第三の舞台に万雷の喝采を (何でもない)
しおりを挟む

競走馬時代編
第三の舞台の幕開け


ウイニングポストシリーズ×ウマ娘普及委員会の一員として頑張りたいと思います。


.

 

 

 ──前略

 

 

 私は目を覚ましたら自分は馬になっていた。えっ、何言ってるんだお前って? まあ、気持ちは分かる。だが、事実だ。昨日まで一般的な人間の男性だった俺はいつの間にか馬になっていたのだ。

 

 マジでどうしてこうなったのか。これがトラックに轢かれただの通り魔に襲われたとかなら、いわゆる異世界転生のような話だと無理やり理解は出来る。だが、自分が人間でいたときの最後の記憶は普通に帰宅してご飯食べて風呂に入ってベッドで寝たというありふれた日常そのものだ。……どうしてこうなった?

 

 とにかく考えていても仕方はない。一先ずは現状の確認だ。今居るのは厩舎の一室だろうか。体の色は俗にいう鹿毛というやつだろう。外の様子は……木々が紅葉している。秋ごろといったところか。

 

 「おーい、サードステージ。どうした、キョロキョロして?」

 

 一人の男性が声をかけてきた。格好からして厩舎の作業員だろうか。……というか今サードステージと聞こえたぞ。もしかして自分、いやこの馬の名前か? 馬の名前でサードステージってことはまさかこの世界は………

 

 「どうした? 急にキョトンとして。もしかして、またトウカイテイオーの話が聞きたいのか? ならば何度だって語らねばなるまい、お前の父にして偉大なる奇跡の名馬の話を!」

 

 俺の父、トウカイテイオー、サードステージ。うん、間違いない。俺はあのスーパーホース、サードステージに憑依?してしまったようだ………。

 

 

 


 

 

 

《Time:夜》

 

 馬というのは1日の睡眠時間が三時間程度だと昔聞いたことがあるが、その知恵を我が身をもって知るとは誰が予測出来ようか。ただ、この時間を利用して物思いに耽ることが出来るのだから悪くはない。

 

 さて、改めて状況を整理しよう。まず、あのときは混乱してて気づかなかったが、頭の中を整理していると自分が見聞きしたことのない記憶が存在していることに気づいた。記憶の状況から判断して、自分が憑依するまでにこの馬が見聞きした記憶と見ていいだろう。昼間のうちのあの爺さんの話と引き出した記憶を重ねると大体の状況が掴めてきた。まとめるとこうだ。

 

 ・今は2014年の10月頃。もうすぐ追い運動*1というのを始めるらしい。

 ・この馬の父親であるトウカイテイオーは去年の夏に死亡した。これは史実通りだ。自分はトウカイテイオーのラストクロップになる。

 ・あのトウカイテイオーの話をしてた爺さんは作業員ではなくオーナー。いわゆるオーナーブリーダーで、トウカイテイオーの活躍に感動して毎年トウカイテイオーの仔馬を生産しているとのこと。

 ・オーナーが管理している馬で自分と同世代のトウカイテイオーの直仔は居ない。上の世代のトウカイテイオーの直仔も期待薄で自分は大いに期待されている。サードステージという名前もトウカイテイオーの父であるシンボリルドルフから続く系譜に連なることを願って名付けたとのこと。

 

 つまりはオーナーにとって、自分ないしはこの馬は憧れであるトウカイテイオーの最後の希望というわけだ。……なんか、とんでもなく過分な期待を背負わされている気がするんですが。

 

 次にこのサードステージという名前についてだ。普通なら何の変哲もない名前だ。だが、父トウカイテイオーのラストクロップという要素も関わってくると話は変わってくる。

 

 それはウイニングポストシリーズというゲームに登場する架空の名馬だ。母親はシリーズによって異なるが、父トウカイテイオーはシリーズで統一されている。製作スタッフの希望が込められたこの馬の能力値は高く、無敗の三冠馬どころか古馬王道路線グランドスラムも出来るほどだ。もっとも、それはゲームの中の話で、この憑依した馬がそれだけの力を持っているのかは分からない。もっと言えば同名なだけの駄馬の可能性だってあり得るのだ。

 

 そもそも、この世界がウイニングポストの世界なのかサードステージという馬が誕生しただけのifの現実世界なのかどうかさえ分からない。人間であれば大阪杯がいつ頃G1になったのかだとかヴィクトリアマイルの創設はいつ頃だとか調べる*2ことも出来るのだが、馬の我が身ではどうにもならない。

 

 まあ、この辺に関しては悩んでも仕方がない。幸いなことに自分には人間としての頭脳がある。もちろん天才というわけでないが、少なくとも5歳児並みだという馬の頭脳よりは秀でていると自信をもって言える。それを競争能力に活かせば最悪地方競馬で食い繋ぐくらいは出来るはずだ。というかそうでもしなければ用途変更という名の殺処分が待っている。それだけは避けねばならない。

 

 さて、時間も余ってるし仮想敵の想定でもしよう。牡馬クラシック路線から古馬王道路線に行くと仮定すると………そういえばこの時期は割りと群雄割拠していた頃か。2014年生まれだとレイデオロとかキセキが居て、1つ上がサトノダイヤモンドとかの世代で1つ下がアーモンドアイだったか……? ゲームでかじった程度の知識じゃあよく分からん。

 

 ただ、チャンスは充分にある世代と言って良いだろう。ゲーム通りに2016年に産まれてた*3らクロノジェネシスやアーモンドアイと渡り合うことになってたし、逆に上の世代ならキタサンブラックと真っ向勝負する事態になっていただろう。この世代なら、キタサンブラックとやりあうのは3歳の有馬だけで、アーモンドアイもJCで一回対峙するだけだ。対峙することには変わりないが、勝ち星を全て持っていかれるような事態にならないだけヨシとしよう。

 

 とはいえ、この馬体が中央競馬で通用するのかは未知数だ。ぶっちゃけクラシックディスタンスに拘る必要はない。ダートでもスプリンターでも活躍できればいいのだ。虹お守り*4なんて贅沢は言わない。銅お守り*5くらいの能力はあってくれ……!!

 

 

 


 

 

 

 《時は流れて………》

 

 「よーし、おつかれさん! よく頑張ったな! 一旦休もうか!」

 

 あれから約1年半が経った。牧草を食ったり四つ足で走ったりと人間では体験できないような日々を送ったりしましたが、私は元気です。

 

 さて、月日が経つのは早いもので、今の自分はトレセンに入厩して絶賛調教の日々を送っている。坂路をダッシュしたり、ウッドチップのコースで持久走したり、プールで泳いだりと体を鍛えている。人間の頃は正直運動は苦手だったが、ここでサボったら用途変更が待ちかねているのだから四の五の言ってられない。ただひたすらに鍛練に挑まねばならない。

 

 過酷な日々ではあるが、嬉しい情報もある。少しでも役立つ情報を求めて聞き耳を立てているのだが、どうやら自分の能力は同世代の馬たちと比べても上位に当たるらしい。世代の中心候補との噂も有るほどだ。少なくとも地方競馬でも泣かず飛ばずという最悪なケースは阻止できそうだ。後は故障で走れなくなるケースが無いことはないが、これに関してはもうどうしようもない。ただ、こっちに関しては好走さえすればあのオーナーのことだ、トウカイテイオーの直系種牡馬としての生き方も望めるだろう。……えっ?予後不良? それこそ考えるだけ無駄だ。そんなことを考えるならトレーニングに専念するか情報収集に勤しむ方が生産的だ。

 

 とにもかくにも、あと数ヵ月もすれば新馬戦の時期が始まる。地方で食い繋げばいい、とは言ったが負ける気で勝負を受けるつもりなどない。自分だって勝ち星を上げたいのは同じだ。自分を信じてくれるオーナーや世話をしてくれる牧場の人たちのためにも1つでも多く勝つ!そして、サードステージがスーパーホースであることを証明してやろうじゃないか!

 

 

 


 

 

 

 「で、松下さん。サードステージの調子はどうですかい?」

 

 「ええ、順調そのものです。現状を見ても中央でやっていくのに不足はないかと。」

 

 「そうですか……。もしかしたらあの仔は、本当にトウカイテイオーが遺した最後の希望なのかもしれませんなあ。」

 

 トレセンの一室でサードステージの調教を務める松下調教師とサードステージの馬主であるオーナーが今後のデビューに向けて議論を行っていた。

 

 「では、オーナー。改めてまして確認です。サードステージの脚質から見てクラシック路線で問題ないかと思われます。また、サードステージは仕上がりも早く、最遅の想定でも皐月賞に充分間に合います。長距離にも適正があるのでクラシックのどれか1冠を取れる可能性は充分に有るかと。」

 

 「おお、そこまでおっしゃいますか。松下さんほどのベテランのお墨付きとあれば安泰ですなあ。」

 

 「ええ、私どもでも主力馬の一頭として期待しております。」

 

 吉報が続き、朗らかな調子で2人の会話は続く。

 

 「では松下さん。サードステージの新馬戦は現状ですといつ頃になりそうですか?」

 

 「そうですね。8月の頭辺りで良いかと思います。能力は高いので新馬・未勝利問わず得意と思われる中距離の試合を走らせようかと考えています。そこで勝ったらそのまま札幌2歳ステークスを試すことを検討しています。少々ハイペースですがサードステージは身体的に仕上がりも良いのに加え非常に賢いので、調教ではなくレースに早めから出して勝負勘を鍛えさせた方が良いかと考えています。」

 

 「ええ、本当にあの仔は頭が良いんですよ! 私の話に目線を合わせて聞いてくれますし、馴致のときも大人しく指示に従ってくれて本当に手のかからない良い仔なんですよ。」

 

 「我々でも利発さは本当に話題になりますね。人間の脳みそでも移植してるんじゃないかとか筆を咥えさせたら筆談出来るんじゃないかとは言われますよ。」

 

 はははっ、と2人からは笑い声があがる。本当に人間が憑依しているとは2人には、いや誰も夢にも思っていないだろうが。

 

 「……で、デビューが秋頃にずれ込んだ場合ですが、新馬戦が順調なら東スポ杯2歳からホープフルSというローテーションで行こうかと思います。夏始動でも、問題がなければレース勘を養う意味でもこのローテーションで行きます。」

 

 「なるほど。で、その辺の結果によって弥生賞か皐月賞直行かを決めるというわけですね?」

 

 「はい。とはいえ、ローテーション的にもホープフルでボロ負けしない限りは直行でも充分かと思います。一先ずは故障などが無ければこちらで進めさせていただこうかと思いますがご質問などはありませんか?」

 

 「はい、よろしくお願いします。」

 

 「ありがとうございます。では、出走方針が決まりましたので主戦騎手の依頼の話に移りたいのですが、オーナーからのご希望などはございますか?」

 

 「ええ、私としては"リュージ"さんに依頼しようかと考えています。」

 

 「"リュージ"騎手ですか。あの方でしたら先客がない限りは受けていただけるかと思います。ちなみになんですが、何故依頼しようとしたのか理由をお聞きしてもいいですか?」

 

 「はい。あの人の代表馬は競馬を理解しているほどに賢い馬だったと聞いています。サードステージもかなり賢いので相性は良いんじゃないでしょうか? 後はやはり験担ぎというのもありますね。あの覇王のような走りをぜひサードステージにもしてほしいですね。」

 

 「ああ、"世紀末覇王"のことですね。我々としても是非あれだけの走りを期待したいですね。」

 

 こうして2人の議論は進んでいく。伝説の幕開けは間もなくまで迫っているのだった。

 

 

 

.

