼッケンを付けて身震いしていた。デビュー前なのは仕方ないとしてもありゃ緊張し過ぎだな。

 

 

 

「英雄、ゼンノロブロイ」

 

「ひゃい!?」

 

「汝はこのレースで何を示す?何を魅せる?何を持ってターフに描く?英雄を(こいねが)うなら答えろ」

 

「っ、私は…!私だけの英雄譚を刻みます!そして私が私であるこの証明を歴史に……って!ト、トトト、トレーナーさん!?急に何を言わせるんですか!?わ、私が勝手にとは言え思わず……はぅぅぅ、恥ずかしい……」

 

「なんだ、結構良い目をするじゃないか」

 

「トレーナーさん!?ッー、もう、もう!!」

 

「悪かったよ。今日はもうしない」

 

「えええ!?今日って…むむむっ……トレーナーさんって、少し意地悪なんですね」

 

「かもな。しかしゼンノロブロイ、緊張のし過ぎは脚元が危うくて良くない。前みたいに本の山で見えなくなる」

 

「それは…」

 

「しかしそれだけ身構えていれば死神は来ないだろうからあまり自分自身に心配するな。俺は離れたところで見てるからしっかりとゼンノロブロイらしく走っておいで」

 

「!」

 

 

 

 

やりたい走りをする。

 

それを言葉にするのは簡単。

 

しかし、あまりにも難しい。

 

そんなウマ娘を俺は知っている。

 

 

 

__あ!カボチャのトレーナー!選抜レース見ててくれたんだね!あのね!あのね!頑張って走ったけどまた最後になっちゃったんだ、えへへ… あ!でもね!たくさんいっぱいバビューンって走ったら皆が喜ぶんだって!あ、でもでも一着取ったら皆はもっと喜ぶと思うんだ!…けどね、あのね、ここは、ちゅうおう?の世界だからそれは大変だって言うんだよ。やっぱり… そうなんだよね?うん。わかってるよ。皆は脚が早いもんね。ぜんぜん追いつかないよ。で、でもねっ!やっぱり一着取って皆に喜んで欲しいの!応援してくれる皆に応えたいんだ!頑張らないとダメなの!だからカボチャのトレーナー!あのね!あのね!もしカボチャのトレーナーがトレーナーになってくれたら応援してくれる皆がいっぱい喜ぶウマ娘になれるよね!もしそうならね…ウララを!

 

 

 

まだまだ幼さを引きずる春満開な無垢のウマ娘は中央の独裁者を知らなかった。それだけ大事に愛され育てられたウマ娘。故に世間知らずだったが、それでも自分のやるべきこと、またやりたいことに夢中になれる才能は選抜模擬レースに出走したウマ娘の中で印象深い。

 

そして元気だけが取り柄。

元気になれる。元気を貰える。

 

だがそんな彼女の走りでは中央では全く評価されず誰にも見向きされなかった。

 

しかしそこにいた誰よりも臆せずに応えた彼女は()()()()()ことを再確認させてくれた。

 

 

 

__なら!わだすは同じ田舎の出として応援するっぺ!その言葉に偽りがないならこのトレーナーとひたすらのひたすらに目指すんだ!心配するな!大丈夫さ!皆のためにと思うならそれはなんとでもなるはずだ!それで『U』で繋ぐんだ!頼むっぺよ!!

 

 

オークスで見事に魅せた雪国のノンストップガールは桃色のハチマキを次世代に渡した。しかし中央の世界は元気だけの彼女にとってハードルが高く、何より太陽神のウマ娘以上にマフティー性が皆無なウマ娘。それはチーム【GUNDAM】の『MKー2』として新たなる一人目を飾るにはあまりにも劣りすぎていた。

 

けれど…「頑張る」は、間違いなかった。

有言実行のために頑張るをやめなかった。

 

そして有マ記念、2度目の挑戦。

 

全てが正反対な適正の中で『入着』の結果まで漕ぎ着けた彼女は間違いなく結果を残した。

 

そしてチームの中で誰よりも多くの時間を走り続けた。シルクハットのウマ娘よりも、漆黒の摩天楼よりも、入学から卒業まで怪我も諦めもせず彼女だけの季節(はる)を絶やすことなく長い時間を走り続けていたそのウマ娘は間違いなく【GUNDAM】として応えた。

 

文字通り、なんとでもなった、から。

 

 

 

 

 

「それでも君の方がまだ可能性があるさ、ゼンノロブロイ。これからどのように走るのか楽しみだよ…普通のトレーナーとしてな」

 

 

それから観客席まで足を運び、鉄柵越しにレース場を眺める。中央の緊張感と闘うウマ娘たちが一人ずつゲートの前に並んでいた。出走の時間が迫る。一人ずつゲートの中に収められる11人のウマ娘達。半端な数字だなと思いつつ距離2000のレースを待っていると…

 

 

 

突然、一人のウマ娘が現れた。

 

 

 

「な、なんだあの子?」

「え?いつのまに?」

「トレセン学園の生徒なのか?」

「しかし制服は着てないぞ?」

「なんだか不思議な雰囲気ね」

「なに!? IFを突破しただと!?」

「なんだありゃ?とんだセッションミスかぁ?」

「運だけの男はペラペラと良く喋る…」

 

 

どよめきが生まれる中なんてことない顔でキョロキョロと見渡すウマ娘。

 

するとひとつだけ空いているゲートを見つけると抵抗もなくすっぽりと収まった。

 

そのウマ娘は知っている。

 

ネオユニヴァースだ。

 

このレースに参加する予定だった……のか?

 

それよりトレーナー陣営のどよめきから彼女のことを全く知らないご様子だ。

 

しかし…

 

 

 

「まさかだけど折り畳み傘を握ったまま走るつもりか?」

 

 

 

少しだけ嫌な予感がする。

 

なんというか…

 

この後、良くない出来事が起きそうだ。

 

更に言えばスタッフはネオユニヴァースが折りたたみ傘を持ち込んだことに気づいていない。

 

このまま、走り出すのか……

 

 

 

 

 

 

ガコン

 

 

 

 

 

 

半分以上が出遅れ。

 

その中にゼンノロブロイもいた。

 

やはりジュニア級はゲートか。

 

ウマ娘は解放的に走りたい衝動を抑えられず閉鎖的な空間を嫌う傾向がある。特に本格化が始まるジュニア級を中心にだ。メンタルコントロールが効くようになるクラシック級になるとゲート難は大体解決するがそれでもジュニア級の内にちゃんと指導しておかないと出遅れ癖がついてしまう。え?宝塚の564?アレはマフティーでもよくわからん。なんでやろうな。

 

 

 

 

 

『さぁウマ娘達は第四コーナーを終えて直接に入った!後続の子は間に合うか! ?』

 

 

 

 

 

ゼンノロブロイは……厳しい位置だな。

 

しかも膨らみすぎて内を抜かれてる。

 

 

さて、前方はどうだ?

 

直線での競り合いは4名か。

 

 

そろそろ残り200メートルで………んん!?

 

 

 

「な、なんだ今のは!」

「おいおい、何が起きてる?」

「あの子、あんなところに居たか!?」

 

 

 

前の4名に塞がれていたウマ娘。

 

それはネオユニヴァース。

 

パワーが拮抗しやすいジュニア級ではブロックされるとなかなか抜け辛い。特に技術力が足りないとされるジュニア級でよく見られる展開。がむしゃらに走るしかない模擬レースなら尚更だ。

 

もし拮抗する状況を打破できるウマ娘がいたとしたらそれは生まれつき末脚(さいのう)を持ち合わせた者だけだろう。純粋な力を持って外からぶち抜く。

 

しかしこのレースにその才能を持つウマ娘はいないみたいだ………

 

 

ネオユニヴァースの走りを見るまでは。

 

 

 

「随分と落ち着いてるな…」

 

 

焦る様子を見せないネオユニヴァース。

 

デビュー前とは思えないほど冷静だ。

 

いや、彼女にとってデビューなんて初々しい概念は既に置いてきたかのように見える。

 

……経験があるのか?この状況を??

 

 

 

「なに…?」

 

 

 

するとネオユニヴァースは姿勢を前のめりに変えて加速した。姿勢の良い走り。今を持てる最善を尽くしたような動き。レベルが高い。

 

次の瞬間、塞がれていた四人のウマ娘を……瞬く間に抜き去って前に躍り出ていた。

 

 

 

「「「!!!???」」」

 

 

 

まるでワープしたかのようだ。

 

観客席では驚き、またはどよめきの声が広がる。

 

気持ちはわかる。

 

ジュニア級にしては……出来過ぎだ。

 

 

 

 

そして……真っ白な私服のネオユニヴァースが1着の結果で終えた。

 

 

 

「私は走るで『交信』する、したよ……つまり"ランデブー"に満ちる……これで皆、私を見てくれる……理解してくれる……」

 

 

 

表情にあまり変化はない。

 

けれど満足そうにほんの少し微笑んでいる。

 

 

 

 

しかし…

 

俺の予感は的中した。

 

 

 

「ねぇ、ちょっと君、なんか、変じゃない?」

「う、うん。なんか、おかしかったような…」

「だ、だよね?そんな気がする…」

「あまりこんなこと言いたく無いけど、シューズとかに細工してないよね?」

 

 

「細…工……それはネガティブ……」

 

 

 

共に走っていたウマ娘から不信感を抱かれる。

 

見事な走り……とは褒められず、このレース結果とレース内容を周りから問い詰められていた。

 

 

 

「これは……"ERRO"?測り損ねた『エグジスタンス』に……集われる……囲われる…?」

 

 

 

ネオユニヴァースにとって願ってない光景が迫りきていた。

 

簡単に言えば、彼女は認められていない。

この結果を…

 

 

「途中までの走りは素晴らしかった、でも…」

「ああ、最後の方はどこか変じゃないか?」

「まるでワープしたように見えたわね…」

「あの折り畳み傘…何か細工しているとか?」

「いや、わからない…だが不自然に見えた…」

 

 

観客席から見ていたトレーナーや関係者も同じように言葉を並べる。

 

気持ちはわかる。

俺もそのように見えたから。

 

だから周りにとって先ほど見せられた光景が正しくなる。それは普通のことだろう。

 

 

 

「キミ、ちょっと検査していいかな?模擬レースとはいえ、先ほどの走り、あと急な参加も合わせなんらかのレギュレーション違反と、また仕組まれた上での出走だと言うなら…」

 

 

不信感を抱いた競技委員まで詰め寄る始末。

 

とうとうやばくなる。

 

そんなネオユニヴァースは…

 

 

 

「違う……違う……違う……ちがう……また…"アルタイの断崖"に?……ネオユニヴァースは囚われる…?…違う………違う………ちがぅ……ネオ…は…」

 

 

 

 

 

__思っていた反応と、全く違う。

__欲しかった光景と、全く違う。

 

 

そんな眼をする、彼女。

 

 

__また、理解されない。

__どうして?

__なんで、私は……ココでも…?

__いや、だ。

 

 

__…………………………こわい。

 

 

 

 

 

理解されないウマ娘が一人震えていた。

 

 

 

 

「ちょっと待て、それは俺が説明する」

 

「!?」

 

 

 

ああ、そうとも。

 

そうさ。

 

ここで()()()が助けなくて何がマフティーをしていた者だ。

 

 

 

「あ、あなたは?」

 

「二週間前に入ったばかりのトレーナーだ。名家樫本の出だが… まあこれは名ばかりだから気にするな。それより今回の模擬レースに対するレギュレーション違反についてだったな?それならトレーナーとして言わせてもらう。ネオユニヴァースの走り自体に問題はない。今のレースは彼女の実力だ。ただ急な参加と指定されてないユニフォームでの出走はあまり誉められないが…しかしそれだけだ。それ以外はなんの不具合もない」

 

 

俺は多くの視線を受けながらも慣れたように言葉を重ねながら歩き、ネオユニヴァースに降り注ぐ不信感の間に割って入った。

 

 

「それと彼女が持っているこの折り畳み傘は俺のだ。大事な約束(どうぐ)だから今日返して欲しいと約束していた。それまで彼女が健気ながら大事に持ってくれていた訳だ。これはそれだけのこと」

 

「そ、そうなのか?いや、だが、しかし…」

 

「競技委員の貴方は多くのデビュー前のウマ娘を見てきた。ネオユニヴァースの走りに対して抱く不信感は理解できる。しかし先程のレースはなんてことない種と仕掛け。最終直線の残り120メートルの辺りで不自然な動きがあったように見られたがアレはただのスリップストリームから急激に放たれた再加速だ」

 

「な…に?それはつまり…加速中にスリップストリームを行ったと言うのか?バカな…そんな器用な真似…」

 

「彼女は常に落ち着いていた。つまり終始脚をためてリラックスしていた訳だ。そしてバネのように放たれたのはジュニア級レベルに収まらない末脚…故に周りの速度を容易く超えた」

 

「いや待て!直線は既に加速中だった!しかしその説明が正しいのなら!トレーナーが言ってることは2段加速じゃないか!」

 

「ああ、そうだな。ジュニア級では中々の技術だ。普通はデビュー前のウマ娘からそういう走りは見られない。しかし最終直線でネオユニヴァースの前には風避けとして扱うに充分な人数のウマ娘がいた。そしてそれをネオユニヴァースがこの模擬レースでやってのけた。中央の資格あるよ、彼女は」

 

 

そう言いながら俺はネオユニヴァースを見る。

 

基本的にポーカーフェイスな彼女だが視線が合ってピクンと耳が小さく揺れた。

 

あと小刻みに震えていることが分かる。

 

怖くてどうしたらいいか分からない。

 

彼女からそう()()()()()()()()

 

 

 

「ネオユニヴァース」

 

「っ…!!!」

 

 

 

声をかけられて更に恐縮するネオユニヴァース。

震えが大きくなった。

 

けれど俺は表情も態度も変えない。

 

安心させようと言葉をつづける。

 

 

 

「折り畳み傘、返す約束を守るため大事に持ってくれていたんだな。ありがとう」

 

「ぁ…」

 

 

彼女から折り畳み傘を受け取る。

 

それからマジックテープを外して傘を開き、その場でクルクルと回してみせる。

 

ある程度回すと傘を閉じる。

 

この折り畳み傘に何も細工されてないことを周りに見せた。

 

今の一連の動作は競技委員も見ていた。

とりあえず誤解は1つ解けたな。

 

 

 

「これで良しだな」

 

 

強引に解決へ進めてしまいやや申し訳ない気持ちになってしまうがこれ以上彼女は責められる理由が無い。

 

走り自体は見事なんだ。

 

そこは素直に評価されるべき。

 

 

 

「さて、ネオユニヴァース、キミに話がある」

 

「……どう……して?」

 

 

 

どうして?

