Re. 海竜のヒーローアカデミア (willtexture)
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プロローグ
第0話 海藤悠雷:オリジン


ワクチンを打って寝込んで
ヒロアカの映画を見てなんやかんやでリメイクすることにしました。


感想と評価をよろしくお願いします。


 初めて僕がその背中を見たのは確か…………テレビの中だった気がする。

 自らの命を賭けて人々を護るその姿に

 凶悪な犯罪者たるヴィランを圧倒的な力でねじ伏せ捕えるその勇姿に

 自らの意思を、己の正義を貫くその姿勢に

 幾度も困難に襲われようとも歯を食いしばって立ち上がる。

 

 その姿を一度も己の目で見ることはなく、

 創作ではないのかと心のどこかで疑いながらもその存在に…………

 

 

 ──僕は憧れた。

 

 

 僕は両親と共になんてことのない普通の街に暮らしていた。

 オールマイトやエンデヴァーなどのトップヒーローの事務所がある訳でもなく、

 本当に大した特産も有名人もいないありふれた街だ。

 特色があるとすればその街には心霊スポットが多かったくらいかな。

 なんでも過去に死神と呼ばれた存在がいたらしい。

 超常と呼ばれる時代の前に活躍した暗殺者に殺された亡霊が彷徨っているとかね。

 これは僕が生まれたころにはもう完全に都市伝説みたいな扱いだったけどね。

 学生たちが夏休みに肝試しと言ってよく山に登っていたりしてたな。

 

 僕の父親は僕が幼い頃はとても優しかった。

 幼稚園の友達だった彼らに羨ましがられたほどに。

 父親は道端で困っている人には必ず声をかけ、手を差し伸べるほどだった。

 その姿は自ら人を助ける僕のヒーローとしての理想だった。

 いつかこのような大人になりたいと心の底から思っていた。

 僕の母親はとても美しかった。

 結婚して子供を産み数年が立っても、色々な年代の男性からプロポーズを受ける程に

 母親にはマナーや社会のルール…………処世術を学んだ。

 

 とても裕福とは言えなかったが、幸せに暮らしていた。

 父親の個性である電気操作と母親の個性である液体操作を受け継ぎ、

 さらに突然変異とも言うべき個性である竜化を発現した僕は

 幼稚園時代は周りの子供達のリーダー的な存在となった。

 幼稚園では個性がヒーロー向きというだけで余程性格に難がない限りは人気者になれた。

 憧れのヒーローらしく振舞えているって言う事が一つのステータスだったから

 俺は与えられた役回りを全力でこなした。

 常に自分だけが演劇を続けているようで嫌になるときもあったが、

 それでも僕はみんなの期待にこたえたかった。

 

 僕の個性で可能なことは電気及び液体の操作と

 当時で既に体長1~2メートルに達するシーサーペントのような姿へと変化することだった。

 竜化した時には現存する水生生物の大半を凌駕する体格と

 頭部後方に伸びる巨大な角、美しく光る外殻、そして背中に並ぶ赤色の突起物が特徴的だった。

 水中では諸刃の剣となるべきである電気への耐性を得て、

 尚且つ、周囲の液体を操ることが出来た僕の個性は研究者によって『海竜』と命名された。

 水中においてその戦闘力は脅威になると確信され、

 その個性に興味を抱いた研究者達によって様々な方法で研究が行われた。

 

 この世でその存在がありとあらゆる文献を探しても一切確認することが出来ない生物だったが

 研究によって確認できたその生態には既に発見された生物との類似点があった。

 竜化した状態では水中での生活に特化しており、

 肺呼吸だが一息で半日は潜水できるほどに脅威的な肺活量。

 また、水中で口を開けても海水が流れ込まないように、喉の骨で蓋をする構造となっている。

 この時点で哺乳類とも爬虫類とも違う生物という事が判明した。

 類似点はあれど、根本的なところに違いがあった。

 強靭な後ろ足と尻尾を利用した遊泳速度は驚くほど速く

 その巨体と俊敏性も相まって、

 繰り出される突進は自身よりも大きな岩を容易く破壊できるほどだった。

 歯は陸上に生息していた肉食の恐竜や海に生息していた首長竜などと似た形状をしていたが

 水生生物が進化の過程で獲得した硬い皮膚や甲殻。

 厚い脂肪を貫くためかより長く鋭い形状をしていた。

 しかもその血は未発見の成分が含まれており、更に研究者の興味を引いた。

 

 電気操作も勿論可能だが、竜化した僕は海中での大規模な放電行動をとることができた。

 発現のメカニズムは研究者によってある程度解明された。

 体表付近にある筋肉を高速で収縮させることで体内に存在する発電細胞を活性化させ発電。

 その電気を背中に存在する突起物『背電殻』に蓄電することが確認された。

 また、背電殻に電力が最大限まで貯められると背電殻から非常に美しい蒼い光を放つ。

 その光は捕食対象にとって恐怖を与えるものであり、

 実験ではシャチやイルカなどの賢い頭脳を持つ水生生物がそれを見ただけで従ったという。

 陸上においても父親から受け継いだ電気操作と桁外れた身体能力。

 母親の液体操作も使うことができた僕は将来有望なヒーロー候補とされた。

 液体操作についてはどんなに頑張ってもゼロから液体を生み出すことは出来なかったし

 操作することができても陸上においては大したスピードで動かすことができないため

 戦闘では使うことがなく、主に水中での水流操作に使われた。

 訓練の結果により、スピードは遅いが鉄位なら切れるほどになった。

 練習に付き合ってくれた研究者の皆さんには頭が上がらない。

 今、あの研究者たちは何を研究しているのだろうか?

 既に50を超える人が多かったが、彼らの研究意欲がその程度で止まるとは思えない。

 

 プロヒーローとして十分すぎるほどに活躍出来る個性に加えて

 母親譲りの美貌と蒼髪を持った俺は周囲の人に羨ましがられる存在だった。

 

 ──だが、この世の中はバランスを取るように出来ているらしい。

 幸せの天秤が傾くようにして立て続けに不幸が僕の家族を襲った。

 

 僕の周囲で事故などが多く起きるようになった。

 理由は街で活躍していたプロヒーローが引退したことただそれだけだった。

 しかし、僕の周囲で起こった事件には何故か他のヒーローが間に合わず、何人かの人も死んだ。

 引退したヒーローが諫めようとしてくれたが、効果はなかった。

 それどころか、そのヒーローすらも事故に巻き込まれて亡くなった。

 悪意は伝染し、僕の周りには不幸が訪れるとされた。

 その結果、僕は友達だった彼らに死神の再来だと冥界からの使いだと言われた。

 全てが偽りで固められた関係だからこそあんな簡単に壊れてしまったのかもな。

 本音で語り合うことが出来ていたら…………いや、もう終わったことだ。

 

 そして、僕が5歳の頃に父親の会社が倒産した。

 理由は外的要因であり、ほかの会社との競争に負けてだけで

 父親に何の責任もなかったが大人たちは死神のせいだと父親を責め立てた。

 

「お前の子のせいだ」「あの子さえいなければこうならなかった」

「あんな子を育ててしまったお前を会社に入れたことが最大にして唯一の汚点だよ」と

 

 それから、幸せだった家庭が崩れていくのには時間がかからなかった。

 母親は罵倒と憐憫の視線に耐えながらお金を稼ぐ為に働きに出て、家を留守にする事が増えた。

 父親は就活を始めていたが、上手くいかず酒に溺れた。

 優しかったが故に他人の悪意にあまり触れることがなかったらしい。

 美人な母親を娶っていながら無職となり、生まれた一人息子は不幸を運ぶ冥界からの使い

 そんな父親を僻んでいた男達と倒産した会社の奴らの悪意が向くのは当然の事だった。

 真面目で、優しかった父親は酒と周囲の環境によって容易に壊れた。

 

 父親は昼夜問わずに酒を飲むようになり、

 就活をすることもやめて毎日のように僕に暴力を振るう様になった。

 

「お前さえいなければ、俺は幸せに暮らせていたんだ!!」と

 

 母親はそれでも父親を愛していたようで離婚をすることは無く、

 自分の時間とその身をを削って働き続けた。

 今なら分かるが母親がいなければ僕は間違いなくヴィランになっていただろう。

 それほど母親の存在は大きかった。

 母は食事は取れない日もあり、どんどんやせ細っていった。

 それでも僕のことを常に気にかけてくれた、そんな母親だった。

 

 それからしばらくして僕が6歳になる直前に父親が犯罪に手を染めてヒーローに捕まった。

 捕まった後、独房の中で舌を嚙み自殺したそうだ。

 …………父親の遺体を僕と母親が見ることはなかった。

 今、思えば牢の中で恨みを持った誰かに消されてしまったのかもな。

 もう墓参りすらする事は無いだろうから気にはしてはいないが

 

 何をしたのか当時は知らされることはなかったが、

 後に個性を使い、父親に悪意を向けた男達を殺したという事を知った。

 その後、母親は父親の死に場所であるこの街にいたくなかったのか

 自分と僕へ向けられる悪意を考慮してか、とある田舎にあった実家に帰った。

 母の実家は小さな島にあり、ヒーロー事務所が存在しない程に犯罪のない島だった。

 島に住んでいる人は皆、とても親切だった。

 島の長的な存在だった祖父の娘と孫だったからというのもあっただろうが

 その島で俺は6歳まで平和な一時を謳歌した。

 あの街では死神とも冥界からの使いとも

 散々なことを言われていたがこの島では事件なんて起こらなかった。

 

 祖父母の住む家に僕と母は住むことになった。

 そこでようやく母親は重圧から解放され、

 父親が勤めていた会社が倒産してから初めて心からの笑みを浮かべた気がした。

 その島での温かい家族や住民に囲まれた生活は

 心と身体への多大な負荷に耐え続けていた母のことを優しく癒やしていった。

 

 僕の祖母の個性は細胞の活性化という利便性の高い個性。

 B型以外には効果が薄くなるという欠点もあったが、自分に使う分には何も問題はなかった。

 祖父は母親の個性の元である水流操作で

 やってみたところ祖母の個性も使えた僕は2人に個性の扱いについて学んだ。

 僕が周りの人を不幸にしてしまうのならば

 その不幸よりも多くの幸運を運んでかき消してしまえばいいと母は笑っていった。

 僕が生まれてから辛い事もたくさんあったが、私は今幸せだと言ってくれた。

 

 その言葉を胸に僕は2人の教えを受け個性の扱い方への理解を深めた。

 祖母の個性の細胞の活性化は僕の発電のスピードを飛躍的に向上させ、

 その発電量と蓄電量も大幅に増えた。

 また、もともとあった再生能力が強化されて

 片腕が欠損するような怪我なら瞬く間に治せるようになった。

 竜化した時の身体が特殊だったのか、詳しいことはわからないんだけどね。

 ただ、残念なことに祖母のように他の人の治療は出来なかったけれども

 

 あの島での生活はとても平和で幸せなものだった。

 島が小さい分住民たちの結束がとても強く

 祖父はこの島にいるやつ全員が家族だと口癖のように言っていた。

 それからしばらくの月日が経ち、僕の7歳の誕生日を一週間前に控えた日

 この島の近くに都市の方で暴れていたヴィランが逃走しているという知らせが来た。

 ヴィランの名前まではテレビの情報だけでは知りえることはなかったが、

 ありとあらゆるウイルスを操る個性ということは知ることができた。

 祖父はヒーローのいないこの島にそいつが来るのではと恐れて

 島の家族に避難するように呼びかけた。

 流石の統率力で祖父は家族を纏めると島を出ようとした。

 

 ──しかし、全てが遅かった。

 

 そのヴィランは既に島に来ていて僕たち家族は既にウイルスに感染していた。

 ヴィランは僕たちを感染させ人質にするつもりだったらしい。

 この島の近くには既にヒーローが来ているらしくかなり慌てていた。

 僕たちのことを人質にするために比較的弱いウイルスに僕たちは感染した。

 

 しかし、そのヴィランが慌てていたために個性を完全に制御できているわけではなく

 一部には強力な感染症などが混じっていた。

 

 最悪なことに、その一人が僕だった。

 僕が感染したのは狂犬病というものだった。

 僕に感染したウイルスは僕の体の中で急速に進化し、全く別のウイルスになった。

 そのウイルスは後に『狂竜ウイルス』と名づけられ島にいた全ての生物に感染した。

 感染した生物は好戦的な気質というべきかとにかく他の生物に襲い掛かった。

 そして、一定時間が経過すると例外なく死に至った。

 ヴィランがその後どうなったのか知らないが、感染したことは間違いないはずだ。

 感染した島の人たちは克服することができずに肉親同士で争い、バタバタと死んでいった。

 僕は祖母と母のおかげで何とか九死に一生を得た。

 個性の影響もあり生命力は強い方だったが、幼い僕はそれだけでは耐えることができなかった。

 祖母が個性を使って僕の抗体を活性化させ、

 母は巧みに僕の体内の液体を操作しウイルスに侵された血液を体外に排出してくれた。

 海にドライヤーを当てるような微々たる抵抗だったが何とか僕は生き残った。

 

 

「悠雷…………必ずあなたの夢を叶えてね…………」

 

 

 それが、死にゆく母の最後の言葉だった。

 

 

 ──その日…………とある田舎の島に住んでいた生物は一人の少年を残して全滅した。

 

 

 そのあとのことはよく覚えていない。

 気づいたら波に揺られて、島に近い都市に流れ着いていたらしい。

 どうやら無意識のうちに自分が最も安心できる場所である海に行こうとしていたらしい。

 島の周辺の魚たちが無防備に流される僕を守ってくれていたのだ。

 流れ着いたその島で警察に保護された僕は島で何があったのかを聞かれた。

 あの島に逃げたヴィランによって島の人がどうなったかは伝わっていたらしい。

 なので僕はあの日。島であったことをすべて話した。

 

 どうか…………警察の人が言っていたことが夢であればよかったと思いながら

 

 その後病院で生活を送っていた僕に公安を名乗る組織が接触してきた。

 彼らは僕のように身寄りのなくした子供達へ援助を行っていたようだ。

 彼らにこれから君は何をしたいのかを聞かれたので

 

 自分のような人をこれ以上出さないために、

 昔、なりたいと願った自らの理想を体現するために

『人を護り…………救うことができるヒーロー』になりたいと答えた。

 

 それから、僕は公安の人に保護され

 公安に紹介されたリューキュウというヒーローに師事することになった。

 紹介された当時は独立すらしていないサイドキックの一人だったために

 自らの業務と独立へ向けた準備などとても忙しかったが、良くしてくれた。

 “ドラグーンヒーローリューキュウ”の個性は『ドラゴン』というもので

 その名の通りドラゴンに変身するというものだった。

 似ている個性なので都合がいいと思ったのだろう。

 僕の境遇に哀れんだのか知らないが公安の人も

 リューキュウこと龍子さんも僕にとてもやさしくしてくれた。

 その姿はどことなく母と似ていた。

 もしも姉がいたならばこういう人なんだろうと思った。

 

 それから数年後に公安の人に紹介されたホークスというヒーローも

 僕に個性の使い方や体の使い方を教えてくれるようになった。

 リューキュウは義理の姉、ホークスは義理の兄の様な関係となった。

 戸籍上では何に関係もないが、本当の家族のように感じた。

 まぁ、ホークス…………兄さんにはいろいろと振り回されることになるんだけど

 

 僕は心に負った傷を癒やしながら母の最後の言葉に従い

 僕の夢を叶えることを目標にただひたすらに努力した。

 兄さんからは人助けのノウハウを姉さんからは竜化状態での戦闘について教わった。

 血反吐を吐いたことなんてもう数えることができないが

 もうすぐでヒーローを目指す人にとっての憧れである雄英の入試だ。

 

 ようやく俺はスタートラインに立つことができる。

 

 

 

 ──これは俺が夢を抱き、叶えるまでの物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────ー

 

 

 

 海藤悠雷

 

 誕生日は8月1日

 モンハントライの発売日を使わさしていただきました。

 誕生日が耳郎響香と同じとなっていたことにびっくり

 

 好きなことは天体観測と読書そして料理。

 

 天体観測は昔、母と夜空を眺めていたころから好きだった。

 母親がもっとも好きな星は太陽を除く恒星で最も明るいと言われる

『シリウス』と呼ばれる星である。

 読書は一人でも楽しむことができる趣味だからという理由。

 本の世界にいるときだけは自分の孤独さを忘れることが出来る。

 料理は昔、自分の作った料理をおいしいと言ってくれたことがきっかけ。

 今では作ること自体も好きになっている。

 

 好きな食べ物はプリンとアップルパイ。

 二つとも母の得意料理だった。

 プリンは昔ながらの硬めのものが好き。

 

 身長は170センチほどで耳の先端が少しとがっている。

 長めの蒼い髪に赤い目をしている。目は雷を纏うと蒼く光る。

 全体的に肌の色は白い方。

 

 個性『海竜』

 

 前述の通り、現存する水生生物の中で最大級の体格を誇る。

 地上では優れた身体能力と電気を扱い、

 水中では液体操作にて相手の動きを制限しつつ戦うことを得意とする。

『海竜』にもかかわらず、陸上戦が強いとは?

 

 個性にて変身する海竜は研究者によって

『雷光を放つ大渦』という意味の『ラギアクルス』と命名された。

『ラギア』は光を放つ『クルス』は大渦を意味する。

 悠雷が起こした光を放つ大渦を見たことをきっかけにして名付けられた。

 悠雷はこの名前を気に入っており、ヒーロー名とするつもりである。

 

 研究者の意見に未だ成長を続けているという意見があり

 悠雷もまだ個性に成長の余地があるものだと認識している。

 竜化した悠雷から採る事ができる血の成分はいまだ不明である。

 




過去を重くしたいなと思って書き直したら思ったよりも
重くなりすぎたと書き終わってから思いました。

島唯一の生き残りってよく発狂しなかったな。と主人公の精神はかなり強めです。
考えていることが滅茶苦茶なところはあります。仕様です。


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入学編
第1話 雄英高校入試試験


感想と評価をよろしくお願いします。
せっかくの土日なので連続投稿にします。
外は雨風がひどくて何もする気が起きなかったので

ちなみに苗字が海道から海藤に代わっています。
違っていたら誤字報告をお願いします。


 世界の総人口の約8割が超常能力『個性』を持つに至った超人社会。

 

 ────そんな世の中に生まれた存在。

 

 『ヒーロー』と『ヴィラン』

 

 個性を悪用する犯罪者…………

 それを──敵、『ヴィラン』という。

 

 それとは反対に個性を発揮してそれらの『ヴィラン』を取り締まり人々を護り、救う存在。

 それを人々は『ヒーロー』と呼ぶ。

 

『架空』は『現実』に

 

 

 これは俺が最高の『ヒーロー』になるまでの物語だ。

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────

 

 俺、海藤悠雷は目覚まし代わりのスマホのアラームで目を覚ました。

 目覚まし時計と違って誤って落としてしまっても壊れないから便利だ。

 昨夜、閉めていたはずのカーテンから朝日が入り、その眩しさに目を細めた。

 しっかりと閉めたはずだが、記憶違いだろうか?

 ここには誰もいないんだからこんなこと考えていても意味ないか。

 

 今日は俺にとって、否。

 俺と同年代のヒーローを目指す少年少女にとって、とても大切な日だ。

 そのために今日は朝に弱いが早めの準備を心がけるべく

 いつもよりも早めの6時に起床したが、ホントに何故カーテンが空いているのだろうか?

 まさか、ポルターガイストか?

 非現実的な存在だと言いたいが、この超常社会だと否定できないな。

 

 きっと閉め忘れたのだと思い、身体を解しながら顔を洗いに洗面台に向かう。

 何故か、コーヒーの匂いがキッチンの方から漂ってくるが気のせいだろう。

 流石に夜遅くにカフェインを取るわけにはいかないから

 昨日は4時に飲んだのが最後だ。

 その後はしっかりと部屋の換気をしたはずだ。

 もしかしたら…………いや、気の所為であって欲しい。

 

 顔を洗い、歯を磨いて母親譲りの蒼い髪を整え、着古したシャツとズボンを脱ぐ。

 お気に入りの奴だが、そろそろ新しいものを買った方が良いだろうな。

 いくらなんでもヨレヨレ過ぎるし、今度いいやつを見繕ってもらおう。

 まだ時間よりもかなり早いかもしれないが、中学校の制服に着替える。

 ダラダラとしているよりもこちらの方がいいだろう。

 そして、意を決してリビングへと向かう。

 

「おはよう。よく眠れた?はい、コーヒー入れて置いたよ。悠雷甘いの好きだったでしょ?」

 

「ありがとうございます。ですがなんでいるんです?

 ここ関東ですよ?兄さんの事務所は関東にありませんよね?」

 

「まぁまぁ、細かいことは気にしない気にしない。

 せっかく入れてあげたコーヒーが冷めちゃうじゃないか」

 

「俺は猫舌なんですよ?知ってますよね?わざとですか?」

 

「そう怖い顔しない」

 

「今日受験日なんですけど」

 

「そ、だから来たの。可愛い弟の激励にね」

 

「そうですか、ありがとうございます。おかえりください」

 

「釣れないねぇ。まぁ座ってよ」

 

「はぁ」

 

「俺から言うことは1つ、頑張りなよ。

 自由に自分のしたいようにしなよ。先生の言うこと守って楽にやんな」

 

「普段の生活見てると兄さんの助言は不安です」

 

「えー?そんなに俺の信用ない?」

 

「ないです。兄さんは楽に生きすぎです。

 部屋が汚くても楽でイイじゃないで済ませている人ですよ?」

 

「ダメ?」

 

「ダメです。やろうと思えば出来るんですからやるか、やってくれる彼女でも作ってください」

 

「自分の好きにヤらせてくれる彼女を求めるなんて…………悠雷も思春期だもんね」

 

「言ってません。ストレスで鱗の調子が悪くなるじゃないですか

 今日来るなら来るって連絡くらいください。

 自宅なのに朝から警戒しないといけなかったじゃないですか」

 

「ごめんごめん」

 

「はぁ、疲れた」

 

「疲れるの早いね。怠けすぎじゃない?」

 

「朝弱いんですよ。知ってて言ってます?」

 

「じゃ、お詫びに今日の夜焼肉行こっか。悠雷の合格祝いでね」

 

「受かる前提ですか…………嬉しいですけど、落ちたら恥ずかしいじゃないですか」

 

「当たり前じゃん。悠雷は俺の自慢の義弟で、俺が仕込んだんだよ?」

 

「恥ずかしいことをサラッと言わないでください」

 

「んじゃ、そういうことで今晩また会おう!時間は連絡するから!!」

 

「ええ、また」

 

 相変わらず自由な兄だよ。普通は連絡も無しに6時に来ないでしょ。

 もう少し遅く来てくれたら良かったのにあのテンションは嫌いでないが朝はやめてほしい。

 ん?LINEだ。誰からだ?

 

『今、電話出来る?』

 

『ええ、出来ますよ。掛けますね』

 

 LINEに返信して、通話のボタンに指を掛ける。

 今の時刻はだいたい6時半。

 この時間ならば、きっと起きてあるであろうと思って連絡してきたんだろうな。

 

「おはようございます。姉さん」

 

「ええ、おはよう悠雷」

 

「わざわざ忙しいのに電話ありがとうございます」

 

「別に謝ることじゃないわ。可愛い義弟のためだもの。後でホークスには厳しく言っておくわ」

 

「言っても兄さんは聞く耳を持ちませんよ。聞いたらそれはニセモノですから」

 

「それもそうね。今日は雄英の受験日でしょ?頑張ってね」

 

「はい。頑張ってきます」

 

「じゃあ、また今度ね」

 

「ええ、さようなら」

 

 2人に激励してもらったし頑張らないとな。

 そういえば、今日の夜焼肉行くのを伝えてなかったな。

 まぁ、兄さんが伝えておいてくれるはずだし問題ないかな。

 せっかく、兄さんが入れてくれたコーヒーを冷める前に飲んでおこっと

 …………残念なことに冷めてる。せっかく兄さんが入れてくれたのに…………

 

 その後、しばらく放心状態だったが、

 受験日であることを思い出し急いで朝ごはんの準備を始めた。

 と言っても昨日全部仕込んでおいたから問題ない。

 ゆっくりといこう…………半分くらい減ってるんだけどな

 食べたなら食べたで一言くらい言ってもらいたかったな。

 ん?LINEだ。兄さんから

 謝罪のメールか、コンビニで買ったサンドイッチが冷蔵庫に入っているとのこと

 ご丁寧にてへぺろのポーズを撮った写真付きだ。

 …………ネットにあげてみようかな?流石にダメか。

 

 朝ご飯を食べきり、食器を洗うと筆記試験の最終確認をしておく。

 受験票や筆記用具を持つと戸締りを確認して家を出る。

 

 

「…………行って来ます」

 

 

 部屋に反響する自分の声を聴きながらドアを閉めて歩を進める。

 

 

 歩いて20分程の場所に、その学校が存在する。

【雄英高等学校】

 ──通称雄英と呼ばれる全国で一番の人気を誇るヒーロー科の高校だ。

 

 いまや、数多く存在するヒーローのナンバーワンヒーローオールマイト。

 そのオールマイトを筆頭とするエンデヴァーやベストジーニストなどの

 プロヒーロー達を世に送り出してきたのがこの雄英だ。

 その倍率は何と驚異の300倍である。

 

 ここは世の中のヒーローを目指す受験生達が集まる場所だ。

 

 だからなのだろう。

 ここのヒーロー科を受験する者たちはみな纏う空気が違う。

 受かったとしても落ちたとしても大きな一歩となる門。

 受けるだけでも称賛される程の試験を前にして、まるで、戦場に向かう兵士のそれである。

 

「──行こうか」

 

 俺は自分に言い聞かせるようにして、その門をくぐった。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 悠雷は筆記試験を終えて、実技試験の説明が行われる講義室に向かっていた。

 悠雷の学力はかなり高い上に幼いころより公安の皆さんの手で英才教育を受けており

 それに加えて雄英に通う先輩と通っていた大先輩にしごかれていたので心配はしていない。

 唯一、筆記について心配があったとしたら

 兄さんの満足の行く点数を取る事が出来なかった場合たっぷりと弄られるくらいか

 尊敬できる兄だが、自由過ぎるので度々振り回させる。

 稀にヒーローとしての仕事をほっぽっているのではないかと疑うこともある。

 今日の朝も家に来ていたし、姉さんと比較すると余計に疑わしい。

 

 そんなことを考えながら歩を進める。

 筆記試験を終え、後は実技試験を残すのみ、

 この結果で合格が決まると言っても過言ではない為、自然と気合が入る。

 

 講義室に着き、説明が始まるのを待つ。

 周りにほかの受験生が座り始め、講義室のドアが閉まると説明が始まる。

 

『今日は俺のライブにようこそぉ!!!』

 

 広大な講義室。そこで説明がされるのだが、その第一声がこれである。

 ボイスヒーロープレゼントマイクが名に恥じない声を講義室全体に響かせる。

 ドアが閉められたのはうるさいからという理由でないと信じたい。

 プレゼントマイクの空気を読んでいるのかよくわからない

 発言にに応じる程、ノリのいい生徒はいないようだが…………

 

 ──前言撤回。俺の隣に座っている耳にプラグがある黒髪の少女。

 応じたいが、周りに合わせているために黙っているのか、身体をプルプルさせている。

 何この子、メチャクチャかわいいな。天使かよ。

 周りを見るとやはり顔面偏差値が高い。

 ヒーローやるなら人気も必要だからな。そういう事だろう。

 流石に中学校で顔面偏差値の低い人を弾いているとか

 そういった暗黙の了解とかないよね?

 

『オーケー!!オーケー!!──緊張しているんだな!!!』

 

 誰も応えることが無かったが、そこはラジオ番組をやっているプレゼントマイク。

 お構いなしに話を続けていく。

 正直なところよくメンタルが持つと思う。

 この人数に無視されたらついつい引きこもりになっちゃいそう。

 でも、無視されているだけましなのか?

 卵とか石とか投げられたりするよりはマシな部類だと思う。

 ここにいる人が聞いたら、同情の視線を浴びせられそうな

 自身の過去を思い起こしながらプレゼントマイクの説明を聞く。

 

『この後は事前に渡した入試要項通りだ!!──持ち込み自由の模擬市街地演習!!!』

 

 俺は、手元にある入試要項に目を向けた。

 そこには制限時間は10分間で演習場にいる1~3ポイントの仮想敵を行動不能にして

 ポイントを稼ぐ事が受験生の目的だと書かれていた。

 謂わば、市街地戦を想定している実技試験。口では何とでも言えるだろう。

 

 ──目に見えるような結果を見せてみろというのだろうか?

 

 しかしながら、ヒーローの本質は人助けのはずだ。

 そこらへんは今回の試験では確認しないのだろうか?

 そこら辺は先輩方は教えてくれなかった。

 言うことに従っていれば必ず合格できるし気にしなくていいんじゃないとは兄の弁である。

 カンニングみたいなことしたくないから教えてくれなくてよかったけど

 

 俺が思考を巡らせていると、プレゼントマイクに質問する声が聞こえた。

 

「質問よろしいでしょうか!!プリントに記載されている4種類の仮想敵についてです!!

 ──これに関する説明がなく、もし誤載ならばこれは恥ずべき痴態!!

 どういうことか説明を求めます!!」

 

 ────呆れるほど真面目な奴だが凄いな。

 

 受験先の教師に向かって、痴態だなんて指摘するなんて…………

 クソみたいに真面目な奴か、ただの馬鹿だが恐らく前者だろうな。

 下手したら気に入らないとかいう理由とかで落とされかねない。

 数多くのヒーローを輩出した名門校であるからそれはないだろうけどね。

 

 ──しかし、その受験生の行動は悠雷の予想のさらに斜め上を行く。

 

 突如として振り返ると、後ろの受験生を指差し、注意を始めたのだ。

 

「ついでにそこの君!!──そう縮れ髪の君だ!!

 さっきからボソボソと気が散るじゃないか!!物見遊山ならば立ち去りたまえ!!」

 

 これはもう…………軽い公開処刑だな。

 合格した後もこれはついてまわりそうだな。

 隣の同じ制服を着ている奴も他人のように振舞っているし

 

『オーケーオーケー!!

 そこの受験生、ナイスなお便りサンキュー!!説明しちまうと、この四体目は──』

 

 ──0ポイントのお邪魔虫だ。

 

 この四種類目の仮想敵は得点ゼロで、しかも倒すことはほぼ不可能ときた。

 文字通りにお邪魔虫であるらしいが避けるべき相手だとは思わない。

 

 ──ヒーローの本質は人助け。

 この実技試験では0ポイントに対しての対応を見ているのではないか?

 勿論、筆記試験や実技試験の結果も見るが、

 こいつへの対応の仕方で追加点のようなものが存在するのだろうか?

 凶悪なヴィランが現れた際に人々がとる行動は

 無謀にも戦いを挑むかパニックを起こして逃げ回るこの2つだ。

 兄に人助けのノウハウを叩き込まれたために特に心配はされていなかったのだろう。

 休日はサイドキックに混ざって避難誘導なんかもしてたし

 仮免を持っていない中学生にさせる事じゃないんだよな…………

 

「──面白いな。アクシデントは付き物って訳か?」

 

 俺はプレゼントマイクの説明への疑問点を頭にしまい込む。

 口には出さないが兄に感謝の念を伝えるとパンフレットをカバンにしまい込む。

 これはとりあえず記念品として大切に保管しておこう。

 そして、プレゼントマイクは説明を終えると手を叩いて己へと注目を集める。

 

『それじゃ俺からは以上だが…………最後にリスナーの皆に我が校の教訓プレゼント!!

 ──かの英雄、ナポレオン・ボナパルトは言った』

 

 ──真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者だと。

 

『Plus Ultra!!──それでは皆…………』

 

 

 ──よい受難を。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 説明後、A~Gの七か所の試験会場に別れた受験生達は、

 それぞれジャージなどの動きやすい服装に着替えて待機していた。

 

 雑談、準備運動、深呼吸等々。

 受験生達がそれぞれ行動する中、悠雷は目を閉じ瞑想しながら発電を行っていた。

 いろんなことを思考しながらなので瞑想ではないかもしれないが

 

 実技試験の相手である仮想敵はロボット。

 電気という効果的な手段があるのにそれを利用しない手はない。

 街中では基本的に竜化をしない。

 下手な場所で竜化を使えば、街を壊してしまい損害賠償がヤバい。

 姉さんは一時期それが原因で頭を抱えることがあった。

 うっかりで億に届く賠償金だもんな…………

 今回の実技試験でかかる工事費用を考えると頭が痛くなってくる。

 壊してしまっても払うのは俺じゃないんだけどね。

 どうしても姉さんの持っていた請求書がどうしても頭をよぎる。

 最近デビューした巨大化するヒーローの事務所はよく赤字にならないよな。

 デビューして以降、結構な頻度で街を壊しているのに

 

『ハイ!!!スタァァァァァトッ!!!』

 

「は?」

 

『どうしたぁー!?実戦にカウントダウンなんて存在しないんだよ!ほら、走れ走れ!!!』

 

 プレゼントマイクの言葉を聞いて動き出す受験生達。

 悠雷は彼らの先を行くために、全身の末梢神経に電気を流して身体を強化する。

 この技は兄の飛行スピードに追い付くために編み出したものだ。

 これを使えば、新幹線まではいけないが高速道路を走る車なら追い抜ける。

 だいたい最高速度で90キロほどだな。

 これを習得したとき。本当にオールマイトは人間か疑ったことがある。

 

 走り出しながら、自らの体の一部を竜化させる。

 背の先には刃物のように長い爪が生えてくる。

 手足は堅く、あらゆる攻撃に耐性を持つ鱗が生えてくる。

 この鱗が優れたものだと知ったとき、兄さんに何枚か剝ぎ取られたっけ

 あのナイフは痛かったな。

 再生は出来るけど痛くないわけじゃないんだからもう少し優しくしてもらいたかった。

 最大硬度の鱗もあっさりと剝ぎ取られたからな。

 ちなみに姉さんには剝がれる前に自分から渡した。

 

 開始前に蓄電していた電気を爪に纏わせて

 本能に近い感覚で仮想敵の位置を確認するとその場所に向かう。

 雷を纏った爪は、攻撃しようと目の前に現れた2ポイントの仮想敵をたやすく切り裂いた。

 

 そして、悠雷はさらなるポイントを求めて、

 受験生が多い入口付近から離れてより多くの仮想敵が存在する市街地の奥へと向かった。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

「これで、だいたい60ほどかな?これだけ倒せば大丈夫だろうか?」

 

 俺が、市街地の奥に向かってから7分程がたったころ。

 俺は既に数十体の仮想敵を倒し、60ポイントを集め終わっていた。

 単純な電気を飛ばすだけの攻撃や

 携帯している水筒の水を利用した水刃を試すことができて満足していた。

 

 流石に人に使ってやり過ぎるわけにいかないので威力調整ができてよかった。

 知り合いは普通の人間という部類には収まらないからな。

 これくらいならば、練習の相手に丁度いい。

 

 どうせならば、習った武術も試そうと

 仮想敵の位置を電気を探る用量で探り仮想敵のもとに向かうと

 講義室で隣に座っていた黒髪の少女が、仮想敵に襲われてピンチな場面に遭遇した。

 

 悠雷は、瞬間的に体に流す電気の出力を上げてその仮想敵を破壊した。

 動きに緩急を付けるとより効果的とは兄の教えである。

 ロボット相手では大した意味はないけどかっこいいからやった。

 いずれオールマイトのスピードを超えたいものだ。

 でもそのためには新幹線のスピードをまずは超えないといけないんだよなぁ…………

 

「大丈夫か?」

 

「ありがとう。助けてくれて」

 

「見たところ足を挫いているようだが歩けるか?無理ならば入口まで送っていこうか?」

 

「大丈夫。入口までなら歩いて行けるから」

 

「そうか。まあ、入口までは護衛しよう。

 後で入り口に着くまでにまでに怪我をしたとか聞きたくないからな」

 

「ごめんね。試験の途中なのに」

 

「問題ない。既に60ポイントを稼いでいるからな、落ちることはないだろう」

 

「60!!?この短時間で60ってアンタ凄いね」

 

「それほどでもあるな」

 

「そこは謙遜するところじゃないの?」

 

「謙遜すると俺に教えてくれた人に失礼だからな。それにヒーローの本分は人助けだ。

 今助けられていることを申し訳なく思う事は無いぞ?

 何かしらの事で返したいというのであれば困っているときに助けてもらいたいがな」

 

「奉仕活動じゃないんだっけ?それはそれ、これはこれだ」

 

 そんな会話をしているうちに、入口に着く。

 やっぱりこの会場は異様に広い。

 緊急時の避難場所としても利用するからという部分はあるだろうが

 本当にどれほどのお金がかかっているのだろう…………

 

「本当にありがとう。貴重な試験の時間を割いて貰って」

 

「どういたしまして。余計なお節介がヒーローの仕事だろ?当然のことだ」

 

 助けた黒髪の少女と別れて再び市街地にやって来た。

 辺りの電気を操り、周りの様子を探ってみると地下に大きなロボットがあることが分かった。

 これが0ポイントの仮想敵か?予想よりもデカいな。

 その地点に行こうとすると、突如として地面が割れて中から巨大な仮想敵が出て来た。

 

「これが、0ポイントの仮想敵か。目で見ると感知した時よりも大きく感じるな」

 

 0ポイントが、その巨大な体格でビルをなぎ倒しながら進んでいた。

 1~3ポイントの仮想敵とは規模が違う。

 歩くだけでビルに亀裂が走り、衝撃が生じる。まさに歩く災害。

 受験生達は皆、這う這うの体で逃げ出しており

 挑みにかかったものも数秒で逃げる者たちに加わる。

 

 ──だが、俺の中に恐怖はなかった。

 

 それよりも0ポイントを破壊したいと『海竜』の本能が訴えていた。

 それに、自分の姉の方がよほど怖い。

 怒らせてはいけない人は世の中に存在するものだ。

 

「…………確か、校訓はPlus Ultraだったか?

 さらに向こうへ。この素晴らしい試練に感謝するとしよう」

 

 俺は両手に爪を身体に鱗を生やして0ポイントに突っ込んだ。

 甲殻やら尻尾なども追加できるが、この程度の相手ならば必要ないだろう。

 予想以上に強かったら、使えばいいだけの話だし。

 幸いなことに周りの人は全員が逃げているために巻き込んでしまう危険性はない。

 やるなら思いっきりやろう…………そう、受験勉強のストレスを解消するために

 

 それからは蹂躙という言葉が相応しい状況となった。

 悠雷は周囲の足場そして、0ポイントの体を使い

 強化した四肢での高速移動で0ポイントを翻弄し無数の攻撃を刻み込んでいた。

 

「この程度ならば、部分竜化の完全版ですらする必要を感じないな…………そろそろ締めに入ろう」

 

 悠雷は0ポイントを踏みつけ、大きく跳躍した。

 空中から爪の一点に雷を収束させてはなった一撃が、0ポイントに炸裂し粉砕した。

 機械である以上、関節などを攻撃していけば簡単に崩すことができる。

 この雷の威力ならば、攻撃回数を減らしてもよかった気がするな。

 悠雷が地面に着地するのと同時に実技試験の終了を知らせる

 プレゼントマイクの声が辺り一面に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ──その試験の様子を、巨大なモニターで雄英の試験官達が見ていた。

 

「救助活動ポイント0で2位とはなあ!!」

 

「『仮想敵』は標的を捕捉し襲い掛かってくる。

 後半皆が鈍ってくる中、派手な個性で寄せ付け迎撃し続けた。タスネスの賜物だ」

 

 別の画面では巨大な0ポイントが拳の一振りで破壊される映像が流される。

 それを成し遂げた少年は情けなく落ちていったが、女子生徒の個性によって事なきを得た。

 

「Year!!またやりやがった!!今年は本当に豊作だな!!!」

 

「うん。まさか0Pが一日に二体も壊されるなんてね」

 

 雄英の試験官であるとともにプロヒーローでもある者達。

 そんな彼等が見ている映像には二人の少年が映っていた。

 一人はオドオドした様子ばかりの緑髪の少年。

 

 ──だが、その少年は0ポイントへと飛び出すとそのまま、文字通りぶっ飛ばしたのだ。

 

「しかし、まさか敵Pが0…………救助活動ポイントだけで合格とはな」

 

「倍率300倍…………全員がライバルだ。

 ──だからといって、それが助けない理由にはならん。

 そんな奴らは、ヒーローになる資格もない」

 

 雄英側が受験生達に知らせていないもう一つの採点基準が存在する。

 

 ────それが、【救助活動ポイント】

 

 よんで字の通り、救助活動に対しての追加得点である。しかも審査制。

 緑髪の少年──緑谷 出久の成績は敵Pが0だったが、救助活動は60ポイントを獲得。

 結果、総合順位は全体の第9位。

 

「ずっと典型的な不合格者の動きだったけれど、最後のは痺れたわねぇ」

 

「本当に大した奴だぜ!!何度もYEAH!!って叫んじまった!!

 ──が、インパクトだったら、総合1位も負けてねぇな!!!」

 

「──と言うよりも彼は、既に頭一つ抜き出ているよ」

 

 そう言うと、モニターの画面が切り替わり、一人の少年──海藤 悠雷の映像に変わる。

 

「海藤 悠雷──敵Pが60P、救助活動ポイント32点の総合1位。

 救助活動Pは9位に劣るが、それを霞ませるほどの実力だ」

 

 試験官達が見つめる映像。

 そこには手足の一部を変化させて仮想敵を薙ぎ倒す悠雷の姿が映っていた。

 

「手足…………そして尻尾まで変化させ、ここまで扱うのか」

 

「それだけじゃない、雷撃や水刃などを飛ばすなど芸達者だ」

 

「そのうえ、武術や体術まで一流ときた」

 

 戦闘能力や学力はは申し分ない。

 そのうえ、状況判断能力や、そのスピードも素晴らしい。

 教師たちは口々に悠雷の能力や、個性の強さを称賛していた。

 

「しかも、これで本気ではない点に驚きよね」

 

「ああ、個性『海竜』リューキュウの個性と似た個性だったよな」

 

「彼の個性は特殊だからね。まあ、その姿もこの先見ることができるさ」

 

 言葉を話すネズミ──雄英の校長の言葉を最後に教師達はモニターの映像を切り替えた。

 

 

 

 

 ▼▼▼▼

 

 

 

 おまけ

 

 俺は雄英の実技試験を終えると、

 助けた子の怪我が悪化したりしてないか保健室に確認しに行ってから

 兄さんとの待ち合わせ場所へと向かった。

 その子の名前は本人から聞く事は無かったが、耳郎響香というらしい。

 耳郎ってなんか呼びづらいな…………本人に許可がもらえたら響香と呼ぶことにしよう。

 一方で兄さんは流石と言うべきか、ファンの人達が群がっている。

 普段はこんなとこで見れないもんね。

 コアなファン達はわざわざ事務所のある方にまで出向いて

 張り込んでいるらしいけど、ソレってストーカーじゃないよな?

 たまに兄さんに彼女が出来たら刺されるんじゃないかと心配になる。

 

 …………にしても人多いな。

 仮免とか持ってないから許可なしに個性は使えないから強行突破なんてできない。

 兄さんが気付くまで待つか、先に行っておくか

 いや、先に行ったら拗ねるだろうし待っていようかな。

 LINEしとけば多分きっと気付くだろうし。

 

 そこから待つこと約30分ほど。

 待ち合わせ時間になっても俺が来ないからか、

 ようやくスマホを見たらしくこっちに歩いてきた。

 まぁ、あの人混みなら仕方ないけど結構待った。

 30分前とかじゃなくて、5分前に来れば良かったかな。

 

「ごめんね悠雷、待たせちゃって」

 

「別に大丈夫です。ファンサービスはもういいんですか?」

 

「2時間以上してたし、もう大丈夫かな。んじゃ行くよ!!」

 

「はいはい」

 

 2時間も前から先にいたという事には何も言わないからな?

 いくらなんでも過保護すぎるのではないか?

 ファンサービスが2時間ということはその前からいた可能性も…………

 これ以上考えるのは辞めた方が良さそうだ。

 

「ねえ、ホークスさん!!その人とどんな関係なの!?」

 

「あ、ソレ私も気になる!!」

 

「ん?悠雷は俺の義弟だよ。

 雄英の受験の帰りに焼肉行く約束してたからねちょっと道開けてね~」

 

 その言葉を聞いてマスコミが兄さんと俺の事を写真に収めようとしてくる。

 予想通りだけどもやっぱり面倒臭い。

 

「やっぱり現地集合にしとけばよかったな…………」

 

「なんで?」

 

「なんで入学前から騒がれなきゃ行けないんですか…………

 それに俺は色メガネで見られたくないんですよ」

 

「まぁ、そのうち知られたことだし、さっさと行くよ!!」

 

 その後、仕事終わりの姉さんを拉致って焼肉を食べた。

 一応、兄さんは姉さんにも声をかけていたみたい。

 店から出た時の写真をマスコミが撮って、ホークスとリューキュウの熱愛発覚か!?

 と言ったようにお茶の間を騒がしたのは別の話。

 次の日の新聞がホークスとリューキュウの隠し子発覚!?という記事なのは

 インパクトがヤバかった。

 

 

 …………冷や汗も

 

 

 

 




ホークスとリューキュウの口調がよくわからない......
こんな感じでいいのかね?

リメイクというか書き直すと文字数が増えたっていう不思議。


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第2話 入学と波乱の個性把握テスト!

悪いところ、良いところがあれば感想で教えてくださいお願いします。


 雄英高校の入試から数日が経った頃。

 悠雷は配達された荷物を前にひとつ深呼吸をしていた。

 ちなみに入試を終えてからは兄さんの事務所に顔を出したり

 姉さんの事務所に顔を出し、後輩が欲しかったという先輩に振り回され

 母の実家があった島にあるお墓に報告に行ったりしていた。

 

 今ではあの島にも鳥やら植物やらが住み着き始めている。

 生態系がどんな風に移り変わるのかという研究対象や

 ヴィランの脅威を忘れないようにという観光名所的な感じになっているとか

 あの島で過ごしていた人が忘れられないという事はいい事なんだろうけど、なんか複雑だ。

 それらが終わった頃に届いた雄英からの手紙。

 時期を考えるならば当然、合否判定を知らせるものだろう。

 逆に不合格通知とかないよね?

 流石に最高峰の学校がブラックジョークはないよね?

 

「よし、開けるか」

 

 今となっては珍しい蜜蠟による封を丁寧に剝がして中身を取り出す。

 入っていたのは、数枚の紙と小さな機械だった。

 先ずは、目に付いた紙を手に取る。

 折りたたまれた紙やよくわからない機械と違って、これだけは中身が見えていた。

 

「成程ね、これは空中に映像を投影する機械なのか。

 やけにハイスペックだが、金の出どころはどこなんだろうか。

 ヒーローは国家公務員だし国民の血税か?

 まあ、いいか。そこは考えるべきではない気がする。今は結果だ」

 

 機械を起動して、机の上に置く。

 すると、独特の騒動音と共に空中に四角いディスプレイのようなものが映し出される。

 そして──

 

『私が投影されたぁっ!!!』

 

 画面いっぱいに映る、彫りの深い顔のドアップと大きな声に、

 ついつい後退りながら臨戦態勢を取ってしまった。

 以前、幼い頃に連れられて行ったお化け屋敷でこういうのはトラウマになっているんだよな。

 何度か克服しようと頑張ったこともあったがダメだった。

 学校で行われるだろう肝試しみたいな行事は参加せずに行こう。

 

「オ、オールマイトなのか?」

 

『HAHAHA!!驚いてもらえたかな!?実は来年度から雄英に勤めることになってね。

 こうして合格通知のプレゼンターに選ばれたのさ!!」

 

「マジかよ…………ナンバーワンに指導してもらえるのか!!」

 

 悠雷にとっても否、ヒーローを目指す少年少女にとってオールマイトは憧れそのものなのだ。

 もっとも、ホークスとリューキュウに指導を受けている時点で

 悠雷には怨みを込めた視線が飛んでくること間違えなしなのだが

 

『それでは早速だが、結果を発表しよう!!

 海藤少年、勿体つけるつもりはない。君は合格だ!!』

 

「ん…………?受かったのか?そうなのか?…………良かった。受かっていて」

 

 えらくさらっというのねオールマイト…………

 いきなりすぎて理解が追い付かなかったぞ…………

 

『筆記試験は文句無し!!何せ数学以外は満点だ!!

 スゴいぞ、私も試しにやってみたが何問か間違えてしまったほどのレベルだとというのに!!!

 続いて実技試験!!獲得したポイントは60と上位クラス!

 さらに評価対象はそれだけじゃあないっ!!

 人助けこそがヒーローのお仕事、そこを見ないはずがないさ!!

 審査制の救助活動ポイント!!32点!!合計92ポイント!!文句なしの首席合格だ!!!』

 

 モニターが切り替わり、順位表らしき物が映し出される。

 総合2位と15ポイントの差をつけての首席合格だ。嬉しくない筈が無い。

 ただ、数学で満点取れなかったんだな。

 主席なのは報告するけど、点数は黙っておこう。

 高校に入ると数学の難しさは訳の分からないものになるだろうし、今のうちに予習を始めよう。

 

『改めて言おう!!海藤少年!!合格だ!!待っているぞ君のヒーローアカデミアで!!!』

 

 その言葉を最後に動画は終わったらしく、空中への投影も止められた。

 部屋には静寂が満ちたが、悠雷は感動の余韻に浸っていた。

 そのれから10分たったころ我に返った悠雷は

 合格した事を義兄と義姉に伝えようとスマホを手に取った。

 その後、合格祝いと称して二人の予定をすり合わせてお高い寿司を食べに行った。

 最近、すこし外食しすぎな気がするな。

 野菜などをもっと取った方がいいだろうか?

 でも、身体の作り的には野菜の過剰摂取は毒になるって言われたし難しいところだな。

 あまり好きじゃない海藻なら問題は少ないみたいなんだけど

 

 

 

 そして、月日が経ち、雄英の入学式の日。

 悠雷は雄英の制服に袖を通し、人々の視線を浴びながら登校していた。

 先輩の言うとおり凄い人の量だった。

 改めて兄さんってすげえな、こんな沢山の人にさりげないファンサービスを行っているって

 校門にたどり着くまでの道には倍率300倍という倍率を突破した新入生を一目見ようと

 普段よりも多くの人がここを通っているようだった。

 迷子になったりしないように何度か来たことがあるからわかる。

 早めに家を出ることにしておいて非常によかった。

 最悪の場合、入学初日に遅刻なんてこともあり得るだろうしな。

 

「先輩に聞いていた通り、教室の扉も大きいな」

 

 悠雷は無駄に広い校舎を進み、

 指定された教室である【1ーA】に辿り着くとその扉を見上げてポツリと呟いた。

 

 規格外の肉体を持つ者が多い異形系に対応するためだろう。

 所詮バリアフリーであり、手で掴んでも驚くほどに軽かった。

 これってどんな素材を使っているのだろうか?

 

 教室の中は静かだったがどうやら、既に何人か来ているようだ。

 そのうちの一人は実技試験の際に助けた女の子だった。

 知り合い?がいるのは少し嬉しい。

 知り合いがいない空間に何人かに囲まれているって結構つらいし。

 嬉しいことに席もかなり近い。

 仲良くなれれば休み時間の間、話す相手には困ることがなさそうだ。

 

「久しぶり。試験の時はありがとう」

 

「ん、おはよう、あの後大丈夫だったのか?

 一応、保健室に確認しに行ったが、その時には居なかったし」

 

「それはこっちのセリフだよ。0ポイントと戦っていたんでしょ?

 ウチは何もできないのはヤダったから避難誘導とかしてたけど

 そのおかげで入学出来たようなもんかな。

 敵POINTだけだとウチ足りてなかったみたいだし」

 

「ああ、そうだったのか。

 確かに敵ポイントだけだとなかなかにキツいと思うぞあの試験は

 敵POINTだけで突破できた奴は戦闘センスの塊だと思う。

 0ポイントの仮想敵についてだが、あの程度なら問題にもならないぞ?

 あれはデカいけどある程度の能力があれば簡単に突破できるし

 アレには本来ミサイルとかの兵器を積んで空母のように使うものだしな」

 

「アレを問題にならないいて規格外だね、アンタ。

 アンタも十分に戦闘センスの塊だと思う。

 しかも、本来の使い道ってなんなのよ…………なんでそんなこと知っているの?」

 

「少しいいか?」

 

「俺にもその話を聞かせてくれないか?」

 

「ん?」

 

「俺は障子目蔵。お前があの時0ポイントを落雷で粉々にしたのか?」

 

「俺は常闇踏影だ。こっちはダークシャドウだ」

 

「ヨロシクナ!!」

 

「ああ、よろしく。障子の試験会場は…………俺達と同じだな。それなら間違いなく俺だな。

 落雷じゃなくて、雷を収束させて放ったビームの様なものを爪に纏わして殴っただけだけどな」

 爪に纏わして殴っただけだけどな」

 

「遠くから見ていたけど凄かったね。雷を操る個性なの?」

 

「いや、少し違うな。あれはあくまでも応用だ。

 俺の名前は海藤悠雷。個性は『海竜』リューキュウの海版の様な感じだ。

 できることはのちのち見せることになると思うからその時に解説していく。よろしくな」

 

「俺の個性は複製腕だ。腕とか目や耳を増やすことができる」

 

「俺の個性は黒影(ダークシャドウ)だ」

 

「その影が個性なのか、初めて見るタイプだな」

 

「ああ、俺もだ」

 

「でもかっこいい個性だな。自律思考する個性なんてできることの幅も広いだろうしな」

 

「ウチは耳郎響香。個性はイヤホンジャック。

 プラグを刺して音を探ったり、心音を流し込むことができる。よろしく」

 

「耳郎ってなんか呼びづらいから響香って呼んでもいいか?」

 

「うん。大丈夫だよ」

 

「それじゃあ、これからよろしくな。響香、障子、常闇」

 

「うん、よろしく海藤」

 

「よろしく」

 

「よろしく頼む」

 

 互いに実技試験のことを話したり、個性について話していると

 何時の間にかクラスメイトが全員登校を終えていた。

 講義室で質問していたメガネも注意されていた緑髪の少年もこのクラスのようだな。

 とても賑やかなクラスになりそうだな。

 そう言えば、このクラスの担任はどんな人なんだろうか?

 先輩はとても合理的な思考をする先生がいるって言っていたな。

 過去に何人か除籍をしているとか

 

 悠雷が先輩から聞いた事を思い出していると

 

 ────お友達ごっこがしたいなら他所に行け。

 

「ここはヒーロー科だぞ?」

 

 という教室に響く男性の声が聞こえた。

 声の低さから明らかに生徒の声でないことが分かる。

 タイミング的にも考えられる選択肢は担任位だが、そこにいたのは寝袋だった。

 

「なぜに寝袋?そういう個性なのか?それとも自律思考型の寝袋か?」

 

「ダークシャドウじゃないんだから…………よく見なよ、頭出ているでしょ?」

 

「ツッコミありがとう」

 

 悠雷の的外れな答えに響香がツッコミを入れる。

 見てみると首に巻かれている物は束縛用の道具だろうか。

 このあたりで活躍するヒーローの中に該当するヒーローはイレイザーヘッドくらいか

 取り敢えずそう仮定して動こう。個性『抹消』を見る機会があればいいのだが

 

「はい、静かになるまでに12秒かかりました。時間は有限──」

 

 ──君達は合理性に欠くね。

 

 寝袋から出て来た、黒い服とボサボサの髪の男。

 その男の言葉が深く刻まれていくのを感じ取ると同時にその男の異質さも感じ取っていた。

 

 注意を払っていなかったとはいえ、全く気配を感じ取ることができなかった。

 

 教室だからと油断していたのか、会話に夢中で気付かなかったのか

 だが、あんなのが来れば気付かない筈が無い。

 まとハズレなことを言っていたが、内心結構焦っていた。

 最近ではようやく模擬戦において手加減抜きで戦ってもらうことが

 出来るようになってきたのにも関わらず気配を感じれなかったのだから

 

「…………流石雄英、教師のレベルも高い」

 

 悠雷は見た目はともかく、男が確かな実力者だと感じた。

 しかし、その男はこちらに目も向けず、寝袋の中から幾つかのジャージを取り出すと

 それらを配りながらこう言った。

 

「俺は担任の相澤消太だ。よろしくね。──そして、これ着てグラウンドに出ろ」

 

「担任!?──質問よろしいでしょうか!」

 

「──却下」

 

 説明会のようにメガネの生徒が質問をするが有無を言わさずに却下する。

 プレゼントマイクと違ってノリがいい先生ではないようだ。こちらのほうが好みだけどな。

 少なくとも仕事はちゃんとやっていそう。

 髭を剃っていなかったり、髪がボサボサなところはいただけないが

 ベストジーニストが見たらなんて言うのだろうか

 

 その後は何も言わずに教室を出てしまったので、

 残された生徒たちはとりあえず指示に従うしかなく、

 急いでグラウンドに向かうことを余儀なくされた。

 グランドで何するんだろうか?

 見たところ隣のB組は入学式に向かっているようなのですが?

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────────

 

 

 

 

「個性把握テスト!!?」

 

 辿り着いたグラウンド。

 そこに既にいた相澤先生の説明に誰かが叫び、麗日が先生に詰め寄った。

 ちなみに名前は黒板の席順から見つけた。一応名前は全員把握している。

 

「入学式は!!ガイダンスは!?」

 

「ヒーローにそんな悠長な事をしている時間はない。──雄英は自由な校風が売り文句」

 

 ──先生側もまた然り。

 

 麗日の問いも一蹴する相澤先生の言葉通りに担任の先生に入学式すら参加の有無があるらしい。

 まさに自由であり、そういう意味ならばこの場も納得するしかない。

 ──というか諦めた。

 姉さんに教えられたことだが、上司の言うことは絶対なので流れに身を任せろと

 どんな社会にも黒い部分は存在するようだ。

 こういう場面に合うと兄さんの意見に賛同したくなるから困る。

 俺も雄英の教師にでもなろうかな…………そんな簡単になれるようなものでもないか。

 

「中学のころからやっているだろ?個性禁止の体力テスト

 国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けている合理的じゃない。

 まあ、文部科学省の怠慢だよ」

 

 ──ここまで言うのかよこの人。

 たとえ思っていたとしてもいう人なんてなかなかいないぞ?やばいな、最高かよ。

 

「入試一位は海藤だったな。

 海藤、中学の時のソフトボール投げ何メートルだった?」

 

「確か62メートルでした」

 

「じゃあ、個性を使ってやってみろ。円からでなきゃ何してもいい。早よ、思いっきりな」

 

「わかりました」

 

 悠雷は円の真ん中に進み、右腕と背中を変化させる。

 腕は鱗を纏い、背中には背電殻が生えてくる。

 この状態の腕は殴ることなどには向いていないなので別の方法を使う。

 背中の背電殻に電気を蓄積させてある電気を使って

 電磁誘導を起こすのに必要なだけの電気を用意する。

 変化させる必要は別にないが、個性を知ってもらうという面ではいいと思う。

 あとはこっちのほうがそういう雰囲気あるし

 以前は両腕を使う必要があったが、今なら片手でできる。

 とある学園都市の超電磁砲に憧れたなんて言えない。

 兄さんが持ってくる本はどれも面白いからとても困る。

 今度、面白い本がないか聞いてみよっと

 

「超電磁砲ッ!!!」

 

 レールガンによって打ち出されたボールは

 雷鳴の様な音を出して雄英の敷地内ギリギリで着弾した。

 

 その記録は──

 

「──2998メートル」

 

 雄英の敷地内は悠雷がいた地点からちょうど3キロ。

 狙った距離を打ち出すことができて悠雷は満足している。

 精密な個性の扱いを練習しまくったからな。

 当たれば即死級の威力の攻撃を外す訳にはいかないしね。

 

「まず自分の「最大限」を知る。それが、ヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

「2998メートルってマジかよ!!」

 

「個性思いっきり使えるんだ!!さすがヒーロー科!!」

 

「なんだこれ!!すげー面白そう!!」

 

 8種目か、竜化出来る種目はないな。

 できたとしても持久走くらいか?良くも悪くも海に特化しているからな俺の個性は

 反復横跳びなんかは絶対に使わない方が良いだろうし

 できるかもしれない種目も竜化をしなくても身体強化で乗り切れるかな?

 そこはクラスメイトの結果を見ながら判断していこう。

 

「──面白そうか。ヒーローになるための三年間。そんな腹づもりで過ごすつもりなのかい?

 よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し除籍処分としよう」

 

「「「「「はあああ!!??」」」」」

 

「生徒の如何は先生の自由。ようこそこれが、雄英高校ヒーロー科だ」

 

「最下位除籍って!!入学初日ですよ!?いや、初日じゃなくても理不尽すぎる!!」

 

「自然災害、大事故、身勝手な敵たち…………

 いつどこから来るかわからない厄災。日本は理不尽にまみれている。

 そういう理不尽を覆していくのがヒーロー放課後マックで談笑したかったならお生憎。

 これから3年間雄英は全力で試練を与え続ける。Plus Ultraさ。全力で乗り越えて来い。

 さて、デモンストレーションは終わり、こっからが本番だ」

 

 第1種目50メートル走

 

「3秒04!!」

 

 流石に早いな。足から煙が出ているがそういう個性なのだろう。

 見たまま足が早くなるのかな?

 恐らくだけれど、足技が主体な戦い方をするのだろう。

 

 その後に走っていた青山って変な奴だな。ナルシストか?

 個性の使い方に対しての発想はいいと思うが、なぜに転んだんだよ。

 転ばなければ、もっといいタイム出ただろうに

 

「さて、俺の番か。確か上鳴だったか?よろしくな」

 

「ああ、よろしくな海藤!!」

 

 海藤悠雷、記録1秒27

 

「海藤早くないか?どうやってるんだよ?」

 

「元々の身体能力が高いのもあるだろうが

 雷で身体の末梢神経を刺激して、身体能力の底上げをしてる。

 多分だけどお前にも出来ると思うぞ?

 さっき電気を纏えるとか言ってたし、今度暇なときにでも教えてやろうか?」

 

「マジかよ!!頼む!!教えてくれ!!」

 

「後でな、残念なことに今はテスト中だ」

 

 第2種目握力

 

「200キロを何とか超えれるくらいか…………障子には遠く及ばないな」

 

「得意種目くらいは勝たせてもらうぞ」

 

「いや、その結果なら十分でしょ。アンタは何を目指してるのよ…………」

 

「ヒーローだが?」

 

「そういう事じゃないから」

 

「2人ともヤバいな!!ゴリラかよ!!」

 

「海竜だ。間違えるなよ?」

 

 第3種目立ち幅跳び

 

「これは普通に跳ぶか」

 

「普通に飛んでたね結構な記録出てたけど」

 

「俺は海竜だぞ?空中に浮かべるわけないだろう。いやいけるか?」

 

 なぜか、浮ける気がする。バグ技か何かに近い気もするが

 兄さんの羽を使えば、実は空中戦で姉さんに勝てる。

 使わなかったら、問答無用でボコボコにされるけど

 空中から襲って来て、相手を一方的に殴るだなんて…………この卑怯者!!

 なんか寒気がしたんだけど…………

 

 第4種目反復横跳び

 

「100回越え達成!!」

 

「すげぇな!!雷纏ってカッコよかった!!」

 

 第5種目ソフトボール投げはもうやったので休み。

 

「お疲れ様2人とも」

 

「俺は満足出来る結果だな」

 

「ウチは全然。こういうのに個性使えないからツラい」

 

「これは個性が合わないやつにはキツイからね。

 でも、今のところの結果だと最下位はないと思うぞ?」

 

「全部覚えているのか?」

 

「ああ、兄さんと姉さんに鍛えられたんだ。ヒーローになったら必要だって」

 

「アンタって一人っ子じゃなかったんだ。上の人ってやっぱり凄い人?」

 

「ああ、尊敬する人であり命の恩人でもある。

 まぁ、自由奔放なところがあったり、書類整理が苦手だったりするけどな」

 

「そうなんだ」

 

「その話は後でいいか?あの緑髪の少年──緑谷だったか?

 あいつの個性ってなんなんだ?未だに平均を超える結果を出てないが

 このままでは間違いなく除籍処分となってしまうぞ」

 

「あ?あいつは無個性の雑魚だぞ!!」

 

「無個性!?彼が入試時に何を成したのか知らんのか!?」

 

「は?」

 

 この爆破の個性持ちの爆豪と緑谷は確か同じ制服を着て講義室にいたな。

 恐らくだが、幼馴染などの関係にあるのではないだろうか?

 じゃなかったら「かっちゃん」や「デク」とは呼ばないだろう。

 デクは意味考えると罵倒に近いだろうがな。

 

「46メートルか…………絶望的だな」

 

「指摘を受けていたようだが」

 

「除籍宣告だろ」

 

 思ったよりも早く『抹消』を見ることができたな。

 ただ、緑谷は大丈夫なんだろうか?

 流石にクラスメイトが初日で一人脱落とか考えたくないぞ。

 かっちゃんこと爆豪は確信があるような言い方だったが…………

 

「…………705.3メートル」

 

「やっとヒーローらしい記録出したよ──」

 

「指が腫れ上がっているぞ。入試の件といい、おかしな個性だな」

 

「スマートじゃないよね」

 

「超パワーと引き換えに大怪我を負うのか?それとも制御が出来ていないのか?」

 

「どーいうことだ。こら!!ワケを言え、デクてめぇ!!」

 

「うわぁぁ!!!」

 

「落ち着け爆豪。暴れるな抑えづらいから」

 

「なんだテメェ!!邪魔すんな!!」

 

「よくやった海藤。何度も個性使わすなよ。俺はドライアイなんだ。

 時間がもったいない。次準備しろ」

 

 なんにせよあまり授業中に暴れないで欲しい

 どうせなら放課後とかにやってくれればいいのに

 というか。ドライアイなんですね…………いい個性なのになんか残念だな。

 

「アンタよく咄嗟に抑え込むことが出来たね」

 

「反射的に出来るまでやらされたからな…………」

 

「そんな遠い目をするってどんな経験をしてきたのよ…………」

 

「サイドキックの方々とエンドレスで模擬戦闘」

 

 第6種目上体起こし。第7種目長座体前屈。第8種目持久走が終わり結果発表の時間となった。

 

「んじゃ、パパっと結果発表。

 トータルは単純に各種目の評点を合計した点数だ。

 口頭で説明すんのは時間の無駄なので一喝開示する。ちなみに除籍はウソな」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

「「「「「は──────!!!??」」」」」

 

「あんなのウソに決まっているじゃない。ちょっと考えればわかりますわ」

 

「最下位であったとしても見込みがあったんだろうな。なかったら緑谷は除籍されていた筈だ」

 

「そゆこと。これにて終わりだ。

 教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ。

 緑谷、リカバリーガールのとこ行って治してもらえ。明日からもっと過酷な試練の目白押しだ」

 

 凄く濃い時間だったな。クラスメイトの個性も把握出来た。

 帰ったら対策を考えるとしようか。

 やはり、雄英に入って正解だった。

 とても楽しい学校生活とやらを送れればいいな。

 

「海藤、2位って凄かったね」

 

「ありがとう響香。だが、残念なことに創造には勝てなかったな」

 

「あれは凄かったね。創造ってどんな盤面にも対応出来るんじゃない?」

 

「対策を考えるのが大変だよ。正直、創造する前に決着をつけるとか位しか思いつかないな」

 

「まあ、なんにせよ。何とか乗り切れたね」

 

「そうだな。明日も頑張ろうか。またな響香」

 

「送ってくれてありがとう。じゃあまた明日ね」

 

 こうして俺のヒーローアカデミア初日が終わった。

 入学からの個性把握テストとは中々のハードスケジュールだったが

 ヒーローになるためだからな。頑張っていこう。

 

 ──まだ、俺のヒーローアカデミアは始まったばかりだ。

 

 




☆9と☆1評価がついていました。
評価がつくことは嬉しいのですがどこら辺が悪いのでしょうか?
そこのところも感想で教えてくれればと思います。


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第3話 Lets'戦闘訓練!!

気づくと評価バーに色がついていました。
ありがとうございます!!
これからも頑張ろうと思います。


 入学式──否、個性把握テストの翌日のこと。

 とても意外なことに翌日からは普通の授業が始まった。

 あまりにも普通な英語の授業などに至っては普通過ぎてコレジャナイ感が凄かった。

 プレゼントマイクの授業なんだからもう少し可k…………特殊な授業かと思っていた。

 お昼も何かあるんじゃないかと思ったが、特に何もなかった。

 昼を抜いて走らされるとか、戦闘訓練なんてこともなかった。

 兄さんあてのファンレターを読み上げさせられるとかもなかった。

 ホントに自分で読めよ…………枚数ホントに多かったんだからな。

 昼休みには普通にクックヒーローの料理を安価で食べることができた。

 海鮮丼は美味しかったです。特にカジキが美味しかった、鮮度も高かったし

 夏休みはまた海で採りたいなぁ。

 海鮮系の食材は採りたてで新鮮なままがやっぱり一番美味しい。

 

 ──が、普通なのはここまでだ。

 …………カジキが普通じゃないというツッコミは受け付けないZE

 先輩の友達も食べていたって言ってたから割と普通なはず…………

 

「わーたーし──が!!!──普通にドアから来た!!HAHAHA!!」

 

 午後からついに始まるヒーロー基礎学──先生は勿論、オールマイトだ。

 もしこれでオールマイトじゃなかったらクレームが凄そう。

 絶対に教師やっているってことが知れたら来年の倍率が笑えるレベルで跳ね上がるんだろうな。

 生きる伝説とも言うべき彼の登場にクラスの皆は大盛り上がり。

 兄さんが臨時教師でいつか行くとか言っていたけど来ないよね?

 まぁ、来たらそんときはそん時だ。

 その話を聞いた姉さんの目も割とガチだったんだよな…………

 

「すげぇ!!本当にオールマイトだ!!」

 

「銀時代のコスチューム着てるけど、本当に教師やってるんだ!?」

 

「画風が違い過ぎて鳥肌が…………」

 

「ヒーロー基礎学!!ヒーローの素地を作るために様々な訓練を行う科目だ!!

 あ、単位多いから気を付けて」

 

 素早く必要なことを説明するオールマイトに皆付いて行けていない。

 だが、聞き返す前にオールマイトは、今日の内容を示した。

 

「早速だが、今日はこれ!!──戦闘訓練!!」

 

 ──戦闘訓練!?

 

 その言葉に皆が気を引き締めた。

 好戦的な者達は既に瞳をギラつかせていた。無論、悠雷もその一人である。

 戦いの中で自らを研ぎ澄ます事は悠雷が好きなことの一つだ。

 

「さらに、こちら!!入学前に貰った個性届と要望に沿って作られた──」

 

 ──戦闘服!!

 

「「「「「おお!!」」」」」

 

 オールマイトが叫ぶが否や、教室の壁が開き、中にはそれぞれのコスチュームが入っていた。

 その登場にクラスのボルテージも更に上昇する。

 こんな仕掛けがあったんだなと、そのうち壁が忍者屋敷よろしく回転しても可笑しくないな。

 ホントにどうなってるんだか

 

「さあ!!着替えてグラウンドβに集合だ!!」

 

 オールマイトの言葉に皆が頷き、それぞれのコスチュームを持ち、そして纏った。

 それによりグラウンドβに現れたクラスメイト達は皆…………

 コスチュームを纏った一人のヒーローだった。

 

「…………要望通りのいいコスチュームだな」

 

 悠雷はコスチュームを作る際に制作会社に自身の素材を持ち込み

 それを使ってコスチュームを作ってもらった。

 自身の素材を使っているためにその親和性は凄まじく既に身体に馴染んでいた。

 海竜の素材を惜しげもなく使ったそのコスチュームは紺碧の輝きを放ち、強靭な竜を思わせた。

 雄英が抱えるいくつかのコスチューム会社の中から2人のおすすめを選んでよかった。

 自身の素材はあらゆるものに対しての耐性を一定値以上備えているため、熱や電気などの攻撃はもちろんのこと、ピストル程度の銃弾なら難なく弾いてくれる。

 

 そこまで重くないから、軽装備にすることができたし

 今なら5メートルほどなら跳び越えることができそう。

 

 改めて纏ってみると兄さんがあそこまで必死になるのもわかるんだよなぁ。

 軽くて防御力が高いとかそれもうわけわかんないや。

 

「悠雷、そのコスチュームよく似合ってるじゃん」

 

「もしかしてだが、自分の身体の一部を使ったのか?」

 

「そうだ、これは俺の身体の一部を使って作ってもらった。

 響香と障子のコスチュームも似合っているぞ」

 

 響香のコスチュームは軽装だが、靴が普段とは違う装備重視。

 足にはスピーカーの様なものがついている。

 障子のコスチュームもまたシンプルだが、動きが制限されないような性能重視なものだ。

 常闇は壁に寄りかかって瞑想でもしているのか?

 あいつもコスチュームが似合っているし、後で話しかけてみるか。

 見ていると過去の黒歴史が抉り出されるような気もしなくないが

 

「性能重視の考えなんだな2人共。

 響香のコスチュームについているのは遠距離用の装備か?障子は動きやすさを重視したのか」

 

「そうだよ。ウチはプラグを伸ばせてもどうしても接近戦になるしね。

 遠距離から攻めてくる敵への対策として遠距離攻撃用の装備が欲しかったから」

 

「俺も複製する以上は動きを制限したくないからな。

 だが、俺も遠距離攻撃の手段を確保したほうがいいだろうか?」

 

「その方が絶対に良いだろうな。

 いくら地上での戦いが強いからって空に逃げられたら何もできなくなってしまうし」

 

「コスチューム改良の際に考えてみるか」

 

 それからも互いにここを望んだ。そこにはもう少し何かが欲しかった等の会話を続けていく。

 他のもところも同じような会話であった。

 ──八百万と葉隠のコスチュームとか他の話題もあったけどね。

 正直、葉隠が手袋とブーツだけなのは驚いた。

 透明なやつを見えるヴィランがいたらどうするんだろうか?

 念の為に服くらいは来た方がいいと思う。

 光学迷彩とかもあるし、氷とかを相手にする場合全裸だときつすぎるだろ。

 ちなみにその会話はオールマイトが来るまで続いた。

 

「さあ!!有精卵共!!──戦闘訓練の時間だ!!──内容は屋内の対人戦闘さ!!」

 

「先生!!ここは入試演習場ですが、また市街地演習を行うんでしょうか?

 

「いいや!!もう二歩先に踏み込む!!屋内での対人戦闘さ!!」

 

 いきなり屋内での戦闘訓練なのか…………最初は外がよかったな。

 屋内戦の場合はどう頑張っても切り札ともいえる竜化を活用できない。

 自ら縛りプレイを行っているようなものだ。

 

「敵退治は主に屋外で見られるが、統計でいえば屋内のほうが凶悪敵の出現率は高いんだ。

 監禁、軟禁、裏商売…………このヒーロー飽和社会──ゲフン──真に賢い敵は屋内に潜む!!

 君達にはこれから『ヴィラン組』と『ヒーロー組』の二つに分かれて

 2対2の屋内戦闘を行ってもらう!!」

 

「基礎訓練も無しに?」

 

「基礎を知るための実践さ!!ただし今度はぶっ壊せばオーケーなロボじゃないのがミソだ!!」

 

 それを聞いたクラスメイト達が口々に質問を始める。

 

「勝敗のシステムはどうなります?」

 

「ブッ飛ばしてもいいんスか?」

 

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか?」

 

「別れるときはどのような分かれ方をすればよろしいですか!!」

 

「このマントヤバくない!?」

 

「んんん~聖徳太子ィィ!!!」

 

 さすがのオールマイトも一切に質問されると答えれないようだ。

 あと、最後の奴のは絶対に今言う事じゃないだろ。

 

 オールマイトがカンペを見ながら説明を続ける。

 

「いいかい!?状況設定は「敵」がアジトに「核兵器」を隠していて「ヒーロー」はそれを処理しようとしている」

「ヒーロー」はそれを処理しようとしている」

 

 なかなかに設定がアメリカンだな。

 オールマイトが実際に経験をしたことのあるシチュエーションなのかね?

 カンペなのは何も言わない方がいいだろうな。

 優れた選手が優れた指導者になるとは限らないだったか?

 オールマイトはその言葉によく当てはまっている気がする。

 

「今回のコンビ及び対戦相手はくじだ!!」

 

「適当なのですか!?」

 

「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップする事が多いし、そういう事じゃないかな?」

 

「全く知らない相手と組むこともなくはないだろうしな。

 臨機応変に対応できるようにっていう事だろう」

 

「そうか!!先を見据えた計らい。失礼いたしました!!」

 

「いいよ!!早くやろ!!」

 

 肝心のチーム分けは──【H】だった。

 組む相手は確か──

 

「蛙吹だったか?よろしくな」

 

「ええ、よろしく蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

 

「わかった。よろしくな梅雨ちゃん」

 

「ケロケロ」

 

 

 ちなみに他のチームのメンバーはこんな感じだ。

 

 Aチーム 麗日&緑谷    Bチーム 障子&轟

 

 Cチーム 耳郎&八百万   Dチーム 飯田&爆豪

 

 Eチーム 青山&芦戸    Fチーム 峰田&常闇

 

 Gチーム 上鳴&砂糖    Hチーム 海藤&蛙吹  

 

 Ⅰチーム 尾白&葉隠    Jチーム 切島&瀬呂

 

 

「良し!!──まずはAチームがヒーロー!!Dチームがヴィランだ!!

 ──それ以外の皆はモニター室に行こう!!」

 

 

 記念すべき一回目はAチームの麗日&緑谷VSDチーム飯田&爆豪だ。

 

 不安定な緑谷と、そんな緑谷に過剰な反応を見せる爆豪。

 正直なところ、かなり不安だ…………事故とか起きないといいけど

 オールマイトに質問しているときに明らかに緑谷のことを見てたし

 

「さあ皆!!クラスメイトの動きから学べることはどんどん学んでいこう!!」

 

 モニタールームにあるスクリーンを見上げると

 ちょうど緑谷と麗日がビルの内部に入っていったところだった。

 彼らが入ってしばらくすると爆豪が緑谷目掛けて奇襲を行う。

 

「うおおっ爆豪ズッケェ!!奇襲なんて男らしくねえ!!」

 

「緑くん、良く避けたねえ──!!」

 

 爆破によって起きた煙幕が晴れると掌から爆炎をあげている爆豪と

 今日、はじめて着るコスチュームのマスクが半分失われた緑谷が対峙していた。

 

「爆豪の攻撃を良く避けることが出来たな。

 あそこで避けれなければ、もう勝負はついていたかもな」

 

「なんか爆豪、スゲーイラついてんな」

 

 緑谷に隠れていてよく見えなかったが、麗日が戦線を離脱して上を目指したのが見えた。

 二人で相手するよりもひとりが先に核の位置を割り出しておいた方が合理的だ。

 

「麗日が核の確保に動いたな」

 

「緑谷は引き付けて時間稼ぎか」

 

「制御が効かない個性のみで入試2位を相手取ってやがる!!」

 

「すげぇな!!あいつ!!」

 

 モニタールームで観客が口々に思ったことを言っている間にも

 戦況はどんどん変わっていく。

 どうやら麗日が最上階に辿り着いて機会を窺っているようだ。

 しかし…………

 

「あら。お茶子ちゃん、飯田ちゃんに見つかったみたい」

 

「何かしらの物音を立ててしまったのか」

 

「下も再び対峙したようだ」

 

「爆豪少年!!ストップだ!!殺す気か!!」

 

 突如として声を荒げたオールマイトの姿に皆は疑問符を浮かべるが、

 その理由はすぐに皆の知るところとなった。

 

 

 ──ドオオオオオッ!!!

 

 轟音と揺れが地下にあるモニタールームまで届く。

 この部屋って耐震工事とか施されているはずなんだけどな…………

 それほどまでに大きな爆発なんだろう。

 それの中心地にいた二人はどうなったんだ?

 

「マジか!!授業だぞコレ!!」

 

「緑谷少年!!」

 

「…………ワザと外したのか?」

 

「先生止めた方がいいって!!爆豪あいつ、相当クレイジーだぜ!!殺しちまう!!」

 

 当たっていなくても尚、これほどの威力なのか…………

 オールマイトの忠告を受けた後、再開された戦いでは器用に爆破を操り緑谷を攻撃している。

 戦闘センスが天才的に高い。

 考えながらの動きには見えないが、全部計算して動いているんだろうな。

 

「リンチだよコレ!!テープ巻いたら捕まえることになんのに!!」

 

「ヒーローの所業に非ず…………」

 

「緑谷もすげぇって思ったけど、戦闘能力において爆豪は間違えなくセンスの塊だぜ!!」

 

「緑谷逃げてる!!」

 

「男のすることじゃねえけど仕方ねえぜ…………

 でも、妙だな。なんで個性を使わねえ?」

 

「いや、あの位置は核の真下だ。何か企んでる」

 

 二人は数言か交わして、互いに構える。

 爆豪の攻撃…………右手は確実に緑谷を捉えて、先程のものほどではないが大きな爆破が起きる。

 一方の緑谷の攻撃は天井を突き破って核のある部屋まで到達する。

 麗日が核に触れてヒーローチームの勝ちとなったが、勝負の結果とは真逆の状態だな。

 

 …………本当に個性の制御が出来ていないんだな。

 腕の一振でビルを破壊するってオールマイトみたいだな。

 スピードとかはないが、それっぽい動きは出来るようになるのかね?

