「やあ、僕はロビン・グッドフェロー」 (隠したい年頃)
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「まずは経緯を」

書きたいと思ったから書きました。
後悔はありません。


 その日、何もかもがズレ始めたと言ってもいいだろう。

 本来存在しないものが現れ、それが大きく関わってくる。

 優しい雰囲気が感じられる碧眼に銀色の髪、美しい白い肌を持つ彼は、教室にいる人々を見渡し、まるで幼い少年のような笑顔で言った。

 

「やあ、僕はロビン・グッドフェロー。イギリスから転校してきた────」

 

 そこで一旦区切り、全員の反応が楽しみだと言わんばかりに笑みを浮かべたまま続けて言った。

 

「────魔法使いさ」

 

 彼が来てしまったら、それはもう本来の物語(原作)とは変わってしまう。大きくはなれる訳では無いけれど、きっと、本来の終わり方にはならないだろう。

 

「これからよろしくね?」

 

 

 

 

 

 

 

 四月十日、俺は「やっとか」と思いながら朝の支度をする。

 俺は一度死んでいる。頭がおかしいのではないかと思う人もいるだろうが、そんなことは無い。

 と、そんなテンプレから始めているところから察していると思うが、俺は所謂転生者というやつだ。

 神とかいう存在と会った訳では無い。だが、俺の姿は生前から変わっていた。

 妖精王オベロン。シェイクスピアの戯曲「夏の夜の夢」に登場する妖精。俺はその妖精王オベロンの姿になっていた。

 今の時代、オベロンをモチーフにしているキャラクターは多くいる。その中でも俺はFGOのオベロンになった。

 なので、「もしやここはFGOの世界か......?」と思ったが、自分の姿が子どもだったので違うとわかった。

 妖精は姿が変わらないからね。本当にオベロンだったら最初からみんな知っているあの姿になっていただろう。

 どんな世界かわからないまま過ごしているうちに、ある言葉が耳に入った。

 空間震。それは、デート・ア・ライブという作品で発生する自然災害......と思われているものだ。実際は精霊と呼ばれる存在が出現した際に発生するものだが、一般人はそれを知らない。

 その言葉を聞いた時、ここはデート・ア・ライブの世界だと確信した。

 そしてやることも決まった。せっかくオベロンの姿になったんだ。なら、オベロンのように振舞おう。そう思った。

 俺が最初にした行動は一つ。<魔術師(ウィザード)>を探すことだ。

 デート・ア・ライブには<魔術師(ウィザード)>と呼ばれる人達がいるのだが、その人達から魔術を学ぼうと思ったのだ。

 原作では生き残ったのは当時子ども四人だけと明言されていたので全く期待していなかったが、なんと見つかった。「ハッハァー!夢は諦めなければ叶う!」とどこからか聴こえた気がしたが、確実に幻聴だ。そもそも夢ではない。

 当時これは六歳頃だったが、何とかその<魔術師(ウィザード)>を説得して魔術を教わることに成功した。

 俺が学びたいことを全て学び終わると、その数日後にその人は病に倒れた。

 最後に「〈魔術師(ウィザード)〉の復権を頼む」とか言っていたから俺は「うん、わかったよ」と言った。だが、俺に<魔術師(ウィザード)>の復権をする気などひとつもない。

 ここから、俺のオベロンロールプレイはスタートした。

 

 

***********************

 

 僕は制服に着替え、普通より少し遅い登校をする。

 ん?一人称が変わってる?役に入るにはまず気持ちからってね。口で僕って言ってても頭の中で俺って言ってるんじゃポロッと素が出るかもしれないからね。準備は念入りにってことだよ。

 家から学校はそこまで遠くないところを選んだので、十分ほど歩いているとすぐに着いた。

 僕は校門を抜けると職員室に向かった。担任になる先生に教室まで案内してもらうことになっているのだ。

 僕は職員室の扉をノックして「失礼します」と言って中に入る。すぐに担任になる岡峰珠恵が来て、雑談しながら教室に向かう。

 

「そういえば、どうして日本に来ようと思ったんですか?」

 

「そうですね。やってみたいことがあったから、ですね」

 

「やってみたいこと?それはなんですか?」

 

「それは────」

 

 今はまだ秘密です。と言おうとしたところで、岡峰珠恵が「あっ」と呟いて立ち止まった。

 

「ここがあなたが通うことになる教室ですよ」

 

「案内ありがとうございます」

 

 そう言って中に入ろうとすると、岡峰珠恵は静かに慌てて僕を止めた。

 

「待ってください!私が入ってきてくださいと言ったら入ってきてください!」

 

「なるほど、サプライズ、ということですね?」

 

「そういうことです!」

 

 そう言って胸を張る岡峰珠恵。何となく「タマちゃん先生」と呼ばれていた理由がわかった気がした。

 岡峰珠恵が教室に入ってしばらくした後、「入ってきてください!」と言われたので、教室の扉を開けて中に入る。

 背筋を伸ばして堂々と、そして優雅に教卓の前に歩いて立った。そしてそこにいる人達を見渡してから、満面の笑顔を作って言う。

 

「やあ、僕はロビン・グッドフェロー。イギリスから転校してきた────」

 

 そこで一度言葉を切り、もう一度教室の人達を見渡す。

 驚き、好意、嫉妬、憧れ。様々な感情が視えた(・・・)

 そして最後に、全員を驚かせる言葉を発する。

 

「────魔法使いさ」

 

 全員の感情が困惑になった。ああ、突然言ってしまったからか。

 気を取り直して、最後の言葉を言う。

 

「これからよろしくね?」

 

 もちろん、笑顔は忘れずに。




続けられそうだったら続けます。


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「次に下拵えを」

どこまでやれるかわかりませんが、精一杯頑張りたいと思います。


 彼の境遇はとても不幸だったと言えるだろう。

 

「どうして日本に来たのかだって?やりたいことがあったからだよ。それはまだ秘密だけどね?」

 

 不幸ではあったが、それでも物語の主人公のように立ち直り、前に進んで行く。

 それは、きっと美しいものなのだろう。

 

「家族、か......もういなくなってしまったよ。まあ、もう昔のことだから立ち直ってるけどね」

 

 それが、嘘でなければ。

 

「さて、そろそろお暇させてもらうよ。続きはまた明日。その時は面白い話もして────」

 

 彼のその言葉は、警報音によって掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

 教室は静まり返っていた。それもそうだ。僕の言葉に困惑しているのだから。

 その静かな空間で、岡峰珠恵が僕に話しかける。

 

「あの......魔法使いとは、なんですか?」

 

「そのままの意味ですよ、先生。僕は魔法が使えるんだ。まあ、少しだけだけど」

 

 その言葉で岡峰珠恵はさらに困惑していた。まあそうなるだろう。正直、自分もこんなことを言われたら困惑するだろうし。

 

「どんな魔法が使えるんだ?」

 

 また静まり返った教室から声が聞こえてきた。

 僕はその質問に答える。

 

「得意なのは人を眠らせる魔法かな。そして眠らせた人に素敵な夢をみせるのさ」

 

 そもそも魔術であって魔法ではないが、<魔術師(ウィザード)>と言ってもわからないだろうし、あの世界的に知名度のある会社がどこから聞きつけてくるかもわからないので、魔法ということにしている。

 今はまだあの連中と接触するのは避けたい。

 

「イギリスから来たんだよね?どうしてそんなに日本語が上手なの?」

 

「その髪は地毛なの?キレイだね!」

 

「イギリスでの生活のこととか教えてほしい!」

 

 おっと、次々と質問が飛んできた。まるで滝のように質問が来るせいでちゃんと答えきれない。

 僕は悩んでいる素振りを見せて一旦質問をストップさせる。

 しばらくその素振りを見せた後、しっかり笑顔を作って言う。

 

「────質問は一つずつゆっくり聞くよ。また後で......ね?」

 

 

***********************

 

「どうして日本に来たのかだって?やりたいことがあったからだよ。それはまだ秘密だけどね?」

 

 自己紹介が終わった後、すぐに僕の周りには人が集まってきた。

 さっきのように投げかけられる質問に、僕は丁寧に答えていた。

 そんな時、予想もしていなかった質問が飛んできた。

 

「ロビンくんの家族ってどんな人なの?ロビンくんはとってもかっこいいから、両親も素敵な人なんだろうなぁ......」

 

 家族......こんな質問、来ると思うわけないじゃないか。僕には最初から家族なんて居なかった。つまり捨て子ということだ。

 僕の意識が目覚めたのが五歳頃で、そこから約一年は一人で生活していた。

 ゴミを漁って残飯を食い、時には盗みをして、泥水でも飲みながら<魔術師(ウィザード)>を探していた。

 だが、そんな話は人に聞かせられるものではない。こんなことで嘘をつきたくないが、仕方ない。

 

「家族、か......もういなくなってしまったよ。まあ、もう昔のことだから立ち直ってるけどね」

 

 家族は昔に死んでしまった、ということにした。僕のイメージにも関わることだし、少しは悲劇のヒロイン的な振る舞いをしてもいいだろう。

 

「あ......ごめんね、こんな質問して......」

 

「大丈夫さ。さっきも言ったように、僕もう前に進むって決めたんだ。謝る必要なんてないよ」

 

 笑顔でそう言うと、その人は目を輝かせて「かっこいい......」と呟いていた。

 無意識に出ていた言葉だろう。その言葉は素直に嬉しい。

 まだまだ質問に答えて────っと、そろそろ空間震が発生する頃だろう。一旦切り上げよう。

 

「さて、そろそろお暇させてもらうよ。続きはまた明日。その時は面白い話もして────」

 

ウウウウウウウウウウウゥゥ────────

 

 僕が言っている途中で警報が鳴り始めた。ちょうどいいタイミングだ。さて、先生が整列させているが、一人だけ列を飛び出して行った人がいる。五河士道。デート・ア・ライブの主人公だ。

 僕は五河士道を追いかける。

 

「あっ!グッドフェローさん!どこに行くんですかー!」

 

 岡峰珠恵が慌てて叫んでいるが、聞こえなかったことにして無視する。

 僕は走りながら五河士道に話しかける。

 

「何かあったのかい?ええっと、君は......」

 

「俺は五河士道だ。実は妹とファミレスに行く約束をしてたんだけど、まだ逃げてないみたいで......」

 

 そう言って五河士道は走りながらスマホのGPSアプリの画面を見せてくる。

 そこには五河士道の妹がファミレスの位置にいるということが示されていた。

 

「なるほどね、だから心配して駆けだしていたと」

 

「そういうことだ。悪いけど、先生にもそう伝えておいて────」

 

「いや、僕も手伝うよ」

 

「え?」

 

 五河士道は困惑している。さすがに今の行動は不自然だったか......?転校生が自分の妹探しを手伝ってくれる、というのは......不自然だな。反省するべきだな。

 

「ありがたいけど......いいのか?」

 

「いいとも。それで、妹さんの特徴は?」

 

 良かった、特に問題なく進みそうだ。

 だが、次からは気をつけるべきだろう。今の段階で五河士道に疑われてしまえば、全てが崩壊する。

 

「ありがとう!俺の妹、琴里は────」

 

***********************

 

 五河琴里の特徴を聞きながら、ファミレスの方まで走っていく。

 ファミレスの近くまで来たのだが、それは酷いことになっていた。

 アスファルトは割れており、一部の建物はまるで元々そこには何も無かったかのように抉られている。

 

「琴里ー!どこにいるんだ!?」

 

 士道は叫びながら五河琴里を探している。

 そのまま進んでいけば、精霊が居るクレーターに辿り着くだろう。上空で僕も観察されているだろう。不自然に思われないように、僕も探すとしよう。

 

「おーい!琴里ー!どこにいるんだい!」




一日に何度も投稿することもあると思います。


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「さらに念入りに」

物語を進めていきます。


 翌日、五河士道は明らかに様子が変だった。あの後僕はクレーターの場所まで行ったのだが、そこには誰もいなかった。

 精霊も、五河士道も、ASTも。

 僕がいた場所はクレーターから結構離れていたから、おそらく精霊やASTを見ていないと判断されるだろう。実際、見ていないしね。

 

「おはよう、士道。昨日はどうだった?妹さんは見つかったかい?」

 

「あ、ああ、見つかったよ......」

 

 この反応は確実に<フラクシナス>について知ったな。まあ、ここまでは予定調和みたいなものだ。ここが変わってしまったらそもそも物語が始まらない。

 

「そうか!なら良かったよ!変な音が聴こえたから危ないとこにでも巻き込まれたかと思ったけど、無事なら何よりだよ!」

 

「......あ、昨日はごめんな。突然帰っちゃって」

 

「大丈夫だよ。妹を見つけて安心したんだろう?なら仕方ないさ!」

 

「礼はまた今度するよ」

 

「じゃあ期待させてもらおうかな?」

 

 笑いながらそう言う。ここで礼を断るのは何となく違うと思った。せっかくなら受け取っておこう。

 しばらく他愛のない話をしていると、僕の周りに人が集まってきた。そして、昨日のことについて質問してくる。

 

「ああ、昨日はちょっと用事ができちゃってね。どうしても急ぎの用事だったから、抜け出しちゃったんだよ」

 

 まあ、ある意味嘘ではない。

 僕はオベロンみたいに「言ったことは嘘になってしまう」というような呪いは持っていないから、嘘にはならないだろう。

 

「それよりも、今日はいろんな話をしよう!嘘か本当かわからないけど、楽しい話さ!」

 

 集まってきた人々は僕の話が楽しみのようだ。それじゃあ、「妖精國ブリテン」の話でもしようか。人間的に考えて醜いところは隠して、美しいところだけを。

 

「これは大昔の話────」

 

***********************

 

 僕の話は面白かったようで、みんな笑っていた。これで少しは信頼されるようになったかな?