 

*1
馬に乗った人が、子馬を後ろから追いたてる調教法

*2
ウイポの競馬の開催表及び参加条件は全時代共通で現実の発売時点のものに準じているので20世紀の時点で大阪杯がG1だったりヴィクトリアマイルが創設されていたりマル外馬がクラシックG1に出走したりする。

*3
ゲームではとある方法でトウカイテイオーを延命もしくは種牡馬引退済みのトウカイテイオーの種付けが可能になる

*4
ウイニングポストシリーズにおける競争馬の総合的能力や繁殖能力を示すパロメーターの1つ。上で挙がったキタサンブラックやアーモンドアイなどの顕彰馬クラスの馬及びその繁殖牝馬系が該当する。

*5
ウイニングポストシリーズにおける(ry。ナイスネイチャやマチカネフクキタルなどの重賞で好走したり生涯で国内G1タイトルを1つ取得したレベルの馬が該当する。




・松下調教師
ウイニングポストシリーズより名前を拝借。

・リュージ(騎手)
実名は伏せるが、ウイニングポストシリーズでも実名で登場する騎手。
人気薄の馬を上位入着させることに長ける名騎手。
若き日にとある競走馬から有り余るほどの栄光と呪いを受けたらしい。
※実在する人物及び団体とは一切関係ありません。


(2021/9/3)
2歳条件戦のスケジュールについてのご指摘があったので修正


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

舞台の中心に躍り出る

.


 筆が乗ったので第2話をドゴーン! 

 ※筆者の知識はウイニングポスト由来なので、この小説の情報は真に受けないで下さい。


.


.

 

 

──前略

 

 

 どうも、サードステージです。正確に言えばサードステージに憑依した一般人です。

 

 さて、季節は2016年の12月。半年強の間に様々なことがあった。まず、自分の騎手を務められる方なのですが、これがイケオジなナイスミドルときたものだ。……うん、多分あの人だ。これからは少しボカして"リュージ"さんとお呼びすることにする。……ボカしてないというツッコミは無しで。

 

 さて、自分の競走成績だが、新馬戦・札幌2歳S・東スポ杯2歳S とここまで3戦3勝と好調だ。そう、ここまで負け無しだ。世代の中心候補という前評判が嘘ではなかったことに自分自身も安堵している。

 

 そして、周りからの評価の急上昇っぷりも肌で感じる。オーナーなんか、既にクラシック三冠でも取ったのかというくらいにハジけてた。まあ、現実の競馬は1勝出来るのですら全体の3割で、重賞を取れたら家族一同でお祝いするほどとのことなので、喜びようも分からなくもないが。

 

 さて、2歳の12月、牡馬クラシック路線といえばホープフルSだ。中山の芝2000mという皐月賞と同じ舞台の同じ距離を駆ける翌年から始まる牡馬クラシックの前哨戦と言ってもいいだろう。

 

 「さあ、阪神芝1600m。未来の優駿たちがそれぞれの想いを乗せて走ります。朝日杯フューチュリティステークス、この舞台を制して同世代のライバルたちより一歩踊り出るのはどの馬でしょうか?」

 

 ………はい、朝日杯FSだ。サードステージの距離適正は1800~3200だったはずだ。下限より低いのは地力でどうとでもなるとはいえ、マイラーの強豪がいると不安は拭えない。そして自分はこの世代の短距離路線は正直よく分からん。記憶にないということは逆に強豪が居ないと楽観的な見方も出来なくはないが……。

 

 「1番人気は4枠8番、サードステージ。父トウカイテイオー、騎手は■■■■(リュージ)。新馬戦から札幌2歳S、東スポ杯2歳Sとここまで負け無しの3戦3勝と調子は絶好調。調教師の松下弘樹氏によりますと『サードステージにとっては少し距離が短いかもしれないが、これまでの好走ぶりから行けると判断しました。利発な彼にとってはG1という大舞台に少しでも触れた方が良いとの考えもあって出走を決意した。』とのことです。父譲りの走りをこのG1の舞台でも見せられるのでしょうか。」

 

 まあ、そんな感じらしい。さて、ここで1つ分かったことがある。この世界がウイニングポストの世界である可能性が低くなったということだ。ウイニングポストの世界ではホープフルSはG1だ。もし、G1の舞台に慣らしたいのが主目標なら素直にホープフルSに向かえばいい。逆に言えばこの世界ではホープフルSはG1ではない、つまりifの現実世界の可能性が高まったということだ。少しはホッと出来る話だ。もしウイポの世界なら下手すれば皐月賞→松国ローテ→夏に米国芝三冠→オグリローテみたいな馬殺しローテーションをさせられかねんからなあ。

 

 ちなみにだが、この出走予定は寝耳に水ではなく、事前から聞かされてた件だ。オーナーが、"あいつは頭が良いから方針を話しておいた方が気持ちの整理もつくだろう。"との考えだそうだ。まあ、向こうからしてれば験担ぎというかおまじないレベルの話なんだろうが、こちらとしては非常にありがたい。

 

 その一環で今回の作戦も既に聞かされている。とはいっても大したものでもない。ミスエルテという2番人気の馬に注意しながら先頭の方で張り付き、4つ目の赤いポールの手前、つまりは残り400m強の辺りから二の足で正面に踊り出るというものだ。コーナーが大回りで最後の直線が長いから差しきられないようにするために最後まで加速するのが良いらしい。

 

 まあ、後は成るようにしかならないだろう。幸いなことにこのレースは今まで以上に闘志が漲る感じがしてきてる。サードステージが持つ特性の大舞台*1が作用しているのだろうか? 何にせよ都合が良いのには変わりない。思い切り行かせてもらおう……!

 

 

 


 

 

 

 

 「さあ、大外枠18番トラスト。ゲートに入り各馬体勢が整いました。」

 

 ………

 

 《ガシャンッ!》

 

 ──今だっ!

 

 「スタートしました! 各馬大きな出遅れはありません。8番サードステージ、好スタートを切りました。」

 

 よしよし。さて、自分は今のところ3番手辺りか。なら、キープでいいな。

 

 「さあ、ここまで平均的なペースで各馬、大回りのコーナーに差し掛かります。」

 

 そろそろ前に少し上がるか……。

 

 「ここで先頭は1000mを通過。勝負を仕掛けるのはいつになるでしょうか?」

 

 まだだ、後もう少し…………よし、リュージさんの指示も来た! ここだ!!

 

 「おーっと! ここでサードステージ、前に大きく躍り出ながら残り400mを通過! ここから一気に勝負を仕掛けるようです!」

 

 ここからは突き放す! 鼻差圧勝出来ればいいが、それでミスったら話にならない。ここから先頭は譲らせないつもりでいく!

 

 「サードステージ先頭! サードステージ先頭! 後続は差しきれるか!」

 

 後ろは……来てるが振り切れる! これで決まりだ!

 

 「サードステージ粘る粘る! 後続は………! ゴーーール!! やりました、サードステージ! サードステージ1着! 亡き父に捧げるG1勝利! そして、鞍上のリュージ騎手も嘗ての世紀末覇王の天皇賞春以来、実に15年ぶりの中央G1勝利です!」

 

 ふう………。先ずはG1初制覇っと。さて、ここからは本命としてマーキングもされるようになるだろうが………いや、弱音は吐いてられない。勝負はまだまだ序の口だ。ここまで来たなら腹を括ろう。いざ、目指すは無敗の三冠馬だ!

 

 

 


 

 

 

《2017年1月下旬》

 

 トレセンの一室、そこに集まったのはサードステージの馬主であるオーナー、調教師の松下、そして主戦騎手のリュージの3人だった。

 

 「改めまして、お二人の尽力もあってサードステージは昨年、最優秀2歳牡馬に選定されました。本当にありがとうございます……。」

 

 オーナーは2人に向かって深々と頭を下げた。

 

 「頭を上げてください、オーナー。頭を下げるのは自分の方です。サードステージのお陰で自分もG1タイトルをまた1つ取ることが出来たんです。それも自分を騎手に指名してくださったオーナーのお心遣いのお陰です。」

 

 「私からもお礼を言わせてください。あれだけの素質馬の調教を委ねて下さったオーナーには本当に感謝しています。これからも万全の状態でレースに出走出来るよう尽力させていただきます。」

 

 2人の言葉を受けて、オーナーは頭を上げた。

 

 「………ではオーナー、これからの方針についてですが、クラシック路線を踏襲するという考えに関してはお変わりはありませんね?」

 

 「ええ、構いません。三冠を目指すローテーションを組みましょう。」

 

 「では皐月賞を目指すのは確定として、前哨戦である弥生賞を使うかどうかを決めましょう。直行しようとしてたのはホープフルSを使うことで中山2000mに慣らすつもりでいたためなので、そこの前提が崩れた今、改めて検討した方が良いかと。」

 

 「ふむ………。リュージさんはどうお考えですか? 走っているサードステージに一番近いあなたの意見をお聞かせ願えませんか?」

 

 「うーん………そうですね、自分は、使った方がいいかと思います。乗ってて実感したんですけど、サードステージは相当に頭が良い馬です。直行させても勝てる力はあると思いますが、前哨戦で知識を蓄えさせて万全を期して臨むのに越したことは無いかと思います。」

 

 「リュージさんは使うべきとお考えなのですね……。松下さん、確認なのですが、サードステージの脚は大丈夫なのでしょうか? トウカイテイオーも脚の故障に悩まされていたのでそこが気になるのですが。」

 

 「そちらに関しては問題ないかと思います。私どもも脚部不安に関しては注視していますが、問題もなく健康そのものです。前哨戦を挟む程度でしたら問題ないかと思います。」

 

 「分かりました。では、弥生賞を挟んで皐月賞、日本ダービーを目指しましょう。秋以降は今は置いといて、この二冠に注力しましょう。」

 

 「分かりました。私どももサードステージが100%以上の力が出せるよう、全力でケアをして参ります。」

 

 「自分もサードステージの騎手に恥じぬよう、全力で騎乗して参りますので、これからもよろしくお願いいたします。」

 

 その後、僅かな世間話の後に話し合いは解散となった。

 

 次なる戦いの舞台は春。世代の中心となったサードステージに立ちはだかるは2歳戦を戦ったライバルたちに加え、冬のシーズンで勝ち上がり、クラシック戦線に名乗りを上げる素質馬たち。我こそは、と強者たちが参戦する中で彼らは三冠という目標に向かって突き進む。

 

 

 

.

*1
G1レースで能力以上の力が発揮できる特性




.


 レース中の実況は一部例外を除き、サードステージ視点のものを抽出しているとお考えください。正直、一部の有力馬以外情報が追いきれないので………


.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

駆けろ、三度と無き生涯一度の大舞台を

.


 あまり詳細を詰めると文才の無さがバレるので端折ってます
 ……えっ、知ってたって?


.


.

