紡がれる『帝』の血脈 (シントウ)
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帝の紹介/プロフィールの回

現段階(2022年6月22日)でのオリジナル競走馬のプロフィール一覧です。
随時更新していくつもりです。

※2022年10月13日に内容を追加しました。
※2022年10月28日に内容を追加しました。
※2022年12月22日に内容を追加しました。
※2023年6月7日に内容を追加しました。
※2024年3月12日に内容を追加しました。


名前:ノゾミミカド

年齢:4歳

生年月日:2006年4月10日

性別:牡

毛色:黒鹿毛

血統:父・トウカイテイオー 母・ルイシエル (架空馬)母父・ミホノブルボン

成績:12戦10勝 2着2回 3着0回

距離:短C マイルB 中A 長B

脚質:逃げA 先行A 差しA 追込みG

主な勝鞍

朝日フューチュリティステークス(G1)

弥生賞(G2)

皐月賞(G1)

日本ダービー(G1)

菊花賞(G1)

有馬記念(G1)

京都記念(G2)

ドバイSC(G1)

 

本作の主人公。元は2020年以降の一般男性の人間だったが、なぜか馬に転生した。前世からのファンであるトウカイテイオーの産駒となり、その産駒たちの評価を変えるために奮闘する。周りに強力なライバルが多くいるが逆にそういう存在がいると燃えるタイプ。元が人間であるためか、人とのコミュニケーションが取りやすく、会話しているぐらいの意思疎通ができたりする。

性格は真面目で基本的には大人しいが弱いものいじめや仲間を馬鹿にされると祖父から受け継いだ威圧で他の馬たちを怯えさせる。

 

名前の由来は、シンボリルドルフが皇帝、トウカイテイオーが帝王のため、『帝』の文字を入れることにし、誰かがこんな馬を望んでいたと考えた結果この名前になった。

 

 

名前:ノゾミフェニックス

年齢:9歳

生年月日:2001年5月16日

性別:牡

毛色:栗毛

血統:父・サンデーサイレンス 母・ヒノカグラ(架空馬)母父・ノーザンテースト

成績:23戦9勝 2着5回 3着2回

距離:短G マイルG 中B 長A

脚質:逃げC 先行A 差しD 追込みG

主な勝ち鞍

ダイヤモンドステークス(G3)

目黒記念(G2)

ステイヤーズステークス(G2)

 

『ノゾミ』の冠名を持つ種牡馬。気性が荒く、前めの競馬を好んでいたがその高すぎる闘争本能が裏目に出てスタミナを切らす事は数え切れない。しかしハマれば強く、G3でG1馬を倒した事もある。加速力は高くはないがトップスピードは速く、そのスピードに乗るために長距離を多く走っていた。ノゾミラインは幼なじみで出走したレースでは8戦4勝4敗という結果になり今でも決着を付けようと何かと張り合っている。性格は豪快で後輩には自分の武勇伝を良く聞かせる兄貴分。ただし声がデカくて仔馬たちを泣かせては牝馬たちに怒られる。

 

名前の由来は、冠名ノゾミとスタミナお化けの馬、スタミナ無尽蔵→無尽蔵→不死鳥っぽい?→フェニックスってかっこいい!→決定!!

 

名前:ノゾミライン

年齢:9歳

生年月日:2001年6月3日

性別:牡

毛色:芦毛

血統:父・オグリキャップ 母・ヒカリコノハ(架空馬)母父・モガミ

成績:20戦8勝 2着12回 3着0回

距離:短B マイルB 中A 長B

脚質:逃げG 先行C 差しA 追込みA

主な勝ち鞍

七夕賞(G3)

毎日王冠(G2)

 

『ノゾミ』の冠名を持つ種牡馬。大人しい気性で騎手の命令をよく聞く馬であったがどの距離も卒なくこなせるため、様々なレースに出走するも2着止まりが多い器用貧乏。成績から応援したくなる馬になり結構根強いファンが多かった。後方から気を伺い最終局面で一気に追い抜く戦法を良くとっていた。これは父の柔軟な体を受け継いでいたことで加速力がついたモノである。ノゾミフェニックスとは幼なじみでライバル視しており、現在でも張り合っている。性格は冷静沈着なタイプで論理で戦う頭脳派……だけど根性論も意外と多い。

何気にシンザンの記録を超えているある意味化け物。

 

名前の由来は、ノゾミと驚異的な連対記録、一定のラインから下がらないということから。

 

名前:ノゾミナチュラル

年齢:5歳

生年月日:2005年5月18日

性別:牝

毛色:栗毛

血統:父・ナイスネイチャ 母・ミスト(架空馬)母父・ミホシンザン

成績:15戦7勝 2着0回 3着7回

距離:短E マイルB 中A 長A

脚質:逃げG 先行A 差しA 追込みC

主な勝ち鞍

チューリップ賞(G2)

小倉記念(G3)

阪神大賞典(G2)

天皇賞春(G1)

 

現役の『ノゾミ』の競走馬の紅一点。勝ち切れないレースが続くが牝馬とは思えないはどのパワーを持つ。周囲を威圧で体力を徐々に奪っていく戦法を取るが、垂れた馬群に呑まれて遅れるのが負ける定番。

性格は基本的にはさっぱりした感じで自虐も多々あるが、仲間や大切な存在を馬鹿にされると烈火の如く怒り狂い手がつけられなくなる。他にも負けなしや無敗といった言葉を聞くと少し不機嫌になる。

実は笑いのツボが浅く、下らないギャグでも笑ってしまう。

ノゾミの馬で数少ない北山牧場産ではない競走馬。

 

名前の由来は、ノゾミと親のネイチャー(Nature)は『素質』という意味だったが同時に『自然』という意味も持つことからナチュラル(Natural)に決まった。

 

名前:ノゾミレオ

年齢:24歳

生年月日:1986年4月15日

性別:牡馬

毛色:黒鹿毛

血統:父・カブラヤオー 母・ヒメミヤビ(架空馬) 母父・ノーザンテースト

成績:17戦6勝 2着1回 3着1回

距離:短G マイルC 中A 長A

脚質:逃げC 先行A 差しA 追込みG

主な勝ち鞍

1989年菊花賞

1990年阪神大賞典

 

現存するノゾミ系の古参の元競走馬。駒沢氏の父が馬主だったが現在は駒沢氏が馬主になっている。

性格は陽気で細かいことは余り気にしない。普段は歳のせいか寝ていることが多い。しかしレース関係の話になると現役よりは衰えたが若い馬ならビビってしまう覇気をまだ出せる。

怪物たちに挑み続けたが一勝もできなかったのが唯一の心残り。その為、怪物に似ているラインを初めて見た時、間違えて勝負を挑んだ。(ラインはこのことがトラウマで余りレオには会いたくない)

因みに北山牧場産の馬ではないが、元々いた牧場が不景気で潰れたため現在余生を北山牧場で過ごしている。

 

名前の由来は、ノゾミと師匠ポジと言うことで作者が思いつく師匠像が某有名特撮作品の獅子座L 77星の戦士が真っ先に思いついたことから。

 

名前:ルイシエル

年齢:14歳

生年月日:1996年5月2日

性別:牝

毛色:鹿毛

血統:父・ミホノブルボン 母・レディシエル(架空馬)母父・リアルシャダイ

成績:20戦6勝 2着1回 3着0回

距離:短B マイルA 中A 長E

脚質:逃げA 先行B 差しG 追込みG

 

北山牧場の繁殖牝馬の一頭。ミカドの母であり、良き理解者。現役時代は黙々と調教を行う機械のような馬だったが他よりも加速力があまり出ず活躍することは少なかった。引退後はミカドの他に6頭ほどの馬を輩出したがどの馬も重賞にはいけなかった。

普段はおおらかでとても優しいが調教の話になるとスイッチが入り現役時代と同じ感じになる。

 

名前の由来は、ブルボン王朝の次に当たるルイ王朝のルイとフランス語で空のシエルから。

 

名前:ルイシエルの2009(牧場では主にボー:ボーッとすることが多いから)

年齢:1歳

生年月日:2009年3月19日

性別:雄

毛色:栗毛

血統:父・キングヘイロー 母・ルイシエル 母父・ミホノブルボン

 

転生者その2の馬。性格は内気だけど別に怖がりじゃない。強面のフェニックスにも初対面で臆さず話すことができる。父が気性難だったのに生まれた仔はすんごい大人しい仔だったため、生産者一同は驚いた。でも奇行することがあるからそこは気性難?かなと思われている。体は平均よりも大きい体格で、将来的には某金色一族のシロイアレと同じくらいになるかもしれない。

 

名前:ノゾミカンパネラ

 

年齢:11歳

生年月日:1999年9月27日

性別:牡

毛色:栗毛

血統:父・ナリタブライアン 母・クロッシュ(架空馬) 母父・マルゼンスキー

成績:25戦9勝 2着2回 3着5回

距離:短A マイルA 中C 長D

脚質:逃げG 先行A 差しA 追込みD

 

主な勝鞍

2003年 日本テレビ盃(G3)

2004年 トパーズステークス(OP特別)

 

ノゾミの馬の一頭であり、元々は芝で走っていたが成績が振るわず、ダートに移ると勝ち星を少しずつ上げるようになった。

性格は臆病だが冷静に物事を見ることができる。

仲間内からカンパネラが言いにくいせいか「カンさん」と呼ばれており、本馬はちゃんと名前で言ってほしくて毎回訂正している。ミカドはちゃんと言ってくれるため、お気に入りの後輩として可愛がっており、もしダートを走るときは色々教えてやろうと考えている。



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ノゾミミカドがアプリに実装されたら? サポカ編

今回はアンケートで募集したノゾミミカドがアプリに実装されたらのサポカ編です。
ウマ娘実装編はまた別の機会に出します。


サポカの性能、考えるのムズカシイ…


 

1:名無しのウマ娘ファン

祝ノゾミミカド参戦!!

 

2:名無しのウマ娘ファン

よっしゃああああ!!

 

3:名無しのウマ娘ファン

遂に遂にきたぞぉぉぉ!!

 

4:名無しのウマ娘ファン

もう死んでいい

 

5:名無しのウマ娘ファン

いや、本当に長かった…

 

6:名無しのウマ娘ファン

アニメにもいなかったし、長らく実装は無理かと言われていたが…

 

7:名無しのウマ娘ファン

まさかのゲリラ発表とは…

 

8:名無しのウマ娘ファン

しかもだぞ、ここでノゾミミカドを発表したということは…

 

9:名無しのウマ娘ファン

他のノゾミのウマ娘もくるよな!?

 

10:名無しのウマ娘ファン

ラインが来るのか?

 

11:名無しのウマ娘ファン

焼き鳥も!?

 

12:名無しのウマ娘ファン

レオ爺さんも!?

 

13:名無しのウマ娘ファン

ナチュラルの姉御も!?

 

14:名無しのウマ娘ファン

とにかく一度落ち着こう。

 

15:名無しのウマ娘ファン

深呼吸だ

 

16:名無しのウマ娘ファン

ひっひっふー

 

17:名無しのウマ娘ファン

>>16

節子それ深呼吸ちゃう。ラマーズ法や

 

18:名無しのウマ娘ファン

先ずはビジュアルを堪能しよう

 

19:名無しのウマ娘ファン

見た感じテイオーと会長を足して二で割った感じがする

 

20:名無しのウマ娘ファン

馬の方のミカドはテイオーそっくりだったからどちらかというとテイオーよりか?

 

21:名無しのウマ娘ファン

でもテイオーより大人っぽい

 

22:名無しのウマ娘ファン

ちょっと待て産駒のウマ娘って大体年下だったよな?

 

23:名無しのウマ娘ファン

キングヘイロー中等部→カワカミプリンセス中等部(年下)

シンボリルドルフ高等部→トウカイテイオー中等部

アグネスタキオン高等部→ダイワスカーレット中等部

 

24:名無しのウマ娘ファン

でも中等部でありながら高等部相当の見た目の子もいらっしゃるし…

 

25:名無しのウマ娘ファン

今は情報が出るのを待とう

 

26:名無しのウマ娘ファン

髪型はサイドテールでいいのか?

 

27:名無しのウマ娘ファン

いいと思うぞ

 

28:名無しのウマ娘ファン

凄い気品があるたたずまい……

 

29:名無しのウマ娘ファン

ノゾミも結構でかいグループだし、ノゾミ家できるんじゃね?

 

30:名無しのウマ娘ファン

メジロ、サトノに続き新たに生まれるのか?

 

31:名無しのウマ娘ファン

マックイーンみたいに面白キャラになったりして

 

32:名無しのウマ娘ファン

パクパクですわ!

 

33:名無しのウマ娘ファン

本人行っていないけどね

 

34:名無しのウマ娘ファン

一コマ漫画…

 

35:名無しのウマ娘ファン

あれは絶対サンゲ逆輸入したよな

 

36:名無しのウマ娘ファン

ダイヤも二次創作でトレーナーかキタちゃんに愛重い系の子になっちゃったし…

 

37:名無しのウマ娘ファン

ミカドはどうなっちまうんだ…

 

38:名無しのウマ娘ファン

いやいや、ミカドは真面目な子だしそんなことは…

 

39:名無しのウマ娘ファン

ドリジャの兄貴と乱闘

 

40:名無しのウマ娘ファン

注射嫌いで厩務員吹き飛ばした

 

41:名無しのウマ娘ファン

主戦騎手大好き

 

42:名無しのウマ娘ファン

マザコン

 

43:名無しのウマ娘ファン

ブラコン

 

44:名無しのウマ娘ファン

人の言葉理解している節あり

 

45:名無しのウマ娘ファン

なんやかんやネタ豊富で面白キャラになる未来が…

 

46:名無しのウマ娘ファン

三冠馬っみんな元ネタからしてキャラ濃いからな…

 

47:名無しのウマ娘ファン

ルドルフは丘部に競馬を教える。ブライアンは自分の影にビビって実力出せなかった。ディープは全レース一番人気でオッズがまさかの1.0になったことも。オルフェはIKZE吹っ飛ばす(2回)。ミカドは身内大好きで人の言葉理解。コントレイルは自撮りする。

 

48:名無しのウマ娘ファン

>>47

後半が一番意味不明w

 

49:名無しのウマ娘ファン

写真は本人提供ですw

 

50:名無しのウマ娘ファン

あの世代は写真撮るは、インタビュー応えるはでおかしいからなw

 

51:名無しのウマ娘ファン

ミカドは多分天然キャラになると思う

 

52:名無しのウマ娘ファン

>>51

その心は?

 

53:名無しのウマ娘ファン

>>52

いや、なんか原作の方はかっこいいし戦績も凄いし、イケメンだけどなんか抜けてるところもあるからさ…

風水が無い時のリッキーみたいなドジするとか、会長みたいなダジャレ好きになるんじゃ無いかな〜って

 

54:名無しのウマ娘ファン

……否定できねぇ

 

55:名無しのウマ娘ファン

そう言えばミカドって頭良いのにどっか抜けてんだよな

 

56:名無しのウマ娘ファン

調教は真面目にするし、人の指示も聞く、そして身内にクソ優しい。だけど…

 

57:名無しのウマ娘ファン

天然真面目キャラか…

 

58:名無しのウマ娘ファン

良い

 

59:名無しのウマ娘ファン

凄く良い

 

60:名無しのウマ娘ファン

俺の癖にくる

 

61:名無しのウマ娘ファン

勝負服とかはどうなるんだ?

 

62:名無しのウマ娘ファン

多分、会長やテイオーみたいな感じになるんじゃね?

 

63:名無しのウマ娘ファン

ノゾミの勝負服ってどんな感じだっけ?

 

64:名無しのウマ娘ファン

赤に青の襷、黒袖、袖柄は青の山形一本輪

 

65:名無しのウマ娘ファン

これがどうなるのか

 

66:名無しのウマ娘ファン

でもミカドは二人と違う系統になると思う

 

67:名無しのウマ娘ファン

>>66

どういうこと?

 

68:名無しのウマ娘ファン

詳しく

 

69:名無しのウマ娘ファン

いや、会長は『皇帝』、テイオーは『帝王』、そしてミカドは『帝』ここまでは良いな?

 

70:名無しのウマ娘ファン

おう

 

71:名無しのウマ娘ファン

バッチリ

 

72:名無しのウマ娘ファン

それで?

 

73:名無しのウマ娘ファン

それぞれの言葉の意味が

皇帝:諸王を超越する王の称号・主に中国とかロシアで使われていた言葉

 

帝王:それぞれの国における君主・ヨーロッパ諸国とかで使われていた言葉

 

帝:天下を治める最高の支配者・日本だと天皇陛下を指すときによく使われる言葉

 

だから、言葉のイメージ的に和服っぽい感じを予想

 

まあ結局どの言葉も同じ意味なんだけど…

 

 

74:名無しのウマ娘ファン

いやよく調べたな

 

75:名無しのウマ娘ファン

すげっ

 

76:名無しのウマ娘ファン

でも確かに帝って言葉の響き的に和のイメージがあるな

 

77:名無しのウマ娘ファン

ルドルフは『ルドルフ皇帝』からきていた名前だし、帝王もヨーロッパ風の衣装だからあながち間違いでは無いと思う

 

78:名無しのウマ娘ファン

早く動いているところみたい。

 

79:名無しのウマ娘ファン

ボイスは誰になるんだろうなぁ

 

 

 

 


 

 

〜数ヶ月後の別スレ〜

 

 

475:一般ウマ娘トレーナー

遂に来た。

 

476:一般ウマ娘トレーナー

ノゾミミカドのサポートカード…

 

477:一般ウマ娘トレーナー

《R:ノゾミミカド》スピード・《SR:ノゾミミカド》賢さが追加されたぞぉぉぉぉ!!!!

【ノゾミミカドの立ち絵に校舎前の背景】

【生徒会室で様々な書類に目を通しているノゾミミカド】

 

478:一般ウマ娘トレーナー

性能は

R:ノゾミミカド スピード 完凸

・友情ボーナス:15%

・トレーニング効果:20%

・初期絆ゲージ:20

・ヒントLv:2

・ヒント発生率:30%

・得意率:40

・スキルボーナス:1

 

所持スキル

集中力

急ぎ足

末脚

トリック(前)

トリック(後)

逃げのコツ

 

育成イベント

コーナー巧者○

鋭い眼光

 

SR:ノゾミミカド 賢さ 完凸

固有ボーナス・経理兼書記として!:やる気効果アップと初期絆ゲージアップ

 

・友情ボーナス:25%

・初期絆ゲージ:25+(10)

・ヒントLv:2

・ヒント発生率:35%

・賢さ友情回復量:4

・得意率:45

・やる気効果:45%+(10)

・レースボーナス:10%

・ファン数ボーナス:10%

・賢さボーナス:1

 

所持スキル

集中力

急ぎ足

末脚

トリック(前)

トリック(後)

逃げのコツ

 

育成イベント

コーナー巧者○

鋭い眼光

リスタート

 

 

479:一般ウマ娘トレーナー

>>478

tanks

 

480:一般ウマ娘トレーナー

いや〜来たね

 

481:一般ウマ娘トレーナー

性能としてはどうなんだ?

 

482:一般ウマ娘トレーナー

イベントもそこそこ良い感じだし良い方だと思う

 

483:一般ウマ娘トレーナー

基本は逃げ育成に使う感じか?

 

484:一般ウマ娘トレーナー

でもイベントで差しの「鋭い眼光」あるんだけど?

 

485:一般ウマ娘トレーナー

多分差しもできたことからだろう

 

486:一般ウマ娘トレーナー

SRの「リスタート」イベントみて、あっこれダービーのやつだって思ったよw

 

487:一般ウマ娘トレーナー

確かにぴったりw

 

488:一般ウマ娘トレーナー

いや笑えねぇよ

 

489:一般ウマ娘トレーナー

現地にいたがまじで当時阿鼻叫喚だったぞ府中

 

490:一般ウマ娘トレーナー

勝ててよかったがその後…

 

491:一般ウマ娘トレーナー

だからイベント体力結構減るのか?

 

492:一般ウマ娘トレーナー

でもその後練習上手がつくし…

 

493:一般ウマ娘トレーナー

でもマイナスだよ

 

494:一般ウマ娘トレーナー

これ使いどころわかんねぇぞ

 

495:一般ウマ娘トレーナー

でも良い

 

496:一般ウマ娘トレーナー

イベント見ていると、本当に真面目なキャラなんだな

 

497:一般ウマ娘トレーナー

というか生徒会!?

 

498:一般ウマ娘トレーナー

書記と経理のポジションか。今まではエアグルーヴのイメージが強かったが…

 

499:一般ウマ娘トレーナー

ブルボンとの絡みがあるイベントはちょっと笑えたw

 

500:一般ウマ娘トレーナー

あれなw

 

501:一般ウマ娘トレーナー

ブルボン部屋入った瞬間仕事で使っていたパソコンダウンw

 

502:一般ウマ娘トレーナー

ショボンとするブルボンを必死にフォローするミカドw

 

503:一般ウマ娘トレーナー

親子三代の絡みもいい

 

504:一般ウマ娘トレーナー

でもテイオーが末っ子になるんだよな…

 

505:一般ウマ娘トレーナー

あの絵面だとね…

 

506:一般ウマ娘トレーナー

でもミカドはテイオーのことをさん付けしているし、敬意を示している感じが見られる。

 

507:一般ウマ娘トレーナー

会長は相も変わらず、保護者ポジ

 

508:一般ウマ娘トレーナー

遂にじいじになったカイチョー

 

509:一般ウマ娘トレーナー

ああ〜早く本人実装来てくれ〜

 

510:一般ウマ娘トレーナー

いや社大のあの子たちが来ないと流石にまだ無理でしょ…

 

511:一般ウマ娘トレーナー

俺は信じている

 

512:一般ウマ娘トレーナー

あそこが解放されれば一気に来るからな

 

513:一般ウマ娘トレーナー

「世界にしか勝てないやつとか」、「英雄」とか「夢への旅路」とか、「金色の暴君」とか、「絶景」とか

 

514:一般ウマ娘トレーナー

今はサポカで我慢しようや…

 

 




次回はウマ娘編を考えています。
それでは…


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競走馬編
帝の産声/転生の序章


流行りの架空馬ものが面白くて自分でも作って見ました。
駄文ですが楽しんでもらえると幸いです。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。



目が覚めそうで覚めない様な状態に俺はいた。そんな状態であった俺だったが何かが聴こえた。まるで誰かに激励を送る様なものだ。

 

「……しっかりしろ……!もう……っとだぞ……!」

 

『なんか、声が……聞こえる…?』

 

はっきりとは聞こえない。けど声の主は間違いなく俺に何かを言っている。

 

「もう…しだ……ばれ…!」

 

『男の声?でも聞いたことない声だ』

 

少しづつだが意識が覚醒に向かっていたがまだよく聞こえなかったが少しづつ聞こえる様になっていった。

 

「あと少しだ、出てくるぞっ!」

 

『出てくる?もしかして俺のことか?てか今どう言う状況?なんで真っ暗なの?俺は確か自分の部屋で寝てた筈じゃ……』

 

どう言う状況かはよく分からない。とにかくここから出ないと。俺はそうしなきゃいけない気がした。

 

「産まれるぞ!」

 

この言葉と同時に真っ暗だった視界が急に明るくなり、俺は『今世』に生まれでた。

 

 

 

(……眩しい……ここどこだ?まだ上手く目が開かない。あとなんか体がおかしい…上手く立てない)

 

「おおっ、生まれたぞ!!」

「良かった……本当に良かった………」

「一時期は危ないところだったけど、どうやら問題ないみたいだね……」

 

誰だこのおっさん達……てか待って、本当にココどこ?

落ち着け、先ずは自分の今の状態を冷静に分析するんだ。

まず、

・自分は草の上に寝っ転がっている。

・周りには見知らぬおっさん3人。(ウチ一人は医者っぽい?)

・何処かの建物の中。

・横から『ブルルッ』という鳴き声が聞こえる。

 

 

 

ん?『ブルルッ』?

 

俺は音__と言うより鳴き声らしきものが聞こえた方にゆっくり視線を向けた。そして…………

 

 

 

 

 

 

『ブルルッ?(どうしたの、坊や?)』

 

馬がいた。そんで喋ってる。

まさかと思い、自分の体をみる。手には指が無く、代わりに蹄が先にあり、全体的に黒だが蹄近くには白い体毛が生えた二本の前脚。長い胴体、尻の方には黒い尻尾。前足とは違い白い毛が無い、黒い後脚。

うん、混乱しているけど完全に理解した………

 

『ビヒィィーーーーーーンンンッ!!!!!!?????(俺、馬に転生しちまっているぅぅぅぅっ!!!!!!?????)』

 

「ウオっっと!!??どうした、急に!?」

「わ、わかりません!?大丈夫、大丈夫だから!?な!?」

「ああ〜興奮しているねぇ。落ち着くまで少し待った方がいいかもねぇ」

 

『ビヒヒンッ!?(坊や!?大丈夫!?どうしたの?)』

 

俺は人間から馬に転生し、転生した俺は驚きのあまり大声で叫び、おっさんずや母馬を驚かせてしまった。




軽い紹介
主人公:知らないウチに転生した前世一般人・今世馬。ウマ娘は名前だけ知っている。競馬歴はそこそこ。
押し馬はトウカイテイオー・スペシャルウィーク。




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帝の決意/その『血』の価値

今回は彼の『血統』の話です。
samasaさん評価ありがとうございます!
お気に入り登録をしてくれた方々もありがとうございます!

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。



馬に転生してから1日が経ち、一先ず落ち着いた。

あん時は自分の今の状況が理解出来ず、母親やおっさんズにかなり心配されたが1日経てばまあ、落ち着いた。

 

「大分落ち着いたか?」

「みたいですね、生まれて数分でデカい声で鳴いたりして、どうしたんだろうと思ったんですけど、大丈夫そうですね」

 

俺の前で会話しているのは生まれた時にそばにいたおっさんのウチ2人、最初に話したのがこの牧場の経営者であるキタヤマさん。もう一人が従業員のタクヤさん。あとタクヤさんはおっさんじゃなかった。どう見ても20代だわ、ごめん。

 

「何か、今誰かに謝られたような…?」

「何言ってんだお前?」

 

ホントナニイッテンダロウネー

 

ここはキタヤマさんが経営する牧場でキタヤマさんのところは昔から競走馬を生産している牧場らしい。耳を澄ませると他の馬の声が聞こえる。馬に転生したせいか、馬の言葉も分かるし体の使い方も問題無い。この辺りは本能で解んのかな?

 

そんでもう一回自分の姿を確認。

・鹿毛又は黒鹿毛のサラブレッドの牡馬

・左前肢以外の脚の先は白い毛で覆われている

・尻尾は真っ黒い色

・顔は額に白い流星が縦に一本入っている(タクヤさんが撮った俺の写真をこっそり見て確認)

 

こんな感じか。にしても最近流行りの転生を自分が体験するなんてな。サラブレッドなら俺も将来的には競走馬になるのかな?血統とかどんな感じなんだろう、良血統が良いなぁ…てか今何年だ?

 

「でもホント、無事に産まれてくれてよかったですね。この子が『あの血統』の最後の希望になるかもしれないんですからね……」

「ああ、コイツにそんな重荷を背負わせたくはねぇが、重賞、出来ればG3までは行ってほしいな」

 

『あの血統』?俺の親ってもしかして結構良血統なの?でも最後の希望ってどういうことだ?

 

「買い手が付けば良いですがね。あの馬自体の実力はすごいですけど、産駒は親に比べたらイマイチな結果が多いですし、そのイメージで買い手が付かなかったら……」

「やる前からウジウジすんな。他所は他所だ、他の奴らがそうだったからってこいつもそうとは限らない」

 

ほうほう、つまり俺の親、多分父親が凄かったけど、その2世たち、つまり俺の兄や姉が周りが期待する程の結果を出せなかったから下手したら俺もパッとしない成績、最悪買い手が付かないと思われてるのか。まあ、親が優秀だからって子が同様に優秀とは限らないからね、仕方ない仕方ない。で、俺の父親って誰なの?さっきからめっちゃ気になってんだけど。

 

「まあ、そうですけど。それでもプレッシャーがすごいですよ。なんせあの『皇帝』の孫で『帝王』の子供なんですから」

 

…………えっ?

 

「気持ちは分かるが、気負い過ぎるなよ。俺たちの仕事はこいつを無事に育て切ることなんだからな」

 

ちょっと待って………

 

俺って『トウカイテイオー』産駒なのっ!!??

 

 

 

 

 

 

 

トウカイテイオー

1988年生まれの競走馬。生涯成績は12戦9勝。

日本競馬史上初の無敗のクラシック三冠馬、『絶対なる皇帝』と呼ばれた『シンボリルドルフ』の初年度産駒であり、関係者からは大いに期待されていた。その期待に応えるようにテイオーは新馬戦を勝利。その後のレースでも連戦連勝、クラシックに入ってからも『皐月賞』、『日本ダービー』を勝利し最後の一冠『菊花賞』も期待されたがダービーの後に骨折が発覚した。結果、菊花賞には出走できず一年間の療養期間に入る。

その後、復帰レースでは余裕の圧勝。『天皇賞・春』にて当時最強のステイヤーと呼ばれた『メジロマックイーン』と戦うが距離適性が合わず敗北。その後も骨折を繰り返し、実質引退レースとなった1993年の『有馬記念』、364日ぶりのレースにて、その年の菊花賞レコードを叩き出した『ビワハヤヒデ』、ダービー馬『ウイニングチケット』、黒き刺客『ライスシャワー』、前年の有馬記念の覇者『メジロパーマー』など多くの強敵が出走、テイオーが勝てるとは思えない。この時多くの人が思っていた。

しかし…………

最後の直線、誰もが目を疑った。先頭を走るビワハヤヒデの直ぐ後ろにトウカイテイオーが居たのである。少しずつ少しずつ、ビワハヤヒデとの距離を縮ませ、追い抜き勝利した。この時アナウンサーはテイオーがゴール板を抜ける時に驚きと歓喜の感情を乗せこう言った。

 

『トウカイテイオー、奇跡の復活っ!!!!』と。

 

あまりの強さから『絶対がある』と言われた父ルドルフに対し、テイオーは逆に栄光と挫折を繰り返し最後の最後に奇跡を掴み取った事で『絶対は無い』と証明した。

 

 

 

 

 

 

 

それが俺の今世の父親、トウカイテイオーだ。けど、さっきタクヤさんが話した通り、テイオー産駒は周りが期待する様な成績をあまり残せていない。G1レースに出走して勝った奴もいるけどそれも片手で余裕で数えられるぐらいだ。

それは心配になるよな、他の産駒が周りが期待するほどの成績を残せていないことから、テイオーの血は既に終わった、テイオー産駒は走らない、なんて言われているし…

 

でも……

 

何勝手に終わらせたことにしてんだよ。他の産駒だって頑張ってんだぞ。G1勝っているんだぞ。普通の、殆どの競走馬が上がれない舞台に立った奴だって居るんだぞ。

 

『俺が、終わらせない。帝王の血を、終わらせてたまるか』

 

俺がなんで馬に転生したのかは分からない。だけど、好きだった馬がここまで言われてんだ。そして俺はその産駒だ。見ていろ、俺たちテイオー産駒が終わった血って言った奴ら。俺が父さんたちが叶えられなかった夢を、その時の多くの人の望みを叶えてやる。

俺は『絶対』を許されたあの『皇帝』の孫で、『絶対』を何度も覆した『帝王』の子だ。やってやるよ。

 

あっ因みに今はディープインパクトがバリバリ現役みたいなので大体2006年ぐらいだった。そして我が母はミホノブルボン産駒だった。




母父は下書き段階で2回は変えました。この年代で引退した牝馬がいそうなのがブルボン産駒しか思いつかなかったので…
テイオーの脚の脆さをカバーするには頑丈そうな母父がいたら良いなと思い、ブルボンは坂路調教で叩き上げられた馬ですし、頑丈なイメージがあったので…


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帝の名/人々の望みを乗せて

主人公の馬名が決まります。
としたんさん・タイムリーさん・ハイパー扇風機さん評価ありがとうございます!
お気に入り登録をしてくれた方もありがとうございます!

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。



俺がテイオー産駒の馬として転生してから正確にはわからないけどそろそろ一年ぐらいだ。体付きもしっかりして来て、放牧地で他の幼駒とかけっこしたりして鍛えたりしていた。勿論遊びとはいえ手は抜かない。

 

『よっしゃー!俺の勝ち!』

『あ〜また負けた!』

『あとちょっとだったのにぃ〜!』

『速すぎるよぉ〜』

 

こんな感じで俺は幼駒時代を過ごしていた。そんなある日。

 

「悪いな、ショウジ。いつも馬を紹介してくれて。ホント、お前が友達で良かったよ」

「何言ってんだ、お前のおかげでウチの牧場は立て直せたんだ。その借りはまだ返せて無かったからな」

 

おや、キタヤマさんにもう一人、今まで聞いたことがない声が聞こえる。足音は5人?他にもいるのか?

 

「いたいた、おーい!ミカドォ!」

 

はいはいお呼びですね。因みにミカドとは俺のこと。皇帝、帝王ってきたから帝ってことでこう呼ばれている。

 

「よおーしよし、ノゾム。こいつがウチの期待の星だ」

「おお、こいつかぁ。デカイな」

「凄いわね、ほーらツトム、アユム、お馬さんだよ〜」

 

キタヤマさんと一緒にいたのはキタヤマさんと同じくらいの年齢の男の人とその人の奥さんっぽい女の人、あとその人の後ろには大体十歳くらいと五・六歳ぐらいの男の子がいる。

 

「こいつはトウカイテイオー産駒で母父はミホノブルボンだ。この血統なのに気性は大人しい、更に非常に賢い。トモもしっかりしているから結構善戦すると思うぞ」

「テイオーの子供なのか!?それにブルボンの血も入っているのか……良く揃えられたな」

「まあ、色んなことが重なってな。向こうさんもかなり乗り気だったし、少しだけ安く済んだよ」

 

向こうはなんか話しているけど、奥さんと息子さんは俺のことを興味津々で見ている。今までサラブレッドを近くで見たことないのかな?まあ、普通は無いか。

 

「すいません、触っても大丈夫ですか?」

「ん?ああ、本来なら危険なんですがそいつは大人しいですし、人懐っこいので問題ないと思います。ただ気を付けてください。人間とは比べ物にならないパワーがありますから」

 

奥さんはそう言われると柵越しから俺の頭を撫で始めた。

 

「本当に大人しいのね。額の白いラインもかっこいいわね。ツトムとアユムも触る?」

 

「う、うん」

「僕もさわる〜!」

 

息子さん、アユムくんは平気そうだけどツトムくんは如何やら俺のことが気になってはいるけどちょっと怖いみたい。まあ、自分の身長よりも高い動物が上から自分の方を見ているって図は明らかに威圧感あるよな。ならば…

 

俺は柵から首を限界まで出し、ツトムくんの視線に合わせる様に首を下げた。

突然の出来事でビックリしたのかちょっと後ろに下がったツトムくんだったけど、恐る恐る近づき、俺の頭に触れる。アユムくんもそれに続く様に触り出す。あとはこの状態をキープする。ツトムくんが手を離すまで首を極力動かさない。

 

 

side駒沢望

 

今日は昔からの知り合いである北山庄司の牧場に家族でやってきている。理由はもちろん馬を買うためだ。

 

「よう、望。久しぶりだな。少し太ったか?」

「庄司こそ、腹が出てきているぞ?」

 

ハハハと互いに軽口を出しながら笑い、今日来た目的のために移動する。放牧地には既に何頭かの馬がおり、草を食べたりのんびりしている。

 

「今回はどんな馬を紹介してくれるんだ?いい奴がいるって言っていたが…」

「ああ、去年の春に生まれた馬だ。血統も申し分がない」

 

数年前から僕は庄司の牧場から何頭か馬を買っている。事業も安定したことで前から憧れがあった馬主になろうとし、親友の庄司に相談したことがきっかけだ。

 

「前の馬はG1には出られなかったけどいい馬だったよ。元気にしているかい?」

「おう、今は馬房にいるがそろそろ放牧する時間だからその時に会うか?」

「ならせっかくだから会って行こう」

 

今日連れてきた息子の勉と歩も周りにいる馬に興味津々だ。兄の勉は少し怖がっているのか妻の陽菜の後ろに隠れているが弟の歩は逆にあっちこっちとはしゃぎながら馬を見ている。

 

「ママ、見て見て!馬が沢山いるよ!」

「ほら〜、はしゃがない。お馬さんたちがビックリするでしょう。勉、いつまでも隠れていないでちゃんと歩きなさい」

「はい…」

 

性格がまるで正反対の2人だがどちらも動物が好きと言う共通点がある。今度牧場に行くと話したらついて行くと言うのでせっかくだから連れてきたのだ。

 

「悪いな、庄司。いつも馬を紹介してくれて。ホント、お前が友達で良かったよ」

「何言ってんだ、お前のおかげでウチの牧場は立て直せたんだ。その借りはまだ返せて無かったからな」

 

そして歩いているウチにどうやら目的の馬が見つかった様だ。

 

「いたいた、おーい!ミカドォ!」

 

名前を呼ばれたからなのか一頭の馬がこちらに寄ってきた。黒い馬体だが額には白い流星が縦に入っており、左前肢以外には白い毛で覆われている。

 

「よおーしよし、望。こいつがウチの期待の星だ」

「おお、こいつかぁ。デカイな」

「凄いわね。ほーら勉、歩、大きいわね」

 

初めて見る人間が沢山いるせいか馬はこちらを興味津々で見ている。

 

「こいつはトウカイテイオー産駒で母父はミホノブルボンだ。この血統なのに気性は大人しい、更に非常に賢い。トモもしっかりしているから結構善戦すると思うぞ」

「テイオーの子供なのか!?それにブルボンの血も入っているのか……良く揃えられたな」

「まあ、色んなことが重なってな。向こうさんもかなり乗り気だったし、少しだけ安く済んだよ」

 

トウカイテイオーは僕が好きな馬の一頭だ。その血を受け継ぐ馬がここにいるとは…しかも母父は『坂路の申し子』と呼ばれたミホノブルボン。どちらも無敗二冠を成し遂げた名馬だ。

 

「こいつは俺が今まで育ててきた馬の中でも一番走ると思う。他の幼駒たちと一緒に走っているところを何回か見たがどの馬も追いつけなかった」

「それだけでか?いくらなんでも誇張しすぎじゃ…」

「その差は目測でおよそ10馬身だと言ったらどうだ?」

「・・・・はあ?」

 

幼駒同士の遊びの追いかけっこで10馬身?本当か?

 

「最初は遊びだったがだんだんどいつも本気になっていってな、現役馬に比べたらまだ遅いが加速力が他の馬と全く違う」

 

「さらにこっちの言葉を理解しているんじゃないかって言うくらいに賢い。間違いなくこいつは中央で走り切ることができる」

 

庄司の言葉を聞きながら僕はミカドと呼ばれた馬を見た。勉や歩が触りやすくする様に自分の頭を下げて撫でられている。その間は全く動かない。

まだ馬主としては初心者に毛が生えたレベルだが僕はこの時思った。

 

こいつは間違いなく『帝王や皇帝と並ぶ傑物だ』と…

 

 

side out

 

 

「よし、こいつを買うよ。ツトムも気に入っているみたいだし」

 

く、首がそろそろキツい………あっちは話し終わったみたいだけど行かなくていいの?首を少し横に振り、向こうのほうに首を向ける。

 

「うわっ!どうしたの?」

「さあ、あっ、もしかしてあっちの話が終わったよって言っているの?」

 

そうですとも(首を縦にブンブン振る)

 

「本当に賢いのね……ほら、ツトム、アユム行くわよ」

「うん、バイバイ…」

「バイバーイ!」

 

バイバイ〜…さて、俺のご主人になるのはこのノゾムさん?って人なのかな?

 

「ミカド、コイツがお前のことを買う。この時期なら来年の夏にはデビューできるかもな」

「よろしくな、ミカド」

 

ハイハイ、よろしくお願いしますぜ、ご主人。(ペコリ)

 

「おおっ、お辞儀ができるのか…賢いなぁ…」

「こいつは頭が良い、多分そこまで手が掛からないと思うぞ。あと、馬名はどうする?」

 

確かに。俺の今の『ミカド』は人で言うなら幼名。じいちゃんは『ルナ』、オグリキャップは『ハツラツ』って呼ばれていたらしい。俺の馬名、カッコいいのが良いなぁ〜。父さんは『皇帝』から『帝王』っていう感じで名付けられたけど俺もその系統がいいなぁ〜。

 

「大丈夫だ、もう決まっている」

 

えっ、早くね?

 

「随分と早いな、元々決めていたのか?」

「ああ、元々『ノゾミ』の冠名を付けるつもりだったからな。そんで庄司、お前が言っていたこいつの名前を組み合わせてみたらかなりしっくりきてな」

 

ああ、なるほどなるほどそういう事かぁ〜。

 

「こいつの名前は『ノゾミミカド』。皇帝から始まり、帝王が繋ぎ、そして帝がその血を受け継ぎ、多くの望みを背負って走る。そんな名前だ」

「……良い名前じゃねぇか……」

 

ああ、メッチャ気に入った。ノゾミミカド、俺の新たな名前。よぉ〜し、これから頑張って行くぜ!!

 




主人公の馬名は『ノゾミミカド』です。
皇帝・帝王と続くなら『帝』の文字は入れた方がいいと思いこれにしました。ノゾミの部分を考えてから馬主さんの名前を決めました。

人物紹介

北山庄司
48歳。北山牧場を経営する一家の大黒柱だが奥さんと14歳の娘には強気になれない。一時期不景気で経営難になりかけたが親友である望の援助によりなんとか立て直した。無駄にある土地を利用して行き場の無い引退馬の保護区の様なものもやっている。

三山卓矢
24歳。北山牧場で働く厩務員。ミカドにおっさんズの括りに入れられた可哀想な人。顔はそこそこいいが田舎の為出会いは無い。

駒沢望
48歳。株式会社駒沢の経営者でありノゾミミカドの馬主。かなりやり手の経営者だが少し気がよわく奥さんには頭が上がらない。トウカイテイオーの大ファンで有馬記念の時は北山と泣きながら喜んだ。馬券は勝ちよりロマンを優先する買い方。なので大体爆死する(そして奥さんの雷が落ちる)。会社は主に動物福祉などを中心に様々な分野を手掛けている。

駒沢陽菜
39歳。望の妻。気が弱い夫に喝をいれるパワフルな美人奥さん。実は名家のお嬢様だが結構庶民派。

駒沢勉
10歳。望の息子。引っ込み気味だが成績は上位に位置するほど頭がいい。メガネをしていて暗そうな雰囲気だが将来化ける可能性あり。

駒沢歩
7歳。望の息子。元気いっぱいな性格で考えるよりも先に行動するタイプ。みんなを引っ張るリーダー的な感じ。成績は普通レベル。将来間違いなくモテる。

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帝の出会い/後の絶景

小村さん、流星の民さん、ブルボンヌさん、唯の鮫さん、バーベキューさん評価ありがとうございます!
お気に入り登録が早くも100を越えて驚いてます。
今回はミカドのトレセン入厩です。
厩舎は完全作者のご都合主義です。
あと競馬はここ最近始めたばかりなので色々おかしいところがあると思いますが暖かい目で見守ってください。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


俺、ノゾミミカドが買われてから数ヶ月、俺は現在………

 

「よしっ、良いタイムだな。もう一周させたらあがらせよう」

 

松戸厩舎にて調教中である。

 

遡ること二ヶ月ほど前…

 

「では、よろしくお願いします」

「ええ、任せてください」

 

ノゾムさんが俺を買って、割とすぐにノゾムさんは俺を育成牧場、そしてトレセンの方に移した。

馬運車の中は思っていたよりは乗り心地は悪く無く、着くまで暇だったからずっと寝てた。

んで、ノゾムさんは今、多分調教師の人と話しているみたいだ。

 

「ふむ、移動はどうやら大丈夫みたいだな。環境が突然変わって調子を崩す馬は多いが、こいつは大丈夫そうだな」

 

この人はマツドヒロシさん。ここの厩舎の調教師で、昔は騎手だったみたいだ。

 

「けど、凄いですね。こいつ良いトモしてますよ。期待できるんじゃないですか?」

 

この人はナカタシンジさん。ここの厩務員で今日から俺もお世話になる人だ。

 

「よし、真司。こいつを厩舎に連れてけ。場所は…」

「分かってますよ。あそこですよね?よぉし行くぞ、ノゾミミカド。」

 

『ブルルッ(うっす)。』

 

「今お前、返事したのか?賢いなぁ……」

 

トコトコ歩いて厩舎の中に入る。中には色んな馬たちがいた。

 

『おっ、新入りだな』

 

『この間は女の子だったけど今回は男かぁ』

 

『フゥン、今回はどれくらいのやつかな?』

 

………牧場にいた馬達とは違う。一頭一頭の覇気みたいなのが肌からビリビリ感じるぜ。

 

「ここがお前の馬房だ。よし入れ」

 

う〜っす。

 

俺を馬房に入れたら、シンジさんは厩舎から離れていった。

 

『やあ、新入りくん。これからよろしくね』

『あっ、どうもこちらこそよろしくお願いします』

『うん、こちらこそ。僕はアドマイヤオーラ。よろしくね』

 

アドマイヤオーラ、前世では自分が好きな馬以外はあんまり興味なかったから聞いたことないけど、冠名だけは聞いたことがある。あのアドマイヤベガと馬主が一緒なのかな?

 

『俺はノゾミミカドっていいます。アドマイヤオーラ先輩』

『ははっ、長いからオーラでいいよ。代わりに僕も君のことをミカドって言っていいかな?』

『大丈夫っす、じゃあオーラ先輩。先輩ってどれくらいここにいるんすか?』

『う〜ん、僕はここに大体三年くらいはいるかな?』

『へぇ〜結構長いっすね』

 

 

それから、隣の馬房のオーラ先輩に色んなことを教えてもらった。レースのこと、調教のこと、騎手やこの厩舎のことなど色々。

 

『そういえば、俺の近くにある馬房は空いてますけどここには誰かいるんですか?』

 

俺の馬房の近くの馬房は現在誰も入っていない。でもわらが敷かれていて綺麗にされているから誰か入っていると思う。

 

『ああ、そこは君よりも数日早く来た子の馬房だよ。今は調教でいないだけ、君は時間的にもう少ししたら行くと思うからもしかしたら会うと思うよ』

 

へぇ〜、つまり俺の同期か……会うのが楽しみになってきた。

 

『どんな奴なんですか?』

『う〜ん。毛色は黒鹿毛で、母親が僕と一緒なんだ』

『ヘ〜………って、先輩の兄弟!!??』

『うん。といっても面識はここに来るまではあんまり無かったんだけどね。あと……』

 

先輩が他にも話そうとしていたところでマツドさん達が俺の馬房の前にやってきた。

 

「よし、ミカド。来て早々だが、調教に行くぞ」

『はい』

『がんばってね』

『勿論っすよ!んじゃ、行ってきま〜す!』

 

そうして俺はシンジさんに引かれながら厩舎の運動場に向かった。

 

 

『ここが運動場か、割と広いな…』

 

運動場には、俺の他に何頭か馬がいたが殆どがどうやら調教を終わらせて手入れをしに行くようだった。

 

(ここにオーラ先輩の兄弟がいるのか?)

 

先輩は黒鹿毛って言っていたけど、それっぽい奴は………

 

「おっ、ミカド見てみろ。あそこでお前と同い年の馬が走っているぞ」

 

探しているとシンジさんが俺に話しかけてきた。シンジさんが言っているのが多分先輩の兄弟だ。俺はその馬がいる方向を見た。

 

そこに居たのは………

 

黒い馬体、額には小さな白い星、漆黒とも言える美しい立髪、後の世の人々に数多の絶景を魅せる『牝馬』が駆けていた。




いろいろとおかしいところもあるでしょうがご了承下さい。
最後に出てきたのはこの世代を代表するあの馬です。
主人公とどう関わるのかは今後の展開で明らかになっていきます。

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帝の仲間/後の女王

葛城武命さん、板めものさん、疑心演舞さん、影斗羅さん評価ありがとうございます。
お気に入り登録が200超え…だと…!?
本当にありがとうございます!!
今回は前回最後に出てきた馬が誰なのかが分かります。


No side

 

シンジと松戸は新しくこの松戸厩舎にやってきた牝馬『ブエナビスタ』の走りを見ていた。

 

「おおっ!凄い脚だな。デビュー前でアレだけの加速力…G1狙えるんじゃないですか?」

「入厩直後は左脚に不安があったが大丈夫そうだな。あいつの最後の末脚は父親譲りだからな。オマケに大人しくて、指示もちゃんと聞く。いい馬だよ」

「ですね。おっと、こっちもさっさと行かないと。行くぞミカド。」グイッ……

「…………あれ?どうしたミカド?」

「どうした、シンジ?」

「あっいやミカドが全然動かないんですよ」

 

松戸は今日入ってきたばかりの牡馬『ノゾミミカド』の方を見る。ミカドは引き手の指示にも反応せず、その視線はブエナビスタの方に向いていた。ブエナビスタが右に移動すればミカドの視線も右に行く。左に行けば視線もまた左に行く。

 

「……ブエナビスタが気になるんですかね?」

「みたいだな、と言ってもあいつはもう終わって厩舎に戻すからな。いなくなればこいつも動くだろう」

 

結局、ブエナビスタが帰るまでミカドは押しても引いても動こうとはしなかった。

 

 

 

ミカドside

 

ヤベェ…すっかり忘れていたぁ…

俺がデビューする2009年は牝馬ブエナビスタがデビューする年じゃないか…

 

ブエナビスタ

日本総大将スペシャルウィークを代表する産駒であり、数多くのG1レースで成績を収めることになる牝馬。

 

他にもこの世代には凱旋門賞2着のナカヤマフェスタ、天皇賞秋を取るトーセンジョーダン、ダービーである騎手をダービージョッキーにするロジユニヴァースなど、あとの世代にも三冠馬とかも出てくるし、結構ヤバイかも…

 

『こりゃあ、真面目にやらないと父さんや他の産駒たちに顔向け出来ないな』

 

さっきはブエナビスタを見た衝撃で固まっちまって迷惑かけたから挽回しないと…

 

 

======

 

 

き、キツかった……最初は軽いトレーニングかと思っていたけど割と運動量多かった…

 

「だいぶ疲れてはいるがいい脚をしてるな、特にこの脚の柔らかさ。父親譲りだな」

「だとしたら、やっぱりトレーニングやレースでは骨折には気を付けた方がいいですよね。テイオーみたいに骨折をしたら即引退もあり得ますからね」

 

やっぱりその話挙がりますよねぇ〜。父さんが何度も泣かされた骨折は父さんの独特な走り方に脚が耐えられなかったことで起きたことだった。

俺が人として生きていた頃も故障で泣く泣く引退した馬は沢山いた(アグネスタキオンとかフジキセキとか)。今世では研究もだいぶ進んで故障数は少なくなっていってるみたいだけど、それでも故障は起こる。まあ、坂路で鍛えまくって引退の少し前まで故障を殆ど起こさなかったフィジカルサイボーグのブルボン爺ちゃんの血が入っているからもしかしたらそこそこ丈夫だと思うけど。

 

『自分でも気を付けないとな…』

 

なるべく故障を起こさないように休めるときはとことん休む。トレーニングは真面目に全力で取り組む。これを俺のモットーにし、今日のトレーニングは終わった。

 

馬房

 

『・・・・』

 

『・・・・』

 

『え〜っと、大丈夫かい?ミカド、ブエナ?』

 

薄々気付いていたけど、すぐ側の馬房がさっきまで見ていた娘(ブエナビスタ)の馬房って……。

 

前世では応援していた馬だけど今世では古馬時代にバチバチやりあうライバル。こっちが一方的に未来の相手の事を知っている分少し気不味い…

 

『………どうしたの?』

 

俺が向こうのことをチラチラ見ていたからかブエナビスタの方から話しかけてきた。

 

『えっ、えええっと、その(まさか向こうから話を振ってくるなんて…)。お、俺、今日ここの厩舎にきたノゾミミカドって言うんだ。よろしく』

『うん、よろしく。兄さんから少しだけ話は聞いた。私と同い年なんだっけ?私はブエナビスタ。ブエナって呼んで』

『よ、よろしくな、ブエナ』

 

少し吃ったけど話は普通に出来た。まあ、せっかく同じ厩舎の仲間になったんだ。今度は俺がブエナになんか話そう。コミュニケーションは大事大事。

 

『俺はトウカイテイオーって馬の子供なんだ。母さんは重賞レースで勝ったことがないみたいだけど爺ちゃんはサイボーグと呼ばれたミホノブルボンって馬なんだ』

 

本当良く組み合わせようと思ったなキタヤマさん。というか何でそんな血統の馬持っていたんだって話だけど。

 

『へぇ〜。私はあんまり自分の親のこと聞かなかったからあんまり分かんない。でも牧場の人はダービー馬の娘ってよく言っていた。』

『ダービーって……ブエナの父さんってそんなに強い馬だったのか…』

『?ダービーってそんな凄いの?』

『まあ、俺たち競走馬が一度しか出る事が出来ない栄誉あるレースだからな…ダービー馬になることは滅茶苦茶難しいんだぜ』←(父父・父・母父が無敗でダービー馬な奴)

 

オーラ先輩が驚くのも無理はない。ダービー、正式名称は『東京優駿』。通称『日本ダービー』。数あるG1レースの中で俺たち競走馬が一度しか出ることが出来ないクラシックレース『皐月賞』『日本ダービー』『菊花賞』、特にダービーは栄誉があるレースで、このダービーに勝つことが全ての競馬関係者の夢なのだ。天才と呼ばれたジョッキーでも勝つことが非常に難しく、中には10年以上も取れないジョッキーも沢山いる。

 

『ダービーは俺たち競走馬にとっては憧れるレースだよ』

『うん、騎手さんやテキたちにとっても名誉あるレースさ。僕は出走することはできたけど三着になっちゃったけどね』

 

先輩も話を聞く限りじゃかなり強い馬みたいだけどそれでも三着。それだけ難しいんだな、ダービーって。いやでもダービー三着も十分強い気もするんですけど…

 

『てことはブエナは自分の父親の名前を知らないのか?』

『うん、なんか言ってたきもするけど詳しいことはよく分かんない』

『人の言葉は難しいからね。僕も偶に何を言っているか分からない時があるよ』

 

それから、俺は先輩やブエナたちと過ごしながら調教に励んだ。ダートを使った調教、坂路でのスタミナ強化、プールでの調教は若干遊んでたけど真面目に取り組んだ。併せ馬の時はオーラ先輩が一緒にやってくれたけど流石重賞馬、プレッシャーの掛け方やコーナリング、直線の加速力、どれをとっても俺なんかよりも上手かった。先輩は『経験の差だよ』って言ってたけどそれでもすごかった。

そして、俺はそう長く無いうちにブエナたちとはまた別の出会いをすることになる。




紹介
アドマイヤオーラ
父:アグネスタキオン 母:ビワハイジ
松戸厩舎にいる重賞馬。ミカドの先輩でブエナの半兄。
面倒見が良くミカドたちに慕われている。

ブエナビスタ
父:スペシャルウィーク 母:ビワハイジ
松戸厩舎に所属する牝馬でありミカドの同期。後に多くのレースで実績を出す馬。のんびりした性格だがレースになると…

松戸博 62歳
ミカドたちの調教師。元々は騎手だった。ミカドの馬主である駒沢の馬を何頭か世話したことからミカドを預かることになる。

仲田真司 25歳
ミカドを担当する厩務員。真面目で熱い性格、よく空回りしては怒られる。厩務員歴はそこまで長くなくまだまだ勉強中。


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帝の相棒/不屈の騎手

今回は鞍上のお話です。ぶっちゃけここが一番悩みました…
作者は競馬歴が浅いのでおかしなところもあるかもしれませんが温かい目でみてくれると幸いです。
ラグナカングさん、どれっどのーとさん、坂田銀時さん、評価ありがとうございます!!

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


『腹減ったな〜。人参とかもっとくれぇ〜』

 

俺ノゾミミカドは現在馬房の中で暇を持て余していた。ブエナは調教で先に出ており、オーラ先輩はレースがあるとの事でトレセンに居ない。もうすぐ調教だとしてもこう暇だと腹も空く感じがする。

にしても馬になって餌とかちゃんと食えるか心配になったけど普通に食えて安心した。人参って人間の時は気にしなかったけど結構甘いんだな。俺がそんなことを考えていると、見慣れない男の人がテキと駒沢さんと一緒に現れた。

 

「この馬だ。名前はノゾミミカド。トウカイテイオー産駒でウチの期待の星の一つだ」

「これがあの…凄いじゃないですか。パッと見ただけでも筋肉の付き方が良いですし、立ち振る舞いなんかはまさにテイオーの生写しじゃないですか」

「こいつはテイオーの脚程じゃないがその柔らかさを受け継いでいて、その分テイオーよりも丈夫だ。脚質は先行か差し、試してはないが恐らく逃げもできるだろう。距離は血統からしてマイルが適正だろうが中距離も走れる筈だ。長距離はまだ分からんがな」

「良い馬ですね…脚質の幅が広ければそれだけ多くの戦略が練れますから」

 

おう、もっと褒めてくれてもいいんだぜ。てかこの人が俺に乗る騎手さんか?見た目は若く見えるけど肌から伝わる手の感触からは結構長いこと乗り続けていることがわかる。てかこの人どっかで見たことある様な?

 

「それで雄一(ユウイチ)、こいつに乗ってくれるか?今だったら、恐らく新馬戦には間に合うと思うが」

 

ユウイチ。もしかしてこの人あの福長雄一(フクナガユウイチ)騎手!?黄金世代の一角であるキングヘイローと共に駆け、シーザリオと共に優駿牝馬を制した。俺の前世では三冠馬コントレイルと共に三冠ジョッキーとしてその名を馳せることになる。天才ジョッキー武豊(タケユタカ)に負けず劣らずのベテランジョッキーじゃないか…

雄一さんは俺のことをジッと見つめ、首あたりを撫でる。

 

「一度乗らせて貰っても?乗ってみないとこいつの走りは分かりませんから」

「ああ、構わないよ」

 

俺は調教時に使われるウッドチップコースと呼ばれるコースに出され、俺の背に乗る雄一さんは俺に指示を出し軽く走らせる。

 

最初は余り雄一さんからの指示は無かったから俺の好きに走ってみる。動き始めたばかりだから軽く流しながらコースを一周。そしてスタート地点に戻ってから雄一さんとテキが軽く話してまたコースを走る。

 

(このコースは小回り気味だからコースの取り方を結構気をつけなきゃ)

 

レースでもコーナーを曲がる際は外側に膨らんでしまうと他馬との接触、事故を起こす可能性がある。他にも外側に出てしまったらその分の距離を走ることになるからロスが馬鹿にならない。

 

(コーナーは少し重心を傾けてっと、よし、うまくできた)

 

コーナーに気をつけながら走り、最後のコーナーが終わる頃、雄一さんは少し姿勢を変えて、手綱をしごく。

 

(加速の指示?よし、いっちょみんなを驚かしてやるか!!)

 

指示と同時に俺は脚を溜める。ほんの僅かな減速。だがそのロスは俺には関係ない!!

 

「えっ?」

 

「はっ?」

 

「……」

 

加速とほぼ同時に今の俺が出せる最高スピードに達する。このスピードを出せる馬は同い年にはまずいないはずだ。俺の脚の柔軟さがバネになり、風を切る様に走る。最っ高に気持ちいいぜぇぇ!!

 

「おっとと!!?」

 

ヤベッ!?雄一さんのこと考えないでスピード出したから向こうがバランス崩しかけてる!?

俺は直ぐに減速し、減速したと同時にコース一周を走り終えた。

 

(危なかったぁ〜、今まで人を乗せてトップスピードを出すことがなかったからな。こうなるっていう事を見落としていた)

 

「…雄一、今の…」

「ええ、一瞬だけどとんでもないスピードが出ました。バランス崩しかけましたよ…」

 

マジでごめん雄一さん。俺の落ち度です。

 

「……もう少し乗ってみても?今の感覚を掴みたい」

「構わないが、行けるのか?」

 

テキはさっきバランスを崩しかけたことに少し心配になっているみたいだ。

 

「大丈夫、あれは俺の油断ですから。ミカド、さっきのやつをもう一回頼む。遠慮はいらない」

「ブルルッ…(うっす…)」

 

さっきと同じようにコースを走る。そしてまた最後のコーナーで雄一さんから指示くる。

 

本当にさっきのスピードを出して大丈夫だろうかと雄一さんの方を見る。

 

「思いっ切り行けっ!!ミカド!!」

 

雄一さんは自分のことは気にするな、大丈夫と言わんばかりに手綱をしごく。

 

そうだ、この人はたとえボロボロに負けようが諦めずに這い上がってくる人だ。あの不屈の塊と言われた馬と同じ様に…

 

『今度は振り落とされないで下さいね!雄一さん!』

 

コーナーが終わる瞬間、俺は一気に加速、雄一さんもさっきと違ってバランスを崩してはいない。俺のスピードのメーターは振り切り、さっきよりも早く俺たちはコースを駆け抜けた。

 

===

 

「……それで、乗ってみてどうだった?こいつに乗るか?」

「……ええ、こちらもこんないい馬に乗せてもらえるなんてありがたいですよ。乗らせて下さい」

 

雄一さんはテキに頭を下げる。テキはそれに嬉しそうな表情でさんの肩を叩き「頼んだぞ」といった。

 

「これからよろしくな、ミカド」

『おう、これから頑張って行こうぜ!雄一さん!』

 

俺は頭を雄一さんの胸に頭を押し付けグリグリする。

 

「おおっと、よしよし。凄い人懐っこいですね」

「ハハッ、でもこいつがここまで人に反応する事はあまり無い。お前、気に入られたみたいだな」

 

===

 

福長雄一side

 

「松戸厩舎の新馬?」

「ええ、松戸厩舎に新しく来た牡馬で、最近少し話題に上がっているみたいです。福長さん、知らないんですか?」

 

栗東トレセンの調整ルームで後輩の騎手がその話を振ってきた。

 

「あ〜、ここ最近は忙しくてな。レースもいくつかあったしそういう話はあまりな」

 

ここ最近はレースが重なることが多かったからトレーニングや馬の調教でそういう情報が耳に入りにくかった。

 

「それで、その馬は何で噂になっているんだ?ただ強い、強くなるだろうじゃ噂になりにくいだろう」

 

その馬のレベルが調教時点で他の馬たちよりも高いという話は多くはないが何度かよく聞く。後輩の雰囲気からただ強いっていう訳ではないだろうが…

 

「確かに調教時点でも結構いい感じみたいなんですけど、拍車をかけているのはその馬の血統と馬主です。トウカイテイオー産駒で馬主が駒沢社長なんですよ」

「へぇ、テイオーの。しかも駒沢の社長さんが…」

 

トウカイテイオー産駒は決して弱いわけでは無い。しかし、祖父と父の偉業の大きさから例え産駒たちがG1を取ったとしてもその功績は霞んで見えてしまっている。今回の産駒は噂になるほどだから決して弱くはないんだろう。

そんで駒沢の社長さんが馬主ねぇ…

あの人が所有する馬には何回か乗った事がある。どの馬も決して弱くはなく善戦はするがいざ重賞クラスにいくと中々勝てない。それでもみんないい馬ではあったから乗っているこちらからするといつも気持ちいい騎乗が出来るのだ。

 

「同期が松戸厩舎で調教しているところを見たらしいんですけど。デビュー前にしてはかなり仕上がっているみたいです。早めにデビューするみたいでもうそろそろ鞍上の依頼が来るんじゃないですかね?」

「なら、お前が行けば良いんじゃないか?あそこの厩舎とは繋がりがあっただろう」

 

デビュー前でここまで噂になっているなら依頼は殺到するはずだ。しかしこいつは徐に目を逸らした。

 

「俺、実は今日のレースで斜行で進路妨害やっちゃいまして、そのぉ〜…」

「分かったもう言うな…お前なぁ…」

 

要するにやらかしたばかりの自分じゃ選ばれないと思ったわけだな。

 

「だが騎乗停止になったとしてもテキにある程度信用されているお前なら大丈夫だろう」

「今回騎乗した馬の馬主さんが温情でこれからも乗らせてくれるんです。だから暫くはそいつに集中したいんです。幸いにも俺が乗る他の馬は暫くはレースがありませんから」

 

(…そういう風に超が付くほど真面目なお前だから、信用されると思うんだがな)

 

しかし、テイオー産駒ね…

 

その日の夜、俺はその馬のことがどうしても頭から離れなかった。

 

数日後、俺に松戸厩舎の件の馬への騎乗依頼が来た。何故俺がと思ったがこの機を逃す筈もなく俺は松戸厩舎へと行くことにした。松戸厩舎に着いたのは午前9時少し過ぎたぐらい。厩舎前には既に松戸調教師と馬主である駒沢社長が待っていた。

 

「おう、雄一。こっちだ」

「松戸さん、駒沢さん。どうも」

「どうも福長さん、お久しぶりです」

「駒沢さん、私に依頼してくれてありがとうございます」

「いえいえ、福長さんにはいつもウチの馬たちがお世話になりましたからね」

 

少し談笑をしてから松戸さんに連れられ俺は厩舎の中に入った。その馬は調教前で今はまだ馬房にいるらしい。

 

「この馬だ。名前はノゾミミカド。トウカイテイオー産駒でうちの期待の星の一つだ」

 

その馬は俺たちが近づいて来たのに気付き、馬房から顔を出した。父親とは違う黒鹿毛の馬体、しかし流星と足白は父親と殆ど一緒だった。自分の知らない人が来ているせいか俺の事を興味深く見ている。見ただけでもデビュー前にしては馬体がかなり整っていることが分かる。顔を手で軽く撫でると気持ちよさそうに目を細めた。血統からは考えられないほど大人しい。母親方の血筋はそれほど気性が荒いわけでは無いが父方の方は祖父である『皇帝』は非常に気性が荒く、父である『帝王』も皇帝ほどではないが荒かった。

 

「これがあの…凄いじゃないですか。パッと見ただけでも筋肉の付き方が良いですし、立ち振る舞いなんかはまさにテイオーの生写しじゃないですか」

「こいつはテイオーの脚程じゃないがその柔らかさを受け継いでいて、その分テイオーよりも丈夫だ。脚質は先行か差し、試してはないが恐らく逃げもできるだろう。距離は血統からしてマイルが適正だろうが中距離も走れる筈だ。長距離はまだ分からんがな」

「良い馬ですね…脚質の幅が広ければそれだけ多くの戦略が練れますから」

 

血統も申し分ない。筋肉のつき方も見た感じは良い。大人しい気性に幅広い脚質。あとはしっかり走るかどうか…

 

「それで雄一、こいつに乗ってくれるか?今だったら、恐らく新馬戦には間に合うと思うが」

「一度乗らせて貰っても?乗ってみないとこいつの走りは分かりませんから」

「ああ、構わないよ」

 

乗ってみないことにはこの馬が果たしてどれほどの力を持っているかは分からない。例えいい馬だったとしても自分と息が合わなくては走る馬も走らない。俺はノゾミミカドを連れてウッドチップコースに向かった。向かう途中、ノゾミミカドの背に乗った俺は乗り心地を確かめた。

 

(背に乗っても特に嫌がる様子は無し。ただ初めて来た人間が乗っているからかちょくちょくこちらに意識が向いている。好奇心が旺盛なのか?集中があちこちに分散しているとゲートで出遅れたり掛かってしまう恐れがあるな)

 

一抹の不安がありながらもコースに着いた俺たち。時間は調教を始めるにはちょうど良い時間だったか周りに他の馬は殆どいない。先ずはウォーミングアップにコースを軽く走らせ、少しずつ脚を慣らしていく。若干早いペースになっているなと思い手綱を引けば、すぐに速度を落とす。コースを一周しスタート地点に戻ったため、停止の指示を出すとピタッと停止した。

 

「次は最終コーナーが終わる瞬間に加速の指示を出してくれ。本番さながらでな」

 

松戸さんにそう言われ、再びノゾミミカドを走らせ考える。

 

(走らせてみて分かったことはまず指示を良く聞き理解している事だな。さっきの停止の指示も手前を変える指示もしっかり理解しながら動いている。コーナーの走り方も問題ない。トレセンに来てからまだ数ヶ月程度で2歳にすらなっていない馬がここまでやるのか?)

 

そう考えているうちに4コーナーに入り、俺は思考を切り替える。

 

そしてコーナーが終わる少し前に姿勢を変え加速の指示を出す。

 

だが次の瞬間…

 

「えっ?」

 

「はっ?」

 

「……」

 

一瞬、僅かに失速したと思った瞬間…

 

俺の体は僅かに浮いた。

想定していたものよりも急速な加速。まるで全てのものを置いて行ってしまう様な、そんな感覚が俺を襲った。

 

「おっとと!!?」

 

しかしそれも束の間、俺の体はこの急加速についていけずバランスを崩しかけていた。

俺の慌てた声を聞いたのかノゾミミカドは減速。止まる頃にはスタート地点に戻っていた。

 

「…雄一、今の…」

「ええ、一瞬だけどとんでもないスピードが出ました。バランス崩しかけましたよ…」

 

松戸さんたちも見ていた。あの急加速…1秒にも満たない僅かの時間で脚を溜め、それを爆発させるかのように加速する。

 

「……もう少し乗ってみても?今の感覚を掴みたい」

「構わないが、行けるのか?」

 

俺がさっきバランスを崩した事が不安なのか、心配するような声で松戸さんは聞いてくる。

 

「大丈夫、あれは俺の油断ですから。ノゾミミカド、さっきのやつをもう一回頼む。遠慮はいらない」

『ブルルッ…』

 

ノゾミミカドも俺を落としかけたことを気にしているような素振りを見せたが、返事を返した。

 

第4コーナに差し掛かったところでノゾミミカドは俺を見る。さっきのことをまだ気にしているのかスピードを出そうとはしない。

 

「思いっ切り行けっ!!ミカド!!」

 

俺のことは気にするな。10年もジョッキーやってんだ。バランスくらい簡単に取れる!

 

手綱をしごいて、ミカドに指示を出す。ミカドは覚悟を決めたような顔で前を向き、先ほどと同じように脚を溜め、溜めた力を一気に爆発させる。

 

先程と同じく急スピードによる圧力が体にかかる。だが2回も同じヘマは繰り返さない。バランスをとり、ミカドと呼吸を合わせる。

そして俺たちは先程よりも早くコースを駆け抜けた。

 

===

 

「……それで、乗ってみてどうだった?こいつに乗るか?」

 

ミカドの調教が終わる頃に松戸さんは俺に乗るかどうか尋ねる。

 

「……ええ、こちらもこんないい馬に乗せてもらえるなんてありがたいですよ。乗らせて下さい」

 

もう乗る一択しかない。こいつのスピードに俺は完全に惚れ込んでしまっていた。こいつとならクラシック三冠も狙えるはずだ。

 

「頼んだぞ」

「はい。これからよろしくな、ミカド」

 

俺が頭を撫でるとミカドは頭を俺の胸にグリグリと押し付けてきた。

 

「おおっと、よしよし。凄い人懐っこいですね」

「ハハッ、でもこいつがここまで人に反応する事はあまり無い。お前、気に入られたみたいだな」

 

血統からは考えられないほど大人しくて人懐っこい。さっきまで現役馬顔負けの走りをしていた奴と同じとは考えられない。頭が当たった胸が少し痛かったが悪い気分ではなかった。




はい、今回ミカドの鞍上になって貰ったのは今話題の三冠馬の主戦騎手をモデルにしています。
あくまでモデルなので本人とは違う性格や言動になるかもしれないのでご了承下さい。
次回はいよいよ新馬戦です。ここが絶対難しいと思うんで多分投稿が遅れると思いますが気長にお待ち下さい。

人物紹介
福長雄一 32歳
栗東に所属する騎手。真面目で努力を惜しまない性格。ミカドの主戦騎手に選ばれる。
因みに選ばれた理由は馬主曰く「馬たちの走りを理解して、考えてくれる。責任感が強いから安心して彼にミカドを託せる」かららしい。

後輩騎手 27歳
今回チラッと出てきた騎手。まだまだ未熟だが真面目で責任感が強く、それが信頼されて彼に依頼する人も少なくはない。

コメントや評価、お気に入り登録を是非。
それでは。


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帝の初陣/初のレース 新馬戦

レース…難しい…文才…欲しい…
そんな新馬戦始まります。

はやみんみんさん、よみびとしらずさん、りーりおんさん、savaivさん、カグラさん、フラッパさん、評価ありがとうございます!
お気に入り登録が300突破しました!

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


俺、ノゾミミカドが松戸厩舎に来て早数ヶ月。とうとう俺のデビュー戦が決まった。

 

『ミカド、デビューが決まったみたいだね。おめでとう』

『はい!7月最後日曜日にデビューするみたいです』

『いいなぁ、私はここに来たとき脚の調子が悪かったから少し遅れるみたいだし』

 

ブエナは俺より先にこの厩舎にきたけど脚の調子が良くなかったみたいで今はもう大丈夫そうだけど本来のデビューより少し遅れるらしい。俺は厩舎に来てから仕上がるのが早かったからこうして早めにレースが決まったのだ。

 

『いいかい、ミカド。新馬戦だけどレースはいつもの調教や僕らとの併せ馬とは全く違う。周りからのプレッシャー、馬場の状態、僕らを観にくる人の視線、普通なら起こらないようなアクシデント。全てが君が今まで体験したことがこれから君に襲いかかる、それがレースだ。僕もあの雰囲気に最初は何度も飲まれて実力を発揮出来なかったこともある』

 

先輩からのアドバイスはとても重いものを感じ、前世から聞いていたこの言葉がこの時俺の脳裏に浮かんだ。

 

「レースは生き物である」

 

ゲートが開いた瞬間から何が起きるか分からない。調子がよさそうだったのにいざ走ってみると中々前に出れずに負けてしまった馬。急に故障を起こす馬。数多の優駿たちに襲いかかる『レース』という生き物は何をして来るか走って見るまで全く分からないのだ。

 

『でもね、僕は決して一人で走るわけではないんだ。テキや騎手さんたち、厩務員さんや僕らを応援してくれるお客さん、僕らはその人達の思いを乗せて走る。まあ、これは僕の考えだからこれが正しいとは言わないけどね』

『……いえ、ありがとうございます先輩。俺頑張ります!』

『うん、頑張っておいで』

『頑張ってね、ミカド』

 

 

===

駒沢望side

 

7/27 阪神競馬場

 

いよいよ僕が初めて買ったテイオー産駒の馬_ノゾミミカド号のデビュー戦。今日は休みを取り、家族四人で阪神競馬場にやってきた。1着は勿論取って欲しいがそれでも1番は無事に走り抜いて欲しい。他にも色々と考えていたら緊張で体が固まっていた。

 

「ほら、あなた。しっかりしなさい。他の馬主さんたちはもう行っているわよ」

 

妻の陽菜がガチガチに緊張した僕の背中をバシッと叩く。

 

「ああ、ごめんごめん。何分、初めてのことだからね。緊張しちゃって…」

 

妻に若干呆れられながらも馬主席に向かい、他の馬主さんたちに挨拶を交わす。中には仕事で話しあった方もいて少しだけ緊張が解れてきた。

 

そしてノゾミミカド号が出走する第4レースの時間が近づき、パドックに行く前に愛馬の様子を見に行くことにした。

 

「松戸さん、お疲れ様です」

「ああ、お疲れ様です、駒沢さん。ミカドの様子を見に?」

「ええ、今日という日を楽しみにしていましたからね。にしてもミカドもまたしっかりとした体つきになりましたね」

「調教は真面目にやってくれますし、よく食べてよく休みますからね。ここに来るまでもぐっすり寝ていましたよ」

 

松戸さんが見るにどうやらノゾミミカドの調子は絶好調らしい。栗東から阪神までの長距離移動を心配したらしいが特に問題がなかった様だ。

 

息子の勉と歩はノゾミミカドに駆け寄りその姿を見つめていたが、ノゾミミカドが頭を下げ視線を勉に合わせる。勉たちは突然の事に驚いたが直ぐにノゾミミカドの頭を撫で始める。

 

「本当に人懐っこいですね。普通は少し警戒すると思うんですけど…」

「ミカドは非常に頭がいい。一度だけあった相手でも印象に残っていたら早々忘れることはありませんから」

 

その様に話していると一人の男性が近づいてきた。

 

「おお来たか。雄一」

「はい、松戸さん、駒沢さん」

「おお、どうも。今日はノゾミミカドを頼みます」

 

福長騎手は何度かウチが所有していた馬に乗っていたことがある騎手だ。真面目で努力家、馬に競馬を教えるのが上手いとも聞く。

 

「では、そろそろパドックへと向かいますか。松戸さん行きましょう」

「おう、そうだな。シンジ!準備はいいか!」

「は、はい!問題ないです!」

「では、駒沢さん。また後で」

 

陣営の人たちに別れを告げ、私たちも馬主席に戻った。そしていよいよ新馬戦が始まる。

 

===

 

ノゾミミカドside

 

『駒沢さんや息子くんたち元気そうだったな〜』

 

現在俺はパドックでシンジさんに連れられて歩いている。今日の新馬戦での俺の人気は2番人気。結構期待されている。俺の血統や産駒たちのことを考えると少し意外だ。この新馬戦に出走するのは全部で18頭。乱戦になるかもな。

 

 

『5番、2番人気、ノゾミミカド。トウカイテイオー産駒の期待の一頭です。母父はサイボーグとも言われたミホノブルボン。馬体重は472kg。鞍上は福長雄一騎手です』

『パドックで見る限り素晴らしい出来だと言えるでしょう。血統を見る限りでは今回の距離は彼の適正だと思います。好走が期待できます』

 

 

「テイオー産駒かあ〜頑張れよ〜!」

 

「おお、毛色以外は正にテイオーの生写しじゃないか…複勝…いやここは単勝を賭けてみるか」

 

 

ちらほら俺を応援する声が聞こえる。おうおう頑張るから応援よろしくな!

 

 

そして、パドックから舞台はレース場に移り、雄一さんを乗せて俺はコース内に入って行く。

 

「いいかミカド。今日のレースは距離が短い。お前の血統的には問題はないだろうが、とにかくスタートした瞬間ハナを奪うくらい前に着け。4コーナーの中盤でスパートをかけるぞ」

 

「ブルルッ!(了解だよ、雄一さん!)」

 

 

『それでは阪神第5レース、サラ系2歳新馬戦芝1400m、18頭がデビューを迎えます。晴天の天気、コースは良馬場となりました。6枠11番1番人気タニノベローナは2.9倍、2番人気に3枠5番ノゾミミカド3.2倍です』

 

 

次々と馬たちがゲートに入っていく。俺の枠番は3枠5番。内側よりからのスタートだ。

ゲートに入り、最後に外の馬たちが入って行く。そして波乱なレースがとうとう始まる。

 

 

『___最後に大外のメジロポピンズが入り、無事態勢整いました』

 

 

ガゴンッ!!

 

『スタートしました。18頭並んできれいにスタートしましたが5番ノゾミミカドが勢いよく出しました』

 

よし、スタートは良い!どの馬よりも早く前に出れた。

 

「よし、ミカドこのまま先頭を維持するぞ。勝負するのは4コーナーだ」

『了解』

 

 

『それを追うように2番プラチナガール。1馬身後ろに4番スマートダルズと7番グローリールピナスが並んでいます。すぐ後ろに1番人気タニノベローナ、ケージークローナとメジロポピンズが並んでいます。これが先頭集団。2馬身後ろにロジゴールド、その内側にドクタークリスとエアダーミー。10番セイカドルチェ外のマルラニビスティー、ラヴリーテンダーとアヴェニュードールは少しずつ前に上がろうとしている。プリティオドーリーとクレッシェンドがシンガリです』

 

 

後ろに俺に付いている馬がいるけど俺のペースに合わせていたら割と直ぐにバテるよ。もう3コーナーまで来てるしね。

 

 

『第3コーナーに差し掛かり依然先頭はノゾミミカド。プラチナガールが追うが追いつけない。タニノベローナがスピードを上げて来ている』

 

 

プラチナガールに変わりタニノベローナが俺の後ろに付く。けど今は後ろのことは無視だ。集中しろ、雄一さんの指示を今は待つんだ。

 

 

『先頭集団は第四コーナーに入りました。マルラニビスティーとグローリールピナスに鞭が入った。そのスピードをどんどん上げて行く!タニノベローナにも鞭が入る。先頭との間を縮めて行く!』

 

だんだんと近づいてくる足音と呼吸が俺の集中力を欠けて行く。クソッ、後ろからのプレッシャーが凄い。調教の時の併せ馬とは全く違う!まだかよ雄一さん!

 

 

『第4コーナーに差しかかりノゾミミカドは依然先頭だが1馬身後ろにタニノベローナが迫って来た!おっと、ここでノゾミミカドに鞭が入る!』

 

 

「今だ!思いっきり行け、ミカドォォ!!」

 

『よし来た!!俺の末脚、見せてやるぜ!!』

 

脚に力を溜めて、踏み込むと同時に一気に開放する。父さん譲りの柔軟な脚をバネにしてスピードを一気に上げる。

 

 

『ノゾミミカドがスピードを上げた!直ぐ後ろに迫っていたタニノベローナを突き放す!直線に入りノゾミミカドが更に後続を突き放す!!2馬身3馬身!凄い脚だぞノゾミミカド!タニノベローナも頑張るが追いつけない!もう圧勝です!後続を置き去りにして今ノゾミミカドが1着でゴールイン!!!』

 

 

「よし!良くやったぞミカド!」

 

フイ〜ッ、勝てたぁ…タニノベローナが迫って来た時はどうなるかと思ったけど流石雄一さんだ。俺の末脚が発揮しやすいタイミングを完璧に理解していた。あれは脚を溜める必要があるからどうしても減速する。そのロスをいかに短くするか、そこが重要になる。雄一さんはそのロスが短くなるタイミングを理解していた。流石一流のジョッキーだ。

 

『鞍上の福長騎手ガッポーズ!ノゾミミカド1着でゴール!タイムは1:20.1!なんとレコードです!阪神競馬場コースレコードを叩き出しました!!』

 

マジで!?

いきなりレコード取っちゃった…

 

『これは凄い!テイオー産駒の期待の星がここ阪神で見事な走りを見せました!』

『凄い走りでしたね。最後に見せたあの末脚は見事でした。もしやこれは『皇帝』一族の復活の狼煙になるかもしれません』

 

実況の兄ちゃんたち早いって、まだ1戦だよ?これからだよ?

 

「ハハっ、復活にしては早い気もするがそれだけ凄い走りをしたってことだ。俺たちは」

 

『__そうですね。俺たちの大勝利ですね!それじゃあ…』

 

 

『ノゾミミカドがホームストレッチにやって来ました。ウイニングランをするのでしょうか……おっとこれは!?』

 

 

「ミカド?おっとと……お前これって…」

 

そう、皆さんご存知。俺の父さんの巧みなステップ。テイオーステップじゃい!!

 

 

『テイオーステップです!!ノゾミミカド、父トウカイテイオーのテイオーステップを観客たちに披露しています!十数年の時を経て、テイオーステップもが私達の目の前で復活しました!!!なんという馬でしょう!これからの活躍が楽しみです!!!!』

 

 

満足満足。一度やって見たかったんだよね、これ。

 

「ミカド…お前は本当に最高のサラブレッドだよ」

『へへ、何言ってんですか。俺たちのレースはこれからですよ!』

 

こうして俺は無事に新馬戦を見事に勝利した。




ノゾミミカド
成績
新馬戦1400m 阪神 1:20:1 一着

ミカドのステータス(仮)
芝:A ダート:E

短距離:D マイル:A 中距離:A 長距離:?

逃げ:A 先行:A 差し:B 追込み:F

無事新馬戦が終わりました。
ここで皆さんにアンケートです。
次回はミカドの新馬戦後を出しますがその次は何が見たいかアンケートを取ります。
期間は今週末の土曜日までです。

評価やコメント、お気に入り登録をぜひ。それでは。


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帝の勝利/次の目標

今回は休憩のようなものです。
メガフライゴンさん、名無しの通りすがりさん、からし麺屋さん、稲の字さん、緒方さん、評価ありがとうございます!
お気に入り登録が400を突破しました!ありがとうございます!!

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


駒沢望side

 

「おおっ、勝った、勝ったぞ!!」

 

周りに人がいるにも関わらず僕は大声で叫んでしまった。妻の陽菜にどつかれてしまったが関係ない。私が初めて買ったトウカイテイオー産駒の馬_ノゾミミカドがデビュー戦を圧勝。更にレコードタイムを叩き出したのだ。

 

「駒沢さん、おめでとうございます。いや〜強い馬ですね」

「ああ、ありがとうございます」

 

先ほどのレースに出ていた馬の馬主の一人が声を掛けてきた。

この人はウチの会社とも取引がある経営者の一人であり、ウチのお得意様でもある。

 

「ウチの馬も良いところまでは行ったんですが…いやぁ〜完敗ですね。あと口取り式がありますからそろそろ向かった方がいいですよ」

「ああそうでした。ではまた」

「ええ、今度は負けませんよ」

 

そうして軽い握手をしてから僕は口取り式に向かった。今まで何度もやってきたことだが、またしてもガチガチに固まってしまった僕は妻はもちろん今度はミカドにもどつかれてしまった。

 

 

===

〇〇スポーツ新聞

 

“圧倒的なスピードでデビュー戦を大勝利!!期待の新星ノゾミミカド!!”

7月27日(日)にて阪神競馬場で行われた2歳新馬戦。そこでトウカイテイオー産駒(母父ミホノブルボン)であるノゾミミカドが二着に四馬身差を付けて圧倒的勝利を飾った。

かつて日本競馬で多くの人々に感動と驚きを与えたトウカイテイオーの期待の産駒であり、その姿はテイオーの生写しであるかの様であると多くの競馬ファンが語った。

調教師の松戸博(マツド・ヒロシ)氏は『父親譲りの脚の柔軟性と賢さ、母父の頑丈さを受け継いで非常に素晴らしい馬だと言える。今回の新馬戦は適正距離ではあったがミカドに余力が残っていた為、より長い距離を走ることもできるだろう。性格は非常に大人しく人懐っこい。厩舎でも特に大きな問題を起こさず真面目に調教をこなしますが今回のレースで周りの馬を気にしているふしがありましたので集中力を切らさない様にこれからしていきたい。』と述べ、鞍上を務めた福長雄一騎手は『初めてのレースで少し不安な部分もあったんですけど、非常にリラックスしていたのでそこは心配しなかったですね。ただ、やっぱり直ぐ後ろに他馬が付くと焦って前に出ようとしていたので少し危なかったです。最後の末脚のタイミングを間違えていたらと考えてしまうとホント怖かったです。』と語る。

疲労が少ないことから馬主と相談し次戦を早めると松戸調教師は語り、早くも活躍が期待されている。

 

 

===

 

新馬戦から数日後

松戸厩舎 馬房

 

『先輩、ブエナ!新馬戦勝ってきたぜ!!』

 

新馬戦を終えた俺は厩舎に帰ってきてから真っ先に先輩とブエナに初勝利を伝えた。

 

『おお!おめでとうミカド』

『おめでとう!どうだった、本番のレース?』

『もうめっちゃすごかった!!調教とは全く違くてさ!後ろからくる他の奴らのプレッシャーが凄くて焦っちゃったんだけど最後の直線で一気に突き放して1着でゴールしたんだ!』

 

俺はレースのことをブエナと先輩に語り、ブエナはそのことを聞いて興奮していた。

 

『いいな〜私も早くレースに出たい〜』

『ブエナ、心配しなくても君の新馬戦もそう長くないうちに来るよ』

『ああ、そのことなんだけど』

 

ブエナの新馬戦について実はテキがブエナの担当厩務員さんに話していることを俺は帰り際にこっそり聞いたのだ。

 

『ブエナの新馬戦の時期は秋頃になるみたいだ。さっきテキが言っていた』

『ええ〜!全然先じゃん!ミカドだけずるい〜』

『落ち着いてブエナ。新馬戦が一番多いのは秋のシーズンだからね。僕も秋にデビューしたから』

『そうそう、俺みたいに夏にデビューする奴よりも秋や冬にデビューするやつの方が圧倒的に多いんだぜ』

『む〜』

 

不満そうな顔をして少し不機嫌になったブエナを俺と先輩は必死になだめ、機嫌が治るのに30分は掛かった。

 

 

===

 

同時刻

松戸厩舎 

 

「新馬戦勝利、しかもレコード着きとは…いきなり驚かしてくれたな」

「ですね…俺、自分が世話している馬で新馬戦でレコード叩き出すの初めてですよ…」

 

松戸厩舎の一室で松戸と厩務員の真司は新馬戦の次の日に発行された新聞記事を見ながら話し合っていた。

 

「松戸さん、あのレース見て思ったんですけどやっぱりミカドはクラシックを目指して行った方がいいんじゃないですか?」

「俺もそう思う。だがあいつの血統を考えると最後がな…」

 

二人が何故こう頭を抱えているのかというとミカドの血統から割り出した『適正距離』にあった。

 

「あいつの父父は菊花賞と天皇賞・春を取った傑物ですよ。ブルボンだって長距離を走って2着です」

「けどな、父親のテイオーは3200の天皇賞・春5着。母親もマイラー。そしてブルボンはもともとスプリンターが適正だ…今後の調教次第じゃあ恐らく有馬の2500は行けると思うがそれよりも早い時期に行われる菊花賞3000がな…」

 

そう、ミカドの適正は血統を見るとどうしてもマイル〜中距離が範囲になり、長距離は祖父や曽祖父の時代まで遡らなければならない。

 

「無理な調教を行えばテイオーのように骨折、ブルボンのようにガタが早めにきて即引退だ。ホント悩ましいな」

 

幸いにもミカドは父と母父二頭の良いところを受け継いでいる為、余程ハードな調教でなければ故障を起こすことは少ないだろう。

 

「失礼します」

 

二人が頭を抱えているとドアからミカドの騎手に選ばれた福長が入ってきた。

 

「おう、雄一。早かったな」

「ええ、他の馬の会議が早めに終わったので。それよりどうしたんですか?」

 

松戸たちはこれまでの会話の内容を福長に話した。

 

「なるほど…確かにこれは二人が唸るのも仕方ないですね…」

「ああ、最終的には馬主が決めることだがこっちもプランを考えなくちゃいけない」

「……これは俺個人の意見ですけど」

 

そう語り出す福長の方を松戸と真司は見る。

 

「ミカドはあの末脚もすごいですけどそれを発揮するまでのスピードもかなり速いです。新馬戦の時も最初に後ろに付いていた馬も早々にスタミナが切れました。つまりそのスピードを維持するスタミナは持っているんだと思います」

「つまり…どういうことですか?」

「今から少しずつミカドのスタミナ強化を行えば、もしかしたら3000を走り切ることができるかもしれません。俺の勝手な推測ですが。それに今はまだデビューしたばかりです。クラシックについてはもう少し後に考えても遅くは無いでしょう」

 

福長が話し終えると松戸は息を吐き椅子に凭れ掛かる。

 

「まあ、確かにそうだな…よっし、クラシックの話はまた後だ。今は次のレースを決めないとな。真司と雄一はミカドの方行ってこい。俺は駒沢さんに次のレースについて相談してくる」

「わかりました!行ってきます」

「はい」

 

そう言って立ち上がる松戸に続き真司と福長も立ち上がり、部屋を後にした。

 

その後、駒沢との相談によりミカドの次走は10月に行われるOP戦『芙蓉ステークス』となった。

 




ノゾミミカドの次走は芙蓉ステークスとなりました。
次回の投稿は少し間が開くかもしれません。ご了承ください。
コメントや評価、お気に入り登録を是非。それでは。


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帝の掲示板回/裏の声

こうぴょんさん、ヘルマンさん、剣桜一閃さん、マ田力さん、YomudakeOjisanさん、イガラさん、Knowledge.69さん、廣豚魔王さん、ギャラクシーさん、有象無象の一人さん、Qoooさん、ジェガンB型さん、豚バラ煮込みさん、NOアカウントさん、ジントgさん、Laupeさん、一般学生Cさん、評価ありがとうございます。
お気に入り登録も800を超えて作者は少しの間放心状態になりました。

今回はアンケートで募集した掲示板回を投稿します。掲示板は初めて作ったのでおかしい部分があるかもしれませんがご了承下さい。

追記
2021/11/11の二次創作新作日刊ランキングでこの作品が六位をとっていました!!
ありがとうございます!皆様のお陰です!
今後も頑張って投稿していくのでミカドたちの応援よろしくお願いします!!



とある掲示板

 

256:名無しの競馬ファン

次のレースの新馬戦でいい奴いるか?

 

 

257:名無しの競馬ファン

新馬戦か

 

 

258:名無しの競馬ファン

>>256

11番

 

 

259:名無しの競馬ファン

悩むな

 

 

260:名無しの競馬ファン

>>256

5番

 

 

261:名無しの競馬ファン

5番はテイオー産駒か名前はノゾミミカドか…テイオーそっくりだな

 

 

262:名無しの競馬ファン

母父ミホノブルボン!?確かにこの距離ならいけるとは思うが…

 

 

263:名無しの競馬ファン

面白い血統だな、複勝買っとこうかな

 

264:名無しの競馬ファン

11番に単勝とワイド

 

 

265:名無しの競馬ファン

テイオー産駒が走るのか、頑張ってほしいな

 

 

266:名無しの競馬ファン

鞍上は福長か

 

 

267:名無しの競馬ファン

最近少しずつ成績伸ばしているよな

 

 

268:名無しの競馬ファン

俺5番に10000円賭けるわ

 

 

269:名無しの競馬ファン

>>268

正気に戻れ

 

 

270:名無しの競馬ファン

テイオー産駒なんて走るわけねーだろw

 

 

271:名無しの競馬ファン

競馬初心者、5番が気になるんだけど誰か詳しいこと教えて

 

 

272:名無しの競馬ファン

俺は11-15-7で賭ける

 

 

273:名無しの競馬ファン

>>271

テイオー産駒は周りが期待するような成績を残せていない G1取った産駒もいるけど親に比べたら…って感じ

 

 

274:名無しの競馬ファン

>>273

tnks

 

 

275:名無しの競馬ファン

G1取れるだけでもすごいんだけどな

 

 

276:名無しの競馬ファン

一年で数千頭生まれる競走馬の大半はG1どころか重賞に出れるのもほんの一握りしかいない

 

 

277:名無しの競馬ファン

そう考えると結構厳しい世界だよな

 

 

278:名無しの競馬ファン

なんかそう考えると馬券の当たり外れの金で騒ぐ俺たちって…

 

 

279:名無しの競馬ファン

>>278

それは言うな

 

 

280:名無しの競馬ファン

向こうは命がけで走るからな、俺も今スレ見ながら納期前の仕事を命がけで終わらせたばかりだよ

 

 

281:名無しの競馬ファン

>>280

仕事中にスレ見るな

 

 

282:名無しの競馬ファン

ただいま5徹で深夜テンション状態だぜ

 

 

283:名無しの競馬ファン

>>282

お前は競馬するよりも先に労基に行け

 

 

 

〜〜〜

 

 

471:名無しの競馬ファン

いよいよ始まるぞ

 

 

472:名無しの競馬ファン

さっき話に出てきたテイオー産駒はすんなり入ったな

 

 

473:名無しの競馬ファン

パドックでも落ち着いてたしなんかカメラに向かってキメ顔してた

 

 

474:名無しの競馬ファン

なんだそれ

 

 

475:名無しの競馬ファン

お前らレース始まるから静かにしろ〜

 

 

476:名無しの競馬ファン

サーセン

 

 

477:名無しの競馬ファン

始まったぞ!

 

 

478:名無しの競馬ファン

!?

 

 

479:名無しの競馬ファン

!?

 

 

480:名無しの競馬ファン

5番がなんかいきなりポンっと出たぞ!?

 

 

481:名無しの競馬ファン

てか早くね!?

 

 

482:名無しの競馬ファン

掛かっているのか?

 

 

483:名無しの競馬ファン

5番につられて他の馬も前めに行こうとしてるな

 

 

484:名無しの競馬ファン

2番もつか?

 

 

485:名無しの競馬ファン

多分ダメだな

 

 

486:名無しの競馬ファン

11番はいい位置についたな

 

 

487:名無しの競馬ファン

頼むロジゴールドきてくれ〜

 

 

488:名無しの競馬ファン

あ、2番沈んだ

 

 

489:名無しの競馬ファン

11が代わりに2番手に上がったな

 

 

490:名無しの競馬ファン

少しずつ差が埋まっていく!

 

 

491:名無しの競馬ファン

行け行け!!

 

 

492:名無しの競馬ファン

あと1馬身!

 

 

493:名無しの競馬ファン

!?!?

 

 

494:名無しの競馬ファン

!?????

 

 

495:名無しの競馬ファン

5番なんかまたスピード上げたぞ!?

 

 

496:名無しの競馬ファン

えっ1馬身の差がどんどん開いていくんですけど!!??

 

 

497:名無しの競馬ファン

そしてあっさりゴールイン…

 

 

498:名無しの競馬ファン

速くね?

 

 

499:名無しの競馬ファン

それな

 

 

500:名無しの競馬ファン

あ…ありのまま、今起こったことを話すぜ!俺は11番の馬が5番にあと1馬身の差まで迫っているところを見ていた…だが次の瞬間、5番がその差をあっという間に離していたんだ!な… 何を言っているのか わからねーと思うが俺も何が起こったのかわからなかった…

 

 

501:名無しの競馬ファン

めっちゃ強いな

 

 

502:名無しの競馬ファン

てかレコードタイム!?

 

 

503:名無しの競馬ファン

新馬戦を2着に圧倒的な差を付けて優勝+レコード、さらに姿形は父親にクリソツ…テイオー伝説の復活か?

 

 

504:名無しの競馬ファン

あれ、ホームストレッチでなんか変な動きしてね?故障?

 

 

505:名無しの競馬ファン

いや、あれってまさかテイオーステップ!?

 

 

506:名無しの競馬ファン

知っているのか雷電!?

 

 

507:名無しの競馬ファン

あれはノゾミミカドの父トウカイテイオーと同じ動きだ。テイオーは脚の柔らかさから弾むような歩様をしていた。その脚の柔軟さによりまるでバネのように地面を蹴る、それがテイオーステップだ。

 

 

508:名無しの競馬ファン

因みにこの歩様は他の馬だったらまず間違いなく脚を壊す。だからテイオーだけが出来た

 

 

509:名無しの競馬ファン

それを受け継いでいるのか…

 

 

510:名無しの競馬ファン

一万円が三万二千円になって帰ってきたんだけど…

 

 

511:名無しの競馬ファン

お前さっき一万賭けた奴か!

 

 

512:名無しの競馬ファン

そういえば競馬初心者君はどうだったんだ?

 

 

513:名無しの競馬ファン

まだこのスレにいるのか?

 

 

514:名無しの競馬初心者

あ、まだいます

 

 

515:名無しの競馬ファン

いたわ

 

 

516:名無しの競馬ファン

どうだった?5番勝ったから単勝は当たったと思うけど

 

 

517:名無しの競馬初心者

いや、単勝も買ったんですけど友達に三連単勧められて…

 

 

518:名無しの競馬ファン

外したか〜

 

 

519:名無しの競馬ファン

ドンマイ

 

 

520:名無しの競馬ファン

俺も外した11番ローテだったから

 

 

521:名無しの競馬ファン

へー

 

 

522:名無しの競馬ファン

そっかー

 

 

523:名無しの競馬ファン

ふーん

 

 

524:名無しの競馬ファン

>>521

>>522

>>523

お前ら冷たく無い?

 

 

525:名無しの競馬初心者

あっいやそうじゃなくて

 

 

526:名無しの競馬ファン

 

 

527:名無しの競馬ファン

 

 

528:名無しの競馬ファン

 

 

529:名無しの競馬ファン

どう言うこと?

 

 

530:名無しの競馬初心者

当たったんです三連単

 

531:名無しの競馬ファン

!?

 

 

532:名無しの競馬ファン

!!?

 

 

533:名無しの競馬ファン

!!!?

 

 

534:名無しの競馬ファン

当たった!?マジで!?

 

 

535:名無しの競馬ファン

マジか!?

 

 

536:名無しの競馬ファン

ビギナーズラック様様だな

 

 

537:名無しの競馬初心者

このお金で母親にご馳走します!

 

 

538:名無しの競馬ファン

あっうん

 

 

539:名無しの競馬ファン

なんか、眩しいな

 

 

540:名無しの競馬ファン

親孝行はしっかりやれよ

 

 

541:名無しの競馬ファン

なんか自分のことしか考えていないことが惨めに思えてくる

 

 

542:名無しの競馬ファン

大丈夫だここにいる大半はそんな奴だ

 

 

543:名無しの競馬ファン

里帰り…しよっかな

 

 

544:名無しの競馬ファン

来月お盆だから行くか…

 

 

545:名無しの競馬ファン

俺も爺ちゃんの墓参り行くわ

 

 

546:名無しの競馬労働者

俺も5日ぶりの我が家に帰るわ

 

 

547:名無しの競馬ファン

>>546

だからお前は帰る前に労基に行ってこい

 

 

548:名無しの競馬労働者

これから行くよ。三ヶ月間溜めた労働基準法違反の証拠ひっさげてな。

 

 

549:名無しの競馬ファン

お、おう

 

 

550:名無しの競馬労働者

因みに俺も三連複当たった

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
他の掲示板小説を参考にしながら作りましたがホント大変でした…

好評だったら第2弾があるかもしれません。

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帝の披露/初めての中山 芙蓉ステークス(OP)

あざまる水産さん、奈須Tさん、オトゥールさん、最終亭さん、海苔海苔さん、mtys1104さん、ケロッピさん、ワッタンさん、nuko1048さん、りそなろさん、雨戸さん、水銀ニートさん、デホレスさん、怪猫蜜佳さん、オレンジラビットさん、@触手さん、リンクスmk-Ⅷさん、評価ありがとうございます!!
お気に入り登録が1000を突破しました!!本当に感謝しかありません!
少し投稿が遅れましたが楽しんでくれると幸いです!
ミカドが中山に行きます。


10/4 中山競馬場

 

俺ノゾミミカドは現在中山競馬場のパドックで真司さんに引かれながら歩いている。今日行われるレースである『芙蓉ステークス』に出走するからだ。

そして俺の枠番や人気は…

 

1枠1番  ホッカイマドゥライ 12番人気

2枠2番 スパラート      5番人気

3枠3番 ダイワプリベール   2番人気

4枠4番 スズノハミルトン   7番人気

4枠5番 クリノスレンダー  11番人気

5枠6番 プルプル      13番人気

5枠7番 セイクリッドバレー  3番人気

6枠8番 マイヨール     10番人気

6枠9番 モンドール      8番人気

7枠10番 ダノンベルベール   4番人気

7枠11番 マイネルウェイヴ   9番人気

8枠12番 ノゾミミカド     1番人気

8枠13番 ドリームヘリテージ  6番人気

 

『8枠12番ノゾミミカド1番人気です。前回の圧倒的な走りや彼の適正などを踏まえこの人気となりました。単勝は2.2倍です』

『前走の走りは非常に素晴らしいものでした。祖父や父が偉業を成し遂げたこの中山でどのようなレースを行うのか非常に楽しみです』

 

はい、なんと1番人気に推されました。前走の4馬身差での勝利、血統から割り出された適正が俺を1番人気にしたようだ。

 

『これは負けられないな』

 

テイオー産駒の独壇場であるマイル、そして父さんやルドルフ爺ちゃん、ブルボン爺ちゃんが走り抜けたこの中山で…

 

『無様な走りは見せられないよな』

 

気合を入れ直し、俺は雄一さんを背に乗せパドックからコースへと移動した。

 

 

===

 

 

コースに来た俺たちはゲートに入る前に軽くコースの一部を走る。特に馬場の状態は良だし問題ない。

 

「ミカド、今日は先行策で行くぞ」

『雄一さん?』

 

雄一さんが俺に今日の作戦を語り出した。

 

「前回と違って今回のレースの8番、マイヨールは逃げ馬だ。お前は先頭にいて後ろや横に馬が付くと焦る部分がある。それに今回は大外だから前みたいな逃げは少し不利だ。今回は先頭から少し後ろでレースをする。後方の奴らは最後の直線の手前でスパートを掛けるだろうが、中山は最後の直線は短く高低差5.3mがあるから少し不利になる。だから先行で行く」

『了解です雄一さん』

 

 

『晴れ渡る空の下、中山競馬場で行われる芝1600mの芙蓉ステークス。馬場の状態は良馬場と出ました』

 

 

ゲート前に集められた俺たちは自分が入る番を待つ。

 

 

『1番人気はノゾミミカド。馬体重は前回の新馬戦と同じ472kg。テイオー産駒の独壇場であるこの距離をどう走るかが気になります』

 

 

そして、俺がゲートに入り大外のドリームヘリテージが入る。

初めての中山、いずれ走るだろう皐月の舞台となるこの地での…

 

ガゴンッ!!

 

レースが始まった。

 

 

『始まりました。各馬一斉にスタートしましたが2番スパラートが出遅れました。最初に先頭に立ったのは8番のマイヨール。続いて5番クリノスレンダー、すぐ後ろに11番マイネルウェイヴと12番ノゾミミカドが並んでいます。ノゾミミカドは今回は逃げではありません』

 

 

俺の今の順位は前から3、4番目くらいか…にしても前に馬、横に馬、後ろにも馬…これが馬群か…前回なんかよりも他の馬の呼吸、足音、プレッシャーが直に感じる。

 

 

『さらに1馬身離れて6番プルプル、7番セイクリッドバレー、9番モンドール、13番ドリームヘリテージ がいます。さらに後方3番ダイワプリベール、4番スズノハミルトン、5番ダノンベルベール、最高峰に1番ホッカイマドゥライと2番スパラートが並んでいます』

 

 

先行だと前回の逃げと違ってスタミナの消費が少ない。その代わりプレッシャーを間近で受ける分少しやな感じだ。我慢強くなければ掛かって最後にはバテちまう。

 

『う〜もっと前行きたい〜』

『クッソ!抑えんな!俺の好きなように走らせろ!』

 

現に11と5は掛かりかけている。騎手さんが抑えてはいるけどあれはもたねえな。

 

「ミカド、前2頭は恐らく最後は伸びない。巻き込まれる前に少し外に行くぞ」

『わかりました』

 

雄一さんも同意見みたいだ。俺たちはあの2頭より少し外に出る。順位は4コーナーまでキープ。

 

 

『第2コーナーに入り先頭は依然マイヨール、クリノスレンダーとマイネルウェイヴが前に行こうとしています。1番人気のノゾミミカドは少し外に出て居ます』

 

 

コーナリングは俺の得意分野だから全然問題ない、ぶれることなく綺麗に走る。

 

 

『直線に入り後方にいたダイワプリベールとダノンベルベールが前に来はじめました。先頭集団のマイネルウェイヴがマイヨールに並ぼうと前に出ます。後方の馬たちは内に固まっています』

 

 

「後方からすごい勢いで来ているけど気にするな。4コーナーまで耐えるんだ」

『わかっていますけど…なんか後ろのダイワプリベールがすごい勢いで来ているんですけど…イッタ!?すいません集中します!』

 

後ろからくる気迫を気にしすぎていたせいで雄一さんに鞭で怒られた。

そんなこんなで第3コーナーに先頭集団が入った。

 

 

『先頭は依然にマイヨールで2番手のクリノスレンダーに2馬身離している。ここでダイワプリベールが5番手に上がった。ノゾミミカドは4番手から動かないで順位をキープしています。おっとここで2番手がクリノスレンダーからマイネルウェイブに移ります。残り600mを切り先頭集団は第4コーナーに入ります』

 

 

『雄一さん!』

「ミカド、行くぞ!」

 

さっきとまた違う鞭が入る。俺は一瞬脚を溜めるために減速。その隙にダイワプリベールが俺を交わす。ああ今は前を譲るよ。今は(・・)だけどな…

 

 

『第四コーナーでまだマイヨールが粘っているがマイネルウェイヴがじりじりと差を縮めている、コーナーを抜けて最初に来たのはマイヨールだがその差はもう1馬身もない!ダイワプリベールが外からやって…!?更にその外からノゾミミカドがやってきた!!』

 

 

『!?嘘!?』

『嘘じゃあないよ、お先〜!』

 

ダイワプリベールを交わし、バテかけている2頭も交わしマイヨールのすぐ後ろに追いつく、後ろからダイワプリベールと後方から上げてきたダノンベルベールが来るが関係ない。

 

『ノゾミミカド直線に入ってから急加速し、前の馬を一気に抜き、先頭争いに入りこむ!ダイワプリベールと後方からこれまたダノンベルベールが先頭争いに入ろうとしている。ここでノゾミミカドが先頭に立つ!中山の坂を物ともせず、スピードを緩めずに悠々と登って行く!2番手に1馬身のリード!』

 

 

坂は確かにキツいが問題ない、脚を緩めるな。前だけ見て走るんだ!あと少しで…

 

 

『強い走りだ!誰にも止められ無い!坂を登りきってノゾミミカド1着でゴールイン!!』

 

ふ〜、無事ゴールインと。

 

 

『1着はノゾミミカド!坂を物ともせずに後続に1馬身半のリードをつけて勝利しました!勝ち時計は1:32.9!素晴らしい走りを見せました!』

 

 

「よくやったな、ミカド。まだまだ余力もありそうだな」

『いや結構しんどいんですけど…特にあの坂…父さんたちってあの坂を何回も登っていたのか?』

 

いやマジすげーわ、でもクラシックに入る前に中山のこの坂を経験出来てよかったよ。

さて、そろそろ行きますか。

 

「ミカド?またやるのか?」

『もちろんですよ、アピールすることは大事ですよ』

 

 

『ホームストレッチにノゾミミカドが戻ってきました、おっとこれは…』

 

 

前回もやったテイオーステップご披露じゃい!前やってから勝ったらこれをするって決めたんだよね。

 

 

『テイオーステップです!阪神でも見せたテイオーステップをここ中山で披露しました!!ノゾミミカド、皇帝の一族の強さを再び見せてくれました!』

 

 

満足満足、それじゃあ皆さんまた次のレースで〜

 




今回は少し短めです。
結構忙しかったんで時間がかかりました。
次回も少し時間がかかると思いますが気長にお待ちください。

評価やコメントお気に入り登録も是非。それでは…


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帝の日常/ブエナのレース

無印読品さん、カルデスさん、zincさん、リョウ・タッキーさん、森型さん、評価ありがとうございます!

今回はミカドの同期ブエナビスタの回です。
少し短めですが楽しんでもらえれば幸いです。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


松戸厩舎 馬房

 

『悔しい〜!!!!!』 ガンガンガンガン!!!!

 

俺ノゾミミカドが芙蓉Sで勝利した数日後に行われたブエナの新馬戦。そこでブエナは3着となり負けてしまったらしい。

 

『ブエナ、落ち着けって…他の奴らに迷惑だろう』

『そうそう。それに新馬戦で勝てる馬ってそんなに居ないんだよ』

 

※こいつら新馬戦で勝った奴らです。

 

『ふ〜んだ!!』プンスコ

 

あらら、これ俺たちじゃどうしようもないわ…どうしましょ…

 

『騒がしいぞ、お前ら』

 

俺らが困っているとある一頭が声を出した。

 

『最初負けたかってウジウジしよって…そんなんじゃ次の未勝利戦、勝てるものも勝てなくなるぞ』

『も、モナーク先輩!』

 

俺たちの会話に入ってきたのは『アドマイヤモナーク』というこの厩舎では古参に入る重賞馬だ。オーラ先輩と同じ冠名を持ち、既に40戦もレースに出走しG1にも出走経験もある先輩馬だ。

 

『どういう事〜?!私が勝てないって言うの〜!?』

『違う。むしろお前は俺なんかよりも内に秘めた才能も根性も上だ。俺が言いたいのは負けてウジウジするんじゃなく、なんで負けたか、次はどうすれば勝てるかを意識しなくちゃいけない。それに気づかなくちゃ俺みたいに未勝利から中々抜け出せなくなるぞ』

 

モナーク先輩の言葉にブエナの怒りは少しだけ収まったが同時に怪訝そうな表情をした。

 

『どう言うこと?』

『俺はデビューしてから一年弱はずっと未勝利馬だったんだよ。あの頃は中々勝てなくてな、負け続けた俺は闘志をなくしていたんだ。けど5回ぐらいの未勝利戦で負けてふと思ったんだよ。『なんで俺は勝てなかったんだ、俺自身今まで何を思って走っていたんだ』ってな』

 

その話を俺たちは黙って聞き続けた。

 

『負け続けて俺は『負ける』ことが当たり前になっていたんだ。『勝つ』ことが分からなくなっちまっていたんだよ。俺は誰よりも早く先頭に立って勝つことが目標だったはずだ、なのにこの体たらくはなんだって思い始めてな。それを考えていたら勝利への闘志が俺の中にまた戻って来た。そこから俺は負けてそこで終わるんじゃなくて、”負けても勝利に繋がるものをそこから死ぬ気で見つけて身に着ける”ことにしたんだよ』

『負けても……』

『勝利につながるものを…』

 

俺たち競走馬の世界は厳しい世界だ。勝つことがない馬ははっきり言って余程のことがない限り、多くはそこで馬生を終えてしまう。勝ち続けなければいけない世界なんだ。

でもモナーク先輩は負けても負けても諦めずに走り、少しづつ成績を出し始めた。自分が勝つことを信じて。

 

『ブエナビスタ』

『は、はい!』

『負けて悔しがるのはいいことだ。それはまだお前が気持ちでは負けていない証拠だ。だがなそこで止まっていたらお前は勝つことは難しくなる。負けて学べ、そして勝利を掴む為に考えろ!闘志を失った奴はそこで終わる、だが闘志を失わない奴、もう一度燃やし始めた奴にはチャンスがある!それを掴むのはお前自身の力だ!いいな!』

『は、はい!!分かりました、ありがとうございます!』

 

ブエナはモナーク先輩にお礼をし、次のレースに勝つために考え始めた。

 

『モナーク先輩、ありがとうございます。俺も勉強になりました』

『ふん、気にするな。少しうるさかったから注意をしただけだ』

『先輩は素直じゃないな〜。ミカド、先輩は負けた子が出てくるといつもああやって喝を入れてあげるんだよ』

『オーラ、お前もG1で負けた時かなり荒れていたじゃないか』

『先輩、それは言わないで』

 

少し恥ずかしがるオーラ先輩、オーラ先輩をからかうモナーク先輩、それを見て笑う俺を横にただ一頭ブエナだけはその輪に入らずひたすら考え続けていた。

 

 

===

 

 

ブエナビスタside

 

京都競馬場

 

私ブエナビスタはあの時モナークさんに言われた通りにあの時何故負けたのかをずっと考えていた。

 

(あのレースでは最初に出遅れたのがまず一つ。そしてそれに焦ってモタモタしちゃったこと。次にスローペースになっていたから私みたいに後方から行く子たちが不利になりやすいレースだって安堂(あんどう)さんが言っていた)

 

あの時の負けは私がレースに集中しきれなかったからだ。

 

 

『1番人気、ブエナビスタ。馬体重は450kg、前回よりも2kg体重を落として来ました。ここで勝利し無事に未勝利戦から脱出なるか?』

 

ゲートに入り、集中する。今の私がすることはただ一つ。

 

「ブエナビスタ、そろそろゲートが開くぞ。集中しろよ」

『大丈夫だよ、安堂さん。前みたいなミスはしない…』

 

 

『全頭ゲートに入り態勢整いました』

 

 

さあ、魅せてやろう。私の走りを…

 

 

ガゴンッ!!

 

 

『スタートいたしました!各馬綺麗なスタートを切りました』

 

 

前と同じように後方から。でも落ち着いて…

 

 

『ブエナビスタは後方から6番目の位置で脚を溜めています』

 

 

勝負を仕掛けるのは最後の直線…今はただそのタイミングを待つだけ。

 

 

『第4コーナーを回って直線に入る。先頭はトーアクレセント、後方からハッピーパレードが上がって来た』

 

 

直線に入って安堂さんの鞭が入る!

 

『行くぞ!私の末脚はアイツにも負けない!!』

 

 

『っ、大外からブエナビスタが凄い勢いで上がって来た!前の馬をごぼう抜き!一気に先頭に躍り出る!!リードを2馬身、3馬身と開いて行く!!凄い脚だぞブエナビスタ!!』

 

 

『これが本当の、私の走りだぁぁ!!』

 

初めてゴール板を最初に駆け抜けた私は勝利のチャンスを見事に掴み取ったのだった。

 

 

『ブエナビスタ、1着でゴールイン!!2着にハッピーパレード、3着は固まってまだ正確には分かりません!ブエナビスタ、見事未勝利戦を脱出しました!』

 

 

「よくやったなブエナビスタ。いい走りだったぞ」

『ありがとう、安堂さん。今度はしっかりと走り切りましたよ』

 




軽い紹介

アドマイヤモナーク 7歳
父ドリームウェル 母スプリットザナイト 母父トニービン
アドマイヤオーラと同じ馬主が所有する重賞馬。未勝利戦を8回も行い、その後は条件戦などに多く出走し重賞レースにも出走できるようになった経歴を持つ馬。
松戸厩舎の古参で負け続けた自分だからこそ勝利と言うものがいかに重要だと言うことを誰よりも理解している。
結構お節介で厩舎内で負けた馬がいると喝を入れに来る。

今回の話で出て来たモナークは何回もレースに負けても諦めず全盛期ともいえる時期がすぎても最後まで走り続けた馬です。諦めないと言うことがいかに重要だと言うのが彼は最も理解していると思います。

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帝の初重賞/さらに上の舞台へ

マジロンさん、LCACさん、すいあおさん、しのざきさん、良介さん、ampppppさん、評価ありがとうございます!
コメントとかもいつも見せてもらっています!みなさんからのコメントが来る時は作者はめちゃくちゃ喜びます。
これからもどうぞよろしくお願いします!

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


松戸厩舎

 

ブエナビスタの未勝利戦が行われる数週間前…

 

「ミカドの次のレース、重賞に挑戦しようと思う」

 

松戸から放たれた言葉にここに集まった真司、福長、駒沢の全員が息を呑む。

 

「いよいよ、ですか…」

「ミカドの戦績からしたら確かにいいと思います」

「重賞戦か…」

 

三者三様の言葉を出しながら盛り上がる3人に松戸は手を叩き3人を静かにする。

 

「そこで、そのレースなんだが年内で行われるミカドに合う重賞戦は3つある。G3の東スポ杯とラジオNIKKEI杯、そしてG1の朝日フューチュリティSだ」

 

11月中盤に東京で行われる1800mのG3『東スポ杯2歳S』、12月終盤に阪神で行われる2000mのG3『ラジオNIKKEI杯2歳S』、そして2歳の牡馬が唯一でれる12月中盤に中山で行われる1600mのG1『朝日フューチュリティS』の3つの内どれかを松戸は選択肢として用意して来た。

 

「距離と府中のコースを確かめるなら東スポ、中距離の適正を知るならNIKKEI杯、強豪になり得る存在を知るには朝日ですかね…」

 

駒沢がレースそれぞれのメリットを口に出した。

 

「ミカドは恐らく1800は走り切れます。前回の1600でもまだ余裕がありましたから」

「それじゃあ、やっぱり中距離の適正を調べるためにNIKKEI杯に行きますか?」

 

雄二と真司はミカドは既にマイルでは十分戦うことができることを口にする。

 

「最終的な判断は駒沢さん、あなたが決めることです。どのレースに出てもミカドは必ず善戦するでしょう。ミカドの未来を決めるのは貴方なんです」

 

松戸はあくまで自分たちはアドバイスをするだけと言い、ミカドに関する最終決定権は駒沢自身にあると言う。

駒沢はしばらく悩んでいた。そして悩み始めて5分程で駒沢は口を開く。

 

「もしも、ミカドがクラシック、三冠を狙うのであればどれがいいと思いますか…」

 

クラシック三冠、その言葉に3人の顔が強張る。ミカドの今後の調教が順調にいけば間違いなくダービーの距離2400は余裕で走りきることが可能だろう。しかし長距離3000の菊花賞はハッキリ言えば難しい。

 

「…クラシックを狙うのであれば朝日をお勧めします。G1の空気は他の重賞戦やOP戦とは全く違います。その空気に慣れさせる事は大事です。あとは獲得賞金ですね。朝日で入着すれば重賞を皐月までに1戦すれば出走可能でしょう。しかし…」

「同時にミカドの中距離への実力が不明になってしまう、と言うことですね」

 

駒沢の発言は最もである。馬の距離適正は殆どの場合親から遺伝する。(中には突然変異で中長距離の血統であるはずなのにサクラバクシンオーみたいな短距離最強が生まれることも稀にあるが…)

ミカドは恐らく親の遺伝子を忠実に受け取った馬である事はほぼ間違い無いだろう。

 

「俺がミカドに乗ってる感じでは2000までは問題なく走れます。ダービーもその時期には恐らく問題ないでしょう。しかし…」

「ええ、分かっていますよ福長さん。一番の難関は菊花賞でしょう?」

 

そう、何度も言うが3000と言う距離を走るのは馬であろうときついのである。ミカドは血統からすると菊花賞は掲示板入りするのも怪しい。

 

「わかっています。あの子には長距離は長すぎる。しかし、如何しても見てみたいんです。あの子の祖父が打ち立てた金字塔、父と母父が叶えられなかったあの偉業を…あの子が成し遂げるのを…あの子は間違いなくそれを成し遂げるだけの才能を持っていると私は思うのです。私の我が儘と言うのは分かっています。ですが…どうか」

 

頭を下げる駒沢に真司は困惑する。そして調教師の松戸と騎手である福長は黙ったまま駒沢を見つめる。

ただただ時間が静かに過ぎて行く。その静寂を破ったのは松戸だった。

 

「真司、雄二ミカドの調教に行くぞ。朝日まで1ヶ月と少し…その間に仕上げるぞ!」

 

「は、はい!」

「分かりました」

 

「駒沢さん」

「……はい」

 

「私も正直に言うとミカドにクラシックは難しいと考えていました。血統がそれを物語って、世論がそれは無理だ、難しいと言う。しかし、ミカドは何処かできっとやってくれる、そう感じてしまうんです」

「松戸さん…」

 

「やってみましょう。ミカドをかつての日本を震撼させた『皇帝』と『帝王』に連なる存在にしましょう」

「……ええ、やりましょう!」

 

松戸と駒沢は固く手を握った。そして一同は『朝日フューチュリティS』に向けて準備を進めるのであった。

 

 

===

 

 

松戸厩舎 馬房

 

ブエナビスタ未勝利戦後日

 

『ミカド〜勝ったよ!!私勝ったよ!!』

『はいはい、偉い偉いよく頑張りました』

『も〜ちゃんと褒めてよ〜!』

 

俺、ノゾミミカドは12月に行われるレース『朝日フューチュリティS』(以下朝日FS)に出走することが決まった。同時にブエナも『阪神ジュベナイルフィリーズ』(以下阪神JF)に出走することになっている(まあ、獲得賞金がギリギリで、抽選でなんとか選ばれたらしいけど)。どちらのレースも2歳馬の頂点を決めるG1レースだ。

 

(…にしても朝日FSか…史実では確かセイウンワンダーが勝っていたな。クラシックでも善戦するから注意しとかないとな)

 

雄一さんたちは俺をクラシック路線に進ませることを決めたらしい。中距離の確認は皐月賞が始まるまで中距離レースはいくつかあるしそのどこかで確認すればいいしな。

 

『ねえねえ、ミカド』

 

俺が今後のことについて考えているとブエナが声をかけてきた。

 

『なんだ?レースで勝ったことはもう何回も褒めているだろ?』

『そうじゃなくて、あのさ…私たちが次出る2つレースって私たちの世代の1番を決めるレースなんだよね?』

『ああ、俺たちサラブレッドの登竜門みたいなレースだな。実際あのレースに勝ったり入着した馬の多くは様々なレースで結果を出している馬が多い』

 

俺が出走する朝日FSでは『幻の馬』トキノミノル、『怪物』タケシバオー、『スーパーカー』マルゼンスキー、そして俺の爺ちゃん『サイボーグ』ミホノブルボンなどが、ブエナの阪神JFにも『天才少女』ニシノフラワー、『女傑』ヒシアマゾン、『常識破りの女王』ウオッカなどの名馬たちが成績を遺したレースたちなのだ。

 

『だったらさミカド』

『ん?』

 

少し興奮気味のブエナは俺を見ながら話し続ける。

 

『私たちでその2つのレースを制覇しない?』

『……えっどういうこと?』

 

脳の理解が追いつかない。いやもちろん出るからには1着を目指すけどブエナからこんな話しを持ちかけられたことなんて今までなかったし、それに俺たち2人で制覇って、えっ?