 放課後、五河士道が呼び出されて教室からいなくなっていた。

 ああ、そうだ。確か<フラクシナス>制作のギャルゲーで特訓するんだったっけ。

 あのタイミングで僕が精霊と関わらなかったのはこれを避けるためだと言っても過言ではない。正直クリアできる気がしない。

 一週間くらいでクリアできるらしいが、その間もちょくちょく声はかけておこう。たぶん、ものすごく顔色悪くなってるからね。

 でもその間に()もやることをやっておかないとな。さて、今夜は忙しくなるぞ。なんてったって、裏工作を進めるんだからな。

 そういえば、村雨令音が学校に先生として配属されたな。とっくに知られてるだろうし、ある意味一番どうでもいいから放っておくか。

 

***********************

 

 だいたい一週間が経った。

 予想通り、五河士道は日に日にやつれていき、目には隈ができていた。

 

「士道......本当に大丈夫かい......?なんて言うかこう、ものすごく疲れてないかい?」

 

「......ああ、いや、大丈夫だよ......」

 

 どうしようか。昼休み頃に一度魔術で眠らせてあげようか。気休め程度にはなるだろうか。ここで何もしなくても話は進むだろうが、信頼関係は作っておきたい。

 

「......昼休みに屋上に来なよ。魔法をかけてあげるよ」

 

「......?それってどういう────」

 

「おっと、それはその時のお楽しみ。また後でね!」

 

 僕はそう言って自分の席に着く。すると、昨日と同じようにまた人が集まってくる。次はどんな話かと楽しみにしているようだ。まるで虫のようだ─────おっと、まずいまずい。そんなことを考えているとすぐにボロが出てしまう。気をつけなければ。

 今日はどんな話をしようか。モルガンが王になった理由にしようか。もちろん、醜いところは隠してね。

 

「さて、今日はこの話をしよう─────」

 

 醜いところを隠すのが、こんなにも気持ち悪いなんてね。

 

************************

 

 昼休み、屋上で五河士道を待っていると、別の誰かが屋上にやってきた。それは、五河士道の妹、五河琴里だった。

 髪を留めているシュシュの色は白。つまり、今は年相応の性格というわけだ。だが、何故ここに来たのだろう。

 

「君は確か、琴里だよね?士道の妹の」

 

「うん!そうだよ!おにーさんは?」

 

「僕はロビン・グッドフェロー。よろしくね、琴里」

 

 僕は笑顔を作って言う。すると、五河琴里は目をキラキラと輝かせて言った。

 

「おおー!王子さまみたい!かっこいい!」

 

「ははは、そうかな。そう言って貰えるのは嬉しいな」

 

 笑ってそう返す。だんだんこうして薄っぺらく笑っている自分が気持ち悪くなってきた。

 

「そういえば、どうしてここに?」

 

「んー?おにーちゃんはここに来れないって言いに来たの!」

 

「それは......残念だな、疲れているようだったから休ませてあげようと思っていたのに」

 

 僕は残念そうな顔をして言う。

 

「わかった、じゃあ士道に伝言を頼めるかな?」

 

「なにー?」

 

「魔法はお預けってね」

 

「わかったー!」

 

 琴里は元気よく返事をすると、学校の中に入って階段を降りていった。

 そうだった。特訓が終わったら特訓が始まるんだった。これは最初に接触しなくて本当に正解だった。

 そうなると、また空間震が発生するが、どうしようか。今回は接触しようかな。うん、そうしよう。姿はもちろん、あの姿でね。




進みましたか......?


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「最後は気楽に自然に」

前よりは長いです。


 プロローグは一旦終わり。ここから全ては始まっていく。だけど忘れないでほしい。彼は元々、ここにいるべきではないことを。

 

「ここに来る前に、精霊と話したことがあるんだ」

 

 彼の計画は意識が目覚めた時から決まっている。つまり、明かされていない真実もある。

 

「微力ではあるけど、力にはなれると思うよ?」

 

 それがどのようなものかは定かではないが、確実に言えることがある。

 

「今が攻め時だよ、士道」

 

 彼の計画には、全て織り込み済みということだ。

 

 

 

 

 

 

 空間震の警報が鳴り始めた。

 僕は誰にも見つからないように校舎から離れる。確かこの空間震はこの校舎に直撃する。屋上なんかにいたら死んでしまう。僕はあくまでも人間だ。妖精でもなければ英霊でもない。

 校舎から出て、近くにあった茂みに身を潜める。誰にも気づかれていないことを確認して魔術で服を変える。

 その服装はゲームで言う第二再臨。頭に被った王冠と白を基調としたふわっとした装いで、元からあった王子様という印象をさらに強める服装だ。

 これで接触する準備は整った。あとは空間震が発生するのを待つだけ─────。

 そんなことを考えていると、強い音が全身に響いた。強い風が吹き、思わず腕で顔を覆ってしまった。風が止むと同時に校舎を見てみると、前に街で見たような光景になっていた。具体的に言えば、校舎の一部が抉れていた。

 空間震の発生をこんなに近くで見たのは初めてだ。「アレに巻き込まれたら確実に死んでしまう」と、そんなことを考えていると、五河士道が校舎の前に立っていた。さて、僕もそろそろ出番かな。僕は足音を立てないように、慎重に、それでも見失わないように素早く尾行した。

 原作通り士道は僕たちが通っている教室に入っていった。中から会話が聞こえるが、まだ入るときではない。

 しばらく待っていると、発砲音が聞こえてきた。大方ASTが精霊に向けて撃ったのだろう。防がれているだろうが。入るなら今だ。僕は誰かのピンチに助けに来た救世主のような気分で教室に入って言った。

 

「民間人もいるのに撃つなんて、いつからASTはそんなことをするようになったんだい?」

 

 僕が言うと、五河士道と精霊は僕の方を見る。精霊は僕に警戒している。五河士道はとても驚いている。

 

「貴様、何者だ?」

 

「ロ、ロビン!?どうしてここに......」

 

「そんなの、決まっているじゃないか。君たちを助けに来たのさ。こんな風にね!」

 

 僕はそう言うと、ASTに向けて魔術で作った粉を振り撒く。この粉は吸った人を眠らせるものだ。

 キラキラと陽の光を反射しながらASTの周りに散った。次の瞬間、一人、また一人と下に落ちていった。

 

「おっと危ない」

 

 魔術で自身を強化し、予め持っておいたクッションを落ちている先に投げた。これで大怪我をすることはないはずだ。にしても、やっぱり一人だけ化け物じみた奴がいる。鳶一折紙。こいつだけは僕が粉を撒いた瞬間にその場から離れていた。こいつの対処はしっかり考えてある。

 

「ねぇ、そこの君!僕と取引しないかい?」

 

「......どういう意味?」

 

 鳶一折紙は完全に僕のことを警戒している。まあ、当たり前だろう。

 

「そのままの意味さ。君の欲しいものを何でも一つあげるから、今は手を引いてくれないかい?」

 

「......信用できない」

 

「まあ、そうだろうね。でも、約束しよう。取引に応じてくれたら、何としてでも君が欲しいものを手に入れる。例えば......彼の私物、とかね?」

 

 僕が五河士道の方に目を向けながら言うと、全く変化のなかった表情が、少しだけ動いた。これはあともう一息か?

 

「......どうしてそのことを?」

 

 そのこと、というのは鳶一折紙が五河士道に好意を寄せているということだろうか。考えてみれば、僕が自己紹介をする前に二人の接触はあったが、それ以降は殆どなかった。なのに何故僕がそのことを知っているのか、それが気になるのだろう。

 

「僕の元には多くの情報が集まるんだ。みんなと話しているうちに、その話題も少しだけ出てきたのさ」

 

 実際はこんな情報はない。完全な原作知識と言うやつだ。だけど、こんなことは誰にも確認できない。だからこんな風にデタラメを言いやすい。

 悩んでいるのか、下に落ちたAST隊員達を見ている。しばらくして、ようやく口を開いた。

 

「......今回は手を引く。でも次は容赦しない」

 

「ああ、それでいいとも」

 

 そう言うと、下に落ちた隊員達をクッションごと担いでどこかに飛んでいってしまった。本当に化け物じみた奴だな。

 

「さて、これで邪魔者はいなくなった。ああ、まずは自己紹介だね。ロビン・グッドフェローは世を忍ぶ仮の姿。僕の名はオベロン。妖精王オベロンさ」

 

***********************

 

「妖精、王......?」

 

「まあ、雰囲気的なアレでね?実際はちゃんと人間さ」

 

 混乱している五河士道にそう言う。あそこはそういう場面だと思ったんだ。仕方ない。

 

「こんにちは、精霊のお嬢さん。これからよろしくね!」

 

「私には十香という名がある」

 

「へぇ、そうなんだ。よろしくね、十香」

 

 僕はそう言うが、十香は警戒を解いてくれない。こうなることはしっかり考えていた。今の十香にはきなこパンも効果は薄いから、物で釣ることはできない。だから、他の方法で吊る必要がある。

 

「さて、僕がここに来たのは、さっき言ったように君たちを助けに来たのもあるけど、実はもう一つあるんだ」

 

「それはなんだ?」

 

 気を取り直した五河士道が言う。もう一つのことは、まあ誰にでもわかるだろう。

 

「十香、君と話がしたかったのさ」

 

「私と、話を?」

 

「ああ、別に君を殺したい、なんて思ってもいないし、実は、ここに来る前に、精霊と話したことがあるんだ。だから君のことも気になってね」

 

「他の精霊......!?」

 

 五河士道が驚いたような声を出す。この時点では、まだ精霊は十香しかいないと思っていた。別にこれはいつ教えても物語は進むから、さっさと教える意味でも今この発言をした。

 

「そうだ。みんな話してて飽きない子達だったよ。最近は全く会ってなかったけどね」

 

 僕はそう言って悲しげな表情を作る。それを見た十香も少し悲しげな顔をしている。やっぱり、彼女は感受性豊かというか、騙されやすそうというか......。

 

「だから君とも話がしたかったんだけど......」

 

 僕は一度五河士道を見てから微笑んで続けた。

 

「彼に先を越されたみたいだ。たぶん、前の空間震の時にも会ったんだろう?積もる話もあるだろうし、僕はお暇させてもらうよ」

 

「あ、ちょっと......」

 

 僕は五河士道の言葉を無視して自身を魔術で強化して教室から飛び降りる。強化してるからこれくらいなら大丈夫だ。それよりも、明日のことを考えよう。明日から数日の間学校は休みになる。何より明日は五河士道と十香のデートだ。それに介入する方法は一つしかない。