 

 

 ──前略

 

 毎度お馴染み、サードステージの中の人です。

 

 さて、季節は春。それも夏の足音も近づいている頃だ。そして、競馬において春に行われる最大のイベントといえば、やはりコレになるだろう。

 

 東京優駿(日本ダービー)。──全てのホースマンが憧れる舞台だ。ダービーはお金で買えないだのダービー馬の馬主になるのは一国の宰相になるよりも難しいなどと数多くの名言を残す夢の大舞台でもある。

 

 ………えっ、弥生賞に皐月賞はどうしたって? わざわざ言わなくてもいいだろう。結果はお察しの通り、完勝だ。三冠馬を目指すんだ。"一番速い馬が勝つ"戦いで負けてなんかいられない。ここからは速さだけでは勝てない戦いが待ち受けているんだから。

 

 さて東京芝2400mだが、総合力が試される舞台らしい。最後の直線に差し掛かってから残り300m辺りまでが上り坂で、後は平坦な直線になるとのこと。また、内枠がとにかく有利で如何に内枠に陣取れるかがポイントなんだとか。

 

 「7枠13番、一番人気サードステージ。父トウカイテイオー、騎手は■■■■(リュージ)。ここまで無敗の6戦6勝。先日の皐月賞を制した走りをここでも発揮出来るのでしょうか? そして、三代に渡るダービー制覇という快挙にも注目が集まっています!」

 

 で、ご覧のように外側だ。"一番運の良い馬が勝つ"とは良く言ったものだが、今のところ幸運はご機嫌斜めのようだ。まあ、走るか死ぬかの二択みたいな競走馬の世界に産まれた時点で運は無いよな。いや、サードステージという世界的に見ても稀代の名馬に転生したから運は良いのか? ……まあいい。勝つしかないんだから勝とう。それで充分だ。

 

 さて作戦についてだが、これもいつも通りの先行策だ。ただ、このコースは差される可能性が高いらしいので残り600m辺りからハナをとって、直線に差し掛かったらスパートを駆けて相手を振り切るという感じで行くとのことだ。

 

 そして仮想敵に関してだが、陣営の皆さんはレイデオロとアドミラブルを警戒しているらしい。ただ、個人的にはスワーヴリチャードも警戒している。確かウイポだとこの世代の有力馬として紹介されていた記憶がある。そういえば、キセキって有力馬もいたはずなんだが……故障でもしてたのか?

 

 何度も言うように自分の知識はウイポで噛った程度のものだ。どの年にどんな感じの強い馬が居たかくらいまでは分かるが、どの馬がどんな勝鞍を上げたかはちんぷんかんぷんもいいところだ。というか、この辺の有力馬を何となくでも知ってるのはちょうどこの辺りをウイポでやってたからだ。そうじゃなかったらサトノダイヤモンドとかの世代とごっちゃになってたことだろう。

 

 話が逸れた。個人的に警戒するのはレイデオロ、次いでスワーヴリチャードとする。これで実はダービーを取ってたのはここの一発屋の穴馬だったら……いや、そのときはアドリブで何とかしよう。幸いにも先行策だ。前寄りで走るならゴール板前で先頭になるように加速して、追い込んで来るなら追い付かれないように加速すれば良い。これもサードステージという恵体だからこそ出来る力業だ。

 

 「サードステージ、祖父・父に次いで三代連続でのダービー制覇となるか、はたまたライバルたちがその偉業を阻むのか、日本ダービー、間もなく出走です!」

 

 さて、そろそろ時間だ。鬼が出るか蛇が出るか……。いや、何が出てきても、それらをかわして先頭でゴール板に飛び込むだけだ。

 

 

 


 

 

 

 「大外枠8枠18番、アドミラブル。ゲートに入って体勢が整いました。」

 

 ………………

 

 《ガシャンッ!》

 

 GO!

 

 「さあスタートしました、日本ダービー! 一番人気サードステージ、良いスタート! その勢いのままに内枠につけて、これはいつも通り前に行く構えのようです。」

 

 よし、内枠に入り込めた。今は、先頭と並走している感じか。ちょっとペースを下げるか………いや、脚を溜められるのはよろしくない。このまま行こう。

 

 「さあ、先頭の2頭が1000m付近を通過。ペースは、少々平均より遅めといったところでしょうか?」

 

 遅いか。後ろにいるレイデオロやスワーヴリチャードのことを考えると少し前に上がってもいいか。

 

 「おっと、サードステージ。第3コーナーに差し掛かってペースをあげていきます。後方を警戒してのことでしょうか? これが後続に影響を与えそうです!」

 

 後ろは………少しずつ上がっても来てるか? ただ、スパートを考えるならこれ以上ペースを上げるのもまずいな。ハナは既にとれている。最後の直線まではこのままだ。後はリュージさんの指示を………よし、行こう!!

 

 「さあ、サードステージ! 直線に入ってきて脚を伸ばしてきた! このまま振り切りにかかるかあ!」

 

 後ろは……レイデオロが来てるか!

 

 「さあ、レイデオロ! ぐんぐんと脚を伸ばしてサードステージを捉えにかかる! スワーヴリチャード、アドミラブルも良い足だぁ!!」

 

 更に伸ばすか、このまま行くか! 落ち着け! まだこちらに有利だ! リュージさんも押してはいない! 残り100mで決断で!

 

 「残り200m! サードステージ先頭! レイデオロが迫る! スワーヴリチャード! アドミラブルも前に上がって来た! このまま差しきるのか!」

 

 ………よし! 振り切れる! 後はこのままゴールに突っ込むだけだ!

 

 「サードステージ粘る! サードステージ! サードステエエエエジ!!! やりましたぁ!! サードステージ1着! サードステージ1着! 今年の日本ダービー、制したのは13番サードステージィ!! 父トウカイテイオーと同じく無敗の二冠達成! そして祖父シンボリルドルフ、父トウカイテイオーに続く史上初の三代連続でのダービー制覇! 鞍上のリュージ騎手もやりました! 18年前の"世紀末覇王"でも届かなかった日本ダービーを制覇し、念願のダービージョッキーのタイトルを遂に獲得しました!」

 

ふう~。我ながら良くやった。これでクラシック二冠だ! マークはされてたみたいだが、それを振り切れるくらいの実力があると分かったのも大きいな。さて、後は菊花賞を残すだけか。まあ、ここはウイポの世界じゃ無さそうだから宝塚だのサマーシリーズだの夏の海外遠征もないだろう。秋まで休みますかねえ。

 

 

 


 

 

 

 《2017年7月上旬》

 

 競馬の春シーズンは終わりを告げた。G1タイトルを狙う馬たちは秋シーズンに備えて一時の休息を楽しむ者もいれば、海外タイトルを目指して日本を出立する者もいた。また、秋シーズンでの参戦を目指して夏の空の下を走る、いわゆる夏の上がり馬の卵たち、そしてサマーシリーズ制覇に向けて動き出すOP・重賞馬たちにとっては今が本番だと言えるだろう。

 

 そんな中、サードステージのオーナーに調教師の松下、そして騎手のリュージはサードステージの牧場の施設の一室に集まり、秋以降の方針を考えるのであった。

 

 「いや~、去年の今頃が懐かしいですね~。あの頃は目指せ三冠! なんて言ってましたけどまさかそれが本当に目の前まで来てるなんて………。本当にあの仔には頭が上がりませんよ。」

 

 「ええ、懐かしいですね。素質がある馬だったのは確かでしたが、まさかここまでの逸材だったとは正直に言って私も思ってもいませんでした……。」

 

 「はい。私も、騎手としてあの馬に有り余る名誉を頂きました。ですが、ここで満足する気はございません。ここまで来たらやりましょう、無敗の三冠を!」

 

 朗らかにそして明るい空気で会話は進む。

 

 「では、菊花賞を目標にして前哨戦をどうするかを考えましょう。現状ですと神戸新聞杯とセントライト記念、もしくは前哨戦を挟まずに直行の三択になるかと思いますが、お二人はそれぞれの立場からどれが良いかと思われますか?」

 

 「そうですね……。サードステージに関しては直行でも悪くはないかと思います。調教してて思うのですが、あの馬は気持ちの切り替えが早いんです。普通の馬だと長期の放牧で競馬に戻りたくないという調子になったりもするんですが、サードステージはそれが本当にないんです。そういった意味では9月半ば頃から関西の外厩で調子を戻して直行させるのでも良いんじゃないかと思いますね。」

 

 「ええ、サードステージの調子という観点の話ですと私としても異論はありません。ですが、騎手の立場として意見を言わせて頂くと、呼吸といいますか気持ちと言いますかそういうのをもっと合わせたいので前哨戦を使って頂けるとありがたいです。」

 

 「呼吸や気持ち、ですか?」

 

 オーナーの言葉に、リュージは首を縦に振る。

 

 「はい。サードステージに乗ってレースに出る度にサードステージが発する感情というか意志みたいなのが掴めてくる感じがあるんです。もちろん、気のせいと言われたらそれまでなのかもしれませんが、でもやっぱり、あの馬ともっと気持ちを通じ合わせられるような気がするんです。なので、自分としてはレースにより多く出て頂ければと思います。」

 

 「なるほど……。分かりました。松下さん、私はリュージさんの言葉を信じてみようかと思います。前哨戦を挟んで菊花賞に挑みましょう。」

 

 「分かりました。それならば、関西の外厩を利用しつつ神戸新聞杯を使いたいと思います。お二人もそれでよろしいでしょうか?」

 

 オーナーとリュージは松下の提案に首肯する。

 

 「ありがとうございます。では、神戸新聞杯を叩き台に菊花賞へ向かいましょう。さて、菊花賞絡みの話はここまでにして、もうひとつここで決めておきたいことがあります。有馬記念です。」

 

 「有馬記念ですか……。確かに今のままでしたら、菊花賞の結果に問わずサードステージが選ばれるのはほぼ間違いないでしょうね。オーナーはどうお考えですか?」

 

 「もちろん、出走出来るのであれば出走させたいですよ。私としては大いに賛成です。」

 

 「そうなると、やはりキタサンブラック対策が必要になりますね。」

 

 松下の言葉に2人の表情も少し強ばった。──キタサンブラック。5歳春シーズンを終えて17戦10勝。うちG15勝と現世代古馬最強候補筆頭とも言える名馬だ。古馬戦線に突入して現在の主戦であるタケ騎手に乗り変わってからは先の宝塚記念での9着になるまで馬券内を外さなかったという安定感の高さも驚異だ。

 

 「……ええ、キタサンブラックも騎手のタケさんもはっきりいって高い壁になります。でも、ここまで来たんです。やるからには俺たちで勝ちましょう!」

 

 「ええ、そうですね。確かにキタサンブラックはよい馬です。でも、よい馬という点ならサードステージだって互角以上です。やりましょう、オーナー、奇跡の有馬を!」

 

 「松下さん、リュージさん……。ええ、そうですね。言い出しっぺの私が尻込みしてちゃいけませんよね。やりましょう。勝つために。」

 

 斯くして、有馬記念に向けての対策と菊花賞へ向けての最終調整とで議論は続いていくのであった。

 

 これより先は秋シーズン。夏を越えて名乗りを挙げる強者たちも加わるクラシック終盤戦、そして待ち受ける古馬の洗礼。それでも彼らは頂点に向かって突き進む。己が夢を叶えるために、己が望みを実現させるために。

 

 

.




.


○タケ(騎手)
騎手界の生きる伝説。
リュージと同様に、あるクラシックG1の最年少獲得記録を持っているらしい。
※実在する人物及び団体とは一切関係ありません。


3歳シーズンは菊花賞編と有馬記念編で終わる予定です。
書いてる自分が言うのもなんですが、先が長くなりそうです。


.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三の舞台に3つの冠を掲げて

.

先が長くなりそうなので巻いていけないか試行錯誤中だったりします。


※お知らせ
感想でご指摘頂いたので、名前の部分に■■や○○を使わず適当な偽名を入れて対応することにします。ただし、偽名呼びでは不適切になるであろう一部シーンでは上にルビを振る形で対応いたします。ご了承ください。

.


.