 

『ごめん、ブエナどういうことか説明して…理解が追いつかない』

『だーかーらー!次のレースは私たちの頂点を決めるものなんでしょ?』

『ああ』

『つまり、私たちが勝てば世代最強コンビってことになってテキや厩務員さんたち、馬主さんも喜ぶじゃん!』

 

あ〜なるほどね。俺らが勝てばどちらも2歳馬の頂点は松戸厩舎のものになってみんなの喜ぶとこが見たいのか、君は。

 

『それにさ…』

 

『強い奴と戦って勝つ方が燃えるし…』

 

!?今、ブエナからなんかいつもと違う何かを感じたような…

 

『?どうしたのミカド?』

『い、いや、なんでもない(気のせいか?)』

 

もう一度ブエナの方を確認するがいつも通りののほほんとしたブエナだ。やっぱり気のせいか…

 

『で、どうするミカド?』

 

期待の眼差しで俺を見てくるブエナ。ここまで相手が言っているんだ。なら俺も…

 

『よし、いいぜ。その話乗った』

『やっt『ただし!』…?』

『俺たちでも勝負しないか?』

『勝負?』

『俺たちは別々のレースに出ることになっている。だから直接対決は出来ない。そこでだ』

 

色々と違いはあるけどこうした方がこっちも燃える。

 

『距離が同じレースだからな。どっちが速いタイムで勝つかも勝負しないか?』

 

朝日と阪神、コースは違うがどちらも右回り1600mのマイル戦だ。全然違うレースの結果を競うのは少し違う気もするけど…

 

『へえ…それ、面白そう…』

『だろ?』

 

競走馬(俺たち)にはあんまり関係ない。

 

『それじゃあ、少し早いけど宣戦布告だ』

 

 

 

 

 

 

 

『お前なんかより速く俺はゴールするぜ、絶景の女王(ブエナビスタ)…』

 

俺の挑発にブエナも闘志を燃やす目で返してくる。

 

『ふふっ…』

 

 

 

 

 

『調子に乗るなよ、無敵の帝(ノゾミミカド)?』

 

こうして俺たちはそれぞれ初のG1レースに向けて動き出した。

 

 

 


入口付近

 

オーラ『先輩、僕アレに近づかなきゃ行けないんですか?』

モナーク『まあ、そうだろうお前の馬房隣なんだし…』

オーラ『…正直今だけは近付きたくないです』

モナーク『まあな。ミカドから出ている覇気は英雄様にも勝らずとも劣らねえしな』

オーラ『それ言ったら妹もあの常識破りにも負けないくらいですよ』

 

モ・オ『『……(収まるまで)動きたくねぇ……』』

 

厩務員A「モナーク!頼むから動け!」

厩務員B「オーラもどうした!?いつもは聞き分けが良いこだろう!」

 

数分間、松戸厩舎の馬たちはミカドたちの近くに近寄らなかった。




ブエナの性格、作者でも少し分からなくなってきました。
普段は良い子です。

コメントとかいつも必ず全部見ています。評価やコメント、お気に入り登録を是非。それでは。


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帝の朝日/絶景の阪神 前編 阪神JF(G1)

真っ黒クロスケさん、送検さん、ほっか飯倉さん、評価ありがとうございます!

今回はミカドは殆ど出て来ません。今回はブエナビスタの戦いです。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


2008年 12月14日(日)

 

阪神競馬場

 

ブエナビスタside

 

私ブエナビスタは世代の頂点を決めるレースの一つ『阪神JF』に出走する為に阪神競馬場に来ている。

 

「落ち着いているな、ブエナビスタ」

「ええ、前回よりも気合の入りようが違います。良いレースができそうですよ」

 

テキや騎手の安堂さんが私について何かいっているけど集中している私の耳には入らない。ミカドとの約束を守る為、勝負に勝つ為、どちらも決して譲れない。

 

レースの時間が近づきパドックに移動する。パドックでは私の他にもたくさんの競走馬たちがいる。新馬戦や未勝利戦の娘たちとはまた違う。これがG1レースの空気…

 

(どの娘も強そう。油断は決して出来ないね)

 

 

枠番馬番馬名人気
1枠1番カツヨトワイニング13番人気
1枠2番ダノンベルベール3番人気
2枠3番レディルージュ12番人気
2枠4番アディアフォーン9番人気
3枠5番イナズマアマリリス8番人気
3枠6番ルシュクル7番人気
4枠7番ショウナンカッサイ10番人気
4枠8番フキラウソング14番人気
5枠9番ミクロコスモス4番人気
5枠10番コウエイハート16番人気
6枠11番デクラーディア6番人気
6枠12番ワンカラット5番人気
7枠13番ブエナビスタ1番人気
7枠14番チャームポット15番人気
7枠15番パトブレ17番人気
8枠16番メイショウボナール11番人気
8枠17番ジェルミナル2番人気
8枠18番シゲルキリガミネ18番人気

 

 

『7枠13番ブエナビスタ、1番人気です。前回の未勝利戦からの出走でありながらその驚異的な末脚を期待され見事に1番人気に選ばれました』

『2歳とは思えない素晴らしい馬体です。一頭だけ気合の入りようが違います』

 

 

私たちは騎手さんたちを背に乗せパドックから移動し、コースに辿り着く。お客さんたちがいる場所は沢山の人が集まっていた。

 

(凄い…今までなんかより全然違う。馬も騎手の人たちもお客さんも、なんていうか…凄い盛り上がりだ)

 

これがG1…最高峰のレースの空気…

 

『ハハッ…』

 

……面白い…

 

『最高に熱く燃えるレースができそうだよ…』

 

 


 

 

『晴れ渡る空の下、ここ阪神競馬場で2歳牝馬の頂点を決めるレース『阪神JF』が行われます』

 

 

『ねえねえ』

『うん?』

 

ゲート付近に集まっていたら一頭の馬に声をかけられた。

 

『あなたがブエナビスタ?』

『そうだけど、あなたは?』

『私?私はダノンベルベールっていうんだ。よろしくね、ブエナビスタ』

『長いからブエナでいいわ』

『分かった、じゃあ私のことはベールって呼んで』

 

ダノンベルベール__ベールはどうやら1番人気に推された私に興味があって話しかけてきたようだ。

 

『他の子にも話しかけたんだけど、みんなピリピリしているみたいで睨まれたり無視されたりしたんだけどね』

『ふ〜ん。それで、私に何か用があるの?』

『ああ、今日はいいレースをしようねって言いに来たんだ。それと…』

『それと…?』

 

『絶対に負けないから…』

 

途端にベールの周りの空気が変わった。さっきまでの無害そうな雰囲気から一転、油断したらこちらも飲み込まれそうなものへと。

 

『ふふっ…』

 

ほんと、凄い。G1に出ればこんな子とも何回も戦えるんだ。

 

『こちらこそ、勝つのは私よ……!』

 

そしてレースの時間が近づき、私たちはそれぞれのゲートへと向かう。私のゲートは13番、だから入るのは最後の方。

ベールは2番だからもうゲートに入って行った。

 

そして私の番になり、ゲートへと入って行く。

 

「ブエナビスタ、今日も後方から行くぞ。落ち着いてな」

『了解です。安堂さん』

 

 

『最後に大外シゲルキリガミネがゲートに入りました。……スタートしました』

 

 

よし!落ち着いてスタートできた!

 

 

『18頭ほぼ揃ってスタートしました。まず向こう正面先行争いです。ハナに立ったのはアディアホーンとレディルージュ。しかしショウナンカッサイが先頭を奪います。それに続いてシゲルキリガミネが上がってきます』

 

 

後方から3、4番目辺りについて、チャンスを待つ。ベールの位置は…

 

 

『その内にレディルージュが入り3から4番手の位置についています。あとはルシュクルが追走、そしてコウエイハート。3コーナーに向かっていきます。内はカツヨトワイニング、アディアホーン、ワンカラット、ジェルミナル、半馬身差パドブレ追走して、中団グループにはイナズマアマリリス。第3コーナーのカーブに入り、ダノンベルベール、外からチャームポット、その1馬身差にフキラウソング』

 

 

目の前にいた。あの子も私と同じ差しの脚質なのか…

 

 

『その外にブエナビスタ。800の標識を通過、2馬身差にミクロコスモス、最後方メイショウボナール、こういった展開になっております』

 

 

半分を過ぎて、4コーナーに入る少し前に安堂さんから外に出る指示が出た。理由は恐らく…

 

「外に出るぞ。あのまとまった馬群に呑まれると厄介だ」

『ですね。あれじゃあ抜け出しにくくなりますしね』

 

直線に入るまであの集団がばらけることは無い。後方の私からしたら厄介この上ない状態だ。

 

 

 

『第4コーナーカーブでシゲルキリガミネが上がって行った。そしてルシュクルが上がり先頭に立つか。コウエイハート、ジェルミナル、外からダノンベルベールが来た!』

 

 

(!ベールが動いた!!)

 

 

『ダノンベルベール先頭争いに乱入!このまま先頭に立つことはできるのか!?』

 

 

凄い脚だ。外側にいたとはいえ混雑していたあの馬群から一気に前に出るなんてパワーもスピードも普通の競走馬とは違う。

でもね…

 

『パワーもスピードも私の方が上だ!!』

「行くぞ!ブエナビスタ!!」

 

安堂さんから鞭が入る。同時に私は大外から一気に加速する。

 

 

『ダノンベルーベール先頭か、外からブエナビスタがやって来た!一気に外からブエナビスタがやって来た!ダノンベルベールを交わし先頭に躍り出た!!』

 

 

『なっ!?』

『お先に失礼、ベール』

 

ベールを抜き去り先頭に立つ。脚はまだ残っている。このスピードを維持し続けるには充分なほどに。後はこのままゴールに…

 

『負けるかぁぁぁぁあぁぁあぁぁっっ!!!!』

 

 

『内のダノンベルベールが再び加速!ブエナビスタとの差を縮めて行く!まだ勝負の行方は分からない!!』

 

 

『何っ!?』

「あの馬、まだ力を残していたのか!?」

 

上の安堂さんもベールの再加速に驚きを隠せていない。トップスピードを維持しているけどその差をベールは埋めてくる。気づく頃にはベールはあと半馬身の位置にまで来ていた。

 

『追いついたよ!ブエナ!!』

『でもまだ抜かせないよ、ベール!!』

 

 

『ブエナビスタが僅かにリード!しかしダノンベルベールも負けじと食らいつく!後方からショウナンカッサイとミクロコスモスも来るが追いつけない!残り100を切りブエナビスタ粘る!ダノンベルベール差すか!?』

 

 

完全に私たち二頭の一騎討ち。ベールは私を追い抜こうと少しづつ差を埋めて来てる。同世代でミカド以外でまだこんな凄い子が居たなんて知らなかった。

 

『あと少し…!!』

 

勝利への渇望、闘志、この子は間違いなくこのレースにいる子たちの中でも抜きん出ている。

 

『でもね…』

 

 

 

 

 

『私だって、負けられないんだぁぁぁ!!!!』

 

 

 

『ブエナビスタがダノンベルベールとの差を開いて行く!!凄い脚だ!!強い走りだ!!ブエナビスタ、今ゴールイン!!!!!勝ったのは13番、ブエナビスタだぁぁ!!!ダノンベルベールの猛追いを退け、半馬身差で見事2歳女王の座を手に入れました!!』

 

 

「よくやったな!凄いぞブエナビスタ!!」

『ハア…ハア…ハア…か、勝った……の?』

 

最後はガムシャラになって走ったからちょっと息が…

 

『す、凄いね。ブエナ』

 

息を整えていたらベールがこちらによって来た。向こうもかなり息が上がっている。

 

『そっ、そっちこそ…追いついかれた時はホントビックリしたんだからね…』

『それはこっちのセリフだよ…結果的に追い抜けなかったし…最後の加速何?』

 

お互いに称え合いながら走っていると周りの人の声がなんかどよめいているように感じた。何があったんだろう?

 

 

『タ、タイムはなんと!1分33秒ジャスト!!レコードタイムです!!二年前に更新されたウオッカのタイムをコンマ1秒更新しました!強い馬だ、ブエナビスタ!ダノンベルベールも負けて強しの競馬!来年のクラシックが非常に楽しみです!!』

 

 

会場が一気に盛り上がる。レコード…私がレコードを…

 

「レコード……か…」

 

安堂さんも驚いている。けど表情は嬉しそうだ。

 

『ブエナ、レコードって何?でもスゴいことなんだよね?ならおめでとう!』

 

ベールはレコードについてわからないみたいだけど祝福してくれた。

 

『うん、ありがとう』

 

さて、私はしっかり勝ったよミカド。

次は貴方の番よ。

 

 


 

《その後のおまけ》

 

ブエナ『にしてもベール凄いね、あの末脚』

ベール『えへへ、あの日から凄い頑張ったんだよね』

ブエナ『あの日?』

ベール『二つくらい前のレースで負けてね。その時勝った馬が凄い強かったんだ。最後の直線でバビュン!!って速くなるんだよ。あんな風に走りたくて自分なりに考えたんだよね〜』

ブエナ『へぇ〜、ベールに勝つ相手なんてそうそういなさそうだけど…どんな馬だったの?』

ベール『ええっと…確か、ノゾミミカドって呼ばれてた!』

ブエナ『へぇ、ノゾミ…………えっ』

ベール『黒い馬体で、額に白い流星があって、すっごく強い牡馬だった!カッコよかったんだよ!走る姿も凄い綺麗で……』

ブエナ『へぇ〜そうなんだぁ〜(なんだろう。なんかちょっとムカムカする…)』

ベール『?どうしたのブエナ?』

ブエナ『何でもないよ(取り敢えず帰ったらミカドに蹴りの一つでも入れよう)』

 

 

松戸厩舎

ミカド『なんか悪寒が…』

オーラ『ミカド?どうした?』

 

※蹴りはされなかったが暫くブエナはちょっとだけ機嫌が悪かった。




紹介

ダノンベルベール 2歳
父:アグネスタキオン 母:ミスベルベール

ミカドたちの同期の牝馬。ミカドとは芙蓉Sで対戦し3着。今回の阪神JFではブエナと接戦し2着となった。ミカドに負けてからミカドみたいに強くなろうと決意、結果史実より強化された。
結構天然でいい子。ブエナは友達、ミカドは憧れ。

安堂勝樹(あんどうかつき)48歳
栗東に所属する男性騎手。ブエナの主戦騎手でもある。もともとは地方の騎手であったが中央へ移籍。
馬を動かす技術が上手く、天才と言われた騎手たちにも引けを取らない実力の持ち主。

次回はミカドのターンです。気長にお待ちください!!

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それでは。


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帝の朝日/絶景の阪神 後編 朝日FS(G1)

LiberLegisさん、ジャックランタンさん、ヘスティアさん、評価ありがとうございます!

今回はミカドのターンです!
更新が遅くなり申し訳ありません!

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


12月21日(日)中山競馬場

 

俺ノゾミミカドは『朝日FS』に出走するために中山競馬場に二ヶ月ぶりにやってきた。

先週行われた阪神JFでブエナは1分33秒というタイムを叩き出した。(でも帰って来たらなんか不機嫌そうにしていて、近づこうなら蹴り飛ばすと言わんばかりのオーラを出していた)

 

ブエナとの勝負、どっちのタイムが早いかの勝負で、俺は33秒を切らなきゃ俺はブエナに負けることになる。

 

『今日のレースもブエナとの勝負も、どっちも負けるわけにはいかないよな』

 

そう考えながら俺は真司さんに引かれながらパドックへと向かって行く。パドックに着くと今までと違い周りには数えきれない程のお客さんがいた。

 

(すげぇ…これがG1レースのパドック……2歳馬のものでこれならクラシックや古馬戦ではどうなるんだ…)

 

因みに今回の出走表は…

 

枠番馬番馬名人気
1枠1番ミッキーパンプキン4番人気
1枠2番シェーンヴァルト5番人気
2枠3番セイウンワンダー3番人気
2枠4番トウカイフィット16番人気
3枠5番ブレイクランアウト2番人気
3枠6番トレノパズル9番人気
4枠7番オメガユリシス12番人気
4枠8番ツルマルジャパン11番人気
5枠9番エイシンタイガー8番人気
5枠10番ノゾミミカド1番人気
6枠11番フィフスベルト6番人気
6枠12番ゲットフルマークス10番人気
7枠13番ピースピース15番人気
8枠14番ホッコータキオン7番人気
8枠15番ケンブリッジエル14番人気

 

となっているようだ。

俺の人気は1番人気。初重賞、ブルボン爺ちゃんが取ったこのレースで取ってみせる!

 

 

『2枠3番3番人気のセイウンワンダー。鞍上は石田康成騎手。馬体重は前回から10kg増え514kg。前回の新潟2歳Sでは2着に1馬身半の差を付けて勝利しました。この中山でどのような走りを見せるのか期待の一頭です』

 

 

あれがセイウンワンダーか…ブエナの父さん、スペシャルウィークが二度に渡って勝てなかった馬、グラスワンダーの産駒。脚質は差しから追い込みの後方スタイル、この距離はあいつの適正でもある。今回俺が一番気を付けなきゃいけない馬。

 

『まあ、俺は俺のレースをするだけだ、周りを気にしちゃまた雄一さんの鞭が飛んでくる…』

 

前回のレースでも他馬を気にしていたことで俺はブリンカーをつける事になった。周り見えなくなるのはと思ったけど、案外そこまで気にならなかった。結構カッコいいし。

 

 

『5枠10番本日の1番人気ノゾミミカド、鞍上は変わらず福長雄一騎手です。馬体重は前回から6kg増え478kg。今回のこのレース重賞初挑戦です。前回の芙蓉Sと同じコースと距離を見事走り抜けました。今回のレースで無敗記録を更新なるか?』

 

 


 

 

『快晴の下で行われる2歳馬の王者を決めるレース、朝日FS距離1600。馬場は良馬場となりました』

 

 

パドックからコースへ移りゲート前、あと少しでレースが始まる。馬生初のG1レース…緊張するな…

 

『ねえ』

『ん?』

 

誰かに話しかけられ、振り返るとそこには本日の警戒対象、セイウンワンダーがそこにいた。

 

『なんだ、俺になんかようか?』

『うん。君がノゾミミカドだろう。僕はセイウンワンダー。周りのヒトたちが君のことを話していたからさ。気になった』

 

セイウンワンダーは物静かそうな感じで、どこか淡々としている印象だった。

 

『このレースでも1番人気。つまり期待されたんだよね?』

『まあな。俺はこのコースを前も走ったし、距離も得意なやつだし、そう考えているんだろ』

『そうなんだ。でもね。』

 

セイウンワンダーは俺の方をじっと見つめる。その瞳には静かに燃える炎のようなものが視えた。

 

『僕は負けない。君を追い越してみせるよ』

 

途端、あいつの瞳に映る炎が更に強く燃え上がる。そしてセイウンワンダーは言いたい事を言ったのか踵を返して自分のゲートに向かっていった。

 

『………あいつ、やべぇ……』

 

今まで感じたことがないぐらいのプレッシャー、ブエナや先輩方とはまた違う、まるで……

 

『獲物を狩るハンターみたいだ…』

 

だけどな…こっちも負けられないんだよ。

そっちが俺を狩るつもりなら、こっちはお前から逃げ切ってやるよ。

 

「セイウンワンダー ………かなり仕上がっていたな」

『雄一さんも感じた?あれ多分この中でもヤバイよ』

「ミカド、先行で行こうと思ったが逃げるぞ。大きくな(・・・・)…」

『俺も同意見です。最初から全力で行きますよ、振り落とされないようにしてくださいね』

 

そして俺がゲートに入り、大外の奴もゲートに入る。G1レースが……

 

ガゴンッ!!

 

始まった。

 

 

『スタートしました。一頭勢いよくスタートを切ったのは10番ノゾミミカド。今日は逃げで攻める。しかしスピードがかなり出ている、掛かっているのでしょうか?』

 

 

会場からどよめいた声が聞こえる。そりゃそうだ。だってこれは逃げは逃げでも『大逃げ』だからな。ブリンカーで見えないけど後ろから『マジかよ!?』とか『速すぎる!』とか聞こえるし、結構動揺を誘えているな。

 

 

 

『ノゾミミカド、これは大逃げです。初の重賞戦で大逃げを披露しています。二番手の12番ゲットフルマークスに6、7馬身の差をつけて現在トップはノゾミミカド一頭が第二コーナーに入ります。三番手にはツルマルジャパン、1馬身差でケンブリッジエル、内にミッキーパンプキン、エイシンタイガー、ホッコータキオンが固まっています。少し離れてセイウンワンダー、トウカイフィット、トレノパズル、フィフスベルトが並んでいる。二馬身離れてシェーンベルト、一馬身でブラストクロス、ブレイクランアウト、オメガユリシスとブラストクロスがシンガリです。第三コーナーに入り先頭は依然ノゾミミカド。その差は未だに7馬身ほどあります』

 

 

「いいぞミカド。お前ならこのスピードでも保つはずだ。落ち着いて行けよ」

 

雄一さんは俺のスタミナを信じてこの大逃げを指示した。これでへばるんじゃクラシックは走れない。俺の自慢は最後の末脚だけじゃない事を教えてやるよ!

 

 

『第四コーナーに一頭ノゾミミカドが入ります。後続はまだ6馬身も後ろ。果たして追いつけるか…?おっと、ここで3番セイウンワンダーが動いた!』

 

 

『!!来たか!』

 

セイウンワンダーが馬群から抜け出し俺との距離を縮めてく。少しづつ確実に。

 

『・・・・・・・・』

『クッソ!嫌な予感が的中だ!』

 

無言でこちらに近づいてくる奴。少しづつ少しづつ奴から放たれる異様なプレッシャーが俺を襲い、俺は離れる為に前に出ようとするが雄一さんは手綱でそれを止める。

 

「ミカド、落ち着け!集中しろ!!」

『無理無理無理、あれ無視して走れとか無茶ですって、『バッチィィン!!』イッテェぇえぇ!!??すんません出来るだけ集中します!!』

 

クッソォ〜ただでさえ集中力が持続しない俺に取ってあいつは正しく天敵だ!あのプレッシャー、絶対遺伝だろ!

とか思っていたら…

 

 

『セイウンワンダー、あの差を物ともしない末脚で一気にノゾミミカドを射程圏内に捉えた!!第四コーナーも終盤に入り、先頭争いが早くも勃発!!』

 

 

『捉えたよ……』

『速!?いくらなんんでもおかしいだろ、その末脚!?』

『大逃げをした君たちに言われたくないよ』

 

 

『最後の直線に入ったのは二頭!三番手はツルマルジャパンだがその差はまだ3馬身ある!ここから後続は捉えられるか!?先頭争いはまだ続いている!内ノゾミミカドはまだ半馬身のリードがあるが外セイウンワンダーがじりじりと詰める!』

 

 

『まだだ、まだ行ける!』

『クッ、あと少し、あと少しなんだ…!』

 

こいつにペースを乱されて自慢の末脚を出すスタミナはあまりない。だがこいつも俺の大逃げに少し乱されていたようで少し余裕がないようだ。

 

 

『先頭二頭が坂を登る!!どっちかまだ分からない!100を切った!!内か外か、この二頭の戦いはもう止められない!!』

 

 

俺の脚は今までにない程の力を出して走るが引き離せそうにない。セイウンワンダーは俺と並んで走っている。だけど向こうも一杯みたいだ。ここまで来ればあとは体力根性の勝負。精神力でのゴリ押しだ。

 

『う、うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!』

 

俺は負けたくない一心でただガムシャラに走る。競り合いだったらブエナといつもレースみたいにガチでやっているんだよ!!!

 

『負けるかぁぁぁぁ!!』

『クッ、あああああああ!!』

 

向こうも雄叫びを上げてスピードを出す。

 

 

『ノゾミミカド、セイウンワンダー、ノゾミミカド、セイウンワンダー!並んでゴールイン!!二頭並んでゴールしました!!ノゾミミカドの方が態勢がやや有利か?』

 

 

『ハァハァ、フゥ〜…ど、どっちだ?』

『ハァハァハァハァ、わ、分からない…でも…』

 

電光掲示板に映し出された順位。少ししてから確定の文字が映る。1着には…

 

1着 10番 

2着 3番 ハナ

 

 

『確定しました!1着は10番ノゾミミカド!!セイウンワンダーの猛追をなんとか凌ぎ1着です!!タイムは1分32秒91!!レコードタイムを記録しました!!先週阪神でも牝馬ブエナビスタがレコードを記録しましたが更に縮めたタイムです!!皇帝一族の新星が、初重賞、初G1をレコードで勝ちました!!』

 

途端に観客席から大きな歓声が上がる。他の馬たちはその歓声に驚く。だけど俺たち二頭は落ち着いていた。

 

 

『か、勝った…?』

『ああ……君たちの…勝ちだ』

『………』

 

落ち着いていたというよりか現実を理解するのに少し遅れていた、というのが正しいか。

 

『よ、よっしゃぁぁああぁぁ!!!』

「おっとと!!」

 

自分が勝ったことが判ったとたん喜びの感情が一気に爆発した俺は雄一さんが背に乗っているのを忘れてジャンプする。

 

「ミカド!?落ち着け!?俺が落ちる!?」

『あっやべ』

 

『全く、騎手が乗っているのに君は何をやっているんだ…』

『アハハ……』

 

 

『ノゾミミカドとセイウンワンダー、二頭が揃ってホームストレッチに戻ってきます。観客から大きな拍手が彼らに送られています』

 

 

セイウンワンダーからもお叱りを受け、俺たちはホームストレッチに方へ向かって行く。俺らが近づいてきたことで観客は拍手と称賛を俺たちに送ってきた。

 

 

「凄かったぞぉぉ!!」

 

「ミカドォ、今日も勝ってくれてありがとなぁ!」

 

「外したぁぁ!!!???」

 

「セイウンワンダーも頑張ったなぁ!!」

 

「よっしゃあ!!当たった!!!クソ上司いなくなるわ、労働環境改善するわ、馬券三連単と三連複当たるわ、運がノリに乗ってるぜぇぇ!!」

 

「また当たったよ、これからも応援するから頑張ってなぁ!」

 

 

多くの人々の祝福(中には怒号やよく分からんのも混ざっているが)を受けながら、俺はいつものパフォーマンスを、テイオーステップをする。

 

 

『ノゾミミカド、再びこの中山でテイオーステップを披露しました!これで3戦3勝の快進撃!来年のクラシックでの活躍が非常に楽しみです!』

 

 

『ノゾミミカド』

『うん?』

『今日は僕らの負けだ。だけど次は勝つ。またいつか走ろう』

『おう、また一緒に走ろうぜ!』

 

こうして俺の初G1の幕は閉じたのだった。




紹介

セイウンワンダー 2歳
父:グラスワンダー 母:セイウンクノイチ 母父:サンデーサイレンス
物静かだがレースに関する熱意は誰よりも強い。父譲りのプレッシャーで他の馬のペースを乱す。戦術的に集中力が持続しにくいミカドの天敵ともいえる。
ミカドのことは少しうるさいけど良い好敵手だと思っている。

レースの描写や実況難しい……

次回はウマ娘編をいくつか投稿する予定です。アンケートに協力してくださりありがとうございます!

コメントや評価、お気に入り登録を是非。それと毎度誤字脱字を注意してくれる方々、この場を借りて感謝いたします。
本当にありがとうございます!
それでは。


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帝の掲示板回 その2/接戦の裏

結姫(読者専門垢)さん、ハッコさん、丸々さん、じゃん拳さん、knishさん、神坂さん、オクスタンさん、Tomネッコさん、七奈南さん、小鳥遊 虹さん、評価ありがとうございます!
おかげさまでこの作品のお気に入り登録数が1600を突破しました!
本当にありがとうございます!
これからも頑張って行きますので応援よろしくお願いします!
この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


1:名無しの競馬ファン

このスレは朝日杯のことを語るものです。それ以外のことはなるべく脱線せずに話していきましょう。

 

2:名無しの競馬ファン

たて乙。もうあと数時間後には始まるのか

 

3:名無しの競馬ファン

楽しみでしょうがない

 

4:名無しの競馬ファン

俺は勿論ノゾミミカドに賭けるぜ

 

5:名無しの競馬ファン

ここはセイウンワンダー一択だろ

 

6:名無しの競馬ファン

いやいやブレイクランアウトじゃないかここは

 

7:名無しの競馬ファン

お前ら堅いとこ行くな

 

8:名無しの競馬ファン

でも実際上位にいるのはやっぱりこの世代でも結構強いんじゃないか?

 

9:名無しの競馬ファン

ノゾミミカドには頑張ってほしい

 

10:名無しの競馬ファン

ノゾミミカド

戦績

新馬戦1400 1着

芙蓉S1600 1着

 

ブレイクランアウト

戦績

新馬戦1600 1着

いちょうS1600 4着

東スポ2歳S1800 2着

 

セイウンワンダー

戦績

新馬戦1600 2着

未勝利戦1600 1着

新潟2歳S1600 1着

 

こんな感じだな

 

11:名無しの競馬ファン

>>10

サンクス

 

12:名無しの競馬ファン

ノゾミミカドはレース数少ないな

 

13:名無しの競馬ファン

まあテイオー産駒だからな

 

14:名無しの競馬ファン

競馬初心者なんだが、ミカドがテイオー産駒だからレース数が少ないってどう言う意味?

 

15:名無しの競馬ファン

>>14

お前もしかしてあの時新馬戦でビギナーズラック取った初心者ニキか!?

 

16:名無しの競馬ファン

あーあの

 

17:名無しの競馬ファン

親孝行できたか?

 

18:名無しの競馬初心者

>>15

>>17

そうです!少しいいものを買って両親と食事しました

 

19:名無しの競馬ファン

いいことだ

 

20:名無しの競馬ファン

親は大事にしろよ

 

21:名無しの競馬ファン

話は戻るが

テイオー産駒は故障が多いのも特徴なんだ。テイオー自身も故障が多かったからとも言われているんだが原因は全く違う。

例えばトウカイポイントと言う産駒がいたんだがこの馬は『右前浅屈腱不全断裂』と言う簡単に言えば筋肉と骨をつなぐ接着剤の様な組織が断裂してしまったんだ。腱に関する故障の多くは原因不明。一方、親のテイオーの故障は全て骨折。これはテイオーの脚の柔軟さから出る走法に骨がついて行けなかったことで起きたんだ。

ミカドはテイオーの脚をかなり受け継いでいるからどちらかと言うと骨折による故障が心配される。つまりはあまり多くのレースに出したくはないんだと思う。

長文ですまない。

 

22:名無しの競馬初心者

>>21

サンクス

分かりやすかったよ

 

23:名無しの競馬ファン

実際どの馬でも故障は怖いんだけどな

 

24:名無しの競馬ファン

大体の名馬は故障を起こしているしな

 

25:名無しの競馬ファン

逆に故障起こさなかった馬の方が少ない

 

26:名無しの競馬ファン

51戦の猛者『鉄の女』イクノディクタス

 

27:名無しの競馬ファン

113戦全敗のアイドルホース『負け犬の星』ハルウララ

 

28:名無しの競馬ファン

海外でしか勝てない50戦のシルバーコレクター『黄金旅程』ステイゴールド

 

29:名無しの競馬ファン

>>26

>>27

>>28

こいつらは今も昔も考えられ無いほど走ってんのに怪我らしき怪我をほとんど起こさなかった猛者だな

 

30:名無しの競馬ファン

俺的にはステイゴールドのラストランが好き

 

31:名無しの競馬ファン

>>30

分かる

 

32:名無しの競馬ファン

ステゴはレース数もそうだけど走った期間が長いんだよな

 

33:名無しの競馬ファン

確か5年くらいだっけ?

 

34:名無しの競馬初心者

それ長いんですか?

 

35:名無しの競馬ファン

長い

 

36:名無しの競馬ファン

普通は3年ぐらいで引退

4年もあるけど5年はいない

 

37:名無しの競馬ファン

中々勝て無い様な馬は凄い長い期間走るけど良い成績を残した馬は種牡馬としての価値が生まれるから故障や病気になら無い様に早めに引退する

 

38:名無しの競馬初心者

なるほど

 

39:名無しの競馬ファン

お〜い話がだいぶ脱線してんぞ〜

 

40:名無しの競馬ファン

ごめん

 

41:名無しの競馬ファン

すまん

 

42:名無しの競馬ファン

許してヒヤシンス

 

43:名無しの競馬ファン

ちくわ大明神

 

44:名無しの競馬ファン

誰だ今の

 

 

 


 

 

100:名無しの競馬ファン

そろそろゲート入りだぞ

 

101:名無しの競馬ファン

あー予定が合えば行きたかった…

 

102:名無しの競馬ファン

現地勢どんな感じ〜

 

103:名無しの競馬ファン

どの馬も基本落ち着いてるな

 

104:名無しの競馬ファン

注目の三頭は?

 

105:名無しの競馬ファン

ブレイクランアウトは落ち着いてるな

セイウンワンダーはなんかノゾミミカドの近くに寄っている

 

106:名無しの競馬ファン

なんで?

 

107:名無しの競馬ファン

さあ、馬同士なんか会話でもしてんじゃねぇか?

 

108:名無しの競馬ファン

あっ、離れていった

 

109:名無しの競馬ファン

結局何だったんだろうな?

 

110:名無しの競馬ファン

それよりも続々とゲートに入っていくぞ

 

111:名無しの競馬ファン

ああ〜緊張する〜

 

112:名無しの競馬ファン

自分が走るわけじゃないけど心臓バクバクして来たわ

 

113:名無しの競馬ファン

来るぞ

 

114:名無しの競馬ファン

始まった!

 

115:名無しの競馬ファン

来たぁ!!

 

116:名無しの競馬ファン

10番が良いスタート切ったな

 

117:名無しの競馬ファン

あれでもスピード結構出てね?

 

118:名無しの競馬ファン

逃げ?いやでもこれ

 

119:名無しの競馬ファン

速い

 

120:名無しの競馬ファン

すごく速い

 

121:名無しの競馬ファン

いやこれ大逃げだ!!

 

122:名無しの競馬初心者

大逃げとは?

 

123:名無しの競馬ファン

説明しよう!

大逃げは作戦のうちの一つ

分かりやすく言えば

最初から最後まで全力で逃げる大博打の作戦のことだ!!

 

124:名無しの競馬ファン

スタミナを多く消費するが2番手に圧倒的な差をつけて抜かされない状況を作る

 

125:名無しの競馬ファン

だがこの作戦はハマれば大勝ち外れれば大敗というまさに博打の作戦だ

 

126:名無しの競馬ファン

ノゾミミカドは逃げ先行の前めな競馬をする馬だけどこれは予想外すぎるぞ

 

127:名無しの競馬ファン

現地にいるけど観客全員驚いている

 

128:名無しの競馬ファン

おいおいこれ他の馬大丈夫か?

 

129:名無しの競馬ファン

大逃げはペースを乱されるからまだ経験が少ない2歳馬たちには厳しいかもな

 

130:名無しの競馬ファン

完全に一人旅じゃん

 

131:名無しの競馬ファン

実況が位置言っている間にもう次のコーナーに入ってるんだけど

 

132:名無しの競馬ファン

スタミナ持つか?

 

133:名無しの競馬ファン

無理だろ

 

134:名無しの競馬ファン

おいおいもうすぐ第3コーナー入るぞ

 

135:名無しの競馬ファン

2番手はまだ7馬身差だってよ

 

136:名無しの競馬ファン

いや少しずつだが差を縮めているぞ

 

137:名無しの競馬ファン

でもこれ間に合うか?

 

138:名無しの競馬ファン

驚異的な末脚を持つ奴ならワンチャン

 

139:名無しの競馬ファン

その驚異的な末脚持つ奴が逃げてんだよ!!

 

140:名無しの競馬ファン

あれなんか一頭後方から上がって来てね?

 

141:名無しの競馬ファン

えっ?

 

142:名無しの競馬ファン

あっほんとだ

 

143:名無しの競馬ファン

ゼッケンは3番だからセイウンワンダーか!

 

144:名無しの競馬ファン

実況も遅れて気づいたぞ

 

145:名無しの競馬ファン

いや末脚すっご!?

 

146:名無しの競馬ファン

一気に上がって来た!

 

147:名無しの競馬ファン

てか2番手もう交わしてる!?

 

148:名無しの競馬ファン

驚異的な末脚もう一頭いたわ

 

149:名無しの競馬ファン

いやいやいやいやもう3馬身差だぞ!

 

150:名無しの競馬ファン

このスピードだと直線手前で射程圏内に入るな

 

151:名無しの競馬ファン

これどっちが勝つんだ?

 

152:名無しの競馬ファン

あれノゾミミカドなんかおかしくね?

 

153:名無しの競馬ファン

えっあ、ほんとだ

 

154:名無しの競馬ファン

福長騎手が必死に抑えているな

 

155:名無しの競馬ファン

急にきたセイウンワンダーにビビったのか?

 

156:名無しの競馬ファン

あっ鞭とんだ

 

157:名無しの競馬ファン

加速じゃなくて集中しろの方だな

 

158:名無しの競馬ファン

直線入っても二頭のマッチレースはまだ続く!

 

159:名無しの競馬ファン

どちらもスタミナの残量はもう少ないはずだ

 

160:名無しの競馬ファン

あとは根性勝負のみ

 

161:名無しの競馬ファン

これどっちが先に出るんだ!

 

162:名無しの競馬ファン

頼むノゾミミカド!粘ってくれ!!

 

163:名無しの競馬ファン

セイウンワンダーも頑張れ!!

 

164:名無しの競馬ファン

内か外か内か外か!?

 

165:名無しの競馬ファン

ほとんど並んでゴールイン!!!!

 

166:名無しの競馬ファン

どっちだ!?

 

167:名無しの競馬ファン

マジでどっちだ!?

 

168:名無しの競馬ファン

写真判定みたいだ

 

169:名無しの競馬ファン

後続も次々とゴール

 

170:名無しの競馬ファン

いや〜今回はマジで分からんな

 

171:名無しの競馬ファン

三番手はフィフスベルトっていう11番の馬か

 

172:名無しの競馬ファン

クッソ外した

 

173:名無しの競馬ファン

三連単と三連複どちらもパー

 

174:名無しの競馬初心者

レースが凄すぎてコメントできなかった

 

175:名無しの競馬ファン

>>174

初心者ニキ

今回はしゃあない

 

176:名無しの競馬ファン

俺も手が止まっていたよ、この間の新馬戦の時の仕事の様にな

 

177:名無しの競馬ファン

>>176

お前はまさか

 

178:名無しの競馬ファン

この間の5徹の

 

179:名無しの競馬労働者

その通り

 

180:名無しの競馬ファン

5徹ニキチッスチッス

 

181:名無しの競馬ファン

あれから労働環境改善されたか?

 

182:名無しの競馬労働者

サービス残業を強要したクソ上司は俺が労基に出した証拠によって上から地方に左遷という名の事実上の解雇宣告

新しい上司が来て今は大分楽になったよ

 

183:名無しの競馬ファン

良かったな

 

184:名無しの競馬ファン

よく分からんが取り敢えず良かったな

 

185:名無しの競馬ファン

てかこのスレ結構新馬戦の時の奴いるな

 

186:名無しの競馬初心者

ですね

 

187:名無しの競馬ファン

おい結果でたぞ

 

188:名無しの競馬ファン

!?

 

189:名無しの競馬ファン

どうなった!?

 

190:名無しの競馬ファン

結果は

 

191:名無しの競馬ファン

ハナ差で10番

 

192:名無しの競馬ファン

おっしゃ勝った!!!!!!!

 

193:名無しの競馬ファン

外した!!!

 

194:名無しの競馬ファン

あっぶねぇぇ!!

 

195:名無しの競馬ファン

あと、あとちょっとだったのに

 

196:名無しの競馬初心者

流石に三連単は来なかったか〜

 

197:名無しの競馬労働者

おっしゃ三連単三連複当たったぜおらぁ!!

 

198:名無しの競馬ファン

5徹ニキすげぇな

 

199:名無しの競馬ファン

ミカドがなんかロデオみたいな感じになってんだけど

 

200:名無しの競馬ファン

おい騎手落ちそうだぞ

 

201:名無しの競馬ファン

というかレコード出した

 

202:名無しの競馬ファン

すげえよな

あとなんかセイウンワンダーがミカドのこと睨み付けている様に見えるんだけど

 

203:名無しの競馬ファン

負けたことわかってんのかな

 

204:名無しの競馬ファン

知り合いから聞いたことがある

競走馬は牧場なんかにいると放牧中成績がいい馬とあまり勝てない馬で固まるらしい

 

205:名無しの競馬ファン

へぇ〜

 

206:名無しの競馬ファン

そんなことがあるんだな

 

207:名無しの競馬ファン

ノゾミミカドが戻って来たぞ

 

208:名無しの競馬ファン

来た来た

 

209:名無しの競馬ファン

そしてまたまたテイオーステップ

 

210:名無しの競馬ファン

本当すごいよな

 

211:名無しの競馬初心者

クラシックも出るのかな?

 

212:名無しの競馬ファン

いや血統的に怪しいかな

 

213:名無しの競馬ファン

皐月は行く気がするけどな

 

214:名無しの競馬ファン

何にしても来年のレースは間違いなく面白いと思うぜ

 

 




5徹ニキは実は本編にこっそり1回だけ出ています。
探してみて下さい。

評価やコメント、お気に入り登録よろしくお願いします。それでは。


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帝の休息/久しぶりの故郷

世界の神様さん、小畑さん、refreshさん、評価ありがとうございます!

今回はミカドが久しぶりに生まれ故郷に帰ります。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


俺ノゾミミカドは現在、故郷の北山牧場へと向かう馬運車にいる。

なぜかと言うと…

 

 

数日前 松戸厩舎

 

 

「ミカドを放牧ですか…?」

「ああ、スパルタに耐えたブルボンの血が入っているとはいえ、テイオー産駒であるミカドは小さな故障でも命取りになりかね無い。あいつは真面目に調教するし休むときはしっかり休むメリハリがついた馬だが最後のアレがな…」

 

松戸は真司にミカドを暫くの間放牧させることを説明していた。

ミカドは確かに丈夫だが最後の末脚はどうしても脚に負担が掛かる。レースのたびにあの末脚を出し続けるといずれは故障を起こす可能性も否定しきれ無い。

 

「確かにあいつの末脚って普通に考えたらまずありえ無い加速していますよね。検査して出たのは疲労ぐらいでしたし」

「この間のレース後に脚の確認を入念にやって特に問題なし、コズミも出てい無いから丈夫ではあるがここで油断して後々骨折しました、じゃあ笑えねぇよ」

 

「次のレースは一先ず一月は入れない」

「あれ?若駒には行かないんですか?2000ですよ?」

 

『若駒S』は3歳馬のみが出走するOPレース。距離も2000とミカドの中距離適正を知るには合っており、狙いに行けるレースではある。

 

「狙いにはいかない。確かにあの競馬場で走ることになるがそれは今じゃない。それに2000を知るにはあのレースが1番だ」

「あのレース?…まさか…!」

「ああ『弥生賞』だ」

「!!」

 

中山で距離2000のG2『弥生賞』はクラシック三冠の一つ『皐月賞』の前哨戦にあたり、このレースに勝てば皐月賞の優先権を手に入れることができる。

 

「それまでミカドには英気を養ってもらう必要がある」

「はあ、分かりました。松戸さん…テキに従いますよ」

 

 


 

 

ということらしい。にしても約一年ぶりの故郷か…母さんびっくりするだろうな〜…

息子がいきなり無敗でG1取ったことを知ると。

 

ブエナとの勝負に勝ってまた不機嫌になったアイツの機嫌を取るのにまた苦労したけど…

 

そう考えている内に懐かしい匂いがしてきた。そろそろ北山牧場に近づいて来た証拠だ。

 

『早く着かないかな〜♪』

 

ここに来るまでずっと立ちっぱなしだったし途中で磯の香りがしたから多分船に乗って移動したんだろうけど結構酔った。前世じゃそこまで船酔いはしなかった気がするんだけど馬だと酔いやすいのか?まあいっか。

 

母さんや北山さん、卓矢さんたちは元気にしているかな?

 

「あと少しで北山牧場ですね。」

「ああ。結構長旅だったからな。特にフェリーに乗る時は少し覚悟したんだけどな」

「馬って船での移動が苦手な仔が多いらしいですからね、自分は今の所そういう極端に嫌う奴とかには当たったことがないんで分かりにくいですけど。でもミカドの奴、本当に大人しいですね」

「他の馬は長距離移動のストレスで荒れたりする奴もいるけどこいつは本当楽でいいな」

 

運転手のおっちゃんと兄ちゃんの会話をバックミュージックにしながら俺は馬運車に揺らされていた。匂いが強くなっていく内に馬運車が止まる。とうとう目的地にたどり着いたんだ。

 

『着いた?着いたのか!?』

 

懐かしい匂いにつられてつい仔馬の様にはしゃぐ俺を見て運転手さんたちは暖かな目をしながら微笑んでいた。

 

 

『たっだいまぁーっ!!』

『あら?ミカド、帰って来たの?』

『ああ、休みもらったんだ!母さん!俺実はさ!』

 

卓矢さんに引かれて厩舎に入り、俺は母親の馬房の前まで来た。

 

「お〜い、ミカド。母親に会えて嬉しいのは分かるが先ずは馬房に入ってくれ」

『ええ〜。いいじゃないですかここでぇ〜』

「言っとくがお前ここを出る前よりも体がでかくなってんだからな。昔の感覚でいると他の馬に怪我させちまうから落ち着いてな」

『ちぇ〜』

『こらこらミカド。卓矢さんを困らせてはいけませんよ。明日の放牧で多分一緒に出るからそこでゆっくりお話ししましょ?』

『うぃ〜っす…』

 

もう少しここで話したいが他の奴らに迷惑は確かにかけられない。俺は渋々卓矢さんに連れられ自分が前まで使っていた馬房に入った。

 

そして翌日

 

『で、最後の直線もう少しで差しきれられるってところで何とか粘り勝ちしたんだ!すごいだろ!』

『ふふっ、そうね。まさかいきなりG1のタイトルを取るなんて思わなかったわ』

 

俺の今世での母親、名前は『ルイシエル』。北山牧場の繁殖牝馬の一頭でありミホノブルボンの娘でもある。性格は非常に大人しくマイペース。世代は99世代、分かりやすく言えば世紀末覇王が暴れ回る時代です、はい。

とは言え母さんは牝馬だし、戦績も何とかオープン戦に1回だけ勝てただけらしく同世代のことはほとんど知らないらしい。

いやまあそれよりも…

 

『母さんが妊娠していたの全く知らなかったんだけど…』

『誰も知らせていないし、あなたは昨日はしゃいでいたから全然気づいていなかっただけよ』

 

そう。母さんは現在妊娠中で現在10ヶ月。早ければ年明け、遅くても2月には生まれるらしい。ていうか馬の繁殖期は春から夏にかけてだろ?逆算すると少なくても今年の2月にはすでに交配しているはずだ。

これについては後から分かったが、どうやら母さんの発情期が早めに来たらしく、北山さん始め牧場の従業員はこんなに早く来るとは思わずてんやわんや。あっちこっちの種牡馬で種付けできる馬を探して何とか交配できたらしい。

 

『ていうことは俺の弟か妹が生まれるのか。なんか楽しみかも』

『取り敢えずあなたは頑張ってレースで走りなさい。私たちの血を繋げる為にも、あなたが小さい頃から言っていた《最強の競走馬》になる為にもね』

 

昔は精神は人、体は馬ということで酷く悩んでいた時期があった。母さんは自分が知らないような知識を持つ俺を厩務員さんたちと一緒に一生懸命に育ててくれた。普通だったらこんな子供気味悪がって育児放棄するんじゃないかと考えたけどそんなことは一切せずに俺を育ててくれた。

昔一度だけ聞いた。

『何で母さんは俺のことを気味悪がったりしないで育ててくれるの?』と。

そしたら母さんは一度キョトンとした顔をしてから、クスクスと笑い出した。そして…

 

『あなたがどんな存在であろうと、私がお腹を痛めて命懸けで産んだ可愛い子供であることには変わりは無いわ。そんな子供を私が知らない様な知識を持つだけで親である私があなたのことを気味悪がるわけないでしょう』

 

この言葉に俺はガラにもなく大泣きしちまった。いくら成熟した人間の魂が入っているとは言え体はまだ幼い仔馬。俺の精神は体の方に引っ張られていた時期だったから涙が止まらなくなっていた。

 

優しく、おおおらかで、俺という特異な存在を否定せずに受け入れてくれた母さんを俺は好きになった。

まあ、暇あれば母さんの近くにいたから厩務員たちから『マザコン』呼ばわりされるんだけどな…

 

『勿論、分かっているよ。ライバルは多いけどこっから先のレースも俺は勝ち続けるよ』

『そう。なら、あなたのテキさんが言っていた他馬のマークで異常に掛かるその悪癖を直しなさい』

『あれっ何でそれ知ってんのっ!?』

『北山さんがあなたの話を四角い箱で話していたのを聞いたのよ。レースで掛かるのは仕方ないわ。でも今のところ全てのレースで掛かっているそうじゃない。この放牧中、引退した方々に聞いて回って協力してもらいなさい。勿論私もできる範囲で協力するから、

いいわね?』

 

『………はい』

 

そして我が母は、母にとっての父、俺にとっての祖父並のスパルタ思考の調教には厳しい馬です。




紹介

名前:ルイシエル ブルボン王朝→ルイ王朝 シエル(仏で空)
年齢:12歳(旧13歳)
生年月日:1996年5月2日
性別:牝
毛色:鹿毛
血統:父・ミホノブルボン 母・レディシエル(架空馬)母父・リアルシャダイ
成績:29戦6勝 2着1回 3着0回
距離:短B マイルA 中C 長E
脚質:逃げA 先行B 差しG 追込みG

北山牧場の繁殖牝馬の一頭。ミカドの母であり、良き理解者。現役時代は黙々と調教を行う機械のような馬だったが他よりも加速力があまり出ず活躍することは少なかった。引退後はミカドの他に6頭ほどの馬を輩出したがどの馬も重賞にはいけなかった。
普段はおおらかでとても優しいが調教の話になるとスイッチが入り現役時代と同じ感じになる。

名前の由来はルイ王朝と空です。空にした理由は名前を考えている時に窓を見たら青空が広がっていたからです。
この血統は頑張って考えました。どこかおかしい点が有ればどんどん言ってください。

コメントや評価、お気に入り登をよろしくお願いします。それでは。


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帝の故郷/先輩方との特訓

華花華さん、りうまえさん、評価ありがとうございます!

マークを苦手とするミカドに対して母のルイシエルが一肌脱ぎます。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


『ミカドォォ!!俺らを気にするな!!お前が気にするのは自分のスタミナとゴールだけだ!!他馬のことは確認くらいで見る程度にしろ!!』

『サー・イエッサー!!』

『ミカド君。集中力が切れるということは鞍上の指示も上手く伝わらなくなるということだ。彼らと僕らは一蓮托生。パートナーの意思を無視しても君はいいと思うのかい?』

『いいえ!思っていません!!』

『ならば行動に移すんだ!君の鞍上はこの状態ならどう動くかを!言葉が伝わらない僕らは彼らに行動で自分の意思を伝えるんだ!!』

『サー・イエッサー!!』

『ミカド、あなたはコーナリングと末脚が特に優れているわ。後はその気性の問題よ。引退した私たち老いぼれがあなたのような若駒を鍛えてあげているのだからしっかりやりなさい!!』

『イエスマム!!』

 

「……何だこの状況…」by卓矢

 

俺ノゾミミカドは現在。故郷の北山牧場で母を筆頭に引退してまだ十分動ける馬たちにしごかれているのである。

俺はあまり無理しないほうがと言ったのだが久しぶりの併せ馬や調教の真似事でスイッチが入り、熱血指導に発展したのだ。

 

『ハァハァ…クッソ…やっぱり現役みたいにはいかないな…』

『仕方ない……ですよ。僕らは……引退してもう…2年はたっています。フゥ、7歳馬で久しぶりにここまで走れるだけ充分ですよ』

『ハァ…ハァ、レースから引退して2年経っているのに何で現役競走馬について来れるんですか?』

 

俺の特訓に付き合ってくれたこの二頭の引退馬。口調が荒い栗毛が『ノゾミフェニックス』、落ち着いている芦毛が『ノゾミライン』。どちらも俺の馬主であるノゾムさんが所有している馬でG3やG2で勝ったことがある実力馬だ。

 

『分かっていねぇなぁミカド。たとえ引退したとしても鍛えることをやめる理由にはならない!後輩共に俺の強さを見せつけるには筋肉を衰えさせねぇことが重要なんだよっ!!!』

 

アッーーハッハッハッ、豪快に笑うフェニックス先輩を居ない存在かの様に無視するライン先輩は俺に話す。

 

『いくら引退したとはいえ、僕らは走ることが生き甲斐の生き物です。僕はより長く走っていたいと考えて自分で筋力や体力が落ちない程度に鍛えてはいるんです』

『な、なるほど?』

『まあ、僕らみたいな馬は稀だと思いますよ。種牡馬は長く生きて子孫を残しますから命を縮める激しい運動はあまりしない方がいいですからね』

『おいおい、俺を置いて話を進めようとするなよ!とにかくミカド!お前は俺らの事は気にすんな!同じ『ノゾミ』の冠名を持つもの同士だ!遠慮なく特訓やら相談やらに乗ってくれ!』

『フェニックス、少しは声を抑えて下さい。隣の放牧地にはシエルさんを始め、命を抱えた牝馬の方々やまだ幼い当歳馬が居るんですよ。君のその声量で今年も何頭の馬が泣いたか……』

『何言ってんだよ。どちらにしろあいつらは厳しい世界に身を投じる奴等になるんだ。俺の声ごときでビビっている場合じゃねぇだろ』

『ですから段階があるんですよ。もしも心に傷がついてレースで実力を発揮することが出来なければどうするんですか!』

『大丈夫だって。どちらにせよ避けては通れないんだからよ。今の内に耐性がついていた方がいいだろ』

 

二頭とも性格は対極的だが後輩の事を思って行動してくれるお節介な馬ということが今の会話からも窺える。フェニックス先輩のやり方はちょっとアレだけど…

 

『ミカド』

『あ、母さん』

 

道を挟んで隣の放牧地にいる母さんが俺に話かける。因みに俺や先輩がいる放牧地は牡馬を中心に放牧され、母さんがいる放牧地は牝馬や当歳馬を中心に放牧されている。勿論、安全面を配慮しての配置だ。

 

『見たところ少しづつマークを気にしなくなったわね』

『へへっ。そう?』

『ええ。でもまだ不安が残るレベルだわ。あなたは前で競馬をするタイプだからね。どうしても注目されてしまうからまだまだよ』

『うっ…はい…』

『あねさん。いっその事、走り方を変えるのはどうだい?こいつの末脚なら後方からでも充分通用する気がするが』

『フェニックスと同じ意見なのは少々腹立ちますが僕もそう思います。ミカド君のこの気質なら後方からの方が掛かる事も少なくなると思えますが…』

 

フェニックス先輩とライン先輩が俺の脚質変更を母さんに唱えてきた。確かに前方から攻める俺にとってこのマークで掛かる癖は死活問題。今は勝っているから大丈夫だけどクラシックや古馬に行った時に確実にヤバくなる。けどね…

 

『勿論それは最初に考えたわ。でもそれだとこの子の強みの一つが潰されてしまうのよ』

『強み?加速力とスピード以外なんかあったか?』

『………ああなるほど』

『おっ、ライン。分かったのか?』

『ええ。ミカド君の強みの一つそれは…』

 

『『『スタートダッシュの良さです(よ)(なんです)』』』

 

ライン先輩、母さん、俺の声が重なる。そう。俺の強みの中はスタートダッシュの良さだ。俺が出た3レースの内、逃げと大逃げを打った新馬戦と朝日杯で、俺は抜群のスタートを完璧に決めている、らしい。(テキ曰く)

 

『先程の併せでスタートした時にミカド君は合図を出した僕よりも抜群のスタートをしました。この反射神経は中々のものですよ』

『スタートが良すぎるせいで後ろに下がることが出来にくいのよ。勿論練習すれば差しとかのスタートも出来るようになるだろうけど、ここでやるにはリスクが高いわ。その辺はこの子の陣営に任せればいいだろうしね』

『ほーんなる程』

『あなた本当に分かっていますか?』

 

このスタートダッシュで俺は結果的に先行・逃げ策が固定しかけている。テキたちも俺の悪癖を直すべく差しに挑戦しようとしているらしい。多分向こうに帰ったらやると思う。

 

『まあ、その辺は俺たちじゃなくてテキたちが考えなくちゃいけないものですし俺たちは俺たちの出来る事をしましょうよ』

 

脚質を変える判断をするのは人間サイドが考える事だし俺たちがここで話していてもあまり意味がない。というか先輩たちや母さんはその辺は俺より分かっているだろうし。

 

『そうだな…よっし!特訓再開だ!今度は俺が前にいるからお前が俺をマークしてみろ自分でやってみた方がわかる事もあるだろう』

『フェニックスにしてはいい考えですね。では僕はいつも通り最後方から様子を伺いましょう。追い込み馬の恐ろしさはまだ伝えきれていませんからね』

『うへぇ…ライン先輩ってワンダーに似ているからあの走り苦手なんですけど…』

『その苦手を克服するための特訓ですからね』

『ミカド。疲れたからってサボらないように。分かっているわよね?』

『イエス・マム!!』

『ハハハっ。流石あねさんだ、おっかなねぇぜ!ここの牧場で牝馬たちを纏めるだけはあるぜ!!その昔、この牧場の『鬼の機械(マシン)』と呼ばれただけあるぜ!!』

『フェニックス。大事なモノを捥がれたくなかったら今すぐ向こうで準備してきなさい。はい3、2、1…』

『スンマセン今すぐ行きます!!!』




紹介

名前:ノゾミフェニックス
年齢:7歳
生年月日:2001年5月16日
性別:牡
毛色:栗毛
血統:父・サンデーサイレンス 母・ヒノカグラ(架空馬)母父・ノーザンテースト
成績:23戦9勝 2着5回 3着2回
距離:短G マイルG 中B 長A
脚質:逃げC 先行A 差しD 追込みG

『ノゾミ』の冠名を持つ種牡馬。気性が荒く、前めの競馬を好んでいたがその高すぎる闘争本能が裏目に出てスタミナを切らす事は数え切れない。しかしハマれば強く、G3でG1馬を倒した事もある。加速力は高くはないがトップスピードは速く、そのスピードに乗るために長距離を多く走っていた。ノゾミラインは幼なじみで出走したレースでは8戦4勝4敗という結果になり今でも決着を付けようと何かと張り合っている。性格は豪快で後輩には自分の武勇伝を良く聞かせる兄貴分。ただし声がデカくて仔馬たちを泣かせては牝馬たちに怒られる。

名前:ノゾミライン
年齢:7歳
生年月日:2001年6月3日
性別:牡
毛色:芦毛
血統:父・オグリキャップ 母・ヒカリコノハ(架空馬)母父・モガミ
成績:20戦8勝 2着12回 3着0回
距離:短B マイルB 中A 長B
脚質:逃げG 先行C 差しA 追込みA

『ノゾミ』の冠名を持つ種牡馬。大人しい気性で騎手の命令をよく聞く馬であったがどの距離も卒なくこなせるため、様々なレースに出走するも2着止まりが多い器用貧乏。成績から応援したくなる馬になり結構根強いファンが多かった。後方から気を伺い最終局面で一気に追い抜く戦法を良くとっていた。これは父の柔軟な体を受け継いでいたことで加速力がついたモノである。ノゾミフェニックスとは幼なじみでライバル視しており、現在でも張り合っている。性格は冷静沈着なタイプで論理で戦う頭脳派……だけど根性論も意外と多い。
何気にシンザンの記録を超えているある意味化け物。

この2頭は今後ももしかしたらちょくちょく登場するかもしれません。

コメントや評価、お気に入り登をよろしくお願いします。それでは。


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帝の年末/一年の始まり

醍醐さん、リンたんさん、ユストさん、一介の読書好きさん、まめ鈴さん、評価ありがとうございます!

今回は短めですが楽しんでもらえると幸いです。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


ゴ〜ン〜…ゴ〜ン〜…

 

『あっ、除夜の鐘だ』

『ミカド君、除夜の鐘とは?』

『え〜と…人間が一年の終わりに108回鐘を鳴らすんですよライン先輩。それがこれっす』

 

多分厩舎に隣接されている厩務員室のテレビかラジオで流れてんだろうな。

 

『成る程、一年の締め括りというわけですか』

『そんな感じです。振り返ってみると今年は凄い一年だったなぁ』

 

競走馬として栗東トレセンの松戸厩舎に入り、オーラ先輩たちやブエナたち同期との出会い。初めてのレース。色々あった。

 

『来年になると俺は三歳馬、いよいよクラシックレースが始まるのか…』

『クラシックですか…懐かしいですね…』

『あれ?ライン先輩はクラシックに出走していたんですか?』

『ええ、『皐月賞』だけですがね、分かると思いますが二着です…』

 

ライン先輩は『神馬』と呼ばれた『シンザン』を超える連対記録を持っている馬で『ノゾミ』の馬では割と高い知名度を誇る名馬なのだ。ただし先輩自身はハナ差アタマ差の二着が連続して続いたことでこの記録を素直に喜べられないらしい。

 

『メジャーにアタマ差で差し切れなかったんですよ。思えばあの辺から二着が多くなりました』

『せ、先輩?』

『その後のダービーは距離に不安が残るということで回避しNHKマイルCでも差し切られて、七夕賞でようやく一着かと思ったら札幌記念でまた二着に……ブツブツブツブツブツブツ』

『……なにこれぇ…』

 

なんか先輩のトラウマスイッチ押しちゃったみたい……いやこれ、どうしたらいいんだ?(汗)

 

『あ〜もう、ウルセェェェッ!!こっちはもう寝てぇのに横から気持ち悪い声で暗い話してんだ!周りのこと考えろ!!』

 

((いや、アンタが一番うるせえよっ!!))←厩舎一同心の声

 

ライン先輩の隣の馬房はフェニックス先輩で声がダイレクトに聞こえていたらしい。

 

『フェニックス先輩……これどうしたら…』

『ああ〜…コイツは俺がなんとかするから少し引っ込んでな』

『わ、わかりました』

 

俺に変わってフェニックス先輩はダークモード(仮)になったライン先輩に話しかける。

 

『ヘイへ〜イ、ラインさんよぉ。そんな暗い顔してどうしたんだ〜いぃ?もしかして、3年前に俺にはじめて(・・・・)負けたあのレースのことを思い出してんのかぁ〜?』

 

いや、これチンピラが一般人に話しかける時のやつだ。

 

『…………あ"?』

 

そしてこっちの返しヤクザだ。

 

『俺が初めてお前に勝ったのは目黒記念だったよなぁ〜。お前は最終コーナーで前に出たけど俺は既にトップ争いになっていて、お前は結局3/4馬身で俺に負けたんだもんなぁ〜。二着3連続だっけ?あん時?』

『4連続だよっ!!!なめてんのかゴラぁぁ!!!表出やがれ、この撃沈焼き鳥!!』

『テンメェっ、それ俺が一番気にしてるあだ名じゃねぇか!!それ言ったらどうなるか分かってんのか!!ああん!?』

『知らないね、そんなこと。それよりどうするんだ?ああ!?』

『上等じゃあ!その喧嘩買ってやんよ!!』

 

この争いは厩務員さんが来るまで続き、俺の今年最後の光景はヤクザみたいな先輩方が母さんに絞られているというモノだった。

 

『あんた達、なんかいうことあるんだったら3秒以内に言いなさい』

 

『『本当にすいませんでした!!!!!』』

 

『ギルティ』

 

『『ぎゃああああああああああああああ!!!!!!??』』

 

取り敢えず巻き込まれたくなかったので俺は馬房の中に引っ込んで空を見ていた。

 

『あっ、流れ星』

 

先輩達の断末魔を横に流しながら、俺は夜空の星にお願い事をすることにした。

 

『本当は燃え尽きる前に言うものだろうけど別にお願いするぐらいなら大丈夫だろ』

 

(2009年は悔いが残らない年になりますように、と。あ、あと兄弟が無事に生まれてきますように)

 

さて、2009年。勝負の年だぞノゾミミカド!




それぞれの主な代表成績

ノゾミフェニックス
2005年 G3 ダイヤモンドS
      G2 目黒記念
      G2 ステイヤーズS

ノゾミライン
2004年 G3 七夕賞
2005年 G2 毎日王冠

評価やコメント、お気に入り登録を是非。それでは。


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帝の気遣い/曇りからの晴れ

フリュードさん、Tomネッコさん、御馬原遠矢さん、Gomer Pyleさん、評価ありがとうございます!

今回は前回に続き日常編です。

次回からまたトレセン編に行きます。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


年が明けて、俺ノゾミミカドは故郷の北山牧場でのんびりしているんだけど…

 

「はあ〜……」

 

新年早々あまり調子が良くない人が目の前にいます。

 

「北山さ〜ん。あけましておめでとうございま〜す」

「おう、卓矢。おめでとう……はあ〜…」

「ちょちょ、どうしたんですか新年早々。あっ。もしかして娘さんのことですか?」

「……ああ」

 

この牧場の主、北山さんには現在15歳の娘さんがいる。今の時期だと高校受験の真っ最中かな?

 

「年末年始くらいは勉強休んだらどうだって言ったんだけど、そんな暇はない!って言われてな」

「この時期は最後の追込みですから仕方ないですよ。俺もそうでしたし」

『まあ、自分の将来を決める一つの分岐点だからね。ピリピリしちゃいますよ』

「けどな、ここ最近は部屋から殆ど出てこないんだよ。気分転換ぐらいしなきゃ息が詰まっちまうよ。健康にも悪いしな。それ言ったらまた部屋に籠っちまって…」

『(オブラートに包んでいっているけど)』

(北山さんは絶対…)

(『(ただただ頭に詰め込んで、息抜きもしないでやっていたら受かるもんもうからねぇぞ。ぐらいのこと言ったんだろうな)』)

 

少なくとも、受験生の前で言ってはいけない禁句を本人の前で口に出したな。俺と卓矢さんはそう考えた。

 

「卓矢、お前なんか思いつかねえか?勉強も疎かにせず、気分転換になること」

「そうですねぇ……そういえば娘さんって志望校は?」

「農業高校だよ。あいつは獣医になりたいって言っていたからな。牧場自体は雄介が継ぐから問題ないが」

 

因みに『雄介』は北山さんの息子さんで今は農業大学に通っているらしい。俺も仔馬の時に何回か北山兄妹には会ったことがある。

 

「それならここにこさせればいいんじゃないですか?」

「ここに来ても時間の無駄だろう」

「いや、ここだったら馬だけしかいませんけど家畜について学び直すには丁度いいんじゃないですか?」

「・・・・・・」

 

確かに良いアイディアだ。アニマルセラピー的な奴でリラックスできると思うし、色々役に立つ情報も入るんじゃないか?

 

「どうでしょうか?」

「……明日それとなく誘ってみるわ」

 

そう言って北山さんはその場を離れて行った。

 

「まあ、あの年頃の女の子だと難しいからなぁ〜」

『俺たちには娘も年が離れた妹もいませんからそこらへん分からないですよね〜』

「結局は本人達が話し合って、解決しなくちゃ行けないからな」

『ですね。俺たちもできる限りのサポートをしましょう』

「よし、俺もできることはやるか」

 

あれ?なんか言葉通じてね?

 

 


 

 

次の日

 

「…お久しぶりです。卓矢さん」

「久しぶり、(みなと)ちゃん」

 

北山さんが奥さんと雄介君の力を借りて、娘さんの湊ちゃんを連れ出すことに成功した。湊ちゃんは小柄で身長は大体150cmくらいかな?黒くて長い髪を今日は後ろでヘアゴムで纏めている。

 

「お兄ちゃんとお母さんにも言われて…それで折角だから…」

「うんうん受験生は大変だよね。俺もこの時期は詰め込んでいたな〜。でも無理はダメだからね。俺も緊張のあまり中学の期末試験でテスト中に腹痛に襲われてトイレに籠もって一教科半分くらい受けられなかったことあるからね」

※作者の実話です。

 

『そうそう。俺らもしっかり休まないとベストコンディションでレースに望めないからね』

 

体調管理は大事だよ〜。てか、北山さんどこだ?姿が見えないし匂いもしない。足音も聞こえないしこの場に居ないのか?

 

「あれ?牧場長は?」

「今朝、私が使う用にお母さんが昔使っていたつなぎを段ボールから取り出そうとして持ち上げた時にぎっくり腰起こして…」

「『北山さぁぁぁああんんんんんん!!!!????」』

 

あの人なにやってんだ!?湊ちゃんとの仲直りのためにもこの案出したのに肝心の本人がぎっくり腰でダウン!?

 

「それで今日は行けないから後は任せたって…お兄ちゃんも午後から手伝いに来るって」

「そ、そう…」

『あの人、新年早々踏んだり蹴ったりだな…』

 

今度神棚にでも祈っておこうかな…

 

「あの…それでさっきから後ろに居る馬は…何ですか?」

『馬?(キョロキョロ)あっ俺か』

「あれ?湊ちゃんもコイツには昔会っているはずだけど。まあ、2年は経っているし、分からなくても仕方ないか」

 

ちょっとショックな俺。昔はよく会っていたと思うんだけど…

 

「コイツはミカドだよ。覚えていない?シエルの子供だよ」

「シエルの?……あっ…!」

『思い出した?』

「よくマザコンって呼ばれていた甘えん坊の?」

『そっちの方向で思い出すの!?』

「そうそうソイツ、放牧中もシエルの近くに今もよく行くよ」

『そこ新しい情報教えないで!母さんの近くに居るのは否定しないけどそれ特訓のためだから!』

「ふふっ、今でも甘えん坊なんだ…」

 

あ〜、湊ちゃんが元気になるなら甘えん坊で良いです。ヤケクソで頭スリスリしてやる。おりゃ!

 

「きゃっ!?……えへへ、いい子いい子」

「どうしたミカド?露骨に甘えt『あ"あ"ぁ…!?』……なんでもないです…」

 

卓矢さんが余計なこと言わないように先に牽制。湊ちゃんの手はゆっくり優しく俺の頭を撫でる。この至近距離だと顔がよく見える。確かに顔色は良いとはいえないな。今日くらいはリラックスしてほしいな。

 

「それじゃあ…湊ちゃん。折角だからミカドを放牧地に出そうか。ここまで懐いているなら多分問題ないだろうし」

「えっ!?だ、大丈夫何ですか?私なんかにやらせて…?」

「何回もやっているし裏掘り*1や無口*2の取り付けは出来るだろう?それだけ手伝ってくれるかな?」

「わ、分かりました…」

 

戸惑いながらも作業を始めた湊ちゃん。少し覚束ない感じだったけど割とテキパキと作業を進めて行き、直ぐに俺を放牧出来る状態にまでした。

 

「あ、あの…終わりました…」

「もう終わったの!?早いなぁ。じゃあミカドを放牧地に移してもらえるかな?場所は第二放牧地ね」

「は、はい。えっとじゃあミカド、ウォーク…」

『は〜いっと』

 

 


 

放牧地

 

『なるほど。だから彼女は暗い顔をしているのですね』

『はい。さっきよりは良くなっていますけど…』

『何をそんなに悩んでんだが…そんなに悩むならほっぽり出しちまえば良いのによ』

『あなたみたいな馬鹿はそれで良いでしょうね』

『頭でっかちにも分かんねぇだろ』

『フェニックス、少し向こうでお話ししましょうか?』

『おうこっちも話死合いしたいと思っていたんだが』

『俺彼女の近くに居るんで終わったらどっちかが呼んで下さいね』

 

そそくさと二頭から離れた俺は後ろから聞こえる地響きをスルーしながら湊ちゃんに近づく。湊ちゃんは母さんの顔を撫でていた。

 

(うおお…すげぇ絵になるツーショット…)

 

美人さんの湊ちゃんにこっちも美人顔の母さんというこの状況。後ろの地響きがなければ映画のワンシーンとかにも使えんじゃね?

 

俺が2人(一人と一頭)を見ていたら湊ちゃんが俺に気づいた。

 

「あれ?ミカドもシエルに会いにきたの?」

『ミカド、あなたの後ろに見えるのは何?』

『いつものアレです』

『分かったわ』

 

ナチュラルに先輩方の地獄行きが決まったが、湊ちゃんの側に俺は寄る。

 

「ミカド、シエル。話、聞いてくれる?」

 

湊ちゃんは俺たちに話始めた。志望校の試験が近づくに連れて焦りが日に日に大きくなって来たこと。成績は何とか志望校の基準を満たしたけど不安なこと。父親が一昨日自分に言った言葉のようにただ詰め込んでいるだけじゃダメなこと。

 

「分かっているんだけどね。ちゃんと休まなきゃ行けないってことも。でも不安なんだよ、みんなも勉強しているし今もこんなことしないで勉強しなきゃいけないのに。でも家族は今日ぐらい勉強から離れてみたらって言うからさ。私どうしたら良いんだろうね』

 

俺たちは馬だ。人に言葉を伝えることは出来ない。でも行動で何かを伝えることができる。だから俺がすることは…

 

『湊ちゃん!』

 

彼女の心を俺なりの方法で休ませることだ。

 

「えっ?きゃっ!?」

 

再び頭をスリスリさせる。この年頃は、自分の弱さを見せるのはかっこ悪いこと、自分で解決しなきゃダメだと思い込む。もちろん自分で解決できるんだったらそれはそれで良い。でも誰かに相談することで気持ちがいくらか楽になる。それが人だろうが馬だろうが関係ない。

 

『ちょっとぐらい休んでも良いんだよ。ずっと頑張っっていたら体と心がいつか悲鳴をあげる。君になんか文句言う奴がいたら俺がそいつらを蹴り飛ばしてあげるよ』

 

「ミカド、ちょくすぐったい…えっ!?シエル!?」

 

『ミカドの言うとおりあなたは昔からよく頑張っていますから、休むことにも頑張りなさい』

 

母さんも湊ちゃんに頭をすり寄せる

 

「ちょ、ふふ、もうどうしたのよ?」

 

湊ちゃんは困り顔になりながらもその表情はさっきよりは明るくなっていたと俺は思う。

 

 

 

あの後、兄の雄介君が参戦し、暴走した先輩方は母さんに粛清され、湊ちゃんは始めた時よりは元気になっていた。

 

「卓矢さん、今日はありがとうございました」

「いやいやこっちも助かったよ。雄介君も悪いね」

「全然大丈夫ですよ。久しぶりにここに来れて大分気分転換になりましたし」

「私も…ミカド達と触れ合えて少し気分が晴れた気がします。ミカドたちに話しかけている内にちょっとだけ嫌なものがなくなった気がして…」

「ソイツは良かったよ。二人とも北山牧場長にお大事にと少しは休んでくれって言っといて。あの人すぐに無理するから」

「はい、分かりました。しっかり卓矢さんが言っていたって言いますね」

「ちょ、俺が言ったって言ったら戻って来た時に色々言われそうで怖いんだけど…」

「ふふ、冗談ですよ」

 

いやぁ〜元気になって良かった良かった。アニマルセラピー万々歳だな。

 

「ミカドも話聞いてくれてありがとうね」

『どういたしまして』

 

何にせよ、頑張ってね湊ちゃん。俺も頑張るからさ。

 

「うん頑張るね」

 

………あれ?何で何も言っていないのに反応したの?

*1
蹄の裏に付いた土などを取る作業

*2
手綱とハミが付いていない頭絡




人物紹介

北山湊 15歳
北山牧場長の娘。美人さんでもの静かな性格。幼い頃から馬たちと過ごしていたことから将来はそれに関わる獣医になりたいと考えている。引っ込み思案だが動物の気持ちを察することに長けている。

北山雄介 19歳
湊の兄で北海道の畜産系の大学に進学。乗馬経験があり、たまに引退馬たちに跨って走っている。大学では乗馬サークルに所属している。人当たりが良く爽やかで交友関係が広い。家族思い。

アンケートをとります。
ノゾミ系の他の馬が気になるという声があったのでその産駒をアンケートでとります。
他にもこの馬がいいんじゃない?という方がいたらコメントで教えてください。
注意としては2008年までに既に産駒を出している馬限定でお願いします。
このアンケートは年末まで実施します。
他にも産駒を思いついた方がいればコメントなどで教えてください。

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帝の先輩/君主の別れ

sizaさん、評価ありがとうございます!

今回から厩舎に戻ります。レース関係は次回から本当にありますのでもう少しお待ちを!

アンケートはまだ募集中です。
ナイスネイチャが今のところ現在トップです…大差で……
他にもこの産駒は入れないのか?と思う方がいればコメントなどで言って下さい。
人気があれば第二弾ももしかしたらあるので、参考程度にどうぞ。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


年が明けて暫く経ち俺は北山牧場から栗東トレセン松戸厩舎に戻って来た。

 

『ウィー。みんなただいま〜』

『あっ、おかえり〜』

『おかえり。ミカド。故郷はどうだった?』

『母親と先輩方にしごかれました』

『……休むために行ったのに何でしごかれてんの?』

『悪癖を治すため』

 

故郷のことをみんなに話し、そこそこ盛り上がった頃に俺はモナーク先輩がいないことに気づいた。

 

『あれ?そういえばモナーク先輩は?調教中ですか?』

 

そう言うとみんな顔を下げる。一体どうしたんだ?

 

『ミカド、よく聞いて』

『えっ、あ、はい』

 

オーラ先輩が真面目な声色と表情で俺に話しだした。

 

『モナーク先輩は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今月末で引退するみたいなんだ』

 

『・・・・・・え』

 

 


 

ことの発端は少し前に行われた『日経新春杯』で右脚の一部を骨折し、競争能力喪失と判断され、引退することになったらしい。今は少し席を外しており、後少ししたら戻ってくるらしい。

 

『そう、だったんですか…』

『うん。モナーク先輩、とても悔しがっていたよ。まだまだ走りたいのに脚が思うように動かない、って』

『先輩はこの厩舎では最古参だったからいつか来るかと思っていたけど…まさか骨折でなんてね…』

 

モナーク先輩は今年で8歳。競走馬としてはかなり長く走った方だ。歳の割には元気だったし、この間の有馬だって二着でまだまだ現役って感じだったのにな…

 

『おい。戻ったぞ』

 

そんな話をしていたらモナーク先輩が厩舎に戻って来た。

 

『お、ミカド戻って来ていたのか』

『は、はい。…あの先輩…』

『引退の話だろ。もちろん本当だ』

『っ!』

 

先輩は淡々とした声でそう答えた。本馬から聞いてしまうとやっぱり本当なのかと思った。

 

『おいおい、そうな悲しそうな顔をすんな。いつか来ることだろう。それが今だったってだけだ』

『けど…』

『ミカド』

 

モナーク先輩は自分の馬房に戻り、俺の方を見て話だす。

 

『始まりがあれば終わりも必ずある。俺は始まりでコケた分終わりが遅く来たんだ。全盛期をとっくに過ぎて、それでも走り続けたからな。そりゃあ、体も悲鳴をあげるに決まっている』

 

言葉では既に割り切ったようなことを発しているが、それを語る先輩の顔は違った。

 

悔しさが滲み出たような表情で涙を流していた。

 

『ああ畜生。割り切ろうとしてんだけどなぁ。仕方ねぇって…でもでもよ…』

 

もっと走りたかったな

 

今にも消えそうな声で、でもハッキリとした声で、先輩は本心の一部を曝け出した。

 

 

 

『悪りぃ、情けねぇところ見せたわ』

 

少し時間が経ち、先輩は落ち着いた。涙を見せたことが少し恥ずかしいのか目を伏せている。

 

『いえ、大丈夫ですよ。先輩は本当に頑張りましたからね。少しくらい弱音を吐いても誰も文句はいいませんよ』

『兄さんの言うとおりです!モナークさんは私たちの愚痴とか弱音をいつも聞いてくれていましたし、おあいこですよ!』

 

ブエナの言葉に一同が頷く。最年長で俺らのことをいつも気にかけていた先輩には返しきれない恩がある。

 

『先輩は引退後は?』

『多分俺は種牡馬にはなれねぇと思う。どっかの乗馬クラブに引き取られるか、誘導馬になるかのどっちかかもな』

 

俺たちは残された時間でめいいっぱい先輩と話しあった。それが俺たちに出来るせめてものお礼だったから。

 

そして翌日。

 

モナーク先輩はこの厩舎を去る。

 

厩務員さんに引かれて先輩は馬房から出た。

 

『先輩、今までありがとうございました!』

『『ありがとうございました!!!』』

 

今この場にいる全員が先輩にお礼する。それを見て先輩は小さく笑った。

 

『おう。こっちこそありがとうな』

 

入り口まで行った時に先輩の脚が止まった。

 

『お前ら!!』

 

『どんなに負けても諦めるんじゃねぇぞっ!!分かっているよな!!』

 

諦めるな。先輩がよく口に出していた言葉。

 

『『はい!』』

 

俺たちは声を揃えて答える。

 

『なら良い。頑張れよ』

 

こうして松戸厩舎に長きに渡り君臨してきた不屈の君主(モナーク)は表舞台から姿を消した。




モナークは”君主“という意味。
彼は現在でもご存命で阪神競馬場で誘導馬をしているようです。

そういえばまだミカドのしっかりとしたプロフィールを作っていないと思いここに書きます。

名前:ノゾミミカド
年齢:3歳
生年月日:2006年4月10日
性別:牡
毛色:黒鹿毛
血統:父・トウカイテイオー 母・ルイシエル (架空馬)母父・ミホノブルボン
成績:3戦3勝 2着0回 3着0回
距離:短C マイルB 中A 長?
脚質:逃げA 先行A 差しB 追込みG
主な勝利
朝日フューチュリティステークス(G1)

コメントや評価、お気に入り登録を是非。それでは。


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帝の挑戦/クラシックの前走 前編

アストロ岩盤さん、評価ありがとうございます!

今回はレース回ではございません。次回、次回から本当の本当にレース始まるのでお待ち下さい!

3歳馬としての初レース、クラシックでかち合う『あの馬』が登場します。

追記
今回オッズがおかしいという指摘を頂き、修正をいたしました。
教えてくれた方々に感謝します!
この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


モナーク先輩の引退から少し経ち、俺ノゾミミカドは現在、クラシック三冠の一つである皐月賞の前哨戦、『弥生賞』に出走するために約三ヶ月ぶりに中山競馬場に来た。

 

2020年では『弥生賞ディープインパクト記念』という名になるこのレースは3着までの馬に皐月賞の優先出走権が付与されるトライアル競走。皐月賞と同じ距離、同じコースで行われるこのレースを走ることができれば俺の中距離2000の壁をぶち壊すことができる。つまり俺がこのレースで勝つことができればマイラーだと考えている世間の評価を覆すことができる筈だ。

 

『さて、ノゾミ系の先輩方や母さん、テキや厩舎の皆んなが俺のために色々してくれたんだ。その思いを無駄にしない為にも…』

 

全身全霊で、走り抜く!

 

 


 

 

枠番馬番馬名人気
リアライズナッシュ10
ミッキーペトラ
キタサンアミーゴ
ノゾミミカド
モエレエキスパート
セイウンワンダー
ハイローラー
レオウィサード
ケイアイライジン
10ロジユニヴァース

 

 

『曇り空の下で行われるクラシック路線の最初の一冠、『皐月賞』のトライアル競走である『報知杯弥生賞』。本日の馬場状態は稍重となりました。今回のこのレースは非常に楽しみな面々が揃っております』

 

 

「今回のレースはもしかしたらG2としては非常にレベルの高いレースになると思うぜ」

「どういうことだ?」

 

俺は沢渡翔一(さわたりしょういち)。今年で21になる大学生。今日は友達の倉持一真(くらもちかずま)とともに生まれて初めて競馬場で生のレースを見に来た。

 

「今回はこの年の世代の中でも今一押しの競走馬が出走するんだ」

「それってアイツらのことか?」

 

 

『4枠4番、ノゾミミカド。本日の一番人気、オッズは2.5。馬体重は前走よりも8kg増え、486kg。鞍上は新馬戦からのパートナー福長雄一騎手です。昨年の朝日FSにてレコードを記録した現在無敗の注目馬の一頭です。三ヶ月ぶりのレースで重賞戦、そしてこの2000の距離を果たしてどう走るのかに注目です』

 

『6枠6番、セイウンワンダー。三番人気オッズ3.4。一番人気のノゾミミカドとは朝日FSにて大接戦を繰り広げました。馬体重は前走よりも10kg増え、514kgとなりました。自慢の末脚でこの距離を走り切れるか注目です。鞍上は石田康成騎手です』

 

 

この二頭がやはり筆頭だろう。前走との間隔や伸びた距離に一抹の不安があれどこの二頭は注目度が高い。

 

「いやいや確かにそいつらもいいが俺は今日軸にするのはそいつらじゃない」

「えっ?まさかお前大穴狙いに行くのか?有馬で三連単アドマイヤモナーク軸にして外して撃沈したじゃん」

 

二着だったから三連複ギリ当たったみたいだけどトータルで大負けしてたし…

 

「ウルセェ!ていうかそれでお前はなんで単勝複勝で俺より戻って来てんだよ!!いやそんなことよりも…」

 

一真は咳払いを一回してから俺に説明を始めた。

 

「いるんだよ。ノゾミミカドが居なければセイウンワンダーと人気を分け合ったかもしれない、既に2000の距離を経験し、見事勝ち星を挙げた無敗の競走馬がな」

 

 

ノゾミミカドside

 

 

パドックでは俺を含めた10頭の馬たちがそれぞれ引かれていた。G2しかも皐月賞のトライアルレースという訳なのかこの間の朝日杯にも負けないくらいの覇気のようなものを彼らから感じ取れる。

取れるんだけど…

 

『な、なあミカド。俺こんなレースに出ちゃって大丈夫なのか?滅茶苦茶場違いの気がするんだけど……』

『落ち着けアミーゴ。お前がここにいるのはこのレースで走る資格を持っているという事なんだ。少しは堂々としていろ。空気に呑まれたら実力を発揮できなくなるぞ』

『そうは言っても〜』

 

俺の前で引かれているこいつは場の雰囲気に呑まれていた。こいつは同じ厩舎の同期である『キタサンアミーゴ』。冠名の『キタサン』で分かる通り、後に通算獲得賞金がJRA歴代一位の座に輝く『キタサンブラック』と同じ馬主さんが所有している馬です。

こいつは実力はあるんだけど、色々とマイナスの方向に考え込む質でそれが原因で小さいミスを犯して負ける事が今までのレースであったらしい。

 

『前みたいな負け方したらご主人や川地(かわじ)さんに迷惑かけちゃうよぉ〜どうしたらいいのか教えてよぉ〜』

『堂々としていろ、泣くな、自分に自信を持て、勝てたらお前のことを大切に思っている人が笑顔になるだろうからそれをひたすら考えろ、ネガティブになるな、以上』

 

考え方を悪い方向に向けすぎなこいつには逆にポジティブなことを考えさせればいい。

そうしてアミーゴの対応をしていると見知った顔の奴がいた。

 

『あれは…セイウンワンダー?』

 

少し離れた場所に朝日で激闘を繰り広げたセイウンワンダーが居たのだ。

 

(そう言えばアイツもこのレースに出ていたっけ…)

 

大分薄れてきている前世での記憶を引っ張り出し、セイウンワンダーを見た。アイツは既に俺に気づいていたようでやっと気づいた俺に呆れながらも頭を少しだけ下げて挨拶してきた。俺も慌てて頭を下げて挨拶を返す。

挨拶に行かないのかって?アイツと俺の馬番は少し離れているから隊列を乱すわけにはいかないから行きにくいしな。

 

そして俺たちはそれぞれの騎手を背に乗せ、パドックからコースに移動した。

三度目の中山競馬場…200の距離を破った芙蓉S、G1の空気に触れた朝日FS、そして今日は中距離2000という壁を乗り越えるための戦いだ。

 

『大丈夫だ。俺なら行ける』

 

一人で精神統一みたいなことをしているとセイウンワンダーが近づいて来た。

 

『随分集中しているね、ノゾミミカド』

『……セイウンワンダーか。そりゃあな…俺にとっちゃこのレースはこれから先の未来を決める挑戦だからな』

『挑戦か…確かに距離2000は僕ら競走馬にとって一つの分岐点だ。走る事が出来ればステイヤーとしての可能性が生まれ、逆に走りきれなければその道は断たれる。勿論ここで決めてしまうのは早計かもしれないが一つの決断する材料にはなる』

『だな…でもな、俺は絶対この先に存在する距離を走りたいんだ』

 

テキや望さん、北山牧場の皆が俺に託してくれている願いや望みの為に、そして俺自身の望みを叶える為にも…

 

『まあ、熱くなるのは構いません。しかしノゾミミカド、そして後ろに隠れている栗毛の君』

『えっ僕もですか!?』

 

俺と何故かアミーゴにセイウンワンダーは何かを伝えようとしてさっきよりも真剣な声で話だす。

 

『今回、一番人気はノゾミミカド、君だけど…僕よりも高い評価をもらっている馬がいることを忘れていないか?』

 

 

『既に重賞二連勝し…』

 

 

途端、俺たちは背後からただならぬ気配を感じ取った。

 

 

少し前のパドックにて

 

「鞍上には大ベテランジョッキーを乗せた…」

 

 

 

『「今レースで注目の最後の一頭』」

 

 

アミーゴはビビり背後を見ようとしない。俺はゆっくりと後ろを振り返った。

 

 

『8枠10番、ロジユニヴァース。二番人気ではありますが一番人気のノゾミミカドとオッズを分けての2.8。前走のラジオNIKKEI杯2歳Sにて、後方に四馬身の差を着けて圧勝を飾りました。馬体重は4kg減り、500kgとなりました。鞍上は前走から変わらず横谷典洋(よこやのりひろ)です』

 

 

ブエナやセイウンワンダーにも負けない、覇気を放つ、一頭の鹿毛の馬を…




紹介

キタサンアミーゴ 3歳
父:フジキセキ 母:アドマイヤハッピー 母父:トニービン

皆さんご存知「まつり」のあの方の会社が所有する競走馬。差しと先行を使い分ける器用な馬だが気性の問題であまり実力を本番で発揮できない。
ミカドと同じ厩舎で偶に話す仲。
自信が持てず、ネガティブの方向に物事を考えてしまう。

この馬は後々騎手が落馬した状態で二着に入るという器用なことをやってのける変わった馬です。
元々は違う方が落札した馬だったのですが紆余曲折あり大◯商事の馬になったようです。
作者は調べてて結構好きな部類に入る馬です。その分最期を知ったときは…

因みに今回サラッと出て来たモブ二人は次回紹介します。

評価やコメント、お気に入り登録を是非。それと誤字脱字やここおかしいと思った方がいれば知らせてくれると大変嬉しいです。それでは。


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帝の挑戦/クラシックの前走 後編 弥生賞(G2)

謎の通行人Bさん、評価ありがとうございます!

遅くなりましたが皆さん新年あけましておめでとうございます。
本年も今作をよろしくお願いします。

皆さんは有馬記念はどうでしたか?作者は単勝複勝はあてましたがそれ以外を全て外しました…(涙)

それと、以前行なったアンケートで、他の冠名ノゾミの馬はどの馬の産駒がいいかとやった結果、

(127) ナイスネイチャ
(82) キングヘイロー
(71) セイウンスカイ
(66) アグネスタキオン
(27) フジキセキ
(16) メジロライアン
(87) ナリタブライアン
(19) ウイニングチケット

ナイスネイチャがぶっち切りの一番人気で一着とりました…
ということでナイスネイチャの産駒を考えます。もしかしたらまたアンケートを取るかもしれませんので、その時はまた参加して下さい。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


俺たちの前に現れた一頭の鹿毛の競走馬。しっかりとしたトモに加え、身体全体も満遍なく鍛え抜かれていることが分かる。

 

『セイウンワンダー、こいつがそうか?』

『ああ、彼こそがこのレースで君と僕を含め三強と言われている最後の一頭…ロジユニヴァースだ』

 

ロジユニヴァース。

父には二冠馬『ネオユニヴァース』を持つこいつは俺の前世ではダービーを取った馬だ。弥生賞でもこいつは出走していて見事に勝っている。

 

『・・・・』

 

アイツはじっと俺たちのことを見ている。奴から放たれている圧は半端ないぐらいすごい。後ろにいるアミーゴが既に産まれたばかりの仔鹿みたいになっている。

 

『…よう。俺はノゾミミカド。後ろにいるのはキタサンアミーゴで横にいるのはセイウンワンダーだ。今日はよろしく頼むぜ、ロジユニヴァース』

『…紹介にあったセイウンワンダーだ。こちらもよろしく』

『……ロジユニヴァース……よろしく……』

 

ロジユニヴァースは俺たちにそういうと続けて…

 

『今日は…負けないから……よろしく』

 

と言い、自分のゲートへと歩いていった。

 

 


 

 

福長雄一side

 

 

ミカドと俺が返し馬を終えて、ゲート前で待っていた時に石田さんのセイウンワンダーがこちらに近づいて来た。最初はミカドに何かちょっかいにでもしに来たと思ったが、まるで会話をしている様に二頭は見つめ合っていた。

 

「石田さん、コイツら何話してんですかね」

「さあな。前のレースで接戦した馬同士、何かお互い感じるものがあるんだろうな」

 

レース前だというのに少し砕けたこの空間。この空気は別に嫌いではないがレース直前までこの空気にしておくわけには行かない。そろそろ切り替えなくてはと思った矢先、俺と石田さん、そしてミカドたちも、自分たちに近づいてくる何かを感じ取った。

その方向を見るとそこには一頭の鹿毛の馬、そしてその馬に跨がるベテランジョッキーが俺たちの前に現れた。

 

 

『8枠10番、ロジユニヴァース。二番人気ではありますが一番人気のノゾミミカドとオッズを分けての2.8。前走のラジオNIKKEI杯2歳Sにて、後方に四馬身の差を着けて圧勝を飾りました。馬体重は4kg減り、500kgとなりました。鞍上は前走から変わらず横谷典洋(よこやのりひろ)です』

 

 

横谷典洋。美穂が誇るベテランジョッキー。通算1500勝以上、重賞100勝もしており、自分が初めてダービーを挑戦した1998年には『セイウンスカイ』でクラシック二冠を成し遂げた人物だ。因みに石田さんが一番尊敬している騎手がこの人でもある。

 

「やあ、雄一、康成。今日はよろしく」

「横谷さん…よろしくお願いします」

「こっちもよろしくお願いします」

「なんかコイツがここに来たがっていてね。多分注目の二頭が気になったんじゃないかな」

 

ミカドとセイウンワンダーはロジユニヴァースのことを凝視しており、向こうもこちらを見ている。数秒程見つめ合っていた三頭だったがロジユニヴァースが最初に視線を逸らし、それに気付いた横谷さんが移動を始めた。

 

「もういいのかい?それじゃあ二人とも、また後で」

「はい、それでは。雄一今日は勝つからな」

「自分も負けませんよ」

 

横谷さんに続き、石田さん、そして他の騎手たちもゲート前で待機をし始める。

 

「今日のレースはお前にとって未知の世界だ。焦らずリラックスしていくぞ、ミカド」

『ブルルっ!』

 

俺がミカドの首元を軽く叩きながらそう言うと、ミカドは、任せろと言わんばかりに鳴いた。どうやら相棒は既に準備万端らしい。

そして順番に各々のゲートに入り、俺とミカドの挑戦である戦いが…

 

 

ガゴンッ!

 

 

始まった。

 

 

『スタートしました。10頭素晴らしいスタートを決めました。誰がハナを取るか。2番ミッキーペトラが行こうとしています。それに8番レオウィサードが続きますが…あっと!?10番2番人気ロジユニヴァースが逃げる!?横谷典洋逃げを行っています!観客からも驚きの声があがります』

 

 

(何!?)

 

しかし始まったと同時に警戒対象の一頭の行動により、この弥生賞は早くも波乱な展開を迎えた。

 

 


 

 

観客席

沢渡翔一side

 

 

『スタートしました。10頭素晴らしいスタートを決めました。誰がハナを取るか。2番ミッキーペトラが行こうとしています。それに8番レオウィサードが続きますが…あっと!?10番2番人気ロジユニヴァースが逃げる!?横谷典洋逃げを行っています!観客からも驚きの声があがります』

 

 

「ロジユニヴァースは過去のレースでは主に中団に潜み最後の直線で抜け出し先頭を奪うと言ういわゆる先行や差しと呼ばれる脚質でレースを行なってきた。故に今回のこの一手は誰も予想出来なかった」

「どうした急に」

 

ロジユニヴァース号の逃げに俺を含めた観客たちが驚く中、一真が何かを話だす。

 

「ラジオNIKKEI杯の逃げ馬に付いたことを除き、ロジユニヴァースは自らが序盤に前めにいくことは今まではなかった。だからこそ今回の急な脚質の変更は他の陣営に衝撃を与えた。他陣営はいつも通りの作戦で来ると思っていたからな」

「そうか!相手がロジユニヴァース対策で建ててきた作戦が今回の逃げで全て水の泡と化したのか!」

「ああ。脚質の変更で相手に動揺を誘い、焦らせ、判断を鈍らせる。流石は『青雲のトリックスター』の鞍上を務めた横谷騎手だ」

 

双眼鏡を構えて騎手たちの顔を見るとやはり向こうも驚いている。事前の情報と違う動きをされればそりゃ焦る。

 

「でもよ、ロジユニヴァースもキツいんじゃねえのか?いきなり走り方と言うか戦法を変えたら体力もいつも以上に使うだろうし、逃げとか大逃げって博打の要素が強いって聞いたことあるぞ」

「確かに一部ではそう言われているが逃げも立派な作戦の一つだ。それに鞍上は横谷騎手だ。逃げに関してはあの人はよく理解していると思う」

「じゃあ今回の弥生賞はロジユニヴァースで決まるのか?」

 

俺がそう言うと一真は俺に不敵な笑みを浮かべた

 

「いや、まだそうと決まってはいない様だ」

 

 


 

 

『アイツ、まさかの逃げ戦法かよ!?』

 

スタートしたと同時に俺は先頭から三、四番手程の位置につこうとした時、ロジユニヴァースは大外から一気に先頭に立った。他の馬たちや騎手も俺たち同様にアイツらの行動に驚いている。

 

 

『意外な展開になっております弥生賞。先頭10番ロジユニヴァース、2馬身離れて2番ミッキーペトラ、その外8番レオウィザード、直ぐ後ろに4番ノゾミミカド、内には5番モエレエキスパートと6番セイウンワンダーがいます。半馬身後ろ1番リアライズナッシュ、9番ケイアイライジンが並びます。1馬身離れて7番ハイローラー、シンガリには3番キタサンアミーゴ。この様な展開になっております』

 

 

先頭から俺の位置までの差はおよそ3、4馬身ほど…マイル戦なら直ぐにでも挽回したい差だけど今回は2000mの中距離。まだ大丈夫なはずだ。

 

「ミカド、落ち着いていけよ…横谷さんの逃げは惑わされやすいからな。今はただじっと堪えるんだ」

『分かっていますよ』

 

 

『向こう正面に入り、いまだ先頭はロジユニヴァース、ミッキーペトラがそれに続きます。その後ろレオウィサード、ノゾミミカドが並びます。セイウンワンダーがモエレエキスパートを交わし現在五番手に上がってまいりました。リアライズナッシュとケイアイライジンはまだ1馬身後ろで気を伺っています。キタサンアミーゴがスピードを上げ、ハイローラーを交わしました。第三コーナーに入り先頭は依然ロジユニヴァースです』

 

 

「ペースは掴めた。ミカドのスタミナはまだ大丈夫。後はタイミングか…」

 

第三コーナーに入って俺の位置は三番手くらい。先頭とは2馬身半ぐらいの差。後ろからは差し追込み勢がスパートをかける為に徐々に上がってきている。ここから第四コーナーまで後少し…雄一さんからの指示はまだ来ない…不味いな、急に焦って来た…!

第四コーナー中盤からスパートをかけても俺の今の位置じゃ最悪囲まれて抜け出せなくなるかもしれない。だからと言ってコーナーに入った序盤にスパートをかけてもスタミナが持つかどうか分からない。

 

『どうしたらいいんだよこれ…』

 

先頭で走るロジユニヴァース、後方から来るセイウンワンダーたち、前に行きたい気持ち、後ろからのプレッシャー、初めての中距離、いつも以上に俺は焦りを抱いていた。

そこに…

 

「ミカド、落ち着け」

 

ポンと、雄一さんは俺の首を叩く。

 

「大丈夫だ。横谷さんの逃げは確かに驚異的だ。だけどな…」

 

雄一さんは不敵に笑う。

 

「俺は一度だけ、あの人の逃げを途中まで抑えたことがある。色々とやらかしたけどな。だから大丈夫だ」

 

落ち着いてゆっくり俺に話しかける。

 

「第四コーナーの終盤まではこのまま三番手を維持する。後ろから来る奴らは気にするな、大半の馬はロジユニヴァースの逃げで動揺した分のスタミナを消費したから少し上がりにくいはずだからな。お前は前だけを見るんだ。お前の持ち味が活かせる最高のタイミングに指示を出す。だから耐えるんだ」

『雄一さん……』

 

この時、俺はライン先輩に言われたことを思い出した。

 

『言葉が伝わらない僕らは彼らに行動で自分の意思を伝えるんだ』

 

俺たち競走馬と騎手は一蓮托生。騎手は俺たちが勝てる様に考え指示を出す。その指示を俺たち競走馬は自分なりの方法で応える。いや、騎手だけじゃない。世話をしてくれる厩務員さんたち、鍛えてくれるテキ、そして応援する人たち全ての人々の期待に応える為に俺たちは走るんだ。

 

『そうだ。俺一人で走っているんじゃない!皆んなと一緒に走っているんだ!』

 

俺一人ならヤバイこの状況。だけど…

 

 

『第四コーナーの中盤に差し掛かり、先頭はロジユニヴァース!ミッキーペトラ猛追!レオウィサードに代わりノゾミミカドが現在三番手!セイウンワンダーは五番手の位置でまだ動かない!いよいよコーナーの終盤に差し掛かり直線に入る!ロジユニヴァースが二番手に半馬身の差をつけて先頭を保ったまま直線に入って来た!後方の馬たちは間に合うか!?』

 

 

先頭が直線に入る。その一瞬。

 

「『ここだっ!!!」』

 

俺と雄一さんは互いの呼吸合わせる。鞭から出される指示に従い、間髪入れずに俺は脚を溜める。コーナーの出口から直線に続くこの道。真正面に遮る物が何もないこの状況(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

『行くぜ、帝のお通りだ!!』

 

 

『ここで来た来たノゾミミカド!!外を周り自慢の末脚で加速して来た!!ミッキーペトラを交わし、先頭のロジユニヴァースを捕らえる!!』

 

 

『よう!追いついたぜロジユニヴァース!!』

『まさか…追い付いてくる馬がいるなんて…!』

 

 

『短い直線に潜む急坂を先頭二頭が登って行く!三番手にミッキーペトラとモエレエキスパート、キタサンアミーゴ、セイウンワンダーも来るが間に合わない!ロジユニヴァース逃げ切れるか!?ノゾミミカド差すか!?まだ分からな……いや、ノゾミミカドだ!!ノゾミミカドが僅かに差した!!』

 

 

『何っ!?クソっ、動けよ!まだ動かせるだろ!』

 

相手は僅かに前に出た俺を追い越そうと必死に脚を動かそうとするがどうやら上手く動かない様だ。最初の逃げで終盤加速するためのスタミナを消費しすぎた様だな。

 

『お先に失礼するぜ!』

 

俺はお構いなしに残りのスタミナを全て使う勢いで再び加速する。

 

 

『ノゾミミカドだ!!ノゾミミカドが今ゴールイン!!!!!最後に見事差し切りました!帝が遥か先にいた宇宙を捕らえたました!!勝ち時計は2:02.6!!上がりは35.2!!素晴らしい走りを見せてくれました!!』

 

 

ゴール盤を駆け抜けた瞬間、俺はゆっくりと減速した。後ろからロジユニヴァースを始め、ゴールを走りぬけた馬たちが次々と現れた。

 

『な、なんとか…2000……を…は、走り…きった…』

『ゼェハァ…み、みかどぉ〜……だ、だい、だいじょう…ぶ……?』

『アミーゴか……スゥーハァ……おう、大丈夫だ。お前は?』

『な、なんとか』

 

アミーゴは既に息絶え絶え、後ろにはセイウンワンダーも居る。こっちもかなりキツそうだ。

 

『セイウンワンダー、大丈夫か?』

『ハァ…ハァ…ハァ…ああ、大丈夫。フウ、ノゾミミカド、今回は後れを取ったが次はこうは行かない。次のレースでは君を差し切って見せるよ』

『おう、こっちも楽しみにしているぜ!』

『ねぇ』

 

不意に後ろから声をかけられ俺たちはその方向に振り向くと先程まで雌雄を削りあっていたロジユニヴァースがそこにいた。

 

『今回……君の勝ち……でも次は僕が勝つ…君、もう一度名前教えて……さっき…ちゃんと聞いてなかった』

 

おい、とツッコミを入れたくなったがそれを飲み込み、俺は奴にもう一度名乗る。

 

『俺はノゾミミカド。人々の望みを背負って走る『最強の帝』になる存在だ』

『ノゾミミカド……覚えたよ…次は勝つ』

 

それだけ言って奴は俺らから離れていった。

 

色々あったが、今回の挑戦である中距離2000mを俺は走り切ることが出来た。先ずは最初の壁を乗り越えたことを喜ぶとしょう。

 

 




人物紹介

沢渡翔一(さわたりしょういち) 24歳
競馬を始めたばかりの初心者に毛が生えたレベルの人物。結構運が良い。
現役馬での推しはノゾミミカド、セイウンワンダー
引退馬ではトウカイテイオー、ディープインパクト

倉持一真(くらもちかずま) 24歳
競馬歴4年の翔一の親友。親の影響でレースだけは高校生から見ていた。運は悪くはないが良くもない。
現役馬での推しはロジユニヴァース、ブエナビスタ
引退馬ではオグリキャップ、スペシャルウィーク

今回はどうだったでしょうか?結構難産でした。ナイスネイチャ産駒の馬もしっかり考えますのdお楽しみに。

評価やコメント、お気に入り登録を是非。それでは。


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帝の弥生/その後の一幕

アルトシュさん、鳳飛鳥さん、なかてさん、評価ありがとうございます!

今回は弥生賞のおまけの様な話なので短いです。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


福長雄一side

 

『ノゾミミカドだ!!ノゾミミカドが今ゴールイン!!!!!最後に見事差し切りました!帝が遥か先にいた宇宙を捕らえました!!勝ち時計は2:02.6!!上がりは35.2!!素晴らしい走りを見せてくれました!!』

 

血統から不安視されながらも1番人気で走り終えることがこの2000の距離。ミカドは息絶え絶え…まではとは言わないがかなり息が上がっていた。

 

「大丈夫かミカド?よく頑張ってくれたな」

『ブルルッ』

 

やって見せたぞ、と言っているかの様に反応した。

そう。こいつは見事に2000を走り切り、中距離への適正を見せてくれた。

 

「雄一。今回も出し抜かれたな」

「石田さん。いえ、俺は走れる道を見つけてやっただけです。石田さんを出し抜いたのはこいつ自身ですよ」

 

当の本馬はレース前の様にセイウンワンダーと話しているが。

 

「雄一、今回はお前たちにしてやられたな。お前、狙っていただろ?」

「横谷さん…狙っていた、とは?」

 

今回接戦を繰り広げたロジユニヴァースの騎手である横谷さんが俺たちの会話に割って入る。

 

「そのまんまの意味だよ。その馬の真価である末脚が出せるタイミングをお前はギリギリまで狙っていたんだろ?」

 

横谷さんは続けて話し出す。

 

「お前らはスタートから3〜4番手を維持していた。元々はそこでレースを観察する気だったんだろうが俺たちの行動でお前は作戦を変えた。お前はなるべく馬のスタミナを消費しないで俺たちを見れる位置に移動。そして最終コーナーから直線にかけて、お前たちは前の馬たちが広がったとしても邪魔されないタイミングでスパートした。あの順位なら前から塞がれる可能性も低いからずっと維持し続けたんだろう?…違うか?」

 

横谷さんは笑いながら俺に問いかけてくる。しかしその目は真剣な目つきそのものだ。

 

「………はい。ミカドの一番の武器は末脚の爆発力です。だから前を塞がれると突破しづらくなる。特に今回、後方は大混戦でしたからね。もし差しで行っていたらこうはならなかったと思います」

 

実際、5着〜8着はクビ差で決まっている。あの混戦は集中力が持続しにくいミカドには非常にアウェイな状況だ。

 

「……やっぱりな。雄一、次は俺たちが勝つからな」

「…次も俺たちが勝たせてもらいますよ」

 

俺たちはその後、お互い健闘し合いながらその場は解散した。

 

 


 

 

弥生賞着順

着順枠番馬番馬名タイム着差
ノゾミミカド2:02,6
10ロジユニヴァース2:02,9アタマ
ミッキーペトラ2:03,92・1/2
モエレエキスパート2:04,01/2
キタサンアミーゴ2:04,1クビ
セイウンワンダー2:04,1クビ
ケイアイライジン2:04,2クビ
ハイローラー2:04,2クビ
リアライズナッシュ2:05,57
10レオウィザード2:06,3

 

 


 

 

「え〜それでは、今年の弥生賞を見事に勝ち取ったノゾミミカドの鞍上、福長雄一ジョッキーに勝利インタビューしていきたいと思います。先ずは福長ジョッキー、おめでとうございます!」

「ありがとうございます」

 

勝利ジョッキーインタビューでインタビュアーの言葉に軽く答える。

 

「今回の弥生賞は序盤からロジユニヴァースが逃げるという、誰も予想がつかない展開になりましたがロジユニヴァースが前に出たときどんな心境でしたか?」

「先ず最初に思ったのは、えっ、て思いましたね。でも同時にヤネが横谷さんだしこの人ならやるって思い、直ぐに思考を切り替えてレースに集中しました」

「そうですか…今回ノゾミミカドはずっと3〜4番手を維持し、最後の直線に入った瞬間、自慢の末脚で差し切りましたがどの様にレースを運ぼうとしていました?」

「そうですね…ノゾミミカドは中距離が今回初めてだったのでスタミナをなるべく消費しない様にしていました。以前から後方の馬が近づくと少し掛かっちゃうクセがあったんですが今回はその掛かりも少なくて集中していたので良い騎乗が出来た気がします」

 

ミカドに落ち着く様話しかけた時、掛かりかけていたアイツは落ち着きを取り戻し、最後までレースに集中していた。トレセンに帰ってきた時から掛かり難くなっていたが今回は今までに無いぐらい集中していた。

 

「最後、ロジユニヴァースを交わした時、何を思っていましたか?」

「もう、いける!!って思いました。アイツならやってくれるって信じていましたし」

「次走はいよいよクラシック最初の一冠、『皐月賞』が始まりますが、どうでしょうか?」

「今回のレースでミカドも一皮剥けた気がしますし、全力で取りに行こうと思います!」

「ありがとうございます。以上勝利ジョッキー福長ジョッキーでした!」

 

インタビューが終わり、俺は一度控室に戻り、椅子に座る。

 

(皐月賞は今回と殆ど同じ条件で挑む。ミカドは他より頭が良いし、今日のレースと同じ感覚で行けば不安要素は無い。あるとすれば…)

 

「出走の枠と相手次第……だな」

 

ミカドは先行と逃げが得意な馬だ。今までは特に枠順を気にはしなかったがクラシックとなるとそれら全てを入れて綿密な作戦を立てなくてはいけない。

 

「出走馬には間違いなくあの2頭もいる。セイウンワンダーは大丈夫だがロジユニヴァースはまだ本来の戦い方を見ていない」

 

幾らか不安なところがあるが、一ヶ月ぐらい先のレースのことをここでグダグダと一人で考えたところで解決策が浮かぶわけでも無い。

 

「出来る限りの情報を集めて、テキと相談しながら作戦を立てよう」

 

彼らを勝利に導くジョッキーとして、気合いを入れ直し、俺は控室を後にした。




次回はウマ娘編を投稿しようと思っています。

アンケートで募集したナイスネイチャ産駒ですが、現在も考え中です。設定としては中〜長距離(3000ギリギリ)を走れる馬にしようと考えています。
そこでまたアンケートなのですが、
引退しているかまだ現役かどちらが良いか募集します。
期限はこの話が投稿されてから1週間です。
他にもこんな設定はどうかなど、意見がある方はコメントなどで言って下さい。

評価やコメント、お気に入り登録を是非。それでは。


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帝のクラシック/中山の皐月 皐月賞(G1)

はい、三ヶ月間投稿をほったらかしにして本当にすみませんでした!!
言い訳は後書きで話します!!

とにかくリアルの皐月賞が始まる前に書き切ろうと頑張りました!
駄文ですが楽しんでもらえれば幸いです!
それではどうぞ!!








因みに桜花賞は惨敗です。あそこでウォーターナビレラが粘っていれば……


皐月賞

 

日本競馬で行うクラシック三冠の最初の一冠であり、『最も速い馬が勝つ』と言われた最初の栄光への道となる舞台

 

『神馬』シンザン

『狂気の逃げ馬』カブラヤオー

『掟破りの三冠馬』ミスターシービー

『皇帝』シンボリルドルフ

『帝王』トウカイテイオー

『坂路の申し子』ミホノブルボン

『シャドーロールの怪物』ナリタブライアン

『青雲のトリックスター』セイウンスカイ

『英雄』ディープインパクト

 

多くの名馬がこの舞台を走り抜け、その栄光を掴んでいった

 

そして、今年もその栄光に続く冠を賭けた戦いが始る

 


 

 

2009年4月19日 中山競馬場

 

 

俺ノゾミミカドは現在、とうとう始まる皐月賞に出走するために中山競馬場に来ている。

 

『ヤベェ〜…緊張して来た…』

 

今はパドックに向かう少し前。テキたちは最後の確認を俺の前でしている。

「雄一、ミカドは今は無敗でここまで駒を進めて来た分、他よりも注目度が高い。徹底的にマークされて、潰される可能性がある。だからこそお前の力量が試される。周りに注意して走ってくれ」

「はい。自分もそこは判っているつもりです。今回の枠順は結構こちらに分がありますから更に警戒しなくてはいけませんしね」

 

 

枠番馬番馬名人気
1枠1番ロジユニヴァース2番人気
1枠2番ノゾミミカド1番人気
2枠3番リクエストソング11番人気
2枠4番サトロノワネ18番人気
3枠5番トライアンフマーチ9番人気
3枠6番ミッキーペトラ10番人気
4枠7番ベストメンバー6番人気
4枠8番ナカヤマフェスタ7番人気
5枠9番メイショウドンタク17番人気
5枠10番イグゼキュティヴ16番人気
6枠11番ゴールデンチケット13番人気
6枠12番フィフスペトル8番人気
7枠13番モエレエキスパート14番人気
7枠14番アントニオバロース12番人気
7枠15番セイウンワンダー5番人気
8枠16番アンライバルト4番人気
8枠17番シェーンバルト15番人気
8枠18番リーチザクラウン3番人気

 

 

今回の俺の枠番は1枠2番。前めの走りをする俺にとっては絶好な枠番である。同時に1番の警戒対象にされるけど…

 

「今日はこいつも絶好調ですからね。一番人気に推されるのもそのためでしょう」

 

雄一さんは不敵に笑う。ああ、この人何かやるつもりだな。

 

「ならそれを最大限利用してやりますよ」

 

今までは作られた展開で走ることが多かったけど、今回は逆になるみたいだな。

 

 


 

 

『クラシック戦線最初の一冠、皐月賞の開幕がもう直ぐそこまで迫って来ました。パドックではすでに今回の出走馬が集まっています。それでは順番に解説しましょう』

 

『1枠1番ロジユニヴァース。2番人気ですが前回の弥生賞では接戦の末2着とその実力を示しています。父ネオユニヴァースに続いて皐月の舞台をどう走るかが期待されています。鞍上は変わらず横谷典洋騎手です』

 

『2番は本レースの一番人気、ノゾミミカド。朝日FSを勝利した2歳王者であり、ここまで無敗。父トウカイテイオー、祖父に当たるシンボリルドルフとミホノブルボンたちに続く勢いでこの皐月を制すか期待です。鞍上は変わらず福長雄一騎手です』

 

 

『よお、ロジユニヴァース。元気にしてたか?』

『……ノゾミミカド…久しぶりだね……調子はそこそこいい方……かな……?』

『?いつもよりも歯切れが悪いな?どっか変な感じでもするのか?』

『いや、なんか……体は平気……なんだけど……変な感じ?がする……』

 

見た感じ、故障っぽい予兆もなさそうだけど、大丈夫かこいつ?まあ、走れるんだったら問題ないけど。

 

『そうか。まあ、無理はすんなとは言わないがおかしいところが強くなりそうならテキや騎手の人たちに伝えたほうがいいぞ?』

『…うん。でも……多分大丈夫』

 

調子は良くもないけど悪くもないみたいな感じだな。多分故障の心配はないだろうけど、少し心配になる。

 

『ノゾミミカド、ロジユニヴァース、久しぶりだな』

『その声は、セイウンワンダー!』

 

前走、前々走から共に走ってきたライバル、セインワンダー。そしてその後ろには見慣れない馬が2頭。

 

『久しぶりだな。調子は良さそうで何よりだ』

『ああ、俺は今日も絶好調だ。ところで後ろの奴らは?』

『いや、勝手についてきてこちらもよく知らない』

 

『お前がノゾミミカドか?俺はアンライバルト。よろしくな』

『自分はナカヤマフェスタ…』

 

アンライバルト

ロジユニヴァースと同じネオユニヴァース産駒の1頭であり、前世ではこの皐月賞を制した馬。

 

ナカヤマフェスタ

後の時代に猛威を振るうステイゴールド産駒の1頭であり、古馬時代に天皇賞・秋や凱旋門賞で活躍する。

 

『いや〜、お前の噂は聞いているよ。すんごい速いんだってね?』

『ここまで無敗、自分たち美浦の厩舎でもお前は噂になっているよ』

『えっそうなの?』

 

美浦所属のロジユニヴァースに本当か確認する。

 

『……うん。なんか速くて強い牡馬がいるって……牝馬の娘が言ったみたいで…そこから広まっていった……あと人間の話とかでも』

 

マジか…人間だけで無く馬の間でも噂になってんのかよ…

 

 

 

※なお、噂を広めた犯人(馬)は……

 

『えっくしっ…!急にくしゃみが…』

「大丈夫かベール?この間は頑張ったからな、ゆっくり休め。ほら」

『わーい!人参だぁ!』

 

この娘(ダノンベルベール)です。←美浦所属

 

 

 

『まあどれだけ速かろうが関係ないね!勝つのはこの俺なんだから!』

『ヒヒッ…面白いこと言うじゃねぇか…ツキは自分の方に向いているかもしれないんだぜ?』

『運どうこう言っているようでは勝てない。今日勝つのは俺だ』

『ぼ、僕だって負けないよ』

 

どいつも俺の前世、そして今世でもこの世代を代表する名馬ばかり。

この皐月賞、面白いレースになるのは間違いない。でもな…

 

『おいおい、一番人気の俺を抜いて何言ってんだ?』

 

『勝つのは、俺だ』

 

全員と目が合う。こっから先は言葉は必要ない。必要なのは、誰よりも速く駆け抜ける脚と勝利への気持ちだけだ。

 

無言で見つめ合う俺たち。しばらくしてから一斉にばらけ、それぞれの配置に着く。

 

1枠2番のゲートに入った俺は、気を引き締める。最初のクラシック、最も速い馬が勝つ皐月賞。

 

「いいか、ミカド。落ち着いて行けよ」

『分かってますよ雄一さん』

 

そのゲートが今、

 

ガゴンッ!!

 

開かれた。

 

 


 

 

『さあ、始まりました皐月賞!全頭綺麗なスタートをしました。最初にハナを取ったのはサトノロマネ、外からゴールデンチケットがハナを取ろうと進んできましたが、内からノゾミミカドがハナを奪います。アーリーロブストも猛追いしますがその後ろにメイショウドンタク、その内にロジユニヴァースがいます。1コーナー回って先頭はノゾミミカド、その1馬身後ろにゴールデンチケット、ミッキーペトラとアーリーロブストが内にいます。その後ろにリーチザクラウン、サトノロマネが並んでおり、ロジユニヴァースとナカヤマフェスタが内でこの位置につけています。半馬身後ろにイグゼキュティヴ、アンライバルド、ベストメンバー、リクエストソング、セイウンワンダーはその直ぐ後ろ。モエレエキスパートとアントニオバローズが内から行く。フィフスペトルとシェーンベルトが競り合っています。そしてシンガリはトライアンフマーチ。こう言った展開になっております。2コーナーに入り依然先頭はノゾミミカド。2番手にいるゴールデンチケットに2馬身と差を広げました』

 

観客席では前回の弥生賞と同様、一真と翔一が揃って皐月賞を観戦していた。

 

「皐月賞は中山の芝2000の右回り、中距離レースの中ではオーソドックスな距離だ。ノゾミミカドは中山で有利と言われている作戦の一つ、逃げの作戦に出た様だな」

「どうした急に」

「今回のノゾミミカドの枠順は1枠2番と逃げや先行を打つには打って付けの位置だ。しかしそれは他の陣営も分かっている。故にいつもの先行策ではマークされて前に出れない可能性がある。だから今回は逃げの作戦に出て、素早くハナを取った」

「逃げなら最初の先頭争いでヘマをしない限り、前を塞がれないってことか」

「ああ、更に中山は高低差がある坂を登り降りする事で思いの外体力を消費する。先頭にいるノゾミミカドに追いつこうとスピードを早めれば、最後の直線を差す体力がなくなる可能性がある」

「でもノゾミミカドも大丈夫なのか?前の朝日の時は自慢の末脚を出すスタミナを全部使い切っていたし、今回は400mも距離が伸びているんだぞ」

「あの時は大逃げ、今回は逃げだ。前よりも大分抑えている。その証拠に2番手から1〜2馬身ほどの感覚を保ちながら走っている。ブリンカーを付けているから後ろの馬たちは視覚では見えないことで掛かることも少なくできる。末脚を発揮するスタミナは十分残るはずだ」

 

前回と今回では状況が違う。距離、速さ、二番手との間隔、どう転ぼうが朝日とは全く違う展開になる。

二人はそう考えながらレースの行く末を見守る。

 

「この中で一番怖いのはロジユニヴァースってところか?同じコースである前回の弥生賞は接戦だったし」

「そうとは限らない。何が起こるか分からないのが競馬だからな。それに…」

「それに?」

「皐月賞前にヤネの横谷騎手がマスコミに多弁になっていてな。そうなると大体負ける、みたいなジンクスがあって怖いんだよなぁ」

 

 


 

 

スタートダッシュは大成功。他にもハナを取ろうとした奴もいたけど上手く取れた。あとはひたすら逃げるのみ。

 

「いいぞ、ミカド。焦る必要はまだない。このスピードを維持するんだ」

『了解です』

 

後方の奴は後からして大体1〜2馬身ぐらい?の差で走っている。

要注意であるセイウンワンダーは中団後方くらい、アンライバルトはそれより少し前で、ロジユニヴァースとナカヤマフェスタは更に前の位置に陣取っている。

 

『それぞれ自分の走りに適した位置を取った感じかな?まあ、俺は俺の走りをやるだけだ』

 

 

『依然先頭はノゾミミカド。二番手のゴールデンチケットとは1馬身半ほど離れています。第2コーナーを通過し、向正面に入ります。ノゾミミカドと後続との差はおよそ2馬身。トリッキーなコースとなっている中山で逃げ切れるのか?』

『騎手との折り合いが重要になってきます。どうなるかはまだ分かりませんよ』

 

 

中山競馬場の第1コーナーから第2コーナーあたりは起伏が激しい。上り坂を登ったと思ったら今度は下り坂になっていて、ここでスピードを出すと、最後の直線を走るための脚を使ってしまう。だからここら辺は少しだけ抑える。

 

『あ〜、スピード抑えながら走るのってきっつ…でも我慢だ』

「抑えろよ、ミカド。ここを過ぎればあとはゴール前だけだ」

『分かってますよ〜』

 

 

『さあ、ノゾミミカドが第3コーナーに入り後続の馬たちも上がってきています。ゴールデンチケットが食らいついて2番手にいますが、差し切れるか?リーチザクラウンとアーリーロブストは固まって外に、後方からはロジユニヴァースやアンライバルトが虎視眈々と先頭を狙う。第4コーナーに入り、直線が近づいてきた。そろそろ皐月賞も終盤に差し掛かります。』

 

 

『待てやゴラァァ!』

『先頭は俺のもんだぁ!』

『も、もう限界……』

 

「先頭集団に居たあの馬たちはもう伸びないな、ミカドよくやったぞ。あとは最後の坂と直線だ」

『作戦通りに行ってよかったですよ』

 

今回何故俺たちが逃げで来たのか。勿論内枠で有利だったのもあるが理由はそれだけじゃない。

俺は他の馬よりも走るペースが少し速い。だから俺がこのレースのペースメーカーになることでレース全体を高速化させた。

そうすることで他の馬は俺の速いペースに知らず知らずのうちに体力を持っていかれ、直線でのスパートが掛けにくくなる。

更に……

 

『おい!お前らどけよ!前が塞がっているんだ!』

『これ外か内に行かないと…』

『くっ…これは少し痛いロスだ』

 

俺にくっついていた先頭集団に居たあいつらが後続の壁になる。嫌がらせレベルのことだけどスパート掛ける終盤じゃかなり面倒なことだ。

 

『さて、雄一さん…行きますよ!』

「ミカド思いっきり行くぞ!」

 

 

『第4コーナーを抜けて直線に入り未だノゾミミカドが先頭!後続の馬たちは間に合うのか?ノゾミミカドに鞭が入る!後続との差を広げて行く!このまま独走か……いや、大外から二頭が上がって来た!!』

 

 

『まだまだ!レースはここからが本番だ!』

『今度こそ、お前を差し切る!』

 

 

『アンライバルトとセイウンワンダーだ!二頭がジリジリと差を詰める!2馬身1馬身とその差を縮める!無敵の帝を打ち倒すため、驚異的な末脚で追って来た!!』

 

 

「ミカド、後ろから来ているが気にせず走れよ!」

『まあ、確かにあの二頭は来るよな!』

 

末脚なら俺と引けを取らないものをあいつらは持っているし!