 

「次は場所を変えて!!──ヒーローはBチーム!!ヴィランはⅠチームだ!!」

 

「障子のチームか、頑張れよ」

 

「ああ」

 

 ──そして、訓練が始まり、世界が凍った。

 

「まさかビルごと凍結させるとはね…………想定以上にヤバい個性だったな」

 

 ビルごと凍結させるってヤバいじゃん。

 寒いの苦手なんだけど…………南極とかでも泳げるけどさ、得意かは別じゃん?

 戦う時は工夫しないとキツイかな。

 竜化すれば話は別なんだけども、それに頼らないと勝てないっていうのもな。

 

「仲間も巻き込まずに核兵器にもダメージを与えず、尚且つ敵も弱体化!!」

 

「しかも、火まで使うのかよ。相性最悪じゃん…………」

 

「アンタにも弱点ってあったんだね」

 

「響香が俺にどんなイメージを持っているかが知りたい…………」

 

 氷は根性で耐えれるけどさ、火は無理。

 生物全てに共通して火は弱点だから

 人間だって火を扱えても燃えるでしょ?

 水辺なら勝てるけど都会だとマジツライって

 雄英体育祭で戦うことになったらどうしようか…………竜化してゴリ押すか?

 でも、ゴリ押しはなるべく使いたくないんだよな…………

 

 訓練が終わったBチームとⅠチームの面々が帰って来て、批評が終わり次に移る。

 批評の時にオールマイトが困っていたのは少し面白かった。

 ナンバーワンもこんな風になることがあるのね。

 まぁ、評価のしようがなかったし、仕方ないか。

 

「──次の対戦相手はCチーム対Hチームだ!!」

 

「俺達がヒーロー側なのか」

 

「頑張りましょうね」

 

「悠雷、負けないからね」

 

「相手にとって不足無しですわ」

 

 ビルの前に移動して、相手のチームである響香と八百万が中に入っていくのを見届けて

 梅雨ちゃんと作戦会議を行う。

 

「さて、どう攻める?相手に響香がいる以上こちらの動きは筒抜けと思った方がいい。

 相手にこちらの行動を知られている前提で動いた方がいいな」

 

「創造も厄介ね」

 

「俺は空を飛んだりできないからな。正面突破になるが、梅雨ちゃんは壁を登れたりしないか?」

 

「できるわよ。カエルっぽいことなら基本出来るわ」

 

「分かった。じゃあ、梅雨ちゃんは壁を登って最上階から核探してくれ。

 俺は下から探していく。交戦は最小限に抑えてなるべく2体1の状況に持ち込むようにしよう」

 

「わかったわ。敵を見つけたら知らせてちょうだい。直ぐに向かうから」

 

「頼む。こちらもすぐに向かうようにするが、

 どうしても時間がかかると思うからなるべく深追いはしないようにしてくれ」

 

『それでは──訓練開始!!』

 

「それじゃあ行くか、健闘を祈る」

 

「そちらも頑張ってね」

 

 梅雨ちゃんが壁を登っていくのを見届けて建物の中に入る。

 建物の中には様々なトラップが仕掛けられていた。

 個性把握テストでこちらの身体能力が高いのも知られているだろうし

 響香には電気と液体を使えることも体の一部を変化させれることも話している。

 正面戦闘では分が悪いと判断して時間稼ぎに徹底するつもりなのだろう。

 

「──だが、まだ甘いな。この程度なら2人の訓練よりはるかに簡単だな」

 

 悠雷のことを鍛え上げた人はドラグーンヒーローである竜間龍子と

 このヒーロー飽和社会に置いて僅か数年でナンバー3にまで上り詰めたホークスである。

 二人は悠雷が理想とするヒーローになることのできるように

 スパルタとしか言いようのない訓練を施したのである。

 まあ、それを喜んだ悠雷も悠雷である。

 おまけ程度に公安の人からも色々と教育を受けている。

 公安の人が少し引いた顔で俺のことを見ていたのは余談である。

 

 悠雷は仕掛けられたトラップを完璧に解除しながら上に上がっていく。

 上がりながら梅雨ちゃんと連絡を取る。

 予想ではそろそろ最上階につくはずだ。

 

「梅雨ちゃん、そちらの状態はどうだ?」

 

「もう間もなく、最上階につくわ」

 

「分かった。着き次第中を探ってみてくれ。もしも誰もいないようなら突入してみてくれ」

 

「了解よ」

 

 悠雷は無線を切ってその足を進める。

 しばらく進むと階段の上で八百万が待ち構えているのが見えた。

 この周りにはトラップはないものととらえて問題ないかな。

 

「流石、推薦入学者。あの短時間でよくもあの数のトラップを仕掛ける事が出来たな」

 

「だというのに、随分と余裕ですわね」

 

「まあ、実際に余裕だからな」

 

「言ってくださいますわね!!」

 

 八百万は事前に創造していたであろう大砲をこちらに向けて打ってくる。

 それをバク転で回避すると壁を走り距離を詰める。

 階段にも何かしらの仕掛けがあると踏んだためである。

 無いとは思うが、警戒しとくに越したことはない。

 作戦通りに梅雨ちゃんに伝えておこう。

 

『梅雨ちゃん、3階の中央階段に八百万がいた。只今交戦中だ』

 

『わかったわ。ただ、こっちも耳郎ちゃんに見つかって交戦中よ。

 悪いけれど助けには行けないわ』

 

『わかった。八百万を倒したらそっちに向かう。何階だ?』

 

『最上階よ。この階に核もあるわ』

 

『了解』

 

「こっちを見もせずに会話するとは随分と舐められたものですわね!!」

 

「ッ!!」

 

 会話をしている隙を突かれて大砲の直撃を食らう。

 一台目に隠すようにして少し小さめの二台目を設置していたのだ

 耐久力には自信があるから問題はないが

 かなり吹き飛ばされるし、窓から外に追い出されれば時間の大幅なロスに繋がる。

 その間に梅雨ちゃんが捕まりでもしたら最悪だ。

 大砲に玉を詰めているのを確認すると壁を蹴り、距離を詰める。

 今度は先程と同じようなミスは犯すつもりはない。

 大砲は斜線に入らなければ驚異ではない。

 銃などを創造するまでに可能な限り距離を詰めたい。

 

「甘いですわ!!その動きは想定済みですわ!!」

 

 八百万は事前に創造してたであろう網をこちらに投げつけてくる。

 材質はなんだろうか?合金あたりだろうか

 これくらいならば簡単に切り裂くことができる。

 

「そうだな。こっちも想定済みだ!!」

 

 投げられた網を爪で切り裂く。

 鉄くらいなら簡単に切り裂けるからな。

 ミスディレクションの要領で八百万の背後を取り、首に手刀を食らわせる。

 

「八百万は接近戦に弱すぎるんだよな。もう少し格闘術を覚えたほうがいいと思うんだけど

 まあ、気絶しているし聞こえてないか」

 

 手刀を真面に食らった八百万の意識は既に刈り取られていた。

 恐ろしく早い手刀俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 八百万にテープを巻くと梅雨ちゃんの援護のために最上階へ向かった。

 気絶だけでも条件には問題ないが、実戦を想定しとこう。

 

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 梅雨ちゃんは焦っていた。

 悠雷と別れて壁を登ったはいいものの

 最上階問わず、窓には全てカーテンが張られ中が見れないようになっていた。

 そのため梅雨ちゃんは悠雷に中の様子を伝える事も出来ずに

 苦渋の策として最上階の窓を蹴破って入ったのはいいものの

 響香のプラグと八百万が作ったであろう剣に牽制され近づくことができないでいた。

 核があるのを確認はでき、それを伝える事は出来たがその後の進展はない。

 ヒットアンドアウェイを繰り返してはいるが、

 決め手に欠けているために勝負を決めることが出来ない。

 

 また、響香も決め手に欠けているために

 ヒットアンドアウェイを心がける梅雨ちゃんを捕らえることが出来ないでいた。

 向こうの方がリーチが長く、下手に攻勢に出た瞬間に核のある部屋に行かれてしまう。

 その上、無線でヤオモモが捕まってしまったことと

 悠雷がこちらに向かっていることを知ったためにさらに焦りを強くしている。

 

 時間まではまだ5分程残っており、耐久戦は無理。

 勝つのならば、最低でも悠雷が来るまでに梅雨ちゃんを無力化しなければいけない。

 先程の放送で八百万が捕らえられていることを

 梅雨ちゃんが知っているためにさらに逃げに重点を置いた立ち回りになっているため、

 攻撃するのすら困難な状態となっている。

 

 先程も言った通り、深追いすれば核のある部屋に行かれてしまう。

 その膠着状態は悠雷が最上階にたどり着くまで続いた。

 

「伏せろ!!」

 

 最上階に辿り着き、必要最低限の言葉を伝える悠雷。

 梅雨ちゃんがしゃがむのを確認すると、

 最上階に来るまでに発電しておいた雷撃を横なぎに放った。

 

 響香は何とかしゃがんで躱すが、

 しゃがんだ後隙に梅雨ちゃんの舌に捕らえられた。

 

『ヒーローチーム──WIN!!』

 

 戦闘訓練は悠雷達の勝利で終わった。

 

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 

「さて、今回のMVPは誰かわかるかな?」

 

「はい!!」

 

「飯田少年!!」

 

「海藤君だと思います!!

 個性を活かした作戦に罠への対応。戦闘能力や状況判断能力。

 そして、最後の攻撃も核兵器に配慮したもの。文句のない結果だと思います!!」

 

「その通り!!プロでもできる人は少ない!!皆も見習うように!!

 三人にアドバイスを送ると、蛙吹少女は作戦に自分の意見を加えられるといいね!!

 八百万少女は海藤少年が言っていたように近接戦の対策。

 耳郎少女は戦闘における決定力を得られると更に成長出来ると思うぞ!!」

 

「わかりましたわ。精進しなくては!!」

 

「決定力か、わかっていたけどウチもまだまだだね」

 

「次は海藤ちゃんに頼らずに勝利を決めて見せるわ」

 

「四人ともお疲れ様!!さあ、次のチームはヒーローがEチーム。ヴィランがGチームだ!!」

 

 

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 ヒーロー基礎学が終わり、放課後。

 悠雷が荷物を纏めて帰ろうとしていると上鳴が話しかけてきた。

 

「なあ、今日の帰りにマックで反省会をしようと思っているんだけどお前も来ないか?」

 

「響香達も参加するのか?」

 

「うん。悠雷が参加すれば来ないのは緑谷と爆豪、轟だけだね。

 ウチも相談したいことがあるから来てほしいんだけど」

 

「女子からの誘いを断るわけにはいかないな」

 

「また、そんなこと言って」

 

「時間が勿体ない。もう行くんだろ?」

 

「おう!!行こうぜ!!俺も聞きたいことあったしな!!」

 

「そういえば上鳴に身体強化のやり方を教えてなかったな。

 実践はできないからやり方とイメージだけでも教えるよ」

 

「やったぜ!!」

 

 その話を聞いた他のクラスメイト達もマックに行きたいと述べ、

 結果的にかなりの大人数で行く事になった。

 この現場を相澤先生に見られたらなんて言われるんだろ?

 即、除籍!!みたいな事にはならないよね?

 

 案の定、マイク先生と一緒にいる相澤先生に見つかるのは別の話。

 …………本当になんでいたんだろう。

 

 

 こうして戦闘訓練は終わりを迎えた。

 

 ──だが、彼らは知ることになる。

 

 

 プロヒーローの対峙する真に賢いヴィランの恐怖を

 

 

 




今のところは書き直す前と大体同じですが
USJでの戦闘辺りからアンケート結果をもとに変えていくつもりです。

ちなみに毎日などではなく不定期更新です。

追記、三人称問わず梅雨ちゃんは梅雨ちゃんです。
読みずらかったら申し訳ないです。


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USJ編
第4話 メディアと委員長と昼食と


感想と評価をお願いします!!
それらが書くためのモチベーションになりますので!!
アンケートに協力してくださりありがとうございました。


 オールマイトが教鞭を執ったヒーロー基礎学での戦闘訓練の後

 マックでの反省会で響香達にアドバイスをした翌日のこと。

 

「…………眠い」

 

 悠雷は珍しく睡眠不足だった。

 本来ならば11時頃には眠っているがついつい夜遅くまで本を読んでしまったのである。

 これもすべて、兄さんが持ってきた本が面白すぎるのが悪い。

 ホントにどうやって面白い本を厳選しているんだか、サイドキックの人を使ってないよね?

 どう頑張ってもヒーロー活動を行っている時間などを考慮すると

 兄さんの睡眠時間が3時間もない計算になるんだけど…………体調を崩したりとかしないよね? 

 

 寝るのが遅いという理由で強烈な眠気に襲われながらも

 悠雷は今日の雄英での授業を楽しみにしていたが、

 そのやる気は校門の前に着いたところで急激にそがれた。

 何故ならば、雄英高校の前には大量のマスコミがいたからだ。

 眠気が吹き飛んだのはよかったのかもしれないけれどもね。

 このまま歩いて行った場合、間違いなく捕まっていた。

 

 雄英の校門は登校時間帯なのはもちろんだが、今朝は異様に人が多かった。

 この前のオールマイトが雄英の教師になったという新聞が原因だろう。

 マスコミの大群の中にはぼそぼそと喋る緑髪の少年や

 若干意味不明な四字熟語を述べる茶髪の少女、その他多数を発見した。

 既に何人かクラスメイトが捕まっているだと…………

 

 悠雷はマスコミが苦手という訳ではないが、

 門を塞ぐ様に立っているのを見るとオールマイトもそういう気持ちになると思う。

 兄さんならば、喜んで入っていきそうな気もするけれども

 今の悠雷は前回のホークスの義弟という立場に加えて雄英生という立場だ。

 一時期、ヒーロー関係のゴシップを埋めていたため

 メディア関係者が知っていてもおかしくない。

 幸いなことにリューキュウの弟というのはまだ知られていないが知られてしまったら

 オールマイトを狙うマスコミにとっては極上一歩手前の餌といっても過言ではない。

 もちろん極上なのはオールマイトだ。自分でも何言っているかよくわからなけど

 

「おはよう悠雷、どうしたの?そんなところで立ち止まって」

 

「おはよう響香。あれらを見てみろよ」

 

「うわぁ、すごい人だね。全部マスコミなの?」

 

「見ての通りそうだろうな。オールマイトが教師をやっているから来たんだろう。

 既に何人か捕まっているし行きたくないぁ。

 捕まったら質問攻めにされて登校どころじゃなくなりそうだし」

 

「あ、ホントだ。捕まっている人はどうしようか、助けられる?」

 

「俺ら二人だけだとまぁ、無理そうだな。

 取り敢えず、相澤先生に電話をかけてみる。

 このまま行っても俺らもあっさり捕まりそうだし

 もしも、マスコミが近づいてきたら声かけてくれ全力で逃げるつもりだから」

 

「わかった。ただ、おいていかないでよ?」

 

「いかないよ」

 

 響香に一声かけた後に相澤先生のケータイに電話をかける。

 なぜ知っているのかって? 

 そこは秘密だが、俺は速すぎる男の弟だ。

 既にクラスメイト達の(爆豪、緑谷、轟以外)の連絡先は手に入れている。

 あっさりと聞いたことで峰田と上鳴に畏怖のまなざしで見られたんだが

 そんなに畏怖するようなものなのか?

 期待することが無ければ、絶望することが無いんだ。

 相澤先生は最初は断っていた相澤先生は合理性が~とか言ったらあっさりとくれた。

 マイク先生のも貰ったけれどもこれは使わなそう。

 ミッドナイト先生にはおいしい場面があったらって言われて渡された。

 更衣室で着替え中の写真でも送っておけばいいのかな?

 

『おはようございます相澤先生。今少しいいですか?』

 

『海藤か、構わないが今どこにいるんだ? 

 俺はこれからマスコミに対応しないといけないんだが

 もしかしてだが、お前も捕まったりとかしてないよな?』

 

『門が見えるところです。

 現段階では捕まってないですが、登校しようとすると間違いなく捕まります。

 マスコミに対してどう対応すればいいですか? 

 個性使っての正面突破はありですか?正直言って、軽く蹴散らしたいです』

 

『蹴散らしたら立派な犯罪だ。それはやめとけ。

 正面突破に対してはもうすでに何人か捕まっているからな。特例で許可しよう。

 お前まで捕まったらめんどくさいことこの上ない。

 捕まっている奴らは俺が救出するから出来ればお前の雷でカメラのデータを消せないか?』

 

『いけますよ。突破のついでに消していきます』

 

『頼むが、遅刻はするんじゃないぞ』

 

『わかりました。それではまた学校で』

 

 挨拶を終えて電話を切る。

 門の方に目を向けると相澤先生が歩いてくるのが見えた。

 緑谷たちは相澤先生が助けてくれるだろうし大丈夫そうだな。

 

「どうだった?」

 

「蹴散らすのはダメだけど個性使って正面突破していいって。

 俺はマスコミの頭上を跳び越えていくつもりだけど響香はどうする? 

 一緒に連れて行ってやろうか?」

 

「お願い、ウチも連れていってくれる?」

 

「任せてくれ、横抱きと担がれるのどっちがいい?」

 

「なんでよ、普通に背負ってよ」

 

「お前スカートだろ、いいのか? 

 割と高く飛ぶつもりだから、見えてもいいっていうなら構わないけど」

 

「あ~横抱きでお願いしてもいい?」

 

「いいよ。ただ、しっかりと首に腕回してくれるか?空中で落としたくないからね」

 

「ん、ありがとう」

 

「んじゃ、跳ぶからしっかり掴まってろよ」

 

 響香がしっかりと腕を回したのを確認した悠雷は身体能力を強化したのち

 助走をつけ生徒を捕まえようとしているマスコミ達を跳び越える。

 そして、相澤先生に約束した通りに蓄電してある電気を使いカメラのデータを消す。

 こういった作業に必要なのは正確さとスピード。

 どちらも幼き日から鍛えてきた得意分野だ。

 出来ればカメラをぶっ壊したかったけど流石に自重した。

 そこまでやってしまうと犯罪だからね。

 

「あ、跳び越えられた!!」

 

「きっと将来有望な生徒だ!!捕まえろ!!」

 

「あの男の子を撮っておいて!!デヴュー後に使えるわ!!」

 

「あ!!彼はホークスの弟よ!!追いかけて!!」

 

「なんで!!カメラのデータが消えているの!!」

 

 悠雷と響香はマスコミを華麗に跳び越え無事に登校を完了した。

 逆にこっちの方が目立つのではないかと跳びながら気づいたが

 既に後の祭り、絡まれないだけましかと思いながら綺麗に雄英バリアーの範囲内に着地した。

 今度から街中ではマスコミがいないか気を付けておこう。

 

「お疲れ様。カメラとかが使えない以上ここから去っていくだろう。

 お前らのおかげで仕事も早めに終わりそうだ。お前らも早めに教室に入れよ」

 

「「はい」」

 

 そういえば、公安の人に情報操作してもらって

 俺の顔は映らないようにしてもらった筈なんだが何で知っているんだ?

 その場にいたうちの一人なのだろうか?

 まぁ、いいや。別に隠しているわけではないしな。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 俺と響香が教室に入ってしばらくすると、マスコミに捕まっていた緑谷達が登校してきた。

 かなり疲れた様子だったが、何故か飯田は生き生きとしていた。

 ホントになんで? 既にマスコミ慣れをしているのか?

 あの大群ですら軽くあしらうとは…………メガネ恐るべし

 俺もかけることを検討するべきだろうか? 

 その後、ホームルームの時間になると相澤先生も教室には入ってきた。

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ様。Vと成績を見させてもらった」

 

「「「「「!!」」」」」

 

「爆豪。おまえもうガキみてぇなまねすんな、能力あるんだから」

 

「──わかってる」

 

「で、緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か個性の制御。

 ──いつまでも「出来ないから仕方ない」じゃ通させないぞ。

 俺は同じことを言うのが嫌いだ、それさえクリアすればやれることは多い。焦れよ緑谷」

 

「っはい!!」

 

 なんともわかりずらい激励だな、ツンデレかよ。

 でも実際に身体強化ってシンプルだけどできることが非常に多いんだよな。

 それはそれとして男のツンデレとか誰得なんだ?女の子のツンデレ?大好物ですが何か? 

 

「それと海藤、お前はクラス内で既に頭一つ抜けている。だが慢心はするなよ? 

 慢心したヒーローなんて碌な事にならないからな。

 敵を前にして慢心して取り逃がすなんてことの無い様に」

 

「わかってます」

 

「さて、HRの本題だ──急で悪いが今日は君らに──

 

 

(((((なんだ!?また臨時テスト!?)))))

 

 

「──学級委員長を決めてもらう」

 

「「「「「学校っぽいの来たぁぁぁぁ!!!」」」」」

 

 相澤先生の言葉にクラス中が一気に騒がしくなる。

 このクラスは入学式とかいう一大イベントを体験していないからね。

 仕方ないところもあるんじゃないかな。

 もちろん俺も叫んだうちの一人です。

 小説とかでよくあるシチュエーションに憧れています。

 

「委員長!!やりたいですソレ俺!!」

 

「リーダー!!やるやるー!!」

 

「ボクの為にあるヤツ☆」

 

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30㎝!!」

 

「ウチもやりたいス」

 

 誰だよ、膝上とか言ったやつ。そいつがなるのは阻止しないと

 というか、響香がやりたいというのは少し意外だったな。

 まだ、出会ってからさほど日にちは経っていないし、

 イメージの押しつけはやめたほうがいいな。

 

『静粛にしたまえ!!』

 

「「「「「!!」」」」」

 

『他をけん引する責任重大な役職だぞ!!「やりたい者」がやれるモノではないだろう!! 

 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務!! 

 民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら──これは投票で決めるべき議案!!』

 

 飯田…………それはとても感動的なセリフだな。

 委員長を聖務というのは言い過ぎだとは思うがな。

 それにそのそびえたつ腕が無ければもっと説得力があった。

 

「そびえ立ってんじゃねーか!!なんで発言した!!」

 

「日も浅いのに信頼もクソもないわ、飯田ちゃん」

 

「そんなん皆自分に入れらぁ!!」

 

「だからこそここで複数票を獲った者こそが真に相応しい人間という事にならないか?」

 

「飯田の投票という意見に賛成だな。

 ただ、最低限度の条件としてうちのクラスの委員長になるものは

 爆豪を含むウチのクラスの個性的な奴らを抑えられる人間という条件が必要だと思う。

 そこを踏まえて立候補して欲しい」

 

「「「「「確かに!!!」」」」」

 

「てめえらブチ殺すぞ!!!」

 

 なんか凄く納得したっていう顔しているけど

 峰田…………お前も十分に個性的な奴らに入っているからな? 

 委員長になる前にスカートの膝上~って発言する奴は割とやばいと思う。

 確かに俺は爆豪含むと言ったが爆豪だけとは言っていないんだよな。

 

「先生!!!投票という事でどうでしょうか!!!」

 

「時間内に決めりゃ、なんでもいいよ。

 それとほかの委員会…………保健委員や放送委員などもあるからな。

 そこらへんもまとめて考えておけよ」

 

「放送委員会か…………やってみたいな…………悠雷、男女一人ずつだから一緒にやらない?」

 

「いいぞ。やるの楽しそうだし」

 

「チッ!! 女子とイチャコラしやがって…………

 でも今だけはおいらは気にしないでおいてやるぜ。

 何故なら…………」

 

「峰田さんは保健委員以外でお願いします」

 

「あ、それさんせー」

 

「なんでだよ!!別に誰でもいいんじゃんかよー!!」

 

「付き合いの短さでクラスメイト達にそう認識されるってお前やっぱり凄いな…………」

 

「いや、凄くはないでしょ」

 

 そして委員長決めの投票が始まった。

 結果は──飯田が8票。八百万が6票。俺が4票。緑谷と爆豪が共に1票となった。

 緑谷に誰が入れたのか気になるな。爆豪は自分に入れたんだろうが誰だろうか? 

 自分に入れると思えないから飯田か麗日あたりか? 

 以外と俺に集まったな。入れたのは響香に障子、常闇と後は梅雨ちゃんかな? 

 残念なことにそれくらいしかまだ親しいと言える人はいない。

 

「まあ、妥当な判断だな。飯田以外にこのクラスを纏められる人間はいないだろうし」

 

「ウチはアンタがやると思っていたけどね」

 

「別に立候補してもよかったんだがな。

 クラスに費やす時間を鍛錬に当てたいと思っただけだ。後はメンドクサカッタ」

 

「うわぁ」

 

「だって爆豪のお守だぞ?」

 

「聞こえてんだよ、クソトカゲ!!!」

 

「うるさいぞ爆豪君!!!」

 

「ピッタリだろ?」

 

「確かにピッタリだね」

 

「ブチ殺すぞクソメガネ!!!」

 

 こうして飯田が委員長と兼任で爆豪係に八百万が副委員長に就任した。

 爆豪は戦闘センスは凄まじいのに性格があれだからな。

 性格さえまともならな、勿体無い。

 言いはしなかったが、委員長になると響香と一緒に放送委員になれなくなるんだよな。

 無事に二人ともなることはできたからうれしかった。

 こうして同年代に一緒にやろうと言われるのはいつぶりだろうか…………なんか泣きそう。

 因みに峰田は先生係基、雑用係となった。

 ミッドナイト先生にこき使われていて喜んでいたしいいのか? 

 ちなみに送った着替え途中の写真はとても喜んでもらえた。

 職員室で眺めていたら相澤先生に見つかってしまい消されてしまったとか。

 そして、俺には大量の反省文を書けという有り難いお言葉をいただきました。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 午前中の座学の授業が終わり昼休み。

 俺は響香と障子と一緒に食堂に昼ご飯を食べに行っていた。

 常闇のことを誘ったのだが、断られてしまったぜ。

 中二病を発症しているときは一人になりたくなるよね。

 俺の場合は重症化する前に無垢な一言で治癒されました。

 天然って怖いよね。

 

 やはり今日もランチラッシュ先生の作る海鮮丼が美味いな。

 家では自炊することもあるが、やはり本職には及ばないな。

 こんど弟子入りの懇願でもしようか…………多分だけど迷惑だな。

 

「にしても人が多いね」

 

「ヒーロー科のほかにサポート科や経営科の生徒もここで食べるからな」

 

「弁当を作る生徒もいるだろうが、安いうえに美味いここで食べない手はないだろう」

 

「海藤が食べてるのはまた海鮮丼か?」

 

「ご飯何杯分なのよ、ソレ」

 

「3杯分だな。ここの刺身は美味いからな。ついつい食べ過ぎてしまう。

 ここまで食べても個性の影響で消化も早いからな、午後の授業に影響はないぞ?」

 

「悠雷の個性はホントに無茶苦茶だよ」

 

「よく言われるな」

 

「なにか弱点とかないのか?」

 

「炎とか氷だな。あくまでも海竜という生物だからな、それらにはどうしても弱いんだ。

 氷なら南極の温度の水で泳ぐとかしてある程度耐性をつけることができたんだけどな。

 炎はマジで無理だわ。克服できん」

 

 これは余談だが、睡眠薬や媚薬などにも弱い。

 睡眠薬は僅かな少量でもアウト。数時間は目を覚まさない。

 媚薬の方は生殖本能が刺激されて文字通りのケダモノになってしまうから社会的にアウト。

 流石に媚薬をまき散らしたりするヴィランはいないよな?

 

「それって、轟に勝てんの? 確か炎も使えるはずだけど」

 

「たぶんな。全力ならいけるはずだ」

 

 ご飯を食べながら談笑を続けていると、後ろから見知った人の声がかかった。

 

「ねえねえ悠雷君久しぶりだね!!そちらの人はお友達?」

 

「波動先輩と天喰先輩、お久しぶりです」

 

 凄く嫌そうな顔をした天喰先輩を連れてこちらのテーブルにやってきたのは波動先輩。

 姉さんのインターン生として来ていたころに出会って

 それからはその不思議ちゃんな性格によく振り回されている。

 天喰先輩は先輩の行った事務所とリューキュウ事務所がチームアップした時に会った。

 当時は事務員的な仕事をしていたから関わることが多かったんだよね。

 俺の個性の研究のために俺の鱗や血を食べて貰ったりもしたな。

 俺の能力の一部だけども制限時間付きで使えるようになったんだよね。

 

「知り合い?」

 

「ああ、姉さんのところにインターンで来ていた時に会ったんだ」

 

「そっちの暗い顔をしている彼が天喰環。それで私が波動ねじれよろしくね!!」

 

「ウチは耳郎響香です。よろしくお願いします」

 

「俺は障子です。よろしくお願いします」

 

「敬語は使わなくても大丈夫だよ!! 

 けどしかし、ねえねえところで君は何でマスクを?風邪?オシャレ?」

 

「これは昔…………」

 

「耳郎ちゃんのプラグって触ったらどんな感じなの? 

 ちぎれたら生えてくるの?ねえねえ触ってもいいかな?」

 

「えっと…………」

 

「そんな目で俺を見るな。残念だが、俺には止めることができない。

 それよりも天喰先輩は何故波動先輩と一緒に食堂に?」

 

「無理やり連れられて仕方なくだ…………帰りたい」

 

「天喰先輩も大変なんですね…………」

 

 天喰先輩が自分から進んで波動先輩と関わるわけないか。

 周りを見ても、先輩方の話でよく出てくる最後の一人は見当たらなかった。

 できれば話をしてみたいと思っていたんだけどな。

 

『緊急警報発令!! ──セキュリティ3が突破されました!! 

 生徒の皆さんは屋外へと避難してください!! これは訓練ではありません。

 ──繰り返します──』

 

 校内に警報が鳴り響く。同時に放送されるセキュリティ3の突破。

 同時に食堂はパニックに襲われる。

 

「天喰先輩この警報は?」

 

「…………校内に侵入者が出たみたいだ」

 

「雄英バリアーが破られるなんて不思議だね!!」

 

 そんなことを話していると放送を聞いてパニックになった人たちが出口に集まってくる。

 危うくその集団に巻き込まれそうになったので響香の腕を掴み、

 引き寄せながら同じく流されそうになっている障子にも声をかける。

 先輩方は大丈夫だと信じることにしよう。

 アトラクション感覚で流されていく波動先輩と

 人に囲まれて死にそうな顔をしている天喰先輩が見えたが大丈夫だよね? 

 とりあえず冥福を祈っておこう。

 

「響香!!こっちに来い!!障子!!壁際に避難しろ!!」

 

「きゃっ!」

 

 やべ、勢い余って響香に壁ドンしてしまった。

 改めて近くから見ると響香って整った顔してるよな。なんかいい匂いしてるし

 わぁ、女子って不思議だね!!ね!!

 つい、波動先輩の口癖がうつってしまった。

 

「………………済まないが今は我慢してくれ」

 

「悠雷、びっくりしたけど大丈夫だよ…………ありがとう」

 

 顔がかなり赤いが大丈夫か? 

 さっきまでは辛そうにしてなかったし熱はないと思うが

 俺が視てないうちに波動先輩に何かされたのか?

 異形系の個性で本来の人間…………

 無個性の人間にはない器官には性感帯くらい敏感な箇所があるとかないとか

 響香のプラグは性感帯だった!?いやないな。よく弄っているし

 露出性癖とかそれに近しいものがあれば話は別なんだけど………… 

 

「──ラブコメは俺のいないところでやってくれ」

 

「「やってないわ!!」」

 

 ラブコメなんてやってないぞ? 

 ただ、女の子に壁ドンをしてるだけで…………そこだけ切り抜くとしてるのか?

 ラブコメの場合はこの後、互いに見つめ合ってだんだんと顔が近づいて行って…………

 いや、やらないよ?やりたいけど 

 

「このパニックはしばらく収まりそうにないな。俺は大丈夫だが海藤は大丈夫か?」

 

「鍛えているし、この程度問題な…………痛っ」

 

「大丈夫!?」

 

 背中を誰かに強めに叩かれた。結構痛かった。

 なんか「リア充爆発しろ」って聞こえたけど気のせいだよな? 

 幾人から嫉妬のこもった視線が飛んできている気がするけど気のせいだよな? 

 

「…………俺にはそいつらの気持ちがわかるぞ」

 

「障子なんか言ったか?」

 

「いや俺は何も言ってないぞ」

 

「ねえ、悠雷。あれって飯田じゃない?」

 

「ん?本当だ。何してんだアイツ」

 

 悠雷が目を向けた先には非常口のように壁に張り付いた飯田がいた。

 麗日の個性で浮かせてもらうなりしてあそこまで行ったのだろう。

 

『大丈──夫!!!ただのマスコミです!!何もパニックになることはありません。

 大丈──夫!!ここは雄英!!!最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!』

 

「…………さすがだな、委員長」

 

 飯田の活躍により、食堂のパニックは収まった。

 校内に侵入していたマスコミは警察が来たことにより出ていった。

 マスゴミの皆さんはこれからの人生どうなるんだろうか?

 この先、関わることはなさそうだから気にするだけ無駄なんだけれど

 

 

 

 雄英の防衛システムである雄英バリアー。

 名前はダサいがその防衛性能は本物だ。

 何せオールマイトが殴っても大丈夫だというのだから

 俺が竜化して本気でやってもすぐには壊せないだろう。

 

 ただのマスコミにそんなことをできる個性持ちがいるとは思えないし、出来てもやる筈が無い。

 そんなことをしたらヴィランと同じなのだから

 いくら取材のためとはいえ、そんな事はしないだろう…………しないよね? 

 

 もしかしたら、ヴィランが関わっているのかもしれないな。

 警戒するに越したことはない、何も起きないといいのだがな。

 

 

 

 




フラグは捻じ曲げるためにあるんだよ!!
インターン前にねじれちゃんと天喰先輩には登場してもらいました。

口調がよくわからないですが、こんな感じでしょうか?
感想お願いします!!


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第5話 ヴィラン強襲!!USJ事件!!前編

今回はいつもよりも短めです。普段が多いだけなんだけどね。


 今日の午前中の授業が終わりいつもよりも早く昼ご飯を食べるようにと言われて

 いつもよりも急ぎ目で食堂に向かったとある日のこと。

 

 時刻はPM0.50

 

 珍しく教室に寝袋を持ってきていない相澤先生から今日のヒーロー基礎学について説明が入る。

 一言余計だったかな? なんか睨まれてしまったぜ。

 もしかしてだが、個性の使い過ぎで心の壁も抹消できるようになったのだろうか? 

 実はあくタイプだけでなくエスパー複合だったのだろうか? 

 初代の環境なら最強なんじゃないか?素早さとかとくこうが高そうだし

 技範囲は他と比べて割と狭そうだけど、ふいうちとかが強そう。

 

「今日のヒーロー基礎学だが…………

 俺とオールマイトそしてもう一人の三人体制で見ることになった」

 

「三人体制?」

 

「ハーイ!!何するんですか!?」

 

「災害水難なんでもござれ、人命救助訓練だ!!」

 

 今日のヒーロー基礎学はオールマイトだけじゃないんだな。

 多くのヒーローから学ぶことができるという事は嬉しいが、

 それだけこの前のマスコミの件を問題視しているという事なのだろう。

 何も起きないといいんだけどな、嫌な予感がするんだよな…………

 アニメやマンガ問わず、こういった予感はよく当たるものなのだ。

 少しだけ思考がメタよりになっているかな?控えよう。

 

「レスキュー…………今回も大変そうだな」

 

「ねー!!」

 

「バカおめーこれこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」

 

「水難なら私の独壇場ケロケロ」

 

「火災現場での救助には不安しか残らない…………」

 

 ヒーローであるからにはそういった場面に出くわすことがあるだろうが可能な限り避けたい。

 俺の個性ならホースの水を操ることが出来るから、消火活動の方に…………

 水を纏って奥に取り残された人の元に向かう自分が見えた。

 今後のために今回の授業は特に集中して取り組まないとな。

 

「おい、まだ途中。今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。

 中には活動を制限するコスチュームもあるだろうからな。

 訓練場所は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上準備開始」

 

 言い終えた相澤先生はそそくさと教室を後にした。

 残された悠雷達もまた除籍やらの問題を悟って素早く身支度を終えると校内バスへと向かった。

 相澤先生は「遅刻か、じゃあ除籍な」っていう感じで除籍にしてきそう。

 絶対にしないという確信はあるし、

 先生が除籍にしてきた生徒への理由も知っているからそんな事はないはずなんだけどね。

 雄英の校舎から少し離れた場所にある人命救助訓練の会場に向かうためのバスに乗る前に

 

「バスの席順でスムーズにいくよう、番号順に2列で並ぼう!!」

 

「飯田君、フルスロットル…………」

 

 数日前に決まった委員長である飯田は個性的であるがゆえに

 未だ纏まりのないクラスを纏めようと実に張り切っていたのだが…………

 

「こういうタイプだったか、くそう!!」

 

「意味なかったねー」

 

 バスは前半部分が対面式の座席になっており、あっさりと飯田の予想は裏切られた。

 結局、適当に好きな場所に座ることになった。

 俺は適当な席の窓側に座ることにした、隣には響香が座っている。

 座ってから互いにスマホで曲を聴き始めたから会話はないがな。

 別に会話が無くて寂しいなんて思ってないからな? 

 母としか会話がないなんてことも幼少期に引っ越す前はざらだったんだから

 なんなら話し掛けたとたんに逃げられてことだってある。

 子供のころの何たら菌みたいな感じでな。

 そのころに比べると今は本当に恵まれているよ。

 

 イヤホンについてだが一応、片耳だけにイヤホンを付けて会話は聞けるようにしている。

 急に相澤先生が何か言いだすかもしれないし

 というか、響香のイヤホンジャックってイヤホンの代わりに使えるんだな。

 耳をふさがずに音を聞けるっていうのは少し羨ましいな。

 隣の芝生は青く見えるというが、本当にそう思う。

 都市伝説の人の個性を奪える個性というものがあれば欲しものだ。

 奪うという前提条件なため、ほぼ確実にヴィラン落ちすると思うけどな。

 大きな力を手に入れるためなら人は簡単に捨てることが出来るのだよ。ワトソン君。

 

「私、思ったことは何でも言っちゃうの。緑谷ちゃん」

 

「あ!?はい!?蛙吹さん!!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで、あなたの個性オールマイトに似てる」

 

「!!!」

 

「そそそそそうかな!?いや、僕はそのえ──」

 

「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトはケガしねぇぞ。似て非なるアレだぜ?」

 

 緑谷…………個性について聞かれただけで動揺しすぎだろ。

 そんなにオールマイトに似ていると言われて嬉しかったのか? 

 もはや尊敬を通り越して崇拝じゃないか? 

 部屋にオールマイトの像が飾ってありそうだなぁ。

 いや、間違いなく何体かのフィギュアはあるな。

 にわかファンというレベルの俺でさえ、それくらいはあるもの。

 オールマイトのではなくホークスやリューキュウのものだがな。

 勿論、二人からの贈り物だ。

 俺の誕生日に兄さんが面白半分で送ってきてそれに姉さんが対抗する形で増えていった。

 

「しかし増強型のシンプルな個性はいいな!!派手で出来る事が多い!! 

 俺の硬化は対人じゃ強ぇけど、いかんせん地味なんだよな──」

 

「僕はすごくかっこいいと思うよ。プロにも十分通用する個性だよ!!」

 

「プロなー!!しかしやっぱヒーローも人気商売みてぇなとこあるぜ!?」

 

「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み⭐︎」

 

「でもお腹を壊しちゃうのはヨクナイね!!」

 

 あ、青山があっさりと撃墜された。悪意のない純粋な一言ってかなり効くよな。

 しかし、人気商売か…………ヒーロー職業の一つだからそういう面があるのは仕方ないんだよな。

 ランキング上位の人って基本的にスタイルとか顔がいいし

 ヒーロー以外の副業にも多く手を出しているんだよな。

 あのエンデヴァーでさえもコーヒーの広告塔になっているくらいだし

 試しに買ってみたら苦すぎて飲めなかったけど

 

「派手で強ぇっつったら、やっぱり轟と爆豪そして海藤だよな!!」

 

「ケッ」

 

「爆豪ちゃんは切れてばかりだし人気でなそ」

 

「んだとコラ出すわ!!」

 

「ホラ」

 

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格って認識されっるってすげぇよ」

 

「てめえのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」

 

「低俗な会話ですこと!!」

 

「でもこういうの好きだ私」

 

「低俗な会話が好きなら早くいってくれよ…………じゃあ、お言葉に甘えて…………」

 

「甘えたら言葉に表せないほどの激痛がその身を走ることになるぞ?」

 

「何でもないです…………」

 

「ナイス悠雷」

 

「爆豪くん、君本当口悪いな!!」

 

「フッ」

 

「何笑ってんだてめえ!!」

 

「悠雷はこういう会話に参加しないんだね」

 

「こういうのは外から眺めているほうが楽しいからな。

 そういう響香だって会話に参加していないだろう?」

 

「ウチは話しかけられたら参加するスタンスだから」

 

「俺もだいたいそんな感じだ」

 

「もう着くぞ、いい加減にしとけよ…………」

 

「「「「「ハイ!!」」」」」

 

 相澤先生の鶴の一言で皆が静まり、下車の準備を始める。

 いままで、ヒーロー以外の職業を考えたことはなかったが先生とかもやりがいがありそうだな。

 兄さんが理想とするヒーローが暇を持て余す社会を作るのにも役立ちそうだし

 ヒーローオンリーと違って収入も安定してそうだしな。

 

「すっげ──────!!USJかよ!!!」

 

「水難事故、土砂災害、火事…………etc…………

 あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。

 

 その名も────ウソの災害や事故ルーム!!」

 

(((((USJだった!!)))))

 

「スペースヒーロー「13号」だ!!救助活動でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!!」

 

「わ──私好きなの13号!!」

 

 ん?何かを相澤先生と話してる?生徒には聞かせられない話か? 

 

 遠くてよく聞こえないが…………「仮眠室で休んでる?」だって? 

 それに指を三本立てているしどういうことだ? 

 オールマイトがいないのは休んでいるからなのだろうか? 

 ナンバーワンヒーローなのだからそりゃ忙しいか。

 ヒーロー活動を終えた後の姉さんは生きる屍みたいなことも多かったし

 俺らが指導を受けることができるというのがすでに異常なレベルだからな。

 あの動画を見たものとしてオールマイトから教わりたかったが仕方ないな、残念。

 

「えー始める前にお小言を一つ二つ…………三つ…………四つ…………」

 

(((((増える…………)))))

 

「皆さんご存じかと思いますが、僕の個性はブラックホール。

 どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

「その個性でどんな災害からでも人を救い上げるんですよね!!」

 

 麗日の首がすごいスピードで動いてる。

 もはや残像が見える勢いじゃないか?首取れたりしないよな? 

 

「ええ…………しかし簡単に人を殺せる力です。皆さんの中にもそういう個性がいるでしょう。

 超人社会は個性の使用を資格制にし、

 厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。

 しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる

 いきすぎた個性を個々が持っていることを忘れないでください。

 相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、

 オールマイトの対人訓練でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。

 この授業では…………心機一転!!人命のために個性をどう活用するか学んでいきましょう。

 君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。

 助けるためにあるのだと心得て帰って下さいな。

 以上、ご清聴ありがとうございました」

 

「ステキー!!」

 

「ブラボー!! ブラーボー!!」

 

 13号先生かっこよすぎかよ。最光だな。

 とりあえず帰ったら13号先生のアカウントをフォローしなきゃ。

 個性の危険性は兄さんや姉さんからも教えられていたが、

 ブラックホールという個性の13号先生が言うとやはり説得力が違うな。

 

「そんじゃあまずは…………」

 

 相澤先生がそこまで言ったとたん、背筋に悪寒が走る。

 どうやら嫌な予感は外れてくれなかったようだ。

 広場のほうを見ると何もない空間から突如として何十人ものヴィランが現れた。

 あの人数を集めるだなんてどれほどの組織なんだ?

 そんな大規模な組織が存在しているだなんて…………

 

「ひとかたまりになって動くな!!」

 

「え?」

 

「13号、生徒を守れ!!」

 

「何だアリャ!?また入試の時みたいにもう始まってるパターン?」

 

「動くな、あれはヴィランだ!!!!」

 

「13号に…………イレイザーヘッドですか…………

 先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいるはずなのですが…………」

 

「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

 

「どこだよ…………せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ…………

 オールマイト…………平和の象徴…………いないなんて…………子供を殺せば来るのかな?」

 

 あの手だらけの奴が今回のリーダーか?

 隣にいる黒い霧に包まれたやつの個性でここに侵入してきたのだろう。

 とても珍しいワープ系の個性が敵の手の中にあるなんて…………最悪だ。

 …………脳がむき出しのあいつからかなり濃い死臭が漂ってくる。

 あいつは確実に数人は殺している。

 個性は身体強化の類だろうか?

 見た感じかなりの筋肉量なのでそうでなくとも脅威には違いない。

 

 奇しくも俺達の命を救うための訓練時間に奴らは現れた。途方もない悪意を身に纏って

 嫌な予感は外れてくれなかったか…………フラグはへし折るためにあるんじゃなかったけ?

 

「敵ッツ!?バカだろ!?ヒーローの学校入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!!」

 

「先生、侵入者用センサーは!!」

 

「もちろんありますが…………!!」

 

「どうやらそういうことのできる個性がいるようだな。

 電話や個性で連絡を試してみたが、妨害されている」

 

 普段なら衛星通信が可能な端末を持っているのだが、今はない。

 まさか授業中にヴィランの襲撃に会うなんて思わないだろ。

 連絡出来たところで数分間は耐え凌がないといけないにしろあった方が絶対にいい。

 なんで俺はそれを置いてきてしまったんだよ…………馬鹿か?馬鹿なのか?馬鹿だわ。

 

「現れたのはここだけか学校全体か…………校舎と離れた隔離空間。

 そこに少人数が入る時間割…………バカだかアホじゃねえ。

 これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

「13号、避難開始!!海藤、連絡を試し続けろ。上鳴、お前も個性で試せ」

 

「はい!!」「っス!!」

 

「先生は一人で戦うんですか!?あの数じゃいくら個性を消すって言っても!! 

 イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ!!正面戦闘は…………」

 

「覚えとけ緑谷。一芸だけじゃヒーローは務まらない」

 

「相澤先生!!あの脳がむき出しの奴から嫌な感じがします。

 ただの勘ですが、気を付けてください!!」

 

「お前のそういう勘はよく当たるらしいからな。

 気に留めておくことにしよう。後の事は13号!!任せたぞ」

 

 相澤先生は広場に飛び降りると、個性を消しつつ相手の連携を妨害していく。

 こんな時ほど自分がただの生徒の一人であることが悔やまれるな。

 せめて仮免だけでも持っていれば。一緒に戦えるのに………………

 あの島で一人生き残ったからか、本能で死臭を感じ取れるようになっている。

 間違いなくあの怪人の近くで誰かが死んでいる。

 相澤先生がやられなければいいんだが…………どうも不安だ。

 

「させませんよ」

 

 相澤先生にその場を任せて逃げようとする俺達の目の前に黒い影を纏ったヴィランが現れた。

 こいつが間違いなくワープの個性持ちだ。

 こいつを倒すことが出来れば戦況を有利に進められないか?

 見た感じ実体がないのか?物理でダメージを与えるのは難しいと考えていた方が良さそうだ。

 

「初めまして、我々は敵連合。

 せんえつながら…………この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは

 平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして

 本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ…………

 ですが何か変更があったのでしょうか? 

 まぁ…………それとは関係なく…………私の役目はこれ──」

 

 そこまで奴が言ったところで切島と爆豪の2人が攻撃を仕掛ける。

 切島の硬化で強化された拳と爆豪の爆破が襲いかかるが効いてないようだ。

 ワープゲートか何かで攻撃を受け流したか? 

 二人の攻撃が当たったのはどちらも靄の部分。

 もしかしたらだが、それ以外のところなら攻撃が通るのではないか? 

 

「それまでに俺たちにやられることは考えてなかったか!?」

 

「危ない危ない…………そう…………生徒といえど優秀な金の卵──」

 

「ダメだどきなさい2人とも!!」

 

 不味いな。2人が先生の射程にいる。このままでは先生が攻撃できない。

 俺も攻撃したいが、ここからだと遠距離攻撃以外は出来ないし

 どうしても切島か爆豪に当たってしまう。

 それに近距離からの攻撃は恐らく間に合わないうえに避けられてしまうだろう。

 

『散らして、嬲り殺す』

 

 黒い霧を纏ったそいつが放った

 その言葉を最後に霧に包まれて目の前が真っ暗になった…………

 




次回は戦闘シーン多め!!乞うご期待!!
感想と評価をよろしくお願いします!!


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第6話 ヴィラン強襲!!USJ事件!!後編

前回の続きです!!今回は戦闘シーン多め!!
表現がうまく伝わらなかったら感想で聞いてくれればと思います。
普通に三連休だと思っていたんだよなぁ......


 山岳ゾーンにて

 

 ウチはあの黒いヤツの霧に包まれてこの山岳ゾーンに飛ばされた。

 ここに飛ばされたのはウチとヤオモモだった。

 多分だけど、霧に包まれたときに近くにいた人と纏めて飛ばされたみたい。

 こんなことなら悠雷の隣にでも立っているべきだった。

 でも、一人じゃないのは嬉しい。

 ヤオモモは一番仲の良い女子だし、頭もいいからとても頼りになる。

 

「耳郎さん!!無事ですか?」

 

「うん、無事だよ!!ここにはヤオモモとウチだけみたいだね」

 

 こちらに向かってきたヤオモモと状況の確認をしていると辺りをヴィランに囲まれてしまった。

 敵に数を知るために、索敵をしようとすると上からの叫び声をあげて誰かが落ちてきた。

 ヴィランかと思って警戒したけれど幸いなことに上鳴だった。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

「もう1人追加だね。ほら上鳴!さっさと立つ!!」

 

 こんな時だからこそ、上鳴がいて良かったと思う。

 ウチとヤオモモだけだと正直言って制圧力が足りないからね。

 ただ、上鳴にそのまま放電させるとウチ等も巻き込まれるから使いどころに困る。

 そこはヤオモモが妙案を思いついてくれるのを祈るしかない。

 ウチにはそんなことできないし…………悔しいけど。

 

「ああ、良かった他にも人がいて、って囲まれてる!!」

 

「耳郎さん、これをお使いください!!」

 

「ありがとうヤオモモ!!」

 

 ヤオモモが作ってくれた剣を構えてヴィランと相対する。

 周りを索敵してみたが、相手側の数は軽く30を超えている。

 軽くあたりを見ただけでも既に包囲が完成しているのがわかる。

 これは正面突破は厳しいかもしれない。

 でも、この前の戦闘訓練と同じで救援待ちは得策じゃないかもね。

 相手はオールマイトを殺す心づもりで来ているんだからこの場に留まるのではなく

 他の人と…………出来れば広場に行って合流するのが一番だ。

 広場には相澤先生がいるはずだし、他の人達もそう考えるはずだ。

 

「うぅわ!!!」

 

「っ!!」

 

「コエ──!!マジ!!今見えた!!三途の川見えたマジ!!

 なんなんだよこいつらは!!どうなってんだよ!!?」

 

「そういうの後にしよ」

 

「今はこの数をどう切り抜けるかですわ」

 

「つーか、あんた電気男じゃん。悠雷みたいにバリバリっとやっちゃいなよ」

 

「あのな!!戦闘訓練の時見たろ?電気を纏うだけだ俺は!!

 身体強化の仕方は教わったけどまだ未完成で出来ないから!!

 放電したら2人のこと巻き込んじゃうの!!あれだ!!轟と一緒よ!?

 助け呼ぼうにも特製電子変換無線今ジャミングヤベぇしさ

 いいか!?2人とも!!今俺は頼りになんねー!!頼りにしてるぜ!!」

 

「男のくせにウダウダと…………悠雷を見習って行ってこい!!行け!!人間スタンガン!!」

 

「マジかバカ!!」

 

 ウチが蹴とばした上鳴がヴィランに抱き着く形で密着する。

 後先考えずに蹴っ飛ばしたけど、相手がカウンターとかしてこなくてよかった。

 この事は絶対に黙っておこう。

 

「あ、通用するわコレ、俺強え!!2人とも俺を頼れ!!」

 

「軽いなオイ…………」

 

 あっさりと自分の意見を変えた上鳴に呆れているとそれを隙と見たヴィランが突っ込んできた。

 ヤバい、反応が遅れた!!

 

「ふざけてんなよガキィ!!!」

 

「ぐああ!?」

 

「!?」

 

「アミ!?」

 

 それ等をヤオモモが創った網やらで無力化する。

 ダメだね敵の前で油断するなんて、まだまだ敵は残っている。

 最後まで気を抜かずにやろう。

 せっかくヒーローらしくヴィランとの戦闘ができる機会に恵まれたんだから

 

 こちらに向かってくるヴィランを剣で牽制して、心音で攻撃する。

 この前の戦闘訓練で言われたことだけど、やっぱり威力が足りない。

 このままではジリ貧だ。

 

「お二人とも真剣に!!!」

 

「ごめん。実際いい案だと思ったんだけど…………にしても上鳴あんた…………

 コスチュームに指向性の補助くらい書いとけっつ──の!!」

 

「出来た!!」

 

「へっ!?」

 

「大きなものを創造るのは時間がかかってしまいますの」

 

「シート!?」

 

「盾のつもりか?」

 

「厚さ100mmの絶縁体シートです。上鳴さん」

 

「──なるほど、これなら俺は…………クソ強え!!」

 

「「「「「ぐああ!!!」」」」」

 

「さて…………他の方々が心配…………合流を急ぎましょう」

 

「つか服が超パンクに…………発育の暴力…………」

 

 上鳴の放った雷の影響か、ヤオモモのコスチュームが破ける。

 にしても同年代なのにどうしてここまでの差ができるんだろうか?

 アレか?食生活なのか?

 金持ちなヤオモモは小さい頃からいいもの食べていたからなの?

 別にウチは裕福って訳でもないし、貧乏でもない普通の家。

 ヤオモモほどいいものは食べていないけれどそれなりのものは食べているはず。

 やっぱり遺伝子なのか?もう大きくならないのかな…………

 

「また創りますわ」

 

 あそこまで大きいと人目に晒しても何も寂しくないんだろうな。

 やっぱり羨ましい。

 女子としてこの悩みは誰でも持つものだと思う。

 

「ウェーイ!!」

 

「何があった!?」

 

 放電したからあほになったのかな?

 悠雷もこんな感じになったりするのかな?今度聞いてみよう。

 基本的に落ち着いた雰囲気を纏っている悠雷が

 こんな感じになるのは正直言って想像がつかないけど一度でいいから見てみたいな。

 それと一応、周囲の索敵をしておこうかな。

 勝ったと思った瞬間が1番隙が生じるって言ってたし、先日の戦闘訓練の反省を生かさないと

 

「ん?待って1人まだ動いてる!!上鳴後ろ!!」

 

「お任せを!!」

 

「ナイスヤオモモ!!」

 

 ヤオモモが創った網が上鳴に迫っていたヴィランを退ける。

 ここで上鳴を人質に取られなくて良かった。

 でも、どうやってあの放電を回避したんだろうか?

 

「チッ、ソイツを人質にするつもりだったのによくもやってくれたなぁ!!」

 

「アンタ、あの放電をどうやって回避したの?」

 

「土に潜って回避したんだよ。

 ここに来た高校生を甚振るだけって聞いていたのに全然話が違うじゃねーか!!」

 

「ベラベラと喋るけど、ウチだけを見ていていいの?」

 

「あ?」

 

「耳郎さん!!時間稼ぎありがとうございます!!」

 

 ウチがヴィランに話しかけて時間を稼いでいる間にヤオモモに大砲を作ってもらった。

 こんな簡単な手口に引っかかるとは思ってなかったから少し拍子抜けしたかもしれない。

 もう1度索敵してみたけど、もう山岳ゾーンに敵はいないみたい。

 

「ここにはもう敵はいないみたい。広場の方に向かって相澤先生達と合流しよう!!」

 

「その案に賛成ですわ!!行きましょう!!」

 

「ウェーイ!!」

 

 ウチ等は苦戦したが何とかヴィランを撃破した。

 ほかの人たちもきっと大丈夫だよね?

 

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 同時刻、水難ゾーンにて

 

 

 俺は黒い奴の霧に包まれてどこかに飛ばされた。

 …………ここは水難ゾーンか?

 ここに飛ばされたのは緑谷と峰田、梅雨ちゃんか。

 梅雨ちゃんが緑谷のところに向かったのが見えたから俺は峰田を助けるか。

 ついでに近くのヴィランを蹴り飛ばしていこう。

 

「峰田。動くなよ、持ちにくいからな」

 

 峰田を担いで船の方に向かう。

 梅雨ちゃんも予想通りそっちに向かっているようだ。

 相手の個性が分からない以上、ここで様子見する方がいい。

 俺の全力の場合、間違いなく水中にいるもの全てを巻き込んでしまうからな。

 味方も巻き込んでしまう可能性がある以上、今は使うべきではないだろう。

 

「海藤君!?」

 

「海藤ちゃんもここだったのね」

 

「峰田の事も忘れてやるなよ」

 

「…………出来る事なら助けてもらうのは女の子が良かった…………」

 

「こんな状態に関わらずその姿勢を貫いているのは尊敬の意を向けるが、

 それとこれとは話が別だ。取り敢えず落とすぞ」

 

「何でもないです!!その手を放してください!!」

 

「カリキュラムが割れていた…………!!

 単純に考えれば、先日のマスコミ乱入は情報を得るために奴らが仕組んだってことだ。

 轟君が言ったように虎視眈々と…………準備を進めてきたんだ」

 

「でもよでもよ!!オールマイトを殺すなんてできっこねえさ!!

 オールマイトが来たらあんな奴らケチョンケチョンだぜ!!」

 

「峰田ちゃん…………殺せる算段が整っているから連中こんな無茶してるんじゃないの?

 そこまでできるっていう連中に私たち嬲り殺すって言われたのよ?

 オールマイトが来るまで持ちこたえれるのかしら?

 オールマイトが来たとして無事で済むのかしら?」

 

「…………!?みみみ緑谷ぁ!!海藤も黙ってないで何か言ってくれよ!!」

 

 俺たちがこれからどう動くかを話していると水中からヴィランが顔をのぞかせる。

 

「んのヤロォ!!殺してやる!!」

 

「大漁だぁぁぁ────!!!」

 

「奴らにオールマイトを殺せる算段があるなら

 僕らが今…………すべきことは戦って阻止すること!!」

 

 さて、この後どうしようか?

 脳が剥き出しの奴と腕を付けた奴、それとさっきのワープの奴はヤバいな

 ここにいるヴィランを見て確信したが、相澤先生だけでは対処出来ない可能性が非常に高い。

 ここにいるのはどれもチンピラ程度だ。

 こいつらから一切死臭がしないから、それ程の驚異ではない。

 ここからはなるべく早く戻った方がいいだろう。

『散らして嬲り殺す』と言っていたからな。

 単騎撃破をされる事が1番最悪な状況だ、それだけは避けたいな。

 幸いにしてここは水難ゾーン。

 水深も十分あるし、個性をフルに使って速攻で向かわして貰おう。

 

「梅雨ちゃん、2人を連れて先に広場に向かってくれ、俺は一暴れしてくる」

 

「何が戦うだよバカかよぉ!!

 オールマイトブッ倒せる奴らかもしれねー奴らなんだろ!?

 矛盾が生じてんだよ海藤!!

 雄英ヒーローが助けに来てくれるまで大人しくが得策に決まってらい!!」

 

「あいつらは正直言って危険分子たり得ない」

 

「でも、海藤君1人だと危険だよ!!ここはみんなで力を合わせて…………」

 

「俺の個性のフルパワーだと、この船も一緒に巻き込んでしまう。

 みんなが先に向かってくれたら俺も安心して戦える」

 

「海藤君…………」

 

「わかったわ。気を付けてね」

 

「辞めとけよ海藤!!無茶だよ!!いくらお前が強くてもひとりじゃ無理だって!!」

 

「ヒーローは不可能を可能にするのが仕事だろ?ならPlus ultra!!限界を超えていこう」

 

 そう言って俺は水に飛び込みながら個性を発動させる。

 水中に着いた頃には俺の身体は本来の姿に、海竜の姿になっていた。

 頭部後方に伸びる巨大な角、美しく蒼く光る外殻。

 この世界にはいかなる伝承すら存在しない大海の王がそこにいた。

 

『GUAAAAAAAAAA!!!』

 

「なんなんだよ、このバケモノ!」

 

「嘘だろ、勝てっこないって!!」

 

 バケモノね…………そう言われても仕方がないか。

 まあ、ここに来てしまった自分を恨むといいさ。

 俺は大きな円を描くようにして、泳ぐ。

 個性を使い水流を操り、大きな渦を形成する。

 その渦にヴィラン達は巻き込まれていき、当たりを幻想的な蒼い雷が飛び交う。

 その光が収まった頃にはヴィランは全員気を失っていた。

 

「すげぇ…………」

 

「これが海藤君の個性…………」

 

「圧倒的ね…………」

 

 水中だからか電気系の個性を持っている奴もいないようだ。

 電気系の個性を持つものならばこの雷を耐える可能性があるからな。

 だが、居ない以上ここにとどまる必要はもうないな。

 広場に向かい、相澤先生と合流するのが最善だろう。

 

『お前ら乗れ、相澤先生のいる広場に向かうぞ』

 

 俺は梅雨ちゃんに掴まり、空を跳んでいた3人を乗せると

 相澤先生がヴィランと戦っている広場に泳いで行った。

 

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 広場では相澤先生が一人で大勢のヴィランを相手取っていた。

 そして、ついに敵の首領と思われるヴィランが動いた。

 

「23秒」

 

「本命か」

 

「24秒、20秒」

 

「ちっ!!」

 

 ヴィランを捕らえようと捕縛武器を投擲するが、相澤先生の捕縛武器がヴィランに摑まれる。

 

「17秒…………動き回るのでわかりずらいけど、髪が下がる瞬間がある。

 一アクション終わるごとだ。そしてその間隔はだんだん短くなっている。

 無理をするなよイレイザーヘッド」

 

 顔面に膝蹴りを入れるが、膝をつかまれ手で腕に触れられる。

 

「────っ!!」(腕が崩された!?)

 

「その個性じゃ集団との長期決戦は向いてなくないか?普段の仕事と勝手が違うんじゃないか?

 君が得意なのはあくまで「奇襲からの短期決戦」じゃないか?

 それでも真正面から飛び込んできたのは生徒に安心を与えるためか?

 かっこいいなあ、かっこいいなあ。ところでヒーロー、本命は俺じゃない。

 ────対平和の象徴…………怪人脳無」

 

 対オールマイト用の怪人の脳無が

 相澤先生を襲う直前に竜化したままの悠雷が突っ込みそれを阻止した。

 乗っていた緑谷達は振り下ろされたが

 咄嗟に梅雨ちゃんが捕まえ2人を13号先生の元まで連れて行った。

 

『やらせるわけないだろう?』

 

「ッ!!なんなんだよコイツ!!」

 

「海藤か!?」

 

『相澤先生、こいつは俺が引き受けます!!』

 

「すまない…………他の奴らは任せろ」

 

「なんなんだよお前!!そいつは対オールマイト用の怪人だぞ!!

 なんで攻撃を受けて平然としているんだよ!!」

 

『俺の鱗がその程度の攻撃で傷つくわけないだろう!!』

 

「ふざけるなクソトカゲ!!やれ脳無!!」

 

 脳無の攻撃が悠雷を襲う。

 第三者が見れば互いに全く攻撃が効いてないように見えるだろう。

 だが、悠雷は内心でかなり焦っていた。

 悠雷の身体に生えている鱗と甲殻はかなりの硬度を誇り、大抵の攻撃は受け付けない。

 

 ──しかし脳無の打撃はそういかない。

 今は耐えることができるがこのまま攻撃を受け続ければ鱗と甲殻は破壊されるどころか

 立つことすらままならなくなってしまうだろう。

 攻撃自体よりも当たることにより蓄積されるダメージの方が辛い。

 自らの細胞を活性化させて治癒力を高めるがこのままでは危ない。

 

 リューキュウのような存在が倒れることは残された者たちに大きなショックを与えてしまう。

 大きな力を持つ者は精神的な支柱だ。

 だから、今は絶対に倒れるわけにはいかない。

 こちらが倒れるまでに相手を倒さなければならない。

 相澤先生が皆を安心させるために1人で突っ込んで行ったように

 ここでオールマイトが来るまで暴れ回り、皆を鼓舞しなければいけない。

 

 そのため先程から嚙みつきやタックルで攻撃しているが効いているように見えない。

 攻撃に対しての耐性が高いのか?それとも、当たったそばから回復しているのか?

 蓄電されている電気が足りないために攻撃に雷を乗せることはできない。

 

『…………なんで効いてないんだ!?』

 

「…………効かないのはショック吸収だからだ。

 嚙みつきを食らっても再生するのは超再生の個性も持ってるからだ。

 脳無にダメージを与えたいならゆうっくりと肉をえぐり取るとかが効果的だね…………

 それをさせてくれるかは別として

 対オールマイト用のサンドバックだ。お前に倒せるかな?」

 

『吸収に超再生なんだろ?個性である以上必ず限界があるよな!!』

 

 悠雷は手を止めることなく攻勢に出る。

 他のヴィランは相澤先生が相手してくれるために気にする必要はない。

 この死柄木とかいう奴は不安要素だが、今のところ参戦してくる気はないようだ。

 

「なんでそんなに脳無の攻撃を食らって平気なんだよ!!」

 

『ただ身体が丈夫にできているだけだ!!』

 

「ふざけんな!脳無!!そいつをさっさとブチこr…………チッ!!邪魔するな!!」

 

『響香!?ヤオモモ!?』

 

「こいつはウチ等で抑えるから!!」

 

「海藤さんだけに戦わせてられませんわ!!」

 

「ウェーイ!!」

 

 凄く助かるが上鳴何があった!?

 響香とヤオモモがいるならば死柄木を気にする必要ももうない。

 全力でこの脳無を倒すことが出来るようになる。

 近くの水難ゾーンにある大量の水を水の刃にして四肢を切断する。

 

『陸上でなら決定打にかける…………だが、水中ならどうだ?』

 

 俺は脳無の胴体に噛み付くと水難ゾーンに引きずり込む。

 やはり、こういった敵には陸よりも水中で戦った方が効率がいい。

 オールマイトを待つならば陸でもいいんだけども

 効率よく戦えるフィールドが有るならば、そこで戦おう。

 水の中に引きずり込んだ脳無の胴体に食らいつくと

 ワニが獲物を仕留める要領で、身体を回転させる。

 いかに再生が出来ようともコイツも生物の枠組みを超えてはいない筈だ。

 どうしても生命維持のために呼吸は必要だろ?

 脳無は俺の顎から逃れようと足掻いていたが、しばらくすると動かなくなった。

 窒息から気絶したらしい…………一応、死んではいないと思う。

 

「噓だろ?対オールマイト用のサンドバックがやられた!?チートがぁ!!」

 

「余所見とは余裕だね!!」

 

「脳無の心配よりもご自分の心配をした方がよろしいと思いますわ!!」

 

「ッ!!クソガキがぁ!!」

 

 俺は脳無を水中に沈めると死柄木を仕留めるために陸に上がる。

 しかし、前に出ようとした俺の前に空気中からヘドロのようなものが湧き出てきた。

 明らかに個性の類…………死柄木は手で触れたものを崩壊させ、

 黒霧と呼ばれたヴィランはワープの個性の持ち主だ。

 ここに来てヴィランの増援か?

 しかしなんで今なんだ?脳無がやられて事を知ってなのか?

 

『あれはなんだ?』

 

 あの個性を使っている奴から悍ましいほどの死臭がする。

 本能が警鐘を鳴らしている…………こいつと絶対に関わってはいけないと

 

「…………先生?」

 

 ヘドロから出てきたのは先程沈めてきた脳無と同じようだが、少し違う。

 先程の個体よりもさらに大柄で首からラジオのようなものを下げている。

 そのラジオから録音されたであろう音声が流れだした。

 

『やあ弔、大丈夫かい?』

 

 先生?あいつが今回の主犯じゃないのか?

 今回のあいつは切り込み隊長か捨て駒か…………

 こんなヤバいやつを送ってくるなら後者は有り得ない。

 

『この脳無は君に渡した脳無がやられたときに出動するようにしている。

 この脳無は先程の脳無よりもより強い体に調整したが、

 君に渡した脳無がやられるような状況ならば今の君にはまだ早い。

 一度帰ってくるといい、この敗北は無駄にならない。きっと君にのためになる』

 

 ラジオに録音されたであろう音声が再生され、終わるとラジオは自壊した。

 ラジオが自壊した直後、新たな脳無が行動を始めた。

 その脳無の攻撃は先程の脳無よりも早く重かった。

 

「死柄木弔。ここは指示に従い撤退しましょう。

 与えられた脳無が倒されたこの状況でここに残る意味はありません!!」

 

「そうだな、ゲームオーバーだ。

 クソトカゲ共覚えとけよ…………次は必ず殺す!!」

 

「あ!!待て!!」

 

「待ちなさい!!」

 

 俺が脳無に殴られた事で生じた隙をついて死柄木と黒霧は撤退した。

 それを響香とヤオモモ、相澤先生が追おうとしたが、既に遅く逃げられてしまった。

 俺はというと脳無の攻撃を真面にくらってしまい、大きく吹き飛ばされていた。

 この脳無が本命なのではないかと思うくらい、強い。

 オールマイトを殺す算段というのは恐らくこれだ。

 脳無はヤオモモに狙いを定めたらしく襲いかかったが、

 俺も相澤先生も助けに入る事が出来る距離にいない。

 絶体絶命と思われたが、そこに大量の氷が襲いかかった。

 

「轟さん!!」

 

 氷によって怯んだ脳無に空中から爆豪が追撃を与える。

 切島の攻撃も命中し、脳無の腕を切り裂いた。

 

「てめェがオールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた。

 平和の象徴はてめェごときにやらせねえよ」

 

「スカしてんじゃねえぞ!!大人しく、俺に殺されろやクソが!!」

 

「お、攻撃当たった!!てかこいつ何なんだよ!!」

 

「黙ってろクソ髪、こいつがあいつらの切り札なんだろ?クソトカゲ!!」

 

「は?え、お前って海藤なのか!?」

 

『そうだが、前見ろ。来るぞ』

 

 襲い掛かってくる脳無の攻撃を俺と切島で防ぎ、轟と爆豪が攻撃する。

 轟と爆豪の猛攻も脳無には全く効いているようには見えない。

 氷に閉ざされてもその怪力で突破し、爆破も表面的なものでダメージはそこまで入っていない。

 脳無の攻撃をから2人を守っているために、俺の鱗はもうボロボロだ。

 だが、救援が来るまで倒れる訳にはいかない。

 相澤先生のおかげで、脳無の超再生も封じられているのだから相手にも必ず限界がある。

 

『おい爆豪!!戦闘訓練ときのアレは打てないのか!?』

 

「黙ってろ!!篭手が壊されて打つとリスクがあるんだよクソが!!」

 

『轟…………』

 

「わかってる。俺が動きを止める」

 

 戦闘訓練の時も放った一撃が脳無に直撃した。

 しかし…………

 

「チッ!!無傷かよ…………」

 

「アレを無傷で耐えるのか…………」

 

「気を緩めるな!!お前らまだ終わってない!!」

 

 ガードの上からとはいえ爆豪の一撃が効かなかったことによる

 俺たちの動揺の隙をつかれて切島が殴り飛ばされる。

 

「切島!!」

 

 幸いなことに咄嗟に硬化したため怪我は酷くないが、もう戦えないだろう。

 俺ももう限界に近く、タンクがいなくなった途端に総崩れになるのは目に見えている。

 そんな時、USJの扉が吹き飛ばされた。

 そこから出てきたのは──

 

『もう大丈夫!!何故って?私が来た!!』

 

「オールマイト!!」

 

 ──平和の象徴だった。

 

『嫌な予感がしてね…………校長の話を振り切りやって来たよ。

 来る途中で飯田少年とすれ違って…………何が起きているのかあらまし聞いた。

 もう大丈夫!!私が来た!!海藤少年!!後は私に任せたまえ!!』

 

 その言葉を最後に俺の意識は暗転した。

 

 

 オールマイトが来て、悠雷が意識を失った後

 ウチとヤオモモで悠雷のことを担いで13号先生のいる所まで運んだ。

 あの脳無っていう怪人相手だとウチに出来ることはない。

 せいぜいがオールマイトの邪魔にならないようにするくらい。

 相澤先生と協力してオールマイトは脳無を追い詰めていく。

 他にいたヴィランはウチとヤオモモが来る前に相澤先生が全員倒したからもういない。

 脳無とオールマイトの戦いは圧倒的だった。

 目にも止まらないスピードから放たれる攻撃は容赦なく脳無の体を穿ち

 オールマイト到着から僅か数分でUSJにいたヴィランは全て制圧された。

 相澤先生に13号先生と悠雷が病院に運ばれたけれど、命に別条はないみたい。

 それによりUSJで起こった事件は終焉した。

 

 しかし、その時は誰も知らなかった。

 この襲撃はのちに起こる大事件の始まりに過ぎなかったのだと…………

 




二体目の脳無のスペックはUSJ脳無よりも上ですが、
相澤先生のおかげでオールマイトの負担は原作よりも誤差範囲で小さめです。
ただ、緑谷が個性を使うことがありませんでしたので、
まだイメージをつかむことができていないです。


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第7話 USJ事件終焉とその後

テスト期間なので勘弁してください。
一応、この回でUSJ事件はお終いです。
次回はアンケート結果で考えます。


 二体目の脳無がUSJにてA組の面々にに猛威を振るっていたころ

 どこかの街のとあるバーの中にて…………

 

「って…………何なんだよあの餓鬼ども…………

 手下どもはあっさりやられた…………脳無だってあのトカゲには敵わなかった。

 …………オールマイトを殺すどこらじゃなかった…………話が違うぞ先生…………」

 

『違わないよ…………ただ見通しが甘かったね』

 

『うむ…………なめすぎたな。敵連合なんちうチープな名前でよかったわい

 ところでワシと先生との共作、脳無は?回収してないのかい?』

 

「水の中に沈められました。

 正確な座標位置を把握出来なければいくらワープといえど探すことができないのです。

 生徒とイレイザーヘッドの妨害を受けながらではそのような時間は取ることができなかった」

 

『せっかくオールマイト並みのパワーにしたのに残念…………

 もう一体は長く生命を維持できない失敗作だったからまだいいか』

 

「パワー…………そういえば、オールマイト並みのパワーの攻撃を食らって平然としている奴がいた。

 先生…………そいつはシーサーペントみたいな姿だった…………そいつの事を知らないか?」

 

『知っていると思うよ。恐らくは海藤悠雷だね。

 でも、今の君にはまだ話すことができない。君がもっと成長したら彼の事を話してあげよう』

 

「あいつさえいなければ、イレイザーヘッドも餓鬼も何人か殺せていたんだ!!

 あいつは必ずこの手で殺してやる…………」

 

『悔やんでも仕方がない!!今回の事だって決して無駄にはならないハズだ。

 精鋭を集めよう!!じっくり時間をかけて!!我々は自由に動けない!!

 だからこそ君のようなシンボルが必要なんだ!!

 死柄木弔!!次こそは君という恐怖を世に知らしめよう!!』

 

 その後、バーに置かれたテレビは沈黙し、死柄木は負った傷を癒やすために奥に下がった。

 先生と呼ばれた人物は数年前に見たことがあるラギアクルスが

 オールマイトがいる雄英にてヒーローになろうとしていることを知り、笑う。

 

 死柄木弔の成長には彼の様な強敵がいるべきなのだから…………

 死柄木弔が彼のことをどうするのか…………それを考えるだけで面白い。

 敵として殺すこともよし、仲間に引き入れようとするのもいい。

 彼の過去はこの時のために用意したといっても過言ではない。

 ヒーローとして成長していくなら、あの脳無か、彼をぶつけてみるのも面白い。

 

 これから、彼らがどう動くのかそれがとても楽しみだ。

 魔王はこれから起こることに対して笑みを深める。

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 

 俺は脳無と戦い、オールマイトが到着した時点で意識を失った。

 なのでここから話すのは後で響香から聞いた話である。

 

 オールマイトが到着した後、

 雄英の教師陣と警察も到着し残っていたヴィランは全員逮捕された。

 幸いにして死者はゼロ…………怪我人こそ出たが最悪の結果は逃れることができた。

 

「16…………17…………18…………全身負傷の彼を除くとほぼ全員無事か…………」

 

「尾白君…………今度は燃えてたんだってね。一人で…………強かったんだね」

 

「皆一人だと思っていたよ俺。

 ヒット&アウェイで凌いでいたよ…………葉隠さんはどこにいたんだ?」

 

「土砂のとこ!!轟君クソ強くてびっくりしちゃった!!」

 

「なんにせよ無事でよかったね」

 

(凍らすとこだった危ねえ…………)

 

「僕がいたところはね…………どこだと思う?」

 

「そうか、やはり皆の所もチンピラ同然だったか」

 

「ガキだとナメられてたんだ。常闇も一人だったんだろ?大丈夫だったのか?」

 

「愚問。俺にはこのダークシャドウがいる。何も問題ない」

 

「どこだと思う!?」

 

「どこ?」

 

「秘密さ!!」

 

「取り敢えず、生徒たちは一旦教室に戻ってもらう。

 すぐに事情聴取という訳にもいかんだろ」

 

「刑事さん。13号先生は………………」

 

「背中から上腕にかけて裂傷がひどいそうだが、命に別条なしだそうだ。

 オールマイトも相澤先生も保健室で対処可能だそうだ」

 

「悠雷はどうなんですか?」

 

「海藤、俺らのために体張ってボロボロに…………」

 

「また、海藤ちゃんに助けられちゃったわ」

 

「彼に関しては肉体の損傷がひどいが

 幸いなことに彼自身の再生能力のおかげで十分な休養で回復するそうだ。

 明日辺りには面会の許可が下りると思うから、面会に行ってあげるといい」

 

「良かった…………」

 

 その後、生徒は教室に帰還し事情聴取を受け帰宅した。

 翌日は安全面の確認等で休みとなった。

 その日の夜に面会の許可が出たらしく

 代表としてクラスで一番親しい響香と

 教師陣から今後の説明のために相澤先生が来ることになったらしい。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 悠雷はUSJにて意識を失った後、最寄りの病院へと輸送された。

 目に見える形での怪我はついた時点ですでに完治していたが、

 内臓などへのダメージが残っている上に、

 意識が戻っていないために一日ほど様子見で入院することになった。

 悠雷が目を覚ましたのは深夜の事だった。

 

「…………知らない天井だ」

 

 …………ここは病室か?

 確か、脳無と戦っていてオールマイトが来たことで安心して意識を手放したんだっけ

 あの後どうなったんだろうか?

 オールマイトが来たからには万が一はないと思うが、

 あの脳無がさらに数体送られてきていたらヤバいかもしれない。

 俺が敵のラスボスならば、間違いなくそうする。

 もしかしてだが、今回では殺す気は無かったのだろうか?

 あの脳無を2体同時に送れば、まったく違う結末が待っていたことだろうし

 ラジオから先生とか言われていたやつがなんか言ってたし

 今回は死柄木弔の成長が目的だったのだろうか?

 ヴィランの思考は様々だ。考えても結論は出なさそうだ。

 相澤先生も聞いていたし、プロヒーローがなんとかしてくれるだろう。

 

 取り敢えず、ナースコールをしておこう。

 スマホを手に取ってみると着信数がヤバいことになっている。

 しかも7割が兄さんと姉さんとおまけ程度にサイドキックの皆さんなんだけど.

 嬉しいけど、仕事に支障とか出てたら笑えない。

 取り敢えず、全員に返信しておこう。

 もう夜遅いが、クラスのみんなにもしっかりと返信しておこう。

 目の前でぶっ倒れたから心配をかけたと思うしね。

 

 しばらく待つと、病室に白衣を纏った老人が入ってきた。

 ナースさんじゃないのな、普通に残念。俺が押したのはドクターコールだったようだ。

 

「どうやら目が覚めたようじゃな。身体の調子はどうかね?」

 

「日常生活を送る分には問題ないかと思います。皆はどうなったか知っていますか?」

 

「まずは落ち着け、ワシの名前は殻木球大じゃ。この病院の理事長をやっておる」

 

「個性研究で有名なあなたがなぜ私のところに?」

 

「そう警戒するでない。ワシが来たのはお前さんの身体について話すためじゃ」

 

「…………私の身体ですか?」

 

「そうじゃ、お前さんははっきり言って異常。

 個性届に登録されたものの時点で周りを凌駕するものだが、

 今回、命にかかわる戦いをしたからか個性因子が異常なほどに活性化しておる。

 生存本能とでもいうべきものかの。個性因子は数年前に取られたデータを遥かに凌駕しておる。

 この先しばらくは全力で使ってはならない」

 

「そうですか…………もし、使えばどうなりますか?」

 

「これは推測に過ぎないが、理性を失い本能のままに暴走する。

 まぁ、いくらヒーロー科といえどそこまで使う機会も少ないじゃろう。

 これは気にかけておく程度でよい」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

 理性を失って本能のままに暴走って危険すぎない?しばらくは竜化しない方がいいかな?

 でも、雄英体育祭があるんじゃなかったけ?