 

***********************

 

 夜、俺の家のインターホンが鳴った。ドアを開けて誰が来たかと確かめてみると、そこには五河琴里がいた。シュシュの色は黒だ。

 

「琴里じゃないか。どうしたんだい?こんな時間に士道が心配してるかも────」

 

「単刀直入に訊くわ」

 

 琴里は僕の言葉を遮って言う。

 

「あなた、本当に精霊と会ったことがあるの?」

 

 僕はその言葉に笑顔を作って返した。

 

「もしかして、士道から聞いたのかい?まあ、確かに会ったことはあるよ、うん。最近は会ってないけどね」

 

「そう......あなたのことは知らないし、訊いても教えてくれないでしょう?だけど────」

 

 ああ、自分の心が高まるのを感じる。まさかここまで上手くいくとは思わなかった。僕は必死にニヤけそうになるのを抑える。

 

「────私たちに、<ラタトスク>に協力してほしいの」

 

「────ああ、いいとも」

 

***********************

 

 翌日、僕は現代風の服装を身にまとって学校に向かった。今日は学校はないのだが、五河士道がそこに来るのだ。

 僕が学校の前に来ると、校門の前で突っ立っている五河士道を見つけた。僕は五河士道に声をかける。

 

「やあ、おはよう士道」

 

「ロビンか......おはよう」

 

「こんなことになってるし、しばらく学校はないだろうね」

 

「そう、だよな......」

 

 前にも言ったように、空間震は校舎に直撃した。だから今は建て直している。しばらくは学校は休みになって、自由に使える時間が増えるだろう。

 

「なぁ、昨日会ったのって、やっぱりお前なのか?」

 

「そうだよ?当たり前じゃないか。あ、そういえば」

 

 僕はそう言うと、ポケットから小型の機器を取り出して五河士道に手渡した。

 

「こ、これは......!」

 

「琴里から言われてたんだ。もしこれをつけてなかったら渡しておけって」

 

 昨日の夜、琴里が家に来た。協力すると言った後、少しだけ話をした。ASTを眠らせた粉はなんだとか、あの姿のこととか、オベロンと名乗ったこととか。もちろんこっちからも最近の士道について聞いた。聞かれるだけ、というのも不自然だからね。

 しばらく話をして、僕がやることも伝えられた。主に僕がやることは五河士道のメンタルケア。そして情報収集。

 メンタルケアはそのままの意味だ。精霊と対峙する上で、悩みが生まれるのは当たり前だろう。そんな時、僕がサポートする。情報収集というのは、まだ具体的な詳細は伝えられていないが、おそらく<DEM>関連だろう。<ラタトスク>と<DEM>は敵対している。だから、少しでも行動の情報が欲しいのだろう。

 琴里が帰る前に、さっき五河士道に渡した機器を受け取った。「たぶんつけてないだろうから渡しておいて」だそうだ。

 

「ど、どうしてこれを、ロビンが......?」

 

「あれ?琴里から聞いていないのかい?なら僕から説明するよ」

 

 そう言って、僕は笑みを浮かべて続ける。

 

「今日から僕は、君のサポートをすることになったんだ。まあ、微力ではあるけど、力にはなれると思うよ?」

 

***********************

 

 五河士道と会話した後、そろそろ十香が現れると思ってその場を離れた。自分用の機器も貰っているので、それを耳につける。

 

「琴里、聴こえるかい?」

 

『何かしら?』

 

 僕が五河士道の方を見ると、制服を着た十香がと一緒にいた。そしてその近くにはASTの鳶一折紙がいた。

 

「士道が十香と接触した。そしてASTの折紙が近くにいる」

 

『ッ!報告感謝するわ』

 

 琴里がそう言うと、通信が切られた。僕は周りに誰もいないことと、通信がちゃんと切れていることを確認して小さく呟いた。

 

「さて、戦争(デート)のはじまりはじまり、と言ったところかな」

 

***********************

 

 デートは原作通り、滞りなく進んだ。僕はあくまでもサポーター。実戦は五河士道に任せなきゃいけない。

 二人は最後の公園に辿り着いたが、僕は二人を見失った、ということになっている。さすがに五河士道が撃たれるイベントを避けるのは難しい。だけど、気づくことはできただろうと言われてしまうといけないので、見失ってしまったということにした。だけど、公園の近くにはいる。だから、発砲音が聴こえてくるのは普通だろう。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 十香の叫び声が聴こえる。機器から聴こえてくる音声によれば、五河士道は<フラクシナス>で回収したらしい。あとは士道が止めるだけだ。

 

「琴里、通信機の回線を士道のものに繋げてくれないか?」

 

『何をするの?』

 

「なあに、ちょっと背中を押してあげるだけだよ」

 

『......わかったわ。任せたわよ』

 

 琴里が言うと、一度通信が切られ、すぐに繋がった。回線が切り替わったのだろう。

 

「士道、聴こえるかい?」

 

『ロビン?どうしたんだ?』

 

「いや、これから君が精霊とすることに、少し悩んでるんじゃないかと思ってね」

 

『っ、知ってるんだな......』

 

 僕は五河士道に言う。優しい声色で、強く言う。

 

「ああ、もちろん。このまま放置していれば、彼女は結果的に街を破壊し尽くしてしまうだろう。それでもいいのかい?」

 

『それは、ダメだ』

 

「そうだろう?なら、今が攻め時だよ、士道。ここで行かなきゃ、君はきっと後悔し続ける。悩んでる場合じゃないんだよ」

 

『っ、そう、だよな......』

 

「なら覚悟を決めなよ。これは、君にしかできないんだから」

 

 僕が言うと、しばらく沈黙が続いた。そして、五河士道はスッキリしたような声で言った。

 

『ありがとな、ロビン。俺、行ってくるよ!』

 

「......ああ!行ってくるといい!士道!」

 

 僕がそう言うと、通信が切れた。

 あとは、原作の通り進んだ。

 五河士道と十香がキスを交し、<最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)>が放たれることはなくなった。十香は夜刀神という姓を得て、人間のように学校に通い始めた。だけど、これで終わりじゃない。まだまだ精霊は現れる。

 どこで駒を進めるのかは目処をつけている。あとは流れに任せて待つのみ。

 

「ああ......とても楽しみだよ......そう思わないかい?ブランカ」




次はたぶん別の視点からの物語になります。


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「氷を溶かす準備をしよう」

別の視点から書こうと思っておりましたが────
やめました


 俺は今家にいる。一人でいるから一人称は俺になっている。この切り替えが面倒くさく感じてしまっている自分がいる。まあ、それは置いといて。

 次の精霊の対処を考えよう。

 次の精霊は四糸乃。彼女はとても臆病で、会話は基本腕に着けているパペットの『よしのん』に任せている。氷を操る天使を持った精霊だ。

 正直、彼女に関しては関わらない方が物語は滞りなく進む。だけど、裏から関われば結果的に自分にとっていい方向に進む。それは、五河士道から見てもいい方向になる。やろうとしていることは、簡単に言えばマッチポンプと言うやつだ。俺が裏から行動して四糸乃にとってショックな状況を作る。それの状況を打ち破る方法を俺が提示し、それを行うきっかけを作る。

 正直に言ってしまえば、これはあまりにも回りくどすぎる上に、最悪の場合メリットよりデメリットの方が大きくなる可能性もある。

 俺はそこで一度思考を切った。そして、クワの葉を持って最近飼い始めた虫のところに向かう。

 

「ほら、ブランカ。美味しい葉っぱだよ〜」

 

 その虫は蚕で、ブランカと名付けた。道端で死にかけていたところを拾ったのだが、今ではすっかり元気だ。何となく俺に懐いているようにも感じたので、ついブランカと名付けてしまった。

 ブランカは俺が渡したクワの葉をむしゃむしゃと食べている。そんな姿を見て、つい笑みを浮かべてしまう。

 俺は再び考えることにした。どうすればデメリットを最小限、またはゼロにできるだろうかと。いずれは五河士道が攻略した精霊全員が敵になる。そう考えれば、デメリットがゼロになることは絶対にない。ただ、メリットは大きくなる。なら、もう悩むことはないじゃないか。

 具体的な行動を整理しよう。

 まずは四糸乃と接触するタイミングだ。これは簡単だ。『よしのん』を無くしてしまった時に五河士道の家に入るのだが、そこで接触する他ない。そして()を仕込むタイミング。これは、このタイミングしかない。それは、四糸乃が『よしのん』を落とした時だ。だが、これはとても素早く行動しなければならない。何故なら、鳶一折紙が『よしのん』を拾ってしまう可能性があるからだ。拾われること自体はいいのだが、それよりも先に毒を仕込む必要がある。

 ......これは、この日は大変になりそうだ......。

 

***********************

 

 そういえば、オベロンみたいな行動をするとなると、俺はどこかで一度退場しなければならない。これのタイミングはかなり慎重に選ぶべきだ。最後すぎてもダメだし、早すぎてもダメだ。そもそもストーリーを進めること自体が俺にとってはまずいことではある。

 何故なら、<囁告篇帙(ラジエル)>とかいう俺にとって天敵とも言える天使持ちが出てくるからだ。

 その前に世界線の変動とかいう俺だけではどうしようもない問題もあるが......こっちはもう問題ない。だから、俺の目の前の問題は<囁告篇帙(ラジエル)>を持っている本条二亜だけだ。予め潰しておく、という手も無くはないが、大筋のストーリーにどんな影響があるかわからない。これはやるべきではないだろう。

 ......本当に、どうやって対処しよう......。俺の存在を知られた時点でほぼ詰みだし......。あ、じゃあ俺の魔術フルで活用して<囁告篇帙(ラジエル)>の検索妨害できないか?オベロンがスキル使ってマーリンの千里眼弾いてたみたいに。......さすがに難しいか。うん。頭の片隅に置いておく程度にしておこう。

 となると、しばらくは保留になるか......いや、確か本条二亜はアイツ(・・・)と接点あったよな......?......もしかしたら、いけるかもしれない。その時になったらこれを実行しよう。

 あと問題なのは......修学旅行辺りか?確かそこで<DEM>が接触してくるようになる。できるだけ<魔術師(ウィザード)>であることがバレるのが遅くなればいいんだが......ここは俺の行動次第だな。

 

プルルルルルルルル─────

 

 俺のスマホから音が鳴った。画面を見てみると、そこには五河士道と書かれていた。何の用だろうか。

 

「もしもし?」

 

『ああ、ロビンか?前に言ってた礼をしたいんだが......今から家に来てくれないか?』

 

「今から?」

 

 僕はそう言って時間を確認する。一一時四七分。そろそろ昼食の時間だ。だけどまあ、この時間にかけてきたってことは、そういうことなのだろう。

 

「わかった、今すぐ行くよ」

 

『玄関の鍵は開けとくから、来たら入ってくれ』

 

「わかったよ。それじゃ」

 

 僕はそう言って電話を切った。

 それじゃ、早速行こうかな。きっと美味しいご馳走が待ってるぞ!

