雪の中からこんにちは、飼い主さん! (ものもらい)
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本編
1.初めまして、元兎のハンターです


 

 

雪の中からこんにちは。お元気ですか?

 

―――ねえねえ、お元気ですか?ねえねえ。…と私は一生懸命跳ねてみるのですが、『飼い主さん』はまったく反応してくれません。折角温かいテントから抜け出して雪の中に潜り込んで飛び出してみたのに。飼い主さん酷いですっ。

 

 

―――え、『飼い主』って?

…ふふふ、この人は私の飼い主なのです。何故なら私は兎。元兎の現人間ですから。

私は真っ白な雪兎の中で、ただ一匹だけ黒くて――――皆によくもきゅもきゅされましたのでもきゅもきゅし返したら、何故か皆、私に構ってくれなくなりました。

 

寂しくて雪の中に埋もれてたり、雪玉を作っては通り過ぎる人間に見せたりしたのです。構って欲しくて猫パンチならぬ兎パンチもしたのです。そしたらやっぱり皆逃げちゃって、一人しょんぼりしてたら飼い主さんが来たのでした。

私は同族と同じ匂いのする飼い主さんに喜んで飛び付きました。ぐるぐるしました。兎パンチしてみました。そしたら雪の山に埋もれてしまったので、一生懸命引っ張り出しました。

 

でも何故だか飼い主さんは起きないし震えているので、くっついて温めてあげました。

その間、蜥蜴さんが興味深そうにこっちを見てたのですが、私と目が合うと何処かに行っちゃって。寂しくてそのままお昼寝することにしたのです。

 

―――うとうとしていたら不意に飼い主さんがもぞもぞ動きだしたので、私も目を覚ました訳ですが……何故か飼い主さん、ゴロゴロ転がっていました。

私も真似てゴロゴロしたら飼い主さんに蹴られてしまい……多分その時の私は(´・ω・`)って顔してたと思います。飼い主さんも似たような顔をしてました。

それから飼い主さんはゆっくり手を伸ばして、もしゃもしゃしてくれたので鼻先を押し付けてみました。ああそれで…髭を、引っ張られました…。

 

でも、仲良くじゃれ合ってたのに、飼い主さんは何処かに行ってしまったのです。

私は寂しくて寂しくて、ずっとそこで丸まってました。そしたら陽が昇った頃に飼い主さんがまた来てくれて、お肉を寄こしてきましたが私はベジタリアンなので拒否りました。そしたら今度は飼い主さんが(´・ω・`)って顔をして、それを見た私も似たような顔をしたと思います。

 

次の日も次の日も来てくれたのですけど、やっぱり帰っちゃう飼い主さんが恋しくて、雪山の凄い人に聞いてみたんです。会いたいよーって。

凄い人は「お前は人を見るともきゅもきゅしちゃうから人里には行っちゃ駄目なんだ」って言われました。人間は弱くて、もきゅもきゅすると死んでしまう。そうすると怖い人に滅多刺しにされて、飼い主さんに悲しい思いをさせるんだよ、とも言われました。

じゃあ私はずっと独りぼっちなの?って聞いたら、凄い人はうーんって悩んだ後、小さな声で教えてくれました。

「一つだけ、方法があるけど、そしたら君はもう戻れないし、自分の身も十分に守れなくなるんだよ。それでもいいかい?」

 

私は当然頷きました。

何かあっても何とかなるだろ精神で生きてきましたから、あんまり深く考えなかったのです。

 

凄い人は不思議な山菜を渡すと、飼い主さんの前で食べなさいとだけ言いました。き、き、きせいじじつ?…を作ればイケると言っていました。

 

それで今度は美味しそうな葉っぱを持って来てくれた飼い主さんが遠くに見えた瞬間にささっとぺろっと食べて、飼い主さんが寄ってくる頃にはもう、ぷるぷる震えてました。

飼い主さん…すごくキョドってました。雪を孕んだ風に一瞬視界が閉ざされた後、すごく寒かったのを覚えてます。耳が痛かったのも覚えてます。

飼い主さんは何も言わないで私を見てまして、ややあってから私に剥がれた(?)毛皮をしっかり着せて手を引いてくれたのですよ。

その後色々あったけど、飼い主さんは飼い主さんになってくれました。そっけないけど心の広い人なのです!

 

だから今だってそっけなく掘り続けてるけど、あと一分したら私の好物の林檎をくれるって分かってます。

そのまま黙って林檎を齧ってたら、最初に言いつけられた―――テントに戻って火の番をしてろと頼んでくるのです。私が火の番をしながら寝てる頃には帰って来て、また林檎をくれるのです。偶に苺もあるので、わくわくしちゃいます。

 

「ほら」

「……」

 

――――でも、本当に偶に、意地悪をしてくるのです。

目の前に転がってる肉。機嫌が悪いとこれを投げてきます。そういう日は黙っていなくなって心配かけてやるのです。

 

私は震えていた猫を一匹掴んで、兎の頃よく昇ってた場所に腰掛けます。暇だったので雪玉を作ってみました。…兎の頃と違って、当時の雪玉を作るのはちょっと時間が必要なのです。

そしてやっと出来た雪玉!これを――――飼い主さんの出口近くに落として気を引くのですよふふふ。よいしょ、よいしょ、てい。

 

「ぎ―――――!!」

「ちょ、」

 

えっへん。と胸を張る下で、何かの鳴き声と隣から猫の「ちょ、」が聞こえましたが無視です。二個目を作りましょう―――投下!

今度は何の声も聞こえません。猫は毛を逆立てて丸まっています。私は緊張している猫を撫でると、遥か下から飼い主さんが私を呼ぶ声が聞こえました。

 

 

「―――黒ぉぉぉぉぉ!!降りて来いっお前はなんて狩りをしてるんだ!!」

 

………狩り、って。何の事でしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご注文は?」

「肉」

「葉っぱ!」

「え……」

「…―――サンドイッチで」

 

あの後、飼い主さんが見事仕留めた…えーっと、何とかを売ったりしたら余裕が出たので、飼い主さんが何か買ってもいいよって言ってくれました。

普段はあまり買ってくれないのです…生活が苦しいのかなと思って猫に聞いたら、飼い主さんは医療費とか将来の事も考えて貯金したりとか、色々考えてお金を使っているだけだと言っていました。…その言葉通り、どんなに高くても武器と防具とかには妥協しませんもの。

私は家計簿をつけてる飼い主さんの膝を枕にして火に当たる時間が好きです。偶に大人しくしてると二三回頭を撫でてくれるのですよ。

――――あ、葉っぱと何かが来ました。美味しそうです。

 

「……」

「…おい、サンドイッチを早々に分解するな」

「だって、お肉が…」

「食えよ、それぐらい」

「……」

「いただきます、っと」

「………」

「……」

「…………」

「………」

「………ぐすん」

「―――~~っ、一口食えよっ一口!」

 

そう言われて突っ込まれたのは飼い主さんの油たっぷりのお肉でした。戻しそうですが飼い主さんの手に塞がれて戻せません。しょうがないので飲み込みました。

「ったく…ほら、取ってやったぞ」

「葉っぱ!」

 

口直しに食べる葉っぱはとても美味しいです。飼い主さんが淡々と口に入れてるお肉よりも美味しいのです。

でも飼い主さんも兎仲間も、お肉が一番美味しいと言います…葉っぱしか食べない私を変な物でも見るように……あ、飼い主さんは「栄養がー」とか「もっと太れー」とか言ってくるのですが。

 

「……美味しい、です」

「あ?…ああ」

「…あの、美味しい、んです」

「……そうか」

「(´・ω・`)」

「察しろ。家ならまだしも店では駄目だ」

 

さっき、飼い主さんは私に分けてくれたのに。なんで私は駄目なんですか。

ずっと(´・ω・`)な顔をしていたら、飼い主さんは特別に甘いものを頼んでくれました。

……えへへ、とても美味しいのです。

―――でも急いで食べないといけません。

飼い主さんが言うには、これからこの街では花火が上がるそうなのです――――私は急な音や大きな音が苦手なので、そういう音を聞くと固まってしまいます…だから私を遊びに連れてってくれる場所は静かな所が多いのです。

今日は飼い主さんの用事は無いので、居られる限りは私に付き会ってくれるそうですから、私が早くぺろっと食べちゃうのは全然変じゃないのですよ。だから飼い主さん、そんな目で私を見ないで下さい。

 

 

私は飼い主さんに口を拭く様に言われたのでゴシゴシ拭いていると、会計を済ませた飼い主さんに促されて店を出ました。

あまり人のいない所なのではぐれる事は無いのですけど、飼い主さんはちゃんと服を掴ませてくれるのです。

 

「何が欲しい?」

「葉っぱ!」

「さっき食っただろうが」

 

じゃあ林檎なら良かったんでしょうか…飼い主さんは小物とかを勧めてきますが、食欲の前にはまったく……あ、

「きらきら?」

「あー?…ああ、飾り物屋か」

「……?」

「…ま、お前も女だしな。折角だし買ってやる。何が良い?」

「林檎がいいです」

「……うん、俺が選ぶわ」

 

駄目出しばっかりなのです…。

だけどあれはどうとかこれはどうとか聞いてくる飼い主さんの駄目出しは嫌いじゃありません。

大きな手が小さな髪飾りを摘まみ上げるのをじっと見ながら、されるがままになってるのも、嫌じゃありませんよ。

服もですけど、誰かにあげようとしてうだうだしてる姿を見るのも楽しいのです――――あれれ、今回は早く決まっちゃいました。

飼い主さんは値切らずにそのまま買い付けると、私の髪にそっと差してくれました。

それは青い硝子の髪飾りで、頭を動かすとしゃりしゃり音を鳴らします……ちょっと、不快。

でも飼い主さんが小さく「まあまあだな」って言ってくれたので、頑張って慣れます。頑張って……うーん。

「…どうした?」

「あ…―――あり、がとう、ございます」

「いや…」

 

じゃあ、次行くぞ、と頭をわしゃわしゃしてくれた時に鳴った髪飾りの音は、不快じゃありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

無口だけど面倒見のいいハンターさん×天然な兎少女

 

 






オマケ(キャラクター紹介)

*兎少女⇒名前は「夜(ヨル)」真っ黒な髪の女の子。力持ち過ぎてヤバイ。天然過ぎてよくトラブルを起こす兎さん。
兎ウルクスス時代の名残は髪以外に無い。兎耳を期待した人はごめんなさい。雪ん子なので肌は白いしベジタリアンだから細い。
装備はウルクススだった自分の毛皮で出来た装備。装備屋の店主が夜に合わせて作ったので、…オリジナル装備なのかな。ちなみに毛は黒って表記したけどチョコレートを黒くした感じ。


*飼い主さん⇒名前は「咲(サク)」二人合わせて咲夜さん!…というのは置いといて、薄茶(セピアゴールドの安っぽい感じ?の色で)の髪の青年で、家計簿をつけたりする家庭的なハンターさん。林檎の兎をよく作ってくれるよ!
夜のことは兎時代に「黒」って呼んで可愛がってた(ちなみに実は小動物大好き)その名残。
「飼い主さん」呼ばわりは非常にヤバい、明らかに変な性癖の人と見られかねないので、公の場では「咲」と呼ばせてる。



*本当は竜にしようかな、って思ったんですが、話を練った当時がちょうど雪の時期⇒兎!に。

いとう/かなこさんの「と.あ.る.竜.の恋.の.歌」を聞いてたら人外×男で何か書きたかったのが始まりです。
とても壮大で美しい歌ですが、本作は壮大さ皆無でございます…。


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2.得意な武器はハンマーなのですよ

 

 

 

お布団の中からおはようございます、飼い主さん。

私は放すものかと布団をしっかり握りながら、朝ご飯の香りがする飼い主さんに言いました。

……でも私の必死の抵抗虚しく、飼い主さんは容赦なく私から布団を奪うのです…そして首根っこを掴んで猫達の待つ厨房に連れていかれました。

 

私としてはまだ丸まっていたいのですけど、ご飯の匂いを嗅いだらやる気が起きました。飼い主さんの隣に座って、一緒に「いただきます」って言って、葉っぱが巻かれた分厚いのが数個浮かんでいるスープに手を付けます――――。

 

「む……っうぅぅぅ…!」

「おい、俺の隣で吐いたらお前もコレみたいに巻いてスープにすんぞ」

「…う、ぅそつき…」

「俺が一体なんの嘘をついたんだ」

 

酷い酷い酷い!葉っぱの中にお肉が入ってるだなんて酷い!

飼い主さんは朝から意地悪だ。残したらきっと怒って無理矢理口に入れさせるし、吐いたら無言で責めるだろうし。でも食べたくないし…。

「―――いいか、これはお前の為なんだ。ただでさえ棒みたいなのにお前…そのままだと血が作れなくなって倒れんぞ」

「………」

「これでも肉を少なめにしたんだ。葉っぱの裏に芋虫が付いてると思って食えば別に抵抗ないだろ」

「…あ、そっか」

「………否定しろよ…!」

 

飼い主さんは頭を抱えて「元は兎だしな…」とか「いや、でも女として芋虫が付いてる葉っぱを食っても平気、って考えは…」とかぶつぶつ言ってるのを見てたら、猫達がテーブルの下から「一気!一気!」と囃したてます…うーん。

「……もむっ」

「……!」

「む……う、ぅぅ…」

「…食いながら呻くなよ…」

「ん……い、芋虫食べましたっ」

「これは芋虫じゃねーよ!」

「む――――!」

 

二つの意味で突っ込まれました。

もうお腹いっぱいです…食べたくないです…でも飼い主さん怒ってるし…うっ

「よしっ飲み込んだな!?」

「…っ…ぅむぅ…」

「これで最後の一個だ。これが食えたらそこの新鮮野菜サラダ食っていいぞ」

「………あ――」

「ああん?」

「(´・ω・`)」

 

あーん、って。さっきみたいにして欲しかっただけなのに……ぐすん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……(´・ω・`)」

「―――おい、そんな顔してんな。採集クエスト行ってくるだけだろ。むしろ下級クエストにお前の敵はいないだろ」

「……(´・ω・`)」

「だからそんな顔……しょうがないだろっ俺は今日はどうしても付き合えないんだっ船に乗んないといけなくてだなっ」

「……(´・ω・`)」

「お前には向いてないクエストなんだ。ほらっ今日は弓の練習しに行くって約束したんだろ。遅刻は駄目だ、早く行きなさい」

「……」

「……」

「……(´;ω; `)」

「…あの…あれだ、変な人に付いてったら駄目だぞ…」

「……(´;ω; `)」

「………送りぐらいは行ってやるから。待ってろ」

 

黙って泣かれるのが苦手な飼い主さん。焦り過ぎて刀じゃなくて包丁を持ってるのですが……ちなみに待ってる間も泣いてました。だって飼い主さん、今日は夜遅くに帰ってくるのです…一人ぼっちです…。

 

「旦那さん、砥石忘れてるにゃー」

「あ、そうか…」

「旦那さん、それはただの石にゃー」

「……」

 

飼い主さん……エプロン外すの忘れてます…(´;ω; `)

 

 

 

 

 

 

【集会浴場】

 

「――――着いた、な」

「……(´・ω・`)」

「…そうだな、黒が採集頑張ったら美味しいもの作れるかもしれねぇな」

「本当ですか!?」

「………お前って、食欲が満たされればなんでもいいんだな…」

 

ほら、クエスト頼んでこい。と飼い主さんに受付まで連れて来られたのですが、にこにこ笑ってる受付嬢さんは最近来られた人間なので、慣れてなくて…結局、飼い主さんが受付を済ませてくれました。

――――飼い主さんは早く自立しろと言います。でもそういう割には甘かったり面倒を見てくれます。だけど意地悪で…複雑な人間です。

 

なんでも飼い主さん曰く、人間というのは面倒くさいモノなのだそうで、私は子供だから分かっていないだけなのだそうです。それはとても…外見年齢と精神年齢が釣り合ってない私には危ない(何故か知りませんが)事らしいので、私の人間関係には基本的に飼い主さんが間に入ってます。

 

なので向こうからやって来るお二人も、当然ながら飼い主さんのお友達ですよ。

 

 「夜ちゃーん!お待たせー!」

「…?咲、お前なんでこんな早く…?」

「―――ふふふ、聞いちゃ駄目だよスウィーツ!咲ちゃんは心配性で小さい子大好きな人なんだからっ」

「チェダー…此処で刺身みたいに捌いてやってもいいんだぞ…?」

「やーん怖い!助けてスウィーツー!ロリコンが襲ってくるー!」

「このッ」

「あ゛ー!待った、ごめん、悪かったから、落ち着けって!こいつはこういう風にしかスキンシップとれないんだよ…」

二人の間にスウィーツさんが割って入ると、飼い主さんは怖い顔でチェダーさんを見た後、飼い主さんの背中に隠れていた私を引っ張り出しました。

 

「?」

「いいか黒、絶対にこのアマの言う事する事は真似するなッ弓の使い方だけ学んで来い!」

「あ――――」

 

言うだけ言うと、飼い主さんは背を向けて何処かに行ってしまいます。

そうすると私は急に心許無くなって、慌てて飼い主さんの装備の端っこを掴みました。

「ま、待って下さい。見送ってくれないのですか…?」

「……俺は送りだけって言ったろ」

「あっ…か、飼い主さん…」

「飼い主さんはやめろって――――!」

「……(´;ω; `)」

「泣くなよ!?」

「……(´;ω; `)」

 

すると後ろから女の子泣かしたー!という声が聞こえ、周辺の人は泣いてる私を見てヒソヒソ囁き合ってます。

飼い主さんはごしごし大きな手で涙を拭うと、強く私を引っ張ってお二人の元に連れて行ってくれました。

飼い主さんがチェダーさんと無言で見つめ合っている間にスウィーツさんが手続きを全て終わらせてくれたので、……ついに飼い主さんとのお別れが…(´;ω; `)

 

「いいか、二人に迷惑かけんじゃねーぞ。転んで怪我したら、回復薬飲んですぐに傷口を綺麗な水で洗って大人しくするんだ」

「水が無かったら?」

「回復薬でもかけてろ」

「……飼い…―――咲さんも、お気をつけて」

「ああ、…大丈夫だ、別に一人で行くわけじゃないしな」

「………」

 

お気をつけてと言っておきながら飼い主さんの装備を離せないでいる私の肩に、飼い主さんの大きな手が乗せられました。

 

「俺のいない間、留守を頼むぞ」

「………」

「…まあ、そんなに家を開けないけどな。夕方から夜までの間、俺の代わりに頑張れよ」

 

私は声に出せない代わりに静かに頷いて、そろそろと飼い主さんの装備から手を離します。

すると飼い主さんは「ショボくれてんじゃねーぞ!」と背中を一回叩くと、未練がましく何度も振り返りながらクエストに向かう私を、ずっと見送ってくれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――チェダーさんは銀の髪が美しい、上級ハンターさんです。

遠距離の武器しか使えないそうですが、凄い実力の方で飼い主さんも舌打ちしながら認める程の腕前なのです。

装備もとても綺麗な虫さん装備。スウィーツさんとお揃いで、頭の装備も一緒が良いからとカチューシャではなく帽子。紫の色がとてもお似合いなのですよ。

 

スウィーツさんは濃い茶の髪で、青の瞳。三人の中で一番遅く上級ハンターさんになられたそうです。

何だかんだで押しに弱いとか騙されやすいとかお二人(飼い主さんとチェダーさん)から聞いています。それと会う度にお菓子をくれたりするので、私は大好きなのです。

 

「――――はーい、もっと弦を引っ張ってー…もうちょい、もうちょっと頑張ってー…はい、パーン!」

「…あっ」

 

お二人は飼い主さんの狩り友で親友(飼い主さんは否定していましたが)のよしみで、主にハンマーを振り回すぐらいにしか能の無い私に根気良く付き合ってくれます。

チェダーさんは普段は子供のように無邪気な人ですが、今のようにご教授くださる時は飼い主さんと似たような雰囲気になります。―――私に食事の仕方を教えてくれた時のような…ですかね。

 

ですが折角チェダーさんが手を添えて下さった私の矢は、何故か途中で落っこちて跳ねて転がります……。

 

「うーん、最後力が抜けちゃったからかな」

「……はい」

「夜ちゃん力持ちだもんねー、下手に力入れちゃうと矢がボキン、だし」

「私に…弓は向いてないんでしょうか…」

「んん、まだ分からないよ?力の加減が分かればいい訳だし…狙いはそんなに悪くなかったと思うんだよねぇ」

 

私が転がった矢を拾い上げてもう一度構えてさっきよりは強めの力で射ると、今度は木に刺さったものの――――ポテ、と矢が抜け落ちました。

「……(´・ω・`)」

「うーん、これはこれで才能があるというか―――」

 

そう言って引き抜くと、チェダーさんは自分の弓をぱちりと取り出して矢を引っ張ります。

目は細められていて、形の良い唇はにやりと歪んでいて、渇いたのか舌で湿らせた瞬間―――鳥さんのお尻に射ました。

吃驚した鳥さんが産んだ大きな卵。凄い凄いと跳ねる私に「でしょっ?」と笑いかけると、弓を仕舞い込んで卵を拾い上げました。

「じゃ、ボックスの所までの護衛、よろしくね?」

「私…が、頑張ります!」

「よしよし、やる気があるのは良い事だぞー」

 

まあそう意気込んでも、此処は比較的穏やかな子ばかりだから、下手な事しなければいいだけなんですよね…。

一応片手にしっかりと握っている弓をパタンパタン弄りながら、鼻歌交じりに隣を歩くチェダーさんとおしゃべりしてもいいでしょうか…。

 

「あの、チェダーさん」

「ん?」

「飼い主さんは…今日は何のクエストに行かれるのですか…?」

 

飼い主さんはたくさんの人の前では咲と呼べと言いますが、チェダーさんとスウィーツさん、村長様の前ではそう呼んでも怒られません。いや、嫌そうな顔はするんですがね。

何でも、飼い主さんが「もしも」の時の為の保険だと、私の正体を信頼できる方にだけ教えていたのです。その「もしも」は何かと聞くと、飼い主さんは答えてくれないのですが。

 

「あー、確か砂漠だったかな。何か珍しいのが来てるから、船で追って仕留めるんだよ」

「砂漠で舟…ですか?」

「そ。…実は私、熱いのが苦手でさーそのモンスター倒した事ないんだよね」

「私も砂漠は嫌いです」

「まったくだよ。クーラー十本飲んでてもフラフラだね」

「それはドリンクのせいじゃ?」

「スウィーツもそう言ってきてね、『いいや、君のせいだよ』って耳元で囁いたら顔真っ赤にして石に躓いてやんのー!もっと弄ってやろうと思ったらボスが来ちゃったんだけどさ、スウィーツは使い物になんないし、結局私が仕留めたわけ」

「チェダーさんはいじめっ子?」

「愛のあるいじめっ子だよ!」

 

夜ちゃんも咲ちゃんにやってみなよ、きっと反応に困って何やらかすか見物だから!―――と大変イイ笑顔で勧められたので、いつかやってみたいと思います。「面白そうです」と私が笑うと、チェダーさんは懐かしむような顔で私をまじまじと見ました。

 

「どうしました?」

「んん、いやね、故郷の妹に似てるなぁと思って」

「妹さんも髪が黒いのですか?」

「私と同じだよ。そうじゃなくてな―――うん、子供みたいに笑う所が似てるんだろうね」

「子供…」

「そ。見ててこっちがふわふわしてくる感じ。…いいなー、こんな子と寝食共にしてたら幸せだわー、癒されるわー。……あのロリコンが羨ましい…」

「ずっと思ってたのですが…その『ロリコン』って何ですか?」

「ロリコンはねー、小さい女の子が大好きな変態の事だよ。夜ちゃんは外見は18ぐらいに見えても、中はまだまだ小さな子だからね、あの変態はそのギャップに――――ひゃっ」

 

がしゃん、とチェダーさんが両腕に抱いていた卵を落としそうになって必死に抱き直し、私が急いで振り向いて弓を構えた先には、襲ってきた青い熊さんを追い払っていたスウィーツさんが濡れた手でチェダーさんにデコピンしていました。

どうやら言葉を遮ろうと後ろから近寄って首筋に冷えた手を当てたようです。

「お前な、夜に変な事を教えてんじゃないの」

「教えてないですぅー、聞かれたから答えたんですぅー」

「お前が聞くように仕向けたんだよね!」

 

夜も今のは忘れとけよ、と肩に蜂蜜がまだ少しこびり付いているスウィーツさんに頷こうとしたら、チェダーさんが「スwwウィーwwツの、肩ww蜂蜜www」と笑った事に怒ってしまってそれどころでは無くなりました。

 

「何?蜂蜜でも投げられちゃったの?上級wwハンターなのにwww」

「う、うううるさい!ペイントボールが急カーブして当たらなくて…もたついてたら蜂蜜が」

「ペイントボールは急カーブする機能が付いてるんですか?」

「急カーブする機能wwとかwwスウィーツのペイントボールって最先端ww」

「うっさいよ!」

 

ひとしきり笑った後、急いで卵を置いて青い熊さんを皆で倒しに行く事にしました。

これも練習だと、私が射るのを二人が見守りつつサポート、って感じでしたが。

何故か戦闘場所はペイントボールがたくさん転がっているし、あっちこちに中身が飛び散っていてるし…、チェダーさんがお腹を抱えて笑ったのには熊さんも吃驚していました。

 

 

 

 

 

 

育児もこなすハンターさん+世間知らずな兎ちゃん+いじめっ子ハンターさん+出番の少ない格好のつかないハンターさん

 

 






オマケ(キャラクター紹介)

*チェダーさん
私がプレイした時のキャラクター名です。「チェダー先輩」って登録してました(笑)可愛い装備しか着せませんよ!
ユクモ村の中では射撃の腕前はピカイチ設定。だって基本的に今回出てきた人しかいないからね!他のハンターさんは旅の途中寄って来た人とか療養してリハビリ目的でとかで、四人以外誰も集会浴場に来ない時があるというマイ設定です。
ガンナーでもバリバリ前線に出てきたり何だりとアクロバティックな射撃をする子ですが、狙いは常に良いという…。いじめっ子ではありますが弟妹の面倒をみてきたせいか年下の面倒をみるのが好き。自分の面倒もみて欲しいけどね!
何だかんだで良い子だから、咲はからかわれても信頼しちゃうのでしょう。


*スウィーツ君
私がプレイし(ry
装備はチェダーと同じ虫装備。シルクハット被ってますが何か?
双剣ハンターで、好きな武器は狩団子。だってスウィーツだからね。猫達の名前もスウィーツな感じ。チェダーさんはチーズ関係の名前とか付けてる。

ちなみにチェダーさんとの出会いは鼻血ものの出会いだった。
最初はチェダーさんが一応年上で先輩だから敬語を使ってたけど、色々酷過ぎて敬えなくなって素で接してる。でもちょっかいかけてくれるチェダーさんに懐いていて、何かとチェダーさん家に遊びに行ってる。村の人間からはさっさとくっつけよリア充とか思われてる。



*二人共名字を名乗ってて、お互いはお互いの名前を知ってる。
咲君も知ってるけど、スウィーツ君が自分の名前が可愛過ぎて死ねる位名前を呼ばれるのが嫌なのを知ってるので呼ばない。チェダーさんはどうでもいい時に呼んだりする。最近はチェダーさんに呼ばれても恥ずかしがらなくなってきて、咲君にさっさとくっつけよリア(ry)と思われてる。

チェダーさんは何となく言わないだけ。聞かれたら多分名乗る感じ。
ただ性格に合わない綺麗過ぎる名前なので咲君が呼びたくないだけ。周りはそんな咲君のせいでスウィーツ君と同じく自分の名前嫌いなのかなって思って名字呼びしてる。
咲君曰く、チェダーさんの親以上にチェダーさんはネーミングセンスが無い。


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3.好物は林檎、林檎の兎なのです

 

 

 

たん、たん、たん、たたん、たたたたたっ

 

 

「―――あ、咲お前、こんな所にいたのかよ」

「…どうした、アレがやっと出てきたのか?」

「いや、…なんだ、お前の姿が見えなかったもんだから、不安でずっと―――え、ちょっと引くなよ!?」

「だってお前の噂が…」

「違うから、本当に違うから。アレは婚約者が…浮気防止用って…!」

「おい、泣くなよ」

 

 

たん、たん、たん、……

 

 

「…………」

「なんだよ」

「…いやね、何ていうか…お前、雰囲気柔らかくなったよな」

「そうか?」

「さっきの昼飯の時にボケーと林檎を兎ちゃんにした時とかな。―――ハンター成りたての頃にリオレウスとばったり遭遇した時の衝撃が走ったわ」

「あれはいつもの癖だったんだよ…今すっげー死にたいから暫く皆の所には行かねー」

「引き籠んなよ…」

 

 

たたた、たん、たと、たん……、

 

 

「つーかあの林檎、癖だって言ってたけどさ、何?お前ン家に子供でも居んの?」

「ああ…預かってるっていうか引き取ったっていうか」

「どっちだよ」

「村長が俺に頼んで来て…孤児(?)だったのを俺が拾ったのが始まりだったんだが」

「へー、女の子?男の子?」

「女」

「おー、いーねー、……手は出すなよ?」

「出さねーよ!」

「分かってるって、冗談だってぇ。…で、どんな感じ?美人になりそう?性格とかは?」

「……多分美人…?性格が…何て言うかな、野性児にならないだけ有難いんだろうが……世間知らずだな」

「お、おお?」

「どうしても肉が食いたくないみたいで、棒っきれみたいなんだよ」

「俺ペチャ…スレンダーな子もいけるよ!」

「死ね」

「ごめん…」

 

 

たん、たん、たん、

 

 

「―――つーか、さっきから音がするけど、壊れてんじゃないだろうな…」

「大丈夫だろ」

「えー…何か聞いてて不安になるから出ようぜー?」

「俺は安心する」

「何で?」

「……あいつが跳ねてる音と、一緒だからな」

 

 

たん、たん、たん、

 

たん、たん、たん、たたた、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――一年半、かぁ…」

「…?どうかしましたか?」

「いやさ、時間ってこう…早く過ぎていくものだなって」

「私は…昔は、長いものだと思っていました」

「そうか?」

「はい。特に―――待っているというのは…長いのです」

「待つって…咲は人を待たせない方だと思うんだけど…」

「ああ、兎だった頃のお話です。……友達と遊んでいた時間はとても短く感じるのに、ふと一人で蹲っていると―――真っ白な雪の中は、一人で過ごすには寂しすぎます…」

「そう…だな」

「でも、だからこそ誰かと過ごす雪の中はとても楽しいのかもしれません!それに今なんて飼い主さんとずっとずっと一緒ですし、毎日が新鮮で……時々長く感じるけれど、短くも感じるようになりましたよ」

「そうだな―――」

 

「きっと、誰かと騒いで、触れあう時間は、楽しいんだ……」

「――――でも、お爺さんは楽しくなさそうです」

 

 

 

此処は渓流、タケノコが生えている長閑な所。

 

スウィーツさんが採掘を止めて休んでいる隣で、私は採ったばかりのタケノコをポーチの中に詰め込んでいました。

 

私が声を潜めて呟いたのにスウィーツさんが呆れた視線を向けた先で、チェダーさんはお爺さんの服の胸元を掴んで怒鳴っていました。

 

 

「――――まさか、これだけって訳じゃあ無いでしょうねぇ、ああん?」

「いや、流石にこれ以上は……儂だって生活かかってんじゃあっ!」

「知るかぁぁ!!か弱い乙女にセクハラしといてタダで帰れると思うなよッさっさと出すモン出せや!」

「ちょっと尻を鷲掴んだだけだろうが!!」

「不快なんだよ、棺桶に頭突っ込んだような爺に触られて怒らない女がいるわけねーだろ、ばぁぁかっ!」

「てめ、ハゲは言うなっつってんだろ!……あ、すいません、首締めないで。痛い、痛いよ、お爺ちゃん死んじゃうぅぅ…!」

「もういっそ殺してやろうか、モンスターの巣に放り込んでやろうか……!」

 

 

ギギギ、と口の端から涎を垂らしながら首をブンブン振るお爺さん。目が笑っていないチェダーさん。

 

んーと、確か陽がまだ真中に行く前の事でしょうか―――お爺さんがチェダーさんが猫を弄繰り回していた所を狙って綺麗な装備の下に潜り込んでやらかしたのです。あと

私の胸にも抱きついてきました―――…私としても不快だと思いますが、もうそこまでにしてあげればいいのではないかと思います…。

 

スウィーツさんの双剣でお爺さんの少ない頭髪を剃っただけで十分大ダメージだと思うのです、そのあとにローキックも入れてましたしね。

 

 

ですがチェダーさんはこの通り怒りが収まらないご様子で、普段の穏やかな声も言葉遣いも荒々しいのです。スウィーツさんは見ないふりをして採掘した物をポーチに入れていましたが。

 

 

「………おい、チェダーももういい加減にしとけって」

「はあ!?」

「に、兄ちゃん…懐が深い「死んだら隠蔽するのめんどくさいだろ」…えっ」

「そういや、確かチェダー…碧玉と逆鱗が無いって言ってたよな――――…それ、出せよ」

「……えっ?」

「ああ、それいいねぇ……夜ちゃーん、爺さんの荷物を開けてくれるー?」

「あのっ、飼い主さんが他人の荷物は漁っちゃいけないって…」

「大丈夫大丈夫、爺さんの代わりに出すだけだから、漁るわけじゃないよー?」

「そう…ですか。了解しました」

 

 

そういえば私も飼い主さんの代わりに飼い主さんのポーチから道具を出していましたしね、お爺さんの代わりに渡すだけですもの。……ちぇ、チェダーさんが怖いから飼い主さんに言われた事に背くわけじゃないですよ!

 

 

「んん…っと、これは火打石で、強走薬……これは?」

「あっ!それ――――それは駄目ぇぇぶぶふっ!!」

「ちょっと黙っててよー…それは迅竜の骨髄だねぇ。夜ちゃん、それこっちに渡してくれるー?爺さんが詫びにくれるらしいから」

「ふがもももっ」

「あの、逆鱗しか…なくて…」

「もー、夜ちゃんったら泣きそうな顔してー…大丈夫、夜ちゃんは悪くないよ?」

「泣き、顔もそそるのう…いだだだだだだっ!!」

「テメーは黙ってろよ、老いぼれがぁぁぁ!!」

 

 

下手な事をしたらこっちに怒りの火の粉が飛んできそうです…くすんと鼻を鳴らす私の頭をぽんぽんと撫でて、スウィーツさんはお爺さんの荷物の奥の奥(…が、あったんですね…)に手を突っ込みました。

 

 

「あったぞ碧玉」

「流っ石スウィーツ!代わりに石ころでも入れてやんなっ」

「あ、ここにも……合わせて三つか――――時化《シケ》てるわー」

「お…お前ら…それでもハンターか!?」

「ああん?ハントしてんだろーが」

「これはタカりじゃろうが!!」

「……いいか、夜。やられたらやり返す、またやらかそうなんて考えないくらいに絞り盗るのがハンターだ。太く逞しく生きるんだぞ」

「は、い…?」

 

 

肩に手を置き、いつもと変わらぬ顔のスウィーツさん。……私の中のスウィーツさんがどんどん変わっていきます…。

 

それでもやり過ぎじゃないかとチラチラ見ていたら、「夜もセクハラの被害に遭ったんだ、気にする事は無いし許すな」と。きっと咲もそう言うだろうと言われて、やっとこくりと頷きました。

 

 

「―――そらっ、とっとと失せな!」

「このッ……盗人が!極悪犯罪者が!!」

 

 

ぺいっと放した…いや、投げたチェダーさんにそう吐き捨てて、お爺さんはスウィーツさんが投げ渡した荷物を抱えて転ぶように逃げ去りました。

 

小さくなる背を鼻で笑ったチェダーさんはくるりと振り向くと、溜息を吐いてスウィーツさんの隣に腰掛けました。

 

 

「まったく。いい歳こいて色惚けとか勘弁して欲しいよ」

「人恋しかったのでしょうかねぇ」

「…夜ちゃんはもっと警戒心持たないとね。恋人でもない異性に胸を触られるなんて重罪だから。極刑だから」

「え―――でも、チェダーさんはスウィーツさんの胸…」

「あ、ああああああれは…!こいつが痴女だから…!!」

「私はスウィーツ限定の痴女だから。…何かスウィーツの顔見ると胸揉みたくなるんだよね…」

「女顔って言いたいのかよ!?」

 

 

怒鳴るスウィーツさんの唇に強走薬の瓶を当てて、「私、君の綺麗な顔が大好きだよ」と悪戯っ子のような笑みを浮かべました。

 

それにそっぽ向くスウィーツさんにこっそり笑ったチェダーさん。何故か迅竜の骨髄を私に持たせるのに、こてんと首を傾げました。

 

 

「夜ちゃんも被害者だからね。私が逆鱗と碧玉三つ、夜ちゃんに骨髄と火打石、一緒にとっちめてくれたスウィーツには強走薬…と私から、蜂蜜」

「あ、じゃあ私は…ペイントボールと投げナイフを」

「ちょwwペイントwwボールww」

「……ちょうどペイントボール無かったから、有難いよ…!」

「スウィーツが叩いたー!」

「うっせー!蜂蜜投げられないだけ有難いと思えよな!」

「―――あ、蜂さんが…」

「……え?ちょ、蜂蜜の中に蜂が5,6匹沈んでる!?」

「栄養たっぷりで良かったじゃん」

「良くねーよ!お前俺が虫嫌いなの知ってて――――…あ?何だ、あれ?」

 

 

蜂蜜をしっかり握ったまま、スウィーツさんは向こうへと指をさしました。

 

見れば何とも無いのですが、……一分経った頃でしょうか、何かが光っています。

 

 

「ジンオウガかねぇ」

「…どうするよ」

「下級ですが―――…その、私…武器が…」

「上級ハンター二名とはいえ、ジンオウガ向きの武器じゃないし…てかアオアシラしか出ない筈なんだけど」

「狩り場が不安定だとも言われてないしな…。ここは一旦引くか?狩ることもないだろう」

「村に来なければ別に良いんだけどねぇ」

「報告だけしておくのはどうでしょうか?」

「そうしようか。じゃ、今日は帰りましょっと」

 

 

 

―――――そうして、私達三人は仲良く家路についたのです。

 

 

 

 

報告を終え、付き合ってくれた事の礼を言い―――それから、私は家の掃除をしてくれた猫達をもふもふして、飼い主さんが干して行ったのだろう洗濯物を取り込んで畳み終わった後、びくびくしながらじゃが芋のスープを作っていました。

 

スープなら後で温めるだけですし、他の料理は飼い主さんが来てから猫達が作ってくれるそう。私はコトコトと煮込む鍋を背に、ゆっくりゆっくり林檎を剥いていました。

 

 

 

―――この一年半で、私はこれだけの家事が出来るようになったのです!

 

 

今でも(兎時代の名残か)火が怖いのですが、料理に使う火ぐらいならば手を出せます。これも飼い主さんが狩りに行ってる最中、キャンプの火の面倒を見続けた成果ですね。

 

包丁は見よう見まね、猫達の指導に基づいてなのですが―――飼い主さんのような林檎の兎にならないのです。さっきの子なんて耳が半分折れてしまいましたし。

 

「…、……痛っ」

 

………しかも、手までざっくり……飼い主さん、早く帰って来ないかな……。

 

 

慌ててすっ飛んできてくれた猫さんに薬を塗ってもらいながら、変な兎を齧っては、ちらちらと扉に目をやります。

 

 

 

――――今はまだ夕暮れ。飼い主さんが帰って来るまでには時間がたっぷりあります。

 

だけど……もしかしたら、早く帰って来てくるんじゃないかって、期待してしまう。

そんな私の視線の先、急にノックの音が!

 

私は包帯を持った猫を背に、急いで扉に駆け寄りました――――、

 

 

「あの、スウィーツなんだけど」

「チェダーさんもいるよー!」

 

 

……思わず、(´;ω; `)な顔で扉を開けてしまい、お二人に心配されました……。

 

 

 

「ありゃりゃ、夜ちゃんざっくりやったねー?」

「林檎を剥いていたら……情けないです」

「いや、ここまで剥けたんなら大したもんだわ……で、これよかったら、お裾分け」

「わっ申し訳ないです!」

「いーのいーの。スウィーツは多く作っちゃう子だからね。それに今日は咲ちゃんも遅いし……夕飯食べた?」

「はい、林檎を」

「……林檎を?」

「林檎を」

 

 

好物なのです、と言えば、お二人共すごく渋い顔をして見つめ合ってます。本当に仲の良い二人ですよね…。………飼い主さん…(´;ω; `)

 

 

「あの……俺、何か作ろうか?」

「いえいえ、大丈夫です、飼い主さんが作った残りもありますし…」

「ああ、それ?鍋が二つあるの」

「ええ、右のがさっき私が作った…」

「「作った!?」」

「はい…じゃが芋のミルクスープ…」

「………え、どうしよう。私この子より年上なのに…作れない」

「お前は作ると毒にしかなんないもんな…」

「目玉焼きは作れるよ!」

 

 

ああ、そうかよと何とも言えない顔のスウィーツさん…チェダーさんの手料理、食べた事あるんでしょうか?

 

―――ふと、仲良くじゃれ合う二人を見ていて……だんだん、なんだか悲しくて、小さく「くすん」と鼻を鳴らしてしまいました。

 

少し俯いていると、チェダーさんの「じゃじゃじゃじゃーん!」という声と共に綺麗に布に包まれていた箱が開いて、スウィーツさんが作ってくれたお裾分けを見せてくれました。

 

 

「綺麗なお菓子…!」

「あ、ああ、得意だし…」

「夜ちゃん、この菓子は他のと違って異様に甘いから、食べる時は咲ちゃんにやるんだよ」

「おま…何言って…何で分かんの!?」

「摘まみ食いしたから」

「だから一個足りなかったのか…って無断で食うな!」

「ちゃんと『ごっつぁん』って言ったじゃん」

「ごっつぁん…?」

「ああ、『御馳走様』ってこと」

「夜は絶対使うなよ、使った日には俺らにとばっちりが来る……ってテーブルに座るんじゃありませんっ、行儀の悪い…!」

 

 

そう言ってチェダーさんの為にスウィーツさんが椅子を引いてあげると、またも扉が―――今度は激しく―――叩かれました。

 

 

「ハンターさんっハンターさん!大変、ジンオウガが――――!!」

 

 

 

思わず固まった私とスウィーツさんに背を向けて、チェダーさんが素早く扉に手をかけました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっしゃー!獲ったどー!!」

「うっせぇ。叫ぶな」

「えー、だって折角の勝利の余韻が……え、何処行くの?」

「暑いから帰る。用もないし」

「え、ちょ、待って、俺を一人にしないでぇぇぇ!!」

 

 

「――――ふぅ、やっと帰れるな…」

「なあなあ、咲はこっちに泊まんねーの?今から帰るとか疲れんだろ」

「別に。今回はジャックが出張ってきてくれたから負担もそんなに無かったしな」

「……なあなあ、俺と一緒に褐色の美女と…」

「婚約者はどうした」

「ちげーって!此処にな、褐色の美人歌姫が居るんだってー!俺の婚約者はキャワイイけど、偶には違う女の子も見たいのが男だろー?手を出すのは流石にアカンけど、見る分には別に良いじゃん!」

「お前……だから婚約者にホモの噂流されるんだよ……」

「あいつも分かってね―な。俺はシェリー一筋なのにさー?俺は本命以外は見ておくだけにしときたい派なの!」

「いや、お前はヘタレなだけだろ」

「ちーがーいーまーすー……って、咲、お前またそっち行くの?」

「……他の奴と会いたくないんだよ」

「もう誰も兎ちゃん事件の事は言わないってぇー!一部のハンターからは『意外過ぎて可愛い!』とか言われてんだぞ、お前」

「……?女のハンターなんか乗ってたか?」

「あ、いいや、『そっちの』ハンターさんが……」

「俺絶対この部屋から出ない。…じゃあな。お前も噂が本当にならないように気をつけろよ」

「え、ちょ、ちょ!待って、俺も!俺もご一緒させて下さいぃぃぃ!!」

 

 

 

 

 

寂しいのはお互い様なハンターさん×ずっと飼い主さんしか考えてない兎ちゃん×セクハラだけは許せない(ここだけピュアな)ハンターさん×セクハラに怒ったけど彼女のキレ方に引いたハンターさん

 

 

 






補足:

チェダーさんは上級ハンターだけど貧血になりやすくて砂漠にはいけない設定。凍土も同じく苦手だけどなんとか大丈夫。
料理できないのは猫任せ、後輩(=スウィーツ)が色々持って来てくれるから。ていうか本人がやる気出して調理しようとすると誰かが止める。普段料理しろって言うくせに何故か止める。

スウィーツと咲はキャラが似てる感じがするけども、スウィーツはツンとしてても照れたり笑ったりするけど、咲はなんか寡黙。溜息と眉間にしわを寄せるのがデフォ。でも内心可愛くてふわふわしたものが好き。

年齢は特に決めてないけど、チェダーさんは咲と同い年か一二個下。スウィーツはチェダーさんとは三歳下。兎さんはこの中で一番若い。


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4.保護者は飼い主さんですよ!

 

 

 

「ジンオウガが、村に迫ってきていると!」

 

「すでに村人が何人か……」

 

「ジンオウガ以外にも…」

 

 

 

―――

――――

――――――

 

 

 

がたたたたたっ

 

 

慌ただしく坂を下るネコタクの上で、私達三人は持ち物の確認などをしていました。

 

 

―――ちなみに私達以外のハンターで上級はチェダーさんとスウィーツさんのお二人ともう一人、療養に来られた人だけ。

下級は私と二人(旅の途中、この村に寄って来たらしいです)いるのですが、二人共ジンオウガは相手に出来ないと断られ、結局三人で討伐クエストを受けました。

 

スウィーツさんは最後まで反対していたのですが、私が飼い主さんに留守を頼まれているから果たしたいのだと頭を下げたら、渋々了承してくれました。

 

チェダーさんとはジンオウガ以外の相手の目を引きつけてくれればいいから、絶対にジンオウガに手を出さないことときつく、何度も約束しました。

 

 

「罠持ったし…よし、」

「巻き込まれないように頑張ってね、二人共」

「はいっ」

「夜ちゃんは向こうに着いたらずっと耳を澄ませておくんだよ、駄目だと思ったら逃げること」

「はいっ」

「あまり緊張するな。過度の緊張も危険だし」

「はい…」

「夜ちゃんはずっと咲ちゃんと一緒に狩ってたもんねぇ。しょうがないか」

 

 

でも、チェダーさんは咲ちゃんより強いから、心配ご無用さ!――と頭を撫でてくれるチェダーさんと、その隣で荷物を綺麗にまとめるスウィーツさんに「はい」とだけ言って何とか笑ってみせました。

 

 

 

「着いたニャー!」

「あいよっと。…二人共準備運動してから行くー?」

「いらねーし」

「大丈夫です」

「うっし、じゃあ行くぞー」

 

 

弓の練習をしに行く時のような調子で、チェダーさんはライトボウガンを確認した後、私達の先頭をきって歩き出しました。

 

 

 

 

(……耳が痛いくらい静かです…)

 

 

辺りは夜という事を踏まえても異常に静かで、私は自分の足音やお二人の装備と武器がぶつかって鳴る小さな音に怯えてしまいます……。

 

 

思わず立ち止りそうになった時――――バチリ、という音が遠くから、確かに聞こえました。

 

 

「―――チェダーさん!向こうのエリアです!」

「おお?早いねぇ」

「バチバチいってます」

「……行くのが嫌になるな…」

 

 

私の言葉に駆け出すお二人の背中を慌てて追いかけながら、私は唇を強く噛みました。

 

 

怖がらないで――――飼い主さんに頼まれたでしょう。留守を守らなきゃ。

 

 

大丈夫、飼い主さんだって、私にハンマーを持たせたら下級クエストにお前の敵はいないって頭を撫でてくれたもの。私はお二人に向かってくるモンスターを叩けばいいだけ。大丈夫、大丈夫……。

 

 

「いたよ!スウィーツ!」

「よっ……と」

「ちょ―――本当に下手くそだね、スウィーツ君は」

「うっせ―!」

「まあいいけどね、一応当たったみたいだし」

 

 

よっこらしょ、とチェダーさんはボウガンを引っ張り出すと、パン、とジンオウガの頭に打ち込みます。

同時にジンオウガが身じろいだ為に掠った程度のダメージにはなってしまいましたが、ジンオウガが私とチェダーさんに襲いかかろうとする事で時間を稼ぐことが出来ました。

放電の後、ぐ、と身体を後ろに引いたジンオウガの足下に辿り着いたスウィーツさんは、思いっきり双剣で大きな足を切りつけます。

 

当然足の痛みの方に顔を向けるジンオウガでしたが、チェダーさんに撃たれて慌ててこちらに向くと、足下のスウィーツさんを無視して飛びかかってきました。

 

「……っ、と」

「ナイス夜ちゃん!」

 

それを私のハンマーで殴り付ける事で防ぐと、チェダーさんの撃った弾が爆発。私の氷のハンマーが煌めきながら、今度は仰け反ったジンオウガの頬を殴り付けました。

 

 

もう一撃――――そう意気込んだ時、こちらに近づく大猪の音に気が付き、慌ててハンマーで背後から迫る猪を殴りました。

 

チェダーさんは私を一瞥するも迷ったようで、ジンオウガの電流が放たれるまでその場を動かず、何発か撃っては援護してくれました。

 

「夜ちゃん避けて!」

 

私とチェダーさんが両端に逃げて放電をかわすと、私はそのまま猪を殴りつけながら別のエリアに移動します。

 

「無茶しないで、危険なら逃げるんだよ―――!」

「はいっチェダーさんもお気をつけて…!」

 

お互い早口にそれだけ叫ぶと、やがて襲いかかるモンスターだけに集中しました。

 

 

 

 

(―――…どうしよう。まさかドスファンゴだなんて…相性悪い…)

 

 

アオアシラとジンオウガと相性の良い氷属性。でも猪には相性が悪い。……もうちょっと考えておけばよかったのでしょうか。

 

……まあでも、お二人がジンオウガを倒すまで持ちこたえればいいだけですから、別にこの子を倒さなくてもいい。……の、ですが――――この子とは、兎時代からの因縁があるのです。

 

 

私が丸まって寝ていれば突進。私が誰かとじゃれ合っていれば割って入って邪魔をする。食べ物(植物)も荒らされましたし……ああ、何度泣き寝入りしたことでしょう。

 

この子もさっきのジンオウガも、かなり大きかったですが(記録更新間違い無しですね)絶対に負けられません。討てないにしろ、その牙だけでもパッキリポッキリ折ってやるのです!

 

 

「やぁ――――!」

 

声と共にハンマーで横腹に一発お見舞い。

僅かに揺れましたが、何だか堪えてなさそう。もう一度横腹に殴りつけ、思いっきり振り下ろしてみて、やっと退いてくれました。

 

ぶるぶると鼻を鳴らす猪の機嫌がかなり良くないのを察知してハンマーを仕舞うと、急いで距離を開けようと駆け出します――――あっ。

 

 

(嘘、熊さん――――)

 

 

思わず足を止めてしまった私は、迫るドスファンゴの突進をもろに受けてしまいました……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そいやー!」

「キャー、スウィーツ君カッコイイー!」

「棒読みで褒められても嬉しくねーんだよ!」

「ぶー」

「ぶーじゃな…おま、薬草噛みながら撃ってんなよ…」

「や、だって生えてたから…なんかもったいないかなって」

「食う方がもったいなくね?」

「そう―――あ、スウィーツ左に避けて」

「あん?……うわわッ」

「よそ見してんなよー。だから蜂蜜だらけになるし、ペイントボールも急カーブするんだぞー」

「うっせーよ!」

 

 

「―――なんかあと少しって感じ。…夜ちゃん大丈夫かな…」

「今回は狩り場が不安定すぎるからな…」

「さっきのドスファンゴとかね……あと少しだし、スウィーツ助けに行ってあげてよ」

「え、でもお前は…」

「大丈夫大丈夫。後は爆殺するだけだし。一応罠ちょうだーい」

「……(…大丈夫かな)」

「夜ちゃんの事、よろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――此処は、何処なのでしょう…。

 

最後はがむしゃらに逃げて、殴って、猪の牙をぱっきり折ってやって。そしたら宙に投げ出されて。転がり落ちて……ああ、思い出した。確かエリア7の端の端、背丈の高い草に隠された―――大人が一人丸まれる程度のくぼみ(もしくは洞穴?)に入ってしまったのでした。

 

運良く見つからなかったのでしょうか…。

 

 

(あ……装備、所々破れてる…)

 

 

―――私の兎だった頃の毛皮で出来た装備。真っ黒で、ふわふわしてて。飼い主さんの隣にいる時のように、着ていて落ち着く、私の毛皮。

見ればいたる所が土で汚れて、腕とスカートが裂けてて、足はまるまる一本じくじくと痛くて。頬も擦り切れたのか、時折頬を撫でる風が滲みてきます。

 

(お二人は無事でしょうか…私が相手をしてられなくなったモンスターのせいで、大変な目に遭ってないでしょうか…)

 

 

そう思うととても不安なのに、私は震えるだけで身体が動きません。起きようとしては崩れ落ちてしまうのです。

 

ああもう――――本当にごめんなさい。あんなに連れてってくれと、役に立つからと強請ったのに、もう痛くて歩けないんです。寂しくて心が折れそうなのです。

 

だって、こんな目に遭ったの、初めてなんです……。

 

兎の頃だって友達と遊んでいたけれど、「夜」になってからは飼い主さんがその倍、いつも近くにいてくれてたから、狩りでは友達の一人のようにしっかり面倒を見てもらっていたから。知らなかったんです……。

 

 

負けたことなんて、無かったんです……。

 

 

 

(―――留守、頼まれたのに。お二人に押し付けてしまった……)

 

 

飼い主さんは役立たずって言うでしょうか。お二人にはお荷物と思われたでしょうか。…私は、どうやって帰れるんでしょうか……。

 

 

ぽつ、ぽつ……ぱたたたたた

 

 

(雨、降ってきちゃった……)

 

手の甲に、頬に当たる雨――――見ててとても寂しくて、寒い。

 

 

(…帰りたいです…お家に帰って、火に当たって、飼い主さんの膝に飛び込んで、叱る声も気にせずに、そのまま頬ずりをして。今日の事をいっぱい話したい…)

 

―――飼い主さんに褒めて欲しくて、じゃが芋のミルクスープ、頑張って作ったんです。

弓はやっぱり駄目だったけど、練習したらもしかしたらって、チェダーさんが。ああ、あと、スウィーツさんがお菓子をくださたんですよ。一緒に食べましょう?

…飼い主さんの方はどうでしたか?砂漠って暑いのでしょう、辛くはなかったですか?船はどんな―――?

 

 

(きっと飼い主さんは何から話せばいいのか迷って、眉を寄せるのです。そして一つ一つ、ゆっくり話してくれる。…ああでも、その前にご飯だって言うのかな)

 

 

目が熱い。何かが目からとろりと落ちていくのが分かります。――――負けなかったら、こんな思いしなくて良かった(この時になって、初めて私は『悔しい』という感情を知りました)のに。勝ってたら、早く家に帰って、飼い主さんを出迎えれて、留守を守れた事を褒めてもらえたのに…!

 

 

(呆れるかな。駄目な子って思われるかな。穀潰しって言われるかな…)

 

 

―――私、朝のネコタクに乗りながらずっとずっと思ってたのです。

今度は嫌な顔しないで、朝作ってくれた肉を葉っぱで包んだスープを一緒に食べたかったとか、「美味しかったです」って言いたかったとか。

 

もう、そんなの、無理なのでしょうか。また一人っきりなのかな……。

 

 

 

――――遠くで、大猪特有の足音がする。草を掻き分ける音がする。もう駄目だ。次はきっと見つかる。見つかったら……どうなるのでしょう。

 

 

「……あいたい、よぅ……」

 

 

かいぬし、さん。

 

 

 

 

 

「…く…、…ろっ……くろ、…黒――――!何処だ―――!!」

「ぁ…?」

 

 

雨の音、斬り付ける音。悲鳴なのかよく分からない声。飼い主さんの、声……!

 

続いて聞こえる、どぉん、と倒れる音に思わず身体を震わせて、私はもう一度腕に力を入れます。そろそろと身体を支えている腕とは反対の手で、草を掻き分けました。

 

「そこかっ!?」

 

草が触れあってガサガサと鳴るのに気付いて、飼い主さんはビチャンとかパシャパシャと音を鳴らして私の名前をずっと呼んでいて―――。

 

 

「―――ぃ…し、さん。…かいぬしさん。飼い主さぁん!」

 

 

飼い主さんの腕が遠くに見えた瞬間、私は駆け寄ろうとして足の痛みによろめいて、ばしゃんと水溜りの中に埋もれてしまいました。

 

身体を起こして頭を振ると、ガサガサと鳴る草の音は止んでいて、息を飲む音の後に、飼い主さんの大きな腕が身体を抱き起こしてくれました。

 

 

「飼い主さん―――」

「黒ッお前…留守を守ってろって言っただろうが!」

「……ごめんなさい。お役に立てなくて…」

 

 

言われるだろうなと分かっていても、実際言われるととても申し訳なくて。私は思わず零れそうになる涙を堪えようとして震えてしまいます。

 

すると飼い主さんが慌てていつもの通り大きな手で涙をぬぐい取ろうとして、……戻してしまいました。

 

それが寂しくて、どうしてだろうと飼い主さんの腕を見れば――――血と、葉っぱで薄く切れた傷だらけでした。

 

 

「……どうして家にいなかった?」

「…飼い主さんに、留守を頼むって、言われたから……」

「………あ?」

「……留守……」

「………?」

「………(´;ω; `)」

「―――……あの、アレか?もしかしてお前にとっての留守って、俺の代わりをすることか?」

「……飼い主さんがそう教えてくれました…」

 

 

 

――――あれはこの村に来て二月位経った頃でしょうか。

急なクエストに出ていく事になった飼い主さんに、初めて留守番を頼まれたのです。

 

 

『―――飼い主さん』

『あ?』

『留守って、何ですか…?』

『留守はー…アレだ、俺がやる事をしたりするんだ。洗濯とか掃除とか…あ、今日はもう終わったからしなくていいぞ。外に出ないで、家でじっと待ってろ。…な?』

『待つ……』

『……?』

『(´;ω; `)』

『泣くなよ…』

 

 

――――という風な説明を受けたのですが。

留守=「飼い主さんがすること」で、飼い主さんは今回みたいな緊急クエストも参加していたから、参加したのですが……。

 

「違うのですか?」と首を傾げたら、飼い主さんは急におでこに手を当てて俯いてしまいました。

 

 

「……なんでよりにもよって後半部分を無視するんだ」

「?」

「しょうがない、そこら辺は後で教え直そう――――…どうした?」

「あのっ、あの…」

 

 

私の装備の切れ具合や傷に目を向けていた飼い主さんの手を握って、私は―――顔を見れなくて、ずっと飼い主さんの手を見つめていました。

 

「私―――に、呆れましたか?役立たず…ですよね…」

 

 

不安のあまり思わず口から飛び出た言葉。飛び出したら余計に不安が増して―――もしこの手が振り払われたら。「ああ」と溜息交じりに言われたら、私はどうすればいいのでしょう……?

 

 

 

「ばぁーか」

 

 

飼い主さんは俯く私のおでこを、ペチンと弾きました。……地味に痛いのです。

 

 

「…俺が何度お前に呆れたと思ってんだ。朝は布団から出ようとしない、ひっついて離れない、肉は食わない、菓子食う時はいつも口にカスが付いてるし、チェダーのあんちくしょうの言う事は鵜呑みにするし、のほほんとしてる癖にトラブルメーカーだし。……だけど、そんなお前に呆れはしても役立たずと思った事はねーよ」

「ほ、本当ですか…!」

「ああ」

「駄目な子とか、怠け者とか、穀潰しとか、金食い虫とか…!」

「………おい。誰からそんな言葉を教えてもらった」

「隣のおば様が言っていたのを聞きました」

「―――~~ッ」

 

 

意味は分からないですけど、とりあえず罵り文句というか、不名誉な言葉なのだと思っています。

 

 

「……思って、ませんか…?」

「…思ってねーよ」

「本当に?」

「本当に」

「私の事、何処かに捨てたりとか…」

「しねーよ」

「じゃ、じゃあ、ずっと傍にいてくれますよね…!?」

「………」

「…飼い主さん…(´;ω; `)」

「…いや、だってお前、これは何というか、返事のしようが…」

「(´;ω; `)」

「…だあぁぁぁぁ!!分かったよ!傍にいるさ、お前が出てくまではな!」

「やったぁ!」

 

 

その言葉だけで、空はまだ雨が降っているのに何故か晴れているような気分になれます。

 

私はそっぽ向いてる飼い主さんに気持ちのままに抱きつくと、胸に頬を擦り寄せて叫びました。

 

 

「飼い主さん、大好きです!」

 

 

―――あの雪の中、何日も私に会いに、遊びに来てくれた人。私を拾ってくれた人。

 

あの日から私は飼い主さんが大好きなのです。わしゃわしゃしてくれる大きな手が大好きなのです。私を受け入れてくれる懐の広さが大好きです―――。

 

 

「………あ、ああ。そうか」

「飼い主さんはー?」

「あー……嫌いじゃない、ぞ」

「(´・ω・`)」

「……まあ、好き、かな」

 

 

わしゃり、と髪を撫でてくれる飼い主さん。何だか嬉しくて、思わず眉を寄せた飼い主さんに笑いかけたら、ちょっとの沈黙の後、コホンと咳を出しました。

 

「風邪ですか…?」

「ちげーよ。これは―――…いや、どうでもいい。ほら、傷の具合は?」

 

足とほっぺたが痛いです。あと全身痛いです。…と答えたら、飼い主さんがおぶ―――ろうとして、太刀が邪魔で無理でしたので、抱き抱えて貰いました。

 

あ、ちなみに私の武器のハンマーは猪の身体に丁度良く挟まっていたらしく、猫達が回収してくれたとの事です。

 

 

「あっお二人が―――」

「行ったらチェダーが仕留めてたぞ。スウィーツは…蜂蜜まみれだったが」

「朝からずっとですね…蜂蜜に縁があるんでしょうか…」

「いや、呪われてんだろ、あれは」

 

 

あれは近くから見ても化け物だった。思わず太刀を抜く所だったんだ、と遠い目をする飼い主さん。

 

やっといつもの日常に戻れたような、お家に帰って来たような安心感に包まれた私は、ふと飼い主さんの腕の中で香る、血の香り―――の中に汗の香りが混じっていることに気付きました。

しかもよく見れば最初のクエストとなんら変わっていない(今回のクエスト向けじゃない)装備です。……急いで、探しに来てくれたのでしょうか。

 

 

 

「……あのですね、夕飯にじゃが芋のミルクスープを作ったのです」

「ああ、じゃあお前のこの手の怪我はそれか」

「違いますっ。これは林檎を剥くのに失敗して出来ました」

「何で威張ってんだ」

 

 

(――――まるで、魔法のよう)

 

雨はまだやまず、ぽつぽつと頬に当たっていましたけれど、もう寂しいとは思わなくなりまして。

むしろ、静かに落ちるそれが、とても綺麗な宝石に見えて。

 

 

「……やっぱり、飼い主さんじゃないと、綺麗な兎さんは出来ませんでした」

「…そっか」

「帰ったら、作ってくれますか?」

「ああ。…帰ったら、その林檎のせいで起きた嫌な話を教えてやる」

「嫌な話……?」

「癖は恐ろしいって事だ。…いや、本当に癖って怖いな」

「お船の事も聞きたいのです―――あ、それから飼い主さんにお見せしたい物があるのですよ。スウィーツさんからお菓子を頂きましたから、一緒に食べて、聞きたいです」

 

 

飼い主さんがぶっきらぼうな声で「そうか」とだけ言うのが、とても優しく聞こえるだなんて。……飼い主さんはまるで、魔法使いみたいです。

 

 

 

 

 

超特急で探しに来た保護者ハンター、兎ちゃんに一瞬惚れかける、の巻。

 

 







備考:

今回のクエストに出てくるモンスターは実は下位レベルじゃなくて上位のモンスター。調査が不十分な状態でのクエストだったせいで夜ちゃんはエライ目に遭いました。
でも馬鹿力なので頑張って一人でドスファンゴの牙をパキッと折れる位には実力があるし、咲ちゃんがいればもうちょっと善戦します。

ちなみに夜ちゃん兎時代の名残の毛皮はかなり上等です。夜ちゃん討伐のクエストは実は上位クエストだったのです。…で、その毛皮を防具にしてるので、攻撃力はまだまだ下級ハンターなのでアレですが防御力は上級レベル。……見事に破けちゃったけどね!



備考2:咲ちゃんが迎えに行くまで↓

急ぎ足でお家に帰る⇒家に誰もいない⇒猫と村長から話を聞く⇒何か色々言われたけど無視してネコタク超特急コース⇒上級装備で遠慮なく出会うモンスターを血祭り(※狩り)に⇒まっくろくろすけでておいでー!…という流れ。

夜ちゃんはまだ精神的に幼くて、家族愛と恋愛の違いが分かってない感じです。咲ちゃんもそれは分かってるんだけど、肉体年齢とのギャップにくらっときちゃう事が偶にあります。

今回は夜ちゃんが出ていくまでとは言ったものの、多分彼はあの手この手で夜ちゃんの自立を邪魔するだろうなぁ―――とこっそり覗いていたチェダーさんは思っちゃう訳です。
……ちなみにチェダーさんはキャンプに着くまで見つからないようにこっそり覗きながらニヤニヤします。そして色んな所が泥だらけ草っぱだらけの咲ちゃんを帰り道にからかう予定です。


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5.甘えん坊な性格です

 

 

 

もぞもぞお布団から顔を出してこんにちは、飼い主さん!

 

 

もうお昼なのです。起きて欲しいのです。スープを温めたんですよ……猫ちゃんが。

ねえねえ、飼い主さん、飼い主さん。

 

 

「――――ん、……お、おおお、お前っ何で俺の布団に潜り込んで…!?」

「昨日、飼い主さんに一緒に寝たいって言ったら『ふぁん?』て答えてくれたので、いいのかなって」

「おいっそれは返事じゃな―――…駄目だ、眠い……」

「ご飯ですよー!」

「抱きつくなっ」

 

 

そう言って私をベッドから落とそうとして、昨日の打ち身と足の傷(お薬のおかげで打ち身はだいぶ良いですよ)の事を思い出してくれたのかすぐにやめると、渋々上半身を起こします。

 

顔を覆うように両の手を当てると、二度目の「眠い…」を呟きました。

 

 

「飼い主さん、ご飯食べたらゴロゴロしてたくさん喋りましょうよ。今日は猫ちゃんたちが家事をしてくれるそうなのですよー」

「あー?…ああ、そういえば昨日そう約束したな…」

「じゃが芋のミルクスープ、食べて下さいよー」

「ああ、それも約束したな…」

「林檎の兎…」

「約束、したな…ふぁ…」

 

 

あと十五分待ってろ。と枕に顔を埋めようとする飼い主さんに貼り付いて、私は布団の中で足を(無事な方をですが)パタパタしました。

 

 

「十五分って、どれぐらいですかー?」

「…六十を、十五回」

「六十?」

「……十を六回。それをまた十五回繰り返せ」

「えっと、十を六…うー、やだやだ、飼い主さん起きて下さいな。兎は寂しいのが嫌なのです。昨日はとても寂しかったんですから、構って下さいな」

「俺は昨日、お前よりも疲れて帰って……あれ、何か肩に柔らかい―――?」

「む?」

 

 

眠たげな顔で肩を見遣る飼い主さん。その肩の上には私が乗っています。

 

 

「く、」

「く?」

「黒ぉぉぉ!!お前ッなんて破廉恥な格好してんだぁぁぁ!!」

 

 

何故か怒られた格好ですが―――飼い主さんの物なのでぶかぶかな白い木綿のシャツ一枚を着ているだけです。(普段は駄目って言われています)

 

でも昨日、あちこち怪我だらけだからって渋々了承して……あ、さっき布団の中でもごもご動いてたから、ボタンが二つ開いてます。なんか寒いなーって思ってたのですよ。

 

 

「"はれんち"ってなんですか?」

「そこから!?そこから教えなくちゃいけないのか!?ていうかお前、下着はどうした!?」

 

 

知らない単語を尋ねたら何故か下着の有無に。だけどその前に胸元が寒いので飼い主さんにもっとくっつきたいのです―――……思わず「ぎゅっ」てしたら叩かれました(´・ω・`)

 

 

「……穿いてますよ?」

「下じゃない!上だ上!む、…胸は!?」

「―――ちぇ、チェダーさんが、夜には付けない方がいいって。きっと飼い主さんもその方がよろk」

「喜ばねーよ!!…あんのチーズ野郎、今度会ったら―――会った、ら…」

 

 

私の返答にガバッと起き上がって(飼い主さんが跳ね飛びて起き、体をこちらに向き直っているのに対し、私は尻もちを着く形です)の会話だったのですが、飼い主さんは不意に視線を下に、私の左足に置かれた、飼い主さんの手に向けます。

す、と震えた指先が私の太腿を撫でて、「くすぐったいです」とふにゃりと笑っていいますと、飼い主さんはそのまま黙って布団を被って丸くなりました。

 

 

「か、飼い主さん…?」

「昨日の今日でこれは無いだろぉぉ!?」

「あの、飼い主さん」

「くっそ、これがわざとだったのなら…!何で無自覚なんだよッいい歳した娘が足を出すんじゃねーよッ」

「か、飼い主さん…」

「何で洗剤も洗髪剤も住んでる所も一緒なのにお前だけいやに良い匂いすんだよッなんで甘い匂いするんだよッ肉もっと食えよ馬鹿!」

「かいぬしさん……(´;ω; `)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局その十五分後?に飼い主さんは部屋から出てました。

 

私は拗ねて飼い主さんの足下で寝ていたのを横に担がれ、(その前にきっちりボタンを閉められました)二人で「遅いニャー!」と怒られて肉球に頬を打たれてから席に着いたのです。

 

 

「……うん、ちゃんとよく煮込まれてるな」

「―――じゃ、じゃあ、美味しいですか…?ねえねえ、美味しいですか!?」

「ああ」

「えへへー」

 

 

飼い主さんは相変わらず食事しか見ていないけれど、撫でてくれなくてもその言葉だけでとても嬉しいのです。

 

私は意を決して葉に包まれた肉をもきゅもきゅ食べて、吃驚した飼い主さんに「美味しいです」と言いました。

 

「……そっか」

「はい。…私もミルクスープ飲みたいです」

「ああ、ほら」

 

ずいっと息を吹きかけて冷ましたスープを私の口元に出されたので、温くなったスープをスプーンごと口に入れました。

 

 

「……あ」

「?」

「…いや、何でもない。……どうだ?」

「美味しいです」

 

 

そうだな、と飼い主さんが白パンを千切って頬張るのをニコニコ見ていたら、飼い主さんにパンを突っ込まれました…。

 

 

「……昨日はどうだった」

「ふぐ……ちぇ、チェダーさんに、もう少し練習してみようって。それからスウィーツさんのペイントボールって急カーブの出来る機能付きなんですよ!蜂蜜だらけになってましたし」

「あいつ本当に上級ハンターかよ…」

「お二人と一緒に弓でアオアシラを倒したのです」

「よかったな」

「それで―――…あ、そうだ!」

 

 

―――いけないいけない。飼い主さんに見せようと思ってたのに、すっかり忘れていました。

 

私はパタパタと収納ボックスの中を探ると、両腕に抱えて飼い主さんの元に戻りました。

 

 

「――――…迅竜の骨髄…?お前、それをどうした?」

「お爺さんから頂きました」

「行ったのは渓流だろう?」

「御兄弟から譲ってもらったらしいですよ」

「…それをどうしてお前が貰うんだ」

 

 

ええっとですね、三人でタケノコを採っていたら、お爺さんがチェダーさんのお尻に触って、私の胸を掴んできて、スウィーツさんの双剣で髪の毛剃られて、チェダーさんがすごく怒ってて、蹴って踏んで胸元を掴んで。

チェダーさんが「詫びに荷物の中身をくれる」って言うから、……だって怖かったのです、私だって駄目じゃないかって言いましたよ―――チェダーさんの欲しがってた碧玉と逆鱗、私に骨髄と火打石、スウィーツさんに強走薬。…と、チェダーさんから蜂蜜。私からペイントボールと投げナイフをあげたのです。

 

 

「………あのジジイ…!」

 

てっきりチェダーさんを怒ると思ったらお爺さんの方に怒りを感じたようです。

 

 

「今度会ったらモンスターの巣に放り込んでやる…!」

「あ、それチェダーさんもおっしゃってました」

「……崖から落とすか」

「もういいじゃないですか、過ぎたことですし」

「―――そもそもお前な、胸揉まれたのになんでそんな平気そうな顔してんだ!チェダーの反応が普通だろ?怖いとか気持ち悪いとかあんだろ!?」

「気持ち悪かったですけど…なんか見てて可哀想になって…」

「甘い!今度やられたら腹に蹴りの一発でも入れろ!」

「でも……」

「お前は他人に甘すぎんだよ!」

 

 

怒りながらも私の分もお茶を淹れてくれる飼い主さん。お揃いのカップを見ながら、私はパンを両の手で弄りました。

 

 

「……だって、兎の頃、言われたのです」

「あん?」

「『人間は脆いから、何があっても、もきゅもきゅしちゃ駄目』って」

「もきゅもきゅ…?」

「飼い主さんと初めて会った時に遊んだでしょう?」

「おま……アレは『もきゅもきゅ』なんて可愛い擬音を使っていいレベルじゃなかったぞ…!?」

 

 

飛びついて、ぐるぐるして、兎パンチ。積もって山のように高い雪の中に突っ込んで埋もれてしまった飼い主さん。……あれはやりすぎだったなって、一応後悔してるのですよ……。

 

 

「むむ……とにかく、私はやり過ぎてしまうから、気をつけなさいって、手を上げては駄目って教わりました」

「それは―――兎の頃の話だろうが」

「そうですけど…でも、私の力って人より強いです…」

「……でも嫌な時は嫌だって言え。言っても聞かない時は暴れてしまえ。我慢はよくないぞ……ほら、茶」

「ありがとうございます」

「お前は若い娘なんだから、余計―――なんだ、そういう…身体を触ろうとしたりとか嫌な事してくる人間にははっきり拒絶しろ。きっちり落とし前つけるんだ。……そういう所はチェダーを見習え」

「はい……ああ、そう言えば、スウィーツさんが言ってました」

「…なんて?」

「『やられたらやり返す、またやらかそうなんて考えないくらいに絞り盗るのがハンターだ。太く逞しく生きるんだぞ』って。それが―――…これ、なんですが」

 

 

食事の席に相応しくないと骨髄を片付けようとする猫達を指すと、飼い主さんは「ハンターじゃねえよ、それ…」と頭を掻きました。

 

 

「―――じゃあ今度は飼い主さんの番です!ねえねえ、砂漠を渡る舟ってどんなのなんですか?大きなモンスターと戦ったんですか?」

「あー…黒は絶対あのクエストを受けない方が良いぞ。耳がやられる」

「えー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ご飯を食べて、家事をしてくれる猫ちゃんたちにお礼を言った後、私は風通りの良い窓を見ながら、飼い主さんに薬を塗ってもらいました。

 

 

「……ていうか、なんでこんなにざっくりしてんだ?お前はどういう林檎の剥き方をしたんだ」

「ただ普通に…林檎の兎を作ろうとして失敗しただけなのですが」

「だからその林檎の兎をどう失敗したらこうなるんだよ―――ていうかお前、この状態でクエスト行ったのか…本当に馬鹿だな」

「(´・ω・`)」

「服捲れ――――上げ過ぎ!下げろッ」

「(´・ω・`)」

「まったく…」

 

 

もう少し恥じらいを持て、と言いながら薬を塗ってくれる飼い主さん。

私がずっと(´・ω・`)な顔をしていたら、しばらく黙ってから話題を変えてくれました。

 

 

「―――あのドスファンゴの牙を折ったのはお前か?」

「はい。ぼっきりやりました」

「途中、牙が粉々になってたり三分の一の長さでそこらを転がっていたんだが―――お前はどんな殴り方をしたんだ」

「思わず兎の頃の怒りがですね…例え負けても牙だけは折ってやると意気込んでました」

「仲悪いのかよ」

「ええ。だって酷いんですよ!寝てたらぶつかってくるし、誰かと遊んでたら邪魔するし、ご飯を滅茶苦茶にされたり妨害してきたり…」

「むしろドスファンゴ凄くないか、当時のでかくて凶暴なお前に食ってかかるとか」

「凶暴じゃないです!」

「……人を雪の中に埋めといてそれを言うか」

「……(´・ω・`)」

 

 

全部の傷を塗って包帯を巻いたりガーゼを貼り終えたのを再確認すると、飼い主さんはさっさと薬を仕舞おうとするので、きゅ、と握って止めました。

 

 

「どうした」

「飼い主さんは、薬を塗らないのですか?」

「俺は草で切ったくらいだからな」

「私が草で切った所は塗ってくれたじゃないですか」

「そりゃ…女なんだ、傷は無い方がいいだろうと思って…」

「この前、チェダーさんが怪我をした時は唾でも付けてろって言ってたじゃないですか」

「あいつはいいんだ」

「よくないです。……さっきのお礼に、私が塗ります。怪我した所出して下さいな!」

「―――…分かったから脱がそうとするな。腹を草で切る訳ないだろ」

「ドスファンゴとか…」

「反撃する前に(上級装備で)狩ったからな」

「砂漠のクエストとか…」

「頬を薄く切ったくらいだ―――ってちょっと待て、その薬じゃないぞ」

「これですね!……はい、ぺたー」

「…っ、…腕はいいって―――…聞いてないし……」

 

いつもしがみついたり抱きついたり(偶に)撫でてくれる飼い主さんの腕……案外古傷が多いのですね。

色々苦労なさってる腕に、私はゆっくりと薬を塗り込みました。

 

「………よし、と。次は頬っぺたです」

「もう塞がって―――そんなに薬はいらん。戻せ」

「これ位…ですか?」

「そ」

「いきますよー。はい、ぺたー」

「……お前、遊んでるだろ」

「ぺたー」

「………」

 

 

包帯だらけの手で飼い主さんの顔にぺたぺた触れながら、もう片方の手はゆっくり優しく塗っていきます。

そして私と同じく傷口を塞ぐと、飼い主さんが隣に置いていた桶に浸した手拭いで手を拭いてくれました。

 

そして今度こそお薬を仕舞い、二人の汚れを落とした桶を猫ちゃんに渡す飼い主さんの背後で、私は大事に仕舞っていた髪飾りを引っ張り出します。

 

 

―――今日は何処にも行かない(というか行けない)けど、防具を着ない日は付けていたいのです。本当は毎日付けていたいのですけど……。

 

 

「飼い主さん、飼い主さん」

「あー?」

「髪飾り、付けて欲しいのです」

「それぐらい自分で……あー…貸せ」

 

 

別に付けれない事もないのですけど、飼い主さんは断らずに髪飾りを受け取ると、先程の椅子に座るように言います。

飼い主さんが背後でガタガタ音をたてては数歩歩み寄って、また戻ったりを何度か繰り返す間、私は足をぷらぷらして待っていました。

 

しばらくして飼い主さんは戻ってきた訳ですが、私に何も話しかけずに、まごつきながら髪を梳かします。

最後にしゃりしゃり音がする青い硝子の髪飾りをごつごつした手で添えると、「よし、」と小さな声を出して、私に――――小さな櫛を、差し出しました。

 

「これは……?」

 

木彫りの花―――大きく咲いているのが二つ、小さいのが三つ、蕾が一つ彫られている櫛は、お家には無かったものです。

 

 

「……ちょうど船待ってたら良い露店があってな。前に髪飾りを買った事だし、櫛でもやればちょうどいいかなっていうか…順序逆だったなとか…とにかくっ今回の土産だ」

「……」

「………いらないなら別に…」

 

 

黙って彫られた花をなぞっていると、飼い主さんは小さくそう呟きました。

 

 

「………飼い主さん」

「――――あ、ああ?」

「……ありがとう、ございます」

「…………………………ああ、うん」

「とても可愛らしいです。…嬉しい」

 

 

チェダーさんならもっと上手に、たくさんの言葉で感謝の言葉を言えるのでしょうけど、今の私に、これ以上の言葉は思いつかなくて。

 

 

 

「――――じゃあお礼に、飼い主さんの髪を毎日梳かしてさしあげます!」

「えっ」

 

 

 

 

 

 

※二人は交際しておりません。これが本来の二人の生活ぶりです。

 

 



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番外編:彼と兎と夜空


※アットノベルス様へ移転記念に書いたお話です。



 

 

酒場って、とても怖いのです。

 

だって大きな声とか騒がしい音がしますし、飼い主さんも怖いのが居るからここら辺には遊びに来ちゃ駄目って言ってましたもの。飼い主さんが怖いって言うほどだから、きっととてもとても怖いのでしょうし…。

 

だけど、飼い主さんったら財布を忘れてたのです。それってとても困るでしょう?村単位だと顔も居場所も分かるから取りに行っても嫌な顔されないけど、これが大きな所だと面倒な事になるのだそうです。

 

「……でも…うぅ、どうしてお酒を売るお店はこんなにも音が酷いのですか…」

 

どうしよう。お店の人に頼んで、お家に帰った方がいいのかな?それとももう帰る?…ううん、駄目です、そんなの。駄目兎なのです!

 

大丈夫ですっ、怖いのが来たって、きっとすぐに飼い主さんが助けてくれますもの!もしくはウサパンチでけーおーなのです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――それは、兎がお家でしょんぼりしてた頃のことです。

 

「やべっ、財布忘れた」

 

旧友の、この前砂漠で共に剣を抜いてモンスターを狩ったジャックに誘われたところ、兎が頑張って背伸びして「一人でも大丈夫なのですっ」と背をぐいぐい押したものだから、つい忘れてしまったのでした。

 

ジャックと数名の知人は咲の間抜けな一言に、きょとんとした後、大げさに言うのです。

 

「ひーっ、"あの"咲様が財布忘れるとか!こりゃもう竜の大群が来るな!」

「言えてるわー…ちょっとやめてくれよー?俺まだ誕生日迎えてねーんだ」

「…ていうかアレ?病気?痴呆になっちゃった?」

 

「あっはっは」と仰け反って笑う男の腹に拳を叩きこんで、咲は頭を掻きながら席を立ちます。

 

 

「…取りに行ってくる。ついでにく…家の様子も。遅れるけど気にせず飲んでろクソ共」

「なになにー?物欲皆無のお前がお家の心配とかどうしたのー?どうせ金もたんまり溜めてるだろ―?」

「お前性格が粘着系のせいか金溜まるもんな」

「イケメンで才能あって金もあるけど、性格が終わってる所が神様もいい塩梅の加減をとってくれたよな」

「ぶっ殺されたい奴から前へ並べ。酒瓶でゆっくり殺してやる」

「はいはい、皆もからかうな」

 

 

咲が酒瓶を手に取った所でジャックが止めると、酔っぱらいの知人は「へいへーい」と飲んだくれます。誰かがどこでこんな美人がいたと話せば、皆がその話に乗っかりました。

 

舌打ちして酒瓶を戻した咲は、そのまま出ようとした所を珍しくニヤニヤ顔のジャックに服を掴まれ……。

 

「何だ」

「…いや、あの時あいつが言っていたのは本当だったのかと」

「……誰から何を聞いた」

「豊受(トヨウケ)から、『あの咲が可憐な少女を囲ってる』とかなんとか」

「悪いな。ちょっと遠出してくる」

「言っておくが豊受は今、砂漠の方だぞ」

 

「奢ってやるから、座れ」とジャックがこの手の話題を聞きたがる姿を初めて見た咲は、しばらく固まってからのろのろと座ります。

 

この男、普段は静かでプライベートに顔を突っ込まない、口の堅い男なのですが……。

 

 

「自分の好きな格好をさせて下卑た笑いを浮かべていると言っていたのだが」

「…あいつが自分の服に興味を持たないから俺が選んでるだけだ。あと無表情で選んでいるッ!」

「……それはそれで問題があるぞ…。毎日寝てるとか?」

「健全な意味でな!」

「そうか。良かった。お前は女の扱いが最底辺だったからな、心配だった」

「あいつらは売春婦だろうがぁぁ……!」

「…ああ、あと束縛しているとも聞いたんだが」

「してねーよ!!あいつが俺の後ろを引っ付いて離れないだけだしっ。そりゃ…でも、あいつ馬鹿だし放っておいたら何されるか分かんないだろ。食い物見せたら付いて行くぞあいつは」

「誰にでも?」

「…多分」

「じゃあ最後に。林檎の兎事件は本当か」

「癖になってただけでそれも俺が兎にしたいからじゃねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

両手で顔を覆って思わず天を仰ぐ咲に、ジャックは涼しげに言いました。

 

「なるほど。順調にロリコンの道を歩んでいるんだな」

 

言った、瞬間。ジャックの顔に酒瓶が打ち込まれ―――そうになりますが、彼も剣士ですので軽やかに避けました。

 

 

「っざけんじゃねーぞ!歩んでなんかいるもんか!」

「ああ、駆け出してるのか」

「悪化してんだろうがよ」

「ははっ、冗談だ」

「珍しく質の悪い冗談言いやがって…極端なんだよお前は」

「そうか?すまないな。……でもな、これでも本当に心配してるんだぞ?」

 

 

自分のにも咲のにも酒を注いで、ジャックは大人びた笑みで言うのです。

 

 

「荒み過ぎて傷だらけのお前が、"あれ"以来どうしてるんだろうって」

「………」

「全てが終わって、病んでしまってるんじゃないかとかな。…ここの皆、からかうことしかしてないが心配してたんだぞ。…豊受も」

「………」

「そしたらお前、威圧感が酷いお前が林檎の兎を作って場を和ませたらしいじゃないか。俺はあの時船長の所に行っていたのを悔んでしまったよ」

「おい、まだそれ引っ張んのか?」

「豊受はそれを良い兆しと思って心配してた連中に言いふらしただけだ。…誇大に」

「いや、あいつそんな高尚な事はしねー」

「こうやって喧嘩を生温く売ってもちゃんと返答してくれるしな。昔は何も言わずに足が出てたからな」

「自覚あったのか」

「……どうしてだろうと家を尋ねたら、……あのお嬢さんなぁ」

「………」

「…うん、いい子に巡り合えたな。お前をここまで真っ当に調教してくれるだなんて…」

「調教って俺は獣か!?」

「自覚なかったのか?」

 

 

余裕たっぷりの笑みに、咲は応えずに店で一番高い酒を注文しました。

 

これなら今そこで一気飲み大会中の知人たちは泣きついて「ごめんなさい」コールの嵐なのですが、最悪な事にこの男もまたよく稼ぐのです。

 

つくづく嫌な男だと思う反面、まあこの男ならいいかと「昔ならありえない」油断を持っている事実にまだ酔いきっていないのに頭が痛くなりました。

 

咲はその痛みを誤魔化すように酒を呷ると、

 

「『咲さんのお友達さん、咲さんといっぱいいっぱい遊んでくださいね!』…か」

「ぶっ」

「『咲さんちょっと怖いけど、でも良い人です!これからもよろしくお願いしま、』」

「ジャックてめぇぇぇぇぇぇ!!!表出ろコラぁ!!」

 

とか言うくせにすでに拳を出してる所が、やっぱり駄目だなぁとジャックは思いました。

 

咲は喧嘩になると卑怯と罵られても平然と勝つ子であるとよくよく知っているので、ここはお断りしたいところです。

はいはいごめんと、ジャックが手をひらひらさせようとした、ら。

 

 

「ふわああああああんん咲さぁぁぁぁ!!!怖いのがいっぱいですぅぅぅ!!(´;ω; `)」

 

 

未成年者立ち入り禁止なのに、明らかに未成年な少女が危険な男に後ろから抱きついたのです。

 

ジャックはそれと同時に咲が背後を許したというか、気付かなかったことに驚きました。

 

 

「はぁ!?おま、…え、何してんの!?」

「咲さんにぃぃぃ…お財布…うっ…お財布…(´;ω; `)」

「あ、ああ…届に…馬鹿っ、ここら辺は危ないから一人で来るなって言っただろ」

「…(´;ω; `)」

「しかも薄着…外に出る時は厚着にしろって口酸っぱくして教えただろうが」

「……(´;ω; `)」

「ちゃんと家の鍵は閉めたな?火は消したか?変なのに追いかけられたりとか近所に迷惑かけなかったか?」

「………(´;ω; `)」

「…………」

「…………((´;ω; `))」

「ああああもう!分かったからいい加減泣き止めよ!…ほら、野菜スティック食って良いから!」

「…(´;ω; `)!」

 

 

咲が摘まんだ野菜をそのままぽりぽりと咀嚼する少女に、ジャックは拭きだすのを必死に堪えました。

 

「まったく…何が一人で大丈夫だよ…」と呆れつつも野菜を食べさせる咲に、ジャックはふと思い出しまして、

 

「お嬢さん、僕のサラダも如何?」

「(´;ω; `)!」

 

皿に盛られた野菜とチーズの姿に、少女はキュウリから人参を食べていたのを止めてそわそわしています。

その前で咲はちょっとヤバい顔になっているのですが、少女はサラダとジャックを見比べて、

 

「…ぃ、らないです……」

 

「ありがとうございます、」と一応のお礼を言って、初めて会った時はあんなにも興味津々だったのに今ではぴゃっと咲の背に隠れてしまった彼女に首を傾げて、…ジャックは少し笑ってしまいました。

 

(咲さん咲さんっ、知らない人間です!余所の人間が来ました!)

(…あのな、それじゃあ誰か分からないだろ―――って、ジャックか)

 

(咲さんのお友達…お友達……あ、あの!咲さんのお友達さん!)

 

 

―――何だ、やっと見つけたのか。

 

 

ふん、とそっぽ向いているけれど、きっと咲は嬉しい筈です。

ジャックもとてもとても嬉しかったのです。…彼の本来の優しさを、彼女は素直に受け取っていて、信頼している事を。

 

ジャックは嫌そうな咲と目を合わせると、

 

「式には呼んでくれ」

「その若さで葬式あげたくなかったら黙ってろっ」

 

 

そう言うわりには、咲は彼女の目の前では紳士でいたいようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にんじん美味しかったですっ(´,,・ω・,,`)」

「……お前…兎だわ本当…」

「飼い主さんは嫌いですかー?」

「……あんまり」

 

 

飼い主さんの腕に抱きついてこんばんは、なのですっ!

 

飼い主さんのお友達さんに勧められてお家に帰ることになった飼い主さんは、あのお店にいた人達と違ってとても落ち着いていて、普段と変わりません。

ただちょっとぼんやり気味です…お家に帰ったらお水を飲みましょうね。

 

 

「…黒、」

「はいっ」

「お前って、後悔したこと、ないか?」

「こうかいって何ですか。美味しいですか?」

「……あの時こうしておけば良かったって、思う事を"後悔"って言うんだ」

「あの時…あ!あります!」

「何だ」

「ここなら大丈夫だろうとご飯を隠してたら、猪さんに食べられたのです…楽しみでしたのに(´;ω; `)」

「……おま…あのさ、そんなことどうでもいいだろ。普通―――なんだ、人間になったこととか」

「そっちの方がどうでもいいのです!友達が私にとくれた物なのに(´;ω; `)」

「………」

 

 

無言の飼い主さんに額をぺちんとされて、私は頬を膨らませたのです。

 

「だって、今の生活に文句なんて一つもないですもの」

「!」

「怖いこともあるけど、飼い主さんが教えてくれます。引っ張ってくれます。だから全然平気。

ご飯も飼い主さんと毎日一緒に食べれて美味しいです!寝床はふかふかでくっつくと温かいです。友達は…偶に、遊べるから。だから"こうかい"なんてしないのですよー」

 

 

でも、強いて言うなら「寂しい」ことがあるのです。でもそれは私の都合上しょうがないことで、それすらも懐かしんで生きるのみです。

きっとこれから私は生意気兎になることもあるかも(とチェダーさんに言われてます)しれませんが、懐かしむ余裕も無くなるかもしれませんが、でもきっと、飼い主さんの傍を離れようとは思わないのです。

 

「……お前は、良い子だな」

「えへへー」

 

褒められました!

 

私は上機嫌で飼い主さんを見上げ……

 

 

「あっ、お星様―!」

「珍しいもんでもないだろ」

「この前本で読んだのです!人間は星でお絵かきをするのでしょう?」

「お絵かきっていうか…割と無茶な形にしちゃったというか…」

「たくさんの絵があるのですよね!…フルフル座とか、仔ナルガ座とか!ねえねえ、兎座はありますかー?」

「ウルクススは無いな。ベリオロス座はあるが」

「………(´・ω・`)」

「…その代わり月には兎が居るらしいぞ」

「!」

「月で餅を突いているんだとよ」

「…そ、その餅は美味しいですか?どんな味なのですか…?」

「……食いしん坊め」

 

 

きなことあんこがたっぷりなのでしょうか。もちもちしてるのでしょうか――うぅぅ食べたい!食べたいです!

咲さんに強請ったら買ってくれるかなぁ……。

 

 

「……まあ、月の上の兎よりは、食い意地張って地上での生活を強いられる竹のお姫様の方がマシか」

「…?」

「やらないと五月蠅くて寝れなさそうだからな。月見の時にでも有名店の餅を買ってやるよ」

「本当ですかー!(´,,・ω・,,`)」

「……その代わり、お前は俺の晩酌付き合えよ。守らなかったら餅をお前の目の前で溝に捨てるからな」

「そんなの駄目ですぅ―――!(´;ω; `)」

 

 

やだやだと駄々を捏ねたら、飼い主さんは五月蠅いだろと私の頭にチョップして。

 

だけど手を繋いでくれたから、私はすぐに機嫌を直してお家へと帰りました。

 

 

「早くお月見になればいいのに!」

「……そういやお前、季節の変わり目弱かったな…哀れにも寝込んで月見出来なかったりしてな」

「そ、そそそそそんなことないですもの!(´;ω; `)」

 

 

―――いつかこの日を切なく思い出す事も、あるのかもしれないけれど。

 

 

私は今、世界で一番幸せな兎ですよ。…飼い主さん。

 

 

 

 

 

 

時間軸考えないで書きました(笑)……すいません…。

 



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6.装備は自分の毛皮です

 

 

「あー…こりゃあ修理に時間かかるわ」

「どれくらいかかりそうだ?」

「一か月過ぎちゃうかも。今、嫁さんの悪阻が酷くてな……」

「ああ……心配だよな」

「そうそ――――うわあああ可愛いと思って付けた尻尾が(´;ω; `)」

「……(親父の(´;ω; `)て顔すげー気持ち悪い)」

「…力作だったのに―――……ぐすん。……まあしょうがない、折角だしちょっと大人っぽくする?まだ毛皮余ってんだろ?」

「すっげー余ってる」

「後で持ってこいよ、あと料金はこんなでよろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――雑誌を読みながらこんにちは、あれから怪我が良くなった元兎です。

 

実は昨日、私のボロボロの装備を修理しに行ったら一か月の時が必要と言われ、丁度いいから新しい防具を買う事になりました。

 

 

その時に貰った「新作・人気の防具ベスト」を帰ってから飼い主さんと読んだのですが……飼い主さんは重そうな防具ばかり選ぶし、私はどうすればいいか分からないしで選べず、チェダーさんの所へ相談しに来たのです。

 

飼い主さんはとても嫌そうな顔をしていましたが、私がチェダーさんに憧れているのを知っているので渋々一緒に付いて来てくれました。

 

 

……ちなみに、そのチェダーさんのお家―――所々花が飾ってあったりする可愛らしい家に似つかわしくない、「ラッシャイヤセー!」という猫達の大きな挨拶には一年半経っても慣れません。

 

しかも遊びに行くと偶に、猫の尋常じゃない悲鳴が聞こえてくるのですが…。あれは何の悲鳴か聞きたいのですけど、答えが怖くて聞けません。

 

 

――――そんな不思議なお家の主であるチェダーさんは、猫に持って来させたお茶と茶菓子を私達二人に押しやると頬杖をつきながら口を開きました。

 

 

「――――それでー?私が選んじゃって構わないの?」

「…ああ、お互いこういうのに不向きだからな」

「よろしくお願いします」

「いいよいいよー!めっさ可愛いの選んであげるー!」

「……おい、見た目より性能の方を「あ、これ可愛いー!」聞けよっ」

「いーじゃん別にさー。どうせ咲ちゃんがずっと傍にいるんだから、可愛さ重視で良いじゃん」

「この前みたいに別のクエストに行ってる事だってあんだろ」

「いや、そうじゃなくてさ、どうせ嫁に貰うん…痛い!」

 

 

もともとカリカリしていた飼い主さん、チェダーさんのからかう声に耐えられずにデコピンを……ああでも、デコピンで済ませるだけ(いつもは首絞めてますからね)良いのでしょうか?

 

 

「……あの、お二人共、これはどうですか?」

「あん?…カボチャ装備は駄目だ。馬鹿みたいだろ」

「馬鹿じゃないです、可愛いのですっ」

「魔女っ子夜ちゃん萌えるわー」

「俺はそんな奴の隣を歩きたくねーんだよ」

「(´・ω・`)」

 

 

慎みのあるのにしろ、と言ってお茶を呷る飼い主さんは「月刊狩人暮らし」を読み始めました。

もう知らんとばかりの態度で読まれているページには「子豚拾ったったww」というタイトルが書かれています。

 

 

「じゃあファルメルはー?大きな羽が可愛いんだよ」

「へー!あれですよね、青緑の綺麗な―――」

「あれ邪魔だから。却下」

「……じゃあ頑張ってナルガにしてみるー?セクシーだけどね、」

「却下。合わん」

「………私とお揃いのブナハにしてみる?それで一緒に狩りに行くの」

「チェダーさんとお揃いですか!?嬉しいです…私、チェダーさんと姉妹みたいにお揃いの装備を着けるのが夢でして」

「―――却下。ブナハはチャラくて見てて苛々する」

 

 

「もしよろしければ」と続けようとした私の言葉を遮って、飼い主さんはとてもとても低いお声で淡々と言うと、ぱらりとページを捲ります。

次のページは「娘がデキ婚する件……」と見出しがついていました。

 

 

「あーもー!!却下却下って―――私に任せたんなら黙って雑誌読み耽ってなさいよ!」

「金払うのもこいつとほとんど一緒に狩りに出かけるのも俺だ、任せはするが少しは俺の意見を入れて選べよ。…一緒に狩りに行く俺にな」

「―――何?何で二回言ったの?そんなに姉妹みたいになりたいって夜ちゃんが言ったのが嫌だったの?……大丈夫、夜ちゃんの事は取らないから。あれだよ、咲ちゃんと一緒だと新婚さんに見えるんだから小さい事言わないの。黙ってデキ婚の話でも読んでなさい」

 

 

茶菓子を口に入れるチェダーさんの発言の後、飼い主さんが急に咳込んで手に持っていたお茶がテーブルと雑誌に少しだけかかりました。

 

 

(―――飼い主さん、顔真っ赤です……咳のせいで苦しいんでしょうか…)

 

あと「新婚」と「デキ婚」って何なのでしょう?

