永劫無尽の魂源輪廻《ウロボロス》〜また転生したと思ったら人じゃなくて鳥でした!?周りが危険なので前世の種族特性を引き出して生き残る。あれ、無理?なら鍛えた武術と必殺技を使います〜 (ねむ鯛)
しおりを挟む

第1羽 ハローワールド

はじめまして!最初に言います。これはなろうで掲載している拙作の宣伝です。なろうの方がかなり進んでいるので、もし面白いと思って頂けたら、そちらに読みに来て頂けるととても嬉いです。
それでは、お楽しみ頂けることを願っています。どうぞ。


 転生というものを知っているだろうか?

 転生とは簡単にいうと生まれ変わりのことだ。生き物には魂が存在し、死後に体を離れた魂が新たな肉体を得て別の命として誕生をする。それが転生。

 転生をしたとしても、基本的に生き物が前世の記憶を覚えていることはない。生前の罪を洗い流すためだとか、別の命として生まれるための措置だとか、その理由は定かではないが記憶を持ち越す事はない。

 だが、往々にして例外は存在するものだ。前世の記憶を持ち越しており、生前のことを事細かに説明して見せ、死した本人だとしか思えないような言動を取る。そんな者が極稀に現れる。

 

 これはそんな転生を幾度となく繰り返してきた一人、いや一匹のお話。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

『ハローワールド』

 

 どこで聞いたのかはもう覚えていませんが、もう何度も使うことになってしまった言葉です。

 新たな始まりを祝うための言葉であると同時に、終わらない輪廻に諦めた末の言葉でもあります。

 前世と別れを告げ、今世を精一杯生きるための決別の一言。前の人生に戻ることができない以上、何かの区切りは必須です。

 

 

 ……ってあれ?おかしいですね。

 感覚的には目を開けた筈なのに真っ暗で何も見えない。

 ……まさか目が見えない、とか?

 いやいやそんなまさか。それは流石にハードすぎやしませんか?

 

 兎にも角にも、落ち着いて現状確認といきましょう。

 

 体は……動きますね。感覚もちゃんとあります。

 それに動いてみてわかったんですが、どうやら周りを何かで囲われているようです。

 

 だから暗かったんですね。

 私の目が見えない訳じゃないんですよ。

 絶対……たぶん……きっと……。

 さ、さあ気を取り直して脱出しますよ!思ったよりも体が動かせるので大丈夫でしょう。

 

 ――ぐぃ……ぐぃっ!

 

 あっ硬い。とっても硬いです。ガチガチです。

 残念ながら、このままこの壁みたいなものを押し続けてもらちが明かないでしょう。

 まあ生まれたばかりですからね。それは仕方ありません。

 まさに手も足も出ない状況。

 でも大丈夫です。おじい様がこんなことを言っていました。

 

 ――手も足も出ないなら頭を使えば良いじゃない、と。

 

 なるほどなるほど、確かに理にかなっています。

 手も出ない、足も出ない。でも、頭なら出る。

 というわけで。

 

 ――チェストォォォォォー!!

 

 全力の頭突きを敢行。

 するとどうでしょう。ピシピシという音を出しながら壁から光が漏れ、周りが眩しくなっていく。

 あまりの光量に思わず目を瞑る。どうやら目はちゃんと見えるようですね、と一安心。

 

 そして光に慣らすようにゆっくりと目を開けると――――正面に壁が。

 真っ白で、ふわふわとした不思議な壁。

 

 ――モフモフには心誘われますが、水がしみこみそうで嫌な壁ですね。機能性は微妙かも知れません。

 

『嫌な壁で悪かったな』

 

 び、びっくりしました!!今しゃべりましたよ!?しゃべる壁です、大発見です!

 これからはこの壁を〈しゃべる柔壁〉と呼びましょう。

 

『……何を言っているんだお前は、上を見ろ』

 

 どこか呆れ混じりの声に従って上を見上げてみると。

 

 ――とても……おっきいです。

 

 巨大な瞳と視線が合う。合ってしまった。思わずスンッと真顔になってしまいます。

 

『ふむ……』

 

 生まれたばかりの命を見定める様に見つめる瞳の主はそれに準ずる大きさの嘴を開く。

 

 突然のことに3秒ほど固まっていた私は、硬直が解けると当然の行動に出る。

 

 ――えっと、私、美味しくないので、食べないでもらえないでしょうか!?

 

 もちろんカタカタと震えながら全力の命乞いです。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2羽 鳥でした

 

 

 ――すみま……せん……でした……お母様。ガクッ……。

 

『フン、わかれば良いのだ』

 

 純白の羽毛の前に倒れ伏し力尽きた私は、〈しゃべる柔壁〉もとい、お母様への謝罪を口にする。

 どうやら実の娘に食べないでと言われたことが割とショックだったらしく、私はめちゃくちゃにされてしまった。

 ……いえ暴力を振るわれた訳でも、変な意味でもありませんよ?

 ただ、いきなり巨大な鳥のかぎ爪に優しく鷲づかみにされたと思ったら、楽しいお空の旅が始まって、バレルロールに鋭角ターン、果てには空中大車輪。

 三半規管と平衡感覚とその他様々な乙女の尊厳をめちゃくちゃにされつつ、自分が母親である事を懇切丁寧に説明された。

 ……ええ、たったそれだけです。ええ。

 

 ああ、思い出しただけで涙が……。

 

 それにしても……、と自らの腕、もとい羽を持ち上げてみる。そこに現れたのは人の腕ではなく母と同じ純白の翼。

 

 見上げた先にあった巨大な瞳の持ち主は母でその正体は巨大な鳥。私が壁だと思っていたものも自分が入っていた卵だった。

 

 今世は人ではなく、鳥ですか……。

 

 実のところ私は幾度となく転生を繰り返してきましたが、人類以外の種族になったのは初めてなのです。数多の種族として生きて死にを繰り返してきましたが、そのどれもが二足歩行で五本の指が生えた、手を持ち言葉を解する、まさに人類だったのです。

 まあそこに、背に翼があったり、尻尾があったり、角があったり、ケモミミがあったり、etcですが誤差の範囲でしょう。

 何より問題なのは手がないから物が持てないということ。今になって五本の指に愛おしさを覚えます。ああ、マイハンドよ……、帰ってきておくれ……。

 

「ピヨッピヨッ!」

 

「ッピヨピヨ」

 

『そうか、腹が減ったか。食事を取ってこよう。お前達、巣からは出るなよ?他の魔物に食われて死ぬからな』

 

 無くした手を偲んで黄昏れていると、頷いたお母様はバサリとその美しい翼をはためかせて飛んでいってしまいました。

 ああ、なんと言うことでしょう。今のお母様の発言を鑑みるにどうやらここは安全ではないようです。

 詳しい話をお母様に聞こうとしても、既にみえる範囲にはいません。早すぎますよ。

 そうやって途方に暮れていると側できれいな声……というか鳴き声がかけられました。

 

「ピヨッ」「ピヨヨ?」「ピヨチュウ」

 

 ……なんだか一部不穏な鳴き声が聞こえましたが気にしないことにしましょうそうしましょう。

 この鳴き声の主は私ではありません。

 私の弟妹です。どうやら私とお母様が楽しい楽しい遊覧飛行を楽しんでいた時に残りの卵から孵っていたようなので、子の孵り目(?)に会えなかったのが悲しかったらしく遊覧飛行の時間が追加されてしまいました。

 思い出したら楽しすぎてちょっとお腹から熱い物がこみ上げてきますよ。うッ……。

 

 ふう。それにしてもお母様が最後に「魔物がいる」って言っていましたが……。

 そんなに危険な場所なんでしょうか。平和な場所に見えるんですが。

 ほら、あっちの山なんてとってもきれいです……し?

 

 ――ズズズ……

 

 あれ?おかしいですね。鳥に産まれて目が変になってしまったのかもしれません。

 あの大きな山が動いたように見えたので……。

 ははは、まさか……ね?

 

 嘘でしょう!?あれ、生き物なんですか!?あんなのが来たら今の私では死んじゃいますよ!

 これは緊急事態です。エマージェンシーです。仕方ありませんね。私、今世は最初から自重無しで行こうと思います。

 とりあえず、現状確認は急務です……!

 

 まず私について。

 

 最初の記憶は人間の女性だったときのものから始まります。名家の娘として生まれて人生を終え、気づけば赤ん坊に。

 その後死しても幾度となく転生してきて今に至ります。

 今までの生では性別は皆女性。男性になったことはありませんでしたし、この体に性別があるなら恐らく女性でしょう。……雌とか言わない。デリカシーがありませんよ?

 とはいえ今までは全ての生において人類に転生してきました。今世のように人外に転生することなどなかったのですが、どうしたことでしょうか……。

 

 

 

 ステータス

 

 名前:なし 種族:スモールキッズバーディオン 性別:雌

 

 Lv.1 状態:普通

 

 生命力:30/30

 総魔力:15/15

 攻撃力:10

 防御力;7

 魔法力;6

 魔抗力:7

 敏捷力:20

 

 ・種族スキル

 羽ばたく

 

 ・特殊スキル

 魂源輪廻《ウロボロス》

 

 ・称号

 輪廻から外れた者・魂の封印

 

 

 おお、ありましたねステータス。無い世界もあるので、どちらかなと思っていたんですよ。

 まあ無かったら無かったでやりようはあるんですけど。

 

 まずステータスとは自分の現状と強さをはかるための指標のようなものですね。

 とはいえあくまで目安のようなもので、絶対のものではありません。ステータスとは世界が管理しているシステムの一つなのですが、現状を総合的に評価して数値に直しています。

 例えば、攻撃力10の人が攻撃力15の人に腕相撲で勝つこともありえます。これは先ほどいったように、攻撃力につながるものを総合的に評価しているからです。攻撃力15の人は腕相撲で攻撃力10の人に負けたけれど、その代わり腹筋や背筋、スクワットでは圧倒できると言った具合です。

 

 それにしても数値が低いですね。比較対象がないので強いか弱いかはわかりませんが恐らく弱いでしょう。

 まあ生まれたばかりですからね。お母様のステータスでも見ておけば良かったかな……。

 

 次にレベルとはその人物の成長具合を表すもので、いろいろな経験を積むと上がっていきます。これは世界のシステムから与えられた補助輪のようなもので、生き物が強くなるのをサポートしてくれています。私は知らないのですが、これにはなにか目的があるそうです。

 

 とりあえずそれは置いといて、スキルについて。スキルとは得意な行動や特殊な能力を名前として、ステータス上に示したものになります。これも目安のようなもので、同じスキルを持っている人でも訓練具合で効果量に確実に差が出ますし、スキルの効果内でさえ、得意不得意が現れます。

 

 そして本命のスキル「魂源輪廻《ウロボロス》」です。

 この能力は私が二度目に生まれた時からの付き合いになります。

 わかっているのはこの能力のせいで転生が起きること、そして過去に送ってきた人生から力を引き出せることの2つですね。

 それよりも称号に不安な事が記載されているんですが。

「輪廻から外れた者」はもう何度も見たことがあるので問題ありません。その名の通り、純粋な輪廻から外れちゃった人に生えちゃう物です、はい。

「魂の封印」これです。嫌な予感がバンバンするのですがどうしたものでしょうか。

 

「ピィヨ」「ピヨーン」「ピヨチュウ」

 

 ……あなかま。

 

 あなかまとはとある国の古い言葉で意味は「しっ!静かに!」。

 

 ともかく……。

 

 ソウルボード!

 

 ―― ソウルボード ――

 

 コア:スモールキッズバーディオン

 

 ・メイン:

 

 サブ:

 

 サブ:

 

 サブ:

 

 サブ:

 

 サブ:

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 ソウルボードとは私が得た前世の力を行使するために必要な、もう一つのステータスのようなものです。

『コア』は現在の私の種族になります。これは生涯変更することはできない生まれ持った種族のことです。

『メイン』と『サブ』は前世の種族、例えば『人族』や『エルフ』などを設定することができ、その力を引き出すためのスロットのようなものですね。ここに装備することで始めて前世の力を行使できるのですよ。

 

 ――種族は持ってるだけじゃ意味がないぞ!必ず装備しないとな!

 

 ……なんだか変な電波を受け取ってしまいましたが気にしない方向で行きましょう。

 とはいえ記憶がなくなるわけでは無いので経験に基づいた行動はとれます。計算なんかが良い例ですね。

 

 それと『サブ』に種族を設定した場合は残念ながら、能力値の発揮量は約4割に落ち、種族固有の能力やスキル補正なども7割程に下がってしまいます。『メイン』ならばなんと100%力を発揮できます。

 

 この前世の力を引き出すソウルボードを使用して『メイン』と『サブ』に設定する種族を、身体能力に寄せたり、魔法技能に寄せたり、万能型にしたりと非常に応用が利かせることができるのです。まあ前世が弱々だったら設定した種族も相応のものになるので次に活かすために修練は欠かせないんですけどね。

 

 と言うわけで私はこのチートと呼べるレベルの反則能力が使えるのです――――が。開いたソウルボードが全く反応してくれません。うんともすんとも言いません。種族が設定できません。

 

 ……………………。

 

 なんでぇぇぇぇえええ!?なんで機能停止してるんですかねぇ!?

 

 ……嘘でしょう?こんな危険地帯で生まれたての雛状態で過ごせと?

 今の私のスキルを見てくださいよ!『羽ばたく』ですよ!?何が起きるか見てみますか!?

 

 ひな鳥は『羽ばたく』を使った!

 

 バサッ!! バサッ!!

 

 しかし何も起こらない!

 

 ほらぁぁぁぁぁあ!!某コイの王様と一緒じゃないですか!!

 これでどうやって生き抜けと!?

 

 これも十中八九称号にある『魂の封印』のせいでしょうね!誰ですかホントにもう!こんな迷惑な封印をしてくれやがった奴は!!

 

 ……ところで何で自然界の動物が子供をたくさん産むか知っていますか?1匹や2匹減っても種が途絶えないためらしいですよ。

 ……気づきました?そう、子供は減ること前提なんですよ。……うぅ、お腹痛い。

 

「ピヨ」「ピッ」「ピヨチュウ」

 

 ……あなかま。

 

 そうして現状に絶望していると頭上に影が差した。

 すわ敵か!?と思いましたが羽ばたく音とともに降り立ったのはお母様でした。

 

『お前達、食事だ』

 

「ピヨヨ!!」「ピヨッピ!!」「ピヨチュウ」

 

 捕獲してきた獲物を弟妹達に見せると歓喜を滲ませてうれしそうに鳴いています。

 お母様は皆に持ってきた獲物をちぎって食べやすいように渡していきました。

 

『……どうした。お前は食べないのか?』

 

「ピィ(ええと……)」

 

 そこで後ろの方で躊躇していた私に気づいてしまったようです。

 いや、遠慮とかでは無いんですよ?

 その……お母様が持ってきた獲物なんですが、足が6本ありまして……。ええ、そうなんです、虫なんです。

 まだ動物ならばなんとかなったのですが虫は流石に……。しかも私よりも大きいですし。本格的に危ないなぁここ。

 

「ピヨ……(虫はちょっと……)」

 

 そう言った瞬間、お母様の目がキュピーンと光りました。

 ……嫌な予感がするんですが。なんで私を、獲物を見つけたぜ!みたいな目でみてるんですかねぇ。

 

『ほう?お前は私が出したものが食えんというのか?』

 

 ああァァァァァァァーーーー!?なんでそんなパワハラ上司みたいな事を言うんですか!?あなた人間じゃ無いでしょう!?

 

『ほら、食わんと大きくなれんぞ?』

 

「ピッ!!?(あっ!?やめ……ちょ、あ”ぁ”ぁ”!?)」

 

 この後めちゃくちゃ虫を食わされた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3羽 招いちゃったけど来て欲しくなかった客

 

 あれからかなり時間が経ちました。

 体感で二週間と言ったところでしょうか。私たちは順調に成長してすくすくと大きくなっていきました。

 サイズとしては人間大で膝辺りまでの高さでしょうか。まあ、お母様は見上げるほど大きいですからきっと私も大きくなるんでしょうね。

 弟妹達も育ち盛りなのか、最近では頻繁にじゃれついてきます。それは別に良いんですがじゃれつく方法が翼を羽ばたかせながらのタックルなのでまともに受け止めると非常に痛いんですよね。なので合気や柔術の要領で怪我をしないように優しく投げ飛ばしているのですが、それが気に入られてしまったらしくタックルの回数が増えてしまいました。ちょっと勘弁してください。お姉ちゃんはもうバテバテですよ……。

 

 ……虫を食べることにも慣れてしまいました。人間慣れるものですね。その代わりに色々と失ってしまいましたが。……乙女の尊厳とか。

 

 お願いしてみたら虫だけで無く動物や木の実も持ってきてくれるようになったんですけどね。

 おかげでなんとか生きて行けています。それでも定期的に虫はもってこられるんですが。私が嫌がってるのを見て楽しんでいる節もあるんですよね、あのお母様。別に嫌ってるからじゃ無くて、単純に構っているという感じなんですけど……。貴女はこどもですか……。

 

 兎にも角にも実に平和的に時間が過ぎていきました。魔物の姿もほとんど遠目でしか見ていませんし。

 どうも魔物が巣の近くに寄ってこないようなんですよね。どうやらお母様はかなり強い魔物らしく、他の魔物は本能的に巣を危険地帯と認定して避けている様です。

 一度だけワイバーンのような翼竜が襲ってきたのですが瞬殺されていました。

 翼を一振りしただけでおしまい。哀れな翼竜は無数の羽が剣山のように突き刺さって撃墜されてしまいました。あ、もちろん遺骸は私たちで美味しく頂きました。火が使えなかったので生でしたが……。

 美味しいものが食べたい……。

 

 そうそう、お母様のステータスなんですが見ることはできませんでした。もともとソウルボードの使用を前提としていたので、鑑定技能は今使えないんですよね。

 スキルに関してはやることが無いのでたまに『羽ばたく』使っているくらいでしょうか。

 

 ちなみに今のステータスがこちら。

 

 

 名前 なし 種族:ベビィバーディオン

 

 Lv.5 状態:普通

 

 生命力:70/70

 総魔力:31/31

 攻撃力:27

 防御力;13

 魔法力;11

 魔抗力:13

 敏捷力:43

 

 種族スキル

 羽ばたく

 

 特殊スキル

 魂源輪廻《ウロボロス》

 

 称号

 輪廻から外れた者・魂の封印

 

 

 

 こんな物ですね。まだまだ全然強くなれていませんが、私は生まれたばかりの赤子のようなもの。これまでの人生でもこの時期から修練は積んだことなどないのですから問題はないでしょう、と言いたいところですがここは魔物が闊歩する森の中。現状はお母様の力によって守られている状態です。

 なるべく早く強くなるに越したことは無いのですが、そのためにも強くなる必要があるジレンマ。手っ取り早く強くなるには魔物を倒す必要がありますからね。

 

 そういう訳で今は『羽ばたく』を使って体を動かすか、弟妹達の相手をする事で自らを鍛えることしかできません。

 ままなりませんね。

 

 ……おっと。そうこうしているうちにお母様が帰ってきたようです。

 今日は果物があると良いなぁ……。

 

『お前達、帰ってきたぞ』

 

 バサリと降り立ったお母様が捕獲してきた獲物を地面に下ろしました。ふむ、今日は動物と木の実が少々ですか。当たりですね、良かったです。

 

『それと面白い土産があるぞ』

 

 ほうほう、なんだかかなり上機嫌ですし余程良いものを見つけてきたのでしょう。

 一体何なんで……しょう……か?

 

「ひゃう!?」

 

 腕が二つに足が二つ。仕立てられた布を身につけ、肌には毛も無く羽毛も無く鱗も無い。まさに肌色。

 お母様が放り投げたそれは巣に落ちるとかわいらしい悲鳴を上げました。

 

『人間だ』

 

 はい、人間ですありがとうございました。

 えぇ……、ホントこれもうどうしよう……。

 

「えっ……、えっ!?」

 

 未だに状況がわかっておらず、慌てて辺りを見渡す女の子を見つめながら内心で頭を抱える。

 

 現状で考えられる、お母様がこの子を連れてきた理由は大まかに3つ。

 

 1:単純に見つけたから。理由は特になし。

 これが一番平和な理由。でも恐らくあり得ません。いやでもお母様ならある……?

 

 2:ご飯として連れてきた。

 マジムリ。流石に食べられません。困りますお母様。

 

 3:狩りの練習用

 これが大本命。そして一番むごい結末。別名パワーレベリング。

 パワーレベリングとは自分より強い味方に手伝って貰って、お膳立てされた安全な中で相手を倒し経験値を稼ぐ方法です。

 ただでさえレベルがある世界なんだから生態系の中に組み込まれていても不思議では無いでしょう。

 

 つまり私たち全員がこの子をいたぶることになる。私はともかく、まだ狩りなどしたことも無く技術はつたない弟妹たち。それこそすぐに仕留めることができずに、無駄に傷を負わせ、なかなか死ぬこともできない地獄の苦しみを味合わせることになるでしょう。

 元人間として流石にそれは許容できない。しかし私はまだ子供。お母様にお許しいただけるかどうか……。

 

『ほら、しばらく好きにして良いぞ』

 

 ッ!!なら!

 お母様の言葉で不穏な空気を感じたのか、慌てて逃げだそうとした女の子の足下に潜り込み、足を狩って羽を使いなるべく優しく地面に転がした。おまけに逃げ出さないように踏みつけて。

 

「むぎゅ……!」

 

 ……ごめん。許してください。

 さて……

 

「チチチチチ?(お母様、これ気に入りました。私に譲ってくれませんか?)」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4羽 生き残る術……それは……!

 

 どうしてこうなったんだろうか。

 突如として大きな鳥の魔物に連れ去られることになってしまった少女、ミルは眼前ではしゃぐ子鳥たち(とはいっても人の顔よりは大きい)に戸惑うしかなかった。

 

 ミルは小さな辺境の村に生まれただけの少女だった。けして裕福ではなかったが両親とともに幸せに暮らしていた。村には子供はさして多くなく、同い年に生まれたのは幼なじみの男の子だけだった。

 ある日少女は村を出ることになる。きっかけは男の子に冒険者に誘われたことだった。

 冒険者とはごく簡単に言うと、危険な魔物を狩ったり、依頼をした人の要望を達成してお金と実績を積み上げていく職業だ。

 薬師のおばあさんに薬草学を、たまに村にやってくる仲の良い冒険者のお姉さんに魔法の手ほどきを受けていたこともあり、駆け出しとして問題のない実力だった少女は少し考えた後頷いた。

 

 冒険者のお姉さんに聞いていた話だと、無理さえしなければ両親に仕送りをしてなお今より裕福な暮らしはできるし、なにより村の中で年が近いのは男の子だけであり、漫然と将来をともにするだろうと思っていたからでもある。

 

 事実、村から出て冒険者になってみれば男の子の剣技が確かなこともあって、二人はしっかりと冒険者としての道を歩み始めていた。少女は男の子のストッパーになることも多かったが。

 

 そして少女の薬草学の知識をいかして貴重な薬草を取りに来たのが運の尽きだった。最近は順調で油断していたのもある。

 そこは帝王種という世界でもとびきり危険な魔物がいるというヴィルズ大森林の入り口の入り口の入り口だった。かなりの浅層だったので、気をつけてさえいれば問題なかったのだが目的の薬草が見つからず、あとちょっと、あと少しだけと奥へと進む内に気づけば二人の実力では危険な深さまで入り込んでしまい、帰ろうとした矢先に魔物に遭遇。

 交戦するも全く敵わず、煙玉や魔物の嫌う匂いを出す匂い袋などの消耗品を湯水のごとく使い命からがら逃げ出すことになる。

 ところが件の魔物がかなり執念深く、その後もひたすら追いかけ回された。

 見つからないように移動する内に更に森の奥深くに入り込んでしまい、街に帰ることもできず遂には見つかってしまう。

 道具もなく、精根尽き果て万事休すかと思われたときにそれは降り立った。二人では歯も立たなかったその魔物をいとも容易く仕留めて。

 

 純白の翼に見上げるほどの巨躯、そして他を凌駕する圧倒的な覇気。

 それは二人が絶対に敵わないと思わされるには十分で。

 さっきまで二人が殺されかけていた魔物がまるでただの子猫に思える程の差。

 

 あまりの衝撃に二人は呆然と見上げるしかなかった。

 

『……む?珍しいな、人間がこんな所に……。しかも死にかけている。……迷い込んだか』

 

 まるでようやく気づいたかのように目を向けてくる鳥の魔物は、事実今まで気にもとめていなかったのだろう。それは油断や慢心によるものではなく、彼我の差がありすぎるが為に見落としてしまっただけであった。

 しばらく動きを止めていた鳥の魔物は何かを思いついたように語りかけてきた。

 

『お前達の力ではどうせこのまま死んでしまうだろう。気まぐれだが救いをやろう』

 

「……え?」

 

 突然のことに戸惑うばかりの二人だが、先の魔物に付けられた傷がみるみる治っていく。

 

「すごい……」

 

 奇跡のような光景に二人は感激し、何度も感謝の言葉を口にする。

 

『ふむ、礼は良い。代わりにそっちの女を連れて行く』

 

 感激ムードだった二人の空気が凍り付いた。

 何を言われたのかを理解し、何かを言おうとしても口からハクハクと空気が漏れるだけで言葉にすることができなかった。

 

「は……、どう言う事だ!?」

 

 その空気を壊して最初に口を開いたのは男の子の方だった。

 

『……どうもこうもない。我はお前達を助けた。礼としてその女を貰うだけだ』

 

 先ほどまで死にかけ、恐怖に震えていただけの人間がくってかかっている。

 何を思ったのかはわからないが白翼の魔物は見える変化を目を細めるだけに留め、そう返した。

 

「そんな……、なら代わりにオレを……!!」

 

『残念だが既に決めたことだ』

 

「クソォ!!」

 

 破れかぶれ。既に刃こぼれが酷い剣を抜きはなって決死の突撃をするも、翼をはためかせるだけで吹き飛ばされる。

 

「あっ……」

 

 地面を転がった男の子が体を起こす頃には少女は既に手の届かない上空にいた。

 

「そんな……」

 

 最初に邂逅したときとは全く違った意味で見上げることしかできない男の子。そんな彼に少女をさらった魔物から魔法をかけられる。

 

『……それは失せ物探しの魔法だ。一度きりだが貴様が帰までの道しるべとなるだろう。効果が切れるまでの間は我の力の残滓がそこらの雑魚なら遠ざけることができる。だがこの森にこれ以上踏み込めば効果は保証できん。諦めて帰ることだ』

 

「そんな……、そんな……」

 

 二転三転する現状。突然すぎて未だ状況が把握し切れていないがそれでもこの魔物が自分の意を翻す気がないことはわかった。

 未だ諦め切れていない男の子に対して少女はとある決意をする。

 

「いままでありがとう。さようなら」

 

 それは別れを告げることだった。少なくともこれで彼は生きて帰ることができる。少女だってすぐに殺されるわけではないだろうと思っていた。

 そうでないならこの場で殺されていただろうからだ。

 

『……ふん』

 

 少年は少女の背に愕然とした表情を向け、それは自分への不甲斐なさに歪む。魔物は一瞥しただけで飛び去っていった。

 

 

 

 

 そうして少女は魔物に連れ去られたのだった。

 それが……。

 

『うまい!うまいぞ小娘!!光栄に思え!この我が褒めてやろう!!』

 

「ピヨピヨ!!」「ピ~ヨ!!」「ピヨチュウ!!」

 

 それがこの鳥の一家に餌付けすることになるなんて思ってもいなかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5羽 やっておしまい!

 

「むぎゅ」

 

 白翼の魔物に巣と思わしき場所に降ろされ、不穏な空気を感じ取ったミルが恐怖を抱いて、咄嗟に逃げだそうという考えに至るのはそう難しい話ではなかった。

 とは言えその試みはあっけなく止められることになるが。

 逃げ出そうとするやいなや、子鳥の内の一羽に意図も容易く押さえつけられてしまった。

 

(全く反応できなかった……!!こっちの小さな方でもこんなに強いの!?)

 

 魔法をメインで使うが故に前線に出る方ではないものの、ミルはこれでも冒険者だ。軽めの護身術の類は練習させられている。

 それなのにだ。

 

 上手かった。自分よりなんて次元ではなく、今まで見た誰よりも上だった。

 

(これじゃあ逃げられない……)

 

 何の為に連れてこられたのかはわからなかったが、魔物が離れるタイミングが必ずあるはず。そう考えていた彼女は自らの見通しの甘さを痛感していた。

 

 見たところ子鳥は6羽いる。その全てがこの強さだと考えると生半可ではいかないだろう。

 これでは今もこちらを見下ろしている魔物が居なくなったところで大差はない。

 

 というか背中が痛い。そろそろ離せ。

 

 そんなこんなで現在の状況に軽く絶望していたミルだったが、どうやら親子|(おそらくだが)の間で話がまとまったようだ。

 とはいえ子鳥の方はなんだか必死に鳴いているだけで、何を言っているのかは分からなかったが。

 その様子が不覚にもかわいいと思ってしまったのは内緒だ。

 

『ふむ……、そこまで言うなら良いだろう。お前が面倒を見ると良い。おい、小娘』

 

「あ、はい」

 

『しばらくはこいつが面倒を見る。指示には従えよ』

 

「えっと、わかりました」

 

 ミルは頷く。というかそれ以外の選択肢なんてない。

 そこで乗っていた足がどけられたと同時に、目の前に真っ白い翼が差し出される。

 

「チチチ」

 

「あ、うん。よろしく?」

 

 まるでよろしくとでも言っている様なその姿にこちらも手を差し出しそう返すのだった。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

「えっとね、これが魔法を使うための杖で、こっちがあたしが使うための道具が入ったバックだよ」

 

 どうも皆様。なんとかお母様の許可をもぎ取り、この少女を私物化した私です。……誰に言っているんでしょうかこれは。

 

 ともかくバッドエンド一直線は回避できました。流石に人間が目の前でスプラッターになるのは見たくはありませんでしたし、下手したら私も参加しなくてはいませんでしたからこの結果は上々でしょう。

 まあ、お母様が本当にそうするつもりだったのかは不明ですが。私の予想ですからね。

 

 今はこの少女が逃げ出さない様に、座らせた少女の膝の上に座って持ち物を検《あらた》めているところです。

 膝の上に座っているのに他意はありません。ありませんよ?(圧)

 

 それはともかく翼で指してバックの中を見せるように指示します。

 バックはそこそこの大きさだったのですが中身は寂しい物でした。なくしたか使ったかしたのでしょうか?

 

 出てきたのは使い込まれた本が一冊に、カードが一枚、それに携帯食料|(おそらく)と二種のナイフ、小瓶が数本。

 携帯食料があるのに水がないのが少々気になりますが、この場合は恐らく魔法で出せるのでしょう。いままでの人生で、魔法がある場合は大体水なし携帯食料ありはデフォでした。水は結構嵩張りますからね。

 

「こっちは薬草の本。絵がついててかなり貴重なやつ。あたしに薬草学を教えてくれた人がくれた大事な物」

 

 ふむふむ。

 

「これが冒険者カードであたしの身分証明書みたいなもの。それで携帯食料と採取用のナイフが2本」

 

 ほむほむ。

 

「それとこれが料理をするための調味料だよ」

 

 ……ほほう。

 

 今更な気もしますが、私に対して違和感を持たせないようにお母様に料理について質問します。

 

『料理とは人間が加工した食事のことだ』

 

 ならば実践して貰おうではないか、とばかりにお母様が持ってきた肉塊の一部を分けて貰い、少女に向けて差し出します。

 

「……えっと?」

 

 お前が私のご飯を作るんだよ!!バンバン!!(台パンの音)

 おいしいごはん!!

 

 そうして少女の魔法を使って作られた特性ステーキに全員が群がるのはそれからすぐのお話。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6羽 料理は剣よりも強し

 

 あれから体感で更に2週間。弟妹達の遊び相手として、飛びかかってくる度にちぎっては投げの大立ち回りをしたり、女の子の話し相手(基本的に聞き役)をしたりして過ごしていました。

 

 女の子を側に置くことを許して貰ったとは言え、それだけでは心配だったので彼女には自分を守る確固たる盾を与えてみました。

 それは料理人。……そこ、私が食べたいだけだろとか言わない。

 彼女が所持していた鞄の中に調味料があったのが発端でした。身振り手振りで彼女にして貰いたいことを伝え、お母様が狩ってきていた獲物を調理して貰いました。

 結果……大当たりでした。お母様にも大好評。やはりこういうときは胃袋から掴むべきですね。おかげで虫を食べることも激減。

 これにて彼女は私たちの中で失うには惜しい人物として認識され、保護対象の中に入りました。

 彼女も料理をしていれば害されることはないと理解したのか今では落ち着いて過ごしています。諦めたとも言う。ちなみに一度逃げだそうとしたので優しく転ばせてから、遠くに見える巨大な魔物を翼で指し示したら目が死んでいきました。酷いようですが万が一ここから逃げ出されると他の魔物に襲われて死んでしまいます。

 生まれたての私に転かされる程度の人物では、逃げる方が危険ですよ、ここは。せっかく安全を確保したのに逃げ出して食い殺されました、では寝覚めが悪すぎます。

 

 ちなみにあの子はどうするつもりだったのかをお母様に聞いたところ普通に練習台と言われました。

 セーフ!もう少しでスプラッターでしたよ。心臓が縮み上がる思いをしました。ええ、まったく。

 

「あらら、調味料がもうなくなっちゃったか。メル~、この薬草取ってきてくれるー?」

 

「チチチ(はいはい、わかりましたミル)」

 

 料理の準備をしていた女の子、ミルが薬草学の本を開いて、絵を指し示します。

 お察しの通りメルとは私の名前です。本名はメルシュナーダ。現在は調味料回収係。

 名前は仲良くなった結果、彼女が私を呼ぶときに不便だからと決まったもの。

 ミルは彼女の名前。ミルは昔から妹ができたときに自分にちなんだ名前を付けようと思っていたらしく、良い機会だと思ったのか私の名前を決めるときに「メル」のみにしようとしていたのだが、これにお母様が『これは我が娘だ!!』と猛反発。色々あった結果お母様の名前からも取って今の名前に落ち着いた。

 

 ちなみにお母様は天帝ヴィルゾナーダと呼ばれているらしい。ミルが初めて名前を知ったときに「あの伝説の……」とガクブルしていたので結構名前が知られている模様。その後のお母様の『もっと恐れるが良い』的なドヤ顔(鳥だからわからないけどそんな雰囲気だった)を見て、「あんまり怖くないかも……?」と少し落ち着いていたのが印象的でしたね。慣れてきていたのも幸いしたのでしょう。

 

 今更ですが私たちの巣は、俗に言うご神木なんてものが比べ物にならないくらい、巨大な木の上にあります。

 私はこれを地面まで降りて調味料となる植物を回収し、また登らなければなりません。結構しんどいんですよこれ。既に飛べるようになっているのが幸いでした。いえ、災いしたと言うべきでしょうか。弟妹達はまだムリですし。私も飛べなければきっと命じられることもなかったでしょう。

 

 料理を始めて3日目ほどでミルが持っていた調味料がなくなったのです。どうしようかと思っていたのですが、ミルは調味料の本を持っていたので事なきを得ました。しかも絵付き。なんと都合の良い。

 

 長年ここで過ごしていたお母様は本の植物を何度も見たことがあるらしく、最初はお母様が取ってきていました。しかし、如何せんお母様の体は大きいです。対して調味料となる植物はお母様の爪よりも小さい。

 2日にして『ええい、まどろっこしい!!お前が取ってこい!我は食材を狩る!!』と剛速球で調味料回収係を投げられました。えぇ……。

 

 この大樹の上り下りは最初の頃こそバテバテのダメダメでしたが今ではなんとか熟しています。おかげで体も少しは鍛えられましたし。

 木の周りを探索できるくらいには余裕ができました。この木の根元、片面が少し進むと崖になっているんですよ。結構深かったので落ちたら大変ですね。

 下には川らしき物が見えたので死なずに済むかも知れませんが、流されて帰るのは大変でしょう。私は翼があるので関係ないですけど。

 

 ここでステータスどん!

 

 名前 メルシュナーダ 種族:スモールキッズバーディオン

 

 Lv.8 状態:普通

 

 生命力:96/96

 総魔力:42/42

 攻撃力:36

 防御力;19

 魔法力;19

 魔抗力:15

 敏捷力:80

 

 種族スキル

 羽ばたく[+飛行]・つつく・鷲づかみ

 

 特殊スキル

 魂源輪廻

 

 称号

 輪廻から外れた者・魂の封印

 

 

 こんな感じになっています。

 まんま速度特化ですね。攻撃力も高め。

 スキルは『羽ばたく』から派生で『飛行』を覚えました。使い続けて良かったです。『羽ばたく』自体に特に効果はありませんが。

 スキルに何の表示もないのですが、飛べるようになると同時になんとなく風を操れるようになっていました。多分飛ぶときに風で無意識に補助をしているからだと思われます。本能のようなものでしょうか。意識すると飛ぶ速度が早くなるし楽になるしで結構重宝していますよ。

 さらに植物採集で『つつく』と『鷲づかみ』が種族スキルに追加されました。

 効果は名前の通り。特に捻りもありません。

 

 っと地面に着きましたね。周辺を見て回ったところ、崖がある方の逆側は緑も豊富でとても美しい場所でした。ミルの本によると貴重とされている調味料に使える植物も豊富で、持ってきた量に目を見開いていましたね。

 たくさん生えていたことを教えると我を忘れて「ここは宝の山か……」とこぼしていましたが、お金にするために人の街に戻れるのはいつになることか……。

 お母様は今更手放そうとはしないでしょうし。殺されない代わりに気に入られる必要があったので他に手はなかったのですが。

 まあ私がミルを抱えて飛べるようになってかつ、ミルを守りながらここらの魔物に余裕で勝てるようになったら街までは送りますよ。旅もしてみたいですし。せっかく転生したんですからね。

 ……一体いつになるんでしょうか。申し訳ありませんがミルには気長に待って貰う事になるとおもいます。

 せめて手が使えれば武器が持てるんですが……。素手はあまり得意ではないのですよ。

 しかも足しか使えないという。翼で攻撃しようものなら軽く折れてしまいます。それはもうポッキリと。やっぱりハードすぎませんか?今世。

 

 よし、これで採取は終わりと。

 ミルが枝や植物をを編み込んだかごに薬草を入れて空に飛び上がる。適度に窪みや枝に止まることで休みを入れて確実に巣を目指していく。

 まだまだ一気には上れないんですよねこの木。本当に高すぎ……。

 

 

 

 ふう、ようやく到着しました。

 

 料理の下ごしらえをしていたミルのそばにかごを置いて、頭の上に降り立った。

 ここはお気に入りなんですよ。最近の定位置です。

 

「おっと、お帰りメル。おつかれさま」

 

「ピヨ~(本当ですよまったく)」

 

「あはは、ありがとね」

 

 これだけを見ると会話しているように見えるかもしれないけど、実はミルは私の言葉を理解していません。

 これは私の雰囲気と2週間の経験のたまものである。なんとなく意思疎通はできるようにりました。

 全くちんぷんかんぷんの時もありますけどね。せっかくの今世初友達なので話してみたいです。

 お母様が居れば通訳は頼めるのですが、やっぱりこう……自力で話したい。せめて念話が使えればなぁ。お母様が使えているから私にもできると思うんですけど、未だ発現の兆しはありません。非常に残念です。

 

 手際よく料理の準備をしていくミルを頭の上から見守りながら、彼女の事について思い返してみました。

 

 連れてこられた当初はガクブルだった彼女はこの境遇に慣れて行くにつれ、その明るさと底抜けの純粋さで私たちの懐に容易く入り込んできました。日に照らされて明るく輝く金の髪は腰まで流れ、見るものを癒やす蒼の瞳は見るものを惹きつけて止まない。顔立ちは少々幼げですが整っていて、彼女の性格と相まって多くのものに愛される存在となるでしょう。

 ミルはここに連れてこられるまでは幼なじみの男の子と冒険者として活動していたらしいです。

 

 田舎の村から出てきたばかりで常識に疎い彼女たちは、若さから来る無謀さと持ち前の好奇心で、絶対に入ってはいけないと言われている森に薬草採取の依頼で入り込んでしまった。

 浅いとこなら大丈夫でしょとばかりにフラグを立てながらやって来て、なかなか見つからない薬草を探して森の奥へ。そして案の定迷子になり帰り道を探してさまよっている内に、自分達では倒せないほど強い魔物に襲われてしまう。

 そこにやって来るお母様。あっさり魔物を倒して食料にすると珍しい人間を発見。

 

 良いことを思いついた。子供達のお土産にしよう!

 

 しかし今日は獲物が大量で、人間を落とさずに安全に運べるのは一人だけ。そこで独断と偏見でミルの方を拉致。その代わり男の子の方には目的の方角がわかる探知系の魔法を掛けてあげることに。使い終わると消えるバフのような魔法。これで街の方角もわかるし自力で帰れと言うことなのでしょう。

 まあお母様の魔力がくっついてるなら多分魔物に襲われることはないでしょうし、安全に帰り着けるでしょう。結果として両方助かったわけですし恨みっこなしということで。

 ミルにはお母様が事情を説明しているので男の子のことはあまり心配していません。

 それどころか安全に帰ることができて良かったと言っていました。ミルちゃん天使。

 

 これに懲りたら無謀な真似はやめるんですよ、と羽を使って彼女の髪を優しくなでつけた。

 

「んふふ、どうしたのメル?くすぐったいよ」

 

 なんでもないと、メルの頭の上から飛び立ち、待ちきれないとばかりに足下に集っていた弟妹達を「チチッチチ~(離れてくださいね~)」と散らしていく。

 

「ん、ありがとメル。ほら、火を使うから危ないよ。お姉ちゃんのいうこと聞いて離れててね」

 

 ミルは小さな頃から魔法が使えたらしく火加減もお手の物。

 木の上で普通に火を使っていますがこの木は結構頑丈なようで、料理に使う程度の生半可な炎では焦げ目すら付きません。

 

 やがて漂ってくる肉の焼ける良いにおいと調味料の香り。そして待ちきれないとばかりに目を輝かせる弟妹達。

 ああ、今日も平和ですね。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7羽 影の兆し

「チチッ!チチチチチ!!」

 

「ピヨヨ~」「ピヨッチ~」「ピヨチュウ」

 

「ふふっ」

 

 怒ったように弟妹達を追いかけ回すメルを見て笑みを溢す。

 彼女たちの元に連れてこられてからここでの生活にもだいぶ慣れてきた。

 そうすれば今まで見えてこなかったものが見えてくる。

 

 天帝ヴィルゾナーダ。ここに連れてきた強大な魔物の名前であり、彼女たちの母親あり――――伝説の一つでもある。

 ミルと相方の男の子の命を助けてくれた大恩人……、大恩鳥(?)でもある。

 

 彼女はかなりの子煩悩だ。何かと自分の子を気にかけ過保護に扱っているようにも見える。メルはいろんな意味でお気に入りのようだ。

 最初はこの魔物に恐怖しか持っていなかったが、ここまで過ごす中でかなり慣れてきた。多少礼を失することがあっても特に怒ることはない。下手な貴族よりも器は広いように感じた。

 とは言えあくまで両者の関係は利害関係によるものだ。それも魔物側にかなり有利な。完全に心を許すことはできていない。

 今のところ母としての顔が前面に出ていると言っても、あくまで魔物。

 圧倒的な力の差はなくなってはいないのだから。

 

 そして件の子鳥、メル。

 彼女は本当に不思議な子だ。彼女の母親や弟妹達を普段過ごしていると時たま魔物的な要素が垣間見えるのだが、彼女にはそれがない。

 中に人間が入っているのではと思わせられる人間性と、貴族と接しているのでは錯覚するほどの気品。彼女にはそれがある。

 子供の筈なのに理性的な行動が出来、自然と上位者と認めてしまうような気質。

 

 そして特筆すべきはその戦闘力だ。ミルは最初メルと他の子鳥たちが同じだけの戦闘力を有していると考え、逃げられないと思った。

 しかしそれは大きな間違いだった。他の小鳥たちはミル一人が全員を相手しても切り抜けられるだけの強さだった。

 単純にメルが異常だったのだ。彼女一人だけ強さが突出していた。聞けば当時生まれて一ヶ月経っていなかったという。

 魔物だとしても明らかに異常だ。比較対象がいる分余計にそれが際立つ。

 

 だからといってミルがメルを遠ざけることはなかった。

 その理由はただ一言に尽きる。

 

 絆されたのだ。

 

 彼女がミルを心の底から思ってくれているのは事実だと認めざるを得なかった。

 天帝に無理難題を押しつけられそうになったら抗議してくれるし、困ってることがあれば積極的に助けてくれる。

 来た当初、恐怖から眠れない日があったけれど、そっと寄り添ってくれた。何をしに来たのかと固まってしまったけど、なんだか暖かくて、ふわふわしてて。ぐっすり眠れたのを覚えている。

 ここで彼女だけはずっとミルの味方だった。

 

 今となれば彼女の最初の行動もミル自身を助けるためのものだったのではないかと思うときがある。メルを出し抜いて、巣から逃げ出すことを考え始めた頃遠目に山が動いているのを見た。何より遠くから地響きがやって来たり遠目にかなり高い砂埃を目にすることもあった。

 十中八九魔物が戦った影響だろう。ここから無策で逃げ出せば命はないと思わせるに十分だった。

 

 ここで安心して過ごせるのも彼女のおかげだと言える。料理という武器を見つけ出してくれなければ、初日に殺されることがなかったとしてもいつそうなるかと怯える毎日が待っていたことだろう。

 それがないのは自身に唯一無二の利用価値が存在しているからだ。天帝が料理を気に入っていて、今料理を作れるのはミルだけ。この事実が絶対の盾となってミルの心身を守ってくれる。

 子を守らなければならない天帝はミルがいなくなったからと言って、他の人間を探しに行くのは難しい。かなりの時間巣を開けることになるのでリスクが高すぎる。そのままミルがいる方が圧倒的にコスパが良い。

 

 そこまでメルが考えてくれたのだとしたら、結果的にとは言え命を助けてくれた彼女の母親と並んで彼女には返しきれない恩が生まれる。

 

 それにここは頼れるものが何一つない場所だ。何かと気にかけてくれる相手に絆されるのは仕方だないことだと言えるだろう。

 

 

 ――ただそれでも。

 

 視線を手の平の中に落とす。

 

 何も問題ないかと言えばそうではないのだから。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

 一面の曇り空。数日にわたって昨日まで降り続いていた雨はまだ満足していないらしい。

 

「はあ……」

 

 あれからまた数日が経ち、明るかった生活に影が差し始めた。

 

 冒険者カード。冒険者という職業に就いたものがみな提供される身分証のようなそれを見てそっとため息をつくミル。どうやらホームシックになってしまったようなのです。

 最近は天真爛漫な明るさの中に、こうして表情に陰りを見せることが増えてきました。

 どうやら本人は私たちに気を遣わせないように隠そうとしているようで。ミルちゃんマジ天使。

 ともあれ長年の経験で観察眼も磨いてきた私としてはそれを見抜くのもさして難しくはなく。そもそも表情がコロコロ変わる彼女は腹芸に向いていませんし。

 お母様にも相談したところ、帰すか帰すまいか非常に葛藤していたようでした。

 大切になってきたからこそ、手放したくはないし、同時に悲しんで欲しくもない。そこで帰すという選択肢が生まれるということから、私のお母様は思っていたよりも愛情深い方だとようやく理解できました。

 どうやら私はお母様を読み誤っていたようです。やはり魔物だからなどと色眼鏡で見るべきではありませんでしたね。

 

「チチチ(大丈夫ですか)?」

 

「うん?……ごめんね。ちょっと考え事しちゃってた」

 

 あははと笑った彼女は、声を掛ければすぐさま笑顔を浮かべて私たちの相手をしてくれる。そうじゃないのに……。今こそ話掛けられないことがこれ程歯がゆいと思ったことはありません。ままなりませんね。どれだけの時を過ごそうとも人の心はこうも難しい。

 どれほどの力を身につけてもどうしようもないことがいくらでもやってくる。それともどうにかしようとすることは傲慢なのでしょうか。

 

 言葉を話せない私ができるのはこの子が気を紛らわせられる様にすることだけ。まったく、ままなりませんね。

 私はミルの頭の上に飛び乗って、髪を優しく撫でつけることしかできなかった。

 

 

 ――何でしょう。違和感が……。静かすぎる?