 

そりゃ…

 

 

 

「スカウティングのトレーナーと未契約のウマ娘…これらが揃うと言えば一つだろ?」

 

「揃う…?……それは『コネクト』?」

 

「もっと単純だ」

 

「?」

 

 

 

少しだけ震えの収まったネオユニヴァースは首を傾げる。

 

どうやらわかってないらしい。

 

なら、率直に告げるとしよう。

 

 

 

「俺はキミを『担当にする』ため、折り畳み傘を受け取りに来たんだ」

 

「!?」

 

「おいおい、宇宙を見上げるくらい色んなことわかっていそうな顔して案外察しの悪いところあるんだな?まあそこら辺は追々慣らすとして…… とりあえず契約の認可もらうため理事長の所に行くか。ここだけはアナログだからな」

 

「ぁ」

 

 

 

俺は彼女の手を取り、歩みを進める。

 

ネオユニヴァースは困惑気味になるが引かれるこの手は振り払おうとしない。

 

この場を脱するためにも必要だと考えているからだろう。

 

すると観客席から慌ただしく足音が響き渡る。

 

 

 

「!」

 

 

 

一難去ってまた一難って奴か。

 

次に障害となるのは業者であるトレーナー達。

 

見たところ中堅、またはベテランと言えるレベルのトレーナーが多い。

 

それは新人に渡さぬようにスカウトのためか?

 

それとも模擬レースに対する抗議のためか?

 

ともかく俺たちの進行を止めようとする。

 

 

「ぁ、ぁ…」

 

 

それを見たネオユニヴァースは耳をピンと立て警戒した後、先程の問い詰めを思い出して耳は恐怖で萎れてしまい、再び震え始める。カタカタと小刻みな震え方だが彼女からしたらこの震え方はかなり怯えている証拠だろう。

 

 

 

「大丈夫だ。任せろ」

 

「!」

 

 

 

強く握りしめながらネオユニヴァースの前に立ってトレーナー達の視線を遮せる。

 

飛び出す言葉はこの子のスカウトか?

それともレースに対する批難か?

 

どうであれネオユニヴァースを怯えさせてしまう要因に変わりない。

 

トレーナー達が揃って口を開いたタイミングで……俺は冷たくプレッシャーを踏みつけながら空気を慄わせた。

 

 

 

「こ の マ フ テ ィ ー の 前 に 立 ち 塞 が る か ?」

 

「「「!!?」」」

 

 

 

この魂は正当化を繰り返し、独りよがりに極まったカボチャ頭の独裁者だった。

 

今はそのファクターとして降り立っただけの魂だが、それでも刻まれているのは理解し難いハロウィンの贖罪、その程度でマフティーを止められる訳がないだろう。

 

 

 

「通して貰おうか。コイツは俺のものだ」

 

 

 

もしこの『独りよがり』を止めたいならマフティーを知った秋川やよい理事長を呼んでくることだが、この世界にそんな概念も自己投影も存在しない。ならこの独裁者を止めれる者など一人も存在しない。無条件なんだよコレは。

 

 

そして動かなくなったそれ以外達を横切ってレース場を出た。

 

誰も俺達を止めなかった。

 

離れたところまで歩く。

 

すると落ち着いたネオユニヴァースは問いかけてきた。

 

 

 

「『困惑』が"STAY"している……ネオユニヴァースは尋ねる……あなたは……助けるをして…何がしたい?」

 

「何がって… 折りたたみ傘を返してくれる予定だったろ?それとまた話そうって約束した。なのに周りが君を理解せず俺たちの声を騒がしくかき消そうとした。だからそこから脱しただけだ。それ以上に理由はない」

 

「でも……でも……そうなると、貴方は……」

 

「別に、どうでもいい」

 

「!」

 

 

俺はネオユニヴァースの手を離す。

 

それから向き合う。

 

理解が追い付かなそうな表情を浮かべていた。

 

 

「今の俺はそうだったと言える者から切り離されたファクター。しかも二度目という随分と狂気じみた所業の身に落とされた状態であるがこんなのはもう慣れているつもりだ。故に可笑しさなどカボチャ頭に食わせてしまった。俺は気にならないし怖くもない。それ以上の恐怖は見てきた。なら何に恐れる?マフティーが一体何に怯える?むしろ慄えを抱かせるのはマフティー・ナビーユ・エリンである。俺はそれ以外を恐れない」

 

 

 

何度も言う。

 

マフティーとは独裁者だ。

 

誰からも指をさされず誰もコレを否定出来ない。

 

それを繰り返してきた俺が言う。

 

そうでなければカボチャ頭でトレーナーなど許される筈もなかった。

 

 

 

「それが……マフティー?」

 

「そうだ。これは無条件だ」

 

「スフィーラ……理解の遠い……証……」

 

「……怖いか?」

 

「ううん、怖くない」

 

「即答だな」

 

「私はその中の貴方を知っているから」

 

 

 

ポーカーフェイスな彼女だが嘘を付いたように見えない。

 

本心からそう言っていた。

 

 

「でも、知ってるは……まだ全部じゃない…」

 

「!」

 

「"QUES"……ネオユニヴァースはもっとマフティーだった貴方と『コネクト』したい……知りたい……だめ?」

 

「ダメではない…何を知りたいんだ?」

 

「"REMI"………カボチャ頭の中の『追憶』……たらしめた"BICT"……それは『独裁者』……けれど貴方は……ウマ娘に応えることに『意味』を見出した中央のトレーナー……その『軌跡』と『奇跡』をネオユニヴァースは……知りたい…」

 

「…追憶……か」

 

 

 

俺は考える。

 

あんなにも冷たい象徴を教えるべきか。

 

いや…彼女は賢いウマ娘だ。

 

だから理解はするはず。

 

それを少しだけ考えて……

 

 

 

「ココではダメだ。見せるにはまだ宇宙が明るすぎる」

 

「それは……ネガティブ…」

 

「君だけに見せたいと思ったからだ」

 

「それは……スフィーラ…」

 

 

 

心に素直な奴だな。

 

俺は携帯を取り出す。

 

時刻は15:00だ。

 

そうだな……語るなら…

 

せめて6時間後かな。

 

 

 

「出かけるための普段着と、念の為に外泊届けを出しておけ。用意はそれだけだ」

 

「"ITEM"……?」

 

「必要はない。…遅くまでの予定は空いてるか?」

 

「"ANOI"……私は縛られたくない……」

 

「なら今日は逃げておけ。これ以上は疲れるだろ。半分は俺のせいかもしれないが」

 

「それはネガティブ……貴方は私を助けた」

 

「なら一度だけ取り戻して正解だったよ」

 

 

 

それから一度彼女とは解散。

 

それから指定した時刻に合わせて再び集った。

 

さて、いまからなにをするのか?

 

簡単に言えばほんの少しだけ不良になる。

 

まあ保護者付きなので外出に対してなんら問題ないが模擬レースなんて大事な興行をパスして外を出歩くなんてのはあまり良い目で見られないだろう。

 

しかし俺たちには関係ない。

 

今、必要とすることのためやっている。

 

 

 

「それじゃあ行こうか、ネオ」

 

「ネ、オ?」

 

「あまりネオユニヴァースってフルで呼んでると聞いて飛んでくる奴がいるだろ?そのためには必要なことだ。いいな?」

 

「MOLT……新しい、わたしだね…ふふっ…」

 

「強ち、間違いではないかもな」

 

 

 

 

裏口から学園を出て、歩き出す。

 

目指す先はにぎやかな街中。

 

そしてマフTでは出来なかった事をしよう。

 

今は、ただ一人のためだけに。

 

俺はウマ娘に正しく狂おうとする。

 

理解されなかった者同士で語るために。

 

 

 

 

 

 

 

next

 

 






強くてニューゲームだからこそ裏ダンジョン(裏口)に入ることができた元マフティーたるトレーナーでした。ちなみにネオユニヴァースはワープしたので誰にも見つからず集合できました。公式設定だぞ。



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if story ?? _ ∀++++



ネオユニヴァースに脳を焼かれすぎた結果ゼンノロブロイを放置プレイしてしまったマフTくんは感想欄から反省を促されて♡


「このバカボチャ!!」




 

 

英雄譚、それは英雄達の雄々しい活躍が記録として残された物語。

 

例えば、国を守る兵士を夢見た少年の物語や貴族の聖騎士として跡を継いだ少女の物語。

 

田舎者の子供が王国最強の戦士となる物語や国と国の命運と平和を繋いだ行商人の物語。

 

最近は過去の世界に戻り自分の運命を変える人間の物語も多くあります。

 

もちろん実話をそのまま取り扱った作品も存在しますが、大体がフィクションとして創られることが多い。それでも物語の中に生きる素敵な英雄達に私は心惹かれていた。

 

 

憧れる、そんな雄々しい英雄達の記録。

 

なぜなら私の名前はゼンノロブロイ。

 

あの『ロブ・ロイ』と同じ名前。

 

ウマ娘として背負った、魂だ。

 

 

 

けれど…

 

現実はどうだろうか?

 

 

 

情けないことに私はその名に相応しい活躍は出来ていない。名前負けしているような有様。

 

未だ、成果も何も出せていない。

 

この中央に入学する時も滑り込みだった。

 

それもそうだ。

 

今の私は英雄という響きにしがみつきギリギリ繰り返して走っているだけ。

 

本に読み耽て英雄を夢見るだけ。

 

英雄の器にすらなりきれない弱き者。

 

名前だけが一人歩きしている。

 

私は脇役。

 

周りと比べれば情けないほどにウマ娘としてとても弱い。それは幾度なく実感してきた。

 

 

 

「でも…」

 

 

 

諦めれない。

 

私は『まだ』希っている。

 

ゼンノロブロイになれることを。

 

 

 

 

 

 

怖い…!

怖い…っ!

とても怖いっ!

 

今日、参加した模擬レース。

 

緊張のあまりいつものように眠れなかった。

 

わ、私、ちゃんと走れるのだろうか?

 

こんな小さな体で何を成せる?

 

ゼンノロブロイはちゃんと走れるの??

 

不安だけが埋め尽くす。

 

脚が震える。

 

体が動かない。

 

 

「…っ」

 

 

英雄を夢見る小さな魂程度。

 

周りを見渡せばその程度容易く覆い尽くしてしまうような輝かしい器で沢山ある。

 

だから誰も私なんかを見ていない。

 

 

誰も……

 

こんな私を……

 

 

 

「英雄、ゼンノロブロイ。汝はこのレースで何を示す?何を魅せる?何を持ってターフに描く?英雄を(こいねが)うなら答えろ」

 

「っ、私は…!私だけの英雄譚を刻みます!そして私が私であるこの証明を歴史に……って、あわわわ!ト、トトト、トレーナーさん!?」

 

 

 

声と演技と共に現れたのは知っているトレーナーさん。

 

運んでいた本が落ちたところを何度も受け止めては助けてくれた人。そのまま本の整理も手伝ってくれました。そしてこのロブ・ロイの名前を聴いてくれた数少ない私の理解者。

 

それと…私の趣味も知ってくれた人。

 

それがとても嬉しくて、それで思わず英雄譚の話を熱く語ってしまいました。

 

今思い出すと少しだけ恥ずかしい。

 

 

そして、そんな私に「良い目をするじゃないか」と揶揄ってきました。

 

すこしだけ意地悪な人だ。

 

 

でもお陰で緊張が解けました。

 

あと不思議と震えも減った。

 

あんなにも不安で仕方なかったのに彼の方の言葉を聞いて落ち着いた。

 

まるでガタガタと揺れるメトロノームをその大腕で掴み、ピタリ針を静止させるような感覚。

 

あの言葉……いえ、彼の発する『促し』は普通以上の何かが備わっている、そんな気がする。

 

なんとも不思議な人だ。

 

硬直していた筈のこの脚は今とても軽い。

 

 

 

「ゼンノロブロイらしく走っておいで」

 

 

 

その言葉だけを残してターフを去る。

 

私らしく…

ゼンノロブロイらしく…

 

脇役のウマ娘にそう言ってくれる。

 

 

「っ、はい……!」

 

 

トレーナーさんは既に観客席まで離れてしまったからここにいる私の声は聞こえない。

 

でもゼンノロブロイにかけてくれたその言葉に応えようと一人勝手に返事する。

 

走ろう、私。

 

どれだけ惨めな結果になったとしても、ターフで走ることをしない限りロブロイから何も生まれない。なら走るしかない。元から夢を見ていたのなら尚更です。

 

私は震えを奮えに変えながら、ゲートに進もうとして……

 

 

 

急にひとりのウマ娘が現れました。

 

 

 

 

「ふぇ、ユニさん!?」

 

「ゼンノロブロイ……会えたね……」

 

 

同じクラスでお隣の席に座っているユニさん。

 

またの名は『ネオユニヴァース』さん。

 

彼女を一言で表すなら非常に不思議なウマ娘。

 

喋り方がかなり独特であり、会話の中であまり聴きなれない単語を使うためユニさんと会話をするときは常に高い理解力と読解力が試されます。そのため皆から敬遠されてしまいクラスの中で浮いてしまっている。

 

でも誤解なんです。

 

ユニさんは分かりづらいところがありますが実はとても聞き上手な方です。

 

それと頭がとても良いんです。本当はすごいウマ娘なんです。私なんかよりも。

 

 

 

「ユニさん?そのまま走るんですか?」

 

「『コネクト』……それとランデブー……私は走るをして皆にネオユニヴァースを……見てもらいたい……」

 

 

ゼッケンもなにも付けずそのままゲートに収まったユニさん。

 

ネオユニヴァースの急な参加に対して周りは困惑しているが、そんなユニさんは気にせずゲートの中で落ち着いている。

 

やはり不思議な方です。

 

今は何を考えているのでしょうか?