 

疑問に思ったのですが飼い主さんの咳が治まらないので聞くのをやめて、飼い主さんの背中をさすりながら零れたお茶を布巾で拭きとりました。

 

 

 

―――その後も似たような事の繰り返しだったのですが、チェダーさん提案のスカラ―ならまあ良いかもという話になり……ちょうどチェダーさんがお持ちだというので、試しに来させてもらいました。

 

 

「可愛いわー!ほんっとーに可愛いわー!」

「そ、そうですか?」

「照れてる所も可愛いわー!咲ちゃんの所じゃなくてお姉ちゃんと一緒に住んで欲しいぐらいだわー!」

「えへへ」

「今度お揃いで狩りに行こうね!」

 

 

むぎゅー、と抱きしめてくれるチェダーさんに頷いて飼い主さんの方を見ると、じろじろと上から下まで睨まれました…。

 

ですが何も言わずに本を閉じると、チェダーさんに「次の連続狩猟、お前ら二人来れるか」とだけ言いました。

 

「私は空いてるけど、スウィーツは知らない」

「いつも一緒なのにですか…?」

「んー、私が誘う時はいつでも『空いてるからいいよ』って言うんだよねー。結構気まぐれに誘ってるんだけど」

「……………さっさとくっつけよリア充」

「何か言ったー?」

「いや」

 

 

ぽそっと呟く飼い主さんに二人で首を傾げると、飼い主さんは咳払いして続けました。

 

 

「…こいつにはまだ連続狩猟は難しい上に怪我が治ったばかりだからな。あまり無茶をするのも良くないだろうから、四人でさっさと倒したいんだが」

「咲ちゃんって本当に過保護だよね。チェダーさんたまに苦笑いしちゃいそう」

「うっせーな。…とにかく来れるのか来ないのかどっちだ」

「熱い所じゃなきゃいいよー」

「…じゃあ渓流か孤島か――――孤島にするか」

「どうしてですか?」

「三匹相手にするか二匹相手にするかなら後者だろ」

 

 

お前はまだ一対一の状況で狩りをしたほうがいいからな。と言って私のずれた帽子をぽんぽん叩くと、「着替えて来い」とチェダーさんからばりっと剥がされて奥の部屋に背を押されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、すすす、すい、すいまっ…せん!クエ、くええ、くえ……」

「なんで鳥の鳴き真似をしてるんだお前は」

「ふふふ、夜ちゃんお久しぶりですね。今日は何のクエストで?」

「れん、ぞく。しゅ…りょうです」

「はいはい。連続狩猟の?」

「あの…あの……咲さぁん!(´;ω; `)」

「……これで」

「ふふ、了解しました。…お二人でですか?」

「いや、四人で」

「……え、あの、下位クエストですよ…?」

「速攻で終わらせたくて」

「………(´;ω; `)」

「―――夜、背中に引っつくのも泣くのも止めてさっさとお前のサインを入れろ」

「夜ちゃん大丈夫ですよー、怖くないですよー」

 

 

 

―――恐る恐る飼い主さんから離れてそろそろっとサインを入れてる元兎です。おはようございます。

 

今日はスカラ―装備を手に入れる為、連続狩猟のクエストを頼もうとしたのですが……受付のお姉さん、とても優しい方なんですが、人慣れしていない私には怖く思えてしょうがないのです。ごめんなさい…。

 

「……しっかし…この程度のクエストでその装備とか……虐めじゃないですか」

「常に全力なんで」

「それにしても四人はちょっと…」

 

スタンプを弄りながら渋る受付のお姉さんと、変わらずに「常に全力なんで」を繰り返す飼い主さん。

その背後にぴったりくっついた私が飼い主さんの腰の装備を弄っていると、小さな声でお姉さんに呟きました。

 

 

「――――…最近のモンスターが異常なのはアンタも聞いてるだろ?」

「え、ええ…異様に凶暴だとか大きいとか―――あ、もしかしてその調査n」

「不安定な狩り場にこの馬鹿(前科持ち)を連れていけないし」

「………過保護ですよね、咲さん…」

 

 

ああもういいですよ。はいはい受理しました―、とぺたんとスタンプを押すとお姉さんはちょろっと顔を出していた私に「気をつけるんだよー?」と微笑みかけると、クエスト注文票を手に奥に下がってしまいました。

 

 

 

 

 

―――

―――――

――――――――

 

 

「おはようございます、スウィーツさん、チェダーさん」

「――――本当に来たな」

 

 

出口前でお二人を待って十分後、お揃いの装備でこちらに向かってくる(いいなぁ…)チェダーさんとスウィーツさんが来られました。

 

「何だよ咲、『本当に来たな』って」

「……いや」

 

 

さっさと行くぞ、と頭装備を被りながらネコタクに乗る飼い主さんに首を傾げるスウィーツさんでしたが、特に追求する気はないのかチェダーさんの隣に乗り込みました。

 

私は飼い主さんの隣で―――はなく、後ろです。だって今の飼い主さんは、飼い主さんは……!

 

 

「おい黒、背中に引っつくなって言ってんだろ」

「…ひっ!」

「ナルガ君、大好きな兎ちゃんに怖がられてるけどー?」

「うっせーなッ」

「怖いもんな、分かる分かる」

「黙れエセ貴族」

「エセ貴族って言われた!?」

「虫野郎よりはいいんじゃないの」

 

 

どうとも思っていない声色のチェダーさんの後ろに隠れようとしたら、飼い主さんに無理矢理引っ張られ、飼い主さんの――――うわあぁぁぁぁん怖いぃぃぃ!!

 

 

「………怖いか、黒」

「はいっだからこっち向かないで下さい!ナルガには昔、猫パンチを連打されて追いやられた事があるのです!トラウマなのです!!」

「…じゃあ、ナルガ装備、要らないな?」

「……あ、見ない分には耐えられ…覗きこまないで下さいぃ――――!」

「要らないな?」

「はいぃぃぃ!」

 

 

しつこく顔を上げさせようとしてくる飼い主さんにそう叫ぶと、私は今度こそチェダーさんに抱きつきました。良い匂いのするチェダーさんにしがみついて、飼い主さんの怖い匂いを忘れようと堅く目を瞑ったら、チェダーさんが優しく撫でてくれました(´;ω; `)

 

その隣でチラチラと此方を見ていた(そんな視線がしました)スウィーツさんが私達二人に小さな焼き菓子をくれました……あれ、クエストに関係の無いもの持って来ちゃいけないって、飼い主さんが………。

 

 

「…お前、ただの菓子からチーズ菓子になったな」

「えっ」

「後で覚えておけよ」

「何で!?」

 

 

飼い主さんとスウィーツさん、この村では唯一歳の近い同性なのに―――ちょっと、仲悪いですよね……。

 

 

 

 

 

 

新装備候補の中で、一番着て欲しくないものがナルガ装備だった飼い主さん。






★オマケ(チェダー先輩による後輩の誘い方)↓


「御主人―、明日はどうするのニャ?」
「明日は洗濯を一気にやっちゃって、庭弄りするか。家の掃除は任せたぞー」
「勿論だニャー!……にゃ?」

「―――おーい、スウィーツー」
「あー?」
「明日さ―、皆で狩」
「行く」
「御主人!?」
「そ。クエストはこれだって。じゃ、」
「あ、……待て」
「そうですよ待って下さい!御主人ッ洗濯とかどうす」
「なにー?」
「これから暇か?…も、もし暇だったら、夕飯食べていかないか…?」
「御主人!御主人、あたしの話聞いてく」
「いーのー?…じゃ、お言葉に甘えて―――」

「クソアマがぁぁぁ!!あたしと旦那の仲を裂こうとすんじゃないよぉぉぉ!!」
「ちょ、この猫蹴ってくるんだけど」
「…ショコラ、クビにされたくなかったらどっか行ってくれ」
「ご、御主人!?」
「あと明日、俺の代わりに全部お前らでやっといてくれな。じゃ」
「ちょ………ごしゅじ――――ん!」


………という、必死過ぎて酷い男の子がいました。




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7.特技は採集、水泳です

 

 

 

「ニャー!車輪の部分が壊れちゃったのニャー!やけに不安定だとは思ってたけど……あーもーボロいのはこれだから駄目ニャー!」

「あんなに揺れたの初めてです―――いっぱい揺れて、楽しかったですね」

「…夜は意外に…じゃじゃ馬だったんだな……これが楽しいとか―――うっ、…」

「す、スウィーツさん!?大丈夫ですか!?…あ、あの、飼い主さんは……飼い主、さんは…」

「………(咲の背中から、人を何人か殺してきたかのような覇気が…)」

「…………」

「に、にゃー…咲さん、申し訳ないけど、ちょっと待ってて欲しいのニャー」

「…………」

「……ご、ごめんなさい、にゃ」

「……………」

 

 

 

――――飼い主さんの背中にくっつきながらこんにちは、元兎の夜です。

 

あれから飼い主さんは無言で少しばかりナルガっていたのですが、今の(不機嫌さからくる)あまりのナルガっぷり(怒気というか何というか)にネコタクの猫も怯えています……。

 

 

「い、今、修理するから……待っててほし…くださいませ、ニャ…」

「………」

 

 

飼い主さんは待つのが嫌いな方だから、口にはしないけど態度に出るのです。空気が非常に重苦しいのです。

 

ですがその空気(思えばあの激しい揺れも)を物ともせず、チェダーさんは荷物と腕を枕に器用に寝ています…。

肩を貸そうかとチェダーさんに(顔色真っ青なのに)声をかけていたスウィーツさんは、やがて体調が治ると何処から引っ張り出したのか、何度も石を投げて(多分ペイントボールの)練習をしていました。

 

 

「あ、そうニャー!近くに綺麗な滝があるニャ、見に行ったら如何ですかニャ!?その間に僕が直しておくニャっ」

「………」

「あ、俺はいいや。チェダー起こすのもアレだし」

「………」

「………にゃ…」

 

 

尻尾の毛が逆立ってしまっている猫が、助けを求めるように私を見るので―――思わず、「見たいです…」と飼い主さんの装備を引っ張って強請りました。

 

引っ張る手がびくびくしていたのはきっと、飼い主さんにもバレてる事でしょう……一向に振り向かない飼い主さんの代わりに、スウィーツさんは何故か投げた石を急カーブさせながら了承してくれました。

 

 

「ああ、じゃあ言っといで。俺がチェダーと荷物、見とくから」

「ご、ごめんなさい…」

「いや、別に良いんだ―――咲、連れてってやれよ」

「………」

「ぴっ」

 

 

振り返った時の飼い主さんの顔(※ナルガ頭装備)が恐ろしくて、変な声が口から弾けるように飛び出てしまいました。

奇声を上げる私に降りるようにジェスチャーした(それもそれで怖かったです)飼い主さんは無言で太刀を引っ張り出すと、軽やかにネコタクから降ります。

 

 

「あ、私の―――」

「此処は危険なモンスターが出ないから大丈夫だ。何かあっても咲がすぐ終わらせるさ……"下位クエストだし"」

「………」

 

 

ぼそっと呟くスウィーツさんを睨みつけますが、飼い主さんは一言も発しません―――それってかなり機嫌が最悪ですよね、二人で滝を見に行くの、よくなかったんじゃ………。

 

 

「か、飼い主さん、あの、私、そこまで滝を見t」

「行くぞ」

「はい……」

 

 

やけに早足な飼い主さんの背中を見失わないように、私は滝に続く道を下りました……。

 

 

何度も背後にあるネコタクを振り返ると、ペコペコ頭を下げる猫さんと、相変わらず寝ているチェダーさん、間違って道祖神様に石を当ててしまったスウィーツさんが見えて―――思わず、走って引き返したくなりましたが、途中で飼い主さんに強く手を引かれました。

 

いつもは何かの弾みでスルっと解けてしまいそうな程軽く握りしめるのに、今回は切羽詰まったというか、耐えるようにきつく握りしめるし、雰囲気が恐ろしいしで泣いてしまいそうです……。

 

 

ちなみにその雰囲気の怖さは…「お呼びかね?」とひょっこり顔を出したモンスターがパッと何処かに消えていく程です。

 

 

(―――な、何か…お気に触ること、しましたか…?)

 

 

クエストの注文も一人で出来ない子だから苛々させたのでしょうか?ナルガ装備にビクつく情けない子だから、呆れてしまったとか……ちょ、飼い主さん早いです、早すぎま――――あっ

 

 

不意に、飼い主さんの身体が傾き(この時まで、私は飼い主さんが躓いたのだと思っていました)、慌てて引っ張ろうとした私ですが、当然飼い主さんの身体を支える事は出来ず……数歩、よろめいた所で、草の中。を越えて、

 

 

 

(落ち…てる…!?)

 

 

あまりの事に声が出ず、何も考えられなかった私がガクンと宙に留まれたのは、とっさに崖に生えていた木の枝を掴んだ飼い主さんのおかげです。

 

遠くでパシャンと飼い主さんの頭装備と太刀が落ちる音が耳を打ちましたが、私の全ては飼い主さんの顔に注がれていました―――…だって、

 

 

「…か、いぬし、さん。顔…真っ白です…」

「……ったんだよ」

「え?」

「何でもない…下手に動くな」

 

 

そうは言われても、風のせいでブンブンと私の身体は振り子時計のようになっているのですが…。

 

 

「飼い主さん…」

「……大丈夫だ、夜」

 

 

軋む木の音に私が青褪め、縋るように飼い主さんの名前を呼びますと、飼い主さんは努めて落ち着いた声で、空元気な優しい声で私の"名前"を呼びました。

 

飼い主さんは私がパニックに陥りそうになったり、ただただ私が泣きじゃくる時は決まってこの声で私の名前を呼ぶのです―――「黒」ではなく、「夜」と。

 

力むせいか白かった飼い主さんの頬に朱が浮かび、どうしようもなくて腕が震えても、飼い主さんは精一杯の虚勢を張ってくれていました。

 

 

「飼い主さん、私の事、離しても、構わないのです」

「馬鹿ッ何勝手に諦めてるんだ!」

「私なら大丈夫なのですよ。私が手を離せば、飼い主さんはきっと無事に上がれます」

「ふざけんな―――…ッ」

「ほら、手が…」

「うるさい!!」

 

 

木の尖った部分に手を刺してしまったのか、飼い主さんの腕に赤い雫が伝っているのが見えます。

 

それでも飼い主さんは腕を緩めてくれなくて。木が嫌な音を立てても、熱くて痛い手の温度は変わらずそこにありました。

 

 

「飼い主さん、」

「絶対、離す――――」

 

 

か。と続くのでしょう言葉は、下に落ちたせいで聞こえませんでした。

 

「黒っ!?」

 

ボキリと折れた木の残った部分に何とかしがみつけた飼い主さんですが、一瞬だけ腕の力が緩んでしまったのです。

 

私としてはこれでいいわけで―――先程まではガクブルしてましたが、腹をくくってしまえば心臓が痛いぐらいで済みます。

 

(ハンマー…持って来なくて良かった)

 

持ってても何の得にもなりませんし。双剣の方が役に立ったかも……あれ?

 

(飼い主さん!?)

 

 

何であの人――――落ちてるんですか!?

 

あのままなら無事に上がれたではないですか!私としてはそのまま上がって迎えに来て欲しかったのですが。

 

ぽけーっと飼い主さんを見れば、飼い主さんは風圧に負けじと手を伸ばそうとしていました。

これは手を伸ばすべきなのだろうかと思った頃には水面が迫って来――――た、なんて確認する時にはもう水の中。ちょっと痛い入り方をしてしまいましたが、まあしょうがないです。

 

 

私は兎の頃を思い出して水中でくるんと回り、近場の岩に足を着くと、水泡に埋もれるように沈む飼い主さんの所に跳ねました。

 

私は軽やかな装備というか生地だったのでこんな簡単に動けましたが、飼い主さんは重い装備な訳で―――ものすごくもがいています。

 

 

(飼い主さん…そんな風に動いたら攣っちゃいますよ…)

 

 

沈む身体に手を伸ばし、堅く瞑った目に指を這わせ―――飼い主さんはそっと、青い世界で目を開きました。

そして私の指に触れて、ぼこり、と何かを呟きます。

 

(何を―――…いえ、そんな事より上がらないと)

 

飼い主さんの頭を胸にしっかりと抱いて、兎の頃とは勝手が違う浮上の仕方でしたが、何とか無事に生還しました。

滝の激しい音に耳がやられそうなので、ゆっくりゆっくり離れます。

 

 

耳も身体も落ち着いた所で、飼い主さんは大丈夫かと見ればゆっくりと頭を左右に―――あ、水滴を払おうと頭を振、……ろうとして、固まりました。

 

 

(………ん?ああ、飼い主さんの頭、抱いたままだ)

 

 

そりゃあ水滴払えませんよね、と離れようとしたら、何故か飼い主さんが自分から離れて沈み始めました。

 

勿論、吃驚した私が救助しましたけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インナー姿でもごもご潜り続け、やっと飼い主さんの太刀を見つけました。

 

頭の装備はもう見つけたのですけど、中々太刀が見つからなくて困っていたのです。

 

 

(―――でも、飼い主さん、可愛らしいのです)

 

 

探しに行くと言った時の飼い主さんの顔、気まずそうな顔だったのが、ごめんと謝ってから―――恥ずかしそうに、小さな声で「泳げないんだ」、なんて。

 

飼い主さんに出来ない事なんて無いと思っていたからとても新鮮で、ちょっと安心しました。

 

 

「……ぷ、はぁ…」

 

水中から頭を出して、ブンブンと頭を振っていると飼い主さんが遠くから私を呼んでいます。

返事の代わりに飼い主さんの太刀を持ち上げて見せれば、いいから上がって来いと返されました。

 

見れば飼い主さんの近くに焚き火があって、その前には防具が一式と飼い主さんの頭と上半身の装備が置かれています。

 

私に目を向けてばかりで火に当たっていない飼い主さんの為にも、私は急いで泳ぎます―――と、水中に美味しそうな魚が。

 

 

(飼い主さん、喜ぶかな…?)

 

 

太刀を先へ流し、ひょいっと潜って胸に挟んだ剥ぎ取りナイフ(念の為に入れて泳いだのです)を抜きますと、スピードを上げて近づいてグサリと一突き。

 

飼い主さん、今はだいぶ顔色も良くなりましたが……念の為にも、精をつけて頂かないと。

 

(あ、この石、綺麗なのです)

 

ついでに拾った鉱石の欠片を胸に入れて、私は太刀の陰に向かって上昇しました。

 

やっと太刀に手が届いて、ザバッと顔を出せば岸がもう近くで、……飼い主さんが近くにいました。何故か水の中に胴から下を入れて此方に歩み寄ってきます。

 

 

「黒ッ急に潜るな、心配するだろうが!!」

「ご、ごめんなさい…」

「早く上がれ、風邪引くぞ―――太刀寄こせ」

「はい……」

 

やっぱりツンツンしたままの飼い主さん。私の手から太刀を受け取るや装備の近くに放り投げ、私に手を伸ばします。

それに私がそっと手を伸ばせば、今度はあの時と違って強いけど優しく、痛くないように引っ張ってくれて。私が上がりきると、急いで火に当たれと背中を押します。

 

押して―――私の片腕、剥ぎ取りナイフに刺されて死んでいる魚に気付きました。

 

 

「……何だ、これ」

「お腹の足しにして貰おうと…あと…」

「ちょ、馬鹿ッなんつーとこに手を――あん?」

「落ちてたので」

「マカライトか…小さいが上質だな」

「差し上げます」

「お前が採ったんだからお前のだ。…ほら、さっさと火に当たれ」

「……(´・ω・`)」

 

 

しょんぼりと火に近づく私の傍で、飼い主さんは魚からナイフを引き抜いて鱗を落とし始めました。

何だかその背中が寒そうだったので、失敗したかなと―――ちょっと申し訳ないので、温めて差し上げようと、

 

 

「おい、調理中だから近づくな」

「……はい(´・ω・`)」

 

 

近づこうとしたらそう止められました。…私、する事ないのです。

 

 

しょうがないので丁度いい太さの枝を探し、手でいい形に折って水に付けて洗い、軽く火に焙りました。枝を探しに行く途中で茸(ちゃんと食用ですよ!)とかを見つけたのでそれも採集して一緒に洗いましたよ。

 

真っ赤な実の野苺を綺麗に洗って、同じく綺麗に洗った葉っぱの上に盛ると、茸を木の枝に刺して焙ります。

 

 

「おま……何処から拾ってきた?」

「あそこですよ」

「……お前って採集得意だよな」

「兎の頃となんら変わりませんからねえ…」

 

 

加工した魚に枝を刺して焼き始めた飼い主さんに丁度いい塩梅の茸を差し出すと、すごくガン見されました。信用されてないのでしょうか…(´;ω; `)

 

 

「食えるのか?」

「兎の頃、たんと食べてましたよ……その度にナルガに虐められましたが」

「何で凍土から孤島に出て来てんだよ」

「食料が無くて(´;ω; `)」

「切実だな……あ、甘い」

 

私がもしゃもしゃ食べたことに釣られたのか、飼い主さんも恐る恐る口に入れてくれました。

 

 

「凍土からここまで来るとか、身体は平気なのか」

「色んな子に虐められました…」

「それは何か想像できるんだが、そうじゃなくて―――気温の変化とか、…知らない土地での食料の見分け方とかどうしたんだ」

「ペッコ師匠が教えてくれました…唯一私に優しく接してくれた子です」

「師匠ってお前……」

「……でも、ペッコ師匠はだいぶ昔に亡くなられました……ぐすっ…」

「……狩られたのか」

「いえ、死因は食中毒です」

「ぶ―――っ!!!」

「か、飼い主さぁん!?」

 

 

思いっきり咽た飼い主さんに慌てると、急に茸を火にくべました。茸さ―――ん!!(´;ω; `)

 

 

「殺す気か!?」

「ち、違いますっ、ペッコ師匠は木の実を食べたのです。茸は山菜のお爺さんも大丈夫って言ってましたから、安心して下さい!」

「本当だな……?」

 

 

私が何度もコクコクと頷くのも疑いの目で見るので、私は黙って食べかけの茸を頬張って飲み込みました。

 

 

「ね?」

「遅行性かもしれない…」

「じゃ、じゃあ、茸はいいですからお魚を食べて下さいな。野苺もあります…」

 

 

しょぼんとした声で進めると、飼い主さんはしばらく無言で―――ややあってから、野苺に手を伸ばしてくれました。

匂い、形、色と見てから口に入れた飼い主さんは、凍土から孤島に行くまでの「気温の変化」について尋ねてきます。

 

 

「そうですねぇ、ちょっと暑いなーとは思いましたよ?」

「それだけか」

「耐えられなかったらざぶーんと水に飛び込めばいいのです。さっきみたいに」

「……もしかしてお前、兎の頃から…?」

「あれぐらいの崖、全然怖くないのです!」

 

 

むしろ後ろからド突いてきたナルガさんの方が怖かったです…特に目が。

 

 

「泳げる兎って…つーかお前、ナルガとやり合ったことあるのか?」

「最初は遊んでくれるのかなって……『死ねデブ』って吐き捨てられました(´;ω; `)」

「デブ……」

「ケルビと仲良くしてたら目の前でその子を食べるし……ドスファンゴと同じ匂いがしました」

「苛めっ子の?」

「はい」

 

 

仲良くしたかったのに一方的に私を追い立てるのです…と鼻を啜ると、飼い主さんは魚を噛み千切りながら「亜種同士なのにか…」と呟かれました。

 

「う?」

「いや、亜種同士なら仲が良いかと思ったんだがな」

「……私だって、猫パンチされて尻尾で殴られて崖から落とされなければ仲良くしていました」

「よく生きてたな」

「紫色の子に助けられたのですよ―――え?」

 

すいっと目の前に突き付けられた、齧られた跡があるお魚(上手に焼けましたー!)……これはもしや、食えという事なのですか…。

 

「お魚嫌いです」

「身体に悪いぞ」

「茸食べてるから平気なのです」

「いや、そうじゃなくて。もう少し肉を付けんと―――」

 

 

不意に飼い主さんの姿と声が掠れて、途切れて、目をパチパチとしたら元に戻りました。

 

「黒?」

 

飼い主さんはほんの二秒三秒の私の変化に気付いてしまったらしく、魚を引っ込めて私の隣に腰掛けます。

 

「顔赤い…のは火に当たってるからだと思ったんだが…おい、気分は?」

「…分からないです?」

「気分が分からないってどういう事だよ―――吐き気とかは?」

 

頭痛いとか、どうなんだ?と顔を覗きこむ飼い主さんの顔は心配げで。じーっと見ていたらやっぱり視界が霞んできて。

 

飼い主さんの顔がしっかり見えない事が何だか恐ろしくて、私はするすると飼い主さんに近づきました。

 

 

 

―――少し痛んだ髪、怖く見えるけど、とても優しい目。整っている何もかも。

 

 

 

……少しカサついた、唇。

 

 

 

(割れそう…)

 

 

割れたら痛いし、何かで湿らせませんと。―――そう思った私は、飼い主さんの唇に、

 

 

 

 

 

 

 

 

夜ちゃんのファーストキスが―――!…の、巻。

 

 






補足:

咲ちゃんはカナヅチで車酔いしやすい子です。船は平気なんだけどね!

夜の前では「強い飼い主さん」でいたいので、具合の悪さを出さずに耐えていたら「怖い」とか色々と夜に思われてるという……。

夜が泳げる子で助かったけど、男のプライド的にちょっと微妙な咲ちゃんでした。



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8.兎ですから、寂しいのは駄目なのです

 

 

 

「よ――――」

 

る、という声が、目の前の唇から出る事もなく。

 

飼い主さんの唇の端に触れようと、…いや、触れたのかな―――そんなふにゃふにゃした感覚で、私はゆっくり目を閉じるのです。

 

飼い主さんはもう何も言わず、私の肩に乗せていた手を、そっと髪に指して。やがて頬に触れて…………

 

 

 

 

―――パァンッ

 

 

 

という破裂音に私がびくぅっと跳ねた瞬間、飼い主さんはハッとした顔で私を突き飛ばしました……痛いのです…(´・ω・`)

 

 

 

「―――おいおいおい、人に火竜の世話させて、テメーは可愛いおんにゃのことにゃんにゃんしようってか?いい御身分だよねぇ…咲ちゃんよお?」

 

 

銃口から出る煙をフッと吹き消すと、チェダーさんは座り込む私に手を伸ばしてくれました。

見上げると、そのお顔はとても……殺気立ってて。私は恐る恐るその手をとって立ち上がろうとしたら―――そのまま後ろにすとん、と。

 

 

「咲…薬でも盛ったの?……ド下種が」

「ち、違う!そいつが勝手に…何かよく分からん茸を食ってたせいだろ!」

「茸―?茸……え、これ食べさせたの?」

 

まだ火に焙っていない茸を拾い上げて上下左右に覗きこむと、チェダーさんはすぐにポーチを探り始めました。

 

 

「……これ、胡散臭い惚れ薬とかの闇商品に主に使われる茸だけど」

「闇商品…?」

「知らなくても不思議じゃあないんだけどさ…とりあえず、この茸を食べると夢見気分になるっていうか、思考が鈍るっていうか」

「黒ッこれバリバリ毒茸だろうが!?」

「うー?」

「よしよし、夜ちゃん良い子だからこの解毒薬飲んでねー?」

 

 

ちょっと苦いけど我慢するんだぞ―?と渡された青い薬と、チェダーさんの綺麗な微笑に見惚れて、そのまま黙ってぼんやりとお薬を持っていました。

 

綺麗な銀の髪が葉の合間から零れる光りに優しく照らされて、とても綺麗で。私では出来ない美しさが羨ましくて。

複雑で苦しい胸を抱きしめて疑問に思っていると、チェダーさんのいつもののんびりとした声がやっと聞けました。

 

 

「―――いやー良かった良かった。咲ちゃんが何も知らない無垢な子兎を手篭めにするのかと思って、お姉さん焦っちゃった☆」

「大変不名誉極まりないが……あの時気を殺いでくれたこと、感謝する」

「………え、それって」

「…………きっと、俺も一口食ったからだと思う。きっとそうだろうから何も言うな」

「ケダモノよー!兎さんをぱくっとぼりっと食い散らかそうとする狼よー!」

「うるせぇぇぇぇ!!」

 

 

……叫ぶ飼い主さんとからかうチェダーさんといういつもの光景に何だかほっこり―――のはずが、何故か今日は寂しくて。

 

あの時、髪を梳いた手は優しくて、頬に触れた手は熱かった。…確かにそうだったのに、今にも忘れてしまいそうな怖さが、お二人を見れば見るほど胸を突いてきます。

しかも私がオロオロと見ている前で、チェダーさんは飼い主さんの肩に腕を伸ばし、そっと顔を近づけて囁きました。

 

 

「――――しかもさー、女の子に乳首見せるってどういうことよー…この露出狂が。夜ちゃんが恥ずかしがって照れちゃったりする初な反応にニヤニヤしてたんでしょ?それとも『俺の体、美しいだろう?』って言いたかったの?キモイんだけど。キモイ越えて死んで欲しいんだけど」

「んなわけねーだろぉがッ上装備付けたままだと擦れて痛かったから…」

「え、乳首が?」

「乳首から離れろ痴女が!!」

「私はスウィーツ限定の痴女ですー!」

「痴女って事は認めんのかよ!?」

 

 

………。

………飼い主さん、私が抱きつくと怒るのに。

…それにいつもいつも思ってたのですけど。飼い主さんはチェダーさんと一緒にいると、とても賑やかなのです。…普段は無口なのに。――――なんでかな。どうしてかな…?

 

飼い主さん、飼い主さん…兎の事もかまって下さいな。見て下さいな。……ああもう、寂しい。

 

 

(ああそうだ、寂しいのなら―――)

 

 

そっと、優しく、一瞬で。

 

 

 

「く…ろ……!?」

 

――――飼い主さんの、傷だらけの身体を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、ななななななななな……ッ!?」

「可愛いー!抱きついたまま寝ちゃったー!」

「いやいやいや、引っ剥がしてくれ!今すぐに!!」

「えー…勿体な……ああ、」

「は?」

「今の夜ちゃん下着姿だもんね。柔らかいのとか眼福とかもろもろバーンだよね?」

「ごめん何言ってるのか分からない」

「下、ちゃんと見てご覧よ。谷間―――」

「死ねぇぇぇぇぇ!!」

「はいはい、冗談冗談メンゴって。…でもさ、」

「あん?」

「これは冗談抜きな話だけど、咲ちゃんって」

「…何」

「……んー、どうしようかなぁ…」

「おい、言えよ。なんか気になるだろ」

「えー、だってさ、後で恨まれたくないし」

「お前は何を言おうとしたんだよ…」

「咲ちゃんが一年前からずっと、見ないふりをしてきたこと」

「はあ?」

「だからさー…うーん、人間不信の咲ちゃんが絆されてることについて、っていうか」

「………」

 

 

「夜ちゃんは本当に「良い子」だもんねぇ。保護者は面倒臭いとか言っておきながら、何だかんだ言って箱入り娘に育ててるのも分かるよ。大事にしたらしただけ懐いてくれる夜ちゃんはさぞ可愛らしい事でしょうなあ?」

「……」

「や、そんな顔しないでよ。私は別にちょっと歪んでる君の教育方針というか縛り方に口を出す気はないさ。内心どうあれ、君は夜ちゃんの自立を促そうとはしてるし」

「………」

「おねーさんが言いたいことはただ一つだけよ」

「…………何だ」

 

 

「――――頼りになる親御さんを夜ちゃんの前では気取っておきながら、実は裏で紫の上計画を着々とこなすなんて、君は本当にHENTAI☆だな!」

 

 

「………」

「むっつりー!ロリコーン!」

「………」

「すけべー!…あれ、なんで首傾げてんの……?」

「………」

「………?」

「……俺…紫の上計画…してるか?」

「えっ」

「こっちが『えっ』って言いたいんだが…あと俺、そんなに甘やかしてたか…?」

「ちょ、嘘ww深読みしたったwww早まったったwww」

「はあ?」

「だってさ、咲ちゃんって、」

 

 

 

――――君の耳元にそっと、爆弾を落としてやれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やーい草っぱ兎!お前が食ってた草wwズタボロにしといたからwwww』

『ちょ、こっち来んなし。人間に見つかって狩られるだろ、どっか行け』

『いえーいwww水ww飲んでるwwお前にwwwドーンwwww』

『汚ねぇんだよ、お前の毛の色。おかしいだろ、凍土で真っ黒な毛並みって。迷惑だからお前は洞窟の奥に一生引っ込んでろ。毒吐き野郎と仲良くしてろよな。ていうか死ね』

『人間にww襲われてるwwwwお前にwwドーンwww』

『てめ、此処を何処だと思ってんだ。此処は雪ン子が来る所じゃねーんだよ、畜生が』

『こんな所で寝てるww危機感の無いお前にwwドーンwww』

『川で泳いでシェイプアップしろよピザデブ』

『お前を苛めてた兎wwwハンターに突っ込んでってww撃たれて死んでたよwwwざまぁwww自業自得www』

『何で雪ン子のくせに泳ぐの上手いんだよ。マジで死ね。鍋にされて死ね』

『ハンターと遊ぶとかwwキチガイすぎwwwあいつらwwすっごく危険だからwwお前の事狩る気マンマンだからwww……行かない方がいいって…』

 

 

 

――

――――

――――――

 

 

 

「…んん……もう、何も…怖くない……」

「……黒、死亡旗を夢の中で立てるな。さっさと起きろ」

「……葉っぱ踏まないで……」

「…………おい」

「ん……はんたーさんは…いいひと……こわいけど」

「………夜」

 

 

「ちょっとー!スープ冷めちゃうから夜ちゃんにときめいてないでさっさと起こす!こそっと名前を呼ぶぐらいならはっきり呼ぶ!十秒以内に起こさないと咲ちゃんのだけ土入れるよ!」

「……地獄耳が」

「あん?……やべ、土が」

「おい!?」

「み゛っ」

 

 

―――耳元で急に叫ばれた元兎の夜です。こん……こんばんは?でしょうか…。

 

真っ暗な……キャンプのベッドの上で、私は一人丸まっていたようです。

 

「あ、夜ちゃん起きたー?」

「は、はい…あの、此処…何で私、寝て…?」

「ありゃりゃ、覚えてない感じ?…咲ちゃんよかったねー!」

「……飼い主さん?」

「………」

 

 

からかい声のチェダーさんの言葉の意味が分からなくて、私は傍で膝をついていた飼い主さんを見上げます。

だけど飼い主さんは答えないどころか此方を見てくれなくて。

私が不安になってもう一度読んだら、短く「飯だから起きろ」とだけ言って、キャンプから出ていきました。

 

 

「飼い主さん……?」

「あ―――…夜ちゃーん、ひとまずご飯にしよー?」

「でも………」

「…いつまでめそめそしてんだスウィーツ野郎。さっさと食うぞ」

「………食べたくない…」

「ちょっとー、ご飯時くらいは明るくしてよ―――…『二人』とも」

「………チッ」

 

 

(……いつもなら、私がキャンプから出るのを、待っててくれるのに)

 

向こうと違って静かなキャンプのベッドの上で、私は不思議に思って首を傾げました。

再度の呼びかけにそろそろと飼い主さんの隣に近づくと、飼い主さんは何も言わずにスープを俯いているスウィーツさんに手渡してて、やっぱり私を見てくれないのです。

 

 

「はい、夜ちゃんの」

「…ありがとうございます」

「皆いったねー?…じゃ、いただきまーす」

「……」

「「いただきます」」

「あらまあ声を揃えちゃって」

「いつもそうなので…ね、飼い主さん?」

「………ああ」

 

窺うように飼い主さんに振れば、飼い主さんはスープに目を落として気の乗らない声を―――……本当に、私、何かしたのでしょうか?

 

 

「……あの、どうされたんですか?」

「………」

「さっきから……」

「………」

「…………え…と、スウィーツさん、俯いてて…」

 

 

思い切って直球に聞こうとして、飼い主さんから発される重圧に負けて、二番目に気になった事に話を切り替えます。

切り替えたら少しは空気が軽くなったのですけど、やっぱり飼い主さんはこちらを見てくれなくて。

 

苦しい沈黙を破ったのは―――チェダーさんが雑に火に木を突っ込み、火花が飼い主さんへと散ったせいであげた、飼い主さんの舌打ちなのか声にならない悲鳴なのか分からない声でした。

 

 

「スウィーツはねー、自分の力不足に嘆いてるの」

「力不足…?」

「そ。火竜を倒した隙にね、ドスジャギィに猫が攫われちゃって。様子見したら猫は見当たらなくてね、明け方になったら討伐しに行こうって事で話が纏まったの」

「はあ…」

「……俺が相手をしている間に、お前はチェダーと東の方を探しておけ。猫を見つけたら笛を吹け」

「あ……」

 

 

まだピリピリしたのが残っているけれど、やっと私の方を見て話しかけてくれた飼い主さんにぶわっと涙が零れそうになり―――きっと変な顔をしているだろう私の表情に、飼い主さんが何故か唇を噛みました。

 

飼い主さんがポンポンと私の頭を叩くのに思わずふにゃりと安堵して、笑ってしまって。

急に温もりが戻ってきたような、味覚が戻ってきたような気がして、私は飼い主さんに「美味しいですね、」と笑いかけました。

 

 

「…そうか」

「このスープの火加減、私がしたんだよー!美味しい?スウィーツも美味しいー?」

「おいひい……」

「ふんっ、火の加減見たぐらいで威張るな」

「えー、大変だったんだよ、加減見るの。ねー?」

「はい。難しいです」

「お前と黒は違うだろうが。何年一人で暮らしてんだよ」

「ナ・イ・シ・ョ☆」

「うぜぇ」

「ひっどーい…あ、スウィーツ、口についてるよ」

「ん、ありがと」

「……黒、残さず食えよ」

「は、はいっ」

 

 

その言葉に急いで口に入れたら―――なんと、小さく切られたお肉が……!思わず戻しそうになって、でも思い留まろうとして。…結局咽てしまった私に、チェダーさんが慌ててお茶を入れるのが見えました。

 

スウィーツさんがのろのろと顔を上げた頃には、飼い主さんはゆっくりと背中を擦ってくれました……飼い主さんの手、とても温かいのです…。

 

少しずつ治まった所で、チェダーさんが良い香りのするお茶を渡してくれて、小声でお礼を言って少しずつお茶を飲みました。

 

 

「まだ解毒薬が上手く効いてないのかもな」

「んー…そうかも―――あ、スウィーツ君ったら盛ってくれるの?ありがとう」

「いや……二人は?」

「じゃあよろしく」

「ん」

「黒、もう半分は食べれるか?」

 

 

私がふるふると頭を横に振ると、飼い主さんは珍しくそうかと言って自分の茶碗を受け取ります。…いつもなら「返事なんてどうでもいいんだけどな」とか言って盛ってしまうのに。

 

でも折角飼い主さんの機嫌がちょっとだけ治ったというか、良くなったのに下手にせっついてさっきみたいになるのはごめんです。…黙っておくのが吉、でしょうか……。

 

 

(………あ、)

 

 

ふと、飼い主さんの指先が喉元をゆっくり擦っているのが見えました―――飼い主さんがこれをする時は、大抵は喉が渇いている時なのです!

 

「飼い主さんっ」

 

私は名誉挽回と飼い主さんの二の腕に触れて、「お茶は如何ですか?」と湯呑を見せて。

 

 

――――一秒、いえそれよりも短いかもしれない位に飼い主さんが固まったかと思うと、ドンと後ろに、突き飛ばされてしまいました。

 

 

「か……い、ぬし…さん……?」

 

お茶碗も湯呑も辺りに散らばってしまったけど、そんなのに目を向ける事もなく私は飼い主さんを見上げました。

 

私は飼い主さんに突き飛ばされた事なんて……クエスト中に避けさせようとする為だとか、私の不注意や飼い主さんの事故のせいでというぐらいしか無くて。

 

こんな風に、平時に、意図して突き飛ばされた事なんて無くて。

 

 

(き、らわれた………!嫌われた嫌われたっ!!どうしよう―――!?)

 

 

いつも、二の腕に触れてた。ううん、腕にぺったりくっついていた。それでも飼い主さんは怒りもしなかったし止めもしなかった。偶に頭だって撫でてくれた。だから不快な行為じゃないと思っていた―――…じゃあ何が、気に食わなかったのでしょう……?

 

(の、飲みかけのお茶ですか?でも飼い主さんは特に…ここまで怒った事なんて、なかったのです……そう、こんな……)

 

 

多分、呆然と大きく目を開いた私の両の目から、ぼたりと涙が零れて。

 

 

飼い主さんは視界が揺らいでよく見えなかったけれど、突き飛ばしたままの形で動かなくて。どんどん短い間隔でしゃくりあげ、最後には泣き始めた私に、掠れた声で「夜」と呼んで。

 

 

チェダーさんもスウィーツさんも固まって私達二人を見ていて、飼い主さんがゆっくり近づいた瞬間、私は弾かれたかのように―――それこそ脱兎の勢いでその場から逃げたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

ポーカーフェイスが上手くいかなくて苛々してて突然の接触に記憶がフラッシュバックして混乱した飼い主さん、兎さんを泣かす、の巻。

 

 






オマケ:スウィーツ君が病んでた理由↓

・咲ちゃんと夜がイチャイチャしてた頃、何故か討伐対象の火竜が登場。この時、スウィーツ君は道祖神様に石を投げたからだと泣きそうになりました。

・当然起きたチェダーさんと一緒に上位ハンター二名で下位モンスターを狩ります。この時猫は岩の陰で震えていました。

・チェダーさんに良い所を見せたいスウィーツ君。頑張って斬り込んで斬り込んで斬り込みます。

・尻尾も切り落とし、肩とか頭とか派手に斬りかかっていたら、チェダーさんが撃った弾が火竜の(すでに二三発撃たれた)眉間にごっつん。弾間違えて爆発。
頭が吹っ飛ぶシーンに、モロに見てしまった一人と一匹は固まりました。

・とりあえず最低な勝ち方をした二人ですが、スウィーツ君はこのトラウマになりそうな光景に道祖神様に石をn(ry

・そしたら今度は何故かドスジャギィが仲間と一緒にやって来ました。
今度こそ良い所を見せようとしたら火竜の脳味噌踏んづけて派手に転ぶという……ジャギィに連れ去られる猫を見てるだけの自分、散らばる火竜の脳味噌、颯爽と格好良く自分を助けるチェダー、道祖神様にいs(ry)の諸々の理由で自信喪失意気消沈、とにかくズブズブに沈んでしまったスウィーツ君。

信心深いスウィーツ君はメンタルが非常に弱いのです。


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9.新しい環境には中々慣れません

 

 

 

「う、うぅ、う――――きゃんっ」

 

 

ぐしゃぐしゃの顔で適当に走っていたら躓いて派手に転んでしまいました…。

そしたら膝が痛くて、手が痛くて、頭が痛くて、心臓が痛くて―――とにかく全身が痛いことにやっと気付いたのです。

 

今は月が隠れていて、星明りでは傷の程度も分からず…私は近くの木に身体を寄せて、夜の暗闇に怯えて震えるぐらいしか出来ませんでした。

 

 

(…飼い主さんの為にって、あんなに、なのに、私は空回りしてばっかり…っ…)

 

 

精をつけてもらおうと魚を獲ったら、それを捌く飼い主さんはとても寒そうで。喜んでくれるかなと思って渡した鉱石は、受け取ってもらえなくて。……喉が渇いたのだろうと思ってお茶を渡したら、気分を悪くさせてしまった。

 

 

――――……こんなつもりじゃ、無かったのに。

 

(『ありがとう』って、…ううん。ただ撫でてくれるだけでも良かった。感謝されたかった…必要とされたかった…)

 

 

飼い主さんが慌てて迎えに来てもらってからずっと、…ずっと。

あの雨の中、また寂しい生活に戻るんじゃないかって怯えた時から―――何でもいい、どんな事でもいいから、飼い主さんの役に立ちたかったの。

 

こんな私の面倒を見てくれる飼い主さんに、報いたかっただけなの………だから、嫌わないで。突き離さないで。

もう隣がいいなんて思わないから、煩わしいのだったら隅でひっそりとしているから。せめて飼い主さんの世界の端で、生きさせて欲しい。

 

 

(……ごめんなさい、したら、許してくれますかね……?)

 

 

多分、でも、会いに行き辛い。ひとまず飼い主さんの所に行かないで、チェダーさんの所に……いえ、それは迷惑ですよね…。

 

チェダーさんとスウィーツさんが私に良くしてくれるのは、ただ飼い主さんが頼んだからですもの。逃げ出した先で庇ってくれる間柄では無いでしょう。

 

 

(会いたいのに会いたくない、なんて…面倒臭い)

 

兎の頃は、そんな複雑な感情、知らなかった。

会いたいから会いに行く。ただそれだけの思考回路。――――なのに。飼い主さんの言う通り、「人間」は面倒臭い。

 

そんなぐちゃぐちゃな中、はっきりしているのは「帰りたい」という感情だけです。

 

でもやっぱり「何処に」帰りたいのか分からない…「凍土」に?それとも飼い主さんのお家?それとも……。

 

 

「――――ああもうッ!!」

 

 

ぐしゃぐしゃもやもやとした思いを吐きだそうと、私は無意識に身体を寄せている木を殴りつけ―――…そう、初めて物に当たってしまいました。

飼い主さんは物を大事にする人だから、当たってはいけないと教わっていて……教わって、いたのに。……破ってしまった。

 

殴られた個所は陥没していて、私の手は余計に血が出てて。とても痛かったけど、これは飼い主さんの言いつけを破った罰だと思うのです。

 

 

(…水で洗わないと、危ないって飼い主さんが……でも、動きたくない…)

 

 

またも面倒な思考に入りそうになって、私は―――それ以上考えるのをやめて、直感で動きました。

 

 

――――とにもかくにも、今は寝てしまおうって。

 

 

(もう少し寝心地が良い所を、探しましょう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢さん、お嬢さん」

「………ん、う…?」

「お嬢さん、何故こんな所で眠っているんだい?」

「………」

 

 

――――気持ち悪い。

 

目の前のお爺さんの質問に応えたいのに、気持ち悪くて口が開かないです。

 

「しゃべれないのかな?」

「……」

 

その質問にふるふると頭を横に振って、何度か躊躇ってから、声を出そうと……出そうと…?

 

「……ぅ……え?」

「お嬢さん?」

「…あ…っ、…ぃ」

 

 

―――――声が、出ない。

 

 

出そうとすると息に混じった音になり、出しきった後は喉が痛くて、私はその現実にぼろぼろと涙が零れてしまって。

 

お爺さんが困っている雰囲気が分かるのに、謝る事も出来ないのです。

 

 

「……お嬢さん、何日前に此処に来られたのかな?ほれ、この棒で書いてくれぬか?」

「……」

「…そうか…――――あのな、お嬢さん」

 

 

「もう、一週間も経っているんだよ」と、静かな声が教えてくれたのです。

 

 

もっと言えば、私が寝床だと思っていた所はドボ…ど、どぼるべるく?とかいうモンスターの尻尾だったようで、のんびり歩くモンスターとその尻尾で死んだように眠っていた私を見つけたお爺さんは、尻尾から落ちてしまった私を見て、慌てて飛んで来てくれたのだとか。

 

それだけでも絶句モノなのに、お爺さんは思わず気を失ってしまう程の事実を、教えてくれたのです。

 

 

「それで、お嬢ちゃんが今いる此処は、『密林』なんだ」

 

 

みつりん、って、どこですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪が所々残る、少し懐かしさを感じる村、ポッケ村の端の端で、私はお爺さんの手伝いをしながら過ごすことになりました。

 

防具から温かくてもふもふして可愛い服に変えて、お薬を作ったりお店の番をする事が私のお仕事です。

あれからもう、一月は経ったのでしょうか……。

 

 

(もう嫌だ……飼い主さんの所に帰りたい…)

 

 

―――あそこには雪なんて無かった。こんなに寒くも無かった。知らない人と一対一で接したことすら無かった。少しだけ閉塞感のあるこんな村なんて大っ嫌い。もう嫌、帰りたい…。

 

 

(せっかく住まわせてもらってるのに…悪い子になっちゃいましたね、私……)

 

 

でも、でもしょうがないじゃないですか。お爺さんは優しいけれど、お婆さんがとても怖くて。お嬢さんには事あるごとに「大っ嫌い」と(初めて面と向かって言われました)言われ続け。

 

店の売り上げが良くなったから此処に置かせてもらえるけれど、何の足しにもならなかったら何処かに捨てられる環境の中で、私は何度も、子供のように笑っていられた昔の日々を想うのです。

 

 

飼い主さんの言う「馬鹿」とお嬢さんの言う「馬鹿」の寒暖差とか、私に色々持って来てくれる人達の声の優しさと、ほんの時々にしか聞けない、飼い主さんの優しい声の違いとか。…色んなものの違いを感じる度に、飼い主さんに抱きつきたくてたまらない衝動に駆られるのです。

 

だけど恋しいと思う姿を見せると誰かに咎められてしまうから――――私はいつしか本当に、声が出なくなってしまって。

 

 

住み慣れた凍土よりも寒い世界で、あの時の行動を恨むくらいしか出来ない。

 

 

 

(……あ、お客さんだ)

 

 

「―――、―――――?」

 

ただでさえ嫌いなこの世界で、私がどうしても好きになろうと思えない理由の一つにあがるのですが―――私はこの村の言葉が分からないのです。

 

名前程度しか分からないし、言葉を教わろうにも「生意気」とか「そんな暇があったら働け」とお婆さんとお嬢さんに言われ、お爺さんは仕入れの仕事が忙しくて教えてくれません…。

 

仕事に差し障りがあるので、商品の名前は教えてもらったのですけど……まあ基本的にお嬢さんがお客さんの相手を買って出てくれるので、私は黙ってお店の(何故か奥ではなくて人から見える所で)商品に囲まれながら、黙々と薬草を磨り潰し続けます。

 

ですがお客さんはまず最初に私に声をかけます。そして私は言われた通り、意味が分からないながらに微笑むのです。

この前、私に優しくしてくれる(扱ってる商品故か言葉が大体分かる)離れの店の女店主さんが「こんな何も分かっていない娘に厭らしい商売をさせて!」とお婆さんの胸倉を掴んでは怒鳴っていたので、あまりよろしくない事なのだとは思います。

 

 

(…厭らしいって最近よくお嬢さんに言われますけど、どういう意味なのか分からないのです…)

 

 

こてん、と首を傾げていたら、お客さんはお嬢さんとの会話を急に打ち切って、ニコニコとお薬を注文してきました。

頷いてお薬を取りに行こうとしたらお嬢さんに小突かれて転びそうになったけれど、何事も無かったかのような笑顔で、お薬を渡します。

 

素早く、相手の手が触れない内に薬を渡すと、隣でお嬢さんがお金を受け取りました。

そしてまた見えないように小突かれたので、私はそそくさと持ち場に戻るのです。

 

「――――、――!」

 

こっちおいでと手を招かれますが、私は変わらず微笑んでぺこりと頭を下げました。

相手はそれでも何かを言ってきましたが、お嬢さんに迫られて渋々何処かに去っていきます。

 

 

(……飼い主さんは、こんな私を見たら、どう思われるのでしょう…)

 

別に嬉しくも無いのに笑って、小突かれても平気そうな顔で笑って、何も言わず、心の中で泣きごとを言い続けて。

 

軽蔑されるでしょうか。可哀想だと思ってくれるのでしょうか。自業自得と、見向きもされないのでしょうか……。

 

 

(私の中には飼い主さんしかいないのに。飼い主さんの中に、私は……)

 

 

思わず俯いていたら、伸びた髪が煩わしくて。暗い気持ちのまま、髪を一房、ぼんやりと弄ってみました。

 

 

元々狩りに行く前から伸び始めていたのですが、この一月で肩を少し越す程度に伸びた黒髪を、私は切る事が出来ずにいました。

 

だっていつも、この髪を切ってくれていたのは飼い主さんなのです。恐る恐る切ってくれていたあの手じゃなきゃ、嫌なのです。

 

 

(もう…あの髪飾り、付けることも出来ないのかな…)

 

 

そう思うと苦しくて苦しくて、お嬢さんにまた小突かれるまで、私は静かに泣いたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな想いをするなら、あの時あの場で泣いてしまえば良かったんだ。…と後悔中の兎ちゃん

 

 

 

 

 



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10.弱りやすいので、ご注意ください

 

 

 

「……黒。男の膝枕なんて嬉しくないだろ」

「いいえー?」

「まったく……まだ家計簿終わらないから、先寝てていいんだぞ」

「眠くないですもん」

「…さっき寝てただろ」

「だって飼い主さんの膝枕、落ち着くのです…」

「落ち着くな」

「うー…」

「はぁ……」

「ふふっ飼い主さん、くすぐったいですー」

「………」

「んーん」

「………家計簿が終わらない…」

「え?」

「いや」

「……?」

「……ホットミルク飲むか?」

「蜂蜜!蜂蜜!」

「腐るほどあるが、今は駄目だ」

「………(´・ω・`)」

「…肉汁入れるぞ」

「……私、飲みません…」

「ん」

 

 

「………やっぱり俺の膝を枕にするのか」

「えへへー」

「まったく……」

「……」

「………」

「………私も飲みます」

「ああ、じゃあ退け。今淹れ、」

「飼い主さんの、いただき――――熱い…(´・ω・`)」

「……飲みたかったら冷ましてろ。ブランケットずれてるぞ」

「はふっふー…」

「………」

「はふはふ」

「………」

「はふふふふ」

「…お前はどんだけ猫舌なんだ。温くしといたんだぞ」

「え?」

「…あっ」

「温くしといたって…飼い主さん…」

「……っ…」

「今日は猫舌なんですか?」

「………………ああ、そうだな」

「飼い主さん、そんな乱暴に書くと破れてしまいますよー…はふー」

「……」

 

 

「そろそろいいですかね…」

「……美味いか?」

「…ん……あれ、甘い?」

「………」

「これ、蜂蜜入ってるのですか?…飼い主さんだけずるいです!」

「―――~~はぁぁぁぁぁ…」

「?」

「…もういい。……あんまり飲み過ぎんなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――さっさとしなさいよ!この棒っきれが!!」

 

 

ドン、と。……暖炉の灰を掻き出していたら、背中を強く蹴られました。

 

その衝撃で手が少し火傷してしまいましたが、私は何も言わずに頭を下げました。……だって、最近のお嬢さんはとても暴力的なのです…。

 

唯一の味方であるお爺さんはやっぱりお仕事でいなくて、お婆さんはのんびりとお茶を飲むだけで、此方を見もしませんでした。

 

 

(最近…打撲の跡が消えないのですが……)

 

 

……まあ、ゆったりした服からは見えないしいいかな、とは思うのですけどね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――今日は快晴。…だけど、とても冷たい日。

 

何かしないと手が冷えて痛いのですが、今日はお薬を作らずに黙ってお店の番をしなくてはいけません。

 

 

…だけど、ひび割れが出来た手に息を吐きかけながら、それでも心は温かかったのです。

 

忙しいお爺さんが、他所者の私の為にお金を払ってギルドを含め各所に私の情報を出してくれると、ユクモ村に行けないお爺さんの代わりに、強いハンターさんにクエストとして頼むとも言ってくれたのです。

 

最初に連れて来られた頃にもギルドに連絡を入れてくれたらしいのですが、モンスターの被害が多くて後回しにされていたようで、最近やっとその被害が落ち着いたらしいので、本格的に頼む、との事です。

 

 

 

(…もうどんな風に思われてもいい。飼い主さんにもう一度会いたいのです……)

 

 

 

―――この村に居たくないとかよりも強く、飼い主さんにただ会いたい。

 

一緒に住みたくないというのなら住みません。視界に入れたくないというのなら目の前から消えましょう。……だけど、たった一度でいいから飼い主さんに会って、お礼を言いたい。

 

 

この村に来て、やっと分かったのです。

私は本当に恵まれた生活を送っていて、飼い主さんに守られていたのだと。飼い主さんはぶっきらぼうで時々怖いけど、本当に本当に優しくて、私を大事にしてくれてたのだと。

 

(何とかして、飼い主さんに『ありがとう』って、お礼が言いたいのです……)

 

 

……そしてもし許してくれるなら、不自由な私の気持ちを聞いて欲しい。

 

―――食事も、会話も、何もかも。飼い主さんがいないと味気なくて、寂しくて、悲しい。

いつもいつも飼い主さんの事ばかり想って、飼い主さんが名前を呼んでくれるだけで幸せで。飼い主さんに触れられないだけで、死んでしまいそうなのだと。

 

飼い主さんを想うと幸せで、辛くて苦しい。この感情を何て言えばいいのか分からないけれど。たった一つだけ、分かっているのです。

 

(飼い主さんの隣に、居させてください)

 

束の間でも、良いですから。

 

 

 

 

 

 

「――――そこの美少女さぁぁん!こっち向いてー!」

「?」

 

 

思わずポロリと涙が零れそうになって、手を祈りの形に組もうとした矢先の事でした。

 

大変元気な男性が、がっしゃがっしゃと鎧を軋ませながら私の所へと手を大きく振りながら駆けてくるのです。

 

 

(あれ、この前来てくれた人、ハンターさんだったんだ…)

 

 

お店のお客様が見える所で黙々と薬草を磨り潰していた私に、お薬を買いに来てくれた人。何度か来てはこっちにおいでと手を招いていて。

 

(……?何で言葉が分かるのでしょう…?)

 

今まで此処の地方の言葉で話しておられたのに…。

 

「いやー良かった!今日はあのお嬢さんいないんだね!いっつも此処に来ると邪魔してくるからさぁ…」

 

内心怯えている私に気付かず、男の人は語尾を潜めて「まったく迷惑さ」と言い捨てました。

その声がとても冷えていたので、私はびくりと震えて―――それに気付いた男の人は二カっと笑って自己紹介してくれました。

 

 

「俺、ユクモ村生まれのハンターで、豊受(トヨウケ)って言うんだ。食い物の神様からとってるんだぞー?」

「……」

「手頃で高額のクエストがこの村に結構あったからさ、狩って狩って狩りまくってたのよ。そしたら村の知り合いがさ―、めっさ美人な女の子が居るって言うから…可愛過ぎて通っちゃった☆婚約者には内緒にしてね!」

 

 

俺は婚約者一筋、女の子は大好きだけど手は出さない紳士だからね!安心してくれたまえ、…と高らかに告げるのを、私はただ黙って聞いていました。いえ、黙る事しか出来なかったのです。

 

 

(―――ユクモ村出身……!)

 

じゃあ、もしかしたら。

 

 

「―――最初はね、ただ単に口のきけない子としか知らなかったから、ここいらの人間だと思ってずっとこっちの言葉で話しかけてたのよー」

「……」

「んでんで、この前、『咲』っていうハンターから君みたいな子を知らないかって手紙が来てね?ギルドにも届けを出してるみたいなんだけど、埒が明かなかったから知り合い全員に送ったみたいなのよ」

「……!」

「読んだらばっちし君じゃん?でも人違いかなーと思ってしつこく君に言い寄ってみたんだけど、お嬢さんが異様に邪魔してきたもんだからさ、ビンゴかなぁと…こうして隙を狙って会いに来たわけ」

「……っ…」

「え、ちょ、泣かないでっ。俺、女の子に泣かれると……」

「……」

「ご、ごめんね――――えーっと、『夜』ちゃん?」

 

 

久し振りに聞いた私の名前に、涙を拭きながら大きく一回、頷きます。

すると豊受さんは「っしゃあー!」と力強く手を握り締めると、ぽんぽんと軽く肩を叩きました。

 

 

「…咲、ずっと君を探してたんだよ。見つけられないあまりにかなり荒れたらしくてさ、狩り場で無双し過ぎたせいでしばらく謹慎されたぐらい毎日君のことを心配してたんだ。いやー、見つかって良かった良かった!」

「…ぅ…っ……」

 

 

(心配してた―――じゃ、じゃあ、私の事、嫌ってない……?)

 

 

―――豊受さんは私を泣かせるのが得意なのでしょうか?

 

「探してた」「見つかって良かった」の言葉がナイフのようずっと耐えてきた心に突き刺さって、涙が勢いよく溢れだして止まらなくてしょうがないのです……。

 

 

(飼い主、さん……!)

 

 

私、私の事、忘れないでいてくれたのですね。心配していてくれたのですね―――!

 

 

 

「……さあ、もう泣き止んで。今すぐこの店を出るんだ。ギルドに保護の依頼をしないと。あと咲にも連絡しないとね」

「……?」

「………この家の人間は、君を逃がさない気だ」

 

 

念の為にも法で守られた場所に居た方が良い、と急に真剣な目で言う豊受さんに、私は訳が分からなくて。

 

きょとんとした私に苦笑すると、豊受さんは低い声で、先程の冷たささえ孕んだ声で、教えてくれました。

 

 

「君は金になるからね」

「!」

「小突かれようが…手がこんなになっても、君には何処にも行く術がない。大人しくて『良い子』な君は、住まわせてもらっているという負い目からも頑張って働くだろう」

「……」

「もっと言えば―――君は言うなれば招き猫さ。何人か俺みたいな馬鹿な男を日がな通わせるぐらいは簡単だろうし」

「……」

「だからこの店の人間……あの人の良さそうな爺さんはね、君が行方不明の人間だなんてギルドにも村の人間にも伝えていない。近くの村の口のきけない親戚を預かったんだ、って周囲に言ってるんだ。それにさっき確認したら、君を探す依頼を裏でこっそり、君が稼いだ金で消そうとしてたよ」

「…ぇ…」

 

 

――――待って、ください。

 

私は自分がどういう風に扱われていたのかは分かっていましたが、あの、私の味方だと思っていたお爺さんが?

 

お嬢さんやお婆さんから庇ってくれて、お爺さんがいる時は虐められなかったのに…?

 

 

「…今までずっと、君が陰で虐められてるのを見て連れ出してやりたかったんだけど―――君の証言と証拠がないと、こっちも動けないからさ。でも君が『行方不明のハンター』なら、それを知った俺には君を保護する義務があるから、少しの無理も大丈夫」

 

 

だから、ここから出てくれ。

……真剣な目で、飼い主さんと似た大きな手が差し出されて―――私は、豊受さんのその姿に、飼い主さんを重ねました。

 

お爺さんがそんな事をする筈が無い、と豊受さんを危険視する声に、「飼い主さんの事を知っていた」「ギルドに行くのだから、それで真実が分かる筈」と説き伏せて、そっとその手をとりました。

 

……結局私は、飼い主さんを連想させるモノに弱く、信じてしまうのです。

 

 

「了承、って事でいいのかな?」

「……」

「じゃあ、…あ、何か持って行きたい物とかある?」

「……」

「そっか。じゃあ行こう」

 

 

二カっと笑う豊受さんに、私も釣られて弱弱しく微笑んで。

冷たい風を防ごうと服の合わせを掴んだ時でした――――ちょうどガラリと奥の扉が開いて、荷物を持ったお婆さんが出てきたのは。

 

「……何を、しとん……!?」

「……っ…!」

 

ギッと、視線だけで射殺せそうな程に強く睨みつけるお婆さんに、私はビクリと身が竦んでしまいました。

 

パニックが起きそうになって視界がふらふらとして、とにかくどうしようも何の反応も返せない私を庇うように、豊受さんはお婆さんの前に立ってくれました。

 

 

「後で通知しようと思ったんですが、丁度いい。彼女―――夜を、連れ帰させていただきます」

「ああ゛ん!?」

「知っているでしょうが、彼女はギルドから捜索依頼が出されている行方不明中のハンターで」

「そげなこと知るかい!!さっさとその棒をこっちに返しい!!まだ仕事が残っとろうがッ」

「……自分も同職の身として、彼女を保護する義務がありm」

「どうせ嘘言って売りつける気なんだろッ犯罪者が!!その小汚い顔を二度と見せるな!」

「………」

 

 

ばしゃあっと近くの水が入った桶を豊受さんにぶっかけ、お婆さんは商品を乱暴に落として私に手を伸ばします。

 

コロコロと此方に転がる桶を蹴飛ばして、鬼のような形相で迫るお婆さんに私が息を飲んで身体を固くすると、鷲掴みにしようと伸ばした手は届く事はなく―――黙って水を受けた豊受さんがその手を掴んで止めました。

 

 

「放しぃ!!」

「………」

「ハンターが村人にこげなことして許されると思うんか!?」

「……」

 

 

今だけ、この人よりも良い耳が嫌になります―――お婆さんの声がより怖くて、うるさくて、耳から脳を刺すかのように突いて聞こえるのですから。

 

(……豊受さん…このままじゃ、風邪を引いてしまいます…)

 

私の目の前でぼたぼたと水滴を落とす豊受さん。はらはらと見守っていると、豊受さんは唾を飛ばしながら吠えるお婆さんの腕をぐっと曲げて、静かに口を開きました。

 

 

「……婆、よくもまあこのクソ寒いってーのに水かけてくれたな」

「あ゛あ!?」

「ぶん殴りてーけど…あんたが言う通りこちとら村人に危害を加えると面倒だからな」

 

すっと腕を放して、鼻を荒く鳴らすお婆さんに冷たく一瞥すると、豊受さんはさっさと私の目の前から去ってしまいます。

 

(え――――!?)

 

目の前で邪魔をしてくれた豊受さんが消えて、私はようやくお婆さんに強く掴まれて。

 

血走った眼が私に近づき、私が暴力よりも嫌いな、聴覚を痛めつける為に耳元で喚く行為に―――私が涙目をきつく閉じ、痛みに耐えるようにと身構えた瞬間、ゴッと嫌な音が。

 

 

「……?」

 

恐る恐る目を開けたら涙が一筋零れて、何度か瞬いて見たのは、

 

 

(………あれ?)

 

 

「――――豚みてーな顔だからな、特に気にもなんねーだろ」

 

 

もう一度、お婆さんの顔に直下して、ころころと転がる桶。倒れて呻く、顔が赤いお婆さん。

 

蹴り飛ばした足をトントンと軽く叩いて、豊受さんは少しスッキリしたお顔で言いました。

 

 

「突然の突風、……はキツイか。食中毒って事にして…顔は転んだ時の怪我ってことにするか…」

「?」

 

 

ぶつぶつと呟いた後、チェダーさんのようにニヤニヤと笑いながら、豊受さんはポーチから桃色の美味しそうな水が入った瓶を一つと、透明な水の入った瓶を出しました。

 

「……、…」

「ん?大丈夫大丈夫。死なないから」

「…」

 

 

そ、そういう問題なのですか…?

 

豊受さんがお婆さんの口に零れないように透明な水を飲ませると、急にお婆さんは小さく唸って、私はオロオロとしてて。

 

豊受さんは一時間後が地獄だぜ、と低く笑うので、とんとんと肩を叩いて首を傾げました。

 

 

「この薬はさ、強制的に吐かせるんだ。しかも使ってもバレにくい便利な薬でねー。結構長いことこれが続くから、俺らの事を気にしてらんねーよ」

 

 

そう言ってお店の中に入り、捨てようとしてそのままにされていた腐りかけの林檎を齧って暖炉に吐き捨て、もう一度外に出てお婆さんを俵のように抱いて適当に捨てました。(その際に椅子などもぐちゃぐちゃにしていました)

お婆さんの近くに林檎を転がして、豊受さんはジャムが並ぶ棚の一番目がいく所に桃色の美味しそうな水が入った瓶を紛れさせ、周囲のジャムには別の透明な水の入った瓶の恐ろしい中身を少しずつ入れます。

 

 

「うっし、とりあえずこれで仕返し第一段階終了、っと」

「…ぅ…」

「ん?大丈夫、どっちも死ぬようなものじゃないから」

「……」

「夜ちゃんの給料を取るにも流石に窃盗扱いになるしなー…」

「………」

「どうしよっかなー…」

「……、…っ…」

「……ん?…え、ちょ、何で泣いてるの!?」

 

 

(……私、これで自由になったんだ)

 

 

―――そう思うと、さっきから涙腺の緩いこの目からは、ぼたぼたと涙が落ちてしまうのです。

 

 

(……もう、怖くないんだ)

 

 

今までずっと、平気そうに沈黙を保っていたけれど、本当は死んでしまいそうだった。

 

暴力をふるうお嬢さんも怖いけど、それよりも本能的に身が竦んでしまう程の咆哮のような怒声を吐くお婆さんが一番怖くて。この人の怒鳴り声でしゃべれなくなったと言ってもいいくらい、この人を恐れてきたから、……今、凄く安心してしまうのです。

 

 

豊受さんはそんな私の心情に気付いてくれたのか、黙って私の身体を抱き寄せて、頭を優しく撫でてくれました。

 

 

「…大丈夫―――これでもう、咲の所に帰れるからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

兎ちゃん虐めはこれにて終了です。(多分)

 

 







補足(キャラクター紹介)


*豊受(トヨウケ)
第三話に登場して婚約者にホモの噂を流されたハンターさんです。

捨て子で食べ物に困っていた養父が食べ物の神様の所に祈りに行った先で拾われ、食うに困らない人生でありますように、という祈りを込めて、この名前を付けられました。
貧乏なのに拾ってちゃんと育ててくれた養父の恩返しの為に、現在ハンターとして高額クエストを受けては養父に仕送りをしてる毎日です。

ちなみに咲ちゃんとは幼馴染なので第三話ではすっごく情けない素を出しています。
昔は殴り合いの喧嘩をしたりモンスターの巣に爆竹放り投げたりそれがバレて村長に仲良くボコ殴りにされたりと、生傷の絶えない日々を一緒に過ごしてました。

もう出さないと思っていたキャラなので、口調がおかしいのは許して下さい。一応女の子の前と男の子の前では性格が違うという設定……を後付けました、すいません。

ちなみに咲ちゃんの手紙の内容ですが、今回の事情(喧嘩は伏せてます)と夜ちゃんの容姿、報酬金額(高いです)、「分かってるだろうけど、夜には絶対何があっても手を出さない、もし誰かに傷つけられたようなら、俺が付くまで、『よろしく』な?」という内容が書かれていました……。



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11.人見知りもしますので、ご注意ください

 

 

 

【彼女が去って十分後】

 

 

「黒―――!黒っ、どこだ、いたら返事しろッ黒―――!!」

「ちょ、ちょっと咲ちゃん!いくら邪魔だからって無駄にモンスターを狩っちゃ……」

「うるせぇ!!くろぉぉぉぉ!」

「……咲ちゃんってば!」

 

 

 

【彼女が去って一日目】

 

 

「黒、黒―――!…げほっ」

「あれだけ散々叫んだら喉も枯れるだろうよ。ほら、まず水を飲んで落ちつけ」

「……っ」

「……奪い取らなくても…」

「スウィーツ、今の咲ちゃんは頭に血ぃ昇ってるから聞いてないよ」

 

 

 

【彼女が去って二日目】

 

 

「……ちぇ、ちぇだー…」

「………」

「…ろ、黒――!いい加減に出て来い、……俺が、悪かったから…っ」

「……チェダー…」

「……」

 

 

 

【彼女が去って三日目】

 

 

「…クエスト延長しといてくれ。……俺だけでいい」

「何言ってんの。私達だって探したいの!」

「狩り仲間を放って帰るわけ無いだろ、馬鹿」

「……ごめん」

 

 

 

【彼女が去って六日目】

 

 

「………」

「……咲ちゃん、これはもう…」

「―――ッそんなことはない!!」

「…無事だとしても、まずは一旦村に戻って捜査の依頼をギルドに申請しよう。気球から見つかるかもしれない」

「その間にモンスターに追われたらどうする!?あいつは丸腰なんだぞ!!」

「夜ちゃんは耳が良いし、安全な所で休む程度の頭はあるよ。…もうくまなく探した。私達に出来る事は夜ちゃんが飢えて倒れるか喰われる前に、大人数で探してやることしかないよ」

「……っ…!」

 

 

 

【彼女が去って十日目】

 

 

「は、ハンター様、…咲様、お待ちなさい、何処に行かれるのです!」

「村長…悪いが村のクエストは他の人間に任してくれ」

「そうではなくてっ昨日だって期限ぎりぎりまで探しておられて、夜中に帰って来られたばかりと聞きましたわ!そう無理をしては身体を壊されます!!」

「平気だ。鍛えてるしな」

「咲様!」

「……おい、前のクエストを頼む」

「あの、でも咲さん、顔色が……」

「どうでもいいからさっさと判子押してくれ」

「……は、い…」

 

 

 

【彼女が去って十六日目】

 

 

「……前の、クエストで」

「………」

「…?おい、聞こえなかったのか、さっさとしろ」

「……め、です…」

「あ?」

「駄目です!そんな状態の咲さんを出せません!チェダーさんかスウィーツさんに代わっていただいて…」

「あいつらは村のごたごたを解決するのに忙しいんだ―――さっさとしろッ!!」

「ひっ!」

「………」

「…ぅ、…っく、…」

「………悪い、怒鳴って…俺…」

「……い、え…分かってます…」

 

 

 

【彼女が去って二十二日目】

 

 

「はぁっ!!」

「ぴぎぃぃぃぃ……!」

 

「―――咲ちゃーん、そっちはどう…何これ!?」

「……ああ、チェダーか」

「チェダーかじゃなくて!!何この無差別な殺し方!?」

「………」

「ハンターが無駄に意味もなく狩ったら生態系が崩れるって知ってるでしょう!?あんた何してんの!!」

「……無駄?意味が無い…?」

「っ」

「意味ならあるさ。黒に危害を及ぼすかもしれない。いや、もしかしたら危害を加えたかもしれないモンスターを殺すことで、あいつの生還率が上がるだろう?」

「…さ、咲ちゃん…」

「…少しでも多く狩って――――『夜』を連れて帰るんだ…」

「……」

「ああ、もしかしたらモンスターが群れて暮らしている所に迷ったのかもしれない。次はそこを――――…なんだよ」

「…咲、ちゃん。帰ろう。帰ってちゃんと食べて、ゆっくり休んで。その間、私とスウィーツが交代で探すから……!」

「俺は平気だッ」

「平気じゃない!咲はそんな滅茶苦茶な考えをするヤツじゃない!!…疲れてるんだよ、早く休まないと今の咲ちゃんじゃあ死んじゃうから…!」

「うるさいっ触んな!」

「きゃあっ」

 

「……俺は早く夜を探さないといけないんだ。余計な事はしてられないっ」

「咲ちゃん!もういい加減にしてよ!!駄々捏ねてる場合じゃないでしょう!?」

「だからうっせーって言ってんだろうがッ失せろババア!!」

「ば……あ゛あ゛ん!?」

 

ガチャン、パンッ

 

「……てめ、……撃ちやがっ…」

 

ドサッ

 

 

「こちとらテメーより年下だボケェ!!まだピチピチだっつーの殺すぞ!!あと撃ったのは睡眠弾だから安心してよね!」

 

 

 

【彼女が去って二十三日目】

 

 

「……なんだ、それ」

「チェダーさんが旦那さんの最近の非道っぷりを村長さんに話して、お二人でギルドに謹慎処分にしてくれるように頼んだんだニャ。これはその通知」

「ふざけんなッそれじゃあ夜を―――」

「口答えしないっ」フッ

「ごふっ!」ドゴォ

「ああそれから、『しばらくゆっくり頭冷やせジジイ、次言ったら簀巻きにして崖から落とすからな。マジですっげー苦しんで懺悔して寝ろ』…チェダーさんからの伝言ニャ」

「は……?…俺、何か言ったか……?」

 

 

 

【彼女が去って二十六日目】

 

 

「咲爺、死んだように寝てたって聞いたんだけど……え、何、何してんの?」

「ごめん、マジでごめん」

「最近お前謝るしかしてないな」

「……」

「ま、謝ったからには許すから頭上げなよ」

「ん…?咲は何をやらかしたんだ?」

「私にババアって」

「ごぶっ」

「スウィーツぅぅ!?あんた何で具合悪い奴に本気のストレートを入れちゃってんの!?」

「……思わず」

 

 

 

【彼女が去って二十八日目】

 

 

「さ、咲さん!?まだ謹慎中ですから……」

「違う、手紙を頼みたくて」

「…手紙、ですか?」

「俺の知り合い全員に探してくれるように頼んでおいた。…あとギルドの捜索依頼に報酬金額付けるように頼んでくれるか?これぐらいの値で頼む」

「高っ!?」

「高い方がやる気が上がるだろ。で、これが手紙」

 

ドサァァァ

 

「多っ!?」

「特急でよろしく」

「い、いやいやいや!咲さん、あなた何十通書いたんですか!?」

「手当たり次第だったから覚えてないな……悪い、数えてくれるか?」

「構いませんけど…」

「………」

「一通目、二通目……」

「……なあ、」

「十三、十―――…はい?」

「……皆に、迷惑かけたな…」

「……」

「……」

「…まったくです。反省してくださいね?」

「……ああ」

 

 

 

【彼女が去って三十日目】

 

 

「うわっ何この手紙!?」

「チェダーか…スウィーツならさっき手紙を受け取りに…」

「えっまだ来るの?」

「おう……林檎、食うか?」

「きゃー!兎ちゃんいっぱーい、可愛い☆…って言うと思う!?アンタ何個兎を作れば気が済むの!」

「気が付いたらな……これしか、する事も…」

「………(やべ、もしかして謹慎させるのは失策だったかも?)」

「……夜、…怒ってるかな…」

「咲ちゃん…」

「ちゃんと飯食ってんのかとか、寝てるのかとか、温かくしてるかとか…」

「……」

「寂しがってないかとか、怖がってないかとか……もしも変な男に襲われそうになったら……!」

「咲ちゃん…」

「俺はその男を絶対殺す!達磨にして耳を殺いで歯を全部折って、まずはガノトトスのいる海で嬲ってやる!もぎ取った手足は目の前でモンスターの餌にしてくれる!!そして最後はモンスターの通り道の端に身体を埋めて三日放置した後、俺の手で頭を刈り獲ってやる!!」

「じゃあ私は捕獲係で」

「ああ、任せた」

 

「――――任せたじゃねぇぇぇぇ!!」

 

「「あっ扉が…」」

 

 

 

【彼女が去って三十五日目】

 

 

「………」

 

シャー、シャー

 

「……咲、それ、研ぎ過ぎじゃ…」

「精神統一用だ。別に変な事には使わない」

「それにしても研ぎ過ぎじゃ…そこの包丁を研げば?」

「駄目だ。それは調理用だからな」

「変な事に使う気満々じゃねーか!!」

 

 

 

【彼女が去って三十八日目】

 

 

「咲ちゃん?急に大掃除し始めてどうしたの?」

「……夜が帰って来た時に、すぐ寝れるようにな」

「………そっか」

「これが終わったら買い物もしないといけないし」

「…うん、落ち着いたようで良かった…」

「……世話、かけたな」

 

 

 

【彼女が去って三十九日目】

 

 

「咲ちゃんも落ち着いてきたし、もうそろそろ謹慎解いてもいいんじゃないですかね」

「そうですわねぇ…もういいかもしれませんわ」

「様子見て、あとー…三日位で謹慎解きましょうか?」

「そうしましょうか」

 

 

「―――だ、旦那さん、もう包丁研ぐの止めようニャ…」

「あと少し。ハンターの武器で殺るのは御法度だからな…」

「ハンターの武器云々の前に人を殺すのがアウトにゃ!」

「大丈夫だ、これは俺用でもあるから」

「えっ」

 

 

 

【彼女が去って四十日目】

 

 

「何っ!?」ガタッ

「ど、どうしたのニャ!?」

「豊受のヘタレあんちきしょーが、夜らしき人物を見つけたらしい…!」

「本当ニャ!?」

「ああ!最近の振舞いも直したからな、もう謹慎も解ける頃だ―――荷造りの準備をしろッ」

「あ、あれ計算だったのニャー!?」

「当たり前だろ。金で解決しても良いが印象最悪だからな。流石にユクモ村では汚い事はしたくない」

「旦那さん…」

 

 

 

【彼女が去って四十三日目】

 

 

「謹慎が…?」

「そ。解けたよ。……これを機に、無茶はしないって反省すること」

「ああ、分かった」

「……」

「………」

「ポッケ村に行くのは確信を得てからにしてね」

「ああ」ソワソワ

「……はぁー…」

 

 

 

【彼女が去って………】

 

 

「チーズ!甘味!!」

「殺すぞ」

「甘味……」

「ごめ…―――じゃなかった!聞いてくれ、豊受から返信が来た!」

「「マジで!?」」

「なんでも、拾ってくれた先で虐待されてるらしい…言葉も話せないとか…」

「じゃ、じゃあ夜ちゃんは…!?」

「今はギルドで保護されてるが、かなり揉めてるらしい…てことは、俺が何言いたいか分かるな?」

「ああ、加害者一味を―――…」

「殺せばいいんでしょう?」

「正解だ」

「ちげーよ!!」

「―――まあ兎に角、俺は迎えに行くから後はよろしく」

「付いて行くよ?」

「村にまともなハンターがいないと不味いだろうが。俺一人で大丈夫だ」

「俺……まともなハンターじゃないのか…」

「大丈夫、スウィーツはまともだぞー!だから…本当に道中一人で大丈夫?」

「ギルドの気球で行く。そしたら早いしな」

「「………え?」」

「海より山越えの方が早いんだ、しょうがないだろ」

「いやいやいや!!どうやってギルドの気球を借りたの!?」

「金に決まってんだろ」

「サクッと言うな!」

「スウィーツ…お前のギャグ、超つまんねーな」

「ギャグで言ったわけじゃないから!……ぐす」

「ちょっと!スウィーツを泣かさないでくれる!?」

「ちぇ、ちぇだーぁぁぁ!!」

「スウィーツを苛めるのは私の役目なんだから!」

「Σ(°Д°;)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そんなことよりさ、夜ちゃーん、パンはどうかなー?」

「……ぅ…」

「え、いらない?…じゃあこのスープは?肉汁たっぷり!」

「……っ…、…ぅ…」

「ちょ、泣かないでー!」

 

 

 

―――ギルドに保護されるまで、本当に色々な事がありました。

 

一時間にも及ぶ本人確認に、難しい言葉ばかりの書類の署名、虐待についてのあれこれ……私は怖くて怖くて、飼い主さんに縋りつきたくて―――急に沸いた感情に、対処できなくて。

 

宥めすかされる内に女医さんがやって来られて、私を別室に移すと、優しい言葉をかけながら服を脱がし、お薬を丁寧に塗ってくれました。

 

 

(……ツンとする…)

 

―――飼い主さんじゃない人の処置はすごく不快で、足や腕、ひび割れた指先は包帯だらけになってしまいました……すごく動き辛いのです。

 

女医さんは項垂れている私に蜂蜜入りのホットミルクを渡しましたが、私は一口口に含んだきりで、ベッドの隅っこで震えて膝を抱いていました。

 

 

 

―――こんなよく知らない人達の所に来るのだったら、あの家で苛められた方がマシだったかもしれません……。

 

耳を澄ませば遠くから怒鳴り声や軋む音が聞こえて、私は余計小さく丸まるのです……。

 

 

「おっ!このサラダ美味しいなー、すっごく美味しいなー!」チラッ

「……ぅ、ぅぅ…」

「ちょぉぉぉぉ!…どうしよう、どうしたら泣き止んでくれるの!?」

 

 

―――そして今、静かに鼻を啜る私に食事を持って来てくれたのが豊受さんで、お爺さん達が騒いでいて手に負えないと溜息を吐かれて……ただでさえ肉の匂いに戻しそうになっていた私は。

 

 

「――――~~~ッ…ぅ、ぇ……」

「泣かないでー!……あっちょ、違いますよ女医さん!俺は何もしてないッス!マジで!俺の天使な婚約者に誓って!」

「……ぁ、…ぅ…っ…」

 

 

―――飼い主、さん。

 

お二人が言うには、飼い主さんが迎えに来るのはまだまだ先だとの事です。

 

お爺さん達は、このまま罪状を認めないのであれば長い期間をぶ、ぶ、ぶたばこ?行きになるのだとか。

調べたら色々と悪事が転がり出て来て……なんでもあんなに優しそうなお爺さんは、私の件に関する隠蔽の他にも闇商品を作っていたのだそうです。私は、それを知らずに作っていた可能性があると……。

 

 

(……もうやだぁ……)

 

 

膝を抱える腕に顔を押し付けて、貝のように静かにじとじとと閉じこもった私に、豊受さんは粘り強く付き合ってくれたけれど。

 

結局私が求めているのは豊受さんじゃなくて飼い主さんである事に負けたように認めて、「明日も会いに行くから」と頭を一撫でして帰ってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――それから。

 

 

豊受さんはお爺さんとその取り巻きの方を殴ってしまったそうで、一日中ギルドを賑やかにしました。

 

それでも約束を守って会いに来てくれたのですが、私は結局何も食べなくて。

…喉を通ったのは豊受さんが作ってくれたホットミルクだけで、それすらも泣きながら少し飲んだくらい。その後はずっとベッドの上で布団を巻きつけて丸まっていました。

 

その翌日には困った顔の女医さんが、栄養が足りないからと透明な水(多分お薬でしょうが)の入った袋から一本出ている管を見せると、尖った針を私の腕に刺そうとして、怖くて暴れたら誰かに注射されて―――…頭はぼんやりしてる中、ずっと針を刺されていました。

 

 

(もう…いや……)

 

 

最初の頃よりも悪化している私に、女医さんと豊受さんはずっと喧嘩していました。

 

私がくすん、と小さく鼻を鳴らしても、お二人は気付きません―――お互いの言い分を聞かせるのに必死なのです。

 

 

(……こんな目に遭うくらいなら、私……でも、後悔してないけど、すごく後悔してる……意味が、分からないのです…)

 

 

 

 

 

 

―――次の日、あの部屋から私は消え失せて。

 

 

雪山に一匹の大きな黒兎が、ぽつんと――――驚いて、泣いていました。

 

 

 

 

 

少女⇒ウルクスス亜種に戻ってしまいましたとさ。

 

 

 






追記:

まさに弱り目に祟り目。知らない人の中に放り込まれた兎さんには耐えられなかったのでしょう。


*ちなみに咲ちゃんは非常事態用のお金が結構たんまりあるので、あんまり痛い出費じゃないという……無双した時の報酬素材を全部売り付けたりした分もありますしね。

お金に興味の無い夜ちゃんの代わりにお金をやりくりしてますが、出費はほとんどありません。
咲ちゃんが自分の生活費の中に夜ちゃんの分も含んで計算しているというどうでもいい設定でした。


この後はガッチガチの少女漫画コースです(多分)次話は兎なのにアリスのような状態になっちゃう夜ちゃん……。



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番外編:飼い主さんの育児74日間!

 

 

 

【彼女が来る二十日前】

 

「咲ちゃーん、最近さぁ北からの商人さんが来ないんだってー」

「炬燵から出たくないんじゃねーの」

「なるほど、寒い時の炬燵って咥えたら放さないモンスターみたいだもんねぇ」

「えっ二人共そんな楽観視…」

「スウィーツは難しく考え過ぎなんだよ」

「お前らが考えなさ過ぎなんだよ!」

 

 

 

【彼女が来る十八日前】

 

「……あれ、お前ら…」

「見て見てー、お揃い装備!」

「虫怖かった…!」

「お前は本当に情けない男だな、スウィーツ」

「そんな所が可愛いんでしょ―?…んでんで、上位装備になったら色も揃える予定なの!」

「また行くのぉ!?」

「大丈夫、一緒に付いてってあげるから」

「……ま、まあそれなら……やっぱり無理だ」

「駄目な子め――!」ガシッ

「だ、抱きつくな!」

「………くたばれリア充」

 

 

 

【彼女が来る十四日前】

 

「おい、どうしたんだよスウィーツ」

「……クルペッコに…狩団子壊された…」

「だからおまっ…ネタ武器はやめとけって言ったのに…」

「うぅぅぅぅぅ団子ぉぉぉ!!」

「……で、結局鳥は倒したのか?」

「……」

「……」

「……チェダーが眉間に十発。狩団子の敵をとってくれたよ…」

「………情けなくて涙が出るな」

 

 

 

【彼女が来る十一日前】

 

「うーわーあー…」

「もう!旦那さんが畑の面倒サボるから、虫は沸くわ畑はヤバイわで散々ニャ!」

「あ?畑の面倒見んのがお前の仕事だろうが。給料減らすぞ」

「そ…ッそんな脅しには屈しないニャ!そもそもこの農場はハンターさんの―――」

「緑……お前最近、奥さんが身籠ったって言ってたよな…そんな大事な時にクビにしなくちゃいけないなんて、俺も大変心苦しく思うよ」

「やりゃあいいんだろっやりゃあよぉぉぉぉ!!」

「おい、語尾忘れてんぞ」

「うっせーなっ面倒臭いんだよそんなの!オラ、虫持ってけや!!」

「うわっキモ」

 

 

 

【彼女が来る九日前】

 

「どーしたの?咲ちゃん珍しく元気ないね?」

「ああ、チェダーか…どうにも最近、ウチの猫達が反抗的でな…」

「家事は基本的に咲ちゃんがしちゃうもんねー、最近はオトモも連れてないし。する事がないからじゃない?」

「あいつら日頃の鬱憤を狩りで発散しようとすんだよ。気が立ってるから注意力も散漫だし、危ないだろ」

「まーね」

「家事は…昔っからそうだったから、直しようが…畑の方に猫をやるか」

「え、一匹管理してくれる子がいたら十分じゃない?」

「俺が畑なんてどうでも良すぎて手をつけてないせいか、猫にやる気が無いのか分からないが……アレは畑じゃなかったな」

「スウィーツの畑なんて芸術的だというのに…駄目な子め」

「うっせーな」

「でもさー、それって前からいた子にしたらあんまり嬉しくないんじゃ…」

「ああ、大丈夫。辞めさせたから」

「え、」

 

 

 

【彼女が来る八日前】

 

「――――で、あとそれも」

「どっもーッス……そう言えばハンターさん、知ってます?」

「何が?」

「凍土の方からの商人、何か大きいモンスターに襲われてこっちに出稼ぎに来れないんですよ。そのせいで北にしかない品を扱う店なんて閉めてますぜ」

「あー…あったなそんな話」

「不思議と死人は出てないんですがねぇ。さっきその件の解決を頼むクエストが出てたみたいで、おっさん三人組が出かけていきやしたよ」

「詳しいな」

「まーね!」

 

 

 

【彼女が来る七日前】

 

「咲ちゃん咲ちゃ―ん!私達に依頼来たよー」

「他のハンターは?」

「失敗しちゃいました―wwww」

「……何か情報とかは得たのか?」

「んー、聞いたらさ、『黒い』『大きい』『もふもふ』しか言わないんだけど」

「まったく理解出来ないんだが」

 

 

 

【彼女が来る六日前】

 

「―――おっっっせぇぇぇぇ!!遅すぎるだろお前!お前から誘っといて遅刻して迎えに来させるってどういう神経してんだぁぁぁ!?」

「五月蠅いわぁぁ!!こちとら生●なんじゃぁぁぁ!!動いたら死ぬんだよ、声出したら死んじゃうんだよ。蜻蛉のように儚い私に気を使えよ!!」

「大声出しといて何その台詞!?●理がなんだってんだ、ああん!?血がダラダラ出るだけだろーが!!」

「出るまでが痛いんだよ馬鹿!低能!!血が出た時の不快感は沼地に口突っ込んだ並なんだぞ!」

「沼地に口突っ込んだ事あんのかよ!」

 

「――――朝から下品な会話してんなぁぁぁぁぁ!!」ブン

 

「「狩団子投げた!?」」

 

 

 

【彼女が来る五日前】

 

「くっそ、一人で凍土に行くとか寂しすぎんだろ…何でスウィーツは上級になってないんだよ…」

「旦那っ一人じゃないです、アタ」

「チェダーに朝から呼び付けられて世話してるってお前、あいつには猫がいるんだから必要ないだろ、甲斐甲斐し過ぎだろ」

「旦那っアタシも甲斐甲斐し」

「なんだよなんだよ、俺だけ独り者って事かよ。あいつらジンオウガの手で感電死すればいいんだよリア充が」

「旦那っ無視しない――――ニャぁぁぁぁぁぁ!!」

「ッ…!おい、桃―――クソ、雪で見えな…」

「にゃ、あ…」

「桃!?お前なんで宙に、浮い…て」

「 (´,,・ω・,,`)」

「うわあぁぁぁぁぁ何か黒くてもふもふしてる!?」

「(´,,・ω・,,`)」

「あの……アレだ、落ち着け、クールを貫いてきた俺だ、すぐクールに…あぶっ!?」ズシャァァ

 

 

「――――…う、…なんか、温かい…?」キョロキョロ

「⊂⌒~⊃。Д。)⊃」ゴロリ

「うわあああああああ!!」

 

 

 

【彼女が来る四日前】

 

「旦那っ遅かったですね。……あの、モンスターは……」

「もふもふしてた…」

「え、旦那?」

「名前は黒にするか。今度は肉を持って行ってみよう」

「旦那ぁぁ!?」

「じゃ、三時間したら起こしてくれ。クエストは延長しといて」

「旦那ぁぁぁ!!」

 

 

 

【彼女が来る三日前】

 

「黒。黒、こっち見ろ」

「(´・ω・`)」

「お前って大きいけど結構可愛いな。なんか癒されるわ」

「(´・ω・`)」

「でもその顔がデフォなのか……図体デカいのに残念な奴だな…」

「(´・ω・`)」

「黒が子豚並に小さかったら家に連れて帰ってもふもふして癒されるのにな…残念だ。……今度は魚なんてどうだ?」

「(´・ω・`)」

「……なあ、もうちょっと反応してくれないか…」

「(´・ω・`)」

 

 

 

【彼女が来る二日前】

 

「また凍土に行くの?」

「あ―――うん」

「見つかんないんだもんねぇ…でもさ、もう通行できるようになったからあのクエストは引っ下げたって聞いたけど?」

「いや…なんだ、可愛い小動物が…」

「ああ、咲ちゃんちっこいの大好きだもんねぇ。…でも凍土に可愛い小動物なんていたっけ?」

「大きい小動物なんだ…」ボソッ

「え?」

「いや、何でもない」

 

 

 

【彼女が来る一日前】

 

「咲ちゃん、今日もすごく目がイキイキしてるよ」

「え、ああ…」

「咲ちゃん、今日もすごい雪が乗ってるよ」

「ちょっと…雪山の坂を転がってな」

「転がったの!?」

 

 

 

【彼女が来た日】

 

「よし、黒がなんかもしゃもしゃしてた葉っぱも手に入れた事だし、今日はアイツに俺がエサをやるんだ!」

「旦那さん…ペット大好きニャね」

「ペットじゃねえ。友達だ」

「モンスターが友達ってすごい…アレだニャ…」

「―――ん?おお、黒が出迎えてるみたいだ」

「……(すごく嬉しそうニャ。旦那さん…どれだけ他人の温もりに飢えてるんだニャ…)」

「黒っ今日はお前に―――――…黒?」

「ニャ?」

「黒?黒っ!おい、なんで震えてんだ…ま、まさか毒でも…ハンターにやられたのか?…いや、今此処に来れるハンターは俺だけか……じゃあモンスターに!?」

「旦那さん、黒が丸まって動かないニャ…」

「解毒薬だっ解毒薬、げど、解毒――――」

「旦那さん落ち着いて…にゃふっ」

「ッ…風が…見えない……黒!大丈夫か………あれ?」

 

「――――くしゅんっ」

 

 

 

【彼女が来て一日目】

 

「それで、この子が…?」

「―――ていうか咲ちゃんのせいでおんにゃのこが見えない。消え失せてロリコンズーフィリア」

「てめ、俺はそういうのじゃないッこいつが背中に貼りついて出てこないんだよ!」

「つーかさ、服が男物でぶかぶかなんだけど…可哀想…」

「……しょうがないだろ」

「あ、私のお古がまだあるよ?」

「ああ、じゃあそれ頼むわ」

「頼むって…その子と…住む気か?」

「あっいや、そうい……おい、そんな目で俺を見るな。誰もお前を捨てるなんて言ってないだろ!?」

「―――あら、じゃあ咲様、そこのお嬢さんを養うという事でよろしいのですね?」

「え…いや、あの、俺も男で――――~~だからぁぁぁ!俺をそんな目で見るなよッ」

「咲ちゃんって捨て兎を見たらほっとけない子だったんだね」

「捨て兎って……」

「おいっ、チェダー!お前同性だしコイツと……ああああ遂に泣きだした!」

「兎ちゃんも飼い主さんがイイってさー。……変な事しちゃ駄目だからね」

「しねーよ!!」

「ホントにー?飼い主さんプレイとかするんじゃ…」

「しないって言ってんだろうが!!……あ?黒、どうし―――「かいぬしさん」………え?」

「飼い主、さん?」

「そうそう、飼い主さん」

「飼い主さん!」

「そうそ「チェダーぁぁぁぁぁぁ!!!」飼い主さんうるさいですよー!静かにしててくださーい」

「それはこっちの台詞だ馬鹿野郎!早々に変な事教えやがって!てめ「飼い主さん」……だからぁぁ!!」

「か、い…ぬし、さん……?」ボロボロ

「……や、別に、お前に怒ったわけじゃ……言葉につい…」

「かいぬし……さん……」

「ちょ……俺は飼い主さんじゃなくて咲……」オロオロ

「なんて無責任なの!?弄んで飽きたらポイってわけ!?私をこんなにした責任とってよ!」

「お前はもう何も喋るな!」

「おい。チェダーにスウィーツ、お前ら夜のこと忘れて……あーもー…」

「………くすん」

 

 

 

【彼女が来て二日目】

 

「ロリコーン!服持って来たよー?」

「………|ω・`)」ススス

「お、夜ちゃん!ロリコンハンターは?」

「寝て、ます…」

「あ、寝てるのか…ま、いいや。お邪魔してもいいー?」

「………|ω・`)?」

「…夜ちゃんが可愛いからオッケーって事にしとくか」

「………|ω・`)?」

 

 

 

【彼女が来て四日目】

 

「……肉、…食え」

「………」プイ

「………」

「………」

 

 

 

【彼女が来て七日目】

 

「飼い主さん、飼い主さん」トテトテ

「……?どうした、黒」

「手伝います」

「あ、あー…じゃあ、俺は干してくるからこの部屋をこれで掃いてくれるか?」

「これ…?」

「箒だ」

「………」

「おい。食うなよ、それ」

 

 

 

【彼女が来て十一日目】

 

「今日はここらの地方で使ってる文字を教えてやる」

「モジ?」

「ほら、この本とか…俺の家計簿とかのこれとか…」

「もじ…」

「こっちに座れ。……まずだな、ペンの持ち方からか…」

「………」

「そうだ。じゃ、最初の一文字…は…」

「φ(・ω・ )」カキカキ

「おま……もう書けるの!?」

「『凄い人』から教わりました」

「誰だよそれ!?」

 

 

 

【彼女が来て十三日目】

 

「……飼い主さん、雷が怖いのです……」

「あー…耳を塞いでてやろうか?」

「んー……」ピト

「お、おおお俺の胸に埋めるな!」

「うー!」

「服を掴むな!」

「(´;ω; `)」

「泣くな!……ああもうッ」ギュウゥゥ

「……飼い主さぁん…苦しいです…潰れます…」

「顔は潰れねーよ」

「いえ、……胸が、あんまり抱きしめられると…痛い…」

「―――~~ッ馬鹿が!!」

「(´;ω; `)」

 

 

 

【彼女が来て十四日】

 

「今日も雷が鳴ってます……」

「……怖がってる癖に、何で一々見ようとしてんだ」

「『凄い人』が言っていたのです。雨が降っている時の雷は奇跡を起こして下さるんだって」

「奇跡……?」

「はい。昔々の人間は、恵みの雨と一緒に降る雷に一生懸命祈ったのだそうです。…えっと、……雷は神様の御手で、その御手に自分達の不幸を掬い取ってもらう為に祈っていたのが―――…んーっと、時が経つにつれて不幸の昇華から自らの願いをかけるものに変わったのです」

「……よく難しい言葉を覚えてられたな。えらいぞ」

「えへへー」

「……」

「?」

「…黒、ずっと思ってたんだが、その『凄い人』って何だ?」

「『凄い人』は……」

「……」

「……分かりません」

「は?」

「『凄い人』はいつも真っ白キラキラで、声も性格も会う度にコロコロ変わるのです」

「………ん?なんか昔…語り部の婆さんが……いや、気のせいか」

「飼い主さん?」

「ああ、なんでもない。…ほら、耳を痛めるから窓から離れろ」

「はーい」

 

 

 

【彼女が来て二十三日目】

 

「夜ちゃん肌白いねぇー!」

「は、はあ…」

「むちむちー!ぴちぴちー!」

「む、むー…ひゃんっ」

「美乳じゃないのー!このこのー!」

「ひゃ、や、やっ」

「――――チーズてめぇぇぇぇぇぇ!!何してくれさってんだコラぁぁぁぁ!!」

「ちっ」

「か、飼い主さぁん!」ダッ

「ばっ――――風呂から出るな!!」

「…夜ちゃん捕まえた!」

「ぴゃっ」

「―――よし、そのまま黒を風呂にブっ込め!……そして、テメーは表に出ろ!!」

「やん、エッチ☆」

「き…ききき、着替えてからに決まってんだろうがよぉぉぉぉ!!このッ痴女が!!」

「ハンターさぁん!風呂場では静かに!!」

 

 

 

【彼女が来て二十六日目】

 

「―――これ、お裾分け」

「……?」

「黒、お裾分けって言うのはだな、多く作り過ぎた料理とかを隣の家にやったり日頃世話になってる人間とか親しい人間に分けることだ。これで自分も気分が良いし相手に恩を売れるしで一石二鳥の、」

「……咲、お前はその子をどういう風に育てたいんだよ。後半いらないだろ」

「こいつは馬鹿正直だからな。人間の汚さを教えないと」

「スウィーツさんは…汚い?」

「汚くないよ!?」

「こいつは適切な量で調理出来ない馬鹿なだけだ。安心して受け取れ」

「咲ぅぅ!?」

「あん?……黒、人から物を貰ったら?」

「あ―――…ありがとう、ございますっスウィーツさん!」

「……え、うん…なんか新鮮だわ、そういう風に感謝されるの」

「……」

「…飼い主さん?」

「……(咲、何か分からんけどめっちゃ睨んでくる…)」

「……黒、こいつが女に物をくれる時は下心がある時だからな。大人になったら気を付けろ」

「大人?」

「俺が何時、誰に!下心丸出しでそこらの女の人に物をやったよ!?」

「ほぼ毎日。チェダーに」

「………」

「………」

「………」

「…………………うん、下心があったかもしれない」

「『かも』じゃない。ほぼ毎日あっただろ」

「………咲って、俺のこと嫌いだよな…」

「……爆発しろ、ぐらいしか思ったことは無いぞ」

「爆発!?」

 

 

 

【彼女が来て二十八日目】

 

「…黒、このクッキーを数えてみろ。正解した分だけ食っていいぞ」

「わぁい!」

「この皿に移しながら数えろ。……あ、手は洗ったか?」

「三時のおやつの時間ですから、ちゃんと洗いました」

「よし。――――そら、数えてみろ」

「んっと…い、一…一個?」

「枚だな」

「一枚!」

「正解」

「二枚、三枚、四枚、五枚……」

「……(黒は物覚えが良いな……食欲のせいかもしれないが)」

「七枚!八枚、九枚、十枚っ」

「正解」

「………あっ」

「あ?」

「……うー?」

「……分かんないのか?」

「………」

「………(物覚えがいいのかどうか分からなくなってきたな)」

「……っ……ぐすっ……くっきー……」

「……」

「…、……ぅ、……ふ、ぇ…」

「………」←何故か罪悪感にかられる

「……ぅ、うう……―――」

「―――~~ああもうッ食えよ!食っていいから!」

「本当ですか!?」

「その代わり今日はこれだけだぞ!」

「わぁい!」

「……まったく…」

「ちょこくっきー、いただきまーす」

「……食い意地張りやがってまったく―――…どうした」

「飼い主さん、美味しいですよ!あーん、」

「………」

「あ、あーんっ」

「………ん、」

「美味しいですか?」

「………まあまあ」

 

 

 

【彼女が来て三十六日目】

 

「黒、この硬貨がこれだけで、たいていの店では薬草が買えるんだ」

「……これだけ?」

「そう。…で、村の端に居る男は偶に半額にしてくれる」

「これの……半分?」

「そうだ。だから店に行く前にあの男の所に行って、半額でないようなら店に顔を出せ。いつか商品の良いヤツと悪いヤツの見分け方を教えてやるが―――とにかく、店に良い物がなかったらその男の商品と比べて買え」

「むぅ……」

「まあ、今は金を覚えてくれれば良いから、……そうだな…この林檎は、一個で硬貨がこれぐらいが妥当だ」

「ふむふむ」

「……お前…いや、まあいい。食い物はその時々で値上がったり下がったりするが、そういう話を聞かない限り、大抵はこんなもんだと思え」

「はーい」

 

 

 

【彼女が来て四十三日目】

 

「飼い主さん飼い主さん、何をしているのですか?」

「林檎の兎。……チェダーのあんちくしょうに喧嘩吹っかけられてな」

「兎……」

「……そ」

「……」

「……」

「……ふふ、可愛い」

「…!痛ぁっ!?」

「飼い主さぁん!?」

 

 

 

【彼女が来て四十七日目】

 

「あれ、咲ちゃん、その指の傷どうしたの?」

「……ちょっとな」

「ははーん分かったぞ!スウィーツ以下って言われてから林檎の兎の練習始めたんでしょう!」

「……」

「……咲ちゃん?」

「練習ていうか…おやつにやる度にこんな傷が…」

「えっ」

 

 

 

【彼女が来て五十日目】

 

「いいか黒。火はな…」

「|ω・`)」ススス

「……出て来い」

「……火、怖い、のです…」

「慣れろ。ほら、さっさとこっちに来い」

「|ω; `)」ブワッ

「……俺の背中に貼りついてていいから」

「……|ω; `)」ススス

「あんまり背中に抱きつくなよ。もしもの時には危ないから」

「……だって」

「あん?」

「飼い主さんの背中に貼りつくと、ほっとします…」

「…え――――あっつ!?」

「飼い主さぁん!?」

 

 

 

【彼女が来て五十三日目】

 

「あれ、夜ちゃん一人でお買い物―?」

「こんにちは、チェダーさん。飼い主さんに頼まれて、石鹸とお茶の葉と…あと、余ったお金で好きな物を買えと言われたのです」

「へー。…あっ、そういえば初めてだね、一人でおつかい」

「はいっ頑張ります!」

「うんうん。頑張りたまえよ!変な人には付いてっちゃ駄目だぞー?」

「はーい」

 

 

「いやー、頑張り屋さんだわー。お嫁に欲しいくらいけな…げ…」

「……あ?チェダーか。何してんだ」

「それはこっちの台詞なんだけど!初めてのおつかいを尾行するってどんだけ過保護なの!?」

「俺が言い出した事とはいえ、人見知りの激しいアイツにおつかいだなんて何をしでかすか分からねーだろ」

「むしろアンタが何かしでかしそうなんだけど!その背中に隠したライトボウガンは何!?」

「護身用だ。弾はコルクだから別にいいだろ」

「誰の護身用ですかそれは。コルク弾でもね、銃に関しては下手っぴな咲ちゃんを野放しになんて恐ろし過ぎて先生見逃せませんよ」

「誰が先生……おいっ引っ張るな!何すんだコラ!」

「はいはい、静かにしましょーね―」

 

 

 

【彼女が来て五十四日目】

 

「飼い主さん、おやつの時間ですよ」

「あー?…どうした?そのクッキー」

「昨日、飼い主さんが好きな物を買っていいって言ったから…」

「いや、そうじゃなくて。何でそれが今日まであんだ?」

「飼い主さん、昨日のおやつの時間にいなかったので」

「……お前のなんだから、俺を待ってなくてもいいんだぞ?」

「一緒に食べた方が楽しいです。さあ、早く食べましょう?」

「………」

「飼い主さんはあんまり甘いのがお好きじゃないようでしたから、紅茶味にしたのです」

「………」

「飲み物はホットミルクでいいですか?」

「……お前」

「はい?」

「……なんていうか、アレだな」

「……?どうして頭を撫でてくれるのですか?」

「内緒」

「むー」

「……膨れんな。俺がホットミルク入れてやるから」

「本当ですか!」

「……お前のホットミルクは温過ぎるからな」

「あれが適温です!」

 

 

 

 

 

 

ほのぼのを謳っておいてのシリアス続きと兎さん虐めのお詫びでもありますが、咲ちゃんに「お前のホットミルクは温過ぎるからな」を言わせたかっただけの番外編でした。

 

 



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12.モンスターにはすぐ懐きます

 

 

 

ここは、どこなのでしょう?