 

「君も行くかい?ブランカ」

 

 僕が言いながら手を差しだすと、ブランカは僕の手にちょこんと乗っかった。

 

「それじゃあ一緒に行こうか。落ちないように気をつけてね?」

 

 僕はそう言って家から出た。




別の視点から書くの無理でした。


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「タイミングは慎重に」

難しい......。


 彼は頑張り者だ。彼は働き者だ。彼は努力家だ。彼は仲間思いだ。

 そんな評価を貼り付けられている。

 

「士道の様子はどうだい?」

 

 だから、彼はその評価を保つために、今はその通りに動いている。

 いや、誰から見ても、彼の最終的な評価はそこで終わる。

 

「ははは......」

 

 一部の人間を除けば、という言葉が前につくが。

 

 

 

 

 

 

 

 十香の件から数日経った。

 十香が来禅高校に転入してきて、教室は一気に騒がしくなった。でも、僕のことを「オベロン」と呼ぶのはやめてほしいかな。注意はしてるんだけど、なかなか直らない。

 僕は一週間に一回、みんなに話を聞かせることにした。おとぎ話のようにキレイで素敵な話を。でも、話せば話すほどみんなが気持ち悪くなってくる。光を見つけた虫みたいに集ってくるからだ。一人になりたい時だってあるけど、一人になれることなんてない。目的のため仕方なくやっているけど、いつまで耐えられるか不安だ。

 ああ、早く来てほしい────。

 

***********************

 

 帰り際に雨が降ってきた。天気予報ではこんなことは言われていなかったのだが、外れるなんて珍しい日もあるものだ。

 もちろん傘なんて持ってきていないので、走る必要がある。家が近くなのが幸いか。

 ......そういえば、四糸乃が現れる日と状況が完全に一致している。ということは、今頃どこかでぴょんぴょん跳ねているということか。見てみたいが、その場所による必要もないのでやめておく。

 さて、いつ戦争(デート)になってもいいように、毒はしっかり持っておかないと。

 

***********************

 

ウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ──────

 

 日は変わって翌日。空間震警報が鳴り響いていた。僕は<フラクシナス>には向かわず、前のように校舎を抜け出す。隠れて服を変えて、耳に機器をつける。

 耳に入ってくる既に知っている情報を聞き流しながら、空間震が発生する場所の近くまで向かった。

 空間震が発生するのを見届けた後、僕は『よしのん』が落ちてくる場所に移動した。ちょうどここは物陰になっており、上にいるASTにも発見されにくいだろう。

 一応、五河琴里に五河士道の様子を聞いておこう。何か違いがあるかもしれない。

 

「琴里、士道の様子はどうだい?」

 

『概ね問題なしよ。......ただ、少し違和感があるの』

 

「違和感?」

 

『ええ、<ハーミット>の好感度は問題ないの。でも、腕に着けてるパペットを使った腹話術での会話を指摘すると一気に不機嫌になったの』

 

 なるほど、特に変わりはなさそうだ。

 

「なるほどね。じゃあパペットについては避けるのが良さそうだね」

 

『ええ、今はそうしてるわ......あ』

 

 五河琴里が話している途中でASTが建物に攻撃した。あ、十香が中に入っていった。......言っても変わらないし言わなくてもいいかな。

 

「何かあったのかい?」

 

『......ASTの攻撃で建物が揺れて、その拍子に士道と<ハーミット>がキスしたわ』

 

「あれ?じゃあこれで終わりかい?」

 

『......いえ、封印されてないわ』

 

「......なんだって?」

 

 <フラクシナス>で観測していた好感度は四糸乃のものではなく、あくまで『よしのん』のものだ。だけど、いくら『よしのん』の好感度を上げたところで封印はできない。

 

『ッ!一旦通信を切るわ!』

 

「え?ちょっと......」

 

 僕が言う前に通信が切れてしまった。大方十香が現れて修羅場になったのだろう。ということは、そろそろか。

 僕は上を見た。

 少し待つと、建物から巨大なうさぎ?が飛びだした。そして、そのうさぎから何か落ちてくる。落ちてくるものをキャッチしてそれが何か確認する。

 

「......ははは」

 

 つい、小さく笑ってしまった。

 それはうさぎのパペット、『よしのん』だった。

 それを確認した()は、持ってきておいた毒を『よしのん』に注入する。

 見た目に変化はない。だがこれでいい。

 俺は『よしのん』を放り投げてその場を後にした。

 

***********************

 

 やることをやったあと、僕は考えていた。僕が退場する時のシチュエーションを。

 やっぱり敵の攻撃から守っての退場がいいよね。オベロンもそうしてたし。でもそんなに状況って全然ないよね。最初の方はそもそもそんな大技使われることなんてないし、最後の方のものだって僕が介入する余地なんてない。

 全員の目を欺く方法はある。なんならもう手は打ってある。だから問題はタイミングだけだ。

 ......いや、見つけた。最適と思われるタイミングが。このタイミングなら全精霊が揃っているし、シチュエーションも最高だ。

 これで懸念点は原作からの乖離だけとなった。まあこれは僕の匙加減かな。僕が変に手を出しすぎない限り、変わりすぎることはない。

 ああ、そういえば、少し前から......正確には『よしのん』に毒を注入する前頃から、彼女(・・)に見られていた。問題ない。彼女には全部話してある。詳しいことまでは伝えてないけどね。

 というか、来てたなら姿を見せてくれてもいいじゃないか。作戦会議だってしたいのに。

 でもまあ、今回も一人でやるしかない。ちゃんとシュミレーションしておこう。失敗なんて、絶対にできないんだから。




だんだん短くなってきてますね......。


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「白々しいにも程がある」

ほんの少し長いです。


 彼の周りからの評価はとても高い。それは何度も言っている事だ。

 彼の話す物語は、全てハッピーエンドで締めくくられる。

 

「彼には、もうちょっと心を開いてもいいんじゃないかな?」

 

 例え続きがあろうとも、それを誰にも語らない。

 

「ここは僕がどうにかする!士道は下がってて!」

 

 もし、バッドエンドを語った時は。

 

「『彼方にかざす夢の噺(ライ・ライム・グッドフェロー)』!」

 

 それが終わりの日だろう。

 

 

 

 

 

 

 翌日、今日は休みなので、ダラダラとブランカと戯れている。

 ちょっと魔術で筋力を強化してみると、羽根を動かして飛び始めた。これは俺も小さくなれる魔術を覚える日が来たか......?「まさにスピードスターだ!」とか言いながら飛び回ってみたい。ちょっと待て、どうやって魔術覚えるんだよ。俺に魔術教えてくれた<魔術師(ウィザード)>もう死んでるじゃん。諦めるしかないか......。

 そんなことを考えながら、ふと冷蔵庫が空っぽだったことを思い出した。ちょうどいい時間帯だし、散歩がてら買い物にでも行こうか。

 

「行くよブランカ。欲しいものがあれば買ってあげるよ」

 

 最近、学校に行く時以外はずっとブランカと一緒だ。別に学校に連れて行っても誰も怖がったりしないだろうが、TPOは弁えないとね。

 手を差し出す前に、ブランカ自ら飛んで僕の肩に乗った。これであの服装になったら完全にオベロンだ。

 

「さて、じゃあ行こうか」

 

***********************

 

 適当に買い物をした帰り、五河士道が四糸乃と話しているのを見かけた。グッドタイミング。僕は声をかけることにした。

 

「やあ士道。こんなところで奇遇だね。その子は?」

 

「ひっ.........!」

 

 僕は四糸乃を見て言うと、四糸乃は士道の後ろに隠れた。かなり怯えられているようだ。

 

「この子は四糸乃っていうんだ。前に会った精霊なんだけど......そうか、ロビンは見てないんだっけ」

 

「そうだね。僕はあくまでも外部協力者。あまり深く知ることはできないのさ」

 

 前に僕の立ち位置を説明したので、適当なことを言って誤魔化した。実際、僕は外部協力者という形になっている。

 

「はじめまして。僕はロビン・グッドフェロー。こっちはブランカ。よろしくね、四糸乃」

 

「っ......よ......ろしく......お願い......します......」

 

 かなり小さい声だったが、しっかり返事はしてくれた。今は『よしのん』を探しているのだろうか。

 

「それで、どうしたんだい?確か彼女はパペットを着けてるって話だったけど......」

 

「実は昨日落としたらしくてな.....探してるところだったんだけど、お腹がすいたらしいんだ」

 

「へぇ、そうなのかい?」

 

 僕が言うと、四糸乃は顔を赤くしてブンブンと首を横に振る。そのタイミングでお腹が鳴る。四糸乃はさらに顔を赤くした。

 別に隠す必要も無いと思うんだけどなぁ。

 

「なるほど、ということは、今から家でご飯かい?」

 

「そうなるかな」

 

「いいね!僕もついて行ってもいいかな?自分の分の食材ならちょうどここはあるし」

 

 僕はそう言って手に提げていた袋を見せる。

 

「別にいいぞ。どれどれ材料は......うん、これだったら親子丼かな」

 

「親子丼かぁ。最後に食べたのはいつだったっけ」

 

 そんなことを言いながら、僕たちは五河士道の家に向かった。

 

***********************

 

 料理が完成するのを待っている間、僕は四糸乃と話をしてみる。

 

「四糸乃、聞いてみたいことがあるんだけど、答えてくれるかい?」

 

「!.......は.....はい......」

 

「君の持っていたパペットは、何か特別な物なのかい?」

 

「.........よしのんは......私の、ヒーロー......です......」

 

「......なるほどね。確かにそれは特別だ」

 

 四糸乃にとって『よしのん』とは、自分を守ってくれるヒーローだ。自分は誰も傷つけたくない。そんな時、襲ってくるASTから心を守ってくれるのが『よしのん』だ。臆病な四糸乃にとっては、心の支えだった

 

「きっと大丈夫さ。士道には心強い味方がいる。きっと、その人たちも『よしのん』を探してくれてるよ」

 

「.........」

 

「ねぇ、四糸乃。楽しい話を聞かせてあげるよ」

 

 僕が言うと、四糸乃はキョトンと首を傾げた。

 

「むかしむかしあるところに、一羽(ひとり)の妖精がいました。その妖精は、妖精の國の女王さまでした。彼女はずっと、國を見守っています。美しい國が、いつまでも続くことを願っていました。彼女の周りには、いつも妖精が集まっていました。その妖精たちは、みんな女王さまが大好きです、みんな、女王さまを慕っています。ある日、女王さまは死んでしまいました。誰もが悲しみました。ですが、彼女は最期にこう言ったのです。『私に代わる王さまを見つけなさい』と。みんなはその言葉に従いました。そして、新しい女王さまが決められました。その女王さまも、前の女王さまのように國を見守り続けました。きっと、今でも。......どうだったかな?」

 

 僕はそう言って四糸乃に感想を求めた。彼女にこの話がどう見えたのか気になった。

 

「.........とても......素敵だと、思い、ました......でも......少し、悲しい......です......」

 

「......どうしてかな?」

 

「.........わかり、ません......でも、なんでか、悲しい......です」

 

 なるほど、四糸乃は鋭い。この話は妖精國のことを、争いなどの醜い部分を全て無くして、更になかったことを繋げた物語だ。きっと、どこか不自然に思っているのだろう。

 

「四糸乃、君は、士道のことをどう思ってる?」

 

「.........え?」

 

「実はこっちが本題なんだ。さっきのは少し話しやすくするまでの前振り。で、どう思ってる?」

 

「......あったかい、人です......」

 

「......そうだね。士道は暖かい。彼には人に自慢できるくらいの優しさがある。本人にはわからないだろうけどね」

 

「.........」

 

「余計なお世話かもしれないけど、言わせてほしいんだ。彼には、もうちょっと心を開いてもいいんじゃないかな?」

 

「.........!それ、は......」

 

「君が不安がっているのは何となくわかるよ。でも、士道はとても優しいんだ。君を襲ったりなんてしないし、突き放したりもしない。......別に、今からそうしろってわけじゃない。ゆっくり考えてみなよ」

 

「.........は......い......」

 

 これくらいでいいかな。特に意味はないけど、僕に対する一定の好感度は得られた筈だ。

 

「おや、そろそろ完成する頃かな?ほら四糸乃。食べる用意をしておこうじゃないか」

 

 ああ、楽しみだ。前に食べた料理も美味しかったから、今回も楽しみだ。

 

***********************

 

ウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ──────

 

 ご飯を食べた後、僕は家に帰ってゴロゴロしていた。そんな時、空間震警報が鳴り響いた。

 

「さて、僕も出る時かな」

 

 いつも通り魔術で着替えて家を出ようとすると、ブランカが飛んで僕の肩に乗ってきた。

 

「さすがに危ないから、ここに────」

 

 と、言いかけて、やっぱり連れていくことにした。

 

「────いや、行こうか。ブランカ」

 

 僕はそう言って家を出た。

 早足で移動していると、巨大な竜巻のようなものが見えた。よく見てみると、氷の粒のようなものもある。あれに突入するのはASTには不可能だろう。

 

「そろそろ、かな」

 