 その時はアピールするために使わないとな。

 ただ、爆豪と戦うときはもしかしたら使うかも知れないな。

 間違いなく手を抜くと切れるだろうし

 でも部分的な竜化の完全版は見せたこと無いし、それで相手できないかな?

 テレビの前で暴走なんてしてしまってはこれからのヒーロー人生が終わってしまうからね。

 

「ホッホッホ、よいよい。ただ、違和感を感じたらすぐに来なさい。いいね?」

 

「はい」

 

「ではワシはこれで失礼するとしよう。しっかりと眠っておきなさい」

 

 なんか嫌な予感がしたから警戒してしまったが、悪い人ではなさそうだな。

 警戒すると一人称が変わってしまうのは何とかしないとな。

 多分だけど、殺気も漏れ出ていたと思うし

 というか、結局のところどうなったかわからないんだけど…………

 ナースさん知ってたりしないですか?

 え?知らないんですか…………やっぱりそうですよね…………

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 悠雷の病室から去ったあと殻木は自らの研究室に向かった。

 その部屋では表には出すことが出来ない物が大量にあった。

 個性を研究してきた彼の集大成とも呼べるものがそこにはあった。

 

『ドクターどうだったかな?』

 

「想像以上じゃった。下手したらマキアと張り合えるレベルまで成長するかもしれん…………

 あのような逸材は見たことがない。是非とも仲間に引き入れたいものじゃ」

 

『そこまでかい…………これは計画を一部変えた方がいいみたいだね。

 弔にはもしかしたら荷が重いかもしれないね』

 

「そうじゃのう…………かつて研究していたころに

 こっち側に引き入れることが出来ていればよかったのじゃが…………」

 

『悠雷の母親の妨害が無かったらそうなっていたかも知れないね。

 いくら本腰を入れていなかったとはいえ、

 こちら側が向かわせた刺客が使い物にならなくなるなんて初めてだったよ。

 あの島で亡くなってしまったのが本当に惜しいね』

 

「個性には頼ることなく、人の心を掌握して意のままに操る。

 そんなことが出来る人間はあまりいないからの」

 

『彼の父親の遺体は手に入れることが出来てもあまり役には立たなかったからね。

 幸いにも適合性が高かった個体に組み込むことが出来たから

 全くの無駄という訳にはならなかったけれどね。

 無駄話はここまでにしておこう。

 彼が更に上位の存在に進化するのはいつ頃かな?』

 

「だいたい数年後といったところかの。

 死の危険を感じられる極限状態においてはそれが大幅に短縮されるだろうが

 今年中にはちと厳しそうじゃ」

 

『生命の危機にこそ、彼の力はより強くなる。

 弔が後継として足りえることがなかった場合の保険としてなるべく成長させておきたい。

 彼の身体ではワンフォーオールを奪うことはできないだろうが、

 他の器を育てるのには充分すぎる』

 

「実行するならここに運び込まれるのが一番望ましい。

 ワシもアレを研究したいからの」

 

『ああ、勿論さ。僕も彼に早く会いたくなってきたよ』

 

 悪意は社会の闇に隠れ、行動を始めた。

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 助言通りによく眠り、目を覚ますと既に日が昇り切っていた。

 今は何時ごろだろうか?だいたい11時ごろかな?

 いくら疲れていたとはいえ、流石に眠りすぎたかな。

 

「おはよう。よく眠れた?」

 

 ベッドの隣には響香が座って俺の顔を眺めていた。

 なんで?ここはパラレルワールドなのか?

 俺の知らない間に響香とゴールインしていたのだろうか?

 何時の間にかフラグを建築して回収していたようだ。

 

「どうしたの?そんな信じられないような顔して、ウチのことを覚えていないの?」

 

 天井を見上げると知らない天井だった。

 ここは家でもなく新居でもない、病院だ。

 となるとお見合いじゃなかった。お見舞いか

 あんな妄想をしている間にも響香は心配してくれてたのか…………

 こんな自分が恥ずかしくなる。

 

「いや、情報を処理できていなかっただけだ。

 話せる限りでいい。あの後、どうなったか教えてくれないか?」

 

「特に口止めされていないし大丈夫だよ。悠雷が気絶した後…………」

 

 その後、USJにて起こったことを教えてもらった。

 その後は他愛のない話をして響香の面会の時間は終わった。

 これからのことについては相澤先生が話してくれるらしい。

 

「面会時間も過ぎちゃったしウチはもう帰るね。また来るから」

 

「その必要はないと思うぞ。医者に明日から登校して良しって言われているから」

 

「…………アンタってホントに人間なの?」

 

「奇遇だな。最近俺も実は人間じゃないんじゃないかと思い始めた」

 

「そんなことが言えるならちゃんと明日学校で会えそうだね」

 

「そうだな。また明日」

 

「うん、また明日ね」

 

 響香が部屋から出てきて病室に静寂が戻る。

 相澤先生がいつ来るか知らされていないしもう少し寝ておくことにしよう。

 念のためにスマホを見てみても新しい着信は入っていないしな。

 兄さんと姉さんからの連絡が入っていないのが不自然だが、忙しいんだろう。

 昨日の夜にした連絡で大丈夫だって言っておいたしね。

 言わないで忙しくなかったらきっとここに居座っていたと思う。

 

 それからしばらくして、俺が目を覚ますと

 既に日が沈んでおりベッドの脇には封筒が置いてあった。

 相澤先生…………いくらなんでもそりゃないでしょう…………

 いや、とても合理的なんだけれどもさ…………

 ドアがノックされて誰かが病室に入ってくる、

 ナースさんが入ってきたのかと思ったが、入ってきたのはミッドナイト先生だった。

 

「こんにちは。もうこんばんはかしら?相澤先生はいるかしら?」

 

「相澤先生ですか?寝ていたので見てませんけど、ここに封筒ならありますよ」

 

「可笑しいわね。まだ雄英に帰ってきてないのよ」

 

「まさか、ヴィランに?」

 

「その可能性は無かったようね…………」

 

 何処か呆れたような口調のミッドナイト先生の視線の先を見ると

 そこには寝袋にくるまって寝ている相澤先生がいた。

 封筒は置いたが、一応説明をするために待っていたのかな?

 ガッツリ寝ているみたいだけど病院にも寝袋を持ってくるんですか…………

 俺とミッドナイト先生で寝顔をしばらく眺めていると相澤先生が目を覚ました。

 ちなみにミッドナイト先生は寝顔を何枚か撮っていた。

 

「ん?寝ちまっていたか…………悪いな海藤。ミッドナイト先生もわざわざすいません」

 

「別にいいけど、今度からちゃんと連絡頂戴ね。みんな心配してたんだから」

 

「わかりました。以後気を付けます。

 で、海藤。お前に聞かないといけないことがあるからな。何個か質問するがいいか?」

 

「大丈夫です。どうぞ」

 

「私は空気に徹するから気にしないでおいてね」

 

「ありがとうございます。

 まずは一つ目だが、海藤。お前雄英体育祭って知っているよな?」

 

「ええ、知っています。確か今度やることになっていましたよね?

 ヴィランの侵入で開催が不安視されているってニュースで見ました」

 

「その体育祭があるとしたらお前は出たいか?

 ヒーローとしては心苦しいが出てほしくはない。

 先日の敵連合の奴らの主犯格が捕まってない現状で目立ってほしくないからだ。

 奴らに狙われる危険性が極めて高いからな」

 

「それでも出たいです。ヒーロー志望ですから」

 

「わかった…………俺個人としてだが応援してるよ

 んで二つ目だ。お前のあの力に先はあるのか?」

 

「多分ですが、あると思います。

 どうやって伸ばしていけばいいか分かりませんが、まだまだ成長できると思います」

 

「そうか…………これはカリキュラムの見直しが必要だな」

 

「またヴィランの襲撃はあると思いますか?」

 

「間違いなくあるだろうな。

 それを阻止するべく対策を練っている最中だが、現状は思わしくない。

 もしまた襲撃があったらまたお前たちを辛い目に合わせてしまうかもしれない」

 

「そうなったらまた俺たちで阻止します。

 そのためにまたご指導のほどよろしくお願いします」

 

「わかった。ああ、それともう退院していいそうだから家まで送る。

 速く着替えて来いよ。外で待っているからな」

 

「わかりました」

 

 ヴィランの襲撃は防がれたが、まだ何も終わってない。

 大切なものを護るためにもっと力を身につけないとな。

 着替え終わり、外に出て相澤先生とミッドナイト先生と合流して

 家までタクシーで送ってもらった。

 ミッドナイト先生は写真の件で文句を言われていたが大丈夫だろうか?

 この前の写真の様にRに指定される要素は一切ないから大丈夫だとは思うが…………

 

 これは完全な余談なんだけれども

 全く反省していないミッドナイト先生は相澤先生に置いて行かれていました。

 




次回は体育祭かな?


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番外編 救え!!救助訓練!!

アニメフェスタの内容を見れたので書きました。


 USJ事件から四日ほど経ったある日のこと。

 俺たち一年A組は前回は中断されてしまった救助訓練を行うために再びUSJにやって来た。

 天井の大穴をはじめとしてヴィランによる傷跡が所々に見られるが順調に復興が行われていた。

 

「では、先ずは山岳救助の訓練です」 

 

 まずは山岳での訓練として山岳地帯に集められた生徒たち。

 緑谷がここにはいないオールマイトのことを気にかけるが

「知るか、あんな奴」と相澤は一蹴した。

 この前の事件の後に二人の間で何かしらあったのだろうか?

 というか緑谷はオールマイトのことを好きすぎるだろ…………

 

「訓練想定として、登山客3名が誤ってこの谷底へと脱落。一名は頭を激しく打ち付け意識不明。

 残りの2人は足を骨折して救助要請……と言う形です」

 

 対象となる谷間をのぞき込んでみるが、かなり深めだ。

 受け身を取るなどの対処を取らなければ骨折は避けれられないな。

 誤ってこちら側が落ちないように気を付けておこう。

 

「うわぁ~深けえ~!!」

 

「二名はよく骨折だけで済んだな、オイ」

 

「この程度の深さならばある程度の身体強化が出来れば骨折で済ませられるだろうな。

 問題は意識不明の重体に陥った者の方だ。

 頭を強く打ち付けてしまったという事は頭部からの出血もあり得る」

 

「切島くん、上鳴くん。それに海藤君も何を悠長な事を!!

 一刻を争う事態なんだぞ!!大丈夫ですか!!安心してください!!必ず助け出します!!」

 

「おめーは早すぎんだろ」

 

「まだ人いねえだろ…………」

 

「勢い余ってお前が救助者になるなよ?」

 

「うおお──!!本格的だぜ!!頑張ろうねデク君!!」

 

「じゃあ怪我人役はランダムで決めたこの三人です」

 

「「「助けられる方か…………」」」

 

 13号が説明すると、生徒たちは初めての救助訓練の規模の大きさに驚き騒いでいた。

 特に気合を入れていたのは緑谷、麗日、飯田の三人であったが

 フラグ回収と言うべきか、残念なことに彼らは救助される役になってしまう。

 どうせ順番は回ってきるんだからそんなに落ち込まないでもいいと思うのだが…………

 

「よし、それじゃあまず救助要請で駆けつけたと想定してこの4人だ。

 そこの道具は使っていい事とする」

 

 そうしてランダムで選ばれたのが爆豪、八百万、轟、常闇の4人だった。

 どの人も戦闘に秀でており、救助にはあまり向かないチーム編成だな。

 ヤオモモはその個性の万能さからどんな局面でもある程度は幅が効く。

 “創造”をうまく使って救助するのがベストだろう。

 幸いなことに4人には人1人が横たわれるくらいのリフトと頑丈な紐が与えられた。

 これらと創造したものをうまく使い、救助者3人を助けなければならないようだ。

 

「なんで俺がデクのやつを助けなきゃならんのだ!!!」

 

「アニメフェスタだからよ。爆豪ちゃん」

 

「梅雨ちゃん止めとこ、そういうのは」

 

 梅雨ちゃん…………止める理由がメタすぎるぞ。

 アニメフェスタということもあり、この話を見たことが無い人も多いのではないのだろうか?

 俺は友達に貸してもらったから見ることが出来たが貰えなかったら見てなかっただろうな。

 とても面白いので見たことのない人は是非とも見てみて欲しい。

 ん?メタいって?アニメフェスタの内容だからさ。

 

 緑谷たちが谷底についたらしく飯田の助けを求める声が聞こえる。

 一応は怪我人という設定なのだが、あんな大声を出すことが出来るのだろうか?

 マイク先生などの一部の人は例外とする。

 曲歌っているだけで建物が崩壊するとか…………

 正直言ってあんま強いイメージないとか言ってごめんなさい。

 

「…………それじゃあ始めるぞ。誰が降りる?」

 

「仕切ってるんじゃねぇぞ!!半分野郎!!

 降りるまでもねえ!!谷そのものを亡くしちまえば問題ねえ!!」

 

「正気ですか!!」

 

「考えなしじゃないけど、考えることが人とは思えないわ」

 

「爆破して谷をなくすのも一つの手段としては悪くないのだろうが、

 そうしている間にも頭部を打った人の様態がどうなっているか分からないという問題もある。

 さきにそういったのを確認するなり安心させた方がいいと思うが?

 遭難していきなり爆発音が聞こえてきたら軽いトラウマになるぞ」

 

「緑谷絡むとヤベえなあいつ、ホント」

 

 轟は爆豪の意見を当てにするべきではないと判断したのかため息をついた。

 爆豪は轟に突っかかっていくが、ヤオモモに二人揃って説教される。

 救助訓練をこんな訓練っていうなんて、本当にヒーロー志望なのか?

 ヴィランとの戦闘は最もヒーローが輝く場面と言っても過言ではないが

 同じように救助活動もヒーローにとって大切な活動の一つだ。

 ヤオモモの意見がもっともだな。

 

「すげぇ立派だな八百万」

 

「ああ、ご立派ぁ」

 

「クズかよ!!」

 

「峰田、訓練中くらいは控えてくれ」

 

「なんだよ!!お前はそう思わないっていうのか!!」

 

「イヤ、思うぞ。だが、公私混同はするな。

 何を思ってヒーローを目指しているのか知らないが、訓練はちゃんと受けろ」

 

「わかったよ」

 

 轟たちはヤオモモが創造した動滑車をうまく利用して作業を進めていく。

 創造って直接的な殺傷能力とかは高い方ではないが、やっぱりチートだよな。

 常闇のダークシャドウも便利だよな。

 自分の手の届かないところにも手が届くのって羨ましい。

 

「“個性"をうまく作用させ合い、人助けをする!!

 一組目にしてはとても効率の良い模範的な救助方法だと思います!!

 これこそ超人社会のあるべき姿だ──!!」

 

「1人ただ紐引っ張ってるだけのやついますよ!」

 

「外野がうっせんだよ!!黙まれよ!!」

 

「自身の“個性"が貢献できないと判断した場合、それは正しい。

 適材適所。最近のプロはそれが出来ない人が多いんです。

 自分が自分がばかりで却って状況を悪くしてしまう例も多発しています。

 そこを理解してフォローに回ることを覚えれば

 彼もきっと素敵なヒーローになると思いますよ!!」

 

「イヤ~素敵にはならんでしょうなぁ~」

 

「素敵にはならなくとも一部のニーズは満たすんじゃないのか?

 ああいう性格のが好きな人も結構多いからな」

 

 それから飯田も救助されて、他の組に移っていく。

 最初の組を模範として各々救助を行っていく。

 俺の組は索敵が得意かつパワーもある障子とパワー自慢な砂糖がいたのでスムーズに終わった。

 もちろん俺もしっかりと降りて仕事していました。

 青山?明かりって必要だと思わないか?

 

「さて、13号の意見ももっともなものだ。

 だが、オールマイトなどのプロヒーローは一人でなんでもできる存在が多い。

 お前らにもそういう存在を目指しているだろうしそういったものを見据えて行動しておけ」

 

「ンなこと言われたって…………」

 

「実際に見ない事には…………」

 

「そうか…………なら、今から俺が救助者として下に降りる。

 足が折られているという設定だ。海藤。出来る限りでいいやってみろ」

 

「わかりました」

 

 相澤先生は捕縛布を使って軽々と降りていく。

 どんな練習をすればあんなに扱えるようになるんだが…………やっぱり相澤先生は凄いな。

 

「一人でって悠雷いけるの?」

 

「出来るだけやってみるさ」

 

 幸いなことに近くにある水難ゾーンに大量の水があるからな。

 それらを操作して棒に加工する。

 これくらいの硬度なら相澤先生の体重を支えることが出来るだろう。

 

「それじゃあ行って来る」

 

 ロープを斜めに突き刺した棒にかけて下に降りる。

 俺は兄さんや姉さんのように飛ぶことが出来ないからな。

 こういった方法を使うことした出来ない。

 一人相手ならばこの方法で出来るだろうが、大人数となると厳しいだろう。

 何かしらの方法を模索しておかないといけないだろうな。

 

「お待たせしました相澤先生」

 

「早かったな」

 

「一人の救助ならば簡単なほうですので。

 これに乗って貰って上に運びます。少し失礼します」

 

 相澤先生をリフトに乗せて上に運んでいく。

 俺の爪ならばこれくらいの崖すいすいと登ることが出来る。

 皆が救助したのよりも短い時間での救助に成功した。

 

「すげぇ!!流石入試一位!!」

 

「参考になりますわね」

 

「というかさっきもこれやればよかったんじゃない?」

 

「それ以上は言っちゃいけない」

 

「こういう感じだ。皆も卒業までにこれくらいは出来るようになってもらう。

 それじゃあ、次の内容に移るぞ」

 

 そして山岳地帯での訓練を終え、生徒たちは次の訓練場所へと向かった。

 移動したのは倒壊ゾーン。先日爆豪と切島が飛ばされた場所だ。

 

「次はこちら、倒壊ゾーンです!!

 救助訓練の一回目という事で、今回はいろんな状況を体験してもらいます。

 この倒壊ゾーンでの訓練想定は、震災直後の都市部。

 被災者の数、位置は何も分からない状態でなるべく多くを助ける訓練です。

 8分の制限時間を設定し、これまた4人組で救助を行います。

 残りの16名は各々好きな場所に隠れて救助を待つこと。

 ただし、そのうち8名は声を出せない状態と仮定します。その8名は私が指定します」

 

「あ!!それってかくれんぼ!!かくれんぼじゃん!!」

 

「簡潔に言うと近いですね。では、一回目の4人組は…………こちら!!」

 

 最初に救助を行うのは、緑谷、爆豪、峰田、麗日の4人となった。

 緑谷と爆豪って何かと縁があるよな。

 幼馴染だし、戦闘訓練も対戦相手だったしな。

 

「なんでつくづくデクとやらなきゃなんねえんだよ!!」

 

「しょうがないよ。だってアニメフェスタなんだもん」

 

「さっきから何なんだよソレ!!」

 

「麗日辞めろって。そういうの白けるからさ」

 

「要救助者が隠れてから二分後に始めます。それでは救助者は隠れてください」

 

 13号は右腕を高く上げ、開始の合図を行った。

 それじゃあ、何処かに隠れるとしますか…………取り敢えず、高いところにでも行こうかな。

 短い時間で隠れなければいけない都合上、あまり高いところまで探す時間はないだろうし

 スタート地点からそれなりに離れたビルの屋上へと登る。

 爪を使って登ってしまうと爪痕がついて痕跡が残ってしまい見つかるかもしれないので

 地道にビルの中を通って建物から建物へと跳んでいく。

 面倒臭いが爆豪に痕跡が見つかると地の果てまで追いかけられそうだし仕方がない。

 このビルで大丈夫かな?この辺りで一番高いし、近くまで来たら飛び降りて逃げればいいや。

 

「さて、もうそろそろ二分経つな。

 爆豪以外は空中での移動手段を持っていないから爆豪の動きに着目しておこう」

 

「海藤少年…………これって一応、救助訓練なんだぞ?

 なんで全力で隠れそうとしているんだい?」

 

「どんな場所に市民がいるか分からないでしょう?

 下よりも上にいる方が安全と考える市民の一人や二人いても可笑しくないですよ。

 ヘリで見つけてもらう僅かな可能性に賭けている市民かもしれない」

 

「ふむふむ…………つまるところ?」

 

「嫌がらせですね。爆豪の悔しがる顔を見て揶揄おうかと」

 

「君ってやっぱり性格悪い?」

 

「悪い方という自覚はありますよ。ところでその服装に突っ込んだ方がいいですか?」

 

「HAHAHA!!ようやくツッコミを入れてくれたね!!

 いつ突っ込んでくれるのかと思っていたよ!!」

 

「その姿という事でヴィラン役をやるという事でいいですか?」

 

「その通り!!という訳で君には少し協力してもらいたくてね」

 

「人質か嚙ませになって欲しいというわけですか…………嚙ませの方でお願いします」

 

「出来れば人質の方が都合がいいんだけど…………まぁ、いっか。

 それじゃあ、協力してもらうという事で少しだけ闘ってあげよう。

 さあ、掛かってきなさい!!」

 

「では、ご指導よろしくお願いします!!」

 

 全身に部分的な竜化を施して攻撃を仕掛ける。

 全身に部分的な竜化とかいう矛盾が発生している…………俺の語彙の無さよ。

 雷を纏わせた爪で攻撃を仕掛けるが、受け流されて腹に膝蹴りを入れられた。

 速くて強い上に戦闘技術も超一流…………これがナンバーワン!!

 数十年近く平和の象徴として活躍しているトップヒーローの実力か!!

 俺なんかとは次元が違う!!

 

「なかなかの速さだが、まだまだ甘いね!!

 海藤少年!!次はこちらから行かせてもらうぞ!!」

 

 そういうとオールマイトはこちらに突っ込んできてクロスした腕の上から拳を叩き付けてくる。

 全力で踏ん張っているにも拘らず、身体が吹き飛ばされる。

 俺は幾つかのビルを突き破って進み、ちょうど倒壊ゾーンの真ん中あたりに叩き落される。

 

「ガハッ!!」

 

 全身の鱗と甲殻が砕け散って、吐血する。

 これでも耐久力にはそれなりの自信があったんだけどな…………

 この前戦った脳無とかいう化け物よりも圧倒的に強い。

 不味いな…………意識が…………途切れ途切れだ…………

 

「死ねぇ!!クソヴィラン!!」

 

 あれは爆豪か?そりゃそうか…………こんな派手に戦ったらな。

 もしかしてだけれど、オールマイトって手加減が下手なのでは?

 こちらがご指導をお願いしたからかもしれないけどさ…………

 

「悠雷!!大丈夫!!?」

 

「海藤くん!!しっかりしたまえ!!」

 

「海藤さん!!応急処置を致しますわ!!大人しくしていてください」

 

「…………必要な……い…………あいつ……オールマイト……級……」

 

 オールマイト本人って言う訳にはいかないが、これくらいなら許されるだろう。

 最低限度の情報ですら、あるかないかが戦況を大きく左右する。

 この情報が伝われば近接戦よりも遠距離で仕掛けるようになるだろう。

 

「ですが、この怪我は!!」

 

「大人しく寝ててよ悠雷。こんなに出血してたらヤバいって!!」

 

「遠距離で攻撃くらいならできるから問題ない…………怪我もだいぶ塞がってきた」

 

 鱗と甲殻が割れたために皮膚が全部剝がれたレベルで出血しただけだ。

 これくらいの怪我ならすぐに塞げる。

 鱗と甲殻を再び張るにはもう少し時間が必要だけど今は必要ないから問題ない。

 

「チッ!!ちょこまかと良く動くヴィランだ!!さっさと死にさらせ!!」

 

「威勢がいいねぇ…………全部見切られているくせにさ」

 

「避けろ爆豪!!」

 

 轟の氷結がヴィランに向かっていく。

 それらは防がれてしまうが、爆豪がヴィランから離れる時間と皆が集まる時間を作った。

 飯田が相澤先生に問いかけるが…………

 

「俺たちはこんな状態だ。対処できない。悪いがお前たちだけで上手くやってもらうしかないな」

 

 棒読み以外の言い方あったでしょ…………これだとこの状態じゃなかったら疑われていますよ?

 オールマイトが正体を現したら俺も攻められたりするのかな?

 その時は皆に責められる前に大人しくお縄に付こうかな。

 

「出て来いよ!クソ野郎ども!!!」

 

 ヴィランは周囲の建物を真っ平にしてフィールドを作った。

 まったく…………なんていうパワーだよ…………

 身体に残っていた怪我は完全に塞がりようやく意識がはっきりしてきた。

 これなら近接戦でも普段通りに行けそうだな。

 

「なに勝手なことしてんだクソヴィラン!」

 

「4日前に捕まっとけば良いものを!!今なら雄英生20人が相手になるぜ!!」

 

 爆豪を中心に迅速に集まった雄英生徒たちは先頭態勢に入る。

 皆は臆する様子無く、ヴィランに立ち向かっていくようだ。

 それは峰田すらも例外ではなかった。

 やるときはやる男なんだな…………見直したぞ峰田。

 

「緑谷、ヤオモモ。俺と爆豪、轟で時間を稼ぐ。

 その間に作戦を立ててくれ。切島たちはフォロー頼む」

 

「おう、任せろ!!」

 

「俺に命令するんじゃねぇ!!」

 

「今は争っている場合じゃないだろ…………来るぞ」

 

「一人ずつ倒していこうか!!」

 

 俺たちの話を聞いていたヴィランがヤオモモに襲い掛かってくる。

 オールマイトから見て倒しやすい相手を選んだのか?

 なんにせよ、その攻撃は砂糖と切島によって防がれる。

 こちらが防いだことによって生まれた隙に響香の心音と芦戸の酸、瀬呂のテープが襲い掛かる。

 残念なことにその攻撃は避けられてしまうが、追撃の氷結と爆破が直撃する。

 これくらいでは隙を作るくらいにしかならないか………

 雷撃を纏わせた拳でヴィランを殴ってノックバックさせる。

 

「海藤さん!!伏せて!!」

 

 ヤオモモが創造した大砲の連撃がヴィランに襲い掛かる。

 その隙にヴィランの後ろにもぎもぎを大量に張り付けているのが見えた。

 あそこまで押し込めばこちらの勝ちという事でいいかな?

 今の内からみんなに怒られる準備をしていこう。

 回し蹴りをヴィランの胴体に叩き込み、体勢を崩す。

 その隙に最大火力の爆破を爆豪がぶっ放す。

 

「死ね!!」

 

 ヴィランはもぎもぎの張り付けられた壁まで吹き飛んでいき、完全にくっ付いた。

 

「やったー!!」

 

「ヴィランを捕まえたぞー!!」

 

 皆が浮かれている中、爆豪は再び爆破を放つ構えを取りながら近づいていく。

 このまま放ったらいくらオールマイトとはいえただじゃ済まないんじゃないか?

 そう思っているとオールマイトが被っていたマスクを脱ぎ、素顔を見せた。

 

「HAHAHA!!みんなよくやったな!!

 まさかここまでとは先生思ってもいなかったよ!!」

 

「「「「「オールマイト!!?」」」」」

 

「サプライズってやつさ!!みんなには気を引き締めて貰って何時如何なる時にも………」

 

「「「「「あそこまでやるサプライズがあるかぁ!!」」」」」

 

 サプライズとかほざいているオールマイトにクラスの皆の怒号がさく裂した。

 ………まぁ、当然だよな。

 オールマイトは動くことが出来ない状態にあるため、タコ殴りにされていた。

 

「待って!!痛い!!ちょっと!!」

 

「そりゃあないぜオールマイト。あそこまで海藤に攻撃しといてよ」

 

「だって本気で行かないと訓練にならないし………」

 

「オールマイトも一応、俺たちのためを思ってやってくれてたんだしこのくらいにしておこう」

 

「海藤少年!!って怪我については彼も合意の上だったからね?」

 

「海藤くんも共犯だったの!?」

 

「一応な。やられ役になるってことを了承したんだ」

 

「あそこまでボロボロになっていたからてっきりガチでヤバいのかと思ったよ………」

 

「正直、ボコボコにされる気はなかったんだけどね。

 思ったよりも実力に差があったよ………そういう点が分かっただけでも儲けものだけど」

 

「まぁ、なんにせよ。これにて救助訓練は終了!!みんなお疲れ様!!」

 

「それじゃあ、皆で一発ずつやって終わりにしよう」

 

「NOOOOOOOOOO!!!」

 

 今回の救助訓練では今の自分に必要なことが分かったからよかったな。

 あそこまで自分に足りないものがあるは思っていなかったからな。

 どうやら雄英に入ってから少しだけ調子に乗っていたみたいだ。

 今回負った傷を戒めとして今一度気を引き締めて行こう。

 




必殺技とかの案があれば是非感想にてください。

感想と評価をよろしくお願いいたします!!


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雄英体育祭編
第8話 雄英体育祭前の一幕


アンケートの結果、体育祭編に行くことになりました。
番外編はボチボチやります。多分きっと


 USJにてヴィランの襲撃を乗り越え、1日の臨時休校を終えた翌日のこと。

 1年A組の教室はすっかり活気を取り戻していた。

 本来ならば、悠雷のことを心配している人もいるだろうが

 普段よりも早めに登校した響香が皆からその不安を払拭している。

 

「おはよう」

 

「海藤、復帰はええな!!もう大丈夫なのか?」

 

「ああ、問題ないぞ。流石に全力戦闘はしばらくは無理そうだがな」

 

「出来なくてホントに安心だよ。いちいち心配するこっちの身にもなれって」

 

「耳郎ちゃんは凄く、海藤ちゃんのことを気にかけていたわ」

 

「うんうん。まるで出張帰りの夫を待つ妻みたいだった!!」

 

「葉隠…………どういう例えだよ…………」

 

 病室で響香とそういうことになったらというような変なことを

 考えてしまったのもあってそういうことを言われると反応に困る。

 響香に抱いているものがどんな感情かわからないけれども

 もしも、あの夢が現実になるとしたらそれはとても幸せなことだと思う。

 

「皆──────!!朝のホームルームが始まる席につけ──!!」

 

「ついてるよ。ついてねーのおめーだけだ」

 

「飯田、フルスロットルなのはいいが空回りだけはするなよ…………」

 

「む!!海藤君申し訳ない!!」

 

 そんな感じでいつものように飯田が空回りしていると相澤先生が登校してきた。

 今回は声がかかる直前に皆で席に座った稀に見る例外だけどな

 飯田は真面目の権化みたいな奴だから揶揄うと面白い。

 揶揄いすぎると間違った知識を身に着けそうで怖いけれども

 

「おはよう」

 

「相澤先生!!」

 

「肘大丈夫なんですか?」

 

「ああ、問題ない。ばあさんに直してもらったからな。

 心配していてくれたのはありがたいが──

 俺の安否はどうでも良い。何よりまだ戦いは終わってねぇ」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「戦い?」

 

「まさか………………」

 

「まだヴィランが──────!!?」

 

「雄英体育祭が迫っている!!」

 

「「「「「クソ学校ぽいものキタぁぁぁ!!!」」」」」

 

 昨日、相澤先生から体育祭の事を聞いたけれども

 もしかしたらまたヴィランが襲撃してくるんじゃないかと思ったけれども杞憂だったか

 さすがにあれだけの手下を失い、

 本人たちにもある程度のダメージが入っている中で再び襲撃はかけてこないか

 そして、雄英体育祭か………………

 病院で開催されることは聞いていたから聞かされてもみんなほどの驚きはないな。

 みんなと同じくらいかそれ以上にワクワクしているけどね。

 正直言ってコレでワクワクしてない奴はヒーロー志望じゃないのがわかるレベル。

 隣のクラスからも大きな叫び声が聞こえてきたし

 隣のクラスの奴らの個性も調べておいたから対策も既に立てている。

 その対策がどれほど実際に通用するのか楽しみだな。

 

「待って待って!!ヴィランに侵入されたばかっなのに大丈夫なんですか!?」

 

「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示す…………って考えらしい。

 警備は例年の五倍に強化するそうだ。

 何より雄英の体育祭は…………最大のチャンス──ヴィランごときで中止していい催しじゃねえ」

 

「いや、そこは中止しよう?」

 

「峰田くん…………雄英体育祭見たことないの?」

 

「あるに決まってるだろ。そういう事じゃなくてよ──」

 

 峰田のいうことも分からなくない。

 入学してすぐにヴィランの襲撃を受けるなんてことがあったのだから当然だ。

 だが──それ以上に相澤先生に賛成だ。

 

「ウチの体育祭は日本のビッグイベントの一つ!!

 かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した。

 今は知っての通り規模も人口も縮小し形骸化した…………

 そして日本において今「かつてのオリンピック」に代わるのが雄英体育祭だ!!!」

 

「当然全国のトップヒーローも見ますのよ。スカウト目的でね!!」

 

「資格習得後はプロ事務所にサイドキック入りが定石だもんな」

 

「そっから独立しそびれて、万年サイドキックってのも多いんだよね。

 上鳴そーなりそう。アホだし」

 

「くっ!!」

 

「上鳴、少しは否定しろよ」

 

「当然名のあるヒーロー事務所に入ったほうが経験値も話題性も高くなる。

 時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。

 年に一回…………計三回だけのチャンス。ヒーロー志望なら絶対に外せないイベントだ!!」

 

 プロに自分のことを見てもらえる貴重な機会…………絶対に俺が優勝を飾る。

 自分の成長を兄さんと姉さんに見せるいい機会でもあるしな。

 

 それとは別に、上鳴との約束をいい加減に果たさないとな。

 流石にコツだけは心苦しいし、教えるならば最後まで付き合わないとな。

 今日の放課後にでも訓練しないか誘ってみるか、USJでの活躍と反省を聞きたいし

 …………ついでにほかの皆も誘ってみるか?

 訓練は皆でやった方が楽しいしな。

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 そして昼休み…………

 

 

「あんなことはあったけど…………なんだかんだテンション上がるなオイ!!

 活躍して目立っちゃ、プロへのどでけぇ1歩を踏み出せる!!」

 

「皆すごいノリノリだ…………」

 

「君は違うのか?ヒーローになる為、在籍しているのだから燃えるのは当然だろう!?」

 

「飯田ちゃん独特な燃え方ね、変」

 

「少し天然でも混じってるのか?飯田の兄がどんな感じなのか見てみたいんだが」

 

「僕もそりゃそうだよ!?でも何か…………」

 

 緑谷はオールマイトに憧れているからな

 既に見てもらうことができている現状で満足しているのだろうか?

 満足するのも仕方ないと思うが、少しもったいないな。

 オールマイトの事を超えることを目標にしたりしないのだろか?

 

「デクくん、飯田くん…………」

 

「!!!」

 

「頑張ろうね体育祭!!」

 

「顔がアレだよ麗日さん!!?」

 

「どうした?全然うららかじゃないよ麗日」

 

 すごい気迫だな。まるで肉食獣の目だな。

 普段の麗日とは似てもつかないな。別人といっても通じるんじゃないか?

 あそこまで麗日を豹変させるヒーローに成りたい理由はなんなんだろうか?

 

「生…………」

 

 あ、峰田が梅雨ちゃんにやられた。生…………?なんなんそれ?

 教育決心な姉さんもそういった方面は教えてくれなかったから

 独学で学んだけど分からないや、今度兄さんに聞いてみよう。

 多分、教えてくれないと思うけれどもね。

 以前兄さんに聞いていることを姉さんに聞かれて兄さんが滅茶苦茶怒られてたから

 帰ったらGoogle先生に聞いてみることにしよう。

 

「皆!!私!!頑張る!!」

 

「おお────けど、どうしたキャラがふわふわしてんぞ!!」

 

 あ、緑谷達が食堂に行っちゃった。

 誘いたかったけど忘れてたわ、上鳴は今のうちに誘っておこう。また忘れちゃいそうだし

 緑谷達はまたの機会に誘っておこう。

 後、2週間はあるし、また誘う機会はある筈だ。

 出来るなら緑谷のノートを見たいんだよな。

 アイツは生粋のヒーローオタクでクラスメイトの個性について滅茶苦茶詳しく書いてるから

 

「上鳴、今日の放課後にでも一緒に訓練しないか?

 個性把握テストのときの約束もまだ果たしてないし」

 

「マジか!!助かる!!コツは教わったが実践が足りなくていまいち掴めないんだ!!

 お前のアドバイスがあるなら一人でやるよりも断然効率良い!!」

 

「ズルいぞ!!俺も参加させてくれよ!!」

 

「構わないぞ。もともと誘うつもりだったし、人数が多い方が楽しいしな!!」

 

「なら俺も参加させてもらいたい」

 

「ウチもお願い」

 

「私もお願いできるかしら?」

 

「んじゃ、俺と上鳴、切島に障子。響香と梅雨ちゃんでいいか?

 一応、聞いておくが時間は取れるだけでいいよな?」

 

「もちろん」

 

「楽しみだ!!腕が鳴るぜ!!」

 

「わかった。予約が埋まらないうちに相澤先生に申請してくるわ」

 

「申請終わったらさ、一緒にご飯食べに行こうよ。昼ごはんまだでしょ?」

 

「ああ、まだだな。席取っておいてくれるか?」

 

「りょーかい。いつものでいいでしょ?」

 

「頼む」

 

 俺は皆に送られて、教室を後にすると職員室に向かった。

 思ったり多くの人と訓練する事になりそうだな。

 以前までは1人で訓練することが多かったからな純粋に嬉しい。

 公安の人もいることもあったが、同年代はいなかったし

 プロである兄さんと姉さんは忙しいからね。

 互いの動きを見ることで学べることも多いし、今回の訓練を己の糧としよう。

 

「失礼します。相澤先生いますか?」

 

「海藤か、どうした?」

 

「訓練所を放課後に借りたいなと思いまして申請書を貰ってもよろしいですか?」

 

「わかった。この書類に記載すること記載して提出しろ」

 

「はい」

 

「運が良かったな。これからどんどん使用者が増えてきて利用出来なくなるからな」

 

「やっぱりそうなりますか。今後の予約をついでにできたりしませんか?

 それと、もう既に予約している一年生はいるんですか?」

 

「爆豪が予約しているな。やはりそういう相手は警戒したいか?」

 

「ええ、警戒すると同時にワクワクします。

 同年代と戦うという事は今まであまりなかったので」

 

「そうか、残念だが予約はできんな。確実に使いたいなら朝一に来い。

 書類はこれで大丈夫だ。早く飯食いに行ってこい。昼休みの時間が無くなるぞ」

 

「ありがとうございます。失礼しました」

 

 さて、予約もしたし食堂に向かうか。

 やはり爆豪は警戒するべき相手だな、それに推薦入学者である轟とヤオモモもな。

 爆豪のことだ、確実にあの大爆発を使ってくるだろうし

 轟のまだ誰も見たことのない左の炎、ヤオモモの創造も厄介だ。

 竜化でのゴリ押しなら負けることはないだろうが、やりたくないし

 正々堂々と勝負する事にしよう。

 

 そういえばさっき職員室で見たことない人を見かけたな。

 何度か行っているし、雄英に務めている教師の名前くらいは

 全員把握していると思ったんだけど知らない人だったな。

 オールマイトに似ていたし関係者か?

 もしかしてだが、個性offのオールマイト?まさかね…………

 安全確認するって言ってたし警備会社の人だろう。

 

「オールマイト居たんですか」

 

「酷くないか相澤君!!」

 

「さっきまで海藤が来ていたんですが…………」

 

「え!?バレてないよね?」

 

「だといいですね。危機管理はちゃんとしてください」

 

「はい…………」

 

「後で海藤に選手宣誓について伝えといてくれないですか?」

 

「いいけれど、それは君の仕事では?」

 

「…………この机を何とかしないといけないので」

 

「…………大変だね。やはり女性を怒らしてはいけないな。うん」

 

「膝が震えてますよ」

 

「き、気のせいだよ!!HAHAHA!!」

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 職員室を後にして、食堂に向かう。

 来るたびに思うが、ヒーロー科の教師って賑やかな人が多いな。

 食堂に着いたが、食堂はやはり人が多い。

 響香たちは…………いた。入口近くを取ってくれていたみたい。

 奥まで言って探すのはめんどくさいからありがたいな。

 

「あ、来たね。いつもの海鮮丼頼んどいたよ」

 

「ありがとう響香。今日は鯛なのか…………いつものことながら豪華だな。

 これだけの人数にこのコスパで提供してるが、金はどこから出ているんだろうか?」

 

「耳郎ちゃんは海藤ちゃんの好みまで把握しているのね。

 もしかしてだけど、二人は付き合ってるの?」

 

「羨ましいぜ海藤!!どうやったら女子に好かれるんだよ!!」

 

「お見舞いに行ったのも耳郎だもんな」

 

「別に付き合ってないんだがな。

 とりあえず雄英入試の際に女の子を仮想敵から助けて入口まで護送して

 その後に0ポイントを粉々に切り刻むことが最低条件だな

 後は下心を表に出さないとかかな。

 そうすれば上鳴は顔はいいほうだし、多分だけどモテるんじゃないのか?」

 

「はぁ!?マジで!!」

 

「そんなことやってたのか!?」

 

「入試の際に実際にやってたぞ。あれは圧倒的だったな」

 

「マジか!!やっぱりスゲぇ!!」

 

「あ、それと訓練所予約しておいたけど何をやりたい?

 2時間半は使えるし、俺は体術を中心的に練習するつもりだが皆はどうするんだ?」

 

「ウチも体術をやりたいかな。USJでの戦闘で改めて学ぶ必要があると思ったから

 海藤さえよかったらウチに教えてくれない?

 今のA組の中で一番体術ができるのは海藤だと思うし」

 

「俺は身体強化のやり方だな!!体育祭までにものにしたい!!

 USJでヤオモモと耳郎に迷惑かけたからな!!」

 

「迷惑かけてたのか…………」

 

「し、仕方ねぇだろ!!個性の都合上、二人の事巻き込んじまうし

 まだ身体強化できないんだから」

 

「危ないところはあってひやひやしたけど。決定力があるのは事実だし。

 上鳴がいなければ苦戦は避けられなかったから、結果的にいてくれてよかったかな」

 

「だそうだ。良かったな」

 

「なんでそんな優しい目でみんな俺のことを見てるの?」

 

「まあまあ」

 

「俺も体術だな!!USJでは爆豪と同じ場所に飛ばされたけどあいつに助けられたし、

 硬化をもっと使いつつ戦えるようにしないとな!!」

 

「私も体術をやりたいわね。お願い出来るかしら?」

 

「俺も皆と同じだな。海藤、模擬戦の相手をお願いできないか?」

 

「なんで俺が皆に教える前提なのか聞きたいところもあるが

 そうだな、障子の挙げた案である模擬戦でも皆でしようか、例年通りの内容なら必ず役に立つし

 上鳴の身体強化もやりながら身体で覚えるべきだしな。

 どうせならば、この前の戦闘訓練みたいにやるか?」

 

「良い案ね」

 

「そうしようぜ!!」

 

「海藤、全く食べてないけどいいの?もう昼休み終わるよ?」

 

「あ、やべぇ」

 

 急いでご飯を搔っ込むと午後の授業を受けに教室に戻った。

 次の授業は何だったけ?いまから午後の訓練が楽しみだな。

 午後のヒーロー基礎学の後でオールマイトに選手宣誓の事を聞いた。

 ありきたりなことを言ってもいいけれども

 できるならばインパクトを残したい。さて、なんて言おうかな?

 あと今日のオールマイトはこっちの方を凄くチラチラ見ていたけども

 俺の顔に何かついていたのだろうか?

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 そして放課後──

 

「うおおおおお…………何事だぁ!!」

 

 ──1年A組の前にはヒーロー科のB組から始まり、

 普通科に経営科、サポート科の生徒が群がっていた。

 情報収集ならさすがに遅すぎるな入学してから何か月経ったと思っているんだ?

 個性の情報なら先生に言えば教えてくれるだろうし、俺達A組への宣戦布告かね?

 わざわざこんなに来る必要はないと思うけどな。

 

「出れねーじゃん!!何しに来たんだよ」

 

「敵地視察だろ、ザコ。ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな。

 体育祭の前に見ときてえんだろ。意味ねぇからどけモブ共」

 

 ザコって言われて峰田が傷ついてる。

 緑谷が慰めてるが中学の時も同じような事あったりしたのかね?

 今のあいつの性格なら間違いなくありそう。

 どんな環境ならあんな性格に育つのだろうか?

 周りに自分よりも上が存在しなかったのか?

 

「知らない人の事、とりあえずモブって言うのやめなよ!!」

 

「どんなもんかと見に来たがずいぶん偉そうだなぁ。

 ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」

 

「ああ!?」

 

「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。

 普通科とか他の科ってヒーロー科から落ちたから入ったって奴がけっこういるんだ知ってた?」

 

「?」

 

「体育祭のリザルトによっちゃ

 ヒーロー科編入も検討してくれるんだってその逆もまた然りらしいよ…………敵情視察?

 少なくとも普通科は調子のってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつーー──宣戦布告しに来たつもり」

 

 ー-──宣戦布告しに来たつもり」

 

 こいつもかなり大胆だな。

 ただ体が特に鍛えられているっていう訳ではなさそうだな。

 初見殺しの個性…………洗脳などの精神に干渉する個性か?

 そういう個性は珍しいがいるからって前に兄さんが言っていたっけ

 それにしても、何で自分がって言わなかったんだろうか?

 

「隣のB組のモンだけどよぅ!!

 ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!!

 エラく調子づいちゃってんなオイ!!!本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」

 

 また大胆かつ不敵な奴が来た。

 他のクラスにも警戒すべき奴もいるみたいだな。

 にしても暑苦しい男だな。切島によく似ているな

 個性も確か似たようなやつだっけな。

 そういや誕生日も同じじゃなかったか?これは勘違いかもしれないが

 双子だと言われたら信じる人が多いかもしれない。

 

「…………」

 

 クラスの皆の視線が爆豪に集まったな。

 そりゃここまでヘイト集まったらそうなるか

 だが、俺としてはやる気の無い奴と戦うよりもこっちの方がいい。

 一方的な戦いよりも死力を尽くして戦う方が楽しい。

 

「待てコラどうしてくれんだ。

 おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねえか!!」

 

「関係ねえよ…………」

 

「はぁ────!?」

 

「上に上がりゃ関係ねえ」

 

「く…………シンプルで男らしいじゃねえか!!」

 

「上か…………一理ある」

 

「爆豪と同意見だな。勝てばいいだけの話だ」

 

「騙されんな!!無駄に敵増やしただけだぞ!!」

 

「落ち着けよ上鳴。さっさと準備しろ。

 相澤先生は時間に厳しいんだからさ。

 他の奴らは既に準備終わってるぞ、あとはお前だけだ。

 教室の前にいる奴らもどいてくれないか?正直言って迷惑だ」

 

 声を掛けてみると案外素直を退いてくれた。

 少し以外だった。

 腐ってもヒーロー志望か………人に迷惑は掛けたくないんだな。

 

「あ、わりぃ。急いで準備するから少し待ってくれ!!」

 

「海藤君!!この後訓練所を使うのかい!?」

 

「ああ。そうだが…………」

 

「僕も一緒に行ってもいいかい!?」

 

「あ、僕も行っていいかな!!」

 

「わたくしもご一緒させてください!!」

 

「私も!!」

 

「いやお前ら行っても…………」

 

「海藤、皆準備できたよ。時間ギリギリになるし、急ごう」

 

「…………わかった」

 

 飯田達は見る事しか出来ないんだけどな…………知らないのか?

 もういいや、時間は有限…………無駄には出来ないな。

 相澤先生が使用の仕方を教えてくれるそうだし、急ぐか。

 なんだかんだ言って雄英の訓練場を使うのは初めてだからな。

 

 

 

「………………なんで人数が増えたのか知らんが、

 個性は使用不可だし、申請してないから訓練所はお前ら使えないぞ?」

 

「そ、そんなことわかっていますわ!!」

 

「ああ、校則はしっかりと把握している!!」

 

「出来たらいいなぁ~位で来ただけだからウチ!!」

 

「見ているだけでも参考になりますので!!」

 

「しっかりと体操服着てるし説得力ないんだよなぁ」

 

 ヤオモモと麗日は羞恥で頬を染め、緑谷は普通に残念そうにしている。

 ノートを構えているし、元々その予定だったぽいけど期待はしてたみたい。

 ………………飯田はかなり落ち込んでいる。そんなに訓練場使いたかったのか?

 今度予約するときに誘っておいてやろう。

 

「海藤、早く教えてくれよ!!」

 

「俺から相手をしてくれよ!!戦いたくてウズウズしてんだ!!」

 

「わかったから急かすなよ。

 というか相澤先生がいるなら相澤先生が教えてくれても…………」

 

「無理だ。この前の一件で仕事が残っている。

 終了前に来るから俺が来るまでは自由に使ってろ」

 

「ミッドナイト置いていったからですか?」

 

「………………言うな」

 

 その後はいっぱい訓練した。

 後からやって来たミッドナイト先生の計らいによって

 緑谷たちも個性禁止で参加できるようになり、皆で体術を学んだ。

 

 各々が自らを鍛えているうちに雄英体育祭までの2週間はあっという間に過ぎた。

 

 




トーナメント表とどうしようか?
誰と戦わしてほしいとかあれば感想で言ってくれればと思います。
そういえば、結局のところ峰田が言っていたことって何なんですかね
調べてもよくわからなかったです。


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第9話 開幕!!雄英体育祭!!

感想と評価をよろしくお願いします!!


 USJにてヴィランの襲撃を受けて、二週間と少しの月日が経ち

 遂に雄英体育祭本番当日。

 

『群がれマスメディア!!今年もお前たちが大好きな高校生たちの青春暴れ馬………

 雄英体育祭が始まディエビバディアァユウレディ!!??』

 

 

 遂に、日本全国からヒーローが集まるヒーローの祭典が始まる。

 

 

「皆、準備は出来ているか?!もうじき入場だ!!」

 

 A組の控室では、今日も飯田は飯田していた。飯田はいつから動詞になったんだろうか?

 控室では緊張を紛らわせようとするものに、普段通りの者もいた。

 こういう場はどうしてもなれることがないな。

 この緊張を楽しみたいがそこまで俺には余裕がない。

 なんで選手宣誓なんて請け負ってしまったのだろうか?

 この大人数の前で話すとなると緊張しかないんだけれど?

 

「コスチューム着たかったなー」

 

「公平を期す為着用不可なんだよ」

 

「悠雷、選手宣誓の内容は覚えたの?」

 

「ああ、多分だけど問題ないぞ。

 まあ、最悪の場合、忘れてしまってもアドリブで何とかするから」

 

そう、アドリブで何とかするよ………内容はきっと頭から飛んでいるからさ。

多分きっと大丈夫さ。このくらいの困難は今までにも何度かあったしな。

今回の場合は後々のヒーロー活動に関わってくるだけだから………ダメそう。

 

「そっか、楽しみに見とくよ」

 

「任せとけ。生徒だけじゃなく観客も皆沸くような宣誓を行ってやるよ」

 

 皆が緊張を紛らわせるために会話をしていると、轟が緑谷に話しかけた。

 轟はあまり人と話すタイプじゃないからな、珍しい事もあるもんだ。

 そういや、常闇とあまり話してないな………なんか避けられているんだよな。

なんでだろうか?なにか気に障ることをしてしまったのだろうか?

 

「緑谷」

 

「轟くん………何?」

 

「「!!」」

 

「客観的に見ても実力は俺のほうが上だと思う」

 

「へ!?うっうん………」

 

「おまえ、オールマイトに目ぇかけられているよな。

 別にそこ詮索するつもりはねえが………おまえには勝つぞ」

 

「おお!?クラスナンバーツーが宣戦布告!!?」

 

「急にケンカ腰でどうした!?直前にやめろって………」

 

「仲良しごっこじゃねえんだ。なんだっていいだろ」

 

「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのか………はわかんないけど………

 そりゃ君のほうが上だよ………実力なんて大半の人にかなわないと思う

………客観的に見ても………」

 

「緑谷もそーゆーネガティブな事言わねえ方が………」

 

「でも………!!皆………他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。

 僕だって………後れを取るわけにはいかないんだ。僕も本気で獲りに行く!!」

 

「……………おお」

 

「………っ」

 

「………面白い事もあるんもんだ」

 

 轟が緑谷に宣誓布告したか。

 しかし、あいつの目はどこを見ているんだろうか?父親か?

 緑谷に宣戦布告したのだってオールマイトに気にかけられているから程度の理由。

 どの道、あの目をしている限り俺や爆豪に勝つことはないだろう。

 

 勝負ごとにおいては勿論、身体能力や判断能力が重要となってくるが

 最後に勝負を決めるのはそのことにかける思いの強さだ。

 それがない限り、苦戦はしても決して敗北はない。

 

 

『1年ステージ、生徒の入場だぁ!!!雄英体育祭!!!

 ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る、年に一度の大バトル!!

 どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!?

 ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!

 ヒーロー科!!1年!!A組だろぉぉ!!!??』

 

「大人数に見られる中で最大のパフォーマンスを発揮できるか………!!

 これもまたヒーローとしての素質を身につける一環なんだな」

 

「緊張してるように見えるが、大丈夫か?」

 

怒り狂っている人を見ると自分の怒りは沈静化するってこんな感じなのだろうか?

自分よりも緊張している人を見たおかげか、いくらか楽になった気がする。

 

「うん、大丈夫。問題ないよ。今まで学んだこと練習したことを出し切らないとね」

 

「そうだな」

 

 俺らA組に続いてB組や普通科にサポート科なども入場してくるが紹介が雑。

 マイク先生曰く、雄英は実力主義だから

 しっかりと説明してもらいたければ、実力を示してみろとのこと

A組が狙われるように煽っていくなぁ………こっちの方が面白そうだけどさ。

 

「俺らって完全に引き立て役なんだよなぁ」

 

「ホントにたるいよね………」

 

 引き立て役ね………事実だけどこいつらにはやる気が見られないんだよな。

 このままこいつらと戦っても何も面白くない。

 ちょうどいいことに選手宣誓がある。

 この後の選手宣誓で軽く煽っておくことにしよう。

台本なんて知ったことではない。

 

『選手宣誓!!』

 

「おお!!今年の1年主任は18禁ヒーロー「ミッドナイト」か!!」

 

「校長は?」

 

「校長は?例年3年ステージだよ」

 

「18禁なのに高校にいてもいいのか」

 

「いい」

 

 そこは当然の疑問なんだが、即答するのか峰田よ………

 俺らは高校生なんだし、少しくらいは悩んで欲しかったな。

 まあ、俺も好きなんだけどね、ミッドナイト。

 響香………なぜ俺の腕を抓ったんだよ………結構痛いんだけど

 

『静かにしなさい!!選手代表!!1-A海藤悠雷!!』

 

『えー選手宣誓!!

 私達、選手一同は己の全力を出し抜きスポーツマンシップに則り戦い抜くことを誓います!!

 ああ、それと優勝するのは俺だから」

 

「調子乗んなよA組オラァ!!」

 

「何故、品位を貶めるような事をするんだ!!君らしくもないぞ!!」

 

『引き立て役だとか思って、やる気がない奴らはさっさと帰ってくれ。

 せめて跳ねの良い踏み台くらいにはなってくれないと何も面白くないからな。』

 

「どんだけ意識過剰だよ!!この俺が潰したるわ!!」

 

「あいつが戦闘狂なの忘れてた………どうせならもう少し抓るべきだったかな?」

 

「爆豪ほどは戦闘狂じゃないさ。それに相手にやる気がないとつまらないだろ?

 それと………先程は何故俺の腕を抓った?」

 

「………なんでだろうね?」

 

((耳郎ちゃん嫉妬しているのかな?後で揶揄っかな))

 

 体育祭前だというのに相変わらずな恋愛脳な、葉隠と芦戸だった。

 この時の響香はまだ知らなかった。

 事あるごとにこのことが掘り返されるとは………

 

『さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう!!』

 

「雄英って何でも早速だね」

 

『いわゆる予選よ!!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!!

 さて運命の第一種目今年は………』

 

「早速ではないよね」

 

「………言ってやるな」

 

『コレ!!!』

 

 ミッドナイトの後ろのスクリーンには障害物競走と書かれていた。

 雄英だからもっとぶっ飛んだ内容も考えていたが割と普通だな。

 まぁ、毎年変わるみたいだし、そういうのに当たらない年もあるだろう。

 

「障害物競走か………取り敢えず、竜化はお預けだな。

 全部の障害を薙ぎ倒しても別にいいんだが、それでは面白くない。」

 

「ウチは15位辺りを目標にして頑張ろうかな。」

 

「そうか、なら先にゴールで待っていることにしよう。」

 

「訓練に付き合ってもらったのに、予選敗退なんてダサい真似は出来ないね。

 そんなことになったらロックじゃないし、気合入れていかないと」

 

『計11クラスでの総当たりレースよ!!コースはこのステージの外周約4キロ!!

 我が校は自由さが売り文句!!ウフフフ………コースさえ守れば何をしたって構わないわ!!

 さあさあ位置につきまくりなさい………スタ────────ト!!!」

 

 しかしスタート地点が狭いな。

 ここがすでに最初の篩いという事か、壁を走ってもいいが少し待とう。

 俺の予想通りならばまず最初に轟がかますはずだ。

 

 予想通りの行動だ………やはり仕掛けてくるよなお前なら

 

『さーて実況していくぜ!!解説アーユーレディ!?イレイザーヘッド!!』

 

『やるなら事前に声位かけろ』

 

『こいつは悪かったな!!して障害物走の見どころは!?』

 

『今だよ。お前ら、目離すんじゃねえぞ』

 

 スタート直後に轟の放った氷により大半の生徒が動きを止められる。

 しかし──

 

「甘いわ轟さん!!」

 

「そう上手くいかせねえよ、半分野郎!!」

 

 ヤオモモや爆豪を筆頭としてA組の生徒全員が凍結を避ける。

 戦闘訓練を見ていたらそりゃ皆警戒するよな。

 しかし、峰田がここまで前に出てくるのは少し意外だった。

 あのもぎもぎにあんなことができるなんてな。想定内の想定外だ。

 これは俺も余裕こいている場合じゃないな。

足元をいつ掬われてしまうかわかったもんじゃない。

 

「クラス連中は当然として思ったよりよけられたな………」

 

「轟の裏の裏をかいてやったぜ。ざまあねえってんだ!!

 くらえオイラの必殺………GRAPE………」

 

「峰田くん!!」

 

 峰田が横に現れた仮想敵に吹き飛ばされる。

 何かとあいつは吹き飛ばされているような気がする。

 基本はあいつの自業自得だがな。吹き飛ばすのも女性陣だし

我々の業界ではご褒美ですって言いそうだけどあいつはMじゃないんだよな。

Mだったのならば、非常においしい場面だったろうに………

 

『ターゲット………大量!!』

 

「入試の仮想ヴィラン!!?」

 

『さぁ、いきなり障害物だ!!

 まずは手始め………第一関門ロボ・インフェルノ!!!』

 

「入試の時の0ポイントヴィランじゃねえか!!!」

 

「マジか!!ヒーロー科あんなんと戦ったの!?」

 

「多すぎて通れねえ!!」

 

 入試の時の仮想敵か………ほんとに金はどこから出ているんだ?校長が株でもやってんのかよ。

 普通科などの生徒の大半は動きを止めてしまっているがこれはすでに一度乗り越えた障害だ。

 もう一度、乗り越えるなんて簡単なことだ。

 だけれど同じ方法で突破しても面白くないからな………あれで行くか

 

 俺は個性把握テストのときのようにレールガンの構えを取る。

 今回は少しアレンジを加えているけどな。

 前回はボールだが、今回は俺の鱗を使う。

 俺の鱗ならば、前回のものとは比較にならない威力で打てる。

 弾に込めることができる電力がまるで違うからね。

唯一の欠点として剝ぎ取るときがかなり痛い。

自然に抜け落ちたりしないから、わざわざ抜く必要がある。

 

「超電磁砲ッ!!!」

 

『1-Aの海藤悠雷!!豪快な大技で堂々と第一関門を突破したぁ!!!

 すげえな!!一抜けだ!!アレだな。もうなんか………ズリィな!!』

 

 悠雷が放ったレールガンは強大な雷撃を伴って仮想敵を貫いた。

 拡散した雷撃は周囲の仮想敵及び生徒の事を襲った。

これならば多少は後ろの足止めになるだろうさ。

 

「ッ!!」

 

『同じくA組の轟も豪快に仮想敵を凍らして突破した!!

 逃げる海藤!!追う轟!!第一関門から熱い展開だぜ!!!』

 

 放送を聞いて後ろを向くと轟が凍らした仮想敵が倒れたところだった。

 切島ともう一人、B組の奴が生き埋めになっていたようだ。

 切島………君のことは忘れないよ。ちゃんと冥福は祈ってやる。

 (死んでません。生きています。)

 爆豪はまだ来ていないようだな。

 身体能力も俺のほうが上だ、今のうちに出来るだけ差をつけさせてもらおう。

 

『第一種目は障害物競走!!この特設スタジアムの外周を一周してゴールだぜ!!』

 

『おい』

 

『ルールはコースアウトさえしなけりゃ何でもアリの残虐チキンレースだ!!

 各所に設置されたカメラロボが興奮をお届けするぜ!!』

 

『俺いらないだろ』

 

『1-A爆豪!!下がダメなら頭上かよ──!!クレバー!!

 一足先を行く連中はA組が多いなやっぱ!!』

 

 爆豪も突破してきたみたいだ。

 まだ余裕があるけれども、空中機動力は爆豪の方が上だ。

 これからの障害によっては追い抜かれるかもな。

少しペースを上げていこう。

 

『立ち止まる時間が少ない。各々が経験を糧とし迷いを打ち消している』

 

 A組が切り開いた道を追うようにして

 他の科も追い上げてきておりだんだんと混戦状態となってきている。

先頭にいる俺には関係がないけどな。

 

『オイオイ第一関門チョロイってよ!!んじゃ第二はどうさ!?

 落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォ────ル!!!』

 

 底の見えない障害を前にして、皆足が止まってしまっている。

 悠雷は身体強化を使い谷間を飛び越えて突破し、轟はロープを凍らせ突破した。

 爆豪はそのまま空中を爆破でいき突破した。

 最初から先頭をキープしている海藤と

 それを追う轟と追い上げてきた爆豪が第二関門を突破する。

 

「一位の奴すげえな、圧倒的じゃないか」

 

「個性の強さもあるが彼は身体能力と判断能力が飛びぬけている」

 

「確か、今年の雄英生には「エンデヴァー」の息子がいるんだったよな?」

 

「それは一位のやつを追いかけている二位のほうだよ」

 

「それに加えて確か、ホークスの義弟がいるんじゃなかったか?」

 

「両者とも凄いな!!」

 

「それに現在三位のやつも追い上げが凄いな!!ヒーロー向けのいい個性だ」

 

「早くもサイドキック争奪戦だな!!」

 

「ああ、指名を誰にするか迷うよな!!」

 

『先頭が一足抜けて下は団子状態!!

 上位何名が通過するかは公表してねえから安心せずに突き進め!!

 そして早くも最終関門!!

 かくしてその実態は────一面地雷原!!!怒りのアフガンだ!!

 地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!!目と足酷使しろ!!

 ちなみに地雷!!威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!!』

 

『人によるだろう』

 

 これはまた先頭ほど不利になるようになっているな。

 まったく………エンターテイメントしてやがる。

 地雷に当たると僅かな時間だが拘束される、この状態でそれをされると非常に厄介だ。

 爆豪みたいに空を飛びたい………兄さんの羽でもむしり取っておくべきだったか?

むしり取ってもそれだけじゃただの羽でしかないんだけれども

 

「はっはぁ、俺は──関係ね──────!!」

 

「………爆豪か予想よりもずいぶんと早いな」

 

「うるせえクソトカゲ!!一位になるのは俺だ!!」

 

「トカゲ言うなやクリ頭」

 

「クリ頭言うなや!!クソが!!ぶっ殺すぞ!!」

 

「お前はそれしか言えないのか?語彙力増やしていこうぜ。

そうだ、今度おすすめの本でも貸してやろうか?」

 

「ああ?語彙力ならあるわ!!クソトカゲ、あとでその本について聞かせやがれ!!」

 

「いいだろう。何時間でも付き合ってやる」

 

「悪いが俺も混ぜて貰うぞ」

 

「邪魔するんじゃねえ!!半分野郎!!」

 

「悪口の言い争いに参加したいなら後でしてやるからはよ帰れ」

 

「違え、トップ争いの方だ。」

 

「そうなのか、残念だ」

 

『ここで先頭がかわった────喜べマスメディア!!

 お前ら好みの展開だああ!!!後続もスパートかけてきた!!!

 だが、引っ張りながらも………先頭3人がリードか!?』

 

 爆豪にやはり空中機動力では劣ってしまう。

 地雷さえなければ話は別なんだがな。

 轟にも注意しないといけないとはかなりきついな。

 体を凍らせられると機動力どころの話じゃなくなってしまう。

 

『後方で大爆発!!?何だぁの威力!?

 偶然か故意か────A組緑谷爆風で猛追──────!!!?

 っつーか!!!抜いたあああああ──!!!』

 

「デクぁ!!!!!」

 

「!!!」

 

「俺の前を行くんじゃねぇ!!!」

 

「後ろ気にしている場合じゃねえ………!!」

 

「宣言通り、一位になるのは俺だ。

 悪いが先に行かせるわけにはいかない。少し残酷なことをするが悪く思うなよ」

 

 緑谷が掴まっているのは0ポイントの一部つまるところ鉄の塊………ならば磁石に反応する。

 俺は身体に電気を纏わせ、電磁石の要領で引き寄せる。

 こちらに引き寄せられた緑谷のところまで跳んで、踏み台にする。

 周りの地雷も集まってくるが、この4人で最も耐久力があるのは俺だ、何も問題ない。

 地雷が起爆しない可能性があるために念には念を入れて雷撃を下に放つ。

 

『元先頭の3人足の引っ張り合いを辞め、緑谷を追う………って海藤が跳んだ!?

 さらに緑谷を踏み台に使いやがった!!えげつねえぜ!!

 しかも、大量の地雷が周りから集まってきたぞ!?』

 

 プレゼントマイクが言った直後に踏みつけにされ墜落した緑谷の周りに

 周囲の大量の地雷に引きつけられる。

 

 そこに雷撃が放たれた。

 

 そして────

 

『大爆発!!!!海藤が引き寄せた大量の地雷が先頭集団ごと吹き飛ばした!!!

 しかも海藤は無傷で走り続けているぞ!!!

 イレイザーヘッド!!お前のクラスすげえな!!どういう教育してんだ!!』

 

『俺は何もしてねえよ。奴らが勝手に火ぃ付け合っているんだろう』

 

『つうか、海藤どうやったんだよ!!教えてイレイザーヘッド!!』

 

『電磁石の要領で緑谷の掴まっていた金属板を磁石にして地雷を引き付け爆破した。

 緑谷のところまで跳んだのはあいつの身体能力の高さもあって可能となった芸当だな』

 

『さァさァ、今一番に会場に帰ってきたのは

 最初からトップを走り続け、

 とてつもないタフネスを見せつけた海藤悠雷だぁぁぁ──────!!』

 

『聞くなら無視するなよ』

 

 宣言通りに無事一位を獲らせてもらった。

 最初の種目だからな。残る競技も集中して取り組もう。

 二位、三位も大体予想通り。

 B組の塩崎も高順位だな。警戒が必要かな。

 

『予選通過は上位42名!!!残念ながら落ちちゃった人も安心なさい!!

 まだ見せ場は用意されているわ!!

 そして次からいよいよ本選よ!!ここからは取材陣も白熱してくるよ!!キバリなさい!!

 さーて第二種目よ!!

 私はもう知っているけど~~~~何かしら!!?言ってるそばからコレよ!!』

 

「騎馬戦………!!」

 

「騎馬戦………!?」

 

「個人競技じゃないけどどうやるのかしら?」

 

『参加者は2~4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ!!

 基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど一つ違うのが………

 先程の結果にしたがい各自にポイントが振り当てられること!!』

 

「えらくシンプルな内容だな」

 

「入試みたいなポイント稼ぎ方式かわかりやすいぜ」

 

「つまり組み合わせによって騎馬のポイントが変わってくると!!」

 

『あんたら私が喋っていんのにすぐ言うね!!!

 ええそうよ!!そして与えられるポイントは下から5ずつ!!

 42位が5ポイント41位が10ポイント………といった具合よ。

 そして………1位に与えられるポイントは1000万!!!!』

 

「マジか………そう来るか、そこまでとは予想してなかったな。

 流石雄英、さらっとえげつない行為を行ってくる」

 

『上位の奴ほど狙われちゃう──────下剋上サバイバルよ!!!』

 

 さあて、どうしようか?

 

 




リメイク前よりも緑谷の扱いがひどくなっておる。
別に嫌いなわけじゃないいんだけど主人公を活躍させようとするとどうしてもね
トーナメントでは活躍さしてあげたいな。


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第10話 開幕!!騎竜戦!!

『上を行く者には更なる受難を!!

 雄英に在籍する以上、何度でも聞かされるよ。これぞPlus Ultra!!

 予選通過1位の海藤悠雷くん!!持ちPOINT1000万!!!』

 

 さあて、どうしようか?

 1000万という死刑宣告にも等しいポイント数。

 騎馬戦である以上、組む相手によっては敗北は避けられない。

 これは仲間を組むためのコミュニケーション力や団結力などを問う種目なのか。

 オールマイトやエンデヴァーなどをはじめとする一部の超一流のヒーローならば

 一人ですべてをこなすことが出来るが、俺たちはそうもいかないからな。

 

『制限時間は15分。振り当てられたポイントの合計が騎馬のポイントとなり

 騎手はそのポイントが表示されたハチマキを装着!!

 終了までにハチマキを奪い合い保持ポイントを競い合うのよ!!

 取ったハチマキは首から上に巻くこと。とりまくればとりまくるほど管理が大変になるわよ!!

 そして、重要なのはハチマキを取られても

 また、騎馬が崩れてもアウトにはならないってところ!!』

 

「てことは…………」

 

「42名からなる騎馬10~12組がずっとフィールドにいるわけか…………?」

 

「シンド☆」

 

「放電して一気に崩してやろうかと思っていたがそれもダメか。

 電力を消費して一時的な足止めだとコスパが悪いな。竜化でもするのが最善かね?」

 

「考えることが相変わらずえげつないね。この前、否定してたけどやっぱりドS?」

 

「それほどでもあるが、断じてドSではない。多少はSかも知れないがな」

 

「いったんポイント取られて身軽になっちゃうのもアリだね」

 

「それは全体のポイントの分かれ方を見ないと判断しかねるわ三奈ちゃん」

 

『個性発動アリの残虐ファイト!!でも…………あくまで騎馬戦!!

 悪質な崩し目的での攻撃等はレッドカード!!一発退場とします!!

 それじゃ、これより15分チーム決めの交渉タイムスタートよ!!』

 

「「「「「15分!!?」」」」」

 

 俺の場合、ポイント数は関係ない。

 俺の保有している1000万以外をすべて獲ることが出来たとしても

 ルール上一位は取ることが出来ないのだからな。

 初期ポイントを取られないことと保険として幾つかのポイントを手に入れれば問題ない。

 ならば、最優先で声をかけるべきは…………

 

「響香、上鳴、俺と組んでくれないか?」

 

「いいの?ウチでよければ」

 

「俺なんかでいいのか?俺、この競技だとほかの人巻き込むぞ?

 海藤なら他にもいろんな個性のやつを誘えるだろ?」

 

「なぜそんなに上鳴がマイナス思考でいるかは分からないが、

 俺は最善だと判断したメンバーを集めようとしているだけだ。

 周りを巻き込む点についても俺がお前の雷に指向性を持たせるから大丈夫だ」

 

「分かった!!よろしくな海藤!!」

 

「よろしくね」

 

「二人とも随分とあっさり受けてくれるのな。

 周りの奴ら全員に狙われるから断られるかもと考えていた」

 

「だって、悠雷なら確実に本選に連れて行ってくれるでしょ?

 それを抜きにしても一番仲のいいアンタと組む方がいいし」

 

「耳郎の言うとおりだ!!それにお前には訓練を見てもらった借りがあるからな。

 ここで今までの借りを清算さしてもらうぜ!!」

 

「そうか…………別に恩を売るために誘った訳ではないんだけど、まぁ、ありがとな。

 あとは出来れば梅雨ちゃんを誘いたいんだが…………無理そうだな」

 

「梅雨ちゃんは悠雷に挑むって言ってたよ」

 

「障子もそういっていたな」

 

「マジか、ほかのところも組み始めたからなぁ…………どうしよう。

 常闇も緑谷たちのところと話しているしな」

 

 常闇とは入学式があるはずだった日以来、話せてないんだよね。

 それがより明確になったのは体育祭前の特訓に参加した後だ。

 なんか、少し避けられているような気もしなくはないからな。

 体育祭の後辺りでなんとか話しかけたいものだ。

 いや、ほんとになんで避けられているのか………それだけが疑問だ。

 

「三人じゃダメなの?このメンツならというか悠雷一人でも余裕だと思うんだけど

 むしろウチ等は足手まといじゃない?そんな気しかしないんだけど」

 

「別にそんなことないぞ。俺が4人が言ったのは今後を考えてだ。

 一位が3人って先生に迷惑かけるじゃん?残りの枠をどうしようとかそうゆうので

 なんかこれから先、若干のトラブルに相澤先生を

 巻き込む気がするから少しでも印象を良くしておきたい。

 弁明しておくと、迷惑かけるのは俺の兄と姉ね」

 

「悠雷が先生を困らせるっていうのは想像つかないけど…………一位前提なんだ」

 

「そのくらいの心づもりがないと爆豪とかに勝てないからね」

 

「………………なぁ、今いいか?」

 

 今声かけてきたのは普通科の「心操人使」だったかな

 確か、個性は『洗脳』で問いかけに応じることで発動するし、

 こちらが解除するには一定値以上のダメージを追う必要があったはず

 こちらに洗脳をかけてくる必要はないと思うが、念のために手に傷を入れておくか。

 本当に個性の情報などの個人情報を教えてくれたミッドナイト先生には頭が上がらないな。

 一応、言っておくが正式な取引だ。

 以前俺が撮って送った更衣室での着替え写真の対価でもらいました。

 連絡先を教える対価のはずだったが、おつりがくるという事でもらった。

 本当にラッキーだったな………反省文を書いた価値はあった。

 

「ん?確かお前は宣戦布告しに来た普通科の生徒だったか?」

 

 心操くんとは面識があるわけではないし、初対面の体でいこう。

 相手方に一方的に知られているとか軽いトラウマになりそう。

 さっきこっそりと付けた手の傷なんかはバレたかもしれないな。

 結構不自然な動きだったし。

 

「そうだ。もしよければでいい、俺をチームに加えてくれないか?」

 

「別に構わないが、名前は?」

 

「心操、心操人使だ。個性は『洗脳』

 洗脳する意思をもって掛けた問いかけに応じると対象を洗脳できる。

 洗脳された相手は簡単な命令なら従うけど、ダメージを受けると解除される」

 

「普通に強くね?」

 

「うん。対人戦においてはすごく強い個性だと思う」

 

「随分とあっさり話すんだな。隠しておいた方が本選で有利に立ち回れたんじゃないか?

 もしくは、俺たちのことを洗脳して利用するとか」

 

「あれだけ目立った動きをしていたお前を洗脳するのは得策とは言いずらい。

 それに、俺が声かけた瞬間に手に傷入れてたよな?

 お前、俺の個性をあらかじめ知っていたんだろう?」

 

 ありゃ、出来れば調べていたことは隠しておきたかったんだよな。

 なんか、ストーカー行為してたみたいだし、そこまで不快に思ってなさそうだしいいけど

 女子にやったら通報ものだな。ヒーローの卵が刑務所入りとか冗談でも笑えない。

 正直言って、女子相手にストーカーとか普段の峰田以下じゃないか?

 

「宣戦布告しに来た時に警戒対象としてな。傷をつけたのはあくまでも念のためだ」

 

「………………いくら傷を入れているとはいえ警戒しないのか?

 俺みたいなヴィラン向けの個性を持っており相手にはふつう警戒するだろ」

 

「心操の目は罪を犯したことのあるヤツの目じゃないからな。

 それに、ヒーロー科に入ろうと足搔いている奴にそんなこと考えても無駄だろ」

 

「そういうこと、ウチ等は悠雷の事を信頼している。

 だから、ヴィラン向けとかそういうのは気にしないでいいよ。ウチ等は同じチームの仲間でしょ?」

 

「そんなネガティブなこと考えてないで楽しんでいこうぜ!!

 せっかくのアピールチャンスなんだからさ!!」

 

「…………そうか、よろしく」

 

「こちらこそよろしくな。作戦は俺が開幕──

 

 無事にメンバーを決めた俺が作戦を伝えているとあっという間に15分が過ぎていた。

 ここにいる奴の個性はすべて把握している。

 相澤先生は個人情報だからと教えてくれなかったがミッドナイト先生がいてくれてよかった。

 あの人青春っぽいのが好きなんだよな。かなり、いや結構チョロかった。

 

 間違いなく爆豪は開幕のほうから仕掛けてくるだろうな。あとは緑谷かな?

 轟は時間が減ってきたところか、漁夫の利を狙ってくるだろう。

 B組は性格がつかめないから断言はできないが、宣戦布告しに来た切島みたいな奴か?

 まあ、ヒーロー科である以上全員狙ってくるんだろうがな。

 

 ────最も俺が警戒するべきは皆が連携して狙ってくること

 

 堅実にポイントを稼いで確実に本選に行こう。

 俺のことを信じてくれた三人のためにもな。

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

『15分経ったわ。それじゃあそろそろ始めるわよ」

 

「ここにいるほとんどの連中がA組ばかりに注目している…………何でだ?

 そして鉄哲が言った通りA組連中も調子づいている………………おかしいよね…………

 彼らと僕らの違いは?会敵しただけだぜ?

 ヒーロー科B組が予選で何故、中間位に甘んじたか調子づいたA組に知らしめてやろう皆」

 

『さぁ、起きろイレイザー!!

 15分のチーム決め兼作戦タイムを経てフィールドに12組の騎馬が並び立った!!』

 

「…………なかなか面白い組が揃ったな」

 

『さァ上げてけ鬨の声!!血で血を洗う雄英の合戦が今!!狼煙を上げる!!』

 

「最後に勝って笑おうな。皆行くよ」

 

「おお!!」「うん!!」「ああ」

 

 耳郎チーム トータル10000355ポイント

 

 耳郎  115ポイント  海藤  10000000ポイント

 心操  75ポイント   上鳴  95ポイント 

 

 爆豪チーム トータル680ポイント

 

 爆豪  205ポイント  切島  165ポイント

 芦戸  110ポイント  瀬呂  160ポイント 

 

 轟チーム トータル650ポイント

 

 轟   200ポイント  飯田  185ポイント

 八百万 130ポイント  砂糖  135ポイント 

 

 緑谷チーム トータル495ポイント

 

 緑谷  190ポイント  常闇  170ポイント

 麗日  120ポイント  発目   10ポイント 

 

 鉄哲チーム トータル655ポイント

 

 鉄哲  125ポイント  塩崎  195ポイント

 骨抜  180ポイント  泡瀬  150ポイント 

 

 葉隠チーム トータル265ポイント

 

 葉隠   65ポイント  尾白  155ポイント

 庄田   40ポイント  青山   5ポイント

 

 峰田チーム トータル365ポイント

 

 峰田   90ポイント  障子  140ポイント

 蛙吹  145ポイント

 

 物間チーム トータル285ポイント

 

 物間   30ポイント  回原  105ポイント

 円場  100ポイント  黒色   55ポイント 

 

 拳藤チーム トータル200ポイント

 

 拳藤   70ポイント  柳    80ポイント

 小森   40ポイント  取蔭   20ポイント

 

 小大チーム トータル145ポイント

 

 小大   50ポイント  凡戸   85ポイント

 吹出   15ポイント

 

 鱗チーム  トータル105ポイント

 

 鱗    45ポイント  宍田   60ポイント

 

 鎌切チーム トータル60ポイント

 

 鎌切   35ポイント  角取   25ポイント

 

 

『よォーし組み終わったな!!?準備はいいかなんて聞かねえぞ!!

 いくぜ!!!残虐バトルロイアルカウントダウン!!』

 

「鉄哲、恨みっこなしだぞ」

 

「おう!!」

 

『3!!!』 「狙いは…………」

 

『2!!!』 「一つ」

 

『1…………!!START!!!』

 

「実質1000万の争奪戦だ!!」

 

「はっはっは!!海藤くんいっただくよ──!!」

 

「さっそく、二組来たよ!!」

 

「それじゃあ、作戦通りにお披露目と行こうか…………」

 

『おっとォ!?耳郎チーム動かない?

 仁王立ちだ!!何か作戦でもあるのかぁ?ってアレは──ッ!!!』

 

『GUAAAAAAAAAA!!』

 

 猛々しい咆哮を挙げながら、悠雷は海竜の姿へと変身する。

 その姿に観客席のヒーローたちの視線が一気に集まる。

 USJで負った傷がまだ少しだけ薄っすらと残っていたようだが、それがいい味してる。

 こんな最高の舞台で披露できるならかっこいい方がいいしな。

 

『海藤最初から全力だぁ!!!』

 

「はぁ!?変身した!?」

 

「やっぱり使ってきたね!!」

 

「悠雷!!こっちは大丈夫。動いていいよ!!」

 

「ってなんか沈んでね!!?」

 

『問題ないから、あまり上で騒がないでくれ』

 

「この状態でも喋れるのか」

 

 試合前の15分じゃ時間が足りなくて、互いの個性の詳細まで知ることはできなかったんだよな。

 何故、俺は竜化を使うのにもかかわらず、

 竜化した状態で喋ることができることを伝えなかったのだろうか?