 

身体は何故か兎の頃に戻っているし、目の前に広がるのはあの部屋じゃ無くて―――凍土とは違う、真っ白で冷たくて、懐かしいけれど、知らない所……。

 

私は、どうなったのでしょう?どうすればいいんでしょう……飼い主さん―――――――…

 

 

 

『―――おいっその真っ黒いの!おめー見かけね―顔だな』

『……?…あなたは誰ですか?』

『俺?俺はギアノスさんだコラっ』

『………|ω・`)』

『何隠れてんだコラっ!』

『知らない子なのです……』

『それはこっちの台詞だコラっ!』

『………|ω・`)』

『もふもふしやがって!ちょっとこっち来やがれ!温まってやる!』

『………|ω・。)』

『嬉しそうな顔しやがって!』

 

 

 

そろそろっと近寄ると、青くて小さな彼はちょっと後退りしつつも私に寄り添ってくれました。

 

人間と違って大体のモンスターは自分に素直な子ばかりですので、私は兎の頃は恐れずにモンスターの群れに遊びに突っ込んで、いっぱいもきゅもきゅされたものです。

 

 

『おめーは何だ?』

『夜です』

『ヨル?…変な名前』

『飼い主さんから頂いたのです……(´・ω・`)』

『飼い主ぃ~?なんだそれ、おめーは人間に飼われてたのか?』

『違います、一緒に住んでいました』

『同じだろ、それ』

『違います!一緒に住んでたのです!!』

『わっ……うるさ―――怒鳴るな!』

『ご、ごめんなさい……(´・ω・`)』

 

 

恥じて顔を短い手の中に隠すと、ギアノスさんは私の周りをうろうろし始めました…。

私は私でおろおろしていると、ギアノスさんはヘタレた私の尻尾をツンと突いたりと遊び始めます……。

 

 

『あ、あの……止めてください……』

『うっせーな』

『……(´・ω・`)』

『そらっ』

『い、痛いのです…!』

『てやっ』

『(´;ω;`)』

『おめー変な奴だな!こんなでっかいくせに小さい俺に虐められても怒んねーのかよ』

『だって……』

『そんなんだとナメられんぞ』

『慣れてますし…』

『おめー……』

 

 

『いい加減顔上げろコラっ』と頬を突っつくギアノスさん。私がもぞもぞと顔を上げたら私から離れてしまいます……。

それを見て(´;ω;`)な顔をしてギアノスさんを見つめていたら、ギアノスさんは苛々とした声で『さっさとこっち来い!』と叫びました。

 

 

『ど、何処に行くのですか?』

『此処じゃない所に決まってんだろ。此処はフルフルさんがよく来るんだ』

『フル……?』

『おまっフルフルさんを知らねーのかよ!?フルフルさんはマジでやべーんだぜ?マジでクールなの』

『……?』

『雷ドバっと出すんだぜ?痺れるわ~』

『雷ですものね』

『おう、雷だからな』

 

 

あいついけ好かねー、と笑うギアノスさんの後ろにぴっとりくっついてもすもす進むと、ちょうどギリギリ入れるくらいの洞窟が。

思わず躊躇っているとギアノスさんはさっさと入ってしまって、『早くしろ』と促されても……ちょっと入るの怖いのです……。

 

 

『さっさとしろよ、ノロマ!』

『きゅうっ』

『フルフルさん来たらどーすんだおめー!』

『きゅっ』

『こんな所で丸まってんじゃねーぞ!』

『(´;ω;`)』

 

 

だってこの洞窟崩れそうです……。

 

だけど尻尾を突き続けるギアノスさんに負けて、私はのそのそと奥に入ったのです。

 

 

『わぁっ…綺麗です!』

『ふふん!』

『すごいすごい!』

『ちょ、おま、あんま走り回んな―――』

『きゅっ』

『滑って頭ぶつける……って、もう遅かったか』

『ううぅ…私には此処は向いて無いようです…』

『まあ、狭いしな』

『―――あ、あの下は?あそこで休んでも構いませんか?』

『駄目に決まってんだろ、あそこはフルフルさんのだ』

『………』

 

 

どれもこれもフルフルさんの、ですか……。

それだけフルフルさんは強いのでしょうか―――…でも、此処に来てずっと思ってたのですけど……。

 

 

『ギアノスさん』

『あ?』

『此処には、あなたとフルフルさんしかいないのですか…?』

『……』

 

 

通行人の邪魔にならないよう、端っこに丸まった私の隣で、ギアノスさんは『あー』とか『ん……』とか、どう言えばいいものかと悩んだ風でした。

 

その沈黙は長く、私がうとうとしてきた頃にはやっとギアノスさんは口を開いてくれました。

 

 

『いや、俺の一族はな、ハンターに狩られたり何だりしながらもちゃんと生きてるよ』

『……?』

『ただな……ここ数年、あの村にまともなハンターがいなかったせいか…他の馬鹿みたいに強い奴らが増えてな……そいつら同士の縄張り争いやら食料の奪い合いで一族滅亡の危機に陥った奴もいる』

『そうなのですか……』

『そういう奴らは此処から離れて一族復興を目指そうってさ。勝ち残った奴らは最近やって来たハンターに狩られちまったよ……食料が無くて、色んな所で暴れたらしいしな』

『………』

『だからなんつーの?この状態があるべき形っつーか。……フルフルさん以外には俺らとポポと…あとはキリン様ぐらいか。猿は何処かで隠れて生きてんのかも』

『?』

『ポポは草食ってる鈍くさい奴ら。キリン様は……とにかくスゲーの。猿は猿な、あいつら調子に乗り過ぎたんだよ』

『…猪さんはいないのですか?』

『ファンゴか?あー…いるいる。忘れてたわ』

『………』

『なんだ?あいつら嫌いか?』

『嫌いというか……』

『お前虐められてそうな顔してんもんなー』

『(´・ω・`)』

 

 

何で分かるんでしょうか……。

 

でも飼い主さんにも昔、「お前って虐められっ子だよな」と言われましたし…そういう顔、なのでしょうか?

 

 

『ま、下手な事しなけりゃ、今の雪山で喧嘩しようなんて元気な奴はいねーよ』

 

 

肉食う?と私を見上げるギアノスさんに頭を振ると、私はひんやりした葉っぱをもしゃもしゃして一夜を過ごしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……い、おい、おいっ真っ黒!人間が大勢こっちに来るから逃げんぞ!』

『人間が…?』

『俺らを狩りに来るって言うよりは探してる、って感じだが……誰か、人間が迷ったのか…』

『…何処に逃げるのです?』

『人間も知らない奥まった所だ。弱っちいのの中に血生臭いのが三人いるからな、狩られる前に逃げるぞ』

『………』

『おいっさっさとしろコラっ』

『……はい…』

 

 

その「血生臭いの」はもしかして、と思っても、微かに、本当に微かに(これだから耳が良いのは嫌なのです)聞こえる人間の声が妙に怖くて、私はそっとその場を後にしました。

 

 

 

『そこを左に曲がれ!二つの穴を通り過ぎたら三つ目の穴へ潜り込め。それで―――』

 

広い場所に出てからは私の方が早いので、ギアノスさんに私の上に乗ってもらって例の避難場所に滑り込みます。

風で掻き消えそうになるギアノスさんの案内通りに滑った先ではすでに、何匹かのモンスター達が集まっていました。

 

 

―――ですが。

 

『……おい、その黒いのは何だ?』

『しかも人間臭いぞ』

『大きいし…此処にはいない方が…』

『う、うるせーぞ猿共!この避難先はどんなモンスターでも逃げてかまわねぇ筈だ!』

『だが……人間臭いし…』

『見た感じ、強き獣なのだろう?』

『―――だのに保護を申し出るのか』

 

 

三匹の大きな、怪我をしていたり禿げていたりするお猿さんに咎められて、私はじりじりと迫られました。

 

見れば雪の中に突っ込まれている食べ物は少なく、この場に居る全員の顔を見ても―――私を受け入れる余裕は無さそうです。

 

 

(……大丈夫、攻撃しなければ向こうも殺しにかからないだろうし…何処かで隠れていましょう)

 

 

私は目の前で庇ってくれるギアノスさんから静かに離れて、『出て行け』と言われる前にこの避難所から飛び出します。

 

ギアノスさんが呼び止めるのが聞こえましたが、私は振り向かずに当てもなく駆け出しました。

 

 

 

 

 

 

―――

―――――

―――――――――

 

 

『……此処はどこなのでしょう…キャンプ跡地みたいなのがありますが…』

 

必死に耳を澄まして逃げてきましたが、……地理が全く分かりません。

 

とりあえず何処かに隠れないと、この真っ黒な巨体は目立ちますし――――

 

 

『あァら、そこの真っ黒な兎サン?アナタ何処からやって来られたのぉーん?』

『!』

 

 

ばっさばっさと目の前に降りて来られたモンスター…白くて大きくて首の長いモンスターさんは間延びした声で私に声をかけてくれました。

 

『と、凍土!…です』

『アラ、やっぱりィー?アタシの親戚と同郷なのネ』

『親戚…?』

『ギギネブラよぉーん。…あの子言ってたわ、真っ黒兎は数少ない友達の一人だって!』

『え、えへへ…』

『でも急にいなくなっちゃった、って……アナタ人間臭いけど、誰かに売り飛ばされたの?』

『いいえ、『凄い人』に頼んで人間にして貰ったのです!』

『マ、あの方に?』

『はい、それから飼い主さんとずっと暮らしていました…もしよろしければ、ギギさんに今は人間として元気にやってると伝えて頂けますか?』

『イイケドぉん…アナタ、今は兎よぉーん?』

『あっ』

 

 

そ、そうでした……。

 

今の私は、何故か人間から兎に……。

 

 

『やだァん、泣かないでぇ?勿体ないわぁ』

『す、すいません…』

『もし良かったら、アナタの事聞かせてくれるぅ?安全な所に連れてってあげるから』

『は…はあ』

 

 

くるっと背を向けて、ギギさんの親戚の方は少し複雑な道を案内してくれました。

道中で名前を尋ねたら―――彼女(?)こそギアノスさんが教えてくれた「フルフルさん」で、教えてくれたお礼に私の名前も教えると、何度も歌うように呼んでくれるので私も呼んでみました。

 

そして楽しく呼び合いっこをしながらフルフルさんの巣に……。

 

 

『すみません……』

『いいのよォ!どうせ此処に来る奴なんて少ないし…そんな事より、アナタのお話聞かせてェ!』

『は、はい…』

 

 

 

二人で寄り添うようにくっつきながら、私はゆっくりゆっくりと思い出を語りました―――。

 

 

独りぼっちが寂しくて、人間をもきゅもきゅしたこと。

逃げてばかりの人間の中で、飼い主さんだけが何日も何日も私と遊んでくれたこと。

でも日が落ちたら帰ってしまう飼い主さんに会いたくて、『凄い人』に頼んで人間になったこと。

人間になって、名前を貰って、温かい服に食事を貰って、偶に頭を撫でてもらって、一緒のお布団でくっついて寝たこと。

飼い主さんに褒められたくて、お料理を覚えようとしたこと。

飼い主さんの剥く林檎の兎さんはとても可愛らしくて、一番美味しいこと。

たまに意地悪で怖いけど、とっても優しくて、私の名前を丁寧に呼んでくれる声が好きなこと。

………でも、何故か嫌われてしまって、腕に触れたら突き飛ばされてしまったこと。

 

 

『きっと…嫌われてしまったって……飼い主さんから一生懸命逃げたら、モンスターの尻尾に乗ってしまって、こんな遠い所に…』

『うん』

『養ってくれた先では「厭らしい」とか……小突かれたり、手が切れてしまったり…』

『……うん』

『そしたら私、気付いたのです』

『…うん?』

『私、本当に飼い主さんに大事にされてたんだって。……一回でいいから、飼い主さんにお礼が言いたい…』

『……それだけ?』

『もし、…もし、許されるなら、傍に居させて欲しいと……ずっと、一緒にいたい、のです…』

 

 

迷惑かもしれない。あの日渋ったのと同じように、困った顔をするかもしれない。それでも、我儘を言うだけ言ってしまいたい……。

 

もじもじと話す私の隣で、フルフルさんはくすくすと大人っぽく笑いました。

 

 

『―――愛しているのね』

『あいしてる?』

『大好き、なんでしょう?その人のこと』

『はい、大好きです!』

『……その言い方だと、分かって無いみたいね…』

 

 

ふぅ、と溜息を突いて、フルフルさんはそのお顔をこちらに向けて、内緒話のように囁きました。

 

 

『ネ、その男を想うときゅぅってして、男の一挙一動に嬉しくなったり悲しくなったりしたのでしょう?』

『はい…』

『たくさん触れて欲しいって、思ってるのでしょう?』

『…は、…い…』

『男が自分以外の人を愛でて触れるのが嫌なんだって、最近気付いたのでしょう』

『………』

『男の隣を、本当は誰にも譲りたくないんでしょう?』

『……………はい』

『ふふふ、可愛い兎ちゃん、教えてアゲルわ。…その欲望を、ヒトは―――「恋」、と名付けているのよ』

『こい…?』

 

 

私が、何度も何度も想ってはよく分からなくて、どうしようもなくて、分からないながらに飼い主さんにぶつけようとした、この感情は、『恋』というのですか……?

 

難しい感情なのに、とても綺麗な響きなのです。……本当に不思議、すとんとこの手に感情が落ちていった気がします。

 

 

『そして、ヒトはその欲望を伝える為に、「愛してる」って言うの』

『そう……なのですか?』

『相手に自分の切なさや辛さを突きつけたりする事もある、自分も相手も傷つける事も時にはある、難しい言葉よ―――…でもね、一番手っ取り早く恋した人を幸せに出来る魔法の言葉でもあるの』

『幸せ……?』

『そ。……まあ、これもこれで難しいけれどネ』

 

 

お肉と葉っぱ、どっちがいーい?と尋ねるフルフルさんにもっふりとくっついて、私は急に上がった体温のままに聞いてみました。

 

 

『わ、私の「愛してる」は、飼い主さんを幸せに出来ますか!?』

『ふふ、…どーかしらねェ…。その時じゃなきゃ分からないでしょうねェ』

『え、ええ…!?』

『女は度胸よォ、夜チャン?オネーサンみたいになるとその瞬間も楽しみになっちゃうんだケド』

『……私は……反応が怖くて…楽しくないです…』

『夜チャンはそれでいいのよォ!初で可愛らしいわァん』

『………むぅ、』

『…ね、夜チャン?』

『はい?』

『もしも男がアナタの気持ちに応えてくれたのなら、たくさんたくさん「愛してる」って言ってあげなさい?…一生懸命、気持ちを伝えるの』

『……?』

『いやねぇ、アナタって天然なんだものォ!相手の男は心配しちゃうんじゃないかしらって、オネーサン心配!』

『むむむ、首が苦しいのです……!』

 

 

 

 

 

 

恋と言うものを知りました、の巻き。







補足(モンスター紹介):


*ギアノスさん
たくさんいる兄弟達のお兄ちゃん。他の兄弟たちは能天気な子とか頭が弱い子が多いので結構大変っぽい。喧嘩口調だけど面倒見の良い子。
兄弟たちは別の(高さの低い)洞窟に避難しているので、大きな夜をもう一つの避難先に連れてって隠れているつもりだった。
雪猿とはかなり仲が悪い。



*雪猿
今回話したのは歳をとった雪猿三兄弟(猿の中で長老的存在)。新参者が嫌い。疑り深いししつこいけど、孫たちの前では良いおじーちゃん。



*フルフルさん
オカm…素敵なオネェさん。恋バナが大好きよん☆ ←で察して下さい。
結構気位高く、自分より弱いのが自分のテリトリーに入るのを嫌う。でも新しいもの好きで可愛い子が大好物なので、親戚の友人である夜を見かけた時には何も攻撃しなかった。
夜ちゃんとつるむ上で、一番シュールな光景を作った御仁。



*ギギネブラさん
凍土での、夜ちゃんの数少ない友人。
ヒッキーな子で自分の巣にやってきた子を驚かすのが好き。フルフルさんやベリオロスさんに夜ちゃんと一緒によく世話を焼かれてる。(あ、その時点で夜ちゃんはフルフルさんに会った事はないよ!)
スーパーヒッキーだけど夜ちゃんと一緒に雪ダルマを作って遊んだ事がある。



*キリン様
出るかどうかは不明。きっとフルフルオネェさんとは仲が悪い。



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小話:さくちゃん



※鬱。色々ぼかして表現してるけど犯罪に手を出してる場面があります。中途半端に明るくもなります。いつもより短めです。

それでも大丈夫な方のみお読みください。





 

 

 

さくちゃんは可哀想な男の子。

 

だけど最初は幸せだったんだ。さくちゃんのお父さんは立派なハンターで、お母さんは村一番綺麗な女の人で、皆から祝福されたんだよ。

 

…なのにさくちゃんのお父さんは女の人が大好きで、お酒が大好きで、人間としては最悪なハンターさんだったから、一途なお母さんとさくちゃんを置いてどっかに行っちゃった。

 

 

 

お母さんはさくちゃんが物心つくまではちゃんと育ててた。ずっとずっとお父さんとの惚気話をするのを除けば、お父さんが長い狩りに行ってるんだと思ってるのを除けば、ちゃんとさくちゃんを育ててた。

 

でもね、さくちゃんはある日お母さんに言っちゃったの。村の子供達から聞いた話を、言っちゃったの。

 

そしたらお母さん、あの優しい笑顔がどっかに行っちゃってね、狂って家の中で包丁と踊ったんだ。その時の傷、今でもさくちゃんの腕に残ってる。

 

 

さくちゃんは隣のお婆さんに引き取られてね、お母さんとやっと会えた頃にはもう、お母さん元に戻ってたよ。

 

だけどお母さんは葉っぱばかり弄ってる。さくちゃんを家に置いてくれるけど、さくちゃんの面倒を見てくれなくなった。

 

さくちゃんは気分の浮き沈みの激しいお母さんが怖かった。でもね、罵倒されて価値がないって言われてから、お母さんを見ると悲しくなった。だからさくちゃんは誤魔化すように家事や勉強に精を出したんだよ。

 

 

 

――――頭の良いさくちゃんはね、学者さんにならないでハンターさんになったの。

 

もっと言うとね、お父さんに似ているさくちゃんがお父さんと同じハンターさんになったら、お母さんに家を追い出されちゃった。

 

 

さくちゃんはそれでも幼馴染の男の子と借家に住んでね、お母さんに仕送りを続けたんだよ。ずっとずっと、お母さんの面倒を見てた。

 

……だけどお母さん、葉っぱが好き過ぎて死んじゃった。さくちゃんも周りの人も止めたのにね、こっそり葉っぱを愛でてた。

 

さくちゃんはお母さんを愛してたかって言われると微妙で、嫌いかって言われたらもっと微妙だからかな、お母さんを埋葬する時、さくちゃん泣かなかった。

 

お家の中を片づけてる時にさくちゃんの仕送りを見つけて、減って無いお金と読まれた手紙を見つけたらやっと泣けたんだけどね。

 

 

 

 

 

さくちゃんはとっても怖い男の子。

 

大きな街に住む事にしたさくちゃんはね、名前を隠してお父さんの後を追っかけ始めたの。

 

街一番のハンターのお父さんと一緒で、立派なハンターさんになったさくちゃん。ある日お父さんに出会ったよ。

 

さくちゃんはいつだって顔を隠してたから、お父さん全然気付いて無かった。矜持の高いお父さんの頭の中はね、どんどん成績を伸ばすさくちゃんをどうやって蹴落とす事だけしか考えて無かった。

 

 

だからね、お父さんは仲間のハンターさん達と一緒に、狩り場の不安定な所へさくちゃんを連れてったの。

 

 

そこで"事故が起きて"二人っきりになってね、さくちゃんを殺してモンスターの餌にしてやろうって思ったの。

 

さくちゃんは腕が上がってもまだまだ経験の足りない子だから、"さくちゃんに味方がいなかったら"さくちゃん死んでたよ。

 

 

 

そう―――お父さんは人を見る目が無かった。

 

お父さんが仲間だと思ってたハンターさんの一人はね、お父さんのことを恨んでたんだよ。さくちゃんはそれを知ってたから、その人と共謀してお父さんを殺しちゃった。

 

 

足をやられて動けないお父さんにね、さくちゃんは頭の装備を外して顔を見せた。名前を名乗った。

 

お父さんは吃驚したよ。心当たりがいっぱいあり過ぎてお母さんの事まで思い出せなかったんだけどね、白々しくお父さんを助けてくれって頼んだの。さくちゃんは溜息を吐いてお父さんを捨てたんだ。

 

さくちゃんがわざと怪我を作ってね、共謀したハンターさんに支えられてキャンプに戻ったの。

 

さくちゃんが回復薬を口に含む頃にはもう、お父さんはぺろりと食べられちゃった。

 

 

それでね、さくちゃんはお父さんの死を美談にしたくなかったから、事情を知ってる何人かと頼んでお父さんが隠してきた噂を街に溢れさせたの。

 

噂が溢れて道端に転がる頃にはもう、さくちゃんは溜息ばかりで、淡々と荷物を纏めてた。

 

 

―――うん、さくちゃんは騒がしいのが嫌いだから、用の無くなった街にさっさとさよならをするんだ。

 

行き先なんてどうでも良かったけど、お世話になった村長さんに帰ってきて欲しいって頼まれたから、気が重いけどさくちゃんは故郷に戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

さくちゃんは寂しがり屋の男の子。

 

 

色んな事が終わってしまったさくちゃんはね、誰かの温もりが欲しかったの。

 

でもお父さんのせいで人間が嫌いになったし、お母さんのこともあって女の人はとっても苦手。お父さんが死んだ後のお父さんの仲間と街を見て、声をかけてくる人間を疑ってかかるようになっちゃった。

 

だから故郷にやって来たハンターさんとは仲良くしたくなかったんだけど、何故か故郷にやってくるハンターさんはさくちゃんの心に痛い事をする。

 

 

―――例えば、銀色のガンナーさんはさくちゃんの拒絶を徹甲榴弾で吹っ飛ばして、嫌がるさくちゃんを振り回す。

 

甘いもの好きのハンターさんは物をまともに投げれないくせに、嫌な時に限って直球で真摯な言葉を投げてくる。

 

 

さくちゃんはその度に迷惑そうな顔をするけど、二人はやっぱり面倒にさくちゃんを放り込むの。どんなに部屋に引きこもってもね、ぶん投げてきてしつこかった。

 

 

――――そんな毎日を繰り返してたらね、さくちゃん少しだけ丸くなったの。

 

誰にも言わないけど、ちょっと有難かったんだよ。少しだけ、気が軽くなったんだから。

 

 

 

 

 

 

さくちゃんは正直になれない男の子。

 

仲の良いハンターさん二人組を見て、すっごく羨ましがってるのに、誰かの手を掴みたくない我儘な子。

 

たぶん親の負い目と嫌悪で作りたくないの。友達程度で精一杯のさくちゃんは、その程度の温もりでいいって強がってる。

 

でも心のどこかで期待してるの。誰かに掬って欲しいって願ってるんだよ。

 

 

 

――――そしたらある日ね、神様がさくちゃんにチャンスをくれた。

 

可愛がってた真っ黒兎が女の子になったの。

 

 

泣きそうな目に負けて拾ったさくちゃん、子供みたいに無邪気で素直な女の子は手に余ったけど、自分みたいに寂しい目に合わせたくなくてちゃんと育てたの。

 

危なっかしいから手を握っていれば、さくちゃんにべったりとくっついて甘えてくる。ころころと変わる表情なんて見ていて楽しかった。時々の悪戯だってご愛嬌ってものだったんだよ。

 

さくちゃんと違って疑うなんてことも知らない良い子だから、その女の子はさくちゃんには眩しかった。熱過ぎた。だけど手を離したくなかったの。

 

 

その関係をなんて言えばいいのか分からなかった。家族愛的なものかと思って深く考えないようにしてたんだ。

 

 

だけどね、銀色のガンナーさんが、知らず知らずのうちに自分を騙してたさくちゃんを貫通弾で暴いた。甘いもの好きのハンターさんよりも直球な言葉だった。

 

 

そしたらさくちゃん、色んな感情に飲まれて滅茶苦茶になっちゃった。

 

無邪気な女の子には難し過ぎる感情を、さくちゃんは何て伝えればいいのか分からなかったの。

 

屑みたいなお父さんと同じ姿の自分が、いつか同じ事をしちゃうんじゃないかって恐れてた。

 

 

そんな時に女の子が触れたのはお母さんが切った傷で、さくちゃんは一瞬全てがこんがらがって女の子を突き離しちゃったの。

 

女の子はさくちゃんに拒絶された事の無い、特別な子だったから、吃驚して泣きながら夜の中に溶けちゃって。帰って来なくなった。

 

 

―――さくちゃんは慌てて探したよ。心臓が痛くなってもずっと探したの。

 

 

だけど、やっとさくちゃんを掬い上げてくれるかもしれないと思った女の子はね、見つからないんだ。さくちゃんはどんどん荒れたよ。

 

 

銀色のガンナーさんにヤキを入れられてから大人しくなったさくちゃんは、色んな所に手紙をたくさん出して、やっと当たりを引けたの。

 

 

大喜びで女の子を迎えに行ったさくちゃん―――でもね、そこで折角治まってたのにまた荒れることになっちゃった。

 

 

 

急いで迎えに行ったらね、一生懸命探してた、無邪気だけど人見知りで怖がりの女の子。…すごく弱っていて、ついに耐えきれなくなっちゃったのか―――何処かにまた消えてしまったの。

 

 

流石のさくちゃんも見つけてくれた恩人の幼馴染を殴れなかったから、女の子を苛めたお爺さんを無言で殴って蹴ってお爺さんを病院送りにして気を取り直した。

 

お爺さんが泣きながらギルドに捕まって一家が滅茶苦茶になったけど、さくちゃんはどうでも良かった。ううん。気にも留めなかったの。

 

 

さくちゃんは女の子を探しに村総出で雪山を探してて、考える余裕が無かった。

 

 

探して探して―――さくちゃんは村人が無理だと首を振った瞬間、その場に置いて一人でさっさと雪山の奥に探しに行ったの。

 

 

途中フルフルに会って殺そうとしたけど、さっさと何処かに行っちゃったから……舌打ちして更に奥に行ったらね、ずごごごごごごって凄い勢いで雪崩が迫って来たの。

 

 

吃驚したさくちゃんだけどね、それは雪崩じゃなくて巻き上がる雪だって気付いたんだ。

 

滑り込んだ大きな塊は、そのまま止まらずにさくちゃんに突っ込んで来た。バランスが取れなくて転んださくちゃんが太刀に手を伸ばしたらね、圧し掛かられて潰れそうになった。

 

 

真っ黒もふもふ、ふごふごした頬でさくちゃんの息の根を止めようとしているその"獣"はね、さくちゃんが探してた女の子だったんだ!

 

 

 

さくちゃんは色々考えた挙句にね、とりあえず女の子の頭を叩いたよ。

 

 

 

 

 

 

咲ちゃんの過去は夜ちゃんの毛並み以上に真っ黒。でも、誰よりも優しいから咲ちゃんはずっと独り身だったのかもしれない。…な、お話。

 

 






※作業BGM前半は谷/山/浩/子さんの「意.味.な.し.ア.リ.ス」。
あの気だるげな曲調を背景に、女の子がさくちゃんの半生を無邪気に意味も分からず絵本でも読んでるみたいに語ってるイメージで執筆。

後半はランダムに明るいのを聞いてたせいか変な流れになりました。無理矢理明るくしてごめんなさい……。



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13.凍土育ちなので寒さには強いです

 

 

 

――――目の前が滲んでよく見えない。もう何十年ぶりに聞いたかのような懐かしい声は、理解出来ない。

 

でも、首を抱きしめるこの腕の熱さだけは、確かに感じる事ができました。

 

 

『飼い主、さぁん…っ』

 

 

フルフルさんが急いで私に知らせてくれなかったら、私はまだあなたに出会う事が出来なかったかもしれない。

 

そう思うと、あの岩の陰でこちらを覗いてるフルフルさんに感謝しきれなくて…。

 

 

『…飼い、主…さん……』

 

 

色々言いたい言葉があったのに。私、何を言えばいいのか……分からなくなってしまいました。

 

ううん、もう言葉なんてどうでもいいような気がする。今は、ただ。

 

 

『もっとギュッとして、ほしいです…』

 

 

あの雷の夜、寝付けない私が眠るまで、あやしてくれたように。

 

ギュッと、もう何処にも行かないように。

 

 

(あっ)

 

飼い主さんは私の甘えた声に察してくれたのか、きつくきつく抱きしめて、雪まみれの毛をぎこちなく梳いてくれました。

 

何だかそれが、言葉を理解できなくても私達は変わらないのだと、不器用に教えてくれた気がします……。

 

 

『かいぬし、さぁん…っ…やっと、会えた……!』

 

 

ぼろぼろと零れる大粒の涙が飼い主さんの頬に当たって雪の中に転がっても、飼い主さんは放さずに何かを囁いてくれました。

 

対して私はだんだんと現れてきた吹雪から飼い主さんをもふもふの黒毛の中に隠して、小さな身体が凍ってしまわないように防ぐぐらいしかしてないのに、飼い主さんはとても嬉しそうで、私の頭を撫でてくれました。

 

 

―――そうしてぴったりと身を寄せ合っていると、フルフルさんが私に手頃な棒を放り投げます。

 

始めはその意味が分からなかった私ですが、フルフルさんの意図を察した時、急いで棒を慎重に口に咥え、飼い主さんの上から退きました。

 

 

【飼い主 さ  ん】

 

 

ゆっくりゆっくり、初めての試みなので文字がガタガタでしたが―――飼い主さんは私の文字が解読出来たようで、ハッとした表情で私を見上げます。

 

 

【わざわざ こんな  所まで ごめ んなさい】

 

 

飼い主さんは私の文字に首を振ると、棒の枝分かれした所を折って、飼い主さんからしたら大きい文字で返答しました。

 

 

【あんなことして、ごめん】

 

 

飼い主さんは焦るように書き終ると、少ししてから覗きこむ私の額に口付けました。

 

………昔、寝る前に私がぐずっていた時を思い出して、笑ってしまったら額をぐしゃぐしゃにされました……。

 

 

【ずっと、探してた。会いたかった】

 

 

その文字に、「私も」と顔を擦り付ければ、飼い主さんの腕にやっぱりぐしゃぐしゃにされるのです。うー…幸せ…。

 

うっとりとされるがままの私の毛を梳き直すと、飼い主さんは躊躇いがちに字を書き始めました。

 

 

【…どうして、兎の姿に?】

 

 

………。

 

……分かんないです。

 

 

むしろ教えて欲しいぐらいなのです。……(´・ω・`)と黙り込んだ私を見て、飼い主さんは【分かんないのか?】と聞いてきて。

 

こくりと頷いたら、飼い主さんはとても困った顔をしていました。

フルフルさんは岩の陰で長い首をびたんびたんしてます……どうされたんでしょう。

 

 

【…まあ、そんなことはどうでもいい】

 

 

私がきょろきょろとしている間に、飼い主さんは雪の上で宣言してくれました。

 

【会えただけで、それでいい】

【俺が人間になる方法を探すし、】

【無いなら無いで、人里離れた所で、一緒に住もう】

 

心配するな、と最後に書いて、飼い主さんはまたコロコロと涙を落とす私を抱きしめてくれました。

 

私は応えるようにゆっくりと頬をすりすりしていると――――微かに聞こえた音に、耳がピンと立って。

 

咲さんは私の様子に身体を離し、今度はさっきよりも大きく、近くから聞こえた声にハッとした顔になって、唇を噛むと、もう一度私を抱きしめました。

 

「……夜」

 

名前だけ、何とか理解した私から名残惜しそうに離れて、飼い主さんは【また来る】と書いて背を向けます。

 

 

私はその言葉を信じて、何度も振り返る飼い主さんが吹雪に消えるまで、ずっとずっと、見送っていました……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――まったくよー、心配なのは分かるけど、もうちょっと落ち着いて欲しいもんだ」

「…悪かった」

「あのおっさんハンターとかブチ切れてたぜ?俺にめっちゃブチ切れてたの…」

「悪かったって」

「今度からはもっと冷静に頼むべ!…じゃ、遅い飯を食いに行こうぜ。俺もうお腹ぺこぺこ」

「俺は別n「キャー!あのお姉さん美人―!!咲ちゃん咲ちゃん俺あの店がいい!!」…婚約者にチクるぞてめー」

「……ごめんなさい」

 

 

―――咲が下山する頃にはもう、村の民家は閉ざされて、飲み屋の篝火が眩しくてしょうがなかった。

 

 

「ま、今日は寒い所にいたんだし、酒飲んで温まろうぜ。むさいおっさんの寒いジョーク聞きながらな」

「俺は飯食ったら行きたい所があるんでな。悪いがまたの機会にしてくれ」

「えーっ」

 

 

ガス抜きをさせようと明るく振舞ってくれる幼馴染には悪いが、咲としてはさっさと調べたい事が山ほどある。

 

豊受が大体の凶暴なモンスターを掃討したとはいえ、あの雪山が夜を受け入れてくれるかどうかなんて分からないし、仲間外れ(という言葉が正しいか分からないが)にされて他のモンスターに絡まれて泣いてるかもしれない時に悠長に出来る訳がなかった。

 

「だがまあ、飯は食うさ」

 

あの店でいいだろ、と指差せば、豊受は少し安心した顔で頷こうとして―――店から出てきた派手な化粧をした筋肉質な男を見て、激しく首を横に振った。

 

 

「無理無理無理!!俺あんなの無理!!」

「いつだったか忘れたが、ジャックが『店員はアレだが飯は最高に美味い』って言ってたんだ」

「無理だって!俺あんな所に行くぐらいならメシマズな店行く!高い金払っても行く!」

「んな連れないこと言うなよ。さっさと逝けよ」

「咲ちゃん!?咲ちゃんもしかしてあのっお、おおお俺の事う、恨んでたりとか…!」

「恨んでねーよ。…苛々するだけ」

「聞こえてるからね!?」

 

 

―――その後、喚く豊受を先頭に店に入り、ファンシーでアダルティで視界汚染から始まり思考がレッドゾーン、なんてなりながら、咲はしっかりと食べ、案の定絡まれてる豊受を放って(流石に彼の分も料金を払ったが)語り部の所へ足を進めた。

 

 

(確か夜が言ってた『凄い人』…みたいなの、語り部の婆から聞いた気がするんだが…)

 

 

此処の語り部がその話を知ってるかどうかは定かではないが―――やるだけやるしかない。

 

咲は村の端にある語り部の家を目指して走る。寒風が耳に痛いが構わず走り……足を止めた。

 

 

「誰だ!?」

 

 

一拍遅れてじゃりっと踏み止まる音がして、咲は太刀に手を伸ばして振り返った。

 

 

 

「――――いやー、純愛純愛、まだまだ人間も捨てたもんじゃない♪」

 

 

鋭い咲の声に呑気な声が歌うようにからかえば、咲はカチン、と刃を鳴らして脅す。鋭く睨んでも、男の声はけらけらと酔っぱらったように楽しげだ。

 

 

(白くて……キラキラ…だな)

 

注視する先―――篝火に照らされる長身の人物は、かつて夜が言ったように頭から足まで『白く』腕やら腰やら頭に回された水晶の輝きで『キラキラ』している。

 

鼻先まで隠しているせいで、その男(と判断しても大丈夫だろうか?)の意図を深く読み解くのは難しかった。

 

 

「……お前は誰だ」

「名前は無いよ」

「……人間か?」

「君達にもう、祀られていない神様だよ」

「…胡散臭い…」

「うん、『皆』自覚してる」

 

 

ちゃんと答えてるのに意味がないような、中身の無いような、そんな口調の自称・神様とやらに、咲は期待を込めて質問を続けた。

 

 

「――――黒い、兎を知っているか?」

「知っているとも。兎さんに文字を教えたのは僕だからね」

「……お前以外にも…なんだ、似たようなのがいるのか?」

「僕達は中途半端な神様だから、人格は統一されていない。兎さんにあの山菜を上げたのは弟だよ」

「………何で、兎に渡した?どうして此処にいる?」

 

 

詰問する咲の目の前で、神様は「んー…」と手を当てて、のんびりと答えた。

 

 

「僕達はお祭り騒ぎが大好きだ。だから自分に素直な獣たちは可愛がる…何をしでかすか分からない所なんて、見てて楽しい」

「………」

「兎は無邪気でたった一匹だけで同族がいなかった。珍しいもの好きの姉と世話好きな弟のお気に入りで、彼女の物語を僕らが記憶するのも面白いかもしれないと思った」

「記憶…?」

「人間は歴史を適当に扱う。歪める。…忘れもする。だから、その『被害者』でもある僕達だけは、正しく観測する」

「……で、お前らは夜の物語のオチが知りたくて来た、と?」

「正解!」

 

 

ぱちぱちぱちと手を叩く神様に苛ついて切りかかってやろうかと思ったが、咲は息を一つ吐くことで耐えた。

 

ずるずると暴かれる真実を整理して―――最初のあの言葉を思い出せば、今の夜の状態を知っている、はず。

 

 

「…あの山菜は、どこにある?」

「んん?」

「夜に与えたあの山菜だ。あれは何処に生えてる?」

「内緒。それは僕達だけの内緒」

「……なら、お前らの欲しいものなら何でもくれてやる。寄こせ」

「えー。僕達は物語の始まりから終わりを覚えていたいだけだから。人間が渡せるものなんて何もないよ……んん?」

「?」

「―――どうして?…僕ははんたーい。…んん、駄目だよ、手が加えられるのは…あー!駄目だってば!」

「……一人で何してんだお前…?」

 

 

急に一人で、誰かと会話するようにわたわたする神様を冷めた目で見れば、急に身体に巻きついた水晶から光りが溢れる。

 

閃光弾を投げられたような光りにくらくらしていると、つかつかと神様が咲に近寄り、唇に指先を押し付ける。

 

 

 

 

「こぉーんばぁんわー?『皆の』お姉さんよぉ?キャハ☆」

「……チーズ野郎よりも酷いのが出てきたな」

「ひどい~折角お姉さん、ア・ナ・タ☆の味方をしてあげようと思ったのにぃん」

「そうか。じゃあさっさと山菜を渡してどっかに失せろ」

「つれない~!お姉さん泣いちゃうゾ☆」

「……チェダーのウザさがまともに思える日がくるとはな……お前は何を望むんだ」

「お姉さんはね!ドロドロの恋も好きだけど、ハッピーキュートでポップな恋も好きなのよん!…だからー、お姉さんが君に、救いの種を差し上げちゃう~!」

「……種?」

 

小さな袋を大きな胸の谷間から引っ張り出すと、神様(お姉さん)は唇に指を当てて笑った。

 

 

「元々ね、あの山菜は昔々の大昔に死んだ雷の竜と生贄の少女との悲恋の末に生まれた花が退化したものなの。食べちゃった子が『イヤン!もうムリ~』ってなったら効果が切れちゃう、『やり直しのきく』山菜ちゃんなのよん☆」

「やり直しのきく…」

「アナタに渡したその種はね、竜と娘から生まれたと言っても良い花の種。山菜様の始祖ってことね」

「―――これを植えて、花になったら煎じるなりしろって事か?」

「んーん!贈ればいいのよ。花をね」

「……どうやって育つんだ―――おいっ」

 

 

手の中の袋を弄る咲に枝垂れかかって、神様は甘い吐息をかける。

咲が睨みつけてナイフに手を伸ばすのを阻止すると、甘えるような鼻にかかった声を出した。

 

 

「雷の竜の子だもの。お父さんの力がなきゃあね。お母さんの力で花は効果を出すの」

「……植える所は危険な所ってか」

「ふふ、せいかーい!……でもね、いいの?」

「あ?」

「この花を渡したら、あの子はもう、獣に戻れないの。ポイ捨てなんて許されない。アナタが大事にしても、兎ちゃんが途中で後悔して泣き出しちゃうかもしれない」

「………」

「ねえ」

 

 

あの子にもし恨まれてもいいの?と顔を覗き込む神様の顔は、やはり見えない。

心臓の辺りに掌を乗せて、「私達はいつだって意地悪なの」と囁く神様は、しかめっ面の咲に艶やかに微笑んだ。

 

 

「――――アナタはそんな神様からの花を、彼女に捧げられる?」

 

 

 

 

 

彼はそれを愚問と鼻で笑って、神様を突き飛ばした。






*備考

神様→八百万の中途半端な神様。
昔は祀られてたけど今は祀られて無くて、彼らの文献も滅茶苦茶なせいで人格も滅茶苦茶。
だから一つの身体に何人もの人格がある。名前も無いので父、とか母、とか姉やらとお互いを区別してる。身体は人格に合わせてひょろくなったりセクシーになったりする。

元は大木とかの神様だったんだけど忘れられて云々で、自分達だけはちゃんと歴史を記すって意気込んで存在を保ってる。

力関係はあるような無いような。強引な子(今回で言うと姉)とかの振る舞いで変わる。
直接世界に響くような事はしないけど、ちょっとぐらいならいいよねって子が多い。

祀られたのに捨てられた+歴史を歪ませる人間より単純お馬鹿が多いモンスターの方が好き。



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14.お馬鹿さんではないのです

 

 

『(´,,・ω・,,`)』

『何だか見てるこっちまで幸せをお裾分けできそうだわぁん』

『フルフルさん―――飼い主さん、いつごろ来てくれるのでしょうか…』

『ん~、まだ日が昇ったばかりだから、まだまだだと思うわネ』

『………そう、ですか…』

『あっで、でも、もしかしたら早く来るかも!来ちゃうかも!』

『(´,,・ω・,,`)』

 

 

 

―――朝日を眺めながらおはようございます、真っ黒兎です。

 

飼い主さんが来るまで暇なので、私はキラキラ綺麗に輝く雪を踏みしめ、起き出したフルフルさんの周りで跳ねたりゴロゴロしたり、逆にフルフルさんにゴロゴロされたりしながら飼い主さんを待っていました。

 

『ころころころーん☆』

『きゃーっ』

『ころーん』

『てやー』

『そいやー』

 

ぺいっとフルフルさんに転がされた私は、ころんころんと丸太のように転がって……そのまま崖から落ちてしまう所を、フルフルさんが素早くキャッチしてそのまま飛び上がってくれました。

 

キラキラと雪が眩しい山の下、人間の村は小さくて見え辛かったのですが―――何だか世界が玩具のようで、私はとてもはしゃいでいて。

 

上機嫌なフルフルさんと小さなモンスターの群れを上から眺めて、私は高ぶった感情のせいかぴょんぴょんと跳ねる耳をそのままに、この興奮をフルフルさんに伝えました。

 

 

『全部が小さくて可愛らしくて…綺麗です!飛ぶのって楽しいんですね!』

『まぁね、気晴らしにはちょうどいいわよん♪』

『私もフルフルさんみたいに自由に飛べる羽が欲しいです…』

『フフ、やめときなさい。男は自由な女は嫌いよ』

『……?でも、スウィーツさんはチェダーさんと仲が良いです…』

『んー、それは振り回されたいドM男なんじゃないかしら。もしくは惚れた弱みで何も言えないとか』

『ほー?』

『あぁん!その分かってない顔、可愛いっ』

『ひゃっ、落ちてます落ちてますっ』

『駆け落ちも良いものよー!』

 

 

ヒャッハー!と落ちたり舞い上がったりと遊び始めたフルフルさん。私は楽しいの半分、怖いの半分で、思わず身体の毛がぶわっと膨れて丸まりました。

 

私の耳が風圧であっちこっちに揺れるのにちょっと泣きそうになっていたら、フルフルさんは少し声を落として『寂しくなるわね…』と続けます。

 

 

『……私も、寂しいです。人間に戻ったら―――戻る事が、出来たら、…もう、フルフルさんと、おしゃべり出来ないし…』

『ええ。折角、女の子トーク出来る子見つけたのに…あーあ、オネェさん寂しくて死んじゃうー!』

『ふあぁぁぁぁ落ちてますぅぅぅぅ!!』

『私も恋がしたぁい!人間になっちゃおうかなー☆』

『急カーブは耳にキツイですぅぅぅぅ!!』

『可愛いおんにゃのこになって、たくさんの男をメロメロにしちゃ―――』

 

 

 

――――その時の音を、私は言い現す事が出来ません。

 

 

とにかく耳が壊れてしまいそうな破裂音としか…一瞬で目の前が青白い光に包まれて……ぶるぶると震えながら辺りを見渡すと、フルフルさんが『上よ』と教えてくれました。

 

フルフルさんは無言で力強く舞い上がると、凛としていて綺麗で…神様のような、澄んだ獣と顔を会わせました。

 

ちょっと円らな瞳がとても可愛らしくて、私はさっきの雷で縮こまった身体を伸ばし、フルフルさんを見上げてあの可憐な子に手を向けます。

 

『とても綺麗な子ですね、フルフル…さ…ん…?』

 

 

私はのほほんと、この子とも仲良くなれると思って、きゃっきゃと勝手にはしゃいでいました。

 

……あ、私達獣にとっては攻撃(今回のように落雷や、私だと雪玉をぶつけたりとか…)は気を引く為の挨拶(加減によっては威嚇ですが)みたいなものなので、……見た目の華奢さもあって、私はてっきり遊びに誘われたのかと、そう思っていたのです。

 

 

 

――――フルフルさんの口から、飼い主さんのように低い、鋭い声が出されるまで。

 

 

『飛んでる時に何してくれとんじゃワレぇぇぇ!?じゃじゃ馬もいい加減にしねぇと馬刺しにして崖から捨てんぞ、ああん!?』

『ふ、フルフルさん…?』

『うるさいわね、このドブスッ妾の山で汚物と一緒に飛んで視界を汚したんだから殺されてもおかしくないと思いなさい!』

『誰が汚物で汚したのよォ!?こっちはテメーのせいで気分が悪いんだよ害獣が!』

『妾が害獣!?ふざけないで!妾は天に愛された神獣なんだから!貴方みたいな成り損ないとは違うのよ!!』

『人間に狩られるような獣が神獣なワケないでしょー?自惚れ過ぎwww乙wwww』

『半端モノに言われたくない!!』

 

『((( ;゜Д゜)))』

 

 

お、お二人(匹?)とも、仲が悪いのでしょうか……いえ、仲が悪いんですね、お互いバチバチ本当に雷出してますもの。

 

……あ、あの、お二人は雷の獣だから喰らっても平気でしょうけど、私は耐性が無いのです。お二人の雷なんか喰らったら死んじゃうのです……!

 

 

命の危機を感じた私は、中々離れないフルフルさんの手足から逃れて、ずるり、と。

 

 

『ふあぁぁぁぁぁぁ飼い主さぁぁぁん!!』

『―――夜チャン!?待ってなさ―――』

 

 

 

思ってたよりも怖い落下の途中、フルフルさんの声はぷつりと聞こえなくなりました……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、夜ちゃんのこと、好きなの?」

 

 

登山用の荷造りをしている咲の背中に、豊受は握り飯を片手にどうでもいい風を装って、尋ねた。

 

「……急にどうした?」

「いやね、船の時からずーっと思ってたのよ。女には異様に距離置くお前が、男には距離置くどころか失せろなお前がよ?せっせと女の子の世話焼いちゃってさ―、」

「…俺だって、人の情ぐらいはあるぞ。あんな世間知らずを外に放っておけるか」

「――じゃ、最近人当たりが良くなったのは?」

「………」

「お前が送って来た手紙、何十回『夜』って名前が出たろうなー?幾らの金を積んだんだっけ?」

「………はあ、俺はあんまこういう話を他人に言いたくないんだ」

「ウブだな」

「殺すぞ」

「ごめん…」

 

 

剥ぎ取り用ナイフがあまりにも鋭く光るものだから、豊受は泣きそうなのを堪える……震えてしまったけれど。

 

対する咲は鼻を鳴らしてナイフを仕舞うと、限界までホットドリンクを詰めながら口を開いた。

 

 

「お前が聞きたい言葉は、悪いが誰にも言う心算は無い」

「誰にも?」

「…俺は、なんだろう、何て言えばいいのか―――そういう言葉って、本命じゃない誰かに言うと、……安く感じないか?」

「……ごめんね、安い愛で…」

「お前は『好き』は連呼しても『愛してる』は恥ずかしがって途中で死んでるって婚約者から聞いたぞ」

「聞かないでよ!」

「向こうから勝手に惚気られたんだぞ」

「ごめん…」

 

 

ちょっとニヤッと笑いながらの謝罪に眉を寄せながら、咲は林檎を一個、鞄に詰める。

 

 

「―――誰かに、噂話でもするみたいに、淀んだ所で吐かれた愛の言葉って、言えば言うほど安く見える。

そのふざけた口で言う『愛』に、重みなんてあるのか?その言葉の信頼性がどんどん――それこそメッキが剥がれるように崩れているようにしか見えない。……『愛』の言葉だけは、もっと神聖なものとして扱われるべきだ」

「お、おお…?」

「酒場やら夜の街を見てみろ。娼婦とふざけて遊ぶ奴、婚約や結婚までしてるのに女に手を出して相手を裏切る奴。みんなドロドロしてて汚い―――それで生計を立ててる人間もいるから、彼らを指差して非難はしないがな」

 

 

砥石を適当に突っ込むその手を、不意に止めて。

 

咲は、光りで目を細める豊受に振り返った。

 

 

「俺はああはなりたくない。大事に大事に、その言葉の価値が高いままで、夜にその言葉を贈りたいし、受け取ってもらいたい。……それで、俺の気持ちは伝わっただろう?」

「………咲…」

「……」

「………咲……、お前って、詩人だふぁぶべっ」

 

 

咲は最後の最後まで握り飯片手に茶化した豊受の腹を思いっきり蹴ると、荷物を担いで(横腹を軽く蹴ってから)豊受を跨いで部屋を出た。

 

「む゛、無茶ずんなよ゛…げほ、したらお仕置きだかんなー!」

「この歳になって無茶するかよ―――…てめーは黙って床に零した飯でも食ってろ」

「酷いっ」

 

 

 

イラッとしたが、豊受が反応に困る(というか難しくて理解出来ない)事や恥ずかしがる時は茶化す性格は、昔からよくよく知っていたのですぐに気にならなくなった。

すでに思考は、これからの事や夜の事だけだ。

 

 

咲は幼馴染を部屋にさっさと宿から出ると、足早に夜のいる雪山に向かった―――まだ早いせいか、特に咎める者はいない。

 

 

(……あいつ、誰かに虐められたりとか………ていうか、デカイくせに情けない顔を下げてるから虐められるんだぞ、まったく…)

 

 

あの後、部屋に戻ってからずっと、夜が虐められてないか、寒さで震えてないかと心配だった。チラチラと窓に目をやり、寂しげな獣の鳴き声がしないか、ずっと耳を澄ましていた。

 

あんな雪山じゃあまともな食事も出来ないだろうから、足りないだろうが夜の好きな林檎に栄養剤、…必要な物を考えているうちに眠りに落ち、背に担いだ革袋に色々と詰め込んだ。

 

 

(しばらくはこれで―――あの花について調べが済むまで、とりあえずたくさんの栄養剤といくらかの食べ物を与えよう。さっさと調べを終えたら、夜がたくさん食べれて安心して眠れる場所に連れてって…)

 

 

―――ざくざくと雪を割って山の上を目指しながら、咲は今後の拠点についてぼんやりとだが見通しをつける。

 

……実はこの道、本来なら登ってはいけない道だ。早くは着けるがモンスターとの遭遇率が高い、危険な道である。

 

……何度も嫌になったハンター業だが、今回だけはハンターであって良かったと思う。

 

荒稼ぎすれば、夜に不便な生活を強いる事もないし、その特権で夜に出会えるのだか、ら―――?

 

 

(…なんだ、急に雲……っ!?)

 

 

びゅおおおおおっと上から落ちてきたのは、真っ黒な塊。

 

どすんと落ちて、びくびくと震えている兎に、咲は悲鳴のようにその名を呼んだ。

呼んで―――耳がピンと立ってぴこぴこと動き、尻尾がぽふぽふ動き始め―――咲はやっと息を吐けた。

 

 

「夜、お前なんつー所から落ちてくるんだ…」

「(´・ω・`)」

「虐められたのか?どいつにやられた?」

「(´・ω・`)」

「……あ、そうだった、俺の言葉は通じないのか…」

 

 

けれど辺りに手頃な棒は無い。

 

腕で書くにも、この堅くなった雪にそれは無理と言うか…しょうがない、とりあえず労わりの気持ちも込めてとふさふさの毛を撫でた。

 

目を伏せて気持ちよさげな夜を思う存分もふもふした後、咲は荷物から林檎を何個も取り出す。

夜は嬉しそうに鼻をひつかせて、林檎を手渡して栄養剤をかける咲の腰に頭をすりつけ―――まるで猫のようだ、と咲が笑って林檎を与えると、夜はぺろりと飲み込んだ。

 

 

何度も何度も飲み込み、咲がまた林檎を手渡そうとしたら、伸ばした腕をやんわりと退かされた。

 

咲が「どうした?」と声をかけると、夜は咲の隣で丸くなる。

寒風を塞いでくれた夜は撫でてーと咲にすり寄って、もう林檎はどうでもよさそうだ。

 

 

「お前って案外気ままだよな…」

「(´,,・ω・,,`)」

「昨日は誰にも虐められなかったか?どこで一夜を過ごし……あー、棒があればな…」

「(´;ω; `)」

「……分かったよ、何処にも行かないから泣くな。装備を引っ張るな」

「(´;ω; `)」

「い、いや、別に怒ってるわけじゃ…あー…くそ、ちょっとの間でいいから…」

「(´;ω; `)」

「泣くなって―――、そうだ!夜、お前に見せたい物がある」

 

 

困り果てた彼が例の妖しい、不思議な種を袋から取り出し、きょとんとした夜によく見えるように、腕を差し出した。

 

 

「真夜中にな、お前が言ってた…なんだ、『凄い人』?っていうのに会ってな…そいつから貰った種だ」

「(´・ω・`)」

「雷の竜と人間の悲恋の末に出来た子供だってよ。一体どういう流れでこんな種になるんだろうな。オチが分からん」

「(´・ω・`)?」

「………うん、お前も分かってないな…いや、分かってるけどな、これはただの自己満足だ」

「(´・ω・`)!」

「…夜、俺はどんな危険な場所でも、お前が人間になれるように、この種を植えに行く。時間はかかるかもしれないが、俺を信じt」

「もっふ」

「」

 

 

――――ちなみに、打ち忘れではない。

 

咲が決意表明を、届かないとしてもこの場で口にしようとしてる所をこんな形で遮られたら、誰でも口をパクパクしてしまうだろう。

 

 

咲の手にあった希望の『種』は、夜の口から胃へと、消えてしまった―――…。

 

 

 

 

 

 

短いですがここで失礼。夜ちゃん虐めがしたいのか咲ちゃん虐めがしたいのかだんだん不明になってきました…。

 





補足(モンスター紹介):


*キリン様

・唯我独尊この俺様が最高なんだよ下等生物がッ…なのがキリン一族。代々人間が大っ嫌い。自分達以外綺麗な者以外は大っ嫌い。
お気に入り以外には超冷たい+好戦的なフルフルさんとは昔、テリトリー争いで大喧嘩して以来ことあるごとに喧嘩しっぱなし。凍土の氷より冷え切った仲。

・雷を神聖視しており、外見アレなフルフルさんが雷をバンバン吐く事が気に食わない。選民思想にどっぷり浸かった子。
でも人間から山を守る為に(キリン様にとって)下等生物を守ってあげる事も多々あり、弱いモンスターには崇められてたりする。



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15.好きな人の為なら頑張ります!

 

 

 

―――何を思ったのか、夜は咲の手から人間になれる(らしい)花の種を、ぱくっとごくっと胃に流した。……ちなみに、その時の顔は(´・ω・`)である。

 

 

美味しいとでも思ったのかと叱る声は何処かに吹っ飛んで、咲は何も無い手のひらをワナワナと震わせ、すり寄る兎にされるがままにもきゅもきゅされていた。

 

 

(……おい―――おいっ!どうすんだこれ、どうすんだこれ!?)

 

 

植えるどころかまず吐かせることから始まるのか。あんな性質の悪そうな自称神がくれる物なんて、碌な顛末を向かえないものだなとか、とにもかくにも咲の思考は滅茶苦茶だ。

 

しかも飲み込む―――体内で毒にでも変じてしまったら―――ああ駄目だ、これ以上考えるのも恐ろしい。

 

 

「よ…夜、…具合は悪くないか…?」

「(´,,・ω・,,`)」

「ああうん、好調なようで安心した………と言うと思ったか馬鹿!何で種を食うんだお前は!植物だったら何でもいいのか!?今までもそうしてきたのか!?」

「(´・ω・`)」

「訳分からん時に種を見せた俺だって悪い!悪いけどな、何で食うんだ。俺は前から言ってただろ、種は食い物じゃないから畑にやれって!俺が手を付けない物には手を付けるなって言っただろうが!」

「(´;ω; `)」

「泣くな!俺が泣きたいわ―――これで、やっとお前と一緒になれるって思ったんだぞ!舞い上がってたんだぞ!……くそっ」

「(´;ω; `)」

「…………」

「(´;ω; `)」

「………もういい。…怒り過ぎた、ごめん」

 

 

のほほんとした顔に苛ついて怒鳴れば、言葉の分からない夜は大きな瞳から涙をポロポロと零す。

 

ごめんね、ごめんねと咲の足に額を擦り付ける夜を見ていたら何だか怒る気も失せて、咲は抱きついて荒れた心と泣きそうな目を宥めた。

 

 

―――今、誰よりも不安だろう夜の前で、……いいや、夜を守る立場の人間が、こんな事で泣いていられない。

 

 

(あとで無理矢理吐かせるか。消化される前に何とかしないと…)

 

 

夜には苦しい思いをさせるが、しょうがない。我慢して貰おうとしょんぼり垂れた夜の耳を優しく擦る。

 

夜がオドオドと顔を上げ、咲がポンポンと頭を撫でると、……いや、撫でて数秒。またも辺りが暗くなる。

 

「…まさか、またモンスターとかじゃ―――」

 

 

 

―――正解です。

 

 

……と、言わんばかりに「どぉぉぉぉぉぉぉんんん」と夜よりも大きな音を立てて、二匹の獣が堅い雪に身体を突っ込む。

 

バチバチと鳴る雷に、咲が提げた太刀を抜く―――が、二匹の獣は小さな咲よりも目の前の相手にしか気が入っておらず、何をゴングにしたのかほとんど同時に相手に殴りかかった。

 

 

『―――ハンッ馬刺し女、アンタはこの程度なのぉん!?神獣ww様wwなんでしょwww』

『うるさいわよ卑猥な顔した失敗作が!私の雷で整形して差し上げましょうか!?』

『誰が卑猥じゃぁぁぁぁぁ!!ぷりちーきゅーとでしょうぉぉがぁぁぁ!!』

『アンタ達を狩る人間はみんな思ってるわよ!この…変態がッ』

 

 

お互い吠えて(咲には会話の内容は分からないが)は殴り付けるその乱闘は、女の醜い戦いを想像させるものだった。

 

荒々しい獣とグロテスクな獣が気付かぬうちにと、咲は静かに太刀から手を離し、夜の方へ振り返る。

 

 

「―――夜、…夜。静かに動けるか?」

「(´;ω; `)?」

「おま…もっふもふだな!?」

 

 

怯えてしまったのか―――元々もふもふしていた毛をもっふもふに、毛玉のように丸まって動かない夜に、咲は一瞬めちゃくちゃにもしゃもしゃしたくなったが、……我慢する。

 

なるべくもふもふを意識しないようにそのふかふかの頬をぺしぺしと叩き、向こうのエリアへと指を指す―――毛玉兎は数秒きょとんとした後、のっそのっそと指示通りに動きだした。

 

 

「静かにな。静かに…」

 

 

かつて、夜が狩りを初めて数カ月目にリオレウスと遭遇した時のように、咲がモンスターの動きを見、夜が恐る恐る後退した。

 

度々二匹の暴走を心配そうに振り返る夜だが、咲の身も危ない事に気付いたのか逃げる歩みを速める。

 

 

あと少し、という所で咲も静かに下がり―――ドンっと夜の尻にぶつかった。

 

 

「おいっどうした…?」

「……」

「夜?」

「……ッ…」

「夜!?」

 

 

痛みに耐えるようにぐっと丸まり、ぷるぷるどころかぶるぶると震え、……夜はそこから一歩も動かない。

 

苦しそうな「きゅ。きゅっ」という弱弱しい声だけが聞こえて、咲は荷物の中の解毒薬で効くだろうかと焦りながら(夜の為にと入れた食料やらの中から)目当てのモノを引っ張り出す。

 

蓋を開けて夜の口に付けようと腕を伸ばせば、毛並みの良いそれに触れる事も無く―――夜はどすん、と横に倒れた。

 

「よ、よる…っ」

 

 

小刻みに震える夜に何とか解毒薬を飲ませようとしても、夜は珍しく暴れて嫌がる。

 

 

(……こんな所で夜を失う訳には……!)

 

 

いかない、と意気込んで、咲は無理矢理夜の口を開けた。

 

夜は前足をじたばたさせるが、決して咲の手に噛みつこうとはしなかった。ただ嫌だ嫌だと顔を振り、前足をじたばたと暴れるだけ。

 

赤子のような嫌がり方が逆に咲の涙を誘うも、咲は心を鬼にして解毒薬を流した。

 

 

「大丈夫、身体に、悪いもの、じゃ、ない。…苦いのは、我慢しろっ」

 

 

咽て戻そうとする口を身体を使って閉じ、夜がぐったりと暴れるのをやめてから身体を離す。

 

ぐったりとしてるが視線を合わせる事は出来るようで、咲は少し安心した―――ほっと息を吐く前の事だった。

 

 

 

―――バチバチバチと。雷が咲の背後で鳴り、喉を引き攣らせた咲は夜から離れて横に転がる。

 

雷は倒れる夜では無く咲だけを狙い、しつこくその身を貫こうと雷の柱を立たせた。

 

 

(…チッ。この馬と戦ってたフルフルは―――)

 

 

ゆっくりと鞘から太刀を引き抜いて辺りを見れば、フルフルは頭を岩に突っ込んで沈黙を保っている。

 

目の前のキリンは乱闘のせいかフーフーと息荒く、所々血だらけだ。……まったくキリンを倒す道具が無いが、地味に突けば倒せるかもしれない。

 

幸い、夜には興味すら持っていないようだし―――咲はそれだけ分かればもう十分と、落雷の合間を縫ってキリンに斬りかかった。

 

 

咲はキリンを狩ったのは昔。それも二回だけしか無い。避け方も直感だ。

 

(……確か、このお綺麗な角を折ればいいんだろ…!)

 

 

―――転がりざまに角を斬りつけて、不意を狙って迫るキリンに雪の塊をぶつけて。

怯んだキリンの喉元を鞘で横殴りにし、下から輝く角を穿った。

 

 

(フルフルのおかげでだいぶ弱ってるな…)

 

 

パラッと角の欠片が散るのを見たキリンは甲高く吠えると、前足を高く上げ、その蹄で咲の頭をカチ割らんと振り下ろす。

 

「―――やべ、そろそろ研がないと…」

 

難無く避けた咲に苛立ちの声を上げるキリンから一旦大きく距離を開けて、ポーチから砥石を取り出すと雷を避け、数秒で研ぐ―――光る刃を握り直し、キリンに身構えた―――

 

 

『こんんのぉぉぉぉクソガキゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

「…ッうるさ…!」

 

 

咲には分からない獣の言葉で、フルフルは勢いよく岩から顔を引き抜く。

 

耳に手を当てながら倒れる夜の方を見遣れば、まだ震えはあるものの、蹲るように少しずつ起き上がっている。

 

(そのまま向こうのエリアに行ってくれれば―――)

 

 

だが良くも悪くも優しい夜が、自分を見捨てるような真似が出来るかと言われると……それに、この二匹の興奮状態によっては動かない方がいいかもしれない。

 

 

―――咲はフルフルの方から夜の方へ視線を向けるキリンに思いっきり雪玉をぶつけると、案の定キレたキリンから太刀を仕舞って逃げる。

 

キリンは苛立たしげな声を上げて雷を飛ばすが、咲の身のこなしに負けたのか疲れに負けたのか、雷の命中率が下がっている―――フルフルからもだいぶ離れたし。……何となくフルフルに目を向けた時だった。

 

 

(真っ白―――いや、これは……!)

 

 

 

――――最悪な事に、フルフルが雷を乱発していた。

 

それも怒りのあまりに常のストッパーが外れたのか、届かないだろう距離にまで雷を飛ばしている。

 

咲もキリンもこれを同時に受けたが、転がって痺れて動けない咲に対し、キリンはよろめいた後に高く吠えた。

 

 

手から離れた太刀に手を伸ばす頃には、キリンの痛めつけられた角は青く輝き。

 

誇りだっただろう美しい角を傷つけた人間に、動けない内に痛めつけてやると、雷を、落とす―――

 

 

 

 

 

 

ずざざざざざざざざざッ。

 

ドンッ

 

 

「なっ―――!?」

 

 

凶暴性を隠さぬキリンをふっ飛ばし、咲目掛けて突っ込んで来た、『彼女』。

 

吹っ飛ぶ咲の目の前で、雷に打たれて。そのまま横に転がって。小さく口を動かしたかと思えば、耐え切れずに血を吐いていた……。

 

 

 

「よ、夜ッ夜―――!」

 

 

無様に転び、這いずりながら、咲は重症の夜に近づいた。抱きしめた。脈は―――あった。

 

「きゅう」とも鳴けないで、夜はボロボロになりながら、咲にすり寄った。首筋に鼻を押し当て、ふすふすと彼の匂いを嗅いだ………多分、もう、目が見えて、なかった。

 

 

咲は健気で馬鹿で愚直で、そんな夜にどう反応すればいいのか分からなくて。身体が芯から凍って、「夜の前で弱い姿を晒さない」と決めた事も忘れて、涙で雪を溶かしながら血が溢れる夜に抱きついた。抱きつくくらいしか何も考えられなかった。

 

 

(……待って、くれ)

 

 

母親に縋りつく子供のように。解毒薬を嫌がった夜のように。全てを無くした女のように。ふるふると頭をふって、ガンガンと殴り付けるように痛い頭を夜に擦り付けた。

 

 

(あと少しで、俺は)

 

 

手に落ちた涙を舐めていた夜の頭が、だんだん力無く落ちていって。

 

 

(やっと、もう―――)

 

 

何て言おうとしたのか分からない。「何か」を夜に伝えたかった咲の口は、二匹の雷獣による極限の雷に飲まれて、何処かに溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

一途な女の子に恋したら、雷に引き裂かれたお話でした。

 

 



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16.だから、私と一緒にいてくれますか?

 

 

「―――あら、豊受さん。綺麗な花束ですね」

「ああ、珍しくアイツが好きな花だったんでね。飾ってやれば少しは……って」

「そうですか……ああ、此処は寒いでしょう?中でお茶は如何です?」

「いや――待たせるのもこの花が可哀想だからね。さっさと送り届けとかないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――

―――――

―――――――

 

 

(……あたま、いたい……)

 

 

真っ暗な世界から頭痛に苛々しながら飛び出せば、真っ白な天井が視界いっぱいに広がっていた。

 

 

「……お。咲ったらもう起きたの?」

「とよ…うけ…」

「医者が言うにはまだまだ起きませんよって言われたんだけどねぇ……なんつーの?流石だわ」

 

 

空色の花を花瓶に移して、豊受は違和感の残る笑みを浮かべながら少し痛んだ椅子に座る。

 

確かに隣にいるのに、とても遠い所にいるような―――そんな違和感が、二人の間にもやもやと漂っていた。

 

 

「……気分はどーよ?」

「頭痛い」

「そんぐらいで済んで良かったねー」

「気持ちが籠ってねーぞ」

「………」

「………」

 

 

―――お互い、触れてはいけないものに触れる勇気を出しきれなくて、空元気な会話だけが部屋に満ちる。

 

咲の口は勝手に動いても目だけは死んでて、…けれど微かに。微かに、豊受に期待している。

 

一方期待された豊受は息を吸って、口から言葉にならない音を漏らし、また息を吸って―――それを何度か繰り返した後、自分の手を見つめて、話を切り出した。

 

 

「咲。あのな、お前が山に行ってからしばらく―――あんまりにも雷が酷くて、俺がお前を探しに、行ったら、……フルフルとキリンが、暴れてて……」

「………」

「お前は…左腕と右頬、足と……結構、重傷で。近づこうとしたらな?その……」

「………兎が、いたのか?」

「―――ん…」

 

 

どんよりと咲の瞳が濁り、包帯を巻いた手に爪が食い込む。

豊受は見てられないと思ったのか、咲に背を向けて、カーテンの皺をなぞりながら、続けた。

 

 

「お前の傍で、雷から守るように、吹雪から守るように、…寄り添う、ように……兎、が」

「…………もう、いい…」

「辺りが血だらけで、でも、安らかそうに……」

「……もういい…ッ」

「俺が来たのに気付いて、よろよろしながら身を引いて、」

「―――もういいって言ってんだろ!?」

 

 

手元の枕を豊受の背中に叩きつけ、息の荒かった咲はそのまま―――ずるずると背から落ちて、シーツに顔を隠して熱い涙をぼたぼたと落とした。

 

何とか泣き声を消そうとして、結局殺しきれないまま、咲は泣く。ひたすら泣く。…ただ、泣く。

 

 

「"夜"ちゃん、しばらくは意識があったんだ……俺がもっと早く…―――ああ畜生ッ!!」

「…、……ッ…」

「あの時、お前一人を山にやらなけりゃ―――俺が…っ…俺……」

「……今更、だろ……お前は何も悪くない」

「……そんなわけ、無いだろ!?俺はっお前を、」

「お前は悪くない。俺が……俺が、悪いんだ…俺が……」

 

 

嗚咽は「夜」に変わって、止まらない涙を見られたくなくて、咲は布団を引っ張って顔を隠す。

 

熱い瞼を閉じれば、長いような短いような夜との思い出が、くるくると万華鏡のように、輝いた。

 

 

(もっと、恥ずかしがらずにたくさん、『夜』って呼んでやればよかった)

 

(もっと甘やかして、優しくしてやればよかった)

 

(あの日、突き飛ばさずに、抱きしめてやればよかった――――!)

 

 

 

「咲……」

「…ん、だよ……っ…布団、引っ張んな…!」

「まだ治ってないんだ。身体に悪い格好してんな」

「うるさい…うるさい!どっか行け!!」

 

 

布団をきつく抱きしめて怒鳴れば、豊受は鼻を啜る音と一緒に「分かった」と言うと、枕をベッドの端に置いて、しゃーっと仕切りのカーテンを捲って去る。

 

 

 

―――咲は豊受が帰った事にほっとするの半分、……とても、寂しくなった。

 

 

(くそ。……ちくしょう……)

 

(夜は、もう何処にも、いないのに……)

 

(こんなに、眠い……―――ああ、でも。)

 

 

 

(………寝たら、夜に会えるかも、しれない…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――…飼い主、さん」

(…ああ、本当に夢の中で会えた……)

「あなたの上からこんにちは、ですよ?」

(上って何だよ。天国か?)

「ねえねえ。お元気ですかー?ねえねえ……」

(元気なわけ、ないだろ……馬鹿)

「……ふふ、これやるの、久しぶりです」

(……ああ、久し振りだよ。お前のその、羽で撫でるような笑い声、聞くの……)

「飼い主さん、……早く、怪我治して下さいね……」

(―――…え。もう、行っちゃうのかよ……!?)

 

 

 

 

 

「夜!?」

 

――――勢いよく跳ね起きても、夜の姿は見えなかった。

 

希望が今度こそどっかに行って、絶望だけが咲の傍にあった。……幼い頃から、そうだった。

 

 

「……っ……もう、嫌、だ……!」

 

 

自立し始めた頃にはもう言わなくなった言葉を、大人になって何年も経った今、久し振りに吐き出した。

 

吐き出した―――それでも、心の濁った底は吐き出される事はきっと、もう、無いのだろう。

 

 

(夜とこれからずっと、一緒に生きたかった…)

 

そして、夜に掬い上げて欲しかった。夜に、温めた胸の内を伝えたかった。

 

やっと再会した時にはもう、勝手にこれから先の将来を思い描いてた。夜が気持ちに応えてくれなくても、閉じ込めて繋ぎ止めてしまおうと決めていた。

 

―――なのに、その彼女はもう、繋ぎ止める事など出来ない世界へ、旅立ってしまった……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………ん?

 

 

 

(なんか…腰回り、むにゅって……!?)

 

 

 

「―――んん、お肉はイヤなのれす……」

「………」

「葉っぱー」

「……………」

「…兎、美味しいれふ…ふふふふふふぁ!?」

「………」

「いひゃいっいひゃいれふ!ほっぺ、引っ張っちゃイヤでふ」

 

 

 

―――――…ん?

 

 

思わず幽霊の頬を抓ってしまった―――咲の隣でふにゃふにゃと寝言を言う、彼女のぷっくりとした頬を。

 

妄想でも幻想でもなく、"夜"は、確かに指の先から、

 

 

「……、」

「む?」

「夜――――!!」

 

 

きっと、隣室まで届いただろう。

大声で夜の名前を呼び、夜の細い身体を抱きしめ、少し伸びた夜の髪の毛に顔を埋め、……温かいその身体に縋りついた。

 

夜は嬉しそうに頬を擦り寄せて、腕に抱きついて幸せそうにゴロゴロしている。……そんな所だけが、兎の頃と変わらない。

 

 

―――夜の首筋に咲の涙が転がったせいで、くすぐったそうに笑う夜がベッドから落ちないように抱き上げると、咲は改めて彼女の姿を見つめた。

 

自分の紺色の寝巻きと違い、薄桃の寝巻きからあちこち包帯だらけ。唇も少し切れていたし、記憶の頃よりも確かに細くなってしまった。

 

だけど笑顔だけは記憶と同じ、ふにゃっと気の抜けた、赤子のように純粋な微笑みだった。

 

 

「飼い主、さん。……咲さん」

 

 

やたら優しい声で、嬉しそうに目の前で呆然としている男に照れたように名を呼んで、夜はスッと咲に近寄った。

 

 

「………あのね、」

 

 

そう言ったくせに、彼女は続きを語らず、黙って彼の――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――それから、とってもとっても大変だったのです!

 

 

隣の部屋で待機していた豊受さんがクラッカー片手に「おwwめwwwでwとwwwwうwwwwww」とケラケラと涙を零しながら笑って、種明かしをしたのです。

 

要約すると、

 

・瀕死の私が人間に変わり、怪我の事もあって気絶してしまった事。

・咲さんを放っておいて、私の応急処置に全力を注ぎ、予定が狂って咲さんの分のホットドリンクが無くなってしまった事(その頭痛は風邪からきてるのでお大事に、とバフ●リンを手渡しました)。

・無茶すんなって言ったのに無茶して、私の事も黙っていた咲さんにお仕置きしようと、私をまるで死んだようにはぐらかした事。

・私は咲さんの隣のベッドで、カーテン越しに話を聞きながらゴロゴロしてお触り禁止令が解けるのを待ってた事。

・途中で演技がノっちゃって、信じきった咲さんが自殺しないように豊受さんが隣室で待機。私はその際に咲さんのベッドの端に座ってた事。

・起こしたけど起きなくて、そのまま隣で丸まって寝てた事。

・寝惚けた咲さんが泣きながら私に布団をかけて、一緒に仲良く寝てた事。

 

 

咲さんはバフ●リンを豊受さんの顔に叩きつけ、合間合間に罵声を吐きながらも、私をきつくぎゅっと抱きしめてくれました。

 

もう嫌がられない事が嬉しくて、私は咲さんにすりすり頬っぺたにむちゅーと口付けては猫のように甘えてみるのです。

 

 

「―――だーかーら、俺は『死んだ』なんてハッキリ言って無いじゃん?早とちりした君がいけないとは思わんかね?」

「……なるほど、それがお前の返答か。……いいぜ。殺ろうか?」

「待って!…あの、ほら、もう少し夜ちゃんとイチャついてなよ!せっかく再会出来たんだし!」

「……夜、ごめんな、少し昼寝しててくれないか?」

「らめぇぇぇぇ!夜ちゃん寝ないでぇぇぇ!!」

「…あの…、咲さん、動かれると怪我がまた…」

「ナイス夜ちゃーん!―――ほらほら、怪我が悪化しますよ~ww」

「……………おい」

「へ?」

「いつまで、夜の肩に手ぇ乗せてんだ――――ッ!」

 

 

殴りました。

 

咲さんは思いっきり、豊受さんに溜まった怒りを吐き出すように殴り、「あの時、『俺は悪くない』って言ってくれたじゃない!」「これとそれとは別だッ歯ァ食いしばれぇぇぇ!!」と言い合いながらお互い殴り合って……あ、あの、咲さん、お怪我が……(´;ω; `)

 

 

誰か人を呼ぶにも、私、足も怪我してて……あっ咲さん凄いです!怪我してるのに寝技が完璧に決まってます!

 

思わず「咲さん格好良いですっ」と身を乗り出したら、飼い主さんの腕が急に緩んで―――その隙を突かれて、豊受さんの肘鉄をもろに……お二人共、怪我のこと覚えてますよね!?

 

 

 

 

 

………その後、大人六人に止められたお二人は、仲良く説教をされた後、咲さんは入院が延長してしまう事になりました……。

 

私と同じ日に退院出来るようですが…んん、一緒に入院を喜ぶべきなのでしょうか、怒るべきなのでしょうか…。

 

 

「―――夜、何か食うか?」

「さっき食べました……」

「……夜、アレは食べたとかじゃないからな。点滴は点滴だから」

 

 

保護された時に比べて、私はだいぶ落ち着いてきたのですが―――貧血になりやすく、あの管をぐさっとするのをよくされます…。

 

嫌いな時間ですが、咲さんが傍で私を甘やかしてくれるので、ちょっとだけ好きな時間でもあります………ぐさっと刺されるの怖いですけど。

 

 

「林檎の兎を作ってやろう。そこの林檎、とってくれ」

「はーい」

「ん……おい、見えねーんだけど」

 

 

咲さんの胸にもたれて、すりすりとすり寄れば「手には触るなよ」と言うだけで突き離して来ない事が、とても嬉しくて。滑らかに皮を剥く手がとても懐かしい。

 

私はその手が永遠に欲しくて、そっと包丁を握る手を包んでみるのです。

 

 

「夜?」

「………」

「どうした?」

「…………あの、ですね、咲さん」

「ん?」

「あの……わっわた、私、」

「…」

 

 

恥ずかしくて、怖くて、咲さんの胸に顔を埋めて、……うう、今すっごく、フルフルさんに会いたいのです…。

 

でも。でも―――ここは私が勇気を出さないと!駄目兎になってしまいます!

 

 

「さ、咲さん!あのっあの……」

「うん」

「わ、私と、ずっと……」

「ずっと?」

「…ずっと。一緒に………いても、いいですか?」

 

 

最後なんてごにょごにょと、不安いっぱいで聞いてみたのです。

そしたら―――咲さんの胸にしがみついていたら、トントンと肩を叩かれて。引き離されるんだと、思わず泣きそうになった顔に、林檎の兎さんが突っ込まれました。

 

 

「お前なぁ、人にキスして『愛してます』とまで言っておいて、……まったく、焦っただろうが」

「焦る……?」

「お前が――…いや、とにかくだ。どれもこれも俺から言いだしたかったんだが……」

 

 

私の口に突っ込まれた林檎をしゃりっと半分、食べて。

 

僅かに触れた唇が、何故かとても、とても熱かったのです。

 

 

「俺と。死んでも一緒にいてくれ」

 

 

嬉しくて微笑んだら、咲さんは一瞬ハッとして―――でも、とても嬉しそうな顔で、私をしっかりと抱きしめてくれたのです。

 

 

「……ふふっ」

「…どうした?」

「いえ……やっと、帰って来れたって思ったら…嬉しくて」

「そうだな―――」

 

 

 

「おかえり、夜」

「ただいまです、咲さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の笑顔を見るに、きっとこれはハッピーエンドなのです。

 

 




これにて本編は終了、最後までお付き合いありがとうございました。

次からは番外編が始まります…。

※挿絵機能がつきましたので、過去載せていた絵を置いていきます。
私自身の(昔の)絵ですので、読者様のイメージに合わないことがあります。








【挿絵表示】


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オトメンはお姉様に恋してる
片思い中の男の子は好きですか?


 

 

親父みたいな格好良いハンターになりたくて、俺は生まれ育った街から遠く離れたユクモ村にやって来た。

 

兄貴も親父も俺を笑って見送ってくれたけど、お袋だけは泣き笑いだったなぁ…そんなに心配しなくても大丈夫だっつーの。末っ子だからってナメんなよ!

 

 

 

 

 

……………って、思ってた俺を殴りたい……!

 

 

のんびり寝こけてたらジン…ジンなんとかに襲われて、荷車から落っこちて、崖から転落。

 

運良く木の葉がクッションになって死なずに済んだけど、荷物はどっかに行っちゃうし…ボロボロの身体を引き摺ったら川が見えて、汚れを落とそうとしたら先客がいた。

 

 

それも―――光で美しく輝く銀髪にインナー姿、眩しい美脚を水に浸けた先客だ。

 

豊かなむ、胸に目が行く前に、俺は彼女の顔―――を見ようとして、白い項を見てた。思わず頭を近くの木に殴りつけた。

 

そしたら当然彼女は気付くわけで―――あちこちボロボロ、傷だらけで額から血をダラダラ出してる俺にライトボウガン片手に近づくと、胸の谷間を俺の目線に晒して、手入れの行き届いた指先で頬の泥を落としてくれた。

 

何かもうドキドキしてて色々ヤバイ俺に八重歯を見せて笑う彼女は、「どうしたのかな?」と優しく尋ねてくれた。

 

母性を感じる声に、俺が気を許した――――瞬間だ。

 

 

後ろから太刀(※鞘に入った状態)で頭を殴られ、二日間俺は目を覚ます事は無かった。

 

 

―――それもこれも、あの時呑気に寝てないで荷車にしっかり掴まってれば、起きなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ましてから俺は、村長さんに村の事を説明してもらって、これから住む事になる家の大掃除をして――――殴られた事とあの見目麗しいお姉さんの事を忘れていた。

 

―――寂しいから玄関先に花を植えていた俺の目の前に、例のナイスボディ過ぎて困るお姉さんが、やってくるまでは。

 

 

 

「やっほ。元気だったかな?」

「………」

 

 

あの綺麗な銀髪を高く緩く団子に、リンネルのシャツと薄い赤カーデを着ときながら胸を大胆に出してて、ショートパンツからガーターで留められた靴下との境が……うわぁぁぁぁ目のやり場に困る格好をしてる!殺しに来てるぅぅぅ!!

 

団子を留める黒いリボンを風に揺らして、花束一つを脇に抱えた彼女。八重歯を見せて笑う所といい、色っぽいのに男らしい何かを感じさせる人だった。

 

 

俺は軍手を外しながら、「お久しぶりです…」とちっさい声で返したけど―――むしろ「あの時はすいませんでした」と言うべきだったかも。あの後俺を運んでくれたのはこの人達なのだ。

 

 

「本当は咲ちゃんも来る予定だったんだけどね、あの子ったらどっかの狩りに行っちゃってさ。…はい、お見舞いとこの村に来てくれたお祝いに」

「あ――――ありがとうございます。…すいません、こっちから挨拶に行かなくて…それに……」

「それに?」

「あの……あなたの、……し、下着、姿を……あの…」

「んんー!真っ赤になっちゃって可愛い子だねー!」

 

 

格好良く花束を渡した彼女に肩を抱かれ、「あれ、これ普通は逆じゃね?」とか思いつつも「本当にすいませんでした…」と謝る。ていうか近づかないで下さい。む、胸が……!

 

 

「あんなの別に気にしてないよー!事故だよ事故!ていうか君、身体は大丈夫なの?お姉さんそれだけが心配だなー」

「あっお陰さまで…秘薬をくれてありがとうございます」

「あ、飲んだ?」

「はい、よく効きました…」

「へー……アレ作ったの咲ちゃんなんだけど、消費期限切れたからって君にあげたんだよね」

「嘘ぉぉぉ!?」

 

 

俺の叫びで花弁が何枚か散ってしまったがそれどころではない。

 

あの野郎、俺を殴るどころかゴミ捨て場扱い!?リンチにされるよりもある意味酷くない!?地味に嫌がらせしやがって、姑かお前は!!

 

お姉さんには悪いけど、そんな真実知りたくなかった。……ていうか、

 

「飲む前に止めて下さいよ!」

「死にはしないからいいかなって。乗り越えたら酒の肴になるじゃん」

「哂い者にする気かよ!?」

「大丈夫。ヤバそうだったら私が看病する予定だったし…一応、私お手製の解毒薬も置いてったしいいかなーって」

「よくな………よくねーよ!」

 

 

もう駄目だこの人。享楽主義者だ絶対。ていうか人格破綻者だ。素敵なお姉さんから駄目な人に転落したわ。敬語なんて使えねーわ……!

 

そう思って使うのをやめたんだけど、お姉さんは気にせず「うんうん、自然体が一番だ」と笑うだけだった。

 

 

「ま、詫びといっちゃあアレなんだけど。君がこの村に慣れるまでは私を頼ってくれていいよ。相談も絶賛受付中!」

「……もう一人の…」

「咲ちゃん?咲ちゃんはねー、人間嫌いだから近寄ったら刺されるかも。でもしつこく接すると構ってくれるよ」

「………太刀でぶすっ、の構うじゃないよな?」

「残念。グーだよ。私は女の子だからしてこないけど、君の場合は腹パンかも」

 

 

……何でこの村のハンターは人格破綻者しかいないんだ…!

 

村長さん曰く、この村の在住ハンターはこの二人だけ。あとは療養とか旅の途中のハンターだけらしい……この人しか頼れないのかよ!?

 

「よろしくね、"イリス・スウィーツ"君?」

 

 

しかも何で俺の名前……あ、村長から聞いたのか……。「イリス君って呼んでいい?」呼ばないで下さい恥ずかしいんですお願いぃぃぃぃぃ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから俺は、街とは勝手の違うこの村に困って、ホームシックになって、お姉さんの家に通った。

 

村の人間がアイツの事を「チェダー」(多分名字)って呼んでるから、俺もチェダーって呼んでた。特に何も言われなかった……ていうか普通、自分の名前を名乗るもんじゃねぇの?

 

 

そう聞くとチェダーは言い忘れてたって顔して「聞く?」と首を傾げるから―――何かイラッとして、聞いてない。……ちょっと後悔してる。

 

でもその代わりアイツも俺の事「イリス」じゃなくて「スウィーツ」って呼んでくれてるし、……まぁそんなもんかな、って片づけてる。

 

チェダーは気ままで所々駄目な人間だが、変な所で面倒見が良くて、からかうのが大好きな奴だけど、いっつも優しかった。

 

 

俺が寂しいからとか言わず、「暇だから」とそっぽ向いて言っても「よく来たねー」と八重歯を見せて、猫みたいに笑う。

この前なんて、アイツの弟の一番下が学者さんになったんだと笑ってた。仕送りも減るから、これからは貯金に多く回そうかなって酒片手に笑ってたけど、ちょっと寂しそう。

 

……こいつの猫達が賑やかでうるさいのも、寂しくないようになのかも、しれない。

 

 

 

毎日毎日チェダーの家に通いながら、俺は所々自分勝手に解釈してて――――そんなある日、「お前何人殺してきたの?」って聞きたくなるような覇気を出すあの野郎に出会った。

 

 

「スウィーツ、このナルガみたいな子が咲ちゃんだよ。私と同じ上級ハンターさん」

「…… 木花(コノハナ) (サク)だ。……シチューだったか?」

「スウィーツですけど!」

「イリス・スウィーツ君だよ。名字で呼んであげてね」

「何で?」

「何でもいいだろ!」

「……何でこいつ、こんなに攻撃的なんだよ」

「うーん、咲ちゃんの後輩虐めが酷いからじゃないかな」

 

 

あっそ、とどうでもよさげなアイツ。それからも何度か会ったけど結局俺達の中は冷え込んだまま。

 

……日々からかっても振り回しても問題起こしててもチェダーには少し気を許してるし………付き合ってんの?

 

 

――――そう疑問に思って、ちょっと泣きそうになった時、俺は気付いてしまったんだ。

 

 

 

「俺、チェダーのこと、好きだった……?」

 

 

ていうか、現在進行形で片思い。

 

(……えっ、どこで好きになったんだ俺!?)

 

 

―――口に出してからはもう遅く、俺はベッドで足をバタバタしてた。

家でのんびりするたびにチェダーの事を考えてて、チェダーの家に遊びに行く時に身なりに30分くらい時間かけてるのに気付いた時には自分の乙女具合に死にたくなった。

 

だけどチェダーに服装とか気付いてもらえると恥ずかしくて嬉しい。家に入ると緊張するけど、アイツの気まぐれに振り回されてるうちにどうでもよくなる。

 

 

……しかも、チェダー曰く、咲の姑野郎は遊びに来た事は無いらしい。チェダーが遊びに行く事はあるらしいけど……俺より咲の方が顔も良いし、腕だって良いけど……!

 

その他の面では俺が優れてるし!チェダーの料理の腕前が幸いにも(?)壊滅的だったから、そこを狙って毎日お裾分けとか料理作りに行ってるし!気付いたら俺の生活の拠点がチェダーの家に移りそうな位にはなってるし!

 

咲に「通い妻かよ……」って冷めた目で見られた時はちょっと泣きそうだったけど、……別にいいだろ、好きな人を振り向かせる為には三つだったか四つの袋だったかを掴めって言うだろ!

 

 

「――――スウィーツ、君にピアスをあげよう」

「えっ」

「片耳でお互い点けてみない?」

「えっ!」

 

 

キタ―――――!

 

ほらな、胃袋掴んだら勝負は速攻でつくんだよ!俺は口元にやけながら両の手でピアスを受け取った―――

 

 

 

「いやね、二つ買うと安くなるからさー…でもこれ、シンプル過ぎてアレだなーって。これなら男の子でも付けてて恥ずかしくないでしょ?」

「……――――~~ッ」

 

 

 

………………それでも好きだ!!

 

 

 

 

 

 

惚れた弱みって奴ですよ、坊っちゃん。…の、巻。

 

 




追記:
執筆中BGM(というか個人的に彼のターンでは)は「S.w.e.e.t Ma.g.i.c」。乙女な歌詞が良いですよね!←
補足:
スウィーツの名前、「イリス」はギリシャ神話の虹の女神様から。
咲ちゃんは日本神話の 木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)からです。

豊受は豊受大神からだし……男連中だけ神様、しかも女神様の名前というwww


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乙女な男の子は好きですか?

 

 

――――俺の中で、咲という人間がよく分からなくなった。

 

すれ違う時に会釈なんてしねーし、遠目から見ても(目つきが)怖いし、アイツの刃物は全部鋭く研がれてて怖いし、思い切って話しかけても「ふーん」だ。

 

 

……この前なんてお裾分けに行ったら「俺、洋物嫌いなんだよ」と言って扉を閉められたし。

 

ムカついてそのまま置いてったら空の重箱が送られて、中を見てみたら和菓子が。ちょっとは可愛いとこあんじゃねーかと思って添えられた手紙を読んだら、「美味しかったですニャ! アイルー一同」の文字。……可愛げ無さ過ぎだろ!?

 

偶に同じクエスト(まあ間にチェダーがいるんだけどね)を頼んだ時はアイツの太刀捌きスゲーとか、クエスト中のチェダーは凛々しいなとか、ガン見してたけど………。

 

 

今、俺の目の前で足を引き摺って蹲ってる男が、あの荒ぶるナルガみたいな男とは、思えない。

 

見つけた時は「こいつをこんなにするモンスターって何よ!?」とダッシュで逃亡しようかと思ったが、勇気を出して近づいた。一歩踏み出しただけで気付かれた。……アイツ、気配に敏感過ぎないか?

 

 

「どうしたんだよ」と聞けば、アイツはプイッと顔を背けた―――が、慌てて胸に手を当てる―――その腕の中に、白くてふわふわした子猫が鳴いていた。

 

子猫は今まで血だらけになっても気にせずモンスターを狩って剥ぎ取る男の指に甘噛みして、ゴロゴロと喉を鳴らして頬をスリスリしてて――――……俺、コイツは絶対動物に懐かれないと、思ってた……。

 

 

とりあえず此処で吹きだしたら殺されるし、俺は冷静にアイツに回復薬(消費期限切れだよ、ざまーみろ!)を差し出し、子猫に手拭いを渡して、温めてやった。

 

アイツは「ありがと」と初めて、初めて、俺に感謝の言葉を述べて、

 

 

 

 

 

 

 

自分の回復薬を取り出して飲みやがった。

 

 

「テメーの考えなんて読めてんだよ」と吐き捨てて、俺の回復薬を木の養分にしやがったアイツ―――でも、その時からだいぶ、ほんのちょっと仲が良くなった。

 

 

「咲ちゃんと仲良くなったんだね」

 

お姉さん安心したよ、と笑いながら、「咲ちゃん、モンスターに食べられる所だった子猫を救ってあんな怪我したんだよ」と後日、チェダーが重箱片手に教えてくれた。

 

……ちなみに、例の白猫は村長さんが欲しいと言って可愛がられてる。

日向ぼっこしている村長さんの隣で、あの白猫は丸まっている―――咲が通ると、嬉しそうに引っ付いてくるが。

 

 

俺は猫を撫でる、咲の少し和んだ口元を思い出し、重箱を受け取った。

中身は大福だった―――程良い甘みの大福を一個平らげ、(チェダーは「お腹いっぱいなの」と、お茶を飲んでいた)もう一個を頬張った、ら。

 

 

 

「う゛っえ゛ぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

――――あの野郎、大福の中に虫(の佃煮)を入れやがった!!