 僕がそう小さく呟くと、五河士道が動く玉座に乗ってきた。......意味わからないな。まあ十香の天使の<鏖殺公(サンダルフォン)>なんだが。

 

「ロビン、先に来てたのか」

 

「ちょっと早く着いちゃったみたいでね。で、どうするんだい?あの中にいるんだろう。四糸乃は」

 

 僕はそう言って竜巻のようなものを見る。

 

「ああ、だから俺が今からあの中に────」

 

 五河士道が話している最中に、それは起きた。五河士道の手に持っている『よしのん』から何か黒いモヤが現れた。

 

「な、なんだ......これ!?」

 

「士道!『よしのん』を離すんだ!」

 

 僕が咄嗟にそう言うと、五河士道は『よしのん』を投げた。

 すると、その黒いモヤはよしのんを包んで人型になった。

 

「なっ......!」

 

 士道はその光景を見て驚いていた。

 

「ここは僕がどうにかする!士道は下がってて!」

 

「っ!......悪い、任せた!」

 

 五河士道はそう言うと、僕と黒い人型から距離をとった。

 ......さて、こいつはどうしようか。一撃で倒すこともできるが、それだと不自然だ。よし、せっかくだしアレ使うか。そのためには少し動きを封じないと。

 僕は魔術でアスファルトから木の槍を何本か生やした。ゲームで言うところのquick攻撃だろうか。これで動きも封じた。後はトドメを刺そう。

 僕はずっと使いたかった魔術────いや、宝具(・・)を使う。

 

「僕にできることなんて、この程度さ────童心の君 夏の夜の後 恋は触らず 懐かしむもの────」

 

 辺りの景色が変わり、美しい森になった。僕は最後に言う。

 

「──── 『彼方にかざす夢の噺(ライ・ライム・グッドフェロー)』!」

 

 そう言った数秒後、その人型は横に倒れた。景色も元の街に戻っている。

 

「やった、のか......?」

 

「いや、眠らせただけさ。でも、今のうちに......」

 

 僕はそう言って魔術で槍を作り、それを人型に突き刺した。

 すると、人型は消滅し、パサりと『よしのん』が落ちた。

 僕はそれを拾って五河士道に渡した。

 

「ほら、行ってきなよ。四糸乃が待ってるよ」

 

「!ああ、わかった!」

 

 僕は五河士道が竜巻のようなものに突っ込んでいくのを見届けた。その直後、五河琴里から通信が入った。

 

『大丈夫!?』

 

「ああ、大丈夫さ。怪我ひとつしてないよ」

 

『それならいいけど......後でしっかり説明してもらうからね!』

 

「わかっているさ......」

 

 僕がそう言うと、通信は切れてしまった。

 さて、ここでさっきの宝具擬きについて説明しよう。あれは、ただ魔術を使って背景を変えて、そして眠らせているだけだ。簡単だろう?別に心象風景を上書きしてるわけじゃないから魔力もそこまで使わないし、本物の『彼方にかざす夢の噺(ライ・ライム・グッドフェロー)』じゃないから使った相手に普通に攻撃できる。演出は豪華でも、中身はただ眠らせるだけの魔術。それがこの宝具擬きさ。ただ、オベロンといえばこの宝具じゃない?使いたくなったんだから仕方ない。

 と、そろそろ終わりかな。

 曇りだった空は晴れ、竜巻のようなものは消えていた。それがあった場所の中心には、一人の少年が一人の少女を抱きしめている姿があった。




上手く書けてるかわかりません。


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「幕間の物語、ってやつかな?」

タイトルの通りです。


 四糸乃の封印が終わった後日、ブランカを連れて街をぶらぶらと歩いていると、見覚えのある人物がいた。

 特に話すこともないのでそのままスルーしようとしたのだが、向こうに見つけられてしまった。

 

「む、オベロンではないか!」

 

 そう言って十香は近づいてくる。

 

「......やあ、こんなところで奇遇じゃないか十香。それとオベロンじゃなくてロビンって呼んでくれないかい?」

 

「でも、オベロンはオベロンだろう?」

 

 最近頭を悩ませている問題の一つ。十香だ。

 初対面の時にオベロンと名乗った結果、普段からオベロンと呼ばれるようになってしまった。

 僕は別に構わないしなんなら嬉しいのだが、十香がそう呼んだ時の周りの視線が鬱陶しい。だからやめさせたいのだ。

 

「だから......ああ、もういいや。で、何をしてたんだい?見たところ、お使いに来ているようだけど」

 

 そう言いながら十香の手に持っている買い物袋に目をやる。

 

「おお!そうなのだ!私は何も言っていないのにわかるなんて、もしやオベロンはエスパーか!?」

 

「ははは、そんなに凄いことでもないさ」

 

 「自分の手に持っている物を見ろ」と言いたくなるが、抑える。

 

「ブランカもいるのだな。おはようなのだ!」

 

 ブランカはパタパタと羽根を動かして挨拶している。ように見えた。

 

「ところで、オベロンは何をしていたのだ?」

 

「特に何も。暇だったから適当にぶらついてたのさ」

 

「そうなのか!......なら、一つ話を聞いてもらってもいいだろうか?」

 

「いいよ。特に予定もないし」

 

「ありがとうなのだ!じゃあ、近くの公園で待っていてくれ!」

 

 十香はそう言うと、走ってどこかに行ってしまった。たぶん、五河士道の家だろう。買い物袋を置いてくる、ということだろうか。

 まあ、アイスでも買ってゆっくり行こう。

 

***********************

 

 公園でアイスを食べていると、十香が走ってやってきた。かなり急いでいるようだったが、息切れ一つしていない。さすが精霊、と言ったところだろうか。

 

「待たせてしまったか?」

 

「いや全然?今アイスも食べ終わったし、ちょうどいい頃合だよ。で、話っていうのは?」

 

「うむ、それはだな─────」

 

 十香の話を要約するとこうだ。五河士道に日頃の礼をしたいということだ。だが、何を渡せばいいのかわからなくて困っていたという。そんな時に見つけたのが僕だ。五河士道と仲のいい僕なら、何か知っているんじゃないかと思ったようだ。

 にしても、こんなイベントは原作になかった気がする。些細な変化ではあるが、これから先どんな影響が出るかわからない。警戒はしておこう。

 

「なるほどね。そういうことなら力になるよ。まあ、微力ではあるけどね」

 

「ありがとうなのだ!」

 

「じゃあまずは士道が好きなものを考えてみようか。何がある?」

 

「うーむ......」

 

 十香はしばらく悩んだ後、これだ!と得意げな顔で言った。

 

「料理だ!シドーはとっても料理が好きだ!」

 

「そうだね。ということは、何を渡せばいいのか、自ずと見えてくるんじゃないかな?」

 

 そう言うと、また悩んだ後、これしかないというふうに言った。

 

「ということは、私の手料理を渡せばいいのか!」

 

「うんうん、そう─────え?」

 

「ありがとうオベロン!行ってくる!」

 

 十香はそう言って走り出そうとした。

 

「ちょっと待って!」

 

 今こいつはなんて言った?僕はてっきり料理器具を渡すという結論に至ると思ったのだが......。

 そんな僕の考えは伝わらず、十香は不思議そうな顔で立ち止まった。

 

「どうかしたのか?」

 

「いや......十香って料理できるの?」

 

「料理のことは全くわからん!」

 

 ダメじゃないか!

 確か原作では、料理は上手くはないけど致命的なほど下手ってわけではなかった気がする。なら、まだ希望はある!

 

「ならさ、士道に渡す前に少し練習するのはどうだい?僕も少しくらいなら教えられるしさ」

 

「......そう、だな。よし!じゃあ私に料理を教えてくれ!」

 

「いいとも!じゃあまずは、何を作るか決めないとね!」

 

 そう言って、何を作るのか話し合うことにした。

 自分がどこまで教えられるかが重要になるな。頑張らないと。

 

***********************

 

 十香が料理の特訓を初めて数日が経った。前に授業で作ったクッキーをもう一度作ってみたいと言ったので、まずは一人で作らせてみた。最初に作られたものは少し焦げていたり、形がバラバラだったりと、失敗が多かった。でも、味はそこまで悪くなかった。小さい失敗は多かったものの、レシピ通り作ってはいるので、味自体にそこまで問題はなかったようだ。ただ、食感は少し悪かったが。

 それからは何度も練習して、だんだん最初にあった失敗もなくなってきた。

 少しだけならアレンジできるくらい余裕もできた。

 そして、完成した。

 僕は目の前に出されたクッキーを一つ食べる。

 

「......いい、とてもいいよ!うん!これなら士道も喜んでくれるよ!」

 

「そ、そうか!じゃあ早速渡してくる!」

 

「ああ、行っておいで。ちゃんと感謝の気持ちを伝えておいで」

 

「ああ!行ってくる!」

 

 十香はそう言うと、僕の家から飛び出していった。

 僕が食べたクッキーは、味は最初に食べたものと大差ない。だけど、食感は良くなってるし、形も揃っている。知り合いに渡す分には問題ない完成度だろう。

 にしても、この数日間。とても疲れた。人にものを教えるというのは、こんなにも疲れるものだったのか。オベロンはアルトリア・キャスターに多くの魔術を教えていたが、僕にはできそうにない。やっぱり本物には敵わない。

 でも、自分なりにやりきったという達成感もある。

 ......今頃、十香は五河士道にクッキーを渡しているのだろうか。明日、学校で十香にどうだったか聞いてみよう。




たまにこんな感じでほのぼのしたものも挟みます。


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「やっと次に進めそうだ」

ふとランキングを見てみると、この作品の名前がありました。評価してくださり、とてもありがたいです。


 彼にはたった一人の協力者がいる。しかし、信頼関係なんてものは微塵もない。

 お互い、それぞれの目的のために利用しあっている。

 

「久しぶりだね!来てるなら言ってくれればいいのに!」

 

 表向きでは親しく、裏では淡々と駒を進めるだけの関係。

 物語ではよくある関係ではあるが、それはとても歪なものだ。

 

「やっぱり君は面白いね」

 

 そんな関係は、見ているだけで面白い。

 そうは、思わないか?

 

 

 

 

 

 

 

 朝、教室でいつものようにみんなの話を聞いていた。適当に聞き流していると、予鈴が鳴った。

 教室の扉が開くと、岡峰珠恵がとても笑顔で入ってきた。

 ......やっと来てくれたか......。

 

「おはようございまーす!今日は皆さんにいいお知らせがありまーす!」

 

 ああ、確かにいい知らせだ。

 

「このクラスに転校生が来るのです!」

 

 岡峰珠恵が言うと、教室の扉が開き、そこから一人の少女が入ってきた。

 黒い髪に赤い目。片方の目には髪がかかっていて隠れている。顔立ちも整っているので、みんなの視線を集めた。

 

「それでは、自己紹介をお願いしますね」

 

「ええ」

 

 そう言うと、彼女はみんなの方を見て自己紹介を始めた。

 

「時崎狂三と申しますわ」

 

 そう言って、妖しく微笑む。そして、続けて言った。

 

(わたくし)、精霊ですのよ」

 

 そう言った瞬間、五河士道の身体が少しだけ動いたのがわかった。

 僕は椅子から立ち上がって、時崎狂三を見て言った。

 

「狂三!狂三じゃないか!久しぶりだね!来てるなら言ってくれればいいのに!」

 

「あらあら、貴方はロビンさんではありませんの」

 

「し、知り合い......なのか?」

 

 士道がおそるおそるという風に僕に訊く。

 

「ああ。前に言っただろう?精霊と会ったことがあるって。それが彼女さ!」

 

「ええ、ええ。イギリスでロビンさんと出会いましたの」

 

 これは本当のことだ。偶然というわけではないが、僕はとても運が良かった。

 原作には時崎狂三がイギリスに現れるという情報は一切なかったが、世界中で現れたという情報はあったので、それだけを頼りにずっと探していた。その結果、何とか見つけることができたのだ。

 

「えーと......出席をとってもいいですか?」

 

「ああ、すみません。じゃあ、また後で話そう」

 

「ええ、わかりましたわ」

 