 

 

 

 

そして…… ガコン とゲートが開く。

 

 

 

「!!?」

 

 

 

落ち着いていたはずの心拍数。

 

しかし慣れない緊張感と経験の少なさは誤魔化しが効かない。

 

凡ゆる要素が重なり私は大きく出遅れた。

 

なんともひどいスタートだ。

 

最後方からウマ娘を追いかける。

 

 

「っ!っっ!ッッッ!!」

 

 

されど、私は、必死に、必死に、走る。

 

ただ、ただ、追い縋ることだけを、考えて。

 

この模擬レースをありったけで駆け抜けた。

 

 

 

 

レースはユニさんが一着でした。

 

そんな私は後ろから二番目。

 

とてもとても情けない結果。

 

ロブロイを名乗るに相応しくない。

 

背中を押してくれたのに何も成せなかった。

 

レース結果を噛み締め、私は顔を歪ませる。

 

 

ああ、こんなにも…

こんなにも悔しいと思えるんだ。

私、今すごく悔しがっているんだ。

 

 

……弱いから。

 

色々諦めたつもりでいた。

 

 

でも…

 

走れてよかった。

 

ひどい結果だったけど、ゲートを飛び出してこのレースを必死に走れたことに後悔はない。

 

走らない選択を取るよりも走った方がほんの一滴だけでもゼンノロブロイらしかった。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」

 

 

 

呼吸を整え顔を上げる。垂れたままの頭なんて英雄を求めたウマ娘の姿なんかじゃない。

 

お借りしたターフを見渡そうと思って…

 

 

 

 

 

 

優しくない現実を目の当たりにする。

 

 

「どうして……?……違う………違う………ぅ、ちが、ぅ……ネオ…は…」

 

 

 

 

「ユニ…さん??」

 

 

一着になったはずのユニさん。

 

褒められるべき結果。

 

しかし周りから問い詰められていました。

 

原因はレース中の不自然な動き。

 

あと何故が握っている折り畳み傘。

 

あらゆる要素が引き金となりユニさんは同じレースに出走したウマ娘やこのレースを取り締まる競技委員に捕まっています。また観客席からもユニさんに対してどよめきが生まれていました。とても怖い現実がそこにありました。

 

 

 

「ユ、ユニさん…!」

 

 

ユニさんは基本的にポーカーフェイスです。

 

感情をあまり表情に出しません。

 

それが誤解となっているのか、周りの人達はネオユニヴァースがこの状況に大して何とも感じていない、そんな佇まいを見せているため着々と反感を集めてしまっています。

 

そんなユニさんはどうしてそうなっているのか全く気づいていません。

 

 

 

「違う……違う……ちが、ぅ………」

 

ユニさんはこの状況を怖がっている。

 

小刻みに体が震えている。

 

私にはわかります。

 

でも他の人はユニさんが分からない…!

 

 

 

「っ!!」

 

 

今この場で私だけがユニさんを助けれる!

 

彼女の味方になれるのはわたしだけ……!

 

 

 

「脚っ、動い…て!」

 

 

ありったけを引き出して脚に力が入らない。

 

しかし一番の原因はこの状況に対してすくみそうになっている、この脚の弱さだ。

 

 

お願いっ!ロブロイ!動いて!

 

 

なんとか全身を奮わせ、立ち上がる。

 

一刻も早くネオさんの元まで駆け寄り、皆の誤解をなんとかしないと…!!

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待て、それは俺が説明する」

 

 

 

人並みを掻き分けてネオユニヴァースの前に現れた一人のトレーナー。

 

その者はこの波に臆せず、堂々とネオユニヴァースに詰め寄る人達の前に立ち塞がる。

 

ネオユニヴァースに降り注ぐ視線をその威圧感で遮りながら、逆にそのトレーナーさんが飛ばした視線だけで周りを牽制し、その足を止めさせる。すごい……昔見た皇帝を思い出す。

 

 

そしてユニさんに手を差し伸べる。

 

ネオユニヴァースは悪くない。

 

トレーナーさんはそう紡ぐ。

 

そうやって彼女に理解を示し、周りに促すしなながら、ユニさんが握っていた折り畳み傘を受け取ると「君をスカウトする」と言い、その手を引いてこの場から外に連れ去ろうとする

 

 

 

「!!!」

 

 

まるで物語の主人公。

 

私の眼にはそのよう映し出される。

 

なんて……【無条件】なんだろう。

 

 

「ま、待て!」

「お、おい!」

「どこに行く!?」

「ちょっと待ちなさい!」

 

 

その場を切り抜けても観客席からは多くのトレーナーが二人に詰め寄ります。

 

その光景を見てユニさんは怖がる。

 

しかし、私は確信する。

 

そこには物語の主人公のような人がいます。

 

もし、この考えが正しいのなら…

 

主人公は……

 

いえ、ウマ娘のために現れた英雄は…

 

 

 

 

こ の マ フ テ ィ ー の 前 に 立 ち 塞 が る か ?

 

 

 

 

 

ターフを震わせるようなプレッシャー。

 

並々ならぬ威圧感が頬を撫でる。

 

一瞬だけ息が止まりそうになった。

 

 

 

ああ…

 

もう誰もこの人を止められない。

 

そう感じて仕方ない。

 

私にはそう見えるから。

 

 

 

「トレーナーさん……」

 

 

 

英雄?

 

主人公?

 

彼を表すならなんだろう。

 

恐らくどれでも当てはまる。

 

ユニさんにとっていまはそう映る。

 

もし私がユニさんの立場ならそう思う。

 

 

しかし…

 

何故かこのような言葉が頭に浮かぶ。

 

それはこの頬にプレッシャーが触れたから。

 

あまりにも歪極まった魂の共振。

 

ゼンノロブロイはそれを受け止める。

 

私は見送ったその背中に対して、小さく…

 

 

 

 

 

 

「独裁者……?」

 

 

 

ただ一人だけの___独りよがり。

 

それがあの存在。

 

出会ってしまった、無条件な王。

 

ウマ娘のために恐れない促し。

 

私はその追憶を眺めてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うまいか?」

 

「スフィーラ……」

 

 

ちゅるちゅるとラーメンを啜るネオユニヴァースはポーカーフェイスでわからないところは多いが、尻尾の揺れからしてこのラーメンは美味しいと受け取ってるみたいだ。

 

適当な屋台に潜り込んだがお気に召したのならそれは何よりだと思う。

 

 

まあ、それにしても…

 

 

「アイルランドに屋台でも作る気か?見間違いでなければ暖簾にラーメン試作二号店サイサリスって書いてるのだが…」

 

「そうだよー、祖国の皆が舌鼓するような屋台ラーメンを考えているんだ。でもそのためにまず私が現場に立ったこの味を知らないとね!ほら見てこの湯切りの技術を!それ!それ!横格闘!後ろ派生!前派生!うおお!ニッポンよ!私はアイルランドから帰ってきたー!」

 

(くさ)

 

 

 

湯切りってだけでめっちゃ盛り上がってるアイルランド王室の次期女王候補のウマ娘。

 

スタイリッシュな湯切りと共にスタイリッシュ国際問題している。おもしれー女。

 

 

「ところでネオ、約束の時間まで暇つぶしに行きたいところとか無いのか?」

 

「"WALK"……どこでも行けるとネオユ……ネオは伝えるね」

 

「わかった。なら適当にウィンドショッピングとするか」

 

「むむむ!!きさまー、もしや我の湯切りちゃんと見てなかったと申すかー!ぷんぷん!」

 

「ごめん、半分見逃してた。でもあの木陰に隠れているSPが湯切り見てくれてていただろ」

 

「え… ええええ!?す、すごーい!な、なんでわかったの!?私のSPさん達すごく巧妙に隠れているのに!」

 

「ニュータイプ舐めんなよ」

 

「乳…タイプ?…… ああ、そういうこと! ラーメンに使うんだね!ならアイルランドに良さそうな乳製品があったはず!よーし、今度試そうかな。次またお店を開く時は三号店だから… ええと、仮名としてステイメンで!」

 

「スターダストメモリーかよお前ん家」

 

 

 

それからラーメンで腹ごしらえを終わらせると街中まで歩く。一つの場所に留まっていると見つかる可能性もあるから。

 

しかし特に決めてもない。

 

なので適当にウィンドショッピングへと洒落込むことにした。

 

アウトレットモールに足を踏み入れ、目についた百均などを見て回るとネオユニヴァースは万華鏡を手に取って興味を示す。変わらずポーカーフェイスだが、万華鏡を覗いて耳をピコピコと動かす。随分と楽しそうに眺めていた。

そしてその近くに太陽神を筆頭にギャルを率いて楽しそうに買い物をしている姿が見られる。

 

 

途中、はちみードリンクを買ってネオユニヴァースに飲んでもらった。耳をピーンとさせてとてもスフィーラだと気に入ってくれた。一気に飲み干してしまう。ただ普通サイズを頼んだが量が足りないらしい。追加で買った。

そしてその横ではシチーガールを追いかけるカチューシャのウマ娘と友人として付き合う尾花栗毛の美しいウマ娘が見られる。

 

 

次に家具を売っているお店に入った。癒し空間が広がる中ハンモックを揺らす自由な三冠ウマ娘を横目にネオユニヴァースもハンモックに揺られる。寝心地が良いのかネオユニヴァースは寝落ちしそうになっていた。お腹を満たした後だからか疲れが出てきたみたいだ。

そして少し離れたところにふわふわクッションに自由を奪われている一等星の姿が見られる。

 

 

それからゲームセンターに寄って適当に遊ぶことにした。キラキラと眩い空間はネオユニヴァースにとって新鮮みたいだ。色んなゲームを試した中でユーフォーキャッチャーが結構上手だった。意外な特技を見つけたな。

そしてその奥ではヒリ付きの病まないニット帽のウマ娘が飴玉を転がしながら挑戦者を薙ぎ倒している姿が見られる。

 

 

しばらくして小腹が減ったので少しだけ街を外れると小さな喫茶店を見つけたので入る。豆の良い香りに包まれながら漆黒のウマ娘からコーヒーをもらう。試しにネオユニヴァースに渋みを嗜んでもらったがどうやら好みのようだ。

そして会計を済ませて店を出ると見えないもう一人がコチラに手を振ってる姿が見られる。

 

 

 

「これは……楽しい……?……とても"ENJY"」

 

 

学業も、業務も、気にしない時間を過ごす。

 

色んなものが彼女にとって新鮮。

 

 

ただネオユニヴァースがここまで楽しんでしまうとは思わなかったが…まあいい。

 

 

 

そして…

 

気づいたら夜になっていた。

 

しかしまだ学園には戻らない。

 

俺にはやることがある。

 

賑やかだった街を後にすると俺たちは星空が見えやすい展望台までやってきた。

 

ここはネオユニヴァースの追憶を頼りに初めて出会った場所だ。

 

しかし連日ここに来るとは思わなかった。

 

昨日と同じ折り畳み傘も持ったまま。

 

つまり前日と何ら変わりない俺たちは昨日の続きとして集われた。

 

これは偶然?それとも都合よく用意されたマフティーだった者に対する新たなストーリーテラーか?確かめようがないことだ。

 

 

 

「ネオユニヴァースは……あなたと多くを『コネクト』したね……とてもスフィーラ…」

 

「楽しんでもらえて良かったよ。目的はあの場所から脱する事だったんだが」

 

「うん……だから少し危険だよ……あなたは……CIRC……拒絶はコネクトを生まない……その先はネガティブ……」

 

「さっきも言っただろ。それはどうでも良い」

 

「でも……」

 

「これでも俺は多くの『敵』を作ってきた。あの程度の数どうてことないな」

 

「それは"HERO"……?」

 

「いや…… ただの独裁者だよ。カボチャ頭を目印にしたまともじゃない器。それでも正当化を繰り返してその世界にマフティーを確立させてきた。なあ知ってるか?この世界ってウマ娘が存在しているからか影響されやすいようになっているんだよ」

 

「アファーマティブ……ネオユニヴァースはそれを肯定する…」

 

「俺の知っていた価値観や倫理観は意味を持たない。力を示せばそれは正義になる。世界が知らなかったマフティーはそうするに便利なんだよ。だからこそ… 自由を愛する彼女と共に『なんとでもなるはずだ』と身を投じることができた」

 

「けれど……それは、苦痛を隣にする……ネガティブ……」

 

「もう終わったことだ。考えても仕方ない。まあ、それでも… あの時よりも苦しまずに打破出来る手段があるなら聞きたいってマフティーは言うよ」

 

「あなたは、その…すごく頑張ったんだね……」

 

「かもな…」

 

 

 

頑張った……ああ、そうかもな。

 

わからない事だらけの中でもがいた。

 

それでもカボチャ頭に閉じ込めて促した。

 

前任者の願い、三女神の願い、ウマ娘の願い。

 

持ち込んだ概念はその世界で革命まで起こすことになった。

 

ほんと……ひどい物語だ。

 

 

 

「わたしも……出来るかな?」

 

「何をだ?」

 

「"LINE"……私が『僕』だった"WORD"……それは『世界線』と飾られる……ネオユニヴァース達に用意された……結末……」

 

「結末?」

 

「"OBSE"……ネオユニヴァースは視える……違う私の世界が走るところを…」

 

「視える……??」

 

 

いや、待て。

 

今、この子。

 

さりげなく凄いことを言わなかったか?