 

 

 ──前略

 

 無敗の二冠馬ことサードステージです。先に言っておきますが、神戸新聞杯勝ちました。ただいま8戦8勝です。

 

 というわけで、もう10月下旬。クラシック戦線も遂にラストの菊花賞だ。

 

 「さあ、菊花賞の出走の時刻も着々と迫って参りました! 牡馬クラシック最終戦菊花賞! 注目はなんといってもサードステージ! オルフェーヴル以来6年ぶりの三冠馬は誕生するのでしょうか! 台風の影響による大雨の中、歴史的瞬間を見届けようと京都競馬場には超満員の観客が押し寄せています! この大雨という類を見ない凶悪なコンディションと並みいるライバルを越えてサードステージ、三冠の偉業に挑みます!」

 

 ……というわけでクソみたいな雨の中からお伝えすることになるようだ。水も滴る良い牡馬ことサードステージ……ごめん、言ってみただけだ。

 

 さて、ライバルについてだが、レイデオロはJCに注力するために回避、スワーヴリチャードもコンディションが戻らないので回避といった感じで知ってる名前がキセキしか居ない状態だ。というか、さっき実況で流れてたけどキセキっていわゆる夏の上がり馬だったのか。道理で春シーズンで見かけなかったわけだ。ただ、マークすべきなのがキセキに絞れるというのは気持ち的にも余裕が出来るので有難い限りだ。

 

 さて、京都3000m芝はスタートしてからいきなりコーナーに差し掛かったり、坂が2回あったりと変わったコースらしい。そして長期戦というのもあってスタミナを如何に維持できるか、もっと言うと最後の直線での瞬発力を出しきれるスタミナを残せるがどうかが重要なんだとか。そういうわけで作戦としては荒れる内側は避けるけど、最後の直線の短さを考えて最終カーブは荒れた馬場覚悟で兎に角内側を攻めるイン突きで差を広げて行くようだ。折角だ、今回も先行策なんだし泥を盛大に後ろにぶちまけてやろうか。それで調子が狂えば儲けものだ。……まあ、体力消耗したら元も子もないのでやれるわけないが。

 

 「7枠14番、一番人気サードステージ。父トウカイテイオー、騎手は■■■■(リュージ)。ここまで8戦8勝無敗と父や祖父を彷彿とさせる驚異的な強さ。先月の神戸新聞杯ではレイデオロやキセキといった強豪を抑え見事に1着と三冠制覇に希望が見える走りを見せてくれました。さあ、クラシック三冠目というまさしく第三舞台で栄誉を勝ち取ることが出来るのでしょうか!」

 

 インを突きたいのに外側とはどうにもツイてない。リュージさんの指示も有るだろうが、軽く吹かしてでも前に食い込んだ方がいいかな? とりあえずキセキに警戒しながら前の方で走って最後の直線で突き放してそれでも追走してくるなら残り200m辺りで更に吹かしてちぎる感じでいいだろう。

 

 さあ、そろそろ本番だ。忘れるな、ここは第一目標、いや第一舞台に過ぎない。祖父(シンボリルドルフ)(トウカイテイオー)は古馬戦線でも実績を残した。その輝きを受け継ぐ名として、ここはロマンも無いけど当たり前に勝って古馬に突入する!! 一番強い馬が勝つ菊花賞、ここで確固たる強さを証明するぞ!!

 

 

 


 

 

 

 「大外枠8枠18番マイスタイル、ゲートに入りまして体勢が整いました。」

 

 ……………

 

 《ガシャンッ!!》

 

ゴー・ゴー・ゴー!!

 

 「スタートしました! 14番サードステージ見事なスタート! 一気に内枠に飛び付きました!」

 

 よし、コーナーまでに間に合った。今のところ3、いや2番目か。

 

 「先頭2番のウインガナドル、淀の坂の下りに差し掛かります。それに続くのは14番サードステージ、そのすぐ外に7番アダムバローズが続きます。」

 

 さて、残り1000メートル辺りまではこんな感じでいいんだっけか? キセキの居場所は………くそっ、雨と馬群でよく分からねえ。仕方ない、2回目の淀の坂まではスタミナを切らさないことに意識するか。

 

 「さあ、先頭が残り1000mを通過。間もなく2度目の淀の坂です。各馬、内側を大きく空けてのレースが続きます。」

 

 さて、そろそろ追い込んでくる後ろを意識するか。幸いにも誰も内側に来る感じはない。コーナーで差をつける!

 

 「おおっとここで14番サードステージ、ここで内枠ギリギリにつけてコーナーを曲がってくる! 荒れ馬場を蹴散らして前に出ていきます! ここで大勢を決するつもりか!? さあ、先頭は変わりましてサードステージ、残り600mを通過! 後方も続々とペースを上げていきます!」

 

 あくまでもインを攻めるだけでまだスパートは駆けない! もう少しで残り400m…………ああ、行こうリュージさん!

 

 「さあ、先頭サードステージ! 残り400mを通過して直線に入った! 後続も一気に追い上げにかかる!」

 

 キセキは………見えねえ! ということは馬の向こう側に居るのか! ちっ、こうなれば全力でちぎって逃げる! 疲れるが差しきられて負けるよりはマシだ!

 

 「サードステージ、更に足を伸ばす! この悪馬場をものともせず、後続との差を広げていきます!」

 

 おおおおおおおりゃあああああああ!!

 

 「サードステージ! 伸びる! サードステージが来る! サードステージだ! サードステージだああああああああああああああ!!

 

 ………ふう。これで、"一番強い馬"が決まった。そうだろ?

 

 「やりましたあああ!! 祖父の栄誉を、父の無念をも越えて、サードステージ! 無敗三冠達成!! 荒れ狂う風雨も、足が沈み込むような大地も、立ちはだかるライバルたちも彼の舞台の障害にはなり得ない! 3度目の舞台に傷1つ無い3つの冠を掲げて! 新たなる伝説が誕生だあああああ!!」

 

 

 


 

 

 

 ──まるで夢を見ているようだった。私の馬が、あのトウカイテイオーの仔が一番最初にゴールへと飛び込んだ。

 

 「3度目の舞台に傷1つ無い3つの冠を掲げて!新たなる伝説誕生だあああああ!!」

 

 降り注ぐ雨音を打ち消すほどの観衆の大歓声が響く。──無敗三冠。そう、無敗三冠だ。"皇帝"シンボリルドルフが達成した栄光、そして"帝王"トウカイテイオーが果たせなかった悲願。その無敗三冠をあの仔が、サードステージが遂に取ったのだ………!

 

 「オ"ーナ"ー! や"り"ま"じだ! や"り"ま"じだよ"お"!! ザードズデージが…………ザードズデージが…………!! 三冠……! 三冠でずよ"お"!!!」

 

 「松下さん……! 本当に……本当にやったんですね……!」

 

 「え"え"……え"え"…………!」

 

 松下さんも涙をボロボロ流して喜んでいた。周りを見渡せば、牧場のスタッフの皆も肩を抱き寄せったり手を突き上げ跳び跳ねたりと大盛り上がりだ。

 

 ──思えば長い道のりだった。生産牧場を営む家に産まれて、父によく競馬場に連れてもらっていた。そこで多くの名馬を見た。シンザンにキーストン、タケホープにカブラヤオー、ミスターシービーにシンボリルドルフ。そうした名馬の活躍を見てきた。そんな環境下にいた私も自然と家業を継いだ。当時は日本の経済も右肩上がりだったのもあって、馬主に参入する人も多く、忙しくも充実していた。

 

 そして、トウカイテイオーが奇跡の復活劇を成し遂げたあの有馬記念、私はあの場所にいた。あの頃、バブル崩壊で私自身、重い空気の中にいた。幸いにも、"馬産は金がかかる商売だから無駄遣いだけは絶対に止めて金を貯めとけ"という父の言い付けを守って浪費を抑え貯蓄を欠かさなかったこともあって身を崩すようなことにはならなかったが、競馬の界隈にも暗い話題が飛び交っていた。

 

 そのような中であの復活劇を見た。1年という長いブランクを押し退け見事に勝利したその姿に私は強く心を打たれた。 ──トウカイテイオーの仔を中央の大舞台で、私自身の手で走らせよう。私は牧場主だけではなく馬主にも、つまりはオーナーブリーダーになろうとあの奇跡を見て決意した。幸いにも資金には蓄えもあったし、馬主の伝手も簡単についた。そして、私の新たなる挑戦が始まったのだ。

 

 だが、現実は甘くはなかった。名競争馬が名種牡馬にあらずというのは珍しいことでもないが、それでも産まれてくる馬たちの成績が泣かず飛ばずというのは本当に堪えた。自分の意地のために牧場のスタッフを路頭に迷わせることも出来ないから、トウカイテイオーの仔らを用途変更させたことだって両手の指じゃ足りないほどやった。

 

 いつか、いつかはと諦めずに何度も何度も繰り返して2013年8月を迎えた。そう、トウカイテイオーの最期だ。訃報を聞いたとき、私は目の前が真っ暗になったのを覚えている。もし、来年産まれてくる幼駒たちが駄目だったら…………。私は必死に願った。トウカイテイオーのような名馬でなくてもいい。血を繋ぐ馬が産まれてきてくれと。

 

 そして翌年。残されたトウカイテイオーの仔らの中で唯一無事に育ってくれたのがあのサードステージだ。正直、競走馬としては半ば諦めていた。もし手応えが無さそうなら故障するリスクを避けるためにも種牡馬入りさせようと思っていた。そんな中、あの馬は素質を秘めていると聞かされた私は驚いたものだ。そしてサードステージを競走馬にすることを決意した。少しでも名前を売って種付けしてもらえるチャンスを増やすためにもだ。

 

 それがどうだ。サードステージは中央の舞台で好走するどころか重賞を、G1タイトルを、更にはダービーを取っていった。そして今、私の目の前で三冠すら手に入れて見せた。しかも無敗だ。速さ・運の良さ・強さ全てを兼ね備えていなければ手が届かない……………いや、それだけでは無い。

 

 「……松下さん。」

 

 「………グスッ、どうなさいました……?」

 

 「空も、感激のあまり泣いてますね。お天道様も、お空の上のトウカイテイオーやシンボリルドルフもきっと喜んでいらっしゃるんでしょう。」

 

 「……フフッ、だとしたら勝つ前から号泣してることになりますよ?」

 

 「ええ、だから勝つことを信じてくれていたんですよ、きっと。」

 

 ふと、サードステージが産まれた日のことを思い出した。サードステージが産まれたのは深夜のことだった。出産の作業を終えて厩舎を出たときにふと空を見上げると、1つの強く輝く星が浮かんでいた。その後、あの星のことが気になって調べたのだが、いくら調べてもそんな星の情報は出てこない。他のスタッフにもさりげなく聞いても見たが、その星のことを誰も見ていなかった。

 

 だが、複数人が流れ星を見たという話をしていた。しかも見た時間がバラバラときた。流星群の情報などは無かったはずだし妙な話だと思ったものだった。ちなみに流れ星の話は、皆その日は朝から作業を続けていたので疲れによる見間違いもしくは勘違いだとしたらしい。私もいつの間にか輝く星のことも流れ星の話も忘れていた。

 

 今日、空を見上げてそれを思い出した。誰かがこの事を聞いたら、意識過剰だと笑うかもしれない。でも、私は思う。あの一等星も流星もサードステージのために現れたのだと。そして、この2つの星はきっと───。

 

 「さて、オーナー。口取り式の準備をしましょう。生憎の空模様ですが、サードステージを労ってあげましょう。」

 

 「なに、トウカイテイオーやシンボリルドルフの歓喜の涙だと思えばいいんですよ。」

 

 ありがとう、トウカイテイオー。私のために父であるシンボリルドルフまでお呼びして、私の許にサードステージを届けてくれて。そして、誓いましょう。サードステージを日本のみならず、世界に名を轟かせてみせると。

 

 

.




.


 本来、ウイポで流星と一等星は同一年に発生しないのですが、この世界はウイポの世界ではないので同時に起こっても不思議ではないのです。



※お知らせ

オーナーのキャラ設定が予期せぬ方向に膨らんだので第1話の一部を修正しました。
話の大筋には関与しないはずなので読み返す必要はないと思います。

何か矛盾点があればご指摘ください。


.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三度目の舞台、三度目の挑戦との一騎討ち

.


