ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより (ひいちゃ)
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第1部
グリーンノア2編#01『赤いモビルスーツ』


「はぁ……なんでこんなことに……」

 

 基地への道を歩きながら、ふと愚痴をもらす。

 

 ふと、自分の体を見る。

 漆黒の軍服に包まれた、ちょっと小柄な体。その胸はほどほどに膨らんでいる。

 どこから見ても、かつての俺とは似ても似つかない女性の体。どう見ても、特務部隊・ティターンズの女性軍人といった姿だ。

 

「でも、俺なんだよなぁ……」

 

 そこでもう一つため息をついた。

 

* * * * *

 

 ガンオタの高校生だった俺があの日、スマホでZガンダムを見ながら登校していたら、赤信号だったことに気づかずに横断歩道に入ってしまい、そこにトラックが突っ込んできた。

 そこで一瞬意識が途切れた俺が気が付くと、そこは軍人寮らしき部屋の中。

 カレンダーに書かれた『U.C.』の文字を見て、『ガンダムの世界に転生したのか!』と喜んでいたのもつかの間、それは衝撃に変わった。

 上司にバスク・オムがいる。同僚にジェリド・メサとカクリコン・カクーラー、そしてエマ・シーンがいる。

 

 そう、俺はティターンズの女性兵にTS転生していたのだ。名前は、カレル・ファーレハイト。階級は少尉。明るい茶色の髪をポニテにしていて。顔立ちはどこか幼い童顔。とても軍人には向かない、むしろ同僚からおもちゃにされそうな女性、それが俺である。

 

 確か、原作アニメに『カレル・ファーレハイト』という名有りキャラは出てこなかったので、モブキャラなのだろう。

 

 俺の意識が目覚めたのはちょうど一週間前。いったいどうなることかと思ったが、カレルが元々パイロットだったことと、俺自身がガンダムの対戦ゲームが好きだったことで、MSの操縦にも戸惑うこともなく、なんとかやっていけている。

 

 それにしても、まさかティターンズ側に転生してくるなんて……。お先真っ暗じゃないか。これからどうしたらいいんだろう?

 

 そう回想しているうちに、基地の前までやってきたのだが、そのゲートの前で何か騒ぎが起きている。どうしたんだ?

 よく見ると……あれはZガンダムの主人公カミーユ・ビダン君と、俺の同僚、ジェリド・メサではないか。

 

 それで何かピンときたが、とりあえず騒ぎの場所に近寄ってみる。

 

「こら、大人しくしろ!」

「もしもし、いったいどうしたの?」

「え? あ、これはファーレハイト少尉。いや、実はこの少年が、メサ少尉に殴り掛かりまして……」

 

 ……やっぱりか。俺は、ジェリドにジト目を向けた。

 

「ジェリド、彼に何か失礼なことを言ったんじゃないの?」

「そんな失礼なことは言ってないぞ。『女の子の名前かと思ったのに、なん』」

「それが失礼なことだと言うのっ!!」

 

 俺は内心でこめかみを押さえながら、グーで、ジェリドの頭を上からぶん殴った。もちろん、たんこぶが出ない程度に力は抑えていたが。

 まったく。某戦術SLGに出てくる、同じ名前の大佐殿の爪の垢でも飲んでほしい。

 

「人にとって何がトラウマなのかはわからないんだからね。あなただって、『そのリーゼント、ださい』と言ったら怒るでしょう?」

「それは確かに……」

 

 俺の説教を受けて、ジェリドが申し訳ないという顔になる。普通のジェリドなら反発したり一蹴されるところなのだが、この一週間で、俺とジェリドたちとはとっても仲良くなった。俺が元男で、下ネタにも呆れながらも付き合ってやってるからだと思う。その努力は無駄ではないってことだ。

 

「わかったら、ほら彼に謝る。悪いことをしたときは素直に謝るのが、ナイスな男ってもんだよ」

「わ、わかった……済まなかったな」

「ほら、君も」

「は、はい……ごめんなさい」

 

 カミーユがぺこりと頭を下げたところで、俺はやっと肩の力を抜いた。

 

「ほら、そしたら後はMPさんに絞られてきなさい。それじゃ行きましょうか、ジェリド」

「あ、あぁ」

 

 そして俺はジェリドと基地の中に入っていった。

 ひとつ大事なこと……カミーユに暴力を振るわないことをMPに言っておくこと……を忘れたまま。

 

* * * * *

 

 そして簡単なブリーフィングを済ませた後、俺は全天周モニターに包まれたコクピットの中にいた。

 

「うん、さすがガンダムMk2。なかなかいい反応ね」

 

 いい性能を見せてくれる乗機に、俺は少しほほを緩ませながら言う。まさか夢にまで見たガンダムに乗れるとは。

 

 RX-178、ガンダムMk2。ティターンズが開発した試作型MS(モビルスーツ)である。開発したのは、ティターンズの正当性を世に示すためなんだとか。

 ムーバブルフレームを採用し、従来のMSより優れた運動性を持たせることに成功したということだが、確かにこう動かしているとそういうのがよくわかる。

 

「シャアは、『所詮はMk2か』と愚痴ってたけど、そんなに悪くないじゃない」

 

 さて、俺がどうしてこれに乗っているかというと、ほんの偶然だったのだ。

 なんとおり悪く、エマさん(つい年上だからという理由ではなく、さんづけで呼んでしまうんだよなぁ)が、生理になってしまって、Mk2に乗ることができなくなってしまったのだ。原作ではそんなことはなかったんだけどなぁ。もしかして、俺がTS転生したことで、色々なことにズレなどが出てきているのか?

 まぁ、そんなわけで、俺が彼女の代わりにこれに乗ることになったわけだ。嬉しい幸運なようなそうでないような……だって……。

 

 と、そこで、コール音が鳴った。通信? なんだろう。何か予想がつきそうだが。

 

「はい、こちらアスグリム(俺のコールネームだ)」

『こちらコントロール。エゥーゴのMSがコロニー内に侵入した。至急、迎撃に向かってくれ。くれぐれも無理して、奴らにMk2を渡すことのないように』

「わかりました」

 

 やっぱりか。でもどうしろと? 俺の前世の記憶に間違いがなければ、侵入者の中にはクワトロ・バジーナ(シャア)がいるんだぞ? いくらガンダムの対戦ゲーが好きでも、シャアの相手なんて無理ゲー。

 とはいえ、敵が来たからには迎撃しないわけにはいかないし……。まぁ、コントロールも『無理はするな』と言ってくれてるし、無理しない程度でやってみますか。

 

 俺はMk2を、敵がやってきたと思われる方向へ駆った。

 

* * * * *

 

 俺が現地につくと、先に遭遇していたジェリドとカクリコンが、赤いMS……リック・ディアスと戦っていた。

 あら、ジェリドのMk2がシャアのリック・ディアスに蹴っ飛ばされた。やっぱり、ジェリドたち……俺含む……では、シャアの相手は荷が重いよなぁ。

 

 そう思いながら、俺はMk2のビームライフルで牽制射撃をかけた。あっけなくかわされたが気にしない。あくまで牽制なんだから。

 

「大丈夫、ジェリド?」

『あ、あぁ、なんとかな。援護してくれて助かったぜ』

「赤いMSということは、相手はシャアかもしれないんじゃない? 無理しないで、三人でコンビネーション組んでやったほうがいいかもよ」

『た、確かにそうかもな。でもどうするんだ?』

 

 カクリコンの質問に、俺は少し考えて答えた。

 

「ジェリド、済まないけど、あのMSに近接攻撃を仕掛けて。私とカクリコンは後方から援護射撃するわ」

『無茶ぶりしてくれるぜ……』

「あら、ジェリド君、怖い?」

『そんなこと誰も言ってないだろ! やってやるよ!』

 

 そして再び戦闘再開。ジェリドのMk2がリック・ディアスにビームサーベルで切りかかるが、相手はそれを軽くよけて反撃を返そうとする。だがそれは、俺がビームライフルによる援護射撃で牽制した。そこにカクリコンがビームライフルで追撃をかけるが、それはこれまた簡単にかわされた。うん、知ってた。

 

 その後も、コンビネーションが功を奏して、ギリギリながらもなんとかシャアと戦えていた。うまく戦えていたが、これは俺に私たちのコンビネーションがうまいってわけじゃなく、シャアに本気で戦う気がないからじゃないかって気がする。彼の目的はこの機体……ガンダムMk2の奪取のためのはずだし。彼が本気だったら、三機ともやられていただろう。

 だが、その戦いも終わる時がきた。コロニーの宇宙港のほうから、もう二機の黒いリック・ディアスがやってきたからだ。

 

「ここまでかな。さすがにペーペー三人と、シャア含めた手練れ三人じゃ無理ゲーすぎるね。ここは一度撤退しましょう」

『に、逃げるのか!?』

「無理してやられるわけにはいかないでしょ、カクリコン。コントロールからも『無理してMk2を奪われることのないように』って言われてたし」

『ちっ……わかったよ。ところで、無理ゲーってなんだ?』

 

 ジェリドの問いには答えず、俺はMk2のビームライフルで牽制射撃をかける。その俺の横をジェリド機とカクリコン機が通り過ぎたのを確認し、俺もMk2を後退させた。しかし。

 

『うわ、しまった。推進軸が!?』

「ええええ!?」

 

 なんとジェリド機が突然、バランスを崩したかと思うと、基地のほうに墜落していった。こんなところで歴史の修正力を働かせないでえええええ!?

 

 俺はあわてて、墜落していくジェリド機を追いかけた。

 

* * * * *

 

 そして追いついた俺だが、そこで信じられないものを見た!

 

 あのカミーユが、ジェリドがMSから降りた隙を突き、Mk2に乗り込んで動かしたではないか! カミーユとジェリドはお互い謝罪して和解したから、カミーユのMk2奪取イベントは起きないと思ってたのに!?

 

 SPか? SPがカミーユに何かしたのか?

 

 その考えは正しかったようだ。カミーユのMk2が、足元のSPにバルカンを斉射したのだ。ジェリドのほうに向けないのは、彼のせめてもの良心ってところか。……一瞬、あのSPをしばいてやらないと、って思ったが、このバルカンでいい薬になっただろう、と思い直す。

 

 何はともあれ、今頃コクピットの中で、「ははは! 怖いだろう!!」と愉悦に浸ってる悪い子にはお灸をすえてやらないといけないだろう。

 俺はあえて、カミーユのMk2に当たらないように(もちろん、ジェリドとSPにも当たらないように)注意して、バルカンポッドを放った。

 

 カミーユ機は驚いたような動きをすると、こちらのほうに機体を向けた。

 

「君、気持ちはわかるけど、バルカン撃たれた人の気持ちになったことはあるの!?」

『え、あ、あの時のお姉さん!?』

 

 もう少しおしおきしてやりたいところだったけど、それは無理だったようだ。ちょうどそこに、シャアの赤いリック・ディアスと、後一機の黒いリック・ディアスがやってきたからだ。俺は舌打ちすると、Mk2を後退させた。それと合わせるように二体のリック・ディアスは、カミーユの乗ったMk2を連れて、宇宙港のほうに撤退していったのだった。

 




* 次回予告 *

Mk2を取り戻すために実行される非道な作戦。

「なんだその反抗的な口は!」

少女は、その作戦で流れる刻の涙を防ぐため、微力を尽くす。

「撃っちゃダメ! 中に人が入ってる!」

だが、その努力をあざ笑うように蒼い弾道が走った。

「まぁいい……。こうなるのも、少しは予想していた」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』
第2話、『蒼い弾道』

刻の涙は、止められるか?


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グリーンノア2編#02『蒼い弾道』

 色々な偶然の末、ガンダムMk2を反地球連邦組織エゥーゴに奪われてしまった。

 なので早速、それを取り返すためのブリーフィングが行なわれることになった。

 だが俺……カレル・ファーレハイト少尉は、あまり乗り気ではなかった。なぜなら……。

 

「Mk2奪取犯の一人、カミーユ・ビダンの母であるヒルダ・ビダンを人質に、Mk2の引き渡しを要求する、ですって……!」

 

 説明を受けた俺の同僚、エマさんことエマ・シーンがそう絶句する。だが言い出した当の本人、俺たちの上司バスク・オムは悪びれもなくうなずいて言い放った。

 

「人質にではない。ヒルダ女史とMk2との交換を持ち掛けるのだエマ少尉」

 

 同じことではないかと思うのだが。しかもこのハゲ親父、しまいには用済みとばかりに、そのヒルダ女史をジェリドに殺させるんだから、悪辣すぎるというかなんというか。

 

「ファーレハイト、貴様はどう思う?」

 

 と、そこでバスクが俺に話を振ってきた。

 

「……なぜに私に聞くんです?」

「反抗的で不服そうな雰囲気を発しているからだ」

 

 ……ごもっとも。俺としてもそんな非道なことは御免こうむりたい。

 

「私も乗り気ではありませんね。非道とかそういうのではなく、エゥーゴはただの小さな抵抗勢力でしょう? そんなのに、人質作戦なんてティターンズの名誉を損ないかねないことを仕掛けるのは割が合わないんじゃありませんか? しかも、それで得られるのが試作とはいえMS1機だけなんて」

 

 本当はずばりと言いたいことを言ってやりたいのだが、原作を視聴し、さらに転生から一週間、彼の下で働いてきた俺としては、そんなことを言ってやっても聞く耳持たないし、反対者を殴ってでも強行するだろうというのはわかっている。

 だからできることは、こんな風にやんわりと別の切り口から反対することと、あとは、悪い結果にならないように任務の範囲内で頑張ることぐらいしかない。

 

「まぁ、命令とあれば仕方ありませんけどね。どうせ私たちが反対してもやるんでしょう?」

「なんだその反抗的な口は!」

 

 ……修正された。なんか理不尽だ。

 

* * * * *

 

 ともあれ、作戦(?)は決行された。俺とジェリド、カクリコンは自分用のハイザックで、母艦であるアレキサンドリアの周囲で警戒にあたっている。残り一人、エマさんは今頃、エゥーゴの旗艦・アーガマに赴いて、交渉にあたっている。

 

 やがて、アーガマからMk2と赤いリック・ディアスが発進してきた。それと同時に、アレキサンドリアから一個のカプセルが射出される。まず間違いなく、ヒルダ女史が閉じ込められたカプセルだろう。

 

 そしてやはりというべきか、なんというべきか、ジェリドのハイザックが、そのカプセルに向けて狙いを定めたではないか! 俺は思わず叫んでいた。

 

「撃っちゃダメ! 中に人が入ってる!」

『え!?』

 

 驚くジェリドの声。そしてハイザックがマシンガンを発射するが、動揺したからか、ジェリドがわざと照準をずらしてくれたからか、弾がカプセルに当たることはなかった。

 

* * * * *

 

「ファーレハイトとメサめ……。あとで修正してやる!」

 

 アレキサンドリアのブリッジで激昂するバスク。だがすぐに思い直し、艦長席に着きなおす。

 

「まぁいい……。こうなるのも、少しは予想していた」

 

 ブリッジクルーは前方を注視していて、誰も気づかなかった。

 

 バスクが邪悪な笑みを浮かべていたのを。

 

* * * * *

 

 幸いにも、ジェリドがカミーユ母ことヒルダ女史を射殺することは避けられた。本当によかった……。

 そのカプセルに、赤いリックディアスが接近していく。

 あとは、手はず通り、リックディアスがカプセルを回収し、ガンダムMk2がアレキサンドリアに着艦すれば取引は無事に終了となる。色々言いたいことはあるけど、犠牲が出ずにすべてが終われば、とりあえずは万々歳だ。

 

 だが!

 

「!?」

 

 どこかからビームが発射されると、それはカプセルを飲み込んで、塵すら残さず消滅させた!?

 俺はあわてて、ハイザックをビームが飛んできたほうに向けた。

 

 そこには、小惑星に隠れて、一機の濃紺のハイザック・カスタムがビーム・ランチャーを構えていた。そのハイザック・カスタムは、こちらをあざ笑うかのように敬礼すると、どこかへ飛んで行った。

 

 あのはげえええええええ!! 俺が邪魔したり、ジェリドが外すことを見越して、狙撃兵を伏せさせていたな! そんなにヒルダ女史を殺したいのか? 人を殺すのを楽しみたいのか!?

 

 俺は激情と嫌悪感と怒りを抑えるのにかなりの労力を費やさざるを得なかった。いや、それよりも。

 

「……っ!!」

 

 俺は思わず、コクピットに備え付けてあるエチケット袋を取り出すと、その中に嘔吐した。

 

 それと同時に、俺の心の中にも、悲痛な悲鳴のようなものが……聞こえたような気がする。

 

 ヒルダ女史の死はアニメでも見ていたが、やはりこうして生で見ていると結構きついものがある。生々しさが当社比数倍というか。ましてこの体は女性だからな。

 

 吐きながら目に涙を浮かべている俺の視界の片隅に、暴れるMk2を抑えながらアレキサンドリアに連行していく、カクリコンのハイザックの姿が映った。

 




* 次回予告 *

カレルが投げかける言葉。それはカミーユに進む道を問いかける。

「ねぇ、カミーユ君。君、この戦いに参加して成し遂げたい願いはあるの?」

カミーユにとって彼女は、新しい年上の恋人か、それとも進むべきを指し示す道標か?

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第3話『カレルの言葉』

刻の涙は、止められるか?

※次の話の掲載は、10/24の予定です。


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グリーンノア2編#03『カレルの言葉』

活動報告にも書きましたが、ジェリドの行く末アンケートの結果……

原作通り戦死でよろし 13票 / 12%
敵だけど生存 30票 / 28%
なんと味方化! 63票 / 59%

ということで、ジェリド君の味方化が決定しました!
引き続き、味方になったジェリドの愛機アンケートを行わせていただきます。投票してくださるとうれしいです^^

※不倫してたのは、カミーユ父では?という指摘があったので、事実確認の上、本文を修正いたしました


「はぁ……はぁ……」

「大丈夫か、カレル? 結構苦しそうだが」

 

 アレキサンドリアの格納庫で苦しそうにしている俺……カレル・ファーレハイトに、ジェリド・メサがそう声をかけてくれる。

 

「うん、大丈夫……結構きつかったけど……」

「ならいいが……無理するなよ?」

 

 心配そうに様子を見てくれるジェリドに、弱々しい微笑みを向ける。

 

 うん、本当にきつかった。目の前で人が死ぬ様を見たんだから。しかも、ドラマとかアニメとかそういうものではなくリアルで。肉体が砕け散らず、一瞬で宇宙の塵になったのはせめてもの幸いか。俺にとっても、ヒルダ女史にとっても……そしてカミーユにとっても。いや、カミーユにとっては慰めにもならないか。

 

 ……さてと。

 

「ちょっとカミーユ君のところに行ってくるね」

「ずいぶんあいつにご執心じゃないか。年下趣味でもあるのか?」

「残念。私、しばらく恋はいいと思ってるんだよね」

 

 中身はガンオタ高校生(男子)だしな。たとえ体は女でも男との恋愛はご遠慮したい。しかし、女との恋愛は、体が女なので百合になってしまうのが困りものだ。

 

「ってそうじゃなくて、目の前で母親を殺されて傷心中の少年のことよ。少しでも助けになりたいと思うじゃない?」

「本当にお人よしだな。まぁ、あのガキに殴られないように気をつけろよ」

「うん、ありがと。それじゃね」

 

* * * * *

 

 そして、食堂でカミーユの食事を受け取った俺は、彼が閉じ込められた独房へと向かった。

 

「カミーユ君? ごはん持ってきたよ」

「はい……」

 

 そしてカミーユが扉の近くまでやってくる気配。でも、声がどこか重々しい。まぁ、当然ではある。

 母が目の前で殺されるという事実は、17才の少年にはきつすぎるだろう。

 

「まずは……ごめんね。君のお母さんを助けることができなくて」

「いいんですよ……。仕事にかまけてて、父に愛想をつかれて、不倫されるような母親でしたから。そんなのでも……俺の母親……」

 

 すすり泣く声。俺は、ドアに背を向け、寄りかかって言った。

 

「いいよ、つらい時には泣いちゃいなさい。聞かなかったことにしてあげるから」

「……っ」

 

 しばらく少年の泣く声が続く。それが彼の心の痛みを物語っていた。

 本当にバスクは許せん、上司だけど。もし袂をわかつことがあったら、絶対にしばき倒してやる。

 

 そう思っているうちに、泣き声はやんだ。

 

「泣き止んだかな?」

「はい……」

 

 そうだ。独善的なおせっかいかもしれないけど、彼のためにこれだけは言ってやりたい。

 

「ねぇ、カミーユ君。君、この戦いに参加して成し遂げたい願いはあるの?」

「え?」

 

 俺は、ドアに寄りかかったまま続ける。

 

「戦いに参加していれば、こんなつらい目に出くわすことはいっぱいあるわ。それが戦争というものだから」

「戦争だから、あの母殺しは当たり前で悪いものではないと?」

「そこまでは言ってないし、あれがよいものだとは少しも思ってない。でもね。許せなくても、認められなくても、戦いの中にいれば、そんな非道なことや理不尽なことにはたくさんであうことがあるわ。戦争というものはそういうものなの」

 

 俺の前世の世界でのことを思い返しながら続ける。

 

「だからね。戦いに挑むには覚悟と、覚悟の理由になる願いが必要だと私は思う。覚悟がないまま、戦ってまでかなえたい切実な願いがないまま戦いに足を踏み入れたら不幸へ一直線よ」

「カレルさん……」

「もう一度胸に手を当てて思い返してみて。このエゥーゴとティターンズとの戦い。その戦いに参加してまで、戦ってまでかなえたい願いが自分にあるのかどうか。そのために戦う覚悟があるかどうか。それが見つからないなら、この戦いに入ってきたらダメ。君が不幸になるだけだよ」

「俺は……」

 

 カミーユのつぶやく声。俺の言葉を真剣に考えてくれてるようだ。それを確認すると、俺はそっとその場を離れた。

 

* * * * *

 

「ふぅ、ただいま」

 

 俺が食堂に戻ると、そこでは俺の同僚たち、ジェリド、カクリコン、エマが待っていた。そのエマは何か思いつめたような表情を浮かべている。

 

「どうしたの、エマさん? 何か思いつめてるみたいだけど」

「あぁ。どうやら、今回の件で自己嫌悪に陥ってるみたいでな」

 

 とはジェリドの言。でもそれだけじゃない気がする。彼女の中で、ティターンズを裏切るフラグでも立っているみたいだ。

 

「そう。まぁ、彼女ならちゃんと自分の道を見つけられるでしょ」

 

 このままティターンズに残る道でも、原作のようにエゥーゴに寝返る道でも。

 そう思いながら、俺はドリンクに口をつけた。

 

「あの坊やには結構世話を焼いてるみたいなのに、エマにはあっさりしてるじゃないか」

 

 そんな俺に、カクリコンが茶化してくる。うるさい、アメリアのことを二人にばらすぞ。

 別に、突き放してるわけじゃない。なぜなら……。

 

「あっさりしてるわけじゃないし、突き放してるわけじゃないよ。エマさんは私より、3才年上なんだよ? 大人なんだから、ちゃんと自分の面倒は見れるって評価してるし、信頼してるだけ。二人とも見習ったら?」

「うぐ」

「うぐ」

 

 と、そこで俺を呼ぶアナウンスが、食堂内に響いた。お呼び出し元はバスク大佐だ。やっぱりな。来ると思った。

 俺はため息をつくと立ち上がった。

 

「坊やのおもりの後は、大佐からの修正か。大変だな」

「まぁ、これもお給料のうちだからね。行ってきます」

 

 ジェリドに軽くウィンクすると、私はブリッジへと向かった。

 

* * * * *

 

 結論から先に言おう。修正だけでは済まなかった。

 いや、修正はもちろんされたのだが、今回のことで、邪魔をした責任を問われて、ティターンズを除隊し、連邦軍に移籍することになった。

 そして、巡洋艦ボスニアに転属することになったのだ。

 そう、あのライラ・ミラ・ライラのいる母艦である。

 




* 次回予告 *
カミーユにかけた言葉と、自分の現状、そのギャップにカレルは悩む。

「はぁ……。カミーユにあんな偉そうなこと言って、自分がこんなんじゃなぁ……」

自分の進む先は何か。
その道を暗中に模索する彼女に、その道を照らす者。

「おや、あの赤い彗星とやりあったという姫様が何ため息ついてるんだい?」

先達の言葉は、カレルに朧気ながらも道を指し示す。
だが、カレルには、その先に待つものも朧気に見えていたのだ。

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第4話、『ボスニアの中』

刻の涙は、止められるか?

* 次回登場・外伝登場or本作オリジナルMS *
RMS-117-HMU
高機動型ガルバルディβ(ADVANCED OF Zより)
※AoZとは違う経緯での登場となります。ご注意を。

※次の更新は、10/27 17:30の予定です。


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ボスニア編#01『ボスニアの中』

ついにUAが10000を突破しました!
読んでくださった皆さん、ほんとに本当に本当にありがとうございます!!
感謝感激雨霰時々雪崩でございます!(;_;

さぁ、ここから新章、ボスニア編となります!
ライラさんご登場ですぞ!

なお、ボスニアに赴任したのはカレルだけなので、ジェリドとカクリコンとは、前話で一時お別れです(エマさんはエゥーゴに寝返り)

※味方になった時にジェリドの愛機アンケート、終了させていただきます!
結果は……

ガブスレイ 35 / 16%
バイアランカスタム(もどき) 91 / 42%
ガンダムMk2 46 / 21%
ネモ 11 / 5%
メタス 3 / 1%
オリジナル機体 30 / 14%

ということで、バイアランカスタム(もどき)に決定しました!
ぱちぱちぱち!

彼が味方になるのは終盤になると思いますが、どうぞ期待してお待ちください!^^

※ボスニア艦長の名前を間違っていたので訂正しました(原作準拠にしました



「はぁ……」

 

 俺……カレル・ファーレハイト曹長は、窓の外を眺めながらため息を吐いた。軽く自己嫌悪。

 

 結局あの後、原作通り、エマさんはカミーユと一緒に、Mk2を3機とも手土産としてエゥーゴに投降したという。さらにその後、カミーユの父のフランクリン氏が、その投降先のアーガマからリック・ディアスを持ち逃げしようとしてやられる、という(ほぼ原作通りの)一幕もあった……と、ジェリドから連絡があった。

 

 そして、一方の俺といえば、元上司のバスクの目論見を邪魔したことで彼の怒りを買い、ティターンズを追い出されて連邦軍に移籍、この巡洋艦ボスニアに転属と相成ったのだった。なおそれにあたって、階級は曹長に格下げである。

 

 まぁ、転属や降格のことはいい。あのハゲオヤジの邪魔をして、修正の嵐や最悪、銃殺刑にならなかっただけ儲けものだし、ボスニアの艦長チャン少佐は確かに厳しいが、あのバスクほど暴虐でもないし、優しい時は優しい。艦内の雰囲気も、アレキサンドリアよりは遥かにマシだ。何より、これ以上、あの外道ハゲと一緒にいるのは御免こうむりたい。

 

 なので、そのことでため息をついたり自己嫌悪してるわけではない。ではなぜかというと……そこでまたため息。

 

「はぁ……。カミーユにあんな偉そうなこと言って、自分がこんなんじゃなぁ……」

 

 そう。カミーユと交わしたあの会話。

 あの時、『覚悟と、戦ってまでして叶えたい願いがないなら戦いには加わるな』と警告したけど、自分を顧みると……。

 今の自分は戦い続ける覚悟はあるものの、願いも信念もなく、ただ戦っているだけ。そんなんじゃあ、偉そうに言う資格はないよなぁ、というかなんというか。

 誰かさんに、『じゃあお前はどうなんだよ』と聞かれたら、『はい、ごめんなさい』と土下座するしかない状態であるし、俺本人としても、このままではいけない、というのはわかっているのだが……。

 

 はぁ。

 

 俺は再びため息をついた。

 

* * * * *

 

 昼食の時間が来て、食堂にやってきても、俺のため息はやまなかった。自分でもこの問題がかなり難しいというのがわかる。一朝一夕で解決する問題ではないというのはわかっているのだが……はぁ。

 

 と、そこに。

 

「おや、あの赤い彗星とやりあったという姫様が何ため息ついてるんだい?」

 

 いかにもオトナの女性という感じの女性軍人が俺の隣にやってきた。あまりにオトナって感じで、中身はガンオタ男子高校生(なお恋愛経験なし、男女の経験もなし)な俺としては、思わずドキドキしてしまったり。

 

「あ、隊長」

 

 そう、この人はライラ・ミラ・ライラ。俺の所属している、この巡洋艦ボスニアのMS隊長である。

 とてもさばさばした感じの女性で、まさに女性軍人って感じ。俺がこのボスニアに配属してからは、俺がグリーンノアでシャアと互角にやりあったという噂(半分事実だが)もあってか、とてもよくしてもらってる。

 

「姫様はやめてくださいよ。それに、赤い彗星とやりあえたのは、赤い彗星が手を抜いてくれたのと、他に二人仲間がいたからこそなんですから」

「そう謙遜することはないさ。それがあっても、赤い彗星と戦ったというのは、誇りに思っていいと思うよ」

「はぁ……」

 

 自分ではそんなに大したことじゃないと思うんだけどなぁ。

 

「それで、どうしたんだい?」

「はい。それが……」

 

 と、そこでブリーフィングを告げる放送が入った。

 まぁ、話の続きは出撃中でもいいか。そう思いながら、俺はライラさんとブリーフィングルームに向かっていった。

 

* * * * *

 

 そして、ブリーフィングが終わった。

 俺がブリーフィングルームを出ようとすると、ライラさんに声をかけられた。

 

「カレル、一杯付き合わないかい?」

 

 と言って、ライラさんは小さなウィスキーボトルを抱え上げる。

 

「……ライラさん。作戦中は、飲酒禁止のはずですよ?」

 

 飲酒運転ダメ、絶対。

 でもライラさんは、快活に笑って答えた。

 

「大丈夫だよ。中身はノンアルさ。ウィスキーボトルに入れてるだけだ」

「はぁ……それならいいですが」

 

 そう言って俺は、近くの自販機でジュースを買って戻った。

 

「なんだい、カレル。あんたアルコール苦手かい?」

「はい、あまり好きではないですね。というか今は作戦中ですよ」

「そうかい、それは残念」

 

 そんなライラさんに苦笑を浮かべる。

 

「ライラさんは酒は好きなんですか?」

「どんな酒でもってわけじゃないさ。ただ、いい男と飲む酒は大好きだね」

 

 そういえば原作でも、「いい男にもたれかかって酒が飲めることはいいものだ」って言ってたなこの人。

 なんか大人の女性って感じだ。

 

 俺もそんな女性になりたい……いやいや、俺は元とはいえ男なんだ。

 

「でも、あんたも、私とおいしい酒を呑める人になれる素質はあるよ。あんたが酒が飲めるようになって、それでお互いこの戦いを生き残れたら、一杯やろうじゃないか」

「はぁ……」

 

 本当にそうなれたらいいし、そうなってほしい。心からそう思う。

 だって原作では……。

 

* * * * *

 

「ライラ・ミラ・ライラ、ガルバルディβHMU、出るよ!」

 

 その言葉とともに、ライラさんの機体、高機動型ガルバルディβが発進していく。

 確か高機動型ガルバルディβは、史実?(外伝のADVANCED OF Z)では、テストパイロットごとエゥーゴに寝返ったはずだけど、この世界ではライラさんが使っているらしい。どうやら、乗り逃げ事件は発生せず、そのまま試験配備されたか、ライラさんがテストパイロットになっているかのどっちかになってるみたい。やはり俺が転生してきたことで、史実と違ってきてるんだろうか?

 

 そう思ってるうちに、俺が発進する番がきたようだ。俺は新しい愛機であるガルバルディβ(こちらは通常型だ)をカタパルトまで移動させ、そして言い放つ。

 

「カレル・ファーレハイト、ガルバルディβ、行きます!」

 

 そして、俺のガルバルディβは宇宙へと飛び出していった。

 

* * * * *

 

 今回の任務は、エゥーゴのアーガマに合流しようとしているエゥーゴの援軍、巡洋艦モンブランを阻止することだ。

 実戦はこれで二度目だが、やはり緊張するものは緊張する。

 

 と、そこで通信が。ライラさんのガルバルディからだ。

 

「はい、こちらアスグリム。クリムゾンローズ、どうぞ」

 

 クリムゾンローズというのは、ライラさんのコールネームだ。

 全天周スクリーンに通信画面から開き、ライラさんが映し出される。

 

「どうだい、ガルバルディの乗り心地は?」

「はい。前に乗っていたガンダムMk2もいい機体でしたが、こちらもなかなかです」

 

 これはお世辞でもなんでもない。Mk2ほどではないが、こちらも捨てたものではないと思う。

 ガルバルディβは、元ジオンのMSガルバルディ(そのB型という説あり)を改修したものなのだが、そのガルバルディからして、運動性が従来機より向上しているという話なので、その性能は推して知るべし。

 とても乗りやすいうえに、機動性もなかなかいい。本当に悪くない機体だ。

 

 ただ一つ文句を言いたいのは、ライラさんが俺を気に入り、余計な世話を焼いてくれたせいで、パーソナルカラーを俺の髪色の茶色に(勝手に)決めたうえで、その色に機体を塗装してくれたことだが。

 まぁ、でもそれ以上の恩をライラさんから受けているので、これ以上文句を言う気はないけどな。

 

「そうかい、それはよかった。それで、さっきはどうしたんだい?」

 

 ライラさんに問われて、俺はまた少し気が重くなってしまう。あの問題のことを思い出したのだ。

 

「はい……。自分も顧みて、特に信念も理由もなく、流されるままに戦ってるな、このままでいいのかな、って……」

「……そうかい」

 

 そこからまた、少しの沈黙。

 

「そういえばライラさんはなんで戦ってるんですか?」

「私かい? まぁ、色々あるけど、やっぱりMSに乗るのと、戦うのが好きだからだね」

 

 ……身もふたもない答えだった。

 

「それだけでもないよ。やっぱり私たちが戦えば戦うほど、敵が減って、その分地球が平和になっていくからね。私が好きなことで、世界が平和になっていくなら、それほどうれしいことはないさ」

「そうですか……」

 

 それも一つの『戦う理由』かもしれない。自分の好きなことが平和につながるなら、それは十分理由になるだろう。その犠牲も含めて。

 俺はどうだろうか。俺が戦うことで、果たして平和が進むことになるのか……?

 

「まぁ、戦う理由なんて、そうすぐに見つかるものではないさ。今はその種があれば十分だと思うけどね。あんたにはそういうのはないのかい?」

「それは……」

 

 思い返してみる。自分の心の中を探り、そして見つけた。

 

 目の前で光に飲み込まれ消滅するカプセル。

 カプセルと一緒に塵となった女性。

 少年の泣き声。

 

「……ありました。まだ漠然とですけど」

「そうか、なら今はそれで十分さ。無理に早く咲かせる必要はない。早く咲かせようとたくさん水をあげても、種が腐るだけだからね。自然のまま、流れのまま、咲くのを待てばそれで大丈夫さ」

「そうですね……ありがとうございます」

「礼を言われるほどのことじゃないよ。おっと、モンブランが見えてきた。気合入れなよ」

「はい!」

 

 そして俺は気合を入れなおし、ガルバルディβを、巡洋艦モンブランへと向けた。

 

* * * * *

 

 モンブランがかなり大きく見えてきたところで、艦からエゥーゴカラーのGM2が出撃してきた。

 さっそくそのうちの一機がこちらにビームライフルを撃ってくるが、俺はそれをなんとかかわす。

 

 さすがガルバルディβ。運動性がハイザックと比べて段違いだ。俺としてはかなり限界のつもりだったんだが、ガルバルディにとってはこのくらいは朝飯前らしい。何を言っているかわからないと思うが(略

 

「前世では友達の中で、ガンダム対戦ゲー最強だったんですからね……!」

 

 次の射撃もかわし、ビームライフルの射撃を敵のGM2の右腕に定める。トリガーを引くと、そのGM2の右腕が吹き飛ばされた。さらに急接近し、左腕をきり飛ばした。

 むやみやたらに敵を殺すのは好きじゃない。もちろん必要とあらばヤることに躊躇は……ないと思うけどな。

 

 でも、あのライラさんから色々レクチャーしてもらったからか、かなり操縦や戦いがうまくなったような気がする。原作のジェリドが、月面でMk2を追い詰めたのもわかる気がするな。

 

 そのGM2を無力化した俺は、周囲に敵影がないのを見てとると、愛機をモンブランに突っ込ませた。そして、対空砲火をかわしながら、その機銃とビーム砲をかたっぱしから破壊していく。

 

 そして俺は、ブリッジの正面に移動すると、ビームライフルを突き付けて勧告した。

 

「ただちに降伏してください。逃走の素振りを見せたり、なおも抵抗するならブリッジを吹き飛ばします!」

 

* * * * *

 

 結局その後、モンブランはこちらの勧告に応じて降伏してくれた。ブリッジを吹き飛ばすなんてことをしなくて済んでよかった。その後は、ボスニアにいる連邦軍の士官をお目付け役としてモンブランに送り込んだうえで、月面のグラナダに向かうという話だ。

 

 そしてボスニアのブリッジでは……。

 

「モンブランを無力化したうえで降伏させるとは。よくやった! さすがはライラ大尉が見出した『褐色の姫』だ!」

「よしてくださいよ。モンブランを無力化できたのは、ライラ隊長や他のみんなが敵のMS隊を引き受けてくれたからですし。というかなんですかその『褐色の姫』って」

 

 ボスニアの艦長、チャン少佐からお褒めの言葉をいただいていた。こんなにほめられてくすぐったいけどな。だけど異名をつけられるのはいかがなものかと。俺はここに配属されて一週間しか経ってないし、なんだその『褐色の姫』って。異名がつくにはまだ早いけど、つけるならつけるでもっといい異名をつけてくれ。

 

 それに、あえてモンブランを降伏させたのは、余計な犠牲を出したくないから、という私情もあったしな。本当にこそばゆい。

 

 でも、和やかな雰囲気はそこまでだった。ブリッジクルーがある通信を、チャン艦長に知らせたからだ。

 

「ティターンズから要請だ。エゥーゴのアーガマが、追跡を逃れて30バンチに向かっている。これを撃破されたし、とのことだ」

 

 その艦長の言葉を聞き、俺は身が引き締まる思いがした。

 30バンチ。かつてティターンズが毒ガスで住民を皆殺しにした『30バンチ事件』のあった場所。

 そして……。

 




* 次回予告 *

「カレル……本当なのかい? さっきのことは……」

ライラは絶対有利な立場で戦うつもりであった。しかし、サイド1「30バンチ」の悪夢が、ライラを死に招き寄せた。彼女を助けようと急ぐカレルの想いもむなしく、Mk2の必殺の銃撃が、ライラを撃ち抜いた。

(あんな子供に!子供なのに!)

ライラの復讐に燃えるカレルに、ライラの鎮魂の歌が届く。

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第4話『ライラの声』

刻の涙は、止められるか?

※4話の更新は、10/30 17:30の予定です。お楽しみに!

[今回登場新MS]
・RMS-117-HMU
ガルバルディβ高機動型

ガルバルディβHMUとも。ガルバルディβにブースターユニットを追加して機動力を向上させたタイプ。
史実(A.O.Z)では、テストパイロットによってエゥーゴに持ち出されたが、この世界では、ガルバルディ乗りであるライラの腕を買われて、ボスニアにテスト配備されている。
このブースターユニットは不要時にはパージすることも可能。


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ボスニア編#02『ライラの声』

そういえば、カミーユ父が持ち出してやられたのはシャア専用だったんですね。失念してました汗

この世界では、一般機を持ち出していた、ということにしといてください(平伏


 サイド1、30バンチ。かつてここでは、反地球連邦政府の集会が行われていた。

 集会があまりに大きくなりすぎて手に負えなかった連邦政府は、ティターンズに鎮圧を要請。だがティターンズは、そこであまりに非情な策をとった。

 毒ガスをコロニー内に注入し、集会とは関係ない住民も含めて、集会の参加者を皆殺しにしたのだ。

 事件後、ティターンズと連邦はこの事件を徹底的に隠ぺい、事件は闇に葬られた。

 

 そんな暗い過去のあるこの地だが、俺……カレル・ファーレハイト曹長にとってはそれ以上に因縁(?)のある地だった。

 ここでの戦闘で、現世で俺の上司であるライラさんが、カミーユに敗れ、戦死したのだ。

 現世でそんなことはあってほしくないと思いつつ、俺は沸き起こる不安を抑えることができなかった。

 

 さて。ボスニアも30バンチに接近したが、やはりアーガマの狙いがわからない。原作を見てきた俺としては、『30バンチ事件を見せることで、ティターンズのひどさと、エゥーゴの理念をカミーユ(と寝返ったエマさん)に実地教習する』と予想はつくけど、作中世界の中のボスニアクルーにはそんなことはわからないわけで。

 ……待てよ。この世界でもそれをするということは、結局カミーユはエゥーゴに参加したのか? あれから、自分なりの戦う理由を見つけられたのだろうか? だったらいいけど。でもカミーユとやりあうのは嫌だな。

 

 まぁ、何はともあれ、彼らの狙いを探るべく、ボスニアはアーガマが入ったのとは別の宇宙港に入港した。そして俺とライラさんが偵察しに行くことになったのだが……。

 

「ライラさん。できればライラさんはここで、ボスニアの直掩についてくれませんか?」

「? なぜだい? 私はここのMS隊の隊長だ。行かないわけにいかないじゃないか」

 

 そこで俺はため息をついた。確かにその通りなのだが……。

 

「そういうのなら止めませんが……見たくないものを見ることになるかもしれませんよ?」

「???」

 

 できれば俺だって見たくはないんだから。30バンチ事件の惨状など。

 

* * * * *

 

 コロニーに入った俺たちを待っていたのは、思った通りの光景だった。住民のミイラがあちらこちらに散らばっている。

 あるミイラは、公園のベンチに腰掛けたまま干からびていた。

 また、あるミイラは、そのまま空を舞っていた。

 

 前世で見たことはあっても、こうしてリアルで目の当たりにすると本当にきつい。

 

「……っ」

「大丈夫かい、カレル? ほら」

「あ、ありがとうございます」

 

 ライラさんが差し出してくれたエチケット袋を受け取り、その中にこみあげてきたものを吐き出す。

 

「これはひどいね……。激発性の伝染病で全滅したと聞いたけど……」

「いえ、これは伝染病なんかではないですよ」

「え?」

 

 目を丸くして聞き返してくるライラさん。おっとしまった。ついポロリと出てしまった。どう言いつくろうとしたところで、聞き覚えのある声がした。

 

「……とアピールをしただけなのだ」

「それでバスクはこんなことを……」

 

 シャアとカミーユの声だ。まぁ、シャアの声は前世でアニメなどで聞いたぐらいなのだが。俺とライラさんはその声のするほうに歩いて行った。

 

* * * * *

 

 愕然として立っているカミーユとエマ。苦虫をかみつぶしたような顔をしているクワトロ・バジーナことシャア。

 少しして、カミーユが絞り出すように問いかける。

 

「なんでこんなひどいことができるんですか……?」

「手に刃物を持って殺さないからさ」

 

 そこに。

 

「手に血の付かない人殺しでは、殺される者の痛みはわからないんですよ。そうですよね?」

「「!?」」

 

 聞き覚えのある声に、衝撃を受けるカミーユとエマ。視線を向けた先から、二人の女性が姿を現した。

 

* * * * *

 

「カレルさん……!」

「カレル……。ここにきてたの……?」

 

 その場に現れた俺……カレル・ファーレハイト……とライラさんを見て、カミーユとエマさんが絶句する。それは当然だろう。カミーユにとっては、捕まっていた時に、色々世話になった女性兵士、そしてエマにとっては一緒に戦った戦友なんだから。俺は。

 

「久しぶりだね、カミーユ君、エマさん」

 

 そして、空を見上げる。そこには、ティターンズの非道を訴えるかのように、服の切れ端が舞っていた。

 

 しかし、ここで彼らに遭遇してしまった以上、事件の真相をライラさんにも話さないわけにはいかないだろう。俺が言わなくてもシャアに教えられる可能性が高いのだ。それならば。

 俺は覚悟を決めた。

 

「ティターンズはひどいことをするものですよね。集会を鎮圧するために、この中に毒ガスを流し込んで皆殺しにするなんて。その中にいた私が言うことではないですが」

「なっ……!」

 

 ショックを受けるライラさん。まぁ仕方ない。ここであった事件のことは、一部の以外には徹底的に隠ぺいされていたんだから。

 

「本当なのかい、それは!?」

「えぇ。アングラサイトを見て知ったことなんですけど、このありさまを見て確信できました。そうでしょう? 完全環境都市であるコロニーで突然伝染病が発生するなんて、おかしいじゃないですか」

「……」

 

 沈黙しているライラさん。よっぽどショックだったんだろう。そんな彼女に代わり、シャアが口を開いた。

 

「ほう……意外だな。ティターンズの中に30バンチ事件の事を知っている者がいるとは。いやそれより、それを許せない善人がいるとは」

「ティターンズだからって、悪い人たちばかりではないんですよ?」

 

 そう言って苦笑する。外伝ではあるがT3部隊みたいな人たちもいるし。

 

「ところでカミーユ君、エゥーゴに参加しているってことは、戦う理由は見つけられた?」

「それはまだ……でも、きっかけのようなものは見つかったような気がします」

「そう、なら私と同じだね。ならこれからは、手加減なんかしないからね」

 

 そう言って、私はシャアに銃を突きつけた。シャアが表情を引き締めて言う。

 

「それは、エゥーゴには入らない、という意思表示ということでいいのかな?」

「えぇ。私は今いる組織の中で、平和のためにできることをするつもりです。もし何かの事情でエゥーゴに拾われることがあれば、その時は話が変わってきますけど、今はまだ」

「カレル……」

 

 ふとつぶやくエマさん。そこでまた、シャアが口を開く。

 

「君の志は立派だが、ティターンズに牛耳られてる連邦が世界を平和にできるとは思えんな。ティターンズに乗っ取られて、第二のジオンになるだけだ」

「そうかもしれません。でも、ダメと思って何もしなければ、それで終わりですよ?」

 

 あなたがアクシズ落としをしようとしたとき、それを食い止めようと、ロンド・ベルと協力したネオ・ジオン兵(あなたの部下)もいたんですよ?

 そう心の中でつぶやく。

 

 とそこで、別の方向から銃弾が放たれて、俺の足元に着弾する。どうやら、シャアとカミーユ、エマさんだけでなく、ほかのエゥーゴ士官もここに来ていたらしい。俺たちは、あわててその場を後にした。

 

* * * * *

 

 宇宙港に戻った俺たちは、MSに乗り込み、アーガマ撃破のために宇宙を飛んでいた。

 

「カレル……本当なのかい? さっきのことは……」

 

 ライラさんの声が少し弱々しい。よほどさっきのことが堪えているらしい。俺だって、前世の記憶で知っているとはいえ、自分のいる組織がそんな非道なことをしたと思えば、心穏やかでいられない。事件のことを知らないライラさんはなおさらだろう。

 

「えぇ、本当です。信じたくない気持ちはわかりますが……」

「そうかい……。ジオンの残党の奴らがしたことを、ティターンズのせいにしたってことでもないのかい……?」

 

 そう思いたい気持ちもわからなくはないが……。でも、そう現実逃避しても、現実は変わらないし、何より前に進めない。

 

「えぇ、残念ながら……。ライラさん、気持ちを割り切りましょう。ティターンズはティターンズ。私たちは私たちです。それに、また同じことがあった時は、私たちがそれを止めればいいんです」

「強い子だね、あんたは……」

「ライラさんほどじゃありませんよ」

 

 と、そこで向こうからガンダムMk2と一機のリック・ディアスが飛んでくるのが見えた。そのリック・ディアスは赤い。シャア専用だろう。

 

「と、敵が来たね。話はここまでにしようか。こいつらを振り切って、一気に叩くよ!」

「了解です!」

 

 よかった、いつものライラさんだ。そう安心して、俺はスティックを握る。

 

 しかし、俺は見逃していた。

 

 そのライラさんの声に、少しの揺れがあったことを。それが彼女をオールドタイプゆえの悲劇に導こうとしていることを。

 

* * * * *

 

 ライラさんの高機動型ガルバルディβにはカミーユのMk2が向かい、俺には……シャアのリック・ディアスが向かってきた! なんだこれ! 無理ゲーすぎるだろ!

 

 シャアのリック・ディアスがクレイバズーカを発射する。俺はそれをなんとかかわす。……あれ?

 

 ライラさんの特訓の成果と、このガルバルディβのおかげか、回避に専念すれば、なんとかなりそうだ。

 でもそれでは、シャアを突破することはおろか、攻撃することもできない。ここは、ライラさんがカミーユを突破してくれることを願うしかないか……。

 

 それから、シャアとギリギリのMS戦を繰り広げる。ガルバルディの機動性を頼りに、シャアの放つビーム・ピストルやクレイバズーカをなんとかかわし続ける。

 

 その時。

 

 俺の耳……いや意識に、何かが聞こえた……気がした。

 

(あなただってさっきのカレルさんの言う事聞いたでしょ!?)

(何御託を並べて!)

 

 間違いない。俺の上司で恩人……ライラさんと、カミーユの声だ。

 俺の手のひらに汗がにじむ。

 

(あんな子供に!子供なのに!)

 

 いけない!!

 俺は嫌な予感を感じ、ガルバルディを声の聞こえたほうに向けて、ブースター全開でそちらへと突進した。

 

* * * * *

 

 間に合わなかった。

 俺がたどり着いたその時、ライラさんの高機動型ガルバルディβがビームサーベルを振り下ろす。マーク2はそれを回避。

 

 そして。

 

 Mk2がビームライフルを撃つ。

 ビームがガルバルディの胸に直撃する。

 

 ガルバルディが爆散した。

 

「ら、ライラさああああああん!!」

 

 絶叫する俺。その瞬間。

 

 アレキサンドリアで、俺がカミーユに話していた言葉も。

 ライラさんが俺にかけてくれた言葉も。

 さっき俺がライラさんにかけた言葉も。

 

 全て、頭の中から抜け落ちていた。

 

 よくも!

 よくも!!

 よくも!!!

 

 よくもライラさんを!! 俺の恩人を!!

 

 ただあるのは、俺の上司、俺の恩人、俺の大切な人だったライラさんを倒した仇敵、カミーユ・ビダンに対する怒りと憎しみのみ。

 その怒りと憎しみに突き動かされるように、俺はガルバルディを駆る。

 

 後ろからのリック・ディアスのクレイバズーカに左腕を吹き飛ばされるが、気にしない。ただ、目の前の仇を討つためだけにガルバルディを突進させる。

 

 ライラさんの無念を!

 彼女を奪われた俺の怒りを!!

 胸を焦がすこの憎しみを!!

 

 お前も思い知れ、カミーユ・ビダン!!

 

 その時だった。

 

 俺の耳にまた、聞き覚えのある声が届いた。

 

(気持ちを割り切ろう、ティターンズはティターンズ、連邦は連邦、って言ってたのはあんたじゃなかったかい? カレル?)

 

 ライラさんの声。さらに声は続ける。

 

(あんたは強い娘じゃないか。そんなあんたが、憎しみと怒りに駆られるなんて、らしくないよ……)

 

 そして声は消えた。でもその声が、俺に冷静さを与えてくれた。

 

 そうだ。ここで復讐でカミーユを討っても、ライラさんは喜ばないだろう。

 あるガンダムキャラも言ってたじゃないか。

 

「殺されたから殺して、殺したから殺されて、それで世界が平和になるのかよ!?」

 

 って。

 

 俺は大きく息をつくと、ガルバルディβを反転させ、ボスニアに帰還させるルートをとった。

 情けをかけてくれたのか、他に思うところがあるのか、アーガマからの対空砲火こそあれど、ガンダムMk2からもリック・ディアスからも、ビームが飛んでくることはなかった。

 

 ボスニアに向かうMSの中。その中で俺の中に一つの考えが浮かんでいた。ついに見つかった戦う理由。

 

 もう、大切な人を失い、泣く人を見るのはたくさんだ。

 もう、大切な人を失い、憎しみと怒りに胸を焦がす人を見るのはたくさんだ。

 そんなのはもう、俺だけで十分だ。

 

 ボスニアが見えてくる。

 

 俺はこの力を、戦いの犠牲者を少なくするために使う。

 俺のできることなど、限られているかもしれないが

 それでも。

 俺のできる限りで、刻の涙を少なくするように頑張ろう。

 

 それが、俺がこの世界に転生してきた理由かもしれないから。

 

 そう決意を固める俺の目からは、大粒の涙が流れていた。

 




* 次回予告 *

ライラの死を胸に刻み、エゥーゴとの戦いに向かうカレル。
そのガルバルディは、月での重力の中、ガンダムMk2と激闘を展開する。
一方、エゥーゴは、局面打開のために、大きな作戦を進めようとしていた。

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第6話『月面の死闘』

刻の涙は、止められるか?

次の更新は、11/2 17:30の予定です。お楽しみに!