 

え?なに??

 

ネオユニヴァースは別の世界線が分かる?

 

そういうことか??

 

 

 

「だから『声』を拾えたのか?」

 

「アファーマティブ……私は宇宙を通して外を視える……"TELL"……()の『追憶』を中心とした"STOR"……その先が視えるよ……」

 

「それは…君だからか?」

 

「私の名はユニバース……それは宇宙……それは世界……それは森羅万象……"ANOT"はネオユニヴァースだから……()の追憶が視える……」

 

「それは本気か?ネオユニヴァースってウマ娘だから許された視線か?そうなんだな?」

 

「ほんとう……貴方は…信じてくれる?」

 

「信じる」

 

「"SPED"……即答…」

 

「意味のない嘘を付くように思えない。ならネオユニヴァースは真実だ。俺がそう判断した」

 

「!!………ふふっ…ありがとう……ネオユニヴァースはトレーナーに感謝を伝えるね……」

 

 

 

それから更に彼女から話を聞いた。

 

どうやらネオユニヴァースは自分に用意された未来が視えるらしい。そしてその結末を変えるために試行錯誤しているらしい。

 

また朧げながらも()()()ネオユニヴァースも分かると言っていた。

 

なんというか、凄いなこの子。

 

だから『声』を知ったんだろう。

 

しかしそんな異能性を秘めた結果として浮いてしまっている。

 

本人もそのことには気づいているみたいだがうまく周りと調和出来ない。

 

そこに苦労しているみたいだ…

 

どうにか支えてやらんとな…

 

 

「"TIME"……約束の時間だね……」

 

「ああ。良い感じに宇宙が見えてきたな」

 

 

時間が経てば空は暗くなり、昼間見えなかった星空が見えやすくなる。

 

そのお陰かネオユニヴァースは元気になっているような気がした。

 

相変わらずポーカーフェイスで、よく観察しないと分からない部分はあるが、会話は弾んでいる辺り良好みたいだ。

 

 

 

「宇宙が見えやすい…」

 

「ああ」

 

「…トレーナー」

 

「分かってる。昨日と同じなら続きだな?」

 

「"INTI"……ネオユニヴァースは宇宙の下でトレーナーをもっと知るをしたい……どうしたら良い…?」

 

「これを使おう」

 

 

 

折り畳み傘を取り出す。

 

首を傾げるネオユニヴァースに苦笑いしながらマジックテープを剥がして傘を広げる。

 

 

「更に暗くするぞ」

 

「うん」

 

 

広げた傘をネオユニヴァースと俺の上に掲げて覆いかぶせ、元々暗かった世界がもっと暗くなる。するとネオユニヴァースの青い瞳だけがその中で光る。宇宙のように綺麗な眼だ。

 

 

 

「宇宙を見るようにこの魂を観測してみろ」

 

「観測…?」

 

「マフティーだったこの魂にはマフTとしてのたらしめた追憶がこのファクターに刻まれている。この俺はそういう存在。()()()()()と言える程度の過去形が生きてるだけ」

 

「"SEAT"……私は貴方を探すね……」

 

 

 

折り畳み傘の下で彼女はコチラに見る。

 

真っ暗闇に青い瞳だけが取り残される。

 

しかし微動だもせずこの魂を探る。

 

そして……意識を繋ぎ始める。

 

段々と彼女の鼓動の音が聞こえてきた。

 

今ここには俺たちしかいないから。

 

 

 

 

()えるか?」

 

「もう少し………あと、もう少し……」

 

 

 

彼女は集中する。

 

探り当てる。

 

見つけ出そうとする。

 

少し動けば互いに触れ合える距離。

 

しかしどこまでも遠くに置いてある。

 

そんな感覚。

 

だからネオユニヴァースはコチラを見続ける。

 

見続けて。

 

観続けて。

 

視続けて。

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カボチャ………頭……??」

 

 

 

その眼に映るのは__カボチャ頭の人間。

 

ソレを形作った、とある日の独裁者の器。

 

マフティー・ナビーユ・エリンの姿がネオユニヴァースの眼に映っていた。

 

 

 

 

 

つづく

 







圧倒的なウマたらし。

ウマ娘に応える存在と化した末路。

ゴールドシチーは訝しんだ。




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if story ?? _ ∀+++++

 

 

 

 

折り畳み傘の下にいた、私。

 

薄暗い影の中。

 

彼を通してマフティーを知ろうとした。

 

私は言われた通りに意識を繋いだ。

 

ほんの少し動けば触れ合えるような距離。

 

お互いに伝わりやすい場所で紡がれる。

 

私はゆっくりとその魂に触れ、溶け込んだ。

 

いつも宇宙を眺めるようにその追憶を辿る。

 

そして…

 

真っ暗闇の深海に落とされたが如く、私は展望台から別の世界に誘われていた。

 

 

ここはどこなんだろうか?

 

今、私はどうなってしまったのか?

 

すると私の足元から水が湧き出る。

 

どんどんと広がる水面。

 

それはほんの少し数ミリ程度の厚さ。

 

足裏にピタリと引っ付く程度だ。

 

しかしそれは見えない先まで広がり、その水面には広大な宇宙が反射する。

 

私はハッとなり見上げる。

 

 

 

「!!」

 

 

 

そこには、その場で観測するにはあまりにも広すぎる宇宙が、どこまでも、どこまでも、見えない先まで、どこまでも、広がり続けている。

 

コレが意識を繋いだ先で辿り着く場所?

 

 

 

応える者のみ、許される空間

 

 

「!?」

 

 

 

足裏にピタリと触れる水面を揺らしながら私はその声に振り向く。

 

動いたことで生まれる波紋が声主の足先にぶつかり、その存在は確かになった。

 

私はその姿をこの眼で捉える。

 

 

 

「カボチャ……頭?」

 

 

 

そこには、カボチャ頭を被った人間が一人。

 

 

 

「貴方は………マフティー?」

 

 

 

私はそう問いかける。

 

 

 

そうだ

 

 

 

簡単に答えが返ってきた。

 

 

 

厳密には『マフT』だがな

 

「どう…違うの?」

 

君の言うマフティーとはまだ踊り狂うだけの概念に過ぎない。対象は無い。促すだけ。しかし解かれた呪いの果てで前任者の願い… その続きを行うべくウマ娘のトレーナーとして確立された時に誕生したのが『正しく狂う』ことを正当化した歪な名称。それがマフTである

 

「ウマ娘に『正しく狂う』トレーナー…」

 

それでもたらしめるこの魂はマフティーである事には変わりない。だから呼ぶなら好きにすれば良い。それでもこの意味を住み分けさせたいのならば、中央の世界でウマ娘のトレーナーをしてるからソイツはマフ『T』であろう

 

「なら、ここにいるカボチャ頭の貴方は…… 私が、折り畳み傘の中で見ているトレーナー?それとも…」

 

コレはただの追憶を形にしたモノ。俺がそうだった頃の姿。求める者の目印となるカボチャ頭を被り、正統なる予言の王として応え続け、独りよがりな正当化を繰り返すだけの彷徨えるジャック・オー・ランタンだ

 

 

 

コレはただの追憶。

 

そうしてきたと語る過去の姿。

 

しかし私は理解した。

 

それはあまりにも残酷な軌跡。

 

常人には理解など出来ない。

 

あまりにも重すぎる役割。

 

それをカボチャ頭に全てを込めて世間に促し続けていた。

 

だから皆はこう言った。

 

彼は危険人物だ。

 

 

 

だが、ネオユニヴァース。今ここにいる俺はマフTのファクターから引き出された追憶であり、結局は()()()()()と振り返った程度に語れる過去の産物なんだ。この魂は大した器じゃない。ウマ娘がいなければ裸の王様として何にも出来ないカボチャ頭を被っているだけの狂人もどき。痛みを知った赤子とそう変わりない

 

 

なんてことなく簡単にタネを明かす。

 

そこまで大層な存在では無いと否定した。

 

それも本心から。

 

 

けれど…

 

 

何か、私は大事なモノを眺めてるみたいだ。

 

明白な理由はわからない。

 

けれどここまで……深く身を投じれる。

 

いや、ウマ娘に対して身を投じる。

 

その世界だからそうして当然の如く。

 

用意された【主人公】のように。

 

 

 

「……貴方は……あなたは……」

 

 

 

 

わたしはほんの少しだけ迷う。

 

コレを訪ねるべきか。

 

でも…

 

いや、聞いてみたい。

 

マフTに……

 

中央のマフTとなった『彼』に。

 

 

 

「貴方は…ウマ娘の走るところが……好き?」

 

「!」

 

 

 

訪ねるにしても脈絡のない質問。

 

元々、私は言葉のキャッチボールができない。

 

いつも変化球で投げ、ミットを困らせている。

 

それでももう少しマシに伝えれたはずだ。

 

もっと詳しく、伝わるように。

 

でも……コレが正解な気がした。

 

これだけで充分に伝わる。

 

そんな気がして……

 

 

 

 

ああ、好きだよ

 

「!!」

 

 

 

答える。

 

カボチャ頭で表情は見えない。

 

まるでポーカーフェイスの私みたいに。

 

けれどその声に偽りはない。

 

マフTは本心からそう言って退けた。

 

混じりけのない答えとして。

 

 

 

とても好き。俺はウマ娘が与えられたその名前らしく走るところを眺めるのが好き

 

 

 

穏やかな声が耳触り良く響き渡る。

 

水面の波紋がマフTからゆっくりと広がる。

 

その波紋が私の足先に触れた。

 

気持ちがより深く伝わる。

 

この空間にいるから、それはより鮮明に。

 

 

 

だが、その中で、特に好きなのは…

 

「?」

 

 

 

マフTは続ける。

 

広大なこの宇宙を見上げながら…

 

 

 

 

自由を愛する彼女の走りが大好きだった

 

 

 

 

レース場で観戦している青年のように紡いだ。

 

心が温かくなる。

 

もちろん「好き」と言ったその対象は私じゃない。

 

なのに私がウマ娘としてマフTの『答え』を聞いてしまったからこんなにも騒がしくなってしまう。本当に危険人物だ。ウマ娘に対して何もかも無条件だ。こうしてネオユニヴァースの前に現れたことすら「マフTだから」と用意されたみたいだ。マフティーの概念を抱えたこの魂は間違いなく狂っている。ご都合主義も良いところだ。

 

 

 

「貴方は、そうなんだね…」

 

そうでなければマフTである意味はない

 

 

 

この人はウマ娘のためにマフTとなった。

 

ウマ娘に、正しく狂うために、形作った。

 

 

ああ…

 

そうなんだ…

 

 

コレが…

 

コレが…

 

コレが…

 

 

この宇宙に問いかけてまでネオユニヴァースが欲した【応え】なんだ。

 

 

 

知りたいことは知れたか?

 

「うん……知れたよ……たくさん」

 

そうか

 

「そうだよ…」

 

 

 

知りたいと願った、彼の追憶。

 

マフTだった頃の正しく狂っていた意味。

 

折り畳み傘を用意して見せてくれた。

 

枝分かれた根幹の元まで連れてきてくれた。

 

 

ありがとう……

 

マフTだった……トレーナー。

 

 

 

では、コチラでもウマ娘に正しく狂うことを決めた俺の正体を見せよう

 

「ぇ…?」

 

 

 

正体の…正体??

 

その言葉と共に宇宙がひっくり返る。

 

足元に感覚はない。

 

下に視線を移す。

 

浮いている。

 

私は無重力の中で浮いていた。

 

自由の効かない宇宙に放り込まれた。

 

すると、宇宙にナニカが流れ出す。

 

 

 

「な、に…?」

 

 

 

コレは…記憶?

 

それとも記録?

 

もしくは追憶??