 

 今日はどこかおかしかった。

 お母様が狩りに出かけてから、周辺の静寂がどうにも気にかかる。まるで嵐の前の静けさのように……。

 

「どうしたのメル?」

 

「チチチッチ(何でもありませんよ)」

 

 私の様子がおかしいことに気づいたのか、訝かしげに声を掛けてきたミルに、何もないよと翼をはためかせることでアピールする。

 いつも通りの様子に戻った私の姿に、笑顔で弟妹達との遊びに戻っていったミル。

 不安にすることなく済んで胸をなで下ろしました。

 

 ともあれ、不穏な空気を感じているのは事実。一度降りて周りの様子を窺ってみるべきでしょうか。とそこまで考えたとき――大樹が揺れた。

 

「きゃあ!?」「ピヨヨッ!?」「ピヨッピー!?」「ピヨチュウ」

 

 バカな!?この大樹が揺らされた!?

 今の揺れ方は地震ではなく何かがぶつかった事によるもの。つまり雲を突き抜ける……とまでは行かないが見渡す限りではこれより高いものなど見つけられないほどの巨大な木を揺らすことのできるものがこの巣の下に居ると言うこと。非常にまずい自体と言うことになります。

 お母様、早く帰ってきてください!!

 ズルズルといった何かを引きずる様な音がしたから聞こえてきている。しかも少しずつ近くなっている。

 

「ピヨッ(ミル、合図を)!!」

 

「あっ、合図だね。任せて!」

 

 鋭く指示を飛ばせば、弟妹達と身を寄せ合っていたミルは分かってくれた様で、上空に向けて合図の花火を放った。

 これは大分前からお母様と決めていた合図で、危険な状況が迫ってきたときのために用意してあったもの。

 打ち上げられた花火が散ればすぐさまお母様が駆けつけ来るはずなのですが……。来ない。

 くっ!予行練習ではすぐさま現れたのに!!何をしているんですかお母様!

 

 ――ドオォォォォォォオォォォオオオオオオオオン!!!!

 

 ぐッ!?次から次に何ですか!?

 爆音とともに地震のような揺れ。遠目に見えるのは光の柱とその近くを舞う小さな影。

 これはまさか、お母様が戦っている!?弱い相手なら既に片づけてすぐに戻って来ているはず。つまりあれは少なからずお母様と渡り合える相手と言うこと。それはすなわちこちらの救援もすぐには期待できないと言うこと。

 

 しかもさっきからズルズルという不吉な音が大きくなってきている。厄日ですね、これは。

 

 やってくる相手は下から。私を除いて全員飛べないのでこの場からの離脱は不可能。

 相手は大樹を揺らすことができるほどの力、もしくはそれに準ずる程度の力の持ち主。

 今の私では恐らく、いや。普通にやれば確実に勝ち得ない相手。マズい……。

 くっ!どうすれば……!!

 

 悩んでいる内にも時間は過ぎ、それはとうとうやって来てしまった。

 逆三角の頭に、チロチロと覗く二股に割れた舌。体は強靱な鱗に覆われて、大きすぎてその全容は見ることすらできない。

 大蛇。ウワバミなどと呼ぶのもおこがましいその大きさ。

 新幹線よりも太く、そして長い。人の膝丈しか無い大きさの私にはその巨躯は圧倒的で。

 本っ当に……厄日ですね……!!

 

 後ろにはミルと怯える弟妹達。退路はなし。単独逃走など論外!!

 やるしか……ない!

 

 大蛇の前に単身飛び出し、翼をバサバサと振ってわざと目立ち注意をこちらに持ってくる。

 

「メル!?」

 

 悲鳴を上げるミルを意識から締め出し、大蛇の動きに全力で集中する。ステータスで見れば相手にもならないであろうそれを、持ち前の技術で補う。

 見て動くのでは遅すぎる。培った観察眼で相手の初動を読む。

 

 ――――来た!!

 

 大口を開けての噛みつき。

 それが行使される一瞬前に全力で前に踏み込む。遅れて襲いかかってくる顎の下に潜り込み、そして――

 

 ――【昇陽《のぼりび》】!!

 

 一瞬の溜めの後、片足が揺らめく輝きに包まれ、普段の動きとは一線を画する速度で体を跳ね上げ宙返りの要領で巨大な蛇を蹴り上げた。俗に言うサマーソルトキックになりますね。

 体格差から言えば効果などあるはずもない攻撃は、しかし蛇を力強く蹴り飛ばした。

 

 ――ドゴオォォォン!!

 

「うっそォ!?」

 

 強烈な打撃音。

 予想だにしていなかったミルの驚愕の声とともに蛇は巣の側から弾かれ、やがて重力に捕まった。

 今私が使ったのは「戦撃」という技術です。

 

 自らの生命力と魔力を練り上げ闘気として生成し、世界システムの力を借りて放つ技。

 

 攻撃の『型』を定めることで自由度を度外視して、威力と速度の爆上げをコンセプトにした技です。

 闘気を対価として発動でき、攻撃前の溜めをトリガーとして世界のシステムに助力を請い、発動。攻撃の終わりまでが一定の動作として定められた、私がとある前世で習得した技術です。一度技を発動してしまえば簡単には止められない反面、通常とは比べ物にならない威力と速度で攻撃を繰り出します。

 

 この技術は種族特有の固有スキルではなく、前世の経験としての判定なのか問題なく使えるんですよね。

 何より、戦撃は最も付き合いの長い技術の一つでもありますし。ほら、鑑定とかはどうやってるかわからないじゃないですか。その分戦撃は感覚的にも理論的にも理解できるので。

 

 さて、落ち始めた大蛇が復帰しないように追い打ちをしておきましょう。

 

 ――【降月《おりつき》】!!

 

 空中で体が反らされ、体のバネを駆使したバク転から振り下ろされたつま先が蛇の頭に突き刺さる。

 ムーンサルトキックです。戦撃の追撃を受けた蛇は、重力に追加の加速を受けて落ちていきました。

 これで時間は稼げるはず……!

 

「メル!?大丈夫、凄く辛そうだよ!?」

 

 さっき説明したように戦撃とは生命力と魔力を練って行使する技です。

 今の私はまだまだ赤子のようなもの。多少成長したとは言え、まだステータスは低いです。

 少し、無茶をしたでしょうか。

 

 焦ったように駆け寄ってきたミルを翼で押しとどめ、ヨロヨロと立ち上がる。

 くっ、スタミナがまだ無いのが痛いですね。碌に動けやしない……!

 

「メ、メル……」

 

 声を震えさせていた彼女を落ち着かせようとしてふと違和感を感じた。

 青ざめた表情の彼女の視線は私ではなくその後ろ。そこまでされれば見なくてもわかる。

 嫌。もう、ふて寝したい……。

 

 視線の先を追ってみればそこには2体目の蛇。状況はさっきと変わらず、そして私は疲労困憊。

 

 ああもう本当に、今日は厄日ですねッ……!!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8羽 畏れよ

みんな見に来てくれてありがとう!
なろうのpvの伸びが普段のそれじゃない。めっちゃ嬉しいです!


 

 鎌首をもたげた新手の蛇がシューシューと鳴き声を出す中、絶望がこの場を支配していった。

 目の前には新幹線など凌駕するサイズの大蛇。そして下には私が蹴り飛ばした蛇。

 そしてこの場の戦力は疲弊した私とちょっとした魔法が使えるミル、そして怯えている弟妹達。なお、お母様は行方不明の模様です。

 

 この状況打開策がまったく思い浮かばない……!!

 この場所は空高い木の上。これよりも上に逃げ場など無く、下に逃げようにも落ちていった蛇が居る。かといってもう一匹も上に居れば最早逃げることすらできはしない。

 せめて一匹なら私がおとりになって皆を逃がすこともできたのですけれど……。

 

 しかし打開策が思い浮かばないからと言って蛇が待ってくれる訳でもなく。

 無情にも大蛇はその長大な尾をゆっくりと持ち上げ、振り下ろした。

 落下地点にはミルと弟妹達。彼女たちに避けるすべはない。私に彼女たちを逃がす術もまた、ありません。

 だったら、防ぐしかないじゃないですか……!!

 視界が白熱するほどの集中により引き延ばされた時間の中、迫り来る尾の下に決死の思いで体を滑り込ませる。

 

 ――【側刀《そばがたな》】!!

 

 動きの鈍い体の中から闘気を絞り出し、振り下ろされた尾に向けて、脇差しを振り抜くような横蹴り。

 チカチカと点滅して不調を伝えるかのような光をまとった戦撃に嫌な予感を覚えながらも、既に技は止められない段階に入っている。否、止めることができようとそれをすることはしないだろう。

 必ず防ぐ……!!

 

 そして横蹴りは見事、振り下ろされる最中の尾を捉える。闘気の光と鱗が擦れ合い、ギャリギャリと金属が削れる様な音を鳴らしながら、その軌道を逸らすことに成功した。

 しかし技が不完全だったためか私もまた吹き飛ばされる事となった。

 

 轟音。そして振動。尾の一撃は後ろの誰にも触れることはなかったが、下にあった巣は別だった。

 何かがへし折れる音と、今いる木全体が揺れるほどの衝撃。悲しいですが巣は直せます。誰も怪我していなくて良かった……。

 

 どうやら大蛇は自らの行動が邪魔されたのが酷く気にくわなかったらしく、尾を引き戻すとすぐさま私に目を付けたようです。

 

 しかし力を使い果たして倒れ伏した私にできることなど何もなく。

 私に意識が向いている今のうちにミル達が逃げ出してくれることを願うしかありませんでした。

 このまま死んだら過去最弱を更新ですね、なんて冗談を考えながら。

 そんなメルの元にふと、影が差した。顔を上げると構えた杖を握りしめ、涙をこらえて大蛇を睨むミルの姿があった。足下には怯えながらも弟妹達が姦しく集っている。

 どうして……。

 

「ごめんね、メル。きっとあなたは逃げろって言うんだろうけど、あたしは納得できなかったから。わがままでごめんね。それにこの子たちも一緒みたい」

 

 薄く微笑んだミルの足下では、弟妹達が抗議するようにピヨピヨと鳴いている。

 

 彼女がどうしてそこまでするのかはわからない。

 彼女は人間で私は魔物。ここにいるのは拉致されたような……、と言うよりも拉致そのもの。普通はかばうようなことなんてしない。

 弟妹達だってそんなに長く過ごしたわけでもない。

 

 わからないけれど、はっきりしているのは彼女達が私のために命を投げ出そうとしていること。

 

 ああそれは、それはなんて――――――――許せないことなんでしょう……!!

 

 私は後悔も迷いも、ネガティブな思いは全て断ち切って次に進むようにしています。

 そうしないと辛すぎるから。悲しみも後悔も持ち越していては生きて行くには重すぎるものだから。

 

 だから私は私の人生を精一杯生きて。

 だから私は私の人生を楽しいものにする。

 そしてそれ以上に大切な人をこの身を賭してでも守りたいと願う。

 私に 『次』 はいくらでもあるけれど、皆にはないから……!!

 だから誰かが私に命をかけることなんて許せない。他ならぬ私自身が。

 

 絶対に!!!!

 

 だからこそ、ここで諦めるわけにはいかないんですよ……!!

 

 ――――体の奥底、心よりももっと深い部分でなにかが弾けた。

 

 弾けた所から力が溢れてくる――――否、戻ってくる。

 

 それは――

 

 遙か昔から人が恐れ、怖れ、畏れてきたもの。

 恐ろしいものの代名詞として用いられることもある、それほどの存在。怪力を持ち、時には天候さえ操るとされ、神として崇められるほどの怪異。

 

 その名は――”鬼”。

 

 前世で培ったその力の一部がこの身に戻ってきた。

 

 感慨を抱く暇もなく溢れる力のままに体に輝きを纏う。純粋な光ではなく目も覚めるほどの紅。

 それは闘気だけでなく、妖怪《あやかし》としての力、妖気さえ混ぜ合わせ通常の戦撃の域を超えたオリジナルの技。

 

 ――【崩鬼星《ほうきぼし》】!!!

 

 目にも止まらぬスピードを以て流星が大蛇の喉元を抉り抜いた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9羽 不足

 

 紅蓮の輝きを纏った、全体重を乗せた全力のドロップキック。

 それに喉を貫かれてなお、辛うじてですが蛇は生きていました。なんとも馬鹿げた生命力ですね。

 手負いの獣ほどなんとやらといいますし、まだ油断はできません。鬼の力を取り戻したとはいえ、私自身はまだ弱く、下手すれば相手の攻撃で即死もあり得る状況です。何より追い詰められた獣ほど危険なものはありませんからね。

 キッチリトドメをさしておきましょう。

 

 ――【奈落回し(ならくまわし)

 

 急降下して空中で体を折りたたみ、コマのように高速で縦回転。

 重力に引かれるままクルクルと落ちていき、遠心力と戦撃のサポートによる加速ががたっぷり乗った紅蓮の踵落しが蛇の頭を弾き飛ばす。

 

 哀れ、不法侵入者は巣からたたき出され、地面へとヒモなしバンジー。

 

 地響きとともに動かなくなったそれを確認した私は疲れた体を労うため巣に降り立ちました。

 なんとかなりましたね。まったく、お母様はどこに――――

 

「ッメル!危ない!!」

 

 叫び声に意識を引き戻せば目の前には壁があって。

 

 次の瞬間には床に倒れていました。どうやら一瞬意識を失っていたようですね……。

 体中から訴えられる痛みを無視し、頭を振って立ち上がる。

 正面には一番最初に叩き落とした筈の蛇が。どうも自慢げに揺らしている尻尾で思い切り叩かれたようですね。油断してました、初戦闘だったとはいえなんて情けない……!!

 

 私を心配してか、こちらに来ようとしているミルが視界の端に写りました。

 それに視線だけを向けて押さえ付ける。

 大丈夫ですからこちらには来ないでください。あなたたちが狙われた方が対処が難しいんですから、そのまま隠れていてください!

 

 蛇もこちらを警戒しているのか、すぐには手を出してきません。

 その間に息を整えつつ、相手の出方を窺っていると、新手が現れました。

 先の蛇より二回りは大きい奴です。まだ増えるんですか……!?

 

 これ以上は本当に勘弁して欲しいんですけど……!お帰りはあちらですよ。なに?まだ帰らない?そうですか畜生!!

 

 仲間が増えたことで余裕ができたのか小さい方が様子見の攻撃してきました。

 無造作な尾の一撃を余裕を持って避けます。今までは足りないスペックを予測だけで対処していたのですから、鬼の力を使える今となっては造作もありません。とは言え当たれば大打撃ですし、内心冷や汗ものです。

 特に動きのない蛇の方も気にしなければいけないのが負担になっています。

 そちらに意識を割きながら、攻撃の予測もしなければならない。……やっぱり結構厳しいですねこれ。

 

 蛇の攻撃を捌いて、いなして、避け続ける。次第に時間の経過が曖昧になる。

 いっこうに終わりが見えない。蛇の攻撃は牽制のようなものばかりで、反撃できるような隙が生まれる攻撃はしてこなかった。

 無理に近づこうとすれば、大きな蛇の方が動きを見せ、下手な行動を許してくれません。

 おそらくこちらが疲れて動けなくなるのを狙っているのでしょう。

 単純明快な作戦ですがだからこそ、解決策が見えない。蛇らしい狡猾な手ですね……。

 打開策を考え続けていると、視界の端で大きな方の蛇が首を巡らせました。

 一体なにが……。

 

 視線の先には空を飛ぶ巨大な存在が。あれは……!

 

「(お母様)!!……………!!?」

 

 ピンチに駆けつけてくれたお母様だったが、話はそう簡単にはいかなかった。

 純白だった翼は今や朱に濡れ、羽ばたく音もどこか力ない。

 駆けつけたお母様は既にボロボロだったのだ。

 

『お前達、下がっていろ!!……くっ!こんな時に蛇共め、鬱陶しい!!』

 

 傷ついたお母様は大蛇二匹を相手取り、その上背後の私たちを守りながら動いている。巻き込んでしまうため大きな攻撃もできず非常にやりにくそうだ。

 とは言えお母様は強い。このまま行けばお母様は勝てるだろう。だがそれは順調にいけばの話で、しかも少なくない疲労と怪我がお母様に残ることになる。

 お母様の力が弱まればきっと今と同じように他の魔物が狙ってくる。弟妹達はそれに怯えることになる。

 なにより、見ているだけなんてできるわけないじゃないですか。

 

「メル!!?」

 

 ――ごめんね、ミル。きっと戻りますから。

 

 抱き上げられていた腕の中から飛び出し、蛇の元へ向かう。

 

 ―――《ウィンド》!!

 

 飛ぶときに扱っている風の力を応用して、魔法のように使ってみたものです。

 大した威力はないですがペチペチ鬱陶しいでしょう?

 

『馬鹿者!何をしている!』

 

 お母様からの叱責を聞き流し、蛇に向かって空中から風を打ち続ける。

 倒す必要はない。どちらかだけでも引きつけられれば……。

 

 攻撃を続けていると蛇が遂に動いた。

 最初に地面に叩き落とした小さい方の蛇だ。

 

 弱い方が来てくれるなら好都合。生存確率が上がりますからね。

 

 すぐさま飛びかかってくる蛇を【側刀《そばがたな》】で横へ逸らしつつ、ヘイトを溜めていく。

 鬼の眼光で睨み付けて挑発してやれば、ピクリと反応した後怒りの咆哮を上げ、私に釘付けになる。

 その甲斐あってか、巣の下に飛び込んだ私を素直に追いかけてきてくれた。

 

『この馬鹿娘が!!やめるんだ!戻ってこい!……頼む、戻ってきてくれ……!やめろォォォォォォ!!』

 

 後ろから響いてくる巨大な枝がへし折れる音と蛇のうなり声、遠くなる戦闘音。

 ……そして私が何をするかを察したお母様の悲痛な叫び声。

 

 ごめんなさい、必ず戻りますから。だから今だけは親不孝な私を許してください。

 

 地面に向かって大樹を降りきり、体を起こしてなるべく地面すれすれを全速力で逃げていく。

 背後で轟音。恐らく蛇が地面についたのでしょう。

 森の中を全速力で飛び、木々の間をすり抜けていく。

 急降下で少し距離が開いたけれど、徐々に距離が詰められていますね。

 不味いですね、このままでは追いつかれてしまう。戦撃もあと2回打てるかあやしいです。体力が尽きる前になんとかしなくては……。

 交戦も視野に入れるべきでしょうか……。ですがそもそものスペックが段違い、碌に戦撃を扱えない今の状況では絶望的なほどに勝ち目がありません。

 

(っ!考える時間も与えてくれないのですか!!)

 

 頭上に影。その正体はへし折れた大木が飛んできた物だった。追いすがる蛇がなぎ倒した物を、ついでとばかりに体で弾き飛ばしているのだ。前方の障害物と上空の飛来物。非常にやりづらい。

 泣き言など言っていられない程次々と振ってくる。

 咄嗟に飛び出してしまったとは言え、少し考えなしだったかも知れません……!

 とは言えベストでなくともベターであったことは事実でしょう。

 お母様がこの蛇たちに負ければ全滅は必定です。片方を引き離せれば勝率をかなり上げる事ができるはず。後はお母様を信じることしかできません。

 

 ……自分の力のなさがたまらなく憎い。不条理を認めたくないから私は力を求めてきたのに……!!

 

 ……ともかく今をどうにかしなくては。

 避ければ避けるだけ距離が縮まっていく。かなり追いつかれてしまいました。

 ジリジリとした焦燥感に心臓の鼓動がヤケにうるさく聞こえてきますね。

 

 グルグルと思考の迷宮から抜け出せなくなっていると急に視界が開けました。

 周りから木がなくなり、憎らしいほどに雲一つない青空がのぞけます。

 

 周りに障害物がない……!!まずいでしょうか!?……いや、このまま……!!

 

 視界が開けると言うことは障害物が無いと言うこと。小回りの利く私に有利だったものがなくなることを示します。

 咄嗟に方向転換をしかけましたが思い直し、そのまま直進することにしました。

 

 そして振り返り蛇を睨み付けます。

 ですが蛇がこちらを攻撃してくることはありません

 いえ、できないと言った方が正しいでしょう。

 

 なにせこちらは船の舳先のようにつきだした崖の先。下には轟々と流れる水のうねりが。

 いくら巨大な蛇と言えど、こちらにやってくることはできませんし落ちてしまえばひとたまりもありません。

 すぐ側に飛ばせるような木もありませんので蛇に遠距離攻撃の手段もない筈。

 

 これで少しは時間が稼げるでしょうか。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10羽 視線、交えて

本日最後です。


 

 崖の先で睨み合いが続く。

 蛇は苛ただしげに呼気を漏らし、何度も尾を地面に叩きつけては不愉快だという風に舌をチロチロと蠢かせている。

 

 さて、どうしましょうか。デッドヒートはやめることができましたが、このままホバリングしている状況もあまりよろしくありません。飛行になれていない私では、マシになったとは言えそれだけで体力を消耗します。

 

 頭を悩ませていたその時。表情なんてないはずの蛇の顔が狡猾に歪んだ気がした。

 

 チロチロと舌を出し入れしたかと思うと、おもむろに蛇が振り向く。

 ……諦めた?

 ずりずりとそのまま進んでいく蛇。このまま待っていても無駄だと思ったのでしょうか。離れていきます。

 

 ……私も少し休んだら巣に帰りましょうか。安堵から一息つこうとしたときに気づきました。蛇の向かう先が私の巣の方であると言うことに。

 

 そして図ったようなタイミングで蛇はにやつくようにこちらを振り向いた後、再び進み出した。

 こいつは……!!私が無視できないのをわかってやっている!

 

 ……ここに来ては戦うしかありません。こいつをこのまま見過ごして、合流でもされたら事です。

 巣から飛び出たときは、途中で撒いて逃げ帰るつもりでした。ですが蛇の速度が想定よりも上だったせいでそれは叶いませんでした。

 そして命からがらお見合い状態に持って行くことができましたが、結局戦うことになるくらいなら巣に残って一緒に戦えば良かったでしょうか。ジワリと後悔の念が浮かぶ。

 しかし私も体力が残っているわけでは無いので、隙を伺って全力の一撃を差し込むという形になったでしょう。

 しかも戦撃で倒せなかったら私はまともに戦えなくなる。そこでお母様が私を守ろうとすれば足手まとい以外の何者でもありません。

 二匹を同時に相手するのはなるべく避けた方が良いはず。私を守りながら等尚更避けた方が良い。お母様が勝てないとは言いませんが手間は増えるでしょう。私のせいで傷を負わせる事になってしまえば私は……。

 

 そう考えるとやはりこれがベターですね。ここで私が死んでも時間稼ぎには十分です。親不孝をすることになってしまいますが、その頃に戻ってきた蛇は難なく始末できるでしょう。

 

 私は何度だって転生します。投げ捨てる気はありませんが、やはり一度しかない他のそれよりも私の命は遙かに軽い。

 私が無茶無謀をするだけで良いのなら何度だってやって見せましょう。失うのなんて、もう一度としてごめんです。

 

 蛇が背を向けた崖の舳先。そこに降り立ち羽を休める。

 体の無駄な力を抜き脱力。息を整え、深く、そして長く呼吸する。まるで眠っている時のように。

 それを約10秒。

 

 ――行きます。

 

 這いずる蛇の頭に視界外から風の塊をぶつける。ポフリと軽い音で弾けたそれは、小石をぶつけた何倍も軽いものだったでしょう。どうにも蹴った感触と魔法でのダメージの差に違和感がありました。おそらく魔法耐性もありそうなので尚更です。

 しかしそれでも苛立ちは募ります。そこにかかってこいと言わんばかりに翼でクイクイと招いて、鬼の眼光で睨み付けてやれば。

 ジェスチャーの意味はわかったのでしょう。圧倒的格下にそんなことをされ、その反応は顕著だった。

 先と同じように、ピクリと反応した上で怒り心頭、咆哮を上げて突貫してくる。

 

 トラックなんて比較にならない様な威圧感ですが、巣に向かわれる何倍もいいです。

「これに轢かれたら異世界転生でしょうか、いや私はそもそも確定でしたね」などと益体もないことを考えつつ、足と翼を使った特殊な歩法で滑るように移動する。

 これは滑歩《かっぽ》と言います。足の蹴りと翼から生まれる推進力、揚力を利用して、通常の足捌きではできないような機動を実現することができる、翼ある者にしか使えない歩法です。

 一蹴りでS字を描くような移動も出来、傍目から見るととてもキモいです。足が地面についているように見えるのに、摩擦がないかのようにヌルヌル動きます。キモいです。

 昔教えて貰ったときも、そのあまりの違和感につい「キモっ!!?」と声に出してしまいました。

 淑女にあるまじき行為ですね。反省してます。

 

 このキモい歩法、弱点がありまして、足場が平坦でないと足が引っかかってしまいます。かなり場所を選ぶ歩法で、使えれば強いのですが巣では床がゴツゴツしすぎで無理でした。

 

 閑話休題《それはさておき》。

 

 作戦はシンプルです。蛇が避けることのできない状況を作り上げ、確実な一撃を見舞う。

 私が逃げることはできず、攻撃を避けられれば待ているのは死です。これ以外はありません。

 

 蛇の突進をキモい動きで翻弄しつつ、その後の振り向きざまの噛みつき攻撃も回避する。

 その際に鬼の眼力で睨み付けて挑発することも忘れない。

 怒りによって冷静な思考を奪い、私に有利なフィールドの誘い出していく。

 すなわち舳先のようにつきだした崖の縁の方に。攻撃した先に地面がないのならまともな威力は出せないはずです。勢い余ってしまっては真っ逆さまですからね。

 

 滑歩《かっぽ》を駆使して、うまく崖際まで誘い出すことができました。ひたすら場所を移動し続け、時に崖から飛び出して縦横無尽に回避します。作戦が上手く行くと良いのですが……。

 

 この蛇、怒りに身を任せているように見えてその実、僅かに冷静な部分を残しているようです。

 私の戦撃を警戒して決定的な隙を見せることはしません。もう一匹の蛇に戦撃で致命傷を与える所を見ていたのでしょう。簡単には勝たせてくれそうにありません。

 

 ――ぐぅッ!!?

 

 噛みつき攻撃と突進を何度も避けていると、遂に攻撃が掠ってしまいました。咄嗟にダメージを最小限にするべく攻撃方向と反対へわざと吹き飛んだので、崖からクルクルとはじき出されてしまいます。

 とはいえこれは、距離を取ることと空中に逃げ込むという2つの要素から、追撃を避けることもでき――――

 

 ――まずいッ!!

 

 視界が回る中、咄嗟に下へと落ちるように羽ばたく。刹那、今までいた場所に風を押しのけ巨大な顎門が食らいついた。

 蛇は中空に身を躍り出すのを怖れることなく追ってきたのだ。そして下に逃げたことが更なる追撃を許すことになる。この時上に逃げていたら、蛇は体を支える手段の乏しさから追撃を諦めていたかも知れない。だがそうはならなかった。

 

 ――来るッ!!

 

 真下に見据えた私に向かって、一陣の矢のように襲来する。

 まだ体勢は整っていません。空中で無理矢理体をひねってなんとか回避します。それでも再び掠ってしまい、逃がさないとばかりに崖の方へと弾かれてしまいました。

 流石にこれ以上崖から離れるのは難しいのでしょう。空中へと逃げられないように射程範囲へと押し込められてしまいます。逃がしてくれる気は……、ないようですね……!!

 

 崖に叩きつけられる前になんとか足から着地。すぐさま壁を蹴り、舳先のようになっている崖の下に向けて飛び込む。直後、轟音。さっきまでいた壁に蛇の頭が激突していました。

 被弾はしませんでしたがギリギリです。ここで欲張って上に逃げようとしたら押しつぶされていたでしょう。重力がある以上、下に逃げる方が速いですから。

 

 更に追撃が来るはずです。空中で翼を一振り。加速し、蹴りに勢いのせいで離れかけていた崖に張り付き直す。足から着地。減速することなく、先ほどと同じようにすぐさま蹴り飛ばすと、これまた先ほどと同じように蛇が突っ込んできました。

 

 蛇の速度からして、普通に飛んでいては追いつかれます。蹴りと翼による両方の加速がないと逃げ切れません。

 

 バコン!!ボコン!!と追いすがってくる蛇に対し、こちらも蹴りと羽ばたきを駆使して避け続ける。

 崖を蹴り、緩く弧を描くようにして着壁。すぐさま蹴り飛ばす。それを繰り返していると、舳先の底にたどり着いた。ここを越えれば登りにさしかかります。踏ん張りどころですね。

 

 遂にネズミ返しになった崖に、体を縦に回転させ踵落しを放つ。翼は飛ぶことではなく、崖から離れないことを重視。それを連続。

 スタミナを多く使うのが厄介ですが、これで蹴って羽ばたくよりも早く登れます。

 重力を無視し、岩を抉りながらスパイクの着いたタイヤのように斜面を駆け上っていく。

 

 ――着きました!……そんな!?

 

 追いつかれることなく、なんとか崖の上まで蹴り上がり復帰することができた。しかし、視界に広がっていたのは地面ではなく、崖の上を覆い尽くした蛇の胴体でした。

 

 




読了ありがとうございます!
もし気に入って頂けたなら、お気に入りと評価していただけるとありがたいです!
小説家になろうの方でかなり進んでいるので、気になったら是非いらしてください!
あらすじにURLを置いています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10.5羽 死線、交えて

お気に入り登録ありがとうございます!励みになります。


 

 元々体の大きな蛇だ。狭い崖を埋め尽くすには十分な長さがある。

 その長い胴体をうまく使って、落ちないように頭部の方を支えているのでしょう。

 

 空中であれほど動けたタネはわかりました。だからといってどうしようもないですが。

 問題なのは地面を蛇が埋め尽くしているせいで平坦な場所がないことです。

 

 つまり滑歩《かっぽ》が使えない。それでも後ろからは蛇の顎門が迫ってくる。

 悠長に考えている時間はなく、先に進むしかありません。

 

 鱗で埋め尽くされた死地に向かうと同時、下から蛇の頭部が突き上がり、追いついてきました。

 途端に寝そべっているだけだった胴体が蠢き出す。まるで不規則な波のよう。

 まともに当たれば砕けるのは波の方ではなく私の方ですけど。

 

 動いていない胴体を足場にして蹴り、風を叩いて加速する。

 滑歩《かっぽ》は使えないですけれど、やっぱりこっちの方が普通に飛ぶより速いです。

 

 目の前の胴体が跳ね上がって狙ってくるが、動きは鋭くない。

 崖下を頭の方がくぐっているため、支えるために無理はできないのでしょう。

 足の裏で衝撃を受け流し、サーフィンのように滑っていく。まともに受け止めれば砕かれてしまいますが、うまく使えば加速になります。翼がある分、人がやるよりもバランスを取るのは容易でしょう。

 

 正面から大口を開けて食らいついてくる蛇を、背面で飛び越える。ちょこまかと逃げ続ける私に業を煮やしたのか蛇は怒りの咆哮を上げた。

 

 蛇の猛攻を捌き続け空中に身を躍らせた私に、胴を使ったなぎ払いが襲いかかる。

 

 ――これも受は流せば……、え?

 

 翼で空を叩いて勢いの向きを微細に調整する。その技術に狂いはなかった。

 

 しかし――血飛沫が舞う。

 

 ――なんで……?

 

 蛇と接触した部分が抉られたような熱を訴える。

 

 見れば全身の鱗一枚一枚がカミソリのようになっていた。

 いままで使って来なかったのは、格下に使う気はなかったけれど埒が明かないから、といった具合でしょうか。鬼の力がなければ、一発でバラバラに切り裂かれていたでしょう。

 

 崖の上は蛇の体で埋め尽くされている。

 無理だ。接触すること自体が不可能になったこの状況で崖の上に居続けることはできません。

 飛んで逃げるにも速度が足りない。つまり活路は下にしかない。

 

 白に赤が滲んでいく。

 先ほどの攻撃は直撃していない。それでも受け流しとは言えない弾き飛ばされ方をした。ダメージは芯まで通ってしまっている。

 チャンスとばかりに痛みに硬直したメルに襲いかかる。

 

 ――《ウィンド》……!!ぐぅっ!!

 

 動かない体を咄嗟に弾き飛ばす。傷ついた体を無理矢理風で吹き飛ばしたのだ。ほとんど自爆に等しい。それでも命はつないだ。

 

 稼げた僅かな時間。痛みを訴える中、気合いで体を動かす。

 

 崖下に潜り込んだメルに、当然蛇が追いすがる。地獄の追いかけっこが、森から場所を変えて崖を巡る形で再び始まった。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

 

 ドゴッと何かがはね飛ばされた音がした。

 

 地獄の追いかけっこは、崖下から飛び出してきた獲物を、蛇が後ろからはね飛ばした事で終わりとなった。

 

 ――何度降りて登るのを繰り返したでしょう。

 

 糸の切れた凧のようにクルクル回りながら考える。

 

 舳先のような崖には蛇が幾重にも巻き付いている。

 不安定な体を支えられる様になったからか、二周目からは崖下で追いかけてくる速度が上がってしまいました。

 幸いなのは巻き付いている部分は体を支えるためにあまり動かせない事と、崖上を埋め尽くしていた胴が下に回ったおかげで減り、足場ができた事ですね。

 

 それでも全身がカミソリのようになった蛇には何度も接触してしまいました。

 鬼の頑強さと生命力がなければとっくに死んでいます。血も流れすぎてしまいました。

 

 ――意識が……もう……

 

 ただでさえ血が足りないと言うのに、強烈な衝撃を受けて目の前が白んでいく。

 そんな中朧気に見えたのは勝ち誇ったように大口で食らいついてくる強者の姿だった。

 

 ――いつも……、そうだ。

 

 彼女は武家の生まれだった。家族の中で一番弱かった。才能は皆無だった。虐げられることはなかったが、それでも期待を裏切っていると思っていた。

 転生してからは更に酷かった。弱かった彼女とその家族は食い物にされることが非常に多かった。

 今の彼女があるのは幾多の人生において、それが嫌でひたすら努力を続けてきたからだった。

 

 ――また、害される。

 

 この時、自分の母が強いということは関係がなかった。ただ、害される事が許せないと言う気持ちがひたすらに強かった。

 こいつは私を殺した後、当たり前の様に巣を襲いに行くのでしょう。それは当然のこと。自然の摂理です。

 

 ああ――だかこそ、負けない。負けられない。

 

 ――負ける……かあぁぁぁあ!!!

 

 消えかけのろうそくの様に頼りなかった闘気のオーラが、意志の力と共に噴出する。

 強者が人を食い物にする。それが嫌なら私が強者になるしかない。そうでないなら、永遠に食われ続けるだけだ。死んでも終わらないのだから。

 

 だから喰らうのはお前ではなく――私だ!!

 

 ――【崩鬼星《ほうきぼし》】!!!

 

 残りの全てを乗せた紅蓮が、蛇の顔を照らす。この技がもう一匹の蛇の喉を抉るのを思い出したのでしょう。避けられないと判断したのか咄嗟に口を閉じて、頭突きで受けることにしたようです。

 

 まあ、関係ありません。私の勝ちです。

 

 決殺の意志を乗せて、最大の一撃が地面に突き刺さった(・・・・・・・・・)

 

 もちろん蛇には傷1つ着いていない。

 最大の一撃が不発に終わった。そう思ったのか、表情はわからないですが気色を滲ませているように見えます。

 

 ……喜ぶのは少し早いのでは?

 

 一拍を置いて轟音。そして浮遊感。それに訳がわからないと言った様子の蛇。

 理由は簡単です。崖を登るときに放っていた多量の踵落しと、追いかけてくる蛇の激突、そして私の最後の一撃。それによって崖が崩れ落ちただけ。

 

 巣での一匹は喉を切り裂いてなお生きていました。確実に殺せるかわからない以上、これがベストです。

 

 ……ただ計算外だったのは、意識が朦朧としていたため、激突地点が予定よりも前過ぎて私も一緒に落ちていることですね。

 

 もうまともに飛ぶ体力もありません。

 重力加速とは別に空気抵抗によって崖から浮き、離れつつあった私に鋭い殺気が突き刺さる。

 

 もう蛇は逃げられません。岩に巻き付いている状態で、ズルズル這うことはできるでしょうが、すぐさま解いて逃げることはできません。時間的にこのまま岩と水の底でしょう。

 

 それでも諦めることなく私を狙ってきました。

 

 ――良いでしょう。私自ら、地獄まで連れて行ってあげます!!

 

 なくなったはずの闘気。

 噴出したそれは紅ではなく、血が滲み出した様な朱だった。

 そうして激突し――巨大な水しぶきと共に濁流の中、飲み込まれていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11羽 流されて

 

 ゆらゆらと。

 真っ先に感じたのは僅かな揺れ。そして体の痛み、そして肌寒さを感じた。

 纏わり付く痛みを振り払うように頭と左右させてノロノロと顔を上げる。

 

 うぅ……。ここは?

 

 巣にいたときには感じることのなかったそれで目を覚まし、訳もわからず混乱する。

 頼りなく浮かぶ木材とそれに乗る自分。常人であれば渡るのを諦めるであろう幅の川と、挟むように鬱蒼と茂る天衝く木々。

 何故こんな所にいるのか理解がゆっくりと追いついていく。

 

 崩れゆく崖と落ちる蛇。そしてそれに巻き込まれた私。

 

 それからの記憶はありません。

 

 まあ、生きていると言うことは着水に成功したということでしょう。私は助かりましたが、蛇はあの高さから落ちたら流石にひとたまりもなかったでしょうね。私は体も小さく鳥故に軽かったので衝撃は少なかったでしょうが、蛇はそうではありませんから。

 

 体の傷は塞がっています。体は全身痛みますがもう血は出ていません。血が足りていない感覚はありますが、眠っていたので少しマシになったのでしょう。

 

 お母様も心配しているでしょうし、目が覚めた以上早く帰りたいのですが難しいでしょうね。

 

 どれほどの時間が経ったのかはわかりませんが少なくとも数時間ではないはずです。その間ずっと流され続けた事を考えるとかなりの距離になることは想像に難くありません。

 

 今の私は疲労と怪我で長距離を飛ぶことはできませんし、水に濡れて疲れている今なら尚更です。それにここにはどんな危険が潜んでいるかわかりません。まずは生き残ることに注力しなければいけない環境です。

 

 そうと決まれば陸に上がることからです。流木があまり大きくなかったこともあり、翼で水を掻くことで進むことができました。

 水に入ることは全く考えていません。魔物でも何でもないワニが現れただけでも今は絶望的です。実際の所水を掻くこともかなり躊躇したほどです。

 

 とは言えそれは杞憂だったようで休息を挟みながらも、なんとか岸に着くことができました。

 

 なんやかんやと考えてしまいましたが、こうしてみると特に危険のない大きなだけの川かも知れませんね。

 ほら、今もくりくりしたかわいい目玉が二つほどこちらを見ているだけで……。

 

 あれ……?あれはワニでは?

 目玉が私と同じ大きさでしかも大きさのせいでわかりづらいけどだんだんこちらに近づいてきてこれまずくないですかうわめっちゃ見られてるというかそんなこと言ってる場合じゃない逃げるんだよぉー!!

 

 この後めちゃくちゃ逃げた。

 結果迷った。どうしよう……。

 

 どこから来たのかも方角もわからないので途方に暮れてしまいました。

 

 深呼吸をして一旦落ち着きましょう。

 

 最終目標は巣に帰ること。

 そのためにはもう一度川に出なくては。自然界で水辺は危険ですが唯一の道しるべは川だけですから。上流に向かって行けばいずれ巣に着けると現状では信じるしかないです。

 お母様がいずれ迎えには来てくれるとは思いますが、一カ所に留まることはしません。待つのは性に合わないんですよね。

 探知の魔法を持っている様ですので動いても構わないでしょう。迷ったら動くなと言いますが、きっと大丈夫です。

 

 お母様……。最後に見たときはボロボロの姿でした。何があったかはわかりませんが皆無事でいてください。

 祈るように目をギュッと瞑ると翼で頬を叩く。

 

 大丈夫です。お母様は強いです。それよりも帰った後のお仕置きを覚悟しなければ……。お母様の声を無視して飛び出してしまいましたからね。

 ……うん。……少し、帰りたくなくなってきました。

 

 そうは言ってもどうしようもないので、()ずは私の現状を確認しましょうか。

 

 空も茜色になってきましたし、そろそろ暗くなるでしょう。かなりの空腹ですが今むやみに動くのは悪手です。

 地上で夜を過ごすのはかなり危険だと思われますので安全のために良い感じの木を見繕って簡易の巣を作ります。まあ、枝の根元に葉っぱを集めただけなのですがないよりましでしょう。まだ体は乾ききってないないですがここは気合いです。むん!

 

 ……ふう。夜の帳が落ちきる前になんとか完成しました。

 それではステータスと。

 

 名前 メルシュナーダ 種族:スモールキッズバーディオン

 

 Lv.20 状態:進化可能

 

 生命力:305/305

 総魔力:167/167

 攻撃力:98

 防御力;31

 魔法力;31

 魔抗力:23

 敏捷力:205

 

 種族スキル

 羽ばたく[+飛行・風の力]・つつく・鷲づかみ

 

 特殊スキル

 魂源輪廻[+限定解放(鬼)]

 

 称号

 輪廻から外れた者・魂の封印・格上殺し(ジャイアントキリング)

 

 

 レベルがかなり上がってステータスが軒並み成長しています。

 このレベルの成長は蛇を倒したからでしょうね。しかし二匹も倒したはずなのですからもっと上がっても良いはずです。

 文句を言っても仕方がありませんが。

 

「羽ばたく」のスキルに「風の力」が追加されています。これは蛇に向かってペシペシ打っていた奴ですね。かなり使っていたのでスキルになったのでしょう。

 

 使えなくなっていた「魂源輪廻」は「限定解放(鬼)」が追加されています。これが私の前世の一つである鬼の力を使えるようになった理由でしょう。既にソウルボードのメインに設定されていました。

 何がきっかけかわからないのが残念ですが、能力が戻ってくる可能性があるのは朗報です。

 詳しく見てみましょうか。

 

 ・限定解放(鬼)

 解放能力 [+頑強・剛力・鬼眼・鬼気]

 

「頑強」は体が頑丈になる能力です。さらに傷の治りが比較的早くなり、健康的でいられるようになります。この健康的の中には状態異常にかかりにくくなる効果と痛みに強くなる効果も含まれているので、枠に困ったらとりあえず「鬼」はセットしていました。とても使い勝手がいい能力です。

「剛力」は名前そのままで、力が強くなります。普通の人間が木を殴ってへし折ることができるようになるくらいの上がり幅があってかなり強力です。どちらも鬼の力強さを体現した能力ですが、どうやら能力値には反映されないらしく、数値として見ることはできませんが攻撃力に関しては倍以上、防御力は5割増し程にはなっているはずです。

 

 どうにもこれらの強化幅は固定値では無く割合のようで、私が強くなればなるほど大きくなるようです。今は数値的に見ればあまり大きくはありませんが、やがてはステータス詐欺になるはずです。実際なりましたし、言われたこともありました。

 

「鬼眼」は意識して睨んだ相手の威圧と動体視力の強化の効果があります。威圧は彼我の戦力の差によって効果が変わります。相手の方が強い場合は挑発のような効果になってしまい、逆効果の事があるので注意が必要ですね。動体視力強化の効果はそのまま、今までよりも速い動きでも見逃すことが少なくなります。副次効果で思考速度も上がるので、使用者に優しい能力です。見えてるけど、頭がついてこないなんてことはありません。

 敵の強さもなんとなくわかるようになりますね。私は色々と才能がなく、見ただけで相手の強さを推し量る事ができなかったので助けられたことは何度もあります。手合わせすればなんとなく分かるんですがそれでは遅いこともありますからね。

 

「鬼気」は鬼の禍々しさを孕んだオーラを纏うことができるようになるスキルです。上の三つは常時発動型のパッシブなスキルなのですが、この「鬼気」は任意で使うアクティブスキルとなっています。

 発動には常に体力の消費が必要となり、「頑強」「剛力」「鬼眼」の効果を大きく押し上げてくれます。オーラは私の体の一部の様な物であり、使いこなせれば形に指向性を与えることもできます。とは言えやはり私には才能がないらしく、長年使っているのですが体や武器に纏わせて攻撃範囲を広くしたり、威力を補強したりすることぐらいしかできません。

 効果に比例して体力の消耗も激しく、レベルが上がった現状でも長時間の使用は避けたいスキルです。かなりの格上にも有効だを与えることができるので、しばらくは前に使ったように闘技との合わせ技で切り札としての運用になりそうです。

 

 称号の格上殺し(ジャイアントキリング)は名前の通り、私より圧倒的に強かった蛇を倒したからでしょう。今でも真正面から戦いたくはありません。あのとき2体も倒せたのは幸運でした。

 

 そして一番気になるのが状態:進化可能です。

 どうやら私、進化できるようです。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12羽 進化して

もし面白いと思って頂けたなら、お気に入りと評価を頂けるととっても嬉しいです!