 そう言って僕は自分の席につく。

 時崎狂三には伝えることも沢山ある。話をするのは昼休みかな。

 

***********************

 

 昼休み、僕は時崎狂三と共に屋上に来ていた。

 

「さて、まずはどこから話そうか......」

 

(わたくし)から話してもよろしくて?」

 

「ああ、いいよ」

 

「それでは......(わたくし)がいつも通り人を襲っていると、ある〈魔術師(ウィザード)〉に殺されたのです。それからというもの、その方から何度も殺されておりますの」

 

 笑みを浮かべたまま、表情を帰ることなく述べていく。

 なるほど、その〈魔術師(ウィザード)〉というのはやはり......。

 

「その〈魔術師(ウィザード)〉の名前は?」

 

「確か、崇宮真那、ですわ」

 

 やっぱりか。ということは既に日本にも来てるだろう。

 

(わたくし)からはこれでお終いですわ。次はそちらの番でしてよ?」

 

「ああ。......士道は今、二人......いや、三人の精霊を封印している。一人の封印は不完全なものだけど......まだ食べ頃ではないよ」

 

「ええ、わかっておりますわ」

 

「次に......毒を使った」

 

 僕が言うと、時崎狂三は少しだけ目を見開いた。

 

「あらあら、使ったのですか?あの毒を」

 

 あの毒というのは、僕が『よしのん』に注入した毒だ。

 

「ああ。使った相手は人形だったけど、問題なく使えた。ただ、人形自体に意思がなかったからか全く動かなかったよ。眠りはしたけどね」

 

 実は、あの毒はイギリスにいた時に実験として何度か使っている。そして、その実験に一度だけ時崎狂三も見ている。

 試した相手は浮浪者の男。きっと誰もいなくなったことに気づいていない。

 その男に使った時は、すぐに僕に襲いかかってきた。でも、『よしのん』の時はそうはならなかった。だから、使った相手の意思の有無が関わっているんじゃないかと考えた。

 

「そういえば、一つ頼みがあるんだ」

 

「頼み......ですの?」

 

「ああ。君が探している第二の精霊。彼女に会ったら、交渉しておいてほしいんだ」

 

 僕が言うと、時崎狂三は少し目を細めて言った。

 

「交渉、ですか。どんなものですの?」

 

「簡単さ。僕のことを調べるな。その代わり、僕は君を最大限サポートする。という交渉さ」

 

「......わかりましたわ。貴方が何を考えているのかわかりませんが、きっと必要なことなのでしょう。......そういえば、(わたくし)からもお願いがございますの」

 

「なんでも言ってごらん」

 

 時崎狂三は口元を歪めて言った。

 

「あまり、士道さんを(そそのか)さないでいただけますか?」

 

「......困ったな。僕としては、(そそのか)してる気なんてなかったんだけど......うん、善処するよ」

 

 痛い所を突かれたような気がする。確かに、今までに五河士道の行動に何度か口を出したことがあった。それが、時崎狂三の目についたのだろう。仕方ない。今後は少し控えよう。

 だけど、やっぱり。

 

「狂三」

 

「どうかなさいまして?」

 

「やっぱり君は面白いね」

 

「褒め言葉と受け取っておきますわ」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

 彼女は、扱いやすい駒だ。




狂三の口調って難しいですね。


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「全部わかってるよ」

少し長いです。


 彼は、ただ目的を達成するために進んでいる。無駄な行動は極力避け、最善の選択をする。

 

「彼女の攻略だけど、僕は役に立てそうにない」

 

 不自然な行動を取らないように意識し、完璧に振舞っている。

 

「......やっぱり、こうなるとは思ってたよ」

 

 だが、それはいつまで続けられるのだろうか。もうとっくに、ボロは出ているかもしれない。

 

「こうなったら、もう見過ごすことはできない。少し反省してもらうよ」

 

 結局、彼はただの一般人なのだから。

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎて放課後、時崎狂三が五河士道に声をかけている。内容は原作通り学校の案内。

 僕は帰ろうとするのだが、五河士道に呼び止められた。

 

「......どうしたんだい?」

 

「ああ、いや、ロビンは狂三と知り合いなんだろ?じゃあ俺なんかよりロビンに教えてもらった方がいいと思うんだけど......」

 

「あらあら、(わたくし)は彼から貴方を推薦されたのですわ。ねぇ?」

 

 時崎狂三はそう言って僕を見る。

 推薦なんてしてないんだが......まあいい。乗ってやるとしよう。いろいろ都合もいいし。

 

「そうだよ。理由はいろいろあるけど......ちょっと来てもらえる?」

 

「あ、ああ」

 

 そう言うと、五河士道は僕についてくる。時崎狂三には聞こえないように、小さな声で説明する。

 

「まず、これだけは言っておくよ。彼女の攻略だけど、僕は役に立てそうにない」

 

「......そう、か......」

 

「だから、彼女がどんな精霊か、少しでも君に伝えたくて彼女と二人きりになれる状況を作った。僕には少し、説明が難しいからね」

 

 まあ、最悪の精霊という一言で済むものではあるが。

 

「......なんとなく、わかった。ありがとな。なんていうか......ロビンに頼りきりになっちまって」

 

 五河士道は申し訳なさそうな顔で言う。それに僕は笑顔で返す。

 

「いいや、大丈夫さ。それに、士道は一人じゃない。だろ?」

 

「......そうだな、うん。ロビンがせっかく作ってくれたこの機会。絶対に無駄にはしない」

 

「ああ。その調子だ。じゃあ、後は頑張ってね」

 

 僕はそう言って教室を出る。

 はぁ......使いやすい駒ではあるが、目を離すとすぐこれだ。だが、お互い目的には不干渉という取り決めなので仕方ない。

 しばらくはやることもないだろう。ゆっくりと時間を潰そう。

 

***********************

 

 放課後、買い物をした帰りに路地裏ツンと鼻につく匂いがした。これは。

 

「血の臭い......ということは」

 

 僕はその路地裏に足を踏み入れる。

 先に進んでいくと、そこには予想通り、血溜まりと死体となっている時崎狂三がいた。

 

「.......やっぱり、こうなるとは思ってたよ」

 

 これも原作通りのイベントだ。

 不幸にも三人のチンピラにぶつかってしまった彼女は、彼らに連れられ路地裏に入っていく。そこで三人を殺した。その後、現れた崇宮真那に殺された。

 

「はぁ......(いや)なものを見た。さっさと帰ろう」

 

 僕はそう呟いて、その路地裏を後にした。

 

***********************

 

 後日、時崎狂三が遅刻してきた。本人は気分が悪かったと言っている。

 それを見た鳶一折紙が驚愕していたのだが、まあ、彼女が殺されたことを知っているからだ。

 そんなことはどうでもいい。

 確か、五河士道が三人同時デートの約束をするのは今日だ。僕は役に立たないと既に五河琴里にも伝えてある。理由も話した。まあ、適当だが。

 だから僕は時崎狂三関連の作戦には参加しないことになっている。

 士道が今日時崎狂三とデートの約束をするというのか聞いているので、そのデートの日にやることも決まっている。

 ずばり、それは時崎狂三を一度殺した人物、つまり、崇宮真那の調査だ。

 これは五河琴里から内密にと頼まれたことだ。何故かは彼女の尊厳のために隠させてもらうが、とにかく調べてこいということだ。

 だが、僕は別に調べる必要も無い。全部知ってるから。

 崇宮真那は、〈DEM〉が派遣した〈魔術師(ウィザード)〉だ。序列二位と、実力も高い。

 本当はもっといろいろあるけど、伝えるのはこのくらいで十分だろう。伝えるのは五河士道のトリプルデートが終わった後でいいだろう。

 

「ロビン!今日はどんな話をするの?」

 

「ん?ああ、ちょっと待ってね」

 

 考え事をしている最中に、みんなが僕の周りに集まってきた。

 そういえばそうだった。今日が話を聞かせる日だった。何の話にしようか。

 しばらく考えて、ある話に決めた。

 

「......よし、今日はこの話にしよう。これは悪い女王さまが倒された後の話─────」

 

 そう言って、僕はみんなに話を聞かせる。

 ああ、こんな話を真剣に聞いているみんなが気持ち悪い。全部が全部、ツギハギだらけの物語なのに、誰も気づかない。

 そんな気持ちを隠しながら、僕は語っていく。

 

***********************

 

 五河士道のトリプルデートが始まった。

 一応様子を見に来たのだが、とても忙しそうだ。まるで働き蟻のようだ。でも、一途ではないので働き蟻に失礼かもしれない。

 にしても、木の上なんて雑な場所にいてもバレないものだね。不思議だ。

 ちなみに今は時崎狂三といるのだが......。

 様子を見ていると、五河士道がその場を離れてどこかに行ってしまった。時崎狂三はベンチに座っているままだ。

 見ていると、時崎狂三は立ち上がって茂みに足を踏み入れた。

 ......ここも原作通り、か。

 悲鳴が聞こえてきた。きっと、チンピラが殺されたのだろう。

 少し様子を見ていると、士道が戻ってきた。そして、士道も茂みに足を踏み入れた。

 そして、見てしまった。辺りが血で汚れ、今まさにチンピラに向けて銃を向けている時崎狂三を。

 五河士道はとても困惑している。それもそうだろう。まさかこんなことをするなんて、夢にも思わなかっただろうから。

 ......待て、崇宮真那が来ない。どこにいるんだあいつは!このままだとまずい。クソっ介入するしかないか......。

 僕はすぐに飛び降りて、士道の前に立ったと同時に木の槍を作る。そして、その木の槍を時崎狂三に向ける。

 

「あらあらあら、これはどぉいうことですのぉ?ロビンさん?」

 

「まさか、君がこんなにも愚かだったとは思わなかったよ。白昼堂々と、しかも一般人の目につきそうなこんなところで殺すなんて......。こうなったら、もう見過ごすことはできない。少し反省してもらうよ」

 

 僕がそう言うと、時崎狂三は笑いだした。

 

「きひ、きひひひひひ!貴方は所詮〈顕現装置(リアライザ)〉も使えないただの〈魔術師(ウィザード)〉。殺すのは容易いですのよ?」

 

「そうだね。確かに僕はただの〈魔術師(ウィザード)〉だ。でも、君を倒すことならできるよ」

 

「きひひひひひ!なら、やってみることですわ!」

 

 時崎狂三はそう言うと、僕に銃を向けて発砲する。

 僕はそれを目の前に木の盾を生成することで防ぐ。

 これで、僕は前での行動が一切わからなくなってしまった。

 すぐにその場を離れて、先程までいた場所に数本の木の槍を生やす。

 

「甘いですわッ!」

 

 後ろから時崎狂三の声が聞こえた。

 僕は身をかがめ、指を弾いて音を鳴らす。

 

「なっ!ぐっ......!」

 

 すると、時崎狂三は僕の前に飛ばされてきた。種明かしをすれば、音を鳴らした瞬間、時崎狂三の後ろに吊るされた小さな丸太を作り出して、それをぶつけたのだ。

 

「なかなか、やりますわね......」

 

「いやいやそれほどでも。少しでも行動が遅れていれば、僕は今ここに倒れていたさ」

 

 僕はそう言って余裕の笑みを浮かべる。それを見た時崎狂三は少し悔しそうだ。だが、一手間違えれば僕は死んでいたので、かなりギリギリの戦いだった。

 

「今回は退かせていただきますわ。ですが─────」

 

「逃がさねーですよ」

 

 時崎狂三が帰ろうとしたその時、声が聞こえた。

 ......今更来たのかよ。もう来る必要もなかったのに。

 声の主は時崎狂三を切り裂き、時崎狂三からは血が吹き出た。

 時崎狂三を殺したのは、〈DEM〉から派遣された〈魔術師(ウィザード)〉。崇宮真那だった。

 

「大丈夫でいやがりますか─────兄さま......!?」

 

「ま、真那......どうして......」

 

 五河士道が言うと、崇宮真那は少し悩んだ後、思い出したかのように言った。

 

「ああ、そういえばこの女。兄さまのクラスに転校してきやがったんでしたね。詳しいことは言えねーですが、この女のことは忘れやがったほうがいいですよ。存在しちゃいけねー存在なんです」