 予想以上に高評価を頂いて驚きを隠せない今日この頃です。
 ウイポ×ウマ娘普及委員会の一員として大変光栄です。



 ※どうでもいい裏設定
サードステージのオーナーはトウカイテイオーの直仔に【──トーカイ】という冠名を名前の後ろに付けていたが、サードステージの際にはトウカイテイオーだけではなく、シンボリルドルフの力にもあやかりたいという一心で、三代目を意味するこの名前を付けた






.


.

 

 

 ──前略

 

 サードステージです。無敗の三冠馬という一先ずの目標はクリアできました。

 

 さて、季節は2017年12月末。ドタバタしたこの1年ももうすぐ終わりを迎えようとしている。人間はそろそろ仕事納めで帰省とかしている頃だろうか。もっとも、東京大賞典とかに関わる皆様はそうも言ってられないだろうが。

 

 「さあ、今年もこの季節がやって参りました! 日本競馬の総決算! 2017年有馬記念! 注目は何といってもこの2頭! 無敗の三冠馬サードステージと悲願の有馬記念制覇を狙うG16勝キタサンブラック!! 新時代の巨星が新たな舞台の幕開けを告げるのか、それとも最強の古馬が三度目の挑戦にして悲願を成し遂げるのか! ここ中山競馬場のボルテージも最高潮に高まっています!!」

 

 まあ、自分も人のことを言ってる場合ではない。夢のグランプリこと有馬記念だ。遂に想定していた名馬キタサンブラックとの一騎討ちだ。………うん? 他の馬はいいのかって? 今回に限ってはそれでいい。自分は競馬の知識はショボいのは前にも言ったが、キタサンブラックが生涯でG17勝したのは知っている。で、さっきG16勝と言っていた。つまり、史実ならここでG17勝目を挙げることになるわけだ。………いや、これで引退だったよな? 折角だし翌年ドバイ行って引退とかじゃなかったよな? ……そうだ、負けてたらドバイとか行かせないよな。……行かせないよね? いかん、不安になってきた。

 

 ま、まあ、気を取り直そう。一旦、キタサンブラックからは離れてまずは中山芝2500mについてのおさらいだ。中山の直線は短いだの高低差2.2mの坂だの特徴的なコースであることで知られているが、コーナーの数も6つもコーナリングの器用さも求められるステージらしい。逆に直線の短さもあって先行馬が有利なんだとか。もっとも、仮想敵であるキタサンブラックは逃げ馬らしいので気休めになるような話でもないが。

 

 「一番人気は5枠10番、サードステージ。父トウカイテイオー、騎手は■■■■(リュージ)。史上8頭目の三冠馬にして史上3番目の無敗の三冠馬となったのは記憶に新しいところ。さあ、初の古馬戦線。歴戦の古馬たちを相手に無敗の三冠馬の威信を懸けて望みます。」

 

 さて、作戦についてだが完全にキタサンブラック一点狙いという戦い方だ。先頭を逃げるキタサンブラックにマークして最終コーナー近くから前に出始めて最後の直線で差しきるというなんともシンプルなやり方だ。とはいえ、言うは易しというやつだ。相手はあのキタサンブラックで鞍上はユタカさんだ。正直言って三冠レースのどれよりも厳しい戦いになりそうな気がする。まあ、そんなわけで最終コーナーまではキタサンブラックに追走するのをとにかく意識したいと思う。あのユタカさんのことだ。こちらのマークに揺さぶられてペースをミスって仲良く撃沈とはならないだろう。

 

 さあ、1年の集大成だ! ここも勝って1年を締めくくろうじゃないか!

 

 

 

 


 

 

 

「大外枠8枠16番、サウンズオブアース。ゲートに入って体勢が整いました。」

 

 ……………

 

 《ガシャンッ!!》

 

 おりゃあ!

 

 「スタートしました! キタサンブラック、サードステージ共に好スタート・好ダッシュ。前に行く展開です。」

 

 よしよし、予想通りの展開だ。一先ずはキタサンブラックにぴったり張り付こう。

 

 「先頭変わらず1番キタサンブラック。10番サードステージ、ぴったりと付けて2番手。その後ろには──」

 

 しかし、ユタカさんの走りは安定してるな。何も考えずに付いてく立場としては有難いが。どうやら向こう側は下手に策を講じない構えと見ていいのか?

 

 「さあ、先頭は残り1000mを通過。間もなく第3コーナーに差し掛かろうというところです。」

 

 まだだ……………

 

 「さあ、先頭変わらずキタサンブラックのまま第4コーナーへ。サードステージ、いつ仕掛けるか!」

 

 ………! 了解! 行くぞ!

 

 「さあ最後の直線!! キタサンブラック・サードステージ並走!」

 

 チッ……!! 簡単には交わさせてはくれないか!

 

 「残り100m!! 2頭追い比べ変わらず! 後続はどうだ!?」

 

 こんちくしょおおおおお!!

 

 「キタサンブラック! サードステージ! キタサンブラック! サードステージ! 今ゴーーーール!! 僅かにサードステージ体勢有利か!? これは際どい勝負になりました!」

 

 はあ、はあ、はあ………。リュージさん無視してもう少し早めにスパート駆けても………いや、止めておこう。食い違っておかしなことになったらアレだ。しかし、ハナ差圧勝って度胸が無きゃ出来ないってつくづく感じるよ。

 

 「さあ、ゴールの瞬間、VTRでの確認です。……………サードステージ! サードステージです!! やりました! 一着10番サードステージ!! キタサンブラックを破りG15勝目! そして年間無敗! 2000年テイエムオペラオー以来、実に17年以来の中央競馬年間無敗!! 更に史上初! あのシンボリルドルフやディープインパクトですらなし得なかった年間無敗の三冠馬の誕生です!!! ■■(リュージ)騎手、嘗てのオペラオーに続いて二度目の年間無敗を成し遂げました!!」

 

 よーし、勝てたか………。しかし、まさかここまで勝てるとはねぇ。ここはウイポの世界では無さそうだけど、この馬はウイポのサードステージと同じくらいの力を持ってるとみていいだろう。まあ、とりあえず休みだ休み。春までは気楽にのんびりと参りましょうか。

 

 

 


 

 

 

 《2018年1月中頃》

 

 

 「ではお二人とも、改めまして明けましておめでとうございます。」

 

 「「おめでとうございます。」」

 

 牧場の建屋の一室、オーナーと松本調教師、リュージ騎手の3人が集まっていた。

 

 「いやはや………本当に夢のようですよ。G1どころかダービー取って三冠制覇して年間無敗とは。そして年度代表馬及び最優秀3歳牡馬に認定。それもこれもお二人のご尽力無くしては叶わないことでした。本当に……ありがとうございます。」

 

 「いえ、私どもの調教による成果などたかが知れてます。あの馬の持つ凄まじい力あってのことです。今後ともサードステージが持つ本来の力を活かせるように最善を尽くして参ります。」

 

 「私もサードステージのお陰で無敗三冠という栄誉を賜ることができました。これも私を信じて主戦を任せて下さったオーナーのお心遣いあってのことです。これからも厚遇の程よろしくお願いいたします。」

 

 「そう言って頂けると本当に有難いです。今年もよろしくお願いいたします。」

 

 「はい、よろしくお願いします。………ではオーナー、今年の出走方針ですが、大阪杯より始動するので宜しいですね?」

 

 「はい。当面は去年成立した春古馬三冠を目指そうかと考えています。それと………」

 

 「オーナー、どうされました?」

 

 急に口を閉ざすオーナーにリュージが問いかける。

 

 「………松下さん、リュージさん。私はサードステージに望みを懸けてみたいと思っています。」

 

 「オーナー………まさか凱旋門賞を狙うつもりですか。」

 

 「松下さん、その通りです。あの馬なら、それが叶うのではないでしょうか?」

 

 「ええ、その可能性は充分に有るかと思います。リュージさんはどう思われますか?」

 

 「そうですね……。自分も可能性は高いと思います。あの菊花賞でも感じたんですが、サードステージのパワーは相当なものです。欧州の洋芝にも対応が叶うんじゃないでしょうか。」

 

 「有り難うございます。そうなりますと前哨戦にフォワ賞を使っての凱旋門賞になりますね。宝塚記念が6月下旬頃なので……」

 

 「いえ、松下さん。流石にフォワ賞まで使うのは可愛そうです。直行させてください。」

 

 「オーナー? 何を言っているんですか? 海外遠征ですよ? 確かに宝塚記念を経て凱旋門賞に直行させた例ではディープインパクトがいます。ですが、環境の大幅な変化もあるのに直行させるのはいくらサードステージでも荷が重いですよ?」

 

 「オーナー。何を考えてるんですか。……まさか。」

 

 「リュ、リュージさん。何か思い当たる節があるんですか?」

 

 「オーナー、あなたは秋古馬三冠、いや、古馬王道路線完全制覇を考えている。そうですね?」

 

 「………はい、その通りです。」

 

 「何を考えてるんですか、あなたは!!」

 

 リュージの問いかけに答えたオーナーの言葉に松下は思わず大声を挙げた。

 

 「春古馬走ってヨーロッパ行って凱旋門でそのまま秋古馬とか冗談じゃないですよ! 特に凱旋門賞と天皇賞秋の間隔なんて約三週間ですよ!? それを全部1位を取りにいかせるつもりなんですよね!? いくらなんでも期待を込めすぎですよ!」

 

 「ええ、分かっております。普通の馬なら、いや並み大抵の名馬でも厳しいでしょう。ですが、あのサードステージはそれらを超える稀代の名馬です。松下さんも普段から素質が違うことをおっしゃっている以上、それは承知ではありませんか?」

 

 「それは……そうですが………。」

 

 ──あの馬は何かが違う。サードステージに密接に関わる人たちの間では共通見解として広まっていた。それは単なる強さという範囲ではない。上手く言い表せる者は居なかったが、その違いという観点を否定する者は居なかった。

 

 「松下さん、リュージさん。この挑戦にはサードステージと深く通じあっているお二人無しには不可能です。もし、お二人のどちらかが反対なさるのでしたら、私としても無理強いは致しません。ですが、私は是非ともあの馬にこの偉業を懸けてみたいのです! どうか………どうかよろしくお願いします!!」

 

 オーナーは立ち上がって机に両手を置き、深々と頭を下げた。

 

 「……オーナー、頭を上げてください。」

 

 リュージが静かにオーナーに話しかける。

 

 「俺としても、普通なら反対すべきなのだと思います。でも、オーナーのサードステージに懸ける期待を俺も否定することは出来ません。俺もサードステージの主戦騎手を務めていますが、分かるんです。あいつは自分がどういう存在で、何をすべきかというのを理解してます。あいつ自身もその偉業の意味を理解してくれると思います。そして、その無理にも応えてくれると思います。だから、自分でも可笑しな言い方になりますが、肯定も否定もしません。あいつが走る、と覚悟を決めているなら俺は何も言わずにあいつを勝たせるために全力を尽くします。逆に、あいつが走ることを否定しているのなら俺はあなたを殴ってでも止めます。それが俺の意見です。」

 

 「リュージさん………。有り難うございます。あなたのお言葉、深く胸に刻みます。では、松下さん。あなたの気持ちをお聞かせください。リュージさんはこうおっしゃってますが、あなたが断られるのでしたら、私も諦めます。あなたが納得されてない状態での調教ではこの偉業は無理ですから。」

 

 「………分かりました。あの馬の素質の底知れなさは私も認めるところです。そして、サードステージが成す偉業を見たいのは私も同じです。ええ、腹を括りましょう。」

 

 「松下さん、あなたの決断に感謝いたします………!」

 

 「……では、気を取り直してスケジュールの確認です。先ほど申し上げましたように宝塚記念から凱旋門賞に直行したのはディープインパクトだけです。また、凱旋門賞から天皇賞秋に向かったケースは無い、というか今後現れないようなローテーションでしょう。そして年間G17戦するとなれば、いくらサードステージでも消耗が過ぎます。なので、今年のレースは国内含めて全てのレースで直行させるつもりでいきます。」