 

 進化。

 

 そう言われてぱっと思いつくのが、ポケットなやつとかデジタルなやつなのは、あの世界で毒されすぎたからでしょうか。厳密に言えばあれは進化ではないのですがこの進化も意味合いとしては同じでしょう。

 

 わかりやすく言うなら「姿が変化して劇的につよくなる」。

 

 私は今からそれができるようなのですが、はっきり言って詳しいことは全くわかりません。

 なにせ今まで進化したことがないので。いや、皆そうだとは思うんですが、なにぶん今まで長らく生き死にを繰り返してきても目の当たりにしたことのない状態ですので、少し新鮮なのですよ。

 

 等と言っていても何も始まらないので確認しましょうか。

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 現在:スモールキッズバーディオン

 

 →スモールバーディオン:D

 →キッズバーディオン:E+

 →キッズパラキード:E+

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ……ええ、残念なお知らせがあるのですが、これ以上の情報開示がありません。もう少し親切設計でも良いと思うのですが……。

 現在の種族と進化先がおそらく三つあることと、後ろの英字。わかるのはそれだけですね。

 英字は恐らく強さの指標でしょうか。どちらが上かはわかりませんが。……鑑定系の能力がないことが本当に悔やまれますね。魔物が文字を読めるかと言われると、無理だろうと思いますので詮無きことなのだとはわかるのですが愚痴は出てしまうものです。

 

 ともあれ愚痴っていても何にもならないので考察をしましょうか。

 最初はスモールバーディオンとキッズバーディオンの比較ですね。

 前者がDで後者がE+と。

 小鳥と子鳥。小鳥が小さいサイズの大人の鳥、子鳥が普通サイズの子供の鳥といったところでしょうか。

 大人と子供。強いのが前者で将来性があるのが後者でしょうか。となると英字が上であるほど強いと言うことでしょうか。……確かなことが何一つ言えてないですが、所詮推測なのでしょうがないと割り切りましょう。

 パラキードはインコの事だった筈なのでキッズパラキードは子供のインコですね。

 

 さて。この三つの中から選ぶのは……。かなり迷いますがキッズバーディオンですね。

 スモールとキッズであればキッズの方が将来性がありそうですし、バーディオンとパラキードでもバーディオンの方が将来性はあるでしょう。鳥全体を表しているだろうバーディオンと、インコ。進化の分岐先が多いのはバーディオンの方でしょうし、進化先の傾向を決めるのは後で良いでしょう。

 

 それではさっそく……ポチッとな!!

 

 うん……?なんだか、眠気が……。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

『ゆっくり眠ると良い』

 

 夜の帳が降りきった頃、息子と娘達を寝かしつけた天帝ヴィルゾナーダ。

 安らかに眠る子供達に母としての優しげな表情を向けるが、その表情はすぐに険しい物になる。

 理由は必然。ここにいないバカ娘について考えていたためだった。

 

 あの日。

 蛇が襲いかかってくる前、ヴィルゾナーダは戦っていたのだ。

 人間の娘を連れてくる時に傍らにいた男と。

 最初に見たときは我が目を疑った。

 前の邂逅ではあまりにも弱々しい力しか感じなかった。だからここまでやってくる事はないと思っていたし、それをやろうとしたところで途中で力尽きるのがオチだとも思っていた。

 驚くヴィルゾナーダを尻目に男は言葉を紡ぐ。

 

 曰く、人間の娘を連れて行ったことは耐えがたいことだったが命を助けて貰った。感謝している。だが人間の娘は返して欲しいと。

 もちろん断った。我がただの人間の意見を聞き入れる義理もなし。我が娘もあの人間の娘にはご執心の様だったしな。飯も美味い。手放す理由はなかった。

 ……まあ、我が娘がもう少し育って頼み込んできたら逃がしてやったかも知れんが。

 

 当然のように交渉は決裂。男も予想はしていたようで特に残念そうな素振りは見せなかった。

 適当に追い払って終わりにしようと思っていた。だがそんなものは巨大な斬撃の前に散り散りに切り裂かれた。

 

 避けることもできずに命中。

 格下であるはずの人間に攻撃を当てられ、ダメージとしてはそこまで大した物ではなかったが、あまつさえ手傷を負わされた。

 油断はしていた。慢心もしていた。だがそもそも「帝種」に傷を負わせられる存在(・・・・・・・・・・)など、まともな人間にいるはずがないのだ。過去人類の歴史においてどうしようもない災害として認定された魔物。それが「帝種」。人間との差など月とスッポン。比べるべくもない差。

 

 だがそれを乗り越えてくる例外も存在する。

 

「英雄級」。

 人の身でありながら種族の差を踏み越えてくる化け物。どうしようもない災害である「帝種」を討伐した者もいるイレギュラー。ここに来てヴィルゾナーダは男への認識を大幅に改めた。自らを殺すこともできる存在だと。

 

 そこからは一進一退の攻防。魔物は純然たる力で。人間は類い希なる剣技で。相手を打ち倒すべくぶつかり合った。

 戦況はヴィルゾナーダが優勢だった。

 このままでは不味いと思ったのだろう。男は切り札を切るべく魔力を高め、それを真正面から叩き潰さんとヴィルゾナーダも力を集約させる。

 そしてそれが打ち出されそうになったその時。空に光の花が散った。

 

 何事かと訝しむ男。しかしすぐさま気を取り直し、練り上げた魔力を剣に乗せ、突きとして発射した。

 ヴィルゾナーダも集めた力を使い、嵐を束ねたような風は蛇のように大地を抉り吹き曝す。

 僅かな時間それは拮抗し、魔力の突きは上空へ、風は地面へと逸れることになった。

 結果、轟音が鳴り響き砂塵がもうもうと舞い上がる事で視界が遮られることになる。

 男は見えない視界の中、どこから攻撃が来ても対処できるようにジリジリと警戒心を上げていく。

 だが砂塵が晴れた頃にはヴィルゾナーダはそこにはいなかった。

 

 なぜなら合図を見た瞬間からヴィルゾナーダはすぐさま方針を変え、合流することを最優先にしたからだ。砂埃が舞い、視界が遮られている間にすぐさま巣に飛んで帰ったのである。

 

 そこからは知っての通り。二匹を相手に手間取る情けない自分のために、バカ娘は森の奥へと消えていった。

 

 大した時間をかけることもなく大蛇を始末することはできた。

 弱っていても世界の頂点に位置する存在だ。一匹相手取ることなど造作もない。逆に巣を巻き込まないための加減が大変だったのだ。

 だがそれで終わりではなかった。見計らったかの様なタイミングで更に一匹襲いかかってきた。もちろん時間はかけなかったが、手間取らされた苛立ちで少々力みすぎてしまったが。

 

『大丈夫か?お前達』

 

 すぐさま巣に降り立ち我が子の安否を確認した。

 

 子供達はそれには答えずに全く別のことを口にしていた。

 メルシュナーダが蛇を一匹引きつけて飛び出してしまったから早く追いかけて欲しいということ。

 そして人間の娘が似たような姿の生き物に連れて行かれたこと。

 

『やはりそうか……』

 

 大蛇の始末が遅れたのは何も弱っていたからだけではない。男の警戒もしていた為だ。

 戦闘中、男がある程度の距離まで近づいていることに気づいた。常に注意を向けていたし、牽制だってしていた。実際問題、蛇よりも男の方が厄介だった。

 

 だがそれもバカ娘が飛び出していくまでだった。少しの逡巡の後、男の方から注意を外したのだ。これは事態の収束の早さを求めてのことだった。

 不安要素はあったが賭に出た。男が子供達を傷つけることなく、人間の娘だけを連れ出す可能性に。

 仮にも我を見つけて不意打ちをすることなく対話を求めた人間だ。その確率は高いと踏んだ。

 

 だがもしこの予想が外れていたら、ヴィルゾナーダは何をしていたかわからない。

 怒りの身を任せ、帝種としての力で災害をもたらし人の国を滅ぼしに行くのか。それとも残った娘を目にして共に過ごすのか。

 

 ともあれそのようなことにはならず、ヴィルゾナーダの希望的観測通りに事は運んだ。

 

 だが少し遅かったようだ。今、娘は手の届かない場所へと行こうとしている。

 既に探知の魔法は使った。対象が生き物である場合、反応があるということは生きていると言うことだ。それは喜ばしい事。

 だがあの娘はみるみる離れて行っている。飛んでいる訳ではない。速すぎる。恐らく川だろう。

 今すぐに追いかけたいところだがそれは……無理だ。

 

 巣が襲われた。次がないと言い切れるだろうか。もし追いかけて、その間に巣が襲われていたら……。

 我が弱っていることは周りの魔物にも伝わるだろう。そうすれば馬鹿が襲いかかってくることは想像に難くない。せめてもう少し我が回復するか、子供達が強くなるか。そうでなければ巣を離れることなど無理だ。

 

 あのバカ娘がいれば話は違ったのだがな。

 そうして諦念の中、あの娘の反応は場所が探知可能な範囲の中から消えてしまった。

 場所はわからなくなったが反応は返ってくる。まだ、生きている。

 

 

 後は信じることしかできなかった。あの娘は強い。だから大丈夫だと。

 

 それにしても、と。

 あの蛇共は本来群れるはずはないのだが。

 

 僅かな違和感と共に天帝は微睡みに身を任せた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第??話 鬼ノ刻

過去話につき鬱展開注意。
苦手な方はブラウザバック推奨。過去話は基本ダイジェストで行きます。
次の話の前書きに今回の話を簡単にまとめたものを置いていますので飛ばすこともできます。


 

 それは初めて転生したとき。

 

 目が覚めたときは混乱しました。

 何せ、目の前にいたのは額に角が生えた男女の二人組で、気づけば私は赤子だったのですから。

 

 人として、武家の娘として人生を全うした。そう思っていた私は何の因果か鬼の子として新たな生を受けました。

 最初は恐ろしく思っていました。転生などと言う概念を知るよしもなく、両親は人ではなく鬼。しかし両親は子供らしくない私に当然のように愛情を注いでくれました。

 オーガのように恐ろしく乱暴な訳でもなく、姿形は違えどその愛情の形は人と同じ。本当の二人の子供ではないかもしれないと、後ろめたさは感じつつもその暖かさを心地よく感じることは避けられなかったのです。

 

 今世の家は特に武術に関わりがあるようではなかったので、ただの村娘のように生きる事になると思っていました。しかし、そもそも鬼人というのは武を尊ぶ種族だったようで、子供の頃から良く手合わせに誘われました。

 相手は前世を合わせると半分以下の年の子供。武家の子供だった私は軽く揉んでやろうと思ったのですが……。ええ、もうボコボコにされてしまいました。こちとら女の子ですよ?もっと優しくして下さい……。

 

 戦いは素手で、武器はなし。殴る蹴るの徒手空拳など手を出したこともなく、悔しい思いをしました

 私はこっちだから、と良い感じの棒きれを拾って振り回していたのですが、元武家の娘として手合わせに誘われれば断ることなどあり得ません。もちろん敢えなく敗北。

 負け続ける事など認められるはずもなく父に手ほどきを求めることになりました。

 

 それからの私はまさに子供に戻ったようでした。飲み込みが悪くセンスが無い私に根気よく教えてくれる父。そんな私達を優しく見守って、させてくれた母。そして背格好は同じなのに、年の差を感じて勝手に距離を感じていた私を、遊びに誘ってくれた子供達。

 幸せでした。前世とは何もかもが違うけれど、それでも幸せだったと言えるでしょう。

 

 あいつらが来るまでは。

 

 突如として私たちの村は戦火に包まれました。

 一様に統一された鎧に身を包んだ人間。軍人だろう彼らが襲いかかってきたのです。

 鬼人の肉体的なスペックは人間のそれよりかなり上です。一対一なら力負けすることはないでしょう。

 ですがこれは最早戦争です。規律ある集団行動で確実に削ってくる人間相手になすすべもありませんでした。

 途中からは、最低限の知識のあった私が、皆にお願いして指揮を任せて貰うことで一瞬盛り返したものの、すぐさま潰されてしまいました。私の拙い技術ではどうにもならなかったようです。

 

 まもなくして戦いは終わる事になります。私たちの敗北という形で。

 多くの者が死に、生き残った者は開けた場所に一カ所に集められて捕らえられました。

 

 そうして一人、指揮官らしき男が前に出て言いました。

 

 彼は、拙いながらも指揮を執っていた私と戦いたいと。言葉が話せるだけの蛮族だと思っていたが、戦略のような者を使う私に興味が湧いたと。唯一武器を使う私と戦ってみたいと。

 

 鬼の村にあって武器の訓練をしていた私。戦いが始まってしばらくすると彼らから武器を奪う機会がありました。なのでそれを使っていたのです。

 

 そして勝負に勝てれば生きている者を皆解放するとも言いました。

 

 信じる信じないの以前に断る事などできるはずもありません。一も二もなく頷きました。

 

 そうして始まった戦い。彼は強かった。私が素手ではまともに戦うことすらできなかったでしょう。

 事実、村の皆も個人では弱いと思っていた人の強さに驚いていました。そしてそれとまともに戦えている私にも。

 

 前世での経験、そして今世での体術の経験と鬼としての肉体的スペックでなんとか拮抗していました。

 それでもやはり、私は足りていなかった。スペックの差に慣れたのか徐々に追い込まれていく。

 一手撃ち合う度の体勢が崩されていく。

 やがてそれが決定的になり鈍く光る刃が体に迫ったその時、咄嗟に取ったのはとある戦撃の型。

 

 実のところ私は戦撃を一度も成功させたことがありませんでした。前世で習って、そして今までに一度も。一番簡単な基礎的な技でさえも。

 

 何度も何度も挑戦し、発動することもなかった戦撃。諦めかけて、それでも諦めきれずに続けていた挑戦。

 

 無意識にすらすり込まれるほど繰り返した動きは。発動しない筈の戦撃は。

 

 私を――救ったのです。

 型をなぞるだけでは絶対に間に合わない攻防。戦撃の成功を示す、光を纏った一撃が相手の刃を押し返し、彼を大きく仰け反らせた。

 いまいち状況が理解できない中、これだけはわかりました。

 この一撃を当てれば終わる。彼に防ぐ術はない。私の勝ちだと。

 

 しかし―――

 

 ドスっと音がして、体がつんのめるように前に流れる。そんな決定的な隙を彼が見逃すはずもなく。

 体を斜めに切り裂かれた私は血だまりに沈みました。

 

 切り裂かれた部分が焼ける様な熱と、凍えるような寒さを伝えてくる。それとは別に背中に痛みが。

 

 矢が――刺さっていました。

 

 村の皆が怒りの声を上げる中一人の男がゴテゴテとした弓を片手に歩いてくる。そして言いました。

 

 ぶら下げられた希望はどうだったか?と。

 

 ああ、やはり彼らはそもそも約束を守るつもりなどなかったのです。

 

 続けて弓の男は言いました。

 

 これからは人間の時代だ。種として一番強い人間が他の種を支配するのだと。世界は弱肉強食。

 強い人間こそが正義で、他は悪なのだと。人こそが喰う側で他が喰われるのだと。

 だから弱いお前達は悪で、これから行うことの見せしめなのだと。

 

 そうして怒りに震えていた村の皆は殺されていきました。一人一人。無残に。見せつけるように。

 

 ――痛い。痛い。

 

 体ではなく心が。

 

 ――私が……強かったら皆を守れたのでしょうか。

 

 ここに生まれたのが私ではなく、前世の兄だったら。きっと誰一人犠牲なく皆を守ったでしょう。

 父だったら―――。母だったら―――。姉だったら―――。

 

 私が弱いから皆死んだ。皆喰われる側に回ってしまった。私が悪いのだと。弱い私こそが悪なのだと。

 

 止まらない涙の中、戦った彼は無表情で私を見下ろしていました。

 そうして私の鬼としての生は幕を閉じることになりました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13羽 初心者

前の話の簡単なおさらい。

鬼として転生し村で平和に過ごしていたら、人間の軍人に襲われた!村の皆と抵抗していたら、主人公が敵の指揮官と一対一で戦うことになったぞ!強かったけど、ピンチに今まで使えなかった戦撃が発動!
勝ったと思ったら敵がズルをして主人公が倒れてしまった。そして目の前でたくさんの仲間を殺されてしまい自分も死んでしまった。


 

 

 ……んむ。

 かなり懐かしい夢を見ていました……。鬼の能力が戻ってきたからでしょうか。

 

 木漏れ日が万華鏡みたいにユラユラ揺れてなんだか眩しいですね……。

 

 さて。

 

 どうやら進化した際に眠ってしまったようです。私の状態が進化してどのように変化したのか気になるところなのですが、もっと大変なことが起こりました。

 

 そう。

 

 ――――腹減った!!!

 

 というわけで食べ物を探し始めたのですが、美味しそうなものが見当たりません。いえ、頑張れば食べられそうなものは見つけられるのですが、できれば遠慮したいなぁと……。

 

 ですがそうも言っていられなくなってきました。どうもかなりの空腹状態な様でちょっとフラフラし始めました。洒落になりません。昨日は緊張状態だった為我慢していましたがもう無理です。

 ヤバいですね。

 

 木の実などはたまに見つかるのですが、どうも考える事は皆同じなのか既に他の魔物がいるんですよね。明らかに強いのが。しかもそこら辺にいる魔物は単純なスペックだと格上ばかりな様で、鬼眼がしっかり仕事をしてくれます。無理すれば勝てそうではあるのですが、もし音に引きつけられて連戦になるとかなり厳しいですね。しかも食べる前に襲われると消耗しすぎて詰みます。

 

 こうなったらもうそこら辺に生えている草を食べるか――――

 

「キシャアァァ!!」

 

 このミミズのような奴を倒して食べるか。

 さっきからちょくちょく、ウネウネふりふりキシャア!しているこいつを見かけるんですよね。

 こいつより弱い魔物は見かけなかったので、恐らくここの生態系下位層だと思います。まあ、スペックで勝っているのはこいつくらいなので私も同類なのですが……。悲しいなぁ。

 

 ともかくご飯に関してなのですが、私は食性的に植物はなかなか受け付けられない体をしています。

 穀物、木の実、虫、肉等しかまともに食べられません。好き嫌いなどではなく消化吸収の問題で。

 なので現状こいつ一択だけ。

 いやだなぁ。食べたくないなぁ。でもお腹すいたなぁ。……チラッ。

 

「キシャアァァ!!」

 

 ウネウネしてるよぉ。キモいよぉ。やだよぉ。

 

「キシャアァァ!!」

 

 うるせええええ!!!

 グシャッ!!

 あッ……、つい虫の頭に踵落しをしてしまった。どうしましょう……。

 

 ………。

 ……………………。

 ……………………………。

 

 い゛ だ だ ぎ ま゛ ず ッ !!!!!!!!

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ごちそうさまでした……。

 味?思い出させようとするのやめろ下さいませ。

 

 虫系はお母様にも無理矢理食べさせられた事がありましたが、まだ慣れませんね……。

 むしろミルが来て料理を作って貰ってからは悪化した気がします。文化的なご飯が合ったのでしばらく虫はなかったですから。

 

 ともかくお腹はふくれたので良さげな木の上に登ってステータスを確認しましょうか。

 

 

 名前 メルシュナーダ 種族:キッズバーディオン

 

 Lv.1 状態:普通

 

 生命力:413/413

 総魔力:226/226

 攻撃力:134

 防御力:55

 魔法力:55

 魔抗力:41

 敏捷力:386

 

 種族スキル

 羽ばたく[+飛行・風の力・カマイタチ]・つつく・鷲づかみ

 

 特殊スキル

 魂源輪廻[+限定解放(鬼)]

 

 称号

 輪廻から外れた者・魂の封印・格上殺し(ジャイアントキリング)

 

 

 

 ふむ。ステータスは全体的にかなり上がりましたね。紙装甲なのは変わりませんが、それは鳥故に致し方なしでしょうか。

 

 後の変化は「羽ばたく」に追加スキルとして「カマイタチ」が生えた程度でしょう。意識して羽ばたくことで「風の力」として打ち出していた風の塊に、切断力が追加されます。細めの枝なら切り落とせますが、木の幹には小さな切り傷ができあがる程度の威力です。今のところ牽制用ですね。

 なるべく使って魔法力が伸びるのようにしましょう。訓練すれば伸びるはず。

 

 ともかく今後の方針としては、流されてきた川を見つけ、上流に向かって進む。頑張って生き残る。

 

 ……以上!

 

 ……いや待ってください。私こういうの苦手なんですよ。仕方ないじゃないですか。何の準備もなく森の中にポツンとなんて一度も……、いや結構ありました。どうやって脱出したんでしたっけ。

 ……前世の能力を使って無理矢理でしたね。何の参考にもなりません、ありがとうございました。

 

 ……まあ生きてればなんとかなります。サバイバル、頑張りましょう!!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14羽 前門と後門

 

 目指すは流されてきた川。木から木へと飛び移っていると……、ヒュンッ!!と何かが飛来する音が。

 すぐさまコースを変更し、余裕を持って避ける。

 飛んできた岩は射線上にあった大木をへし折って役目を終えた。

 下手人は後ろから追ってきている猿のようなゴリラのような魔物。サイズはトラックほど。

 こうなったのは少し前のこと。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

 巣に帰る為には川をさかのぼる必要があります。木々が鬱蒼と茂った中、目的のものを探すのは視線が通らないので難しいのです。そう、上空から確認でもしない限り。

 

 雲一つない晴れ空に何もいないことを確認して危険を排除。飛び上がり、ぐるっと見渡せば一瞬でした。

 しかしそれは厄介事を招き寄せることになります。ホバリングする私に突如襲いかかる岩の砲弾。避けたところで飛んでくるへし折れた大木。川の方からは巨大な水弾。その他もろもろが襲来する。

 

 これはたまらないと急降下したところ、攻撃してきたであろう一匹に捕捉されてしまったというわけです。

 

 できれば戦いたくないんですよね。飛んでくる攻撃を避けながら思う。

 この猿ゴリラ、戦撃込みなら勝てそうなんですが単純なスペックはやはり負けています。不用意に空を飛んだだけで雨あられと攻撃がやって来たように周りに好戦的な魔物が多いです。一カ所に留まったまま戦えば、戦闘音で周りからわらわら別の魔物が集ってくるでしょう。そうして周りが敵だらけの乱戦に突入。事故の確率が格段に上がります。

 

 レベルは上げたいですが不用意な運ゲーは避けた方が好ましいです。漁夫祭りは嫌です。捌ききれなくなって、死にたくはありません。オリン〇スェ……。漁夫多過ぎ……。

 

 閑話休題(ゲームは置いといて)

 

 川さえ越えてしまえれば逃げ切れます。結構大きいですし、ワニっぽいのもいるのであの猿ゴリラでは渡れないでしょう。問題は川までたどり着けるかと、川を渡りきれるかですが……、猿ゴリラは私より速度があるわけでもないですし、度々足を止めて物を投げてくるので距離は縮まりません。

 

 渡りきるのは……、なんとかなるでしょう、多分。

 

 そんな事を言ってる間に川に着きました。とっとと渡ってしまいましょう。

 何かが飛び出してきても対処できるように水面から距離を開けて飛ぶ。高さは川岸にある木と同じくらいで。飛びすぎても厄介なので。

 四分の一も過ぎた頃には猿ゴリラも諦めたのか叫び声を上げるだけになっていました。

 と、水面に波紋が。そして影。急激に大きくなるそれに構えを取る。

 

 ――【側刀《そばがたな》】!!

 

 飛び出してきた影へと擦り上げるように蹴りを放つ。太陽がキラキラと反射するそれを猿ゴリラの方へと蹴り飛ばす。

 ……ワニではなく、巨大な魚でした。サイズは乗用車くらい?

 まあ、進行方向ととは反対に飛ばしたので、同じのにはもう襲われないでしょう。

 

 気を取り直して前に進んでいく。別のが飛び出してくるかも知れないので水面の注意は怠りませんが。

 半分は過ぎたでしょうか。後ろの陸よりも目の前の陸の方が心なしか近いような気がします。

 

 ――ッ!!!

 

 嫌な予感を覚えて咄嗟に急停止すると同時に、目の前も水面が爆発。

 弾ける水しぶきを避けるために後ろに下がる。水に濡れて体が重くなってはマズいですからね……。

 

 視線の先は水中……、では無く上空。そこには翼をはためかせこちらを睨み付ける存在が。

 翼竜と言えばわかりやすいでしょうか。さっきの水面の爆発はこいつのブレスですね。あのまま進んでいたら大けが、もしくは水面に叩きつけられてまともに飛べなくなっていたでしょう。

 

 そんな中、新たなお客さんが。

 

 ――嘘でしょう!?

 

 体を捻って水中から飛び出してきた魚をなんとか受け流す。どうやら懲りずに追ってきたようです。

 

 ここは川のど真ん中。

 上空に翼竜、水中に巨魚。

 ……あの猿ゴリラと戦った方が良かったかも知れません。

 




もし面白いと思って頂けたなら、お気に入りと評価をお願いします!!
感想もお待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15羽 鱗二体

お気に入りと評価ありがとうございます!
とっても嬉しいです!!


 

 上空は翼竜に押さえられて、水中からは魚が狙ってくる。かなり危機的な状況です。

 しかも両方鱗。蛇と言いこいつらと言い、鱗関係で良い思い出がありません。

 

 ともかく水中の巨魚は飛び出してくるまでどうすることもできません。なのでとりあえず翼竜の対処に注力しましょう。

 例に洩れずこの翼竜もしっかりスペックでは上です。できれば逃げたいですが、背を向けて無事で済むとも思えません。戦って活路を見いだすしかありません。作戦は命大事にです。

 

 私の戦闘スタイル的には接近できなければ話になりませんので、空を翼で叩いて一気に接近します。もちろん翼竜ものんびり眺めている訳ではありません。

 

 火球のブレスを吐いて返り討ちを狙ってくる。次々に飛来する火の玉を避けて、最低限の動きで距離を詰めていく。もう少しで手が、と言うよりも足が届く距離になった所で「ヒュンッ!!」という風切り音が。

 急制動をかけて横に避ければ、顔のすぐ横を鞭のようにしなった尾が叩き落としてやろうと通り過ぎていった。それだけでなく真下の水面が「ザンッ!!」と切り裂かれる。

 

 ぞっと、心臓が縮み上がるような寒さを覚えた。

 翼を切り裂かれて水に落とされた後、生きたまま魚のエサになるところまで想像できました。

 いや、ホントに逃げたいんですけど。

 

 警戒心から高度を下げて距離を取ると今度は下から魚が。

 特に芸のない飛び上がっての食らいつき。【側刀《そばがたな》】で受け流しながら、腹に回り込んで蹴り上げる。

 そこで空中で動きの止まった魚へ、

 

 ――【廻芯戟《かいしんげき》】

 

 相手の体の芯を捕らえた、戟の一撃ように鋭く突き刺さるローリングソバット。

 戦撃によって吹き飛ばされた魚は見下ろす翼竜の元へ。ぶつかれば御の字だったのですが、翼竜は冷静に尻尾の一撃で降りかかった火の粉を払いました。しかも魚の方も切り裂かれてはいないようです。

 

 こっちは紙装甲なのに……。

 相手二匹の防御力の高さに若干の悲しみを覚えます。

 

 とは言え翼竜は感傷に浸っている時間もくれない様で。魚を蹴り飛ばされたお返しだとばかりに火球がはき出される。旋回して避けつつ上昇していきます。

 すると上を取られるのを嫌ったのか、急上昇した翼竜が真上に張り付きブレスで圧力をかけてきました。

 

 ――このッ!!くッ、振り切れません!

 

 たまらず高度を下げます。

 このまま水面まで押しつけられるとマズいですね……。

 水に近づく程魚の飛び出し攻撃が避けられなくなります。水面付近まで行くと私は対処できないでしょう。

 しかし不安は的中しませんでした。翼竜が何故か下降をやめたからです。

 

 何故?その答えはすぐにわかりました。他ならぬ理由の本人によって。

 

 水中から飛び出してきた魚。咄嗟に蹴りつけ、反動でなんとか避けることができました。

 ……今のは少し危なかったですね。戦撃でなければ魚を蹴り飛ばすこともできません。一応普通の蹴りでも、木がまとめて二、三本はへし折れる筈なんですが。

 

 と、そこで一人得心が行きました。

 恐らくあの高さが魚に飛びつかれないギリギリに高さなのでしょう。見下ろし続ける翼竜に目を向ける。

 

 ……なるほど。

 私は魚の飛びつきに対処できていますが、この翼竜には難しいのかも知れません。魚の飛び上がりはかなりのスピードで、避けるのではなく、受け流しを強要されています。

 そして魚は魚で……。

 

 ではこれで行きましょう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16羽 生態系

 

 翼竜の現在位置は、魚の飛びつきがギリギリ届かないであろう高度。

 対する私は丁度中間の位置。下の水面と上の翼竜から半分。私が思う丁度良い場所です。

 

 ――来た!!

 

 水面に薄らと影が浮かび上がり、それが急速に成長する。私はそれに対処するため、微妙に位置を調整します。

 そして水面が膨張し、遂に弾丸が飛び出した。

 

 ――まだ、避けない。

 

 今までだったら既に回避行動を取っているような距離。それでもまだ動かない。

 引き付けて、引き付けて……。

 

 ――ここ!!!

 

 眼前まで迫った魚。巨大さからの質量と速度で以て生み出されるシンプルで強力な暴力。

 それを今度は避けるでも受け流すでも無く、受け止める。

 私を喰らわんと迫り来る口からはなんとか逃れ、額に着地。

 瞬間、全身がバラバラになりそうな衝撃が。

 

 ――グ……ゥっ!!、キツ……い……!!

 

 全身が軋む。受け止めた足はへし折れそうだ。でも、上手く行った。飛び上がってきた魚と一緒になって、ぐんぐん昇っていく。

 心が折れそうになる苦痛に自身を叱責し、魚を蹴り飛ばして更に加速する。

 

 直線上には――翼竜。

 ここに来て狙いが自分だとわかったのでしょう。あわてたように今更対処しようとしていますが……、遅いです。

 

 全身で受け止めたエネルギーと共に翼竜を見据え鬼気を解放する。

 

 ――【崩鬼星《ほうきぼし》】!!!

 

 踏み台にした魚のエネルギーと鬼の力が炸裂する。

 翼竜の脇腹へとたたき込まれたそれは、しかし芯を捕らえることはなく、弾き飛ばしてクルクルと横に吹き飛ばしていく。

 倒せてはいない。それでも

 

 ――上は取った!!

 

 上を陣取っている私にブレスを吐くためにはホバリングしなければ無理です。今までのように高速で飛行しながらの攻撃は、首を無理矢理上に向けなければならないためです。そんな飛び方では速度なんてたかが知れています。

 チャンスです。このまま押し込みます。

 

 意図しない急回転で目を回したのか頭を左右に振っている翼竜に一気に接近する。

 現状こちらに気づいた遠きの対処方法は絞られます。無理矢理上を向いてブレスで迎撃を狙うか……。

 今の様に尻尾での迎撃か。

 

 ――【狼刈《ろうがい》】!!

 

 狼の強襲の如き三連蹴りが翼竜を捕らえる。

 尾の切断力などものともせず一撃目で尾の攻撃を弱め、二撃目ではじき返し、最後の一撃で今度こそ撃墜せしめる。

 

 驚愕の鳴き声と共に墜ちていく翼竜は、しかし健在だった。大きなダメージは負っただろう。

 それでもすぐさま体勢を立て直し、自らを叩き落とした不届き者を睨み付けている。流石は竜と言ったところでしょうか。

 

 だが、それは魚には関係がなかったようですね。

 

 自らの手の届く範囲に入ったものに貪欲に喰らいつこうと翼竜にさえ身を躍らせる。

 

 翼竜も咄嗟に避けようとするが、やはり間に合わない。

 片翼に食いつかれ、重力に引かれて落ちていく。

 まだ目が死んでいない翼竜は首を回しブレスを放った。一回二回三回と、遂に耐えきれなくなったのか魚が口を離し、水に引き込まれることは防ぐことができた。

 

 この魚、恐らく火球は弱点です。かなりの防御性能があるのに翼竜が火球を打ち出しているときは水中から出てきませんでした。単純に余計なダメージを避けていたのかも知れなかったですが、反応を見るにどうやら火が苦手で正解だったようです。

 

 なんとか生き残った翼竜。

 だがその姿はボロボロだった。咬まれた方の翼膜には無数の穴が開き、飛び方は不格好。

 骨にもダメージがあるのかも知れません。

 

 ――これならスピードでは、もう負けていない。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17羽 Let's フィッシング

 

 上空を翼竜に押さえられていた状況から一転、私が上を取り魚の対処を押しつける事に成功しました。

 翼が傷ついた翼竜は満足に飛ぶこともできません。少し大変ではありますが逃げることも可能でしょう。

 ですが目的が生まれたのでこのまま戦います。

 

 さっそく翼竜が攻撃をしかけてきました。単純なブレスです。

 ……せっかくなので試してみましょうか。

 飛んでくるブレスを避けることなく――足で優しく衝撃を吸収し、刺激しないように一回転して明後日の方向へと蹴り飛ばしました。

 これには流石に翼竜もポカンとしています。

 

 やったことは単純です。私は飛ぶときに風の力を補助として使っています。その補助を足に回して、火傷をしないようにベールのように保護。後は火球を足で受けたときに、爆発しないようにすれば対処は簡単です。

 

 よし、これなら大丈夫そうですね。

 ふむ、どうやら私が火球を対処したのを見てブレスを使うのをやめましたね。

 無駄撃ちをやめて様子を見ることはできるようです。

 

 せっかくなので練習も兼ねて《カマイタチ》を使ってみましょう。

 羽ばたくと同時に発生する風に鋭さを追加。風の刃となってパラパラと襲いかかります。……弱いですね。

 翼竜の鱗に弾かれて全くダメージが入っていません。鬼の力は物理方面に偏っているので、これが本当の素の力になります。魔法方面の前世が解放できればまた変わるのでしょうが……。

 

 カンカンカンカン弾かれている《カマイタチ》ですが、フルプレートメイルの上から小石を投げられているくらいの威力はあるはずです。はっきり言って玩具ですね。

 相手をイラつかせる程度のことはできます。現に翼竜が火球を放ってきました。今回は打ち返さず余裕を以て避けます。

 相手をイラつかせるのは鬼眼の方がコスパ良くできますが、これは練習なので別に良いです。

 

 タイミングも良いのでもっかいやります。

 《カマイタチ》をパラパラふりかけます。ほれほれ~。

 

 相手は爬虫類なので表情なんてわかりませんが、何となくイラついている気がします。口からも炎が洩れてますし。

 あ、ブレス吐きました。結構沸点低いですね。熱くなりやすいのでしょうか。

 まあ、そのせいで下から飛び跳ねてきた魚に気づかなかった訳ですが。今更気づいたところでブレスを吐いて硬直した体では避けることなんてできません。

 

 このままだと魚のエサになるわけですが……、今回は運が良かったですね。

 

 

 翼竜がまともに動けないでいる間に、火球を受け流しの要領でサッカーボールのように絡め取り、飛んできていた魚の口にシューッ!!!

 空中でまともに動く術のない魚は避けることなんてできません。

 おまけで口を塞ぐように風の玉を投げつけてやれば、威力が逃げることなく、体内で大爆発を起こします。

 ただでさえ火が苦手な魚はなすすべもなく。

 

 結果しめやかに爆発四散。私の勝ちです。

 

 と、そこで比較的大きな魚の切り身(?)が飛んできたのでキャッチしました。そのまま口に運びます。

 

 あ、やっぱり美味しい。ジューシーな魚の旨みがギュッと詰まっていて、身がほろほろと崩れていきます。口に運ぶのが止まりません。

 いえ、翼竜が魚に捕まってブレスを何度も吐いたときがあったじゃないですか。あのときですね、こう、ものすごく良いにおいが漂ってきまして……。ちょっと狙ってたんですよね、翼竜を使って焼くの。私は火を使えないので。

 ……なんですか、まともなもの食べてないんだから仕方ないじゃないですか!!お腹すいてるんですよ!!

 

 誰にともなく言い訳をしていると翼竜がじっとこちらを見つめていました。なのでにらみ返します。

 

 なんですか。これはあげませんよ。もぐもぐ。

 これ食べるのに忙しいので帰ってくれません?もぐもぐ。あ、美味しい。

 

 戦撃を使うとかなりエネルギーを使うのでお腹が空くんですよ。ゴクン。

 

 しばらくにらみ合っていましたが……。

 おや?翼竜が背を向けて飛び去っていきました。……本当に帰りましたね。

 

 うーん、結果的に翼竜を助ける形になりましたから、引いてくれたのかも知れません。あのままやっても私の勝ちでしたが。

 不用意に戦わなくて良いならそちらの方がありがたいですので。

 魚を焼くのは必要だったので仕方ないですが。仕方ないですが。

 

 この場に留まっても良いことはありませんのでさっさと移動しましょうか。陸地に着いたらある程度離れた場所で休みましょう。今日は疲れました。

 

 




腹減ったから魚釣りやろうぜ!お前エサな!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18羽 大乱闘

お気に入り追加ありがとうございます!



 

 魚の焼き身を食べ、休憩してから数日が経ちました。

 今日も今日とて川沿いを上って行っているのですが、いつもと違うことが。それは音です。

 朝方から遠くでずっと戦闘音がしているんですよね。爆音、轟音、何かがへし折れる音。

 もう二時間近く音が鳴り止まないです。きっと漁夫に漁夫がやって来て収まりがつかないのでしょう。私には関係のない話ですが。

 

 と、そこでヒュゥゥという飛来音。なんだか嫌な予感が……。

 周りの木々をへし折りながら正面に何かが着弾。

 びっくりして固まっていると土埃の中から青い狼が現れた。気が立っていたのか、私を見つけるとすぐさま口元がびっしりと霜に覆われていく。ブレスだ。

 

 ――まずッ!!避け――ッ!!?

 

 しかし私が避けるまでもなく、突然現れた猿ゴリラが横殴りに青い狼を吹き飛ばしました。

 どうも巻き込まれたようですね。早く離脱しましょう。

 

 そう判断するとすぐさま上空へ昇っていく。しかし私が逃げることは叶いませんでした。

 いきなり影に覆われたかと思えば、強風に押しつけられるように吹き飛ばされてしまいました。上空を見れば巨大な蛾が。それが犯人の様です。

 

 なんとか体勢を立て直そうと苦心していると、高速で何かが突っ込んできました。

 

 ――このッ!!

 

 その速度に後先考える余裕もなく、無理矢理蹴りを合わせる。その一瞬で見えたのは眼鏡のような巨大な複眼と細長い体。蜻蛉《とんぼ》だ。

 弾き飛ばされる形で難を逃れることができました。しかし、飛ばされた先は地面。叩きつけられる前に、翼で勢いを殺すことに成功したと思ったら右の木がへし折られる。そこには黄色い熊が。プ〇さん!?。

 ところがその熊はそんなに優しい存在ではなく、放電しながらベアハッグを敢行。喰らったら死にます。

 滑歩《かっぽ》を使って安全圏へと避難……、できませんでした。

 攻撃は避けることができましたが、なんと魔物に囲まれてしまいました。

 

 ……やっぱり戦いに巻き込まれてしまったようですね。まだ遠くで戦闘音がしているので一部がこちらに来てしまったのでしょう。なんて運がない。しかもなんで私がど真ん中なんですか?やめてくれません?

 

 私を攻撃しようとした魔物が周りに気づき、今は睨み合いの様相になっています。中心は紙装甲の私。心臓に悪すぎる……。

 

 ――なんとか逃げなければ。

 

 じり……、と僅かに足を動かせばそれまでにらみ合っていた全員が一斉にこちらを振り向きました。

 ヒェッ!?襲いかかる氷、岩、風、地を這う雷。

 もう余裕なんて欠片もありません。頭をフル回転させて、氷を【昇陽《のぼりび》】で氷を蹴り飛ばして岩に当てて対応。襲いかかってくる風に私の風をぶつけて体勢を崩されない程度になんとか抑えます。

 雷は【昇陽《のぼりび》】で浮かんだ勢いを使って飛び上がって避ける。浮いた私にすぐさま突っ込んできた蜻蛉には【降月《おりつき》】をたたき込みました。蜻蛉は僅かに下に弾かれましたが、そのまま飛んでいってしまいました。

 

 そこからは大乱闘の始まり。魔物達は目に入ったものから襲いかかっていく。

 ブレスを吐き、爪で裂き、牙を突き立てる。

 私も全力で抗います。殴りかかってきた猿ゴリラの腕をかわし、頭に横蹴りをたたき込む。通常攻撃をものともせずに腕を振り続ける猿ゴリラ。こちらも舞うように攻撃を避けながら蹴り続けます。

 ちょこまかと避ける私に苛立った猿ゴリラの腕が大振りになる。チャンス。滑歩《かっぽ》で体をずらすように避け、【昇陽《のぼりび》】で吹き飛ばすと、その先にいた青い狼にぶつかり絡まれることになる。

 

 すぐさま振り向いてバックステップをすると、さっきまでいた場所に帯電した爪が振り下ろされていた。

 地面を蹴り、飛び上がって頭に一撃をたたき込む。

 

 ――【廻芯戟《かいしんげき》】!!!

 

 黄色熊の顔面を的確に捉え、ダメージで大きく仰け反らせた。そして私は――地面に崩れ落ちていた。

 

 ――これは……麻痺?電気で……。痺れて体が動かない……!

 

 体の不調に混乱していると影がかかる。

 気づけば正面に熊が怒りの形相で爪を大きく振り上げていた。

 

 ――無理です、避けられない!!

 

 来たる痛みに思わず体を強張らせる。体は未だに言うことを効かない。

 ところが熊が視線を斜めに逸らすと同時に、巨大な蛾が激突する。どうやら吹き飛ばされてきたようだ。

 

 ――助かった……!!

 

 おかげで少し痺れが取れてきました。麻痺は『頑強』を貫通してきた様ですが、回復にも影響があります。

 そこでブウゥゥンという羽音が近づいてくる。痺れの残る体で無理矢理横に飛ぶと背後から強烈な衝撃が。当然吹き飛ばされます。

 回る視界の端で捕らえたのは飛び去る蜻蛉。

 

 ――ぐぅッ!!背中に切り裂かれたような熱が。大顎が掠ったのでしょうか。吹き飛ばされたのは羽?

 

 なんとか受け身を取るも痛みに視界が赤く染まる。……違う!これは鱗粉!?

 見れば帯電している熊を嫌ったのか、大きく羽ばたいている羽から赤い鱗粉が流れてきている。

 

 そして蛾の触覚が震えると同時に轟音、爆発。

 

 煙が消え去れば中心部はクレーターになり、地面がむき出しの状態に。もちろんそこの木々は全てどこかに行ってしまいました。

 

 ――いったぁ……。

 

 爆発の衝撃に全身が痛みます。それでもなんとか生き残りました。

 鱗粉に気づいてすぐ全身から風を放出し、空白地帯を作れたのが大きかったようです。そうでなければ死んでいました。

 

 ――この爆発です。流石に皆死んだのでは?

 

 期待を込めて見回せば希望は打ち砕かれました。痛みに呻いていますが全部生きています。蛾に至っては無傷。自分の能力ですから何か耐性があるのかも知れません。

 さっそく起き上がった猿ゴリラが元凶の蛾に喧嘩を売りに行きます。なんでそんなに元気なんですか……。

 

 私はと言えば目と目が合ってしまった青い狼が襲いかかってきました。全身と背中が痛みますが泣き言を言っている暇はありません。

 

 飛んでくる氷を打ち返してやれば、容易くかみ砕きながら飛びかかってきました。滑歩《かっぽ》で滑るように懐に潜り込み、【昇陽《のぼりび》】で顎を打ち上げ、【廻芯戟《かいしんげき》】で蛾と猿ゴリラの方へと蹴り飛ばす。一生そこで絡まれててください。

 

 今のうちに反対側へと逃げだそうとすれば、地面から電撃が襲いかかってくる。

 跳んで避ければ上から叩き落とすように爪の一撃が。触れたらマズい!!熊の腕と私の間で風の塊を爆発させる。熊は微動だにしませんでしたが私はとても痛かったです。それでも避けることができました。

 空振ってすぐさまベアハッグをするために両腕を振り上げた熊。隙だらけですよ!!

 

 ――【崩鬼星《ほうきぼし》】!!

 

 一瞬の隙を突いた紅蓮の一撃が黄色熊の胴体に突き刺さり、そのまま貫通した。

 鬼気を解放した状態の『頑強』は貫通できなかったようで麻痺にはなりませんでした。

 正面に敵はいません。このまま行けば逃げられる……!!

 

 着地と同時に逃げだそうとすると背後からあのブウゥゥンという羽音が。

 あちらの方が速いです。追いつかれますね。迎え撃つべきでしょう。

 

 ――これは背中のお礼ですよ……。

 

 振り向き、半身に構えて腰を落とし全力で地面を踏みしめる。

 

 ――【鬼伐《きばつ》】!!!

 

 地面を砕く勢いで、弧を描くように振り上げられた足刀が正面から蜻蛉を切り裂いた。

 僅かにタメが長いのと、移動しないために待ちが必要なのが弱点ですが威力は折り紙付きです。

 

 他の敵はいませんね。残りは向こうで争っています。

 付き合ってられません。このまま逃げます。

 

 ……次からは戦闘音が聞こえたらもっと早く逃げるようにしましょう。

 

 ある程度距離をとって振り返れば魔物が更に増えていました。あのままあそこにいたらと思うとゾッとしますね。

 疲れました……。もっと離れたら今日は早めに休みましょう。

 




下手に戦うとこうなります。魚と翼竜の時は結構早めに決着がついたので集まる前に逃げられました。
……この回はもっと早くに出すべきだったかな?
猿ゴリラは別個体です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19羽 雨のち

 

 巻き込み事故からなんとか逃げ出し、数日が経ちました。

 熊と蜻蛉を倒した事もあってレベルが上がり、猿ゴリラくらいの魔物なら戦撃で瞬殺できるようになりました。おかげで食糧問題の方も少し解決。

 順調に川を上っていたのですが途中から別の大きな問題が発生してしまいました。

 

 それは目の前の二つに分かれた川。これ見て貰えばわかると思います。

 どちらが流されてきた私が方なのか全くわかりません。実はここ三日くらいで二つの分岐を通ってきました。これが三つ目の分岐です。

 他の分岐での先が同じように分岐していたとしたら加速度的に正解を引く確率は下がってしまいます。

 これ以上増えた場合正解を引くことは無理です。

 

 ですが止まっているわけにも行きません。運を天に任せて進むだけです。最悪近くなれば巣にしていた巨大な木が見えるはずです。

 そうすればこちらの物。まっすぐに飛んでいけば良いだけですから。流石にあんなに巨大な木がポンポンあるわけでもないでしょうし。

 

 とりあえずここは……、右に進んでみましょう。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

 三時間後、私は途方に暮れていました。

 

 ――どうしましょう。

 

 目の前に現れたのは三つに分岐した川。

 

 ――無理では??