 

「そんな問題じゃ、ないだろ......ッ!」

 

「後、そこのアンタ。確か、ロビン・グッドフェローとか言いやがりましたか。アンタには詳しい話を聞く必要がありやがりそーですね」

 

「......これは参った。僕としては、今すぐにでも逃げ出したいくらいなんだけどね......」

 

「逃がすわけねーですよ」

 

「だよね。知ってる」

 

 僕はそう言って困ったような顔をする。

 さて、どうやって抜け出そうか。こんな展開、起こると思うわけがない。即興で考えなければ。

 ......少々危険だが、これしかない。

 

「でも......今君に捕まるのは、僕にとって都合が悪いんだよ......ねっ!」

 

 僕はそう言い、魔術で虫を大量に発生させる。

 

「なっ......!」

 

 崇宮真那は怯んでいる。今のうちに逃げだそう。

 

「行くよ士道!」

 

「ッ!あ、ああ」

 

 僕と五河士道は走ってその場を離れた。

 できればあの魔術は使いたくなかった。僕の秘策に使う魔術でもあるから。

 五河士道はまだ状況を掴めきれていないようだ。一旦落ち着いてもらう必要がある。

 

「士道」

 

「......どうした?」

 

「ごめんよ」

 

 僕はそう言って、士道に眠らせる魔術を使った。しばらく眠ってもらって落ち着いてもらおう。

 

「こ、これは......」

 

「安心して、ただ眠るだけだから。難しい話は、また起きてからでもいいじゃないか」

 

 僕がそう言うと、五河士道の身体がふらっと横に倒れた。

 

「おっと」

 

 五河士道の身体が地面に叩きつけられる前に僕は士道を支える。

 耳に機器をつけ、五河琴里に通信を入れる。

 

「琴里、今すぐ士道を回収してくれ。眠らせてあるから、ベッドに横にしておいてあげてくれ」

 

『......わかったわ。今すぐ士道を引き上げる』

 

「ああ、頼んだよ」

 

 僕はそう言って通信を切る。

 小さいが、原作との乖離が見られた。しかも、僕とは関係の無い所で。......これからは、もっと慎重に動くべきだな。




話がなかなか進みません。そして、特徴的な口調の二人ですが、これで大丈夫か不安です。


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ほんの些細な疑惑

とても、遅くなりました。


 彼は思う。彼は少し、いや、かなり変わっていると。

 何処がどう変わっているかは、見た目も経歴もそうだが、言葉で説明するのは難しい、もっと深いところだ。

 

「ここは······?」

 

 だが、彼は彼のその違和感を知ることはできない。少なくとも今は。

 

「何が起こっていたんだ······?」

 

 彼は上手く隠している。

 だが、仮面が剥がれてくる日は、いつか必ずやってくる。

 

「なあロビン、お前、嘘とか、ついてないよな······?」

 

 その日がいつ訪れるか、それはわからないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「······っ、ここは······?」

 

 五河士道は〈フラクシナス〉のベッドの上で目覚めた。

 周りを見て、ここがどこかわかったらしい。

 そんな彼に声をかける人物が一人。

 

「大丈夫かい?士道」

 

「ロビン······」

 

 ロビン・グッドフェロー。彼が傍にいた。

 士道は、彼に対して悪い印象を持っていない。寧ろ、好印象だ。

 だが、今回のロビンの行動は、士道にとって少しだけ不可解だったようで、信頼が揺らぎつつある。

 それはもちろん、ロビンも気づいている。

 

「さて、まずは一つ謝りたい。僕の口からしっかりと彼女について説明すべきだった。本当にすまない」

 

「い、いや、そんなに謝らなくても······それより、あの場所で何が起こっていたんだ······?真那はなんであんなところに······」

 

 士道は頭を下げて謝るロビンを見てすぐに話題を変える。

 だが、士道は真那が何故あの場所にいたのかは本当にわかっていない。

 

「その目で観て、その耳で聴いた通りさ。彼女は精霊を殺す立場にいる。〈AST〉みたいなものだけど、彼女はそこら辺の〈AST〉より強い。わかりやすく言うなら、折紙より強い、って感じかな」

 

「な─────」

 

 士道は言葉を失う。

 琴里と同じような年齢の少女が、何故そのような力を持っているのか。それが分からない。

 

「ま、崇宮真那についてはこれくらいかな。次は狂三のことだけど、彼女については何となく理解したかい?」

 

「······ああ、少しだけ」

 

「それでいい。彼女はとにかく残虐だ。目的のためならばどんな手段でも使う。それが例え、殺しであったとしても」

 

 そういうロビンの表情は、士道から見て少し悲しげに見えた。

 まるで、長年の友の変化に困惑しているような、その変化を嫌っているような。そんな感じに見えた。

 

「そのせいで、彼女はこう呼ばれている。最悪の精霊〈ナイトメア〉と。彼女に目をつけられてしまえば、文字通り悪夢を見ることになる。それが夢で終わればいいんだけど、そんなわけもない」

 

「······狂三の目的ってなんだ?何のために人を殺しているんだ······?」

 

 士道が言うと、ロビンは少しだけ目を見開いて、迷うような素振りを見せて言った。

 

「······彼女の目的については、彼女から直接聞いたことがないからなんとも言えない。ただ、誰かを殺すことが目的なんじゃないかと、僕は思っている」

 

 その答えに、士道は違和感を覚えた。

 何故その結論に至るのか。この部分を削って答えていると感じた。

 その答えに納得がいかず、士道はつい、言葉に出してしまう。

 

「······なあロビン、お前、嘘とか、ついてないよな······?」

 

「─────」

 

 ロビンは驚いたような顔をして士道を見ている。

 何故そんな顔をするのか。士道の中では、その反応は不安を煽るものだった。

 

「······嫌だなあ、そんなこと、する訳ないじゃないか。確かに、僕は遠回しに言ったりとか少しだけ情報を隠したりするけど、誓って嘘は言っていないよ。憶測は嘘に入らないよね?」

 

 だが、笑顔でそんなことを言う彼を見ると、自分の思い違いかと思ってしまう。

 少しでも親友を疑ってしまった自分を叱りたい。士道はそんなことを考えていた。

 

 「堅苦しい話はここまでにしよう。今日は、士道一人だけのために物語を選んできたんだ」

 

「それは嬉しいな。どんな物語なんだ?」

 

「そうだな······名付けるとするなら────「世界を救った一般人」かな。親友の(よしみ)だ。無編集版のそのままの物語を話すよ」

 

「わかった。しっかり聞く」

 

 士道が言うと、ロビンはゆっくりと語り始める。

 

「あるところに、一人の少年がいました。彼は普通の人間で、家族がいて、友達がいて、夢へ思いを馳せるような普通の少年。そんな彼に、普通ではないことが起こった。ある日突然、とある場所へと連れていかれた。その場所は、過去で起きた異常を修正する、というか施設だった。彼は廊下で倒れていて、目を覚ました時、目の前に一人の少女がいた。この少女が、これから彼を支え続けるパートナーとなる。少女に案内されて施設内を歩き、サボっていた職員の人と話したりしていた。そんな時だった。なんと、その施設が爆発してしまった。少年は爆発に巻き込まれなかったものの、少女は爆発に巻き込まれたしまった。少年は少女を助けようと手を握った。その時、運がいいのか悪いのか、過去への移動が行われてしまった。その過去で様々なことを知り、少年は七つの過去の異常を修正するというミッションが課せられた─────」

 

 ロビンの話はとても長かった。だが、いつも勝手に耳に入ってくる彼の話す物語とはどこか違っていると感じた。

 士道は少し考え、答えに行き着く。ずっとキラキラしている話じゃない、と。

 ロビンの話す物語は、いつもおとぎ話のようにキラキラと輝いている話────勇気とか友情、協力に勝利というようなものばかりだった。

 だが、今士道に話した話はそんなものではなかった。

 確かにそのような要素はあった。だが、それだけではなく、醜さや泥臭さ、そういったお世辞にもキレイとは言えない要素の方が多かった。

 

「──────どうだったかな?たった一人の親友に贈る物語は」

 

「······なんて言うか、意外だった。ロビンがこんな話をするなんて」

 

 いつも教室で聴こえてくる物語との差の大きさに驚いている士道。

 

「いやいや、僕だってこういう話のストックもあるんだよ?」

 

「じゃあ、どうして教室ではああいう話をしないんだ?」

 

 特に何かを疑っている、ということは無い。ただ、士道は単純に気になったのだ。

 

「······何となくだよ。特に理由はない。でもあえて理由をつけるとするなら、人気者になりたいから、かな?」

 

 そんなふうに笑って言うロビンに、士道も笑いながら言い返す。

 

「何言ってんだよ。とっくに人気者じゃないか」

 

 士道がそう言うと、二人は顔を見合わせて笑う。

 そんな些細な会話で、士道は思う。ロビンは信用できる人だと。疑う必要なんて、なかったんだと。




できるだけ早く書けるようにします。


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「勝手な行動は謹んでくれ」

誤字報告感謝します。


 夜、俺は少し街から離れた森の中にいた。外にいるのに一人称が俺なのは、これから会う相手に関係する。

 ······そんなことを考えていると、目の前の影から人型のものが生えてくる。そう、俺が会おうとしていたのは時崎狂三だ。

 

「やっと来たか」

 

「こんな夜更けに何の用ですの?」

 

 時崎狂三は不機嫌そうに言う。それもそうだろう。何故なら、数時間前に俺と対立したからだ。

 直接戦ったのはあくまでも分裂体だったが、オリジナルである彼女にも勿論情報は共有されている。

 

「何の用か、だって?君は僕が言ったことを忘れたのかい?まだ彼は食べ頃じゃない。そう言ったはずだろう?」

 

「ええ、ええ、そうですわね。ですが、それがどうかいたしまして?彼は(わたくし)が必要とする分の力は既に得ておりますの。それならば、食べやすい頃に食べてしまうのがよろしいのではなくて?」

 

 確かに、時崎狂三の言い分は尤もだ。五河士道は既に時崎狂三が三〇年前に戻れる程度の霊力は有している。下手にこれ以上霊力を取り込まれて、いざ食べるという時に抵抗されるくらいなら、過去に戻るのに必要最低限の霊力を持っている今、抵抗もされない今食べてしまうのは確かに理にかなっている。

 だが、それは全て時崎狂三が単独で行動している場合でのみだ。

 

「それもそうだ。だけど、忘れないでほしいな。僕と君は今、協力関係にある。僕としては、今彼を失うのはとても痛い損失なんだ」

 

「······結局、貴方は何が言いたいんですの?」

 

 時崎狂三は目を細めて俺を睨む。

 

「そうだな、優しい言葉を使えば少し大人しくしててくれないか、ってところかな」

 

「では、厳しい言葉だとどうなるんですの?」

 

 時崎狂三は変わらず俺を睨みながら言う。俺はポケットから中に例の毒の改良品が入った注射器を取り出しながら、衣装変更を解除する(・・・・・・・・・)魔術を使いながら言う。

 

「黙って()の言うことを聞いていろ」

 

 そう言った瞬間、背後から時崎狂三の分裂体が数体突撃してくる。

 俺はそれを必要最低限の動きで回避する。それと同時に、禍々しく変化した虫の様な腕(・・・・・・・・・・・・・)で分裂体を一体掴んで抱き寄せる。そして、その分裂体の首に毒が入った注射器の針を当てる。

 

「ッ!最初からこれが狙いだったんですのね······!」

 

「俺だってこんな強行手段は取りたくなかったさ。でも仕方ないよね。君が『待て』もできない野良犬だったんだからさ」

 

 俺が言うと、時崎狂三は殺気を込めて俺を睨む。

 

「······それが、貴方の本当の姿、ですのね」

 

「······ああ、そうさ。気持ち悪いだろう?」

 