 

 ですが、と松下は一呼吸置く。

 

 「サードステージが洋芝に合わないことを想定してフォワ賞を使えるような遠征計画にはします。仮に前哨戦を使うことになった場合、それは洋芝に合わない中で前哨戦まで使うという、サードステージにとって負担がかかりすぎている状態になります。そうなったら天皇賞秋はもちろんJCも諦めて休養を取らせます。調教師の私としてはこれが最大限の譲歩です。もちろん、馬体に異常が見受けられれば出走は断念していただきます。もし、断念して頂けない場合にはオーナーの首根っこを掴んで地面に叩きつけて恫喝します。よろしいですね?」

 

 「ええ、それで充分です。」

 

 「後は凱旋門、というより海外での騎手は如何なさいますか?」

 

 「もちろん、リュージさんに全て一任いたします。」

 

 「自分……で本当によろしいんですか?」

 

 「ええ、はっきり言って私は海外の競馬事情は全く分かりません。それならば、サードステージと深く通じあっているリュージさんに乗って頂くのが1番かと思います。それに、先ほど2人の力が無ければ偉業は達成できないと言ったのは自分です。私はリュージさんを信じます。」

 

 「ありがとうございます……! そのご期待に必ずや報います!!」 

 

 こうして彼らは前人未到の偉業へと挑むことになる。

 

 数多の舞台に立ちはだかるは、その競馬場・その距離を極めるスペシャリストたち。並大抵のゼネラリストでは歯が立たぬ苦難の試練。そして、立ちはだかるは世界の壁、その名とは裏腹に名だたる名馬の凱旋を阻んだ地獄の門。日本を駆け抜け、呪いを打ち破り、彼らは未踏の境地を目指す。

 

 

 

.




.


絆を深めた騎手を大事なレース前には切り替えてはならないのが鉄則なのでリュージさんには海外に行ってもらいます。
中小馬主の救世主と呼ばれてるリュージさんを海外に連れ出すとか中々にとんでもないことをしてるような……。



(2021/9/10 追記)
出走ローテーションに関して様々な意見をお寄せ頂き、ありがとうございます。
此方でもご感想などを考慮し、修正するかどうか検討しています。
結果に関しては本回の修正か次回の投稿を以て返させていただきます。


.
.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三の舞台、覇王に走りを捧げて

.


 前回の出走ローテーションの件で様々な意見をお寄せいただき、本当にありがとうございます。皆様からの意見は全て拝見させていただいております。

 結論から言いますと、先のローテーションを修正せずにこのまま行きます。それに関する軌道修正等は今回の話に盛り込んでおります。そのため、前回からと比較して作風が変わってるかと思います。それでも納得がいかないという意見も予期しておりますが、何卒ご了承ください。

 あと、後書きにも書きましたが、リュージさんのオペラオー周りのエピソードを若干ながら捏造してます。今回は割りと後書きに色々書いたので、本編後に後書きも併せてお読みください。



どうしようもなく私見なので反転させてます。リアルに寄せるかウイポに寄せるかの2択であるなら私は後者をとります。あくまでもウイポ×ウマ娘の普及活動とするなら非現実的でも派手な戦歴の方がやはり見栄えがあっていいと思いますので。というか、この小説を見に来てる人はそういう方々が多いのではないでしょうか(個人的な感想です。)



·


.

 

 

 ──前略

 

 どうも、4歳シーズンに突入したサードステージです。

 

 古馬王道路線完全制覇と凱旋門賞を同一年で達成すると陣営から通達が来た。まあ、多少は覚悟はしてたが、陣営も思いきったものだ。凱旋門から秋天はウイポでもちょっと強行軍だから、リアルでやるとなればかなりの苦情があっただろう。というか有ったと言っていい。ディープインパクトの二の舞をやらかすのか! という声は至極全うだろう。

 

 さて、ここら辺で一度考察タイムだ。まず、ここで判断すべきはリュージさんの反応だ。リュージさんは一頭でも多くの馬に幸せな余生を送って欲しいと騎乗依頼は片っ端から受ける人だ。そんな人がこのとんでもないローテに黙っているはずがない。

 

 しかし、彼にその兆候は見られない。だが、それは自暴自棄や諦念とも違う。私利私欲でもない。いや、それをいうならオーナーや調教師の松下さんといった陣営の全員がそうだ。なんというか、死地に向かう兵隊のようなそんな空気を醸し出してる。まるで何かに突き動かされているかのようだ。ここから見るに数人が心替わりをしたという話ではなさそうに見える。ならば、着目すべきはこの世界そのものだ。

 

 自分は、この世界はウイポの世界ではなく、サードステージというIFが登場した現実世界だと思っていた。だが、これが未来永劫続くと考えたのが間違いではなかろうか。ここからは競馬とは駆け離れたSFのような話になる。*1

 

 そのためにサードステージという存在について再確認だ。ウイニングポストシリーズに登場する、父親をトウカイテイオーとする架空の競走馬。史実では泣かず飛ばずで消えたトウカイテイオー産駒の勇姿を架空の世界だけでも実現させたい。その想いから産み出されたというのはシリーズから一貫している揺るぎないものだ。固めにいうなら定義が確立されているというべきか。

 

 さて、ここで質問だ。流れている川に軟らかい泥団子を落としたらどうなるか? 当然、川の流れによって崩れていって最終的には影も形も無くなる。では、流されない程の大きめな石を落としたらどうなるか? 水の流れによって削られるにしても悠久の時間がかかるのは言うまでもない。そして、その間、石の周りの流れは変化を強いられる。

 

 つまり、今起こっている現象はこれでないだろうか。サードステージという確固たる異物がこの時空に登場したことにより、自分と非常に近い人々がその影響下になった、つまりウイニングポストという世界の介入を受けたのでは、という推論だ。これなら、現実かウイポかの議論に対して筋が通る。

 

 まあ、くだらないことを長々と引き出してみたが………正直結論はどうでもいい。そもそも、結論が分かろうが分からまいがこの馬の身ではどうにもならん。というか、元から自分としてはその挑戦を受けることは吝かじゃない。断れる立場じゃないからではない。まず、周囲からの"サードステージが可哀想だ"とかいう憐れみみたいな言葉が正直気にいらない。今は走らせまくるような時代じゃないとか言うやつは多いが、このサードステージに込められたロマンに従うなら寧ろ前人未踏へ至るために走るのが流儀だ。

 

 そう、ロマンだ。史実なら翔ばずに消えたトウカイテイオーの子供が競馬界を熱く盛り立てる、というロマンを捨てきれなかった人たちの想いがサードステージを産み出したのだ。最初の頃は用途変更にならなきゃOKだとか言ってたが、自分だってサードステージに込められたロマンは大好きだし、ここまで来たらこの体にも思い入れも生まれてくるというもの。やってやろうじゃねえかよ、この野郎! というやつだ。

 

 まあ、1つ確かなのは予後不良になったら陣営の皆さんを世間はここぞとばかりに袋叩きにして、陣営も余計な後悔を背負うことになるだろう。というわけで一先ずはハナ圧勝して力をセーブし、馬体に負荷を掛けないように心がけよう、と決めたのが新年の抱負だ。

 

 さて、心が決まったところで軽くヨーロッパ方面の動向だ。確かこの時期のヨーロッパは確かEnable(エネイブル)とかいうヤバい馬がいたはずだ。自分の記憶が間違えてなければ凱旋門からのBCターフとかいうローテーションを決めた前代未聞の馬だ。ヨーロッパとアメリカの位置が近いとはいえ、この間隔で中距離の大レースをよく連覇してるよ。リアルでウイポみたいなことやってんな、あの名馬。

 

 話があっちこっちに跳んだが、自分のことに話を戻そう。どうやら凱旋門には馬体の影響を考慮して、前哨戦を挟まずに直行させる予定らしいが………。ウイポのような海外デバフ*2があったら流石に勝てる気がしない相手だ。そういうのが無いのを祈るしかない。

 

 ただ、前哨戦であるフォワ賞を使える遠征計画にして、どうしても無理そうならそれを使って、その後の秋天とJCは回避するらしい*3。こんな感じに保険をかけることを忘れてないように、自制が消えているわけではないんだろう。

 

 まあ、ローテーションの話はそろそろここまでにしよう。今は目の前のレースに集中だ。というわけでただいま6月も下旬。そう、春古馬三冠ラストを飾る宝塚記念だ。お察しの通り、大阪杯と天皇賞春は見事に勝ちました。今現在12戦12勝、G17勝のサードステージです、どうぞよろしく。

 

 「一番人気は1枠2番サードステージ。父トウカイテイオー、騎手は■■■■(リュージ)。前年に年間無敗のクラシック三冠という偉業を成し遂げて尚、今年に入っても勢いは止まらず12戦12勝とまさに規格外という言葉も生ぬるい強さ。大阪杯、天皇賞春を制して春古馬三冠完全制覇、そして祖父シンボリルドルフをも超えるG18勝という日本競馬史上初の快挙に期待が集まります。また、鞍上の■■(リュージ)氏にとっては、先月亡くなったテイエムオペラオーのG1連続勝利が途切れたレースでもあります。このレースに勝利し、オペラオーに勝利を捧げることは出来るのでしょうか?」

 

 さて、史実のこの年の宝塚記念の話は自分も知ってる。リュージさんがミッキーロケットに乗って中央G1を17年ぶりに制したレースだ。もう記憶はあやふやだが、かなりドラマが詰まったエピソードだったはずだ……。

 

 まあ、一先ずレースに向けて色々整理しよう。阪神芝2200mは前半が下り坂でペースが速くなりやすいらしい。また、最後の直線が短めなのでコーナーで前に出て直線で伸ばす足も必要になるとか。

 

 一応、作戦の話も振るが………もう作戦という程のものでもないんだけどな。仮想敵であるサトノダイヤモンドもキセキも後方から仕掛けるタイプの馬だ。というわけで後方の動向に気を使いつつ2.3番手辺りに付けて第3コーナーから第4コーナー辺りでハナをとってそのまま足を伸ばしてゴールまで駆け抜けるというものだ。いつものやつだ。

 

 まあ、偉そうな言い方になるが正直この戦いは負ける気がしない。この戦いは凱旋門賞の実質的な前哨戦だ。その凱旋門は、エネイブルというとんでもない強豪のホームだ。こんなところでグダグダした戦いはしてられない。当たり前に勝って、勢いのままにヨーロッパへ行くつもりだ。

 

 問題なのは寧ろ外より内だ。リュージさん、気丈に振る舞ってるけどこっちに悲しみがダイレクトに伝わってくるんだよなあ。……もしかして、ここにもウイポ由来のあれがあるのか。ウイポだと競走馬に同一の騎手が騎乗し続けると絆Lvが上がってレース時の能力が上昇するバフがあった。いわゆる気持ちを通じ合わせる人馬一体というやつだ。……これ、こっちの思念とか漏れてないよな? 魂が人間です、っていうのがバレたら……いや、バレてもそれを証明しようがないからいいのか? まあ、こっちもリュージさんの細かい思念が読めるわけではない。ならば逆も然りだろう。

 

 リュージさんの話に戻ろう。まあ、分かりやすいくらいオペラオー案件だ。というかあれだけの話を聞かされたらな……

 

 

 

 


 

 

 

 《回想》

 

 

 ──馬房──

 

オペラオーが亡くなってまだ日が浅いころ、リュージはサードステージの下を訪れていた。

 

 「なあ、サードステージ。少し、話に付き合ってくれないか?」

 

 サードステージに向き合ってリュージは語り出す。サードステージはじっとリュージを見つめている。

 