 

しかも何個かはちゃんとした大福という嫌がらせの極みだ。

……勿論知ってたチェダーは爆笑。俺は惚れた弱みで怒れなかった。元気いっぱいに笑うチェダーも可愛いな、って頭ぶっ飛んでる事を思ってた。

 

 

 

それから俺は、あの鬼畜野郎と悪戯っ子の先輩ハンターに虐められる日々を送ったのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と咲の仲も、……まあ良くなり、チェダーの家にお泊まりも出来るようになった頃。

 

咲が、女の子を連れてきた。

 

 

「………|ω・`)」

 

 

咲の背に隠れる、華奢でどことなく儚げで、無邪気な感じの女の子―――俺は最初、咲が拉致してきたのかと思った。

 

……真実は咲に懐いたウルクスス亜種で、どういう訳か人間の少女になってしまったらしい―――頭ぶっ飛んでんじゃねーの、と思ったが、今まで被害に遭った人間の人数もその内容も、咲が知らない事まで知っていたから、まあ本当なんだろうと言う事になった。

 

「夜」という名前を貰った彼女は鬼畜野郎の咲に引き取られ―――ちゃんと世話出来んのかと思って、二人を観察してみたら、

 

 

 

「飼い主さん。この花は何ですか?」

「薔薇だ。素手で触るな。棘に刺さるぞ」

「(´・ω・`)」

「……欲しいか?」

「い…いいんです、か?」

「別に。何本欲しい?」

「一個……」

「一本だ」

「い、一本、欲しいです」

「よし、――――すいません、その白い方、十本」

「十本?」

「た…まには、家に花を飾るのも良いだろ」

「そうですね!」

 

 

 

あっ………甘ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!

 

買い物帰りに何てモノを見てしまったんだ俺は。家で飾るとか言っておきながら金掛けてプレゼント用に包んでる咲なんて見たくなかったわ!

 

「とても、綺麗です…」

 

俺の目線の先、細い両の腕で薔薇の花束を受け取る夜は、とっても幸せそうだ。咲の武骨な掌で頭を撫でられて、とっても嬉しそうだ――――うわぁぁぁマジで甘ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!

 

 

しかも最近アイツは狩りに行かなくなった。

毎日、一日に何件も受けてたのに……今では一般のハンターと同じくらいのクエストを受注してる。

 

あと夜から話を聞くに、「洋物嫌いなんだよ」とほざきやがったあんチクショウ、夜が来てから洋物を作って一緒に食べてるらしい。洋物嫌いはどこに行きやがった!?

 

 

……だが、甘いのはこれで終わらない。

ある日の午後、夜が遊びに来た時の事だ―――

 

 

「―――おやおや?夜ちゃん、その髪飾り……」

「飼い主さんが、頑張ったご褒美に、って」

 

 

青い硝子の花飾りを頭に、夜は嬉しそうに話す。

 

俺はもうアイツの甘さに慣れてたから、花飾りを嬉しそうに撫でる夜に「夜も女の子なんだなー」と思ってた。飾り物を欲しがるようになったんだな―って、微笑ましく思ってたさ。

 

 

「飼い主さんが選んでくれたのです」

「え゛っ」

 

 

……思わず声に出したのは俺だ。

チェダーはあの無愛想な咲が髪飾りを選ぶ様を想像して笑っている。俺は笑うどころか寒気がした……。

 

 

 

―――しかし、寒気は忘れた頃にまた戻ってくる。

 

今度は櫛を貰ったと、チェダーに髪を弄られてる夜が微笑んだ。

 

 

それは花が見事な意匠で、毎朝、咲に梳いてもらってるとか。狩りに出かけた咲を待ち続けながら、夜は「優しい」咲の事を話す。

 

聞いてると、櫛よりも梳いてもらう方が嬉しいようだが、……アレだ、夜フィルターで見る咲は、吐き気を越えてなんかもうアイツ幸せ者だな、って思った。

 

 

―――それと同時に、俺はチェダーに食い物以外に贈った事が無いなぁ、なんて気付いたワケだ。

 

咲を真似して装飾品を贈るにも―――チェダーはお洒落な方だから、下手なのを買えないし。毎日付けてはくれるだろうけど、洒落たアイツに浮いてしまうようなものは……。

 

 

うーん、と刺繍の手を止めていたら、不意にチェダーが頬を突いてきた。

 

綺麗な三つ編みの夜の頭を撫でながら、八重歯を見せて、無邪気に笑う。

 

 

「―――私も、スウィーツから何か欲しいな。……その、刺繍とか」

 

 

はい、了解です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チェダーは俺の刺繍を見るのが好きだ。よく隣で寝っ転がっては覗きこんでくる。

 

いつだったか一回だけ「欲しい」と言ってくれて、ハンカチに繕ったけど…俺は結局恥ずかしくなって、失敗したと嘘を吐いた。

 

……少し寂しそうなチェダーに申し訳なくて、手作りのケーキを恐る恐る渡したのも覚えてる。

 

 

だからきっと、あの時「刺繍で」と言ったのは、夜が羨ましかったの半分、もう一度、俺に期待したかったのかも。

あの時そう付け加えてくれなかったら、俺はきっと咲の真似をして物を贈ってた。

 

 

(―――何にしようか…バスケット…いや、あんまりな…ブローチ……んー、あんまり見栄えがな…手鏡…あっ、いいかも…あっちが花なら、こっちは蝶の髪飾りでも作ってみるとか……)

 

 

今度こそは期待に応えたくて、食事もしないで考えた。

 

どれにしようか、どれが喜ぶか………まったく分からなかった。

 

頭が馬鹿になった俺が選択したのは――――…全部、だ。

 

 

名付けて数で攻めろ作戦。またの名を考えるの放棄しました作戦。

 

「喜んでくれると、いいな」

 

 

 

 

 

 

私の想像するスウィーツは、恋のおまじない(失笑)とかしてそう。

 



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下心のある男の子は好きですか?



※若干のオトメン的艶やかさと青臭い表現があります。笑って…じゃなかった、ご注意ください。





 

俺がとりあえずバスケットの制作をしている隣、紫煙を燻らせるチェダーに「手を怪我したくないけど収入が欲しい」って相談したら、一緒に採集クエストに行ってくれると約束してくれた。

 

 

「どこに行こうか?」

「任せる」

 

 

……ちなみに、チェダーの煙管は身体に悪くない。煙草ではなく医者が調合した薬草と、リラックスするようにと幾らかの花が詰められている。

 

もちろんそれを吸ってる時、チェダーの体調は良くないという事なんだが―――その、ほのかに甘い香りが、好きでしょうがなかった。

 

 

「砂漠は嫌だなぁ…」

 

チェダーは煙管から口を離して苦笑い。

 

俺が見つめるのも気付かず、トントン、と煙管の雁首を叩き、黒檀の羅宇を綺麗な指先で撫でる様がとても―――…妖しく見えて、俺は赤くなった顔を慌てて逸らす。

 

 

「どうかした?」

「あっ……いや」

「顔真っ赤だぞー?」

「気のせいだ!」

 

 

くいっと顎を持ち上げて煙管を咥えるチェダーはいつもと比べて、……具合が良くないせいか、少し暗く…変な色気があった。

 

さらりと一房、銀髪を胸元に零して、アイツは意地悪く俺に煙を吹きかける。

 

「ちょっ」

 

俺が眉根を寄せてきつく目を閉じると、「可愛いなぁ」とからかう声と一緒にチェダーの細い指が俺の唇を突き、

 

 

「そんな可愛い子には―――お姉さんが、気持ちいいこと……教えてあげようか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――俺は竜の卵をせっせと運び、アイツはその隣で俺が持参した(本当は違反行為なんだけど)サンドウィッチをむしゃむしゃしながら迫り来るモンスターを狙い撃ってた。

 

 

 

………ああそうさ。さっきまでのは夢だ。夢オチだ。

 

幸いにも自宅のベッドで幸せな夢を見て虚しくなりましたけど何か!?

 

あの後、紫煙をかけられた俺は、チェダーが喋り出すよりも前に、色気に負けてダッシュで逃亡したのが本当なんだ。煩悩を消そうと無理矢理寝て……寝なければよかったわ!

 

虚しくなって一生懸命サンドウィッチ作って、少しは気が晴れたけど―――チェダーからあの紫煙の香りがして……ああもう死にたいッ!!

 

 

 

当てつけみたいにチェダーによそよそしく、あんま見ないようにしてても……、

 

 

「こらこら、そっちは危ないよ。私の方においで?」

「………………うん」

 

 

優しくエスコートされて、ぽやぽやした気分でチェダーに引っ付いてる……。

 

もっと言うと―――眉間に一発、慌てることなく鮮やかに撃ち抜くその腕前と、不敵な笑みが格好良くて惚れ直してた……。

 

 

………チェダーは頬を染めた俺に気付かず、ライトボウガン片手に腕をぐーっと伸ばしていたけどな。

 

 

「―――スウィーツの卵サンドは美味しいね」

「えっ、あ……そりゃ、良かった」

「…疲れた?」

「ん…」

 

 

夢を忘れる為に朝から大掃除をして、チェダーの好きなサンドウィッチをたくさん拵えて、……この卵運搬も含め、すごく腰が痛いっていうか重いっていうか。

 

だけどチェダーに守ってもらっておいてダラダラと歩けないから、少し滑稽な小走りでボックスを目指してた。

 

 

「ちょっと顔色悪いもんねぇ。無理してサンドウィッチとか作らなくてもいいんだよ?」

「……別に。暇だったし……よ、喜んでくれるかなって…………サンドウィッチが」

「ちょwwwサンドウィッチに責任転嫁www―――可愛いなぁースウィーツは!」

 

 

愛い奴め、と俺の肩を抱き、頬を突っつくチェダーにそっぽ向く。

 

トマトとチーズのサンドウィッチを齧りながらニヤニヤしていたチェダーは、ふとそのサンドウィッチを、

 

「あーん」

「えっ」

 

もきゅ、と悪戯っ子の笑みで俺の口に入れた。

 

 

―――ああ、我ながら美味しい、と思ってすぐ、間接キスだって事に気付いた。真っ赤になって慌ててたら、卵が落下した……。

 

 

「ア――――ッ!?」

「あー……今此処で、一つの生命(いのち)の灯が消えたね……」

「せっかく此処まで運んだのに……!」

「泣かない泣かない。泣きたいのは落とされたこの()だからね?」

「さっきからお前の返し方重い!」

 

 

卵の残骸に上から土を被せるチェダーは俺の言葉なんかどこ吹く風で、手早く簡易の墓を作って野花を幾らか摘んで飾っていた。

 

「あとは……あっ、卵サンドでも供える?ラスト一個だけど」

「ブラック過ぎだろ!」

 

 

俺に突っ込まれても何処吹く風、まったく気ままなチェダーは十字を切るとそのまま先へ進んでしまう。

 

俺も野花を摘んで急いで十字を切って後を追いかけた―――採集に戻らないのか?

 

 

「おい、何でキャンプ……」

「少しは休もうよ。まだ時間はいっぱいあるしさー?」

 

 

ぶらんぶらんとボウガンを片手に、チェダーはそのままキャンプのベッドに着くとぼふっとダイブ。

 

遅れて来た俺に「スウィーツもこっちにおいで?」と言いながら寝っ転がったまま足装備に指を這わして脱ぎ捨てて―――ごくり、と唾を飲み込んだ。

 

棒立ちの俺に魅惑の足を曝しながら、チェダーは「腕も取っちゃおうかなー」と手を弄る。……真珠の足はゆっくりと組まれた。

 

 

(…………………帰りたい……ッ!!)

 

 

言っとくが俺は別に足フェチじゃない。そこに足があるから見てるんだ。他に露出されたらそこもガン見……いや、視線が行っちゃうからな!

 

………ていうか、チェダー、下手したらその、太腿の先が見えちゃ、

 

 

パァン

 

 

「…………」

 

 

俺の肩に急に発砲したチェダー。吃驚して固まる俺に近づいて「ごめんごめん、吃驚させちゃった?」と頭を撫でる。

 

 

「スウィーツの背後にブナハブラがいたからさ、危ないと思って……虫退治、したんだけど」

「…………………………そう、か」

 

 

俺はてっきりお前が俺の邪な視線に気づいて発砲したのかと思ったよ。俺という害虫(ブナハブラ)を殺そうとしたのかと思ったよ……。

 

 

おかげで一気にもやもやしてたのが去ったわ。代わりにガクブルだけどな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ネコタクが故障して、迎えに来れないらしい。

 

俺は思わず伝書鳩の首を絞めそうになった―――……おい、どうすんだよ、これ。

 

ベッドはあれしかないんだぞ!?寝る時はどう考えてもインナーだぞ!?あとチェダーは寝汚いんだ!抱き枕が凄い事になってるのを何度見たと思ってんの!?

 

 

(くっそ……ここは寝ずの番するって……いや、下手するとチェダーも一緒に起きちゃうかも……ああああああどうすんだよぉぉぉぉぉ!!!!)

 

 

誰か教えてくれ。もうこの際、咲のあんチクショウでもいいよ。お前よく夜と一緒にお泊りで狩りに行ってるだろ!その時どうやって対処……あ、別に変わりないのか、同じ家に住んでて一緒に寝てるんだっけ……よく寝れるな!?

 

 

「スウィーツー、水浴びしたいんだけど、いいかな?」

「はぇっ!?」

「え、早い?」

「あ、い、いいや!どうぞ!水浴びして来て下さい!」

 

 

星明りじゃあ心許無いだろうと火を分けようとしたら、アイツはライトボウガン片手に、

 

 

「悪いね―――じゃあ、着いて来てくれる?」

「は……!?」

「いやさ、最近モンスターの動きも活発だし……スウィーツが水浴びする頃には私が見張りするし」

「そ、そうじゃなくて、おまっ……は、裸、とか……!」

「ん?……ああ、ごめんねー、恥ずかしかったよね。大丈夫、お姉さん君の方は見ないようにするから」

「俺の心配じゃ無くて!!」

 

 

「じゃあ何?」とやんわり聞かれて、俺は黙った。意識してるのが俺だけって事が恥ずかしくて――――少し、悲しい。

 

やけくそに「じゃあ行こうか!」と先頭切って進めば、後ろでチェダーの笑う声がする。

 

 

――――その笑い声で、俺はからかわれたんだって、やっと気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チェダーの肌から零れて水面に戻るあの音は、水晶が割れる音に似てる。

 

 

……ああ、はい。好き過ぎて美化して変なフィルターがかかってるんです。今ちょっと頭が熱過ぎておかしいんです。気にしないで下さい。

 

 

「――――♪―――…♪…」

 

 

上機嫌に鼻歌まじりのアイツは、月明かりに白い裸体を晒して、両手で濡れた髪を持ち上げてた。…………はい、そうです。本当にすいません、欲に負けました。チラッと見ました。

 

白い背中しか見えないから大丈夫だと思ったんです。腰のくびれとか身体に張り付く銀髪が綺麗だなとか、目が良い事を両親に感謝したくなったんです。

 

 

「……ねえ」

「はいっ」

「星、綺麗だねぇ…」

 

 

独り占めって感じ、と笑うチェダーは、……何だか妖精みたいだった。

 

やがて笑うのを止め、懐かしそうに月を仰ぎ見る様は―――星の河で汚れを落とし、月明かりに愛される乙女だった。

 

どこぞの処女神を彷彿させるほどに、厭らしさの無い、凛として其処に在る―――。

 

 

「…知ってる?ある女神様の入浴を覗き見てしまった男の人の話」

 

 

一瞬考えが読まれたか、それこそ神話の可哀想過ぎて泣ける男と同じことをしていたのを気付かれたのかと、俺はビビって返事が出来なかった。

 

 

「動物に変えられて、猟犬…だったかな、食い殺されちゃうんだっけ?」

「は……はい」

「怖いよねぇ。ただ女神様の裸を偶然見ただけでさ。森で入浴する方が悪いんだよ」

「はい……」

「女って、怖いんだよ。イリス」

「は―――は?」

 

 

説教来るかと震えていたら、「女って怖いんだよ」?…ていうか久し振りに名前呼んで貰えた!?

 

 

「ねえ、女の子って、目的の為ならどんな事だって、案外平気でやるものなんだよ」

 

 

君って純情だから、分かるかな?ちょっと心配。……と掌から水を零すチェダーの、その水が星明りに反射して、とても綺麗だった。

 

 

「……つまりね、君はもう少し警か――――」

 

 

少し説教するような声は、途中で遮られた。

 

 

ばしゃあん、と、チェダーが水の中に沈んで、俺は一瞬の間の後、装備を着けたままアイツを助けに潜った。

 

 

 

 

 

 

オトメンはマジでオトメンだった。





備考:

煙管⇒煙草を吸うチェダーさんカッコイイ!…けど、身体弱い設定…→煙管型のお薬にしちゃえ!煙草の葉の代わりに薬草とか花とか突っ込んじゃえ!もう半分ファンタジーだからオッケーさ☆

患者さんによるオサレな薬物摂取方法として人気なんだよ!もっと言うと、チェダーさんの煙管は高級品だよ!



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泣き虫な男の子は好きですか?



※オトメンのせいで少しばかり艶やかです。





 

 

皆さん。前回の話を覚えているでしょうか?

 

急に神話の話を振り、水の中にばっしゃーんしてくれたチェダー、それを助けに水の中にダイブ(※装備のまま)した俺、若干溺れかけつつその白い肌に手を伸ばし―――変な意味じゃ無く!白い肌に指を這わ―――あああああ!!だからッ………きゅ、救助、しました!

 

 

運悪く、…いや、幸いにも水を大量に飲んで無かったようで、チェダーは白い喉を曝して咽てた。銀髪が神懸かり的、芸術的にチェダーの胸とか隠してて、残念なような良かったような……。

 

「イ……リ、ス」

「はいっ」

「……ごめん、貧血……」

 

 

貧血気味なら入浴したいとか言うなよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん……」

 

 

貧血気味のチェダーを抱きかかえて猛ダッシュ、チェダーが着替えている間にチェダーの装備を取りに行ったら、パンツだけ穿いて紫の長いガウンを着て丸まって……胸も着て下さい!!俺を殺したいのかお前は!?

 

 

「イリス、ごめん、鞄からアレとって……」

「はい」

 

 

でも即答しちゃう俺くたばれ。「はい」以外の言葉が喋れない俺爆発しろ。あと煙管は見つかっても薬が見つけられない役立たずな俺も失せろ。

 

「えっと、あれ、……どこだ……」

 

しかもこういう時に限って俺の手際は悪い。

前も三人で狩りに行ってチェダーが貧血で倒れた時も、オロオロしてる俺に咲が「役立たずは失せろ。もしくは一人で狩ってこい」って冷めた目で言われるくらいだ。

 

チェダーは「こうして手を握ってくれるだけでいいよ」って笑ってくれたけど……。

 

 

――――俺も、咲みたいになれたら、いいのにな……。

 

 

火を点けて、その煙から溢れる甘い香りが、とても苦いものに思えた。

 

紫煙に包まれながら、チェダーは震える唇で咥え、吸ったり吐いたり、ぼんやりしてる。

 

 

「大丈夫か……?」

「ん……」

 

 

伏せ目で咥えるチェダーは相変わらず寝そべったまま、腕を組み―――豊かな、胸が。

 

 

「エロイ?」

「くたばれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そうして、とにもかくにも何とかその夜は越せたわけだ。

 

アレからチェダーは部屋に籠りっぱなしで、俺はちょくちょくやって来てはチェダーの身の回りの事をしていた。

 

料理も栄養満点、あまりチェダーが嫌いな味にならないように手を加えまくり、取り寄せたヘリオトロープを贈ってみたりもした。

 

「……私、ヘリオトロープ、大好きだよ」

 

薔薇が好きかなと思ったが、嬉しそうに受け取ってくれて安心した。

 

 

 

「――――バスケット、終わったぁ…」

 

あまり家には長いしないで(迷惑だろうし)自宅でせっせと刺繍、刺繍、刺繍――――やっとバスケット(リボンで花を繕い、ビーズで品の良いキラキラ感を出した)の制作が終わり、手鏡にはバスケットのデザインをもっと大人っぽくした風で繕う事にした。

 

やがて手鏡の制作も終わり、ブローチに猫を繕っていた頃。

 

 

 

――――夜が、何処かに消えてしまった。

 

 

チェダーも責任を感じてるのか、ここ暫く、とても暗い。咲なんて暗いの吹っ飛んでイっちゃってる。包丁を研いで目がヤバい咲なんて一生見たくなかった。

 

 

村の雰囲気が暗くなって――――やっと、咲の知り合いが夜を見つけたが……状況はよろしくないらしい。

 

俺はギルドの気球に乗り込む咲を見ながら、不安と焦りと、どこか安心した横顔を見つめていた。

 

 

「気を付けてね。飛竜に喧嘩売っちゃ駄目だよ」

「売らねーよ」

「事が上手く丸まったら教えろよ」

「ああ。てめーは俺が帰る頃にはまともなハンターになってろよ」

「ま、まともなハンターだろうが!」

「ハっ」

 

 

鼻で笑って、「村の事、頼んだ」とだけ言って空に上がった咲。

 

不安そうに見守っていたチェダーの横顔がどうにも気に食わなかったけど―――まあ不謹慎というか、拗ねるのもアレだし黙っていた。

 

チェダーは普段は能天気だけど、案外心配性な奴だし―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲ちゃん、どうしてるかなー?」

「さあ…」

「あの子って変に喧嘩っ早いから。……何にも無いといいけど」

 

 

――――だから、そんな所が嫌いなんだ。

 

チェダーはいっつもそうだ。

咲が風邪を引いた時は何度も家を覗いて心配そうだったのに、俺が風邪でダウンした時はこれほど心配しなかった。……俺が傍にいてくれって泣きつかないと、傍にいてくれなかった。

 

夜の失踪だって―――俺が迷子になって森丘をずっと一人で彷徨ってた時は「やれやれ」って感じで、夜が明けてから欠伸を漏らすくらい能天気に迎えに来たくせに。夜の時は咲と一緒になって、日夜構わず探し続けた。

 

 

(……俺は、どうでもいいのか?)

 

 

――――俺がこうして食事を作って家事までして、こんなに尽くしてるのに。夜はまだしも、咲ばかり優遇するのか?俺はチェダーにとって何なんだ?

 

ブローチがどんどん歪んで見えるくらい、俺は、

 

 

「咲ちゃん不器用だし。ちゃんと仲直りできるかな…?」

「………」

「咲ちゃん、夜ちゃんの事ばかりでちゃんと食事とか睡眠とかとれてないんじゃないかな…」

「………」

「…ねえ、咲ちゃん――――」

 

 

落ちる前に、俺はドンッとテーブルを叩きつけて。

 

ソファで煙管を口に花を見つめていたチェダーに近づき、吃驚して俺を見上げる姿もぼんやり歪んだまま、思いっきり吐き捨てた。

 

 

「咲ちゃん咲ちゃんってうるさいんだよ!」

「へ?」

「こんなにッお前の為にって尽くしているのにッお前はいっつもいっつも『咲、咲』って!お前に何もしてくれない男の方ばかり気にして!!…俺はお前にとって何なんだよ、俺はお前の召使じゃない。俺の行動すべてに下心があるに決まってんだろ、見返り求めて尽くしてるに決まってんだろ!?」

「ちょ、す、スウィーツ、落ち着いて…」

「別にだからって無理に応えてくれなくてもいいさ―――だけどな、普通、俺といる時に俺以外の男の話をするなよ!それぐらいッそれぐらいの……思いやりを、見せてくれたって…ッ…いいだろ……!」

「イリ――――」

 

 

――――宥めようと、伸ばされた手を掴んで。

 

大きく見開いたチェダーの、薔薇色の唇に、思いのままに。

 

「……、…」

 

床に転がり落ちて、高い音を奏でた煙管だけが、やけに現実味があった。

 

 

 

 

 

 

 

わんこだって怒るんだ!…の、巻。

 

 






補足:

貧血⇒貧血なのか喘息持ちなのか過呼吸なのか?→特に考えて無い。とにかく身体が弱くて、それを補う為に煙管型の薬で頑張ってる。

何でヘリオトロープ?⇒花言葉の関係上。チェダーさんはその意味を知ってる上で受け取ったんだよ!

チェダーさんって悪女?⇒↑の花言葉の意味を知ってる上で受け取った事を考えると、悪女では無いかな!



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女々しい男の子は好きですか?



※ほのぼのタグ詐欺、発動!





 

 

――――キスして、逃げた。

 

 

唇が震えて何かを告げる前に、俺は道具を手に何も言わずに逃げたのだ。

 

 

「……っく、……ぅ……」

 

 

一目散に逃げて、猫達の声も無視して布団に潜って、女みたいに丸まって泣いた。

 

当然チェダーの家には行けないし、チェダーも俺の家には来ない―――そりゃ、そうだよな。

 

 

(目ぇ、痛い……)

 

 

…なんかもう、冷やすのも面倒くさい。だけど喉も乾いたし……しょうがないか、と布団からもぞもぞ這い出て、俺は髪もぐしゃぐしゃに部屋を出た。

 

居間に顔を出せば、俺の世話をしてくれる猫達が静かに水の張った桶と手拭いを渡してくれて、無言で目に当てる。

 

「お飲物です」と冷水を渡されて、俺は椅子にもたれてゆっくり飲み干した。

 

 

(……何も、言ってないのにな)

 

 

さしずめ、チェダーにとって俺は、この猫達と一緒だ。自分の生活を楽にする為に在る―――ただ違うのが、猫とは金の契約で繋がっているが、俺とアイツの間には契約も何も無いことか。

 

 

でも……全てが滅茶苦茶になってから思うと、あのまま我慢してずっと尽くしてた方が、幸せだったかもしれない。

 

俺は咲のように優遇されなかったが、チェダーの隣では……いられたのだし。

 

 

だけど、だけど、と、何遍でも繰り返す分、俺はやっぱりチェダーが好きなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺って、本当に、馬鹿…」

 

 

―――しかも、馬鹿を越えた大馬鹿だ。……泣きながら、刺繍に手をつけてるんだからな。

 

そのせいで生地は染みが広がってるし、俺の指は絆創膏だらけだし、お腹は空いたし―――それでもひたすら、甘い色をした糸を手繰り続けている。……どう見ても、異常な男だ。

 

いや…………むしろ、なんて情けない、男なんだろう。

 

 

贈り物でもして、少しでも御機嫌を窺って、元に戻ろうだなんて。真っ向勝負すら出来ない。向こうが折れるのを待つ事さえ出来やしない。

元の鞘に戻る為に必死なくせに、自分から折れる事が、チェダーが会いに来てくれない事が、とてもとても悔しくて。

 

 

いつか渡せなかったハンカチを、もう一度縫い直しては思い出し泣きしてるんだ。まったく女々しいにも程があるだろう。

 

 

「………あ、」

 

 

 

お気に入りだったあの糸が、もう無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンカチを作り直さなきゃ、良かった。

 

 

外に出たら隣人や村長に「どうした?」とか「喧嘩したの?」と聞かれる。―――まったく、うざったいったらありゃしない。どっかに消えればいいのに。

 

 

「チェダーさん、緊急クエストに行かれましたの」

「そうですか」

「………」

 

 

……そんな目で見るなよ。

 

俺だって一体何の緊急クエストだろうって、気になるし、不安だよ。

だけどその胸の内を悟られたくない―――何より、俺を放っといてクエストに、ハンターとしての責務を選んだ事が許せなかった。

 

 

俺は足早に村長の元から去り、隣の村に足を運んで、目当ての糸と他のよりは高いビーズを買って、帰りはとぼとぼと家に戻った。

 

 

そしたら村は慌ただしくて。一瞬咲達が帰って来たのかと、呑気に思ってたんだ。

 

 

 

 

「大変だ!チェダーさんが意識不明の重傷だって――――」

 

 

サァ――っと、身体の芯が冷えた音を、初めて聞いた。

 

 

俺はふらふらとギルドに向かい、一週間も手付かずの、緊急クエストの紙を見る。

 

クエストはその危険度から指定付きだった―――【最低二人以上】の。

 

 

書かれた紙には旅で暫く留まると言っていた男と、チェダーの、

 

 

――――……ああ、初めてチェダーの名前を知った。

 

 

【×××村の危機を救え! ×××村にて家畜から村民までも喰らう巨大なモンスターが…村の医療施設は怪我人と助けを求めに来た村民で溢れ、モンスターが今か今かと………】

 

 

クエスト完了の判子が押されていないその用紙を剥ぎ取って、俺は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――俺は、最低だ。

 

モンスターの被害で傷ついた人や家族を亡くした人達なんてどうでもよくて、衛生状態の良くない病院をただただ駆け回って銀髪の彼女を探しているんだ。

 

ボロボロ泣きながら遺体を弔う人達を見ては心臓が痛いが、傷一つ無いハンターを見て希望溢れる眼差しを向けられても、俺の脚は止まることなど無く――――、

 

 

 

(――――いないだなんて、認めるものか……ッ)

 

 

……チェダーはガンナーだというのに接近して撃つし、アクロバティック過ぎてハラハラする戦い方をするが、馬鹿じゃない。アイツの狙いが逸れた事なんて無いし、直感の良さも知ってる。

 

だから、絶対。絶対、ありえないんだ。

 

 

「おお、ハンター様!わざわざ来て頂いてありがとうございます―――もはや我らの病院も限界が……」

「――――チェダーは?」

「はっ?」

 

 

どっぷりと疲れた様子の医者に、縋る声も無視して聞いた。……こんな事を聞いてるべきじゃない事も、分かっていたのだけど。

 

 

「ええっと、お仲間のハンター様、ですか?」

「ああ。二人組の、ユクモ村から派遣されたハンターだ!」

「あ…っと、その、今だ情報が滅茶苦茶で……信憑性が、」

「何でもいいから話せよッ」

「………ここに、来られたハンターは、全滅したと、聞きました」

「――――…」

 

 

気付けば、俺は医者を置いて、病院を飛び出した。

 

 

遺体を埋め、その上に印された簡易の墓標を見て回った。――――無い。

 

 

……俺は少しの希望を抱いて、遺体に土をかける無口そうな大男に声をかけた。

 

 

「すまない、……あの、仲間のハンターが亡くなったと聞いて……もう、埋めてしまっただろうか?」

「………ああ、埋めたが」

「その……中に、女は?」

「………………居た…と、思う。…身体が喰われて、判別が難しくてな。正直……」

「……あの………その、…遺体の中に……銀髪、の、人は?」

「…………」

 

 

 

皺を寄せて、男は、口をもごもごとさせて。

 

 

 

 

 

「――――――居たよ。…俺が、埋めた」

 

 

 

 

 

 

ぷっつり音を立てて、世界が色を失くした。

 



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嫁に貰ってくれますか?

 

―――みんな、全部、死んじゃえばいいんだ。

 

そうしたら平等だろう?誰かが無いとか、有るとか、そういう事が無くなるんだから。

 

汚いも綺麗も一緒くた、全部が全部、意味も無くなるから、皆、無垢になれるとも。

 

 

(……俺にとっての無垢は、チェダーだった)

 

 

大体の人が―――チェダーだって、きっと無垢の言葉が最も似合うのは夜だと言うだろう。

 

疑わず慈愛がある、怖がりはしても憎む事を知らない―――その真逆の咲が好きになって、真綿で包んで自分の懐に隠すほど、愛した夜を。

 

だが夜は月明かりのように儚くて、あまりにもおぼろげで、掴む為には強引で無くてはならない。夜自身はそうではないのに、病的な恋が彼女の隣で微笑んでいる。

 

 

だから俺は、チェダーに無垢さを感じるのかもしれない。

 

陽のまどろみのような、夏に咲く花のように明るく笑うチェダー。その突き刺すような明るさに恋した。…手を伸ばしてみたかった。触れたら火傷してしまったけど、どうしても、…手を、伸ばしたい――――。

 

 

…………なのに、俺の恋した無垢は。

 

 

 

 

「は、はは………ははははっ!あっはははははは、ははっ、あはははははっ!!」

 

 

 

――――嗚呼、おかしい。目の前のデカイ顔してポカーンとしてるコイツが笑える。

 

絶対強者だなんだって言っておいて、不意打ちに目玉を潰されてぽかんと間抜け面!どこに恐れる要素がある!小汚い腐臭だらけの獣を、恐れるなど馬鹿げてる!

 

 

――――ほぉら逃げてみろ!鳴いてみろ!俺が後ろからお前を落とし穴に突っ込んでやるよ!そしたらチェダーの身を裂いたのだろうその爪を剥いでやる!剥がれた爪に突き刺して、唐辛子でも上からふっかけてやろうか?

 

―――逃げるなよ、そこでどんと構えてろ!絶対強者の名が泣くだろう?安心しろよ、目はもう潰さない。両目とも見えない相手を嬲ってもつまらないからな。俺が屠るその時まで牙を剥け!

 

――――そうしたらチェダーを噛み砕いただろう、その牙を叩き折ってやる!お前の斬り獲れる全ての個所を奪い、そこらに放置してやる!お前の生などまったく意味が無いのだと教えてやる!お前が喰らった人間の方が天ほども価値があったのだと哂ってやる!!

 

 

「ははっ……はは、哂ってやれるくらい、俺はッ」

 

 

………全然、怖くなんか、無いんだ。

 

 

怒りに染まった目も、真っ赤に湯気の立つ爪も、辺りに散らばる死体も。俺が一人で、病院から離れた所で一人、逃げ惑う人を背に、戦ってる事だって。全然怖くない。寂しく無い。

 

研ぐのを忘れても斬りつけたから、双剣の片方なんてぽっきり折れてる。もう片方なんてガタガタだよ。だけどここまで出来るんだ。下手すると咲を越えたかもな?

 

…そしたら今度は、俺を優先してくれるかな、大事にしてくれるかな。

 

 

 

……いや、チェダーは俺の事、大事にしてくれてた。―――本当は、分かってたんだ。

 

 

 

お前が本当に料理が駄目で、看病するにも俺の猫達は優秀で、何よりお前は身体が弱くて、俺には近づけなかった。

 

俺が迷子になった時も、山を荒探ししてモンスターを騒がせる方が危ないって、俺の実力を信じて、朝まで待ってたんだって、咲から聞いた。

 

咲を優先させるのも、自分の価値が低い咲は放っておくと死に急ぐから、まだ夜は咲のブレーキ役になりきれてないから。だからお前がちょくちょく面倒を見てるんだって、分かってたよ。

 

 

……お前が、俺の前では甘えん坊でいたかったんだって、分かってたよ。他の面ではまだまだお姉さん面だけど、俺と過ごす何でもない時を、女の子らしく。ただ甘えてみたかったんだ。

 

 

―――――ごめんな。もう、何もかも、遅いよな。

 

 

『駄目な子め―――☆』

 

 

―――――もう一度、そう叱って欲しいよ。

 

 

 

俺は泣きながら、吠える獣の首を掻っ切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やった……やったぞ!ハンター様が倒してくださった!」

「ありがとうございます、ハンター様―――」

 

 

(………うぜぇな)

 

 

 

自分でもゾッとするほど、怨念の籠った声が、胸の内で吐き捨てた。

 

(お前らが救助の申請を出さなければ)

 

(お前らがそのまま野たれ死ねば)

 

(チェダーは、生きていられたんだ――――)

 

 

……そんな、俺の怨嗟の情を感じたのか、それとも血を浴びた俺に慄いたのか、周りの老若男女は皆、沈黙を守った。

 

そしてその沈黙を破ろうと、夢見心地の冷えた俺が、口を開く。

 

 

「きゃああああああ!!」

 

 

その音を掻き消して、絹を裂くような女の声が響き。

 

 

全員が一斉に見つめる先、現れたのは――――絶対強者(ティガレックス)、その――亜種。

 

 

「まだ一匹いたのか!?」

 

 

そう叫んだ老人が叫んで逃げて来た女の代わりに弾き飛ばされ、べしゃ、と壁に散った。

 

老人の死を合図に皆が散り散りに逃げる中、俺だけは突っ立っていた。相変わらず身体は熱く、陶然とした心地と麻痺しかけた恐怖だけがある。

 

 

(弔い合戦、てか?……面白い!)

 

 

―――お前も、あの獣みたいにその目を潰してやる!惨めな敗者に引き摺り下ろしてやる!

 

 

そう、走り出した俺は、最後に残った双剣にすら罅が入り、危うい片手剣となっても斬りかかった。

 

体力だって切れたし、ボロボロだったけど、―――もう、そんなの、どうでもいいんだ。

 

 

「うおぉぉぉぉぉ――――!!」

 

 

飛び上がり、全てを込めて、斬りつける。

 

ザパッと血が溢れるのと同時に、刃がキラキラと反射して、バラバラに割れた。

 

睨むその目に僅かの刃を刺し込み、咆哮と爪で吹っ飛ばされ、ゴロゴロと転がった。

 

 

――――もう、何も出来ない。

 

 

亜種の混沌とした叫びも、その血濡れた牙も。ただこの身に受けるしかない。……避ける気は、無い。

 

 

(あと少しで、殺せたのにな…)

 

 

―――考えなしが、と咲は眉根を寄せるだろう。ぼろぼろとその澄んだ瞳から、夜はたくさんの雨を降らせてくれることだろう。チェダーは……、

 

 

血生臭い体臭も遠く感じる中、俺は瞳を閉じる。

 

 

(迎えてくれるのか、怒るのか―――…どちらも、ありえそう……)

 

 

風を切る音に本能的に身を竦ませ、頬に熱いモノが伝って、

 

 

「――――――ガッ」

 

 

 

 

 

 

………銃声がひとつ、飛び込んで来た。

 

 

形容しがたい音に目を開けば、亜種の米神に、神懸かり的な程に的確に、……徹甲榴弾、が。

 

少しの間の後、爆発する亜種の頭の中身や血が俺にかかって、……俺は目を開いたまま、固まった。

 

 

小走りに駆け寄る足音は若干フラついてて、白い喉元に伝う汗から察するに、とてもとても大変だったのだと知る。

 

あの綺麗な、お揃いの装備は薄汚れてて、髪も頬も汚れてた。だけど、薄紫の瞳だけは力強く、美しく、正しく、――――俺を、射抜く。

 

 

 

「……まったくもう、スウィーツったら本当に、駄目な子なんだから」

 

 

俺の頬に張り付いた肉片を払い落して、手の甲で優しく血を落として、俺の願った通りに、叱ってくれた。

 

ライトボウガンを放り捨て、呆然とする俺をぎゅっと優しく抱きしめ、あやすように髪を梳く――――時折防具に引っかかる痛みが、幻想(ユメ)じゃないと、教えてくれた―――

 

 

「――――ちぇ、…ぁ、ちぇだぁぁぁぁ!!」

 

 

子供に返ったようにわんわんと泣きだした俺の涙を拭き、髪を梳き、おでこにそっとキスしてあやしながら、チェダーは「ごめんね、」「本当にごめんなさい」と謝る。

 

 

「吃驚させちゃったね。怖かったね。……置いてって、ごめんね」

「…う゛、ぅぅぅ……!…な゛んでッ…っ…俺のごと!」

「スウィーツは双剣だから相性悪いと思ったの。それに手を怪我したくないって言ってたから…でも、……うん、何も言わなかったのは、気まずくて、…ごめんね」

「馬鹿っばかぁぁぁぁぁ!!」

「うん、ごめん。ごめんね――――私は悪い子だ」

 

 

……ああくそっ、こんな時まで立場が逆なのか。抱きしめたいというか抱きしめてるけど、これじゃあ縋ってるようなものじゃないか。

 

 

「泣かないでイリス、……私はイリスの笑った顔が好きだよ」

 

 

血でカピカピの唇に、チェダーはまるで子供同士のような、この場に似合わないほどに可憐なキスをしてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

情報がこんがらがってる中で、不眠不休の医師が間違ってチェダーが重傷と書いてしまった事から始まり―――例の銀髪の死体は、兄妹でハンターをやっていた、街から派遣されたハンターの事らしい。

 

チェダー曰く、今回集まったハンターは暴れ回る二匹に踏ん張り切れず、遠方で狙撃していたチェダーを置いてほとんど全滅してしまい、……チェダーと共に来たハンターだけが(重傷ではあるものの)生き残ったとの事。

 

 

全滅はしたが亜種の方は弱っていたので―――寝ずにちまちまと遠くから狙撃していて、病院には一度も顔を出していなかった。(俺の)混乱も加わって、「チェダーが死んだ」になったワケだ。

 

 

――――俺は治療してもらった後、チェダーに膝枕をしてもらって、よしよしと頭を撫でられながらどんどん質問していた。

 

「あんな凶暴な、しかも回復したティガを一人で、…双剣で倒すなんて、イリスは凄い子だね」と喉元を撫でられて、ちょっと幸せだったのは、………内緒。

 

 

 

「……なあ、」

「んー?」

「………名前」

「ん?」

「お前の名前、……あの受注の用紙で、知った」

「そう」

「………」

 

 

文字にすると冷たいが、実際は春風のようなのどかな声だった。

 

俺は何度も失敗しながら、照れながら、ツンとして、上ずった声で、宣言した。

 

 

「でも、お前の口から聞かない限り、呼ばないから」

「へえ?」

「……よ、呼ばないから」

「そう」

「………」

「………」

「………………」

「………聞きたい?」

「………………………」

「…その、可愛らしいお口から、おねだりして欲しいな」

 

 

俺の荒れた唇にはもう、チェダーがリップをたっぷり塗ってくれて。

 

ぷっくりした唇に指を当てて微笑む姿は女神なのに、俺には小悪魔に思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――と、病院内でイチャイチャしてたわけですはい。……だけど案の定、無理をし過ぎて体調を崩したチェダーと一緒に慌ててユクモ村に戻り、皆にド突かれたり事の顛末を俺が語ったりしてる間にチェダーは俺を置いて自宅に逃げた。

 

 

……その間ずっと、チェダーは煙管を咥えて部屋から出なかった。

逃げた亜種を追いかける為に全力疾走して(多少は近道を使ったらしいが)仕留めたりしたから、だいぶガタがきてるのだ―――。

 

 

………。

…………ていうか、全力疾走して息つく間もなく狙撃って、凄くね?

 

 

チェダーの家の居間で、俺は少し、いやかなり、泣きたくてしょうがなくなった。

 

でも腕は塞がってる――――俺の、何日もかかって出来あがった『贈り物』でな。

 

 

「ふぁ……おはよー」

「もう"こんにちは"の時間だろうが」

 

 

シャツの上に黒いガウン、ショートパンツから伸びる足に目がチラッチラしたけど、ぐっと堪えた。

 

チェダーは煙管を片手にソファに寝っ転がる。……客人を前に、いい御身分だな。

 

 

「今日のご飯は?」

「クラムチャウダー……かもしれない」

 

 

正直言うと、お前にこのプレゼントをどう渡そうか、何て言えばいいのか悩んで、何も考えて無い。

 

 

―――俺はゆっくりと身体を起こしたチェダーにずいっと、とりあえずプレゼントを差し出した。

 

上品に花が咲き乱れ、ビーズが煌めく、我ながら可憐なバスケットを。

 

 

「わあ…!可愛い!」

「そ、そっか…」

「丁寧だね、……本当に」

 

 

そっと花をなぞる指先と、見つめる瞳がとても女の子らしくて、俺はチェダー以上に頬を染めた。

 

掠れる声で「開けてみて」と言えば、わくわくした顔のチェダーが、今まで見た事ないくらい幸せそうに目を細めて、照れて、赤い頬に映える嬉しそうな唇に、―――俺はただただ、見惚れてた。

 

 

開かれたバスケットの中には手鏡だとか、小さなぬいぐるみだとか。あの日渡せなかったハンカチに、ブローチ、髪飾りを二つに、ヘリオトロープの花束を入れてある。

 

髪飾りは青に銀糸が入った花と、キラキラとした(超高値だった)紫の艶のある糸で作った蝶。真珠で大人っぽさを出したものだ。

 

ヘリオトロープは―――恥ずかしい事に、やっと花言葉の意味を、知った。

 

 

 

「ありがとう、イリス。本当に……ごめんね、これしか浮かばないんだけど―――本当に、嬉しい。…ありがとう」

 

 

目の端を輝かせながら、チェダーはそっとヘリオトロープを抱いた。渡しといてアレだが……チェダーの華やかさに、霞むような花だな、と今更ながらに思う。

 

だけどチェダーが指輪でも受け取ったように幸せに目尻を緩ませるから、……少し、救われた気分になる。

 

 

 

―――――…で、だ。…………どうやって、切り出そう。

 

 

不肖、イリス・スウィーツ。「結婚前提のお付き合いをしてください!!」と頭を下げに来たのだ。

 

ただ、前回の無理矢理キスの件をどうしようとか、結局俺ってチェダーより弱くね?甲斐性無くね?とか、……色々考えて、今も何て言えばいいのか分からない。

 

だからチラッチラと視線がチェダーの顔とむ…いやいや、あs……いやいや!か、顔とテーブルに行ったり来たり、口も開けたり閉じたりで照れ照れしてるのだ。

 

 

一人で勝手にあっちにこっちに考えが吹っ飛びんでいる間に、チェダーは髪に青い花飾りをつけて、蝶を乗っけて遊んでいる。超幸せそうに微笑んでる。…………駄洒落では、無い。

 

 

「―――――ねえ」

「はいッ」

 

 

ああああああ力み過ぎて返事が!!ていうかそのせいで纏まりかけた台詞がすっ飛んだ!!

 

 

「……イリスのさ、こういう手先の器用な所、気が利く所、大好きだよ」

「はっ……はあ、」

「照れ屋さんで、頑張り屋さんなんだけど、空回りしちゃうドジっ子な所も。怖がり屋さんで、でもやる時は勇気を振り絞って頑張れる子だって、優しくて頼れる子だって知ってるよ」

「………ん、」

「イリスの作るご飯は楽しみだし、世界で一番美味しいよ。いつも私の体調に気を使ってメニューを変えてくれてるって、知ってるよ。わざわざ掃除して、こっそり花を生けてくれる事も」

「………」

「私ね、お姉ちゃんだから、ここまで尽くされた事無かったの。嬉しくてね、初々しいイリスが可愛くて、わざと面倒かけたり、意地悪したりしたの。……楽しかった」

 

 

てへ、と笑うチェダーは―――あの水浴びで倒れた時、流石に若い子をたぶらかしてるみたいで、悪いと思って謝罪と忠告(悪いお姉さんに注意しないと痛い目みるわよ、的な)したかったのだという。

 

 

―――………だからって、何であの神話?嫌なチョイスすんなよ……ストレートに言ってよ…。

 

そういう顔をしていたら、チェダーは「だってイリスがチラチラ見てくるからさ。気付いてますよって意味も込めて、雰囲気から考えてあの話を」ああああああやめてください本当にすいませんでした!!!

 

 

「……だからね。―――ああもう、イリスのせいで何を言おうとしたのか、忘れちゃったじゃないの」

「俺のせいか…!……俺のせいだな」

「しょんぼりしないのー。…ふふ、だからね、」

 

 

ヘリオトロープの花束から一本抜いて。

 

白く綺麗な指先で、俺に差し出した。

 

 

「――――私の、嫁に来る?」

「はいっ!!」

「毎日美味しいご飯作ってくれる?」

「頑張りますッ!―――……あ、で、でもっ」

「ん?」

「その、代わり、…俺が。……………"イーシェ"の、一番だから」

「――――うんっ。イリスは私の一番大切な子だよ!」

 

 

 

…ちなみに、「……あれ、これおかしくね?」と気付くのは、三日過ぎてからだった。

 

でもまあ……幸せだから、それでいいかなって。思っちゃって。

 

 

俺は嫁の嫁として、今日もチェダーの為に、尽くすんだ。

 

 

 

 

 

 

王子様(チェダー)お姫様(スウィーツ)なチーズ×甘味の関係が理想なんです。

 

 




アトガキ

番外編、オトメンの恋、無事終了しました!

例によって例の如く。「ほのぼのタグ詐欺」が発動した訳ですが……今回はミスリードに嵌らなかった事でしょう……うーん、ネタがありきたりだったかも。
もっとあっさりギャグ風味にしたかったのに、スウィーツ君のせいでだいぶ面倒な事に……大変読みづらかった事だろうと思います(笑

甘えん坊のスウィーツ坊やも、今回の事で大きく成長……した、のかな?


備考としては、スウィーツはやれば出来るのにヘタレで実力を発揮できない。今回のようにブチキレればストッパーが外れる訳です。…狂って好戦的になったとみせかけて、本当は怖がってる自分を鼓舞しようとしてる、って表現を、もっと上手く出せたらなあっていうのが心残りです。あとチェダーさんの水浴び時の言葉も。


備考2:

ちなみに覗き魔で胸と足に視線をチラチラしちゃう青いスウィーツですが、どこか坊っちゃんで良識ある人物であるが故に、スレてる咲ちゃんには勝てません。……どうでもよかったですかね?

お父さんを尊敬して家族仲も良いスウィーツと家族を滅茶苦茶にした父親を憎む咲ちゃんという対比も、もっと出せたらなー…。
スウィーツが咲ちゃんに劣等感を持っているのと同時に、咲ちゃんも幸せな人生を歩むスウィーツを羨ましがってる+それを認めたくないが故に冷たい、という裏設定もありました。


チェダーさんがスウィーツのどこに惹かれたのか、どうしてそこまで面倒を見てたのかという謎っていうか経緯というか、そこら辺もあんまり出せなかったなぁ……。

私は末っ子なので分かりませんが、友人曰く「お姉ちゃんって辛い」そうで、頼りになる反面、甘える機会が少なくてチェダーさんもそれなりのものを抱えていたのかもしれません。


咲×夜、チェダー&スウィーツの恋模様を書くのは大変でしたが、とても勉強になったといいますか……いい経験になりました。

これからも四人の番外編を続けていく予定です。ご希望の番外編ネタ、などがありましたらお伝え頂けると喜んで遅筆ながら書かせていただきたいと思います(これは無理、というのはあります。すいません……)。



※挿絵機能ができましたので、過去載せていた絵を置いていこうと思います。
ただ昔の絵+私自身の絵ですので、見苦しいです。読者様のイメージに合わない可能性も大です。








【挿絵表示】


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番外編
後日の話




※本編終了後、入院中の頃から始まる後日談。会話形式です。

※どんな咲ちゃんでも構わない方だけどうぞ。





 

 

【兎ちゃん逃げてぇぇぇぇぇぇ!!】

 

 

「―――それでですね、豊受さんが毎日顔を見せてくれて、いっつも手招きしてくれたのです」

「そうか(……チラッ)」

「こっち見ないで!」←豊受

「豊受さんが言葉を変えて話しかけてくれた時、本当に嬉しかった…」

「よかったな(……チラッ)」

「だからこっち見ないで!!」←豊受

「あとですね、雪山でお友達が増えたのです!」

「……もう話せない(し、会わせない)けどな」

「(´;ω; `)」

「何泣かせてんのよ咲ちゃん!?」

「いや、つい……」

「(´;ω; `)」

「あ―……夜、その友達ってのは?」

「ギアノスさんとフルフルさんです!」

「「へー」」

「ギアノスさんとは途中から会えなくなりましたけど…でも、困ってる私の面倒見てくれて…背中に乗せてあげたり、尻尾をツンツンされたり、一緒に寝たりしてました」

 

(―――おい豊受。金を出すから雪山のギアノスを掃討して来い。一匹も逃すな)

(無茶言わないでくんない!?お前の嫉妬でモンスターを全滅させられるわけが無いだろ!!)

 

「あとはずっとフルフルさんと一緒にいたのです。お姉さんみたいな存在ですっ」

「お姉さん……?…おい、フルフルに性別なんてあったか?」

「無かったような、あったような…」

「一緒にこ、恋、バナ?もしたのですよ。『色恋沙汰はアタシの得意分野よぉん?』って言ってました」

「オカマだろそいつ!?」

「そんなフルフルさん嫌だ!!」

「フルフルさんは頼れるお姉さんなのです!他にも色々教えてくれましたっ男の人を落と―――」

「豊受ぇぇぇぇ!!金を積むから今すぐその軟体卑猥の白いオカマを殺して来い!!」

「やっやめてください!!どうしてそうなるのです!?」

「俺の夜に変な事教えやがって!!ギアノス共々ぶっ殺してやる!!」

「だ、駄目……そんな酷いことする咲さんなんて大っ嫌いです!」

「俺はこんなことするくらいお前が好きなんだよ!!」

「えっ―――…えへへ」

「夜ちゃん!?そこは嬉しがる所じゃないから!普通は引く所だから!コイツの異常性に気付いてぇぇぇぇぇ!!」

 

 

※こんな二人だからこそ、丁度良いバランスを保てるのかも……。

 

 

 

 

 

【えげつない。流石咲ちゃん、えげつない】

 

 

「咲さーん!」

「んー?」

「見て下さいな、豊受さんからオリガミって言うのを習ったのです!」

「おー…蛙か」

「はいっ!…えへへ、可愛いのです」

「…………」

「また作ってくれるって約束したのですよ。今度はお花を作ってもらうのです!」

「………」

「ふふふっ」

「………あ、フルフルだ」

「えっ」

 

 

※咲さんによるえげつない行為が行われています。お察し下さい。

 

 

「いないのです……あ――ッ!か、蛙さんが……」

「やべーな。フルフルやばいわ。ガチでやべーわ」

「ふ、フルフルさんがこんな事出来る訳ないのです…」

「……(…流石にバレるか)」

 

「―――これはきっと"妖精さん"の仕業です!」

 

「………妖精さん?」

「梅干しみたいな…でも色は紫で、顔がすごく大きくて、腰に狩り獲って来た生首を幾つも下げてて、お酒の代わりに血を持ち歩いてて―――悪い子を叱ったり、ちょっとお茶目な事をしたり、死期がくると現れると言う……」

「それは妖精じゃない。死神っていうんだ。…もしくは化け物な」

「妖精さんだって豊受さんが教えてくれたのです!」

「だから妖精じゃねーよ。…ていうかそれ、俺らがガキの頃に婆様に脅された事じゃねーか―――…余計な事教えやがって」

「……咲さん」

「あ?」

「……私、その妖精さんに会いたいのです!」

 

 

※夜ちゃんの感性と興味は一般の人とかけ離れております。

 

 

「……遭いたい、じゃなくてか」

「?」

「いや、何でも無い。…続けろ」

「―――ですから、会いたいのです!」

「お前は良い子だから無理だな」

「えっ」

「アレは悪い子の所にしか来ねーぞ。幼馴染と殴り合いとかモンスターの巣に爆竹とか人殺しとか隠蔽工作とかしないと」

 

 

※そこまでする必要はありません。

 

 

「殴り合い……爆竹……」

「……(あとで豊受シメねーと…)」

「――――咲さん!」

「ん?」

「私と殴り合いしましょう!」

「………………………………………えっ」

「そしたら妖精さんに会えるのでしょう!?」

「いや、……ほら、モンスターの巣に爆竹とか、そこらで済ませないか?」

「元モンスターとしてそんな非道な事は出来ません!日々色んな子から狙われ、食べられ、引き摺り回されるモンスター達にとって、巣というのがどれほど大事でありがたくて心安らぐ場だと思ってるのです?」

「………ごめんなさい」

「………?…どうして咲さんが謝るのですか?」

「いや、…一応」

「……とにかくっ殴り合いで妖精さんが来るのならお安い御用なのです!」

「………」

「………?」

「……夜、ちょっと俺を叩いてみろ」

「はいっ」

 

 

※咲ちゃんの胸をぽふぽふする夜ちゃんをご想像下さい。

 

※「アカン、この子駄目だわ…」という顔をしつつ「俺の嫁マジ天使」と萌えている咲ちゃんをご想像下さい。

 

 

「ど、どうですか!?」

「…………まだまだかな」

「えっ」

「しょうがないから俺が殴り合いっていうのを教えてやる」

「……!」

「ちょっと待ってろよ」

 

 

※勢いよく扉を開ける咲ちゃんをご想像下さい。

 

※扉の前で盗み聞きしてた豊受のお腹を蹴る咲ちゃんをご想像下さい。

 

※豊受の無事を祈ってあげてください。

 

 

 

 

 

【死亡フラグに自ら頭を突っ込む男、豊受☆】

 

 

「夜」

「え?…―――わあ…っ!紙のお花ですね!」

「俺も一応、折れるからな」

「凄い凄い!他には何が折れるのですか?」

「お前が望むなら、何でも」

「―――キャー!咲チャンステキー!イケメンー!!」←豊受

 

 

※風を切るように早い裏拳で鼻を殴られる豊受君をご想像下さい。

 

 

*翌日

 

「―――咲さん凄い!アオアシラまで折れるのですね…!」

「まあな」

「ふふ、可愛い…!―――咲さんの手は、魔法の手なのですね」

「大げさな…褒めても何も出ないぞ」

「本当です。咲さんの手はいっつも優しくて、私を幸せにしてくれます」

「…………そ」

「はいっ」

「お前って本当―――「ふったり、とも~!見て見て、豊受さん夜なべしてリオレイア作っちゃった☆」

「わぁっ凄い!」

「しかも金ピカverでっせ?凄いだろ~お兄さん凄いだろ~?」

「……あっ、ギアノスだ」

「えっ」

「ちょ、咲ちゃん適当な嘘つくんj…え、ちょ、待って、ご、ごめ…ぶへっ」

 

 

※只今映像が乱れております。頬を染めて窓の向こうを覗く夜ちゃんをご想像してお待ちください。

 

 

「―――咲さん!凄いです、ギアノスさんのお面を被ったちっちゃい子が雲を食べてます!」

「……ああ、祭りでもやってんのかもな(……ていうか嘘が本当になったな)」

「あの雲はどんな味がするのです?」

「あれは砂糖で出来てて…甘いな。ただ甘いだけだ」

「へー」

「………食いたいか?」

「んー……でも…」

「丁度良い事に俺らには"足"が居るからな。……おら、起きろ豊受」

 

 

※豊受の胸元を掴んでお金を顔に叩きつける咲ちゃんをご想像下さい。

 

※泣きながら買いに行く豊受をご想像下さい。

 

 

「――――買って来たよー!」

「早いですね!」「遅いな」

「「………」」

「…何だよ」

「いや…あーっと、はい、頼まれてたの!」

「…こ、これが綿菓子…?」

「そ。で、これが―――」

「林檎が飴です!?」

「せいかーい、林檎飴でーす」

「そんなのも買って来たのか…」

「……あ、ちょ、ぼ、暴力は……」

「ほら、お代」

「えっ」

「あの多めの金はお前への駄賃だ。わざわざ行ってもらったんだし……貸しなんて作りたくないからなっ」

「咲ちゃん……」

「豊受さん、ありがとうございますっとても美味しいですっ」

「夜ちゃん……!」

「疲れたでしょう?私が口を付けてしまいましたけど…この、林檎飴を一口―――」

「あべっぷっ!?」

「豊受さん!?」

 

 

※この後、豊受さんは一時間目を覚ましませんでした。

 

※加害者の咲ちゃんは夜ちゃんと林檎飴を舐め合いっこしてました。

 

 

 

 

 

【安心のセコム、咲ちゃんの活躍をご覧ください】

 

 

「そこのお嬢ちゃん、ちょっとおじちゃんと一緒にお酒飲まない?」

「えっ…あ、あの……」

「大丈夫大丈夫、何もしないから」

「いえ、あの……あ、…の…」

「別嬪さんと飲んだら天国いけるかもしれんな、ははっ」

「や、やです…ちょ、」

「んー、泣かない泣かない。ちょっとおじさん達にイイ夢見せてくれればいいだけだから。何ならお金も――――」

 

 

※松葉杖がすっ飛んで来ておじさんの隣の椅子を破壊しました。

 

 

「さ、咲さぁぁぁぁぁん!!」

「てめッ俺らに…いや、病院の物に何しとんじゃ!」

「俺の私物に何してんだテメーは、あん?」

 

 

※いたいけな中年男性に躊躇いも無く喉輪を入れる咲ちゃんをご想像下さい。

 

 

*数日後

 

「――――で、もう二度と診察室の前で待たせないって?」

「当り前だ。例の不当労働以来、人見知りに拍車がかかったというか…あれからしばらく過呼吸で大変だったんだ」

「………だからって松葉杖で威嚇と喉輪って……」

「あん?」

「何でもないです」

「……ま、俺には喜ばしいことだけど……いいか、今回の診察の時に夜を―――」

「分かってるって、部屋から出さなければいいんでしょー?今日はその為にオセロを持って来たんだぜ☆」

「……ひっくり返してやろうか?」

「勘弁して下さい」

「……じゃ、これが最後の診察だから。……お前の人生が最期にならないといいな」

「その顔で脅さないでよ!?」

 

 

 

 

 

【二人はなんだかんだで親友】

 

 

「……あの、豊受さん」

「んー?オセロ飽きちゃった?」

「いえ……その、」

「?」

「いつも……咲さんに……虐められてるのに、どうしてそんなに…仲が……?」

「あー、よく聞かれるわー」

「…そうなのですか?」

「うん。……ま、アイツも敵を作りやすいっていうかさ、損な性格してるけど―――ちっさい頃は一緒に笑ってたりしてたんだぜ?お互い本音で殴り合える関係、っていうかさ…大人になっても住む所に悩んでた俺を誘ってくれたし、他のハンターが止めるのも聞かずに俺を助けて死にかけた事だってあるし……いや、殴られる方が多いけどね!」

「……」

「それにアイツがここまで(害虫退治に)躍起になるとさ、逆に微笑ましいというか―――」

「微笑ましい?」

「そ。だってさー、昔のアイツったらボンキュッボンの別嬪さんをとっかえひっかえしてアレとかソレとか?『金で終わる関係だからいいだろ?』とか?流石に女の子の顔に札束でぺしぺしして『これが欲しけりゃ―――』」

「―――あ、咲さん。……お皿片手に何を……キャー!豊受さんの頭にメロンが!?」

「悪ィな、手が滑ったんだわ」

「豊受さん!豊受さ―――――ん!!」

 

 

※咲ちゃんの鬼畜時代(本人の中では黒歴史)はガチでヤバい。今の咲ちゃんに矯正してくれた三割はチーズ菓子、六割は天然兎、一割は時間が大人にしてくれたんだよ!

 

 

 

 

 

【死亡フラグに自ら頭を突っ込む男、豊受☆☆】

 

 

※登山中。並び順は 咲←夜←豊。この時点で死亡フラグ。

 

 

「……夜、ゆっくりでいいんだからな」

「はい……」

「大丈夫なの?退院してすぐに登山なんてさー?」

「もうそろそろ帰らないといけないしな…何かあったら俺とお前で解決すればいい」

「でもさー……装備は確かに夜ちゃんの毛皮だけど、気付いてくれるかどうか…攻撃してきそうだよ…」

「その時はその時だ」

「さ、咲、さん、待っ……きゃっ」←雪に足が嵌ってこける雪っ子。

「夜!大丈夫か、……おぶろうか?」

「んん、いいです…咲さんに面倒をかける訳には」

「気にするな。お前が心配なん――――」

 

「―――ていうかこの装備さ、所々エロイよね」

 

 

※只今の夜ちゃんのポーズはorzです。もう一度言います、夜の背後にいるのは豊受です。

 

 

「………」

「えろ…?」

「そ、この膝をついたせいでスカートの中身が今にも見えそうな所とか、肌と毛皮の対比が素晴らsぶべはっ」

「と、豊受さ―――ん!?」

 

 

※学ばない豊受、咲ちゃんに太刀で殴られる。

 

 

 

 

 

【やっと会えましたね】

 

 

「あっギアノスさん!」

「おいっ……どれが世話になったギアノスなのか、分かるもんなのか?」

「どうだろ…俺、人間だから分かんない…」

「ギアノスさん!あの時はどうも……きゃっ」

「あんの雑魚爬虫類がぁぁぁぁ!!よくも夜に雪をかけやがったなッ!?」

「咲ちゃん落ち着いて!太刀抜かないで!!」

「ぎ、ギアノスさん……(´;ω; `)」

「……」

 

「おっ?動きが止まった?」

「あ?死んだのか?」

「違うよ!?」

 

「(´;ω; `)」

「………」

「(´;ω; `)」

「……」

 

「あ、どっか行っちゃう……―――えっ?」

 

「ひゃっ、冷た……苺…?」

「………」

「あだっ!…あ、頭突かないでください…(´;ω; `)」

「………」

「あ……」

 

「氷結イチゴ渡して小突いて去るか…よし、」

「ねえ咲ちゃん、いい加減その太刀を下ろそうよ…」

 

「ギアノスさん!」

「!」

「…ありがとうございましたっ」

「………」

 

「ギアノスにちゃんと頭を下げる夜ちゃん可愛い…あれ?」

「………次行くぞ、次」

 

 

 

 

 

【やっと会えましたね 2】

 

 

「フルフルさん…いませんね…」

「死んだとか?」

「いや、あの後もここらを歩いてる姿をみかけたって情報が…んー?」

「どうしました?」

「いやさ、あそこで丸まって寝てるの、…違うかな?」

「お前な、何でフルフルがこんな人目につく所で……本当に寝てた…」

「フルフルさぁ―――ん!」

「起きたぁ!」

「……豊受、まだ武器は抜くなよ」

「マジで!?」

 

「フルフルさん、覚えてますか、あの……あの……?」

 

 

※ぱくっと服の裾を加えられる夜ちゃん。

 

※ものすごい速さで包丁を投げる咲ちゃん。

 

※飛翔するフルフルさん。

 

※背中に乗せられてポカーン状態の夜ちゃん。

 

 

「てめっ――――夜を下ろせ変態がぁぁぁぁぁぁ!!」

「ちょ、やめて!俺のヘビーを勝手に使わないでぇぇぇぇ!!」

 

 

※豊受のヘビーボウガンで乱射する咲ちゃん。

 

※ドヤ顔で避けるフルフルさん。……夜ちゃんの運命やいかに!?

 

 

 



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続・後日の話



※会話文形式

※ヤンデレ注意




 

 

【フルフルオネェさんは自由気ままなのよん☆】

 

 

「ひゃっ、ふ、フルフル、さん、風がぁぁぁぁ!!」

「………」

「うう……う?」

 

 

※眺めの良い所で羽を休めるフルフルさん。相変わらずドヤ顔です。

 

 

「わぁ…人間の姿で見ると、あの時よりもとても小さくて…繊細に見えますね?」

「……」

「ありがとうございます、また、連れて来てくれて……」

「………」

「………」

 

「………フルフルさん」

「?」

「…あの時、相談に乗ってくれて、ありがとうございました」

「……」

「私―――…あの後、フルフルさんが無事なのかどうか、ずっと………生きていてくれて、良かった…」

「…」

「フルフルさんが相談に乗ってくれたおかげで、咲さんと一緒になれました。ずっとずっと、一緒なのです……嬉しい」

「……」

「あ、今笑ったでしょう?」

「……」

「ふ、震える程笑わなくても…あっ」

 

 

※飛び立つフルフルさんの微笑む姿をご想像下さい。

 

 

「フルフルさん…」

「………」

「もう、会えないかも…しれませんが、その、」

「………」

「い、生きていてくださいっ。生きて…その……えっ」

 

 

※またも夜ちゃんを咥えるフルフルさんをご想像下さい。

 

※慌てて追いかけて来た咲ちゃん目掛けて放り投げられる夜ちゃんの図をご想像下さい。

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!?」

「夜!?」

「あだっ……うう―――さ、…咲さん!お怪我は!?」

「俺が聞きたい…ん、だが」

「私は全然…ああっ頬が……」

「平気だって……」

 

(ほんっと、夜チャンって可愛いわよネ―――…オネェさん安心しちゃった☆)

 

 

※上空から初孫の成長を見届けるような顔をしたフルフルさんをご想像下さい。

 

 

 

 

 

【宿に帰ってから】

 

 

「ほら、今日は一日寒い所にいたんだから、もっと火に当たれ」

「熱いです…」

「焼け兎か蒸し兎になりそうだよ咲ちゃん…」

「うっせーな。…ほら、夜、手を出せ」

「?」

「薬を塗るから」

「え?もう治りましたよ?」

「あっ、それお姉さんたちに人気のハンドクリームだー」

「今まで散々酷使してきたからな…次は髪だ」

「椿油だー……」

「………なんだよ、文句あんのか豊受」

「無いです」

 

「…だいぶ毛先が痛んでるな……あ?夜…?」

「寝てるみたいだね」

「こんな所で寝たら焦げ兎になんぞ、まったく…」

「文句言いながらもちゃんとベッドに寝かせてあげる咲ちゃん優しー!」

「焼くぞ」

「ごめんなさい…」

 

「―――…そういえば、お前はどうすんだ?」

「何が?」

「お前はユクモには帰んないのか?」

「ああ、……うん」

「……」

「シェリーたんが待ってるしね。挙式は…どこで挙げようか迷ってるんだ―」

「あっそ」

「結婚式、ちゃんと来いよ!」

「場所によるわ」

「えー…」

 

 

 

 

 

【宿に帰ってから 2】

 

 

「咲はどうすんの?」

「何が?」

「夜ちゃんと。結婚」

「あー…」

「向こうについて即結婚とか?咲ちゃんしちゃいそうだよねwwww」

「……いや、結婚はしないな」

「えっ」

「……というか、出来ないな。今のアイツじゃあ村長も許可を下ろせないだろう」

「あー…確かにな、見かけはOKでも中身の問題か…」

「結婚の意味も分かってないからな。とりあえずしばらくは勉強してもらうわ」

「お前って頭良いもんな。家庭教師とか出来そう」

「ああ、今まで俺が出来る範囲の事を教えて来たよ。料理の味付けとか、服とかはまだ俺が選んでるけど……あとは裁縫とかも出来た方が良いから、スウィーツから習わせてる」

「へー」

「マナーとかはさっさと覚えてくれるんだけど、未だに俺の手から物を食べたがるし……何だ?」

「いやさ、楽しそうだなーって」

「あ?……まあ、否定しないけど」

「紫の上計画って言うんだろ、これ?」

「」

 

 

※一言多い、それが豊受。

 

 

 

 

 

【旅立ちの日に】

 

 

「(´・ω・`)」

「気を付けてな」

「おう!」

「……豊受さん……行っちゃうのですか…(´・ω・`)」

「うん……婚約者が待ってるからさ。そろそろ行かんと」

「(´;ω; `)」

「……夜を泣かせたな…?」

「ごめんなさい!だからその包丁仕舞って!!」

「(´;ω; `)」

「「………」」

「……豊、受さん、…また、会えますか…?」

「あ、会えるよ!俺の故郷はユクモだし!落ち着いたら帰郷する予定!」

「……」

「だから今は、…しばらくお別れ。また会う時まで、元気でね?」

「……はいっ」

 

「豊受さんと会える日を、ずっとずっと、待ってます!」

 

 

※キラキラと輝く夜ちゃんの背後で包丁を握る黒い悪魔から目を逸らして下さい。

 

 

 

 

 

【帰り道は寂しい】

 

 

「………」

「………」

「……」

「……夜、」

「はい…?」

「俺と一緒、ってだけじゃあ、駄目か?」

「……?」

「俺だけじゃあ寂しいか?……嫌か?」

「……いいえ」

 

「またこうやって咲さんと帰れる事が、とても。……とても、懐かしくて―――嬉しいのです」

 

 

 

 

 

【帰り道は危険がいっぱい!】

 

 

「咲さん咲さん」

「んー?」

「あの葉っぱ、食べれるのですよ、知ってますか?」

「……もうその手には乗らん」

 

「咲さん咲さん」

「おー?」

「あそこのお二人はどうしてあんなにくっついて…咲さん?」

「見るな。目が穢れる」

「えー?」

 

「咲さん咲さん」

「…今度はどうしたよ」

「リオさんがこっちに飛んでくる音がします!」

「嬉しそうな顔してんな!さっさと逃げるぞ―――あとどれぐらいでこっちに来る?」

「二分…?」

「よし、こっちに道を変えるぞ」

 

「咲さん咲さん」

「チッこっちに来たのか…!」

「いえ、…旦那さんが奥さんに蹴られて(´;ω; `)って」

「夫婦喧嘩は余所でやれよ!?」

 

 

※夜になりました。

 

「……ごめんな、夜…野宿させて」

「いいえ。咲さんとなら、何だって楽しいのです」

「…そっか…」

「……?」

「今お湯を入れるな」

「…咲さん咲さん」

「ん?」

「木の向こうから、身体が半分無い女の人g」

「場所、移すぞ」

 

 

*移動中

 

「……咲さんは幽霊が怖いのですか?」

「いや。ただ―――不快だろ。追い払うにもああいうものには首を突っ込まない方が、良い、…し………」

「咲さん?」

「グオォォォォン!!」

「リオレイア…何でこんなとこで寝てんだよ!!」←尻尾を蹴飛ばしたハンターww

「ぐおおおー?(´;ω; `)」

「何でレウスの方は今も泣いてんだよ!?」

「グオォォォォォォ!!」

「……チッ、夜、俺が二匹を相手にするから―――」

「(`・ω・´)きゅうぅぅぅぅぅ!!」

「うおっ!?」

「(`・ω・´)きゅおっ、きゅぅぅぅぅ!!きゅおっきゅきゅ!!」

「……(夜は何してんだ…!?)」

「(`・ω・´)きゅっきゅっ!きゅおー!」

「グオ?」

「(`・ω・´)きゅお!」

「グオ!」

「(`・ω・´)きゅお!」

「…え、見逃してくれた…!?」

 

 

※夜ちゃんの「えっへん!」と「どやっ!」が混じったお顔をご想像下さい。

 

 

「―――さ、ご夫妻の邪魔にならないうちに行きましょう?」

「おまっ…どうやって…」

「兎の頃を思い出して…片言ですが、なんとか説得してみましたのですっ」

「あれ兎語(?)だったのか…」

「とりあえず『ワタシタチコワイ、チガウ!コワイノ、メッ!ココ、トオルダケ!!』って」

「よくそんな事出来たな…」

「『ミンナナカマ!ミンナトモダチ!!トモダチ!!』ってずっと言い張りました」

「異国人への宥め方みたいだな…」

 

 

※出来る兎、夜ちゃん。

 

 

 

 

 

【やっとユクモ村に帰れたよ!】

 

 

「おかえりっ夜ちゃん!」

「チェダーさぁん…!」

「無事に見つかって良かった良かった」

「スウィーツさん…」

「―――そっちは何事もなく?」

「んー?…ん、色々あったけど、まあ問題無し?」

「何だそれ………って、お前ら、その指輪……」

「あ、気付いた?」

 

「私達、婚約しましたー☆」

「したんだ…」←頬を染めて照れ照れしてるスウィーツをご想像下さい。

 

「………」

「婚約?」

「そ!まだ恋人気分味わいたいから、結婚は遅くにしようって……綺麗でしょー?」

「……へえ。……どっちから?」

「「………私/イーシェから?」」

「何でそこで疑問符なんだよ」

「多分私かなー。『嫁に来て』って言ったの私だし」

「嫁……」

「俺、毎日イーシェに美味しいご飯作るんだ…」

「同居もしてるのー」

「なんか色々突っ込みたいが…まあ、おめでとう?」

「どーも。……んでんで、お二人は?恋人になっちゃったわけ?」

「ああ」

「へえ、私達の次に夫婦ハンターになれるといいねー」

 

「もちろんだ――――結婚前提の交際だからな。18になったら(無理にでも)婚約する」

 

「「えっ」」

「……何か問題でも?」

「いやいやいや!結婚前提って…!夜ちゃんまだ(中身が)幼いのにさ、重すぎじゃ……ていうかさっきから夜ちゃん咲ちゃんに引っ付いて何も言わないんだけど、本当に付き合ってるんだよね?騙してないよね!?」

「夜、咲のこと、好きなのか…?」

 

「…?はい、一番大好きです。…愛してます」

 

「「………マジで!?」」

「お前ら…本当に失礼な奴らだな…!」

「だってだって!…よ、夜ちゃん、本当にこんなドS男と結婚するの!?」

「やめとけ!毎日粘着質過ぎて泣かされるぞ!こいつ姑みたいに陰湿だからな!」

「おい菓子野郎、その口引き裂いてやろうか…?」

「その包丁どこから出したのよ!?」

「?」

「……ね、夜ちゃん、結婚って何のことか、分かってる?」

「はいっ帰り道で習いました!」

「よし、じゃあお姉さんに教えてご覧?」

 

「結婚は、咲さんとずっとずっと一緒にいれて、咲さん以外の男性と親しくしちゃいけなくて、支えて支えられて―――」

 

「(……あれ、意外と普通…?)」

「(……ちゃんと結婚の意味を教えてる…!?)」

 

「―――咲さんが一緒にいない時は、お買い物に出ちゃいけなくて、お家から玄関まででも出ちゃいけなくて、咲さんがお出かけする時と帰ってくる時にちゅー?」

 

「「………」」

「あと、おはようとおやすみも!喧嘩してもお外に出ちゃ駄目、お部屋に籠るのは良し、です。それが、結婚…?」

「「…………」」

「…正解だ夜。よく覚えてられたな?」

「えへへー」

「―――……ちょ、…ちょっと待ったぁぁぁぁ!!何それ後半おかしいじゃない!」

「どこが?」

「夜ちゃんの自由が無いじゃん!?監禁じゃん!!」

「夜がいいならいいだろ」

「良くねーよ!駄目駄目だよ!―――夜ちゃん、よく考えて?…一人でのんびりお散歩も出来ないんだよ?嫌でしょ?」

 

「…いいえ、私……隣に咲さんがいないと、駄目だから」

 

「…」

「それに、チェダーさんのお家に遊びに行くのは(送り迎え咲付きで)いいって、言ってくれたから。全然構いません」

「で、でもさ、咲ちゃんと私達との間だけの世界なんて、小さ過ぎて退屈でしょう?」

「私は、その小さい世界が好きです。大きい世界はとても怖くて―――、咲さんと一緒じゃなきゃ、耐えられないから」

「………っ」

 

「小さくても、咲さんが隣で笑ってくれる世界に、私はずっとずっと居たいのです」

 

 

※ポジティブな(自覚のない)監禁志望者。その理由はとっても温かいのでした。

 



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こんな飼い主さんは嫌だ!



※咲ちゃんがヤンデレ過ぎてやばい。(前半)

※格好良くて保護者な咲ちゃんがいない。咲ちゃんのイメージを崩したくない方はBack。

※咲ちゃんが変態で一応R-15。スウィーツが駄犬。チェダーお姉様が女王様だったりお姉さん過ぎて一応R-15。

※つまり何が言いたいかっていうと下ネタとヤンデレとエロがギャグテイスト。駄目な方は急いで猛Back。





 

 

【首輪を付けてみよう!】

 

 

「………」

「…咲ちゃーん?ペットショップで何見てんのー?」

「首輪」

「えっ」

「これとリードがあれば前の時みたいな事も無いだろう」

「いやいやいや!アンタ頭沸いてんじゃないの!?」

「沸いてねーよ、失礼な奴だな。…お前だって昔、スウィーツに首輪付けて遊んでたじゃねーか」

 

 

※思い出してごーらんー↓(付き合う前)

 

『ねえねえ。首輪付けてみたい』

『えっ!?』

『貰い物なんだけど…綺麗な赤だし、似合うと思うの』

『え…あ、あのっ、……お、俺、チェダーがいいって言うなら、』

『え、いいの?』

『お、おう……が、頑張って飼い主やk』

『よいしょっと』←首輪を付けてあげる優しいお姉さん

『』

『うんうん、似合う似合う』

『………えっ?』

『リードも付けて…っと』

『あ、あの?チェダーさn』

『御主人様とお呼び!』←リードを思いっきり引っ張るお姉さん

『はいっ御主人様!』←ビビって即答した犬

『お座り!』

『えっ』

『座ってごらん、って言ったの。聞こえなかったの?』←煙管の煙を吹きかけるお姉さん

『ちょっ……っ………~~~ッ』←プライドを捨てた犬

『ワンって可愛く鳴いて?』

『……わん』

『可愛くないな~、どうしてかな~?』←わざと胸の谷間を見せるお姉さん

『あっ…う、うう……』

『唸って欲しいなんて言ってないんだけどなー』←谷間見せるのを止めようとするお姉さん

『わんっ…わん!』←まだまだ青かった

『よしよーし、可愛いぞー!』←谷間に飼い犬の顔を埋めてあげる飼い主さん

『』←またも何も言えない犬

『じゃあ次は―――』

 

『おいチェダー、村長がお前を呼んで……玄関先で何やってんだ?』

 

『咲!?』←鼻血だらだらで谷間から逃げ出す犬

『あ、やっほー。今ね、飼い主とペットごっこしてんのー』

『へー……お似合いだな、スウィーツ』

『うっ……うわあぁぁぁぁぁぁん!!もう婿に行けないぃぃぃぃ!!!』

 

 

※現在、彼は飼い主のお姉さんの嫁になることになりました(拍手)

 

 

「―――あれはふざけてやっただけだから大丈夫なの!咲ちゃんはマジだから駄目なの!」

「…とにかく、お前に言われたかねーんだよ。……夜、どの色が良い?」

「ちょ、何も知らない子に何てこと…!」

「……?」

「どっちだ?」

「夜ちゃん!怒っていいんだからね!?」

 

「………飼い主さんの、好きな色がいいです」←後光の射す微笑

 

「「………」」

 

 

※真っ白なその笑みに、大人二人組は沈黙しました。

 

 

 

 

 

【首輪を付けてみよう! その2☆】

 

 

「……お前ら……クエスト中までイチャイチャ甘過ぎる事してんなよ…」

「してねーだろ。甘いのはテメーの名字だ」

「酷い!!」

 

「…これはただの逃亡防止用だ」

「とうぼ……」

「こうして手を繋いでたら夜も喜ぶし端から見ても変じゃないし、すぐに捕まえられるから便利だろ」

「咲……お前、あれからだいぶ頭のネジぶっ飛んだな…」

 

 

※むしろ病んでない?…と心配したスウィーツ君。手が繋げてニコニコの兎ちゃんは気付いてない。

 

 

 

 

 

【首輪を付けてみよう! その3☆】

 

 

「飼い主さん、飼い主さん…これは何ですか?」

「チョーカーだ」

「……?」

「…つまり首飾りな。これなら普段付けててもクエスト中でも大丈夫だし、邪魔にならないだろ」

「そうですね、それにとても綺麗な飾りなのです。……可愛い」

「………気にいったか?」

「はいっ!」

「………付けてやる。髪上げろ」

「えへへー」

「これは留めるのが難しいから、俺が付けるまで弄るなよ?」

「はーい」

「返事は短くな」

「はい!」

「ん、」

「………この花飾り、何の鉱石で出来ているのですか?」

「虹水晶。……壊れやすいから、あんまり触るな」

「こ、この鉱石ってそんなに壊れやすいのですか?」

「いや、その飾りを付けておけばお前の位置が分かるんだ。大事に扱え」

「はい、大事にします!」

「こら、動くな」

「うー……」

 

(人間さんはすごいものを作れるのですね……)

 

 

※どう見てもストーカーですありがとうございました。なお、私はモンハン世界を何だと思ってるのだろうか……。

 

 

 

 

 

【首輪を付けてみよう! その4☆】

 

 

「森丘に採集しに来たのも久しぶりだな……」

「はい」

「……お前はさっきから何で花をぐしゃぐしゃにしてるんだ?」

「輪っかを作りたいのです……」

「下手くそ。……ほら、貸してみろ」

「おぉー!」

「………」←ちょっと恥ずかしい。

「飼い主さん、飼い主さん!こんな感じですか!?」

「もうちょっと優しく……よし、」

「えへへー」

 

 

「二人共何してーんのっ?」

「あ、チェダーさん、スウィーツさん」

「むしろお前らが何してんだ。ペイントボール臭ぇんだけど」

「採集しようとしたらスウィーツが間違ってペイントボール全部ぶちまけたんだよね。ドジっ子スウィーツ可愛い☆」

「うっ……!」

「おい……そのドジっ子、お前のせいで泣いてるぞ…」

 

「――――出来たー!」

「「おお?」」

「輪っか出来ましたよ、飼い主さん!」

「おー、よく出来たな……少し解れてるけど」

「二つも作って大変だったねー?」

「えへへ…はいっ」

「はっ?」

「飼い主さんに首飾りです!…これでお揃いですね?」

「……」

「よかったねー咲ちゃーん?咲ちゃんも 首輪(くびかざり)付きだよー?」

「あ、あの…お嫌でしたか…?」

「…………いや、……ありがと」

「デレた咲ちゃん可愛いー!私もスウィーツに作ったげようっと」

「……お前、作れんの?」

「………作って!」

「頼むのかよ」

「分かった!」

「いいのかよ…」

 

 

※お互いに首輪っていうシチュも良いかもしれない。

 

 

 

 

 

【首輪の次は縄】

 

 

「………」

「……あれれ、咲ちゃん何探してんのー?」

「縄」

「…………………えっ」

「丈夫で中々切れない縄が欲しくてな。ずっと括りつけても風化しないもんってないだろうか」

「て、店員さんに……聞いて、みたら?」

「おー…」

「(……さ、咲ちゃんまさか、夜ちゃんのこと……だ、大丈夫かな……)」

 

「すいません、これください」

「(ああああ何も言えないまま買っちゃった!…どうする!?今から止めるべき!?)」

「じゃあな」

「あ……さ、咲ちゃん!…今から、遊びに行っても、いいかな?」

「別にいいけど…何で?」

「ほらほら、最近家の事で忙しくてさ、夜ちゃんに会ってなかったから☆」

「あっそ」

 

 

※そういう疑いをかけられる男、咲ちゃんwwww

 

 

 

 

 

【兎さんは今日も無邪気】

 

 

「おかえりなさーい!」

「おう」

「(わー…今からおかえりのちゅー(※頬に)してますよ……帰ったらイリスにしてあげようかな)」

「…あっ、チェダーさんだ!お久しぶりですっ」

「おひさ~元気にしてた?」

「はいっチェダーさんも?」

「チェダーお姉さんはいっつも元気だよー」←女の子できゃっきゃ中

「……夜、お茶淹れてくれ」

「はいっ」

「……なんかもう新婚さんだねー?」

「お前んとこは熟年だな。亭主関白の」

「…………………否定はしないっ」

「あっそ」

 

 

「―――はい、どうぞ」

「ありがとー!…いやー、別嬪さんに淹れてもらったお茶は格別だわー」

「親父か」

「それ、スウィーツにも言われたー……台所に立つあの子のお尻を撫でてみただけなのに…」

「最低だな」

「えーっどうせ咲ちゃんも夜ちゃんのお尻を撫でまわしたり胸を鷲掴んだりしてんでしょー?」

「してねーよ」

「…夜ちゃん!真実は!?」

「…常に一つ?」

「違う!」

「…いや、合ってるけどな」

 

 

※咲ちゃんは夜ちゃんを足の上に乗せたり背後から抱きつくくらいしかしてないんだよ!

 

 

 

 

 

【おしえてーおじいさんー】

 

 

「……で、だ。……その縄、何に使う気?(見た所、夜ちゃんは無事だったけど…)」

「ああ、ブランコ作ってやろうかと」

「えっ」

「本を読んでやったらな、アイツが『ブランコ』は何だって言うから。畑に立派な木があるんだし、作ってやろうかと思ってな」

「あ、ああ……ブランコ……」

 

 

「―――お菓子出来ましたー!」

「よく出来たな」

(…なんだ。まだまだ保護者役をやってるのか…。ていうかもうお菓子も作れるようになったんだ…)←地味にショック

「紅茶のクッキーですよー」

「おー」

(所々重いけど、それはまた離れるような事が嫌なだけで―――それ以外だと、案外普通のお兄さんって感じだし…)

「冷ましたんですけど、熱いかも…あーん」

「あー…」

「ひゃっ」

「……」

「(―――前言撤回。あいつ夜ちゃんの指を厭らしく舐め過ぎだろ!)がっつかない!」←脇腹一発

「―――~~っ」

「チェダーさぁん!」←抱きつき

「よしよし、悪い狼は 猟師(おねえさん)が退治したからね!」

 

 

※実は夜が怯えないラインでセクハラ中の咲さん(たまに失敗あり)だった…。

 

 

 

 

 

【離婚の危機かもしれない】

 

 

「どーお?気持ちいい?」

「んん…ちょ、そこ駄目。そこ駄目ぇぇぇ!くすぐった…あっ…そ、そこ…」

「優しくがいい?痛くがいい?」

「もうちょっと強く…あ、あんまり突っ込まないで――――」

 

 

「ちぇだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「ひっ」

「あ、折角綺麗に取れた耳垢が…」

「嘘っ!?」

「大丈夫、ちゃんとお姉さんがとってあげるから」

「おいっそいつの耳掃除はどうでもいいだろ!?それより夜が!夜が!!」

「もー、夜ちゃんが何さ?」

「自分の部屋(※滅多に使わない)から出て来ないんだ!話しかけても何も…み、身じろぐ気配はするから、居るには居るんだろうが…!」

「お前が何かやらかしたからじゃねーの?…あー、耳スッキリ」

「それは良かった」

「……俺、何か……あっ!」

「あ、思い出した?」

 

「ね、寝てる夜に(性的な)悪戯したのがバレたのか…!?それとも昨日のディープキスがトラウマに…!?」

 

「……ロリコーン、離婚の危機で色々ぶっ飛んでるのは仕方ないにしてもさー、もうちょっとアレ、自分の胸の内に留めておいてくれるー?」

「もしくは俺のシャツ一枚に豊受が送って来た兎耳を付けさせたのが悪かったのか…?いや、でも(よく分かってないから)楽しそうだったし……はっ、首輪も付けたのが悪かったのか!?」

「咲…お前の性的趣向ってちょっと……」←引いてる

「でもさー、兎耳とか付けてみたい気持ちは分かるよねー、可愛いもん」

「…だよなー可愛いよなー?」←変わり身が早い

「今度さ、犬耳買ってくるから首輪と一緒に付けてね?」

「……う…ん…」←やっぱり俺が犬なのか…の顔

「――――俺、ちょっと謝ってくる!」

「「最初っからそうしなよ…」」

 

 

※とりあえず誰かに相談したかった咲ちゃん。不安のあまり色々とアレな話がゴロゴロ出てくる。

 

 

 

 

 

 

【だって女の子だもん!】

 

 

「んー…」

「イリスは膝枕好きだよねー」

「うん……俺、死ぬならイーシェの膝の上がいい…」

「胸の谷間じゃ無くて?」

「…………………………………………うん…」

「考えたね」

 

「ちぇ、ちぇだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「……またかよ!?」

「うるせぇ菓子野郎。蟻にでも喰われてろッ」

「………」←泣いた

「…まったく、今度はどうしたの?」

「よ、夜が…血を出して蹲ってる!」

「………さ、刺したって事?」

「違う!生理!」

「最初っからそう言いなさいよ!」

「初めての生理でどうしたらいいのか分かってないんだ。何とかしろ」

「何とかしろってアンタ……痛みは?」

「顔真っ白で脂汗がぼたぼたレベル」

「重い方だったか……可哀想にねぇ」←ナプキン取りに行く

「他にはどんなだったよ?」←薬を探す

「何か訳分かってなくて震えてた。『死んじゃいます…?』って涙目で聞く夜…可愛かった」

「「Sだ」」

 

 

※混乱のあまり、色々駄々漏れ咲ちゃん。夜はこんな男のどこに惹かれたのだろうか…。

 

 

 

 

 

【初めてって怖いよね】

 

 

「((´;ω; `))」

「夜ちゃーん、お姉様が助けに来たよー!」

「…………((´;ω; `))」←痛みで何も話せない

「男二人はお湯張ってきてー」

「………((´;ω; `))」←咲に行って欲しくないんだけど痛みで何も言えない

「夜ちゃん、今も痛い?」

「(´;ω; `))」←頷く

「ぐちゃぐちゃして気持ち悪いでしょ?げぼ…男二人が今お湯沸かしてるからねー」

「(´;ω; `))」←ちょいちょいとお姉さんの服を引っ張る

「…大丈夫だよ、これは女の子なら誰でも通る道だからねー。死んだりしないからねー」

「((´;ω; `))」

「お薬飲んで温かくして寝てればよくなるからね、…大体、一週間ぐらいで終わるかな?」

「((´;ω; `))!?」

「い、痛みは三日四日…最悪五日とかで終わる……かも」

「((´;ω; `))」

 

 

※兎ちゃんは痛みに弱い。

 

 

 

 

 

【甲斐甲斐しいヤンデレは好きですか?】

 

 

「夜。ほら、飯だぞ」

「((´;ω; `))」←布団から出たくないというか動きたくない

「…夜、何か食べないと。血が作れないから…」

「((´;ω; `))」←むしろ作りたくない

「じゃ、じゃあ、何か食べたい物はないか?林檎剥こうか?」

「((´;ω; `))」←考えたくない

「じゃあ――――」

 

 

「……甲斐甲斐しいねぇ」

「俺、あんなに必死な咲、見たくなかったわ…はい、ナプキン買って来たよ」

「悪いねー…ていうかさ、」

「ん?」

「イリスって恥ずかしがり屋なのにさ、こういうの買いに行くのに抵抗感無いよね」

「抵抗感失くしたのお前だろ」

「そうだっけ」

 

 

「夜、大丈夫か…?」

「((´;ω; `))」

「辛いよな、痛いよな…可哀想に…」

「昔私に『生理がなんだってんだー!』とか『血がダラダラ出るだけ』とか吐き捨てたくせにー!」

「うるせぇ!お前と夜じゃか弱さからして違うんだよ!見ろ、この今にも息絶えそうな顔!」

「イーシェだってそんな顔して俺に八つ当たりすんぞコラ!」

「八つ当たり出来るくらいには元気なんじゃねーか!」

「八つ当たりって言っても足拭いてもらったりしてる途中で小突いたりしたくらいだし!」

「…それじゃあこいつのご褒美じゃねーか」

「………………ッ」

「否定しないのかよ」

 

 

※だってイリス君は犬なんだもの。

 

 

 

 

 

【兎さんにがっつきたい】

 

 

「夜、甘いの欲しくないか?ココア入れたんだけど…」

「………」←ちょっと落ち着いてきた

 

「イリスー、私もー」

「もう入れたけど」

「キャー!イリスったら出来る子!」

 

「……夜、いらないか?」

「……の、む。…ます」

「起きれるか?ほら、」←介助

 

「……はふっ」←ココアに息を吹きかけ中

「………」

「…はふ、はふふふ、はふっ」

「……」

「はふー………ん、」←一口飲む

「どうだ?」

「おいし……あっ」←口の端から零れた

「ん、」←当然のような顔で舐めとった

 

「『ん』じゃないでしょぉぉぉぉぉ!!教育的指導!」←お姉さんによるクッキー投げ

 

「いった…!」

「おま…分かってないのを良い事に……軽蔑するわ」

「俺は元からお前の事を軽蔑してたよ」

「ひどいっ」

「なんかもー同じ所で住まわせるのが怖くなったんだけど。それ以上目に余るものがあったらお姉さんの所で引き取るよ?」

「……」←無言で離れる

「…ぅ、ぅう、いーしぇぇぇ…!」

「よしよし、泣かないのー」

 

 

※多分一番悪いのは自覚のない+(貞操の)危機察知が出来ない兎ちゃん。

 

 

 

 

 

【本編第一話と比べると、現在の咲ちゃんはかなり変態】

 

 

「……咲さん、怖いから傍にいて下さい…」

「しょうがないな…」←素早く布団に入る

「……」

「………」

「……?」

「……咲、さん。どうして腰とお尻を撫でてるのですか?」

「擦ると痛みが楽になるんだよ」←適当

「そう……なのですか…」←眠い

「……」

「………んん、胸はくすぐったいのです」

「へえ、じゃあ…―――――あっ」

 

 

※女の子の味方、チェダーお姉さんが只今悪い狼さんを懲らしめています。

 

※良い子の皆!チェダーお姉さんを応援しよう!

 

 

「このッド変態が!!」

「気持ち悪ぃんだよ!」←お姉さんの陰に隠れての罵声

「さ、咲さん…?大丈夫ですか、咲さん…」

「夜ちゃん駄目よ!こんな悪い大人に近づいちゃ!」

「でも…咲さんは良い人…」

「今現在悪い人なの―――ああもう、夜ちゃんの生理が終わるまで、預からせていただきます!」

「はぁ!?ふざけんな!俺の―――」

「……村長にこの現状を伝えてもいいのよ…?」

「…………チッ」

 

 

※兎さんは無事、保護されたのでした。

 

 






追記:

チーズ菓子は二人っきりの時に名前で呼び合ってる感じ。
私の中で保護者してた時の面倒見の良い咲兄さん像がどんどん消えて、ナチュラルなセクハラをするヤンデレになっていく……。


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だけど、これは君を愛しているからなの


※会話文形式(楽なんです……)

※お姉様が口汚い。罵りシーン(別に犬へのご褒美シーンじゃないよ!)がある。

※全体的に微妙。

※死人が出てる。

※夫婦喧嘩が起きる。……ので、ご注意ください。

四人で街で発注されたクエストに行った後から始まります。





 

【しかし他意は無い】

 

 

※クエスト終了後、適当に別れてお散歩中。

 

 

「大きな街ですねー…」

「そうだな―――何か欲しいものでもあるか?」

「……じゃ、じゃあ、あそこの…ぬいぐるみ屋さん…」

「ああ、あそこな」

 

※恐る恐る入店するwktkな夜ちゃんと「潰れそう…」とか思ってる失礼な咲ちゃんをご想像下さい。

 

「わぁ…!色んな子がいるー!」

「モンスターのぬいぐるみばっかだな」

「ギアノスさんだー!」

「ぶっさいくな顔してんな」

「…ふ、フルフルさんだー!」

「抱き枕に見えるな。手抜きって感じ」

「………(´・ω・`)」

「…ごめん」

「………(´・ω・`)」

「……ごめんって。たくさん買っていいから」

「……じゃあ、フルフルさんとギアノスさん…」

「はいはい。それだけでいいのか?」

「ナルガさん!」

「嫌いじゃないのか」

「このぬいぐるみのナルガさんは可愛いです」

「ああそう」

「あと…あと……あっ」

「あん?」

「ウルクス………うっ(´;ω; `)」

亜種(おまえ)カラーが無いからって泣くなよ…」

「だって…私、こんな所でも仲間外れ……(´;ω; `)」

「染めりゃあいいだろ。ほらっ」

「染める…?」

「俺が染めてやるよ」

 

「――――……ふふふっ。それって考えてみると、まるで私が咲さんに染められるみたいですね」

 

「」←そんな言葉が出るとは思ってもいなかった。

「フルフルさんが言ってました。男の人は自分色に染めたくってしょうがない性分だって」

「……………フルフルが?」

「はい。……それじゃあ咲さん、」

 

「あなたの手で、どうか染めてくださいね」

 

 

※天然って時々殺傷力高過ぎてやばい。回復薬をいくら飲んでも耐えれそうにない(byヤンデレ)

 

 

 

 

 

【嫁を巡って大喧嘩。しかも店の前で】

 

 

※咲ちゃんがフルフルさんとギアノスさんを袋に入れて、夜ちゃんがウルクとナルガをだっこして持ってるよ!