 

 皆さん覚えておいてください。乱数は敵です。確率も敵です。許されません。

 

 もうふて寝しますね。今日はおしまいです。明日になればなにか良い考えが浮かぶかも知れませんし。

 空模様もなんだか悪くなってきたので雨宿りができる場所を探して――とか考えている間に降ってきました。

 

 羽毛に覆われている私は雨に濡れるのは悪手です。身軽さが死んでしまいますので。

 とりあえず木の下を通ってなるべく雨を避けながら、雨宿りができる場所を探していきます。

 

 捜索開始から数十分。手頃な洞窟を発見しました。

 良い感じの岩陰でもと考えていたので、予想以上に良い物件です。

 

 やることもないのでステータスの確認でもしましょうか。

 

 

 名前 メルシュナーダ 種族:キッズバーディオン

 

 Lv.26 状態:普通

 

 生命力:1096/1096

 総魔力:413/413

 攻撃力:356

 防御力:121

 魔法力:133

 魔抗力:106

 敏捷力:746

 

 種族スキル

 羽ばたく[+飛行・風の力・カマイタチ]・つつく・鷲づかみ

 

 特殊スキル

 魂源輪廻[+限定解放(鬼)]

 

 称号

 輪廻から外れた者・魂の封印・格上殺し(ジャイアントキリング)

 

 

 結局の所、熊も蜻蛉も猿ゴリラも格上なのでレベルはポンポン上がります。

 おかげで生まれたばかりの頃とは比べ物にならない強さです。

 まあ鬼の力を考えないと、ミミズみたいな奴を除く、会った魔物全部に負けているのですが。

 うーん、素の私弱すぎ?

 

 スキルは増えませんでした。各上相手に効かない攻撃を無意味にする余裕もないので仕方ないのかも知れないですが、戦撃しかまともに使ってないですからね。

 

 ステータスも一通り確認し終わりましたが、雨が止む気配はありません。むしろ強くなる一方ですね。

 今日はここで夜を明かすことになりそうです。

 

 ……皆元気かなぁ。今頃ミルにご飯でも作って貰っているんでしょうか。

 お母様はミルを酷使していないでしょうか。……なんだか心配になってきました。早く帰らないと。

 ……それにしてもお母様はなんでまだ助けに来てくれないのでしょうか。もしや、獅子が子を崖から落とすのと同じ感じでしょうか。

 考え始めると止まりません。

 ……捨てられたとか怪我で動けないような状態だとか、嫌な考えがよぎってしまいます。

 

 はぁ、やめやめ。嫌な考えを追い出すように頭を振る。

 じめじめしているせいか、考えも暗いものになってしまいます。そんなことより川の分岐をどうにかすることを考えるべきでしょう。全く良い考えが思い浮かぶ気はしませんが。

 

 ……おや?洞窟の奥の方がボンヤリと光っています。警戒しながら慎重に確認しに行くと、どうやらそれはキノコのよう。

 観察してみましたが特に危険性はなさそうです。これが洞窟の中を薄らと照らしていて、更に奥に続いていることがわかりました。

 

 ……進んでみましょうか。雨も止みそうにないのですし、今日はここで夜を明かすことになるのです。寝ている間に奥にいた魔物に襲われてしまった、なんて事のないように確認しておきましょう。

 そんな理論武装をして自分を納得させると進み始める。

 

 所々に光るキノコが生えていて天然の照明になっていて明るさに困ることはありません。暗さで見えなくなれば引き返そうと思っていたのですが問題なさそうですね。

 

 ズンズンと進んでいくと次第に景色に変化が。

 

 ――これは……レンガ?人工物が何故こんな所に?

 

 無骨な岩肌だった洞窟はやがてレンガで整備された通路のようなものに。

 所々崩れていますがまだしっかりと通路の役割を果たしています。

 

 ――先になにかあるのでしょうか。

 

 意図せずに見つけたものですが好奇心に負けて進むことを選択してしまいました。

 しかたないですよね。

 未開の地で見つけた人工物。これを探索せずにいられるだろうか。いやいられない。はんご。

 

 ――行き止まり?

 

 通路はクネクネと曲がり始めて、どれほど先があるのかわからない中、それでも進んでいると遂には終点終点に着いてしまった。

 そこにはレンガで覆われた壁があるだけ。

 それ以外特に何もなく落胆しかけました。

 

 ……いや、これは。

 

 行き止まりのレンガを足でつついてみる。

 ……やっぱり。明らかに他の壁に比べて薄い。先がある。

 蹴り飛ばすと拍子抜けするほど簡単に崩れた。最近作られてものでもなさそうですし劣化していたのでしょうか。

 

 レンガの壁を抜けるとそこには広大な空間が存在していた。

 

 ――凄い。

 

 天井にもキノコが生えているのでそこがドーム状の洞窟であることはわかりました。

 そして一際目を引くものが。厳めしい装飾が施された巨大な扉。その大きさは巨人が使っていたのかと思うほどです。

 

 ――これのためにあの通路は作られたのでしょうか。

 

 興味を引かれて更に一歩踏み出す。

 そして――

 

 ――頭上から強烈な死の予感が。少なくとも今世で体験したものでは比べ物にはならない。

 

 ――なッ!!?

 

 竦みそうになる体を必死に動かす。

 

 通ってきた通路は――間に合わない。全力で横に飛ぶ。

 訳もわからないまま、横殴りの衝撃に吹き飛ばされる。

 

 ゴロゴロと転がって距離を取る。

 

 さっきまで私がいた場所。

 絶望的なバケモノがそこにはいた。

 

 重厚なな四足歩行の巨大な体躯。他を圧倒する強大な威圧感。全体を強固な鱗で覆われまるで戦車の様だ。そこにいるだけで死を連想させられる。

 

 ――雨のち地竜《ちりゅう》なんて最悪の天気ですね……。

 

 この前会った翼竜が赤子に感じられる。正真正銘生物としての頂点捕食者。

 

 好奇心は猫をも殺す。ならば鳥はどうだろうか?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20羽 不利×格上=やめてください死んでしまいます。

すまぬ。短い。


 

 マズいですね……。何がマズいってもう全部がマズいですね。

 

 頭上から降ってきた魔物。鱗があり、翼がないことから地竜と称したこいつは正真正銘バケモノです。

 今まで森で出会ったどの魔物と比べることすらおこがましいと感じるほど。

 おまけに今いる場所、巨大なドームとはいえ天井があり、キノコがあるとはいえ周りが薄らと見えるだけ。頭上から降ってきたことから上の方に移動できる何らかの手段があると思われる。

 高さ制限に加え、暗闇。格上相手に圧倒的アウェー。

 

 これがマズい状況ではないというならそいつは頭がおかしいです。

 

 そして更に最悪な情報が。こいつが頭上が降ってきたときに私が通ってきた通路は塞がれてしまいました。

 逃げるに逃げられません。

 他にも通路がある可能性はありますがこの暗闇の中、この地竜を相手にしながら探すのは相当骨が折れるでしょう。最早物理的に。

 何より私が通ってきた通路のように隠されていては、しっかり腰を据えて探さないと見つけられる気はしません。

 あとはあの巨大な扉に賭けるしかありませんが……、扉も同様に悠長に調べる時間を与えてはくれないでしょうね。

 

 不利でしかない状況で、できればこんな格上は相手にしたくありません。私の知っている竜種は、知性が高く会話できるものもいたので、話し合いを試してみましょう。活路を開けるかも知れません。

 

「チチチッ?(落ち着いてください。お話ししませんか?)」

 

 出てきたのは小鳥が囀る音だけ。

 あっ……、私しゃべれないじゃん……。

 

「グオォォッォオッッォオオ!!!」

 

 竜の咆哮と共にテンパったまま戦闘が始まった。

 

 初手は単純な突進。しかしそれは竜種の強靱な肉体から繰り出されるもので、大型のトラックとすら比較にならない。

 相手の姿がうまく視認できない中、なんとか【側刀《そばがたな》】を合わせることに成功する。

 だが――

 

 ――戦撃でもまともなダメージになっていない。硬すぎる。

 

 強固な鱗に阻まれて傷一つ付けることもできない。それどころか、相手が強すぎて完全には受け流しきれずにダメージを貰ってしまいました。暗闇でうまく見えない状況ではあるものの、私は戦うときに目だけに頼っているわけではありません。五感全てで相手に対応しています。それでも地竜の攻撃が受け流せなかったのは、ひとえに単純な実力差に因る物。

 

 まさか戦撃でかすり傷すらないとは思いませんでしたが。

 

 弾かれるままに距離を取り、呼吸を一つ入れる。

 

 ――焦る必要はありません。ゆっくり行きましょう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21羽 上げて落とされると人は怒ります。まあ私には関係ない話ですが

 

 戦撃でまともなダメージにならない以上ここは積極的に逃げに徹するべきでしょう。

 それに『側刀』は使い勝手こそ良いですが、威力は戦撃の中で下から数えた方が早いです。他の威力の高い戦撃ならダメージ自体は与えられる可能性もあります。

 

 ともかく出られるかどうか扉を確認しましょう。まともにやって勝ち目はないです。

 地竜が次の攻撃をしかけてくる前に飛び上がり、少しでも安全圏を目指します。

 

 頭上を舞う私に地竜は視線を向けたまま離さない。距離を離したまま、円を描くようにゆっくりと扉の方へ移動していく。

 

 そんな中こちらを睨み付けていた地竜。何を思ったのか前足を力強く振り上げて、地面を踏み砕いた。

 

 ――なにを?

 

 天井付近を飛んでいると土煙と共に地竜の姿が見えなくなった。暗さもあり、何をしているのか全くわかりません。

 

 ――土煙の中から遠距離攻撃でもするつもりでしょうか。

 

 しかしわざわざ小細工をする必要性は感じられません。圧倒的に不利なのは私なのですから、単純に攻撃してくるだけでかなりの負荷になります。攻撃の出を見えなくするのは脅威ですが……。

 

 ゴゴゴゴゴ、と突如として洞窟全体が揺れ始める。

 

 ――なにが……

 

 パラパラと頭上から砂粒が降りかかり――――弾かれるようにして天井から距離を取る。

 間髪入れず真上が弾けるように砂をまき散らす。

 

 ――上から!?地面を掘って?最初に上から降ってきたのはこれですか!

 

 危険を感じ取ってすぐに動いたものの完全には防げない。直撃は免れたものの被弾。受け身も取れずに地面に叩きつけられる。

 

 ――う……、く……。

 

 痛みに呻きながらなんとか立ち上がる。

 足で受けられたから良かったけれど、そうでなければ全身の骨が折れていたでしょう。

 

 一方の地竜は天井から飛び出したまま重力に身を任せ―――するりと地面に潜り込んだ。まるで入水するように。

 

 潜る、と言うより土が避けている。そう表現する方が的確でしょうか。

 ともかく天井付近が安全圏ではなくなりました。と言うよりも洞窟全部が危険域です。

 ……無理ゲーでは??

 

 何より先ほど攻撃を受けた右足があまりの衝撃に痺れています。……あまり無理すると折れそうですね。

 急だったこともあり、暗闇の中ではうまく力を受けきることができず、変な受け方をしてしまった。

 視覚だけに頼っていないとは言え、それでも周辺の情報取得の大きな割合を占める。

 

 ――場所があまりにも不利。

 

 さっきも思ったがその考えにたどり着く。この場所そのものが地竜に味方している。

 地面を泳ぐ能力をもったこの地竜には、全面が土でできたこの場所はホームグラウンドでしかない。

 

 やがて地面から浮かび上がってきた地竜は、前足から地面を踏みしめて体を持ち上げると、体を揺すって砂を払い落とした。

 徐ろに息を吸い込んだかと思えば――――ブレス。

 

 怖気のあまり息を吸い込む前から地面を蹴って飛び出していた。

 砂漠の砂嵐を込めたのような強烈なブレスが後ろを通り抜けて行く。

 その範囲は正面から地竜を見たときよりも広い。まるでミキサーだ。あの中にいれば、大量の砂粒に外側から削り取られて骨すら残らない煙となって消え去るだろう。それも一瞬で。

 

 勝てるビジョンなんで欠片も浮かばない。

 

 ――早く扉へ……!!

 

 吹き飛ばされはしたものの扉は先ほどより近い。なりふり構わず扉へと急ぐ。

 しかし地面を泳いで距離を詰めてきた地竜は、私の必死さをあざ笑うように悠々と扉との間に陣取った。

 

 ――この!!どいてください!【崩鬼星《ほうきぼし》】!!!

 

 鬼気が膨れあがり、顔面に直撃した戦撃はしかし、効かない。硬質な音を周囲に響かせただけで、地竜は微動だにしなかった。

 羽虫が止まったかのごとく、自分の顔に止まったものを邪魔そうに見ている。

 

 ――そんな……。

 

 強すぎると思った。硬すぎると思った。

 それでも鬼気を纏った戦撃でさえ、まともに通じないとは思いもしなかった。

 

 ――しまッ!!

 

 呆然としているからと言って、地竜は待ってくれない。鬱陶しそうに頭を振って浮かび上がった私に、体を回転させてなぎ払うように尾を叩きつけてきた。

 

【側刀《そばがたな》】をなんとか合わせ、無様に地面を転がされる。

 自分にだけダメージが積み重なっていく。徐々に先行きが暗く閉ざされていく。

 

 それでもまだ諦めることはしない。ただ、皆に会いたいから。

 

 追い打ちを掛けるように突進。

 急いで右へと進路から逃れようとするが地面が盛り上がって壁が生み出された。ならばと反対を見ればそこには既に。上と後ろも同様。遅かった。

 皮肉な事に前だけは地竜を見やることができる。

 

 ――囲まれた!!

 

 壊して逃げるのは……間に合わない。無理です。

 こうなったら全力で応酬するしかありません。本能が警鐘を鳴らし冷や汗を垂らす中、半身になり全力で地面を踏みしめる。

 

 ――【鬼伐《きばつ》】!!!!

 

 爆発する鬼気。地面を蹴り砕いて右足を振り上げる。

 拮抗は一瞬もなく。競り負けたのは――――私。

 

 止めきれない威力に後ろの壁ごとぶち抜かれ、意識は細切れにされる。

 鞠のように何度も地面をバウンドしてなにかにぶつかり止まった。そこでようやく自分が吹き飛ばされたことに思い至る。

 

 嫌な音が全身からする中、背中の壁を伝ってズルズルと体を起こす。

 右足は折れてますね……。全身の骨も罅だらけ。翼もまともに動かせない。

 

 痛い。死にそう。それでもなんとか生きてます。吹けば飛びそうな意識をなんとかつなぎ合わせ、状況を確認すれば、なんと後ろは求めて止まなかった扉。

 

 最後の希望を込めて扉を押す。

 

 だが――

 

 触れた瞬間わかった。この扉は開かない。単純な押し引きの問題ではなく、何かしらの封印が施されている。

 少なくとも今の私では、絶対に開けられない。

 

 絶望。

 

 最初は扉は開かないだろうと思いました。そして地竜の強さがわかる度に扉にたどり着けば逃げられる、その思いが強くなっていました。人間は単純なもの。希望があればそれにすがります。

 

 泣きっ面に蜂と、地竜が突進を始める。

 全身の骨は罅だらけ。足は折れて走れない。翼は動かず飛べない。つまり避けられない。

 

 ――これで終わり。この扉の小さな赤いシミになって。もう、お母様にも、弟妹達にも、ミルにも、もう、会えない。

 

 朧気な意識ので、そう思考が追いついたときに生まれたのは大きな悲しさと――――怒りに似た感情だった。

 

 ――私はただ、笑って生きていければ良いだけなのに。

 

 ――私はただ、幸せに生きていければ良いだけなのに。

 

 ――それは許されない。いつだってそう。

 

 千々になりそうな意識でも思考は回ることを止めない。

 

 ――人は、生き物は、周りは、世界は。

 

 ――ただ、弱いと言うだけで。理不尽に踏みつぶしていく。

 

 それはこんな世界では当然で、当たり前で。そうされないために、今まで力を着けてきた。それを今更

 

 ――こんな……トカゲ如きに。

 

 霞む目でそれを捕らえる。

 

 ――こいつは敵だ。理不尽をもたらすものは全て敵だ。それが――世界であろうとも。

 

 ――貴方が私の生を喰らおうとするのなら――――私が貴方を喰らいましょう。

 

 ズンッ!!と強烈な衝撃音。だれが見ていても終わったと思う状況。

 そんな中、地竜の顔に初めて驚きと呼ばれるような表情が浮かぶ。

 

 なぜなら今まで押し負けていた相手が突進を足で受け止めていたからでしょう。

 

 地竜の瞳に映った私の目は深紅に染まっていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22羽 夜の支配者

 

 それは一般的に、死者が蘇った伝承上のものだとされていた。活動できるのは夜の間だけ。日の光が当たると体が焼けてしまう。しかし、彼らの時間では絶大な能力を発揮する。

 

 夜の支配者、吸血鬼。

 

 不老不死で人智を越えた身体能力を持ち、コウモリと親和性がある。

 時に不思議な術を使い、時に空を飛び、そして人の血を食料とする。

 

 その存在は世界によっては実在し、――――かつて私がそうだったこともあります。

 

 そして今から使う力も同じものです。

 

 扉に力なく背を預け、項垂れるだけしかできなかった傷だらけの体が、みるみるうちに再生していく。不死とまで言われる吸血鬼の再生能力が、歪な音と共に罅だらけだった全身の骨をつなげ直し、折れていた右足すらも元通りに治してしまった。

 

 怪我は治りましたが痛みの感覚はまだあります。それでも緩慢な動きで起き上がり、正面から押し潰さんと迫り来る地竜の大質量の突進を、足で受け止める。

 

 轟音の後にこれまでどうしようもない脅威だった筈の地竜が完全に沈黙する。容易く踏みつぶせると思っていたのでしょう、瞠目して驚いています。実際さっきまではそうだったのでしょうがないですが、まだそう思われているのは腹は立ちますね。ほら、これで起きてください。

 受け止めた足を引き絞り、爆発的に突き出す。

 

 ――【貪刻《どんこく》】

 

 単純な横蹴り。しかしそれは柔な金属なら簡単に貫き、強固な合金にさえ、文字通り足跡を刻みつける一撃。前に進みながら使えないためリーチは短いですが、出が速く強烈な単発蹴りです。反して消費が激しく今まではまともに使えませんでした。

 

 威力はご覧の通り。今まで微動だにしなかった地竜が地面を削りながら転がっていく。

 

 良い目覚ましになったんじゃないでしょうか。効いてはいるでしょうが致命傷にはほど遠いですから。嫌になるくらい硬いです。鱗の上からではまともなダメージは期待できません。

 

 のそりと体を起こした地竜は鋭い眼光で私を貫く。

 先ほどまでの蟻を見る目ではなく、自らを殺しうる存在として認識されたようです。

 慢心したままであれば楽だったのですが、そうも行かないようですね。

 野生の本能が強い生き物は相手の脅威によって評価をすぐさま改めます。これが人間であれば、まぐれだとか偶然だとか言って現状を認めないことも多く、簡単な話なのですが。

 

 地竜は前足を地面に押しつけると体を地面に埋《うず》め、ワニのように上半分だけを出して様子を窺っています。恐らくこれが本来の戦いのスタイルなのでしょう。

 体の半分が地面の下にある。私は手を出しづらく、地竜にはなんの障害もない。

 実に強力な体勢です。それも嫌になるくらい。

 

 グルグルと、円を描くように私の周りを回っていましたが、地面の中に潜っていきました。

 

 要注意です。どこから来るかわかりません。

 地鳴りも振動もない。完全な静寂。まるで時が止まったかのよう。

 

 それを引き裂くようにして突如として吹き上がる砂塵。砂を目くらましにして暗闇の中、這うようにして迫る尾の一撃を見切るのは大変だったでしょう。

 

 ――今の私でなかったのなら。

 

 タイミングを完璧に合わせ、【降月《おりつき》】で地面に押しとどめます。

 この暗闇の中でも、昼間のようによく見える。これもひとえに吸血鬼としての能力のおかげです。

 吸血鬼は夜の生き物。暗闇など勝手知ったる我が家のようなものです。

 

 それと吸血鬼とコウモリが似ているからなのかはわかりませんが。

 

 ――見ていずとも背後から迫ってくる石柱の対処ができます。

 

 足を巡らせて苦もなくへし折る。

 

 自分を中心に一定範囲で起こっていることが見なくてもなんとなくわかります。

 コウモリは超音波ですが、私は違って第六感のようなものですね。

 

 石柱を蹴り砕いたそこへ土砂と共に地竜が突っ込んで来る。

 滑歩《かっぽ》で滑るように下がり、隙だらけの左の首に飛び上がって【貪刻《どんこく》】をたたき込んだ。地竜は苦痛の鳴き声を上げましたが、今度は吹き飛ぶことなくその場で踏みとどまって見せました。

 

 重苦しい殺意が乗った眼光と視線が交わり。

 真下から突き出た石柱が、私の胸のど真ん中を抉って空中へと打ち上げた。

 

 ――カハッ!!?

 

 肺が押しつぶされ空気が絞り出される。吸血鬼でなかったら死んでいました。

 傷は再生されていくが、息ができない。予想外の一撃になすすべもなく、宙を舞う。

 

 肺はいまだ動かずあえぐこともできない中、視界の端で地竜がブレスの予兆を見せた。

 酸欠で体の動きが鈍い。避けきれない。

 水の中にいるかのようなもどかしさ。なんとか体を動かしていく。

 遂に蓄積が終わった顎門から致死の一撃が発射された。

 

 ――避けられた?

 

 ブレスが当たった様な感触は感じられなかった。と言うよりも左の感覚がない。

 

 ――ぐぅ……!!?あぁッ!!

 

 見れば左の翼が消し飛んでいた。自覚すると共に極大な痛みが襲いかかる。

 吸血鬼の再生能力がいくら強力とはいえ、全身が消し飛ばされては流石に死んでいました。九死に一生を得られたとは言え、翼がなければ飛べない。星は慈悲もなく掴みかかり、抵抗できない私は錐もみしながら自由落下を開始する。

 眼下では体躯を一瞬縮こまらせた地竜が、放たれた弾丸のように地を泳ぎ始める。

 どうやら着地狩りをしようという腹積もりですね。

 

 肺はまだ治りきっていない。なら消えた翼はもっと後だ。落ちる前には間に合わない。

 どうする……!!

 酸素不足で頭が回らない。徐々に暗くなっていく視界の中、振り回される体をなんとか制御しようと片翼で宙を掻く。

 

 ……やめました。

 

 翼をたたみ、余計な抵抗をなくせば自然と頭が一番下にやって来た。視界はぼやけている。目をつむって感覚に身を委ねます。

 その間にギチギチと音がしそうな程体を仰け反らせ、力を溜めていく。

 

 死が土を捲る音と共に迫り来る感覚に、世界は色を失い緩慢になっていく。

 地竜が近づいてくる。地面が迫ってくる。死が追ってくる。

 その様子が全部わかる。そして。

 

 ――今!!

 

 鱗の上でミンチになる一瞬前。風を爆発させ自分に当てることで僅かに位置をずらした。

 突進をスカされ無防備を晒した左首に溜めた力を解き放つ。

 

 ――【牙沈衝耽《がしんしょうたん》】!!!

 

 上下から牙を沈め込まれたかのような衝撃に襲われる重い八連蹴り。技の発動から完了までが単発技クラスのスピードで、本当に咬まれたかのように全ての蹴りがほぼ同時に上下から炸裂します。

 バカみたいに闘気を持っていくので、手が使えるなら戦撃の選択肢にはほぼ上がりませんが、強力であることは間違いありません。

 

 激突に際し、地竜と私はは反対方向へと吹き飛んでいきます。地竜は衝撃で。私は反作用で。

 落下の衝撃は相殺できましたが、もう力が入らず着地などままなりませんでした。

 苦しい!苦しい!

 砂の上で藻掻く中ようやく肺が治りました。

 すぐさま空気を貪っていく。

 

 ――はあッ!!はあッ!!死ぬかと思いました……!!

 

 宙を舞う砂混じりですが今は吸えるだけでありがたいです。

 体を起き上がらせるのは地竜も同時でした。

 

 ……もう体力が少ない。元々死にかけだった上に強力な戦撃を連発しました。

 再生もタダではありません。しっかり体力を消費します。左の翼の再生も終わっていません。

 

 攻撃も効いてはいますが鱗を壊さないと決め手に欠けます。体力が尽きる前にどうにかしないと。

 

 翼をなくしたハンデの中、地竜が襲いかかってきた。

 泳ぐようにして距離を詰めてきた地竜。一度地面に潜ったかと思うと、浮上した勢いのまま飛びかかってくる。

 

 ――【側刀《そばがたな》】

 

 翼がなくなっても基本は変わりません。冷静に【側刀《そばがたな》】を合わせ、右へと攻撃をいなす。そのまま【狼刈《ろうがい》】へ繋げ、着実にダメージを与えていく。

 反撃を予想していたのか狼狽えることなく反転し、大音響の咆哮を上げた。

 

 すると地竜を中心に地中から乱雑に布に針を突き刺したかのごとく岩が突きだしてくる。

 密度が高い。間を通ることはできません。次々に飛び出してくる剣山をバックステップで避け続ける。

 効果範囲から逃れれば既にブレスを吐こうとしている所だった。

 剣山で下がらせ、その間にブレスの準備。あわよくば剣山でダメージ。

 殺意高いですね!!

 

 効果範囲から逃れるべく、地面を蹴って更に自分を風で吹き飛ばした。

 

 ――痛い!!

 

 強烈なミキサーが背後を通り過ぎていく。自爆は痛かったですが間一髪で助かりました。

 着地後すぐさま距離を詰めていきます。翼が直りきっていない現状、距離を開ける方が危険です。

 なるべく近づいた方がいいでしょう。

 

 すると地竜は先ほどと同じように咆哮を。地面からは乱杭歯のように石剣が迫ってきます。

 地竜を中心として発生しているため、回り込むのは無理。

 ……強行突破します。先頭の石剣を蹴り砕けば、先には止まった石剣があるだけです。上を蹴り飛んで進んでいく。

 その間に再びブレスを吐こうとしている地竜。させません。

 

 ――間に合え!!【崩鬼星《ほうきぼし》】!!

 

 剣山を蹴り砕きながら突貫し、まさに発射されようとした顎にドロップキックが突き刺さった。

 無理矢理顎を押さえられ、口の中でブレスが暴発。恐らく竜生で初めてであろう予想外の痛みに目を剥いて狼狽えている。

 チャンス。

 

 ――【貪刻《どんこく》】!!

 

 バキリと。乾いた音が響く。

 

 ようやくです。遂に鱗が砕けました。

 もう砕けるだなんて思いもしなかったのでしょう。地竜もその感覚に驚いています。

 ほとんどの戦撃は左の首ばかり狙っていました。私はひたすらその中から、たった一枚の鱗だけを狙っていました。

 

 吸血鬼の力が解放されたとは言え、地竜の硬さはかなりのもの。決めきる前にこちらが力尽きてしまいます。

 勝つためにはどうしても鱗を砕く必要があったのです。

 たった一枚。されど一枚。

 もちろんここをひたすら攻撃して地竜を倒す。そういう訳ではありません。

 

 一気に肉薄し『鷲づかみ』で体を支え、嘴《くしばし》で鱗がなくなった場所を『つつく』。

 

 直後、身をよじった地竜に振り払われてしまいます。

 

 ですがもう目的は達成しました。

 

 地竜には知りようもないでしょうから、良いことを教えてあげましょう。

 吸血鬼は血を吸ってからが本番ですよ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23羽 血の力

 

 嘴に含んだ甘露が喉を滑り落ちる。

 

 吸血鬼とは読んで字の如く、血を吸う鬼です。

 単に血は食料であるだけでなく、力を得るための重要なファクターでもあります。

 今までは吸血なんてしていませんでした。それで地竜と渡り合ってきたのです。

 

 それが血を口にした場合どうなるのか。

 

 目も眩むような高揚感が訪れ、次いで体の奥底から力が噴出する。湧き上がる全能感を押さえつけて、力の先行きを指定します。

 すると気持ちが悪いほどの速度で肉が盛り上がり翼の再生が終わりました。

 

 さあ、第2ラウンドの開始ですよ。

 

 何度目かの驚愕の表情を貼り付けた地竜に一気に肉薄する。

 地を這うような姿勢から一撃。

 

 ――【血葬《けっそう》・昇陽《のぼりび》】

 

 右足から伸びた朱殷《しゅあん》の斬撃が、鱗もろとも地竜を深々と切り裂いた。

 先ほどまであれほど苦戦していた鱗をものともせず、たったの一撃。

 傷跡から血が舞う明確なダメージに、仰け反り苦痛の悲鳴を上げる地竜。

 

 闘気だけでなく、私の血を纏った戦撃。

 血葬とは元々はスキルの名前なのですが。血を吸うだけではなく、血液を扱う能力。血を第三の腕のように扱うことができます。

 自分の血を使うため多用すると貧血に陥るのがネックですが、それも吸血すれば補填が可能です。

 

 戦撃の発動が終わって着地すると、仰け反った地竜がギロリと睨み前足を叩きつけてくる。

 見据え、襲いかかる巨大な圧力を正面から迎え撃つ。

 

 鉄分を含み魔力を浸透させた血液は凝縮させれば、易々と壊れることのない強固な防具となる。

 

 ――それを使えばこんなことだってできます。

 

 ――【血葬《けっそう》・打衝《だしょう》】

 

 足から腰、腰から肩、肩から翼へと力を伝播させた突き。

 太くずっしりと力を感じさせる地竜の腕と細く軽い私の翼。激突すれば誰もが前者が勝つと断言する戦いに拮抗する。互いの殺意が乗った視線が交わる。

 力を込めていた地竜が埒が明かないと判断したのか突如としてガパリ大口を開けた。

 極小の砂の粒子達が私の全身を削り突くさんと殺到する。

 

 ――《ブラッディ・スカー》

 

 身体能力のみに突出した鬼とは違い、吸血鬼は魔法も得意です。

『カマイタチ』を『血葬』で血に染めて打ち出された嵐が地竜のブレスを僅かに押しとどめる。打ち勝つことは無理ですが、時間稼ぎくらいならできる威力にはなりました。

 ギリギリとせめぎ合っていた腕の力をフッと抜く。翼で威力を後ろに流しながら足を持ち上げ回転。

 ブレスが通り過ぎる音を聞きながら、腕に乗って頭上へと飛び上がる。

 

 ――【奈落回し(ならくまわし)】!!

 

 高速回転した踵落しが地竜の頭のてっぺんに叩きつけられる。

 衝撃に頭が地面へと弾かれ、叩きつけられる前に地面に潜り込んだ。……衝撃をうまく逃がした様ですね。

 

 姿は見えないですが、地面下で泳いで隙を伺っています。

 

 地面が割れ、突如として足下から石柱が襲いかかる。後ろに下がれば合わせて半身を出した地竜が噛みついてきた。迫る顎門を受け流し、返しの蹴りを放てば奇妙な手応えが。蹴りの衝撃で、半身は潜ったままの地竜が後ろに滑る。どうにも地面に威力か吸収されている様ですね。

 ぬかに釘、といった所でしょうか。地面に潜っている間は大したダメージは期待できません。

 再び地竜が潜り、石柱と地竜の噛みつきがランダムに襲いかかってくる。冷静に捌き、躱し、返していく。

 

 厄介ですね……!!こちらの攻撃が決定打に至らない。

 

 ――攻撃を全部いなすとかずるでしょう!ちゃんと撃ち合ってください!!

 

 内心で特大ブーメランな愚痴を吐きつつ、ひたすら地竜の攻撃を捌いていると決定的な隙を晒してしまうことになる。

 後ろに下がった拍子に、足下にいきなり現れた段差に踵が引っかかり躓いてしまったのだ。

 

 ――しまった!!

 

 地竜がしかけた罠です。見逃すはずもありません。咄嗟に翼で立て直したものの間に合わない。

 驚くほどの機敏さで飛び出してきた地竜を避けきることができずに、左足に噛みつかれてしまった。

 

 ――抜け出せない!!あ……。

 

 フワリとした浮遊感。鼻先で目が合った地竜は笑っている気がしました。

 

 ドゴッ!!!!勢いよく地面に叩きつけられる。受け身なんて取れません。

 視界がチカチカと点滅する。傷は治りますが痛みはあります。

 

 再びの浮遊感。

 

 ――待っ!!?

 

 ドゴッ!!ドゴッ!!と何度も叩きつけられた地面が割れていく。私は言わずもがな。

 十数回ほどでしょうか、玩具にされたところで地竜が叩きつけるのを止めました。

 持ち上げられた私は力なくぷらぷらと揺れます。喉の奥から熱が吹き上がり、地面を赤く染める。

 

 ――ゲホッ……!!ゲホッ……!!はぁ……、はぁ……、痛いです。死にそう。

 

 こちらを見つめる地竜は満足げに目を細めています。ドSか。

 それでもまだ終わらせるつもりはないのか更に持ち上げられ地面に叩きつけられる。

 ……前に《ブラッディ・スカー》で足を切った。左足に訪れる叫びそうなほどの喪失の痛みを食いしばって我慢する。

 

 ――いい加減にしてください。【貪刻《どんこく》】!!

 

 突然手応えを見失った地竜の鱗を蹴り砕いて地面に転がす。横滑りして地面に体で線を引いて止まった。

 

 ――く……ぅ……!!

 

 すぐに地竜から離れて滞空。

 切れた左足の断面が盛り上がり再生していく。

 吸った血の効力もそろそろ切れそうです。血を飲んだ当初よりも再生速度が遅い。

 もう一度補給したかったのですが地竜はその隙を晒してはくれませんでした。流石に警戒されているようです。

 補給できないなら、血の効果があるうちに終わらせるしかありません。

 地竜が前足を地面に押しつけ、沈んでいく。再生が終わった。体は問題なく動くようになりましたが、また潜られてしまいました。

 

 滞空して警戒していると、天井から上半身を出した地竜がそのままブレス。

 前よりも範囲が広くなったように感じるブレスを全力で飛んで逃げ、地竜に接近していくとすぐに潜ってしまった。

 そして離れた場所から顔を出してブレス。追いつく前にすぐに潜って別の場所へ。すぐブレス。

 潜って、顔を出して、ブレスして潜る。

 

 ――こ、こいつ!!!

 

 地面から上半身だけ出してブレス。行けば逃げる。

 

 ――恥ずかしくないんですか!!貴方竜でしょう!?土竜《もぐら》叩きやってるんじゃないんですよ!?

 

 しかし腹が立つほど合理的な戦い方だ。厄介きわまりない。

 ブレスもやはり範囲が広がっていてかなり避けづらくなっています。その分威力は分散しているようですが。

 このままでは負けますね。ブレスでじわじわ削られても、時間が経過するだけでも私は負けます。

 吸血の効果が消えて終わりです。一度見せた吸血がもう一度決まると思うのは流石に楽観視しすぎでしょう。

 

 ……賭けに……でます。

 

 天井に顔を出した地竜。比較的近い。これなら行けます。

 風を裂いて加速。吸血鬼は飛ぶのも得意です。速度はそれまでの比ではありません。

 そうしている間にも地竜はチャージを完了させ、遂に砂のミキサーを解放した。

 それでも私はまっすぐ進むのを止めない。魔力を解放する。

 

 ――《ディープ・ライン》

 

 凝縮された朱殷の一線が砂塵に突き刺さり、威力を弱めた。そこへ『血葬』した翼に戦撃の輝きを乗せて大きく振りかぶり、遮二無二飛び込む。

 拡散して弱まったブレスに、魔法で威力を弱め、そこに血葬の防御に戦撃の威力、私の再生力があれば突破できる……筈。故に賭け。

 

 ――はあッ!!

 

 突きだした右の翼にブレスが激突する。威力だけでなく血葬も削られていく。

 ダメージは右の翼に集中しますが、庇いきれない部分は砂塵に晒されます。それを血葬で守るも次々に削られていく。徐々に翼と体の外側から削られていくのを、無理矢理再生し、血葬で時間を稼ぐ。

 突破できるか中で死ぬか。視界は砂で遮られ終わりが見えない。叫びだしそうになる恐怖を押し殺してひたすら前を見る。

 もう止まれない。戦撃は発動してから止めることはできません。この戦撃が止まるのは私が死んだときです。

 

 かくして――賭けに勝った。十分以上にも感じられた、2秒にも満たない僅かな瞬間のこと。

 

 広すぎるブレスで視界が狭まっていた地竜の目の前に、ブレスを突き破って私が現れる。

 

 全身血葬によるものなのか負傷によるものなのかわからない赤に染まっている。事実、満身創痍。

 残り少ない吸血の効果を身を守るためでなく、攻撃に回すために。

 そんな私を見て驚愕し、急いで天井に潜り直そうとする。

 

 ――【血葬《けっそう》・剛巌腑損《ごうがんふそん》】

 

 一撃目の右突きはブレスに振り抜いたものです。

 次いで勢いそのまま回転し二撃目の左回し蹴り。ヒット位置をずらして寸止め。地竜を蹴るのではなく『鷲づかみ』する。左足を引く次撃の予備動作で天井から引きずり出した。逃がしませんよ。

 左足を引いた勢いのまま回転。左の裏拳を落下し始めたばかりの地竜の腹にねじ込めば、轟音と共に背中から天井に激突した。

 

 地面に潜る気配は、ない。

 

 第2の賭けに勝ちました。

 何度も地竜が地面に潜る姿を見てきましたが、とある法則を見つけました。潜るときに必ず前足からという法則です。体の一部が既に潜っていれば潜り直すことはできるようですが、全身が出てきた後は再度前足を沈めないと潜行はできません。

 確証はありませんでしたが、正解だったようです。

 

 逃げ場のなくなった地竜に右膝の追撃。衝撃が臓腑を貫いて背後の天井を割り砕いていく。

 

 ――まだまだ!!

 

 膝を伸ばして突き刺さるようなヤクザキック。

 そこに天井から伸びた石柱が襲いかかった。まだ戦撃は終わっていない。大した回避動作が取れない中、僅かに体をずらして致命傷を免れる。それでも脇腹を大きく抉られてしまいました。

 熱い物が喉元をせり上がるのを無理矢理飲み下し、攻撃を続ける。

 更に一撃、二撃、三撃と天井から背中が離れる隙も与えず打ち据えていく

 目が、合う。未だ獰猛に牙を剥きだして生きることを止めない。

 頭上から尾がしなり、力強くなぎ払われる。それを――――頭で受け止めた。

 

 ――ぐうぅッ!!終わりですッ!!!!

 

 

 終撃。

 

 地面にはたき落とそうと力が込められ続ける尾を気力だけで押し返す。

 遮るものなし。全身全霊のソバットの衝撃が臓腑をズタズタにかき回した。

 

「オオォォォ……」

 

 今一度天井へと叩きつけられた地竜の体が力なく落下していく。

 今度は潜ることなく地面に激突して地響きを届かせた。動くことはない。

 一拍の後、先ほどの激突で崩れていた天井の一部が地竜の体の上に降り注いで覆い隠してしまった。

 

 ――お、終わった。

 

 安堵と疲労感から膝から崩れ落ちる。もうまともに動けない。休ませてください……。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24羽 進化して②

感想いただきました!ありがとう!



 

 激闘の末死した地竜。その上に堆《うずたか》く積まれた瓦礫の前に力なく座り込みます。

 しばらく動けそうにありませんのでステータスでも確認しましょうか。

 

 名前 メルシュナーダ 種族:キッズバーディオン

 

 Lv.35 状態:進化可能

 

 生命力:35/1407

 総魔力: 6/ 498

 攻撃力: 462

 防御力: 167

 魔法力: 189

 魔抗力: 151

 敏捷力:1024

 

 種族スキル

 羽ばたく[+飛行・風の力・カマイタチ]・つつく[+貫通力強化]・鷲づかみ[+握撃]

 

 特殊スキル

 魂源輪廻[+限定解放(鬼)・(吸血鬼)]

 

 称号

 輪廻から外れた者・魂の封印・格上殺し(ジャイアントキリング)

 

 

 レベルが26から35に上がっていました。かなり上がりましたね。地竜の強さからすると少ないような気もしますが、文句は言っても仕方ないので諦めましょう。

 ステータスは軒並み上がって、敏捷力は遂に1000を突破。死にかけなせいで生命力と総魔力の現在値がかなり低くなっています。吸血は効果切れなのでゆっくりですが、双方回復しています。

 

 今回使った『つつく』と『鷲づかみ』に新スキルが追加されました。

『つつく』は『貫通力強化』です。今は試す体力はないので検証はできませんが、吸血の助けぐらいにはなるんじゃないでしょうか。

『鷲づかみ』は『握撃』です。多分握力が強化されたのでしょう。

 

 後は特殊スキルに『吸血鬼』が追加された事でしょうか。

 吸血鬼の能力を見ていきましょうか。

 

 ・限定解放(吸血鬼)

 

 解放能力 [+夜の支配者:公爵級・血葬・高速再生・飛行適正・空間把握]

 

「夜の支配者:公爵級」は吸血鬼としての基本能力ですね。夜の間全ての能力に補正が加わって逆に日の下では弱体化します。暗闇でも一定の効果があります。夜目の効果もこれですね。

 そして吸血鬼としての能力全てに公爵級としての補正が加算されます。

 

 公爵級と言うのは吸血鬼のランクを表したもので、通常下から男爵・子爵・伯爵・侯爵・公爵があります。

 私は公爵級なのでこの中ではトップなのですが、別枠として真祖とか始祖などのバケモノがいるので特別強い方ではありません。

 

「血葬」は吸血関連能力をまとめたものです。吸血によって全ての能力が上昇します。増血効果あり。自分の血を自在に操る事ができる。遠くからでも血の匂いがわかるようになります。

 

「高速再生」は傷が速く治る能力です。翼が生えたり、足が生えたりしたやつです。

 

「飛行適正」は飛ぶのが得意になる能力です。

 

「空間把握」は自分を中心に一定範囲の事が見ていなくてもわかります。暗闇だとなお良しです。

 

 

 スキルはこれだけですが吸血鬼は軒並みステータスが高いので素の力がバカ強いです。スキル込みだと鬼の方が攻撃力に関しては上ですが、それ以外は圧倒しています。

 

 まあ鬼の人生は成人する前に死んでしまったことと、吸血鬼が単純に寿命がかなり長いことがかなりの要因を締めているのですが。

 

 そして最後。状態の進化可能です。

 進化、しましょうか。

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 現在:キッズバーディオン E+

 

 →ビッグバーディオン:D+

 →バーディオン:D

 →パラキード:D

 →キッズスワロー:D

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 進化先は今回は四つ。

 前回と比べてスモールバーディオンがなくなり、ビックバーディオンが追加されています。

 バーディオンとパラキードはキッズでなくなってしまいました。代わりにキッズのスワローが追加されています。

 

 ビッグバーディオンは大きいバーディオンなのでしょう。お母様の種族はわかりませんが、それに近づくのではないでしょうか。

 バーディオンは汎用種、パラキードはインコの成鳥なのでしょう。

 キッズスワローはスワローの子供、つまりツバメの子供。

 

 ビッグバーディオンが非常に魅力的ですね。お母様の強さは知っていますし、ミルが言うには帝種という世界最高峰の魔物であることもわかります。行く先がお母様の種族であるなら、強さは約束されていると言っても良いでしょう。

 しかしネックが一つ。現状私の強さとこの森の環境から、大きくなることはメリットばかりではありません。ビッグバーディオンがどれほどの強さかはわかりませんが、デメリットの方が大きいような気もしています。私の戦闘スタイルが防御寄りのカウンター狙いなので、小回りが利きにくい種族は相性が良いとは言えません。

 

 とりあえずバーディオンでお茶を濁すのも手です。パラキードはよくわかりませんね。せめてどんな種族なのか教えてくれれば良いんですけど。

 

 キッズスワローはキッズなのにバーディオンと同じランクに区分されているのがポイントですね。確かツバメは渡りをしていたはずなので飛ぶのは得意な筈です。

 そう考えるとインコであるパラキードはあまり飛ぶのが得意ではないのかも知れません。野生よりも飼われているイメージの方が強いですからね。

 

 ……良し、決めました。成れるかはわかりませんが、ビッグバーディオンは将来に取っておきましょう。

 今回はキッズスワローに進化します。とりあえずのバーディオンで迷いましたが、より長距離が飛べそうなキッズスワローにします。早く帰りたいですからね。

 

 ポチッとな。

 あれ……?疲れがでたのでしょうか。なんだか……、眠……気が……。

 

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

 

 

 

 んむ、どうやら寝ていたようです。少し休むだけのつもりだったのですが。進化をすると眠ってしまうのでしょうか。次は気をつけないと行けませんね。

 とりあえず進化後のステータスを確認しましょうか。

 

 

 名前 メルシュナーダ 種族:キッズスワロー

 

 Lv.1 状態:疲労(極度)

 

 生命力:102/1998

 総魔力: 52/ 658

 攻撃力: 513

 防御力: 199

 魔法力: 233

 魔抗力: 181

 敏捷力:1422

 

 種族スキル

 羽ばたく[+飛行・強風の力・カマイタチ・射出]・つつく[+貫通力強化]・鷲づかみ[+握撃]

 

 特殊スキル

 魂源輪廻[+限定解放(鬼)・(吸血鬼)]

 

 称号

 輪廻から外れた者・魂の封印・格上殺し(ジャイアントキリング)

 

 

 

 む、体が重いと思ったらステータスに表示されるほどの疲労ですか。そのせいか生命力も総魔力も全然回復していません。早くここを出て何か食べないとマズいかもですね。残念ながら地竜は瓦礫の下。食料にはできません。掘り起こす体力はないです。

 

 巻いていきましょうか。

 伸びたステータスはもう良いでしょう。

 スキルの『風の力』が『強風の力』になっています。

『射出』というスキルが追加されました。何だろうと思ったのですが、ふと思い出されたのがお母様が翼竜を羽で蜂の巣にするシーンです。これは多分羽を発射するスキルですね。

 他に変化は特にないですね。

 

 ステータスの確認はこれくらいにして扉を見に行きましょう。

 

 傷ぐらいついていてもおかしくないと思っていたのですが、無傷ですね。

 扉について思ったのはそんな感想でした。

 ドーム状の洞窟が所々崩れていたのにきれいなものです。

 

 しかし残念なことに封印のようなものは健在。開くことはありませんでした。

 

 マズいですね。地竜が門番のように存在していたので倒せば流石に開くと思っていたのですが。

 こうなると元来た通路を掘り返すくらいしか手がありません。今の体力では……力尽きるのが先でしょう。

 ジワジワと焦燥感が足下から迫ってきました。

 焦りで冷静な思考が保てない。

 

 どうする……、どうする……。折角地竜を下したのに、死因が餓死では……。

 

 と、その時僅かな感覚が何かを捕らえました。

 

 これは……風!?