 「この前な、テイエムオペラオーっていう俺の恩人、いや恩馬が天国へ旅立ったんだ。」

 

 「このオペラオーは本当に強かったんだよ。ああ、お前くらい強い馬だったんだよ。当時の俺みたいな半人前の騎手じゃなかったら三冠取ってたような強い馬だったんだ。」

 

 「そのオペラオーって馬と俺は、最初から最後までずっと一緒に戦ったんだ。その中でたくさんの贈り物を受け取ったんだけど、俺は何にも返せなかったんだ。」

 

 「だからさ、少しでも立派な騎手になってオペラオーに会いに行くって決意したんだ。」

 

 「当然、上手くいかない日々だったよ。『お前が乗ってる馬はオペラオーじゃねえんだぞ!!』ってヤジを飛ばされたことだってあった。」

 

 「そんな中で、オーナーさんから連絡があったんだ。うちの新馬の主戦騎手になってくれないかって。それがお前だったんだよ、サードステージ。」

 

 「お前と出会えて俺はいくつものG1タイトルを取ることができた。その中には夢だった日本ダービーもあった。……本当に嬉しかった。ようやく少しはマシな騎手になれたかなって思えたんだよ。」

 

 「それで、去年の夏に会いに行ったんだよ。日本ダービーを取れたぞって。それで久しぶりにあいつの背中に乗ったんだ。あの頃を思い出したりしてさ。あの頃より成長できた気がしたんだ。」

 

 「でもさ、お前に騎乗すればするほどに俺は浮かれてただけの阿保に過ぎないんだって思うんだよ。だってそうだろ? 朝日杯にクラシック三冠に3歳有馬、大阪杯に天皇賞春。もう、G17勝だ。お前の爺ちゃんのシンボリルドルフやディープインパクト、そしてテイエムオペラオーくらいの凄い馬だろ、お前は。」

 

 「そんな馬に勝たせてもらってただけなのにちょっとはマシになったって舞い上がって……バカみたいだろ? 俺は、昔から変わってない。テイエムオペラオーやサードステージという稀代の名馬に乗せられてるだけのリュックサックなんじゃないかって。……俺、オペラオーに会いに行っていい身分だったのかな?」

 

 「なあ、応えてくれよ。お前は、誰が乗ろうが勝てる馬なんだろ……。」

 

 

 

 


 

 

 《舞台は戻って──》

 

 

 「大外枠8枠16番キセキ、ただいまゲートに……入りました。」

 

 ……………

 

 《ガシャンッ!!》

 

 ……!!

 

 「スタート! 2番サードステージ、好スタート!」

 

 はあ……。騎手としての最低限の役割はだけはまともに果たすとか言ってたけど、まったく……。

 

 ──(スゥ~~……)

 

 「先頭取りましたのは11番サイモンラムセス。タツゴウゲキ、サードステージと続く展開。後ろ1/2馬身ほど空いて──」

 

 ──いい加減にしろやぁ!!リュージ!!

 

 (……!! 誰だ!? まさか……サードステージ? 俺に何を伝えようと?)

 

 「先頭サイモンラムセス変わらず第1コーナーから第2コーナーへ。タツゴウゲキ、サードステージがそれに続いています。その外から──」

 

 ──お前がただのリュックサック?あんたは……あのオペラオーが唯一背中を預けた最高の相棒だろお!?

 

 (この感じは……俺とオペラオー? オペラオーが背中を俺に預けようと……。なんでお前が……いや、オペラオーが俺を認めてたと、そう言いたいのか?)

 

 「各馬バックストレートを駆け抜けていきます。先頭変わらずサイモンラムセス。1馬身から2馬身離れて──」

 

 ──そして、それはここでも変わってねえ!! 確かに、自分は誰が乗っても勝てる名馬かもしれねえよ! でも、自分が大勝負に出るときに背中を任せたいのは貴方だ!

 

 (サードステージ……サードステージが俺を背に……お前は俺を認めてくれているのか……!? お前は……!)

 

 「──そして最後方6番アルバート。さあ、ここで第3コーナーへと差し掛かって参ります。サトノダイヤモンドじわじわと上がって行きます。」

 

 (サードステージ……。だから、今は……!)

 

 ──おう! やるぞ、リュージさん! 歌劇王(オペラオー)に捧げる演目をっ!!

 

 (何かデカイことをするつもりなのか? ……分かった。俺が全力でサポートするぞ!!)

 

 「! さあここで2番サードステージ足を伸ばし始めました! 先頭サイモンラムセスを交わしながら残り400mを通過! 10番ヴィブロス3番サトノダイヤモンドも前に出る! 4番ミッキーロケットもこれに続くか!」

 

 (もしかして……!! オペラオー、これは俺たちの自己満足だけかもしれない。お前にとってはありがた迷惑なだけかもしれない。だけど……!)

 

 さあ、覇王に捧げる大舞台だ! こちらも伊達や酔狂で舞台(ステージ)の名前を冠してないことを見せてやる!

 

 「最後の直線、2番サードステージ先頭! 2馬身程のリード! しかし、さらに突き放す勢いだ! 2番手は──」

 

 さあ、ご高覧あれ!

 

 これが皇帝と帝王が遺し仔と

 

 (覇王が見いだした男の──)

 

 「残り100m! サードステージ脚色は衰えない! これは完全に千切れた! 後方では13番ワーザーが10番ヴィブロスを──」

 

 

【全身全霊だっ!!!】

 

 「サードステージだ! サードステージだ! サードステージゴールインッッッ!! 絶対王者サードステージ、やりました! これでG18勝目! そして春古馬三冠達成!! 2着には13番ワーザー、3着には──」

 

(サードステージ……。俺のために、無理をさせて悪かったな。)

 

 ふう~。体に負担を掛けすぎないように走るって決意してたのにこのザマだ。まあ、こんな千切った勝ち方も今日くらいはいいだろうよ……。

 

 「タイムは………2:08.5!! レコード更新! このG1の大舞台で芝2200mの世界レコードを更新!! なんということでしょう! サードステージ、この宝塚記念で史上初のG18勝目、史上初の春古馬三冠完全制覇、そして世界レコード更新という3つの偉業を成し遂げました! これが皇帝と帝王に連なる意志だ! サードステエエエジ!!」

 

 さて、今日の舞台は終わりだ。一番の聴衆に挨拶をしてこうか、リュージさん。

 

 (オペラオー………。)

 

 「おや、2番サードステージ外端に寄って立ち止まったようですが……?」

 

 

 

 

「オペラオオオオオオォ!!!」

 

 

ヒヒイイイィィィィンッ………!!!

 

 

 

 「おおっと! リュージ騎手、絶叫です! 嘗て自らが仕えた覇王にして盟友、テイエムオペラオーの名前を絶叫しています! そしてサードステージも高らかに嘶いた!! これはもしや、先ほどの走りはテイエムオペラオーへの貴覧試合とでも言うのでしょうか!!」

 

 よう、世紀末覇王。聞こえるか? お前が見いだした最高の騎手の最高の名演が───。

 

 

 

.

*1
人間が別世界ないしは別時空の馬に憑依するのって充分SFじみているのでは、というご指摘はご自由にどうぞ。

*2
文字通り、海外レースの初戦に発生するデバフで目に見えて分かるくらいのハンデになる。そのため、ウイポでは多少の疲労がかかってもステップレースを経由した方が良い。余談だが、この仕様のせいで12月の香港G1が現実とは異なり日本競馬の鬼門となっている。

*3
余談だが、宝塚→フォワ賞→凱旋門→有馬記念のローテーションは2019年にキセキが行っている。




.


 【サードステージとリュージ騎手との絆が最大限にまで深まったようです。これ以降、リュージ騎手がサードステージに騎乗した際には───】


我ながら、あれこれ書こうとして散らかった感が強いです。ひとまず纏めるなら、ウイポ感漂うこともやっていくよ、ということです。リアル風味が好きな方が居たら申し訳ありません。というかローテーションに特に文句は無いという方は忘れてしまっても構いません。正直言って帳尻会わせ以外の何ものでも無いので。

一応補足ですが、サードステージとリュージさんが会話出来てるわけではないです。感情のぶつけ合いに近い感じです。会話が噛み合ってないのも話し合いしてるわけではないので当然仕様です。

 検量室に行かずに端に寄って叫んでいいのか?とか馬具着けてて嘶けるのかいうツッコミは無しでお願いします。ただ、あまりに問題なら一応いじくります。

 リュージさんは本来、オペラオーの死後にオペラオーが永眠した地で寝そべって気持ちが吹っ切れたエピソードがあります。今回は生前に会えたがために、逆に寝そべるイベントをスキップしてしまった形にしました。流石にこれだけの強さを持つ馬に騎乗しているのに何の蟠りもないのも変だな、と感じたので。こちらも問題があるなら弄くります。

 感想にて、レースの過程を省略しすぎているとのご指摘がありましたので、テンプレート的ではありますが描写を増やしました。サードステージというイレギュラーを入れたレースの流れが上手く描けず申し訳ございません。また、以前お伝えしましたように、一部有力馬以外の実況はカットさせていただきます。ご了承ください。



 ※以下ネタバレのため反転
この先、リュージ騎手以外が騎乗してレースに出走することはございません。
 反転終わり



もう1つ反転が無いとは言っていない。更にネタバレ。故障するようなイベントはこの先ございません。鋼鉄の女傑(イクノディクタス)並みの頑丈さでお送りします。




.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三の舞台、パリロンシャンの大舞台で

.


お久しぶりです。
思った以上に話が膨らまない&話の流れが滑らかに出来ないんで頭抱えてました。多分今もざらついてます。


.


.

 

 

 ──前略

 

 どうも、サードステージです。自分は花の都パリに来ています。

 

 まあ、今さら説明は不要だろう。そう、パリロンシャンは凱旋門賞だ。

 

 さて懸念の海外デバフだが、結論から言うとこちらの滞在及び現地調教で良い感じに仕上がった。こういうのはウイポでも再現してほしかった……っと話が逸れた。というわけで直行ルートだ。海外デバフが無いなら直行は怖くないってやつだ。まあ、懸念材料はあるがこれに関しては直行以前の話なので触れないでおく。

 

 「さあ、2018年凱旋門賞の出走時刻が刻一刻と迫ってまいりました。日本最強馬サードステージ、ここまで13戦13勝、G18勝と日本競馬史の記録を更新し続ける生きる伝説がパリロンシャンという大舞台に挑みます。数多の名馬たちを阻み続けた凱旋門に日本の旗を掲げることは出来るのでしょうか?」

 

 さて、パリロンシャン芝2400についてだ。まず、特徴なのはその高低差だ。流石に200mとはいかないが、その差は10mと日本の競馬場の比ではない。ヨーロッパの競馬場は自然に沿ったものが多いと言われているので、このコースもその影響なのだろう。他には最終直線の一つ前の直線、所謂フォルスストレートだ。約250mの下り坂を駆け抜けた後、ラストの約530mの直線を突っ走るというわけだ。ここで調子にのってペースを上げすぎると、最終直線で撃沈する罠というわけだ。

 

 しかし、聞けば聞くほどに日本の馬には辛い環境だ。ただでさえ、パワーが必要だという洋芝にパワーを更に要求される極端な高低差だ。更にスタミナが切れれば最後の長い直線で失速する。スピード・パワー・スタミナの全てが要求されるわけだ。ただでさえ、馬の遠征疲れの心配もしなければならないのに過酷なものだ。この辺は人間の精神でよかったと思える点だ。

 

 「12枠16番サードステージ。父トウカイテイオー。騎手は■■■■(リュージ)。春古馬三冠制覇の偉業から早4ヶ月。フォワ賞を使わずに直接凱旋門賞に出走です。調教師の松下氏のコメントによりますと、『遠征や芝が変わったことによるメンタル面の不調なども無く、非常に落ち着いている。騎手の■■(リュージ)氏とも協議を重ね、問題ないと判断した。』とのことです。ここは祖父や父も挑んだことの無い未知の舞台。受け継がれた力では無く、サードステージ自身の力が試されることになるでしょう。さあ、幾多の名馬を阻み続けた凱旋門の呪いを打ち破れるのでしょうか?」

 

 そして作戦だが、エネイブルに対するマーク戦法だ。エネイブルの前側に張り付いて、エネイブルが仕掛けてきたところを並走しながら最後に前に出る、というやり方だ。さっき言ってた懸念材料がこれだ。現ヨーロッパチャンピオンに対して真っ向勝負を仕掛けるというわけだ。注意すべき点は勝負を仕掛けるタイミングだ。相手の仕掛ける脚に合わせて溜めた脚を吐き出せるか、という点に勝負が懸かっている。後はリュージさんとの息を乱さないことも当然必要になってくる。まあ、結局はなるようにしかならないだろう。今まで通り力を尽くすだけだ。

 

 そして、何より重要なのは調子を崩さないことだ。ここから先は秋古馬三冠が控えてる。手を抜くつもりはないが、燃え尽きるつもりもない。凱旋門賞とはいえ、大レースならいくらでも越えてきた。ならば今まで通りに越えられない道理はない。さあ、肩の力を抜いて初の海外公演といきますか!