 

 

「……?」

「どうした?」

「いえ、あそこのお菓子屋さん…」

「食いたいのか?」

「スウィーツさんを挟んで女の人二人が喧嘩をしているような…」

「は?」

 

 

「―――いいからさっさと放してくれる?私、アンタみたいな小娘(ガキ)相手にする程暇じゃないんだけど」

「じゃあどっか行けばいいじゃない!私は久し振りに会った幼馴染とお話したいの!」

「私が居ない所にこの子を置いてく訳ないでしょ。下手したら良いカモになっちゃうんだからこの坊っちゃんは」

「カモにしてんのはアンタでしょ!?スウィーツのこと荷物持ちにして!困ってるのが分かんないの?」

「この子は私の為に尽くす事に喜びを感じてるから良いの。……ね、イリス…?」

「色目使わないでよ!」

「あらら~?そんなに僻んじゃって、……もしかしてお姉さんの豊かで形の良い胸とお嬢ちゃんの貧相で寂しくてまな板で魅力が石ころ以下の胸と比べちゃった?」

「なっ……!」

「ごめんねー?…ああでも胸で全て決まるわけじゃないし?顔が良ければ……ってやだ!顔は平凡クラスだったね!髪もそこらと同化しそうwww胸も駄目なら顔も駄目www」

「あ…あんたなんか性格の悪さで差し引きゼロどころかマイナスじゃない!―――第一ッ」

 

「まだ二十歳でもないスウィーツに、二十歳過ぎてオバサンのアンタなんて不釣り合いでしょ!若い子の人生滅茶苦茶にしないでよ、このッ……ババアが!!」

 

「…………………………あ゛あん?」

 

 

「……?咲さん、耳押さえてたら聞こえない…」

「聞かなくていいから」

 

 

「……じゃあ、第三者から御意見聞いてみようじゃないの…ねえ、イリス?」

「はいっ(;`・ω・́)ゝ」

「イリスはこの小娘と同じく、私の事ババアって思ってるのかな…?」

「いいえっ!若くて美人です!綺麗ですッ(;`・ω・́)ゝ」

「ちょ、」

「イリスは小娘とお姉さん。どっちが好き…?」

「お姉さんが大好きです!!」←死にたい

「そうよね、ええそうでしょうねッ乳臭くてまな板で箒みたいでしみったれた小娘よりッ」

「綺麗で美人で華やかで肌も肌理細やかで唇ふっくらしてて二重で目が綺麗な紫で胸が豊か過ぎて目のやり所に困っちゃったりしてスラッとした足が素敵で何やっても絵になって銀髪の麗しいイーシェお姉さんが大好きですッとっても大好きだから喧嘩しないで!!」

「ですってぇ!唯一の歳でも勝てなかったね!イリスはもずくみたいな髪したまな板女よりアンタの言うババアが好きなんだって!もう一回ママのお腹の中に戻ってやり直したらwwww今度は美人に生まれるといいねwww無理かもしんないけどwwww」

 

 

「咲さーん、三人で何を…?」

「今日のお天気は最高ですねって言ってるよ」

 

 

「どうしたのwww黙っちゃってwwww来世に期待できないからってwww大丈夫だよ、結婚は出来るだろうからwww平平凡凡でまな板好きでもずくのアンタにお似合いのww旦那さんとwwwwwどうぞお幸せにwwwww」

「わっ…私!昔スウィーツから付き合ってって言われたんだから!」

「それで?振られたの?自然消滅しちゃったのwwwwもずくだけにwwww」

「初めてのキスだって私なんだから!」

「もずくとキスwwwwイリスってば勇者wwww私には真似出来ないwwww」

「スウィーツの初めては全部私が貰ったんだから!あなたの知らないスウィーツも知ってるんだから!!」

「イリス童貞だって知ってるからwwwミスリードに嵌んないからwwwアンタがキスしたことない場所にキスとかwww恥ずかしくて見せられないイリスを知ってるからwww」

「恥っ……!?」

「ていうかさwww"スウィーツ""スウィーツ"って、もしかして名前呼び許されてないの?呼び合うほど深い仲じゃないのwwww一方通行www笑っちゃうwwwwその程度で突っかかって来るとか恥ずかしいwww身の程知らずwwww」

「」

「ねえねえ、身の程知らずさん、今どんな気分?何も言えてないけどどんな気分wwwww」

「もうやめたげてよぉ…!」

 

 

 

「どうしてスウィーツさん泣いてるんですか?あの女の人、俯いてて…チェダーさん笑ってる…」

「チェダーのギャグに泣いてんだろ。……ほら、帰るぞ」

 

 

 

「すっ…スウィーツの馬鹿っ!私を庇ってもくれないで…!もういいッさようなら!」

「えっ…ええっ!?」

「敗www走wwwwイリスのせいにして逃げるとかwwww最低過ぎwwwwざまぁwwwwwwwww」

 

 

※チェダーさんのキャラが何処かに吹っ飛んでしまった……。

 

 

 

 

 

【即興料理、目玉焼きにケチャップ】

 

 

「ふざけんな。何で晩飯が酒場(ココ)なんだ」

「ここの料理美味しいんだよー。すいませーん、お酒追加ぁー!」

「お前はさっきから酒しか飲んでね―じゃねぇか!」

「勝利の後の美酒を呷って何が悪いー!」←酔っぱらってテンションが高い

「……」←酒がかかった

「ごめん。チェダーに代わって何度でも謝るから今日は勘弁してくれ」

「…謝んなくていいから帰ってもいいか?この喧騒に夜が怯えてるし…苛々するし」

「で、でもさ、四人だったら面倒事にも巻き込まれn」

 

 

「お姉ちゃんイイ飲みっぷりじゃねーか!こっち来て飲もうぜ!」

「ははっ鏡見てから言えよ、ばーかっ☆」

「…(´・ω・`)」←フラれて悲しい

 

 

「………」

「……まず酒飲ませなけりゃ面倒に巻き込まれねぇよ」

「はい…ほらっイーシェ、大人しくしてなさい」

「じゃあお前も飲めよぉー!」

「ちょ、こら、駄目…ふがっ」←頬にグリグリカップ押し付けられてる

「……夜、ごめんな。もっと静かな所に食べに行こう」

「((´;ω; `))」←咲の陰で震えてた

 

「――――おっそこのお嬢ちゃん可愛いねー?こっち来て一緒に料理食わない?」

「…その前に俺が料理してやんよ…!」

「咲やめてぇぇぇそのナイフ下ろして!フォークから手を離してぇぇぇぇ!!」

「薄汚い目で夜を見やがって!ヤキ入れてやる!」

「ちょっ、咲ってば!目は不味いよ目は!」

「これぞ本場の目玉焼き☆」

「イーシェもそんなブラックな事言ってないで止めてっ」

 

 

「……あー、…御注文は?」

「…あの喧嘩、止めて下さい…(´;ω; `)」

 

 

※注文通り、マッチョで顔に傷のある強面店長が止めに来てくれましたとさ。

 

 

 

 

 

【まあ小食だから残してしまうんだけども】

 

 

「アイスが食べたい!」

「アイスお一つですねー」

「俺…牛肉の赤ワイン煮で…」

「赤ワイン煮ですねー」

「天丼で」

「天丼ですねー」

「ふわとろオムライスの、お肉抜k」

「そのまんまで」

「はーい、ふわとろオムライスですねー」

「(´;ω; `)」

「そんな顔しても駄目だ。少しは肉を付けろ」

「あー…でもさ、もう『サラダ下さい』って言わなくなったじゃん?」

「それでも駄目だ」

「(´;ω; `)」

「…………」

「(´;ω; `)」

「…………肉、ほんの少しだけ量を減らしてくれ」

「(´;ω; `)!」

「あとサラダスティック二つ」

「(´;ω; `)!!」

 

「咲って結局甘やかすんだよな……」

「お前に言われたくない」

 

 

※ベジタリアンだけど卵とかは大好きな兎ちゃん。

 

 

 

 

 

【大きいのが好き?小さいのが好き?】

 

 

※帰り道

 

 

「残してごめんなさい…」

「…怒ってねーよ」

 

「きゃははっ☆イリスがいっぱーい!あっはっは!あっはっはー!」←嫁の肩をバシバシ叩き中

「ちょ、もう夜なんだから騒がないでっ良い子だからっ…ね?」

 

「……あの女には怒ってるけど」

「………」

「それより、耳は大丈夫か?酒場(あそこ)だいぶうるさかったろ?」

「最初ぐわんぐわんしましたけど、もう大丈b」

「―――私も混ぜてぇー!」

「ちぇ、だーさ、」

「兎ちゃんもしゃもしゃー!」

「ひゃ、咲s」

「咲ちゃんもお姉様の胸に埋めてやんよー!」

「おいっイーシェそれはやm」

 

 

「―――…悪いが巨乳には遊び飽きた。もう興味無い」

 

「「「………」」」

「なんつーか肉の塊って感じで。あんま魅力に感じねーし」

「…夜、こっちおいで」

「……はい」

「遊び飽きたものに喜ぶ訳ないだろ。分かったら放s」

 

 

※お姉様によるジャーマン・スープレックスが決まった!

 

 

 

 

 

【何それ怖い】

 

 

※宿に戻ったら……。

 

 

「えぇー?使えない?何で?金返せ!」←酔っぱらいが机バンバン

「すみません…ですがその、大変言い辛いのですが……」

「何よー」

 

「……お客様のお部屋で、従業員が突然死してしまいまして……」

 

「「「「………」」」」

「その、ええと、お荷物はその時に急いで回収したのですが、宿が混んでいまして…お部屋が空いていなくてですね、」

「…じゃあ咲の部屋で相部屋するから布団と荷物出して」

「はぁ!?」

「しょうがないでしょ、私達に野宿しろっていうの!?」

「人に技かけた女と一緒に寝れるか!夜だって騒がしいのは―――」

 

「わぁい!じゃあ今日はお泊まり会ですね!」

「お泊まり会かどうか分かんないけどな。…あっ枕投げしてみる?」

「枕投げ?」

 

「……全然かまわなさそうだけど」

「――――~~~ッ、夜に近づくな甲斐性無しが!!」

「痛いっ」

 

 

※しょうがないから相部屋になったよ!

 

 

 

 

 

 

【女の子同士のお風呂は至高】

 

 

「夜ちゃん肌すべすべー赤ちゃんみたいー!」

「ちぇ、チェダーさ、あんまりくっつかれると…」

「のぼせ気味の夜ちゃんかぁいいよハァハァ」

「チェダーさんっ」

「でももうちょっとお肉が付いてもいいかも。やせ過ぎはよくないぞっ」

「お肉……」

 

「………チェダーさんって、その、……胸が。大きい、ですよね」

「うん」

「私も、もっと大人になれたら、大きくなるんでしょうか…」

「うーん、多分ねー…でもさ、夜ちゃんの胸ぐらいが一番良いと思うけど。小さ過ぎず若干大きめの…美乳さーん!」

「ひっ」

「大丈夫大丈夫、あのロリでズーフィリアの変態脳味噌ド腐れ真っ黒狼はそれぐらいが好きみたいだから」

「ろり…?」

「夜ちゃんみたいに無邪気で何も知らないわっかい女の子を厭らしくて油ギトギトな目で狙う人間以下の畜生の事だよー」

 

 

「――――誰がッロリでズーフィリアで変態で畜生だぁ!?」

「ちょ、咲落ち着いて、俺を蹴らないでっ…ていうか何で俺に当たんの!?」

「てめーの()()がわざわざ俺に聞こえる声を出してるからに決まってんだろッ」

 

 

※お姉様の怒りはまだまだ鎮火していない。

 

 

 

 

 

【注意!ここは相部屋です!】

 

 

※お姉様→風呂に上がってスッキリしたら怒りも消沈。変態→オトメンに当たったらスッキリ。夜→枕投げしてみたい…。オトメン→大好きなお風呂で傷を癒したよ!

 

 

「咲さーん」←彼シャツ状態で変態に駆け寄る兎っ娘

「こらっ走るな」←風呂上がりの変態

「良い湯でしたかー?」

「…ああ、良い湯だったよ」

「そうですか―――じゃ、髪!乾かしてあげます!」

「はいはい」

「じゃあいきますよー」

「んー…」

「……痒い所はありませんかー?」

「それは洗髪の時の…もうちょっと強く拭けよ」

「はーい」

「そうそう」

「………咲さんの髪って、綺麗な色してますよね」

「………………………………どうも」

「う、嬉しくなかったですか…?」

「あー…色々あってな。でも、」

 

「夜にそう言って貰えると、とても嬉しいよ」

 

 

 

「イリスー、喉乾いたー」

「ほら、水」

「イリスー、雑誌取ってー」

「これか?」

「イリスー、髪梳かしてー」

「んー、」

「イリスー、今日買ってきたマニキュア塗ってー」

「分かった」

「イリス―」

「あー?」

「呼んでみただけー」

「そう」

「イリス―」

「ん?………っ」

 

「ご褒美でしたー☆」

 

 

※どっちの旦那さんも普段はアレな性格でも、嫁にはデレる。………例えすぐ近くにカップルが居ても!

 

 

 

 

 

【ハンターによる枕投げ大会】

 

 

「えー、これより枕投げ大会を始めまーす……せいやっ」

「ちょ、イーシェずるいっ…ってぶはっ」

「―――いいか夜、こうやって全力を出して遊ぶのが枕投げだ。俺みたいにスウィーツにぶつけろ」

「はいっ」

「え、俺?俺がやられんの?」

「その前にお姉様がやってやらー!」

「むにゅっ」←夜の頭にヒット

「てめっ夜に当てるとか何考えてんだ!」←全力投球

「はーい、当たらなーい☆」←お姉様による華麗な避け方

「……おらっ」←二発同時に投げる

「痛っ!」

 

「このっ」←仕返しを試みるオトメン

「はんっ」←叩き落してオトメンを潰しにかかる変態

「痛゛っ……うっぅぅ…イーシェぇぇぇ!」

「うちの犬を虐めんな!」←ガンナーによる精密な狙撃

「てめっ……あ、枕がな―――そらっ」←適当に枕っぽいのを投げた

「…え、咲さん、それ、」

「やったなー!」←咲が投げたもので投げ返すお姉様

「やったれー!」←お姉様の陰に隠れて応援する犬

「あのッ、皆さん、それ、やめて…!」

「はっ、こんなキャッチボールみたいに遅いヤツに当たるかよ、おらっ――――あ、」

 

 

※皆さんお気づきでしょうが、投げていたアレはフルフルさん(ぬいぐるみ)です。

 

※ハンターによる投枕に耐えられず、当然ヤンデレの手で………。

 

 

「な……か、み。出ちゃってるよ…?」

「うわーあぁ…」

「…………………………………………夜、これは、……アレだ。アレするから、その、」

「…………………」

「夜…?その、…なんだ、あの……」

「…………さ、」

「「「さ?」」」

 

「咲さんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!酷い!ひどいぃぃ!!ふる、ふるふるさん、ふるふる…せっかく、大事に―――…咲さんなんか大っ嫌い!嫌い嫌い嫌い!うわあぁぁぁぁぁぁんん!!」

 

「きら…っ」←あまりのショックに真っ白

「ふるふるさぁぁん、フルフルさんん…!死んじゃっ、ふる、うぅぅぅぅ……!!」

「あ、あー、あの、落ち着こう!?大丈夫、イリスが新品同然に直すから!謝るから!」

「咲も隅っこで茸生やしてないで謝れ!」

「……夜、ごめん、また新しいのでも何でもするから、」

「やだやだやだッフルフルさん、フルフルさぁぁんん!!咲さんの馬鹿ぁぁぁぁぁ!馬鹿ッばか……うっうぅ…」

「うわー、もう聞こえてないぞ、あれ…」

「咲さんさいてーです!咲さんの馬鹿!やめてって言ったのに!…ぐす、触らにゃいでください!顔も見たくないです!」

「うはー……ええっと、夜ちゃん落ち着いて、」

「――――…」

「え、咲、何か言った?」

 

「―――何でもやるっつってんだから泣き止めよ!たかが卑猥でキモイ白いぬいぐるみ一個だろうがッしかも『フルフルさん』『フルフルさん』って…俺よりアイツの方が大事か!?こんな事で嫌うとか馬鹿か!?」

 

「……え、何で逆ギレしてんの?」

「咲<フルフル、「大っ嫌い」「触るな」「顔すら見たくない」ていう禁句ワードが入ったからじゃない?」

 

「フルフルさんは気持ち悪くないです!そんな事言う咲さんより優しいですっ!こんな冷たい咲さんよりフルフルさんの方が大事です!!」

「んだとコラァ!俺が今までのどの女よりも丁寧に接してやってんのにお前は!…俺が必死でお前を探してる間に知り合った(モンスター)の方が大事だってか!?」

「痛っ…引っ張らないでください!」

「無理矢理売り子されてた時もそうだけど、お前って愛想振り撒くの大得意だもんな!モンスターになってる時だってお得意の愛嬌でそこらのモンスターとよろしくやってたんだろ、尻軽女!」

「――――ッ」

 

「「あ、」」

 

 

※兎さん(力持ち☆)による一本背負いが決まった!

 

 





備考:

※咲ちゃんぷっつんの流れ↓

・フルフルさんから得た知恵とかお話をよく話す夜ちゃんに地味にイラッとする咲ちゃん。
・フルフルさん大好きな夜ちゃんに地味に(ry
・それで今回初めて「嫌い」って言われて頭が真っ白になる咲ちゃん。
・謝罪っつーか弁明というか、とにかく話を聞いてくれない+二度目の「嫌い」コールに拒否する言葉がいっぱい。
→今までの積もり積もった苛々が話を聞いてくれない夜に向かってバーン☆

・元々ヤンデレだからね、心が狭いのが咲ちゃんだよ!だからキレ方とか怒りMaxの咲ちゃんの台詞がおかしいのは気のせいだよ!

・心の狭い咲ちゃんは(仕方なく)愛想を振られたお客さんに嫉妬してるし世話を焼いて知らない事を教えたフルフルさんとかにも嫉妬所か殺意を持ってるんだよ!流石は無意識のうちに紫の上計画を(ry

・腕は引っ張っても手は上げないのが咲ちゃんの優しさだよ!

・咲ちゃんを許せない人は、前に載せた「小話:さくちゃん」を読んで咲ちゃんの気持ちになって……読んでもきっと分かんないよ!←

・ただ単に夜に酷い事を言う咲ちゃんと、ぬいぐるみを買ってもらう夜ちゃん、嫁の取り合いをするチーズ。…ヤンデレに「嫌い」とかヤバい事言っちゃう夜ちゃんが書きたかっただけだよ!

※次回は甘い流れに持っていくのでご安心ください。


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だって、君を愛しているからね



※会話文形式じゃないけれどもたまに会話文形式

※色々中途半端

※安心の咲さん。ブレない咲さんにご注意

※夜ちゃんがツンツンしてる

※夜ちゃんが突っ込まれてぐちゃぐちゃされる

※エロも話も中途半端。


以上、ご注意ください。





 

 

【アレ?これもう喧嘩じゃ無くて意地の張り合いじゃね?】

 

 

「―――とにかくさ、もう夜も遅いし他の人の迷惑だし(※今更)寝ちゃおうよ。…ね?」

「「………」」

「とりあえずアレ…明日アレしてアレにしよう。うん」

 

睨み合う二人にやんわりと言えば、二人はそっぽ向いて刺々しい声を出す。

 

「……私、咲さんと一緒に寝たくないです」

「………俺も」

「……………だから廊下で寝ます」

「…………………じゃあ俺ベランダで寝るからお前が部屋で寝てろよ」

「結構です。凍土育ちですので寒いのには慣れてます。咲さんじゃあ風邪引きますよ」

「はっ、俺をそこらのもやし(※菓子ハンターをチラ見)と一緒にすんな。俺は小さい頃に雪が降る中母親に家から叩きだされて二日間過ごした事が有るんでね」

「私は年中お外ですから。咲さんとはレベルが違うんですっ」

「今のもふもふしてねーお前が耐えられるかよ。貧弱っ子は黙って部屋で寝てな」

 

 

「もうお前ら爆発しろ」とイーシェが溜息をついて座り込めば、彼女の(ヨメ)もすすすと近寄って座る。

視線の先で頬を膨らませ、だぶついた咲のシャツの裾をぶんぶん振る夜の生足を見て癒されながら、イーシェは言わせるだけ言わせようと傍観する事に決めた。

 

 

「ホットドリンク飲んで寝ますから大丈夫です!」

「ホットドリンクなんて持って来てねーだろ」

「買ってくればいいんです!」

「もう店閉まってるに決まってんだろ!第一こんな時間に外に出るな馬鹿!」

「馬鹿じゃないです!む…む、無知?なんです!」

「一緒じゃねーか!てか分かんねーのに使うんじゃねーよ!」

「わ、分かってますもん!向こうで働いてた時、娘さんによく言われてました!」

「………ッ」

「ぴっ」

 

 

元々目つきの良くない咲に凄まれて、夜はフルフルのぬいぐるみを中身が出るまできつく抱きしめる。

 

傍観してるイーシェから見れば、固まっちゃうのは例のご家庭だけじゃなかろうかと思うのだが―――ジリジリ後退する夜にこれまたジリジリ迫る咲に「兎狩りかよ」と内心思いつつ、イーシェはとりあえず弱者(ヨル)の味方をした。

 

 

「あーあー!もういいからさっさと寝ますよ!夜ちゃんは私の隣で寝て、イリスが咲ちゃんの隣で寝ればいいでしょ!」

「はぁ!?ふざk」

「殺されるぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 

…怖がりなくせに今の咲の言葉を遮って挑発(彼的には拒否)出来るイリスは案外凄い子なのかもしれない。

 

「…こんの菓子野郎、本当に殺してやろうか…!」

「だから喧嘩しないのー!……あんまり言う事聞かないと、チェダーさんお手製睡眠薬が全員に降りかかりますよ!」

 

―――牙でも剥きそうな咲に指を一本指し、紫で虫の頭とか手がごぽごぽと(何故か)泡立つ液体の中で揺れているのを全員に見せた。→沈黙の魔法が完成した。

 

 

「……ちっ」

「ね、寝よっかー…」

「…寝ます…」

「よろしい。では明りを消すぞ諸君!」

 

両腕を腰に当ててそう宣言すると、イーシェは明りを消して強制終了させる。

 

――――が、

 

 

「………」←超不機嫌に寝床に入るヤンデレ

「………」←限界まで離れて寝る駄犬

「………」←両隣りの震えてる子を宥めて寝かしつけるお姉さん

「………」←ぐずつきながら真っ二つのフルフルさんとギアノスさん(※無事)を抱きしめる兎

 

 

……何故に寝る時まで冷戦状態をしでかすのか。

 

というかこの中で一番の年長者なのにどうして大人になれないのか…しかしここで「咲ちゃんってば駄目な子―!」とか言ったら剣士対ガンナーの血みどろの戦いになる事間違い無しなので、イーシェはとことんスル―してやろうと寝返りを…

 

「ひっ」

 

…咲が寝返りを打ったのにビビったイリスがひしっと抱きついて来て、出来ない。

 

いや、別にそれはもうしょうがないとして―――咲が静かな部屋にはっきり伝わる舌打ちをしたせいで本格的にぐずついてしまった事が問題だ。このままだと美容に良くない。

 

 

「……次、寝かせなかった人はお姉さん特製の睡眠薬コースだから」

 

 

ゴッと枕元に睡眠薬を置けば、全員が布団の中に潜り込んだ。

 

 

※お姉様は皆のオカンでオトン。ちなみに得意技は強制終了←

 

 

 

 

 

【何こいつら可愛い】

 

 

※真夜中

 

 

「………」←お姉様の胸に顔を埋めて寝ちゃったリア充

「………」←抱きま…犬に引っ付いて暖をとるお姉様

「…ん……、水…」

 

 

涙の匂いがするフルフルさん上半身を下半身の隣に並べて、夜はもぞもぞと布団から顔を出す。

 

喉の渇きのままに水を求める夜のせいで浅い眠りにいた咲はパッと目を覚ました。……ちなみに、これが夜でなくイリスであった場合、彼は間違いなくシメていただろう。

 

「…水、水……あうっ!」

 

―――まあ、よろよろと歩く夜がイリスの足に躓いてしまったので結局蹴られるのだが。

 

 

「ふがっ…んん」と鳴いたら寝惚けたイーシェに頭を撫でられるというどこまでも幸せなイリスのせいで咲の苛々がどんどん上がる中、「お水…ぷはー」という夜の寝惚けて呑気な声が遠くで聞こえ―――危うい足音が迫って来る。

 

布団に足を乗せた所で「ばふっ」と音がし、のそのそと、

 

 

「………………………………夜?」

「んー」

 

 

咲の隣までもそもそと四つん這いで来ると、夜はそのままいつもの通り咲の広い(けど狭い)胸に頬をすり寄せて眠る。

 

すぴーと寝始める顔に少しイラッとして、咲は顕わになった首筋をなぞった。…もう一度言おう、イラッとしただけでムラッとした訳ではない。

 

 

「み゛っ」

「……おい、お前が寝る所ここじゃないだろ」

「……?」

「………」

「……、………!」

 

 

ぼけーとした顔からはっとした顔になると―――夜はもぞもぞと咲から離れる。……ほんの少し、後悔した。

 

「もふーっ」

 

……のも束の間、やっぱり目覚め切ってなかったらしい夜が咲の太腿に頭を乗せて寝た。

 

少し身じろいだら夜がずるっと落ちて、今度は猫のように丸まって寝始める。―――咲が無言で夜を布団の中に引き入れるのに、時間はかからなかった。

 

「………おやすみ」

「みぅー?」

「……ん、」

 

抱きこんだ夜の髪を梳いてやって、彼は今日やっと充電出来た。

 

 

(………起きたら駄目っぽい……!)

 

 

―――その隣で、豊かなお胸様に顔を突っ込んで死にそうな駄犬が困っていた事にも気付かずに。

 

 

※あれ、本当にこいつら喧嘩してたの?

 

 

 

 

 

【朝は弱い嫁たち】

 

 

「―――夜、…夜。起きろ」

「んん…葉っぱ…葉っぱ…」

「……夢の中の葉に放火されたくなかったらすぐ起きろ」

「ふあっ?」

「"ふあ"じゃねーよまったく…」

 

「イーシェ、朝だぞ朝。あーさー!」

「……………うっさいな。朝は静かに無言で起こしてって何度言ったら分かるの…?」

「ご、ごめんなさ」

「静かにって言ったでしょ」

「えっ」

 

 

…以上、両カップルによる起こし方だった。

 

酒もあってだいぶ機嫌のよろしくないイーシェに涙目で水と薬を与えるイリスの後ろで、咲は跳ねまくった夜の髪を手直した。……つい、癖で。

 

夜は寝惚けながらも嬉しそうにされるがままで―――手が止まり、少し悲しそうな顔をして、…ハッと思い出した顔になると急いで咲から離れた。

 

 

「何で、私…!?」

「お前が夜中に寝惚けて俺の所に潜って来たんだろうが」

「そ、そんなこと…!」

「冷えた足先擦りつけてくるし、雪女かと思ったわ」

「雪女じゃないです。雪兎ですっ」

「そういう問題じゃないだろ。…ていうか今のお前は人間なんだよ。そこんとこ肝に銘じとけ馬鹿」

「そんなの分かってますよ!馬鹿にしないで下さいっ馬鹿って言う方が馬鹿なんですってスウィーツさんが言ってました!」

「お前が危なっかしい馬鹿だから言ってやってんだろ!くだらない事ばっか覚えやがって」

 

 

めそめそイリスが泣いている傍で寝っ転がりながら煙管を吹かすイーシェの隣で、やっぱり二人は言い合いを始め――――

 

 

「つーかさ、お腹空いたからさっさと着換えるよ」

 

 

カンっと高い音を出して灰を落とすイーシェの低い声で、あっけなく終了した。

 

 

※二日酔い+起きたばっかりのお姉さん=いつ爆発するか分からない危険物。

 

 

 

 

 

【食事の席でラブロマンス?…いいえカオスです】

 

 

「御注文はー?」

「……………………………」←二日酔いヤバイ

「モーニングセットとお茶漬け(※イーシェの)」←介護中の犬

「サラd」

「おまかせサンドウィッチと朝の和膳で」

「了解しましたー」

「―――~~っ、咲さん!」

「うるさい。サラダだけ頼まれたら金無いみたいだろうが」

「朝なんですからそう思う人なんていませんよ!」

「とにかくサンドウィッチでも食ってろ!」

「やです!だって、残しちゃうし…無理すると吐いちゃうし…お店の人にだって……」

「食えなかったら俺が食ってやるからギリギリまで腹に詰め込め」

「……加減が分からなくなって、吐いちゃったら?」

「そん時は俺が面倒見てやるよ」

「……本当に?」

「本当に」

 

「はーい、サンドウィッチとお茶漬けお待たせしましたー!」

 

「………」

「うーい、いただきまーす…うっ……おいひい…うぇ…」←客として最低なお姉さん

「ちょ、イーシェ、吐き気が酷いなら一旦待ちなよ」

「食う気がどんどん無くなってくんだが…って、おい。さっさと食えよ」

「………咲さ―――…いえ、まだ食べたくないんです」

「あっそ」

 

「うっぷ、…ちょ、何かヤバい。何か召喚出来そう」

「食事の席で絶対すんなよ」

「ちょ、うっ……!」

「お願いだからトイレ行ってぇぇぇ!!」

 

「………」

「………」

「お待たせしましたー、モーニングセットでーす」

「………」

「………」

「……いい加減に食わないと、パッサパサになんぞ」

「まだ食べたくないんです」

「あっそ」

 

「―――あー、スッキリしたー!」

「ああうん、それは良かった…」

「あ、イリス」

「何だよ」

「そのスクランブルエッグちょーだい」

「良いけど…食ってスクランブルすんなよ」

 

「………」

「………」

「………あ、あの」

「……………何」

「………さく、」

「はーいラストでーす、以上でよろしかったですかー?」

「(´・ω・`)」

「…ああ、これで全部だ」

「それではごゆっくりー」

「(`・ω・´)」

「………」

「「いただきます」」

 

「………」

「(`・ω・´)」

「………お前って、可愛いな」

「(`・ω・´)!?」

 

 

※喧嘩中でも一緒に「いただきます」って言いたかったのです。

 

 

 

 

 

【だってこの子達に長期戦の喧嘩は向いてないんだもの】

 

 

「あー、何か微妙だったー…ケーキ頼もうかな」

「お茶漬けの後にかよ」

「うん―――ねぇ、夜ちゃんもケーキ…」

 

「野菜だけ抜いて食うような兎根性丸出しの奴には、このサワラを食わせてやる」

「う゛っ…不味……(´;ω; `)」

「米食え」

「(´;ω; `)」

「…出し巻き卵、食うか?」

「(´;ω; `)!」

 

「………あれ、仲直りしたの?」

「え、分かんない」

 

「……ありがとう、ございます」

「…………別に」

「………(´・ω・`)」

「………」

「……咲さん」

「あ?」

「……あの、昨日の…フルフルさん、殺害事件で、…その、我儘言っちゃって、…嫌いとか、嫌いとか、嫌い……うっ(´;ω; `)」

「"嫌い"の所で泣くなよ…」

「……酷い事、言っちゃって…あの、ごめんにゃさい゛っ」←噛んだ

「………」

「((´;ω; `))」←痛くて震えてる

「………大丈夫か、舌見せてみろ」

「……ん、」

「ん、」←朝の食事時で人がいるのにも関わらず舌を甘噛みしたナチュラルな変態

 

「「(゜Д゜)」」←空いた口が塞がらないチーズ菓子

 

「ん、んん…んー!」

「………」←公衆の面前とか気にしない変態

「ん、ふ、…む……ゃ…」

「………」←散々突っ込んで満足した変態

「((´;ω; `))」←ディープ怖い

「………これで許してやるよ」←泣き顔可愛いと思う変態

「(´;ω; `)!」

「ただし、また嘘でも"嫌い"って言ったら…分かるよな?」

「((´;ω; `))!?」

「これより凄い事、お前にするから。……嫌がっても無理矢理するから」←念を押すヤンデレ

「((´;ω; `))……」

「……でもまあ、なんだ…今回は俺が悪かった。ごめん」

「(´;ω; `)!」

「あのフルフルは俺が直しとくし、嫌なら買ってもいい。詫びに今日はお前の欲しい物全部買うし、何でも言う事聞くよ」

「咲さん………」

 

「…ねえねえ、夜ちゃんって何であんな明らかに重くてヤバいのがデレただけでころっと騙されちゃうのかな?」

「それが夜の良い所で悪い所っていうか…うーん」

 

「……じゃあ咲さん、今日は一緒にのんびりしましょう?のんびり…一緒に、居てくれるだけで良いんです…」

「夜……」

「咲さんのこと、大好きです。ずっと、ずっと」

「……俺も。…ごめん、酷い事言って…最低だった。……だけど、あんまりフルフルの話ばっかりしないでくれ。お前が実は後悔してるんじゃないかって、不安になるんだ」

「はい。…不安にさせて、ごめんなさい」

「…それから、あんまり他人に愛想良くしないでくれ。不安になるんだ」

「は…はい」

「あと俺以外の奴の事を見ないでくれ。話にも出さないでくれ。むしろ他の奴と喋るな。俺から離れるな。俺の――――」

 

 

「注文多すぎるんだよヤンデレが!!お姉様の指導(今回はキツめ)入ります―――よ!!」

 

 

※兎ちゃんが従順なのを良い事に欲を出す狼の口に、お姉様による制裁(タバスコ)を入れたぞ!

 

 

 

 

 

【これよりオペを開始しまーす】

 

 

「…まあ、こんなもんだろ」

「フルフルさん…!無事に治って良かったのです…!」

 

 

咲の膝の上で治したばかりのフルフルを抱きしめる夜をそのままに、咲は慣れない裁縫に疲れて大きく息を吐いた。

 

彼の直したフルフルは――――縫い目が解れてて、だいぶ荒い。

 

「ありがとうございます」と微笑む夜が縫った方が何倍も良いだろうし、女の真似事が好きな(現在、尻尾を振って恋人の荷物持ちをしているだろう)彼に頼めば気の効いた事でもしてくれたかもしれない。

 

それでも夜は、とても嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめた。

 

 

「…本当に外に出なくていいのか?」

「はいっ。たまにはゆっくりしましょう」

「ふーん…ああ、そう言えばこの街、少しばっかし有名な公園があるぞ」

「公園…?」

「おう。……行ってみるか?」

「あぅ…でも、でも―――行きたいです!」

「じゃあ上着取って来い」

「はぁい!…あ、」

 

 

ひょっこりギアノスのぬいぐるみが顔を出す袋の、解かれた赤いリボンに目を付けた夜があやしい手つきで―――フルフルの白い首に、なんとかリボンを結んだ。

 

 

「ずっと。リボン、解けないといいなぁ…」

「いつかは解けるに決まってんだろ」

「でもっ……折角、仲直りした、記念に。なのに…」

「………」

「これが解けたら、咲さん、何処かに行ってしまいそう…」

 

 

しょんぼりと言えば、咲は夜の頭をポンポンと叩く。

見上げた夜に、呆れたような、何とも言えないような、不思議な顔のまま口を開いた。

 

 

「俺は何処にも行かねーよ。ずっとお前と結ばれててやる」

「咲さん…」

「変な事考えてないでさっさと準備しろ。連れてかねーぞ」

「えっ。…そ、そんなのは嫌です!」

 

 

慌てて上着を羽織り、フルフルのぬいぐるみをそっと置く。

 

 

―――――その隣で、ナルガとウルクススが寄り添い合って日の光を浴びていた。

 

 

 

 

「………まあ、つまりはお前が逃げたくても逃がさないし離さないってワケだが」

「ふまー?」

「いや、一応言っただけだから。…お前はそのクレープを黙って食ってろ」

「ふまー」

 

 

 

 

 

※以上、偶にはツンツンしてる兎ちゃんもどーよ、なお話でした。

 

 






追記:

・本当はぐっちょぐちょの暗い話にしようかと思ってたのですが、ほのぼのタグ詐欺はやめようと思って…作業時に志.方.あ.き.こ.さんの「EXEC_EP=NOVA/.」を聞いてたら喧嘩が半端な感じに…きっと歌の魔法にかかったんだと思います。喧嘩良くない!←

・サブタイは咲ちゃん側の意味にすると何か怖い。夜ちゃん側にすると何か明るいという不思議。

・そして最後に。最初の注意で「突っ込まれてぐちゃぐちゃされる」にアレな妄想をした方は腹筋でっせ!



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ワイルドが好き?それともキュートが好き?



※バレンタイン企画でした。しかし可愛らしいバレンタインではないという不思議

※いつもと同じく会話文形式

※流れがホラー

※咲ちゃんが珍しくまとも

※ヤンデレがいます+血の表現が入ります

※エロっぽさは控えめ。多分。…いつもよりは控えめ。

それでも大丈夫な方はどうぞ!






 

 

【ワイルドに狩るぜ!】

 

 

「―――夜!お前今まで何処に行ってたんだ!一人で勝手に…勝手に……?」

 

 

※何故か縄を片手に持って叱る咲ちゃんと何故か片手に槍を持った夜ちゃんの図。

 

 

「……お前、その槍…その、手の兎…どうした?」

「仕留めました(`・ω・´)」

「何で!?」

「今日は女の人が男の人に贈り物をする日だと聞いて…咲さん甘い物嫌いですから、精を付ける為にもお肉を献上しようかと(`・ω・´)」

「だからって兎…!?おまっ、(元)兎が兎を狙う図なんて最悪だろ…!」

「私はもう狩人です。お気になさらず(`・ω・´)」

「……つーか、槍でどうやって仕留めたんだ」

「耳を澄ませて兎の巣を探して、出て来た所を槍で。なかなか出て来なくて…」

「……(…巣の前でしょんぼり待ってる夜も可愛いかも…)」

「今日の献立は兎の丸焼きで良いですか?(`・ω・´)」

「原始的だな!」

 

 

 

 

 

 

【ワイルドに捌くぜ!】

 

 

「――――…ん…そんな夜も可愛い………あれ?」

 

 

※ソファで転寝してた咲ちゃん。

 

 

「なんだ、夢だったのか…そうだよな、夜は何だかんだ言っても箱入り娘だし。槍片手に兎を持って帰ってくるわけが…」

「ただいま帰りましたー」

「……夜っ、お前今まで何処に―――なんだ、その兎」

「村長さんから頂いたのです。痩せている子ですから、たくさん食べさせてあげたいのですが…」

「…ああ、野菜屑ならあったと思うが…何だ、そいつ飼うのか?」

 

「はいっ!名前はシチューです」

 

「えっ」

「たくさん食べさせて太らせた後、シチューにする予定なのです。楽しみにしててくださいね?」

「……シチューにするから、"シチュー"なのか?」

「そうですよ?毎日毎日"シチュー"って呼んだら、きっと美味しいシチューになりますもの」

「」

「折角ですから私も頂きます」

「共食いだろ!?」

 

「そうですね…でも、世の中弱肉強食ですから」

 

 

 

 

 

【ああああああああ】

 

 

「―――はっ、また夢か…!」

 

「……俺、荒んでるんだろうか…」

 

 

「ただいま帰りましたー」

「」

「ごめんなさい、遅くなっちゃって…」

「あ、いや、今度から気を付けてくれれば……(…槍も兎も無いな)」

 

「………さ、咲さん、…あのですね、今日、女の人が男の人に―――」

「……(もじもじしてる夜可愛い…じゃない、なんかこの様子なら大丈夫そうだな…)」

「―――ですから私、頑張って兎を狩ったんです!」

「えっ」

「昨日狩ったんですが…これ、兎の毛皮で作った帽子です」

「えっ」

「あと、これ……狩った兎の肉で作った―――」

 

 

 

 

 

「―――はっ、…ゆ、夢か…夢だよな…!?」

「咲さーん」

「夜っ、俺どれぐらい―――」

「おつまみにどうぞ、 兎 の 目 玉 」

「」

 

 

 

 

 

【黒兎】

 

 

「―――はっ、夢か……って騙されるか!どうせこれも夢なんだろ…ッ!」

 

 

※只今ヤンデレが頭を壁に打ち付けています。

 

 

「ただいま帰りましたー」

「っ」

「咲さん?咲さーん、」

「………っ」

「咲さん…ねえ、どこに行ったんですか、咲さん……?」

「……」←隠れる

「咲さん…ねえ、いるんでしょう?何で無視するんですか?咲さんの意地悪」

「…、……」

「咲さん、私の事嫌いになっちゃったんですか?咲さん、咲さん。咲さん咲さん咲さん咲さん咲さ」

「………ッ」

「咲さん。早く出て来て下さい。ねえ、早く出て来てくださいよ。じゃないと、」

「……?」

「私、この包丁で自分を刺し続けますから。そしたら咲さん出て来てくれるかな?出て来てくれますよね!咲さんはとぉっても優しい人ですもの!」

「…!」

「あっ、包丁って結構切れる物なんですね。いっぱい血が出てきましたよ咲さん。早く私に会いに来て下さいな、私の事治して下さいな」

「………!?」

「ねぇっ咲さん!私を人間にしたんですもの、ちゃんと私が死ぬまで責任とってくださいよ!…ほら、咲さんが来ないから左足、もうボロボロなんですよ、」

「」

「もうきっと歩けない…咲さん、だから私の事、面倒見て下さいね。咲さん、咲さん咲さん」

「」

「咲さん、……もしかして、怒ってるんですか?私が勝手にお外に出たから?ごめんなさい。何度でも謝りますから、出て来て下さいよぉ…」

「……」←ちょっと身体を出す

「―――そうだ!お詫びとけじめに、この手の血管切ってみますね!それで私の血を飲んでください!そしたら例え私が先に死んでも、ずっとずっと咲さんと一緒!咲さんと離れる事なく、咲さんを支える糧になれます!これで足りないなら小指も切ります!何本でもあげます!それで私の愛を信じて頂けるなら、何だって!だから受け取ってください咲さん!咲さん咲さん咲さん!!」

「」

 

「……ああ、やっと見つけた。…咲さん……飲んで、くれますよね?」

 

 

 

 

 

 

【日頃の行いが悪いからさ】

 

 

「ひっ―――…ゆ、夢か……」

 

「…俺、もう少し自重しよう。今日は性的な悪戯は絶対しない…」

 

「ただいま帰りましたー」

「」

「咲さん、ごめんなさい、遅れてしまって…あの、―――…ど、どうされたんですか、ソファの陰に隠れて…」

「……災害時の練習だ」

「そ、そうですか…―――咲さん」

「何だ?」

「…あのですね、今日は女の人が男の人に贈り物をする日なのですよ」

「う、うん…?」

「ですからその…(´,,・ω・,,`)」

「―――兎か?」

「えっ…よ、よく分かりましたね…?」

「―――シチューか?目玉のおつまみか? 帽子か?」

「し、シチューが食べたいのですか…?ごめんなさい、そういうのじゃなくて…」

「じゃあ血か?血なのか!?」

「えっ…?いいえ、」

 

「……私が兎だった頃の毛皮で作った、耳当てとマフラーですが…」

 

「えっ」

「えっ」

 

「……お嫌、でしたか…?」

「い――いいや!嬉しい!すっごく嬉しい!」

「本当に?」

「本当に!ほら、寒かっただろ。早く火に当たれ」

「……」

「…どうした?」

「………火じゃ、なくて――――咲さんで、温まりたいです」

「」

 

 

 

 

 

【血のバレンタインデー】

 

 

「夢か……死にたい。わりとマジで」

 

「夜に申し訳が…俺は夜を何だと思ってるんだ」←変な所でピュア

 

 

「咲さーん(´;ω; `)」

「…どうした?」

「さっき猫達から聞いたのです。今日は女性が―――」

「あー!それはいいから。全然気にしなくていいから!」

「でも…(´;ω; `)」

「お前がこうして(※普通の状態で)傍に居てくれるだけで十分だ」

「咲さん……」

 

 

「ほら、そんなとこに突っ立てないでこっち来い」←膝の上ポンポン

「はぁーい」←大人しく乗る

「こんなことでめそめそしてんじゃねーぞ」

「はい……あの、咲さん」

「んー?」

「その、…どうしても、咲さんに何かしてあげたいのです」

「お前って奴は…」

「それで、あの……」

「なんだ?」

 

 

「わ、…私を、咲さんの好きなように、…してください…」

 

 

「―――え、咲さん?咲さんどうして急に壁に頭をぶつけて…きゃーっ血が出てますよ咲さん!?やめてください!!」

「…これは夢だ夢。俺の薄汚い妄想の夜がこんな事を」

「咲さんっ咲さ――――咲さぁぁぁぁん!?」

 

 

(アイルー)に相談した結果のあの台詞だから、君の薄汚い妄想では無いんだよ…。

 

 

 

 

 

【お姉様は若い子を虐めるのがお好き】

 

 

「イーシェ!今日の」

「今日のお菓子はお煎餅がいいー」

「…………うん、持って来る…」

 

 

「…堅い……」

「お茶淹れたよー」

「ありがとー」

 

 

「……イーシェ、あの、あの…」

「あ、ごめん」

「えっ」

「煙管の葉っぱ、切れちゃった。そこの小箱からとってくれる?」

「……うん」

 

 

「……………い、いーしぇ…」

「イリスのご飯食べたいー」

「あっ、はい」

 

 

「……………」

「ご飯美味しー」

「……それは良かった…」

 

 

「はーっ肩凝ったー…」

「揉むよ」

「ごめんねー」

 

 

「………」

「…ぷはー…」←喫煙中

「…………」

「………よし、チョコ食べるか」

「!」

「確か仕舞っておいた筈だよねー」←ガサゴソ中

「……」

「…あれ、ないや。…しょーがないなー」

「………っ」

「チョコ買って来るかー。イリスもおいでー」

「…うん」

 

 

「―――いやー、大福美味しかったー」

「うん…」

「今日は良い食材がいっぱいだったねー。荷物持ちお疲れ様」

「……うん」

「今日は私が仕舞うからさ、イリスは洗濯物閉まってきてー」

「………ん、」

 

 

「………」

「イリス―、洗濯畳み終わったー?」

「…………」

「…イリスちゃんはどうして泣いてるのかなー?」

「………こ、」

「ん?」

 

「……ちょこ…くれなかった…」

 

「チョコ欲しいの?」

「うん」

「誰の?」

「イーシェの…」

「どうしても?」

「うん……」

 

「―――よしよし、意地悪してごめんねー。ちょうど今チョコ出来たとこだよー」

 

「えっ」

「つっても苺とかをチョコに突っ込んだだけなんだけど」

「そ、それでもいい!」

「じゃあ泣くのを止めてこっちおいでー」

「うんっ」

 

 

「美味しい…」

「チョコに突っ込んだだけだって」

「でも美味しい…」

「……」

「うまー」

「……何か悪い事しちゃったなー」

「まったくだ」

「お詫びに私の胸の谷間に苺のチョコ刺し込んで、それを咥えてみるゲームでもする?」

「しません」

「……んー、じゃあ練乳でも垂r」

「破廉恥!」

「顔真っ赤だぞー?」

「ばかっ」

「若いねー」

「うっさい!」

「じゃあ胸はやめて…そうだ、指にチョコ付けるからそれちょっと舐めt」

 

 

※強制終了しました☆

 

 

 





追記:

次章からは「もんすたー☆ぱにっく!」という見る人を選ぶアレぶりとヤンデレでシリアスな(多分)話です。

簡単にまとめちゃうと、本編の子たちが実験動物(モンスター)で、いろいろ酷い目にあったけどイチャイチャする話です。


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もんすたー☆ぱにっく!
にーんげーんっていーいーなー



※暴力表現+血の描写あり
※皆がモンスター
※タイトル詐欺。鬱過ぎて死ねる(ラスト以外)
※厨二過ぎて死にたくなる(作者が)

動物(モンスター)実験的なアレ(ノリで読んでください)で捕獲された皆は色々改造されて人間にもなれる。
※偉い人が代替わりして、皆を実験から解放→色んな理由で何箇所にも在る保護区で人間らしく住んでもらってる。(※皆は同じ保護区)
※偶に偉い人から仕事的なアレを貰う
※他にも色々ありますが、とりあえずノリで流せる方だけどうぞ、





 

 

私はウルクスス亜種のモンスターです。

 

この前、凍土でひとりぼっちで居た所をたくさんの人間が遊びに来てくれて―――気付いたら、この真っ白でいくつもの棒で閉ざされたお部屋、…ええと、檻と言うのですよね……その、白い檻の中で寝させていただきました。

 

 

お部屋はとっても温かくて、綺麗で。

私は「人間って優しいなあ」と、寝て食べて起きるだけの毎日を過ごしていたのです。

 

 

―――そしたらある日、真っ白な服を着た人間が大きなお部屋に連れてってくれて。

 

何するのかなーと思っていたら、壁が急に開いたのです。

 

 

そこにいたのは人間……だったのですが、たくさんのモンスターの血の匂いがして、とても怖くて。

人間が長い刃物を抜いた時、私はその刃の鋭さに吃驚して。……ぴーぴー泣いてしまったのです。

 

私の涙を拾う人間は宥めてくれないし、むしろ私を突っつくし。やだやだと動かない私に、あの怖い匂いのする人間は、「ぶすっ」と私のお腹に刃を突き刺しました。

 

痛くて熱くて、私はもう兎にも角にも辺り構わずもきゅもきゅし倒して――――色んな物が壊れて、色んな人間が吹き飛んで、それでも私は止まりませんでした。

 

 

何とか暴れる私の隙を突いて、一人の白い人間が血の匂いのする人間に喚くと、人間は頷きもせず――――急に、ナルガクルガに変わったのです。

 

 

『……おい、いい加減にしろ。迷惑なんだよ』

 

 

低い低い声で、『黙って俺に刺されてろ』と続けるナルガさん。

だけど私は怖い事を言うナルガさんに怯えもせず―――久し振りに 同族(モンスター)と会えた事が嬉しくて、ぎゅっと抱きつきました。

 

……いいえ、アレは体当たりと言うのかもしれませんね。

 

 

『触んなデブ!』

 

 

――――尻尾で叩かれたり噛みつかれたりしても、私は上に圧し掛かったりお腹をぐいぐい鼻で押してみたり、ゴロゴロゴローっと上にのし上がってから転がったり。

 

そうこうする間に白いお部屋は壊れていったのですが―――次第に、ナルガさんが私がただ遊んでいるだけだと気づいたらしく、適当に尻尾でぺしぺしと叩くくらいになりまして。

構って貰えたと思った私が部屋の事を考える訳も無く、ぷすっとした痛みと共に寝てしまうまで、ころころと転がっていたのです。

 

 

 

 

 

――――それ以来【危険度S級モンスター】というものになったらしい(後から聞いたのです)私は、あの綺麗な部屋から冷たくて薄暗い檻の中に、入れられてしまいました…。

 

 

環境の変化に、しょぼんとして丸まっていたら―――人間のうるさい声が聞こえて。

 

例のナルガさんが、私の檻の前で。開け離れた扉の前で、人間に怒鳴られて、殴られていました。

 

 

ナルガさんは手が縛られていて、されるがまま。……だけど、ずっと人間を睨みつけていて。

そのままじゃ死んじゃうのではないかと思った私が「止めてあげて」と近づいて、顔(と言っても鼻先ですが)を扉から出してみたのです。

 

すると人間は反対側の檻にまで逃げて、その檻に居るモンスターに吠えられて、前のめりにこけると―――真っ赤な顔で、私の鼻を蹴り上げました。

 

(´;ω; `)となった私は、鼻先を引っ込めて、今度は蹴られても痛くない手で兎パンチ。

……私はちょいちょいってしただけの心算だったのですが―――あまりの威力に吹っ飛んだ人間さん、真っ青の顔でナルガさんを檻に突っ込んで、さっさと帰ってしまいました。

 

 

(´・ω・`)?と首を傾げる私は、何故か笑いを堪えるナルガさんを黙って迎え入れたのです。

 

本当は急いですり寄ってみたかったけれど、あの人間のように怒られるのが怖くて、どうしようかとそわそわしてて。

 

ナルガさんがゆっくり私の様子を窺いながら近寄ってくれるまで、動けないでいました。

 

 

「―――――」

 

 

何かを呟いて、そっとあの―――刺された、お腹に触れるナルガさん。

 

そのままゆっくり擦ってくれる手が気持ち良くて、私は頬をすりすりしたのです。

 

ナルガさんはびくっと固まっても、怒らずにされるがままで。ナルガさんの血の滲む場所を舐めてあげたら、ぎこちなく頭を撫でてくれました。

 

撫でるナルガさんの息が白くなるほど―――時間が経てば経つほどに寒くなる檻の中。もふもふの毛が無いナルガさんは辛いだろうと思って……その日から、私達はずっと寄り添い合って過ごしたのです。

 

 

もふもふの私の毛はとても温かかったようで―――いつもひとりぼっちの私が、初めて誰かの役に立てて、とてもとても嬉しかったのでした。

 

 

 

 

 

 

――――ナルガさんは、ちょくちょく檻から出されます。

 

その度に血だらけだったり、顔色が真っ白だったり。一度も出ていく時と同じ状態で帰って来た事は無くて。

血だらけの身体を舐めとって、ふらふらの身体を私の毛に埋めてあげて、寒風から庇ってあげたりするぐらいしか、私には出来なかったのです。

 

でも私がどんなに身体を舐めても、温めてあげても、―――ナルガさんの調子が悪いままの日が続いて。

 

それでも無理矢理連れてこうとする人間に、私は初めて牙を剥きました。………ええ、私は。

 

 

私は―――鞭を取り出して、ナルガさんを打った人間を、この手で。引き裂いて殺してしまったのです。

 

 

驚いて目を見開いたナルガさんしか正直覚えていないのですが……私は他にも居た人間を弾き飛ばし、噛みつき―――凄惨な檻の中で、ずっとずっと暴れていた、気がします。

 

鼻息荒い私を抱きしめて、人間(少し違うかもしれませんが)で初めて宥めてくれたナルガさんの腕の中で、やっと事態が飲み込めた私は、怯えて丸くなって。

たくさんの涙が零れたけど、ナルガさんはあの人間達とは違って、一生懸命涙を拭ってくれたのです。

 

――――私達が引き離される、その時まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから。それから、……ほとんど、覚えていません。

 

嫌がる私に無理矢理食べ物を食べさせ、雷光を落とされたのは覚えているのです。

 

 

そして大きな身体が小さくなって、黒髪の包帯だらけの人間になって。

 

点滴を毎日打たれて、夢にあの真っ赤の檻を思い出して―――私は。

 

 

―――――自分を守る為に。…無意識に、その記憶を堅く閉ざしました。

 

 

だけど、何らかの拍子で現れる檻や白い人間たち、真っ赤な惨劇に怯えて、息が苦しくなる事や、寂しくて泣いてしまう事があって。

 

 

………その度に、セピアゴールドの男の人が私を抱きしめに、夢の中に会いに来てくれるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の髪が腰のくびれ程にまで伸びた頃。

 

相変わらず薬品の匂いがする部屋で、私は枕を胸に抱きしめて、ぼんやりしていました。

 

今日は何だか皆慌ただしそうで、私に優しくしてくれる人の服を掴んで「どうしたのですか?」と聞いたら、周りの人に聞こえないように「やっと君が自由になれるんだよ」と自分の事のように喜んでて。

 

「自由ってなあに?」と首を傾げたら、勢いよく扉が開け放たれました。

 

 

皆が動きを止める中、汗だくの―――夢の中で慰めてくれた男の人が、ふらつきながら私に近づいて。

 

傷だらけの腕を伸ばして、強く腕を引っ張ると、彼は破顔して「はっ…離して!離して離して!!」辺りの点滴を倒して暴れる私に驚いて「来ないでッやだやだ、やだぁっ!!」…その驚いた顔が、余計にあの、赤い檻を思い出して「嫌!やだやだ―――」

 

 

――――過呼吸を起こした私が、新たに住む事になる【保護区】の病院から与えられた家に移り住んで、のんびり散歩をするまで、彼に会う事は無かったのです。

 

 

 

 

 

 

「今日のご飯は林檎、お夕飯も林檎!」

「……兎ちゃんよぉ、それじゃあまた倒れちまうぞ」

「…(´・ω・`)」

「肉食えとは無理に言わんけど、せめてパンとかさ、林檎以外にも食おうぜ」

「……(´・ω・`)」

「お嬢ちゃん、その顔止めような。おじさん罪悪感で苦しくなるんだ」

 

 

な?と頭を撫でてくれるこのおじさんは【監視】さん。変な人が 私達(モンスター)を攫わないように、守ってくれる人。

私に文字と読み方を教えてくれた人で、「先生」と呼んでいるのです。

 

 

「先生は、今日の献立…」

「肉だぞー!」

「……(´・ω・`)」

 

 

「これ、お裾分け」と渡された包みの中は、きっとお肉なのです……。優しくて温かくて、尊敬してて…大好きな人なのですが、こればっかりはちょっと……。

 

 

…だけど突き返す訳にもいかないので、そのままペコリと頭を下げてお家に帰る事にしました。

 

 

イーシェさんの所に持って行ったら、イリスさんが何とかしてくれるかな、と能天気に歩きながら。

 

 

「―――――おい」

 

 

その途中、低い声の割には優しく肩を掴まれ―――私は急に沸いた恐怖を隠しながら、恐る恐る振り向いたのです……。

 

 

 

 

 

 

こんなお話は如何でしょう?

 

 






キャラ紹介:

兎ちゃん(=夜):珍しいウルクスス亜種。ハブられている所を捕獲され、大きい見た目に反し大人しい子だったので、わりと良い部屋を貰っていた。
ナルガさん(=咲)の実験の為に試験場に連れ出されてから危険認定を貰い、これまた実験でナルガさん改め咲ちゃんと同じ檻に入れられる。

その大人しさから殺めた事のない兎ちゃん改め夜は「殺した」事実に押し潰されて、自己を守る為に記憶を封印。
偶にトラウマ的なアレで暴れたり過呼吸になったり、無理に食事をさせても泣いてワーワー騒ぎを起こしてしまう為、点滴やら何やらで面倒を見てもらっていた。=実験は中断されていた。
※夜ちゃんが人間にされたのは暴れる危険性から、無力化を図る為に……みたいな?←

薬のせいでぽんやりとした子になり、元々のんびりさんでもあるせいでだいぶ危なっかしい子になってしまった。人間になってから良くしてくれる人間が居た為、人間に嫌悪感とか持っていない。むしろ懐いてる。



ナルガさん(=咲):ナルガクルガ。古参の実験動物ちゃん。実験が上手くいった集大成の子なので、あっちにこっちに引っ張られた結果、荒んじゃった子。
身体能力向上云々の実験で夜と初めて出会うも、今までのモンスターと同じく無感動に殺そうとしたら暴れる→じゃれつくのコンボで「もういいや、めんどくせ」になった。

反抗的な子なのでよく殴られる。同じモンスターのせいか夜の行動の無邪気さに気付いて、新鮮さを感じたというか懐かしさを感じたというか……。
夜の親身な行動に心開いていくわけだけども、夜が騒ぎを起こして引き離されてから、好きだったんだと気付く→夜の面倒を見てた医師が堪りかねて夜の事を教えてあげる→夜に出会うまで何が何でも生きる→やった!自由になったよ!…と、なり。

夜が咲と過ごした今までがトラウマと化していたせいで、大ショック。ストーカー化。……に、なる予定。


更に備考:

白い人達:科学者的なアレ
監視さん:夜には「部外者の監視」と言ったけど、本当はモンスターの監視も含まれる。全員ハンターさん。
保護区: 動物(モンスター)実験の被害者の為の施設。国からの援助とかで生活が成り立ってたり。
モンスター:実験の結果、普通のモンスターよりも強く、人間になれたりする。何故か外見が変わらない=実験の弊害で、きっと「そういうもの」になっちゃった。



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あの子の帰りを待ってるんだろうなー



※シリアス(前回ほどじゃないよ!)

※暴力表現あり

※安心のオトメンと安心のお姉様ストーリー

※咲ちゃんマジで咲ちゃん

などなどありますのでご注意ください。






 

 

俺はリオレウス。数の暴力で人間に捕まり―――実験動物(モンスター)に成り下がった。

 

 

麻酔のせいで動けない俺はリオレイアのいる檻の中に放り込まれ、……まあ、種馬的な?何かそんな感じのを期待されたワケだ。

 

…だけど先住民ことリオレイアはかなりの暴れっぷりで…何もしてないのに急に肩噛まれるわ尻尾でぶんぶん威嚇するわで、俺は怯えて部屋の隅に引っ込んだ。……マジで怖かった…。

 

今思えばアレは薬の副作用か何かの暴れっぷりだったのかもしれない…そんぐらいの暴れっぷりで、俺はじくじくする肩を庇いながら小さく蹲っていて。

 

その横を――――火炎がぶっ飛んできた時はもう、心臓止まるかと思った。

 

 

炎は暴れるリオレイアにぶつかり、悲鳴を上げてなお暴れる。俺は攻撃してきたモンスターに慌てて目を向けた。

 

 

『若いのが怯えてるでしょうが。少しは落ち着きな』

 

 

そこには――――檻を炎で溶かし、凛と此方を見るリオレイアが居た。

 

 

 

暴れる事に夢中になったリオレイアに、彼女は通常のリオレイアでは考えられぬ程の火炎で仕留め、道連れに何人か白い服の人間も殺した。殺して―――彼女は、燃え上がる火を淡々と見つめていた。

 

すぐさま天上から水が降ってきて、ぼんやりとしていた俺は彼女の檻に放り込まれ、……身構える俺を無視して、彼女は螺子が切れたように眠ってしまった。

 

後に知るが、これは彼女の長年の実験のせいだった。

 

 

 

 

 

―――そこから気まぐれな彼女との生活が始まった。

 

狭い檻だったから、どんなに頑張ってもどこか身体をくっつけてしまうし、食事は俺の口に合わない。始終人間に観察されるわ変な薬を投与されるわでストレスはどんどん溜まっていった―――けど。

 

少しだけ、幸せだった。

 

 

『我慢して食べなさい。此処じゃあ食べないとやっていけないんだよ』

『ほら、こっちに寄りかかって羽を伸ばしなさいな』

『どうせ怯えて何も出来ないんだから、放っておきなさい』

『……大丈夫、死にはしないから。……ね?』

 

 

打たれてじくじくする所を優しく舐めて、彼女はよく俺を励ましてくれた。もう嫌だと俺が泣いたら代わりに暴れて、人間から遠ざけてくれた。

そのせいで彼女が罰を受けても、彼女は何も言わないで傍に居させてくれた。

 

『君って私の弟に似てる』と教えてくれた彼女は、とてもとても優しくて、強い奴だった。

 

 

 

 

 

……ある日、彼女は血だらけの状態で帰って来た。

 

慌てて駆け寄って傷口を一生懸命舐めれば、彼女は『頑張って引き分けたんだよー』と能天気な、空元気な声をあげて。

 

彼女をこんな目に遭わせた―――いいや、実験で行われた試合の、その相手は。彼女と同じく古参のモンスター、ナルガだった。

 

 

彼女は息も荒く眠りにつき、段々反応も弱くなり―――それでも俺はずっと傷口を舐めていた。身体を温めていた。

 

……だけど白い服の人間に彼女は連れ出され、リオレイアが帰って来る事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

帰って来たのは、………一人の、人間の女だった。

 

 

 

―――戸惑った俺は彼女に近寄らなかった。檻の隅で彼女を見るだけだった。

 

最初は怯えていた彼女は、上手くない、千鳥足で俺に近づき、懐かしい凛とした瞳で俺を見上げた。俺は――――

 

 

人間になってしまった彼女を、絶対護ろうと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――護ろうと、思って。俺は人間が彼女を連れていかないように、昔の彼女のように牙を剥いた。

人間を真っ二つに引き裂いて、間違って飲んじゃっても、それで叩かれようが俺は彼女を連れて行かせなかった。

 

彼女は申し訳なさそうで、でもほっとした顔でよく俺を見た。俺はそんな彼女を羽の下に隠したり、たまに細い腕が俺の頭に伸ばそうとするのを黙って受けていたり。

 

言葉は通じないけれど、どこかで通じる仲になった――――頃。

 

 

俺は無力になった。

 

 

 

変な食い物を突っ込まれた後、雷を落とされた。………気付いたら、人間に、なった。

 

 

後に知るが、俺は彼女を護ろうと奮起するあまり、危険視され―――無力化しよう、という事で、人間に……。

 

白い部屋の隅でめそめそしていたら、白い服の人間が何故か彼女を連れて来てくれた。…連れて来てくれた人間は、人間たちの中でもまだ良心の残っていた奴だったらしい。

 

「元モンスターが人間同様の知識を得るか」とか何とかの名目で始まった実験で、俺は彼女に泣きついたり慰められたり寝かされたりした。完璧情けない男だった。

 

だけど彼女は「可愛い」の一言で済ませ、一緒に勉強した。昔の投薬の副作用で時々こてんと寝てしまうけど、ギリギリまで勉強していた。

 

そうして勉強していく内に、俺達は名前を持つ事にした。

 

俺は"イリス"。どっかの国の虹の女神様。……決めたのは勿論彼女だ。俺は反論せずに頷いてしまった…。

 

どうにも頭の上がらない彼女の名前は"イーシェ"。俺が付けた。一緒に読んだ物語に出てくる、空に住む巫女様の名前だ。

 

すっごく名前が女々しいけれど、…でも、彼女がくれた名前がとても誇らしかった。

 

 

―――ああ、俺は「イリス」……番号なんかじゃない。俺だけの、名前だ。

 

 

 

 

 

「……イリス、イーシェ。…おめでとう。これで君達は自由だ」

 

 

そう言われて、俺とイーシェは一緒に手を繋いであの施設を出た。

 

【保護区】に住む事になったけれど、外に出る時はめんどくさい手間がかかるけど、でも―――自由だった。

 

保護区はだだっ広くて、時折モンスターの姿になって(施設の時はモンスターの姿にならないよう変な薬を飲まされ続けたけど)空を飛んだりすることも出来る。

ちなみに被検体の俺らの中でもモンスターのままでいたい奴が何人かいて、空を飛んでいると偶に会えたりして、のんびり話したりもする。

 

―――偶に偉い人から仕事が与えられる以外は、特に何も無くて。皆が皆、今までの傷を癒すようにのんびり暮らしていた。

 

 

俺は当然イーシェの傍に居て、気まぐれで面倒臭がりの彼女の世話をして、甘える彼女に振り回されている。

今なんて雑誌を読んで彫刻に興味を持ったイーシェが「鉱石!鉱石!」と強請るから、しょうがなくリオレウスに姿を変えて上空を飛んでる。…ちなみに、今は帰り道だ。

 

 

 

「きゅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!(´;ω; `)」

「……………」

 

 

…………。

 

…………な ん だ 、 ア レ ?

 

 

真っ黒兎(人間になって勉強してる頃に出会って以来の仲)とナルガ(イーシェをズタボロにしやがった猫野郎)が俺の遥か下で鬼ごっこをしている。…いや、そんな微笑ましいものじゃあない。

 

必死に泣きながら逃げる兎を仕留めんと迫る目つきの悪い猫…あ、目つき悪いのはしょうがないのか…じゃない、凶悪な猫が赤い光をあまりの速さに置き去りにしながら、たったかたったか逃げる兎を狙っている。

 

しかも埒が明かないと短気な猫は尻尾の棘を飛ばして兎を怯ませると、跳躍して兎に襲いかかった。

兎の首を噛んで固まった兎の、今度はその足を噛んで、ずる、ずるっと自分の巣に持ち帰ろうと……いやいやいや!!!

 

何してんのあいつ!?何してくれちゃってんの!?

 

 

「きゅ―――!きゅぅぅぅっ!!(;`・ω・´)ノ」

「………」

 

 

せめてもの抵抗にと腕をバンバンするその顔は、まだほんのちょっとの余裕がありそう―――だったが、猫野郎は俺に気付いて痛まない噛み方から痛む噛み方にしてお持ち帰りのスピードを上げた。

 

痛みに高い悲鳴を上げた兎は、「きゅぅぅ…きゅぅ……」とぽろぽろ泣きながら引き摺られ………。

 

 

『そこの誘拐犯!止まれぇぇぇぇぇ!!』

 

 

原則「喧嘩はしない」、「喧嘩に割り込まない(保護区が滅茶苦茶になるから)」を破り、俺は牽制に火炎を一つ吐いた。

 

猫野郎は兎を離すと、器用に彼女を転がして避ける。―――ああくそ、その余裕っぷりが苛々する!

 

 

『…何だよヘタレが』

『ヘタレじゃない!イリスだ!』

『はんっ、どうでもいいな―――…どっか行け』

『行くわけないだろ!?彼女をどうする気だ!』

『連れて帰る』

『そ、その後食う気だろ!?これだから肉食モンスターは嫌なんだ!』

『テメーも肉食だろうが……帰ったら怪我の治療して、風呂入れて食事を食べさせるだけだ』

『えっ』

『……ただ、もう帰さないが』

『だ―――駄目駄目!!そんな事させるか!』

『……じゃあ止めてみろよ。イーシェ以下のお前がなッ!』

 

 

ぶん、と投げた棘を火炎で燃やすと、近くの岩からあり得ない高さまで猫野郎は跳ねて、

 

 

『うっわ、お前、マジで弱いな』

 

 

―――猫に引っかかれた。

 

そのまま落ちる俺に尻尾の棘を飛ばし、俺の尾を咥えて岩に叩きつけ、喉に食い、つか、

 

 

 

 

 

………………え?

 

 

 

 

 

 

全く歯が立たないけど別に俺が弱いわけじゃない。あいつが強すぎるだけだ(キリッ) byイリス

 

 






キャラ紹介:

イリス:リオレウス。案外実験動物の中では一番運が良い子だったかも。
いっつも庇ってくれるイーシェに惚れた。イーシェが人間になってから騎士気取りをしてみるもすぐに駄目な子に……。今はイーシェの嫁として本編と同じ事してる。

戦闘経験はそれなりにあるけど、咲ちゃんの相手にはなれないレベル。よくしょんぼりしてるけどイーシェによしよしされて毎日頑張ってる健気な子。


イーシェ:リオレイア。咲ちゃんと同じ時期に実験動物に。同期の子はかなりの数死んでて、そんな中でも実験が上手くいった一握りの子。
咲ちゃんともタメ張れる。ていうか卑怯臭い事を平然とやる二人なので、お互いがお互いの戦闘を避けてる。
イリスを弟みたいに可愛がって自分を慰めていたんだけど、「頑張るお!(`・ω・´)」状態のイリスを見てちょっと惚れる。……本人にそんな事言わないけどね!

薬の副作用に今も悩まされてて、急にこてんと寝ちゃったりする。だから基本的にヒッキー生活。


※ちなみに咲ちゃんは一部の子とは交流を持ってるので、今回ヘタレウスの名前を知らない癖にイーシェお姉様の名前を覚えてても変なんかじゃないんだからね!


追記:

空のwww巫女様wwうぇwwテラwwヤバwww適当過ぎるwwwww本当にすいませんwwwwww



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男は狼なのよー気を付けなさ―いー



※R-14.5

※安心の咲ちゃんストーリー

※ヤンデレによる計画的犯行

※ヘタレウスを応援してあげてください

以上、ご注意ください。






 

 

飛び散った血は、猫野郎の物だった。

 

猫が首根っこ掴まれてぶらん、って感じで、俺は猫野郎から離れ―――助けてくれたイーシェに泣きついた。

 

 

『いーしぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

『おーよしよし、怖かったね―』

『(´;ω; `)』

『兎ちゃんも吃驚し……うわぁぁぁぁ足ヤバいよ足』

『(´;ω; `)』

『…………チッ』

『アンタは舌打ちじゃ無くて謝罪しなさい謝罪』

 

 

リオレイアの姿で駆け付けてくれたイーシェに二匹して泣きつけば、舌打ちした猫野郎はイーシェに叱られる。

 

…こいつはイーシェと同期。暴れたらお互いが大変な事になる力関係故か、滅多なことでは争わない。せいぜいが口喧嘩程度で済ます。

 

つまりだ、イーシェが来たからにはこんな猫怖くねーし!ざまーみろ、ばーかばーか!

 

 

『………』

『『ひっ』』

『ガンつけないの!』

『………』

 

 

やっぱり怖い……。

 

 

 

 

 

――――で、結局その場はアイツの無言の謝罪(頭下げただけ)で済み、怪我をした兎をイーシェが獲物でも獲ったかのような(他意はない)運び方で保護区の病院に連れていった。

 

人間に戻った俺達は保護区の事務の人に事情聴取…されてる途中でイーシェの螺子が切れ、しょうがないので俺が病室に運び―――胃が痛い中、残された兎と猫の元に向かった。…ら、

 

 

「………((´;ω; `))」

「………」←立ち上がる

「((´;ω; `))!」

「………」←お茶を淹れる

「((´;ω; `))?」

「……………………ん、」←お茶を渡す

 

「「…………」」

 

 

事情聴取の済んだらしい二人は待合所でお茶を手に固まっていて、どっちかが動くとどっちかが過敏に反応していた…。

 

 

「………あの、」

「!」

「その、……きゅ、急に逃げ出して、ごめんなさいっ。び、吃驚しちゃって……」

「……………いや」

 

 

え、どう考えても悪いのそこの猫野郎じゃね?

 

俺は机の陰からチラチラ覗きながら、そう思いました。まるっと。

 

 

「あ、あのっ、あのお部屋に、来てくれた…人、ですよね?」

「ん、」

「その、あ、あの日も…騒いでしまって、ごめんなさい。私、あの、」

「―――何かしらあると、ああなってしまうんだろう?」

 

 

…初めてあいつの優しげな声を聞いたんですがちょっと。…ちょっと!

 

兎から少しの間を置いて座ったあのクソ猫は、「知らなかったんだ。気持ちが先走って…ごめん」と少し悲しそうな声を出した。……が、その声に猫を見上げて申し訳なさそうに俯いた兎には分からないだろうが俺は見た!同情心を買えたあいつが一瞬にやっとしたの見た!

 

 

「いえ、ごめんなさい…」

「もう近付いても大丈夫かと思ったんだが…そうだよな、俺ってただでさえ人相悪いし、怖がるのも―――」

「え、あっ、そんなっそんなことないです!わ、私が怖がりだから…!ナルガさんは…えっと、こ、こうしてゆっくり話してると、怖くないです…」

「………本当に?」

「本当ですっ」

 

 

らめぇぇぇぇぇ!それ取って食われるよ兎ぃぃぃぃぃ!!

 

そいつ優しい顔してお前をガブっといきたいだけだよ!だってそいつさっき俺に「監禁します」発言したんだから…!

 

「……じゃあ、もう少し近づいても?」「え゛っ……は、はい…」……だから駄目だって!そいつから離れるか断固拒否のどっちかしないと…うう、でも止めに行きたくない…怖いし…。

 

 

「……足、怪我させて…ごめん。俺って昔から……こうやって、誰かを傷つけてばかりで…後悔しても、どうしても……」

「あっ、だ、大丈夫ですよ!そんな悲しそうな顔、しないでください…!」

「本当にごめん。償っても償いきれないけど」

「ひゃっ」

「――――…」

 

 

初対面の女の子の小指を甘噛みしただとぉぉぉぉぉぉ!?

 

変態だあいつ!絶対変た…えっ何で兎は顔真っ赤なの!?真っ青だろそこは!確かにそいつ顔は良いけど中身ヤバいって何回も(心の中で)言ってんのに!!

 

し、しししししかも最後ぺろっと舐めた!舐めたぁぁぁぁぁ!!

 

 

「――――もし許してくれるなら……お前に、会いに来ても?」

 

 

男の甘い声って同性からすると大変気持ち悪いです。まる…っじゃなくて、いい加減その手を離そうよ変態!お前の裏が怖くて今日寝れそうにないよ俺!

 

 

「ゆ、許し…あ、あの、はわわわわわわっ」

「………駄目か?」←舐めてる

「あ、ああああああの、別に、怪我の事はもう、あのっお気になさらず!」

「……それは、もう会いたくもないって、ことか…?」

「え、えっ、ち、違いますよ!違いますから、か、顔を上げて……」

「じゃあ会いに行っても?」

「い……いいです!かまいません!」

 

 

兎は押されると駄目な子だったか…!

 

 

「……ありがとう。…ずっと、お前に会いたかったんだ」

「へっ!?」

「とりあえず…その足の事もあるし、可能な限り俺に世話させてくれないか?…罪滅ぼしがしたいんだ」

「で、でも…別に……」

「……………」

「……っ…」

「……………」

「…………わ、分かり、ました…お願いします…」

「!」

 

 

………あーあ、言っちゃった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兎―、ちゃんとご飯……食べて……」

「―――お前かヘタレウス」

「ヘタレウス!?」

 

 

一ヶ月後(イーシェの看病+仕事で行けなかった)、兎が変態の被害に遭っていないか見に行ったら…… 兎 の 家 か ら 変態が出てきやがった。

 

…しかもこいつのこの格好、寝巻きじゃ……え、寝巻き!?

 

 

「兎は!?」

「今、薬塗ってる……最中だったんだが」

「え、お前が塗ってあげてたの…?」

「そうだけど」

 

 

え、……えっ!?

 

ちょ、待っ…え!?

 

 

「咲さーん、どうされ……あ、イリスさん!」

「兎ちゃん!?ていうか"咲"ってだ……え、」

「俺の名前だけど」

「お前に名前あったの!?」

「昨日、ふたりで決めたんですよー」

「ふたりで!?」

「え、ええ…私も咲さんも無くて…咲さんの故郷で祀ってたらしい神様の名前から戴いたんです」

「故郷の神様…?」

「本に書いてあった」

「あ、ああ、そう…」

咲耶(サクヤ)姫という神様でして、……そ、それで、咲さんが…私の名前は"夜"って…」

 

 

照れ照れと告げるうさ…夜は、何かもう普通に?平然と?咲だがザクだかの腕の中で抱きしめられて髪に頬ずりされていた。……もうどこから突っ込めばいいのか分からない…!

 

 

「私の髪が夜空みたいだからって、それに……」

「……(詩人な猫野郎なんて知りたくなかった…)それに?」

「字は違いますけど、読み……あの、二人合わせると"サクヤ"になって、…えっと……良いよね?って……」

 

 

………………。

 

………駄目だ、完璧洗脳されてる……。何が「良いよね?」なんだ。全然良くないよそれ…。

 

 

「だからあの、これからは"夜"と呼んでください。彼は"咲"と」

「……あー…じゃあ、"夜"」

「はい?」

「…………何でね…咲が寝巻きでこの家から…?」

 

 

まるで夜がマタタビみたいにしっかり抱きついている変態を指しても、変態はこっちを見向きもしない。夜の長い髪を梳いたりなんだりしてる…人前でイチャつかないでもらえます!?

 

 

「……イリスさん、一昨日の落雷の事件、知らないのですか?」

「え、…えーっと、…ここから結構離れてたから……」

「無知な奴だな」

「うるさいよ」

 

 

馬鹿にした声に鋭く返しても、あいつはのんびり夜に……だからぁぁぁ!!人前でイチャつくなよ!

 

一言言ってやろうと、俺が口を開いた瞬間だった。

 

 

「―――咲さんの家に、落ちたんですよ?」

 

 

………ゾッとした。

 

別に家に落雷が、じゃない。この…変態…いや、病んでる男にだ!

 

「咲さんが私の家から帰ろうとした頃に、落ちたそうで…家が燃えてしまって…」…じゃあなんで寝巻き(使用感のバリバリある)持ってんの!?明らかに計画的犯行だろ!?「夕方、咲さんが少ない荷物片手に悲しそうに…」もうここまで来ると清々しいな!

 

 

「…新しい家を建てるにも時間もかかりますし…最近通り魔の噂もありますから、咲さんが住んでくれたら心強いかと…部屋も余ってますし」

「ああ、通り魔……確か夜中に、黒づくめで顔も分からない、身のこなしの速い男が…ここら辺で通行人を……これもお前かぁぁぁぁぁぁ!!」

「触んなヘタレ」←喉輪

「げぶっ」

「イリスさん!?…だ、駄目じゃないですか咲さん!」

「ごめん」

「私じゃなくてイリスさんに謝って下さい!」

 

 

うっ……くそ、…って俺に謝んないでイチャつくなよ(※三回目)!?首に顔埋めてんなよちょっと!

 

 

「さ、咲さん、何回も言ってるでしょう?く、首に触んないでって…」

「ナルガって相手の首に触れると落ち着くんだ…」←嘘

「そ、そうなのですか…?」

「今、気ぃ立ってるかr「んなわけないだろうが!!!」……」

 

 

に、睨まれた…!変態のくせに怖いなんて卑怯だ!

 

俺は泣きたいのをぐっと堪え、黒い視線を受けながら、じりじりと後退を―――

 

 

「…はんっ、ヘタレウスがッ」

「へ…ヘタレウスなんかじゃにゃいっ…あ、噛んだ…ヘタレウスなんかじゃない!」

 

 

した所をからかわれて。…だけど戦っても勝てないから、吠えるだけ吠えてイーシェに頭撫で撫でして貰いに帰った。………うぅっ……ヘタレウスじゃないもん……!

 

 

 

 

 

 

計画的犯行のヤンデレ、変態だけど手はまだ出していない。

 

 





追記:

ちなみに、家の落雷は知り合いに頼んでやりました。てへへ☆ byヤンデレ



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この人だけーはー大丈夫だなんーてー



※ヤンデレ変態ストーカーの日記

※安心の咲ちゃんストーリー

※R-15.5くらいのエロ(多分)

※病院で別れた後、同居に至るまでのお話

以上の注意がございます。





 

 

――――これから書くのはあいつと俺の生活。…いや、どうにかして兎を手に入れる為の日記。書く事で少しは改善点も見つかるかもしれないし、進行具合も分かるから丁度良いだろう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

一日目。

 

やっと病院から夜が出て来た。

顔色は良いが、今会いに行ってまた病院送りにしてしまうのもあれだし、とりあえず遠くから見て置く事にする。

 

あいつの家は北側の赤い屋根の家。ここの連中の中では珍しく、お手伝いに猫を雇っている。…まあ、しょうがないか。

 

 

 

 

二日目。

 

あいつの長い黒髪はとても綺麗だ。散歩中に何度かあの揺れる黒髪に触れてみたくてしょうがなかった。

あと、あの靴はヒールが高過ぎてあいつには合わないと思う。イーシェに懐いていたようだし、あいつから言ってもらうか。

 

わくわくした顔でクレープを食べるあいつはとっても可愛かった。

 

 

 

 

三日目。

 

今日は食料を買っていたが…野菜や果物ばかりだ。肉料理が嫌いなんだろうか……。

 

もっと調べたかったが今日は仕事が入ってるし、あいつが買った物と同じのを買って食うだけにしとく。

 

 

 

 

四日目。

 

今日は男二人と話してた。一人はイーシェの家政婦野郎だから手を出すのも面倒だし、しょうがないからもう片方のギアノス野郎を夜道で襲った。

手にはあいつから貰ったクッキーがあったから、踏んで粉々にしといた。本当は持って行きたかったけどそしたら強盗になるしな。夜道で襲う程度だったら人間も何も言わねーし。だからあいつの作ったものが食えないようにしてやろう。

 

 

 

 

五日目。

 

昨日の事件は特に話題にもならなかった。…まあ色んなモンスターが住んでるからな。こんなもんか。

 

そんなことより今日のアイツはちゃんとヒールの低い靴だった。新しい靴を履いて楽しげに散歩するあいつは本当に可愛い。

だけど今度はスカート丈が短いな。恐らくイーシェのババアがいらんことしたんだろう。今度はきつく言ってみるか。

 

 

 

 

六日目。

 

…イーシェに巴投げをされた。ババアをババアと言って何が悪いんだ。

 

しかも最悪な事に、あいつは人間と楽しそうに……苛々したから仕事先でケルビをいっぱい殺してヤケ食いした。帰りにアホ面下げて漬け物持って来た同期のジンオウガ、豊受に腹パンした。……が、あいつ勝手に滑って頭打って気絶した。しょうがないから水ぶっかけて起こしてやった。

 

 

 

 

七日目。

 

やっぱりあいつは、あんな目に遭ったのに人間に会いに行く。色々習っているようだ。……別に、人間から教わらなくても、俺が手とり足とり教えてやるのに。

 

俺は浅漬けを持って来た豊受にそう愚痴を吐いたら、あいつは何故か兎の事を知っていた。

「可愛いから」何とかと言おうとしたあいつの首を絞めたら、兎の情報を吐いた。案外こいつ使えるかもしれない。

 

とりあえず、

・兎は異性とはワンクッション置かないと駄目。

・静かな所が好き。

・花は派手な物より可憐な物が好き。

・肉は食えない。

 

あとやたらとガッついてくる奴には怖がっている、と。………不味いな、今から矯正して間に合うか…。

 

 

 

 

八日目。

 

少しの世間話程度なら良いだろうと思って、声をかけてみたが……やっぱり駄目だ。怯えて逃げてしまった。

 

しかも俺も追いかけてしまったし…まあ、アレはナルガの性だ。しょうがない。

持ち帰ろうとして兎の足を噛んだが、今まで食べたモンスターの中で一番甘く感じた。弱弱しく泣いている兎は見てて興奮した。

 

結局ヘタレウスとイーシェのせいで監禁出来なかったが…兎と落ち着いて話をする事は出来たし、会いに行く許可も得た。

 

豊受から聞いた兎の好きな花と、よく買っているクッキー(恐らくもう食べきった筈)を手に、明日会いに行こう。

 

 

 

 

九日目。

 

我ながら足を狙った自分を褒めてやりたい。

 

動き辛い兎の代わりに色々世話を焼けば少し心を開いてくれたようだし、外に出て他の奴らの目に触れる事も無い。

 

今回は試しに極力触れずにいたが、それも安心の元になったのか目に見えて怯える事は少なくなってきた。

 

どうやら好きな食べ物は林檎のようだから、朝一で一番良い林檎を選ぼう。

 

 

 

 

十日目。

 

豊受に林檎を切ってやるなら兎にでもして可愛さアピールでもしてみたらどうかと提案されたが、案外反応が良かった。

林檎の兎を見て可愛いと頬を染めるあいつは世界で一番可愛かった。緊張が溶けかかっているのかあいつからも話をしてくれるようになったし…お礼に豊受にきゅうりをやった。嬉しそうに漬け物にし始めた。単純な奴だ。

 

豊受が言うには、兎は寓話が好きらしいから、今日は異国の寓話を読んでネタにしとく。

 

 

 

 

十一日目。

 

兎は話に夢中で知らず知らずのうちに俺の所に寄って来た。

腕に胸が当たっても気にしないあたり心配だ。あと着痩せしてるのか案外胸はあった。あいつは肌が白いから、きっと脱いだら綺麗だと思う。

 

それから色々話を強請られて夕方まで残ったら夕飯を作ってくれた。俺に気を使ってか大豆でハンバーグを作ってくれて、俺と食う飯は美味しいと言ってくれた。本当に可愛らしいと思う。

 

俺もお前とこうして過ごしたくて、あの研究所で血を被りながら生きて来たんだ、と思わず言いたくなったが、パニックを起こすと悪いからやめた。

とりあえず言いたい事は黙っておいて、兎の口元に付いたご飯粒を食った。一々初な反応をするあいつは本当に愛らしい。

 

 

 

 

十二日目。

 

今日は茶の葉と睡眠薬を持って会いに行った。

 

別に変な事をする気はない。ただあいつの寝顔が見てみたいだけだ。もし出来るなら唇も奪ってしまおうか位は思っているが。

 

兎は俺の淹れた茶を嬉しそうに飲んで温まって―――寝た。俺に縋りついて寝る兎は可愛かった。いっぱい匂いを嗅いだり頬にキスしたりしてみた。あと、あいつの胸はBより大きいくらいかも。太腿はぷにぷにしてるし肌触りも最高だった。

 

ああそれから、兎は薬が効くの早いみたいだってのも、覚えておくといいかもしれない。

 

 

 

 

十三日目。

 

幸運な事に、夕方頃に土砂降りの天気になってくれた。

 

兎は優しい奴だから、俺が濡れるのを嫌がって泊めてくれた。だから書いているのは十四日目だがそんなことはどうでもいい。

 

兎は照れながら、俺用にと肉を買っていたらしく、肉じゃが作ってくれた。可愛過ぎて死にそう。手伝うと言ってわざと手を切ったら優しく処置してくれた。

 

風呂は兎の後が良かったが気を使われて先に……いや、そういうのもアリか。風呂が天国に思えたの初めてかも。洗髪剤の香りを覚えておいた。…イーシェのと同じか。

 

 

寝る時にソファで寝ると言ったら案の定ベッドを誘われた。何度か断った後、兎に腕枕して寝た。この重みにとても幸せを感じる。

 

夜中に魘されて起きたりしていたから、髪を梳いたり背中を撫でたりしてやった。俺の心音を聞いていたら安心したのか寝始めるも、俺の胸から離れる事はなかった。

 

寝間着の兎は俺の想像以上に可愛かった。

 

 

 

 

十四日目。

 

朝食はサラダと卵にパンだった。

 

兎がパンを齧る姿を見て、これが豊受の言う「萌え」ってやつなのかと思った。夜中の事を謝りながら恥ずかしがっている兎可愛い。

 

俺は一旦家に帰ると言ったら、初めて兎がまた来てくれるかと聞いてくれた。俺は即答して兎の頭を一撫でして(嬉しそうだった)俺を見送る兎から見えなくなるまで歩くと、後は全力疾走で家に戻った。一分もしないうちに着替え終わった。

 

兎が昨日読みたいと言っていた本を引っ掴み、急いで兎の家に行ったら抱きつかれた。

 

兎は無邪気に「いらっしゃいませ!」と笑っていて、そこは「おかえりなさい」が良かったと思いながら抱き上げてソファの所に連れてった。

 

「逞しいんですね」と二の腕やら胸を触って来る兎可愛い。

 

 

 

 

十五日目。

 

一か月も半ば。だいぶ兎からも慕われてきた頃だと思う。もうそろそろガッついてもいいだろ。

 

とりあえず抱き上げて膝の上に乗せてみたが、……兎はくすぐったそうにする位だった……くそ、今度の敵は天然か……。

 

でもまあ首に痕付けれたから今日はいいか。

 

 

 

 

十六日目。

 

兎と日向に当たりながら(当然俺の膝の上に座らせた)のんびりしていたら、俺とこうして過ごす時間がとても好きだと言ってくれた。

 

例の天然かと思ったが、少し恥ずかしそうに言っていて。照れて俺の服に顔を隠すとかヤバ過ぎて死ねる。

 

思わず口を滑らせたって感じだったが……ああもう食っちゃいたいな。

 

 

 

 

十七日目。

 

兎は俺が帰ろうとすると腕から引っ付いて離れない。俺が帰ろうとするのを遮るようになった。

 

しかも今日なんて膝枕してもらったし…後ろから急に抱きついてもビビらなくなったし、ああもう食い散らかしてやりたい。

 

 

 

 

十八日目。

 

今日は具合の悪そうな兎の足に初めて薬を塗らせてもらえた。

あいつの足は本当に華奢で、少し力を入れたら壊れてしまいそう。思わず緊張してしまった。

 

風邪気味らしい兎は保護区に住むモンスターの中でも一番実験されてないせいか、それとも体質なのか分からないが、身体が弱いようだ。

 

温かくして、卵の粥も作ってやったら雛みたいに甘えてきた……が、寝てる時に魘されて、パニックに陥りそうだった。頻りに「ごめんなさい」と謝っていて、擦る俺の手に怯えて、怪我をした足に爪を立てていた。…傷の治りが悪い理由が分かった。

 

泣き疲れて寝てしまった兎を放っておけないという名目でその日は泊った。俺に縋りついてくる兎が可愛くてしょうがなくて、俺は食いつく代わりに兎が爪を立てた足から流れる血を舐めて我慢した。

 

やっぱりお前の血も涙も美味しいな。

 

 

 

 

十九日目。

 

兎は完全に俺に心を許したらしく、自分からくっついてくるようになった。

 

今日も兎の足に薬を塗って、膝の上に兎を乗せて、風邪気味のあいつにショールを巻いて。とにかく大事にしてみた。そしたら珍しく我儘を言ってきた。「林檎の兎が食べたい」なんて可愛いおねだりを我儘と言うものかは知らんが。

 

あとそれから、そろそろ良いだろうと思って、夜中に適当に男を殴った。

 

 

 

 

二十日目。

 

兎は今日は体調が良いようだ。すっかり薬を塗る役にもなれたし、首を甘噛みしても少し嫌がるだけで俺の腕から離れようとしない。少しずつあいつがやる事を奪って代わりにやってみる。

 

外に出るかと聞いたら今日はいいらしい。代わりに傍に居てと言われた。死んでも居るわ。

 

あ、もちろん今日も夜中に男を襲った。

 

 

 

 

二十一日目。

 

兎が急に名前が欲しいと俺にねだった。

 

俺は名前とかどうでもいいんだが、兎は名前がないといつか離れた時に俺に忘れられるんじゃないかって思ってるらしい。……離れる気は無いんだが…。

 

しかしまあ、ずっと「ナルガさん」って言うのもな。名前も特別感があっていいかも…。

 

今日はまたギアノスの男を殴ってしまった。

 

 

 

 

二十二日目。

 

保護区では通り魔の噂がちらほら出て来た。

 

だけどまあモンスターの集まりだ。被害者が殺されてないだけにあんまり感心を買えてない。それに【喧嘩に割り込むな】っていう規則もあるしな。……そもそも【喧嘩をするな】っていう規則もあるが…。

 

あと名前だが、難しくてまだ決まっていない。

 

 

 

 

二十三日目。

 

昨日殴ったのは豊受だった。なんで兎の家近くを歩いてんだあの野郎。

 

それから、兎は俺の起こしている通り魔事件に怯えているようで、外に出たがらなくなった。

 

 

計画通り。

 

 

 

 

二十四日目。

 

俺の胸で昼寝をする兎を見て、もういいかなと思う。

 

帰らないでと泣きそうな顔で言う兎の額にキスしても逃げない兎に内心舌舐めずりしてしまった。

 

帰りの足で豊受の家によって、福神漬を投げつけて「俺の家を燃やしてくれ」と言ったら吃驚しつつも承諾してくれた。……お前にとって福神漬はそれだけの価値があるのか。

 

必要な物だけまとめて豊受に預けて、六時頃にでも雷落としてもらおう。

 

 

 

 

二十五日目。

 

最終確認で今日はギリギリまで兎に触れてみた。

 

兎はガッつく気満々の俺に怖がりつつもすり寄ってきて、初めて(あいつが起きてる時に)唇を奪ったら、固まった後に恥ずかしそうに微笑んでくれた。

 

結局俺らの根はモンスターだから、言葉にするより行動なんだよな。…って思いながらそれ以上何もしなかったら、すりすりして来た兎が「だいすき」って言ってくれた。兎超可愛い。

 

で、夕飯食って強引に帰ったら予定通り燃えていた。幸運な事に雨どころか雷も降ってたから、豊受だとバレる事もないだろう。

 

 

ちなみに今、俺の隣で兎が寝てる。

 

 

 

 

二十六日目。

 

俺の故郷に祀られていた神様の名前を、二人で分け合うのはどうだろうと思った。

 

一つの名前を二つに分けたら、何か繋がってる気がするし。「耶」を「夜」に変えはしたけど、俺の提案に兎…じゃない、夜は嬉しそうに抱きついた。

 

いっぱい名前を呼んでとねだるから、俺は夜を腕に閉じ込めて、ずっとずっと呼んでいた。

 

 

 

 

 

 

「―――咲さん咲さん」

「んー?」

「……呼んでみただけです」

「…………夜」

「はい?」

「……呼んでみただけだよ」

「!…えへへ」

 

 

「……公衆の面前でイチャつくなって、後何百回言えば分かるんだあの馬鹿ップル…!」

「えー、いいじゃん別に。微笑ましいっしょー?」

「見てるこっちg」

「じゃあお姉様とイチャイチャしちゃおうぜー☆」

「そういう問題じゃ……む、胸!胸がっむぐぐ―――!」

「お姉様の胸の中で死んじゃえー☆」

 

 

 

 

 

以上、変態ヤンデレストーカーの日記でした。

 

 






追記:

咲ちゃんが通り魔してたのは怖がりな兎ちゃんを外に出さない事と、もし「住ませて」って言った時に断られた場合、「守ってあげるよ」のカードとして。
あと兎ちゃんに親しいからって、嫉妬で…。



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今日もまた誰ーかー乙女のピンチー☆

 

 

「―――最近、夜ちゃんが外に出ない?」

「そうなの!」

 

 

シーツに埋もれて煙管から煙を燻らせるイーシェに、イリスは元気よく肯定した。…ちなみに、彼の頭は気まぐれな彼女の手によって撫でられている。

 

 

「夜ちゃんは困ってるの?」

「えっ…えー…何だろ、洗脳された的な…」

「もう手遅れ的な?」

「そんな感じ的な」

 

 

じゃあもうどうしようも無いんじゃないの?と煙を吐く彼女に、イリスは「でも!」と声を荒げた。

 

―――咲が気にいらない以上に、あんなに外の散歩を楽しそうにしていた夜が、監視役の人間と仲良さげに張り付いていた夜が、自分から外に出ないなんてあるだろうか?…いや、ない!これは絶対ヤンデレ猫野郎に監禁されてるんだ!…と、イリスは思う訳である。

 

「あのくそ猫が脅してるんだ!」

 

夜はイーシェに甘えるイリスにとって妹のような存在だから、イリスは影からひっそりぱっくりしちゃおうとする男の存在に彼女をくれてやる事なんて出来ない。

保護し直した方が良いんじゃなかろうかとも思う―――が、如何せん彼では咲には勝てないのである。

 

「何とかしてよ、いーしぇぇぇぇぇ…」

 

どこかの某駄目な少年のようにイーシェに泣きつけば、彼女は「うーん、」と言ってから、優しく諭すように頭を撫でた。

 

 

「それでもまあ、余所様の家の事に頭を突っ込むもんじゃないよ。それにナル…じゃない、咲ちゃんはこの保護区を滅茶苦茶にしても気にしない子だからさ、余計な刺激はやめときなさい。下手して夜ちゃんがエライ目に遭ったらどうすんの?」

「でも…!…今だって、言い出せないで、困ってるのかも…」

「困ってないかもしれないでしょう?…結局ね、向こうから言ってくれないと、お姉さんは下手に動けないの」

「そんなっ」

「この保護区には気性の荒い子だって多い…ちょっとした喧嘩に観衆が興奮して……なんてこと、イリスだって嫌でしょう?」

「嫌だけど…でも…」

 

 

しょんぼりとシーツに顔を埋めるイリスに、イーシェは煙管の灰を捨てて、彼のおでこに子供のようなキスをした。

 

 

「よしよし、イリスは優しい子だね。私はそんなイリスが大好きだよ」

「うー…」

「不貞腐れないのー。じゃないと、不貞腐れイリスに一時間頑張ってお姉さんを気持ち良くしてもらっちゃうぞー?」

「えっ!?」

「してくれる?」

「はい!」

 

 

「―――じゃ、今日は腰からよろしくー。足も忘れないでねー」

 

「えっ」

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ナルガとウルク。ヤンデレ変態ストーカーと無邪気な少女を心配するのは、ヘタレウスだけではなかった。

 

 

「今日こそ夜を助け出す!」

 

 

近くに住む、(自称)皆のお兄さんこと「ギアノス」兄さんも、である。

 

ギアノス兄さんもヘタレウスと同様、のんびりまったり怖がりで世間知らずな兎のお兄さん(気取り)なのだった。

 

 

「もう九日も外に出ないなんておかしい!絶対家でシバかれて奴隷扱いされてんだ!」

 

 

と望遠鏡を手に生垣から二人の生活を覗き見するギアノス兄さんは、何故かやって来ない同志(※現在嫁のマッサージに精を出してる)に舌打ちしつつ、可愛い可愛い妹分の姿を―――見つけた。

 

 

開け放たれたベランダの戸。揺れる白のカーテン。カウチソファでよりにもよってナルガのぬいぐるみを腕に転寝をする夜。

 

―――……もう、この時点でギアノス兄さんは背筋が寒い。

 

 

(……前よりは少し太ったか。髪も三つ編み…夜は髪なんぞ結べない筈だから…ひぃぃぃあのナルガにやってもらったのか!?)