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ボスニア編#03『月面の死闘』

すげぇ……まだ6話なのに、てんえんのUA数を超えている……。
Zガンダムという題材様様です。大感謝(平伏

なお、本文には書かれていませんが、ライラさんの戦死後、補充要員がMS隊に配属されています。モブですが(笑


「今日もシミュレーター訓練か。精が出るな、ファーレハイト曹長。さすが『褐色の姫』だ」

「成すべきことを成すには、力が必要ですから。というか、『褐色の姫』はやめてください。私はそんな異名をつけてもらえるような人ではないんですから」

 

 ブリッジの艦長席で、シミュレータ使用届けを手にそう茶化すように言ってくるチャン・ヤー艦長にそう答える。

 ライラさんを守れなかったことへの自虐も込めて。

 

 その俺の内心を慮ったのか、チャン艦長はそれ以上は言わず、話題を変えた。別の書類を手に取って口を開く。

 

「そうだ。上からの辞令が届いた。ライラ大尉が戦死したことを受けて、副隊長のマクマナス中尉が隊長を引き継ぎ、大尉に昇進した。それに合わせて、貴官も少尉に昇進となった」

「昇進、ですか」

「そうだ。これからもその力量を連邦軍のために役立ててもらいたい」

「わかりました、拝命いたします」

 

 そして艦橋を出る。

 

 俺……ガンオタ高校生が転生した女性パイロット、カレル・ファーレハイト曹長改め少尉は、引き続き連邦軍内で、自分の立場で、自分のできる範囲内で、犠牲を、悲しむ人を、刻の涙を減らしていくようにこの力を使おうと決意した。

 

 だがそのためには、エゥーゴのクワトロ・バジーナことシャア、そしてカミーユ・ビダンと対等に戦えるだけの実力を持たなければならない。彼らと戦場で遭遇することだってあるのだ。

 今の自分では、まだそこまでの力も腕もない。今の自分では、到底彼らと戦って勝てるとは思えない。遭遇したところで最終的にやられるだけだ。

 だから力をつけるしかない。練習して練習して練習して。せめて、彼らと一対一で互角に戦える力を。

 

 ニュータイプである彼らに食いつくには、並みの訓練では追いつけないかもしれない。でもやるしかない。俺の願いをかなえるためには。

 

 力なき正義は無力。

 

 あるキャラが言ってた言葉が、今の俺の胸に大きく響いた。

 

* * * * *

 

 その日、シミュレータ訓練に向かっていた時に、それはやってきた。その前日から具合が悪かったのだが……。

 下腹部がなんか痛い。股に何か違和感が……。

 

「まさか……?」

 

 俺はちょっと急いで女子トイレに駆け込んだ。そして……。

 

「うわああああああ!?」

 

 悲鳴を上げた。そう、あの日だった。

 

* * * * *

 

「女なんて嫌いだ……」

 

 食堂でテーブルに突っ伏し、俺はそう嘆いていた。あの後、カレルとしての記憶を探りながら応急処置と血の処理をした後、医務室に直行し、生理用品をもらってきたのは言うまでもない。

 

 TS転生してからかなりの月日が経ったものの、やはり女の身体は慣れない。トイレも男とは勝手が違うし、女の肌は弱いから、男の時のように垢すりでごしごしするわけにもいかないし、それに何よりあの日。

 

 最近はそうした違いも、少しは楽しめるようになったものの、やはり生理だけは嫌だ。

 

 女子生徒の皆さん。「女子は大変だなー」と笑っちゃってすいません。俺が浅はかでした。

 

 そして俺が突っ伏してると。

 

「今回はまた、大きな悲鳴だったな、姫」

「そうですね。少尉、もうこんなこと何回も遭遇して慣れてるんじゃないんですか?」

 

 食事をのせたプレートを乗った、二人の男性軍人がやってきた。大柄の、いかにも軍人といった感じの30代に見える男性と、頭をスポーツ刈りにした、俺と年が近そうな男性だ。

 

 もちろん、俺は二人のことをよく知ってる。大柄のほうが、先ほど艦長が言っていたヴァン・マクマナス大尉。このボスニアのMS部隊の副隊長だ。先ほどの話通り、ライラさんの戦死後は、その後を継いで隊長に就任している。

 スポーツ刈りのほうはジョッシュ・ミレット少尉。MS部隊の一員であり、部隊のムードメーカーだ。階級が同じせいか、よく俺をちゃかしたり、時にはライバル視してきたりと、俺とはよく関わっている男だ。

 

「何回も遭遇しても、やっぱり慣れないものは慣れないんですよ。あと、今回はいつもより量が多かったですし」

「そうなんですか。本当に女性って大変な生き物ですよねー」

「そんな軽い気持ちで言って……。なんなら、ジョッシュも女になってみますか? そうすれば私の気持ちもわかりますよ」

「い、いや、それはやめとく」

 

 そこで、マクマナス大尉がこほんと咳払いをする。

 

「そういえば二人とも、あのことは聞いているか? エゥーゴの動きのことは」

「あぁ、ジャブローを狙ってるって話ですね」

「今、奴らはアンマンで準備を進めているって話でしたっけ」

 

 そう、もうそんな時期なのだ。目に見える成果を挙げたいエゥーゴのスポンサーが、エゥーゴに地球連邦軍本部ジャブローの攻略を指示した。それを受けてエゥーゴは軌道上からMS部隊を降下させてジャブローを制圧する作戦を発動させた。

 そこで、ジャブローとその衛星軌道上で、降下を阻止しようとするティターンズとエゥーゴとの間で戦いが繰り広げられたのだ。

 そうだ、確かそのジャブローでは……。

 

「どうしたのだ、姫? 何か考え込んでいるようだが」

「いえ。もしかしたら、ティターンズからこのボスニアにも、そのジャブロー降下作戦の阻止に向けての支援要請が来るのかな、と思いまして」

「まぁ、来てもおかしくないですよね。ティターンズは連邦軍を手下のように見てますし」

「ですよね」

 

 なんか意見が一致してしまった。やっぱりジョッシュもティターンズのことを良く思ってなかったのね。まぁ、ティターンズを好意的に見れる奴がいたら見てみたいが。

 

 そこで、マクマナス大尉がまた「こほん」と咳払いをした。

 

「まぁ、俺もティターンズは好きではないが、それでも要請が来たら全力を尽くすだけだ。二人とも、心身ともに準備を行い、その時には全力を尽くせるように」

「はっ!」

「了解です」

 

* * * * *

 

 その後、本当にティターンズからの通達が来た。ジャブロー攻略準備のため、アンマンに向かっているアーガマを攻撃せよ、というのだ。

 さすがにアンマンの上空で戦うわけにはいかない。そんなことをしたら民間人にも被害が出るし、そうなれば月市民たちの連邦への心証も悪くなるだろう。

 

というわけで。

 

「……」

『緊張しているな、ファーレハイト少尉。でも逸るなよ。焦りは隙を生む』

「はい、わかってます」

 

 月の地表を飛ぶ俺のガルバルディβに通信が入る。そのマクマナス大尉の言葉に、俺はうなずいて応えた。

 先ほども言った通り、アンマンの上空で戦うわけにはいかない以上、アンマンに到着されたらこちらの負けだ。ということで、このようにアンマンに向けて、月地表を飛行途中のアーガマを襲う、という作戦とあいなった。

 

 正直言って、ライラさんの仇を討ちたくない、といえば嘘になる。でもそれよりも、誓いを果たすこと、刻の涙を減らすことのほうが重要だ。

 それを何度も、心の中で呟きながら、俺のガルバルディは、隊の仲間たちと月面を進んでいった。

 

 そうしているうちに、アーガマの偵察隊らしきMSがやってきた。幸いながらに、シャアのリック・ディアスやカミーユのガンダムMk2は含まれていないらしい。

 とはいえ、地形から言って、彼らの目を盗んでアーガマに接近する、ということはできそうになさそうだ。

 

『偵察が出てきたか。仕方あるまい。こいつらを蹴散らして先に進むぞ。手が開いたMSは、そのままアーガマに向かえ』

「了解です!」

 

 そしてMS戦が始まった。

 

* * * * *

 

 さすがライラさんが鍛えた強者たちだ。雑魚……もとい一般兵とはいえ、アーガマのMS隊と互角以上にわたりあっている。

 俺のほうにも、GM2が一体、向かってきている。GM2が撃ってきたビームライフルをかわし、シールドミサイルを発射! ミサイルがGM2のシールドを破壊したのを確認したところで、ビームライフルを発射する。

 ビームは、GM2の胸部を貫通! パイロットが脱出した直後、爆散した。

 こちらの手が開いたので、お先にアーガマに向かわせてもらう。後ろを見ると、さすがというべきか、マクマナス大尉も無事に、アーガマの偵察隊を突破してきている。ジョッシュは……うん、まだ偵察隊と戦ってるみたいだ。

 

 このまますんなりアーガマに取り付ければ……と思ったことが、俺にもありました。

 でも、現実はそう簡単にはいかないらしい。

 

 アーガマからまたMSが発進してきた。どうやら、こちらが本命みたいだな。出てきたのは、黒いリック・ディアスが2機(まだシャアが百式に乗り換えていないので一般機は黒のままなのだ)と、シャアの赤リック・ディアス、そしてカミーユのガンダムMk2だった。

 

 俺は冷や汗が流れるのと同時に戦慄を感じ、マクマナス大尉に警告した。

 

「大尉、気を付けてください。ガンダムはライラさんを倒した奴、そして赤い奴は、シャアが乗っています!」

『赤い彗星か! そいつは大変そうだな。カレル少尉も気をつけろよ! 無理はするな!』

「了解です!」

 

 そして戦闘態勢をとる。マクマナス大尉のほうには、シャアと黒リック・ディアスの二機が、そして俺のほうにはカミーユのMk2ともう一機の黒リック・ディアスが接近してきた!

 

 スティックを握る手に力がこもり、手汗がにじむ。犠牲を減らすのが重要で、ライラさんの仇にはこだわらないと決めているが、やはり、ライラさんを倒したカミーユに勝ちたいという気持ちは抑えがたい。

 

「行くよ、カミーユ君!」

『あの女性(ひと)か!』

 

 ビームライフルを撃つ。カミーユのガンダムMk2はそれをかわすと、あちらもビームライフルを撃ってきた。俺は、ガルバルディの機動性に任せてそれを回避する。

 と、別の方向から弾が発射された。それをシールドで防御する。シールドが破壊された。

 

 今撃ってきたのは、黒いリック・ディアスのようだ。シャアと一緒に出てきた、ということはアポリーさんかそれともロベルトさんか?

 しかし、二機を相手に戦うというのは、ちょっときついな。しかも、そのうちの一機はカミーユだ。ここは回避重視で、仲間か友軍が駆け付けるまで粘ったほうがいいかもしれない。とはいえ、そうしているうちにアーガマがアンマンに入ってしまうんだが。でも、やられないためには仕方ない。

 

 それから俺は黒いリック・ディアスと、カミーユのMk2相手に戦いを繰り広げた。というより、回避に専念し、少ない隙ができたところで攻撃していた、と言ったほうが正しいな。

 原作ではジェリドは、カミーユとかなりいい勝負してたんだけどなぁ。やはり、二対一という状況と、カミーユが戦う理由を見出して、戦いに参加することに抵抗が少ない、というのが大きいか。

 

 と、その時、上空からビームが発射され、黒リック・ディアスの左腕が吹き飛ばされた。見ると、マラサイ二機が飛んでくる。

 

『そこのガルバルディ、無事か!』

「ジェリド君! カクリコンも来てくれたの?」

『カレルか!』

 

 なんと、ジェリドとカクリコンが駆け付けてきてくれた。これで勝つる! 多分。

 

「私はガンダムMk2をやるわ。二人は、黒いリック・ディアスをお願い。あと、そっちで戦っているガルバルディの援護もしてくれると嬉しい」

『お願いが多いな。まぁいい。カクリコン、お前はそっちの援護をやってくれ。俺は、こっちの黒リック・ディアスをやる』

『了解』

 

 そうだ、これもお願いしておかなきゃ。

 

「それと、できればパイロットを殺さない方向でお願いね。人が死ぬのをあまり見たくないから」

『お願いが多いな本当!』

「お・ね・が・い」

『わかったからやめろ! 気色悪いんだよ!』

 

 かくして、黒リック・ディアスの相手をジェリドに任せ、俺は改めて、ガンダムMk2との戦いを再開した。

 ガルバルディの機動力を全開にして、カミーユの射撃をかわしながら、Mk2に迫る。

 

 俺はジェリドじゃないけど、あえて言わせてもらう。

 

「たとえ君がニュータイプでも、月面の戦闘ははじめてのはずだよね!」

『くぅっ!』

 

 本当に僥倖だ。ジェリドの場合は、カミーユが月面戦闘に不慣れなことを突いて、月面での戦いを仕組んだのだが、こちらは作戦を仕掛けた状況でこうなったのだから。

 対してこちらは、ライラさんに、色々戦いについて仕込まれた。MS戦は俺のほうに一日の長がある! 例えるなら、ラ〇ウとケンシ〇ウ!! 作品違うけど!

 

 こちらのビームライフルをMk2はジャンプでかわすが、着地に失敗して倒れてしまう。

 

「消えろ少年!……いやうそうそ、消えてもらうつもりはないから!」

 

 とクロ〇クルのセリフをパクりながら、左手にビームサーベルを構えて飛び掛かる。

 

 と、横からクレイバズーカが放たれた。さすがに飛び掛かっている状況では回避もままならず、右腕を破壊される。

 見ると、黒いリック・ディアスがもう一機、接近してきた。

 

 通信が入る。

 

『戦いはそこまでよ、カレル! アーガマはもうすぐアンマンに入る!』

「エマさん……って、ええ!?」

 

 見ると、ほんとだ。いつの間にか、戦いの舞台はアンマンのすぐ近くになっていた。カミーユとの戦いに集中しすぎていたせいだろう、たぶん。

 

『撤退して、カレル。アーガマがアンマンに到達した以上、これ以上の戦いは無駄なはずよ』

「そうですね……残念ですが。今度は負けないわよ、カミーユ君」

『カレルさん……』

 

 俺は、カミーユ相手に、あと一歩で勝てるところまでいったことの、ささやかな満足と、作戦を達成できなかった無念さがないまぜになりながら、ガルバルディを後退させた。見ると、マクマナス大尉のガルバルディや、ジェリドやカクリコンのマラサイも撤退を開始している。

 

 ボスニアの帰還の途中、ジェリドから通信が入る。

 

『なかなかやるようになったじゃないか、カレル。ガンダム相手にあそこまでやるとは』

「ううん、まだまだだよ。結局作戦の目的は達成できなかった。まだまだ訓練が必要だね」

『真面目な奴だな。だがお前なら、きっといいパイロットになれる。俺が保証するぜ』

 

 そのジェリドの言葉に、ちょっと悪戯心がわいてくる。

 

「ありがとう。惚れたらだめだよ」

『ば、馬鹿、俺はそういうつもりで言ったんじゃない!』

「わかってるよ。助けに来てくれてありがとう」

『お、おう。これからもがんばれよ』

 

 そう言って、ジェリドとカクリコンのマラサイは上空に飛び上がり、アレキサンドリアに帰還していった。

 そうだ、俺は一人じゃない。ボスニアの仲間がいるし、ジェリドとカクリコンという旧友もいる。例え彼らと相対することがあっても、この彼らとのつながりがあれば心配はいらない、そう思い、俺はバーニアを全開にして、ボスニアへ飛んで行ったのだった。

 




* 次回予告 *

ティターンズの巡洋艦を奪う作戦を決行するアーガマ。そのアーガマの隙を狙う作戦が実施された。

「ありがとうございます。でも、別にHMU仕様にしなくてもよかったのに」
「なぁに、せっかく予備パーツがあるんだ。使わないともったいないだろう? そして使うとなったら、それはライラが見出した『褐色の姫』しかいないだろうよ」

ライラの遺したものを受け継ぎ、その戦いに参加するカレル。
彼女はそこで、カミーユの新たな素質の発現を見るのだ。

『カレルさん!』
「カミーユ君か。本当にいいタイミングで来るね!」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第7話、『カミーユの発現』

刻の涙は、止められるか?

※次の話は、11/05 17:30に更新予定です。


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ボスニア編#04『カミーユの発現』

 俺……カレル・ファーレハイト少尉は、ボスニアの通路の窓から黄昏ていた。

 

「カミーユは今頃、ウォンさんとエマさんに修正くらってるのかなぁ……」

 

 そう遠い目をしてしまう。多分今頃、アーガマでは、グラナダに停泊しているティターンズのサラミス級を奪う作戦が立案されているころだろう。確かその話では、カミーユがブリーフィングに遅刻してしまい、二人に修正を喰らっていたはずだ。

 

 今回のカミーユは、俺の説得の影響か、戦いに前向きになってるとはいえ、やっぱり今までは民間人の高校生だったんだから、遅刻の可能性は少なくないだろう。お姉さんやっぱり心配である。いやいや、俺は元男なんだが。

 

 とりあえず、『修正されなかった? 大丈夫?』とだけメールを送っておくかな。

 

 ……いや、ダメだろう。こちらとしては、別に機密を送ったり、内応の算段をしてるわけではないとはいえ、ボスニアのみんなに疑われることをするのは避けるべきだ。敵と連絡をとることはいけない、という常識もあるし。

 それに、『どうしてそのことを知ってるんですか?』って、カミーユに変に思われる可能性もある。いや、俺がカミーユだったら間違いなく思う。

 

 ここは我慢、我慢だ。でもなぁ……。

 

 そんなことを考えていると……。

 

「少尉、何してるんですか? もうすぐブリーフィング始まりますよ」

 

 ジョッシュの言葉で我に返った。

 ……危うく俺がブリーフィングに遅れて修正されるところだった。

 

* * * * *

 

 アーガマに再び強襲をかけることになった。

 

 というのも、俺の前世の記憶の通り、アーガマがグラナダのティターンズ艦を拿捕するという作戦を開始した、という情報が入り、それに乗じて、手薄になったアーガマを襲う作戦が開始されたからだ。原作では、カクリコンたちのティターンズ部隊がその任務にあたったが、今回はアーガマの近くにいるのが俺たちボスニアなので、こちらにその任務が回ってきた、というわけである。

 

 そういうわけで発進準備……と、MSデッキに出ると。

 

「待たせたな。改装も準備もできてるぞ」

 

 俺にそう言ったのは、デニス・シヴァコフという中年の整備士。腕は確かだが、ちょっとマッドエンジニアの気があるのが玉に瑕な、このボスニアの整備士長さんだ。

 

 その彼に俺は微笑んで頭を下げた。

 

「ありがとうございます。でも、別にHMU仕様にしなくてもよかったのに」

「なぁに、せっかく予備パーツがあるんだ。使わないともったいないだろう? そして使うとなったら、それはライラが見出した『褐色の姫』しかいないだろうよ」

「だから、その『褐色の姫』はやめてくださいよ。私はただのMSパイロットに過ぎないんですから」

「はっはっはっ。評価は自分ではなく、他人でするものだよ。ほら、乗った乗った」

「もう……」

 

 そう、いつの間にか俺のガルバルディβは、ボスニアに積まれていた予備パーツを使って、高機動型に改修されていたのだ。ライラさんと同じ仕様になるのは、ちょっと複雑な気持ちだ。それに、改修するなら、まず隊長を引き継いだマクマナス大尉にではなかろうか。

 

* * * * *

 

 かくして、俺たちは発進した。

 

 なお、今回は作戦にあたり、ティターンズから1隻サラミス級を提供していただいている。これでMS隊は合計8機となる。そのうち、2機をボスニアの直掩にあて、残り6機でアーガマに向かっている。

 

 アーガマが見えてきた。俺たちが接近しているのを見つけ、すぐに1機の赤リック・ディアスと、2機のGM2が上がってきた。

 

 リック・ディアスはともかく、相手がGM2なら、このガルバルディの敵ではない……いやいや、油断は禁物だ。気を付けないと。

 

 ガルバルディβHMUの機動力に任せて、GM2のビームライフルをかわしていく。そして隙をついて急接近し、ビームサーベルを振るう。それでGM2の右腕を斬り落とした。

 さらに追撃を加えようとしたところで、こちらに向けて弾が飛んできたので、あわてて回避する。

 

 弾を撃ってきたのは、クレイバズーカを構えた赤リックディアスだ。あの話で出てきたのは……。

 

「エマさんね。相手にとって不足はなし。かつての仲間でも容赦しませんよ!」

『カレル!?』

 

 クレイバズーカの弾は、ビームライフルのビームに比べると弾速は遅い。ガルバルディHMUの機動性なら、かわすのは簡単だった。

 これではいけないと、リック・ディアスがビームピストルに持ち替えようとしたところを……。

 

「隙あり!」

 

 持ち替えようとした左手をビームライフルで撃ち抜く。

 

「ガルバルディの力を甘くみてもらっては困るよ!」

『くっ……』

 

 しかし、さすがエマさん、なかなか粘る。物語通りなら、途中でカミーユが引き返してくるので、それまでに決着をつけておきたいのだが。

 そう思いながら、ビームライフルを撃つ。エマさんはそれをジャンプでかわした。上空から攻撃しようというのだろう。俺は、バーニアを全開にして、全速後退。リック・ディアスのクレイバズーカを立て続けにかわす。

 そしてタイミングを見計らって、シールドミサイルを発射! ミサイルは見事、着地したばかりのリック・ディアスの足に着弾! 破壊して擱座させることに成功した!

 

 よし! エマさんの無力化に成功した! 俺は再びバーニアを全開して、アーガマに迫る。そして死角からエンジンに狙いを定めた。本当ならブリッジにぶち込むのが筋なんだろうけど、やはりむやみに人を殺すのは好きではない。俺は殺人狂じゃないんだ。エンジンを叩けば、アーガマを行動不能に追い込むことはできる。その後、降伏勧告すればいい。

 そして発射しようというところで……。

 

「!!」

 

 何かがひらめく感覚。なんだ? まさか俺もニュータイプに覚醒が? そんなバカな。

 ともあれ、その感覚に従って、ガルバルディを後退させる。それまで機体がいた位置を、ビームが通り過ぎた。

 

 そのほうを見ると……やはりというべきか、カミーユのガンダムMk2が飛んできた!

 

『カレルさん!』

「カミーユ君か。本当にいいタイミングで来るね!」

 

 そう言いながら、回避行動をとりながらビームライフルを連射する。Mk2はそれを鮮やかな動きで回避しながら、ビームライフルを撃ってくる。

 

 カミーユの動きが今までよりシャープになっている。この動きは……原作でのあの動きと酷似していた。エマさんを守りたい、という気持ちが、彼のニュータイプ能力の開花を促しているんだろう。

 

 その戦い方は憎らしいほど見事で、俺でさえ、互角な戦いをするのがギリギリだ。本当に味方にすれば心強いが、敵にすれば……とはよく言ったものである。

 

 その戦いの末、撤退信号が出たのと、俺のガルバルディのシールドがMk2に破壊されたのとは同時だった。

 

 ここまで、か。本当にカミーユ、どんどん強くなっていくな。

 そう思いながら、俺はガルバルディを後退させた。

 

 後ろの様子をモニターに移すと、エマさんがMk2のコクピットに入っていくのが見えた。

 

 これから彼女に、「グラナダの作戦が終わっていないのに勝手に戻ってきたのでしょう!?」と叱られるのだろう。ご愁傷様。

 

 それに少し留飲を下げながら、俺はボスニアに帰還したのだった。

 




* 次回予告 *

カミーユが、ファとの間の幼馴染の絆を嫌っていたことをカレルは知っていたが、立場上、何もすることはできなかった。

それよりも彼女には、片方のチームリーダーを勤めるという重責があったのだ。

「ええっ、私がβ隊の指揮でありますか!?」

彼女が思うのは、ジャブローの罠による刻の涙の回避。

「了解しました。炎にまかれないように気を付けてくださいね」

そのことを思うカレルを助けたMSに、彼女は世界を乱す者の気配を感じるのだった。

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第8話『ジャブローの嵐(前編)』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、11/08 17:30の予定です。お楽しみに!


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ボスニア編#05『ジャブローの嵐(前編)』

 前回の作戦失敗を受け、改めてティターンズから通達が来た。

 いよいよ、エゥーゴが動き出した。5日後にジャブローへの降下作戦を行うと見られるという。それに合わせてティターンズが阻止作戦を行うので、衛星軌道付近の連邦軍にも、それへの協力を要請する、という内容である。

 

 確か原作ではティターンズのみで迎撃を行ったはずだが、今回は(表向きにも)ジャブロー防衛を確実にするため、使えるものは使ってやろうということなのだろうか、それとも他の意図か。

 

 ともあれ、その衛星軌道付近にいる俺たち、ボスニアにもその通達が届いたわけだ。

 俺……カレル・ファーレハイトとしては喜んで、という具合だ。ジャブローに核が仕込まれていることを原作の知識で知ってる俺としては、なんとかその核の被害者を減らしたいと思っていたからだ。

 だが、どうすればいいかはまだ思いついていない。降下直後に俺からばらしても信じてはもらえないかもしれないし、利敵行為として処罰されるかもしれない。あの外道ハゲことバスクだったらやりかねない。

 

 だからそれ以外の方法を考えなければならないのだが……うーむ。

 

 と、俺がうんうん悩んでいるうちに、ブリーフィングの時間となった。

 

* * * * *

 

「お前たちも知っている通り、エゥーゴからのジャブロー防衛のため、俺たちボスニアにもその支援の要請が入った」

 

 と口を開いたのは、ライラさんの後をついでMS隊隊長となった、ヴァン・マクマナス大尉だ。彼は引き続き、ミッションの説明を行う。

 

「今回は隊を二つに分けて行う。α隊はエゥーゴを迎撃後、ジャブローに降下し、引き続きエゥーゴを迎撃。β隊はα隊と共にエゥーゴを迎撃した後、ジャブローに降下していくα隊を支援する。作戦終了後、β隊はボスニアに帰還、現地から離脱する、という流れだ。何か質問は?」

「はい」

 

 と手を挙げたのは、ボスニアMS隊のムードメーカー、ジョッシュ・ミレットだ。

 

「なんだ、ミレット少尉?」

「はっ。α隊はジャブローに降りた後はどうすればいいのでありますか?」

 

 ジョッシュがそう言うと、マクマナス大尉は苦笑して、手元の書類を見て返答した。

 

「それを忘れていたな、すまん。α隊は作戦終了後は、ジャブローの輸送機に乗って、連邦の宇宙基地まで移動。そこからシャトルで宇宙に戻るそうだ。もちろんボスニアはそれに合わせて再び軌道上まで戻るから心配しなくていい」

「はっ、了解しました」

 

 その後、メンバーの振り分けが行われたのだが……。

 

「ええっ、私がβ隊の指揮でありますか!?」

 

 そう、なんと俺がいきなり、β隊のリーダーを仰せつかったのである。

 いきなり重責だ。

 

「何を驚くファーレハイト少尉。グリーンノアでの一件や、モンブラン拿捕など、貴官の挙げてきた功績をとれば当然のことだと思うが」

「はぁ……そうかもしれませんが」

「俺は反対です! いくら功績を挙げたといっても、指揮を執った経験がない、しかも女性が指揮などできるわけがありません! なるなら俺が!」

 

 ジョッシュが反対してきた。さすが俺にライバル心を抱いてるだけのことはあるな。そのコンプレックスが元で、強化されることがなければいいのだが。

 

「ふむ、それなら仕方ないな」

 

 マクマナス大尉がつぶやいたその言葉に、ジョッシュがぱあっと表情を明るくさせる。自分がリーダー役を任せてもらえるかもという希望を持ったのだろう。だがしかし、現実は非情であった。

 

「よし、どちらがβ隊のリーダーにふさわしいか、シミュレータ戦で白黒つけようではないか」

 

* * * * *

 

 シミュレータを使ったリーダー争奪戦は、結局3対2で俺の勝ちとなった。その後、ジョッシュが「条件が悪かっただけだ!」と駄々をこねた二回戦も、2対1で俺の勝ち、半泣きになりながらお願いした、泣きの三回戦に至っては3対0と俺の勝ちとあいなり、やっぱり俺がβ隊のリーダーになったのだった。ジョッシュはよほど悔しかったのか、「俺は認めないからなー!!」と走り去っていった。彼には沈む夕日の幻が見えていたのだろうか? もっともそんな彼も、β隊のサブリーダーに収まったのだが。

 

 なお、α隊のリーダーは、当然のことながらマクマナス大尉。ジャブローの核に巻き込まれないか不安だが、俺にはβ隊を指揮し、α隊を支援し、ボスニアを守るという任務がある。彼や降下した兵士たちを助けるために、事故を装って一緒にジャブローに落ちる真似をしたら、あの世のライラさんにどやされるだろう。ここは、マクマナス大尉の勘を信じるしかない。

 

ともあれだ。俺は愛機である、茶色の高機動型ガルバルディ(バリュート装備)をカタパルトまで移動させる。

 

「カレル・ファーレハイト、ガルバルディβHMU、行きます!!」

 

 そして、宇宙へと飛び立っていった。

 

* * * * *

 

 一方、地球圏に近づきつつあるヘリウム3輸送船、ジュピトリス。

 その格納庫にて、可変モビルアーマー(MA)、メッサーラが発進準備をしていた。

 

 コクピットの中のパイロット、パプテマス・シロッコの元に通信が入る。

 

「大佐、本当に自ら行かれるのですか? ここはハイザック隊に任せては……」

「いや艦長。ティターンズの信頼を得るためにも、ここは私自ら出るべきなのだ。ジャミトフ閣下も、私にエゥーゴを倒させるならこうするべきとわかっているはずだ。案ずるな」

 

 そういうが、シロッコの顔には余裕の笑みが浮かんでいた。

 そしてシロッコにはもう一つ、自ら出撃する理由があった。

 

(地球圏に入った時から感じていた、微弱ながらも女とも男ともつかぬ特殊なプレッシャー……。その源を確かめ、見極めなければなるまい)

 

「メッサーラ、出るぞ!」

 

 そしてシロッコのメッサーラは、ジュピトリスから漆黒の宇宙へ飛び立っていった。

 

* * * * *

 

 ガルバルディβの1機に襲い掛かろうとしていたネモの右腕を、ビームライフルで撃ち抜く。さらにビームサーベルを抜こうとしたもう片方も、撃ち抜く。

 さらに、別のネモが俺のガルバルディの脇を通り過ぎて、引力圏に向かおうとする。俺はバーニアを全開にしてそのネモを追う。さすが高機動型。あっという間にそのネモに追いついた。そこでビームサーベルでバリュートパックを切り裂き、さらに宇宙のほうにけりだす。これであのネモはもう大気圏突入はできない。

 

 と、今度は俺の部下のガルバルディが、また数機のネモに襲われているじゃないか。

 ボスニアのMSパイロットたちは、隊長がライラさんだったこともあってみんな手練れぞろいだが、それでもやはり大変そうだ。

 そのうちネモの一機が、ボスニアに取り付き、ビームライフルを構えた、やばい!

 

 と、その時。

 そのネモが、どこかから放たれたビームに貫かれて爆散した。なんだ!?

 

 ビームの発射されたほうを見てみると、何かが飛んできた。あれは……メッサーラ? シロッコが援軍にきてくれたのか?

 

 さらにメッサーラは、こっちに襲い掛かろうとしていた別のネモをも撃ち抜いた。それからも、俺たちの出番を奪うかのように、ボスニアに向かってくるエゥーゴのMSを次々と落としていく。

 正直、彼がこの後しでかす色々なことを考えると、素直に感謝したり喜ぶ気にはなれないが、とりあえず援軍にきてくれたのはありがたい。

 

 そして、そのメッサーラが、俺のガルバルディの前を通り過ぎた時。

 

 不思議な感覚が俺を貫いた。うまくいえないが、宇宙のイメージなのだが、不快というか悪意に満ちた感じというか……。 俺がその感覚から解放された時には、メッサーラは遥か彼方……おそらくアーガマのほうに飛んで行っていた、

 

 それにしても、今のはなんだったんだ?

 もしかして俺もニュータイプに? いやいや、そんな馬鹿な。俺はただのガンオタ男子高校生転生者なんだ。ニュータイプに覚醒するなんて、いやまさかそんな。

 

* * * * *

 

 一方、アーガマに向かっているメッサーラの中、シロッコは得心した表情を浮かべていた。

 

「あのプレッシャー、やはりあのガルバルディのものだったか。だがあの程度ではこの天才たる私の足元にも及ばん。大したことはできんだろう。ちょっと無駄足だったな。さて、次のプレッシャーは私の期待に応えてくれるか……?」

 

 そしてアーガマとそのMSをとらえたシロッコは、不敵に言い放った。

 

「落ちろ、カトンボ!!」

 

* * * * *

 

 メッサーラに助けられてからも、戦いを続ける俺とβ隊の面々。

 と、そこで通信が入った。

 

「はい、こちらβ1。α1、どうぞ」

『こちらα1。αはこれより大気圏に突入する。援護を頼む』

「了解しました。炎にまかれないように気を付けてくださいね」

『??? 了解した』

 

 通信が切れた。俺は一息つくと、β隊の各機に通信をつなぐ。

 

「よし、これからα隊の援護に向かうわ! β3とβ4はボスニアの直掩をお願い。私とβ2は援護に向かいます!」

『β3、了解』

『β4、了解です』

「よし、それじゃ行くわよ。ジョッシュ!」

『おう! 戦果をたくさん挙げて、姫より俺が強いってことを証明してやるよ!』

 

 そして俺の高機動型ガルバルディβと、ジョッシュのガルバルディβは、引力圏に向かっていった。

 

 




* 次回予告 *

『なんだファーレハイト少尉、君も降下してきたのか』
「はい、ちょっとしくじってしまいまして」

カレルは誤り、ジャブローに降り立った。だがそこではまさに、エゥーゴをせん滅せんとする、ティターンズの陰謀が動き始めていた。

「カミーユ君、聞こえる?」
『え、か、カレルさん?』

時を刻む核爆弾。果たしてカレルたちボスニア隊は、ジャブローを脱出できるのか?

そしてカクリコンは、人知れず、語られもせず大気圏の塵と化すのであった。

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第9話、『ジャブローの嵐(後編)』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、11/11 17:30の予定です。


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ボスニア編#06『ジャブローの嵐(後編)』

 俺……カレル・ファーレハイトが、α隊が大気圏突入しようとしているエリアに到着すると、いるわいるわ。

 

 たくさんのMSが、撃ち合ったり、バリュートを開いて大気圏に突入したりしている。大気圏に突入しようとしているMSの中には、マクマナス大尉と彼の部下と思われる四機のガルバルディβもいる。

 

 そのうちの一機に、エゥーゴのネモがビームライフルを構えているじゃないか! それはやばい!

 俺は急いでガルバルディをそのネモに突進させる。

 

「無抵抗の相手を撃つなんてナンセンスだよ!」

 

 そしてビームサーベルで、そのネモの右腕を切り落とす。さらにガルバルディβの機動性をフル活用して、ネモが撃ってきたバルカン砲を回避しまくる。

 

「くっ……!」

 

 かなりのGが襲い掛かるが気にしない。そして振り向きざまにビームライフルを発射して左腕と両足を撃ち抜き、達磨の出来上がり。

 

「味方に拾われるのを願っててね」

 

 そう言い残し、そのネモを地球とは反対方向に蹴り飛ばす。あとは、エゥーゴの部隊がそのネモを回収してくれるだろう。バーニアは生きてるから自力で友軍に合流することもできるはずだ。

 

 また別のネモが背後から接近してきたので、振り向きざまにそのネモの頭部を撃ち抜く。さらに左腕を撃ち抜く。だがそれでもそのネモは止まらず、ビームサーベルを抜いて突っ込んできた! この距離ではビームライフルで迎撃することもできない。覚悟を決めて、こちらもビームサーベルを抜き放つ。

 そして衝突。幸いにも、敵のビームサーベルは、俺のガルバルディの頭部側面をかすめただけ。一方、こちらのビームサーベルは、見事にネモの胴体を貫いていた。

 ビームサーベルを引き抜き、ネモを蹴り飛ばす。少しして、そのネモは爆発した。

 あまり敵兵とはいえ殺したくないのだが、やむを得ない。これは不可抗力だ。そう割り切るしかないから仕方ない。

 

 だがうかつだった。その爆発の衝撃で、体勢を崩し、地球のほうへと流されてしまったのだ。このままでは大気圏に突入してしまうっ……!

 

「お、落ち着け落ち着くんだカレル・ファーレハイト、お前ならできる。ライラさんとマクマナス大尉の教えを思い出して……」

 

 そして急ぎつつも落ち着いて姿勢制御を試み、なんとか安定するが、その時にはもう地球の引力圏に入ってしまっていた。もうこうなったら地球に降下するしかない。

 

「しくじったわ、地球に降りる。ジョッシュ、β隊とボスニアのことは任せたわよ。あとはよろしくーーーー!!」

『お、おい、カレルーーーーーー!!』

 

 そして俺はバリュートを開き、そのまま大気圏に突入した。

 

* * * * *

 

 そして灼熱の大気圏を抜けて、ジャブロー上空にやってきた。ある程度の高度まで降下したところで、バリュートを切り離す。

 

 眼下には、地上に向けて降下しているネモや、対空砲火に撃ち落されるGM2の姿などが見えた。

 あと、ジャブローの森の緑も。いやー、緑がきれいだなぁ。やっぱり自然はいやされるー……なんて言ってる場合じゃない。

 

 マクマナス大尉の教えを思い出しながら、着陸態勢をとる。彼によって体に叩き込まれたからか、なんとかうまく着陸することができた。そこに通信。

 

『なんだファーレハイト少尉、君も降下してきたのか』

「はい、ちょっとしくじってしまいまして」

『そうか、でも落ちてきてしまったものは仕方ないな。無理せず、ジャブロー防衛に参加してくれ』

「了解です」

 

 そして、ある時は上空から降下してくるエゥーゴのMSを撃ち落としたり、ある時は接近してくるMSと白兵戦を演じたりしながらジャブローの防衛を続ける。

 あ、そうそう。高機動ユニットはもうパージしていて、この機体はただのガルバルディβに戻っている。高機動ユニットは重力下ではあまり意味がないからね、仕方ないね。

 

 しかし……困ったなぁ。早く核のことを違和感なく連絡できる状況になってほしいんだが。原作ではジャブローにとらわれていたレコアさんが脱獄してきて、それで通報してくれるんだけど、それだと時間ギリギリで、一部のティターンズ兵が逃げきれずに核で焼かれる結果になったんだ。それを考えると、それより早く核のことを知らせなければいけないのだが……。

 

 そう考えながら戦っていると、上空から別のエゥーゴMSが降ってきた。しかもそれは……ガンダムMk2ではないか!

 こんなところでカミーユと出会うなんて! ちょっと待て待て!!

 

 ……待てよ、でもこれはチャンスじゃね? うまくカミーユに核のことを伝えられれば、彼本人かクワトロ大尉ことシャアがなんとかしてくれるかもしれない。

 

 そう思った俺は、ビームサーベルを抜き放ち、Mk2に切りかかる。

 戦いを続ける俺とカミーユ。やはり、ライラさんの教えと、シミュレータ特訓のおかげか、やっぱりこちらが不利ながらも、なんとかカミーユ&ガンダムMk2と戦えている。

 そして俺は機を見てMk2に組み付いた。そして接触回線で語り掛ける。

 

「カミーユ君、聞こえる?」

『え、か、カレルさん?』

「ちょっと手を止めて聞いてほしいの」

『な、なんです? ティターンズに寝返ってほしいとか、Mk2を返してほしい、とかはなしですよ』

「そんなに虫のいいことは言わないわよ。実はね、このジャブローの核自爆装置が稼働してるみたいなのよ」

『な、なんですって!?』

「もう少ししたら、ジャブローに囚われてるあなたたちの工作員から報告が来るかもしれないけど、それじゃ間に合わないかもしれない。だから、クワトロ大尉に連絡して、ここにいる全軍にジャブローからの撤退を勧告してほしいの」

『でもそれ、本当なんですか? というか、なぜそれを……』

「それは言えないし、本当かどうかはわからない。でも、もし本当だったら取り返しのつかないことになるわ。犠牲を出さないように……お願い」

 

 少しの沈黙。でもカミーユは、こちらの真剣さを受け取ってくれたようだ。

 

『……わかりました』

「よろしく頼むね。あとそれと」

『なんです?』

「幼馴染と喧嘩しなかった?」

『どうしてそんなこと……』

 

 やっぱりか。原作でも大気圏突入前に喧嘩していたからもしかして、と思ったんだが。

 本当に、全国の幼馴染好きギャルゲーファンに叩かれるぞ、そんな罰当たりなことをしていたら。

 

「大人の勘って奴だよ。いい? 宇宙に戻ったらちゃんと仲直りすること。何かあった時、最後の支えになってくれるのは一番近くにいる人なんだから。その子の想いを無碍にすることをしたらダメだよ。いいね? それじゃ改めてよろしくね」

 

 そして俺は、Mk2を突き飛ばし、距離をとる。

 少しのにらみ合いの末、俺はガルバルディβを後退させた。

 

 そして。

 

『こちらはエゥーゴのクワトロ大尉である! この場で戦っている全軍に告ぐ! このジャブローの地下の核自爆システムが作動を開始している! いつ爆発するかはわからないが、近いうちにこの周辺は核の炎に包まれるだろう! このエリアで戦っている部隊はただちに撤退されたし! 繰り返す! ただちに撤退されたし!』

 

 シャアの声。どうやらカミーユがうまくやってくれたらしい。

 

 戦っている両軍のMSたちは戦いをやめ、脱出を開始した。俺も急いで滑走路へ向かう。

 そこでは連邦軍の輸送機が脱出作業を行っていた。えーと、どれに乗ればいいだろうか……と。

 

「ん?」

 

 超大型の輸送機……えーとガルーダだったっけ?……に乗っているガルバルディβがこちらに手招きしている。どうやらこちらに乗れと言ってるようだ。ボスニア隊のMSか?

 

 どうやらその通りだったようだ。

 

『ファーレハイト少尉、こちらに乗れ! まだ空きがある!』

「あ、はい!」

 

 俺はマクマナス大尉に招かれ、その輸送機にガルバルディβを乗り込ませた。それと同時に、輸送機が発進する。

 彼によれば、ジャブローの防衛部隊、および降下したティターンズ及び連邦軍部隊はなんとか全員脱出に成功したそうだ。MSは先着19機まで乗せ、後は放棄して人間だけ乗せたという。

 なお、エゥーゴはガルーダ級の一機、アウドムラを奪い脱出したとのこと。

 

 まぁ、どうやら核の炎に焼かれる人がいなくてよかったよかった。

 

 そう安堵の息をついた俺を乗せたガルダ輸送機……スードリの後ろで、ジャブローは炎に包まれた。

 

* * * * *

 

 一方、アウドムラ。

 その通路で、クワトロ・バジーナことシャアと、カミーユ・ビダンが会話を交わしている。

 

「なんとか助かったな。カミーユのお手柄だ。よくやった」

「いえ、僕だけのお手柄というわけではないですよ。たまたまカレルさんと遭遇して、彼女から教わったんです」

「カレルくんから?」

「クワトロ大尉?」

 

 カミーユに声をかけられ、シャアは思慮深い表情を彼に向けた。

 

「気になる。ジャブローを自爆させ、我々をせん滅させるのがティターンズの目的なら、核のことは我々にはもちろん、友軍である連邦軍にも伝えていないはずだ。そうしないと、連邦軍の動きから気づかれてしまうからな。なのにそれを知っている……カレル・ファーレハイト、一体何者なのだ……?」

「わかりません……でも彼女の声からは悪意は一切感じませんでした。それに、俺が大気圏突入前にファと喧嘩したことも、なぜか知っているようでした」

「そうか……すべて知っている、いや、まさかな……」

 

 シャアは感じていた。カミーユにジャブローの核を教えたカレル・ファーレハイト。彼女の素性に何か謎が隠されていることを……。

 




* 次回予告 *

「ファーレハイト少尉、これから俺が君の新しい上官になる。よろしく頼む。『褐色の姫』の力、頼りにさせてもらう」

ジャブローを脱したカレルは、スードリーのブラン・ブルタークに預けられた。

「よろしくお願いします……お姉ちゃん」
「お姉ちゃん!?」

そこで彼女は、新たな出会いを果たす。
その出会いたちとともに、カレルは再びカミーユと対峙する。

「これでもう、射撃はできないね、カミーユ君!」
「くぅっ!!」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第10話『ケネディ・ポート』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、11/14 17:30の予定です。

※主人公、カレル・ファーレハイトのイメージ画像を作ってみました。
 ランダム作成ツールを使ったので、自作ではありません(汗

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スードリー編#01『ケネディ・ポート』

すげぇ……ブラ公1期のUA数をも超えた……。
Zガンダムのネームバリュー、おそるべし……。

さぁ、ここから新章、スードリー編に入ります!

いきなりあの人のキャラが崩壊しかかってますが、お許しください(土下座

※なお、ロザミアがいきなり、カレルをお姉ちゃんと刷り込まれたのは、研究所でそう刷り込まれたわけではなく、強化されたばかりのところに会ったので、ひよこが初めて見たものを親と認識するやつのように、刷り込まれたということです。
ちょっとご都合っぽいですがご容赦を(平伏

※連邦のSFSについて調べたところ、ドダイ(改)ではなくベースジャバーということがわかったので、そこのところを修正しておきました!



「それではブラン少佐、うちの秘蔵っ娘をよろしく頼みます」

「任せてもらおう。必ず、少尉を宇宙にお返しすることを約束する」

 

 そう言葉を交わす、ボスニアMS隊隊長、ヴァン・マクマナス大尉と、臨時に俺の新しい上司となるブラン・ブルターク少佐。

 

「ファーレハイト少尉、スードリでもしっかりやれよ」

「はい。マクマナス大尉こそお気をつけて。それと、ジョッシュをよろしくお願いします」

「わかってる。お前が上がってくるまでに、みっちり鍛えておいてやろう」

 

 そしてマクマナス大尉はシャトルに入っていった。俺……カレル・ファーレハイト連邦軍少尉は、それを見送る側だ。

 

 どうして俺が見送る側になったかというと、ここまでの戦果によってだ。

 エゥーゴの巡洋艦を捕縛し、クワトロ・バジーナ、カミーユ・ビダンというエゥーゴのエースとやりあって生き残ってきた。その戦果にほれ込んだ目の前の男……ブラン・ブルターク少佐が、マクマナス大尉とチャン艦長に頼み込んで、出向という形で、俺を自分の隊に迎え入れた、というわけである。

 

「ファーレハイト少尉、これから俺が君の新しい上官になる。よろしく頼む。『褐色の姫』の力、頼りにさせてもらう」

「こちらこそよろしくお願いします、ブラン少佐。でも『褐色の姫』はやめてください。私は、そんな異名をつけてもらえるような、大した人じゃないんですから。それに私、今まで宇宙にいたので、地上戦は不得手なんですよ?」

「心配することはない。君の才能なら、地上戦にもあっという間に適応できるだろう。うちの姫だって、強化人間とはいえ、速いうちにギャプランを乗りこなせるようになったんだからな」

「はぁ……」

 

 と、そこで。

 

「少佐」

「あぁ、バダム少尉か。彼女が、新しくお前の同僚になるカレル・ファーレハイト少尉だ。仲良くやってくれ」

「よろしくお願いします……お姉ちゃん」

「お姉ちゃん!?」

 

 俺に握手を求めた紫色の髪の女性……ロザミア・バダムは、いきなり俺に対してそう言った。

 いきなり刷り込まれてるぅぅぅぅぅぅ!?

 

 ロザミア・バダム。連邦軍のオーガスタニュータイプ研究所で強化された強化人間である。最初はギャプランに乗ってカミーユたちを苦しめた。

 その次には、カミーユの妹という洗脳を受けてエゥーゴに潜入。最期には暴走の果てに、カミーユに討たれる、という悲壮な最期を遂げた。そんな悲劇の女性だ。

 

 できれば彼女を助けてやりたいものだが……でも、まさか俺が「姉」として刷り込まれちゃうとは。そしたらブランはパパか? パパなのか? なんか種運命のムゥさんとステラみたいだな。

 

 何はともあれ、こちらも笑顔を作って握手に応じる。

 

「こちらこそよろしくね、ロザミィ」

「ロザミィ?」

「うん、そう。ロザミアだからロザミィ。どうかな?」

「いえ、うれしく思います。こちらこそよろしくお願いします、カレルお姉ちゃん」

 

 凛とした姿でお姉ちゃん呼びされると、なんか違和感があるな。でも悪くはない。

 ……マリーダさん、どうしてバナージにお兄ちゃん呼びしてあげなかったんですか……(謎

 

* * * * *

 

 顔合わせを済ませたブラン隊のパイロットやスタッフたちは、そのままスードリに乗り込んでいく。その中に一人の女性が混じっていた。

 

 レコア・ロンド。エゥーゴの工作員である。

 

 スードリのスタッフにうまく潜入したレコアは、上官であるクワトロ・バジーナからの指示を思い返していた。

 

「カレル・ファーレハイトを?」

「そうだ。彼女はなぜか、ほとんどのティターンズ兵が知らなかったジャブローの核について知っていた。彼女はただ者ではない可能性が高い」

「……」

「それに、ヒルダ・ビダンの殺害を阻止しようとしたり、30バンチ事件のことを知っていたり、事件のことを快く思わなかったりと、彼女はエゥーゴ、ティターンズの垣根なく、何かのために動いている感じがするのだ」

「謎が多い人物ですね……」

「あぁ。もしかして彼女は、この戦いどころか、この宇宙世紀の鍵となる存在なのかもしれん。そこでレコア君には、連邦軍に潜入し、彼女のそばで、彼女の秘密について探ってほしい」

「わかりました、承ります」

 

 そして、レコアはスードリに乗り込んだ。カレルを見極めるために。

 

* * * * *

 

「カレルお姉ちゃん、シミュレータに行くのですか?」

 

 俺がシミュレータ室に向かっていると、私室から出てきたロザミィに出会った。

 

「えぇ。少しでも地上戦に慣れたくて。特にドダイに乗っての空中戦は初めてだし」

「そうですか。私もお姉ちゃんにお付き合いしていいでありますか?」

「もちろん」

 

 そしてロザミィと一緒にシミュレータ室に歩いていく俺の目に、一人の女性が映った。あれは……エゥーゴのレコア・ロンドじゃないか? スードリに潜入していたのか。ただ彼女は、スードリの情報について色々探ってるわけではなく、ただ俺のほうを気にしてるようだ。俺か? 俺が目的なのか?

 

 ……後で聞いてみる必要があるようだ。

 

* * * * *

 

 さて、シミュレータによる訓練を終えた俺は、さっそく出撃することになった。

 

「ケネディですか?」

「そうだ。カラバが、こちらのシャトル第二便の打ち上げを邪魔しに来る可能性がある。そこで奴らが打ち上げようとしているケネディ・スペースポートに陽動をかけるのが今回の目的だ」

 

 ちょっと、この変化には驚いた。原作では、ブラン少佐は本気でケネディのシャトルを阻止しようとしたはず。その目論見は、ロベルトさんの犠牲とカミーユたちの奮闘で阻止されたわけだが。こちらはただの陽動に変わっていた。

 

 そういえば、スードリは一度エゥーゴに奪われたのを奪還した、という流れだったはずだし、そもそもロザミィは、オーガスタから直接アウドムラに襲いに来たわけで、スードリ隊に配属されていなかったはずだ。やっぱり、俺が転生したことで、原作から変わってきてしまってるんだろうか?

 

 ……まぁいい。俺が世界を原作から逸脱させている特異点だろうがなんだろうが、今はできることをするだけだ。

 

 と、俺のガルバルディのスクリーンに、秘密通信の着信を告げるサインが鳴った。ロザミィからのようだ。

 

「どうしたの、ロザミィ?」

「何かで聞いたのだけど、エゥーゴが空を落とすというのは本当なのでありますか、お姉ちゃん?」

 

 まさかそれをブラン少佐ではなく、俺に聞くのか。まぁ、俺を姉と刷り込まれているところからして、ブラン少佐より俺のほうが好感度が高いような気はするが。

 

 俺は少し考えて答える。

 

「人の言うことを鵜呑みにするのは危険だし、大人じゃないよ、ロザミィ」

「……」

「話を聞いて、自分の目で見て、そして自分で考える。それが大人というものだし、それでこそ真実が見出せると思う」

「……わからない……」

 

 苦悩するような声が、通信機から聞こえる。

 まぁ仕方ない。彼女は強化人間だからな。

 

「今は無理してわかろうとしなくていいよ。これから色々なものを見て、色々なものを聞いて、ゆっくり考えていけばいいと思う。昔、お世話になった人の受け売りだけどね」

「うん……」

「よし。ケネディが見えてきたよ。お互い頑張ろう」

「はい!」

 

 そして俺たちは、ケネディに突入していった。

 

* * * * *

 

 ケネディに到着すると、さっそくカラバのGM2隊が迎撃に出てきた。シャトルからは、カミーユのMk2と、シャアの百式も出てきている。

 

 そして俺のガルバルディβには、カミーユのMk2が向かってきた。俺はベースジャバーを降ろし、地上に降り立った。ビームライフルを撃ってくるMk2。

 だが、原作を知っているガンオタの俺には、Mk2の弱点がわかっている! 俺はビームライフルをかわしながら、Mk2に接近した。そして、その右腕に向かってビームサーベルを振り下ろす!

 

 うまくいった! ビームサーベルは見事、Mk2のビームライフルを切り裂いた!

 

「これでもう、射撃はできないね、カミーユ君!」

「くぅっ!!」

 

 そう、Mk2は構造上の問題で、専用のビームライフルしか使うことはできないのだ。そのビームライフルを失わせることができれば、敵はもう射撃はできない!

 

 Mk2のバルカンポッドをかわし、Mk2から距離を取り、ビームライフルを発射する。ビームライフルで反撃できないMk2は、バルカンポッドで応戦しながらかわすことしかできない。他の機体のビームライフルを借りることはできないからだ。

 

 これも、俺がガンオタだからこそだろう。これでもう、俺がMk2に負けることはないだろう。彼を近づかせさえしなければ。

 見ると、ブラン少佐のアッシマーも、ロザミィのギャプランも、その変形機能や機動力を使い、百式やカラバのGM2を相手に、互角以上に立ちまわっている。これなら陽動どころか、シャトルの発進阻止もできるかもしれない。

 

……そう思っていたことが、俺にもありました。

 

「カミーユ、これを使え!!」

 

 しまった!

 いつの間にかMk2の近くにいた百式が、Mk2にクレイバズーカを投げ渡す。

 

 そうだ、Mk2はビームライフルは借りることはできないけど、エネルギー供給を必要としない実弾兵器は借りることができるんだった! うかつ!!

 

 それを機に、Mk2は再び攻勢を開始。戦いは振出しに戻った。

 そして、そうこうしているうちに、シャトルは発進してしまった。

 

『しまった、シャトルを取り逃がすとは……』

 

 悔しそうなブラン少佐の声。

 

「ブラン少佐、そろそろころあいだと思います」

『撤退か?』

「はい。私たちの目的はシャトルの打ち上げ阻止ではなく、あくまで陽動です。ここまで派手に立ち回っていれば、カラバの目は確実にこっちに向いたでしょう。陽動としては十分だと思います。それに、もうこちらの第二便も発進したころ合いです。だとすればこちらの任務は完了で……」

『これ以上戦い続ける必要もメリットもない、か。確かにその通りだな。よし、引き上げるぞ!』

 

 その声とともに、ブラン少佐のアッシマーと、ロザミィのギャプラン、他のブラン隊が引き上げていく。俺も、ベースジャバーに飛び乗ると、敵の対空射撃をかわしながら引き上げていったのだった。

 

* * * * *

 

 スードリに帰還する途上。

 

『やるな、ファーレハイト少尉。あのガンダムMk2と互角に渡り合うとは。さすがは『褐色の姫』だ。戦況を見極める目も持っているようだし、出向ではなく、ずっと俺の副官として傍に置きたいぐらいだ』

「だからよしてくださいよ。あれはたまたま、Mk2の弱点を知っていたからなんですから。私はとても、そんな異名をもらえるようなエースじゃありません」

『いや、カレルお姉ちゃんは、十分にエースパイロットと呼ばれる人だと思います』

「ロザミィ!?」

 

 そんなことを話しながら、スードリに向かっていった。

 それにしても、ロザミィに懐かれたり、またMk2と戦ったり、ブラン少佐から高すぎる評価をもらったり、本当に濃い一日だったな。

 

 そういえば、このあと、スードリにフォウとサイコガンダムが配備されるんだったか? サイコガンダムはおいといて、フォウまで俺を姉と慕ってしまったら、大変な気がするな。俺が姉で、フォウとロザミィが妹になるのか? というか二人とも俺と同い年みたいに見えるんだけどな。

 

 そう思っているうちにスードリが見えてきたのだった。

 




ただいま、ファンアート募集中でございます。
書いてくださる方がいれば、とても嬉しいです。

* 次回予告 *
ヒッコリーに向かうアウドムラを襲うスードリー隊。
その戦いの中、アウドムラの危機に、かの男がついに立ち上がった。

「ブラン少佐、よけてください、後ろ!」

二人の英雄が再会したその光景は、戦いが新たなステージに進んだことの前触れか。

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第11話、『アムロの帰還』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、11/17 17:30の予定です


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スードリー編#02『アムロの帰還』

「ヒッコリーにですか?」

 

 スードリの艦橋で、俺……(アニオタ高校生が転生した)連邦軍の女性パイロット、カレル・ファーレハイト……は、スードリ隊隊長のブラン・ブルターク少佐に聞いていた。

 

「そうだ。アウドムラはヒッコリーに向かっている。どうやら、あそこのシャトル基地を使って、エゥーゴのパイロットたちを宇宙に上げようとしているらしい」

「なるほど……それを阻止せよ、というわけでありますね」

 

 そう聞き返すのは、いつのまにか、俺の妹分になっていた強化人間のロザミィことロザミア・バダムだ。あれからさらに仲は進み、本当の姉妹みたいな関係になっている。外見でいえば、あちらがお姉さんみたいなんだけどな。それと、軍隊口調がそのままなところも彼女らしい。

 

「そういうことだ。アウドムラを補足し次第、出撃することになるので、それまで英気を養っておくように」

「わかりました」

「了解です」

 

 二人ともうなずき敬礼をして、ブリッジを出た。そこで。

 

「さて、それじゃシャワーを浴びるとしますか」

「カレルお姉ちゃん、私も一緒に浴びたいであります」

「え」

 

 ち、ちょちょちょ、ちょっと待て。俺は外見こそ女性なんだけど、中身は(ガンオタ)男子高校生だったんだぞ! いくら女になったからって、女性と一緒にシャワー浴びるなんて、ハードル高いって!