ゴール版前の最後の関門である高さ2.2mの坂を登る。スタミナが残り僅かな上に最後に坂を登らせるって鬼畜過ぎやしねぇか!?このコース作ったやつの顔が見てみてぇよ!!

 

『ノゾミミカド!』

『ん?げぇっ!?』

『やっと追いついたよ!!』

『クッソ!!こいつらマジかよ!!』

 

 

『アンライバルトとセイウンワンダーがノゾミミカドに並んだ!!三頭が並んで坂を登る!!最内のノゾミミカドが僅かにまだ有利だが押し切れるか!?それともアンライバルトかセイウンワンダーが差し切るか!?勝負の行方はまだ分からない!!』

 

 

並ばれはしたがまだ俺の方が僅かに前を走っている。押し切れるかどうかは後は根性次第。ゴールまではあと少し!

 

『負けるかぁぁ!!』

『今度こそ、あと少し!!』

『まだまだぁぁ!!』

 

 

『ノゾミミカド、セイウンワンダー、アンライバルト!この三巴を制するのは誰だ!?今三頭並んでゴールイン!!!!三頭が並んでゴールしました。誰が勝ってもおかしくない戦い、写真判定に移ります』

 

 


 

 

福長side

 

「ミカド、よくやった。少し休め」

『ブルルッ……』

 

こちらの作戦は驚くほど上手くいった。それでも最後は追い付かれた。ミカドに匹敵する末脚を繰り出すセイウンワンダー、冷静にレースを進めたアンライバルト。今回はミカドが掛からずに走ったから良かったがもし掛かっていたりしたら……

 

(考えるだけでも恐ろしいな…)

 

こちらから見たら殆ど同時にゴールした。セイウンワンダーは少し遅れた気がするが、それはこちらから見た場合だ。第三者から見た結果が出るまでは分からない。

 

「これは長くなるかもな…」

 

過去に接戦を繰り広げたレースは幾つもある。記憶に新しいのはウオッカとダイワスカーレットの接戦を繰り広げた『天皇賞秋』だ。

あのレースは判定が出るまで15分ほどの時間がかかったが今回は……

 

(取り敢えず、判定が出るまでは大人しく待機しているか)

 

今はここまで頑張ってくれた相棒を労おう。

 

「雄一、そっちの感じはどうだ?」

「こっちは差し切れたかな?って感じだけど」

 

ミカドに労いの愛撫をしているとアンライバルトのヤネの石田さんと今回のセイウンワンダーのヤネ『内畑博之(うちばたひろゆき)』(以降内畑さん)がやって来た。

 

「いやぁ〜こっちとしては逃げ切ったと思ったんですけど……正直分かりません」

 

そう言うと二人は『やっぱりな』みたいな顔をした。どうやら向こうも分からないようだ。

 

「にしても雄一君、今回は君たちにやられたよ。沈んでくる先頭集団を壁にしてくるとわね」

「それ俺も思いました。もうコイツがノゾミミカドに乗るといつもしてやられるんですよ」

「ミカドの走るペースは少し速いですからね。抑えないとどんどん前に行っちゃいますからそこら辺は折り合いをつけてペースを作りました。ミカドだからこそ出来た作戦ですよ」

 

そうやって俺たちが少し談笑しながら直線コースを少し回ること10分弱。

電光掲示板に変化が起きた。如何やらようやく順位が確定したようだ。

 

 


 

 

ミカドside

 

 

『ゼェ…ゼェ…ゼェ…だ、誰が…勝ったん…だ…?』

『わ、分からない…殆ど同時だった…としか言いようがない』

『もう……無理……は…走れ…』

 

俺は息を整えているセイウンワンダーとまだ会話に入れそうにないアンライバルトと殆ど同時にゴールした。

電光掲示板の方を見てもまだ順位が決定していないことから写真判定で決まるだろう。

 

『アンライバルト、お前大丈夫か?』

『は、ハハ…大丈夫大丈夫…あの塊から抜け出すのにいつもよりも力使ったから少し疲れているだけだから…』

『あのブロックは流石に驚いた。お前が先頭だと何か嫌な予感がしたから少し外側で走っていたが案の定だったぞ』

『へへ。そうだろ。でも上手く行ったと思ったらお前らが並んできたからこっちも結構驚いたんだぜ?』

 

スタミナ温存している差し追込み勢はスパートをかけるには後半から少しずつ速度を上げて行く。それを妨害されると伸びなくなるから俺的には結構有効な策だと思っている。

実際、追込みだったライン先輩は…

 

『前を塞がれてしまうと当たり前ですが抜け出せませんが、一番厄介なのはスパートをかけたいときに塞がれることですね。実際やられるとかなりイライラします。挑発された時はもう蹴り飛ばしてやろうと心に誓ったくらいです』

 

って言っていた。

まあ、先輩の記録は全部一着二着なのでこの時のレースは勝ったらしい。そんで挑発した野郎のことは蹴らなかったけどドスの効いた声で

 

『二度と俺の邪魔すんじゃねえぞごらぁ』

 

って言ったらお相手さん生まれた仔馬みたいに震えていたらしい。

 

そんなことを考えながら、二頭と誰が勝ったか、誰が速かったとか話していると人間サイドに変化が現れた。如何やら結果が出たようだ。

 

『おい、お前ら。結果出たみたいだぞ』

 

俺がそう言って掲示板を見ると二頭も続けて掲示板を見る。

 

 

16ハナ
15ハナ
1・1/2
1/2

 

 

『確定いたしました。勝ったのは、2番ノゾミミカド!!三頭による大接戦を制し、皐月の冠を勝ち取ったのはノゾミミカドです!!勝ち時計は1:57.9とレコードタイムを叩き出しました!かつてこの場所で伝説を生み出した『皇帝』と『帝王』に続き親子三世代で『帝』が無敗で皐月賞を制しました!!』

 

 

溢れんばかりの大歓声が競馬場を包んだ。

 

『俺が……勝った……』

 

1着の欄に映る番号は、2番。

俺の番号だ。

 

「よくやったな、ミカド!お前は本当に凄い奴だよ!」

 

雄一さんの喜ぶ声。

 

『クッ…またか…だがおめでとう』

『クッソォ〜負けた!!でも良いレースだったぜ!!』

 

二頭が俺を称賛する声。

 

「勝った!ミカドが勝った!」

「ま、負けたけど…素晴らしいレースだった…」

「うぉぉぉぉぉ!!ミカド最強!皇帝一族最強!!クソ上司がいなくなってから最高潮じゃあこらぁ!!!」

 

観客席から聞こえる人々の声。

 

『勝った…俺勝った!』

 

喜びが一気に溢れ出す。勝った勝った!最初の冠を取ったんだ!!

 

『イッヤッフゥ〜〜!!!』

 

喜びのあまりコースをテイオーステップで回る。

 

「ちょっ!?ミカド!?落ち着け!!俺が、俺が落ちる!?ちょ、ミカドォォ!!?」

 

この後係りの人や真司さんが来るまで俺ははしゃぎながらコースを走っていた。そしてテキからクソ怒られました。(´・ω・)




はい、前書きで書いた通り言い訳タイムに入ります。

まずは一言、

本当にすみませんでした!!!

ちょうど前回の投稿が終わった後にリアルがクソ忙しくなって落ち着いた頃に書こうと思っていたんです。けどいろんなイベントを終わらせた後に書こうとしてもモチベーションが上がらずそのまま…
プラス作者自身が世話していた動物の急死、環境の変化、汚い大人の世界を垣間見るようなこと、などが重なり、心身結構ヤバイ状態でした。(特に心の方はメンタルブレイク寸前で…)
3月の半ばで要約落ち着いたので執筆を再開しました。
失踪した思われた方がいたら申し訳ございませんでした。
しかし、作者自身この作品は完成させる気でいるのでそこは安心してください。
そもそもこの作品は作者が保管していた黒歴史(笑)ノート的なものにあったストーリーをプロトタイプにしていますので、ぶっちゃけ最終話まで大まかなプロットが完成しています。
ですので必ず完結させますのでどうかこのアホ作者のことを見守っていて下さい。

コメントや評価、お気に入り登録をお願いします!凄い励みになりますので!それでは。


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ノゾミの掲示板/ノゾミの優駿

今回はノゾミの馬たちの裏話掲示板です。
それではどうぞ!


1:名無しの望み応援団員

このスレは冠名「ノゾミ」の競走馬を語るスレです。

彼ら以外の競走馬を語るのは構いませんが、あくまで主役はノゾミの馬たちなのでそこは気をつけましょう。

 

2:名無しの望み応援団員

たて乙

ノゾミの馬も名前が上がって来たの少しずつ増えて来たよな

 

3:名無しの望み応援団員

と言うか個性が強い馬が多いw

 

4:名無しの望み応援団員

俺が一番好きなのはノゾミフェニックス

 

 

5:名無しの望み応援団員

出たw

 

 

6:名無しの望み応援団員

通称『撃沈焼き鳥』w

 

 

7:名無しの望み応援団員

>>6

ノゾミの馬に最近興味持ったんだけど焼き鳥って如何言うこと?

 

8:名無しの望み応援団員

新人さん、いらっしゃーい!

 

9:名無しの望み応援団員

囲め囲め!

 

10:名無しの望み応援団員

>>8

>>9

新人には優しくしろよ〜

 

11:名無しの望み応援団員

お前らのマナーが悪いとノゾミの馬たちの人気が下がるかもしれないからな

 

12:名無しの望み応援団員

>>11

ごめんなさい

 

13:名無しの望み応援団員

許そう

 

14:名無しの望み応援団員

やさいせいかつ

 

15:名無しの望み応援団員

あの〜そろそろ質問に答えてもらえると…

 

16:名無しの望み応援団員

ごめんごめん

 

17:名無しの望み応援団員

基本ここにくる奴らはいい奴ばかりだから新人でも問題ないよ

テンション高いバカ団員と素直でノリがいいアホ団員がいるだけで

 

18:名無しの望みバカ団員

それは

 

19:名無しの望みアホ団員

我らのことか

 

20:名無しの望み応援団員

>>18

>>19

仕事はえーなお前らw

 

21:名無しの望み解説団員

話を戻そう

まずはプロフィールからな

名前:ノゾミフェニックス

年齢:7歳

生年月日:2001年5月16日

性別:牡

毛色:栗毛

血統:父・サンデーサイレンス 母・ヒノカグラ 母父・ノーザンテースト

成績:23戦9勝 2着5回 3着2回

主な勝ち鞍

2005年 G3 ダイヤモンドS G2 目黒記念・ステイヤーズS

 

 

22:名無しの望み応援団員

 

23:名無しの望み解説団員

ノゾミフェニックスは勝ち鞍を見て分かる通りステイヤー

サンデー産駒の中では珍しく長距離を主に走っていた馬だ

気性は非常に荒く、とにかく自分の思う通りに走りたい気持ちが強くて騎手の指示を殆ど聞かないことで有名だ

 

24:名無しの望み応援団員

改めて聞くとよく重賞勝てたなこいつ

 

25:名無しの望み応援団員

確か3回くらい主戦変わったんだっけ?

 

26:名無しの望み応援団員

んで4回目で陣営があの天才に頼み込んだんだよな

 

27:名無しの望み解説団員

そう、日本競馬界のレジェンドである竹豊がフェニックスの鞍上を務めるようになった

彼はフェニックスを一度好きなように走らせてから陣営に

「抑えたら逆にこいつの持ち味が失われるから、これからは好きなように走らせた方がいい。こいつが人を信用するまではサポートに徹しよう」

と言ったらしい

 

28:名無しの望み応援団員

一応こいつ勝ってないけど大体掲示板入りしているんだよな

 

29:名無しの望み応援団員

長距離であれだけ暴れ回る勢いで走っていてもな

 

30:名無しの望み解説団員

そうして鞍上を竹ジョッキーにしてフェニックスは少しずつ成績を伸ばして行き、2005年のダイヤモンドSでようやく重賞を取った

 

31:名無しの望み新人団員

なるほど

 

32:名無しの望みバカ団員

そんで持ってなんでこいつが撃沈焼き鳥って言われるているかと言うと

騎手のいうことを聞かないのはレジェンドが乗ってからは大分なくなって行ったんだけど

結局偶に暴走してスタミナ切らして沈んでいくこともあったんだよねw

 

33:名無しの望みアホ団員

それで沈むことと名前のフェニックスをもじって『撃沈焼き鳥』って言われるようになったんだよw

 

34:名無しの望み応援団員

最後お前らが閉めんのかよ!

 

35:名無しの望み応援団員

解説ニキそれ説明しようとしてたよね

 

36:名無しの望み解説団員

それについても説明しようと資料片手にスタンばってました…

 

37:名無しの望み応援団員

見ろ!お前らが勝手に話すから解説ニキ黄昏ちゃっているぞ!

 

38:名無しの望みバカ団員

すんませんでした

 

39:名無しの望みアホ団員

煮るなり焼くなり好きにして下さい

 

40:名無しの望み応援団員

>>37

>>38

なら焼き鳥に蹴られてこい

 

41:名無しの望み応援団員

馬糞まみれの刑

 

42:名無しの望み応援団員

踏まれに行け

 

43:名無しの望み解説団員

ラインとフェニックスに挟まれて圧死するかノゾミラインについて解説させてくれるなら許そう

 

44:名無しの望みバカ団員

みんな俺らに死ねと申すのか

 

45:名無しの望みアホ団員

いや待て兄弟!解説ニキが救済方法を出しているぞ!

 

46:名無しの望み分析団員

邪魔しないなら取り敢えず訴えを棄却するけど

 

47:名無しの望みバカ団員

どうぞどうぞ!

 

48:名無しの望みアホ団員

オレタチ・ジャマ・シナイ

 

49:名無しの望み分析団員

許そう

 

50:名無しの望み応援団員

よかったな、お前ら

 

51:名無しの望み新人団員

ノゾミラインってなんですか?

 

52:名無しの望み解説団員

プロフィールがこちら

名前:ノゾミライン

年齢:7歳

生年月日:2001年6月3日

性別:牡

毛色:芦毛

血統:父・オグリキャップ 母・ヒカリコノハ 母父・モガミ

成績:20戦8勝 2着12回 3着0回

主な勝ち鞍

2004年 G3七夕賞

2005年 G2毎日王冠

 

 

53:名無しの望み応援団員

はいでましたシルバーライン

 

54:名無しの望み応援団員

神馬の連対記録を塗り替えたノゾミ系のある意味大金星

 

55:名無しの望み応援団員

記録に残る名馬でもあるぞ

 

56:名無しの望み解説団員

ノゾミラインは主にマイル〜中距離をメインに走っていた馬でフェニックスとは生産牧場、馬主が一緒の同期

フェニックスは栗東、ラインは美浦のそれぞれの厩舎に配属されたけどな

ラインはフェニックスとは違い人間に凄い従順で命令もしっかり聞く優等生

主戦騎手であったウチパクも『こんなに走りやすい馬は早々いない』と語っていた

 

57:名無しの望み新人団員

さっきの馬と全く正反対…

 

58:名無しの望み応援団員

そんでそいつら永遠のライバルなんだけどな

 

59:名無しの望み新人団員

?如何いうことなんですか?

 

60:名無しの望み応援団員

解説ニキgo!

 

61:名無しの望み解説団員

>>60

任された

さっき話した通りフェニックスとラインは生産牧場時代からの付き合いでなにかと張り合う中らしい。

デビューしてからもそうで、8戦してあり4勝4敗という引き分けで終わった。

種牡馬になってからも偶に走りあっているらしい

 

62:名無しの望み応援団員

それ大丈夫なの?もしものことがあったら

 

63:名無しの望み応援団員

確かにやばいよな

 

64:名無しの望み解説団員

大丈夫だ。暴れすぎると牧場のボスであるルイシエルに折檻される。

向こうじゃ日常茶飯事らしい

 

65:名無しの望みバカ団員

何それ怖い

 

66:名無しの望みアホ団員

俺その光景見たことある

 

67:名無しの望み応援団員

>>66

アホニキマジで!?

 

68:名無しの望み応援団員

どんな状況だったの!?

 

69:名無しの望み応援団員

教えてクレメンス

 

70:名無しの望みアホ団員

え〜如何しよっかな〜

 

71:名無しの望み応援団員

あ、じゃあいいです

 

72:名無しの望み応援団員

話す気ないならお帰り下さい

 

73:名無しの望みアホ団員

まってまって!冗談だから!語らせて!

 

74:名無しの望み分析団員

俺は気になるから聞かせてくれないか?

 

75:名無しの望みアホ団員

分析ニキの優しさが染み渡る

 

76:名無しの望み解説団員

つまらなかったらさっきの棄却を取り消すよ。バカニキも一緒に

 

77:名無しの望みバカ団員

俺関係ないのに!?

 

78:名無しの望み応援団員

バカニキドンマイw

 

79:名無しの望み応援団員

次回アホニキとバカニキ、死す!

 

80:名無しの望み応援団員

決闘スタンバイ!

 

81:名無しの望みバカ団員

兄弟!俺たちの命がかかっているんだ!おふざけなしで真面目にいってくれ!

 

82:名無しの望みアホ団員

任された!

あれは、年末に近い時期だったかな?

俺は、二頭がいる北山牧場に見学しに行ったんだ。勿論アポイントメント取ってな。

 

83:名無しの望み応援団員

意外にマナーしっかりしている

 

84:名無しの望みアホ団員

そこは一社会人として当然よ

そんでちょうど二頭が放牧されていてな、すぐ近くには今話題の無敗皐月賞馬であるノゾミミカドも一緒にいた

 

85:名無しの望み応援団員

ノゾミミカド!?マジで!?

 

86:名無しの望み応援団員

ノゾミ系の救世主じゃないですか!?

 

87:名無しの望み応援団員

シルバーブロンズが多いノゾミ系の中でも数少ないG1馬!

 

88:名無しの望みアホ団員

驚くのはまだ早いぞ。

次の瞬間、3頭が急に走り出したんだ。さながらレースのスタートダッシュのようにな

 

89:名無しの望み応援団員

えっ

 

90:名無しの望み応援団員

引退した種牡馬が?

 

91:名無しの望み応援団員

今世代最強候補の現役馬と?

 

92:名無しの望みアホ団員

俺も自分の目を疑ったさ。でも現実だった。先頭に立ったのはノゾミミカド、すぐ後ろにはノゾミフェニックス、2馬身後ろにノゾミライン。あそこの放牧地は一般的なところよりは広くて、小さなレースをするくらいには問題ない広さなんだよ。

 

93:名無しの望み応援団員

でも引退してもう2年くらいしているだろう。流石に現役には勝てないだろう

 

94:名無しの望み応援団員

筋肉や体力だって落ちているしな

 

95:名無しの望みアホ団員

ところがギッチョン!レースで言う第4コーナーぐらいに入ったところでノゾミラインが急加速!2馬身の差を一気に埋めてフェニックスを差し切ってミカドに並んだ!

 

96:名無しの望み応援団員

マジか!?

 

97:名無しの望み応援団員

引退した競走馬が!?

 

98:名無しの望み応援団員

まだ走れんの!?

 

99:名無しの望み解説団員

マジかよ

 

100:名無しの望みアホ団員

内ノゾミミカドに並ぶ外ノゾミライン!内か外か並んでゴールイン!スタートした放牧地の入り口をゴールにしていたのかそこを通り過ぎると3頭はゆっくりスピードを落とした。

そんでやり過ぎたのかボス馬ルイシエルと思わしき馬が三頭に向かって嘶き、ギロって言う音が聞こえそうなぐらい睨みつける。三頭は怒られた子供のようにしゅんとしていた

以上

 

101:名無しの望み応援団員

最後可愛いw

 

102:名無しの望み応援団員

マジかよ現役最強候補相手に並ぶなんて

 

103:名無しの望みバカ団員

解説ニキ!ところで判定は!

 

104:名無しの望み解説団員

判定は………………無罪

 

105:名無しの望みバカ団員

ウィィィィィィィ!!!!!!!

 

106:名無しの望みアホ団員

最高にハイって奴だ!!!

 

107:名無しの望み応援団員

よかったな

 

108:名無しの望み解説団員

さてでは話に出て来たノゾミミカドについて解説するか

 

名前:ノゾミミカド

年齢:3歳

生年月日:2006年4月10日

性別:牡

毛色:黒鹿毛

血統:父・トウカイテイオー 母・ルイシエル 母父・ミホノブルボン

成績:5戦5勝 2着0回 3着0回

 

 

109:名無しの望み応援団員

来た来た

 

110:名無しの望み応援団員

今一番旬な馬が

 

111:名無しの望み応援団員

皇帝一族期待の新星

 

112:名無しの望み新人団員

デビューからの大ファンです

 

113:名無しの望み応援団員

新人ニキはミカドからこっちに入った口だな

 

114:名無しの望み解説団員

解説始めるぞ

ノゾミミカドはかの有名な皇帝シンボリルドルフの孫であり、トウカイテイオー産駒の希望と言える現役競走馬だ。

因みに今はもう少ないパーソロン系の血統でもある

 

115:名無しの望み応援団員

今はサンデーの血が凄いからな

 

116:名無しの望み応援団員

キンカメも来ているぞ

 

117:名無しの望み応援団員

種牡馬になったディープインパクトも期待されているぞ

 

118:名無しの望み応援団員

>>117

それ結局サンデーじゃん

 

119:名無しの望み解説団員

話を戻そう

トウカイテイオーの産駒はいい成績を残したものは少なく、廃れていく一途を辿っていた。

そこに現れたのがノゾミミカド。

鞍上には福長ジョッキーを乗せ、新馬戦ではレコード勝ち、続くOP戦も難なく勝利。2歳G1である朝日FSもセイウンワンダーと接戦の後勝利し、クラシックに入って弥生賞を見事に勝ち、そして先日行われた皐月賞ではアンライバルト、セイウンワンダーとハナ差の接戦を繰り広げ見事親子3代無敗皐月賞馬となった

 

120:名無しの望み応援団員

母父であるミホノブルボンも無敗皐月賞馬だから血統表に無敗皐月賞馬が3頭並んでいることになるな

 

121:名無しの望み応援団員

改めてヤベェ奴

 

122:名無しの望み応援団員

でもこの馬、戦績に比べて結構苦戦しているよな

 

123:名無しの望み応援団員

それ接戦が多いからじゃね

 

124:名無しの望み応援団員

周りが強いのかミカドが弱いのか

 

125:名無しの望み応援団員

強いに決まってんだろう!ミカドは最強!

 

126:名無しの望み応援団員

喧嘩は他所でやってくれ

 

127:名無しの望み応援団員

解説ニキなんかエピソードあるか?

 

128:名無しの望み解説団員

そうだな

ならこれはどうだろう

ミカドは幼駒時代の最初の頃は他の馬たちに上手く馴染めなかったようで母馬のルイシエルにベッタリだったことからマザコンって呼ばれていた

 

129:名無しの望み応援団員

マザコンw

 

130:名無しの望み応援団員

でもそれ普通じゃない?

 

131:名無しの望み解説団員

いや離そうとすると普通の馬よりも嫌がるんだよ。暴れないけど直ぐに母親の後ろに隠れたらしい

 

132:名無しの望み応援団員

すんごい可愛い

 

133:名無しの望み応援団員

ほっこり

 

134:名無しの望み応援団員

いや〜あのイケメン君にも幼い頃はそんな時代があったのか〜

 

135:名無しの望みアホ団員

余談だけど今でもベッタリだよ。

 

136:名無しの望み応援団員

アホニキみたの?

 

137:名無しの望みアホ団員

見た見た!放牧時間が被ると直ぐに母親のそばに行く

 

138:名無しの望み応援団員

《速報》ノゾミミカド、未だにマザコン

 

139:名無しの望み応援団員

マザコンはもうやめてやれw

 

140:名無しの望み応援団員

おいおいミカドもいいけどノゾミの現役競走馬はまだいるだろう!

 

141:名無しの望み新人団員

?すみません自分競馬始めたばかりでわかりません

 

142:名無しの望み応援団員

あーいたなそういえば

 

143:名無しの望み解説団員

ノゾミナチュラルのことだな

 

144:名無しの望み応援団員

そうだよナチュラルのこと忘れんなよ!

 

145:名無しの望み応援団員

ごめん正直今までのやつに比べてインパクトが薄くて…

 

146:名無しの望み自然団員

絶許

 

147:名無しの望み応援団員

>>146

ごめんなさい

 

148:名無しの望み自然団員

解説ニキが解説してくれたら許す

 

149:名無しの望み応援団員

お願い解説ニキ!

 

150:名無しの望み解説団員

任されよ

名前:ノゾミナチュラル

年齢:4歳

生年月日:2005年5月18日

性別:牝

毛色:栗毛

血統:父・ナイスネイチャ 母・ミスト 母父・ミホシンザン

成績:10戦4勝 2着0回 3着6回

 

ノゾミ系の数少ない牝馬であり、ノゾミミカドの1つ上の世代の現役競走馬

父があのブロンズコレクターであるナイスネイチャで本馬も現在G1未勝利

 

 

151:名無しの望み応援団員

途中までは牝馬三冠だったけど何故か菊花賞出て来たよね去年

 

152:名無しの望み応援団員

適正が後から長距離向きって分かったんじゃないか?

 

153:名無しの望み解説団員

気性は非常に大人しく小柄だがパワーは牡馬にも負けないパワフルガールなのだがイマイチ勝ちきれないところが父譲り

愛嬌もあって父にも負けない人気を誇っている

 

154:名無しの望み応援団員

調教師って確かネイチャの騎手だったよな

 

155:名無しの望み解説団員

その通り

松流昌弘(マツナガマサヒロ)調教師だ。

コメントで『ここまで父親に似なくても…』って笑いながら言っていた。

 

156:名無しの望み応援団員

似たもの親子

 

157:名無しの望み応援団員

他のノゾミ系に比べると薄いがそれでも全体的に見れば濃い

 

158:名無しの望み応援団員

次は天皇賞・春に出るらしい

 

159:名無しの望み応援団員

3200を走り切れるのかな

 

160:名無しの望み応援団員

大丈夫だろ菊花賞3着だったし

 

161:名無しの望み応援団員

俺らはこれからもノゾミの馬たちを応援するだけだ

 

162:名無しの望みバカ団員

次は俺が語っていいか!

 

163:名無しのアホ応援団員

俺もまだまだ語り手ぇ!

 

164:名無しの望み解説団員

解説は任せろ

 

165:名無しの望み応援団員

次は何話すのか

 

 




解説ニキ
ノゾミ系競走馬を追い続ける競馬歴15年(賭けられなかった時代含めて)の30代直前の男性会社員。
婚約者有り。
掲示板でお馴染み5徹ニキでもある。

バカニキ
テンション高いバカ(直球)の20代男性。彼女無し。フリーター。
アホニキとはリアルでも親友。

アホニキ
素直なアホ(直球)の20代男性。彼女無し。フリーター。
バカニキとはリアルでも親友。

新人ニキ
毎度お馴染み新人君。20代前半の男子大学生。彼女有り。交際半年。
競馬は友達に勧められて始めた。ミカドの大ファン。

はい、今回はこんな感じの掲示板回でした。
そしてお待たせしましたナイスネイチャ産駒はノゾミナチュラルです!
名前の由来はネイチャー(nature)は自然などの意味を持つことからです。

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壱の冠/弐の舞台にむけて

ミカド陣営の話です!
次回はまた小話みたいな回を出そうと思っております。

皐月賞は副賞ワイドが当たってなんとか二倍近くになって勝ちました。
やっと黒字です…


「え〜それでは、見事皐月賞を制しました福長雄一ジョッキーです。おめでとうございます!」

「ありがとうございます」

 

勝利騎手インタビューに福長は笑いながら答える。

 

「今回の皐月賞は福長ジョッキーにとって初制覇となりますが今どのようなお気持ちでしょうか?」

「そうですね……非常に嬉しい気持ちでいっぱいです。やっとクラシックの一つを勝つことができたのでこれからも邁進していこうと思っています」

 

「ノゾミミカド号はレースでずっと先頭に立っていましたが今日はどのような感じだったでしょうか?」

「ノゾミミカドは、今日は結構気合が入っていました。パドックにいた時から覇気を出していて今日のレースはいい線行くんじゃないかなと感じましたね。非常に賢い馬でもありますし、こちらの指示を理解して走ってくれますから今日もいい走りをしてくれました」

 

「最後の接戦で2頭に並ばれましたが、結果が出た時どの様な心境でしたか?」

「結果が出るまでは気が気じゃなかったですね。掲示板に番号が出て、勝った!と思ったらノゾミミカドがあの様に暴れたでしょう?だから勝利の余韻に浸ることはできませんでしたよ」

 

周りから少しだけ笑い声が上がる。ノゾミミカドがテイオーステップで弾みながらターフを回っていたのは端から見れば、ミカドが奇行をしたぐらいにしか見えない。乗っていた本人は落馬する覚悟をしていたが…

 

「ありがとうございました。以上、福長ジョッキーでした」

 

その後、写真撮影を行い(ミカドはカメラ目線で決め顔)、ミカドを含めた一同は中山競馬場を後にした。

 

 


 

 

「雄一!よくやってくれたな!」

「福長さん、ありがとうございます。G1勝利なんて…何年ぶりかな…」

「松戸さん、駒沢さん、ありがとうございます。ミカドが最後まで走り切ってくれたおかげですよ」

 

松戸厩舎に帰って来た一同は、お互いを称え合いながら、今後のレースにむけての方針を話し出す。

 

「現状、ミカドはクラシック路線を進むことは確定しています。我々が決めることは大きく分けて二つ」

 

松戸は指を1本挙げる。

 

「一つはこのままダービーに直行すること。ミカドは今回のレースでまた一皮剥けましたし、2400の距離も余裕で走りきることが出来るでしょう」

 

もう一つは、といいながら2本目の指を挙げる。

 

「トライアル競争である『青葉賞』に出走することです」

「青葉賞…ですか?」

 

『テレビ東京杯青葉賞』、通称『青葉賞』は日本ダービーのトライアルレースに認定されているレース。

 

「まず、何故青葉賞かというとミカドにコースを覚えさせることです」

「確かにミカドは府中のコースを走ったことはない…」

「今までは中山でのレースが殆どでしたからね。ミカドが勝てて来れた要因の一つもそれがあったでしょう。しかし、次はアイツにとって未知の世界です。100%の実力を発揮させることができない可能性があります」

 

なら、と駒沢が声を出そうとした時、松戸は手を前に出しそれを遮る。

 

「しかし、ミカドを短い感覚でレースに出しすぎると今度はアイツの体がもちません。アイツはレースに出るたびに限界を超えようとする勢いで全力で走ります。今は大きな問題は起きてはいませんが、これからどうなるか分かりません」

 

テイオー産駒は故障が多い。そう言われているがミカドは今のところ問題はない。しかし、油断をしていると故障という悪魔は一気に襲い掛かってくる。

愛馬を勝たせるために下積みをさせるか、故障させないために直行させるか…

 

駒沢は悩みに悩んでいた。

 

(今まで僕が買った馬の大半は故障を起こしたことはない。フェニックスもラインも、ナチュラルだって…その丈夫さが取り柄だ。けどミカドは違う。今までの馬の中で一番気を使わないといけない血統でもあるんだ。けど無敗で三冠を狙うのであれば、不安要素を残しておくのは危険すぎる…ミカドは間違いなく強い馬だが…)

 

悩んだ末に駒沢が選んだのは…

 

 

「松戸さん」

「はい」

「福長さん」

「ええ」

 

「ミカドは……

 

 

 

ダービーに直行させます…」

 

 

ダービーを選んだ。

 

「理由を聞いても…?」

「一番は無理をさせたくないということですね。動物福祉を仕事にしている身としては、無理をさせて故障や予後不良を起こして欲しくないのがあります。人間のエゴでやっている事ですが、少しでも動物たちが生きていて良かったと思えることがしたい。ミカドは多分、走ることが好きなんです。一人で走る事ではなく、ライバルたちと走ることが…だからミカドが好きなことを私の判断だけで奪いたくない…!少しでも長く走っていて欲しいんです」

 

力強く、そう答える駒沢に対し、二人は頷いた。

 

「わかりました。ミカドはダービーに直行、ダービーに向けての調教を始めます」

「府中は何度も走ったことがありますから、コース取りは任せて下さい。まあ、私自身、まだダービーをとったことがないのですが…」

「雄一それは言わない方がいいだろう!俺も騎手時代はもっぱら障害だったからダービー獲ったことはねぇけどよ!」

「松戸さんもですよ!」

 

ハハハハッ!!

 

三人の笑い声が厩舎の中に響き、男たちは決意する。三人で優駿のタイトルを彼にプレゼントしようと。

 

 

『ブッエックション!!!!誰か俺の噂でもしてんのか?』

 




アンケートを取ります。

ミカドに関わらせてみたい馬を作者的にピックアップしました。今週末まで応募取りますので興味がある方は是非。
コメント、評価、お気に入り登録をよろしくお願いします!作者の楽しみの一つが皆様からのコメントです。いつも必ず見ています!それでは…


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自然の姫/望みの紅一点

今回はノゾミナチュラルがメインの回です。

次回はウマ娘編を投稿しようと考えています。

それではどうぞ…


『また、また“3着”…』

 

「あ〜惜しかったな、ナチュラル。でもこれでお前が完全にステイヤーであることが証明された。これからは長距離メインの調教をしていくからな」

 

『はい…』

 

私はノゾミナチュラル。栗東トレーニングセンターの松流厩舎に所属する競走馬です。

 

私はここ最近、微妙な成績が多い。

先ずはこれを見てほしい。

 

成績:10戦4勝一着・4 二着・0 三着・6

 

三着・6

 

三着・6

 

『なんで1着と3着しかないんじゃぁぁぁ!!普通は2着とか4着とかあるでしょう!!1着はともかくあとは全部3着って何!?て言うか作者ぁぁ!!いくら私がナイスネイチャ産駒だからって3着強調すればいいってもんじゃねぇぞぉ!!ていうか、パパの3着は有馬記念3回連続3着ってだけで3着ばっかとっていたわけじゃねぇからな!!』

 

『ナチュ、落ち着いて。色々メタいよ』

 

色々な不満を出しまくっている私に『マルカフェニックス』が話しかけて来た。

 

『だってまただよ!もう呪いがかかっているのかってくらいだよ!重賞連続3着って泣きたくなってくるわ!!』

 

今までの成績↓

新馬戦 1着

芙蓉S 1着

すみれS 3着

チューリップ賞 1着

桜花賞 3着

優駿牝馬オークス 3着

小倉記念 1着

菊花賞 3着

有馬記念 3着

阪神大賞典 3着

 

『ほら見てこれ!ちゃっかり小倉は勝てているんだよ!?』

『3着以内に入れるだけ凄いと思うんだけど…僕なんか勝てても成績落ち込む時はひどいし…』

『あっ…えと……その…ごめん』

『ナチュが悪いわけじゃないよ。ごめんね気使わせちゃって』

 

一つ上の世代だけど馬房が近くて、気さくな性格のフェニはいつもの愚痴を聞いてくれる。そのフェニもこの間あったレースで下から数えた方が早い順位になってしまった。

 

『短距離ってやっぱりすごいの?』

『凄い。あそこで最強を続けるのは難しいと思う。一回勝ってもすぐに負ける。入れ替わりが激しいっていった方がいいかな?』

 

今度は私がフェニの愚痴に付き合い、そうやって過ごしていた。

 

すると……

 

「併せ馬…ですか…!?あのノゾミミカドと!?」

 

松流さんの驚いた声が向こうから聞こえた。何かあったのかな?

 

「確かにウチのナチュラルはステイヤーですし、周りに合わせることは上手い子です。けど…」

 

聞き取りにくいけど併せ馬って言葉が聞こえた。それって他の子と一緒に走ることだよね?別のところの子と走るのかな?

 

「……わかりました。お受けします。はい、はい、それでは…ふぅ…少し面倒なことになったな」

 

「テキ?どうしたんですか?」

「ナチュラルが話題のノゾミミカドの併せ馬の相手をすることになった」

「えっ!?あの今無敗三冠を狙っている!?」

「そうだ。なんでも向こうの管理馬でノゾミミカドの並走が出来る馬が色々と事情があって無理になったらしい」

「でもなんでウチなんですかね?ナチュラルは馬主一緒くらいしか関わりないですよ」

「なんでも、アイツの『パワー』を体験させて欲しいらしい。確かにノゾミミカドの周りにはナチュラルのような馬はあまりいないからな」

 

ノゾミミカド…さっきから聞こえるこの言葉。名前かな?私と同じ『ノゾミ』の冠名を持つ馬…

 

『どんな子なんだろう?』

 

 


 

 

「松流。すまんな。忙しい時に」

「いえ、こちらとしても今話題のノゾミミカドには興味がありましたから」

 

あれから少しして、『ノゾミミカド』という馬と並走する日がやって来た。

 

『はじめまして。私はノゾミナチュラル。よろしくね』

『はじめまして!自分はノゾミミカドです!よろしくお願いします!』

 

第一印象は礼儀正しいけど声が大きい子だなと思った。

 

『そんなにかしこまらなくていいよ。1個しか歳違わないんだし』

『え、でもこっちの厩舎の『ダイシングロウ』先輩がアイツはヤバイ奴だから気を付けろっていっていたんで…』

『おい、いますぐそいつここに呼び出せ。雄としての象徴潰してやるからよ』

『呼び出す方法がないんで無理です』

 

誰だか知らないがレディに向かってヤバイ奴とか失礼すぎる。

 

「相性は…悪くなさそうだな」

「ですね…しかし、奇跡の復活を果たしたトウカイテイオーの子と、その栄光の影にいても自分の輝きを魅せたナイスネイチャの子が同じ冠名を持ち、こうして並んでいると少し感慨深いところがありますね…」

「…そういえばお前はナイスネイチャの主戦だったもんな」

「ええ、あの有馬も後方から見ていましたよ。テイオーがビワハヤヒデに並んで追い抜いたのも…」

 

『何がヤバイ奴よ。私がヤバイ奴判定なら私に勝っている奴らはバケモノ判定でしょうが』

『多分、そういう言い方が誤解を招いているのでは…』

『あ、なんかいった?』

『いえ何も』

 

「あの時のネイチャの末脚もすごかったんですよ。ナチュラルはそれを見事に引き継いでいます。同時に親よりも酷い三着地獄を味わっていますが」

「ノゾミの馬はそういうの多いからな…美穂にいたノゾミラインなんかもシンザンの連対記録を塗り替えたしな」

「極端というかなんというか、血統、成績、性格全てがクセだらけですからね」

 

『とにかく、自然体でいいよ。こっちが疲れるし』

『え〜と、はい。でも俺基本年上には敬語なんで自然体がこれです』

『あ、そうなんだ』

『はい、先輩の前で自然体(・・・)()まれてもナチュラル(・・・・・)ボディがこれです。なんつって』

『・・・・・』

『あれ?先輩?自分でもつまんねぇなって思っていましたけどそんなにつまんなかったんですか?今の低レベルなギャグ?』

『……ちょ、ブフっ…まって……お、お腹……クフフ…痛い…ブフォ…!』

『……(今のウケる要素あったか!?)』

 

「そろそろ始めるか」

「そうですね。騎手の方ももう来ますし…なんかナチュラルが何か堪えているような顔しているんですがあれって…」

『ごめんなさい犯人俺です』

 

 


 

 

後輩の不意打ちのギャグを受けて少し落ち着いてから騎手の人も来て調教を開始。

 

最初は軽い運動をして体を温めてから、メインの併せ馬が始まる。

 

「じゃあ、今日はよろしく頼むぞ龍二(りゅうじ)」

「こっちこそ頼むぞ雄一。こいつはパワーが牝馬とは思えないくらい強いからな」

 

私の主戦騎手であるリュウジ(倭田龍二)さんがミカドの騎手さんと話している。レースじゃないし本気で走らなくていいよね。

 

「ナチュラル、今日は歳下だけど相手は無敗で皐月賞を制した相手だ。しっかり頼むぞ」

『無敗…』

 

無敗

 

今まで負けたことがない。

 

へぇ…そうなんだ……じゃあ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ちょっと本気出すか…』

 

 


 

 

ミカドside

 

 

併せ馬をする相手であるノゾミナチュラル先輩(長いからナチュラル先輩で…)は、キツい言い方をすることもあるけど話しやすい馬だった。ダイシングロウ先輩はなんでヤバイ奴って言ったんだろうな?怖い感じはするけどそこまでって感じはするし…

 

「ミカド、相手は牝馬だが牡馬相手でも勝利をもぎ取ろうとする相手だ。併せだからって油断するなよ」

『わかりました』

 

まあなんであれ、ダービーにむけて古馬戦線に立つ先輩の走りを見ておいて損はない。

 

そう考えながら、併せ馬の調教が始まった。

 

内は俺が走り、外は先輩が走る。先輩の脚質は差し。俺より少しだけ後ろにいる。

 

『いつもの走りをしていれば大丈夫だ』

 

そう考えていた。

 

 

 

ズン

 

 

 

『……えっ?』

 

後ろにいたはずの先輩が急に横を通り過ぎた。俺を追い越して行ったのだ。

 

『えっ、は、はあ!?』

 

あまりのことで俺は理解出来なかった。だって先輩は俺の後脚ぐらいのところにいた。そこから俺の横を通り過ぎるのが一瞬だったんだ。

慌ててスピードを上げて、俺は追いつこうとする。しかし…

 

 

ギロッ

 

 

『…っ!?』ビクッ!!

 

 

相手から放たれる威圧でうまくスピードを出せない。

 

『俺は、一体何と走ってんだ……?』

 

先輩が言っていたヤバイ奴って意味が分かったよ。確かにこの馬は…

 

『ヤバイ奴だ……!』

 

 


 

 

ナチュラルside

 

 

『………』

 

………やっちゃったぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 

私一体何してんの!?相手歳下!私歳上!並走でガチの威圧かますとか大人気ない!!これ相手トラウマになってない!?大丈夫!?大丈夫だよね!?

 

『えっえっと…そのミカド?大丈夫?』

『……』

 

あっだめだこれ…やらかしました。将来有望な子の馬生潰しました。

 

『先輩……』

『ひゃあい!!』

『いやなんで先輩の方が驚いてんですか?』

 

急に話しかけられたから声が裏返った。

 

『ご、ごめん。その大人気なかったよね?併せであんな風に相手潰す勢いで走るなんて…』

『いえ、大丈夫です。そもそもレースではそれが普通ですし』

 

取り敢えず、大丈夫なのかな?

 

『めっちゃ心折れかけましたけど』

 

大丈夫じゃなかった……!!

 

『でも…』

『…?』

 

 

 

『まだ折れていません…!』

 

 

 

『……!』

 

『もう一回やるみたいですし、さっきみたいな奴、頼みます!!』

 

………眩しいねぇ……ギラギラと燃える太陽みたいに…

 

『……お姉さん、また少しだけ本気出すけど、行ける?』

『望むところです!』

 

この子と本当のレースで会える日が楽しみだ。




ナチュラルは『無敗』など勝ち続けている相手に対しては容赦無く本気を出します。
今回はミカドの無敗記録に反応しました。それさえなければ、普段は面倒見の良い姐さんです。
因みに強キャラ感のある彼女が何故三着なのかというと威圧でスタミナを失って垂れて来た馬に囲まれることが多いからです。それでも抜け出して三着とるんですよね…

主戦は世紀末覇王の主戦だった方です。

この併せがミカドにどう影響を与えるのかはまだわかりません。

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帝の優駿/ダービーの舞台へようこそ 前編 日本ダービー(G1)

今回はいよいよダービーに入ります。
前座なので短めです。

それでは…


日本ダービー

 

クラシック三冠の一つにして、最も名誉あるレース

『ダービーを勝ったら騎手を辞めてもいい』、そこまで言うジョッキーすら存在する

競走馬であれば『ダービー馬』、ジョッキーであれば『ダービージョッキー』

競馬に関わる全てのものたちが追い求める憧れの称号を手にするために今年もまた始まる

 

ここは一つ、こういった方がいいだろう

 

 

ダービーへようこそ

 

枠番馬番馬名人気
1枠1番ロジユニヴァース3番人気
1枠2番アプレザンレーヴ5番人気
2枠3番フィフスペトル15番人気
2枠4番トップカミング18番人気
3枠5番マッハヴェロシティ17番人気
3枠6番ケイアイライジン16番人気
4枠7番ナカヤマフェスタ10番人気
4枠8番ブレイクランアウト12番人気
5枠9番ジョンカプチーノ8番人気
5枠10番アントニオバローズ9番人気
6枠11番セイウンワンダー4番人気
6枠12番リーチザクラウン6番人気
7枠13番シェーンヴァルト14番人気
7枠14番ゴールデンチケット13番人気
7枠15番ノゾミミカド1番人気
8枠16番トライアンフマーチ7番人気
8枠17番アイアンルック11番人気
8枠18番アンライバルト2番人気

 

 


 

 

ダービー当日。俺ノゾミミカドはいつも以上に気合を入れている。

 

「今日のミカドは、正に絶好調という言葉が似合うな」

「はい、こいつも今日がどれほど重要な戦いか分かっているんでしょう。皐月とは完全に別物ですよ」

「ノゾミナチュラルとの併せでボロボロに負けた時はどうなるかと思ったが、それがスイッチになったな」

 

ナチュラル先輩の併せで、プレッシャーや規格外のパワーを持つ相手に対するイメージが整った。ライン先輩からは後方からの対策、フェニックス先輩からは前への抜け方。先輩方には頭が上がらない。

 

「雄一。今日は曇りで不良馬場になっている。こいつはまだ荒れた馬場を経験したことがない。さらに言えば左回りの2400もそうだ。だからこそこのレース、キーマンはお前になる」

「自分ですか?」

「皐月の時よりも未知の世界にこいつは行こうとしている。ハッキリ言ってミカドに不安がある分、お前の方がこのレースで最も信頼できる」

 

「……!」

 

『おいテキ。俺は信頼できないってことか?』

 

「おっと、ミカド。聞こえていたか?悪いな。お前のことももちろん信頼しているぞ」

 

『おう!任せてくれ!』

 

「さて、雄一、ミカド」

「はい」

『はい』

「色々言ったが、俺から言えることは一つ」

 

 

「全力で行って来い。そして無事に戻って来い…!」

 

 

「はい!!」

『勿論っす!!』

 

 


 

 

『曇り空の下行われることになりました。日本ダービー。馬場状態は生憎なことに不良となりました。クラシックの栄冠、名誉あるダービー馬とダービージョッキーの称号を手にするのは一体誰なのか、非常に楽しみになっています』

 

 

東京競馬場、一般的には府中って言われているここのコースはの一番有名なところは多分最後の直線の長さだ。

中山は短い直線に高低差5.3Mの坂がある。一方の府中はゴールまでの直線には残り480-260の地点に高低差2Mの長い登り坂がある。いわく、東京競馬場名物『だんだら坂』というらしい。

 

二つのコースをわかりやすく比較すると、

短くて急な坂が中山、長くて緩やかな坂が東京、みたいな感じだ。

 

「いいかミカド…今回はお前にとって全てが未知な世界だ。恐れず、自信を持って走れよ」

『大丈夫ですよ。雄一さん』

 

ゲート前に続々と集まる選ばれた18の優駿。それぞれに差異があるが皆んな今日は気合の乗りが違う。

 

『よう、セイウンワンダー、ロジユニヴァース。調子はどうだ?』

『ノゾミミカドか…今日は悪くない感じだ』

『僕も…今日は…絶好調…!前回…みたいには…行かない!』

『そいつはよかった。俺も今日は絶好調なんだ。いいレースをしようぜ』

 

ライバルの方も今日はいい感じみたいだな。特にロジユニヴァースは凄い。弥生賞の時に感じたものよりもオーラみたいなのが大きくなっている。

 

互いに健闘を誓いながらそれぞれの持ち場に移動する。

 

『じいちゃんたちと父さんが勝ったこのレース、必ず勝つ!!』

 

 

『全頭準備整いました。第76回日本ダービー……』

 

 

ガコンッ!!

 

『よっしゃあ、いつも通り前に…』

 

 

ツルっ!

 

 

『あ』ミ

「あ」雄

「あ」松

「あ」駒

『『あ』』観

 

 

『スタートしました!!おっと、ノゾミミカドが出遅れた!!一番人気がまさかの出遅れです!!!』

 

 

『や、やっちまったぁぁぁぁ!!!?』

 

拝啓

 

故郷の母上、まだ顔すら見たことない父上とお爺さまお二方、俺、馬生大一番とも言えるレースで最大のヤラカシをしました。

 

 

『大荒れな展開となりました日本ダービー!一番人気ノゾミミカド、現在後方から2番手です!!ここから巻き返す事ができるのか!!?』




その頃の観客席

新人「ミカドぉ〜!?」

五徹「馬券がぁぁぁ!?」

一・翔「「コケたぁぁ!?」」


はい、一番やっちゃいけない時にやらかしましたコイツ。

もはや絶望的な状況です。作戦はウマ娘アプリでいうところの先行から差しに変わった感じです。

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それでは…

追記

に、日刊ランキング総合9位!?二次創作ランキングは5位!?
マジですか!?


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帝の優駿/ダービーの舞台へようこそ 後編 日本ダービー(G1)

ゴールデンウィークは母の実家に帰郷してました。
皆さんはどう過ごしていましたか?
執筆再開からなるべく間隔を開けないようにしてましたが、ゴールデンウィーク中はサボってました。許してください。

天皇賞春は皆さんどうでしたか?
作者は押し馬のタイトルホルダーが勝ってくれてその日はテンションがぶっ壊れて、妹にドン引きされて割とダメージ入りました。例えるなら太り気味と片頭痛と練習下手とやる気ダウンイベントが同時に来るくらい。

それでは、前回の続きから。
やらかしたアホミカドはどうなるのか…
どうぞ!


『一番人気ノゾミミカドが出遅れ、早くも波乱な展開となった日本ダービー。現在の先頭は9番ジョーカプチーノ、2番手には12番リーチザクラウン。その内、1番ロジユニヴァースと14番ゴールデンチケットが追走。5番マッハヴェロシティと10番アントニオバローズがその後ろを行く。先頭が第一コーナーに入り、依然先頭はジョーカプチーノ。16番トライアンフマーチと6番ケイアイライジンは中団内に潜む。2番アプレザンレーヴと17番アイアンルックはその後方、11番セイウンワンダーは外に着きました。1馬身離れて3番フィフスペトル、その内アンライバルト。直ぐ後ろに8番ブレイクランアウト、1馬身離れて7番ナカヤマフェスタ。そして出遅れてしまった15番ノゾミミカドはここにいます。シンガリは13番シェーンヴァルト。こう言った展開になっております』

 

 

「日本ダービーは東京競馬場の左回り、2400mで行われる中距離レース、クラシックで『最も運が良い馬が勝つ』と言われている。距離が長くなる分、スタミナ管理や位置取りが重要になってくるレースだ」

「どうした急に」

「出遅れてしまったノゾミミカドは今現在非常に『運』がない。前めの走りをしてきた彼が差しから追込みの走りができるかどうか…」

「出遅れて勝てた例ってあるのか…?」

「あるにはあるが少ないぞ。しかもダービーなら尚更な…」

 

東京競馬場の観客席にて、一真と翔一はいつも通りミカドのレースを観戦していた。

ミカドが出遅れたことにより、観客席は阿鼻叫喚のところと一発逆転を狙うところ、そしてミカド以外を主軸にしていたものの期待に満ちたところに分かれている。

 

「今回のノゾミミカドはおそらくダメだ。末脚は凄い馬だが、馬群に囲まれて沈んでいくのがオチだ」

「マジかよ…」

 

もはや絶望的な状況。一真たちは諦めかけていた。

 

「君たち、諦めるのはおそらくまだ早い」

 

そんな2人に声をかける人物が1人。後ろを振り返ると20代後半〜30代前半ぐらいの見た目の男が立っていた。(馬券を握り締めながら)

 

「確かに絶望的な状況ではあるが、まだレースは始まったばかりだ。挽回できるチャンスはまだある。ここは見守ろうではないか」

 

男には見えていた。ミカドたちはまだ諦めていないことを…

 

 

 


 

 

ミカドside

 

『なんでこんな時にやらかすんだ俺のアホォォ!!』

「ミカド落ち着け!!前を取るのはもう無理だな…後方から行くしかないか」

 

不良馬場に慣れていなかった事が災いを呼んだのかどうか知らないがゲートでこけるなんて…

今の俺の位置は後方2番目。追込みと言って良い位置にいる。

 

俺は追込みなんてやった事ないし、どうしたら良いんだか…

いいや落ち着け俺。今は焦っても仕方がない。冷静になれ冷静に…

 

『落ち着け、落ち着け俺…』

「ようやく落ち着いたか…いいかミカド、少しずつ前に行くぞ。まだ始まったばかりだからな」

『了解です。雄一さん!』

 

 

『先頭は第二コーナーに入り、未だジョーカプチーノがハナを進みます。その横にはリーチザクラウンが前に行こうとしています』

 

 

先頭を取るタイミングは大きく分けて二つ。一つは少しずつ前に進み第四コーナーあたりで先頭を奪う。もう一つは最後の長い直線で末脚を爆発させて一気に他の奴らをごぼう抜きする事だ。

 

『最初の方が安全だから雄一さんもそれを考えているだろうし…ん?』

 

前の馬がそれほどスピードを出していないのか俺はかなり前の奴に接近していた。

 

『やっべ外にでねぇと…』

 

接触したら大きな事故につながりかねない。俺は外に行こうとする。

 

『あれ?塞がれてる?』

 

外に出るための道には既に他の馬がいて塞がれていた。

 

『これって、もしかして…』

 

内を見る。いるのは馬。

 

後ろは見えないけど音的に直ぐ後ろに一頭いる。

うん。間違いない。

 

『完全包囲網敷かれているじゃねぇかぁぁ!!?』

 

オペラオーみたいになってるよ俺!?

 

「まずいな…囲まれたぞ…」

 

俺の順位は大体10〜13くらいだ。後方で囲まれる状態なんて俺は経験した事がない。

 

『どうする?どうすればいい!?』

 

 

『現在ノゾミミカドは後方馬群の中。ここから前に出ることはできるのか?先頭集団は向こう正面に入ります』

 

 

あ〜先頭の奴らはもうすぐ半分の地点に近づいている〜…

現実逃避したくなってくるわ〜…

 

『いやいや、目を逸らすな俺!!まだ勝負は決まったわけじゃない!なんとか打開策を見つけるんだ!!』

 

世紀末覇王はこれよりも酷い状況でも勝利している。まずは状況の確認だ。

 

俺は現在10〜13位くらいの順位。残りの距離はあと1000mぐらい。周りに抜けだす隙間はない。俺の状態は無理に前に行けないからいつもよりスタミナや脚は残っている。

 

『隙間は最後の直線ぐらいにならないと多分空かない。だからと言ってそこまで待っていたら手遅れになる』

 

てか、それ以前に…

 

『滅茶苦茶イライラする…』

 

直線を待っていたら俺の集中力が先に切れる。

 

『あ〜クッソ…ダメだぁ…考えれば考えるほどイライラが溜まってくる…』

 

「ミカド、落ち着け!もう少しだけ我慢しろ!」

 

雄一さんのなだめる声が聞こえるが正直今の俺はそれに耳を傾ける余裕は少ない。

このイライラを相手にぶつける事が出来ればいいんだけどなぁ…

 

 

 

 

 

 

 

『ん?待てよもしかしたら…』

 

 

 


 

福長side

 

 

「クソッ…抜け出せるか、これ?」

 

後方でこうも囲まれていたら抜け出すのは容易ではない。

しかもミカドにとって今の状況は非常にまずい。

 

ミカドは集中力が持続しにくい。この状況が長く続くといずれ掛かる。抜けだすチャンスは恐らく最後の長い直線だがそこまでミカドが耐えられるとは思えない。

 

 

『先頭集団が第三コーナーに入り、先頭はジョーカプチーノとリーチザクラウンが争っている。その背後からロジユニヴァースが虎視淡々と前を狙っている』

 

 

(このままだと最後の直線で抜け出せたとしても抜け出すまでのロスを加味すると勝率は3割あれば良い方か…)

 

先頭からかなり離されてしまっているが賭けるしかない。

そう思いミカドにはまだ耐えるように指示を出す。ミカドに変化が現れたのは。

 

「……ミカド?」

 

指示に対してミカドが反応を示さなかった。それどころか前に行こうとスピードを上げようとしている。

 

(まさか、掛かったか!?)

 

起こり得る最悪の状況。それが起きてしまったと感じた。

 

「ミカド!スピードを下げろ!!接触するぞ!!」

 

手綱で必死に止めようとするがミカドは止まらない。前の馬に接触すると思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォウゥッ!!

 

 

だが次の瞬間、ミカドから今まで感じた事がないほどの『圧』が発せられた。

 

『ビヒィ!?』

 

『ブルルっ!?』

 

すると前方に居た馬たちがまるで何かに押し出されたかのように左右に動く。そして目の前には馬一頭が抜け出せるほどの隙間が空いた。

 

「まさか……よし、行くぞミカド!お前の本来の走りを見せてやれ!!」

 

『ブルッ!!!!』

 

一先ず考えるのは後だ。今はこのチャンスを掴むのみ。

 

 


 

 

俺が考えたのはこのイライラをどう発散し活用するか、そしてそれを活かす方法を見つけた。

 

以前併せをしてくれたナチュラル先輩が発したあのプレッシャーだ。

威圧を発する事で、先輩は周りからスタミナを削って垂れさせる戦法をよくとっているらしい。

テキたちが見ていた先輩のレース映像を俺はこっそり見た事がある。

確かに先輩の前にいた馬たちのスピードは最終的にかなり落ちて順位も下から数えた方が早いものになっていた。(同時に先輩も垂れ馬に巻き込まれていた)

 

以前の併せで俺は先輩のプレッシャーを直に受け、それを再現することにした。

 

プレッシャーを与える為に前の奴に少し近づく。初めてやる事だからなるべく近くでやったほうがいいだろう。

 

『おい』

 

『ん?』『なんだ?』

 

こちらに反応した前を走る2頭。俺は鬱憤を晴らすようにこいつらに向けてプレッシャーをかけた。

 

 

『どけ。そこは俺が通る道だ!!』

 

 

『ひっ!?』『うおっ!?』

 

プレッシャーを受けた前2頭は動揺し左右にそれぞれよれる。

 

そして俺の目の前には、この馬群を抜け出す隙間が生まれる。

 

「まさか……よし、行くぞミカド!お前の本来の走りを見せてやれ!!」

『勿論ですよ雄一さん!!』

 

さあ、無敵の帝のお通りだ!!

 

 

『第四コーナーを抜けていよいよ直線に入る!先頭はジョーカプチーノ!しかし、リーチザクラウンとロジユニヴァースが差を縮める!おっとジョーカプチーノ失速!!馬群に沈んで行った!残り200を切った!!先頭はリーチザクラウンか!?ロジユニヴァースか!?いや馬群から一頭凄い勢いで上がってきた!!ノゾミミカドだ!?ノゾミミカドが抜け出してきた!?先頭との差をどんどん縮めていく!!?一体どういうことだ!?凄まじい末脚であっという間に先頭集団に並んだ!!』

 

 

『!やっと来たか!!』

『な、なんだあいつ!?あそこからどうやって!?』

 

『追いついたぞ!!まだまだこっからだ!!』

 

観客も実況も騎手も馬たちも、ここ府中に集まった全ての人々が驚愕しただろう。

 

絶望的な状況から一気に先頭に立つ。そんな逆転劇みたいな展開を…

 

『ダービーを取るのは僕だ!』

『俺だって負けられねえんだ!』

 

だがまだ劇は続いている。並んだだけでは勝てない。ここからこいつらを抜かさないと栄光の称号は獲れない。

 

 

『残り100を切っても先頭の3頭の戦いは続く!!しかしロジユニヴァースとノゾミミカドが前に出る!!リーチザクラウンも追うが差が広がる!!後方からアントニオバローズとナカヤマフェスタが来るがもう追いつけない!!』

 

 

『まだだ!まだ……!』

『後少しぃぃぃ!!!』

 

互いに譲れない意地と意地のぶつかり合い。限界ギリギリの脚で駆ける。

もうかなりキツイ状態だが脚を緩めるつもりはない。

 

『限界がなんぼのもんじゃぁぁぁ!!!』

「ミカド!!行けぇぇぇぇ!!!」

 

俺はギリギリな体に文字通り、雄一さんの鞭を入れてもらい、過去一の末脚を叩き出す!!

 

『ダービーは俺たちのもんだぁぁぁ!!!!!』

 

 

『ノゾミミカドだ!!ノゾミミカドが差し切ってゴールイン!!!!ダービーの称号を手にしたのは、皇帝一族の救世主、『帝』の名を受け継ぐ、希望の帝!ノゾミミカドです!!!祖父たちに続き、無敗でダービーを制しました!!!!』

 

 




はい、なんとかなりました。

作者的には負けてもいいかなとも考えたんですが、「まだ負けるには早い」と思いこうさせました。

次回はダービー直後の話とダービー掲示板回を予定しております。
いつもの掲示板メンバーのリアルタイムの反応をお楽しみに。
因みにみなますポジの2人に話しかけたのは五徹ニキです。

コメントや評価、お気に入り登録を是非。作者はコメントが来るとデジたん並みに喜んで昇天します。


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ダービー馬の称号/

この展開は少し悩みました。

もしダメな方が多ければ展開を変えて作り直します。


『ノゾミミカドだ!!ノゾミミカドが差し切ってゴールイン!!!!ダービーの称号を手にしたのは、皇帝一族の救世主、『帝』の名を受け継ぐ、希望の帝!ノゾミミカドです!!!祖父たちに続き、無敗でダービーを制しました!!!!』

 

 

『ハァ…ハァ…ハァ…』

 

どうなったんだ?俺は、勝った……のか?

 

『ゆ、雄一さん?』

 

背に乗る雄一さんの方を見る。

 

「……よっしゃあぁぁあああぁ!!!!」

『うお!?びっくりした!?』

 

急に雄叫びに近い声を出してガッツポーズをする雄一さんに驚きながらも、俺は今の状況を理解し始める。

 

『も、もしかして……!』

 

電光掲示板に映された順位に目をやる。そこには…

 

15
アタマ
12
10アタマ
1/2

 

俺の番号が一番上の1着の欄に表示されていた。

 

『お、俺が……勝った?あの…ダービーを……?』

 

 

『鞍上の福長雄一、大きくガッツポーズです!!福長騎手も遂に悲願のダービー初制覇!!98年にキングヘイロー号でダービーに挑戦し続けて11年、ダービージョッキーの称号を手にしました!!』

 

 

「ミカド。本当にありがとうな…そして、おめでとう」

『雄一さん……こちらこそ、俺にこんな凄い称号をくれてありがとうございます。そして、おめでとうございます』

 

それじゃあ、行きますよ。みんな待ってますかね。

 

 

『よう。ロジユニヴァース』

『……ノゾミミカド…お、おめでとう』

『おう、サンキューな』

『き、君が出遅れた時は……どうなるかと……思ったけど……』

『不良馬場を今まで体験した事がなくてな…思いっきり脚をとられたぜ……』

 

あんなの正にトラウマもんだよ…

 

『でも……必ず……来るって……信じてた』

『お、おう。そいつは嬉しいな…』

 

こいつの中で俺の評価そんなに高かったのか…リアクション出す事が少ないから何考えてんのか分かんないだよなぁ。

 

『またしても遅れをとった……』

『同じく…』

『今回はあんまりツキが良くなかったな…俺ら』

『セイウンワンダー、アンライバルト、ナカヤマフェスタ、大丈夫か?』

『馬群に呑まれてしまった。だが次はこんなミスはしない』

『皐月と大分違って上手く走れなかったよ…』

『今回は上手くハマれば行けると思ったんだがな…』

 

各々が自分の今できる最高の走りを全力でやった。上手く走れた奴もいれば、それができなかった奴もいる。

けど全員、『本気』でこのレースに挑んだ。そこだけは間違いなく皆んな出来た。

 

『また、皆んなで走ろうぜ!次のでかい舞台、京都の『菊の舞台』でな!』

 

俺の言葉に皆んな頷き、互いに再戦を誓いあった。

ピシッ

 


 

 

福長side

 

 

「え〜それでは、見事ダービーを制覇した福長雄一騎手です!おめでとうございます!!」

「ありがとうございます!」

 

インタビューが始まると同時にフラッシュが何回も焚かれる。この光景はもう何度も見たが、今回はまた違う。

騎手になってから早13年、俺はとうとうダービージョッキーの称号を手にしたんだ。

 

「まずはダービーを制した今の気持ちは?」

「もう、感無量です!浮き足が立っていて、本当に嬉しいです」

 

「ゲートで最初に出遅れ、かなりキツイ状態となりましたがその時の心境はどうでしたか?」

「あの時は本当に焦りました。けど、ノゾミミカドも出遅れたことをわかっていたのでどうにかしようと焦っていたんですよ。それを見て、自分がまずは落ち着かなくては、と思いなんとか平常心を取り戻せました」

 

「途中、囲まれもしましたがなんとか抜け出し、先頭集団に加わった時はどうでしたか?」

「囲まれた時は常に抜け出せるタイミングを狙っていました。偶然にも隙間が空いた時は直ぐに鞭で加速して抜け出す事ができました。元々末脚が凄い馬なので追いつくとは思っていました」

 

「最後にゴール板を駆け抜けて、大きくガッツポーズをしましたが、その時は?」

「やっと、やっと悲願だったダービーに勝てて、嬉しさがこみ上げて来ました」

 

「ありがとうございました。以上福長ジョッキーでした!!」

 

 


 

 

「雄一!」

「松戸さん」

「本当に良くやった。あそこからよく持ち直したな」

 

インタビュー、口取り式が終わり松戸さんと控え室で話し合っていた。

 

「あの状況から持ち直したのは俺の力じゃないです」

「何?」

 

そう。俺は今回、ミカドに助けられた。

 

「ミカドが囲まれた時、抜け出すタイミングは最後の直線でばらけるしかないと思っていました。けどミカドは違った」

 

あの時のミカドは、いつもの人懐っこく、仲間思いな優しいミカドじゃなかった。

あれは、邪魔するものを容赦無く断罪する暴君だった。

 

「ミカドから、何か『圧』の様なものを感じたんです。邪魔するものを全て喰らい尽くすような、そんな圧を…それを感じた瞬間に前の馬たちが何かに怯えたようにばらけたんです」

「圧、か…」

「松戸さんも知っていますよね?ルドルフと走った馬は走る気を失うって…」

 

ミカドの祖父にあたる『シンボリルドルフ』の逸話の一つ。彼と並走をした馬は走る自信を失うと言われていた。

 

「ミカドのは、恐らくルドルフのそれに近いものです。アレが恐らく、ミカド本来の走りだと思います」

「そうか…まあ今回は良くやった。今日はゆっくり休め」

「はい。後、ミカドの脚。念入りに検査しておいて下さい。ゲートでコケたり、無理な走りをしたので…」

「おう、分かっているよ。…雄一」

「はい?」

「おめでとう。ダービージョッキー」

「!……ありがとうございます!」

 

 


 

 

数日後…松戸厩舎

 

「先生…そいつは本当ですか…?」

「ええ、間違いありません」

 

『マジかよ……』

 

「ノゾミミカド号は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽度ではありますが右前肢に剥離骨折が起きています」

 

 

ダービー馬の称号/栄光の代償




無茶をした代償、それは決して軽いものではない。

先に言います。曇らせ展開は作者は苦手な方なのでなるべくシリアス方向に行かないようにします。一応救いはあります。
というか、自分でやっておいてこの展開で一番ダメージ入っているの作者本人です。

下のアンケートは皆さんの意見を聞きたくて急遽作りました。
あくまで意見を聞くものでこれが反映されるとは限りません。
もちろん、なるべく展開を変えたくはないですがあまりにもダメなら少し変更するかもしれません。


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帝の掲示板回 その3/優駿の裏で

前回の骨折ですが、作者自身悩みに悩んで決めたシナリオです。
そこは理解して欲しいと思っています。



189:名無しの競馬観戦者

まだか…まだか…

 

190:名無しの競馬観戦者

早くしろよ…

 

191:名無しの競馬観戦者

今年のダービーは絶対現地に行くつもりだったのに

 

192:名無しの競馬観戦者

>>191

ドンマイ

 

193:名無しの競馬観戦者

そりゃ今回10万近く人きてんだろう?

 

194:名無しの競馬観戦者

現地組、人多すぎて圧がヤバイ

 

195:名無しの競馬労働者

ミカド来い、ミカド来い

 

196:名無しの競馬観戦者

5徹ニキどこにでも現れるなw

 

197:名無しの競馬新人

自分もいます

 

198:名無しの競馬観戦者

新人ニキもいたんかいw

 

199:名無しの競馬労働者

というかここのスレ立てた奴、朝日〜ダービー同じ奴だぞ

 

200:名無しの競馬観戦者

え、マジで?

 

201:名無しの競馬観戦者

おいイッチそうなのか?

 

202:イッチ

五徹ニキのいう通りだぞ。そんでもって集まる奴も多分ほぼ固定

 

203:名無しの競馬観戦者

なんだこの一体感…

 

204:名無しの競馬観戦者

運命というやつか

 

205:名無しの競馬観戦者

地味な運命だなw

 

206:名無しの競馬労働者

あまりにも一緒になるから一回コテハン勢集まったもんな

 

207:名無しの競馬観戦者

えっ何それ初耳

 

208:イッチ

だって言ってないし

 

209:名無しの競馬新人

五徹ニキが意外とダンディーでびっくりした…

 

210:イッチ

それな、あんな労働環境にいたからてっきりくたびれた40以上のおっさんかと思っていたのに…

 

211:名無しの競馬労働者

2人とも喧嘩売ってる?

 

212:名無しの競馬観戦者

五徹ニキがキレたw

 

213:名無しの競馬観戦者

えっイケオジなの?

 

214:イッチ

普通にモテそうな見た目

 

215:名無しの競馬新人

声も渋いし、所作が色々と決まっていた

 

216:名無しの競馬観戦者

なんでそんな奴がブラック企業に入社していたんだよ

 

217:名無しの競馬労働者

元上司がな…

 

218:名無しの競馬観戦者

あっ…察し

 

219:名無しの競馬観戦者

なんか…ごめん

 

220:名無しの競馬観戦者

そ、そうだよな…会社全体がブラックってパターンじゃなくて一部がブラックだったんだな

 

221:名無しの競馬労働者

まあ、そんな感じだな

 

222:イッチ

言っておくけど五徹ニキの会社、誰もが知る大企業でその人そこの課長だよ

 

223:名無しの競馬観戦者

へっ?

 

224:名無しの競馬新人

プライバシーのため詳しく言えませんがCMとか広告とかで一度は見たことあるところです。

 

225:名無しの競馬観戦者

えっともしかして…

 

226:名無しの競馬観戦者

五徹ニキって

 

227:名無しの競馬観戦者

俗にいうエリート

 

228:イッチ

経歴だけ言えば

 

229:名無しの競馬新人

そんでもって婚約者いますよその人、しかも美人

 

230:名無しの競馬観戦者

五徹ニキ、いますぐ仕事で過労死て来い

 

231:名無しの競馬観戦者

そんなエリート街道まっしぐらなら少しの苦労は体験するのは当たり前だ

 

232:名無しの競馬観戦者

サービス残業でもしとけ

 

233:名無しの競馬労働者

落差酷くない?

 

234:名無しの競馬観戦者

おーいお前らそろそろ始まんぞー

 

235:名無しの競馬観戦者

マジか

 

236:名無しの競馬観戦者

五徹ニキの処遇はあとで決めよう

 

237:名無しの競馬観戦者

今はレースだ

 

238:名無しの競馬労働者

イッチ、新人君、今度会ったら少しオハナシしようか?

 

239:イッチ

新人君、バックレよう

 

240:名無しの競馬新人

大賛成です

 

241:名無しの競馬観戦者

上2人の運命が尽きようとしているが今はダービーだ

 

242:名無しの競馬観戦者

さてどうなるか…

 

243:名無しの競馬観戦者

全頭入ったぞ

 

244:名無しの競馬観戦者

始まったってウエイ!?

 

245:名無しの競馬観戦者

ノゾミミカドがコケた!?

 

246:名無しの競馬観戦者

思いっきりの出遅れ!?

 

247:名無しの競馬労働者

ジョイvほ;イヴォイアjゔぁおいhvのあいhfのゔぃあhんゔぃおhb帯hゔぁ

 

248:名無しの競馬新人

五徹ニキがショックのあまり壊れた!?

 

249:イッチ

あの人調子乗って今回大金賭けていたから出費が絶対やばいのに…

 

250:名無しの競馬観戦者

五徹ニキが死んだのは今はどうでもいい!

 

251:名無しの競馬観戦者

ノゾミミカドはどうなっている!?

 

252:名無しの競馬観戦者

今はちょうど後ろから二番目くらい

 

253:名無しの競馬観戦者

完全に追込みスタイルだ

 

254:名無しの競馬観戦者

先頭にいるのはジョンカプチーノか

 

255:名無しの競馬観戦者

ミカド以外の殆どは自分の走りをしているな

 

256:名無しの競馬観戦者

これはアンライバルトやセイウンワンダーがいくか?

 

257:名無しの競馬観戦者

いや、ロジユニヴァースもいい位置にいると思う

 

258:名無しの競馬新人

ミカドも頑張ってくれよ…

 

259:名無しの競馬観戦者

新人ニキには悪いけど多分無理

 

260:名無しの競馬観戦者

ダービーは『最も運がいい馬が勝つ』って言われてんだ

 

261:名無しの競馬観戦者

今一番運がないのは

 

262:名無しの競馬観戦者

ミカドだよなぁ

 

263:名無しの競馬労働者

いやまだわからないぞ

 

264:名無しの競馬観戦者

あっ五徹ニキ復活した

 

265:名無しの競馬観戦者

んで、何が言いたいの?

 

266:名無しの競馬労働者

君たちはミカドの血統を忘れていないかい?

 

267:名無しの競馬観戦者

いやわかるよ皇帝帝王申し子とかだろ?

 

268:名無しの競馬労働者

では質問だ。皇帝の走りのスタイルは?

 

269:名無しの競馬観戦者

そりゃ先行・差し

 

270:名無しの競馬観戦者

ちょっと待って。五徹ニキはここから持ち直すと思ってんの?

 

271:名無しの競馬労働者

何が起こるかわからないのが競馬だろ?

 

272:名無しの競馬観戦者

あらなんか凄いかっこいい

 

273:名無しの競馬観戦者

さっきまで壊れてた人には見えない

 

274:名無しの競馬観戦者

そのミカドくんですが現在ガッチガチにブロックされてますよ

 

275:名無しの競馬労働者

終わった…

 

276:名無しの競馬観戦者

>>275

諦めるのはやw

 

277:名無しの競馬新人

というかこれ大丈夫なんですか?反則とか…

 

278:名無しの競馬観戦者

新人ニキ

これは反則ではない。いやかなり悪質ならそうなりかねないけど今回はそれではない

 

279:名無しの競馬観戦者

普通にマークされて、偶然囲まれちゃった感じだな

 

280:名無しの競馬観戦者

先頭とはもう大分離されたな

 

281:名無しの競馬観戦者

ノゾミミカド号の最大の武器は末脚だ。府中は直線が長いから差し追込みは刺さりやすい。そこをつくしかない

 

282:名無しの競馬観戦者

でもどうやって抜け出すんだ?

 

283:名無しの競馬観戦者

そこなんだよなぁ〜

 

284:名無しの競馬労働者

そもそもノゾミミカドが逃げ・先行をしていた理由って馬群が苦手だからなんだよなぁ

 

285:名無しの競馬観戦者

>>284

まずいじゃん

 

286:名無しの競馬観戦者

もう第三コーナーだ!

 

287:名無しの競馬観戦者

ロジユニヴァース来い来い!

 

288:名無しの競馬観戦者

カプチーノ逃げきれよ〜

 

289:名無しの競馬観戦者

馬群の方はまだ固まったままか

 

290:名無しの競馬観戦者

第四コーナーにもう直ぐ入るぞ!

 

291:名無しの競馬観戦者

ああもう直ぐ決まるのか!?

 

292:名無しの競馬観戦者

ジョンカプチーノはもう無理だな

 

293:名無しの競馬観戦者

走りにキレがなくなってきてる

 

294:名無しの競馬観戦者

直ぐ後ろの2頭が多分直線で抜くぞ

 

295:名無しの競馬観戦者

ん?なんか今馬群の馬がよれた気が?

 

296:名無しの競馬観戦者

直線に入るぞ!

 

297:名無しの競馬観戦者

行け!!ロジユニヴァース!

 

298:名無しの競馬観戦者

クラウンも行けぇ!

 

299:名無しの競馬観戦者

この2頭のマッチレースか!?

 

300:名無しの競馬観戦者

ん?いやなんか後ろからきた!!

 

301:名無しの競馬観戦者

何!?

 

302:名無しの競馬観戦者

あの驚異的な末脚は…

 

303:名無しの競馬観戦者

の、ノゾミミカド!!??

 

304:名無しの競馬労働者

マジか!?

 

305:名無しの競馬新人

ウッソでしょ!?

 

306:名無しの競馬観戦者

あの馬群の檻を抜け出したのか!?

 

307:名無しの競馬観戦者

すっごもう先頭に並ぶじゃん!

 

308:名無しの競馬観戦者

相変わらず末脚がやばい

 

309:名無しの競馬観戦者

ここから逆転すんの?

 

310:名無しの競馬観戦者

いやまだわからない

 

311:名無しの競馬観戦者

ここからが正念場だ

 

312:名無しの競馬観戦者

リーザクラウンが垂れてきた

 

313:名無しの競馬観戦者

あとはあの2頭か

 

314:名無しの競馬観戦者

弥生賞の再現だな

 

315:名無しの競馬観戦者

先にいたロジユニにミカドが追いつくって意味ではな

 

316:名無しの競馬労働者

マジで来いマジで来いマジで来てくれきて下さいお願いします!!!!!!!

 

317:名無しの競馬観戦者

1人だけなんか命でもかけてんのか

 

318:名無しの競馬観戦者

ほっとけ

 

319:名無しの競馬観戦者

ここで更に互いの騎手が鞭を飛ばす!

 

320:名無しの競馬観戦者

おいノゾミミカドが少し前に出たぞ!!!

 

321:名無しの競馬労働者

行けぇぇぇ!!!!!

 

322:名無しの競馬新人

差し切れぇ!!

 

323:名無しの競馬観戦者

ゴーーーーーーーーール!!!!!

 

324:名無しの競馬観戦者

差し切った!!!

 

325:名無しの競馬新人

やったぁぁ!!!

 

326:名無しの競馬労働者

よかったぁぁぁあ!!!

 

327:イッチ

五徹ニキは今後調子乗らない方がいいですよ

 

328:名無しの競馬観戦者

今回なんとかなったみたいだけど大体爆死がつきものだよ競馬は

 

329:名無しの競馬観戦者

うん←十万消えた

 

330:名無しの競馬観戦者

だよね←八万消えた

 

331:名無しの競馬観戦者

後悔しかない←生活費消える

 

332:名無しの競馬観戦者

>>331

おい1人洒落になんねぇ奴がいるぞ

 

333:名無しの競馬一文なし

来月までどうやって生きよう…

 

334:名無しの競馬観戦者

一文なしニキは強く生きろ

 

335:名無しの競馬一文なし

>>334

ありがとう。でも私ネキなんだけど

 

336:名無しの競馬観戦者

ごめんなさい

 

337:名無しの競馬新人

1000円だけでよかった〜

 

338:イッチ

新人君、上のギャンブラー共のようになってはいけないよ

 

339:名無しの競馬観戦者

言葉の重みが凄いw

 

340:名無しの競馬観戦者

因みにイッチは勝ったの?

 

341:イッチ

うん、今日のレースは取り敢えず全勝ちした

 

342:名無しの競馬労働者

えっ…?

 

343:名無しの競馬新人

あっこの人普通に強いですよ。この間のG1ラッシュ期間で7桁は稼いでます

 

344:名無しの競馬一文なし

イッチ、彼女いる?

 

345:名無しの競馬観戦者

おい一文なしネキ

 

346:イッチ

いやいませんけど、流石に貴女は…

 

347:名無しの競馬一文なし

ここに北山牧場年間フリーパス(今年中)があるんだけど格安で売るわよ

 

348:イッチ

メール教えて下さい

 

349:名無しの競馬新人

おい

 

350:名無しの競馬労働者

おい

 

351:名無しの競馬観戦者

おい

 

352:名無しの競馬観戦者

それで良いのかイッチ

 

353:名無しの競馬観戦者

ものに釣られるって…

 

 




作者自身かなり優柔不断で前話の評価で思った以上に反対意見が多く変えた方がいいのではないかと思いました。
しかし、その中でも私のこの展開に納得してくださる意見もありました。
もう世に出してしまった話である以上、闇に葬るのは読者の皆様やこの作品自体に失礼だと思い、今回は変更は致しません。
勝手なことを言っていますが自分のしたことに責任を取り、皆様に楽しんで頂ける作品を今後も作っていこうと思っています。
今後ともよろしくお願いします。


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帝の状態/三冠の障害

ミカドの状態とこれからについて少しだけ語られます。今回短めです
連続投稿です。


俺ノゾミミカドは現在、テキ、真司さん、駒沢さんたちと一緒にかなりヤバイことを獣医に診断された。

 

「剥離…骨折…」

「はい。と言ってもそこまで重く捉えないで下さい。幸いにも早期に発見でき、小さなひびが入った程度でまだ完全に折れた訳ではありません。手術をすればまた問題なく走れますよ」

 

獣医の先生の言葉に一同が安堵する。幸にも俺の骨折は普通よりも全然軽いものらしい。

 

「君だね?彼の骨折を見抜いたのは」

 

今回俺の骨折をいち早く気づいたのは真司さんだった。ダービーが終わり、厩舎に戻ってきたときに真司さんがテキに俺の歩きに違和感を感じたことを報告。

そのまま、先生にきてもらい、検査などをした結果骨折していることがわかった。

 

「あ、はい。そのいつもより右に力が入ってない感じがしたので…」

「凄い観察眼だ。これは獣医でも見ただけでは分からないほどの違和感だ。私も触ってようやく確信を持てるぐらいだよ」

 

真司さんはいつも俺のことを気にかけてくれているからな。確かになんか右に力が入りにくい感じはあったけど見ただけで違和感を感じるなんて凄い。

 

「それで、先生…完治するのはどれぐらいになります?」

「そうですね…先ほども言いましたが、手術をするため、最低でも三ヶ月は必要です」

 

『三ヶ月!?菊花賞に間に合わねぇじゃねぇか!?』

 

「しかし、ノゾミミカド号はレントゲンなどで見ても本当に小さなものでしたので二ヶ月ぐらいで完治しますね」

「その場合、菊花賞は…?」

「……獣医として言えば、回避させた方がいいでしょう。3000もの距離を走るレースにいきなり出せば、最悪の結末も考えられます」

 

『そんな……』

 

菊花賞はルドルフ爺ちゃんが三冠を取り、父さんとブルボン爺ちゃんの悲願だ。俺の中では、今までのレースの中で一番重要なレースなのだ。

 

「二ヶ月以上調教をしていなければ当然体力が落ちます。何より治ったとしても無理に走らせれば、今度はレース中に骨折を起こし、人馬共に危険が及ぶ可能性があります」

 

つまり、俺の三冠は絶望的…ということか……

 

「しかし、ここからは私個人の話です」

 

『うん?』

 

「私もトウカイテイオーの大ファンでしてね。ラストランの有馬も当時現地で見ましたよ。その子供がこうして無敗三冠に王手をかけている。それが親と同様に骨折でとることが出来なくなるというのはあまりにも理不尽だ」

「先生…」

『獣医さん…』

「元々、私が獣医を目指したのもある名馬のレース中の事故を目の当たりにしたことです」

「ある名馬?」

「『キーストン』ですよ。彼のラストランを私は見ていたんですよ」

 

キーストン

 

その昔、人と馬という種族の垣根を越えて確かな絆を結んだ名馬。

彼はラストランとなった『阪神大賞典』で左前脚を脱臼し、予後不良と診断され安楽死の措置が取られた。彼は自身も怪我をしているのに振り落とされた騎手を心配し、近づいて気遣う仕草をした。後にその話は様々な形で今も尚、その名を残し続けている。

 

「あの様な馬たちを救いたいと思い私はこの世界に来たんです。そして同時に怪我などで勝利を掴むチャンスを奪われてしまう馬を助けたいとも思いました」

 

獣医さんは俺の頭を優しく撫でる。まるで壊れやすいガラス細工を壊さない様に優しく。

 

「キーストン、テンポイント、サイレンススズカ…怪我により走り切ることなくこの世を去った名馬…トウカイテイオー、ナリタブライアン…怪我によって運命を狂わされた名馬…ノゾミミカド、私は君を彼らの様に故障で君から『栄光を掴むチャンス』を奪いたくない」

 

『先生…』

 

「駒沢さん」

「は、はい」

「彼は私が責任を持って、完治させます。必ず菊花賞に間に合わせます。勿論レース中に故障なんて起こさせない」

「先生……ミカドを、よろしくお願いします…!」

「任せて下さい」

 

深々と頭を下げる駒沢さんに先生は自身に満ちた声で返した。




獣医
年齢60
ミカドの骨折の診断、治療を担当する獣医。競走馬を専門に今まで活動してきた。『馬たちに後悔のない馬生を送って欲しい』と思っている。腕は一級品であり、余程の故障でなければ殆ど故障する前の状態まで完治させる。前年まで長い間海外にいた。
好きな馬はキーストン・トウカイテイオー


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帝の療養/故郷の地にて

今回はミカドの故郷に療養で帰ります。
因みにミカドの丈夫さと回復力の高さから獣医からは全治2ヶ月弱と診断されました。


俺ノゾミミカドは骨折をして獣医の先生に手術をしてもらった。全身麻酔で寝ている間に終わっちまったぜ。結果は大成功。簡単な手術だから直ぐに終わったらしい。

麻酔切れたらクソ痛かったけど…

 

そんで今現在俺は療養という名目で故郷の北山牧場に向かっている。

獣医の先生曰く…

 

「彼は落ち着いた環境にいれば無茶はしないだろうから暫くはゆっくり故郷で休みを取らせたらいい」

 

らしい。

 

『まあ、トレセンにずっと居るよりはゆっくりできるだろうし。久しぶりにのんびりしますか』

 

そんなこんなで車に揺らされ数時間後…

 

 

北山牧場

 

 

「ミカド…お前、無茶しやがって…!」

「北山さん、落ち着いて下さい。幸い軽いものだったらしいんですから」

 

ついて早々、北山さんに怒られました。まあ、俺が無茶したことが1番の原因だから甘んじてお叱りを受ける。

 

「馬鹿野郎!小さかろうが大きかろうが骨折は馬にとっては命取りなんだよ!!動けなくなればその場で命を失うことになる!特にサラブレッドは身体構造がポニーや野生馬なんかよりも脆いんだ!動けなくなって安楽死になった馬を何頭も見ている。お前もそうなってほしくはねぇんだ…」

 

『北山さん……本当にごめんなさい…』

 

俺は頭を下げた。今回のことは本当に色んな人に迷惑をかけた。雄一さんも、俺に何度も何度も謝っていた。せっかくの初ダービーをこんな風にしてしまった。

 

「頭を下げる…か…お前は昔から頭が良い。それが人間が謝る時の仕草ってことを知っていてやっているんだろう。ならミカド、もうまた無茶をするな。何事もなくまたここに帰ってきてくれ。俺がいうのはそれだけだ…」

 

『はい…』

 

 


 

 

「そういえばミカド、お前にビックニュースがあるんだ」

 

『ニュース?』

 

あの後、北山さんは卓也さんに俺のことを任せて早々に事務所の方に引っ込んでいった。俺は卓也さんにに連れられ、自分の馬房に向かっている。

 

「なんと、シエルが子供を産んだんだよ!つまりお前の弟だ!」

 

『マジで!?俺の弟!?』

 

つまり俺は知らない内にお兄ちゃんになっていたのか?うわ〜なんか会うのが凄い楽しみになってきた!

どんなやつなんだ?正直、オーラ先輩とブエナみたいな兄妹関係って憧れがあったんだよな〜。

 

「今は放牧中で居ないが、多分明日あたりはもしかしたら見れるかもしれないぞ」

 

『へー。そいつは楽しみだな!』

 

 

『で、無茶をして骨折。そして療養を兼ねてここに帰ってきたと…ミカド君、何をしているんだ君は?』

『いやほんと返す言葉がございません』

『この大一番の時に故障って…暫く期間が空くから良かったけど…お前運が良いんだか悪いんだか…』

 

ライン先輩たちにも合流して、ことの顛末を話して若干呆れられながらも先輩方は俺を労ってくれた。

 

『そういえば、先輩方はもう俺の弟には会っているんですよね?どんなやつでした?』

『君の弟?……ああ。シエルさんのところに生まれた新しい仔のことか。そうだね…一言で言うなら『変わっている』かな』

『変わっている?』

『ああ、それ俺も思ったわ。何ていうかな…何となく馬っぽくない(・・・・・・)んだよなぁ』

 

馬っぽくない?それって一体?

 

『なんというか君に似ているんだがどこか違う。凄い賢い仔ではあるんだけどね』

『まあ、明日ぐらいには会えるとだろうからそん時に見ればいい。多分直ぐに分かる』

『はあ……』

 

先輩たちの話はそれで終わった。馬っぽくない。俺に似ている。まさかな……

 

 


 

 

翌日…

 

「ミカド〜放牧行くぞ〜」

 

『う〜っす』

 

卓矢さんに連れられて、俺は放牧地に移動する。因みに俺は治療中という感じなので他の引退馬たちとはまた違うところに放たれている。ここの牧場は面積だけは広く。全ての放牧地、私有地を含めると大体東京ドーム最低でも10個分くらいあると思う。俺も細かい面積は知らないし、これは俺の推測です。*1

 

因みに俺の居る放牧地に放たれているのは俺を含めて3頭しか居ない。全頭治療中という馬たちだ。

 

『さてと…ここからでも母さんたちが放たれている放牧地は見えるし、何処にいるかな?』

 

早速俺は当歳馬と母馬たちが放たれている放牧地を観察する。

 

『母さんを見つけられれば後は自ずと…と。お?あれか?』

 

母さんを直ぐに見つけて、その近くにいる栗毛の様な鹿毛の様な仔馬を見つけた。しかし、その馬からは…

 

『違う!走る時の姿勢はこう!それでは悪戯に脚を痛める!ほらもう一回!!』

『イ、イエス・マム…!』

『声が小さい!!』

『イエス・マムっ!!!』

 

………なんか母さんに滅茶苦茶しごかれていた…

いやそうじゃないそうじゃない。

 

『なんであいつから…『人間の気配(・・・・・)』を感じるんだ……?』

 

もしかして…いやまさか…

 

『あいつも…『転生者』なのか……!?』

*1
北山牧場の面積は約57.4ha。これは東京ドーム12個分に相当する




さて今回最後に出てきたミカド弟は一体何者なのか…
次回に続きます。


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???の驚き/もう一つの序章

前回出てきた馬の始まりから前回の話の少し前までの回です。


どこまでも暗い世界。そんな場所に俺はいた。

 

(ここはどこだ?俺はどうなってんんだ?)

 

思考がまとまらない。何も見えないし、聞こえない。

 

ただ何かに包まれている感覚はある。

 

(俺はなんでこんなところに…?)

 

すると暗闇の世界から一筋の光が見えた。静寂だった場所に誰かの声が聞こえる。

 

(俺を呼ぶ声?)

 

何も分からないけど一つだけわかったことがある。あそこに行かなくちゃいけない。

 

光が差す方、声が聞こえる方へと進み、俺は

 

 

この世界に生まれ変わった。

 

 


 

 

「よーし!生まれたぞ!」

「み、ミカド以来の難産だった…」

「予定より大幅に遅れた出産だったけど、なんとかなりましたね」

 

『……えっ誰?』

 

ここどこだ?俺はあの変な空間から抜け出そうとしてそれで…

 

『坊や、何をボーっとしているの?』

『えっあっごめん状況が飲み込めなくて……』

 

横から聞こえた声の方向に振り返る。そこにいたのは…

 

 

『……馬?』

『ええ、馬です。……もしかしてあなたあの子と同じ……』

 

自分の体を慌てて確認する。手はなくあるのは蹄がついた前足。体は黒い色をした馬体。見える景色も人のものとは違いほぼ全方向を見渡せる。

 

『これってあれだよな……』

 

もうこの時の俺は笑うしかなかった。

 

人であったはずの俺は

 

 

『転生して馬になるってマジかよぉぉぉ!!!??』

 

「うおっと!?またか!?」

「ミカドとここまで一緒でデジャブがすごい!?」

「また落ち着くまで待つしかないね〜」

 

『やれやれまたですか…』

 

今世の母のため息と呟きは俺の絶叫によって消えていった。

 

 


 

 

落ち着いた俺に母が色々と俺の状況の説明を始める。

 

『先ずは、あそこの壁に掛かっている紙に何が書いてあるか分かりますか?』

『えっ?え〜と2009年3月20日?』

『やはり…』

『あの母上、これになんの意味が…『普通の馬は人間が書いた文字を読むことは出来ません』……え』

 

この時、俺はやってしまったと思った。出来ないことが出来る。これは素晴らしいことではあるがあまりにも逸脱したものになると気味悪がられる対象になってしまう。

 

『えとその…』

『それが読めたということは、貴方は…』

 

母の雰囲気が怖い。俺が感じたものはこの時それだけだった。

 

『あの子と同じような存在なのね』

 

そういうと母の雰囲気が柔らかいものになった。

 

『えっ』

『怖がらせてごめんなさい。少し貴方のことが心配だったから』

 

『いいですか。貴方は私が知る限り恐らく貴方の兄と同じことが起きています』

『俺の兄貴と?』

 

俺の兄も人の文字が読めたり、知らないようなことを知っていたり、普通では考えられないような行動をとることが多かったらしい。

母はそんな兄を見ていたので既に耐性がついていたらしい。

 

『慣れるまで大変でしょうが、心配いらないわ。私がついていますし、少しずつ頑張っていきましょう』

『う、うん…』

 

こうして、俺の馬生が始まった。

 

 


 

 

『いいこと?貴方も将来的には競走馬になるのですよ。あの世界は完全実力社会です。力を示すことができなければ最悪な未来が待っていると思いなさい』

『は、はい』

『返事はもっと大きな声で!!』

『はい!!』

 

次の日からは俺は母さんから手解き、というか脚解きを受け、競走馬としての走りを叩き込まれた。

 

『ふむ…どうやら貴方はストライド走法が合っている見たいね』

『ストライド走法?』

『歩幅の長さを重視する走法のことよ。貴方は当歳にしては筋肉の付きが他の仔よりもいいみたいだからこっちの方がいいでしょう』

 

母曰く、この走り方はエネルギーの消耗が抑えやすいが、脚に掛かる衝撃により負担が大きいものらしい。筋肉がまだあまり付いていないやつがこの双方を多用したら故障する恐れがあるらしい。

 

『よって、貴方は筋肉が着き始めたら本格的にストライド走法の走りを教えましょう。それまでは姿勢やレースの知識を付けていくわよ』

『はい!』

 

また別の日…

 

『へぇ、こいつが姐さんの新しい子どもか?デケェな』

『確かにそうですね。他の当歳馬に比べて少し大きい体格をしていますね』

『えっと、どちら様…?』

 

隣の放牧地に放たれていた2頭の馬が俺に近寄ってきた。

 

『おっ、俺を見て話しかけられても動じないとはお前見どころあるな』

『フェニックスは基本年下には怖がられますからね。若い馬で君に臆さなかったのはここではミカド君ぐらいだったからな』

『えっと、ありがとうございます?』

 

ちょっと厳つい感じがするけど悪い馬ではないんだろうなとこの時思った。

この馬たちは『ノゾミフェニックス』さんと『ノゾミライン』さん。この牧場の種牡馬でどちらも牧場に大きな貢献をした馬らしい。

 

『レースは一頭で走るのとは全然違ぇ。周りのプレッシャー、乗っている人間との折り合い、馬場の状態。全てが出るたびに変わるんだ』

『同じ様な条件のレースは何度もありますが、どれ一つ全く同じレースはありません。一戦一戦全てに僕らの存在を叩きつけるんですから、それは違いは出ますがね』

 

二頭はよく俺に自分のレースの話をしてくれた。勝った時の話、負けた時の話、同じレースに一緒に出た時の話。全てが俺にとって興味深いものだった。

 

『そういえば、もう直ぐ皐月賞だと厩務員の人が言っていましたね』

『皐月って言えば、今回ミカドが出るんだろう?大丈夫かねぇあいつ』

『ミカド?』

 

ラインさんたちの話の中に今まで何度か出てきた『ミカド』という名前。話の中心に出てくることは今まではなかったから気にしたことはなかったけど、今回は何故かそれが凄い気になった。

 

『ん?ああ、そう言えばお前には話したことがなかったな』

『彼はノゾミミカド。君の兄にあたる現役の競走馬です』

 

(母さんが言っていた。俺と同じ様な存在の馬のことか…?)

 

『どんな馬なんですか?』

『まあ、『強い』。この一言で方が付く』

『間違いなく強者になりうる才能を秘めている馬です。僕らも引退していなければ、彼と共にレースで競い合いたかったですよ』

 

この二頭がここまでいうのは間違いなく凄い馬なのだろう。

 

(どんな馬なんだろう。一回見て見たい)

 

俺がそう思っていたことは、意外な形で実現する。

 

また別の日、お昼過ぎのころのことだ。

放牧地で俺が母さんから離れてボーッとしていたら、厩務員の人たちが慌てた様子で早歩きしていた。

 

「おい、急げ!もう始まるぞ!」

「いやそうは言ってもここだと馬が驚くから簡単には走れないだろう!」

「いやそれを加味してもお前遅いんだよ!今何キロだ!?」

「うるせぇ!まだ100キロしかねぇよ!!」

「100キロは充分デブだわアホ!ここで働いていてなんでそんなに太るんだ!?取り敢えず急げ!ミカドのレースが始まるぞ!」

 

『!!』

 

兄さんのレースが始まる。俺はそれを聞いた途端いてもたってもいられず、放牧地の柵を飛び越え、厩務員さんたちの後を追った。

 

厩務員さんたちはみんな事務所に置いてあるテレビで競馬を見ていた。

 

 

『2番は本レースの一番人気、ノゾミミカド。朝日FSを勝利した2歳王者であり、ここまで無敗。父トウカイテイオー、祖父に当たるシンボリルドルフとミホノブルボンたちに続く勢いでこの皐月を制すか期待です。鞍上は変わらず福長雄一騎手です』

 

 

テレビから聞こえるアナウンサーがノゾミミカドのことを言っている。画面には黒に近い体色をした一頭の馬が映し出された。

 

『あれが…ノゾミミカド…』

 

俺は画面越しからあの馬に何か自分と同じものを感じた。

 

そしてレースが始まり、ノゾミミカドはいきなり先頭に立ち、レースを引っ張る形で動いている。

 

「ミカド…勝てよ」

 

厩務員さんたちも固唾を飲んでレースに集中する。そしていよいよラストスパート。

 

 

『アンライバルトとセイウンワンダーがノゾミミカドに並んだ!!三頭が並んで坂を登る!!最内のノゾミミカドが僅かにまだ有利だが押し切れるか!?それともアンライバルトかセイウンワンダーが差し切るか!?勝負の行方はまだ分からない!!』

 

 

「ミカドっ!!行け!粘れ!!」

「まだだ、まだ行ける!!」

「神様仏様皇帝様帝王様!!どうかミカドに勝利を!!」

 

一進一退の激しい攻防。画面越しからも伝わる彼らの熱気。

 

『凄い……』

 

あれがレース…俺がいつか、走る舞台…

本能が言っている。走りたい、と。

 

 

『ノゾミミカド、セイウンワンダー、アンライバルト!この三巴を制するのは誰だ!?今三頭並んでゴールイン!!!!三頭が並んでゴールしました。誰が勝ってもおかしくない戦い、写真判定に移ります』

 

 

ゴールしたタイミングは殆ど同時。誰もがどれが1着かわからない。

暫くしてからようやく進展した。

 

 

『確定いたしました。勝ったのは、2番ノゾミミカド!!三頭による大接戦を制し、皐月の冠を勝ち取ったのはノゾミミカドです!!勝ち時計は1:57.9とレコードタイムを叩き出しました!かつてこの場所で伝説を生み出した『皇帝』と『帝王』に続き親子三世代で『帝』が無敗で皐月賞を制しました!!』

 

 

「「いっよしゃあぁぁあああぁ!!!!」」

 

『うおっ!?』

 

程なくして響き渡る歓喜の声。俺はそれに驚いてしまい後ろに下がる。

 

「……ん?えっなんで窓の外に馬がいるんだ!?」

 

『あっやっべ』

 

その時出してしまった物音で見事にバレてしまった。

 

「ああ!?放馬ぁぁ!!?」

「あれシエルの子だよな!?どっから出てきたんだ!?」

「お前ら!そんなこと言っていないでとっとと捕まえろ!!」

 

この後、無事に捕まった俺は母上からすんごい怒られました。ぴえん。

 

 


 

そしてそれから一ヶ月半ぐらいがたった頃、聴き慣れた音が聞こえた。

 

『これって馬運車のエンジン音?誰か来たのか・』

 

馬運車はここにそれなりに来ることが多い。種牡馬や肌馬を種付のために移動させることがあるから時々こうやって来るのだ。

俺のいる場所はギリギリ馬運車の出入り口が見える位置だった。

 

『誰が来たんだろう?』

 

じっとそこを見つめる。そして次の瞬間、一頭の牡馬が降りてきた。

 

『!?』

 

その姿は見覚えがあった。黒っぽい馬体、脚にある白い毛、真っ黒な立髪と尻尾。

 

『兄さん?』

 

前にテレビで見た俺の兄、ノゾミミカドだった。

 

そしてこの次の日。俺たち兄弟は初めて対談することになる。




名前:ルイシエルの2009(牧場では主にボー:ボーッとすることが多いから)
年齢:0歳
生年月日:2009年3月19日
性別:雄
毛色:栗毛
血統:父・キングヘイロー 母・ルイシエル 母父・ミホノブルボン

転生者その2の馬。性格は内気だけど別に怖がりじゃない。強面のフェニックスにも初対面で臆さず話すことができる。父が気性難だったのに生まれた仔はすんごい大人しい仔だったため、生産者一同は驚いた。でも奇行することがあるからそこは気性難?かなと思われている。体は平均よりも大きい体格で、将来的には某金色一族のシロイアレと同じくらいになるかもしれない。


弟君の父はキングヘイローです。なんでかって?作者が調べていて好きになった馬だからです。あのCMが大好きなんですよ。因みに他に好きなのはオグリとテイオーのCMです。あの『神はいる。そう思った』とか『天才はいる。悔しいが』ってカッコよくないですか?
みなさんが好きなJRAのCMがあればコメントとかで教えてください。


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帝の弟/不屈の後継者

今回はいよいよ転生者同士が対面します。

ウマ娘編で弟くんはまだ出しません。何故かって?名前まだ決まってないから…


『あの感じ、間違いない。まさか実の弟までもがな…』

 

俺ノゾミミカドは療養として帰ってきた故郷で弟が転生者であるということを直感的に理解した。

 

『取り敢えず母さんの方に行くか…』

 

先ずは行動だ。母さんを介してアイツに接触しよう。

 

『母さん!』

『うん?ミカド?あなた帰ってきていたの?』

 

母さんは俺の姿を見て驚いていた。俺の使っている馬房と母さんが使っている馬房は少し離れた位置にあって、建物の構造上、母さんの場所から俺の場所は死角になって見えないからな。

 

『昨日だよ。無理して治療して現在療養中です』

『なっ!?故障したの!?大丈夫なの!?どこか痛む!?無理はしていない!?』

『大丈夫だって。治療は終わったし、獣医の先生からは安静にしていれば問題ないって言っていたし』

『例えそうだとしても息子を心配しない母親がどこにいるというの!?…でも無事でよかったわ…』

 

安堵のため息を吐く母さん。本当に俺のことを心の底から心配してくれている。俺は間違いなく幸せものだな…

 

『か、母さん…お、終わった……よ……』

 

そうしていたら弟が息切れしながらこちらにやってきた。母さん…生まれて数ヶ月の息子に少しスパルタ過ぎでは…?

 

『あ、あれ?あなたは…』

『よう、俺はノゾミミカド。お前の半兄に当たる馬だ。よろしくな』

『えっぇえと…俺はその…まだ名前はなくて…厩務員さんたちからはボーって呼ばれます』

 

ちょっと緊張しているかな?まあ、いきなり兄を名乗ってくる馬がいたらそりゃ戸惑うよな。

 

『じゃあ、ボーって呼ばせてもらうな。母さん、少しボーと話したいことがあるんだけど席を外してもらってもいいか?』

『……分かったわ。ボー、終わったら私の方にまた来なさい。いいわね?』

『う、うん。分かった』

 

母さんは何かを察したのか、直ぐに俺らから離れて行った。

 

『えと、兄さんって呼んだ方がいいですか?』

『ん?呼び方は別に何でもいいぜ。あと敬語も無しだ。先輩ならともかく、血の繋がった兄弟なら敬語はいらないだろ?』

『う、うん。分かったよ。兄さん』

 

そして俺は早速本題に入る。

 

『ボー。単刀直入に言う。お前は、『転生者』だよな?』

『!!?』

『何で分かったのか、って顔してんな。答えは簡単。俺も転生者だからだよ』

『えっ!?』

『お前を見た時に一瞬で分かったよ。先輩たちが変わった奴って言った意味もわかった。馬から人間のような気配がすればそりゃあ違和感ぐらいは覚えるわな』

 

人間に大なり小なり関わっていた馬ならその違和感に気づくだろうが、あくまで普通の馬ならそこまでしか気付けない。その気配を完全に感知できるのは、俺のような人以外に転生した転生者とある程度そこら辺に理解があるものだろう。

後者に該当するのは母さんだ。母さんは俺の事情をある程度理解しているから今回もそのケースだと言うのをわかっているはずだ。

 

『兄さんも、転生者…』

『おう。兄弟揃って転生馬ってことだ』

 

俺が笑うとボーも釣られて笑う。一先ず、ファースト・コンタクトは大成功ってとこかな?

 

 


 

 

『先ずは、お前の現状確認だな。お前は自分が置かれている状況をどれくらい理解している?』

『えっと…馬に転生して、将来的には競走馬になるってことかな?』

『血統は?』

『血統?なにそれ?』

 

……えっちょっとまって。

 

『ボー、お前前世で競馬やったことある?』

『えっ、無いよ。テレビでやっていたら暇つぶしに見ていたぐらいで馬の名前とかも全然。レースもダービーと有馬ぐらいしか知らない』

 

OH……

 

マジかぁ〜…競馬知識ほぼゼロ。コイツの世代を考えると、ちょっと…いやかなりヤバイぞ。

 

『ボー。よく聞け。お前は現在非常にやばい状態にある』

『えっなになに怖い怖い』

『お前がデビューするのは2011年の後半からその翌年の3月ぐらいの期間だ。そしてその世代はな、魔境何だよ』

『魔境?』

 

そう、芝・ダート、短マイル中長の全ての距離、国内海外において、あらゆる人々の記憶に衝撃を刻んだ世代。

 

『12世代。通称ゴルシ世代だ』

『何それ?』

『お前の世代は、重賞って言うランクが高いレースに勝つことすら難しくなる世代なんだよ』

 

【鬼の貴婦人・ジェンティルドンナ】

【世界一の称号・ジャスタウェイ】

【盾の怪物・フェノーメノ】

【挑み続けた女王・ヴィルシーナ】

【抜山蓋世・ホッコータルマエ】

【遅咲きシンデレラ・ストレイトガール】

 

『クラシック、古馬全てにおいてこの世代はレベルが高い。俺も長く走ればこの世代のやつと走るだろうな』

『いや、なんか二つ名からしてヤバそうなのいるんですけど、何俺こんな奴らと戦うの?』

『アホ、まだ一番肝心な奴を紹介していねぇよ』

『えっこれよりヤバいのまだいるの?』

 

曰く、人の言葉を理解していた。

曰く、本気で挑んだレースもあるが全力を出さなかった。

曰く、良くも悪くも人々は彼に夢中になった。

 

競馬界において、奴は破天荒で、気分屋で、全てを魅了させるエンターテイナー。

競馬において当たり前なこと、『絶対の無いギャンブル』を再認識させたハジケリスト。

 

『【黄金の不沈艦・ゴールドシップ】。お前の世代の代表する名馬となる存在だ』

『ゴールドシップ…』

『更に一つ上には【激情の三冠馬】と言われた奴がいるし。下にも安定した成績を残した馬が多い。間違いなく荒れるぞお前が走っている期間』

『お腹痛くなってきた…』

 

まあ、その後『平成最後の怪物』というやつが出てくるけどこれは黙っておこう。一緒に走るか微妙だし…

 

『とにかく、お前はそんな奴らと走るんだ。母さんのしごきはありがたく受けていろ。お前の体の無理ない範囲で鍛えてくれているんだからな』

『あれ無理ない範囲だったんだ…』

 

って、話が脱線した。血統だよ血統。

 

『で、お前の血統の話だけど…』

『あ、確かにそんな話だったね』

『俺たち競走馬は父・母・父父・母父とかから距離、脚質、芝かダートかを割り出すんだ。俺なら父トウカイテイオー、母ルイシエル、父父シンボリルドルフ、母父ミホノブルボンって感じで、マイル〜中距離、逃げ〜差し、芝、みたいに予想するんだ』

『後半全く耳に入ってこない』

『とにかく、聞いていないか?誰の産駒かって』

 

う〜んと唸りながら頭を捻るボー。10秒ぐらいしてハッとした顔をして話し出す。

 

『そういえば厩務員さんが俺のことをキングヘイロー産駒って言ってた気がする』

『へぇ〜キングヘイロー……キングヘイロー!!?』

 

キングヘイロー

黄金世代と呼ばれた98年世代を代表する一頭。俺の相棒である雄一さんが主戦騎手をしていた競走馬だ。

 

『キングヘイローか…コイツは色々と…』

『えっなになにヤバいの?俺の父親そんなにヤバいの?』

『超優良血統で産駒も優秀な馬も何頭かいるからいい意味でヤバイ』

 

にしても…終わったと言われた帝王の仔の半弟が、不屈の塊と言われた王の仔とはな…

 

『お前の親父さんはプライドが高くて、我儘で馬群に突っ込むのが嫌で、いいところまでは行くけど勝ちきれないレースがある馬だったよ』

『滅茶苦茶クセ馬じゃん』

『でも負けても諦めない馬だった』

『?』

『負けても負けても諦めず、距離を変え、様々な試行錯誤をしながら、遂に目標だったG1勝利を掴み取ったんだ。そのことから、『不屈の塊』と呼ばれるようになったんだ』

 

キングヘイローの血統は優秀だ。癖は多かったがかなり高い才能を持っていて間違いなく一流の実力を持っていた。けど同時に、彼が走った時代も才能が高い競走馬が多かった。

 

そして、俺の弟はそんな馬の産駒。

 

『もう一つの黄金世代と呼ばれたあの世代に、黄金世代を駆け抜けた不屈の王の後継者が走る。いいドラマになるんじゃねぇか?』

 

まあ、先ずは色々と教えないとな…

 

『俺の前世の知識をお前に色々と教えてやるよ。絶対この先お前のためになる』

『あ、ありがとう兄さん!』

『おう。じゃあ母さんのところに行って来い。母さんからも色々学んで、強くなれ』

 

そう言って俺はボーから離れた。今の俺は走ることは出来ないからそこは母さんや先輩方に任せよう。俺がアイツに今できるのは、前世から持ってきた未来の情報を教えてやること。

 

『かわいい弟のためだ。少しぐらいはお兄ちゃんムーヴしても大きなバチは当たらねぇだろ?』




弟くん改めボーからみた登場キャラたちの印象。

母ルイシエル
厳しいけど同時に自分のことを良く見てくれて大切にしてもらっている。

兄ノゾミミカド
同じ転生者。母に次いで信頼している頼れる兄。

ノゾミフェニックス・ノゾミライン
近所のおじさんのような感覚。色々知らないことを教えてくれて尊敬の対象…
ただし、シエルにボコられているのを毎度見ているため残念枠。

厩務員ズ
世話をしてくれている人たち。それだけ。
「「なんで!!?」」

他から見たボーの印象

母ルイシエル
ミカドと同じ転生者だと言うのを理解している。変わったところがあるけどそれでも自分が産んだかわいい子ども。厳しくも確かな愛情を注いでいる。

兄ノゾミミカド
同じ転生者で仲間が出来たと喜ぶと同時に、同世代で走る化物たちに次いていけるか心配になっている。マザコンに続きブラコンの称号も獲得。

ノゾミフェニックス・ノゾミライン
少し変わっている奴だけど見どころありだと思っている。取り敢えず横にいる奴みたいにならないで欲しいと互いに思っている。

厩務員ズ
作者が考えるの面倒になったから、一般的な厩務員たちとほぼ変わらない。
「「真面目に考えろ!!!」」


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ノゾミの古株/長距離の申し子

今回は短め。
弟君はまた次回以降掘り下げます。
取り敢えず療養編は予定ではあと2回分です。

追記
タイトルがおかしかったため変更しました


『フェニックス先輩、ライン先輩。俺にスタミナを保って長距離を走るコツを教えて下さい!!』

『いきなりすぎるわ』

『言っていることは分かりますが突然すぎですよ』

 

俺ノゾミミカドは現在、ノゾミの先輩方から長距離のコツを聴こうとお願いしている。

 

『この牧場で長距離走っているのは先輩たちぐらいしか俺知らないんで、お願いします!!』

『いやそもそも馬選ミスだろ』

『フェニックスは現役時代は無尽蔵とも言えるスタミナでゴリ押ししていただけですし、僕は有馬よりも長い距離は適正外で走っていません。菊花も視野に入っていたみたいですけどその時酷いコズミで断念しましたし』

『そ、そんな…』

 

悲報:先輩たちから何も得られず…

 

『あ〜でもライン。あのじいさんいるよな。この間帰って来た』

『…ああ、確かにあの方であれば、今のミカドくんにぴったりですね』

『えっ?なんの話してんですか?』

 

先輩たちの会話の内容を上手く理解出来ない。て言うかなんでライン先輩は青い顔してんだ?

 

『ミカドは会ったことはなかったな』

『仕方ないでしょう。あの方は普段はここには居ませんし、彼が競走馬になる時までは接点はありませんでしたから…できれば僕もあんな接点があったならできれば会いたくなかったです…』

『ライン先輩、マジで何があったんですか?会話の内容的に誰かに会うんでしょうけど、誰に会うんでしょうか?』

 

息ぴったりで2頭は言う。

 

『『ノゾミの馬で『長距離G1』を制した馬です(だ)』』

 

 


 

 

さてここで一度俺たち『ノゾミ』の馬たちのことを説明しよう。

 

『ノゾミ』は駒沢望さん、厳密には駒沢さんの会社が馬主の馬たちに与えられる冠名であり、俺を含め現在20頭以上の馬がいる。元々は望さんの父親がノゾミの名を使っていたけど、父親が望さんが30代の時に急死、会社を継いだ望さんはお父さんの馬たちを引き取った。そして会社が落ち着いてから自身も馬主になった。それから望さんは10年ぐらい馬主をしており、年に1〜2頭ぐらいの馬を買う。大体はここ北山牧場の馬(俺やフェニックス先輩やライン先輩)。3分の1ぐらいは他の牧場から買った馬(ナチュラル先輩はこれにあたる)。

 

そしてノゾミの馬の評価は『弱くはないが強いと言う訳でもない』と言うのが多い。実際に先輩の多くはG2・G3勝利が数頭、後は条件戦やOP戦止まりが殆どだ。

 

その代わりにキャラが濃いのが多く、大体有馬や宝塚の投票には上位に入るぐらいファンが多い。

 

だけど、そんなノゾミの馬にもG1を勝った馬が確かに数頭存在する。一頭はもちろん俺。

 

そして先輩が言っていたG1勝利馬。

 

長距離、そしてノゾミ初のG1勝利馬。

 

 

『先輩方…その馬って…』

『明日、会いに行ってみて下さい。特徴は黒鹿毛で右側に寄った白い流星です』

 

 

そして次の日

 

『黒鹿毛で白い流星…この馬だよな…』

 

俺の目の前にいるのは…

 

『Z〜Z〜……』

 

花提灯膨らましながら寝ているヨボヨボなじいさん馬だ。

 

(この馬じゃないよな?数少ないノゾミのG1馬がこんな馬なんて。でも先輩は同じ放牧地にいるからって言っていたから特徴に合う馬はこのおじいさんしかいないし…)

 

取り敢えず、起こすか…

 

『お〜い。おじいさぁ〜ん。起きてくれ〜』

『Z〜Z〜Z〜』

『あの〜起きて欲しいんですけど〜』

『Z〜Z〜Z〜』

『すんません、聞きたいことが…』

『Z〜Z〜Z〜』

『……ダメだこりゃ』

 

完全に夢の世界に旅立っているよ。無理に起こすのもアレだし、今回は諦めるか…

俺がそうして踵を返そうとした。

 

『小僧』

『ん?』

 

声を掛けられ、振り返る。そこには…

 

『俺に、何かようか?』

 

先ほどまでとは考えられないほどの覇気を纏った件の馬。

 

『……っ!?』

 

思わず後ろに下がりそうになったがそれをグッと堪える。直感的に退がったらダメな気がしたんだ。

 

『ほぅ…俺の覇気を喰らって退がらなかったか…若いのは大抵退がっちまうんだがな』

 

一歩ずつ俺に近づいてくるその馬はさっきまでのヨボヨボ感はもうない。

 

『あ、あんたがノゾミで長距離G1を制したことがある馬か?』

『いかにも。ラインとフェニックスから俺の話ことを聞いたな?』

『は、はい。俺はノゾミミカド。お願いします。俺に長距離の走りを教えてもらえないでしょうか?』

 

この馬が先輩たちが言っていた…

 

『ほう…小僧、ノゾミのものか?そして俺から長距離の走りを学びたい?カカカっ、面白い小僧だな。ラインやフェニックスは現役でもそんなことしたことはなかったぞ。気に入った。この俺、『ノゾミレオ』がお前のことを試してやる』

 

ノゾミレオ

 

主な勝ち鞍

1989年菊花賞

 

眠れる獅子が再びその瞳を開いた。




名前:ノゾミレオ
年齢:23歳
生年月日:1986年4月15日
性別:牡馬
毛色:黒鹿毛
血統:父・カブラヤオー 母・ヒメミヤビ(架空馬) 母父・ノーザンテースト
成績:17戦6勝 2着1回 3着1回
距離:短G マイルC 中A 長A
脚質:逃げC 先行A 差しA 追込みG

主な勝ち鞍
1989年菊花賞
1990年阪神大賞典

現存するノゾミ系の古参の元競走馬。駒沢氏の父が馬主だったが現在は駒沢氏が馬主になっている。
性格は陽気で細かいことは余り気にしない。普段は歳のせいか寝ていることが多い。しかしレース関係の話になると現役よりは衰えたが若い馬ならビビってしまう覇気をまだ出せる。
怪物たちに挑み続けたが一勝もできなかったのが唯一の心残り。その為、怪物に似ているラインを初めて見た時、間違えて勝負を挑んだ。(ラインはこのことがトラウマで余りレオには会いたくない)
因みに北山牧場産の馬ではないが、元々いた牧場が不景気で潰れたため現在余生を北山牧場で過ごしている。
普段は縁側で日向ぼっこをしながらお茶を飲むおじいちゃんみたいな馬。幼駒たちからもおじいちゃんと呼ばれている。
因みに血統的に長距離走りそうにないが2400を負けはしたが消耗が少なかったため走らせたら勝った。

多分こいつより年上のノゾミの馬はでないと思います。と言うか当分新しいノゾミの馬は出さないつもりです。


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帝の勉強/獅子の講義

今回はミカドとレオの絡みを少し。
次回はノゾミ掲示板回その2かウマ娘編を予定しています。


『で?小僧、お前さんは何が知りたいんだ?』

『えっ?長距離の走り方…』

『違う。どういう風に走りたいかって聞いてんだ』

『あっスミマセン…』

 

ノゾミレオ

 

ノゾミ系で初めてG1タイトルを勝ち取った猛者。ライン先輩によると先輩の父であるオグリキャップの一つ下の世代であり、何度か走ったことがあるらしい。(そして一勝もできずに引退、ライン先輩を初めて見た時、同じ毛色で少し似ていることから間違えて追いかけ回したらしく。先輩曰く、『あんなに恐怖を感じながら走ったのは生まれて初めて』とのこと。)

 

『いいか?長距離って一言でいってもピンからキリだ。2500ぐらいの短いのもあるし、3200ぐらいの長いものもある。それにコースによっては同じ距離でもスタミナの減りが変わることもある。今回お前さんが走る距離は?』

『えっと、菊花賞3000です』

『菊花賞?俺がでたレースじゃねぇか。ということはあの複雑なコースか…あそこはとにかくスタミナ管理が重要になってくるな』

 

京都競馬場の名物『淀の坂』。坂の高低差は4.3メートルにも及び、向正面の半ばから3コーナーにかけて上り、4コーナーにかけて一気に下るレイアウト。勾配がつけられているのは3コーナー付近だけ、それ以外はほぼ平坦という起伏の構成が特徴的。「小高い丘が設けられている競馬場」と例えられている。

 

『見たところお前さんは良くて2600〜800ぐらいが適正だ。あくまで俺から見た場合だから当てにしない方がいいが参考程度に聞いておけ』

『はい』

 

長距離を走っていた大先輩がこう言っているなら多分そこまで外れてはいないはずだ。今の俺に3000を走り切れる程のスタミナはない。しかも今は療養期間中で、脚を酷使できないからさらに体力も減っている。

 

『小僧、お前の脚質は?』

『えっ?逃げ〜差しだったらできます。よく使うのは逃げと先行ですけど…』

『なら走る時は多分、スタミナをなるべく温存する必要があるから先行か差しを使うかもな……あの方法なら…』

 

レオさんがブツブツと何かを言っている。

 

『小僧、俺が現役時代によく使っていた技。それをお前に教えてやる』

『本当ですか!?でもその技って…』

『人間たちはこう言っていたな……えっと確か……ああ歳のせいか上手く出てこない。何だったかな〜す、す、すとっぷ?すてっぷ?』

『あの〜もしかして『スリップストリーム』の事ですか?』

『そうそうそれだ!!スリップストリーム!!俺の十八番で、これを使って大体の長距離に入着してきたんだ!』

 

『スリップストリーム』

 

モータースポーツや陸上競技において使われてきた技の様なもの。物体は常に空気抵抗を受けていて、止まっていたり普通に歩くぐらいのスピードである分はそこまで問題はない。しかし、高速になればなるほど抵抗が大きくなり、車であれば燃費、人や動物であればスタミナをその分消費する。スリップストリームは同じ速度で動く物体の後ろに付くことで空気抵抗を抑え、スタミナの消費を抑えることができ、抑えたスタミナ分を加速に回せる。更に前のものを抜いた時もその加速を維持したまま抜くことが理論上可能なのだ。

さて、ここまで聞くといいことしかない様に思えるが当然デメリットもある。一つは抜く際に前のものによって押さえられていた空気抵抗が一気に自分に帰ってくるので、バランスを崩しやすい。わかりやすくF1マシンのレースで例えると、バランスを崩してスピン、最悪な場合周りを巻き込んで大事故を起こす。

 

これは俺ら競走馬にも当てはまる。F1マシンよりは遥かに遅いがそれでもかなりのスピードで走っている。それでもしバランスを崩したら……考えたくもない…

 

『この技はそこそこ難易度が高い。後ろに付くやつを間違えれば馬群に呑まれる可能性がある。他にも付く位置、抜け出すタイミング、スタミナ配分、どれか一つ間違えれば一巻の終わりだ』

『考えれば考えるほどかなりリスクが高い技ですね…』

『何を言っている。レースは常にリスクを伴う。油断をすれば『レース』と言う魔物は俺らの走る脚()を容赦無く喰らい尽くすぞ』

 

その言葉に俺は重みを感じた。俺の脚も無茶をしたせいでこうして治療をすることになった。レース、と言うよりも競争本能は時に命を刈り取る死神になる。今回は少し絡めとられただけで済んだが次は分からない。

 

『見たところ、お前さんの脚はまだ万全な状態ではない。今回俺がお前さんに教えることはスリップストリームという技のコツと俺流の長距離でのスタミナ管理だ。参考までに聞いておけ』

『はい、レオさん!』

『レオさんは少し違うな、レオ先生か師匠と呼べ!』

『ではレオ師匠で!』

『よろしい。それでは、修行(座学)を始めるぞ!!』

『押忍!!』

 

 

 

『なんか向こうでバトルもの師弟修行シーンみたいなの始まった…』

『そこ!よそ見をしない!!レースでよそ見は命取りになるわよ!』

『イエス・マムっ!!!(そんでこっちは鬼軍曹にしごかれる二等兵…!)』

 

 




それぞれの走法
ミカド:ピッチ走法
シエル:ストライド走法
フェニックス:ストライド走法
ライン:ピッチ走法
ナチュラル:ストライド走法
ボー:ストライド走法(予定)
レオ:ピッチ走法

レオの名前の由来ですが、師匠ポジにしようとした時に自分の中で思い浮かぶ師匠って誰だろうと考えた時、獅子座L 77星の王子が思い浮かびこの名前になりました。誕生日も獅子座の正中である日になっております。


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帝の掲示板/帝のスレ

予告通り掲示板回です。


1:イッチ

悲報:ノゾミミカド、剥離骨折発覚

 

2:名無しの帝臣下

ぎゃあああああ!!?