 まぁ、いいや。別に大した違うがあるわけでもないし。

 

『海藤、沈むもそれを歯牙にかけることなく、相手の騎馬に突っこんでいく!!

 味方ならば頼もしいが、相手としては最悪!!まるで水陸両用の戦車だぁ!!!』

 

『あいつの個性は『海竜』陸上戦よりも水中戦を得意としている。

 沈めても寧ろ有利な条件となってしまう。そんな状況に鉄哲の騎馬がどう対処するかが見物だな』

 

 さて、竜化して鉄哲の騎馬に突っ込んだはいいが沈んだ状態を解除されると面倒だ。

 出来れば解除される前に接近したいが…………まぁ、無理だな。

 このセメントもなかなかに硬い。

 個性にある程度は耐えるように考えられているものだからなぁ。

 

「動きが止まった!!行くよ尾白君!!」

 

「ナイス、骨抜!!畳みかけるぞ!!」

 

『沈んだ状態で個性を解除されて埋まってしまった耳郎チーム、一気にピンチかぁ!!?』

 

『響香、地面を。上鳴は放電開始。心操は周囲の警戒を頼む』

 

「「「了解!!」」」

 

 響香が心音を地面にぶつけて悠雷が脱出し、上鳴が放電して牽制している間に体勢を立て直す。

 しっかりと響香と心操が感電しないように操作もしている。

 やっぱり個性の並列操作は大変だな。

 兄さんのように操るまではまだまだ道のりは長いようだ。

 

「爆豪が近づいてきてる!!」

 

『わかった。接敵する前にあいつらのハチマキを取るぞ」

 

「さすがの対応やけど、ずいぶんと余裕やな!!」

 

『上鳴頼む』

 

「オーケー!!いくぜ前方放電10万ボルト!!」

 

「心操、葉隠の方お願い。ウチが鉄哲のほうやるから」

 

「わかった」

 

 響香がプラグを伸ばして上鳴の放電で動きを止められた鉄哲チームのハチマキを取っていく。

 心操も俺が巻き付けた尻尾で近づき、葉隠チームのハチマキを取っていく。

 そういや、尻尾を攻撃に使うのは何気に初披露な気がする。

 入試の時はカメラを通して見ていた先生方しか知らなかっただろうし。

 

「ちょっと海藤くん!!そんなうまい尻尾の使い方したらダメでしょ!!

 自由自在に動く尻尾しか取り柄の無い尾白君の影がもっと薄くなっちゃうでしょ!!」

 

「落ち込んでいるところに止めさしたね」

 

『正直言って、尾白には同情しかしないわ』

 

 尾白にはふわふわな毛があるからいいと思うがな。

 俺は猫と同等のサイズまでならないと体毛なんて生えないからな。

 かわいい物好きの姉さんによく弄られていたのが懐かしいなぁ

 なんだかんだ入学してからあってないのか………

 体育祭が終わったら会いに行こう。俺も寂しいし

 

『耳郎チーム。堅実かつ大胆な立ち回りであっという間にハチマキを奪取したあ!!

 そこに一年きっての暴れん坊、爆豪が突っこんでいく!!』

 

「調子乗ってんじゃねえぞクソトカゲ!!」

 

「悪いけどお断り!!上鳴、心操!!迎撃よろしく!!」

 

「チッ!!邪魔するんじゃねえ!!」

 

『おおおおおお!!?騎馬から離れたぞ!?良いのかアレ!!?』

 

『テクニカルなのでオッケー!!地面に足ついていたらダメだったけど!!」

 

 響香の指示で二人が動き、爆豪の強襲を退ける。

 空中で放電を食らうことは避けたかったらしく、大きく回避するが

 その隙に響香のプラグが襲い掛かってくる。

 爆豪は悪態をつきながら自分の騎馬へと戻っていく。

 後ろの方にB組が見えたけれども爆豪なら問題ないだろう。

 爆豪とガチでやり合う前にもっとハチマキを集めとかないとな

 その後、戦況を確認するべく一旦主戦場から距離を取る。

 

『すげえな海藤のとこ、圧倒的じゃねぇか!!』

 

『教師が依怙贔屓するみたいで言いたくないが、すでにあいつは頭一つ抜けてる。

 個性の強さはもとより、戦況を的確に判断し下す指示も的確だ。

 この騎馬戦においてあいつは一位を獲る上で一番の障害になることはまず間違いない。

 来年の競技から騎馬戦は抜くか、要相談だな』

 

 なんか障害とか言われてんだけど、そんなこと言ったらみんなから狙われないか?

 先生なりの激励とか?会議が増えたことへの嫌がらせか?前者であることを願いたい。

 おっと、お客様のご来店だ。

 

「あれ!?障子一人なのか?」

 

「待って違う!!中に梅雨ちゃんと峰田がいる!!」

 

「流石、耳郎ちゃんね。奇襲するつもりが、見破られてしまったわ」

 

「おい海藤…………俺がモテるための尊い犠牲になってくれ!!」

 

『普通に嫌なんだが……障子の中にいると厄介だな。

 仕方ない、少し予定よりも早いが心操頼んでもいいかな?』

 

「任せろ」

 

「悠雷、上からもぎもぎが落ちてくる!!避けて!!」

 

『ナイス響香。お前らしっかりと捕まっていろよ』

 

 上から落ちてくるもぎもぎを響香の指示に従って避けていく。

 常に周りの音を聞いて索敵するっていうことを

 僅か二週間足らずである程度ものにした響香は本当にすごいと思う。

 響香曰く、曲の中に異音が紛れ込んでいるのを見つけるのは得意だとか。

 

「チックショー!!なんでそんなに巨体なのに小回り効くんだよ!!」

 

『死ぬほどに練習したからな』

 

「いくら死ぬほどとはいえ練習で何とかなるものなのか?」

 

「でも、耳郎ちゃん。ハチマキががら空きよ」

 

「させないよ」

 

 心操ががら空きとなった響香の頭を狙った梅雨ちゃんの舌をつかむ。

 ここまでは作戦通りなんだが、ここからは相手の動き次第で動きを変えなければいけない。

 

「触った」

 

「ケロ?」

 

 心操が舌に触れたとたん梅雨ちゃんの動きが止まる。

 心操の個性『洗脳』が発動したのだ。

 その様子を見ながら、心操は先程の作戦会議を思い出す。

 

「作戦は俺が開幕すぐに竜化するから、基本的には迎撃がメインになると思ってくれ

 攻撃は響香のプラグか俺が二人の事を尻尾で掴んで行う。

 上鳴は放電する際は必ず俺の背中にある突起物『背電殻』に触れてくれ

『背電殻』を通して上鳴の電気を操るから

 心操は問いかけによる個性の発動はなしで頼む」

 

「なんでだ?問いかけをしないと俺の『洗脳』は使えない。

 まさかとは思うが、個性を使わずに戦えと?」

 

「いいや違う。言い方が悪かった。

 個性を使うならば、必ず相手の体の一部に触れてからにしてくれ」

 

「は?どういう意味だ?」

 

「そのままの意味だよ。そっちのほうが、本選で相手の虚を取りやすくなるだろう?

 まぁ、ヤバい状態になったら普通に使ってもらうかもしれないけどな」

 

「なんでそんなことを?」

 

「ヒーロー科に入りたいんだろ?」

 

「だが…………」

 

「ヒーローの本質は奉仕活動。余計なお世話がヒーローの仕事だろ?」

 

 梅雨ちゃんに個性がかかったことを確信し、心操は笑みを浮かべる。

 ヴィラン向けの個性を持っている俺にここまでしてくれる奴はいなかったんだから

 その期待にこたえたい。ヒーロー科に入って彼らと一緒に学びたい。

 心操は純粋にそう思い、命令を下す。

 

「峰田の頭にあるハチマキを取って俺に渡せ」

 

「っちょ待てよ!!女子に迫られるのは嬉しいけど心の準備が!!」

 

「峰田、馬鹿なこと言ってないでハチマキを守れ!!」

 

「障子、余所見し過ぎ」

 

「しまっ」

 

 響香が障子の隙をついて心音を流し込む。

 手加減されているとはいえ、この種目中は動くことはできないだろう。

 峰田は洗脳された梅雨ちゃんにあっさりとハチマキを取られて舌で拘束された。

 女の子に弱いというのは別に悪い事ではないと思うが、流石に弱すぎだろ………

 

『これは、あとで梅雨ちゃんに謝った方がよさそうだな」

 

「そうだね、ウチも付き合うよ」

 

「なんか悪いな」

 

『気にするな。仕方がなかったってやつだ』

 

「海藤!!スクリーン見てみろよ!!ヤバいことになってんぞ!!」

 

『なん…………だと!?』

 

『やはり狙われまくる一位と猛追を仕掛けるA組の面々共に実力者揃い!!

 現在の保持ポイントはどうなっているのか…………7分経過した現在のランクを見てみよう!!

 …………あら!!?A組、耳郎チーム以外パッとしてねえ…………ってか爆豪あれ…………!?』

 

『爆豪が取られてるだと?』

 

 爆豪が正面戦闘でやられたというのは考えずらい…………というか考えたくもない。

 幸いなことに現在進行形で単純だとか煽られているから不意打ちだと思う。

 これで爆豪の強襲を受けることが少なくなるだろう。

 どこまでが悪質な崩しかわからないからあまり相手をしたくなかった。

 本選で戦えることを祈って、ほかの人の相手をしよう。

 

「悠雷、轟が来たよ」

 

『さぁ、残り時間半分を切ったぞ!!

 B組隆盛の中、果たして──1000万ポイントは誰に首を垂れるのか!!』

 

「そろそろ奪るぞ」

 

 やはり仕掛けてきたか、想定の範囲内だ。

 残り時間半分が経過している現在…………間違いなくほかのところも攻めてくる。

 ならば、とるべき最善手は…………

 

『上鳴、二人を頼む』

 

「わかった!!」

 

「ウチ等は大丈夫だから、思いっきりやちゃって!!」

 

『GUAAAAAAAAAA!!』

 

 特大の咆哮に合わせて、最大出力で雷が放たれる。

 上鳴がいなければこの技は使うことができなかった。

 自らの背電殻に蓄積された電気をすべて使い果たして使う大技『大放電』

 味方すらも巻き込んでしまうからね、使いどころには要注意。

 技名がそのままなのは気にするな!!

 上鳴がいないと使えないというのは俺一人だとまだまだ電気の量が足りないからだな。

 もっと個性を伸ばして一人で連発できるようにならないと

 

『海藤、咆哮と共に大放電!!巻き込まれた奴らが次々とダウン!!

 轟は何とか回避し、海藤との一騎討ちに持ち込んだ!!

 この勝負からは目が離せなくなりそうだ!!』

 

「まぁ、防ぐよな。響香、取られないように少し下がれ

 上鳴、響香のフォロー。心操、ヤオモモを狙ってくれ」

 

「「「了解」」」

 

 幸いなことに上鳴が阿保にならなかった。

 これはかなり大きいと思うが、限界も近いだろうから放電はもう使えないな。

 

「残り6分弱あとは引かねえ。悪いが我慢しろ」

 

『なんだぁ!?轟も海藤に続いて広範囲攻撃!!』

 

『海藤の大放電で動きが止まったところを狙ったな。

 障害物競走で獲た反省を生かしつつ、一対一に持ち込める場面に持っていった。流石だな』

 

 そこから4分間、一進一退の攻防が繰り広げられた。

 轟が凍らせて、悠雷が砕くといった場面が何度か繰り広げられた。

 

「悠雷、上から緑谷が来る!!避けて!!」

 

『は?』

 

 空中から突如として緑谷が現れる。

 空を飛んでいるのはサポートアイテムか…………これは一本取られたな。

 

『今まで目立った動きのなかった緑谷チーム!!

 二チームの争いに乱入し、あっという間に1000万ポイントを持って行ったぁ!!!』

 

「ごめん悠雷。油断してて奪られちゃった」

 

『俺も油断してた。まさかここで仕掛けてくるとは思ってもいなかった。

 予備プランでいこう。いけるよな皆』

 

「「「もちろん!!」」」

 

 予備プランなんて言っているが、ただ単にポイントを集めるだけ

 作戦会議をしていた時は大放電を使うつもりだったが、ちょうど氷漬けの獲物がいるからね。

 とてもお仕事がはかどりますね。

 周りの奴らは泣いて懇願するが、無視して全員分の回収を終わらせる。

 

『1000万ポイントを奪い、逃走に入る緑谷チーム!!

 そして、それを追う轟チーム!!一方の耳郎チームは周りの騎馬に悉く襲い掛かる!!

 雷を食らったうえで、氷漬けにされた彼らに黙禱!!

 あっという間にハチマキを奪い取ると耳郎チームも緑谷チームを追い始める!!』

 

 追い始めたのはいいが、空を飛んでいる緑谷チームには手が届かない。

 響香のプラグも常闇のダークシャドウに防がれてしまう。

 やっぱり、兄さんから羽を毟ってきた方がよかったか?

 騎馬を作りながらだと、どう頑張ってもあの高度まで行けない…………これは詰んだか?

 

『残り時間が遂に一分を切った!!

 現在のトップは1000万を所持する緑谷チーム!!ハチマキ二本保持!!

 この鬼ごっこにも終わりが見えてきたぞ!!

 更に!!爆豪が物間からポイントを奪いかえし、緑谷チームを追う!!

 そろそろ時間だ!!カウントいくぜエヴィバディセイヘイ!!』

 

 爆豪が加わり、さらに混沌とした戦いが始まる中、試合終了のカウントダウンが始まる。

 

『TIME UP!!

 さっそく、上位4チーム見てみよか!!

 一位緑谷チーム!!二位耳郎チーム!!三位爆豪チーム!!四位轟チーム!!

 以上4組が最終種目へ…………進出だああ──────────!!

 一時間ほど昼休憩を挟んでから午後の部だぜ!!じゃあな!!』

 

「…………負けた」

 

「お疲れ様」

 

「ウェ~~~イ(お疲れ様)」

 

「海藤、ありがとう。次は本選で」

 

「ああ、手加減はしないぞ?」

 

「望むところだ」

 

 予想を超えることがあまりにも多すぎた。

 自分の能力を無意識のうちに過信し過ぎていたらしい。

 “更に向こうへ”だったか?俺はもっと上に登れるはずだ。

 今回の反省を踏まえて午後の部に向かおう。



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第11話 昼休憩とレクリエーション

B組の出番が少ないので
拳藤だけでも登場させようとしたのにどうしてこうなった………


 騎馬戦を終えた後、兄さんからLINEが来ていたことに気が付いた。

 と言っても5分前だけども

 どうやらわざわざ九州から見に来ていたみたい。

 俺は競技に集中していて気付かなかったけれども

 トップスリーが勢ぞろいという事で会場の一般客はとても盛り上がっていたらしい。

 あのエンデヴァーが警備を担当するとは思ってもいなかったな。

 なんだかんだ言って息子の事が可愛いのかね?

 

 LINEに返信したら午後には帰るというので少しだけ兄さんと話すことになった。

 多分だけど、今日の昼は平日ながら珍しく一人で食べることになりそう。

 家ではいつもだけれど学校でしかも行事がある日に一人になるとは………

 

「お疲れサマーランチ」

 

「もう昼の時間ですよ。来る予定だったなら一言位声かけてくださいよ。

 周りの人がホークスが来ているって騒いでいているのを見て驚きました」

 

「サプライズってやつだよ。ホントは控室なり観客席にお邪魔するつもりだったんだけど

 サイドキックたちから大量のクレームが来たからやめにしたんだ。

 まったくチンピラレベルなら自分たちで対処しなさいよ。俺が行くまでもないでしょうに」

 

 サイドキックの人達にはナイスとしか言いようがない。

 ホークスが来たら皆がどうなるか容易に想像がつくからね。

 特に緑谷は…………想像したくないかな。それに、知らせるなら自分の口から言いたいし

 入学した直後というチャンスを逃してしまってその後も言えてないんだよね。

 観客のヒーローは何人か知っていたみたいだから、そのまま広がってくれないかな?

 

「さっきまでの競技はしっかりと見ていたけれど、どう思った?」

 

「そうですね………少し慢心が過ぎたなともっと徹底的に潰すべきでした。

 改めて、自分の詰めの甘さが嫌になります」

 

「うん、黒い部分が出てるから気をつけてね。

 確かに悠雷は詰めが甘い。でも、それは優しさでもあるからね?

 観客席から見ていても反省すべきところは結構多かった。

 例え練習で出来ていても実戦で出来ないと意味がない。

 幸いなことに悠雷はまだ学生だ。今のうちに多くの経験を積んでおきな」

 

「はぁ、ありがとうございます」

 

「なんでそんな微妙な顔してんの?今、結構いいこと言っていたと思うんだけど?」

 

「子供がそのまま成長したみたいな兄さんに言われたくなかったです。

 兄さんは未だに高校生みたいな雰囲気纏っていますし」

 

 仕事中みたいにちゃんとした雰囲気を纏って言ってくれればいいのに

 普段通りの感じでいうから微妙な顔しちゃうんだよね。

 贅沢は言わないが、せめてコスチュームくらいは着て欲しかったな………

 

「そうだね。男の子はいつまでも少年の心を持ったままだから!!

 ところで、さっきから女の子がこっちの会話を聞いているけど知り合い?」

 

「知り合いではありますね。会ったのも話したのも今日が初めてですが」

 

「そっか。まぁ、高校生の間に青春しときなよ!!

 中学の時のような子だったら何しても文句は言わないでよ?」

 

「言いませんよ。俺のためにっていうのが分かっていますから」

 

「それならばお兄ちゃん冥利に尽きるね。

 あ、龍子さんも来るみたいだから気にかけておいてね、それじゃ!!」

 

 何時会っても、やっぱり嵐みたいな人だ。

 姉さんも来ているんだな。今は波動先輩の方を見に行っているのかな?

 そういえば職場体験の際、兄さんと姉さんは俺のことを指名してくれるのだろうか?

 そろそろ昼ご飯を食べに行きたいけれどもその前に…………

 

「なぁ、拳藤。そろそろ出てきたらどうだ?」

 

「海藤ごめんね、盗み聞きみたいなことしちゃって

 ………ねぇ、もしかしてだけどさっき話してた人って………」

 

「ああ、ナンバースリーのホークスだ。関係としては俺の義理の兄にあたる」

 

「そっか、義理の兄なんだ。なんかあの強さに納得したよ。

 最速で上り詰めたヒーローの教えを受けていたんでしょ?」

 

「ああそうだ。滅茶苦茶辛かったけどな」

 

「でも、羨ましいよ」

 

「申し訳ないんだけど、このことは口外無用で頼む。

 まだ、クラスメイトの誰にも言うことができていないんだ」

 

 なんで俺は入学してしばらくのうちに言わなかったんだろうな?

 自分でもたまに自分が何をしたいのかわからなくなる。

 クラスメイトの事を信用しきれていなかったのだろうか?

 

「わかった」

 

「それと昼がまだなら一緒に食べないか?

 皆は先に食べているから今日は一人で食べることになるんだが

 出来れば一人よりも二人で食べたいからな」

 

「いいよ。その代わりにさっきの騎馬戦で思ったことがあったら言ってくれない?

 他の人からの意見を大事にしたいし、アンタなら核心を突いたこと言えるでしょ?」

 

「それくらいなら全然かまわないぞ」

 

「ありがとう」

 

「それじゃ行こうか」

 

 俺は拳藤と一緒に食堂に向かった。

 今日は一般開放がされており、多くのヒーローやOBの姿を見ることができた。

 ヒーローオタクにとっては聖地に近いのではないだろうか?

 幸いなことに席が空いていたのですんなりと座れた。

 俺はいつもの海鮮丼といきたがったが、

 今日は人が多いために刺身などのナマモノは姿が見えない。

 仕方がないので、ハンバーグ定食にする事にするがチーズにするかトマトにするか……悩むな。

 野菜にするという選択肢?そんなものは残されていないね。

 

「海藤決まった?」

 

「いや、まだだ。なぁ、チーズとトマトどっちがいいと思う?」

 

「私はトマトの方が好きだからトマトにするけど」

 

「なら、半分ずつシェアしないか?」

 

「いいね。そうしようか」

 

 俺はチーズハンバーグ、拳藤はトマトハンバーグ

 飲み物はいつものFAXコーヒー。拳藤はブラックコーヒーとなった。

 正直言うとブラックなんてよく飲めるね。

 俺は飲もうとしても気が付いたら砂糖とかシロップをポイポイ入れてる。

 いや、飲めなくはないんだけど苦いからさ………ホントだよ?飲めるからね?

 砂糖やシロップを入れたものでは見た目は大して変わらないから

 それを姉さんが誤って飲んでしまって顔を顰めていたのをよく覚えている。

 それから更に姉さんの甘党化が加速したんだよね。

 イメージ作りで外では基本ブラックなんだけれどさ。

 姉さんを見習って俺もそうするべきだろうか?

 それとも甘党という信念を貫くべきか?

 

「あっという間にB組の体育祭は終わっちゃったね」

 

「なんか……すまんな」

 

「別に攻めているわけじゃないよ。悔しいから少し嫌味を言ったのはあるけどさ。

 1度ヴィランと戦っただけでこれ程に差が出るんだね」

 

「戦うだけだと多分こうなることは無い。命の危機を味わったからこそ成長出来たんだ。

 今回はA組が勝ったが、来年はどうなっているか分からないだろ?」

 

「そうだね。来年はB組が全勝させてもらおうかな」

 

「望むところだ」

 

 これまで関わることがほとんど皆無だった影響からか少しだけ壁があるように感じる。

 何でここまで関わることがなかったのかね?先生同士の仲が悪いからか?

 この前のオールマイト主催で行なわれた花見にもB組の姿が見えなかったし

 これからは合同でやることも増えるのではないだろうか?

 

「そういえば海藤のチームには普通科の生徒がいたよね。

 あの普通科の子の個性って結局何だったの?」

 

「何だと思う?」

 

「触れた相手を洗脳してたけど、触れた後に会話してたから相手が応答すると洗脳できるとか?

 質問が発動のトリガーになっているの?」

 

「そうだぞ。よくわかったな」

 

「やっぱりそんな訳ないよね……あるの!?」

 

「あるんだなこれが、さすがB組の委員長だ。

 考察能力まで高いとはな。騎馬戦とかじゃないグループ対抗戦なら負けてたかもな」

 

「完全に冗談のつもりだったんだけど…………それにお世辞はいらないよ」

 

「割と本心だ。一応、これも話さないでおいてくれ。組んだ俺たち以外はまだ知っていない。

 心操のアドバンテージを失わせるわけにはいかないからな」

 

「わかった。にしても本当にバランスのいいチームだったんだね

 そもそもあの姿になった海藤を相手にするだけでもキツイのに

 電気を飛ばしてきたり心音も飛んでくるんでしょ?

 その上、奪えたとしても心操の洗脳によってやられる可能性があるってどんな無理ゲーよ」

 

「ゲームとかやるんだな。少し意外だな」

 

「やっぱりそうなんだ?

 私ってバイクとかも好きだからよく趣味が男勝りだねって言われるんだよね」

 

「そうなのか、普通にいい趣味していると思うけどね

 俺もバイクとか好きだから体育祭が終わったら色々話さないか?」

 

「良いねそれ。確か近くのショッピングモールに新しくできたところがあったから

 体育祭が終わった後の休みの日にでも一緒に行かない?」

 

「俺もちょうど行きたいと思っていたんだ。そうしよう。

 当日の予定なんかは今度決めるっていうことでいいか?」

 

「うん大丈夫だよ。連絡先交換しようか」

 

「ああ」

 

 今、ふと我に返ったが俺は何をしているのだろうか?

 昼休憩の後には午後の部が始まるのに何をのんきに過ごしているんだ!!

 というかさらっとデートの約束しているんだ?俺

 拳藤がそう思っているのかわからないが、俺は当日どう振舞えばいいんだ?

 そん時になったら決めればいいか………

 

「ん?苦い…………これ拳藤のか?」

 

「私のだね。ブラック苦手なの?」

 

「苦手なわけではないが単品で飲むなら個人的には甘い方が好きだ。

 普段苦めのコーヒーを飲むときは甘い菓子とかを用意しているからな」

 

「甘党なの?」

 

「ああ。兄さんも姉さんも甘いもの好きで昔からよく食べていたんだよ。

 あ、姉さんはリューキュウな」

 

「…………もう父親がオールマイトとかでも驚かないと思うよ、私」

 

「なんか…………すまん」

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

「お前のコーヒー俺が飲んじゃったからお代わりいるなら買ってくるけどどうする?」

 

「そうだね。海藤のやつを貰おうかな」

 

「これかなり甘いぞ?」

 

「何事も挑戦でしょ?Plus Ultraってやつ?」

 

「その言葉便利だよな」

 

「…………甘すぎないこれ?」

 

「だから言ったのに。ブラックの後にこれ飲むとか狂気の沙汰じゃないぞ」

 

「そこまで?」

 

「そこまで」

 

 そういえば、それって俺がガッツリ口付けたやつじゃないか?

 拳藤が特に意識した様子はないけれども…………

 高校生にもなって間接キスがどうとか言っているのはおかしいか?

 間接キスをしていたことを指摘したらどんな反応をするのだろうか?

 

「そういえば間接キスなんだなコレ」

 

 拳藤から反応がないな…………言わない方がよかったか?

 拳藤の方を見ていると顔を赤くしていた。予想以上に初心な子だったようです。

 きっとアレだな。小説とかでありがちな男勝りなのに初心な女の子。

 まさか現実の世界にも存在していたとはな………

 

「拳藤、顔が熱いが熱でもあるのか?」

 

「へ?い、いやないよ。大丈夫だから!!」

 

「そうか、ならいいんだけどさ。ツラかったら言えよ?

 保健室に連れていくくらいならしてやれるからな」

 

「海藤さ、絶対わざと指摘したでしょ?

 普段女子とやるように自然にやっていたから気付かなかったのに

 …………意識しないでも良かったのに」

 

「悪い。どんな反応をするのか気になった」

 

「絶対にドSでしょ」

 

「さあな」

 

 顔を赤くした状態でこっちのほう見るなよ

 若干涙目になっている上にこっちのほうが身長が高いから上目遣いになっていて心臓に悪い。

 というか涙目になるレベルなのか、砂糖の量。

 少し量を控えた方がいいのか?老後のことを考えて

 

「…………そろそろ時間だ。観客席に戻ろう」

 

「…………逃げた。まぁ、いいか。午後の部頑張ってね」

 

「敵に塩を送られてしまっては優勝するしかないな」

 

「なにそれ」

 

「俺も思った」

 

 拳藤と話して思ったがとても話しやすいと感じた。

 何というか気を使わなくていい感じなのかね?他には上鳴や切島辺りが当てはまるんだよな

 単なる友人として認識しているのかそれとも女子と認識していないのか

 個人的には後者ではないことを祈ろう。

 自分の事は自分が一番わかっているとはよく聞くが、自分のことが一番わからない。

 間接キスを意識するんだから女子扱いはしているのか…………というか俺ってやっぱりSだわ

 

「海藤くん!!これからはレクリエーションが始まるんだって!!」

 

「レクやるんだな。いきなりじゃなくて正直少し安心した」

 

「予選や第二種目で落ちた人への救済処置みたいな感じだな。

 この場しかもう俺らに出番はなくて先に進めたものは参加が自由だそうだ」

 

「そうなのか、なら俺はここで皆の事を見ていようかな」

 

「楽しそうだからウチは参加するけどね」

 

「俺もだ」

 

「そうか。頑張ってな」

 

 ほとんどの人がレクリエーションに参加するみたいだ。

 残っているのは爆豪と轟だけだ。なんか少し寂しいな。二人もどっかに行ってしまったし

 ん?そういえば次の種目の順番を決めるんだったな。

 俺の人間強度は著しく下がってしまったようだ。

 生きていれば何が起きるのかわからない

 …………だから、関りはしても深く踏み込むことはない。

 けれどもそんな生き方を改める時が来たのかもしれないな。

 

『最終種目の前に予選落ちの皆へ朗報だ!!

 あくまで体育祭!!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!!

 本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ…………ん?アリャ?』

 

『なーにやってんだ………………?』

 

『どうしたA組!!?』

 

「峰田さん上鳴さん!!騙しましたわね!!?」

 

 何やってるんだよあいつらは…………

 いや、この場じゃなければ普通にファインプレーと褒めてあげたいけどさ

 全国生中継だぞ?これから先も付きまとってくる問題となりそうだな。

 例えば、チアコスを写真に収めようとする輩とか…………俺じゃん。

 黙ってれば問題ないか…………ファイルの一番奥に保存しておこう。

 あとで上鳴たちにも送ってやろう。

 そろそろ先生の所に行っておくか。何やっているのか怪しまれそうだしな。

 

『さァさァ皆楽しく競えよレクリエーション!!

 それが終われば最終種目進出チーム総勢16名からなるトーナメント形式!!

 1対1のガチバトルだ!!』

 

「トーナメントか…………!!毎年テレビで見ていた舞台に立つんだ…………!!」

 

「去年トーナメントだっけ?」

 

「形式は違ったりしてるけど例年サシで競い合っているよ」

 

「去年はスポーツチャンバラだったっけ?」

 

「そうそう!!見ていてとても面白かったよな!!」

 

『レクに関しては進出者16名は参加するもしないも個人の意思に任せるわ

 息抜きしたい人も温存したい人もいるだろうしね。

 んじゃ1位のチームから順に引いていきましょうか』

 

 公平なるくじ引きの結果…………

 

 一回戦 緑谷VS.轟   二回戦 飯田VS.発目

 

 三回戦 瀬呂VS.心操  四回戦 爆豪VS.麗日

 

 五回戦 切島VS.砂糖  六回戦 海藤VS.上鳴

 

 七回戦 耳郎VS.芦戸  八回戦 常闇VS.八百万

 

 というような結果となった。

 

「マジか最初から海藤かよ…………勝てても常闇かヤオモモって…………」

 

「女子の事を騙した報いじゃないの?」

 

「なぁ、海藤…………手加減してくれたり?」

 

「竜化はしないでやるよ」

 

「やっ「容赦はしないけどな」oh…………」

 

「麗日?」

 

 麗日は爆豪なのか…………不運なことで

 心操は瀬呂なんだな。

 テープをつかむことさえできれば手の内を限りなく見せずに行けそうだな。

 

『よーしそれじゃあトーナメントはいったん置いておいてイッツ束の間

 楽しく遊ぼうレクリエーション!!

 レクリエーション一発目は借り物競争だぁ!!!』

 

 あ…………なんか普通…………個性アリとかそういうルールはないのね。

 借り物競争ってどんなお題が出されるんだろうか?

 こんなヒーローを連れて来いとかかね?

 まぁ、俺に声がかかるようなお題があるとは思えないからゆっくり休んで英気を養っておこう。

 

 と、思っていたんだけどなぁ…………

 

「悠雷、お題が席が近くの人だから来てくれない?」

 

「海藤、お題が一緒に昼を食べた人なんだ来てくれないか?」

 

 何でこうなった?しかもなんで二人同時なの?

 どちらか片方ならともかくとして二人同時にはいけないだろう。

 

「耳郎の近くの席は海藤だけじゃないでしょ?譲ってくれてもいいんじゃない?」

 

「ウチの周りの人はもう全員ゴールしちゃっているから無理。

 拳藤だってほかに昼ご飯を食べた人いるでしょ?」

 

「二 人 き り で 食 べ た からいないよ」

 

 なぜそこで二人きりを強調した?

 響香が凄い目でこっちを見ているんですが…………ウチの誘いは断っておいってて事ですね

 なんか悪いことした気持ちになるけど、俺と拳藤が食堂に着いた時にはもういなかったからね?

 たまたま会ったから一緒に食べただけなんだけなんだけどもさ………

 浮気を問い詰められた夫ってこんな感じなのかな?

 

「悠雷ウチと一緒に来てくれるよね!!」

「海藤、私と来てくれるよね!!」

 

『レクリエーション一発目の借り物競争!!

 7回目にして修羅場が起こっているぞ!!

 A組の耳郎とB組の拳藤が海藤の奪い合いだぁ!!!』

 

 マイク先生…………何してんすか

 修羅場って別に二人のどちらかと付き合っているわけではないんですが…………

 ミッドナイト先生も面白そうに見てないで助けてください。

 相澤先生は既に寝ているから期待できない。

 

「…………こうなったら」

 

「拳藤?お前、何しようと…………」

 

『おおっと!!停滞状態に見えた修羅場に進展アリ!!

 拳藤が個性を使い、海藤を奪取!!そのままゴールへと向かう!!

 一方耳郎!!わずかに出遅れたがすぐさま拳藤の事を追う!!』

 

 いや、ホントにどういう状態なんだよ…………

 これで昼ごはんが云々とか隣の席が云々だと知ったらクレーム来ないか?

 そこはミッドナイト先生が空気を読んでくれることに期待するしかない。

 いいや、きっと読んでくれるさ。

 

『スタート時の差を保ちながらゴールにたどり着いた拳藤!!

 気になるそのお題は!!?ミッドナイトCOME!!』

 

 ミッドナイト先生頼みますよ。

 ここで落胆されるとかはヒーローとして大して関係ないのでマジで頼みます。

 

『男のために必死になるその姿、嫌いじゃないわ!!

 さあ、気になるお題は…………『尊敬できる異性』だったわ!!』

 

「え?」

 

「拳藤、先生に合わせろ。あのお題が知られたら面倒なことになる。

 なんでもいいからでっち上げてくれればいいからさ」

 

「わかった」

 

『ちなみに尊敬すべきところは?』

 

「えっと……」

 

「言ったのは俺だけれども、無理に無い物出さんでいいぞ?」

 

「そうですね………気の使えるところかな。

 食堂でもぶつかりそうになるとさりげなく庇ってくれたし

 誤ってコーヒーに口付けちゃった時も新しいの買ってくれようとしてくれた。

 そういうナチュラルに気遣いができるところです。後は下心を見せないところかな」

 

「意外に高評価なのな」

 

「揶揄ったことは忘れてないけどね。公衆の面前で辱めたことの責任はとってもらうから」

 

「言い方に悪意しか感じないんだけど」

 

「ごめんね」

 

『2人がどんな関係か知りたいけども

 続いてもう一人の気になるお題は…………『尊敬できる異性』全く同じものね

 2人に奪い合いをされるほど尊敬されているなんて羨ましいわ!!』

 

「ウチも言った方がいいのかな?」

 

『もちろんよ!!』

 

「そうだね…………やぱっり誠実で優しいところかな

 口では何と言おうが、ウチ等が本当に嫌がるようなことは絶対にしないしね」

 

『やっぱり誠実な男子はモテるのかしら?

 そこは後で議論するとして次の組に行きましょう!!』

 

 ミッドナイト先生が空気を読んでくれたおかげで大惨事にはならないですんだ。

 ただ、この後が大変だな…………

 

「おい、海藤…………ツラ貸せや」

 

「お前ばかり女子にちやほやされて羨ましいんだよ!!」

 

「お前ら…………特に上鳴はさっきのやらかしさえなければそこそこいい線いったと思うぞ?

 騎馬戦での活躍を見ていた人が多かったし、惜しいことしたな」

 

 よし、これで矛先はずらせたはず…………今のうちに退散しよう。

 はぁ、なんか疲れた。

 その後は大玉転がしで障子と常闇が活躍して

 3角ベースでは拳藤と切島がいい勝負をしていた。

 結果的にB組の勝利で終わった。

 両組の応援をしていたら、皆に咎めるような視線で見られた。解せぬ。

 上鳴と峰田には先程の写真を送っておきました。

 

「オッケーもうほぼ完成」

 

『サンキューセメントス!!

 ヘイガイズアァユュウゥレディ!!?いろいろやってきましたが!!

 結局これだぜガチンコ勝負!!

 頼れるのは己のみ!!ヒーローでなくてもそんな場面ばっかり!!わかるよな!!

 心・技・体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!

 一回戦!!両者トップクラスの成績!!まさしく両雄並び立ち今!!

 緑谷バーサス轟!!!START!!!』




アンケート結果を考慮してトーナメントを組みました。
どんな結末にするのかはまだ考え中なので投稿日は未定です


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第12話 最終種目 上

待たせたな!!え?待ってない!?
だいぶ主人公のキャラがブレている気がする………
相変わらずの駄文は許してください。


 雄英体育祭が進行して障害物競走、騎馬戦及びレクリエーションを挟み

 雄英体育祭、最終種目のトーナメント

 

 今、まさにその第一試合が始まろうとしていた。

 

『今回の体育祭両者トップクラスの成績!!まさしく両雄並び立ち今!!

 緑谷バーサス轟!!START!!!』

 

 プレゼントマイクの宣言により試合が始まる。

 轟はナンバーツーであるエンデヴァーの息子という事が知れ渡っており、

 緑谷も障害物競走や騎馬戦の活躍からかなりの注目を集めていた。

 試合開始の直後、轟はいきなりかなりの規模の氷結を繰り出してくる。

 

「ねぇ、悠雷はどっちが勝つと思う?」

 

「………そうだな。個性の制御ができているならば緑谷にも可能性があったと思うが

 制御ができていない現状では間違いなく轟の勝ちで終わるだろうな」

 

「そうはならないぞ海藤」

 

「常闇?」

 

 なんだかんだ話したのはかなり久しぶりだな。

 USJでの戦闘後はもう関りが薄くなっていたからな。

 一緒に戦闘訓練をしようと言ったが、結局のところ一度しかやっていない。

 人と関わるという事は本当に難しい…………

 こちらからは相手の考えていることがわからず、何が原因かもわからないのだから

 

「なぜと思うだろうが、既に緑谷は己の力を制御出来ている」

 

「緑谷は最後の一週間訓練しようと誘っても来なかった。

 その時は常闇と一緒に訓練をしていたのか?」

 

「そうだ。お前を少しでも驚かせるためにな。

 俺も緑谷ほどではないが、かなり強くなった。戦うその時を楽しみにしているといい」

 

「そうか…………それはとても楽しみだ。

 緑谷が常闇の言うとおり制御ができているならば、この勝負の行方は轟が炎を使うか否かだな。

 …………俺は家庭の事情に首を突っ込む気にはなれないが緑谷はどうなんだろうな?」

 

 制御可能のあの超パワーならば、それを知らなくても接近させることは嫌うはずだ。

 戦闘訓練でビルを突き破ったあの威力を見ていれば誰でもそうするだろう。

 それだからこそあの威力の氷結を放ってきた。

 全力ではないにしてもかなりの威力で開幕に飛んでくる氷結をどう防ぐのか………

 

『おオオオオオ!!破ったぁ!!』

 

「すげぇな緑谷!!氷結を破りやがった!!」

 

「この短期間でここまで………さすが緑谷君だ!!」

 

 拳での超連打………USJであの脳無と戦った時のオールマイトを参考にしたのだろうか?

 ダメージが例え一だとしても数百回ぶち込めばいいという脳金理論。

 俺は見ることは叶わなかったが、次元が違う戦いだったらしい。

 

 …………本当にオールマイトと戦い方が似ている。

 

 2人に何かしらの関係がないか調べてみるべきだろうか?

 轟の言うとおり、隠し子や弟子という可能性もありそうだ。

 いくら個性が似ているだけで自分の技名と同じものを使わせないだろう。

 

 緑谷はあの超パワーを完全に制御しているわけではないようだが、

 今までとは比べ程にならないほどに強くなっている。

 もともと本人の考察力などは高いから、制御できているだけでも脅威足り獲る。

 

「ただ、轟の攻撃は基本的に全体攻撃だからな。

 緑谷が何を考えて行動しているのか俺は知らないがこのままだと瞬殺マンの轟を相手に

 自らも決して有利とは言えない耐久戦を挑むことになるのも事実だ」

 

「そっか………あれって必殺技でもないんだよね」

 

「通常攻撃が全体攻撃ってやっぱヤバくね?」

 

「強烈な範囲攻撃を連発してくるやつってやっぱ強ぇからな。爆豪とか海藤も」

 

「ポンポンじゃねぇナメんな」

 

「簡単に見えるだろうが、全然そんなことはない。

 俺や爆豪なども例外なく限界が存在するぞ?」

 

「ん?」

 

「どういうことなの?」

 

「筋肉酷使すれば筋線維が切れるし、走り続ければ息が切れる。

 “個性”だって身体機能だ。奴にも何らかの“限度”はあるだろ」

 

「………現状の問題はその限界が来るまで緑谷が戦えるかなんだがな」

 

 常闇は個性の制御ができていると言っていた。

 けれども見ている限りではまだまだ甘いと感じる部分も多い。

 当然と言えば当然か、個性が発現してから数か月も経っていないらしいからな。

 制御を見誤ってしまった場合、形勢は一気に変わる。

 

『轟、緑谷のパワーに怯むことなく近接へ!!』

 

 このままでは埒が明かないと踏んでの判断か?やはり近接に置いても轟の方が上手だな。

 これは個性の不利有利ではなく、今まで積んできた経験によるものだな。

 来年、再来年はどうなるか分からないが今年の緑谷はこのままでは間違いなく負けてしまう。

 相澤先生のように身体能力で劣っていようと経験でカバーしているヒーローも存在する。

 長年培ってきた経験というものは馬鹿にできないものだ。

 

「ッ!!緑谷の腕が!!」

 

「制御を誤ったのか………」

 

 近接に持ち込んだ轟に焦ったのか緑谷は左手を壊してしまう。

 これまでを見ている限り、左手はもう使えないだろう。

 使おうとするならば、腕が使えなくなる覚悟が必要なほどのケガだ。

 あそこまでの怪我を負いながら立っていられる精神力には素直に脱帽しよう。

 

「焦れば焦るほど、個性の制御は難しくなる。あのような超パワーなら尚のこと

 個性が発現してからこの僅かな期間でここまで仕上げた緑谷は見事だったが、やはり轟は強い」

 

「だが、きっと緑谷くんなら!!」

 

「まだ、勝負はついてないぞ!!」

 

 緑谷にはそう思わせるような何かがあるのだろうか?

 今のままでは間違えなく負けるだろうが………ん?轟の動きが鈍っている?

 それが持久戦を選択した緑谷の目的なのか?

 恐らくだが、轟の限界は体温の低下による威力及び身体能力の低下なんだろうな。

 俺のように個性によって扱える電気の量に上限があるとかではないんだな。

 

『………っ!!皆………本気でやっている。

 勝って………目標に近づく為に………っ、一番になる為に!!

 半分の力で勝つ!?まだ僕は君に傷一つつけられちゃいないぞ!!全力でかかって来い!!』

 

 …………緑谷お前は何をしようとしている?もしかしてだが、お前は轟のことを…………

 

『何で、そこまで……』

 

『期待に応えたいんだ………!!

 笑って応えられるような………カッコイイヒーローに………なりたいんだ!!

 だから全力で!!やってんだ皆!!

 君の境遇も君の決心も僕なんかに測りしれるもんじゃない………

 でも………全力も出さないで一番になって完全否定なんてフザけるな!!って今は思ってる!!

 だから………僕が勝つ!!君を超えてっ!!!』

 

『親父を────…………』

 

『君の!!力じゃないか!!』

 

『勝ちてえくせに…………ちくしょう…………

 敵に塩送るなんてどっちがフザけてんだって話だ…………俺だってヒーローに…………!!』

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

「なんか…………すごい試合だったな」

 

「余計なお世話こそヒーローの本質………

 あのような真似ができる者こそが本当のヒーローになれるんだろうな」

 

 俺にはあの様な行動は出来るのだろうか?

 いや、行動を真似するのでは駄目だ………それはただの贋作に過ぎない。

 オールマイトが平和の象徴と言われているのはあのような献身があっての事なのだろう。

 本当に雄英に入ってよかった………

 今の自分には足りていない、知らなかったことを己の糧としよう。

 

「次の試合は飯田と発目だったか?」

 

「確か、サポート科の生徒ですわ」

 

「サポート科は自分で作ったサポートアイテムを持ち込めるんだっけ?」

 

「ここまで上がってきたからにはかなり優秀な人だと思うけどどんな個性持ちで性格なんだ?

 たしか麗日は騎馬戦でチームを組んでいたと思うが、何か知らないか?」

 

「そやね………性格は何というか緑谷君と似ていた気がしたよ」

 好きなものに熱中するタイプだって言えば伝わりやすいかな?

 個性は確か遠くのものをよく見ることができるとかって言ってたよ」

 

「そうなのか」

 

 それは緑谷と相性がいいだろうな。

 緑谷にヒーローを語らせたら間違いなく酸欠になるまで止まらないだろう。

 もはや芸と呼べるレベルまで昇華されていると個人的には思う。

 発目は自分の発明品に愛情を持っているというのできっといい科学者になるんじゃないかな?

 同じ世代に優秀な発明家がいるというのはいいことだ。

 出来る事ならば、彼女と接点を持ってみたいな。

 

 試合の方だが………まぁ、結論から言えばあれは試合じゃなかった。

 飯田は言葉巧みに発目のベイビーたちを企業に紹介するのに使われた。

 もはや、実演付きの商品販売といった方がいいだろう。

 使うことが出来るものは入学してから作った物のみという条件が付いているにもかかわらず

 あれほどの量を作ることが出来るだなんて………すげぇな。ホント。

 飯田は膝から崩れ落ちていたが、一方の発目は満面の笑みを浮かべて会場から去っていった。

 もうミッドナイト先生も投げやりな感じだったし

 

「やはり彼女と接点を持っておくのは悪くないだろうな」

 

「海藤ちゃんはああいう子が好みなのかしら?」

 

「違うぞ?俺は自己主張が激しい子は好みじゃない。

 将来有望な科学者と接点を持っていればヒーロー候補生として悪くないと思ったからだ」

 

「なんだ~つまらないの」

 

「悪かったな」

 

「でも、タイプが聞けて良かったね!!」

 

「出来る事ならもっと詳しく聞きたいけど………」

 

「遠慮する」

 

「ですよね~」

 

 本当に女子は恋バナが好きなのだな。

 この前、姉さんにマスゴミと女子にそういうネタを提供してはいけないって言われた気がする。

 俺も今度から気を付けた方がいいかね?

 ねじれちゃんと話している姿を見られてしまったら盛大に誤解される気がする。

 

「次の試合は確か、心操と瀬呂だったよね」

 

「ああ。心操はどう戦うんだろうな?

 個性とかは教えておいてあるから瞬殺はされないとは思うけど」

 

 教えたことを後悔はしていないが、スポーツマンシップに反するだろうか?

 余計なお世話がヒーローの本質とは言え、踏み込みすぎたな。

 本人が望んだならばともかく聞かれていないことを言うのはやり過ぎた。

 もしも、瀬呂が負けてしまったらドンマイと言ってやろう。

 

「そこは見てのお楽しみでしょ」

 

「そうだな」

 

『今のところ目立った活躍こそないが、対人戦にて圧倒的な個性を持つ。

 普通科のエース!!!心操人使!!!

 対するは…………優秀!!優秀なのにその拭い切れない地味さは何だ!!

 ヒーロー科一年A組!!瀬呂範太!!!START!!!』

 

 さて、試合が始まったが心操はどう動くのだろうか?

 テープに捕まったら最後………触られさえしなければ勝ちという事を向こうが知っている以上。

 これはなかなかに苦しい戦いになりそうだな。

 相手が爆豪ならば煽ればいいだけで簡単だったかもしれないんだけどな。

 破る方法がダメージを受ける以外にあれば別なんだろうが、そこのところどうなんだろうか?

 

「わりぃが、勝たせてもらうぞ」

 

「させねーよ!!」

 

『瀬呂いきなりの攻撃!!このルールだと不意打ちも有効な手だぜ!!

 ご丁寧に手に触れないように拘束している!!これはさっそく勝負あったか!!?』

 

「………甘い」

 

 本来は問いかけに対して応答したらだもんな。

 問いかけに応じてから何秒間なら洗脳できるのか知らないが、この短時間なら可能なんだろう。

 …………瀬呂…………ドンマイ。

 

『おおっと!!瀬呂どうしたぁ!!?動きが完全に停止してしまったぞ!!!』

 

『心操の洗脳は手で直接触れたらなんて一言も言っていなかったからな。

 いかに手に触れないように気を付けていたとしても身体に触れる事ならば相性が悪すぎた』

 

『二回戦へと進出したのは普通科の心操人使だぁ!!!』

 

 うん…………ドンマイ。

 会場にもドンマイコールが響き渡っている。

 取り敢えず、心操におめでとうとでも言いに行こうかな。

 爆豪と麗日の試合は結果が既に結果がわかっているから見ないでも問題なさそうだな。

 入学当初ならともかく今の爆豪に勝つことはできないだろう。

 

「よっ」

 

「海藤、試合見ないでもいいのか?」

 

「大丈夫だ、問題ない。心操と話したらそのまま控室に行こうと思ってるからな。

 そんな事よりもみんなの前で戦ってみてどう思った?楽しかった?」

 

「楽しいというよりも申し訳ないと思った。

 こっちは相手の手の内を知っているのに相手は知らない、これってフェアじゃないだろ?」

 

「…………正直、意外だな」

 

「何が?」

 

「もっと貪欲に行くもんだと思っていたから」

 

「お前らと組んで考えが変わった。

 もしも組むことが無ければ使っていたかも知れないが、仮に使っていたとしたら

 きっとお前らと同じところには行けないからな」

 

「そうか」

 

「俺はこのまま決勝まで行く」

 

「んじゃ、そこで会おうか」

 

「またな」

 

 俺は心操と別れると控室に向かった。

 予想通りの結果で爆豪が勝ち進んだが、あの流星群は惜しかったな。

 爆豪の反射神経と個性との相性が悪すぎた。

 来年は同じようにはいかないだろうからこれからが楽しみだな。

 ちなみに俺の前の試合である切島と砂糖は殴り合いの末、切島が勝った。

 砂糖の個性も強力だが、切島の硬化を打ち破ることができなかったみたいだ。

 二週間の特訓を経て、かなり強度を上げたから今では破るのに少しだけ苦労する。

 そろそろ時間だし、行こう。

 

『続いてはぁ!!第一種目、第二種目で好成績を残し続けた

 ヒーロー科A組最強格の一人!!海藤悠雷!!

 一方!!相対するのはスパークリングボーイ!!上鳴電気だ!!』

 

「さて、上鳴くん何か言い残すことは?」

 

「俺まだ死ぬ気はないからな!!?」

 

「骨なら拾うって言わなかったっけ?」

 

「噓だろ!!?」

 

「女子(主に響香)にそのくらいなら許すって言われたから」

 

「何もよくない!!まぁ、取り敢えず全力でやってやる!!」

 

『START!!!』

 

 開始と同時に電気を纏って走り出す。

 上鳴にもこの技を教えているが、総電力量も瞬間的な放電量も俺が上回っているから問題ない。

 身に着けたはいいけれども発動までが遅すぎる。

 俺が攻撃のモーションに入ったときにようやく発動できたくらいか………

 体育祭が終わったら、また扱いてやろう。

 

「上鳴、発動が遅いぞ?」

 

「クソッ!!」

 

 そんで採った選択が放電攻撃か………相変わらずだな。

 わずか二週間で癖を矯正できるなどと思っていなかったが、こればかりは直さないとな。

 電気に対して耐性をもっている俺の様な相手に対して放電は悪手だ。

 自らに隙を生んでしまうだけではなく、相手に力を与えてしまう場合もある。

 この放電は有難くいただくとしよう。

 

「咄嗟に放電するなら相手を選べとあれほど言ったのに………まぁ、今はいいや。

 体育祭が終わったらまた一緒に訓練しような」

 

 上鳴の放電をいただいたときに少しだけ距離が開いてしまった。

 瞬時に接敵して拳に電気を纏わせる。

 

「え!!ちょっ待って!!」

 

「嫌だ」

 

 俺の一撃が顔面にHITして、上鳴が吹っ飛ぶ。

 それを追いかけて叩き落してから蹴り飛ばす。

 これくらいやっておけば女子も満足してくれるだろう。

 

『それは勝負というにはあまりにもあっさりとし過ぎていた。

 素早く逸早く速くそして大した見せ場の無い幕引きだった』

 

『HEY!!イレイザー!!ベルセルク風のナレーションで誤魔化すのは無理がありすぎるぜ!!』

 

『興味ないね』

 

「それは、FFと言うにはあまりにも現実的すぎた。

 カップ麺やゲーセン等、現実世界で存在するものばかりだった」

 

『海藤も乗っかるなよ!!というかセリフ微妙に違うし!!』

 

「興味ないね」

 

『おい!!』

 

 …………というわけで勝ったよ

 

 上鳴?ああ、いい奴だったよ。

 いや別に死んではいないよ?

 ただ必死に努力して身に着けた身体強化が全く通用しないで落ち込んでいるだけだから

 まさか、チアコスの写真でも立ち直らないとは…………むしろ敵を見るような目で睨まれてしまった。

 別にМという訳ではないが、ゾクゾクしたよ。

 

 取り敢えず、その後に起こった出来事について話そうか

 俺と上鳴の試合が終わった後、響香と芦戸の試合が行われた。

 

「響香、頑張ってな」

 

「ありがとう悠雷。頑張ってくる」

 

『それじゃあ、次に行こう!!さっきはあっさりと終ってしまったから接戦を期待するぜ!!

 ヒーロー科一年A組耳郎響香VS.芦戸三奈!!START!!!』

 

 先程の試合とは違いかなりの接戦となり会場も大いに盛り上がった。

 芦戸の放つ酸を響香が交わして、響香のプラグを芦戸が躱すといった攻防が主となる戦いとなり

 時折織り交ぜられている駆け引きが注目の一戦となった。

 酸をどのように放つのか、プラグで攻撃するのか心音で地面を割るのかなどの攻防が続いた。

 

 結果的にはこの試合では身体能力の差で響香が敗北した。

 コスチュームを着ての試合だったのならば、結果は変わったのではないかと

 皆が口々に言うくらいに接戦だった。

 

 常闇とヤオモモは…………常闇の圧勝だった。

 ヤオモモが凹んでないといいんだけど…………これは本人の問題だから手の出しようがないか

 酷かったとしても相澤先生が何とかするだろうし、大丈夫だ。問題ない。

 

 二回戦はトーナメントを勝ち進んだもの同士の戦いとなる

 

 二回戦第一試合  轟VS.飯田  二回戦第二試合 心操VS.爆豪

 

 二回戦第三試合 切島VS.海藤  二回戦第四試合 芦戸VS.常闇

 

 観客であるヒーローたちに配慮してしばらくの休憩の後に開始となる。

 




次回は二回戦かな
もしかしたら準決勝まで入れるかもしれませんが


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第13話 最終種目 中

久しぶりの本編ですよ~
間違えて投稿してしまい、一度消しました。


 さて、そろそろ二回戦が始まる時間だ。

 だいぶ休憩時間長かった気がするな…………一か月くらいかな?

 二回戦第一試合である轟VS.飯田…………

 

 互いにヒーローのエリートを多く輩出してきた名家同士の対戦だ。

 もっとも当人の轟はそんな事は全く考えてないだろうが…………

 何があったらあそこまで自分の父親の事を憎むことができるんだろうな。

 いつかクラスの皆に話してくれるといいんだがな。

 …………これに関しては俺が言えたことじゃないか…………俺の過去もいつか話さないとな。

 話すにしても、ただただ重い過去っていうのも考えようだ。

 話を聞くといっても暗い過去なんて好き好んで聞きたいものじゃないだろ。

 

「この試合の勝敗はどうなるんだろうな?

 それと緑谷、お前たちの試合が終わったあとに轟は何か言っていたか?」

 

「目を覚まさしてくれてありがとうって言ってたよ。ただ………」

 

「ただ?」

 

「炎を使うかまでは言ってなかったな………」

 

「そうか………きっと轟なら乗り越えてくれる筈だ」

 

 いや、乗り越えてくれないと困る。

 あのまま進めばいつか取り返しのつかないことが起こりそうで怖いんだ。

 だから必ず変えないといけない………そんな気がする。

 こういうのを勘とでもいうのかね?よく解らんがな。

 

『二回戦!!サクサク行こうぜ!!

 お互いヒーロー家出身のエリート対決だ!!飯田天哉VS轟焦凍!!』

 

 轟は緑谷戦の時よりも規模は少し小さい氷結を放ってくる。

 緑谷と戦った時のように砕かれることを警戒したのだろう。

 大きな氷結は自らの視界を塞いでしまい、隙を生み出すことになってしまう。

 流石というべきか前回の反省が即座に反映されている。

 それに対しての飯田はどう立ち回るのだろうか?

 

「レシプロバースト!!」

 

「速い!!」

 

「立ち幅跳び!!」

 

 あれは今まで隠していた切り札か?

 恐らくだが、飯田には緑谷の様な打消しは出来ない。

 だからこその短期決戦を選んだのだろう。

 

「決める!!!」

 

「っぐっ」

 

「すげぇ!!速すぎだろあの蹴りだいぶ重そうなの入ったぞ!!」

 

 飯田は必殺技と思わしきものをを発動して轟の頭に蹴りを入れた後ジャージを掴んで走り出す。

 だが、現状では轟には1歩及ばないというところかな。

 頭ではなく胴体を狙うなりして空中に浮かせさえすれば勝機はあったのだが……惜しいな。

 これまでの戦いを見ていても空中に氷を作ることはできなさそうだからな。

 せっかくなので、俺が戦う時の参考にしておこう。

 

「いつの間に!!!!!」

 

「範囲攻撃ばかり見せてたから…………こういう小細工は頭から抜けてたよな」

 

『飯田行動不能!!轟、炎を見せずに準決勝進出だ!!』

 

 轟が今まで見せなかった小細工を使い、飯田を下した。

 結局のところ、炎を使うのだろうか?次は爆豪だから使わなかったら荒れる気がするな。

 俺の方にまでとばっちりが回ってこないといいのだけれど………

 俺の試合ももそろそろだから飯田に声を掛けたら移動しようかな。

 スタジアムで爆豪と心操の戦いを直接見ることが出来ないのは残念だな。

 

「飯田君お疲れ様」

 

「お疲れ様~」

 

「お疲れ、飯田」

 

「すまない皆、あっさりと負けてしまったよ」

 

「かなり善戦してたと思うけどな」

 

「そうそう。あの必殺技何なの?すごく早かったけど」

 

「あんなん隠してたなんてズルいよ!!」

 

「ああ、あれは必殺技なんて呼べたものじゃないさ

 あれは無理やり負荷をかけている誤った使用方法だからね」

 

「そうなのか。だが、それでも必殺技という意味では十分に使えると思うぞ?

 必殺技だからと言って必ずしも攻撃でなければいけない訳ではないからな」

 

「ありがとう海藤くん!!」

 

 やべ、そろそろ移動しないと駄目じゃないか。

 少し急ぎ目で控室に向かうと、ちょうど試合が始まるところだった。

 

『それじゃあ二回戦第二試合…………ヒーロー科爆豪対普通科の心操!!

 普通科のエースはヒーロー科きっての暴れん坊にどんな戦いを見せるのか!?』

 

「…………おい、てめぇ。退くならさっさと今退けよ「痛ぇ」じゃすまねぇぞ」

 

『START!!!』

 

「退くなんて選択肢があるとでも?」

 

「なら、死ね!!」

 

 心操は爆豪に特攻を仕掛ける…………がこのままいくと麗日の二の舞だ。

 爆豪の反射速度を上まることがない限り愚策に等しい。

 身体能力が現状では麗日よりも劣っているし勝ち目はまず無い。

 テレビを通して見ているが、先程の麗日との戦いのときのように観客がざわつき始めてきたな。

 本当にあいつらはプロヒーローなのか?なんか幻滅するな。

 

「…………やっぱりだめか」

 

「あ?」

 

「卑怯だとは思うけれども…………俺は勝ってあいつと戦わないといけないんだ」

 

「さっきからウダウダとうるせぇんだよ!!」

 

 心操が動いたか…………洗脳を解くことができなければ爆豪の敗北が決まるな。

 こんなにあっさりと終るような奴じゃないと思っているが果たしてどうなる?

 

「…………俺の勝ちだ」

 

『どうした爆豪!!完全停止!!

 いつの間にか洗脳されていたのか!??というか何時!?』

 

『はぁ…………これだからあの試験は合理的じゃないんだ』

 

『ん?何?』

 

『二人の簡単なデータだ。個人戦になるから纏めて貰っておいた。

 心操の個性は『洗脳』発動条件は触れることではなく

 心操が洗脳の意思をもって相手に問いかけ、それに相手が応じることだ。

 相当に強力な個性だが、あの入試内容じゃそりゃあPOINT稼げねえよ』

 

「お前は…………恵まれていて羨ましいよ。

 俺みたいに汚い手を使うことなくても海藤と戦うことができるんだから

 …………振り向いて舞台から降りろ」

 

 爆豪はそのまま歩き始めて、場外ギリギリまで歩を進める。

 優勝候補であった爆豪が負けるといった番狂わせが起きそうな場面に立会い

 観客席のヒーローたちも解説の先生たちも息をのんで見守る。

 

 

 ──そして

 

 

「ふざけんなゃ!!クソが!!!」

 

「なんでッ!!!完璧にかかったはずなのに!!」

 

 線を超える直前で爆豪は自らの右腕を爆破し、自我を取り戻した。

 騎馬戦の後に洗脳してもらったが、あれを自力で破るとかどんな精神してるんだよ…………

 少なくとも精神力でのぶつかり合いとかでは勝てる気がしないな。

 いや、精神というよりもこれは自尊心やプライドの類だな。

 

「てめぇ…………本当にブチ殺すぞ!!何が恵まれていて羨ましいだ?

 ああ!?こっちが何の努力もしないでここに立っているとでも言いてぇのか!!?」

 

「ッ!!それは…………」

 

「チッ。もういい…………落ちろ」

 

 試合は呆気なく爆破で心操が落ちて終わった。

 爆豪の言葉は普通科の生徒にも刺さったみたいでなんか残念だった。

 ヒーロー科の授業は他の高校と比べてもトップクラスに厳しいものだからね…………

 まぁ、兄さんと姉さんの強化プログラムには負けるけどね!!

 

『長ったらしい言葉は不要!!海藤VS.切島!!START!!!』

 

「さて、切島。勝負といこうか」

 

「ああ!!全部受け止めてやる!!」

 

「悪いが最初から全力で突破させてもらうから、硬化緩めるんじゃねえぞ?」

 

 切島の腕にそれなりの力を込めた一撃を撃ってみるが、やはり硬いな。

 全力の攻撃をかなりの回数打ち込めば突破できるだろうが、それは避けたい。

 この後の戦いに響く恐れがあるだろうからな。

 ここに水でもあれば、猶のこと良かったんだがな。

 

「効かねーっての!!今度はこっちからいくぜ!!」

 

 その言葉を言い放った後、切島は近距離でのインファイトを仕掛けて来る。

 近接特化の個性という事もあってやはり強いな。

 特訓やUSJでの戦いで見た時よりも技の切れが良くなっている………

 やはり雷を纏って内部を攻める方が良さそうだな。

 

「確かに硬いな…………だが、硬化では雷は防ぐことができないだろう?」

 

「てっ…………!!」

 

『海藤の攻撃が効いたぁ!!?なんでだァ!?』

 

『海藤の打撃というよりも纏わせた雷だろうな。

 スタンガン程度の電撃を纏わせているだけで必殺になるからな』

 

 相澤先生が先ほど言ったように雷を纏った攻撃を食らってしまうと

 スタンガンに満たない程度の電流が相手の身体に流れるようになっている。

 何発か喰らっても倒れないとは流石の耐久力だな。

 いや、精神力か?奥歯を噛み締めて耐えているのか?

 そんなことで防げるほどに俺の雷は軟じゃないけどな。

 

「悪いが、そろそろ終わらせてもらう」

 

「ッ!!!」

 

 今までとは比べ物にならないほどの雷を纏った一撃を与え、切島をフィールドに沈ませる。

 予想よりも多く消費してしまった………次の試合までに蓄電しておかないとな。

 次の対戦相手は恐らくだが、常闇になるだろう。

 芦戸の身体能力はかなり高いものだが、ダークシャドウ相手では分が悪い。

 

 そのあとに行われた試合については常闇が終始圧倒して終わった。

 紳士的な態度で常闇のファンが増えたことくらいしか語ることがないな。

 次の試合は轟VS.爆豪。海藤VS.常闇となった。

 轟が全力を出さないと爆豪が暴れだしそうで怖いな。

 そこは今気にすることでもないか。

 流石に公衆の面前で暴れるってことはしないだろうし…………しないよな?

 

『さァ準決勝!!轟VS.爆豪!!START!!!』

 

 開幕と同時にかなり大規模の氷結が放たれる。

 緑谷の時よりは小さいが、飯田の時よりも大きいな。

 自らの視界を最低限確保しつつ、相手にダメージを与えるように考えられている。

 

『いきなりかましたぁ!!!爆豪との接戦を嫌がったか!!早速だが、勝負ありかァ!!?』

 

 この規模なら身体に負担がかかる事は無い。次を警戒したか。

 爆豪がこの程度でやられてしまうとは考えにくい。

 氷結の奥の方から大きな音がするし、対して効果はなかったのだろう。

 

「爆発で氷結を防いでモグラみたいに掘り進めたのか」

 

「んなケッタイな!!」

 

 轟の個性は確かに強いが攻め方が大雑把だな。

 床を凍らして、空中に逃げたところを追撃とか他にも攻め方があるだろうに…………

 爆豪は轟の右側を避けて掴み、ぶん投げる。

 本当に戦闘センスの塊だな…………戦うたびに強くなっている気がする。

 緑谷も似たようなものだし、どこの野菜人ですか?

 その内、髪が逆立って光りだしたりするんじゃないか?

 

『氷結で場外アウトを回避────!!!何あれ楽しそう!!』

 

『んなこと言ってる場合か』

 

 今のシチュエーションなら、炎を使えば使えれば

 がら空きの胴にいい一撃を叩き込めた筈だ…………本当に使う事は無いのだろうか?

 

「──…………俺じゃあ力不足かよ」

 

 戦うたびにセンスが光る爆豪に比べて轟は緑谷戦から調子を崩している。

 炎という決定打を使わないならば、このまま負けてしまうだろう。

 氷結だけだと身体に霜が落ちればそこまでだからな。

 

「てめェ虚仮にするのも大概にしろよ!!ブッ殺すぞ!!!

 俺が取んのは完膚なきまでの一位なんだよ!!!

 舐めプのクソカスに勝っても取れないんだよ!!!

 デクよりも上に行かねえと意味ねえんだよ!!!

 勝つつもりもねえなら俺の前に立つな!!!何でここに立っとんだクソが!!!」

 

 その言葉を聞いた轟が左の炎を灯す。

 爆豪の本心からの叫び声を聞いて何かしら思うところがあったのだろう。

 轟が炎を構えたのを見て爆豪は飛び出す。

 

「榴弾砲着弾!!!」

 

『麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加えまさに人間榴弾!!!

 轟は緑谷戦での超爆風を撃たなかったようだが、果たして…………』

 

 爆破によって起きた煙が晴れるとそこには場外アウトとなった轟の姿があった。

 結局のところ炎を使うことが無かったな。

 もしも、轟が炎を使うことがあったのならばまた違う結末があったのだろう。

 その後、激怒した爆豪が気絶した轟に詰め寄ったが、ミッドナイト先生が眠らした。

 

「轟くん場外!!爆豪くんの勝ち!!」

 

『激闘を制し、決勝へと駒を進めたのは一年A組爆豪勝己だぁ!!!』

 

 そろそろ移動しておくか。常闇との準決勝戦だからな。

 ダークシャドウに対する対策は既に立てているからそれが効けば良いな。

 効かなかったらスピードでゴリ押しするかな。

 常闇は間合いの内では強いが、それは中に潜り込めれば隙があるという事だ。

 相手の弱点が分かっているのならばそこを衝かない手はない。

 

『準決勝戦第二試合海藤VS.常闇!!START!!!』

 

「一気に行かせてもらう!!」

 

「出来るといいな!!」

 

「いけ!!ダークシャドウ!!!」

 

 常闇の言葉と共にダークシャドウがこちらに突っ込んでくる。

 個性としてとてもレアケースなダークシャドウだが、如何せん経験が足りない。

 何の小細工もされていない、ただの突進では残念ながら当たらない。

 ダークシャドウが常闇の傍を離れるという事は常闇が無防備になるという事を意味する。

 常の身体能力は決して低いという訳ではないが、別に高いわけでもない。

 そんな常闇が武器等も持っていない状態では脅威足りえない。

 こちらの攻撃を防ぐために両手をクロスさせガードの姿勢を取るがガードが甘い。

 

「胴ががら空きだぞ?」

 

 頭を護っているためにがら空きとなってしまっている胴に蹴りを叩き込む。

 そして、突進から戻ってきたダークシャドウの不意打ちを避ける。

 この一撃で決め切った方がよかったか?

 一応、場外ギリギリまで追い込んだんだけれども

 

「くっ!?やはり正面戦闘ではあちらの方が数段上か…………」

 

 常闇に追撃として雷撃を放つが、ダークシャドウに防がれる。

 その隙に常闇が攻撃を仕掛けてくるのでバックステップで回避する。

 わかっていたことではあるが、やっぱり二体一での戦いを強いられるという事は厄介だな。

 後悔役に立たずというが本当にそうだな。

 

「やっぱりダークシャドウが厄介だな」

 

「悪いが、ここで終わるつもりはない!!行くぞ、ダークシャドウ!!」

 

「アイヨ!!」

 

 自動で攻撃をしてくれるというのは味方なら心強いんだろうがな。

 雷を鎖のようにして放つが、これも叩き落された。

 光が弱点だと思ったがそうではないのか?

 少しだけ縮んだような気はするからこのまま攻め立てるか

 

『海藤VS.常闇!!海藤の怒涛の連続攻撃が止まらない!!

 いままで無敵に近い個性で勝ち上がってきたがここでは防戦一方!!

 最初を除いて攻撃すらできていないぞ!!』

 

「ダークシャドウにも体力があるんだろ?段々とスピードも遅くなってきているぞ?」

 

「くっ!!掴め!!ダークシャドウ!!」

 

「指示で行動がまる解りなんだよ!!」

 

 ダークシャドウの掴みをすり抜けるように躱して常闇の背後を取る。

 そして、最大出力の雷撃を放つ。

 ダークシャドウは見たことがないほどに小さくなり、常闇の身体は地に伏せる。

 

『常闇戦闘不能!!海藤の勝ち!!決勝に進出したのは海藤悠雷だぁ!!!

 決勝は30分間の休憩を挟んだのちに行われるぜ!!』

 

 無事に決勝に進出することができたな。

 最後の相手は爆豪…………油断ができない相手だ。

 最初から全力でいこう。




一月中に体育祭は終わらせるつもりです。

IFルートはその後かな?


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第14話 最終種目 下

雄英体育祭終了!!
少しだけ遅くなってしまった………
本当は日曜日にでも投稿予定だったんだけれど


 決勝戦が始まる前。

 悠雷は自らに割り当てられた控室で蓄電を行っていた。

 まだまだ余力十分だが、準備できるならしておくに越した事は無い。

 そういえば三年生の方はもう終わったらしいが、姉さんは見に来ているのだろうか?

 ねじれちゃんもいるだろうから間違えなく来ているだろう。

 これは決勝で無様を晒す訳にはいかないな。

 竜化すると場外アウトが怖いから、それは無しの方向性でいこう。

 場外アウトというルールさえなければ竜化したんだがなぁ。

 足がうっかり外に出て負けましたとかなったらどうすればいいんだろうか………

 この前、ドクターに無理するなと言われた気がするが、そんなこと気にしなければいい。

 別に首がへし折られたくらいなら治る。

 尻尾切られてもしばらくしたら生えてくるし、問題はないはず。

 身体の内側からダイナマイトで爆発でもされたら流石に無理だけれどさ。

 そんなことを考えていると、突然控室のドアが開く。

 

 入ってきたのは…………

 

「爆豪か………何か用か?」

 

「わりぃが邪魔する。俺と本気で戦えや。要件はこれだけだ」

 

 こいつ本当に爆豪なのか?大人しすぎやしないか?

 まさか、試合前だからという理由でこちらに気でも使っているのか?

 気遣いはありがたいが、今はいらないな。

 少し話でも今のうちにしておこうかな。

 

「随分と大人しいんだな。まだ爆破もしてないし、言葉遣いも荒くない。

 何かイヤな事でもあったのか?相談位なら乗るぞ?」

 

「テメェ…………いい度胸じゃねえか…………そんなにここでブチ殺されてぇか!!」

 

「やっぱり爆豪はこうじゃなきゃな。そういうところ嫌いじゃないよ」

 

「男に好かれても気持ちわりぃだけだ」

 

「俺の性癖はノーマルだ。あくまでも友人としてだ」

 

「ハッ!!テメエの全力、真っ向から殺し尽くしたるわ!!

 ……おいこら、クソトカゲ。テメエは半分野郎みてーに手ぇ抜くんじゃねえぞ」

 

 友人っていうところは否定しないんだな。

 否定するのも面倒臭いだけかも知れないけれども、ここはかっちゃんがデレたと考えよう。

 ツンデレは女子のものしか受け付けないが、これはこれでいいな。

 まぁ、いまは真剣な会話だからちゃんと受け答えしよう。

 確か…………轟の件だっけ?

 

「轟が炎を消した件か。まあ、俺も思うところはあるが今は置いておこう。

 …………で、全力という話だがな、爆豪。お前相手に加減などする必要はない。

 そこは安心してもいいぞ?俺がお前に黒星をくれてやる。

 …………ところでコーヒーでも飲むか?」

 

「いらんわボケェ!!つか、何でそんな砂糖を入れてやがる!!」

 

 そんなに砂糖を入れてやがると言われても困る。

 コーヒーには砂糖を3杯がデフォルトだ。

 試合前だから普段の倍は入れているけれど

 まぁ、脳がカフェインと糖分を必要としているから仕方ないね。

 年を重ねてしまうと飲めなくなる可能性があるから今のうちにってことで

 

「これはこれで美味いぞ?お前は辛党だから口には合わないだろうがな」

 

「知るか!!勝手に飲んでろ!!」

 

 入ってきた時とは違って、荒々しく扉を締めていく爆豪。

 開けっ放しにしない辺り、案外きっちりしているのか。

 みみっちいとでも言えばいいのか?

 ところで俺が再び蓄電を初めてしまい、

 話し掛けるタイミングを掴めないでいる姉さんはどうしようか?

 試合前は気を使ってくれる人が多くて助かるよ。

 まぁ、兄さんなら試合前でも関係なしに入ってくるだろうし

 姉さんにはこちらから声を掛けることにしよう。

 外でどうしようかと悩んでる姉さんは割とレアだからもう少し見ていたいけれどね。

 出来ることなら写真を撮って置きたいけれど、それは無理そうだ。

 

「姉さん。入ってきても大丈夫だぞ?」

 

「悠雷…………やっぱり気づいていたのね。

 流石に彼の言葉を聞いた後だと入りづらくてね」

 

「プロならばいつでも最高のパフォーマンスを行えるようにってよく言うじゃないですか

 別に多少会話をしても問題にはなりませんよ。

 今度、買い物に荷物持ちとして付いて行けというならば別ですが」

 

「大切な試合前にそんなこと頼みはしないわよ。

 激励の一つでも入れようと思ったけれど必要なさそうね。最後まで頑張って来なさい」

 

「ありがとう。姉さん」

 

 姉さんは頑張ってというと部屋から出て行った。

 そういえばねじれちゃんが何位だったのか聞くの忘れてた。

 後できっと会うだろうし、その時に聞くことにしよう。

 そろそろ時間だ…………最後まで楽しんでやろう。

 周囲への被害を考えづに戦えることなんてあまりないのだから

 

『さァいよいよラスト!!雄英一年の頂点がここで決まる!!

 決勝戦爆豪VS.海藤!!!今!!START!!!!』

 

「先手必勝!!」

 

 取りあえずは小手調べで!!出力は40パーセントくらいの放電をブチかます!!

 だが、その攻撃は爆破で跳び越えられる。

 そしてそのまま突っ込んでくる爆豪の攻撃をいなす。

 反撃で部分的に竜化させた尻尾で爆豪を弾き飛ばす。

 咄嗟にガードをした爆豪は即座に受け身を取って距離を取る。

 

「流石にこれくらいじゃなきゃ当たらないよな!!やっぱり勝負はこうじゃなくちゃ!!」

 

「ハッ!!これで全力って言うんじゃないだろうな!!?」

 

「まさか!!お前もこれくらいで終わってくれるなよ?」

 

「野郎………ブチ殺してやる!!」

 

「やってみろ!!」

 

 尻尾のにならず、身体全体に鱗と甲殻を張り巡らせる。

 なんだかんだこの姿を見せたのは入学してから初めてじゃないのか?

 竜化は既に何度も見せたことがあるのにな。

 

「そうだよな!!本気で来い!!それを上から叩き潰してやる!!」

 

「やれるものならやってみろ!!今の俺は…………負ける気がしねぇ!!!」

 

「寝言は寝て死ねぇ!!」

 

 再び突っ込んで来た爆豪の攻撃を身体で受け止めて、首を掴んで地面に叩き付ける。

 その際に攻撃に雷を纏わせるのを忘れない。

 これで並のヴィランならば確実に仕留められるが…………

 

「効かねぇよ!!」

 

 地面に叩き付けられた爆豪はその体勢のままこちらに爆破を放ってくる。

 別に効いてないが、このまま攻撃されるのは流石に辛いので腕を掴んで放り投げる。

 それに合わせて跳躍し、殴り飛ばす。

 

「チッ!!」

 

 鱗と甲殻により通常時よりも威力の高い攻撃は流石に効くみたいだな。

 爆豪といい、切島といいタフすぎて嫌になるね。

 ヴィランとの戦いは相手をいかに早く戦意喪失させるかなのにさ。

 

「死ねぇ!!」

 

「こんなんじゃ死ぬ訳ねぇだろ!!もっとギア上げていけ!!」

 

「うるせぇ!!俺に命令するなぁ!!」

 

 爆豪はより攻撃の手を強めていく。

 その攻撃をしゃがんで跳んで躱していく。

 爆破の攻撃の威力はどんどん上がっていくが、俺の防御力を越えれていない。

 この程度の威力ならば俺の鱗を傷つけれない。

 

「なんだ?この程度か!?」

 

「黙れ!!大人しく死ねぇ!!『榴弾砲着弾』!!」

 

 その攻撃を完全竜化させた両腕でガードする。

 これまでの戦いでの爆破に回転を加えただけあって流石の威力!!

 これ以上は食らうとマズいかな。

 そのまま殴り掛かり吹き飛ばす。

 

「そろそろ終わりにさせてもらおうか。久しぶりに楽しかったぞ」

 

「こんなところで終われるか!!俺はまだ!!」

 

 先程の攻撃で場外アウトギリギリになっていた爆豪へ攻撃する。

 直撃させる寸前に尻尾だけを完全竜化状態にし、吹き飛ばす。

 爆豪はフィールドの外に吹き飛び、観客席にめり込んだ。

 

「やべ、少しやり過ぎたかも」

 

『以上で全ての競技が終了!!

 今年度雄英体育祭一年優勝は────…………A組海藤悠雷!!!!』

 

 まぁ、勝ったから良しとしよう。

 当たった瞬間にあばら骨が何本か折れた感触があったけれど…………

 そのあとに結構なスピードで壁にめり込んだけれど、大丈夫なはず。

 いろんなところから出血しているけれど大丈夫だよね?

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 決勝戦が終わり暫くしたのちに表彰式が始まった。

 空にはいくつもの花火が打ちあがり、盛り上がりは最高潮に達している。

 なにせ今年の雄英にはオールマイトがいるからな。

 普段は神出鬼没で真面にその姿を拝むことすらできないヒーローだからな。

 その点、エンデヴァーは自分の事務所周辺を張っていれば目にすることはできるからな。

 ファンサービスなんかは期待できないけれどね。

 ベストジーニストも同じ感じだな。多少はファンサービスも見込めるだろうけど

 兄さん…………ホークスはって?頼んだら自撮り写真とかも撮ってくれるよ。

 見かけたら積極的に頼んでみようね!!

 

「それではこれより表彰式に移ります!!」

 

「あれ?爆豪は?」

 

「ああ、悠雷の攻撃であばらが折れているうえに出血多量だってさ」

 

「ヤベぇくらい血が出ていたからな」

 

「…………自業自得」

 

 皆の言葉が心に突き刺さる…………常闇の自業自得って少しだけ恨みこもっているだろ。

 ちなみに言っておくと一位は俺で二位は爆豪。

 三位は轟と常闇になっている。

 飯田は兄がヒーロー殺しに襲われてしまったようで、ここにはいない。

 大事になっていないといいんだけれどな。

 家族を失うって言う事は酷く辛い事だから…………

 

「メダル授与よ!!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

 

『私が、メダルを持って来「我らがヒーローオールマイトォ!!!」た…………』

 

「今年の一年は良いなァ」

 

「オールマイトに見てもらえてんだよなー」

 

 本当にオールマイトに見てもらえるっていうだけで雄英に入ってよかったと思う。

 兄さんが勧めてきたようになんてことない高校に行かないでよかった。

 もしそうなっていたら公安委員会に頼み込んで転校でもしていたかも知れない。

 コネとか言うんじゃないぞ?使えるものは何でも使うだけだ。

 

「常闇少年おめでとう!!強いな君は!!」

 

「もったいないお言葉」

 

「ただ!!相性差を覆すには"個性"に頼りっきりじゃダメだ。

 もっと地力を鍛えれば取れる択が増すだろう」

 

「…………御意」

 

「轟少年、おめでとう。

 準決勝で炎を収めてしまったのにはワケがあるのかな」

 

「緑谷戦できっかけをもらって………………わからなくなってしまいました。

 あなたが奴を気にかけるのも少しわかった気がします。

 俺もあなたのようなヒーローになりたかった。

 ただ…………俺だけが吹っ切れて終わりじゃ駄目だと思った。

 清算しなきゃならないモノがまだある」

 

「…………顔が依然と全然違う。

 深くは聞くまいよ。今の君ならきっと清算できる」

 

「さて海藤少年!!伏線回収おめでとう!!