 

 

映像のように次々と周りに流れる。

 

 

 

 

 

 

 

『__走る!走る!坂路の減速すら感じさせない!驚異的なロングスパート!そのまま直線に入った!マフティーのウマ娘が中山のレース場で赤の怪物マルゼンスキーに追い縋る!その距離は3バ身!2バ身!1バ身と縮みッッ!並んだ!並んだ!ミスターシービーだぁあ!!ミスターシービーだぁ!!やはり彼女だッッ!!すごい競り合い!そして!マルゼンスキーを追い抜いたぁ!!そのまま前に出る!!ミスターシービー!マルゼンスキーの2バ身先!そして!そして!マフティーのウマ娘ミスターシービーが最強を破ったァァ!!タブー破りのウマ娘!!ターフに絶対が無いことを知らしめた中山レース場!!これまでに無いほどの大歓声!!空気が!!ターフが!!全てが揺れている!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『__さぁ!さぁ!後ろからやってきたのは漆黒の摩天楼 !!その走りを受け継ぎ最後方からロングスパート!!息切れを知らないその長い足が後ろからやってきた!!全てを埋めるような漆黒のウマ娘!!後続を次々と置いていく!そして!そして!漆黒の勝負服が全てを抜き去って今ゴールイン!なんと春に続いて秋の盾を手に入れたのはマンハッタンカフェ!!G1重賞レース天皇賞を制覇しました!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『__世界と競り合う最終直線!!さぁ外からやってきたのは100年に一人と言われた尾花栗毛!!悪天の中に舞い散った重バ場に染まりながらも食いしばって追いかける!!追いかける!!追いかけて追い縋れ!負けるな!負けるな!接戦の中で二人もつれ込むように今ゴールイン!!さぁ、長い写真判定から……ッッと! なんとハナ差!惜しくもハナ差で敗れてしまったゴールドシチー!!悔しさのあまり地面を叩きつける… ああっ、駆け寄ったマフTの元で泣き崩れてしまった!全身全霊はほんのハナ差!…だが、しかし、世界の強豪相手にその強さを魅せてくれましたゴールドシチー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『__早い!早い!独走状態!これは何時ぞや赤い怪物の如く!今は真っ赤な太陽!いや違う!太陽神として後方にいる眩さをウマ娘に見せつける!!熱気が伝わる爆走を得て一人だけの爆上げたマイルCSを描いている!!コレは余裕のセーフティーリード!そして余裕のゴールイン!やはり!やはり!マイルの最強はこのウマ娘ダイタクヘリオス!!3回目のマイルCS制覇!!たった一人だけの三冠ウマ娘!!世界でたった一人だけの栄光!!笑顔絶えないウマ娘が最強の歴史を残しました!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『__春の陽気の東京レース場でクラシック級のウマ娘!最終直線に入りました!前方には3人のウマ娘が!!いや、違う!もうひとり!!もう一人後ろから追い縋る!やってきたの雪国からの雪将軍!!春の陽気を吹き飛ばさんばかりに迫り来る雪将軍!!ありったけの雪国根性!!絶やすことのない熱量!!そしてッ!!全てを追い抜いた!!このままゴールイン!!なんと一着はユキノビジン!!初めてG1の称号を獲得!!マフTのウマ娘にひとりの女王が誕生しました!一着はユキノビジン!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『__さぁゲートが開いた!日本勢の… いや、これはなんと最後方スタート!?なんと言うことだ勝負師!!慣れないこのターフで自ら悪手を選んだ!?宝塚記念とはまた違う試み!普段よりも位置は後ろ!バ群からやや外に踏み込みながらもレース展開を伺う日本勢!苦しそうな位置…だがしかし…! もしかしたら!もしかしたら!このウマ娘ならもしかしたら番狂わせを見せてくれるかもしれない!負けるな!負けるな!ナカヤマフェスタ!そして!そして…!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『__それは自由なる頂きから!それは漆黒の摩天楼から!先駆者の軌跡がこの菊花賞にありました!しかし!このウマ娘はそれらよりも高く輝いた宇宙の一等星!それを証明するように全てのウマ娘を抜き去った!やはりこのウマ娘は強い!とんでもなく強い!まるで二人分の強さ!一人が二人分の強さ!そして!そして!栄光を勝ち取ったゴールイン!!なんと!なんと!三冠を制したのはアドマイヤベガ!!皇帝に続いて早くも三冠ウマ娘が誕生!!しかも過去最年少での三冠ウマ娘!!強い!強すぎる!その一等星はこのレースで二人分の強さを見せつけましたその名はアドマイヤベガ!!クラシック級最強の誕生だ!!』

 

 

 

 

 

 

触れることも叶わない映像。

 

なのに多くの熱気が頬を撫でる。

 

これも全てマフTだった頃の追憶。

 

マフTに集ったウマ娘達が想いを乗せてターフを走った、カボチャ頭越しの記録。

 

それらが私の後ろへと流れ行く。

 

 

 

ああ、これも彼が辿ってきた奇跡と軌跡。

 

チーム【G U N D A M】の彩り。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコン

 

 

 

 

 

 

 

音が聞こえた。

 

ゲートの……音?

 

でも少しだけ違う。

 

すると不意に……背筋から重圧を感じる。

 

 

 

「ッッッ!!??」

 

 

 

ナニカがいる。

 

知らないナニカが私を見ている。

 

 

重たい。

 

重たすぎる。

 

 

だが、その威圧感はどこから来てるのか分かる。

 

 

後ろだ。

 

後ろにナニカがいる。

 

 

わたしは、ゆっくりと振り返る。

 

そこには……

 

 

 

「!!」

 

 

 

怪物のように大きな 鉄の塊(クスィー) が立っていた。

 

動いていない。

 

無重力空間で佇んでいるだけ。

 

それでも見ているだけで威圧される器。

 

もしこれが動いたらどうなる??

 

容易く消し飛ばされしまうだろう。

 

それほどに恐ろしい。

 

 

 

「そうなんだね……これが…」

 

 

 

これが【プレッシャー】の正体。

 

あの時、見せてくれた威圧感。

 

ただの人間が出せるような重圧感じゃなかった。

 

これが内に秘めた彼のトリガー。

 

マフTはこんなのを形としていた。

 

これも……マフティーなの?

 

たらしめるための器なの?

 

 

 

 

 

 

こっちだよ

 

 

 

 

 

声が聞こえた。

 

静かな日曜日のような声。

 

私はキョロキョロと見渡す。

 

誰?

 

今のは…誰?

 

すると鉄の塊から音がする。

 

鉄の塊の胸元にあるハッチが開いた。

 

私は驚く。

 

しかし中には誰もいない。

 

誰もこれに乗っていない。

 

しかし…

 

 

 

次は、あなた

 

 

 

私は声と共にゆっくりと引き寄せられる。

 

拒絶すれば簡単に振り払えそうだ。

 

けれど……わたしは手を伸ばした。

そこに導かれようと。

 

鉄の塊の引力にひき寄せられる。

 

 

そして…

 

 

コクピットの中に足を踏み入れた。

 

やはり誰も乗っていない。

 

しかしナニカが浮いてある。

 

それを一つ手に取った。

 

 

 

「これは…」

 

 

CとBを飾るシルクハット。

 

それが無重力に浮いている。

 

だがそれだけじゃない。

 

 

 

「これも……これも……こっちのも……」

 

 

 

お気に入りのマグカップ。

コーヒーの香ばしさが漂う。

 

 

持ってきたくしゃくしゃの紙。

太陽のように暖かい。

 

 

泥に塗れた綺麗なお人形。

誰かの忘れ物のようだ。

 

 

コインがクルクルと回る。

賭け事に使われてた。

 

 

暖かそうな防寒具の数々。

持ち主は雪国の美人さん。

 

 

 

色んな物がコクピットの中に漂っている。

 

これもマフTに込められた追憶。

 

もしくはこの鉄の塊に乗った者達の軌跡。

 

すると外にナニカを感じ取る。

 

私はコクピットの外を見た。

 

 

 

「!!」

 

 

 

宇宙に一筋の青い光が奔った。

 

まるで二人分を背負ったかのような光。

 

もし…

未来が違うならコレは一つじゃ無い。

 

二つ一緒に彗星となっていた。

 

そんな気がする。

 

気がするから…

 

 

 

「私も……僕も……ネオユニヴァースが……違う未来があるなら……この先に……もっとターフに描けるなら……」

 

 

 

頬を伝う生暖かい雫。

 

ここにいると誤魔化せなくなる。

 

この場所にいるから想いが溢れる。

 

そうやってここに集ったウマ娘は応えられた。

 

安心感がある。

無条件がある。

なんとでもなるはずだ…!!

 

そう奮える心に私は情動を抑えれない。

 

ハッチを支えにもう一度この宇宙を見る。

 

ここは何もかもが伝わる。

 

マフティーがあって、ウマ娘がある。

 

入り口は限定的。

 

応える者のみ許されるらしい。

 

そう言っていた。

 

なら、つまり…

 

ここにいる私は…

 

 

 

「ネオユニヴァースが……ネオユニヴァースに……『応える』ができる…」

 

 

 

促す__それがトリガー。

 

この鉄の塊に用意された【閃光

それらを動かしてたのは【独りよがり(ハサウェイ)

 

歪を始めるための___タイトル。

 

 

 

 

「私は……()が辿る先を……促さなければならない…」

 

 

 

 

 

変われることは知った。

 

マフティーという無条件を見たから。

 

マフTという築いた追憶を見たから。

 

 

だからネオユニヴァースの未来を変えれるはず。

 

この『声』が届くことを許されたから。

 

 

 

だから…

だから…

 

 

 

すると、宇宙を駆け巡る一等星が光る。

 

それが二つに分かれ、一つが目の前を奔る。

 

眩しくて少し目が眩んでしまう。

 

しかし何ともない。

 

何が起きた…?

 

すると「パラ」と乾いた音。

 

目を開ける。

 

これは一枚の紙…?

 

いや、違う…!

 

これは『希書』のとあるページだ。

 

声を探そうと最後に読んだ部分。

 

天体に纏わる歪な文章が刻まれていた。

 

それを手に取り…

 

 

 

 

 

__貴方も大丈夫だよ!

__私のお姉ちゃんと同じ!

__その脚で運命を乗り越えたんだから!

 

 

 

 

 

元気な少女の声が聞こえる。

 

可能であれば、走って欲しかったもう一人の声。

 

何故かわかってしまう。

 

それは恐らく宇宙を見ている者同士だから。

 

 

 

 

__大丈夫……お姉ちゃんは大丈夫

__だから…そこで見ていて

__わたしは、あの星を背負って生きていく

 

 

 

 

 

宇宙をなぞる織姫星(ベガ)から声が聞こえる。

 

それは願い。

 

それは贖罪。

 

二人分を選んだ者の声。

 

しかしそれはマフティーが代わりに背負った。

 

与えられた『名前』らしく『ウマ娘』が『無条件』に走れるように。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

わたしはハッチから退いてコクピットに座る。

 

握りしめた『希書』をこの中で手放した。

 

ここに残された軌跡と同じように漂わせる。

 

そして、宇宙と意識を繋ぐ。

 

大丈夫だ、ネオユニヴァース。

 

やることはひとつだけ。

 

ここにいて。

 

ここで見て。

 

ここで触れて。

 

答え合わせは済んだ。

 

 

 

「私は…僕は…ネオユニヴァースは…」

 

 

 

この場で表した者達のように。

 

先駆者が求めていたように。

 

この鉄の(たましい)にウマ娘で応えさせる。

 

 

 

それは…

 

その【トリガー】は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 や っ て み せ ろ よ、マ フ テ ィ ー 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呪いの言葉を吐くことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええと……その………?」

 

「いや、だからスカウトしたいなぁって」

 

「……」

 

「……」

 

「……もしかして怒ってる?」

 

「ふぇ?」

 

「いや、さ?前日の模擬レースで応援してるとか、頑張ってこいよとか、らしく走っておいでとか、色々言っておいて放置したから…さ?」

 

「え、あ、その………ちょ、ちょっと、待ってください?ええと…あの…今トレーナーさんはその…聞き間違いでなければ…ですね?今、わたしを…」

 

「スカウトした」

 

「で、ですよね?」

 

「うん」

 

「そ、そうですか…スカウトを…」

「おう」

 

 

 

 

ここは図書室。

 

大きな学園だけあってココもそこそこ大きい。

 

そのため色んな本が置いてある。

 

俺もトレーナーとして勉強する時とてもお世話になっていた。一応トレーナーに関する知識は樫本から都合の良く継いでたので困ってはいなかったが、それでも今一度勉強しておきたくて図書室から教本など借りたことがある。

 

あと興奮すると語彙力皆無になる学級員が学園のトレーナーをすごく目指したいです!とか言ってたのでココを利用した経験を活かして色々役立つものを薦めた。そしたら「すごくすごい助かりました!」だって。日本ダービーと菊花賞を取ったウマ娘なんだけなぁ… 語彙力適正が心配だよ。アッチの俺大丈夫かな…? ちゃんと導いてやれてるだろうか?

 

 

まあともかくだ。

 

図書室はお世話になった記憶が強い。

 

なので当然マナーも知っている。

 

まずマナーの一つとして図書室では、あまり大声で騒がな__

 

 

 

えええええええええ!!!???

 

「ふぁ!?ぅーん…

 

 

 

ウマ娘の肺活量で鼓膜にダメージを受ける。

 

てか急に大声を出すな!

 

知的マフティーが乱れるだるるぉ???

神経が苛立つ!!

 

 

 

「ななな、なんで、ですか!?えええ?!?スカウト!!?わ、わわわ、わたしを!?」

 

「お、おう……そうだけど…?」

 

「え……ええッぁぁ!!ぁ!?むぐ!!むぐぐぐっ!!」

 

「図書室では静かに…な?」

 

「むー!むー!むー!」

 

「なんだ?セイウンスカイ*1の真似か?君は脚質的に先行ど真ん中だろ?あまり変な走りを選ばない方がいい」

 

「ぷはっ!……ッもう!トレーナーさん!やっぱりあなたは意地悪です!」

 

「いやいや待て、図書室で大声を出す__」

 

「口答えは無しです!!…めっ!!」

 

「あ、はい」

 

 

 

怒られてしまった。

 

ほっぺ膨らませてる。

 

でもなんかすごいボスっぽかったな。

 

こう、威圧感というか、その辺りが。

 

……気のせいか?