 

「い、いや、ちょっと……」

「嫌なのでありますか、カレルお姉ちゃん……?」

 

 だ、だからロザミィ、そんな目を潤ませて見つめないでくれ!

 

「お願い。ロザミィはカレルお姉ちゃんと一緒にシャワー浴びたいであります……」

「……わかった。一緒に入ろう」

 

 ……負けました。

 俺がそう言うと、ロザミィは微笑んでくれた。

 外見や態度は堅そうな女性軍人なのに、そういうところは典型的な妹キャラというのは反則だろう。原作でカミーユがあんなにロザミィのことを慮っていたり、ジュドーがプルツーを大切にしていたのがよくわかる気がするようなしないような。

 

 と、ふと見ると、レコアさんがこちらをちらりと見ているようだ。

 そうだ、この機会だから、彼女に聞いてみることにするか。

 

「ステファニーさん(レコアさんの偽名である)、一緒に入りませんか?」

「え、私は構わないけど……」

 

 そういうわけで三人でシャワールームに行くことになった。

 

* * * * *

 

 そしてシャワーが終わりました。本当にロザミィからのスキンシップがすごかった。ロザミィって、原作ではあんなキャラだったか……? もう、ここでは書けないようなすごいスキンシップだったのだが。

 そんな彼女は一足先にシャワールームを出て着替えている。今、このシャワールームにいるのは、俺とレコアさんのみ。

 

 ……よし。

 

「そういえば、聞きたいことがあったんですが……レコアさん」

「!?」

 

 薄い壁の向こうから、レコアさんが息をのむ声が聞こえた。

 

「気づいてたの?」

「えぇ」

 

(スパイであることに)気づいてたのではなく、(彼女本人について)知っていたんだが。ガンオタ男子高校生を甘くみないでいただきたい。

 

「安心してください。あなたに危害を加えたり、捕まえようという気はありませんから。あなたの返答次第ですけど」

「返答次第……ね」

「レコアさんの狙いはなんですか? 見たところ、このスードリの機密を盗もうというようではなさそうですが」

 

 そこから少し沈黙。

 

「あなたのことよ。あなたの言動に秘められた謎が気になって、それを調べにきたの」

「……なるほど」

 

 やっぱりターゲットは俺か。確かに、ジャブローの核のことを教えたり、カミーユを諭したり、カミーユ母の殺害を阻止(結局殺害されたけど。あの外道ハゲに)したりと、色々やらかしてるからなぁ。怪しまれてもおかしくない、か。

 

「わかりました。それだけ聞けば十分です」

「いいの? 捕まえなくて」

「えぇ。スードリをスパイする目的じゃなかったですし。それに、あなたの素性をばらすのは、メリットよりリスクが多いですから」

 

 もしこれがスードリの機密を盗んだり、スードリに破壊工作をしたり、ロザミィに危害を加えようというんだったら、彼女の素性を暴いて捕まえることに躊躇はないんだが、俺のことを調べるのだったら全然セーフだ。

 むしろ、彼女の素性を暴こうとしたら、「なぜお前が知ってる!?」って話になって厄介なことになりそうだからな。最悪の場合、ニタ研(ニュータイプ研究所)に入れられる、なんてことになるかもしれない。それは本当に勘弁願いたい。

 

「本当にあなたは変わってる人ね。クワトロ大尉があなたを注目するのがわかる気がするわ」

「恐縮です。そうだ、もう一つ」

「何?」

 

 彼女の悲劇を阻止するためにもこれは言っておきたい。

 

「クワトロ大尉にのめりこむのはやめたほうがいいです。少なくとも、この戦いが終わるまでは」

「……」

「あの人はまだ迷走しています。それに過去の恋人たちにしがらみを持っている部分もありますし」

 

 ララァとかハマーン様とかな。外伝も含めれば、ナタリーさんも含むか。未来には、ナナイさんもいるし。本当に、もげろと言いたくなるほどの女性遍歴だ。それでいて、結局心の根っこではララァを求めてるんだから。しかも、女のほうから近寄ってくるんだからたちが悪い。俺は絶対に彼には惹かれんからな。何より、俺は元男なんだ。

 

「そんな彼に入れ込んだら、ろくなことにはならずに、サボテンの花を哀しく咲かせ、散らすことになってしまいますよ。せめて、この戦争が終わるまで、一線をひいてください」

「……あなた、いったい何者なの?」

「ただの元ティターンズの女性パイロットですよ、ただの、ね」

 

 そう言い残し、俺はシャワールームを出た。

 

* * * * *

 

 残されたレコアはシャワールームの中でしばし考え込んでいた。

 カレルの謎や底知れなさは、彼女の想像を超えていた。自分のことを知っていた(気づいていた、ではない。スードリの中では誰にも自分の本名は話していないし、スードリのクルーはみんな自分の本名を知らないはずである)ばかりか、クワトロ・バジーナ……シャアのことにまで詳しい。本当に、彼女はどこまで知っているのか。

 だがそれと同時に、そんな彼女に、レコアは何か不思議な魅力を感じていた。シャア以上に彼女に惹かれている自分を自覚した。

 

* * * * *

 

 さて、その翌日。ヒッコリーに接近し、アウドムラを補足した俺たちは、さっそく出撃した。

 ヒッコリーに向かう中で、俺はふとあることを思い出した。さっそくブラン少佐のアッシマーに通信を入れる。

 

「ブラン少佐、ちょっとお話が」

『何か? ファーレハイト少尉』

「アッシマーの技術情報を見て気づいたんですが、アッシマーは可変するときに、一瞬、胸部ハッチが無防備になる弱点があるみたいなんですよ」

『ほう……? 俺の副官、『褐色の姫』殿はMSの設計にも詳しいのか?』

「『褐色の姫』でもないし、副官でもないです。一般兵との戦いなら問題はないでしょうけど、エゥーゴのカミーユ・ビダンとかクワトロ・バジーナのようなエース相手だと、そこを狙われるかもしれないので、気を付けてください。差し出がましいですが」

『いや、指摘してくれてありがたい。自分の機体の弱点とかがわかれば、それだけ付け入る隙を減らすことができるからな。これからも何かあれば教えてくれ、『褐色の姫』』

「だから私は『褐色の姫』なんて言われるような人ではありませんって……」

『少佐、カレルお姉ちゃん、アウドムラからMS隊が出てきました』

『よし、話はここまでだ。やるぞ!』

「了解!」

 

 そして俺たちはアウドムラを守るMS隊と戦闘を始めた。

 

 激戦を繰り広げる俺たち。俺はあえて、コクピットを狙わずに、ライフルを持つ右腕や、メインカメラのある頭部、あるいは乗っているドダイを集中して狙うように心がけた。右腕を失えば、空中戦では無力になるだろうし、頭部を潰せば、サブカメラもあるとはいえ、目隠しをされたような状態にさせられる。そしてドダイを墜として墜落させれば、そのMSは高空に戻ってくることはできないだろう。

 

 そうやってできるだけ敵を殺さない戦いを続ける俺のガルバルディに通信が入る。

 

『カレルお姉ちゃん、すごいです。器用に腕や頭部を狙って……』

「別にすごいってわけじゃないけどね。無暗に殺生をしたくないってだけだよ」

『え……エゥーゴは空を落とす悪い奴らなのにですか?』

 

 やっぱり、洗脳の影響が強いんだろうか? 俺は内心でため息をつきながら返した。

 

「トップの奴らが悪いからって、下の人たちも全部悪いってわけじゃないんだよ? ロザミィは、もし少佐が悪いからって、私も悪い奴だと思う?」

『いいえ……。カレルお姉ちゃんは例え悪いエゥーゴの中にいても、良い人だと思います』

「そういうことだよ。悪の組織の人たちが全部悪いっていうのは、あくまで特撮番組だけのお話。みんな、組織の一員だからその組織のために戦ってるだけで、決して悪い心でやってるわけじゃないの」

『……』

「そんな人たちを悪いところにいるからって殺したらかわいそうだし、生かしてあげて、正しい道に連れて行ってあげたいと思わない?」

 

 そこで少しの沈黙。俺の言葉について、洗脳を受けてる身なりに、一生懸命に考えているみたい。

 

『わかりません……。でも、お姉ちゃんの言ってることは間違ってない気がします』

「そっか。ちゃんと自分で考えて答えを出すのはいいことだよ」

『はい……ありがとう、お姉ちゃん』

「いえいえ……と」

 

 と、俺は気が付いた。アウドムラの前に飛び出てライフルを構えるブラン少佐のアッシマー。その彼の機体に向かって、民間機が突っ込んでいくのを。

 しまった、アムロの特攻イベント、通称『アムロ再び』イベントがあるのを忘れてた!

 

「ブラン少佐、よけてください、後ろ!」

『後ろだと?』

 

 振り向いたブラン少佐のアッシマーにアムロの飛行機が突っ込んでいく。とっさにそれをかわそうとするが、かわしきれずにビームライフルを持つ右腕をもっていかれた!

 それでも、なんとか体勢を立て直し、円盤形のMA形態に変形する。

 

「少佐、大丈夫でしたか?」

『あぁ。だが、ちょっとしくじったな……』

「少佐、戦い続けて、もう燃料も弾薬も残り少ないみたいです。これ以上戦うと……」

『そうだな。スードリに自力で帰れなくなるかもしれん。それは避けたい。……よし、撤退するぞ!!』

 

 そして俺たちはスードリに帰還していった。

 背後のカメラの映像を、正面のスクリーンに出す。

 

 そこには、パラシュートで降下するアムロを回収する、カミーユのガンダムMk2の姿が映し出されていた。

 




ファンアート、ただいま募集中です!

* 次回予告 *
アウドムラは、ヒッコリーに接触するために、アメリカ西海岸に滞空する。
カレルたちは、アウドムラの考えを阻止するために、アウドムラに攻撃をかける。

「やらせません!!」

その末、上官の危機に、彼女は奮闘した。

『どうやらここまでのようだ。俺はお前たちの上官で』
「そこから先は言わせませんよ! ロザミィ、ギャプランでアッシマーを追って!」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第12話、『白い闇の下で』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、11/20、17:30の予定です。


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スードリー編#03『白い闇の下で』

※連邦のSFSについて調べたところ、ドダイ(改)ではなくベースジャバーということがわかったので、そこのところを修正しておきました!



 アウドムラを追い、さらにヒッコリーに進撃するスードリ。その中で、俺はあることに頭を悩ませていた。

 それは、俺……カレル・ファーレハイトの妹のような存在、ロザミア・バダムのことだ。

 

 このままでは彼女は、さらなる洗脳と強化を受け、原作のように兄(のように思っていた存在)に討たれる非業の死を遂げることになってしまう。それだけは避けたい。

 できれば彼女をティターンズから足抜けさせてあげたいのだが、その方法をどうするかが思いつかない。

 

 エゥーゴに彼女と一緒に駆け込めば解決なのかもしれないが、これからスードリに配属されるフォウのこともある。彼女も助けたい俺としてはスードリを離れるわけにもいかないし、何より自分の今いる組織の中で進むと決めているんだ。トラブルか何かで向こうに拾われるというようなことがあれば話は別だが、自分からスードリやボスニアのみんなを裏切ってエゥーゴにつくようなことはしたくない。

 

 うーん、いったいどうしたものか……。

 

 そして一晩ゆっくり考えたが……結論は出なかった。

 

* * * * *

 

 そうこうしてるうちに、出撃の時がやってきた。

 まず、ブラン少佐のアッシマー、続いて、ロザミィのギャプランの順番に発進し、そして俺の番となった。ガルバルディβをベースジャバーに乗せ、そして発進させる。そしてその後を、ブランの部下たちのMSが随時発進していった。

 

 そして、ヒッコリー宇宙港に近づくと、カラバのMS部隊も飛来してきた。その中には、カミーユのガンダムMk2と、赤いリック・ディアスの姿もある。シャアはもう百式に乗り換えているから、おそらくアムロが乗っているんだろう。

 

 さすがに前回の戦いから学んだのか、Mk2はハイパーバズーカを持っている。さっそくそのバズーカを発射してきた。それを旋回して回避する。

 そしたら、横からGM2が飛び出してきた。そいつが撃ってきたビームライフルをかわしながら、そいつに向きなおり、乗っているドダイに照準をつけて、ビームライフルを発射。……見事に命中! GM2はドダイから飛び降り、こちらについてビームライフルを撃ちながら地面に落下していった。バーニアをふかしていたから地面に衝突死ということはないだろう。

 

 他方、ブラン少佐もアッシマーで奮闘していた。MS形態とMA形態を駆使しながら、敵をほんろうしていく。

 

 そこにMk2が向かっていった。最悪の事態の予感がした俺は、ガルバルディをブラン少佐のほうに向かわせた。

 アッシマーがビームライフルを発射する。Mk2はそれを回避しつつ、バズーカを発射! 弾は運悪く、変形しようとしていたアッシマーの胸部装甲にヒットした!

 

 さらに、食いつこうとするブラン少佐のアッシマーの背後から、アムロのリック・ディアスが!!

 

「やらせません!!」

 

 俺は意を決して、ベースジャバーから飛び降り、ベースジャバーをアムロのリック・ディアスに特攻させた! アムロはそれをかわすことはできたものの、大きく体勢を崩してしまう。

 それでも、リック・ディアスは落下しながらクレイバズーカを発射! その一発が、アッシマーの右肩に被弾した!

 

「少佐!」

『ちぃっ、しくじった……! スードリに引き上げるぞ!!』

「了解しました。でも、私のベースジャバーは……」

『お姉ちゃん、私に乗ってください!』

 

 やってきたのは、ロザミィのギャプラン。激戦の中を戦ってきたのか、左腕のバインダーが破壊されている。私のガルバルディの近くまでやってきたギャプランがMA形態に変形する。これに乗れ、ということだろう。ありがたくご厚意に甘えることにする。

 

「ありがとう。喜んで乗らせてもらうわ」

『はい』

 

 ガルバルディβをギャプランの上に着陸させる。私を乗せたギャプランと、損傷したアッシマーは、そのままヒッコリーを後にした。他のスードリ隊もその後に続く。

 

 シャトル発射の阻止はできなかったが、ブラン少佐にもしものことがなかったのは、本当によかった。

 

 ……と思ったのは、まだ甘かった!

 

* * * * *

 

 ヒッコリーの郊外まで来たときだ。

 

 途端にアッシマーの各部で小爆発が起こったではないか! もしかして、あのクレイバズーカの被弾の影響か!?

 

「少佐!」

『くそっ、さっきやられたのがたたったか! 制御ができん!!』

 

 そしてアッシマーは高度を下げて急降下し始めた! やばい、このままでは墜落してしまう!

 

『どうやらここまでのようだ。俺はお前たちの上官で』

「そこから先は言わせませんよ! ロザミィ、ギャプランでアッシマーを追って!」

『は、はい!!』

 

 もう、ライラさんの時のような思いをするのはたくさんなんだよ!!

 

 ギャプランが、シールドバインダーを失い、俺のガルバルディを乗せている状態ながらも、アッシマーに接近していく。

 そしてなんとか追いついた!

 

「ロザミィ、ハッチを開いて!」

『え? はい!』

 

 ギャプランの上部ハッチが開いた。俺はガルバルディを前かがみにしてギャプランに覆いかぶさるような形にすると、そのままガルバルディから飛び降り、ギャプランのコクピットに飛び込んだ。

 

「ぐふっ、お、お姉ちゃん、重いです……」

「ごめんね、ロザミィ。でももう少し我慢して!」

 

 俺がコクピットに飛び込んだと同時に、ガルバルディは後ろにバーニアを吹かせて、ギャプランから落下していく。アッシマーを救助するためには、ガルバルディは申し訳ないけど邪魔だからだ。

 

(ごめんな、そして今までありがとう、ガルバルディ……)

 

 俺は、ボスニア着任から今まで共に戦ってきた戦友に心の中で謝罪とお礼を言うと、前に向きなおった。

 

「よし、うまくアッシマーの下に回り込んで。ギャプランで下から支えるようにするの!」

「わ、わかりました!」

 

 そしてギャプランはうまくアッシマーの下に回り込んだ。ズシンッと、何かが上に乗ったような振動がくる。

 

 そして……。

 

* * * * *

 

「ありがとう。君には世話になったな、ファーレハイト少尉。ここまで力を借りたばかりか、命まで助けてもらった」

 

 タンカに横になったブラン少佐が俺にそう声をかけてくる。

 

「いいんですよ。私はブラン少佐に死んでほしくなかっただけですから。私の目の黒いうちは、『俺はお前たちの隊長で幸せだった』なんて言わせませんからね」

「ははは……意外と口の減らない奴だ」

 

 そう言って苦笑するブラン少佐。

 結局、ギャプランごと不時着したものの、なんとかブラン少佐を助けることには成功した。だが、ブラン少佐は不時着の際に体を打ったり、あばらや足の骨を折ったりしたため、治療のため、長期入院することになったのだった。

 なお、ギャプランは脱出した直後、アッシマーの爆発に巻き込まれて一緒に爆散、失われてしまった。その爆発の破片に巻き込まれたのも、ブラン少佐の負傷の原因の一つではあるのだが。

 愛機を失ったロザミィだが、「ブラン少佐を助けるために犠牲になったのだから、あの子も本望だと思います。大丈夫であります」と言ってくれた。本当にいい子じゃないか、うるうる。

 

「俺の後は、ベン・ウッダーが隊長代理をすることになる。彼の副官的存在として、仲良くやって、支えてやってくれ。彼にも、お前の意見はなるべく聞くように言っておいた」

「ありがとうございます。どれくらいできるかわかりませんが、微力を尽くさせてもらいます」

「うむ。それと、サイコガンダムとそのパイロットと一緒に届く予定の、アッシマー・アグラだが、俺はもう、しばらく乗ることはできん。お前が代わりに使ってやってくれ。お前ならうまく乗りこなせると信じているぞ」

「はぁ……ありがとうございます」

 

 やっぱり、サイコガンダムとフォウがこっちに来るのは確定事項なのね。俺としては、ブラン少佐の新しい乗機として届けられる予定だった試作改良型のアッシマー・アグラよりも、そっちのほうが重要だった。

 

 そして、ブラン少佐はタンカに乗せられたまま、輸送機に乗せられ、空の彼方へ飛んで行った。

 

 しかし、これからはロザミィとフォウの二人とやっていくことになるのか……。ベン氏の補佐もしなくてはならないし、とても大変そうだ。

 

 まぁ、やるだけやってみるさ。

 

 俺はそう思いながら、飛び去って行く輸送機をずっと見つめ続けていた。

 




感想、ファンアート、募集中です!

※次回から、更新時刻を12:00に変更します。よろしくお願いします。

* 次回予告 *

日本からやってきたMAは、新たな援軍であった。そのパイロットはフォウ・ムラサメ。

「それと、新隊員を紹介しよう。先ほど、サイコガンダムとともにやってきた……」
「フォウ・ムラサメ少尉です。よろしくお願いします」

カレルはフォウの未来を想うが、カミーユと彼女が、敵味方に別れる宿命に、表情を曇らせるのだった。

「フォウ、大丈夫……?」
「私は……私は……」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第13話『シンデレラ』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、11/23 12:00の予定です。

* 次回登場・外伝登場or本作オリジナルMS *
NRX-044B
アッシマーアーグラ
(本作オリジナルMSです)




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スードリー編#04『シンデレラ』

うわー!! ついに、ブラ公二期のUVすらも超えてしまいました!
本当に、Zガンダムというコンテンツに感謝です!><

そして、なんと12時のUA数が一気に1000に……すごすぎる……


「知ってると思うが、ブラン少佐が後方へ下がられたため、私がこのスードリの指揮を引き継ぐことになった。よろしいか?」

「はい」

「……はい」

 

 彼が怖いのだろう。ロザミィ……ロザミア・バダムが俺……カレル・ファーレハイトの軍服の裾を引っ張ってきた。

 確かロザミィは原作ではもっと凛とした女軍人って感じがしたのに、俺の妹(的存在)に収まってからは、怖がりや甘えたがりな面で原作よりも出てきているような気がする。刷り込みの影響なのか……?

 

 俺をはじめとしたクルーたちの前に立つ、薄茶色の髪の連邦軍軍服を着た男性。

 ベン・ウッダー大尉。ブラン少佐の副官で、彼のあとを継いで、このスードリ隊の隊長代理となった男だ。確かこいつ、原作ではミライさんを人質にしたり、ニューホンコン市街で戦闘に及ぶなど、悪い意味で職務に忠実、目的のためには手段を選ばないやつなんだよな、それでいて、なぜかクルーの数人が特攻に付き合うなど、変な人望のある男だったりもする。

 本当に、彼を補佐するのは大変そうだ。あのバスクの外道ハゲよりも物分かりがいいといいんだが。

 

「それと、新隊員を紹介しよう。先ほど、サイコガンダムとともにやってきた……」

「フォウ・ムラサメ少尉です。よろしくお願いします」

 

 そしてついに来た。水色の髪をショートにした少女。ちなみに声はC.C.(ゆ○なさん)(劇場版)ではなく、島津○子さん(テレビ版)だった。口調も、どこか劇場版ではなく、テレビ版に近いものを感じる。

 Zガンダムのヒロインの一人、悲劇の強化人間その1である、フォウ・ムラサメだ。

 カミーユと恋仲になるも、戦いによって引き裂かれ、しまいにはカミーユをかばって命を落としてしまう悲劇のヒロインだ。

 その境遇ゆえか、スパ〇ボでは、彼女が登場するほとんどの作品に、彼女を救済するイベントが用意されてるほど。それにしても、あるス〇ロボでは、彼女『がいる』状態で、カミーユでシロッコを倒すと、カミーユが精神崩壊するんだよな。あれはどういうわけだ。

 

 と。

 

「……っ」

 

 突然の鋭い頭痛。その痛みに、思わず顔をしかめる。

 

「どうしたのですか、カレルお姉ちゃん?」

「いや、大丈夫。ちょっと頭痛がしただけ……」

 

 でも今までそんなことはなかったのに、フォウが来たら頭痛が起こるなんてどういうわけだ……? もしかして、ロザミィと一緒にいたことが影響して、俺もニュータイプに? いやいやそんなバカな。

 

 そこに。

 

「ファーレハイト少尉」

「は、はいっ」

 

 ベン大尉から声をかけられた。

 

「ブラン少佐から話は聞いている。君にはこれから私の補佐として、色々助言などをしてもらいたい」

「はっ、わかりました」

「正直、俺は君のことは気に食わなかったが、君の実力や戦略眼などは評価しているつもりだ。よろしく頼む」

「はぁ……」

 

 うん、なんか少しはバスクのハゲよりは話がわかりそうだ。

 

* * * * *

 

 さて、俺の周囲に女性隊員が新しく加わったら、最初にすることは決まっている、らしい。

 そう、ロザミィを含めてのシャワータイムだ。

 

 さすがにスキンシップをするのは、フォウは苦手らしく、彼女だけは俺とロザミィの入っているのとは別のシャワー室に入っている。

 ……そして今回も、ロザミィのスキンシップがすごかった。毎回のことながら、理性が危うくぶっとびかけた。

 そういえば、フォウも身体がすごかったな。同い年の少女よりよく発達していた。だいぶ昔に彼女のピンナップが付録として出たというが、当時の若者たちがそれに夢中になったのもわかる気がする。出るところは出て、くびれてるところはくびれてて……。

 一応、それなりなものの、まだまだ発達途上な俺としては、実にうらやましい限りだ。

 

「ふぅ……」

 

 隣のシャワールームでシャワーを浴びているフォウがため息をつく。

 

「フォウ、こうやって一緒にシャワー入ったり、風呂に入ったりするの苦手?」

「はい……どうも慣れなくて」

 

 隣にいるフォウに話しかけると、そんな返事がかえってきた。やっぱり島○冴子さんの声で戸惑った声を出されると破壊力があるような気がする。

 

「そうなんだ。子供のころにこんなことしたことってないの?」

「……」

 

 向こうから沈黙がかえってきた。あ……しまった。確か彼女は……。

 

「……わかりません。私には、幼少のころの記憶がないので……」

「ごめん……」

 

 沈痛さと、戸惑いを秘めた声で、返事がかえってきた。

 そう。彼女、フォウ・ムラサメには過去の記憶がないのだ。作中では、強化による洗脳による影響だということが示唆されていた。フォウ・ムラサメという今の名前も、『ムラサメ』研究所の『四番目(フォウ)』の実験体という意味しかない。

 

 そんな彼女がティターンズに身を置く理由。それは……。

 

「それじゃ、その記憶のために軍に?」

「はい。研究所は、ここで功績を挙げれば、記憶を返してくれると約束してくれました」

 

 そこで少しの沈黙。

 

 ……やっぱりか。しばし考える。

 記憶……過去は大切だ。あるネゴシエイターも「記憶があるから人は自分の存在を確認できる」「記憶が失われれば人は不安から逃れられない」と言っている。

 だから、フォウの戦う理由もわからなくはない。だが、それが彼女の幸せにつながるかと問われればNoだ。

 ティターンズもムラサメ研も、彼女に記憶を返すつもりはない。適当なことを言って、彼女を使いつぶそうとしているだけだ。記憶を返せば、彼女は彼らの手を離れてしまう。ティターンズもムラサメ研もそれを許すはずがないのだ。記憶を返すのは、フォウが死んだその時だろう。

 このまま彼女が記憶を取り戻すことに固執したら、原作通りの結末を迎えてしまう。

 それに。

 

 彼女は記憶……過去に固執しているが、過去にばかり目を向けるのもよくないと思う。それは、その先にある未来を見失うことにつながるんじゃないだろうか。

 過去は変えることはできないが、未来は自分で作っていくことができるんだ。無限の可能性がある刻からの宝物、それが未来だ。

 

 できればフォウには、過去にではなく、未来にも目を向けてほしいのだが……。

 この先にある、『あの』出会いがそのきっかけになるか……?

 

* * * * *

 

「この作戦ではどうだろうか、ファーレハイト少尉?」

 

 その翌日、俺はウッダー大尉から相談を求められていた。ニューホンコンに到達したアウドムラに対する作戦についてだ。

 

「戦術的には問題はありません。市民を危険にさらすことを除けば。ただ、戦略的となるとどうでしょう?」

「戦略的だと?」

「はい。現在、ジャミトフ閣下は、ティターンズの権限を強化する法案の採決を目指している大事な時期です。そんな状況下で、市街戦に及べば、穏健派の票が反対に流れてしまう可能性があります」

「ふむ……」

「もちろん、恫喝にとられてこのまま賛成にいく可能性もありますが、法案の採決は不確定要素が増すことになります。ジャミトフ閣下はそうなることは望まないでしょう」

 

 まぁ、原作ではニューホンコンの件があっても法案は通ったわけだが。だが、市街戦による被害を少なくしたい俺は、法案やジャミトフの考えを使って、ウッダー大尉を説得させてもらう。人道的に反対しても押し切られそうだしな。

 

「なるほど……さすがはブラン少佐が認めただけのことはあるな。それではどうすればいいと思う?」

「ニューホンコンの郊外……沖合あたりに部隊を展開させ、攻め込む素振りを見せて、カラバをおびき出したらどうでしょう? 身近に戦火が迫れば、それはニューホンコン政府への恫喝になり、カラバをニューホンコンから追い出すことにもつながるかもしれません」

「なるほど。俺の作戦に手を加えた感じか。いいな。よし、その作戦でいこう」

 

 わかってくれてよかった。やっぱりウッダー大尉は、あのハゲメガネよりは話がわかる。

 

「作戦は、今日の2200に開始する。それまでは、見張り以外は自由時間とするので、英気を養っておくように」

 

* * * * *

 

 そして。

 

「あら? フォウ、どこに行くの? ニューホンコン市街に買い物?」

 

 16時。作戦開始まで寝溜めしていようと、自室に向かっていた俺は、外出の準備をしているフォウと出くわした。

 

「はい。何か、私を呼んでいるような、待っているような気がしたんです」

 

 それを聞いて、俺はピンときた。原作とはまた違った展開になっているが、それもまたよし。

 もしかしたらそれが、フォウが未来に目を向けるきっかけになるかもしれない。となれば。

 

「わかった……の前に、ちょっとこっちいらっしゃい?」

「え?」

 

 そして自室にフォウを招いた俺は……。

 

「し、少尉、外出するのにこれだけのお化粧は……」

「どんな出会いがあるかわからないでしょ? それに、オバタリ〇ンやコギ〇ルがしてる化粧よりはずっと質素よ」

「カレルお姉ちゃん、オバ〇リアンやコ〇ャルってなんですか……?」

 

 フォウの戸惑いの声や、ロザミィの質問の声を聞きながら、俺はカレルとしての記憶を引き出しながら、フォウにシンプルな化粧をしてあげた。この後、カミーユと出会ってデートするのなら、身だしなみはちゃんとしなければ。

 

「よし、できた」

「フォウ少尉、とってもきれい……」

「……」

 

 フォウは鏡に映る自分が本当に自分なのかというような表情で、目の前の鏡に映る自分を見つめ続けている。

 

「少尉……ありがとうございます」

「礼なんていいよ。あなたに少しでも幸せになってほしいと思ってやったことだから。ほら、行ってらっしゃい。2200には作戦が始まるから、2130ごろには帰ってくるんだよ」

「はい、行ってきます……カレル」

 

 そしてフォウは部屋を出て行った。

 そういえば今、俺のことを「少尉」とか「ファーレハイト少尉」とかではなく、「カレル」と呼んでくれたな。

 

* * * * *

 

 そしてそれから時間がたって、9時20分。

 フォウはなかなか帰ってこない。もうそろそろ作戦が始まるのだが……。

 

「フォウ少尉、戻ってこないでありますね、カレルお姉ちゃん」

「うん……。いくらデートが楽しいとはいえ、ちょっと心配だよね」

 

 と、何かが発進する音。なんだなんだと思って格納庫に行ってみると、サイコガンダムが発進していったじゃないか。

 ベン・ウッダーの奴、フォウが戻ってくるのが待ちきれなくて、サイコガンダムで連れ戻しに行ったな!

 

 俺は慌てて、ロザミィと一緒にスードリに配備されたアッシマー・アーグラに飛び乗って、その後を追った。

 

* * * * *

 

 そしてサイコガンダムに追いついたのは、ニューホンコンの公園の近く。

 その途中でウッダー大尉を見かけた。ということは、どこかでサイコガンダムに乗った後、この公園までさまよってきたんだろう。

 少しの沈黙、するとサイコガンダムは、公園を潰そうと拳を振り上げたではないか!

 

「待ちなさい!」

 

 俺は慌てて、サイコガンダムの前に回り込み、その拳を受け止めた。

 さすがサイコガンダム。すごい衝撃が、アッシマー・アグラのコクピットを襲う。

 

「落ち着きなさい、フォウ。そんなことをして何になるの!?」

「フォウ少尉、落ち着いてください!」

 

 そう止めている間に、後方からの敵機接近を知らせるアラームが。その敵機を見てみると……ネモとリックディアスと……ガンダムMk2じゃないか!

 カミーユ、タイミング悪いよ! あんたの役どころ、俺がとっちゃったよ!!

 

 敵の接近を察したサイコガンダムが立ち上がって応戦態勢をとる。

 

「待ちなさい、フォウ! 戦いは、沖合に移動してからよ! 後退しましょう!」

『わかった……』

 

 そして俺のアッシマー・アグラとサイコガンダムは、友軍が展開しているであろう沖合まで後退した。もちろん途中で、ウッダー大尉を拾うのも忘れない。

 

* * * * *

 

 そして、ニューホンコンの沖合まで後退したところで、そこで待ち構えていたスードリ隊と、カラバとの戦いが始まった。

 なお、ギャプランを失い、乗る機体がないロザミィと、途中でサイコガンダムを降ろされたウッダー大尉は、一度スードリまで戻って降ろしている。ウッダー大尉はすぐにマラサイに乗って出てきたが。

 

「ウッダー大尉。指揮官たるあなたが、前に出てこなくてもよかったのに」

『何を言っている。隊長たる者が前に出なければ、部下はついてこないだろう? それに、部下が命を懸けているのに、私だけが安全なところでお茶を飲んでいるわけにはいかん』

 

 ……なるほど。原作を見た時には、彼の特攻に数人の部下が同行していて、『どうして?』と思っていたけど、こうして彼の部下になっているとその理由がわかる気がする。

 

 確かに、目的のためには手段を選ばないヤバイ奴だけど、部下の意見は一応聞いてくれるし、このように上官の心構えもしっかりしてる。しかも、部下を守るという気概もある。それは確かに部下たちもついてくるな。

 俺も惚れてしまいそう……いやいや、ないない。俺は元男なんだ。

 

 何はともあれ、ニューホンコンの沖合では激しいMS戦が繰り広げられている。俺も、アッシマー・アグラを駆り、初めて乗ったばかりながらも、なんとか変形を駆使して敵を撃破していく。

 

 一方、サイコガンダムのほうを見ると、暴れるように攻撃してくるサイコガンダムに、ガンダムMk2がまるでそれを止めるように動き回っている。きっと、フォウに戦いを止めるように説得しているんだろう。それを止める気はない。任務であるとはいえ、俺はできればフォウにもロザミィにも戦ってほしくはないのだ。

 

 さて、そんな中ではあるが、戦いはスードリ側に極めて不利である。何しろ、向こうにはカミーユのほかに、アムロというエースもいるのだ。対してこちらは、最大戦力であるフォウのサイコガンダムが、カミーユに抑え込まれている現状。あまり芳しい状況ではない。

 

 かなりの激戦に、こちらの戦力が削られていく中、戦いは終わりを迎えた。ニューホンコン行政府からアウドムラに、退去勧告が出されたからだ。幸いにもこの戦いが、ニューホンコンへの恫喝へと捉えられたようだ。『これ以上カラバに肩入れするなら、次は市街戦をも辞さないぞ』という。

 その勧告を受け、カラバのMSたちはアウドムラに引き上げていった。

 

 俺はアッシマー・アグラを降りると、フォウのサイコガンダムに走っていった。頭部にあるハッチを開けると、そこにはうずくまって悩んでいるフォウの姿があった。

 

「フォウ、大丈夫……?」

「私は……私は……」

 

 カミーユとの出会い、戦場での戦いで迷い、悩んでいるのだろう。フォウはうずくまったまま、そうつぶやくだけだった……。

 




※ファンアート、募集しています!

* 次回予告 *

フォウは、戦闘の中で、自分のしていることに気が付いていた。それは人の性であろう。

「私はどうしたらいいかわからない……。記憶を取り戻したいといえばうそになるわ。でも私は、カミーユとは……いえ、もう戦いは……」

カレルはそんなフォウに新しい未来を見せるため、奮戦する。

「フォウ、ガンダムMk2の元に……いえ、カミーユのところに行きなさい」

そしてカミーユは、フォウとの意思のつながりを知りながらも、宇宙へと帰っていくのだった。

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第14話『青海の脱出』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、11/26 12:00の予定です。お楽しみに!

[今回登場新MS]
NRX-044B
アッシマーアグラ

ティターンズのアッシマー改修機『キハール』、その重力下仕様のデータを、アッシマー初期型(本作の世界ではブランのアッシマーは、アッシマーの初期型という設定です)に反映させた試作機。
テストデータに基づいた改修を施したことにより、機動性や格闘性能が、従来機より30%向上した。
脚部が従来型から変わっていることと、キハールから受け継いだ整流板が機体の各部にあるのが特徴。
後に、このアグラの運用データから、後期型(ダカールで一般兵たちが乗っていた機体)が開発されることになる。
なお、アグラとはヒンドゥー語で『次の』という意味。


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スードリー編#05『青海の脱出』

「前の戦いで戦力を消耗し、使えるMSも少尉のアッシマー・アーグラと、フォウ少尉のサイコガンダムのみか……」

「申し訳ありません。私が作戦を提案しましたのに……」

 

 スードリのブリッジで、苦渋の表情を浮かべているベン・ウッダー大尉に、俺……カレル・ファーレハイトがそう謝罪すると、彼は苦笑して許してくれた。

 

「いや、少尉のせいではない。エースパイロットの存在が大きすぎた。例え最初の作戦通り市街戦に及んでいたとしても、こうなっていただろう」

「ありがとうございます……。それで補給は?」

「打診してみたが、向こうからは『アウドムラを潰すまで補給はなし』だそうだ。ティターンズは、我々を捨て駒にして、使い潰すつもりらしいな」

「そうですか……」

 

 ニューホンコンの戦いで、スードリ隊のMSは、俺のアッシマー・アーグラとサイコガンダム以外、破壊されたり損傷したりして戦うことができなくなっていた。弾薬もエネルギーもあまり残っていない。

 

 ティターンズにとっては、そんなスードリ隊はもはや利用価値がない、ということか。戦力を消耗しつくした壊滅寸前の隊をけしかけて、それでアウドムラが潰せればよし、ってところだろう。ティターンズ……というか、あのバスクの外道ハゲらしい考えだ。

 

「とすれば残るは特攻しかあるまい。非戦闘員やパイロットたちを退艦させ、このスードリを弾丸として、アウドムラにぶつける」

「とはいえ、素直に特攻するのでは、私たちを捨て駒扱いするティターンズの思い通りになって悔しいですね……」

「まぁ確かにそうだな……。『褐色の姫』には何か腹案でもあるか?」

「腹案というわけではないですが、ティターンズにも一泡吹かせなくては気が済まないとは思います」

 

 これはリップサービスとかではなく、俺の本音だ。ティターンズの奴らをギャフンと言わせてやらなければ、腹の虫がおさまらない。

 

「ベン大尉まで死ぬ必要はないのでは? アウドムラをロックオンした後は自動操縦にして、ベン大尉も退艦すればいいと思いますが。ティターンズの奴らに使い捨てにされたままというのは、大尉も嫌でしょう?」

「確かにな」

「あとは……。アウドムラに無理して追いつこうとせず、彼らがティターンズの基地を攻撃しに行くのを尾行する」

「そして、アウドムラがその基地を攻撃し始めたところで、さっそうと現れて特攻をかける、か。面白いな。よし、それでいこう」

「わかりました」

 

* * * * *

 

 俺が作戦と退艦について、フォウとロザミィに知らせておこうと、居住区へ行った時のことだ。

 フォウの部屋から言い争う声が聞こえた。

 

「……嫌だ、私はもう戦いたくはない!」

「何を言っているの。記憶を取り戻したくはないの?」

 

 フォウと、彼女の調整を担当している技官、ナミカー・コーネルの声だ。

 その後も言い争いは続き、フォウはとうとう部屋から飛び出していった。

 

 俺もその後を追う。

 

 フォウはMS格納庫にいた。吊り下げられているサイコガンダムを見ながら。

 

「フォウ……」

「私はどうしたらいいかわからない……。記憶を取り戻したくないといえばうそになるわ。でも私は、カミーユとは……いえ、もう戦いは……」

 

 フォウの目から涙が一筋こぼれる。

 

「そうか……。フォウはもう、未来を見つけることができたんだね」

「え……?」

 

 俺は、フォウに顔を向けて続ける。

 

「フォウがカミーユ君と戦いたくないのは、彼と共に歩む未来を見つけたからじゃないかな?」

「カレル……」

「あなたは、カミーユ君との出会い、彼との戦いの中、カミーユ君と共に歩む未来を見出した。だから、その未来を壊したくないから、戦いを拒んだんじゃないかと思うよ」

「そうかもしれない……。でも、私は……」

「安心して。この戦いももう終わるよ」

「え……?」

 

 フォウが驚いた顔を向ける。

 

「スードリの特攻が決定したの。乗組員は総員退艦だって。そうなれば、フォウはこの隊を除隊となる。あとは、退艦後、適当なところに身を隠していればいい」

「でも……カレルはどうするの?」

「私は、まだ戦うわ。スードリを守らなきゃいけないし。ある程度まで戦ったら、その場を離脱するけどね」

「カレル……」

「さて、ロザミィにも教えてあげないと。退艦の準備、しとかなきゃダメだよ」

 

 そして俺は、MS格納庫を離れた。

 

* * * * *

 

 そして俺は、ロザミィにも退艦と特攻のことを話した。

 そして、レコアさんについていって、サイド6あたりにでも避難しているようにと。サイド6に逃げ込んでいれば、よっぽどのことがない限り、ティターンズの奴らに連れていかれることはないだろう。

 当然のことながら、ロザミィは俺と一緒じゃなきゃ嫌だと拒否したが、必ずこの戦争が終わったら会いに行くことを話して説得し、ひとまず納得させた。なおレコアさんにはあらかじめ話を通してある。

 

 そして。

 

「さて、それじゃそろそろ行きますか」

 

 アッシマー・アーグラに乗り込み、エンジンに火を入れ、発進準備を整える。

 と、スードリから発進していくサイコガンダムの姿が見えた。

 

「フォウ……?」

「私も、スードリの直掩につきます。スードリを守る気はさらさらないけど、カレルだけは守りたいから」

「……」

「カミーユと同じくらい、あなたにも死んでほしくない。お願い、一緒に戦わせて」

「……馬鹿ね」

 

 ふと苦笑する。でも彼女の声を聴いて、俺は説得するのをあきらめた。声色から、彼女の想いが感じ取れたからだ。その想いを無視することはできない。してはいけない。

 

「わかった。一緒に行きましょう」

「……はい!」

 

 そして俺は、スティックを強く握りしめる。

 

「カレル・ファーレハイト、アッシマー・アーグラ、行きます!」

 

* * * * *

 

 俺がスードリから飛び出すと、遠くでカラバがティターンズのハワイ基地を攻撃しているのが見えた。それと同時に、スードリがブースターを全開にして加速を始めた。

 俺も、アッシマー・アーグラのアフターバーナーに点火して、その後を追う。

 

 そして接近していくと、向こうもこちらの特攻に気が付いたらしい。数機のMSがこちらに接近してくる。

 間違いない。そのうちの二機は、カミーユのガンダムMk2と、アムロのリック・ディアスだ。

 

 となれば。

 

「フォウ、ガンダムMk2の下に……いえ、カミーユのところに行きなさい」

「え? でも……」

「私なら大丈夫。相手がアムロとはいえ、そう簡単にやられるほど、私は弱くはないわ」

 

 それに、親友(フォウ)の幸せのためなら、いくらでも頑張れる! 1機でも2機でもいくらでもかかってらっしゃい!ってなものだ。

 

「だから行きなさい。人の好意を無駄にすると、一生後悔するわよ」

「……はい……」

 

 そして、サイコガンダムは、ガンダムMk2に向かっていった。

 さてと。

 

「さぁ、かかってきなさい、アムロ・レイ! 二人の恋路の邪魔はさせないわよ!」

 

* * * * *

 

 そして俺は、アムロや、引き返してきたカラバのMS隊と激しい戦いを繰り広げた。特に、フォウとカミーユのいる方向へ向かっていく奴らは優先的に片端から撃ち落とす。

 

 オート制御で発射される、スードリからの対空砲火の支援を受けながら戦い続けた。

 ビームライフルで乗っているドダイを撃ち落とす。MSに変形して、ビームサーベルで飛び掛かり、一刀両断してからMA形態に戻って離脱する。

 アムロのリック・ディアスのクレイバズーカも、アッシマー・アーグラの機動性にものを言わせて、なんとか回避した。

 

 我ながらすごい戦いぶりだ。自分でもここまで戦えるなんて驚きである。

 スードリの護衛のためだけだったら、ここまで戦えただろうか?

 

「さぁ、いくらでもかかってきなさい!」

 

 もうテンションも爆上がりである。もう御大将やキャ〇様みたいに、笑いが吹き出そうである。

 でもそんな時間も終わりを告げた。

 サイコガンダムがMk2から離れ、スードリに向かっていったのである。きっと、カミーユを宇宙に返すために、ブースターを準備するためなんだろう。

 スードリのオートパイロットの設定が完了し、ウッダー大尉はすでに退艦したと報告が入っている。だからフォウが撃たれることはないと思うが、それでも心配は心配である。

 だから早くスードリに駆け付けたいのだが、アムロや他のカラバMS隊が許してくれない。

 

「もう、あんたたちしつこいのよ!!」

 

 引き続き、カラバと戦う俺。そこに。

 

(カミーユ、カレル……)

 

 フォウの声が響いた。ま、まさか!? 俺は急いでアッシマー・アーグラをスードリに向けた。

 カミーユのMk2もスードリに向かっている。

 カミーユはこちらを警戒していたが、俺がアッシマー・アーグラの機体を上下に振って、「撃たないから早く行け」とアクションで伝えると、それをわかってくれたらしく、スードリに加速していった。

 

 そして俺がスードリに近づいたころ、ブースターが上空へと発進していった。そちらのほうはうまくいったようだ。あとはフォウのことだが……。

 

 MS格納庫につくと、そこには血と、倒れているナミカー女史の姿が。

 おそらく、止めようとフォウを撃ったけど、駆け付けたカミーユのMk2にやられたんだろう、と想像がついた。でも今はそれよりもフォウのことが大事だ。

 

 サイコガンダムに駆け寄ると、ハッチは開いていた。フォウはコクピットの中で、右肩から血を流して座り込み、気絶している。

 どうやら、頭にズドン(劇場版)の結末にはならなかったようだ。それだけでも幸い。と同時に強い振動が。さらに、降下しているような感触。カラバのMS隊にエンジンをやられたんだろうか。だとすれば急がなければ。

 

 まずは止血をしなければ……。

 

「ごめんね、フォウ」

 

 気を失ったままのフォウに謝ると、そのノーマルスーツの上半身部分を脱がせ、止血処置を施し、傷口にスプレーをかけて応急処置を施す。

 

「うおおおお、火事場のクソ力ーーーー!!」

 

 そして、彼女を力を振り絞って抱き上げ、これまた全力でアッシマー・アーグラまで走る。愛機までたどり着いたころには、もう水面までかなり近づいていた。もう一刻の猶予もないーーーー!!

 

 乗り込み、機体を発進させる。水面がアッシマー・アーグラの右側面を叩き、右肩、右腕部の装甲をはぎとった。

 

「くっ……!」

 

 それでもなんとか上昇し、脱出に成功。その俺の下で、スードリは海面に激突し、大きな水柱を立てた。




ファンアート募集中です!

* 次回予告 *

スードリーから脱出したカレルとフォウ。
だが、ティターンズはそんな二人を逃がしはしなかった。

『スードリーごとサイコガンダムをロストしただと!? 馬鹿者、それで許されるか!!』

追っ手が迫る中、カレルは親友の幸せを守るため、再び銃をとるのだった。

「返事させてもらうわ。お断りよ!」

そして、その戦いの果てに、彼女は……。

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第1部最終回、15話、『さよならフォウ』

刻の涙は、止められるか?

※次回の更新は、11/29 12:00の予定です。お楽しみに!


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スードリー編#06(第一部最終話)『さよならフォウ』

さぁ、いよいよ第一部の最終話です!

……誰かコミカライズしてくれないかな、というおバカなことを考えてみるww
※アッシマーのコクピットは頭部という指摘を受けて、一部修正しました。


『スードリがロストしただと!? 馬鹿者、それだけの報告だけですます奴があるか!!』

 

 ティターンズ・バンコク基地。その司令官、チェン・ウェンロン少佐は、スクリーン越しにバスク・オムから叱責というにはひどすぎる叱責を受けていた。

 

『スードリに配備されていた強化人間は我々にとって貴重な戦力なのだ! いいかチェン少佐。草の根分けてでも、サイコガンダムに乗っていたというムラサメ研の強化人間を探し出せ! 邪魔する者は何者だろうと排除してかまわん!! もし失敗したら銃殺刑だと思え!!』

「は……ははっ」

 

 そして通信は切れた。チェン少佐は真っ青な顔を副官に向けた。

 

「ということだ。ただちに捜索のMS部隊を出撃させろ。激戦の後であれば、例えMSに乗って脱出したとしても、墜落現場から遠くへは行ってないだろう。スードリの墜落現場を中心として、島を重点的に調べるのだ」

「了解であります」

 

 バスクから叱責を罵声を受けて萎縮するような小心な男ではあるが、曲がりなりにもティターンズの士官。才覚はあるのだった。

 

* * * * *

 

「はい、パエリアもどきできたよ」

「うん、ありがとう……」

 

 俺……連邦軍パイロットから脱走兵にクラスチェンジしかかっている、カレル・ファーレハイトは、親友である強化人間の少女、フォウ・ムラサメに作った手料理を差し出した。

 そして一緒に食べる。……うん、おいしい。よくできた。前世で自炊していたのがこんなところで役にたつとは。

 

「カミーユ……」

「大丈夫。無事に宇宙に戻れただろうし、きっとまた会えるよ」

「うん……」

「本当、まるで恋の病にかかった乙女みたいなんだから」

「べ、別にそういうわけじゃっ」

「はいはい」

 

 とはいうものの、実は俺のほうも、ロザミィのことが心配だ。一応、レコアさんにサイド6に避難させてくれるようお願いはしたが……。まぁ、ここはレコアさんを信じよう。

 

「さて……と」

 

 でも、ここでずっとサバイバルしているわけにもいかない。

 俺はアッシマー・アーグラに行くと、コンソールを操作した。

 

「よし、できた」

「カレル?」

「今、全周波、全方位に救助信号を発信したよ。これをカラバが受信したら、きっと助かると思う。そうすれば、カミーユと再会することもできるでしょう」

「そう……。でも、もし先にティターンズがやってきたら?」

「そんなことは決まってるよ」

 

 アッシマー・アーグラごと炎に包まれようと、この身が砕けようと、カラバが駆け付けるまで、絶対にフォウを守り通す。

 

* * * * *

 

 一方、フォウを探す、バンコク基地のMS隊。その隊長であり、チェン少佐の副官でもあるコノ・テヒョン大尉は、運良くこの救助信号を探知することができた。

 

「む、この救助信号はもしや……。よし、ただちに発信源に向かうぞ!」

 

 そのポイントへ向けて、コノ大尉のマラサイをはじめとしたMS部隊は飛んで行った。

 

* * * * *

 

 残念ながら、俺の今日の運勢はよくないらしい。

 MSの群れが来たのを見て、最初は安堵したが、それがティターンズのマラサイとわかり、一気に緊張が走る。

 

「脱出するわよ! フォウ、早くアッシマー・アーグラに乗って!」

「は、はい!」

 

 そして二人で乗り込むと、機体を上昇させる。スードリ特攻の時の戦いと、脱出で無理をしすぎたのか、どうも反応が悪い。

 それでも離陸したところで、向こうから通信が入った。

 

『私は、ティターンズ、バンコク基地所属、コノ・テヒョン大尉である。我々は、その機体に同乗していると思われる強化人間の引き渡しを要求する』

 

 もちろん、俺の返事は決まっている。

 

「返事させてもらうわ。お断りよ!」

 

 そう言って、隊長機にビームライフルを発射する。あっさりかわされたが。

 

『そう来るか。仕方あるまい。ならば実力を以ってでも引き渡させてもらう』

「受けてたつわ。そう簡単に彼女を奪えると思えないことね」

「カレル……!」

 

 そう言うフォウに、俺はちらっと見てうなずく。

 もしティターンズに彼女を引き渡せば、きっと奴らは研究所に連れ帰って、もう一度強化するはず。そうなれば、彼女は今回もキリマンジャロの悲劇に遭い、命を落とすことになる。そんなことにはさせない!

 

 今俺ははじめて、組織のためでも世界のためでもなく、自分の願い、俺の大切な親友のために力を振るう!!

 

 MS部隊は左右に散った。そのうちの一機にMA形態で接近し、MSに変形。ビームサーベルで一刀両断する!

 済まないが、今回は不殺していられるだけの余裕がない。しとめる気でいかせてもらう!

 

 こちらに向かってきたもう一機にビームライフルを発射し、これを撃墜する。

 だが、背後に来ていた別のマラサイがこちらにビームを発射してきた! ギリギリで回避するが、かわしきることはできず、左足を破壊されてしまう。

 

 その後も半ば袋叩きである。フォウは「もうやめて、私が彼らに投降するから」と懇願したが、俺はそれでも戦い続けた。彼女の悲劇が起こるのを許せば、俺はずっと後悔する。それに、大切な親友に不幸になってほしくない、という気持ちもあった。彼女が幸せになるなら、このぐらいどうってことない。

 

 そして十数分の戦闘の結果、それからも何機かのMSを墜としたが、向こうはまだかなりの数を残しているうえに、こちらは左腕を失い、頭部は半壊状態……コクピットがかろうじて無事なのが奇跡だ……さらに、あちこちの装甲も破壊され、フレームがのぞいている、まさに満身創痍といった状態である。

 

 もはやここまでか……俺がそう思っていると……。

 

「!?」

 

 悠然とこちらと対峙していたマラサイの一機が、背後からビームに貫かれて爆散した。

 

 そして、向こうのほうから、アムロのリック・ディアスをはじめとするカラバのMS隊がやってくるのが見えた。その後ろにはアウドムラの姿もある。

 どうやら、少なくとも、フォウを守るという目的は達成できそうだ。よかった……。

 

 思わぬ増援の到着に、ティターンズの部隊はうろたえ、その隙をつかれ、次々と墜とされていく。やがて、コノ大尉とかいうやつの乗ったマラサイは、部下のマラサイとともに飛び去って行った。

 

 それと同時に、俺のアッシマー・アーグラに通信が入る。

 

『君か? 救助信号を発していたのは』

「はい。私は元連邦軍所属、カレル・ファーレハイト元少尉です。同行者とともにカラバに投降させていただきます」

『了解した。ではそのまま、アウドムラに着艦してくれ』

「了解……!?」

 

 とたん、愛機の背部が爆発を起こした! 今の戦いでの損傷の影響か、ついに限界がきたのか!

 

 俺は急いでハッチを開け、フォウを強く説得して右手に乗せる。

 

「アムロ大尉! 彼女を受け取ってください!」

「カレル!?」

 

 かろうじて、接近してきたアムロのリック・ディアスにフォウを引き渡すことに成功する。

 それと同時に、機体の各部が再び爆発した!

 

「フォウ、幸せになるんだよ……」

「カレル!!」

 

 そして俺のアッシマー・アーグラはそのままジャングルに墜落し……。

 大爆発を起こした。

 

 俺の名を呼ぶ、フォウの叫び声をBGMに……。

 




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* 次回予告 *

アウドムラは、キリマンジャロ攻略のため、洋上を進んでいた。
そこに、ティターンズの襲撃があった。

その敵に、フォウは不思議ななつかしさを感じ、そして衝撃を受けるのだった。

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第16話『謎のサイコガンダム』

いよいよ第二部開始。刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、12/2 12:00の予定です。お楽しみに!