 素晴らしい戦いだったよ!!ただ、力の調整はまだまだなようだね」

 

「ですね。そこのところはご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」

 

「その心意気良し!!これからは皆もビシビシ鍛えていくからな!!」

 

「楽しみです」

 

 今までの授業も充実していたが、実践的なという部分では公安で鍛えられていた方がよかった。

 本当にこれからが楽しみだ…………その前に職場体験先を決めとかないとな。

 

『この場の誰にもここに立つ可能性があった!!ご覧いただいた通りだ!!

 競い!!高め合い!!さらに先へと登っていくその姿!!

 次代のヒーロー確実にその芽を伸ばしている!!てな感じで最後に一言!!

 皆さんご唱和ください!!せーのっ!!おつかれさまでした!!!』

 

「プルス…………」「プルスウル…………えっ?」

「プルスウルトラ?」「プルスウルト…………」

 

「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!!」

 

「ああいや…………疲れたろうなと思って…………」

 

 そこは何というか…………オールマイトというか…………

 そういうところがオールマイトの魅力なんだよな。

 というか、爆豪の姿は最後まで見えなかったぜ…………ヤベーイ。

 病院にいって看護師さんから聞いたところ命に別状はないみたいです。

 

 体育祭が終わってみなと共に教室に戻る。

 そういえばだけれどもこれって学校の行事だったんだ………すっかり忘れてた。

 雄英体育祭って過去のオリンピックなどと同等の行事なんだもんな。

 

「おつかれっつうことで明日明後日は休校だ」

 

「!!」

 

「プロからの指名等をこっちでまとめて休み明けに発表する。

 ドキドキしながらしっかりと休んどけ」

 

 流石にその日の打ち上げは気分が乗らなかったから遠慮した。

 が、兄さんに帰り道拉致られました。

 

 

 そして…………打ち上げをすることになりました。

 こんなことならば、クラスの方に行けば良かったかもしれない。

 

「いや~お疲れ様!!そして優勝おめでとう!!」

 

「おめでとう悠雷。素晴らしい戦いだったわ」

 

「ねぇねぇ!!私も優勝したんだよ!!凄くない?凄くない?」

 

「凄いですね~出来れば俺も先輩の試合を見てみたかったです」

 

「録画ならあるわよ。後で観ましょう。

 勿論、悠雷の試合も録画してあるわ。ねじれも一緒にね」

 

 こんな感じで、楽しいひと時を過ごすこととなった。

 ちなみにだけれど職場体験先の話になった途端にお開きとなった。

 兄さんと姉さんの間で俺の取り合いが起こっているみたい。

 しっかりと考えて決めないとなァ。

 いっそのことエンデヴァーの事務所とかを選択肢に入れてもいいかもしれないな。

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 雄英体育祭の翌日。

 俺はA組のみんなと一緒にカラオケに来ていた。

 昨日は病院送りになった(俺が送った)爆豪と遠慮した俺。

 そして兄であるインゲニウムがヒーロー殺しにやられてしまった飯田が来ていなかったそうだ。

 ちなみにだが、爆豪も来ている。

 いくらなんでもさ、復帰が速すぎやしないか?

 一切の運動等の行為は禁じられているらしいけどそれでもヤバいわ。

 インゲニウムさんは何とか一命を取り留めたそうだ。

 これからのヒーロー活動は無理となってしまったそうだが…………

 これからの飯田の動向には注意しておかないとな。

 家族が傷つけられた人がどんな行動をとるかなんて一つしかないからな。

 

 え?カラオケなのに歌わなかったのかって?

 勿論、歌ったとも Law of the victoryを。

 本当にこの曲はいい曲だよな。

 

「おい海藤、こっち来いよ!!みんなで歌うぞ!!」

 

「わかった今行こう。というか爆豪も歌うんだな」

 

「なんか悠雷に負けてから少し大人しくなったよな」

 

「どーせすぐ元に戻るんだって。早くまたあのツンツン爆豪を見たいぜ」

 

「上鳴がそれを見れるかは怪しいけどな」

 

「え?」

 

「「後ろ見ろ、後ろ」」

 

「おい、阿保ヅラ…………表出ろや」

 

「切島、悠雷…………パソコンのデータは消しておいてくれ」

 

「いいぞ」

 

「逝ってこい」

 

 上鳴は…………いい奴だったよ。

 その後、結局のところ爆豪は元に戻ったよ。

 お詫びとして優勝した時に貰ったチケットをあげることにした。

 あんまり興味とかなさそうだけれど貰いものだったらきっと行くでしょ。

 なんだかんだいって爆豪は律儀だし。

 俺は姉さんと兄さん宛のチケットを使えばいいから問題ないな。

 あっても行くのかはまだ決めてないけれどね。

 雄英体育祭が終わり、次はいよいよ職場体験…………結局のところどこに行こうか

 

 




次回はIFルートか職場体験編となります。


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番外編 花見とヒーローショー

本編は少し待っていてほしいです。
なるべく早く仕上げるつもりですが到達度テストが………


 ヒーローは能動的に自分の役回りを見つけ状況解決に当たる。

 今日はその訓練を兼ねてお花見をしたいと思った。

 

 ──というわけでお花見を企画することにしました!!」

 

「「「「「いや、どういう訳ですか!?」」」」」

 

「HAHAHA!!細かいことはどうでもいいさ!!

 時間は有限!!今日のヒーロー基礎学はお花見だ!!」

 

 オールマイトの急な発案により今日のヒーロー基礎学はお花見だ。

 食事からレジャーシートまで用意は全て行う必要はあるが、ただの息抜きである。

 この前、大変な目にあったからこんくらいはいいじゃないというのが大多数の意見だった。

 唯一、相澤先生は否定的だったけどね。

 多分、ミッドナイト先生辺りが参加させると思う。

 というか、校内にこんなにも桜があるんだな。

 本当にどれだけのお金をかけたのだろうか?

 気になるが、こういうのは詮索してはいけないと相場が決まっている。

 

「わ────!!」

 

「学内にこんなところが!!さすが雄英!!」

 

「これ訓練とか建前だよな!!」

 

「ね!!」

 

「普通に建前って言ってただろうが」

 

「こんなに桜が満開だとは思っていなかったな…………」

 

「そうだね、もう入学してから…………どん位たった?」

 

「気にしちゃいけないさ。これは番外編。本編の時間軸とは関係ないさ」

 

「そっか…………冬休みとかバレンタインは?」

 

「流石にお花見からやりたいってさ。

 現実の時期に合わせるならハロウィンとかなんだろうけどね」

 

「それは本編で寮生活が始まってからなんだね。

 もう時期はとっくに過ぎてるからやろうとしても遅いし」

 

「そゆこと。一応、言い訳しておくとハロウィンも出そうと思えば出せた。

 登場してない人物が多かったために物語が進んでからにすることにしたとのこと

 投稿が遅いことについてはあまり言わないようにね

 作者のガラスのハートが潰れて流れて溢れ出ちゃうから」

 

「こらそこの二人!!何をしているんだ!!集合したまえ!!」

 

 やれやれ委員長がお呼びだ、行くとしますかね。

 

「おーい!!皆ァ──!!全部で桜は94本だ!!

 移動時間を平均7秒として鑑賞時間は一本51秒でどうだろう!!」

 

 なぜそうなる!?ここは美術館か?

 というかいないと思ってたら桜を数えていたんだな…………

 花見ってそういうのじゃないだろ…………

 もしかしてだが、家族で行ったことがないのだろうか?

 俺?俺は家族とは行ったことはないが

 中学時代のクラスメイト達や兄さん姉さんと行ったことがある。

 その時はサインをねだる人が多くて姉さんが大変そうにしてたな。

 兄さんはむしろもっと持って来いとwelcome状態だった。

 というか姉さんが困っているのを見て楽しんでいたように感じる。

 …………クラスメイト達は今頃何をしているんだろうか?

 大体はヒーロー志望だったが、一人だけ雄英に行きたいとか言っている奴がいたな

 たいして親しいわけではなかったから受かったか知らないがヒーロー科にはいなかったな。

 他の高校に行ったか、普通科にいたりするのかね?

 こんど連絡を取ってみようか?連絡先なんて持っていなかった。

 妙に暑苦しい奴だったけれども断られたんだよな。

 手に入れようと思えば手に入ったけれどもそこまで魅力を感じなかったし

 

「悠雷、食事の用意をするんだけど手伝ってくれない?」

 

「いいぞ。ただ…………」

 

「ただ?」

 

「木に縛られている飯田は何があった?」

 

「…………気にしないで軽い反乱があっただけだから」

 

「気にすると思うぞ普通…………」

 

「このことはあまり深く聞かない方がいいと思うわ」

 

 反乱ってそんな簡単に起こるものだっけ?

 飯田が委員長なのにそんなに不満があったのか?

 とりあえず縄を解いておこう。気絶から覚めた後に縛られていたら流石に辛いし

 …………気絶までさせる必要はあったのだろうか?

 

「悠雷って料理出来るって言ってたよね?

 ウチは取り敢えず切るもの切っちゃうつもりだけど

 揚げ物とか炒め物をお願いしてもいいかな?」

 

 響香のエプロン姿…………ご馳走様です。

 今回のお花見を計画してくれたオールマイトには感謝の言葉しかないな。

 エプロン持参なんて聞いてないし、作ったのはヤオモモだろう。ナイス!!

 絶対にこのエプロンをヤオモモに作らせたのは上鳴だと思う。

 

「分かった。他の人は何やってんだ?」

 

「爆豪とか切島は相撲の土俵作ってる。

 ヤオモモが小物とかを作ってて峰田と上鳴は一応ゲーム係かな」

 

「お前らってそういう趣味あるの?飯田と同じく木に縛り付けてるし」

 

「それは梅雨ちゃんがやった」

 

「酷いわ。耳郎ちゃんもイヤホンジャックで攻撃してたじゃない」

 

「………………趣味は人それぞれだから」

 

「「そういう趣味はないから(わ)!!」」

 

「…………大丈夫わかってるから」

 

 うん、趣味は人それぞれだからね。仕方ないと思います。

 ヤオモモもそのうちミッドナイト先生みたいになりそうだしね。

 きっと生徒のことを盗sa…………撮影するようになるんだろうなぁ

 犯罪者がこのクラスから出ない事を祈るばかりだよ。

 特に峰田だな。上鳴がストッパーになってくれるといいんだが期待できるかね?

 

「耳郎さん、スピーカー作りましたがコンセントはどうしましょうか?」

 

「上鳴にでも刺そうか」

 

「上鳴…………同じ電気系なのにこの扱いの差はなんなんだよ…………」

 

「さっき下品なゲームを提案したからね」

 

「その報いよ」

 

「そっかぁ」

 

 下品なゲームってなんやねん。手にはポッキー持ってたけどポッキーゲームか?

 普通にやりたいんだけど俺。

 響香を誘ってみたんだがな、恥ずかしいからダメなんだってさ

 梅雨ちゃんを誘ったら女心を学んだ方がいいと言われた。

 男が別に理解する必要はなくないか?付き合ったことはないからよくわからないけど

 

「麗日、塩むすび作りすぎじゃないか?」

 

「えへっ」

 

「「えへっ」じゃないだろ」

 

「ホントだ。どうするアレ?」

 

「そーだな、チャーハンとか?塩味ついていても問題ないと思うし」

 

「そうだね、そうしようか」

 

「あ、爆豪も料理係なんだな」

 

 相撲の土俵を作るとか言っていなかったか?

 そっちの方はもう終わったのだろうか?なんにせよこいつ料理できるのか?

 

「あ?なんか文句あんのかクソトカゲ!!」

 

「いや、お前料理出来るの?」

 

「出来るわ!!」

 

「じゃこれ使ってチャーハン作ってて」

 

「なんで俺がそんなこと…………」

 

「出来ないのか?悪かったな。響香手伝ってくれるか?」

 

「出来るわ!!よこせやコラ!!」

 

 爆豪ってけっこうチョロいよな。

 思ったよりも料理上手かったし才能マンか…………言い得て妙だな。

 俺ももっと練習しとこ、負けたくないし

 響香や梅雨ちゃんが軽く落ち込んでいるけどそっとしておこう。

 今声掛けても嫌味にしかならないし

 二人も料理ができないわけではないんだけどね

 そのあれだ、相手が悪かった。

 それと、上鳴が可哀想だからコンセントを抜いて解放してあげよ

 コンセントには俺の背電殻の欠片を繋いでおけば問題ない。

 背中にはスマホ数百台どころか小さな町位の電気が蓄電できるからな。

 もちろん、節電することが条件だけどね?

 このくらいの電気量ならかけらで問題ない。

 コンセントから解放された上鳴の安心した顔と残念そうな女子の顔が印象的だったな。

 

「何だかんだでうまく連携するよね、A組の子たちってさ」

 

「そうでないと困ります」

 

 オールマイトと相澤先生が来たみたいだ。

 他の先生の事も誘ってきたのかな?後ろにミッドナイト先生等の姿が見えるし

 どうせならば、B組の人たちの事も誘えばいいのに…………

 

「せっかくだし、我々もどうだい?桜見ながら一杯…………」

 

「そんな余裕あるなら、ちゃんとフルタイムで授業してください」

 

 あ、オールマイトがいじけてる。

 相澤先生は正攻法では絶対に攻略できない気がする。

 それにしてもお酒か…………う、頭が…………

 

「どうしたの?急に頭を押さえてうずくまって」

 

「大丈夫だから、少し嫌なことを思い出したくらいで別に問題はないよ」

 

「ならいいんだけど、もしなんかあったらちゃんと言ってね?

 相談位ならいつでも乗ってあげるから」

 

「ありがとう」

 

「あいつらって入学前に接点なんて無かったんだよな?

 なんか通じ合っている感じがするんだけど…………」

 

「そのはずなんだけど…………」

 

「きっと恋だよ!!恋!!」

 

「こんど響香ちゃんに聞いてみようよ!!」

 

「いいねソレ!!」

 

「なぁ、障子。そこの荷物運ぶの手伝ってくれないか?」

 

「ああ、いいぞ…………話聞いてたか?」

 

「いや、聞いてなかったぞ。何の話をしていたんだ?」

 

「いや、大したことじゃないから!!」

 

「そ、そうだよ!!気にしないで大丈夫だから!!」

 

「ならいいんだが…………」

 

「危なかったね…………」

 

「この話はいったんやめにしましょう。もう皆集まってきているわ」

 

「賛成!!いこっか!!」

 

 その後は皆でゲームをしたりして楽しい時間を過ごした。

 偶にはこういう授業があってもいいな。

 写真係の緑谷がオールマイトしかとっていなかったから

 結局のところ一枚も写真には残らなかったんだけどね

 

 次回は夏休み中かね?やるとしたらそこらへんかね

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 なんて思っていた時期がありました。

 

 

 雄英体育祭後にA組の皆とヒーローショーをやることになった。

 場所は雄英高校最寄りの小学校とのこと。

 

「何でこうなった?」

 

「ウチに聞かないでよ…………なんかウチ等いいように使われているような気がする」

 

「そういうのは気にしない方がよさそうだな…………」

 

「そうだね、会議に参加しようか」

 

 オールマイト曰く、面白ければ何でもアリさ!!とのこと

 安全の範囲ならば個性の使用も可能らしい。

 一応、B組と内容が被らないようにした方がいいと思うんだけども

 それとも合同で同じ内容のショーをやるとか

 正直言って時間が短いと感じているし

 

「…………という事らしい!!ショーの内容を話し合おう!!」

 

「囚われの女を助ける!!」

 

「一人のヒーローが敵を殲滅!!」

 

「摩天楼でのアクション!!」

 

「最後にみんなでダンス!!」

 

「怪獣が出てくる奴なんてどうだ?」

 

「それいいかも!!このクラスには適役がいるし!!」

 

「会社の倒産で闇に落ちたヴィラン社長!!」

 

 適役って俺じゃないよね?

 ヴィラン役でもいいけれども

 俺が竜化するサイズによってはステージが狭いと思うんだけど…………

 まぁ、小学生たちが楽しんでくれるならヴィラン役も甘んじて受け入れよう。

 

「なぁ、どうせならB組と合同でやろうと声をかけないか?

 人数が多い方がやっていても見ていても楽しいだろう。

 何よりも使うことのできる個性の幅が広がるだろ?」

 

「確かにそれはいいアイデアじゃないか!!みんなもそれでいいかい?」

 

「「「「「賛成!!」」」」」

 

「…………ただ、物間がいるんだよな。あいつと爆豪をヴィランにしないか?」

 

「あ?死んでもごめんだわ!!ブッ殺すぞ!?」

 

「とりあえず、B組の方々に声をかけに行きましょう」

 

「そうだな」

 

 自分で意見を出しておいて何なんだけれども不味いかもな。

 拳藤が物間を止めてくれることを祈るしかないけれども

 

「失礼します!!拳藤さんはいるだろうか!?」

 

「どうしたの?A組総出で来て」

 

「ああ、今度ヒーローショーをやることになっているだろう?

 それを二クラス合同でやらないかと思ってな。

 そっちのほうが個性の幅ができるし、クラスの間にある壁を取り払えられるだろ?」

 

「確かにそうだね。さっそく先生に言いに行こ…………」

 

「そんなこと言ってA組だけだと不安だからB組の力も借りたいだけなんじゃないかな?

 可笑しいなぁ?A組はB組と違って最終種目に出ている優秀なクラスな筈なんだけどなぁ?

 そんなA組がなんでB組に来るのかなぁ?普通逆だろう?

 やっぱりB組のほうが…………ぐぇ」

 

「…………うちの物間がすまんな。

 こいつ体育祭の後から余計に捻くれるようになってさ」

 

「なぁ、鉄哲。うちの爆豪と拳藤をトレードしないか?

 今ならおまけで峰田もついてくるぞ」

 

「したらウチのクラスが崩壊するぞ?

 交換なんてケチなこと言わないから物間の事を貰ってくれないか?」

 

「見てる分には面白いけれども身近にいると面倒…………面倒な奴だから」

 

「なぜ言い直した?」

 

「海藤くん!!先生から許可をいただいたぞ!!

 更に会議室を使ってもいいそうだ!!そこに移動して内容を決めよう!!」

 

「わかった」

 

 会議室は席がちょうど39席ある場所だった。

 それをいいことに女子の上に座ろうとした峰田が隅に縛られておかれ

 物間は気絶したままなのでテーブルに置かれている。

 監督者としてきた相澤先生も座れるちょうどいい数だった。

 

「さて、会議を始めよう!!先ずは監督者である相澤先生から何か一言」

 

「合理的に決めていこう。

 最終決定は多数決なり簡潔に決めることのできるやつにしてくれ

 意見を出したりはするが、俺は出ないからな」

 

 相澤先生も意外に乗り気なのだろうか?

 そういえば公演場所の小学校には猫が飼われているとか

 それが理由なのか?LINEのアイコンが猫だったし

 

「B組は一人の少年がヴィランと戦いながら

 ヒーローになる過程で成長していくっていう内容でやるつもりだったよ

 A組はどんな感じにするつもりだったの?」

 

「まだざっくりとしか決まってないが、

 怪獣やらヴィランとの戦闘を入れることになっているな。

 あとは摩天楼でのアクションやダンスなどだ」

 

「では、それを原型として話し合っていこう!!」

 

 ──そして、話し合いの結果。

 ヒーローを主人公として行う王道的なストーリーとなった。

 人工知能搭載人型ヒューマノイドと触れ合いうちに

 ヒーローとして成長していくという形のストーリーもあった。

 人工知能搭載人型ヒューマノイドなんて誰が出したんだよ。

 勿論のことその案は没になった…………面白そうだったのに

 

「問題は誰が演じるかだな」

 

「そこはもう決まっているぞ!!」

 

 どうやら主人公は轟になったようだ。

 理由は個性を心の成長と共に変えやすいからだそうだ。

 物語前半はは氷だけ、後半は炎もみたいな感じだな

 本人に聞いたら炎を使うのも体育祭の後に清算したから問題ないそうだ。

 

「それならば、仲間が倒されてしまったことでの覚醒の方がよくないか?

 小学生が見ていてもそっちのほうがわかりやすいだろう」

 

「それならば、役者の変更も必要ですわね」

 

 その結果、主人公の味方は緑谷になりヴィラン役である爆豪がそれを倒すことになった。

 他には切島や常闇、鉄哲もヴィラン役となった。

 物間は爆豪との模擬戦の結果ボコボコにやられてしまい役から外された。

 その他にもいるが、舞台に出る者のみの紹介でいいかな。

 

「なんで俺がヴィランなんだ!!ヒーローやらせろや年増!!」

 

「…………年増?」

 

「別にそんなことないから落ち込むことはないぞ拳藤。

 爆豪、逆に考えるんだ。今回のショーにおいて爆豪はヴィラン。

 つまり、合法的に緑谷たちに攻撃できるということだ。

 そして先生はそれを止めることが出来ない。脚本に沿っていれば許されるぞ」

 

「いいぜ、ヴィランは俺がやってやらぁ!!全員ブッ殺してやる!!」

 

「いや、爆豪はそれで納得するなよ!!」

 

「…………緑谷、強く生きろよ」

 

「いや、悠雷が原因だからね?」

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 そしてショー当日。

 会場となる小学校の生徒だけではなく

 近隣の小学校及び、中学校の生徒も見に来ている。

 そのために中学生にたいして受験生としての心構え的な奴を教えることになった。

 それは別に構わないんだけれども、時間足りるのか?文字数とか

 

 そろそろショーが始まる。そっちに集中しよう。

 俺の役は出番が終盤なためにしばらくは観客としていられる。

 ナレーションは俺と相澤先生がやっている。

 ミッドナイト先生に相澤先生の説得を頼んで正解だった。

 

『この町では凶悪犯罪者であるヴィラン

 …………爆殺卿が毎日のように悪事を働き市民を脅かしていました』

『そこに現れたのは我らがヒーロー、ショート!!

 彼は微力ながらも日々、ヴィランと戦い続けていた!!』

『海藤はなんでそんなにハイテンションなんだよ…………』

『別にいいじゃないですか!!それでは本編どうぞ!!』

 

「はっはっはっ!!この町の人々も全て殺しつくしてくれる!!」

 

「貴様らは大いなる闇に捧げる生贄になってもらおう」

 

「そんな事させない」

 

「ぼ、僕たちがみんなを護るんだ!!」

 

 …………人選ミスったかもしれない。

 ヒーロー側のメンツが色々とヤバい。

 轟は棒読みだし、緑谷は緊張し過ぎていて飯田は…………大丈夫か

 なんか物間も出ているけれども多分大丈夫なはずだ。

 

 そして戦闘が始まるが、戦闘に関しては何も心配していない。

 爆豪が暴れてくれればそれでいい。

 主人公達にはいったんボコボコにやられてもらわないと困る。

 

 観客の反応はどうだろうか?

 

「すげえ!!戦闘シーンが凄いリアルだ!!」

「ヒーローが弱そうにしか見えないけど見てて面白い!!」

「俺も個性使って戦いてぇ!!」

 

 好評だからこのまま続けても問題なさそうだな。

 問題があった場合、プランBを行うつもりだったからね

 念のためにオールマイトが舞台裏に待機している。

 

「くっ!!このままだと…………」

 

「はっはっはっ!!このまま死ねえ!!」

 

「ぐああ!!」

 

「「緑谷(くん)!!」」

 

「おい!!緑谷しっかりしろ!!」

 

 おお、なんか轟が迫真の演技をしている。

 さっきまでの演技は何だったんだよ…………あれ?緑谷ガチで怪我負ってね?

 

「海藤、どうするの?」

 

「…………続行する。緑谷の死を無駄にしてはならない」

 

「まだ、死んでおらんからね!!」

 

 そんなやり取りをしながらも舞台の方は進んでいく。

 

「ショート…………僕はオールマイトみたいな笑って皆を助けられる…………

 そんなヒーローになりたかったんだけどダメみたいだ…………」

 

「もういい!!もう喋るんじゃない!!」

 

「みんなのことを頼んだよ…………僕の英雄…………僕の親友…………」

 

「緑谷ぁぁぁぁ!!」

 

「フハハハハハ!!力もない弱者がこの俺の前に立つからこうなるんだ!!

 安心するがいいさ。この俺自ら貴様も同じ場所に送ってやろう。

 あの出来損ないと同じようにな!!」

 

「…………出来損ないだと?…………それは…………緑谷の事かぁぁぁ!!」

 

「なんだこの気迫は!!馬鹿な!!貴様ごときになぜここまでの力が!!」

 

 本当に気迫があるように見えているかもしれないが

 舞台裏では様々な個性を活用してそう見せているだけで轟は炎と氷を纏っているだけだ。

 このためだけに練習したからな、コレ

 ステージを柔らかくして振動を与え、地面をうならせて

 背中から電気が流れるようにサポートアイテム(made in発目)を活用し等々

 本当によくできていると思う。

 

「緑谷の思い、無駄にはしない!!

 この一撃で貴様を倒す!!フィンブルヴェトル!!」

 

「馬鹿な!!貴様ごときにこの俺がぁ!!うわぁぁぁ!!」

 

『こうして、多大なる犠牲を払いながらも爆殺卿は倒され町に平和が戻りました。

 その後もショートは皆から託された力を使って悪を倒し続けましたとさ』

 

『めでたしめでたし』

 

 さて、ショーは大盛況の中幕を閉じた。

 問題はただ一つ…………緑谷どうなった?

 

「緑谷はどうなった?」

 

「リカバリーガールが直してくれたから大丈夫だよ」

 

「そうか、よかった」

 

「それにしてもみんなが喜んでくれてよかったよ」

 

「そうだな」

 

「緑谷が怪我さえしていなければな」

 

「…………相澤先生」

 

「海藤………お前責任を取って受験生へのアドバイスをしてこい。

 入試一位のお前なら説得力が高いだろう。他の奴らは手伝うんじゃないぞ

 これは緑谷がどうなるかを見越せなかった罰なんだから」

 

「殺ったのは爆豪で…………」

 

「俺はお前が書いた脚本に従っただけだ」

 

「………逝ってきます」

 

「おう。逝ってこい」

 

 そのあと、俺は受験生となって一か月と立たない彼らの相手をすることになった。

 彼らの勢いは凄いのなんの…………今年で一番疲れたかもしれない。

 脳無とどちらが脅威たりえるのかと聞かれたら俺は受験生と答えるな。

 去年までは同年代だったと考えてもあそこまで元気ではなかった。

 いや、若さってすごい。

 

 




本編が進められないときはこんな感じの番外編を出すと思います。
感想でこんな感じのをやってほしいというのがあればネタに加えておきます。

追記......
本当は花見だけのつもりでしたが、短かったのでショーも入れました。


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外伝
外伝:Restart


お久しぶりです。

一か月以上開けてしまい申し訳ないです。

今回はヴィランだったら的なIFストーリーです。


 これはもしかしたらありえたかもしれない物語。

 

 

 ──とある一人の少年が送るもう一つの物語.

 

 

 

 ──僕が7歳の誕生日を迎える少し前

 

 …………とある田舎の島に住んでいた生物は一人の少年を残して全滅した。

 

 

 そのあとのことは本当に残念ながらよく覚えていない。

 気づいたら波に揺られて、島に近い都市に流れ着いていたらしい。

 本能的に生存する可能性が高い海の方に逃げたらしいが、真実はわからない。

 もしかしたらお母さんが助けてくれたのかもね。

 あの世というものがあるなら嘆いていたりするのかな?

 もうこっちは知ったこっちゃ無いんだけどね。

 

 

 そして、しばらくあてもなく街を彷徨うことになった。

 声をかけてくれる人はいたが、助けてくれる人はいなかった。

 その声を掛けてくれた人も俺の目を見ると俺から離れていった。

 流石にぼろぼろの服を着ていて血が所々にに付いている人に関わろうとなんて思わないか

 ヒーローに一人として合わないのはともかく、サイドキックくらい居てもいいと思う。

 

 その後、僕はあの人に拾われた。

 

 

 ヒーロー社会の裏側…………闇の帝王として君臨するオールフォーワンに

 

 

 始めて僕がオールフォーワンを見た時の印象は子供の様な人だと思ったのはよく覚えている。

 先生は僕のことを新しいおもちゃを見るような目で見ていた。

 まぁ、実際にその時はそう思っていたらしいんだけども

 今ではもう一人の後継者と同じ様な感じらしい。

 正確にはその後継者の右腕?ボディーガード?的な感じ?らしい。

 

 僕は拾われた後、先生の協力者であるドクターの病院に寝かされていたらしい。

 あってしばらく話をした後に疲労から意識を失ってしまったからね。

 寝ていた時間は長かったみたいだが、その時間では着くことのできない場所だったために驚き

 先生は複数の個性を持っていることを知らされ、驚愕した。

 僅かな時しか生きていない子供に驚くなと言っても無理だよね。

 なんだかんだ精神年齢は高めだと思ってたけど、その時は久しぶりに幼心を取り戻したよ。

 

 ちなみにだけど、その時の写真は今でも先生の部屋に飾られている。

 正直言って、かなり恥ずかしいので辞めて欲しい。

「もしも君が友達を家に連れてきたら他の写真と一緒に見せてあげるよ」

 とか言ってたけどマジで辞めて欲しい。

 …………友達作るの辞めようかな?正直言って僕にはできる気もしないけど

 それに魔王の家にいきたいと思う子供なんていると思うか?絶対にいない。

 

 その後、先生は僕に自分がしたいことをとても楽しそうに語ってくれた。

 要約するとこの世界の魔王になりたいそうだ。

 表の世界では都市伝説のような扱いだから間違ってはないけれども

 今思うと、7歳の子供に何を語っているんだか

 

 

『という訳なんだよ────で、それを君にも手伝ってほしいんだ。

 どうだい僕と一緒にこのヒーロー社会を壊さないか?

 

 ふむ…………いやなのかい?

 

 君はヒーローに憧れたと言っていたね?

 それは何故かな?ヒーローが人を助けるものだから?

 でも、ヒーローは君のことを…………君の家族を助けてくれなかったじゃないか。

 彼らは助けられなかった者たちなどいなかったかのように振る舞う。

 君の家族は忘れられ彼らのことなどいずれ記録にしか残らない存在とするだろう。

 このままでは君と同じような悲劇を味わう人たちが現れてしまう。

 

 ヒーローが阻止してくれる?

 そんなものはただの幻想だ。

 最高のヒーローですら助けることの出来ない人が存在する。

 

 でも、僕ならそれを阻止できる。

 不幸な人々をこれ以上生み出さないようにできる。

 それを可能な社会にするためにより正しい世界にするために…………

 

 

 ──一度すべてを壊して作り直そう。

 

 僕には君の力が必要なんだ』

 

 

 その言葉に僕は頷いた。

 

 

 ──これは俺が魔王の元で理想を実現するために足掻く物語だ。

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 

 しばらくして新しい生活にも慣れたころ

 先生の思考に賛同してはいるが、僕は僕なりに生きようという考えに行き着いた。

 ルールなどに縛られることもなく自由に生きる。

 

 

 ──この世界は生きにくい。

 

 

 先生の理想を体現する手伝いはするけれど基本は自由に過ごすことにしようと

 何かあったらきっと呼び出しがかかるだろうと思うしね。

 

 

 まぁ、そんなことができたらいいなと、思っていた時期がありました。

 先生はとりあえず戦力強化の一環として

 俺に先生の腹心であるマキアさんと毎日のように訓練するようにと命じられました。

 マキアさんことギガントマキアは普通にヤバい人です。

 ドクターが研究している脳無とは違い、素のままで複数の個性に耐えることが出来る。

 俺はどうやっても3つまでが限界らしい。

 それより先は自我を失ってしまうからとかなんとかだってさ。

 個性が成長していけばもう少し数は増やすことが出来るんじゃないかとは言われたけれど

 

 そして、訓練なんだけどコレがホントにきついんだって白髪ができたぞマジで

 徹夜なんて当たり前、互いに再生能力が高いために休むのは数時間あればいい方。

 今のところの最長記録は8日間ぶっ続けでの訓練。

 この日ほど死を覚悟した日はあの日以外に存在しない。

 しかも、偶に先生も面白がって訓練に参加してくる。

 

 ──何この世紀末状態。

 

 心は既にボロボロだよ…………俺の心がポッキリいきそう。

 オールマイトですらボコボコにできるんじゃないかな。

 聞いてみたらオールマイトから見ればいいサンドバッグなんじゃないかな?って言われた。

 そんなにヤバいのですか?オールマイトは…………先生は勝てるそうで

 

 勉強もスパルタ方式を採用しており、戦闘訓練が休みの時にはひたすら勉強。

 戦闘訓練及びに勉強が休みならば先生にお使いを頼まれる。

 例えば超再生の個性持ちだったり、空歩の個性持ちだったりする人を攫ってこいとか

 ホントに7歳の子供になりやらさせてんだよ。

 まぁ、魔王だししょうがないか…………よくないな。

 空歩に関しては知り合いにわたったので良しとしよう。

 その後、俺もドクターの研究の犠牲となりまして肉体年齢がかなり上乗せされました。

 身体能力が大幅に向上したので良しとした方がいいのかな?わからん。

 一応、後遺症とかは起こらないって言われた。

 ドクターのその言葉を信じるかどうかは全くの別問題だと思うけれどね。

 

 

 そんな感じで月日が流れてオールマイトが先生のことを嗅ぎつけたということが判明した。

 先生はマキアさんとドクターとの接触を一時的に断つことにした。

 僕も念の為に使うカードとして残し、誘き寄せて叩き潰そうとしたのだ。

 場所は海の真ん中と戦いやすいフィールドだったしね。

 

 僕が負けてしまったら何があっても生き残りなさいとも言われたね。

 先生の教え子である死柄木弔と協力するときまで捕まってはならないとも。

 その時はまだ死柄木弔とあったことはなかったけれども。

 

 

 ──俺と弔の出会いはまた今度。

 

 

 そして、ついに先生はオールマイトと邂逅を果たした。

 最後に会ったのは数年前らしく、その時はオールマイトの師匠を殺した時だそう。

 オールフォーワンとオールマイトの戦いは苛烈を極めた。

 目にも止まらない攻撃が飛び交い、遂に決着の時が訪れた。

 先生の一撃がオールマイトの腹に穴を穿いたのだ。

 

 だが、それでもなお、オールマイトは止まらなかった。

 はらわたをまき散らしながら近づいたオールマイトの起死回生の一撃が先生を襲った。

 

 オールマイトの腹には穴が空き、先生の個性の大半が失われた。

 先生は超再生のおかげで身体は無事だが、かつての力の大半を失うことになる。

 そのため、闇に身を潜めて再び個性を集め始めることになった。

 

 ──結果的に俺の仕事が増えた。

 

 小学生(肉体年齢20歳越え)に何やらせているんだよ。

『生命力譲渡』と『生命力強化』とかいう個性を貰ったからまだいいけどさ。

 この二つのがあれば他者に自らの生命力を分け与えることができる。

 寿命を伸ばしたり、若返らしたりとか怪我を治すなど幅広い用途で使うことができる。

 ついでに言っておくと元の持ち主は双子だった。

 だからこそ、ここまで相性がいい個性なのかもね。

 お察しの通り女性には人気なので搾り取られました。

 ちなみに譲渡しすぎると寿命が縮まってしまうそうだ。

 そのまま平凡な生活を過ごしていく限りでは

『生命力強化』のおかげで300年は生きれるそうだから問題はないかな。

 個性との相性って重要なんだなって

 

 そういえばこのくらいの時期だったかな?

 筒美火伊那さん…………レディ・ナガンと出会ったのは

 先生の無茶ぶりでタルタロスに出荷基、輸送されている最中に襲撃して

 仲間に引き入れるために動いたことがあったんだよね。

 

 護送車を破壊して、誘拐するまではよかったんだけど

 その後に筒美さんに殺されかけた。

 なんやかんやあって今では家事をやってくれたりするけど

 初対面で味わった恐怖はなかなか忘れれるものじゃない。

 今更過ぎるかもしれないけど、保護者が魔王だし感覚が可笑しくなってるね。

 

 

 それから数年の月日が経った頃にに中学生として中学校に通うことになった。

 これでも肉体年齢は既に二十代後半を超えているんだぞ?

 中学に通うというのは流石に無理があると思う。

 せめて高校にしてもらいたかった。

 大学ならばむしろ喜んでいくレベル。

 

 最初は拒否しようと思ったが気が付いたらやることになっていた。

 事の経緯はこんな感じ。

 

 

 俺が部屋でくつろいでいると口からヘドロの様なものが出てきて転移させられた。

 この個性があれば別に吹き飛ばして場所を移動する必要なんてなかったんじゃないのか?

 東映式の場所移動って結構きついんだぞ?思いっきり殴って移動とか頭可笑しい。

 

 転移先には我が魔王ことオールフォーワン。

 

『久しぶりだね悠雷。調子はどうかな?』

 

「先日の戦闘訓練の後に比べれば全然いいですよ。

 この前のは酷くないですか?竜化禁止で脳無を数体相手どれって」

 

『そうかな?悠雷ならできると思っていたからね。

 別に酷いことだとは考えてもいなかったよ』

 

「人の嫌いなことを喜んでやる先生には言われたくないです」

 

『それもそうだね。さて、さっそくだけど今日ここに呼んだのは…………』

 

 なんだろうか?

 また誰かさらってきてほしいのだろうか?

 うっかり奪った個性に『強欲』とか混じっていたんじゃないのか?

 それとも課金したことがばれたんじゃないのか?別に悪いことはしてないけど

 

『残念だけど『強欲』なんて持っていないよ。

 脳無に七つの大罪を持たせてみるのはなかなかに面白いかもね。

 で、課金したんだ5万も。一応、言っておくけどひと月に付き10万までだからね?

 いくら自分で稼いだお金だろうとルールは決めたんだからちゃんと守るようにね。

 それと、その原○っていうゲーム面白いの?』

 

「ええ、面白いですよ○神。今度やりましょう」

 

『話がそれたね。今日、君をここに呼んだのは中学校に入ってもらおうかなと思ったからだね』

 

「気になる個性持ちか仲間に引き入れたい人でもいたんですか?

 それとも、部下の子供の護衛とかですか?」

 

 それとも中学に通うというのはネタなんだろうか?

 エイプリルフールはとっくに過ぎているんだぞ?

 今は夏の真っ盛り…………海に魚でも取りに行こうかな。

 浜辺を拠点としているヒーローに見つからなければ何とかなるはずだ。

 

『別にネタでも何でもないからね?海に行くのは賛成だけどさ。

 それと、まったくそういうのは関係ないよ。君には卒業証書を持って帰ってもらいます。

 理由は特にないから、ただ青春して来いってことで』

 

「は?」

 

 ──というのが今回の一連の流れだ。

 

 その後はドクターと黒霧で原神をめちゃくちゃした。

 ドクターが脳無の見た目を変えてみるなんて不穏なこと言ってた。

 本当にできることだから怖いんだよな。

 そんなことを考えるくらいならば、雷電将軍を作ってください。

 やる気になればできるでしょう?それくらい。

 

 中学に通うために戸籍は一応用意した。戸籍は偽装したものだが、ガッツリ本名。

 死柄木悠雷と先生から貰った苗字で登録されておりばれたら結構ヤバい。

 オールマイトに見つかったらどうするのだろうか?

 オールフォーワンと名乗っているから本名は知らないのか?

 もしバレても俺を囮にしてとか普通にやりそう。

 

 中学校では転校生としてクラスメイトと距離を保ちながらいるか

 それともかつてのように中心人物として振舞うか…………取りあえずは成り行きに任せよう。

 身体は大人でも心は少年なんだからきっと問題ないはずだ!!

 もしも無理だったら皆殺しして帰ろう。

 人を殺すことへの忌避感?そんなものとっくに失ったよ。

 

「今日は転校生が来ます。仲良くしてあげてください」

 

「死柄木悠雷です。趣味は読書と天体観測です。よろしくお願いします」

 

「では…………渡我さんの隣の席に座って下さい」

 

「わかりました」

 

「渡我被身子です。よろしくお願いします」

 

「うん、よろしくね」

 

 それから渡我さんを始めとする多数の所謂トップカーストの人達と仲良くすることとなった。

 成績優秀、スポーツ万能を素で行く俺はまぁ、直ぐに人気者になった。

 これってもしかしてだけど人心掌握の練習だったりする?

 保護者の仕事はドクターのことをインタビューして終わらせた。

 先生への質問は流石にヤバいし。

 そしたら、魔王が拗ねた。

 そして拗ねた魔王の命令でマキアさんと戦い、山が一つ亡くなった。

 オールマイトに見つからないでよかったです。

 勿論、勘のいい公安委員会に見つからないように

 ただのチンピラに個性強化役与えて誤魔化したりとか裏工作もしたけどね。

 上層部がオールフォーワンの部下とか腐敗しすぎているだろ…………

 そりゃあ、姉さん…………筒美さんが見限るわけだ。

 

 因みに中学校に通って得た事で最も大きなものは道徳の時間だろう。

 そこで、一つの結論にたどり着いた。

 平和の象徴と謳われるオールマイト。

 しかし、真に平和ならば警察だけで済むのだからヒーローなんていらない。

 この三年間でようやく、今の社会を壊す決心がついた。

 壊した後の事はそれから考えよう。

 

 休みの日には個性持ちを襲いに行ったり、

 マキアさんと遊んだり、友達(笑)と遊んでいたりした。

 何なら女装して筒美さんと買い物にも行った。

 普通に行ってクラスメイトにバレたらヤバいからって理由で女装した。

 酔った大人の言う事なんて聞かない方が良いね。

 そのことを聞いたドクターに女体化でもしてみるかって言われた。

 科学の力って怖いね…………

 冬休みの日には勿論家族?団欒もした。

 悲鳴と血しぶきが飛び交う素敵な時間でした。もうやりたくない。

 今更ながら、流石に心が痛むから「卒業したら皆殺しな」とか言われないといいけど

 忌避感はなくても心はあるんだぜ?これでも人間なんだから

 

 

 そして、卒業式が終わり、渡我に呼び出された。

 呼び出された場所は告白スポットとして有名な校舎裏。

 予想通りなら間違いなく…………

 

「悠雷君の事が好きです。付き合ってください」

 

「ごめん。悪いけど家庭の事情で付き合うことが出来ないから…………」

 

「そっか…………」

 

「ホントにごめん。これからも友達として…………」

 

「なら…………刺すね」

 

「…………は?」

 

 次の瞬間、俺の心臓は渡我が持っていたであろうナイフに刺されていた。

 まず、なんでナイフ持ってるんだよ…………刺すのは多分性格が歪んでいるからで説明出来る。

 流石に2年間も居れば分かる。

 初対面の時から自分を偽っていると感じていたし

 恐らくだけど個性関係で親から今のような立ち振る舞いを強要されたんだろう。

 先生からはそんな人の話をいくつも聞かさせている。

 もしかしてだけど、渡我のことも知っていたのだろうか?

 

「とりあえず、ナイフを抜いてくれないか?流石に痛いんだけど」

 

「わぁ!!刺しても死なないなんてステキです!!

 もっと好きになりました!!刺していいですか?」

 

「ダメです。制服が汚れるから」

 

「イヤです。好きなので」

 

「それは嬉しいけれど抜いて?治るし、死なないけど痛いから」

 

「イヤです。付き合ってください」

 

 こいつも話が通じないたちの輩か…………筒美さんが話聞いてくれるだけ女神に見えてきた。

 それだけで見えてくるくらいにこの手の輩はメンドクサイカラ

 

「やっぱりお前も猫かぶっていたんだな。

 今までとは全く雰囲気が違う…………それがお前でいいのか?」

 

「そうです!!で、刺していいですか?」

 

「もう刺してるだろ?」

 

「そうでした!!」

 

 会話が通じない…………家にお持ち帰りするか?

 聞いておきながら普通に刺してきているし、というか抜かないしさ。

 今なら家に誰もいないだろうし、少し考える時間が欲しい。

 

「ダメだ。はぁ、取りあえず家来るか?お前とのことは親に聞く」

 

「やったあ!!悠雷君の家には行ったことがなかったのです。嬉しいです!!」

 

 先生に聞いてみるか…………にしてもどうしてこうなった?

 優等生キャラのロールプレイなんてやらない方がよかった。

 今の家にはたぶん誰もいないよな?

 最悪の場合、抹殺してしまえばいいか

 それと血で汚れた制服はどうしようかなぁ…………警察のお世話にはなりたくないな。

 ジャージを持っていてよかったよホント。

 

「ただいま」

 

 家の玄関には靴が無かったけれどもいるね、これは

 転移する前にアポイントくらい取って欲しい。

 

「お邪魔します」

 

「お帰り悠雷。卒業おめでとう。そちらの子は?」

 

「トガです!!トガヒミコ!!」

 

 なぜいるんだオールフォーワン…………ん?

「僕が来た」だって?嫌がらせでしかないじゃないか…………

 

「彼女ができたんだね。おめでとう悠雷

 それでこれからの事なんだけど…………それはどういう顔なのかな?」

 

 なぜそうなるんだという意思を持たせてみた顔なんだが可笑しいか?

 家に連れて行っただけで彼女認定されるとは思っていなかったよ…………

 もう色々と諦めた方が良いんじゃ亡いのかな?

 

「…………トガの適応力凄いね。別にベッドの下にエロ本とかはないよ」

 

 いちいちツッコミを入れるのはやめた方がよさそうだな。

 ひどく疲れること請け合いだ。精神的にね。

 

「そうなのですか、残念です」

 

「悠雷は胸よりも足の方が好きだよ。

 エロ本はパソコンの中に入っているよ。パスワードは…………」

 

「待って何で知ってるの!?」

 

「僕だからね。しょうがないね」

 

「何もよくないです。あと人に教えようとしないでください」

 

「それは無理な相談だね」

 

 本当にプライバシーの欠片もないな…………

 パスワードは一昨日変えたばかりだし、家には盗聴器とかないんだけども…………

 パソコン本体にハッキングでもされたのか?

 

「お義父さん、もっと悠雷くんの事を教えてください!!」

 

「いいよ。そこの棚に昔のアルバムがあるから」

 

「ありがとうございます!!」

 

「もうどうとでもなれ…………そういえば料理しているみたいだけど誰が作っているの?

 普段は「私は死柄木弔の教育係ですので」とか言ってる黒霧でも来ているの?」

 

「いや、彼女だよ」

 

「マジで?」

 

「私がいると何か不都合でもある?」

 

「筒美さん…………今日だけはいてほしくなかったです」

 

 筒美さん…………元プロヒーローのレディ・ナガンとは数年前に出会った。

 はじめて会ったときは身内以外で初めて生命の危機を感じた。

 狩られる側の気持ちってこんな感じなんだっていうのを教えてくれたりとかして

 気が付いたら仲間になっていたから驚いたよホントに

 関係としては姉?年上の彼女?そんな感じ

 前の回想に少しだけ出てたから説明しないでもよかったかな?

 

「そうなの…………私は今日来てよかったと思っているけど」

 

「そうなんですか…………」

 

「で、その女誰?」

 

「元クラスメイトで告白されました」

 

「そう…………で、どう答えたのかな?」

 

「家庭の事情で無理と言いましたね」

 

「そう。ならなんでいるのかな?家に連れてくる必要はあった?」

 

「親に聞いてみるといったからですね。

 最悪の場合は抹殺でもするつもりでしたのでこっちの方が都合がよかったですしお寿司」

 

 胃が痛いんだけど…………もう本当にね。

 筒美さんの目から光が消えて消えているんだけど…………これも演技らしいから女子って怖い。

 最近はだいぶ感情が入り始めたと魔王が言い始めているけど

 そんなことあるわけないんじゃん。怖えよ。

 

「僕としてはどっちでもいいよ。悠雷の好きにしなよ」

 

「え!?私殺されちゃうんですか!?痛いのはイヤです!!」

 

「一応、殺す気はないよ」

 

「やったぁ──!!

 

「彼女もいい感じに狂っているわね…………常識人が欲しい…………」

 

「俺はカウントされてないのか…………」

 

 何も言わないけど筒美さんもだいぶいかれていると思うよ?

 言ったら何されるかわからないから言わないけど

 基本的に人の事を殺して尚、正気でいる人は可笑しい。

 

「僕の義息子だもの」

 

「そっかぁ…………」

 

「納得しちゃダメでしょうに…………」

 

「確かに」

 

「まぁ、仲良くしましょうか」

 

「よろしくお願いします!!」

 

 

 もう本当にどうしてこうなった?

 

 

 to be continued…………続かないと思う。

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────

 

 

 

 死柄木悠雷(旧姓 海藤)

 

 誕生日は8月1日。

 精神年齢は10代後半で肉体年齢は二十代前半。

 好きなことは天体観測と読書。

 育て親の影響から悪役を好きになっている。

 

 身長は172センチほどで耳の先端が少しとがっている。

 短めの蒼い髪で所々に白髪が混じっている。

 実はこれはストレスによるものだったりする。

 色白で赤い目をしており、目は雷を纏うと蒼く光る。外伝ではより黒い雷となっている。

 

 個性『海竜』

 

 前述の通り、現存する水生生物の中で最大級の体格を誇る。

 地上では優れた身体能力と電気を扱い、

 水中では液体操作にて相手の動きを制限しつつ戦うことを得意とする。

 個性が与えられることで更に戦闘方法の幅が広がるかもしれない。

 

 個性にて変身する海竜はドクターによって

『雷光を放つ大渦』という意味の『ラギアクルス』と命名された。

『ラギア』は光を放つ『クルス』は大渦を意味する。

 IFルートではヴィラン名として扱われる。

『生命力譲渡』『生命力強化』によってより化け物となった。

 モンハンに出たのならば超特殊許可クエストレベルの強化を施されたと考えてほしい。

 まともに戦えば時間切れ必須なので閃光などで嵌めて倒そう。

「倒されちゃうのか…………俺」

 

 オールフォーワン

 

 いいおもちゃを拾ったと喜んでいる。

 最強の生物として君臨するのもいいんじゃないかと考えるがやっぱり魔王が一番!!

 これには悠雷くんも思わずにっこり。

 悠雷には弔と仲良くしてくださいねと思っている。

 

 筒美火伊那

 

 はじめて会ったときは何だこいつって思っていたりした。

 取り敢えず、ヤバそうなやつなので殺してから逃げようとした。

 脳天打ち抜いても死なないわ、言っていることに共感できたので仲間になった。

 オールフォーワンのことは正直あまり好きじゃない。

 昔はお姉ちゃんって呼んでくれたりと最近寂しがっている。

『生命力譲渡』で若返えちゃっているし狙ってもいいのでは?

 年代は三十代後半に手が届きかけていたが若返って二十代後半です。

 

 トガヒミコ

 

 一応、普通の女の子。

 まだ原作の技術は身に着けていない。

 これから魔王による強化プログラムが入ります。

 強く生きて欲しい。

 

 ドクター

 

 いい研究材料が入って興奮が止まらない。

 脳無の見た目を変えようと考え始めた変態不審者。

 雷電将軍を作ってくれという要望に対して君がなるんだよと返した。

 人格が入っていなければ簡単に作れるらしい。

 

 黒霧

 

 弔くんとゲームというコミュニケーションツールができてにこっり

 課金額を見て思わず顎が外れそうになる。

 一応、苦労人。




取り敢えず衝動で書きました。

体育祭の方もちゃんと書いているのでその内に出します。


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外伝:Running

外伝の続きです。

趣味というか息抜き目的なので投稿頻度には目を閉じてね


 春の訪れを感じる季節となりました。

 皆さんはいかがお過ごしでしょうか?

 私は今、対オールマイト用の脳無数体に囲まれて絶賛命の危機を感じています。

 オールマイトが雄英に教師として赴任したので

 オールマイトとの戦闘を本格的に視野に入れたからこうなったんだよね。

 本格的っていうのは脳無を使った戦闘っていう意味ね。

 オールフォーワンはかつての力と遜色ないレベルに仕上がっているよ。

 マジで我が魔王はヤバイわ。

 というか、なんであの日から五年もたった今年なのかね?

 自らの後継者として育てたい人物でもいるのかな?

 

「先生はどう思いますか?」

 

「多分、その通りだと僕も思うよ。雄英に潜り込ませた内通者からの情報によると

 制御不可の超パワーを持った子がいるって報告を受けたからね。

 その子を育成するために教師として活動を始めたんだと思うよ」

 

「先生は後継者とか育てているんですか?」

 

 俺には「君が後継者だよ~」とか言われてないから多分『死柄木弔』が後継者なんだとおもう。

 今その彼?彼女?が何しているかすら知らないけれど、

 これから絶対に関わることになるんだろうな。

 …………まともな奴だと嬉しいんだけど、無理そう。

 実はヴィランで常識人って結構少ないんだぜ?

 

「僕の後継者として育てていた弔がUSJに襲撃しにいったんだよね」

 

「はあ」

 

 展開早くないですか?俺まだ一度も会った事ないんですけど…………

 黒霧がいるから問題は起こらないといいんだけど…………

 

「一応、脳無を持たせているし大丈夫だと思うんだけどやっぱり心配なんだよ

 というわけでUSJに行って脳無の回収を頼みたいんだよね」

 

「分かりました…………回収だけでいいんですね?」

 

「あ、後はそうだね…………オールマイトに再会を楽しみに死といてって伝えといてくれるかな」

 

「りょーかい」

 

「相手が相手だから気は抜かないでよ?」

 

「平和の象徴相手に油断できるのは先生ぐらいでは?

 サンドバックにならないように気を付けておきます」

 

 俺はその後、ヘドロの様なものに包まれてUSJに向かった。

 なんか、もうこの展開にもだいぶ慣れた気がするな。

 オールマイトがまだ来てないといいんだけど…………無理そう。

 真面にやり合ってもまだ勝てるとは思えないから回収して早く帰ろう。

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 我が魔王の個性でUSJの内部に無事に侵入することができた。

 他のヒーローの足止めのために脳無も数体持たされているけれど今回は必要なさそうだな。

 ちなみにですがオールマイト用に調整された上級の個体です。

 基となった人間を攫ってきたのは俺だけど本当にヤバい奴らだよ。

 まぁ、脳無は使う必要がなさそうだから一体を除いて帰ってもらうことにしよう。

 来ているヒーローはオールマイトたった一人だけだしね。

 二体もオールマイト用がいれば問題ないでしょう。

 (尚、片方は瀕死である事は考えない事とする)

 

 で、死柄木弔はどこにいるのかと辺りを見渡すと、

 脳無とオールマイトの戦いを黒霧と眺めているだけだった。

 眺めているというよりも傍観しているって表現の方が正しいな。

 我が魔王の目に留まるくらいだから他の奴らとは違って

 何かしら光るものがあるはずなんだけれど、今のところは何も見えない。

 恐らくはまだ原石をカットしている途中なんだろうね。

 後継者と呼ぶくらいだからちゃんと指導はしているだろうし、問題はないか。

 

 そんな事よりも問題になるのはオールマイトだ。

 俺がもっとも苦戦することになったハイエンド脳無よりは遥かに劣るが、

 それでも並のヒーローを数人はたやすく殺せる個体を相手にして

 真っ向から一歩も引かずに殴り合っているのは正直言って予想外だ。

 今までの戦いで培ってきた技術を利用して戦うもんだと

 …………いや、これは生徒に安心感を与えるためか?

 オールマイトの脇に血痕が付いているし、一度いい攻撃を貰ってしまったんだろう。

 その際に生徒の心の中で生まれた恐怖や不安を払拭するために

 こうも脳筋な戦い方をしているんだろうな、多分きっと。

 多分だけど、生徒たちも『超再生』や『ショック吸収』について知ってしまったかな。

 複数の個性を持って、オールマイトと同等のパワーを持つ怪人だからね。

 チンピラ程度としか戦ってない生徒が恐怖を覚えて当然だ。

 一度、死の恐怖の負けてしまったものがそれに打ち勝つことはとても難しい。

 それを防ぐためか…………なんというかオールマイトも先生してるなぁ。

 脳無の『超再生』や『ショック吸収』の限界を越えようとしているし、

 俺もそろそろお邪魔しようかな。

 

「ヴィランよ!!こんな言葉を知っているかな!!?更に向こうへ!!!」

 

 オールマイトが脳無に特大の一撃をお見舞いしようと

 しているところに割り込み、その一撃を受け流す。

 受け流したはいいけれども、真面に食らっていたら骨がいかれていたな。

 この前、言われたサンドバッグっていうのに信憑性が出てきちゃったよ…………

 攻撃を受け流されて動揺するオールマイトに話しかけていく。

 

「プルス、ウルトラでしたっけ?

 いい言葉ですよね…………確か、雄英高校の校訓でしたっけ?

 私たちヴィランもそのような言葉を作った方が良いでしょうか?」

 

 そういいながらオールマイトに向けて雷を纏った拳を叩きこむ。

 残念ながらその一撃は避けられてしまった。

 かなりの電力を込めた一撃だったので後ろの岩が粉々に砕け散ったが、

 相手に脅威として認識される程度の結果に終わってしまったな。残念だ。

 

「ッ!!?君は何者なんだ!!」

 

 オールマイトは結構動揺している。

 まぁ、自分の一撃が受け流されるなんてあんまりない経験だと思うし

 雷で岩を砕く輩と戦いたくないだろうし

 流石のオールマイトも雷は避けれないよね?だといいんだけど…………

 

「別に名乗る必要もないんですが、

 そうですね…………ラギアクルスとでも呼んでくれれば嬉しいです。

 オールマイトに先生からの伝言です…………「再会を楽しみにね」…………とのことです」

 

「その声は何故!!?あの時、確かに…………」

 

 声真似の練習をしたかいがあるってくらいいい反応をするな。

 いたずらと動揺を誘うために少し揶揄ってみようか?

 魔王の教えにも隙を見せたらその隙にっていう感じの項目があったからね。

(脳無でもわかる魔王学基礎編より)

 

「いい反応だ。そんなに俺に会いたかったか?」

 

「オールフォーワン!!」

 

 ここまでの反応をするのはまぁ、当然だよな。

 あの魔王に関わって幸せな結末を迎えれるのは悪に染まった者だけだしね。

 お師匠様を殺した奴の声なんて聞きたくないだろうし

 

「あの程度で殺られるような人ではないでしょうに…………

 こちらとしては今戦うメリットなど皆無に等しいので戦いたくはないんですが…………」

 

 まぁ、無理だよね。

 先生からの伝言を伝えるのは去り際に置き土産としてやった方がよかったな。

 ここまで殺気立ったオールマイトなんてテレビで流すことができないよ。

 ナチュラルボーンヒーローの面影すら見当たらないや。

 もしかしてだけど本人だと勘違いされてない?

 揶揄う相手を間違えたかもしれないな…………ラギアクルスって名乗りも覚えてなさそうだし

 

「はぁ、仕方ないですね。黒霧、ワープゲートの用意をお願いします。

 先生は帰って来いと仰っていました。死柄木弔の回収もお忘れない様に」

 

「畏まりました」

 

「おい、待て!!黒霧がなんでこいつの命令を聞くんだよ!!

 それに先生からの伝言ってどういうことだ!!」

 

 まじか…………俺のことについて何も説明されていない?

 これはだいぶ面倒くさいことになりそうだな。

 取り敢えず、説明については…………先生に丸投げしておこう。

 

「後で先生に聞いてください。脳無はオールマイトの足止めを」

 

 オールマイトを周囲の水を利用した鎖で拘束する。

 その隙に脳無がオールマイトに襲い掛かる。

 …………これくらいやれば多少の時間なら稼げると思う。

 

 俺はそうだな…………ドクターにプレゼントでも送ろうかな。

 イレイザーヘッドの片目くらいなら取って来れるでしょう。

 生徒の皆さんに挨拶でもしておこうか?これからも何度か会う気がするし

 身体に電流を流して身体能力を強化する。

 普段から無意識でやっていることだけど意識して普段よりも強化しとこう。

 イレイザーヘッドを担いでいるカエル娘の意識を手刀で刈り取って

 ブドウ頭のチビを他の生徒たちがいるところに蹴り飛ばす。

 正直言って、男には気遣いなんて必要ないだろ。

 手術のやり方はドクターに教わったから素早く作業が早く終わる。

 脳無にも余裕がありそうだし、向かってくる生徒の名前でも聞いてみるか?

 

「こんにちは。君、凄い顔しているけれど本当にヒーロー志望?」

 

「大丈夫なのか爆豪!!ヴィランにまで言われてっぞ!!」

 

「うるせぇ!!黙ってろ!!クソ髪!!」

 

 爆豪と呼ばれた少年の放ってきた爆破を避け、クソ髪と呼ばれた少年の攻撃を受け流す。

 少しだけ手が切れてしまったな。

 多少切れ味が鋭いナイフ位だけれども痛いものは痛いな。

 そう云えば、トガがナイフに麻痺毒を仕込み始めたんだよね…………

 この前に不意打ちで刺されたときは驚いたな。

 

「仲がよろしいことで…………ッ!!少しくらいは躊躇しなよ…………爆豪君。

 流石に時間ないし、君たち二人の名前を聞けただけよかったかな」

 

「逃がすわけないだろ!!クソヴィランが!!」

 

「いや、時間もあるし…………少しくらいなら相手してあげてもいいかな」

 

 爆豪君の攻撃をいなして鳩尾に重い一撃を叩き込んで気絶させる。

 クソ髪君はどう調理してあげようか?

 というかこれが名前なのか?あだ名とかだと思うけど…………まぁ、いいや

 個性は…………硬化あたりかな?ある程度の切れ味もあるみたいだけど

 

「この程度の硬さじゃ俺の攻撃は防ぐことができないよ。

 また会うことがあればその時はしっかりと相手してあげるよ。それじゃ」

 

 同じ様に腹に拳を叩きこんで気絶させる。

 オールマイトを相手にしたくないし、さっさと帰ろう。

 雷撃をこっちに突っ込んでくる他の生徒に向けて強めに放ち、黒霧の元へと帰る。

 一応、紅白顔と緑髪も気にかけておこうか。

 位置が近かったら名前を聞いておきたかったな。

 というか、挨拶してないような?

 

 オールマイトにサンドバッグされていた脳無二体もしっかりと回収する。

 その際に脇腹に一発叩き込んだ。先生の攻撃の傷跡がしっかりと残っている。

 内臓も全部なくなっているし、だいぶ弱体化しているんじゃないかな。

 え?なんでわかるのかって?微弱な電気を流してレーダー探知機のようにして探ったんだよ。

 簡単でしょ?電気系の個性の人なら基本出来ると思う。

 報告もできそうだし、これでミッションクリアでいいかな。

 

「待て!!オールフォーワン!!」

 

「それではオールマイト。また会うことがあれば…………その時は…………」

 

 そこまで言ったところで黒霧のワープゲートに包まれ、視界が暗転した。

 というか完全に勘違いされましたね…………自業自得か。

 出来る事なら、ラギアクルスって呼ばれたかったな…………

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 とあるバーにて俺は死柄木弔に胸ぐらをつかまれて壁に押し付けられていた。

 まぁ、後継者と呼ばれる自分が知らない存在。

 …………しかも脳無を超える力を持った輩だものな。

 知らなかったら怒るのも無理ないか…………

 どことなく子供っぽい雰囲気もあるしね。仕方ない。

 

「だから先生に説明を受けてくれ。俺から言えることはそれだけだ」

 

『二人とも落ち着いてくれないかな?弔に今回思ったことを聞きたいんだけど』

 

 ちょうどいいタイミングだし、離脱させてもらおう。

 先生がまいた種だからしっかりと収穫してほしい。

 その上で、俺に被害がいかないとなおのこと良しだな。出来れば仲良くしておきたいし

 黒霧から死柄木弔はゲームが好きって聞いているし

 

「俺は奥に引っ込んでますね~」

 

『あっ!!ちょ!!悠雷!!』

 

 良かった良かった。これで少しの間は休むことができるだろう。

 というか、先生の焦った声なんて久しぶりに聞いた気がするな。

 この前に聞いたのは…………激昂ラージャンに嵌め殺されたときか?

 あれ?割と最近な気がするような…………

 そうだ。今のうちにドクターに連絡しておこっと

「イレイザーヘッドの片目採ってきたんですけどいります?」って送信っとこれでいいかな。

 どうやって送るかだけど…………黒霧に頼んで送ってもらえばいいか。

 ん?電話?早くね?あの人一応、医院長なんだが…………仕事してるのか?

 俺?親の脛齧ってもうしばらくは生きていくつもりです。

 一応、自分で会社作ったり、株の運用したりはしているけど

 それも元はオールフォーワン名義のものだしね。

 

『悠雷!!イレイザーヘッドの目を手に入れたって本当なのか!!?』

 

「そうですよ。黒霧に頼んで送ってもらいますので」

 

 タクシー扱いして悪いと思うが

 …………許せ、黒霧…………とっても便利な個性を持っているお前が悪いんだよ。

 あったら絶対に便利だと思うし、俺も移動系の個性を強請ってみようかな。

 

『早くするんじゃ!!『抹消』などというレア個性…………心が躍るんじゃ!!

 イレイザーヘッドの身体じゃないのが残念だが、

 その目から個性を発動する電子信号の解析をすることができれば

 可愛いハイエンド脳無の更なる性能UPが見込むことができる上に

 オールフォーワンにも…………』

 

 息継ぎしないでよくここまでぺらぺらと喋ることができるな。

 オタク特有の早口ってやつだな。

 俺も好きなライトノベルやアニメならこのくらい簡単に言えるしね。

 

「本当にあの人何歳なんだよ…………老人の皮を被った若者か何かよ…………」

 

「さりげなく私のことをタクシーにしないでください…………

 最近、女性陣にもタクシー扱いされているんですから…………」

 

「…………ドンマイ」

 

 黒霧の個性は買い物に行くのにとても便利だからね…………特に女性なんて服とか拘るだろうし

 最近、トガの服のレパートリーが増えたのは黒霧の犠牲があったからなんだね…………

 火伊那さんが喜んでいる顔が増えたのも最近だったな。

 口ではいらないと言いつつもやっぱり欲しいんだな。

 今度、暇なときにでも買い物でも誘ってみようかな…………駄目だ。

 荷物持ちにされる未来しか見えなかった…………。

 

 その後、しばらくしてから先生に呼ばれた。

 

『さて、悠雷…………何か言う事は?』

 

「お疲れ様でした?」

 

『弔に説明するの大変だったんだよ?』

 

「先生がしっかりと説明さえしていればそんな事にはなりませんでしたよ。

 そんな事よりも…………一つ問題が…………」

 

『そんな事?まぁ、いいや。言ってごらん』

 

「オールマイトに先生だと誤解されたかも…………」

 

『What’s!!?』

 

 すごくいい発音してやがる…………

 ハイスペックみたいな個性も何個か持っているだろうからこれくらいできて当然か

 海外にいる先生のお友達と交流する機会もあるだろうし、外国語も勉強しておこう。

 

「オールマイトの攻撃を受け流して、雷撃で岩を砕いて、水の鎖で拘束したり

 雷で身体強化しただけなのに…………後は揶揄ったり」

 

「まぁ、そんなことできる存在はそんなにいないからね…………

 そっかぁ…………オールマイトがねぇ…………これも利用できるかな?」

 

「やめてくださいよ…………あんな化け物と何度も戦いたくないです」

 

「それもそうだ。それじゃあ今度、僕も表舞台に立とうかな?

 誤解されたままなんて嫌だしね。そうと決まればさっそく祭りの場所を探さないとね。

 決まったら悠雷にも働いてもらうから、しばらく好きにしていいよ」

 

「わかりました」

 

 自由にしてくれていいというならそうさせてもらおう。

 取り敢えず、家に帰ろう。

 しばらく帰ってなかったけど、埃とか大丈夫かなぁ…………

 

 

 

 

 …………多分、続くと思う。

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

 

 

 

 

 USJの襲撃事件から数日経ったとある日の事………

 俺と弔はバチバチに殺し合っていた。

 

 

 ………ゲームで

 

 

 事の発端はUSJの後、帰宅した俺のことを迎えた火伊那さんが

(何か家の中に居た。合鍵を渡した記憶はない)

 仲間内でのコミュニケーションは大事だからと言ってゲーム大会をする事になった。

 ちなみにですが、トガはお留守番です。

 悪いな、このゲームは四人用なんだ。

 という訳で四人以上でも出来るスマブラやってる。

 帰ったらナイフで刺されそう。

 ………逆らえない、抗えないこれこそが運命なのか………

 ちょっと中二病っぽいなこれ

 んで、殺し合う事でしか分かり合えない俺と弔を見てられなかったのか

 黒霧の提案でMHWIをすることになった。

 ここでどの作品をやるかでも揉めた話は別にいいか

 

 

 ………そして現在。

 

 

「馬鹿お前!!そこはクラッチクローしてぶっ飛ばしをするところだろうが!!

 なんで乗りなんか狙ってるんだよ!!」

 

「あ?乗りの何がいけないんだよ!!

 瀕死の相手なんだからどっちも大して変わらないだろ!!」

 

「落し物が欲しかったんだよ!!」

 

「知るか!!周回しろ!!」

 

「こっちは色々と仕事があってそんな時間が無いんだよ!!

 引きこもりニートのお前と違ってな!!」

 

「こっちだっていろいろと忙しいんだよ!!

 仕事があるって言うならさっさと終わらしてゲームしろよ!!」

 

「二人とも画面見た方がいいと思うよ?」

 

「体力がもう瀕死ですよ?回復した方が良いのでは?」

 

「「うるせぇ!!黙ってろ!!」」

 

「回復なんてな必要ないんだよ!!」

「当たらなければ問題ないからな!!」

 

「お二人とも仲は良さそうですが………」

 

「「そんな訳無いだろ!!」」

 

「こんなニートと!!」

「こんな社畜と!!」

 

「いや、社畜って悪口なのか?」

 

「急に素面に戻るな」

 

「今は酔ってないからね?酒は一度しか飲んだことないよ」

 

「もう勝手にしな。粉塵は使わないようにしとくから」

 

「「あ、ハイ」」

 

「そろそろちゃんと殺るか………」

「そうだな。あ………」

 

「ほら、言わんこっちゃない」

 

「………死柄木弔、ちょっと表出ろ」

「ちょっとツラ貸せや」

 

「これは親睦会は失敗ですかね………」

 

「だいぶ打ち解けたし良いんじゃない?また機会を作ってあげればいいでしょ」

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 死柄木悠雷

 

 雄英高校に無事侵入をし、オールマイトと初邂逅を果たした。

 爆豪君を見てなんかこれからも縁がありそうだなと勝手に思っている。

 クソ髪なんて名前の人がいなくて名簿を見て困惑中。

 トガの麻痺ナイフが最近の悩みの種。

 そういえばオールマイトの傷について何も言わなかったけど大丈夫か?

 無事にこんがり焼けた人。

 

 死柄木弔

 

 意気揚々とUSJに乗り込んだが、何の成果も得られませんでした。

 これから出番が増えると思います。というか増えろ

 誤解は解けたのでとりあえず安心しています。

 無事にこんがり焼けた人、その2

 

 オールフォーワン

 

 オールマイトの勘違いを治すために久しぶりに暴れようかなと模索中。

 魔王に蹂躙されるのはどこになるのか…………

 アイスボーンの激昂ラージャンに勝てなかった人。

 親睦会に呼ばれてなかったので拗ねた。

 

 黒霧

 

 ヴィラン連合専属のタクシードライバー。

 休みを求めるものなかなかに受理されない。

 ヴィラン連合はブラック企業なんだってさ。

 さりげなく二乙している戦犯。上手に焼けましたぁ~

 

 レディ・ナガン

 

 合鍵は魔王がくれた。

 しっかり家事ができる人。

 ガンナーをやらせるとハメになってしまうから近接しか使わさしてもらえない。

 現実のステータスは影響しないよな?聞けば暇なときはトガとやってたらしい。

 

 トガヒミコ

 

 ちゃっかりとトガ読みを認めさせたうえで居候中。

 レディ・ナガンが家庭教師を始めた。

 次回には出番があると思うよ!!

 

 ヒーロー科一年A組の面々

 

 相澤先生は片目を失ったものの未だに現役。

 生徒は闘志を燃やすものに、怯えるものとまちまち。

 臨海合宿でそれが表れてしまうかもしれない。

 




おまけはノリでやった。
本編よりも書きやすくて困る。
本編もきっと書きます。


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外伝:Turning

IFルートの続きとなります。
ヒーロー殺しの事件がメインとなっています。


 USJの襲撃の後、親睦会を行ってから暫くした日の事

 …………大体雄英体育祭が終わったころだな。

 弔から本当に珍しいゲーム以外の内容で電話がかかってきた。

 本当にゲーム以外の話題で電話がかかってこない。大事なことだから二回言いました。

 先生から教えてもらった事とか話してもらったこと無い。

 先生に口止めでもされているのか?

 で、肝心の電話の内容なんだけれど…………

 

「ヴィラン連合のメンバーを増やす?めぼしい奴に勧誘でもしてたのか?」

 

「いいや、黒霧が個人的に声を掛けていたみたいだ。何でもかの有名なヒーロー殺しなんだとか」

 

「へえーそれはすごいな」

 

 ヒーロー殺しね…………名前は聞いたことがあるけれども興味はないな。

 結局のところ勝手に期待して、裏切られてって思っているだけだろ?

 その信念は立派なんだろうが、ヴィランではなくヒーローとして意識開拓をすればよかったのに

 ヴィランに落ちた以上、何をなそうがヴィランに変わりはないからな。

 さめて、ヒーローだったのならば成す事も出来ただろうに…………哀れな人間だ。

 

「だから、悠雷。お前も来い」

 

「残念なことに先生から別件を任されたから今回は無理だな。

 幾つかの街の要所要所に爆弾を仕掛けなくちゃいけないから、それが終わったらな」

 

 先生も先生だ。

 親睦会に呼ばれなかったからって拗ねて面倒臭い仕事を押し付けてくるんだからさ。

 結局のところ、顔出しというか暴れるのは暫く控えるみたい。

 どうせなら最高の舞台を用意しておかないとねとのことです。

 まぁ、その代わりの爆弾なんだけどね。

 ハロウィンの日にはお菓子を決して切らしてはならない。

 いたずらで家が吹き飛ぶからね。

 戸籍が幾つか消し飛んでいるからね?変装のバリエーションはあまり多くないんだから

 それと新聞に載るレベルで暴れて来いとも言われている。

 それが弔の成長に繋がるってことらしいよ。

 

「まぁ、いいか。終わったら連絡しろ」

 

「ほーい」

 

 電話が切られたことを確認すると部屋からリビングに戻る。

 そこには当然のように火伊那さんとトガがいる。

 最初に家来たらちゃんと帰っていたのに、気が付いたら私物の大半が俺のじゃないって…………

 やっぱり女子って怖いよな。

 しっかりと外堀から埋められています。

 

「また何か仕事?」

 

 まだ朝の五時なのに二人とも起きているんだな。

 スケジュールを教えているわけではないのになんで行動が読めるんだ?

 火伊那さんはなんだかんだ俺の仕事の手伝いをお願いしてるし、仕方ないとしても

(朝食がしっかりと用意されていることは見ないこととする)

 なんでトガまで起きているんだか…………なんでかを聞いたら間違いなく

「愛の力です!!」って返ってくるだろ。

 

「いや、仕事ではないな。弔がヴィラン連合に新メンバーを加えたいんだとさ。

 それに来ないか?って誘われたんだよ。まだ仕事が残っているから断ったけどな」

 

「悠雷くんが仕事終わったらデートに行こうと思ってましたけど、無理そうですね」

 

「そうだねぇ…………あと街一つ分残ってるし、それ終わったら弔に合流しなきゃだし」

 

「流石に新メンバーの顔くらいは拝んでおきたいものね」

 

「無能な味方ならそれとなく消しておかないといけないし、

 使える奴ならこれからのために友好的な関係を築きたいしね」

 

「わたしは使えるやつですかぁ?」

 

「そうだと思うぞ」

 

「やった──!!」

 

 朝食食べ終わったし、そろそろ行こうかな。

 後は保須とベストジーニストの事務所か…………

 実はベストジーニストの他にも何人かのヒーロー事務所に爆弾を仕掛けている。

 例えばシンリンカムイだったりね。

 何でもヴィラン連合の拍付けのためなんだと

 多分だけど弔が脳無を使うだろうし、それまでに終わらしておこう。

 

「悠雷、今回の仕事も手伝おうか?ベストジーニストの事務所に仕掛けるんでしょ?」

 

「何で知ってるの…………」

 

「お義父さんが教えてくれましたよ。ついでにデートしましょうよ!!」

 

「デートがメインになる気がするから行かない。まぁ、それはそれとして手伝ってもらおうかな」

 

「ええ~悠雷くんのケチ」

 

「時間があったらな」

 

「なんだかんだ言って悠雷は甘すぎる…………私が誘ってもあまり乗り気じゃないのに」

 

「火伊那さん。何か言いましたか?」

 

「いいえ」

 

「俺は乗り気じゃないんじゃなくて照れているだけなんですけれども」

 

「じゃあ、服屋でも行こうか」

 

「それはちょっと…………」

 

 デートは楽しいけど、服屋はNG。

 公安時代にいろいろと我慢していた影響なのかね?

 俺の個性で若返ったから精神が体に引っ張られているのかもしれない。

 個性の影響で人格どころか、性別が変わることだってあるからね。

 

「二人とも早くいきますよ!!イチャイチャするならわたしも混ぜてください!!」

 

「あらら、怒られちゃった」

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

 こうして俺たち三人は超小型爆弾を懐に忍ばせてベストジーニストの事務所へと向かった。

 新幹線を使ったけれど、隠蔽措置を取っているとはいえ

 警備があまりにもざる過ぎないか?

 見つかったら困るからこのままでいいけれども

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 新幹線で移動すること約5時間。

 ようやくベストジーニストの事務所周辺に到着した。

 もう少し近い拠点に住んでおけばよかったな。

 先生…………オールフォーワンが用意してくれた拠点とは別に大体15の拠点を持っている。

 先生に何かあった場合やバレてしまった場合も考えてね。

 備えあればうれしいなってよく言うでしょ?あれ言わない?まぁ、良いでしょう。

 

「ようやく着きましたね!!悠雷くん。どこから回りますか?」

 

「いや、デートじゃないからね?」

 

「ヒミコ。仕事優先で終わらしましょう。デートはその後ね」

 

「デートは決定なんだな…………まぁ、いいか。

 ならさっさと終わらせような。で事務所ってどこだっけ?」

 

 べべべ別に方向音痴っていうわけじゃないんだからね!!

 最近、忙しかったから調べる時間がなかっただけだから。

 だってしょうがないじゃないか…………情報収集を怠った俺も悪いんだけど

 そう言えばベストジーニストの事務所には爆豪くんが職場体験に来てるらしいね。

 顔見られているから一応、警戒しておいて出来たら戦おう。

 流石にベストジーニストと分断してだけどね。

 あの人の個性は服着ていると厄介だからなるべく不意打ちを狙っていこう。

 

「悠雷くん。もうすぐですよ!!楽しみですね!!」

 

「楽しむために来た訳じゃないんだけれども楽しみだね」

 

「矛盾が酷いわね。取りあえずちゃっちゃと終わらせましょう」

 

「そうだね~」

 

 話している時間が少し多すぎる気がするな。

 多分、弔は既にヒーロー殺しとご対面しているだろうし少し急ぐか

 そうしないと爆豪くんに会いに行く時間が無くなってしまう。

 それは非常に重要な問題だからね。

 ヴィラン連合に勧誘しておきたいから、今のうちに種を蒔いておいても悪くない。

 

 

「あれって爆豪くんじゃない?それとベストジーニストもいるわね」

 

「おや本当だ。ジーンズ着させられているんだな。

 思ったよりも早めに見つかったな。ちょっかい掛けたいから爆弾を早く処理しないと」

 

「私がやっておくから悠雷は楽しんできて」

 

「それじゃあお言葉に甘えて。トガ行こうか」

 

「火伊那さんまたね。楽しんできます!!」

 

 火伊那さんの厚意に甘えて爆豪くんの方に向かう。

 近くにベストジーニストもいるからそっちを優先させようかな。

 いや、トガにやってもらうことにしよう。

 正直言って、暗殺とかならもうトガの方が向いているからね。

 

「トガはベストジーニストを頼む」

 

「わかりました、血も採ってくるのです。

 このお仕事が終わったらご褒美をくれますか?」

 

「いいよ。さらに混沌へ…………全ては我が魔王のために」

 

 その言葉の後、トガが気配を消してベストジーニストに接近する。

 しかしながら流石にこのままだと気づかれてしますので俺が注意を惹く。

 ポケットに入れておいたコインを取り出し、腕に電気を纏わせる。

 まぁ、所詮超電磁砲と呼ばれるものだ。

 たった一枚のコインを消費するだけでビルを幾つか貫通するほどの威力の技を放てる。

 如何せん隙が大きいので、実践では使いづらいのがネックだ。

 コインを弾くくらいならそのまま殴った方が効率がいいし

 放たれた超電磁砲はビルを4つほど崩壊させ、サイドキック4名を葬った。

 これで邪魔者が減った…………後はベストジーニスト含めて5名。

 

「やっはろ~爆豪くん。久しぶりだねぇ~今は時間あるから遊びに来たよ」

 

「てめェ…………USJにやって来たヴィラン連合の奴か!!」

 

「なんだと!!"バクゴー"サイドキックと共に周辺住民の避難誘導を…………」

 

「後ろががら空きですよ?」

 

 そこまで言いかけたところで気配を完全に絶って

 後ろに回り込んだトガの麻痺ナイフと採血用の器具が背中に突き刺さる。

 本来ならば頼りになるはずのヒーローが一瞬でやられたことで周囲が混乱状態に陥る。

 竜化させた爪と強靭な尻尾で追加で三人を葬る。

 残りの一人のサイドキックは1500メートルほど離れたところから

 放たれた弾丸によってこめかみを撃ち貫かれる。

 なんで距離分かるかって?そこはもう勘だな。

 にしても流石、火伊那さんだ。仕事が早い。

 

「てめェ!!ブッ殺す!!」

 

「ん~今の君には残念ながら不可能に近いかな~攻撃を一度も当てられないんだからさ」

 

 右の大振りを避けて、追撃の爆破も避ける、左足から放たれるハイキックをしゃがんで回避。

 しゃがんだ俺に放ってきた爆破をバク宙で躱す。

 予想通りだけれども期待外れだな。

 戦っていくうちにどんどんセンスが磨かれているが、足りなすぎる。

 まだまだ個性の使い方が未熟だ。

 というか、煽るといい反応をしてくれるねぇ。

 

「爆豪勝己とかけて育ち切ったオタマジャクシと解く、その心は?」

 

「知るか!!」

 

「すぐに手が出る、おっと足が出る。

 もっとも育ち切ったところで所詮は井の中の蛙ってね」

 

 ほらね?本当にいい反応をする…………だから、ついつい揶揄ってしまう。

 ベストジーニストはまだ痺れているし、まだまだ余裕ありそう。

 というか、どのレベルの麻痺毒を使ったんだ?