 

 

 

「ふぅぅ……と、とりあえず、今一度落ち着きましょう」

 

「そうだな。で、また改めてなんだけど…」

 

「はい…スカウトですよね?…その、何故ですか…?」

 

「理由?簡単だよ。良い目をしてたから」

 

「……」

 

「……」

 

「……え?それだけ?」

 

「ああ。俺の好きなタイプだな」

 

「そ、そうですか……って、ッ〜!?す、すす、すすす、好き!!?」

 

「自分の名前らしく走りたいと願えるウマ娘はとても良いウマ娘だ。俺はそういうウマ娘を育てたい。その中で君がジャストだったよ。だからスカウトしたいって思った。これが理由」

 

「ふぇ?……あ、そ、そうですか…なるほどです……少しだけ驚きました……」

 

「どした?」

 

「な、なんでも無いです!…それでええと、わたしをですよね?で、でも…わたし…走りは…」

 

「うん、弱かったな」

 

「ひゅぃぃ!?ぁぅぅぅ…」

 

「でも関係ない。弱いなら…強くなれば良い」

 

「!」

 

 

 

そうとも。

 

弱いなら、己を強くすれば良い。

 

中央にはトレーナーって便利な道具がある。

 

利用して強くなれば良い。

 

俺たちはそのために力を得てきた。

 

 

 

「でも、わたし…」

 

「英雄は最初から強かったか?」

 

「!」

 

「君の名前と同じその英雄も最初は平民だったろ?しかも底辺といえるくらいに。でも這い上がって民達のために戦える英雄になった。それは今の君と同じではないのか?ゼンノロブロイ

 

「っ、それは…」

 

「諦めの悪いウマ娘」

 

「え?」

 

「ゼンノロブロイは溶け込むくらい英雄譚が好きだって教えてくれた。あとロブ・ロイのような英雄になりたいと。それを希う。だから今もこの図書室で英雄譚の本を探している。しかも這い上がるタイプのジャンル」

 

「!!」

 

「英雄譚の中身に憧れる。英雄譚で活躍する英雄に憧れる。もし憧れに手が届かず嫌になったら読まないだろ普通。でも君はまだその追憶から自分のターフを探し求めている。そのくらい諦めの悪いウマ娘。ならこの先に絶対に強くなってくれる。俺はそれを確信している。だからそんな諦めの悪いゼンノロブロイをスカウトしたいんだよ。これ以上の理由は必要か?」

 

「ぁ、ぁ、でも…わ、わたし…」

 

 

 

こんなにも『らしさ』を望むウマ娘。

 

強くならない訳がない。

 

それも諦めが悪いとしたら尚更だ。

 

内側に強い意志がある。

 

そんな聖剣を持っているこのウマ娘。

 

スカウトしない理由がない。

 

 

マフティーだって這い上がったさ。

 

内側に歪な魂を秘めて、促した。

 

この名を、中央に、世間に、URAに。

 

 

 

「少し…考えても良いですか?」

 

「わかった」

 

「ありがとうございます。お答えは…」

 

「……はい、少し経った!じゃあ、お答えをどうぞ」

 

「トレーナーさん!?」

 

「なに?5秒って少しだろ?」

 

「いやいやいやいやいや!?」

 

「え?10秒が良い?おいおい二倍かよ。欲張りなウマ娘だなぁ…… ちぇ、仕方ねぇ!これはスカウトして責任取るか」

 

「待ってください!待ってください!ちょっと待ってください!」

 

「んー?ちょっと待って欲しい?じゃあ5秒くらいか?」

 

「もう!トレーナーさん!もう!!」

 

 

 

 

そんな感じにゼンノロブロイと関係を築く。

 

意地悪が過ぎると問題になるので先ほどので最後にしだが「でも本気だからな?」と念を押して図書室を後にした。

 

俺は彼女を担当にしたい。

 

だって…今の俺はただのトレーナー。

 

これまではマフTとして応える側だったけど、そうだったと言える今の俺なら、求める側になってもそれはおかしくないよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、次の日。

 

 

 

 

「さーて、とりあえず最初のトレーニングなんだけど…いやー、新人トレーナーに人権がないのでキャンピングカーを借りて何処かに行こうと思います。丸太は持ったかー?」

 

「おー」

 

「え、嘘でしょ……いつのまにかスカウトされてる…?」

 

 

 

さて、この世界の中央は随分と環境が良くなっているがそれでも新人トレーナーの肩身が狭いことには変わりない。

 

まあ使用可能残り1時間とかになるとターフは空くことが多いが、しかしそれだと彼女達の門限が関わったり色々段取り付かなくなる。

 

あとケア。または施術。

 

俺の場合、前職として携わっていたスポーツマッサージの事だが、この技術を使って彼女達の練習の疲れをとってあげるタイミングが門限の関係でお辛いところがある。

 

そうやって怪我防止を効かせれないジュニア級とか最悪な時期を彼女達に過ごさせたく無いんだよなぁ…

 

だからターフ使用可能残り1時間の練習とか頼りにしない。

 

こんなことするくらいならとっとと車に乗せて銭湯でも温泉でも近くにある場所で練習積ませた方が時間効率が良い。あ、もちろん中央の芝は質がいいから外に比べて練習濃度は高い。けれど練習時間が少ない方が致命的だ。なら外を利用してでもクラシック級までに長い練習に耐えれるよう身体作りに勤しまなければならない。今度適当に誰か連れて来るか。

 

 

 

「あの、ちょっと、わたし、現状把握が間に合わないと言いますか…」

 

「しかしネオユニヴァース。君の言う通り10秒ほど待って()せばチョロかったよ。何処かの重曹娘のようだったな」

 

「ロブロイは『天才子役』だよ……英雄譚だけに」

 

「え、まさか二倍の『10秒』はこの伏線だった…ってコト!?」

 

 

 

驚いているちいかわロブロイを半ば強引に車に押し込んでやると「わ……ァ……ァ……!!」と泣いてるのかどうかわからない悲鳴(はちわれ)をあげていたがネオユニヴァースが「楽しみだね」と微笑んで語りかけていたため天才子役ロブロイも「そ、そうですね!」と肯定するしかなかった。

 

 

え?なに?肯定する皇帝だって?

後ろからドライヤー吹きかけてたぬきにするぞ会長。

 

 

 

あとゼンノロブロイは仮入部状態だ。

 

まだ少しだけ迷っているらしい。

 

でも面倒見るからにはちゃんと指導する。

 

それは約束する。

 

 

 

「とりあえず移動しながらだけどこの3人のチーム名どうしようか?」

 

「"TEAM"……『コネクト』のための証……ランデブーに必要なアクセスだね…」

 

「あの、わたし、まだ仮入部……」

 

「まあチーム名は追々として、一番大事なのは目標なんだけどやっぱりクラシック三冠は獲りたいと思う。二人とも頑張ってほしい」

 

「アファーマティブ……トレーナーとなら栄光は掴めるよ……そうすれば『未来』も変わる……」

 

「あの、仮入部ですから、未来の前に…」

 

「じゃあロブロイ、クラシック三冠と、春シニア三冠と、秋シニア三冠と、有マ記念はシニア級でも三年出続けて、卒業するその日まで走ったら、その時に仮入部止めれば良いよ」

 

「うん、それが良いね、ロブロイ」

 

「あ、はい……」

 

 

 

 

俺はアクセルを踏んで車を公園まで移動させ。

 

ネオユニヴァースは楽しそうにアホ毛を揺らし。

 

アイルランドの殿下は564に試作2号店を奪われ。

 

そして、ゼンノロブロイは考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、ラスト!

 

 

*1
中の人






そんなわけで、チーム完成です。
この3人ならなんとでもなるはずだな!


え?それよりロブロイの扱い?
彼女は振り回したり。
空回せた方が味が出る(俗物)
公式ゲームもそうしている。
かわいい。
わたしがそう判断した。








それと盗まれた試作二号店は焼きそば屋に改良されました。
なお、奴は絶賛指名手配中。キサマー!



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if story ?? _ ∀ end



ユニバァァァァァァァス!!!!!







 

 

 

ターフを走り、自己タイムを縮め、熱した体と共に荒くなった呼吸を整える。

 

お気に入りのメガネが少しだけ落ちそうになる。

 

 

 

「トレーナー」

 

「飲み物だろ。はい」

 

「うん……"NEXT"……それとトレーナー…」

 

「ほれ、タオルだ。とある布団乾燥機好きからおススメされた柔軟剤を使ったからかなりフワフワだ」

 

「もふもふのふわふわ……とても『スフィーラ』だね……ネオユニヴァースは良きと伝えるよ」

 

「ああ、伝わっているよ。さて、休憩が終わったら次は蹄鉄の量も増やすからよろしく」

 

「"SPAR"……厳しいね」

 

「何を言うか。次の宝塚記念はシニア級を交えたレースではタップダンスシチー *1とシンボリクリスエス *2が出てくる。長く脚が使えるようにしっかり仕上げたい」

 

「『雷鳴(サンダー)』と『稲妻(ボルト)』が"ENEM"となっているね……目指すは"WINA"……ならネオユニヴァースは『承認』するよ……勝つ…」

 

「当然だ、出るからには勝つぞ」

 

 

 

多く語らない。

 

いや違う。

 

語る量があまりに少ない。

 

けれど目の前で繰り広げられる光景…

 

その交わし合いを眺めればそこにいる一人ともう一人は何も問題なく意志が伝わってる。

 

しかもそれが中央という目立つ世界だから周りからはとても不思議がられている。

 

何故、彼女が伝わる?

何故、彼女が分かる?

何故、彼女が知れる?

 

それはこのトレーナーがネオユニヴァースの隣に立っている人だから。

 

 

 

「ロブロイ、君は坂路だな。前の日本ダービーではネオユニヴァースに2バ身差をつけられての2着だった。実力は追いついてるが体格差による負け筋はやはりパワーでなんとかするしかない。あれだ、英雄譚にも書いてるだろ?力こそ正義って」

 

「強ち間違ってはいませんがでもなんか少し嫌です…!」

 

 

 

そして私のトレーナーでもあるんですね。

 

この英雄譚を見届けてくれる私の理解者。

 

願いを肯定してくれたたった一人の英雄。

 

あと少しだけ意地悪な人です。

 

結局、仮入部状態は2日で終わりました。

 

だって…

 

 

 

 

__先行は純粋な身体能力勝負だ。下手なことをするほど弱くなる。前を取らさせない。差しに狙わせない。追い込みに掴ませない。その純粋さでただ走り抜く。例えるならメジロマックイーンと同じ。あれも純粋な力で示して来た。故に君は『らしさ』だけを強みとした何も飾らないウマ娘として強さを証明する必要がある。わからない?ならもっと簡単に告げようか。

__ゼンノロブロイが目指すべき走りは……

 

 

 

 

 

王道に強くなること…………ッッー!!!

 

 

 

む、無理ィィー!!

 

あんなこと言われたらもうダメです!

 

ぜっっったいに頷いてしまう!

 

ウマたらし…!

ウマたらし…!

 

彼は危険人物です!

簡単にウマ娘を乱す者です!!

 

チョロインにも程がある私自身にも問題ありますが…でもやはりズルいです!

 

断れる訳がない!

 

それこそ『王道』なんて言葉を使われたらそこに希うウマ娘の私はトレーナーの彼に夢を見てしまう。ゼンノロブロイはロブ・ロイと同じ英雄譚を望んでしまう!

 

なんとでもなるはずだと身を投じてしまう…!

本当にズルい!

もう!もう…!もう…!!彼は意地悪です!

 

 

 

「英雄は旗を掲げて皆を先導する。カッコいいじゃないか。是非魅せてほしい」

 

「!」

 

 

意地悪なところのあるトレーナー。

 

でも嘘はつかない。

 

全て本心からウマ娘のターフを願う。

 

それは何度も見てきました。

 

出走レース場のターフで観客席にいるトレーナーさんを見ればその表情はいつもウマ娘が走るところを楽しみにしている。

 

まるでウマ娘ってそのモノに対して特別な視線を持っていると言うか、この世にない別の角度からと言うか、ともかく彼が眺めているターフは特別なんです。そこに全身全霊で応えたくもなる。だからこの人は危険です。

 

でもそれができるくらいにこの方は…

 

 

 

「英雄なんですね…」

 

 

もう一年前のこと。

 

まだ私達が初々しく走っていた頃、とある模擬レースでトレーナーさんはネオユニヴァースを救いました。

 

ベテラントレーナーに囲まれても臆せずことなくネオユニヴァースさんの手を引いて望まれない現実から連れ出した。

 

その姿は正に英雄でした。

 

ただその件があって周りから危険人物として扱われてしまい、しかもそれが引き金となったのか私達のトレーナーに対して嫌がらせが目立つようになりました。でも大体はトレーナーさんが返り討ちにします。どうやら邪気に対して素早く反応出来るみたいです。だからあまり被害は無い。私たちも守ってくれます。

 

 

しかし、その中で一番目立って酷かった出来事は日本ダービーの時でした。

 

トレーナーさんのレース関係者名義が何故か消されており、レース場に入ることができないアクシデントに見舞われました。

 

その時に届いた一通のダイレクトメッセージ。

 

 

『少しだけ遅れる』

 

 

不安になりました。嫌がらせもここまでくるのかと私は怖くなりました。これは流石にトレーナーでもどうにもならないかと思われました。

 

するとネオユニヴァースさんはダイレクトメッセージを送り返しました。彼女も不安そうに少しだけ体が震えてしましたが彼が来ることを信じて返事をする。

 

 

 

__必ず、届けに来て。

 

 

 

そんな短いメッセージ。

 

 

 

『必ず向かう任せろ。大人(こども)に付き合っていられるか』

 

 

 

彼は登録者名義が無かろうとそんなの関係ないとばかりに会場の奥に進み、ウマ娘の警備の捕縛すら回避して私達の元に辿り着きました。

 

英雄は障害を乗り越えて私達のいる控室までやってきました。尻尾をパタパタとさせるネオユニヴァースさんは大型犬のようでした。もちろん私も彼が約束通りに現れて嬉しかった。届かせてくれました。

 