 

3:名無しの帝臣下

それをいうなイッチ!!

 

4:新人

そんな、まさか…

 

5:五徹

俺の今一番の押し馬がぁあぁぁぁ!!!

 

6:名無しの帝臣下

>>4

>>5

というか必ず現れるよな君たち…

 

7:一文無し

私もいま〜す

 

8:名無しの帝臣下

一文無しネキ?一文無しネキじゃないか!?

 

9:名無しの帝臣下

生きていたのか!?

 

10:一文無し

勝手に殺すな

 

11:名無しの帝臣下

 

12:名無しの帝臣下

でも実際文字通り一文無しでしょ?

 

13:一文無し

>>12

否定はしない

 

14:名無しの帝臣下

イッチに北山牧場のフリーパス売って何とか食いつないだか

 

15:イッチ

リーズナブルな値段で譲って頂きました

 

16:新人

実際にみたけど本物でした

 

17:五徹

期限も特に切れていないものだったしな

 

18:名無しの帝臣下

へ〜

 

19:一文無し

いや、流石に犯罪者にはなりたくないし本物渡すよ?

 

20:名無しの帝臣下

ネキたちの話は今はいい。ノゾミミカドの件についてだ

 

21:名無しの帝臣下

そうだった

 

22:名無しの帝臣下

ここまで親父に似なくてもいいだろうミカド…

 

23:名無しの帝臣下

テイオーも骨折で断念したもんな…

 

24:新人

やっぱり骨折したら無理ですよね…

 

25:名無しの帝臣下

新人君に一応教えておこう。馬の骨折は文字通り命取りになる可能性が非常に高く、ボッキリ折れている場合は殆どが予後不良で安楽死。良くて競争能力喪失と判断され引退させられる。

 

26:名無しの帝臣下

今回は剥離骨折で軽い方だから復帰はできるだろうが、菊花には間に合わないだろう。

 

27:名無しの帝臣下

残念だ…

 

28:名無しの帝臣下

神様っていうのは残酷だ

 

29:新人

あの〜仮の話なんですけど、骨折して治ったら菊花賞来ることってできますか?

 

30:名無しの帝臣下

>>29

来ることは可能だと思うよ

 

31:名無しの帝臣下

ただし、確実に負ける

 

32:名無しの帝臣下

三ヶ月ぐらいろくにトレーニングをせずにぶっつけ本番に向かうなんて漫画以外でそんな展開ない

 

33:一文無し

でもトウカイテイオーも調教はしていたけど一年ぶりのレースで猛者だらけの有馬勝ってるよね?

 

34:名無しの帝臣下

あっ

 

35:名無しの帝臣下

そういえば…

 

36:名無しの帝臣下

いやいやネキ、テイオーとミカドは期間が違う。向こうはほぼ一年、こっちは三ヶ月弱。

 

37:名無しの帝臣下

流石に無理がある

 

38:五徹

それはどうかな?

 

39:名無しの帝臣下

>>38

なにっ!?

 

40:名無しの帝臣下

五徹ニキ何か知っているのか?

 

41:五徹

俺より、実際に見た人がいるからそいつらに聞いて

 

42:名無しの帝臣下

えっどういうこと?

 

43:五徹

というわけでイッチ、一文無しネキ、君たちに決めた!!

 

44:イッチ

>>43

己はポケモントレーナーか

 

45:一文無し

>>43

そんで私らはポケモンか

 

46:名無しの帝臣下

えっ何でこの2人?

 

47:名無しの帝臣下

まさか…

 

48:五徹

その2人、つい最近行ったんだよなぁノゾミミカドがいる北山牧場に

 

 

 

2人で

 

49:名無しの帝臣下

イッチ貴様ぁぁぁぁ!!!

 

50:名無しの帝臣下

競馬で生活費消すとはいえ、女性とデートだとぉぉぉ!?

 

51:名無しの帝臣下

万死に値する

 

52:イッチ

何で俺だけ!?

 

53:名無しの帝臣下

ネキは一応女性だし

 

54:名無しの帝臣下

だらしなくても女性には手出せないし

 

55:名無しの帝臣下

イッチが一番妥当

 

56:名無しの帝臣下

というか残当

 

57:イッチ

よーしお前らよく分かった。五徹ニキの言っていた内容は俺の脳内メモリーにロックして話さない

 

58:名無しの帝臣下

>>57

ごめんなさい

 

59:名無しの帝臣下

許してください

 

60:名無しの帝臣下

何でもしますから

 

61:名無しの帝臣下

>>60

今何でもって言った?

 

62:名無しの帝臣下

>>61

(お前に言って)ないです

 

63:名無しの帝臣下

あ、ない

 

64:一文無し

まあ、私は話してもいいよ

 

65:名無しの帝臣下

さすが一文無しネキ!!

 

66:名無しの帝臣下

イッチがやらないことを平然にやってのける!

 

67:名無しの帝臣下

そこに痺れる憧れる〜〜!!

 

68:名無しの帝臣下

はいここまで定例文です

 

69:名無しの帝臣下

ネキ、上はほっといて話してくれ

 

70:新人

自分も気になるのでお願いします!

 

71:一文無し

新人君の純粋な言葉に免じて話して進ぜよう

 

72:名無しの帝臣下

新人ニキナイス!

 

73:イッチ

新人君だったら俺も話すわ

 

74:名無しの帝臣下

新人ニキの人望すげぇ〜

 

75:名無しの帝臣下

俺らならバッサリと切り捨てられる

 

76:イッチ

行ったのは大体三日ぐらい前かな?

ノゾミミカド骨折が発覚と宝塚記念を外したので、意気消沈していたところだったんだ。

 

77:名無しの帝臣下

えっ外したの?あんな堅い結果になったレースを!?100万以上稼いだイッチが!?

 

78:五徹

いや、三連単買い間違えて2着と3着逆にしていたんだよその人。

 

79:新人

横で見てましたけどあんなに絶望した様な顔したイッチは見たことなかったです

 

80:一文無し

私はトータルでギリギリ上回った

 

81:名無しの帝臣下

ネキ何円差だったの?

 

82:一文無し

>>81

200円

 

83:名無しの帝臣下

草w

 

84:名無しの帝臣下

いやそこは芝だろw

 

85:イッチ

因みに俺は20万は消えたよ

 

86:名無しの帝臣下

>>85

想像以上に消えていて草w

 

87:名無しの帝臣下

それでも70万以上残っているだろ

 

88:イッチ

話戻すぞ。

まあ、その時滅茶苦茶悔しくてな。しばらく仕事にも手がつけられなくて、それまで忙しかったのもあって上司から「お前今色々とやばそうだから休みになさい。というかもう帰っていいいから溜まった有休使って休め」って言われて2週間休むことにした。現在休暇7日目。

 

89:名無しの帝臣下

これイッチもブラック企業?

 

90:名無しの帝臣下

いや上司が有休使えって言っているしブラックではないだろ

 

91:イッチ

俺の会社は普通だよ。残業もあるけど、それも週に一回ぐらいしかないしその一回も2〜3時間もしないで終わる。

それでせっかくの休みだし、ネキに貰ったチケットを使って北山牧場に行くことにしたんだ。それでコテハン勢の五徹さんと新人くんも誘ったんだけど…

 

92:五徹

有休とって妻と京都行っていました

 

93:新人

大学の友達と課題地獄に突入していました

 

94:名無しの帝臣下

2人の差が凄いw

 

95:名無しの帝臣下

新人ニキ、課題は終わったか?単位は大丈夫?

 

96:新人

ハハハハハっ、何言ってんですか。あとレポート3個残っていますよ。10個ありましたからね。

 

97:名無しの帝臣下

………ごめん

 

98:新人

因みに一つA4紙4〜5枚分です

 

99:名無しの帝臣下

マジでごめん

 

100:名無しの帝臣下

面倒な量

 

101:五徹

新人君、お土産あげるから今度家に来なさい

 

102:新人

ありがとうございます

 

103:イッチ

俺もやるよ、お土産

 

104:一文無し

私も

 

105:名無しの帝臣下

コテハン勢みんな優しい

 

106:名無しの帝臣下

やさいせいかつ

 

107:イッチ

脱線しまくっるから戻すぞ。

そんで、2人とも無理だったから試しに一文無しネキに聞いてみたんだよ。この日空いていないかって。そしたら二つ返事で「行く」って言ったから誘ったわけ。

因みにネキはしっかりしていれば出来るキャリアウーマンみたいな方でした

 

108:一文無し

いやあ〜照な〜//

イッチも思っていたよりもいい体格で驚いたよ

 

109:名無しの帝臣下

えっイッチってムキムキなの?

110:五徹

細マッチョみたいな感じ。昔空手やっていて今でも偶にやっているらしい。

 

111:イッチ

多分瓦割り10枚ぐらいなら出来るよ

 

112:名無しの帝臣下

ひぇっ…

 

113:名無しの帝臣下

イッチ脱線

 

114:イッチ

すまん。もうここから脱線せずに行こう。

それでネキと2人で北山牧場に行ってきたんだ。

凄かったぞ広い敷地内に馬が沢山。

従業員の人が1人ついてくれて、あれが何の馬か教えてくれた。大体ノゾミの馬だったけど

 

115:一文無し

例えば、常に威嚇し合っている芦毛と栗毛はノゾミラインとノゾミフェニックスだったり、ボーッとしているお年寄りの黒鹿毛がノゾミレオっていう馬だったり

 

116:名無しの帝臣下

ノゾミレオ!?

 

117:名無しの帝臣下

あの馬まだ生きていたの!?

 

118:新人

すみません、ノゾミレオって一体?

 

119:五徹

名前:ノゾミレオ

年齢:23歳

生年月日:1986年4月15日

性別:牡馬

毛色:黒鹿毛

血統:父・カブラヤオー 母・ヒメミヤビ 母父・ノーザンテースト

成績:17戦6勝 2着1回 3着1回

主な勝ち鞍:1989年・菊花賞 1990年・阪神大賞典

 

ノゾミ系の馬で現在最古参って言っていいほどのご老体だ。ノゾミで初めてG1取った馬だ。

 

120:名無しの帝臣下

オグリキャップに何回も挑んで結局勝てなかったんだよな

 

121:名無しの帝臣下

カブラヤオー産駒の牡馬の中で唯一のG1勝利馬でもある。

 

122:名無しの帝臣下

カブラヤオー世代の俺には嬉しい知らせだよ

 

123:イッチ

思い出を語るのは後にしよう。

それで俺たちはノゾミミカドが何処にいるか聞いてみたんだよ。そしたら従業員さんがそこですよって指さしたんだ。その先には

 

 

幼駒の前で仁王立ちしているノゾミミカドがいた

 

124:名無しの帝臣下

いや何があった

 

125:名無しの帝臣下

急転回

 

126:一文無し

聞いてみたら、幼駒たちが一頭の幼駒を虐めていたんだよね。ミカドは仲間思いなこだからそう言う弱いものいじめを見ると大きく嘶いて叱るみたい。

 

127:名無しの帝臣下

やだ心もイケメン

 

128:名無しの帝臣下

顔は元々イケメン枠

 

129:名無しの帝臣下

完璧超馬

 

130:名無しの帝臣下

欠点はマザコンなところぐらいかな?

 

131:イッチ

ミカドに完全にビビっていた幼駒たちはミカドがまるで「去れ」っていう感じで首を振ると一目散に逃げていったよ。

 

132:一文無し

とても手術して療養中の馬には見えないぐらいのオーラだった

 

133:名無しの帝臣下

凄いな

 

134:名無しの帝臣下

馬っていじめ止めるんだ

 

135:名無しの帝臣下

ボスは群れの規律を守るために仲間の同士の喧嘩の仲裁やいじめを止めたりとか、反抗的な馬にツラ貸せみたいなことをして黙らせたりする。ミカドは完全にボスの気質をもっているな。

 

136:名無しの帝臣下

栗東の新ボス降臨か?

 

137:一文無し

まあ、あの牧場のボスってミカドのお母さんなんだけどね

 

138:名無しの帝臣下

ですよね〜

 

139:名無しの帝臣下

北山牧場名物『サイボーグの娘ボス』

 

140:名無しの帝臣下

牝馬なのに現役の馬体重400後半でそこそこデカいから威圧感が半端ない

 

141:名無しの帝臣下

あのフェニックスですら彼女の前では大人しくなる

 

142:名無しの帝臣下

やらかすと容赦無く蹴りをぶち込む姐さん

 

143:名無しの帝臣下

人間だったら告りに行く

 

144:名無しの帝臣下

そんで粉砕!

 

145:名無しの帝臣下

玉砕!!

 

146:名無しの帝臣下

大喝采!!!

 

147:名無しの帝臣下

アハハハ、ハーハッハッハーハッハッハーハッハッ!!!

 

148:名無しの帝臣下

>>144

>>145

>>146

>>147

お前ら仲いいな、そんでひどいな

 

149:イッチ

そんで俺らが言いたいのは

多分ミカドの故障は思ったよりも軽くて、治りが早いんじゃないかと思う

 

150:名無しの帝臣下

つまり、まだどうなるか分からないということか

 

151:一文無し

そういうこと

 

152:名無しの帝臣下

順調に行けば菊花に間に合う

 

153:名無しの帝臣下

そして無敗の三冠馬が生まれる可能性も高い?

 

154:五徹

期待させて悪いがあくまでも希望的観測だ。回避する可能性の方が十分高いからな

 

155:名無しの帝臣下

それでも元気になっているなら俺はいいかな

 

156:名無しの帝臣下

とりあえず治ってほしい

 

157:名無しの帝臣下

またあの末脚でごぼう抜き見たいしな!

 

158:名無しの帝臣下

そんじゃあ今はミカドの怪我が1日での早く治る様に祈ります

 

 




途中出てきた話は次回出します。


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帝の迷い/獅子の後悔

次回からトレセンに戻ります。
菊花賞はその次を予定しています。

どうでもいいですが明日のダービー、誰を軸に賭けるか迷っています…
誰がいいんでしょうね…


俺ノゾミミカドはレオ師匠に修行をつけてもらい、長距離のコツを教わりながら過ごしていた。

 

『スタミナの消費量を少なくする方法の一つはコーナリングだ。曲がるときに外側に出過ぎるとその分走る距離が長くなる。だからと言ってスピードを緩めれば馬群に埋もれる可能性があり、勝利が遠のく。スタミナ消費を必要最低限に抑えるならばこれも重要だ』

『なるほど』

『菊花は3000もの距離を走る。技術も必要だが最後は馬の能力で決まると言っても過言ではない』

 

菊花賞は『最も強い馬が勝つ』と言われている。これはスピードとスタミナを兼ね備え、2度の坂越えと3000mの長丁場を克服することが求められることからこう言われてきた。

 

『お前さんは強い。だがそれは今までがマイル〜中距離だったからだ。だから証明してこい。菊花を勝ち、お前さんが本当に強い馬だということをな』

『押忍っ!!』

 

 

そんなこんなで数日後…

 

 

今日は獣医の先生(以前登場した先生)が北山牧場にわざわざ来て、俺の脚の経過観察をしに来た。

 

「ふむ…予想以上に治りが早い…これなら来週には向こうに戻れると思います」

「本当ですか!?一ヶ月半しかまだ経っていないんですよね?」

「元々、治りが早くなるように脚に負担を掛けずに手術しましたが、私も驚きです」

 

俺の脚の治りは比較的早かったみたいで、来週には栗東に戻れるらしい。

今は8月中旬。ギリギリ調教はできる。

 

『希望が少しだけ見えてきたな…』

 

「もうある程度走っても問題はないでしょうが一応気を付けておいて下さい。油断は出来ませんからね」

「分かりました。先生、ありがとうございます」

 

診察も終わり、俺は卓矢さんに連れられて自分の馬房に戻ろうとしていた。

 

「ミカド〜!」

 

『ん、誰だ?』

 

俺を呼ぶ声を聞き、声が聞こえた方に振り返る。

 

「ミカド、久しぶり」

 

『湊ちゃん?湊ちゃんか!?うわっ久しぶりだなぁ!』

 

「ちょいちょいミカド!?危ない!急に振り返るな!」

 

卓矢さんを若干引きずりながら、俺は湊ちゃんに近づいた。最後に見た時は暗い表情が多かったけど、今は見る影もないくらい明るい表情をしている。今は志望校に合格して忙しい高校生活の日々を送っているらしい。

 

「聞いたよミカド。無茶して骨折したんでしょ?聞いたときは本当に心配したんだから。でもダービー優勝おめでとう!かっこよかったよ」

 

『へへっ、ありがとう…』

 

湊ちゃんに撫でられながら俺も頭を擦り付ける。

 

「きゃっ、もう危ないでしょ?」

 

「北山さん、このお嬢さんは?」

「うちの娘です。湊、厩舎付近は走るなと言っているだろう。それに今獣医の先生が来ているんだから、挨拶しなさい」

 

「えっ?あっ、その、すみません。お見苦しいところを見せました…」

 

先生の存在に気付いていなかった湊ちゃんは北山さんに言われてようやく気付いた。人目も気にせずに俺を愛でていたからか顔が赤い。(かわいい)

 

「いやいや、君がミカドを大切に思ってくれているということが今のでよく分かったからね。大丈夫だよ」

「いえ、すみません…えと、そういえば先程獣医と聞こえたんですが…」

「ええ、獣医です」

 

それを聞くと湊ちゃんは真剣な顔で話し出す。

 

「私、将来獣医になりたいんです。それで先生にお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「湊、先生もいs「構わないですよ」先生!?」

「彼女が本当に獣医になりたいと思っているなら私で良ければ話しましょう。では湊君、君は何を聞きたいのかな?」

 

先生も真剣な顔で問い返す。1秒ぐらいの間が開いき、湊ちゃんの口が開いた。

 

「私は家の関係でこうして馬たちと関わることが普通の子たちに比べて遥かに多かったです。そして『命』に関わることも…獣医になりたいと思ったきっかけもそのことでした。……先生、獣医、特に大型の家畜などを相手にしているあなたにとって、獣医に必要なものはなんですか?」

 

しばらく静寂が続いた。そして先生は口を開き語り出す。

 

「そうだねぇ…技術や知識はもちろん必要なことだし、体力や観察眼なども重要だ。…でもね。僕が本当に獣医にとって必要なのはそれらじゃないと思っている。一番必要なのは…

 

 

 

 

殺れるかどうか

 

 

 

かな」

 

その答えに全員が息を飲む。

 

「特に家畜獣医はその選択にしょっちゅう迫られる。獣医は救った命よりも殺した命の方が多いとも言われたこともあるからね。私も元気になった動物たちの姿を数えきれないほど見てきたけど、記憶に多く焼きついているのは救えなくて看取る動物たちの姿の方が多い」

 

やりきれない様な表情で語る先生に湊ちゃんは言葉を失っていた。

先生が言っていることは確かに間違ってはいないだろう。俺たちサラブレットなんかは脚のの骨折で命の選択に迫られることが多い。ボッキリ折れていれば安楽死がほとんどだ。命のやり取りを最前線で行っている先生の言葉は、非常に重い。

 

「救えなかった命を見て、精神を病む者も確かにいた。特に君は優しいからね。そのやり取りが続けば、精神的負担は大きいだろう」

「向いていないと…言いたいんですか…」

「いや。そんなことは一言も言っていないよ、私」

「えっ」

「逆にそういう『優しい心』を持っているからこそ救える命もあるんだ。『殺せない』よりも『殺させない』様にしていくことができればきっと多くの命が救われる。僕個人は君のことを応援するよ」

 

先生はそういうと優しく笑った。

 

「あ、ありがとうございます!頑張ります!」

「うん。夢を叶えるためにも頑張りなさい。でもそういう現実があるってことだけはしっかり理解しておいてくれ。救いたいけど救えないものは残念ながら存在する。叶うにしろ叶わないにしろ、夢を叶えようとすることは、空想の状態にあるものを現実のもにしようと闘うことだと僕は思っているからね」

 

 


 

 

『現実のものにしようと闘うこと、か…』

『どうしたミカド?物思いにふけたような顔をして』

 

俺は獣医の先生が言っていたことを師匠に話した。

 

『夢を叶えることって確かに大変ですよね。明確なものだと道は分かっても険しい現実が襲いかかって、あやふやなものだと道がわからず迷ってしまう。俺の三冠という夢も断崖絶壁の如く険しいものになっています。しかもそれに挑めるのはたったの一回だけ…』

 

今まではただただ大きな目標として見ていた。でもそれが一歩手前まで来た今、改めて目指したものを見るとそのあまりの大きさに圧倒される。

正直、今の俺はビビっているんだ。三冠にリーチした今だからこそ、それが敵わなかった時のことを…

 

『あ〜、らしくない。こんなにウジウジ悩むような奴だったけ俺?』

『それはお前さんがそれだけ夢に向かって真面目に取り組んできたからこそ生じた迷いだ』

 

師匠が急に話し出す。

 

『何も考えていないような奴はそもそも迷ったりはしない。真剣にやってきたからこそお前さんは恐れているのだろう。夢を叶えられないかもしれないことを』

『……はい』

『いいかミカド。お前さんは一度だけだが、確実に挑戦できるチャンスが残っている。何事もやらなければ、一割以下の勝利を掴むことはできん。俺は『アイツ』についぞ勝てぬまま終わってしまったからな…』

『師匠…』

 

師匠は『怪物』と言われた馬に勝とうとしていた。でもそれは叶わなかった。あのラストラン、師匠は出走出来なかったらしい。脚を痛め、故障までとはいかないが、レースで走らせるのは難しかったようで、当時の師匠の陣営は辞退した。

 

『だからこそ、お前さんは全力で走ってこい。勝っても負けても悔いを残さないように、自分やお前さんを支えてきてくれたものたちに恥じない走りをしろ。……それが夢を叶えられずに終わった老いぼれがお前さんに言えることだ…』

 

『……分かりました。正直まだ少し迷いはありますけど、悔いがない走りをしてきます。師匠が勝った、ノゾミの始まりのG1で!』

 

夢を現実する闘い。俺は持てる全てを出す。最も強い馬が勝つと言われている菊の舞台で。




今回の獣医さんのセリフはとある漫画のセリフを拝借し、作者がアレンジしました。
作者もこれがきっかけで馬に興味を持ちました。

来週はリアルが忙しくなるので多分更新できないと思いますが、なるべく早めに出すので待っていてください。
お願いします。


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帝の一幕/菊花の蕾

今回は急ぎで書いたので駄文になっていると思います。
その分次のレース回は力を入れて作ります。


『トレセンよ、俺は帰ってきた!!』

 

「ミカド、早く馬運車から降りて。迷惑になるから」

 

『あっ、スンマセン…』

 

俺ノゾミミカドは約2ヶ月ぶりに栗東に帰ってきた。

 

「ミカド、久しぶりだな」

 

『テキ、お久しぶりです』

 

「脚の方はもう大丈夫か?帰ってきて悪いがならしの調教を明日始める。時間は少ないが少し休んでいてくれ」

 

菊花賞まであと1ヶ月と少し。ここで可能な限り仕上げなければ間に合わない。移動の疲れをとるために俺は自分の馬房に戻る。

 

『ミカド!?帰ってきたんだ!』

『ようブエナ久しぶりだな。元気にしていたか?』

『うん!でも少し前のレースで2着になっちゃった…』

『あらら、そいつは残念だったな』

 

『ミカド、久しぶりだね』

『オーラ先輩!お久しぶりです』

『骨折の方は平気かい?』

『先生が言うには俺は治りが早くて、もう大丈夫らしいです』

『そうか。それは良かった』

 

厩舎のみんなと話しながら初日は終わった。

 

 

次の日

 

 

「ミカド、久しぶりだな」

 

調教開始初日。雄一さんがやって来た。俺を骨折させたと言う理由で一度は俺の主戦を離れようとしていた。俺はそれを止めるべく、雄一さんの服の裾を噛み、離さなかった。他の人も骨折は雄一さんのせいじゃないって言ってくれたことから、思い直してくれて今でも俺の主戦でいてくれている。

 

『雄一さん…大丈夫ですか?』

 

前見た時よりかは顔色は良くなっているが、やはり少し元気がなさそうだ。

 

「心配してくれているのか?大丈夫だ。お前がこうして直ってきてくれたんだ。なら俺はお前のその頑張りに応えるだけだ」

 

こうして始まった調教はやはり難航した。その一番の理由は勿論…

 

『ゼェ…ゼェ…クッソ、体力がやっぱり落ちている』

 

「やはり、体力が…」

 

俺の体力低下だ。

向こうにいた時もなるべく体力を落とさないようにウォーキングみたいに放牧地を何周もしていたがそれでもダービーよりも減っている。

 

「テキ、やっぱりミカドの体力が落ちています。予想していたより少ないですが、まずいですよ」

「やっぱりな…よし、今日は他の馬との併せでレースのカンを取り戻させる。体力の方はは明日から本格的に始めよう」

 

先輩たちとの併せで、落ちた体力がモロに現れてしまい、結局この日は一回も抜かせなかった。

 

 

更に翌日

 

 

『えっと、テキ…ここは?』

 

次の日俺はテキたちに連れられてある施設に連れてこられた。その施設が…

 

「プール調教。確かにこれなら…」

「脚に負担を掛けず、体力低下に対応できる。本当は昨日からしたかったが、今日からしか取れなかったからな」

 

馬の調教にはプールを使ったものもあり、故障が原因で十分なトレーニングを積めない馬が脚の負担も少なく、体力低下や運動不足を解消するために行う。俺の骨折はもうほぼほぼ完治しているが直ったばかりだからプールでの調教を始めた。

そうして俺はプールの中に入る。

 

『あっ、結構気持ちいかも…てか楽しい』

 

プールはそこそこ広く、形としては流れるプールみたいに一周するタイプのもの。深さは脚が底につくかつかないかくらいの深さ。前世で夏休みにプールで遊んだみたいな感じになって、俺はちょっと楽しくなって来た。

 

「なんか、はしゃいでいますよね…ミカド」

「ああ、アイツがあんなにはしゃいでいるのは俺も初めて見た」

 

『ヒャッホ〜イ!!見よ、俺の華麗なる犬掻きならぬ馬搔きを!!』

 

「泳ぐのが好きなんですかね?」

「アイツをここに連れて来たのは今回が初めてだ。この分なら間に合うかも知れねぇな」

 

『イエ〜イ!!』

 

それから週二回ぐらいでプール調教を入れながら、菊花賞へと準備を進めていく。

併せで感覚を取り戻しつつ、プールで脚の負担を減らし、体力を回復させる。

 

そして開催日が近づくにつれて菊花賞に出走する競走馬たちの取材にやって来たテレビ局や記者たちが松戸厩舎に現れ始めた。

取材を受けるのはテキや雄一さん。俺はそれを横で聞いていた。

 

「前回のダービーの後に骨折が発覚したノゾミミカド号ですが、何故菊花賞に出走することを決めたのでしょうか?」

「最初は回避も選択に入れていましたが獣医の先生から比較的軽度であったと診断され、その治りもかなり早かったため、出来るのならばと思い行かせました」

 

「他のライバルたちに比べ、調教の時間はかなり短くなってしまいますが勝算の方はあるでしょうか?」

「この1ヶ月間、脚の負担のことも視野に入れながら、可能な限り仕上げて来ました。苦戦を強いられるかも知れませんが勝ってくれると信じています」

 

「骨折して直ぐのレースがG1の長距離と言うのはいくらなんでも無謀なのではないでしょうか?三冠を取れずとも有馬や年明けのレースに合わせなかったのは?」

「確かに側から見れば無謀に見えるでしょう。しかし、我々はミカドならばやってくれると信じて今回送り出したのです。何よりもミカドがそれを望んでいる。この馬は頭が非常にいい。コイツが行けると思っているのならば我々もそれに応えるだけです」

 

俺の出走に対して疑問や否定的な質問がかなりあった。それに対して2人はしっかりと答えていく。

 

「菊花賞は我々にとって最も重要なレースです。出るからには勝つ気で挑みます」

 

こんなに俺のことを信じてくれる人がいるのなら、俺はそれに応えるまで。クラシックの終わり、そして全ての世代が集う舞台の入り口になるレース。

 

菊花賞は、もう直ぐだ。




いよいよ三冠ラストのレースに入ります。

タイトルは菊花賞前なので、花が咲く前の蕾、始まる前段階ということです。


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帝の三冠/京の菊花 前編 菊花賞(G1)

中途半端ですが前編です。
後編も制作中なのでお楽しみに


菊花賞

 

数多の馬たちがその長く険しい距離に挑んだ

 

『鉈の切れ味』

神馬

シンザン

 

『タブーを起こした千明の風雲児』

鬼の末脚

ミスターシービー

 

『絶対が許された最強の皇帝』

皇帝

シンボリルドルフ

 

『菊の季節に桜が満開』

桜星王

サクラスターオー

 

『メジロが生んだ最高のステイヤー』

名優

メジロマックイーン

 

『平成の世に現れた傷なき三冠馬』

英雄

ディープインパクト

 

さあ、世代最強を決めようではないか

 

枠番馬番馬名人気
1枠1番スリーロールス9番人気
1枠2番シェーンヴァルト13番人気
2枠3番フォゲッタブル8番人気
2枠4番トライアンフマーチ14番人気
3枠5番アンライバルド3番人気
3枠6番ノゾミミカド6番人気
4枠7番ヤマニンウイスカー12番人気
4枠8番アントニオバローズ11番人気
5枠9番リーチザクラウン1番人気
5枠10番キングバンブー17番人気
6枠11番セイクリッドバレー15番人気
6枠12番セイウンワンダー 7番人気
7枠13番キタサンチーフ18番人気
7枠14番イコピコ2番人気
7枠15番ポルカマズルカ16番人気
8枠16番ナカヤマフェスタ4番人気
8枠17番アドマイヤメジャー5番人気
8枠18番ブレイクランアウト10番人気

 

 


 

 

菊花賞当日 京都競馬場

 

『雲が広がる空の下、ここ京都競馬場には多くの観客が集まりました』

 

俺ノゾミミカドは今、京都競馬場のパドックで卓矢さんに引かれながら回っている。

脚の調子は問題ない。やる気も十分。体も引き締まっている。後は全力で走ればいいだけだ。

 

 

『6番、ノゾミミカド。骨折から驚異的な回復力で菊花賞に出走。人気は6番人気と今までに比べ控えめになっています』

『骨折明けの初レースですからね。不安な部分がありますし、むしろこの順位は充分凄いと言えます。見事勝利できれば、無敗三冠の称号を手にすることができますので好走に期待したいですね』

 

 

パドックで見たことある奴ら、初めて走る奴らの姿を見て俺は戦慄する。全員この日に掛けてかなり鍛え抜いているからだ。気を抜けば、俺はドベもあり得るぞこれ…

 

 


 

 

『ノゾミミカド。大丈夫なのか?』

『セイウンワンダー 、心配すんな。獣医からのお墨付きだ』

『だがろくにトレーニングもできていないだろう。本当に…』

『心配すんなって。そもそも勝つ気がなきゃここにはこねぇよ』

 

返し馬でセイウンワンダーが俺のことを心配して話しかけてくる。意外とコイツ心配性なのか?

 

『だがそうだとしても、僕らは万全の状態じゃないお前と戦って勝ったとしてもそれは自分の実力じゃない、お前が万全ならと言う言葉が必ずついてくる。そしたら…』

『セイウンワンダー、いやワンダー』

『?』

 

『さっきから言ってんだろ。俺は勝つ気があるからここにいるんだ。それに俺はここまで無敗の二冠馬だぜ?これぐらいハンデみたいなモンだよ。それともなんだ?お前はこんな状態の俺に負てもいいのか?』

『そんなわけっ!!』

『だったら言い訳なしでかかってこい。少しでも油断すれば、俺は容赦無くお前ら全員を置き去りにして勝つ!』

 

この言葉でワンダーは一瞬目を見開き、そして直ぐにいつもの真剣な雰囲気に戻る。

 

『…すまない。君のことを甘く見ていた。そうだな…この世界に容赦という言葉は存在しない。僕は必ず君に勝つ。だから恨まないでくれよ』

『その言葉、そっくりそのまま返してやるよ』

 

後はもう言葉は要らない。続きは互いの走りで語るだけだ。俺たちは返し馬を終え、それぞれのゲートの位置に移動を始めた。

 

次々とゲートに入っていく競走馬たち。俺も自分のゲートに入り、心を落ち着かせる。

 

「ミカド、いいか。今日は無理に前に行こうとしなくてもいい。お前のスタミナは怪しいからな。抑えて最終局面に備えるぞ」

 

『了解ですよ雄一さん。俺たちでなりましょう。父さんたちの悲願を…』

 

いよいよ始まる。『最も強い馬が勝つ』クラシック最後のレース…

 

 

『各馬ゲートイン完了!第70回、G1レース菊花賞……』

 

 

ガゴンッ!!

 

 

『スタートしました!!』

 

 

ゲートが開くと同時に一斉に走り出す俺たち。俺は好スタートで出ることができた。

 

『よし!後はあのポジションにつくだけだ』

 

いきなり来る3コーナーにある険しい坂を登る俺たち。意外とキツい。これスタミナが減っている時に登るの大分辛いぞ…

 

 

『各馬いいスタートを切りました。ハナを取ったのはリーチザクラウン。リードを大きく開いていく。その5馬身後ろに続くのはアントニオバローズ。更に2馬身後ろにスリーロールスその外並んでヤマニンウイスカー。その直ぐ後ろにシェーンヴァルトとアンライバルド。セイウンワンダーはこの位置で前を狙う。その直ぐ後ろにポルカマズルカ。フォゲッタブルは外行きます。三冠がかかったノゾミミカド、今日はこの位置にいます。セイクリッドバレーは1馬身後ろ。ナカヤマフェスタがそれを追う。キタサンチーフとアドマイヤメジャーがその1馬身後ろ。少し離れてブレイクランアウト。その外にキングバンブー。1馬身後ろにイコピコ。最後尾にトライアンフマーチ。こういった展開になっております』

 

 

今回の俺の作戦は『差し』。前回は出遅れたことで追込みよりの差しになってしまったが今回はちゃんと狙ってやっている。

理由は勿論、スタミナを最後の方にまで残しておくこと。アクシデントだったとは言え、俺に差しの適正が十分あることがダービーで証明されたことでテキたちは差しの作戦で菊花賞に挑むことにした。

 

『この位置だな』

『な!?なんで俺の後ろに!?』

 

そんで前にいたフォゲッタブルの背後につき、師匠直伝のスリップストリームで体力を温存。

 

「よし、ミカド。あとはひたすら耐えるんだ。文字通り、持久走と行こうじゃないか」

 

『ええ。イライラした時の素晴らしい発散方法もありますからね。このまま行きますよ!』

 

 


 

 

『先頭は変わらずリーチザクラウン。凄い勢いでスタンドの直線を通り過ぎます。大きく離れて2番手にはアントニオバローズ。後方の馬たちは追いつくことができるのか?』

 

 

「菊花賞は京都競馬場で行われる右回り距離3000という長丁場のレース。3歳馬たちのステイヤーとしての適性が問われるレースでもある」

「どうした急に」

「3歳馬たちが経験したレースの中で一番長いのは2400ほど。そこから600もの距離が延びる今回のレースは彼らにとっては本当に未知数な舞台だ。これは俺の考えだが血統、脚質、これまでの戦績、全てがこのレースでは通用するかわからない」

 

観客席ではいつも通りに翔一と一真がレースの観戦をしていた。

 

「今回のミカドの勝率は?」

「調教不足に加え、元々ミカドは血統的に長距離は不向きと言われているんだ。恐らく5割も無いんじゃないか?6番人気という人気がそれを物語っている。本来であればもう少し下がるだろうが、無敗三冠という夢をみる人たちが一定数いたということだな。お前を筆頭に」

「アハハハ……」←ミカドを軸にウン万賭けている奴

「俺も勝ってほしいけど、過去の記録を見ても短期で復帰したレースで勝てた馬なんてそんなにいない」

 

「だが同時に、可能性は決して0ではないということでもある」

 

2人の会話に割って入ってきたのは前回、2人に話かけてきた男だった。その後ろには男性2人と女性1人。

 

「あなたは、ダービーの時の…」

「いやあ〜見覚えがある人たちがいるなと思ったら君たちだったからね。隣いいかい?」

「あ、大丈夫です」

「ありがとう。みんな、ここで見られるぞ」

 

そう言って男は連れに声をかける。

 

「いや、本当に良かったです自分が腹を下したばっかりに」

「いやいや新人君、それはお互い様だよ。私なんか寝坊してみんなを待たせちゃったんだし」

「貴女はもう少し自己管理を高めて下さい。あ、隣失礼します」

 

そうして来た3人はそれぞれ、大学生ぐらいの青年、ショートカットの陽気そうな女性、眼鏡を掛けた体格の良い男性といった人物だった。

 

「あと君たち」

「「はい?」」

 

男性が翔一たちに再び話しかけ、翔一たちはそれに反応する。

 

「ミカドが勝てる可能性は確かに低いだろう。だけど彼はあの絶対を許され、絶対を覆した系譜を継ぐ馬だ。恐らくタダでは終わらないと思うぞ」

 

 


 

 

『第一コーナーを抜けて、第二コーナーに入り依然先頭はリーチザクラウン。大きく離され2番手にはアントニオバローズ。内でスリーロールスが先頭を狙う。三冠が掛かったノゾミミカドは現在10番手。ここから巻き返すことは出来るのか?』

 

 

『まだだ。まだ』

 

「ミカド…まだだぞ」

 

先頭から俺の距離は現在12馬身ぐらいの差、周りに馬は多いが抜け出せないわけじゃない。というかいつでも抜け出せるように準備している。

 

『クソっ!いつまで付いて来るんだよ!』

『いつまでだろうね〜?』

 

前にいるフォゲッタブルは完全に掛かっている。まあ、不気味について来る馬がいたら本能的に逃げたくなるだろうな。でも少しスピード出しすぎかな?そろそろ別の奴にするか。

 

「前の馬はもう無理だな。ミカド変えるぞ」

 

『さすが雄一さん。俺の事よく分かっていますね』

 

俺らはフォゲッタブルから離れ、更に前にいたポルカマズルカの後ろにつく。

 

『えっ、誰?』

『レディのケツを追っかけるのは趣味じゃないんだが…勝つために利用させてもらうよ』

『ハア…?』

 

不思議がっている彼女に少しの罪悪感を感じつつ、俺は再びスリップストリームの体勢をとる。

 

 

『向こう正面に入りリーチザクラウンが未だ先頭。このまま一人旅で終わってしまうのか?』

 

 

にしてもリーチザクラウンすげぇな。あんなに飛ばしているのに2番手との差がまだかなりある。最初の坂も物ともしない感じだったし。けど、京都はこの先が本番だ。

 

『気合い入れて行くぞ、俺!』

 

多くの名馬を苦しませた『淀の坂』はもう直ぐそこまで迫っていた。




因みにブエナの秋華賞は大まかな部分は史実と変わりありません。
変わった点は、進路妨害が無く、2着のままになっているぐらいです。
ブエナが帰って来た日は厩舎一同で慰めた(主にミカドが)。

一部抜粋

ブ『それでね、第四コーナーで前に行こうとしたんだよ』
ミ『うん』
ブ『でも外側に出過ぎて少しロスして…』
ミ『うん』
ブ『あと少しで挿し切れたんだよ…でも…』ポロポロ…
ミ『うん。惜しかったね』
ブ『うわぁ〜ん!!勝ちたかったよぉ〜!!』
ミ『よしよし、頑張ったんだね』

厩舎一同((絵面が完全に彼女慰める彼氏じゃねぇか…))

ア『あの、オーラ先輩。いいんですか?妹さん取られてますけど…』
オ『まあ、ミカドなら安心して任せられるからね。アミーゴももう少し自信持って頑張ってみなよ』
ア『善処します…』

兄は妹と後輩の関係には肯定的。

オ『だって将来的には、ねぇ…?』


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帝の三冠/京の菊花 後編 菊花賞(G1)

結構頑張ったつもりです。

ウマ娘しながら書きました。イナリワン欲しいから現在ガチャを回しています。5万課金しても出てこないのって普通、ですかね?

さあ菊花賞もクライマックス。帝は最後の冠を手にすることはできるのか?


『未だ先頭はリーチザクラウン。2番手に3馬身のリードを取り、直線を駆ける』

 

 

「京都競馬場には小高い丘のような坂、通称『淀の坂』というものが存在する。あの坂はこの競馬場の魔物だ」

「どうした急に」

「淀の坂は4mもの登り坂を登れば、そう時間をかけずに坂を降る。この坂は競馬界ではゆっくり進むのが定石だ」

「理由は?」

「坂を登るのは勿論だが降る時は重力に引っ張られて登る時よりもスピードが出てしまう。それは即ち、最後に使うはずだった脚も同時に消費してしまうということだ」

 

観客席では翔一と一真、そして隣にやって来た男性一行が菊花賞を観戦していた。

 

「ノゾミミカドが勝つにはあの坂で無駄な体力を使わないこと。最後で末脚勝負をするには文字通り乗り越えなくてはいけない。だが体力面で不安が大きい彼にはかなり酷なことだろう。現にあんなに後方にいたら間に合うかも怪しい」

 

一真は自論ではあるがミカドが勝てる可能性が改めて低いことを翔一に説明する。父であるテイオーは長距離では2500の有馬でしか勝っていない。母父は菊花賞2着のみ。長距離適正の可能性があるのは父父のルドルフだけ。血統から割り出せるミカドの長距離適正はかなり低い。

 

「いや、それでも結構持っているとは思うよ」

 

ここで口を開いたのは体格のいい眼鏡の男性だった。

 

「ノゾミミカド号はさっきからずっと前の馬の後方に陣取っている。あれは多分スリップストリームだ。風の抵抗を減らすことで体力消費を抑えているようだ」

「それに、マークにもなるから前の馬を掛からせることができる。鞍上の福長さんも凄いよ。付いていた馬が掛かってスピードを出し始めたらマークをやめてまた別の馬に付いている。見極めがいいね〜あの人」

 

今度はショートカットの女性が説明し出す。

 

「そうなんですか?自分もちゃんとみているつもりなんですがさっぱりで…」

 

大学生ぐらいの青年は双眼鏡で見ながら、観察する。

 

「まあ、新人君にはまだ難しいだろう。我々のような競馬にどっぷりハマったようなものたちならある程度見極めることはできるだろう。お勧めはしないけどね」

 

男性は少し苦笑いしながらレースを観察する。

 

「今回ミカドの勝率がかなり低い。このままリーチザクラウンがゴールするようなこともあり得るだろう。だが、誰もが盲点だった伏兵が飛んでくるかもしれない。ミカドの大逆転があるかもしれない。ミカドに挑み続けた馬たちの逆襲があるかもしれない。何が起こるか分からないのが競馬だ。だがそれが面白い。どのような結果になったとしても、我々はそれを見守ろうじゃないか」

 

男性の言葉にその場にいたものが耳を傾けていた。その姿には貫禄らしきものがあった。

 

「因みに今日はいくら賭けたんですか?」

「ミカドを軸に三連単や三連複を諸々賭けて、トータル30万。負けたら暫く嫁が競馬やらせてくれなくなる」

 

貫禄どこいった…

 

 


 

 

向こう正面の直線に入り、俺は後方で様子を伺う。

 

『大丈夫だ…まだスタミナはある。坂を登る分は多分行ける。最後に末脚が伸びるかどうかが重要だ…』

 

俺の現在の順位は13位。後半に入ってこの順位は流石に下過ぎるがまだ大丈夫だ。作戦の1番の要は『体力温存』。無駄な体力を使わないようにコーナリングやスリップストリームで可能な限り消費量を減らす。

勝負は淀の坂と最後の直線。

 

『まだだ…坂に入ってからだ…』

 

 

『第3コーナー、京都名物『淀の坂』に先頭集団が入ります』

 

 

そしてとうとう先頭の奴らが坂に入る。

 

「ミカド、準備はいいか?」

 

『いつでもいけますよ、雄一さん!』

 

「いけそうだな!よし、行くぞ!」

 

ここで雄一さんは俺の体に鞭を連続で2回打つ。これは加速の指示ではない。威圧の指示だ。

 

『さあ、ここからは俺のレースにさせてもらうぜ!!』

 

ダービーの時と同じように俺は溜まったストレスをプレッシャーに変えて、他馬に威圧を与える。

 

『うわっ!?』

 

『な、何!?』

 

『こ、これは…!?』

 

俺の周りいた馬たちはプレッシャーに当てられ、僅かにだが動揺する。そして俺は前にいた奴らに向かってさらにプレッシャーを放つ。

 

『ま、まずいまずい!?』

 

『ヤバイよヤバイよ!』

 

『ヒィィィィ!?』

 

そうすることでこいつらは掛かっちまう。スピードを上げて、俺から離れようとする。けど…

 

『逃さないぜ!』

 

まだお前らには俺の風除けになって欲しいからな!

そうしていると、俺もとうとう3コーナーに入った。

 

『っ…!?こいつは、結構キツいな!』

 

中山の坂とはまた違ったキツさだ。というかこっちの方が何倍もキツい!!コーナーになっているからスピードを維持しながら走るのも結構難しい。

 

『そりゃ、タブーを起こしたって言われるな…!』

 

あの三冠馬は本当にすごい馬だったってのがなんとなく分かった気がする。この坂で加速するとか普通は考えないってホント!

 

 

『馬たちが続々と淀の坂を登っていきます。しかし、アドマイヤメジャー、キングバンブー、ポルカマズルカが少し前に行こうとしています。その後方からノゾミミカドが追いかける。更に続いてセイウンワンダーも追いすがる!先頭集団は第4コーナーに入り、一番手との差も埋まって来た!』

 

 

坂を登り切り、これまた急な坂道を今度は降る。ここでスピードを出してしまうと、後半使う脚も使ってしまい、最後の直線が伸びなくなる。だからここでは無理にスピードを出さない。登る時と同じスピードで降って行く。

 

『さて、そろそろ……ですよね』

 

「そろそろ…だな。ミカド、4コーナーを抜けたらここから抜け出すぞ。そしていつも通りに……だ」

 

『いつも通りに、ですね』

 

そう、いつも通り……

 

『「末脚全開で一気に抜き去るっ!!!!』」

 

こっからは小手先一切無しの、根性全力の直線勝負じゃあぁぁぁ!!!!

 

 

『第4コーナーを抜けて、先頭集団が直線に入る!!リーチザクラウンが粘って未だ先頭!ヤマニンウイスカーとシェーンバルトが突っ込んでくる!!しかし、スリーロールスがやって来た!!前の馬を一気に抜き去って先頭に変わる!そして………!?な、なんと、ノゾミミカドが大外を回って来た!?最後の冠は渡さないと、怪我明けとは思えない脚で加速する!!その内にはセイウンワンダー!!宿敵に一矢報いるため、こちらも末脚を爆発させる!!まだまだ分からない菊花賞!!200mを通過!!先頭はスリーロールス!しかしノゾミミカドが追いすがる!!セイウンワンダーも負けじと喰らいつく!!伏兵の奇襲か、帝の三冠か、青雲の逆襲か!?3頭の勝負はまだ続く!!』

 

 

ただただガムシャラに走る。先頭争いは俺ら3頭に絞られた。互いにその存在を認識してはいるが、今俺たちの目に映るものはゴールのみ。

 

『負けてたまるかぁぁぁぁ!!!!』

 

耐えて耐えて、最初に先頭に出て来た、伏兵であるスリーロールス。

 

『君に勝つのは、この僕だぁぁぁ!!!』

 

俺の圧に耐えて、自分の走りを崩さないで走り続けたワンダー。

 

『絶対に、絶対に譲らねぇ!!!俺の夢のためにも……俺を信じてくれるみんなのためにも!!!』

 

様々な工夫や根性、執念でここまで体力を保たせた俺。

 

全員が絶対に譲られない物を持って、このターフの上で走る。脚が重くても、息が切れそうでも、倒れそうになっても、ゴールするまではその脚を止めない。

 

『『『一着は……俺(僕)だぁぁぁあああぁぁ!!!!!』』』

 

 

『100mを通過したがデットビートは続いている!!最内スリーロールス粘るか!?セイウンワンダー差すか!?大外ノゾミミカドが追い抜くか!?』

 

 


 

 

正直、脚はもうかなり限界に近かった。地面に着くはずの脚が空回ってんじゃないかと思うくらい感覚がなかった。五感も視力以外は全くと言いほど機能していないと錯覚していた。周りの声も聞こえない。雄一さんの鞭も感じない。芝の匂いも嗅ぎとれない。唯一感じられる視覚も白黒に見える。

 

さっきはあんなこと言っていたけど、もういいんじゃないか?俺は精一杯頑張った。復帰明けで三着以内に入れるだけでも凄いことだ。

脚を緩めてもいいよな?

 

 

そんな馬鹿なこと考えていた。けどここで…

 

『もの凄い脚だ!もの凄い脚だ!』

 

 

聞こえるはずのない『声』が聞こえた。

 

 

『シンボリ来たシンボリ来た!!』

 

 

いる筈のない冠名の名を叫んでいる。

 

そして、後ろから猛スピードで俺の前に飛び出して来た馬が一頭。

 

『あ、あれは…!?』

 

今とは違う少しダボっとした緑と白の勝負服に身を包んだ騎手。ヘルメットの色は赤。馬のゼッケンに書かれた番号は『5』。

 

『な、なんだよこれ……』

 

動揺した。俺は完全に動揺していた。

 

だって、だって、その馬は今この場には居ない馬(・・・・・・・・・・)なのだから。

 

 

『シンボリが先頭に立ったシンボリが先頭に立った!!』

 

 

競馬で唯一絶対が許された皇帝。俺の祖父にあたる馬。

 

『シンボリルドルフ…!!』

 

そして、ルドルフ爺ちゃん?は俺の方を向いた。

 

『・・・・・・』

 

何も言わない。けどまるで『ここで終わるのか?』と挑発しているように感じた。

 

『……へへっ』

 

正直この状況は全くわからないし、ルドルフ爺ちゃんは今もご存命で、これは幽霊じゃないとは思う。多分限界が来ている頭が見せている幻だ。前世で見た映像が映し出されているんだろう。

 

けどな…

 

『あんな余裕ブッこいた顔で挑発されちゃあ、へばるわけにはいかねぇよなぁ!!!!!』

 

感覚を失いかけていた脚に力を入れる。例え幻の存在だとしても、無敗の三冠馬に挑発されたら、やり返すのが礼儀ってもんだ!!

 

『俺の末脚は、歴代でもトップクラスってところを見せてやるよぉぉぉ!!!』

 

溜めた力を再び爆発させ、スピードを出す。今までにないくらいのスピードが出て、幻に追いつこうと喰らいつく。ゴール板まであと少し。

 

『俺が…』

 

あと50。影を踏む。

 

『俺が……』

 

あと30。前脚に届く。

 

『俺が……!』

 

あと10。完全に並ぶ。

 

『俺こそが、最強だぁぁぁぁ!!!!!!』

 

0。僅かにだが追い抜いた気がした。

 

 

『やればできるじゃないか。お前の勝ちだ。無敗の帝よ』

 

 

『ノゾミミカドだ!!ノゾミミカドだ!!!祖父の偉業、父と母父の無念を、多くの人々の望みを叶え、今一着でゴールイン!!!!!最後の直線での三つ巴で他二頭を差し切って、半馬身差で勝ちました!!!!勝ち時計は3:01.4!!レコードタイムを記録しました!!3つの冠を携えて、今ここに4年ぶりの無敗三冠馬が誕生しました!!!!』




人物紹介

ダービーの時に来た男
多分勘付いた人もいるともいますがみんな大好き五徹ニキ。今日はコテハンメンバーでわざわざ来た。奥さんも一緒に来ていたが人混みが苦手でレース中はホテルで子供たちと留守番。財布の紐は奥さんに握られ、今回負けたらヤバかった。

体格の良い眼鏡の青年
掲示板ではイッチと呼ばれている男。昔から空手をしていて瓦割りは10枚は現在も余裕でできる。他にも遠泳、パルクール、サバイバルなんでも御座れのスーパーマ○ラ人並の身体能力の持ち主。ただし運が極端で、良い時は宝くじや万馬券を当てるが、悪い時は自転車乗っていたらイヌに追われ、カラスに追われ、野球ボールにあたり、サッカーボールにあたり、ラグビーボールに当たって、自転車ごと坂から落ちて、なんやかんやで木に着地するぐらい不運が連発する。

ショートカットの女性
一文無しネキ。普段はバリバリのキャリアウーマンだが、私生活がだらしなくて全然ダメな汚部屋住人。現在婚活中だが30代のカウントダウンが始まって来ていて焦っている。掲示板で知り合ったイッチと五徹ニキは後に仕事でも関わりが増えている。これでも営業成績社内ベスト10。

大学生くらいの青年
毎度お馴染み新人君。現在大学3年で課題が増えて大変な時期。掲示板の良心であり、各方面からの信頼も厚い。競馬は友達に勧められて初めて、ミカドのことを新馬戦から応援している。上記三名に比べて、賭ける金額は最大でも五千円ぐらいでリターンが他よりも少ない代わりにリスクも低い。安定性はコテハン勢トップクラス。

最後に出て来たルドルフは、簡単に言うとこの競馬場に刻み込まれた『記憶』なようなもの。
そこにミカドの脳が色々変換した結果あんな行動をとっているように見えただけです。

本物では無いですけど偽物でもありません。競馬場が見せたのは本物の走りですから。

次回は人間側視点からのその後です。お楽しみに。


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帝の栄冠/三つの冠

遅くなり申し訳ありません。
先週は色々ありまして…

今回は人間視点の話です。それではどうぞ。


シン・ウルトラマンを日曜日に観てきました。メチャクソ面白かったです。


福長雄一side

 

最終コーナーを抜け、大外に周り先頭争いに入るまでは良かった。だがミカドの体力は既に限界に近かった。

 

(顎が上がっている。呼吸も荒い。このままだと50m付近で垂れる…!)

 

何回も鞭を打ってはいるが、反応が鈍い。今はもう空元気で走っているようなものだ。そしてとうとうミカドのスピードが落ちて来た。もうスタミナを殆ど使い切ってしまったのだ。

 

(まずい!ミカド、頑張ってくれ!!)

 

俺に出来るのはもはや相棒を鼓舞し、走らせるだけ。もう終わりかと思った。

 

だが……

 

……ズンッ!!

 

「なっ!?」

 

あれだけ限界に近かったミカドが突然息を吹き返し、過去一番とも言えるほどのスピードを出し盛り返したのだ。

 

「ミカド!?どうしたんだ!?」

 

思わず声をかけるが反応が無い。普段はこんな時でも耳だけはこちらに傾けてくるが今回は全く反応していないのだ。

 

(これは……何かを追いかけている?けど前には誰もいないのになぜ?)

 

思わずミカドの視線の先を見た。勿論そこには誰も居ない。

 

(いや…あれは…?)

 

居ない筈なのだ。だが『何か』がそこに居た。朧げな、蜃気楼や幻影のようなものが俺たちの前を走っていた。そのシルエットは間違いなく『馬』のものだ。

 

(俺は、幻覚でも見ているのか?だが、ミカドにはあれがハッキリと見えているようだ。だから息を吹き返した。『俺の前を走るな』って…)

 

正直オカルトなどはあまり信じていない。だがミカドが走れるのならそれを利用してやる。

 

「行けっ!!ミカドぉぉぉ!!!」

 

再び鞭を振るいミカドを鼓舞する。先程よりも反応を示し、落ちていたスピードを取り返し、さらに上げていく。

 

50m。幻影の影を踏む。

 

30m。幻影の前脚に届く。

 

10m。幻影と完全に並ぶ。

 

0。僅かに幻影を追い抜いた。

 

 

ゴール版を駆け抜けると、幻影はどこにも居なかった。

 

「あれは…一体?」

 

幻影は一体何だったのかと考えようとした。だが

 

 

「「「「ワァァァァアアアアアアァァァァ!!!!!!!」」」」

 

 

「うぉっと!?」

 

『ビヒィィン!!?』

 

 

『ノゾミミカドだ!!ノゾミミカドだ!!!祖父の偉業、父と母父の無念を、多くの人々の望みを叶え、今一着でゴールイン!!!!!最後の直線での三つ巴で他二頭を差し切って、半馬身差で勝ちました!!!!勝ち時計は3:01.4!!レコードタイムを記録しました!!3つの冠を携えて、今ここに4年ぶりの無敗三冠馬が誕生しました!!!!』

 

 

観客の歓声、実況の興奮気味な声、続々と俺らを追い越して行く競走馬たち。それらによって、俺らは現実に引き戻された。

三冠?無敗?俺たちが?

 

「み、ミカド……もしかして俺たち…」

 

『ブルルっ……』

 

俺たちは…勝った。菊花賞を勝ち、無敗の三冠馬と三冠ジョッキーになったんだ。

 

 

「………いよっしゃぁぁぁ!!!!」

 

『ビヒヒィィーーン!!!!』

 

 

『福長雄一、大きくガッポーズ!ノゾミミカドもそれに応えるように嘶いた!!祖父が残した大輪の種を父が繋ぎ、帝に託され、そしてここ京都競馬場で再び赤い大輪を咲かせました!!!多くの人々が望んでいた父の悲願を子が叶えました!!!おめでとうノゾミミカド!!!』

 

 

大歓声が響く中、俺はミカドを見る。本当に嬉しそうにターフを駆けるこいつには驚かされてばっかりだ。

 

「ミカド、辛いだろうがウイニングラン、いけるか?」

 

『ブルっ!!』

 

勿論だ、とでも言っているのだろう。息絶え絶えで歩くのもキツいだろうに。

 

「無理ない範囲でやろう。歩いても良いからな?」

 

そしてウイニングランをするためにコースを再び駆ける。

 

 

『さあ、ウイニングランを終えて、ノゾミミカドと福長雄一がスタンド前に帰って来ました!!』

 

 

スタンドを前に来るとミカドは一度止まり、弾むような歩様で歩いていく。父トウカイテイオーのテイオーステップを観客に披露している。

 

 

「「「「ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!」」」」

 

 

『おっとここでミカドコールです!無敗の帝の凱旋に応じて、ミカドコールが京都競馬場に響いています!!』

 

 

「「「「ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!」」」」

 

 

こんな光景は今まで見たことなかった。俺はきっと、この光景を一生忘れることはない。

 

「ありがとうミカド。こんな素晴らしい光景を見せてくれて…」

 

『………こちらこそ。俺をここまで連れて来てくれてありがとうございます』

 

 


 

 

観客席

 

 

「勝った…ノゾミミカドが勝った!!」

「本当に…勝つなんて……」

 

「「やったぁぁぁ!!!」」

 

観客席ではいつもの2人と掲示板勢たちが涙を流しながら騒いでいた。彼らが流す涙は馬券が当たった外れたで出る涙ではない。ただノゾミミカドが勝ったことに対しての感涙の涙だった。

 

「リョウ君……(ズビぃぃぃ…)み、ミカドがっだぁぁぁよぉぉ!!!」

「ええ、勝ちましたね」

「勝ったぁぁぁ!!!」

「………」ズビぃ…

 

順に、

涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになって、イッチことリョウ君に抱きつく一文無しネキ。

一文無しネキに抱きつかれ、涙とネキで前が見えなくなっているイッチ。

ただただ純粋にミカドの勝利を涙を流しながら喜ぶ新人君。

言葉に表せないほどの喜びの感情で声が出ない五徹ニキ。

 

このグループの周りには誰も近付かなかった。

 

「ミカドは、帝は皇帝と帝王を超えたかもしれない……」

「ああ、本当に…よく頑張ったよな…」

 

一真と翔一もミカドたちに賛辞の声を送る。

 

「俺はミカドに謝らなくちゃいけないな。ミカドが勝てるって信じ切れていなかった」

「それを言ったら俺もだ。何回も負けるんじゃないかって思ったし」

 

「とにかく全員、涙と鼻水を拭こう。大分目立っている」

 

五徹ニキの言葉で全員ハンカチやティッシュで顔を拭く。

 

「さて、レースも終わり、あとは写真撮影ぐらいだ。その後はどうする?」

「森さん(五徹ニキの名字)、宴会しましょう!」

「宴会というより、軽く飲みに行きませんか?」

「自分も行きたいです!」

「俺も賛成だけど…その料金って…」

 

「「「勿論、森さんの奢りで」」」

 

「だよね〜」

 

今回大勝ちした五徹ニキが飲み代全額負担することが既に決定していた。

 

「君たちも一緒にどうだい?」

 

半分ヤケクソで五徹ニキは翔一と一真を誘う。

 

「えっ良いんですか?」

「自分ら特に関わりないですけど…」

「いいよいいよ。2人増えたところで特に問題ないし」

 

こうして6人は近くの飲み屋で親交を深め、連絡先も交換した。

 

 


 

 

『それでは、見事三冠ジョッキーの称号を手にした。福長雄一ジョッキーにインタビューしていきます。まずは福長騎手、おめでとうございます!』

 

「ありがとうございます!」

 

フラッシュが飛び交う中、俺はインタビューを受ける。ダービー以来のG1のインタビュー、しかも三冠ジョッキーとしてだ。

 

『ノゾミミカドは今回休養明けのレースがG1、しかも長距離の菊花賞でしたが今回の彼はどうでしたか?』

 

「そうですね…他の馬に比べて調教が少なくて、不安な部分も沢山ありました。スタミナが切れかけて、最後はもう空元気に近い状態で走っていましたがそれでも力強い走りをして、勝ってくれました。」

 

『今回のレースの決め手となった事は何でしょうか?』

 

「え〜、3コーナーから最後の直線のところですかね。あそこに行くまでとにかくスタミナを保たせるために色々とやったので直線で伸びて本当に良かったです」

 

『最後に三冠を達成した感想をお聞かせ下さい』

 

「本当に夢みたいです。このレースに関わった全ての方々に感謝します!」

 

『以上、福長雄一ジョッキーの勝利インタビューでした!』

 

 

「雄一!!」

「福長さん!!」

 

「テキ、駒沢さん!」

 

インタビューが終わり、記者たちから解放された俺にテキと駒沢さんが駆け寄って来た。

 

「お前……良くやったな、おい!!」

「痛っ…あ、ありがとうございます…」

 

バシンっと俺の背中を叩くテキ。興奮気味のせいかかなりの威力だった。

 

「福長さん。本当に、ありがとうございます…父が初めて手にした『ノゾミ』の最初のG1を、またこうして、無敗の三冠として、再びとってくれて、感謝します…」

 

駒沢さんは若干涙声になりながらも俺の手を掴み礼を言ってきた。

 

(そういえば…ノゾミの馬が初めてとったG1は菊花賞だったっけ…)

 

20年も前の話、ノゾミレオが菊花賞を勝ち、当時は弱小と呼ばれていた『ノゾミ』汚名を返上し、少しづつノゾミは強くなっていった。しかし、そんな矢先に駒沢さんの父は病気で急死。駒沢さんがその跡を継ぎ、ノゾミの名を繋いできた。感慨深いものがあるのだろう。

 

「駒沢さん。顔を上げてください。感謝したいのこちらの方です。私にこんな素晴らしい馬を任せてくれて、骨折を引き起こしてしまった私をこうしてまたミカドに乗せてくれて、本当にありがとうございます」

 

俺は両手で駒沢さんの手を握り直し、感謝を伝える。この人がいたからこそ、あの素晴らしい馬に出会うことができ、あの景色を見ることができたのだから。

 

「……さて。そろそろ写真撮影の準備が終わるでしょうし、我々も早いところ準備をしてしまいましょう。三冠馬の調教師、馬主、騎手が写真撮影に遅刻しては一生の笑い者にされてしまいますからね」

 

テキの言葉でその場にいた全員が笑い、各々準備のために解散し、関係者一同の写真撮影を行った。

 

ミカドは写真を撮る時に嘶いて、全員がそちらを向いた瞬間にシャッターが切られ、ちょっとしたハプニング写真ができたのは余談だ。




次回はウマ娘編を挟みます。


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帝の次走/年末の祭典

今回は少し短め。次走についての話です。


俺ノゾミミカドはこの度、無敗の三冠馬の称号を手にしました!!

 

『ミカド凄いね!!無敗で三冠なんでしょ?凄いんでしょ!?』

『勿論凄いことだぜ!もうめちゃくちゃ嬉しい!!』

 

今は松戸厩舎にてブエナと一緒になって喜んでいる。

 

というか俺ら二頭って…

 

ノゾミミカド→無敗のクラシック三冠馬

 

ブエナビスタ→牝馬二冠馬

 

だから考えてみたらクラシックを90%ぐらい一つの厩舎が独占しているんだよな…普通に考えたらえげつねぇよなこれ…

 

『そういえば、私たちの次走ってどうなるんだろうね?もうクラシックも終わっちゃったし…』

『そうだな…多分『ジャパンC』、『マイルCS』『有馬記念』が候補に上がる。お前なら『エリザベス女王杯』とかも候補に上がるな…』

 

俺は今回の菊花賞で結構な無理をした。だから出るとすれば年末最後の祭典、ファンによって選ばれた18頭が走る夢の舞台『有馬記念』。

 

『俺の次走は多分有馬だ。そしてブエナ』

『?』

『その有馬で俺たちは一緒に走ると思う』

『………えっ!?』

『有馬記念は人間が自分の好きな馬を選んでその数が多い奴が走ることが出来る年末最後の大勝負だ。俺は無敗三冠、お前は牝馬二冠だから成績も人気も申し分ない。テキたちがGOサインを出せば俺たちは確実に出れる』

 

つまり俺たちの初めての全面対決ができるって訳だ。

 

『ミカドと…走れるの?』

『ああ、G1の舞台でな』

『〜〜〜!!やったぁぁぁ!!!ミカドと一緒に走れる〜〜!!』

 

わ〜いわ〜い!!とはしゃぐブエナ。俺も内心結構はしゃいでいる。こいつと一緒に走るのは勿論、古馬という歴戦の猛者たちと走れるからだ。

 

(まあ、俺はテキたちが体のことを心配して回避させる可能性もそこそこあるからちょっと不安な部分もあるんだけどな…)

 

『ねぇねぇミカド!』

『ん?なんだ?』

『有馬に一緒に出られたらさ!また勝負しようよ!!』

 

懐かしいこと言い出したなこの娘…

 

『そう言えば、前も年末のレースで勝負しようってやったよな…けど今回は前と違って同じレースでの勝負だ。大丈夫か?お前が挑もうとしているのは今世代最強の無敗三冠の馬だぞ?』

『そっちこそ。あなたが戦うのは牝馬最強格の馬よ?牝馬が牡馬に勝てないのはもう昔の話。甘く見ていると置いて行くわよ?』

 

いうようになったじゃねぇかコイツ……

 

『だったら勝負といこうぜブエナビスタ。帝の強さを思い知らせてやるよ』

 

『ふふふ。女王の称号は決して伊達じゃないこと貴方に魅せてあげるわ。楽しみにしておいてね、ノゾミミカド?』

 

 


 

 

『あわ、あわわわわわわ……』

『ああ〜またやっているよあの二頭…新人君たちも怯えているし…というか君は震えるなアミーゴ』

『だ、だっててててて…あのののののプレッシャーをくらららららら喰らってせせせせ先輩はへへへへへ平気なんですか…?』

 

『もう慣れた。あの二頭はすぐ自分たちの世界に入っちゃうからね。アツアツだよねぇ』

 

(もしかしてオーラ先輩って結構な大物?)

 

*アドマイヤオーラは史実でも同世代で唯一あの『ウオッカ』と『ダイワスカーレット』に先着した事がある中央競馬重賞3勝馬です。

2007年 日刊スポシンザン記念 G3 一着アドマイヤオーラ 二着ダイワスカーレット

2008年 京都記念       G2 一着アドマイヤオーラ 六着ウオッカ

 

 


 

 

「う〜む…」

 

ミカドたちの調教師である松戸博は悩んでいた。ミカドの次走をどうするのかを…

 

「テキ、まだそんなに悩んでいるんですか?ミカドの次走?」

 

そこにミカドの担当厩務員である真司が松戸の前に現れた。

 

「悩むに決まってんだろ。無敗の三冠馬になっちまったんだ。JRAの方からもジャパンCや有馬に出てきて欲しいと言われてんだ」

「流石にジャパンCはないでしょう?アイツの脚は今一番気にかけておかなきゃいけないんですから」

「それは勿論断った。いくらなんでも期間が短すぎる。もしミカドの脚がぶっ壊れたらどう責任とってくれるんだ、っていったら黙ったよ」

 

ミカドの脚は現在、骨折までとは行かないがかなりの疲労が溜まっている。怪我明けで3000もの距離を走り、最後の直線で無茶とも取れる走りをした。また骨折をしてもおかしくないものだがコズミと疲労ぐらいで他に異常が無かったのは不幸中の幸いだったと言える。

 

「獣医の先生も調教しながらでも年末には疲労の殆どが取れているだろうから有馬には出れると言っていたしな」

「間違いなく人気投票最上位にいくでしょうしね」

 

年内のレースでリスクが限りなく低いのは有馬の一択。出るか、出ないか。それを最終的に決めるのは馬主である駒沢だが調教師である松戸の判断はその決定を大きく左右するものになる。

 

「……今日駒沢さんが来るのは5時頃だったよな?」

「えっ、はい。そうだったはずですけど?」

「なら駒沢さんの意見も聞いて決めるか」

 

数時間後〜

 

「松戸さん、お久しぶりですね」

「駒沢さん、どうも。久しぶりと言っても菊花賞から2週間も経っていないじゃないですか」

「いえ、本当ならもう少し早く来れる筈だったんですが仕事が立て込んでしまって…」

 

駒沢が厩舎に訪れ、いよいよミカドの次走についての話し合いが始まる。

 

「聞いているとは思いますが獣医の話ではミカドの疲労は年末までには問題なくなりますので有馬に出すことは可能になります。中山はミカドが一番走り馴染みがあるコースで距離も2500。菊花賞に比べれば大きな問題はありません」

「はい。ミカドに問題さえなければこちらとしてはジャパンCとかレースが近いレース以外は基本的にそちらに任せようとは思っています」

「であれば、ミカドの次走は有馬でよろしいですね?」

「ええ、よろしくお願いします。松戸さん」

「はい」

「ミカドのことを頼みましたよ。あの子が生き生きレースで走る姿を見せてください」

「……わかりました」

 

こうしてノゾミミカドの次走は有馬記念に決定した。

 

そして、あの馬たちとの最初の戦いとなる。




次回は有馬記念か掲示板回を予定しています。


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帝の掲示板 その3/三冠のスレ

今回はスレ回です。
いつものメンバーのバカさわぎをどうぞ。


1:イッチ

このスレは無敗の三冠馬となったノゾミミカドを祝福するスレです。アンチ・ヘイトと取れる発言などには気を付けましょう。

先ずは一言。三冠達成おめでとぉぉぉ!!!!!!

 

2:名無しの競馬野郎

おめでとぉぉぉ!!!

 

3:名無しの競馬野郎

ばんざぁぁい!!!!!

 

4:一文無し

最高にハァイって奴だ!!

 

5:五徹

本当に、立派だった…

 

6:新人

泣きました

 

7:名無しの競馬野郎

いつもの奴らがいるぞ

 

8:名無しの競馬野郎

俺らもコテハンじゃねぇけど大体一緒

 

9:名無しの競馬野郎

にしてもまさか本当に三冠取るなんてな…

 

10:名無しの競馬野郎

骨折発覚した時は「ああ、ダメだったか…」って思ったけどまさか…

 

11:五徹

それについてなんだがここだけの情報がある。聞きたい?

 

12:名無しの競馬野郎

五徹ニキ!?その情報とは!?

 

13:名無しの競馬野郎

おせぇーて、おせぇーて

 

14:新人

自分たちも知らないんですけど?

 

15:イッチ

貴方のその情報っていつもどこからきてんですか?

 

16:一文無し

仕事も競馬に特に関わってはいないのに

 

17:五徹

みんなが気になっているのは良くわかった。では話そう。知り合いから聞いたんだがミカドの骨折を最初に発見したのは彼の担当厩務員さんらしいんだ。

 

18:名無しの競馬野郎

えっ、パドックとかでミカドを引いているあの男の人?

 

19:名無しの競馬野郎

結構若いよな。30代前半くらいか?

 

20:五徹

どうもその人曰く、ダービーが終わって数日、ミカドの脚から僅かにだけど違和感を感じたらしい

 

21:名無しの競馬野郎

らしい?

 

22:五徹

>>21

その人は別に獣医でもなんでもないから詳しいことはわからないけどいつもと少し歩きに違和感があったそうなんだ。

 

23:名無しの競馬野郎

へぇー

 

24:名無しの競馬野郎

そんな細かいことに良く気付いたな

 

25:一文無し

その人が見つけてくれたからミカドは軽度で澄んだのか

 

26:イッチ

厩務員さんなんかは調教師の次か同じくらい馬についている事が多そうだし、その馬のクセとかも理解しているのかもな

 

27:名無しの競馬野郎

俺なら絶対気付けねぇわ

 

28:名無しの競馬野郎

自分の管理すらできない俺にも無理な話だ。←酒の飲み過ぎで医者からアルコール依存症が診断された

 

29:名無しの競馬野郎

>>28

お前は医者の指示をしっかり聞いて直せ

 

30:一文無し

依存症は怖いよ〜

 

31:名無しの競馬野郎

>>30

この人絶対アル中だろ

 

32:イッチ

彼女はもう依存から抜け出していますよ

 

33:新人

この間飲みに行った時も一人だけノンアル飲んでました

 

34:一文無し

あの地獄にもう戻りたくないんだよ…

 

35:名無しの競馬野郎

すごい闇を感じた

 

36:名無しの競馬野郎

>>28です。

なんかそこ知れぬ恐怖を文字から感じ取ったので頑張って直します。

 

37:名無しの競馬野郎

おう、頑張れよアル中ニキ

 

38:名無しの競馬野郎

応援はする

 

39:五徹

話が大分それたな。

それで厩務員の人は松戸調教師にこのことを伝えて、松戸調教師もイヤな予感がしたらしく獣医に見てもらうことにした。そしてその結果、右前肢の剥離骨折が見つかった。

 

40:名無しの競馬野郎

は〜

 

41:名無しの競馬野郎

裏ではそんな事が…

 

42:名無しの競馬野郎

そこで骨折を見つけてなければミカドは三冠馬にはなれなかったんだな…

 

43:名無しの競馬野郎

マジで厩務員さん超ファインプレー

 

44:イッチ

療養中も特に大きな問題もなかったし、菊花賞でも怪我明けとは思えない走りをしていたしな

 

45:名無しの競馬野郎

最初ゲートが開いた時にミカドが前に行かなかったから故障か!?って思っちゃったんだよな。

 

46:名無しの競馬野郎

結局は差しの脚質で挑んだだけだったけどな

 

47:名無しの競馬野郎

ルドルフもテイオーも差しは出来たし、その血を継ぐミカドに出来ないとは限らないしな

 

48:名無しの競馬野郎

ダービーはやらかしたけどそれが結果的にミカドが十分差しでも勝負する事ができる証明になったし

 

49:名無しの競馬野郎

最終コーナーぐらいまではずっと他の馬の後ろについていたよな

 

50:新人

スリップストリームでしたっけ?

 

51:名無しの競馬野郎

>>50

おっ、新人ニキよく知ってんな?

 

52:名無しの競馬野郎

何それ?

 

53:名無しの競馬野郎

聞いたことあるような?

 

54:イッチ

スリップストリームは、同じ速度で移動するものの背後に付くことで空気抵抗をなくしつつ、スタミナを保つ方法のこと。

この作戦は、F1レースとかでも利用されているものだが一歩間違えればスピンして大事故を起こす可能性もあるリスクの高いもでもある。

 

55:名無しの競馬野郎

それをやっていたの?やっば…

 

56:名無しの競馬野郎

スタミナに不安があるミカドにとっては、スタミナ消費を可能な限り減らす必要があったからそれを使ったんだな

 

57:五徹

付いていた馬が掛かってスピードを上げたら直ぐに別の馬についてスタミナを温存。そして最終コーナーあたりで抜け出して一気に加速。差しの勝ち方の教科書みたいな走りだった。

 

58:名無しの競馬野郎

最後の直線でまた加速したのは驚いたよな

 

59:名無しの競馬野郎

そうそう。もう火事場の馬鹿力みたいな感じ

 

60:名無しの競馬野郎

あの時のミカドってさ、なんか何かを追いかけていた様に見えたんだけどどう思う?

 

61:名無しの競馬野郎

>>60

どういうこと?

 

62:名無しの競馬野郎

いやさ、直線の半分くらいを過ぎて、ミカドももうヘロヘロでもう無理かなって思った時に息を吹き返したじゃん?

 

63:名無しの競馬野郎

そうだな

 

64:名無しの競馬野郎

本当にあれは驚いたよ

 

65:名無しの競馬野郎

その時のミカドがさ。なんか何かを追いかけていたように見えたんだとね

 

66:名無しの競馬野郎

何か?

 

67:名無しの競馬野郎

どういうことだよ?

 

68:名無しの競馬野郎

>>65

というかコテハンしてわかりにくい

 

69:競馬好きの猟師

>>68

これでいいか?

 

70:名無しの競馬野郎

猟師!?

 

71:名無しの競馬野郎

なんかコテハン勢にまた濃さそうな人がきたな…

 

72:名無しの競馬野郎

元ブラックのエリート五徹

競馬新人の大学生

運の振り幅が激しいイッチ

生活費を全部すった一文無し

競馬好きの猟師←NEW!!

 

73:名無しの競馬野郎

並べると本当何これ?

 

74:一文無し

私が一番ダメな奴じゃん

 

75:五徹

俺も文字だけならそこそこ変な奴だぞ

 

76:イッチ

俺と新人君は普通だな

 

77:新人

ですね

 

78:名無しの競馬野郎

お前らそこそこキャラ濃いからな

 

79:競馬好きの猟師

話を戻すぞ。

自分のところは猟犬とかも使っているんだが、獲物というか目標に向かって追いかけるんだが、その時のミカドが猟犬たちのそれと似ているんだよ。

 

80:名無しの競馬野郎

獲物を追っていた?

 

81:名無しの競馬野郎

でも何も前にはいなかったよな?

 

82:名無しの競馬野郎

前というよりは横にはいたな

 

83:名無しの競馬野郎

えっなんか怖っ

 

84:競馬好きの猟師

まあ、似ているというだけで必ずしもそうだったとは限らないから

 

85:名無しの競馬野郎

でもなんか分かるわ

 

86:名無しの競馬野郎

>>85

どういうこと?

 

87:名無しの競馬野郎

いや俺もさ、ミカドの前に何かいた感じがするんだよな

 

88:名無しの競馬野郎

本当か?自分もなんだが?競馬歴25年になるがあの感覚は初めてだ。

 

89:名無しの競馬野郎

なんかオカルトじみてきた

 

90:名無しの競馬野郎

この話題は別のスレでやってくれ

 

91:イッチ

話を変えよう。

スリーロールスとセイウンワンダーも今回大健闘だったな

 

92:名無しの競馬野郎

セイウンワンダーに至ってはシルバーブロンズだらけになっているよな

 

93:名無しの競馬野郎

あの馬ポテンシャルはかなり高いよな

 

94:名無しの競馬野郎

なんせミカドの末脚や大逃げに何度も食らいついてきた馬だぞ。弱いわけないだろ。

 

95:名無しの競馬野郎

ミカドのライバルって言ったらこいつだよな

 

96:名無しの競馬野郎

レース終わるといつも近くに行くよなあいつら

 

97:名無しの競馬野郎

『今度は勝つ』『今度も勝つ』みたいなこと言ってるみたいでなんかいい

 

98:名無しの競馬野郎

>>97

その気持ちすごい分かる

 

99:名無しの競馬野郎

なんか漢の友情みたいなのをあの二頭から感じる

 

100:五徹

二頭の戦いの軌跡を追うと

第一戦 朝日FS

ノゾミミカド一着 セイウンワンダー二着 ハナ

第二戦 弥生賞

ノゾミミカド一着 セイウンワンダー五着

第三戦 皐月賞

ノゾミミカド一着 セイウンワンダー三着

第四戦 日本ダービー

ノゾミミカド一着 セイウンワンダー十三着

第五戦 菊花賞

ノゾミミカド一着 セイウンワンダー二着 半馬身

 

101:名無しの競馬野郎

>>100

tnks

こうしてみるとミカドヤベェな

 

102:名無しの競馬野郎

弥生賞とダービー以外は2〜3にいるな

 

103:競馬好きの猟師

セイウンワンダーの末脚は逃げる側からすれば脅威以外の何者でもないだろう。朝日のときのミカドは急に現れた彼に驚いていたしな

 

104:名無しの競馬野郎

猟師ニキまだいたんだ。

 

105:名無しの競馬野郎

けど実際そうだよな。あんなに離したのに数秒で追いつかれるってめちゃくちゃ怖いしな

 

106:名無しの競馬野郎

下手なホラーよりも恐怖

 

107:一文無し

私もこのレース現地で見ていたけどマジで凄かったよ迫力。

 

108:名無しの競馬野郎

ネキその時の馬券は?

 

109:一文無し

もちろん外したよクソッタレ!!

 

110:イッチ

女性がそんな汚い言葉を使ってはいけませんよ

 

111:一文無し

ごめんなさい

 

112:イッチ

許します。

 

113:名無しの競馬野郎

あの二人デキてんの?

 

114:名無しの競馬野郎

燃やすか?燃やすか?

 

115:名無しの競馬野郎

落ち着け、まだそうと決まったわけではない

 

116:イッチ

違います。

 

117:名無しの競馬野郎

本当でござるか〜?

 

118:名無しの競馬野郎

hey!五徹ニキ!実際にその二人はどうなの?

 

119:五徹

ここだけの話、菊花賞でミカドが勝った時、一文無しネキがイッチに抱きついていました。

 

120:名無しの競馬野郎

 

 

121:名無しの競馬野郎

 

 

122:名無しの競馬野郎

 

 

123:名無しの競馬野郎

ヤロウブッコロシテヤルゥゥ!!

 

124:名無しの競馬野郎

貴様ぁぁあ!!!!!

 

125:名無しの競馬野郎

女性の体に触れただとぉお!!

 

126:名無しの競馬野郎

万死に値する!!

 

127:新人

阿鼻叫喚…

 

128:名無しの競馬野郎

上の奴らすげぇな…イッチのそれは確かに血涙流すくらいには羨ましいけど

 

129:イッチ

これ俺、背中刺される?

 

130:名無しの競馬野郎

>>129

頑張れ〜

 

131:五徹

火に油とは言うが注ぎ過ぎた…

 

132:イッチ

五徹さん、今度会ったら竜巻旋風脚の刑

 

133:名無しの競馬野郎

悲報:五徹ニキ、終了のお知らせ

 

134:名無しの競馬野郎

さらば五徹ニキ

 

135:名無しの競馬野郎

ありがとう五徹ニキ

 

136:競馬好きの猟師

生きていたら酒飲もうや

 

137:名無しの競馬野郎

五徹ニキの処遇はどうでもいい。イッチよ。ネキに抱きつかれた時どう思った?

 

138:名無しの競馬野郎

>>137

貴様、それを聞くと言うことは!?

 

139:名無しの競馬野郎

耐性の無い我々の命が…

 

140:名無しの競馬野郎

死ねばもろともじゃ!!さあ吐け!イッチ!!

 

141:名無しの競馬野郎

ヤメロォォ!!シニタクナイ!!シニタクナイ!!

 

142:イッチ

ええ、柔らかくていい匂いがしました。

 

143:名無しの競馬野郎

 

 

144:名無しの競馬野郎

 

 

145:名無しの競馬野郎

 

 

146:新人

多分大半が死にました。

 

147:五徹

耐性が無い彼らにとっては耐えられるものではなかったか…

 

148:名無しの競馬野郎

おかしい奴らをなくしたよ

 

149:一文無し

これ私結構恥ずかしいんだけど。

 

150:名無しの競馬野郎

もう最初の話題どこいった。

 

 




次回は有馬かその手前の回を入れたいと考えています。


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帝の葛藤/夢の旅路

今回はI騎手曰く、冗談抜きで殺しにくると言われたあの気性難が登場します。



有馬記念

 

それは日本競馬の年末最後の大レース。ファンによって選ばれた16頭が出走できる祭典。

 

G1馬、重賞馬、OP馬、ファンや知名度があれば誰にでもそのレースに出る権利がある。

 

 

『そんな有馬記念に出走するのが俺たちってわけ』

『ほうほう』

 

俺ノゾミミカドは現在、共に有馬記念に出走するブエナに有馬記念がなんなのか教えていた。

 

『有馬はその一年、または今までどれだけ多くの人々に知ってもらえているかで選ばれる。だから嫌な言い方になるが実力が低くても選ばれれば出ることはできるんだ』

『そうなんだ』

『だけどそんな伏兵がいるからこそこのレースは展開が読み難いと俺は考えている。過去、このレースは何回も大波乱を起こしてきた』

 

オグリキャップ、復活のラストラン。ダイユウサク、驚愕の大逆転。グラスワンダー、総大将との大接戦一騎討ち。テイエムオペラオー、囲まれた馬群からのハナ差圧勝。ディープインパクト、最後の大衝撃。トウカイテイオー、奇跡の復活。

 

『そのレースに俺たちも出るんだ』

『話を聞いてるだけでも燃えてくるね…』

 

瞳の奥で静かに炎を燃やすブエナを横目に俺は有馬とはまた別のことを考えていた。

 

それはあるジンクス。『無敗の三冠馬は次走のレースで負ける』。

 

ルドルフ爺ちゃんはジャパンカップで、ディープインパクトは有馬で負けた。もちろん負けた理由は分かっている。じいちゃんは菊花賞をした後で、疲労が抜け切ってない、万全とは言い難い状態での出走。ディープも体調不良により力を出し切れていなかった。けど俺は二頭と違ってかなり万全に近い状態での出走になる。

 

『ここで負けたら、言い訳は出来ない』

 

ジンクスだろうがなんだろうが関係ない。俺は俺の走りをして勝つだけだ。

 

 


 

 

栗東トレセン ある調教場

 

『オラァ!!ケンイチ!!何するんじゃあボケッ!!』

 

「ちょっ!?落ち着け!!落ち着けって!?」

 

『好きなように走らせろ!!引き摺り回すぞゴラァ!!!』

 

「ヤバイヤバイヤバイ!!?ちょっまって!?」

 

ある競走馬と騎手が調教の為、馬場に出ていたがもはやこれは調教どころではない。方や上の人間の指示が気に入らないために暴れ回る。方やその馬に殺されると思いながら手綱を握る。

 

「テキ、ありゃあダメだ。また振り回されとる」

「だな…だがもう時間がない。宝塚で結果を残せた今だからこそ、アイツらは間違いなく強い…折り合いがつけばな…」

 

『おんどりゃあ!!オレ様の言う通りにせんかいこのアホンダラァ!!!』

「頼むから大人しくしてくれ!!ジャーニー(・・・・・)!!!!」

 

小柄な鹿毛の馬体に父親譲りの気性の悪さ、それでもその小ささからは考えられないほどのパワーを持つこの馬。

 

宝塚記念にて栄光を勝ち取った馬。

 

『夢の様な旅路・ドリームジャーニー』

 

古馬としてノゾミミカドとブエナビスタに立ち塞がる相手である。

 

『さっさと走らせんかい!!ケンイチオラァ!!!』

「ちょ待って、おわぁぁぁ!!!!??」

 

「あっ!!また振り落とされた!!!」

「やれやれ、またかい…」

 

……こんな惨状であっても自分を曲げないドリームジャーニー相手に二頭はどう立ち向かうのか。

 

有馬記念はもう直ぐだ。




はい。皆さんご存知ステマ配合の一頭である『ドリームジャーニー』の兄貴でございます。
みんな大好きチームikzeの筆頭であり、小柄だけど他馬に負けないパワーを持つドリジャの兄貴は史実では2009年の有馬でブエナビスタを打ち倒しています。(その代わりブエナの兄でありこの小説でも準レギュラーであるアドマイヤオーラさんには負けたことがあります:2008年弥生賞三着)。
果たしてミカドたちはこの気性難に勝つことはできるのか?
次回はいよいよ有馬記念!
お楽しみに!!


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帝の有馬/黄金の旅路 前編

今回は前・中・後の構成で行こうと考えています。


有馬記念

 

それは年末の中山でファンによって選ばれた16頭によって行われる夢の祭典

 

神に愛された葦毛の怪物

『オグリキャップ』

 

祭典を制した老雄

『スピードシンボリ』

 

閉ざされた道をこじ開けた覇王

『テイエムオペラオー』

 

三度の栄光と三度の挫折を味わい奇跡の栄冠を手にした帝王

『トウカイテイオー』

 

年末の最後の大一番

さあ、盛り上がろう

 

枠番馬番馬名人気
1枠1番アンライバルド10番人気
1枠2番ブエナビスタ2番人気
2枠3番ミヤビランベリ9番人気
2枠4番マイネルキッツ13番人気
3枠5番コスモバルク16番人気
3枠6番エアシェイディ12番人気
4枠7番マツリダゴッホ4番人気
4枠8番リーチザクラウン7番人気
5枠9番ドリームジャーニー3番人気
5枠10番ノゾミミカド1番人気
6枠11番イコピコ11番人気
6枠12番テイエムプリキュア15番人気
7枠13番スリーロールス8番人気
7枠14番セイウンワンダー5番人気
8枠15番ネヴァブション14番人気
8枠16番フォゲッタブル6番人気

 

 


 

 

俺ノゾミミカドは現在、中山競馬場のパドックに来ている。理由は勿論、有馬記念に出走する為だ。

 

『ミカド〜!!一緒に頑張ろうね〜!!』

 

うん、ブエナ。俺と一緒に走れて嬉しいっていうのは分かるけどね。君2番だから君が進まないとパドック渋滞しちゃうから。他の奴らに迷惑かけちゃうから。

 

 

『2番、ブエナビスタ。かなり興奮していますね』

『恐らく、周りの強力なライバルたちの闘気に当てられたからだと思われます。これをレースで活かせればいい走りが期待できます』

 

 

実況と解説の兄ちゃん達にも言われてんぞ。肯定的なものだけど。

 

(そんで…俺の目の前にいるのが…)

 

目の前にいる一頭の競走馬。小柄な馬体に鹿毛の毛色。後の時代にも大きな影響を与える一族、ステイゴールドと母父メジロマックイーンの『ステマ配合』によって生まれた一頭。

 

夢への旅路・ドリームジャーニー

 

俺の前世ではこの有馬でブエナを抑えて一着を取り、春秋グランプリを制したグランプリホース。そして、主戦騎手が「他の馬はあくまで戯れているのに対し、ドリームジャーニーは本気で殺しに来る」と言われた程に気性難に気性難を重ねた様な奴だ。

 

(絶対絡まれるだろうなぁ…穏便に過ごしたいけど…そうはならないよなぁ)

 

取り敢えずなる様になれだ。俺は俺でレースに集中しなくちゃな。

 

『オイコラテメェら!!何歩かせとんじゃ、さっさとコースの方に行かせろゴォルゥラァ!!!』

 

「おわっとと!暴れんなコラ!!」

 

 

『9番、ドリームジャーニーは、かなり興奮していますね』

『宝塚記念で勝利を掴み、この有馬でも好走が期待されています。何より今回はノゾミミカドとの対決が注目されていますからね』

『ドリームジャーニーの母父は名優と呼ばれたメジロマックイーン。そしてノゾミミカドの父はこの有馬記念で奇跡の復活を遂げたトウカイテイオー。92年の天皇賞・春から17年の時をえて、その血を受け継いだ仔たちが戦うというロマンがありますね』

 

 

………見てたら集中力削がれそうだし、見ないようにしよ。

 

「ミカド?どうした?」

 

『何でもないっすよ真司さん』

 

 

『ロマンと言えば、この2頭もそうです。ブエナビスタとセイウンワンダーの2頭』

『それぞれの父は黄金世代を彩った日本総大将スペシャルウィークと不死鳥グラスワンダーですからね。ブエナビスタは父が取れなかったタイトルを取れるのか?セイウンワンダーは父が取ったこのレースで初のG1タイトルを勝ち取ることができるのか?今年の有馬記念は目が離せませんね』

 

 

あっそうか。確かに血統から見たら今回の有力馬になっている奴らって親や祖父とかがライバルだったり当時の最強対決をしたりで関わりが濃い。

 

俺ならドリームジャーニーで、無敗と連覇で盛り上がったTM対決の再来。ブエナとワンダーは最強対最強で接戦を演じたあの2頭の有馬。

 

『今回の有馬、前世よりも大白熱のレースになりそうだ』

 

まあ、勝つのは俺だ。

 

 


 

 

パドックからコースに出て、返し馬を始める。少し走って、脚が馬場に馴染んだ頃、2頭の馬が俺に近づいて来た。

 

『ミカド〜!』

『ミカド。少しいいかい?』

 

『『ん?』』

 

全く同時にやってきたブエナとワンダーの2頭。互いに顔を合わせる。

 

『君誰?私ミカドに用があるんだけど?』

『君こそ誰だい?名前を聞くならまず自分からとよくいうだろう?』

『私はブエナビスタ。ミカドと同じ厩舎で牝馬二冠の馬よ!!』

 

誇らしげに少しオーバーな感じで自己紹介するブエナに対してワンダーはそれを淡々と返す。

 

『そうか。僕はセイウンワンダー。ミカドのライバルだ。よろしく』

『ライバル?何いっているの?ミカドのライバルはこの私よ!!』

『君こそ何いっているんだい?僕は今まで何度もレースで彼と凌ぎを削ってきた。君は見たところレースで彼と走ったことはないだろう?』

『併せとかで何回も走ったことがあります〜。走った量は絶対私の方が上です〜』

『調教とレースの走りは全く違う。レースで共に競った回数は僕の方が圧倒的に上だ』

『何よ!』

『何さ!』

 

……なんかよく分かんないけど俺のことでマウント取るんじゃなくて自分の何かで争えよ。火花のちらし方それでいいの?

 

 

『2番ブエナビスタと14番セイウンワンダーが睨み合っています。』

『脅威となるライバルを見つけたのでしょう。父たちに続きその仔たちもライバルになる。血統から来るロマンですね』

 

 

違います。俺に対してのマウントを取り合っています。その意味ではライバル……なのかな?

 

『ミカドのライバルを自称するのなら、私に勝ってみなさい!!勝負よ、セイウンワンダー!!』

『その勝負、受けてたとうブエナビスタ!!』

『本当なんだこれ?』

 

二頭のよく分からん謎のライバル関係が構築された。同期の変な行動に呆れながらも俺はそろそろゲートの方に向かおうとした。

 

『オイオイオイオイ!そこの白い流星の黒鹿毛野郎!』

 

白い流星?黒鹿毛?そんな特徴のある馬なんて……

 

『おい無視すんじゃねぇぞゴルゥラァ!!!お前だよ!!黄色のゼッケン着ているお前だゴォルゥラァ!!!』

 

黄色のゼッケン……あっ、俺か。

 

『はいはい、どちら様…です……か………』

 

そこにいたのは…

 

『おいテメェ……このドリームジャーニー様を無視するとはいい身分だなぁ…あぁ!!?』

 

小さい鹿毛の馬、ドリームジャーニーだった。

 

『うぇぇ……俺になんか用すか…?』

『何露骨に嫌な顔してんじゃてめぇ!?舐めてんのか!?あ”あ”!!?』

 

だって正直一番関わりたくないタイプの性格の奴だし……にしても……

 

『あ”あ”!?何ジロジロと俺のこと見てんだテメェ!!?』

 

…ちっさぁ……

 

ノゾミミカド:馬体重488kg ドリームジャーニー:馬体重426kg

 

この小ささでよくパワー負けしなかったな…今まで。

 

『まあいい。おいテメェがノゾミミカドだよな?お前のことはウチの組でも有名だ。何でも無敗の三冠馬何だろう?』

『ああ。一応な…それで?わざわざ宣戦布告しにきたわけで?』

『いや違う。俺様が今回しにきたのはな…』

 

『テメェら新人共は俺様に完膚無きまで叩きのめされるっていう俺様の勝利前言を言いにきたのさ!!』

 

『っ!?』

『ウエっ!?』

『くっ!?』

 

その時放たれたのはとてつもないオーラ。俺や後ろにいたブエナとワンダーもそのオーラに呑まれる。

 

『まあ勝つのは俺様に決まっているっていうことだ!そこの牝馬とG1未勝利はまず相手にならねぇだろうし、無敗のお前はこんなボケっとしているんじゃな!!』

『なっ!?私たちのことを馬鹿にしているの!?』

『過去G1未勝利馬があらゆる猛者たちが集うG1の舞台で勝利を掴んできている。貴様の様な奴に僕は負けない!』

『言うじゃねぇか!?でも俺の気迫に一瞬呑まれたテメェらが俺を超えられんのか!?』

 

二頭はそれを言われ、押し黙ってしまった。確かに相手の気迫に呑まれてしまった自分たちが何をいってもこいつは訂正はしないだろう。

 

 

だがな…

 

 

 

『おい…』

 

『あっ!?なんだよテ』

 

『俺らをあまり舐めるなよ?』

 

少し、お痛が過ぎるぞ?

 

『なっ!?』

 

『確かに貴様は強い。だがこの先ずっと強いと思うな。世代交代っていう言葉があるんだ。お前にとっちゃそれが今日だ。覚悟しろよドリームジャーニー』

 

 

『お前に勝つのは俺たちだ!!』

 

俺の言葉に続く様にブエナとワンダーもそれぞれの言葉を出す。

 

『調子にのんなよ?お前は私がぶっ潰す!』

 

『精神一到何事か成らざらん……僕は僕の走りでこのレースに勝つ!僕らを甘く見るな!!』

 

俺らの啖呵に奴は少したじろいだがメンチを切って返す。

 

『へっ…そこまで言うんだったら見せてみろよ!!テメェらの走りをな!!』

 

そう言い放った奴は先にゲートの方へと向かった。

 

『ああ〜スッキリした!ミカド、カッコよかったよ!』

『あの様な輩は相手しないのが一番なのですが…やれやれ僕もまだまだです』

『でもこれで負けられない理由がもう一つできたな?』

 

そうい言うと二頭は頷いた。

 

『馬鹿にされたままじゃ終われない。俺らの実力、古馬の先輩たちに見せつけてやろうぜ!!』

 

『『応!!!』』

 

 




ドリームジャーニーとの対面。
血統から見ると親同士が当時のライバルとかでそこで盛り上がる人ってそれなりにいますよね。
ジャーニーの性格は人間嫌いで唯我独尊。自分んが一番強い奴じゃなければ気が済まない性格。三頭の気迫をくらい直ぐに評価を改めたので決して嫌な奴ではありません。言動が荒くて素行も悪くて相手を見下して入るが、強い奴と認めればある程度改善される。

次回からいよいよレースに入ります。お楽しみに!!


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帝の有馬/黄金の旅路 中編 有馬記念(G1)

今回もなんか中途半端です…

今月末と来月の始めはマジで忙しすぎて全然執筆が進みませんでした。
多分次の投稿は8月の半ばです。それまでお待ちください。

それでは、本編どうぞ!


福長side

 

「ミカド、準備はいいか?」

 

『ブルルッ』

 

年末の中山でファン投票によって選ばれた16頭により行われるレース有馬記念。無敗の三冠馬となったミカドは多くのファンの後押しにより、見事投票率一位となった。

終わった血と言われたトウカイテイオー産駒たちの希望となり、骨折をしても驚異的な回復力で直しレースに出走、父が叶えられなかった悲願を成し遂げた。本当にお前はすごい馬だよ。

 

「おっ?あれは…」

 

二頭の馬がこちらに近づいてきた。一頭はミカドと同じ厩舎のブエナビスタ、もう一頭は今まで激戦を繰り広げたセイウンワンダーだった。

 

「雄一、すまんなコイツがこっちにきたがっていたもんで」

「大丈夫ですよ、富士田さん」

 

富士田真二(ふじたしんじ)。今回のセイウンワンダーの騎手を務める人だ。

 

「こっちもよろしく頼むよ雄一。コイツもかなり気合いが入っているようだし」

「はい、横谷さん」

 

ブエナビスタの方は横谷さんが騎手を務める。

 

「今年度の実力馬三頭の揃い踏みってとこですね…」

 

クラシック三冠馬であるノゾミミカド。牝馬二冠のブエナビスタ。何度もミカドを追い詰めてきた実力馬セイウンワンダー。今年の三歳馬たちの実力は古馬たちにも負けない。

 

『ブルッ…』

『ブルフッ!!』

 

「セイウンワンダー?何があった?」

「おっと…どうした、ブエナビスタ?」

 

ブエナビスタとセイウンワンダーがなぜかお互いを睨み出した。耳も絞るまではいっていないが警戒しているせいでピンっと立っている。

 

「どうしたんですか?二頭ともすごい警戒していますけど…」

「いや、分からない。急にセイウンワンダーが警戒仕出して」

「こっちもです。ブエナビスタ、セイウンワンダーに何かしたか?」

 

こちらもミカドの方を見るがこっちは耳と視線があちこち動いていて、不安を表す行動をしている。仲のいい厩舎の仲間とライバルが急に目の前で互いを警戒し始めたのだから分からんでもない。

 

「そういえば、コイツらの親はライバルだったよね?」

「確か…そうだったな…」

「はい。それこそこの有馬で…」

 

ブエナビスタの父スペシャルウィークとセイウンワンダーの父グラスワンダーは黄金世代と呼ばれたあの世代で互いに最強と呼ばれた存在だ。

噂ではスペシャルウィークはグラスワンダーの影響で元々馬が苦手なのも相まって栗毛の馬が更に苦手になったとも言われている。

 

歴史は繰り返すというが親の影響が仔にも現れるとは…

 

「一度離した方がいいと思います。ここで暴れて怪我でもしたら洒落になりませんから」

「そうだな…真二」

「わかってます。ワンダー、動くぞ」

 

セイウンワンダーが動こうとした時だった。

 

「おっ、おい!落ち着けって!!」

 

ドドドッドドドッ!!

 

そこそこの勢いで一頭の馬がこちらに突撃しにきたのは。

 

「うわっとと…!お前な、危ないだろ!!他の馬たちが驚いているぞ!!あっ、すいません!皆さんウチのジャーニーがご迷惑を…」

 

やって来たのは宝塚記念で勝利したドリームジャーニーとその鞍上『池副健一』(いけぞえけんいち)だった。

 

「すみません。コイツが急に動き出して…」

「健一…無理にとは言わないがちゃんとソイツを制してくれよ。噂じゃ滅茶苦茶暴れるんだろう?」

「毎日殺されそうになっています…レースではまだいうこと聞いてくれるのが不幸中の幸いです…」

 

ドリームジャーニーが暴れ馬ということは栗東は勿論、美浦の方でも噂になっている。父ステイゴールドはもちろん癖馬。さらに遡るとサンデーサイレンス、ヘイローとその気性は荒くなり、今の代では大分マイルドにはなったらしい。

 

『ブルッ!!ブフッ!』

『ヒンッ!?』

『ブフフン!』

 

馬同士でも何か会話でもしているのか、ドリームジャーニーの反応にブエナビスタとセイウンワンダーが耳を立てる。

 

多分挑発でもしているんだろう。これ以上コイツらを一緒にさせて置くと本当に喧嘩をし始めるかもしれない。そろそろお開きにしようと言おうとした次の瞬間だった。

 

『ブフンッ…』

 

ミカドがかなりの圧を出しながら彼らの間に入って行ったのだ。ミカドの耳は完全に絞られており、誰がどう見ても『怒っている』ことが分かり、その怒りは目線の先にいるドリームジャーニーに向けられていた。

 

『ビヒンッ!?』

 

ドリームジャーニーは突然目の前にいた相手の雰囲気が変わったことで驚いていた。その後、ブエナビスタとセイウンワンダーもドリームジャーニーに向かって挑発のようなことをし、ドリームジャーニーも一度鳴いてから、自らゲートの方に向かって行った。

 

「ミカド…お前、同期が馬鹿にされたから怒ったのか?」

 

『………』

 

ミカドは何も反応しない。普段は心優しい馬だからこそ驚いた。俺は今までコイツが耳を絞ったところを殆ど見たことない。一度、ミカドが注射針を偶然見た時、酷く怯えた感じで耳を倒していたがこれはどちらかというとこれから始まることへの恐怖からだったのだろう。

*ミカドはワクチン摂取などで注射するときは馬が変わったかのように暴れ回るほどの注射嫌い。この時は担当厩務員の真司がミカドに吹き飛ばされ厩舎の壁と熱烈なキスをする羽目になった。

 

「お前が怒ることがあるなら、それはきっと仲間が馬鹿にされた時ぐらいだろう。お前は優しいからな。

 

なら、奴を見返してやれ。俺らの世代はお前が思っているよりも強いってところを」

 

『ビヒィン!!』

 

 

 


 

ミカドside

 

 

『晴れた空の下、ここ中山で年末の大勝負が始まろうとしています。年末最後の大祭、『有馬記念』!!今回は特に多くの強者が集いました。無敗の三冠馬、牝馬二冠馬、春のグランプリ覇者…誰が栄光を掴むのか非常に楽しみです』

 

 

ゲート前に来て、俺は一度呼吸を整える。朝日杯、皐月賞、ダービー、菊花賞。多くのG1レースに出走して来たがこの有馬はまた違う。今までは同い年たちでレースをして来たが有馬は三歳馬と古馬たちの混合。先輩方たちとのレースになる。経験というものでは俺たちは古馬たちに圧倒的に不利だ。向こうは俺たちが知らないようなことを知っている。馬たちの情報戦では向こうにアドバンテージがある。

 

(今までとはまた違った空気だ。ナチュラル先輩のような内から燃え上がる気配、オーラ先輩のような静かな気配、モナーク先輩のような歴戦の猛者のような気配、これが古馬たちか…)

 

俺にとっちゃ初めての古馬たちとのレースだ。色々学ばせて貰って、勝つ!!

 

ゲートに入り、全ての馬たちが入るのを待つ。隣にはさっき挑発し返したドリームジャーニーが入る。

 

『よう、三冠馬サマ。よろしく頼むぜ』

『こちらこそ、グランプリホースサマ。全力で叩きのめしに行くぜ』

 

全頭が入り、いよいよ出走の準備が整う。

 

 

『全頭、出走準備が整いました。年末最後の祭典有馬記念!』

 

 

ガゴンッ!

 

 

『スタートしました!ドリームジャーニーは後ろに行きました。最初にハナを取ったのは無敗の三冠馬となったノゾミミカド。久しぶりに逃げに出ました。続いて2番手に着いたのは菊花賞でもレースを引っ張ったリーチザクラウン。続いてミヤビランベリ、その後ろにテイエムプリキュア。ブエナビスタが少し前に行こうとしています。4コーナーを抜け、ブエナビスタは先団内側にいます。ホームストレッチを通り先頭はノゾミミカドとリーチザクラウンがハナを進みます』

 

 

『リーチザクラウン。今日は久しぶりに俺が先頭を仕切らせてもらうぜ!』

『いや、今日も僕が先頭だ!』

 

今回は逃げの作戦。中山での俺は基本逃げか先行だが今回の逃げはいくつか理由がある。一つはブエナやワンダー対策。アイツは基本は差しで後方から一気に先頭に来る。だから馬なりが速い俺が先頭に立ち、レースを高速化させ、末脚を伸びにくくさせるのが目的だったんだが……ブエナは今回先行策。横谷さん、俺が逃げると踏んでブエナを前に出したな?あの人毎回変わったことしてくるから怖いんですけど…

二つ目はコースの特性上から。中山は短い直線と急坂が名物なのはご存知の通りで、定石では逃げ・先行が有利。それに俺の中山での逃げ勝利率は100%。慣れている逃げが安定して走れるから前に出た。あとは今回逃げ馬が多い(俺、リーチザクラウン、テイエムプリキュア、ミヤビランベリ)。だから先行で行くと垂れて来た時に囲まれたり、俺の集中が邪魔されるかもしれないから、それなら最初から先頭にいればいいじゃんってことでこうなった。

 

 

『1000mを越えて、今のタイムは58秒3!?かなり速いペースとなっております。依然先頭はノゾミミカド。リーチザクラウンはその外側にいます。ミヤビランベリはさらに5馬身後ろ。テイエムプリキュアも続きます。更に少し離れて皐月賞二着のアンライバルト、その外に牝馬二冠のブエナビスタが上がっていく!スリーロールスがいてその外にイコピコ。その内にマイネルキッツ。おっと、スリーロールスが後ろに下がった!?スリーロールス故障発生か!?』

 

 

スリーロールスに故障!?あっそう言えばこの年の有馬故障して競争中止になった奴がいたけどそれお前か!?アイツ大丈夫か?

 

「ミカド、ライバルが心配なのは分かるが今はレースに集中しろ。きっと大丈夫だ」

 

『雄一さん…すみません。気合い入れ直します。むしろアイツの分も走りきります!』

 

そうだ。アイツは俺とワンダーと一緒に菊花賞でトップ争いしたほどの奴だ。きっと大丈夫なはずだ。

 

 

『思い掛けないトラブルが起きましたがレースはまだまだ続きます。向こう正面、先頭はノゾミミカド。このままレースを引っ張ることができるのか?』




取り敢えずここまでです。
最後の直線勝負は次回に持ち越します。


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帝の有馬/黄金の旅路 後編 有馬記念(G1)

はい、約3ヶ月ぶりの投稿になります。

8月中はのんびりしていました。
9月は合宿とか色々行っていました。
10月に入ってやっと取り掛かることができました。

本当にすみません。


『向正面、先頭はノゾミミカド。レースをこのまま引っ張っていくのか?』

 

 

「ノゾミミカドは得意の逃げでレースを引っ張る作戦に出たな」

「どうした急に」

 

観客席では、いつもの通り翔一と一真がミカドのレースを観戦していた。

 

「有馬記念は長距離レースの中では2500と短い距離ではあるが、だからと言って楽なレースではない。中山の特徴である急坂に加え、歴戦の猛者たちが集うこのレースは若馬たちにとってはアウェイになることが多い。古馬たちが持つ『経験』というアドバンテージには絶対に若馬たちは勝てないからな」

「確かに、古馬なら色々なレースで経験を積んで、どういう走りが一番いいか分かっているかもしれないもんな」

「そう。だからノゾミミカドたちは前に出た。皐月賞と同じ様にレースの流れを自分が有利になる様にしているんだ。他の馬や騎手たちがこの流れを変えるには、知恵や策略で流れの向きを自分の方に向けるか、圧倒的な力で流れそのものを飲み込むしかない」

 

「そして、今回のレースではその流れを変える2つの要素が存在する」

 

しかし今回はいつもと少し違う。

 

「森さんの言う通り、知略という意味では横谷騎手だね。要注意であるブエナビスタが今回前に出たことでちょっとしたイレギュラーになった。今まで後方からの競馬をしてきた馬が前の方にいるだけでレースがわかりづらくなる。ミカドは逆に向こうの作戦に飲まれない様に注意する必要が出てくるから、そのスキを突かれたら一気に流れが変わる」

「一方、力の方はドリームジャーニーね。小柄な馬体からは考えられない様なパワーで他馬を圧倒する。池副騎手もジャーニーの性格を十分わかっているからその力を発揮しやすい様に動くでしょうね。流れをブチ壊す程の暴力的末脚が炸裂したら一気にレースが変わるわよ」

「自分は全然わかりませんが、セイウンワンダーも結構いい位置にいると思いますよ」

 

菊花賞で出会った四人がいるからだ。

 

上から順に、五徹、イッチ、一文無し、新人である。

 

「確かに、ノゾミミカド、ブエナビスタ、ドリームジャーニー、セイウンワンダー…この四頭が凌ぎを削るだろう。帝による世紀末覇王に続く年間無敗か、絶景による牝馬有馬制覇か、夢の春秋グランプリ制覇か、青雲による初のG1制覇か…」

 

誰が勝つのかは全くわからない。この祭典は多くの奇跡やドラマが生まれる舞台。今年は一体何が起こるのか…

 

この場にいる誰もがそう思いながらレースを見守る。

 

 


 

 

向正面の途中でスリーロールスが故障するというハプニングが起きたがレースは続く。俺は現在先頭。二番手とは1馬身半ぐらいの感覚で走っている。

 

 

『先頭は依然ノゾミミカド。その後ろにはリーチザクラウン、三番手にミヤビランベリとテイエムプリキュア。二馬身離れてアンライバルとその外ブエナビスタ。マツリダゴッホが半馬身差でつけています。後ろにイコピコその外にマイネルキッツ、一馬身後ろにネヴァプション、コスモバルク、更に少し離れてセイウンワンダー、フォゲッタブル、ドリームジャーニーは後方から二番手。そして殿、エアシェイディ。こいった展開になっております。先頭集団が第三コーナーに入ります。』

 

 

『クッソ!なんで追いつけねぇ!』

 

『は、速い!』

 

『ここまで…とは…!』

 

どうやら先頭で俺に着いてきた逃げ馬たちは俺のペースに無理して着いてきたせいでスタミナに限界が来ているようだ。多分、四コーナーに入る前に垂れるな。

元々ハイペースになるようにレースを進めていたから、逃げ馬たちが俺の速いペースで潰れるのは時間の問題だった。

 

『でもまだ保ってくれよ…アイツらが抜け出してくる時間を少しでも稼ぎたいからな』

 

 

『先頭ノゾミミカド、二番手のリーチザクラウンは一馬身後ろにいます。ここでブエナビスタが三番手に上がってきました。』

 

 

『ミカドォォォ!!』

 

………いやいやいや早くね?抜け出してくるの早くね?今まだ三コーナー中盤くらいだよ?四コーナー入ってすらいないよ?

 

「まさか、横谷さん前の馬が垂れる前に早めに前に出したのか!?」

 

『ヤバイな、ブエナの末脚は俺にも引けを取らないぐらいの威力があんだぞ?』

 

 

『おっと、ここでセイウンワンダーも前に出た!大外からロングスパートをかけてライバルを今度こそ差し切ることができるのか?』

 

 

『皐月賞と同じては喰らわない。今度こそ君に勝つ!』

 

『お前もかぁぁ!!?』

 

いやそうだよな!?皐月賞で全く同じやり方だからそりゃあ気づくよな!?コースも一緒だからデジャヴ感じるしな!?

 

「ミカド、落ち着け!まだ猶予はある!四コーナーで一気に離すぞ!」

 

 

『四コーナーに入り、先頭は依然ノゾミミカド。しかし、後続には牝馬二冠のブエナビスタ、激闘のライバルセイウンワンダーが上がって来ている!この三頭の三つ巴になるのか!?』

 

 

「よし、行くぞミカド!!」

 

『オッシャアァァ!!』

 

雄一さんからの鞭が入る。いつもの様に脚に力を溜め、一気に開放させる。

 

「さて来たよ。ブエナビスタ、僕らも行こうか!」

 

『分かったわよ。横谷さん!』

 

「ワンダー。このまま大外で行くぞ!」

 

『了解です!』

 

 

『さあ、いよいよ大詰めになって来ました有馬記念!四コーナーを抜けて直線に入り、前三頭はいずれも三才馬!若き優駿が後続を引き離して行きます!この三頭が決めるのか!後続勢は間に合わ……いや!?いや!?最後方から一気に追い上げて来る馬が一頭!ドリームジャーニーだ!すごい勢いで順位を上げていく!』

 

来てしまった…小さき暴君が…

 

『オラオラァ!!退きやがれぇ!こっから先は俺様の、いや俺様たちの道だぁぁ!!』

 

「後は思いっきりぶちかませぇぇ!!ジャーニー!!!」

 

 

『ドリームジャーニー猛追!離されていた差を一気に縮め、今セイウンワンダーを抜き!』

 

 

『邪魔だぁ!!』

『クッ!?なんて馬鹿力だ!?』

 

 

『ブエナビスタを交わし!』

 

 

『どけやぁ!!』

『なっ、速っ…!?』

 

 

『そして、ノゾミミカドに追いついた!!』

 

 

『やっと追いついたぜ…三冠馬サマよぉ!』

『滅茶苦茶すぎるだろうお前の末脚…!』

 

少なくても先頭からコイツがいた位置は六、七馬身はあったはずだ。それをこの短時間でとんでもないスピードとパワーで追いついて来やがった!

 

『でもこっから先は抜かせねぇぞ!グランプリホース!』

『言っていろこのガキ!お前もう限界だろうがよ!』

『まだまだ余裕だコラ!』

 

急坂を全く同じスピードで駆け上がる俺たち。ゴール版がもう目の前に見える。

 

『絶対に抜かせるかぁぁ!!』

『勝つのはこの俺だぁぁぁ!!』

 

 

『ノゾミミカド粘るノゾミミカド粘る!ドリームジャーニーも負けじと喰らいつく!夢への旅路か!?帝の王道か!?どっちだぁぁ!!??』

 

 

殆ど同じスピード、タイミングで俺たちはゴール版を駆け抜けた…

 

 


 

 

『全く同じタイミングでゴール版を駆け抜けましたノゾミミカドとドリームジャーニー!!勝ちタイムは2:29.7!!なんというタイムだ!この2頭がどれだけ激しい戦いをしたかが分かります!写真判定です!しばらくお待ちください』

 

 

ゴール版を抜けた時は俺とミカドはもう息絶え絶えだった。ブエナビスタやセイウンワンダーが早めに前に来ることはなんとなく分かっていた。けど一番予想外だったのはドリームジャーニーだった。最後方から、まるでミサイルの様に飛んできたあの馬に俺らは圧倒された。この馬の前には馬群という壁は意味を成さない。圧倒的な暴力で全てを壊し道を作る。

 

「健一、今回はしてやられたわ」

「いえいえ、コイツなら絶対に追いつけるって信じていますから。後は思いっきり走れる様にサポートすればコイツは伸びます」

 

自身満々で語る健一。その言葉にはドリームジャーニーに対する絶対的な信頼を感じた。

そうか、コイツにとってドリームジャーニーは俺にとってのミカドと一緒の様なものなのか。

 

「じゃあそんな自信満々な健一に聞くが、差し切れたか?」

 

俺がそう言うと、先ほどの自身に満ちた態度から一転、健一は目を伏せた。

 

「……正直に言って、分かりません…ジャーニーは最高の走りをしました。けどノゾミミカドを差したかどうか全くわからないんです。」

「……俺もだ。ミカドの今出せる最高の走りをしたが逃げ切れたかどうかと言われると怪しい。」

 

本当、ミカドに乗るとこんな感じにいっつもなる。

 

『ブフン!』(勝ったのは俺!)

『ブルグァ!!』(いや俺様だ!!)

『フンッ』(何言ってんだかこのチビ)

『ビヒィン!!』(テメェ今なんつった!!)