 レベル5なんかだと心臓麻痺を起こすレベルだぞ?

 まぁ、いいや。死んでもどーでもいいし。

 

「お前よりも強い奴はサケの卵だ…………いくらでもいる」

 

「クソが!!」

 

 この愉しい時間がもっと続いてくれればいいのに…………

 でも、やる過ぎると他の街からプロヒーローが応援に駆けつけてしまうからな。

 エンデヴァーなんかなら問題ないんだけど、オールマイトはキツイ。

 火伊那さんのソゲキッに頼らざるを得なくなってしまう。

 

「なァ、なんで爆豪くんはヒーローになりたいんだ?」

 

「俺はオールマイトの勝つ姿に憧れた…………ただそれだけだ」

 

「そっかぁ…………ヴィラン連合に加わる気はないか?」

 

「は?」

 

「爆豪くんは勝ちたいんだろう?俺たちの仲間に加われば力が手に入る。

 緑谷出久の手に入れた力を遥かに上回る力だ。

 彼に怯えているんだろう?道端の石ころだったはずの彼に追いつかれるんじゃないかって

 正面から戦ったら、負けてしまうんじゃないかって」

 

「…………俺は…………」

 

「悪い話じゃないと思うが?俺はお前がどんな選択肢を取ろうがその選択を尊重する。

 もしも、俺たちの仲間に加わりたいなら…………

 今は答えを聞かないでいいかな。言いたいことは言ったし、そろそろ帰らしてもらうよ。

 今度会ったら答えを聞かせてね?楽しみにしているよ」

 

 言いたいことだけ言って帰るってなかなかに酷いな。

 ヴィランらしいと言えばそうなのか?

 そういうところはいまいちよくわからない。

 我が魔王やオールマイトのように曲がらない芯を持っている人が羨ましい。

 

 ちなみにだけれどトガと火伊那さんは黒霧が回収しています。

 俺の事は回収してくれないみたい。

 そのまま保須に向かうとしよう…………いや、間に合わないから帰ろう。そうしよう。

 あれ?デートするって話はどこ行った?

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 保須市のとあるビルの屋上…………そこでヒーロー殺しと弔、黒霧が会話をしていた。

 彼らの仲は意見の相違で軽いいさかいがあったので険悪ではあるが

 これからすることに向けてそれぞれが想いを馳せていた。

 

「保須市って…………思いの外栄えているな」

 

「この街を正す。それにはまだ…………犠牲が要る」

 

「先程言っていた"やるべき事"というやつですか?」

 

「おまえは話がわかる奴だな」

 

「いちいち角立てるなオィ…………」

 

「ヒーローとは偉業を成した者にのみ許される"称号"!!

 多すぎるんだよ…………英雄気取りの拝金主義者が!!

 この世が自ら誤りに気付くまで俺は現れ続ける」

 

「あれだけ偉そうに語っといてやる事は草の根運動かよ。健気で泣けちゃうね」

 

「…………そう馬鹿にも出来ませんよ」

 

「?」

 

「事実、今までに彼が現れた街は軒並み犯罪率が低下しています。

 ある評論家が「ヒーロー達の意識向上に繋がっている」と分析し

 バッシングを受けたこともあります」

 

「それは素晴らしい!!ヒーローが頑張って食いぶち減らすのか!!

 ヒーロー殺しはヒーローブリーダーでもあるんだな!!回りくどい!!!

 やっぱ…………合わないんだよ。根本的に…………ムカツクしな…………

 黒霧、脳無出せ。俺に刃ァ突き立ててただで済むかって話だ。

 ブっ壊したいならブっ壊せばいいって話…………ハハ」

 

「…………」

 

「大暴れ競争だ…………あんたの面子と矜持潰してやるぜ、大先輩」

 

 黒霧が開いたゲートから三体の脳無が街に放たれた。

 その脳無は先生…………オールフォーワンから与えられたものだが

 それらのいずれも良個体と呼べるものではなかった。

 せいぜいが並のヒーロー数人を殺せる程度…………

 

「やっぱ…………良いね。脳無」

 

「あなたは参戦なさらないので?」

 

「馬鹿が怪我してんだよ。だから奴らを持ってきたんだ」

 

 そういいながら、ここに来る前の会話を思い出す。

 

「先生…………脳無は何体出来ているんだ」

 

『雄英襲撃時ほどの奴はいないが、六体までは動作確認しているよ』

 

「よこせ」

 

『何故?』

 

「ヒーロー殺しが気に入らないからだよ。気に入らないモノはブっ壊していいんだろ、先生!!」

 

『…………………………三体までだ。

 ──────…………これを機に学んでくるといい』

 

「ハハハハ…………夜が明ければ世間はあんたの事なんて忘れているぜ。

 

        ヒーロー殺し     」

 

 解き放たれた脳無が街に降り立ち、破壊の限りを尽くす。

 それにヒーローたちが立ち向かうが、彼らは所詮並であるため

 最弱の個体であるとしても複数個性もちには苦戦する。

 

 しかし、ヒーロー殺しを追って来ていたエンデヴァーと謎の老人によって

 瞬く間に脳無は鎮圧されてしまう。

 

 ヒーロー殺しも職場体験で来ていた緑谷、飯田、轟によって捕らえられてしまっていた。

 

「何殺されてやがるあの脳無!!何であのガキ共がいる!!

 言いたいことが追いつかないぜ。めちゃくちゃだ。何で、思い通りにならない」

 

 死柄木弔は憤慨し、首をかきむしる。

 何故、こうもうまくいかないのか…………

 自分と同じく先生に目を掛けられている悠雷は任された仕事をこなしているのに…………

 自分のやりたいことを行えているのに…………

 

 

 

 …………………………何故だ?…………………………

 

 

 

『三人のヴィランはいずれも住所・戸籍不明の男。

 その外見的特徴と偶然捕らえた二人の男の姿から先月雄英高校を襲った

 "ヴィラン連合"との繋がりを指摘する声も上がっています。

 "オールマイト"以降の単独犯罪者では最多の人数。

 犯罪史上に名を残すであろうヴィラン“ヒーロー殺し・ステイン”

 犯行の詳しい動機など追ってお伝えします』

 

『──────────────-…………

 ──────────────-…………』

 

 その後もニュースキャスターは昨日起こった事件について話していく。

 しかし、死柄木弔が放った脳無については特に言及されていない。

 せいぜいがヴィラン連合とヒーロー殺しの繋がりを指摘する際に言われるくらいだ。

 その話題も俺が起こしてしまった事件…………

 

 ベストジーニストが多量出血で病院送りにされた上に

 サイドキックが16名が死亡。近隣住民にも数十名もの被害が出ている。

 単独犯罪という点ではヒーロー殺しが上といわれているが

 集団による計画的な犯罪としては最大級の者になっている。

 

「…………………………どこもかしこも脳無は二の次か………………

 忘れるどころか…………俺らがおまけ扱いか…………………………

 しかも、ベストジーニストが重症…………………………

 市民を恐怖に陥れたヴィラン…………“ラギアクルス”……………………」

 

「俺、何かやっちゃいました?」

 

 いや、これについてはマジですまん。

 先生に頼まれていたことなんだよ…………爆弾仕掛けるついでに暴れてきてって

 ヒーロー殺しと解き放った脳無が霞むくらいにって

 それが弔の成長につながるからって

 

「爆弾を仕掛けに行ったんじゃなかったのか?

 なんで戦闘してるんだよ…………脳無が完全に霞んでいるじゃないか…………」

 

「爆弾を仕掛けに行ったのは本当だよ。ほれ、これがそれらを全て起爆する爆弾のスイッチだ」

 

『お疲れ様、悠雷。弔…………今回の事で分かっただろうか。

 何が今の君に足りていないのか、それは僕やオールマイト、ヒーロー殺しにあるものだ。

 それを見つけることが出来れば君はもっと上のステージに行くことができる』

 

「…………先生」

 

『これから暫くは身体の傷を癒やしながらヴィラン連合の戦力の増強。

 及び、自らに足りないものを探していくといい』

 

「…………わかった」

 

 弔は俯きながら奥の部屋に戻っていった。

 弔に足りていないものは恐らくだけれど“信念”だと思う。

 それがある人とない人では瞳の奥にある輝きが違う。

 …………俺にも同じ様に信念がまだ足りていない。

 今まで、そしてこれからも先生に妄信的に従っていたが、

 弔が後継者となるならば自分のこれからも考えていかないとな。

 

『悠雷はこの後、ネットを使って爆破予告を仕掛けてくれるかな。

 爆破するのは今から3時間後くらいでね。

 勿論、痕跡は少しだけ残して僕の存在にオールマイトが気付けるくらいにね』

 

「わかりました」

 

 俺はバーから退出し、黒霧のゲートで自宅へと帰宅する。

 パソコンからヴィラン連合として名乗り犯行声明をあげる。

 予告時間が迫ってくるにつれて混乱に包まれる警察内部の様子を見ながら

 起爆スイッチを弄る。

 これから自分はいったいどう動けばいいのだろうか?

 “ヒーロー殺しステイン”が所属していると思われるヴィラン連合。

 ここには世捨て人が集まってくると想定できる。

 それらの人々が持っている僅かな悪意は混ざりあい、より大きい悪意へと変貌していくだろう。

 悪意の連鎖はヴィラン連合にも留まらず、他のヴィランたちにも浸透していくはずだ。

 時間となり、幾つかの街に仕掛けられた爆弾が爆発し大きな被害が街を襲った。

 

 

 それを見ながらオールフォーワンはこれからの物語に想いを馳せる。

 

『悠雷はこれからも僕の忠実な僕として動いてくれればいい。

 君を育て上げたのも、弔を後継者としたのも

 

 …………全ては僕のために

 

 これは僕が最高の魔王になるための物語なんだから』

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────

 

 

 

 死柄木悠雷

 

 爆弾を仕掛け終わったら、爆豪くんと遊んだ人。

 トガと火伊那さんが手伝ってくれてよかった。

 世間に“ラギアクルス”の名前が認知されてご満悦。

 

 死柄木弔

 

 ヒーロー殺しの一件で自分に足りないものを探すことになった。

 大まかな流れは原作通り。

 しかし、悠雷の存在によって成長が早い。

 

 黒霧

 

 弔専用だったが、しっかりと女性陣にタクシー扱いされている。

 

 レディ・ナガン

 

 悠雷の気持ちを汲んで爆弾の配置を受け持った。

 その後はサイドキックを狙撃して、他のヒーローの足止めをしていた。

 

 トガヒミコ

 

 久しぶりの出番でご満悦。

 中学校卒業から魔王の強化プログラムに取り組み

 火伊那さんとの特訓のおかげで原作以上の技術を得た。

 

 オールフォーワン

 

 計画通りに事が進んでいるし、弔の代わりとして悠雷がいるため

 オールマイトへの嫌がらせを第一に考えるようになる。

 夏休みが楽しみな人。

 

 ベストジーニスト

 

 トガの麻痺毒を喰らって心臓麻痺寸前までいっていた。

 刺された上に血をかなりの量取られてしまったので病院送りになった。

 

 爆豪勝己

 

 悠雷と戦い、完全なる敗北をした。

 ヒーローとヴィランの間で心が揺れている。

 彼については特に決めていないので

 アンケートをとる予定ですので要望があればどうぞ。




職場体験編は書き終わったら投稿します。
建国記念日前には出します。(予定)


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職場体験編
第15話 職場体験前、コードネーム決め


職場体験編ですよ~


 雄英体育祭が終わって、いよいよ職場体験となった。

 かなりの時間悩んでいたが、リューキュウ事務所…………姉さんのところに行く予定だ。

 なんで指名をまだ受けてもいないのに決めているのかって?

 本人から指名したよっていうラインを受けたからだね。

 もしも学校にいって指名されていなかったら軽く絶望するね。

 兄さんのところに行かないのかって?

 どちらかというと竜化状態での立ち回りを学びたかったからね。

 それに兄さんのところだと兄さんが全部やっちゃうから学ぶことが難しい。

 もろもろの理由込みで姉さんの事務所に行くことにしたよ。

 

 毎年見られる光景なんだけれども雄英体育祭の後は普段よりも注目の視線が集まるな。

 普段は雄英高校の制服を着ているからという理由で視線を集めるが

 今はやはり優勝したっていうのが大きな要因なんだろうな。

 念のためにイヤホンを付けて来て良かった。

 普段の登校の時からイヤホンを着用しておいてよかったぜ。

 何かあったときのために音は片方しかつけていないけど

 それなら声掛けられたら聞こえるんじゃないのかって?

 大人は全スルーだよ。子供…………小学生には対応するけどね。

 誓ってロリコンやショタコンではないよ?ホントだよ?

 ん?あれは…………

 

「上鳴か、おはよう」

 

「おはよう悠雷」

 

「制服が少し乱れているが、ファンに揉みくちゃにされたのか?」

 

「女子なら良かったんだけど男の方が多くてさ…………辛い」

 

「…………それは、ドンマイ」

 

「ドンマイといえば瀬呂が小学生からドンマイコールを受けてたんよ。

 マジで面白くね!!?俺爆笑しちまったわ」

 

「上鳴も戦績で言えばたいして変わらないけどな」

 

「あれはお前が強すぎるし、個性の相性が悪いから」

 

「プロになったらそれを言い訳に出来ないからな?

 避雷針のようにして電気を集めることは俺よりも上鳴の方が得意だし

 自分に出来ることを極めていけばいいんじゃねえの?

 何も誰かと必要以上に張り合う必要はないだろうし」

 

「これだから才能マンは…………」

 

「おいこら死ぬまで鍛えてやろうか?」

 

「んじゃ頼むわ!!」

 

「まじか」

 

 上鳴もきっと思うことがあるんだろうな。

 ならば、答えは一つだ。

 職場体験が終わったらひたすらに特訓に付き合ってやろう。

 

「ただ、お手柔らかに…………」

 

「骨は拾ってやるから安心しろ」

 

「イヤ出来ねえよ!!」

 

 全く朝から元気のいいやつだ。

 そういえば一応、怪我人である爆豪はいけるのだろうか?

 これでいけないとかになったら公安の方に頼んで

 事務所を開いた後に必要な知識を教えて貰えるように掛け合ってみよう。

 やっぱりしっかりと責任は取らないとね。

 

「超声かけられたよ。来る途中!!」

 

「私もジロジロ見られて何か恥ずかしかった!!」

 

「俺も!」

 

「俺なんか小学生にドンマイコールされたぜ」

 

「ドンマイ」

 

「優勝した悠雷なんかヤバかったんじゃないの?」

 

「イヤホンって本当に素晴らしいものだと思うよ。

 流石に小学生には対応したけどな。

 というか葉隠にも見られて恥ずかしいって感情があったんだな」

 

「注目するとこそこ?」

 

 そこ?と言われてもヒーローコスチュームがほぼ全裸な

(これはあくまでも個人的な意見だけれど手袋と靴下だけっていうのには

 余計な煽情感が加わると思います。伝われ)

 葉隠が視られるくらいで恥ずかしいって感じるのは可笑しくないか?

 まさかと思うが、露出趣味でもあるのだろうか?

 あるとしたらこれまでの行動に全て合点がいく。

 しかし、今ここで聞いてしまったらあっという間に変態にジョブチェンジだ。

 本人からのカミングアウトを待った方が良いのか?

 いや、これは泥沼に嵌まるタイプの思考だ。

 取りあえず、落ち着いて峰田に聞いてみよう。

 エロの道は先駆者に聞くのが一番だ。

 

「たった一日で一気に注目の的になっちまったよ」

 

「やっぱ雄英すげぇな…………」

 

 登校してくるのが最も遅かった麗日が入ってきた数秒後にチャイムが鳴る。

 ウチのクラスではなった時に座っていないと宿題が倍になります。

 え?俺だけ?そんなバカな。

 

「おはよう」

 

「「「「おはようございます!!」」」」

 

「相澤先生包帯が取れたのね。良かったわ」

 

「肘がやられたくらいで婆さんの処置が大袈裟なんだよ

 んなもんより今日の“ヒーロー情報学”ちょっと特別だぞ」

 

 抜き打ちの小テストか?上鳴や切島の顔が歪んでいるぞ。

 俺も決して要領がいいわけじゃないからな。

 出来れば勉強なんてしないでいいと思う。

 三平方の定理なんて大人になったら使わないでしょ?と言いたい。

 これがヒーローは使うんですよ…………

 街への被害を計算したりするときとかにね。

 だからバカはヒーローにはなれない。筋肉がついていれば別だがな。

 

「『コードネーム』ヒーローネームの考案だ」

 

「「「「「胸膨らむヤツきたああああ!!!!」」」」」

 

 相澤先生の言葉と共に教室内は沸き立つ。

 B組からも大きな声が聞こえたからちょうど同じような説明を受けているんだろうな。

 B組と違ってウチのクラスは人睨みで静まり返るけれどもね。

 

「というのも先日話した「プロからのドラフト指名」に関係してくる。

 指名が本格化してくるのは、経験を積み即戦力と判断される2、3年から。

 つまり、今回来た指名は将来性に対する興味に近い。

 卒業までに興味を削がれたら、一方的にキャンセルなんてのはよくある」

 

「大人は勝手だっ…………!!」

 

「頂いた指名がそのまま、自身のハードルになるんですね」

 

「そ。んでその指名結果がこれだ」

 

 黒板には指名数のグラフが投影される。

 海藤が3872。轟が3513。爆豪は3310。

 そこからかなり差が開いて飯田が298。上鳴が276。八百万105。

 切島が87。常闇76。瀬呂16、緑谷14、麗日8、障子4、耳郎2となった。

 

「最終行った青山は指名無いんだな」

 

「見る目無いよね、プロ☆」

 

「その他の者は華々しいとはいかなくても、充分に力を見せていたからな。

 逆に青山。最終種目まで行っても、いいところ見せてねえだろうが、危機感持ってろ」

 

 相澤先生の言葉に青山は撃沈される。

 やっぱりアピールは絶対に必要だよな。あれだけのヒーローに自分を見てもらえるんだもの。

 心操は普通科だから厳しいだろうが、拳藤はどうだったのだろうか?

 

「つか、2位3位逆転してるんじゃん」

 

「騎馬戦で暴れているのを見てビビったのかもな」

 

「ビビッてんじゃねーよプロが!!」

 

「それ以前に関わりたくないだろな、どう見ても危険人物だ」

 

「確かに」

 

「流石ですわ轟さん」

 

「ほとんど親の話題ありきだろ…………」

 

 指名がある事を喜ぶ者もいれば、思うところがあるのか複雑な顔をするものもおり、

 それぞれが思い思いに会話を弾ましていた。

 

「これを踏まえ、指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう。

 …………お前らは一足先に経験してしまったが、

 プロの活動を実際に体験して、より実りのある訓練にしようってことだ」

 

「それでヒーロー名か!!」

 

「俄然楽しみになってきたぁ!!」

 

「まぁ、仮ではあるが、適当なものは…………」

 

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

 ドアを開け放って18禁ヒーローであるミッドナイト先生が教室に入ってくる。

 

「この時の名が世に認知されて、そのままプロになっている人多いからね!!」

 

「まぁ、そういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。

 俺はそういうのできん。

 将来自分がどうなるのか、名を付ける事でイメージが固まり、そこに近づいていく。

 それが“名は体を表す”ってことだ。“オールマイト"とかな」

 

 相澤先生はその後、すぐに寝袋に入っていく。

 本当にミッドナイト先生に全部任せるんだ…………相澤先生らしい。

 配られたボードにペンで書き始める。

 決めている人の方がやっぱり少ないんだな。

 

「悠雷はもう決めているんだ」

 

「ああ。小学生の時には決めていた。響香はどうなんだろ?」

 

「ウチはまだ決めてないよ。なんか良い案ない?」

 

「個性の名前を組み込んでみたらどうだ?

 “個性”は自分を最も表すものだからな。個性によって性格に影響があるっていう話もあるしな」

 

「なるほどね。その線でもう少し考えてみる」

 

「じゃ、そろそろ出来た人から発表してね」

 

 それからしばらく時間がたち、ミッドナイト先生から発表形式でやると言われ

 クラスの空気がざわりと揺らぐ。

 いくら自分なりに考えた名前といえ、恥ずかしいからね。

 こう、なんて言うの?中二病の時に書いたノートを見られた感覚に近いかな。

 こういうのに物怖じしないものは極少数派だ。

 例を挙げるとするならば、絶賛発病中な常闇といま前に出た青山くらいだ。

 

「行くよ。輝きヒーロー“I can not stop twinking”☆」

 

「「「「「短文!!」」」」」

 

 この瞬間、クラスの心が久しぶりに一つになった。

 勿論、初めてはオールマイトが教室に来た時だ。

 

「そこは"I"をとって"can't"に省略した方が呼びやすい」

 

「それね、マドモアゼル☆」

 

「まじか、あれもアリなのか?」

 

 早速修正し、青山のヒーロー名は決まった。

 そっか、英語などの外国語という選択肢というものもあったのか

 まぁ、母さんが褒めてくれた名前だ。

 俺のヒーローネームはこれにすると決めている。 

 

「じゃあ次アタシね。"エイリアンクイーン"!!」

 

「2!!血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!!」

 

 却下され、唇を尖らせて芦戸は自席に戻る。

 しかし、文句をつけたいのは他の生徒たちだった。

 

(((最初に変なの来たせいで、大喜利っぽい空気になったじゃねーか!!)))

 

 場の空気とは恐ろしいものである。

 この世の中には多数決というものがあるように多の意見は少の意見を押しつぶすことが出来る。

 この空気の流れを断ち切ることは非常に難しい。

 短い人生ながらもそれを知る皆は一様に戦慄していたが、そこに1人の女の子が手を挙げた。

 

「じゃあ次、私いいかしら。…………小学生の時から決めてたの。"フロッピー"」

 

「カワイイ!!親しみやすくていいわね。皆から愛されるお手本のようなネーミングね」

 

 大喜利のようになっていた空気が一変する。

 確かに可愛らしく、親しみやすい良い名前だ。

 流石といえばいいのか、その天然さはときにかなりの武器になりそうだな。

 主に揶揄いあいの際などにね。

 その後は次々と生徒たちが発表していく。

 落ち着いた頃を見計らって、悠雷もまた壇上に向かった。

 

「"ラギアクルス"で」

 

「“ラギアクルス”?」

 

「ええ、『雷光を放つ大渦』という意味の“ラギアクルス”とです。

『ラギア』は光を放つ『クルス』は大渦を意味しています。

 幼少のころに考えたものですが、母が気に入った名前なのでこれしかないと考えていました」

 

「いいじゃない!!とても素敵ね!!」

 

 折角考えたものを否定されず、そっと胸を撫で下ろす。

 これでもしも否定されていたらどうなっていたことやら…………

 俺が考えたという体にしているけれども実際は研究者が名付けたんだよね。

 母さんが気に入っていたのは本当だ。

 出来る事ならば、この名を名乗っているヒーローとしての姿を見て欲しかったな…………

 

「ただ…………爆殺王はないな。

 どういう生き方をしたらそういうネーミングセンスになるんだ」

 

「ケンカ売っとんのかクソトカゲ」

 

「字面の話だ。"殺"はやめたほうがいいだろ。子供が連呼するような言葉じゃないからな」

 

「何がわりぃんだ?元気でいいじゃねえか」

 

「どうせならば爆弾の名前でも使ってみたらどうだ?

 ダイナマイトなり、サーモバリックとかな」

 

 本当に爆豪のネーミングセンスは壊滅的だな。

 何故あそこまで『殺』とかを入れたがるんだろうな。

 これはあまり揶揄うことはしない方が良さそうだな。

 結局のところ、爆豪のヒーローネームは決まらなかった。

 決まる日は来るのだろうか?

 寝袋からいつの間にか出ていた相澤先生が配った紙には指名先の事務所が書かれていた。

 

「エッジショットにリューキュウにギャングオルカ!!

 それにエンデヴァーまで!!トップランカーから指名来てんのか!!」

 

「やっぱ優勝者は凄げぇよな!!」

 

「あそこまで活躍してたらね当然なんじゃないかな。

 ウチはあまり指名が多くないから羨ましいよ」

 

 数十枚にも及ぶリストの一部を手に取り、感嘆の声を各々が上げていく。

 こんなにリストを纏めるのは大変だったのだろうな。

『即断即決』をしてしまったことが少し申し訳なく感じる。

 

「でもこれ、全部調べるってわけにはいかないよね、さすがに。あと2日しかないし」

 

「多すぎて選び辛いってのも贅沢な悩みだな」

 

「もう決めているんだけどな」

 

「マジか!!どこに行くんだ!!?」

 

「リューキュウ事務所だ」

 

「個性も似ているしな!!あそこはヴィランの出現数も多いから羨ましいぜ!!」

 

 これで学校終わりなわけないんだよなぁ…………

 セメントスの授業で滅茶苦茶「塞翁が馬」を読んだ。

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 職場体験はなんだかんだ言って一週間後なのか…………長いな。

 俺は即決したけれども決めるのを悩む人も多いから仕方ないな。

 その一週間に授業があるのはやめて欲しいけどな!!

 体育祭の期間中の遅れを取り戻さんとするような強い意志を感じた。

 授業が終わって職員室に職場体験先を記入したプリントを

 出して来たら教室には弁当組しか残っていなかったぜ。

 まぁ、昼休みの時間の半分を切っているし仕方ないか。

 今日は久し振りのボッチ飯と洒落込もうじゃないか。

 食堂に行けば、知り合いが誰かしらいるんだろうけど今日は辞めておこう。

 多分だけど、もう席は残っていないし…………購買でパンでも買っていくか。

 購買で餡バターパンと牛乳パックを買って日の当たるベンチに向かうと

 猫に煮干しを与えている相澤先生と思わしき人がいた。

 

「………………相澤先生?」

 

「…………………………海藤か、何か用か?」

 

「いえ、特にはないです。猫とじゃれてあっているんですか?」

 

「そうだ。見てわからないか?」

 

 ヤバい…………これがギャップ萌えというやつなのか。

 二次元での萌えはかなりの数を見てきたが、三次元は初めてだ。

 普段は合理的とか言っている相澤先生が気まぐれな猫とじゃれ合っているとか…………最高だ。

 もうあれだ、死んでもいい。

 

「邪魔してしまったようなので、これで失礼しますね」

 

「ああ」

 

 猫とじゃれ合っている相澤先生を写真に収めてその場を立ち去る。

 本当に破壊力がヤバい。USJで戦った脳無よりもこっちのほうが危険度が高いと思う。

 相澤先生と猫の組み合わせはプレミアム殿堂にするべきだ。

 やべ、なんか鼻血出てきた。

 テッシュ持ってないわ。血を操って服につかないようにしているけれど結構疲れるなこれ

 取り敢えず、保健室にでも行くか?

 いや、ここからなら教室に戻った方が早いな。

 

「海藤?こんなところで何やっているの?」

 

「拳藤か、ちょうどいいところに来たな。ティッシュを持っていないか?」

 

「持っているけど、ぶつけたの?」

 

「いや、いろいろあってな。これを見てくれないか?」

 

「これは…………相澤先生なの?」

 

 拳藤に見せたスマホには先程撮った猫とじゃれ合っている相澤先生の写真が写っていた。

 どうせならば、動画も撮っておけばよかった。

 後で、クラスLINEにこの写真を送り付けておこう。

 プレゼント・マイクとミッドナイト先生にもね。

 

「おい。いい加減に戻ってこい」

 

「あ、ごめん。ちょっと理解が追い付かなかった」

 

「だよなぁ。俺なんか鼻血出たもん」

 

「それは…………ごめん。ちょっと引く」

 

 にしてもここは食堂からそれなりに離れている。

 保健室にも近いとは言えないし、自販機とかがあるわけではない。

 しいて言うならば訓練場が近いくらいだな。

 少しだけだが汗のにおいがするから訓練でもしていたのだろうか?

 聞くときはにおいじゃなくて、見えたからって言っておこう。

 

「さっきまで訓練でもしていたのか?」

 

「そうだよ。よくわかったね」

 

「ここの近くにはそれくらいしかないし、少しだが汗が見えるからな」

 

「一応、拭いたんだけど…………恥ずかしいからあまりじろじろと見ないでくれる?」

 

「無理、なんか恥じらっている姿がエロいから」

 

「エロいって…………なんかだいぶオープンになったね」

 

「気のせいだ。しいて言うならば純情な男子の性癖を捻じ曲げてしまうような小説である

「変好き」が悪いんだ…………まぁ、気にしないで」

 

「はいはい。ところで今少しだけいいかな?聞きたいことがあってさ」

 

「構わないぞ。何かあったのか?もしかしてだけど兄さんが何かしらの迷惑をかけたとか?」

 

「いや、迷惑はかけられていないよ」

 

「そうか、良かった」

 

 兄さんなら正直言ってやりかねない。

 なにせ、中学時代に俺に告白してきた人を裏で脅していたくらいだもの。

 ああ、誤解しないように言っておくと実行したのは公安の人。

 初めて受けた告白の相手の父親がヴィランと繋がっていたみたいで

 その関係で過保護な兄さんが手を回していたみたい。

 その後は…………まぁ、察して欲しい。

 そのあとは一度も告白されたことがないとだけ言っておく。

 

「ただ…………指名が入っていてさ」

 

「は?」

 

「多分、私に対する興味本位だよね?」

 

「そうだと思う。兄さんは興味を持った相手以外には無関心だからさ」

 

「私とホークスの関りなんて悠雷との会話を聞いていたくらいしかない訳じゃない?

 だから理由とか知ってそうな悠雷に聞いておきたいなって」

 

「理由はたぶん俺だわ。この前、というか体育祭が終わった後に食事に行ったんだけどさ。

 その時に拳藤との関係を聞かれてさ…………」

 

「なんて答えたの?」

 

「友達と答えたよ。

 ただ、兄さんって過去の負い目からか俺にやたらと彼女を作って欲しいらしくてさ。

 見極めとか?そういう理由が入っていると思う」

 

「そっか…………ありがとう」

 

「事務所に行くことにするのか?」

 

「ううん。断ることにするよ。

 興味を持ってもらえたのは嬉しいんだけど、やっぱり実力で認めてもらいたいからさ」

 

「なるほどね…………拳藤らしい理由だな」

 

「悠雷ってホークスと連絡とれるんだよね?

 私がさっきの理由で断るっていう事を伝えておいてくれないかな?

 出来るなら自分で伝えたいけど、連絡先なんて持ってないし…………」

 

「いいよ。というか伝えといた。

 したら、今度暇なときにでも会って話したいってさ」

 

 Oh…………拳藤が完全にフリーズしてしまったぞ。

 まぁ、普通の人ならそういう反応になるよな。

 この後は反応がなくなった拳藤を保健室に運んでから教室に戻った。

 案の定、授業に遅れたために相澤先生に縛られてしまったぜ。

 ついで?に写真も消された。

 絶対にこっちが本命だろ。

 だが、残念だったな!!既にミッドナイト先生には送信済みだ!!

 待って!!そんなに引っ張らないで!!首しまってるから!!




今年は豆まきしないと思います。
そんな事よりもえりちゃんが可愛すぎる。
なんだ、ただの天使か


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第16話 職場体験・その壱

職場体験一日目です。


 コードネームことヒーローネームを決めた日から一週間が過ぎた。

 二つの違いって何があるんだろうか?かっこよさの違いかな?

 コードネームと聞くと、どこぞの組織のエージェントみたいだよね。

 

 そして、ついにこの日が…………職場体験の日がやって来たぁ!!

 と言っても何度も行ったことあるし?

 職場体験というよりも家族の職場に行く感覚に近い。

 まぁ、楽しみで気が付いたら朝になっていたんだけどね。

 

 インターンで来ているねじれちゃんはもとより、

 サイドキックであるスモーキーさんやベルベットさんとも旧知の仲だ。

 といっても事務的な事でしか話す事は無いけれどもね。

 サイドキックの二人とはせいぜいが仕事仲間といった関係かな。

 どうしても人との関係の取り方に悩んでしまうんだよね。

 事務所には何度か夏休みに行ったことが記憶に新しい。

 ランキング上位に入っていながらも少数精鋭を地でいくというように

 サイドキックの二人もとても優秀だ。

 

「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」

 

「はーい!!」

 

「伸ばすな「はい」だ芦戸。くれぐれも失礼のないように!!じゃあ行け!!」

 

 相澤先生のありがたい言葉を聞いた後に蜘蛛の子を散らすように移動を始める。

 みんな眠そうにしてたし、きっと楽しみ過ぎるんだよね。

 一部例外はいるけど…………目をそんなにギラギラさしていて乾かないのか?

 こんどいい目薬でも渡してあげよう。

 

「楽しみだな!!海藤はリューキュウ事務所だったよな。

 終わったらどんなことしたか教えてくれよ?」

 

「ああ、上鳴のも教えてくれよ?じゃあ、また一週間後にな」

 

 皆と別れて一人で新幹線に乗り込む。

 俺には電車の切符が買えないとか、電気を付けていないと寝ることが出来ないとか

 実は私服が「本日のシェフ」とかという落ちはない。

 そういえば緑谷の私服って絶妙にダサいよね。

 個性が出ていると言える服装だけれど、

 オールマイトのTシャツしか持っていないと思っていた。

 流石にこれは偏見が過ぎるかね。

 なんていう下らないことを考えていると気が付いたら目的の駅についていた。

 

「雄英高校から来ました。海藤悠雷です。しばらくの間、よろしくお願いします」

 

「そんなに畏まらないでもいいのに。まぁ、よく来たわね。

 他の事務所ではなく、ここを選んでくれて嬉しいわ」

 

「流石に職場体験の最初くらいはしっかりと畏まらないとダメでしょう。

 しばらくの間、よろしくね。姉さん」

 

「ええ。それで何を重点的にやりたい?」

 

「やっぱり竜化したときの立ち回りが苦手なので、それを克服したいです」

 

「向上心があるのはいい事ね。先ずは荷物を置いてきなさい。ロッカーはいつもの場所ね。

 荷物をしまって準備が終わったらパトロールに行く予定よ。

 何か質問はある?職場体験だからと言って特別なことはするつもりはないからないと思うけど」

 

「ええ、ありません。すぐに準備してきます」

 

 事務所の奥にある男性用のロッカールームに入って

 普段から俺が使っているロッカーに荷物をしまう。

 普段から使っているといっても使ったのはたったの8回だ。

 サイドキックが少ないからこそ出来ることだ。

 兄さんの事務所だとそう都合よくはいかない。

 兄さんの部屋に置くっていう変化位だけど

 

 家族がヒーローというのはこういう点で便利だ。

 警察との連携なんかやいろいろな事へのノウハウなんかも教えてくれるしね。

 ヒーローコスチュームをきてスマホを持って外に出る。

 ちなみにだけれど事務所にはスモーキーさんが居た。

 ねじれちゃんとベルベットさんはパトロール中なのかな?

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

「わかりました」

 

 街に出ると普段よりも多くの視線を頂戴する。

 この視線は体育祭が終わったあとのものと同質の興味を持った視線だ。

 毎年恒例の職場体験だものな。

 普段見かけないヒーローコスチュームをきた子供がいればそれはヒーローの卵だからな。

 そりゃ好奇心の籠もった視線をいただくわけだ。

 

「やっぱり気付いたわね」

 

「ここまで普段と違うと気付くでしょうよ。

 これが噂に聞く雄英名物ですか…………張本人となると疲れますね」

 

「でもファンにはしっかりと対応してあげないと駄目よ?

 乱暴な対応をして炎上したヒーローもいるんだから」

 

「姉さんの実体験ですか?」

 

「私の 先 輩 の体験よ。同じ轍は踏まないようにね」

 

 揶揄おうと思って姉さんのって聞いたら少し低めの声で言われちゃったぜ。

 これ以上は危険が危ないから大人しくしておこう。

 

「わかりました」

 

 そのまま姉さんと街を歩いていくが、この街はやはり静かでいい街だ。

 雄英の周辺は活気があるからその分犯罪も多い。

 オールマイトがいても尚、犯罪が完全には無くならないからな。

 その点、この街ではあまり大きな犯罪が無い。

 そのためにチームアップ要請を受けてすぐに動くことが出来るのだ。

 ヒーロー殺しの件に関わることが出来れば

 飯田が復習しようとしている場合に止めることが出来るのにな。

 こればっかりはボヤいても仕方がないな。

 ん?あそこいるのは小学生か?なんであんなところにいるんだろうか?

 校外学習でもこれから行くのだろうか?

 

「さて、ラギアクルス。早速ファンサービスの時間よ。

 実は雄英生が職場体験に来ていたら一目でいいから見てみたいという子供たちが多くてね」

 

「それで授業が行われている時間にこんなところにいるんですか…………

 学校に行けばよかったのでは?どの道ファンサービスするんですから」

 

「あら、今度はそうしましょうか。

 一応、気を使ってあまり時間を取らない様にしたのに」

 

「お気遣いいただきありがとうございます。

 ええ、感謝の念と共にファンサービスに取り組ませていただこうと思います」

 

「相変わらずの面倒くさがりね。

 まぁ、いいわ。任せた仕事はしっかりとこなしてくれているしね。

 いきましょう。彼らの時間を取るわけにはいかないわ」

 

「はい」

 

 こちらの事をキラキラした目で見てくる小学生の一団に近づいていく。

 一応、補足しておくとここは市役所の近くにある広場である。

 そう、広場である…………遊具どころかベンチすら無いんだけどこここ

 

「こんにちは岡本先生。こちらがうちの事務所に体験に来た海藤悠雷。

 ヒーロー名『ラギアクルス』です」

 

「岡本先生よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくお願いします。

 リューキュウさん子供たちのお願いを聞いてくださりありがとうございます」

 

「いえ。こういったこともヒーローの責務の一つですからね。

 ラギアクルスは子供たちの相手をお願いね。

 “個性”の使用は竜化以外なら許可するわ。子供たちの要望に可能な限り答えてあげてね」

 

「うす」

 

 姉さんの言葉通りに受け取ると部分的な竜化までは披露していいと

 子供たちが求めることをよくわかっていらっしゃる。

 ひとつ問題があるとするならば、流石に37人は多くないか?

 ヒーローショーの時のことが思い出されてしまうぞ。

 

「リューキュウ事務所に職場体験できた“ラギアクルス”だ。よろしくね」

 

 やっぱり第一印象って大事だよな。

 しっかりと外之の笑顔を作って対応する。

 

「雄英体育祭で優勝した人だ!!」

「すげぇ、ホンモノだ!!」

「ねぇ、あの竜みたいな姿になってよ!!」

「ハッ!!俺の方がすげェんだからな!!」

「あの二人の女の子のどっちが本命なのですか!?」

「ヒーローになるにはどうすればいいんですか!!」

 

 最近の小学生はみんなこんな感じなのか?

 俺は聖徳太子ではないんだぞ?うちのクラスだと障子が出来そうではあるが

 というか、爆豪もどきがいなかったか?

 小さい子が憧れた人を真似するのはよくある事だから珍しくないけれど

 先生にはこれから先の教育を気を付けて欲しいです。

 

「えっと、あの姿にはここではなれないかな。それに関してはごめんね。

 手とか尻尾位なら今でもなれるよ」

 

 そういいながら部分的な竜化をする。

 爆豪戦で披露目することになった鱗と甲殻付きの完全版で

 

「カッコイイ!!ねぇ触ってもいい?」

 

「いいよ」

 

 そういうと半分以上が群がってくる。

 爪を触ってくる人や鱗を剝がそうとしてくる人。

 尻尾にしがみついてくる人もいる…………サービスで尻尾で持ち上げてやろう。

 だが、残念だったな小僧。俺の鱗は簡単には剝がれないぜ。

 剝がすことが出来たとしてもお前にやる事は無いけどな。

 意地汚いって?剝がされるのは痛いんだよ。ホントに

 

「おい、無視するな!!」

 

「ん?」

 

 そっちの方を見てみると爆豪もどき君がいた。

 オリジナルのように自尊心が非常に高いようだな。

 俺に無視というかスルーされて傷ついたみたいだ。

 もう、すこし涙目になっている…………なんか、可愛い。

 

「お前、俺と勝負しろ!!」

 

「勝負?」

 

「優勝したお前よりも強かったら俺が雄英で一番すごい!!」

 

 なんかスゲー滅茶苦茶な理論を展開しているんだけど…………手遅れなのでは?

 爆豪もどきではなくて劣化した幼少期の爆豪だ。

 緑谷から聞いた限りではもっとちゃんと?していた。

 ここはひとつ、人生の先輩として軽く締めてやらないとな。

 

「あ、荒滝くん。すこしこっちに来てくれる?」

 

「うるせえクソババア!!」

 

 文句言いながらも先生の方に走っていった。

 そして、姉さんと話しているんだけど…………頬が染まっている。

 なんだ、そういう事なのかよ。

 あの子の想いが届くことを祈っているよ。

 

「ヒーローになるには何をした方が良いの?」

 

「ヒーローになるにはだっけ?君の個性は何かな?」

 

「えっとね『段剣尾』!!剣が生えた尻尾を生やすことが出来るの!!」

 

 なるほど…………なんか尾白君が可哀そうになってきた。

 剣の切れ味は“個性”が成長することによって良くなっていくだろうから考えないでよい。

 一応、高学年だから体力トレーニング位なら教えても問題ないだろう。

 無理はしないように言い聞かせるのも忘れずに

 

「だったら先ずは体力をつけていくところからかな。

 どんなヒーローになるにしても体力はあって損はしないからさ。

 毎日この街を一周するとか簡単なことから始めてみるといいよ」

 

「うん!!ありがとうヒーローのお兄ちゃん!!」

 

 なんだこの子…………笑顔が尊い。

 やっぱり子供の笑顔ってとてもいいものだと思いませんか?

 なんか滅茶苦茶睨まれているんだけど…………俺何かやらかしたのか?

 この女の子はあの男の子のことが好きなのだろうか?

 だから俺になついている姿を見て嫉妬しているとかか?

 男にも嫉妬するとか可愛いかよ…………すこしヤンデレになりそうな気はする。

 

「どうかしたか?」

 

「…………あの二人のうちどっちが本命か聞いてない」

 

 そっちの方だったのかよ。

 小学生といえど、恋愛にはしっかりと興味があるんだろう。

 そのことを聞いた女の子たちが俺の答えに耳を澄ませている。

 ここはなんと答えるべきだろうか?いや、有耶無耶にしよう。

 

「君はどっちだと思う?」

 

「…………多分だけど、サイドテールの人だと思う。

 身体を掴まれて連れていかれるときになされるままだったから。

 イヤホンの人の事が好きだったら抵抗するはず」

 

 こいつ…………やり手だ。

 しっかりと人の事を見ているな。

 これは誤魔化すよりも他の人を生贄にささげた方が良いのではないか?

 

「その話、お姉ちゃんにも聞かせて欲しいな~」

 

「姉さん!?」

 

 馬鹿な、いつの間に背後に立っているんだ!?

 気配なんて感じることが出来なかったぞ?

 普段の状態ならばいざ知らず、今は個性発動中だ。

 これが、ドラグーンヒーロー“リューキュウ”の力とでも言うのか。

 

「ほらほら。早く言っちゃいなよ。言ってしまえば楽になるんだからさ」

 

 これは…………詰んだな。

 二人のうちどちらがいいとかそんなことは考えたことがない。

 恋愛感情を抱いているのかすら怪しい。

 しいて言うならば『仲の良い女友達』

 ちょっとヴィランでも出てくれないかな?

 

「悠雷、行くわよ!!」

 

 突然、姉さんが道路の方に走り出す。

 身体に電気を流して身体強化を施して姉さんに追いつく。

 

「ヴィランだぁ!!人を轢こうとしているぞ!!」

 

 その声に反応してそちらの方を見ると、トラックが

 とあるカップルに突っ込んで行こうとしているのが見えた。

 車を運転しているのが一人と屋根の上から銃を乱射しているのが一人。

 幸いにしてまだ事件は起きていない。

 

「ラギアクルスは車を止めて、私は外のヴィランを」

 

「了解」

 

 姉さんが個性を発動して車の上のヴィランを拘束する。

 その間に回り込んで車を受け止める。

 本当に危ない…………会話に集中しすぎて轢き逃げ事件を阻止できなかったかも知れない。

 

「ラギアクルス。会話をしながらも周囲の警戒を怠らない様にね。

 でも、その後の行動は問題ないわ。次、頑張りましょう」

 

「うす」

 

 はぁ…………なんか自信なくすなぁ…………

 その後は元通りに笑顔を絶やすことなく、子供たちと戯れて別れた。

 今回の職場体験でヒーローの立ち回りを学ばないとな。

 うん。これから頑張ろう!!

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 

 岡本先生

 

 リューキュウ事務所の近所にある小学校の教頭先生。

 個性は『思考加速』

 正直言って、これから先に出番はない。

 

 

 爆豪っぽい言動の少年(性は荒滝、名はまだない)

 

 リューキュウに一目惚れした。

 なんかの本で荒っぽい男はモテると読んで(それなら苦労しない)

 そんな言動になった………想いが届くといいね。

 

 

 個性『断剣尾』の少年(名前未定)

 

 ヒーロー志望の少年。

 個性はあれだよ、あれ。モンハンやったことがあればわかるはず

 再登場はもしかしたらあるかもしれない。

 

 

 




次回は二日目ですね。ねじれちゃんも登場予定です。
感想と評価をよろしくお願いいたします。


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第17話 職場体験・その弐

アンケートに協力してくださりありがとうございます。


 一夜明けて、職場体験二日目。

 昨日は小学生相手にファンサービスを行ってパトロールを行った。

 しかし、会話に集中しすぎるあまりヴィランの行動を見逃してしまった。

 まだ、職場体験は六日間も残されている。

 これから先にも役に立つ経験を積んでいきたい。

 ただ、滅茶苦茶に眠たい。

 何とかしてベットから出ることが出来たが、ツラい。

 しっかりと水で顔を洗ってからいこう。

 

「…………おはようございます」

 

「眠そうね。昨日はあまり眠れなかったみたいね。

 もしかしてだけど、枕が悪かったのかしら?新しいものを買っておきましょうか?」

 

「大丈夫。昨日の事で少し考え込んで寝れなかっただけだから」

 

 俺が昨日使った枕は普段使っているものよりも数段グレードが上のものだったからな?

 書いてあったブランド名は調べなくてもわかるお高いやつでした。

 この前、八百万が使っていると言っていたものと同じブランドだったもの。

 大富豪と同じものを買えるなんてランキング上位は金持ってんだよなぁ…………

 

「そうなのね。あまり考え込まないことよ。

 昨日のミスは現地で経験を積むことで対処可能よ。

 私が気付くことが出来たのだってここの空気を知っているからよ。

 他の街なら叫び声を聞くまで気付けなかったかも知れないわ」

 

「…………うす」

 

 慰められると、余計に姉さんとの差を感じてしまう。

 この差は経験によって埋めるものだ。

 今すぐにでも埋めることが出来るものではない。

 一旦、自分の原点を思い出そう。

 何を思ってヒーローを志したのか…………どんなヒーローになりたいかを

 

 …………よし、今日も一日頑張っていこう。

 

「少しだけそのポジティブなところが気になるわね。気負い過ぎてはダメだからね?」

 

「過去に経験したことに比べれば楽ってだけです。別にポジティブなんかではありませんよ」

 

 クラスのみんなは俺がくよくよと悩んでいる間に経験を積んでいるからね。

 俺だけが立ち止まって、遅れを取るわけにはいかないしな。

 今日の予定を今のうちに聞いておこう。

 

「今日はなにをする予定でしたっけ?」

 

「今日は…………いえ、ねじれに聞いてくれるかしら

 あの子まだ起きていないから、ついでに起こしてくれない?

 私たちは会議室で待っているから」

 

「わかりました」

 

 事務所にはヒーローやサイドキックが遅くまで作業するために様々な設備が存在する。

 ランキング上位にもなるとちょっとしたホテル並みの設備となる。

 そのため姉さんは仕事の日は事務所に泊まっていることも多い。

 ねじれちゃんもインターン中は止まることもあるようだ。

 部屋のカスタマイズも可能なのでこれは実質女子の部屋に行くことと同じなのでは?

 ヤバい。そう考えると少し緊張してきた。

 ノックをしてねじれちゃんが寝室として利用している部屋に入る。

 なんだかんだ言って女子の部屋?に入るのは初めてだ。

 なんだろうか…………言葉で表すことが出来ない香りがする。

 ねじれちゃん本人から嗅ぐことが出来る匂いだ。

 こう言うと俺がなんか…………変態みたいだな。

 別に否定はしないというかできないけれども

 

「ねじれちゃん起きてください。朝ですよ~まだ5時だけど」

 

「うん~朝ぁ?」

 

 寝ぼけているねじれちゃんがマジで可愛い…………尊死しそう。

 何故って?焦点のあっていない目でこっちのほうを見つめてきている上に

 さりげなく俺の袖を掴んできて胸に寄りかかってくるんだぜ?

 いったい誰に話しているのかわからないが、もう…………死んでもいいです。

 

「悠雷くんだぁ~」

 

 そう言われた直後、俺は抱き付かれて、布団に引き込まれる。

 そして、俺はねじれちゃんの抱き枕となった。

 ねじれちゃんって見てもわかるけれど、やっぱりデカいわ。

 しっかりと俺に当たっている。

 こればかりは反応しちゃうね……だって男の子だもの。

 あまり時間をかけていると姉さんたちに迷惑がかかってしまうので

 ねじれちゃんに触れないようにして、素早くベットから抜け出す。

 

「起きてください。電流流しますよ?」

 

 言っただけだからね?ホントに流したりはしないよ。

 女子を虐めて喜ぶような男ではないと思っているからね。

 その後は布団をひっぺ剝がしたり、身体を揺すったりする。

 すると意識が覚醒しかけたようだ。

 

「ん~おはよう」

 

 ねじれちゃんがベットの上に身体を起こし、大きく伸びをする。

 別に見たいわけじゃないんだけれど、大きなものが伸びによって強調される。

 その後は寝ぼけ眼なねじれちゃんを洗面台まで連れていく。

 鏡を見るとわかるが俺の髪もだいぶ伸びてきたな。

 今の長さは大体腰に届くくらいだ。

 そろそろ切りに行った方が良いかな?ロングヘアで印象付けるのもありだし悩む。

 顔を洗い終わったねじれちゃんと共に会議室に向かう。

 

「おはよう。ねじれ。ねじれのことを呼んできてくれてありがとうね。悠雷。

 それじゃあ今日及び明日の予定について話していこうかしら。

 先ずは一つ目。エンデヴァーさんが保須に行くとこになったために

 警備の手が空いた地域にパトロールに行くことになったわ」

 

「エンデヴァーが保須に?」

 

「なんでだろうね?不思議だね?」

 

「ヒーロー殺しが再び保須に現れると過去の記録から予想したそうよ。

 エンデヴァーさんの事務所にはたくさんのサイドキックがいるから

 問題はないと思うのだけれど念のために行くことにするわ。

 二つ目は明後日の女性用週刊誌に載せる写真を撮る件についてよ」

 

 いつものところで写真撮影なのかな?

 女性でありながらランキング上位かつ

 美人という事で姉さんにはそういったお誘いがとても多い。

 流石にアダルト系の依頼は断っているが、ファッション系のものはよく受けている。

 たまにはクール系のファッションではなくて可愛い系の服も着てみたいと愚痴を言っていたな。

 世間一般のイメージではクール系という印象がついているから

 もうプライベート以外では着るのは難しいんじゃないのかな。

 

「今回の写真撮影はウワバミさんとの合同で行うわ。

 向こうは職場体験生の二人の分も撮ってもらうみたいだから

 あなた達も撮ってもらえるようにお願いしたわ。

 なので、明日の夜は夜更かし厳禁でお願いね」

 

「悠雷くん楽しみだね!!」

 

「ですね」

 

 確か、ウワバミさんのところには八百万と拳藤が行っていたはずだ。

 写真を撮ってもらうっていっていたし、会えるといいな。

 ヒーローという職業は多忙なことが多いから会えない可能性も微レ存。

 

「今日は普段通りにパトロールに行った後、用があるため警察に行くわよ。

 スモーキーとベルベットは事務所にてチームアップ要請があった場合に対応を

 ヒーロー殺しにヴィラン連合と近頃はヴィランが活発に動いているから注意するように」

 

「「はい!!」」

 

 その後はみんなで朝ご飯を食べました。

 朝ご飯は一日の基本となるものだからね。いっぱい食べました。

 久しぶりに姉さんの手料理を食べたけれど、やはり美味しかったです。

 可能ならば、毎日食べていたいほどにね。

 

「ねじれとラギアクルスは南方面からパトロールをお願いね。

 それじゃあ、またお昼に逢いましょう」

 

 ということで、俺はねじれちゃんと一緒にパトロールに回ることになった。

 パトロールといえば、常闇は大丈夫だろうか?

 兄さんの移動速度に追いつくことが出来なければ、職場体験が意味のないものになってしまう。

 電話して聞いてみようか?

 いや、いくらクラスメイトとは言え、そんなことまで聞くような仲ではないしな。

 終わったらそれと無くどんな感じだったのか聞いてみよう。

 

「行くよ!!ラギアクルス!!」

 

「わかりました」

 

 事務所を出て、ねじれちゃんと街を歩いていく。

 今日も街は平和…………だと良かったのだけれど

 残念ながらそう都合よくはいってくれないようだ。

 まずは轢き逃げ事件が三回。ひったくりが7回。

 拉致事件が2回に立てこもり事件が一度起こった。

 なんで今日はこんなに起こっているのだろうか?

 やはりヴィランが活性化している影響なのだろうか?

 取り敢えず、一通りのパトロールを終えて事務所に戻る。

 姉さんならば、俺が気付くことが出来なかったことに気が付いているかもしれない。

 

「姉さん。今日は犯罪が多くないか?」

 

「ね!!この街に住んでいる人じゃない犯罪者が多かったかな」

 

「そのようね。どうやら中規模のヴィラン組織がこの街に来ているみたい。

 昨日、警察から協力を要請する連絡が入ったから今から警察に行くわよ」

 

 朝言っていたのはこのためだったのか。

 きっと今日、組織が動くであろうと予想していたのだろう。

 途中のコンビニでサンドイッチを買っていく。

 やはり腹持ちの良いカツサンドが個人的には一番好きだな。

 そして、警察の内部にてヴィランの組織についての情報交換が行われた。

 どうやら今回この街にいるヴィランの総数は20~30ほどらしい。

 これは確定した情報ではないため、あくまでも目安のようだ。

 主に爆弾を扱っているようだが、個性強化薬も扱っているようで

 最近の事件は姿を晦ますために起こしたものみたいだ。

 奴らの基地の場所は既に特定済みらしく、後は捕らえてしまうだけなのだと

 いくらなんでもサクサク行き過ぎじゃないかと疑ってしまったが、

 これらの情報は以前潜伏していた時に壊滅させた基地からの情報のようだ。

 警察としてはここで確実に捕えたいがためにリューキュウ事務所に声を掛けたそうだ。

 少しご都合主義を感じずにはいられないが、有難く経験値とさせてもらおう。

 

 そして、移動すること50分。俺たちは街の近くにある港までやって来た。

 どうやらここに奴らが潜伏しているようだ。

 なんというか…………すごくベタな隠れ場所だな。

 立地としては水場が近くにあるために戦いやすくていいけどな。

 作戦は夜を待って、俺とねじれちゃんが内部に潜入。

 姉さんは外で待機して中から逃げ出したヴィランを捕らえることが主となる。

 警察の人はサポートに徹してもらうようだ。

 太陽の出ているうちに突入するという案もあったが

 夜になるまでに包囲網を完成させて確実にとらえる方向にシフトしたようだ。

 

「二人とも頑張って来てね。無理はしない様に気を付けること」

 

「「はい!!」」

 

 ヴィランが潜伏している倉庫に入っていく。

 どうやらここの地下に基地を作っていたようだ。

 前に潜伏していたという街にもこのような基地が作られていたのではないか?

 日本の警察は優秀だからきっとそういったことも調べているんだろ。

 

「ラギアクルス頑張ろうね!!」

 

「ええ。頑張りましょう。俺が前に出るのでねじれちゃんは後方支援をお願いします」

 

「任されました!!」

 

 俺がねじれちゃんの前に立つ形で中に入っていく。

 階段を下りて中に入っていく。

 中には幾つかのトラップが設置されているが、

 この程度の装置なら電気を流してショートさせるだけで簡単に無力化出来る。

 恐らくだけれどもう侵入には気が付いていると思う。

 最近の機械は優秀だからね。

 壊されなり無力化されれば、通知が行くくらいの機能はあるだろう。

 しかし、ヴィランは迎撃ではなく籠城を選択したようだ。

 そうでなければ俺たちに爆弾をいくつか投げ込むくらいはするはずだ。

 籠城を選択した場合は牙城を崩す訳にはいかないからね。

 それとも貴重な商品だから手を付けることが出来ないのかな?まぁ、いいや。

 本当に追い込まれたら個性ブースト薬くらいは使ってくるだろう。

 

 ん?微弱な電気をレーダーのようにしてヴィランを探していたが

 どうやら隣の部屋に7名ほどいるようだな。

 その部屋の近くには電磁波に反応する者はいない。

 俺の探知に引っかかることのない半導体でも纏っていない限り、増援はいない。

 中にあると思われる高台に3人と右側の物陰に3人、そして、天井に一人だ。

 まだまだ基地に部屋はあるだろうし、ヴィランもいるだろうと

 思われるので他の部屋の奴に気付かれる前に仕留めたい。

 自分の思考だけれど、矛盾が多いな。

 このどうでも良い事と大事なことを混ぜながら考える癖はなおさないとな。

 

「ねじれちゃん、次の部屋にヴィランが7名います。

 高台と天井にいる4人を抑えてもらっていいですか?」

 

「勿論、他は任せるね!!」

 

「警察の方は無力化されたヴィランの捕獲をお願いします」

 

「「「了解しました!!」」」

 

 部分的竜化をして中に入るとすかさずヴィランが攻撃を仕掛けてくる。

 こちらに向かってくる銃弾を防いで、ヴィランを観察する。

 高台にいるのは銃持ちが二人と壁役のシールドのような個性持ち。

 右側の物陰にいるのは電気を纏っている奴が一人。

 ハイエナの様な見た目をしている奴が一人とトカゲが一人。

 天井にいる奴は蜘蛛の個性と思われる。

 スパイダーマッのように糸でぶら下がっているしね。

 

「手筈通りにお願いします!!」

 

「了解!!チャージ満タン。出力30ねじれる波動!!」

 

 ねじれちゃんの放った波動が高台にいるヴィラン達を叩き落とす。

 ねじれちゃんの放つ波動は俺や姉さんが竜化した状態でも

 軽々と弾き飛ばすことが出来るからな。

 あんな可愛くて無邪気そうな顔をしていて恐ろしい。

 雄英生のなかでも最上位の実力を持っている

 雄英ビッグ3と呼ばれているのもそれを裏付けている。

 

「喰らえ!!」

 

 俺は物陰からナイフを持ち飛び出てきたトカゲに雷を纏わした一撃を叩き込む。

 

「雷閃」

 

 必殺技というかよく使う技に名前を付けてみたが、あまり良くないかも

 ネーミングセンスがあるわけでもないからこういうのは困る。

 誰かにつけてもらう方が良さそうだな。

 必殺技(仮)を喰らったトカゲは吹き飛んで壁に激突する。

 体育祭の時と違って威力の調整も出来ている。

 気絶したトカゲから目を離してハイエナと電気に注意を向ける。

 

 電気を纏っている奴が放ってきた電気は操作して主導権を奪い、

 警察の皆さんに跳びかかってきたハイエナにぶつける。

 流石に異形系の個性持ちは発動系の個性持ちに比べて耐久力が高い。

 これくらいでは怯ませるのがせいぜいか

 ハイエナの服を掴み、地面に叩きつける。

 トカゲが落としたナイフで襲い掛かってきた電気を尻尾で吹き飛ばす。

 地面に叩き付けられてなお、暴れるハイエナに電気を流して失神させる。

 上を見ると、ねじれちゃんが蜘蛛のヴィランを拘束したようだ。

 高台にいた奴らもねじれちゃんの攻撃で気絶させられ警察のお縄についている。

 少し急ぐか、吹き飛ばした電気に地を這うように接近して

 手に持つナイフを噛み砕き、背負い投げで叩きつける寸前に足で意識を刈り取る。

 この技やってみたかったんだよな。

 

 警察の人は捕らえたヴィランを上に控えている人たちに渡しに行った。

 その間にねじれちゃんと二人で先に進んでいく。

 爆弾や個性強化薬は見つかったが、

 この基地にヴィランは恐らくだけれどもういないようだ。

 

 逃げる経路は陸にはもう残されていない。

 空に関してもこの基地にはヘリポートなどは存在していない。

 …………となると海の方か!!

 

「リューキュウ。ヴィランは船などで逃走した可能性が高いです」

 

「こちらで既に発見済みよ。ねじれを連れてこちらに来なさい。

 場所は港から沖合に2キロほどの地点よ」

 

「了解」

 

 竜化して基地の内部にある船着場から海にでる。

 臭いは残っているから姉さんの上方通り、あまり離れていないようだ。

 匂いといっても個人の匂いをかぎ分けるなどでなく、船に使われている燃料などの

 本来ならば海に存在していないものに限って海上ならば嗅ぎ分けることが出来る。

 

『ねじれちゃん。しっかり掴まってください。飛ばします』

 

「了解!!急いでね!!」

 

 ねじれちゃんが背中に生えている突起に捕まったことを確認して泳ぎ始める。

 最近の戦闘などを経験することによって個性が成長したらしく

 以前よりもかなり泳ぐスピードが速くなっている。

 普段は海で泳ぐなんてことはないからわからなかった。

 陸上で生活している海竜とは…………改名した方が良いのだろうか?

 

 姉さんが言った地点よりも500メートルほど

 陸に近い地点にヴィランが乗っている船は存在した。

 既に周りを警察や海上保安官の船が取り囲んでいる。

 姉さんも上空にて待機中だ。

 どうやらこの後に俺が突入して制圧するそうだ。

 ある程度は外に逃がして、姉さんとねじれちゃんに任せてもよいという事なので

 仮にミスを犯してしまっても取り返しのつかないことにはならなさそうだ。

 姉さんたちは突入しないのかと聞いてみたが

 屋内戦闘は二人とも出来ない訳ではないが、出来れば避けたいとのこと。

 都合の良いことを言って押し付けているように聞こえるかもしれないが

 こちらとしては頼ってもらえて嬉しい限りだ。

 

 船に近づいて、竜化を解除して部分的な竜化を発動させる。

 なるべく物音を立てないように内部に侵入する。

 中にいるのは16名かな?取り敢えず、機械類を使用不能にしておこう。

 背中の背電殻に蓄電しておいた電気を使い船全体に放電攻撃を行う。

 やっていることはかなりえげつないな。

 まぁ、ヒーローはいかに早く戦意喪失させるからだから仕方ないね。

 放電した後、操縦室と思わしき場所に行き完全に機能停止させる。

 その場にいたヴィランは先ほどの放電で軽く痺れていた。

 そのために割と簡単に仕留めることが出来た。

 船には基地で見つかったものよりも上質で依存性の高いものがあった。

 これらは出来れば壊してしまいたいが、

 犯罪の証拠になるためになるべく壊さないようにしないとな。

 船室を進んで行くと5,6人ほどヴィランがいたため放電でみな気絶させる。

 どうやらさっきので最後のようだ。

 一応、一塊に纏めて拘束しておこう。

 

『ラギアクルス。外に出てきたヴィランは全員捕縛したわ。

 中にまだ残っているかしら?』

 

 姉さんから無線通信だ。

 外に逃げたものも既に捕まえているようだ。

 出来れば一人も逃がすこともなく終わらしたかったな。

 

「いえ、くまなく探しましたがもういないと思います。

 気絶さしたヴィランは一纏めにしてあります」

 

「了解。海上保安官の人たちがいまから行くからそれまで待機していなさい」

 

「わかりました」

 

 こいつらが所持していた薬品や爆弾は警察によってすべて回収された。

 これから密輸先やらの情報を調べていくそうだ。

 これで今日は事務所に帰ることになった。

 

「今日はお疲れ様。ヴィランとの戦闘だったけれどどうだったかしら?」

 

「悠雷くん大活躍だったね!!かっこよかったよ!!」

 

「ありがとうございます。けれども良かったんですか?

 わざわざ俺に手柄を譲る形になってしまって」

 

 姉さんたちが気を使って俺に手柄を与えてくれたのは嬉しいが

 正直なところ、姉さんたちがやった方が早く済んだのではないかという疑問が残る。

 

「職場体験だからっていうのもあるけれど、それが最善だと判断しただけよ。

 どうしても私たちは屋内戦が苦手になっているからね。

 悠雷がサイドキックに来てくれると助かるんだけど…………」

 

「それはまだ何も言えません」

 

 サイドキックになるという選択は非常に魅力的だが、まだ考えたい。

 公安委員会にも兄さんのように所属しないかと提案されているからな。

 まだ一年生だから決めるのはまだまだ先でも問題ないだろう。

 

「いつでも歓迎するからね」

 

「ええ。ありがとうございます」

 

 そのあとは事務所のみんなでお寿司を食べに行きました。

 なんでも海上保安官のかたから美味しいお店を教えてもらったそうだ。

 そのお店のネタはどれも新鮮で美味しかった。

 店から出ると、ちょうど朝日が昇るところだった。

 その日は交代制で仮眠をとってパトロールを行った。

 流石に夜いっぱい使っての戦闘はツラかった。

 ヴィランが強いという訳ではなかったが、常に気を張っている必要があったからな。

 

 そして、夜の10時頃のこと。

 眠る前に何かしらの連絡が来ていないか確認すると

 拳藤から明日の写真撮影についての連絡があった。

 メッセージで返してもいいんだけれど、どうせなら電話にしよう。

 

『もしもし』

 

「こんばんは拳藤。今日はCM撮影をしたんだって?」

 

『うん。詳しいことは企業秘密で言っちゃだめみたいなんだけど

 ウワバミさんに言われて化粧品のCM撮影に八百万と一緒に参加したんだ』

 

「そうだったのか。職場体験の段階でテレビデビューできるなんて羨ましいな。

 メディアの目の留まることが民衆に認知されることに必要不可欠だからな。

 なかなか出来る経験じゃないから羨ましいな」

 

『そっか…………出来ればもっとヒーローっぽい活動をしてみたかったかな。

 海藤はどんな感じだった?やっぱりヴィランと戦闘した?』

 

「ああ、戦闘したぞ。今日は警察と連携してヴィランと交戦したな。

 昨日は交通事故を防いだのと小学生と戯れたくらいだな」

 

『ヴィランと戦闘したのか~羨ましいな。

 こんなことは言いたくないけど、ホークスの誘いを受けてたらさ。

 ヴィランとの戦闘も経験できたのかな?』

 

「兄さんに気に入られることが出来たらな。

 出来なければ、ただひたすらに兄さんのことを追い掛けるだけになっていたかもな」

 

『なるほどね。やっぱり実力で認めてもらう必要がありそうだね。

 海藤とのパイプラインで気に入られても嬉しくないし』

 

「お互い頑張ろうな」

 

『うん。また明日ね』

 

「おやすみ」

 

『おやすみ』

 

 そういって拳藤は電話を切った。

 明日は実際に会って話をすることになるわけだけれども

 やはり女子との電話というものはとても良いものだな。

 だって女子の声が耳元で囁くように聞こえるんだぞ?

 明日が非常に楽しみだな。




電話シーンが少ないじゃんと思われるかもしれませんが
アンケートで選ばれた名誉ある電話相手と
四日目に関わらせるつもりでしたので、悪しからず。

というか職場体験って一週間なのか………ネタがない。
何日か飛ばしてしまうかもしれないですね。

必殺技の案と職場体験のリクエストなどがあれば感想で教えてください。
ホント、マジでお願いします。


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第18話 職場体験・その参

4日目!!


 拳藤に電話をしてから数時間後、新しい朝が来た!!

 生まれて初めての写真撮影という事もあって緊張して眠れませんでした。

 昨日も仮眠をしただけでほとんど寝ていないから、滅茶苦茶眠い。

 幸いなことに隈は出来ていないから写真撮影への悪影響はないと思いたい。

 

 昨日の朝ご飯は外食で一昨日は姉さんが作ったため

 今日はねじれちゃんが作ってくれることになっている。

 交代制のため、明日は俺が作ることになるだろうが何作ろうか。

 朝ごはんだから重すぎるものは嫌だしな…………フレンチトーストにしよう。

 材料もパトロールを終えたら買っておこう。

 いくら写真撮影が入っているからとはいえ、パトロールは行うからね。

 ヒーローである以上、そこは絶対に外すことが出来ないのだ。

 

「おはようございます~」

 

「おはよう。今日はずいぶんと眠そうね。

 朝ごはんはもう少しで出来るみたいだから食器を出すのを手伝ってくれるかしら?」

 

「わかりました」

 

 スモーキーさんとベルベットさんは書類作業を行っているようだ。

 リューキュウ事務所が抱える問題として大きなものは二つ存在している。

 それはサイドキックの人数が少ない事と、書類整理が絶望的にできていないことだ。

 

「書類整理もそろそろやった方がいいんじゃ…………」

 

「そうね…………いつまでも目を背けていてはいけないもの」

 

 俺と姉さんの視線の先には机の上に大量に積まれた書類の束と

 それらに囲まれているなか作業を行っているサイドキックの二人の姿が見えた。

 ツラい現実からは目を背けていたけれども…………これは流石に酷いな。

 ヒーロー事務所ということもあり、安易に人を呼べないこともつらいところ。

 一般人の目に触れさせてはいけない物も存在するのだ。

 サイドキックを新しく雇おうにもある程度の水準を満たしていないと採用すらできない。

 人気の高さゆえに独立後直ぐにランキング上位に駆け上がってしまった弊害が出ている。

 

「みんな~できたよ~」

 

「どうやらできたみたいね。私は二人を呼んでくるわ」

 

「俺はねじれちゃんの手伝いをしてきます」

 

 にしてもいい匂いだな…………これはメープルシロップか?

 パンケーキでも作ったのだろうか?

 まさかと思うけれど、フレンチトーストだったり?

 被ってしまった時のことを考えて別の料理を考えておかないとな。

 

「ねじれちゃん。今日の朝ごはんは何なの?」

 

「フレンチトーストだよ!!なんかすごく食べたくなったの!!不思議だね!!」

 

「フレンチトーストですか。ホイップクリームでも用意しましょうか?」

 

「うん。お願い!!」

 

 被っていたので明日はフレンチトーストではなくてホットサンドにでもしようかな。

 多分だけれども明日は余裕があれば書類整理をすると思う。

 腹持ちの良い朝食の方が、作業が進むと思うしね。

 ねじれちゃんの作ったフレンチトーストはとても美味しかった。

 悔しいけれど、今の俺よりも数段上手だ………もっと料理も練習しないといけなそうだな。

 出来る事ならば、お母さんに今の俺が作ることのできる料理を食べてもらいたかったな。

 お母さんが生きていた時は所々焦げていたりしたしな。

 それでも美味しかったって言ってくれたな…………

 

「さて、それじゃあパトロールに行きましょうか。

 今日は悠雷は私と一緒に回りましょう。ねじれは一人だけれど気をつけてね」

 

「「はい!!」」

 

 姉さんと共に事務所を出る。

 いつまでもくよくよしていてもいい事なんてないからな。

 前を向いて進んでいかなきゃ…………永遠なものなんて存在しない訳だからさ。

 今ある時を大切しながら進んでいかないと

 

「この前、組織が壊滅したからか犯罪も起こりずらくなりましたね」

 

 といっても轢き逃げが起こったり、銀行強盗が起こったりしたけれどね。

 このくらいの犯罪ならば起こる時には起こっているというのだから恐ろしい。

 今存在するヴィランの組織の中でも大規模な組織であるヴィラン連合………

 今のところは雄英高校を襲撃しただけという組織なのだけれど………

 彼らがこれから力を付けたらと考えると恐ろしい。

 脳無という怪人を作った存在についても何も分かっていないそうだし

 

「そうね。無くならないというところが玉に瑕なのだけれど…………そこはもう諦めたわ。

 私たちはオールマイトじゃないからすべてを解決するという事は出来ないもの。

 地道に今の自分に出来ることからやっていきましょう」

 

「はい」

 

 その後は無事にパトロールを終えて事務所に戻ってきた。

 ねじれちゃんのほうも何も問題はなかったようだ。

 しかし、サイドキックの二人は崩れた書類の対処に追われていた。

 

「これは…………明日やることが決まったわね」

 

「ですね」

 

「朝はしっかり立って居たのに倒れちゃうなんて不思議だね!!」

 

「バランスはしっかりいたから地震でも起きたのか?」

 

「そうみたいね。と言っても震度1程度だったわ。流石に積みすぎたみたいね」

 

 地震が起きていたのか………ラギアクルスのせいじゃないぞ?

 ナバルデウスの時みたいにこちらに罪を被せられたら堪ったもんじゃない。

 渡りの凍て地の異変の時もラギアクルスのせいって言ってた輩もいたらしい。

 まったく………ラギアクルスのことを何だと思っているんだか………

 ん?なんで俺がこんなことを知っているのかって?俺も知らん。

 

「掃除用具って何処にありましたっけ?

 足りなければ、食材の買い出しのついでに買ってきます」

 

「ごめんね。職場体験なのにこんなことを手伝わしてしまって」

 

「大丈夫です。どの道夏休みに手伝いに来ましたし」

 

「わかったわ。それじゃあ写真撮影の準備をしましょうか」

 

「「はい」」

 

 書類と格闘するサイドキックの二人を手伝ってから撮影場所へと向かう。

 崩れ落ちた書類はなんとか元の状態に戻すことが出来た。

 応急処置なために明日しっかりと処置をしないと同じことが起きてしまうけどな。

 食材の買い出しは写真撮影の後に買いに行くことになった。

 

「着いたわ。私はウワバミさんと会ってくるから二人は自由にしていていいわよ」

 

「それじゃあ、私はスタッフさんと話してくるね!!」

 

「俺は拳藤とヤオモモと話してきます」

 

 ここのスタジオは普段から姉さんが撮影する際に使わしてもらっている場所らしい。

 ランキング上位の御用達のスタジオでオールマイトなどもこの場所を使っている。

 創立50年を迎えるこのスタジオでは毎日様々なヒーローなどが撮影をしに訪れている。

 姉さんと兄さんもランキング上位になってから何度もここでお世話になっている。

 俺もいつか自分の力でこのスタジオに来れるようになりたい。

 スタジオを歩いていると、ウワバミさんの撮影を見ている二人を見つけた。

 姉さんと一緒に行動しておけばもっと早くに見つかったかもな。

 

「よっ。二人とも久しぶり」

 

「よっ。久しぶりだね海藤」

 

「海藤さん!!お久しぶりです」

 

「二人とも職場体験はどんな感じ?」

 

「昨日言ったようにテレビのCM撮影を手伝ったのに加えてパトロールとかかな。

 ヴィランとの戦闘とかは無いかな」

 

「パトロールでは索敵能力に優れた個性を持つウワバミさんらしい教えを頂きました。

 今回の職場体験では座学以外に大した取り柄の無い私を指名したくれただけだけではなく

 様々なことを教えてくださるだなんて………頭が上がりませんわ」

 

「拳藤、ヤオモモなんでこんなに卑屈になってんの?」

 

「体育祭で常闇に瞬殺されていたり、騎馬戦でも大した活躍がなかったこととか

 障害物競走でも高い順位では無かったりって事を悩んでいるんだってさ」

 

「拳藤さん!!」

 

「ごめんねヤオモモ。でもこういうのは私よりも海藤の方が適任かなって思ったからさ」

 

「なんでこんなに卑屈になっているか知らないが、全然活躍で来ていた方だと思うぞ?

 この前の体育祭では指名を見ればわかる通りに一部にしか注目が集まっていたけど

 それはプロに成れただけのヒーローが票を俺らに入れていただけだ。

 活躍しているプロはしっかりお前たちに票を入れていたし、見てくれていたと思うぞ。

 ぶっちゃけ爆豪の戦いに文句を入れていた奴らの票なんて要らない」

 

「票貰えなかった人から袋叩きにされるよ?私もあまり票入っていなかったし」

 

「俺に慰めを期待したのが間違えだったな」

 

「いえ、ありがとうございます」

 

「まぁ、お前が委員長になって欲しいと思って票を入れたやつがいることを忘れるなよ?

 救助訓練の時に俺が作戦を立てるのをお前と緑谷に頼んだみたいに

 そういう事にお前が長けていると考えている奴は多いぞ?

 職場体験から帰ったらそいつらの意見を聞いてみたらどうだ?」

 

「確かに自分の評価と他人からの評価は違う事は多いからね」

 

「………わかりました」

 

 俺に出来る限りのことをやってみたが、こんな感じでいいのだろうか?

 まだまだ悩んでいるようだけれど後は相澤先生がどうしよか考えいるだろう。

 臨海合宿前にある期末テストとかでな。

 一応、響香たちにも気にかけてもらうように言っておこうかな。

 このまま卑屈になって行くのを見過ごす事は出来ないし

 

「悠雷、そろそろ撮影があるから着替えるのだけれどどれかいいか選んで頂戴」

 

「え?俺が姉さんの着る服をですか?」

 

「そうよ。せっかく連れて来たのだから暇な時間をなるべく作りたくはないしね。

 それに最近はあまり一緒に買い物できてないでしょう?」

 

「わかりました。選択肢の服はどこにあるんですか?」

 

「こっちよ」

 

 姉さんについて行き控室へと向かう。

 そういえば二人の前で思いっきり姉さんと呼んだ気がしたけど気のせい?

 ヤオモモに聞かれたら素直に答えておこう。

 今まで言う事は無かったけれど隠していたわけでもなかったからね。

 控室に入るとそこには蒼を基調にした浴衣と赤を基調にした浴衣があった。

 こんなの俺に聞いたら答えは一つしかないだろ。

 

「蒼い浴衣で」

 

「相変わらずの即答ね」

 

「俺がこの二択ならどっちを選ぶかなんてわかりきっていたことでしょうに………」

 

「それでも悠雷に選んで貰いたかったのよ。

 それと悠雷が着る服がそこの机の上に置いてあるわよ」

 

「………燕尾服?」

 

 説明しよう!!燕尾服(えんびふく英: Tailcoat)とは、男性の夜間の礼服。

 裾が燕の尾のようなのでそう呼ばれる。

 燕尾服を中心に構成される服装は白い蝶ネクタイを用いることから、ホワイトタイと呼ばれる。

 現在では最上級の礼服とされている。

 なお、女性の礼服で燕尾服に対応するのはイブニングドレスである。

 宮中では朝見の儀などの昼間に行われる行事でも着用される。

 なんでこんなこと知っているかって?教えてもらったんだよ。

 

「今は真昼間ですし、朝見の儀などもやる予定ありませんよね?」

 

「ないけれど似合うと思ったから選んだわ。

 他には執事服とかスーツとかもあるけどそっちの方がいいかしら?」

 

「コスチュームという選択肢は?」

 

「残念ながらないわ。悠雷の写真をスタッフさんがコレで撮りたいって言ってたからお願いね。

 一応、私服で撮る写真も幾つかあるから諦めなさい」

 

「わかりました。姉さんが選んでくれた燕尾服を着ていきます」

 

「お願いね。私とねじれの分が撮り終わったら悠雷の番よ」

 

「ねじれちゃんは何処に?」

 

「もう撮って貰っていると思うわ。もう少し二人のところで話でもしてきたら?」

 

「そうします」

 

 姉さんに割り当てられた控室で燕尾服に着替える。

 着替え方は知識と共に公安の人に昔仕込まれた。

 絶対にいつか燕尾服やら執事服を着せるつもりだったでしょ………

 本当に公安にいる人は善人と悪人の差があり過ぎる。

 悪人って言ってもヴィランっていう訳ではなく賄賂受け取る政治家みたいな感じ。

 ヴィランと繋がっている人もいるかもしれないけど兄さんでも証拠が見つからない。

 そこら辺のチンピラみたいに簡単に証拠を残してくれればいいのに………

 元居た場所には同じく着替えを終えた拳藤がいた。

 ヤオモモはもう撮影を始めているのかね?