 

 僅か、ほんの僅かですが風の流れを捕らえました。恐らくですが『強風の力』が影響しているのでしょう。今までの『風の力』では捕らえられなかったか細さ。

 鳥の姿になった今、風は友のようなものです。風の流れは手に取るようにわかります。助かりました。

 

 風の流れをたどっていくと、私が通ってきた通路の真反対辺りにたどり着きました。

 目の前には今にも崩れそうな壁が。蹴り飛ばします。

 そこには同じような通路がありました。当たりです。

 

 疲労を圧してできうる限りの速度で急いで飛んでいきます。

 レンガで舗装された通路から、岩肌がむき出しの洞窟に変化して行きます。

 しばらく飛んだ後突き当たりにたどり着きました。しかし突き当たりの壁からは光が漏れて風が抜けています。

 

 ――やった、外です!

 

 再び壁を蹴り飛ばせば……

 

 ――ィッヅ!!

 

 壁が崩れて日に当たった瞬間、全身を焼かれるような痛みに襲われました。咄嗟に下がったのでそれだけで済みましたが、危なかったです。

 ソウルボードに吸血鬼を設定している時は日に当たると体が焼かれてしまいます。元々の吸血鬼の特性です。長時間そのままでいると普通に死にます。死因:日光浴は避けたいものです。

 

 解放と同時に勝手にメインに設定されていた吸血鬼を外して鬼をメインにします。

 するといきなり全身に鉛を埋め込まれたような体の重さに襲われました。思わずふらつきます。

 疲労の影響ですね……。吸血鬼の再生力で無理矢理動いていたのが、できなくなったからでしょう。

 かといって吸血鬼をセットし直して日が落ちるまでここで待つという選択肢はありません。

 何か口にしなければ日が落ちるまでに死にます。

 

 地面に張り付きそうな体を無理矢理動かして前に進む。

 

 意識がはっきりとしない。

 どこをどう進んだのかはもう覚えていません。飛んでいたはずがいつの間にか体を引きずるようにして地面を歩いていました。

 

 奇跡的に他の生き物に襲われることはありませんでしたが、食料となる生き物にも会えていないと言うことでもあります。手頃な木の実も見つかりません。

 

 ――いたっ。

 

 疲労からボーッとしていたようです。壁に額をぶつけてしまいました。避けようとしますが、どちらにも只管壁が続いています。いえ、これは地面です……。どうやら、倒れ込んでしまったようです。

 体に力が入らない。

 

 ――マズ……もう……意識が。

 

 徐々に目の前が暗んでいく。

 目の前が闇に飲まれる瞬間、じゃりっという土を踏む音が聞こえた気がしました。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第 幕間1羽

短め、主人公不在です。


 

「あの、リヒト」

 

「なんだい?ミル」

 

 深い森の中、二人の男女が歩いていた。少し前までヴィルゾナーダの巣で餌付けしていたミルと、その幼なじみである少年、リヒトの二人組だ。

 少年の方は自然体だったが、少女の方は距離を測りかねているような様子があった。

 

「あの、お礼を言いたくて。ありがとう。あたしを助けに来てくれて」

 

「ああ、そのことか。もう良いって言っただろ?当たり前だって」

 

 申し訳なさそうに笑う少女に少年はどこまでも明るい笑顔を見せる。

 助けるのが当たり前だと心の底から思っている笑顔だった。

 

 そんな少年は一瞬も周囲を警戒することを止めていない。

 中心部かなり離れたとは言え、ヴィルゾナーダから逃げ出した以上追ってくる可能性もある。何より、深部からはぐれた危険な魔物がいる可能性もある。

 

「雰囲気ちょっと変わったし、前まではこんなに……」

 

「強くなかった?」

 

「あ、……うん」

 

 途中で言葉を濁したミルの言葉を続けるリヒト。ますます申し訳なさそうにした幼なじみに、ちょっぴり苦笑いを溢して言葉を探し始めた。

 巣から逃げるさなか、行く手に立ちふさがった巨大な蛇をこの幼なじみは一刀のもとに斬り伏せたのだ。あの大蛇にミルが詳しくはないとはいえ、離れたときの幼なじみの実力では、申し訳無いが無理だった。

 万全の状態でも、時間稼ぎがせいぜいだろう。それが、今のボロボロの状態で一撃なのだから、何があったのだろうと思ってしまうのは仕方のない事だ。

 

「そうだね、少し……思い出しただけさ。あのときと同じように助けられなかった事をね」

 

「え?」

 

 後悔を滲ませ下を向くリヒト。

 そんな彼に疑問が生まれる。そんなことあっただろうか?と。

 ミルとリヒトはずっと同じ村で育った。そんな事があれば知らないはずはないと思うのだが。だが、嘘でも何でもなく、握りしめられた拳には実感がこもっていた。

 

「ほら、帰ってきたよ。僕らが拠点にしている街だ」

 

 疑問を口にしようと思ったとき、目の前が開け遠目に街の城壁が目に入った。

 安堵と疲労に疑問は吹き飛び、忘れてしまった。そして余裕の生まれた心にするりと入り込んできたのはこんな疑問だった。

 

 ――メル、大丈夫かな?ううん、あの子は強いから、きっと大丈夫だよね。

 

 思わず振り返り、祈るように両手をギュッと握ると、帰るべき場所に足を向けた。

 

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

 

「それで首尾は?教祖様?」

 

 光の差さない薄暗い部屋で人影が二つ。

 

「まずまずと言ったところか。世界樹に関してはまだ無理だろうが、他はしっかり進んでいる」

 

「しかしすげーよな。出産で弱っていた(・・・・・・・・)のに、あの大蛇、簡単に片付けちまうんだから」

 

「それに関しては、三体ほど他の存在に倒されてしまったからな」

 

 思い出すのは、生まれたばかりの子鳥と突然現れた人間の男だ。

 魔法攻撃の低減くらいしか特殊能力を持たないが故、純粋なスペックは高めだった筈。

 それを生まれたばかりの子鳥が二体、男が一体倒したのだ。全部天帝に当てていたらこれからの計画も楽だったのだが……。

 まあ大蛇は人間にとっては強い方だろうが、たいしたことのない捨て駒だ。

 

「あれに関してはしばらく様子を見る。お前はジャシン教の幹部として他の計画を進めてくれ」

 

「へいへい」

 

「それと他の幹部にもよろしく言っておいてくれ」

 

「……あいつら協調性ないからなぁ」

 

 嫌そうな顔をしてひとり消えた。

 

「ああ、ジャシン様。早くお会いしたい」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第??羽 吸血鬼ノ刻

注意、過去話につき鬱展開注意。
長かったので分割。


 

 鬼として死んでから、何度か人として転生した。そして転生というものの存在を知った。

 

 当然の様に私は自分の殻に閉じこもった。人が怖かったから。

 人付き合いは最低限。生きるために最低限の稼ぎだけを手に入れ、人の記憶に残ることもなくいつの間にか死んでいました。

 

 吸血鬼として転生した時も変わらない人生を送るんだろうと思っていました。

 他ならぬこの姉が現れるまでは。

 

「どーん!お姉ちゃんだゾ☆」

 

「ごふッ!!?」

 

 ドアが開いて姉が現れたと思うと突然抱きついてくる。

 屋敷の自室に引きこもる私に、毎日襲い……ではなく、顔を見に来てくれました。

 

 公爵級の吸血鬼の一家の末娘として生まれた私。

 広義で魔族とされる私の家は、能力の高さがあって魔族の国ではかなりの立場を持っていました。

 何不自由なく育ち、そして両親に愛されていたとも思います。人間不信のままでしたので、確信は持っていませんでしたが。

 

 そして両親は人間との戦いのさなかで殺されました。

 

 どうやら人類勢力と魔族は長年争っているらしく、戦争のさなか殺されてしまったそうです。

 

 吸血鬼として堕落を貪って約100年。変わることのないと思っていたいつもの光景は突如としてなくなってしまった。

 当主の交代。そのゴタゴタに巻き込まれる事はついぞありませんでした。姉が全て自分で終わらせてしまったから。

 姉はその時から凄かったのです。吸血鬼として若く、そして女。舐められる事も多かったはず。

 その悉くを力や知略でねじ伏せました。やがて魔族の中で一目置かれるようになり、名を知らぬものはいなくなりました。

 

 私とは真逆です。

 私は穀潰し以外の何物でもないはずだったはず。それなのに毎日毎日、邪魔でしかない私の様子を見に来てくれる。

 

 それでもあの光景が忘れられない。鬼として過ごしていた村での突然の悪意が忘れられない。

 目の前で一人、何度も体を無残に突き刺された。

 目の前で一人、哄笑と共に切り刻まれた。

 目の前で一人、止めてと叫ぶ声を無視して袋だたきにされた。

 目の前で一人、一人、一人……、何人も苦しんで死んだ。人の悪意で。

 その度に、目から光が消えゴムの様にグニャグニャと重力に引かれる体が、乱雑に積み上がられた。

 その光のない目が、お前のせいだと責めている。力なく垂れた指が地面に倒れる私を指さしている。

 

 何度転生したって、悪夢はいつでも側にあった。

 人はどこにだっていて心が安らぐ場所はなかった。人のいない場所にはそもそも危険しかなかったからすぐに死んだ。どこにも行けなかった。居場所はなかった。

 そして死んでも終わりはなかった。すぐに転生するから。

 

 

 その日は忙しいはずの姉が、起床の時珍しく家にいた日でした。悪夢を見て錯乱し、只管謝罪を繰り返している私の元に飛んできた姉。抱きしめて背中を撫でて大丈夫だと慰めてくれた。

 それなのに私はその大丈夫だという言葉が心に引っかかり、グチャグチャになった感情のあまり理不尽な言葉をぶつけてしまった。

 

「うるさい!うるさい!大丈夫なんかじゃない!!何一つ大丈夫なことなんてない!!私じゃなかったら大丈夫だった!私だったから大丈夫じゃなかった!!貴女だって疎ましく思っているんでしょう!!?私なんていない方が良いと思っているんでしょう!!家族だなんて思ってなくて、ただ血がつながっているから家に置いているだけなんでしょう!!?」

 

 あの場にいたのが、前世の兄だったら、父だったら。他の誰かが転生していたら、きっと違う結果になっていた。意味不明で支離滅裂な言動をする私をそれでも姉は抱きしめてくれた。

 

「そんなことない!世界にたった一人だけの、かけがえのない妹だって思ってるよ」

 

「この……!嘘つき!!」

 

 怖くて怖くて信じることなんてできない。

 枕元にあった護身用のナイフ。手放すことのできなかったそれをいつの間にか振りかぶっていた。

 

 姉は強い。先祖返りの真祖だった。タダの公爵級の私とは隔絶した力の差がある。

 我に返ってもナイフは止まらない。しかしこの程度の攻撃がまともに効くはずもない。完全に防がれて終わりだろう。傷つけることはないという僅かな安堵と共に、殺される。そうも思った。

 

「なんで……」

 

 震えた言葉が零れ落ちた。返ってきたのはただの抱擁。

 痛いはずだ。いくら真祖の再生能力があるとしても傷つけば痛みがある。それなのに突き刺したナイフの上から、私が痛いくらいにギュッと抱きしめてくれた。

 そして涙で濡れ惚けた顔の私に、笑顔で言うのだ。

 

「だってお姉ちゃんはお姉ちゃんだからね!!」

 

「ごめんなさい……、ごめんなさい……!!」

 

「ううん、良いよ」

 

 この時私は姉と家族になれる気がしました。

 

 それからはゆっくりですが外に出ることを増やしていきました。

 何せ吸血鬼です。時間はいくらでもあります。

 そして幾ばくかの時間がたった折り。

 

「どーん!お姉ちゃんだゾ☆」

 

「ぐふッ!!?……お姉様、それ止めてくださいって言ってるじゃないですか。真祖の力でされると痛いんですよ」

 

「え、嫌だった?」

 

「別に……」

 

 嫌だなんて思うわけがない。それでも恥ずかしさから認めることなんてできずに顔を背けてしまう。

 

「もう!かわいいなぁ!」

 

「いだだだだだ!?」

 

 真祖の全力の抱擁。痛い。それでも私は止めることはありませんでした。

 何せ吸血鬼です。治せますから。

 

 

「勇者の邪魔をする……」

 

 魔族の王、魔王。吸血鬼の始祖。現在活動している最強の吸血鬼。

 私が最近外に出ていることを聞きつけた魔王が、公爵級吸血鬼の戦力を遊ばせておくのはもったいないと指令を出してきたそうなのです。

 

 軍属は全力で姉が退けてくれたようで、遊撃の様な扱いになったそうです。助かりました。

 魔族とはいえ大量の人の中にいるのはまだ辛いです。

 

 勇者とは人類側の切り札。突然現れる世界の愛し子。人類最強の存在。

 それが各地で魔王軍の邪魔をしている。それをさらに邪魔をしろと。

 

 魔族に与するものとして、勇者と戦う。邪魔をする。

 人間のいる場所に行く。人間の敵として。

 

「辛いならやらなくて良いよ?」

 

 姉の言葉に首を振る。

 

「やります。お姉様のお手伝いをさせてください」

 

 こんな私でも姉の役に立てるのなら、なんだってやってやる。

 相手は人間です。遠慮なんていらないでしょう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第??羽 吸血鬼ノ刻②

 部屋に立てかけてあった武器を手に取る。引きこもっていても振り回していたそれを。

 一種の精神安定剤のようなものでしたからね。これを振るっている間は全部忘れることができました。

 

 吸血鬼は空を飛べます。日が出ていない時しか行動はできませんが、隠密行動が可能です。

 そのおかげで色々と工作をしかけることができます。

 一応武家の娘でもあったので、軍略もある程度知っています。

 食料が大事な事や、死人よりも怪我人を抱えた方が大変な事を。

 

 なので勇者一行の行方を追いながら、軍の食料を焼いたり、怪我人を増やしたりもしました。

 

 何故か殺意の少ない勇者一行に直接挑むこともありました。普通に逃げ帰りましたが。多対一は卑怯では?

 吸血鬼のスペックでそこそこ戦えはしますが、やっぱり私は弱かった。

 またお前かといった目を向けられるくらいの付き合いになったとき。それは起こりました。

 

 衝撃、轟音。そして、山そのものが滑り落ちてきたのではないかと思う規模の土砂崩れ。

 勇者の指示によって勇者の仲間は逃げ出すことができましたが、勇者と切り結んでいた私の二人はそれに巻き込まれました。

 私と勇者の二人で張った結界のおかげで押しつぶされることは免れましたが、抜け出すことはできない状況。下手に土砂をどけようと思えば自体が悪化することも考えられます。救助を待つしかありませんでした。

 

 逃げることのできない場所にニンゲンと2人。自然と呼吸が早まっていく。

 

「おい、大丈夫か……?」

 

「いやっ!来ないでください!!」

 

 勇者は善意で心配をしてくれたのでしょう。しかし私は彼が近づくことを拒絶しました。

 結界の隅に逃げ震えることしかできない。あのときの記憶がフラッシュバックしてきたためです。

 

「君は……人間が……怖いのか……?魔族なのに?」

 

 しばらく時間が経って、私は落ち着くとそんな疑問を投げかけられました。

 することはなくて暇ですし、相手は人間です。多少の齟齬があったところで関係ないだろうと、前世であることを隠して鬼の人生の話をしました。そして、今の姉に救って貰い、役に立ちたいと思っていることも。

 

「人が信じられないのはわかった。だから今は信じなくてもいい。でも見ててくれないか?君と出会って思ったんだ。魔族も根っからの悪人ばかりじゃない。人と共存できるんじゃないかって。でも……今の魔王はだめだ。だから魔王を倒したら、共存する道を模索したいって思ってる」

 

 夢物語だ。素直にそう思いました。既にどちらも多数の人が死んでいます。

 停戦ぐらいなら可能でしょうが、共存なんて夢のまた夢。

 結界の隅で三角座りをしたまま、自分の膝に顔を埋めたままポツリと呟きました。

 

「……私は、あなたの邪魔をしますよ」

 

「良いよ、それで」

 

 勇者は満足げに笑って言うのでした。

 

「どーん!お姉ちゃんだゾ☆大丈夫だった!?」

 

 それからやって来た姉が土砂を全て吹き飛ばし、助けに来てくれました。どうやって状況を知ったのかはわかりませんが、流石お姉様です。

 すると勇者が一言二言話すと、姉を連れて離れていきました。

 ナンパですか?姉は世界で一番かわいくて綺麗ですが、貴方にはあげませんよ。

 ジリジリと焦がれるように待っていると二人が戻ってきました。

 

「さ、帰ろっか?」

 

「はい、お姉様」

 

 そして姉の転移の魔法で家に帰りました。どこか満足げな姉は、話の内容は秘密だと教えてくれませんでした。

 

 

 今日は月も出ない新月の夜。闇が世界を支配する夜。

 王座の前で1人、魔王と対峙する。

 

「答えてください。貴方が私達の両親を殺したのですか、魔王」

 

「そうだ」

 

 答えた魔王は口元を吊り上げて笑った。

 こうなった経緯は勇者の一言が発端でした。

 

「なあ、最近魔族の情勢についても調べているんだが、その、君の両親を魔王が殺したって本当なのか?」

 

「え……?」

 

 頭が真っ白になりました。そんなこと知らない。でも勇者が今更そんな嘘をつくとも思えませんでした。

 

 だから私は直接問いただすことにしたのです。愚か。あまりにも短慮。しかし気が動転していた私は後ろで声を荒げる勇者を置いて飛び立ちました。

 

 王座に気怠げに座った魔王が深紅の瞳で私をまっすぐに貫く。

 

「貴様の姉は知っていたが貴様のために堪え忍んでいたのだ」

 

「オレサマが貴様らの両親を始末したのにな」

 

「オレサマの心臓を喰らい、始祖の力に至れる存在だった。危険だ。しかし殺すのは惜しい。あれは有能だ。独力でオレサマの事にたどり着いた」

 

「首輪はあった。貴様の事だ。オレサマとあいつが戦えばオレサマが勝つ。そうなれば貴様はどうなるだろうなぁ?」

 

「土砂崩れに貴様が巻き込まれたときは実に面倒だった。まあすぐに黙らせたが」

 

 私が首輪。私がお姉様の邪魔をしていた。愕然とした。

 何度も転生したのに。何も知らない子供のままだった。大して成長していなかった。役に立とうとしたのに、いるだけで邪魔になっていた。それが、それがたまらなく悔しい。

 

 唇を噛み締め、感情を振り払うように向かっていく私を魔王はあざ笑った。

 

「ふん、馬鹿め」

 

 瞬殺、そう表現するのが正しいでしょう。椅子から立ち上がる事もなく、一方的に嬲《なぶ》られた。

 

 そもそも私は真祖のお姉様にも敵わない。なのにお姉様よりも強い始祖のこいつに勝てるはずもない。

 手足の骨が折れ、立ち上がることもできない私を、血葬で作り出した剣で地面に縫い付けようとする。

 

「そこで暫く寝ていろ」

 

 飛んできた剣は、しかし弾かれた。顔を上げれば何度も見慣れた背中が見える。苦痛ですら流れなかった涙が思わず零れた。

 

「……お姉様?」

 

「そう!お姉ちゃんだよ!!」

 

 何故か勇者一行と現れたお姉様。転移の魔法を使ったのでしょう。

 

「ごめんなさいお姉様。役に立ちたかったのに私は……!!貴女の足枷でしかありませんでした……!!」

 

 両親を殺されたことを知ってこいつに従うのはどれほどの苦痛だったのだろう。想像の一端はできる。私の両親でもあるから。でもその期間はきっととても長い。両親が亡くなってからもう百年以上が経ってるから。

 私だったらきっと耐えられない。それなのに姉は責めなかった。

 

「そんなことはないよ。貴女がお姉ちゃんの支えだったの。貴女がいなかったらお姉ちゃんは短慮に走ってきっと死んでいた。姉妹だからね、やることは一緒だよ」

 

 それどころか姉は抱きしめてくれた。こんな出来損ないに笑いかけてくれた。

 どうしたらこの恩を返せるのだろうか。

 

「ここで待ってて」

 

「……話は終わったか?」

 

 魔王は血葬で作り出した剣をつまらなそうに弄んでいた。

 それには答えずお姉様は勇者の横に並び立って不敵に笑う。

 

「勇者くん、着いてこれるよね?」

 

「もちろん!」

 

 戦いは苛烈を極めた。

 姉と勇者の連続攻撃と、パーティーメンバーの援護に遂に魔王は立ち上がらざるを得なくなった。

 魔王は力を解放するように徐々にギアを上げていった。

 そしてついて行けるのは勇者をお姉様だけになった。勇者は見違えるようだった。私と戦っているときが嘘のように強かった。そして戦いのさなかどんどん強くなっていった。もう彼が一人でも私は勝てないでしょう。

 

 しかしそれでも魔王は強かった。有利なのは魔王。しかし天秤はどちらにでも傾くレベルだった。

 そして傾いたのはやはり魔王の方へだった。

 

 勇者は吹き飛ばされ、姉は地面から突然突きだした血葬の剣山に捕らわれ身動きできない。

 

「貴様を殺すのは惜しいが……、勇者を連れてきたのは明確な反逆行為だ。故に死ね」

 

 血葬で鋭く伸ばした爪の先を確かめるように眺めた後、動けない姉の心臓に向け狙いを定めた。

 吸血鬼といえど心臓を壊されれば再生できない。そのまま死ぬ。

 誰も間に合わない。――――私以外は。

 戦撃のスピードならまだ間に合う。

 

 姉に向かう爪の先を光を纏った一撃で弾く。

 

「ふん」

 

 お姉様の叫び声が遠くに聞こえる。私は……心臓を貫かれていた。

 首輪としての役目もなくなったから生かす必要も無いと言うことでしょう。

 私はもう死ぬ。始祖の目には興味も関心もなかった。しかしそこに油断はあった。

 飛びそうになる意識を食らいついて離さない。動けるはずのない私の体は、しかし勝手に二撃目を放つ。意識があるのなら戦撃は続く。その油断が命取りです。私から意識を反らした魔王の左足を地面に縫い止めた。

 

「貴様ァ!!」

 

「お姉様……やって……!!」

 

 すぐさま激昂する魔王。無視して、剣山から逃れたお姉様に水音混じりの声を掛ける。

 

「ッ!!!」

 

 魔王の右腕は私の胸を貫き、左足は地面に固定されている。隙だらけだ。

 顔をクシャクシャに歪めた姉が心臓をえぐり出し、投げたそれを飛び込んできた勇者が真っ二つにした。

 

「馬鹿な……」

 

 そんな言葉を残して魔王は灰になって消えた。もう誰もそれを見ていなかった。

 

 地面に崩れ落ちる私に姉と、なんと勇者が駆けつけてくれた。ふふ、貴方が優しくしてくれた理由は最後まで分かりませんでしたね。

 

「僕の夢はまだ終わっていないぞ!見ててくれるんじゃなかったのか!!?」

 

「起きて!お願い!置いてかないで……!!1人にしないで……!!」

 

「コフッ……。ご……め……。あり……が……ぉ」

 

 ――こんな私を大切に思ってくれて。幸せ……でした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25羽 コーンスープおいしい

落差注意。昨日投稿できなかったので今日は多めです。


 

 意識がゆっくりと浮上してくる。夢を見ていました。

 

 1人残してしまったお姉様。恩も返すこともできなかった。私がいなくても幸せになってくれることを願うことしかできません。会いたいな……。

 

 そして勇者。明確な約束はしていませんでしたが、彼の目標を最後まで見届けることができませんでした。それが心残りです。でも、彼ならきっとなんとかできるでしょう。お姉様もきっと助けてくれるでしょうから。

 

 まあ、それはそれとして。

 

 ――良い匂いがしますっ!!!!

 

 浮上する意識が加速した。

 

「あ、起きた」

 

 目の前にはボウルに入った暖かそうなスープとそれに着いている女の子が。

 あ、違いました。女の子がボウルに入った暖かそうなスープを持ってくれています。

 

「これ、欲しいの?」

 

「グルルルル……」

 

「え、今の腹が鳴った音か!?」

 

「マジか、威嚇かと思ったんだな。こわ……」

 

 失礼な男が2人。見向きもせず、翼を降るって『射出』すると、羽が飛び出し額に一本ずつサクッと突き刺さった。デリカシーがない男はモテませんよ。

 

「「いってぇ!?」」

 

「何やってんのさあんた達……。うん?」

 

 のたうち回る男二人に呆れたようにため息をつく女の子。そんな状況でもスープに目が釘付けです。

 そんな私に気がつくと優しい目になって頷きました。

 

「もしかして待ってるのか?……良いよ、お食べ」

 

 では遠慮なく、いただきます!!!

 こ、これは……!!

 絶妙な甘さとクリーミーな深いコクが全身にとろりと染み渡ってくる優しいコーンスープ!!

 旅のための粉ものなのか、コーンの食感がないのが寂しいですが私の舌が喜びのあまり踊っています!!

 

「あんたうまそうに食う……え、泣いてる……」

 

 おいしい、おいしいよぉ。

 コーンスープを心底味わい尽くし、ごちそうさまでした。ありがとうございます。

 

 さて……。ここはどこですか?

 

 空には燦然と輝く太陽。

 深かったはずの森は、疎らに木々が生える林になっている。早い話が迷子。

 きっとこの人達が親切心で森の中から連れてきてくれたのでしょうが、帰り道がわからないのは困りますね。

 

「うーん、ログ。こいつやっぱりスワロー種なんだな」

 

「ああ、まあこいつらは羽毛が青いのが特徴だかすぐわかる」

 

 これからどうしようか歩きながら考えているとそんな会話が耳に入ってきました。

 ふと自分の翼を見てみると、純白だったそれが紺碧のそれに。……色が変わってしまったんですね。

 

 自分の翼を眺めていると「なあ」と真横にしゃがみ込んだ女の子に声を掛けられました。

 燃えるような赤毛が特徴な、ぱっちりした目元が勝ち気そうなかわいい女の子です。

 

「あんたは森の中で倒れてたんだ。人間に害がある種じゃないから保護したんだけど、なんか変な奴にでも襲われたのか?」

 

 私の疲労と怪我の原因は地竜です。あれは変な奴と言うよりもヤバい奴と言うべきなので、違うでしょう。首を横に振りました。

 

「へえ、こいつやっぱり言葉がわかるみたいだぜ、フレイ」

 

「今はあたい達の調査対象の情報を集めるべきだろうに、ログ」

 

 赤毛のフレイと呼ばれた女の子と同じようにしゃがんで興味深そうに見つめてくる、のっぽのログさん。

 素直に返事をしてしまったのは悪手だったかも知れませんが、そこまで困るような事ではありません。どうせこの後別れます。

 

 赤毛の女の子はフレイさん。のっぽな男の人ががログさんで、体格の良い男の人がターフさんですね。覚えました。

 

「な、そろそろ警戒を解いてくれても良いんじゃないか?」

 

 脳裏に名前と顔を刻み込んでいるとフレイさんにそんな言葉を掛けられました。

 …………。

 

「あんた、フラフラ歩いているように見せかけて位置を変えてただろ?あたい達全員が目に入る位置に」

 

「しかも一挙手一投足見逃さないようにしていただろ?」

 

 この人達の言うとおりです。

 現在は日中。吸血鬼の能力も使えませんし、初対面の相手です。警戒して然るべきです。

 

「言葉がわかるなら理解できると思うんだけど、あんたをどうにかするつもりなら寝てる間にやってるって。わざわざ助けて飯を食わせる必要もないだろ?」

 

 ……その通りです。なので警戒は最低限にしていたつもりなんですが、バレてしまったようですね。思ったよりも観察力が高い。皆さん武器を地面に置いて手の平を見せてくれました。

 スッと彼女たちに対する警戒を解きました。

 

「お、警戒を解いてもらえたんだな」

 

「良かった良かった。スープをなかなか飲み込まなかったからね。警戒されて毒味しているのかと思ったんだよ」

 

 そそそ、その通りです毒味ですいくらお腹が空いていたとは言え初対面の人から施されたものを何も考えずに楽しむような事はあり得ませんよ!!

 

「この子普通に味わっていただけだと思うんだな」

 

 お黙りください。

 

 サクッ。「いった!?」

 

 荷物の上で座ったまま額の痛みにもだえるターフさんをよそに、フレイさんの目がなんだか残念なものを見るように変わっていく。解せぬです。

 

「ッ!フレイ!」

 

 その緩んだ空気につけ込むように、草むらから突如飛び出した狼の魔物がフレイさんに背後から飛びかかった。

 

 ターフさんは少し離れた場所で荷物の上に座っている。ログさんはフレイさんの正面にいて素手。フレイさんは未だ振り返ろうとしています。

 このままだとログさんが飛び出して身代わりになって怪我をするか、間に合わずフレイさんが大怪我にすることになるでしょう。

 

 なので私がやります。この状況は私が原因みたいなところがありますから。

 空中の狼に向かって翼を振るい『射出』。さっきまでのお遊びのものではなくしっかりと攻撃として。結果、大量の羽を全身にプレゼントされた狼は勢いを殺され失速。地面に落ちたところをログさんが、ターフさんに投げ渡された槍で仕留めました。

 キョトンとした表情のフレイさんがこちらを見つめています。

 

「まだ来るんだな!!」

 

 最初の狼を皮切りに続きがゾロゾロと姿を現す。さて、とっとと片付けましょうか。

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 五体ほど倒した所で無理だとさとったのか、狼は引いていきました。

 皆さんお強くて『射出』しているだけで勝てちゃいました。強い人がいると楽で良いです。

 そんなことを考えているとフレイさんがじっとこちらを見つめているのに気づきました。

 何でしょう?

 そしてフレイさんはコクリと頷くとこう宣言しました。

 

「良し決めたよ。この子飼うから」

 

「「は?」」

 

 ――は?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26羽 今日は帰らせないよ……

 

 その子鳥を見たとき、フレイにはかわいらしいなという感想以外は特になかった。

 

 スワロー種は比較的穏便な魔物であり、人間に害を与える蟲系の魔物を良く狩って食料にしていることから見かけても特に手を出さないのが暗黙の了解となっている。

 倒れていたこのスワロー種を助けたのも一種の気まぐれであり特に深い意味はなかった。あえて言うなら、情報収集のためだ。

 ここに来たのも、同業の冒険者が今まで見たこともない影を見かけたとのことで、その情報を集めるためのクエストによるものだから。

 

 傷跡などの痕跡からその未確認種の事がわかるかもしれないと思ってのことだ。ボロボロの見た目に反して特に傷跡と言える傷跡もなかったので空振りに終わってしまったけれども。少し首を捻ることになったが魔物だからそんなこともあるかと流すことにした。

 

 食事を泣きながら食べた時は少し引いたが、自身の知る魔物より理知的な雰囲気だったので思わず話しかけていた。

 そしてこちらの言葉に明確な反応を示した時も、驚きはしたが特に評価が変わることはなかった。

 

 人語を解する魔物は一定数存在する。かなり珍しいが、特段貴重でもないと言ったところだろう。

 

 まず筆頭に上がるのが帝種。会話のできないものもいるが大抵は人間とは比べ物にならない期間を生きており、それに比例して知性も高い。寝物語の中には人間と会話に興じる帝種が出てくる。基本的に人類にとって帝種と会話ができるのは共通認識だ。相手は腐っても魔物なので、できるからと言って会話になるかは別の話になるのだが。

 

 例としては龍帝だろうか。この大陸では霊峰ラーゲンに居を構える龍帝と僅かながら交流がある。かの龍帝は酔狂にも、霊峰を登り自身に会いに来た者に試練を与え、突破した者に褒美を与えるらしい。そもそも魔物が蔓延る霊峰を登るのは自殺行為であり、試練はそれ以上らしいのでそんな人物は滅多に存在しない。

 もちろん人類に寛容だからと言って、気に入らない者に対しては非常に好戦的なので、関わりにならない方が賢明だ。都市ごと消し滅ぼされること請け合いだと歴史が言っている。

 

 次点で帝種の子孫だろう。子を育てるなか帝種が喋るので勝手に学んでいくとどこかの誰かが本人から聞いたらしい。真偽の程は定かではないが、実際に帝種の子孫は話せるらしいので、とりあえずその節が濃厚だろう。

 

 次は帝種やその子孫に長らく関わった魔物、そしてそれに関わった魔物だ。

 

 ともかくこの子が帝種であることは論外だし、天帝の子孫でもないだろう。全くそれらしさがないから。かの巨鳥は非常に苛烈な性格をしていると聞く。警戒していたときはピリピリとした雰囲気を感じたが、それを解いてからこの子は魔物であるのかを疑うほどポケポケしていた。かわいい。これで自然の中で生きていけるのかこちらが不安になったほどだ。

 なので恐らくかなり遠い関係者だろうと思った。

 

 しかしこの評価はすぐに覆ることになる。

 

 基本的に人類に友好的な魔物でも、無条件に人を助けるようなものはいない。例外としては、親しい者や気に入った者ぐらいだろう。昨日今日あったばかりの人間など助けたりはしない。

 

 襲われたとき、全く気がつかなかったフレイを庇う形でログは飛び出そうとしていた。このまま行けばログかフレイが確実に怪我を負っていた。

 それをこの子鳥は助けた。

 それも格上であるはずのシャドウウルフを動揺もせずあっさりと下して。トドメこそログが刺したが既に勝負はついていた。なんだかちょっぴり暖かい気持ちになった。

 

 この時点で天秤は既に傾きかけていた。

 

 スワロー種は人間に益となるだけでなく、非常に臆病だ。そしてかわいい。いや違うそうじゃない。

 危険があればすぐに逃げ出し、身を守ろうとする。

 

 シャドウウルフは影に同化することができる魔物だ。とは言っても、影から影に移動するには外界に体を出さなくてはいけないし、入った影を攻撃してそこにいればダメージが入る程度の能力だ。奇襲としてはこの上なく恐ろしい能力だが、バレてしまえばそうでもない。本体のスペックも決して高くないことから、戦闘になれば慣れた冒険ならどうとでもなる。

 

 しかしシャドウウルフのランクは「Cー」、スワロー種は「D+」。この子は体格的にキッズの可能性もあるのでさらにそれよりも低いかもしれない。普通なら現れた時点で逃げ出している。

 

 それが戦場をコントロールしていた。

 追加で襲いかかってきたシャドウウルフ。対面能力があまりないとは言え、周りを囲まれてしまったので運が悪いと怪我をすることになる。それが完全な無傷。危ないと思うことすらなかった。

 

 背後から飛びかかろうとするシャドウウルフの眼前に羽を突き刺して牽制し、目の前の相手を倒す時間を稼ぐ。二匹同時に襲いかかってくる片方の足に羽を打ち込み、転ばせ、一対一で戦える状況を作り出す。ダメージを負って、万全の状態のシャドウウルフと交代しようとした個体に追撃し確実に仕留める。などなど。

 

 まるでお膳立てされているかのように楽な戦闘だった。確実に過去で一番楽だ。残りの二人もそう思っているだろう。

 

 普通ではあり得ない。この子鳥が非常に魅力的に見えた。

 人語を解し、人助けに積極的で、とても強い。しかもなんかチョロそう。これで、絆されない者がいるだろうか。いやいない。

 

 そうしてこのかわいい幸運の青い子鳥をものにしようと決意するのであった。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

「さっきはありがとね。助かったよ」

 

 ――いえいえ、困ったときはお互い様です。それで、その……

 

「よし、じゃあ次の調査ポイントに行こうか」

 

 ――降ろしてもらえませんか??

 

 あの、私早く帰らなければいけないのですが。

 何故しっかりと抱きかかえられているのか誰か説明してもらえませんか?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27羽 ちょっとだけ、ちょっとだけだから……

 

 ――ちょっと待ってください!

 

「おっと」

 

 調査ポイントとやらに向かう途中、抱きかかえられている腕から飛び出し、フレイさんに向き直る。

 私は早く家に返らなければいけません。もうかなり長いこと時間が経っています。いたずらに時間を消費するつもりはありません。

 ついて行けないことを示すように首を振りました。

 

「なんだよ、あたいと一緒は嫌だって言うのか?」

 

 ちょっぴり拗ねたように口をとがらせるフレイさん。なんだか悲しそうな様子に良心が痛み、申し訳無くなりました。

 

 そんな二人から少し離れた場所でログとターフの二人がコソコソと内緒話をしていた。

 

「おい、思ったよりもあの鳥チョロそうだぞ」

 

「あの鳥さんもかわいそうなんだな。フレイは意外とかわいいものが好きだから、きっと遠慮しないんだな」

 

 別にフレイさんと一緒にいることが嫌だった訳じゃないので首を振ります。

 

「じゃあなんでダメなんだよ」

 

 腰に手を当ててズイッと顔を近づけてくるフレイさん。そんなフレイさんの背後に向けて翼を指し示しました。

 

「なんだ?……行かなくちゃ行けないところがある?」

 

 コクリと頷けば「そっか……」と離れていきました。

 よかった。諦めてくれたんでしょうか。

 

「でも死にかけてたのを助けただろ?」

 

「おいおい。あいつ最低なこと言ってるぞ」

 

「そうなんだな。自分も助けられておいて酷いんだな」

 

 

 ――うぐぐ。そう言われると弱いですね……。スープの恩には報いなければ。どうしたら……。

 

 オロオロとしているとフレイさんが「うッ!!」と胸を押さえて後ずさりしてしまいました。さっきの戦闘で怪我でもしていたんでしょうか。一歩近づけば一歩下がられました。……はて?

 

「おい、あいつ自分が助けたことは頭にないみたいだぞ」

 

「そうなんだな。良い子すぎて流石のフレイもダメージを受けているんだな」

 

 

「こ、コホン。まあ待て。それは今すぐじゃなきゃ間に合わないのか?」

 

 ――い、いえ。結構時間も経ってしまったので、単純に私が早く帰らなければと思っているだけなのですが……。

 

 思わずヘニョリと眉を下げて首を振ります。

 

「やっぱりな。焦っているけど切迫した様子は無かったからそうだと思ったんだよ。ほら、少しくらい寄り道しても大丈夫だって。とりあえず一緒に行動してみてそっからまた考えれば良いさ。大丈夫、みんなやってることだから」

 

 

「なんだか優等生をそそのかす不良みたいな構図になってるんだな」

 

「それな」

 

 

 ――そ、そうなのでしょうか?ここでは常識?別に急いでないから寄り道?いやでも……。

 

 なんだかよくわからなくて目がグルグルとしてきました。そこにたたみかけるようにフレイさんが言葉を続けます。

 

「じゃあ、このまま残りの調査ポイントも……」

 

「おい!!」

 

 とそこで離れて固まっていたログさんとターフさんが焦ったように駆けてきました。

 

「マズいぞ!グレーターワイバーンだ!!」

 

 上空からゆっくりと力強い羽ばたきが降りてきた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28羽 価値観

 

 バサリ、バサリと羽音が降りてくる。

 太陽に反射して黒光りする鱗。全身には所々にイナズマのような黄色い線が走り、力強い羽音は翼竜の強靱なパワーを嫌でも想像させられる。翼竜なんて見るのは魚の焼き身以来ですね。

 それはゆっくりと降りるのを止めると全員を上空から睥睨した。

 見つめられた全員に緊張が走り、私を抱き上げるフレイさんの腕にも力が籠もる。

 

 ――あれ?あの、なんでまた私は抱き上げられているんですか?

 

 目にもとまらない早業でした。私では反応できないくらいの。困惑しているとなんと翼竜が言葉を投げかけてきた。

 

『おい人間ども!!ここら辺で変な奴を見かけなかったか!?隠すとタダじゃ置かないぞ!』

 

 かなりの上から目線。なんだか不思議といたずら好きの幼い少年のような印象を受けました。

 翼竜から目線を切らないようにしながらログさん達は静かに話し合い始めました。

 

「おい、念話だ。厄介だぞ」

 

「もしかしたらタダのグレーターワイバーンじゃないかも知れないんだな」

 

「ああ、逃走を前提に考えた方が良いかもね」

 

『おい!無視するな!早く答えろ!!』

 

「いや、見てないよ!」

 

『本当だろうな!嘘だとコワいぞ!』

 

「嘘じゃないさ!あんたに嘘をつく理由がない!」

 

 その答えに考えるように黙った翼竜と目が合った。

 僅かな間の後、

 

『……なんだお前。人間に捕まったのか?折角だ助けてやろう!』

 

 言うや否や、私を抱き上げるフレイさんに向けて火球を放った。違いますよなんて否定する時間もない。

 フレイさんはすぐさま背中の杖を片手で取り出し、障壁のようなものを張ったが強度が足りていない。このまま直撃すれば、大火傷を負うことになってしまう。

 

 ――この、馬鹿!!

 

 腕の中から飛び出し、かつて翼竜と戦ったときのように火球を投げ返した。

 

「な!?」「嘘だろ!?」「凄いんだな……」

 

 背後で驚く三人とは裏腹に、まるで予想していたかのように驚くことなく翼竜は火球を避けた。

 不思議な事になんだかうれしそうだ。

 

『やっぱり!お前、あのときの白いのか!?』

 

 ――まさか……、貴方はあのときの翼竜?

 

 嘘でしょう!?どんな偶然ですか!?逃げた翼竜が今ここにいるなんて。当時の翼竜よりも一回りも大きくなっているので気づきませんでした。前はあんな黄色の線もありませんでしたし。それによくわかりましたね。私今青いのに。

 

『なんでお前が人間なんかに捕まってたんだ?』

 

 ――捕まっていたのではありませんよ。一緒に行動していただけです。

 

『なんだ!そうだったら早く言えば良いのに!』

 

 ――言う暇もありませんでしたが??

 

 ジトッとした目を送れば、翼竜はサッと目を逸らした。気まずさくらいは感じるようですね。

 そんな私達の様子に、後ろから声が聞こました。

 

「……会話してるのか?」

 

「そうみたいだね……」

 

「念話は双方向のものなんだな。でも鳥さんの声はボクたちには聞こえないんだな……」

 

『さあ、ここであったが百年目!われと勝負しろ!!』

 

 ――何故に?

 

 今までの流れから勝負をすることになるか全く理解できないんですが。

 

 ――そんなことより何かを探していたのではないですか?そちらを優先した方が良いのでは?

 

 フレイさん達も何かを調査しているようですし何か関係があるのでしょうか。

 

『そ、それは……』

 

 思い出したようにオロオロしだす翼竜。この様子なら捜し物に注力させて戦わずに済みそうですね。と思ったのが間違いだったのでしょうか。突如として動きを止めると、カラッとした思念を伝えてきました。

 

『面倒だからイイや!お前と戦う!!』

 

 か、軽い、軽すぎる!!本能で生きているのではでしょうか。それぐらいノリで動いています。

 厄介きわまりないです。思わずゲンナリしてしまいます。私は別に戦いたくないのですが。

 

『嫌ならそこの人間を襲っちゃうぞ!それでも良いのか~!』

 

 いっそ清々しいほどに無邪気。悪気など何もないのでしょう。単純に価値観の違いが出てしまった形ですね。魔物である彼からすれば当たり前に事なのでしょう。

 チラリと後ろを窺えば三人が体を強張らせていた。彼女たちは強いですが、先ほどの様子を見るにこの翼竜ほどではありません。襲われてしまえば危険です。

 

「なあ、流石のあんたでも無理だ!あれを一人で相手取るならAランク級の実力がいる……!あたい達がなんとかするから一緒に逃げるよ……!」

 

「マジかよ……!?」「や、やるしかないんだな……!」

 

 フレイさんはこう言ってくれていますが、残りの二人の焦ったような様子から有効な手はなさそうです。何よりここは森から外れた、木々が少ない林のような場所。広範囲が見渡せるここで、空を飛ぶ翼竜から人の足で逃げ切るのは無理な話です。

 

 前を見ればわくわくと言った様子の翼竜。純粋に私との戦いを楽しみにしているさまは、捉えようによってはかわいいとも思えるでしょう。

 だからといって許せるかどうかは話が別ですが。

 

「お、おい……!?」

 

 フレイさん達に向け首を横に振り、前に一歩進む。

 

 ――……少々お仕置きが必要な様ですね!良いでしょう、その勝負受けます!!後悔させてあげますよ。

 

『わはは、そう来なくっちゃ!われは龍帝の末の息子なり!!いざ勝負ー!!』

 

 ――私は天帝の、恐らく長女、メルシュナーダです。忘れて貰って構いませんよ。……覚悟!!

 

 そして双方が同時に飛び出し、翼爪と鉤爪が激突した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29羽 人の意識、鳥の意識

 

 打ち合ったとき始めに感じたのは、当たり前だが以前よりも強くなったパワーだった。

 相手の体格も見た目も少し変わっている。恐らく進化したのでしょう。

 

『どうだ!前の時のリベンジのために父上に鍛えて貰ったんだぞ!』

 

 ――何ですかそれは!私への当てつけですか!?私はもう長いことお母様に会えていないのに!!

 

『うはは、たくさん構って貰ったぞ!』

 

 ――はい、もう怒りました。容赦しません。喰らいなさい!【側刀《そばがたな》】!!

 

 怒りを乗せ一気に加速して肉薄して蹴りつける。しかし、スルリと避けられ脇を掠るだけに終わってしまった。……前より反応も良いですね。これは簡単に終わらないかも知れません。

 

『うはは、残念だったな!めるす……めしゅ……?』

 

 ――……呼びにくいならメルと呼んでも構いませんよ。

 

『わかった!これからはメルって呼ぶぞ!!それとこれはお礼だ!!』

 

 そう言うと翼竜はガパリと大口を開けた。ブレスだ。

 

 ――それは効かないと……!?

 

 芸もなく真正面に飛んできた火球を受け流そうと足を添えると体に衝撃が走った。

 それのせいで体が硬直し受け流しに失敗してしまった。衝撃を吸収し損ねた火球は本来の役割を果たし爆発。

 

 ――ぐっ!これは……電撃?