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第2部
キリマンジャロ編#01『謎のサイコガンダム』


100000PV突破!? すごすぎでしょ?
本当にZガンダムとフォウ人気様々です(平伏

さぁ、いよいよ第二部開始ですぞ!
今回は、前回から一気に、キリマンジャロ直前まで時間が進みます。

あと、フォウはアウドムラに引き取られてからは、雑用兼ブリッジの通信オペレーターとして働いている、という設定です。



 スードリ撃沈から約3カ月後。カラバの母艦アウドムラは、ニューギニアからアフリカ大陸へと飛行していた。

 目指すは、ティターンズ一大根拠地、キリマンジャロ基地である。

 

 ここを陥落させれば、地上でのカラバ、エゥーゴ連合軍とティターンズの戦力バランスは一変する。そんなターニングポイントの一つとなる戦いだけに、今回の戦いでは、エゥーゴに支援を要請するとともに、カミーユのZガンダムと、クワトロ・バジーナの百式にも、降下してキリマンジャロ基地攻略に参加するよう要請を出している。

 

 もっとも、カラバのリーダー、ハヤト・コバヤシが二人に降下を要請したのは、それだけが理由ではないのだが。

 

* * * * *

 

 フォウ・ムラサメは最近、忙しい。忙しいが充実している。

 あの日から3カ月経って、だいぶ変わってきた、と自分でも思っている。

 

 多少のおしゃれはするようになったし、髪も少し長くなった。

 

 ティターンズで、自分を兵器や実験体扱いしていた奴らと違って、アウドムラのクルーは、みんな自分を大切な仲間だと思ってくれている。

 その温かさは、ムラサメ研究所やスードリにいたころとは大きな違いだ。まさに天国と地獄。

 

 そこまで思い浮かべたところで、フォウは少し顔を伏せた。

 アウドムラに移った時、生き別れた親友のことが、頭をよぎったのだ。

 自分のことを親身に考えてくれた女性。

 アウドムラの人達より前に、自分を兵器ではなく、一人の人間としてみてくれた女性。

 そして、その命を張って、自分が止めてもなお、自分を守るために戦ってくれた女性。

 

 彼女がいてくれたから、今の自分がいる。

 彼女は愛機とともに炎に包まれ、孤島のジャングルに堕ちていったが、彼女は信じている。

 あの人は死んでいない。きっとまた会える、と。

 

 確証はないが、そんな予感がするのだ。

 

 そう思った彼女の耳に、警報の音が届いた。

 

* * * * *

 

「遅れました! それで、どうしたんですか?」

 

 ブリッジに飛び込んだフォウに、MS隊長のアムロがしかめ面をしたまま言った。

 

「キリマンジャロ基地から、このアウドムラに向けてMS部隊が発進してきた。そのうち一機はとても大型だが……」

 

 そこに、オペレーターの一人がこちらを向いて報告してきた。

 

「敵、こちらの遠距離レーダーの範囲に入りました! 画像出します!」

「あぁ」

 

 ハヤトがそう答えると、メインスクリーンに接近中の敵機の姿が映し出された。

 

「なっ……!」

 

 その姿を見て、フォウは絶句した。アムロもハヤトも、信じられないものを見た、というような驚愕の表情を浮かべている。

 

 漆黒の機体。機体の前面にある三基の拡散メガ粒子砲。まるで体育すわりをしているかのようなフォルム。

 それはまさに、フォウにとって忘れられない機体。

 

 そう、それはフォウがかつて乗っていた機体、縛られていた機体、MRX-009・サイコガンダムであった。

 

「あれはサイコガンダム……! 修復したのか、それとももう一機生産されていたのか……!?」

「いや、それよりも……」

 

 ハヤトの言葉に、アムロも戸惑いの表情を浮かべながら言う。

 

「かつてのパイロットだったフォウはここにいる。なら、あれに乗っているのは一体……? 新しい強化人間なのか……?」

 

 フォウが声を震わせながら言う。

 

「わかりません……。私がスードリに派遣された時点では、私が最後に調整された強化人間でした。その後に別の人が強化された可能性は否定できませんが……。でも……」

「どうした?」

「よくわかりませんが、あれに乗っているのは、知っている人のような気がするんです……。何、どうしてなの? 何か、嫌な予感がする……」

 

 そこでアムロが表情を引き締める。

 

「とはいえ、あのサイコガンダムにアウドムラを落とさせるわけにはいかないな。ディジェで出る」

「あぁ、気を付けてくれ」

「わかってる」

 

 ブリッジを走り去るアムロの姿を、フォウは不安そうな表情で見つめていた。

 

* * * * *

 

「アムロ・レイ、ディジェ、出る!」

 

 アムロのディジェを筆頭に、カラバのMS部隊が、次々とアウドムラから発進していった。

 

「いいか、ここで消耗するわけにはいかない。全員、やられないように気をつけろ!」

『了解です!』

 

 そして、MS部隊がサイコガンダムに襲い掛かる。

 さっそく、サイコガンダムが拡散メガ粒子砲を発射! さすがアムロの部下たちだけあり、ほとんどの機体がそれを回避することに成功するが、運の悪い一機が、メガ粒子砲の直撃を受けて爆散した。

 

 その後も、サイコガンダムは、アムロたちの攻撃を平然と受け流しつつ、アウドムラに向かう。まるで、アウドムラを落とすことが最優先目標だということをわかっているかのように。

 

「アウドムラを落とすつもりか、そうはいくか!!」

 

 アムロはそれを追撃しようとするが、運悪く、サイコガンダムの僚機であるマラサイの攻撃を受け、出花をくじかれてしまう。

 他の部下たちも、ティターンズのMSの相手が手一杯で、サイコガンダムへの追撃ができる状況ではなかった。

 

 そしてサイコガンダムはついに、アウドムラの眼前に到着すると、MS形態に変形し、その腕部ビーム砲を突き付けた!

 

「!!」

 

* * * * *

 

 サイコガンダムのパイロットは、躊躇することなく、眼前のアウドムラに腕部ビーム砲の照準を合わせる。心のどこかに違和感を覚えるが、そんなものは気にしない。トリガーを引けば、それで任務は終わりだ。

 

 だが。

 

 彼女は見つけてしまった。アウドムラのブリッジにいる水色の髪をした少女の姿を。

 それを見てしまった彼女の指がとまる。まるで、彼女を殺してはいけないとわかっているかのように。

 なぜなのか。『彼女』はその少女のことを知らないはずなのに。

 

 だが、任務は任務だ、とそれでもトリガーを引こうとしたその時。

 背部に着弾。やっと追いついたアムロのディジェがクレイバズーカで撃ってきたのだ。

 

 やっと体の自由を取り戻した彼女は、背後を振り向き、拡散メガ粒子砲を発射する。アムロはそれを回避し、さらにもう一発、クレイバズーカを発射する。またも着弾。

 

 さらに上空から二機のMSが飛来するのがレーダーに映る。敵の援軍だろう。

 

 ならばこのまま戦い続けるのは不利。そう判断したパイロットは、サイコガンダムをMA形態に変形させ、僚機とともに飛び去って行った。

 

 そしてそのサイコガンダムを、フォウはただ、手を組んで見つめ続けていた。

 

 カミーユのZガンダムと、クワトロの百式が降下してきたのは、ちょうどその時である。

 




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* 次回予告 *
百式はZとともに、地球に降下した。そこでは、懐かしい顔との再会があった。

「カミーユ!」
「フォウ! よかった……生きてたんだね」

そしてキリマンジャロに潜入したカミーユとフォウは、そこに懐かしさを感じる仮面の娘を見た。

「……っ!」
「どうしたんだ。大丈夫か、フォウ!?」
「突然、鋭い頭痛が……この感じはもしかしたら……近くにあの強化人間がいるのかも……」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第17話『キリマンジャロに降る雪』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、12/5 12:00の予定です。お楽しみに!


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キリマンジャロ編#02『キリマンジャロに降る雪』

「カミーユ!」

「フォウ! よかった……生きてたんだね」

 

 アウドムラのMSデッキに着艦したカミーユを待っていたのは、数カ月前に生き別れた恋人、フォウの抱擁だった。

 

「うん。カレルに助けてもらったの」

「カレルさんが……それで、彼女は?」

 

 そこで沈黙。それこそが答えだった。

 

「そうか……ごめん、フォウ」

「ううん、いいの。予感がするの。彼女は生きてるって」

「フォウ……そうだね」

 

 カミーユがそういうと、フォウはふわっと微笑んでうなずいた。

 

「あ……」

「どうしたの?」

「いや、今の微笑みがとてもきれいだったから……」

 

 その二人に、アムロが微笑んで茶化すように言う。

 

「あぁ、フォウはとても変わったよ。3ヶ月前と比べて、ずいぶん女の子っぽくなった。やっぱり、カミーユとの再会を待ち焦がれていたからかな? 本当に恋する女の子って感じだったぞ」

「あ、アムロさんっ」

 

 ほほを染めて反論するフォウ。場に微笑ましい笑い声が響く。そしてそれがおさまったところで。

 

「さて、これからキリマンジャロの攻略に挑むわけだが、いきなり大きな障害があらわれてしまった。のんきにしてばかりはいられない」

「あのサイコガンダムだな」

 

 ハヤトの言葉に、クワトロが返す。それを機に、MS格納庫が緊張で包まれる。

 

「でも、あのサイコガンダムはなんなんです? パイロットのフォウはここにいるのに……」

 

 カミーユの質問に、アムロが真顔のままで答える。

 

「わからん……。だが、かなりの強敵だというのは間違いなさそうだ。あの時も、僕が攻撃していなければ、アウドムラは沈んでいたぐらいだからな」

「今度のキリマンジャロでの戦いにも、奴が出てくる可能性は高いな。一筋縄ではいかないかもしれん」

「ですが……」

 

 そこでフォウがぽろりとつぶやいた。

 

「何か?」

「でももし、かつての私のように、望まずして強化され、戦わされてるのなら……助けてあげたい……。それに、あのサイコガンダムのパイロット、知っている人のような気がするの。そんな予感がするだけだけど……」

 

* * * * *

 

「ふむ、なかなかのようだな。フォウ・ムラサメを取り戻すことができなかったのは残念だが、彼女という強化人間が手に入ったのは、それを上回る幸運といえる」

 

 目の前に座る女性を見て、ジャミトフ・ハイマンはそう満足そうに言う。そのジャミトフに対し、ムラサメ研究所の所長、ムラサメ博士が、これまた笑みをこぼして言う。

 

「まったくですな。素晴らしい素材です。なんなら、まだ精神のブレが見られますので、洗脳や強化をさらに強化することができますが」

 

 だが、そのムラサメ博士の言葉に、ジャミトフは嫌悪感を表情にわずかに込めて言った。

 

「いや、その必要はない。これだけのニュータイプ能力があれば十分事足りる」

「しかし……」

「バスクも貴官も困ったものだ。元来強化人間への強化は、優秀なニュータイプ兵士を作るためであり、強化の研究は、人類をニュータイプへと導くための研究のはずだ。なのにバスクも貴官も、それらをただ自分の欲を満たすものだとみておる」

「……」

「そんなことでは、人類の革新はいつまで経っても来んぞ。まぁ、わしは人類の革新が遅くなっても、最悪なくてもかまわんのだがな。いいか、これ以上の強化は不要だ。現状のパフォーマンスを維持できるだけの調整で十分だ」

 

 そう言って、ジャミトフは去っていった。その後ろ姿を見たムラサメ博士は、ジャミトフに言いようのない畏怖を感じていた。

 この人は一体何を目指しているのか、何を考えているのか、まったくわからないし見通せないのだ。

 

 そこまで考えてムラサメ博士は、自分の背後の、色々な機材につながれた椅子に座っている女性に視線を向けた。

 仮面をかぶり……茶色の髪をポニーテールにしたその女性を……。

 

* * * * *

 

 そして、ついにキリマンジャロにやってきたカラバは、基地の攻略戦を開始した。

 アムロのディジェを先頭に、カラバのMS隊が次々とアウドムラから発進していく。

 

 そしてカミーユも出撃しようと、Zガンダムに乗り込もうとしたところで……。

 ノーマルスーツに身を包んだフォウがやってきた。

 

「待って、カミーユ! 私も連れて行って!」

「フォウ、でも外は危険だ。君はここで待っていたほうがいい」

「私は大丈夫。ニュータイプ能力はスードリにいた頃より弱くなってきてるけど、足手まといにはならないわ。あのサイコガンダムのパイロットに会わなければならない気がするの。お願い!」

 

 フォウに懇願されて、しばし考え込むカミーユ。そして。

 

「わかったよ、一緒に行こう」

「ありがとう!」

 

 そして二人でZガンダムに乗り込む。

 そして。

 

「カミーユ・ビダン、Zガンダム、行きます!」

 

* * * * *

 

 まさに激戦だった。

 カラバのネモと、ティターンズのハイザックやマラサイ、新しく配備されたバーザムとが激しく銃火を交えあう。

 

 そして、カミーユのZガンダムにも。

 

「カミーユ、後ろ!」

「!!」

 

 フォウの声を受けて、カミーユが機体を回避させる。Zがいたところをビームが通り過ぎて行った。

 

「このっ!」

 

 そしてZを今撃ってきたマラサイのほうに向けてビームライフルを発射! マラサイは胸部を撃ち抜かれて爆散した。

 そこに。

 

『こちらクワトロ。キリマンジャロ基地に潜入する』

 

 その通信を聞いた、カミーユとフォウが向き合ってうなずきあう。

 

 岩場の陰に着陸した百式。その横の岩場に、カミーユはZガンダムを着陸させる。

 Zガンダムを降りたカミーユとフォウは、同じく降りてきたシャアと共に、基地内に潜入するのだった。

 

* * * * *

 

 基地に潜入した、シャア、そしてカミーユとフォウの三人。

 だがある程度歩いたところで、警備兵の出迎えを受けた。たちまち銃撃戦が始まる。

 

 だが、警備兵は次々と数を増していく。このままでは数で押し切られるのは目に見えていた。

 

「やむを得ん。ここからは二手に分かれよう」

「わかりました」

「はい」

 

 そして、三人は二手に分かれて、銃を撃ちながらそれぞれ別の通路に走っていった。

 

 基地の中を走り回るカミーユとフォウ。その時。

 

「……っ!」

「どうしたんだ。大丈夫か、フォウ!?」

「突然、鋭い頭痛が……この感じはもしかしたら……近くにあの強化人間がいるのかも……」

 

 見ると、部屋の一角に灯りがついていた。銃を構えながら、近寄っていく。

 

 そして部屋に入った二人は突然、銃撃の洗礼を受けた。足元に二発の銃弾が着弾する。

 

「誰だ、エゥーゴの者か!? それともカラバか!?」

 

 聞き覚えのある声に、フォウが衝撃を受ける。それとカミーユも。

 

 そして部屋の奥から現れたのは……。

 

 茶色の髪をポニーテールにした、童顔の、仮面をかぶった女性だった……。




* 次回予告 *

「私はカレルではない。K……。ティターンズの意思の代行者である」
「カレル、私がわからないの!? フォウよ! フォウ・ムラサメよ!」

仮面の女性はサイコガンダムから離れることができない。ただ、その運命を呪うことも知らないまま、巨人と運命を共にするしかないのだろうか……?

「うるさい! 私は『K』……。ティターンズの意思を遂行するもの……カレルではない!!」
「うるさい! お前は私ではない! 引っ込んでいろ、『カレル・ファーレハイト』!!」

人の革新はまだ遠いのか?

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第18話、『永遠?のカレル』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、12/8 12:00の予定です。お楽しみに!


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キリマンジャロ編#03『永遠?のカレル』

 地球連邦軍のキリマンジャロ基地(実際にはティターンズの基地に近いが)に潜入し、ある部屋に入ったカミーユ・ビダンとフォウ・ムラサメ。

 その部屋で二人に銃を突き付けていたのは、茶色の髪をポニーテールにした女性だった。

 仮面をかぶっているものの、その面影は変わらない。ましてや、フォウには一目でわかった。

 

「カレル……まさかあなたが強化人間になっていたなんて……あのサイコガンダムのパイロットになっていたなんて……」

「カレルさん……」

 

 だが、カレルと呼ばれた女性は、それを一蹴して、一歩踏み出した。

 

「私はカレルではない。K……。ティターンズの意思の代行者である」

「カレル、私がわからないの!? フォウよ! フォウ・ムラサメよ!」

「知っているぞ。エゥーゴのエースパイロット、カミーユ・ビダン。そして、元ムラサメ研究所の四番目の被検体、フォウ・ムラサメ……。重要人物としてマークされているお前たちとここで出会えるとは……ふふふ、運がいい」

「カレル……!」

 

 さらに一歩踏み出そうとしたフォウに、Kは躊躇なく、銃を放った。

 銃弾がフォウの肩をかすめ、血が少し飛び散る。

 

「うっ!」

「フォウ!! カレルさん、あなたは……!」

「無用な殺生はしたくない。警備兵が来るまでじっとしていてもらおうか」

「カレル……!」

 

 と、その時だ。

 

(フォウ……)

 

 どこからか、フォウの意識に優し気な声が届いた。懐かしい、あの声だ。

 

「え……?」

「どうした? 私の顔に何かついているか? ふふふ、おかしな奴だ」

 

 と、その時。

 

 ズズーーーーンッ!!

 

 激しい揺れが部屋を襲った。近くで爆発があったのだろうか?

 その拍子に、カレルが足を取られて仰向けに倒れてしまう。

 

 後頭部を近くの棚にぶつけてしまう。

 

「ぐっ!」

「カレル!!」

 

 駆け寄るフォウとカミーユ。そこに。

 

「来るな!」

「え……?」

「すまん、今はいつもの口調で話してる余裕がないんだ。今のショックで、なんとか身体の主導権を取り戻すことができた……。一時的にだろうが……」

 

 男口調で話すカレル。だが、フォウには直感でわかった。あのカレルだと。自分の親友のカレルだと。

 

「カレル、元に戻ったの!?」

「あぁ……。だが、長くはもたない……。だから、俺が身体の主導権を取り戻している間に……くっ……!」

「でも、あなたを置いていくなんて……」

「心配ない……。俺にはサイコガンダムがある……。いざとなれば、それで脱出するさ……。うっ、くっ……逃がすか……。それまで、俺が身体の主導権を握っていられれば、だけど……くっ……」

 

 頭を押さえて苦しむカレル。洗脳された人格に戻りつつあるのだろうか。

 

「早くいけ……。俺が俺でいる間に……。うっ、ぐっ……!」

「カレル……」

「カミーユ……フォウのこと、頼んだぜ……」

 

 そのカレルの願いを聞いて、カミーユがうなずく。

 

「わかりました……。どうかご無事で……行こう、フォウ」

「カミーユ……でも……」

「大丈夫。彼女はそう簡単に死ぬ人じゃない。いつか助けるチャンスはあるよ。さぁ」

「……うん……」

 

 その部屋……調整室から駆け出す二人。そして。

 

「くっ……亡霊は亡霊らしく、大人しくしていればいいのだ。逃がすか、カミーユ・ビダン、フォウ・ムラサメ……!」

 

 と、そこで部屋に備え付けられたインターフォンが鳴る。それをとるカレル。

 

「何? ジャミトフ閣下が脱出される? わかった。これから直掩に向かう」

 

* * * * *

 

 カミーユとフォウが部屋から脱出する少し前。

 

 クワトロ・バジーナことシャアは、ジャミトフ、そしてその護衛兵と対峙していた。

 

「赤い彗星も地に落ちたものだな。こんなところで終わりを迎えるとは」

「くっ……。だが、私が力尽きたとしても、ここでお前を倒せば希望は残る。あとは若い者たちに任せればいい」

 

 だが、そのクワトロの言葉を聞いたジャミトフは、再び高笑いをあげた。

 

「はっはっはっ! やはり地に落ちたようだな。表面だけしか見ることができず、その裏に気づくことすらできぬとは」

「なんだと……?」

「お前はもう少し賢明だと思っていたのだが……残念だよ」

 

 と、そこに。

 

「クワトロ大尉!」

 

 横から銃撃。護衛兵の一人が射殺され、残りの護衛兵とジャミトフがそちらに向きなおる。

 その隙にシャアは物陰に隠れ、護衛兵に銃撃を行う。

 

「くっ……。どうやら遊びすぎたようだな。命拾いしたな、赤い彗星」

 

 そう言って、ジャミトフは残りの護衛兵と、シャトルポートへ走っていった。

 

 それを見送るシャアのもとに、カミーユとフォウが駆け付ける。フォウの左肩に応急処置がされているのは言うまでもない。

 

「カミーユ、無事だったか。フォウも」

「はい!」

「よし、脱出しよう。外に出て、ジャミトフのシャトルを追うぞ!」

「わかりました!」

 

 そして三人で、洞窟の出口に向かって駆け出していく。

 

* * * * *

 

 物陰から発進していく百式とZガンダム。それと同時に、基地からシャトルが発進した!

 

「逃がすか、ジャミトフ!」

 

 シャトルを撃墜しようと、それに向けて突撃する百式とZガンダム。そこに。

 

「ジャミトフ閣下脱出の邪魔はさせない!」

 

 同じく発進していたサイコガンダムが立ちはだかった!

 

「くっ……!」

 

 サイコガンダムが胴体部の拡散メガ粒子砲を発射する。それを百式とZガンダムはかろうじてよけた。

 しかしそれは致命的な隙となった。その間にシャトルは百式のビームライフルの射程外まで上昇していた。

 百式が苦し紛れにビームライフルを撃つも、それはむなしくそれるだけだ。

 

「逃がした……か……。だが今は……!」

 

 そしてそのまま、アムロのディジェも加わり、百式、Zガンダム、ディジェは、サイコガンダムとの戦いに移行した。

 

 サイコガンダムが右腕の五連ビーム砲を放ち、百式がそれを回避する。ディジェがクレイバズーカをサイコガンダムに命中させ、サイコガンダムがそのディジェを叩き落そうと拳を振るう。

 

 そんな中、カミーユとフォウは、サイコガンダムの攻撃をかわしながら、説得を続けていた。

 

「カレル、元に戻って!」

「カレルさん!!」

 

 だがカレルは、頭痛に苦しめられながらも、攻撃の手を緩めない!

 

「うるさい! 私は『K』……。ティターンズの意思を遂行するもの……カレルではない!!」

 

 そしてさらに叫ぶ。

 

「うるさい! お前は私ではない! 引っ込んでいろ、『カレル・ファーレハイト』!!」

 

 なぜか、その目からは涙がこぼれ落ちていた。

 

* * * * *

 

 それは悪夢だった。

 

 俺の見ている前で、俺が動けないまま、俺はティターンズの尖兵として戦い続けた。

 俺は冷徹に、サイコガンダムを駆り、カラバと戦い続けた。

 

 戦いの中で、街の一部が爆発し、命を落とした人や、親の遺体にすがりついて泣く子供を見たときには、もう張り裂けそうで、吐き気を催した。身体の主導権を握られているので、吐くことはできなかったが。

 

 それからも、この体の本来の持ち主である『カレル・ファーレハイト』はただ冷徹に戦いを続けた。

 

 アウドムラに迫った時、フォウの姿を見て、なんとか撃つのを止められたのは本当に僥倖だった。

 

 アッシマー・アグラ墜落の影響で、『俺』と『カレル』の人格が一時的に分離し、『カレル』に施された洗脳の影響が『俺』にまで及ばなかったのは幸いだったが、それは慰めにもならない。カレルの体は、洗脳された『カレル』の意思のまま戦いを続け、俺はそれを意識の奥底から見ていることしかできなかったのだから。

 

 キリマンジャロで、フォウとカミーユと再会し、その時に一時的に身体の主導権を取り戻せたのは本当に幸運だった。この手で、二人を殺すという最悪の結末を迎えずに済み、その二人と再会することができたから。

 

 そして今、カレルは、俺の制止も介さず、アムロ、シャア、カミーユ、そしてフォウと戦い続けている。

 

 俺がその戦いを止めようと、『カレル』の人格を非力ながらも抑えようとしていたその時。

 

 俺は聞いた。

 

 『カレル』の心のどこかが泣いているのを。

 その泣き声を俺は聞いた。

 

 あぁ……そうか。

 

 『カレル』は全てを洗脳されたわけではなかった。

 

 『カレル』も心を痛めていたのだ。自分の本意ならず、洗脳により、己の手を血で染めてきたことを。

 後悔していたのだ。戦いの犠牲者を生み出していったことを。

 いや、もしかしたら、本来戦いが嫌いだった『カレル』は、ここまでの戦いでも、心を痛めていたのではないだろうか。例えそれが刻の涙を減らすためであっても。

 もしかしたら彼女があそこまで洗脳されていたのは、そのせいもあったのかもしれない。

 

 それを悟った俺は、抑えるのではなく、優しく『カレル』を背中から抱きしめた。

 

―――済まなかったな。ここまで、お前を苦しめてしまって。お前のその心の痛みを慮ってやれなくて。

―――……。

―――そのお前の心の痛み、血の涙を一番わかってやらなきゃいけないのは、俺のはずなのにな。

―――……さん……。

―――もう、お前が一人で苦しむ必要はないんだ。俺が、お前の罪も苦しみも、半分受け持ってやる。だからもう、一人で全てを抱え込み、傷つくことはないんだ。

―――ありがとう……。

 

 そして俺たちは再び一つになった。理解しあい、和解できた影響か、『カレル』が身に着けていた仮面……洗脳が砕け散ったのが感じられた……。

 

* * * * *

 

 サイコガンダムの動きがそれまでとは変わった。

 

 戦う意思がないかのように、迎え撃とうという構えを解き、ひざまづいたのだ。

 

 そして通信が入る。

 

「私はもう戦う意思はありません。カラバに投降します」

 

 それを聞き、カミーユもフォウも目を潤ませる。

 

「カレル……!」

「カレルさん……!」

 

 そしてクワトロ……シャアからの返事。

 

「了解した。動力を切って、ハッチを開けてくれ」

「わかりました……」

 

 だがそこに。

 

「見つけたぞカミーユ! カクリコンとマウアーの仇、取らせてもらう!!」

 

* * * * *

 

「私はもう戦う意思はありません。カラバに投降します」

 

 再び、身体の主導権を取り戻した……いや、和解した『カレル』から主導権を譲ってもらった俺は、そう通信を入れた。

 その返事はすぐに来た。

 

「了解した。動力を切って、ハッチを開けてくれ」

「わかりました……」

 

 安堵のため息をついて、俺はサイコの動力炉のスイッチを切ろうとした。

 その時。

 

「見つけたぞカミーユ! カクリコンとマウアーの仇、取らせてもらう!!」

 

 前世と現世の両方、そのどこかで聞いた声が通信機から聞こえてきた。

 声のしたほうにサイコガンダムを向けると、そこには、こちら……正確にいえばZガンダムに突っ込んでくるバイアランの姿が。

 

 じ、ジェリド!! まさかここにまでやってくるなんて! って、原作でもフォウが正気に戻ってきて、ハッピーエンドかなって時にやってきたよね君!

 というか、俺が洗脳されていた間に、カクリコンとマウアーをカミーユにやられてたのね。というか、その気持ちはわかるけど、こんな時に出てこなくていいだろうに! 空気嫁馬鹿!!

 

 何はともあれ、フォウとカミーユ(大切な親友とその彼氏)をやらせはしない! 俺は思わず、サイコガンダムをバイアランの前に飛び出させていた。

 

* * * * *

 

「裏切者め! 立ちはだかるなら、まずはお前から血祭にあげてやる!」

 

 ジェリドはそう言って、バイアランのビーム砲をサイコガンダムの頭部に向ける。

 しかし、トリガーを引こうとしたその時。

 

「!?」

 

 ジェリドの頭に飛び込んでくるイメージ。それは、ジェリドがよく知っている女性の姿だった。

 

「な、なぜあいつの姿が……くっ……!」

 

 だが、指は今にもトリガーを押そうとしている。ジェリドはとっさに照準を頭部ではなく、胴体……三連拡散メガ粒子砲に向ける。それと同時にビームが放たれ、砲口に直撃。大爆発が起こる。

 

「ジェリド!!」

 

 戸惑うジェリドのバイアランに、Zがビームライフルを連射し、その一発が、バイアランの右腕を吹き飛ばす。

 

「くっ……!」

 

 そしてバイアランは、そのままどこかに撤退していった。

 

* * * * *

 

 全天周スクリーンが、次々と画像が乱れ、消灯していく。コンソールのダメージ画面が次々と真っ赤になっていく。

 もうじき、サイコガンダムは俺もろとも爆散するだろう。

 

 やれやれ、脳をやられて即死(フォウ)ルートは避けられたのはいいが、結局は、爆発に巻き込まれて死亡(ステラ)ルートか……。

 

 通信機からは、フォウとカミーユの、脱出を懇願する声が聞こえてくる。だがダメなんだ。今のダメージで、ハッチが開かなくなってしまった。脱出はほぼ不可能だろう。

 

 まぁ、カミーユとフォウを助けられただけでもよかったかな……。

 

 俺はそう思い、あきらめの気持ちで目を閉じた。

 

 その時、俺の頭にあることが浮かんだ。

 それはロザミィことロザミアと交わした約束。

 

 この戦争が終わったら、必ず会いに行く。

 

 そうだ! その約束を果たすまで死ぬわけにはいかない!

 いや、フォウやロザミィ、俺と親しい人たちを悲しませないためにも、俺は生きなければならない!

 

 だがどうする……? ハッチは開かないんだ。

 サイコのボディが爆散するのも秒読み段階、というギリギリの状態で脱出方法を模索している中、俺は思い出したことがあった。

 

 そうだ、ZZ(機動戦士ガンダムZZ)の作中で、サイコガンダムMk2のボディがやられた時、プルツーは頭部を切り離して難を逃れたはず! もしかしたら、このサイコガンダムにも!!

 

 俺はカレルとしての記憶を探りながら、コンソールを探してみる。すると……あった!

 

 一か八か! 意を決して、俺は拳を分離ボタンにたたきつけた。

 

* * * * *

 

 爆発を繰り返すサイコガンダム。その時、その頭部が突然、勢いよく胴体から分離したのだ。

 それと同時に、残された胴体は激しい爆発を起こして爆散した。

 

「カレル!」

「カレルさん!!」

 

 カミーユとフォウの乗るZは、急いでそのサイコガンダム・ヘッドを追う。

 その三人を見て、クワトロ……いや、シャアとアムロが互いに言葉を交わす。

 

「過ちを繰り返さずに済んだな……」

「あぁ。そうでなければ、とても人類に希望など持てんよ」

 

 その彼らの背後で、キリマンジャロ基地は激しい炎を発して、大爆発するのだった……。

 

 




ただいまファンアート募集中です!

* 次回予告 *

カラバは地球連邦の議会を制圧し、シャアは時代が変わる狼煙を上げるため、ダカール演説に挑む。

「さぁ、どこからでもかかってきなさい! 演説の邪魔はさせないよ!!」

その演説の声が流れる中、カレルは戦いの中、忌まわしい前世の因縁と再び相まみえるのだった。

「あいつの動き、まさか……!」
『カレルさんも、あいつを知っているんですか?』
「うん、詳しくは言えないけど……」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第19話『ダカールの決意』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、12/11 12:00の予定です。


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キリマンジャロ編#04『ダカールの決意』

……はい。本当はカレルの口調は男口調に戻そうとしたんですよ。
でも、それだと文章中ではただの男主人公にしか見えないし、かわいくないしと考え、結局今まで通りにさせていただきました。

それと、カレルの人格についてですが
(洗脳前) 『俺』と『カレル』がほぼ融合した状態。思考のベースは『俺』、ふるまいなどは『カレル』という感じ。一方、『俺』の感じたことなどは『カレル』にも伝わっています。
(洗脳中) 『俺』と『カレル』の人格が分離。主導権は『カレル』に奪われ、『俺』は『カレル』の感じたことなどは伝わりますが、身体に影響を与えることはほとんどできません。
(現在)『俺』と『カレル』は分離しながらも協調しています。二つの人格同士は、脳内で会話することも可能です。また、時と場合に応じて、人格の片方に感知を任せたり、身体の主導権の一部または全部を別の人格に任せることも可能。ただ、主導権を握っていない人格の反応は、身体に影響を及ぼすこともあります。(赤面すると身体も赤面するなど)


 カミーユたちに救助された俺……カレル・ファーレハイトを回収したアウドムラは、連邦首都ダカールへ向かっていた。おそらく、シャアにダカール演説をさせるためだろう。

 

 その途上。アウドムラの独房にて。俺は、カミーユとクワトロ・バジーナ……シャアから説得を受けていた。

 

「やっぱり、エゥーゴに入ってはくれないんですか?」

「えぇ、申し訳ないけど……。私はこれまでサイコガンダムに乗って、エゥーゴやカラバの人たちを殺したり、街を焼き払ったりしたわ」

「でもそれは、洗脳されたためで……」

「えぇ、そうだけど。でも、そんな私がまたエゥーゴに入るなんて、虫が良すぎる。あなたたちはともかく、エゥーゴやカラバの兵士たちが納得しないでしょう」

 

 そこで少しの沈黙。そこでシャアが。

 

「だがそれは、自分の犯したことの責任から逃れてるだけではないかな? 本当に君がそのことを悔やんでいるのなら、一般兵たちに反発されたりするのを覚悟のうえで、参加すべきではないだろうか。それが君のしたことに対する償いだろう」

「……」

 

 確かにシャアの言う通りだ。俺は、虫が良すぎることを理由にして、一般兵や犠牲者たちから目を背けているだけなのに過ぎないのかもしれない。それは、かつてシャアがアムロに言ったように、『ティターンズに手を貸す』こと、そして『償いから逃げる』のに他ならないのだろう。

 

「……一つお聞きしたいのですが、クワトロ大尉」

「何かな?」

「私が洗脳されている間、どんなことがありましたか?」

 

 私が聞くと、シャアはそれまでに起こったことについて詳細に語ってくれた。

 

 シロッコの登場。

 アポロ作戦。

 ブレックス准将暗殺。

 グラナダへのコロニー落とし未遂

 再びの毒ガス作戦(これは原作とは違い、成功してしまったそうだが)

 アクシズの到来。

 

 すべて、俺が前世で見て、知ってる原作の通りだった。

 それを知らされて、俺は考える。

 

 もうここまで来てしまった以上、ティターンズはもはや、ジャミトフの意図から離れた組織になってしまったのではないか。

 少なくとも、俺がいたころのティターンズはもうなくなってしまったと思わざるを得ない。

 ならば、そのティターンズを倒すのに力を貸すのが、同じティターンズだった俺のするべきことであり、これまで犯してしまった罪の償いではないだろうか。

 例えシャアの言う通り、その途中で、エゥーゴやカラバの兵士たちに、白い目を向けられることになったとしても。

 

 それで覚悟は固まった。

 

「わかりました。協力します」

「カレルさん……!」

「ティターンズはもはや、私から見ても許すことのできない組織に変貌し、それはもはや改めることはかなわないと判断しました。なら、それに引導を渡すのに力を貸すのが、私……いや、俺のするべきことだと思いますから」

 

 決意を表す意味も込めて、あえて『私』ではなく『俺』と、素の話し方に戻って伝える。

 そして、心の奥底にいるもう一人の俺……『カレル』に心の中で謝る。

 

―――ごめんな、『カレル』。もう少しお前に苦しい思いをさせることになるが……。

―――いいえ。私もこれ以上の悲劇は生み出したくありませんから。何より、あなたが苦しみや痛みを分かち合ってくれるから、私はいくらでも耐えられます。

―――ありがとう。

 

「そうか、感謝する。我々エゥーゴは、君を歓迎しよう」

「ありがとうございます。一般兵の人たちにも歓迎してもらえるかはわかりませんが……。そういえばクワトロ大尉、一つお伝えしたいことがあります」

「? 何か?」

 

 これだけは伝えなくてはならない。それを阻止できるかどうかはわからないが、伝えておかなければ、悲劇が起こるのは確実なのだ。

 

「実は、ティターンズはグリプス2で恐ろしい戦略兵器を作っているのです」

「戦略兵器? それは……」

「あなたにも関係のある兵器のはずです。なぜならそれは……ソーラ・レイ、コロニー・レーザーなのですから」

「なんだと……!?」

 

 シャアとカミーユの表情が驚愕で固まる。それはそうだろう。

 一年戦争の中で最強最悪の戦略兵器、それが再び作られようとしているのだから。

 

「本当なのか、それは……?」

「はい。どこまで完成しているかはわかりませんが、遅くても12月7日には、使用可能なレベルに入っていて、サイド2を目標にして発射する予定のはずです」

「なんてことだ……」

 

 18バンチという、詳細な目標はあえて言わない。そこの住民を脱出させたところで、それに気づいたティターンズは別のコロニーを目標にするに決まっているからだ。

 

「わかった、情報感謝する。ただちに、アーガマに連絡して対処をお願いしておこう」

「よろしくお願いします、クワトロ大尉。ところで、アクシズとの会談はどうだったんですか?」

「……」

 

 そこでシャアは目をそらした。ああ、やっぱり「よくもミネバをこうも育ててくれた!」したのね。

 一応カミーユにもあれを聞いておくか。これは、ロザミィにもかかわることだからな。

 

「ところでカミーユ、その場にレコアさんはいた?」

「いえ、その時レコアさんは、ティターンズからの脱走兵を、サイド6まで避難させる任務についていましたから」

 

 それを聞いて一安心。

 ロザミィが無事にサイド6に避難した意味でも、レコアさんがティターンズに寝返らなかった意味でも。

 

* * * * *

 

 そして、ダカールが近づいてきた。

 

 カラバのパイロットたちが、MSに乗り、発進準備を進める。俺もノーマルスーツを着て、与えられたリック・ディアス(おそらくはアムロがかつて乗っていた機体)に向かう。

 パイロットや整備兵の視線が不信に満ちていたのはわかっていた。軽蔑にまで至ってないのは不幸中の幸いだが、それでも結構堪えるものはある。

 

 と。

 

―――あなたも一人で抱え込まないでください。あなたの感じる辛さ、苦しさも、私が一緒に分かち合いますから。一緒に向かい合っていきましょう。

―――うん、ありがとう。それを聞いて、いくらか救われるよ。

 

 なんかここまでくると、『カレル』が俺のヒロインみたくなってきたな。と、『カレル』が赤面した感じがした。

 そこで。

 

「カレルさんも出撃ですか?」

 

 と、言いながらカミーユがやってきた。その後ろからはアムロも続いている。

 

「うん。よろしく頼むね」

「はい。そういえば、あの時は、話し方が男っぽかったですね。フォウも驚いてましたけど」

 

 ああ、そうか。アレキサンドリアで会ったころは、まだ女っぽい話してたころだもんな。

 俺は思わず、苦笑して返す。

 

「変? 女なのに男っぽい口調で」

「いいえ。カレルさんも、その話し方が好きなんでしょう?」

 

 ああ、そうか。

 確かカミーユは、スードリーの決戦の時、フォウとの会話で、女っぽい自分の名前のコンプレックスを振り払って、好きになれたんだもんな。俺を、そんな自分に重ねているのかな?

 

 俺は微笑んで返した。

 

「うん、大好きだよ。でも、こっちの話し方も好きだけどね」

「よかったです。お互い、頑張りましょう」

「うん、頑張ろう」

 

 そういえば、カミーユの表情がどこか明るく、やわらかい。

 きっと原作では、フォウの死という出来事があったから、気持ちも沈みがちだったのだが、今回フォウが無事だったから、そのおかげだろう。

 この調子で、精神崩壊イベントがなければいいが……いや、油断は禁物だ。注意しなくては。

 

 そして俺はカミーユと別れ、リック・ディアスに乗り込んだ。

 

「カレル・ファーレハイト、リック・ディアス、出る!」

 

* * * * *

 

 俺を含めたカラバのMS隊は、ダカールの上空でティターンズのMSを戦闘を開始した。

 リック・ディアスを駆り、ティターンズのMSたちと渡り合う俺の視界の片隅に、ダカール市街に走っていく車が見えた。おそらくはシャアとベルトーチカの乗った車だろう。

 

 それを見とがめて接近していくティターンズのマラサイを、俺はクレイバズーカで撃ち落とす。

 

 あのスードリー特攻の時に感じたあの高揚感が、俺を再び包み込もうとしていた。俺が本来望んでいた『世界のための戦い』だからだろうか。

 

「さぁ、どこからでもかかってきなさい! 演説の邪魔はさせないよ!!」

 

 そして奮闘する俺の耳に、放送の音声が飛び込んでくる。シャアの演説の声だ。

 

 それをBGMに戦い続ける俺の後ろから、ビームが発射された。

 

「!!」

 

 それをかわして、ビームの方向に方向転換する。そこには、新手のMSの群れがいた。おそらく、ジェリド率いるメロゥドのMS隊だろう。

 きっと彼らは、放送中継施設を襲うはずだ。議事堂のことはアムロたちに任せて、こちらは中継施設を守るのに向かったほうがいいだろう。

 そう判断し、俺はリック・ディアスを乗せたドダイを、メロゥド隊に突撃させる。俺の意図を察したカラバのMS隊の一部も、俺の後に続いたのだった。

 

* * * * *

 

 そこで、俺はあり得ないものを見た。1機の濃紺のバーザムらしきMSが、カラバのMSと戦いながら、地上を攻撃していたのだ!

 まるで、その様子は、戦いのついでに、逃げ惑う人々を殺害するのを楽しんでいるかのようだ。

 俺の全身を義憤が駆け巡る。こんなことを許してはいけない!

 

 そこに、カミーユのZガンダムも駆け付けた。

 

『あいつは……!』

「知っているの、カミーユ?」

『はい。サイド2の毒ガス部隊を指揮していた奴です。あの時はハイザックでしたけど……』

 

 と、そのバーザムも、俺たちに気が付いたようだ。こちらに向きなおり……憎々し気な敬礼をした。あのしぐさは!!

 

「あいつはもしかして……!」

『カレルさんも気が付きましたか? あいつが母さんを……!』

「うん、間違いないね。だが、怒りに飲み込まれちゃダメだよ、カミーユ。怒りに飲み込まれるとそこを突かれる」

『はい!』

 

 そして、俺たちは、バーザムとの戦闘に入った。バーザムはSFSに乗っていないながらも、ジャンプなどを駆使し、またある時にはビルを踏み台替わりにするなどして攻撃をかわしたりしながら、こちらに攻撃を仕掛けてくる。

 

 戦っているうちに、そいつの動きの癖を見て、あることに気づいた。まさか、あいつか! あいつも転生していたのか!

 

「あいつの動き、まさか……!」

『カレルさんも、あいつを知っているんですか?』

「うん、詳しくは言えないけど……」

 

 その動きを見間違えるわけがない。

 俺の前世での悪友。いや悪友というのもおこがましい。何しろ、そいつは俺たちのゲーム友達の輪にすら入っていないんだから。

 俺たちがガンダムゲーをしていることをかぎつけると、どこからともなくやってきて強引に割り込み、俺たちを蹂躙して、高笑いとともに去っていく。とんでもないゲーム荒らしだ。

 それでいてガンダムゲーがすごく得意で、さらにまるでそれが本性(いやきっと本性なのだろう)であるかのようにヒールプレイを好む。煽ったり罵倒したりするのは当たり前で、ひどいときには攻撃の邪魔になる友軍機にフレンドリーファイアをぶちかまして、敵ごと葬るなんてことも茶飯事。

 

 俺たちゲーム仲間に忌み嫌われており、当時俺たちはどうやってあいつに気づかれずにプレイするか頭を悩ませたものだ。

 そんなあいつが、まさかここに転生してくるなんて。どんな運命の皮肉だよこれは!

 

 そんなことを思い出しながら戦う俺たちに、通信ではなくスピーカー音声で声が聞こえてくる。

 

『ちっとは腕をあげたか? 赤ん坊坊ちゃんがよぉ? ヒャーハハハァ!!』

 

 声は違うが、口調からして間違いない。あいつで確定だ。本当に最低な奴だ。

 

『き、貴様!』

「待って、カミーユ!」

 

 激昂したカミーユがビームライフルを撃ちながら突撃していくが、奴のバーザムはこともあろうか、足元の自動車の群れを蹴り上げて目くらましにしてきた! なんて奴だ!

 

 ゼータがそれにひるんでいるうちに、バーザムはジャンプして上空からゼータにビームライフルを撃とうとしてきた。やらせるかよ!

 

 俺は奴の後ろからドダイを突撃させてぶつけてやり、さらに上からビームサーベルで切りかかった! ライラさんやマクマナス大尉、ブラン少佐にもまれて鍛えてきた腕をなめるなよ!!

 

 ドダイに激突されてバランスを崩したバーザムに斬りかかる。うまくいけば、一刀両断できたのだろうが、さすがは奴というべきか、そのヤザンかと見間違うかのような野獣の勘みたいなもので機体をとっさに回避させ、バーザムの右腕を斬り落とすだけにとどめた。

 

「ちっ、遊びすぎたか。まぁいい。また会おうぜぇ、今度こそこの俺、ルブラ・フェーゴがなぶり殺しにしてやるよぉ!!」

 

 そしてなんと奴は、友軍機を殴り飛ばしてドダイを奪うとそのまま去っていった。

 

『ま、待て!』

「追っちゃダメ、カミーユ。私たちの目的は議事堂と放送設備を守ることだよ」

『はい……。ルブラ、必ずお前を倒す……!』

 

 そのカミーユの決意の声を聴きながら、俺は接近してきたマラサイをクレイバズーカで撃ち抜いた。

 

* * * * *

 

 その次の日、俺は再び宇宙に向かうシャトルの中にいた。他の座席には、クワトロ・バジーナことシャア、そしてカミーユ、フォウの姿もある。

 

 作戦は成功したのだが、すぐにコロニー・レーザー阻止に向かうことがあるため、作戦成功の祝賀会への出席をキャンセルし、すぐに宇宙に向かうことにしたのだった。

 

 ちなみにあの戦いの後、俺はその奮闘が評価されて、カラバの面々から信頼を得た。MS格納庫に戻ってきたときは、もうみんなにもみくちゃにされたものだ。うれしいようなこそばゆいような。だが、悪くはない気持ちだった。

 でも、これに甘えてはいけない。この程度ではまだ、俺の犯した罪を全部償うことにはならないからだ。俺の生涯を全て費やしても、償いきれるものではないかもしれない。だが、俺はそれでも償っていかなくてはならない。

 

 そう決意を新たにする俺の後ろの座席で、シャアがカミーユに、宇宙移民のことについて話していた。スペースノイドの得た新たなセンスと、ニュータイプの開花、それらが希望、という話は、俺が原作で聞いたのとまったく同じだった。

 それとは別に、俺は宇宙について思う。

 

 俺の前世では、人類は民間の宇宙船を衛星軌道上に送り込むのがやっとで、この宇宙世紀のような宇宙移民なんて考えもしないレベルだった。宇宙は俺たち人類にとって、未知のフロンティアだったのだ。

 一方、この宇宙世紀におけるは地球圏の宇宙はフロンティアではなく、人々が暮らす第二の大地だ。まさに俺たち前世の人たちが夢見たものがここにある。しかしその代償なのか、宇宙世紀の人々はこの宇宙まで戦いの舞台としてしまった。

 それは俺たち、宇宙進出を夢見た前世の世界の人たちにとっては、悲しいことだ。

 

 一刻も早くこの戦いを終わらせたい。そして、この宇宙を人々が自由に平和に暮らせる世の中にしたい。

 それが前世の世界から転生してきた俺の夢、目標だと思う。

 

―――そのために頑張ろうぜ、『カレル』

―――はい。

 

 その決意と思いを乗せ、シャトルは衛星軌道上へと上がっていった。

 




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※ちなみにその専用機の原型はバウンド・ドッグの予定です

それでは次回予告です!

* 次回予告 *

カレルたちは、軌道上に待機するアーガマと合流するために、宇宙へと戻った。そこでは、懐かしい顔が、嬉しい驚きをもって彼女を待っていた。

「あっ! ボスニアからカレルさん宛てに入電です。『あなたの帰還を歓迎し、祝福する。巡洋艦ボスニア一同」

しかし、敵の攻撃を排除する間に、カレルはまた前世からの刺客、あの男の襲撃を受けるのだった。

『そら、お遊びはこれで終わりだ!』


次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第20話、『ボスニア再び』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、12/14 12:00の予定です。お楽しみに!


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サイド2編#01『ボスニア再び』

 打ち上げられて宇宙に出た俺たちを乗せたシャトルは、無事にアーガマに収容された。

 ちょうどそこでヤザン隊の襲撃を受けたが、それもなんとか切り抜けた。

 

 原作では一話使う話だったんだけどなぁ……。

 

 まぁ、それはおいといて。

 アーガマに到着した俺は、さっそくブライトさんをはじめとしたエゥーゴの面々に迎えられた。

 

「君がカレル君だな。このアーガマ艦長のブライト・ノアだ。我々は君を歓迎する」

「あ、ありがとうございます」

 

 思いっきり緊張している俺……カレル・ファーレハイトを責めないでほしい。

 何しろ、ファーストガンダムからこのZ、ZZ、逆襲のシャア、UC、そして閃ハサと、一連のシリーズに出ている、(ガンオタな俺の中での)有名人なのだ。

 

 ちなみに声は、ジェレミアの中の人ではなく、鈴置洋孝さんだった。

 うう、鈴置さん……。

 

「ん? カレル君、どうして泣いているのだ?」

「い、いえ、なんでもないです」

 

 亡くなられた鈴置さんのことを思い出してしんみりしてしまった。

 そこで俺は咳払いをして。

 

「そういえば、コロニー・レーザーのほうはどうなりました?」

「あぁ。現在、グリプス2に工作員を派遣して、情報を収集してもらっている。あちらから報告が入り次第、我々も行動を開始する予定だ」

「なるほど」

 

 まぁ、情報も何もない状態で突撃してもやばいしな。

 工作員を派遣した、と言ってたが、誰を派遣したんだろう? レコアさんかな?

 俺がそう思っていると。

 

「艦長、連邦軍の巡洋艦が接近! こちらに投降のサインを出しています」

「なに、どの艦だ?」

「はい。ルナツー所属のボスニアと名乗っています」

 

 ボスニア。これはまた、懐かしい艦が来た。

 ボスニアは、地球に降下する前、俺が所属していた艦であり、俺の恩師、ライラ・ミラ・ライラが乗っていた艦である。その艦や艦のみんながエゥーゴに合流してくれるなんて、こんなにうれしいことはない。

 

 と、そこでオペレーターのトーレスさんが。

 

「あっ! ボスニアからカレルさん宛てに入電です。『あなたの帰還を歓迎し、祝福する。巡洋艦ボスニア一同」

 

 それを聞いて、また涙腺が崩壊しそうになる。あれ、頬から熱い水が……。

 とそこに、エマさんがハンカチを差し出してくれた。

 

* * * * *

 

「やっと戻ってきてくれたか、カレル。信じて待っていたぞ」

「でもカレル少尉、前いたころよりちょっとガサツになっていませんか?」

 

 ボスニアに移乗した俺はさっそく、ボスニアのMS隊長、ヴァン・マクマナス大尉と、MS隊のムードメーカーのジョッシュ・ミレットをはじめとした隊員たちの歓迎を受けた。

 やっぱりホームグラウンドというのはいい。スードリーにいた頃も悪くはなかったが、ボスニアの雰囲気はそれに勝るものがある。

 

「はい。これからよろしくお願いします。それとジョッシュ、あとで〆ますからね」

「なぜっ!?」

 

 ガサツは余計だ。

 と、そこで。

 

「さて、カレルが戻ってきたばかりでなんだが、我々はこれからアーガマとは別行動でサイド2に向かう」

「……何があったのですか?」

「うむ。ティターンズの一部部隊が、サイド2に向かっているという報告があったのだ。コロニー・レーザーに関しての動きらしい」

 

 あぁ、そうか。

 確か、コロニー・レーザーが完成した時、コロニー・レーザーをグラナダに接近させるにあたり、陽動のためにサイド2に毒ガス攻撃を仕掛けたんだったか。確かにそれは阻止しなくては。

 

「それは確かに向かわなければなりませんね。奴らがコロニーに毒ガスをまかないとも限りませんし」

「そうだな。奴らならやりかねん。そういえばもう一つ、お前のほかに、ボスニアに補充兵が入ることになった」

「補充兵?」

「そうだ。入れ」

 

 マクマナス大尉に言われて入ってきたのは……。

 

「……カツ・コバヤシです。よろしくお願いします」

 

 エエエエエエ!? カツ!? カツナンデ!?

 まさかここでこいつがやってくるとは思っていなかった!

 

―――知っているのですか?

―――ああ。こいつのせいで、どれだけイライラさせられたか……。

―――……気持ち、お察しします。

 

 俺の脳内会話に気づくよしもなく、マクマナス大尉は話を続ける。

 

「元はラーディッシュに配属されていたのだが、ちょっと難ありとのことでな。このボスニアで鍛えなおしてやってくれ、とのことだ」

 

 ヘンケン艦長、カツのわがままぶりに手を焼きすぎて、こっちにパスしてきたな……。

 本当にカミーユの縮小版ともいえるカツの暴れっぷりで、原作では大変なことになった。

 無断出撃は当たり前、捕虜の美少女(サラ)に逆に誘惑されて逃がしてしまったり。勝手にグワダンに潜入したり。

 もう、劇場版のカミーユか、ロランの爪の垢でも飲めと言いたい。

 

「そういうわけで彼の教育は、カレル少尉、よろしく頼む」

「ええっ!?」

 

 そんな気軽に教育係を頼まれても困る。

 もしこいつに矯正の余地があったら、原作で最後までいろいろやらかすことはなかったはずだ。

 

「そんなこと言われても……。いっそ、ティターンズにのし付けてくれてやるか、手足を外したザクに乗せて大気圏突入させるか、それとも……」

「こらこら」

「カレル少尉、何不穏なこと言ってるんすか」

―――……さん、それはちょっと……。

 

 思わず物騒なことを口走ってしまい、マクマナス大尉とジョッシュ、そしておまけに脳内の『カレル』にまでに止められてしまった。

 しかし、劇中の彼のしでかしたことを思うと、そう考えられても仕方ないと思うんだけどなぁ。

 

 まぁ、仕方ない。今回のカツが劇場版かもしれないし、もしかしたら確変を起こしていい奴になるかもしれない。

 一応、面倒を見てやることにするか。

 

「そういうわけで、私が君の教育係になったっぽい。よろしく頼むね」

「……ふん」

 

 生意気な態度をとったカツに、俺がコブラツイストをかけたのは言うまでもない。

 

 そこに警報が鳴った。

 

* * * * *

 

 宇宙を、エゥーゴ艦隊に向けて飛行するバーザム隊。その先頭を行くルブラ・フェーゴが舌なめずりをしながら言う。

 

「いいかお前ら! ガンダムは俺の獲物だ! 手を触れるんじゃねぇぞ! 邪魔したら例え味方でもぶち抜くからな! お前らはそこらへんの雑魚でも処理してろ!」

『は、はい……!』

 

 そしてまた舌なめずりをして、スティックを握りしめる。

 

「くくく……今度こそいただくぜぇ……! Zガンダム……!」

 

* * * * *

 

 リック・ディアスで出撃した俺を始めとするエゥーゴのMS隊に向かってくるのは、ティターンズのバーザム隊だった。しかも、先頭の奴は濃紺の機体。奴か!

 

 ルブラの機体は、俺には目もくれず、Zに向かっていく。ルブラの奴、カミーユしか見えていないようだ。

 無視されたようで面白くないが、俺のところにもバーザムが数機接近してきている。『こいつらとでも遊んでいろ』ってことか。本当に嫌すぎる奴だ。

 

 だが、俺たちボスニア隊に向かってきたバーザム隊はなかなか手練れだった。二機一組のコンビネーションで、こちらを翻弄してくる。

 

『うわあ!!』

 

 あ、出撃していたカツのメタスが、バーザム隊の攻撃で足を吹き飛ばされた。やはり彼には早すぎるか。

 助けにいってやりたいが、俺も二機のバーザムの相手で手一杯だ。

 

 クレイバズーカを撃つが、それはあっさりかわされ、また別のバーザムが別の方向からビームを撃ってくる。からくもこれをかわす。こいつら、本当にルブラの部下か? チームワークが良すぎだ。

 と、そこに。

 

―――下です!