 

 

ナルガに首を曝すなんて恐ろしい。その恐ろしさから、ギアノス兄さんは夜が健康体になりつつあるのを「丸々太ってから食う気なんだ!」と決め付ける。

 

――――そんな兄さんの目の前で、遂に元凶のナルガが姿を現した。

 

 

ナルガは眠る夜を揺さぶらずに喉元を舐めて夜を驚かせ、一旦戻り―――お粥を手に戻って来て、そのまま息を吹きかけて冷ますと、問答無用で彼女の口の中に放り込んだ。

 

夜がもそもそと咀嚼する間に何度も冷まして口に含ませる姿はとても献身的なのに、ナルガを敵視しているギアノス兄さんには邪なものにしか見えない。……まあアレである。娘が連れて来た男に難癖付ける頑固なお父さんを想像していただきたい。

 

 

「―――…今日は散歩するか」

 

望遠鏡を歪ませるギアノス兄さんの目の前で、ナルガは気だるそうに提案し、夜は「はいっ」と元気よく返事をして、ぱたぱたとナルガに腕を引っ張られながら外に出る。

 

九日ぶりに外に連れ出して他のモンスターにちょっかい出される前に夜の安否を知らせて干渉させない腹心算か!…と、珍しく彼の腹の内を呼んだ兄さんは遠くからこそこそと二人の後を追う。

 

相変わらず来ない同志(※現在嫁にデレデレしてる)に舌打ちしつつ、ギアノスは新婚さんのように寄り添う二人を草葉の影から監視した。

 

 

二人はそのまま保護区の―――モンスターの形態で居ても構わない区域に行くと、傷の目立つナルガと真っ黒ふわふわの大きな兎に変わり、ぽてぽてと湖まで歩いて水浴びをし始めた。

 

「きゅー!」

「………」

 

上機嫌で水を浴びる夜に岩の上でじっとしていたナルガがその尻尾でピシャッと水をかけて虐めるのを、ギアノスさん(モンスター形態)はぎりぎり歯を鳴らしながら見ていた。

 

 

上手に泳いでナルガの尻尾にじゃれる夜を、その尻尾で沈めたり転がしたりするのほほんとした光景を嫉妬の目で見ていたギアノス兄さんは、もう耐えられんと木から身体を―――

 

 

ずしゃあああああああっ

 

 

「………」

 

 

離した、瞬間。

 

尻尾の棘が飛来し、隣の木を縫い止めていった―――ああそうだ、ギアノス兄さんはガチで殺されかかった。

 

遠目に見えた目は「今近寄ったらテメーの内臓捻りだすぞ」と言わんばかりで、ギアノス兄さんは泣きながらフルフルオネエサンの所に逃げて行った………。

 

 

 

 

『咲さーん、お魚―!』

『それもうミンチだぞ』

 

一方、そんなギアノス兄さんの存在に気付かない夜は、大きいのに何故か可愛らしい口に咥えた(ズタボロの)魚を得意気に咲に見せる。

 

咲が岩の上で―――どこか気位高げな猫のように夜を見下ろし、しょうがなくその魚を食べた。

 

『美味しいですか?』

『まあ…(味しない…)』

『えへへー』

『……(可愛い…)』

 

だいぶ咲の目つきがよろしくないが、夜はもう怯えて逃げ出す事は無い。

 

夜の中ではもう『この人の傍は絶対安全』という安心感と、『咲さん大好き』の若干調教の入った感情から、夜は自分からすり寄って甘えてくる―――第三者から見たら「恐ろしい子!」な咲におおっぴらに大好きアピールしてくるのである。

 

 

『咲さんも泳ぎましょうよー』

『……俺は泳がない』

『……(´・ω・`)』

『………察しろ』

『(´・ω・`)?』

 

 

察しきれなかった夜に背を向けて、彼はギアノス以外の外敵がいないか探し始め―――ると、夜がざばーっと湖から上がり、一生懸命水気を払ってべしゃっと咲の隣で丸くなった。

 

「…まだ濡れてんぞ」と毛先を舐めてあげる咲にくすぐったそうに頬をすりすりした夜は、

 

 

「幸せ…」

 

 

…と、何の脈絡もなく呟いた。

 

「………」

「こうして、咲さんと一緒に遊んで、面倒を見て頂いて、…ずっと、のんびり一緒にいられて」

「…幸せか…?」

「はい!」

「……」

 

耳をピンと立てて、夜は嬉しそうに返事をする。

 

咲はそろりと毛先を舐めるのを止めて、夜の身体にぼすっと自分の身体を乗せた。

 

「ねえ、咲さん。…こんな事言ったら、他の子達に怒られてしまうかも、しれないけれど…」

「……何だ?」

 

お互いがお互いにぴったりくっつきながら、こそこそと内緒話でもするように夜は続けた。

 

 

「―――私、あの時人間に捕まって、良かったと思うんです」

「……!」

「もし捕まってなかったら、私は今でも一人っきりで、……イーシェさんにも、イリスさんにも、フルフルさん、ギアノスさん………なにより、咲さんに出会えなかったでしょう?」

「……アレは、そんなのと引き換えても良いもんか?」

「私は、特に酷い目に遭ってないからかも…だけど、でも、……咲さんに会う為の代償だというのなら、引き換えてもかまいません」

「………」

「だって、私はきっと、凍土から出る事なんて無くて、出たとしても、あなたに出会えなかったかも。…出会えても、私を殺しに来たかもしれない。……他の子が、あなたの隣にいたのかも」

「………」

「異種同士の恋なんて、保護区(ココ)じゃなきゃ叶わなかったんじゃないかって、思うのです………ねえ、咲さん」

 

 

「―――咲さんが、あの研究所で、泣いてる私を宥めてくれた人。……でしょう?」

 

 

こうして、と人の姿に戻って、大きくて恐ろしい貌のナルガをの太い首に両腕を回して、抱きついた。

 

ナルガなのに石鹸の香りがするというちぐはぐさに笑って、夜はじっと見つめる―――内心焦った彼の瞳を確かに見つめて、ここ数日ずっと温めたけど、やっぱり拙い言葉を、ゆっくりと空気に乗せた。

 

 

「あの時、逃げてごめんなさい。あなたを傷つけて、ごめんなさい。…私に会いに来てくれて、忘れないでいてくれて、ありがとう。本当に…!」

 

 

ありがとうございます、と言おうとして、人に戻った咲に抱きしめられて、言えなくなった。

 

 

咲は泣いていなかったけど、涙の代わりに腕がとても熱くて、心音は切なさと喜びで複雑な音を奏でていた。

 

夜には見えない咲の顔は報われて泣き出しそうな、長い日々を振り返ったが故の苦い表情で、傷つけるかもしれないと思ってずっと黙り込んだままの言葉を吐き出した。

 

 

「―――本当は、あの時、あの場所で、そう言って…欲しかった……」

「……ごめんなさい」

「あれからずっと、覚えていた自分が悲しくて、しょうがなかった…」

「……ごめん、なさい…」

 

 

ぎゅう、と広い背中にしがみ付いて。

彼の溜まっていたものを、ただ黙って抱きとめた。

 

 

「…いっそ、お前に出会わなければ幸せだった。悔い無くこんな、惨めに生に齧りついたりしなかったのにって、何度も思った…だけど、」

「…?」

「……だけど、お前の隣に居て、…今のお前の言葉を聞いて、これで良かったんだと思える。これが、俺がどんな事をしてでも手に入れなくちゃいけない事で、間違ってなかった」

「……咲、さん…」

「俺はお前のように優しくも綺麗でもないけれど、でも―――お前の言ってる事の、半分くらいは、理解できる。……俺も」

 

「俺も、あの檻の中で、お前に出会えて良かった―――思い出して、受け止めてくれて、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

――――その後のナルガとウルクの恋人(カップル)は、色んなモンスターに訝しまれつつも、二人一緒に幸せに寄り添い合った。

 

 

朝起きたら傍に居て、陽の光を二人で浴びて、一緒に手を繋いで眠って夜を越して。ずっとずっと、実験の影響で姿の変わらぬ二人は、仲良く―――

 

 

「きゅ―――――!!(´;ω; `)」

「…………、………」

 

 

……変わらず、仲は良いのだが……結ばれた日から異様に束縛をしてくるナルガに、鈍感無邪気なウルクは泣きを見る事になる。

 

今日もいつかの時のようにウルク亜種の姿で野を駆け、赤い光を置いてけぼりに自分の恋人を監き……家の奥の奥に隠して閉じ込めようと、ナルガはたったかたったかと追いかける。

 

ウルクは何となく外に顔を出しただけで怖い顔を見せたナルガの彼に怯え、全力疾走で逃げ―――やっぱりいつかの時のように、遥か上空から……。

 

 

『そこの鬼畜――――!DVしてんじゃねーぞ!!』

 

 

叫び、ここなら飛んで来れなかろうと炎を吐いたヘタレウスが居た。

 

しかしヘタレウスの予想を裏切り、ナルガはそりゃもう高く跳躍し、ヘタレウスの喉に噛みついて爪を振りおろそうとして、

 

「きゅお―――!(;`・ω・´)ノ」

 

と必死に止める恋人に、ナルガは言う事を聞いた―――ように見せかけて、がぶっと仕置きの意味も含めて痛くウルクの足を噛む。

 

ずるっずるっとウルクを監禁…じゃない、部屋でお仕置きと物教えを始めようと引っ張って連れ去ろうとする。

 

 

「きゅっ…きゅぅぅ…」とやっぱりいつかの時のように泣き出すウルクの近くで、喉から血の滲むヘタレウスが『いーしぇぇぇぇぇぇ!!』と泣き叫び―――結局はあの日と同じく、リオレイアのお姉様(ナルガに遥か上空からのキックをして登場)によって全員病院に送られた。

 

 

その後、恋人の家ではウルクの悲鳴と逃げ惑う姿が目撃されたらしいが、夜の更ける頃にはそれも無くなり―――後日、やけに艶のあるナルガが(ギアノスによって)目撃されたらしい。

 

勿論ウルクは家の奥の奥でぐったりしており、滅多に家から出る事はなくなった………。

 

 

 

 

 

一方、ヘタレウスはお姉様の胸に顔を突っ込んで出血多量で瀕死中であった。……完!

 

 






追記:

「もんすたー☆ぱにっく」編、これにて終了でございます。
次は少しの番外編で、「雪の中からこんにちは、飼い主さん!」を完結させようかと思っています…。


流れが何とも急な「もんぱに」でしたが、如何だったでしょうか?
本編よりもヤンデレ度が高め、ヘタレ度も高めの話で、正直引かれた方もいたと思います……が、私は書いててとても楽しかったのでした(笑)

ちなみに補足すると、夜が思い出したのは咲ちゃんと暮らし、咲ちゃんに魘される度に宥められる=昔と重なっって、パニックに陥る前に「絶対」の信頼のおける咲ちゃんが宥めてくれたので、結構良い形で思い出したと言いますか。

家を出なくなったのも、思い出してこれをどう伝えるべきか、ずっと考えていたという……。

夜ちゃんが「太って健康体」の件は咲ちゃんの介護の結果です。幸せ太りですな(笑)

それでは、「狼と羊」を題に出来た「もんすたー☆ぱにっく」、少しでも面白いと感じて頂けたら嬉しいです!

ご読了、ありがとうございました!



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番外編2
君がお母さんだったら良かったのに



※よくあるネタです。砂糖過多でイライラします注意。

※基本会話形式。…何故か二話(?)目だけ会話文じゃない(修正疲れました…)

※読み辛い

※オチが若干エロいかもしれない

※シリアス入ります

以上、ご注意ください。






 

 

【お子様咲ちゃん】

 

 

「――――そんでまぁ、色々あって咲ちゃん子供になっちゃったんだー(棒」

「まあ!」

「何かさー、思考も子供時代らしくてね、野性児みたいに凶暴で…注意して飼っ…面倒見てあげて?」

「はいっ分かりました――さあ咲さん、」

「……」

「そっぽ向いて突っ張ってないでお姉さんの所に行くの!ほらっ」

「……っ」

「大丈夫ですよ、私は怖くないですよー?」

「………」

「ね?お家に帰りましょう?」

「…………ん、」

 

 

 

 

【何故こんな子に育ったのかは"小話:さくちゃん"にて】

 

 

部屋の隅で、膝を抱えて注意深く夜を見る子供がいます。

 

夜は気難しい子供にお菓子をチラつかせながら、一生懸命「おいでおいで」を試みるのでした。

 

 

「咲さん、一緒にお菓子を食べましょう?」

「……」

「お腹いっぱいなのですか?それじゃあ絵本を読んで差し上げましょうか?」

「……」

「んー……私の事、嫌い…ですか?」

「………」

 

 

膝をついて優しい瞳を近づける夜に、子供の咲ちゃんは唇を噛んで自分の膝を見たまま動きません。声に出さないだけで、嫌われてはいないようです。

 

夜はそっとツンツンした髪の毛を撫でて、そのまま子供特有のぷにぷにした頬を突いてみます。咲ちゃんは拗ねた顔をしたままですが、少しだけ緊張を解いたようです。

 

夜が自分の膝をぽんぽん叩いて「おいで?」と言うと、咲ちゃんはだいぶの間の後、恐る恐る近づいて来ました。

 

夜は咲ちゃんを抱き上げて自分の太腿の上に乗せると、所在なさげな子供に頬を擦り付けます。

 

 

「ああ、何て可愛らしいのでしょう…!」

 

 

 

 

 

【君は将来良いお母さんになれる】

 

 

「お洗濯畳まないと…咲さん、少しこの子(※フルフルさんぬいぐるみ)と遊んでてくださいね?」

「ふんっ」

「あ…投げ――めっ!」

「………!」

「物は大事に扱わなければいけません。…さ、フルフルさんに『ごめんなさい』しなさい(`・ω・´)」

「………」

「(`・ω・´)」

「……………ごめんなさい」

「そう……咲さんは良い子ですね。もうしちゃ駄目ですよ?」

「………ん、」

「叩いてしまってごめんなさい。仲直りしてくれますか?」

「……うん」

「良かった…それじゃあ、少しの間フルフルさんと…」

「やだ」

「……(´・ω・`)」

「……お、まえと。…いる」

「私と?」

「ん」

「……じゃあ、一緒に畳みましょうね。お願いできますか?」

「ん」

「ふふ、咲さんは優しい子ですね。……そうだ!」

「…?」

「咲さん。私のこと…"お母さん"って、呼んでみてください」

「………」

「……(´・ω・`)」

「………おかあ、さん…」

「(´・ω・`)!」

「おかあさん…」

「ああもう可愛らしいー!」

「むっ」

 

※夜の胸に顔を押し付けられてます。

 

 

 

 

 

※畳み終わって現在読み聞かせ中

 

 

「"そして泣き出しだリオレウスは、番いのリオレイアを呼んで怖い怖いナルガを"……あら?」

「……」

「……ふふ、寝ちゃいましたね…可愛らしい寝顔です…ぷにぷにー」

「……んん、」

「…もう時間ですし、ご飯作ってしまわないといけませんね…風邪引かないように、寝室に連れて行ってあげましょう」

 

 

※移動後

 

 

「今日はハンバーグにしましょうか。子供受け良いでしょうし…デザートに何か加えた方が良いのでしょうかね…」

 

「うーん…まあ、起きた後で聞いてみましょうかね。今は作ってしまう事だけ―――あら?」

 

 

「おか、おかあさんっおかあさん……!」

 

「まあ咲さん…!どうしました?何か怖い夢でも?」

「おかあさん……」

「ん?」

「おきたら、おかあさん…いなかった…」

「あっ」

 

※ぐずつき始める幼い(まだ病んでもいない純な)咲ちゃんをご想像下さい。

 

「な、泣かないで。ごめんなさい…ね?」

「………」

「お部屋に連れて行かなければ良かったですね。怖かったですよね…ああもう本当にごめんなさい…(´;ω; `)」

「………おかあさん…」

「ごめんなさい…ただ、起きた時にお夕飯が出来てたら嬉しいかと…」

「……ん、もういい…」

「ごめんなさい―――ええと、お詫びに咲さんの欲しい物、何でも作って…」

「おかあさんがいたら、それでいい」

「咲さん……(´,,・ω・,,`)」

 

 

 

 

【しかしこの子は将来ヤンデレに育つ】

 

 

「さあご飯ですよ。お手手は洗って来ましたか?」

「ん」

「じゃあ椅子に―――え?」

「…おかあさんと、たべる…」

「私と?それって…」

「………」←お母さんの太腿の上で陣取る

「……(´,,・ω・,,`)」

「…ん、」

「あ、こらこら、駄目ですよ、最初に『いただきます』って言わないと」

「………」

「いただきます?」

「……いただき、ます」

「よく出来ました。…ハンバーグ、切って差し上げましょうか?」

「…ん、」

「じゃあ少しだけ待っててくださいね……っと、」

「……」←じっと待ってる

「…よいしょっと、…はい、どうぞ」

「……、…」

「ふふ、盗ったりしませんから、もっとゆっくり食べましょうね?」

「…ん」

「美味しい?」

「おいしい」

「……(´,,・ω・,,`)」

「おかあさんも、」

「え?私なら私の―――」

「にく!くう!」

「……はい…(´・ω・`)」

「あー」

「あーん、」

「…おいしい…?」

「…ええ、とても美味しいですよ」

 

 

 

 

【お風呂に入りましょうか】

 

 

「ふろ…」

「嫌ですか?」

「……」

「一緒に入るのがお嫌でしたら……ああでも、この歳で……ううん…」

「………い?」

「え?」

「ひかない?」

「な……にが、ですか?」

「きず……」

「?全然気にしませんよ?」

「ならいい…」

 

 

※着替え中。(ちゃんとタオル巻いてるんだからね!)

 

 

「咲さん。お背中……咲さん!?」

「………」

「この背中の傷、どうされたんですか!?この頃からのものなのですか?…私、てっきり狩りに出たばかりの頃の傷と思って……!」

「………おかあさん」

「えっ」

「おかあさんじゃないおかあさんに、おこられてきられた」

「え…っ」

「………」

「………」

「……ひかないって、い―――」

「咲さん!」

「」←生に近い美乳に(ry

「咲さん…可哀想に、痛かったでしょう…なのに私、『お母さんと呼んで』だなんて―――」

「…よんじゃだめなの?」

「え?」

「おかあさん…よんで、おこられないのに。もう、おかあさんってよんじゃだめなの…?」

「……っ」

「このきずのせい…?」

「ち―――違います!そうじゃなくて、自分の至らなさに……っ咲さん、咲さんの好きなように私の事を呼んでくれてかまわないのですよ」

「じゃあ、"おかあさん"」

「はいっ」

「おかあさん…いやじゃなかったら、からだあらってくれる…?」

「勿論ですとも!ごめんなさい、風邪引かない内に洗ってしまいましょうね…」

 

 

 

 

【君がお母さんだったら良いのに】

 

 

「さっぱりしましたねー?」

「うん」

「顔赤いですね…はい、お水」

「うん……ん、どう、ぞ。」

「咲さん……ふふ、咲さんは本当にお優しい…」

「おいし?」

「…ん、…ええ、美味しいです。咲さんのおかげですね」

「!」

「さあ、湯冷めしないように髪を乾かしましょう…なんて、いつもなら咲さんがしてくれていたのですよね…」

「…?」

「何でもありませんよ―――さあ、私の膝に座ってくださいな」

「うんっ」

 

「―――痛くないですか?」

「ううん……」

「………」

「………」

「………「おかあさん。」……はい?」

 

「…おかあさんが、ほんとうのおかあさんだったらよかったのに」

 

「……」

「………ごめんなさ」

「…―――私も、咲さんみたいな息子がいたら、嬉しいです」

「!」

「優しくて、寂しがり屋で、ちょっと乱暴だけど、…こんなに良い子の咲さんが息子だったら、きっと凄く幸せでしょうね」

「………ぅ?」

「ん?」

「……ほんとう?」

「ええ。本当」

「………」

「……咲さん?」

「………おれ、……はじめて………」

「え?」

「……ありがと」

「――――…ああもう、本当に咲さんは愛らしい…!」

「ふがっ」

 

 

 

 

【幸せな夜】

 

 

「もう寝ましょうね?」

「……」

「嫌ですか…?でも、もう寝る時間ですし……」

「…やだ。おきたら…おかあさん……」

「…大丈夫ですよ。今度はちゃんと、咲さんの隣にいます」

「ほんと?」

「ええ、本当。…一緒に寝ましょうね」

「うん」

 

「お歌を歌ってあげましょうか?」

「うた…?ねるまえにうたをうたうの?」

「えっ…た、たぶん…?」

「………」

「………」

「………じゃあ、うたって。…おかあさん」

「!…ええ、咲さんが眠れるように。咲さんの為に歌いますっ」

「うん……」

「…―――♪―――、――――♪」

「………」

「―――♪―――♪…―――」

「……おかあさん、」

「―――♪…はい?」

「……おやすみ、なさい」

「ええ、おやすみなさい。…咲さん」

 

 

 

 

 

【しかし彼はブレないッ!!】

 

 

「…んん…さく、さぁん…?むねくすぐった―――」

「――――チッ、起きたか」

「咲さん!?」

「おう」

「子供の咲さんは…」

「寝てたら戻った。服は面倒臭くて上探すのやめた」※下は穿いてます

「………」

「…どうした」

「……子供の咲さん。とても可愛らしかった…」

「ああ―――なんかお前にたくさん面倒かけたな」

「いいえ。とても…"お母さん"って呼んでいただけて、嬉しかったです…」

「そうか……なあ、夜」

「はい?」

「俺は子供はお前似の娘がいい(キリッ」

「………はい?」

「男は―――お前に似てるなら考えるが、俺似の息子はいらん。取り合いになるからな」

「………………はい?」

「子供は男と女で二人が妥当か?…まあ、そういうのって後の祭りだし」

「え?咲さん…?」

 

「大丈夫、デキ婚はしないから」

 

「え?デキ…?え、咲さん?急に近……えっ」

 

 

 

 

 

咲ちゃんのせいで、きっと娘だろうが何だろうがヤンデレの血は色濃く受け継がれていくのでしょう……。

 



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旦那たちのとある一日

 

 

イーシェ・チェダーの朝は遅く始まる。

 

一緒に寝ていたイリスはイーシェが起きる前に家を掃除し、食事を作り、イーシェを起こすのに手を焼く。

 

食事なんてまったく作れない癖に味には煩いイーシェが「ごちそうさまでした」と言って煙管を吹かせる傍で、イリスはさっさと皿を洗い始め、イーシェが顔を洗ったり何だりと行動し始める頃には洗濯にとりかかる。

…ちなみに、ヤンデレの家ではてくてく働く兎の傍を旦那(ヤンデレ)が引っ付いて離れず、家事はまったく進んでいない。

 

 

イーシェが髪を梳かし終わって適当に(今日はゆるゆるの三つ編み)結ぶと、ソファに寝そべって嫁の働きぶりに感心してみる。偶に気が向けばセクハラもしてみる。

 

「かまってー」とじゃれて来たイーシェを適当に流して、イリスは気持ちの良い風に吹かれながら洗濯物を干し始めた。……つまり、イーシェは暇でしょうが無い。

 

 

退屈凌ぎに嫁に何も言わずに外に出たイーシェは、そのまま手ぶらで村を歩き、気が向いたので雑誌を二つ購入。一つは狩り関係の雑誌。もう一つは料理のレシピ本。…これは嫁用では無くて自分用である。

 

そのまま気の向くままに歩いていると、縁側で裁縫に耽る兎と膝枕をして貰いながら不貞寝をするヤンデレを見かけ、声をかけるのもアレだったのでスル―した。背後で優しくヤンデレの名前を呼ぶ兎の声にほのぼのしつつ、その後聞こえた兎の悲鳴とヤンデレのしたり声はスル―した。

 

 

家帰ったら嫁に膝枕して貰おうと考えるイーシェは、小さな女の子がぴゃーぴゃー喚いてやがるのに眉を寄せた。子供を放って親は何してんだと思いながら、女の子に声をかける姿は誰が見ても優しいお姉さんである。

 

―――泣き喚く子供曰く、母が身体を壊し、肉でも食べて精を付けて欲しくて父から渡されたお金を落としてしまって見つからず、父は家の為に働いていてもう家にはいないし、母にはこんなこと言えない。どうしようかと思ったら泣いてしまったとのこと。

 

イーシェはお金探すのなんて地味な事に集中力は続かないので、自分の金で解決するかと肉屋に寄った―――が、残念なことに、肉は二三件の家に(主に子供の祝いにと)大半持ってかれ、他のも売ってしまって無かった。

 

暇なイーシェは泣き出す女の子に「じゃあ狩ってくる」と言って家に帰らせると、庭掃除をするイリスに声もかけずにボウガン片手に出て行った。

……ちなみに手に在るのは大鬼ヶ島。引っこ抜きやすい所にあった為にこれを使う事にした。

 

 

そのまま村の外れの森の中に装備=私服の状態で入り、美味そうな鳥を探し始める。

 

途中で何故かのっしのしと歩いているフルフルにビビったが、フルフルは凍土目指しててくてく歩いているだけなので、まあいいかと捜索を再開する。

 

森の中ほどで石榴の木(兎が旦那に連れて行ってもらったという例の木だと思われる)を見つけ、何個か採ってみる。鉱石が覗く岩壁に弾を撃ちまくって採取し、ようやっと鳥を見つけて撃った。

だらしない彼女だが腕は良いので、当然一発で仕留めた。何匹か仕留めて帰る頃、兎とヤンデレがきゃっきゃと仲良さそうにイチャついてるのをスル―して赤い目の女の子に約束のブツとついでに石榴を渡すと、女の子は大きな声で「ありがとう!」と感謝した。照れた。

 

女の子はお詫びにとお酒(結局話を聞いたらしい母親からの)を一本貰い、「こりゃあ上等もんだぜ、げへへ」と内心思いつつ女の子の頭をもしゃもしゃ撫でて格好良く別れた。

 

 

大鬼ヶ島を背負い、片手に鳥肉(余った)片手に酒を持った、装備だけ聞くと豪快な猟師のようなイーシェが夕暮れに帰れば、怒り顔の嫁に「どっか行く時は伝えておきなさいって言ったでしょ!」と叱られた。

 

イーシェはごめんねーっと頬っぺたちゅーして嫁の動きを止めると、酒と鳥を嫁にプレゼントした。最後の締めに胸の谷間から鉱石を取り出すと、「臨時収入ね」と押し付けて家に上がる。

 

 

逞し過ぎる旦那の背に付いて行きながら嫁は「風呂沸いてるから」と一言。イーシェは大人しく従い、ぷはーと一番風呂に入る。その頃嫁は鳥を捌いて漬けたり何だりと慌ただしい。

 

同時刻に兎の旦那は兎な嫁が豚の生姜焼きを一生懸命作る姿を見ながら今月の家計簿を付けていた。

 

 

「上がったよー」

「んー…後少しで出来るから」

 

 

未だ勝手にそこらをうろついていたのを根に持っているのか、そっけない嫁の背後にこっそり立ってほとんど生にちかいお胸様を背中に付けて「怒ってる?」としょげて見たら怒られた。

しかしこっちを一切見ないで怒るのでイーシェはどこぞの親父のように嫁の尻を撫でてみる。

 

すると振り返って怒鳴った嫁は鼻血を出していて、「痴漢プレイが好きなの?」と首を傾げたらガチギレされた。「てめーのデカイ胸のせいだ馬鹿ぁ!」と言うだけ言って料理に戻った嫁にふてくされつつ髪を乾かす頃、兎の旦那は可愛い嫁の口元のご飯粒を舐めとっていた。

 

 

髪を乾かしたり何だりと忙しいイーシェを呼ぶ嫁の声に大人しく部屋から出てみれば、今日はチキンステーキだった。

「酒飲もうぜ!」と言う前に開けたイーシェに、俯いたイリスが淡々どころかネチネチ?いいやチクチクと今日の事を叱り始める。

 

 

・黙って何処か行くなら教えろ

・言ってくれたら付いてったのに

・投げてった雑誌(※料理)を見て不満があるのかと思った。他の雑誌(※狩り関連)も見て甲斐性がないと思われたんじゃないかと不安になった

・村中探し回ってもいないのにすごく不安だった。どこかで倒れたとか何か事件にあったんじゃないかと心配だった

・それなのに帰ってきたら……

・頬っぺたちゅーは気まぐれでするんじゃなくて毎日してください

・風呂に上がった後、ちゃんと服をしっかり着なさい。身体弱いんだから、そこんとこしっかりしなさい

・料理中にセクハラするんじゃない

 

 

 

………などなど。

最後に「無事に帰って来てくれてよかった」とぽつりと呟いた嫁の可愛らしさに、イーシェはきゅんときてイリスを抱きしめた。

 

おずおずと腕を回すイリスが可愛くて顔を胸に突っ込んでぱふぱふしたらイリスが血だらけになって倒れた。……結局、二人がまともに食事にありつけたのは冷めて肉が堅くなる頃である。

 

 

その後風呂から上がった嫁に膝枕をしてもらったり二人でジェ●ガで遊んだりして夜も更け、おやすみーと嫁の唇を奪って一緒に寝た。

 

銀髪に自分の焦げ茶の髪が紛れるのが、とても幸せだと思うイリスを婿に貰った彼女は、今日も明日も幸せな夢を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木花(コノハナ) (サク)の朝は大変早く始まる。

 

ぬくぬくと彼の腕の中で眠る嫁の姿を一時間、いや二時間黙って観賞するのが彼の朝なのだ。

 

 

やがて嫁が目覚めて、寝巻き(当然咲の大きなシャツだ)の片方の肩がずれて剥き出しになりながら、ふにゃりと「おはようございます」と挨拶をする嫁に萌え、双剣使いの忠犬を飼っているババアに入れ知恵された嫁がたどたどと自分の着替えを手伝う仕草に萌え、大っぴらなのに可愛らしく服を着替える姿に萌え、ブラのサイズが合ってないとか内心色々アレな事を思いつつ、イケメンwwwの面を下げて嫁の髪を整えてあげる。

 

そんな嫁は大変無垢、言い方を悪くすると無知で、どっぷり信頼してしまっている咲がアレな目で見ている事も知らずに、ちょっとだけ、普段よりはちょっとだけ肌の出る服に嬉しそうに袖を通す。

 

―――ワンピースにカーディガン、色も服装も全て咲の趣味。……ほんの少しの露出にムラ…じゃない、可愛らしいと思うのが彼である。ガンナーのババアのように肌を顕わにして喜ぶのはまだまだ青い駄犬ぐらいだ。少しの露出、そしてそんな服を裂くか汚してしまいたい衝動と戦うのが浪漫だ馬鹿が。……というのが、彼の持論である。

 

 

 

さて、今日は久々に遠出しようと(かなり珍しく)咲が提案したので、朝食は行きながら、である。

 

何人かと乗り合わせの馬車に乗り、二人で適当に選んだサンドウィッチをはむはむし、林を抜けるまで興味津々の嫁に萌え萌えしながら周囲の外敵(おとこ)を警戒して、二人は少しばかり大きな村に辿り着いた。

 

 

 

織物や調度品などが有名なこの村は、今日は祭り。

意外と穏やかに始めて穏やかに終える、珍しい村だからこそ、音に敏感な嫁を連れて来たのだった。

 

見た事ない物に美しい物。その全てが嫁の心を捕えたらしく、離れ離れになって不当に働かされて以来、他人に対しても敏感になった嫁は咲の手をぐいぐい引っ張っては花の蜜を吸う蝶のようにあっちへこっちへと忙しい。

 

織物に恐る恐る手を触れる嫁に萌え、硝子細工に目を輝かせる嫁にも萌え、彼は至福の時を過ごしていた―――の、だが。

 

 

小さな箱型のオルゴールに目を留め、気持ち良さそうにその音に聞き入る嫁が遠慮するのも無視して購入し、もじもじしながら「ありがとうございます」と見上げる嫁に萌え死した時、事件は起こった。

 

二人でイチャイチャしていたら、昔(つまり黒歴史時代の)咲が捨てた、身体だけの関係(咲としては)だった女と、(黒歴史最盛期の荒れ過ぎの)咲と派手に喧嘩して大変アレな事になってしまった男と、……出会ってしまった。

 

 

女は大事そうにオルゴールの包みを持ち、咲に小さな手を包まれている嫁に咲の最低過ぎる日々を暴露してみるも、元モンスターには難し過ぎる言葉が多すぎて「(´・ω・`)?」である。

咲が片腕で背に隠す時にはすでに、期待の反応をしない嫁にブチ切れた女が「そこの屑のどこが好きなのよ!」と怒鳴り、嫁はやっと理解できる話題になったと微笑んで、「咲さんの全部です」と大変朗らかに答えてしまった。

ちょっとニヤニヤしてしまった咲だが、余計に悪化した空気に嫁を一歩下がらせる。

 

女はぽかんとした後、真っ赤な顔で「騙されてんだよ!頭悪い女!」と怒鳴った。

流石に嫁を侮辱されてキレた旦那の手で女は腹パンの刑に遭い、運が良いのか悪いのか見えなかった(咲が嫁の帽子で視界を遮った)嫁は「騙されてません…」と律義に返事をしていた。

 

 

溜まりに溜まった、積年の恨みとやらを晴らしに殴りかかった男(女の罵声に飲まれて何も言えなかった)の、包帯の巻かれた真新しい傷を抉って大変アレな事をしている旦那が見えないままに、一生懸命自分の想いを言葉にしていた律義な嫁が「咲さんはとても優しい人ですっ」と言う現場は大変シュールである。

 

遠巻きに見ていた観衆の一人が「お嬢さん…帽子をとってご覧よ…」と現実を教え、嫁が帽子の存在に気付いて(夢中になるとそれだけになってしまうのは、やはり幼い故だろう)慌てて帽子を取ろうとしていたので、旦那は慌てて傷口を抉るように踏むのを止め、露わになった喉を攻撃して男を沈める。

そしてあまりの事態に吃驚の嫁の手を取り、見回りの男衆が駆けつけて来る前に逃げたのだった。

 

 

騒ぎが収まるまで路地裏に隠れた二人がイチャイチャ(嫁は叱ってる心算)してる頃、オトメンは不意打ちを仕掛けたモンスターから嫁を守り、嫁に「ありがとう」とキスされていたというのに……。咲は嫁に「暴力駄目!」と叱られている。

 

 

 

―――もうそろそろ良かろうと未だ怒りモードの嫁を連れて、咲は御機嫌を窺おうとして、嫁に薬屋に連れて行かれた。

 

暗かったのと怒っていて気付かなかったのだが、咲の指は攻防の末に浅く切れていた―――少し落ち着き、陽の下に出て発見した嫁は、何度目かの「もう喧嘩なんて駄目ですよ」と叱りつつも丁寧に薬を塗ってくれて、咲は萌えキュンした。

 

 

治療が終わると共に嫁はもう喧嘩の事は言いださずに、珍しい品物に目を奪われながら「帰りましょうか…?」と気を使う。

 

咲はかまわずに祭りの中に入り、露店で何か食おうと嫁に言ってみた……が、織物などの物品を扱う露店とは違って大声で(しかし他の村の祭りと違って小さい方だ)呼びかける店員に怯えて嫁の足は竦んでいる。

 

身を固くしたまま咲に引っつく嫁に、咲は優しく背中を擦った。

やがて呼吸の落ち着いた嫁の小さな注文に、二人はゆっくり露店の流れに従ったのである。

 

 

 

―――この村特有の料理に二人くっついて食べていると、山車が通りを騒がせる。

 

踊り子と歌い手に観衆が手を叩き、調子付いた誰かが踊り出す―――というのが、この祭りで最も祭りらしい所というか。救いなのはやっぱり曲が明るいが騒音ではない事だろう。

 

最初は驚いて咲の背に隠れた嫁も、次第にそろそろと顔を出し、恋人同士、夫婦同士で踊る騒ぎをじっと見る。

咲は性に合わなくて苦笑いするも、そわそわとした嫁の手を引いて踊りに誘ってみた。

 

 

白いワンピースがひらひら揺れて、昔買ってやった髪飾りがしゃりしゃり鳴る。黒髪は花の匂いを散らせて舞っている―――自分が、こうして恋人と祭りで踊るとは思ってもみなかったな、と咲は小さく笑った。

 

きゃっきゃと危ういステップを踏む嫁を支えながら、咲は昔の知人が見たら噴くかガクブルに震えだすだろう程の優しい笑顔で、嫁を抱きしめてみた。嫁は嬉しそうに笑い声をあげる。

 

 

その声にとても幸せを感じた。

 

 

 

 

 

 

嫁たちのおかげで旦那たちは今日も幸せ!

 

 

 






イリス君はイーシェ姐さんの嫁です(キリッ



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明かりを点けましょ、



※雛祭り企画小説。





 

 

村長さんから借りた"キモノ"というもの…初めてで少々窮屈ですが、何と言うか、しゃんとします…。

 

 

「咲さん咲さん、出来ました!」

「ん―――おお、綺麗だな」

「本当ですか!」

「ああ、流石村長、良い物持ってんな…夜の美人ぶりが引き立ってるよ」

「えへへ…」

「桜の簪も似合ってる」

「くすぐったいです…」

 

 

簪をしゃりしゃりと弄り終わると、咲さんは私の手を取ってゆっくり歩いてくれます。

もう片方にはお酒が握られて―――ええ、今日はチェダーさんのお家で"ヒナマツリ"というものをするらしいのです。

 

それで物知りの村長さんに"ヒナマツリ"は何かと聞いたら"キモノ"を何故か貸してくれて…村長さん、たくさんの"キモノ"を持ってました…。

 

 

「おい、来てやったぞ」

 

そうこうしているうちに辿り着いたチェダーさんのお宅の扉を足で(両手が塞がってるからって咲さん…)叩くと、エプロン姿のスウィーツさんが慌てて開けてくれました。

 

「似合ってるな」と私に目を向けてくれたスウィーツさんに無理矢理お酒を押し付けて肩を押した咲さんは、ぐいっと私を引っ張って奥に……奥、に…。

 

 

「わぁ…!!綺麗…!」

 

 

七段程ある真っ赤な敷布の上に、お人形さんがいっぱい…!

 

顔をよく見るとちょっと怖いけど、…でも、とても綺麗…。

 

 

「……立派なモンだな」

「でしょー?実家が娘はテメー一人なんだから持ってけってさ」

「こう、何段もあると圧巻だよなー。人形の着物やら小道具一つとっても高級感がさ…イーシェの家って裕福なの?」

「いや?これは爺さんが知り合いに貸した金の、借金のカタっつーの?そういうので貰った奴の一つ」

「「………」」

「しゃっきんのかた?」

「………急に汚れたもんに見えて来たな…」

「……なんかね…」

「何よー」

 

 

杯があるのに銚子から直で酒を呷るチェダーさんは紅のキモノを…え、えーっと、破天荒に着てらっしゃっていて、乱れがちの銀髪は今日も美しく輝いています。

 

お酒のせいか頬を染めたチェダーさんは全員揃ったのを確認するとニヤッと笑って、胸元に差し込んでいた扇子で床をコツコツ叩くと、「まあ皆で楽しく騒ごうじゃないの」とスウィーツさんを見て―――スウィーツさんは飾られたお人形の一人のようにスススと近寄って、両手で持った、大きめの丸めた紙を床に敷きます。

 

そこにはマスにチェダーさんの文字が書き込まれていて、次に箱を持って来たスウィーツさんは全員の席に小さな飾られたお人形さんを一体ずつ配ると、サイコロを一つ、箱から転がして出しました。

 

「席に着きたまえ」

 

肘置きに寄っかって扇子を扇ぐチェダーさんの言葉に私が質の良い座布団に座ると、咲さんはとても嫌そうな顔をするも渋々座布団の上で胡坐をかきました。

スウィーツさんは一通りのおつまみとお酒、私の為にお菓子(お団子です!)も用意すると、白い…何でしょう、白い液体を渡してきました。

 

 

「夜だけ仲間外れにするのもあれだし…それに、雛祭りって言ったらコレだろ?」

「……?」

「夜、それは"甘酒"って言ってな…酒と言ってもそう酔わない…なんだ、子供向けの酒みたいなもんだ。身体にも良いから飲んどけ」

「はーい!」

「甘酒のおかわりはコレな。…はい、イーシェ、お酒」

「苦しゅうないぞ―!」

 

 

やっぱり飾られたお人形さんのように静かにチェダーさんにお酒を注ぐと、呆れ顔の咲さんにも注いで、自分用にも入れて、やっとスウィーツさんは席に着きました。

 

 

「―――…で、雛祭りって趣旨の筈だが?」

「貝合わせとかの方が良かった?」

「いや……何ですごろく…」

「作者がね、本当は正月企画に『皆ですごろく!』ネタをしたかったらしいんだよね」

「作者とか言うなよ、色んな物が終わるだろ」

 

 

言って、やってられないとばかりに酒を一気に呷った咲さんに私が銚子を持ち上げると、一瞬動きの止まった咲さんは「こういうのも良いよな…」と小さく呟いて杯を差し出しました。

 

私が出来るだけ静かにお酒を入れていると、チェダーさんは扇子をパチン!と閉じて、「じゃあ皆、今回はコレで遊ぶって事で良いかな?」と―――笛を吹いたお人形さんに聞かれていました…。大丈夫でしょうか…。

 

 

「……イーシェ、俺達こっちだから」

「分かってるぞー!」

「甘酒美味しいです」

「そうか…お前は一生甘酒を飲む女でいてくれな…」

「じゃんけんするぞ!」

「もう面倒臭いからお前から時計周りでいいだろ」

「じゃあそうするー」

 

 

イカの足をもしゃもしゃしながら、チェダーさんはコロコロとサイコロを転がします。

 

出た目は四。お姫様の人形を四つ移動させると、サイコロをスウィーツさんに渡して説明しました。

 

 

「今回の私お手製のすごろくは王様ゲーム的なノリのマスが幾らかあります。そのマスに止まった場合、その指示通りにすること!」

「い、痛い事とかも…?」

「痛いのは無いよー…肉体的なのは」

「え?」

「勝った人にはこの!めっちゃ高かったお酒と!高級菓子屋のセットと!着物一式をあげちゃいまーす♪」

「い、一式ですか…!?」

「どれも上等モンだけど、どうした?」

「お菓子はお父さんから!お酒と着物は借金のカタに爺さんg」

「始めるぞ!さっさとサイコロ転がせ菓子野郎!」

「ちょっとー、人の話遮んないでよー…この借金のカタはね、じ」

「あー!俺、六まで進んだ―!」

「次俺だな…」

「爺さんの知り合いが大事に大事にとっておい」

「五だったわ―――!…って、」

 

 

スウィーツさんと咲さんがわざと大声でゲームを進行していくと、咲さんの手番で「指示アリ」のマスに止まりました。

 

そのマスは……。

 

 

「右隣の人を、熱く抱擁……?……俺の、右隣は…」

「……………………………俺、です……」

「咲×菓子のカップリングが出来るぞー!」

「お、おー?」

「分かんないのにノるな夜!…こんな青臭ぇ男に抱きつくとかふざけんな!」

「俺だってお前みて―な病んでるのに抱きつかれたくねーよ!」

「第一俺には夜が―――なあ、夜!?」

 

 

「―――見て見てー、蜂蜜色から赤香のグラデーションに珊瑚朱色の花が綺麗に咲いてんのよ、見事なモンでしょー?」

「ええ、本当に…帯も綺麗で…」

「私着物嫌いだからさ―、夜ちゃん似合いそうだしって思ってね?引っ張り出して来たのよー」

「…頑張って優勝します!」

「おお!女の子だねぇ」

 

 

「…………」

「…え、咲?…え゛っ、嘘、やだ、ちょ、イヤぁぁぁぁぁやめてぇぇぇぇぇ!!」

 

 

私とチェダーさんがその悲鳴に振り向くと、咲さんが…すっごく、熱くスウィーツさんを抱き締めてました。骨の軋む音が聞こえるくらい、激しい抱擁でした…。

 

 

 

「――――夜、お前の番だ」

「は、はい……」

 

 

めそめそとチェダーさんに泣きつくスウィーツさんをチラチラ見つつ、私は恐る恐るサイコロを…………一ですか…(´・ω・`)

 

 

「…"恋人に愛の誓いを囁く"…?」

「よし!どんと来い!」

「咲ちゃん充電タイムキタ――――!」

 

 

自棄酒をやめて私の肩に両手を置いて待つ咲さんと、囃したてるチェダーさん。

 

私は真っ直ぐ見てくる咲さんの視線に恥ずかしくなって、両手を組んだり解いたりしながら、しどろもどろに囁いてみました…。

 

 

「わ、たし…咲さんと一緒に居ると、安心して、ぽかぽかしてきて、あの、あう…さ、咲さんだけっ咲さんしか愛せないので!せ、責任とって下さい(?)!」

「俺の嫁――――!!」

「きゃあぁぁぁぁ!?」

 

 

急にガバッと抱きついてそのまま押し倒してきた咲さんに悲鳴を上げたら、杯が咲さんの頭に投げられて―――咲さんはその衝撃で唇を噛んで血を流すと、……ややあってから離れていきました。

 

私も恐る恐る起き上がると、咲さんに不意打ちにキスされ……ああああ咲さんにまた杯が!!

 

 

「私のターン!…二!"左隣の人の服を一枚脱げ"…そいやー!」

「らめぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「………くっそ、血の味がする…」

「咲さん、こっちを向いて…舐めとってあげます」

「………………それって誘ってるってことだよ―――今度は何だ!?」

「次、スウィーツ終わったから咲ちゃんの番」

 

 

三回目の杯を交わすと、咲さんは大変不機嫌にチェダーさんからサイコロを奪い―――…あら、六ですね……ええと、

 

 

「"左隣の人に、自分の秘密を三つ喋ってもらう"…だと…」

「私ですね!」

「一番酷いの頼んだよー!」

「おいっ」

 

 

スウィーツさんにじゃぶじゃぶとお酒を注ぐチェダーさんに頷くと、私は両手を胸に、堅く握りしめて口を開きました。

 

 

「さ、咲さんは…!」

「「………咲さんは!?」」

 

「甘いニンジンさんが食べれません!」

 

 

…………。

 

一瞬の沈黙の後、二人は大いに笑ってくれました。

 

 

「ぷ―――!!あまっ、甘いニンジン嫌いだってぇ―――!」

「お、お前甘いの嫌いだもんな、アレは耐えられる甘みじゃなかったのか!」

「甘いwwwニンジンさんwwww咲wwwちゃんwwww」

「………ッ」

「二つ目は!…咲さんが夜中に帰って来て、お風呂から上がって居間に戻った時!私が暗がりの中から静かに顔を出したら『ふあっ!?』って可愛い声をあげてお酒を零してしまいました!」

「ふあっwwwwふあっwwwwwwwww」

「分かるわ、それは怖いもんなwwwwwふあっwwwwww」

「三つ目は!咲さんが怖がられるのは、主に背後に居る女の人のせいです!」

「女のwww………えっ?」

「……お、おんな…?」

「……おい、当事者の俺も初耳――――」

 

 

そう言って、咲さんが身を乗り出したら、

 

 

急に部屋の明かりが、フッと消えました…………。

 

 

 

 

 

 

後半を待て!

 



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今日は楽しい雛祭り



※雛祭り企画小説後編

※駄作

※下品というかエロっぽい

※後半読み辛い


以上、お気を付け下さい。





 

 

「ぎゃああああああ静まりたまえぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「うわぁぁぁぁぁんイーシェぇぇぇぇぇぇ!!!」

「……そ、その女って…!?」

「目元が似てらっしゃいますから、咲さんのお母様かと…」

「「お母さん!?」」

「………まあ、親孝行なんて出来なかったしな、こうなってても―――」

「―――時々咲さんの背後で、咲さんに酷い事をする子を睨んでらっしゃいますが」

 

「」

「……え?」

「……んじゃ、その…お母さんって、咲ちゃんの事…」

「はい、咲さんを見守っていらっしゃいます。咲さんがのんびりしてると微笑ましそうに…していると……私も時々、掠れて見えるくらいなので」

「その時に言ってくれよ…!」

「お母様に「シー」ってされたので…今の明かりが消えたのは『ニンジン』の件で怒ったんじゃないかと…あの時、ちょっと怖い顔をされてましたか―――あ、」

「え、今度は何!?」

「帰られました」

「帰んの!?」

「はい、偶にひょこっと会いに来ている位のようですので」

「あ、明り点いた……」

 

 

 

 

 

 

「――――…久し振りに墓参り行くか…」

「私もぜひお供したいです」

「…そうだな、一緒に行こうか」

 

 

咲さんは少ししんみりとした声で私の頭を撫でると、私の手にころんとサイコロを渡してくれました。

 

もたついて投げた目は……六!……んーと、"服を肌蹴させてお酒を一本一気飲み"…って、きゃあ!?

 

 

「おい、夜は酒なんか飲めねーぞ、カスみてーなマスだな」

「そういう割にはエライ豪快に夜ちゃんの着物を乱したね!?」

「さ、咲さん!なんてはしたない格好させるんですか!」

「大丈夫、はしたなくない。お前の場合だと一つの芸術作品だから」

「えっ」

「……まあ、イーシェよりかは清楚だよ…はい、甘酒。夜はこれで一気な」

 

 

肩まで剥き出しにされた私に、温かい甘酒は助かり―――けふっ。

 

口から零れてしまった甘酒を咲さんが舐め取りながら迫って来るのをジリジリ逃げつつ、私はチェダーさんにサイコロを渡しました。

 

 

「おい、イーシェ飲み過ぎ…もう空じゃねーか」

「イリスは黙ってお酒を注げー!」

「俺はお前の身体を…いだだだだっ、徳利で頬グリグリしないで!」

「私も六か……あー…イリス、私ね?」

「あ?」

 

「処女じゃないんだよね」

 

「」

「むしろビッチ?ビッチでイリスで何人目か分かんないんだよね」

「」

「実はイリス以外にもセフレいるんだよね。何人かいるよ!あっひゃひゃ!」

「」

 

 

「……ていう、"悪質な嘘を右隣の人に吐け"って書いてあるから」

「………い、いーしぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「ごめんねー、…大丈夫、私は処女でイリス以外に嫁もセフレもいないからね、イリスに首ったけ!」

「イーシェの馬鹿馬鹿!ばかぁ―――!」

「心配なら今夜確認しても良いよ」

「えっ」

「この大吟醸を一気飲み出来たらな!」

「無理じゃん!?」

 

 

スウィーツさん、お酒苦手ですもんね……だけど、…誰でもいいので助けて下さい!

 

咲さんについに押し倒されて鎖骨とか首周りぺろぺろされて怖いのですぅぅぅぅ!!

 

 

「次はイリスの番!」

「え、でも一気飲み…」

「あれ酒苦手なイリスが飲んだら潰れるからね。イリスが潰れたら大変でしょう?」

「い、いーしぇ…」

「片付けが」

「いーしぇぇぇぇぇぇぇぇ!!……二!」

「何も無くてよかったねー…はい、咲ちゃ…咲ちゃぁぁん!?あんた何してんの!?」

「チェダーさん助けてぇぇぇぇ!!」

 

 

今は髪の匂いを嗅いでるだけですけど怖いですぅぅぅ!!

 

床をばしばし叩いて助けを乞うと、チェダーさんはキモノから長くて綺麗な足を……(あの)咲さんが「ゴホッ」って咽るくらい蹴……!?

 

 

「おら変態ド畜生、テメーの番だよ」

「…その言葉そっくりそのまま返してやるわ―――ほらよ、三!」

「一回休み」

「……案外普通のもあるんだな」

「次、夜……」

「さ、咲さん、胸の谷間に乗せないで下さい…」

「萌えるだr…何だよ!?」

「怖がらせないの!…ちょっと外行って甘酒買って頭冷やして来なさい!」

 

 

チェダーさんの言葉にすごすごと家を出る咲さんに全員で溜息を吐くと、私はサイコロをころりと……四。

 

"次の番まで無言"……無言ですね、分かりました。…私はそっとチェダーさんに…え、チェダーさんついに銚子じゃなくて瓶で一気飲みしてらっしゃいます…しょうがないのでスウィーツさんに渡して、代わりに振って頂きます。

 

私は小腹が空いたのでお団子をもちゃもちゃ、甘酒を美味しくどんどん飲んでいると、急にチェダーさんに頬っぺたちゅーされまし……あ、そういうマスだったのですね、……って…

 

 

ドサッっと甘酒とお菓子(多分私用)を買ってきた咲さんが、すりすり頬っぺたちゅーしている私達を見て固まってらっしゃいます…!

 

 

「よ、夜、これは、どういう……!?」

「…………(´・ω・`)」

「な、何とか言えよ!夜!?」

「ふふーん、夜ちゃんはお姉様の手に落ちたのだー!」

「はあ!?夜!?」

「(´・ω・`)」

「イーシェー、ホッケ焼いてきたよ―――」

 

 

「ごめん、本当にごめん、土下座でも何でもするから戻って来てくれ、俺と一緒におふくろの墓参り行くって約束しただろっ俺しか愛せないって言ってくれたじゃないか!俺だって夜以外いないんだよ、夜しか駄目なんだ、だからそのババアの所じゃ無くて俺の所に戻って来いよ、もうセクハラしないからッごめん、本当にごめん、お前が可愛過ぎて嫌がるお前にセクハラしてごめ……!」

 

 

「(´,,・ω・,,`)」

「ひぃぃぃぃぃ咲が頭下げてるぅぅぅぅ!!!」

「ホッケうまー」

「夜が居ないと俺、俺…ッ」

「(´,,・ω・,,`)」

「ホッケうまー」

「ホッケはいいからどういう事なのか説明しろよ!?」

 

 

私の膝に縋りつく咲さん。

私は咲さんの言葉に嬉しくなって、にこにこと咲さんのツンツンした髪を撫でてあげました。

 

咲さんは恐る恐る顔を上げて、私がそっとマスを指して―――「ああ、」とやっと合点がいったようで、ホッと息を吐いてから私をぎゅっと抱きしめてくれました。

 

私は咲さんのしょんぼりした背を優しく擦り、お酒臭い咲さんにお茶を――淹れようとしたら、すでにスウィーツさんが淹れてくれました…。

 

 

「確か咲は一回休みだったよな、じゃあ夜、」

「…はい、……六!」

「何も無くて良かったな、次、イーシェ―――」

 

「若いのには負けんぞー!」

 

「人形に向かって話しかけないで!?」

 

 

 

 

 

 

 

「―――キスしろよ」

「「………」」

「おんにゃのこ二人が見てる前でねww熱くキスしちゃってねwwww」

 

 

……甘酒が美味し過ぎていっぱい、飲んでたら、咲さんとスー…さんが、固まってまふ…。

ちぇだーさんが扇子ですうぃーさんの胸を突っついてせがむと、おどおどと……

 

 

「らめれす!」

「「夜!?」」

「さくさんはさくさんでさくさんはわたしの!さくさん!さくさん!」

「え…おい、夜の呂律が回ってねーぞ!」

「お、俺甘酒しかやってないもん!な、イーシェ…」

「イカ飽きたからチーズとワイン持って来―い!」

「さくさんもってこーい!さくさん!さくさん!さくさんさくさんさくさんさくさん!」

「…くそ、可愛…じゃない、お、お茶持って来い!」

「う、うん!」

「さくさんいっちゃらめー!」

「夜!そいつはスウィーツだ!咲はこっち!」

「さくさぁぁん!さくさ……ふあぁぁぁん!!」

「何で泣くんだよ!?」

 

 

あしつっていたいれす…!

 

だけどうまくいえなくて、とりあえず「さくさん」ってよんでいるのれす。

 

えぷろんすがたの「さくさん」がおちゃをもってきてくれたけど、とってもにがくて。わたしはあまざけをそのままのんで、くちなおししました。

 

 

「あまふ…」

「甘酒で酔うって事は、夜は本当に酒駄目か……可愛い…」

「ちょ、そんなことよりこっち助けてよ!…いだだだだだっイカで叩かないで!」

「今日は女の天下の日なんだぞー!跪けー!」

「あまいのもっとー!もっと、もっとー!」

「ああよしよし、……そうだ、俺が甘酒よりイイもん飲ませてやろうか?」

「あまいのがいいのー!」

「振られてやんのー!」

「こんのクソアマ…!」

「ちょ、待って!イーシェに手を上げないで!こいつは酔ってるだけ…イカで叩かないでってばぁ!」

「さくさんがおこったぁー!」

「え、別に夜に怒ってな…あああああ、泣くな!泣くな、ほら…」

「あまくなきゃやー!おちゃやー!」

「暑いから扇げよぉ、このイカあげるから」

「あげるとか言って食ってんじゃん!?…いだだだだっ扇子で突っつかないで!」

「さくさぁぁん!さくさんがいないー!さくさぁぁん!」

「お前のこと抱きしめてんのが俺だから!だからほら、甘酒振り回す―――あっ」

 

 

 

とおくで、"ばしゃあっ"とおとがしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ていうわけで、すごろくが滅茶苦茶になってしまったので、今回のゲームはナシになりましたー!皆で酒飲んで菓子食おうぜ!」

「第二ラウンドとかふざけんな!スウィーツと二人でどんだけ大変な三時間だったと思ってんだ!?」

「そうカッカッすんなよー、女の子の日なんだから楽しくハイになってもいいでしょ?」

「よくねーよ。…ほら、帰るぞ夜、」

 

 

「ふふふ、さくさぁん、その太刀、とても綺麗れす」

 

 

「…………それは俺じゃ無くて人形だ…!」

「どうせ酔いも抜けてないんだし皆でどんちゃん騒ごうぜー!」

「おつまみ作り直して来たよ…」

「作り直すな!お前あんな被害に遭っておいてまだ飲ませる気か!?」

「さくさんにもお酒あげまふ…」

「供えるな夜!あとそれは俺じゃない!」

「怒るなって、ほら、お姉様が注いであげるぅー」

「ババアに注がれても嬉しくn」

 

 

あれ?はっぽうおん、がきこえました。

 

 

 

 

 

後日、着物一式を夜ちゃんにあげたお姉さんでした。

 

 



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実家に帰らせて頂きます

 

 

「実家に帰らせて頂きます(`・ω・´)」

「「(゜Д゜)」」

「ああ、いいぞ。気を付けてな」

「お土産持って帰ってきますからねー!(´,,・ω・,,`)ノシ」

「そんなの要らないからさっさと帰って来い」

 

 

 

 

 

 

【里帰りですっ】

 

 

「――――んで、本当に実家に帰っちゃったけどいいの!?」

「……まあ、偶にはな。凍土に来るのもそうないし」

「付いていかねーの?」

「……俺が一緒だとモンスターが荒れるんだよ」

「荒れる?」

「…前に連れて帰ろうとしたら、夜にすり付いていたギギネブラに攻撃されてな…だから、」

「だからー?」

「これからストー…追跡してくる。……"色々"心配だし」

「いやいやいや!お前の"色々"ってどうせしょーもない心配だろ!少しは自由をあげろよ!な、イー…」

「何それ面白そー!私も行くー!」

「えっ」

 

 

 

 

【凍土フレンズ=ハンター号泣レベルモンスターズ】

 

 

「きゅ―――!(´,,・ω・,,`)ノシ」(訳:みなさぁぁん!!)

「(´,,・ω・,,`)」←ギギネブラさん

「「「(`・ω・´)」」」←ベリオロス君と息子たち

「きゅきゅっ」(訳:皆さん元気でしたか?)

「(´,,・ω・,,`)」←すりすり

「「「ぐおー(`・ω・´)」」」(訳:また新しく息子/弟が生まれるよ)

「きゅお!?」(訳:本当ですか!?)

「(´,,・ω・,,`)」←すりすり

「ぐおっお(`・ω・´)」(訳:嫁も腹の子も元気だ)

「きゅきゅきゅ、きゅおー」(訳:わぁっ素敵ですねギギさん!)

「(´,,・ω・,,`)…?」

 

「ぐーお(`・ω・´)」(訳:ギギは分からんよ、まだまだ子供だからな――あっ、)

「きゅー?」(訳:どうされました?)

「ぐおおー(`・ω・´)」(訳:そういえば、最近フルフルが来るようになったよ)

「きゅお!」(訳:フルフルさん!お元気でしょうか…)

「ぐおぅ(`・ω・´)」(訳:ギギを構い倒しては雪山に帰ってるから、元気なんじゃないか)

「(´,,・ω・,,`)…」←照れ照れしてる

「きゅおーきゅっ」(訳:ギギさんとフルフルさんは仲良しなのですね)

「ぐー(`・ω・´)」(訳:そうだな。…やっと引き籠るのを止めてくれるようになったよ)

 

 

「…ぐおぅおー?(`・ω・´)」(訳:…今日は母親に会いに?)

「きゅー。…きゅきゅ?」(訳:はい。…お母さんは、最近どうでしょうか?)

「……ぐー…」(訳:……もう、しばらく外に出てもいない)

「きゅ……」(訳:そうですか…)

「(´・ω・`)…」

「きゅきゅっきゅ、…きゅーお」(訳:そんな顔しないで下さい、…しょうがないんですから)

「……ぐおっ!(`・ω・´)」(訳:……手土産にこの肉でも持ってけ!)

「きゅぅ!?」(訳:でもっ!これは奥さんの…)

「(´,,・ω・,,`)」←こそこそフルーツを渡す

「きゅおお!…きゅうう、」(訳:ギギさんまで…こんな…)

「ぐおーお!ぐぅお、おっおっ!(`・ω・´)」(訳:いいから受け取っとけ!早く母親に会いに行ってやれ!)

 

 

「―――何言ってんのかさっぱり分かんないわー…」

「ていうかあのメンツは何なの?あんな三匹を倒すクエストとか合ったら泣くぞ」

「…夜が兎だった頃の友人だ。引き籠りのギギネブラに家庭持ちのベリオロス」

「………リアルだわー…」

 

 

 

 

【ポポさんは性格が悪い】

 

 

「きゅー!(´,,・ω・,,`)」(訳:ポポさんこんにちは!)

「…………」

「きゅきゅきゅ?」(訳:あの、私のお母さん…)

「…………」←スル―して別のエリアに行く

「…………(´;ω; `)」

 

 

「よくも俺の夜をスルーして泣かせやがったな草食野郎がッ…チェダー!ボウガンを貸s」

 

 

「―――装備の上にマフラーってどうなのよー」イチャイチャ

「身体弱いんだから、ドリンク飲んでても防寒具つけないと駄目だろー」イチャイチャ

「イリス優しー!そんなイリスが大好きよー!」イチャイチャ

「う、……うん……」イチャイチャ

 

 

「…………………」

 

「…………………寂しくねーし…」

 

 

 

 

 

【ガウシカさん…(´;ω; `)】

 

 

「きゅ、きゅー!」(訳:が、ガウシカさん、こんにちは!)

「くおー?」(訳:おお?)

「きゅきゅっきゅー」(訳:お元気でしたか?)

「くおー?」(訳:婆さんを知っておるか?)

「きゅ?」(訳:え?)

「くおっほ、くー」(訳:朝飯にも顔を出さなんだ、アレにも困ったもんじゃあ)

「…きゅ、きゅきゅ?…きゅ!」(訳:…お、奥様に何かあったのですか?…あっ!)

 

「くおおーぅ、くお!」(訳:親父!何処ほっついてんだよ!)

 

「くおーう」(訳:婆さんは何処かのう…)

「くおおお、おっ」(訳:またそれかよ、母さんは三年前に死んだだろ。ほら、さっさと帰ろ)

「……くおーぅぅ」(訳:朝飯…)

「くーお!くおん…」(訳:だーかーら、食ったってば!しっかりしてくれよもう…)

 

「………………(´;ω; `)」

 

 

 

「何か凍土(ココ)のモンスターたちって…生々しいな…」

「言葉分かんないのに何となく分かる所がまた嫌だよね」

「ハンター辞めたくなってくるよな…」

 

 

 

 

【バギィさんとファンゴさんは"ワル"なのです】

 

 

「ギ―――!ギギ!」(訳:おいおい、良い肉持ってんじゃねーか)

「ギーギ!ギギギ!」(訳:人間のくせに生意気だ!生意気!!)

「きゅ、きゅー…」(訳:痛っやめてください…)

「ギーギギギギギ」(訳:だったら肉置いてけよぉ!)

「ギギギギ」(訳:置いてけ!置いてけ!)

「きゅ―――!(´;ω; `)」(訳:やめてください―――!)

 

「ふごごごごごごー!!」(訳:ヒャッハー!轢いて轢いて轢きまくってやんぜー!)

 

「ぎっ」(訳:きゃ――――!)

「ギギ!?…ギ――――!」(訳:兄貴!?…てめぇぇぇぇぇ!)

「ふごwwふごごごごwww」(訳:あ、バギィ坊や居たのwwごめんね、気付かなかったwww)

「ギ―――!」(訳:てめ――――!)

「ふごっほwwwふごごごww」(訳:俺、人間狙っただけだしwww悪気ねーしww)

「ギギッギ――!」(訳:とにかく謝れよ!テメーのせいで兄貴が怪我したんだぞ!?)

「ふごwwふwごwごwごww」(訳:はいはいwwごwめwんwねww)

「ギギ――――!」(訳:てんめ――――!!)

 

 

 

「何あのムカつくファンゴ。撃っていい?お姉さん撃っていい?」

「えっ、あのファンゴのおかげで夜は助かったのに!?」

「喋り方(?)がムカつく。キモイ」

「…夜が逃げ切った頃に撃てよ」

「サ――!」

「咲もなんで許可してんだよ!?」

 

 

 

 

 

【実家には……】

 

 

「きゅ、きゅおーう、きゅきゅきゅ!」(訳:お、お母さん!ただいま帰りました!)

「………」

「……きゅお?」(訳:お母さん?)

 

 

「ぎゅおぉぉぉぉぉぉ!!!ぎゅおおおお!」(訳:この馬鹿娘がぁぁぁ!!!誰が帰って来ていいと言ったぁぁぁぁ!)

 

 

「きゅっ」(訳:ひっ)

「ぎょうおうおうおおおお!!ぎゅうあああああ!!」(訳:人間に成り下がったお前なんぞ、顔も見たくない!!恥知らずのアホが!!)

「きゅ、きゅおお、きゅー…」(訳:お、お母さん怒らないで下さい、お土産もありますから…)

「ぎゅあああ!ぎゅおおおおお!」(訳:今胃もたれしてんじゃあああ!余計なモン持って来てんな!)

「きゅ、きゅうぅぅ…(´;ω; `)」(訳:ご、ごめんなさい……)

「ぎゅうううう!ぎゅゆゆゆゆゆ!!」(訳:人間になったからには二度と戻って来るな!人間なら人間の暮らしに浸かれ!)

「(´;ω; `)」

「ぎゅふふふふ!ぎゅお――!」(訳:お互いの領域を守れ!お前のせいで人間が我らの逃げ場や巣を見つけたらどうする!)

「(´;ω; `)!」

「ぎゅうおっ!ぎゅうあああう!」(訳:その時っ!お前のせいで我らのバランスが崩れたらどうする!)

「きゅおー…(´;ω; `)」(訳:お母さん…)

 

 

 

「―――~~ッ、耳痛い…!」

「お母さん(?)熱血系だな…!」

「俺としては、シリアスな場面なのに母親のちょび髭柄が気になってしょうがないわ…」

 

 

 

 

【???】

 

 

「…きゅーお、きゅお。きゅきゅきゅ」(訳:…それじゃあ、お母さん。お土産…気が向いたら…)

「……………」

「きゅお。きゅーぅ…」(訳:お身体に気を付けて。それじゃあ…)

 

 

 

「…夜…泣きそう…」

「だからって今飛び出しちゃ駄目よ、時間開けなさい」

「何で?」

「男だってそうでしょ、"こういう類"の悲しい時に、女によしよしされたくないでしょ。時間開けて、落ち着いて整理した頃に愚痴りたいでしょーが」

「流石イーシェ!」

「…………」

「だからまあ、私達は先に帰りま―――」

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁおおおおおお!!!」

 

 

「………!」

「………あ、あれ…」

「………………ティガレックス…!?」

 

 

 

 

【暴君と兎ガールと】

 

 

「…あ、あう……」

「ぐるるるるるるるる」

「…き、きゅー!きゅきゅきゅ!」(訳:…こ、怖いこと駄目!仲良くしましょう!)

「ぐるるるるるるるるる」

「…通じない…!」

「ぐるあああああああああああああ!!」

 

 

 

「チェダー、お前は遠くで狙撃。スウィーツは…足しになんねーから静かに夜を連れて失せろ」

「足しになるし!」

「そうだよー、イリスは君の居ない間にティガ二匹と戦って一匹は仕留めたんだから」

「……どうせだいぶ傷ついた後のティガとかだろ」

「うっ…!」

「黙ってテメーは夜を運べ。双剣だから機動性も優れてるし、何かあっても何とかなんだろ」

「…!…任せろ!」

「…じゃあ皆、3カウントで行動に移ってね。3…2――――」

 

 

 

「きゅうあうあうあああああああ!!」(訳:悪ガキがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)

 

 

「きゅ…きゅー!」(訳:お…お母さん!)

「ぐるあああああああああああ!!」←お母さん兎の雪玉を受けながら突進

「きゅああッ」←ウサパンチ

「ぐあっ」←ヒット。ティガパンチ

「きゅんっ」←ヒット。滑り込みアタック

「ぐあ!」←避ける

 

「お母さん…!お母さんを苛めないで!」←溜めこんでハンマー回転アタック

 

「ぐぷっ」←歯にヒットして地味に痛い

「―――夜ッ目を瞑れ!」

「咲さん!?」

 

 

※ちゃんと成功した閃光弾で、世界は真っ白に……

 

 

 

 

 

【モンスター大戦争】

 

 

「ぐるううううううううううあああああああああ!!!」

「ぎゅううううううう!?」(訳:お天道様の裁きや――――!?)

「きゅー…」←クラクラしてる元兎

 

 

「スウィーツ!さっさと運べ!」

「はいぃぃっ」

「おらっ」←安心の咲ちゃんによる太刀捌き

「ぐおっ…ああああああああああ!!」←お姉様に狙い撃たれ中

「…うっ、雪に足とられるぅぅぅ…!」←よたよた逃げるオトメン

 

「…っと、もう一回閃光玉……あん?」

 

 

「ぐおおおおおおおお!!(`・ω・´)」(訳:うるせぇぇぇ!!嫁の身体に触るだろうがぁぁぁ!!)

「「ぐお――!(`・ω・´)」」(訳:パパやっちゃえ―――!)

 

「……ぎぅ…?(´,,・ω・,,`)」(訳:……遊んでるの…?)

 

「…ぎゅ?ぎゅおぉぉぉぉぉぉぉ!!」(訳:…あれ?娘を何処に連れて行きやがったぁぁぁぁぁ!!)

 

 

「…わー…ベリオロスとギギネブラとウルクスス対ティガレックスだー…」

「呆けるな!さっさと逃げるぞ!イーシェのとこまで上がれ!」

 

 

「ぐおおおおおおおおおおお!!(`・ω・´)」(訳:今一番大事な時なんだぞテメ―――!!)

「「ぐお―――!(`・ω・´)」」(訳:そうだ―――!)

「ぐおおおおおおお!(`・ω・´)」(訳:流産したらどうしてくれんだ、あ゛あ゛っ!?)

「「ぐお―――!(`・ω・´)」」(訳:パパに加勢するぞ―――!)

 

「………ぎう……(´,,・ω・,,`)」(訳:………余計煩いんじゃないのかな……)

 

「ぎゅおおおおッぎゅお――――!」(訳:娘は何処じゃあああああああ!!)

 

 

※毒+氷(雪?)+パパ+子供の連合軍………。

 

 

 

 

 

【その後、ティガ君の姿を見た者はいなかった…】

 

 

「きゅ、きゅおー!きゅおおおっ!」(訳:お、お母さん!どうして…)

「…ぎゅおお、ぎゅっぎゅ、」(訳:…聞くんじゃないよ、馬鹿な子だね、)

「きゅう、きゅお……(´;ω; `)」(訳:お母さん、お母さん……)

「…ぎゅおーお、おう、ぎゅー」(訳:…ま、アンタが母親になったら分かるだろうよ。―――じゃあ、どっか行きな)

「……きゅおー…(´;ω; `)」(訳:……お母さん…)

「…ぎゅう。ぎゅおおっぎゅ、」(訳:…ああ。あの金色頭がアンタの男だったか、)

「きゅ、…きゅーお」(訳:そうです…優しい人なのです)

「ぎゅ。…ぎゅうーう、ぎゅうぎゅ」(訳:そう。…まあアンタの選んだ奴なら、いいんじゃないの)

「きゅおー…!」(訳:お母さん…!)

 

 

「……きゅ。きゅうーお。…きゅきゅ」(訳:……じゃあね。もう面倒かけんじゃないよ。…土産、ありがと)

 

「きゅおー!!(´;ω; `)」(訳:お母さーん!!)

 

 

 

 

 

【お母さんはお母さんだったんだな、って】

 

 

「……もういいのか?」

「はいっ!ありがとうございます――――って、どうしてあの時、咲さんたち…」

「お前のピンチを救うのは俺だから、居ても不思議じゃないんだよ」

「…そう、ですね!」

 

 

「……寂しいか?」

「いいえ。…今は、ほっこりしてます」

「ほっこり?」

「はいっ(´,,・ω・,,`)」

 

 

 

 

 

こういうのがモンスター親なりの愛し方じゃないかな、って。

 



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突撃☆隣のお昼ご飯!

 

 

「今日のご飯は林さんだよー!」

「誰だよ林さん…」

「えー、知らないの咲ちゃん?林さんのお嫁はお米さんだよ?」

「……ああうん、そう…」

「咲ちゃん家は?」

「あ?」

「夕ご飯」

「……さあ。なんか教えない事で俺をワクワクさせたいらしいから」

「夜ちゃん可愛いー!」

「やんねーぞ」

「…………」

 

 

「―――そういえば、お前はあの家政婦ハンターに飯作った事あんのか?」

「家政婦じゃ無くて主夫ハンターだよ」

「どっちでもいいだろ」

「………主夫、ハンターなんだよ…」

「……おい、もしかしてお前…作ってやったこと、ないのか」

「嫁入り前に死んじゃったら悲劇でしょー」

「…………駄目な女だな…」

「なにぃ!?」

「…お前の殺人料理でも、あの脳内花畑男は食ってみたい…と思ってる…かもしれないだろ」

「だいぶ言い淀んだね…」

「せめて人殺さない程度の簡単な物でもいいから、何か作って出迎えてやれば?…きっと喜ぶぞ」

「ふーん……」

 

 

 

 

「……まあ、喜べるレベルの味じゃないあまりに苦しんで泣いてもどうでもいいんだけどな」

「咲ちゃんってハッキリしてるよねー…あ、そうだ」

「……何だ?」

「良い勉強になるしさ、二人のご飯作ってる所見てみたい」

「…………………………………夜がかまわなければな」

「よっしゃー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【兎ちゃんのお母さんを思い出せば……ねえ?】

 

 

「……何で了承すんだよ…」

「いーじゃんかよー」

「ていうか俺も食っていいの?」

「いいおー…うーん、やっぱり可憐な女の子には白いフリフリのエプロンだよね、萌え萌えだよ」

「萌え萌えってイーシェ…」

「あのリボン解いちゃいたい衝動と太腿を触ってビクッとするのを見たい衝動に駆られてるんだけどどうしよう」

「そういうのは俺だけにしといて」

「えっ、嫉妬した?」

「えっ?」

 

 

「夜、今日の飯は何?」

「ふふ、何でしょう?」

「んー…」←背後から抱きついてイチャイチャ

 

 

「ちょ、客置いて嫁とイチャイチャしてんだけど」

「まあいいんじゃないの。まだ付き合ったばっかり…」

 

 

「咲さん、味見をどうぞ」

「んー」

「ひゃっ、―――~~ッ、咲さん!頬っぺたの味見じゃなくて料理の味見ですよ!」

「夜が料理失敗する事なんてもう無いだろ」

「でもッ……お台所でふざけてはいけません!(`・ω・´)」

「あだっ」

 

 

「…………」

「…………」

「………夜ちゃん、逞しくなったね…」

「……そうだな。何か逆に調教してるみたいだわ…」

 

 

※ちなみに肉じゃがの味見をさせようとしていた夜ちゃんでした。

 

 

 

 

【男の料理をするのが咲ちゃんさ】

 

 

「さぁーて、お次は咲ちゃんの手料理だぞー!」

「わーわー(棒)」

「……お前ら…昨日だけじゃなく今日も居座る気か…」

「いいじゃんかよぉー…で、今日の料理は?」

「…今日は夜が具合悪いからな。お前らとは別々に作る…うどんをな」

「うどん…」

「うどん…」

「夜の注文なんだからしょうがねーだろ」

「…ちなみにその夜ちゃんは?」

「部屋で寝てるけど。少し熱っぽいから騒ぐなよ」

「ですってよー奥様」

「困りましたわねー」

「小芝居してんな」

 

 

「おおっ流石咲ちゃん、早く切ってらー」

「お、俺だってあれくらい早く切れるし!」

「しかも天ぷら一から作るのかい…」

「俺だってイーシェの食べる物は全部手作りだし!」

「……あ、夜ちゃんと自分の分だけなのね…」

「冷たいわー、超冷たいわ―」

「お、隠し味は酒ってか……えっ、ちょ、あそこまでドバドバ入れていいものなの!?」

「ていうか入れ方雑!…え、もう一個の小鍋…ちょ、そういう事か!とことん俺達の食い物を不味くする気か!」

「ちょwwwネギwwwもっさり入れたwwww」

「七味ぃぃぃぃ!!何でこっちの要望を聞かずに七味を入れた!?そんぐらいは許してくれてもいいじゃん!」

 

「―――おら、食えよ」

 

 

 

 

【イリス君の手料理はこのメンツでは一番丁寧です】

 

 

「おい、飯たかりに来てやったぞ」

「こんにちはっ」

「おっ、夜ちゃんもういいのー?」

「はい…ちょっと熱が出ただけですもの、すぐに治ります」

「でも一応温かくしときなよ。…はい、膝掛け」

「…で、今日のメニューは?」

「イーシェの要望でパスタ」

「昨日、くっそ不味い麺料理食わされたからね、美味しい麺料理食いたくなったの」

「…………」

 

 

「本当にカルボナーラでいいのー?」

「いいのいいの。…あ、卵忘れないでね!」

「はいはい…っと」

「さっさと作れよさっさと。不味いの作ったら吊るし上げるからな」

「それお前が言うか!?」

「楽しみにしてます」

「ん、待ってて―――って、え?イーシェどうした…近づい……ひゃっ」

「咲ちゃんも嫁にイチャついてたからさ、我が家もイチャつかなきゃアカンかと」

「いいよ別に…ってじゃあ頬にキスすればいいじゃん!何で尻を撫でてんの!?」

「イリスのお尻って見ててムラッとするよね。何て言うの?痴漢されそうな尻?」

「何それちょっと!」

「本当は太腿撫でまわしたいです奥さん」

「撫でんな!客をもてなして待ってろ!」

「えー…だってさ、私必要無くない?」

「はぁ?」

 

 

「―――夜、本当に大丈夫か?寒そうだし…何なら上着持って来てやるぞ?」

「…じゃあ、お膝の上でぎゅってしてくれますか?」

「甘えん坊兎だな、…ほら、」

「ふふふふふー」

「…ん…まだちょっと熱っぽいな。家帰ったら薬湯を飲んで早めに寝よう」

「平気ですっ」

「そう言って前、二日は寝込んでたぞ」

「だって…お部屋…」

「一人で寝る方が落ち着くかと思ったんだが―――嫌か?」

「いやですっ、だって、寂しいし冷たいし、怖い…」

「よしよし、一緒に寝てやるから」

 

 

「………」

「………」

「………ここ、自分の家じゃないんだぞ…!?」

「もうあの二人だけの世界に浸ってるからね」

 

 

 

 

【イリス君の手料理<夜ちゃん】

 

 

「出来たよ」

「美味しそー!」

「わぁっ」

「………けっ、女々しいもん作りやがって」

「咲さん、そんなこと言ってはいけませんよ」

「……ふん」

「まあとにかくさっさと食べちゃおうや。…いっただきまーす!」

「「いただきます」」

「………」

「んー、流石イリス、おいひー!」

「えへへ…」

「とても美味しいです。今度レシピ教えてください」

「も、勿論!」

「……………」

「うまー」

「………俺、かえ」

「咲さんっ」

「!」

「はい、あーん」

「……あー」

「美味しいでしょう?」

「…ん、」

 

 

「………あれ、何でだろう…すごく悔しい…!」

「恋人ってああいうもんだよ、悲しい事にね」

 

 

 

 

 

【お姉様のお料理はスリル・ショック・サスペンスなの☆】

 

 

「ついに来たぞ!私の番が!!」

「……………主よ、どうか奇跡を起こして下さい…!」

「とても楽しみです」

「……おふくろ、俺もうそっちに行くかもしれねーわ」

 

「…ちょっとー、男衆つれなさ過ぎだぞー?お姉様はこの日の為に頑張って素材をかき集めたのにぃー」

「ていうか何で俺と夜まで犠牲にならなきゃいけないんだよ!生贄はこいつだけでいいだろ!?」

「ここまで来たからには皆で食べようよ!お互いのご飯を食べた仲じゃないの!」

「そうですよ咲さん。チェダーさんですもの、きっと美味しいご飯が…」

「夜ッ、それはお前がこの女の駄目っぷりを知らないから言えるんだ…!ほら、その死神から離れてこっち来い。家に帰ろう…!」

「死神って言うな!」

「テメー、今まさにコイツに殺されようとしてんのに庇うのか!?」

「イーシェは死神じゃない、…ちょっと駄目な子なんだ。悪気はない、純粋な気持ちで作ってくれようとしてん―――」

 

 

「まず一品目出来たよー!」

 

 

「「あああああああああああ!!」」

「どれどれ?」

「ふふん、前菜は―――海老の頭揚げたアレだよ!」

 

 

 

「……おい、それって居酒屋のメニューだろ、前菜って言うのもおこがましいだろ…!」

「言うな!見た目食えそうな物出されただけマシだろ…!」

「いっただきまーす!」

「夜―――!!」

「どうよどうよ?」

「……ん、パリパリしてて美味しいです!」

「でっしょー?お父さんのつまみによく作ってたからさ、得意なのよー」

「……お前、良かったな…嫁の貰い手見つかって…」

「何よー?…まあいいや。そして期待の次の料理は!」

「「りょ、料理は?」」

「昨日生け捕ったガーグァの子供を使っt「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」…何!?」

「生け捕ったって何だ生け捕ったって!?」

「だってさ、ガーグァは新鮮な内が美味しいんだべ?」

「語尾を訛らせれば良いって問題じゃねーんだよ…!ていうか食ったことあんのか!?」

 

「あるよ?郷土料理だったからね」

 

「」

「……郷土料理…」

「ガーグァの全部使った料理なんかは安い結婚式でも出るくらいだからね。心臓をバターで炒めたヤツを新郎新婦二人で食ったりとか」

「」

「…おい、スウィーツしっかりしろ、向こうで結婚しなきゃいい話だろ」

「んでんで、今回はガーグァのフルコース行きます」

「「」」

「…ふる、こーす…?」

「そうよー、目玉を煮て、湯だった脳味噌に心臓をバター焼き。あ、でも腸は扱い難しいからやんないけど」

「の、のうみそ…!」

「クアー!クアックアァァァァァァ!!!」

「こら、暴れないの」

「ちぇ、チェダーさん、放してあげて下さい、その子はまだまだ子供なのですよ…!」

「クアー!!」

「この暴れっぷりだとだいぶ美味いんじゃないかな」

「クアアアアアア!!」

「……ッ」

「おいっ夜が怯えてんだろ、それはもうどっかに捨てて来いよっ」

「え、だってガーグァ料理以外には私……」

「もうこの際目玉焼きでいいから!…あ、いや、待って、そういう意味じゃなくてアレ…卵焼きでいいから!」

 

 

「―――兎鍋くらいしか出来ないんだよね」

 

 

「」

「」

「…う…さ…」

「兎は美味い。鍋にするとたまらん。冬の名物だわ。しかも食ったらその皮売れるしね」

「う…さ…かわ……うさ…きゅ―――――!!!」

「「「!?」」」

「きゅー!きゅきゅきゅっきゅー!!(´;ω; `)」(訳:殺されるー!おかあさぁーん!!)

「え、ちょ、…え!?」

「こんの馬鹿女!兎の前で兎鍋の話をすんな!!」

「よ、夜、落ち着いて…」

「きゅー!きゅー!!きゅぅぅぅ!!(´;ω; `)」(訳:お母さん!お母さん!!おかあさぁぁん!!)

「お、落ち着け、な?とりあえずその兎語をやめよう?な?」

「て、適当に兎語でも話してみれば…?宥める感じに…」

「じゃ、じゃあ、私――…きゅ?きゅきゅーう?きゅー?」

 

 

(訳:静かにしな?じゃないとお前も食っちまうぜ?食用兎が)

 

 

「きゅ―――――!!!(´;ω; `)」(訳:いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)

「おいっ悪化したじゃねーか!?」

「え、ごめん…」

「ああああ夜ちゃんごめんねー!!」

 

 

 

 

【そのころの凍土では☆ ※翻訳済みだよ!】

 

 

夜母『おい、誰の許可得てこのシマに足入れてんだワレぇ?女連れて、ええ身分じゃのー?』

フルフル『え、あっ…ご、ゴメンナサイ?アタシ凍土(コッチ)のこと詳しくなく…』

夜母『言い訳してんじゃねーぞ、あ゛あ゛?』

フルフル『す、すいません…』

ギギネブラ『………』

 

 

 

 

【お姉様の料理は後先考えないで作ってるの☆】

 

 

「…猫どもに帰させるように言っといた」

「…うん、ありがとう…」

「きゅー…きゅぅぅ…(´;ω; `)」

「泣くな、夜…怖かったな、ごめんな…」

「きゅうぅぅ…」

 

 

「第三弾!夜ちゃんごめんねふわとろオムライス出来たよ!!」

 

 

「「作るなよ!!」」

「…だ、だって…夜ちゃんにお詫び…夜ちゃん、ごめんね…?」

「…きゅ……い、え。私こそ、うるさくして、ごめんなさい…」

「お詫びに夜ちゃんの好きな「ふざけんな!」…オムライス…」

「……私、チェダーさんのオムライス食べたいです。そしたら仲直りしてくれますか?」

「夜…!そんな天使みたいな事言うと酷い目に遭うぞ…!」

「それでもかまいません。チェダーさんが私の為に一生懸命作ってくれたものですから」

「夜…」

 

 

 

 

「―――じゃ、皆で食おうぜ!」

「……おい、なんだこれ…俺のオムライス、ケチャップで…『呪』?って書いてねーか?」

「『咲』って書いたの!」

「俺の…割れたハート…」

「ど、どうしても途切れちゃうの!」

「私は兎さん?」

「イエス!」

「…材料は?」

「ガーグァの卵(※本当はいけないんだぞ☆)とバターたくさんと野菜と米とケチャップ」

「………おい、お前の嫁が作った毒ぶ…料理だ。将来の夫であるお前が先に食え」

「え゛っ」

「………」

「(…い、イーシェが期待の籠った目で…でも…いや、見た目はふわとろ所かドロドロの卵がアレだけど、異臭はしない…くそっ!)…いただきますっ」

 

「……」

「………」

「…………」

「…おっ…ぇ…しぃ、でふっ…すご…く(普通の米なのに玄米の味がす…ちょ、この肉生…うぇぇぇ…!!)」

「本当!?」

「……(中…胡椒が固まって……具の切り方…!)…よ、夜、無理して―――」

「はむっ」

「」

「…ど、どう?」

「…お…ふぇっ…ぇぇぇ…おいし……うっ…れふ…!…げほっ…とて…こほっ、も…」

「(夜―――!!おまっ、汗が!顔色がッ!!)…夜、お茶飲め、喉通りにくいだろ」

「は、い…」

「―――んじゃ、咲ちゃんも食べて?」

「えっ」

「さ、咲…!(食うにしろ食わないにしろ、傷つけない方でお願いっ!!)」

「咲さぁん…(卵の味がおかしいれす…うっ…)」

「…っ……俺だけ逃げるか!」

「おい、逃げるって何だ逃げるって」

 

 

 

――――その味を、何と言えばいいのか彼には分からない。

半生ですらないドロドロの卵は大雑把な味、…が良い表現で、米は所々が油っぽくて堅くってパラっとしてベチャッとして…隠し味に何故か七味が入っている。

野菜はぺしゃっとしている。生気のなさが舌に張り付く。肉は生だったり焼き過ぎて堅かったり、丁度良くても胡椒の塊と化していたり。

 

最悪なのはケチャップだ。ドロドロの卵に同居したケチャップは場所によってはバターの味を殺し、またまた場所によってはバターと生焼けの肉とケチャップが口の中でサンバとタンゴを同時に、最悪な事に混じり合うことなく違う味を舌の上で踏み鳴らしている。

 

可愛らしい恋人がせっせと作る料理の、偶に失敗して「高血圧で死ぬかも」な品を出された時よりも酷い衝撃が彼の舌を伝わったわけだが、……この殺人料理を作ったのは白いフリフリエプロンの似合う恋人では無く、……………。

 

 

 

「…………………」

「えっ」

「さ、咲さん…?」

「ちょ、おいっ、咲!しっかりしろ、咲!咲ぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 

 

 

 

 

しかし一番モンハンらしい物を作ろうとしたのはお姉様という……。

 



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君の全部を暴きたい



※下品。下ネタオンパレードです。すっごくご注意ください。





 

 

これは、ヤンデレが幼馴染に殴りかかって入院が伸びた頃、兎にデレデレしたり周囲の男性に威嚇したりと大変忙しかった頃の話。

 

……つまり、オトメン編が終わって間もない頃の話。

 

 

 

「お家デートなるものをしようや!」

「………え?」

 

 

―――まだ同居なんてしてないこのカップルの、主導権を握りまくりのお姉様による第一声により、始まった。

 

手にはさっきまで読んでいた雑誌があり、本人は大変御機嫌麗しく花瓶の水を入れ替え中の恋人をせっつく。

 

 

「お家って、イーシェの家には今現在…」

「違う、イリスの家」

「えっ」

「私、イリスの家の…居間ぐらいは入れたけど部屋に行った事ない。イリスは寝てる私の所にやって来ては色々してご満悦なのにさー」

「ちょ、変な言い方しないで!俺はお前の滅茶苦茶の布団を直して空気の入れ替えして掃除してるだけでしょ!」

「私知ってるよ。昨日私の胸に触っ…」

「あれはお前の寝間着を直してあげたんでしょうが!!今度からはしっかりしたの着てよね、はしたない!…はしたない!!」

「何で二回言った」

「大事なことだから!」

「…じゃあ一昨日、ソファで寝たフリしてた私にキスし―――」

「し、してないもん!全然してないんだから!絶対してないんだから!!」

「…………なんだ、もしキスしてたなら、可愛いイリス君にたくさんちゅーしてあげようと思ったのに」

「してました!」

「よしよし、良い子だねー」

「…………頬っぺた…」

 

 

不服そうにイーシェを見るも、予想と反してイーシェが照れ臭そうに笑うのを見てキュンとしたイリスは、照れ照れしてるのを隠そうとして元の話題に戻した。

 

 

「と、とにかくっ、俺の部屋は―――」

「……私達、恋人同士なのに」

「!」

「何も雑誌を読んだからやりたいワケじゃない、これから結婚も考える上で、同棲するからには相手の事ももっと知らなきゃって、相手の部屋の内情を同居する前に知るのも大切って…」

「……い、イーシェ…」

「……何より、イリスは私の事知ってて、私はイリスの事知らないなんて…」

「ご、ごめ、イーシェがそこまで考えてくれてたなんて……そ、そういう事なら俺、今日中に掃除するから、明日n」

「いや、掃除したら駄目。隠してるのも同意だから」

「えっ」

「もし掃除した痕跡があったらイリスの部屋に我が家のこやし玉を全部ばら撒くから」

「えっ!?」

 

 

 

 

 

 

―――と、言う訳で。

イリスの家の前、長い銀髪を三つ編みに、いつもよりは露出控えめなイーシェはニコニコと渋り顔のイリスを小突きながら家に入ったわけだが。

 

 

「…掃除した?」

「特別な掃除はしてないけど…」

「え、何コレ、埃一つ無い……ちっ、『あら、こんな所に埃が…』ってヤツやりたかったのに」

「姑か!」

「ていうか綺麗と言うより可愛らしい居間なイリスん家を見るとさ、なんだろ…無茶苦茶にしたくなるよね」

「それは屑の考えだ」

 

 

モカ色のソファに生成り色の(※イリスお手製)クッション、テーブルクロスもメイドインイリス。……何度見ても、これは男の部屋じゃないと思うイーシェだった。

 

 

「…汚いとか言うなよ」

 

立派な居間を過ぎて、部屋の前でイリスはやたらゆっくりとドアノブを握る。

少しの高い音を鳴らして開かれた扉の向こうに広がるのは……

 

 

「…え、これ誰の部屋?」

「…俺の部屋」

 

 

青いベッドの上には編みかけのレース、白い小さなテーブルにはきっとメイドインイリスのレースにメイドインイリスの花、…窓辺にも一つ。

 

クッションはやたら凝ったメイドインイリスで本棚は刺繍と料理と数冊の月刊「狩人」で埋められ、部屋の隅々っていうか色んな所にメイドインイリスのぬいぐるみ…しかも小型の機織り機も見つけた。

 

揺れる白と淡い青のカーテンといい、テーブルの上の可愛らしい小物一覧といい…何と言うか、物語的なというか、女の子の理想的な部屋である……。

 

 

「……受けだ」

「え?」

「イリスは受けだ受け!何か……何か回り回ってホモ臭い!」

「え゛!?」

「何このメルヘン!このぬいぐる…やっべー超細か…もっと汗臭さを出せや!」

「えー…汗臭い部屋とか…汚いじゃん…」

「咲ちゃんの部屋は―――…あ、殺風景だったわ…私の弟たちの部屋なんて汗臭かったり野獣臭かったり私の下着と臭いティッシュが転がってたりするのに何よこれ!」

「ちょ、最後のはどういうこと!?」

「流石にエロ本はあるんでしょうね?今回はエロ本探しの為に来たのに!」

「…え?」

 

 

ぬいぐるみを掻き分けては探すイーシェに、色々ショックを受けていたイリスは数秒間固まり――――真っ赤になって叫んだ。

 

 

「え、えええええエロ本!?そ、そんなあ、アレなの持ってないし!持ってないし!」

「乙女ぶってんじゃないよ!どこに隠したんだい?言ってご覧!」

「持ってないもん、そ、そんな破廉恥な…」

「男がエロ本の一つも持ってないっておかしいでしょ、咲ちゃんだって…いや、あいつは金で済ますか…ウチのお父さんなんて金髪巨乳のエロ本持ってたんだから!」

「金髪…」

「ちなみにお母さんは銀髪貧乳、…もちろんその後修羅場になったお☆」

「明るく言うな!…あ、ちょ、駄目駄目、本棚漁んないで、傷んじゃうっ」

「あ、あと私の下着を勝手に使用した弟はライトボウガン(※特性コルク弾で)片手に追いかけまわして土下座させて川に落としたよ。安心してね」

「何に安心するの!?ていうか実の弟に何してんの!?」

 

 

もうやめてぇぇぇ!!とイーシェを背後から、深く考えずに肩を掴んでくるっとこっちを向かせると、ちょっと吃驚した顔のイーシェに低い声で「もうやめよう、」と続ける。

 

 

「いい加減人の部屋を荒らすなよ。俺はそんな本持ってないし、持ってたとしても恋人に見せたいと思う訳ないだろ」

「イリス……」

 

 

ぐいっと無理矢理座らせようとするイリスにふっと近づいて、イーシェは長い睫毛を伏せ―――え?これ期待していいの?とどっきどきなイリスの服を掴み―――そっと空いた唇に………。

 

 

 

 

―――…一分後、へにゃっと座りこんだイリスにトンっと本棚に背を預けたイーシェ(※お察し下さい)であるが、真っ赤な顔でイーシェを見上げたイリスは、ふう、と息を吐いたイーシェから、

 

 

「……じゃ、これが荒らすお代って事で。暫くそこで腰抜かしてて」

「……えっ」

「もうここまで荒らされるのを嫌がられるとさ、無茶苦茶に暴きたくなる性なのよ。だからそこで黙って…ね?」

「…ひ、ひどい……ヤリ捨てされたぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「キス一つで何喚いてんのよー…あ、この月刊狩人に付箋が…」

「らめぇぇぇぇぇ!!それ読んじゃ…読んじゃあ…!」

 

「"月刊狩人専属占い師による、武器別の恋診断!"」

 

「」

「"ちょっと癖のあるガンナー娘と付き合えるテクニック"」

「」

「"ヘタレ過ぎて頼りにされない?そんなあなたに『男らしさ』を伝授!"」

「」

「"身体の弱いハンターへの気遣い十カ条"」

「」

「"ヘタレだけど頑張ったら付き合えたったwww"…笛ガールの先輩(可愛い)が好きで好きでしょうがないヘタレ男ですwww一か月前に告白したらリア充の仲間入りしたおっおっwww……………これ、は…」

 

 

ある可能性を胸にヘタレな恋人を見れば…顔真っ赤で涙目で口元が恥ずかしさでわなわなと震えていて、……急にガバッと両手で顔を隠すと、今までの比にならないほど叫んだ。

 

 

「そうですッそれ読んで参考にしてましたッ!…これでいいんでしょ、俺の事ヤリ捨てして滅茶苦茶に暴きまくってスッキリしたでしょ!……もう、最低ぃ…!」

「ちょ、泣くなし。あとヤリ捨てなんてしてないでしょ、ディープなキスしてやったんだから黙って見てろって言っただけでしょ」

「キスはもっと神聖なものなんだからッ…汚されたぁぁぁぁ!!」

「あーもー面倒臭……ほらほら、私の大事なイリス君、泣かないでイリス君お手製のお茶を私に淹れてくれないかな?」

「…………」

「イリスの淹れたお茶、好き過ぎて毎日楽しみなんだけどなー」

「………………ぐすっ……お茶、淹れてくる…」

「わあ!うっれしー!」

 

 

キスの代わりにハグしてやれば、イリスはおずおずとハグし返して部屋をのそのそと出て行く―――遠ざかる足音にニヤッと笑ったイーシェは……またも暴き始めた。

 

 

「くっくっく…私がたかがエロ本だけで済ませると思うたか…!他にもイリスの恥ずかしい物探しに来たんじゃー!」

 

 

そう(小声だけど)「おー!」と一人叫んだイーシェは、本棚を荒らす際にイリスがさり気なくイーシェの視界から隠そうとしたぬいぐるみの一山に腕を突っ込む!

 

 

「付箋まで貼ってある月刊狩人を犠牲にしても隠したかった物は何かな―――?……お、箱じゃあないか…良い匂いがぷんぷんするぜぇ…!」

 

 

大きめの飾り気のない箱を開け―――……手紙と、小箱だけが、ぽつんとあった。

 

手紙はラブレターとか親への手紙とかそういう類の物ではなく、適当に作ったくさいメモに見慣れた字がふらりふらりと書かれている。……イーシェの字だ。

 

 

「"咲ちゃんに虐められてる可哀想な後輩君へ☆

この前は酔っぱらいお姉さんを介抱して家まで届けてくれてありがとね、とっても助かりました。

お礼と言うほどの物でもないけど、お姉さんが長い間使ってたピアスをあげちゃうんだぜ☆

結構高値の物だから食うに困ったら売っても良いよ!どうせ貸した金の利子の足りない分として頂戴したピアスだし。スウィーツはお金をちゃんと返せる子になるんだぞ☆

 

ちょっと職人さんに頼んで加工してもらったけど、まあ価値は変わらないと思うよ。そのピアスの効能って結構レアなのよ。……どんなのか忘れたけどね!

 

お姉さんからのせめてものお礼です。受け取ってね♡本当にありがとう、愛してるぅー!