それからも模擬レースで見せてくれた無条件な威圧感を放ってこの控室にその他を寄り付かせませんでした。彼を知らない者からすれば恐ろしいことこの上ない。しかし私たちはそれが安心になる。まるで大きな鉄の怪物が私たち守っているみたいだからなにも怖く無い。

 

 

そしていつものようにネオユニヴァースさんと言葉を交わし、ひとつまみの意地悪を込めて私を揶揄い、レースを見送ってくれる。変わりない時間を約束してくれる。

 

しかしその際に…

 

 

「いやもうマジすごい腹立つからさ?今回レースは後続を10バ身くらい突き放した上でネオユニヴァース、あとゼンノロブロイ、この二人で1着と2着を獲ってほしい」

 

「わかった……ネオユニヴァースは『了解です』を押すね……ランデブーのウマ娘達には『ごめんなさい』するけど……このコネクトを"BAN"したトレーナー達に『助かりました』をするよ……」

 

「ユニさん!?」

 

「えらいえらい」

 

 

珍しく耳を絞ったネオユニヴァースさん。

 

むすー!と怒りを露わにしてました。

 

それから始まった日本ダービー。

 

私達のトレーナーさんが拘束もされず最前列にいることに何人かトレーナーが驚いていました。

 

それを見た私も、やっと怒りが生まれます。

 

このレース負けたくない。

 

この私の英雄譚を共に見てくれるトレーナーさんを奪おうとしたから。

 

 

 

そして結果はご覧の通り。

 

 

流石に10バ身は無理でした。

出来たのは6バ身です。

 

それでもネオユニヴァースさんが1着を勝ち取り、私が2着でした。

 

この結果により相当ダメージを与えたみたいでトレーナーさんは満足気に頷き、しかも私が用意した英雄譚(ゼンノロブロイ)のノートにスラスラと今回の物語を勝手に刻んでいました。こういうところは少しだけ子供っぽいですね。

 

それから妨害を企てたトレーナーや関係者を捕らえて粛清したみたいです。恐ろしいですね。

 

 

ともかく!それほどにネオユニヴァースさんのスカウトを面白がらない人が学園にいて、それがトレーナーさんの敵になった。そういうことが起きていました。

 

でも次の菊花賞…… あ、ネオユニヴァースさんはその前に宝塚記念ですね。次のレースからは安心してトレーナーさんは私たちの走りを見てくれるようになります。それがとても嬉しいです。

 

ただそのかわり…

 

 

 

「"POWE"……ネオユニヴァースはトレーナーさんに”NDND”を要求するよ……」

 

「練習頑張ったらな」

 

「む、むぅ……なら"ACES”……この『エクストリーム』を完成させるために必要だよ……ランデブーが欲しい……」

 

「やれやれ」

 

「んっ」

 

 

 

どっからどう見てもトレーナーさんの愛バとして扱われるネオユニヴァース。

 

周りからしたらここまでの関係は羨ましい対象です。

 

いかんせん距離が近過ぎる気がしますが、結果を出し続けているこの二人を誰も止めれません。

 

止める気は無いですが。

 

でも今やっているナデナデの要求。

 

実は意味があってやっています。

 

それは…

 

 

 

「状況は去年の宝塚記念。君は内枠。周りにはその当時出走したウマ娘達。その内どれかがシンボリクリスエスだ。用意は良いね?」

 

「『コネクト』……究極のごっこ遊び……ターフを愛した独りよがりの延長戦……ネオユニヴァースは準備を完了するね……」

 

「じゃあ頼んだぞ」

 

「うん」

 

 

理解が追いつかない練習方法。

 

これを説明すると少し難しい。

 

でも簡単に述べるなら『見ているターフが本物のレースとして映し出される』となる。

 

とんでもなくオカルト。

 

それは触れた者のみ理解し得ない領域。

 

しかしそこに身を投じれば鮮明に映し出され、やりたい独りよがりが成立する。

 

そして、それは私ゼンノロブロイにも出来た。

 

英雄を夢見るこの『独りよがり』が条件として許されたから。これが出来るから私たちは本番のレースに強くなり、ポテンシャルの最大を常に引き出すことができる。震えとなる緊張感を奮えに変えて走り描くことができる。私はそうやって強くなれた。

 

描くことができるこの英雄譚(ごっこ遊び)の中で!

 

 

 

 

「メケメケメケメケメメケメケメケメケメメケメケメケメケメメケメケメケメケメメケメケメケメケメメケメケメケメケメメケメケメケメケメケメメケメケメケメケメケメケメケメケメメケメケメケメケメメケメケメケメケメ」

 

 

 

ただし、今日はどうやら安定感が無い。

 

たまにこうなる。

 

 

 

「やっぱり過去形だからか安定しないな。こういうことならならカボチャ頭でも用意しようかな…」

 

「ええええ、なんですかアレ!!?」

 

「いや、なんかな?この世界のお隣さんからエイプリルフール2日目という暴挙を感受したらしく、それでかつあの内容で何故か一部だけ理解しちまったが故に記憶として収納するに564テラバイト分の田舎に帰省を要求されてしまった結果まごころを植えたキャパシティーが割り箸畑だけは足りなくなりそれを確保する分のメルヘンチック遊園地が獲れたけどそれは有マ記念のAブロック基地となっていたからな」

 

「トレーナーさんもおかしくなってますから落ち着いてください!」

 

 

 

非常にリアリティの高いイメージトレーニングは強力ですが、トレーナーさん曰く「あの頃よりも独りよがれてないから仕方ないな」と失っている安定感にやれやれのご様子。正直こんなことが少しでも出来る時点でかなり凄いことですが、この口ぶりからすると安定性が備わっていたように聞こえます…… 新人トレーナーさんですよね?

 

そりゃ…この方はいつも手慣れたように誰よりも早く業務もこなし、日本ダービーのときを引き金に中央で悪行を働いている関係者を全員捕まえて粛清を行い、それに伴って中央をもっと良くするための改革を理事長に促すとそのまま気に入られ、凍結していたグランドライブ計画を進めるコトでレースに出れないウマ娘の夢を繋げる活動を行い、また二ヶ月前の学園祭では黒いジャージとカボチャ頭で着飾って質量のある残像で踊り賑わせるなど、新人とは思えないほどの働きをしています。

 

数年前に存在した無敗の7冠ウマ娘のようなプレッシャーを放つ時点で新人以上の何かと思いますが…… で、でも!良いんです!そんな不思議な方でも!ウマ娘のために夢を叶えさせてくれる!そんな英雄なら!私は無条件です!

 

いまはちょっと変ですが!!

 

 

 

「よろしくてよ」

 

「ダメです!」

 

 

 

 

絶対にメジロになんてさせませんから!

 

 

 

 

「『終了』したよ……"COOL"の必要は無いね……ネオユニヴァースは伝えるよ」

 

「でもぬるめの水は飲んでおけ」

 

「あと"SWIT"のオフが必要……ネオユニヴァースはトレーナーに『接触』を開始する………ピトっ…」

 

「こら、先に水を飲まないか」

 

「とても、とても、スフィーラ…」

 

「やれやれ…」

 

 

ネオユニヴァースさんはトレーナーの手のひらを勝手に掴むと頭の上に持っていき、そのまま頭上に充てがった。

 

そんなトレーナーさんは仕方ないとばかりにネオユニヴァースさんの頭を優しく撫でながら練習データを詰め込んだタブレットを操作する。

 

その間もネオユニヴァースさんは手のひらで摩られる度に耳をピコピコと喜ばせ、満足気に「スフィーラ、スフィーラ」と溢していた。

 

こうなると見た目は甘えん坊の大型犬。

 

例えるならサモエドのようです。

 

ちなみに私はシベリアンハスキーが好きです。

 

 

 

「でもロブロイ自身は土佐犬だな」

 

「ええええ!!?」

 

「知らないのか?土佐犬って寛容で大らかなんだぞ?でもいざ戦うと攻撃性が高い犬に早変わり。まるで君のようだな」

 

「わ、私、そんな攻撃性が高いですか!?」

 

「そりゃそうだろ。先行という名のステータスの暴力で戦うんだからさ。今目指すロブロイが正にそれ」

 

「と、と、と、土佐…犬……わたし…土佐犬」

 

「いやー、しかし、宝塚の出走相手にタップダンスシチーとシンボリクリスエスがいるのか。あのトレーナー二人のウマ娘だろ?これはまた厳しくなりそうだな……やはりネオには追い込みで…」

 

「ほ、放置プレイ禁止です…!」

 

「おら、早く坂路してこい土佐ロブロイ。それともフリスビーが必要か?」

 

「私は犬じゃないです!ウマ娘です!」

 

 

 

どこからか「サクラワンコオーだワン!」と幻聴を拾いながら私は坂路に向かう。

 

相変わらずトレーナーさんは私に対して扱いが雑な時があります。

 

それがほんの少しだけ困り物です。

 

しかし夢見るだけだった私をネオユニヴァースさんの時のように引っ張り出してくれる頼もしい私達のトレーナーさん。

 

だからとても信頼しています。

 

その眼でしっかり見ていてください。

 

いずれこの物語を『追憶』として誰かに語られるその日まで私はこのターフに独りよがる。

 

彼と共に作るこの英雄譚がゼンノロブロイでいっぱいになるその時まで…

 

 

 

 

「なんとでもなるはず、です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に、このウマ娘は謳われる。

 

三冠ウマ娘となった隣人と唯一競い合える英雄として……世間にたらしめる。

 

 

英雄___ゼンノロブロイ。

 

 

それはマフティーだった者が拾い上げた新たなる『追憶』として刻まれることになる。

 

それはまだ誰も知らない未来の英雄譚だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナー……『メイサ』の宇宙……とても綺麗だよ……」

 

「それだけに限らずどこも綺麗だと思う。下も見てみな。釜臥山展望台から見下ろせる光のアゲハチョウも人類が作り上げた証だ。まあこんな日まで働く日本人に俺は脱帽しているよ。そろそろ年が明けると言うのに」

 

「ネガティブ……誰かがいる……だからネオユニヴァースはコレが見れる……感謝なんだよ…」

 

「そうだな。この展望台だって年明けても解放してくれてる状態だ。感謝しかない」

 

「うん」

 

 

 

中央トレセン学園からかなり離れたここは青森県のむつ市。キャンピングカーを使ってネオユニヴァースと釜臥山展望台まで光のアゲハ蝶を見にやって来た。

 

因みに不参加のゼンノロブロイは秋シニア三冠バとしてご両親に良い報告ができると嬉しそうにしながら「ごゆっくり!」と俺たちを見送り今年は実家に帰った。なので俺とネオユニヴァースの二人だけで出かけている。また3人集まって何処か出かける時は年が明けた後だろう。

 

それならまた奥多摩にでも行きたいな。

 

空気が綺麗だし。

 

 

 

「"TRY"……アレが冬の風物詩……」

 

「冬の大三角だな。子犬座のプロキオン、おおいぬ座のシリウス、オリオン座のペテルギウ」

 

「順番に……ゼンノロブロイ……ネオユニヴァース……トレーナー……かな?」

 

「俺はオリオン座なの?」

 

「貴方は女神に愛された"SOUL"……射てる側……あとは消去法でロブロイは小さな犬だね……」

 

「大型犬がなにか言ってらぁ」

 

「……ワン、ワン?」

 

「お座り」

 

「……ん」

 

「…ネオ、膝の上に座ったら星空が見えない」

 

「くーん」

 

 

 

無表情に犬の真似をするネオユニヴァース。随分とまあ保護欲駆り立てくれるけど良くある展開なので慣れてしまっている。ただ適切な距離を保てないのは俺がウマ娘に甘いのと、相手がウマ娘パワーで強引に擦り寄ってくるからどうにもならない。

 

しかし前世の事を考えるとパリピ太陽神が平気でIFを突破してはマフティーに優しくするギャルをデフォルトで行ってたのでネオユニヴァースはまだ優しい方だ。横腹から突撃されないだけ体は安全。マジで痛いんだぞアレ。

 

 

 

「"SAFE"……この世界の体は丈夫……ヒトにもウマ娘の遺伝子がファクターとして刻まれているんだよ……」

 

「まあ樫本家もウマ娘が先祖にいるから身体はそれなりに強いだろうけど。それでも俺は優しくされたい… てか激務と隣り合わせにしているトレーナーは毎秒優しくされたいと思うぞ」

 

「"EXTR"……極限の練習……それはターフのごっこ遊び……"MILD"は非効率だから違うを推奨……つまり"CREK"が最適解……トレーナーに優しくするは『でちゅねあそび』……?」

 

「アレは特殊すぎるんだよなぁ……」

 

「"SUPR"……母は強し……」

 

「多分それスーパークリークが強いだけだと思うぞ。最強格のステイヤーは伊達じゃない」

 

「むっ……それはネガティブ……"WINR"……私も菊花賞で『証明』したよ……」

 

「知ってるよクラシック三冠バ。その時のネオユニヴァースは間違いなく一番強かった。その後の春シニア三冠もな………あー、それでネオ」

 

「?」

 

「『僕』の方だったネオユニヴァースは宝塚を走らなかったんだよな?」

 

「"RUST"……叶わなかった夢……『僕』に想いを乗せれなかったその先の無念……そして現れる特異点と大魔王……ロブロイを一人にした……ううん、ロブロイだけじゃない……ネオユニヴァースは沢山を一人にしてしまった……」

 

「…」

 

「でも貴方がそれを全て変えた。本当の『僕』は三冠ウマ娘にならない。夢見た『僕』は春シニア三冠にもならない……行先は"FREE"……全てがご都合主義のように与えられる……でも確信……これは無条件……私はトレーナーに見せてもらった……応える者のみ許される"WORD"……『概念』に想いを乗せる『魂』の正当化……貴方だからこそ……この場にいるネオユニヴァースは変えられた……」