 

下を見ればミカドとドリームジャーニーが言い争っていた。自分が勝った言い合っているんだろう。

 

「健一、一先ず今は少し待とう。長くても10分もすれば結果は出るはずだ。」

「そうですね。」

 

取り敢えず今するべきことは、蹴り合いの喧嘩に発展しそうな二頭を離さなければ。

 

 


 

 

『マジでブッ潰すぞこのガキ!!』

『上等だ!今ここでもう一度勝負するかコラぁ!?』

『願ったりだ!俺様の偉大さを体に刻み込んでやるぞゴラァ!!』

『チビが何言ってんだ!?テメェがでかいのは声と態度だけじゃゴラァ!!』

 

『何やってんだ君達は…』

 

俺とドリームジャーニーは自分が勝ったと言い合いをしていた。

 

『ワンダー!でもコイツお前らのこと馬鹿にした挙句さっき『アイツら弱かった』ってハナで笑ったんだぜ!!許せるわけないだろ!!』

『実際僕らは彼にあっさり抜かされた。それは事実。今回のレースに限っては僕らは彼より弱かったと言うだけだ』

 

淡々と言っているけど俺には分かるぞ。コイツクッソキレていると言うことを。なぜなら…

 

『そもそも僕が最も得意とするのは長距離ではなくマイルあたりだ。しかもハイペースで進んでいた今回のレースでは追い込みである僕は仕掛けるタイミングがかなりシビアになる。そもそもこんな奴みたいなのが近くに居なければ冷静に行くこともできたんだ。それに今回はそのスピードとパワーに圧倒されてしまったが次戦う時はそうはならない。何故なら、コイツがどう言う走りだからと言うことがあらかじめ分かっているからな。それに…』

 

早口で耳絞って、前足掻いていたら10頭中10頭がコイツ機嫌悪いなって答えるわ。

 

『ハン、結局負け惜しみしてんじゃねぇか。』

『オイ、これ以上俺の仲間のことを馬鹿にすんじゃねぇぞ。』

 

本当コイツなんでこう口や態度が悪いんだ?

 

『いい加減にしなよミカド、みっともないよ?』

『ブエナ…でも…』

 

『何を言っても私はドリームジャーニー(態度悪いチビ)に負けた。それは変わらない。』

『おい待て。お前今俺の名前になんか含んだよな?なんて言ったコラ?』

 

『負けは負け。負けても勝利に繋がるものをそこから死ぬ気で見つけて身に着ける。そうでしょ?』

『!!』

 

その言葉は以前、ブエナが新馬戦に負けた時にモナーク先輩がブエナに言った言葉だった。

 

『ドリームジャーニー。』

『アン?』

『ありがとう。全力で勝負してくれて。次は負けないから』

 

そう言いながらドリームジャーニーを見つめるブエナ。ドリームジャーニーは一瞬ポカンっとしていたがすぐに元に戻り、ニヤリと笑う。

 

『おもしれぇなお前。』

『ミカドによく言われる。』

『ブエナビスタだったな。覚えておくぜ。』

 

そうやっているうちに競馬場にざわめきが走る。どうやら結果が出た様だ。

 

『お前ら、どうやら結果が出た…らしい……ぞ…』

 

掲示板に映った順位を見て俺は固まってしまった。

 

『ミカド?どうしたんだい?』

『あのデンコーケージバンっていう黒い大きな板に順位が出るみたいで、ミカドはそれが読めるから結果を見て固まったんだと思う』

『固まったっていうことはお前の負けか?なら俺様の勝利だぜ!』

 

『いや、違う』

 

『『『??』』』

 

『なら君が勝ったのかい?』

『違う』

『えっえっ?ミカドどういうこと?レースで勝つのは一頭だけでしょ?ミカドがそう言っていたじゃん!』

 

そうだよブエナ。だけどな本当にごく稀に例外(・・)が出るんだよ。

 

『マジかよ…』

 

 

同着
10同着
141/2

 

 

『こりゃあ同着だ…』

 

 

『なんと同着です!!我が日本競馬史上初のG1レースでの同着判定です!!』

 

 

一瞬の間も無く、大歓声が湧き上がった。

 

『同着?』

『ああ…本当にごく稀に見分けがつかないぐらい全く同じタイミングでゴールした場合だけでる判定だ』

 

前世だと来年のオークスで同着が起きるけどG1ではそれだけしか同着判定は出ていない。つまりは本当に珍しいことなんだ。

 

『オイ。それってつまり…』

『今回は引き分けってこった。残念ながら。』

『はぁぁ!?なんだそれ!?意味わかんねぇ!?』

『結果はもう出ちまったから仕方ねぇよ。文句は人間サイドに言え。』

 

納得がいかねぇといった感じになるドリームジャーニー。俺も不完全燃焼だがこれが覆ることはもうない。

 

『オイ、ノゾミミカド!』

『なんだ?』

『次は俺が差し切る!誰が見ても俺の完全勝利ってわかるくらいの差をつけてテメェに勝つ!』

 

その目には必ず次は勝つという闘志が宿っている。気に食わない奴ではあるが、俺もコイツとは決着をつけたいのは事実だ。

 

『ならこっちもだ。今度はお前も追いつけないほどの差をつけてお前に勝つ!』

 

『逃げんじゃねぇぞ』

『そっちもな』

 

その後、二頭並んで写真撮影やら色々あったんだが、アイツが事あるごとに俺にちょっかいを出してくるので蹴っ飛ばしたら乱闘に発展。怪我人とかは出なかったが俺は無茶クソに怒られたのであった。

 

やっぱアイツとは文字通り馬が合わない。

 

 




次回はなるべく早く出します。
取り敢えずアンケートで募集したものを消化しようと思っています。

それではまた次回をお楽しみに!


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帝の進路/世界への道

今回は短めです。
ミカドが進む道はいったいどうなるのか?


年末

 

松戸厩舎

 

「今年は激動の年だったな…」

「ですね…」

 

松戸と真司は厩務員室に取り付けられているテレビを見ていた。

 

「ミカドとブエナがクラシックを総なめ。さらにミカドは骨折からの復帰で不利と言われた菊花賞を無敗で勝って三冠馬になって、有馬で日本初のG1競走同着判定+朝日杯を含めてG1五勝…」

「言葉にすると頭がおかしくなるな…」

 

あんな馬がいて良いのかと思えるほどミカドの活躍はおかしい。

 

「来年はどうするんですか?あいつが出れる早いG1はマイルだと安田記念、中距離は宝塚記念、頑張れば長距離の天皇賞・春がありますけど…」

「それは国内に限定すればの話だ。」

「えっ?」

 

松戸が立ち上がり真司にある書類を見せる。

 

「これって…ドバイ!?えっ、海外のレースですか!?」

 

そこに書かれていたのはドバイのレースに関する書類だった。

 

「あいつは長距離移動にもなんのストレスも感じることなく移動できるタフな馬だ。向こうの環境に合うかはまだ分からないが、狙って見るのもいいはずだ。」

「確かにドバイシーマクラシックならアイツの適正範囲内ですし、行けるとは思いますけど…」

「因みにこれは駒沢さんからの提案だ。」

「はい!?」

 

駒沢は以前から「海外のレースに自分の馬を出してみたい」と語っていた。しかし、彼の所有してきた代表的な馬は、長距離移動がそもそも向かない気性難のフェニックス、長距離移動は可能だがタイミングが掴めず引退してしまったラインなど上手く噛み合わなかった。

現役で走っているノゾミの馬で海外でも走れる実力を持つのはナチュラルとミカドの二頭のみ。

 

「ミカドの今の実力なら100%の力を出し切れば悪い結果にはならないはずだ。」

「はあ…てか、なんで俺に?テキたちがもう決めているんなら俺は関係ないでしょ?」

「何いってんだ?お前も行くんだよ、ドバイ。」

「・・・・・・」

 

この後、厩舎に絶叫が響いた。

 

 


 

 

「……って話なんだよ…聞いてないよ俺ぇ…」

 

『いや、俺に言われてもなんもなりませんよ真司さん?』

 

絶叫が聞こえたと思ったら、少しして真司さんが俺に愚痴ってきてことの顛末を一方的に聞かされた。

 

「俺の英語力英検三級レベルだぞ?そんな俺に海外ついて来いって、無茶だろぉ…しかも金持ちの国ドバイ」

 

『まあ、俺の実績的に後々凱旋門賞とかにも出るだろうし、今のうちに慣れておいた方が…』

 

「やべー…胃が痛い…」

 

しっかりしてくれよ…あんたしか俺の細かい仕草とかクセとか分かんないだからさ…

あと俺の好みのリンゴ。

 

『ほれ!』 ドンッ!

 

「うおっ!?」

 

俺は真司さんの背中を鼻で押す。

 

『真司さんなら大丈夫だって。あなたが居たからこそ、俺は三冠馬になれたんだから。』

 

真司さんが俺の剥離骨折に気付いてくれたおかげで俺は素早く治療ができた。

 

『俺を走らせる雄一さん。調教をするテキである松戸さん。そして俺を世話してくれる厩務員の真司さん。誰か一人欠けてもダメなんだ。あなただからこそ、俺は安心して過ごすことができるんだ』

 

「……ミカド、もしかして励ましてくれているのか?」

 

俺は首を縦に振り頷く。

 

「…本当に変わった馬だな、お前は。よし、今更何を言ってもアレだし、覚悟を決めるか!ありがとうな話し聞いてくれて。」

 

そういって真司さんは厩舎から出て行った。その背中はさっきよりも元気に見えた。

 

『にしてもドバイか…』

 

海外のレースで俺は結果を出すことができるか血統見ても全然予測できないからな…

 

『無敗のまま海外に出て勝てばまたすごいことになるよな…よし、いっちょやりますか!』

 

俺は心の中で覚悟を決めた。無敗の三冠馬として、日本を背負う一頭として。




次回ものんびり進みます。


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帝の帰郷/帝の道中

菊花賞がまさかのレコード…アスクビクターモアとボルドグフーシュの接戦がすごかったですね。

ミカドは今回タイトルを見るとわかる通りです。


松戸厩舎はノゾミミカドとブエナビスタの二頭を海外のG1レース『ドバイシーマクラシック』に出走を決め、その調整として二月に行われるG2レース『京都記念』に出走することになった。

 

そして、年始の間はそれぞれが短期放牧としてトレセンを離れることになった。

 

 

北山牧場

 

 

『たっだいまぁ〜!!』

 

『その声は…!』

 

『アイツか!?』

 

『みんなぁ!!ミカドの兄ちゃんが帰ってきたよぉ!!』

 

牧場に帰ってきた俺を歓迎する様に馬房からたくさんの馬たちが顔を出してきた。

 

『みんな、久しぶり!元気だったか?』

 

四ヶ月ぶりに帰ってきた故郷。テンションも自然と上がる。そうしていると北山さんと卓也さんがやってきた。

 

「ミカド、よく…無事に帰ってきたな…」

「北山さん、泣いてんですか?」

「うるせっ!」

 

北山さんは俺を見るなり涙を浮かべ、卓也さんはそれを揶揄い小突かれる。

 

「今日は移動で疲れただろう。ゆっくり休め。」

 

そして俺は卓也さんに連れられて俺の馬房に入った。師匠や先輩方はまだ放牧中なのか馬房にはいなかった。しばらくすると師匠たちが戻って来た。

 

『うん?ミカド!?お前さん、いつ帰って来たんだ!?』

『ついさっきですよ!それより師匠、先輩!俺勝ちましたよ!菊花賞!』

『何!?本当か!?』

『オイオイマジかよ…』

『本当に勝ってしまうとは…』

 

早速俺は師匠たちに結果を報告。みんな驚いてくれていたよ。他にも有馬記念の同着優勝のことも。

 

『有馬で同着だと!?お前さんには驚かされてばっかりだな…』

『僕とフェニックスも並んでゴールしたことはありますがその時はハナ差で僕の勝ちと判定されましたが見分けもつかないレベルになるとは…』

『あん時は俺らの差が3cmとかいっていなかったか?』

『同着は本当になかなか起こらないことですからねぇ…』

 

こうして俺は師匠たちと話しながらその日を終えた。

 

 

次の日

 

 

『本当に三冠馬になるなんて…流石は私の自慢の息子よ。』

『よく分からないけど、兄さんおめでとう!』

『ありがとう、母さん、ボー。』

 

放牧された俺は母さんたちに報告し、他にも色々話していた。

 

『この子も体が大分できて来たし、そろそろ馬主が決まるかもね』

『なんか北村さんはせりに出すか取引にするかで悩んでいるっぽい。』

『俺は直で駒沢さんに買われたからな…せりならお前はキングヘイロー産駒だし、半兄が俺だからいい値が付くと思うぞ。』

 

キングヘイローの産駒は重賞で活躍したのも多いし、俺が無敗の三冠馬になったことで母さんの価値が滅茶苦茶上がっていて北山さんも、

「ミカドはミドルディスタンスホースになると思っていたけどステイヤーの素質があったし、もしボーが父親の全距離適正受け継いでいたりなんかしてたら…慎重に決めねぇと…」て言ってた。

俺的にはボーも駒沢さんに買ってもらった方が嬉しいけど、決定権は北山さんにあるからどうなるかはまだ分からない。

 

『と言っても、ここは大体が庭先取引で買われているからせりに出すかはまだ分からないわ』

『なんか自分がウン百万円でオークションにかけられるの複雑でしかないんだけど…』

 

そんな日々を過ごしていたある日…

 

『なんか今日北山さんたちが騒がしいな?お偉いさんでも来るのか?』

 

北山さんを始めとする牧場の人たちがどこか落ち着かない様子だった。浮き足が立っている人もいれば、顔が強張っている人もいる。卓也さんなんかはお腹を抑えて

 

「大丈夫だ大丈夫だ俺はヘマしないそんなことはしないフェニックスみたいな気性難の塊みたいな奴を相手にして来たんだきっと大丈夫だできるできるどっかの誰かも元気があればなんでもできるって言っていたし余裕だいけるいける筈だでももし失敗したら間違いなく首が飛ぶというかなんで俺がそんな大役を受けることになったんだ今だけは北山さんを恨みたいああ胃が痛くなって来たこのまま胃潰瘍にでもなって病院に搬送でもされないかな…」

 

ブツブツと言っていて正直怖い。

 

『何がどうなってんだか?』

 

そして暫くして俺の放牧時間が来た。卓也さんはさっきよりもげっそりしている。

 

「ミカド」

 

『うん?』

 

卓也さんが幽霊みたいな青い顔で俺を見る。正直かなり怖い。

 

「お前だけが頼りだ。もしもフェニックスあたりが暴れたらフェニックスを蹴飛ばしてもいいから止めてくれ、『あの馬』にもしものことがあればこの牧場は闇に葬られる」

 

『まって何があったの、『あの馬』って何!?』

 

そういうも卓也さんは遠い目をしたまま俺を放牧地へと移動させ、俺はよく分からないまま放牧地へと向かった。

放牧地に着くと何やら馬たちが騒がしい。

 

「ま、まさか…!?」

 

卓也さんの顔がますます青くなる。なんだ?何が起きている?

 

『テメェ!?何様のつもりだ!?ここは俺らが普段から使っている場所だ!それを他の馬たちを押し除けて独占するとはぁ…どういうつもりだ!』

『ことと次第によってはタダじゃ済みませんよ?』

『待て、お前さんら!?その馬は只者じゃない!!下がれ!!』

 

先輩方が食ってかかり、師匠が警告を促すほどの馬。俺は視線を先輩たちの向こう側にいる馬に向ける。

 

鹿毛の馬体。

 

左後肢の足白、それ以外は黒い脚。

 

老いた馬なのだろうがその馬体は若々しく感じ取れる。

 

纏う雰囲気は荒々しい獅子の如くの覇気。

 

そして特徴的な『三日月』のような白い流星。

 

『ま、まさかあの馬は……!?』

 

 

 

 

 

『フン……』

 

ゴオォオウ!!

 

その馬が少し力を入れたような仕草をするとそこからとてつもない覇気が放たれた!

 

『なっ!?』

『うおっ!?』

『クッ!?や、やはり『怪物』たちと同じ、いやそれ以上の!?』

 

その場にいた馬たちがその馬から目を離せなかった。まるで命令されたかのようにその場に動けずにいた。僅かに動けたのはフェニックス先輩、ライン先輩、師匠、そして俺の四頭のみ。

 

『そこの黒鹿毛、我は怪物などと言う陳腐なものではない』

 

その声は力強く、スッと耳に入る。誰もがその馬に釘付けになった。

 

競馬に唯一絶対が許された日本競馬史上初の無敗三冠、そして史上最多G1七勝の名馬。

 

 

 

『我は、『皇帝』、『シンボリルドルフ』である。』

 

 

 

『シンボリ…ルドルフ…!』

 

永遠なる皇帝、絶対なる皇帝、たった三度の敗北を語りたくなる馬、そして俺の祖父に当たる存在が目の前にいた。




はい、ここで出します皇帝。

今回のタイトル、実は『/』で別の帝をそれぞれ指しているんです。
どういう意味か分かった方はコメントに是非…

次回はミカドが皇帝に謁見します。


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帝の対面/皇帝の謁見

今回はいよいよ皇帝と正面から対面します。

あと感想にありましたが、ミカドはその年の年度代表馬に選ばれました。


卓也side

 

遡ること数日前、ミカドが帰って来た日の夜。

 

北山牧場会議室(仮)。*1

 

全ての業務を終わらせた後北山さんが俺たちを呼び出し、この部屋に集めた。中には今日非番の奴までもいた。

 

(何があったんだ?)

 

なんか嫌な予感を俺はこの時感じた。そしてその予感は見事に的中することとなった。

 

「お前ら、今日集まってもらったのは外でもない。実はとある一頭の功労馬をうちの牧場で暫く預かることになった」

 

『『はあ?』』

 

ゲンドウポーズをした北山さんからそんなことを言われた。うちは面積だけは無駄にあり、尚且つ気候も年中通して安定していて過ごしやすい場所にある。そのため、功労馬や種牡馬の避暑地や預かり所みたいなこともやっている。今までもそんなことはあったし、わざわざこうして非正規のバイトまでも呼んで話すことじゃない。

 

「あの、牧場長?今までもそんなことはありましたけど、なんで今回はまたこんな風に呼び出したんですか?」

 

従業員の一人がそう声を出す。全員その言葉にうなずいた。

 

「それはだな、今回は下手をすると俺らは露頭に迷う…いやそれだけならまだマシだと思うほどの地獄に行く可能性が高いからだ」

「……どういうことですか?」

 

俺が恐る恐る聞いてみる。今回は本当にヤバい案件が来たんだと思った。

 

「今回、俺らが預かる馬は…

 

 

 

 

 

 

 

        あの『皇帝』だ……!」

 

 

 

『『ハアアアアアアアアアアア!!!!????』』

 

 

 

 

ー暫くお待ち下さいー

 

 

 

「……落ち着いたか?」

 

 

『『落ち着けるわけねぇだろぉ!!??』』

 

「大体なんでそんな超ヤバい名馬がウチに!?」

 

「ウチなんてG1馬なんか30年に一度、出るか出ないかの一般生産牧場ですよ!?」

 

「今までだってそこそこ有名な馬を預かったりしていましたがなんでよりによって皇帝!?」

 

「おい、お前ら!ちょっと手ぇ貸せ!!宮前が感動とショックで心肺停止状態になった!?」

 

「宮前ぇぇ!!しっかりしろぉぉ!!お前皇帝を間近で見るまでは死なないって言っていたじゃないかぁぁ!!」

 

 

 

ー再びまた暫くお待ち下さいー

 

 

 

「……今度こそ落ち着いたか?」

 

『『はい』』

 

「でなんで皇帝が来ることになったかっていうとだな…」

 

北山さんの話はこうだ。

 

まず、北山さんはこれでもあらゆる生産牧場にコネを持っており、ウチの牧場が何故アウトブリードのもう廃れた様な血統の馬の産駒がいるのかはこれが理由だ。

そして今回、シンボリ牧場のツテからシンボリルドルフを一時期預かっておいて欲しいと言われたそうだ。

理由としては、千葉の牧場に本来は送る筈が、その受け入れ体制が伝達ミスにより全くできておらず、途方に暮れた牧場がウチで預かって欲しいと言われた。

 

「そいつには借りがあったから断りにくくて、さらに依頼料も破格だったからな…去年少しキツかったし、預かることにしたんだ」

 

俺らはうなだれるか天に仰いだ。とんでもねえことしてくれたなこの人…

 

「そんで、数日もすれば皇帝はウチに来る。それでその間メインで奴の面倒を見る奴を決めたい」

 

俊(宮前)が勢いよく手をあげる。

 

「北山さん!俺やりたいです!!」

「お前は勤務歴三年以下だろうが、もう少し経験積んだ奴がいいんだよ」

 

絶望した表情で椅子に倒れる様に座った宮前を無視し、北山さんは部屋を見回す。

 

「卓也、お前できるか?」

「…………俺?」

 

何故か俺に白羽の矢が立ったのだ。

 

「いやいやいや!?俺は勤務歴五年ですよ!?宮前ともそこまで変わらないし、なんで俺が!?」

「フェニックスやラインとかの癖馬やミカドみたいな変わり種をずっと相手にしてきたお前なら経験的には十分だと思った。お前ら異論はないな」

 

みんなの意見を聞く北山さん。そうだ異論があれば俺が世話するっていう話は流れる筈だ。みんな今だけは俺のことをボロカスに言ってくれ!

 

「確かに卓也なら安心だな」

 

……えっ?

 

「仕事も速いし、丁寧だしな」

 

ちょっと…

 

「馬たちも卓也が扱うときは素直になるの多いしな」

 

まって

 

「卓也!変わってくれ!」

 

俊、お前は今この瞬間俺の救世主だ。

 

「勿ろ「よ〜し異論はないな。それじゃあ、卓也に決定。」……」

 

 

ウソだろ……

 

 

こうして俺の受難が始まった…

 

 

シンボリルドルフが来る当日。

 

 

俺は一睡もできなかった。緊張と不安と北山さんへの怒りで脳がずっと活性化していたのか目がめり込むぐらいの勢いでまぶたを閉じても寝れなかった。

 

「おい、卓也…大丈夫か?」

「俊よ、大丈夫に見えるか?」

「いや全然…」

 

俺たちは今牧場の入り口で馬運車を待っていた。もちろん理由はシンボリルドルフを迎えるためだ。

 

「俊、夢にまで見た光景だろうが死ぬのは仕事をしっかりしてから死んでくれ」

「卓也頼む、そのときは…」

「安心しろ、骨だけは拾ってやる」

 

そうしているウチに馬運車がやってきた。俺たちは馬運車が止められる場所まで誘導を行う。

 

「それでは、お願いします。」

「分かりました。」

 

そして、俺はとうとう対面した。『絶対が許された皇帝』と…

 

「!?」

「…………」

 

圧倒された。自分よりも年上の動物が出す雰囲気、何よりも全てを見透かしているのではないかと思われそうになる目に俺は引きずり込まれそうになった。

 

「人には特に悪さをすることは基本ありません。ただ馬同士になると喧嘩になるかもしれないので気をつけてください。プライド非常に高いのでヘタをするとここのボスを倒してボスになるかもしれないので」

「多分ボス云々は大丈夫です。ウチのボスはある意味最強ですから」

 

シエルは仲間意識が非常に強いので仲間に危険が迫ると非常に強い。喧嘩になっても多分負けないと思う。

 

それよりも一番心配なのはフェニックスとラインだ。あの二頭は喧嘩っぱやい。放牧中は離さないといけないな。

 

とにかく俺たちはシンボリルドルフを預かり用の馬の馬房に入れた。移動する際全く騒がないし、耳も絞らず、落ち着いていた。環境が変わると不安になる馬が多いのにそれが全くない。むしろ生き生きとしている。

 

「シンボリルドルフは環境の変化に強くて、逆に環境の変化こそが彼のリフレッシュ方法だったって言われているんだ。」

 

俊の豆知識に少し驚きながらも最初の関門は突破した。

そして俊は倒れ伏した…

 

 

暫くして、放牧地に一度離してみることにした。

 

「ルドルフは『ライオン』って言われるほど凶暴な一面を持っているから他の馬たちから離れた場所に放すのがいいと思う」

「分かった。それなら牡馬たちのところに隣接しているけど第四放牧地に放すか。」

「というか選択肢がそこしかないですよね…」

 

ここは第一から第六までの放牧地があり、第四までが今すぐ使える放牧地なのだ。第一は牝馬や当歳馬。第二が牡馬。第三が療養が必要な馬、そして予備のために空いている第四〜第六の放牧地。しかし、五と六は現在整備中で使えないので第四に離すしかない。

 

そうして俺らはルドルフを離してから他の馬たちを別の放牧地に離したんだ。

 

なのに…

 

 

 

「なんでルドルフが第二放牧地にいるんだぁぁ!!」

 

 


 

 

ミカドside

 

 

爺ちゃんから放たれた覇気によって第二放牧地にいたほぼ全ての馬は動けなくなっていた。俺を含めた動ける四頭は…

 

(なんだこいつ…!?汗が止まらねぇ…!全身の一本一本の毛が逆立つのがわかる!)

 

(英雄と称えれた彼と同等以上の覇気…いや彼の場合は純粋な走りへの渇望から来る清らかなもの…しかし、この方から放たれるのは我々を押し潰すほどの荒々しいものだ…!)

 

(人間たちが言っていた『絶対が許された皇帝』とはこやつのことか。確かにとてつもない覇気…いや衰えてこれほどのものなのであれば、全盛期は…『怪物』も『白い稲妻』をも越えるものになるというのか!?)

 

(ドリームジャーニーの様な荒々しいものを感じるが同時にワンダーの様な穏やかさの様なものも感じる。静と剛、相反するものが同時に存在する様な…そんなものが…)

 

一先ず、俺は一刻も早く他の奴らも動ける様にするために大きく息を吸い込み、嘶いた。

 

『ビヒィィィィィィイインンンン!!!!!!』

 

俺の嘶きによって正気を取り戻した他の馬たちは蜘蛛の子を散らす様にその場を離れていく。

 

『逃げろぉぉ!!』

 

『殺されるぅ!!』

 

そして、爺ちゃんの周りに残ったのは師匠たちのみ。俺は直ぐに師匠たちのもとに向かった。

 

『師匠、先輩方!』

『ミ、ミカドか…!?助かったぞ…あのままでいれば、俺らは奴の覇気に呑まれ、屈服していただろう…』

『畜生!まだ脚が震えてやがる!』

『一体なんなんですか彼は!?』

『それよりも、フェニックス先輩。一体何がどうしてああなったんですか?』

『お、おう。それはな…』

 

 


 

 

フェニックスside

 

 

『おいライン。』

『なんですか?』

『なんか変な感じしねえか?』

『奇遇ですね、僕もそう思っていたところです』

 

俺は放牧地に出てからなんかよく分からねぇものを感じているのに気付いたんだ。

 

『おい、若造ども。』

『レオの爺さん?今日はこっちなんだな?』

『最近になって、調子が格段とよくなってな。それよりもお前さんら、今日はどこかおかしいのに気付いているか?』

『勿論だぜ』

『何か変な感じがするんです。それが全く分からなくて…』

 

俺とラインの言葉に爺さんもうなずいた。どうやら爺さんも感じ取ったらしい。

 

『俺もそれを感じた。だがこの感じ、過去に似た覚えが…』

 

爺さんがそう呟いたときだった。

 

『ふぇ、フェニックス!ライン!』

『アン?なんだよカンさん?』

『どうしましたカンさん?』

『そのカンさんって呼ぶのやめてくれないか!?一応僕は君たちより年上で『ノゾミカンパネラ』っていう立派な名前があるの!?』

『今はどうでもいいだろう。それでカン、何があった?』

 

俺らを呼んだ栗毛の馬はカンさん。同じノゾミの馬で名前が長いからカンさんと呼んでいる。

 

『レオのじっちゃんまで……あ〜えっと、向こうで見たこともない鹿毛の馬が放牧地の一角を独占しているんだよ。喧嘩をふっかけた奴もいたんだけどあっさり返り討ちにあって…それでお前らを呼びにきたんだよ!お前ら僕らの中では一番強いし…』

 

その時は新入りが我が物顔でここの覇権を取りに来たんだなと思ったんだ。

 

『ヘ〜俺らになんの挨拶もなしで…ちょっくらシメてくる』

『僕も行きましょう。仲間がやられたのであれば黙って置けません』

 

そんで俺らはカンさんに案内されてそこに行き、あんな風になったって訳だ。

 

 


 

 

ミカドside

 

 

『……とまあこんな感じだ。』

『俺もこいつらが暴れない様に付いて行ったんだがやっこさんを見て直ぐに分かったよ。とんでもねぇ奴だってな…』

 

先輩と師匠の話しを聞き、ここまでの経緯を知った。

卓也さんのあの時の叫びを聞くと、元々爺ちゃんはここに居ないはずだ。なのになぜいるのか?

 

『俺、少し話してきます』

『なっ!?よせミカド!』

『アレは我々の理解を超えた何かです!近づくのは…!?』

『そうだよミカド君!?僕なんかさっきので半分気を失って離れるタイミング逃してこうなっているのに!?』

 

先輩方の反対意見はまあ分かる。なんせマジもんのヤベェ奴だからなウチの爺ちゃん。

 

『若造ども、そこまでにしとけ』

『爺さん!?』

 

師匠が先輩たちを止める。

 

『ミカド、何かあるんだろう?あの馬と。』

『はい。あの馬、シンボリルドルフは俺の父方の祖父に当たります。』

『み、ミカドの爺ちゃん!?』

 

驚くフェニックス先輩。ライン先輩もカンパネラ先輩も驚きの表情を浮かべる。

 

『俺なら多分他の馬が行くよりかは警戒されないと思います。それにこちらが刺激しなければ何もしてきませんよ。』

 

先輩たちは心配しながらも俺の案に納得してくれた。そして俺は恐る恐る爺ちゃんに近づく。

 

『は、初めまして。シンボリルドルフさん…』

『……貴様、我に何の用だ?』

 

放たれるのは正しく『皇帝』の如く気高き、力強いオーラ。それに体が強張ってしまうが俺は続けて話す。

 

『お、俺はノゾミミカド。貴方と同じ無敗の三冠馬であり、貴方の孫に当たる現役の競走馬です。』

『……何?』

『こ、ここに来たのは何故、貴方が…こ、この放牧地にいるのかということについて聞きたかったからです…おそらく貴方は、第四放牧地に居たはずです。な、なぜここに居て、他の馬を押し除け他のかを知りたくて…』

『………』

 

爺ちゃんは何も言わない。ただ俺をずっと見てくる。漆黒の宝石の様なその瞳に吸い込まれそうになりながらも俺はそれを見返す。

 

『……』スッ…

『!!』

 

そして、爺ちゃんが俺の方に歩いてきた。

 

『……』

 

ゆっくり、ゆっくりと俺の方にやってくる。

 

 

『おい、やっぱ行った方がいいんじゃねぇか!?なんかヤバそうだぞ!?』

『彼は我々に危害が喰わらない様に行ったんです!少しは後輩を信じなさい!』

『ミカド君、頑張ってくれ〜!』

『ミカド…!』

 

 

先輩方が見守る中、爺ちゃんが俺の直ぐ目の前で歩みを止めた。

心臓がバクバクいっていることが分かる。妙な汗が止まらない。

 

『………』

 

そして爺ちゃんの顔が動いて俺に向かってきた!

 

『!』

 

ポフッ

 

『………へっ?』

 

爺ちゃんの顔は俺の首に乗り、匂い嗅ぎ始める

 

すんすん

 

『えっと……ルドルフさん?』

『うむ、我と似た匂いがする。どうやらお前が言ったことに嘘はない様だな。歓迎するぞ、我が孫よ。』

 

そう言って爺ちゃんは俺にグルーミングをし始めた。何が何だかよく分からなかったけど、とりあえず俺もグルーミングを返すことにした。

 

 

『なんか仲良くなってね?』

『なってますね?』

『なってるの?』

『やれやれ、肝が冷えたわい…(フゥ…)…さて、次は…』

 

 

「俊!?しっかりしろ!この状況で俺を一人にするな!?俊んんんん!!??」

 

 

『アレをなんとかしなくてはな…』

*1
北山牧場の多目的室的な場所を机を円形に並べて会議室ぽくしただけ




今回出てきた新しい馬と人のプロフィールです。

名前:ノゾミカンパネラ

年齢:11歳
生年月日:1999年9月27日
性別:牡
毛色:栗毛
血統:父・ナリタブライアン 母・クロッシュ(架空馬) 母父・マルゼンスキー
成績:25戦9勝 2着8回 3着6回
距離:短A マイルA 中C 長D
脚質:逃げG 先行A 差しA 追込みD

主な勝鞍
2003年 日本テレビ盃(G3)
2004年 トパーズステークス(OP特別)

ノゾミの馬の一頭であり、元々は芝で走っていたが成績が振るわず、ダートに移ると勝ち星を少しずつ上げるようになった。
性格は臆病だが冷静に物事を見ることができる。
仲間内からカンパネラが言いにくいせいか「カンさん」と呼ばれており、本馬はちゃんと名前で言ってほしくて毎回訂正している。ミカドはちゃんと言ってくれるため、お気に入りの後輩として可愛がっており、もしダートを走るときは色々教えてやろうと考えている。

宮前俊(23歳)
勤務歴3年の従業員。ルドルフの大ファンで目の前に現れたことに感動し尊死しまくることになった。ミカドとのグルーミング風景を見た結果今まで耐えていた尊みが爆発し、無事尊死。

今回はルドルフじいちゃんがメインなので彼らの出番は基本モブになります。


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帝の語らい/皇帝の絶対

今回も皇帝のターンです。


『フッ…まさか見知らぬ土地で我が血を継ぐものにである出会うとは、正に青天の霹靂よ』

『はあ…』

 

ルドルフ爺ちゃんとのグルーミングを終え、俺はなんとか爺ちゃんと話すことができた。

 

『あの、それで…』

『分かっている。何故、我がこの場に居るのかであろう?何、簡単なことだ。』

 

『壊しやすそうな柵が目の前にあったからな壊せば我が通れるぐらいの隙間が出来たからだ。』

『爺ちゃん、それ人間サイドからみたら放馬っていう割と洒落にならない一大事なんだよ?』

 

なんとも言えないあっさりした理由だった。

 

『何を言う。我がどこを通ろうがそこが我の道となるのだ。それは誰にも邪魔はさせん。それに我のことを舐め腐った目で見てきた小童どもがいたからな。少し遊んでやったまでよ。』

 

そう言ってカラカラと笑う爺ちゃん。う〜ん、さすが唯我独尊で有名な馬だ。全然ブレねぇ…『ライオン』とか言われたのも納得だ。さっきまでは『皇帝』としての威光の様なものを発していたが、今はそれがなりを潜め、『獅子』の様な何処か自由に振る舞っている。多分こっちが素なんだろう。

 

『しかし、無敗三冠か…お前が噂に聞いていた我の正当継承者と言われた馬か…』

『!?お、俺のことを知っているのか…!?』

『前にいた牧場で厩務員がお前のことをよく話していた。我と同じ道を辿り、見事それを成し遂げたと…』

 

た、確かに…爺ちゃんレベルの賢さなら人の言う内容を理解できていてもおかしくないし、三冠取れば人って一方的に聞かせるなんてこともあり得る。

 

『無敗三冠は確かに過酷な道だ。それを成し遂げたことは称賛に値する』

『あ、ありがとうございます…!』

 

前世から憧れていた馬にこうして直に褒められるなんて、結構嬉しい。

 

『だがまだまだだ。』

『へっ?』

 

ここでまた爺ちゃんの雰囲気が『皇帝』に変わる。

 

『どこかお前は危なっかしい。常に限界に挑み、一度体が悲鳴をあげたな?』

『!?』

『先程触らせてもらった時とここに来るまでに見たお前の歩様で分かった。前脚を壊したな?』

『な、なんで!?』

『おお、どうやら当たった様だな。』

『……鎌をかけた…?』

『いや、前脚の歩様が少し違和感を感じてな。確信を持てなかったがどうやら当たった様だ。我の観察眼もまだまだ衰えていない様だ』

 

さっき初めて俺と会って、少し見ただけで俺の足の違和感を見抜いたの?真司さんレベルの観察眼じゃん…マジで底が見えない。俺が言える立場じゃねぇが本当に馬かよ…俺の爺ちゃん…

 

『良いか?競馬に『絶対』はないと言うが、我はそうは思っておらん。『絶対』は目には見えないが文字通り必ず存在する。我はそれを誰よりも視えていた。時には道として、時には光の点として、我が負けた戦いはその『絶対』を先に奪われたものばかりだ。カツラギには道を遮られ、ギャロップには光を先に掴まれた。』

 

『お前はまだそれが視えていない。だからこそただガムシャラに走ってしまうのだ。心を落ち着かせ、視野を広く視ろ。さすれば、『絶対』はお前の元に姿を現す。』

 

『……』

 

言っている意味がまるで分からない。『絶対』は存在する?爺ちゃんはそれが視えていた?分からないことだらけだったけど、一つ思い当たるものがあった。

 

(あの爺ちゃんの幻影…)

 

菊花賞の時に見た爺ちゃんの幻影、俺は怪我明けでかなりの無理をしたのに何故か体にこれといって大きな異常がなかった。もしかして、あれも『絶対』の一つなのか?

 

『少し難しかったか?まあ、我が言いたいのを噛み砕くと、挑むのはいいが程々にしておけと言うことだ。我の様にやり過ぎると取り返しのつかないことになる。』

 

そう言えば…爺ちゃんは海外進出の時に…もしかしてその時はもう視えなくなっていたのか?『絶対』が…

 

『忠告、ありがとうございます。』

『よいよい。年寄りの言うことは素直に聞くのが一番だ。』

 

爺ちゃんが笑いながらそう言う。雰囲気も『ライオン』の様なものに戻った。話を聞いた限りでは傲慢までは行かないけどやっぱり何処か自分中心なところがあるけど、優しいところもちゃんとある。

 

『さて、少しお前の話を聞きたい。我に聞かせてくれぬか、ミカドよ?』

『…!…はい!』

『いい返事だ。あと、お前の後ろにいるものたちをここに呼べ。さっきから遠目で見られて少し気が散る。』

 

 


 

 

『『さっきはすみませんでした!!』』

『よい、貴様らは本気ではないといえ我の圧に耐えた強者よ。面をあげよ。』

 

(自分、気失っていたけど黙っていよ…)

 

『しかし、アレでまだ本気でないとは…恐ろしいものだ…』

『爺ちゃんは人間から『競馬に絶対はないが、ルドルフには絶対がある』って言われたほどだからね…まだ上があると言われても不思議じゃないです…』

『ハハハッ!まだまだ若いものには負けるつもりはない!』

 

本当元気だな、でも確か来年には爺ちゃんは…

 

『さて、貴様らがミカドに色々と指導をした様だな。遅れながらも我が孫が世話になったことを礼する。感謝するぞ。』

『う、ウスっ…』

『いえ、我々が教えたのは微々たることのものですし…』

『俺主戦がダートだったんで特に何も…』

『老いぼれに教えを乞いその技を見事に使いこなしたのは其奴の努力と勤勉さ故だ。俺らのだけじゃない。礼をするなら母親にだ。』

『ホウ…母君か…ミカドお前の母はどこにいる?礼をしたい。』

『母さんなら向かいの第一放牧地にいるはずだけど…半弟の特訓しているはず…』

 

第一放牧地を一度見てみると…

 

 

『貴方たち…何騒ぎを起こしているのかしら…?』

 

 

鬼神が立っていた。その後ろには怯えた当歳馬たちとそれを宥めるボー。うん、クソヤベェ状態だ俺ら。

 

『あっ、俺ら死んだわ』フェ

『短い馬生でした…』ラ

『僕完全にとばっちりな気がする…』カ

『俺もだよ…』レ

『?』ル

『か、母さん…!?落ち着いて!?話せば分かる!!』ミ

 

『問答無用!!』

 

 

『『『『『ぎゃああああああああああああ!!!!!?????』』』』』

 

 


 

 

母さんからOHANASIを受けた俺らは見事に撃沈。カンパネラ先輩とレオ師匠はむしろ止めた側な分酷いとばっちりを受けた。

 

そして爺ちゃんはと言うと…

 

『いやはや、流石はミカドを産んだ母君だ。先ほどの気迫、中々なものだったぞ。』

『いえいえ、かの有名な皇帝に恥ずかしい姿を見せてしまい申し訳ありません。』

『いや、牝馬で見事にここを仕切っているだけではある素晴らしいものであった。我がもう少し若ければ妾にするくらいだ。』

『まあ、皇帝様はジョークがうまいこと…』

『おや、割と本気で言ったんだがな?』

『フフフッ…』

『ハハハッ…』

 

『……これ、何処の魔王と鬼神の会話……?』

 

ボー、それは言わないお約束だ。

 

この後、卓也さんたちが爺ちゃんを回収して、俺は卓也さんに壊れた柵のことを教え、次の日には綺麗に直っていた。その代わりに爺ちゃんも俺がいれば大丈夫そうと言う理由で第二放牧地に一緒に放たれることになった。




シエルママは皇帝にも臆しません。彼女も気質としてはルドルフに近いものを持ちますから。
凶暴という訳ではなく、精神性が近いという感じでルドルフをマイルドにした感じがシエルママです。

つまり、走り以外は最強のママ兼牧場のボスがミカドとボーの母、ルイシエル。


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北山牧場の取材/牧場の詳細

今回は少し番外的な話しです。



卓也side

 

 

ルドルフが来て数日。一本の電話が牧場に入った。俺は見学の予約かなんかだと思い、その電話を取った。

 

「はい、北山牧場です。」

《恐れ入ります。私、週刊雑誌『コネクト』の記者、日山響(ひやまひびき)と言うものです。北山庄司様はいらっしゃるでしょうか?》

 

聞こえてきたのは若い女性の声だった。雑誌の記者?なんでウチに?

 

「社長ですか?今作業中ですけどそろそろ戻って来るかと…あの、ウチに何か?」

《今回、北山牧場の特集の取材をさせていただきたくことになっておりまして、そのことについての確認をしたいのですが…》

「取材?ウチの?」

《はい、今話題の無敗三冠馬、さらにその祖父であるシンボリルドルフがそちらで預かられているというので…》

 

ルドルフがここにいるということがどっかから流れ、業界内その情報が既に行き渡っていた。けど話の内容からして既に決まっている感じだな…どうなっているんだ?

 

「随分話が進んでいるんですね?」

《なんか、互いに乗り気でトントン拍子で進んだみたいです…こっちは急に決まったことなのでてんてこまいですよ…》

「えっと…ご苦労様です?」

《お気遣いに感謝します。取り敢えず、今無理でしたらコネクトの記者から連絡があったと言ってくだされば大丈夫です。》

 

少し疲れた感じの声だが仕事に熱心そうなものが電話越しながら伝わって来る。ここで切ると二度手間になって大変だろうし…

俺が返答に困っていると後ろから肩を叩かれた。振り返ると北山さんが立っていて、代われと言っていた。

 

「お電話かわりました。北山牧場社長の北山です。取材の件に関してですね?はい、こちらは大丈夫です。使われていない放牧地の一角でいいのであればですが……はい、はい、分かりました。失礼します。」

 

受話器を元の位置に戻した北山さんはフゥと息を吐いた。

 

「悪いな卓也。手間取らせちまって。」

「大丈夫ですよ。でも取材って?結構急ですけど…」

「コネクトは望(駒沢:ミカドの馬主)が懇意にしている会社の雑誌でな。元々はミカド単体の取材の打診があったそうなんだがウチにルドルフがいることが知れ渡って、急遽こんな形にしたいといってきたんだ。」

「なるほど…」

「まあとりあえず、馬主たちの方は今回の取材にかなり乗り気みたいでゆるっと許可が降りたらしい。んで場所の確認をしたいっていうのが…」

「さっきの電話…」

「そう言うことだ。」

 

なるほど、元々ミカドだけの取材がルドルフが来たことで大きくしようとして牧場全体の取材にチェンジしたということか…

 

「それで取材っていつなんですか?ミカドはもう後少ししたら栗東にいっちまいますけど…」

「ああ、明後日だ。」

「………はい?」

「だから明後日。明日には取材準備で人が入るからそのつもりでな」

 

この時、俺はいい加減、色々急に決めるこの人を蹴っ飛ばしてもいいと思った。てか次やったら絶対やる。

 

 

取材当日

 

 

「はじめまして!今日一日お世話になります、週刊雑誌『コネクト』の日山響です!よろしくお願いします!」

「北山牧場従業員の三山卓也です。よろしくお願いします。」

 

そして本当にきたよ。一人だけだけど…

 

「あの他の取材陣の方々は…」

「あっ、今回は私一人だけです。最初にノゾミミカド号の取材をしましょうって言ったからこうなりまして…」

 

えへへ…って頬を掻く日山さん。人懐っこそうな感じの若い女性。背が低くて黒いショートカット、少し頼りなさそうな感じで庇護欲が出てきそうな感じの人だった。

ついでにさっきから少しそわそわしていて放牧地や厩舎の方に視線が行っている

 

「でも大丈夫です!これでも入社して三年は経ちましたし、こうして特集を任せてくれるぐらいには腕が良いんですよ私!取材はしっかりと行いますので、お願いしますね!」

「そう…ですか…取材は午後からって聞いていますが、一応社長からは色々許可はもらっていますからこの牧場の案内しましょうか?」

「いいんですか!?で、では少しだけ…」

 

ちょっと興奮気味な彼女の反応に苦笑いしつつ、俺は彼女に牧場の案内を始めた。

 

「うちの牧場は北海道の南部の〇〇市にある牧場で所有面積は大体58haぐらいあります。これは東京ドーム約12個分に当たりますけどすべてを使っているわけではないので実際に放牧地に使っているのは大体30ぐらいですね。」

「なんで残りの土地を使わないのですか?」

「広すぎると管理が大変なんですよ。ウチは従業員がバイトを含めて20〜30人ぐらいで土地を整備、というか草刈りをするのはその中の数人がローテでやります。他にも仕事は多いですから管理できるぐらいまでの土地を使うしかないんです。」

「なるほど。」

「ウチは放牧地を第一から第六に分けています。第一は当歳馬、つまり仔馬とその母親を放すところです。第二は牡馬たち、第三が療養が必要な馬たちを放します。第四から第六は臨時に使うところで、普段は仔馬たちの遊び場や他から預かってきた馬たちを放す時に使用しています。」

「こういうのって一斉に放牧するのですか?」

「牧場によると思います。ウチはローテで決めて、時間になったら入れ替えるみたいにしています。馬同士の相性がありますからそれも考えて分けています。相性が悪い馬同士を同じ場所に出したら怪我の可能性がありますから組み合わせも考えています。」

「へぇ〜…あのでしたら…」

 

 

『テメェまたやりやがったなコンチクショウ!』

『先に手を出したのはあなたの方でしょう!』

『知るか!ツラ貸せゴラァ!』

『やってやるよ、知らないからな!』

 

 

「……明らかに仲が悪そうな子たちがいるのですかあれは…」

「ノゾミフェニックスとノゾミラインですね。アレらは一緒にさせておかないと却って調子崩すんで仕方なく一緒にさせているんです。まあ迷惑かければ…」

 

 

『貴方たち…懲りていないようね…?』

 

 

「牧場のボス。ルイシエルが登場しますから心配いりません。次いきましょう。」

「あっ、はい…」

 

二頭の断末魔を聴きながら俺らは放牧地をさった。

 

「ここが厩舎です。大体70〜80ぐらいの馬を入れることできます。うちが管理している馬は、繁殖牝馬が10頭。種牡馬が20頭。種牡馬や繁殖牝馬を引退したような馬が4頭。後はその他含めて合計で大体70頭ぐらいですかね?」

「結構いますね…」

「他と比べたことはあんまりないんで詳しいところわからないですけど多分少ない方ですよ。」

 

俺は厩舎の中を日山さんに案内する。

 

「今は放牧中ですから数は少ないですけど、こんな感じで馬房が並んでいて馬が入っているんです。」

「おお〜!」

「あっ、ここではあまり大きな声を出さないでくださいね。神経質な子もいますから。」

「す、すみません…///」

 

顔を赤らめて謝る彼女。俺が先に伝えなかったのも悪いので気にしないでいいですよって言った。すると一頭の馬が馬房から顔を出した。

 

「レオ。ごめんな、少しびっくりしたか?」

 

『いや、聴き慣れない声がしたから見にきただけだ。』

 

「日山さん。この馬は『ノゾミレオ』っていって、今ウチが管理している中で数少ないG1馬です。」

「ノゾミ…レオ…あっ知ってます!部署の先輩がノゾミレオの大ファンで今回の話をしたら羨ましがっていました!」

「へぇ〜。こいつが活躍したのってもう二十年も前の話ですけど未だにファンがいるんだな。よかったなレオ。」

 

『あの優駿どもが蔓延る時代で俺のことを覚えている物好きな人間がいるとはな…感慨深い…』

 

「あの〜写真って…」

「すみません。厩舎内は撮影厳禁なんです。光や音で驚くのもいるので…」

「ですよね…」

「でも一応外での撮影は大丈夫ですのでレオが出るときなら撮れますよ。」

「あ、ありがとうございます!」

 

 

『タクヤさん。その人誰?タクヤさんの番?』

 

「カンパネラ。どうした?日山さんが気になるのか?」

 

顔を出してきたカンパネラの顔をグリグリ撫でる。こいつはこれが好きで、やってやると目に見えて喜ぶ。

 

『ああ〜これ良い〜♪』

 

「あのこの子は?」

「こいつは『ノゾミカンパネラ』。周りから大体『カン』って呼ばれてm…(ベシッ!)おわっと!?」

 

『僕はカンパネラ!それで言わないでください!』

 

「なんか怒ってません?」

「いっててて…す、すみません。こいつ名前を略されるのが嫌みたいでちゃんとカンパネラって言わないとこうなるんですよ。日山さんさっき俺がやったみたいにこいつの顔をグリグリしてみて下さい。噛まないんで大丈夫ですよ。」

「えっと、こうですか?おりゃおりゃおりゃあ〜!」

 

『うわっぷ!?……おお〜お姉さん…結構なお手前で〜♪』

 

「ぷふ…なんかすごいだらしない顔してません?」

「これがあるんで、ブログでこの写真上げたらファンが少し増えたんですよ。『だらしない顔の馬がいるって』。」

「確かに…なんか癒されるくらい良い顔ですね。」

 

『ああ〜♪』

 

 

『ひ、酷い目に遭った…』

『貴方がいちいち突っ掛かってくるからですよ…』

 

「あ、さっき喧嘩していた…」

「はい。ちょうど戻って来たところみたいですね。栗毛の馬がノゾミフェニックス、芦毛の馬がノゾミラインです。」

 

こってり絞られて来たであろう問題児たちが帰って来たので取材を始める。

 

「こいつらは現役時代でもバチバチなライバル関係で、八戦四勝四敗で互いに互いを意識しているんですよ。」

「おお〜馬同士でライバルと認め合う…なんか燃えますね」

「見てる分はいいんですが、世話する側からしたらいい加減にしてくれって感じですよ。」

 

『『だってコイツが!!…マネすんな!!』』

 

「距離を離せばいいんじゃないんでしょうか?」

「さっきも言いましたがそれ一回やったら、互いに調子が出なくて一週間で体重が互いに7kg減ったんです。」

「……えっ…」

「これはまずいってことでもう一回合わせたら元気になって結果的に元に戻ったんです」

「もう一周回って仲がいいですね…」

 

『『誰がコイツなんかと!!…だから被せんな!!』』

 

 

「ここが繁殖牝馬や当歳馬たちの馬房のエリアです。牡馬と離しておかないとダメですからね」

「問題につながりますかね。あっ、この馬って…」

 

牝馬の馬房があるエリアにやって来て、日山さんが見つけた馬はさっきチラッと見たルイシエルだった。

 

『あら?さっきの…』

 

「確かルイシエルって言ってましたよね。ノゾミミカドのお母さんですよね?」

「ええ。ウチの心優しくも力強い偉大なボス母です。」

 

シエルは競走馬として大成しなかったけど、繁殖入りしてからは一気にここのボスに昇り詰めた猛者でもある。体がデカイし賢いしで誰も彼女に逆らえない。繁殖の成績もパッとしなかったけどミカドが生まれてからは一気に価値が上がったから、いい条件の種牡馬が選びやすくなるはずだ。ウチの低資金範囲内での…だけど…

 

『ふふ、取材の方ね?私に取材するなら息子たちに行った方がいいわよ。こんなおばちゃんなんかよりもエネルギッシュな若い子たちの方が見栄えがいいしね。』

 

「さっきまであの二頭を叱っていた馬には見えないぐらい優しい目で見て来るんですけど…」

「歓迎しているんだと思いますよ。シエルは普段は大らかですから…」

 

 

普段は余り見せないが北山さんからは「折角だから」ということで当歳馬や一歳馬たちがいるエリアも案内することに。

 

「うわぁ〜可愛い〜…」

「ここにいる馬はみんな生まれてから一年は経っていない子たちです。今は大体十頭ぐらいいます。」

 

日山さんの目の前にはまだ幼い仔馬たちが近寄ってきた。

 

『誰誰?』

『人の雌だ〜』

『たーさん(卓也)の番?』

 

「なんか、凄い見られているんですけど…」

「知らなくて綺麗な人が来たら大体こんなかんじですよ。」

「へ〜……えっ!?」

「ん?……あっ!?いや、すみません、その別に口説いているとかそういうわけじゃ!?」

「で、ですよね!?やだもう三山さん、お世辞がお上手で!?」

 

『ここでラブコメしないでくれない?』

 

 

少し色々あったが時間もいい感じに経ち、いよいよ取材の本命の馬に会いに行く。こっからが取材の本番だ。

 

「一応言っておきます。ミカドは頭が良いんでやって良いことと悪いことは把握しています。けど動物は何をするのか予測できないこともあるので気をつけて下さいね?」

「分かりました。」

 

日山さんもさっきまでの人懐っこい表情が少し引き締まる。それは紛れもなく記者の顔だ。(さっきまでのギャップがあって少しドキッとした)

 

「そ、それじゃあいきましょう。」

「はい。」

 

そして俺たちはミカドの馬房へと向かう。そのミカドは…

 

『ふああ〜…寝み…』

 

だらしなく寝転がっていた。これを見て俺も日山さんも苦笑いしか出なかったよ…さっきまでの緊張感がどっか行っちまった…

 

「…取り敢えず連れてくるんで少し待っていて下さい。」

「……はい…」

 

俺が近づくとミカドはすぐに気付いて立ち上がった。

 

「ミカド、少し仕事してくれるか?」

 

『仕事?』

 

ミカドはキョトンとした表情を浮かべていたが俺は直ぐに無口を取り出してミカドにつけ、馬着を脱がせ、馬房から出す。その後は蹄洗場に繋ぎ、裏掘り、ブラシで体を綺麗にしてから放牧地に持っていった。

 

「ルドルフも今同僚が出しに行っているので一度ここで待ちましょう。」

 

第四放牧地でルドルフを待つこと1分。俊がルドルフを連れてやって来た。ガチガチになりながら。

 

「オ、オマタセシマシタ…」(声裏返っている)

「あの、彼大丈夫ですか?」

「心配しないで下さい。いつもの発作です。」

 

二頭を放牧地に放し、日山さんは二頭の写真を撮っていく。

 

隣り合う写真。共に走る写真。グルーミングする写真。草を食べている写真。

 

一枚一枚を真剣な表情で撮っていく。その時間を切り取るように、真剣に…

 

「……本当に仲がいいんですね…」

「ルドルフはプライドが高くて、他の馬とはあんまり群れないみたいな感じのイメージをもっていたんですけど、ミカドに対してはそういうのはないんですよね。」

「初の対面の時なんか、ミカドが近づいてルドルフが匂いを嗅いだと思ったらグルーミングしだしましたからね…今思い出しても感動ものです…」

 

ルドルフがミカドに向けている目はまさに孫を可愛がるお爺ちゃんみたいな感じで見ていてとても微笑ましい。ミカドもそのお爺ちゃんに優しく寄り添う孫のようにしている。

 

「やっぱり、分かるんでしょうね。」

「何が…ですか?」

「ルドルフは自分の血を受け継ぐ後継者だということが。ミカドは自分のルーツとなった先駆者ということが。理屈とかそういうのを飛び越えて…」

 

「多分、ルドルフがここに来たのも、ミカドがこの時期に帰って来たのも『運命』だったんじゃないんですか?」

「運命……ですか…」

「その方がロマンチックですし、この二頭の記事のタイトルには一番いい表現な気がするんですけど、どうでしょうか?」

 

少し自信なさげな感じで彼女は俺に聞いて来た。

 

「いいと思いますよ。俺もロマンチックな言い回しとかは好きな方ですし。」

「ありがとうございます。」

 

その時の彼女の笑顔が眩しかったのはきっと日差しのせいだと思う。

 

 

 

「あの二人の雰囲気、いい感じじゃね?」

 

『ですね。卓也さん、『出会いが欲しい』とか言ってましたし、このままくっつけちゃいますか?なんなら俺が卓也さん押して彼女を押し倒すシチュエーションにしますけど…』

『ミカドよ。そうせずともここであの2人がこう『爺ちゃんストップ!人間には段階があるから!』…そういうものなのか?』

 


 

おまけ

 

爺ちゃんと母さんの初対面から数分…

 

『ひ、酷い目に遭った…』

『姐さんには逆らえねぇからな、俺ら…』

『何故彼女、重賞で勝てなかったんでしょう…?』

『シエル姉から聞いたけど、本人曰く『加速とスタミナが足りなかったらしい』だそうだ…』

『それがあったら間違いなく怪物級になっただろうな…』

 

『そこの駄馬五頭、何か言った?』

 

『『『『『いえ、何も。』』』』』

 

俺らの心が一つになった瞬間だった。母さんを怒らせるとマジでヤバイ。

どれくらいヤバイかというと、その……えっと…とにかくヤバイです。(語彙力G)

 

こんな俺らと裏腹に爺ちゃんはというと…

 

『ホウ…お前がミカドの半弟か…』

 

弟のボーと会っていた。ボー、粗相がない様にな。その馬は日本競馬史上の最高レベルの名馬だから。普通は会えないお方だからね。

 

『じっちゃん誰?すんごい偉そうにしているけど…』

 

『オイィィィィィ!!??』

 

そうだアイツ競馬知識ゼロだった!アイツが走る頃の情報は教えていたけど爺ちゃんみたいな昭和の名馬についてはまだ全く教えていなかった!

 

『ボー!そのお方はシンボリルドルフと言って、俺の父方の爺ちゃんで、日本で初めて無敗三冠を成し遂げた物凄いお方なの!?失礼のない様に!?』

『??とにかくすごい馬ってこと?』

『合っているけど規模が違うの!?』

『ハッハッハッ!確かに一歳馬の坊には我の様な古い馬は知らなくて当然か!改めて名乗ろう。我は皇帝、シンボリルドルフ!絶対を成し遂げた偉大なる皇帝である!』

『はぁ?』

 

こいつ絶対何も理解していねぇ…!!??

 

『しかし、知らないとはいえ我を前にしてここまで動じないとは…将来は大物になるかもな。』

『まだ、本格的に走ったこともないのに分かるものなの?』

『分かる!この我が言うのだから間違いない!バランスよく整えられた筋肉。我にも動じないその豪胆さ。何よりミカドにも負けないその目に宿る魂。お前は将来必ず大きなことを成し遂げるだろう!』

『えっと、ありがとうございます?』

『あまり理解しておらん様だな。まあいい、老馬の戯言だと思っておけ。』

 

いや、貴方様が言うとそれ未来予知かなんかのレベルになってしまう気がすんですけど…

 

そんなこんなで爺ちゃんがいる俺の帰郷生活は続いた。俊さんと言う犠牲者が出ながら…

 

「北山さん、俊がまた死にました!今度は写真撮りながらです!」

「とりあえず事務室に放り込んどけ」




そろそろボーにも競走馬としての名が与えられます。
果たして彼は皇帝が言う通りな活躍ができるのか?

次回からまたトレセン編に行きます。
それでは…また次回。


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北山牧場〜無敗の三冠馬が生まれ育った地/スレの反応

久しぶりのスレ回。
ぐだぐだな彼らのやりとりをどうぞ!


1:ミカドのイッチ

『週刊コネクト特集・北山牧場〜無敗の帝が生まれ育った地』発売を記念して立つ。

 

2:名無しの競馬読者

仕事が早い

 

3:名無しの競馬読者

多分最速じゃね?

 

4:五徹

初版ものは既に完売した。

 

5:一問無し

いや〜定期購読にしといてよかった〜。

 

6:新人

本屋行ったら既に売り切れていたんですけど…

 

7:名無しの競馬読者

はい、来ました。いつものメンバー。

 

8:名無しの競馬読者

新人ニキどんまい

 

9:名無しの競馬読者

コネクトが初日で完売することって今まであった?俺見たことないんだけど…

 

10:名無しの競馬読者

俺らみたいな競馬にどっぷり浸かった奴に売れるのはわかるけど、各地で在庫切れになるって…

 

11:名無しの競馬読者

ディープの余波がまだのこっていたのか?

 

12:名無しの競馬読者

ミカド自体が話題を呼んでいる気がするけど…

 

13:名無しの競馬読者

そりゃあ、祖父が皇帝、親が帝王、母父がサイボーグ、本馬は骨折したのに無敗三冠馬で有馬同着。

話題にならないのがおかしいレベル。

 

14:名無しの競馬読者

ウチのじいちゃんに雑誌見せたら白い馬見た瞬間、オグリか?こいつはオグリか!?って言われたんだけど…

 

15:名無しの競馬読者

>>14

その馬はノゾミラインっていうオグリの息子だ。蓮対率100%でシンザンを超えている馬。

 

16:名無しの競馬読者

隣にフェニックスも写ってんな…文に『今でも喧嘩するほど仲がいいライバル』って書かれてんだけどw

 

17:名無しの競馬読者

アイツら今でもかw

 

18:名無しの競馬読者

現役でもレース中は普通に走るけど前と後で必ず喧嘩するんだよな…

 

19:名無しの競馬読者

ノゾミレオももう24なのに元気だな…

 

20:名無しの競馬読者

オグリと戦って毎回後ろの順位

 

21:名無しの競馬読者

もう種牡馬は引退して余生を過ごしているのか

 

22:名無しの競馬読者

長生きしてほしいもんだ

 

23:一文無し

レオ爺ちゃんは私が馬に興味持ったきっかけでもあるから元気そうで嬉しいよ。

 

24:名無しの競馬読者

一文無しネキのきっかけ?

 

25:名無しの競馬読者

すごい気になる

 

26:名無しの競馬読者

ネキ、おせーておせーて

 

27:一文無し

まあ、いいか。

ウチの親も競馬が好きでね。父親が一番好きだったのがノゾミレオだったんだよ。六歳ぐらいだったかな?父が懐かしいもの見つけたって言ってビデオテープを持って来てテレビにつなげてさ、それがノゾミレオの菊花賞のレースだったんだよね。そのレースに幼いながら魅せられてさ、そっから親に頼み込んで乗馬クラブに通ったり牧場見学に行ったりとか…懐かしい記憶だよ。

 

28:名無しの競馬読者

いい思い出。

 

29:名無しの競馬読者

まだ競馬に染まっていない清らかな頃のネキ話は浄化される。

 

30:名無しの競馬読者

なお今は全財産剃って破産エンドに片足突っ込んでいる

 

31:ミカドのイッチ

マジでもうしないで下さいね?

 

32:新人

この間もG3で消し飛びましたから本当に自重してください。

 

33:五徹

我々が気付かなかったらまた生活費にまで手を出していたからな

 

34:名無しの競馬読者

ネキ…

 

35:名無しの競馬読者

コテハン勢、この人競馬場に一人で生かせない方がいいよ。

 

36:名無しの競馬読者

最悪闇金に手を出しかねない

 

37:名無しの競馬読者

イッチ。手綱を握っていてね。

 

38:ミカドのイッチ

いやそもそも今の消し飛んだ話も初めて聞いたんだけど…

 

39:一文無し

なんでみんな言っちゃったの!?怒られるから黙っていたのに!?

 

40:新人

自業自得です。

 

41:五徹

少しお灸をと…

 

42:一文無し

鬼!悪魔!人でn

 

43:名無しの競馬読者

あれ?途中で切れた。

 

44:名無しの競馬読者

ネキ?

 

45:名無しの競馬読者

おーい?

 

46:ミカドのイッチ

少し彼女とオハナシして来ますんで

 

47:名無しの競馬読者

あっ…

 

48:名無しの競馬読者

イッチガンバ

 

49:名無しの競馬読者

ネキは安らかに…

 

50:名無しの競馬読者

ていうかあの二人同じ場所にいんの?

 

51:名無しの競馬読者

同じ場所にいてなんでスレに入ってんだよ。

 

52:新人

一文無しネキの私生活ダメ社会人のそれなんでイッチさんが週末に来て世話してんですよ。

 

53:名無しの競馬読者

>>52

うん?新人ニキ、少し詳しく。

 

54:新人

前に飲み会した時にネキが間違えて酒飲んで潰れちゃって、イッチさんが家に送って行ったんですよ。そしたら自宅がゴミだらけだったらしく、イッチさんが仕方なく面倒見に行ってんです。

 

55:名無しの競馬読者

イッチって勝ち組だな。

 

56:名無しの競馬読者

もう主夫じゃん

 

57:名無しの競馬読者

空手出来て、運が良ければ万馬券当てれて、高身長で顔も良いらしいし…勝てる要素がない。

 

58:名無しの競馬読者

プラス高収入らしい

 

59:名無しの競馬読者

自宅警備員には眩しすぎる。

 

60:名無しの競馬読者

働けニート。

 

61:名無しの競馬読者

てか話し脱線してる脱線してる。

 

62:名無しの競馬読者

元に戻そう。レオの話で終わっていたな。

 

63:名無しの競馬読者

次はノゾミカンパネラ?聞いたことあるような?

 

64:名無しの競馬読者

>>63

お前知らないのか?ノゾミカンパネラを?ノゾミ系のダートでそこそこの成績を残した馬だぞ!

 

65:五徹

解説を挟もう。

ノゾミカンパネラ

 

年齢:11歳

生年月日:1999年9月27日

性別:牡

毛色:栗毛

血統:父・ナリタブライアン 母・クロッシュ 母父・マルゼンスキー

成績:25戦9勝 2着2回 3着5回

 

主な勝鞍

2003年 日本テレビ盃(G3)

2004年 トパーズステークス(OP特別)

 

ノゾミのダート馬で重賞も勝っている実力馬。もともとは芝で走っていたが成績が伸びずダートに転身。しかし思いの外ダートでの適正があったのか成績が伸びて行き東京大賞典でも2着に入るほどの実力を手にしたんだ。父は三冠馬であるナリタブライアン。パワーもそこそこ遺伝していたようでダートでそれが発揮されたんだろう。

 

66:名無しの競馬読者

ダートはあんまり見ないから知らなかった。

 

67:新人

ダートは自分も知らないです。

 

68:名無しの競馬読者

>>67

芝ほどメジャーじゃないからね。でも芝では味わえないレースを拝めるから見に行った方がいいぞ。

 

69:名無しの競馬読者

夜に行われるレースってなんかいいんだよな。

 

70:名無しの競馬読者

カンパネラが東京大賞典でナリブ並の末脚で迫って行ったのを今でも思い出せる。

 

71:名無しの競馬読者

ナリブのラストクロップだからな…

 

72:名無しの競馬読者

種牡馬として血をつなげてほしい。

 

73:名無しの競馬読者

北山牧場ってフェニックス以外は本当アウトブリードな馬ばっかだからな。

 

74:ミカドのイッチ

聞いた話によると社長が非主流血統での配合が好きらしい。思い付いたら即行動らしいから従業員は振り回されているって書いてあるしな。

 

75:名無しの競馬読者

イッチおかえり。ネキは?

 

76:ミカドのイッチ

お説教をちょっとしただけですよ。

 

77:一文無し

………

 

78:名無しの競馬読者

>>77

あれ?ネキ?

 

79:名無しの競馬読者

反応ないな?

 

80:名無しの競馬読者

おーい。

 

81:一文無し

怖い

 

82:名無しの競馬読者

>>80

何があった。

 

83:名無しの競馬読者

本当に何があった?

 

84:名無しの競馬読者

たったの一言。それが何よりの恐怖

 

85:一文無し

聞かないで

 

86:名無しの競馬読者

>>85

これマジで聞かない方がいいやつだ。

 

87:名無しの競馬読者

なんならこれの犯人ここにいるからな

 

88:ミカドのイッチ

何か?

 

89:名無しの競馬読者

お前ら、死にたくなかったらこの件に関してはお口チャックな。

 

90:名無しの競馬読者

>>89

ラジャー

 

91:名無しの競馬読者

>>89

了解

 

92:名無しの競馬読者

>>89

承知

 

93:名無しの競馬読者

>>89

御意

 

94:名無しの競馬読者

にしても北山牧場ってそんな配合の血統で成り立っているのがすごいな…

 

95:名無しの競馬読者

記事によると駒沢の社長と北山社長は若い頃から交友関係があったらしい。それで昔のよしみで資金の援助とかしているらしい。

 

96:名無しの競馬読者

縁ってことか?

 

97:名無しの競馬読者

片や大企業の社長、片や重賞馬を排出する牧場の社長。なんだこのコンビ。

 

98:名無しの競馬読者

北村牧場の1/3はノゾミの馬って言われているし

 

99:名無しの競馬読者

繁殖牝馬の方も載っているんだ…

 

100:名無しの競馬読者

ルイシエルの記事発見。

 

101:名無しの競馬読者

『牧場の心優しき偉大な母』タイトルが壮大w

 

102:名無しの競馬読者

繁殖成績としてはミカドだけしか中央で勝っていないんだな…

 

103:名無しの競馬読者

シエル自身もなんとかOP戦一勝出来たけどその後は全然勝てなくて引退しているからな

 

104:五徹

ルイシエル自身は決して弱いわけではなかったんだよなぁ…加速とスタミナが足りなかっただけで、その片方どちらかを克服できていればもう少し勝てたんだろうけど…

 

105:名無しの競馬読者

五徹ニキ、たとえ勝てたとしてもシエルの世代はあの世紀末覇王の絶対王政時代だ。G1に出れたとしても多分勝てなかったと思うぞ

 

106:名無しの競馬読者

99世代だったのシエルママ…

 

107:新人

すみません。世紀末覇王ってなんですか?北斗の拳?

 

108:名無しの競馬読者

>>107

ああそうか。新人ニキは知らないか。

 

109:名無しの競馬読者

10年も前の話だからな…

 

110:名無しの競馬読者

一種の暗黒期ともいう人もいるしな…

 

111:五徹

新人君

99世代とは、1996年生まれの競走馬たちのことで、世紀末覇王とはある一頭の馬『テイエムオペラオー』の二つ名なんだ。

112:新人

すんごい大層な二つ名ですね…

 

113:名無しの競馬読者

そりゃそうだ。なんせミカドが出てくるまでは唯一の年間無敗馬で現在でも超えられていない総合獲得賞金18億円の馬なんだから。

 

114:名無しの競馬読者

ミカドは5勝。オペラオーは8勝。だからミカドはまだオペラオーを超えていない。

 

115:名無しの競馬読者

特に有馬記念はすごかったからな…

 

116:一文無し

アレは本当に周りが酷かった。

 

117:新人

>>116

えっと、何があったんですか?

 

118:名無しの競馬読者

ほとんどの馬がオペラオーをブロックしてオペラオーだけを勝たせないようにしていた。

 

119:名無しの競馬読者

観客の中には切れてる人もいたからな

 

120:新人

それって反則なんじゃ…

 

121:ミカドのイッチ

いや反則にはならない。ブロックはあくまで作戦の一つ。そして全員が少なからずオペラオーを意識していたからな。結果的にそうなっただけだ。

 

122:名無しの競馬読者

でもやっぱり覇王は強かった。

 

123:名無しの競馬読者

最後の直線でわずかに開いた隙間から前に出てメイショウドトウとハナ差圧勝ワンツーフィニッシュ。

 

124:名無しの競馬読者

しかもこの時オペラオーは顔を怪我をしていて、ハンデを背負った状態。

 

125:新人

漫画の主人公かなんかですかその馬?

 

126:名無しの競馬読者

ところがどっこい現実です。

 

127:名無しの競馬読者

なんなら一切話は盛っていない。

 

128:ミカドのイッチ

一頭の覇王とその盟友である一人騎手の不滅の物語さ。

 

129:一文無し

倭田龍二騎手は今でも頑張っているからね。確かノゾミの馬であるノゾミナチュラルの主戦だよね。

 

130:名無しの競馬読者

今年はG1勝てんのかね

 

131:名無しの競馬読者

信じてやれ

 

132:名無しの競馬読者

というか脱線しすぎ脱線しすぎ

 

133:名無しの競馬読者

なんか俺らっていっつも話があっちこっちに行っちゃうんだよな…

 

134:名無しの競馬読者

新人君がいろいろ聞いてきてくれるおかげでなんか教えちゃうんだよね

 

135:新人

えっと…すみません…

 

136:名無しの競馬読者

ああ、別にせめているわけじゃないんだ!

 

137:名無しの競馬読者

そうそう!ニキが素直に聞いてくれるから先輩として色々教えてあげたくなっちゃうんだよ!

 

138:五徹

このスレの良心だからな君は

 

139:一文無し

本当

 

140:ミカドのイッチ

君は君のままでいてくれ

 

141:新人

はあ…

 

142:名無しの競馬読者

話戻して、『ルイシエルは牧場のボスとして君臨。仲間内の仲介や暴れ馬(主にフェニックスとライン)の抑制などをして、牧場の治安を保っている。』なんでこんなに強いのに勝てなかったの?だって叱っている馬ってどっちも中央重賞2勝以上勝っている馬だよ?

 

143:名無しの競馬読者

ルイシエルって牝馬にしてはでかいんだよな…現役当時の最大馬体重って確か500手前はあったはず…

 

144:名無しの競馬読者

あの子の最大は490kgです。

 

145:名無しの競馬読者

いやデッカ!?

 

146:名無しの競馬読者

競走馬って大体400後半ぐらいだろ?牝馬でそれはでかくね?

 

147:一文無し

前にイッチと一緒に見に行ったけどシエルだけ周りの牝馬に比べて一回りデカかったのを覚えてる。

 

148:名無しの競馬読者

しかも普通にパワーは強いからな…それはボスになれるわ…

 

149:名無しの競馬読者

ていうかお前ら見てみろ!シエルとルドルフが睨み合っている写真載ってんぞ!

 

150:名無しの競馬読者

!?

 

151:名無しの競馬読者

!?

 

152:名無しの競馬読者

!!?

 

153:名無しの競馬読者

本当だ!?

 

154:名無しの競馬読者

えっ何これどういう状況?

 

155:名無しの競馬読者

多分ルドルフがボスであるシエルにちょっかい出そうとしているんだと思う。そこのボスを倒せばルドルフは北山牧場を統べることになるから…

 

156:名無しの競馬読者

皇帝と並んでも全然怖気ついてないなシエルママ…

 

157:名無しの競馬読者

皇帝と真っ向から向き合う馬なんているんだな

 

158:名無しの競馬読者

本当になんで勝てなかったの?

 

159:名無しの競馬読者

記事によるとこの写真はルドルフが初めて来た日に撮った写真らしい。しばらく向き合った後、互いに去っていったらしい。

 

160:名無しの競馬読者

認め合った……ってことか?

 

161:名無しの競馬読者

ルドルフが認めた女。

 

162:名無しの競馬読者

シエルママって実は凄い馬?

 

163:名無しの競馬読者

いや無敗三冠の馬を産んだ時点で名牝だと思うぞ

 

164:名無しの競馬読者

今は一歳になる仔馬を育てていると…

 

165:名無しの競馬読者

それミカドの弟じゃん。

 

166:名無しの競馬読者

その馬についても載っているぞ。父は、キングヘイロー!?

 

167:名無しの競馬読者

ちょっと待て色々待て。

 

168:名無しの競馬読者

テイオーの次はキングって…

 

169:名無しの競馬読者

エピソードにはなんか策を飛び越えて外に抜け出したこともあるらしいぞ。

 

170:名無しの競馬読者

なんか名馬になりそう…

 

171:名無しの競馬読者

兄がアレだしな…

 

172:名無しの競馬読者

今一歳ならデビューは2011年から2012年だな。

 

173:名無しの競馬読者

うわぁ〜早く走るの見てみたい。

 

174:名無しの競馬読者

売り手は決まっているのか?

 

175:名無しの競馬読者

どうやら駒沢社長が買い取ったらしい。

 

176:名無しの競馬読者

またかい

 

177:五徹

北山牧場は基本庭先取引が多いらしいからな…

 

178:名無しの競馬読者

縁をしっかり活用しているな駒沢社長…

 

179:ミカドのイッチ

でもここからが本命の内容だぞ君達。

 

180:名無しの競馬読者

そうだった。

 

181:名無しの競馬読者

大本命は後ろの方に。

 

182:名無しの競馬読者

皇帝と帝の特集!

 

183:名無しの競馬読者

では、いざ行かん!!

 

184:名無しの競馬読者

いっきまーす!!

 

185:名無しの競馬読者

突撃ぃぃぃ!!!

 

186:名無しの競馬読者

 

 

187:名無しの競馬読者

 

 

188:名無しの競馬読者

 

 

189:名無しの競馬読者

 

 

190:名無しの競馬読者

 

 

191:名無しの競馬読者

 

 

192:名無しの競馬読者

 

 

193:名無しの競馬読者

 

 

194:新人

あれなんか何も書かれずにスレが…

 

195:新人

お〜いみなさん〜

 

196:新人

あれ本当にどうした?

 

197:名無しの競馬読者

……す、すまない新人ニキ…

 

198:名無しの競馬読者

どうやら我々は気を失っていたようだ…

 

199:名無しの競馬読者

でも、でも、耐えられるわけないだろ…!

 

200:名無しの競馬読者

しょっぱなからルドルフとミカドのグルーミング写真なんて誰が耐えられるんだ!!

 

201:五徹

久しぶりに命の危険が…

 

202:ミカドのイッチ

新人君すまない。一文無しさんが「好き…尊い…」と呟きながら倒れたから対応していた。

 

203:名無しの競馬読者

ネキの反応は至極真っ当なことだ。

 

204:新人

これ自分がおかしいんですか?

 

205:名無しの競馬読者

>>204

いや俺らがおかしいだけだ。

 

206:名無しの競馬読者

『運命が引き寄せた 帝と皇帝の絆』か…

 

207:名無しの競馬読者

確かに神がかったタイミングで出会ったもんな

 

208:名無しの競馬読者

というかこんな仲良い写真見せたから脳が溶けたり、焼かれたりするやつが出てしまったぞ。

 

209:名無しの競馬読者

一文無しネキ筆頭にな

 

210:名無しの競馬読者

イッチ、ネキは?

 

211:ミカドのイッチ

まだ「無理……こんにゃの見しぇられたゃら………内に秘めていた尊みが指数関数並みに増えて爆破すりゅ……」と言っています。多分今日はずっとこのままですね…

 

212:名無しの競馬読者

一文無しネキ、崩落。

 

213:名無しの競馬読者

というか写真どれもツーショットでしかも二頭並んで柵の前で人参食べている写真、俺一番これが好き。

 

214:名無しの競馬読者

俺は並んで走っている写真

 

215:五徹

僕は向かい合う写真かな

 

216:ミカドのイッチ

私は並んでいる写真ですね。彼女はグルーミングだそうです。

 

217:新人

やっと買えました…

 

218:名無しの競馬読者

>>217

新人ニキまだ買えてなかったの?

 

219:新人

なんか前にいたおじさんが五冊くらい買っていてしかも綺麗にカバーしていたみたいでレジが混んでいたんです。60歳くらいの背が低いおじさんでしたよ。

 

220:名無しの競馬読者

ごめんそれ多分俺ら知っている人かも。

 

221:名無しの競馬読者

あの人だよな…

 

222:五徹

あの人なら確かに買うだろうな

 

223:名無しの競馬読者

確かにあり得る

 

224:名無しの競馬読者

大僧正…




因みに一問無しネキは正気を取り戻した時にイッチの膝枕で再び撃沈しました。

次回こそ競馬らしい回出しますのでお楽しみに!


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帝の道/道の先は…

遅くなりました…

今回はレース回ですが少し短めだと思います。
駄文ですがそれでも良いならどうぞ。


ルドルフ爺ちゃんとの出会いがあった短期放牧を終え、俺は栗東トレセンの松戸厩舎に帰ってきた。

今回はマジで濃い里帰りだったな…なんか雄一さんと大僧正が来たし…

 

トレセンに来てからはまたハードなトレーニングが始まり、レースの感覚を取り戻していく。次のレースは2月後半に行われるGⅡレース『京都記念』。ブエナと一緒にドバイに向けての出走になる大事なレースだ。

 

「どうだ雄一。ミカドの乗った感じは?」

「大分良いと思います。有馬で乗った時よりも走りに力強さがあります。」

「そいつはよかった。ルドルフに会って何かを吸収したのか帰って来てから、走りのキレが更に出た気がしてよぉ。」

 

『へへっ、まだまだ走れますよ!』

 

体の調子が格段といい。今ならどんな相手が来ても逃げ切れるし差し切れる気がする。

 

『おりゃおりゃおりゃあぁぁぁ!!!』

 

まあ、それは向こうにも言えることなんだけどな…

 

「ブエナビスタもいい感じですね。末脚がまた強くなってないですか?」

「去年はオークスから一勝も出来なかった分少し不安もあったがあの調子なら大丈夫そうだな。今のブエナビスタならノゾミミカドを差し切れると思うぞ。」

「なら俺らも差されたとしてもまた差し返しますよ。」

 

『おう!』

 

ブエナに負けないように気合いを入れ直し、トレーニングに励んだ。

 

 


 

 

福長side

 

京都記念当日

 

 

枠番馬番馬名人気
1枠1番ホクトスルタン7番人気
2枠2番サンライズマックス5番人気
3枠3番ノゾミミカド1番人気
4枠4番ホワイトピルグリム6番人気
4枠5番ミッキーパンプキン9番人気
5枠6番トップカミング8番人気
5枠7番ドリームジャーニー3番人気
6枠8番ニホンピロレガーロ13番人気
6枠9番アドマイヤコマンド11番人気
7枠10番シルバーブレイズ12番人気
7枠11番トウショウシロッコ10番人気
8枠12番ジャガーメイル4番人気
8枠13番ブエナビスタ2番人気

 

 

『晴れた空の下、冬の京都で優駿たちが凌ぎを削る戦いが始まります。今年の京都記念は年末を盛り上げた三頭が再び集まりました。』

 

『一番人気のノゾミミカド、馬体重は前走の有馬記念から+2kgの490kgです。見事三冠を制したこの京都でどのような走りをするのか期待です。鞍上は変わらず福長雄一ジョッキーです。』

 

『ノゾミミカドと有馬記念で同着という結果を残したドリームジャーニー。馬体重は+12kgの438kg。三番人気に押され、力強いその走りで先頭をもぎ取るか?鞍上は池副健一ジョッキーです。』

 

『4歳馬の紅一点ブエナビスタは二番人気。馬体重は+12kgの458kg。横谷典弘ジョッキーを背に乗せ、その末脚でライバルたちをなできるか?』

 

 

2010年に入り、ミカドの最初のレースがとうとう始まる。だがこのレースはただのレースじゃない。ミカドの無敗記録更新や海外進出がかかったレースでもあるのだ。

 

(負けるつもりは毛頭ないが、やはり体が強張る。)

 

龍二もこんな感じだったんだろうか…俺がそう考えていると時間になりパドックにいるミカドに近づく。

 

「福長さん、今日もよろしくお願いします。」

「ああ、真司。よろしくな。」

 

真司が引手でミカドを抑えている間に乗ろうとすると、ミカドが急に俺の顔に自分の顔を近づけ軽く小突いてきた。

 

「おっと…どうしたミカド?」

「ブルルっ(硬いよ雄一さん。ほらリラックス。)」

 

……よく分からないが俺の元気がないかと思って励ましたんだろう。動物は人の気持ちを理解することができると聞く。こいつの場合はまた違うだろうが…

 

「大丈夫だミカド。心配ない。」

 

そう言って首を叩くとミカドは「ブルッ」っと鳴いた。多分納得したのだろう。俺はミカドの背に乗り、真司に引かれながらコースに向かった。

 

 

「雄一、今日は勝たせてもらうよ。」

「ノリさん、今日も勝つのは俺らです。」

「はは、言うようになったね。」

 

コースに着いて返し馬をしているとブエナビスタに乗ったノリさんが声をかけてきた。下ではブエナビスタがミカドに寄ってきて何かをしている。

 

「後多分、ここにこの二頭が居ると「ちょいちょいちょい!!またかお前は!!」…来ましたね…」

「来たね…」

 

騒がしい足音と聞き馴染んだ声にある馬が来たことを察した。音の方を向くと小さな馬に乗った若い騎手。

 

「す、すみません。またコイツが…」

「ブルンっ!!」フン!

 

「いやいいよ。怪我さえしなければこっちは、ただ文字通り手綱はしっかり握っておいてよ健一」

「ノリさん、マジですみません…福長さんもすみません。こいつ有馬からノゾミミカドに対抗心を持っちゃって…ノゾミミカドがすんごい嫌そうな顔してる…」

 

ドリームジャーニーと健一の登場に誰からも見て分かるくらい嫌そうな顔をしているミカド。あれ以来、ドリームジャーニーに苦手意識を持つようになってしまい、ドリームジャーニーの名を聞くだけで耳を絞るようになってしまった。

 

「ああ…大丈夫大丈夫苦手なだけで特に何もしな『ベシッ!』…いと思いたかった…」

 

ミカドがブエナビスタに近づこうとするドリームジャーニーを遮るように一蹴した。どうやらこっちが想定していたよりもミカドは相手が嫌いらしい…

 

「ブル。(気安くこいつに近づくんっじゃねぇよ金色チビ。)」

「ビィヒン!?(アアン!?テメェが決めることじゃねぇだろゴラァ!?)」

「フン。(お前みたいな不良が近くにいるとブエナの衛生教育上よろしくない。ブエナに何かあったら先輩に顔向け出来ねぇしな。一昨日きやがれドリジャ。)」

「ヒン…(ミカド、別に大丈夫だよ…)」

 

完全に一触即発となったミカドとドリームジャーニーをなんとか引き剥がし、俺らはそれぞれのゲート前に向かう。

 

「ミカド…らしくないぞ。」

「フヒィン…(すんません…)」

「今回はいいが気を付けろよ。怪我したら元も子もないんだからな。」

 

そしてとうとう準備が完了し、馬たちがゲートに入って行く。

 

「さて……行くぞ。」

 

俺らもゲートに入り、間も無く全ての馬がゲートに入った。

 

そして…

 

 

ガコンッ

 

ゲートが開きレースが始まった。

 

 


 

 

ミカドside

 

 

ゲートが開き、俺らは一斉に飛び出した。今回も良いスタートを切った。でも今日は前にはいかない。

 

 

『スタートしました。全頭きれいなスタートを切りました。ハナをとったのはホクトスルタン。ホクトスルタンが行きました。続いてシルバーブレイズが三馬身後ろ。ブエナビスタが五馬身差でいます。一番人気ノゾミミカドはなんと後方です。後方からの競馬になりました。』

 

今日の俺の作戦は差し。最近になってようやく他馬を気にしなくなってきたのでブリンカーを外した俺。俺の持論ではあるが差しは逃げとは違い、周りの動きをよく見ないといけない。差しでブリンカーをするのはちょっと怖かったので外してもらってすんごい嬉しかったのは余談。

とにかく今回は前回と違い、俺がブエナとドリジャを追う。そして逃げ先行で来ると思った他の奴らの作戦を崩すため、俺は後方から走らせてもらう。

 

『さ〜て…どうする、ブエナ?』

 

『ミカド…後ろからって…』

 

「これはやられたね。今回は裏を取られたか…」

 

『アンニャロォ…!俺様のマネしやがってぇぇ……!』

 

「ノゾミミカドが後ろって、うわっどうしよ…」

 

 

『第一コーナーに入り先頭は依然ホクトスルタン、続いてトウショウシロッコ、三馬身後ろにブエナビスタ、二馬身後ろの内にホワイトピルグリムとジャガーメイル、さらにニホンピロレガーロとドリームジャーニーがその内にいます。その後ろに着くのはトップカミングとシルバーブレイズ、一馬身後ろにノゾミミカド、ミッキーパンプキン、最後方にサンライズマックス。こういった展開になっております。先頭集団が第一コーナーを抜けて第二コーナーに入ります。依然先頭を進むのはホクトスルタン。ブエナビスタが三番手の位置で先頭を狙います。ノゾミミカドは現在後方から四、五番手に位置付けております。向正面に入り、1000mを通過し、タイムは1:02.0。少しスローペースになっております。』

 

 

さて…後ろから五頭目ぐらいの位置にいて、ドリジャのチビ先輩は目の前にいて、ブエナは三番手か…動くなら淀の坂を過ぎてからかな?

 

『オイコラテメェ!!俺様のマネするとはどういうことだゴラァ!!』

『今回は差しがちょうど良いんだよ!別にテメェみたいなやつの真似なんて誰が好き好んでするかゴラァ!!』

 

三コーナーに入る少し前の位置でドリジャと並ぶとガン飛ばしてくるアイツを横目に俺は機を窺う。そろそろ来るからな、淀の坂が。

 

 

『第三コーナーに入り、京都競馬場名物の淀の坂を登っていきます。』

 

 

久しぶりの淀の坂…やっぱり辛い…でも前より余裕がある。菊花賞よりも距離が短いのもあるけど、俺自身のスタミナが上がったんだろう。それでもここからスパートなんてかけられないけど…

ブエナは今は三番手、ドリジャと俺は五、六番手辺り…スパートをかけるなら…

 

「四コーナー序盤だな。」

 

『ですね。』

 

登り坂を終え下り坂に入る。急な下りで脚をなるべく使わないように抑え、四コーナーが見えてくる。

 

「行くぞ、ミカド。」

 

『ええ。行きますよ、雄一さん。』

 

そして俺たちが四コーナーに入った瞬間…

 

バシッ!!と鞭が入った。

 

俺はそれと共に足を溜め、力一杯地面を蹴る。

 

『さあ、ここからが俺のレースの本番だ!』

 

蹴ったと同時に一気に加速。馬群を抜けて一気に先頭集団を捉える。

 

 

『第四コーナーに入り、ここでノゾミミカドが動いた!外から一気に前との差を詰め、先頭を狙う!続くようにドリームジャーニーも加速、ブエナビスタもここで動く!有馬記念で激闘を繰り広げた三頭の争いになるのか!』

 

 

俺が動いたと同時にドリジャとブエナも動く。いやこいつらだけじゃない。他の馬たちも動き出した。

 

『待ちやがれぇぇ!!俺の前を走るんじゃねぇぇ!』

 

『抜けさせないよ、ミカド!』

 

『いや、差し切らせてもらうぜ!』

 

 

『ノゾミミカドが動いたと同時に他の馬も動き出す!現在先頭はジャガーメイルに変わったがブエナビスタがもう後ろにいる!さらに有馬を制した二頭が上がってきた!直線に入りここで先頭はブエナビスタに変わった!その半馬身後ろにはノゾミミカドとドリームジャーニー!しかし、ノゾミミカドさらに加速!ドリームジャーニーを置き去りにし、ブエナビスタに並んだ!残り100m!』

 

 

『ブエナ!追いついたぜ!』

『来ると思ってたよミカド!』

 

ブエナと並び直線を進む。二度目の俺たちの対決はあと数十mで終わる。だがまだ俺らは並んだままの拮抗状態。

 

(このままじゃちょっとの拍子で俺が負ける!だけど俺にはもうこれ以上のスピードを出すのは無理だ!どうすれば…)

 

……いや落ち着け俺。爺ちゃんがいっていたじゃないか。視野を広く持てって。冷静になれ、周りを見ろ、前を向け!気持ちで負ければ勝てるものも勝てない!

 

脚を必死に動かすのと同時に俺は神経を集中させる。視界に映る景色、耳から聞こえる足音や歓声、嗅覚で感じる土の匂い、肌で感じとる風。味覚以外の全ての五感を集中させる。

 

『ん?なんだあれ…?』

 

目に視えたのは一筋の光。それは真っ直ぐゴールに向かっていた。

 

『まさか…いや、今考えるのは後だ!』

 

俺は光の筋をなぞる様に走る。

 

『クッ…負けるかぁ!(少し脚が重い?なんで?)』

『あああぁぁ!!』

 

光は俺を導くかの様に輝いている。そして…

 

 

『ノゾミミカド今一着でゴールイン!ブエナビスタとの接戦を制して無敗伝説を更新しました!タイムは2:12.8!素晴らしい走りを再び京都で見せてくれました!』

 

 

『『___!!!!』』

 

湧き上がる歓声が競馬場を包む。

 

『ハア…ハア……ハア……』

 

息絶え絶えで声を出すのも儘ならない。息をなんとか整えてゴール板の方を見る。

 

何もない。

 

『あれが、爺ちゃんの言っていた『絶対』の一つか?』

 

かつて爺ちゃんが視えていたという『絶対』。それが今の奴ならなんで『今』視えたのか?見える条件は?前の幻影も『絶対』なら今回はなんで光の道だったのか?今回と前回の違いは?

考えても答えは出ない。

 

『ねえミカド!大丈夫!?』

『うおっと!?ブ、ブエナ?なんだよ?』

『なんだよじゃないよ!ずっとみんな呼んでいるのに全然反応しないから心配してんだよ!』

 

そう言われて俺は周りを見る。心配そうに俺を見るブエナ。キレ散らかしているドリジャ。不安そうにしている雄一さん。

 

『ああ、うん。大丈夫だ。少し考え事をしていただけ。』

『本当?』

『ああ。』

『おい、三冠馬。』

『ん?なんだよドリジャ。』

『それで呼ぶな!今回は俺の完全敗北だ。だが次はこうはいかねえ。『宝塚記念』でお前を待つ。だからこのまま勝ち逃げすんじゃねえぞ。』

 

ドリジャの奴はそう言って去っていった。

 

『たく…あっ雄一さん、俺は大丈夫です。ほら。』

 

俺は雄一さんを安心させるためにテイオーステップをする。それを見た雄一さんは安心したのか大きく息を吐き、観客は再び大歓声をあげた。

 

「よく頑張ったなミカド。これで、行けるぞ。海外に。」

 

『海外、ドバイですね…』

 

そして次はいよいよ初の海外レース、ドバイの地へと向かうことになる。




次回は海外レースへの挑戦が始まります。
あと番外編挟みたいと考えています。
アンケートで募集したノゾミレオの菊花賞を次回か次々回に予定しています。
その他の話も順に投稿できたらしていきたいと考ええておりますのでお楽しみに。


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番外編 獅子の花道/望(ノゾミ)の始まり

菊花賞だけ話すつもりがなんかレオの半生まで書いちゃった…

遅くなりましたが番外編!全ての始まり、若獅子の話です!!


俺は、最初は期待されていなかった。

 

「う〜ん、体が少し小さいな…」

 

俺の体は、生まれた時は他の馬より少しだけ小さかった。

 

「少し足が外向していません?」

 

俺の脚は、ニンゲンからみたらダメなところがあるらしい。

 

「売れるかね、こいつ。」

「難しいと思います…」

 

体が小さいから仲間にいじめられた。脚が変だからスピードが出ずまたいじめられた。母は俺に何度も謝ってきた。『もっとしっかりとした体で生まれさせることが出来ないでごめんなさい』と。

母が悪いわけではないのに何度も何度も。

誰もが俺を哀れむ目で見る。ヤメロ、俺をそんな目で見るな。俺が期待外れだからか?なら俺はどうなるんだ。俺はまだ始まってもいないんだぞ!

 

俺が生まれて一年ほどは、まさに生き地獄といって良いだろう。カミサマっていうのはいないと思った。

 

 


 

 

カミサマは居なかったが出会いがあった。俺の運命を変える出会いが。

 

「この馬は?」

「ああ、そいつはあまりお勧め出来ませんよ。体が小さくて臆病な奴です。足も外向ですし、とても競走馬になんかには…」

 

ニンゲンが俺の前で話していた。言葉はよくわからないがどうやら目に丸い何かがついている(メガネ)ニンゲンが俺について色々聞いている様だった。どうせ面白いもの見たさで見ているだけだ。この時はそう思っていた。

 

「買います。」

「えっ?」

「この馬を買います。言値でいいですよ?いくらでしょうか?」

「えっ、ちょっ本当ですか!?」

「本当さ、何と言うか…この馬に何かを感じたんだ。馬歴はまだまだ浅くて所有馬はまだ地方のGⅢを勝ったのが一頭だけの新米馬主だけど、これが俗にいう『運命の相手』なんだろう。」

 

ニンゲンが俺を見てくる。その目は諦め、失意、からかい、哀れみの目ではなかった。この時初めて俺は『期待された目』で見られたんだ。

 

 


 

 

件のニンゲンに買われてから俺はトレーニングに励んだ。それが俺の仕事らしいから。俺はそれをこなすだけだった。

 

「いい馬だ。反抗もしない、凄い従順で頭もいい。外向は少し気になるがそれだけだ。お前は十分走れる馬になる。」

 

テキ、先生、と呼ばれていたニンゲンが俺にそう言った。この頃になると人の言葉がだんだん分かってきた気になった。

 

「お前は絶対勝てる馬だ。僕はそう思うよ。」

 

ノリと呼ばれるニンゲンも俺を何度も褒めてくれた。

 

テキが俺の走りを直してくれた。ノリが俺に走る道筋を教えてくれた。おかげで前よりも早く走れる様になった。体も少しずつ大きくなっていった。

 

嬉しかった。俺はこんなにも走れたのか、こんなにも大きくなれたのか。俺はこのニンゲンたちに恩返しをしたいと考えた。でも方法がわからなかった。

 

『そりゃあお前、レースで勝ちまくればいいんだよ。』

 

厩舎の年上馬がそう言ってきた。

 

『俺ら競走馬は走ってレースで一着になるのが目標だ。特に強い奴らが集まるGⅠレース!このレースに出て、勝てる奴はそうそういねぇらしい。俺は今度皐月賞ってレースに出るからワクワクするぜ。』

 

そう言う年上馬の目は熱く燃えていた。

 

(俺もGⅠで勝てれば、恩返しになるのか?)

 

こうして俺の心の目標はGⅠレースで勝つことになった。

 

 


 

 

月日が流れ、新馬戦。俺は阪神1600芝でデビューを果たす。

 

 

『さあ、先頭を直線に入って一気に上がって来たのはノゾミレオ!二番手に一馬身、二馬身と差をつける!後続はもう追いつけない!今一着でゴールイン!ノゾミレオ、新馬戦を見事に勝ち切りました!』

 

 

新馬戦で勝った俺はそのあと別のレースで2勝。年上馬が出た『皐月賞』の出走ができる様になった。

 

けど…

 

 

「感冒、風邪ですね。」

 

体を壊し、皐月賞には出れずに見送り。その後はすぐに直して『日本ダービー』に出走することが決まった。

 

そして、ダービー当日。

 

『これがGⅠレースの空気……!』

 

最高峰のレースと言われるだけあって、俺は心底驚いた。今までのレースが遊びなんじゃないかって言うレベルに感じてしまう様なそんな感じだった。

 

気合がいつも以上に入る。俺は最高潮な気分でレースに挑んだ。

 

 

『さあ、第四コーナーを抜けて直線に入る!リアルバースデーが先頭になった。ウィナーズサークルが後方から上がって来た!凄い足だ!内からノゾミレオも突っ込んでくる!リアルバースデー粘るが早くも二頭に抜かれた!先頭はウィナーズサークル!ウィナーズサークルゴールイン!ノゾミレオも頑張りましたがクビ差で二着!』

 

けど勝てなかった。ギリギリのところで勝てなかった。本当に悔しかった。GⅠレースで勝てなかった。

 

この日から俺はあまり集中ができなくなった。テキやノリも世話してくれている奴も年上馬も心配していた。

 

そして俺は生涯追い続けると決めた芦毛のアンチキショウに出会うことになる。

 

 

俺を心配したテキが併走相手としてある芦毛の馬を呼んだ。

 

そいつはいつもボーッとしている変な馬だった。ダービー以降落ち込んでいた俺をやる気にさせるため同じ芦毛で尚且つ強い馬らしい。最近まで療養していたらしく感覚を取り戻すために並走するそうだ。

 

『オグリキャップだ。よろしく。』

『………ノゾミレオ。』

 

並走が始まり俺はノリを背に乗せ走る。方や戦意を失った馬。方や療養から復帰して来た馬。そこまでの調教にはならないだろう。そう思っていた。

 

『フンッ!!』

『はっ?』

 

アイツはスピードを一気にあげた。俺は置いていかれない様に食らいつこうとするがどんどん距離が離されていった。並走が終わったあとオグリキャップが俺の下にやって来た。

 

『君、凄いの?』

『はっ?』

『コース取とか色々細かいところが上手い。騎手さんとの連携もいい。それに自分に食らいつこうとする年下ってあんまりいなかったから…』

『別に、普通だよ…』

『そう。』

 

なんだコイツって思った。

 

『俺は秋から本格的に復帰する。君は?ここで終わるの?』

『………』

『俺は終わらない。故郷にいる俺を応援してくれる人たちに恩返しするために…』

『恩返し…』

『だからここで終わる訳にはいかない。君はどうする?全ては君次第だ。』

 

そう言ってアイツはスタート地点に戻って言った。

 

そうだ。俺は、俺をここまで育ててくれたニンゲンたちに恩返しがしたかったはずだ。なのに俺は…

 

すまし顔で言って来たアイツに少しむかついたが何よりも俺は自分に腹を立てていた。ここで終わろうとしていた自分に。スタート地点に戻った俺は芦毛のアイツの前に来た。

 

『おい。』

『?』

『俺はココで終わんねぇ。必ず勝って俺の目標を成し遂げる。そしてお前にも必ず勝つ。』

『そう……楽しみにしているよ…』

 

またすまし顔で言われて、並走でのギリギリで勝てなかった。大事なモン思い出させてくれ事には感謝こそしているが気に触ることが何回もあって俺はアイツが苦手になった。

 

 


 

 

1989年 菊花賞

 

枠番馬番馬名人気
1枠1番マルセイグレート11番人気
1枠2番ドウカンホープ16番人気
2枠3番レインボーアンバー4番人気
2枠4番オースミシャダイ15番人気
3枠5番バンブービギン1番人気
3枠6番ロングシンホニー7番人気
4枠7番モガミサイババ12番人気
4枠8番リアルバースデー5番人気
5枠9番アテンションリバー17番人気
5枠10番サツキオアシス14番人気
6枠11番ニシノサムタイム18番人気
6枠12番スピークリーズン13番人気
7枠13番オサイチジョージ3番人気
7枠14番ウィナーズサークル2番人気
7枠15番ファストバロン10番人気
8枠16番スダビート9番人気
8枠17番ノゾミレオ6番人気
8枠18番サクラホクトオー8番人気

 

 

『晴れた京都で今年も4歳馬たちの激闘が繰り広げられます。』

 

 

菊花賞。クラシックレース最後の一冠であり、『最も強い馬が勝つ』と言われるこのレース。俺は全力を持ってこのレースに、勝つ!!

 

『今全頭ゲートインが完了しました。さあ、ゲートが開いた。揃って飛び出した18頭であります。綺麗なスタートを切りました。一周第三コーナーでありますが内の馬は外へ、外の馬は内へ行こうとしております。先頭を進むのは1番マルセングレート。3番のレインボーアンバーが二番手につきました。外からオサイチジョージやや掛かりぎみ。13番のオサイチジョージ、やや掛かり気味で三番手。それから2番のドウカンホープ四番手、それからゼッケン番号8番リアルバースデー五番手でゆっくりとしたペースで進みます。4番オースミシャダイがいてその外に赤い帽子バンブービギンであります。それからファストバロンが行きました。ウィナーズサークルは後ろの方にいます。第四コーナーを抜けて、スタンド前にやって来ました。スローペースであります。』

 

 

俺の位置は十番手くらい。今はここで機を窺う。ダービーで俺にかった白いコイツ(ウィナーズサークル)の後ろに付いてひたすら待つ。俺の十八番である『スリップストリーム』で乗り切る。長丁場になるこのレース、スタミナ温存は必須だ。

 

 

『仮柵が外されまして緑の絨毯を敷き詰めた様になっている。内スレスレ一番のマルセングレート先頭。三番のレインボーアンバーが二番手、オサイチジョージ三番手、四番手にドウカンホープ、リアルバースデー、そしてファストバロン、バンブービギンが七番手、その後ろバンブービギンを見る様にウィナーズサークル。ゆっくりとしたペース、ゆっくりとしたペースであります。』

 

 

第一コーナーを通過して第二コーナーに入る手前。俺の順位は今九番目くらい。まだまだ余裕はある。獲物(ゴール)を喰らうタイミングは今じゃない。

 

 

『これから第二コーナーに入る18頭であります。もう一度先頭から説明しましょう。先頭はマルセングレートと竹豊であります。二番手に三番のレインボーアンバー、三番手十三番のオサイチジョージやや掛かり気味。それからファストバロンも掛かり気味であります。第二コーナーをカーブして向正面に入ります。赤い帽子バンブービギンが四番手に上がって来ました。その後ろにリアルバースデー、その後ろに四番のオースミシャダイ、それから十四番のウィナーズサークル、それからノゾミレオがいて、ロングシンフォニーがいて、その後ろに九番のアテンションリバー、それから二番のドウカンホープ、サクラホクトオー、十二番のスピークリーズンであります。その後ろモガミサイババが続きました。そしてサツキオアシス、それから十一番のニシノサムタイム、スダビート、ご覧の様に18頭一団で第三コーナーの下りに入ります。』

 

 

白いコイツ(ウィナーズサークル)にずっとついていたがなかなか動かない。それにもう第三コーナーの淀だ。そろそろ動き始める準備に出た方がいいな。

 

「さて、レオ。僕もだけど君も外に出るタイミングを見逃すなよ。息を合わせないとね。」

 

『ああ。分かっているよノリ。』

 

スリップストリームはタイミングが命だ。此処から抜け出すタイミングが狂えば全てが水泡と帰す。

 

 

『第四コーナーを抜けて、外から赤い帽子二頭、ウィナーズサークルが前に行く!マルセングレート先頭で直線に入る!』

 

 

直線に入る直前にバンブービギンとウィナーズサークルが前に出る。タイミングは此処しかない!

 

『さあ…』

 

「こっからだ…」

 

 

『「獅子の狩りを始めよう…!』」

 

 

俺はウィナーズサークルが前に出るのと同時に奴の背後から一気に抜け出し、大外から温存していたスタミナを使い切る勢いで加速する。突然出て来た俺に前にいた奴らは度肝を抜かれた表情をしていた。

 

オイオイ何驚いているんだ?

 

獅子の狩りは身を潜めて油断した獲物に近づいていくんだぜ?逃げようとしても一気に喰らい付いて仕留める。正に、今の俺の様にな!

 

 

『先頭はマルセングレート、レインボーアンバーでありますが外からバンブービギン!外からバンブービギンであります!更に外からノゾミレオ!ノゾミレオが抜け出して来た!先頭はマルセングレートでありますが苦しいか!?バンブービギン、馬場の真ん中を通って先頭に立った!!バンブービギン先頭だ!!しかしノゾミレオも喰らいつく!!ノゾミレオも喰らいつく!!マルセングレートが再び伸びる!リアルバースデー、大外サクラホクトオー!大外サクラホクトオー!さあ、先頭はバンブーかノゾミか!?バンブーかノゾミか!?』

 

 

バンブービギンとの一騎打ち、俺は力の限り走った!俺が望むものは『勝利』という獲物(ゴール/栄光)、そして…

 

 

『俺を見出してくれた……恩人たちへの恩返しだぁぁぁ!!!!』

 

 

『ノゾミレオ僅かに抜け出した!!抜け出してゴールイン!!ノゾミレオです!!ノゾミレオです!!横谷典弘、ガッツポーズ!横谷典弘ガッツポーズ!クラシック初制覇にしてGⅠ初制覇!!人馬共に初のGⅠ制覇であります!!最後にガッツを見せたのはノゾミレオ!!百獣の王の名を持つこの馬もやっぱり王だった!!冠は渡さないと狂気の血が獅子を目覚めさせ、が菊の冠を勝ち取りました!!タイムは3:06.09!』

 

 

『ハァ…ハァ…か…勝ったのか……?』

 

「……っシャアァァ!!やった!!ついにやった!!」

 

上にいるノリが何度も拳を握りしめて嬉しそうに叫んでいる。今まで見たことないくらいに。

 

『そう…か…俺、勝ったんだ……GⅠを……とうとう……!』

 

スタンドの前に移動し、たくさんのニンゲンが歓声を挙げている。ノリが手を振るとその歓声は更に大きくなった。その歓声に当てられ、俺も大きく嘶いた。

 

『ビヒィィィィィン!!!!!!!』

 

すると歓声が更に膨らみ、衝撃波の様に俺らの体に当たる。普段なら煩くてわずわらしく思うかもしれないが、今日この時だけは、嫌なものは一切感じなかった。むしろ心地良く感じたんだ。

 

建物の方に入ると、テキと俺のオーナーがいた。二人とも凄く嬉しそうにしていてオーナーに至っては泣いていた。

 

「お前ら、よく頑張ったな!」

「いえ、テキの完璧な調教があってのこそです!」

「横谷君、本当に、本当にありがとう!!とうとう、とうとう私の馬が……ズッ……じ、GⅠを…グスッ……!」

「礼を言うのはこちらの方です。レオに乗せてくれて本当にありがとうございます。」

「……うん、こちらこそ……ズッ……レオ。」

 

『おう。』

 

「おめでとう、そしてありがとう!」

「よくやったな、最も強い馬はお前だレオ。」

「ありがとう、レオ…!やっぱりお前はすごい馬だ!」

 

『こっちこそ、こんな俺を見出してくれて、ありがとうございます!』

 

これは、何にも期待されていなかった若獅子が、

 

一人の人間に見出され、

 

一頭の馬に気付かされ、

 

己の望みを叶えた話だ。

 

 


 

 

『とまあ、これが俺の半生だ。別に面白くも無かっただr ……おいなんで泣いてんだお前ら?』

『いや、し、師匠にそ、そんなドラマがあったなんて…!』

『涙が畜生!全然止まんねぇ!!』

『僕、こう言う話、弱いんですぅぅぅぅ!!』

(なんで私があの時執拗に追われたのがよく理解できました。恨みますよ、オグリキャップ(父さん)……!!)

 

暇だったから俺の昔話をしたのはいいが泣きすぎだろう…

 

『たくっ…』

『なかなか良い話だったではないか獅子よ。』

『皇帝様に褒められるとは恐悦至極だな…』

 

あれからもう二十年ほど立った…オーナーは俺よりも先に旅立った。故郷も人間の都合でなくなった。結局、最後の望みも叶えられずに俺の走りは終わった。でも、心残りも後悔もあるが、不幸ってわけじゃない。

 

やかましい後輩と自慢の弟子に囲まれて残り短い馬生を生きる。

 

『俺にそれ以上の『望み』はない。もう充分満たされたからな。』

 

だからよ、いないだろうけど、せめて弟子ぐらいは手助けしてくれよ。神さんよ。『望み』とまではいかないけどな俺からの『お願い』だ。




登場人物紹介

小木野光雄 64
ノゾミレオの調教師。惜敗して落ち込んだレオを復活させようとオグリの並走を頼み込んだ。

横谷典弘 31
ノゾミレオの主戦騎手。トリッキーな乗り方をすることが多いがレオの時は正攻法で挑み、見事にGⅠを制覇した。

駒沢祐希 59
『ノゾミ』のオーナーであり、望(ミカドの馬主)の父。現代では既に故人。64の時に心筋梗塞にあい他界。誰よりも馬を愛し、馬にも懐かれていた。馬券はロマン重視をするのでしょっちゅう外しては奥さんに怒られていた。奥さんには完全に尻に敷かれていた。

先輩馬
レオの一歳年上の先輩馬。レオにとって兄貴分の様な存在だった。馬名は『ヤエノムテキ』。

オグリキャップ
レオより一歳年上の芦毛の馬。レオの原点を思い出させた馬でもあるが天然なのかレオに気に触る様なことを無自覚でやりまくった結果無茶苦茶嫌われた。レオ自身は『感謝はするが尊敬とかは絶対無理』らしい。

次回は本編するかまた番外編にするか悩み中です。また気長にお待ちください。
コメントくれると作者は死ぬほど喜びますのでどんどん送って下さい。


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帝の遠征/海外への進出

今回は少し短めです。


俺ノゾミミカドは京都記念を勝利し、前々から予定していた海外のレース『ドバイシーマクラシック』に出走することが決まった。ついでにブエナも。

 

そして今俺は…

 

「…はい、問題なしっと…」

「検査はこれで以上ですよね?」

「ああ、長い間お疲れ様。」

 

『や、やっと終わった…』

 

五日間の検疫を受け、ようやく終わったところだ。

 

競走馬の輸送は実は色々と面倒臭い規定がある。

 

まずは『家畜伝染病予防法』に定められた五日間の検疫を検疫厩舎で行う必要があり、各種検査、ワクチン摂取とかがある。

 

*ここでミカドの検疫の一部をお見せします。

 

「は〜い、ワクチン摂取に移りますね〜。ちょっとチクッとするけど大丈夫だからね〜。」

 

『ヤメロォォ!!注射だけは何がなんでも受けないぞぉぉ!!』

 

「ヤバイミカドが暴れ出した!!みんな危険だからはnぶるおおおお!!??」

 

「真司がミカドにぶっ飛ばされた!?」

「抑えろ!とにかく怪我させない程度に抑えろぉぉ!!」

 

「今だ、先生!お願いします!!」

 

「獣医です。では行きます。」

 

『お願いやめてぇぇぇ!?』

 

ブスッ!

 

『ギィヤァァァァァァァァァ!!!!!!』

 

・この時の犠牲者は真司一名で済んだ。(いつもなら+1〜2)

 

 

結局、あの後ブエナを連れてこられてかっこ悪い姿を見せたくない一心で頑張ったけど……もう注射は勘弁してぇ……

 

*これが現在無敗の三冠馬の情けない姿ですww。

 

 

そして俺らは馬専用コンテナである『ストール』に乗り込み飛行機に搭乗し、出発する。

 

『おお〜…意外と気になんねぇ…少し覚悟したんだけど結構快適なんだな…』

『ミカド平気なの?私は少し不安なんだけど…』

『いや俺もちょっとどうなるか不安だったけど大丈夫だぞ。』

『相変わらず凄いね…』

 

ブエナと共に飛行機での空の旅。まあ外見えないけど…

 

『ドバイってどういう場所なのかな?』

『砂漠…って言ってもわかんねぇか。砂だらけの場所でめちゃくちゃ暑い場所らしい。』

『ええ〜暑いの?ちょっとやだぁ〜。』

『まあ、今の時期は(向こう基準で)まだ涼しいらしい、それに向こうじゃ夜にレースがあるから多分大丈夫だと思うぞ。』

 

こんな話をしながら数時間、一度乗り換えがあったが飛行機に乗ってブエナと話しながら過ごしていた。

 

『ファぁぁ〜寝む…』

『ミカドリラックスしすぎじゃない?私なんか全然眠れる気がしないんだけど…』

 

まあ初めての飛行機輸送ならそうだろうな。俺は前世で飛行機に乗ったことがあるし、狭い場所も全然平気だしストレスは特にないからな。

 

『まあ、俺は全然今の状態気にしてないしな。ブエナも少しは寝といた方がいいぞ。向こうに着いたら環境が違うから体調不良もありえるしな。少しでも体力残しておけ。』

『そうは言っても…』

『ああ、わかったわかった。俺がなんか話すからそれで少し気をまぎわらせろ。』

 

そうこうしている内に飛行機はアラブ首長国連邦ドバイ首長国のドバイ国際空港に到着するのだった。

 

 


 

 

ガタンっという音と衝撃に俺は目を覚ました。

 

『……フガっ!?い、今のは…着いたのか?』

 

ストールの中からでも感じる熱気。日本の空気とはまた違う。

 

『ふぇぇぇ……みかどぉぉ……ついたのぉ……?』

『着いたみたいだぞ。多分そろそろ開くから歩けるようにしておけ。』

『ん……』

 

寝坊助状態のブエナに対応していると扉が開く。開いた先には真司さんがいた。

 

「ミカド、着いたぞドバイ。長かったな。」

 

真司さんに連れられ外に出る。真っ暗だけど。

 

『あれ?なんで夜?』

『みかど…まだ夜じゃん…寝てていい?』

 

「どうしたミカド?あっ、そうか日本だともう日が上っている時間だもんな。時差があるから結構きついよな…」

 

ああ時差か。確かドバイと日本じゃ五時間くらいの時差があるんだっけ。忘れてた。

 

*日本時間夜9時頃出発し合計11時間のフライト。日本では現在時刻朝8時だがドバイでは現在時刻深夜3時、更に日の出は冬では朝6時〜7時なためまだ暗い。

 

『ブエナ、確かに深夜だけど歩いてくれ。この後も色々しなくちゃいけないんだからな。』

『む〜…』

 

この後も検疫してからやっとここの厩舎に入れるからな…

 

ん?『検疫』?

 

『も、もしかして…』

 

検査のために移動するとそこには…

 

「獣医です。」

 

「デタァァァァァァ!!!」




この後無事に終わりました。
この情けないのが主人公です。


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帝の海外戦/熱砂の大地 ドバイシーマクラシック(GⅠ)

福永祐一騎手が騎手を引退するというニュースを聞いて、まだ騎手として走っていて欲しいという気持ちと調教師として活躍してほしいという気持ちの板挟みになっている作者です。

作者が競馬を始めたきっかけも福永祐一騎手のレースでした。作者一押しの騎手でもありましたから少し寂しいですが調教師としてもこれから頑張ってほしいです。


地獄の検疫を終えた俺たちはドバイでお世話になる厩舎に入り、次の日には早速調教が行われた。

 

海外の芝は日本の芝とはまた違う。日本の芝は「野芝」と言われるもので、水分が少なくこれは地下部にほふく茎を持つことが特徴であり、この茎が地表付近を這うように広がっている。これにより野芝は地面を蹴る時の力がそこまで必要ではなく高速化しやすい傾向にあるらしい。

一方、フランスなどのヨーロッパでは「洋芝」と言われるものが使われている。洋芝は水分が多く含まれており草の丈も長い。洋芝は土が軟らかいため、その分踏ん張るための力が必要になる。

海外で外国の馬が勝ちにくいのは芝の違いが最初に上がる原因だ。

 

そんでドバイの芝は……

 

『んん…そこまで日本と変わらない?いや少し重いか?』

 

俺的にはそこまで変わらなかった。これならあまり心配しなくて良さそうだな。

 

「ミカドは大丈夫そうだな。ドバイの芝は日本と形態が似ている。これなら十分いけるだろう。」

「ですね。飼料の食いもいいですし、問題なく本番を迎えられそうです。」

 

ブエナの方も問題なく調教が続き、時々合わせをしながら時間が進んでいった。

そんなある日…

 

 

「ミカド、今日は別の馬と合わせをする。お前のことだから心配はいらないが気を付けろよ。なんせ凄い名馬が相手してくれるんだからな。」

 

『凄い名馬?』

 

真司さんに言われ俺が馬場に行くと相手は既に着いていたようで向こうのテキとこっちのテキが話し合っていた。真司さんが慌てて向かう。

 

「すいません、少し遅れました!」

「大丈夫だ。こっちが少し早く着いただけだ。」

「時間通りだ。心配ない。そしてノゾミミカド…一応ははじめましてかな?君にはうちの馬が二回ほどお世話になったね。」

 

向こうのテキはウチのテキよりも若い感じの男性、大体40代くらいか?メガネをかけている。

どこかで見たことあるような?……思い出した…この人門井克彦(かどいかつひこ)調教師だ!

 

デルタブルース、カネヒキリ、シーザリオ、ハットトリック…多くの名馬を育てた調教師。そしてこの時期で、この地で走る彼が管理している馬は一頭しかいない。

 

『お前がオレの相手か?』

 

低い声で俺に話しかけてくる馬。黒っぽい鹿毛、額に白い流星、俺とそう変わらない大きの牝馬。

 

 

 

『アタシはウオッカ。よろしく頼むよ…坊や…』

 

 

『常識破りの女王』が俺の目の前にいた。嘘やろ…

 

 


 

 

『どうした、ビビってんの?取って食いはしないから落ち着けって…』

『だ、大丈夫っす。姐さんの手…じゃなくて足は煩わせないっす。』

『しっかりしろよ最強馬。日本を背負っているならアタシなんかにビビっていたらこの先やっていけないぞ?』

『すいません…』

 

いや、ビビるというか緊張するというか、平常心は流石に無理があります。人間だったら一昔前のスケバン風の女性に話しかける勇気は俺にないっす。指定暴力団のチンピラ金夢だったり、皇帝爺ちゃんだったりでキャラ濃い馬の耐性ついいていたと思っていたけど…そもそも俺よくよく思い出したらブエナと母さん以外まともに話した牝馬いねぇ…俺がまさか牝馬(女性)耐性ゼロ野郎になっていたとは…

 

『ほら、併せすんぞ。アタシも早く走りたいんでな。』

『うっ、うっす…』

 

背に雄一さんを乗せ、向こうもC(クロード)・ルメル騎手(フランス人)を乗せ俺と姐さんは走り出す。

最初は体を慣らしていくため、軽く走る。向こうも同じように隣を走っていた。それを二回ほど繰り返し、いよいよ本気で走る。

 

『フンッ!』

『おっ…!』

 

脚に力を貯めて爆発させる俺の得意技。末脚なら俺は先輩たちにも負けない。

 

『やるねぇ…ならアタシも…っ!』

 

向こうも加速し離した差を一気に縮めてくる。加速力が他の馬たちと段違いすぎる。もう直ぐ引退なのにその末脚から放たれる威力は衰えを感じさせない。

並走では俺の勝利だったが仕掛けるタイミングが逆だったら多分向こうが勝っていた。それぐらい拮抗した勝負だった。

 

『さっすが…現役最強……アタシももう少し若かったらアンタと走りたかったよ…』

『こちらもです。もう少し早く貴女と出会えていたら面白い勝負ができたでしょうね。』

『その時はアタシが勝っていただろうけどね。』

『俺だって負けないですよ。』

『言うねぇ…アンタみたいな男、嫌いじゃないよ。』

 

ちょっと男勝りな感じがするけど所々見せる所作みたいなものが女性らしいものが垣間見える。年もオーラ先輩と同じだし、結構話しやすい。

 

『逃げ先行で成績も一着のみ…アイツが見たら絶対対抗心を燃やすでしょうね。』

『アイツって、もしかしてあの?』

『あら?知っていたの?そう『ダイワスカーレット』。私の永遠のライバルよ。絶対アイツなら『私の方が絶対強い!!一番をかけて勝負よ!!』とか言いそうだしね。もしあったら気をつけな。』

『ハハハハ…わかりました…』

 

絶対面倒なことになるから引退した時気をつけよ…

 

『でもやっぱり違う。アイツはとにかく粘り強い。先頭に立つと抜かせるものかと前に相手を出さないように走り続ける。アンタは最後に一気に相手を突き放して押し切る。逃げているのに差しのように加速する。面白い奴だなアンタは…』

『ど、どうも…』

『アタシから言えるのはこれだけ。ひたすら前を向いて走れ。塞がれても諦めるな。前を向いていれば必ず勝利の道筋見えてくる。』

『は、はい!』

『いい返事だ。ところでさっきから気になっていたんだけど…』

『えっ?』

『後ろにいるのはアンタの連れ?』

 

なんか嫌な予感がするが、振り向かないとさらにやばい気がした俺は恐る恐る振り返る。

 

 

『ミィ……カァ……ドォ……?』

 

恐ろしいものがいた。

 

『その女……だぁ…れぇ…???』

 

『ブエナ様、お鎮まり下さい。此の御方は決して貴女様が考えているようなものでは無く…』

『あら、さっき激しくやりあった仲じゃない?』

『姐さん!?』

 

『そぉ…なぁ…んだぁ………』

 

『ブエナ様!今のはそういうそれでは無く、並走とかそういので走ったということでありましてそnギィィイイィィヤァァアアァァアアァァ!!!???