「!!」

 

 『カレル』の声に反応して、クレイバズーカを下に撃つ。その弾は見事、敵のバーザムを撃ち抜いた! バーザムが爆散する。

 

―――ありがとう、『カレル』。おかげで助かった。

―――いいえ。言ったはずですよ。一緒に向き合っていきましょうと。この戦い、二人一緒に戦い抜いていきましょう。

―――あぁ、そうだな。

 

 俺が戦っているバーザムが残り1機になったこともあり、心にいくらか余裕ができる。となればあとは難しくはない。

 バーニア全開で、残ったバーザムに飛び掛かっていく。敵のビームライフルをかわし、ビームサーベルで左腕を斬りつける。さらに右腕もビームサーベルで一刀両断! 無力化に成功した。

 さて、カツを助けにいってやるか。

 

* * * * *

 

 ルブラのバーザムは、まるでカミーユをいたぶるように攻撃を仕掛けていく。エース向けの改造を施されたらしいバーザムは、カミーユの攻撃を軽々とかわしていく。

 

『ほら、どうしたどうした! 大したことねぇなぁ、おい!』

「くっ……!」

 

 ビームサーベルの斬撃で、ビームライフルを切断される。

 

『そら、お遊びはこれで終わりだ!』

 

 と、そこに。

 

『!!』

 

 ビームが飛んでくる。バーザムがそちらを見ると、ロベルトのリック・ディアスが飛んでくるところだった。

 

『大丈夫か、カミーユ!』

『邪魔が入ったか。ならばまずはお前から喰ってやるよ!』

 

 バーザムはリック・ディアスに突撃。すれ違いざまに右腕を切断。そして飛びずさるとビームライフルを乱射。

 リック・ディアスは左腕と両足を次々に撃ち抜かれ、最後に胴体を撃ち抜かれて爆散した。

 

「ろ……ロベルトさああああぁぁぁん!!」

『へへへ……邪魔をするからこうなるんだ!』

 

 勝ち誇ったような笑みを浮かべるルブラ。

 だが、余裕なのはそこまでだった。

 

 二機のバーザムを倒し、カツを助けたカレルのリック・ディアスが駆け付けてきたからだ。

 

* * * * *

 

「戦いをゲームとみて、命も駒と同じ感覚……許せないな、ルブラ・フェーゴ!」

 

 思わず、素の口調に戻って言い放ちながら、クレイバズーカを撃つ。それをかわしたところに、Zがビームサーベルで切りかかる。

 だが、カミーユは、目の前でロベルトを殺されたことで、冷静さを失っているように見える。

 

 案の定、Zが大振りでビームサーベルを振るうが、ルブラのバーザムはそれをかわし、隙をついてビームサーベルで切りかかる。そこに。

 

 そのビームサーベルは受け止められた。俺のリック・ディアスが二機の間に割りこんで、自機のビームサーベルで奴の斬撃を受け止めたのだ。

 

『カレルさん!』

「カミーユ、熱くなりすぎだよ! そんなんじゃ戦いに勝つどころか、自分のニュータイプ能力に食い殺される!」

 

 俺はそう言うと、バーザムを蹴り飛ばした。

 

「怒りを持つなとは言わない。でも、それで余裕をなくしてしまうのは本末転倒だよ。自分の心に隙間を持たないと、いっぱいいっぱいになって、追い詰められていく」

『説教してる場合かよ!!』

 

 俺が説教してるところに、ルブラが襲い掛かってきた。しかし。

 

「お前がそんな奴だと言うのは、もう骨の髄までわかりきってるからね」

『なんだと!?』

 

 俺は振り向きざま、奴のバーザムをかすめるようにクレイバズーカを放った。

 

「それに、こんな外道な奴に怒りを燃やして余裕をなくすなんて、心の損だよ」

『カレルさん……ありがとうございます。わかりました、もう大丈夫です』

『二人で和気あいあいとしてるんじゃねぇ!!』

 

 ルブラがあざ笑いながら向かってくる。しかし、俺もカミーユも、それを余裕をもってかわす。前世でのあいつと散々かかわってきた俺はもちろん、カミーユも俺に諭されたことで、いくらか余裕をもつことができたようだ。

 そして余裕ができれば……。

 

「わかる……。こいつは確かに強いけど、でも対処できないほどじゃない……」

『ヒャーハハハァ!!』

 

 カミーユのZは、次々とルブラの攻撃をかわしていく。そしてかわしながらも、時にはルブラのバーザムに切りかかる。

 

『くそ、動きまくるんじゃねぇ、このハエどもが!!』

「そのハエがもう一匹いるのに気が付いてないんじゃない?」

『なに!?』

 

 俺は奴の死角からクレイバズーカを発射する。弾はかわされたが、バーザムの左腕を撃ち抜いた!

 

『ちっ、やるじゃねぇか! だがお遊びは……ちっ、こんな時に撤退命令かよ。命拾いしたなぁ! ヒャーハハハっ!!』

 

 そう捨て台詞を言い残し、ルブラは引き上げていった。

 

「やれやれだね……」

 

 ため息をついたところに、カミーユから通信が入ってきた。

 

『カレルさん、ありがとうございました。あそこで諭してくれなかったら、やられていたと思います……』

「うぅん、いいんだよ。でも、今のことを忘れないで。怒りに囚われたり、それで余裕がなくなったら終わりだよ」

 

 俺がこんなに口を酸っぱくして言うには理由がある。

 よく前世で言われていることだが、新訳版の彼が精神崩壊せずに済んだのは、『自分や周囲を客観視し、余裕を持ち、色々なことを受け流すこと』ができたからだ。それができなかったテレビ版のカミーユは、多くの死や自分のニュータイプ能力に押しつぶされて、最後にシロッコの断末魔でとどめを刺されて廃人となった。

 当然俺は、カミーユにそんな風になってほしくないのだ。このカミーユがテレビ版か新訳版かわからないけど、どちらにしても、最悪の結果にならないように導いてやらなければならない。

 

『はい……』

「それがわかってればOK。私はボスニアと一緒にサイド2に行くけど、その間も、今言ったことを忘れたらダメだよ」

『わかりました。カレルさん、お気をつけて』

「うん、行ってきます」

 

 うん、カミーユの返事を聞くに、心配はなさそうだ。少なくとも、彼の方向性は精神崩壊の方向には向いていないと感じた。

 そして俺は、リック・ディアスをボスニアに向けて飛んで行ったのだった。




ただいま、ファンアート募集中です!

また、ルブラ君の専用機の名前のアンケートをはじめました!
協力してくれると嬉しいです。
その他の場合は、活動報告の募集スレのほうに書いてくださいませー
※ちなみにその専用機の原型はバウンド・ドッグの予定です
※『その他』枠の候補に投票したい場合は、『ルブラの専用機のネーミング』スレに、投票したい機体名を書いてレスしてくださいませ(平伏

* 次回予告 *
ティターンズの怪しい動きを察知したボスニアは、アーガマの本隊と別れてサイド2へと向かった。

そこでは、あの部隊がカレルたちを待っていた。

「ただし、無理して阻止する必要はない。生還を最優先にして、なるべく消耗を抑えて戦うように」

その戦いの中、カレルは新たな力を身に着けた。それはもう一人の自分とつながることで使える力。

―――今だ。身体の主導権を返してくれ!
―――はい!

「動くなよ。ビームが外れるからああああ!!」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第21話『T3部隊』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、12/17の予定です。お楽しみに!

【次回登場新MS】
RMS-117B ガルバルディγ
RMS-117DEF ガルバルディディフェンサー


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サイド2編#02『T3部隊』

 さて、ルブラ隊の強襲を退け、改めてサイド2に向かっているボスニア。その途中で、整備兵がマクマナス大尉に駆け寄ってきた。

 なんの報告だろう?

 

「マクマナス大尉。先ほど、『アレ』の本体の改修が終わった、とのことです」

「ふむ、そうか。カレル、お前に見せたいものがある。MS格納庫に来てくれ」

「あ、はい。カツ、今から戻ってくるまで休憩していいよ」

「はい……助かった……鬼教官すぎるんだよ」

 

 やっぱり生意気なカツにはさらにハードなトレーニングをぶつけてやろうと思いつつ、俺はマクマナス大尉についていった。

 そしてそこには……。

 

「が……ガルバルディ!?」

 

 そう、かつての俺の愛機、ガルバルディβだった。だけどよく見ると、バックパックが少し違うような……。

 

「あぁ。お前が帰ってきたとき、新しい愛機として用意したものだ。まだ途中ではあるがな」

「これでまだ途中?」

 

 と思ってよく見ると、バックパックがガルバルディのものから、ガンダムMk2に変わっているじゃないか。ということはもしや……。

 

「もしかしてこれ、Gディフェンサーと合体する前提なんじゃ……?」

「気が付いたか。さすがだな。その通りだ。そのために、バックパックをガンダムMk2のものに改造したんだ。Gディフェンサーの調整が終われば、それと合体して運用できるようになる」

「はぁ……」

「さらに言うと、装甲もガンダリウムγにアップデートされているぞ。バーニアも増設されている。残念ながらフレームや内部機器はガルバルディβのままだが」

「なんか至れり尽くせりですね……」

 

 でもそれなら、かなり戦えるかもしれない。ただ、ディフェンサーに乗る相方にカツは勘弁してほしいが。

 

 とそこに、警報が鳴りだした。

 

* * * * *

 

 一方、サイド2宙域、そこに向かっているティターンズ艦隊。その中に、ティターンズの試作機試験部隊、T3(Titans Test Team)部隊があった。

 

 エゥーゴの艦隊接近の報は、その部隊の母艦、アスワンにも入っていた。

 

「来たか、エゥーゴ。さすがに動きが早いな。各員、出撃準備」

 

 T3部隊マーフィ小隊の隊長、ウェス・マーフィーが部下たちに号令を飛ばす。

 

『了解!』

「ただし、無理して阻止する必要はない。生還を最優先にして、なるべく消耗を抑えて戦うように」

「隊長?」

 

 怪訝そうな顔をしたエリアルド・ハンターに、マーフィー隊長は苦虫をかみつぶしたような顔で答える。

 

「13バンチと同じような作戦で、お前たちを死なせたり、消耗したりする気にはなれん。上の奴らに、申し訳が立つ程度に戦ってくればいい」

 

 それで、エゥーゴが作戦を阻止してくれれば万々歳、とは言わない。彼も一応はティターンズの一員なのだ。

 

 そして、T3部隊の母艦、アレキサンドリア級『アスワン』から、エリアルドのギャプランTR-5、彼の同僚カールのTR-4『ダンディライアン』、そしてマーフィー隊長のガンダムTR-1『ヘイズル改』が発進し、もう一隻の僚艦からも、ジム・クゥエル3機が発進していく。

 

* * * * *

 

「マクマナス、リック・ディアス、出るぞ!」

「ジョッシュ、ネモ、行きます!」

 

 ボスニアから、マクマナス大尉のリック・ディアス、ジョッシュのネモが発進していく。

 そして。

 

「カレル・ファーレンハイト、ガルバルディγ、出る!」

 

 俺……カレル・ファーレハイトのガルバルディ……仮称ガルバルディγが発進した。ボスニアの整備長さん曰く、元になったガルバルディβから、装甲のガンダリウムγへのアップデートや、バーニアの増設など、色々強化したから、ガルバルディγなんだそうだ。俺は、ガルバルディβⅡでもいいかな、と思ったんだけどな。

 

 なお、俺のガルバルディγの後ろからは、カツのメタス、他の隊員のネモも発進している。

 カツには、よそ見は絶対しないように洗脳……もとい、教育しておいた。何をしたのかって? ふふふ、実は彼に『チ〇タン』を耳元で聞かせてやったのだ。屈指のトラウマ交通安全ソングだけあって効果はてきめん。今のところはよそ見運転せずに、ちゃんとついてきているっぽい。

 

「よそ見怖い、交通事故怖い、チコ〇ン怖い……」

 

 というカツの声が通信機から聞こえてくるが、まぁ、それはスルーの方向で。

 

 そうこうしているうちに、向こうからMS隊がやってきた。

 ギャプランに1機に、ガンダムっぽい奴が1機、変な形をした機体が1機、あと3機はジム・クゥエルだ。

 

 そうこうしているうちに、変な形の機体がビームを放ってきた! あわててそれを回避する。

 向こうはロングライフル持ちかよ。それはちょっときついかもな……。

 

『あの動き……マーフィーか。こんなところで相まみえるとかな』

「え、大尉。あの人のこと、知っているんですか?」

 

 うちの大尉が、マーフィー……T3部隊・マーフィー小隊隊長、ウェス・マーフィーのことを知っているとは意外だった。

 ちなみに俺のほうは、マーフィー氏が出てくる『ADVANCE OF Z』のことは、Wikiで読んだだけだったりするが。

 

『あぁ。ア・バオア・クーの時、一緒に戦ったことがある』

 

 へぇ、それはなんか不思議な縁だな。俺たちの隊長が隠れた有名人と知り合いだったとは。

 

 そう思ってるところに、ロングライフルの二発目が飛んできた。もちろん、それも回避。

 

『長話はここまでだ。いくらマーフィーたちとはいえ、時間をかけていられん。こいつらを突破して、本隊に向かうぞ!』

「了解です!」

 

* * * * *

 

 そして俺たちは、敵部隊と接敵した。

 さすが、AoZの主役部隊だけあって、みんななかなかの手練れだ。ジム・クゥエルに乗ってるパイロットでさえ、こちらの攻撃を見事にさばいてくれる。

 そのおかげで、うちの部隊はだれも、敵を撃破できず、突破できないでいる。

 

 だがそのうち、俺と対峙しているジム・クゥエルの一体が、こちらの攻撃の前に態勢を崩した。今だ!!

 ところが。

 

―――いけない、よけてください!

 

 脳裏に届く、『カレル』の声。俺がそれに従ってガルバルディを回避させると同時に、そこまでいた空間をビームが通り過ぎる。

 危なかった……。もし、『カレル』が警告してくれなければ、俺は今頃、あのビームの餌食になっていた……。

 

 ビームの飛んできたほうを見ると、そこにはあの変な形の機体……確か、ダンディライアンといったか……。そのMSがロングライフルを構えていた。

 そのロングライフルがまた火を噴き、こちらのネモの一機が、頭部を撃ち抜かれた。幸いにもパイロットは脱出に成功したようだが……。

 でも本当に厄介だな。まずあれをどうにかしないと……。

 

 そう判断した俺が、そのダンディライアンに向かおうとするが……。

 

「やらせるか!!」

 

 ギャプランが襲ってきて、出鼻をくじかれる。

 

 そうしてるところにロングライフルが飛んできた。慌てて回避。

 

 さすが主役部隊(本日二度目)だけあって、憎らしいほどに完璧なフォーメーションで、こちらの攻めを阻んでくれる。

 ギャプランとガンダムもどき、それとあと3機のジム・クゥエルが前衛で、こちらの攻撃を受け止め、後ろからはあのダンディライアンが援護射撃を仕掛けてくる、という見事な作戦。

 長射程武器がないこちらにとっては、本当に不利すぎる。

 

 でも、そうしてるうちに、毒ガス部隊は接近してるし、どうにかしないと……。

 

 とそこに。

 

『姫さん、待たせたな! ディフェンサーの調整ができた! 射出するから、しっかり受け取れ!』

 

 と整備長さんの声。

 やった! Gディフェンサーにはロングライフルがある。あれがあればどうにかなる!

 

 そして、ボスニアからGディフェンサーが射出された!……と思ったら、ダンディライアンのロングライフルに破壊されたーーーーー!?

 

『うろたえるんじゃない! 今のはおとりに射出したダミーだ! それとは別に、今送った座標に本物を射出したから、ありがたくドッキングしろ!』

「わ、わかった! ジョッシュ、生きてる!?」

『あ、あぁ、なんとか!』

「お願い、3分だけ援護して!」

『3分!? 少尉、俺に死ねと言ってるんですか!?』

「冗談よ。1分だけ援護して!」

『無茶言ってくれますよ……了解です!』

 

 そして、敵の相手をジョッシュに任せて、俺は指定された座標に飛んでいた。するとそこには……あった! 愚直にまっすぐ飛んでいる、コアファイターのないGディフェンサーが。

 

 俺はダンディライアンのロングライフルが飛んでくる中、うまくGディフェンサーとの位置を合わせ……Gディフェンサーとドッキングした!

 

 ガルバルディディフェンサー! いや、スーパーガルバルディか? どちらでもいい。それの完成だ!

 

 それとともに、俺は一つ思いついたことがあった。

 

―――『カレル』、体の主導権を一部、お前に返す。俺がロングライフルを準備して照準を定めるまで、奴からの攻撃を回避してくれ。

―――わ、わかりました!

 

 そう、『カレル・ファーレハイト』の体には、転生したガンオタ男子高校生である『俺』と、『俺』が覚醒する前までのカレル本人の人格である『カレル』が同居している。

 『カレル』と和解した今は、再び『俺』がこの体の主導権を握らせてもらっているが、やろうと思えばこのように、身体の一部を『カレル』に任せ、二人で分担し、協力して身体を動かすことが可能だ。

 ガンダム00でいう、『超兵復活といこうぜ!!』とか『いいか、反射と思考の融合だ!』というやつである。

 

 ともあれ、だ。俺は、『カレル』がガルバルディディフェンサーを回避させている間に、ロングライフルの発射準備を進める。コンソールを操作し、FCSをロングライフルのものに切り替え。照準を冷静に定める。そして。

 

―――今だ。身体の主導権を返してくれ!

―――はい!

 

「動くなよ。ビームが外れるからああああ!!」

 

 俺に身体の主導権がすべて戻ってくると同時に、ロングライフルのトリガーを押した!

 ガルバルディディフェンサーのロングライフルが火を噴き、ビームを発射する!

 

 そしてビームは見事、ダンディライアンの追加ユニットらしきパーツを撃ち抜いた!!

 本体部分らしきMSは間一髪でパーツをパージして脱出したっぽいが、まぁそれはそれでよしだ。

 

* * * * *

 

 ガルバルディβらしきMSがビームを発射したと思うと、それはダンディライアンの増加パーツを撃ち抜いた。

 カールが間一髪、コアMSであるロゼットを切り離して難を逃れたのは不幸中の幸いであった。

 

 そのロゼットのカールに、T3部隊隊長のマーフィーが通信を送る。

 

「カール、大丈夫か?」

『はい、なんとか……。でもあと少しパージするのが遅れていたら、ロゼットもやばかったかもしれません』

「エゥーゴの新型め、なかなかやるな……。よし、ここまでだ。引き上げるぞ」

『え、ですが……』

 

 そう言ってくるエリアルドに、マーフィーが重ねて言う。

 

「撤退だ。何度も言わせるな。俺はこんなろくでもない任務で、お前たちを失いたくはない」

 

 そう言って彼は、戦闘を中止して、ガンダムヘイズル改をアスワンに向けて離脱させた。後に、ほかのMSたちも続く。

 

* * * * *

 

「ふぅ……」

 

 T3が撤退するのを見ながら、俺はため息をつく。

 普通のMS戦より1.5倍はあると思われる疲労が身体にのしかかる。

 

―――すまん、『カレル』。あれを使わせてくれ。

―――あ、はい……。

 

 『カレル』の許可を得て、俺はシートに内蔵されたダッシュボードから針のない注射器を取り出し、それをむき出しにした腕に押し付けた。

 

「……! ふぅ……」

 

 今注射したのは、長時間激しい戦いを続けるための特殊薬剤だ。ガンダム0083の最終決戦で、コウが使っていたあれである。栄養剤はもちろん、麻薬に近い劇薬まで混じっているというわけありな品。

 

 でもそれを打ったおかげで、疲労がいくらかまぎれた気がする。

 

「でも、こんな手、そう頻繁には使えないな……」

 

 俺は照準合わせとロングライフルの準備のみを担当したとはいえ、一つの身体を『俺』と『カレル』の二つの人格で分担して動かすなんていう離れ業をやってのけたのだ。その負荷はかなりのものがある。

 強化された身体だから、このぐらいの疲労で済んでいるが、普通の体でこんなことをやったら、あっという間に過労死してしまうだろう。

 本当に、これに近いことを平然とやってのけるアレルヤがどれだけ規格外かわかった気がするな。

 

 とはいえ、強化された身でも、こんな手は何度も使えない。やった日には、あっという間にヤク中になってしまうのが目に見えている。

 

 そこで通信が入った。マクマナス大尉からだ。

 

『お疲れ様だったな、カレル』

「はい、ちょっと疲れました……」

『ちょっとどころじゃないように見えるが……。どうする? ボスニアに戻っているか?』

 

 心配そうに大尉が聞いてくるが、答えは決まっている。

 こんなところで止まってはいられない。こんなのは償いの1割にも満たないだろう。

 こんなところで休んでいては、俺が今まで奪ってきた命たちや、エゥーゴやカラバの兵たちに笑われてしまう。

 

「いえ、ここまで来たんです。このまま行きますよ。薬を打って、少しは元気になりましたし」

『そうか。だが、くれぐれも無理はするなよ』

「はい、わかってます」

 

 そして俺は、ガルバルディディフェンサーをマクマナス大尉たちと合流させ、そのまま敵本隊へと向かっていった。

 




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* 次回予告 *

T3部隊を撃退したボスニア。だが、毒ガス攻撃を阻止しようと先を急ぐカレルたちの前に、あの野獣が立ちはだかる。

『こちらヤザン隊! いつでも準備はできてるぞ!』
「そうか。シロッコから送ってもらったハンブラビを任せているんだ。前艦長見殺しの汚名を返上するほどの戦果を見せてもらおう」
『わかってる! ハンブラビ、出るぞ!』

果たしてボスニアは、野獣を退け、毒ガス攻撃を阻止できるのか?

『女ごときが戦場に出てくるとは、生意気なんだよっ!!』
「女で悪いかっ! 女子供と思ってると痛い目見るよっ!!」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第22話『野獣』

刻の涙は、止められるか?

[今回登場新MS]
〇RMS-117DEF ガルバルディディフェンサー/スーパーガルバルディ
 まさかのガルバルディとGディフェンサーの悪魔合体である。
 ダカール演説後にエゥーゴに合流したさい、エゥーゴから供与されたGディフェンサーの試作機をガルバルディβに合体させて運用しようというプランが立ち上がった。
 しかし、ガンダムMk2と同型のバックパックを装備した機体との合体が前提となっているGディフェンサーは、ガルバルディに合体させることはできない。
 そこでなんとボスニアのスタッフは、Mk2と同型のバックパックを装備するように改造。さらに装甲をガンダリウムγにアップデートし、この機体は完成した。
 その結果として、防御力と機動力、航続距離が大きく向上した。
 なお、この機体はGディフェンサー装備時がデフォルトなので、コアファイターは接続されていない。またその関係でフライヤー形態には変形できるが、実用性はほとんどない形態となっている。

〇RMS-117B ガルバルディγ
ガルバルディディフェンサーの本体のガルバルディβの部分。
外見こそ、(ガンダムMk2のバックパックを装備した)ガルバルディβだが、装甲のガンダリウムγへの換装、バーニアの増設など、原型機から大きく強化されたことから、こう呼ばれる。
前述したガンダムMk2のバックパックへの換装や、装甲の強化、バーニアの増設などで、機動性や防御力がかなり上がっている。

[今回登場の外伝登場MS]
〇ギャプランTR-5
〇TR-4『ダンディライアン』
〇ガンダムTR-1『ヘイズル改』

※次の更新は、12/20 12:00の予定です。お楽しみに!


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サイド2編#03『野獣』

 ティターンズの巡洋艦『アレキサンドリア』のブリッジ。

 艦長のガディ少佐の元にある報告が届いていた。

 

「艦長、『アスワン』から連絡。これ以上の戦闘は困難。撤退すると」

 

 それを聞き、ガディ少佐は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべて指示を出す。

 

「もう少し持ちこたえてくれればいいものを……。やはり、技術者どもはあてにならん。MS隊発進準備! ヤザン隊にも出撃命令を出せ!」

 

 とそこに。

 

『こちらヤザン隊! いつでも準備はできてるぞ!』

「そうか。シロッコから送ってもらったハンブラビを任せているんだ。前艦長見殺しの汚名を返上するほどの戦果を見せてもらおう」

『わかってる! ハンブラビ、出るぞ!』

 

 そしてアレキサンドリアから、三機のMA『ハンブラビ』をはじめとするMS隊が発進していった。

 

* * * * *

 

 サイド2に近づき、アレキサンドリアが見えてくると、そこから何機かのMSが発進するのが見えた。

 そのうちの一つは……ハンブラビ!? ヤザン!?

 

 俺……カレル・ファーレハイトは隊の各機に注意を促す。

 

「マクマナス大尉、各機、気を付けてください。あのイカのようなMAは、かなりの手練れです。電撃を放つワイヤーによる攻撃も使ってきます!」

『こちらマクマナス、了解。注意喚起感謝する。各機も気をつけろ!』

『了解!』

 

 そう言っているところに、ヤザンのものと思われるハンブラビからビームが放たれ、それを各機があわてて回避する。

 そしてMS戦が始まった。

 

『うわああああ!!』

 

 あ、さっそくネモの1機がハンブラビのクモの巣に引っかかってやられた。電撃を受けて動けなくなったネモからパイロットが脱出した直後、ハンブラビがそのネモを撃ち抜いて爆散させる。

 

 俺のガルバルディディフェンサーがロングライフルを撃つが、ハンブラビたちはクモの巣を解除して回避した。

 その後も、激しいMS戦が続く。

 マクマナス大尉もジョッシュも、ハンブラビの変幻自在の動きに苦戦しているようだ。

 

 と、そこにヤザン機らしい一体が、こちらにビームを撃ちながら突進してきた。

 それと同時に、俺の脳裏に彼の声が届く。

 

『女ごときが戦場に出てくるとは、生意気なんだよっ!!』

 

 思わずそれに言い返してしまう。

 

「女で悪いかっ! 女子供と思ってると痛い目見るよっ!!」

『何!?』

 

 そう言い返されるとは思わなかったのか、ハンブラビが一瞬ひるんだ。その隙を逃さずロングライフルを発射。

 だがさすがはヤザンというべきか。すぐに立ち直り、ビームを回避した。が、その後ろのバーザムが巻き添えを喰らって撃破される。

 

『よくも!』

 

 激昂したヤザンが海ヘビを発射!

 

 これはかわせない!! 俺は、とっさにディフェンサーとの合体を解除した。

 ガルバルディディフェンサーは、Mk2ディフェンサーと同じく、ディフェンサーと分離しても、ガルバルディγ単体でも戦いを続けることが可能だ。

 

 俺のガルバルディが分離した直後、海ヘビはGディフェンサーに巻き付く。ディフェンサーは哀れ、俺の身代わりに海ヘビの電撃を受けた。とはいえ、分離時にディフェンサー部の電子機器を切っておいたので、被害はあまりないはずだ。

 

 分離した俺は、お返しにとハンブラビにビームライフルを発射した! ハンブラビを撃ち抜くことはできなかったが、海ヘビを持っていた右腕を破壊することができた。

 

『ちぃ、やるな!』

 

 俺の前を通り過ぎるハンブラビ。その間に俺は、再びガルバルディをGディフェンサーに合体する。迅速にディフェンサーの電子機器をオンにしたのは言うまでもない。

 

 別なエリアでは、ネモの1機が別なハンブラビに翻弄されていた。

 そのネモにハンブラビが海ヘビを発射しようとしたところで。

 

『やるせるか!』

 

 ジョッシュのネモがビームサーベルで切りかかり、それを阻止!

 助けられたネモがビームライフルでハンブラビに反撃するも、それは回避される。

 

 一方のマクマナス大尉はさすがというべきか。マラサイ2機を相手に、有利に立ち回っている。

 

 そしてカツはというと……。

 

 戦闘エリアの隅をコロニーに向かって飛んでいた。

 俺たちが敵のMS隊と戦っているうちに、G3ガスのボンベを破壊するつもりなんだろう。

 さすがにそれに、ヤザンも気づいたようだ。

 

『ボンベをやるつもりか。やらせるかよっ!』

 

 追撃しようとするヤザンに、俺はロングライフルを発射! その出鼻をくじく。

 そしてマクマナス大尉のほうを見ると、さすがというべきか(本日二度目)、対峙している2機のマラサイを両方とも撃破していた。

 

『少尉、カツを援護に向かう。支援をよろしく頼む』

「わかりました!」

 

 俺は大尉の後を追いながら、ハンブラビたちをけん制する。

 

 しかしさすがは野獣と呼ばれる男たち。あの時はとっさの判断で難を逃れたものの、彼らには翻弄されっぱなしである。

 

 1機にロングライフルを撃つが、それはあっさりと回避される。その隙にもう1機のハンブラビがビームを発射する。それをなんとか回避。そこに、ヤザンのハンブラビが切りかかってきた!

 

 どうやら奴らは、俺を強敵と認識して、俺を三機で叩く気になったらしい。袋叩き反対!

 

 そうしているうちに、ハンブラビの1機が放った海ヘビが左腕に巻き付いた。しまった!

 

 俺は慌てて、左腕の回路を本体から切断する。

 

 そして電撃! 左腕はやられたものの、なんとか反撃は可能だ。Gディフェンサーに装備されているミサイルランチャーからミサイルを発射する。発射した4発のうち3発は、あっさり回避され、残り1発も撃ち落とされてしまった。

 

* * * * *

 

 一方、マクマナスのネモと、カツのメタスは、コロニーに向かっていた。

 そこでは、3機のハイザックがボンベの接続作業をしているところであった。ギリギリのところだったのである。

 

 マクマナスのネモが、ハイザックの1機を撃ち落とす。残ったハイザックはこちらに向かってきた。

 

 カツのメタスがビームガンを撃つのをかいくぐり、ハイザックがビームサーベルを振り下ろしてくる。

 

「う、うわぁ!!」

 

 メタスはそのビームサーベルを、同じくビームサーベルで受け止める。

 

『やらせはしない!』

 

 聞き覚えのあるその涼やかな声は、カツに驚愕をもたらす。

 

「さ、サラ!?」

『カツ!?』

 

 斬り結びながらも、カツは問いかける。

 

「なぜまだ戦い続けるんだ!? いつまで、シロッコにいいように使われているんだ!」

『私はパプテマス様がすべてなの! 彼のために尽くせれば、それでいい!』

「君はそれでいいのか! こんな汚れ仕事までして!」

 

 カツとサラが口論しながら戦っている間、マクマナスはもう1機のハイザックを仕留めていた。

 

「これで終わりにさせてもらう!」

 

 そして、ビームライフルを発射し、ボンベを破壊した。

 

『しまった、ボンベが……! くっ……!!』

 

 それを目撃したサラのハイザックは、カツのメタスをはねのけると、そのままアレキサンドリアへ帰投していったのだった。

 

 それを見て、カツがつぶやく。

 

「サラ……なぜ……」

 

* * * * *

 

 一方、グリプス2宙域。

 

 陽動のためにグリプス2の前面に出ている友軍とは別行動をとっていたアーガマが、3時宙域からコロニー・レーザーに攻撃をかけていた。

 

『カミーユ! 今度こそお前の首を、マウアーとカクリコンの墓前に届けてやる!』

「怨恨で戦うか、ジェリド!」

 

 ジェリドのバイアランと、カミーユのZガンダムが激しい戦いを繰り広げている。

 

 そこに。

 

『そいつは俺の獲物だぁ!! エリートさんは引っ込んでいてもらおうかぁ!!』

『なんだと!?』

「ルブラ!!」

 

 ルブラ・フェーゴの乗ったバーザムが二人の戦いに割り込んできた! バーザムは、味方撃ち上等だとばかりに、斬り結んでいるZとバイアランにビームライフルを撃ってくる。

 カミーユはそれを無事にかわしたが、ジェリドはかわしきれず、バイアランの左腕を吹き飛ばされてしまう。

 

「貴様、何のつもりだ!」

『そこに突っ立ってるほうが悪いんだろ、のろまさんよぉ!』

「なんだと!?」

 

 ルブラはジェリドに罵声を浴びせながら、バーザムを駆ってZとの戦闘を続行する。

 

『貴様、それでもティターンズか!』

「俺は星さえ稼げればそれでいいんだよぉ! なんなら、ここでお前を事故に見せかけてやったっていいんだぜ?」

『くっ……』

 

 ここで内輪もめを起こすわけにもいかず、バイアランも中破してしまったので、ジェリドは憮然としながら、バイアランを後退させた。

 

「カミーユ……お前を倒すのはこの俺だ。こんなところでやられたら承知しないぞ!」

 

 という言葉を残して。

 

 さて、引き続き、ルブラはZに襲い掛かる。だが、ルブラは一つ大事なことを見逃していた。

 一つは、カミーユがニュータイプであり、その才能が満開寸前だということ。もう一つは、自分の乗っている機体が量産機のバーザムだったことである。

 

 戦いが長引くにつれ、カミーユのZの動きがどんどんシャープになっていき、バーザムのビームライフルが当たらなくなっていく。それどころか……。

 

『な、なに!? こ、この俺が、ルブラ様が動きを追えないだと!?』

「ルブラ・フェーゴ!!」

『ちぃ!』

 

 Zガンダムがビームサーベルで切りかかる! それを紙一重でかわせたルブラはやはりただ者ではないと言えるだろう。だが完全にかわし切ることはできず、右腕を斬り落とされてしまう。

 所詮彼は、お山の大将に過ぎなかったのである。

 

『ちきしょう! 覚えてやがれ、次は、次こそはぶっ飛ばしてやるぜえぇぇぇ!!』

 

 そう言って後退していくバーザム。カミーユはそれを追撃しようとするが、敵機が接近してきたので、それに対処しなければならなかった。

 

 この戦いはここで水入りとなったのである。

 

* * * * *

 

 その一方……。

 

「エマ中尉、ここは任せてもらう。コロニー・レーザーの電力受信モジュールの破壊に向かってくれ」

『了解しました』

 

 百式がハイザックやマラサイと戦う中、エマのMk2ディフェンサーがコロニー・レーザーへと向かう。

 それを別のハイザックが追おうとするが、そのハイザックはクワトロの百式に撃ち抜かれてしまった。

 

 百式や、アポリーのリック・ディアスの援護を受けたMk2ディフェンサーは一気にコロニー・レーザーへの至近へと向かい……。

 

「これで終わり!」

 

 エマがロングライフルを撃つ! その一撃は、見事にコロニー・レーザーの電力受信モジュールを撃ち抜いた!

 

 そしてドゴス・ギアでは。

 

「バスク大佐! コロニー・レーザーから報告! 電力受信モジュールを破壊されたとのことです!」

「ええい、なんということだ! これではコロニー・レーザーを発射できんではないか! エゥーゴの奴らを周辺宙域から追い出せ! それとともに、修理を急がせるのだ!」

「はい!」

 

 そしてバスクは正面に向きなおる。その顔面は真っ赤に染まっていたのだった。

 

「ええい、ガディめ、陽動一つできんのか! これではシロッコにいい顔をされてしまうではないか!」

 

* * * * *

 

 サイド2のアレキサンドリア。

 

「艦長、ボンベが破壊されたと報告がありました。また、コロニー・レーザーもエゥーゴの攻撃により、一時機能を喪失したとのことです」

「そうか。無念だが仕方あるまい。ヤザン大尉たちがもう少し粘ってくれればな……。まぁ、毒ガス作戦などという、船乗りにあるまじき行為をしなくて済んだだけまだよかったか。帰還命令を出せ。MSを収容し次第、近くの基地に撤退する」

「はっ」

 

* * * * *

 

 そして無事にサイド2を守り切った俺たちは、ボスニアへと帰還した。

 そのMSデッキには、ボスニアの艦長、チャン少佐もやってきている。

 

「ここにやってくるとは、何かありましたか、艦長?」

 

 そのマクマナス大尉の質問に、チャン艦長は、少し明るい表情でうなずいた。

 

「あぁ。アーガマからの報告で、なんとか発射を阻止できたそうだ。残念ながらティターンズの抵抗が激しくて、核パルスエンジンの破壊まではできなかったそうだがな」

「なるほど。でもサイド2がコロニー・レーザーの餌食にされなかったのは幸いですね」

 

 俺がそう言うと、チャン艦長はうなずいた。

 

「アーガマをはじめとしたアーガマ主力とは、このサイド2のモルガルテンで合流することになる。合流するまでは交代の警戒担当以外は休息時間とするので、モルガルテンで羽を伸ばしてくるといい」

「了解しました」

 

 チャン艦長の言葉を受け、うなずいて了解するマクマナス大尉。

 一方のジョッシュは

 

「やったぁ、やっぱりチャン艦長は話がわかる!」

 

 とはしゃいでいた。

 しかし一方、カツは……。

 

「サラ……なぜ……」

 

 と思い悩んでいるだけだった。

 




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* 次回予告 *
戦いの中のひと時。カレルはモルガンテンでミネバとハマーン・カーンに出会った。

「それにしても、ハマーン様、いいんですか? エゥーゴの俺たちと一緒にいて」
「心配はいらん。お前たちも、今はオフなのだろう? ならば私たちと同じ、一般人と思って問題はあるまい。もしお前たちがミネバ様を誘拐しようというなら話は別だがな」

カレルには、敵を引き寄せる何かがあるのだろうか?

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第23話『湖畔にて』

刻の涙は、止められるか?

次の更新は、12/23 12:00の予定です。お楽しみに!


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サイド2編#04『湖畔にて』

 モルガルテン。サイド2にあるコロニーの一つで、観光を主眼にしたコロニーである。

 観光と言っても、映画館がいっぱいあったりとか、テーマパークがいっぱいとかそういうのではなく、自然公園がありーの、湖がありーの、というコロニー全体が自然公園とか観光明媚な保養地といった感じである。

 

 作られた自然とはいっても、植えられてる木や花や本物だから、その中を歩いていると、とても癒される。マイナスイオンビンビンという感じだ。

 

―――うーん、本当に清々しいよなぁ。テーマパークとかもいいけど、時にはこういうのもいいものだよな。

―――そうですね。私もこういうところに来るのは久しぶりだから、ちょっと新鮮です。

―――そうなのか?

―――はい。覚醒する前は、ほとんど訓練三昧でしたから。

―――そうか。そうしたら、みんな新鮮に見えるんじゃないか?

―――はい、なんか楽しいです。

 

 そう脳内会話をしながら歩いていく。

 ちなみに今、カレル・ファーレハイトの身体の主導権は、俺のサブ人格である『カレル』に譲っている。たまには彼女にも羽を伸ばしてほしいからな。もちろん、何かあった時には、俺に主導権を返してもらうことになっているが。

 

 あれ? でも、こうして女の子と二人で話しながら公園とかそういうところを歩いてるのって……。

 

 これってもしかして……デート?

 

―――………。

 

 あ、こら、『デート』って単語に反応して、赤面するな!

 

―――そ、そんなこと言われても……。

 

 どういうことか説明しよう。

 前にも言ったが、『カレル・ファーレハイト』の体には、元ガンオタ男子高校生の人格がベースの『俺』と、この体の元々の持ち主である『カレル』の人格が同居している。

 そして基本的にこの二つの人格の間には隔たりはない。つまり、特に隠そうとしない限り、『俺』の考えていることや感じていることは『カレル』にも筒抜けになるし、その逆もしかり。

 例えば……ほわわん。

 

―――……さん! 実験にかこつけて、あんなことやこんなことを想像するのはやめてください!!(赤面

 

 と、こんな感じに、思っただけで相手に伝わってしまうのだ。

 しかし『カレル』、本当にウブだよな。俺の想像したのなんて、ほんの一丁目だぞ。

 ……これは、エロ本とかは絶対に読めないな。

 

―――絶対にダメです!(赤面

 

 速攻で否定された。まぁ、俺も女になったから読む気にはなれないが。

 

 そう思いながら、その横で歩く少年……カツに意識を向ける。

 

「……」

 

 カツは相変わらず、うつむきながらとぼとぼと歩いている。こんな美人さんと並んで歩いているのに罰当たりな奴め。

 

―――び、美人さんって……(赤面)でも、ちょっと心配ですね。

 

 そう、おそらく、原作でサラと交流してきたカツは、この前の戦いでその彼女と出くわしたことでふさぎ込んでいるのだ。

 失恋したようなものなのか、それとも……。

 

 でもこのままではいけないから、なんとか元気づけてやりたいんだが。

 

* * * * *

 

 とそんな感じで、『カレル』と脳内会話をしながら散策していると……。

 

 ドンッ。

 

「きゃっ」

 

 誰かとぶつかってしまった。衝撃や声の位置からして子供みたいだ。

 

「あ、大丈夫ですか?」

「う、うむ、大丈夫じゃ……」

 

 あれ? この声、のじゃ口調……?

 と思って下を向くと……。

 

「ええええ、ミネバ様!?」←『カレル』

―――ミネバ様ナンデ!?←『俺』

 

 そう、かのドズル・ザビの忘れ形見、アクシズの(形式上の)支配者、ミネバ・ザビだったのだ。

 そして向こうからやってくるのは……。

 

―――ええええ、ハマ

 

ーン様!? こら『カレル』、急に俺に身体の主導権渡すな!

 

 さて、こちらに駆けてきたハマーン様は……。

 

「エゥーゴの者か! ミネバ様をさらおうとするとは、恥を知れ、俗物!!」

 

 出た、俗物!! ありがとうございましたっ!!

 っていやいや、そうではなく。

 

「ごごごごめんなさい、ただぶつかっただけなんですっ!」

 

 そう言ってぺこぺこするのだった。

 それで毒っ気を抜かれたのか。

 

「そうか……ならばいい。次からは気をつけよ」

 

 と赦してくれました。ありがとうハマーン様。

 と思ったら。

 

「ハマーン、この者たち、面白い。もう少し話していたいのだが」

 

 とミネバ様がおっしゃった。って、えええええ!?

 

 とりあえず。

 

「僕もその中に入れられるのは不本意だ」

 

 とつぶやいたカツは、あとで〆ようと思う。

 

* * * * *

 

 どうしてこうなったのだろうか? もう心臓がバクバクなんだが。

 

 今俺……とカツは、ミネバと、そしてハマーン様の二人とボートに乗っているのだ。

 うぅ、バナージごめんよ。

 

 そしてとりあえず、話の話題がないので、前世での色々な話をしてあげたらミネバはすごい喜んでくれた。

 アニメ中心(U.C.ガンダム系除く)の話だったので、ミネバがオタクにならないか心配だが。嫌だぞ、オタクになったオードリーなんて。

 それにしても……。

 

「それにしても、ハマーン様、いいんですか? エゥーゴの俺たちと一緒にいて」

「心配はいらん。お前たちも、今はオフなのだろう? ならば私たちと同じ、一般人と思って問題はあるまい。もしお前たちがミネバ様を誘拐しようというなら話は別だがな」

 

 そう言って、ハマーン様は、すごみのある笑みを浮かべてきた。あああ、やっぱりハマーン様だ。この笑み、皆さまにお見せできないのが残念です。

 

「それにしても、この笑みやなつきぶりを見てると、彼女がアクシズの姫君だなんて思えませんね」

「あぁ。やはりここに連れてきて正解だったかもしれん」

 

 そこで俺はあることに気が付いた。

 でも、俺はそれを口に出さなかった。それは、ハマーン様の心の中にまで踏み込みかねない話題だったから、俺のごとき部外者が口に出すのはどうかと思ったのだ。

 

 そう、本当はハマーン様は、ミネバをあのように育ててしまったのは後悔しているのではないかと……。何しろ、その根は彼女の『姉を奪ったザビ家を見返したい』という想いからきているのだから。

 

 だから俺はこれだけ言うことにした。

 

「そうですね。できればこれからは、ミネバ様には子供っぽいことにも触れてほしいです」

「……そうだな」

 

 とハマーン様。

 

 大丈夫ですよ、ハマーン様。ミネバにあのような教育をしなくても、将来は立派な女性に育ちますから。

 『ガンダムUC』を見てきた俺は、心の中でハマーン様にそう言った。

 

 と、そこで俺は気づいた。カツがハマーン様に対し、嫌悪感を秘めた視線を向けていたのを。

 そういえばカツは……。

 

「ごめん、カツ。露店に行って、クレープでも買ってきてくれる?」

「あ、はい……」

 

 そういってカツは、ボートを降り、露店に走っていった。

 

「すみません、ハマーン様。彼、一年戦争の時に色々あったようで……」

「それなら、不快に思うのも仕方あるまい。気にしなくてもいい」

 

 それからしばし三人で談笑。

 

「カツ、遅いですね……。ちょっと見てきます」

「それなら、私たちはここでお別れしよう。そろそろ、グワダンに戻る時間だしな」

「えー、ハマーン。私はもっと、カレルとお話したい」

 

 よっぽど俺のことを気に入ってくれたようだ。それは嬉しいのだが、時間なら仕方ないよな。

 俺はミネバにひざまづいて頭をなでる。そして。

 

「この戦争が終えたら、また会えるようになりますよ。そうしたら、また会いに行きますから」

「本当か? 約束だぞ」

 

 また果たさなければならない約束が増えてしまった。

 そして別れ際。

 

「あ、ハマーン様。先日は、クワトロ大尉……いえ、シャアがハマーン様に失礼なことをしてすみませんでした。ですが、彼に悪意はありませんので……」

「……わかっている」

 

 そして二人は去っていった。

 

 ……さて、それじゃカツを探しに行かないとな。

 




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* 次回予告 *

カツを探すカレルは、カツを見つけると同時に、彼を勧誘するサラ・ザビアロフと出会った。

「内緒話を聞いてごめんね」
「カレル・ファーレハイト……。カツを連れて行くのを邪魔するつもり?」

エゥーゴとサラとの間で迷うカツ。その行く先を示す光はあるのか?

「そもそも理想論だからと諦めたら、それ以上進むことはできないよ。そうじゃない?」
「……」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第24話、『サラ・ザビアロフ』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、12/26 12:00の予定です


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サイド2編#05『サラ・ザビアロフ』

終盤のカレルがカツを説得する言葉は、自分がかかわったリレー小説『Home And Bloody Days』において、登場人物が言っていた台詞をアレンジさせて使わせていただいています。(ちなみにその回の作者はひいちゃではありません)



 カツだが、すぐに見つかった。

 林の一角で、サラ・ザビアロフと邂逅していたからだ。

 

 と言っても、どう見ても逢引きの途中には見えない。カツがサラを説得しようとしているようだ。

 その説得の声が、風にのって、こちらまで聞こえてくる。

 

「なんでわからないんだ! シロッコは、君をいいように使っているだけなんだよ! そうじゃなきゃ、毒ガス作戦なんて、そんなことに君を参戦させるものか!」

「前にも言ったはずよ! 私にはパプテマス様が全てなの。あの人のためになれればそれでいい! あなたこそ、どうしてエゥーゴで戦っているの?」

「……! それは……」

「ジオンへの復讐のため? それと私の戦う理由と、どちらが良い理由なの?」

「……」

 

 そこでサラが、カツへ一歩踏み出した。

 

「ジオンに復讐したいだけなら、カツ、私と一緒に行きましょう。きっとパプテマス様は、あなたの望みを叶えてくれるはずよ……誰っ!?」

 

 と、そこでサラがこちらに気が付いた。音は立てていないはずなのだが、俺……カレル・ファーレハイトのNT能力を感知されたのだろうか。

 仕方ないので、姿を現すことにする。

 

「内緒話を聞いてごめんね」

「カレル・ファーレハイト……。カツを連れて行くのを邪魔するつもり?」

「えぇ、当然。でもカツがそれでもティターンズに行きたいというなら、あえて止めはしないけどね。もっとも、そうなったら、私は躊躇なくカツを討つだけだけど」

「カレルさん……」

 

 そこで俺は、サラに厳しい目を向ける。

 

「それでもあなたよりはマシだと思う。シロッコの人形のあなたよりは」

「なんですって……?」

「だってそうじゃない。シロッコの言うことを妄信して鵜呑みにして疑問を持たず、考えることもせず、ただその通りに動くなんて。そんなのただの人形だよ。それは自分の未来を摘み取ることに他ならない。少なくとも、私……いや、俺はカツをそんな存在になり果てさせるつもりはない」

「カレルさん……」

「カツ、ティターンズに行くなら止めるつもりはない。でも、今のままの彼女についていったらダメ。そうなったら、あなたも人形にされるだけだよ」

「そんなこと……!」

 

 言い募るサラに、俺は最後通牒を突き付けた。素の口調に戻って。

 

「違うと言い切れるか? もしシロッコがカツを殺せと言ってきたら、あんたはそれを止められるのか?」

「……!」

「今の沈黙、躊躇が全ての答え、自分がシロッコの人形に過ぎないという証明だ。カツを誘惑する前に自分を見直すべきじゃないか?」

「……」

 

 と、そこで唐突に、あたりが揺れた。かすかに爆音も聞こえる。

 

「くっ……!」

「サラ!」

 

 俺たちが態勢を崩した隙に、サラは逃げ出した。

 

「待ちなさい、カツ。さっきにも言ったけど、そんな彼女についていったらダメ」

「でも……」

「彼女を助けたいなら……って、それどころじゃないな。ボスニアに戻りましょう。続きはあと」

「は、はい……」

 

 そして俺とカツは、ボスニアのある宇宙港に走っていった。

 

* * * * *

 

 かくして。

 

「カレル・ファーレハイト、ガルバルディディフェンサー、出る!」

「メタス、行きます!」

 

 俺のガルバルディ・ディフェンサーと、カツのメタスが、出航したボスニアから発進していく。

 

 さっきの振動は、どうやらティターンズの部隊が、こちらに攻撃を仕掛けてきたからのようだ。

 奴ら、なりふり構わなくなってきたな……。

 

 そして俺たちボスニアのMS部隊は、ティターンズのMS部隊と接敵した。

 相手は、ハイザックの狙撃仕様、ハイザック・カスタム。奴ら、残骸に紛れて、付近を偵察とかしていたエゥーゴのMS隊を襲っていたらしい。

 

 ハイザック・カスタムの1体がビームを発射! それを回避する。

 

「遠距離戦主体の機体は、懐に入り込めばっ!!」

 

 さらに飛んできたビームをかいくぐり、その懐に飛び込んで、その腕を一刀両断する。ダメ押しに、離れ際にビームライフルでメインカメラも破壊しておく。

 

 もう1機には、ジョッシュのネモが応戦していた。さすが、マクマナス隊長に鍛えられてきただけあって、ビームランチャーをうまくかわしながら、ビームライフルの射程まで接近し、ビームライフルを連射! 見事に胴体を撃ち抜いて撃破した。

 

 別の一機に、カツのメタスが組み付いた。あれがサラの機体だと感づいたのだろうか。

 説得しているのか、二機は組み付いたまま動かない。

 

 だが、それも終わるときがきた。ハイザック・カスタム隊が撤退を開始し、サラのハイザックも、メタスから離れて離脱していったのだ。

 

 カツはメタスのビームガンをハイザックに向けるが、結局撃つことができずに、逃がしてしまうのだった……。

 

* * * * *

 

 ボスニアの通路。そこでカツは、ただ外を見てため息をついていた。

 俺は、そこにそっと近寄って、その脇に立った。

 

「カレルさん……」

 

 そこで沈黙。やがて、カツのほうから口を開いた。

 

「僕はどうしたらいいんですか……? サラには戦ってほしくないんです……でも……」

「そっか……。クワトロ大尉が(原作で)言ったことなんだけど、戦いの中で助ける方法だってあるはずだよ」

「そんなきれいごと!……そんな理想論が……」

 

 普通はそう思うだろう。だけど。

 

「できる!」

「!?」

 

 俺はカツに正面から向き合ってそう断言した。

 そして真剣な面持ちで話しを続ける。

 

「そもそも理想論だからと諦めたら、それ以上進むことはできないよ。そうじゃない?」

「……」

「今のカツにはあるものが足りないから、それができないだけ。それを補えばきっとできるはず……」

「それは一体なんなんですか?」

「それは強さと信念だよ」

「強さと信念……」

 

 俺はうなずく。

 

「甘いのは結構。でも、弱かったらただ甘いだけだよ。彼女を殺したくないなら、取り戻したいなら、それなりの信念と覚悟、サラを殺さず無力化できるだけの力を持たないとダメ。なんとしても叶えたいものがあるなら、今より強い強さを、サラよりもシロッコよりも勝る強さを身に着けないとダメだよ」

「……」

「力なき正義は無力。サラを助けたければ、シロッコから彼女を解放したければ、その気持ちを固くして、それを成し遂げられる力を身に着けること。そうすればきっと、君の望みはかなうと思うよ」

「カレルさん……はい」

 

 カツの表情が決意を固めた男のものになった。俺の言葉がカツの再起につながったのなら何よりだ。

 

 そう思った俺の視界に、アーガマが近づいてくるのが見えた。

 




ただいま、ファンアート募集中です!

また、ルブラ君の専用機の名前のアンケートが開催中です!
協力してくれると嬉しいです。
その他の場合は、活動報告の募集スレのほうに書いてくださいませー
※ちなみにその専用機の原型はバウンド・ドッグの予定です
※『その他』枠の候補に投票したい場合は、『ルブラの専用機のネーミング』スレに、投票したい機体名を書いてレスしてくださいませ(平伏

* 次回予告 *

月面の都市グラナダに、グリプス2のレーザーが発射されようとした。エゥーゴはハマーン・カーンの協力の元、その機能を一時的に止めようとする。

「ティターンズと同盟を結び、コロニー・レーザーの背後に布陣しているアクシズ艦隊に、コロニー・レーザーを攻撃してもらうよう交渉……出資者は相変わらず無理難題をおっしゃる」

だが、そこから歴史はささやかな変化を見せる。シャアに代わり、ハマーンの元に特使として赴くことになったのは?

―――もしかしたら、ミネバ様だけでなく、ハマーン様にも気に入られたのかもしれませんね。
―――いやいや、だからって、表向きとはいえ交渉相手に俺を選ぶか?

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第25話、『ハマーンとの接触』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、12/29 12:00の予定です。


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ゼダンの門編#01『ハマーンとの接触』

さぁ、ここからまたまた新章が始まります!
後半に突入!


 俺たちボスニアは、アーガマをはじめとしたエゥーゴ主力と合流した。

 カツと再会したカミーユとエマさん、ヘンケン艦長は、どこか見違えた彼を見て、とても驚いていた。『男子三日会わざれば~』とはまさにこのことか。

 

 カツが見違えたことを受けて、カツは再びラーディッシュに配属されることに決まった。これから彼の活躍が始まるのかもしれない。

 

 さて、戦況のほうはそれとは打って変わり、予断を許さないものになっていた。

 

 修理を終えたコロニー・レーザーが、いよいよグラナダを攻撃すべく移動を始めたのだ。

 これをどうにかしないと、グラナダはコロニー・レーザーの光に包まれ、エゥーゴは壊滅的な被害を受ける。

 

 しかし、ティターンズの警戒は厳しく、エゥーゴの現戦力ではこれを突破できそうにない。向こうも、先のコロニー・レーザー襲撃を受けて、警戒を増し、コロニー・レーザーを守る戦力を増強させているのだ。

 

 ではどうするかというと……。

 

「ティターンズに与し、コロニー・レーザーの背後に布陣しているアクシズ艦隊に、コロニー・レーザーを攻撃してもらうよう交渉……出資者は相変わらず無理難題をおっしゃる」

 

 クワトロ・バジーナ大尉ことシャアがそう苦虫を百匹ほどかみつぶしたような顔でつぶやく。何しろ、言い方は悪いが、過去に振り、そして最近再会した時にまたけんか別れした元カノに頭を下げろというのだ。シャアが愚痴る気持ちもわかる。

 

 まぁ、史実では結局シャアは折れ、ハマーンに対して頭を下げて彼女の嘲笑を受けることになったのだが……今回は話が変わってきているようだった。

 

「それで私に、ハマーンと交渉してほしい、と?」

「いや、大尉はハマーンの部下と交渉するだけでいい。あちらからは、カレル・ファーレハイト少尉を謁見相手に指定してきた」

『は?』

 

 ブライトさんの話に、思わず、シャアと声が重なってしまった。いや、なんで俺? 俺はサイド2でハマーン、ミネバと会ってお話したくらいで、別にアクシズ上層部と交渉できるような立場ではないんだが。少尉だし。

 

―――もしかしたら、ミネバ様だけでなく、ハマーン様にも気に入られたのかもしれませんね。

―――いやいや、だからって、表向きとはいえ交渉相手に俺を選ぶか?

 

「それで、引き受けてもらえるか、少尉……少尉?」

 

 『カレル』と脳内会話しているところで、ブライトさんに声をかけられる。まぁ、これは……。

 

「それしか交渉成立の手がないのでしたら引き受けます。私ごときで交渉をまとめられるかわかりませんが……」

 

―――謁見の時には、私は寝ていますのでよろしくお願いしますね。

 

 おい!!