 

「燕尾服が似合っているじゃん」

 

「拳藤一人か?ヤオモモはどうしたんだ?」

 

「スタッフさんに連れられて服を選びに行ったよ。

 私はもう選んであったからここに残っているっていう訳。

 それにしてもなんで悠雷は燕尾服をなの?」

 

「スタッフさんから燕尾服か執事服かスーツのどれかから選んでって言われたからだよ。

 燕尾服での撮影が終わったあとに私服での撮影もあるとは言われたけど恥ずかしいはコレ」

 

「普通に似合っているからいいと思うけどね」

 

「拳藤もその服似合っているぞ」

 

「褒めてくれてありがとう。こういうロングスカートはよく履くけどさ。

 暗い色はあまり着ないから似合っているか不安だったんだ」

 

「確かに普段の拳藤が着ているイメージは無いに等しいが、これはこれで………」

 

「これはこれで………なに?」

 

「恥ずかしいから言いたく無い」

 

「ダーメ。気になって夜しか眠れなくなっちゃうでしょ」

 

「それは至って正常だろ………綺麗だと思っただけだ」

 

「声が小さくて聞こえないな~」

 

「………綺麗だ。良く似合ってる」

 

「あ、ありがとう」

 

 今の拳藤が着ているのは暗めの色で統一された服装だ。

 普段の拳藤が着ている明るい色とは正反対ではあるが、とても似合っている。

 家族に等しい姉さんの服を褒めたりするのとは違って滅茶苦茶恥ずかしい。

 異性に可愛いじゃなくて綺麗だって言ったのはなんだかんだ言って初めてじゃないか?

 勿論、姉さんは除いてね。

 そう考えると俺って色々な初めてを姉さんに………考えるのは辞めた。

 

「………顔を赤くするなら聞くなよ」

 

「いや、すごく恥じらいながら言うからさ………こっちまで恥ずかしくなっちゃったじゃん」

 

「この前の仕返しのつもりなんだろうが、それはまたの機会にしてくれないか?

 このままこの会話を続けると互いにダメージが多過ぎる」

 

「………そうだね。残念だけどこの話は辞めにしようか」

 

「残念がるなよ」

 

「悠雷って本心から人を褒める事ってあまりないでしょ?

 けっこう面倒臭がりだし、素直じゃないしさ」

 

「悪かったな」

 

「だからこの機会に色々と本音を聞いておこうかなって」

 

「………別に本心からそう思ったならしっかりと褒めるぞ」

 

「ならこの前の約束を果たしてもらうときにもちゃんと褒めてよ」

 

「わかった。職場体験が終わったあとに二人で遊びに行くってやつだろ?」

 

「そうそれ」

 

「確かに体育祭の後は職場体験だ~ってあまり時間が無かったからな。

 授業の内容もそれまでよりも一段と濃いものになってきたし」

 

「こっちとしては授業だとA組との差を埋めることが難しいから焦ってるんだけどね」

 

「接敵したこと自体は羨ましがられることなんだろうが、それはそれで授業が遅れるぞ?

 一概にはどっちがいいかなんて決めれないだろ」

 

「確かにそうなんだけどね………それでもさ、羨ましいよ」

 

「なら………インターンに期待だな」

 

「インターン?」

 

「ああ。簡単に言えば職場体験の発展形だ。

 二年になって仮免を取得すれば行くことが出来るようになるはずだ。

 二年まで待つ必要があったりするかもしれないが、確実に経験を積めるはずだ」

 

「そっか………ありがとう」

 

「どうしたしまして」

 

「でも悠雷って慰めるのが苦手だよね」

 

「そこは言うな。俺も思ってる」

 

 俺が言ったインターンを待つという事はヴィランとの戦闘を経験するのを

 正規で体験できる二年生まで待てって言っているのと同じだからな。

 他に何かしら言えればいいんだけど、公安の人に頼んでみるか?

 早めに仮免の試験を受けさせることは出来ないのかってさ。

 

「まあ、職場体験が終わったらまた一緒に特訓しようぜ」

 

「いいね、それ。他の人達も連れて行っていい?」

 

「いいぞ」

 

 そういえば、姉さんと兄さん分という事でチケットは3枚あった筈だ。

 二人に許可を貰わないと誘う事なんて出来ないだろうが考えておこう。

 3枚あれば2枚くらいは使わしてくれる筈だ。

 まだ期間はあるし、だれを誘うのかは全く決めていないが候補に入れておこう。

 

「お二人さん、そろそろ撮影の時間だよ」

 

「姉さん!?いつからそこに!?」

 

「リューキュウ!?」

 

「綺麗だよって言ったところからかな。

 いつ気が付くかと思ってみてたけど二人ってこんなに仲が良かったんだね」

 

 綺麗だよって言うところからってあそこを聞かれていたのか………

 もういっそのこと誰か俺の事を殺してくれないかな?

 何故に姉さんに聞かれてしまったんだよ………まだ、ヤオモモとかの方がよかった。

 最悪の場合、クラスに広まってしまうがその方がまだマシだ。

 

「いや、別に仲が良いわけじゃ………」

 

「あくまでも友達です」

 

「そっか。ホークスから拳藤ちゃんについて聞いた時はどんな子かと思っていたけどいい子だね

 

「兄さんには絶対に言わないでくださいよ?」

 

 拳藤がなんでこんなことにっていう感じな顔をしているが俺が聞きたい。

 もしもこのことが兄さんに伝わってしまったら顔合わせが黒歴史ノートに刻まれてしまう。

 それだけは何としてでも阻止しないと………

 

「このネタはしばらくの間、私が独占さしてもらうよ。

 もうクリエイティは撮影を始めているから二人とも行くよ」

 

「「はい」」

 

 姉さんに心の底からの願いが通じたのか知らないが、兄さんに伝わることはなさそうだ。

 しばらくの間、お茶の間での会話にこのネタが使われることはあるだろう。

 だが、姉さんは兄さんほど揶揄う事はしないのでそれなりで済むはずだ。

 その後は滅茶苦茶写真を撮って貰った。

 

 拳藤とヤオモモが何故か水着の写真を撮られていたのでスタッフさんに交渉したら

 拳藤の水着姿の写真を手に入れることが出来た。

 その代償としてスタッフさんたちに様々なプレイを強いられたが、安いものだ。

 拳藤には今度出かけるときにリードしてくれって言われたけど結果オーライだ。

 ヤオモモの写真は本人からの許可が得られなかったので諦めた。

 その後は食材の買い出しと掃除用具の補充を行った。

 明日の掃除はなかなかに骨が折れそうだ。




次の日の掃除が終わったら本当にネタがないです。

私の寂しいネタ帳を助けてください。
感想と評価をよろしくお願いいたします。


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第19話 職場体験・その肆

5日目です。


 俺たちは写真撮影を終えて事務所に戻ってきた。

 そんな俺たちを待ち構えていたのは再び崩壊した書類の山…………

 その悲惨な光景を見て俺たちはドン引きしていた。

 サイドキックのお二人は力尽きて倒れていたよ…………

 ちらほらと奮闘の痕跡が見えたから長く苦しい戦いを強いられたんだなって

 

「まさかもう倒れているなんて…………」

 

「…………不思議だね」

 

「…………取り敢えず、始めましょうか」

 

「わかりました」

 

「スモーキーとベルベットは休憩室に運んでおきましょう」

 

 現在時刻は午後8頃…………一応、夜は食べてきたが朝までかかりそう。

 なんでこんなになるまで放って置いたのだろうか?

 職場体験5日目は書類整備で潰れることが確定しました。

 まぁ、色々とあって疲労も溜まっていたからちょうどいいのかな?

 出来ればヴィランとの戦闘を行いたいが贅沢ばかりは言っていられない。

 これから頑張れば朝までには終わるんじゃないかな?

 そうすればワンチャンスあるのではないでしょうか?多分、きっと。

 

「ここもだいぶ片付いてきたわね」

 

「ですね。そろそろ休憩しません?」

 

「そうしましょう」

 

 サイドキックの二人とねじれちゃん。

 俺と姉さんで分かれて作業し始めて約3時間が経過した頃のこと

 ようやく机に積み上げられた書類が片付いてきた。

 スモーキーさんとベルベットさんは一時間前ほどに復帰していた…………社畜って凄いな。

 これならば12時には眠ることが出来そうだな。

 にしても今頃皆は何しているんだろうか?

 拳藤とヤオモモには今日会ったが他の人については何も聞いていない。

 クラスメイト達とは終わったら話すとは言っているが何しているか気になって仕方ない。

 特にヒーロー殺しを追っているであろう飯田、それと緑谷だな。

 飯田はヒーロー候補生としての自分を見失うことが無いかどうか。

 緑谷はまた怪我を負ってしまうことが無いかだな。

 あそこまでのペースで怪我を負っていたらその内に取り返しのつかない事に成りそうだ。

 噂をすれば緑谷からクラス全体への位置情報だと?

 

「これは保須か?しかも路地裏だと?まさかヒーロー殺しを追って?」

 

「悠雷、どうかしたの?」

 

「姉さんこの路地裏にヒーロー殺しがいる可能性が高い。

 保須のヒーローに増援要請を送ってくれ、緑谷たちが危ない」

 

「見せて、保須にはエンデヴァーさんが居るはずよ。彼に要請を送っておきます」

 

 姉さんにスマホを渡した後、事務所のテレビでニュースを探す。

 保須でヴィラン災害が起こっているとニュースに上がっていた。

 中継は上空からヘリで撮られているために地上の詳しい様子を見ることが出来ない。

 しかし、屋上に見たことがある顔を見つけた。アレは確か…………

 

「…………死柄木弔?」

 

「死柄木弔?それってヴィラン連合のリーダーだったわよね?」

 

「ええ。ヴィラン連合とヒーロー殺しはグルだったのか?」

 

 ヴィラン連合の詳しい目的などは一切分かっていないが今の社会を壊したい。

 ヒーロー殺しの目的は“真のヒーロー”を復活させたいという感じかな?

 個人の信念はよくわからないが、だいたいそんな認識でいいだろう。

 ヴィラン連合との繋がりがあるのかは確かではないが、ニュースではそういう風になるはずだ。

 そうなるとヒーロー殺しの信念に賛同したものがヴィラン連合に集まる?

 考えたくはないが、常に最悪の事態を想定して動くべきだ。

 

「悠雷。そこは貴方が心配することじゃないわ。それらはホークスの仕事だもの。

 ホークスの事だものきっと悠雷にカッコつけるためにもう動いているはずよ」

 

「…………そうですね」

 

 俺が考えれることを兄さんたちが考えれない筈が無い。

 もう既に新たなヒーロー殺しが生まれない様に根回しをしていることだろう。

 俺がすべきことは休んで備えることだ…………書類整備のために。

 なんだろうか…………休みたくなくなってきた。

 それからしばらく頑張って日付が変わり夜も明けてきた頃にようやく終わった。

 そして、ベットに入って2時間もしないうちに朝になってしまったぜ。

 公安の人に参加させられたブートキャンプはこれ以上に辛かったからこれくらいなら問題ない。

 睡眠をとることが出来ているだけマシだと思うんだよね。

 

 

 職場体験5日目は残念なことに凄まじい眠気と戦いながら迎えることになりました。

 朝ごはんを作る必要があったのを忘れてた。

 睡眠ってやっぱり大切なんだなァと感じました。

 猫飯で睡眠耐性とかないかな?猫はご飯作れないだって?

 そんな訳ないじゃないですか~グルにゃんハンターが作ってくれますよ。

 

「そういえば今日って何するんですか?」

 

「今日はいつも通りにパトロールからやっていくわ。

 どうやら先日のヴィラン組織の壊滅によってヒーローたちの気が緩んでしまっているの。

 そのヒーローたちの隙を狙っている輩がいるみたい。

 だから今日はそいつらの痕跡を徹底的に洗っていくわ」

 

「わかりました」

 

 ホットサンドを食べながら今日の予定を聞くが、やはり忙しい。

 書類整備があってもなくてもヒーローの忙しさには大して差が無いようだ。

 最も精神的疲労には尋常じゃないほどの差が生まれてしまっているけどな。

 ちなみにねじれちゃんはホットサンドを頬張っている。

 なんというか…………ハムスターとかの小動物みたいで可愛い。

 恥ずかしいから口に出しては褒めたりしないけどね。

 本当になんで拳藤のことを綺麗だって褒めたりしたのだろうか?解らん。

 

「それと本当に言いづらいのだけれども倉庫の書類整備もやっておきたいわ」

 

「…………倉庫?」

 

「ええ。過去のデータなどを保管している場所よ。

 昨日整理したものを入れるついでにそこもやっておきたいの」

 

「…………昨日よりもヤバいですか?」

 

「昨日よりも楽よ。粗方終わっているから」

 

「よかった…………」

 

「流石に昨日よりも酷かったら悠雷にやらせはしないわよ。

 せっかくの職場体験なのだもの」

 

「もう十分すぎるほどの経験を積ませて頂いていますけどね」

 

「あら?じゃあチームアップ要請の際はお留守番でもしてる?」

 

「是非参加させて下さい」

 

「冗談よ。明日はホークスの事務所に行くわよ。

 チームアップ要請で薬品物を密輸している輩をしとめるそうだから」

 

「兄さんの事務所ですか…………遠くないですかね?」

 

「多少の無理は承知の上で頼んできたわ。

 こちらとしても他の街での経験を積ませてあげれるから断る理由もないしね」

 

「何時頃出発ですか?」

 

「10時頃に出るから睡眠はしっかりととれるわ」

 

「移動は新幹線ですか?」

 

「そうよ。翌日はそのまま九州で活動する事になると思うわ」

 

「わかりました」

 

 兄さんと一緒にヒーロー活動か…………めっちゃ楽しみだな。

 その上、幸いなことに連続で睡眠不足にはならないで済みそうだ。

 体調の管理が出来ていないなんてミスを起こす要因でしかないからね。

 兄さんの事務所に行くわけだからみっともないところは見せたくないし。

 常闇がどうなっているのかも知りたかったしちょうどいいや。

 

 そして、パトロールを始めた。

 今日は5日目ということもあって一人でのパトロールだ。

 怪しげな場所はスモーキーさんとベルベットさんがリストアップしていたので回るだけだ。

 書類整理が出来ない以外は本当に実力のある事務所なんだよね。

 これは兄さんや公安の人も言っていた。

 他所にも認識されている欠点ってどうなんだろうか?

 この前のヴィラン組織ほどの規模は無くて精々がチンピラらしい。

 また潜入とかあるのかと思っていたから少し残念だ。

 犯罪を阻止できるから喜ばしいところなんだけれどもこればかりは性というものだからさ。

 怪しいところの鉄板と言えば廃倉庫などが挙げられるがこの街には数が少ない。

 その上にどれも小さい建物であるために地下でも潜っていないと基地は作ることが難しい。

 あるかもしれないところを回ってはいるがこっちには無さそう。

 

「おいてめえ!!なぁにシカトしてんじゃこら!!」

 

「シカトしてねえからな!!」「いいや、したね!!」

 

 これはこれは…………チンピラさんじゃないですか(暗黒微笑)

 これで他の候補地を回るの面倒臭…………探す手間が省けたぜ。

 絡まれている人をササっと助けてお縄についてもらうとしよう。

 

「という事で大人しくお縄についてくれないかな?」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

 チンピラは7人。

 個性は目視してわかる異形系が3人を占めている。

 ライオンっぽい鬣持ちが一人に角生えたやつが一人。

 そして、まるでスポンジのようなポンデリングを首に付けている輩が一人だ。

 他の4人の個性は目視で把握出来なかったから多分発動系だ。

 2人がナイフを持って人を脅している。

 

「何言ってんだこいつみたいな目で見られると傷つくんだけど」

 

「チッ!!ヒーローか!!この前は兄貴たちをよくもやってくれたなァ!!

 辺りで騒ぎを起こそうかと考えたが、取り敢えずお前は死ね!!」

 

「おら、野郎ども!!行くぞ!!」

 

 その言葉と共に奴らは襲い掛かってくる。

 ライオン?の個性持ちは壁を走って、角が生えた奴は突進。

 ポンデリングは水を吐き出してきたが…………他の奴らは逃走しやがった。

 いや、そこで逃げるの?君たち兄貴の敵討ちはどうなったんだよ…………

 後ろには一般人がいるから躱せないから無力化してから追う事にしよう。

 

「それじゃあ、手っ取り早く終わらせましょうか」

 

 前方に威力は控えめで怯ませることを目的とした雷撃を放つ。

 ライオンは壁から落ちて、ポンデリングは痺れている。

 角持ちはそのまま突進してきたので角を掴んで壁に投げつける。

 立ち上がったライオンの顔面に拳を打ち込んで逃げた奴らを追う。

 

 ──が、残念なことにもう姿は見えなかった。

 

 これは面倒臭いことになったな…………

 一応、顔は覚えたから街をパトロールしていれば見つかるだろうが効率が悪いな。

 ひとまず安心なので一般人が大丈夫かの確認をしておこう。

 

「大丈夫だったか?」

 

「ああ!!大丈夫だ!!」「大丈夫じゃねえよ!!」

 

「ん?」

 

「だから大丈夫だって!!」「大丈夫じゃねえよ!!」

 

「怪我はあるか?」

 

「ないぞ」「あるよ」

 

「いい耳鼻科を紹介しようか?」

 

「いや、精神科病院じゃねえのかよ」

 

「普通に喋れるんだな」

 

「当り前よ」「なわけねーだろ!!」

 

「???」

 

「一先ず助かった!!ありがとうな!!」「また会おうぜ!!」

 

 頭に紙袋を被っていた不思議な男?はそのまま去っていった。

 あの言動からして心に何かしらの病を患わっている可能性があるのかな?

 また会うことがあったらもっと話したいな。

 さて、連中を探しに行くとしますか…………あれ?どこ行った?

 

 

 俺が奴らの居場所に辿り着いた時にはもう既に姉さんが制圧していました。

 リストアップされていた個所を探っていたら明らかに怪しい4人組を見つけたので

 警察の方々と協力してその場を制圧したらしい。

 

「悠雷、そんなに落ち込まなくても…………」

 

「余裕こいて逃げられた上にその後の挽回も出来ないとは…………

 相澤先生に油断するなよと釘を刺されていたのに…………」

 

「ドンマイ。次に気を付けましょう。

 悠雷はヒーロー候補生。まだまだこれからなんだからね?」

 

「…………はい」

 

 慰められたのがツラいぜ。

 チンピラ程度と有無惚れていたからこんなことになってしまったんだよな…………

 あの程度の輩だったからまだ良かったけれども脳無みたいな奴だったら…………考えたくない。

 油断してしまうのは俺の悪い癖だ…………早く直さないといけないな。

 

「さて、パトロールも終わったことだし倉庫の整備でもしましょうか」

 

「はい」

 

 倉庫ってアレだろ?事務所で一番デカい部屋のことだろ?

 粗方整備されているとはいえかなりの労力が必要そう…………と、思ってたんだがなァ。

 

「整備終わってないですか?こんなキレイにファイリングされてますし」

 

「さっき片付けた書類を入れて、並び替えをするのと幾つか処分したいのよ」

 

「どれくらい処分するんです?結構な量ありますけど」

 

「独立前の小さな事件のものかな。

 独立してから結構な回数の事件をこなしてきたから断捨離しないとね。

 悠雷が事務所持ったらこんなことすることがあると思うしね。

 経験を積んでもらう意味ではいい機会なんじゃないかしら?」

 

「貴重な経験なので文句は言いませんよ。

 俺が経験したことは他の人に比べると歴然とした差が存在してますもん」

 

 公安の人に聞いた話だと職場体験はあくまでも体験なんだそう。

 俺がやらせてもらったみたいにヴィランとの本格的な戦闘を積むことはないようだ。

 エンデヴァーの事務所にいった轟は別なんだろうがな。

 ナンバーツーの事務所だもの体験だけとはいえ、実りのある経験に違いない。

 

「そう言ってくれて嬉しいわ」

 

「他の人が見たら何職場体験に来た学生にやらせてんだよってなると思いますけどね」

 

「身内だからどうしても甘くなってしまうし、信頼しているから頼ってしまうの」

 

「ありがとうございます。独立前のファイルはこの辺りですか?」

 

「そうね」

 

 倉庫には馬鹿みたいに大量の書類が存在していた。

 これを一週間で読み切れる人なんて特化した個性持ちでも居なそうだな。

 俺だったら最低でも二週間前後はかかりそうだな。

 

「にしても凄い量の記録ですね。流石ランキング上位。

 これも独立前の事件の記録ですか?かなり大規模なものですが」

 

「そうねこれは…………8年前の書類ね」

 

「大規模なヴィラン討滅作戦と…………エンデヴァーやベストジーニストとの共同戦線ですか」

 

「当時の私は事務所に所属していたサイドキックの一人に過ぎなかったけれど

 個性の有力性を見込まれて声が掛かったの」

 

「姉さんの個性はとても強力なものですからね」

 

「この事件での活躍を踏まえた上で、独立の話が出てきたのよ。

 憧れだったから自分の事務所を持つことが出来るというのはとても嬉しかったわ」

 

「にしてもよくこんな詳しく纏めてますね。

 反省から改善点まで恐ろしいほどに詳しく」

 

「苦手なだけで出来ない訳ではないし、こうやって纏めておけば後で観返せるでしょ?

 悠雷にもやるように言ってあるけどちゃんとやってる?」

 

「一応はやってますよ。こんな詳しく書いてませんけど」

 

「私が詳しく書くのは大きな事件の時だけだから大丈夫よ。

 悠雷がどんなことを書いてあるか興味があるから今度読ませてもらおうかしら」

 

「夏休み中に見せましょうか?」

 

「ええ。お願いするわ」

 

 それから黙々と作業を進めた。

 姉さんの解決した事件は多岐に亘っており、とても為になる。

 個性の都合上、街中で容易に使用することが出来ないため姉さんの反省はとても役に立つ。

 うっかりミスでビルを半壊させましたとかシャレにならないからね…………金銭的に。

 

「今何か失礼なことを考えなかったかしら?」

 

「いえ、なにも」

 

「うっかりでビルなんて壊してしまったら賠償が必要な場合もあるから気をつけてね?」

 

「…………はい」

 

 なんで俺の周りの人は俺の心を読めるんだろうか?

 毎回口に出してしまっているとかなのか?そういう個性の奴いそうだな。

 

「そうね。私は心を読めないわよ?ただ、悠雷の事をよく分かっているだけよ」

 

「もう読んでいるのと同じようなものですよ。その精度だと」

 

「あら、ありがとう。誉め言葉として受け取っておくわ」

 

「独立前のものはここら辺ですか?」

 

「そうね。ここだわ」

 

「今は引退してしまったヒーローとのチームアップもありますね」

 

 今はもう引退してしまったヒーローたちは今何しているのだろうか?

 彼らはもうヒーローとしての姿を見せる事は無いだろう…………

 オールマイトも彼らみたいに引退してしまう時が来るんだろうな…………

 贅沢を言わせてもらえるのならば、一緒にヒーロー活動をしてみたいものだ。

 

「あら?これは…………悠雷と出会って少しした時の事件の書類ね。

 覚えているかしら?初めて悠雷が私のヒーローとしての姿を見たときのことね」

 

 俺が公安の人に保護されてから間もないころの事件だな。

 母さんの遺言と自分の意志でヒーローになることを決意した時期だったが

 精神的なショックが大きかったせいで当時を思い返してみても

 感情表現が恐ろしいほどに無かったという事をよく覚えている。

 

「とても懐かしいですね。当時はヒーローの活動を観たことが無かったので

 より近くで観ようとして戦いに巻き込まれてしまって怒られた記憶があります」

 

 そんな中でも姉さんたちヒーローの姿はとても色鮮やかに見えたんだよな。

 つい興奮してしまってより近くで観ようとしてしまったなんてこともあったがな。

 あの時は見ることに夢中になっていたから危険だなんて考えてもいなかった。

 

「本当にその時は焦ったわよ…………

 10歳にも満たない子がヴィランとの戦闘に巻き込まれてしまったのだから」

 

「その節は大変申し訳ございませんでした」

 

「その時は少し嬉しくもあったのだけれどね。この子にも感情があるんだってわかって」

 

「そうなんですか?」

 

 感情表現が恐ろしいほどに無かったとはいえ、

 俺は機械のような子供では無かったと思うのだがそこのところどうなのだろう?

 いや、それだと第三者から見たらそう見えるのか…………

 

「悠雷が初めて私と会った時に私がどう思ったのかわかる?」

 

「俺に聞かないでくださいよ…………」

 

「悲しそうな瞳をした子だなって思ったの。

 初めて会った時の悠雷の瞳には光が燈って無かった…………絶望した瞳をしていたわ」

 

「そうなんですか…………まぁ、容易に想像できますね」

 

 家族を失うという事は如何に年を取っていようが重く圧し掛かることだからな…………

 ヒーローという存在が居なかったら自殺などの行動をとっていたとしても可笑しくはない。

 最悪の場合…………ヴィランになっていたという事も考えられるな。

 

「だからこそ今の悠雷の瞳には光が燈ってくれて嬉しいのよ」

 

「…………姉さん」

 

「さあ、片付けてしまいましょう。早く明日に備えるという意味でもね」

 

「はい!!」

 

 明日は九州に行って兄さんの事務所とチームアップだ。

 兄さんと一緒にヒーロー活動が出来るというだけではなく、常闇にも会える。

 兄さんの事務所がある街は活気があるために犯罪も多い。

 とても貴重な経験を積むことが出来るだろう。

 今からとっても楽しみだな…………夜眠ることが出来るのかな?




期末テストがあるので来週はお休みとなります。

感想と評価をよろしくお願いいたします!!


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第19話 職場体験・その伍

お待たせしました………駄文注意


 新しく朝が来た!!遂に職場体験は6日目を迎えた。

 今日は兄さんの事務所がある九州に行ってチームアップだ。

 そのため新幹線に乗っての移動中となっている。

 

「ねえねえ知ってる?中国地方は柑橘類系が特産物で多いんだって!!」

 

「そうなんですか?」

 

「うん!!日本なしやもも、ぶどうにレモン!美味しい物がたくさんあるよ!!」

 

「帰りに幾つか買って帰りましょうか。

 ねじれと悠雷もクラスの人に何か買っていったらどうかしら?」

 

「それじゃあ、レモンでも買って帰ろうっと!!」

 

「果物は嵩張るからお菓子でも買う事にします」

 

「お金は私が払うから気にしないでいいわ」

 

「「はーい!!」」

 

 そんな会話を楽しんでいるといつの間にか九州に着いていた。

 ねじれちゃんはレモンを買うことに決めたそうだが、なぜにレモン?

 わかんねえだろ?おれもわかんねえ。

 何故か酸っぱいものを口にして落ち込む天喰先輩の姿が脳裏に浮かんだぜ。

 

 ここまでは新幹線での移動となっていたが、目的の駅に着いたので

 ここからは車で行くことになっていて兄さんのサイドキックが車を手配しているらしい。

 待ち合わせの時間よりも少し早めの時間に着いたのでまだ来ていないようだ。

 

「まだ時間に余裕もあるからそこの売店でなにか買いましょう。

 朝食べてから少し時間も経ったし、軽い物なら食べれるかしら?」

 

「ねえねえリューキュウ!!特大ジャンボパフェだって!!

 あの大きさなのに崩れていないなんて不思議だね!!」

 

「確かにそうね。どうやってバランスを取っているのかしら?」

 

「これが匠の技ってやつか…………食べきれるかな?」

 

「食べるならこれにしようよ!!」

 

「まぁ、記念にという点ならいいのかも知れないのだけれど食べきれるかしら?」

 

「どうでしょうか?三人でもこの量は流石に厳しいんじゃないでしょうか」

 

「ねえねえ知ってる?甘いものは別腹なんだよ?」

 

「なにそれ女の子って不思議」

 

「三人でならいけるかもしれないから物は試しで食べてみましょうか」

 

「わかりました」

 

「私買ってくるねぇ!!」

 

「早ッ!!」

 

 という感じの会話があったあと、俺たち三人は席に座ってパフェを待っている。

 軽食に何かしらを買うという話だったはずなんだけれどなんで甘未を食べようとしているのか?

 美味しそうだから何も問題ないけど、不思議だね。

 

「見た目に反して甘さは控えめになってますね」

 

「流石にこの量の甘ったるいものを食べれる人は少ないからじゃないかしら?」

 

「うちのクラスに一人いけそうな奴がいますけどね」

 

「その人の胃袋ってどうなっているんだろうね?不思議だね!」

 

「ねじれちゃんの胃袋も大概です」

 

「女の子にそんな事言わないの悠雷」

 

「すいません」

 

「もう私怒ったんだからね?」

 

「ねじれ、頬に生クリームが付いてるわよ」

 

 そういった姉さんが頬についていた生クリームを人差し指で掬って食べる。

 姉さんの女性人気が高いのもこういった仕草によるものだったりする。

 しっかりと録画できたのであとでTwitterに挙げておこう。

 

「それにしても多いですねコレ」

 

「三人じゃ少し厳しいわ。迎えに来たサイドキックに頼めないかしら?」

 

「流石にダメでしょう。お金を払ったんだから責任もって食べないと」

 

「それに来るのはサイドキックじゃなくてホークス本人だろうしね」

 

「ですね。兄さんがこの機会を逃すわけありません。

 という訳で兄さん…………コレを食べるの手伝ってくれませんか?」

 

「さっきと言っていることが矛盾しているよ?食べるのは全然いいけど。

 それとよく気が付いたね。気配を完全に絶っていたんだけど…………」

 

「姉さんの瞳に兄さんが写っていたので気が付けました」

 

「あちゃ~ミスったな」

 

「ホークスが来たことだし、さっさと食べてしまいましょう。

 やるべき事はまだまだ沢山あるのだからね」

 

「「「はーい!!」」」

 

 その後、四人で頑張って食べた。

 店に来ていた人たちにホークスがいると騒がれて、リューキュウもいるとなったのは別の話。

 ファンの人に揉みくちゃにされたとだけ言っておこう。

 そして遂にやって来ました!!ナンバー3ホークスの事務所に!!

 

「ようこそお三方!!それじゃあ早速着替えてパトロールと行きましょうか!!」

 

「「おー!!」」

 

「事前の電話で決めた通りでいいのよね?」

 

「勿論!!常闇くんのこと暫く任せましたよ」

 

「任されました」

 

「ねじれちゃんはうちのサイドキックとお願いね」

 

「は~い!!」

 

「悠雷は勿論、俺と一緒に行くからほら急いで!!時間は有限、リトライは無限!!」

 

「時間あってのリトライでしょう。それじゃあ着替えてきます」

 

 サイドキックの人に連れられてロッカールームに向かう。

 以前来た時よりもサイドキックの人数が増えている。流石、ナンバー3の事務所だ。

 ロッカールームの中にはちょうど常闇が居た。

 久しぶりに話してみたいと思っていたからちょうどいいな。

 

「常闇、久しぶり!!」

 

「む?悠雷か。久しいな」

 

「これまでの職場体験どんな感じだった?楽しかったか?」

 

「今日は普段よりもえらくハイテンションだな…………

 俺はホークスに指名されたが彼に全くと言っていいほどついて行く事が出来なかった。

 自分の無力さを感じると同時に他の皆…………

 特にヒーロー殺しと対面した緑谷や轟、飯田…………

 彼らに置いて行かれてしまったのではないかという焦りも感じている」

 

「やっぱりそうだよな。あの三人が得た経験値は他と比べても別格だと思う。

 移動速度という点で考えるなら姉さ…………リューキュウに相談してみたらどうだ?」

 

「リューキュウにか?」

 

「ああ。リューキュウは個性発同時にどのように動けばいいのかと昔考えていたらしくてな。

 その結果として動きをできるだけ最小限に抑えて無駄をなくすという点を鍛えたそうだ。

 無駄なロスが無くなれば結果として動きも早くなるからな」

 

「なるほどな。無駄を省く…………立ち回りの最適化か」

 

「後は…………そうだな。ダークシャドウに投げてもらうとかはどうだ?

 ダークシャドウのパワーとスピードなら抱えて貰っているだけでかなりの速度になるだろう?」

 

「ダークシャドウに抱えてもらうか…………その発想はなかった。

 悠雷に言われた点を踏まえて今回のパトロールに臨ましてもらおう」

 

「それじゃあ、そろそろ行こうか」

 

「ああ」

 

 コスチュームを纏った常闇と共にロッカールームを出る。

 ヤオモモ然り、常闇も各々の悩みを持ってそれと戦っている。

 今の俺に出来る事は個性を伸ばし、体術を学んで選択肢を増やす事だ。

 これが出来ないという欠点が見つかるまではそれらに尽力しよう。

 

「お待たせしました」

 

「それじゃあ、悠雷…………いいや、ラギアクルス」

 

「はい」

 

「パトロールに出発だ!!悠雷には俺よりも早くヴィランを捕まえてもらいます」

 

「マジですか」

 

「マジです。この辺りは犯罪発生率がわりと高めだからね、頑張って!!」

 

「頑張ります」

 

 空を飛んでいく兄さんを追う形で建物の上を跳んでいく。

 以前から判り切っていたことだが、移動速度が違い過ぎる。

 本当に『速すぎる男』という異名は伊達じゃない。

 少しでも目を離したらその瞬間には遥か先に移動している。

 俺が兄さんより早くヴィランを捕まえるには起こることを予測していかないと間に合わない。

 常に周囲にアンテナを張って異変が起きたらすぐに動く!!

 そうでもしないと兄さんの移動に追いつくことすらできない。

 

「強盗だぁ──!!」「怪我人もいるぞ!!」「誰かヒーローを呼んできてくれ!!」

 

「ヴィランか!!」

 

 最初にやるべきは状況の把握!!建物から飛び降りながら周囲の状況を把握しろ!!

 店の中には何人かの人が蹲って倒れている…………出血者が5名。

 強盗を働いたヴィランは実行犯が二人と逃走経路用のトラックに一人いる。

 先に逃走経路を遮断して逃げ場を無くす!!

 

「おい、てめーら早くしろ!!ヒーローが来ちまうだろ!!」

 

「悪いが、もう来てる。少し眠ってろ」

 

 首に手刀を入れて気絶させる。これで逃走経路は遮断完了。

 残すは実行犯なんだけど…………もう既に兄さんが縛り上げていた。

 怪我人がいるから救急車を呼んでおくことにしよう。

 

「惜しいねラギアクルス。この前よりも判断力が向上してるけど俺の方が一手早かった」

 

「俺が遅れたのは一手どころじゃないでしょう。

『剛翼』をこっちに飛ばしていればこいつも兄さんが倒してました」

 

「そこまで解っているならいるなら反省会はいらなそうだね」

 

「まだ反省があった方がいいですよ。

 出来ていたのに追い付けなかったのは精神的に辛いです」

 

「そんな事ないよ。今後は個性伸ばしを重点的に行おうか」

 

「個性伸ばし?」

 

「個性は筋繊維と同じで鍛えれば伸びるし、鍛えなければ衰えていく。

 ヒーローの個性が一般の人よりも優れているのはそういった理由があるのさ」

 

「そうだったんですか?」

 

「そうなんだよね。だから鍛えていけば………」

 

「個性は強くなるから兄さんに追いつけると?」

 

「そういう事さ。明日は個性伸ばしを行おっかな。

 さて、ヴィランを縛り終わったからサイドキックが来るまで怪我人の応急処置しよっか」

 

「はい」

 

 個性伸ばしか………いままで聞いたこともなかったな。

 公安の人がヴィランが強くなるのを危惧して情報規制をしたのかな?

 まぁ、そこのところは一学生が考える事ではないからどうでも良いかな。

 

 強盗が入った店の店内で血を流して蹲った怪我人たちの応急処置を始める。

 怪我の要因はヴィランが放った個性と思われる棘と割れたガラスによるものだ。

 刺さったところから紫色の痣と思わしきものが広がっている。

 これは…………毒だろうか?何の毒なのか分からない以上手を出すのは危険だ。

 毒を喰らった人の処置は兄さんに指示を仰ぐか救急車の到着を待つとしよう。

 先にガラスの破片で怪我をした人の処置をやってしまおう。

 

「ヒーローさんやわしらは大丈夫なんじゃろうか?」

 

「大丈夫ですよ。個性による一時的なもので病院で治療を受ければ治癒します。

 救急車を既に呼んでいますので必ず助かりますよ」

 

「そうなのか…………若いのにしっかりとしたヒーローじゃのう」

 

「ありがとうございます」

 

「ラギアクルス、サイドキックが到着したからパトロールの続きに向かうよ」

 

「はい」

 

 解っていたことだが、ああいった毒などに対して俺は何もする事が出来ない。

 熱することや冷やすことで症状を抑えることのできる毒も存在する。

 しかし、専門的な知識を持ってないため誤った治療を施して悪化させてしまうかもしれない。

 ここも今後の課題だな…………ヤオモモの自信を取り戻すのにも使えるかもだし。

 さっき言っていた欠点の話は個性関係だからね?

 そこは個性伸ばしで改善できればいいんだけどね。

 

「ラギアクルス、この先にある交差点で事故があっと通報があった。

 サイドキックたちから逃げようとしたヴィランが引き起こしたそうだ。

 ヴィランは一般人を人質に取っている、二人のうちの片方の制圧を任せたい」

 

「了解しました」

 

「俺がトラックの方をしとめる。道路に立って居る方を任せたよ」

 

「はい!」

 

 道路に立って居るヴィランは人質にナイフを突きつけている。

 人質の救出がこの場合の最善手となるため電撃は使うことが出来ない。

 先にナイフを回収して人質を解放することにしよう。

 

「おいお前ら!!こいつの命が惜しければ大人しくしてろ!!」

「くっ!!ホークスさんはまだか!?」「救援を呼んだ!!観念しろ!!」

 

 見た感じ応援を呼んだのはあの人たちなのかな?

 まぁ、今はそんなことどうでも良いかな…………この位置からなら届くな。

 電柱からヴィランの元へ死角を弧を描くように跳ぶ。

 死角からナイフを持っている手を掴んでナイフを取り上げる。

 それを見て後退ったヴィランに尻尾を巻き付けることで動きを封じる。

 その後に電気を流して気絶させる。

 

「こんな感じでいいですか?」

 

「それで大丈夫だよ。君たちこいつらを縛っておいてくれるかな?」

 

「「「はい!!」」」

 

「ラギアクルスそろそろ事務所に戻ろうか」

 

「わかりました」

 

 兄さんと一緒に事務所に戻るとダークシャドウに抱えられながら移動している常闇を見つけた。

 姉さんやサイドキックの皆さんはニコニコしながら見ているが、かなりカオスだ。

 多分だけれど、自分の個性をどうやって活用するか悩んでいる常闇の事を

 弟なり息子みたいだと思っているんじゃないかな?

 だとしてもダークシャドウに袋のような感じで持ち上げられている姿は見たくない。

 

「…………常闇パトロールどうだったんだ?まさかその姿でやったのか?」

 

「そうだ。悠雷のアドバイスを元にやってみた。

 見てくれはともかく、機動力は大幅に改善されたぞ」

 

「それが完成形なのか?」

 

「完成系という訳ではないが、物は試しという事でだな」

 

「ダークシャドウをその身に纏うという感じには出来ないのか?」

 

「…………纏うか。面白いな…………試してみることにしよう」

 

 姉さんたちはこのやり取りを面白そうに見ているが、絶対に改善点を指摘して無いだろ。

 戦闘に関して何の知識のない人間でも流石にわかる欠点だ。

 

「纏うという感じならダークシャドウの腕に身体を抱え込ませる形をとってもいいかもね」

 

「成程…………御助言感謝する」

 

「もっと早くアドバイスしてあげればよかったのに…………」

 

「教えてもらうだけじゃ本人の成長には繋がらないわ」

 

「くっ、確かに…………」

 

「常闇くんも教えて貰うだけじゃなく、うちの悠雷に改善点があったら厳しく言ってあげてね」

 

「心得ました」

 

「それじゃあ中に入って今後の動きについての確認だ」

 

「「はい!」」

 

 事務所の中にある会議室にて今後の動きを聴く。

 毎度疑問に思うのだが、こんなに大きい事務所である必要はあるのだろうか?

 事務所はそのヒーローの象徴となるから必要なのか…………ミルコやイレイザーヘッドは?

 星の数だけあるもんだからだれを参考にしていけばいいのかいまいちよく分からないや。

 これらはおいおい考えていくことにしよう。

 

「さて、それじゃあ会議を始めまーす」

 

「今回のチームアップ要請の目的は薬品物を密輸している組織の制圧だったわよね?」

 

「リューキュウ事務所への要請という事は海か空への逃走経路が想定できるということですか?」

 

「私達なら空や海から逃走経路の制圧が可能だからね!!」

 

「そういうこと」

 

「ヴィランの推定人数は約40人なのね…………かなりの規模になる。

 他の事務所へのチームアップ要請はしていないの?」

 

「警察からの依頼でね。なるべく市民への不安を与えずに解決して欲しいってさ」

 

「だからうちの事務所へのみの要請という事?」

 

「雄英生である俺と常闇がいれば違和感を無くせるということですか?」

 

「それに加えて、俺とリューキュウの間にあるこの前のゴシップを利用させてもらうのさ。

 あの記事が出てからあまり時間は経っていないからメディアは騒ぐだろうけど

 その分、警察からの依頼は達成しやすくなるという訳」

 

「基地の場所は?」

 

「割り出してあるよ」

 

「それじゃあさっさと終わらしてしまいましょう」

 

「チームアップミッション開始!!」

 

「何ですかソレ」

 

「やってみたかっただけだよ」

 

 サイドキックの方が用意してくれていた車に乗り込む。

 兄さんは警察の人と姉さんはねじれちゃんと乗っているため俺は常闇とだ。

 さっきからこちらをちらちらと見ているし、記事についての話だろうな。

 

「悠雷。少しいいか?」

 

「どうした?」

 

「さっき言っていたゴシップ記事の事なんだが…………」

 

「ゴシップがどうかしたのか?」

 

「あの記事を調べたのだが、あの隠し子という風に書かれていたのは悠雷なのか?」

 

「そうだよ。隠し子ではなく義理の兄弟だけどね」

 

「…………そうだったのか」

 

「言っておくが、積極的に言う訳でもないが隠していないから気に病まなくてもいいぞ」

 

「…………そうか」

 

 そのまま会話が終わり、無言で移動時間を過ごした。

 そして、ヴィランが潜んでいる基地へと到着した。

 基地の最上部にはヘリが止まっていて、海に面している部分には船が見える。

 船に何人かの見回りがいるところを見る限り、先手必勝で速攻で片を付けるべきだろう。

 多分だけど、俺の役割は船の制圧になりそうだな。

 

「それじゃあ常闇くんと俺で侵入。悠雷は船の制圧。

 リューキュウとねじれちゃんはそのサポートをお願いね」

 

「「「了解しました!!」」」

 

 兄さんと常闇が基地に侵入していったのを確認して、船に向かう。

 船の甲板に立って居るヴィランの背後をとって物音を立てないように注意して電気を流す。

 …………なんか…………その、やっていることが暗殺者みたいだな。

 気にしたら負けかな?己の任務を遂行するとしよう。

 船の内部に侵入して進むもヴィランたちは襲われるとは微塵も思っていないのか隙だらけだ。

 早めに制圧して基地から逃げてきた輩を拘束する準備でもしておこうかな。

 もっとも兄さんがそんなへまをするとは思えないんだけどね。

 

「と、これでラストかな?」

 

「ッ!!誰だ貴様は!!」

 

「ヒーローだよ」

 

「クソッ!!他の奴らは何をしている!!」

 

「みんな気絶しているさ…………お前もそうなるよ」

 

「なんだと?」

 

 道中で拾ったナイフを相手の視界に入るようにしながら接近する。

 相手の目の前でナイフを空中に放って相手の意識を逸らす。

 そして、その隙に背後から首に手刀を叩き込む。

 

「こいつで最後…………船はもう動かせはしないだろうし、あいつらを警察に引き渡そう」

 

「お、悠雷もちょうど終わったんだね」

 

「中の制圧がもう終わっていたんですね」

 

「中に入ってすぐに奴らはヘリで逃げ出そうとしたからね。

 ヴィラン共に話を聞いたところによると仲介業者の情報も手に入ったから他も捕らえれそう」

 

「そうですか…………良かったです」

 

「常闇君も向こうにいるからそっちに向かおうか」

 

「はい!」

 

 その後は警察にヴィランを引き渡した。

 俺は何度も見たことはあったが常闇は初めてだったようで珍しそうに見ていた。

 次の日はチームアップを続行して下位組織を壊滅させた。

 情報が揃っていたためにスムーズに終わったので兄さんたちと模擬戦を行った。

 ヴィラン退治については個人的に少し物足りなさを感じた。

 だが、授業では絶対に得ることが出来ない経験だった。

 これからの糧にしていこう。

 それと個性伸ばしは流石に街中では思い切り出来ないので水操作のみを集中して行った。

 

 




職場体験編はこれで最後です。
自分の文章の拙さを実感したのでこれからより精進していきたいと思います。

それと、次回からようやく物語が進みます。


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臨海合宿編
第20話 備えろ!期末テスト!


期末テスト前です。

ちょっと普段よりも長めかな?


 職場体験を終えた雄英高校1年A組の教室は、喧騒に包まれていた。

 

「海藤お前!!ニュース見たぞ!!」

 

「スゲーじゃん!!」

 

「お、おお?」

 

 普段よりも遅めの時間に登校した悠雷を出迎えたのは、上鳴を始めとするクラスメイトの声。

 他の既に来ているクラスメイトも、興味津々といった目だ。

 これはあれだな…………兄さんと姉さんのチームアップについてだな。

 

「くぅー!ニュースとか完全に新人ヒーローみてーな扱いじゃねえか!!」

 

「待って、ニュース?」

 

「ああ、ニュースになっていたぞ」

 

「マジですか」

 

「常闇の活躍もニュースに書いてあったぜ?」

 

「恐悦至極」

 

「お疲れ様、悠雷ちゃん。常闇ちゃん。二人とも怪我は大丈夫かしら?」

 

「スゴいねー!!やっぱ体育祭一位と三位ってことかな」

 

「あまり褒めないでくれ、反省が多いから心に刺さる」

 

「俺も悠雷の意見に同意だ。ホークスの下で学んだ事はあまりにも多い。

 なぜこんな簡単な発想が出来なかったのかと過去の自分に鉄槌を喰らわせたいくらいだ」

 

「そんなにか?」

 

「ああ。だからこそ悠雷に感謝している」

 

「それはどうも」

 

「二人とも仲が良くなったのね」

 

「とりあえず、怪我は大丈夫だ。俺は怪我を負っていないし、常闇も軽症だ。

 それもリカバリーガールのおかげでほぼ治っているよ」

 

「良かったな!!」

 

「本当にいい経験が出来た」

 

「その通りだ。まだまだ経験が足りんと痛感した。課題は多い」

 

「そだな!!まだまだやんなきゃいけねーことだらけだ!!1個ずつやってこーぜ!」

 

「お、上鳴のくせにマトモな意見」

 

「うっせえぞ砂藤!!」

 

「それでだな。今日の放課後に意見交換会でもやらないか?」

 

「意見交換か、いいなそれ!!」

 

「互いの情報交換をして、経験したことを教え合う」

 

「教えるという事は自分が取れだけ理解できているか確認するいい機会だものね」

 

「そういう事だ」

 

 そうして和やかに話が弾む最中、教室の大きな扉が開かれる。

 

「おは──ブフォッ!」 

 

 ──そこに居たのは、爆豪と思われる人物。

 尾白が思わず噴き出した理由は、その辺鄙な髪型だった。

 

「アッハハハハハハハ!!マジか!!マジか爆豪!!」

 

「……笑うな。クセついちまって洗っても直んねえんだ。オイ笑うなブッ殺すぞ」

 

「ブハハハハハハハハハハ! やってみろよ8:2坊や!」

 

 見事なまでに美しい、8対2に分けられたヘアスタイル。

 流石ベストジーニスト…………もっとも本人は不満がまだありそうだけど

 爆豪のあまりにも不釣り合いなその姿に、瀬呂と切島は涙を浮かべるほどに笑い転げていた。

 一方の悠雷というと…………

 

「アハハ!!…………ヤバい、絶望的に似合ってない!!」

 

 笑いすぎで呼吸困難に陥っていた。

 

「悠雷大丈夫?ほら、息をゆっくり吸って」

 

「…………ふぅ…………ありがとう響香。落ち着いた」

 

「うっせーぞお前ら!!」

 

「おお、爆発頭に戻った」

 

「どーいう仕組みだ!!アハハハハハハハハ!!」

 

「笑うなっつってんだろうがクソ髪コラァッ!!」

 

「…………で、麗日は何があったんだ」

 

 俺の言葉に、全員の視線がそちらへ向けられる。

 そこには、何やらシャドーボクシング的な?

 といっても凶悪な回転が加わった一撃を空中に放つ麗日の姿があった。

 

 誰とはなしに、そっと視界から外す。

 

「確か、麗日くんはバトルヒーロー・ガンヘッドの所に行ったんだったか?」

 

「…………確かそうだったと思う」

 

「せ、成長だよ…………多分、うん」 

 

「変化っつーか、大変だったのはそっちの3人だろ!!」

 

「いやー、ヒーロー殺しとかヤベーの相手にしてたしな」

 

「マジ命あってなによりだぜ」

 

「……心配しましたわ」

 

 上鳴の言葉に、皆の話題が移る。

 何せ、被害にあった中には命を奪われたヒーローも居たのだ。

 そんな凶悪ヴィランと関わった…………それも緑谷からの不穏な位置情報のみというメッセージ。

 それがあったことも加われば、心配するなと言う方が無茶な話だ。

 

「ニュースとか見たけどさ。ヒーロー殺しはヴィラン連合とも繋がってたんだろ?

 あんなのがUSJの時に来てたらと思うと…………」

 

「いや、多分だけどヒーロー殺しはUSJに来る事は無かったと思う」

 

「どういう事?」

 

「ヒーロー殺しが求めていたのは“真の英雄”と呼ばれる人物…………

 すなわちオールマイトのことだろ?そんなあいつがオールマイト殺しに参加すると?」

 

「確かに一理ありますわ」

 

「ちょい待ち。じゃあ何で、あの脳みそヴィランが保須にいたんだ?」

 

「さすがにそこはわからない。いくつか可能性は考えられるが、情報がほとんど無いからな」

 

「ヴィラン連合がヒーロー殺しに便乗した、とか?」

 

「多分だが、そうだと思う」

 

「悠雷、ホークスかリューキュウから何か聞いていたりしないか?」

 

「いや、何も言われていないな」

 

「そっか、トップヒーローなら何か聞いているかも知れないのか!!」

 

「でも、私たちにそんな重要なことを教えてくれるかしら?」

 

「轟は何か知らねえか?」

 

「知らねえ」

 

「常闇が聞いたのは俺がホークスとリューキュウの義弟だからな」

 

「「「「「弟!!?」」」」」

 

「轟みたいなサラブレッドだったのか!!?」

 

「お前もトップヒーローの血を引いていたんだな」

 

「義理だぞ?血の繋がりはない」

 

「それでも十分すげぇよ!!」

 

「この話はまた今度詳しく聞きましょう?ヒーロー殺しの話が先よ」

 

「確かにそうだな」

 

「と言ってももう話す事なんて無いと思うが…………緑谷たちも緘口令敷かれてるだろ?」

 

「うん。ごめんね」

 

「まぁ、仕方ないだろ」

 

「でもよ、あの動画見たらさ。本気っつーか、執念っつーか。

 カッコよくね? とか思っちゃわねえ?」

 

「上鳴くん!!」

 

「え?あっ……飯……ワリ!!」

 

「いや、いいさ。確かに信念の男ではあった。クールだと感じる人が居るのも、わかる。

 

 …………しかし、ヤツは信念の果てに"粛清"という手段を選んだ。

 どんな考えを持とうとも、それだけは間違いなんだ」

 

「確かにな…………自分が規範となれば良いのにと思うな。

 悲しむ人を生み出した時点で、反発する者が必ず出る。

 オールマイトのような皆を導く存在になってさえいれば…………」

 

「うむ。ステインに限らずヴィランによって傷付く人も居ればその方々には家族や友人が居る。

 ──ならば!!俺のような者をこれ以上出さぬ為にも!!改めてヒーローの道を俺は歩む!!」

 

「さあ! そろそろ始業だ! 席につきたまえ!」

 

「…………五月蝿い」

 

「なんか、すいませんでした……」

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

「ハイ!私が来た!!──ってな訳で久し振りだね少年少女!!

 早速だけど始めるよヒーロー基礎学!!」

 

 午後から始まったヒーロー基礎学は、オールマイトのぬるりとした登場から始まった。

 あまりに簡単に始まったので、周囲からはネタ切れを不安視されたが、

 当の本人は無尽蔵だと反論するが、彼から嫌な汗が流れていたのをA組は見逃さない。

 オールマイトのネタ切れ疑惑を疑うA組だったが、

 オールマイトは話題を変える様に、会場へ視線を変えながら授業説明へと入った。

 

「さあ!!今日は体験明け初日と言う事で、やや遊びを含んだ訓練だ!!」

 

 ──そう救助訓練レースだ!!

 

 救助訓練レース。

 ──まるで一大イベントの様に宣言しながら、オールマイトは会場となる場所を指差した。

 

『運動場γ』

 

 それは複雑な迷路と言える“密集工業地帯”をイメージした場所だ。

 配管・貯水タンク・冷却塔等が存在し、クレーンや煙突が木々の様に存在を示している密集地帯。

 一見だけすれば、どこから入れるのか考えるのも馬鹿らしくなる狭さ。

 それ程までの密集工業地帯で、オールマイトが始めようとしているのは救助訓練レース。

 ルールも至ってシンプルなものとなる。

 

 一番最初は緑谷・芦戸・尾白・瀬呂・飯田。

 それ以外は近くのビルの上、そこにあるモニターで彼等の見学をして自分の番を待つ事となる。

 

 ──となれば、話題は誰が1位になるか予想当てとなる。

 

「普通なら瀬呂だろうな……こんな密集してんだから

 テープでパパっと上に上がって楽に行くだろう」

 

「速さなら飯田くんだけど、怪我をしてるもんね……」

 

「そういう点なら芦戸は不利だな……」

 

「いや!!あいつは運動神経は凄いんだぜ!!だからオイラは芦戸だな」

 

「デクが最下位。ぜってー最下位」

 

 各々が腰かけながら予想を言い合う。

 ヒーロー科を受かっているだけあり、それぞれが文字通りに個性があるものばかり。

 しかし、今回はテープを出せる瀬呂が有利と言う意見が多い。

 逆に緑谷の1位を予想する者は一人もいなかった。

 

「緑谷の評価って定まんないだよなぁ……いつも大怪我してるし」

 

「えぇ、よく考えている方とは思えるのですが、それでも最後は骨折ばかりですから……」

 

「でも、あの超パワーでオールマイトまでの道をぶっ飛ばせばワンチャン有りじゃね?」

 

「オールマイトは極力壊すなって言っていた筈よ、上鳴ちゃん?」

 

「どれほどの距離があるか知らんが、壊したらヴィランと大差ないだろ…………」

 

「こっち見んな……ぶっ殺す」

 

「悠雷はどう思う?」

 

「そうだな…………瀬呂かな。緑谷の今の評価は俺もよく分からんから何も言えん」

 

「そろそろ始まるみたいね」

 

「うおぉぉぉぉ!!? マジか緑谷!!」

 

「骨折克服したのか!?」

 

「動きも全く違いますわ!」

 

「あんなにぴょんぴょん飛んでるなんて……まるで──」

 

 上鳴・切島・八百万・麗日達が画面に映っている緑谷の姿に驚き、そして叫んでいた。

 一番人気の瀬呂を差し置いて、彼を大きく離しての1位を保っていたのだ。

 自爆ではなく、ぴょんぴょん飛びながらタンクやパイプの上を飛んで行く。

 

『……あっ』

 

 そして、モニターを見ていた全員が呟いた。

 

 ──パイプの上に乗ろうとし、足を滑らせた緑谷の姿を見て。

 

 結果を言えば、足を滑らせた事で緑谷は脱落。

 一気に最下位となり、1位は皆の予想通り瀬呂だった。

 だが、アクシデントがあろうが、周りの緑谷の評価は大きく変わっただろう。

 増強系は可能性が広く、怪我の克服によって緑谷は大きな成長が期待できるからだ。

 

 その後は次々とレースが行われる。

 常闇の新技(技名はまだ未定)により機動力と接近戦の弱さを克服したという波乱もあった。

 しかし、この場ではそれは割愛させてもらおう。

 して、最後にレースを行うのは爆豪・八百万・砂藤・青山・悠雷の5人。

 

 それぞれが各々のスタートラインに立つ姿がモニターに映ると、再び始まったのは順位予想だ。

 

「爆豪、八百万、海藤……この三人の誰かだろうな」

 

「単純に言えば爆豪だろ?

 だってあいつ爆破で普通に飛ぶし、スロースターターでもずっと飛んでれば関係ないしな」

 

「いや、それなら海藤だって可能だ。飛行自体は無理でも、あいつの跳躍力は凄まじい。

 現に、体育祭の障害物競走の時もそれで突破してるからな」

 

「でも、それならヤオモモの方が期待できんじゃない?

 知恵もあるし、何でも作れるなら使い方で突破も出来そうだし」

 

『HAHAHA!!それじゃ、そろそろ始めようか!』

 

 それぞれのスタートラインに立つメンバー達に、オールマイトの準備完了の合図が届く。

 するとメンバー達は反応し、静かに動き始める。

 

『スタァァァァトッ!!』

 

「「「「「!!」」」」」

 

 オールマイトは空を叩き割るかの如く、気迫に満ちたまま腕を振り下ろす。

 そして、そのスタートの合図に五人は一斉に飛び出した。

 

 オールマイトの合図と共に駆け出して風の中で舞う様に跳躍する。

 先ずは位置を確認するために高い所へと向かうか…………尻尾でパイプを掴むとそのまま一回転。

 そしてその反動を利用し、更に前方へと跳ぶ。

 

 先程までと違ってここからは狭い通路が混ざり合った複雑な地形だ。

 先程までの大胆な動きは出来ない。

 自分が行く先を基にどのルートが最短化を予測して行動に移す。

 

「ここからなら聞こえるかな?」

 

 兄さんの事務所に行ったときに貰った公安御用達の最新版の機器をいくつか貰った。

 これなら周囲の確認がコンマ一秒足らずで出来る。

 衛星経路で通信とかできるから無人島に取り残されても安心!!

 まぁ、泳いで帰れるからそこはどうでも良いんだけどさ。

 

「HAHAHA!!Help Me!!」

 

 楽しそうなオールマイトの声を捉え、現在位置との場所関係を把握する。

 これくらい大きい声なら機器使わなくても問題なかったな。

 高い位置にある貯水タンクにいるため、その場から落ちるように壁走りを実行。

 一定の場所に着いたと同時に壁を蹴り、更に別の壁を蹴って高速移動を行った。

 マリオの如し壁蹴りで次々と交差状に移動し、いとも簡単に密集地を突破する。

 そして、上空へと飛び上がり近くの貯水槽タンクの上に着地する。

 あとはこのタンクの中身を足場に加工してオールマイトの元に向かおう。

 

「「「海藤ヤベェェェェ!?」」」

 

 何人かがモニター越しに叫び声をあげる。

 他の者達も同意見らしくモニターに釘付けになりながら頷いていた。

 

「体育祭の時と動き違うじゃん……!!」

 

「たった一週間でここまで変わるものなのか……!?」

 

「うわぁ……曲芸かよ!!」

 

「今まではセーブしていたとでもいうのか?」

 

「いや、流石にそれは無いだろ…………」

 

「これがトップの場所で獲た経験なのか」

 

「常闇の動きも凄かったもんな!!」

 

「恐悦至極」

 

「また言っとる」

 

 みんなが話している間に悠雷は貯水タンクを壊して中の水で槍を形成してそれを足場にする。

 職場体験での訓練のお陰様で以前よりも強度が上昇している。

 足場にしたそれらを使い、悠雷は悠々と一位の座に君臨した。

 その後で色々と問い詰められたが、ただ単にこういった密集地帯に行くことが無かっただけだ。

 尾白や上鳴に教えてくれと頼まれたので放課後にやる内容が決まった点は良かったな。

 それと、覗きは声を出さず気配を断って行うべきだと思うのです。

 出来る事なら俺も見たかった………

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 救助レースからしばらくの時が経ったHRの日の事。

 担任の相澤先生から夏休みについての説明が入った。

 

「えー、そろそろ夏休みも近いが、もちろん君らが1ヶ月も休める道理は無い」

 

 教壇に立つ相澤先生の言葉に、どよめきが起きる。

 ヒーロー候補生であるが学生である彼らにとって夏休みは必須、どよめきが起こるのは当然だ。 

 まだ一か月も先の話をされている訳なのでいまいちイメージが湧かない。

 確か…………臨海合宿に行くとか言ってたか?

 

「夏休み、林間合宿やるぞ」

 

「知ってたよー!!やったー!!」

 

 休みがなくなると言われれば普通の学生なら落胆するのかもしれないが、そこはヒーロー科。

 誰もが自身を高める機会を喜んでいた。

 

「肝試そー!!」「風呂!!」「花火」「風呂ぉっ!」「カレーだな」「行水!」

「自然環境ですと、また活動条件が変わってきますわね」「湯浴み!」

 

「……峰田黙ってろ」「はい」

 

 己の欲望を声高に叫ぶ峰田に、ついに相澤からストップがかけられた。

 ついでに、他の生徒たちも口を塞ぐ。

 相澤先生の恐ろしさは皆の知るところとなっている。 

 

「…………ただし、その前に行われる期末テストで赤点だった奴は学校で補習地獄だ」

 

「みんな頑張ろーぜ!!」 

 

 相澤先生の説明が終わり、授業が始まった。

 そして、昼休み。

 

「「まったく勉強してねー!!」」 

 

 悲壮感漂う上鳴となぜか笑顔の芦戸が異口同音に叫んだ声が教室に響く。

 中間テストの成績は20人中、芦戸19位、上鳴20位である。

 彼らの為に補足しておくと、あくまでA組の中での順位であり、2人とも学力自体は高い。

 

 単にヒーロー科の授業が途轍もなく速いため結果的に試験範囲が異常に広いのだ。

 

「体育祭やら職場体験やらでまったく勉強してねー!!」

 

「いや──あっはっは!!」

 

「…………の割には芦戸は随分と笑顔だが」

 

「なーんかもー、笑うしかないよね!!」

 

「ああ、重症か」

 

「お2人とも、座学ならば私、少しはお力添えできるかもしれません。

 …………海藤さんほどではありませんが」

 

「海藤よりヤオモモがいい!」

 

「いい度胸だな上鳴」

 

「私もー!!」

 

「泣いてもいいかな?」

 

「お2人じゃないけど、ウチもいいかな?二次関数、ちょっと応用で躓いてて」

 

「わりい、俺も!!八百万、古文わかる?」

 

「俺もいいかな」 

 

 そこに続くのは、耳郎、瀬呂、尾白であった。

 頼られたのが嬉しいのか、八百万の表情がパッと明るくなる。 

 

「…………あれ?」 

 

「海藤この前のテストの問題聞いたらわかりやすかったんだけど」

 

「試験範囲越えてスパルタでやりそう」

 

「女の子の方がいいじゃん!!」

 

「上鳴…………お前、あとでボコス」

 

「…………海藤ちゃん。あのメールを送ったことから考えても自業自得だと思うわ」

 

「くっ!!何も言い返せん」

 

「いくつか漢文で確認したいのだけれど、頼っていいかしら?」

 

「僕もいいかな? 数学で解き方合ってるか確認したくて」

 

「すまんが俺も頼めるか。物理でいくつかな」

 

「すまんな」 

 

 自業自得で項垂れる悠雷に救いの手を差し伸べたのは、蛙吹をはじめ緑谷と障子。

 響香もこっちをちらちらと見ているが、頼んだことなのでしっかりとやってもらわないと。

 というか演技だからこれっぽっちも傷ついて無いんだからね!!

 

「そういえば、職場体験先で先輩に例年の演習試験内容を聞いて来たんだが」

 

「マジか!!」

 

「教えてくれ海藤!!」

 

「お前の望みを叶えたいところだが、あいにく俺は男なのでな」 

 

「謝るって!!ゴメン!!」

 

「まあ、俺の方もそこまで気にしていないさ。こっちから頼んだことだし。

 どうやら例年だと、入試同様のロボット相手の戦闘演習らしい」

 

「「イヤッホウ!!ロボならブッパで楽勝だ!!」」

 

「…………いやに例年と繰り返すな」

 

「今年は違うって言いたいの?」

 

「気付いてくれたか。今年の一年生はUSJの襲撃や職場体験で巻き込まれた。

 …………果たして、先生方が何も手を打たないなんてことはあるだろうか?」

 

 ピタと、上鳴芦戸の動きが止まる。

 両腕は喜びを表して高々と上がっているのに、表情だけが絶望に染まっている。

 

 セリフを入れるなら、「マジで?」といったところだろうか。

 

「予想として考えられるのはより実戦的な対ヴィランを想定した内容かな?

 内容を考えるのはこちらの“個性”のことをすべて理解している先生だ。

 今のところ判明している弱点を露骨に突いてくるんじゃないか?」

 

「考えすぎ…………とは言えないわね。

 最近はヴィランが活性化しているなんて話もあるのだし、何より雄英だもの」

 

「雄英の校訓からだと間違いなくそうなるな…………」

 

「やること多すぎね!?」

 

「普通に授業受けてりゃ、赤点は出ねえだろ」

 

「言葉には気をつけろ轟ぃ!!チキショウ、演習試験もヤベーじゃねえか!」

 

「お前らは個性の制御、大変そうだしな」

 

 

 その日のお昼、俺はちょっと珍しい面子と一緒に学食に来ていた。

 緑谷、麗日、飯田、轟、梅雨ちゃん、響香、そして俺という七人だ。

 

 緑谷と麗日、飯田はまぁおなじみの三人組。

 一堂に会しているのは正直言ってまったく珍しくない。

 

 で、職場体験以降は緑谷、飯田、轟の三人は親密になって一緒に行動する機会が増えている。

 秘密の共有って、仲間意識芽生えるよね。

 

 麗日と梅雨ちゃんは席が近いこともあって仲良しで割とよく一緒に学食に行ってるようだ。

 俺と響香も似たような感じだ。障子や常闇、上鳴とも食べることも多いな。

 聞いた話だが、女子は結構その日その日で一緒に食べる人が流動的に変わってる。

 お弁当だったりそうじゃなかったり、という人が多いのがそうなっている理由の一端かもしれない。

 

 とにもかくにも、それぞれだけならよくある組み合わせなのだ。

 けれどもこの全員が一緒に、というのは間違いなく初めてだった。

 

「筆記試験は授業でやった内容のはずだからなんとかなりそうだけど

 …………演習試験の内容が不透明で怖いね」

 

「筆記はまだなんとかなるんや……」

 

「……緑谷、言葉には気を付けた方がいい」

 

「え、あ、ごめん!!」

 

「えっと、演習試験は一学期でやったことの総合的内容だって…………」

 

「ええ、相澤先生がそう言ってたわね。でも、正直それだけの情報じゃ全然わからないわ」

 

「戦闘訓練と救助訓練、避難器具とか救助器具の使い方も教わったけど

 …………振り返ってみると基礎トレが多かったよね」

 

「うん、そうだね。

 とにかく、試験勉強に加えて体力面も万全にしておくのが無難──あいたっ!!」 

 

 ふと、緑谷の背後に一人の男子生徒がやってきて、どう見ても故意に緑谷の頭に肘をぶつけた。

 俺たちは思わずぎょっとして、その下手人に視線を向けた。

 

「──おやおやごめん、君の頭が大きいから当たってしまった」

 

「えっと誰だっけ?」

 

「えっと……確か、物間くん!!よ、よくも!!」

 

「悠雷名前くらい覚えてあげなよ」

 

「デクくんもうろ覚えだったんな」

 

「A組に嚙みついてきて爆豪にわからされたくらいしか覚えてないな」

 

「くっ!!痛いところを突いてくる…………君ら、ヒーロー殺しに遭遇したんだって?

 A組ってさ、体育祭に続いて注目浴びる要素ばかり増えていくよねぇ。

 ただその注目って決して期待値とかじゃなくて、トラブルを引き付ける的なものだよね?」

 

「あぁ怖い!!

 いつか君たちが呼ぶトラブルに巻き込まれて僕らまで危険な目に遭うかもしれないなぁ!

 あぁ怖──」

 

「──物間シャレにならん。飯田の件知らないの?」

 

 そろそろコイツしばくかと俺が手刀を構えたところで、突如物間が膝からがくっと崩れ落ちた。

 物間を手刀で沈めたのは…………拳藤か。

 …………お前はいつも大変だな。

 

「拳藤久しぶり」

 

「久しぶり悠雷。写真撮影以来だね」

 

「知り合いなのかい?」

 

「ああ。体育祭で知り合ってな。職場体験中も会う機会があったんだ」

 

「ごめんなA組。こいつちょっと心がアレなんだ」

 

 心がアレなのか。まぁアレじゃなければあんな発言はできんだろうね。

 前のこととは言え、あんなほじくり返し方するかね。

 

「……ねぇ、あんたらさっき、期末の演習試験不透明とか言ってたよね?

 あれ、入試の時みたいな対ロボットの実戦演習らしいよ」

 

「やっぱりそう聞いたよな」

 

「拳藤くんはどうやってその情報を?」

 

「私、先輩に知り合いいてさ。ちょっとズルだけど聞いたんだ」

 

「…………いや、ズルじゃない、ズルじゃないよ!!

 そうだよきっと事前の情報収集も試験の一環として組み込まれてて

 だから相澤先生もあえて詳しい説明をしてくれなかったんだそっかそうだよね。

 先輩にでも聞けばよかったんだどうして僕は気が付かなかったんだ──!!」

 

「……拳藤、それは気にしなくていい。緑谷の持病の発作みたいなものだから」

 

「あ、あはは、A組にもいろいろいるんだね……」

 

 緑谷の持病には拳藤だけでなく、緑谷の隣の麗日も苦笑いを浮かべていた。

 そろそろA組の面々は緑谷の持病にも慣れてきたけど、初めて見る人には刺激が強いだろう。

 というか俺が波動先輩から聞いたことを緑谷は聞いてなかったのか?

 轟とその時は話していたと思うけど地味にショックだ。

 

 と、そんなやり取りをしているうちに物間が再起動して顔を上げた。

 

「バカなのかい拳藤……せっかくの情報アドバンテージを!!

 ココこそ憎きA組を出し抜くチャンスだったというのに……!」

 

「別に憎くはないっつーの」

 

「というか知っていたし」

 

 物間の首元に再びトッと拳藤さんの手刀が炸裂し、奴は今度こそ完全に沈黙した。南無三。

 

「それと例年通りに運ばれるとは思えないから…………」

 

「最悪を想定して動くべきでしょ?この前、忠告くれたよね。ありがとう」

 

「また情報が入ったら交換しような」

 

「オッケー、それじゃあまたね」

 

 拳藤は物間を引きずりながら器用に食器類を落とさずに席に戻っていった。

 そう言えばB組の奴らと昼を一緒にした事は無いな。

 拳藤を除くと他の奴らと話したことすらないわ。

 もう少しB組の奴らと関わった方が良さそうだな。

 

 その日から暫くの日が経ち

 

 ──期末試験当日を迎えた。

 

 

 

 




次回は期末テストの演習試験です。

ようやく以前とったアンケートが役に立つぜ………


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第21話 期末ともぎもぎとミッドナイト

一週間遅れました。まぁ、いろいろとあったので

それと駄文です………戦闘シーンが苦手過ぎてツラい


 昼休みの日に皆で期末テスト頑張ろう!となってから暫くが過ぎた。

 自信をある程度取り戻したヤオモモのお陰様で皆は赤点回避に恐らく成功した。

 このまま自信を完全に取り戻してくれればいいんだけど…………どうだろうか?

 

 そして、演習試験当日。

 A組の生徒達はコスチュームに着替えて試験会場に居た。

 

 その場には複数の先生方がそこにいた。

 というかなんでそこに姉さんの姿が見えるんですかね?

 想定していた最悪を越えているのか?プルスウルトラなのか?

 

「諸君なら事前に情報を仕入れて何するか薄々と分かっているだろうが…………」

 

「入試みてぇなロボ無双だろ!!」

 

「花火!!カレー!!肝試しー!!」

 

「残念!!諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!!」

 

 突如として、相澤先生の捕縛武器の中から校長が現れて宣言した。

 上鳴と芦戸が固まった。もちろん悠雷たちも固まった。

 予想はしていたとはいえ、色々とインパクトが強すぎた。

 相澤先生の首元って暖かそうだよね。

 

「流石だね!!試験内容の変更を予測していたとは!!

 何故変更されたかと言うとね…………敵活性化の恐れのある社会情勢故に、

 これからは対人戦闘・活動を見据えた、より実戦に近い教えを重視するのさ!!

 という訳で諸君らにはこれから、二人一組でここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!!」

 

「尚、ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。

 動きの傾向や成績、親密度……その他諸々を踏まえて独断で組ませて貰ったから発表していくぞ」

 

 校長先生を捕縛布を使って地面に下ろすと相澤先生は次々とペアを発表していく。

 なにあれ楽しそう…………頼んだらやってくれないかな?

 

 で、試験で組むメンバーと対戦相手は以下の通り。

 

 轟・八百万VSイレイザーヘッド

 

 耳郎・障子VSプレゼント・マイク

 

 海藤・峰田VSミッドナイト&リューキュウ

 

 蛙吹・常闇VSエクトプラズム

 

 飯田・尾白VSパワーローダー

 

 砂糖・切島VSセメントス

 

 葉隠・瀬呂VSスナイプ

 

 芦戸・上鳴VS校長

 

 麗日・青山VS13号

 

「最後に緑谷と爆豪がチームだ。相手は……」

 

「私がする!!」

 

「「「「「「オールマイト!!?」」」」」」

 

 目の前に飛び降りてきたオールマイトの姿を見て皆が驚きの声を上げる。

 俺も驚きたいけど、こっちも演習試験の相手がツラすぎないか?

 なんでこっちのチームは二対二何ですか?なんで姉さん来てるの?

 

「協力して勝ちに来いよ、お二人さん」

 

 試験の順番に則って、皆はバスに乗るなり控室に向かう。

 が、俺と峰田は未だに現実を受け入れる事が出来ていない。

 

「おい、お前らもさっさと移動しろ」

 

「…………相澤先生、理由の説明を求めます」

 

「お前が優秀だからな。それに加えて竜化したお前と戦えるヒーローは少ない。

 そのため、数少ないヒーローであるリューキュウに要請を行った。

 峰田は巻き込まれる形になってしまったが成績は加点されるから頑張ってこい」

 

「「あ、はい」」

 

 魂の抜けてしまった峰田を持ち上げて控室に向かう。

 この試験での勝ち筋なんて逃げの一手しかないんじゃないのか?

 ヒーローとして逃げることを前提にするのはあまりしたくない。

 取り敢えず、他のグループの様子を見ながら作戦を考えるとしよう。

 

「なぁ…………試験なら体当たりと称して胸触っても許されるかな?」

 

「…………許されると思うぞ」

 

「そっか…………なら答えは一つだよなぁ!!」

 

「そうだな。頑張ろうな」

 

 流石、三大欲求の一つの性欲だ。

 光を失っていた峰田の目に生気が戻ってきた。

 これならミッドナイトを抑えて貰って、その間に姉さんと戦える。

 何も二人同時に相手する必要はないもんな。

 

 

 運動場γ──工場密集地であるこの場所に再び悠雷と峰田は足を踏み入れた。

 ミッドナイトの個性はともかく、姉さんの個性ならば広い場所を使うのかと思った。

 が、実際は運動場γ…………俺の動きを縛り、奇襲をしやすくしたのだと思う。

 物陰からミッドナイトに跳びかかられたら何も出来ないからね!

 

 そして、相手であるミッドナイトから特殊な手錠と共に細かいルール説明を受けていた。

 姉さんと話したかったけれどももうスタンバイしているんだと思う。

 特殊な手錠を竜化したときのサイズに合わせたものしか作って無かったんだと思う。

 

「試験の制限時間は30分。

 その間に“どちらかがステージから脱出”またはこの“ハンドカフス”を私たちに掛ける。

 ──このどちらかを達成したら合格となるわ」

 

「手錠は分かるけど…………」

 

「逃げても良いんだな…………」

 

 脱出というまさかの逃げ道に、悠雷と峰田は意外そうに呟く。

 

 対人戦と言っていたので、戦闘不能か一定のダメージを与えなければならないと考えていた。

 撤退という選択肢は許されないと勝手に思っていた。

 実際のヒーロー活動ならば戦略的撤退という選択肢も存在するからな。

 

 ミッドナイトはそんな二人の考えを見通す様に首を横へ振る。

 

「逃げる事は悪い事じゃないの。プロヒーローといえ、ヴィランとの個性の相性や力の差もある。

 そうなれば、応援を呼んだ方が賢明なのよ。

 ──少なくとも、君達はこれがどういう事かわかると思うわ」

 

 妖艶な雰囲気を纏いつつもまるで捕食者目をしたミッドナイトの言葉…………

 二人とも特に何も言わなかったが、誤魔化すように視線を逸らした。

 目を逸らした理由は悠雷は最近慢心しているという自覚からで

 峰田は本番の前に興奮しすぎると……という理由という二人の間での違いはあったが…………

 

「もちろん、私たちが勝てる相手と判断して戦闘をしてもいいわよ?

 ──けれど、この制限時間の30分…………その意味も理解して貰いたいわね」

 

「限られた時間の中での判断力を試されてるのか…………」

 

「どうするよ、海藤」

 

「今考えてる」

 

 試験とはいえ30分は現実の時間。

 戦って勝てると判断しようが、30分も戦い続けて無駄に長引かせては意味はない。

 この限られた30分で、戦っていても判断力を生かして、脱出の方に志向を変えてもよい。

 …………またはその逆も然り。

 

「分かってくれたなら嬉しいわ。

 …………それじゃあ、私たちは準備に向かうから君たちは開始まで待っていて頂戴」

 

 そう言ってミッドナイトは工場の隙間を通り、どこかへと消える。

 残されたのは悠雷と峰田の二人だけになった。

 

「さて、作戦会議と洒落込もうじゃないか」

 

「おいらのもぎもぎ大作戦なんてどうだ?」

 

「良い案だ。この地形で真面にやり合うとハンデありでも勝てるとは思えない。

 姉さんたちの裏をかかないと…………」

 

「じゃあさ…………こういうのはどうだ?」

 

 残念な事に作戦を思い付かなかったが、峰田から持ち掛けられた意外な案に頬を緩ませた。

 悠雷はその案に幾つかの提案をして時間まで瞑想に入った。

 

「そろそろ時間だな」

 

「頑張ろうぜ、海藤!!」

 

「ああ!!」

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 試験開始の時間になったため、峰田と別れて高台に上る。

 ミッドナイトは峰田が担当という事になっている。

 俺がやるべきは姉さ…………リューキュウを引き留めておくことだ。

 まぁ、別に倒してしまっても構わんのだろう?

 こういった思考は良くないな…………最近慢心しているし、辞めておこう。

 

 高台から高台へと飛び移りながらシミュレーションを重ねる。

 やはり考えれば考えるほど一人で勝つヴィジョンが見えないな。

 作戦通りに行ってくれれば何とか、といったところか。

 …………どうやらこちら側が先に見つかってしまったようだ…………先手を取りたかったな。

 リューキュウは俺のいる高台の上空からこちらに向けて突進してくる。

 辛うじて躱すことが出来たけれども下手したら今ので詰んでいた。

 なんとか体制を整えてリューキュウと相対する。

 

「お久しぶりですね…………なんでこの試験に来ているんですかね」

 

「悠雷がどれくらい成長しているのか気になったからよ。

 職場体験の時は竜化した悠雷と戦った事は無かったでしょう?」

 

「だとしても雄英まで来ますか…………」

 

「お姉ちゃんだからよ!!」

 

「なにその理論…………常識人がうちの家系から居なくなってしまった…………」

 

「さぁ、お喋りはここまでにしましょう!!」

 

 リューキュウはその翼で暴風を引き起こす。

 完全に竜化しているならともかく部分的な竜化の今の状態で耐えられないな。

 風に身を任せて別の高台に飛び移る。

 さっきまで聳え立っていた高台は粉々に砕け散る。

 これで錘付きっていう事実がトップヒーローのヤバさを表している。

 

「まったくもって理不尽な受難だ!!」

 

 砕け散った高台に使われていた部品を使い超電磁砲を打ち込む。

 当たれば決めてになる威力を発揮する技だが弾道は読みやすいので避けることは可能だ。

 やはりリューキュウには竜化した状態でないと決め手に欠けてしまうな。

 今の俺にはスピードこそあるが、オールマイトの様なパワーが足りないからな。

 元々立っていた建物が無くなったことで広い足場が出来た。

 そこに向かって落ちながら竜化する。

 

『GUAAAAAAAAAA!!!』

 

 空からこちらを見下ろしてくるリューキュウに向かって咆哮する。

 ここなら思い切り放電してもゲートの方に向かっている峰田には当たらないだろう。

 まぁ、そんな博打のような手をまだ切るつもりはないがな。

 

「もう勝負に出るのね」

 

「リューキュウ相手に耐久戦をして勝てるとは思えないので、決めさせてもらう!!」

 

 背中の背電殻に蓄電されている電気と体内の器官に蓄えられる電気を使う。

 俺が現状持っている手札の中で使うことが出来るのは超電磁砲とブレスのみ。

 口から轟雷ブレスを放つがギリギリのところで避けられてしまう。

 けれどもこれで誘導が出来た…………峰田が潜んでいる高台の近くに!