 

 咄嗟に風を展開して威力を逃がしましたがそれでも大ダメージです。油断しました。まさか火球に電撃を纏わせてくるなんて。鬼の耐性で痺れは僅かですが、もう火球の受け流しはできないと考えた方が良いでしょう。

 

『うはは、修行の成果だ!』

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

「すごい……」

 

 上空で紺碧の羽毛と黒光りする鱗が再度激突する。最初は地上付近で戦っていたのだが何度も激突するうちにもつれ合うようにして上空へと戦場を変えていった。既に遙かな高さに行ってしまったがまだなんとか見ることができる。

 子供のスワロー種とグレーターワイバーン。その差は大きい。通常、スワロー種は普通のワイバーンにも抗うことができない程の明確な差がある。それを対等に見えるレベルで戦っている。それは最早あり得ないレベルのことだ。

 

 シャドウウルフの時から強いとは思っていた。だがそれはスワロー種にしてはだと思っていた。

 だが蓋を開けてみれば、そんなレベルではなく、格上である竜種と正面からぶつかり合う事ができる程の力を持っていた。

 スワロー種の攻撃なんて、『射出』と風の魔力を使った遠距離攻撃が主で、直接攻撃など自身より弱い蟲系の魔物にしかしない。

 

 そもそもスワロー種の防御力は低い。鳥系の魔物全般に言えることだが、魔力での補助があるとはいえ飛ぶためにある程度体を軽くする必要がある。あんな風に格闘家も真っ青な足技で竜種と肉弾戦をし合うなんてそれこそ自殺行為だ。

 それが今回の相手は竜種。強靱な鱗ともふもふの羽毛、鎧とタダの服以上の差がある。

 

「あんなに小さいのに戦ってる。私は……」

 

 小さな体が勢いよくはね、何倍もある巨大な翼竜を吹き飛ばした。小さくとも強大な相手に立ち向かう。それはまさに弱者が強者を下す様のようで。

 なんて、かっこいいんだろうか。

 

「あんたの名前メルって言うんだね。覚えたよ」

 

 静かに拳を握りしめた。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

 火球が防げなくなった。だからといって負けが確定したわけではありません。初心に戻って上空を取ることを意識すれば良いだけです。

 上にいれば翼竜は無理な姿勢でしかブレスを吐けないので有利に立ち回ることができます。翼竜もそれを知っているので上空を取り返そうとしてきます。

 

 翼竜と打ち合いながら上空を取り、上空を取られ、上空を取り返す。

 それを何度も繰り返し、結果、どんどん上昇することになってしまいました。

 そして現在。結構ピンチです。

 

 ――息が……苦しい……!!

 

 重力が存在している星では、上に行けば行くほど空気が少なくなってきます。自然、呼吸は苦しくなっていく。

 だからといって止めることもできない。未だ苦しむ様子の見えない翼竜は、その時を逃さず上空をとり只管ブレスを吐き続けるでしょう。絶対に勝てないとは言いませんが、かなりの不利を背負い込むことになります。

 

 酸欠の苦しみが襲う中、鱗に蹴りを入れ尻尾の一撃を受け流していると、翼竜が私の息苦しそうな様子に気づいた。

 

『なんだ?お前鳥なのにこんなとこで息が苦しいのか?変な奴だな!』

 

 ――何を言って……?

 

 人は高所では息が苦しくなるもの。なんともない翼竜がおかしいのだ。

 

『てい!たあ!さっきより動きが鈍いぞ!!』

 

 ――くっ!この……!!

 

 重くなった体で苛烈になっていく翼竜の連撃を捌いていくと、激しい動きに酸素がみるみる消費されてしまう。息もつけない攻防に、やがて視界が白くなり始め、意識がぼやけていく。

 散漫になった注意が遂に受け流しを失敗に導いた。力の方向がずれてしまい、尾の一撃に足が弾かれて体が流される。

 

『隙ありー!!』

 

 白んだ視界に映った翼爪は避けられない筈のものだった。

 

 ――【貪刻《どんこく》】

 

『いっったーい!!』

 

 それなのに気づけば懐に潜り込んで戦撃を直撃させていた。強烈な横蹴りに翼竜は空中で痛みにもだえている。

 

 ――今のは……?

 

 急に体の動きが元に戻ったような気がしました。いや、もしかしたら地上より動きのキレが良かったかも知れません。それに消費の大きな【貪刻《どんこく》】を使ったのに大したことない。

 

『良いのを入れたからって考え事ー?余裕じゃん、かっ!』

 

 ……わかりませんね。少し息苦しいのがなくなっているとは言え、動く度に苦しさは戻ってきています。

 飛来する火球を避けながら考える。

 

 ――さっきの感覚を引き出せればもしくは……。

 

 もっと強くなれるかもしれない。なら試してみましょう。

 更に飛んでくる火球に『射出』。爆炎の中から更に羽が飛び出し翼竜に襲いかかった。

 

『うわっ!……うはは、全然痛くないぞ!』

 

 そんなことは承知の上。翼竜の強固な鱗に軽い羽が有効打になるとは思っていません。目的は羽の雨で視界を奪うこと。

 

 ――こちらですよ。【崩鬼星《ほうきぼし》】!

 

 羽に隠れて下方空回り込んだ私は、前回の焼き増しのように上空の翼竜に向けて戦撃を発動する。今回はロケット式の加速はありませんが、私を見ていない今なら問題ありません。

 

 土手っ腹に鬼気を解放した戦撃を叩き込んだ。直撃。衝撃でひるんだ一瞬で『鷲づかみ』、体を捻るように入れ替えた。私が上に、翼竜が下になるように。

 自然、翼竜は背を地面に向けることになる。ひるんだ直後にそんな状態でまともに飛べる筈もなく。

 

 ――【狼刈《ろうがい》】!!

 

 大きな隙に三連蹴りを叩きつけた。その威力に撃墜された翼竜を急降下で追いかける。

 追いつくまもなく衝撃から復帰した翼竜が背を地面に向け、落ちながら多量に枝分かれした雷のブレスを吐き出した。

 ここに来て新形態のブレス。翼を広げて急制動をするも範囲が広すぎて逃げ場がない。

 

 ――うぐッ!!?

 

 火球ブレスの雷はおまけのようなものだったが、こっちは雷が本体だ。焦げる音と共に体が跳ね動きが止まる。

 一瞬、しかしそれは致命的だった。

 止まった隙に体勢を立て直した翼竜は急浮上。一気に加速し上空から重力の重さを乗せ頭から突進してきた。

 

『お返しだー!』

 

 ――グフッ!?

 

 衝撃に肺から息が押し出される。ボールのように弾かれ、一気に体の重さが増した私はそれでもなんとか追撃を受け流した。

 この危機的状況にさっきの感覚を引き出そうとして翼竜の鱗を打ち据え、攻撃を受け流していくも唯々息が苦しくなっていくだけ。体内の酸素量は既に限界だ。

 だが、あの不思議な感覚は訪れない。

 

 ――これじゃ……ダメなんですか?

 

 口は酸素を求めてあえぐものの、それで息苦しさがなくなるなんて都合の良いことは起きない。準備した【狼刈《ろうがい》】の闘気が意識の明滅と共に不安定に瞬く。

 ガクンと急制動を掛け体の動きが止まる。明確に晒された隙に、翼竜の口元にこれまでとは比べ物にならない炎が蓄積されていく。

 

 ――やっぱり。無理だ。私じゃ。ダメだ。

 

 ネガティブな感情ばかりが生み出されていく。

 走馬燈のようにゆっくりとした視界の中、生み出された爆炎が迫り来る。

 その時不思議と翼竜の『鳥なのにこんなとこで息が苦しいのか?』という言葉が思い出された。

 

 ――あのとき私はなんて思ったんでしたっけ。確か――

 

 意識が薄くなり、本能が前面に押し出される中。

 

 ――――闘気が爆発した。

 

 今までよりも純度が高く、今までよりも量が多く、今までよりもスムーズに生み出された闘気は。

 

 今までよりも圧倒的なスピードとパワーを以て戦撃を発動させた。

 

 爆炎を切り裂いてその先にあった鱗が三カ所、飴細工のように容易く砕き、その下の体にもダメージを負わせる。

 

 ――すごい……。

 

 深く息を吸い込む。

 今までよりも呼吸が楽だ。今までの人としての意識が強い呼吸とは違う、鳥としての呼吸。

 

 人は高所で息が苦しくなるもの。でも――――私は鳥です。それを忘れていた。

 薄れ行く意識の中、私の中にあった本能が教えてくれた。もっと良い呼吸法があるのだと。

 

 鳥としての心肺機能を、忘れないように感覚として落とし込ませていく。

 

 その感覚としてはまるで――――常に息を吸い続けているようで。信じられないほど体が軽い。

 

 ――これが空を舞う鳥の呼吸。少ない酸素で活動できる生き物の力。

 

 お母様から受け継がれた力を噛みしめ正面に向き直る。

 

【狼刈《ろうがい》】が当たった場所の鱗は砕かれ、羽ばたきは最初と比べると弱い。

 それでも先ほどの戦撃を受けても未だ墜ちない目の前の翼竜を見て、素直に凄い、そう思った。

 私の強さはズルの上に成り立っています。前世の強さを引き出して、何百、何千年と培ってきた経験を使って戦う。そんなズルをした私に対等以上に戦える彼はまさに強者と言うに相応しいでしょう。

 

 引け目を感じないと言えば嘘になります。寧ろ申し訳無いとさえ思う。

 

 私には才能がない。他者の何倍もの時間を掛けてようやく並ぶことができます。

 前世の力の一端を引き出し、苦手とはいえ長らく付き合ってきた格闘術で、才のある彼とようやく並び立っている事からもよくわかります。

 それでもそうしないという選択肢はありません。そうでもしないと私は全部無くしてしまうから。

 

 私は弱い。普通だったら強い人を見上げるだけで終わる程度の存在です。そんな私でも嫌いなものがあります。

 

 私は戦うのが嫌いです。痛いのが嫌いです。悲しいのが嫌いです。苦しいのが嫌いです。

 

 

 でも――――負けるのだって嫌いなんですよ!!

 

 

 全身を鮮血のように濃密な闘気が覆っていく。

 戦撃の時だけ使っていたそれを更に純度の高いレベルで常に体に纏う。

 

 引き出す方法はズルだろうと元は自分で積み上げた力でもあります。見上げるだけで終わるなんて耐えられない。大切なものを守るために鍛えた力ですが、同時に私自身が私のために強者に抗う術として手に入れた力でもあります。そこにお母様の力が助けてくれるなら――――負ける気はしません。

 

 ――最初にも言いましたが……容赦はしません。――――覚悟を。

 

 だって、貴方は強いのだから。私が手加減なんてできるはずもない。

 

 




Tips
主人公は知りませんが、鳥はそもそも肺の構造が哺乳類と違います。
鳥の肺は呼吸の効率が段違いで、常に酸素を取り込んで、二酸化炭素を排出しています。
わかりやすく言うと、厳密には違いますが主人公が言ったようにずっと息吸ってる様なものです。
今までの主人公は鳥として転生したものの、人のとしての意識が強く、呼吸がうまくできていなかったということですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30羽 フレイさん大勝利ィ!!

お気に入りと感想ありがとう!!おかげでまだまだ頑張れるぜ!


 

 そもそも闘気とは、高密度のエネルギーの塊です。

 生命力と魔力を練り合わせて生成されますが、実はここにもう一つ、呼吸の存在が不可欠になっています。

 

 私も知らなかったのですが、空気中には『魔素』なるエネルギーが存在しているそうなのです。私達の魔力が回復するのはこれがあるおかげで、普段は呼吸と共に吸い込んで体内で魔力に変換します。

 

 ですがこの魔素、体内に取り込みすぎると毒になります。

 意識の混濁から始まり、熱や嘔吐感、体の痛みに倦怠感など、危険な症状が発生し、最後には死んでしまいます。この状態で動けるのは生命体としておかしいので、まずいないでしょう。

 そうならないように体が量をセーブして、時間を掛けて魔力に変換します。

 

 師匠が言っていたのですが、私が使う闘気にはこの魔素が使われているらしいのです。魔素は魔力に変換する前からかなりのエネルギーを持っている上に、空気中にいくらでも存在しています。

 空気中に石油が存在しているようなものです。しかし先ほど言ったように私達のエンジンにこの石油をそのままぶち込むと、エンジンが壊れて死にます。コワイですね。

 

 闘気を精製する際は、生命体と魔力、そして呼吸から取り込まれた魔素をすぐさま練り合わせます。そうすることで魔素は、無害な闘気に変換され、体内に残ることがないので中毒症状が起こらないのだとか。

 更にここでネックになってくるのが戦闘中での呼吸の扱いです。

 

 通常、攻撃をする際などは息を止めます。単純に息を止めた方が力が入るからです。そうすると動き回っている際は、闘気は生成できないことになります。

 できるのは戦撃を使う前にタメの一瞬ぐらいでしょう。一応呼吸なしでも闘気は生成できますが、魔素が負担していたエネルギーの分を自前で払わないといけない訳なので、かなりの効率の悪さになります。おまけに魔素のも単純なエネルギーとして取り込んでいる訳では無いようで、闘気としての質がかなり落ちます。

 どうしても呼吸ができないとき以外は、やらない方が賢明です。

 

 そして新たな呼吸を会得した私なのですが、常に息を吸っていると感じたのは誇張では無いようで、常に魔素を取り込む呼吸ができます。酸素を取り込んで息切れがないだけでなく、激しく戦っている際も魔素の取り込みが切れることがない。

 つまり私は、私だけが、常に闘気を生み出すことができるのです。闘気における魔素の含有量が上がったおかげなのか、質もかなり上がりました。

 

 最初に言いましたが闘気は高密度のエネルギーです。これからは闘気を纏った私の戦撃も通常の攻撃も、今までとは一線を画したものになるでしょう。

 

 これも翼竜のおかげです。彼が戦おうと言い出したときは本当に嫌でしたが、彼との高高度での戦闘がなければ気づくことはなかったかも知れません。普通に飛んでいて息苦しくなれば、きっと高度を下げるだけでしょうから。気絶しかけるまで飛んでるはずもありません。どんなマゾですが、それは。

 

 ともかく戦おうと言い出した翼竜にはこの力を示すことで感謝としましょう。

 さあ、勝負です!

 

『……う』

 

 ――う?

 

『うわ~ん、われの鱗が~』

 

 ――は?

 

 突然泣き始めた。何故?え、本当に何で?

 あまりの困惑に纏っていた闘気が消え去りました。

 

『覚えてろ!父上に言いつけてやる!!』

 

 ええ……。

 

 そう言葉を残すと背中を向けて飛び去っていきました。貴方が戦いたくないのなら私は別に良いのですが、この釈然としない気持ちをどうしたら良いのでしょうか。

 さっき貴方のことをべた褒めしたんですよ。私のこの賞賛を返してもらえませんか??

 

『前の大陸でのリベンジができると思ったのに~!!』

 

 ――は?ちょ、ちょっと待ちなさい!!

 

 既に豆粒ほどの大きさになった翼竜から聞き捨てならない言葉が聞こえました。前の大陸ってどう言う事ですか!?まさかここが別の大陸とでも言うんですか!?答えてから行ってくれません!?

 

『うわ~ん』

 

 そのまま空の彼方へ。もう流石に追いつけません。

 

 え、本当にどう言う事なの……?

 

 一羽ポツンと上空に取り残された私。ヒュウゥとなんだかもの寂しい風が吹いてきてわびしくなってしまいました。

 このまま黄昏れていても何の解決にもならないので、下から見上げていたフレイさん達の元へ降り立ちます。

 すると駆け寄ってきたフレイさんに抱きしめられました。

 

「あんた凄いじゃないか!あのグレーターワイバーンを撃退するなんて!ありがとう、助かったよ」

 

 なんだか熱が籠もったような瞳のフレイさんに、首をゆっくりと振ります。

 

 ――そもそも私と勝負をするために脅されたようなものです。フレイさん達だけだったらきっと何事もなかった可能性が高いですので。

 

 言葉は伝えることができなかったですが、言いたいことは何となく伝わったでしょう。

 何故か優しげに微笑むフレイさん。スッと顔を逸らしました。

 

「まあ何にせよあんたが居てあたいは良かったよ。ありがとう、メル」

 

 ――あれ?私の名前?

 

 何故知っているのでしょうか。問うように首を傾げれば答えてくれました。

 

「さっきのグレーターワイバーンが呼んでたからね。違った?」

 

 ――なるほど、そういう理由ですか。

 

 間違っていない事を伝えるように首を振ると「じゃあ、あんたはこれからメルだね」と、確かめるように呟いた。

 

「それにしてもあんた別大陸から来たんだね」

 

 ――そう!それです!!

 

 物珍しいものを見る目のフレイさんにブンブンブンブンと首を全力で横に振ります。

 

「え?違う?」

 

 ブンブンブンブンともう一度。

 

「え?じゃあ、別大陸から来たの?」

 

 もう一回どん。ブンブンブンブン!

 

「どう言う事……?」

 

 フレイさんの頭上に疑問符がたくさん現れましたが、そう答えることしかできません。言葉を伝えられないのが辛いです……。

 やがて得心がいったのか人差し指をピンと立てたフレイさんが顔を近づけてきました。

 

「もしかして別大陸から来たことを知らない?」

 

 ――その通り!大正解です!!

 

 首を縦にブンブンブンブン!

 瞳の熱が薄くなり、心なしか残念なものを見る目に。

 

「じゃあ、あんたが行くべきだって言ってた所はどこかわかるの?」

 

 最早赤べこになった気分です。もちろん首を横に振ります。うふふ、なんだか楽しくなってきました。ヘドバンしている人の気持ちがわかるような気さえします。縦ではなく横ですが。

 

「じゃあ……、一緒に行こうか?」

 

 コクリと流石に頷きました。ここが私が今までいた大陸と別物である可能性が出てきた以上、情報収集が必要です。そんなことができる場所は人の街くらいでしょう。

 ここはフレイさん達についていって調べるのが今できる最善です。

 

 ――お母様、もうしばらく待っていてください。私は必ず帰って見せます。

 

 

 

「こ、こいつさらっと良いとこ持ってったぞ……!!」

 

「悪女過ぎて末恐ろしいんだな……」

 

 何故かログさんとターフさんはフレイさんに向けて戦慄の視線を向けていた。




Tips
鳥の肺の構造が特殊だと言いましたが、実はトカゲも似たような構造をしているらしいです。
そう考えると爬虫類の一種だと考えられるドラゴンって凄いですよね。
上空を飛んでも困らない心肺機能を持っているわけですから。
昔の人は鳥の肺の構造が高所での行動に適しているとか知らない筈なのに、驚くほどドラゴンの体が完成されていると思いませんか?まるでホントに居たみたいですよね。そう考えると夢が広がります。
まあ、本当にいたら夢は広がっても寿命は縮みますが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31羽 パルクナット

 

 フレイさんに着いて行って調査ポイントとやらを巡り、最後の確認もし終わった後。何も収穫はなく茜色の空の元、帰路につくことになりました。

 

 私はフレイさんの頭の上に乗せられていた。私バランスボールサイズなんですが、もしかして貴女はスーパーマ〇ラ人ですか?

 いや、まあレベルが高かったら私くらいの重さは問題ないと思いますが。

 そんな益体もない事を考えていたら声を掛けられました。

 

「それにしてもあのグレーターワイバーンが龍帝の息子だとは驚いたね」

 

 ――そういえばあの子は龍帝に言いつけるなんて言ってましたが、大丈夫なんでしょうか。いきなり龍帝が飛んできたりとかしないですよね?

 

 そんな疑問を持ったことをログさんが気づいてくれたのか答えてくれます。

 

「まあ大丈夫だと思うぜ。前に暴れ回ってた龍帝の子供だっていう飛竜を誰かが討伐したときも何もなかったし」

 

「聞いた話によると龍帝は強さに関して結構シビアらしいんだな。負けるのが悪いみたいな感じで」

 

 ――なるほど、強さを大事にするドラゴンっぽい考え方ですね。

 

 と、そんなことを考えているうちに着いたようです。

 

「さあ、ここが私達が拠点にしている街、パルクナットだよ」

 

 目の前には城門。馬車など人が出入りしているのが見えます。地面にはクッキリと馬車の車輪の跡がついています。見るに交通量は結構多い方ですね。かなり発展している街だと見ました。

 フレイさんの頭に乗ったまま城門に近づいていけば、人の出入りを確認している複数の門番さんが立っていました。

 

「お?フレイ、どうしたんだそいつ」

 

 近づいてきた門番さんの一人に翼をフリフリします。こんばんわー。

 

「へぇ、かわいいじゃん」

 

 伸ばしてくる手を翼でパシリとはたき落とします。

 殿方が婦女子にみだりに触れるなんてはしたないですよ。自重してください。

 

「おっと、触っちゃダメだったか。ごめんな」

 

 門番さんの言葉に問題ないと首を振ります。

 

 ――いえ、お母様譲りの羽毛が魅力的なのはわかりますので。私もなんどももふもふさせて貰いました。……会いたいなあ。

 

「悪いねガード。今日偶然拾った子なんだけど、どうも男はダメみたいでさ。あたいしか撫でさせてくれないんだ」

 

 苦笑したフレイさん。

 当たり前です。子供ならともかく男の人に気安く触らせるなんてあり得ません。これでも武家とはいえ貴族の娘だったこともあります。

 すると門番のガードさんはうんうんと唸り始めました。

 

「なるほどね。いや、それにしても残念だな~。折角こんなに綺麗な翼なのに……」

 

「おいおい、ガード。馬鹿いってないで早く仮登録の書類を持ってきてくれよ。こいつの許可証がないといつまで経っても街に入れないだろうが」

 

「へいへいっと」

 

 急かすようにしてログさんが自分の肩を槍で叩きました。ガードさんは詰め所らしき場所に引っ込んでいきます。

 しばらくして書類とペン、それと木箱を持ったガードさんが戻ってきました。

 ササッと書類を書いている間にフレイさんが説明をしてくれます。

 

「魔物のあんたが街に入るには人の後見人がいるんだけど、それには従魔という形を取るしかないんだ。あたいに従っているという事になるけど大丈夫?」

 

 問題ありません。頷きます。

 

「それと一応許可を得てるっていうわかりやすい目印がいるんだけど……」

 

 そう言って木箱から取り出したのは首輪でした。

 うぐ、それはできれば遠慮したいなと……。そんな願いを込めてフレイさんを見上げます。

 

「ふふっ、冗談だよ。あんたは感情がわかりやすくてかわいいね」

 

 ――むう……。そんなにわかりやすいでしょうか。

 

「ほら、このスカーフを着けておけば問題ない」

 

 自分の顔を確認するように翼で触っていると、フレイさんが次に取り出したのは白のスカーフ。自分でできない私の代わりに優しく巻き付けてくれました。

 

「うん似合ってるね。ガード、これいくらだい?」

 

「新品だから300ゴールドだ。この子はタダのスワロー種だから審査もいらないし、書類の発行と合わせて1000ゴールドだな」

 

「結構行くな……。ほら」

 

「おう、ちゃんと受け取ったぜ」

 

 お金も払って貰いました。後でしっかりお返ししないといけませんね。

 そうしてようやく通行の許可が。

 城門をくぐればワッと広がる人の活気が眩しいくらい。

 遠くまで続く大通りとそれに隣する数々の建物。人が住んでいる場所にようやくやって来たんですね……。今までは森の中で魔物と戦ったり、魔物と戦ったり、魔物と戦ったり……。やはり相当にハードなのでは?

 

 遠い目をしていると、なにやら美味しそうな匂いが屋台から……。

 お肉のあぶられる匂いとソースの香りが絡まって辛抱たまりません……!!思わずお腹が鳴ってしまいます。

 

「ん?あれが食いたいのか?……しょうがないなぁ」

 

 ――良いのですか!?

 

「目がきらめいてる……。おっちゃん、そのオーク串三本おくれ」

 

「はいよ!!」

 

「見ろよ、さっきからあのフレイが金出してるぞ」

 

「明日には空から飛龍でも降るんだな……」

 

「聞こえてるよ、あんた達……」

 

 フレイさんがログさんとターフさんを睨み付けていますが、私はそんなことはつゆ知らず。

 目はフレイさんの手の中にある串焼きに釘付けです。……ゴクリ。

 

 ありがとうございます。空を飛んでフレイさんから串を受け取ろうとしますが……。

 

「おっと」

 

 避けられてしまいました……。お預け、こんな絶望がこの世にあるでしょうか。ヤハリニンゲンハシンジルベキデハナカッタ……。

 

「待て待て待て、そんな悲しそうな顔するなって。ほら、こっちこい」

 

 そう言ってフレイさんは右手を差し出してきました。……留まれということでしょうか。鉤爪で傷つけないようにそっと降り立ちます。

 

「はい、口開けな」

 

 そう言って串を口元に近づけてきました。

 これはまさか、あーんですか!?こ、こんな大通りで!?は、恥ずかしいです……!!

 オロオロしているとフレイさんの表情が段々不機嫌になってきました。

 

「なんだい、あたいの手からは食べられないって言うのかい?」

 

 プスッとした表情のフレイさんを前にして食べないなんて選択肢はありません。

 

 ――い、いただきます。

 

 今にも肉汁とタレ溢れそうな串にパクつきます。

 

 ――こ、これは!!

 

 口の中でとろける豚肉の旨みと、とろりとしたタレの甘みが調和し口の中で広がっていきます!

 美味しいよぉ。箸が止まりません。箸持てないですけどそんなことどうでも良いです!!

 

 普通の鳥だったらこれを食べると体に悪いですが、私は魔物なので問題ありませんね!!

 

「本当にうまそうに食べるね」

 

 そう言ったフレイさんも私がかじった後の串を口に運んで行きます。

 それは……、まあ、美味しいので、ヨシ!!気にしたら負けです。

 

「ほら、口にタレが付いてるよ」

 

 夢中で食べた後、フレイさんにハンカチで顔を拭かれてしまいました。お恥ずかしい……。

 

「なんだか和むんだな」

 

「それな」

 

「でもボクたちの分は普通にないんだな……」

 

「それな……」

 

 そうして歩いているうちに一際大きな建物の前にやって来ました。ここがどこかはわかりませんが、私は人類の事情は全くわからないのでもうお任せしています。はい。

 

「ここが冒険者ギルドだ。冒険者ってのが俺達みたいに魔物を倒したり調査したりする奴のことを指す。んで、ギルドってのがそれを依頼して、報酬を払ってくれる所だ」

 

 説明ありがとうございますログさん。

 

「あたい達はギルドに行ってくるから、あんたはあっちの獣舎で待っててくれる?登録が完了してない魔物を入れるのはあんまりよろしくなくてね。あとで呼びに来るから」

 

 ――わかりました。

 

 頷いて横にあった建物に飛んでいきます。

 

 ――お邪魔しま~す。

 

 ウエスタンドアを押して入れば既にいた魔物達から一気に視線が。

 様々な魔物がいる中、一際大きな狼のような魔物が声を掛けてきました。

 

『おいおい嬢ちゃん。ここはあんたみたいな子供が来る場所じゃないぜ』

 




来たるテンプレの予感……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32羽 パルクナット その2 宗教・世界地図

地図の絵はないです。


 

「それで調査結果はどうだったかの?」

 

 そうフレイに問いかけたのは椅子に腰掛けた小さな老人だった。

 

「なにもなかったよギルドマスター」

 

 ギルドマスターとは冒険者ギルド、つまり冒険者に仕事を凱旋するこの施設のボスだ。

 ギルドは他大陸にも存在し、一つの組織として相互に連携を取って活動している。

 

「ふむ、そうか。なにもなかったか。あんなにも目撃情報があったのに」

 

 森の付近で不審な影を見たと言った話が冒険者の間からいくつも上がっていた。証言は大体「大きな影」「たくさんの影が揺れていた」「聞いたことのない鳴き声を聞いた」とほぼ似通っていた。

 

 目撃者は多数いた。なのになにもなかった。

 

 まるで(・・・)隠されて(・・・・)いるかのように(・・・・・・・)

 

「そうそう、龍帝の息子だっていうグレーターワイバーンが現れたんだが、そいつもなにか探している様だったぜ」

 

「なるほどのう。こちらでも打てる手を打っておこう」

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

「おーい、メル?どこに……って何やってんのあんた」

 

 私を中心に全ての魔物が倒れ伏す中、いつの間にかやって来たフレイさんに背後から声をかけられました。

 

 ――なにって、少し撫でてあげただけですよ……。本当に少しだけね。

 

 ふふ、我ながら自分の才能が恐ろしいです……。

 

 そう、この動物をなでなでするテクニックが!!

 私、最初の人生から動物が好きでして、たくさん撫でていたんですよ。するとですね動物に喜んでもらえる撫で方というのが段々わかってきまして、ドンドン上手くなっていったのですよ。

 お母様も一分と立たないうちに逃げ出したことから、その実力がわかるかと思います。

 

 最近は命の危険の方が大きく、動物を愛でる機会がなかなか無かったので、この大きな狼が来たときについ張り切ってしまいまして。折角なのでと、全ての魔物をなでなでしたのです。

 しかし私の撫で方はどうも気持ちよすぎるらしく、皆ピクピクしながら眠ってしまうのです。

 

「クウ~ン」

 

 この狼だけは例外で、しばらくすると起き上がってすり寄ってくるんですよ。なのでなんども撫でてあげられるんです。最初はなんだか威嚇しているような雰囲気で近寄ってきていたんですが、照れてたんでしょうね。おお~よしよし。

 

「クウ~nッ!?ビクンビクンッ!!」

 

「あの凶暴で有名な魔狼を手なずけてる……」

 

 私が天からもらった唯一の才能といっても過言ではないでしょう。……なんだか自分で言ってて悲しくなってきました。私の才能、動物を撫でるだけって……。

 

「なんでいきなり落ち込んだのさ……。ほら、こっち来な」

 

 失意のままにフレイさんの元にトボトボ歩いて行けば、側にもう一人。

 

 金糸のような髪を肩口で切りそろえ、目鼻立ちの整ったかわいい女の子です。

 

「どうも!受付嬢やってます!ラクトです!あの魔狼が従うなんて鳥さん凄いですね!」

 

 ――受付ジョー……。鳴き声は「アイボウ!」でしょうか?

 

 そんなバカな事を考えていると、ラクトさんが鞄をゴソゴソして、手の平サイズの水晶玉を取り出しました。これは?

 

「この水晶に触れて頂くとフレイさんとの従魔登録が完了します。フレイさんと一緒なら自由に人の街に出入りできるようになりますよ」

 

 わかりました。水晶に触れると僅かに魔力が吸い出される気配が。

 

「……はい、大丈夫です。登録が完了しました!これでフレイさんの冒険者カードに鳥さんの情報が追加されました。これからは都市や街、村などの入り口でカードを提示して頂ければ簡単に出入りできますよ」

 

 ――こんな小さな水晶と冒険者カードが連携しているのですか。なんだか凄いオーバーテクノロジーな気がしますが普通なのでしょうか。

 

「ありがとね、ラクト。よし、じゃあ帰るよ」

 

 ――おっと。

 

 抱き上げられて頭の上に載せられました。ラクトさんも不思議な目で見上げてきます。やっぱり変では?

 

 ――また来ますからね。

 

 立ち去る際、視線を送るとビクリと倒れ伏した魔物達は反応した。

 

 

 ギルドでログさんとターフさんと合流し、その帰り道。フレイさんの頭の上から露店や出店を眺めていると、今までとは一風変わった建物を見つけました。あれは何でしょうか?

 

「あれは白蛇聖教の教会だ。白蛇聖教ってのは幸運の白蛇の神さまがいるから、それを信仰しとけばみんな幸運になれるぜって教えの宗教だよ。一番メジャーだな」

 

 ジッと眺めているとログさんがすぐさま教えてくれました。気遣いが凄いですね。実はあなた女性にモテるのでは?私は訝しんだ。

 

「反対に悪い意味でメジャーなのがジャシン教ってのでな、世界中で悪事を働いている」

 

「ジャシン教は訳のわからない事をいろいろやっているんだけど、総じて皆ジャシンを復活させようとしてるんだな」

 

「でジャシンってのが結構な代物で、遙か昔に世界が一度滅ぼされたらしいんだ」

 

 ――なるほど。さっきの水晶玉と冒険者カードはその文明のものなのでしょう。

 

「まあ、今生きてるのはその時に生き残った奴らの子孫ってことさ」

 

「しかもジャシン教の教祖がコアイマらしいんだ」

 

 ――コアイマ?何でしょうそれは。

 

「コアイマってのは人類の不倶戴天の敵。人の姿をしている癖に人類とは永遠にわかり合えることができないバケモノ。魔物ですら敵意をむき出しにする存在だ。しかも途方もなく強いんだ。実際かなりの数の人類が殺されている。あんたも会えばわかるよ、あれは生きてちゃいけないものだ」

 

 俯いたフレイさんの声は非常に暗いものでした。頭上にいる私からはその表情をうかがい知ることはできません。

 

「……さ、着いたよ。ここがあたいらが取ってる宿。『萌えよドラゴン』さ」

 

 ――その名前はアウトなのでは?

 

 私の懸念は一気に吹き飛んだ。

 

 

 取っていた部屋は二つ。フレイさんは自分の部屋に不要な荷物を置くともう一つの部屋の扉をノックして入り込んだ。

 私が世界規模の迷子っぽいので、行く先を探す手がかりを見つけてくれる様なのです。……感謝しかありません。

 

「さて、これが世界地図だよ。この世界は四つの大陸と一つの島国から成り立っている。私達がいるのがここ」

 

 地図には東西南北にそれぞれ大きな大陸があり、地図の中央に島国が存在していた。

 フレイさんが指さす。一番上、北だ。

 

「ノッセントルグ大陸。基本年中寒い」

 

 次々に指さしていく。西のウェイストリア大陸。東のイスタルカム大陸。南のサウザンクルス大陸。

 

「そして中央の島国はセントラルクス、白蛇聖教の聖地が位置している。これでなにかわかるかい?」

 

 ――うん。さっぱりわかりません。私は自分が住んでいた森の名前すら知らないのですから。

 

 そもそも私は本当に別大陸に居るのでしょうか……。情報源があの泣き虫翼竜ですからつい疑ってしまいます。

 もし本当ならなぜ……。今唯一原因と考えられるのは地竜のいた洞窟でしょうか。あそこの空間がねじ曲がっていて、出てくる先が別の大陸だったとか。推測の域を出ませんがそれくらいしか思いつきません。

 あの洞窟に戻ろうにも、記憶が曖昧で森一帯を捜索しなければいけませんし、そもそも自分が倒れていた場所ませ連れて行って貰うように伝えなければなりません。

 言葉が話せない現状なかなか難しいですし、洞窟にたどり着いた所で帰りの通路は大量の瓦礫で塞がっています。問題しかありません。

 

「てい」

 

 ――あいたっ!?

 

 いつの間にか考え込んでいた様でフレイさんからチョップを頂いてしまいました。

 

「無視すんな」

 

 ――うぐ、ごめんなさい。

 

「やっぱわかんないか。魔物のあんたじゃ人間の地図は見たことないのは予想済みだから良いとして……。いっそあんたと世界中を旅して回るのも良いけどね」

 

 ――それは流石に負担を掛けすぎですよ。

 

「いきなりなんだな。それに別の大陸に渡るのは白蛇聖教の許可がいるから大変なんだな……」

 

 ――それって宗教が物流を握っているって事ですか?マズいのでは?私は魔物なので今世ではあまり関係ないですが、神が不在の宗教ほど厄介なものはありません。独自解釈でなんとでも言えますから。結果宗教そのものに苦手意識があるんですよね。

 

「とりあえずしばらくはこの大陸の地理について教えていくよ。地図を見たことないとはいえ、なにか知ってるかもしれないしね。とは言え今日は疲れたからまた明日ね」

 

 そうですね、私も闘気をかなり消費したので休みたいです。全員が同意すると今日は解散になりました。

 

 フレイさんがの部屋に着くと宿から借りた大きめの桶を取り出し、お湯を張り始めた。体を拭うのでしょうか。お待ちかねのお色気シーンですかと頷いていると桶に私が浸けられた。何故に?

 

「今日はあんたを抱き枕にする予定なんだ。綺麗に洗ってあげるからね」

 

 ――ちょっと待ってもらえませんか??私に拒否権は??

 

 ありませんでした。

 

 この後めちゃくちゃ洗われて、めちゃくちゃ抱き枕にされた

 




冒険者ギルドで先輩に絡まれる。テンプレですね!
あれ?なんか違います?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33羽 パルクナット その3

お気に入りと感想ありがとー!!


 

 宿屋『萌えよドラゴン』の庭に朝日が柔らかく降り注ぐ中、呼吸を整え集中力を高めていく。

 完全に馴染んだ、鳥としての呼吸を深く、深く、強く意識して――――闘気を身に纏う。

 闘気を纏ったまま演武で体の調子を確かめていく。

 氣装纏鎧《エンスタフト》と名付けたこの技術は未だ未完成です。体を動かすと時たまかき消えそうになる鮮血のオーラを視界の端で捉えた。

 

 戦撃は一度発動すると、技が終わるまでは体がほぼ自動的に動きます。そのため、意識は敵と闘気の維持だけに裂かれます。何が言いたいのかというと、私は闘気を使っているときに自分で大きく動いたことがないと言うことです。

 タダ歩く、飛ぶなどの動作なら支障はあまりないのですが、そこに技を意識すると途端に維持の質が落ち込みます。

 いいえ、少し違いますね。私は相手の対応を予測しようとしたときに、その先の自分が使うべき技まで意識して戦っています。

 相手がこう動くだろうから、こう対応しよう。それをいくつも同時に考える。そこに意識が裂かれた瞬間、闘気の維持に大きく揺らぎができます。

 それもひとえに私が未熟が故。

 

 演武の相手は我が体術の師。最後まで徒手空拳で勝てることはありませんでした。

 イメージトレーニングで記憶の中の師と激しい戦いを繰り広げる。流石に足だけだと厳しいので翼も使えるものとして対抗するものの、どうあっても対応される。闘気の維持に意識を裂けば大きく押し込まれ、マズいと応戦すれば闘気が消えそうになる。結局どちらも上手くできなかった私は、師に足払いをかけられて地面に叩きつけられ、トドメの踏みつけをまともに食らってしまいました。

 ひどい、そこまですることないでしょう……。ニヤニヤ笑っちゃって、弟子に勝てたのがそんなに嬉しいんですか。

 

 ――ふう。

 

 演武は私の敗北に終わり、宿に戻ろうとするとフレイさんがこちらを見つめていました。翼を振ってみるものの上の空。返事がない、タダの屍のようだ。なんてそんなことは無いので今度は近づいて目の前で翼をフリフリします。おーい。気づいてくれました。

 

「あ、ああ、メル。朝ご飯にしよう」

 

 ―――やった!宿の名前はともかく、ご飯は美味しいので毎朝楽しみなんですよね。

 

 ご飯が楽しみだったその時の私は、背後からじっと見つめるフレイさんの視線には全く気づいていませんでした。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

 パルクナットに着いてから既に四日。

 この大陸の地名をフレイさん達に只管聞いていたのですが、めぼしい収穫はありませんでした。観光地に詳しくなったくらいでしょうか。

 他大陸について聞こうにも、基本的に行ったことの無い人ばかりで何を聞こうやらと言った具合です。そもそもここが他大陸なのかも定かではないまま。

 ……最悪は霊峰ラーゲンにいる龍帝を尋ねることで解決できそうではありますが、危険だそうなのでなるべくやりたくありません。最後の手段です。ひょっこり翼竜が戻ってくるのが一番良いのですが今のところその気配はありません。

 

『なんだ貴―――』ビクッ!『様ら。何を見ている、見世物ではな―――』ビクンビクンッ!!『いぞ』

 

「どうしたんだよ、アンブロシアヘイルストローム!お前そんなやつじゃなかっただろ!」

 

 それこの子の名前ですか?手に包帯を巻き、眼帯をした男性が私が乗った魔狼に悲痛な叫びを投げかけています。

 

 調べるだけで四日。そろそろ仕事をしないと、と言っていたフレイさんの冒険者としての依頼を手伝うことにしました。養って貰うだけでは申し訳無いので。

 今回フレイさん達のクエストで飼い主さんと一緒になったので、折角だからと撫でていたのですが……。

 アンブロシアヘイルストロームなんて名前呼びにくいので縮めましょう。そうですね……、「アンブロシア」と「ヘイルストローム」の頭文字を取って「アヘ」くんにしましょう!我ながら言い名前です!

 アヘくんはそれで良いですか?

 

「クウ~ン、クウ~ン」

 

 ―――あ、はい。撫でるのやめちゃダメなんですね。なでなで。

 

『お゛お゛ッ!?』

 

「ダメだこいつ。早くなんとかしないと」

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

 紆余曲折あった末、私はアヘくんから引き離され、フレイさんの頭上の定位置に降ろされました。もふもふがぁ。

 

 ……なんでフレイさんとアヘくんはそんなににらみ合っているんですか?それで飼い主さんは何でそんなに私を睨んでいるんですか?アヘくんを取ったりはしませんよ?

 

「それにしてもあんたが戻ってきているとはね、ジョン」

 

「ふっ、俺は俺を必要とする場に必ず現れる。そう、雷《いかづち》の如く……!!」

 

「必要なのはこっちのアンブロシアヘイルストロームの方なんだな」

 

「何でそういうこと言うかなあ!」

 

 飼い主のジョンさんはアレなしゃべり方をする人なんですね。すぐに普通になりましたけど。

 皆さん対応には慣れたものなので知り合いなのでしょう。

 

「ゴホン!パルクナットに不穏な影が差していると風が教えてくれたのさ。そこで俺と相棒のアンブロシアヘイルストロームは駆けつけたのだ。そう、雷《いかづち》の如く……!!」

 

 う~ん、天丼。

 ともかく、アヘくんの鼻ならなにかわかるかもって事ですね。私達はその護衛と。

 さあ、張り切っていきましょう!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34羽 パルクナット その4 冒険者ランク・魔法と魔術の違い

 

「にしても最近はAランク以上の冒険者がほとんど別の場所に出払ってるからな。俺ら含め、良いとこBランクぐらいしか街にいないのもあって調査がなかなか進まない」

 

「なんでも白蛇聖教が割の良い依頼を高ランクの冒険者に指名で出しているみたいなんだな」

 

 そんな愚痴を溢しながらログさんが槍を突き出し、ターフさんが戦槌を振り下ろす。向かう先に居るのは緑色の肌をした小鬼のような魔物、ゴブリン。いろいろな世界に居るメジャーな魔物ですが、この世界のゴブリンは特に強くない、最弱の魔物の部類です。

 

「それのおかげでこうやって調査してるだけで結構良い報酬がギルドから払われるんだ。そう悪くはないだろう?」

 

 棍棒を大きく振りかぶったゴブリンに、素早く接近したフレイさんが首に押し付けた右手のナイフを軽い動作で振り抜いた。絶命するゴブリンに目もくれず、僅かに位置取りし直して左手の短杖《ワンド》を別のゴブリンに向ける。

 

「《バースト》」

 

 細い光線状の炎がゴブリンの脳天を貫き、物言わぬ骸に変えた。

 

 この世界の冒険者は熟した実績からランク付けをされています。最高ランクがSで、最低がE。更に番外として英雄級というのがいるらしいです。SランクとAランクの間には大きな隔たりがあり、Sランクと英雄級の間には越えられない壁が存在しているそうです。

 

「お、終わったのか?」

 

 アヘくんの影に隠れていたジョンさんがヒョッコリと顔を出す。やっぱり貴方、戦わないんですね……。そんなにカッコつけてるのに……。

 

 このジョンさんは相棒のアヘくんの能力を活かして、配達や採取、調査系の依頼を多く熟して、討伐系の依頼は全くやっていないそうです。アヘくんはBランク上位くらいの実力があるらしいのですが、件のジョンさんの戦闘力は皆無なので冒険者ランクはCに落ち着いているそうです。

 アヘくんは子供の頃にジョンさんが拾ってきたらしく、最初はハウンド系列の犬の魔物だと思っていたらしいんですが、育ってみてびっくり。高ランクの魔狼だったと。

 だから自分よりも弱いジョンさんと仲良くしているわけですね。狼は総じてプライドが高く、自分より弱いものには例外を除いて従わないので。アヘくんが念話を使えるのはジョンさんと話そうとした結果だとか。……なんで私は使えないのか。……才能が無いからですよね、わかってますよそれくらい。

 

 フレイさん達はBランクです。一芸に特化したジョンさんはともかく、ここら辺のランクになってくると、かなりの実績と信用がいるらしいです。皆さん頼りになるので納得のランクです。

 

 それとあの泣き虫翼竜はAランクの実力がないと、単独では対処できない様なので私はAランク程と考えて良いのかも知れません。

 

「1、2、3……7?あれ、一匹足りなく無いか?」

 

 そんなジョンさんの背後にゆっくりと忍び寄る影が一つ。コソコソと回り込んでいたゴブリンが、手の小さな杖を掲げると紫色の球体を発射した。

 

 気づいていないジョンさんに直撃コースの球体を闘気を纏って蹴り飛ばし、闘気を込めた『射出』をするとゴブリンの頭が消し飛んだ。……やり過ぎました。

 

「メル!!……なんともないのかい?」

 

 ―――はい?どうしたんですか?

 

 心配そうな声で駆け寄ってきたフレイさんに首を傾げる。するとターフさんが補足を入れてくました。

 

「今のはゴブリンシャーマンの《カース》なんだな。弱い人間だったら死んじゃうこともあるんだな」

 

「強くても体調ぐらいは悪くなるし、数日は続くぞ。お前……、ホントになんともないのか?」

 

 体が重くなったり気分が悪くなったりもしてないので問題ないでしょう。大丈夫であることをアピールしておきます。

 

「なら良いんだけど……」

 

 ほっとした表情を浮かべるフレイさん。

 これは最近復活した魂源輪廻《ウロボロス》の『限定解放(呪人)』のおかげですね。この前起きたら戻ってました。なんで?

 

 ともかく、呪人族は基本的に通常の人族とほぼ変わらないんですが、唯一違うのが『呪力《しゅりょく》』を生成できる臓器を持っていることです。

 

 ・限定解放(呪人)

 解放能力 [+呪術適正・呪術耐性・占術・魔術適正]

 

「呪術」呪力を使って呪《のろ》いや呪《なじな》いを扱える能力です。私はもっぱら呪《まじな》いばかりを使っていたので呪《のろ》いの方は全然ですね。呪《のろ》いそのものが嫌いだったのもありますが何より呪《のろ》いは失敗すると倍になって自分に返ってくるので、リスクとリターンが合っていません。

 これとは別に呪法というものがあるのですが私は苦手でしたのでスキルにはなりませんでした。

 

 魔法と魔術の明確な違いがありまして、これの差が呪法と呪術の違いにもなります。

 魔力での説明になりますがそれぞれメリットがあり、魔法は応用力と自由度、魔術は簡略化と速度になります。

 まず魔法はその場で魔力を操って形を作ります。魔力を自分の感覚に従ってこねくり回し、それを自分が望む形にするので、どんな場面でも効果に困る事は無いのですが、如何せん戦闘中になると魔力の操作にまで気を取られてしまい、私には難しい魔法を使うことができません。《ウィンド》なども簡単な上に、鳥としてほぼ無意識に飛行の補助に使えるレベルで適性があるから使えているに過ぎず、これ以上になるとほぼ無理です。その分使いこなせれば万能なんて目ではなくなるのですが、私には才能がありませんでした。

 

 反面、魔術は比較的簡単にできています。最初に魔術としての雛形を作っておき、そこに魔力を流し込むだけで効果が発動する仕様になっています。発動が簡単で即座に起動できるのが強みですが、作ってない魔術は使うことができず、既にある魔術も既定の効果しか現れないので、融通が利きません。

 

 呪法と呪術は魔力ではなく、これの呪力バージョンになります。

 

 魔法が苦手だった私は魔力の運用を諦め、戦撃にだけ使う決意をしていたのですが、師匠のおかげで魔術として使えるようになりました。

 師匠は才能の化け物で、魔術に手を加えた変数型の魔術を使っていました。この変数型魔術と言うのが、魔術の雛形に流す魔力の比率を、流す場所によって変えることで効果を変化させるというものになります。

 ここで重要なのが量ではなく比率と言うところです。

 

 いやそれができないから魔術使ってるんですが??