 

 

追記。お姉様のキスマーク付きだぞー!嬉しいだろ、すっごく嬉しいだろー!!"」

 

 

 

……書いてる最中も酔っていたのか、所々字が怪しい方向に行きかけ、赤いキスマークがメモの端を陣取ったこの"手紙"は、……こんなふざけた内容なのに何度も読み直した跡が残ってて、薄くなったキスマークと「愛してるぅー!」の文字が、ほんのりと胸に沁みる。

 

傍に置かれた小箱は与えた記憶の無い桐箱で、幾重の絹に包まれたそれは当然ピアスで、綺麗な輝きを今も保ち続けていた。

 

 

「…………」

 

 

イーシェはがさごそと鞄からポーチを引っ張り出し、お気に入りの口紅を濃く塗ってメモの空いた箇所に新しく口付けて、そっと仕舞うと桐箱の中に口紅を入れた。

 

 

―――ちょっとしたお詫びと、サプライズと、…少しのからかう心を込めて。

 

 

 

丁寧に箱を戻し、ぬいぐるみを戻し、トントンと階段を上がるイリスの足音を尻目に……イーシェは、

 

 

「お茶持って来―――」

「エロ本見つけたど―――!」

「いやあぁぁぁぁぁぁ!!」

「タイトルは"金髪巨乳美人百選…"」

「らめええええええええ!!」

「……………いや、『らめええええええええ!!』じゃないよ、どういうこと?金髪って」

「だ、だってぇ…す、好きな人と似てる子なんて見れない…」

「ウチのお父さんと同じ言い訳してるんじゃないよ!」

「痛い!!」

「このっ、変態っド変態ッ!」

「痛っ、ごめ、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ…!」

「私よりカップの大きい娘を見てニヤニヤしやがって!この、ケダモノめ!」

「あうっ、ご、ごごごめんなひゃ…う゛っ…い、痛いのはやめ…」

「その痛いのがイイんだろ、この変態豚野郎!」

「もう変態でも豚野郎でも良いからやめ…むっ」

「ん、」

 

 

一方的に虐めて、すっごく気まぐれなキスをしましたとさ。

 

 

 

 

 

最後のSM(笑)はお姉様なりの照れ隠し。

 



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咲ちゃんインワンダーランド

 

 

 

【???】

 

 

「……ん……腹減った…」

 

「夜―、そろそろ飯に……あれ、何で陽が昇ってばっかり…」

 

「そんなに長く寝てたっけ……」

 

 

 

 

 

【夢見の悪さに定評のある男、咲ちゃん】

 

 

 

「ていうか……ていうか俺の身体ちっさ!なん……えっ、何だこれ…!?」

 

ドンドンッドンドンッ

 

「誰か来た…!お、おふくろ(葉っぱが恋しくて堪らないver)じゃないよな…」

 

「……――――な、なんか用k」

 

 

「山に行くど―――!」←チーズ

「やまー!」←幼馴染

「おはよ」←オトメン

「さくさんおはようございます」←嫁

 

(……皆ガキだ…!)

 

 

「…や、山って…」

「昨日、みんなで山に行って"ハンターごっこ"しようって言ったでしょっ」

「そうだったか…?」

「俺、昨日から楽しみだったんだ!」

「…豊受がいると死亡フラグが立ちそうで嫌なんだよ…」

「イーシェが行くってんだから行こうよ」

「お前はどこまでもイーシェなんだな」

「そんなこと言わないで、さくさんもいっしょに遊びましょう?」

「………夜が遊ぶなら」

「さくも人のこと言えないじゃんか!」

「うるせーよヘタレがっ」

「うわあぁぁぁんんイーシェぇぇぇぇ!!」

「イリスを蹴らないの!」

「ちっ」

「お前ら本当に仲悪いなー」

「ケンカはだめです!」

「ごめん」

「私に謝るんじゃなくて…」

「咲って清々しいくらいにハッキリしてるよな」

 

 

 

 

【ハンターごっこに必要なもの】

 

 

「ギルドにようこそ!(ドヤッ」

「……え、何、そこから始めんの?」

「みんなの武器を見せるがいい!」

「武器まで…一応持って来といてよかった…」

 

「豊受さんは吹き矢!」

「使えなっ」

「僕はハサミ…」

「ヘタレのくせに地味に危ないモン持って来たな…」

「私は木槌です!」

「夜は可愛いから許す」

「お姉さんはエアガン☆」

「…おい、世界観ぶち壊しだろ…」

 

 

「…そういう咲ちゃんは何持ってきたのよー?」

「俺?剥ぎ取りナイフ」

「人殺しー!」

「咲がイリス泣かしたー!」

「俺まだ何もしてないだろ…」

 

 

 

 

【アイテム確認も大事!】

 

 

「みんなー!おや…じゃない、アイテムは?」

「アイテムもかよ…俺持って来てないぞ」

「じゃあさくさん、私といっしょにリンゴ食べましょう?」

「夜は本当に良い子だなっ」

「きゅっ」

「お、俺だって…大福やるし!」

「お前のはいらねー」

「…ぅ…うわああああんイーシェぇぇぇ!!」

「だから泣かすなってば」

 

 

「豊受さんは麦チョコ!」

「お姉さんはのしイカ」

「お前それはお菓子じゃねーよ」

「えー、そんなこと言うと咲ちゃんにはあげないよ?…せっかく全員分持ってきたのに…」

「のしイカ全員分とかお前スゲーな」

「あ、チーズなら食う?」

「…お前だけおっさん臭のするアイテムだな…」

 

 

 

 

【それいけ!ガキんちょハンターズ!】

 

 

「タヌキつかまえたー!」

「タヌキ鍋だー!」

「どんぐりみつけたー!」

「さくさん、お花きれーです」

 

「……お前らって、なんつーか……まとまりがないよな…」

「あんだよ、咲ちゃんにだけタヌキ鍋食べさせないよ?」

「食いたくもないわ」

「じゃあ豊受さんが食っちゃうぞー!」

「勝手に食って腹でも下してろ」

「イリスさん、あのちょうちょ、きれーですね」

「本当だー……痛いっ!!」

「夜にちょっかい出すな!」

「理不尽んん!!」

「さくさん!らんぼうはダメです!」

「ごめん」

「だから私じゃなくて…」

「うわあぁぁぁんイーシェー!」

「変なキノコみっけー!」

「イーシェに捨てられたぁー!!」

「元気出せよ、女なんて山の天気より気まぐれなんだ」

「…豊受、お前は何歳なんだ」

 

 

 

 

【勇気りんりん!】

 

 

「ハチミツだー!」

「「「おー!」」」

「…おい、子供だけで蜂蜜採んのか…」

「大丈夫大丈夫、豊受が犠牲になってでも採りに行ってくれるから」

「えっ」

「おま…鬼畜なこと言うなy」

 

 

「みなさーん!このハチミツとっても甘いれす!」

「うまー」

 

 

「…よりによってこのメンツで最も幼い二人がー!!」

「美味そうに食いやがって!」

「そうじゃないだろっ―――夜、危ないからこっち来い、後で好きなだけ蜂蜜プレ…やるから!」

 

「「うまー」」

 

「…バカ!あいつら本当にバカ!もう目の前の甘味にしか頭にない!」

「てめっ、夜をバカにすんな!ちょっと抜けてる所があいつの可愛らしさなんだ!!」

「ようはバカってことでしょ!?ていうかそういう問題じゃないでしょ!?」

「……ねえ二人とも、ケンカするより先にすることがあるでしょ……」

 

 

ブブブブブブブブブブ、ブブブッブブブブブブブ

 

 

「「ん?」」

 

「は……蜂だァァァァァァァァァァ!!!」

「夜!」←ぺろぺろ舐めてた手を掴む

「イリス!」←服の襟を掴む

「「逃げるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」

「ちょ、豊受さん置いてかないで!」

 

 

 

 

【お父さん、死神がやってくるよ】

 

 

「ひぃぃぃぃ背後!背後真っ黒!!」

「見るな!全力で走れ!」

「…はっ、…ぅぅ、私ギブ…」

「チェダー、此処で諦めたら人生終了だぞ!!」

「い、イーシェ、ごめんね…」

「いいんだよ、イリス…………………いざって時に生贄になってくれればそれで」

「」

「…ああうん、まだ大丈夫そうだな。…夜、大丈夫か?」

「わ―――たし、だい、じょうぶ…」

「……不味いな、…別れるか?」

「それは別れてもお互いアレな目に遭うフラグだと思われる」

「俺もー」

「…じゃあどうすんだ…ていうか、ああくそ、焦って走って逃げなきゃよかったわ…!」

「でもさ、蜂の巣の下にこの子たちがいる状態で冷静になれって難しくない?」

「そうだ―――あっ」

「豊う―――えっ?」

 

 

 

ずざざざざざざざざっ

 

 

「……いたた…急に穴に落ちるとか…」

「それより…みんな、俺の上から退いてよぉ…」

「イーシェ!だいじょう―――」

「ヘタレ、お前が腕掴んでんのは俺だ」

「いーしぇぇぇぇぇ!」

「はいはいココですよ……あれ?夜ちゃんは?」

 

 

「くまさんこんにちは、おじゃましております」

 

「「ですよね―――!!!」」

 

 

 

 

【黄色い方だと思った?残念、青い熊さんでした!】

 

 

「待て、騒ぐな!ヤツは寝てる!」

「そ、そっか…夜ちゃん!そんな獣臭いのに挨拶してないでお姉さんの所においで!」

「あばばばばばばば」

「ちょ、イリス落ち着けって!」

「ご、ごめんなさい、今―――」

 

 

「……………がう?」

 

「「「「「…………!」」」」」

 

 

「がァ―――――!!!」

「きゃ―――!!」

「せめて男らしい悲鳴を上げろヘタレが!」

「豊受!その先に進んで!」

「で、でもイーシェ…下手したら…!」

「死ぬんだったら足掻きまくって死にたいでしょ!」

「さく、さん……」

「泣くな。…大丈夫、俺が何とかするから…」

「ぐるああああああ!!!」

「「み゛――――!!」」

「お子様二人組はもう耐えられそうにないね…」

「…ちっ、チェダー、エアガンで撃てるか?」

「撃てるけどさ…大丈夫かな、逆上しない?」

「もうこの際逆上するも何も無いだろ、眉間とか鼻面にでも撃ってやれ」

「吹き矢は!?」

「テメーの出番は一生無いから安心しろ」

「ちょ、こんな時にその台詞は不味いって!」

「―――じゃ、お姉さん撃っちゃうよー」

「ああ」

「スル―!?」

 

ぱんっぱん、ぱんっ

 

「ガッ、ぐぁっ、グガガガガガガガ!?」

 

「…おい、片目の狙撃、狙ってやったか…?」

「え?モチのロンだべ?」

「何で訛ってんだ」

「ていうかこんな暗い中でよく撃てたね…!」

「なめんな!お姉さんはね、少ないお金で射撃の露店に並んだ、弟たちが欲しがる物を手に入れてきたんだぞ!」

「凄さが分からん!」

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「「「「「キレた――――!!!」」」」」

 

 

 

 

【ハンターごっこのはじまりだ!】

 

 

「ちっ、夜とヘタレは俺より前に来いっ」

「え、咲ちゃんまさか…!」

「ナイフでやったら―――!」

「ぐおっ」←腕を少し切られてビビった

「浅いぞー、がんがれー」

「お前は援護をしろ!…っと、…痛っ」

「さくさぁん!」

「頬切っただけ―――って、チェダー避けろ!」

「へっ!?」

 

 

「…ぐ、あああああああああああ!!!」

 

 

「……ついに両方の目が見えなくなったな…やるじゃねーか、ヘタレ」

「えっ?イリスが…あ、目にハサミ刺さってる」

「あ、当たったの…?」

「当たった当たった!…イリスすごい!カッコイイね!」

「えっ」

「助けてくれてありがと!」

「…あ、あの……うん…!」

「……悪いがデレデレしてる時間はねーぞ。…来た!」

「あばばばばばばばばばばばば」

「…イリス……かっこわる…」

「ふえ!?」

「あ、いや、何も言ってないよ」

「ちょ、突進してきたから急げ!」

「―――あっ、みんな!明りが見えてきた――――外だぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

【助けてお父さん!】

 

 

「明りに目が眩んでるうちに逃げるぞ!」

「子供の足で逃げ切るのって無理ゲーだよね……ひゃあああもう追いかけてきた!」

「……はぁ、はっ……」

「…夜…――チッ、俺が足止めするからお前ら逃げろ!」

「はあ!?」

「バカ言ってんじゃないよ!」

「アンタ置いて行けるわけないでしょ!?」

「さくさん、のっ…ばかぁ…!」

「………化けて出そうだからちょっと…」

「ヘタレ…てめ―――じゃない、…限界に近い夜とイーシェはこれ以上走ってらんねーだろ」

「でも…!」

「豊受が俺の次に足が速い。お前は全力で走って村の人間に伝えろ」

「だからって――――咲ぅ!!」

「は………」

 

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」←食べちゃうぞー!のポーズ

 

「さくさんっ!この…!」

「ぐふぉっ」←木槌がおでこにヒット

「ナイス!」

「さくさん、わたしのて、を―――――」

 

 

「ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

「………えっ、フルフルが来た………」

「ぶおおおお!!」

「ぐおっ!?おぶっ」←吹っ飛ばされた

「が、がんばってくださいっ"お父さん"!!」

「え、夜、お父………お父さんんんん!?フルフルが!?…フルフル…えっ!?」

「すっげー!夜の親父アオアシラを一飲みだ!」

「かっけー!」

「わぁぁぁぁ!!」

「えっ、何でお前らはこのありえない関係を認めてんだ!?」

「ぶおおっ、ぶおおおお、おおおおおお!」

「…ご、ごめんなさいお父さん…もう子供だけで山に入らないです…」

「フルフルのくせに叱ってる!?」

「そりゃ咲ちゃん、親だし」

「ありえねーだろ、こんな白くて卑猥な生物からこんな美少女が生まれるとかありえねーだろ!!」

「ぶふぉおおおおおお!!!」

「さ、さくさん!お父さんに謝って!」

「俺何も悪いこと言ってな―――……あれ、真っ暗に…」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!さくさんが食べられたぁぁぁぁぁぁ!!!」

「俺食われたの!?どうい――――夜――――………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【???】

 

 

「――――ふあっは!!」

 

「……なんだ、夢か……俺って夢見の悪さに定評があるな……」

 

「あんな気持ち悪い生物に捕食されたとか……ああ駄目だ。夜に甘えて気持ち悪さを――――……ん?」

 

「……おい、そこにいんのは誰だ?」

 

 

「……………|ω・`)」

「……って、夜か………いやいやいやっ!ちっちゃい。夜がちっちゃい!?俺は元に戻ってるのに!?」

「………|ω・`)」

「夜……え、夜なのか?おま―――え?えっ?」

「………」

 

 

 

「……………パパ、おかあさんがよんでるのです……」

「」

 

 

 

 

 

ちょっと違ったループ?…だと思われ。

 

 



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咲ちゃんインワンダーランド2



※最後ら辺でホラー&グロ表現が少しあります。ご注意ください。





 

 

【天使がいる】

 

 

「パパ…おかあさん…」

「………ぃ…」

「パパ?」

「可愛いぃぃぃぃ!!!何だこれ、天使か、天使なのか!?」

「ぱ…パパ…?」

「ぷにぷに過ぎて可愛いなちくしょう!パパとかキちゃうだろぉぉぉぉぉぉ!!」

「……(((´;ω; `)」

「泣き顔も母親にそっくりとかぁぁぁぁ!母娘に挟まれて死にたい!!」

 

「おとうさーん?」

 

「……は?…ちっさい俺…じゃない、息子まで…?」

「!…お父さんまた姉ちゃんばっかり!俺も!俺もだっこ!」

「え、いや、俺……」

「俺は駄目なの!?…また、俺ばっかり差別するの…?」

「や、そんなつもりは…」

「お父さん俺のこと嫌いなんだ!!」

「思い込み激しいな!!」

「ばかばかっお父さんのばか!」

「てめっ」

 

 

「 さ く さ ん … … … ? 」

「ひっ」

 

 

 

 

 

【女神であり鬼でもある】

 

 

「よ、夜…!」

「またこの子のこと、差別したのですか…?」

「あ、いや、違…」

「では娘をこちらに。あなたの大事な息子を抱き上げて下さいな」

「だ、だって、おま…娘可愛いし…(ぼそっ」

「咲さん!!」

「はいっ!」

「何度も何度も同じ事を言わせないで下さい!!この子達は二人等しく!大事に大事に愛して下さいと何度も言ったでしょう!」

「は、はい…」

「お母さんっ」

「よしよし、酷いお父さんですね。今お母さんがお小言をしますから、お姉さんと一緒に遊んでて?」

「姉ちゃん……」

「………弟ちゃん、…一緒に…いいですか…?」

「………………しょ、しょーがねーな」

「ふふ、あなたは良い子。私の可愛い可愛い息子です。こんなお父さんのせいでめげないでね?」

「うん!」

「…………さあ、娘を下ろしてこちらに。座って下さいませ」

「いや、でも、」

「座りなさい」

「…………はい…」

 

 

 

 

 

【その頃、とある一家は】

 

 

 

「うっし、天気も絶好調だ。……山狩りにいくどー!」

「「いくどー!」」

「いや、山狩りじゃなくてピクニックね、ピクニック」

「娘っ子どもは武器(※練習用)を持ったかー?」

「ボウガン!」

「弓!」

「「ちゃんと持ってるの!」」

「……なんで双剣がいないんだろう…」

「女の子に双剣とか危ないでしょーがー」

「ていうかー、双剣とかダサいしー」

「アレが許されるのって若い時だけだよねー」

「「wwwww」」

「なんなのお前たちは!?そんなに父さんに自殺して欲しいの!?」

「ううん!(食卓事情上、あってはならないよねー)」

「お父さん大好きだよ!長生きしてね!(衛生事情上、あってはならないよねー)」

「…あれ、何か父さん泣きそう…」

「こら娘っ子!お父さん泣かしていいのはお母さんだけって言ったでしょうが!」

「う、ぅぅぅぅぅ…!やっぱりお前だけだよ、イー…」

 

「あっ、夕飯みっけ!」

「者共撃て―!」

「「撃てー!」」

「え、ちょ、待っ…」

 

 

 

 

 

【不甲斐ないぞ咲ちゃん!】

 

 

「――…でしょうに。…私があんなにお腹を痛めて産んだ子を、最初あんなに喜んでいたではありませんか。アレは演技だったんですか?それとも若い女の子がいいとかそういうことですか?もし前者ならば張り手、後者であれば離婚も辞しません」

「すいませんごめんなさいどっちでもないです俺には夜だけなので許して下さい本当にごめんなさい」

「あなたは何度もそう言ってばかり!今度ばかりは誠意を見せて下さい!今が一番大事な時なのに、あなたったら放置して放任して放棄して!あの子の何が嫌いなのです!?あなたそっくりの綺麗な髪に格好良い顔立ちに宝石みたいな瞳の、あの子のどこがお嫌いなのですか!?」

「……格好良い……お、俺、お前から見たら格好良いのk」

「あなたの容姿の話をしてるんじゃありません!!」

「はい…………」

「…………もういいです。咲さんはちゃんと愛情のある方だと信じていましたのに…」

「え、ちょ、ま、待て!夜!」

「ひゃっ、急に抱きつかないで下さい!」

「ごめんっ土下座でも何でもするから!見捨てないでくれ、俺、お前のことが好き過ぎて…どうしてもお前そっくりの娘ばかり…あ、いや、別に性的な目とかじゃないぞ?俺は夜以外には欲情出来ないから!夜一筋だから!だから俺を信じてくれ、な?なっ!?」

「……………」

「……………!」

「……………分かりました。"今回は"信じましょう」

「………はい」

「…それじゃあ、咲さんは"息子達"の面倒を見て下さいね」

「はい…」

「…………私は、お昼ご飯の生姜焼きを作りますから」

「えっ(※咲ちゃんの好物料理の一つ)」

「……ちゃんと面倒見ないと、変な味にしちゃいますからね、旦那様」←頬っぺちゅー

「………!」

 

 

 

 

 

【ムラっと来たんだよ!】

 

 

「きゃ―――!」

「ああもう夜は本当に可愛いなマジで可愛いお母さんになっても若々しくて美人だしていうか着物姿の人妻とかすっごい興奮するって今気付いたんだけどこのちょっと乱れた裾から覗く足袋と足がいいよな髪も綺麗に伸びててマジ―――」

「……お、お父さん!?」

「あん?」

「お父さんがお母さんを虐めてる―――!!」

「え、いや、確かに虐……違う!母さんを可愛がろうとし―――」

「息子の前で何て事を言おうとしてるのですか変態!」←ビンタ

「変た……くそっ、ちょっと強気で反抗的な夜も可愛い!!」

「こ、こらっ、だめ、何し―――」

「お父さんの変態!」

「「」」

「変態!変態!!姉ちゃんも言ってやれ!」

「ちょ、居るの!?言うな!お父さんそんな娘見たくな―――」

「…………|ω・`)」

「あっ」

「……………お父さん……気持ち悪い……|ω・`)」

「」

 

 

 

 

「……そうだよな、俺ってこの世で最も気持ち悪い男なんだ。おふくろを薬中で死なせるくらい不甲斐ないし親父を返り討ちにして悪評広めたり親父の愛人を殴り飛ばしたり暴言吐き捨てるくらい最低な男だし誰かの温もりが欲しくてウルクススに会いに行くくらい寂しい奴で夜を大事にするとか言って性的な目で見るくらい気持ち悪い男なんd」

 

「さ、咲さん、ごめんなさい、お、怒り過ぎました。別に気持ち悪いなんて思ってませんよ、咲さんは私の大事な大事な旦那様ですもの」

「お母さん!前もそう言って調子付いたお父さんに…同じ事されるんだから放っておこうよ!」

「……|ω・`)」

「こら、二人とも今は黙っているのっ……ね?咲さん、こちらに出て来て下さいな、夜は咲さんに甘えたくてしょうがないのです」

「…………とに?」

「ええ!咲さんの膝枕が欲しいです!」

「しょ、しょうがないな…!」

 

 

 

 

 

【出来るもん!】

 

 

「んん…むにゃ…」←咲ちゃんに膝枕して貰ってたら育児疲れで寝た

「ふがー」←お母さんの髪とお父さんの腹に無理矢理突っ込んで寝た息子

「くぅー…」←お父さんに寄りかかってお母さんの袖掴んで寝てる

「何コレ天国じゃねーか…!」←萌えてる

 

「ふぁ…さくひゃん……んー…」

「夢の中でも俺と一緒の夜…可愛い」

「ふんがっ」

「……おい、こいつはさっきから呼吸出来てんだろうな…」

「おとーさ……わるい…」

「ごめん…何かごめん…」

 

 

「おじゃましてもいいですか――――!!」

 

 

「…これは…若干低いけどスウィーツの声k」

 

「どうでもいいからさっさと入ろうや」

「「入ろうやー!」」

 

「…………これは…ババアの…」

「むぅ…さくひゃん…?」

「あ、夜。ごめん、起こした―――」

「狩りに行くど――――!!」

「」

「あ、イーシェさんこんにちは」

「夜ちゃんこんにちはー」

「「兎姉弟が寝てるぞー!」」

「あ、こらっ、寝てる子を起こすんじゃ…」

「イリスさんもこん―――その、格好は…?」

「…本当だ。…どうしたその浮浪者が山賊にあって何とか逃げてきたような格好は」

「そこまで酷くないよ!?」

「実はさー、山狩りしようとしたらジンオウガに会っちゃってね?無事に逃げたは良いんだけどさ、あの子人里に近い所にいるし…追っ払う為に力を貸してくんない?」

「…ギルドには?」

「村人に伝えてくれって頼んどいた」

「…実質被害が出たわけじゃないから額は少ないだろうけど、受けてくれる?」

「………別に、かまいやしねぇけど―――」

 

「―――俺も行く!」

 

「兎(弟)が行くならあたしも!」

「あたしも!」

「わ、わた…(置いてかれたくないから)私も…」

「ガキんちょが何言ってんの。アンタらみたいにピーピーでちっこいのがモンスター…それこそケルビだって倒せやしないよ。もっと大きくなってから言うんだね」

「そうですっ子供が遊びで行く所ではないのですよ!」

「でも!俺、毎日父さんと稽古した!俺だって出来るもん!」

「あたし、遠くからお父さんのマグカップ狙撃できたもん!」

「あたしなんかお父さんの刺繍を的にして頑張ったもん!」

「お前らそんなに父さんが嫌いなの!?」

「「大好きー!」」

「ほ、ほんt「そんなのはどうでもいいでしょーが!」…はい…」

 

「―――とにかくっガキどもは家でおねんねしてなっ。…悪いけど夜ちゃん、ウチの娘どもの面倒見ててくれる?」

「はい。かまいません」

「「えー!」」

「だまらっしゃい!」

「やだやだっ、俺も行く!俺だってジン、ジンオウ…倒せる!」

「名前も覚えれないのにか?…ほら、アレだ、お前はお母さんと姉ちゃんの面倒見て…な?」

「やだやだ!」

「あーもー、とりあえず15分後に此処に戻ってくるから。多分まだあそこら辺うろついてるからさ、徒歩で良い?」

「いいけど」

「やだやだやだ――――!!」

 

 

 

 

 

「……はい、留め具もしっかり閉めました」

「悪いな。……あの馬鹿息子は?」

「拗ねてて…双子ちゃんに弄られててお姉ちゃんに慰められてます…」

「頑固な所似たな…まあいい。行ってくる」

「…………」

「夜?」

「……お怪我、しないでください…」

「!」

「これからも、ずっとずっと、私には咲さんが必要です。…だから…きゅっ」

「あああもう可愛いなあ夜はッ!流石は俺の嫁だよちくしょー可愛い!!」

「」

「帰ってきたら俺とイチャイチャして布団の中d」

「迎えに来ましたーwwww」

「てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

【だってあいつらのガキなんだぜ?】

 

 

「兎(弟)元気出せよー」

「なっさけなぁい!」

「……す、すねちゃ、だめ…です」

「……だって、俺、昨日父さんに『お前が立派なハンターになれる日も近い』って…」

「リップサービスに決まってるじゃんかよォ」

「」

「ていうかー、『近い』って言ってるだけで『なった』とは言ってないしー」

「」

「ふ、ふたりとも、この子のこといじめないでっ」

「だって兎(姉)…」

 

 

「……そうだ。おいっお前らモンスターの居所知ってんだろ!?」

「知ってるけどー?」

「大体ねー」

「俺を連れてけ!」

「「「!?」」」

「そこで俺だって出来る子なんだって、父さんに見せつけるんだ!俺だって…!」

「木剣でー?」

「無理無理。無理ゲー」

「そんな危ないこと…!」

「ようは追っ払えばいいんだろ!?上手く誘導すればいいだけじゃんか!」

「「それが難しいんだろチェリーボーイ」」

「「……ちぇりーぼーいって何…?」」

「知らなぁい」

「兎姉弟知らないのー?」

「……とにかくっ!場所を吐け場所を!」

「一本杉に向かうまでの道で会ったよー」

「一本杉な…!」

「だ、だめだってば―――」

 

 

「みなさーん。お菓子にマフィンを焼きましたよー?」

「「「「いただきまーす!!」」」」

 

 

 

 

 

【狩るか狩られるか】

 

 

「……ちっ、本当に居たのかよ?もう陽だっておっ死にそうだぞ」

「誰か千里眼持って来なかったのかよぉー、役立たずー」

「……ごめん…」

「…なんでお前が謝ってんだよ」

 

「……左か」

「え、何?咲ちゃんって獣並に察知出来る子なの?」

「……耳澄ませば聞こえんだろ、あの鼻息の荒さ」

「聞こえねーよ…」

「………とりあえず、俺が特攻、ヘタレは嫁を気にしつつ攻撃して来い」

「え?俺別に…」

「今回の太刀は長めだからきっと巻き込むぞ」

「サポートに徹しますッ」

「じゃあお姉さんはいつも通り援護…と見せかけて前線出てやろ」

「出んな」

 

「ぐおおおおおおお……」

 

「……何か獲物でも見つけたのか、まだ気付いてないな…閃光玉―――投げ、れるよな…?」

「もう投げれるもん!!」

「たまに失敗するけどね」

「―――~~くそっ、投げる―――「待て!」…はい!?」

 

 

「…お、俺が相手だ!」

「ぐるるるるるるるるる…」

「あたしもー」

「じゃああたしもー」

「…わた、しも…?」

 

「「「」」」←絶句した親たち

 

 

 

※その頃の兎ちゃん↓

 

「みなさーん、お風呂からそろそろ上がり……あら?」

 

「みなさんもう、上がって……」

 

「まさか……!!」

 

 

 

 

 

【これが狩り】

 

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「「「「ひっ」」」」

 

「…っ、チェダー!」

「狙い撃つぜ!」

「ぐおっ!?ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」

「お、お父さ…!」

「こんの…悪ガキどもが―――!!」←スライディングで子供全員掬い取る

「こっちだ!」←ヘタレが注意を引く

「後ろ脚行きまーす」←淡々と狙撃

 

「お、お父さ…!」

「こんの…馬鹿!!俺の古い太刀(※当然子供には重くて抜けない)まで引っ張り出して…!母さんはどうした母さんは!?」

「………」

「他の子供まで巻き込んで…もしお前のせいで死んだらどうする!?お前一人の命じゃ責任とれねーんだぞ!?」

「………っ…、…」

「泣くな!…お前らもお前らだ!!なんでノコノコ付いてきた!?」

「だ、だって…」

「そりゃ…」

「………ごめん、なさい…」

「…反省会はひとまず後だ。お前らは近くの茂みに隠れてろ。絶対に出てくるな―――」

「父さん!!」

「なん…」

 

「ぐるおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「なっ―――ボディプレ…」

 

 

どごおおおおおおおん!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【母は強し】

 

 

「……か、かあ、さん………!?」

 

「ようやっと、見つける事が出来ました……」

「ぐ、ぐおおおお……っ」

「夜…!(…飛び上がってハンマーで殴った…だと…!?)」

「か、かあさ」

 

ぱんっ

 

「…母さんはさっきまで、あなたの叩かれた頬よりも胸が痛かったのですよ」

「……」

「お姉ちゃんが行き先を書き残していなかったら、今此処に間に会う事も出来ませんでした」

「………お、おかあ…」

「私がどれだけ……心配したことか……!――――このっ、馬鹿息子!!」

「っ!」

「っぐ、ぐぅぉぉぉぉぉぉぉ…!」

「…夜、お前は子供達を―――」

「咲さん。この子達をよろしくお願いします」

「えっ」

 

 

「…例えどんな子であろうと…私の可愛い子供達に牙を剥いた子は、絶対許しません」

 

 

「―――このハンマーで、………叩き伏せるのみ!!!」

 

 

「ちょ、ま、待て、お前しばらく狩りに出てな―――」

「いざ参らん!!」

「ちょっ」

「か、母さ――――ん!!」

 

 

どごぉっ

 

 

 

 

 

 

【母親舐めんな】

 

 

「ぐおっぐっ――ぐふぉおっ」←頬やられて顎やられて大きく仰け反った所で腹に一発

「せいっ!」

「げぶぇっ」←角欠けた

「はっ!」

「ぐぷっ」←脳味噌出そう…

 

「か、母さ……母さん……!!」←あまりの戦いぶりに怯える息子

「………((´;ω; `))」←怖すぎて震える娘

「」←言葉にならない夫

 

 

「―――こ、これは、どう援護…い、イーシェ―――」

「徹甲榴弾行きまーす」

「聞いてない!?」

「「あたしたちも!」」

「お前らはどこから沸いて出たの!?」

「「お母さんに続け―――!!」」

「……あれ、何これデジャブ……?」

 

 

 

 

【その後、ジンオウガ君の姿を見た者はいなかった…】

 

 

「まったく馬鹿娘どもが!下手したら死んでたんだからね!」

「「…はい…」」

「罰としてお父さんの家事手伝い一か月!お父さんの後ろ姿から女らしさを学びなさい!」

「ちょ、女らしさってどういうk」

「私に似てじゃじゃ馬な所も、丁度いい機会だから直す事だね!じゃじゃ馬が過ぎるとお嫁にいけないよ!」

「「……はーい」」

「伸ばすな!」

「「はい……」」

 

 

「…お、おか、さ…ご、ごめんなさい…おとうさんも、ごめんなさい…!」

「ごめんなさい…」

「まったくだ。ちょうど鉢合わなかったら死んでたんだぞ」

「「ごめんなさい……」」

「………」

「……あ、あの、ね。俺、…がんばって、ジンオウガ、追い払えたら、お父さんに、認めて……」

「………」

「……そ、そしたら、お母さんもいっぱい褒めてくれるって…だからぁ…!」

「………お馬鹿さん」

「!」

「そんな無茶して、追い払えたって。お母さんはあなたを褒めません。お父さんだって認めません」

「……!」

「お父さんは口下手な人で、分かり辛いかもしれないけれど、ちゃんとあなたを認めていますよ。稽古の後、いつも楽しそうにあなたの成長ぶりを教えてくれますもの」

「…えっ」

「………(…そうなのか…)」

「無理に背伸びなんかしないで。少しずつ少しずつ先を進むあなたが、頑張り屋で、手が傷だらけになっても我慢して泣かないあなたが、…お母さんは大好きだし、褒めてあげたい。……だから、もうこんな無理をしては駄目。―――お母さんと、約束できますか?」

「……うん…約束、する…!」

「…よしよし、あなたは良い子です。…叩いてごめんなさいね。…お姉ちゃんも。怖かったでしょう?」

「……お、かあさん…っ」

「ふふ、もう怖いのはお母さん達が倒したから、皆で帰りましょうね。今日は鍋ですよ」

「「うん!」」

 

「…じゃ、帰るか…ほら。」

「え…俺…」

「なんだ、俺とは手を繋ぎたくないのか」

「う…ううん!繋ぐ!」

「じゃあもう片方は私と。お姉ちゃんは腰が抜けたでしょうから、私が―――」

「いや、俺が背負う」

「………では、お願いしますね」

 

 

「さあ、お家に帰りましょう――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

【???】

 

 

「ふがっ」

 

「……ゆ、夢か……夢だよな…?」

 

「咲ちゃんー?」

「!…チェダー!?」

「何、寝てたの?」

「え、あっ…まあ…」

「もー、さっさと支度してって言ったでしょ。早くしないと遅れるよ?」

「遅れるって…何に?」

「何って…」

「…?」

 

 

「―――スウィーツと夜ちゃんの、結婚式」

 

 

「……え?」

「夜ちゃんの体調もあって伸びたけど…プロポーズして一年かー。いやーきっと花嫁衣装の夜ちゃん可愛いんだろうなー」

「……え?夜と…スウィーツ?何で!?」

「何って……夜ちゃんがアンタのこと好きって言ったのに、『ガキはお断り』ってアンタが…ていうか、"婚約者"に苗字(チェダー)呼びって余所余所しいんじゃないのー?」

「…は?」

「は?」

「……え、俺の、婚約者…」

「私だけど?アンタがプロポーズしてきたんじゃん。流れに飲まれてって感じだけど」

「………!?」

「まったくもう、変なこと言って私に心配かけさせないでよ。お腹の子に触るでしょう?」

「お腹の子って…俺の…!?」

「そうだけど」

「う……嘘だ!!俺がお前と!?無い無い、絶対無い!!」

「変な咲ちゃん。疑うんなら、ほら、」

「は…?おま、包丁で何する気―――ひぃっ」

「んっと、ここら辺だよね…ほら、見えるかな?もっと大きく切った方が良い?」

「………!!」

 

 

「ほら、お父さんにご挨拶してご覧?」

「……うぶあぁぁぁ」

「や、破っ………――――――――!!!」

 

 

 

 

 

 

 

【????】

 

 

「うっ…わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ひゃあっ」

「あぶっ」

「おわっ…吃驚した、起きるんなら静かに起きてよね」

「ば―――化け物ぉぉぉぉぉぉ!!」

「……え、こんなに美しいお姉様が化け物?」

「寝惚けていらっしゃるのでは…」

「だからってさー…寝惚けたイリスは私を見て何故か拝みだす可愛い子なのに…」

「えっ、俺拝んでたの!?」

「うん。むにゃむにゃ言いながら拝んでた」

 

 

「夜…夜っ、夜は!?」

「咲さん、夜は此処に居ますよ。どうしたのですか?」

「さ、さっき、お前とスウィーツが結婚して、ババアがババアから化け物ぐふっ」

「あんコラ?」

「さ、咲さん…悪い夢を見ていたのですよ。咲さん、さっき私を庇って頭を打ってしまったから…」

「……………夜」

「はい?」

「夜は、俺の…俺のだよな?他の…そこの女みたいな男と結婚なんて―――」

「ありえません」

 

 

「……ありえませんって言われた…いや、それでいいんだけど何か悲しい…」

「何よー浮気かこのやろー」

 

 

「…夜はいつまでも咲さんのものです。ずっとずっと咲さんと一緒に居ます」

「だよなっ。そう、だよな…」

「はいっ」

「……………うん、そうだ……」

 

 

 

 

 

 

 

「―――とか言って続きがありますオチだったらどうするよ?」

「チーズてめえこのしっとりした空気を壊すんじゃねーよ」

 

 

 

 

 

長い旅だったね(笑)咲ちゃん。

 



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ウサチーズ喫茶にようこそ!



※初対面という設定。

※R-15(か16)程度のエロというか下品というか。

※安心のヤンデレスト―リー

※鬱エンドではないはずの謎のオチあり。

※メイドさんの服は着物にあの、膝丈短すぎて太もも見える感じの。ガーターかニーソで接客するスタイル。


以上、ご注意ください。






 

 

【ウサちゃんです】

 

 

「お帰りなさいませ御主人様!」

「……!」

「御主人様の 担当(メイド)をさせて頂く"夜"と申します。どうぞよしなに」

「……夜…」

「はい?」

「本名?」

「…?ええ、そうですが…御主人様」

「………………綺麗な名前だ」

「!ありがとうございますっ―――それでは御主人様。御主人様はお煙草を吸われますか?」

「お前の肌なら吸いたい」

「えっ…えっと、…き、禁煙席でも…?」

「禁欲生活をしろって言うならする」

「……(…ど、どうしよう、マニュアル通りにスル―したのに…!)」

 

 

 

 

【※風俗ではありません】

 

 

「御主人様っ一回500Gで『萌え萌えじゃんけん』が出来ます!御主人様が勝ったら夜は、」

「脱ぐのか。脱ぐんだな?―――よし。じゃあ俺が勝ったらパンツ脱げよ(キリッ」

「えっ」

「じゃあ行くぞ」

「ちょ、待って下さい!勝ったら私お手製の、」

「じゃんけん、」

「え、えっ」

「ぽい。……俺の勝ちだな」

「や、ちょ、やめ―――イヤぁぁぁぁぁ店長助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「……冗談だ」

「えっ」

「パンツじゃあ芸が無いだろ。俺がお前のガーター外すって所で手を打とう」

「やっ―――」

 

 

パァン!←咲ちゃんのコップが狙い撃たれる

 

 

「せ、先輩!」

「……チッ」

 

 

 

 

【粘着系お客様はお断りです】

 

 

「はぁい!おかえりなさいませ御主人様☆今日は何―――」

「夜は?」

「へ?」

「夜はいないのか?」

「え、えっと…夜さんはちょっと…(主にあなたですけど)困ったお客さんがいたので、……その、他の娘のサポート…」

「5万やるから連れて来い」

「」

 

 

「……ご、ご指名、ありがとう…ございます……」

「ん、」

「きょ、今日は何をしましょう?ゲームですか?お食事ですか?」

「……食事」

「(…よかった…)」

「の前にゲーム」

「(´;ω;`)」

「まずはこの二千Gの"谷間にポッキー立てて食べさせる"奴からな」

「………………………はい…」

「……震えてんぞ」

「………は、初めてですから…」

「ふーん」

「(…齧られる時に揺れて痛い…)」

「…何でお前、こんな所で働いてるんだ?」

「えっ―――……別に。大したことのない、理由ですが」

「…大したことがない理由でお前はこんな厭らしいことすんのか?」

「いっ厭らしいなんてッ…言わないで、ください…」

「…ふーん、厭らしい事してるって自覚はあるんだ?」

「そ、それは…あの……」

「………」←ムラムラしてきた変態S

 

 

 

 

【誰でもいいからコイツを店から出してくれ】

 

 

「…あ、あの、御主人様…ほ、本当に…?」

「…んだよ、七万ちゃんと用意してあるだろ」

「で、でも…こ、こんな…着物の下…に、手を、入れさせるなんて…!」

「だから高値なんだろ。ほら、俺の手を引いて―――」

「でもっ」

「早くしろ」

「………………………です」

「あ?」

「嫌ですっわ、私―――お母さんのこと、治してあげたいけど、だからってこん、こんにゃの……うっ…わぁぁぁぁぁぁんん!!!」

「(やべ、泣かした)」

「ふあああんん!!おか、お母さんんん!!都会の人怖いぃぃぃ!!もう嫌ぁ―――!!」←逃亡

「ちょ、おまっ」

 

 

 

 

【粘着系だけど一日に何度も突入はしない。ガチで嫌われるから】

 

 

「ひっく…うぅ……」

「夜ちゃん泣かないのー。あの変態ならもう帰ったから…ね?」

「…ちぇ、ちぇだーさん…」

「まったく。夜ちゃんみたいに純な子が来る所じゃないんだよ此処は。此処よりは給金低いけど、薬屋のバイトもしてるんでしょ?もうそっちに絞っちゃえば?」

「……でも…アレは私の…生活費の為に…」

「そうは言っても…ぶっちゃけさ、アレよりも酷い客はもっといるんだよ?夜ちゃん本当は未成年だから、今はこうしていられるけど…成人したら呼び戻しコール、断れないんだからね」

「…………」

「あの変態は変態だけど呼び戻しコールしないから…まあ、そこら辺は悪質じゃないよね」

「……私………そうだ!」

「ん?」

「酒場で働きます!あそこなら此処みたいな"ゲーム"ありませんもの!」

「…え、いや、あそこはそれより最悪―――あ、こらっ」

 

 

 

 

【同情するなら金をくれ】

 

 

「いらっしゃいませー。今日は…」

「ちょっと!この栄養剤、変な味がするんだけど!」

「え、あ…ご、ごめんなさい、今―――」

「もういいわよっ二度とこんな店来ないから!!」

「(´・ω・`)」

 

 

「ガーグァの内臓照り焼きパスタをお持ち……」

「はあ!?そんなグロいの頼むワケないでしょ!?聞き間違いしてんじゃないよ!」

「あっ…ご、ごめんなさい…ケルビの目玉ソテーは…」

「俺がんなモン食うかよ!!」

「ご、ごめ……!」

 

 

「夜ちゃーん、こう何度も間違われちゃ困るよ…しかも顔真っ白だし。困るよ?仕事中に倒れられたら」

「ご、ごめんなさい…」

「そう何度も謝られてもねぇ…悪いけど、明日からは来なくていいよ」

「そんな…!」

「悪いねぇ」

「(´・ω;`)」

 

 

「嬢ちゃ――ん、ビールおかわりー!」

「は、はいっ」

「…あれ、嬢ちゃんよろよろしてっけど大丈夫?」

「だっ大丈夫ですっ」

「本当かよー?…まっ、元気ない時は飲むのが一番だぜ?ほら、嬢ちゃんも、俺が奢ってやるから飲んでみろって」

「で、でも…」

「ほらほら」

「…………はい…」

「おー!イイ飲みっぷりだねぇ!ほら、もう一杯もう一杯!」

「(´;ω;`)」

 

 

 

「―――……吐き気止めのお薬、買えない…」

「夜さーん、郵便でーす」

「あっ、はいっ!」

 

「お母さんからだ…!」

「"夜、元気にしていますか。夜のおかげでお母さんは退院の日取りも決まりそうです…"」

「(*´ω`*)」

 

 

 

 

【常識的に考えろ】

 

 

「お薬…」

「……ううん、駄目です。お店の物に手を出してはいけないのです…」

「………………ここ四日間、お水だけでしたけど、今日は…給金を貰える日ですもの。何か食べれる筈です…」

「きゅぅ…」

 

 

 

 

 

「――――ぃ、…い、おいっ!」

「はっ!?」

「大丈夫か!?おまっ、カウンターの前で倒れてたんだぞ!?」

「は…はあ、わざわざ起こしてくれてありがとうございます…」

「…前の職場、急に辞めて……探したら死体を見つけたなんてオチ、俺は―――おい?」

「げほっ――あ、あな…た、……前の店の――ごほっ、お客さ…げふっ」

「そうだよっ。おま、本当に大丈夫――」

 

「……………………あ、血…」

 

 

 

 

【フラグを踏むウサギ】

 

 

「…入院ですね」

「だろうな」

「わ、わたしっ、お金が…」

「でもこれ以上無理しちゃうと最悪死んじゃいますよ?」

「でも…っ」

「…………」

「私まで寝込んだら…せっかくお母さんの退院の日取りも決まったのに…」

「そうは言ってもねぇ」

「………いくらだ」

「「えっ」」

「代わりに出してやる。いくらだ」

「えっ、ごしゅ―――あの、お客さん!?」

「お兄さん、こう言っちゃアレだけど、善意で出すには高いよ?」

「上級ハンター舐めんなよ」

「いや、舐めてないけど…ふ、二人が良いんなら…僕としては構いませんけど…」

「結構ですっ誰かの助けはいり―――ゲホッ」

「怒鳴ると咳込むって教えて貰ったばっかだろ」

「あと少しで生活も楽になるのですっ平気なんですからっ」

「楽になるなら早く楽になれ。ていうか今すぐ楽にしねーと死ぬって言われてんだろうが」

「でもっ…でも……もう、掛け持ちのバイトは嫌です…酒場でお酒に付き合わされるのも嫌です…」

「………別に、俺だってすぐに金返せなんて言わねーよ」

「…?」

「そうだな―――俺は独り身で毎日忙しいから、家事をやってくれるか。俺が帰ってきたら出迎えて風呂に入れさせて飯を食わせる。住み込み飯付きだぞ、どうだ?」

「えっ!?で、でも…そんな、」

「勿論働きによっては金も出してやる。やることやれば薬屋のバイトも…ちょっとだけならいいし」

「…………」

「どうだ?」

「…………………………よ、よろしく、お願いします…」

 

 

 

 

【まぁ元はと言えば君が悪い。…と、言える】

 

 

「元気かー?」

「は、はいっ…咲、さん」

「それは良かった」

「……あの、すみません、毎日…」

「あ?見舞いぐらい気にすんな」

「……あと、母への手紙も…」

「ついでだし」

「………」

「………」

「……あの、どうして私に、こんな良くしてくれるんですか?」

「一目惚れだったから」

「――――え?」

「俺、人相悪いから、あそこまで柔らかく笑ってもらったの、初めてだったんだ」

「……え、あ…はぁ、」

「ぱっちりした青い目も(泣かしたらきっと)綺麗|(なん)だ(ろうと思うてか絶対そうだ)し、雪みたいに白い肌も肌理細かくて(めっちゃ舐め回したいマジで)、髪も神秘的な黒で(匂い嗅ぎまくりたいくらい)とても素敵だ。だけど頬が薄ら染まっててまるで子供みたいだ(ムラムラしました正直)…けど、なんていうのか、(押しまくったら変態行為もOKしてくれそうなほどの)包容力というか、母性というか…何だか不思議でな。(探り)見てたらこう…(ムラっと)胸にきたというか…」

「…あ、あり…がとう、ございます…(´,,・ω・,,`)」

「お前と居たいばかりに不快な思いをさせて…謝ろうと(懲りずに)店に顔を出したんだが、辞めたと聞いてな。……その、病気の母親の為に頑張ってるのに、(ムラムラして)酷い事言って、ごめん…」

「…ふふ、もう気にしてませんよ」

「謝礼金というか、あの…少しばかりの金(×→○色んな思惑の詰まった大金)をお前の母親への手紙に添えて出させてもらった。……事後報告でごめん…」

「えっ―――そんな、気にしなくても…幾らです?私、」

「…返します、っていうから教えない」

「(´・ω・`)」

「…俺のせいで無理をさせたようなものだから、お前に何か、詫びがしたかったんだ。本当は入院費もどうでもいいんだけど」

「どうでもよくないですっ」

「…て、いうだろうから。だったら暫く飲まず食わずで空きっ腹に酒入れるような仕事よりは、ちゃんと飯も食えて休める俺(専用)のメイドさんやってもらった方がいいかって」

「………(´,,・ω;,,`)」

「どうした!?」

「…私…ここしばらく…こんな、優しい人に…うっ…(´;ω;`)」

「……よしよし、辛かったな…」

 

 

 

 

【察してあげてね!】

 

 

「ここが俺の家だ」

「はいっお邪魔しま――――えっ」

「ん?」

「あの…綺麗、なんですけど…と、特別にお掃除でも…?」

「いや。これが俺の家の日常光景だ」

「…(さっぱりしてるというか物が少ないというか…人を頼む必要ないというか…)」

「まあ寛いでくれ。今お茶淹れるから」

「えっ、あっ」

 

 

「―――ん、どうぞ」

「あり…がとう、ございます…」

「熱いから気を付けろよ」

「ふふっありがとうございます」

「……なあ夜」

「はい?」

「何だかんだでスル―されていた気がするが、……俺は、お前が誰よりも好きだよ」

「んむっ」←飲んでる途中で咽た。紅茶の中身がかかった

「…大丈夫か?今タオル持って来るな」

「いえ……」

 

「………あれ、なんか眠くなって来ました…?」

 

 

がちゃん。

 

「ん?」

「…夜、」

「はぁい?」

「ごめん、遅くなった。火傷してないか?」

「いいえ…?………あれ、さくさんの、それ、タオル、じゃなくて、」

「手錠だけど?」

「てじょー?」

 

 

「――――夜が、俺から逃げて離れない為のな」

 

 

 

 

 

 

 

【後日の話】

 

 

「…ん?夜ちゃん?」

「―――あ、チェダーさん、こんにちは」

「こんにちは。ていうか久し振り。…見ない内に顔色も良くなったねぇ」

「はいっ咲さんが私にって、色んな食べ物を食べさせてくれるので」

「咲…あっ、あの変態客……って、え!?今一緒なの!?付き合ってるの!?」

「はい。咲さんの恋人をさせて頂いております」

「恋人…え、あの、普段のラブラブぶりを聞いても良い…?」

「一緒にご飯を食べて、頬っぺたにご飯粒が付いてるって舐め取ったりとか。お風呂に入って洗い合いっこしたりとか。一緒に手を繋いでお散歩もして―――」

「(…心配し過ぎだったかな)」

「咲さんが狩りに行く時は家の全部の鍵をかけて、足枷を付けてもらって、ずっと待ってます。一緒に寝る時も鍵をかけて、腕を紐で結んで咲さんとくっついて寝てます。あと――」

「もういいっ!…ね、ねえ夜ちゃん、あんたそんな目に遭って何で…辛いなら言って!お姉さんが助けるから!」

「辛くないですよ?…だって、そうまでしてくれるほど、私を愛してくれているのです」

「ちょ、えぇぇぇぇぇぇぇぇ…」

「それに、私が『今日は枷は嫌』って言ったらしないでくれますし。発作的にされることが多いので、基本的に自由です。大事にされてますしね」

「…………本当に?DVとかされてない?」

「はい。DVなんてされてませんよ?咲さんは私に暴力を振るった事なんてありませんし、私が転んで怪我をしただけでも手厚く治療してくれます」

「(……うーん…)」

 

 

「心配しないで。本当に、私は大事に大事にされているのです。私も咲さんも、愛し合ってますから」

 

 

 

―――そう言って、ウサギはヤンデレ(※鍛冶屋に顔を出してた)と仲良く手を繋いで公園に向かいました。

 

ヤンデレが買ってきたらしいクレープをもしゃもしゃ食べるウサギを見るヤンデレは、どう見てもヤンデレですありがとうございました状態でしたが、意外とほのぼのした光景でした。

 

 

チェダーお姉さんは何とも言えない気分のまま、ヤンデレにもクレープを分けるウサギを見て「まあいいか」と思いました。……とさ。

 

 

 

 

 

金持ち上級ハンター×貧乏少女っていうのも良いかなって…。

 

 






追記:

地味にほの暗いENDでしたが別にBAD ENDコースじゃないんです。…多分。

ぶっちゃけるとヤンデレはウサギをがっつり食べた後ですが、それ以外は本編の二人と変わらぬ(多分)イチャイチャぶりです。
まともな恋愛(?)をしたことがない、まともな人付き合いが少ない(だからお金で解決シーンが多いという…)咲ちゃんという設定にしたので、本編よりヤンデレ度が増し増しになってるだけで、根は(好きな子に対してだけ)優しい人です。




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不器用少年は恋をする

 

 

昔々、村外れの森で、お婆さんと一緒に暮らしている女の子がおりまして、薄茶の髪に碧と金茶の瞳の彼女は、生い立ちとその容姿ゆえに村の子供達に虐められていました。

 

 

「やーいドブスー!」

「変な目―!」

「おさげとかwwwダサ過ぎwwww」

「(´;ω; `)」

 

男の子でも女の子でも、村に買い物に来た女の子を指差して哂い、囃したてるのです。

 

「あいつ捨て子なんだろー」

「ちげーよ、両親病死だってwww」

「え、モンスターに食われたんだろ?」

「何それー、呪われてんじゃないのー?」

「じゃああの目は悪魔の目か!…あれ、それってちょっと格好良くね?」

「格好良いわけないでしょ―?アンタちゃんとあの子の目ぇ見たのー?」

「だってよぉ、見えねーんだもん、忘れたよ」

 

女の子は帽子を目深に被ってなお、地面を見つめて何も言い返さずに家路を歩きます。

このまま仲間内でやいのやいのしている間に悟られずに逃げかえるのが一番安全で、傷つかないからです。

 

 

「―――じゃあお披露目してやろうぜ!」

 

「あっ」と声を上げる間もなく、男の子は女の子の帽子を奪って皆の所へ駆け出します。

返してとも言えなくてオロオロとする女の子を指差して、男の子はからかうように言いました。

 

「ほーら、欲しけりゃ取り返してみろよ鈍亀が!」

「あははっ無理無理、あの子の鈍臭さは"呪われてる"レベルなんだからっ!」

「悪魔の力を解き放つんだ!!」

 

きゅぅ、とスカートの裾を握り締め、女の子は今にも泣き出しそうです―――だって、どうやったって取り返せないんですもの。

 

泣いたって余計に囃したてられるだけだと知っているのに、女の子はもう耐えられそうに、

 

 

「おい、邪魔なんだけど」

 

 

―――涙がぽとりと落ちる、その前に。

幸運にも物語のお決まりのように、王子様(ちゅうかいにん)がやって来たのです。

 

その人は銀髪を一本に縛っただけの、動きやすい――男物を来たお姉さん。

手には古いライトボウガンと獲物を持った、まだまだハンターなりたての初心者です。

 

 

「ちぇ……チェダー…お姉様…!!」

 

女の子の一人が言う前に、男の子たちは一斉に顔色が悪くなります。このお姉さんはお姉さんですがまだまだ子供の部類に入り、…村の子供ヒエラルキーでトップの存在なのです。

 

「おい、お前」

 

そんなお姉さんからのご指名に、帽子を奪った男の子はびくぅぅぅぅぅ!!と縮みあがりました。

だってどう見ても誰が悪で何をしてたか分かる光景ですからね。お姉さんはきっと叱りつけるに違いありません。

 

 

 

「ジャンプしろよ」

「えっ」

 

 

……ああ、うん…だからこれは恐喝とかなんとかそんとかではなく、教育的指導の一つなのです。

 

男の子はゆっくり、たん、たん、たん、とジャンプをし―――

 

「おい、"ちゃりん"の"ちゃ"の字も無いってどういう事だよ、このド貧乏が」

「……!……お、お小遣い前なだけだもん!!」

 

ちょっと笑いそうな女の子をチラチラ見ながら、男の子は顔を真っ赤にして言い張ります。

だけど「あん?」と上から見下ろすお姉さんが怖くて、「ごめんなひゃいぃぃぃぃ!!」と余計恥ずかしい姿を見せて逃げてしまいました。―――勿論、帽子は男の子の手の中です。

 

 

「おい、そこのドボルベ…娘っ子!」

「ひっ」

 

男の子を笑っていた女の子は、急に自分を指名されて引き攣った声をあげました。

このお姉さんは「嫌な意味でも男女平等」な人ですので、女だからと手抜きはしないのです。

 

 

「一発芸しろよ。ドボルベルクの真似な」

「……えっ」

 

女の子はモンスターの名前だというのは分かっても、その姿も動きも何も分かりません。

お姉さんの「何?そんな事も出来ないの?」という視線に耐えられなくなって、女の子はガバッと頭を虐めていた女の子に下げて、「ごめんなさいっ」と謝ります―――まあ、賢いというか狡賢いというか、そんな手段を選びました。

 

例え次の時に虐めていても、今回はちゃんと謝った。…今までの経験から、例え女の子の考えが分かっていても、叱ってくる人間は大抵渋々許していた事を女の子は分かっていたのです。

 

そして予想通り、お姉さんは怖い顔を取っ払って、華のような笑顔で「そっか」と言うと、女の子に近寄ってその頭を撫でました。

 

「お姉さんは君みたいな子が大好きだよ」

 

ふふふ、と笑うその姿に安堵した女の子は、お姉さんが撫でるのを止めても"そこにいてしまいました"。

 

 

「ご褒美に今日の獲物をあげよう。死にたてほやほやだよ」

「……っ、ぅ、ぁ、ああああああああああああああ!!!!」

 

流石にどろんとした目の顔は見せず、血がダラダラの首から下だけを見せたけれど、女の子にはトラウマものだったのか、泣き喚きながら帰路に……。

 

 

「……残るは俺か。…来い!悪魔が召喚せし魔獣め!」

「……ああうん、…何かアンタは将来思い出して自滅してそうだからいいわ。お帰りよ」

「ははっ、俺の力に怯んだのか魔獣よ!」

「ちげーよ、お前の痛々しさにやめてあげたんだろうが」

 

自分で(将来の)自分を苦しめる、若さ故なのかMなのか、…お姉さんは彼が将来ベッドの上で「らめぇぇぇぇぇぇ!!」となっているのだろうと予想して、彼には罰を与えませんでした。

 

「勝利を掴んだぞ!」と騒いで意気揚々と帰った彼に背を向けて、お姉さんは俯いて静かに泣いている女の子の頭に手をポンと置きます。

 

 

「お嬢ちゃん、帽子取り返せなくてごめんね」

「……(´;ω; `)!」

 

「大丈夫?」とか「可哀想に」なんて大人のよく使う、場合によってはじくじく胸を痛ませるような言葉じゃ無く、お姉さんは取り返せなかった帽子について謝罪しました。

 

ある意味女の子の小さな矜持を守ったのかもしれないお姉さんに、女の子は恐る恐る尋ねます。

 

「あ、の…なんで、助けて…?」

「ん?そりゃあ、私のお―――え、何?……はぁー、面倒臭い……、」

 

答えになってないことを呟くと、お姉さんはおどおどと見上げる女の子の後ろ―――森への道へと数歩歩いて、「送ってくよ」と手を差し出しました。

 

 

「えっ、でも、」

「いいのいいの。ほら、おねーさんと手を繋いで帰ろうか」

「………!」

 

 

泣きそうな顔を少し嬉しそうにして、女の子はそろそろとお姉さんの元に近寄ります。

 

そして慣れた手つきのお姉さんに手を握られ、女の子は初めて帰り道が明るく見えたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀髪の髪の男の子が、じっと去り行く二人の姿を影から見つめていました。

 

「………」

 

彼はそこらの同年代の男の子よりも細くて、無口な男の子です。

当然腕力も何もかも弱くて、お姉さんの存在で彼は虐められなかったけれど、その代わりに友達もいない子でした。

 

そんな彼は本屋の帰りに修行帰りのお姉さんと合流し、ぶらりと歩いて帰ろうかとした所で女の子が虐められているのを、お姉さんよりも早く見つけたのです。

 

前述の通り彼の力など知れているものですから、彼が割って入っても女の子を守るどころか逃がす自信もないので、むしろ割って入ることによって女の子の虐めが悪化するのを恐れて、彼は動けずにいました。

 

そんな弟に気付いたお姉さんが子供の喧嘩に割って入ったのですが―――彼は、お姉さんと一緒に駆けつけませんでした。

 

だって、お姉さんの隣にいるだけなんて、虎の威を借るような真似なんて、彼にはとても恥ずかしくて醜い行為に見えたのです。

何より、一度だけ彼女の虐めを、観衆たちの中に混じって"見ているだけ"だった彼の負い目が、自分が傷つかずに汚名を挽回するような、好感度を上げるような真似を許さなかったのもありました。

 

「…………帽子……」

 

――――つまりは、彼は不器用な子なのです。

相手を思って考え過ぎてしまうあまり、言動は牛のように遅かったのです。

お姉さんやお兄さんのように、明るくて勝気で、ちゃっちゃかと喋っては場を賑わせるように、なりたかったのです。

 

 

 

 

………だから、これはきっと、その為の第一歩。

 

女の子を虐めていた子たちが、奪った帽子を、怒られたその翌日になっても懲りずに甚振る所に、彼は殺されに行く覚悟で向かって行ったのです。

 

例のあの男の子が帽子を被ってあの女の子の真似をして笑いをとる、その後ろから、彼は静かに近寄って奪い返しました。

 

「あっ、おいっ!」

 

この歳の子は総じて手を出してしまうのに躊躇いがありませんから、昨日散々な目に遭わせたお姉さんの弟であっても、普段はよそよそしく回避していた相手でも、襟を掴んで引き寄せて殴り飛ばしてしまいます。

 

女の子たちはわざとらしく「きゃ――!!」と悲鳴を上げ、男の子たちは囃したてるか喧嘩に加勢して殴りかかって来ました。

男の子も齧りつくように殴り返すも、非力な彼の攻撃など知れたものです。だけども彼は帽子を手放しません―――まあ、血と泥は付いてしまいましたが。

 

結果としては、彼はお姉さんとお兄さんの一方的な喧嘩やらを見てましたから、見よう見まねの拳がラッキーパンチに、上手いこと相手の鼻面を折り、満身創痍の彼の勝ちとなりました。

 

流石にそのまま外は出歩けなかったので家に一旦帰ると、ニヤニヤ顔のお姉さんに怪我の面倒を見てもらい、やっぱりニヤニヤ顔のお兄さんに「女の取り合いか?ん?その歳でwwwマセガキwwww」と弄くられる間、彼のお母さんが丁寧に泥と血を「やだわー、今日はお赤飯ねー」「え、それって初陣の勝利の方?好きな子の方のどっちのお祝い?」「どっちもに決まってるじゃないのー」…落としてくれました。

……なお、今日の夕飯は赤飯のようです。

 

 

 

 

それから時刻は夕暮れでしょうか。

 

昼時に喧嘩をしてしまったものですから、遅い返品になってしまいました。

 

「……すいません、……」

 

緊張でぼそぼそと行ってしまいましたが、ノックだけはしっかり出来たので、こじんまりした村外れの家に住む住人は「どなたでしょう?」とちゃんとやって来てくれました。

 

 

「あっ」

 

運が良いのか悪いのか、会いたかったけど会いたくなかった女の子が扉を開けました。

 

一度だけ、観衆の中に混じっていた事を覚えていたのか、それともすごい事になっている顔に驚いたのか、彼女は一二歩後退ります。

 

 

「……………………これ、」

「あっ……」

 

後ろ手に隠していた帽子を押し付けるように渡すと、女の子は目を点にして受け取ります。

そして少し、どうにも取れなかった汚れと、彼の顔を交互に見て、恐る恐る尋ねました。

 

 

「あの…これ、取り返して、」

「……………………落ちてた」

「えっ……でも、その顔の―――」

「………………………………………階段から落ちた」

 

 

階段から落ちただけで顔はそんな風になるのか。一体どういう階段なのだろう。……と、女の子は無茶な嘘に――――「ぷ、」と小さく噴きだしてしまいました。

 

「!」

 

対する男の子は初めて見た女の子の笑みに吃驚して、………それが、自分が作ったことに長い思考のあと気付いて、彼もはにかむように笑いました。

 

 

「…ありがとう。あなたの名前は?」

「……………………!」

「あ、そっか、私から……ええと、私は、"エリス"って言うの」

「……………………イース。」

「イース君?」

「……………」

「……イース君、本当にありがとう。……あのね、…ありがとう」

「…………」

 

頬を染めて、泣き笑いのエリスの言葉に照れてしまった彼は、さっと背を向けて玄関から離れます。

 

「あっ」と寂しそうな声に振り向いて、……だけどやっぱりそっぽを向いて、彼はのろのろと口を開きました。

 

 

「―――――………また、明日」

「!……うんっ、また明日!」

 

 

 

 

 

泥臭い初恋の話。

 



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不器用少年は誓う

 

 

イースが森の中に入るのは、昼食を食べ終わって二時間後程の事なのです。

 

本当は朝早くに遊びに行きたいけれど、朝は忙しい(何せお婆さんと二人暮らしですからね)と思うし、お昼時には一旦帰らないといけないし、…相手に気を使わせてしまうかもしれません。

 

事実、女の子はお婆さんの手伝いや籠を編む仕事をしていましたから、彼の考えは正しいのですけれど、―――それに感情が伴うかは、難しい所です。

 

だから今日は、逸る気持ちを抑えきれずに早めに家を出て、森への一本道へと歩……

 

「あっ」

 

―――森に入って幾らも経たないうちに、彼が取り返した薄ら汚れた帽子を被ったエリスと、ちょうど鉢合わせたのです。

 

彼女の声は初めて家に出向いた時と違って明るく、そっと帽子のつばを上にずらして顔を顕わにすると、照れ臭そうに笑いました。

 

「こんにちは」

「…………ちは」

 

ぼそぼそと挨拶をするイースに、やっぱり癖なのかおどおどとエリスは近寄ると、三歩程の距離を開けて「良い天気だね」と差し障りのない話題を口にしました。

 

「イース君は、どんな天気が好き?」

「……………」

「私は晴れが好きだよ。特に秋の日の晴れ。…変わってる、てお婆さんに言われるけど」

「………………僕も」

「!…そっか…!」

 

本当はイースはしとしとと降る雨が好きです。晴れはあまり好きではありません。…が、長く考え空気を読んでいくつもの返答の中から、結局安易な「同意」という選択をしました。

 

だけどその返答は間違いでは無かったようで、エリスは碧と金茶の瞳に柔らかい光を湛えています。

 

 

「…………用事?」

「えっ、ああ…薬屋さんに行ってね、注文された薬を渡しに行くの」

「…………」

「昨日初めて秘薬を作ったの。二個失敗しちゃったけど、三個成功したんだ」

「…………頑張ったね」

「うんっ」

 

ちなみに、「頑張ったね」は彼の本心です。

だって彼女のお姉さんがあっちこっちに被害を出しつつ、(主にお兄さんに被害がいきます)しっちゃかめっちゃかに調合している姿を見てきましたから、彼の中では「調合=危険行為」の式が出来ているのです。

 

思い返すと気が遠くなるような思い出を振り返っていると、女の子はバスケットの中から箱を一つ、取り出しました。

 

 

「これ、お姉さんに…お礼に、あの…」

「……………」

 

もじもじ、と顔を染めて差し出すその箱に、イースは受け取れずにいました。

―――この前エリスに話の流れ上「あのお姉さんはイースの姉弟」なんて教えてしまったばっかりに、エリスは間が開くとお姉さんのことを聞いてきては頬を染めるのです。

……はい、イースはそれがとても面白くありません。

 

エリスはイースにも"お礼"を渡して来ましたが、頑固者だったらしいイースは受け取りませんでした。

…が、今にも泣きそうなエリスにぎょっとして、のろのろと受け取らない理由を、恥を忍んで告げたのです―――駄目でしたが。

 

結局その"お礼"は折半案で二人仲良く食べる事にしたのでした…。

 

「……だ、め…かな…」

 

………やっぱり、彼は受け取ってしまいました。

 

 

 

 

 

「おじさん、注文通り持って来ました」

「おお、お嬢ちゃんありがとね。ふむふむ…うん、確かに。これお代ね」

「はい」

「次はこれとこれ、再来週までにはこんぐらい作っといてくれ」

「分かりました」

 

 

渡された注文票を手に、真剣な顔をするエリスから1.5m離れた所で、イースは箱を小刻みに揺らしながら待っていました。

 

彼の周り―――というか、店内は謎の植物に干した何か、天上から吊るされて網に乗っている何かと、少しばかりおどろおどろしいです。

 

「おまたせ」

 

―――若干引いていたイースにパタパタ近寄ると、エリスはおじさんに頭を下げて店の扉を開けます。

 

その瞬間の、ベルの軽やかな音と彼女の揺れる髪を、彼はきっと忘れる事は無いのでしょう。

 

 

「付き合わせてごめんね。…ええっと、」

「………………お金も貰った後だから、早めに帰った方がいいよ」

「……うん、ごめんね」

 

―――こんなに、天気が良いのに。

 

他の子供たちのように、そこらできゃっきゃと遊べなくて。…そんな意味を込めた謝罪に、イースは無言で首を振りました。

 

イースは内向的というか、あまり外で遊ぶのが好きではありませんでしたし、彼女の都合を考えれば当然の選択です。

 

「……森で遊ぼう」

 

ぽそりと追加して言えば、エリスはやっぱり嬉しそうに、だけど今度は帽子を目深に被ってしまいました。

 

 

 

「――――おい、そこの親無しと鬼畜女の弟!」

 

 

びくっと肩が跳ねたエリスに、胃がもたれてきたイース。……の、後ろで、鼻面を折ってやった男の子が仲間を連れてやって来ました。

 

怖がらせるように肩を張ってどすどすとこちらに向かってくると、男の子はまずイースの―――持っていた、箱を叩き落とします。

 

「あっ」

 

と、言ったのがイースなのかエリスなのか、二人には分かりません。殴られるのだろうと予想していたイースが当てが外れて思わず固まっていると、男の子は思いっきりイースの顔を殴ります。

 

「もっとやっちゃえー!」

「この前のお礼、そんなもんかよー?」

「ばーかっ」

 

どうにも、例の喧嘩でひ弱なイースに鼻面を折られて、この男の子は天辺からここまで転落してしまったようです。

イースはそこまで察して、何もせずに黙っていました。

 

「おらっ」

 

だってここは真昼間の、この前と違って村の端ではないのです。あえてやり返さずに居た方が断然良いです。―――なにより、そうしていればエリスには手を上げな、

 

 

「やめてっ」

 

い、……はず、だったのに。

イースの予想に反して、エリスは割って入って横っ面を殴られました。

 

今まで殴る蹴るといった直接的な(小石を背中に投げたりはしましたが)事はしたことがなかったせいか、それとも女の子特有の柔らかい頬に思いっきり入れてしまったせいか、男の子は「え、あ、え?」と言葉にもならない音を呟きます。

 

周囲の男の子も、黙り込むの半分、にやにやしているのが半分で、その中の一人が「もう止めんのかよ」と唆しました。

 

「!」

 

男の子はその言葉が魔法の呪文のように、もう哂われたくないばかりにその拳を振り上げて――――

 

 

「ヒャッハー!汚物は消毒だ―――!!」

 

 

………銀髪の、鍛えられたお兄さんの蹴りが腹に入って、吹き飛んでしまいました。

 

そして片手に持った酒を飲んで周囲を―――固まる男の子に、近くを通りかかったばかりの婦人も固まって、殴られたイースとエリスを最後に―――見て、唆した一人を指名しました。

 

 

「おい、そこのお前」

「えっ」

「ジャンプしろよ」

「…えっ!?」

 

 

………何故にここまで似ているのでしょうか…。

このお兄さんの姉、つまりイースの姉と、まったく同じ言葉で命じる所に、血のつながりというか何と言うか、姉弟なんだなぁとイースは現実から目を逸らしました。

 

「全部出せよ」

 

 

そんなイースを残して、運が悪くもコインが鳴ってしまったその子は恐る恐るお金を差し出し―――「隠してんだろ、あと四枚はあるな」と無駄に耳の良いお兄さんは笛を使うハンター初心者です。

 

ですがやってることはハンターらしくありません…けれど、女性人気のある人なので、声を聞きつけたお姉さん方が「きゃー!」と黄色い声を上げていました。

 

 

「おい、そこのババコ…ガキ!」

「へいっ」

「一発芸しろよ。ババコンガの真似な」

「……えっ」

 

それは小さい子でも知ってる、モンスターの名前です。

男の子は「えっえっ」とおろおろして、黄色い声を上げていたお姉さんたちのくすくす笑いに顔が赤くなって―――他の子達にぶつかりながら逃げ出しました。

 

他の子もつられるように逃げだして、「キャー!イーノ様格好良いー!」とお姉さま方が黄色い声を送る中、お兄さんは声援に手を振って弟の方に振り向きます。

 

そこではあまりのことに吃驚して声が出ないエリスにおろおろして、彼女の切れた唇から伝う血を拭ってやりたくて、色々考え過ぎて何も出来ないでいるイースがいて、……お兄さんは呆れた顔で近づくと、エリスに背中を向けました。

 

「せっかくの顔が台無しだ。おにーさんの家で冷やさないと」

「…………ごめんなさい」

 

くしゃ、と顔を歪ませて、エリスは同じく殴られたイースに頭を下げました。

 

イースは頭を下げさせてしまう自分の不甲斐なさとか、弱さを突きつけられたような気がして、何も言えませんでした。

 

 

やがて痺れを切らしたお兄さんがエリスを無理矢理背負って三姉弟の家に連れて帰ったのですが、……その間、イースはとても虚しくて惨めで、お兄さんの逞しく男らしい背中と、エリスの華奢な身体を見比べては、目頭が熱くなったのです。

 

だから、

 

 

「……エリス」

「…な、に?」

 

 

彼は、決めたのです。

 

 

 

「僕、君を泣かせない、…から、絶対強くなるから。だから―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――…でねwwwイース君www公衆の面前でwwうぇっうぇwwww」

「すっげーwwwパネェっすイース君wwww」

「今まで家族なのに似てねーって思ってたけどwwwこれはwww似てたかも分からんw」

「あーwwwそういやアンタ、酒場でだぁいすきなリノちゃんに告白したんだっけwwwロリコンwwwくたばれwww」

「ロリコンじゃねーっすwww…あ、おふくろお帰りー!」

「なぁにあなたたち、庭先で真っ赤になって黙り込んでる若いの放って何ニヤニヤしてるの?」

「あのねwwwイース君がねwww立派な大人にwww」

「大人の階段のーぼるーww君はまだーwww」

「シwンwデwレwラっwwさwwww」

「ちょっとー、それじゃあ分からないでしょー」

「だからー、………なのよ」

「えっ!?あの無口でシャイで将来大丈夫かしらと不安に思っていたあたしたちの末っ子が!?」

「ただいまー」

「「「お父さんお帰りー」」」

「お前らそんな砂糖にたかる蟻みたいに集まって何してんだ?」

「まあwww否定はしないwww」

「俺達クズ過ぎwwww…あんな、―――」

「えっうそ、お父さんショックー」

「「軽っ」」

 

「……ていうか、何だかんだ言ってリア充とやらっぽいあんたたちより、物静かなイースが先にゴールインかー」

「母さん気が早過ぎー。…あと、私は出来ないとかじゃ無くて私のお眼鏡にかなう王子様wwがいないからフリーなだけだからね」

「姉貴必死過ぎwww…俺は今アプローチ中なだけなんだからね!」

「はっはっは。お父さんがお前らの頃なんて毎日お母さんに求婚しては殴られに行ってたもんだ」

「やっだー!あなたったらー!」

「……母さんあんな容貌なのに昔ヤンキ―だったんだよな…」

「ヤンキ―母さんに惹かれるお父さん凄すぎ……」

「何か言った?」

「「いえ」」

 

 

 

 

 

青臭い初恋の話。

 



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不器用少年は旅立つ

 

 

それから時は流れて、あの日のお兄さんと同い年になったイースは、夕暮れの道を一人で歩きます。

 

細くて頼りなかった身体は兄とは見栄えが多少劣るものの、そこらの同年代の子よりも逞しく、指は何度も矢を放った証がありました。

対して先程送り届けたエリスは女性らしく育ち、伸びた髪を上品に低い団子にして大人びた風だけれど、照れたように笑うその顔は今も昔も変わりません。

 

もっと言うと、男女二人っきりだというのにする事は仲良く読書か散歩という、初々しい付き合いも変わっていないのでした。

 

 

帰ったらきっとお兄さんとお姉さん、運が悪いと両親にまでからかわれてネタにされるのだろうなと思いつつ、彼は、

 

「!」

 

 

―――彼が、溜息を吐いて一歩踏み込んだ時でした。

 

 

「……えり―――エリス!?」

 

 

先程別れたばかりのエリスが、団子も解れ、靴が脱げたのか履く余裕も無かったのか、服も草っぱがあちらこちらに飛んでいる姿の彼女が、息を乱してイースの背に抱きついて来ました。

 

彼女は要領を得ない言葉を言ったかと思えば、声も出なくなったり、―――挙句の果てには顔を両手で覆って地べたに座り込んで泣き出すと、やっと出てきた言葉を一生懸命吐き出しました。

 

 

 

「お、ばあさ、…んが、……死んでた……」

 

 

 

 

 

 

――――というのが、エリスがこの村を出て行く理由なのです。

 

保護者であった祖母の突然な死に、まだ顔色が青褪めたままの彼女は仲の良かった親戚の元で薬師として勉強をする手筈になりました。

 

 

「………エリス…」

「…………うん、」

 

 

木に背を預けて、エリスは生まれて初めて男性に、イースに抱きついて彼の腕を濡らしていました。

 

見送りの人は皆気を使って、二人が隠れるように、エリスがイースの腕の中で落ち着くのを見ないフリしていて。……イースはこの細い腕を引っ張って彼の家なりどこかなりに連れ去ってしまいたかったけど、それはお互いの将来を潰すだけだと、自制していました。

 

 

「手紙、書くよ」

「……うん」

「頑張って、会いに行けるように、もっと強くなるから」

「……」

 

彼はまだまだハンターとしては頼りない(まあ弓を扱う故に、しょうがないことかもしれません)方ですから、彼女へ会いに行くお金はまだありませんし、……だから、彼は最後に精一杯の勇気を振り絞り、羞恥を捨てて震える彼女を抱きしめました。

 

 

「立派なハンターになって、安定してきたら―――絶対、君を迎えに行く」

「………うん…っ」

 

 

ぐしゃ、と更に顔を汚して、エリスは零れてしまった涙を乱暴にふき取ると、そのまま彼の―――唇の、すぐ横にキスしました。

 

今まで一度も触れたことのないそこに触れてみたかったけれど、……それは、再会(こんど)の時にとっておこうと、彼女は笑いました。

 

そして下手くそな笑顔のまま、彼女はこの村を去ったのです―――。

 

 

 

 

 

あれから二年。

 

彼は血の滲むような努力の結果、更に稼ぐ為に、ギルドに認められる為に、この治安最悪難題注文ばかりの街にやって来たのです。

 

流石にそんな街に来たとはエリスには言えませんでしたが―――手紙と一緒に送られた、彼女の手作りのお守りを握り締めて、イースは酒臭いギルドに足を踏み入れました。

 

 

そこでのニヤニヤ笑いやらどこかで騒がしく殴り合う音を無視してクエスト板を見遣り……ちょうどガンナー募集のクエストを見つけ、イースはそっとその紙を、

 

 

「―――お前、そのクエスト受けんのかよぉ?」

「!」

 

……と、酔っぱらいハンターにニヤニヤくちゃくちゃと言われました。

 

イースの大人しそうな坊ちゃんの雰囲気にカモにしようとしたのか、ただ甚振りたかったのか。――酔っぱらいの予想に反してイースは沈黙を保ったままぺこりと頭を下げてさっさと空いた席に着こうと歩き出しました。

 

面白くなかったのか、酔っぱらいはその背にからかいか本気か分からない拳を入れようと迫り、イースはハッと気づいて振りかえると同時に避けた途端、ムッとしたそのハンターは、口にしてた肴を食い千切ると腰の剥ぎ取りナイフを抜いて「新人が避けてんじゃねぇぞ」と低く唸ります。

 

 

治安が悪いと聞いて覚悟していたけれど、ここまで酷いのかと内心引き攣ったイースはとりあえず近くの椅子に手を伸ばそう―――として、慌てて目の前の凶器をチラつかせるハンターを"受け取りました"。

 

「うわっ」とか、「おい、あいつのクエストだったのかよ…」と引き攣った声の中で、兜を被った彼は口を開きます。

 

 

「―――お前、そのクエスト受けるな?」

「…はい」

「じゃあ来い。…早くしろよ、俺はもたつく鈍牛野郎を見ると丸焼きしたくなるんでな」

 

 

口元が除くだけのハンターでしたが、それだけでもきっと美丈夫なのだろうと思ってしまうような何かが、彼にはありました。

 

片手に重々しい太刀、片手に突っかかって来たハンターを殴って割れた酒瓶(と、認識している間もなく放り捨てましたが)イースにまで、血の匂いが届いて、…危険人物だと分かるのに、微かに覗く瞳は力強くて凛としています。

 

イースは誰なのだろうと注文票を見て―――名前は、木下(きのした) 佐之(さの)と…勘の鋭いイースは、こんな名前一つとっても、受付嬢を(淡々と手続きしているだけなのに)怖がらせる彼に違和感を持ってしまいます。

 

持っていますが―――彼はいつも通り無言を保って、彼ともう一人と一緒に、このギルドで初めての狩りに行きました。

 

 

 

 

イースはそこで佐之に散々に罵られる事になりますが、……彼は、すごく惹きつけられたのです。

 

鮮やかな太刀捌き。軽やかに無駄なく避けて状態を整え、もたつく(ように思えるのだろう)イースにまで目を向けて。……この数時間が、イースには今までになく勉強になって、今までになく魅了されて。

 

――――佐之というハンターに、生まれて初めて強く憧れを持ったのです。

 

 

そして初めてカード交換したかったのですが―――そんな事も、イースには難しいことで。ギルドに着いてやっと腹を決めたイースが、血を被った佐之の肩に触れようとした時でした。

 

 

「あ、お帰り~。狩れた?ちゃんと狩れました~?」

「……死ねカス受。テメーがブチったせいで俺はこんな新人引っ張り回すハメになったんだぞクズ」

「だってお腹痛かったんだもん…あ、そこの子が新人さん?」

「………!」

「…ああ、こいつしゃべんねーから」

「あー、なるほど、佐之ってそういう子大好きだよね」

「うっせーな腸引き摺り出して口に突っ込むぞ」

「何それ怖い……あ、佐之、カード交換してあげなよ。ほら、そわそわしてるじゃん」

「あ?…ああ…」

 

 

チラッとイースを見た時のその顔を察するに断るのかと―――落胆しかけたイースに、佐之は意外なことにあっさりとカードを渡してくれました。

イースも慌ててカードを渡すと、ばっと頭を下げて「次回も一緒に連れて行って下さい」とお願いします。

 

「あー…」

「いいじゃん。採用しちゃいなよ」

「でもおま…いや、お前の代わりとしてならこっちのが優秀だしな」

「酷いっ!!」

「………」

「……しゃーねーから連れてってやるよ。…明日九時に。特別サービスでテメーの好きなクエストでいいぜ」

 

 

そう血の気の盛んな瞳のままに言うと、佐之はさっさと騒がしいギルドから去ろうと数歩進み、ニヤニヤしてる彼の知り合いに舌打ちして、

 

 

「何してんだ。さっさと行くぞ――――豊受(トヨウケ)

 

 

…と、低く言い捨てて去ったのです。

 

 

―――こうして書き出すととてもあっさりとした出会いに思えますが、その日はイースにとって熱くて濃い一日なのでした。

 

 

 

 

 

急展開と急な出会い。

 



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不器用少年は裏を知る



※若干アレなお話です。

※死人が出ます

以上、ご注意ください。






 

 

佐之、というハンターは、すごく気難しい人でした。

 

大雑把なものと几帳面に手を尽くすものとの境が曖昧ですし、許容出来るものの境も微妙。手が早いのかと思えば、彼の数少ない知人には滅多に上げない――どころか、他人に対しても基本的には上げないのです。…ただ、睨むというか、凄むのが多いので、結果的に喧嘩を売ってったり買ってたりの問題ありまくりの毎日を送っている人です。

 

そんな彼にちょっかいを出せるのは数少ない知人の中でも「豊受」が一番で、その次ら辺に娼婦、酔いどれハンターくらいでしょうか。

 

 

「―――今日は腕を使い過ぎただろうから冷やしておけ。明日はお前を前線に出すからな」

 

…と、このメンバーの中で新人のイースに水に浸けた手拭いを投げると、佐之は豊受の次によく狩りに連れて行く剣士"ジャック"と一緒にさっさとネコタクに乗ってしまいます。

 

ぞんざいな言い方ですが、佐之はどんな無茶な指示をしても、"こういう面"では優しいというか、配慮してくれるというか―――気を配ってくれるのです。

 

豊受も常にイースの面倒を見てくれるのですが、こう…偶に優しい佐之の方に有難みを感じてしまいます。

 

「あー、帰って飯食って寝たいー」

「俺は風呂入って寝たい」

「二人は似てるんだか似てないんだか分からないな」

「あ?こんな馬鹿受と一緒にすんな。誰だって疲れたら寝たくなんだろ―――なあ?」

「………」

 

こくん、と頷くだけのイースに、「ほらな」と不機嫌な猫のような佐之はジャックに背を向けてしまいます。

二人はそれを「手のかかる子供」でも見るように肩を窄めて帰りの準備を始めるのでした。

 

「イースは佐之のお気に入りだよなー」

 

とからかうように言う豊受の隣に弓を置くと、イースは反応に困って無言を貫きます。

 

「硬派な雰囲気が良いんだろう。……豊受は軟派だからな」

「何それー。俺だって誠実なのにぃー」

「普段の雰囲気だ雰囲気」

 

そういうジャックは豊受と佐之よりも一つ二つ下ですが、二人よりも落ちつきのあるハンターです。

 

家族の仕送りやら身体の弱い恋人の為にハンター職に就いている彼とは、イースも歳が近いのもあって仲が良かったのでした。

 

 

「にしても、このクエストって金は良いけど…二度目はヤダな。豊受さんの肌に合わないもん」

「まあ二度目は無いだろう。俺の方もこれで必要な金は得たし」

「ああ、治療費これで最後だっけ?お疲れー」

「ははっ次は新生活への資金集めさ」

「ループしてんねぇ―――あ、そういえばイースって毎回貯金してるよね?」

 

 

何でー?と無邪気に尋ねる豊受に、あえて触れずにいたジャックは「答えなくてもいいんだぞ」と気を使ってくれましたが―――ジャックの思うような理由ではなく、初で傍から見ると可愛らしい理由だと教えるのを躊躇って、……もごもごと、答えました。

 

 

「……エリスを……迎えに行きたくて」

「おぉー!?女の子の為かー!」

「迎えに行くって?」

「……その、家族が亡くなって、親戚の所に引っ越してしまって……だから、立派になって、生活が安定したら………それまで、待っててって……」

「うきゃー!何それ初々しい!!お前って堅物かと思ってたけど可愛い堅物だったんだな!」

「……っ…」

「おい豊受、イースが困ってるだろ」

「だって―――なあ佐之、お前もそう思うだろ?…って、ああそうか、佐之は爛れた生活してるもんなーwww」

「ぶっ殺すぞ脳内花畑野郎」

「こーわーいーwwだから娼館立ち入り禁止になるんだよwww」

「佐之……ついに立ち入り禁止になったのか…」

「佐之の"さ"はドSの意味ですってかwww鬼畜wwwこの前聞いたけど靴舐めさせたって本当?www」

「んな気持ち悪いことさせる訳ないだろ。…床でも舐めてろ売女って言ったんだ」

「外道やん……一体何のプレイなのそれ……」

「"私Mです"って言うから」

 

 

面倒臭そうに答えた佐之は「さっさと帰るぞ」とだけ言って不貞寝してしまいます。

ジャックと豊受は「やれやれ」と「www」な顔をして、イースを促して帰路に着くのです――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"お元気ですか?…秋も深まり、冬が来そうです。温かくしていてください"

 

"この前同封してくれた紅葉の栞。とても綺麗でした―――…"

 

 

手紙ならば素直に気持ちを伝えられるのに。…と、イースはアイルーに手紙を託します。

 

そろそろこの街に来て一年経ち、腕にも自信がついたし貯蓄も十分増えてきました。……もう少し頑張ったら、彼女を迎えに行けるかもしれません。

 

(それとも、もう一年ここで……)

 

きっとそれが確かなのでしょうが、遅い迎えではエリスに手が届かなくなってしまうかもしれません。…現に、このぐらいの歳になれば周りも結婚を勧めるでしょうし。

 

いえ、取り繕った考えを払うと―――ただ、会いたいのです。

 

会って、きっと大人びてもなお変わらぬだろう笑顔が、少しずつ少しずつ近寄る彼女の可愛らしい心が変わっていない事を確認したい。誰かに横から奪われる前に、奪って二人で暮らしていきたいのです。

 

またあの日のように手を繋ぎたいけど照れて繋げ無くて、キスするのも緊張してしまうあの日々に戻りたいのでした。

 

 

 

「―――佐之さぁん、今日は―――…」

 

 

…と、肌寒いというのに露出した服を着る女性が、狩りに行って来た(単独の狩りも佐之は好むのです)帰りの佐之に寄りかかって宿に引っ張ろうとします。

 

イースはその二人の姿に目が汚されたような気持ちになって、佐之と目が合う前に去ってしまおうと―――思ったのですが、その前に目が合ってしまいました。

 

もっと運が悪く女性も二人の目が合うのに気付くと、「お仲間?」と綺麗な紅を弧に描きます。

 

 

「…どうでもいいだろ。さっさと離れろ。こっちはさっさと休みたいんでな」

「えー、冷たぁい」

「………当然だろ?」

 

――――お前みたいのに。

 

そんな意を含んだ言葉より、イースは人間として認識しているのかも怪しいほどに冷たい、淡々とした目に、心底ゾッとしました。

 

佐之の事をイースは憧れの人として見ていますが、…こういう、女性関係なりその噂なりを見聞きする度に、「この人は壊れてるんじゃなかろうか」と思うのです。

 

この人は―――誰かを、愛せないのではないのかと。

 

 

「……イース、」

「!」

 

そう思っているイースに、佐之は変わらず淡々とした声で、こう言いました。

 

「明日、"フィーズ"達と狩りに行くから、…しばらく付き合えない。じゃあな」

 

 

"フィーズ"というのはこの街で一番などと噂されるハンターです。

いつも端から見ていたイースには、どうにもフィーズは佐之を好んでいないように見えたし、佐之も珍しく態度には出していませんでしたが、あの凍るような目にはその感情が浮かんでいました。―――まるで、

 

「殺してやる」

 

…そう、凍っているのに燃えているような、歪んだ気持ちが見えたのです。

 

それにイースは怯えても、変わらず佐之たちと狩りに行きましたが―――憧れの気持ちに、汚れが落ちてしまったのを、否定する事は出来ませんでした。

 

 

 

 

 

 

「―――やあ佐之君、…良かった、皆とはぐれてしまって…君はまだ若いからね、何かあったら大変だろうと心配していたよ」

 

「ここの洞窟は迷いやすくてね…ああ大丈夫、地図なんか無くても私が付いているよ―――こっちだ」

 

「……悪いが佐之君、この奥の方、覗いてくれないかな?……そうそう、もっと奥、にっ」

 

「………えっ、…なん…佐之!?貴様謀ったな!?」

 

「くそ、この矢は―――…!?な、なんであいつが…あいつは俺と、」

 

「くそ、くそっ…繋がってたのかお前ら…!――――あ?」

 

 

 

「……ガキ以来だと言ってやろうか、"親父"?」

 

 

 

 

 

 

――――悲しいことが起きました。

 

この街一番と謳われたフィーズが、狩りの最中に事故で仲間と離れ離れになった結果、モンスターに食われて亡くなったのです。

 

怪我を負って中年の男に肩を貸してもらった佐之は、その男に感謝の言葉を告げて心配して私服姿でギルドに押し掛けたジャックと豊受の元までやって来ると、ふらついてイースの肩に手を着いてから、二人にぼそりと言いました。

 

 

「終わった」

「そう。…アレは?」

「もう頼んだ。ジャックは手筈通りに」

「ああ」

 

 

悔しがる声やら何やらで騒がしいギルドの中。

一見分からないけれど、イースは、あの瞳と予感を持っていたイースは、分かってしまったのです。

 

 

フィーズを殺したのは、彼なのだと。

 

 

 

 

 

 

詳しいことは「小話:さくちゃん」にて。

 



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不器用少年は胸を痛める



※女性蔑視の会話が入ります。

※暴力表現が入ります。

御不快にならない方だけ、お読みください。





 

 

"――――この手紙を書きながら、私は初雪を見ています。

 

いつだったか、冷えてしまうからとあなたが私の手を握ってくれたことを思い出すと、暖炉の火も要らないと思えるのです。"

 

 

"冬になると、二人で火に当たっていたあの日々を思い出して切なくなります。……だけど、この栞のおかげで今年は少しは孤独も癒されます。あんな素敵なものを送ってくれてありがとう。

世界にはこんな花があるのですね。……こんな事を言うとあなたに怒られてしまうかもしれないけれど、あなたの居る世界が、とても羨ましいです。"

 

"…そうそう、それから、素晴らしい報告をしたいと思います。あのね―――"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――治安も悪く難易度の高いクエストばかりがくるこの街の、一番と謳われていたハンターの死は、最初は悲しみに、今では脚色交じりの"噂"で溢れていたのでした。

 

 

「おい知ってるか、フィーズの奴、人妻に手を出して捨てて、激高した亭主の骨折ってやったっての」

「そんなのまだイイもんさ。あいつなんてまだ若い娘っ子に手を出して貢がせて娼館行きにさせたんだぜ?」

「え、あれ嘘だろ?」

「さあ―――でもさ、フィーズだし」

「そうだよな、フィーズだしなぁ」

 

 

「そんでさー」と話題を気まぐれに変えるハンターの傍で、イースはまだ佐之たちと一緒にいました。

 

珍しく煙草を吸う豊受に目を閉じて黙り込むジャックの隣で、ギルドにフィーズ死亡時の状況を説明しているのだろう佐之を待ちながら、頼んだお茶をじっと見つめます。

 

あれ以来佐之はどこか―――熱も消えかけのように、ぼんやりとしていました。豊受は変わらずふざけてはムードメーカーの役割を果たすものの、ふと真面目な顔をして黙り込みますし、ジャックは喪に服すように沈黙を保っています。

 

そしてイースは―――イースは、鈍牛の思考で、ずっと思い耽っていました。

 

 

「―――お疲れさまでした」

 

 

淡々とした声に会釈もせず、佐之は無表情で部屋から出て、イース達を見つけてもゆっくりと階段を降ります。

 

一時間強の取り調べを終えた佐之は特に言う事も無く、周囲の好奇な目を背負いながら「行くぞ」と言うように顎をくいっと出口に向けて、ぞろぞろと肌寒い外へと出たのでした。

 

 

「……どうだったよ、生まれて初めての尋問は?流石に緊張した?」

「しつこくてそんなの思う暇も無かった」

 

葬式ムードの中、豊受が空元気に聞きますが、佐之のそっけない態度は崩れません。

 

「どこかで食事にしようか」と変わらずに静かな声を出すジャックに、佐之が面倒臭そうに頷いた――――時でした。

 

 

「ねぇッ待って、そこのハンターさんっ!!」

 

 

路地から白くて細い腕が飛び出して、佐之の腕を掴みます。

 

曇り空の下、現れた姿は露出した服装の……まだ若い、娼婦、のような……。

 

 

「あなた、フィーズ様と一緒に狩りに行ったハンターなんでしょう?さっきギルドに報告してたんでしょう?…嘘だよね、あの人が死んだの嘘だよね!?」

 

 

よく見ると爪や髪もあちらこちらがぼろぼろで、目は血走っているし隈も濃い、病的な人です。

 

しかも「フィーズ"様"」と呼ぶ所から、彼女はフィーズのたくさんの愛人の一人か何かなのでしょう。

 

 

「あ、あの人、私を連れ出してくれるって約束したの、すっごく紳士的で、優しくて……あんな人が死ぬのなんておかしいでしょう?絶対嘘。そうよね?街の、あの人の酷い噂だって―――」

「――――――全部本当だ」

 

 

舌打ち交じりに、優しさの欠片も無く、佐之は言い捨てて腕を振り払いました。

彼女はよろついて石畳に身体を打つと、ぽかんとした顔から鬼気迫るような、何かに憑りつかれたかのような顔になって、佐之の胸倉を掴んで怒鳴ります。

 

 

「嘘だッ!!!嘘つき、最低のハンターね!フィーズ様があんな酷い事するわけないッあんたみたいに根の腐った屑のハンターに妬まれて流された嘘なのよ!!あーあ、それを信じてるあんたってすっごく間抜けね、ええ本当に愚かだわ!!撤回して、謝って!!」

「必要ない。さっさと失せろアバズレが」

「何ですって!?私はフィーズ様一筋なの!!結婚だって約束してくれたんだから!!海の見える丘で、綺麗で華やかな式を挙げる予定だったのよぉ!?……それもこれも、全部―――アンタみたいな役に立たない、疫病神どころか死神みたいなアンタのせいであの人は死んだのよ、返してっ!返してよ、あの人を返してお前は神に裁かれて死ね!!」

「悪いが俺は無宗教派なんでね。……分かったら俺に近寄んな、息からして汚らわしいんだよ中古女!」

 

 

多分、佐之も限界だったのでしょう―――佐之は、か弱いその女性の顔を、思いっきり殴りました。

 

仲介しようとしていた豊受も、危うい雰囲気に引き離そうと手を伸ばしたジャックの動きも思考も停止する中、殴られた彼女は咽て血と歯を吐き出しました。

 

その姿に、イースも全て止まって―――あの日の、守れなかったエリスの事を思い出して、憧れである佐之の胸倉を片手で掴みます。

 

 

「……何だよ」

「…………」

「お前みたいな青いのには分かんねーかもしれないがな、…こういう女には、殴って聞かせるのが一番…ッ」

 

 

兜を被っているのも気にせず、イースはやさぐれてどうにもならなくなった佐之を殴ります。

一発目は不意を突かれた佐之ですが、プライドに障ったのか機嫌に障ったのか、彼も拳を握って殴りかかりました。

 

一発は顔に、二発目はよろめいた所を、三回目は足で、ガラ空きになった腹を蹴られ、鼻を折られました――――いくらガンナーとはいえ、そこらの前線で剣を抜くハンターでも追いつかない暴力がイースの身を襲います。…イースは負けじと防いで噛んで、「…気に入った」と更に佐之を逆上させて、倒れたイースの頬に上からの拳を叩き込まれました。

 

重すぎる攻撃にイースが咽ていると、豊受が慌てて佐之の背後から取り押さえようとして―――投げられて、そこらの樽に突っ込みました。

 

ジャックが女性にギルドに行くように頼むと、佐之の死角から近寄って(すぐに気付かれて回し蹴りをされたので)じりじりと近づいて、イースから意識を逸らせます。

 

防ぐことのみに集中したジャックとやり合ううちに(ジャックが冷静に声をかけ続けたのもあるかもしれません)少しずつ血の気も下がった佐之、でしたが―――

 

 

「佐之ッ落ち着けって―――ば、ぁ……?」

 

 

樽の間で気を失っていた豊受が、まだ回りきっていない頭で、とりあえず佐之を押さえようとして……抱きつこうとして当然失敗した際に、殴り合いで緩くなっていた兜が宙を舞ったのです。

 

 

「「「あ」」」

 

 

怒気も何もない、呆けた声を同時に上げた三人に釣られて、イースがよろよろと起き上がって見れば――――美青年がいました。

 

 

セピアゴールドの髪に、琥珀の瞳。唇は切れて血が出ているし頬も殴られた痕が残っているけれど、それでも美人……いや、格好良い青年。そう、

 

予想ではあるものの、"フィーズの若かりし頃に"、面影もまた"おかしいほど"に「似ている」。

 

 

「……佐、之…さん、もしかして、」

「――――黙れ」

 

すぐに兜を被り直して、佐之は豊受を蹴り飛ばします。

そこから覗く目は怒りと、いくらかの羞恥と、苦しそうなものでした。

 

 

「……お前みたいに平和な家庭でのんびりやっていた奴には分かんねんだよ、滅茶苦茶にされた側の人間の思いも。"行動も"。分かんないくせに上から目線で偽善を押し付けて……だから俺は嫌いなんだよ」

「佐之さん、だからって―――あんな、縋って来ただけの女性に、」

「俺はああいう女が大っ嫌いだ。フィーズのカス男に抱かれた女なんて人間じゃないと思ってる。……同じ場所で、息をするのだって肺が汚染されたように思える」

「そんな…っ」

「良い事を教えてやるよ。女なんてこの世で最も醜い生き物だ。平気でどこぞの間男と寝て陰で哂い、罪を問われれば寂しいだ何だと喚くくらい面の皮が厚い。人を不幸にするのが大好きで、敵も味方もない節操無しなんだよ。お前みたいな青いのだって平気で騙しに来るからな、せいぜい気をつける事だ」

「……みんながみんな、そうではないと思います。僕の―――知る人は、皆誠実で、優しい。あなたの狭い世界で一括りにしないで下さい」

「ほう…、そういえば、お前が言ってた…アリスだかエリスだったかか?そいつらだけで語るお前も随分と狭いもんだ。…人間は変わる。大事にしてたものだって誓いだってコロッと変えられる」

「その理論だと、あなたの言う"節操無し"の女性も変わるかもしれませんね」

「………」

 

 

よろりとよろめきながら立ち上がると、イースは真っ直ぐに佐之を見据えます。

 

佐之はそんなイースが気に食わないのか、カツカツと踵を鳴らして近寄ると、歪んだ唇で、囁くように言いました。

 

 

「ああ、この理論だと―――お前の恋人も、お前への誓いも想いも捨てて、どこぞの男とベッドでよろしくやってるかもな?」

「―――――ッ!」

 

 

一気に頭に血が上がって、イースは拳を堅く握りしめます。

けれど当然、佐之は分かっていて言った訳ですから―――避けられて、逆に腫れた頬の反対側を、地に沈めるように思いっきり、殴ります。

 

そのまま石畳に頭をぶつけて、ぐわんぐわんと歪む頭に呻くイースに、佐之は邪気で端の歪んだ唇を開きました。

 

 

「中古になってても引き取ってやれよ?もしかしたらお前の好きなそいつに"変わり直してくれる"かもしれないからな」

 

 

そして最後に「じゃあな」と言って、佐之は喧嘩騒ぎで出てきたゴミをイースに蹴り飛ばして、豊受もジャックも、ギルドの役人も無視して去って行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"―――それから、素晴らしい報告をしたいと思います。あのね、叔父さんが頑張ってるご褒美にあなたに会いに行っても良いって言ってくれたの!