 

「この程度なのかしら?」

 

「まさか!峰田、今だ!」

 

「任せろ!!GRAPERUSH!!」

 

 まぁ、これが俺たちの考えた作戦だ。

 空中戦をリューキュウとやり合えるなんて思う事すら出来ない。

 ブレスで応戦しようが空から一方的に攻められてしまうのがオチだ。

 だから、隠れ潜んで貰っていた峰田に翼をくっつけて貰う。

 

「しまった!!」

 

「悠雷、あとは任せたぜ!!」

 

 リューキュウの片翼をもぎもぎでくっつけて峰田はゲートの方面に向かう。

 片翼を封じられたならば、もう飛ぶことは出来ない。

 必死に地に堕ちんと羽ばたく片翼に向かって跳び、嚙みつく。

 俺の歯は海洋生物…………首長竜などの様に鋭いナイフの様になっている。

 その歯はリューキュウの翼に容易に食い込み、竜を地に堕とした。

 が、肝心の勝負はこれからだ。

 

「まさか峰田くんがそこに潜んでいるなんてね!!」

 

「覗きをするために鍛えた隠密能力だそうです。

 趣味がヒーロー活動に生きるってこういう事なんですね」

 

「そこには異論を唱えたいわね」

 

 口では軽口をたたきながらも互いに間合いを図る。

 飛行能力を封じたので空から遠距離攻撃を永遠とされる事は無くなった。

 が、陸上ならこっちが有利という訳ではないというのがツラい。

 海上なら勝ちが確定したんだがな…………

 無事な片翼を使ってリューキュウが熾した暴風を交わして懐に潜り込む。

 首に嚙みついて、身体を蛇の様に巻き付けて動きを封じる。

 

「で、これで勝ったつもりなのかしら?」

 

「まさか!」

 

 俺は止めの放電をリューキュウに放つ。

 

 しかし…………

 

「残念ながら放電は対策済みよ!」

 

「効いていない!?」

 

 ゼロ距離からの放電を意に還すことなく俺の身体を振り払う。

 そのままの勢いを保ったまま、俺の頭を地面に叩きつける。

 

「ッ!?」

 

 あまりの衝撃に意識が飛びかける。

 舌を嚙んで意識を失う事は何とか防いだが、距離をまた取られてしまった。

 こちらが体制を整える間にリューキュウは近くの高台に上ってしまった。

 

「チッ!!逃がすか!!」

 

 近くに存在する建物は今目の前にある物のみ。

 それさえ壊してしまえば高いところに逃げることは出来なくなる。

 今のリューキュウは飛ぶことが出来ない…………これを壊してしまえば逃げ場を無くせる。

 俺は身体に電気を纏って建物にタックルを繰り出す。

 が、その動きを予測していた姉さんはその瞬間に建物をこちらの方に崩してきた。

 

「しまッ──」

 

 回避することも出来ずに成す術なく、あっけなく俺の身体は下敷きになった。

 その重量は俺の身体の動きを完全に縛るものだった。

 

 ──つまるところ俺は負けたのだ。

 

 この状態を覆すことが出来る力を俺は持っていない……だが、諦めてしまってもいいのか?

『人を護り…………救うことができるヒーロー』

 …………そうなりたいと俺は望んだのではなかったのか?

 

 ──更に向こうへ…………Plus Ultra!

 

「うおおおおおお!!!」

 

 心の底から絶叫して、押しつぶされた身体に力を入れる。

 自らが制御できる量を超えた電を発しながら傷ついた肉体を再生させる。

 蒼かった鱗と甲殻がひび割れて、純白の鱗と甲殻が生え背電殻がより長く蒼くなった。

 元の鱗と甲殻の名残か所々に蒼い紋様が残る新しい姿へと身体が変容した。

 

『GUAAAAAAAAAA!!!』

 

 辺り一面に響き渡る方向をあげ、周囲に雷を降らせる。

 天に響かんばかりの咆哮に呼応してか雨が降り始めた。

 今までに感じたことのないほどの力が身体に満ち溢れてくる。

 

「噓でしょ?」

 

 今までの姿とは似て非なる姿を見て、姉さんが驚愕の声をあげる。

 あんなに驚いた顔をした姉さんの姿を見るのはいつぶりだろうか?

 惚けて隙だらけな姉さんに向かって本能のままに突進する。

 特に意識することなく、轟雷を纏って突っ込み押し倒す。

 放電を対策されている?ならその対策を越えていけばいい。

 とても簡単でシンプル答えだ…………容量超過になるまでゴリ押してしまえばいい。

 

 そして、蒼白の雷があたり一面を埋め尽くした。

 

「…………疲れた」

 

 姉さんが意識を失ったのを確認して、ハンドカフスを付けたところで俺は意識を失った。

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 悠雷が純白の甲殻と蒼い背電殻を有した姿を手にしてリューキュウと相対している頃。

 

 峰田は単身でゲートへと向かっていた。

 この広大な試験会場をミッドナイトが動き回っているとは考えれない。

 悠雷の予想通り、ミッドナイトはゲート前で待ち受けていた。

 

 彼女のヒーローコスチュームはSMの女王様が身に着けるようなボンデージ。

 豊かな乳房は肌色の極薄タイツを着ただけの状態で露出しており、男子生徒は目のやり場に困る。

 これは、厚着すると眠り香が散布しにくいためだ。

 ミッドナイトのコスチュームが色々と法律を変えたとかなんとか…………

 もっとも峰田と悠雷からしてみれば「眼福です」くらいのなの感覚だが…………

 

 その手には愛用の鞭。

 

 かなりの長さがあるため、扱いには熟練が必要だ。

 しかし、ミッドナイトが使えば攻防一体、足りないパワーとリーチを補うことができる。

 

 もちろん、ミッドナイトには場を離れる気は毛頭なかった。

 

 接近距離は彼女の領域。

 

 見晴らしのいい場所に陣取り、息を止めて近づいてきた相手に向かって

 二、三度攻撃、足止めして呼吸をさせてしまえば、それで終わり。

 

 女子であるなら一息でこてんとはいかないだろうが、それだって意識は鈍る。

 男子である峰田なら一呼吸ですら致命的だ。

 戦闘経験の少ない未成年二人が相手など、ミッドナイトには児戯に等しい。 

 

「……来たわね」

 

 右前方から駆けてくる小柄な姿。

 

 峰田は、呼吸を気にするように余裕のあるスピードで接近してくる。

 その手には皮の様なものが握られている。

 マスクの様にあれで覆えばしばらくは呼吸を止められるだろう。

 

「この試験勝たせてもらうぜ!!」

 

「やってみなさい!!」

 

 峰田を必要以上に近づけまいと鞭をしならせるミッドナイト。

 それに対して、峰田は一定以上の距離を保ちながら間合いを図っている。

 

「あら?さっきの言葉の割には随分と消極的ね」

 

「こっちも信頼に応えないといけないからな!!

 

 そう言うと峰田は頭のもぎもぎではなく懐から取り出した閃光弾を投げつける。

 放たれた閃光のあまりの強さにミッドナイトは思わず目を閉じてしまう。

 

「嘘ッ!!」

 

「作戦通り!!残念だけど、今回はおっぱいはお預けだぜ!!」

 

 驚きに頭が冷えた時には、峰田はミッドナイトに向けてスタンガンを突き付けていた。

 その勢いのままミッドナイトを気絶させた峰田はその手にハンドカフスを付けた。

 

 

 峰田は俺が姉さんにハンドカフスを付けたと大体同時にハンドカフスをつけたらしい。

 その時点で俺と峰田の期末試験は終了した。

 

 




ショッピングモールの回をやったら劇場版かな?


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第22話 ショッピングモールにて

 期末テストが終わり、後は結果を待つだけとなった。

 

「皆……土産話、ひぐっ。楽しみに、うう……してる、がらぁ……」

 

 演習試験を終えた教室では、クリア出来なかった4名が悲しみに満ちた表情であった。

 失礼ながら名前を挙げさしてもらうと、校長に完封された上鳴と芦戸。

 セメントス先生にがちがちに固められた切島と砂糖である。

 みんなの試験の様子を見ていると先生方はかなり容赦なく弱点を突いていた。

 響香と障子がクリアできたことを知ったときはつい驚いてしまった。

 無論、緑谷と爆豪のところも同じだ。

 いくつかのグループだけ難易度ルナティックで可笑しかったもん。

 

「ま、まだわからないよ。どんでん返しがあるかも知れないし…………」

 

「緑谷、それ口にしたら無くなるパターンだ……!」

 

「しっかりと止めさしたな」

 

「試験で赤点とったら林間合宿行けずに補習地獄!そして俺らは実技クリアならず!

 これでまだわからんのなら、貴様らの偏差値は猿以下だ!」

 

「落ち着けよ、長え」

 

「瀬呂の言うとおりだが、正直言わせてもらうとわかんねえのは俺だ。

 最後は峰田のおかげでクリアしたけど、相打ちになって気絶していただろ?」

 

「安らかな寝顔だったな」

 

「気持ちよさそうに寝てたな」

 

「不覚にも可愛いと思ってしまったわ」

 

「死んだみてえな言い方やめてくれ。倒してお終いがヒーローじゃない。

 ヴィランを倒してその後の事までやるのがヒーローだ。

 

 ……とにかく、採点基準が明かされてねえ以上は──」

 

「同情すんなら何かもう色々くれ!」

 

 上鳴の悲痛な叫びに紛れてチャイムが鳴った。

 俺もあまりいい成績が付いている自信が無かった分、結構精神状態がヤバめだな。

 途中から何言っているのかよく分かって無かったもん。

 

「予鈴が鳴ったら席につけ」

 

 瞬間、扉を勢いよく開け放って相澤が現れる。

 生徒たちも既に慣れたもので、瞬間移動かと思える速さで全員が自席に座った。

 本当に相澤先生にとって教師は天職だと思う。

 相澤先生の声で集合と言われただけで、瞬間移動の如し速さで移動できるようになったもの

 

「おはよう。今回の期末テストだが、残念ながら赤点が出た。したがって、林間合宿は……

 

 全員行きます!!」

 

「「どんでん返しだあぁっ!!」」

 

 喜びのあまり、実技未クリア4名の拳が天高く掲げられる。

 無論、その四人以外も喜びの表情を見せた。

 

「筆記の方はゼロ。実技で芦戸、上鳴、切島、砂藤が赤点だ」

 

「あ、免れてたのか…………」

 

 相澤先生から合格発表があると、皆が大なり小なり胸をなでおろす。

 やはり皆も今回の試験への手ごたえで不安を感じていたのだろう。

 

「今回の試験、我々ヴィラン側は生徒に勝ち筋を残しつつ、どう課題と向き合うかを見るよう動いた。

 でないと、課題云々の前に詰む奴らばかりだったろうからな。

 そもそも、強化合宿なんだ。赤点とったヤツこそ、ここで力をつけてもらわなきゃならん。

 合理的虚偽ってやつさ」

 

「「ゴーリテキキョギィィッ!」」

 

「またもしてやられた…………!!しかし先生!!

 2度も虚偽を重ねられると、信頼に揺らぎが生じるかと!!」

 

「わあ、水差すね飯田くん」

 

「今日も飯田は飯田してるな」

 

「飯田くんて動詞やったっけ」

 

「だいぶ前から動詞だろ?」

 

「二人とも少しは真面目にしな」

 

「「はーい」」

 

「確かにな、省みるよ。だが、何も全部ウソってわけじゃない。赤点は赤点だ。

 お前らには別途に補習時間を設けている。ぶっちゃけ、学校に残っての補習よりキツいからな。

 

 じゃあ、合宿のしおりを配るから」

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

「まあ、何はともあれ皆で合宿行けて良かったね」

 

「相澤先生がわざわざ釘を刺すくらいだ。補習は想像以上にキツいかも知れないが」

 

「や、やめろよ。怖えよ」

 

「それ以前に、雄英の強化合宿が生半可なわけもないので、全員キツいだろうが」

 

「苦難上等よ!」

 

 ……と、まぁ、そんなこんなで放課後。

 

 俺たちは帰りのHRで配られた合宿のしおりにみんなで目を通していた。

 

「それにしても、全員で行けることになってよかったね、林間合宿」

 

「うん、そうだね!今から楽しみだぁー!」 

 

「期間は一週間か」

 

「結構な大荷物になるね。早め早めに準備しないと……」

 

「水着とか持ってねーや。いろいろ買わねぇとなぁ」

 

「オイラは暗視ゴーグル買わないと」

 

「……峰田、暗視ゴーグルって何に使う気だ?捕まるぞ?」

 

「バレなきゃ犯罪じゃないんだよ」

 

「………見張っておいた方がいいかも」

 

 峰田の不穏すぎる発言はともかく、緑谷くんと上鳴くんの言葉はもっとも。

 一週間の外泊ともなると、着替えの用意だけでも大変そうだ。

 雄英の体操服で過ごすことがメインになりそうだな。

 まぁ、一応向こうで洗濯はできるみたいだけど…………私服をあんま持って無いんだよ。

 

「……あ、じゃあさ!

 明日休みだし、テスト明けだしってことで、A組みんなで買い物行こうよ!」

 

「おお、いいねそれ!何気にそういうの初じゃね!?」

 

 ただ、あまりにも急な話ということもあって、男子の半分くらいは都合が付きそうにない。

 女子の中では梅雨ちゃんだけが参加できないとのことだった。とても残念だ。

 まぁ、みんなも予定くらいあるよね…………俺はないけど

 普段の休みの日に何をしているのかと問われると、特訓か寝ているとしか…………

 

「おい爆豪!おまえも来い!」

 

「行ってたまるか、かったりィ」

 

 切島が爆豪を誘ったけど、秒で断られていた。

 期末試験前に比べればいくらか落ち着いた様子の爆豪だったけど、

 まぁ、だからって急に仲良しこよしをするつもりはないらしい。

 轟も母親の見舞いに行くとかで来ないそうだ。

 

 そんなわけで、臨海合宿の前に1年A組のだいたい半分くらいの面子で、

 休日にショッピングに出かけることとなったのだった。

 

 

 肌を焼くような陽射しに青い空。視界の向こうには、入道雲がそびえ立っている。

 今朝の天気予報では夕立の心配はないと言っていたはずだけど、

 あれだけ立派に肥えているあたり、予報は外れてしまうかもしれないな。

 雨だけは降って欲しくないかな………傘を持ってきてないし

 それと、この時期になると、夏が旬の魚が美味しくなるんだよな……幾つか買っておこう。

 

「──はい!ってな感じでやってきました!

 県内最多店舗数を誇るナウでヤングな最先端!木椰区ショッピングモール!」

 

「いえーい!ナウでヤングぅ!」

 

 木椰区ショッピングモール、通称「ウーキーズ」に到着した1年A組の面々。

 結局参加は20人中13人で、まぁ急な割には良く集まった方だろう。

 

 このウーキーズ、県内で最多の店舗数だというのも十分に頷けるだけの広さだ。

 しかも、その敷地内に人がごった返しているんだから圧倒されてしまう。

 休日のお昼過ぎということで混雑がピークなのもあるだろうけど、物凄い盛況っぷりだ。

 

「──個性の差による多様な形態を数でカバーするだけじゃないんだよね。

 ティーンからシニアまで幅広い世代にフィットするデザインの物が取り揃えられているから

 こその集客力で実際見渡してみても親子連れやカップルや学生なんかの比較的若い世代から

 お孫さんを連れたお爺ちゃんお祖母ちゃんなんかもいてまさしく老若男女が──」

 

「緑谷、そろそろよせ。幼子が怖がる」

 

「というかその知識は何処から?」

 

 と、そんな一幕があった一方で、

「お!?あれ雄英生じゃね?一年生たちじゃね!?」

「うわマジじゃん!うぇーい!体育祭うぇーい!」と

 チャラい大学生みたいな人たちが謎の交信を図ってきたりもした。

 

「体育祭って、まだ覚えてる人おるんや……!」

 

「麗日って意外にそういうノリ軽いよね。ホント…………

 まぁいいけどさ、とりあえずウチ、キャリーバッグ買わなきゃ」

 

「あら、では一緒に見て回りましょうか」

 

「あ、俺もキャリーバッグ欲しいから付いて行っていいか?荷物持ちならするぞ?」

 

「ん、いいよ、お願いする」

 

 俺と響香とヤオモモの三人が一緒に行動することを決めると、続けざまに上鳴と葉隠。

 芦戸がひとまず靴を見に行くことで意見が合致していた。ついでに飯田も付いて行くっぽい。

 

 あとは峰田が「ピッキング用品と小型ドリルってどこに売ってんだ?」とか

 なんとか不穏なことを口走っていたのだが、

 その直後、障子と常闇、切島が静かに峰田くんの背後へと回った。

 どうやら監視係を務めてくれるらしい。彼らには、あとで何か奢ろう。

 まぁ、正直なところ今日止めても別に日に揃えてしまうだろうがな。

 当日に荷物検査をするのが一番いいと思う。

 

 そんなこんなで自然と目的ごとにグループが分かれていって、

 最終的には切島くんが「なんかみんな目的バラけてっし、自由行動にすっか!」と提案をした。

 

 その意見に賛同して、他のみんなも反対はしなかった。

 

「うっし、じゃあとりあえず三時にここ集合ってことで!」

 

「「「異議なーし!」」」

 

 切島の号令に声を揃えた俺たちは、あっという間に散らばっていった。

 

 三人で最初に訪れたのは鞄の専門店だった。

 リュックサックやビジネスバッグ、キャリーバッグなど取り揃えているカジュアルなお店だ。

 あまりこういう場所に来ることが無いから少し新鮮だったりする。

 買い物に来るときは大体が姉さんの付き添いだったりするから…………

 

「それにしてもすごいですね、鞄の専門店って」

 

「普段はこういう場所に来る機会もあまりないしな」

 

「私も普段はブランドごとの専門店にしか出入りしませんから、

 右も左も鞄しかないなんて新鮮ですわ……!」

 

「ヤオモモ贔屓のブランド店って……

 まぁとにかく、こういう店って大型商業施設ならではって感じするよね」

 

「にしても、種類が多い…………」

 

「どのくらいの大きさがいいんだろうな」

 

「一週間分の荷物だし、やっぱ大きいに越したことはないんじゃない?

 ボストンバッグとかもあるみたいだけど、持ち運び考えるとちょっとね……」

 

「使用頻度を考えるとあんまりお金は出したくないが、

 長持ちするだろうからあまりデザインに妥協したくないな」

 

「……というか、これだけ大きいとバッグ自体の重さも気になりますよね。

 持ち上げて運ばないといけない場面もあるでしょうし」

 

「確かに。これとか見るからに……あっ、やば重っ」

 

「大丈夫か?」

 

「うん、ありがと」

 

「……あ、あの、耳郎さん、海藤さん。

 お店の商品に勝手に触れても大丈夫なのでしょうか?店員さんに声をかけた方が……」

 

「え?いや、乱暴にしなければ大丈夫じゃないかな?」

 

「そ、そうなのですか。すみません、こういったお店は本当に初めてでして……」

 

「さすがにそれは下界の暮らしを知らなすぎるぞ」

 

「下界って…………」

 

「いや、ヤオモモが躊躇っているのはあれだ。ほら、お高いブランドショップ特有の……」

 

「……あ、あぁー……」

 

「ヤオモモレベルの金持ちが御贔屓にする高級な商品ばかりを取り扱っているような、

 ハイブランドの専門店って、展示されている商品をベタベタ勝手に触っちゃいけないんだよ。

 なんなら値札とか勝手に見るのもご法度みたいなところもある」

 

「…………うわぁ」

 

「……せっかくだから、もっといろいろなお店回りたいな。

 ヤオモモには、下々の者が体験してもらっていることを体験してもらいたい」

 

「流石に下々の者は言い過ぎだって……ま、いろいろ見て回るのは賛成だけど」

 

「悠雷は他に何か欲しいものあるの?」

 

「ん~そうだな、確か一通り家にあった筈だ」

 

「それじゃあ、ウチ等が観たいとこ回っていい?」

 

「ああ、荷物持ちするって言っただろ?」

 

「ありがと…………じゃあ水着から見たいかな」

 

「水着ですか…………私はいくつか持っていますが、新調するつもりですわ。

 少し、サイズが合わなくなっている気がしますので」

 

「……えっ……まだ……成長してるの……?」

 

「ヤオモモ、そういう話は男子禁制なんだ………」 

 

 というか、響香がヤオモモに怪物でも見るかのような目を向け始めちゃった。

 流石に俺がいるところでこういう話題は遠慮してもらいたい。

 体内の血流を操作するといっても限界はあるんだからな?ハジケルゾ?

 

「取り敢えず、近くにある店に上鳴たちが行った筈だ。合流しないか?」

 

「あ、ああうん、いいんじゃない?」

 

「そう、ですわね。せっかく大勢で買い物に来たんですから、

 このまま三人だけで行動するのは味気ないですものね」

 

「そういえばさ、二人はよく旅行に行ったりするの?」

 

「わたくしはお母様に連れられて行く事が多いですわ。

 その場合海外に行くことがメインとなりますが」

 

「羨ましいな。ウチはまだ海外に行った事は無いから」

 

「そうなのか?俺は何度か兄さんに連れられて行ったことがあるな」

 

「流石、ホークス。羨ましい」

 

「きっと実りのある経験が出来たに違いありませんわ」

 

「ただの観光だけどな」

 

「……ん?」

 

「あれ……今、スマホ鳴ったよね」

 

「私もですわ。これは……」

 

 ふと、私たち三人のスマホが同時に通知音を発した。

 

 クラス全体か、あるいは今回の買い物メンバー用のメッセージグループに

 誰かが連絡を入れたのだろうと思いつつ、画面に目を落とし──。

 

「──は?」

「「──え?」」

 

 メッセージの内容を見て、皆の血の気が引いた。

 

 緑谷が敵ヴィラン連合の死柄木弔と接触した

 ──それが、俺たちのスマホに麗日から送られてきたメッセージの中身だった。

 

 俺たちが別行動を始めた直後、緑谷は一人きりになったタイミングで遭遇したそうだ。

 その後、しばらくの間は奴の個性で命を握られながらしばらく言葉を交わしたらしい。

 そして、麗日が緑谷の下に戻ってきたところ、

 死柄木弔は追ってくるなという警告を残してその場を去っていったそうだ。

 

 麗日はすぐさま警察とヒーローに連絡をしてから俺たちにメッセージを飛ばしてくれたらしい。

 集まった俺たちはショッピングモールの警備員さんたちに待機しているように言われて、

 その間に緑谷と麗日から詳しい話を聞くに至った。

 

 さらにその後、警察とヒーローが到着次第ショッピングモールは閉鎖された。

 そして、お客さんの避難誘導と死柄木弔の捜索が開始された。

 

 結局、捜索は夕方まで続いたものの、死柄木弔は見つからずじまいだった。

 敵ヴィラン連合のワープの個性持ちがいることからそもそも逮捕の望みは薄かったが、

 防犯カメラの映像以外にその足取りは残されていなかったようだ。

 

 ともあれ、ようやく帰宅の許可が下りた俺たちは

 改めて保護者に連絡を入れて、親御さんに迎えに来て貰える人はそれを待ち、

 諸事情で迎えに来てもらえない人は警察に家まで送り届けてもらうこととなった。

 ちなみに俺はもちろん後者であり、パトカーで家まで送ってもらったのだった。

 

「──と、まぁ君たちは君たちで連絡を取り合っていただろうが、昨日そんなことがあった」

 

 翌日の学校、朝のHRにて、相澤先生の口からも事の顛末が語られた。

 

 ただ、相澤先生が言った通り、昨日すでにクラス全体のメッセージグループで

 事情を説明してあったので、特に驚いている人は見当たらなかったのだが……。

 

「……で、夏休みの林間合宿だがな。敵ヴィランたちの動きを警戒して、

 例年使わせてもらっている合宿先はキャンセル。当日まで行先を明かさない運びとなった」

 

「「「え──―!?」」」

 

「俺、もう親に言っちゃってるよ……」

 

「故に、ですわね。話が誰にどう伝わっているか把握できませんもの」

 

 尚、これを受けての爆豪による「骨折してでも殺しとけ」発言で教室内が騒がしくなり、

 教師相澤のこめかみがヒクついたのは余談である。

 ………久しぶりに恐怖を感じました。

 




自分で読んでみて思ったけど、他の人にパクりみたいに見えるかも
ちょくちょく修正は入れるので、そこのところごめんね


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第23話 夏休み、とある日のプールより

お久しぶりです。夏休みのプール回です。


 夏休みの課題が大体終わり、姉さんの事務所にでも遊び……手伝いに行こうと思っていた頃。

 緑谷からプールで一緒に訓練をしない?とお誘いを受けたので参上した。

 まさか水着を最初に着るのが緑谷の誘いだとは思ってもいなかったな。

 今年はまだ海に一度も足を運んでないな………臨海合宿の前に行っておかないと

 

「──む、海藤くん、久しぶりだな!!」

 

 そんな俺を出迎えてくれたのは筋肉モリモリマッチョマンの変態…………

 …………いや別に変態じゃないけど、とにかくやたらとガタイのいい男が俺を出迎えた。

 

「……えっと、飯田……なのか?」

 

「む?ああ、水泳帽とゴーグルでわからなかったか!すまない!」

 

 気配では飯田だと分かっているのにびっくりするくらいわからなかった。

 正直に言わせてもらうと「ほらこの通り!」なんてゴーグル外してもらっても微妙。

 メガネかけてくれないと……いやまぁ、ふくらはぎ見ればわかるけどさ。

 やはりメガネが本体であったか…………あと目が三みたいになるお約束は無し?

 少しだけ期待してたんだけども

 

「もしかしてだが、全員来ているのか?」

 

「いや、切島くんと爆豪くんだけ来ていないな。

 プールの使用許可は、上鳴くんと峰田くんが取ってくれていたんだ。

 夏休み中の訓練に、とな。そして、緑谷くんが男子の皆に連絡をくれたのさ!」

 

「え?あの2人が?」

 

 プールの方に目をやると、ちょうど向こう側に泳ぎ着いたらしい黄色い頭とブドウ頭が

 水から上がってきていて、俺と飯田の方に顔を向けた。

 

 そして、どうもこちらの存在に気が付いたらしく、物凄い勢いでこちらに走ってきた。

 あいつらは転んでしまってもいいのか?水操ってプールの底に沈めるぞ?

 

「峰田くん上鳴くん!危険だからプールサイドを走っては──」

 

「──海藤!!遅いぞ!!楽園を作るためにはお前の協力が必要なんだ!!!」

 

「その通りだ!!普段から優等生なお前の意見なら女子たちも聞いてくれるはずだ!!」

 

 少しは飯田の言っていることも聞いてあげよう?

 ものすごい勢いで落ち込んでしまっているじゃあないか。

 ………にしても、相も変わらずというか………

 

「……二人とも、さては女子の水着姿目当てで借りたんだな?」

 

「え、は!?そ、そそそそんなわけねぇだろ!?」

 

「そ、そうだそうだ!濡れ衣だ!

 俺たちは来たる林間合宿に向けて少しでも研鑽を積もうとだな……」

 

「じゃあ、あとで扱いてやるから」

 

「「…………え?」」

 

 まぁ、取り敢えず2人の事は放っておくとして…………女子もその後来るとみて間違いないな。

 そこは来てから考えておくとして、俺に気が付いた他の男子たちにも軽く手を振っておく。

 いつからいるのかわからないけど、みんなまだまだ元気そう。

 もう少し早く来ておけばよかったかな?

 

 それからしばらくして、女性陣が到着した。

 芦戸、梅雨ちゃん、葉隠が元気溌剌といった感じでプールの中で泳いでいる。

 他の三人はプールサイドに座って水の中に足をさらしていた。

 

 ヤオモモの隣にいる響香だけども、サイズの違いが…………あ、なんでもないです。

 

 恐ろしい恐怖を放っている響香から目を逸らして、軽く柔軟体操をする。

 

 ついでに持ってきたヘアゴムで簡単に髪をまとめて、いざプールへ。

 やっぱり髪を切ろうかな?この長さだと結ぶ必要があるし

 でも、この長さに慣れちゃったから切りたくないジレンマよ。

 

「……あぁ~……」

 

 そこまでの深さはないがプールの底に沈む。

 みんなが騒いでいる声も聞こえなくなり、静寂が身を包む。

 陸にいる時よりも心が安らぐのは個性によるものなんだろうな。

 

 気が済むまで潜り、その後浮上する。

 両手両足をだらんと広げ、完全に脱力した状態でプカプカと浮くことにする。

 男子は相変わらずに泳いだり、会話をしたりしている。

 女子は八百万製のビーチボールで水中バレーをしているのが見えた。

 

 そして、飛んできたボールの直撃を受けて再び沈んだ。

 

 ──しばらくした頃、浮上すると男子たちがいる方から怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「なんだ…………爆豪か…………」

 

「いや、潜らないでよ」

 

「めんどくさいから…………ダメ?」

 

「ダメ。そろそろお呼びがかかると思うしね」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

 浮かび上がってきた俺の方に来た響香と会話をしつつ、プールの入口に目を向ける。

 プールの入り口にいたのは、薄い金髪のボンバーヘッド。それと、あの赤い髪は切島だ。

 2人の様子を見ている限り、爆豪は無理やり連れてこられたのか?

 無理やりというよりは挑発された形になるんだろうな。

 

 爆豪が突っかかっている相手は、例に漏れず緑谷くんだった。

 おまけに轟にも何やら勝負を吹っ掛けているようだけど、大変だねぇ……

 

 その様子を完全に他人事気分でその光景を眺めていたら。

 

「──おいクソトカゲェ!てめぇもだ!てめぇもここでぶちのめしたらァ!!」

 

「…………やっぱり?」

 

「応援してるから、頑張ってね」

 

「ありがとさん」

 

 本当になんでか知らないけれど、爆豪の怒りの矛先は、何故か俺にも向けられていた。

 マジで全然意味がわからなかった。

 

 怒られることなんて…………結構心当たりあったわ。

 幾つかの例を挙げさして貰うとすると、激アマ麻婆豆腐にすり替えたり、髪を七三分けにした。

 他には肋骨を数本叩き割ったり、全身の筋肉を痙攣さしたり猫耳を付けたり…………etc.

 まぁ、水中こそ我が縄張りよ…………勝てると思うんじゃあねえぞ?

 

 

 で、第一回雄英高校1年A組水泳大会、50m自由形が開催されることになった。

 第二回があるのかどうかはわからないけど、とにかくそういうことになった。

 女性陣はプールサイドで観戦です。

 どうせなら女性陣も参加することにすればよかったのにな。

 

 爆豪の宣戦布告を発端として、訓練ばかりでは面白くないから水泳で競争をしようという事。

 

 予選として男子5人、5人、4人の3グループでそれぞれ競争。

 各グループの1位3名でさらに決勝戦を行うという方式に。

 ちなみにグループ分けは、八百万ブランドのくじ引きによって完全ランダムで決定された。

 

 そして、学校敷地内ということで個性の使用も含めた自由形。

 ただし、故意の妨害のみは禁止というルールが敷かれた。

 個性使用ありの水泳競争とは、なかなか楽しそうだ。

 体育祭の障害物競走を思い出すな…………懐かしいよね。

 

「さて、それじゃあ男子第1グループのみんな、位置についてくれ!」

 

 飯田がそう言うと、飛び込み台に上鳴、爆豪、轟、常闇、峰田の5人が並んだ。

 優勝候補はやはり爆轟コンビか?体育祭の焼き直しになるのか、それとも…………

 

「んー海藤は誰が一番だと思う?」

 

「爆豪かなぁ。個性使用がありなら空中機動力が高い爆豪が有利だ。

 如何に凍結だとしても、妨害にならないようにして、爆豪について行くのは難しいだろ」

 

 暇な俺はゴールの判定係。何故か響香は付いてきてくれた。

 まぁ、水中のスペシャリストとして予想を外すわけにはいかないな。

 どうせ爆豪は泳いだりしないんだろうけど…………

 

 もしも、妨害ありのルールだったら上鳴が最強だっただろう。

 全員が飛び込んだ後に水中で放電すれば残らずノックアウトで勝ちだ。

 問題点としては空中の爆豪には当たらないくらいだろうか?

 

 まぁ、最後のは流石に冗談として、はてさてどうなることやら。

 

「──それでは参ります!位置について!よーい……」

 

 ピッ、とホイッスル(八百万ブランド)が鳴って、5人が一斉にスタートした……んだけど。

 まぁ、そうなりますよね…………うん。仕方ないね。

 

「〝爆速ターボ〟!!!」

 

「えぇ……」

 

「仕方無いね。だって爆豪だもの」

 

「なにその理論………」

 

「近年発表された爆豪理論だよ」

 

 爆豪が泳いだのは、水中ではなく空中だった。

 日頃のヒーロー基礎学でも時たま見せる、連続した細かな爆発での空中移動だ。

 

 そして当然、爆豪は二番手以下に圧倒的な差を付けて50mを渡り切った。

 轟は律儀に泳いでいたというのに…………このみみっちい男は…………

 

「どォだこのモブども!!」

 

「どうだじゃねぇ!!!」

 

「泳いでねぇじゃねぇか!!!」

 

 勝ち誇った爆豪に瀬呂と切島がツッコミを入れた。

 だが、爆豪は「自由形っつっただろーがァ!」と反論。

 ルール説明の時に空中は禁止とも言われてないものね。

 

 続く男子第2グループは切島、俺、砂糖、青山、瀬呂の5人。

 

 ヤオモモが吹いた笛と同時に水中へと飛び込んだのは切島と砂藤だけ。

 

 瀬呂は爆豪のように空中に躍り出てテープを射出し、対岸のフェンスに貼り付けた。

 そして、これを巻き取って高速移動を図った。

 

 また、青山は合図と同時にお腹に巻いてあるベルトからネビルレーザーを放って推進。

 

 そして、俺は水面を走ることで進みました。

 子供の事に皆も思ったのではないのかな?沈む前に足を出せばと…………

 その余波で二人の犠牲者が出たので、黙禱…………

 

 過半数が泳いでないことはさておき、途中までは結構いい勝負だった。

 だが、青山が「はうっ!」と情けない声を上げてレーザーの発射を中断。

 そしてあえなく空中で体勢を崩して、これに瀬呂が巻き込まれて二人して水没。

 

 砂藤がやはり個性もあってかなり良い速度で泳いでいた。

 切島も根性で頑張っていたよ…………俺とレーンが隣でさえなかったらね…………

 身体強化で電気が漏れ出てしまうのは故意ではないので失格にはならないがな!!

 

 予選第3試合、男子第3グループは障子、尾白、緑谷、飯田の4人による戦いだった。

 

 で、勝敗はというと、結論から言えば緑谷の勝利。

 しかも飯田との接戦を制した上での勝利で、今日一番の盛り上がりを提供した名勝負だった。

 

 飯田がどうやって緑谷と競り合ったのかって?

 麗日が爆笑しているというのがすべての答えさ…………

 

 ……まぁ、飯田も非常に惜しかったのだが、緑谷の超パワーには僅かに及ばなかった。

 いやぁ、一人くらいはちゃんと泳いで勝ち上がる人がいてよかった。

 これでなんとか水泳大会の体裁は保てる……保ててるか?

 一番泳がないといけない奴が泳いでいないというツッコミは受け付けねえぜ。

 

「──よし、これで決勝進出者が決まったな!」

 

 飯田がいつも通りのカクカクジェスチャーをしながら、仕切り直すようにそう言った。

 みんな、自然と飯田に注目する。

 

「爆豪くん、海藤くん、緑谷くんの3人で優勝を決める!

 基本的なルールは予選と同じで、50mの一本勝負だ!」

 

「ハッ、ちょうどぶっ殺したかったヤツらが上がってきやがったなァ!」

 

「あ、直接攻撃は禁止だからね?」

 

「わかってるわぶっ殺すぞ!!!」

 

 まぁ、とにもかくにも決勝戦。

 プールの使用時間が怪しいので休憩は挟まず、そのままの流れで行われることになった。

 

 第1レーンから順に爆豪、俺、緑谷。

 爆豪と緑谷の2人を隣にするとレースどころじゃないからね…………

 

「それでは、第一回雄英高校1年A組水泳大会、50m自由形の決勝戦を始める!」

 

 飯田の言葉と共に、俺たちはそれぞれのレーンの飛び込み台へと上がる。

 

 今回はちゃんと泳ぐために部分的な竜化を発動しておく。

 2秒を切れたりしないかな?頑張ろう。

 

「位置について!…………よーい…………!」

 

 ──笛の音が鼓膜を震わせた瞬間、水の中に飛び込んだ。

 

 完全に潜り切る直前、何やらどよめきが聞こえたような気がした。

 まぁ、気にせずに泳ぎ切る。2秒はたぶん切れたと思う。図ってないけど

 

「ふぅ…………気持ち良かっ…………あ」

 

 水面に浮き上がり、みんなのいる方に顔を向けると、我らが担任相澤先生の姿があった。

 目が赤く光り、髪の毛が逆立っている……先生の個性『抹消』が発動している証拠だ。

 爆豪と緑谷はスタート地点で抹消されてそのまま止まっていたみたい。

 

「17時。プールの使用時間はたった今終わった。早く家に帰れ」

 

「先生、そんなご無体な!」

 

「せっかくいいところなのに!」

 

「ふたりがどれだけ食らいつくか見たかったのに!!」

 

「なんで俺が負ける前提なんだ!!ぶっ殺すぞ!!」

 

「だって、アレはねぇ」

 

「私もアレには勝てる気がしないわ…………」

 

「そんな化け物みたいに言われても…………」

 

「戻ってくるのも速すぎなんだよなぁ」

 

「──なんか言ったか?」

 

「「「なんでもありません!!!」」」

 

 俺たちはソッコーで帰宅の準備をすることになった。

 

 日の入りまではまだ一時間以上もある筈だ。

 けれども、廊下の窓から見える空はすっかり茜色だ。

 

 既に乾ききった髪の毛に手櫛を入れると塩素の匂いがふんわり漂ってきた。

(個性で脱水した…………女性陣の髪もやったので競争よりも疲れた)

 

「…………楽しかったなぁ」

 

 水泳大会の決着がつかなかったのは残念だったけど、今日は本当に楽しかった。

 雄英に入ってから随分と色々な事があって、少しきな臭い出来事があった。

 それでも最近はものすごく普通に高校生をやれている感じがする。

 

 まだ学生なんだから、なんて甘えたいわけじゃないけれど。

 

 でも、一日でも多くこういう日があればいいのにな、と心の底から思った。




モチベーションの低下が著しいので不定期ですのでご了承ください。
あ、感想くれると嬉しです!!


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二人の英雄 1

 人工移動都市"I・アイランド"

 ここでは個性技術博覧会と銘打たれたイベント"I・エキスポ"が行われる。

 

 世界中の科学者、技術者が集まり、日々様々な事柄を研究している

 I・アイランドだからこそ、その規模は大きく、発表される内容も最先端だ。

 

 勿論、一般市民も楽しめるように、技術を応用して作られたアトラクションもある。

 が、ヒーローや候補生、企業などは、公開される情報や試作された実物に興味を持つ。

 そういったあらゆる方面から注目を集めるイベントなのだ。

 そう、ヴィランも含めて………

 

 そんな、移動都市の名を冠する島の空港に2人の少年と1人の少女の姿があった。

 

「空港の時点で最新技術のオンパレードだな」

 

「一般開放されてからだと、混みすぎて見れないだろうね」

 

「…………俺がこんな場所に来てもよかったのか?」

 

 3人は、珍しい光景に素直に感嘆していた。

 一人はやや卑屈な思考回路を持ち合わせているようだが…………

 

 一般公開前のI・エキスポにこの3人がやって来た理由は、至ってシンプルだ。

 プロヒーローであるホークスとリューキュウの元に招待状が送られ、それを使ってきたのだ。

 普段は自由に動いている兄だが、ヴィラン連合のお陰様で来るのが難しくなり

 最近になって余裕が出てきた姉の方は、友達と行ってきなさいと快く送り出してくれた。

 姉の管轄地域に余裕が出てきたのはミッドナイト先生が出張に来たからだったりもする。

 尚、百合百合な同人誌の売り上げも上がった模様…………ご馳走様。

 

 ちなみに、同伴者の枠を巡ってはアミダくじ大会が開かれ、非常に白熱したと添えておく。

 尚、勝ち残ったのはB組とC組の生徒だった模様。

 プライド故にこちらをずっと見ていた物間くんは面白かったです。

 

「スーツケースはホテルの部屋まで運んで貰えるんだってさ」

 

「あ、一人一部屋で予約してあるから部屋番号覚えておいてね」

 

「至れり尽くせりだな。まあ、管理側にもメリットもあるだろうが」

 

「いや、俺のポケットマネーからだよ?」

 

「…………聞かなかったことにしていいか?」

 

「心操への請求はヒーロー科に上がることでチャラにしておくから」

 

「え、私は?」

 

「今度、姉さんが会いたいってさ」

 

「マジ?」

 

「マジ」

 

「えっと、日にちの指定とかある?」

 

「夏休み中ならいつでもだとよ。それと、相手が兄さんじゃ無くなったってだけでも御の字よ?」

 

「そうなのかな?なんにせよありがとう」

 

「いいってことよ」

 

「にしても長いな。やはり警備が厳しいのか?」

 

「まぁ、タルタロスと同じレベルの警備だからね~」

 

「島っていうのもあって検査とか時間かけられるしね」

 

「もしも、普通の空港ならお客さん待たせるから大変だ。さすがは最新鋭」

 

「ねぇ、そろそろ移動しない?」

 

「確かに、ここに留まり続けるのは勿体ないからな…………轟?」

 

 そろそろ移動しないかと拳藤が海藤に声を掛ける。

 それに応じてパンフレットから視線を上げた海藤の目に、見覚えのある紅白の頭が映った。

 

「轟、お前も来ていたのか」

 

「…………海藤。それに拳藤と、心操だったか?ああ、親父の代理でな。

 そっちは確か………体育祭ので招待されてたな」

 

「いや、それは爆豪に譲ったよ。俺は姉さんと兄さんから譲って貰った」

 

「私は海藤に誘われてね」

 

「俺も拳藤と同じだ…………ランキング入りするヒーローなら、そりゃ招待も来るか」

 

 どうやら轟と同じ飛行機に乗っていたようだ。

 到着まですれ違うことすらなかったとは奇妙な偶然もあったものだ。

 それとも、ランキング上位のヒーローへの招待状の時間は同じだったりするのだろうか?

 下手にオールマイトとエンデヴァーを同じ便に乗せると便燃えない?

 

「こちらの招待主への挨拶は夜のパーティーで、という話なんだか、轟は?」

 

「同じだ。代理で学生の俺が行くって知らせたら、昼間は見て回るといいっつってくれてな」

 

「それじゃあ、轟も一緒に回らないか?知り合いがいると心強い」

 

「俺も慣れてねえんだがな…………」

 

「俺と一緒は嫌か?」

 

「なんかお前、捨てられそうな犬みたいだな…………まぁ、いいか」

 

「というか、あの場に慣れているのは八百万くらいのものだろうな」

 

「何度か行ったことがあるっていうのもだいぶヤバいと思うんだけど…………」

 

「こいつらに関しては気にしたら負けだと思うぞ」

 

「君達も大概に酷くないか?」

 

「「気のせいだ」」

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 "ヴィランアタック"と名付けられたアトラクションを囲む観客席。

 フィールドとの境界にある手すりで、かぶりつく一団に近寄るの拳藤と心操。

 

「あれ?みんなも来てたんだ」

 

「わ、心操くん!?」

 

「久しぶりだな」

 

「どうして心操くんが?」

 

「あ、そういやあのアミダ大会の時、緑谷居なかったっけか。

 海藤が貰ってきた招待状の付き添い枠だよ。そこにいる切島と同じさ」

 

「拳藤さん。お久しぶりですね」

 

「うん、久しぶり」

 

「拳藤、その悠雷はどこ行ったの?」

 

「ああ、それなら──」

 

『おーっと、記録14秒!またまたトップが入れ替わりましたぁっ!』

 

 説明しようとした拳藤の言葉が遮られ、興奮したスタッフの声が響き渡る。

 何事かとそちらを向けば、皆が見慣れた紅白頭と氷結が観れる。

 

「轟くん!」

 

「何でてめえが居やがる、半分野郎!」

 

 氷山を作り出した轟に、驚く一同。

 そんな中で爆豪だけはすぐさま飛び出し、轟へと向かっていく。

 恐ろしいまでの速さ、私じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 ………思考が海藤みたいになってない?大丈夫かな………

 

「彼、とっても恐い顔ね」

 

「いえ、まだギリギリ放送できるレベルなので大丈夫かと。

 極稀に、お子様に見せられなくなりますので」

 

「ふふ、楽しそうね」

 

「……退屈とは、無縁ですわね」

 

「「確かに……」」

 

 八百万と親しげに話す女性は誰なのだろう?八百万と同じようにお嬢様?

 なんにせよ、紹介してもらうのは二人が合流してからの方がいいかな。

 それぞれが思い思いに過ごしていく中も事態が進行していく。

 

『あのう……次の挑戦者が居ますので……』

 

『ああっ!?知るか関係ねえ!俺が半分野郎の記録塗り替えんだ!』

 

 困惑するスタッフのマイクに、しっかりと爆豪の怒号が入っていた。

 流石に止めないと不味いのではないかと数名が動こうとするが、また聞きなれた声が聞こえた。

 

『………まぁ、いつものことだよな。構いませんので、始めてください』

 

『ええっ!?ま、まあ当人が言うなら……では、続いてのチャレンジャー、スタート!』

 

 怒鳴る爆豪も、残された氷も。

 ここでいちいち気になんかしていたらきりがないだろうと判断して個性を発動する。

 このアトラクションは、フィールド内の仮想ヴィランを全て破壊するタイムを競うもの。

 広範囲における瞬間火力という点でおいてA組に海藤を越える者はいない。

 演出もかねて、雷を纏いながら完全竜化状態へと移動する。

 

『サンダー・ボルト』

 

 USJで放った轟雷ブレスを凝縮して放たれた雷撃。

 観る人を魅了するほど幻想的で、喰らうものを滅ぼす雷は機械仕掛けのヴィランに到達。

 彼らの抵抗もむなしく呆気なく無力化してしまった。

 ………跡形もなく破壊したけど弁償とかないよね?

 

『は、早ーい!9秒!文句無しの新トップです!』

 

「それじゃあ、爆豪くんはこっちですよ~」

 

 爆豪の意識が完全に記録に向いている隙をついて、雷で作った鎖が爆豪に向かう。

 瞬間的に反応した爆豪は、すぐさま回避行動に移ろうとする。

 しかし、海藤の意を汲んだ切島が飛びかかることで失敗。

 背後から組み付かれる上で、仲良く感電することになってしまった。

 

 だが、ここで終わるような男ではないと、特にクラスメイトは知っている。

 

「緑谷と心操!拘束するの手伝ってくれ!」

 

「飯田、引っ張り上げる。手を貸してくれ」

 

 普段の訓練の成果を遺憾なく発揮し、迅速な対応を見せるの。

 だが、その相手が同じヒーロー志望のクラスメイト…………その姿はどこか残念なものだった。

 

 いつも通りに目を釣り上げてがなる爆豪の姿に、女子4名が溜め息を吐いてしまう。

 なんだかんだこの光景が日常に成り始めて…………成っている事に拳藤は軽い眩暈を覚えた。

 

 

 ▼▼▼

 

 

「ん?飯田からだ」

 

 八百万と会話していた金髪の女性、メリッサ・シールドとしばし言葉を交わした後

 緑谷たちとそのまま別れてエキスポ巡りを行っていた。

 

 一通り周り、休憩にと入ったカフェで、3人の持つスマートフォンが一斉に震える。

 その光景に心操が羨ましそうな視線を向けているのが印象的だった。

 連絡先を交換してもいいか聞いておこう。

 

「レセプションパーティ、一緒に行かないかという誘いか。

 せっかくだし、断る理由も無いな。返信してしまうが良いか?」

 

「初めてだから不安だったけど、海藤も飯田も慣れてるっぽいし助かる」

 

「行ったことのない身としてはむしろ助かる」

 

「俺も問題ねえ…………あとは少なくとも、八百万は慣れてそうだな」

 

「轟も行ったことありそうなのにまったく未経験で驚いたよ」

 

「気負いすぎだぞ?別に敬語さえ使っていれば、普段通りで良かろうに」

 

 拳藤と心操としては、形式張ったパーティーなど初めて。

 右も左もわからないような状態だった。

 その為、経験のありそうな2人に聞けば良いと考えていたのだが。

 

 フタを開けてみれば、轟にパーティーへの出席経験は無し。

「まぁ、なるようになる」スタンスの轟はまだ良かった。

 身近な人が凄い人なせいで感覚がマヒしている節のある海藤…………

 

 雄英の看板を背負っての出席にプレッシャーを感じている二人からすれば…………

「ダメだコイツら……」と思わずにはいられなかった。

 落胆されている轟と海藤からすれば堪ったものではないとも思うが

 

「しかし、緑谷の人間関係は一体どうなっているんだ?

 かのデヴィット・シールドのご息女に案内されるとは、オールマイトとでも来てんのかよ」

 

「突拍子がねえのが、緑谷だからな」

 

「授業中に空気イスやっちゃうようなね。

 でも、2人ともメリッサさんに随分質問攻めされてたね」

 

「どうやら緑谷のように個性の考察に我を忘れるタイプみたいだな。

 まぁ、女性が緑谷の持病を発症していなくてよかったよ」

 

「あれはホラーだからね」

 

「俺の半冷半燃はまだしも、海藤のは解明し甲斐があるからな」

 

「姉さんの個性と同じかと思えば、よく分からないことも多いからな」

 

「この前の試験でまた成長したんでしょう?」

 

「俺も上手く説明できないんだよ。あの時は本能のまま動いてたからなぁ…………」

 

「…………個性が強くても謎が多いのも考え物だな」

 

「ちなみにだけど、俺の血を武器に塗るとものによっては切れ味が上がる」

 

「どういう理論なの…………」

 

「俺からすりゃあ、お前らなんかが羨ましくもあるけどな。やれることが増える」

 

「隣の芝生は青く見えるものだからね。シンプルに強い轟の個性がとか羨む人も多いでしょ?」

 

「自分に出来ないことが出来るヤツ、ってなるとね。そりゃあ多いだろ。

 俺も昔はそう考えてた頃もあったしな」

 

「仲いいな」

 

「轟も最近は緑谷や飯田とよく話しているだろう?

 苦難を共に乗り越えると、連帯感が生まれるものだ」

 

「…………苦難?」

 

「俺は騎馬戦を一緒に戦っただけだけど」

 

「私はなにかあったっけ?写真撮ったくらい?」

 

「少しは乗ってくれても良いんだぞ?」

 

 

 ▼▼▼

 

 

 18時30分。飯田から告げられた集合時間に、雄英高校1年A組の生徒たちは──

 

「何をしているんだ緑谷くん! 集合時間はとっくに過ぎているぞ!」

 

 ──半分ほどしか集まっていなかった。

 オーソドックスな紺色のスーツを、性格通りにキッチリと着こなす飯田。

 彼は、電話越しに緑谷を呼び立てていた。

 

「とっくにって言っても今31分だけどね」

 

「何を言うんだ拳藤くん! 5分前行動は基本だろう!」

 

「まあ、そうなんだけどさ。むしろ問題は……」

 

「あの2人なんだよな…………」

 

「ふぬぐぐぐ」

 

「うぬぬぬぬ」

 

 何やら壮絶な表情を浮かべる、峰田と上鳴が居た。

 …………まぁ、考えていることは大体わかるんだけど

 

「落ち着けよ2人とも。爆豪と違うベクトルで放送出来ない顔になりつつあるぞ」

 

「うっせー!何で、何だよぉ……!」

 

 震える峰田の指先が向けられた先には。

 

「雄英体育祭、カッコ良かったよ轟くん!」

 

「実物もハンサム!」

 

「……どうも、ありがとうございます……?」

 

 オフホワイトのスーツ姿で、いまひとつ状況がわかっていない表情の轟がいた。

 峰田が血涙を流さんばかりなのは単純。

 轟が数多くの女性陣、それもドレスアップした人たちに囲まれているからである。

 

「イケメンならここにも居ますよ〜……」

 

「上鳴は"残念なイケメン"だからね」

 

「ドチクショウ!」

 

 涙を流して床を叩いている上鳴と、今にも呪いのひとつも放ちそうな峰田。

 当然ながら誰も近付いては来ない…………むしろ、遠巻きにしている。

 

 かく言う海藤も、先程までパーティーの参加者に声をかけられてはいた。

 声を掛けてくれた方の中には轟に群がっている人もいたが、隣の拳藤を見て去っていった。

 

「海藤は混ざらないでもいいの?」

 

「いや、平気だ。知らない人といるよりも親しい人といる方が落ち着くし」

 

「…………というか、なんで悠雷には来ないんだ?来ても可笑しくないだろ?」

 

「そりゃあ、拳藤が隣にいるからな。いなかったら彼女らの相手をしてたと思うぞ」

 

「ああ、恋人だと勘違いしたっていう事?」

 

「そゆこと」

 

「ふ~ん?」

 

「移動中にお願いしたじゃん?」

 

「いや、ね?」

 

「ジト目止めてくれない?」

 

「二人ともいちゃつくなら他所でやってくれない?」

 

「「いちゃついてないが?」」

 

「やっぱ、雄英の注目度って凄いんだなあ」

 

「だからこその時間厳守だというのに!」

 

「緑谷、何があったんだ?」

 

「いや、理由までは確認していない。彼も慌てていたようだしな。急ぐとは言っていたが」

 

「女子は!?」

 

「申し訳ないが遅れてしまう、という連絡があった。先に会場へと言っていたが……」

 

「折角だし待とう。招待してくれたトコへの挨拶は済ませてるし、置いてけぼりってのもね」

 

「うむ。そうしようか」

 

 そうこうしている内に、パーティー開始の時間が迫る。

 会場へと向かう女性たちにそのまま連れられそうな轟を海藤が救出し、4人に合流した。

 いや、簡単に連れ去らされすぎだろ…………エンデヴァーさんも対処法教えてあげて?

 

「……すまねえ、海藤。助かった」

 

「こういうのは慣れだ、轟。もっと強引な奴もいるから気を付けた方がいい」

 

「そうなのか?」

 

「ああ、以前のパーティーの時はお持ち帰りされて、部屋に監禁されそうになった」

 

「そこまでするものなのか?」

 

「女は怖いぞ?」

 

「そうなのか」

 

 部屋にお持ち帰りという言葉に反応した約2名の怨嗟の視線をスルーして、笑う。

 あの時は本当に恐怖を感じた…………その後の姉さんの怒り様の方が怖かった。

 もうすでに終わった事であるけれども2人が女性関係に厳しいのはこれが原因か?

 中学時代の一件もあるしね…………女難の崇でも出てたりする?

 

「2人とも大人気だな」

 

「心操は髪を整えるだけでもだいぶ変わると思うけどな」

 

「そうか?」

 

「まぁ、なんにせよ人気があるのはいいことだよね」

 

「プロになってガッカリされない様に気を付けないとな」

 

「……プロはすげえな」

 

「女の子に囲まれるんなら良いじゃねーか!」

 

「そうだそうだ!」

 

「お前さんらはいつか美人局とか引っかかりそうだな」

 

「美女に騙されんなら本望だ!」

 

「筋金入りかよ」

 

 エントランスに気心の知れた者たちだけとなった事で、緊張が解けて笑いが起きる。

 何回行ったとしても緊張しないという事はないからな…………それにしても遅いな。

 

「ううむ、しかし皆遅いな」

 

「飯田。女性の身支度に時間がかかるのは世の常だ。

 緑谷は…………メリッサさんと何かあったかオールマイトでも見かけたんだろ」

 

「何だとぅ!」

 

「ひと夏のアバンチュール的なアレか!?」

 

「オールマイトの下りを納得してしまった自分がいる…………」

 

「適当に言ってみただけだ。事実は小説よりも奇なりっていうだろ?」

 

「適当すぎんだろ。緑谷にそういうイメージは…………否定しきれない」

 

「…………もっと信頼してやれよ」

 

「海藤が言い出したんでしょ?」

 

「はて?」

 

「誤魔化し方へたくそか」

 

「ゴメン!遅くなって……」

 

「緑谷ぁっ!てめえコノヤロー!」

 

「うわあっ!?何、峰田くん怖いよ!」

 

 慌てた様子の緑谷に、峰田が真っ先に詰め寄る。目をかっ開いた鬼気迫る表情は確かに怖い。

 女性もそうだが、男の執念というのも怖いものだからな…………

 

「……何故、峰田は信じているんだ」

 

「峰田だからだろ」

 

「そういうところを直せば少しは良くなると思うんだけど…………」

 

「ゴメンね、遅くなってしもた!」

 

 次いでやって来たのは、麗日だ。

 薄い桜色の華やかに広がるスカートが、彼女によく似合っていた。

 あの生地は見る限りかなり高価なもの…………ヤオモモから借りたのか?

 その美しさは執念で詰め寄っていた峰田がそれを忘れるほどだ。

 

「「おお~!!」」

 

「こういうの、着たことないから何や、照れるなあ」

 

「よ、よよよ、よくに、ににに、似合ってるよ、麗日さん!」

 

「えへへ。デクくんもカッコいいね!」

 

 薄っすらと頬を染めながらも笑う麗日に、純情少年である緑谷はもはや挙動不審のレベル。

 相手がその程度で動じたりはしない麗日だからこそ、会話になっているような状態だ。

 この状態だけ切り取れば峰田といい勝負をすると思う。

 

 そうしている間にも、更にもうひとつ、エレベーターの扉が開いた。

 

「申し訳ありません、遅くなってしまいました」

 

「「おおお~!!」」

 

 ライトグリーンのドレスに身を包む八百万と、照れてしまいその陰に隠れる響香であった。

 変態…………もとい、紳士の反応が大きいのはやはりあれか?胸なのか?

 響香の健康的な太もももいいと思…………殴(((((

 

「ウチこういうのは、その」

 

「馬子にも衣装ってやつだな!」

 

「女の暗殺者みてえ」

 

 不用意な発言をした峰田と上鳴…………それを許す響香ではない。

 あっけなくイヤホンジャックに撃沈させられるのは、既にお約束と化しつつある。

 

「何でだよ、俺褒めたじゃんか!」

 

「褒めてない」

 

「馬子にも衣装というのはその言葉の通りに

 もとは"みすぼらしい人が身なりを整えればそれなりに見える"という意味から来ている。

 褒めるというよりは貶しているのに近いからな?」

 

「……そーなの?」

 

「ああ、コイツそういや普段からアホだったわ……」

 

「素材から美少女だし、その言葉は当てはまらない」

 

「そーだよな。キレイ系っつーか、スタイリッシュっつーか」

 

「~っ!うっさい!」

 

「「ぎゃあああっ!」」

 

 上鳴と海藤がイヤホンジャックに沈んだ後。

 再度、エレベーターの到着を知らせる電子音が鳴る。

 

「みんな! どうしたの、もうパーティー始まってるわよ?」

 

「「お、おおお~!!!」」

 

 青を基調とした、気品と美しさを引き立たせるドレスで現れたメリッサ。

 その姿を見て上鳴と峰田から邪な歓声が上がった。

 

「もう俺、どうにかなっちゃいそう」

 

「……どうにでもなれ」

 

「そら、己のことの前にすべきことがあるだろう」

 

「そ、そうだった!オイ峰田!」

 

 2人並んでメリッサの前に立つと、同時に美しく90度に腰を曲げる。

 

「「ご招待いただき、ありがとうございます!」」

 

「え、ええ?もしかして、そのために待っていたの?」

 

「ウス!招待状くれたメリッサさん置いて行くとか出来ねッス!」

 

「パパ宛てに来たチケットの余りだから、気にしなくても良いのに……フフ、真面目ね」

 

 微笑むメリッサに、2人がときめいたりしつつ。

 さあ会場へ向かおうか、というところで、異変が起きる。

 

『I・アイランド管理システムよりお知らせします。

 警備システムにより、I・エキスポエリアに、爆発物が仕掛けられたとの情報を入手しました。

 I・アイランドは、現時刻をもって厳重警戒モードへと移行します』

 

 …………嫌な予感がするな。



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二人の英雄 2

「携帯は圏外だ。情報関係は全て遮断されてる」

 

「エレベーターも反応無いよ」

 

突然の緊急事態を告げる放送に、それぞれが即座に対応を試みるが芳しくはない。

タルタロスと同じ警備と聞いていたが、あそこもそのうち破られない?

オールマイトと同格のヴィランが現れでもしたらあっさりと破られる気が…………

物理的な破壊だけなら今のオレでも出来なくはないだろうしね。

あれ?防衛設備弱すぎ?帰ったら兄さんに警備システム見直すように言っておこう。

 

「さて、どーする?」

 

「ここに留まるか、それとも行動するか…………」

 

「レセプション会場へ行こう、みんな。実は、オールマイトが来てるんだ」

 

動くべきか動かないべきか…………皆が悩む中、齎された緑谷の言葉。

オールマイトが会場にいるという事実に、その場にいた皆は安堵した。

しかし、移動した彼らが見た光景は、心胆を寒からしめるに足るもの。

 

銃を構える覆面の男たちに、拘束されたヒーローたち。そして、怯えた様子の人々。

あのオールマイトすらも抵抗することが出来ないままに拘束されてしまった。

USJでの活躍を目の前で見た彼らの落胆はとても大きなものだった。

最低でもヴィランの数は三十を越える組織的犯行…………人質もいるために迂闊に動けない。

 

即座に偵察に動いた緑谷と耳郎が暗い表情で帰還。

その後、非常階段の踊り場へと移動した段階で、全員が嫌な予想を脳裏に描いていた。

オールマイトを含めたプロヒーローは動くことは出来ない。

…………こうなると勝ち筋は酷く薄いものとなるな…………どう動くか

 

「……オールマイトからの伝言は…………

ヴィランが警備システムを占拠し、I・アイランドに居る全員を人質にしている、ってことだったよ。

そして、"危険すぎる、逃げなさい"とも言ってた」

 

「……俺は、雄英教師であるオールマイトの言葉に従い、ここを脱出することを提案する」

 

「私も、飯田さんと同じ意見ですわ。我々はまだ、資格を持たない学生です」

 

A組の委員長、副委員長は、共に離脱を提案。

この意見に上鳴も「外のプロヒーローに状況を伝えるべきじゃねーか?」と賛成する。

 

「俺はその意見に反対だ。このタワーの防衛設備は、外部からの侵入を阻むもの。

それはすなわち、出る事すらも儘ならないという事だ。違いますか?」

 

「……海藤くんの言う通りよ。ここは、ヴィラン収容施設のタルタロスと同じ防災設計で

作られているから……脱出するのも困難だと思うわ」

 

「ウェッ!?それじゃ、救けが来るまで大人しく待つしかねーか……」

 

「上鳴、それでいいわけ? 救けに行こうとか思わないの?」

 

「お、おいおい、オールマイトまでヴィランに捕まってんだぞ……!

オイラたちだけで救けに行くなんて、無理すぎだっての!」

 

峰田の言葉に、誰もが状況の悪さを認識するが故に表情を暗くしてしまう。

あの会場にいるヴィランに挑んだ場合、制圧は出来るだろう。

だが、警備システムが抑えられている以上、却って状況を悪化させてしまう事になる。

 

「……俺らはヒーローを目指してる」

 

「ですから! 私たちはまだヒーロー活動は──」

 

「だからって、何もしねえで良いのか……?」

 

その呟きは、ヒーローを志す皆の心に突き刺さる。

苦境に立つ人々を救けることこそがその本懐。

黙って見過ごすような真似に、心苦しく思わないはずもない。

 

「……救けたい……!」

 

緑谷の言葉は、誰もが心の底で願うことだった。しかし、現実問題として戦えない。

資格の無い現状、許可なく個性を使用することはヴィランと何ら変わりない。

非常時だからといって無暗にルールを破る行為はできない。

 

「緑谷オメー、USJで懲りてねーのかよ!ヴィランと戦うなんて無茶だぜ!」

 

「違うんだ、峰田くん。考えてるんだ。ヴィランと戦わずに、皆を救ける方法を」

 

「緑谷……酷なこと言うけど、そんな都合の良い方法なんて…………」

 

「心操くんの言う通りかもしれない。でも、ヒーローが"綺麗事"を諦めちゃいけないと思うんだ」

 

どこまでも真っ直ぐな緑谷の言葉に、誰もが息を呑む。

確かに、絵空事かもしれない。理想ばかりを追い求める甘い考えかもしれない。

それでも、彼の言葉には確かに、ヒーローを志す皆の願いがあった。

 

「……あるかも知れない。

警備システムの制御ルームは、このタワーの最上階にあるわ。

ヴィランがシステムを乗っ取ったのなら、セキュリティは解除されているはず。

私たちでも、操作することは可能だと思うわ」

 

「ですが、ヴィランもそこは警戒しているはず。当然、警備も厳重では?」

 

「…………だが、連中の警備を掻い潜ることさえができれば──」

 

「プロヒーローが、オールマイトが動けるようになる!状況は一気に好転する!」

 

八百万の懸念も尤もではあるのだが、海藤やその言葉を継いだ緑谷の言うように、

その懸念点さえクリアすれば問題の解決までの道筋が見える。

僅かに見えた勝ち筋…………一発逆転のジョーカー。

 

「やろう、デクくん!このまま何もしないなんて、ヒーローになるならない以前の問題だと思う!」

 

「麗日さん……!うん、やろう!人として当たり前のことを、出来ることを!」

 

誰かを救けるために、自分たちに出来ることがある。

そうなれば、止まることなどない。それが、彼らだ。

 

「緑谷、麗日。話は聞かせてもらった。私も同行しよう」

 

「俺も行くぞ、緑谷」

 

「ウチも。このままってのはね」

 

「私もいっしょに行くよ」

 

「俺も行く。力になれるかはわからないけど」

 

「海藤くん、轟くんに心操くんも!」

 

「響香ちゃんに拳藤さんも!」

 

「……極力、戦闘を避ける。その原則を遵守すると言うのなら、俺も行こう」

 

「ええ、私も。我々の安全を最優先に、それが、今の私たちにできる最善ですわ」

 

「勝ち目があるんなら、やるっきゃねえよな!」

 

「飯田くん! 八百万さん!」

 

「上鳴くん!」

 

「あー! もう! わかったよ! 行けばいいんだろ、行けば!」

 

「峰田くん!」

 

約1名、涙を溢れさせているが。それでも、ここで退くという選択は採らない。

候補生ながらも、その心根はプロヒーローと比べても遜色ない。

そのことが嬉しくて、つい、メリッサの口元に笑みが浮かぶ。

 

「メリッサさんは、ここで待っていてください」

 

「いいえ、デクくん。私も行くわ。

……この中に、制御システムの設定変更が出来る人は居る?」

 

「あっ……え、えーと、こういう時は、八百万さん?」

 

「無茶を言わないでください、緑谷さん。

流石にI・アイランドの警備システムなど、さっぱりです。

海藤さんならどうにかできるのでは?」

 

「出来るかもしれないが、確約は出来ない。ショートさせて直ればいいんだが…………

まぁ、失敗する可能性も考えるとメリッサさんを護衛しながら行く方がいいだろう。

こういう時こそ、「合理的に行こう」じゃないか」

 

「…………相澤先生みたい」

 

「お前の声帯どうなってるんだ…………」

 

「気が引き締まるだろう?」

 

「そうだね」

 

「これで悠雷が出来るって言ってたら少し引いてたかも」

 

「電撃でぶっ壊して直るのなら確約できるな」

 

「昔のテレビかよ」

 

海藤と耳郎、拳藤の

相澤先生に怒られた時の光景を思い出しているのか、皆の表情が幾分か軽くなる。

緊張しながら行おうとしても失敗することが多い。

気負い過ぎないことも時には大切だと思う。

 

「……私は、アカデミーの学生よ。システムの変更も大丈夫」

 

「メリッサさん……──はいっ!よろしくお願いします!」

 

こうして、I・アイランド限定チームが結成された。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

I・アイランドが誇る、知識と技術の結晶。

それが、レセプションパーティーの会場でもあり、今夜起きる激動の舞台であった。

 

「俺たちの究極的な目標は、メリッサさんを最上階の制御ルームまで護衛することだ。

念の為に言わせてもらうが、誰が脱落しようとだ」

 

非常階段を登りながら、突然として海藤が告げた言葉に誰もが驚いてしまう。

普段の訓練でも一人で戦うというよりも連携を意識して動いている本人の発言だから猶更だ。

 

「仲間を見捨てろと言うのか、海藤くん!」

 

「いいや、違う。飽くまでも今回の勝利条件は警備システムの解除。

今回の場合、以前の時のような増援は期待できない。

最悪の場合には、ヴィランの足止めや囮として行動することも視野に入れる必要がある。

相手は躊躇なくこちらを殺しに来る。躊躇う事は命取りだ」

 

「…………命取り」

 

「ああ、躊躇いから取り返しの付かない失敗をしたヒーローの話を幾度も聞かされた。

…………人は死ぬときはどんな人だろうとも呆気ない」

 

「…………悠雷」

 

「すまない。話を戻そう…………いかに早く目的を達成できるか。

それによってヴィランの目的を阻止できる可能性も皆の安全性も高くなる。

駆け上がりながらすべてを制圧していくのだととてもじゃないが時間が足りない」

 

「つまり、タイムアタック…………」

 

「足止めを繰り返しながら最終的に勝てばいいんだもんね」

 

「最短距離で、無駄な行動を削ぎ落す」

 

「なるほどな。想定しておけば、実際にそうなったとしても慌てずに済むってことか」

 

「メリッサさんの護衛としては、小回りの効く緑谷が最有力。

"上を目指す"という状況だからこそ麗日と、索敵能力の高い耳郎の次いで優先度は高い。

それ以外は全員、いざという時には足止めを行う」

 

徹底してドライな物言いではある。

だが、その言葉には納得できてしまう部分も多く反論は起きなかった。

何より、両親を失っている海藤がいうと説得力が違う。

 

「まぁ、こちらの勝利条件には"全員無事で"という条件も含まれているからな?

なにも、命を削ってまで足止めをする必要はない。必ず生き残るぞ」

 

「当然っしょ!プロにもなってねーのにさ!」

 

「上鳴と轟は周囲を巻き込む可能性が高いから、別働隊候補だぞ?」

 

「マジでか!?……まー、でもそうだよなー」

 

「安心しろ、その場合は骨は拾ってやる」

 

「安心要素何処!?」

 

「私と海藤さんも、でしょうか」

 

「だが、戦力の分散などはなるべく避けたい。あくまで状況次第だな」

それと、生き残ったら俺の奢りで焼肉でも行くか?」

 

「叙々苑だからな!?言質取ったぞ!?」

 

「噓はつかんさ」

 

「それって死亡フラグじゃ…………」

 

「知らないのか?フラグは破るためにあるんだよ」

 

いくつもの事態を想定し、備える。たった数ヶ月…………されど数か月。

雄英高校で鍛えられた彼らは、元より持っていた高いポテンシャルをしっかりと伸ばしていた。

皮肉にも、USJでの経験がさらにその実力を高めているとはな…………

 

「はひ、き、きつい……」

 

「峰田はもうちょっと体力つけた方がいいんじゃないか?」

 

「うるへー…………ヒーロー科でない心操にまで心配されるとは…………

ヒーロー科として情けねえ…………」

 

「話す余裕があるなら大丈夫そうだな」 

 

「ハァ、ハァ……凄いわね、皆。余裕ある」

 

「メリッサさん、大丈夫ですか? ウチの個性使いましょうか?」

 

この中で唯一、明確に鍛えていないメリッサが、やはりと言うか少し遅れてしまう。

研究生活がメインでありながら、数十階も階段で駆け登っておいて話せる辺り、驚異的だが。

というか心操は平気なんだな…………峰田よりもたいりょくあったんだな。

そのメリッサのすぐ前を行く麗日が息のあがった彼女を気遣って声をかけた。

 

「今は、温存しておいて!これからその力が必要になると思うから!」

 

疲れを感じさせない笑顔で、力の籠もった声と共に、

メリッサはヒールサンダルを脱ぎ捨てて裸足のまま駆け出していく。

 

そんなことをしている内、峰田がドアを開けようとしてセキュリティが発動する。

これで間違いなくヴィランに見つかったな…………

最終的な警備の人数を減らす事が出来たと考えておこう。

 

「こんのバカ峰田。ドア開けりゃセキュリティに引っかかるっつの!」

 

「響香、あまり言ってやるな。どっちにしろバレる。

葉隠じゃぁあるまいし、見つからずに済む方法があるという保障も無い。

逆に考えるんだ、警備の手を割くことが出来たと」

 

「ポジティブかよ」

 

「流石の余裕だね」

 

階段の先はシャッターが。そして、開かれた扉と倒れて痙攣する峰田。

憤慨した様子の耳郎と、それを見て苦笑いする拳藤と心操。

 

普段を知るからこそ、あっさりと状況は伝わった。

 

「今の状況で出来ることをしよう。この場に留まるのは危険だ、行くぞ!」

 

思い切りの良い飯田に先導され、全員が駆け出していく。

 

タワー80階、既に一般人が立ち入る領域ではない。

無機質な廊下を、ひたすらに駆けていく。

 

「右に二つと左に3つ」

 

「了解」

 

時折見かける監視カメラは、素早く耳郎が見つけてイヤホンジャックで方向を示す。

そこを雷撃で遠距離から壊していく。これくらいの遠距離攻撃なら足を止める必要がない。

電力量にも余裕があるから、こちらの姿を簡単に晒したくはない。

 

「メリッサさん!他に上へ行く道は!?」

 

「タワーの反対側に、同じ構造の階段があったはず!」

 

「同じってことは、そっちも塞がれてるかもしんねえぞ!?どーする!?」

 

「そん時ゃ、しょうがねえ。壊す」

 

「大胆。だが、同感だ」

 

「簡単に壊せる厚さならいいんだけど…………」

 

「最悪の場合、外壁を上るかもな」

 

「…………考えたくもない」

 

ふと、何かを感じ取った轟が足を止める。その原因は、すぐに皆が気付くことになる。

 

「隔壁が!」

 

「後ろも!どーする!?」

 

廊下の各所で、重厚な金属扉が道を塞いでいく。

 

「──轟くん!」

 

「ああ!」

 

目敏く、内部へと通じる扉を見つけた飯田が駆け出すと同時。

轟が氷を作り出して目の前の隔壁が閉じぬよう間に噛ませる。

 

個性を発動させた飯田が、残る隙間から飛び込む。

加速して発生させた運動エネルギーを乗せた蹴りを放てば、轟音と同時に扉が破壊される。

強度としてはそこまで不安視するほどでもないか…………

 

「皆!この中を突っ切ろう!」

 

「案外脆いな…………障壁は視界を遮られる程度か」

 

「これくらいなら私の個性でも壊せそうだね」

 

「ああ、いざという時は消耗の少ない拳藤に頼もう」

 

下からも隔壁がせり上がる都合上、飛び越えられない者を竜化して運ぶ。

体格の大きさから小回りは効かないが、運搬は得意だ。

 

「ここって……」

 

「植物プラントよ。個性の影響を受けた植物の研究をしてるの」

 

「──止まって!」

 

異変にいち早く気付き、声を上げたのはやはりというか耳郎だ。

本当にこういう時はその索敵能力が楽にたつ。

 

「あれ、エレベーターだよね。昇って来てる!」

 

「隠れてやり過ごそう!」

 

緑谷の提案に皆が同意し、すぐ近くの茂みに隠れる。

遂に、ヴィランと遭遇してしまう。

茂みの中で身を潜め、息を殺して機を伺う彼らに、信じがたい声が聞こえた。

 

「あぁん? 今何つった?」

 

ヴィランの「クソガキ」にしっかりと反応した爆豪の声。

不遜極まる言い方も相まって、馴染みある者たちが声の主に気付かないはずもない。

 

茂みの中から事態の推移を見守っていた者たちの目に、背の高い方のヴィランが腕を動かすのが映る。

 

「まずい──」

 

「切島っ!」

 

咄嗟に轟が作り出した氷がヴィラン2人を丸ごと閉じ込める。

だが、気休めにしかならないだろうと判断して雷撃で追撃を放つ。

 

「この個性はっ!?」

 

「轟!?海藤も!」

 

名前を呼ばれた2人は、アイコンタクトですぐさま合図を送り、動き出す。

 

「固まれ!──轟、ここは頼む!」

 

「ああ!お前らは先に行け!こっち片付けたらすぐに追う!」

 

「俺も残る。対人なら役に立てるからな」

 

「心操くん頼んだ!」

 

ここに残るのは轟と心操。

轟の実力はA組でもトップクラスであり、心操も対人の初見殺しが可能だ。

戦力を割きすぎないという点でもこの2人が最適だろう。

氷の柱が作り出され、メリッサを中心に周囲を固めていた者たちが、通路へと送り出されていく。

 

「轟さん!」

 

「連中の対応が早え! 頼んだ!」

 

「──はいっ!」

 

既にヴィランが居た方向を睨む轟と心操に背を向け、皆が走りだす。

背後から氷が砕ける音が聞こえるが、彼らなら大丈夫のはずだ。

 

「爆豪と切島が居たのは嬉しい誤算だ」

 

「二人の戦闘能力は折り紙付きだもんね」

 

「欲を言えば、切島くんには護衛に回ってもらいたかったけど」

 

「いかん!コチラも塞がれているぞ!」

 

機動力で群を抜く飯田が廊下に飛び出して見た光景は、隔壁によって塞がれたもの。

これでは、進むことができない。

まぁ、パワー不足であればの話だが…………拳藤がいるから不安はない。

 

「マジかよ!ここまでか!?」

 

「……いっそのこと戻らない?ヴィラン倒して、あのエレベーター使うとか」

 

「落ち着け、上鳴、響香。かかりきりになれば、増援を呼ばれる可能性がある。

エレベーターに乗った場合は相手の懐に飛び込んでいくようなものだ。それは避けよう」

 

「けど!」

 

「という訳で任せても?」

 

「任された!」

 

そういうが否や、飛び出した拳藤の放ったラッシュが障壁を破壊する。

これで、一先ずは道を作ることが出来た。

 

「……っ!メリッサさん、あれ、扉みたいなのがありませんか!?」

 

拳藤が障壁を破壊したのとほぼ同時に緑谷が見つけたのは、はるか上方。

数階分ぶち抜きで作られた植物プラントの天井の隅にある、小さなものだ。

 

「メンテナンス用のハッチだわ。梯子があったはずだけど、上からでないと開かないはずよ」

 

「雷撃を飛ばしても良いが、それだと壊すのに時間が掛かるな…………爆弾でも作って破るか?」

 

「……いえ、梯子が壊れては意味がありません。それに、別のルートがありますわ」

 

ドレスの胸元から、創造した道具を取り出した八百万が廊下側の天井へと投げる。

創り出された小型の爆弾は、小さな爆炎と共に、ある一点に穴を開けた。

 

「通風口!そこから外に出るのか!」

 

「……そうか、上の階の通風口をこじ開ければ!」

 

「でも、誰が行くんだ?」

 

「体格的に峰田くん?」

 

「オ、オイラには無理だぞ!?」

 

「いや、俺が行こう」

 

「…………あの隙間に入れるの?」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

如何にもフラグにしか聞こえなさそうなセリフを言い放ち、竜化する。

もっとも今回初めて皆に披露する猫くらいのサイズだが

 

「え、可愛くね?」

 

「なんか羽毛みたいなのも生えてない?」

 

「確か、恐竜の幼体にも羽毛が生えていたとか」

 

「撫でても良いかな?」

 

『悪いが、愛でるのは後だ。拳藤、頼む』

 

「わかった」

 

「間違えて天井にぶつけんでくれよ」

 

「わかってる、よっ!」

 

物間を止めるために投擲技術も鍛えられた拳藤によって放り上げられ、軽々と天井まで到達する。

穴の中に頭を突っ込み、両前足を引っ掛けて蛇のようにするりと入る。

爪を突き立てることが出来なければ堕ち掛けて無様を晒すことになっていたな。

換気扇を突き進み、外壁へたどり着いて人型に戻る。

街の方を見渡してみると、警備ロボが巡回している。

本当にこの島全体が人質に取られてしまっていたのか…………早く決着を付けないと



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