 

 

*誤解を解くのに1時間はかかった。この情けなく叫んだのが日本の無敗三冠馬ですw

 


 

 

ドバイ メイダン競馬場

 

枠番馬番馬名
1枠1番Jukebox jury(ジュークボックスジュリー)アイルランド
2枠2番Eastern Anthem(イースタンアンセム)アイルランド
3枠3番Anmar(アンマー)アメリカ
4枠4番Pan River(パンリバー)トルコ
5枠5番Quijano(キジャーノ)ドイツ
6枠6番Nozomi Mikado(ノゾミミカド)日本
7枠7番Youmzain(ユームザイン)アイルランド
8枠8番Golden Sword(ゴールデンソード)アイルランド
9枠9番Precious Passion(プレシャスパッション)アメリカ
10枠10番Buena Vista(ブエナビスタ)日本
11枠11番Deem(ディーム)アイルランド
12枠12番Mourilyan(モーリリアン)アイルランド
13枠13番Spanish Moon(スパニッシュムーン)アメリカ
14枠14番Dar Re Mi(ダーレミ)イギリス
15枠15番Campanologist(キャンパノロジスト)アメリカ
16枠16番Cavalryman(キャバルリーマン)イギリス

 

『やって来たぜメイダン競馬場。』

 

色々あったけど(なんか記憶が抜け落ちているが)とうとうドバイシーマクラシック本番。俺はメイダン競馬場にやって来た。夜だというのにライトアップされ、昼より眩しいくらいに明るいターフ。周りには日本人はほとんどいないし、馬も俺とブエナ以外は海外の馬ばかり。全員海外で活躍できると踏んでここまで来た猛者たちだ。日本の馬たちとはまた違った覇気のようなものを感じる。

 

『ブエナ、気を抜くなよ。』

『分かっているよ。みんな今までの馬たちと違う。』

 

 

(ドバイ現地実況)『さあ、皆さん!ドバイミーティングも大詰めだ!だがここで注目の二頭がやって来たぞ!遥か東の地ジャパンからやって来た無敗のトリプルクラウンを制した馬とそれにも引けを取らないダブルティアラを手にした馬が登場だ!!6番ノゾミミカドと10番ブエナビスタだ!!』

 

 

実況の声に歓声が大きくなる。持ち上げすぎじゃない?プレッシャー感じちゃうんだけど。

 

 

『ノゾミミカドは馬体重492kgで前走から2kg増加。無敗のエンペラーはここでも無敗を貫けるのか?一方のブエナビスタは場体重448kgで増減無し。末脚勝負はジャパンでエンペラーを追い詰める程の威力を持つこのクイーンはドバイでもその実力を発揮できるのか?』

 

 

日本とはまた違った盛り上がりの凄さに少し体が強張る。初の海外、環境の違う場所、海外馬との対戦。色々と緊張していた。そこに雄一さんが俺の首を優しく叩いた。

 

「いいかミカド。お前にとっては初めての海外戦だ。日本とでは空気も何もかにも違う。気負い過ぎずにお前らしく行けよ。」

『雄一さん……はい!』

 

そしてとうとう出走の時間になった。ゲートに入り、開くのをまつ。

 

 

『さあ、いよいよ始まります。ドバイSC……』

 

 

ガゴンッ!

 

 

『スタートしました!各馬綺麗にスタートを決めました。先頭を最初に奪ったのはジャパンのエンペラー6番ノゾミミカド!続いてアメリカからきた9番プレシャスパッションが追いすがる。先頭集団第一コーナーに入ります。その外に8番ゴールデンソード、二馬身離れて1番ジュークボックスジュリー、内に14番ダーレミ。16番キャバルリーマンが並んできた。一馬身離れて13番スパニッシュムーン、その後ろに3番アンマー。11番のディームは直ぐ後ろ、5番キジャーノはそのに馬身後ろ。10番ブエナビスタと4番パンリバー、7番ユームザイン、15番キャンパノロジストが固まっている。二馬身後ろにモーリリアン、最後方に2番イースタンアンセム。こういった展開になっています。二コーナーに入り先頭はノゾミミカド。その差は二馬身も離している。』

 

 

さぁ〜て…馬場が日本と似た感じだから走りに問題はない。先頭は取れたからこれをキープ。後ろは音で判断。今は前を向いて俺のペースを作って相手を疲弊させること。俺の馬なりは早いからな。初見さんにはちょっとキツイぜ?

 

『ブエナは後方で固まっているところか…俺の走りに対応できるのはアイツだけだから気をつけないとな…』

 

 

『直線に入って先頭は依然ノゾミミカド、プレシャスパッションが二馬身後ろ。さらに三馬身後ろにゴールデンソード、二馬身差がついてジュークボックスジュリー、かなり縦長の展開だ。後方の馬たちは固まっている。巻き返すことはできるのか?1000mを通過しタイムは58秒08!?ハイペースになっています!』

 

 

「少し早すぎたか?ミカドはまだ…大丈夫そうだな。」

 

『まだまだ余裕ですよ雄一さん!』

 

「後方から来る馬で今一番怖いのはお前のペースを知っているブエナビスタだが後方で塞がれているなアレ。」

 

『むぅぅ…!邪魔ぁぁ!!』

 

「Mince!(フランス語で『しまった!』)」

 

『一瞬チラ見しましたけど確かに固まっていますね…』

 

ブエナにとっちゃあ不利すぎる展開だな。前が開かなきゃ俺との差を埋めるのは不可能。最後の直線で仕掛けるにしても差が広がりすぎていると間に合わない。アイツが俺に追いつくにはなるべく早くあそこから抜け出さなきゃいけない。

 

 

『先頭集団が第三コーナーに入って、ノゾミミカドは未だ先頭をキープ!このペースで走り続けてもまだスピードが落ちない!後方集団の馬たちがここで少しづつ上がってきた。ダーレミがここで順位を上げてきた。さあ、第四コーナーに入り、ラストスパート!後続馬たちの逆襲劇が始まるのか!?』

 

 

第四コーナーで差し追込みの馬が一気にスピードを上げてきた。メイダン競馬場は東京競馬場を横に引き延ばしたような形状のコース。つまり直線が府中なんかよりも長い。後続勢にとっては末脚を発揮するには絶好の舞台だ。

そして先行勢にとっては地獄の道。前を走っていたと言うことは後方勢よりも体力をそれだけ使っている。現に俺の後ろに居た筈のプレシャスパッションとジュークボックスジュリーはもう垂れている。ここから先、先頭はひたすら粘らなくちゃいけない。

でも、それは普通の逃げ馬だったらの話だ。

 

「ミカド行くぞ!ドバイでお前の走りを世界に見せつけろ!!」

 

『勿論、分かっていますよ雄一さん!!』

 

鞭が思いっきり入り、俺は脚を溜める。その間速度が一瞬落ちるが関係ない。四コーナーの最後、ここなら曲がる距離(・・・・・)がそこまでないから、思いっきりいける。

 

 

ドンッ…!!!

 

 

『第四コーナーを抜けていよいよ直線勝負にh……な、なんだ!?ノ、ノゾミミカドがここに来てさらにスピードを上げた!?まだ脚を残していたのか!?』

 

 

観客から驚愕の声が聞こえる。珍しいだろ?『逃げて差す』みたいな芸当をする馬なんてな。

 

 

『ノゾミミカド、迫っていた後続を引き離す!!これが日本のエンペラーの底力なのか!?後続は追いつけ、いや、いや、ここでブエナビスタ!そしてダーレミが上がってきた!ダーレミが二番手に上がりブエナビスタは三番手!!いやブエナビスタがダーレミを躱して二番手に!!日本の馬がツートップだ!!』

 

 

『ミカドォォォォ!!!!』

『待っていたぜ、ブエナ!!でも少し遅かったな!!』

 

その末脚は確かに凄い。六、七馬身差を一気に『一馬身』にまで埋めたんだからな。前が塞がらなければ分からなかったがな。

 

 

『ノゾミミカドとブエナビスタ!!日本ワンツーフィニッシュ!!Victory for the Emperor and Queen of Japan!!(日本の帝と女王の勝利だ!)』

 

 

ゴール版を駆け抜けた俺たちは少しづつ速度を落としていく。

 

『ハァハァハァ……シャア!!勝った!!』

『フゥ…フゥ…ま、負けたぁぁ!!』

『残念だったなブエナ。今日も俺の勝ちだ!』

『ムムム……前が塞がれなかったら勝ててたもん!』

『競馬にたらればは良くないぜブエナ〜。』

『ムゥゥゥ……今度こそ勝つもん!絶対勝つもん!』

 

ちょっと幼児?幼馬?退行したブエナを宥めながら俺の初の海外戦は幕を閉じた。

 

日本競馬史上初無敗三冠馬が無敗のまま海外GⅠを制覇した瞬間でもあった。




次回はなるべく早く出すように頑張ります…本当更新遅くてすいません。

コメントはいつも見ています。じゃんじゃんコメントして下さい!


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自然のノゾミ/覇王への賛美歌を

前回、ナチュラル姐さんを普通に忘れていて今回主役回です。
コメントで教えてくださりありがとうございます。

ナチュ「おい作者。」
な、なんでしょうか…?
ナチュ「なんで私を忘れた?」
他のオリジナル馬やルドルフ爺ちゃんのキャラが濃くて、あと単純に貴女の出番が少ないからです。
ナチュ「よし、そこに直れ。フルパワーでぶっ飛ばすから。」


《ノゾミミカド・ブエナビスタ ドバイSC1・2フィニッシュ!!》

 

《無敗のミカド 海外でも無敗!!》

 

《GⅠ6勝、10戦10勝の最強の帝!!》

 

「新聞で凄い取り上げられてますねミカドの奴…」

「日本だけじゃねえぞ。」

 

松戸と真司は日本から取り寄せた新聞を読んでいた。そこにはミカドとブエナがドバイSCで圧勝した記事が一面に載せられていた。

更には海外の新聞でも…

 

《ジャパンのエンペラードバイを制覇!!》

 

《エンペラーの侵略の手はヨーロッパにも!?》

 

《ジャパン最強のコンビ!!全てを置き去りにするエンペラー!全てを薙ぎ払うクイーン!!》

 

「海外の新聞でもミカドに注目が集まっている。ブエナビスタにもな。」

「そりゃあ、三着に五馬身差でゴールですよ?あのカップルが…」

 

真司の視線の先には…

 

『ブエナ、そのごめんって…』

『ヤダ。』

『ウオッカの姐さんとはそういう関係じゃねぇから…』

『私にもっと構え。』

『はいはい…』

『ムフー♪』

 

「日本最強の馬が一頭の牝馬相手に頭が上がらないとか…記事見ているやつらは知らないでしょうね…」

「まあ、今はそれはいい。ミカドとブエナの次走だ。」

 

松戸が話を切り替える。

 

「ミカドとブエナは日本に戻す。今回はあくまでも海外での状態を知ることだったからな。結果は良好。少なくとも環境の変化による不調はどっちもなかった。これが分かっただけでも十分な収穫だ。」

「このままヨーロッパとかにいかないんですか?」

「今回はドバイに絞って来たからな。それはまた今度だ。何より…」

「何より…?」

「ミカドが国またぐ度に暴れられたら、お前の命がいくつあってもたりねぇだろう…」

「本当にありがとうございます。」

 

その後、ドバイから日本に帰ることになった二頭。

 

*その一部

 

『だから嫌だっていってんだろぉぉ!!??』

 

「またかぁぁぁぁぁぁ!!???」

 

「真司がまた吹き飛んだぞぉぉ!!」

「先生、アイツの犠牲を無駄にしないでください!」

「獣医です。では…」

 

『嫌だぁぁぁ!!??』

 

『ミカド…』

 

「はい、ブエナも大人しくしていてねぇ。」

 

『………』

 

「可愛い顔してもダメ。」

 

 

いつもの一悶着がありつつも無事に日本に帰ってきたミカドたち。検疫(大暴走タイム)を終えて、間を挟んでから栗東トレセンに戻ってきた。

 

 


 

 

『毎回あれしなくちゃいけないのが1番のストレス…』

『ミカドは大袈裟すぎ。少しは我慢しようよ。』

『過去のトラウマがな…無理なんだよ。』

 

地獄の検疫以外は何のストレスもないから。

 

『さあて、あのおばさんはもういないし…ミカド、私を構え!!』

『えっとブエナ?』

『何?私のいうことが聞けないのかぁ〜?』

『あのね。君忘れていない?』

『何が?』

『ここ、俺ら以外にも馬がたくさんいること。』

『あっ。』

 

周りには、オーラ先輩や同期のアミーゴをはじめ、多くの馬がいることをすっかり忘れていたブエナ。

 

『忘れて……////』

 

赤くなって小さくなる。可愛い。

 

『いやぁ〜熱々だねぇ…』

『先輩、妹さんと後輩のバカップル振り見ても何とも思わないんですか?周り血涙流すか砂糖吐いてるか絶望や諦めで焦燥しているんですけど。』

『いや別に?羨ましくは思うけど負の感情はないよ?応援しているからね。』

『先輩マジカッケェっす。』

 

*この厩舎で1番のメンタルを持つ男、それがアドマイヤオーラ。

 

 

戻ってきた翌日。俺は別の厩舎の馬との並走をすることになった。その相手は…

 

『おいっす。久しぶり〜。』

『ナチュラル先輩!お久しぶりです!(そういえばまだいたわ、話したことあった牝馬…普通に忘れていた…)』

『なんか今失礼なこと考えていた?』

『いえ、何も。』

『吐け。』

『イエス・マム。』

 

この後ぶっ飛ばされました。本気で…

 

「ナチュラルの並走に付き合ってもらってありがとうございます。」

「いえ、ミカドもまたこっちでの感覚を戻さないといけなかったからな。」

「次走は宝塚でしたよね?ナチュラルはステイヤー気質ですから、2200は短すぎるんですよね。」

「それでもマイル桜花賞や中距離オークス三着だ。十分狙えるだろう。」

 

調教師同士の会話を横に俺らの上にいる騎手同士も話している。同期だしねこの二人。

 

「雄一、ドバイ勝利おめでとう。」

「ありがとう。龍二もナチュラルで阪神大賞典優勝おめでとう。」

「おう…ありがとう。」

 

少し倭田さんの声に元気がない?感じがする。いや、どっちかっていうとピリピリしている?どうしたんだ?

 

『ナチュラル先輩。倭田さんどうしたんですか?前見た時よりも元気がない感じなんですけど…』

『ああ…GⅠ前になると少しだけこうなるんだ。特に春から夏の手前ぐらいにかけてね。私にもよく分からないんだけど、「今度こそ…」って…』

 

春から夏の手前にかけて、GⅠ前、倭田騎手、今度こそ……ああ、なるほどそうか…

 

『それは多分、『覇王』との約束です。』

『約束?』

 

倭田龍二騎手を語るにおいて、この馬は絶対に欠かせない。

 

『世紀末覇王・テイエムオペラオー』

 

通算成績26戦14勝。GⅠ勝利数7勝。天皇賞春連覇、秋古馬三冠達成、脱出不可能なブロックからの有馬勝利。2000年全戦無敗を成し遂げたまさに覇王。その絶対王政に逆らえるものはいなかった。

 

『その馬が倭田さんの相棒だったんです。オペラオーが引退するときにGⅠ勝利を彼に報告して立派になった自分を見せるとも言っていました。』

『けど、あの反応だと…』

『はい。彼はまだ中央芝GⅠを勝っていません。』

 

決して腕が悪いわけじゃない。むしろ彼のジョッキーとしての実力は上位に入る。

 

『おかげで心無い人の中には、倭田さんはオペラオーの背に乗っていただけのお荷物、リュックみたいなことを言うんですよ…』

『……へぇ………』

『そもそも当時の倭田さんはまだ若いジョッキーですし、未熟な部分もあったかもしれないですけど、倭田さんだからこそオペラオーは勝てたんだと俺は思いますよ。俺だって雄一さん以外の人がレースで乗るなんて考えられませんし…って先輩?』

 

 


 

 

ノゾミナチュラルside

 

 

ミカドの話を聞いて、私はかなり怒りを感じた。龍二さんがお荷物?

 

ふざけんじゃねぇぞ。

 

あの人は決して弱くない。あの人はとても強い人だ。普段はおちゃらけた感じでふざけたことをするけど、この世界で生き残ってきた猛者だ。

彼を馬鹿にするのは許さない。彼を侮辱することは許さない。

 

見ていろ。貴様らがお荷物だと言った人は『覇王』の一人だと言うことを見せてやろう。

 

 

『ん……い……せん…い……!先輩!』

『!あっ、ご、ごめん、何?』

『何じゃないですよ?いくら呼んでも反応しなかったんですよ?もう直ぐ始まるみたいですから行きましょう。』

『う、うん。』

 

いけないいけない。今はトレーニングに集中しないと。

 

龍二さん、今度こそ………

 

 

貴方(覇王)たちに勝利を捧げましょう。

 

 

 


 

 

 

天皇賞春当日

 

この日の私はいつにも増して調子がいい。脚も軽い、息もいつもより深く吐ける、視界も良好。これまでで最高のコンディションだ。

 

「な、なあ…今日のナチュラルってなんか違くないか?」

「確かに、なんかこう、覇気みたいな?そんなものを感じる…」

「三連単、ちょっと考え直すか?」

 

パドックを周り、騎手の方々が出てきてそれぞれの馬の下に向かう。

 

「ナチュラル、今日もよろしくな。」

 

『龍二さん、今日もお願いします。』

 

龍二さんも私にまたがり、パドックを抜けて、コースに向かう。

 

日本GⅠで最長距離のレース、『天皇賞・春』が始まる……!

 

枠番馬番馬名人気
1枠1番カネトシソレイユ16番人気
1枠2番エアジパング13番人気
2枠3番フォゲッタブル1番人気
2枠4番メイショウドンタク17番人気
3枠5番フィールドベアー18番人気
3枠6番トウカイトリック7番人気
4枠7番ナムラクレセント8番人気
4枠8番トーセンクラウン11番人気
5枠9番メインストリーム14番人気
5枠10番テイエムアンコール9番人気
6枠11番ミッキーペトラ12番人気
6枠12番ジャガーメイル2番人気
7枠13番ジャミール3番人気
7枠14番メイショウベルーガ6番人気
7枠15番エアシェイディ10番人気
8枠16番マイネルキッツ4番人気
8枠17番ノゾミナチュラル5番人気
8枠18番ベルウッドローツェ15番人気

 

 

『春の日差しが差し込む今日、京都競馬場で18頭の優駿たちが伝統のレースに挑みます。天皇賞・春!今年は一体どの馬が栄光を手にするのか?』

 

 

もう直ぐゲートに入る。私は外側のゲートであり、基本は内に入ることが難しい場所からのスタートになる。好都合な位置だ。

 

「ナチュラル、そろそろいくぞ。」

 

龍二さんの声で私の番がきたことを察した。私は誘導されるがままにゲートに入る。普段は狭くて少しいやだけど、今は全然気にならない。

 

 

『さあ、全頭ゲートに入りました。誰がこの長丁場を制するのか?第141回天皇賞・春……』

 

 

ガゴンッ!

 

 

『スタートしました!』

 

 

最初のスタートは出遅れず、けど前に行き過ぎずの感じ。差しを主体で走る私にとっては前に出ても意味はない。

 

 

『全頭綺麗なスタートを決めました。最初にハナを取ったのは11番のミッキーペトラ、続いて内から16番マイネルキッツ、10番テイエムアンコールと5番フィールドベアーがその内、続いて2番エアジパング、7番ナムラクレセント、4番メイショウドンタク、12番ジャガーメイルはこの位置に、1番カネトシソレイユ、外に一番人気3番フォゲッタブル、14番メイショウベルーガ、内には6番トウカイトリック、一馬身後ろに8番トーセンクラウン、更に後ろに17番ノゾミナチュラル、一馬身後ろに15番エアシェイディ、その直ぐ後ろ、13番ジャミール、一馬身後ろ18番ベルウッドローツェ、最後方9番メインストリーム、こういった展開になっております。間も無く最初の第三コーナーに入ります。』

 

 

大体今の順位は14〜5番手くらいか…悪くない。出来ればもう少し外に行きたいがここからでも前は見える。ペースは若干早いか?いやまだ分からない。なんせ始まったばかりだ。今は自分のペースで走ろう。

 

「よし、ここだな…」

 

龍二さんもどうやらここがいいと思ったようだ。位置取りは完璧だ。

 

(……テイエムオペラオーか…)

 

ミカドに聞いた龍二さんのかつての相棒。年間無敗の覇王とか考えただけでも恐ろしい。

 

 

『第四コーナーを抜けて、正面スタンド前、大歓声に見舞われながら18頭が駆け抜けます!』

 

 

『ハッ……!いけないいけない!今は集中しないと!』

 

過去のことは今はいい。現実を見ろ、ナチュラル。今はスタンドの直線。レースはまだ半分も来ていない。

 

「少し前に来たか。抑えろナチュラル。」

 

『はい。』

 

私は前半は必要以上に前に出なくてもいい。後方中段に付いて、半分切ったら十八番で削る。長距離はその馬の素質がもろに出る。変な搦め手を使おうものなら自爆まっしぐら。なら得意なやり方で勝つのが一番。

 

 

『第一コーナーに入り先頭は依然ミッキーペトラが進みます。マイネルキッツが半馬身差で後を追う。フィールドベアーも続いて、テイエムアンコールは少し後ろから行きます。』

 

さて、暫くはここで耐えるとしよう。

 


 

 

レースは順調に進み、もう第三コーナーの手前。私の位置は10位くらいのところにいた。

 

『さて、こっからだ。』

 

京都で最もキツイのがここ淀の坂。一周してこの急勾配を登り降りするのはキツイの一言に尽きる。ここを突破するにはゆっくり進むか、有り余るスタミナを使って一気に進むかの二択。前者は定石、後者は奇手。多くのものが定石を取るだろう。博打をして大負けはしたくないから。

 

もちろん私は……

 

 

『京都名物淀の坂を駆け登る18頭。先頭は依然ミッキーペトラ、しかしマイネルキッツがすぐ後ろまで来ている……後方からノゾミナチュラルが上がって来た!ロングスパートか倭田龍二!?』

 

 

後者だ。

 

「お前なら出来るだろう!!タブーなんてお前にとっては関係ないだろう!!」

 

『さっすが龍二さん!!私のことをよくわかっている!!』

 

淀の坂を一気に駆け抜ける。私の強みは威圧によって相手を萎縮させること、もう一つは他馬と比べ物にならないほどのスタミナ量。オークスまで私はマイルと中距離をメインに走って来たがあるトレーニングで、他の馬は息絶え絶えだったのに私だけがケロっとしていた。そこから私の本来の舞台は長距離、ステイヤーであることがわかった。そこからはひたすら長距離向けのトレーニングを積んで菊花賞、有馬記念、天皇賞・春、様々な長距離レースに挑んだ。結果はいいとは言い難いが長距離でも走れることを証明した。

 

『淀の坂だろうと関係ない。この博打だろうがタブーだろうが、勝てる可能性が高いならやるまでだ!』

 

一気に先頭集団に追いついた。早めに抜け出し、いつもの事故確率を減らせた今なら…!

 

『誰にも私たちの……覇王たちの道を……止めることはできない!!』

 

威圧を全開にして周りの動きを牽制。前は思った通りに走れなくなるし、後ろは私を抜かせずらくなる。それにいつもよりも威圧はマシマシだ。お前たちが相手しているのは覇王の片割れ、「もう一人の覇王」なのだから。

 

「行けぇぇ!!ナチュラル!!!」

 

 

『ノゾミナチュラル、第四コーナーで中盤で既に三番手にまで上がって来た!先頭は変わってマイネルキッツだが少し掛かり気味か!?逃げ切ることはできるのか!?メイショウドンタクも上がって来て四番手だが追いつけるのか!?最後の直線にかけて、後続馬もどんどん上がって来た!さあ、第四コーナーを抜けて直線コースに入る!!先頭はマイネルキッツ!しかし、外のノゾミナチュラルが猛追!!真ん中ジャガーメイルが突っ込んでくる!ノゾミナチュラルが先頭に躍り出た!!ジャガーメイルも二番手に上がる!!これは、これは!!遂にやったぞノゾミナチュラルゴォォォォルッ!!!ついに届いた悲願のGⅠ勝利!!そして倭田龍二2001年テイエムオペラオーのこの天皇賞・春以来のGⅠ勝利!!』

 

 

「………〜ッ!!!!や、やった……!やった!……勝ったぞぉぉぉ!!!!」

 

ゴール版を一番で抜けた私は龍二さんの雄叫びを直近で聞いて、勝ったことを再認識した。

 

『とうとう…私も……GⅠを……』

 

「ナチュラル……ありがとうな。君のおかげで今日は勝てた。」

 

『私はただ走っただけ、全てはあなたの勝利です。けど礼を頂いたなら私から捧げましょう、覇王に送る勝利の賛美歌を…』

 

私は大きく嘶いた。覇王は今も健在であるということを証明するために。




は、はい…ぶっ飛ばされた作者です……なんとか…生きています……
ノゾミナチュラル様、この度は誠に申し訳ありませんでした…駄作者ですみません…
次のミカドのレースにも登場することを確約して許してくれました…

今年もあと僅か、有馬を見て、ホープフル見て、年越しです。
多分今年一回出すか出さないかなのでそれまで楽しみにしていてください。


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掲示板でのノゾミ/ノゾミの活躍を語ろう。

遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。
本年も宜しくお願いします。

新年一発目は掲示板回です!


1:ミカドのイッチ

ノゾミナチュラルが天皇賞・春を勝ったことを祝いして、ノゾミの馬に対する愛を語るためにいつメンで語り明かすために建てた。語れぇぇぇぇぇ!!!!

 

2:名無しのノゾミ観客

いや、イッチどうした?

 

3:名無しのノゾミ観客

テンションがいつもより高いぞ?

 

4:名無しのノゾミ観客

いつメンってことはいかれたアイツらも居るはずだ。

 

5:名無しのノゾミ観客

コテハン勢〜イッチがおかしいんだけど〜

 

6:五徹

盛り上がってまいりましたぁぁぁ!!!

 

7:名無しのノゾミ観客

既にダメなやつがいる。

 

8:名無しのノゾミ観客

>>6

こいつには何も期待していないから他の奴で

 

9:新人

もう…無理…

 

10:名無しのノゾミ観客

>>9

コテハンの良心である新人ニキが既にダウン!?

 

11:名無しのノゾミ観客

なん……だと…!?

 

12:名無しのノゾミ観客

何があったんだ!?新人ニキがああなるなんていったい何があったんだ!?

 

13:一文無し

教えてしんぜよう。

 

14:名無しのノゾミ観客

>>13

貴女は…前回のフェブラリーステークスで全財産を再びフルベットしようとしてイッチに頭グリグリの刑に処され、結局大負けした一文無しネキではないか!?

 

15:名無しのノゾミ観客

まさかネキだけ無事なのか!?

 

16:名無しのノゾミ観客

いつもと立場逆転してんぞ!?

 

17:名無しのノゾミ観客

何があったんだ!?

 

18:一文無し

>>14

お前は後で覚えていろ。

取り敢えず何があったのかと言うと、ノゾミナチュラルが初のGⅠ制覇と倭田ジョッキーが9年ぶりに中央芝GⅠを取ったじゃん。

 

19:名無しのノゾミ観客

うん。

 

20:名無しのノゾミ観客

めっちゃ、めでたい。

 

21:一文無し

そんで、イッチは倭田ジョッキーの大ファンな訳よ。

 

22:名無しのノゾミ観客

初耳だぞ

 

23:名無しのノゾミ観客

そうだったんだ……あっ。

 

24:名無しのノゾミ観客

へぇ〜…ん?

 

25:名無しのノゾミ観客

いやまさか…

 

26:一文無し

気づいたか。そう。久しぶりに勝った倭田ジョッキーで大喜びのイッチ。競馬も大勝ち。三連単と三連複、単勝、複勝その他もろもろで軍資金たっぷり。イッチ宅で宴会突入。イッチがいつも以上に酒を飲んで、五徹さんもつられて飲んで、酔った二人に絡まれた哀れな新人君も飲まされて……

 

27:名無しのノゾミ観客

完全にアルハラじゃねぇか…

 

28:名無しのノゾミ観客

新人君大丈夫なの?

 

29:新人

今、少しだけ気分がよくなりました…吐いたら…

 

30:名無しのノゾミ観客

新人ニキ、お前もう寝ろ。

 

31:名無しのノゾミ観客

て言うかまだ夜9時前だぞ。どんだけ飲んだらそうなるんだ

 

32:一文無し

取り敢えずスレの本題に入るまでしばらく待ってて。酒馬鹿二人をど突いてくるから

 

33:名無しのノゾミ観客

いつもは逆なのに…

 

34:名無しのノゾミ観客

イッチ……

 

35:名無しのノゾミ観客

ハメ外すと人間って怖いね…

 

36:名無しのノゾミ観客

酒は人をダメにする。ハッキリわかんだね。

 

37:新人

今一文無しさんがイッチさんに向けてロメロスペシャルきめています…五徹さんは先に呼んでおいた奥さんを召喚されてお説教タイムに入っています。

 

38:名無しのノゾミ観客

結論、男は女に叱られるのに弱い。

 

 

 


 

 

90:名無しのノゾミ観客

でもやっぱり、レオはあの菊花賞も捨てがたいけどあのレースもいんだよ…

 

91:名無しのノゾミ観客

わかる

 

92:ミカドのイッチ

やっと解放された…

 

93:名無しのノゾミ観客

あっイッチお帰り〜

 

94:名無しのノゾミ観客

ロメロスペシャルはどうだった?

 

95:ミカドのイッチ

その後、パロスペシャルとジャパニーズレッグロールクラッチも喰らいました…

 

96:一文無し

これに懲りたら酒は飲み過ぎないこと。

 

97:名無しのノゾミ観客

ネキって何者?

 

98:五徹

彼女は大学時代女子プロレスやっていたらしい…

 

99:名無しのノゾミ観客

五徹ニキお帰り〜

 

100:名無しのノゾミ観客

プロレスやっていたの?

 

101:一文無し

まあ、すぐに体壊して引退したけどね。その後はサポーターとか色々…

 

102:ミカドのイッチ

格闘技経験者から言わせてもらいますけど、体の使い方が上手いです。抜け出そうにも抜け出せませんでした。

 

103:名無しのノゾミ観客

イッチが抜け出せねえとかネキヤバ。

 

104:名無しのノゾミ観客

格闘センスカンストしたイッチ(酒でデバフ)を封殺するとは…

 

105:名無しのノゾミ観客

ところで五徹ニキは奥さんに何言われた?

 

106:五徹

小言のラッシュでライフをゼロにされたよ…

 

107:名無しのノゾミ観客

それで済んだだけでもよかったじゃん。隣は身体的ダメージを喰らってんだから。

 

108:名無しのノゾミ観客

ぶっちゃけ、ネキの技喰らったら五徹ニキタヒぬと思う。

 

109:名無しのノゾミ観客

同感。

 

110:ミカドのイッチ

もう俺らの話は終わり。本題に入ろう。スレの本題。

 

111:名無しのノゾミ観客

もうある程度過去のノゾミのことを語っていたんだけどな。

 

112:名無しのノゾミ観客

最新のは取っておいたぜ。

 

113:名無しのノゾミ観客

では、語っていこうか。

 

114:名無しのノゾミ観客

先ずはノゾミミカドのドバイ勝利だな。

 

115:名無しのノゾミ観客

ブエナビスタとワンツーフィニッシュ。

 

116:名無しのノゾミ観客

三着に五馬身もの差をつけての圧勝。一着二着の差は接戦だったけど。

 

117:五徹

ノゾミミカドはいつもの逃げ。その逃げは海外勢にとっては辛い逃げになったがな。

 

118:ミカドのイッチ

彼の逃げは大きく離されている訳でもすぐ後ろに着かせる訳でもない。しかし彼の馬なりは普通よりも速いから知らず知らずの内に体力を使ってしまう。

 

119:一文無し

日本のブエナビスタ組は慣れているから対応は可能だけど、海外勢は初見だから先ず対応は難しいよね〜

 

120:名無しのノゾミ観客

先行馬たちは途中で垂れていたからな。

 

121:名無しのノゾミ観客

海外の新聞でもミカドたちを称賛していたしな。

 

122:名無しのノゾミ観客

無敵のエンペラーとか言われてたしな。

 

123:名無しのノゾミ観客

ミカドはこれでGⅠ6連勝、重賞8連勝、10戦10勝だからカブラヤオーの9連勝記録を塗り替えたことになるよな。

 

124:五徹

それだけじゃない。「幻の馬」と呼ばれたトキノミノル号に続く無敗記録だ。彼も10戦10勝内レコードは7回。ミカドもレコードを4回記録。

 

125:名無しのノゾミ観客

>>124

もうミカドがどんな記録だしても驚かない

 

126:名無しのノゾミ観客

感覚麻痺して来ているからな…

 

127:名無しのノゾミ観客

普通ここまで勝てる?

 

128:新人

新参者ですが断言できます。無理です。

 

129:名無しのノゾミ観客

新人ニキは正しい。

 

130:名無しのノゾミ観客

ミカドだけダビスタみたいな感じになっているし。

 

131:名無しのノゾミ観客

新作出たらミカドのスペックおかしいことになりそう。

 

132:名無しのノゾミ観客

わかる

 

133:名無しのノゾミ観客

わかる

 

134:名無しのノゾミ観客

お〜い。そろそろ話題を変えようぜ。ナチュラルの姉御の話もしたい。

 

135:名無しのノゾミ観客

ノゾミナチュラルもそういえば話題沸騰中だったな。

 

136:名無しのノゾミ観客

阪神大賞典を完勝してからの天皇賞・春制覇。

 

137:名無しのノゾミ観客

牝馬での制覇は1953年のレダ以来だから、57年ぶりか!?

 

138:名無しのノゾミ観客

しかも鞍上のリュージは9年ぶりのGⅠ制覇だ。

 

139:名無しのノゾミ観客

プラスアルファ、ネイチャ産駒初のGⅠ制覇。

 

140:名無しのノゾミ観客

まだあるぞ、調教師の松流昌弘氏は騎手時代を含めて初のGⅠ勝利だ。

 

141:名無しのノゾミ観客

ごめん記録作りすぎで頭がバグる…

 

142:一文無し

あの日のナチュラルは雰囲気が全く違っていたよ…少し怖くて身震いしちゃった…

 

143:名無しのノゾミ観客

プロレス技を容赦無くきめるネキが恐怖で身震い……だと……!?

 

144:名無しのノゾミ観客

あ、やっぱり感じていたの自分だけじゃなかったんだ。

 

145:名無しのノゾミ観客

俺も現地でパドック見たけどやばかった…

 

146:ミカドのイッチ

ゲートに入る瞬間も非常に落ち着いていましたし、走りもいつもよりキレがありました。

 

147:名無しのノゾミ観客

最後の末脚は圧巻だった。

 

148:名無しのノゾミ観客

俺あの時思わず「いけぇぇぇ!!!」って叫んじゃった。

 

149:名無しのノゾミ観客

リュージも勝った時雄叫び上げてたよね。

 

150:名無しのノゾミ観客

レオ然り、ミカド然り、ノゾミの馬って勝ったらなんか嘶くよね。

 

151:新人

でもそれがかっこいいんじゃないですか。

 

152:名無しのノゾミ観客

>>151

分かる。めちゃくちゃ分かる。

 

153:名無しのノゾミ観客

あれを見ると馬も本気で挑んでいるんだなと思っちゃう。

 

154:五徹

僅か1分から3分しかない戦いの中で、彼ら命を燃やして己の強さを証明する。タイムという速さの歴史に、偉業という記録の歴史に、記憶という人々の歴史に、一瞬一瞬に自らの存在を叩き込む。だからこそ、後世に彼らの歴史は残されていくんだ。

 

155:名無しのノゾミ観客

五徹ニキ…

 

156:名無しのノゾミ観客

あんた、やっぱすげぇよ…

 

157:名無しのノゾミ観客

さっきまで奥さんの小言喰らっていたやつとは思えない。

 

158:五徹

これでも最年長だからな。

 

159:ミカドのイッチ

偶にいいこと言うんですよこの人。正座で足が痺れて土下座みたいな体勢じゃなきゃもっとカッコついたんですが。

 

160:名無しのノゾミ観客

台無しだよ。

 

161:名無しのノゾミ観客

五徹ニキはやっぱり五徹ニキだった。

 

162:名無しのノゾミ観客

どこかしまらないのがこの人だもんな。

 

163:一文無し

今奥さんに缶ビール没収されましたw

 

164:名無しのノゾミ観客

五徹ニキ…

 

165:名無しのノゾミ観客

もう呑むなあんた。

 

166:名無しのノゾミ観客

新人くんに迷惑かけてもいいのか?

 

167:新人

五徹さん。

 

168:五徹

ごめん。

 

169:名無しのノゾミ観客

さて、コテハンの内輪事情は横に置いて、次のノゾミの活躍があるのは宝塚記念だな!

 

170:名無しのノゾミ観客

ノゾミミカドとノゾミナチュラルの初対決!

 

171:名無しのノゾミ観客

それだけじゃない!ブエナビスタ、ドリームジャーニーもいる!

 

172:名無しのノゾミ観客

グランプリはこれだから盛り上がる!

 

173:一文無し

さぁ〜て、どの子に賭けようかなぁ〜♪

 

174:名無しのノゾミ観客

イッチ、ネキの手綱。

 

175:ミカドのイッチ

もちろん抑えますよ。

 

176:名無しのノゾミ観客

ミカドは勝てればGⅠ7勝。ルドルフに並ぶ!

 

177:名無しのノゾミ観客

ナチュラルが勝てればリュージの躍進がまた始まるかも…

 

178:名無しのノゾミ観客

なんにしろ楽しみだ!

 

179:新人

そういえば、あの馬も投票に入っていたけど、勝てるのかな?○○○○○○○○…

 




次回はアンケートで最も多かったウマ娘編の話をやります。

コメント、お気に入り登録、よろしくお願いします。


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帝のグランプリ/波乱のオールスター戦 前編 宝塚記念(GⅠ)

GWは忙しくもゆっくり過ごしていました。
さて、競走馬編のミカドのレースが始まります。

お気に入り数が3000を超えました!!!!
こんな小説をここまで見てくれて本当にありがとうございます!!
これからも頑張って投稿していきますので応援よろしくお願いします!


今更ながらRttt最終回を見ました。早くトプロを育成したいのになんでヒシミラクル先に出したサイゲぇぇぇぇ!!


まあ、可愛いからいいけど!!


松戸厩舎

 

 

「今後のミカドのレースだが……俺は場合によっては今年は国外で走らせないことを考えている」

 

松戸が言ったことに真司は驚愕した。

松戸厩舎では今、ノゾミミカド号の次走についての話し合いをしており、調教師の松戸と厩務員である真司の他に、オーナーである駒澤とヤネの雄一が揃っていた。その中で松戸が言い放った言葉が

 

『ミカドは海外レースに出走させない』

 

だったのだ。

 

「松戸さん、何でですか!?確かにミカドは検疫で滅茶苦茶暴れますけど注射さえなければまだなんとかなります!なのに…」

「真司、落ち着け」

 

叫ぶ真司を宥めようと雄一は口を開く。

 

「何も考えなし松戸さんはそう言っているんじゃない。それに『場合によっては』と言っていたじゃないか。あと、駒沢さんの前だから。座りなさい」

 

すぐそばにオーナーがいる事を忘れていた真司は慌てて謝り椅子に座り直した。それを見た松戸は話を再開する。

 

「雄一が言った通り駒沢さん、場合によっては海外…『凱旋門』も視野に入れています。しかしまずは次走の結果を見てから最終決定をしたいと考えています。」

「理由を聞かせてもらっても?」

「理由は主に三つ。一つは、ミカドの検疫での暴走。あいつは父親ほどではないですが獣医が苦手です。以前の手術の際も一悶着ありましたからね」

 

 

※その回想シーンがこちら。

 

獣医*1「よーしよしよし。大丈夫だからねぇ。怖くないからねぇ。」

 

ミ『これは脚を治すためこれは脚を治すためこれは脚を治すためこれは脚を治すためこれは脚を治すため…やっぱり無理!!注射だけは勘弁してぇ!!!!』

 

真司「あっ!?ミカド暴れるなこrブケファラス!!??」

モブ厩務員「真司がミカドに蹴り飛ばされた!!??」

動物看護師A「軽く5メートルは飛んで行ったぞ!?」

動物看護師B「あっでも大丈夫っぽい、なんかサムズアップしてる!!」

 

獣医「こうなるかぁ…仕方ない。よろしく頼むよ。」

モブ厩務員「えっと先生彼は?」

獣医「こういう馬に注射を打つのがすごく上手い私の同僚の…」

 

獣医()「獣医です。では行きます。」

 

ミ『えっ』

 

ブスッ!!

 

『ホンギャァぁぁ!!!???』

 

 

 

「あの時も…大変だった…」

「真司はいつもそんな目に合っているな。前も僕が予防接種の現場に来た時も…」

 

 

ミ『それだけは勘弁してくれぇ!!!』

 

真司「だから暴れんなっtセントサイモン!!!???」

 

厩務員A「真司がまたミカドに吹き飛ばされたぞ!!」

厩務員B「しかも今度はボロ取りに頭から突っ込んでる!!??」

厩務員C「あっでもなんかジェスチャーで伝えようとしている?何々…『辛い』『苦しい』『痛い』『なんか川が目の前に』ってそれ渡っちゃダメなヤツぅぅぅ!!!」

 

雄一「何これ…」

 

 

「……みたいな感じだったもんな」

「……松戸さん…有給申請していいですか?」

「ちゃんとやるから今は置いとけ話が進まん。とまあこんな感じで、ミカドはとにかく検疫というか注射を異常に怖がります。だからなるべく負担を掛けない為にも海外行きは慎重に考えなくてはいけません」

「……はい」

 

正直自分の馬のとんでも回想を聞かされて少し頭を抱えた駒沢だが、それも馬の個性と無理矢理結論づけて残る理由を聞く。

 

「二つ目は、馬場。ミカドは日本とドバイの芝しか知りません。日本馬が凱旋門で入着も難しいのは一重にこの馬場の違いが理由に挙げられます。ドバイはまだ日本と近い芝なのでまだなんとかなりましたがヨーロッパとなると話が変わってきます」

「確かに向こうの芝はこちらに比べて非常に重いんですよね?向こうの良馬場判定は日本で言うならば重馬場レベルだとか…」

「そう言う場合もあります。そしてこれが三つ目に繋がります。ミカドの脚への負荷です。」

 

ミカドの脚。これを聞いた瞬間駒沢は固唾を飲んだ。ミカドの脚は親のテイオー譲りの柔軟性を持ち、それは最大の武器にして諸刃の剣だ。

 

「現段階ではミカドの脚は重いヨーロッパの芝に耐えられるか分かりません。ドバイで海外移動に対しては問題ないことはわかりましたが、気候や水、飼いの違いで体調を崩す可能性もまだあります。」

「だから次走で?」

「次走で問題なければ海外も視野に入れ直してスケジュールを立てましょう。先ずは眼前に迫るグランプリレース『宝塚記念』で見定めます」

 

 


 

宝塚記念

春を締め括る最後のGⅠの幕が上がる

芝の上で激闘を演じた優駿たち

大井から出ずるアイドルホース ハイセイコー

駆ける姿は天馬の如く トウショウボーイ

三冠馬がいない?なら俺を見ろ カツラギエース

主役は名優じゃない最強の投手だ メジロライアン

覇王伝説第二幕は大胆に テイエムオペラオー

栄光意地逆襲伝説

彼らは何を背負い走るのか

人々はその走りに何を観るのか

さあ、貴方は彼らに何を重ねる?

 

 

阪神競馬場

 

 

枠番馬番馬名人気
1枠1番イコピコ13番人気
1枠2番アーネストリー5番人気
2枠3番ネヴァプション14番人気
2枠4番スマートギア16番人気
3枠5番ナムラクレッセント11番人気
3枠6番セイウンワンダー9番人気
4枠7番マイネルアンサー17番人気
4枠8番ブエナビスタ2番人気
5枠9番ロジユニヴァース7番人気
5枠10番ジャガーメイル3番人気
6枠11番ノゾミナチュラル4番人気
6枠12番メイショウベルーガ15番人気
7枠13番フォゲッタブル8番人気
7枠14番ノゾミミカド1番人気
7枠15番コパノシングー出走取り消し
8枠16番アクシオン12番人気
8枠17番ナカヤマフェスタ10番人気
8枠18番ドリームジャーニー6番人気

 

 

『今年も阪神で競馬前半期を締めくくるレースが始まろうとしています。ファン投票によって選ばれたスターホースたちによるグランプリ、宝塚記念!人々の夢を乗せた名馬たちが一堂に集い走り抜きます!』

 

 

俺、ノゾミミカドは現在、春のグランプリレース『宝塚記念』に出走するためにブエナと一緒に阪神競馬場のパドックにいる。

 

『お〜ねえねえミカド!人間が沢山いるよ!すごいよ!』

『わかったからちゃんと前見ろ!列が詰まる!』

 

あいも変わらずアイツは能天気。心配で余計にこっちが緊張する。

 

『それに…このレースが俺の運命を大きく左右するから余計に力が入っちまう…』

 

今回のレースの結果次第で俺は今後半年は海外を目標に走ることになる。

イギリスやフランスといったヨーロッパのレースに出走…正直どうなるか分からない。日本やドバイとも環境がまるで違うところで万全のレースができるとは限らないからな…

 

『……まあ、今はやめよう。今日のレースで勝たないことには決まらないしな』

 

俺が気合いを入れ直したのと同時に雄一さんを始めとした騎手の人たちが現れ、それぞれの馬に乗ってコースに向かっていく。

 

「雄一さん。今日も頼みます」

「任せてくれ真司。ミカド、行くぞ」

 

『はい』

 

コースに出て軽く走るが少し重い感じがした。稍重か?

 

「少しスピードが乗らないか?お前にとっては初めてかもなこの状態の馬場は…」

 

『確かに俺今まで稍重の馬場走ったこと無いですね。不安要素増えんなぁ…』

 

文句を言っても仕方ないが取り敢えず問題なく走ることは出来るし、俺自身の調子も良い。不安はあるが大丈夫だろう。

 

『ミカド。』

『おっ、ワンダー。久しぶりだな。元気にしていたか?』

『ああ。君も元気そうで何よりだ。あと…』

 

『ヒヒっ…クラシック以来だな…ミカドさんよぉ』

『……久しぶり…』

『ナカヤマフェスタに…ロジユニヴァース…!久しぶりだな!』

 

ワンダーの後ろから現れたのはクラシックの間、激闘を演じた同期二頭だった。

 

『お前らも居るとなんか去年を思い出すな』

『もう一年経ったんですね…』

『ワンダーさん言い方がじじ臭いぜぇ?』

『……僕、最近レース…あんまり……なかったから……君らと走るの……楽しみ……!』

 

『ねえねえミカド!なんでこっちこないのぉ!?って…ゲッ…』

 

そこにブエナが来たが開幕早々ワンダーを見るや否や耳を絞った。前回会ったときからお互いの印象が最悪のままだったのをこの時まで俺は忘れていた。

 

『またアンタ?ミカドになんの用?』

『久しぶりのミカドとのレースだから話をしていただけだが?にしても君は随分と呑気だね。これからレースが始まると言うのに。』

『別にレース前にどうしようと私の勝手でしょ?アンタに言われる筋合いは無いわ』

 

睨み合う二頭を見てため息を吐く。こいつら本当に馬が合わないんだなぁ…

 

『あれ?そういえばドリジャとナチュラル先輩はどこだ?あの二頭も居るはずだけど………えっ』

 

俺が周りを見回して探しているとある光景が目に入った。それは……

 

『オイコラ。テメェ誰に喧嘩売ってんだコラ?しばくぞ?』

『やれるもんならやってみな!テメェみたいな雌に負けるジャーニー様じゃねぇんだよ!』

『三下らしいセリフ吐くアンタみたいな奴に負ける私でも無いけどね。取り敢えず黙っていろチビ』

『今ここでブッ潰してやろうかぁ!?あぁんんっ!!』

 

ヤンキーVSスケバン……?

 

『・・・うん。見なかったことにしよう』

『ミカドさんよぉ、どうした?まるで放牧の瞬間に豪雨が降ってきて結局放牧できなかったみたいな顔して?』

『大丈夫だナカヤマフェスタ。それと他の馬に命が惜しければ『アソコ』に近付かないように言っといて』

 

巻き込まれたら絶対タダじゃすまない。

 

『何言って…………ok、何言いたいか分かった』

『理解力があって助かるよ…』

 

その後、一触即発であったあの二頭は無理矢理引き離すことで人間サイドはことなきを得た。

 

 


 

ファンファーレが鳴り、各競走馬は己のゲートへと入っていく。ノゾミミカドもゲートに入り、準備を整える。そして…

 

ガゴンッ!

 

ゲートが開き、大歓声と共にレースが始まった。

 

 

『始まりました!全頭綺麗なスタートを決めました。さあ最初にハナを取ったのは現役最強無敗の王者ノゾミミカド。今日も快調に進みます。その後ろに付いたのはナムラクレセント。三番手の位置にアーネストリー。続いてロジユニヴァース、その内にはセイウンワンダーが入ります。スタンド前は大歓声と拍手に包まれました阪神競馬場。先頭を進むノゾミミカド。今回も逃げ切るのでしょうか?』

 

 

スタンド前を通る競走馬たちを見守る観客の中に一真と翔一、そしてスレの4人の姿があった。

 

「おお〜今日も飛ばすねぇノゾミミカド。」

「よかったぁ今日もちゃんと出てくれて…」

「新人君はすっかりダービーがトラウマになっているね…」

 

スレの一文無しネキこと『麻生奏』(あそうかなで)。新人こと『常盤明』(ときわあきら)。五徹ニキこと『森仁志』(もりひとし)の三人が順に話し出す。

 

「なあ一真、今回お前はどう見る?」

「……分からない。ミカドの末脚で追いつける馬はこの宝塚にはブエナビスタ、ドリームジャーニー、セイウンワンダー、ノゾミナチュラルなど多い。元々馬群が苦手なミカドがそんな馬たちにラストで追いつかれてしまえば焦ったミカドはペースを崩す可能性が出てくる。」

「いつも以上に後ろに気を付けないといけないってことか……」

「だろうな……それより俺たちは…」

 

「うぉぉぉおおお!!!!いけぇぇぇ!!ノゾミナチュラルぅぅ!!倭田さぁぁん!!」

↑推しの騎手が天皇賞で勝ってから運が付きまくりで今回のレースも勝ってほしいと大興奮しているイッチこと『藤上良』(ふじかみりょう)。

 

「この人を落ち着かせないと…他の方々に迷惑がかかる」

「それなら大丈夫」

 

「リョウくん、一回落ち着こうか?」

「すみません大人気なく興奮していましただから三角絞めを解いてください……!」

 

「ああなるから」

「よし、何もみなかった事にしよう今はレースだレース」

 

 

『第1コーナーに入りました。それぞれの走りでコーナーを17頭が進みます。1コーナーから2コーナーに入ります。先頭は依然ノゾミミカド。アーネストリー、ロジユニヴァースが続き、ブエナビスタ、セイウンワンダー、その内にアクシオン。向正面に入りました。一馬身離れてネヴァプションとジャガーメイル。続いてナカヤマフェスタ、内にいるのはイコピコ、前回覇者のドリームジャーニーがここにいて、後ろに付いたのは天皇賞馬ノゾミナチュラル、メイショウベルーガがその半馬身ほど後ろ、続いてフォゲッタブル、マイネルアンサーとスマートギアが最後方にいます。』

 

 

ハナを突き進むノゾミミカド。阪神競馬場は他の中山や京都といった競馬場よりも起伏が緩やかであり、右回りの競馬場としては一周の長差が日本最大を誇る。更にコースの特徴によるものなのか有力馬が実力を発揮しにくいとされている。

そんなコースを走っているミカドは…

 

『なげぇ〜こりゃあ将来走るあの『三冠馬』が間違えるかもなぁ……ハァ…現実逃避している場合じゃねぇんだよなぁ』

 

余裕を保とうとしていた。普段は最終局面でなければ焦りを見せることが多い彼だが、今回はスタート直後から少し焦りを出していた。なぜなら…

 

『ナチュラル先輩が後方にいるのがなぁ…怖…』

 

同じ冠名の先輩馬ノゾミナチュラルが後方に陣取っているからだ。ミカドにとって彼女こそがこのレースで最も警戒しなくてはいけない相手であるからだ。

彼女の走りは周りに囲まれても無理矢理抜け出すことができるパワーと淀の坂をゴリ押しで登り降りしても切れないスタミナ、そして周りを萎縮させるほどのプレッシャー。なんでついこの前までGⅠ取れなかったんだよと思うほどノゾミナチュラルはハイスペックな馬なのだ。そして有力馬の中でミカドは唯一レースで相手したことがない。このことからノゾミナチュラルはミカドにとって未知の敵となっているのだ。

 

『今はまだ後ろの方だけど多分第3コーナー辺りで仕掛けてくる。そこで上手く動ければ…!』

 

(……少しミカドの様子がおかしい…?普段よりも落ち着きがない。何を焦っているんだ、ミカド…?)

 

ミカドの焦りは雄一にも僅かに伝わっていた。

 

 

『さあ、先頭を悠々と進むノゾミミカド。1000mの通過タイムは58秒9!?早いペースで進んでいます!』

*1
以前登場した競馬ガチの獣医さん。詳しくは『帝の状態/三冠の障害』をチェック。




作者は基本、GⅠではあんな感じの厨二臭い文を書きます。そしてレースの歴史を一から全部調べ上げて作っています。
皆さんならどんな風に表現しますか?
因みにここまで見てくれている古参の方々ならわかると思いますが私は…

『レースの名前』

『厨二っぽい説明』

『過去の優勝馬』

『厨二その2』

みたいな構成で考えています。

それでは次回も楽しみにしていてください。
コメント、高評価、お気に入り登録をよろしくお願いします!

特にコメントは必ずチェックしていますので是非!


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帝のグランプリ/波乱のオールスター戦 後編 宝塚記念(GⅠ)

宝塚記念編も終わります。
ミカドがどうなるかをご覧下さい!

ウマ娘のゲームがKONAMIに訴えられましたね…憶測が飛び交っていますが現状サイゲが不利みたいですごい心配です。

KONAMIはウマ娘のゲームを差し止めするというのと同時にユーザーから遊びを奪うつもりはないとなんか矛盾したことをいっているようですから恐らくサ終することはないと思いますが……

1ウマ娘ファンとしては節度ある姿勢でウマ娘を応援していこうと思います。ネットでウマ娘過激派が早速やらかして印象悪くしてますが皆さんはKONAMI、Cygames両社に迷惑を掛けない心持ちで結果を待ちましょう。


厩舎side

 

 

実況の解説を聞いた時、俺は我が耳と感覚を疑った。

 

「58秒!?想定より1秒速いぞ!?」

「松戸さん…これって…」

 

隣の真司も不安顔になっている。想定では59秒を目安にしていた。阪神はゆったりとしたペースになりやすいことがあるため、今回はハイペースにする必要はないと指示を出していた。しかしタイムは早い。これはあることが思い浮かぶ。

 

「掛かったか…」

「菊花賞辺りから大丈夫になってきたからブリンガー外したのに…」

 

ミカドは馬群に囲まれるのが苦手であり、更に集中力が持続しにくい。だが一度集中すると短いが深く入り込み、騎手とベストなタイミングで指示が通ることで最後の末脚の爆発力が生み出される。深く集中しているからこそあれだけの威力を出せるのだ。

 

「雄一…頼むぞ…」

 

鞍上の雄一がミカドを落ち着かせることができればなんとかなるかもしれない。

松戸と真司には祈ることしかできないのだから。

 

 


 

 

雄一side

 

 

(58秒?少し速いな。だがミカドは焦った様子は…いややっぱり少しおかしい…)

 

ミカドの様子がおかしいのに気付いたのはレースが始まってすぐだった。いつもに比べて集中できていない、いや集中しているんだが何かを気にしている節がある。

今までこんなことはなかった。なぜ急に…

 

(先頭を走っているから後ろが気にならないようにブリンガーをつけていたがそれも無くなったから外したのが裏目に出たか?いや外してからは気にしてなかった。ならなぜ今日は…?出走前にセイウンワンダーとブエナビスタの一悶着がまたあったがそれ以外は何もなかったし、ミカドのこんな状態初めて……)

 

「いや…初めてじゃない。」

 

出走馬で思い出した。レースで走ったことはないが並走で何度も走った相手が後ろにいる。

 

「ノゾミナチュラルか…!」

 

ミカドがデビューしてから並走で完膚無きまでの差を見せ付けられた相手だ。

 

(ミカドにとってはトラウマみたいな相手ってことか……走る時以外は問題なさそうだったから頭から抜け落ちていた!)

 

ならば今俺のすることはただ一つ。

 

ミカドを落ち着かせることだ。

 

 


 

 

ミカドside

 

 

「ミカド、ペースが速い。少し落とすんだ。」

 

『えっ…マジっすか?』

 

ヤベェ…知らず知らずのうちにペースを上げていたみたいだ。クッソォ…集中できてねぇ。

ナチュラル先輩のことが気になり過ぎて上手くペースが掴めない。

このままじゃ……

 

頭の中で悪いものがどんどん現れて渦になって回っていく。冷静になろうとしても集中ができずにどんどん焦りが大きくなっていく。

 

「ミカド。」

 

雄一さんが俺の名前を呼んだ。意識を少しそっちに向けた。

 

『うん?』

 

次の瞬間。

 

バッシィィィィンンン!!!!

 

『イッテェェ!!!??』

 

雄一さんが鞭で俺を引っ叩いた。

突然のこと過ぎて頭の中のものがどっかに全部飛んで行った感覚になった。

 

「お前は後ろを気にしすぎだ。」

 

『ゆ、雄一さん?』

 

「前を見ろ。お前は無敵のミカドだ。お前が本気を出した走りなら…誰にだって負けない。」

 

『!!』

 

「周りを気にするな。お前はお前らしく走れ。」

 

…………

 

『そうでしたね。俺たちの走りをしましょう、雄一さん。』

 

息を入れ直し、ペースを掴み直す。

そして周りの情報をシャットアウトする。

視線、騒音、圧、走りに集中できないものは全て意識外に放り出す。五感を使って必要な情報だけを入れる。

視覚は正面の景色のみ、聴覚は雄一さんの声のみ、触覚は鞭と脚の感覚のみ。

 

深く、深く意識の中に入り込む。その瞬間、俺には視えた。朧げだが一筋の光の道が…

 

 

『さあ、第三コーナーに入りノゾミミカドが先頭をキープ。後方の馬も前に出始めた。ブエナビスタが2番手に上がって、続いてアーネストリー。ドリームジャーニーとノゾミナチュラルはまだ後方。先頭集団が第四コーナーに入りレースも終盤に近づいてきました!』

 

 

第四コーナー入った。後は……

 

「ここだ!」

 

雄一さんの合図と共に俺は脚に力を込める。一瞬、スピードが落ちる。そして溜めた力を爆発させ、同時に一気に加速する。

 

 

『ラストスパートに入って先頭のノゾミミカドがここで加速!後方勢を突き放す!ブエナビスタも加速する!アーネストリーも追いかける!さあ、直線に入った!大外からドリームジャーニーとノゾミナチュラルが上がってきた!!』

 

 

『ミカドぉぉ!!!』

 

『絶テェに負けねぇぇぇっ!!!』

 

『邪魔だぁぁぁ!!』

 

周りの声は聞こえているが意識しない。ひたすら走る。走って走って前に進む。

残り数100m。

 

その時だった。

 

 

『先頭ノゾミミカド!内からブエナビスタ!大外からはドリームジャーニーとノゾミナチュラル!この4頭で決まるのk……いや、真ん中から勢いよく飛び出して来た馬が二頭!!?17番のナカヤマフェスタと6番セイウンワンダーだ!!』

 

 

『っ!?』

 

 

完全に意識の外からの伏兵の登場に虚を突かれた。

 

『ようやくツキがまわって来たぜぇぇぇ!!!』

『ここしかない!アイツに勝てるのはここしかない!!!』

 

二頭は先に前にいた馬たちを撫で斬り俺の所までに来た。

 

『無敵の三冠馬さんよぉ…やっと追いつけたぜ!』

『君に勝つのは僕だ!絶対に負けない!』

『……へへっ、かかって来いよぉぉ!!!』

 

負けるわけにはいかない。俺の道を遮らせない。俺はさらにスピードを上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『三頭が並んで膠着状態!ここで抜け出したのは”セイウンワンダー”!!』

 

 

『えっ…!?』

 

だけど出せなかった。

 

『もらったぁぁ!!!』

『あっ待て!!』

 

 

『セイウンワンダー抜け出した!ノゾミミカドとナカヤマフェスタも追うがこれは間に合わずゴールイン!!!!!無敵の帝を下し、無敗記録を止めたのは何度もその背中を追い続けたライバル、セイウンワンダーです!驚天動地とは正にこのこと!!ノゾミミカドは二着に敗れました!』




実は今回の結果はセイウンワンダーを登場させてから割と初期の段階で決まっていました。
ミカドを敗るのは何度もその走りに喰らい付いてきた彼にしか出来ないと思いましたからです。

よかったらコメントや高評価、お気に入り登録をお願いします。
コメントは毎回確認していますし、作者のモチベにも繋がるのでどんどん出してきても構いません!
それではまた次回………

次回か次次回でアンケートで最も多かった偉大な母『ルイシエル』の過去を書こうと考えています。


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驚愕の宝塚/帝の落涙

ミカドの敗北。そしてワンダーの勝利。

宝塚の舞台の幕引きである。


ワンダーside

 

 

僕の前にはいつも君が居た。

 

《『ノゾミミカド、セイウンワンダー、ノゾミミカド、セイウンワンダー!並んでゴールイン!!二頭並んでゴールしました!!ノゾミミカドの方が態勢がやや有利か?』》

 

思いもしないアクシデントが起きても君は諦めなかった。

 

《『ノゾミミカドだ!!ノゾミミカドが差し切ってゴールイン!!!!ダービーの称号を手にしたのは、皇帝一族の救世主、『帝』の名を受け継ぐ、希望の帝!ノゾミミカドです!!!祖父たちに続き、無敗でダービーを制しました!!!!』》

 

例え負けるかもしれないと言われても、君は走りきった。

 

《『ノゾミミカドだ!!ノゾミミカドだ!!!祖父の偉業、父と母父の無念を、多くの人々の望みを叶え、今一着でゴールイン!!!!!最後の直線での三つ巴で他二頭を差し切って、半馬身差で勝ちました!!!!勝ち時計は3:01.4!!レコードタイムを記録しました!!3つの冠を携えて、今ここに4年ぶりの無敗三冠馬が誕生しました!!!!』》

 

ノゾミミカド。

 

君は僕にとって追いつけそうで追いつけない光のような存在だ。目の前まで来たと思ったらまた先に行ってしまう。君を目標に走って来た。

でも僕が最高の走りをしてもいつも君は先に行ってしまう。近づいたら離れてしまう磁石の様に…

諦める方がどれだけ楽だと思ったか…

 

そんなことを思いながら僕は第三コーナーを通過していた。

 

『クッソ!脚が…!』

「スタミナもつか、ワンダー?」

 

上の富士田さんが心配そうに声を掛ける。11番(ノゾミナチュラル)の馬からずっと発せられている圧で僕は無意識下でいつも以上に脚を使っていたようだ。これでは直線で垂れてしまう…

 

『また…またなのか…』

 

また君に追いつけないのか…目に映るいつもの光景。僕の前を走る君。

 

『僕は……』

 

己の情けなさと力不足に思わず下を向いてしまう。勝ちたいのにその為の力がでないことが不甲斐ない。

 

僕は現実から目を背けたくて、眼を閉じた。

 

 

 

 

『先頭はスペシャル!』

 

 

『……えっ?』

 

今日の実況の人と違う声の実況が聞こえた気がして、眼を開いた。

スペシャルなんて馬…いたか?いやそもそも先頭はミカドじゃ…

 

 

『グラスワンダー!!』

 

 

『っ!?』

 

今、僕の前を二頭の知らない馬(・・・・・)が通り過ぎて行った。そしてその馬たちは他の馬たちを文字通りすり抜けて行った(・・・・・・・・)

 

『はっ!?えっ……はぁぁっ!?何今の!?』

 

謎の二頭に跨る騎手の一人は紫と白の勝負服。そして《グラスワンダー》と呼ばれた馬の騎手の勝負服は青と白そして僅かに赤が入っていた。

 

 

『もう言葉はいらないのか!?二頭の一騎打ちか!?』

 

 

グラスワンダーという馬が外からスペシャルと呼ばれた馬を追い抜いた。

 

 

『グラスワンダー躱した!グラスワンダー躱した!スペシャルウィーク負けるのか!?』

 

 

鮮やか並ぶ暇も無く追い抜いた。あの走り…あの走りなら…

 

グラスワンダーのターゲットは最初からスペシャルウィークという馬だった。自分がいない場合勝つであろう馬に当たりを付けていたんだろう。

今このレースに置き換えると僕のターゲットは先頭を走る無敗の帝。

 

『動き出すタイミング…そして更にスピードを上げるタイミングで…』

 

 

『ラストスパートに入って先頭のノゾミミカドがここで加速!』

 

 

鞭が来るがここじゃ無い。ここではまだ脚を使わない。

 

「ワンダー?どうした?」

 

ごめんなさい、富士田さん。でもここじゃ無いんだ。彼に意表を突く最高のタイミングは…

 

前の馬たちが広がったこのタイミングだ……!

 

 

『先頭ノゾミミカド!内からブエナビスタ!大外からはドリームジャーニーとノゾミナチュラル!この4頭で決まるのk……いや、真ん中から勢いよく飛び出して来た馬が二頭!!?17番のナカヤマフェスタと6番セイウンワンダーだ!!』

 

 

『もうこのタイミングしか無い…!残ったなけなしのスタミナを全部加速に使う!集中しろ…狙うターゲットは(無敗の帝)だけだ!』

 

意表を突かれた今、ミカドのリズムは僅かにズレたはずだ。ナカヤマフェスタも来たのはこちらとしては嬉しい誤算だ。ミカドはさらに驚いているからだ。

 

『無敵の三冠馬さんよぉ…やっと追いつけたぜ!』

『君に勝つのは僕だ!絶対に負けない!』

『……へへっ、かかって来いよぉぉ!!!』

 

ミカドが更にスピードを出そうとする。

 

だけど彼のスピードは変わらなかった。

 

『ここだ!』

 

 

『三頭が並んで膠着状態!ここで抜け出したのはセイウンワンダー!!』

 

 

僕も11番(ノゾミナチュラル)の圧の影響を受けていた。ならマークやプレッシャーが苦手な彼にも有効だった筈。そもそも彼は成績から一番意識して狙われている筈だ。一か八かの賭けだったが当たっていた様です。

 

『君に勝つのは……この僕だぁぁ!!!!』

 

 

 

『セイウンワンダー抜け出した!ノゾミミカドとナカヤマフェスタも追うがこれは間に合わずゴールイン!!!!!無敵の帝を下し、無敗記録を止めたのは何度もその背中を追い続けたライバル、セイウンワンダーです!驚天動地とは正にこのこと!!ノゾミミカドは二着に敗れました!』

 

 

あの馬の様に鮮やかにとはいえない、付け焼き刃の酷い走りだ。無理をしたからきっと脚はボロボロだ。先生たちには怒られるでしょう。

 

しかし……貴方のお陰で彼に勝てました。有り難う御座います。父さん……

 

 

14アタマ
17クビ
1/2
11

 

 


 

 

ミカドside

 

 

『無敗のライバルを討ち取ったのはセイウンワンダーGⅠ初勝利!!そして父グラスワンダーと親子でこの宝塚記念を制覇しました!』

 

 

暫くの間、何が起きたのか訳がわからなかった。けど、ゴール版を抜けてからゆっくりスピードを落として止まって少ししてからようやく理解した。

 

『ああ…俺、負けたんだ…』

 

最後の最後で脚がうまく動かないなんてな。無意識の間にナチュラル先輩のことを気にしすぎてスピードを出していたことが敗因だな…スタミナを結構使っていたんだ。

 

「ミカド……惜しかったな…」

 

雄一さんの手が俺の首を優しく叩く。いつもよりも優しく。そんだけ俺は見るからに落ち込んでいるんだろう。

 

『すみません、雄一さん…大丈夫ですよ俺は…』

 

あんまり心配をかけたくないから気丈に振舞う。さて…

 

『アイツのとこに行ってやらないとな…』

 

勝者には最大の賛辞をするのが礼儀ってもんだ。

 

『ワンダー。おめでとさん。』

『ミカド……有り難う…やっと君に勝てたよ…』

『ああ…今日は俺の完敗だ。あ〜あ〜無敗記録もここまでかぁ…本当…スッゲェ悔しい……』

『君に…そう言わせる事ができて嬉しいよ。でも、これでやっと一勝だ。次は君に三馬身の差をつけて勝ってみせるよ。』

『いうじゃねぇか……』

『君より強いと思わせるにはそれぐらいの差をつけないといけないからね。』

 

いつもよりも声が上ずっていて、ここまで喜びの感情を顕にしているワンダーを見るのは初めてだ。それだけ俺に勝った事が嬉しくてたまらないんだろう。

 

『次は負けねえからな。ああ、あと…』

『?』

『さっさと向こうに行ってこい。お客さん方が本日の主役を待ってんぞ。』

 

『ウイニングラン、決めてこい!』

『!……ああ!!』

 

走って行くワンダーの後ろ姿を見ながら、俺はその場を去った。

 

『お〜い、ミカドぉ!』

 

ブエナの声にも耳を傾けずに…

 

『あれ?聞こえなかったのかな?待ってよぉ!』

『嬢ちゃん、やめときな。』

『うん?お姉さん誰?』

『あの子の先輩さ。それよりも今はあの子に近づかない方がいい。』

『?』

 

『男の子にはね…』

 

「ミカド?」

 

 

誰にも俺が

 

 

「お前もしかして……泣いてるのか?」

 

『自分の情けない姿を見せたくない時だってあるのよ…』

 

 

ないているところをみられたくなかったから……

 

 


 

 

観客席side

 

 

「み、ミカドが……」

「負けた……?」

 

目に映る光景が信じられないという表情を浮かべる一真と翔一。

 

スレ組の面々も驚きを隠せていなかった。

 

「も、森さん…ミカドが負け……ちゃいましたね…」

「……競馬に絶対はないからな…いつかは来ると思っていたよ…でもね新人君。これが『競馬』なんだ。」

 

五徹こと森は語る。

 

「どんなに強い馬でも何か一つ、敗因になり得るものが現れれば負けてしまうことだってあるんだ。勝負事の世界には必勝法が存在しない。」

「状況や運、相手によって結果は変わる。例え一度勝ったレースと同じ条件で出走馬が同じでも必ず同じ結果になるとは限らない。」

「なぜなら競走馬や騎手にとってはどんなレースでも『初挑戦』なんだと私は思う。全部が全部全く違うのだから結果も、それに至るまでの過程も、全て…」

 

森の自論に耳を傾ける新人こと常盤。

 

「……まあ、なんだ…色々関係ないこと話したがとにかくどんな結果が出てもそれを責めてはならない。勝者にはその結果に値する賞賛を。敗者になったものにも奮闘した激励を送るのが、我々観客(オーディエンス)のするべきことの一つだ。」

「…はい。」

 

ミカドが負けたことに少なからずショックを受けていた常盤に森は肩を叩いて慰める。

 

「さて……そろそろ移動しよう。麻生くん(一文無しネキ)と藤上くん(イッチ)も移動……する……よ…」

 

二人の方に顔を向けた森が固まる。何があったのかと同じ方向を見る常盤と翔一と一真。そこには…

 

手(馬券を持っている)を天に掲げて涙を流す麻生と、orzみたいな状態で馬券を地面に散らしている藤上の姿だった。

 

「え、えと二人とも何があったんだい?」

 

森が恐る恐る話しかけると…

 

「…った…」

 

「えっ?」

 

「馬券…当たった……!」

 

「逆に僕は大外れしました……!」

 

 

……………

 

 

「「「「ハァァァアアアァァアア!!!???」」」」

 

 

大絶叫が阪神競馬場に響き渡った。

 

 

因みにこの日の総額で一番勝ったのはイッチを抑えてネキになった。

 

 


 

 

驚愕な結果を残した宝塚記念はこうして幕を閉じた。

 

ノゾミミカドの初の黒星…

 

そしてその結果は……

 

 

〇〇スポーツ新聞

 

《ノゾミミカド、凱旋門賞への道断念!?》

 

一つの道が閉ざされた要因にもなってしまった。




今回のワンダーが視たものは菊花賞でミカドが見たものと同一です。

あの現象の出現メカニズムがあるのですがわかる人はいますか?一応作者の中では決まっています。よかったらコメントやメッセージとかで予想や考察を送って下さい。

次回はシエルママの過去編を入れようと思っています。

それでは次回までお楽しみに!

感想などはどんどん下さい!!モチベに繋がります!!!


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番外編 空への飛翔/申し子の娘

番外編第二弾はミカドの母であるルイシエルの若き頃のお話です。
心優しくも厳しい彼女の現役時代は一体どんなことがあったのか…
それではどうぞ!


*これはミカドがルドルフと一緒に北山牧場にいるときの話です。

 

私はルイシエル。元競走馬であり、今は次の世代を育てる一頭。

今日も息子のボーに特訓をつけていた。そこにもう一頭の息子であるノゾミミカドがやって来た。

 

『そういえば母さん。』

『何、ミカド?今ボーの走りを見ているから手短にね。』

『うん。母さんの現役の時の話ってあんま聞いたことないから気になってさ。』

『私の?』

 

私の現役…そういえば全然話したことなかったわね…精々私がなかなか勝てなかった理由ぐらいね。

 

『それ俺らも気になるっす。』

『あまり聞いたことないですからね。』

『俺もお嬢の昔話は気になるな。とんだ御転婆娘だったと聞くが?』

『僕は結構聞いたことあるけど…』

『なんだなんだ?シエル殿の過去語りか?我も気になるぞお前さんの御転婆話。』

 

ギャラリーがどんどん増えて来た…別に減るもんじゃないからいいけどジジイ二頭は少しデリカシーを持て。

 

『まあいいわ…ボー、もうあがりなさい。今日はここまでよ。』

『ゼェゼェ…は…はい……』

 

これじゃあ特訓の続行も出来なさそうだからボーを上がらせた。さて、どこから話せばいいのやら…

 

 


 

 

私は生まれはここよ。生まれてからはまあ、そこまでおかしなことはしてなかったと思うわ…

 

 

 

「コン(シエルママの幼名)が逃げたぞぉ!!」

「また柵をぶっ壊しやがった!!」

 

『外気持ちい〜!あっ、またヒトがたくさん来た!鬼ごっこだね!?やろうやろう!鬼さんこちら蹄鳴る方へ〜!』

 

「あの御転婆娘がァァ!!!」

「ヤバイ捕まえにいった北山さんが吹き飛ばされた!」

 

 

 

・・・・・ごめんなんでもないわ。とにかく偶に迷惑かけながら幼駒時代を過ごしたわ。

 

あとはセールで買い取られて『ルイシエル』の名前を貰って、厩舎に入ってからはトレーニングの毎日よ。最初はいやだったわ動きが制限されるのは幼い私にとっては苦痛だったのよ。

 

 

 

『ムゥ……』

 

「シエル…調教に行きたくないからって馬房前でごねるな。」

 

『だってぇ…』

 

「ほら、行くぞ…終わったらご飯が出るぞ。」

 

『行く。』

 

 

 

本当、今考えると調教師の先生や主に乗ってくれた四井浩文(しいひろふみ)さんに迷惑かけたわ。調教自体がいやだったわけじゃないのよ?ただ自由に走れないっていうのが嫌だったのよ。必要なことっていうのはわかっていたんだけどちゃんとやろうとは思っていても全然やる気になれなかったの。

でも本当に必要だったっていうのがデビュー戦で痛感したわ…

 

 

 

『さあ、最後の直線に入ってルイシエルが先頭だ!しかし後続も勢いをつけてやって来た!ルイシエルあっという間に躱されて沈んだぁ!』

 

 

『そ、そんな…』

 

「残念だったな…大丈夫だシエル。まだ一回だ。巻き返せるさ。」

 

『……これじゃ……ダメなんだ……』

 

 

 

自由に走っていてはあの世界では通用しない。それを思い知らされた瞬間だった。

それ以来私はトレーニングを積んだ。真面目に、淡々と、ただひたすら。出された飼料も残さず食べて、水分もしっかりとって、休めるときはしっかり休んで。あの世界で生き残るために、ずっとね。

 

 

 

「…最近、シエルの勢いが凄いですよね…」

「ああ、最初のうちは嫌々やっていた調教を今は文句も言わず全部完璧にこなしている。それだけ新馬戦の負けがアイツに突き刺さったんだろう。」

「淡々とキツい調教にも耐えてケロッとしているんですよ…やっぱり、”血”なんですかね?」

「『サイボーグ』と呼ばれた父『ミホノブルボン』に母父はあの『レコードブレイカー』を輩出した『リアルシャダイ』。血統の配合から考えたら納得がいく…三歳馬なのにそれ用の調教じゃ足りなくて用意していた”四歳馬用の調教”ですら、すまし顔でこなすんだからな…」

「流石『坂路の申し子』の娘であり『漆黒のステイヤー』の姪っ子ですね…」

 

 

 

調教師や助手の人たちも私が真面目にやり始めたのを感じたのかトレーニング内容もキツくなっていったけど泣き言なんて一切言わなかったわ。でもレースには中々勝てなかった。だからもっと頑張んなくちゃってもっとトレーニングをしてね。でも先輩である『お姉様』には私が無理していることがバレバレだったみたい。

 

 

 

『今日も随分とキツいトレーニングをしていたけど大丈夫?』

『お姉様…大丈夫です…休める時はしっかり休んでますから…』

『そうじゃないわ。私が心配なのは”心”の方よ』

『心?』

『ええ…心はね、とっても簡単に壊れちゃうものなの。そして一度壊れてしまったら簡単には元には戻らないわ。だからね、体よりも心を優先して休ませなさい…難しく考えず、むしろ何も考えないでぼーっとするのも手よ♪』

『で、でも…次のレースで勝たないと…』

 

あの時は結構追い込まれていたのよね…次も勝てなかったらどうしようって。お姉様はそんな私を見て声をしょっちゅうかけてくれていたのよ。でもその日は特に私も余裕がなくて話を全然聞けてなかったのよね。そしたら…

 

『……ルイシエル。』

『えっ…』

 

『心の余裕が無いものには、勝てる勝負も勝てなくなる。』

 

『ひっ…!?』

 

『貴様のどんなことにも実直にこなす性格は美点ではあるが、同時に視野を狭くする欠点でもある。視野を広く持て。そうすれば、貴様の求めるものも視えて来るだろう。分かったな?』

 

『は、はい……』

 

『………ならよし♪お姉さんのいうことも素直に受け取ることよ。』

 

 

 

……お姉様が真面目で本気の声色で話したのはあれ以来ないわ。優しくて穏やかでユーモアもあって、時に厳しいけど人には甘えて顔を舐めちゃう。そんな方だったわ。

それからお姉様に言われたことを考えて、日常でもレースでも少しだけ心に余裕を持たせてみることにしたの。力を少し抜いてみたり、何もしていない時はレースやトレーニング以外のこと考えてみたりして、少しだけスッキリできる時間が多くなったの。

そしたら…

 

 

 

『さあ、残り200を切った!先頭はルイシエル!2番手との差はまだ一馬身ほどある!粘るか!?粘れるのか!?粘ったままゴールイン!!ルイシエル!未勝利戦を見事勝ち切りました!』

 

 

「よし!よくやったな、シエル!」

 

『えへへ、勝てた…!やっと勝てた!わ〜い!わ〜い!』

 

「ちょっ!?シエル、落ち着け!?止まれ止まれ止まれ!?」

 

 

『おっとルイシエルスピードが落ちないぞ…おおっと落馬!?騎手を振り落としてしまいました!』

 

 

『あっ…だ、大丈夫四井さん!?』

 

「ははは…だ、大丈夫だシエル…」

 

 

 

嬉しさの余り四井さんを振り落としちゃったのは本当に恥ずかしかったわ…まあ、まだまだ若かったから失敗も多かったけどとにかくあの未勝利戦勝利は私の中で特別なものだったわ…

そのあとは条件戦に出て負けたり勝ったりをして、あのレースに出たのよ。

 

 


 

 

1999年2月27日(土)

阪神競馬場

 

 

あの日は曇っていて少し薄暗い感じがした日だった。私はレースに出るためにいつも通り競馬場に来て、コースで返し馬をしている時だった。

 

『ハァーッハッハッハッ!!』

『うん?なんだ?』

 

突然笑い声が聞こえた。周りの馬も気になって声がした方へ顔を向けた。

 

『おお太陽よ!僕の余りの美しさに惚れてしまい厚い雲に隠れてしまったのかい?恥ずかしがらなくてもいい!雲という幕を開けてどうか見ていってくれ!僕が主演のこの舞台を!』

 

栗毛で額の白い星をこれでもかと見せつけつような立ち振る舞いで空に向かって叫んでいる変な馬がいた。そしてこの時この場にいた馬たちは全員こう思った。

 

(((あっ、関わったら絶対面倒臭い馬だ…)))by阪神競馬場走路に集まった馬(誘導馬も含む)たち

 

他の馬たちはその馬に関わらないようにそそくさと離れていったわ。逆に私はあんなタイプの馬初めて見たから驚きと呆れで固まっていてね…そしたら向こうが私に気付いてこっちに来ちゃったのよね…

 

『やあやあ、マドモアゼル!僕に熱い視線を送ってくれているがどうしたんだい?はっ、まさか僕の余りの美しさに心を奪われてしまったのかい!?ああ…なんて罪作りの男なんだ僕は!!』

『いや、アンタがあまりに変わった馬で意味不明なことを言っていたからドン引いてるだけなんだけど。』

 

あの場でああ返した私は悪くはないと今でも思っているわ。だってそれぐらい変なやつだったんだもの…

 

『おや、そうかい?それはそれでよかったよ。』

『はっ?意味分かって言ってんの?今私ドン引きしたって言ったんだよ?』

『引こうが押そうが既に君を含め、観客(オーディエンス)たちが僕に…いや僕たち(・・・)に注目してる!僕とリュージ、『覇王』となるものたちが繰り広げるプレリュードをね!!』

 

次々と自信満々で語るコイツは一体なんなんだと思いながら、話の9割がたをスルーした。聞いていたら半分自分、半分自分の主戦騎手についての自慢しかなかったからね。

 

『……あのさ。』

『…つまりは、おっと、なんだい?』

『もうすぐ時間だから行きたいんだけど…』

『おっと…それは失礼した。謝罪するよ。長話は僕の悪い癖だ。』

『いや、いいから。ああそうだ。まだ名乗っていなかったね。私はルイシエル。一応聞くけどあんたの名前は?』

『そういえば僕もまだ名乗っていなかったね。礼儀がなってなくて申し訳ない。では名乗らせてもらおう!』

 

 

『僕の名は、テイエムオペラオー!!この世界に名を轟かす覇王となる存在だ!!』

 

 

 

ゆきやなぎ賞

出走馬

枠番馬番馬名人気
1枠1番マンノチャンピオン12番人気
2枠2番ビッグサイレンス4番人気
3枠3番ゴールデンスワロー10番人気
3枠4番ロードアルコ13番人気
4枠5番ファイナルフォース8番人気
4枠6番ルイシエル9番人気
5枠7番マジックサークル11番人気
5枠8番グラールキング1番人気
6枠9番アンクスルー6番人気
6枠10番ニシノビート7番人気
7枠11番ワンモアブイサイン14番人気
7枠12番クラシックステージ3番人気
8枠13番テイエムオペラオー2番人気
8枠14番ドラゴンスペシャル5番人気

 

 

『曇り空の下で行われる4歳500万下、ゆきやなぎ賞。芝の状態は稍重となりました。ゲートに若馬たちが続々と入っていきます。………今、大外のドラゴンスペシャルがゲートに入りました。…出走準備、整いました。……スタートしました。おっと5枠のマジックサークル体制を崩しましたが持ち直しました。先頭争いはドラゴンスペシャル、ルイシエル。テイエムオペラオー上って行きましたが中を突いてファイナルフォース上って行きます。』

 

 

加速力が他に比べてあまりない私にとってはここで先頭を取れないのは命取りになる。何とかハナをとって逃げに徹する。これが私の走り。

 

『よぉし…まずはハナを取れたあとは焦らず焦らず…』

 

トップスピードになるまで時間がかかるのなら先頭で走って相手が加速する前に自分は加速し切ってできる限り距離を稼いでおけばいい。

 

 

『一団、固まった状態で進むことになりました。各馬、1、2コーナーへと進みます。ハナを進むのは6番ルイシエル。5番ファイナルフォースが続きます。外から果敢に14番ドラゴンスペシャル。その間に9番アンクスルー。一馬身離れて四番手は三頭。内を進むは3番ゴールデンスワロー。中には8番グラールキング。外を突くのは13番テイエムオペラオーです。後方集団も三頭固まって、中をついて10番ニシノビート、最内からは1番マンノチャンピオン、外をついて11番ワンモアブイサインが追走、一馬身差で2番ビッグサイレンス、半馬身差で12番クラシックステージ、その後ろに7番マジックサークル、その外には4番ロードアルコ。こういった展開になっております。』

 

 

向正面に入り、先頭は依然私のまま。ドラゴンスペシャルが上がってきたけど気にしない。前を向いてひたすら走る。雑念を取っ払い、視覚はゴール地点に向け、聴覚は四井さんの声だけに絞り、感覚も鞭と脚だけに絞る。

 

今この瞬間だけ、私は馬から鉄の騎馬に成る。走ることに集中し、前へ前へと進む鉄騎、それが私のルーティン。

 

 

『三・四コーナーに入り先頭を進むルイシエル。ドラゴンスペシャルがその後ろを猛追。ゴールデンスワローが三番手。外から上がってきたのはテイエムオペラオー。中間地点600の標識を通過し、ファイナルフォースがインコースからやって来る。第四コーナーから直線に進む。』

 

 

直線に入れば後は我慢比べ。粘り強さなら私は他の馬たちよりも自信がある。

そう考えていた私は四井さんの指示の下で加速を続け、遂に自分が出せるトップスピードにまで至った。

 

 

『ルイシエルが先頭を維持して粘る!内からアンクルスルーが突っ込んでくる、ゴールデンスワローも外から追う!テイエムオペラオーも猛追!』

 

 

『さあさあ!このレース(舞台)のフィナーレを僕らの勝利で飾ろうではないか!!』

 

けど同時にあの喧しいのがやってきた。

 

私の真横に。

 

『何っ!?』

『やあやあマドモアゼル!またお会いしたね!君の走りは空に憧れを抱き、空を飛ぶために努力をしてきたイカロスの如く素晴らしいものだ!!賞賛に値するよ!!』

 

『だが……』

 

そう言うや否や、アイツはさらに加速して私を抜き去っていく。

 

『うそ…!?』

 

『僕と言う太陽が現れたことによって君の翼は溶けてしまう。』

 

 

『テイエムオペラオー抜け出した!二番手にその差を離して行く!』

 

 

奴は私を嘲笑うかのように一気に先頭に躍り出た。一瞬何が起こったか分からなかったが一つだけ分かったことがある。

 

アイツ、遠回しに『君は僕に勝てない』っていったことに。

 

『…………あんのキザ野郎……!』

 

『牝馬舐めんなこんちきしょうがぁ!!!』

 

ハッキリ言ってブチ切れた私はスピードを無理やり上げて奴に追いつこうとした。

 

『待てやぁ!!今の言葉を撤回しやがれこの栗毛ぇぇ!!』

『おお…!なんと言う覇気……!まるで戦いにその身を投じる戦乙女…!』

 

加速をした私は奴に追い付く。それと同時に……

 

 

『ルイシエルが再び加速!?テイエムオペラオーに並んだ!?並んだところでゴールイン!!外テイエムオペラオーか内ルイシエルか!?二頭が並んでゴールしました!タイムは2:4.9!!一着争いでルイシエルが息を吹き返しテイエムオペラオーに追いつきました!写真判定です!しばらくお待ち下さい!』

 

 

追いついたと思ったらそこでゴール。勝敗はその時はハッキリと分からなかった。

 

『ハァ…ハァ…ハァ…クッソォ……!』

『君の様な美しきものがそんな言葉を使ってははしたないよ。』

 

抜かせきることができなかったことに対して出た言葉に奴はそう言った。私と同じ距離を走っているのに奴の息はもう整いかけていた。

ここでも私と奴の差があると思い知った。

 

『先ほどの君の覇気とそれを纏った走り…実に見事だった。最初、君の走りを見ている時はまるで鉄の塊の如く淡々と走り続ける機械の様に感じた。』

 

『だがそれは間違いだった!鋼鉄の殻の中にはそこに収まらないほどの広大な空が眠っていた!レース中に放った言葉は撤回しよう。君はイカロスではなく、イカロスが憧れた空そのものだ!』

 

今までは大袈裟に色々と言っていてうざく感じていたけど、その時の言葉は本当に心から相手を賞賛してる言葉なんだと感じ取れた。

 

『まあ、その…えと……ありがとう…アンタも、凄かったよオペラオー…』

『!……ああ、君も素晴らしい走りだったルイシエル!』

 

 

これが私の競走馬生で最も記憶に焼き付いたレース。後の世で『世紀末覇王』呼ばれた馬との最初で最後の対戦だった。

 

 

同着
13同着
3/4
クビ
1/2

 

 


 

 

 

『……これが私の現役時代の話よ。ここからはあまり勝てなくなって引退したから面白みもあんまりないわ…』

 

結構長々と語ってしまった。歳を取ると話が長くなってしまうから飽きてなきゃいいけど…

そう思って周りを見ると…

 

ミカド(……母さんって成績はパッとしない風に見えるけど細かく見たらもしかして本当にやばい馬だったんじゃ…)

フェニックス(俺らって…割と手加減されていたんかな…?)

ライン(…話を聞いただけで現役時の彼女の凄さが伝わってきて、心底その時代に自分がいなかったことに安堵しています…)

カンパネラ(ダート主戦でギリギリ被らなくてよかった…)←現役期間2001〜2007

ボー(……これからも逆らわない様にしよ…)

 

……なんか若い奴らが震えているけどほっとこう。

 

『いやはや、なかなかいい話だったなぁ。しかし…随分丸くなったのぉ…』

『然り。確かに今は落ち着きがあるが、シエル殿は己の足りない部分を努力で補い、反骨精神で実力を覆す強気牝馬だ。そこは今も変わらない様だな!』

 

ガッハッハと笑うWジジイ共。笑っているところ悪いけどアンタらもあるだろうが幼い頃のやらかしの一つや二つ……私は知らないけど。

 

 

男どもを尻目に私は空を見上げる。あの日は曇り空だったが今日は綺麗な青い空が見える。

 

『……アンタとは…もう一回走りたかったわ、オペラオー…』

 

私はアンタの主演舞台に上がることが出来なかった。気付いたらアンタは年間無敗の称号を手にし、私はなんの称号も手にせず終わった。

 

でもね、キザ野郎。私たちの直接対決は終わったけど私の子どもたちがアンタの血を継ぐ馬たちと共に走ることがあるかもしれない。だから覚悟しておきなさい。

 

『私と同じでこの子たちは、粘り強くてしつこいわよ♪』

 

 




登場キャラクター紹介

伊東雄二(いとうゆうじ)
シエルの現役時代の調教師。シエルの頑丈さに目をつけ、ハードではあるが体に負担を掛けにくいトレーニングを積んだ。

お姉様
シエルが所属していた厩舎の先輩馬。シエルの危うさにいち早く気づき、アドバイスを送るというファインプレーを見せ、シエルの馬生の隠れたMVP。ユーモアにも溢れ、人が大好きでしょっちゅう甘えており、ことあるごとに人のことをベロベロとなめていた。
そんな彼女の馬名は『エアグルーヴ』。

四井浩文(しいひろふみ)
シエルの主戦を務めた騎手。最初は気まぐれなシエルに振り回されていたがストイックに調教に励むようになってからは彼ぐらいしかシエルを上手く扱えないぐらい息が合うコンビになった。

テイエムオペラオー
シエルの同期であり、後に『世紀末覇王』と呼ばれる馬。シエルは彼の性格や態度はあまり好ましく思ってなかったが実力は認めていた。
何気に二頭は交配をしていない。

ルイシエルの生涯成績
1998年 07.18 阪神 3歳新馬戦     7着 1400
      08.23 京都 3歳未勝利     1着 1400
      12.12 阪神 3歳以上500万下 6着 1600
1999年 02.27 阪神 ゆきやなぎ賞    1着 2000
      03.06 阪神 チューリップ賞   5着 1600
      04.11 阪神 桜花賞       9着 1600
      05.09 東京 スイートピーS   1着 1800
      07.11 阪神 菩提樹S      1着 1400
      09.26 阪神 ローズS      4着 2000
      10.24 京都 秋華賞       8着 2000
      11.14 京都 エリザベス女王杯  6着 2200
2000年 02.05 東京 白富士S      1着 2000
      03.11 中山 中山牝馬S     6着 1800
      05.07 京都 都大路S      5着 1600
      05.27 中共 金鯱賞      10着 2000
      06.11 東京 エプソムC     4着 1800
      07.23 函館 函館記念      4着 2000
      10.08 東京 毎日王冠      5着 1800
      11.12 京都 エリザベス女王杯  2着 2200
      12.03 中山 ターコイズS    1着 1800

おかしいところがありましたらご指摘していただけると助かります!
感想、コメントはいつも全部読ませてもらっています。モチベーションにつながるので遠慮せず送ってください!

追記
コメントでご指摘を受けました。シエルの最後のレースであるターコイズステークスは現在のGⅢのものとはまた別物です。この当時でもターコイズステークスという名前のレースが2014年までありました。


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帝の迷走/決断の先

今回は短め。

敗北を味わったミカド。凱旋門回避。

一体何があったのか…

それではどうぞ…


ノゾミミカドの凱旋門賞回避は競馬に関わる人々に衝撃を与えた。

 

 

〜とある大学〜

「嘘だろ…」

「常盤〜どうした?そんなテレビの録画を失敗したような顔そして?」

 

 

〜とある大企業〜

「こうなるとは…予想はしていたが…」

 

「なあ、森さんのあの表情って何が合ったんだ?」

「分からない…ここ最近の我が社の業績が徐々に右下がりになってきていることについてじゃないか?」

「でもそれはこの間の案件で回復の見込みが出てきたからだろう?プロジェクトを引っ張っていた森さんが一番実感しているだろ?」

「じゃあなんで?」

 

 

〜とある会社の一室〜

「ねえリョウ君…これ…」

「知っていますが今は仕事中ですよ奏さん。取引の方が今は重要です。」

「でも……」

「……あぁ〜わかりました。仕事終わりに家来ます?話は聞きますよ。」

 

 

〜とある飲食店〜

「一真、これ見たか?」

「見たよ。骨折とかじゃないみたいだが心配だな…」

「ミカドになんか有ったら…」

「俺らがここでとやかく言っていても仕方ない。今は無事を祈ろう。」

 

「コラァァァ!!そこ二人!!もう開店準備終わるんだからさっさとしなさい!!一真は急いで厨房服に着替える!!翔一は服の襟を直しなさい!!しっかりしなさい料理長と店長でしょうが!!ウエイターの私に言われてどうすんの!!?」

 

「「すみません!!直ぐにやります!!」」

 

 

ミカドが何故回避したのか…それは宝塚記念から数日たった頃のことだった。

 

松戸厩舎には調教師の松戸とミカドの厩務員である真司、主戦を務める雄一、そして馬主の駒沢の4人がいた。

 

「駒沢さん、お忙しい中ご足労いただきありがとうございます。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。それで…ミカドに何か合ったんですか?」

 

駒沢がここに呼ばれるのはミカドのことに関してだけである。

つまりは、ミカドに何か合ったということである。

 

「……端的に言うとその通りです。」

「最初に言っておきますと故障とかそう言うのではないです。そこは安心してください。」

「真司の言う通りアイツは健康体そのものです。身体(・・)の方は…ですが…」

「身体…の…?どう言うことですか?」

 

体は健康。それはつまり『体以外』に何か問題が起きたということになる。訳がわからず困惑する駒沢に松戸は話だす。

 

「宝塚以降のミカドはどこか調教に力が入っていないのです。」

「最初は故障かと思って獣医にも見てもらったんですがどこも異常無し。飼料の食いも普通だったので少し様子を見ることにしたんです。」

「しかし、時間が経ってもミカドの調子は戻らないまま。ブエナビスタや他の馬との併走でも前のような加速が出なくなっていました。」

「我々が考えられる可能性の中で一つ思い浮かんだものがありました。恐らくミカドは『イップス』に陥っています。」

「イップス…?」

 

ここで『イップス』とは何か説明しよう。

 

イップスとは、主にスポーツの動きに支障をきたし、突如自分の思い通りの動きが出来なくなる症状のことである。

原因は同じ動作を繰り返し行うこと、精神的ショックなどがあり、今回のミカドは恐らく後者。

 

「しかし、馬もイップスになることがあるんですか?」

「可能性は充分あります。それにミカドは普通では考えられないほど賢い馬です。アイツはこちらの言っていることを理解してる節があり、意思疎通がかなりとれています。」

「獣医の先生曰く、『賢い馬であるほど嫌な経験や記憶を忘れない。そう感じて走ることをやめてしまう馬も中にはいた』らしいです。」

「そんな……」

 

体の傷は自然治癒や治療で回復する。しかし、心の傷はそうはいかない。きっかけがなければ一生そのまま残り続けるものだ。

 

「宝塚での初の敗北。それがアイツにとってトラウマになってしまったんでしょう。」

 

駒沢は頭を抱えた。愛馬がまさかそのようなことになってしまったとは思いもよらなかったからだ。

 

「今のミカドはレースに出てもいい結果にはなりません。むしろ最悪な結果を起こす危険もあります。ですので…」

 

 

ノゾミミカドは、凱旋門賞に出走させません。

 

 

松戸の口から放たれたその言葉。全員が辛い表情を浮かべながらも納得しようとしていた。

 

「……わかりました…元々宝塚の結果で決めようとしていましたからね…」

「……本当に申し訳ありませんでした…我々が不甲斐ないばかりに…」

 

こうして、ノゾミミカドの海外レース出走の道は閉ざされたのであった。

 

 


 

 

松戸厩舎・馬房

 

 

『…………』

 

ミカドは自身の馬房の奥に籠もっていた。まるで誰とも話したくないと言っているように感じられる。

 

『兄さん…どうしよう…』

『こればっかりは僕らができることは少ない。今はミカドが元に戻れるように祈るだけだ。』

『あの…先輩…ミカド君はどうしちゃったんですか?』

 

事情をよく知らないアミーゴは恐る恐る聞いてみた。

 

『……多分だけどミカドが思っているよりもこの間の敗北は大きなものだったんだと思う。』

『えっと…どういうことですか?』

『ミカドって、負けそうになっても最終的に勝ち続けてきたよね?だから負けた時のダメージが普通よりも大きかったんだと思う。ミカド自身が思っているよりもずっと…』

『じゃあミカドずっとこのままなの?』

『さっきも言ったけどこればっかりは彼次第なんだ。モナーク先輩も言っていたでしょ?負けた時こそ学べって…あの敗北から学んで乗り越えるのは彼にしか出来ない。今は見守るんだ。』

 

仲間が心配して見ている中、ミカドはずっと考えていた。

 

(あれから、思うように体が動かない。雄一さんや真司さん、テキに獣医さんも俺の体を調べてくれたけど問題は無かった。そりゃそうだ。これは俺の精神的なものだし…)

 

ミカドもこの不調の原因は己の精神的なものであることを理解していた。

しかし、これの抜け出し方が全く分からなかった。

 

(負けそうになったことはなくても負けたことは無かったもんな…)

 

「こんな時、どうしたらいいんだろうな……」

 

心の迷いが走りに現れ、それを乗り越える術も思いつかない。ミカドはどんどん思考の奥深くに沈んでいった。

 

 


 

 

北山家宅

 

 

「そうか……ミカドが……」

《ああ…このまま調子が戻らなければ引退も視野に入れなくなってくるかもしれない…》

 

北山牧場の長、北山は親友である駒沢の相談という名の愚痴に乗っていた。普段であれば突っぱねるか時間を改めて話を聞くかするが内容が自身の牧場で生まれた馬の不調、さらに借りがある相手でもあったためその場で聞いていた。

 

*現在夜の9時。更に北山はこの後夜の見回りがあるためそこそこ時間がない。

 

「馬っていうのは記憶力が半端なくいい。一度覚えたことは中々忘れないし、切っ掛けがあれば簡単に思い出す。」

《…トラウマだな…まるで…》

「間違っちゃあいない。だがこういうのが起きるのは大抵酷い故障をした馬だ。ミカドのパターンもないわけではないだろうが……アイツの変に繊細なところがでちまったか…」

《繊細…?》

「アイツは馬っぽくないところもあるが、馬元来の本能である繊細さが人一倍ある馬なんだ。子馬の時は母親のシエルにベッタリだったし、ここを離れる時も名残惜しそうにしていた。ミカドは知らない環境には抵抗を示す。だが知っている顔がいればある程度は落ち着くんだ。今まで移動で大丈夫だったのも知っている人や馬がそばに居たからだ。」

《そうだったのか……》

 

ミカドの知らない一面を知った駒沢の声はまた沈む。恐らくは自分の馬のことを何も知らなかったことに己を恥じているのだろう。

 

「とにかく、俺もそんな状態になったミカドの対処法は分からん。今まで無かったことだし、俺が知っているアイツは競走馬としてのノゾミミカドじゃなく、北山牧場で育ったミカドだからな…」

《そうか…いや急に悪かったな、こんな時間に。》

「今度来た時に酒奢れ。それでチャラだ。」

《分かった安酒だな。》

「ケチんな大企業社長。大吟醸の高い奴だ。」

《カミさんに叱られるぞ。そんな高いものをって。》

「うるせー、俺は親父譲りの酒豪だって知ってんだろう?」

《知ってるよ…それでお前に何度絡み酒され………》

 

不自然に駒沢の声が途切れ、北山は首を傾げた。

 

「おいどうした望。聞こえてんだろ?おーい。」

《庄司…お前今なんて言った?》

「はっ?聞こえてんだろ…」

《違うその少し前だ。》

「親父譲りの酒豪…」

《それだ!》

 

突然の大声で北山は思わず受話器から耳を離した。

 

「な…なんだよ急に大声出して…」

《庄司、お前無駄に顔が広かったよな?》

「電話切るぞ。」

《待て待て待て待て別に貶しているわけじゃない!その伝手の中に社大スタリオンとの繋がりあるか!?あとまだルドルフはいるか!?》

「社大?あるぞ。というかお前の馬であるフェニックスはその社大の馬との配合だったし…ルドルフもまだ居るぞ。元々冬の北海道の気候は歳的にキツいだろうということで千葉に行くはずだったんだがなんかウチに来てから移動する前よりも元気になったからもう暫くは…」

《よし!なら急いで社大とシンボリにアポを取ってくれ!もしかしたら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミカドを復活させることが出来るかもしれない!!》




駒沢さんが思いついたこととは一体……?

そしてミカドは復活することができるのか?

次回をお楽しみに!

お気に入り登録、高評価、コメント等をよろしくお願いします!
コメントは励みになっていますので是非!

それではまた次回!


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帝の先/帝の原点

今回はなるべく早く更新できました!
ミカドを復活させる手を思いついた駒沢は一体何をするのか?
そして他の馬たちの行動は?

今回は少しキツい部分もあるのでご注意願います。
それでも大丈夫という方は進んでください。

それではどうぞ!


俺ノゾミミカドは現在、故郷である北山牧場に移送中。

理由は不調で上手く走れず、療養も兼ねての里帰りらしい。

 

『こんな不甲斐ない時に里帰りとか、気が重いな…』

 

初めての敗北。悔しかったし、悲しかったけどそれはそれ。気持ちを切り替えて行こうとした矢先に不調を起こすとは…このまま元に戻らなければ…

 

『引退……だよな…』

 

俺の今の成績は11戦10勝でGⅠ6勝。何かある前に種牡馬にして次の世代に託すという話が出てきてもおかしくない。いやそれよりも今は…

 

『はぁ…母さんに師匠や爺ちゃん、先輩たち、ボーになんて言おう…』

 

故郷で待つみんなにどんなことを言えばいいのか……気が重い……

 

 


 

 

『…それでミカド。何か言うことは?』

 

『本当に申し訳ありませんでした。』

 

初手鬼神の母上登場で平身低頭*1一択になりました。

 

『…私がどうしてこんなに怒っているのか……分かる?』

 

『ふ、不甲斐ない走りをしてしまったことについてでしょうか…?』

 

『…違う。』

 

じゃあ何でそんな怒っているの!?マジで怖いんですけど!?

 

『…私が言いたいのはね…なんでそういつまでもウジウジしているのかってことよ。』

 

『……っ』

 

『…貴方は昔からそうね。知らないことに対して誰よりも恐怖を感じる。今までは表面化することはなかったからそこまで問題にしていなかったけど今回はそうも言ってられなくなった。』

 

『……はい…』

 

『…ミカド、聞きなさい。今回の件に関して、私やノゾミの馬たちの協力はないと思いなさい。』

 

『…っ!』

 

『…貴方の中にある渦巻いたものは貴方自身が気付いて答えを見つけなくちゃいけない。そしてそれは私たちには一切解らないもの。何度も言うわ。私たち抜きで考えなさい。いいわね?』

 

『………はい…』

 

『……話は以上よ。今日はもう休みなさい。』

 

母さんや先輩、師匠たちからの協力不可。俺の経歴を考えると確かに他のみんなの経験とは全く違うある意味嫌味な悩みだ。

 

『…ははは……俺って本当に不甲斐ないバカ野郎だな…』

 

今回は本当に、一頭だけでやらないといけないんだな…

 

 


 

 

ノゾミ系の馬房

 

『姐さん、今回結構キツいこと言ってんな…』

『初敗北によるトラウマ…彼ほどの馬がそんなことで不調を来すとは思えませんからね…』

『アホ、そんなこととか言うな。気持ち一つで走りは変わっちまうんだ。ミカドにとってはそれだけのことだったんだろうよ。』

 

ノゾミフェニックス、ノゾミライン、ノゾミレオ、ノゾミカンパネラといったノゾミの馬たちはシエルとミカドのやり取りの一部始終を見ていた。

 

『それにね、二頭とも。シエル姉、あれ結構無理して表面を取り繕ってんだよ。本当は協力してあげたいんだよ。』

 

『『……えっ!?』』

 

『いやいやいや!?あれ俺らを叱るときまでとは言わねぇけどよ結構なガチトーンだったぞ!?』

『ええ…つまりアレは本心からのものではないと言うわけですか!?』

 

問題児二頭はしょっちゅうシエルに叱られているので情けない話だがシエルの顔色を見るのはかなり得意なのだ。その二頭が見破られないほどにシエルは隠し通しているのだ。

 

『いやそもそもなんでカンさんには分かるんだよ!?』

『そうですよ!カンさんは叱られることなんてほとんどないじゃないですか!?』

『カンさん言うな!!あと君らの巻き添えで僕もそれなりに怒られてんだよ!!そこら辺いい加減にしてくれないかな!!?』

 

『『なんか…すみません…』』

 

あまり怒らないカンパネラのマジトーンな声に反射で謝る二頭。これ以上収拾がつかなくなる前に最年長のレオが話を切り替えようと動く。

 

『まあその辺にしておけお前ら。それでカンパネラ、なんでお嬢の本心を見破れたんだ?』

『フーッ…フーッ……ハァ……なんやかんやで僕はシエル姉と一番付き合いが長いからね…君らが知らない彼女のこともあるんだよ。さっきので言うとシエル姉は何かを隠そうとする時は、話し出すときに少しだけ間が開くんだ。』

『そう……だったのか…』

『知りませんでした……』

『これでも僕はシエル姉の弟分だしね…これぐらいは分かるよ。』

『今回、お嬢はミカドの成長のために心を鬼にしてるってことだな…本当は力になりたいだろうに…よいかお前さんら、俺らはミカドと話はすれどアドバイスの類は厳禁だ。』

 

シエル自身もかわいい我が子の相談に乗ってあげたい、しかしミカドの悩みは長い期間の無敗からの敗北という経験することが奇跡に近いもの。それに関して正しいアドバイスをするのも共感をしてあげるのもシエルにはできない。そしてそれはノゾミの彼らも同じ。皆特徴的な経験はして入れど無敗を貫いたことはない。むしろ負けることの方が多い。ミカドの悩みを完璧に近い状態で理解し共感できる馬がいないのだ。

 

『で、でもよ…あの状態のミカドをほっとけねぇし…』

『フェニックス君。シエル姉は『僕らノゾミと自分』は協力しないって言ったんだよ。それの意味がわかる?』

『えっ…?』

『………ああなるほどあの方ですか…』

『うん。あの馬ならミカドの悩みを理解してくれるかもしれない。』

 

ノゾミやシエルたちには無理だが『あの馬』ならば…『絶対を許された』あの馬ならミカドを救ってくれるかもしれない。

 

 


 

ミカドが帰ってくる数日前

 

北山牧場会議室(仮)

 

再びこの場所に集められた北山牧場従業員たち。以前のように北山牧場の長、北山庄司がゲンドウポーズで奥に座っている。しかし前回と違った点が一つ。

その隣に同じポーズで椅子に座る北山の旧友であり、お得意様であり、出資者でもある株式会社ノゾミの社長、駒沢望がいることだ。

 

(今度は一体何なんだよ…)

 

ただ寄らぬ雰囲気に嫌な予感を感じ取った卓也。

 

「今回こうしてみんなをここに集めたのは一つ。詳しいことはコイツから聞いてくれ。」

 

北山は話し出すと早々に駒沢にバトンタッチした。駒沢は席を立ち、集まった従業員たちに向かって話し出す。

 

「皆さん、初めましての方も中にはいると思いますので軽く自己紹介を。私は株式会社ノゾミの代表取締役、駒沢望です。今回はどうか皆さんに協力をして欲しいと思いこうして集まってもらいました。」

 

ノゾミはこの牧場で多くの馬を買っていく馬主であり、大企業。その社長がこうして自分たちの前に現れて重要そうな話をするとはいったい何事だと部屋全体にざわめきが広がる。

 

「私が所有する競走馬ノゾミミカド。私が買った馬の中で最も素晴らしい馬、皆さんの牧場で買わせてもらった馬ですが…現在不調により以前のように走ることが困難な状態です。」

「獣医や調教師、厩務員の方々にもどうにかならないのかと相談をしましたが良い答えは得られませんでした。私はミカドのことをよく知るここの北山にも相談しましたがそれでも何も得られず八方塞がりになりました。しかし、ある突飛だが一つ思いついたことがあったのです。そしてそのアイデアには皆さんの協力が不可欠です。」

 

駒沢は真剣に従業員一人一人の目を見るように話す。それに皆、聞き入っていた。

 

「これは上手くいくかも分からない。先ほども言った通り突飛で普通じゃ考えられないものです。そしてそれは皆さんにかなりの負担をかけるかもしれません。しかし、もう私にはこれしか思いつきませんでした。もしかしたら骨折り損になるかもしれない。ただただ負担を強いるかもしれません。しかし、私の馬を救うためには貴方がたの力が必要なのです。どうか協力してもらえないでしょうか……」

 

深々と頭を下げる駒沢。従業員たちは皆黙り込んでいる。自分たちの益にならない事、彼の個人的なことに協力するという義理は彼らにはそこまでない。しかも駒沢の言い方からすれば何かしらのリスクが生じる可能性も0ではない。強制ではないようだが降りたら降りたで北山牧場との関係に亀裂が入ってしまうのではないかと考える者もいた。

 

従業員たちの表情からあまりいいものではないと感じた駒沢はダメかと諦めた。

 

「あの、いいですか?」

 

一人の従業員の手が上がる。その手の主は……

 

「自分、三山卓也といいます。ミカドが生まれた時から世話をしてきた者です。」

 

卓也だった。

 

「駒沢さん。貴方がミカドを助けたいという気持ちはわかりました。しかし、それは我々一介の従業員たちに何かメリットはあるのでしょうか?」

「それは…」

「今の話だけではデメリットの方が大きく感じてしまいます。我々も慈善団体ではありません。ここで働いて給料と言う『対価』をもらっては来ているのです。その話だけでは我々は皆タダ働きをしろとも感じとれてしまいます。正直それでは皆二の足を踏んでしまいます。」

 

卓也の言葉に駒沢はハッとした。ミカドを救いたい気持ちが先走ったのか先程の自分の発言は確かに彼らに対するメリットがまるで感じとれない。やってしまったと手で顔を覆う駒沢に卓也は続けて言う。

 

「……でも、自分はそれでも貴方に協力します。」

「えっ?」

 

卓也の言葉はまさかの協力をすると言う答えだった。しかもそれは彼の先ほどまでの説明から考えるとタダ働きもしていいと言っているようなものだ。

 

「ミカドは、俺が初めて生まれてからずっと世話をしていた馬です。アイツは生まれた同時に鳴き叫んで、マザコンって言われるぐらいに母親が大好きで、人にイタズラを繰り返して、でも本当にやっちゃいけないことはしっかり守って…どこか不思議な馬です。」

「そんなアイツが今苦しんでいるのなら俺は例えタダ働きだろうがリスクがあろうが救えるんだったら何でも協力します。アイツは俺の大切な弟のようなもんなんですから。」

 

卓也の言葉に駒沢は自然と涙を流した。そして卓也に続くように後輩の宮前俊も立ち上がる。

 

「じ、自分もやります!!俺らの牧場を一気に盛り上げてくれたミカドに俺もなんかしてあげたいっす!!」

 

そして他の従業員たちも次々立ち上がる。

 

「若ぇ奴らに任せんのも不安だ。俺もやるぜ。」

「5年目と3年目の若造がどう責任取るんだ?そう言うのは老いぼれたちの仕事だ。」

「男どもだけでしっかり回せんの?勿論おばちゃんたちも協力するよ!」

「ぼ、僕もまだ新人ですけど何かできることがあれば!」

 

次々と立ち上がる従業員たち。そして部屋にいた全員が立ち上がった。

 

「……庄司」

「何だ?」

「………お前は…いい従業員たちを雇ったな…」

「へっ……だろう?俺の自慢の部下たちだ。んで、お前はコイツらに何をして欲しくて何をやってやるんだ?」

 

照れ臭そうに、だが誇らしげに従業員たち見る北山。そして駒沢は自分の個人的なことにこうして協力してくれると名乗り挙げてくれた彼らに感謝しても仕切れない気持ちでいっぱいだった。

 

「皆さん……ありがとうございます!皆さんには私から精一杯のお礼をします。皆さんに最高のものを与えることをここに約束いたします!そして…皆さんに協力していただきたいことというのは……」

 

 


 

会議室の夜から数日後

 

北山牧場厩舎

 

『…………』

 

「昨日からどうしたミカド?いつもみたいに作業中の俺らにイタズラはしないのか?」

 

『…………』

 

いつもなら帽子を取ったり、タオルを引っ張ったりして気を引くミカドのイタズラが帰ってきてから一回もない。ミカドは卓也のことを一度見てそのまま馬房の奥に引っ込んでいった。

 

「……ダメか…。(にしても…こりゃあ本当にまずいな…駒沢さんの案が実行されるのは今日…確かにこれは俺らが協力しないと実行できないことだな…)」

 

ミカドを見ながらそう考えていると不意に腰に取り付けていたトランシーバーから無線が入る。

 

「こちら卓也。感度良好どうぞ。」

 

《こちら俊。感度良好どうぞ。》

 

《こちら北山。馬運車が牧場入り口に到着。ミカドとルドルフの準備を開始しろ。どうぞ。》

 

「了解。準備を始める。」

 

《こちらも了解。準備を始める。》

 

無線を切り、卓也は今の作業を他の人に一旦任せ、ミカドを放牧する準備を始める。

 

「ミカド、放牧行くぞ。」

 

『…………』

 

直ぐに準備を終わらせ、ミカドを放牧地に放す。そして少し遅れてルドルフも放たれる。

 

『ミカド。』

『……爺ちゃん…』

 

二頭の間に気まずい空気が流れる。

 

『爺ちゃんそn『よい。言わなくとも分かる。』… 。』

『お主の顔は悩みを酷く抱えたものの顔だ。シエル殿から話は聞いておる。負けたのだろう?』

『……はい…』

『無敗を得てからの敗北……我も体験したがあれは中々心に来るものがある。しかし…お主のは我よりもずっと深いと見た。』

 

ルドルフはミカドの抱えている問題をシエルから又聞きしていたとはいえ知っていた。そしてその辛さや苦しさにも理解があった。自身もデビューから長い期間無敗であり、唐突に敗北を味わったものだったのだから。

 

『でもこれは俺が自分で何とかしなくちゃいけないものだし、大丈夫だよ。俺だけで何とか…』

『できるのか?』

『…やんなきゃいけないし…』

『今の今まで答えが出ていないのにか?お主だけで何ができる?』

『……じゃあどうすればいいんだよ!!』

 

ミカドは今の今まで心の内に溜めていた不満や不安を吐き出した。

 

『最初のうちは切り替えて行こう、次は勝てばいいって思ったさ!!でも何でか脚に力が入らねぇんだよ!!加速しようとするとまるで脚を誰かに掴まれたように重くなって上がんなくなる!!何回も走っても走ってもあの感覚が襲ってくる!!もうどういたらいいのか訳分かんねぇんだよ…怖いんだよ…どんどん何もできなくなっていく気がして……みんなの期待に応えれなくなっていく気がして……!』

 

ミカドの心の奥に潜んでいた恐怖。それは自分の存在は誰かの為にあるというもの。前世の人間としての記憶や知識を持ちつイレギュラーの存在。そんな自分にできることは自分のために様々なことをしてくれた人や馬たちへの恩返しをすること、そんな自分という存在を認めて欲しいということがミカドを形成するものの奥底にあった。ミカドのイタズラは人に認知されたいというものが無意識に表に現れたアピールでもあったのだ。

 

『はぁ…はぁ…はぁ…』

『吐き出せたか?』

『……うん。ごめん…』

『何、昔、他の馬たちに生意気なことをよく言われた時に比べれば可愛いもんだ。』

(……しかし、これはかなり深刻かもな…一種の強迫観念みたいなものか……自らの存在意義は勝つことだと無意識に考えているのだろう。それをどうにかしなければずっとこのままだ…これは我でもちとキツいかもしれんな…)

 

ルドルフは自身の存在意義は『皇帝として情けない走りをしないこと』。ルドルフは三度の敗北を味わったがどれも己の中で自己完結し、次は勝利をすると硬く心に誓い、勝利をもぎ取ってきた。最後のレースには勝てなかったがルドルフ自身は自らのレース馬生に納得している。

そのため、ルドルフはミカドの力になるには自分だけでは不足だと感じた。

 

(たった一度の敗北でここまでの挫折。それに近い経験をしたものでなければ此奴を立ち直らせることはおそらく不可能。しかし、そんな馬この牧場には……)

 

『ねえねえ。』

 

聞き覚えのない声。その声が聞こえた瞬間二頭は同時に顔を上げ、その方向を見る。

 

『そこの君とお爺さん。ここどこか知らない?僕急に連れてこられてここに放たれたんだけど?というかなんか懐かしい匂いと知らないけど嗅ぎ覚えがある匂いがするな?』

 

鹿毛の馬体。額から伸びた白い流星。黒い左前肢以外は足白の脚の馬がトコトコと歩いてきた。

 

『なっ!?えっ!?ちょっ何で貴方の様な方がここに!?』

『おっ。君〜もしかして僕のこと知ってる?いやぁ〜参っちゃうなぁ〜。人間たちの間で僕かなり有名みたいで最近もあっちこっち引っ張りだこでさぁ〜。』

 

ミカドの反応に浮かれている謎の鹿毛の馬。ルドルフもミカドの反応、そして自分と孫によく似た匂いを嗅ぎ、半ば確信した。

 

彼は自分の血を引く存在だと。

 

『ミカド、知っているのであろう、此奴のことを。我に教えてくれんか?』

『………正直今大分頭の中パニックですけどわかりました。この馬は

 

 

《トウカイテイオー》。俺の父であり、ルドルフ爺ちゃんの実の息子です。』

 

 

『そう!僕が無敵のトウカイテイオー!!誰もが知る最強の競走馬だ!!!』

*1
へいしんていとう。ひたすら恐縮すること。また、ひたすら謝る形容。体を屈め頭を低く下げて、恐れ入る意から。




今回シエルママがあんな態度を取ったのは自分では息子を経ち乗らせることはできないと察したからです。そして他のノゾミの馬たちに無理だと感じ、一番可能性がありそうなルドルフに全てを託しました。
実際、アレを行った後のシエルは自己嫌悪に苛まれてしまいボーが付きっきりでフォローしています。

そしてとうとう登場トウカイテイオー。
彼がここにきた理由は次回細かくわかりますのでお楽しみに!

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それでは次回をお楽しみに!


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帝の名を冠するものたち/三世代の集結

トウカイテイオーの登場にミカドはどうするのか?