 一応いくつかの変数型魔術は受け継ぎましたが、使いこなせる気が全くしません。

 普通に魔力を流したら火球になる雛形が、比率を弄って発動すると水の槍になって出てくるんですよ?

 訳がわからないよ……。白い猫みたいなヤバい奴もきっとそう言うはずです。

 

 呪人族になる前の人生で師匠に会えていたので良かったですが、そうでなければまともに呪法を扱えない私はこの能力を使いこなせないまま人生を終えていたでしょう。

 

 と、ここまで沢山説明しましたが私は今魔術が使えません。なぜなら私の技術では魔術を形作るのに手が必須からです。魔術は魔法と違い、体の外で形を作ります。その際、手から放出した魔力で魔術陣を描く、と言うよりも固めるのですが私は握り込む動作が必須になります。

 

 優れた術者はなんの動作も必要なく、また手だけでなく全身から放出した魔力で魔術陣を固めることができるのですが、私は手から出した魔力かつ、握り込む動作がいります。これも魔力を扱うのに想像力がどうしても必要になるためです。足で箸が持てないように、私は手でしか魔力を扱えないのです。このへたくそぉ……。

 

 ちなみにお察しの通り師匠は軽々とこれをこなせます。これだから天才は……!!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35羽 パルクナット その5 痕跡

 

「呪術耐性」呪術に耐性があるわけでなく、体調を悪くしたり直接干渉してきたりするような魔法、魔術に耐性を持ちます。魔力による効果は防げますが薬などには効果がありません。フグや毒キノコの毒は防げないですが、さっきのゴブリンシャーマンの《カース》のような魔法攻撃は防げます。《ウィンド》のような直接攻撃する魔力攻撃にも効果が無いです。

 

「占術」占いができます。が、これも魔術陣がいるので使えません。当たるも八卦当たらぬも八卦と言った具合です。信じすぎるのも良くありません。どうしてもなにかを決められないときとかに使うと状況が打開できることもあったので、まあお守りのようなものです。

 

「魔術適正」魔術が扱いやすくなります。とは言え、上記の呪術適正よりは補正効果が体感下ですね。無いよりマシです。

 

呪人は総評して魔法に特化したステータスをしています。ソウルボードにセットすることで上昇するステータスは低めの部類ですが、呪術や占術など代えの利かない能力を持っています。まあ、今は使えないので意味無いですが、さっきのように耐性が仕事をしてくれます。

 

 

折角なのでステータスも見ておきましょう。

 

 

名前 メルシュナーダ 種族:キッズスワロー

 

Lv.15 状態:普通

 

生命力:2669/2869

総魔力: 763/ 781

攻撃力: 674

防御力: 263

魔法力: 319

魔抗力: 253

敏捷力:1864

 

種族スキル

羽ばたく[+飛行・強風の力・カマイタチ・射出]・つつく[+貫通力強化]・鷲づかみ[+握撃]・空の息吹

 

特殊スキル

魂源輪廻[+限定解放(鬼)・(吸血鬼)・(呪人)]

 

称号

輪廻から外れた者・魂の封印・格上殺し(ジャイアントキリング)

 

 

 

翼竜との戦いもあって、レベルは15。倒していませんが、経験値はもらえました。

ステータスがしっかり上がり、種族スキルに追加されたのが「空の息吹」というスキル。これが鳥としての呼吸をスキルにしたものですね。

 

 

全員活動に支障は無いので、調査を続行します。

先行するアヘくんの後ろについて歩いていると、意を決したようにジョンさんが近づいてきました。

 

「……風の友よ、助かった。感謝しよう」

 

先ほど《カース》を防いだお礼でしょう。

 

――まあ、それは良いんですけど、普通に話しません?落差がありすぎて風邪引きそうです。

 

 

■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

夕方。

 

特に収穫もなく、襲いかかってくる魔物をいくつか倒し、今日の調査は終わろうかと言ったところでアヘくんがなにかを嗅ぎつけたようです。

 

『こっちだ、こちらから痺れるような匂いがする』

 

探索初日になにかを見つけるとは優秀ですね。流石アヘくんです。うちのペットになりませんか?

 

掛けだしたアヘくんに着いて行くと、次第に木々が増え、薄暗くなってきました。

 

『ここだ』

 

夕方と言うこともあって薄暗い森の中、突然視界が開けました。

 

「なんだ、これ……」

 

ログさんが呟いたその言葉は皆の気持ちを的確に表していました。

 

大きな何かに押しつぶされたように、中心部から四方に向けて木々がなぎ倒されている。

 

む?魔力の残滓が漂ってますね。これは……、空間系?魔法の効果によっていきなりここに何かが現れた?

 

「こんなに大きな痕跡が残っていたなら、俺とアンブロシアヘイルストロームがいなくてもいずれ見つけてたろうな。でも……お手柄だぞ、アンブロシアヘイルストローム」

 

「待ちなよ。これが件の奴の痕跡とは限らないだろう?」

 

「まあ、しかし別にしろなんにしろ、何かが居るのは確定だな」

 

なぎ倒された木々を調べながら、それぞれが思い思いの考察を口にする。

 

「このこすれたような痕は……、鱗かい?あの翼竜が墜ちてきたとか?」

 

「多分違うと思うぜ、こっちの地面にも痕跡がある。おそらくこいつは這いずって動くタイプだ」

 

なるほど……、全然わかりません。周り見張っときますね!

 

「それにしても」

 

ジョンさんがわからないといた風に首をひねる。

 

「今までは何も見つからなかったんだろ?ここに来て何で急にこんなに簡単に?」

 

「う~ん、何かあって隠せなくなったとかじゃないのかい?」

 

フレイさんが答えるとログさんがポツリと呟きました。

 

「隠せなかったんじゃなくて……隠す必要がなくなったんだとしたら?」

 

その時、ターフさんの急かすように呼ぶ声が聞こえた。

 

「こっちに来て欲しいんだな!」

 

ターフさんの元へ急いで行ってみると木々がなぎ倒され、削れた地面が道のように続いていた。

 

「なんだ、こっちからここに来たのか」

 

なるほど、それならあの空間魔法の残滓は勘違いでしょうか。

 

「違うんだな。僕も最初はそう思ったんだけど、木は全部ここから外に向けて倒れているんだな」

 

木々を押しのけた方向に倒れたと考えると、ここから離れたのでしょうか。それならやっぱり空間魔法でいきなり現れた?

 

「そしてこれは……、パルクナットの、街の方向なんだな……!!」

 

「なんだって!?」

 




不穏な空気が漂っていますが……、
もしこの先の展開で、「この展開は熱い!」「主人公がカッコイイ!」「思わず力が籠もった!」「お腹減ったわ」「いやお腹は減ってない」
と思って頂けたら、ぜひお気に入りと評価をお願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36羽 襲撃

お気に入りありがとう!


 

「マズいね。確かにこっちはパルクナットの方角だ。早く追いかけた方が良い」

 

 この中で一番速いのは私です。私が飛んでいけば追いつけるかも知れません。

 

「待った」

 

 そう思い至り、飛び上がったところフレイさんに止められてしまいました。

 

「あんただけで行くのは危険すぎる。全員で移動するよ」

 

 ―――そんな……!私なら大丈夫ですから!!

 

「なんて言ってるかはわからないけど……、これはあんただけのために言ってる訳じゃないよ。こんなかで一番強いのはおそらくあんただ。そんなあんたが先行して負けるような危険な奴がいたら、私達だけじゃ対処できない可能性がある。もし、もう街に到達していたとしても、今は夕方だ。Aランク越えの冒険者がいないとはいえ、遠出している奴以外は大多数の冒険者が戻ってきている筈。防衛戦力くらいあるよ。手遅れになっている可能性もあるけど、まだ痕跡は比較的に新しい、間に合うはずだ。冷静になりな。こういうとき焦った奴から死んでいく。良いね?」

 

 ――……わかりました。確かに理に適っています。従いましょう。

 

「良し、まともに戦える体力を残したまま全速力で移動するよ、急ぐよ!」

 

「おう」「わかったんだな」「了解した」

 

 ―――ええ、急ぎましょう……!!

 

 

 不要な荷物を捨てて、フレイさんが言う最大速度で移動を始めた。

 地面を削りながら移動している魔物の影はいつまで経っても見えない。ジリジリと焦燥感が募る中、願いも虚しく遂に城壁が目に入った。

 

「マジィぞ。城門が壊されてる!」

 

「煙が……!!」

 

「焦るな……!!きっと大丈夫だよ!!」

 

 皆が冷静さを欠こうとする中、フレイさんは冷静でした。しかしその表情は焦りを必死に押し隠そうとするもので。

 その表情を見て他の皆が、頭に冷水をかけられたように逆に冷静になったのは必然だったと言えるでしょう。

 

 たどり着いた壊された城門で見たものは思わず息をのんでしまうようなものでした。

 

「ガード……!!」

 

「うそだろ……」

 

 ―――そんな……!!

 

 そこには門番であるガードさんだったものが転がっていました。

 

 正確にはガードさんの姿をした石像が。ただの石像だったらどれほど良かったでしょう。しかしその石像は一瞬前まで生きていたのではないかと思うほどリアルだったのです。魔物という存在がいる以上、これがただの石像であると考えるのは楽観視が過ぎます。

 魔物に石にされたと考える方が妥当です。

 

「ごめん……、ガード」

 

 歯を食いしばったフレイさんがガードさんの石像の横に膝を突いて、なにかを確かめるように手を触れていました。その姿はまるで懺悔をしているようで。

 

 ――私達は貴女の意見に納得して従いました。自分だけを責めないでください。

 

 そっと頬に翼で触れ、なだめるように首を振りました。

 

「メル……、ありがとう」

 

 フレイさんの瞳に力が戻ったとき、ジョンさんが思い出したように言いました。

 

「待て、ガードはまだ死んでいないかも知れない」

 

「何だって!?じゃあガードは助かるのかよ!?」

 

「あくまで希望的観測だけど、俺は石化を解くための薬ってやつを貴族に届けたことがある。直接見てないけど、後でそこの貴族の娘が貴族社会に復帰したって噂を聞いた」

 

「ほとんど噂話のレベルだけど……、今はそれに賭けるしかなんだな……!!」

 

「ともかくこの石像が割れたらマズいと思う。どこかに移動させよう……!」

 

 半壊した詰め所に無事だったベットがあったので、とりあえずそこにガードさんを寝かせました。必ず助けますのでそこで待っててください。

 

 壊れた町並みが道のように続く中、所々に冒険者らしき姿の石像が堕ちていました。確認したところ誰も割れていない。助かりましたが魔物は何をしたいのでしょうか。

 流石にこの人数を全て移動させるわけに行かないので、瓦礫などが落ちてきそうな場所の真下や倒れそうな石像だけひとまず移動させて先を急ぎます。

 角を曲がったところで冒険者の一団が群れになっているのを発見しました。そこにログさんが声をかけます。

 

「おい!どうしたんだ」

 

「ああ、お前ら帰ってきたのか!助かった」

 

 そう言った冒険者は視線の先を指さしました。

 

「あそこ見ろ」

 

 冒険者が指さした先には蠢く巨大な影が。首が三つあり、胴体は蛇のような姿です。

 また鱗ですか……。

 

「あいつはヒドラって言うらしい。だいぶ昔に見た奴がいたんだが、その時はAランクが数人とSランクがいてようやく討伐できたって話だ」

 

「マジかよ……」

 

「門番のガードが時間を稼いでくれたおかげでこっちの区画の避難は済んだ。住民の死者はゼロだ。Cランク以上の冒険者をかき集めて足止めに徹したおかげで、別の区画の奴らも街を脱出した。兵士や着いて行かせた冒険者と一緒に今はよその街に避難している途中だ」

 

 フレイさんの予想通りですね。流石です。

 

「……だがガードは石にされて殺された。他にも石にされた奴がいる。クソッ!!」

 

「それなんだが石化した奴は戻せるかも知れない」

 

「何だと!?」

 

「詳しくは省くが可能性はあるはずだ」

 

 それを聞いて喜びの声が上がる。今まで仲間が死んでいたと思っていたのに可能性が出てきたのです。当然でしょう。

 そいつは行幸だと頷いた冒険者が話を続ける。

 

「どうもあいつは腹が減っているようでな。ああして露店の肉や魚を貪っているんだ。人も食おうとするんだが、幸か不幸か自分が石にしたやつには目もくれない。石化が治せるなら、今のところ死者はゼロの筈だ」

 

 ――不幸中の幸いですね。石にしたら食べられないから皆放って置かれたと。生態としては謎ですが助かりました。

 

「ともかくあいつは強い。まともに戦うのは愚策だ。どうにか追い出すか、増援が来るまで持たせるしかない」

 

 ――賛成です。補填の利く食料や、物資で済むならそれで済ませるべきでしょう。命には代えられません。

 

 その時ヒドラのすぐ側の家の扉が開いた。ヒドラを暢気に見上げて目を擦っているのは小さな子供。

 母親らしき人物扉から出てきたと思ったらヒドラに驚き、子供を引き戻そうとするが思わず腰を抜してしまった。

 このままでは危険です……!!

 

「おい!誰だあそこを確認した奴は!!避難が済んでないじゃないか!!」

 

「ノックしたけど反応が無かったんだ!いないと思ったんだよ!!」

 

「馬鹿野郎!あそこの親子は夜遅くまで地下室で作業してるので有名だろうが!大方寝落ちしてたんだろうよ!」

 

 想定外の事態に一気に大混乱に陥る。

 そんな言い争いをしている間にも親子に気づいたヒドラが首を後ろにもたげた。母親は子供を家に戻そうとしていますが、子供は離れようとしません。三つのうち一つの首がガパリと大口を開けた。

 

 ――ッ!!間に合って!【側刀《そばがたな》】!!

 

 地面を砕いて踏み込み、長距離を一息で跳躍して親子の前に躍り出る。闘気を爆発させ眼前に迫った灰色のブレスを斜めに引き裂いた。まさか止められると思いもしなかったのか、ヒドラは目を見開いて固まってしまっている。

 後ろの二人は……抱き合って震えていますが無事です。良かった。

 

「メル!!無事かい!?」

 

 ――ごめんなさい。認識したときには体が勝手に動いていました。

 

 駆けつけてくれたフレイさんに思わず謝る。しかしフレイさんは笑って許してくれました。

 

「この馬鹿!!冷静さを大事にて言っただろうに!……まったく、しょうがないね!!でも良くやった!あたいはあんたの魔物っぽくないそんなところが気に入ったんだ。グチグチ言うしかできない男共の何倍もマシさ!こうなったらとことん付き合ってやるよ」

 

 ――フレイさん……!!

 

「全部終わったら抱き枕の刑だからね!!」

 

 ――フレイさん……。

 

 




呪人族の過去はしばらくお待ちください。見切り発車の弊害で定まりきってないです……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37羽 対ヒドラ

 

「メル!このままこの大通りで戦うのはマズい。この親子がいるのもそうだけど、それだけじゃなくて大通りに沿ってブレスを吐かれると、逃げ場がほとんど無い。御誂向《おあつらえむき》にこいつの後ろに大広場がある。なんとかしてそこに誘導するよ!」

 

――わかりました!!やってみます!【崩鬼星《ほうきぼし》】!!

 

――ドゴオォッ!!!

 

「は?」

 

呼吸と共に闘気と鬼気が爆発し、驚愕から立ち直って警戒していた筈のヒドラのミツ首に付け根に渾身のドロップキックが炸裂。有無を言わせず吹き飛ばし、噴水を押しつぶして止まった。ヨシ!オーダー通りに大広場に押し込んむことに成功しましたね。

 

地面に降り立つと強い視線を感じたので、見上げるとフレイさんがじっと見つめていました。

 

――えっと、噴水が潰れてしまいましたが、コラテラルダメージと言うことでここは一つ……、やっぱりごめんなさい!!

 

「凄いじゃないかメル!」

 

――へ?

 

「強いとは思っていたけどここまでとは思わなかったよ。Sランクが欲しいくらいなんだ。強いのは大歓迎だ!!ほら、行くよ!あんたらは後ろに冒険者がいるから今のうちに避難しな!!」

 

「あ、ありがとうございます!」「鳥さんとお姉ちゃんありがとー!」

 

どうにも噴水は眼中に無い様子です。助かりました。お礼を言ってくれた親子に指示を出し、走り出したフレイさんを追いかけて大広場に駆け込む。親子に何事もなくて良かった。

それにしても、褒められるとむずがゆいですね……。師匠にはボロクソに言われていたので。

 

大広場のヒドラは体を起こしているところだった。胸元の鱗は複数枚割れています。

鬼眼で見るに感じる力は地竜より僅かに下、と言ったところでしょうか。吸血鬼の力が使えない以上どれだけできるかと思っていたのですが、『空の息吹』を使った闘気の威力が想定より高い。

 

起き上がったヒドラが私達を視界に入れ、すぐさま襲いかかってくる。闘気を纏い積極的に前に出て注目を集めます。私はこちらですよ?

 

接近したヒドラは三つの首で次々に襲いかかってくる。噛みつき、叩きつけ、なぎ払い。その全てを闘気を纏った状態で捌いていく。確かに速く鋭く強いですが……、まだ闘気を維持できる強さです。

噛みついてきた右の首をなぎ払ってきた左の首にぶつけ、その隙に【昇陽《のぼりび》】を真ん中の首の顎に的中させれば、ヒドラは苦痛の悲鳴を上げた。

 

「《フレイムバレット》!!」

 

そこにフレイさんの炎の弾丸がいくつも突き刺さる。……思ったより、いけそうですね。これも、『空の息吹』で動き続けるのが簡単になったおかげです。呼吸を挟むために止まらなくて良いというのは、これまでの人生でも初めての感覚で、開放感が凄い。

 

魔法を放つフレイさんに注意が向かないように、只管前に出て注意を引き続けていると、突如飛来したいくつもの魔法がヒドラに直撃した。一つ一つは大きなダメージではないようですが、確実にダメージは蓄積されます。これは……?

 

「来たのかい!?ゲラーク!!」

 

「おうよ、仲間を置いて見てられるか!遅くなって悪かったな、人員の選抜に時間を取った!!無駄に死者を出すわけには行かねえからな!」

 

「助かるよ!」

 

先ほど情報を教えてくれた冒険者の人、ゲラークさんというコワモテのおじさまがさっきの冒険者の一団から一部の人員を引き連れてきてくれた様です。

ログさんとターフさんもいます。心強いです!

 

「フレイ!お前はこの後どうするつもりだったんだ!?」

 

「無理そうなら時間だけ稼いで逃げようと思ったけど、この子のおかげで問題ないね!このまま倒すよ!」

 

「俺も同意見だ!!おい!そこの鳥!!」

 

――私ですか?

 

「そうだ!おめえだ!さっきの親子を助けたガッツ痺れたぜ!!ログとターフに聞いた。グレーターワイバーンを撃退できるくらい強いらしいが、メインを任せても良いか!?」

 

――呼び方はともかく……ええ、問題ありません。

 

「即答か、気に入った!!」

 

豪快に笑ったゲラークさんは連れてきた冒険者の一団に呼びかけます。

 

「いいか!聞いたとおりこいつがメインで戦う。周りはサポートだ!魔物にメインを任せるのに不安があるのはわかるが、こいつの行動を見ただろ!?今はゴチャゴチャ言ってる時間はねえ!!文句があるなら今すぐ抜けろ!途中で騒がれても迷惑だ!!」

 

誰も抜けるものはいない。

 

「よし!この蛇野郎は俺らの街を襲い、壊しやがった!討伐隊が組まれてもAランク以上だ。俺らは出る幕もなくなる!それで良い訳ないよなぁ!?折角助っ人が来たんだ!このままヒドラをたたんじまうぞ!!そしたら報酬もたんまりだ!!」

 

――街を壊されて怒っているのかと思ったら、最後に即物的な願いが出てきました。う~ん、良いダシにされているような気もしますが倒せるなら……ヨシ!!

 

ヒドラは人間の生活圏に大きな影響を与えてしまったので、どうせいずれ討伐されるでしょう。手を出さない方が良かったのですが、あそこで見捨てる選択肢はあり得ません。注意を引いてしまった以上被害が少ないうちに倒してしまった方が良いです。

私は魔物なのでヒドラの側なのですが……襲ってくる相手と襲ってこない相手なら、どちらの味方をするかなんてわかりきった話です。

 

「ここに来る前に言ったとおり、怪我人が1人出るだけで足でまといになる!前に出るならぜってぇに怪我すんじゃねえぞ!!」

 

「「「「「 おう!! 」」」」」

 

「おい鳥!!あの灰色のブレスには気を付けろ!さっきは上手く避けたみたいだが石にされるぞ!!」

 

――親子を助けた時の事でしょうか?避けてないですが石化してないですね……。闘気のおかげでしょうか。いえ……、おそらく『呪術耐性』のおかげですね。ブレスが、石化の効果を持った物質をまき散らすタイプでなく、石化の効果を持った魔法攻撃だったということでしょう。助かりました。

 

「それと麻痺と毒のブレスも使う!首それぞれが一つのブレスしか使えない!左から、麻痺、毒、石化だ!!」

 

――流石です。そこまで調べたのですね。なら私は右の石化の首をメインで相手しましょう!

 

相手をしていた左の首を【降月《おりつき》】で地面に叩きつけ、その隙に滑歩《かっぽ》で素早く右に回り込んだ。

 

「「「「え、気持ちわる……」」」」

 

――うるさいですね……。

 

滑歩《かっぽ》の不自然な挙動を目にした冒険者の一部が引いたような声を出したきたので、思わずジトリとした視線を送る。真面目に戦ってください。

 

右の首がブレスを吐きそうになれば、顎を蹴り砕き、頭を叩きつけ、闘気をまとった『射出』で全力で邪魔をしてまともに動けないようにします。

 

冒険者達にとって一番厄介な石化ブレスがなくなったことで、前衛が動きやすくなりました。

 

私が戦撃で首の鱗を割り砕き、冒険者がそこに攻撃をする。ヒドラが反撃しようとした所で撤退し、すぐさま魔法使いの魔法が襲いかかる。痛みにもだえる様な隙を晒せば私が戦撃を使い、さらに鱗を砕いていきます。そうなればさらに冒険者の攻撃が通るようになる。

余裕がなくなったヒドラの他のブレスを邪魔することは容易いです。もうブレスは打たせませんよ。

 

そんな中、右の首を相手していると死角から地面を這うように左の首が襲いかかってきました。噛みつきを受け流し、伸びきったそこに【貪刻《どんこく》】を叩き込む。甘いですよ。いくつかの鱗をたたき割り、痛みにたまらず首を振って元の場所に戻った所へゲラークさんがすぐさま駆け込んできた。

 

「ぬううぅん!!」

 

はち切れそうな筋肉を躍動させ、巨大な大斧を私の【貪刻《どんこく》】と同じ場所叩き込んだ。

重い一撃に、遂に耐えきれなくなったのか一番左の麻痺ブレスの首が切り落とされることになる。

 

――あ、嫌な予感が……。

 

「やった!!」

 

見ていた冒険者が歓声の声を上げますが、すぐさま断面が盛り上がり、にょきりと首が生えてきました。それも二つ。

 

「マズい!!首が増えたぞ!!」

 

――やっぱり。

 




まあ増えますよね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38羽 既知の弱点

 

 ――くッ!!

 

 その時首を切り落としていた事もあり、チャンスと考えた冒険者が何人か近づいていた。そこにニョキニョキ生えてきた2本の首が避ける隙を与えず麻痺のブレスを吐きだしたのです。石化と毒のブレスも吐こうとしていたので全力で阻止。麻痺ブレスも片方止めたのですが、もう一つは間に合いませんでした。増えた方の首の麻痺ブレスが不用意に近づいていた冒険者を包み込み、痙攣するだけの姿に変えてしまった。

 

 今はヒドラがそちらに近寄らないように全力押しとどめているところです……!!

 

「おい!帰還の種は!?」

 

「もう二個しかないって知ってるだろ!足りないんだよ!!」

 

「良いから誰かに使ってとっととギルドに送り返せ!残りは担いでどかす!!」

 

 冒険者が小さな結晶のようなものを痙攣したままの冒険者に握り込ませると、その姿がかき消えた。

 なるほど、今の結晶は冒険者ギルドへの瞬間移動の魔法が込められた道具みたいですね。今までは麻痺した人をこれで送り返してなんとかしのいでいたのでしょう。しかし使いすぎたのか、なくなってしまったと。

 

 ヒドラの4つに増えた首の攻撃を捌きながら考察する。

 ともかく今の私の仕事は、動けなくなった冒険者が安全圏に避難できるように守り切ることです。

 

 文字通り四面楚歌な状況、背後には未だ避難できない冒険者。担いで移動している以上ブレスが吐かれれば犠牲者が増えて詰み。そして前衛の冒険者が近づけなくなったので、ヒドラの全ての注目が集まっている状況。

 難易度はハードを通り越してルナティックですがやり通して見せましょう。元々ブレスは吐かせない筈だったんです。その尻ぬぐいくらいして見せます。呼吸を深く、深くしていけば、闘気の朱にも深さが増していく。

 

 広場から避難が済むまで約一分と言ったところでしょうか……。少しキツいですがギアを上げていきますよ。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

「すげぇ」

 

 誰が呟いたのかポツリと言葉がもれる。ヒドラに対抗するスワロー種の攻防は芸術的と言えるほどだった。

 

 4つの首が襲いかかる中、どれ1つとしてまともに攻撃をくらっていない。まるで嵐の中にある台風の目のようだった。それどころか反撃すらしている。

 噛みついてきた首に、赤い光をまとった強烈な一撃で返り討ちにしたかと思えば、弾かれたその首がブレスを吐こうとしていた別の首に激突してその行動を止めた。かと思えば、2つの首が受けた衝撃で体がぶれ、三つ目の首の攻撃がスワロー種が移動するまでもなく頭上を通過するように外れる。四つ目の首は、スワロー種が真下に隠れる形になった三つ目の首に、攻撃ルートを遮られ止まらざるを得なくされた。そしてまた、光をまとった一撃。三つ目と四つ目の首が同時に弾かれた。

 

 恐ろしいのはこれが一度だけではないと言うことだ。何度も起こっている。それも意図的に。場当たり的な戦い方ではなく、自ら誘導し計算して理詰めで動いてる。

 

 そう――――まるで詰め将棋の様に。

 

 悔しいがここの誰が今あの場に割ってはいても邪魔にしかならないことぐらいはわかった。例え、避難の手伝いをした冒険者が戻ってきたところで。

 

「メル、あんたは凄いよ……」

 

「これなら、このまま倒せるんじゃ……」

 

 冒険者の誰かが放った言葉はフレイも思ったものだった。小さな姿で、強大な存在に立ち向かう。

 それはフレイにとって特別な思いをもたらすものだったから。しかし――――

 

「いや、このまだとマズいかもしれない」

 

「なにか知っているのかジョン!?」

 

「あの子の口元を見てみろ。動いてるときは見えないが、止まっているときなら見えるはずだ」

 

「なに……?口元の景色が揺らめいている?あれはなんだ?」

 

「ああ、昔、鳥系の魔物は汗をかかないという論文を読んだことがある。生き物は汗をかくことで熱を逃がすんだが、鳥は口から呼気と一緒に熱を逃がすんだ」

 

「ならあの揺らめいてるのは熱なのか!?」

 

「ああ、あれほどの熱だ。かなり無理をしているのかもしれない……!!」

 

「なんだって!?」

 

 フレイにとってあの幸運の青い鳥は強さの象徴のような存在だった。食べるのが大好きで、警戒していた癖にすぐに懐いて、ちょっと抜けていて放っておけなくて。

 でも、強い。少なくとも並大抵のことでは届かないと思わせる、その強さがフレイの目を眩ませていた。

 

 ――小さくても強くならなくてはいけなかったということではないか。

 

 と言うことに。

 

 ――あたいは馬鹿か!!そのぐらいのこと知ってたはずだろうに!!

 

 申し訳なさと僅かな焦りが普段よりも多くの魔法を使わせた。

 そして空気を焦がすほどの魔法が、4つのうちの1つの首に着弾する直前、予想外の形で状況が動いた。

 件の鳥の空気を揺らすほどの一撃が、その首を切り落としたことで。

 

「メル!?」

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

 ヒドラ。

 

 異世界で似たような名前、似たような姿の生き物を相手にしたことがありますが……、総じて厄介なのが首を切ると増えて生えてくるということです。

 できれば伝えたいのですが……話せないんですよ私。首を切ったら増えるって、この戦闘中にどうやってジェスチャーすれば良いと??

 

 とはいえ増える首に対処する方法も大体一緒でした。

 

 炎です。首を切り、そこを炎で焼くことで再生できなくなります。

 

 ですが残念なことに私には風しか使えません。なので待つしかありませんでした。

 

 ゲラークさんに先を越されてしまいましたが。

 

 そして今。多種多様な風、氷、地面、雷の魔法が飛んでくる中、首の断面を焼き焦がせるほどの魔法がくるのを只管待ちます。

 そしてそれは願いの通りに来ました。

 

 ――流石です。フレイさん!!

 

 フレイさんお得意の強力な炎の魔法が発動された。首の位置を誘導し、闘気を鬼気を爆発させ【鬼伐《きばつ》】を発動。完璧なタイミングで首を切断することに成功した。タイミングを合わせるために炎を少し食らってしまったが必要な事だった。ちょっと翼が焦げちゃいましたね。

 

「メ、メル!?ごめん、大丈夫!?」

 

 ――大丈夫ですよー。

 

 痛みにもだえるヒドラを背景に、無事を伝えるために翼をフリフリする。そこで、1人の冒険者が気づいたように叫んだ。

 

「見ろ!首が生えてこないぞ!!」

 

「火だ!傷口を焼けば再生できなくなる!!」

 

 冒険者の一団が喜びの声を上げる中、フレイさんの目が徐々につり上がっていく。私を見る形相はそれはもう恐ろしいものだった。

 

 ――あ、あれ?私なにかやっちゃいました……?し、知らないっと。

 

 メルには知りようのないことだが少し前までのフレイだったら、他の冒険者と一緒に喜んでいただろう。

 しかし今は強さよりも小ささに目が行っていたので、心配が勝っていた。そのタイミングで普段より強めに使った魔法に巻き込んでしまい青ざめていたところに、あれは無茶をしてわざと飛び込んで行ったのだと気づいた。

 心配がそれ以上の怒りに変わるのも仕方がないと言える。

 悪寒と共にお説教が確定したのだった。

 

「やるじゃねえか、鳥!!」

 

 ――ゲラークさん、その呼び方なんとかなりません?

 

 タイミング良く避難させるため離れてていた冒険者が戻ってきた。

 

「悪かったな鳥、俺のせいで苦労をかけた」

 

 ――いえ、知らないのならしかたありませんよ。

 

「へへ、ありがとよ!お前ら見たな!首を切ってすぐに焼けよ!!今からは炎系の魔法だけ使え!!」

 

 そこからは速かった。私がブレスの発動を押さえつけ、冒険者が攻撃を加える最初の動きに戻り、ヒドラは何もできないまま消耗していくことになる。

 私が2つ、ゲラークさんが1つ首を落とし、タイミングを合わせて断面を焼き焦がした。

 そして――

 

「首が全部無くなっても動いてるぞ!!」

 

「こいつ……、不死身か……!?」

 

 首がなくなってもヒドラはまだ死んでいなかった。流石の生命力です。しかし

 

 ――これで終わりです。

 

 痛みにのたうつ蛇の上空へ跳躍し狙いを付ける。

 

 ――【奈落回《ならくまわ》し】!!

 

 重力と遠心力がたっぷり乗った踵落しが胴体のど真ん中の鱗を割り砕き、その下の地面にクレーター築きあげた。

 それを最後にヒドラは遂に完全に沈黙することになる。

 

「動かない……」「終わったのか……?」

 

 未だ信じられないように様子を窺っているが、冒険者の理解が徐々に追いついてくる。

 

「勝ったぞ!!」「やった!」「あのスワロー種のおかげだ!」「あいつすげーな!!」

 

「凄いじゃないかメル!あんたのおかげだよ」

 

 地面に降りたって一息ついた私にフレイさんが駆け寄って抱き上げてきました。

 

 ――火が使えない私だけでは倒せなかった。冒険者の皆さんのおかげです。

 

 そこでフレイさんがニコリと笑って言った。目が笑っていない。

 心なしか抱き上げている腕の力も強い。あの……フレイさん……?

 

「でも後で話があるから……ね?」

 

 ――は、はいぃぃ……!!

 

「あ~あ、最悪じゃない」

 

 そんな祝勝ムードの中、へばりつくような悪意が舞い降りた。

 




もし「展開が熱い!」「続きが読みたい!」「頑張ってる主人公がカッコイイ」「フレイさんばぶみ」「まるで将棋だな」「知ってるのか〇電!?」「私何かやっちゃいました?」と思って頂けたのなら、ぜひ!お気に入りと評価をお願いします!!
まだまだ不穏な空気は終わらんぜ……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39羽 コアイマ

 

 声からして女性でしょうか。体はすっぽりローブに覆われ、深くフードを被ったその人物の異様な雰囲気にその場が静まりかえる中、冒険者のうちの1人が近づいていく。

 

「なああんた、今来てよくわからないのかも知れないが、街が魔物に襲われて大変だったんだ。済まないが冒険者ギルドに行ってくれないか?あそこならまだ人がいるから、あんたの助けくらいにはなるはずだ」

 

「……ハァ」

 

 女性は何も答えずため息をはき出したかと思えば、突然魔力を高め始めた。

 

 ――何を!?

 

「邪魔よ」

 

 ためらうことなく魔力を解放。純粋な暴力の嵐が周辺一帯を蹂躙した。あまりの威力にそこに居た全員が吹き飛ばされ、広場の周りの家屋すら破壊される。

 巻き上げられた砂埃が消えた後、立っていたのはその女性だけだった。

 

 僅かな間の後、倒れていた冒険者の一部がモゾリと体を動かし声を発した。

 

「おい……、お前ら生きてるか?」

 

「なんとかな……」

 

「何なんだ、あいつ……!!」

 

「麻痺った奴らを避難させた家は……!?」

 

「ギリギリ範囲外だ。もしもを想定してかなり離れた場所に移動させてて良かった。じゃなきゃ押しつぶされて死んでたぞ……!!」

 

 ――死者は……居ないようですね……。良かった。

 

 魔力が爆発する寸前に、今できる私の全力の魔力で相殺を試みました。それでも少ししか弱めることができず、この有様です。私に近かった人は比較的無事ですが、離れるほど倒れたまま動かない人が増えていきます。特に真正面で受けた冒険者はかなりの重傷の様です。

 

「おい!大丈夫か!?」

 

「ダメだ!このままだと死ぬぞ!!」

 

「白蛇聖教の治療師が麻痺った奴らを回復させてたはずだろ!そこに連れてってこいつを先に治療させろ!!」

 

 動ける冒険者のうち数人が重傷の方を急いで運んで行きました。助かると良いのですが。

 それにしてもあの女性は一体なんてことを……!!

 

「お……おい……!!アレ見ろよ……!!」

 

 冒険者の震える指の先。

 約二倍ほどの広さになってしまった広場の中心には、風のせいかフードが外れた女性が立っていた。

 

「紫の肌に縦に裂けた瞳孔、耳があるはずの場所に上向きに生えた小さな角……!!間違いねえ!こいつ、コアイマだ!!」

 

 ――コアイマ?アレが。

 

「ぎゃあぎゃあうるさいわね、人類風情が。あとその名前嫌いなのよ……。次それを口にしたら……殺すわよ?」

 

「ひッ!!」

 

 瞳からは欠片も暖かさを感じられず、人を見る目は虫けらか何かを見るようで。人を対等だなんて考えておらず害するのが当たり前だと考えている。

 見た瞬間にわかりました。フレイさんが言っていた人類と相容れないという言葉は誇張でもなんでもなく事実なんだということが。あれは人類を殺すために存在している……!!

 

 人類と敵対している種族は何度も見てきました。でもそこには人間らしい理由がありました。欲、怒り、憎しみ、愛など様々な理由が。でもこいつにはそれがない……!!まるでそうあれと作られたように……!!

 

 ――あれ?フレイさん?

 

 そんな時違和感に気づきました。爆風から起き上がった後、座り込んだままフレイさんが全く動いていない。

 これは……怯えている……?

 

 ――ログさん、ターフさん!!フレイさんが!!

 

 コアイマも気になるが動きはない。今はフレイさんだ。

 

「マズいな……!!そういえばフレイは……」

 

「故郷をコアイマに滅ぼされているんだな……!!」

 

 ――そんな!!

 

 普段はあんなに明るいフレイさんにそんな過去があったなんて……!!フレイさん、ここは危険です!ともかく移動しましょう!!

 その時、私の意識がフレイさんに向いていました。

 そのためいつの間にか背後に立っていたコアイマの存在に気づくのが遅れてしまった。

 

 ――しまッ!?

 

「強い奴はいないはずなのに、変なのが湧いて……!!」

 

 ――がはッ!?

 

「折角育てていたペットを殺してくれたわね……!!」

 

 反応するまもなく衝撃。サッカーボールのように蹴り飛ばされ宙を舞う。無事だった家の壁を貫通してようやく止まった。

 

「あんたらもよ」

 

「ぐっ!?」「うわぁ!?」

 

 咄嗟に武器を構えようとしたログさんとターフさんも抵抗などまるでないように吹き飛ばされた。強すぎる。あまりの実力差に威圧され誰も動けない。

 

「全く……、空腹だからってゲートを無理矢理こじ開けて通り抜けるなんて……。そのせいでゲートは壊れてるし、こいつにかけた育成時間が全部パアよ。それになんでわたしがあんな奴の指示に従わなくちゃいけないのよ……!!あら……?」

 

「あ……」

 

 ぶつくさと文句を言っていたコアイマが震えているフレイさんの存在に気がついた。

 

「あら怯えているの?かわいいわね、持ち帰って飼ってあげましょうか?」

 

「い……や……」

 

 瞳に涙を浮かべて後ずさることしかできないフレイさんに向けてコアイマが嗜虐的な笑みを浮かべる。その時、何かに気づいたような表情を浮かべた。

 

「もしかして貴女、あのときの生き残り……?」

 

「あ……う……」

 

 その言葉でトラウマが刺激されてしまったのか頭を抱えてうずくまってしまった。反応にコアイマがやはりと言った表情をする。

 

「当たりね。復讐しに来るのを嬲ってやろうと気まぐれに生かしておいてあげたけど……、これはこれで面白いわね。喜びなさい、貴女だけは生かしてあげる」

 

 あまりの恐怖で動けないフレイさんへ、コアイマが伸ばした手を。

 ――――蹴り飛ばした。

 

 ――その人に……近寄るな……!!

 

「チッ!魔物風情が……!!」

 

 コアイマが手を引いて飛び退る。そのまま追撃を加えていくが、余裕の表情で防がれる。こいつ……強い……!!感触は竜種の鱗を蹴ったときの様に硬い。

 呼気が熱を持つ。激しい動きと合わせて今までにない時間の戦い。逃げることがなく籠もった熱が動きを鈍らせていく。鳥の体にこんな弱点があるなんて……!!

 

 こいつに勝てるのはこの場ではきっと自分だけ。長期戦になるのは不利。募る焦り。

 

 ――【貪刻《どんこく》】!!

 

 それが致命的な隙を作った。

 

 強烈な一撃が空気を揺らす。空気を揺らすだけ、蹴りの先にコアイマはいない。スルリと避けられてしまった。

 戦撃は途中で止めることはできない。体は蹴った姿勢のまま硬直し動けない。

 

 ――マズいマズいマズい……!!

 

 ニンマリと笑ったコアイマがいつの間にか手に持っていた剣を、地面を這うように振りかぶって言った。

 

「隙だらけよ」

 

「メ……ル……?」

 

 真下から袈裟懸けにされ、その小さな体が血と共に宙を舞った。

 




戦撃をスカされて反撃を食らうのは初ですね。避けられると、技の最中と後は隙だらけでしかないので、主人公は確実性のあるタイミングでしか使ってませんでした


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40羽 絶望の帳が降りて※過去話鬱展開あり

お気に入りありがとう!昨日はなんと8人もお気に入りしてくれたからメッチャ嬉しかったです!