 そう言う俺の姿は、先程までの童話の中から出てきた王子さまのようなものではなくなっていた。

 銀に輝いていていた髪は黒くくすんで(・・・・)おり、真っ白な美しい肌をしていた手足は真っ黒の虫の様なものに変わっていた。

 その姿は、Fate/Grand Order二部六章にて最後に立ちはだかった存在。

 妖精國ブリテンの自滅願望と偶然混ざりあってしまった妖精王オベロン。

 オベロン・ヴォーティガーンそのものだった。

 

「そういえば、この新しい毒について説明してなかったね。実はこの毒、今までのものは未完成だったんだ。そして、これがようやく完成系に近づいたものだ」

 

「······あの恐ろしい効果の薬が、未完成品······!?」

 

 時崎狂三は俺の発言に目を見開いて驚いている。

 この毒は『モース』を参考にして作り出したものだ。

 モースは生き甲斐を失った妖精の成れの果て。本当の意味での死骸。

 このモースには、触れた妖精をモース化させるという恐ろしい特性を持っていた。今まではそれが再現できなかった。だが、研究に研究を重ね、何度も実験した結果、微妙に劣化しているものの、増殖自体は可能になった。

 劣化したとは言えども、この効果はとある相手にはとてつもなく刺さる。そのとてつもなく刺さる相手というのが、目の前にいる時崎狂三というわけだ。

 

「その薬で化け物になったヤツの身体に触れると、そいつも化け物になる······。だが、どこで間違えたのか、化け物になる対象が変わった。なんとも面倒なことに、化け物になったやつの血縁者、または分裂体(・・・)が化け物に触れると、そのままそいつも化け物になる。しかも、そういった存在を優先的に狙う」

 

「な─────!」

 

 その言葉で時崎狂三は理解したらしい。この毒をこの分裂体に打ち込めば、こいつは化け物になる。さらにすぐに始末しなければいつまでも時崎狂三を化け物に変えようと襲ってくる存在になる。

 いくら分裂体が脆くても、毒を打ち込めばある程度強靭になる。さらに言えば、いくら分裂体とはいえ、こいつは時崎狂三だ。〈刻々帝(ザフキエル)〉の能力を使えないとは限らない。

 

「くっ······!貴方は(わたくし)に何をさせたいんですの?」

 

「さっき言ったじゃないか。黙って俺の言うことを聞いていろ、ってね。ああ、別に君の目的を邪魔するわけじゃないよ?ただ、今じゃないってだけでね」

 

 そう笑みを浮かべて言う俺を時崎狂三は睨む。

 

 「とりあえず、この分裂体は人質ってことで貰っていくね」

 

 俺はそう言い、眠らせる魔術を分裂体にかける。そうすると、先程まで逃げようともがいていた分裂体はパタリと動かなくなった。

 

「じゃあ、前に頼んだこともよろしくね」

 

「ま、待ちなさ─────」

 

 時崎狂三の声を最後まで聞かず、俺はその場からドロリと解けるように消えた。

 

***********************

 

 場所は変わって真っ暗な場所。ここは時崎狂三にも見つけられない場所。

 俺は貰ってきた分裂体を床に放り投げる。だが、目を覚ます気配はない。当たり前だ。俺が解除するまで眠り続けるように設定したのだから。

 その分裂体に近づき、俺は注射器の針を刺して毒を打ち込む。

 これでこの分裂体が目を覚ましたと同時に時崎狂三をつけ狙う化け物になった。

 精霊に薬を使ったのは今回が初めてだが、上手くいくだろう。

 さて、これからどうしたものか。

 あまり原作から離れてはいないはずだが、本当に細かいところが変わっている。今のところ、一番大きな変化は俺の存在くらいか。小さな変化が降り積もって予想もできないことになる可能性もある。原作で五河士道が時崎狂三に殺されることはなかったが、普通に殺される可能性はある。だから、今のうちに止めさせておけばその不安はなくなるだろう。

 これで時崎狂三の問題は解決した。自分だけをつけ狙う化け物なんておっかないだろうし、分裂体を使ってる始末しようにも、そいつが化け物に触れてしまえばそいつも自身をつけ狙う化け物になる。そんな状況は時崎狂三も望まないだろう。

 はー、疲れた。夜も遅いしさっさと寝よう。そう考えた俺は、家に戻ると風呂に入ってすぐに寝た。

 

 数日経っても、〈時喰みの城〉が学校で使用されることはなかった。



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「大きな思い違いをしていたよ」

 やってしまった。

 最初に思ったのはそんなことだった。

 正直、あの姿を見せたところで時崎狂三が大人しくなる─────手網を握れるなんて、思ってもいなかった。

 彼女のことだし、どうせ忠告を無視して〈時喰みの城〉を展開するものだと思っていた。

 あの時崎狂三だぞ?こんな簡単にいくだなんて、そんなこと思うわけないじゃないか。

 抵抗してやると言わんばかりに〈時喰みの城〉の展開すると思うじゃないか。

 そんでもって五河士道の前で僕を挑発するくらいすると思うじゃないか。

 くそっ、僕の時崎狂三という人物に対する理解が浅かった。僕の脅しなんて気にもとめないと思っていたのに。やはり、人質を取ったのがまずかったか?いや、反省するのはもう遅い。このままでは五河琴里の攻略が始まらない。

 そもそも五河琴里が暴走状態になったのは、五河士道が〈時喰みの城〉で時崎狂三に襲われたことが関連している。

 つまり、その件が無くなってしまった今、五河琴里の力が暴走する可能性はとてつもなく低い。

 こうなると、僕が介入しない事にはどうにもならないだろう。正確に言えば、時系列に沿わせるのであれば、だが。

 僕が介入しなくても、五河士道がピンチになる状況なんていくらでも存在する。そのどこかのタイミングで五河琴里が助けに来ても、それではタイミングが悪すぎる。

 ここから先、いつ五河琴里が暴走しても、悠長に攻略なんてしている暇はない。

 だから、タイミングは今しかない。あまりしたくないが、僕が五河琴里を説得するしかない。

 

***********************

 

 僕は今、五河士道の家の前にいる。

 時間は夜。これから夕食だろうという時間だ。こんな時間に訪ねるなんて非常識かもしれないが、五河士道は許してくれるだろう。

 僕はインターホンを鳴らす。

 

「琴里ー、出てくれないかー?」

 

「はーい!」

 

 家の中からそんな声の後にドタドタという音が聞こえてきた。

 扉が開くと、そこから五河琴里が出てきた。

 

「どちらさま──────ロビンじゃない。どうしたの?こんな時間に」

 

 僕の顔を見た瞬間、頭のリボンを白から黒に付け替えて笑顔から真顔に変わった。

 

「やぁ、琴里」

 

「ロビンが来たのか?ロビン、どうだ、飯食ってくかー?」

 

 家の奥からそんな声が聞こえてきた。

 

「いいや、今日は別の用があってきたんだ。だからご飯はまたの機会に」

 

「そうか。わかった」

 

「······で、別の用って何なの?」

 

 五河琴里は目を細めて僕を見ながら言う。

 

「ああ、君に伝えたいことがあってね。着いてきてくれるかい?」

 

「············ええ、いいわ」

 

 五河琴里は長考の末そう答えた。一度家の中に戻ると、以下にも普通の中学生というような服を着て出てきた。

 

「さて、どこで話をするのかしら?」

 

「着いてきてくれ。こういう話をするのにとっておきの場所がある」

 

 僕はそう言うと、数日前に時崎狂三と話した森に向かった。

 

***********************

 

 真っ暗な森。ささやかな月明かりだけが辺りを照らす。

 そんな中で、僕は五河琴里に語りかける。

 

「琴里、いい加減話してもいいんじゃないかな」

 

「······何を、かしら?」

 

 やはりとぼけるか。いや、この場合は本当に何を話せと言っているのかわからないだろう。

 

「君のことについて、士道に」

 

「っ、あんた、一体どこでそれを······」

 

「僕の情報調査能力は知ってるだろう?色んなことを調べていたら、ね?」

 

「······まさか、〈ラタトスク〉の情報を······!?」

 

「まぁ、ほんの少しだけね?」

 

 僕の言葉に目を見開いて驚いている。

 もちろんそんなことはしていない。

 

「で、どうしてそれを話す必要があるの?」

 

「それはもちろん、君の力がいつ暴走するかわからないからさ。不完全な封印なんだろう?なら、早めにどうにかしておいた方がいい」

 

 そう言うと、五河琴里は考えるような動作をする。しばらくして、五河琴里は口を開いた。

 

「二つだけ知りたいたい。まず一つ目。どうして私が精霊だと疑ったの?私自身はそういった旨の発言はしていないはずよ。二つ目は、どうして今なの?確かに早いうちに解決した方が良い問題であることは確かよ。でも、もっと前に言っても良かったでしょう?」

 

「まず一つ目の質問に答えよう。僕が君を疑った理由は幾つかあるんだ。一つ目、〈ラタトスク〉が士道の精霊の力を封印する力を知っていたこと。二つ目、君が士道の再生能力を知っていたこと。他にも色々あるけれど、大きなところはこの二つかな」

 

「······なるほど」

 

 適当に今考えた理由だが、彼女は納得したらしい。

 

「そして二つ目だ。最近の空間震の発生頻度を見て、おそらく、連続して精霊が現れるんじゃないかと考えている。そうなると、いつまでも君の問題は後回しになる。それは世界にとっても、君にとっても危険なことだろう?だから今なんだ。まぁ正直、あまり自身がない推測だから、これは外れてしまうかもしれないけどね」

 

 原作において精霊が連続して現れた、なんてことはなかった。だから、これは完全に僕のでまかせ(・・・・)だ。

 だが、彼女は納得したらしい。

 

「······わかった。これから帰って士道に私について話す。それでいいわね?」

 

「ああ、それでいいとも」

 

***********************

 

「ロビン」

 

 翌日、学校で五河士道に後ろから突然声をかけられた。

 

「ん?どうかしたかい?」

 

「場所を変えて話がしたい。いいか?」

 

「······ああ、いいとも」

 

 場所は変わって屋上、そこで僕は五河士道の話を聞いていた。

 

「琴里が精霊だって、知ってたんだな」

 

「まあね。色々調べていたら知ったんだ」

 

「どうして教えてくれなかったんだ?」

 

「僕が教えるより、琴里自身がしっかり君に伝えた方がいいだろう?少なくとも、僕はそう考えた」

 

「そう、だよな······」

 

 五河士道はどうすればいいか悩んでいる。血は繋がっていないとはいえ、長い間兄妹として過ごしてきた相手とデートしろと言われているのだ。しかも、それが世界を守ることに繋がるとなれば、悩むのも当然だろう。

 だから僕は、少しだけ背中を押してやらないといけない。

 

「士道」

 

「?なんだ?」

 

「悩むのは仕方ないと思う。妹とデートするんだからね。でもそれは、戦争(デート)であって逢瀬(デート)ではない」

 

「······?何を言って······」

 

「君は優しいから、どうしても精霊のことを優先してしまう。でもさ、たまには自分から相手を振り回すってことをしてもいいんじゃないかい?」

 

「······ごめん、言ってることの意味がよくわからない」

 

「いや、今はそれでいいのさ。その時になって気づけばいいさ」

 

「でも、ありがとな。励まそうとしてくれたんだろ?そうだよな、こんなに迷ってちゃいけないよな」

 

 どうやら上手くいったようだ。まあ、こんなことは言わなくてもやらないといけないのだから結局決意していただろうが。ちょっとした信頼度稼ぎだ。

 

「うん、それでこそ士道だ。あ、言い忘れてたけど、妹とはいえ、相手は一人のレディだ。それは忘れちゃダメだよ?」

 

 笑みを浮かべながら言うと、士道も笑みを浮かべて言う。

 

「当たり前だろ?それくらい、言われなくてもわかってるよ」

 

 今回のデートでは僕は介入しない。兄妹水入らずの時間を楽しんでもらうとしよう。

 鳶一折紙が乱入してくる、なんてこともないだろう。〈時喰みの城〉が発動しなかったのだから、鳶一折紙は五河琴里の精霊としての力を見ていない。だから、わざわざ五河琴里を襲う理由なんてない。

 だが、今回に関しては本当に展開が読めない。この展開に原作の面影なんてほとんどない。何が起きてもおかしくはない。警戒はしておかないと。



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