因みにテイオーの性格は作者の感じたテイオー像をいくらか入れていますのでこんな感じの性格になりました。


卓也side

 

時は数日前に遡る。

 

駒沢さんのミカド復活の計画はこうだった。

 

「トウカイテイオーを…ここに連れてくる!?」

「はい。ミカドを立ち直らせるには何度も挫折を味わった彼に合わせる。これしかないと思うのです。」

 

訳がわからない案だがどこかでなるほどと思っている自分がいた。

ミカドが以前ルドルフと対面した時、ミカドとルドルフは直ぐに打ち解け、ミカドはルドルフから何かを吸収した様に走りにキレが現れたのだ。

駒沢さんはそこに目を付け、ルドルフで出来たのであればテイオーでもと思い、北山さんの無駄に広い伝手を使って社大で種牡馬になっていたテイオーをミカドに合わせようと考えたらしい。

しかし、ただ合わせるだけでは社大側は決して納得しないだろう。何せ、ミカドが無敗三冠と海外GⅠ制覇を成し遂げたことによって、その親であるテイオーの価値が上がり、現在引っ張りだこなのだ。

そこで駒沢さんはルドルフ、テイオー、ミカドの皇帝一族の特集を自身が抱え込んでいる『週刊雑誌コネクト』に組ませるという名目でテイオーを連れてくるという話にしたのだ。コネクト側は前回の祖父孫の特集で大儲けしたこともあり快く承諾してもらい、社大側も宣伝になるならばと許可。

 

そして残りは撮影場所となる場所のみ。そこに選ばれた…というかそんなことができる場所は、ルドルフも居て帝も帰ってくるこの『北山牧場』しかないわけだ。

 

「テイオーがここに来て、向こうに戻るまでここで世話をしなくてはいけません。だから皆さんの力が必要なのです。しかし、今回は種牡馬として現在人気が高いテイオーを迎え入れるため、万が一のことが起きた場合皆さんに迷惑をかけてしまう。だからこうして私自ら貴方方にお願いをしに来たわけです。」

 

確かにテイオーになんかあれば北山さんと駒沢さんは勿論、当事者になる俺らも矛先が向くだろう。リスクが高いと言ったのも頷ける。

 

「駒沢さん、それでも俺らはもう覚悟も決まっています。それに、俺らは無敗の三冠馬を輩出した牧場の従業員ですよ?万が一なんて起こさせません。だろ、みんな?」

 

『『おう!!』』

 

ここにいるみんなは長い間ここを支えて来たベテランから新人でも馬の管理にうるさい奴らばかりだ。普段からクセ馬どもを相手しているのもあってそんじゃそこらの牧場の奴らより動ける自負がある。

 

「皆さん、ありがとうございます。日程は追って連絡しますが早ければ今週から来週までに全頭揃うと思いますのでその時はよろしくお願いいたします。」

 

深々と頭を下げる駒沢さん。俺はこの人は本当に馬を_ミカドのことを心から愛しているのだと思った。だって、大体の馬主は一頭の馬にここまでのことをすることなんてない。一頭一頭に向き合って生きているんだろう。

 

(ミカドはいい人に買い取ってもらったな…)

 

 

 

そして今日、テイオーがここにやって来る。無線から馬運車が入ってきたと連絡が入り、俺は準備を済ませ、ミカドを第四放牧地に放つ。そして少し遅れて俊がルドルフを放つ。

 

「……上手くいけばいいな。」

「どうでしょうね…ここ数日、ミカドは外に出しても前みたいに他の馬たちと関わろうとしませんし…そもそもルドルフたちと絡んでくれるかどうか…」

 

そう話していると突然ミカドがルドルフに向かって威嚇をするように耳を絞り、嘶いた。

 

『ブルルッ!!』

 

普段では絶対に有り得ない行動をするミカドを見て、これは不味いと感じた卓也たち直ぐに二頭を離すために動こうとした。

 

『…………』

 

しかしルドルフは動じない。何をされようがジッ…とミカドから目を離さず見ている。

そんなルドルフを見て怖気付いたのかミカドは威嚇をやめた。心なしかその姿はルドルフへ八つ当たりしたのを申し訳なさそうにしてるように見えた。

 

「あっぶねぇ…」

「ルドルフが寛容みたいで助かったぁ……」

「けどますますこの後が心配になってきた…」

「大丈夫ですよ。一応最初は隣の放牧地に放して様子を見ることになってんですから…」

 

取り敢えず何も起きなかったことに安堵した二人だがこの後のステップに進められるかどうか不安になってきた。

そこに無線から連絡が入る。

 

「なんだ、急に?こちら卓也、どうぞ。」

《卓也か!?すまん完全に油断していた!?》

「えっちょっ何があったんですか!?」

《例の馬の身体能力を少し侮っていた。かなりの歳だからもう昔みたいにはできないだろうと鷹を括って言いた!》

「何があったんですか!?」

飛び越えた(・・・・・)。》

「えっ。」

《助走無しで柵を飛び越えやがった!今あの馬は……テイオー(・・・・)は…その放牧地内に居る!!》

 

北山がいい終わらないうちに卓也たちの目の前に一頭のサラブレットが姿を現した。ミカドとよく似た姿、違いが有るとすれば脚の体毛の位置が左右逆という点と馬体の毛色の濃淡の違いくらいだ。

 

「トウカイ……テイオー……」

「……俺、今日命日かも……」

 

そこに集うは『帝』の名を司る三頭の強者たち。

 

日本競馬史上初の無敗三冠を成し遂げ、最多で有る七冠を成し遂げた絶対なる皇帝

『永遠なる皇帝 シンボリルドルフ』

 

父の跡を辿るが幾度の挫折を味わい、乗り越え、絶対を覆した帝王

『不屈の帝王 トウカイテイオー』

 

祖父の偉業、父の無念、逆境の中で絶対を覆し、絶対を証明した帝

『希望を魅せる帝 ノゾミミカド』

 

競馬史に残る偉業を打ち立てた三世代が、今ここに集結した瞬間である。

 

 


 

 

ミカドside

 

 

『トウカイテイオー、か…そうかお主が…』

『ん?なになに、お爺さんも僕のこと知っているの〜?いやぁ〜人気者は辛いねぇ〜。』

 

父さん_トウカイテイオーの突然の登場は俺の頭を白黒させるほどの衝撃だった。当の本馬は自分が多くの人や馬に認知されていることが嬉しくて機嫌が良い。

 

『名前だけはな…しかし、こんなチャランポランなやつだったとはな…』

『………あ゛?

 

しかしその機嫌は爺ちゃんの一言で急降下した。

 

『爺さん、長生きしたかったら言葉には気をつけな。俺はそこら辺の奴らなんかより手加減とかはできないんでな?』

『若造が。貴様が目の前にするのはこの世界の頂点だと気付かんのか?』

 

二頭から発せられる覇気はその場にいれば誰もが動けなくなってしまう程のものだった。しかも離れた位置にいる他の馬たちもこの二頭の覇気を喰らってしまい動けずにいる。

 

 

フェ『おいおい…ルドルフの爺さんと真っ向から立て付いたと思ったらなんだよアイツ…!?』

ラ『ミカドに姿が似ています。恐らく彼の親族だと思われますが……彼の一族は化け物しかいないんですか!?』

カン『俺、今日死ぬのかな……』

レオ『カン、気をしっかり持て。しかしあの馬どこかで……』

シエ『あの方は……』

ボー『ガタガタガタガタ』←恐怖の余り何も考えられないし喋れない。

 

 

というか今は周りよりもこっちだ。父さんと爺ちゃんが正面衝突したらどっちもただじゃ済まない!

 

『爺ちゃん、いくら自分の子供だからって初対面の相手にその言い方はないって!』

『……む』

『貴方もですよトウカイテイオーさん。有名なのは良いですけどあんまり見せびらかしたりするのはどうかと思いますよ。最強無敵の帝王なら寡黙でビシッとした格好の方がかっこいいですよ!』

『えっ…そう?』

『絶対似合います!』

『えへへ…そ、そうかなぁ?ヨォーシじゃあ寡黙な僕を目指してみよっかなぁ!』

 

この代わり様を見て、『チョロッ』と思ったのは俺だけじゃないはず。

 

『ん?というか今君。』

『はい?』

『今この爺さんに僕のことを息子って言っていたよね?』

『えっはい。この御方は日本競馬4代目三冠馬であり史上初の無敗三冠馬である皇帝シンボリルドルフであり、貴方の実の父です。』

『えっ?』

『それとな、テイオーよ。貴様を先ほどから『君』と言っている此奴は貴様の実の息子であり、我と同じ無敗三冠を成し遂げた競走馬『ノゾミミカド』だ。』

『はっ?』

 

俺らの説明で一瞬フリーズした父さん。しばらく動かなかったが急にプルプルと震え出した。

 

『あ、あの父s『キュウニイワレテモウワケワカンナイヨォーーーーー!!!!』』

 

 

父さんの絶叫が牧場中に響いてこだまして行った…

 

 

数分後

 

 

『えっとこっちのお爺さんが僕のお父さんで…』

『うむ。』

『そっちの君が僕の息子…で良いんだよね?』

『はい。』

 

『ほんと、まさか自分の血縁に会うなんて思っても見なかったよ…』

『まあ、普通母親はともかく父親や息子に会うなんてそうそうないですからね…』

 

父さんが落ち着いてやっと話しをすることが出来る様になった。

 

『僕もお父さんのことは人間からよく聞いたよ。とっても強い馬だったって…』

『ふっ…我もお前の事は聞いていた我とは違う『絶対』を見せつけたとな…』

『……三冠も無敗も貫けなかったけどね…』

 

父さんの声はさっきと比べて格段に落ちた。その時のことを後悔しているかの様に。

 

『………ふむ。ではテイオー。』

『ん、何?』

『お主のその話を此奴にしてやってくれないか?』

『『えっ?』』

 

爺ちゃんが突然なんかいってきた。

 

『今ミカドはとある巨大な壁にぶち当たり走りを見失っている。我だけでは此奴に気付かせるのは心許なかったものでな。お主であれば今のミカドに適任だ。じゃあ我は少し席を外す。』

『えっちょまっ…!?』

 

そそくさと離れて行った爺ちゃんに呆気を取られた俺たちは顔を見合わせた。

 

『……えっと…話す?よかったら聞くけど……』

『………お願いします…』

 

どっちにしろ今の俺は八方塞がり、なら父さんに聞いてみよう。何度も挫折を味わった父さんに……

 

俺は今までの経緯を父さんに話した。デビュー戦のこと、母さんたちのこと、ブエナを含む厩舎のこと、先輩や師匠たちのこと、ライバルたちのこと、三冠を獲ったこと、有馬での同着のこと、ドバイでのこと、そして…初めての敗北のこと…

 

全てを話し終わる頃にはかなりの時間が経っていた。それでも父さんはずっと聞いていてくれた。

 

『……これで全部です。そんであれ以来、俺は上手く走れなくなりました…』

『ふむふむ……なるほど…』

『何かわかったんですか?』

『ん〜…そうだなぁ…』

 

父さんはこちらの目を見ながら俺に問うた。

 

『ミカドはさ、何のために走っていた?』

『えっ』

『僕はね、自分が強いことを示したいから走っていた。何度も挫折を味わいながら。』

 

父さんは続ける。

 

『僕は生まれた時から他の奴らより脚が柔らかくて柵もぴょんと飛び越えられてさ。他の馬はできないけど僕はできた。だから僕は特別なんだってね。』

『レースをするようになってからもそれは変わらなかったよ。ずっと一番にゴールして皐月賞もダービーも無敗で勝って、あと最後のひとつって時に骨折。』

『それで僕は出れなくなった。これが僕の一番初めの挫折。』

 

『骨折から復帰して、復帰戦は快勝。次は最強って言われている馬が出るレースに出ることになった。僕はもちろん勝つつもりで走った。長い距離をね。でも最強は僕が思っているよりも最強だった。』

『相手の実力を見誤ったのと自分の力の過信でしすぎたことで初めての敗北。これが僕の二番目の挫折。』

 

『無敗で無くなった僕はその後は結構ガタガタになっちゃってさ、勝ったり負けたり不調になったりで…それで有馬記念で走った時さ、全然力が入んなかったんだよね。今まで獲ったこともない様な順位、そしてまた骨折。』

『結果僕は一年という長い時間を棒に振った。これが僕の三番目の挫折。』

 

どれも俺は『知識』として彼の経歴を知っている。だけど当事者本馬の口から語られるその話は俺を引き込んだ。骨折による三冠の断念、天皇賞での敗北、有馬での大敗からの一年間の空白、どれも俺なんかが想像することもできないものに感じた。

 

『……父さんはどうやって乗り越えたの?』

『……正直いうとあんまり覚えていない。』

『えっ『でもね。』』

『僕は骨折しても負けても心が折れそうになっても自分こそが最強だって思っていた。僕は自分の強さを見せつけるために走ってきた。だからこそラストランになったあの有馬で僕は勝つことができたんだ。』

 

『ねえ、ミカド。君は…何のために走ってきたんだい?』

 

 

父さんが言ってきた『なんのために走ってきた』という問いに俺は答えられなかった。

 

三冠は父さんの無念を晴らすため、レースで勝つのは雄一さんや母さん、北山さんや駒沢さんといったみんなのため、ここまで考えて気づいた。

 

 

 

 

俺、今まで『自分だけの為に走ったことがない、いや自分で考えた物が何一つない』ってことに……

 

 

 

 

 

『あ……え……そ…の……』

『その様子だと、考えたことがないのかな?』

『…………』

 

何も言い出せなかった。俺は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空っぽの器だったんだ。




ミカドはこう言ってますけど、作者は別にミカドを空っぽの存在だとは思ってませんよ?
だって空っぽだったらあんな走りが出来ますかね?

先にいってしまうとミカドは自分よりも他人を優先してしまう『人』の生物としての矛盾によって、自分の為でなく他人の為に動いていたのです。

それに気づいたミカドは今後どうなるか……

お気に入り登録、高評価、コメント等をよろしくお願いします!

それでは…

因みにミカドは空っぽだと思いますか?コメントで是非言ってって下さい!皆さんの意見も気になりますので!



あと今結構落としていますけど作者の好物は落としてから上がる展開ですのである程度は安心してください。


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帝のオリジン/再出発へのリブート

ミカドは己を空っぽだと言った。それは本当にそうなのか?
テイオーの問いに答えを出せるのか?

そんな今回が始まります!


突然連れてこられた場所で出会った僕の父さんと息子。そして父さんから息子の悩みを聞いてほしいと言われ、話を聞いた。彼の母やこの牧場の仲間の話、厩舎の話、レースの話、そして敗北の話。その中で僕は一つきになることがあった。どの話も素晴らしいものだ。だけどどこか空虚な部分がある。空いた所が感じられる。それが何なのかは割と直ぐに解った。

 

彼自身の存在が希薄なことに。

 

だから僕は聞いた。聞いてしまった。

 

 

『君は何の為に走るのか』を。

 

それが彼も知らなかった触れてはいけないものだと気付かずに。

 

 


 

 

『あ……お…れ…そ…』

 

『…………』

 

………やっばい。

 

僕、トウカイテイオーは現在クッソ焦っていた。なぜなら自分の息子であるノゾミミカドに何の変哲もない質問をしたところ。それが彼にとってとんでもない爆弾だったみたいで、酷く動揺している。

これは早急にフォローしないと……

 

『ミカド。』

『えと……あの…』

『ミカド。落ち着いて。ほら深呼吸。』

 

一度落ち着かせる為に深呼吸をさせる。何回か息を吐いたり吸ったりしてたらいくらか落ち着いた。

 

『ごめんね。僕、相手の触れたくないところに知らない内に触れちゃったこと何回かあって…』

『い…いえ…大丈夫です……』

 

酷い動揺を見せていて大丈夫ではないだろう。ここでも一つ解った。

 

ノゾミミカドには『自分』という存在が薄い。

 

他の馬ならこんな質問されて彼みたいに何もない感じだったとしてもここまで酷く『動揺しない』。

むしろ、『それが自分だと』いうだろう。

 

でも彼には自分にはそれがないと思っている。まるで今までの自分は『借り物』だと。

 

なるほどなぁ……だから、一回の負けでこうなった(・・・・・)のか…

 

(うん…これは僕にしか出来ないな。誰よりも悔しい気持ちを抱き続けて……

 

 

走る理由をその度に思い出した僕にしか…)

 

 


 

 

ミカドside

 

 

父さんに言われたことで俺には『何もない』ことに気づいた。三冠も、無敗も、走ることも、全てが誰かに与えられた目標な気がしてきた。

俺は一回でも自分で考えたか?自分で他に何かをしようとしたか?

 

俺は……

 

 

 

『はい、ストップ。』

『!』

 

父さんが俺の額をコツンと突いた。

 

『それ以上君自身を蔑ろにするのは良くない。それこそ僅かに存在する『君』という存在自体が壊れてしまうよ。』

『え?』

 

『話して、見て分かったよ。ミカド、君はね…『自分』というものを見ていないんだよ』

『は?』

 

『自分』を見ていない?どういうことだ?

 

『君の話を聞いているとどれもこれも『君自身』が抜けているんだ。話の中に君がいてもそれを外して喋っているんだ。』

 

俺自身が抜けている…

 

『何でそうなったかは僕には解らない。そうなってしまった答えはきっと君の中にある。心当たりはあるかい?』

 

俺自身が俺の話から感じ取れない。そう言われて俺は自分を見つめ直す。

 

敗北、ドバイ、爺ちゃんとの出会い、有馬、三冠、骨折、ダービー、朝日杯、ライバルとの出会い、雄一さんやブエナ、厩舎の仲間達との出会い、名前をもらった日、俺が生まれた日、生まれる前……

 

『あっ……!』

 

そうだ…俺は……『転生者』だ…しかも未来を知っている……

 

俺が知っている世界の歴史には俺は存在しない。存在そのものがイレギュラーなんだ。

今わかった…俺の走りに迷いがでたのは『イレギュラー』という俺の存在が誰から消えてしまうんじゃないかと無意識に怯えていたんだ。それを俺はレースで勝つことで誤魔化していた。勝てば俺はみんなの記憶に残ると……

でもこの間の敗北でそれが『切れた』。怯えを誤魔化すものがなくなった。

 

俺の走りの不調は、父さんが言っていた『自分を見ていない』というものそのものだ。この『怯え』こそが『俺自身』なんだ。

 

『………どうやら少しわかったみたいだね?』

『……うん…』

『それじゃあ一旦それを横に置いといて…』

『え』

『今度は見つけてあげるんだよ。君自身を。君の原点を。』

『えっごめん話が分かんないついていけてない説明プリーズお父上殿。』

 

父さんってもしかしてっ自分で言っていたよりも空気読めない?

 

『説明って…今ミカドが気付いたものはあくまで『ミカドの表面』だ。ミカドは今自分が無いって思っているでしょう?でも絶対にあるはずだ。出なきゃ君はここまで思い詰めないからね。』

『君の原点(オリジン)を思い出してみて?そしてそれがさっきの僕の質問の答えになる。もう一度きくよ?』

 

『君は、何の為に走っているんだい?』

 

 


 

 

俺の……オリジン……俺が走り始めたきっかけ……

 

俺は記憶を掘り返す。過去に過去にと遡る。

 

そして俺は一つだけ、思い出せたものがある。

 

もう殆ど風化してしまった…俺がまだ『人』だった頃の記憶の断片を……

 

《だから!テイオーは最高の名馬なんだよ!!俺はその血を絶やさせはしない!!》

《ハッ…テイオー産駒の成績見てから言え。あんな終わった血統に誰が注目すんだか?》

《何を〜!?今に見ていろ!!俺が絶対にテイオーの血を繋いでやる!!》

 

誰と話したのかも思い出せない。どうな内容でこの話になったのかも判らない。でも今の俺の中に僅かに残った記憶。そして、この記憶で俺は思い出す。俺がこの体になった日の決意を…

 

《俺が、終わらせない。帝王の血を、終わらせてたまるか!見ていろ、俺たち(・・・)テイオー産駒が終わった血って言った奴ら。俺が父さんたちが叶えられなかった夢を、その時の多くの人の望みを叶えてやる!俺は『絶対』を許されたあの『皇帝』の孫で、『絶対』を何度も覆した『帝王』の子だ。やってやるよ!》

 

俺たち…そうだ…俺は最初に決めたじゃないか。

 

俺たちを…俺の中に流れる帝王の血を見下した奴らに吠え面かかせてやるって。

 

周りの誰かも混じっているがこれは間違いなく。

 

俺が俺のために自分で決めたことだったじゃないか…

 

空っぽの器には確かに中身があった。見えなかっただけでそこにあったんだ。

 

けど…まだこれだけじゃ足りない。

 


 

 

『おや?思い出せたんだね?その様子じゃ?』

『……はい。お騒がせして申し訳ありませんでした。見つけられましたよ、俺の原点。』

『ふ〜ん?じゃあそれは?』

『………俺が走るのは、俺の中で流れる誇り高き血を馬鹿にした奴らを見返すため!そして俺の存在を証明するため!』

『へぇ…『そして!!』ん?』

 

『俺を産んでくれた父さんや母さん!

 

俺の走りを鍛えてくれたテキや雄一さん、先輩方に師匠!

 

俺の世話をしてくれた真司さんや卓也さん、牧場のみんな!

 

俺の先駆けである爺ちゃん達!

 

俺の走りを見て応援してくれた人たち!

 

そして、共に走って競い合ったライバル達!

 

俺は皆んなに恥じない走りをしたい!皆んなに認められる最高の競走馬になりたい!

 

全部ひっくるめて、これが俺の走る答えだ!!』

 

(……さっきまでとは違って本当にいい表情するねこの子……皆んなに恥じないか…)

 

『随分と大きなものだね。僕よりもお父さんなんかよりも壮大じゃん。』

『今までの情けないところを払拭して強くなるにはこんぐらいでっかくないとと思って。空っぽだと思っていた中を埋めるには!』

『アハハッ!それでこそ僕の息子だ!そ・れ・じゃ・あ♪』

『?』

『向こうで盗み聞きしているお父さん達の方へ競走だ!よ〜い…』

『えっちょっと!?』

『ドンッ!!』

『いや父さん!?まって、いきなりはって速っ!?』

『ほらほら〜現役三冠馬が引退二冠馬に負けてもいいの〜?』

『ああもう!無理すんなよ父さん!?』

 

突然駆け出す父さんの後を追い俺は走る。その脚は…

 

 

ここ最近で一番軽快に動かせた。

 

 


 

 

フェ『おい、これこっちに向かってきてないか?』

ライ『あのルドルフさん…あなたの息子さん元気すぎじゃないですか?彼たしかレオさんの二つくらい下ですよね?』

ルド『ん〜?多分息子に会えてはしゃいでいる分、いつもより調子がいいんだろう。』

レオ『俺が引退していなかったらアイツと走っていたかもしれないって……』

カン『……元気だなぁ…そんでめっちゃ速くない?ミカドくんスタート遅れたのと調子悪いとは言えまだ追いつけてないんだけど…』

ライ『ちょっこれこっちに突撃する勢いですよ!?全員掃けて!!』

テイ『イッエ〜イ!』

ミカ『父さん止まって!!その柵も超えちゃったらいよいよ洒落になんねぇ!!』

 

ピョ〜イ!

 

一同『『『『『あ』』』』』

 

テイ『えっなんか言った?』

 

フェ『……』・十字を切る

ライ『ご愁傷様…』・冥福を祈る

レオ『俺知〜らね。』・知らんぷり

カン『なんてこった…』・遠くを見る

ルド『やっちまったな…アイツ…』・アチャ〜とした表情を浮かべる

ミカ『父さん……その……頑張れ』・取り敢えず激励

 

テイ『えっどういうこと?』・何が起きているのか分かっていない

『そこのアンタ。』

テイ『えっ?』

 

シエ『ここが何処かわかっているのかしら?』悪鬼羅刹モード

 

テイ『ぴえ!?』

 

シエ『はしゃぐのはいいけど……』

 

テイ『アワアワワッ!?』

 

シエ『節度と立場を弁えなさい!!ここは牝馬と仔馬達の放牧地よ!!!!』

 

テイ『ゴメンナサァァァァァァァァァァイ!!!!!!!』

 

 

北山牧場の絶対的掟

 

我らが偉大なるボスルイシエルを怒らせたものは明日はないと思え。

(*死にはしません。)




ミカド君は吹っ切れ……いやまだ百%吹っ切れてはいませんが取り敢えず立ち直れた模様。
その代わりテイオーには一生残るであろう恐怖が植え付けられた模様。

テイ『怖かったよぉ……(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)』

そりゃあこの作品で唯一無二の最強キャラですからうちのシエル(オカン)……

因みにシエルは基本的に怒りませんが自分含めた身内(北山牧場の馬&オペ)を馬鹿にされると容赦無くブチコロがす勢いで蹴りが飛んでくるので彼女の前で絶対やらないように!

お気に入り登録、高評価、コメント等をお待ちしています!コメントは必ず確認していますので是非!

それでは…









シエル『これを見ている貴方達も言動には気をつけなさいよ?』
ボー『母さん、発言が魔王のそれ。』


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三帝の取材/彼らとの再会

最強ママシエルによってトラウマを植え付けられたテイオー…
そんな前回からのスタートです。

それではどうぞ!


『ひっく…えっ…ぐ…!』

『父さん分かった?うちの母さんは怒るとすごい怖いってこと。』

『わ゛がっ゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!』

『うわ汚な。』

 

母さんにしこたま叱られた父さんを厩舎に戻った今もなお俺は慰めていた。いやにしてもやっぱ母さん怖っ。

 

『前にあった時はあんな感じじゃなかったんだけどぉぉ…!』

『そりゃあ他所ヅラするだろ。』

『今はテイオーさんも北山牧場の一員(仮)ですからね。』

『ここにいる間はシエル姉に従ってもらいますからね?』

『早死にしたいならじゃんじゃん逆らえばいい。』

 

『絶対に゛じな゛い゛!!』

 

『やれやれ…我が息子として情けない。あれぐらいで…』

『爺ちゃん、母さんのアレを涼しい顔で耐えれるのアンタぐらいしかいねぇんだよ。』

 

*読者の方々にシエルがどれだけヤバいのかわかりやすく説明すると…

有名な気性難の馬_例えばステイゴールドやサンデーサイレンスあたりを想像してください。

シエルが怒れば、前者が恐怖に怯えながら素直に従い、後者が恐怖はないけど相手にすると面倒臭いと思いつつ偶に従うくらいのレベルです。

因みに効かないのはルドルフやオペラオーぐらいです。(ルドルフはそもそも叱られることがない。オペラオーは真摯に受け止め、その怒りもまた美しいと思う変馬です。)

 

 

情けなく泣く父さんだが父さんのお陰で大事なものに気付けた。父さんがいる間は付き合おう。彼はまさしく、俺の恩人ならぬ恩馬なのだから。

 

 


 

 

北山牧場・従業員室

 

《……というわけで明日、また取材に行きます!》

「本当ですか!コネクトって聞いてもしかしたらって思っていたんですよ!」

 

卓也は携帯で以前、取材に来た記者である日山響と連絡をとっていた。あの取材の際に個人的に連絡先を交換し、偶に互いの愚痴を聞いたり聞いてあげたりする仲になっていた二人だが卓也は北海道、響は関東と普段はかなり離れた地にいるため直接会うのはあの取材以来、実に半年ぶりなのだ。

 

《今回は以前よりも豪華な内容になるので取材陣は私以外にも何名かいるんです。》

「あっやっぱそうなんですね…」

《むしろ前回が一人だけっていうのが本当に大変だったんですけどね……爆売れしたからボーナスウハウハでしたけど…》

「アハハ……」

《あ、あと今回はスペシャルなゲストも来るので前回みたいにゆっくり取材は中々できないと思うんです…》

「そうですか…ちょっと残念ですね…」

《はいぃ……あ、でもその代わり取材が終わったら私有給取ったので次の日とかはゆっくりお話しできますよ!》

「そうなんですか!?じゃあ楽しみにしてますよ響さんとは色々直接会って話したいですし。」

《私もです!あっそれじゃあ明日は早いんで今日はこの辺で…また明日お会いしましょう!》

「はい、また明日。」

 

通話を切り、卓也と響は明日が楽しみでしかたなかった。しかしここで互いに気付く。

 

(俺何、『残念です』とか言ってんだぁぁ!!別に俺ら付き合ってもないのに!!気持ち悪いとか思われてないよな!?)

 

(私なんで『ゆっくりお話しできます』って言っちゃったんだぁぁ!!?べ、別に!?卓也さんとはそういう関係じゃないし!?私みたいなチンチクリンなんか卓也さんは…って誰がチンチクリンだコンチキショウ!!)

 

この二人、無自覚両片思いであり、周りから見たら『はよくっつけ』ともどかしさを感じる二人なのである!因みに彼らの周りは、互いに好意を持っているのを知っているため正しく『はよくっつけ』と思っているぞ!

 

 


 

 

翌日!

 

 

「お、おはようございます…」

「はい…卓也さん…大丈夫ですか…?」

「響さんこそ…」

 

昨夜、中々寝付けなかった二人であった。

 

「それで、今回の取材で同行するカメラマンの…」

「門野阜(かどのつかさ)だ。よろしく頼む。」

「はい。こちらこそ。」

 

少し気怠そうな雰囲気を出している男が今回メインで同行するカメラマン。

 

「少し不真面目そうに見えますし、口も悪いですけど腕は確かな方です。仕事はしっかりこなしてくれるので安心してください。」

「余計なことを言うな。俺の撮った写真に文句を言う奴らに丁重(・・)な対応をしただけだ。」

「それがこの間取材先の方に『調理過程を見せるのを売りに出すんだったらもっと技術を上げてからだな』って言ってトラブル起こした人が言える口ですかぁ〜!」

 

どうやら彼は少し問題があるらしい。卓也の中に一気に不安が襲い掛かった。

 

「と、取り敢えず行きましょうか。門野さん、最初に言っておきますが厩舎内での写真撮影は原則禁止です。大丈夫であれば許可を出しますので許可を出した場所での撮影は認めます。それとフラッシュもダメです。馬が驚いて怪我をする恐れがありますので。」

「了解した。」

 

一抹の不安を抱きながら3人は特集のための撮影と取材を開始した。

 

 

「これがノゾミレオか…もう大分爺さんの筈なのにそれを感じさせない馬体だな…」

 

『おい人間。ここでその黒い筒を出すのは禁止だぞ。』

 

気ままに撮影をしている門野を横に卓也は響に質問されていた。

 

「そういえば、ノゾミの馬達の産駒ってここにはいないんですか?」

「ウチで管理しているノゾミの馬達はみんな牡馬ですから……俺がここに来る数年前には居たらしいんですが歳で亡くなったらしくて…」

「そうなんですか…」

「はい。今いる奴の産駒だと…確かフェニックスとラインが10頭ずつ、カンパネラが15頭だったかな?」

「えっそれだけですか!?かなり少ないような…」

 

種牡馬は何十頭の牝馬に種付を行うがそれは大手の生産牧場が行うことが多い。例えば大種牡馬であるサンデーサイレンスは最も多い時期は200頭以上もの牝馬に種付をした。

 

「ウチは全体で見たら下から数えたら早い方の牧場です。10頭ぐらいいけていればまだいい方です。」

「それだけじゃないだろ?」

 

門野がカメラを弄りながら話に入ってきた。

 

「ノゾミフェニックスは大種牡馬サンデーサイレンスの産駒であり、GⅠ未勝利のため他のサンデー産駒に比べて旨味がない。ノゾミラインの親は一世を風靡したオグリキャップだが元々零細血統の出。所謂、突然変異ってやつだから産駒に受け継がれるかは未知数のため二の足を踏む。ノゾミカンパネラは数少ない三冠馬ナリタブライアンの産駒だが前二頭同様GⅠ未勝利…実力社会であるこの世界だと肌馬側の陣営からしたらそいつらよりも他の将来性が高い種牡馬の方が安牌だ。つまり、他の奴らにとってはいたらいいなぐらいの認識なんだろ。」

「門野さん!」

「……すまん言いすぎた…」

「……いえ、事実ですから…」

 

実際、種牡馬に必要なのは『実績』。ビジネスであるためいくらか仕方ない部分があるのは仕方ないが実績がない種牡馬はただの金食い虫になることもある。

その点でいえばラインは神馬シンザンの連対記録を塗り替えたという実績がある分そこそこ人気がある種牡馬ではある。

 

「さっきはああいったが、ノゾミの馬たち自身の実績が他の有名種牡馬と比べて見劣りしても産駒たちの実績によって評価も大きく変わってくる。良くも悪くもな…」

「正しくその通りですね…」

「???」

「……すまん。ウチのが全然分かっていないから解説頼む。」

「えっ、ああはい。えっと要するに響さん。種牡馬の産駒たちの活躍でも変わってくるんです。今一番タイムリーなのはテイオーですね。テイオーは種牡馬初年度では人気がありましたが産駒たちの活躍がイマイチだったことから依頼が減りました。」

「あっそれは知ってます。10頭代ぐらいになったとか…」

「そこにミカドが無敗三冠を成し遂げてから一気に右肩上がりになって今年はもう去年の10倍近くの依頼が来たとかなんとか…」

「人間現金な生き物だからな…」

「えぇ……あのそれじゃあノゾミの馬達の産駒の成績ってそこまで良くないんですか?」

「「いや全然。」」

 

ぴったりハモったので響は少し面白くて笑ったのは余談。

 

「ラインの産駒は組み合わせによってあらゆる距離の適正を持つ馬が生まれることが多いんです。正しくオールラウンダー製造機。」

「フェニックスはあの無尽蔵とも言えるスタミナと頑丈な心臓や肺機能を受け継ぐ馬が多いらしくて障害レースとかで活躍馬がいるらしい。」

「カンパネラは親から続くあの末脚、レオは芝とダート両方の中距離で安定した成績を残す馬が多い印象ですね。こんな感じでノゾミの馬達も決して大種牡馬たちにも負けていません。」

「はぁえぇ…そうなんですね…」

「むしろちゃんと調べてこいよ。だからいつまでもジャーナリスト(笑)って言われてんだよ。」

「卓也さ〜ん。このスコップ使わせてもらいますね。ちょっと赤いシミがつくと思うんでこっちで処分した後で新品を送ります。」

 

スコップを振りかぶる響を押さえ、その後も門野の失言の連発でトラブルが起こりかけたりしながら取材は続いた。

 

 

そして、メインの取材に入る。三帝の取材だ。

 

「さて、それではメインに入ります。ゲストの方も到着したようです!」

「ああ、そういえばスペシャルなゲストが来るって言ってましたけどどなたが?」

「もうあっちに来ています!あっこっちですよぉ!」

 

こちらに来る3人の人影。大きく手を振る響きに気づいたのかあちらも手を振り返した。

そしてその正体は……

 

「福長ジョッキー!丘部さん!」

「お久しぶりですね。」

「またお邪魔しますよ。」

 

ミカドとルドルフの主戦を努めた騎手。福長雄一と丘部行雄(おかべゆきお)の二人。以前もミカドとルドルフに会いに来たため卓也も面識があった。そして二人の後ろからもう一人の男性。見た目からしてだいたい50代ぐらい。

 

「はじめまして。」

「あっどうもはじめまして…(あれ、この人何処かで見たことあるような?)」

 

その顔に見覚えがあったのかどうにかして思い出そうとする卓也。そんな卓也を見て男性はくすりと笑う。

 

「はは、すみません。自己紹介がまだでしたね。私は『保田隆幸(やすだたかゆき)』。中央で調教師をしていて、昔は騎手としてトウカイテイオーの鞍上を努めたことがあります。」

「……あ!?あなたが、あの!?」

 

保田隆幸。JRAの元騎手であり、トウカイテイオーのデビューからクラシック期を共に過ごした人物であり、今では調教師として馬に関わっている。

つまりここにいる三人は皇帝一族のクラシックを支えた立役者たちなのだ。

 

「テイオーとルドルフに揃って会えるなんてこの先ないだろうからね。もう楽しみすぎて童心に帰ったようだよ。」

「自分もですよ。まさか自分が呼ばれるとは思ってもいませんでしたけど。」

「それ言ったら僕はどうなるんです?この中でいちばんの若造ですよ?」

 

卓也は三人を尻目に響と門野の方を見る。響はこの光景にご満悦の様子でニコニコ笑っており、門野は困り顔で肩を竦めた。どうやらこの三人を読んだのは彼女が率先して行ったことのようだ。

 

「では皆さん!それぞれの相棒のところに行ってください!撮影をした後にそれぞれインタビューを行ってから全体のインタビューという流れになりますのでよろしくお願いします!」

 

 


 

 

丘部&ルドルフ

 

「やあ、ルドルフ。前よりも元気そうじゃないか?」

『ユキオ。君も元気そうで何よりだ。』

 

老齢の人間と馬。事情が知らないものこの状況を見ても目にもくれないだろう。しかし、ここにはこの二人がかつて競馬界の絶対的存在として君臨したことを知っているものしかいない。そんな光景を見れば……

 

「Да здравствует император!!!!!」ゴフッ!!!

 

「俊が限界突破してぶっ倒れたぞぉぉぉ!!!」

「あの光景を直視するのに耐えられなかったか……」

「てかあいつ今なんて言った?」

「あれロシア語で『皇帝万歳』って意味です……」

「なんで断末魔がロシア語??」

 

こうなります(実際に現実でこのような行動をとるのは俊だけだと……思いたい。)

 

 


 

 

保田&テイオー

 

「テイオー…久しぶりだね?僕を覚えているかい?」

『うん?君は……(すんすん)………あ、分かった!デビューから僕にずっと乗ってくれた人だよね!?久しぶり!ちょっと老けた?』

「ははは、覚えていてくれたんだね…」

 

テイオーの顔を優しく撫でる保田。テイオーはそれを気持ちよさそうに目を細めていた。5ヶ月という短い間ではあったが共に栄光を掴み、どちらの生涯に決して外せないものを築いた間柄だった。

 

「ちょっと……泣けてくる」

「俺、あの人たちのダービー…思い出した…」

「あのコンビ…俺好きだったんだよ…」

 

色んな思い出が飛び交う北山&おっちゃん厩務員たちの涙腺を破壊した。

 

 


 

 

福長&ミカド

 

「ミカド、少しは吹っ切れたか?」

『……まだちょっと本調子じゃないですけど、いくらか楽になりましたよ。』

「………少しは元気になったみたいだな。」

 

敗北を味わって以来、何処かぎこちない感じになってしまった福長とミカド。だが今回はミカドがある程度復活した様子だったからか、ぎこちなさはいくらか無くなっていた。

 

「ミカド、やっぱりまだ少しぎこちないな…」

「そうなんですか?私にはさっぱり…」

「俺もだ…やっぱよく見ている人間にしか分かんないものがあるんだろう。」

 

一番周りが平和だったのはこのコンビだけだった…




登場人物紹介

門野阜(33)
週間コネクトお抱えのカメラマン。腕は確かで仕事は一流、依頼が絶えないが同時にトラブルも絶えない。4回に1回はトラブルを起こす爆弾。今回はまだなんともないが前の仕事でやらかして減給を喰らった。

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それではまた次回!


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盟友たちの背/魅せられたら者の言の葉

いや〜本当にお待たせしました…
ここ最近めちゃくちゃ忙しくて時間が取れなかったんです…
夏休みがあっただろう?
ハハハハハ、そんなものあるのは高校生までなんだよ。
こちとら七月と八月は仕事と資格の勉強で潰れたんだわ。
それでもウマ娘は欠かさずログインしてましたし現在トプロ委員長を引くために頑張っているところです。

長々と語りましたが続きをどうぞ!


※取材風なため台本形式で行います。

 

響「それじゃあ、皆さん。今日はよろしくお願いします。」

丘・保・福「「「お願いします。」」」

 

北山牧場の一室。そこで取材は行われた。窓から見えるのは広い草原に馬達がのんびりと過ごしている光景が見える。

 

取材の内容はありきたりなものから始まり、場を温めてから響は本題に入る。

 

日「それでは、ここからいよいよ今回の本題である馬達への質問です。まず皆さんから見てあの三頭のことをどう思ってますか?まずはシンボリルドルフ号の印象を聞かせてください。」

 

丘「ルドルフに初めて乗ってすぐに彼が他の馬とは違うことがわかったよ。ルドルフの凄いところはいくらでもあるけど挙げるとすれば精神力と賢さだね。ルドルフは脚力も優れているが苦しさに耐え抜く精神力は舌を巻くよ。ダービーの時、彼は僕よりもレースの流れをよく理解していた。鞭を入れてもルドルフは『丘部、ここじゃない』って教えてくれた。人よりもレースを分析して、堪える時はグッと我慢する。こんなことができる馬がいるのかと僕は思った。賢くて気高くて、そして強い。彼と共に走れたからこそ、今の僕がいる。彼にはお礼をしてもし切れない。」

 

保「ルドルフですか……僕自身は当時は縁がなかったからな…レースの映像とかで見ますけど、とにかく上手い。馬自身がレースそのものを理解しているなんて一体彼は何者なんだって当時は思いましたよ。」

 

福「ルドルフが活躍していた時代ってまだ自分小学生ですから当時の印象はないですね(笑)…競馬学校とかでルドルフのレースを見たことありますがなんだろう……走りに迷いがないって感じですかね?」

 

響「ありがとうございます。やっぱりルドルフに関しては丘部さんが一番饒舌ですね。」

 

丘「いえいえまだまだ語り足りないですよ(笑)」

 

福「そりゃあルドルフに対して本を一冊出しちゃうぐらいの人ですからね…」

 

丘「実は今加筆・修正をしたのを執筆中です(笑)。」

 

保「いや、また出すんですか!?」

 

響「さ、さすが皇帝の一番のファンですね……出たら私も買わせてもらいますね!続いてトウカイテイオー号についてはどうでしょう?」

 

丘「テイオーはルドルフとまた違うね。似ているところがある分、僅かな違いが僕からしたら目立ったなぁ。特にポテンシャルはルドルフ以上のものを秘めていたね。怪我がなかったら三冠どころか七冠を超えていたといえるよ。ジャパンカップで親子制覇をしたときは嬉しかったし、有馬で前に来た時も不謹慎だけど嬉しかった。」

 

保「テイオーは自分にとってはやっぱり格別の存在ですよ。初めてのGⅠを彼と共に制したあの瞬間は今でも鮮明に思い出せます。乗り換えで丘部さんが乗っていた時も『俺はあの馬に乗っていたんだ』って自慢になりましたからね。でもやっぱりちょっとだけ悔しかったですよ…でも負けて欲しくなかったんでずっと応援していましたよ。」

 

福「テイオーは……また自分当事者じゃないんであんまり言えることは少ないんですけど…骨折を三回しても折れないで走り続けたっていうのは感心しました。不死鳥の如く舞い戻ってきて勝利を掴むって、漫画みたいな展開が本当に起きるなんてって思いましたよ。きっと諦めることを知らない馬だったんでしょうね。」

 

響「福長さんはまだデビューする前の話ですからね。」

 

福「自分の隣にいる人たちはもう教科書とかに載っている人たちですよ?正直に言って、さっきからずっと緊張しっぱなしです。」

 

保「何言ってんの雄一、君もあと数年すれば無敗の三冠ジョッキーとして教科書に載るかもしれないんだよ?(笑)」

 

丘「ようこそ、こちら側の世界へ…(笑)」

 

福「ちょっ、やめてくださいよ…」

 

「アハハ…ではいよいよ福長さんが最もよく知るノゾミミカド号のことについて聞いていきます。」

 

丘「ノゾミミカドはルドルフやテイオーよりも賢い。こちらの意図をしっかり汲み取って動いてくれる馬なんてそうそういない。走りはルドルフと同等レベルでコーナリングが上手い、脚質も彼の様になんでもこなせる。それにテイオーほどではないが軽快な走りをする馬だね。騎手を引退していなかったら僕は是が非でも彼に乗りたいな。」

 

保「丘部さん、それは欲張り過ぎじゃないですが?皇帝一族三世代の鞍上を勤めるとか……僕はテイオーに夢を見せてもらいましたし、騎手としては心残りはないですけど調教師としては彼の担当になりたかったですね。テイオーとはまた違った脚の使い方をするノゾミミカドを僕ならどう育てるか…とか考えちゃいますよ。でも駒沢さんと縁がないからどっちにしろ無理か…」

 

福「……ノゾミミカドは、僕にダービーを初めて取らせてくれて、無敗三冠騎手にさせてくれて、海外でも勝たせてくれて……お礼をしても仕切れないです。彼の武器はこちらの指示をしっかり理解してくれる賢さ、スタートダッシュのタイミングの良さ、最後に爆発する末脚、色々ありますがやっぱり一番はルドルフから続く『諦めの悪さ』だと思います。どんなレースでも最後まで走りきってくれるあの粘り強さこそが彼が先代たちから受け継いだ最も優れたものだと自分は思います。」

 

響「打って変わってやはり福長騎手が語りますね。」

 

福「自分が一番見ていた馬ですよ?それこそ丘部さんのルドルフよりも語れる自信があります。」

 

丘「言うねぇ。」

 

保「そうなると僕は結構不利だなぁ…」

 

響「皆さんの彼らに対する思いがひしひしと伝わってきました。ではもしも彼らが同じレースで競うとしらどのように乗りますか?それぞれ全盛期の状態でです。」

 

丘「それはどう言う条件のレースででしょうか?そこがわからないと…」

 

響「あ、すみません。えっとそれでは東京競馬場の左回り2400。ダービーと同じ条件でお願いします。」

 

丘「う〜ん…それならルドルフは差しで展開を見て最後の直線で前に出るね。テイオーとミカドは前目の展開が多いからね。」

 

保「テイオーなら、先行で前目に出て流れに乗って様子を見て先頭を狙っていく感じですかね。」

 

福「ダービーはミカドは完全にやらかしましたからね…それのリベンジ的な意味でいうなら今度こそ逃げで早め先頭に出て逃げ切ります。」

 

響「全員違う作戦ですね…」

 

丘「例え二頭が前にいて、何馬身も離れていたとしてもルドルフなら一気に躱すことができるがな。」

 

保「そうでしょうか?テイオーの前に出ようとする粘り強さは有馬で丘部さんも横で見ていますよね?」

 

福「粘り強さはミカドも同じですよ?最後に放たれる末脚の爆発力は例えあの二頭でも追いつけるか怪しいと思いますが?」

 

響「えっ、えと…で、では次です!!皆さんの思い出に残った皇帝一族のレースはなんでしょうか?丘部さんはシンボリルドルフ号のみでお願いします!」

 

丘「う〜ん…思い出、印象に残ったレース……彼の力を本当に思い知ったと思ったのはやっぱり日本ダービーかな。」

 

響「シンボリルドルフ号から競馬を教わったというあのダービーですか?」

 

丘「僕はダービーまでルドルフに鞭は使ったことが無かった。使わなくても彼はこちらの意図を読んですぐに動いてくれたからね。でもダービーの時は反応が悪くてその時に初めて鞭を入れたんだけど、これも反応なし。第四コーナーを抜けて直線に入ったところで5番手くらい。初めて負けると思ったよ。」

 

響「でもそこでルドルフが動いたんですよね?」

 

丘「そう。あの時に僕は彼の声を聞いた。『しっかりつかまっていろ』って聞こえたんだ。そしたらルドルフは一気に速度を上げて先頭に上がった。僕はあの時何もしていない。彼の方が競馬を理解していたんだ。価値観や騎手としての心構えを変えるきっかけにもなった。」

 

響「ありがとうございます。それでは保田さん、トウカイテイオー号で思い出に残ったレースはなんでしょうか?」

 

保「全部です!……は流石にダメですよね?(笑)」

 

響「面白いですしそれだけテイオーに入れ込んでいるのはわかりますが流石にダメです。」

 

保「う〜ん…それだと被っちゃうけど僕もダービーですね。」

 

響「あの『ヤスダコール』が起きたダービーですね。」

 

丘「僕も参戦していたけどあの快勝ぶりはルドルフよりも凄かったと思っちゃったからな。」

 

福「映像で見ましたけど、あんな余裕を持った勝ち方すると気持ちいいでしょうね。」

 

保「レース運びも展開も何もかもが怖いくらいスムーズに進みました。何よりもテイオーのコンディションも絶好調でしたし、僕がヘマしなければ負けることはないと思っていました。あのコールは今でも鮮明に思い出せます。テイオーは、僕を表舞台に引っ張り出してくれたヒーローです。」

 

響「ありがとうございます。それではラスト、ノゾミミカド号について、福長さんお願いします!」

 

福「わかりました。ここで僕もダービー、と言えたら良かったんですが自分の時はトラブルの連発でしたし…印象にはある意味残っているんですけど…」

 

響「スタートダッシュの失敗、初めての後方からの展開、ブロック、骨折…確かにインパクトだらけですね…」

 

保「ある意味荒れたダービーだね…」

 

福「だからここでは菊花賞の話をしようと思います。」

 

丘「三冠を達成した瞬間か…確かにあの光景は目に焼き付くからね…」

 

福「ミカドはご存知の通り骨折明けからのぶっつけ本番のレース、距離適正に不安が残る中の出走、でも僕らは負けるつもりはハナからありませんでした。」

 

響「当時は冷ややかな意見や反応が多かったですがレースで一番印象に残ったポイントはありますか?」

 

福「……最後の直線、前に出たは良いもののあの時もうかなり限界だったんです。一回ミカドのスピードが落ちかけた時、もうダメかと思いましたけど、ミカドは最後の最後で持ち直してくれたんです。」

 

保「普通はあそこで垂れると思うんだけど、ノゾミミカドは見事に復活したね。」

 

丘「僕もレースを見たけど、ノゾミミカドが先頭に出た時、ルドルフの姿が見えた気がしたんだ。テイオーに似ていると言われているミカドだけどあの時はルドルフそっくりだった。」

 

福「……ゴール版を抜けて、大歓声を聞いた時、しばらく放心していました。掲示板の1着に映る数字を見た時、勝ったことに理解して雄叫びをあげちゃいましたよ。その後のミカドコールを見て、この先こんな光景はもう二度とないだろうなと思いました。」

 

響「皇帝が打ち立てた金字塔を帝王が繋いで帝が継いだ……本当に彼らは皆さんに夢を見せてくれる名馬たちだったんですね…」

 

丘・保・福「「「当たり前です。彼らが居てくれたから今の僕がいるんですから。」」」

 

響「ッ〜…!では、そんな彼らのことをじゃんじゃん語って下さい!!時間はまだまだありますから!」

 

取材は日が暮れるまで続けられた。

 

そして、コネクトの特別号が発刊。

 

タイトルは……

 

「三帝の背に夢を魅せ、夢を与えられた盟友たち」




この3人全員心の中でも『この2人と二頭相手でも俺たちが一番速い』と思っている相棒にクソ重感情を持っています。

次回はなるべく早く出しますのでこれからも温かい目で見ていただけると幸いです。
コメント、お気に入り登録、高評価も是非!
それでは…


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掲示板回 スレの話/盛り上がる雑誌の話

お久しぶりです
最近本当に時間が取れないです。

皆さんは秋華賞と菊花賞どうでしたか?
作者は賭けませんでしたがかなり盛り上がりましたね。
リバティアイランド三冠おめでとう!ドゥレッツアもおめでとう!


1:イッチ

週間コネクト特別号『三帝の背に夢を魅せ、夢を与えられた盟友たち』が発刊されたので立つ。みんな思い思いのものを吐き出せぇぇ!!!!!

 

2:名無しの定期購読者

イエェェェェェェイ!!!!!!!!!

 

3:名無しの定期購読者

この日を待ちわびていたぜぇぇ!!!

 

4:名無しの定期購読者

今日この日の為に生きていたと言っても過言じゃないぜぇ!!!

 

5:一文無し

尊い……トウトイ…

 

6:名無しの定期購読者

俺は今日死んでも良い…

 

7:名無しの定期購読者

ここ最近一番楽しみにしていたんだ!

 

8:五徹

酒だあぁぁ!!!!

 

9:名無しの定期購読者

いやっほーい!!

 

10:名無しの定期購読者

あばばばばば!!!?

 

11:新人

………あのすいません。

 

12:名無しの定期購読者

ヒャッハー!!

 

13:新人

ここにまだ買えてない人が一人いて良く騒げますね?アンタら…

 

14:名無しの定期購読者

……

 

15:名無しの定期購読者

 

16:名無しの定期購読者

 

 

17:名無しの定期購読者

 

 

18:名無しの定期購読者

 

 

19:名無しの定期購読者

>>13

ごめん

 

20:名無しの定期購読者

>>13

すみませんでした

 

21:名無しの定期購読者

>>13

誠心誠意謝らさせて頂きます

 

22:五徹

新人君本当にすまん

 

23:イッチ

僕らが空気読めていませんでした

 

24:一文無し

なんとか尊み空間から抜け出したと思ったら何これ?

 

25:名無しの定期購読者

新人ニキ、確かに俺らの配慮が足りていなかったわ

 

26:名無しの定期購読者

ここまで無法地帯が一瞬で鎮火されたスレは今まであっただろうか。

 

27:名無しの定期購読者

しかもそれがたった一人の競馬新人君によって鎮められたという事実

 

28:新人

いえ、自分も空気読めていませんでした。どの書店に行っても売り切れだったりラス一目の前で取られたりで手に入んなくてイライラしていて…

 

29:名無しの定期購読者

ああ、確かに。俺も3店舗回って手に入れたし、今回かなり売れているみたいだな。

 

30:名無しの定期購読者

定期購読にしていた俺は安心して手に入れることができたが知り合いは死屍累々になって手に入れたらしい…

 

31:一文無し

今回は特別号だし、何より話題の皇帝一族、更には相棒ジョッキーたちのインタビューやスペシャルフォト(一冊につきランダム2枚全30種類)という収集アイテムもあるからね…

 

32:名無しの定期購読者

新人ニキも頑張れ、人通りが多いとこの書店とかじゃなくて少し郊外あたりを狙うのも良いと思うぞ。

 

33:名無しの定期購読者

コネクトのホームページでも追加することを発表した。多分今日は無理でも今週末くらいには帰るんじゃないかな?

 

34:新人

次の店舗で最後にします…暫く探すのに集中するんでスレ抜けます。皆さんで話していてください。

 

35:名無しの定期購読者

なんか、前も手に入れるの遅れてなかったけ新人ニキ?

 

36:名無しの定期購読者

手に入れた瞬間大僧正とエンカしていたけどな

 

37:名無しの定期購読者

運がいいんだが悪いんだか

 

38:五徹

まあ、とりあえず新人君も話しといてと言っていたことだし、我々だけで今は語ろう。

 

39:名無しの定期購読者

そうだな

 

40:名無しの定期購読者

うん

 

41:名無しの定期購読者

賛成

 

42:イッチ

意義なし

 

43:一文無し

ラジャ

 

44:名無しの定期購読者

ちくわ大明神

 

45:名無しの定期購読者

うっす

 

46:名無しの定期購読者

おい今変なの混じってなかったか?

 

47:イッチ

最初のページは三帝の正面写真ですね。全員現役時のものを使っています。

 

48:名無しの定期購読者

上にルドルフ(ダービー)、中央にテイオー(皐月賞)、下にミカド(ドバイ)の写真だな。

 

49:名無しの定期購読者

イケメンパラダイス(馬の)

 

50:名無しの定期購読者

こうしてみると本当に遺伝ってすごい…

 

51:名無しの定期購読者

特にテイオーとミカドは毛色ぐらいしか違いがない

 

52:名無しの定期購読者

あの二頭は足の模様も左右対称という違いがあるけど…

 

53:名無しの定期購読者

次のページはそれぞれの紹介だなまずは『絶対が許された史上最強の皇帝 シンボリルドルフ』だ!

 

54:名無しの定期購読者

『歴史を塗り替えた皇帝、その神威を見よ』

 

55:名無しの定期購読者

レースのスタイルや性格、エピソードがまとめられていて見やすいな

 

56:五徹

最初が戦績や軽い紹介、2枚目は代表的なレース、3枚目は引退後の話しか…かなり豪華だな

 

57:名無しの定期購読者

いつ見てもヤバイ戦績だよな…GI 7勝…

 

58:名無しの定期購読者

この成績に並ぶのはディープ、ウオッカ、オペラオーの3頭のみ

 

59:名無しの定期購読者

全員とんでもない名馬

 

60:名無しの定期購読者

ルドルフが出てくる前は5勝が限界、そしてルドルフはその記録を2回も更新した

 

61:名無しの定期購読者

現地で見たがルドルフが7勝目をした時はこの馬に勝てる馬はカツラギエースとギャロップダイナ以外現れるのかって思った

 

62:名無しの定期購読者

そりゃそうだ。俺だってそう思う。

 

63:名無しの定期購読者

土をつけたその二頭はルドルフの3度の敗北を語るのに必要不可欠になったし

 

64:一文無し

カツラギエースは私の最推し。あの雑草魂と大逃げは私のロマンそのもの!!

 

65:名無しの定期購読者

>>64

なんかネキが熱くなってる

 

66:名無しの定期購読者

どうした急に。確かにカツラギエースはジャパンCで初の日本の勝利馬だけど、それまではルドルフとシービーに隠れていた印象だけど

 

67:一文無し

私はまだその頃幼かったから知らなかったけど後々エースのことを知った時に私はその生き様に惚れた。同期と一つ下に三冠馬がいる中、必死にレースに挑んで有力候補がいないと言われた中で宝塚記念で勝利して天皇賞秋でシービーに負けたら周りからフロックだのなんだの言われた中ジャパンCでルドルフとシービーが騒がれている中大逃げを決めて三冠馬二頭を下したあの漢の中の漢に惚れない奴はいないだろう?いないよね!?

 

68:名無しの定期購読者

すみませんでした

 

69:名無しの定期購読者

ごめんない

 

70:イッチ

彼女のカツラギエース推しは語ると長いので止めてきます。

 

71:名無しの定期購読者

ネキやば

 

72:名無しの定期購読者

あそこまで語るとは…

 

73:名無しの定期購読者

何を言っている、推しを語るにはまだ足りない。彼女はまだ2%も語ってないだろう

 

74:名無しの定期購読者

収拾つかないから次行くぞ。引退してからはシンボリ牧場で種牡馬に。種牡馬も引退してからもシンボリの牧場にいたが歳を理由に本州の牧場に移動する予定がトラブルに会い、暫くの間北山牧場で過ごすことになる。

 

75:名無しの定期購読者

しかし北山牧場に移動してからは以前よりも元気になりそのまま居座ることに。

 

76:名無しの定期購読者

この元気になったのって絶対ミカドにあったからだろ

 

77:名無しの定期購読者

間違いないな

 

78:名無しの定期購読者

しかも今回は息子にもあったしな

 

79:名無しの定期購読者

『孫との関係は良好だが息子とは偶に剃りが合わずに一触即発になるらしい』ってあるんだけど

 

80:名無しの定期購読者

多分テイオーの性格がなー

 

81:名無しの定期購読者

ルドルフ以上に気難しいって言われてたし…

 

82:五徹

だけどあの皇帝がこうして自分の後継者たちに出会い、共に過ごしていることがファンとしては感動で涙が出る。

 

83:名無しの定期購読者

わかる

 

84:名無しの定期購読者

わかる

 

85:名無しの定期購読者

わかる

 

86:名無しの定期購読者

長生きして欲しい

 

87:名無しの定期購読者

穏やかな馬生を過ごして欲しい

 

88:名無しの定期購読者

テイオーとミカドといる間はキリッとした表情が少しだけ和らいで穏やかな感じになっている気がするのは俺だけかな?

 

89:名無しの定期購読者

>>88

いやその気持ちわかるぜ

 

90:名無しの定期購読者

生意気に突っ掛かってくる息子に甘えてくる孫。

 

91:名無しの定期購読者

そして愉快な仲間(北山牧場のクセ馬)たち

 

92:名無しの定期購読者

こんなのがいたらそりゃあ元気になるわw

 

93:名無しの定期購読者

違いねぇw

 

94:イッチ

自分もそんな老後を送りたいものです

 

95:名無しの定期購読者

おっ

 

96:名無しの定期購読者

帰ってきた

 

97:名無しの定期購読者

イッチ、ネキは?

 

98:名無しの定期購読者

おかえり〜

 

99:イッチ

彼女は興奮からの賢者モードで固まっているので復帰に暫くかかります。

一文無し『次行ってて』だそうです

 

100:名無しの定期購読者

これネキ絶対顔真っ赤。百コメ!

 

101:名無しの定期購読者

>>100

おめでと

さっさと付き合えよあの二人

 

102:名無しの定期購読者

スレ民ですらもう同棲しているこの二人に何も言わない

 

103:名無しの定期購読者

おい、その話は前々回のスレで結論が出ただろ?

 

104:名無しの定期購読者

あの二人のナチュラルイチャつきは例え吐血・血涙・心停止になったとしてもスルーしろって

 

105:名無しの定期購読者

そうだった

 

106:名無しの定期購読者

ネキの要望通り次行くか

 

107:名無しの定期購読者

テイオー様の御成!!

108:イッチ

構成はルドルフと同じですね。『絶対は存在しない 復活の帝王トウカイテイオー』

 

109:名無しの定期購読者

『皇帝を超える伝説に刮目せよ』

 

110:名無しの定期購読者

テイオーは途中まではルドルフと同じ道を辿ろうとしていたけど骨折で振り回されて感じだよな

 

111:名無しの定期購読者

テイオーステップ、彼の最大の武器にして諸刃の剣

 

112:名無しの定期購読者

普通の馬なら故障一直線の動きを普通にできる傑物

 

113:名無しの定期購読者

テイオーだから耐えられていたようなものだし、むしろ『三回』の骨折で済んだことが奇跡のようなもの

 

114:名無しの定期購読者

というか有馬の復活がクローズアップされるけど、ダービーから大阪杯までもおよそ11ヶ月、つまり約一年の休養明けでの完勝も十分すごいんだけどな…

 

115:名無しの定期購読者

あ〜あのレースね

 

116:名無しの定期購読者

実況の杉元さんが『前の二頭はもうどうでもいい』って言っちゃったやつw…

 

117:名無しの定期購読者

あのあと怒られたらしいけどなw

 

118:名無しの定期購読者

その次がターフの名優メジロマックイーンとの対決となった『天皇賞・春』

 

119:名無しの定期購読者

マックイーンは連覇をテイオーが無敗を賭けて勝負した一世一代の大勝負

 

120:名無しの定期購読者

丘部騎手がテイオーのことを『地の果てまで走りそう』って言ったら竹騎手が『あっちが地の果てまでならこっちは天まで昇りますよ』って返したのが印象的だよな

 

121:名無しの定期購読者

無敗を貫く帝王VS連覇を望む名優

 

122:名無しの定期購読者

あの時は本当にどっちが勝つのかわかんなかった

 

123:名無しの定期購読者

テイオーもマックイーンも前走では快勝だったし、どっちかが負けるとは考えられない

 

124:名無しの定期購読者

でもマックイーンが1着、テイオーは5着

 

125:一文無し

まあ、テイオーは今までダービーの2400までしか経験なかったし、京都も一年と三ヶ月ぶりだったし…

 

126:名無しの定期購読者

素人意見だけど見誤ったみたいな?

 

127:名無しの定期購読者

運営はテイオーは走りきれると考えたから出たけどな

 

128:名無しの定期購読者

初の長距離で長期休養明けてそこまで時間経ってないのに掲示板入りしているから普通にやばいんだけどな

 

129:イッチ

血統を考えればテイオーは間違いなく長距離の適正を持っていました。負けてはしまいましたが天皇賞は間違いなくテイオーの糧になったと思いますよ

 

130:名無しの定期購読者

けど剥離骨折しちゃって春のシーズン再び休養に使ったんだよね

 

131:名無しの定期購読者

テイオーは骨折がつきものみたいなところがあったからな〜

 

132:名無しの定期購読者

天皇賞・秋でもバカ逃げコンビの殺人的ハイペースで掲示板外になって…

 

133:名無しの定期購読者

いやあれはあの二頭がおかしい

 

134:五徹

普通の馬でも付いていけない

 

135:名無しの定期購読者

結局その二頭も最終的には垂れたし…

 

136:名無しの定期購読者

でもジャパンカップで堂々の復活!

 

137:名無しの定期購読者

ルドルフとの親子制覇!

 

138:名無しの定期購読者

あの時はレース運びはテイオーらしいやり方だった

 

139:名無しの定期購読者

丘部騎手が珍しくガッツポーズしていたよな

 

140:名無しの定期購読者

あの時は有馬もそのまま!って思ったんだけど…

 

141:名無しの定期購読者

まさかまさかの11着…

 

142:名無しの定期購読者

二桁順位に入っちゃうなんて何があったの?

 

143:名無しの定期購読者

完全に調子が悪かったんだな…

 

144:名無しの定期購読者

あとバカ逃げコンビ

 

145:名無しの定期購読者

もうそいつらはいいから…

 

146:名無しの定期購読者

テイオーが負ける時っていつもメジロが関わってんな…

 

147:名無しの定期購読者

天皇賞・春秋と有馬…確かにマックイーンとパーマーに負けたり、原因の一端だな…

 

148:五徹

有馬の後は怪我や骨折で一年間を棒にふった。この時に種牡馬入りの話もあったらしい。

 

149:名無しの定期購読者

>>148

えっ五徹ニキそれマジ?

 

150:名無しの定期購読者

俺も初耳

 

151:五徹

マジ、確かな情報筋からだから信憑性が高い

 

152:名無しの定期購読者

それじゃあもしもその時に引退していたら…

 

153:名無しの定期購読者

下手したらミカドが生まれてこなかった可能性もある?

 

154:名無しの定期購読者

可能性はあるな

 

155:名無しの定期購読者

もしかしたら種牡馬そのものも引退していたまである

 

156:名無しの定期購読者

こっわ!?

 

157:名無しの定期購読者

有馬に出ていなかったらマジで歴史が完全に別物になっていた可能性があるって…

 

158:名無しの定期購読者

あの有馬があったからこそ、テイオーは伝説となり皇帝の背を追い越せたんだ。

 

159:名無しの定期購読者

ビワハヤヒデ、ウイニングチケット、レガシーワールド、メジロパーマー、ライスシャワー、ベガ、エルウェーウィンというG1馬。G1未勝利馬でもナイスネイチャ、マチカネタンホイザ、ホワイトストーン…化けモンばっか…

 

160:名無しの定期購読者

G1馬が8頭も出走するという…しかもこれ以降のレースを含めるとほとんどがG1を複数回勝利している馬だ

 

161:名無しの定期購読者

去年の有馬に出走した馬でG1勝利した馬は?

 

162:名無しの定期購読者

7頭だな。その内複数回買っているのは三頭

 

163:名無しの定期購読者

去年もなかなか多いけどやっぱあん時のメンツがどれだけやばかったかわかる気がする。

 

164:名無しの定期購読者

テイオーは4番人気だったけど結構期待はされていたんだな

 

165:名無しの定期購読者

どっちかっていうと応援馬券が多かったんじゃないか?

 

166:名無しの定期購読者

あのレースはビワハヤヒデ一強みたいな感じだったからそれ以外は割とばらけた感じ?

 

167:名無しの定期購読者

当時の1番人気の単勝は3.0、2番人気は4.9、3番人気は5.4。

 

168:名無しの定期購読者

そこまでハヤヒデに偏ってはいないな

 

169:五徹

だがビワハヤヒデはまさにあの時どの馬たちに比べモノにならない雰囲気を出していた。

 

170:名無しの定期購読者

実際、最終コーナーと直線で抜け出してきたからな

 

171:名無しの定期購読者

けどテイオー はそれに食らいついた

 

172:名無しの定期購読者

必死に脚を動かして前に前に出ようとしてな

 

173:名無しの定期購読者

そんで最後の最後にビワハヤヒデをかわして勝利!

 

174:名無しの定期購読者

トウカイテイオー、奇跡の復活!

 

175:名無しの定期購読者

約1年ぶりのレースで大敗からの大勝利っていうオグリキャップのラストランレベルで伝説のレースを作ってしまったテイオー

 

176:名無しの定期購読者

涙無しでは語れない

 

177:名無しの定期購読者

実際に泣いた

 

178:名無しの定期購読者

俺も

 

179:名無しの定期購読者

俺も

 

180:五徹

私も

 

181:イッチ

僕も

 

182:名無しの定期購読者

ワイも

 

183:名無しの定期購読者

自分も

 

184:一文無し

私も

 

185:名無しの定期購読者

テイオー伝説の最後であり、父を超えた一戦だったな

 

186:名無しの定期購読者

さあそれではいよいよお待ちかね!

 

187:名無しの定期購読者

我らが最強の帝、ノゾミミカドの番だ!!

 

188:名無しの定期購読者

『逆境を乗り越え、全てを覆した帝 ノゾミミカド』

 

189:名無しの定期購読者

『絶対を決めるのは自分だ』

 

190:名無しの定期購読者

今一番ホットな馬筆頭

 

191:名無しの定期購読者

俺らの押し馬

 

192:名無しの定期購読者

イケメン馬

 

193:名無しの定期購読者

最強の馬

 

194:名無しの定期購読者

さっきから語彙力死んでる奴らしかこない

 

195:名無しの定期購読者

放っとけ

 

196:名無しの定期購読者

現在の成績は11戦10勝の好成績

 

197:名無しの定期購読者

しかも10勝中7勝はGⅠ、1勝がGⅡという

 

198:名無しの定期購読者

GⅠ勝利でいうなら史上七頭目の三冠馬であり三頭目の無敗の三冠馬

 

199:名無しの定期購読者

加えて日本三冠馬による初の海外GⅠ勝利

 

200:名無しの定期購読者

鞍上の福長ジョッキーにダービー&三冠ジョッキーの称号を与えた馬。

 

201:名無しの定期購読者

調教師の松戸氏も調教師として初のクラシック三冠制覇だ

 

202:名無しの定期購読者

ごめんもうお腹いっぱいです…

 

203:名無しの定期購読者

胃もたれしそう…

 

204:名無しの定期購読者

改めて見るとやべーな

 

205:名無しの定期購読者

いやそれ皇帝一族みんなに言えること…

 

206:名無しの定期購読者

というかこの三頭に言えること…

 

207:五徹

ノゾミミカドは初戦からレコード勝ちをして、朝日杯では後のライバルセイウンワンダーとの一騎打ちにてまたレコード。さらに皐月賞、ダービー、菊花賞を無敗で勝利しその内二つはレコード。有馬記念ではドリジャと同着。そしてドバイで勝利…

 

208:206

訂正、やっぱこいつが一番おかしい

 

209:名無しの定期購読者

ルドルフとテイオーもここまでやばくなかった

 

210:名無しの定期購読者

当時からしたらヤバイんだけど

 

211:名無しの定期購読者

ミカドは今までのテイオー産駒の鬱憤を吹き飛ばす勢いで活躍したからな…

 

212:一文無し

菊花賞は故障のせいで勝てないだろうと言われたけどしっかり差をつけて勝っているからね

 

213:イッチ

だからこそ宝塚で負けてしまったことが衝撃的でしたんですがね

 

214:名無しの定期購読者

ああ…

 

215:名無しの定期購読者

あれはマジで驚いた

 

216:名無しの定期購読者

セイウンワンダーがまさかラスト100あるかないかくらいでミカドを抜いたとき、えっ!?って思った

 

217:名無しの定期購読者

ゴールしてからしばらくしてミカド呆然としていたな

 

218:名無しの定期購読者

ミカドは賢い馬筆頭だし、解っていたんじゃないかな。負けたってことが

 

219:名無しの定期購読者

おい、福長ジョッキー曰く、ミカドは地下馬道に入る時に泣いていたって書いてあるぞ

 

220:名無しの定期購読者

それだけ悔しかったのか…

 

221:名無しの定期購読者

確かにミカドって割とすぐに戻っていったよな

 

222:五徹

誰にも自分が泣いているところを見られたくなかったんだろう。絶対に勝てると思っていた矢先に競い合っていたライバルに一歩先を行かれたことが悔しくて、自分が情けなく感じてしまったんだろうな

 

223:名無しの定期購読者

調子崩しちゃうくらいに…

 

224:名無しの定期購読者

ミカドが凱旋門賞に出るところを見たかった

 

225:名無しの定期購読者

ミカドが出れば日本の悲願も…

 

226:名無しの定期購読者

たらればの話は競馬ではご法度だぞ

 

227:名無しの定期購読者

いやでも途中から調子戻す可能性あるじゃん。早めに決めすぎじゃ…

 

228:名無しの定期購読者

そこまでにしときなさい。

 

229:一文無し

調子崩している馬を遠いフランスに送って何かあったら貴様は責任取れるのか?

 

230:一文無し

故障を起こして競走馬引退、最悪予後不良だってあるんだぞ?

 

231:一文無し

無責任な発言は控えろよ?

 

232:名無しの定期購読者

ネキの怒涛のラッシュ

 

233:名無しの定期購読者

文字越しからでもわかる。ありゃあマジ切れだ

 

234:227

すみませんでした

(_;´꒳`;):_

 

235:名無しの定期購読者

即行で謝りに行ったな

 

236:名無しの定期購読者

ネキこわ

 

237:名無しの定期購読者

そういえばあの人フィジカルお化けのイッチをのしたことあったよな…

 

238:名無しの定期購読者

 

239:名無しの定期購読者

 

240:名無しの定期購読者

 

241:名無しの定期購読者

 

242:イッチ

多分常人が彼女の攻撃をくらえば間違いなくこの世とお別れして三途の川行きですね

 

243:227

0(:3 )~

 

244:名無しの定期購読者

あっ死んだ

 

245:名無しの定期購読者

(-∧-)合掌・・・

 

246:五徹

あ〜取り敢えず話を戻して、牧場に戻ってからは少し荒れていたようだがテイオーやルドルフと出会ってからは少し落ち着いているらしいな

 

247:名無しの定期購読者

テイオーはどうやら柵を飛び越えてきたらしい

 

248:名無しの定期購読者

結構年取っているはずなのにすげー

 

249:名無しの定期購読者

調子に乗って二回柵を超えたらしい

 

250:名無しの定期購読者

牝馬のエリアに入っちゃったってあるけど…

 

251:名無しの定期購読者

ヤバイじゃん

 

252:名無しの定期購読者

いや待て

 

253:名無しの定期購読者

牝馬のエリアってことは

 

254:五徹

ルイシエルだな…

 

255:名無しの定期購読者

案の定、メタクソに怒られたらしい

 

256:名無しの定期購読者

さすが最強のママ

 

257:名無しの定期購読者

不屈のテイオーを返り討ち

 

258:名無しの定期購読者

シエルママに勝てる馬北村牧場にいんの?

 

259:名無しの定期購読者

多分暫定ルドルフくらい

 

260:名無しの定期購読者

ほんとなんで競走馬時代勝てなかったんだろう?

 

261:名無しの定期購読者

加速

 

262:名無しの定期購読者

スタミナ

 

263:名無しの定期購読者

時代

 

264:新人

やっと手に入れた…

 

265:名無しの定期購読者

あっ新人ニキ帰ってきた!

 

266:名無しの定期購読者

おかえり

 

267:名無しの定期購読者

買えたんだな!

 

268:新人

あっいや買ったんじゃなくてもらったんです。前に会ったおじさんに

 

269:名無しの定期購読者

 

270:名無しの定期購読者

ちょっと待て

 

271:名無しの定期購読者

また会ったの?

 

272:新人

いや〜もう一冊あるからって譲ってもらえたんですよ。ラッキー

 

273:五徹

新人君、雑誌のルドルフのページ開いて騎手の写真見て

 

274:イッチ

僕らが驚いている理由がそれで分かります

 

275:一文無し

君どれだけ幸運かがわかるよ

 

276:名無しの定期購読者

ほんとそれ

 

277:名無しの定期購読者

なんで新人ニキって運がいいんだ

 

278:新人

あのすみません。なんでさっきのおじさんが載っているんですか?

 

279:五徹

その人が昭和を代表するレジェンドジョッキー『丘部幸雄』さんだから

 

280:新人

 

 

281:名無しの定期購読者

多分これ驚きすぎて固まったね

 

282:名無しの定期購読者

と言うか前回もそうだけど気付いてなかったんだ…

 

 



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人々の反応/フォトの当たりは…

コネクト特別号の付録、『三帝の軌跡』と言うスペシャルフォトカード。
一雑誌に付き2枚入っており、三頭の写真の他ジョッキーたちとのショットが全30種(うちシークレット2枚)とかなり豪華な仕様になっている。
今回はそれを手に入れた本小説の人間側登場人物たちの反応を見てみてください。

それではどうぞ。


五徹こと森仁志の場合

 

 

五徹ニキこと森は自宅の自室で付録閉じと向き合っていた。

 

「さて、何が入っているか…いざ!」

 

【シンボリルドルフのダービー最終直線のフォト】

【トウカイテイオーと保田元騎手とのツーショットのフォト】

 

「おお!こういうのか!ルドルフのはレースの写真でテイオーのは最近撮られたものだな…いやぁ〜いい買い物をした…」

「そんないい買い物をした貴方に聞きたいことがあるんだけど?」

 

興奮していた森の顔が後ろから聞こえた声で固まる。ゆっくり後ろを振り返ると…

 

「あ・な・た、『これ』は一体なんなのかしら?」

 

笑顔だが目は全く笑っていない彼の妻『森みどり』が中身が入ったダンボールを持って(片手で)立っていた。

因みに中身はコネクト特別号(再販)20冊ほど

 

「え…え〜っとそ、それは…」

「言ったわよね?節度を守っていれば貴方の趣味には何も言わないって…」

「でも…」

 

 

「いくらなんでも買いすぎばい!!!ちょっとは加減せれ!!!」

 

 

「すみませんでした!!!」

 

森みどりは福岡出身で普段は標準語だがキレると方言が出る。

 

この後、森はお小遣いを減らされて秋まで競馬を制限された。

 

 


 

 

イッチこと藤上良と一文無しこと麻生奏の場合

 

 

奏の家で向き合って開封をしようとしていた二人。

 

「リョウくん、一緒に開けるよ?」

「分かりましたでは…」

 

「「セーのっ!」」

 

良のフォト

【ノゾミミカドの皐月賞最終直線時のフォト】

【シンボリルドルフと丘部元騎手のツーショットフォト】

 

奏のフォト

【トウカイテイオーのダービー勝利時のフォト】

【トウカイテイオーとノゾミミカドのツーショットフォト】

 

「いよっしゃあ!!ツーショフォトゲット!!」

「こっちも相棒同士のフォトゲットです」

「えぇ〜!?いいなぁ〜。見せて見せて!!」

「あの奏さん、そんなに身を乗り出すと……!?」

 

ドサッ

 

「………」

「………」

 

バランスを崩して奏が良に抱きついているような状態になって固まっている二人。

 

 

「////◎△$♪×¥●&%#?!?////」←顔を真っ赤にした奏の声にならない悲鳴

「ちょっ!?奏さん、落ち着い……」

 

この後、気が動転している奏のビンタが良を襲った。

 

 


 

 

新人君こと常盤明の場合

 

 

「……もらったものだけど…まあ、せっかくだし…」

 

とんでもない人物から受け取ってしまった雑誌に色々と思うところがありつつも開封。

 

【三帝とそれぞれの騎手が写っている集合フォト:シークレット】

【ノゾミミカドの有馬記念制覇時のドリームジャーニーとのフォト】

 

「おっすっご…なんかこれだけ凄いキラキラしている…もしかして超レア?」

 

*因みにシークレットの排出率は0.1%未満

 

「取り敢えず、みんなに自慢しよ…」

 

この後、いつメンのグループで見せたら発狂のコメントや呪詛みたいなものが帰ってきた。

 

 


 

 

観客の沢渡翔一&倉持一真の場合

 

 

自分たちが経営する店で開封していた。(定休日)

 

「恨みっこなしだからな?」

「シークレットなんてそうそう出ないだろうがわかった」

 

翔一

【シンボリルドルフの有馬記念最終直線のフォト】

【ノゾミミカドと福長雄一騎手とのツーショットフォト】

 

一真

【トウカイテイオーとシンボリルドルフとのツーショット】

【トウカイテイオーのジャパンCの最終直線のフォト】

 

「あっお前そのルドルフとテイオーのツーショずりぃぞ!!」

「お前こそ福長騎手とのやつ当ててんじゃねぇか!」

 

ギャーギャー

 

「さて、しばくか…」

 

この後めちゃくちゃしばかれた。

 

「たく、こんなのそんなにいいのかな?」

 

【三帝が並んで写っているフォト】

【シンボリルドルフの菊花賞勝利時フォト】

 


 

 

ミカドの厩務員仲田真司&ミカドの調教師松戸博の場合

 

 

「う〜ん……」

 

【トウカイテイオーの有馬記念最終直線のフォト】

【シンボリルドルフのジャパンC最終直線のフォト】

 

「ミカド当たんなかったぁ〜!!」

「うるせぇえぞ真司。静かにしろ」

「だってミカドの厩務員なのに肝心の帝が当たんなかったんですよ!?虚しくないですか?」

「そんなもん運だろ…いいからさっさと仕事に戻れ」

「そう言う松戸さんはどうだったんですか?」

「俺か?ほらよ」

 

【ノゾミミカドとシンボリルドルフのツーショット】

【ノゾミミカドのダービー最終直線のフォト】

 

「……当たってんじゃないですか!?しかも二枚とも!?」

「言っただろ、運だって…」

「その余裕の表情なんですか!?」

 

この後、真司はぶつくさいいながら仕事に戻った。

 

 


 

 

北山牧場厩務員三山卓也&宮前俊の場合

 

 

卓也がいつも通り出勤するとそこにはこの世全てに絶望したかのような顔をした俊が机にうなだれていた。

 

「……………」

 

「あの、俊のやつどうしたんですか?なんかこの世の終わりみたいな顔しているんですけど…」

「ああ…これが原因だ」

 

【トウカイテイオーのダービー最終直線フォト】

【ノゾミミカドの菊花賞最終直線のフォト】

 

「ああ〜…当たんなかったんだな、ルドルフの」

 

「グッハッ!!」←何気ない一言により大ダメージを喰らった俊

 

「……俊、この二枚と交換するか?」

「……えっ…………!?」

 

【シンボリルドルフのダービー勝利時フォト】

【シンボリルドルフの有馬記念勝利時フォト】

 

「…………貴方が神か?」

「待ってどうした急におい拝むな礼拝みたいなことすんな!?」

 

しばらくの間、讃えられた。

 

 


 

 

ミカドの獣医の場合

 

 

自宅にて雑誌の内容を確認していた。

 

「なかなか手に入んなかったが再販は割と早く出たな。」

「ふむ、中身もいい。よく調べているし、テイオーの骨折についても細かく載せているな。いい記者みたいだな。割と専門的なことも書いてあるが読みやすい。」

「さて、おまけ要素のカードも見てみるか。どれどれ…」

 

【トウカイテイオーの有馬記念勝利時のフォト】

【ノゾミミカドのドバイSCの勝利時フォト】

 

「……この二頭の写真か…ルドルフではなく重要な時期に骨折をした君たちの写真を私が当てるとは…」

 

額縁に入れて保存した。

 

 


 

 

ミカドの馬主駒沢望の場合

 

 

自宅にて、コネクトから貰った特別号を見ていたがフォトカードが入った袋とじを見つけた。

 

「折角だし、僕も確認してみるか」

 

昔はよくガチャガチャとかで楽しんでいたな、と呟きながら中身を確認する。

 

【シンボリルドルフのジャパンC勝利時のフォト】

【トウカイテイオーの皐月賞勝利時のフォト】

 

「ミカドは当たらなかったか…だがこういうのも醍醐味なのがいい」

 

少し残念そうにしたが当たったフォトはそれはそれで喜んだ。

 

 


 

 

北山牧場の北山湊の場合

 

 

「か、買っちゃった…しかも2冊…」

 

偶然、コンビニで残り2冊となっていた週間コネクト特別号を衝動買いし、帰宅後猛スピードで部屋に入り込んだ湊。

 

「た、確かフォトがランダムに入っていてシークレットもあるとか…」

 

雑誌の内容も気にはなったが一番気にしていたフォトカードへと手を伸ばす。

 

「い、いざ開張!!」

 

【トウカイテイオーのジャパンC勝利時フォト】

【シンボリルドルフの皐月賞勝利時フォト】

【ノゾミミカドの菊花賞勝利時フォト】

【三帝とそれぞれの騎手が勝負服を着て乗っているフォト:シークレット】

 

「えっ、えと……これって、シー…クレット…?」

 

「〜〜っ!!!!////」←嬉しさのあまりベットに顔を埋めて悶えている。

 

「………えへへ…//」

 

夕飯の時間になってもこないので様子を見にきた父が来るまでずっとにやけていた。

 

湊ははしばらく父に塩対応になった。

 

 




今回は短めなので早めに投稿できました。

次回も楽しみにしていてください!

次回、『秋』に突入します。


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帝の復帰/秋の盾 天皇賞・秋(GⅠ)

えー約四ヶ月ぶりの投稿です。

今回こんなに空いたのはマジで忙しすぎて着手できなかったんです…


父さんとの出会い、そして走る原点を思い出した。

 

前みたいに走れるかはわからない。

 

でも、前に進まなくてはいけない。

 

俺の目標のために…俺を信じてくれているみんなのために…

 

 


 

 

松戸厩舎 室内

 

 

「ミカドが戻ってきて数日経ちましたけどいつものミカドに戻りましたね!」

「この間まであった動きの悪さがなくなっている。テイオーたちとの交流がプラスに働いたか…だが油断はできん。取り除けたとしても僅かに残った石ころ一つに足を取られればまた逆戻りの可能性もある」

 

松戸厩舎に戻ってきたミカドの様子を見て、二人は一先ず安堵の表情を浮かべたが、まだ完全に安心はできない。再び何かの拍子で逆戻りの可能性もあるのでこれからも細心の注意を払わなくてはいけないのだから。

 

「だからこそあのレースに出る。ミカドがこの先に進めるかを見極めるためにな」

「じゃあ次走は…」

「おう。『天皇賞』を取りに行くぞ」

 

秋古馬三冠の最初の一角であり、前身のレースを含めると100年以上の歴史を誇る伝統的なレース…

 

それが『天皇賞・秋』

 

「ルドルフとテイオー、どちらも辛酸を舐めたレースだ。宝塚で勝ったセイウンワンダーも出る。リベンジマッチだ、勝ちに行くぞ!」

「はい!」

 

真司は部屋を勢いよく出ていく。一人残った松戸は難しい顔をしていた。

 

(さっきは逆戻りするかいつものに戻るかと言ったが、俺はこのレースでミカドは全く違う(・・・・)方向に行くと考えている…)

 

今のミカドはこの数週間、父と祖父から新しいものを手にしたように見える。そしてそれを吸収し、自分のものにしようとしている。もしも完全に物にすることが出来れば、今までの殻を破って新しいミカドに生まれ変わるだろう。

 

(だがミカドをその段階に進ませるためには俺らや雄一だけで出来るのか…本番ではミカドは今まで雄一しか乗せたことがない。本来であれば一頭の馬に同じ騎手しかつかないなんてことは…あるにはあるが少ない…アイツだからこそ乗りこなせていたとも言えるが…ミカドが殻を破った時、雄一でも乗りこなせるか…)

 

松戸は一抹の不安を抱えながらも時間は淡々と過ぎていった…

 

 


 

 

天皇賞・秋

誉高き伝統の祭典

秋の古馬戦の始まりを告げる最高峰のレースに挑む強者たち

メジロの歴史を築いた逆襲の天皇賞馬

メジロアサマ

皇帝を失墜させた驚愕怒涛の革命馬

ギャロップダイナ

時代の常識を破壊した小さくも轟く巨大な稲妻

タマモクロス

最高のメンバーが集う中で勝利を掴んだガム噛み男

バブルガムフェロー

天覧競馬の最敬礼は天にも愛されたものと共に

ヘヴンリーロマンス

世代の垣根を越えて最高の栄誉を掴み取れ

 

 


 

 

東京競馬場

 

天皇賞・秋

枠番馬番馬名性齢人気
ショウワダモン牡614
ブエナビスタ牝4
ジャガーメイル牡6
エイシンアポロン牡3
セイウンワンダー牡4
スマイルジャック牡515
ペルーサ牡3
シルポート牡516
トウショウシロッコ牝718
10シンゲン牡7
11アクシオン牡712
12アーネストリー牡5
13ヤマニンキングリー牡517
14ネヴァプション牡713
15スーパーホーネット牡710
16キャプテントゥーレ牡511
17ノゾミミカド牡4
18アゼリオ牡3

 

 

「調子が上がってきているブエナビスタにGⅠ勝利で絶好調のセイウンワンダー、話題が色々尽きないノゾミミカド…またこの三頭が揃い踏みか…」

「この世代って凄いよな…この間の凱旋門賞でもナカヤマフェスタが出走して2着に入っているし…」

 

観客の翔一と一真はいつものように競馬場で観戦しにきていた。

 

「ノゾミミカドは3番人気。宝塚記念とその後の不調でもう少し順位が下がると思ったが、コネクト特別号ので調子を戻したことが広まったせいかそこまで人気は下がんなかったか…」

「オッズはブエナビスタが2倍だけどミカドは4.4倍か…菊花賞よりはマシだけどそれでも下がっているな…」

「それでも不調の話がでただけでこの人気はさすがだよ……にしても他のみんなは来れなくて残念だなぁ」

「仕方ねぇよ。森さん(五徹)はなんかやらかして競馬をしづらくなっているらしいし、麻生さん(一文無し)と藤上さん(イッチ)は緊急のトラブルで休日出勤…常盤くん(新人)は課題が多すぎて行けなくなったみたいだし…」

 

今回コテハン勢は(約1名を除いて)火急の用事で不参加。ここ最近は大人数で観戦していたので少し寂しさを感じる。

 

「取り敢えずあの人たちの分まで俺らがミカドたちのことをしっかり応援してやろうぜ」

「だな」

「お〜い、翔一、一真〜!」

 

不意に二人を呼ぶ声が聞こえ、同時に後ろを振り返る。

 

「二人して何私のこと置いて行ってんだこの野郎!!」

 

振り返った瞬間二人の顔面に飛んできたのは強烈なキックだった。

 

「ぐらんどっ!?」「ばっくる!?」

 

謎の奇声を上げて吹き飛ばされた二人。鼻を押さえながら体を起こそうとすると二人の前に仁王立ちで現れたのはキックをした張本人。

 

「こんなところで女の私を一人だけにしてほっとくなんてあんたら何考えてんの!?」

 

彼女の名は『加野巧』(かのたくみ)。翔一と一真が経営しているレストラン『ACE of GRAND』のウエイトレス兼影のボス的な存在。

 

「いやだってお前競馬博物館から全然出ようとしないし俺ら一応声かけたからな…」

「それでも初めて来た人がいる中でそいつだけを置いて行くのは非常識でしょうが!あんたらが出てすぐ目の前にいたから見つけられたけど、もし観客席の方に行っていたら私見つけられないからね!」

 

怒り心頭で顔を真っ赤にしている巧。一真は狼狽るが翔一が動く。

 

「巧」

「何!?」

「俺らなんてお前に声掛けたか覚えているか?」

「……なんか言っていたのは覚えてる」

「つまり覚えていないと…俺らは『少し外の空気吸ってくるからエントランスで待っていろ』って言ったんだけど…」

「・・・・・えっ?」

「つまり俺らここから動いていない」

「………」

「確かにお前を置いて行ったのは悪かったと今考えたら思うよ。それはすまん。でもこの仕打ちはなく無い?」

「………思いっきり蹴ってすみませんでした…」

 

 

互いに悪かったということでこの後一緒に蕎麦を食べた。

 

 


 

 

パドック

 

 

「ミカド…落ち着いているな…」

 

『真司さんそんな心配そうな顔しないでくださいって。俺はもう元気ですから』

 

パドックで久しぶりに引かれる俺はいつも以上に気合を入れていた。

久しぶりのレースであるのは勿論、宝塚の時のような不甲斐無い姿を見せないようにするために…

 

『爺ちゃんや父さんが負けたこのレース…今度こそ俺が勝つ……!』

 

 

『3番人気、ノゾミミカド。気合がかなり入っているように見えます。』

『前走の敗戦以来、調子を崩したようですが完全に回復しているように見えます。祖父と父が獲れなかったこの天皇賞・秋で復活するか必見です』

 

 

『ふふ…そうそう、ミカドはこうでなくっちゃ。みんなが注目する強くてカッコいいのがミカドだもんね♪』

『……あの、ブエナビスタ。止まっていないで前に進んでください。迷惑です。』

『ちょっと黙っててくれる?今のミカドの精神統一の姿を目に焼き付けている途中だから』

『さっさと進め馬鹿毛』

 

 

『1番人気のブエナビスタと2番人気のセイウンワンダーが威嚇し合ってますね…』

『有馬記念から続く黄金世代の後継者たち、このライバルたちの一線も見ものです』

 

 

……俺が気合入れている間になんであの二頭は喧嘩し出すのかな…?

 

「うわぁ…ミカド、絶対にあの二頭が同時にいる時は近づくなよ?」

 

『俺もできればそうしたいです…』

 

多分無理だと思うけど…

 

 


 

 

『東京11レース芝2000GⅠ、第142回天皇賞・秋。薄暗くなってきた曇り空の下、18頭が争います。それでは出走馬をご紹介しましょう』

『…本日の一番人気最強の女王、1枠2番ブエナビスタ、馬体重−4で456。鞍上はC.スミロン56kg』

『…宝塚記念でその強さを証明し秋の盾を狙う、3枠5番セイウンワンダー、馬体重は−2で518。鞍上は富士田真二58kg』

 

雄一さんを乗せてコースへと向かうため地下馬道を通る。出口から地上に出ると季節のせいか少し薄暗くなった曇り空と何十万もいるだろう人たちが目に入った。

 

 

『宝塚記念の雪辱を晴らし三冠馬復活なるか?8枠17番ノゾミミカド、馬体重増減無し490。鞍上は福長雄一56kg』

 

 

俺の名前をアナウンサーの人が言った瞬間大きな拍手と歓声が沸いた。

 

『うおっ…』

「おっと、落ち着けミカド。久しぶりで少しビビったか?」

『違いますよ』

 

実は少しだけ驚いたけど…

だってなんか宝塚より人いるように見えるし、久しぶりだし…

まあこの光景を目にしてようやくレースが出来るんだって思うと身が引き締まる。後は問題が起きないようにアップして…

 

『あっやっとミカド来たぁ!もうこの青毛とずっと一緒にいたからうんざりしていたところなんだよ〜』

『それはこちらのセリフです…』

 

はい来ました問題を起こすフラグの塊が…

 

『ブエナ…あんまり興奮しすぎるとレースに響くぞ。少しは落ち着けって…』

『え〜!?でもでもあんなに落ち込んでいて変に静かになっちゃったミカドが元に戻るどころかなんか前よりいい感じになっているんだよ!?こんなのワクワクしないわけないじゃん!!』

『さっきからこのテンションで近くにいるんです…はっきり言ってもう結構限界です…』

『ワンダーマジでごめん。うちのおてんばお姫様が迷惑かけて…』

 

レース始まる前からテンションの差が激しい二頭…だがどちらも前より身体が引き締まっていて闘気もかなり上がっている。

間違いなくこのレースで最も注意しなくちゃいけないのはこいつらだ。

 

『取り敢えず、ワンダー』

『うん?』

『このレースでお前に差をつけてゴールして、宝塚のリベンジさせてもらうぜ!』

『フッ…今回も僕が1着を貰いますよ?』

『ちょっとちょっと!私を忘れないでよ!今日勝つのは絶対、間違いなくワ・タ・シ!!』

 

レースが始まる前の雑談はここで切り上げ、各々の入るゲートに向かった。

 

共に走るライバルたち、応援してくれる人たち、俺を鍛えてくれた陣営のみんな、殆ど顔も知らないテイオー産駒たち、故郷で見守る牧場のみんな…

 

みんなの為、そして他ならない俺の為に…!

 

『このレース…俺が奪い獲る…!』

 

 


 

 

『……全頭ゲートに入りました。永栄を手にするのは三冠馬か?女王か?古馬か若馬か?第142回天皇賞・秋……』

 

 

ガッゴン!

 

 

『スタートしました!ペールサが僅かに出遅れたか?先行争いはやはりこの馬三冠馬ノゾミミカド。それをシルポートが追いかける。ブエナビスタは中団に構え、セイウンワンダーは後方に下がりました。向正面にこれから入ります。順に追っていきましょう。先頭を走るのは17番ノゾミミカド、一馬身後ろに8番ペルーサ、外から16番キャプテントゥーレ内には12番アーネストリーが1馬身後ろ。5番手には6番スマイルジャック。その後ろに2番ブエナビスタここにいます。外から13番ヤマニンキングリーが並んできた。外から14番ネヴァプション、内から4番エイシンアポロンが同時に上がっていき、10番シンゲンと3番ジャガーメイルがその後ろ。向正面に入ります。内から1番ショウワモダン、15番スーパーホーネットが外から詰める。5番セイウンワンダーはここで控え、7番ペルーサその後ろ、最後方11番アクシオン。こういった展開で進んでおります。』

 

 

 

「東京競馬場は日本の競馬場の中で直線が長いことで有名なコース。故に定石では差し・追い込みといった後方からレースを進める馬が有利だと言われている」

「どうした急に」

「天皇賞・秋は逃げが非常に不利だと言われており、過去のこの天皇賞で逃げで勝利した馬は1987年のニッポーテイオーと1991年のプレクラスニーしかいない。さらにノゾミミカドは東京はダービー以来約1年半振り、さらにその時はトラブルがあったとはいえ差しで走っていた。勝てる見込みが薄いとも言える」

「加えて今日の人気馬は中団から後方に構えているからさらに不利になるってことか…」

「いやあんたらなんで解説風に話してんの?」

 

観客席では翔一、一真、巧がレースの動向を見守っていた。

 

「それで?ノゾミミカドっていうのはあの一番前で走っている子?速いわね」

「あの馬は馬なり…要するにその馬の走るペースみたいなものが速いからな。ペースコントロールも上手いし、今回逃げで行ったのも何かあるんだろう」

「あとは一番人気と二番人気の同期二頭が後方にいる。そいつらとの差をなるべく広げておきたいってのもあるかも」

 

競馬談議で盛り上がる二人を尻目に巧はレースに集中する。

 

「……よく分かんないわね…」

 

競馬初心者の巧は2人の話についていくことがあまり出来てない。馬券を買うのも今回が初めてなのだから仕方ない。

 

「でも…」

 

「この熱気みたいなのは嫌いじゃないかも」

 

 


 

 

「よし、このペースのままでいくぞ。後ろは気にするなよ」

 

スタートから1000m通過までのミカドの走りに問題は無し。

後ろを気にする素振りもない。

 

(やっぱりあの二頭から何か吸収したなミカド…本番までどうなるか分からなかったが取り敢えずここまでは今までよりもいい走りをしている。問題があるとしたら……最終直線…)

 

この東京競馬場は直線が異常に長い。ミカドのペースやスタミナを考えるとどうしても直線の途中で差し・追込み馬たちに並ばれる。

 

だが俺たちはいつものミカドの走りを選んだ。

ルドルフとテイオーに出会ったことで、トレセンに戻ってきてから今までの不調かを感じさせない動きで調教を進めることができた。

 

そして今、テキ曰くミカドは『殻』を破ろうとしている。

 

(…もし、もしもミカドが殻を破ってその先に進んだとして…その時俺は…ミカドのことを支えられるのか…?)

 

 

『先頭を意気揚々と走るノゾミミカド。間も無く第三コーナーに入ります。』

 

 

(!ダメだ、今はレースに集中だ。コイツに不甲斐ない走りをさせないためにも…)

 

レースのことに頭を切り替え、俺は手綱を握る手に少し力を入れて前を見る。

大欅を通過するのを横目で見つつ、ミカドにいつもの指示を出すタイミングに備えた。

 

 


 

 

『欅を超えたっていうことはもう直ぐ第四コーナーが来るな。脚はまだいけるしスタミナも問題なし…いい感じに進められてんな』

 

ブエナとワンダーは後方でまだ脚を溜めているがアイツらが出てきたら一気に余裕がなくなる。特に府中は長い直線のせいで後方勢の方が有利なんだよなぁ…

おまけにブエナは府中での戦績は全勝中だ。アイツは父親と同様でここが得意っぽい感じだしなおのこと気をつけないといけない。

 

『まぁ、気にしていても仕方が無い。ただ突っ走るのみだ』

 

 

『先頭を走るノゾミミカド、第四コーナーに入り、2番手との差はおよそ三馬身。ブエナビスタとセイウンワンダーはまだ後方。』

 

 

四コーナーに入った!てことはもうそろそろだな…視界に「6」と書かれたハロン棒が入ってきた。

 

そしてそれを目にした瞬間…

 

「よしっ!行くぞ、ミカドっ!!」

 

雄一さんの鞭が走った。毎度同じみのギアチェンジ開始の合図だ!!

 

『よっしゃあ!!ぶちかましてやる!!』

 

芝がえぐれるぐらいの力を脚に込め、それを爆発させる。

 

ドンッ!!という音を残し、俺たちは加速し前に進む!

 

 

『ノゾミミカドがここで加速!!府中の長い直線でも早め後方を引き離す!!二番手にいたシルポートにも鞭が飛ぶが追いつけない!速い速い、四馬身、五馬身と差を広げていく!!不調という噂を掻き消す走りで先頭を行く!!後方からセイウンワンダーとブエナビスタが上がってきたが間に合うか!!?』

 

 

『やっぱり…強いな君は!!だが…!』

『私だって、負けられないんだぁ!!!』

 

ワンダーとブエナが馬群から抜け出して来た。高威力の末脚を俺より長い時間使い続けることができるアイツらは確かに脅威的だ。

 

『でも、俺も負けられねぇんだよ!!』

 

 

『先頭を行くノゾミミカド!二馬身後ろにセイウンワンダーとブエナビスタ!ゴールまであと200を切った!!逃げ切るか!?追いつくか!?』

 

 


 

 

私、ブエナビスタは今第三コーナーに入る黒鹿毛の馬を目で追っていた。

 

彼の名前はノゾミミカド。

 

私と同じ厩舎の同期で…私が一番大好きな馬で…超えたい目標でもある。

 

初めは知らないことをたくさん知っていて、人の言葉も解っているみたいで、すごいなって思っていた。けどなんかホワホワしていたり人にイタズラしたりであんまり速くなさそうって思った。

 

でも、初めて一緒に走ったとき、その考えは一瞬で粉々に砕かれた。

 

『シャァッ!行くぜ!』 ドンッ!!

『っ!?』

 

踏み込んだ脚は地面にめりこみ、僅かな減速も感じさせない超加速を目の前で魅せられた。

 

凄かったの一言しかでなかった。

 

それから私は彼に夢中になった。彼が勝つと私も嬉しかった。彼が落ち込むと私も悲しかった。な何故か彼が他の雌と話していると黒いものが内側から湧いて来たりもした。(これに関してはまだよく分かんない)

 

そして彼とレースをして彼が勝つと、私も嬉しかったけどモヤモヤした。それがなんなのかはすぐに解った。

 

”勝ちたい” ”負けて悔しい” ”もっと速くなりたい”

 

”あの走りに追いつきたい” ”あの背中を追い抜きたい” ”彼に勝ちたい!!”

 

『追いつきたい!!あの背中に!!』

 

未だ少し先を行くあの背に食らいつく。いづれ追いつくだろうがこのままでは間に合わない。

 

『ヤダヤダヤダっ!!絶対に追いつきたいのに!勝ちたいのに!!またなの…!?また追いつけないの!?』

 

青毛が彼に勝って、私はまだ勝ててない。ライバルは私のはずなのに、彼の一番は私が取りたいのに!

 

『なんでよ……追いつきたいよ……』

 

涙で前がよく見えない。遠くに見える背にまた先を行かれるのかと思った…

 

 

『アンブラスモア先頭だ、最内を突いたのがキングヘイロー、それからサイレントハンター、外を通ってエアジハード上がってくる エアジハード、それからステイゴールド、その外からはスペシャルウィークだ!』

 

 

『?』

 

その時、私の目には知らない馬たちが透けて私の前を走っていた。

 

 

『さぁセイウンスカイ、スペシャルウィーク!スペシャルウィーク、セイウンスカイ!スペシャルウィーク!スペシャルウィーク先頭に立った!』

 

 

『……スペシャル……ウィーク…?』

 

聞いたことがある名前だった。私の前を走る鹿毛の馬。額から一直線に伸びる白い流星を持つ馬。初めて見るのに初めてに感じない。

 

 

『スペシャルウィーク! そしてステイゴールド! スペシャルウィーク最後は先頭1着!』

 

 

外から周りを一気に追い抜いて突き離すその末脚。どこか私に通ずるものを感じられた。

 

『あの走り……っ、私も!!』

 

そうだまだ終わっていない。レースも私も終わっていない。私が憧れた彼も、そりが合わない青毛も、お父さんも!みんな最後まで諦めなかったから勝てたんだ!!なら弱音を言うなアタシ!!

 

お前は誰だ?

 

『アタシは…誰もが見惚れる……』

 

 

『絶景の女王だ!!!』

 

 


 

 

『直線勝負はノゾミミカドが先を行く!!セイウンワンダー追い縋るが届くか!?外からブエナビスタ!?ブエナビスタが加速する!どんどん差を縮めてあっという間に並……ばない!!』

 

 

残り100を切ったところでブエナが急に現れた。

 

『あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁ!!!』

 

けどそう思ったのも束の間、ブエナは俺を抜かして先頭に立った。

 

『なっ!?負けるかぁぁぁ!!!』

 

驚く俺にも目もくれず、ブエナは前を走る。荒々しく、けどどこか優美に駆ける。

 

 

『っ、でぇいやああぁぁぁぁ!!!』

 

「っ!?ミカド!?」

 

前は譲らないと俺は一心不乱に加速してブエナに追いつくこうとするが差は縮まれどゴールまで間に合わない。そして…

 

 

『ブエナビスタがゴールイン!!ノゾミミカドにクビ差で勝利を掴みました!!嘗て、父スペシャルウィークがこの天皇賞を制覇した時の再現とも言えるレース運び!!勝ち時計は1:57.1!!レコードタイムを記録しました!!帝下した二頭目の刺客は我々に絶景を見せつけた女王でした!!!』

 

 




ウマ娘も三周年になって色んな娘が追加されましたね。そのためウマ娘編の一部を描き直しました。そちらもご覧になってみてください。

それでは。


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ウマ娘編
帝の始まり/朝の一幕


今回は幕間でウマ娘編です。
有栖川琥珀さん、sugare 4539さん、学園最初さん、黒鷹商業組合さん、評価ありがとうございます!
お気に入り登録も250を超え300まであと少しです!
ありがとうございます!


ここは『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』、通称『トレセン学園』。

URAが運営する日本最高峰のウマ娘養成機関。多くのウマ娘たちが夢に向かって日々切磋琢磨をする場所である。

 

そしてここはウマ娘たちが住む二つある寮の一つ『栗東寮』。

その一室で…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コラぁぁぁぁぁあっ!!!!!!ブエナぁぁぁぁぁぁ!!!起きろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 

 

 

一人のウマ娘の怒号が響いていた……

 

トレセン学園廊下

 

静かに走ることは許されている廊下では騒がしく走るウマ娘と半分眠りながら走るウマ娘がいた。

 

「ブエナ!!あんたまた私の目覚まし一緒に止めたでしょ!!これでもう何回目!?100超えたあたりからもう数えてないわよあたしは!!」

「ええ〜、だってうるさかったんだも〜ん…私はもっと…寝て………た…いZZZZZZZZZZZ」

「走りながら寝るなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

先ほどから怒鳴り散らしているウマ娘は『ノゾミミカド』。無敵のウマ娘を目指す元気でお節介なウマ娘。そして寝そうになっているのは『ブエナビスタ』。スペシャルウィークに憧れを抱く少しマイペースなウマ娘である。

 

「とにかく、起きなさい!予鈴はもうなっているからあと少しで授業が始まるから!!ほら!」

「ZZZZZ…ふぁい…」

 

結果、授業には間に合ったが廊下での騒音により二人は反省文を書くことになった。

 

===

 

「全く、ブエナが目覚ましを止めなければこんなことにならなかったんだから」

「ええ〜ミカドが騒いだからでしょうぅ〜…むしろ私は被害者です〜」

 

昼休みのトレセン学園食堂にてミカドとブエナはお互いに今朝のことを愚痴りながら昼食をとっていた。

 

「いいや、間違いなくこれはブエナのせい!ブエナが目覚ましで起きれればこんなことには…」

「ミカドが悪い〜あんな大きな目覚ましを鳴らしてたら私の耳が壊れちゃいます〜あと騒音は全部ミカドの声です〜」

 

「おいおい、また痴話喧嘩か?」

「ホント仲良いねぇ、二人は」

 

そんな二人に近づいてきたのは『ナカヤマフェスタ』と『トーセンジョーダン』の二人。ミカドたちの同期でライバルたちである。

 

「ジョーダン聞いてぇ〜ミカドがいじめるぅ〜」

「ほら泣かない泣かない。もっとバイブス上げていっちゃおうよ〜!!」

「いえ〜い!!」

 

「フェスタ…貴女はわかってくれる?あのマイペースによる私の被害を…」

「ああ、今月に入って既に遅刻未遂を14回。ゴルシとの賭けであと6回やればあいつの勝ち。これ以上はやめてほしいな」

「そうでしょ……って待って。貴女何私たち使って賭け事やってんの。私の心配より自分の賭け事での勝敗の心配してたの!?」

「当たり前だ。ここで…ここで負けると564連敗になるんだ。なんとしてでも勝ちに行かなくては…」

「貴女どんだけ負けてたの!?あれ、そういえばロジは?」

「ああ、ロジならトレーナーに話があるらしいから今日は一緒に飯は食えないらしい」

 

ロジこと『ロジユニヴァース』は同じくミカドたちの同期であり、現在は不在である。

 

「ええ〜ロジちゃんも一緒がよかった」

「まあまあ、その代わり明日はトレーニングが休みだし、一緒にショッピングなんてどうよ?ウマスタでいい感じの店見つけてさ」

 

勝負事が好きなフェスタ。パリピのジョーダン。マイペースなブエナ。生真面目なミカド。そしてこの場にはいないロジ。この五人は常に一緒に行動する。

遊びもトレーニングもご飯も大体五人で行動する。そして毎回何かしらの事件に巻き込まれ被害を受ける。

 

「全く、取り敢えずフェスタもジョーダンもこっちきてさっさと食べよう?食堂の空きスペース、もうここしかないでしょ?」

「もちろんそのつもりだ」

「へっへやり〜!」

「ジョーダンちゃん、こっちどうぞ!」

 

ウマ娘ノゾミミカドのトレセンでの日常。それは一癖も二癖もある仲間たちと過ごす騒がしくも飽きのない日々である。

 

「あっミカド、午後の授業の課題やってないから見せて!」

「私も!」

「同じく」

「貴女たち、少しは自分でやる努力をしろ」

 




オリジナルウマ娘紹介
ノゾミミカド
本編の競走馬『ノゾミミカド』の魂を受け継いだウマ娘。競走馬であった頃の記憶は割と残っているが重要な部分はあんまり覚えていない。見た目はルドルフに近いがテイオーの幼さが混じった感じ。性格は真面目で几帳面だが何処か抜けてる。

ブエナビスタ
ミカドのルームメート。マイペースな性格でよくミカドに朝起こされる。見た目はウマ娘の初期案にあったブエナビスタと思われるウマ娘のまんま。


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帝の名を持つ者たち/皇と王との一幕

少し短いかも知れませんが、久々ウマ娘回です。

帝と帝王と皇帝のお話です。

ノゾミミカドの秘密①
実は幽霊やお化けが苦手

マークを受け続ける→マーク→視線→見えないもの→お化け類
みたいな感じで決めました。


トレセン学園生徒会室

 

「会長、この経費ですがここを削れば、出費を抑えることができますがいかが致しましょう?」

「ふむ、確かにそうだが…これではその分の質を落としてしまう。それはどうするのかな?」

「そういうと思い、こちらの方に変更すれば質を落とすことはないと思われます。もちろん他の方々の意見を聞きますが、最終的な判断は会長が決めることなので先にと…」

 

生徒会長席にて生徒会業務を行うのは『絶対なる皇帝』シンボリルドルフ。そしてその横で意見を出すのは『希望の帝』ノゾミミカド。この日は学園の経費の確認を行なっており、生徒会長であるルドルフと経理であるミカドが話し合っていた。本来であれば、副会長のエアグルーヴとナリタブライアンも手伝うのだが、エアグルーヴは花壇の花を全て造花に移し替えたゴールドシップを鬼の形相で捕獲しに向かい音信不通。ブライアンはあいも変わらずサボりで音信不通。その為、一ヶ月分の経費の確認を二人で行なっている真っ最中なのだ。

 

「分かった。他の二人には私が伝えておこう。寮長への確認は君がしてくれるか?」

「勿論です。……会長そろそろ休憩した方がよろしいかと…」

 

ルドルフはミカドが生徒会室に来る一時間も前から既に業務を始めていた。ミカドが来てから既に二時間、三時間はもうここをほとんど動いていない。

 

「心配いらないさ。君が来てくれてから大分楽になったから、まだまだ「カイチョー!!!」…この声は…」

 

生徒会室の扉が大きく開かれた。そしてそこに現れたのは…

 

「カイチョー!無敵のテイオー様が遊びに来たよ!」

 

『帝王』トウカイテイオーであった。彼女は生徒会メンバーにもないにも関わらず、よく生徒会室にこうやって遊びに来るのだ。

 

「やあ、テイオー。最近は忙しくてこちらからは中々会いに行けずに悪かったな」

「ホントだよ〜。ボクもう寂しくて寂しくてこうして会いに来たんだから!」

「テイオーさん、入る時はノックをして下さい」

「あっ、ミカド。居たんだ」

「最初からずっと会長の横にいましたけど!?」

 

ミカドの叫びを横に流し、テイオーはルドルフの方へと移動する。

 

「ねえねえ、カイチョー!今日近くの公園ではちみーの限定品が販売されているんだって!しかも二人で行けば割引だってよ!今から行こうよ〜!今行けばまだ全然間に合うしさ〜!」

「テイオー、今私たちは生徒会の仕事をしているんだ。その限定品はマックイーンかスピカのメンバー、トレーナーたちと一緒に行けば良いのではないか?」

 

ルドルフがそういうと、テイオーは「あ〜…」と目を逸らす。

 

「その、実は…」

 

===

 

「全員都合が悪い?」

 

ミカドがテイオーの言葉をそのまま返す。

 

「そう。マックイーンはトレーナーからスイーツ禁止令がでているし、ウオッカとスカーレットはいつも通りで声かけづらいし、スペちゃんとスズカは今日は買い物で居ないし、ゴールドシップはトレーナー拉致って行ったから誰も居ないんだよね〜」

 

他にもカノープスのメンバーやルームメートのマヤノトップガンを誘おうとしたが、タンホイザが石を踏んづけてサマーソルトキックの如く派手にすっ転びその石が壁にぶつかって跳ね返り顔面に直撃する怪我をしてカノープスはその対応に追われ、マヤノもマーベラスサンデーと共に何処かに行ってしまい行方知らずらしい。

 

「それは…」

「なんとも間が悪いというか…」

 

ミカドもルドルフもここまで外れを当てまくっているテイオーに同情する。しかしルドルフはこの大量の仕事を何とかしなくては行けないため自分は動けない。ミカドであれば自分が全ての仕事をすれば一緒に行くことができる。

ミカドにテイオーと共に行ってくれないかと頼もうとしたルドルフ。だが…

 

「わかりました、テイオーさん。会長をあなたにお貸ししますのでどうぞ行ってきてください」

「・・・・・・・・・・え」

「いいの!?ミカドホントにいいの!!?」

 

ミカドが先にテイオーにルドルフを貸すと言ったのだ。

 

「ええ、ちょうど区切りがいいですし、良い息抜きになると思いますしね」

「ミ、ミカド?」

「やった〜!!カイチョーとはちみー!!」

 

喜ぶテイオーに背を向け、ルドルフはミカドに小声で話し出す。

 

(小声)「ミカド、何を考えているんだ!?まだ仕事が…」

(小声)「数時間ロクな休憩も取らずに仕事しているあなたの事を思ってのことです。それに外に出ればサボりのブライアンさんやゴールドシップを探しに行ったエアグルーヴさんが見つかるかもしれません。次いでに一緒に回収しに行きましょう。会長の休憩も取れて、副会長たちも見つかる。正に一石二鳥です」

「し、しかしだな…」

 

こっそりとテイオーの方を見るルドルフ。テイオーの目には期待の眼差しが輝いており、今更「ダメ」とは言えない状況になっていた。

 

「幸い納期はまだ先ですから少し遅れても問題ありません。それにあの二人が見つかれば効率は上がります。どうしますか?」

 

ルドルフはトレセン学園の重要な仕事を取るか、自分を慕ってくれる可愛い後輩をとるかで板挟みになっていた。

 

「もし行かれるのでしたら、ブエナがこの間買ってきた『あなたもこれでユーモアに溢れた人物に!プロが教えるダジャレ講座!』を私が借りてきますが?」

「迅速果断。至急休みを取るとしよう。行こうかテイオー」

 

結局決め手になったのは『ダジャレの本』だった。

 

「わーいやったー!」

 

そんな事は微塵も知らないテイオーは飛び跳ねながら喜んだ。

 

「ではミカド、行こうか。しかしあの二人はどう見つけるのか君は見当がついているのか?」

「はい、ブライアンさんは姉のハヤヒデさんから行動パターンを聞いていますし、早く見つかるはずです。エアグルーヴさんはゴールドシップ(エサ兼生贄)を差し出せばいいはずです」

「えっ今ゴールドシップのことエサと生贄って言わなかった?」

「なるほど。しかしゴールドシップはテイオーの話によれば行方不明だろうどうやって見つけるんだ?」

「あれスルー?ミカドもカイチョーも僕の声聞こえてる?」

「アイツに聞けばまず間違いなく分かるので」

「彼女か。確かにそれなら」

「ねえアイツって誰?二人だけで話進めないでよぉ」

「ではまずはブライアンだな」

「カイチョー…」

「ハヤヒデさんのデータによればこの時間帯なら中庭の木の上にいる確率が87%だそうです」

「ミカドォ…」

「よし、では私用(・・)をしに行こうとしよう(・・・)ではないか!」

 

・・・・・・・

 

「テイオーさん、何かリアクションをしてください。私はもうこれのツッコミはしたくないんだ」

「ワケワカンナイヨォーーーー!!?」

 

トレセン学園にテイオーの叫びが響いた…

 

因みにブライアンは中庭の木の上でサボっているのが見つかり、『面白いものが見れる』という情報を流し、ゴールドシップ(トレーナーin頭陀袋)を誘き出し、般若となったエアグルーヴをその場所に向かわせて捕縛、エアグルーヴの花壇は元通りにさせた後、ゴールドシップはダートに埋められ、エアグルーヴを回収し、その後『例の本』を持ってきてもらったブエナを含めて、みんなで限定はちみーを味わったのであった。




ウマ娘紹介

名前:ノゾミミカド
キャッチコピー:希望を与える帝。望みを背負って駆け抜ける!
誕生日:4月10日
身長:163
スリーサイズ:B:80 W:58 H:81
靴のサイズ:両方とも25
学年:高等部
所属寮:栗東
得意なこと:武道全般・ツッコミ
苦手なこと:注射・おしゃれ
耳のこと:ボケにはピンと反応する・敏感
尻尾のこと:嬉しい事があると横に振れる
家族のこと:今でも溺愛してる両親にそろそろ子離れしてほしいでも大好き
自己紹介
私はノゾミミカド。私は望みを叶え、そしていずれは多くの人々に希望の光となる望みを与えるものになりたい。険しい道だけど、それは私が望んだこと、成し遂げてみせる。


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帝の仲間/不屈の頑固者たち

今回は前回予告した通りウマ娘編です。

ミカドのチームが判明します。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。

※2024/04/13に内容を一部追加しました。


私はノゾミミカド。前々世では人間の一般男性、前世はサラブレットの競走馬、そして今世では『ウマ娘』と呼ばれる生き物に転生し、現在はここトレセン学園の生徒だ。結構壮大な経験をしてきている様な字面だがそんなことはなく。『そういうことがあった』ということしか覚えていない。

 

「ブエナ、起きなさい。今日はチームの朝練あるんでしょう?」

「ZZZZZZZZZZZzzz……」

 

この子はブエナビスタ。寮で私と同室の娘で、前世でも深い関わりを持つ娘だ。ご覧の通りマイペースで、ここは前世と全然変わらない。

 

「……あんたの人参ハンバーグ貰うわよ」

「それだけは絶対にやめて本当にお願いなんでもしますからそれだけは」

 

※ミカドが言い終わってからブエナが起きるまでこの間、0.0001秒。

 

「はい、おはよう。なんでもするって言ったよね。さっさと着替えて朝練行きなさい」

「えっ?………え、もうこんな時間!?」

 

ブエナの朝練開始まであと15分。

 

「うわ〜ん!!なんでもっと早く起こしてくれなかったのぉぉ!??」

「少しは痛い目みろということで」

「鬼、悪魔、ウマでなし!!!」

「文句言う暇あったらサッサっと準備しなさい。着替えとか私が準備できることはしておいたから、ギリギリ間に合うかもね♪それじゃあ、私も朝のミーティングに行ってくるね」

「覚えてろぉぉぉ〜!!」

 

後で聞いたらギリギリ間に合いはしたらしいが短いお説教があったらしい。

 

 

 

 

 

私が通うトレセン学園は、多くのウマ娘にとって夢の舞台である『トゥインクルシリーズ』、更にその先にある『ドリームシリーズ』に出走するために日夜トレーニングに励んでいる。しかし、レースに出走するためには学園に所属するトレーナーと契約し、その指導を受ける必要がある。

 

トレーナーの形態は大きく分けて二つある。一つはトレーナーとウマ娘が一対一の二人三脚で行う『個人契約』。これは新人トレーナーが大半を占めるがベテランにもこのウマ娘一人を育てる!っていう人もそれなりにいる。二つ目は学園内で設立されたトレーナーのチームの一つに複数のウマ娘が所属する『チーム契約』。こっちはある程度の実績を出したトレーナーに対してURAからチーム設立の許可が降りると初めてチーム建てられる。

 

かく言う私も、ある一つのチームに所属している。

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

チームに用意された一つの部屋。大きさは一般的な学校の教室ぐらいかそれより少し狭い程度。

既にある一人のウマ娘が来ていた。

 

「あら、ノゾミミカドさん。御機嫌よう」

「早いですね。キングヘイローさん」

 

前世では『不屈の塊』と言われ、『黄金世代』と言われた最強世代を彩った名馬『キングヘイロー』の魂を受け継いだのが彼女。

少し高飛車で上から目線な口調だけど、根は真面目で努力家、そしてお節介。『チームのオカン』みたいな娘である。

 

「ええ、一流のウマ娘たるもの、指定された時間より早く居るのは当然ですわ」

「ふふ、流石ですね。私も見習わなくては」

 

私が部屋に入ると同時にまた部屋の扉が開かれる。

 

「おはようございま〜す」

「おはようございます。今日は早いんですね『エイシンプレストン』さん」

 

現れたのは少し小柄な鹿毛のウマ娘。彼女はエイシンプレストン。前世では香港で行われた『QE2世C』を2連勝し、『香港魔王』と言う異名を付けられた。

当の彼女はそんな物々しい異名とは反対で人懐っこくのんびりした性格な娘だ。

 

「少し早く目が覚めたんだぁ〜キング〜偉いでしょ〜」

「ええ!このキングのチームメイトに相応しい行動力だわ!でもプレストンさん少し寝癖があるわ。だからキングが貴女の髪を整える権利をあげるわよ」

「ホント?じゃあお願いしま〜す」

 

朝から本当に微笑ましい光景が見える。どこか遠くから『うひゃあ〜!!!?なにこの尊い景色はぁぁぁ〜!!!しゅきぃ……』というよく分からないけど取り敢えずほっといても良い断末魔が聞こえた気がしたが、それと同時に早足で近づく2つの足音が聞こえた。

 

「遅れてすみません!クラフトが寝坊してその準備に手間取ってしまって!」

「本当にごめんシーザリオ!皆さんもすみません!」

「『シーザリオ』、『ラインクラフト』、大丈夫ですよ。まだ少し時間がありますから。ギリギリセーフです。」

「そうですか…よかったです…」

「ああ〜焦ったぁ〜…」

 

ショートカットの青毛のウマ娘の彼女はシーザリオ。名トレーナーの父と教育熱心な母の影響かとても真面目な娘である。彼女も『日本オークス』と『アメリカンオークス』二つの国のオークスを勝ち取った実力者だ。そしてオンオフの差が激しくて初見の人は大体スペキャ状態になる。

隣でへなへなと座り込んだ鹿毛のウマ娘はラインクラフト。ティアラ路線をその持ち前のスピードで駆け抜け、明るく少し抜けた性格でチームを和ませるムードメーカーのような娘だ。

 

「シーちゃんは優しいもんね〜でも遅れちゃったらダメだよ〜」

「プレストン、そうはいってもクラフトは目を離すとすぐに動きが止まってしまうんだ。心配にもなる。」

「でもそれでミーティングに遅れるとなると問題になります。貴女のその優しさは美点ですがクラフトにも自分でできるようにさせることも必要ですよ」

「……すみません…」

「ああっ!シーザリオが謝る必要はないよ!私が悪かったんだから!みなさんほんとすみませんでした!」

 

ルームメイトでも二人は常に一緒にいることが多いためお互いに助け合っている。

 

「さて…」

 

私は部屋の窓に近づき、その一つを開ける。あと一人もそろそろ来るだろうしその為に先に換気をしておこう。

 

 

「………ぁぁぁあああああああああああああああ!!!???」

 

 

ドォォォッゴォォォォンンン!!!!