 

 

 


 

 

 

 「さあ、大外枠のスタディーオブマン、ゲートにただいま入りました。」

 

 ……………

 

 《ガシャンッ!!》

 

 ──!!

 

 「スタートしました! 各馬揃ってのスタートです。」

 

 ──外だからって慌てない。好位置につけることを優先に……

 

 (出遅れてないなら構わない。次はポジションを……)

 

 「まず、先手を取ったのは17番ネルソン。その後を3番カプリ、9番クリンチャーと続いています。ここで10番エネイブル、3番手に上がっていきます。」

 

 (エネイブルはあそこ……。カプリに合わせるのが最善か?)

 

 ──カプリを目印にする感じでいいのか? まあ、エネイブルを警戒する以上、その辺が最善か。

 

 「外側5番手16番サードステージは徐々に上がって行く構え、並走するようにその外からから1番デフォーも続いていくようです。続いて中盤の──」

 ──さあ、登山の始まりだ。返し馬でも走ったが、相変わらずとんでもない坂だよ、全く。

 

 (日本では絶対に見られないような傾斜だ……。サードステージはまだ余裕があるか。)

 

 「さあ、坂を上りきって第3コーナーへ。先頭17番ネルソン。1馬身程離れて3番カプリ2番手。そしてここで上がって来た16番サードステージ3番手に着いて1番デフォーが続いて4番手。インコース5番手に──」

 

 ──脚を溜めることに意識を……。爆発させられなきゃ勝てない……。

 

 (ペースが上がるが、それに惑わされないように……。)

 

 「さあ、各馬フォルスストレートに入ります。17番ネルソン先頭。2馬身程空いて3番カプリが2番手。その外に並ぶ形で16番サードステージ。インコース4番手に9番クリンチャー。10番エネイブルが──」

 

 ──落ち着け……。流れに身を任せて………。

 

 (まだだ………。流れに合わせることに集中を……。)

 

 「──最後方19番シーオブクラスで第4コーナーから最終直線へ。1番手17番ネルソン、1馬身ほど空いて3番カプリ、すぐ後ろに16番サードステージが──」

 

 ──……!! エネイブルが来る! リュージさん、ここから一騎討ちだ!

 

 (! 気合い入れろ、サードステージ!)

 

 「さあ、16番サードステージがここで一気に伸びて先頭に立つ! 10番エネイブルが17番ネルソンを捉えるか! ここで残り300を切って追ってくるは6番の──」

 

 (追い付かれることは問題じゃない! ゴールで先頭に立てればいいんだ!)

 

 ──ひとまずエネイブルに張り付く!

 

 「──馬群の中から5番のヴァルトカイスト! サードステージとエネイブル、激しい追い比べ! 後続と2馬身差! 後方から一気に19番シーオブクラス!」

 

 (ここだっ!! 一気に吐き出す!)

 

 ──! ここか! 了解!

 

 「ここでサードステージ頭抜ける! すぐ隣後方エネイブル! シーオブクラス来る!」

 

 (行けえぇぇっ!!)

 

 ──だあぁぁぁぁぁ!!

 

 「サードステージ! このままか! サードステージ! サードステージ! サードステージイイイィィィィ!!

 

 ──よしっ……!

 

 (………間違いない! やった、やったぞ!)

 

 「サードステージです!! 間違いありません! 16番サードステージ一着です!! 遂に! 遂にやりましたぁ!!! スピードシンボリが初挑戦してから実に半世紀!! シリウスシンボリ、エルコンドルパサー、ディープインパクト、ナカヤマフェスタ、オルフェーヴルと数々の名馬が崩れさったこの凱旋門賞を遂に制しました! 見ているか、シンボリルドルフ! 見ているか、トウカイテイオー! お前たちの遺した血は日本競馬の呪いを打ち崩したぞ! そして■■■■(リュージ)!! サードステージとの対話劇は世界にも通じました! 日本人初の凱旋門賞騎手の称号を獲得です!」

 

 ──……さて、凱旋門の呪いは解けた。撤収しようぜ。天皇賞が、秋古馬戦線が待ってるぞ。

 

 (……? 日本の競馬場? もしかして、もう次のレースのことを見ている? お前は……。いや、お前がその覚悟なら俺は共に行くだけだ。帰ろう、日本に。)

 

 


 

 

 「──で、ここでの滞在期間で……」

 

 「──だからこの日までに手続きが済めば良い、と。」

 

 「するとサードステージの調整期間は逆算すると──」

 

 フランスから日本へと飛ぶ飛行機の3列シートにオーナー、松下、リュージのいつもの三名が座っていた。凱旋門賞での勝利の余韻も冷めやらぬ中、天皇賞秋という前代未聞のローテーションを果たすために速やかな帰路に就いていた。

 

 「……では、飛行機内で出来る準備はここまでです。後は日本に着き次第、一秒でも早く検疫を完了できるようにしてください。」

 

 「松下さん有り難うございます。リュージさんも休まれてはいかがですか? 日本に帰国したら他の騎乗依頼があるのでは?」

 

 「いえ、サードステージの今後のこともあります。自分も付き合いますよ。」

 

 「今後のことといえばオーナー、来年以降はどうされますか? 現状ならば種牡馬入りさせるのが自然な流れとも思えますが。」

 

 「今後ですか………。」

 

 オーナーは顎に手を当て静かに考え込む。

 

 「サードステージの戦歴を考えれば、このまま引退でも充分でしょう。しかし………」

 

 「しかし?」

 

 「お二人にお聞きします。サードステージはレースに挑むことを、競走馬であることを疎んではいないでしょうか?」

 

 「……分かりました。では現状確認から。調教師の目線で言いますと、調教を嫌っている様子は見せていません。また、馬体の様子ならば現状だと衰えは見せていません。来年のスケジュールにもよりますが、来年一杯も走らせることは充分可能です。リュージさんから見てどう思われますか?」

 

 「ええ。サードステージの闘志は衰えを知らないと言っていいですね。というか、凱旋門に勝った直後からもう次のレースの方を向いていました。俺たちより覚悟が決まってますね。」

 

 「ほう、まるでサードステージの考えが読めるかのようですね。」

 

 「いや、読んだわけじゃないですよ。自分に馬の心のなんて読めませんよ。………オーナー。横から口を挟むようなことで恐縮ですが、自分から意見を述べてもいいでしょうか?」

 

 リュージからの言葉にオーナーは静かに首肯し、それを見てリュージは言葉を続ける。

 

 「俺たち人間に競走馬の気持ちは分かりません。いや、馬を無理やり調教して重荷を載せて鞭打って走らせる自分たちとの意志疎通なんて出来ない方がいいんじゃないかと思います。だから、我々は馬云々ではなく、自分たちが後悔がないように走らせるしかないんだと思います。」

 

 「私たちが後悔のないように、ですか……。」

 

 「申し訳ありません。分かってるかのような話をしてしまいまして。ですが結局のところ、自分たち人間がどう思うかに尽きるのではないでしょうか? 例えばサードステージだって"トウカイテイオーの遺志を継ぐ"なんて考えてるわけではないでしょう。どんなに言い繕っても馬にこっちの都合を押し付ける事実は変わりません。もちろん、馬を蔑ろにしていいという意味ではありません。馬体を慮るのは当然として、我々が周りの言葉ではなく自分たちで決めていくしかないんじゃないでしょうか?」

 

 「……ええ、どこまでいってもそれに尽きるのでしょう。リュージさん、ありがとうございます。私も腹を決めます。来年もサードステージを走らせます。」

 

 「では私から提案なのですが、来年の有馬記念をラストランに調整するのでよろしいでしょうか?」

 

 2人の話を聞いていた松下が自分の考えを述べた。

 

 「来年の有馬、ですか……。」

 

 「ええ。トウカイテイオーは今でいうところの5歳の有馬記念で有終の美を飾りました。来年以降の動向はサードステージの体調次第にもなりますが、そこを見据えて調整を行えば踏ん切りもよくなるかと。」

 

 「そうですね……。良い案だと思います。分かりました。競走不可能で無い限り、有馬記念は必ず走らせる。そして、その上で有馬記念を走るのに問題がなければ他のレースにも積極的に出走させる。これで行きたいと思います。松下さん、リュージさん、サードステージのこと、今後ともよろしくお願いします。」

 

 「分かりました。サードステージの調整は私が万全を尽くします。」

 

 「騎乗の依頼、ありがとうございます。サードステージと共に勝つことを誓います。」

 

 (サードステージよ、お前は私を恨むかもしれない。そして許せと言う資格すら私にはない。だが、お前の力を私は見たい。トウカイテイオーの血筋とかではない、お前自身の力を……。)

 

 (素晴らしい馬を最善の状態で世に送り出す。そこに馬の意思を挟ませる余地はない。陣営が望むのならば馬に好かれるも嫌われるもない。忘れるな、それが調教師である私の仕事だ。)

 

 (サードステージ……。お前は、何故そこまで走れるんだ? お前はそれが自分の使命だと、そう言いたいのか?#……分からない。お前は俺がその覚悟に添い遂げるだけで構わないのか? それとも、お前の意思も念も、俺の思い違いでしか……いや、揺らいだら駄目だ。俺のやることはあいつを勝たせるために戦うことだ。それだけは間違っていないんだから……。)

 

 

 


 

 

 

 ──日本調教馬による凱旋門制覇。

 

 その報道は競馬関係者や応援者たちに歓声を促した。約半世紀に及ぶ挑戦が遂に通じたからだ。

 

 一方、サードステージの陣営は淡々としていた。 "凱旋門制覇などサードステージが起こした奇跡の舞台の一幕に過ぎない。" そんな出自不明な虚偽の発言が広まるほどにだ。

 

 ──彼らは本当に秋古馬三冠を獲りに行く気なのか?

 

 もう、ローテーションに関する苦言は下火になっていた。期待に戸惑い、そして多少に残る罵声。様々な聴衆の声を浴びながら、"舞台"と演者は更なる演目を駆け抜ける。

 

 

 

.




.


 実況は中継に日本で声を当てている感じに脳内補完をお願いします。


>我々に馬の気持ちなんて分かるわけがない

これについては後々何処かで触れようと考えています。少なくともリュージさんはサードステージからの感覚は自分の幻覚に過ぎないとか切り捨ててたりはしません。

.


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。