 

* * * * *

 

 そういうわけで、俺とシャアは、それぞれガルバルディγと百式に乗って、グワダンへと向かった。礼儀として、ビームライフルなどの手持ち武器は持たせてないが、いざとなればバルカンがあるので大丈夫だろう。

 

 そしてMSを降りると、アクシズの士官に案内される。

 シャアは会議室に、俺は謁見室に。

 

 謁見室が近づいてくるにつれて、ドキドキがとまらなくなってくる、やばい。

 俺の意識の奥底で惰眠をむさぼっている『カレル』は、後で〆ようと思う。いや、しめ方なんかわからないが。エッチなことでもたくさん思い浮かべるか?

 

 そう思ってるうちに、謁見室の前までついた。超立派な扉がゆっくり開くと、そこはまるで別世界のようだ。俺は謁見室は原作で見ただけだったが、こうして現実で見ると、本当にすごい。語彙力が足りないが、すごいという言葉しか思い浮かばない。はえー……。

 

 そしてその奥には……。

 

「来たか、入るがよい」

 

 玉座に座るミネバと、その横に立つハマーン。彼女に促され、俺はドキドキしながら室内に入る。

 そして玉座の前まで来ると、記憶にある範囲でひざまづいて礼をとり……。

 

「エゥーゴのカレル・ファーレハイトと申します。謁見の機会をいただきまして恐悦至極……」

「うむ。私が、ミネバ様の摂政を務める、ハマーン・カーンである。まずは用件はうかがおうか」

「はい。詳しくはこちらにて……」

 

 と、近寄ってきた文官に親書を渡す。それをハマーンに渡す。ハマーンはそれを一読するとうなずいた。

 

「なるほど。了解した。詳しいことは、そちらとの交渉によってとなるが、断ることはないであろう」

 

 詳しい条件はこれからだが、とりあえず交渉は成立となったようだ。よかったよかった。

 だけど……。

 

「あの……一つ質問よろしいでしょうか?」

「かまわない」

「あの……なんで、表とはいえ、交渉役に私を指名されたのでしょうか? 私は少尉でしかないのですが」

「建前から言えば、そんな深い理由ではない。シャアとのことは、まだ区切りがついていないのでな。冷静に交渉できるのが、他にそなたしかいないからだ」

「なるほど……」

 

 下世話な言い方になるが、シャアに振られて、しかも前の謁見の時にミネバの育て方について喧嘩になったのが、まだ尾を引いているってことか。原作ではそれが元で、シャアに頭を下げさせて悦に浸る、なんてことになってたのだが。

 今回それがないってことは、もしかして俺と会ったことで心境の変化があったのかな?

 

 って、『建前は』って?

 

* * * * *

 

「……本当にいいのでしょうか……」

「ミネバ様がそうお望みなのだ。ならば遠慮することはあるまい?」

「そうだ、気にすることはないのだぞ、カレル」

「はぁ……」

 

 俺は、グワダン内のティールームで、ハマーン、ミネバと一緒にお茶することになってしまった。

 どうやら、本音は『ミネバが俺と話したがっていたから』らしい。彼女にとって俺は、年の離れたお姉ちゃんみたいな存在なのだろうか。

 うわ……青っぽい髪の、ちょっとキザな青年士官……マシュマーかな? が怖い顔してこちらをにらんでるよ。ライバルだと思われたのか? やめてくれ、俺は(身体は)女なんだよ。

 

 そしてこんな中でも、『カレル』は相変わらずぐっすり眠ったままだ。さっきから心の中で声をかけてるけど、全然反応がない……やっぱり後でイヤンなことを想像して〆るか。

 

 そんなことを想いながら、ハマーンとたわいもないことを話したり、ミネバにアニメの話をしたり、遊んだりしてすごした。やがて。

 

「ふわぁ……」

「ミネバ様、もうそろそろお休みの時間でございますよ、行きましょう」

「うむ。またな、カレル……」

 

 そういって、ミネバは女官に連れられて去っていった。さて……。

 

「あ、それじゃ、私もそろそろ……」

「まぁ待て。お前にはまだ聞きたいことがあるからな」

「は?」

 

 するとハマーンは、視線で人払いを命じた。文官や武官、マシュマーに、ニーやランスらしい軍人まで、不満そうにしながらも部屋を去っていった。

 

* * * * *

 

 そして。

 

「単刀直入に聞こう。お前にはどこまで見えている?」

「!?」

 

 俺がこの世界の歴史について知っていることに気づかれている!? 思わず、背筋を汗が伝う。

 俺の底の底を見抜くような眼をして見つめてくるハマーンの表情からは、確信のようなものが感じられる。もう、俺のことは確信を持っているってことだろう。さすがハマーンというべきか……。

 

 ……これはごまかしても無駄なようだ。

 

「……とりあえず、この戦争……私はグリプス戦役と呼んでいますが……の結末までは」

「そうか。私には、その先まで見通せているようにみえるがな」

「勘弁してください。それに、今のこの状況は、私が見通しているものと、いくらか変わってきてますし」

 

 そう。ここまでの流れは史実(原作)通り進んでいるように見えるが、フォウ、ロザミィが生還したり、ボスニアがエゥーゴに合流したりと、細かいことは変わってきている。

 さらに言うと、ハマーンの言う通り、原作を見てきた俺は、この先の流れ……ハマーンの行く末までも知っている。だが、『ハマーンは最後にはジュドーと出会い、彼との激突の果てに散る』なんて教えようものなら、俺の首が飛びかねない。

 

 それに、未来を知ってることは、この世界では危険すぎる。俺のその知識を危険視した奴らに命を狙われたり、無理やり利用しようと洗脳しようとしたり……。そんなことは御免こうむりたい。

 

 ……って、そういえば目の前に、『俺が未来のことを知っていること』を知っていて、それを脅威に思う可能性が高い人がいるのだが……。

 

 また一筋、背筋を冷や汗が流れた。

 

「安心しろ。ここで殺すつもりはない。お前を殺すつもりなら、わざわざこんなところでお茶などせん」

「そうですか……少しは安心しました」

 

 確かにその通りだ。謁見して、さらにティータイムに招いた客を暗殺したりすれば、それはハマーンとアクシズの不名誉になる。暗殺するのなら、別のシチュエーションでやるだろう。あるいはMS戦の末に倒すか。

 

「この先の流れについても聞くつもりはない。どんな未来が待ち受けていようと、己の道は己で切り開くのが私の信念だからな」

「なるほど……」

 

 やっぱりハマーンはハマーンだった。確か、ZZでのジュドーとの決戦でも、似たようなことを言ってたしな。

 

「だが、そのうえであえて聞きたいのだが……お前は私とシャアの関係について何か思うところがあるのか?」

「ふぁ!?」

 

 あ、変な声が出てしまった。なんで急にそんな……って、あぁ、そうか。サイド2で会った時、別れ際にシャアのことについて何か言ったからか。

 でも、『己の道は己で切り開く』と言っている彼女が、そんなことを言っているってことは、俺の助言を受けてでも、シャアとのことを解決したいってことなのだろうか。

 それなら、こちらも思っていること、考えていることをすなおにぶつけるべきだろう。

 

 俺は、紅茶を一口すすってから口を開いた。

 

「まぁ……しいて言うなら、どちらも本音をぶつけあうべきだろ、と」

「ファ!?」

 

 あ、ハマーン様も変な声を出した。この人もこんな声出すことあるのね。

 

 それはおいといて。

 

 原作では結局、よりを戻すことなく、それぞれの結末を迎えた二人だったが、原作以外では、和解したことがないわけではない。具体的に言うならスパロボがそれだ。

 

 俺が覚えているだけでも、F完結編、第三次Z(『自軍』と和解して、仲間になる作品は他にもあるが、明確にシャアと和解したと思われるのは、覚えている範囲ではこの二本だ)。これらの作品では、ハマーンはシャアと和解し、自軍入りしている。第三次Zでは、一度仲がこじれたりしたが。まぁ、あれはシャアがちゃんとハマーンに説明しなかったのが悪い。もげろ。

 

 さて、それらの作品に共通しているのは、シャアが自分の気持ちを、ちゃんとハマーンに伝えているところだ。その結果、ハマーンも、自分の中に秘めたものを吐き出し、和解して自軍入りするに至る。

 

 ……自軍入りしたハマーン様は、テンション高い娘にドン引きしたり、シャアにデレデレになったり、動物の着ぐるみに癒されかけたあげく、大人げなく激昂したりと、なんか少しポンコツなところが出てくるが……まぁ、それは密に、密に。

 

 それはともかく、そのように和解した事例があるということは、史実でも和解が不可能ではないということだ。

 だからスパロボと同じく、お互いに腹を割って話し合えば、二人の和解は不可能ではないのではないかと思うのだ。

 

「お互いが腹の中を全て出して話し合うのは、和解において大切なことですからね。本心でシャアに戻ってきてほしいと思うなら、そうするべきです」

「ズケズケという……俗物め」

「俗物というのは否定しませんけど、俗物だって思うところはあるし、俗物がいるから世の中は面白いんですよ?」

 

 あなたの中の人が言っていたことですけどね、と心の中で思う。

 そう言ったところで、ハマーンは苦笑を浮かべた。苦々しいながらも、琴線に触れるものがあったようだ。

 

「確かにお前は俗物だが、不思議と嫌いではないな」

「恐縮です」

 

 そう言葉を交わしてハマーンは立ち上がった。俺も一緒に立ち上がる。

 その彼女からは敵意はほとんど感じられなかった。むしろ友愛の情を感じる気がする。

 ハマーンに気に入られて、喜ぶべきか、悲しむべきか迷うところだけどな。

 

* * * * *

 

 そして俺たちは、交渉を終えて、グワダンを後にした。

 

 その途中、シャアの女関係の色々にちょっとむかついた俺は、軽くガルバルディを百式にぶつけてやった。

 

「……? なんだ、ファーレハイト少尉?」

「大尉はもうちょっと、女性との付き合いを勉強すべきです」

「……?」

 

 そしてそのまま、俺たちはアーガマへと帰還していった。

 




TSしたとねりさんより、ファンアートをいただきました!
カレルの線画です。ありがとうございました!

【挿絵表示】

そして引き続き、ファンアート募集中です!

ルブラ君の専用機の名前が決定しました!
結果は……

オル・トロス 116 / 24%
ノートゥング 99 / 21%
ヒュドラー 188 / 39%
その他 79 / 16%

で、見事ヒュドラーに決定いたしました! ぱちぱちぱち。
ルブラ君がヒュドラーに乗ってくるその時を、どうぞお楽しみに!
投票や、名前の提案をしてくれた方々、本当にありがとうございます!(平伏

それでは次回予告です。

* 次回予告 *

ハマーンの協力を得たエゥーゴは、コロニー・レーザー発射を阻止するため、行動を開始する。
その戦いの中、カレルはハマーンの強かさに舌を巻くのであった。

「いずれ、我々がこれを使うこともあると?」
「察しがいいな。その通りだ。我々が使うもよし、さらにエゥーゴから条件を引き出すための交渉材料としても使えよう」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第26話『バック・アタック』

刻の涙は、止められるか?

次の更新は1/1 12:00の予定です。


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ゼダンの門編#02『バック・アタック』

※マラサイのコクピットは頭部にあるとの指摘を受けたので、一部修正いたしました。
ご指摘ありがとうございました!


 かくしてアクシズとの交渉を成功させたエゥーゴは、いよいよコロニー・レーザーに攻撃をかけることにした。

 といってもこちらは陽動。こちらがティターンズの目を引き付けている間に、ティターンズの後詰をしているアクシズ艦隊がコロニー・レーザーを攻撃してくれる、という寸法だ。

 

 ちなみにその条件は原作通り、サイド3の譲渡(具体的にはアクシズがサイド3のジオン共和国に攻め込んでも、エゥーゴとしては関知しない)と……なぜか俺……カレル・ファーレハイトが毎年一回、アクシズに特使として赴く、ということに決まった。きっと、ミネバ(もしかしたらハマーンも)が、俺を気に入ってねじこんだのだろう。しかし、特使が俺のような少尉のぺーぺーでいいのだろうか、という気がするが。

 

 まぁ、それはともかく、だ。ティターンズ艦隊の警戒領域に入ったエゥーゴ艦隊は、こちらも戦闘態勢に移った。アーガマを初めとした各艦からも、MS隊が発進していく。

 

 そして、ボスニアからも。

 

「姫、本当にいいのかい? 俺としてはちょっとゴタゴタして気にくわないんだけどなぁ」

「はい。やっぱり戦い方のオプションが増えたほうがいいですから」

 

 そう笑って、真下のガルバルディディフェンサーを見下ろす。整備長も言う通り、ガルバルディディフェンサーには、ちょっとごたごたしたものがついていた。

 

 まず、ディフェンサーの側面、ロングライフルのついているのと反対側にはクレイバズーカ、さらに背面部には爆雷を投下するマインレイヤー。

 ガルバルディの左腕には煙幕弾のランチャー、右腕にはグレネードランチャー。さらに両腰には、ワイヤーつきアンカー。

 

 我ながら結構つけたものだ。当然その分重量はいくらか増しているが、ディフェンサーの推力があるので、さほど影響はないはずだ。

 

 改めてヤザン隊の手ごわさを思い知った俺は、自分の戦いを見つめなおした結果、正攻法はもちろん、トリッキーな戦いも必要だと考え、そのための装備を、整備班に頼んで施してもらったのだ。

 

 これでどこまで立ち向かえるかはわからないが、やっておいて損はないだろう。

 

『ジョッシュ、ネモ、行きます!』

 

 MSデッキから、ジョッシュの乗ったネモが発進していく。次は私の番だ。

 

「それじゃ行ってきますね、整備長」

「おう、がんばってこいよ」

「はい」

 

 そしてガルバルディに向かい、乗り込む。

 

「カレル、ガルバルディ・ディフェンサー、行きます!」

 

* * * * *

 

 接近してきたバーザムを、ロングライフルで迎え撃ち、頭部と両腕を撃ち抜く。上からやってきたハイザックは、そのビームサーベルを交わし、すれ違いざまに切り捨てる。

 

 俺はできるだけ犠牲は出したくないが、だからといって完全不殺というわけではない。避けられないとなれば、撃破することも辞さない。これは戦いだからな。そんな割り切りも必要だ。

 

 また、ここでは新装備は使わない。これあくまで、ヤザン隊やジェリドなどの強敵との戦い用なのだ。

 

 ロングライフルを構え、ネモの1機に攻撃しようとしていたマラサイを撃ち抜く。

 

 史実ではふてくされてなかなか出なかったカツも、今回はメタスで激戦を繰り広げていく。その動きは、原作よりも鋭い。カツもあれから、カミーユやエマさんから特訓を受けたのだろう。

 

 俺は接近してきたバーザムのビームサーベルを、同じくビームサーベルで受け止めた。

 

* * * * *

 

 一方、ドゴス・ギア。

 

「バスク大佐、アクシズ艦隊が、コロニー・レーザーの後方から接近。後方支援に就く、とのことです」

 

 それを聞き、バスクは愉悦の笑みを浮かべた。アクシズがエゥーゴとも密約を交わしていると知る由もなく。

 

「くくく……女狐め、恩を売るつもりか。一応、アレキサンドリアのガディに監視するように伝えておけ」

「はっ」

 

 そして正面に向きなおり、指令を下した。

 

「よし、これで戦力はこちらが有利になる。MS隊に攻勢に出ろ、と伝えろ」

「了解!」

 

* * * * *

 

 そして一方のグワダン。

 

「ふ……こちらがエゥーゴと結んでいる可能性を考えもしないとは、やはり戦いだけが全ての能無しだな」

 

 艦橋のハマーンがそうほくそ笑む。

 そして、コンソールを操作し、コロニー・レーザーの一点にマーカーをつけた。

 

「コロニー・レーザーを全て破壊する必要はない。この核パルス・エンジンのみを潰すのだ」

 

 その指示を聞いたグワダンの艦長、ユーリ・ハスラーはあることに気づいて、問いかけた。

 

「いずれ、我々がこれを使うこともあると?」

「察しがいいな。その通りだ。我々が使うもよし、さらにエゥーゴから条件を引き出すための交渉材料としても使えよう」

「なるほど……」

 

 ハスラーの感嘆の声を聴きながら、ハマーンはふと苦笑をもらした。

 

(シャアやエゥーゴそのものには特に思い入れはないが……な。ふ……私も変わってしまったものだ)

 

* * * * *

 

 ティターンズの攻勢が強くなった。先ほどよりも多くのMSがこっちに向かってくる。

 だがそれは、ティターンズが、アクシズのことを疑っていないことを意味する。その意味では、こちらの策はあたったといえるだろう。

 

「もうひと頑張り、行くよ!!」

 

 そう言い、俺はGディフェンサー部からミサイルを発射。接近してくる数機のMSを撃墜した。さらに数機のMSがこちらに突っ込んでくる。

 

 そのうちの1機のハイザックをロングライフルで撃ち抜き、もう一機接近してきたバーザムのビームサーベルを、ビームサーベルで受け止める。そしてそいつを蹴り飛ばすと、その反動で後退してロングライフルを発射! その攻撃で左腕を失ったバーザムは、それでも闘志を失わずに突撃してきた。

 俺は慌てず騒がず、狙いを定めて、腕のグレネードランチャーを発射した! グレネードはバーザムの頭部に命中!

 

 頭部までも失った機体からパイロットが脱出した。それを見計らうと、俺はロング・ライフルでバーザムにとどめを刺した。

 

* * * * *

 

 一方、グワダンでは主砲の発射準備が行われていた。

 

 それを見ながら、ハマーンがハスラー艦長に言う。

 

「ふふふ、主砲はアーガマを狙ったのだろう? 艦長」

「はっ」

「アーガマを狙ったビームがそれて、コロニー・レーザーに当たるとは、なんとも不幸な事件だ」

 

 そしてグワダンからビームが発射! それは見事にコロニー・レーザーの核パルスエンジンの一つを撃ち抜いた!

 

* * * * *

 

 その報告は当然、ドゴス・ギアのバスクの元へも届けられていた。

 

「な、なんだと!? コロニー・レーザーの核パルスが!?」

「は、はい。後方からのグワダンからの砲撃で……。向こうは乗組員が不慣れなゆえの事故と釈明していますが……」

 

 バスクの顔をみるみる怒りで赤くなる。これが誤射ではないことぐらい、彼でもわかるのだ。

 

「そんなわけはあるか! おのれ、女狐め……。これでは、グラナダを射程に収めるどころか、他に狙いを定めることもできんではないか……! アレキサンドリアのガディは何をしていたのだ!?」

「あっ、アクシズ艦隊、急速に後退していきます!」

「おのれ、女狐……このままで済むと思うなよ……!」

 

* * * * *

 

 俺のガルバルディ・ディフェンサーのコクピットに通信が入る。アーガマのブリッジにいるオペレーターのフォウからだ。

 

「エゥーゴの各MSに告ぐ。作戦は成功した! ただちに帰還せよ! MS隊を回収し次第、ただちに撤退する。繰り返す!」

 

 どうやら、コロニー・レーザーを止めることには成功したようだ。よかった。

 エンジンだけを破壊して、機能そのものは残すとは、さすがハマーン。喰えない人、というべきか。

 彼女は情念だけの人ではない。打算やら戦略やらもわきまえて動く傑物だというのを改めて感じた。

 

 何はともあれ、目的を達したのなら、これ以上ここにいることはない。逃げるに限る。

 

 俺はガルバルディディフェンサーをボスニアに向けたのだった。

 

 




ただいま、ファンアート募集中です!

XINNさんからファンアートをいただきました!
カレルの立ち絵です。ありがとうございました!

【挿絵表示】


XINNさんからは、ちょっといやんなカレルのファンアートもいただきました!
ありがとうございます!

【挿絵表示】


* 次回予告 *

コロニー・レーザーへの攻撃は、ティターンズにささやかな亀裂を生みつつあった。

「しかし、あのようなものでスペースノイドどもを威圧しようとは。わしは大量殺戮者の汚名はほしくはないのだがな……。武闘派という輩は、宇宙が砂漠化しても生きていけると思っているようだな。彼らを排除する算段しておかねばならぬか……」

そしてジャミトフの思惑とは別に、バスクとシロッコもその野心を燃え上がらせ蠢き始めるのだった。

「えぇ、ありえない話ではないでしょう。だからこそ、私がジャミトフ氏を退場させてあげようというのですよ。悪い話ではないでしょう?」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第27話『三者三様の思惑』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、1/4 12:00の予定です。お楽しみに!


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ゼダンの門編#03『三者三様の思惑』

さぁ、ここから、少しですが展開が原作とは少し変わってきますよ!


 コロニー・レーザーの戦いの後、ジャミトフ・ハイマンは部下からコロニー・レーザーが被害を受けた時の報告を聞いていた。

 それを聞き、彼はため息をもらす。それは、彼の部下たちの武断ぶりに頭を痛めているかのようであった。いや、実際そうなのだが。

 

「しかし、あのようなものでスペースノイドどもを威圧しようとは。わしは大量殺戮者の汚名はほしくはないのだがな……。武闘派という輩は、宇宙が砂漠化しても生きていけると、本気で思っているのか? 彼らを排除する算段しておかねばならぬか……」

 

 そして、どこかと電話で連絡を取った後、窓から外を眺めてつぶやいた。

 

「彼らにスペースノイドに対する弾圧の責任を負わせ、処断する。その後に、ティターンズを少しでも開明的な方向に向けさせ、それをアピールさせていけば、まだやりようはあるかもしれん。バスクたちを処断すれば、ティターンズが変わることをアピールする材料には十分だ」

 

 そしてさらに続ける。

 

「歳だ。いつ死んでもいい。わしが死ぬまでに、地球圏にとって必須のことをやってみせる」

 

* * * * *

 

 ……なぜ俺……カレル・ファーレハイトはここにいるのだろうか? 俺はただの少尉なのだが。

 

「この度は、コロニー・レーザーへの攻撃、感謝いたします」

 

 俺はまたもやグワダンの謁見室で、ハマーン、ミネバの二人に対して頭を下げていた。

 よほど俺は二人に気に入られているらしい。二人に最も近い人物であるシャアを差し置いて、俺を呼んだくらいなのだから。

 

「うむ、ザビ家再興の日も近い。それがともによい日であることを祈っておいてほしい」

「はい、もちろんです」

 

 俺としては、1年戦争やZZのような大戦争を起こさなければ、ザビ家は一向にいくら再興しても構わない。ただ謎なのは、連邦との戦力差がわからないはずがないハマーンがなぜZZの戦いを起こしたのか、ということなんだよな。連邦が態勢を立て直して本腰で挑めば勝てないことぐらいわからないことはないと思うのだが。現に、劇場版ではアステロイド・ベルトに引き返しているし。

 

 と、そこで文官が何かの紙をハマーンに手渡した。何かの報告だろうか?

 

 それを読み終えたハマーンは、文官に何かを伝えて、下がらせた。

 

「ハマーン様、何かあったのでしょうか?」

「お前たちに教えてよいものかどうか迷うが……まぁよかろう。知ったところで、こちらに不利益になるとは思えないからな」

 

 まぁ、確かに。史実でも、シャアに、ミネバがグワンバンに移ること(=グワダンで何か大変なことが起こる)を平然と知らせているしな。

 それで俺はピンときた。この後に起こるイベントに、思い当たりがあったのだ。

 

「ジャミトフとの会談ですか?」

「ふ……さすがに聡いな。先を知る者ゆえか?」

「ノーコメントとさせていただきます」

 

 やんわりと断っておく。ハマーンには知られているとはいえ、俺が先のことを知っていることを、あまり広げてほしくない。

 

「その通りだ。ジャミトフが交渉を求めてきた。大方、我々と再び手を結びたいのであろう。ふ……こんなことまで話してしまうとは。お前は本当に不思議な奴だ」

「恐縮です……。それで、応じるのですか?」

「もちろんだ。もっとも、あの俗物のことだから期待はできまいが……」

「それなら一つだけお願いしたいことがあります。ジャミトフを暗殺するのだけはおやめいただきたいと思うのです」

「ほう……?」

 

 ハマーンが、興味深そうな目で俺を見る。俺の考えていることに関心を持ったみたいだ。

 

 ジャミトフがハマーンと会談する。それを聞いて、俺の中で一つ、思うところがあったのだ。

 もしかしたらここが、このグリプス戦役の流れが変わるターニングポイントかもしれない、と。

 

「よかろう。お前がそう言うのならばな。そうだ。その代わりと言ってはなんだが、お前に一つ頼みたいことがある」

「???」

「アーガマ……いや、シャアに言伝を頼みたいのだ」

 

* * * * *

 

「ハマーンが、ゼダンの門でジャミトフと会談をすると?」

「はい。それで、脱出のさいに、支援をしてほしいと」

 

 アーガマのブリッジ。そこで俺の報告を受けたブライトさんとクワトロ大尉ことシャアが相談をしている。

 

「クワトロ大尉、この会談、成立すると思うか?」

「うまくいくはずがないな。ザビ家の再興をジャミトフが本気で認めるとは思えんし、ハマーンのことだ。ジャミトフの許しなど得ずとも野望を果たそうとするだろう。だがこれはもしかしたら、ゼダンの門を叩く好機かもしれん」

 

 ゼダンの門……ジャミトフが会談場所に指定したティターンズの拠点の一つだ。旧名称はア・バオア・クー。そう、連邦とジオンの最後の戦いが行われた場所だ。

 確かにここを潰せれば、ティターンズに大きな打撃を与えられるだろう。シャアの言う通りに。

 でも俺はそれとは別に、考えていることがあった。

 

「それなら、攻撃の支援に、工作員を派遣するのはどうでしょう?」

「確かにそうだな。それなら私他数名が向かうことにしよう」

「私も行きます。少しは役に立つかもしれません」

 

 俺がそう言うと、シャアはふっと口元を笑みの形にゆがめた。

 

「それは謙遜がすぎるな、少尉。君の力には期待させてもらう」

 

 なんか意味深な言葉。俺の強化された肉体能力のことを言っているのか、俺の秘密のことについてなのか、どっちだろう?

 それはともかく、俺が工作に同行することにしたのは、任務とは別の考えがある。

 機会があれば、ジャミトフと会い、直談判できないかと思ったのだ。

 

 本編を見てきた俺だからわかるが、ジャミトフの本意は決して、「アースノイド一番、スペースノイド滅ぶべし」という単純な地球至上主義ではない。

 その本当の思惑は、「戦争を利用して、地球上の人口を減らして管理し、地球環境を再生する」というものだ。戦争を使って人減らしをするというのは過激で許されるものではないが、それでも、彼の地球を憂う心は本物だ。彼はやり方を間違えただけなのだ。

 

 だからここでジャミトフを説得して、翻意させて今のやり方を変えさせることができれば、もしかしたらエゥーゴやアクシズとの和解にもつながり、この後の宇宙世紀の歴史が変わるのではないかというのが俺の狙いだ。

 まぁ、そもそもうまくジャミトフと会えるかわからないし、説得できるかどうかもわからない、うまくいったら僥倖というような考えではあるが。でもそれでも、やらないよりはましだ。

 

* * * * *

 

 一方、ドゴス・ギアには、バスクと会見するパプテマス・シロッコの姿があった。

 

「ふん、何をしに来たのだ、シロッコ?」

「そう邪険にしなくてもいいでしょう。私とあなたには一つ、利害が共通することがあるのですから」

「利害だと?」

 

 バスクがそう言うと、シロッコは唇をゆがませた。

 

「えぇ。ジャミトフの存在です」

 

 そういわれ、バスクの表情が変わった。それこそが、シロッコの言葉が正しいことの証明であった。

 

「あなたも気づいているのでは? あなたの今までしてきたことは、ジャミトフの意に完全に沿ったものではなく、かえって、彼に危機感を与えるものであったと」

「それでジャミトフ閣下が私を粛正するかもしれんと?」

「えぇ、ありえない話ではないでしょう。だからこそ、私がジャミトフ氏を退場させてあげようというのですよ。悪い話ではないでしょう?」

 

 シロッコの言葉に、バスクは厳しい表情を浮かべた。……その口元はかすかに歪んでいたが。

 

「そのようなことに、私は関与する気はない。やりたければ勝手にやればいい。できればな」

 

 その言葉の意味を察したシロッコも笑みを浮かべた。

 

「えぇ、勝手にやらせていただきます。それでは」

 

 そして去っていくシロッコ。その途中で彼は思う。

 

(ジャミトフ暗殺を黙認し、私に手を汚させ、自分は労せずティターンズの全権を握る気か、バスク・オム。だが残念だったな。ジャミトフの次はお前だ)

 

 その足音を聞きながら、バスクもほくそ笑んでいた。

 

(ジャミトフを暗殺させ、その罪をシロッコに着せて、奴を粛正し、私はジャミトフを暗殺した逆賊をうち、その名声をもって全権を握る。悪くはない。どのみち奴は危険だ。生かしておくわけにはいかないのだからな)

 




ファンアート、引き続き募集中です!

* 次回予告 *

最後の会談が、ジャミトフとシロッコ、ハマーンの間でもたれた。

「遅かったな、ハマーン。わしらを暗殺する算段でもしていたのか?」
「それも考えていたけど、やめたよ。色々あってな」
「ほう……?」

ジャミトフにひそかに会うため、ゼダンの門に潜入するカレル。

そこで彼女は、ジャミトフの死を看取り、あるものを託されることになるのだ。

「持っていくがいい。あの男に一人勝ちされるのは、気に食わんのでな……」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第28話『暗殺劇』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、1/5 12:00の予定です。お楽しみに!


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ゼダンの門編#04『暗殺劇』

 原作において、ゼダンの門でのジャミトフとハマーンとの会談は、周辺宙域に配備されていたアレキサンドリア級の中で行われていたが、この世界では、ゼダンの門の中の一室で行われるそうだ。

 

 というわけで、俺……カレル・ファーレハイトとクワトロ・バジーナ大尉ことシャアは、ハマーンに頼んで、グワダンに乗せてもらって、ゼダンの門までやってきた。……その代わりに、グワダンに泊まれ(そしてミネバの相手をしろ)という条件を飲まされてしまった。もうハマーンの株どころか、シャアの株までも奪いそうな勢いだがいいのだろうか? いやだぞ、俺のクローンが『私の知ってるカレル・ファーレハイトは、あなたのような空っぽの人間ではなかった』と責められるのは。

 

 それはともかく、問題なく、グワダンはゼダンの門まで到着することができた。後は、要塞内部に潜入するだけである。が、そこはエゥーゴがうまくやってくれた。

 

「サラミス級が入港を求めています!」

「識別は!?」

「応答ありません! あっ、加速をかけました!」

「要塞の対空砲で撃ち落とせ!」

 

 たちまち、要塞の対空砲からビームが放たれ、エゥーゴから放たれたサラミスは穴だらけになった。だが、実はかなり補強されたサラミスはそれでは止まらず炎を出しながら宇宙港に突入。白煙を発した。俺たちは、その白煙に紛れて要塞内部に潜入した。

 

「よし、私は弾薬庫に仕掛けてくる。カレル少尉はMS格納庫に仕掛けてくれ。宇宙港で合流しよう」

「了解です」

 

 そしてシャアと別れる。ちょっと急がないとな。史実ではここでの交渉が決裂すると、ハマーンがアクシズをゼダンの門にぶつけることになる。その前にやることをやってしまわないとな。

 

* * * * *

 

 一方そのころ。ゼダンの門の会議室で、ジャミトフとハマーン、そしてシロッコの会談が始まろうとしていた。

 

「遅かったな、ハマーン。わしらを暗殺する算段でもしていたのか?」

「それも考えていたけど、やめたよ。色々あってな」

「ほう……?」

 

 そこでハマーンは、シロッコに視線をうつして、笑みを浮かべた。

 

「むしろ、暗殺はシロッコの領分ではないのか?」

「滅相もない。私は、ジャミトフ閣下に忠誠を誓ってるのでな。血判状を出すほどに」

「ほう……? ずいぶん前時代的だな」

 

 そして三人で席につく。

 

* * * * *

 

 MS格納庫にやってきた俺は驚愕した。そこに、ジ・Oとボリノーク・サマーンがあったからだ。ということは、ここにシロッコが……?

 

 何か不穏なものを感じながら、爆薬を仕掛ける。あえて、ジ・Oとボリノーク・サマーンの近くには仕掛けない。シロッコはどうでもいいが、サラを吹き飛ばしたりしたら、カツに申し訳ないしな。

 

 そして、爆薬を仕掛け終えた。時間を見ると、シャアとの合流時間にはまだ余裕がある。

 

 ……さて、それじゃジャミトフを探しに行くか。

 

* * * * *

 

 そして、ハマーンとジャミトフの交渉は……。

 

「ザビ家の復興は既に約束したはずだ。血判でもほしいのか?」

「ははは! 紙の上に血を乗せたものなど、何の証明になりましょう」

 

 そういうと、ハマーンは立ち上がる。

 

「これで決まったな。アクシズをゼダンの門にぶつける!」

「その前に、お前の命がこれで終わると思わぬのか?」

 

 そういって、ジャミトフが銃を抜こうとしたその時!

 

 会議室を激しい揺れが襲う! カレルとシャアが仕掛けた爆薬が爆発したのだ。

 

 それによる混乱に乗じ、ハマーンは身に着けていたイヤリングを外し、地面にたたきつけた。途端に、イヤリングから煙幕が噴出し、部屋の中を白く染める。

 

「お前の命を奪わなかったことをありがたく思うがいい!」

 

 そう捨て台詞を残し、ハマーンは走り去っていった。

 

* * * * *

 

 俺がジャミトフを探していると、ハマーンの声が階上から聞こえてきて、白い煙が少し流れてきた。

 確か、ハマーンはジャミトフと会談をしていたはず。ということは、ジャミトフはその階に?

 俺はヘルメットのバイザーを降ろして、慎重に階段を昇って行った。

 

* * * * *

 

「グワダンから通信! 『昼と夜は相いれず』です!」

 

 アーガマのブリッジにグワダンからの通信が届く。それは、『交渉決裂。離脱の援護を求む』という意味だ。

 それを聞き、ブライトがうなずく。

 

「よし、ゼダンの門のティターンズに対し、攻撃を仕掛ける! MS隊、発進用意!」

「はい! カツ行くわよ!」

「わかりました。グワダンを助けるのは気が進みませんけどね!」

 

 原作と異なり、そう愚痴りながらも、カツはエマの後を追っていった。

 

* * * * *

 

 俺がその部屋に近づくと、二人の男性の声が聞こえてきた。

 

「ゴホ、ゴホ……ハマーンは……」

「あの女は逃げおおせましたよ。でも、それはもうあなたには関係のないことだ」

 

 そして銃の音。

 

「ジャミトフ閣下、若い女を口説き落とせませんでしたね」

「し、シロッコ、貴様……!」

 

 そしてシロッコがジャミトフに銃を向けたのと、俺が部屋の中に入ってくるのは同時であった。

 

「シロッコ!」

「!!」

 

 俺は、シロッコに思い切って体当たりをする。それを受けて彼はよろけるが、よろけながらも銃が撃たれ、ジャミトフの左胸……心臓の近くに着弾した!

 

「ごふっ……!」

「くっ、邪魔が入るとは。だが、その傷ではもう助かるまい!」

 

 そういって、シロッコは俺をはねのけて走り去っていった。

 それと入れ替わるように、俺はジャミトフの元に駆け寄った。

 

* * * * *

 

「お前は……キリマンジャロで調整されていた強化人間か……」

「はい。今はエゥーゴに参加しています」

「そうか……お前にわしの死と、我が理想の終焉を看取られるとは、因果なものだな……ごふっ……」

 

 そう言うと、ジャミトフは胸から、血にまみれたディスクを差し出した。

 

「さっきのシロッコとのやり取りを録音したものだ。持っていくがいい。あの男に一人勝ちされるのは、気に食わんのでな……」

「ジャミトフ閣下……ありがとうございます」

「しかし……ごふ……我が理想もこれで終わるか……無念じゃ……」

「この戦いを利用して、人口を減らし、地球の環境を回復させようとしたのでしょう?」

「ははは……お前のような娘に……わしの真意を見抜かれるとは……」

 

 そこでまた、ジャミトフは血を吐いた。その顔は真っ青だ。冥府の門をくぐるのは間もなくということだろう。

 しかし、彼も言った通り、ティターンズの部下や側近ではなく、敵である俺が彼の死をみとるとは、なんという運命の皮肉か。

 

「あなたはきっと、戦乱の絶え間ない世界と、自分の年齢とで焦り、逸りすぎたのだと思います。ゆっくりと時間をかければ、そのような手を取らずとも、地球の再生はなったのかもしれませんでしたのに、もしかしたら、このような結末を迎えることも……」

「そう……じゃな……今となっては、もう……遅いが……」

「ですが、あなたの地球を想う心は本物だと思います。少なくとも、あのシロッコよりは」

「ははは……お前に理解されても……うれしくは……ないが……」

 

 そういって、ジャミトフはこと切れた。

 それを見届けると、俺はジャミトフのまぶたをそっと閉じてやり、その場を後にした。

 

* * * * *

 

 そしてその場を離れた俺は、宇宙港でシャアと合流した。

 

「無事だったか、カレル少尉。そのディスクは?」

「ジャミトフが私に託したものです。シロッコに暗殺されて、その死の間際に……」

「そうか……。しかし、あのジャミトフに会ってきて、遺産を託されるとは、君は実はすごい奴なのだな」

「たまたま、ジャミトフを見つけただけですよ。そんな有名人ではありません」

 

 そう言って、ハマーンが宇宙港に置いておいてくれたガルバルディと百式に乗り込む。

 その俺の耳に、シロッコの声が聞こえた。

 

* * * * *

 

「全ティターンズの将兵に告ぐ! ジャミトフ閣下は、ハマーン・カーンに暗殺された!」

 

 シロッコは、ジ・Oから全周波で通信を送る。スピーカーからも。

 

「ジャミトフ閣下は死の間際、私に遺言を下された! ティターンズの指揮権を私に譲ると、そしてアクシズとエゥーゴを叩けと!」

 

 シロッコはほくそ笑みながらさらに続ける。

 

「ティターンズの全将兵よ、ティターンズに敵対するもの全てを叩け! これは閣下の……」

 

 だがそこに。

 

『ゴホ、ゴホ……ハマーンは……』

『あの女は逃げおおせましたよ。でも、それはもうあなたには関係のないことだ』

 

 シロッコの演説を遮るように、そのシロッコとジャミトフの声が戦場に響く。

 

『ジャミトフ閣下、若い女を口説き落とせませんでしたね』

『し、シロッコ、貴様……!』

 

 そして銃声が、衝撃をもって戦場に鳴り響いた。

 




ファンアート募集中です!

* 次回予告 *

ジャミトフの暗殺が招いたのか。それは誰にもわからない。
しかしゼダンの門は、エゥーゴとティターンズの戦いの場と化していた。

―――気を付けて。来ます!!

その戦いの中、カツは、もう少しで手が届いたものが、無慈悲で不条理なものに奪われる様を目の当たりにする。

『カツ、離れて!』
「え?」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第29話『クロス・ファイト(前編)』

刻の涙は、止められるか?

* 次回登場・外伝登場or本作オリジナルMS *
NRX-055N ヒュドラー

※次の更新は、1/8 12:00の予定です。お楽しみに!


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ゼダンの門編#05『クロス・ファイト(前編)』

前から思っていたんですよ。
バウンド・ドック、サイコミュ搭載機だったら、両腕両足を切り離してオールレンジ攻撃できるようにしたらいいんじゃないか、ってw


『ゴホ、ゴホ……ハマーンは……』

『あの女は逃げおおせましたよ。でも、それはもうあなたには関係のないことだ』

 

『ジャミトフ閣下、若い女を口説き落とせませんでしたね』

『し、シロッコ、貴様……!』

 

 突如戦場に流れた音声は、戦場のティターンズに衝撃をもたらした。

 

 果たしてジャミトフはハマーンとシロッコ、どちらに殺されたのか? この音声が正しいのか、シロッコが正しいのか、すっかりわからなくなったからだ。

 

 ゼダンの門から脱出したジ・Oに乗るパプテマス・シロッコは焦りながら、考えを巡らせていた。このままでは、せっかくジャミトフを暗殺して手に入れた覇権が崩れてしまうからだ。

 

 そして。

 

「確かに私は、ジャミトフを暗殺した。だが、それはジャミトフが、アクシズと手を結ぼうとしたからである! そのようなことになれば、連邦はジオンに牛耳られることになり、ティターンズは反地球連邦軍のクーデター分子として粛清される立場に陥るのである! ゆえに私は、ティターンズと連邦を守るために、ジャミトフを暗殺した! このことは、バスク・オム大佐も承知のうえである!!」

 

 この演説に、ドゴス・ギアのバスク・オム大佐は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。確かに黙認したことは確かとはいえ、このことに巻き込まれ、ジャミトフ暗殺犯の片棒を背負わされるのは極めて不本意であった。

 

(シロッコめ、予防線を張りおって……。これでは私も、奴にくみしなければならぬではないか……)

 

 だが、片足とはいえ、シロッコの計画にのってしまった以上、ここで降りるわけにはいかない。バスクも覚悟を決めた。

 

「これより、ティターンズ全軍は、ジャミトフ閣下から、私とパプテマス・シロッコに指揮権が移譲される! 改めて指令を下す! エゥーゴとジオンの残党どもを叩け!! 違反した者は逆賊とみなすと心得よ!!」

 

 シロッコとバスクの対応は、ティターンズの混乱をいくらか収めることには成功した。だが、「いくらか」であった。

 

 何しろ、シロッコの主張通り、ジャミトフがアクシズと手を結ぼうとしたのかどうかは、ティターンズの将兵たちにとっては闇の中なのである。彼らにわかるのは、『ジャミトフがハマーンとの交渉を行った』ことだけであり、それが『アクシズを降伏させるため』なのか、シロッコの言う通り、『アクシズと手を結ぶため』なのかは全くわからない。

 その一方で、『シロッコがジャミトフを暗殺した』ことと、『シロッコが嘘をついた』ことは厳然たる事実としてそこにある。

 

 彼らがこのままシロッコやバスクにつくべきか、それとも彼らの指揮下から離脱するべきか、どの道を往くべきか、ティターンズの将兵たちがみな、選択に迷っていたのも無理はあるまい。

 

 それでも、大半のティターンズ将兵は、シロッコの言うことを信じたり、シロッコの才覚に賭けたり、バスクの脅迫に負けるなどしてそのままシロッコとバスクの指揮下に入った。

 

 だがその一方で、彼らの下につくことを良しとせず、離脱するものもいた。

 

 T3(Titans Test Team)部隊の、アスワン艦長、オットー・ぺデルセンである。

 

「ジャミトフ閣下を暗殺したシロッコ、そしてそれを認めたバスク・オム。彼らが頂点に立ったことで、ティターンズは我らが知るものとは別のものとなったと考えざるを得ない。私たちはそのような組織に所属し続けることはできない! よって、現時点をもって、我らは現首脳陣の指揮下から離れ、この宙域を離脱するものとする!」

 

 また、コロニー・レーザーの戦いでの失態から、アレキサンドリア艦長から解任され、暴行と罵詈雑言を受けたうえでサラミス級アンティグア艦長に左遷されていたガディ・キンゼーも。

 

「今まであいつらの下で働いてきたが、もう限界だ! わが艦も、アスワンに同調し、この空域を離脱する!」

 

 その後も、いくらかのティターンズ艦が離反。結局、全体の3割の戦力が離脱していったのである。

 

* * * * *

 

「うぬぬ……奴らめ! ティターンズの誇りはどこへ行ったか!!」

 

 ドゴス・ギアの艦橋にて、バスク・オムは手すりに拳を叩きつけながら叫んだ。

 ブリッジクルーはみな、「それをお前が言うか」と思っていたが、口には出さなかった。

 

「まぁいい。奴らが離脱したからといっても、いまだ戦力はこちらのほうが有利だ。あの反乱分子どもは、奴が処分してくれるしな!! MS隊、出ろ!」

 

 そのバスクの指示をきっかけに、残ったティターンズの艦からMSが発艦していく。

 

* * * * *

 

「ブライト艦長、ティターンズ艦からMS隊が次々発艦、こちらに向かってきます!」

 

 アーガマのオペレーター、トーレスがブライトにそう報告する。

 

 さらに通信オペレーターのフォウが、グワダンからの通信を報告する。

 

「グワダンから通信。これから30分後に、アクシズがゼダンの門に衝突する予定。注意されたし、とのことです!」

 

 それを聞いたブライトはうなずいて指示を出した。

 

「アクシズで物理的にゼダンの門を潰すとは、なかなか思い切った手をとったな。ということは、それまで持ちこたえれば、ゼダンの門を落とすというこちらの目的は達成できるわけだ。全艦、攻勢を強化。ティターンズの艦隊をここにくぎ付けにするんだ!」

「了解!」

 

* * * * *

 

 俺……カレル・ファーレハイトがゼダンの門から脱出すると、エゥーゴ艦隊はもうゼダンの門の空域まで接近していた。これぞ渡りに船。ガルバルディγのままで、ヤザン隊やジェリドに勝てるとは思えないからな。

 

 俺はボスニアに接近したところで通信を入れた。

 

「整備長、ディフェンサーの射出をお願いします!」

『おう! しっかり受け取れよ!』

 

 ほどなく、Gディフェンサーが射出された。俺はガルバルディを操って位置を合わせてドッキングした。

 

 すかさず、ロングライフルを構えて、接近していたハイザックの頭部を撃ち抜いた。

 

―――気を付けて。来ます!!

 

 『カレル』の声。顔を上げると、向こうのほうからヤザン隊のハンブラビが向かってくるのが見えた。

 

 中央のハンブラビがビームを発射してくる。 俺はそれを交わすと、遠くに確認できたドゴス・ギアへと向かう。

 

『ドゴス・ギアをやるつもりか。いかせるかよ!』

 

 ハンブラビたちは一度MS形態に変形し、それで急制動をかけると、方向転換してMA形態に変形。こちらを追撃してきた。

 幸いながらに、奴らは、俺が置いてきたクレイバズーカには気が付いていないようだ。

 

 遠隔操作でクレイバズーカを発射! 見事、ハンブラビの一機、その背中にバズーカを直撃させることに成功した!

 そして向きなおり、すかさず、態勢を崩したそのハンブラビにロングライフルを発射! コクピットを撃ち抜いた!

 

『うわあーーー!!』

『ダンケル!!』

 

 済まないが、ヤザン隊相手では、不殺をしていられる余裕がない。殺る気全開でいかせてもらう!

 

『よくもダンケルを!!』

 

 もう1機のハンブラビが変幻自在の機動で突っ込んできた。

 俺は、右の背部マインレイヤーから爆雷を連続発射する。

 ハンブラビは爆雷の爆発をかいくぐりながら接近してくる。俺はそこに、腰のワイヤーアンカーを射出した。

 

『そんなもので!』

 

 当然、ハンブラビはアンカーを軽くかわすが、それも想定のうちだ。俺はガルバルディディフェンサーに回避運動をさせながら、ワイヤーアンカーを巻き戻した。

 

『何!?』

 

 巻き戻したアンカーは、位置の関係からハンブラビの背部に引っかかった。それでハンブラビは態勢を崩す。

 さらに強く巻き戻す。どんどん食い込んでいったアンカーは、ついにはハンブラビの右腕ごと、機体の一部をえぐり取った!!

 

 それでも向かってくるハンブラビ。俺はそのビームをかわしながら、狙いを定めてグレネードランチャーを発射し、直撃させた!

 それがとどめになったらしい。ハンブラビは制御不能になりランダムな軌道で飛び回った。そして、脱出ポッドが射出された直後、小惑星に激突して爆散した。

 

『ラムサスまでやるとはな! だが俺に勝てると思うな!』

 

 そういって、ヤザンのハンブラビが向かってきた。

 あとは奴のみ。俺は、スティックを握りしめながら、正面を見据えた。

 

* * * * *

 

 ゼダンの門の空域外縁部。アレキサンドリア級アスワン、サラミス級アンティグアを先頭に、宙域を離脱していくティターンズ艦隊の一部。

 その一隻のサラミス級が突然、ビームを浴びて轟沈した。

 

 そのビームの先にいたのは、巨大なスカート状の下半身を持つMS。

 NRX-055・バウンドドッグの改良型、NRX-055N・ヒュドラーである。

 

 そのコクピットの中の男、ルブラ・フェーゴは下卑た笑みを浮かべて言った。

 

「へっへっへっ、エゥーゴを目の前にして敵前逃亡したんだ。沈められても文句は言えないよなぁ~?」

 

 と、そこに。

 

『貴様、何のつもりだ!』

 

 ジェリドのバイアランが接近してくる。それを前にしてもルブラの笑みは消えることはなかった。

 

「エリートの坊ちゃんじゃねぇか。迷子になってきたのかよぉ? ぐへへ……」

『なんで離反したとはいえ、元友軍に攻撃を仕掛けたと聞いている!』

 

 憤懣やるかたないと言った口調のジェリド。いくらティターンズの流儀に染まっていた彼とはいえ、味方討ちを平然と行うルブラのやり方は、目に余るものだったのである。

 

「バスクの旦那に言われたんだよ。敵前逃亡する奴らをかたっぱしから始末しろってなぁ……! そうか、あんたもあいつらと同じか。なら始末しないとなぁ……」

『!!』

 

 そしてヒュドラーはバイアランに襲い掛かった! 右腕のクロービーム砲から放たれたビームをかわすバイアラン。

 

『ティターンズの理念を汚す奴を許すわけにはいかん!!』

「ある奴が言ってたぜ? 弱い奴ほど、理想を良く叫ぶってなぁ!」

『貴様!!』

 

 バイアランが両腕のビーム砲を発射する。ヒュドラーはそれをかわすと、両足を切り離した。切り離された両足は有線クローアームとして、バイアランに襲い掛かる!

 

 必死にそれをかわしていくジェリドだったが、ついにはかわしきれずに、クローアームにつかまってしまう。

 

「やっぱり、あいつの言う通りだったなぁ? さぁ、じっくりいたぶってやるよ!」

 

 そう言うとルブラは、まずはクローアームで両腕を引きちぎる。さらにクロービーム砲でバイアランの頭部を吹き飛ばす。

 

『くっ……。俺はここまでなのか。この外道一人倒すこともできんまま……すまん、マウアー……、カクリコン……!』

 

 と、そこに。

 

『ルブラ!!』

 

 カミーユのZガンダムが援軍に駆け付けてきた!

 

* * * * *

 

 一方、別の宙域でメタスに乗って戦うカツは、ゼダンの門から脱出してきたジ・Oとボリノーク・サマーンを発見した。

 

「あれはもしかして……サラ!!」

 

 確信を持ちながらビームを発射しながら二機に接近するカツ。その確信は正しかったようだ。

 

『カツ!』

 

 サラも、右腕に装備されたシールドのビームガンを発射しながら突っ込んでくる。

 

「カレルさんも言ってただろ! まだ、シロッコの人形に成り下がっているつもりなのか!?」

『ごめんなさい、カツ! やっぱり私は、パプテマス様のしもべとしか生きられない!』

「それなら、僕の力で、力づくで君を奪い取らせてもらう!!」

『サラは渡さん!!』

 

 カツのメタスがボリノーク・サマーンに接近しようとするが、それを遮るようにジ・Oがビームライフルを連射してくる。

 なんとかそれを回避するが、ジ・Oの攻撃が激しく、なかなかボリノーク・サマーンに近づけない。

 

「くっ……僕はサラを捕まえなきゃならないのに……! 百式?」

『カツ! 大丈夫か?』

 

 そこにクワトロの百式が援護に駆け付けてきてくれた。

 

「はい。大尉、ジ・Oをお願いします。僕はもう一機をやります!」

『了解した。気をつけろよ』

 

 そして再び戦闘を再開する。クワトロの百式がシロッコのジ・Oと戦う中、カツのメタスは、サラのボリノーク・サマーンに敢然と立ち向かう。

 

『いつの間に、これだけの力を……!?』

「君を! 君をシロッコから救いたかったから! そのために力を磨いてきたんだ!」

 

 そのカツの言葉に、サラの心が動く。

 彼の言う通り、彼の実力は、前にサイド2で戦った時から、さらに上がっていた。カレルの言葉を受けて、サラをシロッコから助けることができるだけの力を身に着けるべく、訓練に励んだ結果である。

 

 今やカツの実力は、サラになんとか食い下がれるほどにまで上がっていた。

 

 彼の言葉を裏付けるかのようなその実力に、サラの心が揺れ動いていく。

 そして、そんな揺れ動いていたサラの実力に、カツの実力が届くときがきた!

 

 ボリノーク・サマーンがビームガンを撃った。カツはとっさに回避。そしてその隙をついて突撃!

 

「僕も、カレルさんのように……!」

 

 そして左腕でビームサーベルを抜いて切りつける。狙いは、ボリノーク・サマーンの右腕の関節部。ボリノーク・サマーンの下に回り込み、切り上げるようにしてビームサーベルを振り上げ、右腕を斬り落とすことに成功した! カツのメタスはそのまますれ違う。

 反撃にと、ボリノーク・サマーンが肩のグレネードを発射する! カツはそれをバルカンで迎撃。撃ち落としきれなかった分は、バーニアを全開にして振り切る。

 そしてグレネードを全て振り切ったところで、さらにボリノーク・サマーンに突撃!!

 

「サラーーーー!!」

 

 ビームサーベルを再び構えて突撃するメタス。ボリノーク・サマーンも、左手でビームサーベルを構えて迎え撃つ構えだ。

 そして二本のビームサーベルが交差する。

 

 果たして。

 

 勝ったのは、カツだった。

 一瞬早く、メタスのビームサーベルは、ボリノーク・サマーンの左腕を斬り落としたのである。

 

『カツ……あなたがそこまで強くなるなんて……』

「君のためだ。君をこの手に取り戻すため、僕はここまで強くなったんだ。さぁ、一緒に行こう、サラ」

『カツ……』

 

 だがそこで!

 

『カツ、離れて!』

「え?」

 

 ボリノーク・サマーンがメタスを蹴り飛ばす。そして次の瞬間、そのサラの機体を背後からのビームが貫いたのだ。

 百式を蹴り飛ばしたジ・Oが、背後からボリノーク・サマーンを撃ったのである。

 ボリノーク・サマーンとメタスの位置関係からして、もしサラがメタスを蹴り飛ばしていなければ、カツの機体も、サラのボリノーク・サマーンごと貫かれていただろう。

 

「さ、サラ……」

 

 そしてボリノーク・サマーンは爆散した。

 

* * * * *

 

 Gディフェンサーの左側背部マインレイヤーから爆雷を発射する。

 さすがヤザンというべきか。ハンブラビはその爆雷の爆発をかわしながら、こっちに接近しつつビームを放ってくる。

 

 俺はそれをかわしながらクレイバズーカを左腕に構える。だが、発射する前に、ハンブラビが襲い掛かり、その爪がガルバルディの手からクレイバズーカを奪い取る。

 

「くっ……!」

 

 これで残ったトリック装備は、右腕のグレネードと、左腕の煙幕弾、両腰のワイヤーアンカーのみ。かなり厳しい状態だ。

 ……二機を倒すのに使いすぎたな……。

 とりあえず、ロングライフルを構えて発射する。当然というかのように、ハンブラビはそれを回避した。

 

 その時だ。

 

―――さ、サラ……

―――サラーーーーーー!!

 

 カツの悲鳴と、サラらしき者の死の波動のようなものが、頭をよぎった。

 

「カツ!?」

 

 それが隙になったようだ。

 

『どこを見ている!』

「うあっ!」

 

 いつの間にか背後に回り込んでいたハンブラビのビームが背中に着弾し、ドッキングしていたディフェンサーが破壊された!