※注意※WARNING※危険

フレイの過去回です。かなりの鬱展開なので注意。
今までの鬱展開が「星2」だとすれば私見ですが今回は「星4」です。約二倍です。
苦手な方はブラウザバックを推奨します。
一応次回の最初に簡単なまとめを置いておきますので苦手な方はそこで確認してください。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレイは北の大陸、ノッセントルグ大陸のとある町に生まれた。パルクナットの街ほどは大きくなかったが、それでも人の往来はしっかりあり、栄えていると言っても間違いない町だった。

 

両親は二人とも元冒険者だった。五人ほどのグループで活動していたが両親の結婚を機に解散。貯金ができるほどの実力はあったらしく、その折りに宿屋を営むことにした。

元冒険者だった事もあり、冒険者が求めるものの多くを兼ね備えていたので、冒険者御用達の宿屋として有名になっていた。

 

物心付いたときには、小さな看板娘として店の中を楽しく走り回っていた。元気いっぱいで、笑顔を振りまくフレイは皆のアイドルだった。

両親は元冒険者で、宿にやってくる客も冒険者。自然、耳に入る話は冒険の話ばかり。

将来の夢が宿屋のを営むことではなく、冒険者になってしまうのも仕方がなかったのかもしれない。

仕事の合間に訓練をせがめば、『冒険者なんてやるもんじゃない、宿を継ぐべきだ』と口を酸っぱくして言われた物だが、母は簡単な魔法を、父は簡単な護身術を教えてくれた。今思えば、両親は自分の娘に甘かったのだろう。

 

そんな幸せが突然終わる事なんて想像もしていなかった。

 

ある日、いつも通りに宿屋の娘として準備の手伝いをしていると外が騒がしくなっているのに気づいた。

 

何だろうと思っていると慌てて飛び込んできた冒険者が両親と小声で話し始めた。準備を進めつつもちらちらと両親の方を窺っていると突如として爆音が聞こえた。驚きに身をすくめていると、険しい顔をした両親が目を合わせてこう言ってきた。

 

「今日は店を閉める。準備は良いから呼ぶまで地下室から出ないで休んでいなさい」と。

 

その間両親はどこかに出かけるという。訳がわからなかった。今までは出かけるときは必ず三人一緒だった。

フレイは泣いて頼んだ。一緒に連れて行ってと。なにか悪いことをしたのなら謝るからと。冒険者になんてならない、宿屋をするからと。

 

それでも両親は首を縦に振らなかった。

 

両親は去年の四歳の誕生日にせがんだナイフと短杖を渡し、無理矢理地下室に押し込め離れていった。外から鍵を掛け、「愛している、必ず戻ってくる」と言う言葉を残して。

 

結局、その約束は果たされることはなかった。

 

フレイは扉にすがりついて泣いた。それでも両親は戻ってきてくれなかった。酒樽が大量に並ぶ部屋の中、泣き疲れ眠ってしまったフレイはふと目を覚ました。

 

扉に触れてみると――――鍵が開いていた。

 

扉を開けると、階段は途中で途切れ、何故か憎らしいほどの蒼空が目に入った。ここは宿の地下の筈だ。空が見えるなんてあり得ない。

夢かと思いながら階段を上っていくと――――そこには何もなかった。

目を擦って、頬をつねっても目の前の光景は変わらなかった。

しばらく呆然としていたが、ハッとして両親を探すことにした。この時涙は出なかった。あまりにも現実感がなかったからだ。

この時のフレイは知らなかったが、地下室は母の魔法で強化されていた。そうでなければいくら地下だとはいえ、フレイは無事では済まなかっただろう。

 

何かの残骸がポツポツと落ちている中、フレイは歩き続けた。誰も居ない。

 

やはりこれは夢なのではないかと思い始めた時声が聞こえた。父の声だ。くぐもっていて良く聞こえなかったがそれでもフレイには誰の声かわかった。

 

こんな訳のわからない状況でも父が居れば大丈夫だと。きっと側に母も居るはずだと。

二人を見つけたら文句を言ってやるのだ。よくも地下室なんかに閉じ込めたなと。宿屋を継ぐのは嘘で絶対に冒険者になってやると。それが現実になるのだと信じてフレイは声の方に駆けた。

 

足が止まる。

母がいた。見知った冒険者達もいた。だがまともに動いているものはいなかった。

 

父は見たこともない姿をした女に首を掴まれて持ち上げられていた。

不意に父と目が合う。目を見張った父が口を動かした。聞こえはしなかったがなんと言ったかはわかった。「逃げろ」と。

 

ゴキリと鈍い音がして父の体から力が抜け完全に動かなくなった。何が起こったのかはよくわからなかった。それでも漫然と、父にはもう二度と会えないのだと悟った。

 

気づけば遠くから絶叫する声が聞こえた。誰だろう。地に足付かない思考の中、不意にこれが自分の声であることに気づいた。

 

そしてもちろんそんな大声をあげれば、あのバケモノが気づかないはずもない。

 

こちらに視線を向けたバケモノがゆっくりと近づいてくる。逃げなければ。そう思うものの足は震えるだけで動いてはくれない。

なにもできないままバケモノが目の前に立った。

 

「生き残っているなんて、貴女運が良いわね」

 

そんな声はフレイには聞こえていなかった。視線はバケモノの右手から外れない。

あろう事かこのバケモノはあり得ない方向にねじれた父の首を掴んだままだった。

 

「ああ、なるほど。貴女これの子供ね?そうね……」

 

何かを考えるそぶりを取ったと思ったら、邪悪な笑みを浮かべ――――父の首をねじ切った。

今度こそ自分の意志で絶叫をあげた。

 

「あっははははは!その反応良いわね!!人間はやっぱり面白いわ!」

 

気づけば震える手でナイフを握りしめていた。

 

「あら、それで攻撃でもしてみる?」

 

息が自然と荒くなる。

こいつは父と母と仲の良かった冒険者に酷いことをした。許せない。そう思うのに――――父に習ったナイフも母に習った魔法も震えるばかりで使えなかった。

 

カランと乾いた音を立てて、ナイフが手からこぼれ落ちる。許せない気持ちより、恐怖が勝った。

 

「あら、残念」

 

バケモノはそう言って、倒れ伏した母と冒険者の元へ父を投げ捨てると腕を伸ばし――――強力な魔法で消し去った。

もう声は出なかった。

 

「貴女は生かしてあげるわ。面白そうだから復讐でもしに来なさいな。良い暇つぶしになるのよ」

 

そんな吐き気を催す声と共にフレイは意識を失った。

 

気がつくと布団の中にいた。ああ、あれは夢だったんだ。そう思いたかったが部屋の中は知らない景色だった。そして全く知らない人が扉を開けて入ってきた瞬間、フレイの胸の中を重たいものが支配した。

 

それからの記憶はあまりない。覚えているのは、大人達に質問攻めにされたことと、あのバケモノがコアイマというものだと言うことだけだった。

 

そしてフレイは孤児院に預けられることになった。しばらくは引きこもっていたが、やがて冒険者になるために訓練をするようになった。その間だけはあの悪夢を忘れられたから。

孤児院の子供とは最低限の会話をするだけ。

そんな中影から訓練を眺めていたログとターフに気づいた。二人は冒険者にあこがれていると言う。最初は邪険にしていたが、やがて断り続けるのが面倒になり適当な訓練を言いつけた。

既に訓練をしていたフレイをしてキツいものだったので諦めると思ったのだ。それでも二人は止めなかった。

結局二人とはパーティーを組むことになった。腐れ縁という奴だ。彼らがいなかったらフレイはもっと暗い性格になっていただろう。感謝している。

 

冒険者登録をする頃にはフレイは男勝りな性格になっていた。それは無意識によるものだったのだろう。

小さくて弱かった自分をなくすために。誰にも舐められないために。

次に会ったら必ずコアイマを倒すために。

 

そしてメルに出会った。

 

彼女は小さくて、弱いはずの種族なのに。自分よりも大きくて強いものに立ち向かっていった。

 

恐怖に固まっていた自分とは大違いだ。

フレイにとってそれは特別だった。憧れだった。

最初は命を助けられて、魔物っぽくないから。かわいいから。そんな理由だった。

でもいつの間にか変わっていた。

 

 

そして――――今。

 

「全く……手こずらせてくれたわね」

 

その憧れはバケモノの剣に貫かれていた。

 

バケモノが剣を振れば、貫かれたメルが地面に崩れ落ちる。朱が地面に広がっていく。致命傷だ。

 

メルは何度傷ついても諦めなかった。

剣に切り裂かれても、蹴り飛ばされても、魔法で吹き飛ばされても。ゲラークや一部の冒険者は手助けしようとしたが、それでも勝てなかった。既に倒れ伏している。このバケモノが強すぎるのだ。

 

「ふふふ、この中で一番強いこいつが負けた以上、貴方たちのお先は真っ暗よ?この空と同じようにね」

 

絶望が場を支配する。闇が落ち、フレイはもちろん恐怖で誰も動けない。バケモノの高笑いだけが響いていた。

 

そんな中――――不意にメルが動き出し、バケモノの首に嘴を突き込んだ。

 

「この……!死に損ないが……!!なッ!?」

 

振り払い、首筋を押さえて後ろに飛び退ったバケモノに、今まででは考えられない速度と威力の蹴りを叩き込んだ。

今までは有効打すら入っていなかったのに、バケモノの顔を歪ませ吹き飛ばす。

 

地面にばらまかれた血液がまるで生き物の様にメルの元に集まっていく。

傷だらけで辛いはずなのに小さな姿で再び立ち上がった。

 

未だ諦めずに立ち向かうその姿は今のフレイには到底出来真似できないものだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41羽 悪逆非道


幼い頃両親と宿屋を経営して過ごしていたフレイ。両親は元冒険者で、自分も冒険者になりたいと思っていた。そんなある日、町に爆発音。険しい表情をした両親はフレイを守るために地下室に押し込めた。泣き疲れて眠った後、起きると扉の鍵が開いていた。出てみると町なんてどこにも無い。途方に暮れて歩いていると、声が聞こえた。父の声だ。走って行けば、バケモノが父の首を掴んでいた。
バケモノは両親や他の冒険者を殺すとこういった。「面白そうだから生かしてやる。復讐でもしに来てみれば」と。そして、フレイは孤児院に預けられることになり、力を求めてやがて冒険者になった。




 

――危なかった。もう少しで本当に死ぬところでした。

 

『血葬』を翼と足にまとわせ、コアイマが振るう剣と打ち合いながら思う。

 

霞む視界の中、ソウルボードを操作してメインに吸血鬼を設定したタイミングはギリギリ。夜になるのがあとちょっと遅くても、急所を避けきれず心臓を貫かれていても私は死んでいました。

 

『高速再生』を意識して急いで背中まで貫通した傷を修復。背を向け油断していたコアイマの首筋に、嘴で『つつく』を使って血液を回収して、蹴り飛ばした。

 

正直な所、今尚剣を振り回して攻撃を加え続けてくるこのコアイマという存在は強い。苦手な徒手空拳でリーチで劣る剣を相手しなければいけないというのもそれを助長しているでしょう。

巨大な魔物相手であれば懐に潜り込めば戦撃を使う隙もありました。でもこの人型のコアイマは、そもそも懐に潜り込むことが難しい。そして被弾面積が小さいので戦撃を不用意に使えば避けられてしまうリスクが高くなっている。

 

元々私は対人戦の方が得意なのですが、武器が使えない今は逆に巨大な魔物相手の方が楽です。

『血葬』を翼にまとい、手のように扱うことも考えました。手足のように使えるとはいえ、あくまでそれは例え。武器を「持つ」事はできても「使いこなす」事はできません。それならまだ素手の方がマシです。

 

さらにもう一つ。夜になり吸血鬼の力が私の能力に上乗せされ、『血葬』のおかげで翼でも打ち合えるようになったがそれでもまだ問題がある。

 

――――血の効果が薄い。

 

吸血鬼という種族はその特性上吸血によって能力が強化されます。吸血とは文字通り血を吸うだけではなく、血に含まれている生命力を、吸血という一種の『儀式』によって増幅させ体内に取り込む行為です。

 

ここまで強いコアイマから吸い取れる生命力が非常に少ない。感じる強さと生命力が釣り合っていません。不思議でしょうがないですがそれは考えても仕方ないので置いておきましょう。

 

重要なのは吸血による強化時間がそう長くは続かないと言うことです。

 

もう一度吸血したいですが懐に潜り込む事すら難しい相手です。それよりも密着しなくてはならない吸血が果たしてできるでしょうか。

戦撃すら避ける相手です。地竜同様そんな致命的な隙を晒す事はおそらくないでしょう。

そう考えていると唐突にコアイマがニンマリと悪魔のような笑みを浮かべた。

 

「じゃあこれなら……どうかしら?」

 

突如として魔力を固めた球体を明後日の方向に発射した。……なにを?

視線を向ければ向かう先には――――倒れ伏した冒険者。

 

――っ!?このッ!!

 

冒険者の正面に一息に移動して、血葬と闘気をまとったまま魔力球を蹴り上げれば、弧を描くように背後に飛んでいき城壁に激突した。轟音と共に城壁の一部が崩れ落ちる。傷ついた今の状況で冒険者が魔力球を食らっていたらおそらく死んでいた。なんて悪辣なッ……!!

背後から風切り音がしたと思えば背中に熱を感じて地面を転がされる。斬られた。

 

「あは、あなた魔物のくせに人間を優先するのね?奇妙だけど私にとっては……願ったりよ?」

 

私の血が付いた刃先を撫でながらコアイマが笑う。マズいですね。この状況で冒険者を守りながら戦うのは……!!

 

その時倒れていた冒険者のうちの一人が震えながらも体を起こす。

 

「ゲラーク!!」

 

「ゲホッ、おめえら見ただろ。動けない奴らを全力でこの場から運び出すぞ」

 

拳を握りしめ、歯を食いしばって続ける。

 

「俺らは、邪魔でしかねえ……!!」

 

「ゲラーク……」

 

ゲラークさんの悲痛な宣言に恐怖に固まっていた冒険者が恐る恐る動き出す。

恐怖はまだあった。それでも動き出せたのはゲラークの震える声と申し訳なさからだった。

 

「させると思う?」

 

怪我人を担いだ冒険者にためらうことなく放った、コアイマの魔力を必死に蹴り飛ばす。

 

「おめえら急ぐぞ!このままじゃあ、鳥が持たねえ!!」

 

自分の怪我だって痛いだろうにゲラークさんは両脇に怪我人を抱えている。もう少し自分を労ってください。

 

「次よ。防いで見せなさい?」

 

この期に及んで遊んでいるのか、魔力球は私が全力でギリギリで迎撃すれば間に合う速度とタイミングでしか襲ってこない。

少しでも私が速度を緩めれば、少しでも手違いをすれば。誰かが死ぬ。

そうなれば私が折れてしまうかもしれない。私のことを大して知りもしないくせに、息を吸うようにそれを半ばわかった上でやっている。悪魔の様な才能だ。

 

でもそれは同時に慢心でもある。勝機は必ずある……!!

只管発射される魔力を弾いていく。全力で動くことを強制されるために、一度落ち着いた熱が再び籠もってくる。落ち着け。焦るな。冷静に……!!

 

そして倒れていた冒険者の約半数が運び出された。もっと早くに私が堕ちると思っていたのだろう。予想外に粘り、目に見えて冒険者の量が減って焦れたコアイマが遂にミスを犯した。

僅かに早いタイミングで、私に余裕のあるタイミングで、魔力球が放たれたのだ。

 

――【側刀《そばがたな》】!!

 

タイミングを逃さず、戦撃で加速し魔力球をコアイマに向けて蹴り返した。上手く予想をずらしたおかげで、未だ次の魔力球は発射されていない。

 

「くっ!!」

 

そして迫る魔力球に回避を強制させられる。その間に地面を蹴り全力で駆け出す。

一歩。

猶予を与えない。避けられないうちに血と闘気をまとった羽を複数『射出』。威力を高め受けることを選択させず、剣を振るうことで防がせる。

二歩。

地面に落ちた羽に付着していた血液を操作して、鋭く長い針のように伸ばして攻撃。避けさせる。

三歩。目の前!

 

「チィ……!!」

 

牽制されるように振るわれる剣を――――体で受け止める。

 

――ぐぅッ!!

 

「なっ!?」

 

剣で切り裂かれることに構わず前進する。肉を切らせて骨を断つ。こんなもの時間が経てば勝手に直ります……!!

 

驚愕に固まるコアイマに次々と血葬と闘気をまとった翼を叩きつけ、蹴りを見舞っていく。

 

――ひるんだ!ここです、【昇陽《のぼりび》】!!

 

サマーソルトで水月を蹴り上げ、くの字になった体を無理矢理浮かせる。

 

――【降月《おりつき》】!!

 

痛みに固まったコアイマの頭に、ムーンサルトキックを繰り出し地面に叩きつける。

 

――【貪刻《どんこく》】!!

 

地面にバウンドして僅かに浮かび上がったそこに横蹴りを抉り込んだ。

 

「グボォ……!!」

 

口から汚い体液を吐き出して吹き飛んだコアイマを追いかけ一気に距離を詰める。

腹を押さえて起き上がったコアイマの苦し紛れの魔力球の射線上に、誰も居ないことを確認して回避と同時に《ウィンド》を放つ。

 

「そんな子供だましみたいな魔法で……なに!?」

 

魔法はコアイマの目の前の地面に当たり、砂礫を巻き上げた。効きもしないであろうそれから反射的に顔を庇う。

視線を戻せば――姿がない。

 

ヒュルヒュルという風切り音に咄嗟に顔を上げる。

 

「上――――」

 

時既に遅し。見上げたそこには既に足があった。

 

――【奈落回《ならくまわ》し】!!

 

顔面に踵がめり込み、後頭部から地面に叩きつけ小規模なクレーターを作り上げた。

 

――追撃を!!

 

その時、倒れ伏したコアイマから急激な魔力の高まりを感じた。最初の時と同じように。

 

爆発。

 

咄嗟に血葬で小規模なシールドを作り出し、事なきを得たが衝撃で距離を開けられてしまった。

 

――マズい!!

 

相手に余裕を与えればさっきの焼き増しです。急いで距離を詰めようとするがもうコアイマは立ち上がっていた。

 

最初から縦に裂けていた瞳孔は鋭さを増し、口元は凶悪に吊り上げられている。怒り心頭だ。

 

「このクソ魔物が!!」

 

遊びを捨て、魔力球をやたらめったら放つ。もちろん先には避難中の多数の冒険者。

そしてコアイマ自身も剣を手に駆けだした。その先には、なんとか落ち着いたのか怪我をした冒険者に肩を貸して避難していく――――フレイさんの姿が。

 

目を見開きまるで選べとでも言うように口元を吊り上げるコアイマ。

 

私は迷うことなく……多数の冒険者の方へと駆けだした。意外だという風に視線を切ってそのまま駆けていくコアイマを一端無視する。

『天の息吹』を限界を越えて使用し、最大速度で動く。多数の魔力球を殴り、蹴り飛ばし、時には体で受け止め、その全てを無理矢理処理した。

 

そして――――

 

「フレイ!」

 

ゲラークが叫ぶと同時にフレイの背中に衝撃が走り――――地面に倒れ込んだ。

 

バランスを崩したのだ。何が起こったのかわからないうちに背後からズブリと生々しい音が聞こえた。とても、とても嫌な予感がした。

 

「あら、あなたは自分を捨てたのね」

 

愉快でたまらないという世界で一番聞きたくない声が聞こえた。

おそるおそる振り返ればメルが背後からコアイマの剣に貫かれていた。あたいを……庇った……?

血を流しながらも抜け出そうと藻掻くメルの翼にコアイマの手が伸びる。

悲痛な悲鳴が響き渡った。コアイマに掴まれた両翼が曲がるはずがない方へと無理矢理曲げられていく。

 

「あっはっは!!いい気味よ!!苦しんで死ね!!」

 

遅れて――――ボキリという嫌な音が響いた。

 

へし折られた骨。響く鈍い音。

 

その姿がフレイの中で父と重なった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42羽 灯すのは

 

 一瞬にして。

 

 倒れて動かない皆。あり得ない向きに曲がった父の首。ねじ切られてゴトリと落ち、虚空を見つめる光のない瞳。元から居なかったかのように消し去られた皆が倒れていた跡地。崩れて地面ばかりが続く、町だった場所。

 

 暗く、辛く、苦しく。胸の奥に押し込めて蓋をしていた記憶。

 その全てが無理矢理フレイの記憶から引きずり出された。

 

 喉から「カヒュー」と奇妙な音がする。息ができない、胸が苦しい。目の前が真っ暗になる。

 今わかるのは当時のフレイが感じた、心臓が鷲づかみにされるような恐怖だけだった。濁った視界には何も映らない。

 

 世界の全てが恐怖で埋め尽くされた。もう、何も見たくない。何も聞きたくない。何も知りたくない。

 フレイは最早、昔の小さなフレイと同じだった。弱くて、小さくて、震えているしかない。そんな、消し去ってしまいたかった自分。

 

 もう何もできる気がしなかった。しょうがないじゃないか。

 

 相手はあんなにも強大で、恐ろしくて。自分はこんなにもちっぽけで、弱っちいのだから。

 

 諦めてしまうのも――――仕方がないことだ。

 

 ――本当に?

 

 真っ暗闇の中。うずくまる小さなフレイの目の前にボンヤリと浮かび上がってきたのは、小さな翼の持ち主だった。

 人よりも小さな姿で、自分よりも大きな相手に負けずに立ち向かう、凄いやつ。あたいの憧れ。カッコワルイ意気地なしの自分とは真反対のカッコイイ勇気のある者。

 

 そして――――そうならざるを得なかった者。

 

 ふと、ヒドラと対峙していたときに考えたことを思い出した。

 

 スワロー種は弱い魔物だ。そんな魔物がグレーターワイバーンやヒドラ、コアイマと渡り合える様になる。それは並大抵ではないことだ。そして――――並大抵ではないことが起こったと言うことだ。

 

 メルは通常のスワロー種より一回り小さい。きっと子供だ。それなのにあんなにも強い。どれほどの苦難を乗り越えたのだろう。

 

 側に親がおらず、仲間がおらず、折れることを許されず。

 

 それがどれほど大変な事か――――あたいは知っている筈じゃなかったのか。

 

 あの子は自分の居場所もわからず、行き先も見えず、それでも力強く立っている。不安だろうに、それでも前を向いている。

 それが少しでもわかるはずのあたいが手助けするべきなのに。

 

 それなのに今の自分はどうだ。

 蹲って、俯いて、恐怖に震えているだけ。

 

 ――これじゃあ、あの時と――――なにも変わってないじゃないか……!!

 

 助けて貰って、守って貰って。

 そんな弱い自分が嫌だったから、強く在ろうとした。

 

 だからそれができていたメルに憧れた。

 

 ――憧れているだけで良いのか?見てるだけで良いのか?

 

 ――弱いあたいを庇ったメルが甚振られる様を見ているだけで良いのか?

 

 ――そんな訳――ないだろう!!

 

 恐怖に濁り、絶望に暗んでいた瞳に光が戻る。

 

 勇気を持て。心に灯を点せ。

 

 あたいはフレイ。決して消えない炎のフレイだ。

 

 沢山助けて貰った。今度はあたいが助ける……!!

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

 翼をへし折り、まともに戦えなくなった魔物を只管甚振った。切りつけ、魔法の的にし、サンドバックにしたそれを、気まぐれに蹴り飛ばした。不思議な事になかなか死なないそれは、コアイマにとって良いストレス発散の道具だった。

 

 ベシャリと力なく地面に落ちたそれに向けて歩みを進めていると、生意気にも道を遮る者が現れた。

 件の生き残り。気まぐれに見逃した暇つぶしの玩具。

 怒りを燃やすこともできず、恐怖に屈した弱者。

 

 今もほら、膝は震え手に持った杖の照準は定まりきらない。

 怒りはサンドバックのおかげでだいぶ発散できた。折角だから遊んでやろう。

 

「あら、蹲っているのは終わり?でも貴女、プルプル震えてるわよ?」

 

「そうさ、あんたがコワイ。怖くてたまらないよ」

 

 コアイマはその弱々しい様を嘲り、無防備に両腕を広げて見せた。

 

「わたしは貴女の両親を殺したのよ。憎いのでしょう、撃ってみなさい?」

 

 無理だ。こいつからは焦げるような怒りではなく、甘い恐怖の香りがする。そんな人類種は怯えることしかできない。こいつは何もできない。

 

「……違う。あたいが燃やすのは怒りじゃない……!」

 

 弱者が震える声で何かを囀《さえず》っている。聞く価値もない戯言。この行動もタダの余興。前回と同じ、何もできない無様な姿を思い知らせるため。だが―――

 

「メルにもらった勇気だ!!《フル》……《バースト》!!!!」

 

「ッ!?」

 

 放たれたのは、震える左手を右手でねじ伏せ、直径30cmに届こうかという熱線だった。

 震えている体ばかりに気を取られ、瞳に灯った熱に気づくはずもないコアイマは完全に油断していた。

 避けきれず、熱線に左腕が飲み込まれる。引き抜いたときには所々が黒く焦げ、痛みに呻く事になってしまった。

 

「優しくしてやれば、つけあがりやがって!人間風情が……!!」

 

 痛みを与えてやればすぐにおとなしくなるだろう。そうすればまたじっくり恐怖を与えてあのかわいらしい姿を晒すことになる。

 そう思って駆け出しても、逃げ出すことはなかった。それどころか震えが少なくなった腕で魔法を放ってくる。

 

「《トライバースト》!!」

 

 三つ叉に別れた細い熱線。身をかがめて避け、進もうとすれば別の場所から目の前に岩が飛んでくる。足を止めれば横から大斧が。

 

「ぬううん!!」

 

 剣で受け止めるも後ろに下がらされた。

 

「次から次へと……!!」

 

「ゲラーク、あんたら……!避難はどうしたんだい!!」

 

「鳥が倒れた以上避難してもどうしようもねえ。それに一番ビビってたお前が立ち上がったんだ」

 

「俺達がビビっててどうするって話だ!!」

 

「冒険者にも仁義ってもんがある!命を救われてんだ!肉壁にくらいなってやるぜ!」

 

 騒ぐ冒険者に面倒くさそうな表情を浮かべたコアイマが面白いことを思いついたと言った風に笑った。

 

「そうね……、今なら後ろのそいつを渡せば全員見逃してあげても良いわよ?」

 

「ふざけるな。あんたなんかにメルは勿体ないよ」

 

 コアイマの言葉に揺らぐものは誰も居なかった。何より、見逃すことなんてないだろうという思いもある。

 唐突にコアイマが冷めた顔になった。

 

「そう、なら貴女もいらないわ。全員仲良く死になさい」

 

 高まる魔力。コアイマの頭上に巨大な球体ができあがっていく。

 その威力はここにいる全員を消し滅ぼしてあまりあるだろう。

 全員が決死の攻撃をしかけようとしたとき――――

 

「これ、借りますね。ログさん」

 

「えっ?オイ!」

 

 何者かが風の様に現れ、今まさに全員を飲み込もうとした球体を一撃で消し飛ばし、その後ろのコアイマも貫いた。

 

 立っていたのは見たこともない幼い少女。

 濡羽色の髪を風に揺らし、背には深い蒼の翼がはためいている。

 それが誰かフレイにはわかった。

 

「メル……」

 

「はい、フレイさん。私はここに」

 

 振り向いて優しく笑った。

 大きく透き通ったルビーの瞳に、小さく主張するかわいらしい鼻、花が咲いたようなきれいな唇。

 あどけない、幼い顔立ちだ。

 支えなくてはと思うのに。また助けて貰ったのが悔しくて――――こんなにも嬉しい。

 

 小さなはずのその背中はなんでこんなにも眩しいのだろうか。




人化のタイミング迷ったけどここかなって。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第43羽 その手に掴んで

誤字報告いただきました。ありがとう!
あっ、そうだ。剣道三倍段って知ってる?


 

 時は僅かに巻き戻って、蹴り飛ばされ地面に落ちたところから。

 

 ……流石に傷を負いすぎました。地面に倒れ伏し、焦点の定まらない視界のなか思う。

 吸血鬼の再生能力も無尽蔵ではありません。再生すれば再生するだけ、体力を消費します。傷が塞がるスピードは落ちるのです。貫かれた胴の傷を修復する必要があったため翼の骨折を治すのは後回しになりました。結局更なる傷を負ってしまい、吸血の効果は消滅。ご覧の有様です。

 

 あれ?声が聞こえる。これは……フレイさん……?

 

 蹴り飛ばした私へと歩いて来ていたコアイマをフレイさんが止めてくれたようです。

 

 過去の恐怖から動けなくなっていたはずのフレイさんが、私のことを守ってくれている。私の為に戦ってくれている。

 

 ――私はお姉様がいなければ立ち上がれなかったのに、フレイさんは自力で立ち上がった。

 

 すごい。私は百年以上かかったのに。強い人だ。

 

 そんなすごくて強い人が私を守ってくれようとしている。何度だって続きがある、命の軽い私を。

 

 フレイさんや冒険者達が庇ってくれている。

 

 嬉しくて、ありがたくて。そしてなんて――――罪深い。

 

 彼女たちの命に私なんかの命が釣り合うはずもない……!!

 私が守るべきだ。私が助けるべきだ。そうでなくてはいけないから。

 

 皆が止まっても、私だけは止まらない。

 彼女たちの死は終わりでも、私の死は終わりではないから。

 

 ――動け、私の体!!

 

 ――あんなに怯えていたフレイさんが頑張っているのに。

 

 ――トラウマを植え付けられたフレイさんが立っているのに。

 

 ――私がおとなしく寝っ転がっているなんて――――嘘でしょう……!!!!

 

 ――私が力を手に入れたのは何のためだ……!

 

 ――私が強くなりたいと願ったのは何のためだ……!!

 

 ――この手(・・・)から何一つ、取りこぼさない様にするためだ……!!

 

 ――足が取れたって、内臓が飛び出たって、翼がもげたって良い!今、動けるなら……それで!!

 

 ――大切なものを、何一つなくしたくないから……!!

 

 ――応えなさい!私の体!!

 

 

「【一閃《いっせん》】!!」

 

 眼前に迫る巨大な魔力の塊。

 容易く魔力をかき消したその一撃は、普通では届き得ない距離を瞬く間に喰い潰し、後ろのコアイマさえ貫いた。

 

 これは私が初めて発動に成功したあの戦撃。

 私が一番得意な武器、槍。その戦撃、【一閃《いっせん》】。単純な突きの一撃です。

 

「メル……」

 

「はい、フレイさん。私はここに」

 

 そう答えると固まっていた冒険者の一団がザワザワし始めました。

 

「すげえ」「あの攻撃を一撃って……」「かわいい」「背中に翼……天使か?」

 

 流石に一度に話されるとなんて言ってるか判別できませんね。

 

「メル!」

 

「わっぷ」

 

 フレイさんが感極まったように抱きついてきたので、気がつけば借り受けたログさんの槍を、つい取り落としてしまいました。危ないですよ?

 

「あんた人の姿になれたのかい!?」

 

「いえ、今成れるようになりました」

 

「へえ、それにしても……」

 

 私の姿をジッと見ていたフレイさんが、唐突に私の脇に手を差し入れて頭上に持ち上げました。

 

「ちっちゃいね?」

 

 むむむ!確かに私は今幼女と言われても仕方のないサイズですが、これでも精神はれっきとした大人です。今世は生まれて一年経ってないと思うので体が幼いのはしょうがないのですよ。

 

「まあいっか、かわいいし。それになんで急に槍なんか使ったんだい?」

 

「えっとそれはですね……」

 

「随分楽しそうじゃない……!!」

 

 返答に困っているとボロボロになったコアイマが姿を現しました。思ったよりしぶといですね。

 

「人化できるようになったからなに?今まで魔物の姿だったのに急に人の体を使いこなせるはずもないわ。まぐれ当たり如きでいい気になってるんじゃないわよ!」

 

 そう叫んで今までとは比べ物にならない量の魔力球が飛来する。それを冷静に見据え、左手を握りしめる。

 

「《白陣《はくじん》:壁空《へきくう》》」

 

 左手の先に幾何学的な白の魔術陣が発生し、透明な障壁が生み出された。前方を半球のドームのように覆ったそれは全ての攻撃を受け止めなお無傷。コアイマはギリギリと奥歯を噛みしめている。

 

「嘘でしょう……!!」

 

「残念ですが生半可な攻撃ではこれは壊せませんよ?」

 

「あ~、メル?降ろした方が良かった?」

 

 フレイさんは気まずそうに私を抱き上げたまま。そして私はちょっと得意げな顔。

 ハタから見るとちょっと間抜けな姿です。

 フレイさん……!先に言って……!!仕方ないじゃないですか、久しぶりに魔術使ったから嬉しかったんです!

 

 咳払いを一つして、フレイさんの腕の中から飛び降りると全員を見上げて言った。

 

「皆さんはこのままここでジッとしていてください」

 

「ッ!!……わかった」

 

 フレイさんや一部の人は何か言いたそうにしていましたが、言葉を飲み込んで頷いてくれました。

 

「すみませんログさん。この槍このまま借りていきますね」

 

「お、おう」

 

 障壁を通り抜け、私を睨み付けるコアイマと向かい合う。視線で人が死ぬなら私は十回は死んでますね。

 

「こんなチンケな魔物風情に私の魔法が……!!」

 

 認めたくないと言った表情で剣を携え、一気に肉薄してくるコアイマに、氣装纏鎧《エンスタフト》を発動する。魔法でなく、剣でならと言ったところでしょうか。正確には魔法じゃなくて魔術ですが。

 

 そんなことを考えながら、コアイマの攻撃を待ち受ける。

 ドドドドと四つ音が鳴る。

 常人では見ることすらできないであろう速度の、コアイマによる剣の振り下ろし。

 私がそれを弾き、ほぼ同時に突きを三つ胴体に入れた音だ。

 

「は?」

 

 コアイマからすれば意味不明だった。剣を振り下ろし始めたら既に胴に三カ所痛みがあったのだから。

 コアイマの体勢が上に流れる。

 

「【赤陣《せきじん》:一閃《いっせん》】」

 

 その隙に槍を握りしめれば、現れた赤の魔術陣が槍に纏わり付き、炎の突きが吹き飛ばした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第44羽 覚悟の差、人の力

すぐ消したけど、順番間違ってこれ42羽の後に投稿しちゃった。
見ちゃった人はごめんね?


 

「【赤陣《せきじん》:一閃《いっせん》】」

 

その隙に槍を握りしめれば、現れた赤の魔術陣が槍に纏わり付き、炎の突きが吹き飛ばした。

 

【赤陣《せきじん》:一閃《いっせん》】。正確には《赤陣:付加《ふか》》を施した戦撃です。魔術陣にはそれぞれ属性に対応した色が存在しており、赤は今見た通り火。

攻撃と共に相手を焼き焦がし効率よくダメージを与えてくれます。

 

しかしどうやらこれもコアイマは耐えきった様です。本当にしぶとい。

槍で突いても深く貫くことはできませんでした。ステータス上の防御力が異常に高いのか、他の要因があるのかはわかりませんが。

槍の炎を振り払って消し、一気に接近する。ともかく、攻撃の手を緩めず攻め続けます。

 

素手ではリーチで劣る剣に翻弄されましたが、今は逆。圧倒的に私が有利です。もうまともに攻撃を受けるつもりはありません。

 

槍はリーチで勝っている敵の正面に構えてあるだけで既に脅威です。私に直接ダメージを与えるなら接近する必要があるのですが、接近するには、槍をどかすという一手がどうしても必要となります。そうでなければ勝手に串刺しになるだけです。

 

決死の表情で攻撃をしてくるその全てを捌き、返し、無効化させていく。それどころか反撃のおまけつきです。痛みにひるんで隙を見せれば容赦なく連続で攻撃を加えてきます。

 

今もほら。

焦りから無理に力んだ攻撃を横に優しく流してやれば、止めることもできずに地面に剣が激突した。明確な隙です。

 

コンパクトに左右から打ち据える。痛みに歪む顔めがけて頭上から叩きつけを見舞えば、後ろに飛び退って避けました。

なので踏み込んで突き。

リーチで勝っている以上、反撃を受けるリスクは極小。恐れることなく踏み込むことができます。コアイマは腹部に衝撃を受け、地面を転がっていく。

 

めげずに地面を叩いて跳ね起きたコアイマが、私を睨み付け、ガトリングのように幾つもの魔力の球体を放ってきた。なら――

 

「《黄陣《おうじん》:誘岐連《ゆうきれん》》」

 

黄色の魔術陣から一筋の雷が生み出される。直進した雷は先頭の魔力球に近づくと、突如として枝分かれし、食らいついた。魔力球を爆発させ、なお貫き、突き進んでいく。その過程で幾重にも枝分かれして通り過ぎた先の魔法を全て誘爆させ、ついに終点のコアイマも貫いた。

 

「なに……、これ……ッ!!」

 

魔力に吸い寄せられる性質をもった雷です。最初の雷は直進しますが、そこから幾重にも分裂し魔法を貪欲の追い求めます。弱点も多々ありますが、弾幕型の魔法には大体有効です。もちろん自分の魔力は除外してありますよ。

 

電撃によって硬直した隙に一気に接近する。

射程距離に捉え、槍を振るえばコアイマに次々と傷が増えていく。必死に捌こうとしていますが、完全ではありません。

コアイマ自身のスペックの高さでなんとか持ちこたえていますが、技では私の方が上です。

 

さっきの焼き増しのようにコンパクトななぎ払いを左右から叩きつける。ギリギリでしたが今回は剣で防がれました。そして叩きつけ。

コアイマはさっきのを攻防を思い出したのか横に避ける。まあそうするでしょうね。

なので既にそこに攻撃を置いておきました。避けたと思った瞬間には、側頭部になぎ払いがヒットして吹き飛んだ。

 

「なんでよ!?今避けたでしょう!!」

 

「ええ、避けさせました」

 

相手の動きを予測し、追い詰め、移動範囲や攻撃方法などを徐々に制限させていけば、やがて取れる手は少なくなっていきます。そうすれば最後に行き着くのは選択肢が一つしかないという状況。そうなれば詰みです。

相手がやる事なんてわかっているのですから、それに対応した一手を置いておけば良いだけ。

既に接近において、貴女は私の手の平の上です。

 

コアイマの表情が屈辱に歪んでいく。

ここに来て接近戦では無理だと思ったのでしょう。

 

手を素早く振るって弱めの衝撃波の様な魔法を放ってきた。威力はないですがそれに押され一瞬足が止められる。

その間に更に魔力を集めたコアイマが最初の様に自分を中心に周辺を爆発させた。

 

「《白陣:壁盾《へきじゅん》》」

 

目の前に魔力で編んだ小型の盾を生み出してそれを防ぐ。砂塵が巻き上げられ、視界が遮られる。とは言え見えなくても補足はできています。と思った瞬間コアイマの気配がいきなり消え去った。

 

「な!?どこに……?」

 

「メル!上!!」

 

フレイさんの声に上を見上げれば、極大な球体が。アレ全部魔力なんですか!?恐らくですが街ごと消し去れる威力になります。

それにかなり注意しなければわかりませんが、さっきまでコアイマが居た場所に空間魔法の残滓が。

私が身を守った隙に使うのに時間がかかる空間魔法で上空に逃げ、魔力を溜めていたと言うことでしょう。

まだそんな手を……!!

 

「これはもう使うなって言われてたけどしょうがないわ……!!皆ここで消え去りなさい……!!」

 

対処する間もなく、破壊の化身が降りてきた。

間に合え……!!地面に槍を突き刺し、両手を握りしめる。

 

「《双白陣《そうはくじん》:砲壊潰《ほうかいつい》》!!」

 

握りしめた両手の先から二つの魔術陣が生み出され、その砲門が開かれる。巨大なビーム、いわゆるゲロビが二つ放たれ、途中で混ざりさらに大きなビームとして極大な球体に突き刺さった。

 

「押し……負ける……!?」

 

みるみる魔力が無くなって行っているのに、極大の球体は徐々にその姿を近づけてきた。

仕方ない……!!闘気を作り出す時の呼吸を意識し、魔素を魔素のまま取り込んだ。

 

「グフッ!!」

 

喉から熱がこみ上げ、体の至る所が裂け血が噴き出す。魔素の中毒症状です。気分もドンドン悪くなってきた。それでも止めるわけにはいかない。

 

地面に後を付けて体が後ろに押しやられていく。その時腰に弱い衝撃を感じた。

 

「フレイさん!?危険なので戻っててください!」

 

「この馬鹿!こんな血まみれで無茶してるのに今ほっといてどうするのさ!!」

 

「その通りだ!何度も言ってんだろ!お前が死んだら俺らも終わりだ!」

 

「一蓮托生ってわけよ!!」

 

フレイさんだけじゃない。冒険者皆が後ろで私を支えてくれている。

 

「あたいらの全部、あんたに預けるよ!!」

 

瞬間、激熱が迸る。

私に他者の魔力を受け取る能力なんて無い。スキルも無い。

それでもフレイさん達の魔力を感じた。それでも魔力を受け取った。

 

何も手を加えていないのに炎をまとったこの砲撃がそれを証明しています。これは皆の力です。

押し合いが拮抗した。

 

「とっとと諦めなさいよ……!!そんなに負けたくないの!?」

 

私達を消し去ろうと力を込め、顔を歪めたコアイマがあきらめが悪いとばかりにそう言い放つ。

 

「負けたくない?違う……!!」

 

その程度では断じてない。

私の後ろには、フレイさんがいる。ログさんがいる。ターフさんがいる。私を庇ってくれた冒険者がいる。私が負ければきっと死ぬ。そんなの絶対に受け入れられない。だから――――

 

「負けられない……!!負けることなんて許されない……!!」

 

戦うとき、後ろに何かが在った事なんてないんでしょう。

貴女とは、覚悟が違う!!それは言葉にだって表れる。

 

タダでさえ握りしめている両手に『握撃』を使う。

 

魔術陣を作り出すのには想像力が必要です。そのため私にはルーティンとして手を握りしめる動作が必須でした。そこでさらに強く握りしめればどうなるか。

 

魔術陣の輝きが増し、魔力を流し込む許容量が増す。許容量を超えれば魔術陣は砕けます。それが大きくなった。

更に血が噴き出すのも構わず、魔素を取り込み、限界ギリギリまで魔術陣に流し込んでいく。

砲撃が球体を押し返していく。

 

「嘘でしょう!?」

 

「嘘じゃない!押し返す要因になったのは貴女が侮っていた、人の力です!」

 

押し返す速度はドンドン加速して行き、遂にコアイマの眼前まで迫った。

 

「死にたくない!死にたくない!」

 

そこに来てコアイマの顔が恐怖に歪んだ。……貴女が殺してきた人たちもきっとそんな気持ちでしたよ。

 

私が手を緩めることは無く、コアイマは自身の魔力と私達の砲撃に巻き込まれた。上空で巨大な爆発が起きる。しばらく耳が聞こえなくなるほどの轟音。徐々に音が戻ってくる。終わった……?

 

すると上空から声が聞こえた。

 

「はあ……!はあ……!運が良かったわね!今回は見逃してあげるわ!次はペットを連れてきて完膚なきまでに殺してあげるから覚悟してなさい、人間共!それとあんたもよ、魔物風情が!どこに居ても探し出して殺してあげるわ!!」

 

コアイマは死んでいなかった。ボロボロながらも高笑いしながら、今にも空間魔法を発動して逃げようとしている。

 

「《紫陣:加速《かそく》》」

 

呪術を発動する。眼前に紫の魔術陣、正確には呪術陣ですが。

結局貴女は最後まで他者を見下すことを止めませんでしたね……。

右手に槍を構え、全力で体を後ろにねじっていく。力の高まりが最高潮に達したときに、呪術陣に全力で踏み込んだ。

 

「【魔喰牙《ばくうが》】!!!!」

 

戦撃と呪術の両方の急激な加速に視界が引き延ばされる。右腕の槍を突き出せば瞬きもしない間に上空のコアイマを貫いた。

 

単発の片手突進技。距離を詰めるのに便利でよく使います。準備する必要がありますが、加速の呪術陣を踏み越えればその威力は一撃必殺にまで高まります。

 

「い……や」

 

体に巨大な風穴が開いたコアイマはそう溢して、息絶えた。

ボロボロと体が崩れていき、死体も残さずまるで魔法のように消えていきました。空間魔法で飛んで逃げたわけではありません。

 

終わった。背中の翼を広げ、ゆっくり落ちていくまま上空から見下ろせば、地平線をのぞく朝日が眩しいでs……

 

「いたたたたた!?」

 

体が焼ける痛みに急いでソウルボードから吸血鬼を外すと意識が遠のいていく。マズい、落ちる。

 

「メル!?」

 

――なんだかデジャブ……。

 

そして私は意識を失いました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第45羽 布団爆発

お気に入りありがとう!


 

「知らない天j――」

 

 目が覚め、そう言おうとしてふと横を見る。

 

「ッ!!?!?」

 

「すー……すー……」

 

 知ってる顔だ。

 まつげが長い。

 今は隠されているけれど、まぶたが開かれればその奥から太陽の輝きが現れるだろう。筋が通った鼻は思わず摘まんでイタズラしてしまいそうになる。かわいらしい唇はなんだか緩く弧を描いて嬉しそうだ。

 形の整った胸が規則正しく上下している。一つの絵画のような景色はなんだかきらめいている様で。

 スヤスヤと無防備に穏やかな表情で眠るフレイさん。それを正確に脳が認識したとき――――

 

「ふやッ!?」

 

 布団が爆発した。

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 人の姿が戻ってきている街を二人で歩く。

 

「全く……」

 

「面目ないです……」

 

 隣で美少女が寝てると言う状況に驚きのあまり、何故かしまわれていた翼が、何故か背中から飛び出してしまったのだ。そのせいで安眠していたフレイさんを起こしてしまった。

 まあ、人の姿の時に翼をしまえるのは便利です。じゃないと仰向けで眠れないですから。

 

「ま、良いさ。こうして無事に目覚めてくれたからね」

 

 三日。それが今回目が覚めるのにかかった時間だ。その間色々とお世話をしてくれていたらしいです。ありがとうございます。

 何度か致命傷を受け、無理矢理直して戦っていた結果でしょう。ヒドラとコアイマの2連戦でしたし、闘気もかなり消費していました。最後は魔術を使う為に魔素を取り込んで、体に追い打ちを掛けていたのでこの期間は短いと感じるくらいです。これも魔物としての丈夫な体のおかげでしょう。

 

 実際未だに体の重さは取れていませんし、魔力の巡りが悪いです。今回の主な不調の原因は魔素の中毒症状の方ですね。時間が経てば直るでしょうが、魔素を取り込むのを多用するのはやはり得策とは言えないでしょう。

 

 壊されてしまった場所を、街の人たちが強力して直している景色がちらほら見られる。場所としては少ないはずだけれど、めげないその姿勢はたくましい。

 

「おっ?嬢ちゃんこれでも食いな」

 

「これなんか俺のお気に入りなんだ。あげるよ」

 

 そして何故か行く先々でひたすら冒険者らしき人たちが、露店で買った食べ物をくれる。何故?いや、美味しいからありがたいんですけど。もぐもぐ。

 

「あんたに助けて貰ったからだよ。皆感謝してるのさ」

 

 ヒドラを倒し、コアイマも下した。きっとこの街の冒険者だけではできなかっただろう。でも、私だけでも、それはできませんでした。私が今生きているのは皆さんのおかげでもあります。

 

「それに私、今翼出してないですよ?」

 

 タダの子供にしか見えないはずなんですが。なぜ私だとわかるのでしょうか。

 

「あたいと一緒に居るからじゃない?」

 

「なるほど……」

 

 両手にいっぱいになって今にも落としてしまいそうな食べ物。それを色々食べながら頷く。持ちきれない分は、フレイさんが持ってくれているがそれもいつまでもつか……。断ると悲しそうな顔するんですよ……。貰うしかないじゃないですか。しかももりもり抱えているのを面白がって、冒険者じゃ無い人までくれるようになってしまいました。そちらは断っても悲しい顔されないのでなんとかなるんですが。

 私のことがバレなければ大丈夫そうなのですが……。

 

 チラリとフレイさんの方を見れば目が合った。

 

「……あたいがいない方が良かった?」

 

 むすっとしたフレイさん。

 

「い、いやいやいやいや!!!そんなこと無いですよ!!」

 

「……どうだか」

 

 この後頑張ってなだめると、目的地にたどり着くまで鳥の姿で抱きしめられた。もふもふが良かったらしいです。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第45羽 布団爆発

お気に入りありがとう!


 

「知らない天j――」

 

 目が覚め、そう言おうとしてふと横を見る。

 

「ッ!!?!?」

 

「すー……すー……」

 

 知ってる顔だ。

 まつげが長い。

 今は隠されているけれど、まぶたが開かれればその奥から太陽の輝きが現れるだろう。筋が通った鼻は思わず摘まんでイタズラしてしまいそうになる。かわいらしい唇はなんだか緩く弧を描いて嬉しそうだ。

 形の整った胸が規則正しく上下している。一つの絵画のような景色はなんだかきらめいている様で。

 スヤスヤと無防備に穏やかな表情で眠るフレイさん。それを正確に脳が認識したとき――――

 

「ふやッ!?」

 

 布団が爆発した。

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 人の姿が戻ってきている街を二人で歩く。

 

「全く……」

 

「面目ないです……」

 

 隣で美少女が寝てると言う状況に驚きのあまり、何故かしまわれていた翼が、何故か背中から飛び出してしまったのだ。そのせいで安眠していたフレイさんを起こしてしまった。

 まあ、人の姿の時に翼をしまえるのは便利です。じゃないと仰向けで眠れないですから。

 

「ま、良いさ。こうして無事に目覚めてくれたからね」

 

 三日。それが今回目が覚めるのにかかった時間だ。その間色々とお世話をしてくれていたらしいです。ありがとうございます。

 何度か致命傷を受け、無理矢理直して戦っていた結果でしょう。ヒドラとコアイマの2連戦でしたし、闘気もかなり消費していました。最後は魔術を使う為に魔素を取り込んで、体に追い打ちを掛けていたのでこの期間は短いと感じるくらいです。これも魔物としての丈夫な体のおかげでしょう。

 

 実際未だに体の重さは取れていませんし、魔力の巡りが悪いです。今回の主な不調の原因は魔素の中毒症状の方ですね。時間が経てば直るでしょうが、魔素を取り込むのを多用するのはやはり得策とは言えないでしょう。

 

 壊されてしまった場所を、街の人たちが強力して直している景色がちらほら見られる。場所としては少ないはずだけれど、めげないその姿勢はたくましい。

 

「おっ?嬢ちゃんこれでも食いな」

 

「これなんか俺のお気に入りなんだ。あげるよ」

 

 そして何故か行く先々でひたすら冒険者らしき人たちが、露店で買った食べ物をくれる。何故?いや、美味しいからありがたいんですけど。もぐもぐ。

 

「あんたに助けて貰ったからだよ。皆感謝してるのさ」

 

 ヒドラを倒し、コアイマも下した。きっとこの街の冒険者だけではできなかっただろう。でも、私だけでも、それはできませんでした。私が今生きているのは皆さんのおかげでもあります。

 

「それに私、今翼出してないですよ?」

 

 タダの子供にしか見えないはずなんですが。なぜ私だとわかるのでしょうか。

 

「あたいと一緒に居るからじゃない?」

 

「なるほど……」

 

 両手にいっぱいになって今にも落としてしまいそうな食べ物。それを色々食べながら頷く。持ちきれない分は、フレイさんが持ってくれているがそれもいつまでもつか……。断ると悲しそうな顔するんですよ……。貰うしかないじゃないですか。しかももりもり抱えているのを面白がって、冒険者じゃ無い人までくれるようになってしまいました。そちらは断っても悲しい顔されないのでなんとかなるんですが。

 私のことがバレなければ大丈夫そうなのですが……。

 

 チラリとフレイさんの方を見れば目が合った。

 

「……あたいがいない方が良かった?」

 

 むすっとしたフレイさん。

 

「い、いやいやいやいや!!!そんなこと無いですよ!!」

 

「……どうだか」

 

 この後頑張ってなだめると、目的地にたどり着くまで鳥の姿で抱きしめられた。もふもふが良かったらしいです。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。