 

この手紙が届く三日頃には着くかな?…実はイーシェさんからも言い含めて貰ってね、そのお礼にユクモ村に寄ってからそちらに向かう予定です。……ふふ、イースは私がイーシェさんの所に行くと嫌な顔をよくしてたね。懐かしいです。"

 

"……そちらで再会出来たら、あなたが何度も書いてくれた「佐之さん」に会ってみたいです。あなたが惹かれる程の人ですから、きっと素敵な人なのでしょうね。"

 

"そしてあなたにも、あなたと、あなたからの手紙で元気になれた私を、見て欲しい。たくさん、離れていた間の話をしたいです。……""

 

 

 

 

――――イースは、最後まで何度も読み直しては、ぐちゃぐちゃになって静かに泣きました。

 

それは憧れの人に先程裏切られたように思ってしまったからか、純粋な手紙を送ってくれるエリスと、こちらの生活との差を思ってのものかは、分かりません。

 

兎にも角にも、ただ泣きたかったのです。

 

 

 

「ニャー!旦那、旦那!お手紙です!」

 

 

息の乱れた猫の声に、イースは慌てて涙を拭って扉を開けました。

 

急いで来たのだろう、あちらこちら汚れている猫は―――イースの姉、イーシェのオトモです。

 

 

「……姉さんに、何か…?」

「まずは読むニャ!」

 

 

どうにも姉と似て強引な気のある猫の声に負けて、イースは不思議そうに手紙を開けて、目を見開きました。

 

血がドッと下がって吐き気がして、殴られた個所の熱さもどこか遠いものに見えた一分の後、彼は慌てて部屋から飛び出しました。

 

 

……その手紙の中身は、急いで書かれたのだろう、焦りの滲む文字が並んでいます。

 

 

 

 

"イーシェです。  落ち着いて読んでください、エリスが行方不明になりました。"

 

"実はエリスの叔父が頼んだハンターは正式なハンターではなくて、…正規ルートも通れず、危険と見なされた道を通り、その途中で何者かに襲われたようです。"

 

"馬車は崖下で大破。同行者の一人は重傷で見つかりました。もう一人とエリスは見つかっていません。"

 

"落ち着いて、ユクモ村まで来て下さい。……間に合う事を祈っています。"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*side:S*

 

 

 

エリスは、大丈夫かなぁ、と目の前の挙動不審なハンター二人を見ていました。

 

だってどう見てもこの道は安全には見えません。「モンスター被害が云々」と説明してくれたけれど、だったら延期すれば良かったのでは…と不安にもなりました。

 

不安ですが―――この二人はエリスの意見を聞く気は無いようだし、イースが「ハンターの中には口煩い人に手を上げるのもいる」と手紙で書いていたのを覚えているので、大人しく黙り込んでいたのです。

 

 

そしたら、

 

 

 

「ぐるぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

あまりの急な事に、何のモンスターかも分からない内に、エリスは馬車から放り投げられ、突き刺すように冷たい雪風の中に――――気付いた時は、べっちゃりとしていました。

 

 

 

(………痛くない?)

 

 

血のべっちゃり、ではなく……なんでしょう、熟れた果実の中に落ちてしまったような……。

 

 

「きゅーお、きゅーお……」

 

 

……しかも、何やら嬉しそうな声が聞こえてくるではないですか。

 

どしん、どしんと煩くやってきた「それ」は、「きゅおー!」と一声鳴いて強張って動けないエリスの真上に、どさどさと果実やら葉っぱを落とします。

 

丁度間に居たおかげか上半身は無事でしたが、足に果実の雪崩が落ちて、……動けません。

 

 

(…どうしよう、どうしようどうしよう…イース……!)

 

 

恐怖で歯がガチガチと鳴るエリスは、恐る恐る隙間から上を覗き見ると……

 

 

「きゅるおー!(´,,・ω・,,`)」

 

 

………。

……………。

…………………エリスは気を失いました。

 

 

 

 

 

 

次回はシュールなお話を送ります。

 



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臆病少女は泣き叫ぶ

 

 

"エリス、お元気ですか?ちゃんと食事はしているでしょうか。"

 

"今日は久し振りに太刀に触れてみました。弓と違った重さが、とても怖く思えてしまう僕は、きっと弱虫なのだと思います。"

 

"……佐之さんはスパルタな人ですが、村の教官よりも的確…というと、ルシール教官に怒られてしまいますね、でも――――"

 

"―――…あの鮮やかな腕は、まるで剣舞のようで、不思議な、原初の祭事を見ているような気分になります。少々手癖も人付き合いも悪い人ですが、ふとした瞬間の優しさを思うに……、"

 

 

 

――――ねぇ、あなたの中に私は居ますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そう、手紙を読むたびに、エリスは胸がツンとするのでした。

 

暗い文でないだけ有難いのに、きっと一生懸命イースはその日その日に感じる思いを、無事を伝えたがっているだけなのに、エリスは自分の存在が薄くなって染みのような存在に成り下がっているのではないかと、不安になってしまいます。

 

 

――――だから彼女は、頑張って薬師の勉強をして、努力の実った自分で彼に胸を張って……いいえ、違いますね。離れ離れに耐え切れず、なんとか許しを得て、自ら不安を消す為に彼の元へと向かったのでした。

 

 

弾む心も染まる頬も隠さずに、うきうきと馬車に乗り………。

 

 

 

 

「きゅおー(´,,・ω・,,`)」

「ぐおー(`・ω・´)」

「きゅおー(´,,・ω・,,`)」

「ぐおー(`・ω・´)」

 

 

 

………。

…………深い夢から覚めたエリスは、所々浅く切れている身体を用心深く(といっても足は圧し掛かる果実のせいで動かせないのですが)確認すると、いつの間にか一匹増えてしまったこの現状にまたも気が遠くなりそうでした。

 

葉の隙間から覗くその姿は真っ黒で大きくて……本の中で読んだ、ウルクススの色違いのようですが…。

もう一匹はベリオロスで、仕留めたポポをさっと見せて、ウルクススが何故か「(´;ω; `)」な顔を―――…エリスはどういう訳か、恐怖心が和らぎました。

 

 

「ぐおっぐおっ!(`・ω・´)」

「きゅおー…(´;ω; `)」

「ぐおおっ!(`・ω・´)」

「きぅ…(´;ω; `)」

 

 

何故か叱られている(風に見える)ウルクススを見て、エリスはやっぱり何故か応援してあげたくなりました。

 

………。

……………いえいえ、そんな呑気な事をしている場合ではありません。今はどうしてか寒さも感じずにいられますが、いつ凍死してしまうか分かりません。

エリスは割と大きな果実を慎重にずらそうと手を伸ばそうとして―――ぐらっと果実たちが転がり落ちてくるのに、彼女は慌てて両手で頭を庇いました。

 

 

「きゅおっおっ!(´;ω; `)」

 

…どうやら、ウルクススが果実をその大きな鼻先で突いて、何かを懸命に訴えていたようです。

 

崩れた果実も葉っぱも上手い具合にエリスを避け、幸運なことに足に乗っていたのも退いてくれました。……エリスは、震える手足を必死に動かして食料の山から抜け出します―――。

 

 

「ぎぅー…(´,,・ω・,,`)?」

 

 

―――山の影からひょっこり顔を出したエリスは、上からの鳴き声に思わず背中がぞくりと。…慌てて顔を引っ込めれば、天井に張り付いたギギネブラがのっそのっそとやって来たのです。

 

 

「……ぎぅ、ぎーぅ(´,,・ω・,,`)?」

「ぐおー(`・ω・´)」

「きゅうぅー…(´;ω; `)」

 

 

三匹共幸運なことにエリスの存在に気付いていません。

ベリオロスがポポの死体をぶんぶん振りまわしてウルクススに押し付けている隙に逃げ、

 

 

「ぎぅっ(´,,・ω・,,`)」

 

 

べろっと口から何かを出した、得意気な顔のギギネブラを、……その、吐き出された、所々青く変色した―――人間、は。

 

 

「きゃあああああああああああッ!!!」

「(´,,・ω・,,`)!?」

「(`・ω・´)!?」

ω; `))!?」

 

 

ああ、その毒に犯された死体は―――エリスが不信に思っていた、あのハンターの一人ではありませんか!

 

エリスは洞窟中に響くような悲鳴を上げ、死体を口に咥えたままエリスを見るギギネブラと誰よりも先に戦闘態勢をとったベリオロス……に隠れて、震えて泣いているウルクススの三匹の視線に、ショックで死んでしまいそうになりました。

 

 

「ぐるるるるるるるるるる……!!」

 

まるで幼い二匹を守るように、ベリオロスは先程までの可愛い顔から一転、凶悪な顔で牙を見せて唸ります。

 

耐えきれずにエリスが膝を突き、喉を引き攣らせて涙を流した瞬間、ベリオロスが口をカッと開け、

 

 

「きゅおー!(`・ω・´)」

「ぐぷっ(;`・ω・´)!?」

 

 

泣くのを止めてぴょーんと、…何故か、ウルクススがベリオロスにジャンプ。

泣き虫ですが大きなウルクススなので、もふもふの塊に着地されたベリオロスは大変苦しそうです…。

 

「きゅおっ!きゅきゅー(`・ω・´)ノシ」

「ぐおっお!ぐおー!(;`・ω・´)」

 

何かを懸命にベリオロスに訴えるウルクススに、乗っかられたままのベリオロスは「知るかー!退け馬鹿兎が!」と言うかのように抗議し、ぶんぶんと身体を振ろうと―――して、また「ぐぷっ」と奇声を上げました。

 

 

「ぎぅー(´,,・ω・,,`)」

 

「混ぜてー」と言わんばかりに無邪気に、ギギネブラはウルクススの背中に張り付き―――二匹の重みに耐えられなくて、ベリオロスは潰れました。

 

 

「きゅーおっ(´,,・ω・,,`)ノ」

「あっ…」

 

 

――――もしかして、助けてくれた……ので、しょうか?

 

エリスは気が動転し過ぎて、初めて触れる「異世界」に感覚が麻痺して、そんな愚かな事を思ってしまうのです。

 

それに―――ふこふこと動く鼻先、ゆらりゆらりと動く耳、円らでうるうるとした瞳、その全てを見ていると憎めないというか、どうにも気が抜けてしまいます…。

 

 

「きゅっきゅ、きゅぉー(´,,・ω・,,`)」

 

すにーっと鼻先を伸ばすウルクススは、もしょもしょとした口を閉じたままで―――不意に、果実の良い匂いがしました―――…ああ、そうじゃなくて、…「撫でて?」と甘えるような仕草に、エリスは恐る恐る、

 

 

「ぎぅっ(´,,・ω・,,`)」

 

―――ウルクススの上から、のっそりと顔を出したギギネブラ―――の口、から、また、べろりと、

 

 

「きゃああああああああああああっ!!!」

「ぎぅっ(;´,,・ω・,,`)!?」

「きゅおー…(´;ω; `)」

「ぐおっお!ぐお!(;`・ω・´)ノ」

 

……ちなみに、ここだけ彼らの会話を伝えますと、「私も仲直り!」と自分の獲物を"譲ろうと"ギギネブラがやらかしてしまい、エリスの悲鳴に「えっ」となり、……「ギギさん何をしてるんですか…」と目の前で泣かれて貰い泣きしてしまったウルクススと「馬鹿っ!人間に"お前の御馳走(+毒のソース付き)"をやるな!」とギギネブラを叱るベリオロスさんで―――…はい、彼らは悪意もなく、無邪気に"モンスターとしての"仲直りをしようと試みるほどには、エリスに対して友好的だったのです。

 

それはエリス自身が果物と、染みついて消えない薬草の香りだけがして、彼らの嫌いな「|人間(ハンター)」の特徴をまったく持っていなかったからですが―――ああ、エリスはまたも気を失ってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

"―――エリス、君は一度で良いから僕が狩りをする姿を、一緒に色んな世界を見たいと言ったけれど、……僕は反対です。"

 

"だって、君はとても繊細で…危険で奇妙なこの世界には、きっと耐えられないと思う。優しい君は、僕がモンスターを傷つける姿を見たら、……いや、違うな。"

 

"僕は君が泣きだしてしまうことよりも、君が僕を軽蔑した目で見る事が、きっと怖いんだ。……だから、ごめん。"

 

"でも、その代わり君に、絶対綺麗な世界を見せてあげる。僕が今まで見た中で、……絶対の安全の中で、だけど。それで、許してくれますか?"

 

"―――…エリスの手紙を読む度に、頑張ろうって思えるよ。だから、君も僕が迎えに行くまで、頑張って。"

 

 

 

―――――ああイース。……私もう、頑張れないよ。

 

 

 

 

 

凍土仲良し三人組との出会い。

 



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臆病少女は手を伸ばす

 

 

「――――チェダーさぁん!今回の捜索、クエストとして出る事になりましたー!」

「えっ、マジで?」

「ええ、調査員の人達がモンスターの影を何度も見たそうで…人間の味を覚えたモンスターは危険だからって。はい、」

「お、おぅ……それじゃあ、狩り場ってもしかして…」

「不安定です」

「……ごめん、ちょっと待って、お姉さん"そっち"用に着替えてくる」

「ああはい…さっきも寒い中に居たんですから、明日にされては…?」

「そうにも行かないっしょ。か弱い女の子の命がかかってるからね」

「そうですね……それでは、お待ちしてますね」

「はぁーい」

 

 

 

「………"銀世界、踊る悪魔達の狂宴"…って、誰がこんなタイトル付けてんだろ…だっさ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その頃、"悪魔達"は。

 

 

「きゅおー…」

「ぐごー…」

「ぎおー…」

 

 

………三匹仲良く、くっつきあって、寝ていました…。

 

「………ッ」

 

ウルクススの真っ黒な毛に埋もれるように眠っていたエリスは、その奇怪な図に喉を引き攣らせ―――しかし、前回の反省から、叫ぶようなことはしませんでした。

 

それに、よくよく見るとこの三匹、ベリオロスが冷たい風吹く出入り用の穴を塞ぎ(少し震えています…)、ギギネブラはそんなベリオロスの枕代わりになってあげていて、ウルクススはベリオロスのお腹にひっつき、エリスに温もりを与えてくれていたのです。

 

 

(……どうして、この子達はこんなにも私に、ううん、人懐っこいんだろう…?)

 

 

イースもイーシェも言っていました。ポポなどの弱小・草食モンスターは人に従うし、場合によっては懐いてくれるけれど、この三匹ほどに強いモンスターが、何故にここまで人間(てき)に対し……温厚というか、世話好きというか、お節介というか。ありえない事ではないのでしょう―――

 

 

「くしゅんっ」

 

 

……見を呈して寒風を塞いでくれているベリオロスには大変申し訳ないのですが……やはり、エリスには耐えられません…。

 

自覚したら余計に寒くなってきて、凍える身に耐え切れず丸くなっていたら、「きゅーお?」と先程のくしゃみで起きてしまったらしいウルクススが、おずおずと鼻先を伸ばしてきました。

 

そのままゆっくりエリスの首をふがふがと嗅いだりして、温かい息がエリスに当たり…それと同時にとてもくすぐったくて、エリスはくすくすと笑いながらウルクススの頬を撫でます。

 

 

「きゅるるる…(´,,・ω・,,`)」

「……ふふ、」

 

 

エリスは思い切ってウルクススの首に抱きついて、頬をすりすりしてみました。

 

案外獣特有の汚れとかベタつきの無い、綺麗な毛並みであるのが意外で、手を突っ込んで梳いてみます。

やっぱり果物と葉の匂いがして、モンスターにも綺麗好きな子がいるのだな、と、

 

 

「ぎぅ……(´・ω・`)」

 

 

ベリオロスの枕代わりになっているギギネブラが、羨ましそうな悲しそうな、そんな表情というか雰囲気を出して、エリスとウルクススを見ていました。

 

もじもじとしたギギネブラは一見凶悪で獲物を狙っているようにも見えますが―――エリスが手を上げたり下げたりしていると、見かねたウルクススがもしょもしょとした口でエリスの背を優しく押して、それでも躊躇うエリスの目の前で、そのもふもふの頬をギギネブラに擦り付けたのです。

 

「きゅおー(´,,・ω・,,`)」

「ぎおー(´,,・ω・,,`)」

「………、」

 

 

――――可愛い……。

 

エリスは、ああ遂に自分は壊れてしまったのかと思ったエリスは、きゅんきゅんする胸を押さえたまま、ウルクススに隠れながらギギネブラに触れてみました。

 

ぶよんとしてて滑らかな、意外と温かい、不気味な外見ですが、色々麻痺してきたエリスには可愛いく見えます。

 

「くしゅんっ」

 

……ですが、やはり寒い。……エリスが白い息を吐くと、「ぐおぅお?」と寝惚けたベリオロスの声が聞こえました。

 

 

「きゅんきゅおっ(´,,・ω・,,`)」

「ぎぅぅー(´,,・ω・,,`)」

「ぐお……(`・ω・´)」

 

幼い子供二匹に見える彼ら(いや、図体はでかいのですが…)にもきゅきゅとされつつ、ベリオロスはエリスから視線を外しません。

 

「ぐおっ(`・ω・´)」

「きゅっ(´・ω・ `)」

「ぎうー?(´・ω・ `)」

「ぐおーおっぐおっぐおっ!(`・ω・´)」

「きゅおー。おー?(´・ω・ `)」

「ぎううー(´・ω・ `)」

 

窘めるような、そんなベリオロスの警戒丸出しの姿にちょっと寂しく思いつつ、エリスはもふもふのウルクススの身体に寄り添いました。

 

「きゅきゅ、きゅおー」

「ぎう、」

「ぐおっ!…………ぐう」

 

その様子を見て、もきゅもきゅの三匹は何かを決めたようです。

 

「しゃーねーな」と言わんばかりのベリオロスを先頭に、ベリオロスの背に乗るギギネブラ―――の背後、ウルクススが不意に足を折ると首を下げて「きゅお!(´,,・ω・,,`)」と……「乗れ」ということでしょうか?

 

「……乗っていいの…?」

「きゅんっ(´,,・ω・,,`)」

「あ、ありがとう…」

 

大変不格好にウルクススの身体をよじ登ると、ウルクススはのんびりと、振動も小さくとてとてとベリオロスとギギネブラの後を付いて行きます。

 

途中、ファンゴや他のモンスターに遭遇しても、この先頭のベリオロスとギギネブラ二匹を恐れてすぐに退散したので、まったく道中安全です。

 

(……守って、くれてるんだ…)

 

きっと。敵のエリスを、ぱくりと食べられないように。

…もしかしたらあとでぱくりとかかもしれませんが、ここまで冷凍待ちもせず、つまみ食いもしないで友好的であってくれたのです、……エリスは、信じてみたくて、大人しくウルクススの首に抱きついていました。

 

 

例の不信なハンター達との道中よりも、言葉も種族も違うウルクススの背の方が安心するだなんて、エリスは頭の病気を疑われてもしょうがないやも……。

 

 

「きゅお―――――!!(´,,・ω・,,`)」

 

 

寒さで思考が鈍くなってきたエリスは、ウルクススの嬉しそうな鳴き声にはっと顔を上げ―――吃驚、しました。

 

冷えた洞窟の奥(多分)に来てみれば、目の前には湯気がもうもうと立つ"温泉"があったのです!

 

 

「ぎうー(´,,・ω・,,`)」

 

まず最初に、ベリオロスの身体から滑り落ちて、ばしゃんとギギネブラが温泉に転がり落ちてもごついた後、気ままに泳ぎ始めました。……どうやら、中々深い温泉のようです。

 

ウルクススは首を下げてエリスを落とすと、腕を温泉に突っ込んでエリスに触れさせました―――まるで、「大丈夫だよ」とでも言うように。

 

エリスも恐る恐る指先を触れてみましたが、丁度良い湯加減の、何てことのない温泉です。

思わず振り返りますと、濡れた手で自分の顔を洗っているウルクススと出入り用の穴の前で内外どちらも警戒中のベリオロスがいます。………これは。

 

 

これは、「温まってね」と、いうことなのでしょうか?

 

 

「………うん、」

 

エリスはゆっくり靴を脱ぐと、薬を弄り続けた繊細な手でお湯を掬って少しずつ温めます。

丁度良い塩梅でそろそろと両足を温泉に浸す頃には、ギギネブラが「どーよ?」と言うかのようにお湯から身体を出しました。

 

「………温かい…」

 

心も、身体も。とても温かい。…そう、エリスははにかみます。

このままなら死なずに、イースの元へ生きて帰れるかもしれません。…エリスは希望から口元を綻ばして、湯から顔を出すギギネブラを撫でてお湯をかけてあげました。

 

「ぎうー(´,,・ω・,,`)」

「ふふ、」

「ぎーうー(´,,・ω・,,`)」

 

エリスがすっかり無害なギギネブラにほのぼのとしていると、その様子をボケーっと見ていたベリオロスにウルクススが温泉を勧め、自分は―――お腹を空かせただろう、エリスに果実を持って来ると出ていきました。

 

ベリオロスはこつんとおでこをウルクススに当てたあと、もそもそと温かい温泉に入り……ああ、生き返ったと思わず顔を緩ませます。

 

そしてきゃっきゃと触れあうエリスとギギネブラを見ると―――不意に弱い風を起こして、二人にお湯を被せてきました。

 

「ぎおっ(´,,・ω・,,`)」

「ぐおっ(`,,・ω・,,´)」

 

ぷいっとしつつも、ベリオロスは度々風を起こしてはエリスとギギネブラにちょっかいを出し、……ウルクススがとてとてと果実を持って来る頃には、ベリオロスのじゃれるような頭突き(とも言えない)に床に転がったエリスは、くすくすと笑って―――――

 

 

 

「きゅお――――――!!!(´;ω; `)」

「えっ!?」

「ぐおっ!!(;`・ω・´)」

 

 

あの弱くて優しいウルクススの悲痛な鳴き声に、エリスは倒れた身体を起こしてウルクススを見ます。

 

ベリオロスは牙を見せて唸り、ギギネブラは壁に張り付いて冷えた空気を出し―――悲鳴を上げたウルクススは、お尻を上に突き出し、ぶるぶると震えていました。

 

ふるふるふるっと震える可愛らしい尻尾の付け根より上に、物々しい、矢、が。

 

 

 

「…………リス。エリス、エリスは―――どこだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

初めての、穏やかさも何もかもかなぐり捨てた叫びに、エリスは思わず身体が固まり―――目が熱くなって、ぼろぼろと涙を零しました。

 

可愛らしい三匹のおかげで麻痺していた物が戻って来て、二本目をかまえた彼に、涙声で、その愛しい名前を叫びます。

 

 

「イース!」

「え―――エリス!!」

 

 

髪もぐちゃぐちゃ、装備のあちらこちらが汚れてて、凍っていて。目の隈だった酷い。…なのにエリスには輝いて見えるのです。愛しい人が、信じていた通りに、いえそれ以上に。まさかの本人が助けに来てくれた――――…。

 

 

 

「ぐるるあああああああああああああああああああああ!!!」

「ひっ」

 

 

伸ばした腕を引っ込めて肩が跳ねあがり、呼吸がおかしくなる―――そんな殺気と咆哮が、彼女の背後で響き渡りました。

 

それに便乗するようにギギネブラが天井からひょろりと揺れて、恐ろしい口をがばりと、構えたまま微動だにしないイースに………

 

 

「――――ま…って、待って、駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

叫んで、エリスはイースに向かって駆け出します。

 

優しいこの三匹の恩に背きたくない為に、…イースを、こうして突き飛ばして、守―――

 

 

「エリスッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい、皆さんに残念なお知らせでぇーす。ウチの馬鹿アホ駄目っ子弟が勝手に暴走して凍土の奥

に特攻しやがりましたー……ジでふざけんなよクソガキがあああああああああ!!」

「チェダーさん落ち着いて下さい!」

「姉さん落ち着けってあんなに言っただろうがぁぁぁぁぁ!!何で聞かないの?何でこういう大事な時に限って聞かないんですかー?お姉さんもう怒りがMax過ぎてライトボウガン乱射して〆たい気分ですよカスがッ」

「チェダーさん、そんなことあっしらに言われても困ります」

「行方不明のハンターの手が見えた瞬間に駆け出すとか!この埋められた紫死体の処理の事も考えてあげてよ!別に行ってもいいけどオトモぐらい付けろやぁぁぁぁぁ!!!」

「でもねえ、こんなの見たらこうなりますって」

「ねー。…ていうか、モンスターも凍死体を埋めてあげるんだねえ。……下手くそな埋め方だけども」

「このハンターが不味くて途中で戻したんかなあ…しっかし、この紫の斑点…毒って、ギギネブラしかいませんよねえ」

「あいつらにも埋葬の習慣あったのか…」

「生ゴミ処理しただけかもよ。…んなことより!これからA班は死体処理!残りは私と一緒に馬鹿探しに行くよ!」

「「「へいさー!」」」

 

 

 

 

 

 

凍土の再会はデンジャラス。

 



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臆病少女と不器用少年は、

 

 

「チェダーさん、一旦引きあげましょう。こっから先はギルドの許可が降りてませんし」

「そういうわけにはいかないっしょ。ウチの馬鹿とお嬢ちゃんがいるかもしんないのに…!」

「でもねえ、こっから先って調査が進んでないんですよ。迷い込むと…途中まではギルドも内部を把握してるでしょうし、許可云々も含めて一旦戻りましょう。第一チェダーさんの顔色悪いですよ」

「寒いんじゃ――!!」

「…ああ、うん…シリアスタイムが終わりましたね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゅぐっ」

 

 

―――突き飛ばすと同時に、エリスの身体は遠くに飛びました。

 

手加減無しに近いその威力に、彼女は脂汗をかいて鈍いのと鋭い痛みが波のように織りなす足に手を伸ばします。

 

 

「……お、れて、る……」

 

 

むしろ骨折だけで済んだだけ良いのでしょう―――何度も叫んでばかりでカラカラのか細い喉からはなかなか痛みの声も上げられず、のろのろとエリスは、

 

 

「なんで……」

 

 

 

――――エリスを庇って、割り込んでくれたウルクススに、掠れた声で問いました。

 

…そう、ウルクススの滑り込みの際にエリスは吹き飛ばされたのです。ギギネブラの口はウルクススのもふもふとした、エリスを温めてくれた横腹に……引っ付いて離れない棒のように、「びぃぃぃん」と襲いかかった余波で震えています。

 

ちょっとばっかしのシュールな光景のあと、ベリオロスが慌ててギギネブラを引き剥がしにかかり、ギギネブラの尾を咥えて豪快に温泉に投げ入れると、「ぐおおおお!?」っと焦った鳴き声をウルクススにかけます。

 

「きゅおー…((;´・ω・`))」

「ぐおぅお――!(`;ω;´)」

 

叫んで、ベリオロスはぺしんとウルクススの頭を叩きます。

 

ギギネブラは温泉からもごもごと這い出ると僅かに付着した毒を自分の身体を使って拭ってあげました。

 

 

「―――エリスっ」

 

エリスが熱のせいでぼんやりしてきた頭のまま、ただモンスターたちのやりとりを見ていると―――飛ばされた際に、打ち所が悪かったのか腕装備が外れそうになっているイースが顔を真っ青にしてエリスに駆け寄って、……思いっきり、手加減無しに抱きしめました。

 

「い、たい…」

 

思わずエリスがそう訴えても、イースはぎゅうっと、いいえ、更に強く、エリスを抱きしめては熱い目を堪えて肩に顔を埋めます。

 

 

 

「―――エリス、約束通り迎えに、来たよ…」

 

 

生きてる君を。…本当はもうちょっと、格好付けたかったんだけど。……そう懐かしいぼそぼそとした話し方でイースは囁くのです。

 

エリスはやっと"知っているイース"になった彼の背におずおずと両腕を回し、「うん、」と答えました。

 

 

「待ってたよ……」

 

 

 

 

 

――――それで、本当ならばもっと触れあっていたかったのだけれど、エリスの足の痛みや場所的に、それは無理なのです。

 

エリスは口が上手く回らなくなってしまう前に、ベリオロスに負けず劣らずの敵意と警戒の目で弓を握る彼に、親切なモンスターたちの事を教えました。

 

 

「……え、ごめん、もう一回言ってくれる…?」

「その、信じられないとは思うの…」

 

 

目覚めたら「宴じゃ――!」なモンスターたちののどかな食事前の風景があって、

 

何度か気絶して叫んで、色々麻痺して怖がるエリスに、三匹は何故か親切で、

 

ギギネブラはとても人懐っこくて、ベリオロスも可愛げがあって、

 

――――ウルクススは、何度も何度も、エリスの側であってくれた、のです。

 

 

エリスの脂汗が滴る顔は、狂いもふざけたものもありません。

イースは渋々と弓を下ろすと(けれど放しはしません)二匹にあれやこれやとされるウルクススに近寄りました。

 

当然ベリオロスが牙を剥いて遮る訳ですが、イースは落ち着いてポーチの中から―――秘薬を、出しました。

 

もちろん秘薬を使うほどの傷ではありませんが……彼なりの誠意です。今この場で彼に出来る事はこれだけなのですから。

 

 

「ぐるるるる…」

「………」

「……い、イース…肩、貸して。私がやってみる」

「!でもっ」

「だいじょうぶ」

 

 

子供がおんぶでも強請るように、腕を伸ばすエリスに渋り顔のイースは―――数秒の後、彼女を背負いました。

 

それにたじろぐベリオロスに、彼女は「治させて下さい」と頭を下げます。

 

 

「ぐぅぅ…(`・ω・´)」

 

ベリオロスは薬を掲げた後に頭を下げた人間の行動に顔を顰めて、僅かに唸って、ギギネブラの尾を咥えて温泉に戻りました。

 

イースはそれでも険しい顔つきのベリオロスと(毒だらけだったハンターの死体を思い出すに)油断ならないギギネブラを興奮させないよう、静かにゆっくりとウルクススに近寄ります。

 

ウルクススの不思議そうな、涙の残る顔を拭うと、エリスは出来るだけ優しい顔で「ありがとう」と感謝しました。

 

 

そして首を下げて貰うと、エリスは不格好なまま、不安定なままに矢の場所を目指します。

 

 

「エリス、落ちそうになったら出来るだけ(ぼく)の方に来て―――絶対、受け止めるから」

「うん………」

 

 

信じてる、と、今更恥ずかしくなって、エリスは蚊ほどの声で言って、目当ての場所に辿り着きました。

 

踏ん張りが利かない分、エリスの細腕と痛みで苦しい身体では中々抜けませんが―――ふと、ギギネブラが温泉から出て、思わず弓を構え直した(エリスが止めさせましたが)イースを無視して、「ぎうっ(´,,・ω・,,`)」と一鳴きして……エリスの腕を、咥えました。

 

もちろん毒は出さず、唾液が(少しぴりぴりします)服越しに伝わりますが、…「大丈夫」と苛々と弓を握る彼に念を押すと、エリスはギギネブラに逆らわずに黙りこみます。

 

 

ギギネブラは慎重に何度かエリスの腕を揺すぶった後、もう一度「ぎうっ(´,,・ω・,,`)」と鳴いて―――しっかりと矢を握りこんだエリスの腕を、ぐいっと引っ張りました。

 

その結果、矢の半分が抜け、三度目の「ぎうっ(´,,・ω・,,`)」でやっと矢を抜き取ることが出来ました。

 

「!」

「あ――やったぁ!」

「ぎうっ(´,,・ω・,,`)」

 

思わずギギネブラに抱きつくと、エリスは慣れた手つきで秘薬を開けます。

 

丹念に秘薬を傷に塗り込み、さっそく傷が治りかけているのを確認して、エリスは大好きな彼にゆっくりと足を下ろしました。

 

イースは昔と違ってだいぶ逞しくなった腕で折れた脚も、華奢な身体も抱きとめると、まだ涙目のウルクススの顔に近寄りました。

 

 

「きゅおー…?」

「…………………すいませんでした。」

「きゅうー」

「……それから、エリスを助けてくれて、ありがとう」

 

 

弓を置き、イースは無防備にもウルクススと二匹に頭を下げます。

 

本当はもっと言いたいことはあったのですが、不眠不休でエリスを助けにがむしゃらだったイースには、これが限界なのでした。

 

 

「………きゅるおっ(´,,・ω・,,`)ノ」

「ぎうー(´,,・ω・,,`)」

「………………ぐお(`・ω・´)」

 

 

イースもエリスも彼らの言葉は分かりませんが、謝意を分かってくれて許してくれた―――のは、分かります。

 

ホッと一息ついたエリスに、イースは慌ただしくホットドリンクや携帯用のマント、薬やら携帯食を渡してあれやこれやと世話を焼くと、モンスター三匹はのどかに会話して、

 

 

「きゅーおっ(´,,・ω・,,`)ノ」

 

 

…と、ウルクススが二人に近寄りました。

 

そしておもむろに首を下げ―――まだどこかが痛いのかと首を傾げるイースに、エリスは「乗れってことかな?」とイースの胸に頬をくっつけていました―――所を、見かねたベリオロスが二人を咥えてウルクススに乗せました。

 

最後にギギネブラが名残惜しそうにすり寄った後、ウルクススはとてとてと温泉を目指した頃のように歩き出したのです。

 

 

 

ウルクススはハンターもギルドも知らない道をのそのそと進み、ついには洞窟の出口に出ると、花が少しばかり咲くエリアをまた、とことこと進みます。

 

そしてキャンプ地が僅かに見える所まで近づくと、ウルクススは寂しそうな鳴き声を上げて二人を下ろしました。

 

 

「…ありがとう。怪我させたのに、送りまで…」

「本当に…何て言ったらいいのか…」

「きゅーるおっ(´,,・ω・,,`)」

 

 

帰路に着いて涙腺が緩みそうな二人に、ウルクススは「気にしないで」と言わんばかりに鳴いて、二人にそのもふもふの頬をすり寄せました。

 

「さあ、行って」とエリスを抱き上げたイースの背を押すと、イースは最後にもう一度頭を下げてから、エリスの足に障らないよう、ゆっくりと歩を進めます。

 

 

ウルクススは、去り行く二人の恋人の姿を、ずっとずっと見送っていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――あの後、エリスはイースの姉であるイーシェに「無事で良かった」とぎゅっと抱きしめられ、…ちょっと、その豊かな胸が羨ましく思いつつ、救護班に面倒を見て貰っている内に張り詰めていたものが切れて眠ってしまいました。

 

それを良い事にイースは姉に「お姉様の愛情だから黙って受け取れカス」のお仕置きをされてすごい有様で同じ病室にぶん投げられたのです。

 

 

「……で、どうして無事だったの?何かあの…凶悪なモンスターとかいなかった?」

 

 

報告書をまとめなくてはならないイーシェに、二人はちょっと顔を見合わせた後、くすりと笑いあって、言いました。

 

「「"そんなの、いませんでした"」」――――と。

 

結局、今回の事件は詐欺を働いたハンターまがいのせい、で済み、怪我の治った二人は、例のあの洞窟の出口前に、持てるだけ持った林檎を山にして、最後の感謝を伝えて去ったのです。

 

 

 

……つまりです、"あの事"も、エリスの大冒険も、誰も知らない筈、なのです。

 

 

 

 

「……林檎、とても美味しかったです」

 

 

ふにゃ、と、黒髪の少女がセピアゴールドの男の背から顔を出してエリスに言うのです。

 

……エリスの恋人、イースの姉が「結婚しちゃうんだからねー!」の報告に一回家に戻るとの事で、姉ことイーシェを尊敬していたエリスはうきうきと出迎えて(当然イースは不貞腐れました)、更に美人になったように思える彼女の姿に頬を染めていたエリス――に、イーシェの友人らしい、観光目的で付いてきた少女が微笑みます。

 

 

「……あの……?」

「―――――あっ」

 

 

どなたですか、と首を傾げようとして、エリスは不貞腐れて遅れて来たイースの声に、振り返ります。

 

イースの穏やかで寡黙な表情は驚きで満ちていて、少女が引っ付いているセピアゴールドの男に指を指して口をぱくぱくとしていました。

 

「あァん?……あっ」

 

大変不機嫌な声を上げたセピアゴールドのその人は、イースを見て「やっべええええええ」と言わんばかりの顔になり―――それを不思議そうに見ていた少女は、「(´,,・ω・,,`)!」なんて顔をした後、背中から出て来てぺこりと頭を下げました。

 

 

「初めまして、咲さんの恋人の夜と申します。咲さんのお友達ですか?」

「」

「」

「―――でしたら、これからも咲さんをよろしくお願いします。咲さんはちょっと怖いかもしれないけど、本当はとても良い子なのです。ずっと仲良きゅむむむっ」

「よーしよし、夜ちょっと黙ろうなー。…あれだ、そこのおん…彼女と、何かアレ…話でもしてろ」

「…ぷはっ。さ、咲さんは…?」

「俺は―――あれだ、積もる話もあるし…ちょっと"仲良くこれまでとこれからのお話"をしてくるから待ってろ」

 

 

色んな所に突っ込みがあって、イースは何も言えません。

 

咲さん、というらしい男の武骨な手で頭をもしゃもしゃされた後、少女に背を向け―――イースの肩をガッと掴むと、家の裏まで引きずって行きました……。

 

 

「(´,,・ω・,,`)」

「…………」

「(´,,・ω・,,`)」

「…………」

 

 

そわそわ、と少女はエリスの前でスカートを握ったり放したりしています。

対してエリスは、「林檎」云々と彼女の挙動を思い返し―――何より、咲という男に撫でられる時の彼女の顔が、どこかぶれて、………

 

 

「……ウルクススさん?」

「(´,,・ω・,,`)!」

「……あなた、あの時の、私を助けてくれた……」

 

 

何それファンタジーと思いつつ、エリスの口は勝手に、下手をしたら頭の病気を疑われるような発言を―――したのに、目の前の少女は嬉しそうです。…本当に、嬉しそうです。

 

だけど、頷かない所を思うに、きっとこれ以上の詮索はしてはいけないだろうとエリスは同時に思いました。

少女の笑顔はきっと答えですが、それを確認してはいけないのです。

 

だから、エリスは目の前の、恩人である少女に手を差し出すと、「一緒にお茶でも如何ですか?」と微笑むのです――――。

 

 

 

「本当に、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*おまけ*

 

 

 

―――さあそんな、きゃっきゃとおんにゃのこ二人がお茶をする頃、ヤンデレがかつての後輩をいびって過去の事を洗いざらい吐かせない為にあれこれとしている頃のことです。

 

結婚のお伺い(怪我やら何やらで会えず、結局手紙で報告しただけなのです…)をもう一度正式にやりたいイリスは、後ろでイリスお手製のお菓子をもぐもぐしている嫁に恥をかかせない為にも、気合いを入れて扉を叩きました。

 

「はーい?」

 

少し気だるい声に、イリスは「怖いヤーさんみたいのだったらどうしよおおおお」と義父の姿を想像しては消しつつ、開けられた扉と同時に頭を下げると、声を張り上げました。

 

 

「手紙で報告しました、お、おおおお宅のお嬢さんに結婚を申し込みましたイリス・スウィーちゅと申ひますっけこ、け、こ、けここここっ!」

「イリスー、何で鶏の鳴き真似してんのー」

「け、結婚して下さい!!」

「俺と!?」

 

 

頭を下げたまま、堅く目を瞑って目の前に居るだろう義父の手をとり、………イリスは奇行をやらかしました。

何故か求婚された義父―――いえ、イーシェの弟でイースの兄、イーノが居た訳で…最近好きな彼女がツン期に入ってしまった彼は、恐る恐る顔を上げたイリスの顔をまじまじと見た後、「やだ……ちょっと好みかも…///」と気持ち悪い事を考えた瞬間、姉の殺意が混じりまくった銃弾が頬の真横を通り過ぎました。

 

イーノは懐かしい、もう刷り込みと言ってもいい程に、昔悪さをした頃と同じく土下座。

 

 

そして家の奥からは、銃声を聞き付けた姉弟の父が、並べようとしていたのだろう皿を持ってぱたぱたとやって来ました。

 

「やだー、どうしたのー?」

「ごめんね、このロリホモ死ね弟がちょっとね」

「弟に死ねはダメでしょー」

 

ロリホモなんて不名誉は良いのかとイリスが通常であったらば思うのに、当の彼は目の前に現れた本物の義父(ラスボス)に緊張感Maxの状態で―――顔を真っ赤にして、また深々と頭を下げました。

 

 

「お嬢さんを絶対幸せにします!護ってみせます!だ、だから…だから…あの…もら…じゃなくて…あのと、とつ……嫁いでも良いですか―――!?」

「いいよー☆」

「やだあ、こんな可愛いお嫁さんゲットしたのー?」

 

 

更に姉弟の母がエプロン姿で出てくると、夫と変わらぬノリでとてとてと近づいて来ました。

 

イリスは即「やっべまた間違えたああああ」と思ったのですが、真のラスボス、義母の登場でパニックの異常状態になり―――まあ認めて貰えたんだからいいかなー、と思い、「よろしくお願いします!」と念押しのように頭を下げましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

*おまけのおまけ*

 

 

 

「咲さーん!あのですね、エリスさんが作ってくれた焼き菓子に林檎が入ってですね!」

「うん」

「甘くてかりかりもふもふで美味しかったです!レシピも暗記しましたから今度作ります!」

「夜は最近、何でも作りたがるなあ」

「咲さんを喜ばせたいのです!」

「お前が俺のそばに離れずにいてくれるだけでも嬉しいよ」

「ずっといますものっ」

「ああ、夜は本当に可愛いな。……――その言葉、忘れるなよ

「もちろんです、嘘はよくないのです!……それで、今度作ったら…もし不味く出来上がっても、少しでも食べてくれますか?」

「当たり前だろ。お前の手料理は全部俺だけが食べるんだからな」

「(´,,・ω・,,`)!」

「だけどそろそろ菓子の材料も無いだろうし、帰りに買ってくか……それまで良い子だったらお前の好きな林檎たくさん買ってやる」

「咲さん大好きー!!」

「俺は愛してるよ」

 

 

 

 

「……い、イース…?どうしたのそんなに震えて…顔色も悪いし…」

「…ごめんねエリス、僕はまだまだ不甲斐ない男だ―――更生したあの人を見ていると、何かの禍の予兆なんじゃないかって、怖くなるんだよ……」

「…?なあに、大げさね」

「……でもエリス、例え如何なる禍が来ても、僕が絶対エリスの事を守ってみせるから」

「えっ―――も、もうっ何言ってるの!」

「…ふふ、顔真っ赤だよ」

「―――~~!イースの馬鹿!大好き!」

「僕も」

 

 

 

 

 

これがヤンデレと一般人の差か……。

 






*追記:

これにて「帽子を持ってこんばんは、お嬢さん」編は終了です。

今回の話を通して「咲ちゃん鬼畜verの補足」「凍土仲良し三人組のもふもふ度」「お姉様と下僕の婚約のオチ」をどうしても書きたくて、それが合わさっての今回でしたので、イースとエリスの恋は地味というかあんまり面白味が無かったかも……しれません。

「咲ちゃん鬼畜verの補足」は特に入れたくて、当初は豊受視点でしたが、彼視点だとどうしてもギャグになるので…この補足を経て、夜ちゃんとイチャイチャしてる彼の変わりようを見ると、きっと誰でもイース君になると思うんです(笑)

モンスターズは次作への伏線というか何と言うか。一応無駄のない(たぶん)作りですはい。


それでは、「雪の中からこんにちは、飼い主さん」、修正に手間取ってしまうかもしれませんが、一旦これで落ち着きたいと思います。






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雑談の中の彼ら
ある不思議ハンターカップルと、




※「なろう」様では掲載していない追加(元ネタは掲載しましたが)エピソードです。

※割とあやふやなので突っ込まないであげてください……。





 

 

「あの子、可愛いな」

 

そう呟く俺の名はナナ。そして指差す先に居るのは兎耳ひょこひょこさせた女の子だ。

 

「おま……ロリk」

「違う」

 

ウルクススの亜種――の毛皮にしろ、変わった型だ。オーダーなのかもしれない。とりあえず作っただろうおやっさんに親指を立てたい。

 

なお、尻尾のもふもふさがたまんねーぜ、と口にしたのは俺の双子の弟であるハチだ。

 

「一人かな。だったら誘ってみる?上手くいけばちゅーくらいはできるかも!」

「二十代の半分過ぎたおっさんが何言ってんだよ……ほら、さっさとクエストの紙取って来いよ」

「ちぇー…って、おお!?もしやあの子も俺らと同じクエスト希望か!?」

「何!?オイさっさと行ってこい!」

「任せろ!」

 

女の子との狩は楽しい。装備によってはキノコ採取してるときが至福の時になるからな。怪我の手当てとか言ってちょっとエッチなことできるからな…!

 

上手くいけば夕食にも誘えるしベッドの展開だってあり得る!新人の女の子ほど、年上ハンターには抵抗できないんだよなぁ…げへへ。

 

 

「お嬢ちゃん、そのクエスト受けるのかい!?」

「ぴゃあっ!…あ、あぅ……はい、あの……だ、だめですか……?」

「いやいや、…丁度俺たちもそれ狙っててさ、もしよかったらどうだい、一緒に一狩行こうぜ!」

「でも……あの…」

「あ、もしかして誰かと行く予定?(できれば女の子で!!)」

「は、はい…咲さんと……」

「おお!?(名前的に女の子だな!)じゃあ丁度いいな、俺も兄貴と受けようとしてたんだ!」

「お兄様と…仲がよろしいのですね」

 

 

びくつきながらも丁寧に返していた兎耳ハンターが、弟に応えて手を振る俺を見てふわっと微笑んだ。……か…かわいいいいいいいいいいいいいい!!!

 

可愛いしロリ…いやいや、世間知らずの良い子そうだし、これはベッドコース狙えるな!

ハンターの職に就いてる女ってのは大抵ゴツイもんだけど、あの見るからに華奢で色白な体!十分すぎる上玉ですわ!くぁー楽しみッ!

 

「…分かりました、咲さんと一緒なら…」

「よっしゃ!じゃあその子の分も含めて払っておくよ!」

「え……でも――悪いです、ちゃんとお金払います!」

「いいのいいの。お嬢ちゃんみたいに可愛い子と一狩行けるんだから…!」

 

困ったように慌てる姿もまた好印象だ。思わずハチと同じくにやけた顔で兎耳ハンターを見ていると、彼女は気づいたらしくて「み、ないで…ください…」と兎耳を引っ張った……かわいいいいいいいいいいい!!!夜が楽しみです本当に!!

 

 

 

 

 

「―――金以外にも、払ってもらわなくちゃいけねェみたいだな」

 

 

ハチの顔を掴んだナルガ装備の男は、そのままぐしゃっと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲さん咲さん、このお花きれーです!」

「うん、そうだな。摘んでおいで」

 

 

きゃっきゃとはしゃぐ兎耳ハンター・夜ちゃんは「大好きです!」全開で男に花を見せる。

 

ハチはフツメンがえらい不細工になったまま、血をだらだら流したままの姿でぶるぶる震えていた。

 

(で、出会って早々に『ぐしゃあ』をされるとは思わなんだ…!)

 

あんなに別嬪なんだ、彼氏がいるだろうなとは思っていたけども。

「たまの火遊びもいいじゃないっすか!彼女さんと寝たいんです!」とか開き直ったらあの太刀を抜身のまま口に突っ込まれかねない…!そんな明らかに怖い人と何故に付き合ってるのよ!?

 

「咲さーん!(´,,・ω・,,`)ノシ」

「夜、あまり向こうに行くな」

 

無邪気な夜ちゃんの言葉にだけは、この男も柔らかく返す。

彼女が言うには、用事で住んでた村から出たものの、帰り道が何らかの理由で塞がってしまい、復旧作業待ちなのだという。

まあずっとぶらぶらしてるのも暇なわけで、二人は狩に来たと。

 

夜ちゃんは密林が初めてだったらしく、あっちへふらふらこっちへそわそわで大変楽しそうだ――そんな彼女にべた惚れ(なんだろうな…)な男だが、モンスターが沸きそうな所や遠く以外の場所では彼女の自由を許している。

 

地図で場所の再確認などをしている姿は真面目なもので、俺はそろそろぉっと声をかけた。

 

「あ、あのぅ、俺たちも…そう、採取したいんですが」

「あ?」

「いや、あの……――もうッ椅子を辞めてもいいですか!!」

「却下」

「ひどいっ」

 

……そう、俺はさっきからこの男の人間椅子になっているのだ。orzの状態でずっと…!ああもう、う、腕が……!

 

頼りの弟は怯えて使い物にならないし、あの可憐な少女は初めて見る密林に夢中で気付いていない。見てるのは遠くか空だけだ。

 

「咲さーん!すごいです、これがしんじゅっていうのですか!」

「そうだ。すごいな、夜」

「えへへ、はいっ」

 

海の方に目を向けてばしゃばしゃ遊んでいた夜ちゃんは、頬を染めて男の手に真珠を乗せた。

 

「……どうした、いらないのか?」

「えへへ。おすそ分けなのです!大好きな咲さんにもっともっと喜んでもらいたいから!」

「……よ……夜ッなんて可愛いんだ!!」

「むぐっ」

 

嘘偽りない、無垢で幼い言葉だ。――あのちょっとマジでごめん二人分の体重は死にますッ!

 

「ん…わあ!さ、咲さん!どうしてナナさんを…!?」

「知らないのか夜。ハンターはこうして足腰鍛えるんだ」

「えっ」

「し――信じるな!こんな鍛え方あるわけないだろ常識的に考え…ぎぎぎ…」

「さ、咲さん!大変です、ナナさんが!」

「なんだ、はだしのゲ○みたくなったか」

 

重いんですもう無理、と懇願するのも忘れ、俺は口をあんぐりと開けてただただ「アレ」を見る。

震えているだけだった弟が武器を抜くのに気付いて男が素早く構えをとる頃には、アレは「ぐごごご」と近づいてきて、

 

 

「ダイミョウザザミ……さん…!」

 

 

何か前狩ったのよりも大きい気がして、俺は思わず「さん」付けをした。

震える腕で放り出された笛を取ろうとしたら、俺よりも小さく華奢な夜ちゃんがまるで庇うようにハンマーを構える。

ヤダ、嬉しい…とか思ってるとナルガよりも怖い顔した男に足を斬られそうになったので、慌てて無表情を装います。

 

「夜、無茶はするな。初めての相手なんだ、俺の補助を―――」

 

言い切る前に、まさに兎の如くぴょんと、彼女は駆け出していた。

 

 

「馬鹿っ、飛び込むなんt」

「カニ鍋!」

「」

「カニ鍋!カニ鍋!」

「「「……」」」

「カニ鍋!カニ鍋!ご飯!ご飯!」

 

 

なんということでしょう

 

―――いやっ、ふざけてる場合じゃない!……でも…だけど…なんということでしょう…。

のんびり可憐な美少女ハンターが、大きなハンマーを軽々と振り回し、野性的な掛け声と共に「打つべし!打つべし!」とありえないほどの威力で連続攻撃している…。

 

目はキラキラしており、あのカニさんが食えるものだと信じてらっしゃるようです。

たぶんあんまり美味しくないよ……どうすんのこれ、もう俺、笛吹きたくないよ…。

 

 

「カニ!鍋!カニ!鍋!(;`・ω・´)」

「「「…………」」」

「カニ!カニ!鍋はもうすぐ!カニ!カニ!(;`・ω・´)」

「「「…………」」」

「カニ!カニ!あと少し!カニ!カニ!頑張れ!(;`・ω・´)」

 

 

おいおいおいおいおい!!カニさん死ぬまで頑張れって聞こえるからその掛け声やめろ!

 

「お、お嬢ちゃーん!もうやめるんだ、カニがブチ切れる前に逃げろ!」

「カニ!カニ!(;`・ω・´)」

 

駄目だこの子アホの子だよ……――とりあえず少ないやる気をかき集めて笛を吹こうとしたら、鬼畜ハンター、咲という男がぼそっと呟いた。

 

 

「夜……そこまでカニ食いたかったのか……嫁がそこまで言うならッ俺だって!!」

 

 

そうして料理人(ハンター)が新たに追加された。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「カニぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!(`,,・ω・,,´)ノ」

 

 

まるで彼女を讃えるように雨雲が晴れ、勇ましくハンマーを掲げて勝利の雄叫びを上げる美少女の頬にはミソが飛んでいる。

 

冷淡にバラして狩った男はそんな彼女を愛しそうに見守っていたが、正直男の好みが分からなくなった。……例えどんなに美少女であろうとこれはアカン。

 

ちなみに影の薄いハチは「女の子怖い……」と呟くとキノコを採取し始めた。どんな現実逃避なのだろうか…。

 

 

「夜、さっさと剥ぐぞ」

「食べるのですか!」

「…夜、これ()っといてアレなんだがな、このカニは食えないカニだ。……そもそも食いたいか、これ?」

「食べれないのですか!?た、食べれないのに、私……この子を殺めてしまったのですか…」

「いや、お前がやらんでもこいつらが殺していたぞ。村民に被害が出た時点でしょうがないことだ」

「そうですか……むぅー、チェダーさんがカニ食べたいというから…婚約のお祝いにと思いましたのに……」

「だいぶワイルドな祝い方だな」

「どうしましょう、チェダーさんに食べきれないカニを持ってくると約束しましたのに…これでは嘘つきになってしまいます」

「市で普通の(サイズな)ヤツをたくさん買えばいい。前の狩でたっぷり金貰ったしな」

「うー………―――う?」

 

 

ばさっ。ばさっ。

 

羽ばたきの音に空を見上げると、白い巨体――フルフルが、何故か密林にやって……来た!?

 

え、ちょ、どどどどどどどうしよう、と心臓ばくばくしてる(だってすっごく大きいよこれ)俺を気にせず、羽ばたくせいで起きる風に巻き込まれて飛ばされるハチすら気にせず、マジキチカップルは呑気にフルフルを迎えた。

 

「フルフルさんだー!お久しぶりです!(´,,・ω・,,`)ノ」

「何でこんなところにいるんだよお前」

「ぶおっ」

「うーっ、くすぐったいのです!」

「死ね。マジ死ね」

 

すりすりとフルフルが夜ちゃんに頭をすり寄せる(怖ぇぇぇぇ!!)のに男はガンガンと蹴りを入れていた。ねえやめてよ!喧嘩売らないでよ!

 

 

「……ん?咲さん――フルフルさん、あのカニさんが欲しいみたいです」

「ハッ、欲しけりゃ自分で狩れよ!」

「でも――私はあげたいのです……だ、だめですか…?咲さん…」

「いいぞ」

「やったあ!」

 

 

置いてけぼりの俺などすでに忘れられている。

 

大きなフルフルは慣れた様子で長い首をカニに向けてもごもご(?)するだけで意思疎通(?)できた夜ちゃんのおねだりに男は簡単に許可した。もう駄目だこのカップル爆発しろ。

 

「ぶぉぉー」

「え、ギギさんにあげる?――ちょうどよかった!じゃあこのお花も届けてくれませんか?」

「どうやって届けんだよ夜……」

「爪に括りつければいいのです!(ドヤッ」

「可愛いな、夜」

「えっへん!」

 

きっと見たことないだろうから、と嬉しそうに花を括りつける夜ちゃんと、それをほっこりした顔で見つめる男――と大人しいフルフル。割とシュールである。

 

 

全てが終わる頃にはフルフルは無理やり丸め何とか上手く持ち上げると、羽をばさばささせてじっと二人を見つめていた。

 

「あと、ベリオロスさんたちも誘ってくださいね。皆で食べた方が美味しいのです」

「ぶぉー」

「それでは道中、お気をつけて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ていう、狩があったのよ……」

「ははっ、嘘つけよぅ!フルフルに話しかけてすり寄られてもきゃいきゃいできるハンターなんて――それも女の子だろ?ないわー」

「マジだって!あれ以来弟はロリに近寄らなくなったよ…」

「良い事じゃん――あ、そうそう」

「なに?」

「いやさ、そのフルフルで思い出したんだけどー、ユクモ村の近くに凍土があるじゃん?」

「うん?」

「その凍土の奥でさー、なんか煙が出てて、不思議に思った調査隊…おれの幼馴染が見に行ったらモンスター共がモンスター食ってるって」

「共食い!?」

「そいつビビりで新人だからもしかしてちゃあんと宴を見れなかったのかもな、本当はカニ鍋してたりして」

「ふーん……」

「フルフル、楽しんでたかねえ」

 

 

 

 

 

その後、カニは凍土のみんなの好物になったらしい…。

 

 

 






◆補足◆


・夜は元モンスターの名残で「聴力+腕力が人間以上」。狩りにもだいぶ慣れたのでちょっと好戦的。でもモンスターだったころの性分か、倒すからには「食べる」などの理由で以て狩ります。死を無駄にしないというか。
そして食いしん坊なので張り切ると目も当てられない……やろうと思えば大きい猿さんだって引きずり回せるよ!

・フルフルさんは雪山以外の所にも飛んで行ったり。新作(書ければ)への伏線ですたぶん。




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【リア充】ハンターってどんな生活してんの?【爆発しろ】

※これは「もしもモンハン世界に某巨大掲示板があったら」の話です。

※多分下品ですのでご注意。

以上、ご注意ください。






1.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

ハンターって毎日どんな生活してんの?

 

2.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

狩り

 

3.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

マジレスすると後輩の弱そうな女の子に「一緒に一狩り行かない?」って誘ってよしんばベッドに誘う生活

 

4.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>3

俺初心者なんだけどさ、まさにそんな場面に会ったわ。

 

珍しい黒い兎装備の女の子が受付の近くでうろうろ(なんか怖がってた)してて、人見知りなのかなーって思って声かけようとしたらチャラいハンター三人に囲まれてびくびくしてた。

初めて街に来た子だとしたら可哀想だなーって思ったんだけど三人ともチャラいくせにさ、剣士だからかガタイが良いのよ。無理ゲーと思ってギルドの人呼ぼうとしたら「おい」って低い声がして見たら イ ケ メ ン 登 場 。

その後ろでブナハのハンターが何か分からんけどブナハのガンナー美女に慰められててちょっとカオスだったんだけど、すぐにぴゃーって女の子がそのイケメンに抱きついて装備の兎耳ふるふるして震えてんのよ。マジ可愛い。…って思ったらナンパハンター三人が太刀でぶん殴られてたったwwwww倒れたハンターの頭踏んで受付に紙出してたwwww鬼畜wwww

 

その後、イケメンと兎装備の子は仲良く手を繋いで無事狩りに行きました。

 

5.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

長い。産業

 

6.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>5

イケメンは

何しても

イケメン

 

7.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>4

ていうかブナハップルが謎過ぎるwww

 

8.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>7

俺も謎だったわ。そしてめそめそしてるブナハ男と巨乳ブナハ美女もイチャイチャしながら狩りに行ったの見て思わず壁殴った。

 

9.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>8

美人の選択基準っておかしいよな

 

 

爆発しろ

 

10.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

ていうかハンターってリア充しかいなくね?多少ブサでも恋人いるイメージ

 

11.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>10

ところがどっこい、美人が多い。

 

12.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>11

嘘つけ、筋肉の塊みたいなのとかいんだろ。

 

 

 

美人さんいっぱいのギルドを教えろください。

 

13.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

あとハンターの恋人も美人率高くね?俺なんてさっき一目惚れしたんだけど

 

14.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>13

kwsk

 

15.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>14

いやね、ちょっとギルドに依頼頼もうかなーって思ってたらさ、白い帽子を被った慎ましいていうか清楚な女の子が木陰でじーっとしててさ、小さな鞄を弄りながら待ってるのか休んでる姿がいじらしいていうか萌えるっていうか萌えましてね、声かけようかなって思ったらギルドから所々土埃とか付いてる銀髪のガンナーが出て来てね、その瞬間女の子が頬を染めてガンナーにね……うっ…(´;ω; `)

 

16.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>15

一目惚れ終了wwwww

 

17.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

しかもその子ね、銀髪の地味に顔の整ったガンナーの頬が怪我してるの見つけてすぐに鞄開けてね、優しく薬塗ってあげたの…。

二人は身長差がそれなりにあってね、塗ってあげてる間、女の子は一生懸命背伸びして塗ってるの。ガンナーがそれに気付くとね、ふにゃって顔して目線合わせたのよ。……女の子が更に真っ赤になってわたわたして「小さくないもの!」ってね……

 

18.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>17

もういい!もういいんだ…

 

19.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>17 地味に整った顔が~

に、お前の全ての悪意を感じたwwww

 

 

 

ちくしょう……

 

20.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

そういえばブナハのカップルって意外と少ないよな

 

21.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>20

女は良いかもしんないけど男はアレだしな。素材が悪いと大惨事だし。それに紙装備とまではいかないけど弱いし。

 

22.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>20

お揃いにしなくても俺とお前の心はいつも揃ってるだろってことだろ

 

23.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>22

やだ……格好良い…///

 

24.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>22

惚れた

 

25.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

あ、でも私の村にブナハップルいるよー

 

26.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>25

知り合い?だったらスペックも含めてkwsk

 

27.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>26

 

ブナハガンナー(♀)

美人、巨乳。銀髪と足が美し過ぎてヤバい。しかし残念美人で家事無理だし何か色々アレな人

 

ブナハ剣士(♂)

もう一人のハンターには劣るけど整った顔してるっていうか可愛い顔してる。奥様方に人気だけどもう一人のハンターがイケメン過ぎて票割れしてるっていうか…ガンナー姉様の世話してる

 

28.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

んで、ガンナーさんが豪快な人でよく私服に銃持ってどっか行って帰りに何か仕留めて帰って来るんだけどさ、大抵近所にお裾分けしてんのよ。

そんで親戚から美味しい魚貰ったからさ、いつものお礼しようと思って家行ったら剣士が出て来て「あ、ありがとうございますー」って主婦かってぐらい違和感なく…出るのが、いつものことなのに、何かその日は慌ててたのね。

 

29.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

あ―、これはヤることヤってたなって思ってちょっとね、野次馬根性丸出しで位置変えて(そしたら居間が見える)見ようとしたら居間から顔真っ赤で熱出てふらっふらのガンナーさんが出て来て、「飲もうとしたら落としちゃった…」ってしょぼんとしながら言う姿に萌えた。

 

普段勝気っていうか元気いっぱいな姿しか見たことなかったからさ、すんごいギャップがあってそのまま見てたら剣士が子供に言い聞かせるみたいに「気にしないで」とか「寝てないと」ってあやしてて寝癖のついた髪を優しく撫でて、ガンナーさんは剣士の胸っつーかエプロンに顔突っ込んで服握って放さないのよ。ああもう、これは……

 

 

ネタにするしかねーなって思って執筆作業に戻りました。

 

30.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>29

やけにくそ長いと思ったら作家かよwwww

 

31.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

普段はNTR物とか書いてるんですが、今回は純に行きたいと思います。もし良かったら買ってね

 

32.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

おい……おい……

 

 

エロは入るんだろうな

 

33.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>32

未定です。

 

まだネタがあったんですけどいいですかね?

 

34.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>33

早くうううううううううううううううう!!!

 

35.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

この前祖母の墓参りに行こうとしたらまだ若い男女が墓参りしてまして、「あー、確かあそこって滅多に人の手が入らない所だよなーって思って見てたら、あの奥様方の人気半端ないイケメンとその彼女(同居してる)で、彼女が丁寧に花を生けてた。

ちなみにその子すんごく良い子で可愛い子なんだけどあんまり外出ないっていうか。出てもイケメンと一緒とかばっかでね、あの雪っ子のような肌羨ましいわんってオバサンは思いました。

 

36.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

そのまま墓掃除も片手間に二人の方に意識を向けてたら彼女が「私が義母様の分までイケメン(名前伏せとく)さんを幸せにします。だから、ずっと一緒にいましょうね」って微笑んでからぺこりと頭を下げてね、イケメンって普段顔変わんないっていうか強面イケメン?いや、雰囲気怖いんだけど、その瞬間泣きそうな顔してたのね。直ぐ戻ったけど。

 

イケメンは「そうだな。幸せになろうな」って言って彼女のちっこい手を握ってのんびり帰ったんだけど、帰る彼の後ろ姿からはあの怖い雰囲気が無くて、ほのぼのした雰囲気でした。……きっとあの彼女がそう変えちゃったんだろうなあ。

 

 

 

ただ、彼女そう宣誓する時に、視線がイケメンの背後に行ってたんだよね…。

 

37.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>36

えっ……えっ?

 

38.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>36

最後のオチェ……

 

39.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>36

ぎゃああああああああああ!!!

 

40.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>36

ホラーwwwwwwwww

 

41.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

ホラーな流れ切ってごめん、相談いい?

 

42.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>41

ホラーじゃなければおk

 

43.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>41

むしろ流れ変えろ

 

44.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

じゃあ相談。

 

実はね、もう最近滅茶苦茶なのよ。俺の友人が結婚間近なんだけどさ、その友人、すっげー良い人なんだけどお調子者で男女問わず人気でさ、婚約者はめっちゃ美人なのよ。普通の一介のハンターwwじゃ釣り合わない良いとこのお嬢さんなの。高値の華なのよ。

なんか馬車に襲いかかったモンスターを倒して云々のテンプレみたいな出会いだったらしんだけどね、最初はそりゃもう二人の仲は悪かったの。助けて貰ったのにお嬢さん友人に対してツンツンどころかグサグサでさ、そのくせ毎日会いに来る……そう、お嬢さんはツンデレだったわけだ。

対して友人は温厚だしさらっと流すのが上手だし根に持たない、友人としては最高なんだけど、多分恋人にしたら不安になっちゃうタイプで、暖簾に腕押しっていうか、お嬢さんのツンツンも全然気にしてなかったし逆に場を盛り上げたりとかね、もうマジで良い奴だったのよ。

 

45.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>44

続きはよ

 

46.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>45

ごめん、酒飲んでて遅れた。

 

だけどね、ある日酒の席でお嬢さん狙いのハンター(女々しい系ハンター)が友人が捨て子だったって事を言ったのよ。

ちょうどその頃父の日でさ…友人は養父をすんげー慕ってて、別に捨て子ってことには深く悩んでないって言うか傷ついてないっていうか、義父が父だからって態度なんだけど、「いつか本当の親父にプレゼントとか出来るといいねwww」みたいなこと言って、お嬢さんに「捨て子ェ…」って態度とらされるとこ見たかったんだろうけど、友人はスル―の態度だったし、お嬢さんは引く所か……なんだろ、最悪の方に行っちゃったというか。

 

47.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

「悲しいとか、怒りとかないの?」

…って、前半友人の境遇で、後半はそのクソ男に対してだと思うんだけど、友人は「べっつにー?」と超軽いノリで返したのよ。じゃないと場の空気が重すぎるし、本音は違うと思うけど。

そのまま煮え切らない返答をしてた友人に、気位高いっていうか、友人の自分を下げてしまうような雰囲気にお嬢さんが切れてね、「どうしてそんなヘラヘラしてられるの。自分のことをどうして下げていられるの?」って言ってね、「下げてないってー、のんびり(食事)しようよー」って友人が返したら「あなたのっその事なかれ主義が大っ嫌い!そんな生き方してて恥ずかしくないの!?」

 

48.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

って言ったら「恥ずかしくないよ。この生き方をしてた義父さんをずっと見てたけど、そんな悪いもんじゃないさ」って血の気の上がったお嬢さんには分かんなかっただろうけど割と真面目な顔で言ったのね。そしたら

「じゃああなたの生き方はお父さんの真似事なの?…怖がりの負け犬の生き方じゃない!」

ってね、いや、お嬢さんも悪意を持って言ったんじゃなくて、「なんで謝罪を求めないんだ」って言いたかっただけなんだろうけど、義父を尊敬して生きてきた友人はキレてね、「…もう一回それ言ったら女でも殴るぞ」的な?インパクト強すぎて覚えてないんだけどそんな感じでキレて、席を立って次の日にはもう街にいなかった。

 

49.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

意外と重いな……

 

50.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

そしたらお嬢さん、毎日目を腫らしてギルドに来るのよ。あ、お嬢さん狙いのハンター(クズ)は仲間内でハブられるどころかハンマー担当に〆られてどっか行った。

 

51.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>50ハンマー担当に〆られて…

 

え、割とヤバくねそれ?

 

52.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>50

俺だったら泣いて詫びるレベル

 

53.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

もう打つのも辛いから適当になっちゃうけど、

 

・友人は義母の誕生日に行って義母の村(出身地じゃなくて引っ越し先というか…くそ暑い所)のモンスター被害が酷い事になってたから討伐中。

・一応予定狂ったから仲間に伝書鳩送ったんだけど鳩が熱さで死亡(笑う所。なんで砂漠地帯で鳩なんだ)

 

結局戻ってきた頃はお嬢さんが鬱になってて、ヒッキーに。

友人曰く「マジの喧嘩って久し振りで、どう仲直りすればいいか分かんなくて…」って言って砂漠の夜に咲く、超珍しい蝶の羽みたいに繊細な花持ってお嬢さんに会いに行った。

鬱で自傷やってたお嬢さんは泣いて花もどっかに抱きついたらしく、「ごめんなさい」ってずっと謝り続けたらしい。

そしてスッキリした所で、超良い笑顔で「あなたに謝ることが出来たら死んでもいいって神様に願っていたの」とナイフを首に当てたらしい。

 

54.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>53

その友人ぶっ飛ばしたくなったな…

 

55.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>53

またこの世に新たなヤンデレが生まれたのか…

 

56.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

しかしまあ、結果は友人にトラウマと手の怪我を残した程度で済み、場の空気を操ることに長けた友人の誘導で久し振りに部屋の外に出て、陽の光でくらっときて即入院。

 

57.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>56

吸血鬼かよwwwww

 

58.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

で、まあ端折るけど、友人が病院に毎日通い続け、やっとの退院の日、意外なことにいつものシャンとしたお嬢さんに戻った彼女を連れて、「付き合うんだ」って。病んだ雰囲気なんかなくて、ちゃんと軽口も言える状態まで回復したお嬢さんにデレってして、しっかり者のお嬢さんに甘えたりとか、時々真剣な声で「こら、そっち危ない」っていって自分の陰に隠して男らしいことしたりしてさああああああああああああ!!!死ね豊受ぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇええええええええ!!!

 

59.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

((((;゜Д゜)))ガクガクブルブル

 

60.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

本当のヤンデレは>>58だったでござるwwww

 

61.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

ていうかどういうこと?俺女だったの?それとも男なの?

 

62.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>61

女だよ!豊受が好きで頑張ってガンナーになったんだよ!!本当は寂しいのが嫌いで、だから事なかれ主義!皆といっつも明るく笑っていたいから!!でも自分をしっかり持っててふざけてるように見えて自分には厳しくて心の広い所が大好きだったんだよくそがあああああああああああああああああああああああああああああ!!

 

なんであの女!私よりも弱くて面倒臭い女を選んだの!?そりゃ医師免許持ってるくらい頭の良い人だけど!美人だけどそれだけじゃん!!メンタル弱過ぎて全然駄目駄目じゃん!!馬鹿じゃないの!?馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!

 

 

 

 

……って、思っていた時期がありました。

 

63.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>62

ビビったwww心境の変化kwsk

 

64.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>62

泣きそうになったじゃねーか!!

 

65.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>63

これ二年前の話でして、今は結婚間近の彼らに対し、私は婚約…を、申し込まれました。

友人が結婚するんだってーって話してたら迫られました。……ごめんなさい、友人の結婚云々関係なかったwwwテンパってたwwww俺って使ってたのはフェイクのつもりww

 

…そしてまあ、その続きで、流石に怒り狂うというか、嫉妬に負けて>>62みたいなこと本人には言わず、ただがむしゃらに狩りをしてモンスターを惨殺して街を流れる毎日に変えていたら、七歳年上の彼に出会いました。

硬派というか、ずっと独り身で、規律にも厳しい彼はヤバ過ぎる私に目を付け、度の過ぎた惨殺行為を止める為に狩りに同行しました。…つまりアレです、身分を隠したギルドナイトだったんです。

 

66.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

ギルドナイトさんって優雅なイメージあったけど、キチガイ相手にしなくちゃいけないのか…

 

67.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

あいつらってそういう仕事が主だろ?

 

68.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

で、その頃の私は恋心が暴走して斜め上というか、もう一人で生きていってやらあと…男に負けたくなくて、彼の言うことなんて聞きませんでした。

酒を飲みまくって飲酒後の狩りは禁止されてるのに行ったりとか、危険行為は何度もやって生き急いでました。

その結果血を吐いて倒れてしまい、入院。クエストは彼一人で終わらせ、私は今までの反則行為もあってそれを機にハンターライセンスを没収され、入院中は情けないやら将来の不安やらで面会拒否してました。

そのくせ寂しくて泣いてばかりで、病院の食事もとらずに不貞寝していたら、彼が無理矢理病室に入って来ました。ブチギレてましたね。

 

69.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>68

どっちが?

 

70.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>69

彼が、です。

私は怒鳴られている間、もう何の価値も無い私に会いに来てくれて叱ってくれることが嬉しくて、だけど素直の素の字もないので、「言いたいことは全部言った?じゃあさっさと帰って二度と来ないで…ああ、違ったわね、もう会いに来る必要ないものね、こんなキチガイ監視する必要なくなって良かったね!」と言ってしまって喧嘩。退院しても彼はもう会いに来てくれませんでした。

 

71.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>70

やだ…下手な小説より面白い…

 

72.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>71(´;ω; `)

 

73.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>72

お前まだいたのかよ作家wwww

 

74.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>72

作ww家wwwww

 

75.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

しばらくの期間、私は仮住まいに住めましたが…就職先に悩みました。だって悪評というか、私のキチガイっぷりは一般人でも知ってましたし。実家に戻るにも、親に何て言えばいいのか…かつての仲間にも、友人にも言えませんていうか会えませんで、私はもう身体でも売っちゃおうかなーっとその手の店に相談したんです。

 

76.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>75

女の子が簡単に身体売るなよ…

 

77.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>76

あ、結局売ってません…だって、無理ですもん。

だけどその時の精神状態がヤバくて、もう唯一の価値だった「ハンターである」ことも失くした私に価値は無くて、もう誰にも会えないならいっそどん底に落ちるか、みたいな。

 

だけど友人の「女の子なんだから」って、昔私に気を使って庇ってくれた時の、あの言葉が私の足を止めてて、この道に入ったら「女の子」じゃないよなあなんて。

そしたら新しい剣を背負った彼が私を見つけて、思いっきり頬を叩いて来ました。

 

78.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

彼は私の破滅思考にはうんざりだと、一度の失恋(酔っぱらって話してしまったことがあります)でここまで堕ちるとか馬鹿たれとか、顔を真っ赤にして、ずっと叱ってくれました。

そのままお持ち帰り(エロい意味ではなく)され、私は彼に保護されたのです。

 

79.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

仮住まいに戻ろうとすると「身売りとか考えるだろうから駄目」と、帰させてもらえませんでした。…ある意味監…いや、軟禁されてました(笑)

その間、私はぼけーっとしてまして、ある日新聞記事を読んだら、例の娼館の娼婦が刺殺されたという記事が。刺殺事件は今までもあったのですが、店側が新聞屋に金を渡して隠蔽していたらしいです(ギルドの圧力で公開しました。あとその店は潰れました)。

他にも女性が殺されており(結果、犯人は彼の上司の寝技で捕まったそうです)あの日の再会やら軟禁やらを思い返して、すごく自分が恥ずかしくて、嬉しかったのです。

 

80.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>79

早く!ネタにするから早く!!

 

81.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>80

作家wwww帰れよwwww

 

82.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

ていうか、凶悪犯を寝技で捕まえる上司やべぇ…

 

83.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

同情でもいい、誰かに心配して貰って…思い返せば軟禁中、不自由のないように(私無反応でしたが)色々してくれて、……なんか、久々にスッキリしたんです。

 

それからは心を入れ替えて、家族で切り盛りしている喫茶店で働き、ハンターの頃の仲間にも、友人にも全て(流石に失恋云々は書きませんでしたが)手紙で伝え、ハンター業を廃業して元気にやってると伝えました。一番早く友人から手紙が来て、今まで心配していたことと、気付いてやれなかったこと、助けが必要なら絶対行くから呼んでくれと、昔のままの温かい内容でした。

 

その後、ほぼ毎日会いに来てくれた彼と色々あって付き合い、昨日求婚されました。……長い前置きでしたね(笑)

 

84.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>83

いいんだよ。吐き出す事で楽になるんなら

 

85.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>84

ありがとうございます。

 

…で、相談というのがですね、私、彼の顔が見れないんです。

 

86.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>85

…………ん?

 

87.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>85

……………え?

 

88.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>86-87

すいません、途中で間違って……いえね、何か昔の黒歴史とか、今までの彼の誠実ぶりとか、何かもう思い出すだけどころか彼が私の名前呼んだり目の前に来られるとね、恥ずかしくて…それに、彼の顔って好みドストライクなんです。……後天的な。つまりですね、ベタ惚れなんです。軟禁から交際初期までは彼がベタ惚れで、交際後期から今は……私も、あの、ね?

 

89.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>88

おめでとう馬鹿ップル。

 

 

 

末永く爆発して失せろ

 

90.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

彼も私の照れを分かっててですね、色々…そりゃ、黒歴史時代にモンスターの歩く餌代わりにやったりとか、私も色々意地悪しましたが

 

91.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>90

それもう意地悪で済まないレベルwwww

 

92.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>90

ていうか両想いなんだし、照れて顔が見えないなんて長く一緒にいりゃあ慣れるだろ。別に問題じゃ無くね?

 

93.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>92

いえ、これが結構問題で……俯くだけじゃなく、話せないんです。他の人には平気でしゃべるのに、彼相手だと無言。まだ軟禁の時の方が喋ってたレベル。急に昔の頃のように精神的に落ち着いたらなんか……うひゃあああああ……。

 

94.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>93

今まではヤンデレかキチガイと思ってたが、案外純朴っつーか、根の幼い奴なんだな。

とりあえず何度も言うが、それはもう時間が解決する。

 

95.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>94

そうなんですよね……。

そしてもっとネックなのが、…彼の職種というか…。

 

彼は社会的地位も高いし、こんなマジキチハンターでライセンス取り上げられて喫茶店で働くただの女で、しかも娼館で働こうかとか考えるはしたない女です。彼が職場先で、私のせいで何か言われたら…今、悩み過ぎて彼に会えないっていうか会ってません。

 

96.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>95

考え保留で会ってないって、多分向こうは振られたって思ってるぞ。

それにはしたない女と言うが、精神的におかしい時期だったんだし。職場先云々も、そいつの性格を考えればよく考えただろうし、そうじゃなくてもお前の安全を違法なやり方だが守ったんだ。気にしないはず。

そんな真っ直ぐなのに求婚されたんだ、自分卑下してないでさっさと返事返してやれ。恥ずかしいんなら抱きしめて頷くだけでいいんだ。

別に飾った愛の囁きなんて用意しなくていい、ただ早く会いに行って一回のキスでも出来たら上々だろ?

 

97.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>96

惚れた

 

98.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>96

///

 

99.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

遅れました。

>>96さんの言う通り、彼の職場前、懐かしのギルド前で彼を待っていました。

私を見て吃驚(迎えに来たの初めてですからね…)していましたが、彼の手を握って「……(婚約)する」と行った所、彼は固まったあと、嬉しそうに破顔して

 

 

 

宿に連れて行かれました……

 

100.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>99

………ん?

 

101.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>99

ちょwwwww喰われたwwww

 

102.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>99

純粋にそういう意味にとったのか、それとも狼だったのか…

 

硬派で誠実キャラどこいったんだよギルドナイトwwwww

 

103.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

私が「えっえっ!?」となっている間に着いた宿。すごく高値の宿で、

 

 

 

ご飯が美味しくて有名な所でした。

 

104.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>103

釣られたじゃねーかクソがあああああああああああ爆発しろ!!

 

105.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

どうやら今日、無理にでも(あ、ちなみに今日は喫茶店はお休みです)家から引っ張り出して食事をするという名目で、もう一度求婚し直したかったそうで、「コーヒー持って来た時に求婚とかする予定じゃ無かったんだ…」とか「ちょっと爆走して…」とか何とか言っていましたが、二人で照れながらご飯を食べてそのまま泊まって家まで送り届けられて現在です。

 

106.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>105

エロは!?エロはないの!?

 

107.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>106wwwwwwww

 

 

末永く爆発して生きろよ

 

108.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

皆さんありがとうございました。

これからは、自分を軽んじずに、見捨てないでいてくれた彼を愛して生きていきます。

 

109.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>108

 

せいぜい幸せになれよ

 

200.以下、名無しにかわりましてハンターがお送りします

 

>>200

 

乙!式場が爆発するくらい幸せになれよ!!

 

 

 

 

 

 

モンハン世界にだって某巨大掲示板がある……わけないね!

 




追記:

今回の擬似スレ(笑)では、ss過ぎて書くのを放棄したネタ救済作です。

第三者の目からだと我が家の馬鹿ップルはどう見えるのかを表現したかったのですが失敗に終わった感が…最後の長いお話はこれで新章やろうかなと思って中止したお話の大雑把な救済です(笑)
豊受の彼女について何も語ってないなあと思ったので新作の都合上出しておきました。
ちなみに豊受に片思いしていた彼女の名前は「アリス」ギルドナイトの彼は「アーサー」でした。二人の恋愛は色々引っかかりそうなので「なろう」では載せられないという……。


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人物紹介

今までお付き合い頂きありがとうございました。

 

ラストは登場人物紹介+あれやそれでございます。

 

 

 

 

 

*木花《コノハナ》 夜《ヨル》 (外見年齢16に見えるかもしれない)

 

名前の由来:最初、咲が「黒」で紹介したら皆に却下され、「夜」になった

 

髪/瞳:(チョコっぽい)黒/青 

身体:棒っきれみたいだけど美乳。着痩せする子。雪っ子なので肌は白い

ハンターランク:下級・剣士 武器:基本的にハンマー

装備:モンスター時の自分の体毛を装備にしているので、防具だけはG級

オトモ猫:咲と共有

住所:咲と同居。名字も咲から借りた。まあ、結婚する予定だから(ry)寝室も実は一緒。…部屋は与えられているんだけども……

 

・当初は悪戯っ子のはずが…純なのほほん兎に変わりました…うん…。

本編前半までは夜ちゃんが「咲さん!咲さん!」の勢いだったのに、後半になるとヤンデレがギラギラした目で追いかけてくる展開に…ぎりぎりの均衡でのほほんとした関係を保っているように見えますが、意外と安定した仲です。

 

 

<i47755|461>

ちなみに服装はなんちゃって中華+洋風。しっかり着こんでてタイツの下に温かそうな靴下履いてヒールの低い靴を履いてます。上から下まで上等な服で、咲ちゃんが選んでます(偶にチェダーお姉さん)。そのせいか余計ロリ臭く見えますが…え、いや、咲ちゃんの趣味じゃない…です。安全第一な格好をさせてるんだと思います。

 

<i47756|461>

装備はこんな感じ。色んな防具の可愛い所パクッたような…とか言っちゃ駄目。後ろは可愛い尻尾が付いてます。

 

 

・ベジタリアンで温和な子ですが、芯は強くて意外と情熱的(好きな人の為に死んでしまうかもしれないけど庇ったりとか)。母性面では自分の庇護にある子に危害を加える子には勇ましく対峙する、…のに、何かなよなよしい女の子。

 

 

 

 

*木花《コノハナ》 咲《サク》 (23歳)

 

名前の由来:日本神話の木花咲耶姫《コノハナサクヤヒメ》からとりました。

 

髪/瞳:セピアゴールド/茶っぽい金色

身体:スウィーツより背が高い。筋肉質で抱きつくとがっしり。でも着痩せする子。マッチョ体型では無い

ハンターランク:上級・剣士 武器:太刀

装備:機能性を重視する方

オトモ猫:ネーミングセンスゼロなので色から名前を付けてる。基本的にオトモを連れてかない。

住所:賑やかな通りから少し離れた所。めっちゃ和って感じの家。だが、内装は案外そうでも無かったり。

 

・当初は無口だけど面倒見のいい、住んでた村がモンスターに襲われて云々とありふれた設定にする予定の人でした。

ちなみにユクモ村⇒なんか豊かそう⇒女の子っぽい名前がいいな⇒咲にすっか!の謎な展開から名付けました。べ、別に「サクっと殺っちゃう」とかそういう意味ではないんだからね!

 

服装は機能性重視。質の良い服を着てます。…が、案外ダボダボしてる…母親(葉っぱ大好きver)の手によって付けられた怪我を隠す為だったり、意外と気にしている模様。

 

・自分の家族がぐっちゃぐっちゃだっただけに、どうしても幸せな家庭が欲しい人。だから彼はヤンデレなのに危ない道に突っ込まないのかもしれません。

 

しっかし…兎(推定16)をギラギラと狙う狼さん(23)。もしかするとこれはロリ……ごふんごふん。

 

 

 

 

*イーシェ・チェダー (21歳)

 

名前の由来:旦那《スウィーツ》と最初の文字が一緒でチェダーの「チェ」と似てる感じならなんでも(ry

 

髪/瞳:銀/薄紫

身体:ナイスバディで美脚が自慢。胸は夜よりも大きい。少し身体が弱いけど元気いっぱいな子

ハンターランク:上級・ガンナー 武器:ライトボウガン

装備:ブナハ装備 ※頭はハット

オトモ猫:チーズ関連の名前付けてる。雇用主が滅茶苦茶な人だから猫達にとって雇用環境は最悪。

住所:ゲームでハンターさんが寝泊まりしてる所。内装は洒落てる。豚は飼ってない

 

・意外と最初から最後までキャラのブレなかった唯一の子。天然・ヤンデレ・通い妻とキャラの濃いユクモハンターズのまとめ役。みんなのお姉さん。ちなみに実戦でのまとめ役(というかリーダー役)は経験豊富な咲ちゃん。

銃の腕前が神がかっており、実は豊受よりも命中度は高い。しかし身体の弱さがネック。

 

お洒落さんで私服は胸の開いた物ばかり。何かそっちの方が楽らしく、外でそうなんだから中は…室内着に関しては何度かイリスに正座で説教を受けてます。イリスと婚約してからはだいぶ露出を押さえた服を着たりする分、まともな感性は持ってます。

 

・俺様気質ですが意外と甘えたさん。物語裏ではだいぶイリスに甘えて甘えて虐めている、何か猫みたいな子です。気ままにフラッと外に出て戦利品(狩った獲物)を持って来る所とか特に。

 

 

 

 

*イリス・スウィーツ (18歳)

 

名前の由来:ギリシャ神話の虹の女神様から。他はチェダーと同上。男に「イリス」は恥ずかしいと思いますごめんねっ

 

髪/瞳:茶髪/緑

身体:細い。細いけど筋肉はある。でも咲と比べると細い……

ハンターランク:上級・剣士 武器:双剣 ※狩り団子がお気に入り

装備:チェダーとお揃いブナハ装備。クエストによってはちゃんとしたの

オトモ猫:お菓子の名前を付けてる。良い意味で世話のし甲斐のある人

住所:チェダーの近所。玄関先でお花を育ててたり。上品な感じ

 

・最初はしっかりしてて男らしかったのに何がどうなったのか泣き虫通い妻になった子。村の奥様方にはジャ●ーズ的なノリの人気、というか、何か可愛い顔してるので人気。

狩りの腕前としては周りにヤバいくらいの才能(咲ちゃんとかイーシェお姉さんとか)がいるだけで、この歳にしては結構な有望株。笑えるくらいペイントボールが上手に投げれない。そして何故か青い熊さんに蜂蜜ぶん投げられる。

 

服装は木綿のシャツにカーディガンとか自分で編んでたものを着たり。垢抜けてるというか坊っちゃん臭の漂う服を着てる。無駄にエプロンが似合う。

 

・へたーとしてるけど泣き虫だけど通い妻だけど、根性出せば出すだけ出来る子。しかし根が(ry)なので駄目駄目ちゃん。でも最近は「がんばるお!(`・ω・´)」状態でイーシェお姉さんに良い子良い子されてます。今日も頑張るオトメンに声援をどうぞ。

 

 

 

 

*豊受《トヨウケ》 (23歳) ※名字設定がありませんwwww

 

名前の由来:日本神話の豊受大神からとりました。

 

髪/瞳:赤茶/オレンジ

身体:咲ちゃんと同じくらい。案外がっしりとした体型

ハンターランク:上級・ガンナー 武器:ヘビィボウガン

装備:暑苦しい感じのは嫌い

オトモ猫:和食から付けてる。(例:"生姜焼き"とか)…あれ、割と酷い…

住所:義父への恩返しに金を稼ぐのに忙しい為、高給クエスト探してあっちへふらふらそっちへふらふら。しかし婚約者の所にこまめに帰る人。

 

・本当だったら出さない予定の人なので、登場時から夜ちゃんと会う頃らへんまでだいぶフラフラのキャラでした。

彼の出生に関しては「食べ物の神様」の神社で捨てられた所を、畑の実りの良くない義父がお参りしに行った所で発見⇒育てるという、そんな余裕があるわけじゃないのに育ててくれた義父に頭が上がらないという設定です。

 

服装に関してはチャラい。しかし良い人そうな顔のせいで何か良い感じにマッチ。陽気な雰囲気です。

 

・馬鹿そうで呑気そうなのに色々と考えた上で馬鹿をやってくれる…ように見えて馬鹿だったりと、だけど本当に良い人で寛容。だから男女共に人気なのかもしれない。

咲ちゃんはチャラい人が大嫌いだけど、豊受のそういう人望のある所とかは尊敬してたりお節介な所も有難いと……思ってるけど本人に言ったことはない。

 

 

 

 

*シェリー

 

豊受の婚約者というか妻になるのかおめでとうございます。

医師免許を持っており、家も裕福。医大の帰りの馬車でモンスターに襲われた所を王子様ばりに助けてくれた豊受に一目惚れ。ツンデレ娘なので普段ツンツンだが、実は思いやりのある子。「好きな人を傷つけてしまった」と自分を責め続けてツンデレからヤンデレにランクアップしたけど、今ではヤンデレのヤの字が見える程度の回復を遂げた。

 

 

 

 

*イース・チェダー

 

実は年齢決めてない…。

寡黙で読書とかが趣味。呑気で偶にオネェ臭くなる父親に元ヤンの今は立派な母親、女たらしの兄に俺様な姉と、濃すぎる家族の中で一番落ち着いててまともな子。

不正とかが嫌いなので、エリスを助けられなかった負い目から殴り合ってでも帽子をとり返したりと何か頑固な子でもあります。

 

武器は弓で、お姉さんと同じく狙いは良いです。現在と言うか、エリスと一緒になって落ち着いた頃には子供の頃からの夢だった学者さん業もやるようになりました。

モンスターの生態云々の学者さんで、ちょくちょく(護身用の)弓持って調査に行きます(その頃甘味とチーズは徐々に仲良くなってます)。

 

最近はわざと怪我をしてエリスに怒られながら治療してもらうというささやかな悪さを覚えて来ましたが、純朴な子で真面目さん。

咲ちゃんはそういう所がお気に入りでした。

 

 

 

 

*エリス

 

薄茶の髪に碧と金茶の瞳。村の外れというか森の祖母の家でお薬作って暮らしてた女の子。

イースと手が触れたり目が合ったりするだけで何か幸せになれる、今時珍しい初な子。

最近の悩みはイースが何かとからかう(可愛がる)こと。大人になったなぁと思いつつ、毎日あうあう状態だったり。

 

ちなみに「帽子を持って」編終了後、夜ちゃんとは文通仲間に。色々勘付いていますが、あえて突っ込まずに夜ちゃんとは良い関係を築いています。

 

 

 

 

*イーノ・チェダー

 

イーシェお姉ちゃんの弟でイースの兄。イーシェお姉ちゃんの下着パクったり部屋がアレ過ぎたのは全部この人。

顔は良いのに漂う残念臭といい、彼を知る人は「残念イケメン」と呼んでいます…が、「そんな所もカッコイイー!」と毎日黄色い声援を貰っています。

ちなみに好きなあの子はツンデレですが相思相愛だったりする。

 

 

 

 

*???

 

チェダー家の妹さん(一番下)。色んな所で忘れてたけど設定上いました。名前書いてないけど。

夜ちゃんと同じくのんびり天然さんで、彼女は彼女でストーカー一歩手前のハンターさんに狙われてるらしいとの設定。もしネタが上がったら別作品としてあげるかも。

 

 

 

 

*アリス

 

「狩人掲示板」の最後の相談してきた元ハンターさん。実は「帽子を持って」編の次に書こうか悩んだ。

豊受が好きで好きで結局は叶わず自暴自棄になるも、ギルドナイトのアーサーさんとバイオレンスな狩りをしたりとかお互いやきもきしたりとか軟禁されたりとか色々あった後、無事婚約しました。

 

 

 

 

*アーサー

 

「狩人掲示板」にて。最初はマジキチ状態だったアリスさんの監視目的で身分を隠していたギルドナイトさん。硬派というか、規律を重んじる人。

軟禁とかしたけど至ってまともで真面目な人。彼はきっと捨て猫とか見たら拾っちゃうタイプだと思われる。

 

 

 

 

*『凄い人』

 

本当は山菜爺さんでしたーwwなオチにしようか悩みましたが、「アイツどこにでもいるべ」と何か有難みが無くなったので…。

 

人間には忘れかけられた神、で、今でも信仰している所は数か所あります。だからこそ「まだ神様」でいられるのかもしれません。しかし彼らの文献と言うか、そういうものが一気に途絶えたり新しい神様を迎えたりされた彼らは、自分たちだけは「物語」を見ようと……何かそんなノリの事が色々書いてありました。女になったり男になったりするのもあやふやだからです。でも祀られてんでしょ?という話になりますが、まあ新作ら辺で明かせると……いいな…っ。

 

モンスターたちにはだいたいの認知度があるというか、彼らのお気に入り(夜ちゃんとか)たちには結構接触してきます。

 

 

 

 

*フルフルさん

 

オネエ語のフルフルさん。可愛いもの好きなので夜ちゃんの面倒を見たりした。雪山モンスターズにはあんまり好かれていない…が、何やら凍土のギギネブラの所に足繁く通っているらしい……。

 

 

 

*ギアノスさん

 

面倒見のいい兄貴分。アホ過ぎる弟たちの面倒を一生懸命見ているせいか、明らかに雪山産じゃない兎に対しても面倒を見てくれた。

何だかんだで突っついていたけど、僅かの間の仲だったけれど、優しい兎を友人として慕っていました。

 

 

 

*ギギネブラさん

 

凍土仲良しモンスターズの一匹。夜ちゃんとよく雪まみれになって遊んでた。無邪気というか幼い子で、人間を食べる事にも抵抗ない。ていうか何でも食べる。そして何にでも懐く。寂しがり屋でおっとりさん。

 

 

 

*ベリオロスさん

 

凍土仲良しモンスターズの兄貴分。無邪気+天然のお子様二匹を先頭立って守ってる。責任感強い子。そして二匹が何かやらかした時の尻ぬぐい役でもある…が、三匹は常にワイワイ仲良しさん。

今はパパとして嫁や子供達の面倒を見る傍ら、ギギネブラの世話も焼いてる。

 

 

 

*凍土仲良しモンスターズ

 

クエストでこの三匹の討伐クエストがあったら作者的には泣くレベル…の、子たちです。三匹はいつだって仲良し!

 

 

 

*夜ちゃん=ぼっち設定はどうした?

A.忘れてた

 

 

 

*夜母

 

夜ちゃんよりデカいウルクスス。ちょび髭柄がちょっと可愛い。

兄弟に虐められたり泣き虫な夜ちゃんに対して厳しいのは夜ちゃんの為に。過干渉はせずに見守り、ピンチの時はティガにだって殴り込みする肝の据わったお母さん

 

 

 

*咲母

 

美人さん。本当に美人さんで咲父に強引に口説かれて結婚したがすぐポイ捨てされた。

元々精神的に強い方ではないので、すぐに病んでしまい…正気の時はちゃんと咲ちゃんを愛しており、咲ちゃんからの手紙(日頃の報告的な内容)と仕送りの金は大事にとっていた。ていうか手を着けなかったというか。死んでしまうまで、何度も素っ気ない咲ちゃんの手紙を読み直していた。

 

 

 

*咲父 (フィーズさん)

 

咲ちゃんがだいたいそっくり似てしまった方。顔と腕前も父の血が強いと思われ。しかし性格はまったく真逆。あっちこっちに手を出したあげく、本当に好きな人(「帽子を持って」編で咲ちゃんに噂の真否を聞いてきた人)が出来たのに、実力を付けてきた咲ちゃんに手を出したからというか、当然ながらというか、巡り巡って罰を受けた人。

現在では過去も許容できるようになった咲ちゃんだけど、どうしても許せないでいる人でもある。

 

 

 

 

 

*質問お答えしますコーナー*

 

まず3327様より。

 

Q. 各キャラ質問で、夜ちゃんは他のモンスターを狩る時どう思っているのか?

 

→凍土の子達だと躊躇しますが、基本的には気にしません。「そういうもの」だと思っています。

 

Q.各キャラのイメージ曲(参考にしたいので)を教えて下さい。

 

→イメージというか、何となく作中、この子達のターンで聞いてる曲ですが…

 

夜+咲に関しては次回作のネタばれになるのですいません…。

 

 イーシェ→「シ/ョ/ッ/ト/ガ/ン・ラ/ヴ/ァ/ー/ズ」…完璧タイトルと曲のノリで選びました

 イリス→「S.w.e.e.t Ma.g.i.c」…かーわーいーいーです。ごめんねニコ厨で…

 

何と言うか、本当に気ままなのですいません…。

 

 

 

抹茶様より

 

Q.咲ちゃんは太刀使ってるけど他の武器は使わないの?

 

→太刀…一番しっくり来ます

大剣…重いけど使えないことは無い。

双剣…ちゃっちいって思ってて使わないだけ

片手剣…初心者臭くて嫌

ハンマー…使えるけど気に入らない

スラッシュアックス…「これじゃない」感があるらしい

ライトボウガン…壊滅的。仲間に被害がいくかもしれないという最悪さ。まず狙い撃ててない

ヘビィボウガン…乱射だったら…まあ…←

弓…矢で斬りかかるのに関しては上手い。つまり…そういうことです

笛…斬り込みに突っ込まないスタイルなんて嫌だというタイプ。笛に触った事が一度として無い

ランス…無理、苛々する

 

A.他の武器を使うとストレスが溜まるか役に立たない。

 

Q.チェダーさんって何歳?

 

→21歳。まだまだピチピチのお姉さん。…を、ババア呼ばわりする咲ちゃんはどう見てもロリ(ry

 

 

 

 

 

それでは、これにて「雪の中からこんにちは、飼い主さん」を完結させて頂きます。最後までお付き合いして頂きありがとうございました。

 

次回作、「雷の中からこんにちは、俺の嫁!」は、今までの読者様へのお礼に前倒しで、とりあえず一話分あげたいと思います。(ショボくてすいません…)

 

本日午後六時よりの公開です。本作よりも大人風味でシリアス度が高く、血がよく出ます。…が、ハッピーエンドなのは絶対なので、安心して(?)読めるはず…ですので、よろしかったらご覧ください。

 

それでは、最後の最後に次回作ヒロイン(とりあえず二人)でお別れです。

 

<i47757|461>

 

ご愛読ありがとうございました!

 



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