もう1つの交響曲 (恋音)
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一曲目 銅鑼、鳴り響く。
「はぁ〜〜〜〜〜〜どっかに色っぽい男いないかな〜! こう、目元が優しいけど全体的にクールで筋肉が綺麗で唇が貪りたくなるような色気を孕んだ感じの……。あ゛〜〜〜〜とても素敵な出会いが欲しい〜〜!」
ロイド・アーヴィングに、未知が襲来した。
その日ロイドはいつもの通りの日常を送っていた。ディザイアンの施設である人間牧場横の道をノイシュと共に下り、イセリア村にある唯一の学校に向かう途中だ。そこまではいつも通りだった。
ただいつもと違うのは先程聞こえてきた言葉を発した持ち主が道脇で蹲っていたことだった。
なんでだろうな、言葉は理解出来るはずなのに脳みそが理解を拒んでいる。
「なぁ、そこのあんた。大丈夫か?」
「え?」
青い海が顔をあげた。
髪は水平線よりも深い青。瞳は大樹を思わせるような緑。
真っ白なワンピースの上から緑がかったブルーのジャケットを着ている。
「(わ、可愛……)」
思わずそんな感想を抱く。だがまぁ、幻想はすぐに打ち砕かれた。
「──キミ、前髪下ろした方がえっちだよ」
真顔である。背後でジャーンッッ! と爆音の銅鑼が鳴り響いた気がした。
思わず脱力してしまう。なんだそりゃ。
「いやでも無邪気な青年キャラだったら髪上げててもそれはそれで……」
「……よし、大丈夫そうだな! じゃあな!」
「可憐な美少女が困ってるんだから去ろうとしないでよ青年ーーーっ!」
「俺、どう考えてもお前より年上なんだけど」
ロイドは17歳である。学校の中で1番の年上なのだ。
青い少女は見た所親友のジーニアスと似たような年齢である。
「え、でも私ハーフエルフだよ?」
「ハーフエルフ!?」
思わずギョッと驚いた。
かつて世界の中心にマナを生む大樹があった。
しかし争いで樹は枯れ、かわりに勇者の命がマナになった、それを嘆いた女神は天へ消えた。
この時、女神は天使を遣わした。
「私が眠れば世界は滅ぶ、私を目覚めさせよ」
世界は神子を生み、神子は天へ続く塔をめざす。
──これが世界再生の始まりである
どんな書物にも書いてあるような常識。
その後、勇者ミトスは女神マーテルとの契約によって、乱戦の原因であるディザイアンを封印した。けれどいつの日からか封印が弱まり、復活したディザイアンによって人々が苦しめられている。
ロイドがそんな細かいことを知っているか、と言われれば無言で渋顔を作る他無いのだが。ロイドでも知っているのはディザイアンは脅威であり、そのディザイアンは全てハーフエルフなのだと言う。
「あ、もしかしてディザイアンなんかと一緒にされてる? 心外ね。ハーフエルフは親がエルフと人間なだけよ」
「ディザイアンじゃ……ないのか?」
「あんな悪趣味な格好したくない。……ああいう組織にはね、あんまりいい男居ないのよね」
哀愁漂う顔で言っているが普通に選り好みが激しいだけだ。
「えっと、じゃあ俺勘違いしてたなー。ハーフエルフって悪いやつらばっかりだと思ってた」
ロイドはそう言いながら手を差し出した。
「俺、ロイド・アーヴィング! お前は?」
「ニケ。好きなタイプは程よく筋肉の付いたクールで優しい瞳をした一般的にイケメンと呼ばれる部類の男。婿探しの旅をしてるわ。この近くに村があるの?」
「おう、あるぞ! んで……。そろそろつっこんでいいか? 婿探しってなんだよ」
ニケはロイドの手を掴み起き上がる。
「あのね、ハーフエルフって寿命が長いの。普通の人間と出会って恋をしてもすぐに死んじゃうし、長寿種の孤独は耐えきれないものよ。だから彼氏、もしくは死ぬまでそばに居てくれる旦那が欲しいの」
「重っ。……それで、本音は?」
ドヤ顔で言った。
「──純粋にモテたいしチヤホヤされたい」
「俺ニケの事あんま知らないけど、そういうとこだと思うぜ」
この時点で授業の遅刻は確定である。
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