 




ただいま、ファンアート募集中です!

* 次回予告 *

シロッコの傲慢に憤るカツ。

『生の感情丸出しで戦う者に、私は倒せん!!』
「何を!」

ルブラの非道からジェリドを守るために戦うカミーユ。

『カミーユ! なんで助けに来た?』
「なぶり殺しにされてる奴を、助けないわけにいくかよ!」

ゼダンの門を舞台に、いくつもの戦いの花が咲いていく。
そしてカレルは……。

―――カレル、精神を済ませて、ヤザンがどこから来るか感知してくれ。
―――は、はい!

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第30話『クロス・ファイト(後編)』

刻の涙は、止められるか?

[今回登場新MS]
NRX-055N
ヒュドラー

オリキャラ『ルブラ・フェーゴ』の乗機。
バウンド・ドックの改良機で、いわば実戦仕様というべき機体。
サイコミュ兵器がほとんどない原型機に対して、こちらは両腕がサイコミュ制御の有線クロービーム砲、両足が有線クローアームとなっており、疑似オールレンジ攻撃が可能である。
ただ、その形態上、MA形態になると有線クロービーム砲が使えなくなり、射撃武装が腰両脇のビーム砲しか使えなくなるのが欠点。

※次の更新は、1/11 12:00の予定です。


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ゼダンの門編#06『クロス・ファイト(後編)』

ブリッジクルー姿のフォウのファンアートを書いてくれる人、募集中
と言ってみますww


 非情さ、冷徹さをまとい、百式とメタスの前に立ちはだかるシロッコのジ・O。

 

『くくく……、私のものにならない女性など、存在する価値はないのだよ!』

「き、貴様ーーーー!!」

 

 シロッコの非情な言葉に激昂したカツが、メタスを駆り、ジ・Oに襲い掛かった。

 だがシロッコは涼しい顔で、ジ・Oを駆り、鋭い機動でメタスの攻撃をかわし続けた。

 

「サラの命をなんだと思っているんだ!?」

『私の所有物、それだけでは不満か?』

「貴様!!」

 

 それでも食いついたメタスが、ビームサーベルでジ・Oに切りかかる! ジ・Oは左手でビームサーベルを抜いてそれを受け止めた。

 

『生の感情丸出しで戦う者に、私は倒せん!!』

「何を!」

 

 だが! シロッコの言葉を裏付けるように、ジ・Oの隠し腕がビームソードで、メタスの胴体を薙ぎ払い、上半身と下半身を分断した!

 

「うわぁ!」

『カツ! 無茶はするな!』

「!」

 

 クワトロが、百式のビームライフルで、カツに追い打ちをかけようとするジ・Oを射撃する。それをかわすジ・O。

 そして、上半身のみとなったメタスにビームライフルでとどめを刺そうとしたその時。

 

『!?』

―――カツをやらせはしません、例えパプテマス様でも!!

 

 彼の眼に、メタスをかばうサラの姿が見えた。

 

『くっ……!』

 

 シロッコのジ・Oは、それ以上の戦闘を断念し、ジュピトリスへと撤退していくのだった。

 

* * * * *

 

 Zガンダムが放ったビームライフルを、ルブラのヒュドラーは軽くかわす。

 

『カミーユ! なんで助けに来た?』

「なぶり殺しにされてる奴を、助けないわけにいくかよ!」

『くくく、ガンダムの坊やじゃねぇか。坊や同士、おっぱいを呑みに来たのかい? へへへ……」

「ほざくなよ、無抵抗の者を殺すしか能のないクズが!」

『言ってくれるじゃねぇか!』

 

 そうルブラが吠え、彼のヒュドラーが襲い掛かってくる。そのクローの一撃をZにかわされると、ルブラはヒュドラーの両腕両足を切り離した!

 

『気をつけろ、カミーユ! 奴はオールレンジもできる!』

「なんだって!? 奴め、強化されたのか!」

『ほらほら、しゃべっている暇はねぇぜー?』

 

 両腕の有線クロービーム砲と、両足の有線クローアームとで、変幻自在のオールレンジ攻撃をZガンダムに浴びせるルブラ。しかし、その動きの違和感を、カミーユは既に感じていた。

 

(Zを、本気で仕留めようとしている動きに見えない……。俺をいたぶっているつもりなのか。なら、それに付けいる隙があるかもしれない……!)

 

 カミーユはZをウェイブライダーに変形させて、ヒュドラーに突撃させた。時には変形し、横から放たれる有線クロービーム砲のビームをかわしながら、ただ直線的にルブラ機に迫る!

 

『ちぃ、戻ってこい! お前ら!』

「とらえた!」

『ひぃ!』

 

 そしてついに、カミーユのZは、ヒュドラーの目前までやってきた! そこでMSに変形し、ビームサーベルで切りかかる!

 死の恐怖におびえながらも、とっさにそれを回避できたのは、さすがというべきであろう。

 とはいえ、完全にかわし切ることはできず、ヒュドラーは左肩ごと左腕を切断されてしまった。

 

『ち、ちきしょう、覚えてやがれ!!』

 

 ルブラはヒュドラーをMA形態に変形して飛び去って行った。それを横目に見ながら、カミーユはZを、中破したバイアランへと向けたのであった。

 

* * * * *

 

「ば、バスク大佐! アクシズがゼダンの門に接近しています!」

「なに!?」

 

 アクシズがゼダンの門への直進コースをとっているとの報告は、この時やっとドゴス・ギアのバスクの元へと届いた。

 

「なぜ今まで気が付かなかったのだ!?」

「ミノフスキー粒子の濃度が濃く……それに、今まで前方のエゥーゴとアクシズに集中していたので……」

「言い訳はいい! とにかく回避運動用意! 同時に撤退の準備を進めろ!」

「り、了解!」

 

* * * * *

 

 一方、アーガマのほうでも。

 

「アクシズ、もうすぐ、ゼダンの門に衝突します!」

 

 トーレスの報告に、ブライトがすぐに指示を出す!

 

「全艦隊後退! MS部隊に撤退信号を出せ! ゼダンの門の破片が来るぞ!!」

「了解です!」

 

 ブライトの指示を受けたフォウがこたえる。

 

* * * * *

 

 俺……カレル・ファーレハイトはハンブラビの攻撃でGディフェンサーを失った。

 もっとも、Gディフェンサーと合体していなければ、ガルバルディを撃ち抜かれていただろうが……。

 

「くっ……!」

 

 幸いながらも、ロングライフルは残っている。俺は振り向きざまにロングライフルを発射する。それは、海ヘビを投射しようとしていたハンブラビの左腕を吹き飛ばした。

 

『やるな!』

 

 ハンブラビは再びMA形態に変形。変幻自在の機動で迫る。こちらのロングライフルをかわしつつ迫り、クロウでこちらの右肩を大きくえぐる! 爆発し、ガルバルディγの右腕が吹き飛んだ。

 

「あうっ……!」

 

 爆発の衝撃で、激しくコクピットが揺さぶられる。ついでに、ちょっと身体を打ち付けてしまった。

 痛みで、かすかに涙でにじんだ眼に、こちらに向かってくるハンブラビの姿が見えた。

 

『これで終わりだ、女!!』

「!!」

 

 その時だ。

 ゼダンの門の方向から、多数の岩塊で流れてきたのだ。

 

 それは、俺とハンブラビの間を遮るように、たくさん飛んでくる。

 

* * * * *

 

 その少し前、いよいよアクシズとゼダンの門が衝突しようとしていた。

 

 バスクは声を振り上げて命令を下す。

 

「敵の接近になどかまうな! 対空砲火しながら、この宙域から撤退しろ、急げ!」

 

 一方のブライトも。

 

「ここまで来たら、ティターンズの艦隊にはかまうな! 岩塊にだけ気をつけろ! フォウ、アクシズ艦隊は?」

「はい。既に大半の艦がこの宙域を離脱したそうです。グワダンも無事に離脱したとのこと!」

 

 そして、ついにアクシズがゼダンの門に衝突した!

 

 傘の部分とその下部とのつなぎ口に衝突したアクシズは、嫌な音と、ゼダンの門の岩塊をまき散らしながら慣性により、さらに前進。

 

 ティターンズの艦隊も多くの艦は無事に離脱したが、それでも少なくない艦が飛んでくる岩塊の餌食になった。

 

 ある艦はブリッジに岩塊の直撃をもらい、またある艦は艦より大きな岩塊に衝突され、またある艦は、回避しようとして別の艦と衝突した。

 

* * * * *

 

 これでとりあえず助かったが、まだ終わりではない。ヤザンは俺を仕留めるのをあきらめず、攻撃のチャンスを狙っているはずだ。

 

―――カレル、精神を澄ませて、ヤザンがどこから来るか感知してくれ。

―――は、はい!

 

 俺は、岩塊を回避しながら、ヤザンがどこから来るか、それの発見を『カレル』に任せた。これに全てがかかっている。

 そして。

 

―――来ます、下!

 

「!!」

 

 『カレル』の言う通り、ガルバルディγの下のほうからハンブラビが突っ込んできた!

 

 ハンブラビがビームを撃つ! それを回避し、左腕の煙幕弾を発射し、少し遅れて左腰のワイヤーアンカーを射出する!

 煙幕があたりを包み込む。その煙幕からハンブラビが現れるが、そこにワイヤーアンカーが襲い掛かった!

 ハンブラビは間一髪、ワイヤーアンカーをかわすが、かわしきることができず、右のビームガンを吹き飛ばされる! だが、ハンブラビはまだ闘志を納めることなく、左のビームガンを発射! そのビームで、頭部を吹き飛ばされた!

 

 メインカメラを失い、乱れる画面の中、ハンブラビがさらに突っ込んでくる! そしてビームサーベルを振りかざす!

 

「!!」

 

 俺は右腰のワイヤーアンカーを射出! 至近距離からのアンカーの直撃を喰らい、ハンブラビは大きくのけぞる。続いて、左腕でビームサーベルを抜き、ハンブラビの機体に押し付け、ビームを発振させた。サーベルを形成するビームは、ハンブラビの装甲を一瞬で溶解し、その頭部を貫いた!

 そして、ハンブラビの左腕をつかみ、こちらの左腕のリミッターを解除してへし折る。当然、こちらの左腕もパワーに耐え切れず自壊してしまったが。とどめに機体を蹴り飛ばしてやった。

 

 吹き飛んだハンブラビに岩塊が迫る!

 そのハンブラビから脱出ポッドが射出された次の瞬間、機体は岩塊に衝突して爆散したのだった。

 

* * * * *

 

「ふぅ……」

 

 ため息をつく。なんとかヤザンに勝ったか……。奴自身は生きてるので、また別のMSに乗り換えて出てくるだろうが、とりあえずここでの戦いは俺の勝ちになってよかった。まさにギリギリの勝利だったが。

 

 コンソールを操作し、ガルバルディγの損傷状況を呼び出す。

 その結果、まさに満身創痍という感じだったが、爆散につながるような損傷は出ていないようだ。不幸中の幸い。こんな岩塊がたくさん飛んでいる中、外に出るのは危険だしな。今は誰かが駆け付けるまで、この中にいるのが安全だろう。

 

 そして、シートに深く腰掛ける。かなりギリギリの戦いだったせいか、かなり疲れた。

 もう一度深くため息をついて眼を閉じる。

 

―――ありがとな、カレル。またお前に助けられたな。

―――いえ、私のしたことなんてささいなことです。礼を言われることはありません。……さんこそ、お疲れさまでした。

―――あぁ、ありがとう。

 

 再び目を開く。

 その俺の目に、こちらに接近してくるZガンダムと百式の姿が見えた。

 

* * * * *

 

 かくして、ティターンズの宇宙での重要拠点の一つ、ゼダンの門は陥落した。

 だが、戦況はまだ予断を許さない。バスクたちに反抗する勢力が離脱し、ゼダンの門を失ったとはいえ、その戦力はまだ、エゥーゴとアクシズ両軍よりも多い。

 対策を打たないと、態勢を立て直したティターンズに敗北してしまうだろう。

 

 まぁ、それを考えるのは、俺ではなく、上層部の仕事だが。

 

 そう思いながら外を見ている俺の目に、会話を交わすカミーユとカツの姿が映った。

 その会話も聞こえてくる。

 

「カミーユ……悔しいですけど、今の僕ではシロッコには勝てそうにありません。カミーユに託すしかないんです。お願いします、サラの仇を……シロッコとの決着をつけてください」

「カツ……わかった。シロッコは俺が必ず倒すよ」

 

 その会話を聞きながら、俺は独房に向かった。その中にいるのは……。

 

「気分はどう? ジェリド」

「カレルか……。お前とこんなところで再会することになるとはな」

 

 そう、俺の元同僚ジェリド・メサだった。俺が連邦軍に移籍してから色々あって以来、音信不通になっていたけど、こうしてまた、生きて再会できて何よりだ。彼を助けてくれたカミーユ君に感謝だな。

 

「それでお願いがあるの」

「俺にエゥーゴに入ってくれってか? しかしだな……」

「君もわかってるでしょ? 今のティターンズは、私がいた頃とは違う組織になり果てたって。なら、それに引導を渡すのが、元ティターンズだった私たちのやるべきことじゃない?」

「う……確かにそうだが、気持ちは割り切れるものじゃない。俺はカミーユに、カクリコンとマウアーを殺されたんだぞ」

「それを言うなら私だって、カミーユ君に、恩師で姉代わりだったライラさんを殺されてる。でもこれは戦いなんだもの。割り切らなくちゃしょうがないじゃない。『復讐して殺された人が喜ぶものか』って言う気はないけどね」

「……」

「私たちにできることは、彼らの死を無駄にしないために、悲劇の種をばらまくティターンズを倒し、この戦いを終わらせることだと思うんだけど?」

 

 そこで俺はジェリドに対して頭を下げた。

 

「お、おい?」

「お願い。私たちに力を貸してください」

「や、やめろって。ったく、お前だったら土下座までしかねん……」

「私が土下座をすることで、君が力を貸してくれるなら、いくらでも土下座をするよ。必要だったら命もあげる。この戦いが終わってからだけど」

「お前にそこまでさせるわけにはいかんだろ……。わかった、協力するよ。だが言っておく。カミーユへの恨みを捨てたわけじゃないからな。この戦いが終わったら、何等かの決着をつけさせてもらう」

「それでいいよ。できれば殺し合い以外の形で決着がついてほしいけどね。それと」

「なんだよ?」

「君のその言い方、ツンデレっていうんだよ」

「う、うるさいなっ」

 

 そんな人間模様を乗せたまま、アーガマを始めとしたエゥーゴ艦隊は粛々とゼダンの門空域を後にするのだった。

 




ただいま、ファンアート募集中です!

* 次回予告 *

エゥーゴはコロニー・レーザーを使った作戦で、いまだ優位に立つティターンズに逆転しようとした。
その作戦のため、離脱したティターンズ部隊の力を借りる交渉のため、姿を現した男とは……。

「私を覚えててくれたのかね。今はただの少将だよ」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第31話『 』

刻の涙は、止められるか?

[次回登場予定新MS・外伝登場MS]
MS-14JP
サ・リゲル

MSN-100/Z
千式(百式決戦仕様)

PMS-001
ノーネーム

※今回はサブタイトルがネタバレになっちゃいますので、サブタイトルは隠させていただきます。
※次の更新は、1/14 12:00の予定です。


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終章#01『ジョン・コーウェン』

さぁ、いよいよ終章、グリプス2決戦ですぞ!


 ゼダンの門での戦いを終え、再編中のエゥーゴ艦隊。

 その旗艦アーガマでは、今後の戦略に関する会議が開かれていた。

 

「コロニー・レーザーにティターンズ艦隊を引き込み、レーザーで一気にせん滅する……か。確かに成功すれば一気に勝利をつかむことができるが……」

 

 とアーガマ艦長、ブライト。

 それを聞き、クワトロ・バジーナ大尉ことシャアもうなずく。

 

「わかっている艦長。ハマーンからコロニー・レーザーを譲り受ける必要があるし、それがうまくいっても、発射準備が整うまで持ちこたえることができるかどうかも問題だ。でも勝つにはこの手しかない」

「それはわかっている。だが実質問題、ティターンズとエゥーゴ艦隊の戦力差は絶望的だ。これを埋め合わせることができなければ、作戦は机上の空論に成り下がってしまう。大尉には、何か腹案があるのか?」

「あぁ。バスクやシロッコから離脱したティターンズの良識派の力を借りようと思う」

「奴らの力を?」

 

 シャアが言う良識派とは、ティターンズ前総帥ジャミトフ・ハイマンが暗殺された後、バスクたちの指揮下に入るのを良しとせずに主力から離脱した、T3部隊をはじめとする艦隊のことだ。彼らは今、かつてデラーズ・フリートが拠点にしていたという暗礁地帯、茨の園に潜伏しているという。

 

「彼らの力を借りれば、なんとか持ちこたえることはできるだろう。それでもギリギリの線だがな。だが、我々だけで戦うよりははるかにマシだ。ハマーンの元へは、私とカレル少尉が行こう」

「へ?」

 

 クワトロ大尉ことシャアの言葉に、ただ仏像のように会話を聞いていた俺……カレル・ファーレハイトは思わず、間抜けな声を出してしまった。いや、なんで俺も? 俺はただの少尉なんだけど。

 

「ハマーンはどうやら、少尉にご執心のようだからな」

 

 と、シャアが意地悪な笑みの形に唇をゆがめた。……え、シャア。もしかして俺がハマーンとミネバに気に入られてるのに嫉妬してるんディスカ!?

 まぁ、それは置いといて……。

 

「わかりました。私で役に立つかわかりませんが」

「決まりだな」

「だが、もう片方の良識派との交渉のほうはどうする? 信望があり、良識的で反ティターンズというかなり厳しい条件の交渉人が必要となるが、エゥーゴにそんな者は……」

 

 確かにその通りだ。ブレックス准将は既にこの世にはいないし、シャアは俺と一緒にグワダンへ行く。ブライトさんは(失礼だが)良識派との交渉にあたるには役不足だし……。

 だが、シャアは会心の笑みを浮かべた。

 

「それについては心配ない。事前に目星をつけ、レコア少尉に見つけてきてもらっている……来たようだ」

 

 そのシャアの言葉とともに、レコアさんと共に、ブリッジに入ってきたのは……。

 

「こ、コーウェン中将!?」

 

 コーウェンと言っても、某スーパーロボに出てくる人類やめた化け物のことではない。

 何はともあれ、俺はこの戦いとは無関係と思っていたかの人が入ってくるのを見て、思わず声を出して驚いてしまった。

 

 連邦軍の軍服を着た、褐色の肌を持つ武骨そうな軍人。

 ジョン・コーウェン中将。

 

* * * * *

 

 ジョン・コーウェン中将は、今から約4年前。ガンダム0083に登場した人だ。

 『ガンダム開発計画』を主導し、機動性と運動性重視の1号機、核装備というとんでもない機体の2号機、そしてオーバーテクノロジーな化け物機体の3号機の開発に関わった人だ。

 だが、ジャミトフとの政争に敗北、デラーズ紛争の責任を取らされる形で左遷、フェードアウトしていった。

 

 その後は語られなかったから、もしかして死んだのかと思っていたが、まさか生きていたとは。

 

「私を知っていてくれたのか。今はただの少将だよ」

 

 そういうコーウェン中将改め少将に、ブライトさんも困惑しているようだった。

 その彼と俺、そして他の面々に、レコアさんが説明する。

 

「コーウェン少将は左遷された後、サイド5の基地司令になっていたそうです。それを探し当てたあと、コンタクトを取りまして……」

「そういうわけだ。私自身、ジャミトフには煮え湯を飲まされたし、奴らの暴虐は目に余る。微力であるが、私でよければ力になろう」

 

 彼はそう言うが、これはかなりの助けになる。何しろ、彼は中将当時は連邦軍の改革派に属する人なのだ。彼がこちらについてくれれば、良識派との交渉もさることながら、エゥーゴがティターンズに勝利した後、連邦軍と統合してからも、明るい未来が開ける感じがする。

 

 なんとか立ち直ったブライトさんが口を開いた。

 

「これでなんとかなりそうだな。コーウェン少将には、ボスニアと共に、茨の園に向かい、ティターンズの良識派と交渉をしてきてもらいます。よろしくお願いします」

「了解した」

「クワトロ大尉は、カレル少尉とともにグワダンへ向かい、コロニー・レーザーを譲り受ける交渉をよろしく頼む」

 

 その言葉に、シャアと俺がうなずく。

 

「わかった。心配はないだろう。ハマーンの意中の相手がここにいるからな」

「だから大尉、やめてください。そんなんじゃありませんって」

 

* * * * *

 

 そして俺たちは、行動を開始した。

 コーウェン少将は、ボスニアに乗り、茨の園へ。そして俺たちは、百式とメタスに乗って、グワダンへ。ちなみに俺は、レコアさんが操縦するメタスに乗せてもらった。今まで乗っていたガルバルディは大破してしまったしな。

 

 その途中、レコアさんが言う。

 

「本当にあなたって、相変わらずミステリアスな魅力の持ち主なのね。私だけでなく、ハマーン・カーンにまで気に入られるなんて」

「レコアさんもよしてください。私はそんなミステリアスな人間じゃありませんよ。買いかぶりです」

 

 特別扱いされるのは、本当に勘弁してほしい。俺は自分ではただのガンオタ男子高校生転生者だと思っているんだから。まぁ、グリプス戦役どころか、1年戦争からはるか未来のリギルド・センチュリーまで宇宙世紀世界の歴史を知っている時点で普通ではないんだけれども。

 

「ううん、魅力的な人よ、あなたは。改めて考えてわかったことがある。あなたの魅力の源は、先に待つ悲劇を回避しようと頑張る、そのひたむきさじゃないかしら」

「……」

「そのひたむきさが魅力へとつながって、私やハマーン・カーン、いいえ、それだけじゃなく、他の人を惹きつけるんでしょうね。ふふふ、私も多くの人と接してきたけど、あなたのような人ははじめてだわ」

「はぁ……」

 

 と、そこでレコアさんがいたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

「ねぇ、もしこの戦いが終わったら、一緒に放浪の旅なんてやらない?」

「前向きに善処します。ですが、もし途中でそっけなくなっても、恨まないでくださいね」

 

 原作みたいに、俺の態度が原因で、敵に寝返るのは勘弁してほしい。

 

「ふふ、大丈夫よ。そうなったら、あなたが嫌でも離してあげないから。まぁ、この先どうなるかはわからないけど……あ、グワダンが見えてきたわね」

 

* * * * *

 

 そしてグワダンの謁見室で、俺とシャアはハマーンと会談していた。ちなみにミネバはお休み中とのことでここにはいない。

 

「なるほど。コロニー・レーザーを譲ってほしいというのか。よかろう、条件はそちらと詰めてのことになるが、譲ることは承知した」

「そうか、感謝する。ハマーン」

「いや。だが、それはそれとして……シャア」

 

 そういうと、ハマーンはシャアに対して頭を下げた。

 

「!?」

「お前の期待を裏切ってしまってすまなかった。私は、自分の『ザビ家を見返したい』という望みにあらがえず、ミネバ様をあのように育ててしまった。反省している」

 

 ハマーンがミネバのことについて、素直にシャアに謝罪したのだ。俺が以前、『腹を割って話し合うべき』と伝えたのを覚えておいてくれたのだろうか。

 

 それを察した俺は、シャアのほうを向いて言った。

 

「ハマーン様はああして、素直に自分の非を認め、謝罪したんです。あなたも腹の底を打ち明けるべきではないんですか? クワトロ大尉……いえ、シャア・アズナブル」

「……」

 

 しばし躊躇するシャア。そして彼も口を開いた。

 

「私のほうこそ、済まなかった。ララァに縛られていたせいで、私もお前の想いにこたえきれず、出奔することになってしまった。本当に済まない」

「……」

「もう遅いかもしれないが、言わせてほしい。再び私と共に歩んでくれないか」

 

 そのシャアの言葉を聞いたハマーンの瞳がかすかにうるんだのは気のせいだろうか?

 

「……その言葉をずっと待っておりました。私とあなたの時は再び重なり始めた。あなたと共に歩みましょう」

 

 よかった……これで少なくとも、ハマーンがジュドーに敗れて戦死するフラグも、シャアが第二次ネオ・ジオン紛争を引き起こすフラグも折ることができそうだ。

 

「カレル・ファーレハイト。お前のおかげで、シャアと和解することができた、感謝する」

「いえ、私のしたことなんてささいなことです」

「ふ……そういえば、シャア。あなたに見せたいものがある。ついてきてほしい」

「?」

 

 そして俺とシャアがハマーンに着いていくと、そこには……。

 

* * * * *

 

 俺とシャアが連れてこられたのは、MSの開発工場だった。そこには一機のゲルググのようなMSが鎮座している。いやこれはゲルググではない……リゲルグだ。リファイン・ゲルググの略で、ZZでイリアさんが乗っていた奴だ。

 だが、それとは少し形状が違うような……プロトタイプか?

 

「これは?」

「これは、ゲルググの近代化改修型……リゲルグのプロトタイプをもとにして、お前のために開発したMS……サイコ・リゲルグ。略してサ・リゲルだ」

「サ・リゲル……」

「シャアにはやはり赤いゲルググが似合うと思ってな。ニュータイプ用として、キュベレイのものと同仕様のサイコミュも搭載してある。あなたと一度決別した時に開発を中止してしまったので、申し訳ないが、ファンネルは搭載されていない」

「いや、大丈夫だ。サイコミュが搭載されているのがわかっていれば、あとはうちのスタッフがなんとかするだろう。ありがたく使わせてもらう」

「それはよかった。やはりあなたには、赤いMSがよく似合うからな」

「ありがとう。それで今まで使っていた百式だが……カレル少尉」

 

 と、そこで少し考えていたシャアが俺のほうを向いた。なんだなんだ?

 

「私はこれから、このサ・リゲルを愛機として使うことにする。君はそれまでの愛機を失ってしまっただろう? これからは私の百式を使ってほしい。私のお古を押し付けるようで申し訳ないが」

「私は気にしませんが……でもいいのですか?」

「あぁ。ハマーンとの和解に導いてくれた礼だ。それに、君ならこのMSを有効に使ってくれると信じている」

「わかりました、それならありがたく使わせてもらいます」

 

* * * * *

 

 そして俺たちは、百式、サ・リゲル、メタスに乗ってアーガマに戻ってきた。

 

 到着するやいなや、シャアが何やらアストナージさんに伝え、そしてアストナージさんが騒ぎ出している。どうしたんだ?

 

「任せてください、大尉。話を聞いた時から既に、改良プランが浮かんでいます。きっと、こいつのサイコミュを有効活用できるようにしてやりますよ! ついでに、カレルの百式もすごい奴にしてやります!」

「ふえ?」

「実は百式についても、考えていたプランがあったんだ。今までは大尉に遠慮して実行にはうつしてこなかったんだが、カレルのものになったんなら話は別だ。バシバシ魔改造してやるよ!」

 

 俺は思わず引いてしまう。なんかアストナージさんの目がめらめら燃えているように見えるぞ。

 

「は、ははは……もう好きにしてください」

 

 そして俺は少し疲れながら、シャアと艦橋へ向かった。すると、ブライトさんがさっそく出迎えてくれた。

 

「帰ってきたか、グワダンから連絡はもらっている。クワトロ大尉、カレル少尉もご苦労だった」

「あぁ。コーウェン少将のほうはどうなっている?」

「そちらもうまくいったよ。コーウェン少将の人望もあって、良識派はすんなりとこちらを支援することを了承してくれた。ティターンズをそのまま連邦に残す、という条件つきだがな」

 

 それを聞いて、シャアが眉をひそめた。その条件に懸念を持ったそうだ。なぜなのかは、俺にもうすうすわかる。

 

「そんな条件をのんで、大丈夫なのか? また奴らが同じことをやる可能性もあるぞ」

「それについては心配ない。連邦軍上層部とも交渉して、外郭部隊とすることと、監査役を置くこと、文官を最高指揮官に据える、という条件をつけたからな。最高指揮官にはジョン・バウアー氏がつくことになるそうだ」

「なるほど……」

 

 そうシャアがうなずく。俺も心の中でうなずいた。

 要するに史実でのロンド・ベルみたくなるってことか。ジョン・バウアーが最高指揮官(神輿だけだろうが)になるってことは、後に彼ら(良識派ティターンズ)が再編されて、ロンド・ベルになるのかな?

 

「それなら問題はないか」

「あぁ……だが」

「なんです?」

 

 表情を曇らせたブライトさんに、俺がそう聞くと、彼はその表情のままこたえた。

 

「バスク・シロッコ派の行動が迅速でな。良識派の合流を待ってコロニー・レーザーに行ったのでは間に合わん。バスク・シロッコ派にコロニー・レーザーを奪われかねないんだ」

「ふむ……そうなったら、おびき出されてレーザーで焼かれるのは、私たちのほうになりかねんな。ということは……」

「あぁ。コロニー・レーザーで合流することにして、我らが先に行くしかあるまい」

「そういうことだ」

 

 ……これはまだまだ、厳しい状況が続きそうだ。

 

* * * * *

 

「しばらく世話になるぜ、シロッコ」

 

 ジュピトリスのMSデッキで、ヤザン・ゲーブルとラムサスが、パプテマス・シロッコと向き合っていた。

 シロッコは満足そうな笑みを浮かべている。

 

「君のような、有能なエースを助け、迎え入れることができて、とてもうれしく思う、ヤザン・ゲーブル大尉」

 

 シロッコの言葉は本心であった。

 サラを失い、自分の手元にはエースと呼べる者たちはいない。ジェリドは消息不明になっている。そんな状況下でヤザンという優れたパイロットを迎え入れることができたのは、大きな収穫だ。

 一方のヤザンとしても、シロッコの部下として迎えられたのは嬉しいことだ。まだ戦い足りない彼としては、良識派とかいうやつらと一緒に茨の園に隠れるなんて御免こうむりたかったし、それにシロッコとはどこか馬が合いそうな気がする。

 彼の下であれば、好き放題、思いっきり暴れることができる。そんな気がする。

 

「それで、俺もラムサスも機体を失ってしまったんだが、いい機体はあるか?」

「あぁ。まずはラムサス少尉にだが、これはどうだろうか?」

 

 シロッコが指し示したのは、丸いシールドと、右腕の2連装ビームガン。そして、背中のバインダーのようなものが板状のパーツが特徴の緑色のMSだ。

 

「私が開発したMSの一つ、PMX-001、パラス・アテネ。ビームガンのほかに、拡散ビーム砲やメガビーム砲を持ち、さらにオプションで対艦ミサイルも装備することができる、対艦攻撃をコンセプトに作ったMSだ。その代わりに機動性が少し下がってしまったが、ヤザン大尉の部下なら乗りこなせるだろう」

「はっ、ありがとうございます」

 

 うれしそうなラムサスに、少し面白くなさそうな顔をするヤザン。その様子に、ラムサスは少ししまった、という表情を浮かべ、シロッコはその二人を面白そうに見ている。

 

「それで俺には? ハイザックとかマラサイとかだったら承知しないぞ」

「わかっている。ヤザン大尉にはこれを任せようと思う。まだ一号機ができたばかりだが、実戦には耐えられるはずだ」

 

 シロッコが次に示したのは、その横にある大型で重厚なMS……シロッコ専用機、ジ・Oを少し細身にしたようなMSだ。だがよく見ると、ジ・Oよりもバーニアがたくさんあるように見える。

 

「こいつは? お前さんのと似ているように見えるが」

「私のジ・Oを、量産を前提に再設計して開発したMS、PMS-001、ノーネームだ。開発してみたはいいのだが、いろいろ癖がありすぎる機体でね。乗り手がいなくてどうしようかと思っていたので助かった」

「俺は実験体かよ?」

 

 そう軽口を叩くヤザンだが、表情からはむしろ、期待やうれしさがにじみ出ていた。

 

「それで、癖がありすぎるってどんな感じなんだ?」

「あぁ。機動性を上げるため、装甲を薄くしてバーニアを増設したんだが、それが悪い意味でかみあってしまった。おかげで機動性が私の想定以上に跳ね上がってしまって、作ったはいいが、乗りこなせる者がいなかったんだ」

「なるほどな。気に入った。ノーネーム(名無し)なんてイカした名前だし、乗りこなす者がいないほどの機動性というのも俺好みだ。バリバリに乗りこなしてやるぜ」

「そうか。気に入ってくれてよかった。私たちの本隊は、あと二日後にコロニー・レーザーの宙域に出発する予定なので、それまでに乗りこなせるようになってくれるとありがたい」

「へへ、二日どころか、今日中に乗りこなしてやるぜ」

 

 そしてヤザンはその言葉を有言実行した。

 

* * * * *

 

 そして、もうすぐコロニー・レーザーの空域という時。俺とシャアは、アストナージさんから改装や改造ができた、というので行ってみた。

 

 サ・リゲルはそれほど変わっていないように見えるが、百式のほうはかなりゴチャゴチャしている。

 もう百式の部分が3割ほどしか残っていないように見えるぞ。

 

「本当に魔改造しちゃったんですね……」

 

 そう茫然とつぶやく俺に、アストナージさんは会心の笑みを浮かべた。やりたいこと、全部やっちゃったんだろうなぁ……。もう、ZのMSVにのせてもいいレベルだぞこれは。

 

「あぁ。だがまずは、クワトロ大尉のサ・リゲルからだ。サ・リゲルですが、少し苦労しましたが、サイコミュをゼータのバイオセンサーのように、機体制御の補助に使うように改造を加えておきました。これで、ニュータイプが乗れば、カミーユのゼータ並みの機動性を発揮することができます」

「ほう……それは楽しみだ」

 

 そして続いて俺のほうを向いた。うわ、すっごいまばゆい笑み。目がつぶれてしまいそうだぞ。

 

「そして百式のほうだが、バイオ・センサーを内蔵しておいた。仕様はゼータに積んでいるものと同じだが、お前さんに合わせて調整しておいたからな。さらに駆動系を改良したり、バーニアも増設したから、通常の百式より3割ほど機動性が上がっているはずだ」

「なるほど……そういえば、この前頼んだあれはどうなりましたか?」

「あぁ、なんとか形にしたぞ、ほれ」

 

 アストナージさんが指さした百式の左上腕部には、何やら小さいパーツがついていた。

 

「ビームをシールドにするんだったか? なんとかできるようにはしたが、やはり技術力不足でな。通常のシールドサイズの最大出力で3秒、MSの手のひらサイズの通常出力でも1分が限界だ。おまけに一度展開すると、冷却のために3分は使えない」

「そうですか……。でも、作ってくれただけで助かりますよ」

 

 何しろ、ビーム・シールドは40年ぐらい後の技術だからな。こうして一応形にしてくれただけでも奇跡だ。ダメ元で言ってみてよかった。

 

「それと、フルアーマー百式改とかいう機体の開発で作られた、ロング・メガバスターという高出力ビーム砲、その予備を取り寄せて搭載してある。カタログスペックによれば、メガバズーカ・ランチャーより火力が大幅に劣るが、連射速度は勝っているそうだ。そうそう、お前さんがガルバルディに積んでいたトンデモ装備も実装しておいたぞ」

「本当にすごいですね……」

 

 本当にすごいとしかいいようがない。このアストナージさん、実はスパロボの世界からやってきたんじゃないのか?

 

「俺もそう思うよ。我ながら、もうこいつは百式を超えた百式といっていいんじゃないかと思う。あえて名付けるなら……百式決戦仕様、いや『千式』ってところか」

「千式ですか……いい名前ですね」

 

 ネーミングセンスがビシッと刺さった俺であった。

 と、そこで。横からジェリドが割り込んできた。

 

「なぁ、俺には乗る機体がないんだが、何かないのか?」

「そうだなぁ……これなんかどうだ?」

 

 そこにあったのは……箱のようなボディにパイプで作られたような手足がついただけのMS……これ見たことあるぞ。『サム』じゃねーか!

 

「俺が趣味で作ったMS、『サモ』だ。なかなかいいだろ?」

「おい! 俺に死ねっていうのか!?」

「半分冗談だ。そう怒るなよ」

 

 肩をすくめるアストナージさん。って、半分かい。

 そして改めて指し示したのは、ジェリドが乗っていたと思われるバイアランだ。だが、ところどころ細部が違うようだし、頭部がいわゆるバイザータイプになっていて、さらに背中に細長いパーツを二本背負っている。

 

 俺の頭の中に、『バイアランカスタム』という名前が浮かんだことは言うまでもない。

 

「お前さんのバイアランを、エゥーゴにあった部品で修復したんだ。ついでに、両肩にスプレーミサイルランチャーとプロペラントタンクとブースターが一体化したムーバブル・バインダーを取り付けてある」

 

 二号機!? 俺の千式にもびっくりしたが、アストナージさんがバイアランをカスタムもどきに改造したことにもびっくりだ。この人、実はマッドエンジニアじゃないのか?

 その機体を見て、ジェリドは上機嫌のようだ。どうやら乗り気みたい。

 

「とてもいいな。こいつとまた戦えるなんて最高だぜ。ちなみに名前はあるのか?」

「あぁ。バイアラン・ジェカスって名前をつけてある」

「……おい、なんだそのジェカスって」

「決まってるだろ。ジェリド・カスタムの略さ」

 

 それを聞いて、ジェリドは渋い顔をする。確かに、ちょっと語感がよくないよな。

 

「……もうちょっとどうにかならんか?」

「うーん、それならバイアランJCなんてどうだ?」

「いや、JCだと女子中学生になっちゃうんじゃ?」

 

 そして三人で話し合った結果。

 

「バイアラン・ガラハド……うん、なかなかいい名前だな。よし、それにしよう」

 

 俺が提案した、バイアラン・ガラハドに決まった。Twilight Axisに出てきたバイアランの一機、バイアラン・イゾルデが円卓の騎士に由来する名前だったから、それにならって、円卓の騎士の一人、ガラハッドからつけてみた。

 うん、我ながらいい名前だと思う。ジェリドにも気に入ってもらえて何よりだ。

 

 と、そこに。

 

『警報、警報! コロニー・レーザーのアクシズ艦隊が、バスク・シロッコ派に攻撃を受けている! 全艦隊、第一級戦闘配備! 繰り返す!!』

 

 と、そこに急を告げるアナウンスが、格納庫に鳴り響く。

 

 いよいよ正念場だ……!

 




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* 次回予告 *

ブライトは、メールシュトローム作戦を発動した。コロニー・レーザーから脱したアクシズの警備艦隊とともに、グリプス2を包囲して、ティターンズの先遣艦隊を撃滅しようというのである。

その中、カツはサラの無念を晴らそうと奮戦し、カレルは再びヤザンと対峙する。

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第32話『コズミック・メールシュトローム』

刻の涙は、止められるか?

[今回登場新MS]
〇MSN-100(Z) 千式(百式決戦仕様)
カレルのおかげで、ハマーンと和解したシャアからその礼として、彼女に譲られた百式を、彼女に合わせて(+整備スタッフの悪ノリで)改装した戦時臨時改装機。

強化人間にされたカレルのNT能力をできるだけ有効に活用できるようにバイオセンサーを内蔵。さらに、守れる者を守りたいという彼女の願いから、左腕に小型ビームシールド『ビームバックラー』を搭載。さらにスタッフの悪ノリにより、フルアーマー百式改の開発にあたって作られた、予備のロング・メガバスターを搭載し、攻防のバランスの取れた機体になっている。

千式はあくまで通称であり、正式名称は『百式・最終決戦仕様』である。また、あくまで戦時の臨時改装であり、正式な仕様ではないため、Zはかっこで囲まれている。
千式の名称は、バイオセンサーやビームバックラー、ロング・メガバスターの装備で百式を超えた百式だとスタッフが自画自賛して命名してつけたもの。

〇MS-14JP サ・リゲル
ハマーンが、シャアが戻ってきたときに備えて開発させていたリゲルグの改良型。(正確にはリゲルグのプロトタイプの改良機)
シャアのNT能力を活かすために、ハマーンのキュベレイと同じサイコミュを搭載しており、さらに原型機からバーニアを多数追加し、機動性を高めている。
当初は、ファンネルも搭載予定だったが、最初の会談時にシャアと決別したさいに開発を中止した影響で非搭載となってしまった。その代わりに、サイコミュを機体制御の補助として利用できるようアーガマ配備後に手を加えられている。
それでも、その機動性は百式以上のものを誇り、シャアの腕とNT能力があれば、シロッコのジ・Oとも対等に戦えるだけの戦闘力を持っている。
なお、サ・リゲルはサイコ・リゲルグの略

〇PMS-001 ノーネーム
シロッコがヤザンに与えたジ・Oの簡易量産型(の試作機)。
サイコミュをオミットし、装甲も簡略化することでコストダウンを図り、一方でバーニアを増設して機動性を増した。
ただ、装甲の簡略化と、バーニアの増設が重なった結果、機動性が想定より上がってしまい、ヤザン級のエースでないとのりこなせなくないジャジャ馬なMSとなってしまった。また、装甲をプロペラントタンクにするというジ・Oの設計を廃止、プロペラントタンクは外付けになっている。
武装はビームライフルとビームサーベル、そしてメガ・ビームランチャー。

次の更新は、1/17 12:00の予定です。お楽しみに!


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終章#02『コズミック・メールシュトローム』

カミーユにシロッコ打倒を託したカツでしたが、そんな彼の奮闘も書きたいと思ってたらこんなグダグダになってしまいました(汗

申し訳ありません(汗 カツもすまん(汗

あとそれと、大人しい人ほど怒ると怖いものです(爆


 コロニー・レーザーを守備しているアクシズ艦隊に攻めてきたのは、バスク・シロッコ派……ブライトさん曰く主流派……の先遣部隊らしい。

 

 問題は、先遣部隊でも、アクシズ艦隊を上回る規模ということだ。先遣艦隊で守備艦隊を撃滅し、奪った後、本隊の合流を待つつもりなのだろう。

 それだけあって、先遣部隊の規模はなかなかのもので、普通に戦ってもある程度の時間持ちこたえられそうだ。

 

 つまり、普通に戦っても、コロニー・レーザーの奪取は難しいということだ。

 

 ではどうするかというと……。

 

* * * * *

 

「ちゃんと戻って来いよ、カミーユ」

「シンタ、何言ってるんだよ。お前たちのほうこそ、ファに面倒かけるなよ?」

 

 アーガマに引き取られている子供、シンタの頭を軽く叩き、カミーユは居住区を出ていった。

 原作でもあった光景だが、今回は状況が明るいほうに向いているため、カミーユからは危うい感じはしなかった。いいことだ。

 

 それを俺……カレル・ファーレハイトが温かい目で見送っていると、近くの部屋からカツが出ていった。その表情は、原作の時よりは落ち着いているが、それでもやっぱり思いつめている感じがした。

 

「カツ、サラを失って辛いのはわかるけど、あまり思いつめたらだめだよ」

「カレルさん……わかっています。でも、サラの無念は僕が晴らしたいんです。命を賭けて、少しでもティターンズの奴らを倒して、ティターンズを倒す手伝いをすることが、無念を晴らすことにつながるんじゃないかって……」

 

 やっぱりサラのことを引きずってるのか……。うーん。

 

「うーん、気持ちはわかるけど、それはちょっと違うんじゃないかな?」

「え?」

「戦うべきは、ティターンズを倒すためではなくて、彼らを倒すことで、この戦いを終わらせること、そして世界をティターンズの圧政から解放するためじゃないかな? それに、それより大事なのはカツが無事でいることであって、そのために戦って散っていったって、サラは喜ばないと思うよ」

「……はい……」

「大事なのは、この戦いを生き抜き、終わらせること。それを忘れないで」

「はい、わかりました……」

「うん、よろしい」

 

 そしてカツも、グリップリフトに乗って居住区を出ていった。その俺に、ジェリドが近づいてきた。

 

「……何?」

「いや、前までカミーユに世話を焼いていたのに、今度はあの坊やか。ご苦労なこったと思っただけだ」

「性分だからね。それに、前って言ったって、数カ月前のことじゃない」

 

 俺がそう言うと、ジェリドは苦笑した。

 

「そうだけどな。でも本当に、グリーンノア2のことが遠い昔のように思えるぜ」

「そうだね……」

 

 本当にあの時のことが懐かしい。思えば、あれから色々なことがあったな。

 ボスニアに配属され、ライラさんと出会い、別れ、地球に降りて、ロザミィやフォウと出会い、強化され、いつの間にかここまで来ている。

 本当に遠いところまで来たような感じだ。

 

 ……といかんいかん。

 

「過去のことに思いをはせるのは後にしましょう。それは、この戦いが終わって、平和になってからゆっくりと振り返ることにしようよ。決戦前に昔のことを思い出すのは死亡フラグだし」

「そうだな。昔のことを思い返すにはまだ若いか」

「そういうこと。今はこの戦いを無事に生き残ることを考えよう」

「そうだな」

 

 とそこで俺はあることを思いついた。

 

「あ、ねぇ。この作戦が終わって時間があったら、久しぶりにエマさんと同窓会しない? さすがにアルコールはNGだけど」

「決戦前の景気づけか。とってもいいな。俺も賛成だぜ」

「賛成もらえて嬉しい限り。やっぱり先にご褒美があるとやる気が出るしね」

「あぁ、同感だ……ところで、死亡フラグってなんだ?」

 

 そう話しながら、俺とジェリドは、居住区を出ていった。

 

* * * * *

 

 かくして。

 

「カレル・ファーレハイト、千式、行きます!」

 

 俺の乗る千式が、アーガマから飛び出していった。

 カミーユのZガンダム、シャアのサ・リゲル、カツのネモ、エマさんのガンダムMk2、ファのGディフェンサーは既に発進し、俺の後から、ジェリドのバイアラン・ガラハドも発進している。

 

 周囲の艦からもネモやリック・ディアスなどが随時発進している。

 

 現在、エゥーゴの各艦は、グリプス2のコロニー・レーザーを取り囲むように布陣している。正面からぶつかりあっても、時間を稼がれてしまうので、包囲して一気に叩こうということになったのだ。叩く相手がアクシズからティターンズに変わったが、原作でいう『メールシュトローム作戦』である。

 

 なお、事前にハマーンが連絡してくれたこともあり、アクシズの守備隊は一時期、こちらの指示に従うようになっている。そのアクシズ艦隊には、無用な損害を減らすため、一時コロニー・レーザーから脱出し、こちらと合流次第反転し、攻撃に参加するようになっている。

 

* * * * *

 

 コロニー・レーザーに突進するエゥーゴ艦隊。ここからは時間の勝負だ。主流派の本隊がこの宙域に現れる前に、先遣隊を潰し、コロニー・レーザーを奪わなければならない。

 

 そんな俺たちは、先遣艦隊と接敵。戦闘を開始する。

 

『死に急いでるんじゃないよ!』

 

 カミーユがそう叫び、Zのビームライフルでハイザックを撃ち抜く。

 エマさんは、ロングライフルで、次々と主流派のサラミスを沈めていく。

 

『サラ、見ててくれ。僕は、この戦いを戦い抜く、そして必ず生き残る……!』

 

 カツもネモで、ティターンズのMSと激しい戦いを繰り広げていく。やや気が逸っている部分があり、ちょっと隙があるように見えるが、そこは……。

 

『させるかよ!』

 

 カツのネモの背後から襲おうとしていたマラサイを、ジェリドのバイアラン・ガラハドが腕のメガ粒子砲で撃ち抜いた。俺が事前に、ジェリドにカツのサポートを頼んでおいたのだ。

 

『あ、ありがとうございます……』

『何を逸っているかは聞かんが、死に急ぐな。もし俺があの世に先にきていたら、大切な者が死に急いでこっちに来るのなんか見たくないんだからな。そんなことになったら現世に蹴り飛ばしてやる』

『あ……』

『死んでいる人たちが何を望んでいるか、それを考えるんだな。そうすりゃ、戦う理由というものも見えてくる。多分な』

『はい。ありがとうございます』

『今のは独り言だ、気にするな』

 

 そんなカツとジェリドの会話も、通信機から聞こえてくる。やはり、ジェリドにカツのサポートを頼んで正解だったようだ。ジェリドも、マウアーの死を受け、ルブラと戦い、そしてエゥーゴに協力することになって、何か変わったんだろう。いい方向に。

 

 さて。戦局はこちらに有利ながらも、激戦はあちこちで続いている。

 

 その中でも目を引くのは、やはり赤の機体、シャアのサイコ・リゲルグ……サ・リゲルだ。

 

『ふむ。なかなかいい動きをする。悪くない』

 

 あの……シャアさん? なんか声がウキウキして聞こえるのは気のせいですか?

 

 そんなシャアのサ・リゲルは、敵の動きを、普通の回避運動、トリッキーな動き、色々織り交ぜてひらひらとかわしていく。なんか、百式より動きがとてもよくなっている気がする。

 そして、マラサイをビームライフルで撃ち抜き、ハイザックに背中のミサイルランチャーで迎撃していく。

 

 そして、俺の千式も。

 

「いい加減撤退しなさい……よ!」

 

 バーザムの攻撃をかわし、千式の頭上を通り過ぎたところに、マウントしたクレイバズーカを発射して撃墜する。

 すると、今度は数機のマラサイがこっちに接近してきた。

 

 俺は千式をくるりと回転させる。そして。

 

「喰らっちゃいなさい!」

 

 千式の頭が敵のほうを向いたところで、大型バックパックのマインレイヤーから爆雷をばらまく。

 その爆雷に突っ込む形になったマラサイたちは、あわれ、その爆発に巻き込まれて大破した。

 

 さらに、バーザムがまた突っ込んでくる。そのビームライフルを軽くかわして……。

 

「さすがバイオ・センサー。敏感だけどいい感じだ……ね!」

 

 ビームライフルで撃ち抜く。頭部が撃ち抜かれて吹き飛ぶ。さらにビームライフルを連射して、両腕を次々と撃ち抜いて達磨にしてやった。

 

 本当にいい感じだ。さっきもつぶやいたが、さすがバイオ・センサー。俺の操作する通りに、すんなり動いてくれる感じがする。ちょっと敏感なきらいはあるが、それぐらいはいくらでも修正がきく。

 

 と、向こうのほうから新手が……って、じ、ジ・O!?

 

* * * * *

 

 ちょっと待って。なんでジ・Oが来るの!? ジ・Oならカミーユのほうに行きなさいよ!!

 

 と慌てたが、よく見ると、ジ・Oとはまた違ったMSだった。全体的な感じは似てるが、細部はどこか違った感じ。

 

『また会ったな、女ぁ!! 少しの間、遊んでもらうぜ!!』

「ヤザン!?」

 

 聞き覚えのある声が聞こえてきた。ヤザンがジ・Oもどきに乗ってくる……どうやら、俺にとってのラスボスはヤザンのようだ。

 だけど、本隊が後に控えているのに、こんなところで力を使い切ってしまうわけにもいかない。

 

 なんとかふんばり、とっととお帰り願おう。ヤザンには失礼だが。まぁ、向こうも『少しの間遊んでもらう』言ってたしね?

 

 ともあれ、俺はジ・Oもどきが撃ってきたビームライフルを余裕でかわす。さすがバイオ・センサー付きMS。反応がとてもいい。バーニアも増設されているので、なおさらだ。

 俺は反撃に、ビームライフルを発射する。それをあちらもあっさりと回避する。なんというか、動きがハンブラビと同等か、それ以上に軽やかで鋭いような感じがする。俺の千式と同じぐらいか。

 くそ、新型もらっても、向こうと差が広がらないのかよ! 宇宙世紀の神様はどれだけ意地悪なんだ!

 

 今度はジ・Oもどきがビームライフルを連射してくる。三発のうち二発は千式の機動性で回避し、かわしきれない一発は小型ビーム・シールド……ビーム・バックラーの通常出力モードを展開して防ぐ。

 

 ロング・メガバスターで反撃するか……ダメだな。メガバズーカ・ランチャーより連射性、速射性が優れてるとはいえ、それでもメガバズーカ・ランチャーと比べてのこと。ビームライフルに比べるとはるかに劣る。使うとするなら、何か隙ができた時に、だな。

 

 それからもビームライフルを撃っては回避して、また撃つをお互いに繰り返し続ける。やはり、MSの性能が互角なだけあって、なかなか決着がつきそうにない。いや、実を言うと俺のほうが少しばかり不利だ。MSの性能が互角なら、後はパイロットの腕だからな。

 

 そうしているうちに、ジ・Oもどきの後ろから一機のネモが襲い掛かった! しかしヤザンは、それを軽くかわすと反撃に、左手に持つビーム砲らしきものを背中にマウントし、ビームサーベルをふるった! それで、ネモの右腕が斬り落とされた!

 

『うわぁ!』

「カツ!?」

 

 そのネモに乗っていたのはカツだったらしい。

 ジ・Oもどきを見て、シロッコと思い込んで、それで頭に血が上ったのかもしれないが、なんて無茶な! 俺の千式はカツを援護するべくビームライフルを撃つが、ヤザンはそれを軽くかわしつつ、ネモに攻撃を仕掛けていく。まるで、カツのネモをおもちゃにするかのように。

 

 ヤザンは俺の援護も、カツの抵抗も、全てを楽しむように戦いを繰り広げていく。その様子に、俺の中に義憤が沸き上がる。そしてそれは彼女も、いや彼女の怒りはそれ以上だったようだ。普段は大人しい彼女だからこそ、か。

 

―――すいません、身体、一時返してもらいます。

―――え?

 

 次の瞬間、『俺』の人格は身体の奥に引っ込み、『カレル』に身体の主導権を奪われた。普段は、俺のほうから譲らない限り、こんなことはないのだが、それほど『カレル』の怒りは激しかったらしい。

 

「人の命を、戦いを、遊びにするのはそこまでです!!」

『何!?』

 

 そう叫ぶと、俺の身体……いや自分の本来の身体に戻った『カレル』は、千式を駆り、ジ・Oもどきに激しい攻撃を仕掛けていく。

 ただヤザンを倒すか追い払うかする、そのためだけにただ猛攻撃を仕掛ける。それだけだが、いやそれだけに、その攻撃は激しく、ヤザンに反撃の隙を与えない。

 

 だがその時、俺は気づいた。背後から別のマラサイが、俺たちに狙いをつけていたのを!

 

―――ごめん、『カレル』。一部使わせてくれ!

―――は、はい?

 

 俺は左腕を操作し、千式を急速回避して、そのマラサイが撃ったビームライフルを回避した。それで狙われていた『カレル』がビームライフルで反撃し、そのマラサイを撃墜する。

 

―――すみません、助けていただいて……。

―――気にするなって。俺たちは一心同体なんだからな。お前の足りないところは俺がサポートする、その逆も……だろ。

―――はい……。

 

 と、そこで向こう側から発光信号が放たれた。どうやら撤退信号のようだ。

 見ると、エマさんやカミーユたちの活躍で、先鋒隊のほとんどのサラミスが沈められてしまってる。このままでは残った先鋒隊もやられると判断して撤退することにしたのだろう。

 ティターンズのMSたちは次々と母艦に引き返していった。それはもちろん、ヤザンのジ・Oもどきも。

 

 これでなんとか、コロニー・レーザーを確保することはできた。だが、これはまだまだ序の口である。

 この後は、いよいよ本隊がやってくる。

 

 生きるか死ぬか(デッド・オア・アライブ)……最後の大勝負だ。これで全てが決まる。

 

 その大きな渦のような決戦まで、あと少し……。

 




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* 次回予告 *

エゥーゴとティターンズの、最後の戦いがはじまった。
それぞれが出会わなければ、決して失われなかったであろう命が、宇宙に吸い込まれようとしている。それを避けようとカレルはあがく。
血で飾られなければならない戦いの宿命、彼女をそれを打ち砕けるのか?

―――千式、俺(私)に力を貸せ(貸して)!!