 

「それがもしそうなら、俺がそうだった頃にやってきた出来事も、変わったモノばかりだったのかな?」

 

「私は『僕』だけしか見えない……だからわからない……でも貴方のそうだった頃にしてきた追憶は……マフティーだからこそ促されたんだよ……」

 

「そっか。まあ… そうだよな。抱えてきた概念の名前は【マフティー・ナビーユ・エリン】であり、それはその世界に於いて『正統なる予言の王』として促した。それがこの魂に当て嵌められた…役割…存在意義…独りよがり…正当化の化け物…だから歪な魂… けれどウマ娘という終着点があるからトレーナーとして『正しく狂う』ことになった。それがマフTとしての完成…」

 

「"WORR"……危険人物だね……でも…だからこそ貴方は変えた……触れてきた全てを……マフティーの『追憶』にするために……」

 

「……」

 

 

 

マフティー……

 

それはこの世界『ウマ娘プリティーダービー』に持ち込んだ概念。

 

そうするに便利だったから被り続けてきた。

 

しかしそれはウマ娘の世界に於いて全てを揺るがすほどに危険な概念と化し、被っていたカボチャ頭はその体現者として凡ゆる人達の目印になっていた。

 

そしてマフティーをする俺に用意されたストーリーテラーは史実を辿ってきたその【名前】達も変革の一部にした。恐らく全てが違っているんだろう。

 

特に【GUNDAM】として集われたウマ娘達はある意味マフティーの犠牲者になっている。

 

それが栄光ある意味を得たとしても……

 

 

 

「それはネガティブ」

 

「?」

 

「私達は【貴方】だからココにいる」

 

「!」

 

 

 

ネオユニヴァースは膝の上から降りると俺の前に立って手を伸ばす。

 

無意識に縋りからか、俺はその手を取った。

 

そして……

 

……宇宙が変わる。

 

 

 

「!」

 

 

 

釜臥山展望台から一変、無重力な宇宙に招かれた。

 

ここは別空間。

 

応える者のみ許される場所。

 

ガンダム風に言えばニュータイプ空間。

 

誤解なく伝わることを望まれて用意された都合の良い世界。

 

 

「"ANOI"……ネオユニヴァースはトレーナーを肯定する……それがこの世界に用意されたご都合主義でも……私は構わない…」

 

「!」

 

「今日この日に用意された展望台も……()()()に用意された展望台も……マフTだから一等星のウマ娘は巡り合えた。カボチャ頭の『パルサー』……それはご都合主義に望まれて……そして『求め』られて……そして『応え』て欲しくて……そこに描かれる貴方は間違いなくマフティー・ナビーユ・エリン……ウマ娘が走るところが好きな……ただの青年…」

 

「ッッ!!!」

 

「スフィーラ……貴方はとても優しい人……」

 

 

 

そう言ってネオユニヴァースは微笑む。

 

それは俺を肯定する。

 

歪な魂として降り立った存在だろうと「今いる貴方だから」と喜んでくれる。

 

そうしてきた俺でも、これからどうなるか分からない俺でも、また繰り返すかもしれない俺でも、ネオユニヴァースはこの存在に『声』が届いた事を喜ぶ。

 

 

なんだ、結局…

 

思い返すだけ無駄じゃないか。

 

そうだ、そうとも…

 

俺は『正しい』ことをした。

 

ウマ娘のためにマフティーたらしめた。

 

そこに正解も不正解もない。

 

ただ俺はマフティーとして役割を尽くした。

 

それが世界に望まれた在り方。

 

ウマ娘の幸せを望む三女神が欲した形。

 

前任者が望み描いた強き者の姿。

 

そして…

 

マフティーを知った俺だからできた促し。

 

それが『マフT』だった存在。

 

あの世界でコレは完成していたんだ。

 

 

 

「ッッ…!! ああっ、そうだよ…!俺は結局ウマ娘が走るところを見るのが好きなトレーナー…!それがカボチャ頭越しだろうと俺は常にウマ娘を見ていた!間違いない!俺はお前らという存在が大好きだ!スフィーラだ!その通りだネオユニヴァース!」

 

「うんっ……うん…!」

 

「ならトレーナーとしてまだ『正しく狂う』くらいなんてとでもないはずだ…! やってきたことも…!これからやることにことも…!全てひっくるめて()()()()()者として誇りながらこのファクターはエリンに返された命を正当化する!今の俺は樫本!ウマ娘が好きなトレーナーだ!」

 

「アファーマティブ……それが()()()()だね……って、ネオユニヴァースは伝えるね」

 

 

 

 

なんとも情けない大人だ。

 

届いた声にマフTとして応えようと、届けた声としてトレーナーとして助けようと、俺は未来を変えたがるネオユニヴァースの元にやって来たというのに、過去の正当化に振り返ってしまう俺に対してネオユニヴァースが答え合わせをしてくれた。

 

っ、そうだった俺はあまりにも情けない。

 

それとも今は()()だから『マフティー』に対して恐れを抱いているのか?

 

だとしたらそれは裏切りだ。

 

それをそうしてきた『マフT』に対する否定だ。

 

 

 

「ネオ」

 

「?」

 

「俺の手を取れ」

 

「ん…」

 

 

 

躊躇いもなくネオユニヴァースは俺の伸ばした手を取る。

 

そして俺は彼女を引っ張った。

 

 

 

___抱きしめる。

 

 

 

 

 

「!!!?」

 

俺はこのウマ娘に想いを乗せる。彼女が言う『僕』だったネオユニヴァースに想いを乗せた『貴方』のようにその先を望めるなら…! 俺はこのネオユニヴァースに走って欲しくて想いを乗せる!彼女は俺がたらしめる!俺がネオユニヴァースを正当化する!何故ならこの俺はマフティー・ナビーユ・エリン!!それはウマ娘に『正しく狂う』ことを選んだ概念!それが今の俺…ッッ!!

 

 

 

強く抱きしめる。

 

このネオユニヴァースを確かとするために。

 

無重力の中で彼女を抱きしめながら回る。

 

この無力感が体を回したとしても。

 

 

 

俺はこのウマ娘を大好きだ!だから与えてくれ!それがご都合主義でも構わない!彼女のために!まだこの先も走れるように!いっぱい走れるように!もっとネオユニヴァースがあるように!どうか…どうか…! どうか頼むッッ!マフティー!俺がそうしたこの世界の概念!どうかマフティー!こんなファクターに!届いた程度の魂に!マフティーの目印に…!

 

 

 

 

 

 

 

そうか。

 

コレが…この光が。

 

マフティーを求めて、マフティーに応えて欲しかった、ウマ娘の世界の者達の気持ち。

 

 

ハサウェイ……アンタがそれを望んだ理由。

 

それが少しだけ、わかった気がする。

 

だからこの名前、まだ借りるぞ。

 

この世界に…

 

そして俺に必要だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

願いは、一つ叶えられる。

 

そこは、必要とされる世界。

 

とある____クローゼットの隅っこ。

 

そこに【カボチャ頭】が中に収まった。

 

誰かがマフティーに願ったから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"HEAT"……いつもは冷たい体のネオユニヴァース……いまは体がトレーナーで熱い……コレは珍しい熱源体……」

 

「わ、悪い……ちょっと……俺も色々と大変だった…」

 

「ネガティブ……トレーナーはすごく頑張ってここにいる……泪のムコウは必要……」

 

「え、俺、泣いてた?」

 

「"MOLT"……急な情動にネオユニヴァースは思考が追いついてない……それはわからない……でもトレーナーは心のまま望んだ……それは恐らく泪以上の揺らぎ……やはり貴方は優しいね……ふふっ…」

 

「……もう見せることはないからな?」

 

「それは……ネガティブ…」

 

「俺はネオのトレーナーだ。それからゼンノロブロイのトレーナー。二人の残したい追憶のために俺は中央の指導者としていつまで健在でありたい。だから今回だけだ」

 

「アファーマティブ……それがトレーナーの普通と言うなら……ネオユニヴァースはトレーナーの『パルサー』に寄り添う……だからもっとネオユニヴァースを走らせて……『僕』ができなかったことを追憶として語れるくらいに……それはこの世界なら赦されるから……」

 

「約束しよう。あの一等星に賭けてでもな」

 

「ん、わかった」

 

 

 

釜臥山展望台を後にする。

 

階段を降りて……ひとつ気づいてしまう。

 

時計を見た。

 

00:12と刻んである。

 

 

 

「年…明けていたんだな」

 

「気づかなかったね」

 

「そうだな…」

 

「うん」

 

 

 

キャンピングカーまで歩みを進める。

 

この後は宝くじで手に入れた温泉旅行券を使ってチェックインした温泉旅館に向かう。

 

温泉に入るか、そのまま寝るかは、まあこの後は運転中に決めるとして…

 

 

 

「あけましておめでとう、ネオ」

 

「スフィーラ、あけましておめでとう」

 

 

 

彼女と年明けの挨拶を交わす。

 

 

すると携帯電話からメッセージが届いた。

 

ゼンノロブロイから年明けの挨拶。

 

丁寧な長文だ。

 

しっかりしている娘だな。

 

 

 

「俺たちも送るか。写真付きで」

 

「アファーマティブ……なら、この角度」

 

「良いね、綺麗に星空が映る」

 

「ツーショットだね」

 

「案外初めてだったりするか?」

 

「"INTI"……いつもはロブロイも一緒の3人だよ……2人だけは何気に初めて……」

 

「そっか。なら縁起が良い。ツーショットが年明けかつ冬の大三角。特に撮影場所が釜臥山展望台で双子座が写っているところがポイント高いな」

 

「……特別?」

 

「ここはな。世界は違うけど」

 

「ネガティブ……今は…」

 

「ネオがいるだろ?わかってる。あまりこんなこと言わないけど…今はキミが俺の愛バだよ」

 

「!!……"EMGY"……これは確かに危険……うまたらし…」

 

「?」

 

 

 

俺は携帯電話を手に持ち、いつぞやの太陽神の手解きを活かしながら星空が良く見えるように角度を調整して、二人肩を並べて画面を見る。

 

 

 

「トレーナー」

 

「?」

 

「貴方はマフTまたはマフティーだった。それは貴方の追憶。だから貴方はファクターとしてこの場に届いて。ネオユニヴァースは貴方に出会えたんだよ」

 

「そうだな。俺もそう思う」

 

 

 

マフティーだったから声は届いた。

 

マフTだったからファクターとして繋がった。

 

ネオユニヴァース風に言えば『コネクト』だ。

 

俺はそうだったを正当化してきてここにいる。

 

そしてその追憶が今の俺を完成させようとする。

 

またウマ娘に正しく狂うために。

 

 

 

「けれどネガティブもある……ネオユニヴァースは少しだけファクターを否定するよ…」

 

「否定…?」

 

「私は願った……知らない概念……それはマフティーの形……だからファクターの貴方がネオユニヴァースを促しに来た……正当化した未来は変わって()()は今もいるね……それはこの世界のオンリーワン……」

 

「…」

 

 

シャッターボタンに指を添える。

 

あとは上手く映るだけだ。

 

ただ横からまた気になることを言われる。

 

それはネオユニヴァースだから俺はその言葉を聞いて、理解してあげたい。

 

何かを俺に伝えたいから。

 

だから優先順位をネオユニヴァース変えようと考え、シャッターボタンから指を離そうとして……

 

 

 

 

「私はココにいる貴方が【本物】だから」

 

「!!??」

 

 

 

彼女の手が優しく添えられる。

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は 貴方と過ごしたかった だけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カシャリと音が響く。

 

 

 

 

頬に柔らかく…

 

その『コネクト』を彼女から感じて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この作品において正式に語られる【続編】かも怪しい物語であることは、恐らく承知の上だろう。

 

タイトルに刻まれた【IF】…

 

故に『∀』の名に違えない黒歴史としての延長戦は恐らく、認識上としてそれは蛇足であることに限りなく間違いない。

 

結局は「そうであって欲しい」と【誰か】が願った歪なファクターを用いてジャック・オー・ランタンの真似事を行なっていた。

 

つまりこの【ハーメルン】で彷徨い果てただけに過ぎない俗物の産物であろうコレは痛みを知った赤子のような三流以下の物語だ。

 

否定はしない。

 

 

 

 

けれど…

 

されど…

 

しかし…

 

 

 

これは【無条件】である。

 

これは【マフティー・ナビーユ・エリン】という魂で綴れば、どれも正しく映し出されることになる。

 

何故ならコレは正当化に正当化を重ね、独りよがった正統なる予言の王で促し続ける非常に奇妙な作品だからだ。

 

カボチャに穴を開ければ……ほら、誰だってその日を特別以上なハロウィンに仕上げれる。

 

 

見ているモノを促し、魅せるモノを促す。

 

これは【無条件】である。

 

 

 

だからマフティーの概念に。

 

されどマフティーの理念に。

 

しかしマフティーの存在に。

 

この歪な『追憶』に疑問を持つことは…

 

それって…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 愚かだって……マフティーは言うよ 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IF STORY

 

ネ オ ・ ユ ニ ヴ ァ ー ス

新 し い も う 一 つ の 世 界

 

お わ り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
そのトレーナーはジャズが聞こえてくる雰囲気らしい

*2
そのトレーナーはスナイパーのような雰囲気らしい






ウマ娘にとって約束された勝利の概念。
それがこの世界に出来上がったマフティー性。
コレが『答え』であり、宇宙の『応え』です。


これにて!異常で以上である!!

ココまで一週間ほど、お付き合い頂き!!
本当にありがとうございましたッッ!!!


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