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第33話『生命……』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、1/20 12:00の予定です。


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終章#03『生命……』

 俺……カレル・ファーレハイトはエマさん、ジェリド、そしてフォウとささやかな飲み会を開いていた。とはいえ、飲むのは酒ではなくソフトドリンクだが。それと、飲み終えたら、そこで解散という簡素なもの。

 ほんとはずっと飲んだり語らったりしていたいのだが……。

 

「大丈夫、カレル? 何かとても疲れているようだけど……」

「ははは、先の作戦でちょっと頑張りすぎたみたいです……。でも、栄養剤も飲みましたし、なんとか大丈夫です。飲み終わったら、すぐ休むことにします」

 

 心配そうに言うエマさんにそう答える。

 

 そう、先の作戦での『カレル』の大暴れで、いつもより消耗していたのだ。何しろ、『カレル』に無理やり身体の主導権を奪われ、彼女の怒りのままに暴れ、さらにピンチを回避するために、身体の一部の主導権を急遽返してもらって対処したのだ。その疲労はかなりのものがある。

 

 ちなみに、『栄養剤を飲んだ』というのはうそではない。正しくは、あのクスリを打ったのだが。

 

「そう……でもカレル、無理はしないでね」

 

 フォウがそう心配そうに声をかけてくる。彼女も俺と同じ強化人間だったこともあり、俺の疲労の原因に感づいているのかもしれない。

 

「ありがとう、フォウ。大丈夫だよ。こんなところで終わるつもりはないから」

「しかし、また俺たち三人、こうしてまた会って、ジュースを飲みかわす時が来るとはな。やっぱり生きてみるもんだぜ」

 

 ジェリドがそう言うと、エマさんも苦笑してこたえる。

 

「そうね。このまま誰も欠けることなく、また飲みかわせるときが来るといいわね」

「そうですね……」

 

 そしてジュースを飲み終えると、俺たちはそれぞれ自分の部屋へと戻っていった。

 

* * * * *

 

 そして簡単な飲み会が終わると、俺はそのまま自室のベッドに倒れこんだ。

 

―――すみません、私のせいで……。

 

 と、脳裏に聞こえる、『カレル』の謝る声。

 

―――いや、謝らなくていいよ。お前の活躍がなければ、カツをやられていたからな。

―――ありがとうございます……。

―――いやいや、お礼を言うのは俺のほうだよ。お前の身体を使わせてもらってる身だし。

―――身体を……。

 

 あっ、こら。変な想像して赤面するな!

 

―――す、すみません……。

―――しかし、とうとうここまで来てしまうなんてなぁ……。

―――そうですね。私も、ティターンズに入った頃は、こうなるとは思ってなかったです。私たち、生きて帰れるんでしょうか……?

 

 『カレル』の不安が、俺の心に伝わってくる。

 

―――確実なことは言えないな。全ては俺たち次第なんだから。

―――……。

―――だから、明日は頑張ろうぜ。お互い生き残れるように、な。

―――はい。……さん、今まで……

―――おっと、それはそこまでだ。

―――え?

―――そこから先は、お互い、寿命でくたばる時にとっておくとしようぜ。

―――はい……。

 

 そして俺は目を閉じ、睡魔に身体をゆだねた。

 

* * * * *

 

 翌日。俺は警報で目を覚ました。フォウの声で敵の接近が告げられる。

 

『敵艦隊接近! 主流派ティターンズの本隊だと思われます! 全艦、第一級戦闘配置! 繰り返します!――』

 

―――よし、行くぞ、『カレル』! 必ず生きて帰る!!

―――はい!!

 

 飛び起きた俺、いや俺たちは、部屋を出て、MSデッキへと向かった。

 

 そして。

 

『カミーユ、気を付けて』

『ありがとう、フォウ。カミーユ、Zガンダム、行きます!』

 

 カミーユのZガンダムが、フォウに見送られて発進していく。そして。

 

『クワトロ・バジーナ、サ・リゲル、出る!!』

『エマ、ガンダムMk2、行きます!』

 

 アーガマから次々とMS隊が発進していく。

 と、身体の動きが鈍い気がした。これは……。

 

―――怖いのか? 『カレル』

―――はい……。

 

『カレル』の抱いている恐怖が、俺の心へと伝わっていく。

 

『ファ・ユイリィ、Gディフェンサー、行きます!』

 

―――大丈夫だ、俺がいる。一緒に戦いぬいていこうぜ。二人ならきっと大丈夫だ。

―――はい。私もあなたがいれば、戦う勇気が出ます。

 

 そして、俺の番が回ってきた。

 

「カレル・ファーレハイト、千式、出る!!」

 

* * * * *

 

 レーダーを見ると、まだボスニアと良識派の艦隊は到着していないようだ。しばらくは、エゥーゴ艦隊だけで戦わなければならないということだ。

 

 援軍の到着まで持ちこたえることができるかどうか、それに全てがかかっている。

 

 モニターに、多数のMS隊が映し出されている。かなりの数だな……。

 

『カレル少尉、私のサ・リゲルのメガバズーカ・ランチャーと、君のロング・メガバスターで先制攻撃をかける。いいか?』

「了解です!」

『よし、アーガマ。メガバズーカ・ランチャーを射出してくれ!』

 

 シャアの要請から時を置かずして、アーガマからメガバズーカ・ランチャーが射出される。

 サ・リゲルはそれに取り付いて、発射態勢をとる。俺もバックパックにマウントされたロング・メガバスターを展開する。

 

 そして、メガバズーカ・ランチャーとロング・メガバスターから高出力のメガ粒子ビームが放たれ、射線上の多くのMSと、いくつかの巡洋艦を薙ぎ払っていく。

 

 しかし、それでも数はまだ多く、多くのMSがこちらに対して突っ込んでくる。

 

* * * * *

 

 戦艦ラーディッシュのブリッジから見えるサラミス級が、敵MSの攻撃を受けて轟沈していく。

 

「ルネ、撃沈!!」

「沈むなよ! もうすぐボスニアと援軍が来る!」

 

 ラーディッシュ艦長のヘンケンがそう檄を飛ばしている中、轟沈していくルネが大爆発を起こし、ラーディッシュのブリッジを閃光で染める。

 

* * * * *

 

『見つけたぜ、坊やぁぁぁぁ!!』

 

 乱戦の中、バウンド・ドックもどきが、カミーユのZガンダムに向かっていく。まだ生きてたのか。本当にしぶとい奴だ。

 

『ルブラか!』

 

 カミーユのZガンダムもそれに気づき、バウンド・ドックもどきにビームライフルを発射! しかし、バウンド・ドックもどきはまるで獣のような獰猛な動きでそれを回避する。

 

―――……さん、前!

 

「え?」

 

 正面を向くと、ちょうど直撃コースでビームが飛んでくるところだった。

 急いで回避。なんとかよけることはできたが、ビームがかすり、ロング・メガバスターの砲身を破壊されてしまった!

 

『よくよけたな、女ぁ!! 今度こそ決着をつけてやるよ!!』

 

 その声と共に、ヤザンのジ・Oもどきと、あと……パラス・アテネだとぉ!? レコアさんはエゥーゴを裏切っていないから、誰か別な奴が乗ってるのか。ヤザンと一緒にいるってことは……脱出に成功していたラムサスかな?

 

―――あの……そんなことを考えてる場合じゃないと思います。

 

 おっと、そうだった。まずはヤザンとの戦いに集中しなければ。ビームライフルを発射するが、やはりヤザンはそれを軽くかわす。くそ、やっぱりもどきでも、ジ・Oは厄介だな!

 

 と、横からジ・Oもどきにビームが放たれた。エマさんのガンダムMk2がロングライフルを撃ったのだ。いつの間にか、Gディフェンサーと合体していたらしい。

 

『くそ、まずはお前から餌食にしてやるよ! ハイパーヴォイルを喰らえ!!』

 

 そして、ジ・Oもどきが海ヘビを発射した。海ヘビはMk2の腕に絡みつき、電撃を浴びせる。

 

『うああっ!!』

「エマさん!」

 

 ビームサーベルで海ヘビを断ち切る。

 

「大丈夫ですか、エマさん!?」

『えぇ。耐電シートが強化されてなかったら、死んでいたわ……』

 

 とはいえ、今の電撃で、電子機器が一部死んだらしい。Mk2ディフェンサーの動きはいつもより鈍い。

 俺はエマさんのフォローをしようとするものの……。

 

『金色め、隊長の邪魔はさせんぞ!』

「くっ……!」

 

 パラス・アテネがシールドの小型ミサイルを撃ってくる。どうやら、ヤザンの相手をしている暇はなさそうだ。早く、エマさんのフォローをしなければならないのに……!

 

 俺は機体をくるりと回転させ、バックパックのマインレイヤーから爆雷をばらまいて、小型ミサイルを誘爆させた。

 

 しかし、そうしているうちに……。

 

『もらったぞ、Mk2!!』

 

 いつの間にか後ろに回っていたジ・OもどきがMk2にビームライフルを発射!! バックパックごとGディフェンサーを破壊された!

 

『あああっ!!』

 

* * * * *

 

 一方、戦艦ラーディッシュ。

 

 エマの苦戦は、そのブリッジのモニターにも映されていた。

 

「エマ中尉……!」

 

 そうつぶやくヘンケンの心中を察したクルーの一人が口を開く。

 

「ラーディッシュ、Mk2に接近させます!」

「だめだ、ラーディッシュは……!」

 

 別のクルーも口を開く。

 

「エマ中尉を見殺しにはできません!!」

「お前たち……済まない、よし、ラーディッシュ、前進だ!」

 

* * * * *

 

 状況はかなり不利である。今俺は、ヤザンのジ・Oもどきと、パラス・アテネの二体を相手に奮闘している。

 エマさんのMk2もヤザンたちに応戦しているが、一部の電子機器が死んで性能がダウンし、さらにバックパックを失って、もはや死に体だ。このままでは……!

 

 と、その時だ。

 

 ラーディッシュが俺たちとヤザンたちとの間に割り込んできたではないか!

 

 ヘンケン艦長、なんてことを! エマさんが好きだからとはいえ、ヤザンの前に来るなんて、死ぬようなものだ!!

 

 エマさんとヘンケン艦長の通信が聞こえてくる。

 

『ヘンケン艦長、無茶です。撃沈されます!』

『エマ中尉が無事ならいい。ラーディッシュを盾にしろ!』

『だめですよ!』

 

 そんな中でも、ジ・Oもどきはその機動性でラーディッシュの対空砲火をかいくぐりながら、ブリッジに迫る!

 

 俺は切りかかってきたパラス・アテネを蹴り飛ばすと、フルパワーでラーディッシュのブリッジに飛んで行った。

 間に合え!!

 

『なんで沈められん!?』

『ヘンケン艦長、逃げてえええ!!』

 

 二人の会話をBGMにさらに加速。

 間に合え、間に合ってくれ!!

 

 俺はもう……。

 

 この手が届く限り……

 

 誰も失いたくないんだよ!!

 

 お前もそうだろ、千式!! そうなら……!!

 

 俺に……

 

 私に……

 

 力を貸せ!!(力を貸して!!)

 

 その時。

 

 千式が銀色の光に包まれた。

 

* * * * *

 

『戦艦ごときが!!』

 

 ヤザンがそうほえながら、ラーディッシュのブリッジに照準を定める。

 左手に持つ、メガ・ビームランチャーからビームを発射。

 その瞬間、何かがビームの射線上に割り込んできた。

 

 そして爆発。

 

『ヘンケン艦長ーーーー!!』

 

 絶叫をあげるエマ。

 ヘンケン艦長は、今のビームで死んだと確信した。

 

 ここにきて、エマは自分の気持ちに気づいた。

 自分はヘンケン艦長のことが好きだったのだと。

 

 だが、もう遅すぎる。彼はその愛艦と運命をともにしたのだ。

 

 だが、爆発がやんだ時。

 

 涙を浮かべたエマは、呆然とした。

 

 ラーディッシュのブリッジの前には。

 

 銀色のオーラに包まれ。

 

 光り輝く大きな盾を構えた。

 

 千式がそこにあった―――。

 




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* 次回予告 *

宇宙というキャンバスに咲いていく光芒の花々。
それは因縁の戦いの決着が着いたことの証だ。

カミーユとルブラの戦いも。
そして、カレルとヤザンの戦いもまた。

――『カレル』、また二人でやるぞ!

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第34話『幾多の決着』

刻の涙は、止められるか?

※次の更新は、1/23 12:00の予定です。お楽しみに!


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終章#04『幾多の決着』

 エマの視線の先に、ラーディッシュをかばうように立つ千式。

 その機体は銀色のオーラに光包まれ、光の盾を構えるその姿は、まるで戦乙女のようであった。

 

 そのうち、光の盾が消え、構えていた左腕が分解する。

 

 だが千式はそれでも闘志を折っていないかのように、ビームライフルを構え、ノーネームとパラス・アテネに連射をかけた。ビームはノーネームが左手に構えたメガ・ビームランチャーを撃ち抜き、爆散させる。ここは不利と悟った二機はただちに後退したのだった。

 

* * * * *

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 俺……カレル・ファーレハイトは荒い息をついた。間に合ってよかった……。なんとかヘンケン艦長を守り切り、エマさんを悲しませずに済んだ。それにしても……。

 

―――すごいです。まさか、あんなことができるなんて……。

―――あぁ。俺もできるとは思ってなかったよ……。

 

 そう。ニュータイプか強化人間がバイオ・センサーやサイコミュを使えば、ビームをはじいたりすることができることは知っていた。

 原作でもカミーユがヤザンのハンブラビのビームライフルをはじきながら突撃していたり、ガンダムUCでは、バナージが、リディのバンシィと二人がかりとはいえ、コロニー・レーザーを防ぎきるなんて離れ業をやってのけたりしたから。(その代償に、あわやバナージは人を捨てかかったが)

 だが知っていることと、できるかどうかはまた別の話だ。

 

 正直、俺は強化されたとはいっても、カミーユのような規格外のニュータイプには及ばないと思ってる。

 だからサイコ・フィールドは発生させることはできても、あのジ・Oもどきの高出力メガ粒子砲を防ぎきることはできないと思っていた。大破で済めばラッキーだ、と。

 最悪、ガンダムSEEDのムゥさんみたいな最期になることも覚悟していた。

 

 それを可能にしたのは……。

 

―――やっぱりお前のおかげかもな。ありがとな、『カレル』。

 

 俺と同じ想いを抱き、力を貸してくれた『相棒』に、心の中でそう声をかける。

 

―――いえ。私のしたことなんて、ささやかなものです。奇跡を生んだのはきっと、あなたの『誰も失いたくない』、『大切な人を守りたい』という気持ちのおかげだと思います。

―――あぁ、ありがとう。

 

 と、そこでMk2から通信が入ってくる。

 

『カレル、無事!?』

「えぇ、なんとか。大破は覚悟していましたが、左腕がぶっ飛ぶだけで済みました」

『本当に……なんて無茶をするの……』

「すみません。でも、ヘンケン艦長が死ぬ様も、それを見てエマさんが嘆き悲しむ姿も見たくなかったんですよ。だから、どんな結果になっても後悔はしません」

『本当に……馬鹿なんだから……』

 

―――そうですね。私も、……さんは馬鹿だと思います。

―――なんだよ、それは……。

 

 そこでふと見ると、俺を叱るエマさんの目には涙がにじんでいた。泣き笑いの表情に顔がゆがんでいる。

 

『ありがとう……ヘンケン艦長を守ってくれて』

「いえ、こちらこそ無理やってすみませんでした。エマさん、ラーディッシュかアーガマに戻って休んでいてください。そのMk2で戦うのは、死ぬようなものです」

『でも……』

「だめですよ! 無茶して死んだら、ヘンケン艦長がどう思います!? ヘンケン艦長が死んだと思った時の、あなたの気持ちを思い出してくださいよ!」

 

―――……さん、目から……。

 

 『カレル』に言われて、俺は泣きながら訴えていたことに気が付いた。

 一瞬、ライラさんが死んだときのことを思い出したからかもしれない。でも俺は本当に、エマさんにもヘンケン艦長にも、いや、エゥーゴの誰にも死んでほしくないんだ。

 

 俺は涙をぬぐうと、ラーディッシュに通信を入れる。

 

「聞こえましたね、ヘンケン艦長! 絶対に、エマさんを縛り付けてでも、彼女を出撃させないでください! もし出撃させたりしたら、千式のバルカン砲で威嚇射撃しますよ!」

『あ、あぁ、わかった……』

「それじゃ行きます! エマさん、ヘンケン艦長とお幸せに!!」

 

 そして俺は千式を前線に向けて突撃させた。俺の言葉を聞いたエマさんが「もしかしてあの子、ヘンケン艦長のことが好きだったんじゃ……譲ってくれた彼女のためにも、幸せにならなくちゃね」と、変な勘違いをしていたことは知らない。知らないったら知らない。

 

* * * * *

 

 アーガマのMS隊は、必死にティターンズのMSと戦っていた。しかし、やはり数が違いすぎた。

 そのうち、MS隊の防衛線を抜けたハイザックが、アーガマの目の前に躍り出て、ブリッジにビームライフルを向けた!

 

「!!」

 

 そこに。

 

『やらせるかよ!』

 

 ジェリドのバイアラン・ガラハドが飛び込んできて、そのハイザックを殴り飛ばした。吹き飛ばしたハイザックに、両腕のビーム砲を浴びせて撃破する。

 

「助けて……くれたの?」

 

 茫然とつぷやくフォウを一瞥したバイアラン・ガラハドから通信が入る。

 

『勘違いするな。お前を死なせたら、カミーユの奴に借りを作ることになっちまうからだ』

「そう……でも、ありがとう」

『……ふん』

 

 つまらなそうに返したジェリドの表情には、しかしかすかな笑みが浮かんでいた。

 

「ありがとう、か。感謝の言葉をかけられるのもたまには悪くないな」

 

 そして、次々と接近していくティターンズのMSたちに対して不敵に言い放つ。

 

「さぁ来やがれ! この艦には一機たりとも、近づかせはしないぞ!!」

 

 バイアラン・ガラハドの両肩のスプレーミサイルポッドが火を噴いた。

 

* * * * *

 

 一方、別の宙域では、カミーユとルブラの対決が佳境に向かっていた。

 

「ルブラ、まだ戦って、憎しみの連鎖を生むつもりなのか!? 人のやることじゃない!」

 

 Zガンダムがビームライフルを撃つが、ルブラのヒュドラーはそれをかわしながら突撃し、ビームサーベルで切りかかる。

 

『お前も同じだろうが、人殺しの坊ちゃんがよぉ!! ヒャーハハハ!!』

 

 Zガンダムも、そのビームサーベルを自機のビームサーベルで受け止める。

 ルブラは、ビームサーベルを持つヒュドラーの腕のパワーを上げながら、さらに吠える。

 

『人殺しは人殺しらしく、じゃれていようぜ!!』

「俺は……人殺しじゃない!」

『それならそうなる前に殺してやるよ! 感謝しやがれぇ!!』

 

 そこで、Zがヒュドラーを蹴り飛ばす。吹き飛ぶヒュドラーが両腕のビーム砲を発射するが、Zガンダムはそれをかわすと、グレネードを発射する。グレネードはヒュドラーに着弾し、その両腕を吹き飛ばした。

 

『善人づらの人殺しごときがああああ!!』

 

 しかし、ルブラの闘志は消えず、両腕を失ったヒュドラーをさらに突撃させる。カミーユは、そのヒュドラーに照準を合わせ……。

 

「は、はしゃぐから、はしゃいじゃうから、そんなことになっちゃうんでしょ……!」

 

 ビームライフルを撃った。そのビームは、突っ込んでくるヒュドラーのコクピットを貫き……!

 

『ひいいぃぃぃぃ!! 死にたくねぇぇぇぇぇ! 助けてくれよおおぉぉぉぉ!!』

 

 ルブラを原子分解し、ヒュドラーを大きな火球にした。

 

「お調子……者が……!」

 

* * * * *

 

 ジュピトリス。そのブリッジのシロッコは、脳裏に嫌な波動が流れてくるのを感じた。彼は知る由もなかったが、それはルブラの断末魔と、それを目にしたカミーユの、抑えきれない感情の波動であった。

 

「不愉快だな……この感覚は……」

「は?」

 

 ふとつぶやいたシロッコに、副官がそう聞き返す。原作と違い、そばにレコアがいないので、独り言になっていたのだ。

 

「いや……なんでもない。ジ・Oの準備はできているな?」

「はっ。いつでも出撃できます」

「ならばいい。状況は定まった。あとは簡単だ。ジ・Oで出る」

「はっ」

 

 そしてシロッコはブリッジを出た。

 

(感情をむき出しにして戦うなど……これでは人に品性を求めるなど絶望的だ。やはり人は、より良く導かれねばならん。指導する絶対者が必要だ)

 

* * * * *

 

 前線を駆け、ティターンズのMSを撃破する俺の脳裏にある思念が届いた。

 

―――ひいいぃぃぃぃ!! 死にたくねぇぇぇぇぇ! 助けてくれよおおぉぉぉぉ!!

 

 それは、カミーユとの戦いの果てに散った、ルブラの断末魔だ。

 やったな。これで、カミーユの母のヒルダさんや、奴にやられたロベルトさんも報われるだろう。

 

―――そうですね。でも……。

―――『カレル』?

―――でも、考えてみるとかわいそうな人だったのかもしれません。

 

 あぁ……そうか。

 奴の現世での人生は戦いばかりで、それだけの人生だった。

 いくらそれが彼の好きなことだったとしても、他のことを知らずできずに終わってしまったのは、もしかしたらかわいそうだったのかもしれない。

 

 と、そこに。

 

『女ぁ!!』

 

 ヤザンのジ・Oもどきが突っ込んできた! 俺は、ジ・Oもどきが連射してくるビームライフルをかわしながら、ビームライフルで撃ち返した。

 

「戦争を遊びでやって楽しいか!? 戦いたいなら、FPSかサバイバルゲームでやれよ!! このサーシェスコピーが!!」

 

 思わず、素の口調で叫びながら、ジ・Oもどきに応戦する。まぁ、非人道的な行動も好物なサーシェスやルブラよりは、ヤザンはいくらかマシだが、それでも許せない相手だというのは間違いない。こいつの性根が治せない以上、ここで仕留めなければ奴の犠牲になる者が増えていく。

 

―――『カレル』、二人でやるぞ! また済まないが、力を貸してくれ!

―――はい!!

 

 サイド2での戦いのように、『カレル』に身体の主導権の一部を譲り渡す。

 そのとたん、千式の動きが大きく変わった。

 

『何、動きがまったく読めないだと!?』

 

 驚くヤザンの声。そりゃそうだ。あの時と違い、ある時は俺、またある時は『カレル』というように、機体の操作をする人格を、『俺』と『カレル』とで交互に切り替えているからだ。二人の操縦の癖(のようなもの)はそれぞれ違う。だから、向こうからすれば動きが変則的に見えて、読めなくなっているのだ。

 

 『カレル』がビームライフルを乱れうちし、ジ・Oもどきの左腕を破壊する。続いて、主導権が『俺』に戻り、ヤザンの攻撃を回避して、再びビームライフルを放つ。それで、右足を破壊した。ジ・Oもどきが右腕のビームライフルで反撃してくるが、それを交わしたところで、再び『カレル』にスイッチ。グレネードを発射して、メインカメラを破壊する。

 

 それでヤザンは戦意喪失したのか、ジ・Oもどきを反転させて撤退し始めた。だが、俺もカレルを、このまま奴を逃がすつもりはない。その機体を追撃する。そして、ビームライフルの狙いを定める。

 

「戦争を遊びにしている奴は……」

―――人の命を何とも思っていない人は……!

 

 俺たちのヤザンへの怒りにバイオセンサーが再び反応し、千式が再び銀色のオーラに包まれる。

 

「「地獄に帰れえええぇぇぇ!!」」

 

 トリガーを引く!! ビームライフルから、ZZのダブルビームライフルや、ユニコーンのビームマグナムかと思えるほどの太く強力なビームが放たれた!!

 

 そのビームは見事、ジ・Oもどきを貫き、そのコクピットから脱出ポッドが射出された直後、激しい爆炎を出して爆散した。

 

 




ファンアート募集中です!

* 次回予告 *

生き残った者たちが行くところはどこだ? その予測も立たないままに、人は人の生き血を吸う……。

『こいつら……!』
「緑色のMSだったら、ジャングルにでも突っ立っていればいいのだ!!」

シロッコのせせら笑いは、ただのあがきには聞こえなかった。

Zが呼ぶ最後の力、呼び起こすのは誰だ?

「強い……僕は勝てるのか……?」
『くじけちゃダメ、カミーユ。君は一人じゃない』
「カレルさん……?」

次回、『ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより』

第35話、『宇宙を駆ける者』

刻の涙は、止められるか?

※次回は、最終話とエピローグの二話同時掲載となります。
※次の更新は、1/26 12:00の予定です。





* * * * *

アーガマがシャングリラに立ち寄ったのは、運の尽きだというけど、それはアーガマにとってか? それともオレたち?

それはそうと、オレ、マリハ・クトゥル!

U.C.0088年のシャングリラにTS転生してきたんだけど、そのせいでとんでもないことに巻き込まれることになっちまった!

『ガンダムZZって作品の世界に転生してきたプル似のTS転生者だけど、ヤザンとかいう人にゼータ強奪を持ちかけられてます~ガンダムZZ別伝』

2/1 12:00
もうすぐ出番だ!


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終章#05『宇宙を駆ける者』

さぁ、いよいよ最終回です!

カレル最後の戦い、刮目してご覧ください!……と言ってみる。


 目の前で、ヤザンのジ・Oもどきが、激しい爆炎を放ちながら爆散する。

 ヤザンには脱出されたが、もう彼がこの戦いに姿を現すことはないだろう。この後は、シャングリラでジュドーたちとボカスカやるルートだろうしな。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 再び大きな息をつく。この前のように、『カレル』とともに身体を共有して戦ったのだ。やはり、その負荷はかなりのものがある。おまけに今回は、サイコパワーまで発動したのだ(本日二回目)。

 

―――大丈夫か、『カレル』?

―――はい、なんとか……。……さんのほうは?

―――かなり疲れたが、なんとか大丈夫。俺たちが倒さなくちゃいけない敵はもういないはずだ。少し休んでいてくれ。

 

 ルブラはカミーユに倒され、ヤザンは今撃破した。シロッコは、カミーユが決着をつけてくれるだろう。

 俺がどうしても倒さなくてはいけない相手は、もういないといっていい。なら、ここから先は俺一人だけでも十分だと思う。

 やることがあるとしたら、カミーユがクルパーにならないよう気を付けるぐらいか。

 

―――はい。言葉に甘えさせてもらいます。くれぐれも、気を付けてくださいね。

―――あぁ。

 

 そして、『カレル』はまた意識の底に引っ込んだ。寝ている波動が感じられる。

 俺はあのクスリを取り出して、腕に押し付けて注射する。本当に気を付けないと、マジでヤク中になりかねんぞ……。

 

 しかし、敵はまだまだ多い。撃破しても撃破しても、次から次へとやってくる。

 ロング・メガバスターで薙ぎ払ってやりたいのだが、その砲身は、さっきのヤザンとの戦いで失われてしまった。

 

「な!」

 

 ふと見ると、シロッコのジ・Oが、コロニー・レーザーの中に入っていくじゃないか。それを追って、シャアのサ・リゲルも中に入っていく。ついでに、カミーユのZも後を追うように。

 

 大丈夫かとは思うが、俺も守りにいくべきか。しかし、艦隊の直掩もしなくちゃならない。はっきりいって戦力が足りないのだ。ここまで壊滅せずにいるのが奇跡である。

 原作と同じく、主流派が、コロニー・レーザーを傷つけないために手を抜いてくれているのが大きい。

 

 とはいえ、やはり数が多すぎる。こうして俺が、ハイザックやマラサイ相手に無双している間にも、別の機体たちがコロニー・レーザーやエゥーゴ艦隊に向かっている。どうにかしなくては……。

 

 と、そこに。

 

 別の方向から、ビームやミサイルが飛んできて、コロニー・レーザーに向かおうとしているティターンズのMSたちの何機かを撃破してくれた。

 

 ビームやミサイルが飛んできたほうを見ると……。

 

『待たせたな! カレルも生きてるようで何よりだ!!』

 

 聞き覚えのある声とともに、ボスニアと、アレキサンドリア級二隻、何隻かのサラミス級、そしてMS隊がやってきた!

 やっと、良識派の艦隊がやってきてくれたか! それと、アクシズの艦隊も!

 

「マクマナス大尉、私はコロニー・レーザーの守りに就きます! 主力の援護をお願いします!」

『了解した! 好きなだけ暴れてこい!』

 

 いや、大暴れはもう、さっきのヤザン戦でやってきたんだけど。

 とりあえず俺は、マクマナス大尉の好意に甘えて、コロニー・レーザーへと向かっていった。

 

* * * * *

 

「よし、MS隊発進せよ! 主流派の奴らに、コロニー・レーザーやエゥーゴ艦隊を一機たりとも触れさせるな!」

『了解! ギャプランTR-5、発進する! 遅れずについて来い!』

『了解です!』

 

 アレキサンドリア級『アスワン』から、T3部隊隊長、マーフィーのギャプランTR-5を始めとするT3部隊のMSが次々と発進していく。

 エリアルドのガンダムTR-6、カールのヘイズル・アウスラもその後に続く。

 

 サラミス級『アンティグア』のガディ・キンゼーも、アスワンに負けじと指示を飛ばす。

 

「T3の奴らにばかりいい格好をさせておくな! アジス大尉、お前の活躍を期待しているぞ!」

『わかっています! ティターンズの理想を歪ませた奴らを許しはしませんよ! ガブスレイ、行きます!』

 

 アンティグアから、アジス・アベバ大尉率いるMS部隊も発艦していく。

 

 他にも、良識派の艦隊からMS隊が発進していき、エゥーゴ艦隊に襲い掛かっている主流派ティターンズのMSや艦隊に、猛禽のように襲い掛かっていった。

 

* * * * *

 

 一方、アクシズの艦隊からも、ハマーンのキュベレイを始めとしたMSが出撃していた。

 ハマーンはそのうちの一機、ガルスJの試作機のパイロットに向けて声をかける。

 

「マシュマー、私が与えたそのガルスJと薔薇に見合った活躍を期待しているぞ」

「はっ、お任せくださいハマーン様。あの女などには負けません!」

 

 ハマーンは苦笑すると、改めてアクシズのパイロットたちに号令をかけた。

 

「よし、行くぞ! ティターンズの奴らに、我らアクシズの力、見せつけてやるのだ!」

 

* * * * *

 

 マクマナスのリック・ディアスが部下たちのネモと共に戦っていると……。

 

「!!」

 

 どこかから飛来してきた対艦ミサイルが、ボスニアに着弾した。それが致命傷だったのか、ボスニアは黒煙を発しながら小爆発を繰り返す。

 

「ボスニア、大丈夫か!」

 

 返事はすぐに来た。

 

『けが人は出ましたが、クルーは全員無事です。でもこの艦はもうだめです。総員退艦しますので、援護をお願いします!』

「了解した!」

 

 と、ミサイルが来たほうを見ると、緑色の、二連ビームガンと円形の盾を持ったMS……パラス・アテネが飛んできた。背中には、左側に4発、右側に3発の対艦ミサイルがマウントされている。1発欠けている、ということは、こいつがボスニアを沈めた犯人なのだろう。

 

「ボスニアをやったのはこいつか! これ以上やらせるわけにはいかないな! 行くぞ、ジョッシュ!」

『了解です!』

 

 マクマナスはジョッシュのネモとともに、パラス・アテネに向かっていく。

 二機は巧みなコンビネーションで、ラムサスのパラス・アテネと互角以上にわたりあっていた。

 

 パラス・アテネの発射したシールド・ミサイルをリック・ディアスの機動力を頼りに振り切る。そしてその隙にジョッシュのネモが背後からビームライフルで攻撃する。パラス・アテネがそれをかわすと、そこにマクマナスのリック・ディアスがビームサーベルで切りかかる。

 パラス・アテネがつばぜり合いに押し勝ち、さらに追撃しようとしたところで、ジョッシュのネモのビームライフルが、パラス・アテネの右腕を撃ち抜き、ビームガンごと破壊した。

 

『こいつら……!』

「緑色のMSだったら、ジャングルにでも突っ立っていればいいのだ!!」

 

 そしてついに、リック・ディアスのクレイバズーカが、パラス・アテネの背中に着弾! 対艦ミサイルが誘爆した!

 ラムサスがとっさに、マウントされたムーバブルシールドをパージしたので、機体ごと爆散するのは免れたものの、それでも少なくはないダメージを負った。そこに。

 

「武装をゴテゴテしてるからって勝てると思うな!!」

 

 ジョッシュのネモが突撃。パラス・アテネがビームサーベルを構える前に、ビームサーベルをそのコクピットに突き刺した!

 その瞬間、ラムサスは断末魔を発することなく、チリとなって消えたのだった。

 

 そして、ネモが離れると同時に、パラス・アテネは爆散した。

 

 それを見下ろすジョッシュの目に、ボスニアから脱出していくランチの姿が映った。そして、ランチが十分に離れた直後、ボスニアは大爆発を起こした。

 

『さらば、わが母艦、ゆっくり眠れ……』

 

 という、キザっぽい哀悼の意を口にしたジョッシュに苦笑しつつ、ランチに通信を入れた。

 

「脱出できたか。欠員や死亡者はいないか?」

『はい。全員、無事に退艦できました』

「よし、それじゃアーガマにでも避難していてくれ。俺が護衛につく。ジョッシュ、そこは任せたぞ」

『えー……了解です』

 

 そして、ジョッシュのネモが、他のエゥーゴのMSと共にティターンズを迎撃しているのを背後に見る中、マクマナスのリック・ディアスはランチとともに、アーガマに向かっていくのだった。

 

* * * * *

 

 コロニー・レーザーの中に入ろうとするハイザックをビームライフルで撃ち抜く。これで、このあたりのティターンズ機はないはずだ。

 

 あとは、シロッコとカミーユとシャアだけか。ハマーンが抜けてる状態で、内部でどんな議論が聞こえているか気になるが、今はそれどころではない。発射されるまで、コロニー・レーザーを守り切らなければならないのだ。

 その中を見ると、中はまばゆい光にあふれ始めている。エネルギーが臨界に差し掛かっているのだ。今頃アーガマの中では、「グリプス2、エネルギー臨界!」「今撃たないと、ターゲットが逃げます!」「わかってる! コロニーの中には、カミーユたちがいるんだよ! 彼らが出てくるまで……それまでは待つんだ!」という会話が交わされていることだろう。ちなみに劇場版では「コロニーの中にいるカミーユたちが出てくるのを待ってやるしかないだろ!」だった。

 

 そんなことを考えながら、味方の攻撃をかいくぐりながらコロニー・レーザーに向かってくるティターンズを撃ち落としていると……。

 

『大尉は下がってください! シロッコは僕がやります!』

 

 というカミーユの声が聞こえてきた。コロニー・レーザーのほうを見ると、三つの影が出てくるようだった。きっと、シロッコのジ・O、カミーユのゼータ、シャアのサ・リゲルだろう。

 

 それにしても、二人の新鋭機つきニュータイプを相手にして、傷一つつけてないあたりはさすがシロッコだな。というかむしろ、二人を押しているようにさえ見える。発射を阻止するため、二機をコロニーから脱出させないように立ちまわっているのだ。

 このままにしてはおけない。援護しよう。

 

 ビームライフルを撃って、ジ・Oをけん制し、シャアとカミーユを援護する。

 ジ・Oが二機を追撃しようとしたが、それは背中のマインレイヤーから、爆雷をばらまいて阻止した。

 

『カレルさん!』

「二人とも、早くコロニー・レーザーから出て! そうしないと、コロニー・レーザーが撃てない!」

『了解!』

 

 そして、俺たちはコロニー・レーザーの前面から退避した。できればシロッコはそのままコロニー・レーザーに巻き込まれてほしかったのだが、さすがにそうはいかず、シロッコもコロニー・レーザーから脱していった。

 

 かくして、コロニー・レーザーが発射された!!

 

* * * * *

 

 なかなかエゥーゴの守りを崩し、コロニー・レーザーを奪還することができず、いら立ちを隠しきれないバスク。

 その時だった。

 

「た、大佐!?」

「?」

 

 その次の瞬間。

 彼の視界は白く染まり、彼の意識も白く染まった。

 

 彼は断末魔を発することさえも許されなかった。それが、これまで彼がしてきた非道への罰であった。

 

 主流派ティターンズはこのコロニー・レーザーの光に飲み込まれ、次々と消滅していく。

 最終的に残ったのは、全艦隊の1割、エゥーゴ・良識派ティターンズ連合艦隊の半分にも満たない数に過ぎなかった。

 

* * * * *

 

 主流派ティターンズの艦隊が、コロニー・レーザーのレーザーに飲み込まれる。

 その様をパプテマス・シロッコはジ・Oのコクピットから愕然と見ていた。

 

「こ、これでは……エゥーゴには勝てん!!」

 

 艦隊やMSのほとんどを失い、さらにバスク・オムのドゴス・ギアも消滅し、指揮系統が破壊されたのだ。

 これで勝つのは、いかにもシロッコといえども無理である。

 

「ジュピトリスに戻って、次の機を待つしかないというのか……」

 

 そこに。ガンダムタイプと、銀色のMSが、ビームを撃ちながら接近してきた。

 

* * * * *

 

「シロッコ!!」

 

 カミーユのZガンダムが、シロッコのジ・Oに切りかかる。

 

『目の前の現実も、見えない男が!!』

『さかしいだけの子供が、何を言う!!』

『さかしくて悪いか!!』

 

 つばぜり合いを演じる、ジ・OとZガンダム。

 

 俺は腕からグレネードを発射し、援護する。はっきり言って、先のヤザン戦でかなり消耗している俺には、シロッコと正面から戦うのは無理ゲーだ。こうして、カミーユを援護してやることぐらいしかできない。

 それに、シロッコを倒すのはカミーユの役目だ。というか、この仕事はカミーユしかできない。

 

『あなたはいつも傍観者で、人をもてあそぶだけの人ではないですか!』

 

 Zガンダムが再び斬りかかる。

 

『私にはその資格がある!!』

 

 再びつばぜり合いが始まり、ぶつかりあったビームの刃同士の間にスパークが走る。

 

『それは、人を家畜にすることだ! 人を道具にして!』

『子供が……ほざくか!!』

『それは一番人が人に、やっちゃいけないことなんだ!!』

 

 と、ジ・Oのスカート部から隠し腕が伸びて、ビームサーベルを構える。カミーユは、それに気が付いていないようだ。

 

「カミーユ君、よく見て!」

『!!』

 

 カミーユは、なんとかゼータを後退させてその不意打ちを交わしたが、右腕に構えていたビームライフルを切り裂かれて、失ってしまう。

 

「強い……俺は勝てるのか……?」

『くじけちゃダメ、カミーユ。君は一人じゃない』

「カレルさん……?」

 

『な、なんだ、Zと銀色が……?』

 

 シロッコが驚くのも無理はない。俺の千式と、カミーユのZがオーラに包まれているのだ。

 Zに搭載されているバイオセンサーと、俺の千式のバイオセンサーが互いに共鳴して力を発揮している。

 

「生きている人も、死んでしまった人も、君につながりのある全ての人が、君に力を貸してくれる」

『力を……』

「そう。ゼータは、それを表現できるマシーンなんだよ。バイオセンサーが、全ての人の意思を力に変えてくれる」

『……わかります。俺の周りに、力が集まってくるのが……!』

「それでOK。さぁ、ここから先は君の仕事だよ。頑張って!」

『はい!』

 

 そして、俺たちは再び、シロッコのジ・Oに襲い掛かった。

 ジ・Oがビームライフルを構えたところに、俺の千式が腰のワイヤーアンカーを放った。アンカーは、トリッキーな軌道で、ジ・Oのビームライフルを潜り抜け、ジ・Oのビームライフルに絡みつき、そして奴の手から奪い取られた。

 

『シロッコにはわかるまい! この、俺を通して出ている力が!!』

『力だと!?』

『そうだ!』

 

 Zがビームサーベルを振るい、ジ・Oのビームサーベルを持つ左手を斬り落とした!

 

 そこにまた、声が届く。

 

『カミーユはその力を表現できるマシンに乗っているのよ!』

 

 フォウの声だ。カミーユと一番つながっている彼女も、彼に力を貸してくれる一人。

 

『女の声……!?』

 

 そして、Zはウェイブライダーに変形し、ジ・Oに突っ込んでいく。

 正常なシロッコとジ・Oならば、その突撃をかわすのは造作もないことだろう。だが。

 

『!?』

 

 突然、ジ・Oが動きを止めた。まるで金縛りにあったかのように。

 

 俺には見えた。サラの幻が、後ろからシロッコに抱き着き、身動きを封じているのが。

 シロッコは、自分が用済みとみなし、排除した少女に、逆に牙をむかれることになったのだ。

 

 さらに届く、カミーユに力を送る声。

 

―――カミーユ……。

 

 エマさん。

 

―――カミーユ!

 

 カツ。

 

―――カミーユ……!

 

 ファ。

 

 その他多くの人の想いがウェイブライダーに集まり、ウェイブライダーは青い光に包まれた。

 

『まだ抵抗するのならあああああ!!』

『じ、ジ・O……なぜ動かん!?』

 

 猛然と、動けないジ・Oに突進していくウェイブライダー。

 

「それはあなたが、人を道具として利用し、想いを踏みにじってきた結果だよ!!」

 

 そしてついに、ウェイブライダーが、ジ・Oに突き刺さった!!

 

―――ぐおおおおおお!!

―――女たちのところへ帰るんだ!!

―――お、女だ、と……!?

 

 カミーユの叫びと、シロッコの断末魔の思念が、俺のところへ届く。やったな……。

 

 と、そこに、ネモが一機駆け付けてきた。すぐに通信が入ってくる。

 

『カミーユは!?』

 

 ファだ。エマさんとドッキングした後、一度アーガマに戻り、ネモに乗り換えたのだろう。

 俺は無言で、ジ・Oに特攻したウェイブライダーのほうを指し示した。

 

 やがて。

 

 ジ・Oが爆発を巻き起こし、その衝撃でウェイブライダーは吹き飛ばされた。

 それをファのネモが受け止める。

 

『カミーユ、大丈夫よね!?』

 

 心配そうなファの声。カミーユの最後の言葉は劇場版だったが、その前はテレビ版だっただけに、俺も少し心配だ。シロッコの断末魔をくらい、クルパーになっていなければいいのだが。

 

 心配しながら見つめる俺とファの前で、ウェイブライダーはゆっくりとMS形態へと変形していく。まるで、天使から人間に戻るかのように。

 

『大丈夫なのね、カミーユ!?』

『あぁ、メットを交換する。シロッコのMSは、ジュピトリスを道連れにしたんだ……』

 

 どうやら無事だったようだ、よかった。俺も安堵のため息をつく。

 

―――無事でよかったですね……。

 

 心に届く、『カレル』の声。俺も心の中で答えた。

 

―――あぁ。

―――よかった……。これで全て終わったんですね。お疲れ様です。

―――あぁ。『カレル』もお疲れ様だ。

 

 そんな俺たちの前で、ジュピトリスの爆発が少しずつ消えていった。

 

* * * * *

 

 それから。

 

 主流派ティターンズの将兵たちは、ほとんど捕まり、処罰されたり、予備役に降格されるなりした。中には逃げ延びて抵抗を続ける者もいたが。

 エゥーゴは連邦軍と統合し、ブライトさんも連邦軍に復帰とあいなった。

 エマさんやカツといった、エゥーゴのスタッフたちも、そのまま連邦軍に編入となったが、カミーユは医者になりたいとのことで、連邦軍には入らず、民間に下ることにしたそうだ。その傍らにはフォウ……とファがいたことは言うまでもない。修羅場にならなければいいのだが。

 そうそう、コーウェン少将は今回のことで、なんと大将に二階級昇格。ブライトさんと共に連邦軍の改革に挑むそうだ。

 

 また。

 

「ケーラ少尉、動きに腰が入ってない! そんなことでは、目をつぶっている俺を倒すこともできんぞ!」

『はい、すみません、ジェリド大尉!』

 

(見ていろ、カミーユ。俺はこの新しいティターンズを精強かつ本当の意味で地球圏を守る最強の部隊にしてやる。そしてお前が民間に下らずにここに入ればよかったと後悔させてやる。それが俺なりの、俺とお前との決着だ……!)

 

 良識派のティターンズは条件通り、連邦軍の外郭部隊として再編。司令官にはT3部隊のオットー大佐が実戦指揮官として、そしてジェリドがそのMS隊隊長に着任することになり、ジオン残党や主流派ティターンズの残党への対処にあたることになる。

 その後、アムロ、ブライトらエゥーゴメンバーと合流し、ロンド・ベルに再編されることになるが、それはまた別の話。

 

 一方、アクシズのほうは……。

 

「まさか、一度アステロイドベルトに引き返した私たちが、サイド3の人たちに望まれて戻ってくることになるとはな」

「そうだな。お前が地球圏に出ていった時は、こうなるとは予想してもいなかった。これもカレルのおかげだ」

「あぁ。だが、まだ一歩をしるしただけだ。先は遠い」

「そうだな。色々問題はある。ここからが貴様の真価が問われる時だぞ、シャア」

「あぁ、わかっている。だが不安視はしていない。ハマーン、お前がいてくれればどんな問題も解決できる」

 

 シャアがアクシズに帰還。彼はハマーンから指揮権を譲られることになった。そのシャアを新たな指導者にいただいたアクシズは、自分たちがサイド3に進撃することで新たな混乱や戦いの種を生むことを懸念し、一時アステロイド・ベルトに戻ることになった。

 

 だが。

 

 ダカールで演説を行い、ティターンズから地球圏を解放するきっかけを作ったエゥーゴのクワトロ・バジーナ、彼がジオン・ダイクンの遺児、シャア・アズナブル、キャスバル・ダイクンであり、その彼がアクシズの指導者となったことを知ると、サイド3の市民たちは、自分たちを導いてくれる存在として、彼、そしてアクシズの帰還を求める声をあげ、やがてそれは結実して、アクシズ軍の者たちは、アクシズを出てサイド3に帰還。ついに彼らは再び母なる地に戻ってきたのである。

 

 それから数年後、シャアは望まれて、ジオン共和国の首相となる。だが、彼が言った通り、その前途は多難だ。彼が連邦寄りの態度をとることに反発して、共和国を出奔して再び地下に潜り活動を開始した一部のジオン残党への対処、政権を追われることになった旧ジオン共和国首脳陣との関係など問題が山積みである。

 

 シャアはそれらの問題の解決に全力を捧げて悔いることはないだろう。その傍らには、彼と結ばれた、妻のハマーン・アズナブルの姿もある。彼ら二人の力なら、それらの問題を解決することは疑いないはずだ。

 

 そして俺は……。

 

「さて、それじゃ行くか」

 

 ラフな服装をした俺は、リュックを担ぐ。そう、俺は連邦軍を除隊したのだ。

 もう、ここで俺のするべきことは終わった。少なくとも、今のところは。これからは気の向くまま心の向くままに旅をしようと思ってる。思えば、今までゆっくりと宇宙世紀の世界を巡ったことはなかった。

 そんな俺に、『カレル』の声が聞こえる。

 

―――まずは、どこに行きますか?

―――そうだな。まずは、サイド6に行くか。約束通り、ロザミィに会いに行ってやらないとな。

―――そうですね。私も早く会いたいです。

 

 と思っていると。

 

「冷たいわね。私を置いていく気?」

 

 聞いたような声に後ろを振り向くと……。

 

「えぇ、れ、レコアさん!?」

 

 そう、同じく旅姿のレコアさんが後ろに立っていた。

 

「行ったはずよ、嫌でも離してあげないって」

「は、ははは……」

「私を魅了した責任、とってもらうから」

「……わかりました、それじゃ行きましょうか」

 

 と、心の中に、なんというか重い波動が伝わってくる。『カレル』がやきもちをやいてるみたいだ。

 

―――怒るなよ。俺がお前のことを忘れるわけないだろ? 俺とお前は一心同体なんだから。

―――そ、そうですよねっ。レコアさんと一緒にいたって、一番は私ですよねっっ。

―――そんな前のめりになるなよ。安心しろ。俺とお前はずっと一緒なんだから。

―――ずっと一緒……。

 

 お、おいっ、また変な想像して赤面するなっっ。

 

「ん、どうしたの? カレル?」

「い、いえ、なんでもありませんよ……あはは……。それじゃ行きましょうか」

 

 そして、俺と『カレル』、レコアさんは旅立っていった。

 先のことはわからない。また、刻の涙が流れるかもしれない。その時が来たら、また俺の出番が来てしまうかもしれないが。

 それでも今は、この平穏を楽しもう。俺と『カレル』が望んだ、この平穏を……。

 



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エピローグ『U.C.0123』

 宇宙世紀0123。

 宇宙世紀0087のグリプス戦役が終結してから、36年が過ぎていた。

 その地球圏は、宇宙世紀0096のラプラス事変という紛争事件はあったものの、それ以外は平穏に時を刻み、人々は、一年戦争とグリプス戦役による二つの大戦の傷を乗り越え、地球圏の復興、さらなる発展にまい進していた。

 その人々は希望にあふれていた。ラプラス事変で解放されたラプラスの箱の石碑の影響によるものかもしれないが、確たる証拠はない。

 

 だがそんな中でも、戦いの種が芽生えるのが人間社会のサガである。

 

 宇宙世紀0106に設立された、複合企業ブッホ社の私設軍、クロスボーン・バンガードが、理想国家コスモ・バビロニア建国のために動き出したのである。

 

 クロスボーン・バンガードはフロンティアⅣをたちまち制圧し、コスモ・バビロニアを宣言。次なる目標を、フロンティアⅠに定め、侵攻を開始した。

 

 のちの世に、『コスモ・バビロニア建国戦争』と呼ばれるようになった戦争である。

 

* * * * *

 

「人間だけを殺す機械かよ!?」

 

 ビルギット・ピリヨは、そう憤慨しながら、愛機のヘビーガンを駆っていた。

 

 フロンティアⅠはまさに地獄だった。クロスボーン・バンガードがコロニーにはなった無人兵器・バグが暴れまわり、コロニーの住民を狩りまくっていたのである。

 

 人々は、地下に隠れたりしていたが、人間の炭酸ガスを感知するバグの前には意味をなさず、犠牲はただ増え続けた。

 

 ビルギットは、ただ住民を根絶やしにするための兵器をばらまいたクロスボーン・バンガードへの怒りをあらわにしながら、ただ戦い続けた。

 

 僚機であるシーブック・アノーのF91や、セシリー・フェアチャイルドのビギナ・ギナとはいつの間にか離れ離れになっていた。

 

 それでもビームサーベルを振り回し、群がるバグを切り払いながらフロンティアⅠの空を飛んでいた。

 

 だが。

 

 いくらビルギットが優れたパイロットでも、数の差には勝てなかった。

 

 次から次へと群がるバグの前に、両足を破壊されてしまい、ついにはコクピットハッチまで切り裂かれてしまう。

 

 そしてついに、目の前にバグが迫ってきた!

 

 もはやここまでかという諦める気持ちと、まだ死にたくないという恐怖、そして負けてたまるかという闘志が交錯しつつ、目を閉じた彼の前に。

 

 戦乙女は舞い降りた。

 

 恐る恐る目を開けた彼が見たのは、一機のMS……らしきものだった。

 

 白銀一色に身を包んだ機体。機体の各部からはみ出したフレームらしきものは、まるで羽のよう。

 なにより、その機体からは、銀色のオーラのようなものが漂っていた。

 

「シーブック……なのか……?」

 

 だが、戦乙女はそのビルギットの問いに答えることなく、ただ目の前のバグに対して腕を振った。すると、その手から銀色のオーラが放たれ、それを浴びたバグたちは次々と墜落してしまう。

 

 信じられないことはまだ続いた。

 

 また接近してきたバグたちに、再び腕を振る。すると、オーラを浴びたバグたちは、まるで彼女のしもべになったかのように彼女への攻撃をやめ、本来味方であるはずのバグに攻撃を仕掛け始めたではないか。

 

 そうしているうちに、ビルギットのヘビーガンと、戦乙女の周囲のバグは一機たりとも存在しなくなっていた。

 

* * * * *

 

 戦乙女がこちらを振り向く。

 本来、MSに表情などないはずなのに、なぜだろう。

 

 ビルギットには、そのMSがなぜか慈愛に満ちた微笑みを浮かべたように見えた。

 

 戦乙女は、ビルギットに対して腕を振る。

 すると、ビルギットのヘビーガンはゆっくりと、宇宙港へ……彼の母艦であり、仲間たちが待つスペース・アークの元へと流れていった。まるで、ゆりかごを川に流すかのように。

 

「あんたは……一体……」

 

 そこまで問いかけるが、そこで限界だった。

 疲労や精神的重圧などで、意識が遠くなっていくビルギット。その耳に、女性の声らしきものが聞こえた。

 

―――私は、ただの女の子ですよ、ただの……ね……。

 

* * * * *

 

 かくして、ビルギット・ピリヨは生き残った。

 不思議と、『ただの女の子』と名乗ったあのMSは、シーブックのF91と、クロスボーン・バンガードの幹部、鉄仮面のラフレシアとの最終決戦の場には現れなかった。

 

 しかも、シーブックもセシリーも、そんなMSは見なかったという。

 

 ビルギットにも、あれは夢だったのか、どうだったのかわからない。ただ一つあるのは、あの後、フロンティアⅠのバグは一掃され、数少ないフロンティアⅠの市民たちが、かろうじて命をつないだ、ということ。

 

 周囲は、ビルギットが無我夢中でバグをせん滅していき、フロンティアⅠを救ったのだというが……。

 

 ただ彼は思う。あのMSは確かに存在した。そして、自分とフロンティアⅠを救ってくれたのだ、と。

 

 後にビルギットは、ネット掲示板にあることを書きこんだ。その書き込みは、やがて歴史研究家たちに注目され、話題になることになる。

 

 その書き込みとは……。

 

『自分はフロンティアⅠで銀色のMS……いや、戦乙女(ラ・ピュセル)を見た』

 

 

 

ティターンズのモブテストパイロットにTS転生したので、刻の涙を減らすべく頑張ってみます~機動戦士Zガンダムより・完

 




さぁ、この銀色のMSが何者かは、皆さんの想像にお任せします。

そして『テテテ』はこれにて終幕。読んでくださり、ありがとうございました!
今回も『てんえん』に勝るとも劣らぬUAや評価をいただき、本当に嬉しいです! 感謝感激雨霰時々雪崩です!
次回作もよろしくお願いします!

なお、『テテテUC(ユニコーン)』の設定も考えていますが、それは別の作者さんにお任せしようと思ってます。
というわけで、書いてくださる方、募集中。やってみようと思った方はメッセージください(笑

というわけで次回作の予告、どうぞ!

* * * * *

シャングリラにアーガマがやってきたのが運のつきと誰かが言ってたけど、それはアーガマにとってか? それともオレたちにとって?

それはともかく、オレ、マリハ・クトゥル!
U.C.0088年のガンダムに世界にTS転生した男子大学生! 転生して今は13歳のロリっ子!

シャングリラでジャンク屋をしていたオレとジュドーたちは、ヤザンとかいうおっかない兄ちゃんに唆され、生活費のために、アーガマからZガンダムを盗むことになっちまった。

ジュドーは『なんならオールドタイプは引っ込んで、みんな俺たちニュータイプに任せりゃいいんだ』とどこかで言ってた気がしたけど、どうなることやら。

まぁ、でもオレたちはジャンク屋、若い仲間! オレがせいぜい頑張ってみんなをサポートしてやらなきゃな!

『ガンダムZZって作品の世界に転生してきたプル似のTS転生者だけど、ヤザンとかいう人にゼータ強奪を持ちかけられてます~ガンダムZZ別伝』

2/1 12:00
ついに、やっと出番だ!


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