 

 

窓を開けた瞬間絶叫と共に何かが部屋の中に突っ込んで来た。

こんな素っ頓狂な入り方をしてくる、もといされたのは誰かはすぐ分かる。

全員驚いてはいるが騒ぎはしない。分かっているからだ、これが誰か。

 

「おはようございます、『ジャスタウェイ』。今日は窓からの入室ですか?」

「何普通に話しかけてんですか!!??普通はポカーンってするか、ええええっ!?って絶叫するところでしょう!?いつもキレのいいツッコミはどうしたんですか!?」

 

窓から吹っ飛んで来たのはジャスタウェイ。前世では文字通り世界一の称号を手にした名馬でもある。私に負けない末脚の爆発力を持つ優等生なウマ娘。ある二つの点を除いて…

 

「ジャスタウェイさん?今日はどういう風に『ゴールドシップ』さんに吹き飛ばされたの?」

「いきなりシップが私を抱え込み『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロングゴルシちゃん砲』なるものの砲身にセットされ吹き飛ばされてきました」

「いや何その完成度高そうなもの?」

 

一つがトレセン学園1の問題児でハジケリスト、ゴールドシップの大親友ということ。

そしてもう一つが…

 

「ジャスちゃんはなんでそんなことされたの?」

「わかりません。シップと共に歩いていてちょうどそこに美しい芦毛を持つメジロマックイーンさんに会って、彼女の美しいその芦毛の髪に触れただけなのに」

「完全にそれが原因だな。分かりきっていたことではあるが…」

「ジャスさん、芦毛大好きだもんね…」

「ジャスタウェイのフェチ知っている奴なら誰でも分かるわ、そんなの」

 

そう、こいつは重度な芦毛フェチなのだ。芦毛の事になると普段の優等生ぶりが消えて無くなりひたすらナンパしまくる変質者にシフトチェンジする。

 

「さて、取り敢えずは全員集まりましたかね?」

「あとはトレーナーだけね」

「あっ、多分来たよ〜」

 

コンコン。

 

ノックの後に扉が開く。入って来たのは人間の男性。服の襟にはトレーナーである事を示すバッジが付けられている。

 

「皆んな、おはよう」

『『おはようございます、トレーナー』』

 

そう、この人が私たちのチームのトレーナー、『福流(ふくなが)トレーナー』。偉大な父と同じ道を進んだ、真面目で、頑固者で、我慢強くて、努力家な人だ。

 

「キング、今日も調子は良さそうだな」

「健康管理は基本よ!一流なら当たり前よ!」

「だな。プレストンはどうだ?」

「元気いっぱ〜い!」

「なら良い。リオ、少し髪が乱れているが大丈夫か?」

「大丈夫です。導くものたる器を見せてみみせます!」

「なら今日は少しキツいメニューで行くか。クラフトはどうだ?」

「はい!いつでも大丈夫です!!」

「よし、今日も元気で何よりだ。ジャス、色々大丈夫か?」

「ええ、少々アレな感じですが体には異常はありません」

「そうかキツくなったら、直ぐ言えよ。それで、ミカド?」

「はい」

「今日もいけるな?」

「はい。『チームヘルクリス』、今日も問題なく行けます」

 

『不屈の王者』キングヘイロー

『香港魔王』エイシンプレストン

『スーパースター』シーザリオ

『開拓者』ラインクラフト

『世界一の爆発力』ジャスタウェイ

『希望の帝』ノゾミミカド

 

これが私のチーム、理想を目指す頑固者たちのチームだ。

 

 




人物紹介

キングヘイロー
中等部
『チームヘルクリス』に所属し、副リーダーのウマ娘。どんなに負けても決して下を向かない不屈の魂を持つ。
誰が言ったか『雨と泥が一番似合うウマ娘』。チーム内ではキングと呼ばれている。

エイシンプレストン
中等部
『チームヘルクリス』に所属するウマ娘。のんびりしているがレースでは『魔王』と言われるほどの覇気を出す。
見た目は黒く長い髪、身長はウララぐらい。いつもは目は半分しか開いていない。レースで本気になったり、怒ると完全に開く。一番怒らせてはいけない。チーム内ではプレストンと呼ばれている。

シーザリオ
中等部
『チームヘルクリス』に所属するウマ娘。ミカドに負けず劣らずのお節介焼き。教えるのが上手く、時間がある時はチームの副トレーナーみたいなこともしていたりする。
身長はミカドと同じくらいで黒のショートカット。スレンダー。チーム内ではリオと呼ばれている。

ラインクラフト
中等部
『チームヘルクリス』に所属するウマ娘。日向ぼっこが大好きで周りを明るくさせるムードメーカー。頑固さと行動力で努力を惜しまない頑張り屋。チーム内ではクラフトと呼ばれている。

ジャスタウェイ
???
『チームヘルクリス』に所属するウマ娘。優等生で多くの人から信頼されており、大親友ゴールドシップの奇行と暴走についていけ、止められる人物。しかし芦毛のことになると立場が逆転する。
見た目は茶がかった黒の髪を肩まで伸ばしている。身長はゴルシよりも少し低い。チーム内ではジャス、またはジャスタと呼ばれている。

福流トレーナー
某F氏にそっくりなチームヘルクリスのトレーナー。真面目で責任感が強く、チームメンバーからとても信頼されている。既婚者でもある。

チーム名は60・ヘルクリスを調べれば、理由がわかると思います。

今回登場したオリジナルウマ娘たちの詳しいプロフィールは近いうちに出そうと思います。



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帝のチーム/チームでの一幕

MarmiteTaeさん、評価ありがとうございます!
今回もウマ娘編。
ミカドのチームのとある一幕です。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


『チームヘルクリス』

 

数年前から少しづつ力をつけて来ているチームであり、チーム成績や個性豊かなメンバーが多いことでも他のチームにも遅れを取らない。

 

「キング!スパートのタイミングが遅い!!それじゃあ、もし先頭がセイウンスカイやエルコンドルパサーだったら抜かせないぞ!!」

「分かってるわよ!!」

 

副リーダーでプライドの高いキング。

 

「プレストン!コーナリングではもう少し重心の傾きを意識しろ!短距離、マイルではスピードのロスは命取りになる!」

「はぁい!」

 

少しのんびり屋なプレストン。

 

「リオ、どうした!坂路ダッシュ次がラストだぞ!」

「はい!」

「それと終わったら次のメニューを渡すから確認してくれ!プレストンのメニューについて相談がある。」

「わかりました!」

 

真面目でトレーナー志望でもあるリオ。

 

「クラフト、ラストスピードが落ちていたぞ!お前のそのスピードであれば誰も追いつくことはできない!スパートのタイミングを間違えるなよ!」

「はい!!」

 

頑張り屋なクラフト。

 

「ジャス、追込みでは立ち回りも大事だが時には突破力も必要だ!前にいるミカドを吹き飛ばす勢いで加速しろ!」

「はい!!」

 

真面目なジャス。

 

「ミカド、後ろのジャスを気にし過ぎだ!前だけを見ろ!後ろの確認はロスに繋がるからあまりやるな!」

「はい!!」

 

そしてチームリーダーの私。

 

少数ではあるが他のチームに負けない唯一の個性を持つチームだ。

 

 


 

 

チームヘルクリスのチーム部屋

 

 

「疲れたぁ〜」

「プレストンさん、はしたないわよ。ほらソファに寝転がらない。座るならちゃんと座る」

「ふぁ〜い」

 

トレーニング終了後、ミーティングをする為に一度チーム部屋に全員が集まる。プレストンがソファに寝転ぶのを見てキングがそれを注意する。

 

「今日のトレーニングはいつもよりハードでしたからね。お茶入れましょうか?」

「私もお手伝いしますよ。実はケーキを作って置いておいたんです。」

「わ〜いシーちゃんのケーキ〜!」

「やったぁ!シーザリオのケーキ♪」

「ではそれに合う紅茶を用意しましょう。ジャスも手伝ってもらえます?」

「わかりました。リオ、ケーキをこちらに。切り分けます。」

「なら私は食器やテーブルをセッティングしとくわね。」

 

練習中とは違った優しい声色でケーキを取り出すシーザリオ。それを心待ちにしているプレストンとクラフト。寸分違わずケーキを切り分けるジャス。セッティングを完璧にこなすキング。

 

個性的な面々ではあるがどこか纏りを感じられるチーム。それがこのヘルクリスだと帝は感じていた。

 

 

「済まない、少し遅れた」

 

お茶で一服し始めた頃に福流トレーナーが部屋に入って来た。その手には資料らしきものを抱えていた。

 

「大丈夫ですよ。そこまで遅れていませんし。それでトレーナー、その手に抱えているものは?」

「ああ、こいつはミーティングの最後に話す。まずはそれぞれのレースについてだ」

 

そうしてヘルクリスのミーティングが始まった。けどそれぞれのレースについての確認や今後のトレーニングの方針についてだから割愛。

 

「………そういう訳だから、各々気を引き締めておいてくれ」

『『はい』』

 

「じゃあ、ここからは『こいつ』だ」

 

そうしてトレーナーは先ほど持っていた資料を全員に見せて来た。資料の一番上には『日本ウマ娘トレーニングセンター学園 聖蹄祭について』と書かれていた。ああ、これか。そういえば生徒会でも話していたな。

 

「半年後に行われる聖蹄祭。このチームでも出し物を出す事になる。それの話し合いをする。と言っても時間的に軽く話すぐらいだけどな」

「リギルはまた執事喫茶とかやるんでしょうね。グラスさんが言っていたけど、あれかなり大好評だったようよ」

「クラスでも大好評で、他のみんなもまた行きたいって言っていました。ね、クラフト?」

「うん!エアメサイアさんからもエアグルーヴ先輩がカッコよかった言ってた!」

 

執事喫茶は私も前回見に行ったけど、少なくても数十名は担架で運ばれて行ったのを目撃している。というかリギルの東条トレーナーよくあれを許可したな…

 

「スピカ辺りは恐らく飲食でしょう。シップが率先して焼きそばを作るでしょうし」

「ゴルシちゃんはなんでも出来るからねぇ〜」

 

真面目に頭の中見てみたい奴筆頭であり、奇行が目立つゴールドシップだが一方で、勉学・運動・音楽関係・雑学・娯楽・電子機器etc…取り敢えずなんでも出来る器用さを持つ。

スピカの出し物はアイツ次第で決まる気がする。(とんでもないものだったらメンバーが止めるだろうし)

 

「そうなると、ウチのチームは飲食関係は避けた方がいいでしょうね」

「何故そう思うんだい?」

 

私の言葉にトレーナーは質問する。私が話し出すのを待っていたかのようで、大分含んだ笑みを浮かべている。

狙っていたなこの人…

 

「リギルやスピカといった大御所が飲食、しかもリギルは仮にも喫茶店なので客を一定時間その店に留めます。一方スピカは手軽に食べられる焼きそばなどをメインにした出店を出すとすれば、何処でもそれを食べることができ、そう言った屋台の食べ物は腹持ちが良い。知名度が高い2チームですから恐らく客が殺到。結果、客は飲食に関してはそれで腹は満たせます」

 

しかもリギルが出すメニューは紅茶やコーヒーに合うクッキーやスコーン、ボリュームがあるものでもサンドイッチのようなものを出すだろうからそこまで満腹にはならない。だから程々の量である出店の食べ物は十分腹に入り、上手く客が回るという訳だ。

 

「だから飲食は避けるべきだと…確かにミカドのいう通りだ。ならばウチのチームは何をする?」

 

全員が頭を捻って考える。

 

「演劇なんかどうでしょうか?」

「セットを用意するだけでも大変だし、五人じゃ少ないから却下」

 

オペラオーさんと愉快な仲間たち(ドト、アヤ、トプ)しかやりませんよそんなこと…

 

「芦毛の美しさについての発表なんてのは…」

「あんた以外来る奴いないから却下」

 

そろそろテイオーさん経由でマックイーンさんにお願いして、メジロの主治医のところに連れて行こうかな…あの先生怖いけど。

 

「みんなでお菓子作りは〜?」

「参加型の菓子作りですか?確かに良い案ですが……」

 

絶対、メジロの名優や葦毛の怪物、日本総大将辺りが来て猛威を奮いそうで怖い。

 

「触れ合い体験みたいなものは…?」

「聖蹄祭そのものがその側面を持つんですよクラフト…」

 

あーでもないこーでもないと悩む中…

 

「なら…」

 

ここでキングが口を開く。

 

「レースの歴史展なんていうのはどうかしら?」

「歴史…展?」

 

「そう。過去のレースの軌跡を分かり易く解説した展覧会にするのよ。国内海外問わず、多くの人々に感動や衝撃を与えたレースをピックアップして、それの映像、解説文、できればそのレースに出ていた当事者の話とかも載せて。そのレースを見て、更にレースに興味を持つ人が増えるはずよ」

 

キングの案は今までにない、素晴らしい案だ。

 

「それ、凄く良いですよ!流石ですよ、キング!」

「おっーほっほっほっほっ!このキングにかかればザッとこんなものよ!」

「確かにこのチームは香港やアメリカ、ドバイにヨーロッパなど多くの海外のレースに出走経験がある者が多いですしね。私も賛成です!」

「ティアラで活躍した方々に関することならお任せください!」

「レース関係であれば芦毛であるオグリ先輩の有、マックイーンさんの天皇賞春連覇、シップのワープと言われた皐月…芦毛の魅力を語り放題じゃないですか!」

「わぁ〜面白そう〜私もやりたぁ〜い!」

 

全員に高評価、満場一致。あとはトレーナーが許可を出せば…

 

「トレーナー、どうですか?キングの案はとても良いと私は思いますが?」

「……うん。俺も良いと思う。学園側に話を通して、多くの資料を貸し出してもらえるよう俺が掛け合ってみる」

 

トレーナーもかなり乗り気になり、チームヘルクリスの聖蹄祭の出し物は『古今東西記憶に残るレース展』となった。




キャラクター紹介

名前:エイシンプレストン
キャッチコピー:決して崩れぬ魔王の精神
誕生日:4月9日
身長:143cm
スリーサイズ:B 76・W 52・H 73
靴のサイズ:左右ともに20cm
学年:中等部
所属寮:栗東
得意なこと:外国語全般
苦手なこと:遅いペース
耳のこと:聞いてないふりして聞き耳を立てる
尻尾のこと:色んな人に手入れされていていつも綺麗
家族のこと:遠くにいるけどいつも応援してくれる
ヒミツ:日本よりも香港で有名
距離:短B マイルA 中B 長G
脚質:逃げG 先行C 差しA 追込みB
自己紹介
「はじめましてぇ〜エイシンプレストンでぇ〜す。沢山のレースに出て、いっぱい勝つから、よろしくねぇ〜」

名前:シーザリオ
キャッチコピー:Japan's proud super star!!
誕生日:3月31日
身長:167cm
スリーサイズ:B 80・W 53・H 84
靴のサイズ:右24.5cm 左24cm
学年:中等部
所属寮:栗東
得意なこと:教えること
苦手なこと:長時間移動
耳のこと:ファンの声はすぐ聞こえる
尻尾のこと:毎日欠かさずに手入れをしている。
家族のこと:自身のことを否定せず肯定してくれる。
ヒミツ:実は結構車が好き。
距離:短D マイルA 中A 長C
脚質:逃げG 先行B 差しA 追込みB
自己紹介
「シーザリオです。ティアラは決して譲らない。導く者たる器を見せてみせます!」

名前:ジャスタウェイ
キャッチコピー:それ以上でもそれ以下でもない。全てを吹き飛ばす爆発力!
誕生日:3月8日
身長:165cm
スリーサイズ:B80・W 55・H・80
靴のサイズ:どちらも24.5cm
学年:???(多分高等部)
所属寮:栗東
得意なこと:ツッコミ・剣術
苦手なこと:自ら進んでボケること
耳のこと:親友や芦毛の話は直ぐに入ってくる
尻尾のこと:親友に悪戯されてもツヤは失わない
家族のこと:アニメ脚本家で偶に自分の書いた作品の感想を聞いてもらっている
ヒミツ:偶に言ったことが現実になる。
距離:短C マイルA 中A 長B
脚質:逃げG 先行D 差しA 追込みA
自己紹介
「はじめまして、ジャスタウェイと申します。私の目標は世界にその名を轟かすこと。私を認めてくれている仲間や自分の信念を貫くためにも、私はその道を進みます!」

元ネタの馬たちのエピソードとかを可能な限り調べ上げてプロフィール作りました……

次回は競走馬編です。そろそろ皐月賞ですのでお楽しみに!

評価やコメント、お気に入り登録を是非。
作者はコメントが来ると泣いて喜びます。それでは…


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帝の家/ノゾミの一族 前編

ウマ娘編でのノゾミ軍団です。
それではどうぞ…


「実家に暫く帰る?」

「そう。家の事情でこの連休中に顔を出さなくちゃいけなくなったの」

 

私ノゾミミカドの実家である『ノゾミ家』は『メジロ』、『シンボリ』、『サトノ』と言ったウマ娘のレース業界に多くの影響を与えている一族の一つ。他のところとは違ってそこまで大きくないが、それでもそこそこ大きな一族だ。

 

「何をするの?」

「ん?ん〜…例えば、近況報告に親戚との顔合わせ、あとは食事会とか…」

「食事会!?」

「反応すると思ったわ」

 

食べ物の事になるとこの子は目の色を帰るからなぁ…

 

「……一緒に行「いいの!?」……顔近い…」

 

そんな目をフクキタルさんの如く輝かせていればね…

 

「一応、堅苦しいものじゃないし、両親も『友達連れてきても大丈夫』って言っていたからね」

「わーい!やったぁ〜!」

「ただし、食事会とかはそこそこな規模のものだからフォーマルな格好なものを用意して、あとは騒がない、料理にがっつかない、挨拶はちゃんと返す、マナーは守る!これが守れたら参加していいわよ」

「うん、分かった!でもミカド」

「何?」

「私ドレスみたいなもの持っていないよ」

「………家の貸すからそれを着て…」

 

 


 

 

帰郷当日

 

「ミカド、ここで待っていればいいの?」

「ええ、迎えがそろそろ来るはずだから」

 

トレセン学園の正門で迎えを二人で待っていると校門に近づいてくる聞き慣れた車の音。音が近づくにつれて、一台の車が私たちの前に止まる。

 

「・・・ミカド…これって……リムジン?」

「ええ、よくテレビとかで見るでしょう?」

「テレビではあるけどこうして実物はないよ!?」

 

ブエナが驚いている内にリムジンから一人の男性が降りてくる。見た目は20〜30代ぐらいで、背はそこそこ高い。

 

「ミカドお嬢様、ブエナビスタ様、お迎えに上がりました」

「ありがとう、ユウスケ。ブエナ、紹介するわ。彼が私の執事の北山ユウスケよ。小さい頃から私の使用人として働いているわ」

「お初目にかかります。北山ユウスケと申します」

「あ、えと、ブ、ブエナビスタです…よろしくお願い済ます…」

 

ブエナがかここまで戸惑っている姿を初めて見た。ちょっと可愛い。

 

「ユウスケ、荷物をお願い。ブエナの分もね」

「承知致しました。お嬢様方は先にお車の方へどうぞ」

 

荷物をユウスケに任せて私たちはリムジンの中に入る。

 

「す、スゴイ豪華…車の中とは思えない…」

「まあね。普通だったら乗ることなんてないだろうし」

「………忘れがちだけどミカドってお嬢様なんだね…」

「メジロやシンボリには負けるわよ。あそこに比べたらノゾミ家はまだ歴史が浅いから」

 

ノゾミ家のレースの歴史は、メジロに比べたら半分ぐらいのものだ。元々はレース事業に手を出してはいなかったが、当時の当主がレース事業に力を入れ始め、ノゾミの名を持つウマ娘たちが現れ始めた。

 

「力をつけてきたのは本当にここ最近。レース業界の中じゃ、まだまだ新参ものよ」

「ほへ〜」

「そしてそれを後押ししているのがお嬢様方なんですよ」

 

荷物を入れ終わって乗り込んできたユウスケが会話に参加する。

 

「お嬢様やその上の方々が現れるまで、ノゾミ家は目立たない存在でした。しかし、最近の方で言えばラインお嬢様がシンザンの連対記録を塗り替え、フェニックスお嬢様やナチュラルお嬢様と言った話題性で知名度を広げ、そして、ミカドお嬢様がノゾミ家史上初のクラシックの冠を手にしたことでノゾミの一族は大きくなっていきました」

「ミカド凄い!」

「ユウスケ、大袈裟。それにノゾミ家はレースに手を出すのが遅かっただけでそこそこ大きな家ではあったでしょう。私の力は微々たるものよ。それより早く車を出して」

「承知致しましたよお嬢様」

 

全く…そもそも確かにクラシックは私が初めて取ったけど、私の前にも『G1ウマ娘』はいるでしょう。ノゾミの家にも…

 

 


 

 

車に揺らされながら進むにつれて数時間。私たちはノゾミ家本家の館に到着した。館はかなり大きく、庭の面積も東京ドームが何個か入るぐらいの広さを持つ。

 

「……デッカァァ………」

「ブエナボーッとしてないで行くわよ」

「あっ、置いてかないでぇ!」

 

館の扉を開けると使用人たちが出迎えてくれた。

 

『『お帰りなさいませ。ミカドお嬢様』』

 

「ええ、ただいま。出迎えご苦労様」

「ほぇ〜……」

 

色々なものに圧倒されているブエナをつれて、私は使用人とブエナとともに自室に移動した。

 

「では、何かありましたらお呼び下さい」

「ありがとう」

 

自室に入って、一息ついたことでブエナがようやく調子を取り戻してきた。

 

「ブエナ、どうだった?ここまで?」

「ずっ……と色々なものに圧倒されていて言葉にできましぇん…」

 

まあ、こうなるか。

 

「でもブエナここからが本番よ」

「ほぇ?」

「食事会ではさっき見たものよりももっと豪華なものが出てくるし、著名人とかも来ることがあるから気をつけてね」

「………ご飯、喉通るかな…」

 

心配するところはそこかい。

少し、呆れつつも食事に関して何か言えるぐらいには心にまだ余裕があるのに安心していると、扉からノックが聞こえた。

 

「ミカド、いるんでしょう?入ってもいい?」

「大丈夫ですよ。ライン先輩」

 

そういうと、扉から何人かウマ娘が入ってきた。正面に芦毛のウマ娘、その左右には栗毛のウマ娘が2人。

 

「ライン先輩、フェニックス先輩、ナチュラルさん。皆さんもうきていたんですね」

「貴女よりも先に到着していましたからね」

「ミカド、久しぶりだな!学園じゃ、お前さんは忙しそうだから中々会えなかったしな」

「私はそこそこ会っていたけどね」

 

前世でも今世でも先輩にあたるノゾミのウマ娘。ノゾミライン、ノゾミフェニックスの2人と何故か年下になっているノゾミナチュラル(デビュー自体は向こうが先)。私を含めた4人は血縁上の関わりはあまりない。ノゾミ家は分家の数が多く、才能があれば本家にてレースに関するトレーニングを幼少期から受けることが出来る。3人は分家で、私は本家。幼い頃、トレーニングを受けていた3人と一緒に私はトレーニングに励んでいた。

 

「おや、貴女も友人をつれてきたのですか?」

「はい、ブエナが来たそうにしていたので。その口ぶりだと先輩方も?」

「おう、俺は暇そうにしていたスペシャルウィークを誘ったぜ」

「ええ!スペさんもきてるの!?」

 

調理室、大丈夫かな…料理長は多分大丈夫だと思うけど…

 

「私はカノープスメンバーを連れてきた。話したら連れてけ連れてけってターボが…」

「大変そうですね…」

 

因みに、ナチュラルはカノープスに入っている。

 

「ライン先輩は誰を?」

「……………オグリキャップ先輩です…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

今、聞き捨てならない名前が聞こえてきた。

 

「今、誰と?」

「オグリキャップ先輩です」

 

思わず他の二人の方を見る。

静かに頷く2人を見て確信した。

 

このままだと調理室が…

 

戦場と化す!

 

「ユウスケ!」

「お呼びですか、お嬢様」

 

私はすかさず、ユウスケを呼び出す。

 

「直ぐに調理室にいる料理長に緊急連絡!今作っている量の三倍…いえ五倍追加!手の空いている従業員で料理ができるやつにも応援を要請!相手はトレセン学園の『暴食(芦毛)の怪物』に『大食い(日本)総大将』だ!この2人がこの家の食料という食料を全て食い尽くす!菜園の方にも連絡して出せるものは全てこちらに回すように!足りなくなったら近隣の農家にも協力を仰いで!」

「承知致しました」

 

音もなく、部屋を出ていくユウスケ。

 

「すまない…この話をうっかりしてしまい。断るにも断りきれず…」

「今は悔やんでいる暇はありません。他の使用人に連絡してオグリ先輩に優先的に菓子類を運ばせましょう。焼け石に水ですが、やらないよりはマシです」

「本当にすまない…」

 

落ち込むライン先輩を慰めながら、私は対オグリキャップ・スペシャルウィークの対策を考えた。

 

 

「大変そうだし…私は程々にしておこう」

 

ブエナは流石に空気を読んで控えめにすることにしたらしい。




今回はミカドの家がどれほどのものなのかの紹介をメインにして、次回に続きます。

ノゾミ軍団(ウマ娘)のステータスは次回に回します。


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帝の家/ノゾミの一族 後編

今回は前回の続きです。それではどうぞ…


この日、ノゾミ家邸宅の厨房は、正に戦場と化していた。

 

「料理長!ローストビーフ新たに30人前の用意ができました!」

「よし!それを直ぐに運び出せ!たった今、茶碗蒸し50人前が全滅した!他の料理が全滅する前に急げ!」

「料理長!寿司類がそろそろなくなります!」

「大丈夫だ!既に用意して先ほど運ばせた!手巻きで具沢山のアレなら腹持ちもいいはずだ!」

「料理長!なんなんですかあの2人は!?某ゲーム会社のピンクの悪魔と我儘大王並ですよ!」

「文句を言う暇があれば手を動かせ!今ここはそのアニメで迷台詞を出したコックの手すら借りたいほどなんだ!」

「料理長、『死んだんじゃないの〜』のコックだけはやめて下さい!僕らも料理人の端くれ!お客様たちには美味しい料理を食べて欲しいと言う自負があります!あんな普通からまずいレベルの料理しか作れないコックが出てくるくらいなら、僕は例えここで死んだとしても、地縛霊になってここで料理を作り続けます!」

「そうか!なら行くぞ新人!食糧の貯蔵は十分か!?」

「勿論です!」

 

 


 

 

「ここの料理、本当に美味しいですね〜。スズカさんやグラスちゃんたちも誘えば良かったかもな〜」

「ああ、タマたちも連れてくればよかった」

 

(多分ウマ娘がこれ以上来たら厨房の人たちが過労死します)

 

パーティ会場にて思わず2度見してしまうぐらいの量を食べている2人のウマ娘。

 

『チームスピカ』の一等星の一つ『スペシャルウィーク』と『チームシリウス』の不滅のエース『オグリキャップ』。

この2人により、用意されていた料理が次々消えて行く。

 

「あの2人の状態から見て、まだまだ入りますね。ユウスケ、在庫はあとどれほど?」

「現在、近隣農家などから売れ残ったり、商品として売り出せない見た目の野菜類を取り寄せています。野菜類はおそらく持ちますが…」

「代わりに肉や魚類が全滅しそうか…」

「はい、しかしご安心を。各地から取り寄せたものが今到着しました。まだ持つ可能性があります」

「こちらもパーティー終了まで時間を稼ぐ。頼むぞ」

 

ユウスケに裏方の指揮を任せ、私は現状を整理する。

今はパーティー開始から30分。参加者の多くは会話に夢中になる者が多く、料理に手をつける人は少ない。今はそれが少し幸いだ。何せ……

 

「もう元々用意していた料理は殆ど食い尽くされたんだからな……」

 

テーブルに乗り切らないくらいの量を追加したがそれがものの数分で消えかけた時はマジで驚いた。今回の食事会は堅苦しいものではないためバイキング形式になっている。

元々はビュッフェ形式だったんだが、あの2人はその辺りのマナーを守れるか怪しいためバイキング形式にした。

 

因みにビュッフェのマナーは主に、

コース料理と同様に前菜、メイン、デザートの順に何回かに分けて料理を取る。

立食形式では皿やグラスなどを一度に持ち過ぎず、両手にお皿を持って歩かない。

冷たい料理と暖かい料理は混ざらないように別の皿を使う。ソースが混ざりそうな料理も同様。

など…

 

バイキングはこの辺りのマナーはないため、取り放題のせ放題。

 

「あ〜ミカド、マジでごめん。俺がウッカリ誘ったばかりに…」

「私もです。今回は弁解の余地もありません…」

 

この怪物2人を連れてきた先輩方はガチで落ち込んでいる。まあ、戦犯だから仕方ないけど…

 

「謝るなら裏方の方々にして下さい。それよりも行きますよ先輩方。少しでも時間を稼ぎましょう」

 

 

「スペシャルウィークさん、オグリ先輩。お久しぶりです」

「あっ、ミカドさん!お久しぶりです!」

「む?ミカドか。久しぶりだな」

 

2人の下に行くと未だに皿いっぱいの料理を食べていた。今更だけどビュッフェならもしかしてここまでひどいことにならなかった節がある。

 

「そういえば、ブエナちゃんも来ているんだよね?今どこにいるの?」

「ブエナは今向こうで料理を食べていますよ。確かあそこ……にぃ!?」

 

「あ〜ん。(モグモグ)ん〜美味しい〜」

「相変わらず良く食べるねぇ。ネイチャさんもびっくりですよ」

「はい、推定で通常のウマ娘の2〜2.7倍ほどの量を既に食べています」

「ホェ〜料理が乗っていたところが全部なくなって行くよ〜」

「すごいなブエナ!ターボも負けてられないぞ!」

 

カノープスメンバーに囲まれながらこの2人に負けないぐらいの量を食べるブエナの姿があった。

 

「………」

 

どうやら私も戦犯だったようです…

 

料理長、本当にすみません。今度お父様にお願いして、特別ボーナスと休暇をあげるので許してください。

 

 

調理室

 

「料理長!新たに大食漢ウマ娘が現れました!!」

 

バッタッーン!!!

 

「り、料理長〜〜!!!」

「料理長が死んだ!!」

「「この人でなし!!」」

 

悲報:料理長・過労及び精神的負担によりリタイア

 

ちゅうぼう の せんりょく は 60 さがった !

 

 

「そういえば、ミカドさんのチームって確かキングちゃんがいるチームですよね?」

「え?ええ、キングさんは確かにうちのチームに在籍していますが」

 

少しの間私が黄昏ているとスペさんが話をかけてきた。

 

「この間、キングちゃんが『ミカドさんが作ったクッキーが凄い美味しかった』って言っていたんですけど今度作ってくれませんか?」

「何!?そんな美味しそうなものがあるのか!私も食べてみたい!」

「ああ、アレですか。別に大丈夫ですよ。よかったらチームの方たちの分まで作りますよ?」

「いいんですか!?ありがとうございます!!」

「ありがとう。ベルノもきっと喜ぶ」

 

喜ぶ2人を見て少し荒んだ心が癒された気がする。この2人って純心の塊みたいな存在だから心を許しちゃう部分があるんだよな…

さて、私も地獄に脚を踏み込みますか…

 

 


 

 

食事会も後半に差し掛かり、スペシャルウィークさんはブエナと料理を食べながら談笑。しかしそのスピードは喋りながらなのか少し落ちた。

オグリキャップ先輩は、ライン先輩が何とか気をそらしながら食べるスピードを落とさせている。

 

先ほど料理長がリタイアしたと聞いた時は倒れそうになったが3分で復活して、なんとか持ち直したらしい。

 

そして私はと言うと…

 

「ああ…疲れたぁ」

「ミカドさん、だらしない声出さない方がいいですよ」

 

ナチュラルさんと一緒にバルコニーで休憩していた。

 

「だって…トレセン学園の食堂泣かせ3人衆(オグリ・スペ・ライス)の内2人とそれ程ではないけど食べるブエナの対応ですよ?これなら3000m大逃げして勝てって言われた方が全然マシです…」

「比較対象がおかしい」

 

半分冗談を言いながら、愚痴をナチュラルさんにこぼす。

 

「ミカドさんは聖蹄祭の出し物どうするんですか?」

「ウチのチームはレースの資料展みたいなものに決まった。もう準備を進めている。カノープスは?」

「ターボさんが『妥当打倒、スピカ!!』って言って飲食の出店に決まりました」

「確かにあの子ならそう言うわね」

 

ツインターボは向上心と好奇心の塊だ。カノープスはそれを否定することなく彼女の案を採用し、実行する。

 

「テイオーさんのライブジャック事件は本当に驚きましたよ。貴女も一緒にやっていたのも」

「その節はご迷惑かけました。トレーナーも乗り気でしたし、私もターボが泣きながらお願いしてきたことを突っぱねることは出来ませんから」

「あの後、私と会長の温情がなければ、反省文だけでは済まされませんでしたからね。少なくとも罰当番は追加されましたよ」

「反省文10枚で済んだと思ったらそう言うことでしたか…」

「エアグルーヴ副会長も怒っていましたけど、事情が事情ですからあれで済ませたんです」

 

お互いに笑い合っていると、ブエナたちがやってきた。

 

「ミカド〜ナチュラルさ〜ん!そこにいないでこっちで皆んなと話そうよ〜」

 

騒がしくしないって約束なのに、大きな声出して…全く。

 

「行きましょうか。少しは休めましたし…話に付き合ってくれてありがとうございます」

「いえいえ、今度並走に付き合ってくれればチャラにしますよ?」

「ちゃっかりしてるわね。いいですよ」

「よし、言質取りましたからね?」

 

会場の中に戻り、皆んなで騒がしくも楽しいひと時を堪能した。

 

そして次の日…

 

 

「…………」(°д°)

「ブエナ?どうしたの、体重計に乗ったまま固まって」

 

体重計に乗ったまま石のように動かないブエナ。その体重計に映し出された数値を見る。

 

<見せられないよ>kg←少なくとも悲鳴を上げたいぐらいのもの

 

「…………ブエナ」

 

彼女の肩に手を乗せる。

 

「み、ミカド……」

 

脂汗をだらだら垂らしながら焦り顔でこちらを見てくるバカ(ブエナ)に満面な笑みでこう答える。

 

「ノゾミ家専属の超厳しいダイエットのインストラクターがいるから、そこに行こうか」

「NOOoooOOOooooOOoooooooOOOoo!!!!!!!!」

 

ついでに同じく食べ過ぎたスペさんとオグリ先輩も一緒に連れて行った。

 

因みに厨房組は特別ボーナスと特別休暇を全員に与えた。




ウマ娘紹介

名前:ノゾミフェニックス
キャッチコピー:不死鳥の羽ばたき!!
誕生日:5月16日
身長:169cm
体重:増減なし
スリーサイズ:B 82・W 58・H80
靴のサイズ:左右ともに24.5
学年:高等部
所属寮:栗東
得意なこと:ボルダリング
苦手なこと:数字などの計算
耳のこと:都合が悪いことは聞こえない
尻尾のこと:ラインに張り合うために綺麗にしている
家族のこと:母親には頭が上がらない
ヒミツ:実は文系で、その文才は賞を取れるレベル
バ場:芝A・ダートG
距離:短G マイルG 中B 長A
脚質:逃げC 先行A 差しD 追込みG
自己紹介
「俺はノゾミフェニックス!どんなに長い距離でも垂れずに走り切ってやるぜ!ライバルのラインには絶対負けないからよろしくな!!」

ノゾミのウマ娘の中で一番と言っていいほどの問題児。走り出したら止まらない猪突猛進が長所であり短所。
一度負けても直ぐに復活し、次勝つために努力する。同門でライバルのノゾミラインには負けられない。
後輩の面倒見はよく、理系科目以外なら教えている姉御肌。

名前:ノゾミライン
キャッチコピー:完全連対!まだ見ぬ路線に出発進行!
誕生日:6月3日
身長:168cm
体重:微増偶にあり
スリーサイズ:B 84・W 57・H 83
靴のサイズ:左右ともに25.0cm
学年:高等部
所属寮:美浦
得意なこと:寸分違わずあらゆるものを測ること
苦手なこと:騒がしいもの
耳のこと:あらゆる音を聞き分けれる
尻尾のこと:常に最高の状態を保つために手入れは欠かさない
家族のこと:家族そろって旅行好き
ヒミツ:全国の駅に現れて撮り鉄をしている(マナーはしっかり守って)
バ場:芝A・ダートC
距離:短B マイルB 中A 長B
脚質:逃げG 先行C 差しA 追込みA
自己紹介
「ノゾミラインです。あらゆる距離に挑戦し、誰も見たことない、私だけの終着駅に向けて私は走ります。ライバルであるフェニックスにだけは負けたくありませんのでそこは了承してください。それでは行きましょう、出発進行!!」

ノゾミのウマ娘であり、文武両道な完璧ウマ娘。しかし偶にどこか抜けている。
善戦するがギリギリで勝てないことが多い。しかし、それをバネに次に挑むネバーギブアップ精神の持ち主。
同門のノゾミフェニックスには負けられない。
鉄道好きで、部屋には様々な車両の写真が貼ってある。

名前:ノゾミナチュラル
キャッチコピー:ノゾミは一着!クールなパワフルガール
誕生日:5月18日
身長:157cm
体重:増減なし
スリーサイズ:B 77・W 55・H 76
靴のサイズ:左右ともに22.0cm
学年:中等部
所属寮:栗東
得意なこと:自然の知識
苦手なこと:都会の空気
耳のこと:三着に過剰に反応してしまう
尻尾のこと:自然由来のオイルでサラサラでいい匂い
家族のこと:環境に優しい商品を出しているノゾミの子会社の社長。娘が勝ったら社員一同で喜ぶぐらいのアットホーム
ヒミツ:アウトドア能力が高い
バ場:芝A・ダートD
距離:短G マイルB 中A 長A
脚質:逃げG 先行A 差しA 追込みB
自己紹介
「ノゾミナチュラルです…私は素質があるとは自信を持っていえません。けど、レースで一着になりたいという思いは誰にも負けませんよ。自分らしく、一歩ずつ目指して行くのでよろしくね?」

ノゾミのウマ娘だが、少し庶民ぽい部分がある。周りに素質があるものがいる中で少し自信がないが、しっかりとした芯を持っている。
見た目と裏腹にとんでもないパワーで前に進む様はまさに自然の力。
仲間思いで優しいが怒らせたら相手を射殺すほどの眼光で黙って近づいてくる。


ノゾミ系のウマ娘はこんな感じです。

次回は競走馬編でダービーにそろそろ入っていきます。

アンケートに協力してくださりありがとうございました!
全部で678件もの回答がありました!
その結果は、
一位トウカイテイオー
二位シンボリルドルフ
三位ナイスネイチャ

となりました!

ここでも3着なナイスネイチャ…
いずれ、アンケートのウマたちとも関わらせますのでお楽しみに!

コメントや評価、お気に入り登録を是非。それでは…


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帝の先立ち/眠りの獅子

遅くなると言ったな。あれはウソだ。

ダービー大負けだよ、こんちくしょう!?でも武豊騎手とドウデュースおめでとうございます!!
ダービー六勝ってマジで凄いですよね…


チームヘルクリス部室

 

「ミカドぉ〜お客さん〜」

「お客さん?誰でしょうか?」

 

私ノゾミミカドは聖蹄祭の展示会に向けて、資料を集めていた。そんな時にプレストンさんから私にお客さんが来ていると言われ、入り口に向かう。

 

「は〜い。ってオグリキャップ先輩?どうしたんですか?」

「ああ、すまないミカド。少し聞きたいことがあって…」

 

扉の向こう側にいたのはオグリキャップ先輩。この間のパーティーで約束したクッキー200袋(中に30枚)は既に渡したはず…

 

「実はレオを探しているんだが知らないか?『レグルス』の方に行ったんだがそこに居なくて…」

「レオししょ…ンンっ…レオさんですか?この時間帯なら、確か道場の方にヤエノさんと一緒に居ると思いますけど…」

 

レオとは『ノゾミレオ』のこと。前世で『俺』に長距離の走りを教えてくれた馬の魂を受け継ぐウマ娘。非常にストイックなことで有名で偶にブルボンさんと一緒にいる所を見たことがある。根性トレーニングで使う巨大タイヤ2個を引きずっているところを…

 

「そうか…分かった。ありがとう道場の方に行ってみる」

「オグリ先輩、場所分かります?よかったら案内しますけど」

「そうか?ならお願いしてもいいか?」

「分かりました。では行きましょう。プレストンさん、チームの皆んなには少し外すと行っておいてください」

「い〜よ〜」

 

 


 

トレセン学園武道場

 

オグリ先輩と一緒に武道場に着いた時、ちょうどレオ師匠とヤエノムテキさんが組み手をしていた。

 

「やぁぁぁぁぁっ!!セイッ!!!」 シュッ!!

 

ヤエノさんが師匠に向かって正拳突きを繰り出す。ウマ娘のパワーがあるとは言え、その拳のスピードはかなり早い。

 

「…っ」 パシッ!

 

けど師匠はそれを右手で受け止める。ヤエノさんも振り払おうとするが掴まれた手が全く動かない。

 

「ハァっ!」 ビュオっ!!

 

振り払えないと理解したヤエノさんはすぐさま蹴り技で応戦。

 

「ふっ!!…ぐっ…」ガッ!!

 

しかし、それすら手でガード。しかし、衝撃を吸収しきれず、師匠の顔が僅かに歪む。同時にヤエノさんは僅かに笑い、追撃をしようと体勢を整えようとする。

 

「………セイヤッ!!」 ゴオウっ!!

 

しかし、師匠は掴んでいた腕を思いっきり振り払い、それでバランスを崩したヤエノさんに向かって蹴りを放つ。

 

「きゃっ!?」 ドンッ…!!

 

蹴りをもろに喰らったヤエノさんは吹き飛ばされ、床に倒れ込んだ。勝負あり、かな。

 

「………ふぅ、勝負有りだなヤエノ」

「くっ……参りました。完敗です…」

「攻撃が少し直線的だ。躱して、受け流して下さいと言っているようなものだぞ」

「まだまだ修行が足りませんね…」

 

お互い武術を極めるもの同士、お互いの改善点などを話し合っている。師匠は『獅子厳流(ししげんりゅう)』と言われる拳法の担い手。その技は拳、蹴、投と多岐に渡る。

2人は偶にこうして組み手をしている。ちなみに現在の勝敗は、35戦18勝17敗らしい。ほぼ僅差。

 

「ん?ミカド、それに………オグリ……。きていたのか?」

「おや?珍しい組み合わせですね…何か用ですか?」

 

2人が私たちに気づいて声を掛けてきた。師匠はオグリ先輩を見た瞬間苦い顔をしたが直ぐに元に戻る。この世界でも師匠はオグリ先輩が苦手らしい。嫌いではないらしい。

 

「私は付き添いです。オグリキャップ先輩がししxy……ん"ん"…レオ先輩に用があるようで…」

「……そうかい。で?何の用だい、怪物様?」

 

オグリ先輩に向けてガンを飛ばす師匠。私とヤエノさんはその気迫に一瞬圧倒された。その姿はまるで怪物をも喰らおうとする獅子。

 

「……………いや、大した用じゃない。今度タマやクリーク、イナリたちと一緒に映画の先行上映のものを観に行くんだが一緒にどうかなと…」

 

そんな気迫をあっさりスルーしてオグリ先輩は話し出した。

 

「ああ?何で私何だよ?ていうか何だよ先行上映って?」

「クリークが福引で当てて最大5人まで観れるらしくてな。最初はトレーナーと行こうとしたらしいが予定が合わなかったらしくて、私たちを誘ったんだ。それでせっかくだからと…」

「いやだよ。面倒くさい。第一、何の映画かも分からねぇのに行く奴がいるか」

 

そう言って、帰ろうとする師匠。しゅんとした顔のオグリ先輩におろおろしているヤエノさん。空気が悪い。そしてその空気を作ったのは師匠。……ここは弟子である私が師匠の尻拭いをしなくては。

 

「オグリ先輩、因みに何の映画なのですか?」

「え、ああ、確かCMで今話題の特撮映画らしい…」

 

ピクッ

 

師匠の耳が反応し、動きが止まる。

 

「それってもしかして『シ◯・ウル◯ラマン』じゃないですか?」

「ああ、そうそうそんな名前だった」

 

ピクピクッ!!

 

「すごいじゃないですか!あの映画、前の怪獣王が評判がよかったからすごい期待されていて、先行上映のチケットは10分もしないうちに売り切れたんですよ!」

「そうなのか?私はこの手の映画はあまり観たことないからよく知らないんだ」

 

プルプルプルプル……

 

「私も気になっていたんですけど今回は諦めたんですよね。私が行ってもいいですか?」

「えっ、タマたちが大丈夫なら行けると思うが」

「なら行きま「ちょっと待て」」

 

はい、かかった。

 

「オグリ、私が行く」

「えっでもさっき行かないって「行くからタマに連絡しておけ、いいな」…わ、分かった」

 

実はレオ師匠は大の特撮好きで、あのシリーズは番外作品から漫画、ゲームまで全て網羅している、いわゆる特撮オタクなのだ。これを知っているのは学園ではノゾミのウマ娘たちと(何故か)アグネスデジタルさんぐらいしかいない。

 

「先輩が行くなら、私は下がりますね。(小声)良かったですね、先輩♪」

「(小声)うるせぇ……」

 

これにて一件落着。いや〜良かった良かった。

 

「そう言えば、さっきから気になっていたんだが」

「?」

「ミカドは何でさっきからレオのことを師匠と言い掛けているんだ?」

「あっ、それ私も気になっていました。何故でしょうか、ミカドさん?」

「あっ、え〜と、その〜」

 

「そりゃあ、私がコイツに小さい頃から色々と教えているからだよ」

 

師匠がなんかいい笑顔で話し出す。

 

「こいつがまだまだチビだった時に私の自主稽古をみてな。それでかっこいいとか色々言ってきたから、教えてやったんだよ」

「ちょっ、先輩もうその辺で…」

「それで私のことを師匠と呼べって言ってな。それでずっと師匠で通していたんだけど」

「あの師匠…」

「それで暫くしてからトレセンにコイツが入ってきて、私がいることを知らなかったみたいなんだよ。その理由がな」

「師匠マジでその辺に…」

「コイツ、私の名前のことも『シショウ』だと思っていたんだよww」

「師匠ぉぉぉぉぉ!!!???」

 

人の恥ずかしい黒歴史を喋んじゃねぇ!!そん時はまだ前世の記憶を思い出せきれていなかったし、師匠もずっと名乗らなかったのが悪いでしょうが!!

 

「それが恥ずかしくて、人前では師匠って呼ばなくなったもんな」ニヤニヤ

「ミカドもそんな間違いをするんだな」

「微笑ましいですね」

 

ヤメて!そんな生暖かい目で私を見ないで!私のライフはもうゼロです!

 

「あの時のお前の慌てよう、スッゲェ可愛かったぞ」

「………」

 

フラフラと私は武道場の片隅に置いてあった木刀を2本持ち、構える。

 

「ミカド、なんで木刀持ってこっちに向かっているんだ?」

「……」

「しゃべってくれないと分からないんだけど」

「………」

「ミカドさん、その謝るから、ごめんね」

 

「絶許」

 

「あ、ヤバい。あれマジだ。オグリ、ヤエノ逃げるぞ…ってもういねぇえ!?あいつら先に逃げやがったな!?あっまってミカド本当にごめん謝るからその殺意の波動みたいなオーラ纏いながら来ないで、お願いなんでもしますから許しt……」

 

 

 

 

 

この日、トレセン学園に謎の悲鳴と破壊音が響き渡り、『学園ができるよりも昔、事故で亡くなったものの叫び声が時折聞こえて来る』という都市伝説ができた。

 

 

 




名前:ノゾミレオ
キャッチコピー:獅子の瞳に映るは勝利のみ
誕生日:4月15日
身長:169cm
体重:増減無し
スリーサイズ:B85・W55・H80
靴のサイズ:左右共に24
学年:高等部
所属寮:美浦
得意なこと:武術・特撮
苦手なこと:野菜・ガチギレしたミカド
耳のこと:好きなもののことはよく聞こえる
尻尾のこと:身だしなみには一応気をつけているから手入れバッチリ
家族のこと:師として、親として両親のことを慕っている。
ヒミツ:実はクラゲが大の苦手
バ場:芝A・ダートD
距離:短G マイルC 中A 長A
脚質:逃げC 先行A 差しA 追込みG
自己紹介
「私はノゾミレオ。己の限界を超えて、いつかあの怪物を倒すことが私の目標だ。私の瞳に映るのはゴールと勝利だけだ。頼むぞ、トレーナー」

ノゾミのウマ娘で向上心が非常に高い。オグリキャップをライバル視しており、いつか彼女を超えるために、日々鍛錬に励んでいる。
鍛え抜かれた肉体と精神、百獣の王の名に恥じぬ走りで全てを喰らう。
身内にはめっぽう甘く、ノゾミのウマ娘たちに慕われている。


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帝のルーティン/1日の流れ

遅くなりました。全然時間が取れなくってこんなに期間が空きました。

ポケモンやったりモンハンやったり、新しいウルトラマンの情報集めていたりもしていました。

本当にごめんなさい。

今回はミカドの1日の流れを書いてみました。それでは…


 

AM5:00 起床

 

ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピッ!

 

「う、う〜ん……」

 

季節によってはまだ日が昇らないような時間に彼女、ノゾミミカドは起きる。

 

「もう朝か…ふあぁぁ〜…」

 

AM5:20 朝の自主練

 

学園のジャージに着替え、軽いストレッチをしてからランニングを始める。

 

「……ん〜よっし!」

 

ダッ…!

 

学園の周りを30分ほどの時間をかけて走るのが彼女の日課。

 

「あら?あなたは…?」

「?」

 

走っていると彼女と同じ学園のジャージを着た栗毛のウマ娘が近づいて来た。

 

「貴女は、サイレンススズカ先輩?」

 

チームスピカのメンバーの1人、『異次元の逃亡者・サイレンススズカ』。ミカドも使用する逃げの脚質の完成系ともいえる『逃げて差す』を実際にやって退けた人物だ。

 

「ノゾミミカド…よね?スペちゃんやエアグルーヴから話しは聞いているわ。話すのはこれが初めてかしら?」

「こうして面と向かってお話しするのは多分初めてです。エアグルーヴ副会長経由で何度か顔合わせをしたことはありますが…」

「貴女もこの時間によく走るの?」

「はい。大体はこの時間に」

「そう…ねぇ、よかったら一緒に走らない?」

「いいですね…お願いします」

「ふふ、ついてこられる?」

「望むところです…!」

 

互いに同じタイミングでスピードを上げ、目にも止まらぬ速さで道を走る。

暫くして、かなり遠くまで来ていたことが発覚し、ミカドがスズカを止めて電車に乗って帰った。

 

AM6:20 身支度&ブエナの起床手伝い

 

「まさか、学園から数kmも離れた場所まで来ていたとは…エアグルーヴ副会長が心配するわけです。その内県外まで行っちゃうんじゃ……」

 

ハプニングはあったがランニングを終えて、部屋に戻って来たミカド。汗を流すためにシャワーを浴びる。

 

ザァァァ……

 

「走れ〜♪」

 

因みに歌っているのは『winning the soul』。

 

10分後

 

「フゥゥ…スッキリした…さてと」

 

シャワーを終えたら、髪と尻尾を乾かし、制服に着替えるなどして準備を整える。

そして、場合によってはこの時間にルームメイトであるブエナビスタを起こす。今日は彼女のチームのミーティングが朝からあると聞いていたためこの時間に起こす。

 

「ブエナ、起きなさい。今日はミーティングあるって言ってたでしょ?」

「……にんじんさんが……いっぱい……」ジュルリ…

「なんちゅーベタな夢を毎度毎度見てんだこの娘……」

 

よだれをダラダラ垂らしながらだらしない顔で寝ているというなんともいえないルームメイトに呆れながらも起こし続けるミカド。

 

「ほら、起きなさい。先週は遅れて大目玉喰らったんでしょう?起きなさい!」

「う〜ん……あと20分……」

「20分も寝てたら遅刻確定だわ!!さっさと起きなさい!!この間、減量中にはちみー『固め濃いめ多め』を頼んだことをあんたんとこのトレーナーに言いつけるよ!!」

「……っ!?そ、それだけはご勘弁を…!!」

「ならさっさと起きろ!!そして40秒で支度しな!!」

「ハイっ!!」

 

ブエナビスタは基本的に朝は起きない。そのためミカドがこうして起こしてやらないと遅刻が毎回確定する。

寝坊で遅刻は自業自得なのでミカドが彼女を起こす義理はあまりないのだが、お節介なミカドは毎日彼女を起こしている。

チームメイトであるキングヘイローも同部屋のハルウララがよく寝坊するので、2人はどうやったらちゃんと起きてくれるかよく相談している。(その光景は、起きれない我が子がどうしたら自分で起きてくれるか話し合っているお母さんたちの図に見えるらしい)

 

AM6:40 朝食

 

ブエナビスタを送り出し、寮に備え付けられている食堂にて朝食をとる。

 

「今日は…和風にしますか」

 

食堂は6:30に始まり、バイキング方式で誰でも好きなものを取って食べることができる。始まったばかりではあるがそこそこの人数が既に集まっており、何席かが埋まっていた。

 

ミカドは白米、ワカメと大根の味噌汁、焼鮭、サラダ(人参たっぷり)を取り、空いている席に座る。

 

「いただきます」

 

今日はブエナビスタがいないため一人だが、いつもはブエナビスタやトーセンジョーダン、ナカヤマフェスタといったメンツで朝食を取る。しかし今日は…

 

「相席、よろしいですか?」

「?ええ、大丈夫です……よ…」

 

ミカドの前の席に座ったのは真っ黒い青毛の長い髪を持つウマ娘。彼女の同期であり、幾度となく接戦を繰り広げたライバル『セイウンワンダー』であった。

 

「今日はお一人なんですね?いつもの彼女は?」

「今日はチームのミーティングでいない。アイツらも今日は朝練とかでこの時間帯には来れないわよ。そういう貴女こそ。いつもいるグラスワンダーさんは?」

「彼女も今日はリギルの朝練とミーティングで来れないようで。仕方なく一人で食べようと思ったら貴女が一人で寂しそうに食べていたので折角だからと思い…」

「寂しそうは余計よ。結局寂しがっているのは貴女なんじゃいのワンダー?」

「あらあら、ミカドこそ完全な否定をしないところ案外寂しかったんじゃないんですか?」

「うふふふっ…」

「ふふふっ……」

 

 

モブウマ娘A「み、見て。セイウンワンダーさんとノゾミミカドさんの周りからとてつもないオーラが…」

モブウマ娘B「見た目は優雅に談笑しながら朝食を取っているだけなのに歴戦の猛者のようなものが背後に見える…」

モブウマ娘C「例えるならイナ◯マイレブンの化身みたい…」

 

*この二人は別に仲が悪い訳ではありません。互いに良き好敵手として認識しており、尊敬しあっています。これはただのじゃれあいです。

 

 

AM7:20 登校

 

朝食を取ったら部屋に戻り、準備をしてから時間通りに学園へ向かう。ブエナビスタは朝食を取ってからなので少し遅れる。

 

寮は学園と向かいあっており、寮から出て数歩歩けば、トレセン学園に入ることができる。校門の前には緑の服と帽子を着た女性、理事長秘書の『駿川たづな』が登校してくる生徒たちに挨拶をかけている。

 

「おはようございます、ノゾミミカドさん」

「おはようございます、たづなさん。いつも朝早くからご苦労様です」

「いえいえ、これも仕事の内ですし、何よりこうして皆さんが元気に登校してくる姿を見るのが好きですから」

 

少し談笑をしてからたづなと別れ、教室に向かう。教室に着いてからは、クラスメイトと談笑したり、授業の準備をしながら先生が来るのを待つ。

 

AM8:00〜 HR〜授業

 

HRの時間になり、それが終われば、10分後には授業が始まる。

 

一時間目・数学

 

「…であるからして、このXの2乗を公式に当てはめることで答えを導き出すことができる」

 

アスリートとしての一面が強く強調されはするが彼女たちは学生。中にはまだ義務教育中の娘もいる。いずれはレースから身を引き、社会に出る事になる。だからこそこうして真面目に授業を受けているのだ。

 

「ZZZZZZZZZ……」

 

「……ノゾミミカド。横で居眠りしているブエナビスタを起こしなさい」

「はい……ブエナ、起きなさい…」

「にんじんハンバーグ……うぇふぇふぇふぇ…」

「先生、完璧に熟睡しています」

「よし、ならブエナビスタ居眠りにより減点及び補習と…」

 

中にはこの様なことをしでかす生徒も存在する。

 

PM0:00 昼休み

 

「ミカド!!なんで起こしてくれなかったの!?」

「熟睡していて起こすのが非常に面倒だった、以上」

「むぅぅぅ〜」

「まあ、今回はブエナが悪いと思うよ?」

「そういうジョーダンも気付かれてはいなかったが半分寝てたろ」

「マジ?ウチ寝てた?」

 

昼休みのカフェテリアにて昼食を取るミカドとブエナビスタ、トーセンジョーダン、ナカヤマフェスタ。

この4人は行動を共にすることが多い。よく一人が居なければ周りから「アイツどこ行った?」と言われるぐらい。

 

「ジョーダン…貴女も数学の成績良い訳ではないんだからしっかりしなさい。また赤点取るわよ…」

「あはは〜…その時は、またお願い?」

「自分で努力するならね」

「ミカド…わたs「あんたは一人で頑張りなさい」しょんな〜」

「次の期末でブエナが赤点取るのに人参10本賭ける」

「フェスタ酷い!!」

 

大体いつもこんな感じで昼休みを過ごしている。

 

PM4:00 生徒会活動

 

授業が全て終わると、生徒の大半は各々のトレーナーやチームの下に行き、トレーニングを始める。しかし一部のウマ娘はしばらくの時間は参加はしない場合がある。それは委員会の仕事だったり、単純にトレーニングが無いことだったり様々だ。ミカドは生徒会に所属しており、今日は生徒会の仕事がある為、遅れてトレーニングに参加することになっている。

 

「会長、聖蹄祭の予算なのですが…」

「どうしたミカド?何か問題でもあったか?」

 

生徒会室にはミカドを始め、生徒会長である『皇帝』シンボリルドルフ、副会長の『女帝』エアグルーヴと『シャドーロールの怪物』ナリタブライアンがそこに居た。

 

「問題も何も何処のグループも予算を考えないで申請しているところが多いんですよ。例えば、オペラオーさんの宝塚歌劇団に負けず劣らずのセットを使った演劇だったり(ドトウ、アヤベ、トプロ込み)、ファルコンさんが結成したウマドルチーム『逃げ切りシスターズ〜2時間ライブ〜(大掛かりなセット・仕掛け30種類以上)』だったり、『マーベラスサンデーによるマーベラス講座』なんていう訳わかんないものまで……こんなのに大量に予算出せるかぁぁぁ!!!!」

 

勢いよく、企画書を床に叩きつけ半ば発狂するミカドをエアグルーヴが羽交い締めで抑える。

 

「落ち着けミカド!!確かに予算を調整する側からすればこれは気が狂いそうになる案件だが一度落ち着け!!」

「そもそもこんな案を出して通ると思っているのか?」

「確かに全ての案を通せば間違いなく予算が足りなくなる。本人たちと話し合い、妥協点を見つけるしかないな」

「オペラオーの方は任せろ。姉貴経由で話を付ける」

「スマートファルコンの方は私が行きます。スズカを通してなんとかします」

「ハア…ハア…ではマーベラスサンデーの方は私がやります。同室のナイスネイチャさんとは連絡取れますのでそこから行きます」

 

その後、それぞれの活躍により規模を小さくすることには成功した(結局やることにはなった)。

 

PM4:30〜 トレーニング

 

「すみません!遅れました!」

「ミカド、お疲れ。大丈夫だ、まだ全然時間はある」

 

生徒会の仕事をなんとか終わらせてから急いで着替え、トレーニングに参加する。

 

「ミカドにやって欲しいトレーニングはこれだ」

「ええっと…はい、分かりました」

 

福流トレーナーから渡されたメニューを手にし、今日自分が何をするのかを理解した彼女は再びメニューをトレーナーに渡してトレーニングに参加する。

 

「リオ、並走お願いしますよ」

「はい。では行きましょう。」

「今日は突き放しますよ。」

「では私は差し切って見せましょう。」

 

PM5:30 トレーニング終了

 

「……よし。今日はここまで!!」

「「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」」

 

トレーニングを終えて、チームルームから各々出ていくチームメイトたちを見送る福流トレーナーとミカド。

 

「ミカド、君も帰りなさい」

「トレーナーもですよ。今日は残業厳禁です。奥さんとお子さんたちにあまり寂しい思いをさせないであげて下さい」

「ああ〜それ持ってくるのは…」

「奥さんから『主人は無茶をすることがあるのでよろしくお願いね』って言われているので」

「ちょっと待って。いつ連絡先交換したの?」

「少し前にトレーナーが熱でダウンした時にチームのみんなでお見舞いしに行ったじゃないですか。あの時みんなの連絡先を交換しました。グループも作っていますよ」

「いつの間に!?」

「そんなことよりさっさと支度して帰ってあげて下さい。じゃないとレオ先輩直伝、獅子厳流奥義『獅子翔蹴』を喰らわせます」

「すぐ帰るからそれだけはやめてくれ。あれ、あの異様に丈夫な沖野トレーナーも全治4ヶ月の怪我を負った奴だろう?すぐに帰るからやめてくれ本当に!」

「よろしい」

 

因みにその技を実際に喰らったOトレーナーのインタビューがこちら。

 

『いやぁね。有名なあのノゾミのウマ娘のトモはどんな感じかなって思って、その時たまたま近くにいたノゾミレオのを触ってみたんですよ…そしたら触り出してから4秒くらいしたら急にジャンプして、綺麗に一回転してから見事な飛び蹴りを喰らいました。今まで喰らってきたどんな蹴りよりも痛かったですし、いつも以上に命の危機を感じましたよ』

 

PM5:50 入浴

 

ウマ娘寮に備え付けられた巨大浴場には栗東と美浦両方の寮のウマ娘たちが利用する。巨大と言えど一度に入れる人数には勿論制限があるので時間ごとに入る順番が決まっている。ミカドとブエナは50分から入れる。

 

「今日も疲れたぁ」

「私もです…」

 

湯船に浸かってゆるい声でリラックスしている二人。

 

「ミカドはどう?トレーニングは?」

「リオの末脚の恐ろしさを再認識した一日になった」

「ああ…シーザリオ先輩の…あの人の末脚意外と凄いもんね…」

「普段はあんな変な感じだけど、それでも日米のオークスを勝ち取った猛者だもの…本当に凄い人よ。ブエナは?」

「カメちゃん先輩と並走した。一回も抜くことが出来なかった…」

「ああ…まああの人と並走出来ただけでもありがたいことでしょ」

「そうだけどさぁ…」

 

お互いの話をしながら1日の疲れを取る二人。その後、入りすぎてブエナが逆上せてしまい、ミカドが介抱する羽目になるのはまた別の話…

 

PM7:30 夕食

 

ブエナを介抱してから二人は食堂へと向かい、食事を始める。この日の夕食には暇そうにしていたノゾミレオとブエナの姉であるアドマイヤオーラと共に食事をとっている。

 

「ブエナ、あんまり心配させないで…」

「本当にごめんなしゃい…」

「私たちは体温が高いんだから長風呂はあまりお勧めはしないぞ。たかが逆上せだと思っても甘く見るな。逆上せて足を滑らせて頭打って死んだ奴もいるんだからな…」

「それに溺れて窒息することもあるんだから本当に気をつけたほうがいいよブエナ。今日はミカドがいたから何とかなったけど」

「ごめん、お姉ちゃん…」

「反省しているならよし」

 

基本的にオーラはブエナに怒ることは少ない。大体はミカドが既に雷を堕とした後であるため注意を言うだけで終わらせている。怒る時はしっかり怒るが、ブエナ曰く「怒ったお姉ちゃんはミカドのガチギレぐらい恐い」らしい。

 

「本当、お前さんは妹に甘いねぇ」

「レオ先輩も弟子には甘いでしょ?」

「ハァ?私の何処を見て甘いと思ってんだよ?」

「事あるごとに彼女の話をしますし」

「それが?」

「彼女が勝つ度にクラスメイトに自慢しますし」

「……」

「バカにされたら容赦無く相手のことを(模擬レースとかで)潰しますよね?」

「オーラちゃん、リンゴゼリーあげるからちょっと黙ってて」

「黙ります♪」

 

(お姉ちゃん容赦無っ…)

(師匠が黙らせられるの初めて見たかも)

 

PM8:00〜9:00 自習

 

食事を終えてからは、課題や次のレースに向けての復習などをする。因みにブエナはベットで漫画を読んでいる。

 

「ブエナ〜?」

「な〜に〜?」

「課題しなくていいの?提出明後日だよ?」

「明日トレーニング休みだからそこでやる〜」

「見せないからね」

「大丈夫、お姉ちゃんに教えてもらうことになっているから〜」

「了解」

 

PM9:00 自由時間

 

課題を終わらせ、ノートを閉じて大きな伸びをする。今日やることは全て終わらせた為、後は就寝まで自由に過ごす。

 

「さあてと、やりますか」

 

彼女が取り出したのは某N社から発売されているゲーム機とPから始まる有名なモンスター育成ゲーム。彼女はこのゲームの大ファンで結構やり込んでいる。

 

「ミカド、ランクマやるの?」

「ええ、今日はランクを一気にあげていくわよ」

「どんな感じで行くの?」

「”てっぺき””ボディプレ”レ○ロックメインのパーティ」

「なんでランキング圏外の岩の巨人?」

「普通に面白いスペックしてるし、物理なら弱点でも余裕で耐えるし、じゃくてんほけんが美味しいです…あっ」

「どうしたの?」

「カイ○ーガのドロポン喰らって瞬殺された…」

「………ブフッ…」

「フシ○バナ!!”パワーウィップ”で仇とれ!!」

 

この後、ギリギリで負けた。

 

「なんで最後の最後でラプ○スのドロポンが外れるんじゃぁぁぁ!!!」

 

「うるさいぞたわけ!!!」

 

PM 11:00 就寝準備〜就寝

 

寮の就寝時間が近づき始め、ゲームの電源を落とし、就寝の準備を始める。

 

「明日は英語に…地理…あとは…」

 

明日の授業の準備や歯磨きなどを終え、携帯を充電器に取り付け、ベットに向かう。

 

「じゃあミカド、おやすみ〜」

「おやすみ、ブエナ」

 

電気を消して布団を被り寝る体勢になる。数分もしない内に隣からは寝息が聞こえ始め、ブエナが寝たのを感じた。

 

(明日も頑張って行こう…おやすみ私…)

 




因みにポケモンのランクマの話は実際に作者が実際に体験した話です。
こっちの世界のポケモンはウマ系ポケモンは軒並みいません。


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帝のトラブル/ライバルたちの争い

今回はウマ娘編。

あの馬たちが出ます。


聖蹄祭が近づくにつれて、騒がしい学園内は更に騒がしくなって行く。

 

「ミカドさん、この資料とインタビュー映像はどうしましょうか?」

「それはフランスエリアに置いておいてください。後でジャスが編集して、まとめますので」

「わかりました。では引き続きアメリカエリアの資料をまとめます。」

 

「ミカドさん、この資料ってどうしましょうか?日本のレースですけど海外の方が勝っているのでなんかこんがっちゃう気がして…」

「今回はレースで纏めますから日本エリアに置いといてください。」

「分かりました。ポスターの写真のチェックをしてきますね!」

 

「ミカド〜この香港スプリントの映像載せる〜?」

「載せてください。龍王の連覇を載せないとまた本人がうるさくなります」

「その場合はいっつもカレンチャンに『オハナシ』されるのにね〜」

「あの娘もしかして、それ目当てで言っていない?」

 

「ミ、ミカドさん…ドバイエリアの編集…終わりました…」

「わかりました。ジャスは少し休んでから今度はフランスエリアの編集お願いします」

「いや、結構大変なんですよ…フランス語の実況とかも訳さないといけませんし、ドバイも現地実況が何言ってんのかさっぱりで、父の知り合いの協力を得て終わらせたんですし、今日はもう終わり「ここにこの間家のパーティで撮ったオグリ先輩とライン先輩の芦毛ツーショット写真が」すぐに取り掛からせて頂きます!!!」

 

「イギリスの方は問題ないわ。最終チェックが入れば後はOKよ」

「わかりました。キングはしばらく休憩してからこっちを手伝ってくれますか?何分量が多くて…」

「分かったわ…それにしても案を出した身ではあるけどここまで大規模になるなんて…」

 

キングが周りを見渡すと資料を整理しているリオとプレストン。写真の斡旋をするクラフト。パソコンの前でエナドリをストローで飲みながら編集しているジャス。そして、資料の山に囲まれている私という状態だった。

 

「日本のウマ娘を対象に多くのレースを紹介することになるんですから当然です」

 

我々チームヘルクリスがやる展示『古今東西記憶に残るレース展』は現在ラストスパートに差し掛かっていた。

チーム全体で資料を集め、それを元に解説や出走者のインタビューをしに行くなどかなり大変だった。インタビュアーはプレストンさんとリオが担当し、映像や画像の選別は写真が趣味のクラフトが担当。資料のまとめは主に私とキングとジャスが担当。特に父親がテレビ局の編集者であるジャスはそのノウハウのような物を父に聞いておりかなり頑張ってもらっている。

解説も映像を使い分かりやすくしており、私たちが声を入れているので見ていて飽きないように作っている。*1

 

「ジャスタウェイさんの仕事量が一番多いけど、大丈夫なの?もう空元気でやっている感じがするけど…」

「細かい編集はジャスにしか出来ませんからね。フランスの展示が終わればひと段落つきますし、そしたら彼女の仕事は終わりです。もう少しだけ頑張ってもらいましょう」

 

かくいう私もジャスほどではないがかなりキツい状態である。映像などの編集はジャスにしか出来ないけど、流石に頼りっぱなしは出来ないためポスターや紙資料の編集は私が一任している。

 

「この後は生徒会の経理管理や他のチームの出し物の見回りにも行かないといけませんから少しでも終わらせないと」

「頑張ることはいいことだけどあまり無理はしないほうがいいわよ」

「ありがとうございますキング。取り敢えず、このジャパンカップの資料をまとめれば後は大丈夫ですから。」

 

笑いながらそう返すと、廊下からかなり焦った様子の足音が聞こえてきた。そしてドアが勢いよく開く。

 

「ハァ…ハァ…の、ノゾミミカド先輩はいらっしゃいますか!?」

 

扉を開けてきたのは別のチームのウマ娘だ。

 

「どうしたんですか?そんなに慌てて?」

「じ、実は、ドリームジャーニー先輩とセイウンワンダー先輩が…!」

「!!」

 

その名前を聞き、私は直ぐに立ち上がる。

 

「キング、この後の指揮は副リーダーのあなたに任せるわ。」

「ええ、分かったわ」

「プレストン、リオ、クラフト、ジャスはキングの指示に従うこと。いいわね?私はあのバカどものところに行くわ。案内して!」

「は、はいこちらです!!」

 

たく、今世でもアイツは私に迷惑かけてくんのか!

 

 


 

 

案内された場所は中庭、そこでは二つのグループが向かい合うように並んでおり、まるでヤクザの抗争開始前のような雰囲気だった。

 

「何度も言いますがジャーニー先輩。ここは元々私たち『チーム・スコルピィ』が取っていた場所です。お引き取りください」

「はっ!何言ってんだここは俺様たち『チーム・アルスハイル』のシマだ!そっちが引け!」

 

いや、片方完全にヤクザだ。

 

「何がどうしてこうなったんですか?」

「えっ、えっと実は…」

 

要約するとこうだった。まず聖蹄祭での出し物で外の敷地を使うことになった両チームはそれぞれ場所を申請。しかし、その段階で何か手違いが起き、場所が被ってしまい、本来は一つのチームが使う場所に二つのチームが入ることになってしまった。そして、今こうして争っているらしい。

 

「なんでそんなことに…」

「すみません!すみません!今年は例年よりも場所の申請をする方が多くてそれで…」

 

完全に落ち度は委員会や私たち生徒会側だ。解決策を見つけなくてはいけないがまずはこの場を修めなくては。ドリームジャーニーは、トレセン学園一の暴れん坊。問題行動が多いこともあり、学園内では要注意人物として知られている。ただし、身内には甘く、妹のことを特に溺愛しており、妹のいうことは7割ぐらいの確率で聞いてくれるらしい。(因みにトレーナーはぶっ飛ばす)

 

「そこまでにしなさい。」

 

「「!!!」」

 

私が声を出すと集まっていた野次が道を開ける。それに入って行き、二人の間にはいる。

 

「ワンダー、ジャーニー先輩。これ以上騒ぎを大きくするのならば生徒会としてあなたたちを注意しなくてはいけません。」

「だけどミカド。これは簡単に引き下がれるものではありません。」

「そうだぜ。この場所は立地的にも目立つ場所だからな。俺たちの屋台をやるにはちょうどいいんだよ!」

「分かっています。しかしここで問題を起こせば、あなた方に処分が下り、最悪聖蹄祭に参加することができなくなります。」

「っ…」

「チッ…!」

「しかし、これは完全にこちらの落ち度です。代わりの場所は必ず用意します。この場所の使用権に関しては私たちらしいやり方で決めましょう。」

 

 

トレセン学園グラウンド

 

 

『さあ、始まって参りました!!中庭の一角の使用権を巡るチーム・スコルピィとチーム・アルスハイルの全面対決!!実況はこの私サクラバクシンオーがお送りいたします!解説はこの対決方法を立案した生徒会経理兼書記のノゾミミカドさんです!!』

『よろしくお願いします』

 

 

スコルピィとアルスハイルの争いで不公平がない決め方、それがレース。話し合いでも良いが怒り心頭のドリームジャーニーが話し合いが出来るとは思えない。そこで毒抜きも兼ねてレースで決着をつけることにした。

私たちウマ娘は走ることに対して非常に貪欲だ。これが一番分かりやすく、納得しやすい。

 

 

『今回のルールは芝2200m、右回りのチーム戦!馬場状態は良馬場、天気は晴れとなっております!互いのチームから3名が選出され、1着でゴールした方のが所属しているチームが勝ちとります!なお、もしも並んでゴールした時のためにノゾミミカドさんがゴール版前に撮影係の方を配置しておりますから確認可能です。それでは、参加するのはこの方々です!』

 

 

なんか勝手にやって来たサクラバクシンオー先輩がそういって手を前に出すと、体操着に身を包んだ六人のウマ娘が現れる。

 

 

『一枠一番、スコルピィの輝く光!ディープブリランテ!』

『二枠二番、アルスハイルのお転婆魔女!スイープトウショウ!』

『三枠三番、夜を照らす月光!スコルピィ、アドマイヤムーン!』

『四枠四番、雄々しき突風!アルスハイル、ブラストワンピース!』

『五枠五番、仰天動地、末脚ならばスコルピィ1!セイウンワンダー!』

『六枠六番、我が道進む夢の旅路!アルスハイルの怪物、ドリームジャーニー!』

 

 

登場と同時に歓声が挙がる。会長や各トレーナーに許可やらなんやらとっているうちに噂が出回って観客が集まって来ていた。

 

 

『以上の6名のレースとなります!それでは解説のミカドさん!どの様なレースになるんでしょう?』

『今回出走するウマ娘は差し・追込みが多いですから位置取りが重要になってくると思われます。先行で行くのはおそらくディープブリランテさんだけでしょうね。』

『なるほど!おっと、どうやら出走準備が整った様です!』

 

 

ゲート前に並ぶ六人。一人、また一人と入って行き、全員がゲートに収まった。(この時、スイープさんだけが中々入らずブラストワンピースさんとドリームジャーニーが頑張って押し込んで、不機嫌顔。)

そして…

 

ガゴンッ!

 

 

『さあ、始まりました!全ウマ娘綺麗なスタート決めました!先頭を行くのはやはりディープブリランテ!その二身後ろにブラストワンピース!一身後ろにスイープトウショウ!外にいるのはアドマイヤムーン!一身にセイウンワンダー!最後方、内側にドリームジャーニー!こういった展開です!』

『ディープブリランテとブラストワンピースが前にいます。レースの形を作っていくのはこの二人になるでしょう。』

 

『1000mを通過し、先頭は依然ディープブリランテ!その後ろにブラストワンピースが付いています!スイープトウショウ、少し落ち着かない感じです!アドマイヤムーンがここで三番手に上ります!セイウンワンダーとドリームジャーニーは依然最後方で走っています!』

『あの二人は最後の直線で一気に抜き去るタイプですから今は互いに足を溜めつつタイミングを測っているんです。』

 

 

あの二人が動くなら直線、または四コーナー中盤から終盤のどこか。先に動くのはどっちか…

 

 

『第三コーナーに入り、いまだ大きな展開は起きておりません!まだまだどうなるのか分かりません!』

『いえ、そろそろ…っ!動きます!』

 

 

「ここらで行きますか!」

 

 

『おっと!?ここで動いたのはアドマイヤムーン!三コーナー中盤で動いた!まだ少し早いのでは!?』

『いえ、恐らくこれは…』

 

 

「な!?待ちなさいよ!?」

 

 

アドマイヤムーンさんが急に動いたことでスイープさんがつられて加速。これはスイープさんの性格を知っての動き。

今回のレースはあくまでチーム戦。例え自分が1着になれなくても相手を翻弄してスタミナを削る。アドマイヤムーンさんは後々厄介になりそうなスイープさんを抑えるために前に出た。

 

「スイープさん!?抑えなさい!それは相手のブラフよ!」

「ムーンさん…私も自分の役割を果たさなくちゃ!」

 

 

『ブラストワンピース、スイープトウショウが暴走したことに焦っています!それを抜いてアドマイヤムーンとスイープトウショウは現在二番手三番手!第四コーナーに入り、レースも終盤に近づいて来ました!』

『こっからあの二人も本格的に動きます!』

 

 

「さて…」

「そろそろ…だな…」

 

「ふんにゅ〜…!!」

「そろそろ限界ですかね?」

 

「やばい…スイープさんが完全に垂れている…!」

「私の仕事はここまで…後は…」

 

 

『直線に入りますが、スイープトウショウは完全にガス欠ですが意地でなんとか食らいついています!アドマイヤムーンが現在先頭!ブラストワンピースも猛追!ディープブリランテは三番手!ここでやはり動いた!ドリームジャーニーとセイウンワンダーが動きました!一気に加速して差を詰めていきます!』

 

 

ドリームジャーニーが内から、ワンダーが外から、それぞれの末脚で加速する。

しかし…

 

「なっ!?オイブラスト!どけよ!」

「あっ!?す、すみません!?」

 

『ドリームジャーニーのルートにウマ娘が固まっています!これはいったい!?』

『スコルピィの作戦でしょう!ドリームジャーニーが通るであろうルートにウマ娘を固めたんです!』

 

 

「後はお願いします!」

「お任せを!」

 

 

『セイウンワンダーが外から一気に抜き去った!ドリームジャーニーもなんとか無理やり群を抜けて、二番手に着くが間に合うか!?セイウンワンダー更に加速!しかしドリームジャーニーも追いすがる!その差を縮めていきます!果たして勝つのはどっちだ!?』

 

 

「「ハァァァアアア!!!!」」

 

 

『並んだ!並んだ!並んだままゴールイン!!』

『これはどちらが勝ったのか…少々お待ちください。』

 

 

私は放送席をたち、ゴール版前にいる撮影係の子の元に向かった。

 

「どうでした?」

「はい。こちらです!」

 

渡されたビデオカメラの映像をスロー再生で見る。

 

「これは……」

 

ゴール直後で映像を止め、確認する。殆ど同じタイミングでゴールしているがワンダーの方が僅かに後ろにいる様に見える。

 

 

『判定結果、一着は…ハナ差でドリームジャーニー!よってこの勝負チームアルスハイルの勝利!』

 

 

結果を言うと観客から歓声があがった。

 

「ハァ…逃げ切れなかったか…」

「当たり前だ!オメェなんかに負ける様なジャーニー様じゃないってことだ!そんで?あの場所は俺らが使って良いんだよな?」

「約束は約束です。貴女たちのご自由に。」

 

そういって互いに手を出し、握手する。中は悪い二人ではあるが別に嫌いというわけではないからね。

 

こうして今回の騒動は大団円で終わったのであった。

 

 


 

おまけ

 

アルスハイル部室

 

「それでね?ジャーニーちゃん、ブラストちゃん、スイープちゃん?なんでチームリーダーのデュランダルさんと副リーダーのカレンに今回のこと報告しなかったの?」

 

部室の真ん中で、ドリームジャーニー、ブラストワンピース、スイープトウショウの三人は正座をしていた。笑顔ではあるが目が一切笑っていないカレンチャンの前で。

 

「あっ、いやその…」

「大方、交渉とか色々面倒臭いから殴り込みに行ったって感じでしょ?」

「………」(図星)ダラダラダラ

「しかもレースをする許可をお兄ちゃんからもらう時にお兄ちゃんのことまた吹き飛ばしたでしょう?」

「い、いや、でも姉御!それはアイツが許可を「ん?」イエ、ナンデモアリマセンカワイイカレンチャン!!」

 

カレンチャンの鋭い眼光によって萎縮してしまったドリームジャーニー。先ほどまでの強気の態度はどこへやら。

 

「よろしい。……二人は何かいうことはある?」

「ジャーニー先輩に言われて参加しました」

「ケーキくれたから…」

「情状酌量の余地はありかな…今回は見逃すけど、次は無いって思っておいてね?」

 

「えっと…俺は…?」

「うん?何いってるのかな?カレンは一言もジャーニーちゃんを許すとは言っていないよ?」

「え…」

「お兄ちゃんに迷惑かけた分、スコルピィに迷惑かけた分、ノゾミミカドさんや生徒会の方々に手間をかけさせた分、お兄ちゃんを吹き飛ばした分、カレンに知らせなかった分。取り敢えず、一緒に『オハナシ』しようか?」

 

 

「ぎ、ギィイィイィイィやぁぁぁぁぁぁあああああああぁあ!!!!!!!???」

 

この後、ドリームジャーニーは翌朝まで「カワイイカレンチャン」しか喋れなくなった。

 

アルスハイルの権力

一位:カレンチャン・デュランダル

二位:オルフェーヴル・ドリームジャーニー

三位:スイープトウショウ

四位:トレーナー

五位以下同列

 

*1
内容の原稿はリオが作成




チームスコルピィ
デルタブルースをリーダーとする、ストイックなウマ娘が多いのが特徴的なチーム。

所属ウマ娘
デルタブルース
セイウンワンダー
アドマイヤムーン
ディープブリランテ
他多数

チームアルスハイル
デュランダルをチームリーダーとする、気性難なウマ娘が多いことで有名なチーム。ただし、実力は折り紙つき。

所属ウマ娘
デュランダル
オルフェーヴル
カレンチャン
ドリームジャーニー
スイープトウショウ
ブラストワンピース
他多数

今回は各トレーナーは出てきませんでしたが、ウマ娘を見れば多分誰か分かると思います。特にアルスハイルの誕生星を調べれば…
スコルピィは関係ありません。星言葉似合うと思って…


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帝の事件/薬の変化 前編

投稿が遅くなりすみません。

実はつい先週までコロナに感染し、ダウンしていました…

辛かったですよ…熱は出るわ鼻水出るわ咳は止まらないはでもう散々…

皆さんは気をつけてくださいね。手洗いうがいアルコール消毒はしっかりと!


ドッカァァァンンンン!!!!!!!

 

トレセン学園のとある一室で起きた大爆発。それに続くかのように部屋から出てきたフラスコが飛び散り、中に入っていた薬品も爆発。その煙は瞬く間に学園中を包み込んだ。

 

「ゲホッ、ゲホッ!これは…!奴か!?ミカド、無事か!?」

「ゲホッ、は、はい。なんとか…」

「そうか!煙でよく見えないが取り敢えず奴のところまで行くぞ!今あんなことをするのは奴だけだ!」

 

廊下にいたエアグルーヴとノゾミミカドは煙を吸い込みながらも冷静に状況を確認し、この騒動の犯人であろう人物の元へ向かう。こんなことをしでかすのは限られる。何より薬品となれば一人しかいない。

 

「アグネスタキオン!!貴様、またやったな!!今日という今日は許さんぞ!!」

 

エアグルーヴが勢い良くアグネスタキオンのいる部屋の扉を開ける。部屋はさらに濃い煙が充満しており中の様子はよく見えない。薬品のキツい匂いが漂っていて嗅覚もまともに機能してはいないがウマ娘は聴覚も良い。部屋から何かがモゾモゾと動く音が聞こえる。少なくとも誰かいるのは確かだ。エアグルーヴたちはその者の近くにまでやって来た。煙は少しだけ晴れていき、茶色い髪に右耳には髪飾りが見えた。間違いない、アグネスタキオンだ。

 

「そこにいるのか!!タキオン、貴様という……奴……は……」

 

エアグルーヴの声に先ほどまであった勢いがなくなっていく。彼女が目にしたのは…

 

「ゴホッ、ゴホッ…やぁやぁ副会長殿、そう目くじらを立てないでくれたまえ。今回のことは私にとっても想定外のことなんだ。まさか研究中の薬品の調合をしていたらこんな大爆発が起こる可能性は低いと考えていたからね。」

 

口調は本人のものだが『声』が違う。彼女はここまで低くなかった。タキオン?が立ち上がるとエアグルーヴを見下ろす感じになった。彼女の背はこんなに『高く』はない。

 

「おや?エアグルーヴ君、身長が縮んだかい?薬の影響か?」

 

組んだ腕は女性の腕ではなく『男性』のもの。胸板はたくましいものに喉には喉仏がはっきり確認できる。それはまさしく『男性』だ。しかし、頭部から『ウマ耳』が生えている。そのタキオンらしき人物はまるでアグネスタキオンを男性化したような美男子だった。

 

「エアグルーヴ君?おーい?ダメだ、反応がない。いるんだろうノゾミミカド君。君も何か言ったら…どう……だい……」

 

タキオンらしき人物が見たのはこれまた整った顔立ちの美男子。しかし黒い髪が生える頭部からは『ウマ耳』が…

 

「あ、あの…つかぬことをお聞きしますが…もしかしてアグネスタキオンさんですか?」

「君はまさか…ノゾミミカド君かい?」

 

互いに互いの質問に肯く。つまりこれは……

 

「性転換ものかよぉぉぉぉ!!??」

 

トレセン学園の実に6割型のウマ娘が『男性化』してしまったのだった。

 

 


 

 

 

理事長室

 

「さて、どういうことか説明してもらおうか、アグネスタキオン?」

 

部屋にはエアグルーヴ・秋川理事長・秘書駿川たづな以外の女性はいなかった。特徴的な三日月のような流星を持つウマ耳の男。エアグルーヴの隣にいるのは鼻にテープを貼り、草を咥えたウマ耳の男と、黒い髪型をした最初の男に似た流星を持つウマ耳の男。そして生徒会室の中央で正座する栗毛のウマ耳の男。

 

その正体は順に、シンボリルドルフ、ナリタブライアン、ノゾミミカド、アグネスタキオン。本来ならば女性であるはずのウマ娘である彼女たちが男性へと変貌してしまった。

 

「説明!我々が学園を離れている間一体何があったの!?」

「6割型の生徒が突然男性化。原因は勿論あなたですよね?アグネスタキオン?」

「ああ。どうやら私が作成中だった『変質薬』が今回の原因だろう。」

「その変質薬について説明してもらおうか?」

「あれは私が研究中だった薬の一種でね。用途は本来なら体に害を及ぼす物質の害する要素を変質させ、無害にするという目的で研究していたんだが…徹夜続きで誤った調合をしてしまい爆発。そしてサンプルとして作っておいた変質薬も飛び散り、離れたところで爆発。それが繰り返し起きたことで、一部のウマ娘の『性別』が変質してしまったようだ。」

 

薬の効果自体は素晴らしいものだがその結果多くの生徒に被害が出ていることは見逃せない。

日常生活に支障が出る。更にはレースなども出れるか怪しくなる。

 

「質問!これは元に戻るのか!?」

「心配要りませんよ理事長。効果は長くて3日、早くて1日で効果が切れるはずだ。この薬はまだ未完成品だったから変質に成功してもしばらくすると元に戻ってしまうんだ。以前モルモット君に試飲させたら髪が伸びたり、体が巨大化したり、伝説のスー○ー○イヤ人みたいになったりしたけど全て24時間〜72時間以内で元に戻った。」

 

取り敢えず元に戻ることに一同は安堵。部屋の空気が幾分か軽くなった。

 

「方針!一先ずは混乱の沈静化!生徒会から生徒一同に今回の騒動について説明を行うこと!我々も沈静化には協力する!レースに関しては幸いにも今日からであれば全員元に戻るまでの時間があるため、各トレーナーと要相談すること!アグネスタキオンは罰として一ヶ月間の研究に関わる行為の一切を禁じ、反省文50枚の提出を求む!」

 

理事長の方針に異議を唱えるものはおらず(一名は渋々了承)、元に戻るまで動き出した。

 

 


 

 

ミカドside

 

 

「わぁぁ…みんな男の子になってる!!」

 

タキオンさんが起こしたこの性転換騒動で俺の体は男のものに変化。会長やブライアン副会長も巻き込まれ男になった。それは同期も同じだった。

 

「いやぁ〜男のウチってこんな風になるんだぁ…結構イケてね?」

「背が伸びた。声が低くなった。少し筋力がついた。そんくらいしか分かんねぇ…」

「いやもっとあるでしょう!体の性別が完全に反転しているんですから!?」

 

ジョーダンは髪が短くなり、かなりたくましい身体つきになり、フェスタは髪の長さは変わっていないが背が伸びており普段の口調が男っぽいところがあったせいか結構様になっている。ワンダーは髪の長さや背丈もそこまで前と変わらず華奢な体型に見えるが体はジョーダン以上にたくましい筋肉がついていた。

 

ブエナは全く影響を受けていないようで元のままだ。他にも一部の生徒が薬の煙を吸ったのにもかかわらず変化していない娘もいた。俺はなぜ薬の煙を吸ったのに一部の生徒が変わらなかったのを理解していた。前世の記憶といったものが俺の中にはある。そこではウマ娘が存在せず、代わりにウマという生き物がいた。そこにはこのメンバーもいた。そしてブエナ以外は全員牡馬、つまりオスだった。

 

(今回、性転換した生徒は全員前世のウマが牡馬だった生徒のみ。エアグルーヴ副会長やブエナ、カワカミプリンセス、スイープトウショウ、カレンチャン、メジロドーベルを初めとする元は牝馬だったウマ娘も煙を吸ったが変化がなかった。変質薬はウマソウルにあったウマの性別を元に私たちの体を変質させたのか?)

 

因みに人間には今回被害はなし。ウマ娘だけに変化が起きた。

 

「取り敢えず、今日から三日間は俺を含めた性転換した生徒は外出は原則禁止。何か必要なものがあれば変化しなかった生徒に頼むか宅配で頼むかにしろ。後でまた生徒会から正式に発表するが先に教えておく。」

「ミカドの口調なんか男の子っぽい感じになってない?さっきも俺っていっていたし。」

「……えっマジで?」

 

ヤバイな…完全に無意識だった。前世の方に引っ張られているのか?これ、精神まで男になって来ているんじゃ…

 

「ミカド?お〜い?聞いてる?」

「あ、ああ、聞いてるよ…とにかく、各々暫くは注意してくれ。」

 

こうして、俺らの性転換生活が始まった。あと、ブエナが近づいた瞬間なんか急にドキッとした感じがしたんだけど…あれなんだ?

 

 


 

 

チームヘルクリス部室

 

「……見事に変わったな…お前ら…」

 

トレーナーの第一声がそれだった。

 

「まあ、まだ少し体の使いかたが微妙だけど問題ない。キングは常にあらゆるトラブルに直面しても豪胆に構えなければならないのだからな!」

「キング、なんか別のキングインストールしてないか?」

 

短髪になり、身長も伸びたキングヘイローはまさに『王』といっても差し支えのない感じに仕上がっていた(けどなんか白い一輪のバイクの様なものに乗る男が思い浮かんだ)。

 

「みんな変わっちゃったねぇ〜僕もだけど〜。」

「性別が変わっても貴方は変わらないんですねプレストン。」

 

小柄なのはそのまま、男らしい体格になっても生来のおっとり感は変わらないプレストン。

 

「芦毛のウマ娘がウマ息子に…!?男になったことで芦毛の魅力がさらに引き締まったものもいる……!?いや、元のままでも美しいのは変わらないのですが何故かしっくりくる人もいて……!?僕はどうすれば……!?……いや、例え姿が変わったとしても芦毛の魅力は世界一美しく素晴らしいものだ!さっそく他の芦毛の方々も目に焼き付けに……!!!」

「キング、手伝ってください。この芦毛バカを拘束します。マジでシャレにならない」

 

男になってなんか変な方向にブーストしているジャスを簀巻きにして拘束。下手をすれば絵面がシャレにならないことになる。

 

「と、取り敢えず、このチームで変化していないのは私とクラフトだけですね…」

「みなさん、こんなにかわっちゃったんですか?」

 

吊し上げたジャスを横目に被害ゼロのリオとクラフトがそう呟く。チームヘルクリスはシーザリオとラインクラフトを除き見事に男になっていた。

 

「まあ、姿は変わっても根本的な中身はお前たちのままということが今見ていて分かったよ。特にジャス。」

「そう言ってもらえると嬉しいですね。ついでに降ろしてくれません?頭に血が上ってヤバイです。」

「とにかく、今は色々と制限されるがそれに耐えてくれ。練習などは今日は一旦無し。各々の自主練で済ませて欲しい。明日以降はまた別途伝える。」

「あの〜降ろしてもらえると…」

「ジャスタは後で沖野トレーナー経由でゴールドシップに連れて行ってもらうよう連絡するから暫くそのまま。今の状況、ゴールドシップよりお前が一番危険だ。欲望に関して歯止めが効かないから。」

 

 


 

 

あの後、ジャスをあのままに解散し、部屋を出てすぐに男体化したゴールドシップがきて簀巻きジャスを担いで消えて行ったのを見送った俺は一度学内がどうなっているのか視察することにした。

 

練習場

 

普段なら多くのウマ娘がここで切磋琢磨しながら己の走りを追求し走っているが今日は少し少ない。この騒動だからやはりどこも練習を控えているのだろう。パッと見、自主練をしている生徒しかいない。

 

「おや…?あれは…」

 

「フッ、フッ、フッ…!」

 

「メジロマックイーンさんと…近くでタイムを計っているのはイクノディクタスさんですね。というかマックイーンさんも見事に男になっているな……しかも凄い美形…」

 

マックイーンさんは正しくメジロの御曹司というイケメンになっており、髪も短髪に、身長は伸びており大人っぽい感じに見える。

 

イクノさんがいるのは恐らく偶然居合わせたんでしょう。カノープスも見事に被害が出ているでしょうし、自主練中に一緒にやるようになったんでしょう。

 

「ふぅ…イクノさん、タイムはどうでしたか?」

「はい、マックイーンさん。これが先程のタイムです。以前のタイムと比べると…」

 

イクノさんがマックイーンさんに近づいて記録を言っているがイクノさんが近づいた瞬間からマックイーンさんの挙動がなんかおかしい。そわそわしているというか、心ここにあらずのような…?

 

「……マックイーンさん?聞いていますか?」

「えっ!?……も、もちろん聞いてます!タイムの話ですよね!?」

「いえ、それは最初に言いました。今はフォームの話です。」

 

……なんだろう、なんか見ていてマックイーンさんが凄い思春期の男子の行動っぽい感じがする。まるで、片思い中の女の子に詰め寄られている男子のような…………

 

「絶対それじゃん。」

 

この時俺はあることを思い出した。

 

前世の馬のメジロマックイーンはイクノディクタスに恋をしていたという話がある。これは人間側から見たもので馬が本当にどう思っていたかはわからないが少なくとも今この場にいるメジロマックイーンはイクノディクタスに対して異性に対する好意を持っているのだろう。それがなんなのかは本人もわかっていないだろう。ついさっきまで女だったわけだし。

 

「……ちょっと…面白い…」

 

これは他のパターンも見にいくしかないよな…!

 

 

*ここで補足

 

ミカドは馬からウマ娘に転生したがそれは『自分が馬という生き物だった』という記録を見て、知っているだけに過ぎず、馬のミカドとウマ娘のミカドは性格に差異が生まれている。そしてみなさんが知る「競走馬編」でのノゾミミカドは真面目で大人しい馬というイメージを持つ人もいるでしょう。しかし、描写は少ないですが馬のミカドはイタズラっ子な一面もあり、面白そうなことが好きな性格なのだ(例:菊花賞の写真撮影の時に嘶いてハプニング写真を作成。ちなみに確信犯)。

そしてノゾミミカドは現在、男の体になっているため、彼女の中にあったウマソウルがそれに作用する形で前世の性格に引っ張られている状態。つまり今の彼は……

 

「そんじゃあ、他の人の赤面シーンとか見にちょっくら行きますか!」

 

普段の騒動を止める側から騒動を楽しむ側へとシフトチェンジしているのだった。

 

そして、野次馬となった彼は学園中の性別転換で変化したウマ娘たちを見にいくのであった…

 

後編に続く




今回は一度ここまでです。
ミカドの現在の心境というか考え方は…

普段:真面目に対処する→現在:面白いことはとりあえず楽しむ

なので、思考に0.0000000001%ぐらいのゴルシ成分が追加された感じです。
安心してください。とりあえずゴルシより問題にはなりませんので!(全く安心できない要素も追加)

因みに今のミカドの男状態情報は以下の通り。

身長:183
体型:細身だけど筋肉もしっかりついている。
性格:真面目だけど面白いことは楽しむ

それではまた次回。コメントや高評価お気に入り登録をよろしくお願いします。コメントは必ず見ています。


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帝の事件/薬の変化 中編

今回はちょっとはっちゃけた部分があります。
そして、ちょっとした性格変化がありますのでご了承ください。
それでもOKという方はこのままお進みください。


「さぁて…まずは、あの二人がいいかも…」

 

ノゾミミカド(男)は現在、学園を散策し、何か起きていないかを楽しみながら歩いていた。

 

「お嬢〜!!」

「・・・・・」

 

そしてお目当ての二人を中庭で見つけたようだ。

 

「ねぇねぇお嬢!!見てくんね!?男になったウチ、チョ〜イケテネ!?」

「・・・・」

 

青いメッシュが入ったような髪の男が『ダイタクヘリオス』、そんな彼を無視しているお嬢と呼ばれている女性の『ダイイチルビー』の二人が歩きながら(ヘリオスが一方的に)話していた。

ヘリオスは髪が短くなり、身長も170後半の正に陽キャのイケメン高校生といった感じに変化。ルビーと並ぶと身長差によりさらに高く見える。

 

「あの二人は前世でダイタクヘリオスがダイイチルビーに恋をしていたって言われていたからな…こっちでもヘリオスさんがルビーさんに突撃していったし…さぁ〜て…どうなる?」

 

草むらに隠れて状況を観察するミカド。その姿はどこぞの不沈艦シロイアレを思わせる。

 

「ウェイウェイウェイ〜!!どう?お嬢!?お嬢!?」

「・・・・・」

 

(み、見事なガンスルー……!?)

 

ルビーはヘリオスの話を全てスルー。噂に聞く塩対応をしていた。

 

「噂には聞いていたけど、ここまでスルーをするって……俺だったら大分メンタル削られるけど…」

 

〜〜

『今どこからかダジャレの気配が!?』

『会長!?』

 

エアグルーヴのやる気が下がった。

〜〜

 

「ムゥゥゥ…」

 

ヘリオスも少しだけ不満げな顔をする。ガンスルーされまくって不満げな顔だけで済んでるあたり、ダメージはそこまで受けていない模様。

 

「おりゃあ〜!!」

 

ガバッ!!

 

「っ!?へ、ヘリオスさん!?」

「お嬢〜さすがにずっとスルーはテンサゲだよ〜?」

 

痺れを切らしたのかヘリオスはルビーを抱えて縦抱きにする。流石にルビーもこれには反応を示した。

 

「……降ろして下さい。トレーニングをしなくてはいけないので。」

「でもでも、今日はどこもトレーニングはナッシングでしょ?ならお嬢も一緒にいこうぜぇウェ〜〜イ!!」

「い、行くって何処に!?」

「これからパマちんやジョーダンたちと集まって盛りアゲアゲのパーティタ〜イム!!お嬢も一緒にヒアウィーゴー!!」

「ちょっ!?ヘリオスさ!?」

 

そうしてヘリオスはルビーを抱えたままダッシュでどこかにいってしまった。

 

「………なんか……いつもより強引というかなんというか……」

 

ミカドはヘリオスの行動に呆気を取られつつも別の場所に移動した。

 

 


 

 

「さっきのヘリオスさんの行動……普段ならしないよな?やっぱり性別が変わって、気になる相手は独占したいとかあるのか?」

 

ミカドが色々と考えているとまた別のペアを発見。

 

「キタサン!次はこっちに行くわよ!」

「ス、スイープさん!今はあんまり動かない方がいいですって!」

 

男性化したキタサンブラックとその手を引くスイープトウショウの二人だ。

キタサンブラックは髪型は変わっていないが、身長が伸びて180ぐらいになり、体も程よく引き締まり、男らしくなった。

あの二人も馬だった時に交配をして、子供も生まれていた。その関係からか、こちらの世界でもよく一緒にいるところを見る。

 

「あの二人はどうなんだ?前の2ペアに比べると前世の絡みは薄い方だけど…」

 

そうこうしている内にスイープはキタサンを連れて進んでいくが、キタサンを引いているためか後ろ向きになることある。アレではもし前方から何か来たら反応できない可能性がある。

 

「ほら、早く行くわよ!」

「スイープさん、ちゃんと前見て…!」

 

「ゴールドシップゥゥゥゥ!!!!!貴様、僕がイクノさんと話している時に撮った写真を今すぐこちらに渡せぇぇ!!!」

「やなこった!こんな面白い表情(思春期男子風)のマックちゃんの写真なんて取れるかどうか分かんないだろ!これは俺っちが綺麗に現像して学園中にばらまいたのちに故郷のゴルゴル星にも送って国宝にしてやるから安心しな!」

「何を訳わからないことをぉぉぉ!!!!」

 

「だかr「悪りぃ、通るぜ!」きゃっ!」

 

突如前方に現れたゴールドシップ&メジロマックイーンが猛ダッシュでスイープたちとすれ違う。その余波でなのか、スイープがバランスを崩してしまった。このままでは転んでしまうとミカドが思ったその時!

 

ガシっ

 

「ふぇ…?」

 

スイープは腕を何かに掴まれ、倒れるであろう方向とは逆の方向に引っ張られ転ばずに済んだ。

 

「スイープさん、大丈夫ですか?」

 

スイープはキタサンに抱きしめられる形になっていた。キタサンはスイープが転ぶ瞬間に咄嗟に腕を掴み、自分の体の方へ引っ張って抱きしめたのだ。急に起きたことで彼女の脳は処理が追いついていないようで目を白黒させて自分の真上から見えるキタサンの顔を見ている。

 

「急に前から何か来ることもあるんです。しっかり前を見て注意しましょうね?今日は僕がいたから転ばないで済んだけど今後は気をつけてね?」

 

満面な笑みでそう話すキタサン、そしてやっと処理が追いついたスイープは顔を真っ赤にさせて…

 

「わ、わかっているわよ!こんな事があっても私の魔法があればどんな危険も察知することができるんだから!!こ、今回はたまたま発動しなかったけど、いつもだったら大丈夫なんだから!!……で、でも……ありがとう…////」

「うん?何か言いました?」

「な、なんでもないわよ!!ほら行くわよ!!」

「はい、分かりました。……かわいいなスイープさん…

 

そう言って二人は去って行った。

 

「………天然で頼れる主人公とツンデレ魔女っ子ヒロインって………なんのゲームだよ……ていうかゴルシがここに居るってことはまさか……!?」

 

 


 

 

ところ変わってカフェテリア…

 

「はい、アヤベさん。あーん。」

「…ねぇ、カレンさん…どうして僕たちはこんなことをしているんだ?」

「だってぇ、男の子になったアヤベさんなんてこれから先絶対見られないだろうし、ウマスタに上げるのは禁止されちゃったし、それなら今のうちに沢山見とかなきゃって」

「はぁ…?」

 

男になった『アドマイヤベガ』に対してケーキをアーンをするのはウマスタグラマーである芦毛のウマ娘『カレンチャン』。

 

アドマイヤベガは薬の効果で男になり、早々カレンチャンに捕まり、こうしてカフェテリアでスイーツを食べることになった。

因みにアヤベはクールな雰囲気が特徴な180に近い身長の男になった。

 

「にしてもぉ、アヤベさんがここまでカッコいい男の子になるなんて、カレンびっくり!俳優さんやモデルさんなんかよりもカッコいいですよ!」

「あ、ありがとう…」

 

また別の席では…

 

「スカイさん…なんですよね?」

「そうだよぉ〜…フラワーがよぉ〜く知ってるセイちゃんです。いやこの場合はセイくんの方が正しいのかな?」

 

トレセン学園を飛び級で入学してきた天才少女とも言われる『ニシノフラワー』とトリックスターと呼ばれる二冠バ『セイウンスカイ』。もちろん、セイウンスカイは男性化している。元々ボーイッシュな服装も似合っていたスカイだが男になったことで170中盤くらいの身長に、優しげな雰囲気と飄々さを持つ不思議系な男子になった。

 

「でもでも、姿が変わっても中身はそのままだから安心してね。ところでフラワー、どう?セイちゃんカッコいい?」

「えっ!?えと…その…」

「ああ、ごめんごめん急に聞いてごめんね?(ああ、フラワーかわいいなぁ…前からかわいいとは思っていたけど今日はいつにも増してかわいく見える。こんな天使を誰にも渡したくない。自分の側に置いておきたい……)」

 

……スカイの心境は一旦おいといて、仲睦まじい雰囲気を出している。

 

そしてそんな彼女らを陰から見る不審者が……

 

「ああ…カレンチャンとってもカワイイです…男となったアヤベさんのことをこっそり写真に撮ってそれを見る大変愛らしい表情が非常にグッドです。ウマスタにあげられるのなら何百回でもウマいねしますよ。しかし、ここは耐えるのですよジャスタウェイ。彼方の微笑ましい楽園(エデン)を見るのです。ああああああ…あのスカイさんのフラワーさんへの隠そうとしている密かな独占力がまたいいアクセント!非常に良い!苦労して抜け出して来て正解でした!」

 

ゴルシの監視がなくなった隙に抜け出して来たジャスタウェイ(不審者)。芦毛天国を味わっている彼の信条は『芦毛は愛でるもの。傷つけてはならない』である。とにかく、芦毛の子が嫌がるような行動は極力しないことを普段からギリギリ保っている彼だが、現在の彼は欲望のストッパーが緩くなるどころか外れている。

 

「やはり芦毛の魅力は無限大!もっと近くで見たい…いや見る、見るどころかあそこに混ざりたい!……ハッ!何を言っているんだジャスタウェイ!僕は芦毛のウマ娘ちゃんたちの嫌がることはしないのが信条だろう!それを破ってどうする!」

 

ギリギリの範囲で理性を保ってはいるが、こりゃ多分何かのきっかけ一つで弾け飛ぶのがお約束。まあ、そんなご都合展開来る訳…

 

「……!…カレンさん、ほっぺにケーキのクリームが…」

「へ?」

 

「……カッコいいですよ…スカイさん…」

「……にゃ?」

 

アヤベがカレンの口元についたクリームを手で拭い取り、手についたクリームを舐めとった。

フラワーの返答が返ってくるとは思わなかったスカイは呆気に取られた。

 

芦毛の二人は一瞬何が起きたかわからなかったがほとんど同時のタイミングで何が起きたのかを理解し、これまたほとんど同じタイミングで赤面した。

 

「あ、アヤベさん!?そ、それは…ちょっと…!?」

 

「えっと…その……ありがとう…フラワー…」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

プッツン←ジャスタウェイの最後の理性が切れた音。

 

「もう我慢できない!あの聖域にいざ行かん!ジャスタウェイ、行っきまーす!!」

 

ダッシュで突撃しようとするジャスタウェイ。そんなタイミングで危険を予期し、ジャスタウェイを探し回っていたミカドが到着。

 

「まずい!ジャス!」

 

ミカドも走るが間に合わない。このままではチームメイトが社会的に死んでしまう。

 

その時!

 

「チェストぉぉ!!!!」

「リードぉっ!!??」←英語で『芦毛』という意味。

 

暴走ジャスタウェイの前に突如現れた一人の男が綺麗なアッパーカットをジャスタウェイのアゴにクリーンヒット。ジャスタウェイはそのまま天井に突き刺さった。

 

鹿毛のウマ耳と尻尾を持つ男、つまりは薬で性転換したウマ娘。彼は天井に刺さったジャスタウェイに向かって高らかに叫んだ。

 

「貴様!推しのひと時を自らの手で破壊しようとするとは、それでもファンの端くれか!!?カワイイカレンチャンがアドマイヤベガのアンチキショウにあーんしているのでこちらは血涙流すし、さっきのクリームで吐血もしたが決して邪魔しなかった!貴様はファンの不文律である推しの幸せを邪魔してならないを自ら破った!カレンチャンの平穏はこの世界のロォォォォォォォォォォォォドカナロアが許さない!!!!!」

 

カフェテリアは彼_ロードカナロアの登場によって静寂に包まれた。

 

(ここでまさかのロードカナロアの登場かよ!?確かにカレンチャンに何かあればすぐ飛んでくるようなやつだけども…!)

 

「てか、ジャス!?無事か!?」

 

そして重力に引っ張られ、落ちて来たジャスタウェイ。その顔はとても穏やかで安らかな表情をしながら昇天していた。

 

「ジャスタウェイ………逝っちゃったぁぁぁ!!?」

 

*この後、保健室に連れて行きますのでご安心を。

 

 




一応カレンチャンの中では
アヤベ:仲のいいルームメイト
カナロア:よく絡んでくるちょっとほっとけない後輩

みたいな感じです。

因みにジャスが突っ込んでいっても紳士的に間に入ります。変なことはしません。たとえ理性が切れようとも…

一応まだもうちょっとだけ性転換編は続きます。

感想、お気に入り登録、評価をお願いします。コメントはいつもかかさず見ています。
それではまた…


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帝の事件/薬の変化 後編

三ヶ月も更新ほったらかしにしてすみませんでした。
取り敢えず今回で性転換編は一旦終了です。


「カナロア。」

「ハイ。」

「カレンいつも言っているよね?カレンのかわいさを広めたりするのは別にいいけどあんまり派手にやったり他の娘たちに迷惑になることしないでねって?」

「ハイ。」

「何かいうことは?」

「モウシワケアリマセンデシタカワイイカレンチャン。」

 

昇天したジャスタウェイを保健室にぶち込んだ後、ミカドが戻って来たら、ロードカナロアがカレンチャンに正座&土下座をさせられて怒られていた。

 

「ハァ…とりあえず今回はこれくらいにしてあげるからこういうことはあんまりしないようにね?」

「ハイ、アリガトウゴザイマス…モウシワケアリマセンデシタ……」

「あ、あと…」

 

カレンチャンはカナロアに近づき、耳打ちで…

 

「やり方はアレだったけど、カレンたちを守ってくれてありがとね♪」

 

笑顔でそう言ってカフェテリアを後にした。

 

「ロードカナロア。取り敢えず、今回のことで色々話があるからついて来てくれ。行くぞ……ん?」

 

ミカドがカナロアの肩を叩くが反応がない。正面に回り込んでみると…

 

「…こいつ……!カレンチャンにお礼言われたのが嬉しかったあまりに真っ白になりながら綺麗な顔して死んでいる……!?」

 

急患その二、保健室行き決定。

 

 


 

 

「つ、疲れた…」

 

カナロアを保険室にぶち込み、廊下を歩くミカド。

面白いものが好きとはいえ、流石に大きなトラブルになるものは止めに入る。なんだかんだ前世に引っ張られているとはいえ、メインは今を生きるウマ娘のミカドである。生徒会として面倒事は勘弁してほしい気持ちもあるのだ。特にシャレにならない奴らが起こすトラブルは…

(例:マックイーンとゴールドシップの爺孫コンビ)

 

「先にその辺りのトラブルメーカー共を抑えてから行くか……ああ、だるい…」

 

面白いものは見たい、でも面倒事は勘弁。そう思っていたミカド。

 

しかし、彼はこのとき思いもしなかった。まさか自分がその『面白いもの』と『面倒事』、両方になる事には…

 

 


 

 

一方その頃野外のコースでは…

 

「あら、ルドルフ?どうやら貴方も巻き込まれたみたいね?」

「ラモーヌ、君は変わりないようで安心した。不易流行。例え姿は変わったとしても本質は変わらないさ」

 

メジロ家の一人。日本史上初のトリプルティアラを制したウマ娘『メジロラモーヌ』。トレセン学園生徒会長。史上初の無敗三冠を制した『シンボリルドルフ』。

その二人が話し合っていた。互いにトレーニングの為かジャージを着ている。

 

「ここは本当に面白いわ。突飛な事が日常の様に起きるのだから。毎日が飽きないわ」

「飽きないということは同感だ。だが応接不暇。鎮静化させる身としては毎度の対応で忙しくて仕方ない。」

「ふふっ…ならここで私なんかと喋っている暇はないんじゃないかしら?おサボりはいけませんわよ?」

「いやなに、エアグルーヴから『これを機会に少しは休んで下さい』と言われてしまってね。追い出されたんだ。やることもなくコースで走ろうと思ったら君がいたものだからね。一蓮托生。せっかくだから一つ。並走でもどうだい?」

 

ラモーヌに向かって手を差し出すルドルフ。そこだけ見ればまるで舞踏会で美しい女性を誘う美麗な王子様の様に見えるが、それにしてはルドルフから発せられるのは獲物を喰らおうとする獅子の如き覇気。手を取ろうものなら相手の全てを喰らい尽くすだろう。

 

「貴方にしては随分と物騒なものを出しているじゃない?それもその体になったから?」

「さあな?だが、今の()は飢えている。延頸挙踵(えんけいきょしょう)*1。この姿になってからはそれが常にやって来る。君は()を満足させられるか?」

 

 

皆さんご存知、馬の『皇帝・シンボリルドルフ』がかなり表面的になっていますので、会長は現在かなり荒々しくなっています。普通なら関わると大変なことになるので(去れることができるのであれば)去るのが安牌です。

 

この時点で周りにいた生徒は恐れ慄く。目の前にいるのは、本当にあの会長なのだろうかと。

普段から近寄り難い人物ではあるが、今の彼は近づこうならばただでは済まないことは直ぐに分かる。いくらあのメジロラモーヌでも今の皇帝の手は取らないだろう。誰もがそう思った。

 

「……ふふっ」

 

しかしラモーヌは皇帝のその手をとる。そして手を引きルドルフを自らに近づける。

 

「今の貴方はいつもと違う魅力があるわ。また違ったレース()を感じられそう。踊りましょうか、永遠なる皇帝様?貴方という獅子(皇帝)は……私を喰べられるかしら?」

「珍味佳肴。君という好敵手(獲物)を逃すつもりはないさ。勿論、リードはするが手加減はしない。ついて来れるか、魔性の青鹿毛殿?簡単に逃げ切れるとは思うなよ…?」

 

不敵に微笑む『魔性の青鹿毛』と豪胆に笑う『永遠なる皇帝』。その日のコースの周りには大量の屍が転がっていた。

 

 


 

 

トレセン学園 階段

 

メジロドーベルはかなり参っていた。その理由は…

 

「男の人…ばっか……!」

 

彼女が男性を苦手としていることだった。

 

彼女はかなり改善はされたが男性が苦手であり、最初は自身のトレーナーでさえ真面に話せなかったほどだ。

そんな彼女が学園内の大半が男性化した今のこのお状況はかなり堪えるものがあるのだ。

 

(仲がいい友達もメジロのみんなも殆どが男の子になっちゃったし、ネタの供給としてはいいけど流石に疲れる……それが3日も…)

 

常に気を張りすぎて、足元も覚束ない今の状態はまずいと感じ、寮の部屋に戻って休もうと歩いているが目的地はまだまだ先。階段を降りながら歩を進める。

 

「はぁ……早くもどr(コケッ)……!?」

 

バランスを崩し、体が宙に投げ出される。

 

「えっ!?ちょっ!?」

 

見える景色スローモーションの様にゆっくり動き、地面に近づいていく。このままではまず間違いなく大怪我、少なくともレースに支障をきたす。

 

(もう、最悪……)

 

半ば諦めて目を瞑り、重力に従うまま落ちていくドーベル。

 

「危ない!!」

 

 

「あ、あれ?」

 

衝撃の様なものを感じたが痛みはなく、むしろ何かに包まれている様な感覚に少し呆けているドーベル。

 

「大丈夫ですかドーベル先輩?」

 

声の方へ視線を向けると、ウマ耳、鹿毛の髪に中心に伸びる白い毛、人懐っこそうな顔をした男性。そしてドーベルは彼にお姫様抱っこされていた。

 

(おおおおおお男の人!?いいいいやウマ耳があるってことはTS化したウチの生徒!!??おおおお落ち着け私〜!!?)

 

突然の出来事に脳内大パニックになるドーベルに対して件の生徒は心配そうな顔をしている。

 

「先輩、大丈夫ですか?どこか体をぶつけましたか?」

 

(落ち着け、落ち着けメジロドーベル。この子はウマ娘この子はウマ娘この子はウマ娘この子はウマ娘!)

「だ、大丈夫よ。特に怪我はしていないわ。助けてくれてありがとう。えっと……」

「あっ、このかっこじゃわかりませんよね。僕、『スペシャルウィーク』です!」

 

ドーベルを助けたのはチームスピカの一等星の一人、『日本総大将・スペシャルウィーク』である。

 

(スペさん!?男の子になるとこうなるんだ…素朴な感じに見えるけど溢れ出るイケメンオーラ凄い…人懐っこい感じが残っていて甘えさせたくなる感じが出てる…)

 

少しの間惚けていると、どこからか声が飛んでくる。

 

「スペちゃ〜ん!どうしたんデスか〜!?」

「急に走り出したら危ないですよ〜?おや、その方は…」

 

やって来たのは鹿毛の髪にしっかりとしたガタイと顔に目のまわりを覆うマスクを着けたウマ耳の男性と栗毛の長い髪に小柄な体型のウマ耳の男性だった。

 

「えっと…もしかしてエルコンドルパサーさんとグラスワンダーさん?」

「そうデース!俺こそが世界最強、エルコンドルパサーデース!」

「はい、グラスワンダーです」

 

スペと同じ学年であり、『黄金世代』と言われる世代の二人。『怪鳥・エルコンドルパサー』と『不死鳥・グラスワンダー』だった。

 

「ごめん二人とも。ドーベル先輩が階段から落ちそうになっていたから」

「全然問題ありまセーン!むしろグッジョブデース!」

「間に合って良かったですね〜。ところでスペちゃん、なんで露骨に僕から距離をとっているんですか?」

「ご、ごめん!?なんかよく分かんないんだけど無意識に距離をとっちゃうんだ!?」

 

(・・・・・なんかもうどうにでもなれ…)

 

色々と限界が近かったドーベルは考えるのをやめた。

 

 


 

 

中庭

 

 

「・・・・・・・・」

 

中庭で一人、ベンチで死んでいる者がいた。ノゾミミカドである。

 

(ルドルフ会長とラモーヌ先輩の並走(という名の一騎討ちレース)による被害者の対応…やばかった…全員倒れてんだもん…鼻血出していたり吐血してたりするのにみんな幸せそうな顔しているし『尊い』とか言っているピンク髪の勇者もいたし…当の本人たちはいい顔でバチバチにやりあっているし…取り敢えず保健室と予備の部屋に全員運んだけど…)

 

保健室の先生方、お疲れ様です。

 

「………帰ろうかな…」

 

流石に精神的にも肉体的にも疲れたと感じたミカド。携帯で他に何か起きていないことを確認し帰ることにした。

 

「ミッカドぉー!」

 

そんな彼に後ろから抱きついて来たウマ娘が一人。

 

「!?ブ、ブエナっ!?」

「どうしたのミカド?すごい疲れているみたいだけど?」

 

ミカドの同期であり、ルームメイトのブエナビスタ。ミカドとは前世の頃も同じ厩舎に所属していた。そのためなのか彼女との仲は良好である。

 

「い、いや…大したことはないよ。ただこの体に中々慣れないだけで…(それに加えて普段は起きない様なことが起きたりしているからな…)…あとブエナ…?」

「?な〜に〜?」

「近い」

 

この間、ブエナはミカドに抱き付いたまま。男の体と精神になっている今のミカドにとって女性であるブエナのこの接し方は思春期男子には赤面ものである。特に女性特有なモノが体に密着している状況は非常にまずい。

 

「え〜いつものことじゃん〜」

「今の俺は男なんだよそこを考えろ」

「?ミカドはミカドでしょ?」

 

キョトンとした顔をして首を傾げる。

 

(こいつ……天然無自覚男たらしか……!?)

 

「いいから離せ……って力つよ!?」

「なんでよそよそしいのか話してくれるまで離しませ〜ん♪」

「いいからさっさとはn「随分とおもしれぇことになってんじゃねぇかぁ…帝様?」…この声は…!?」

 

物陰から現れた荒々しい雰囲気を纏ったウマ耳の男。チームアルスハイルの暴君、ドリームジャーニーが現れた。

 

(い、今一番会いたくない奴に見られたぁぁぁぁぁ!!!??)

 

さて、『学園の中庭』、『男女二人(片方元々女)』、『女性が男性に抱きついている』、『あるモノが当たっている』、これらのキーワードに更に『この現場を誰かに見られる』と『その誰かが一番見られたくない人物』が入るとどうなるでしょう?

 

・・・・・・チーン!

 

A .ネタにされる、面倒なことになる。

 

「あっドリジャさん。」

「よう、絶景さん。あとその呼び方はやめろ。さぁて、お前らは一体ナニをしていたんだ?」

 

ニヤニヤと面白いモノを見る様に聞いてくるジャーニー。ミカドは汗ダラダラで、ブエナはあっけらかんとした態度で…

 

「別に?ミカドに抱きついているだけだけど?」

 

そのままストレートに言った。

 

「へぇ〜へぇ〜へぇ〜」

(クッソ…いい笑顔でこっちみんなこのチビ……!)

 

「でもミカドいつもに増して素っ気ないんだよ?ひどくない?」

「そりゃあこんな姿になっちまったんだ。それなりに変わるもんじゃねぇか?そ・れ・よ・り・も…」

 

ジャーニーはブエナをミカドから引き離し、そのアゴに手を添え少し上にあげる、いわゆる顎クイをした。

 

「お前もこんなつまんねぇ野郎よりもオレ様と遊ばねぇか?ちょうど退屈していたんだよなぁ?」

 

いつもと少し違うジャーニーの行動に流石に鈍いブエナも違和感を感じ始めたのか、「あ、えっ?」と困惑した声を出す。

 

「この体になってから色々と激って来ていてなぁ…拒否権は勿論無いぜぇ…」

 

ブエナの腕を掴み、そのまま連れて行こうとするジャーニー。

 

 

しかし…

 

 

「あまり手荒なマネはよした方がいいと思うぞ、ドリームジャーニー」

 

ブエナの腕からジャーニーの手を離させ、ブエナの体を自らの元に寄せた者_ノゾミミカドが動き出した。

 

先ほどまでとは違い声のトーンも少し落とし、いつもよりも鋭い目付きでジャーニーを睨みつけている。

ブエナもここまで来て少しだけ気が付いた。

 

いつものミカドと少し違う。

 

「アンタの言い方は人によっちゃアウトな言い回しだ。並走を頼むんだったらニシノフラワーさん(年齢的に初等部)に教わって来たらどうだ?あの子の方がお前より成績良いからなぁ。今なら頼もしいセコムが3名ほどついてくるぞ(愛が重バ場になった青雲、今回の発端のマッドサイエンティスト、アメリカンな多分銃も出来るカウボーイ)」

「へっ…テメェこそ先輩を敬う態度を芦毛電車オタク(ノゾミライン)に習って来たらどうなんだ?敬語を使え、敬語を?」

「ご心配なくともアンタ以外にはこんな態度とらねぇから安心しろこの黄金チビ」

「そりゃあ安心したぜ。今からテメェは安心できるモノがナニもなくなったけどなぁ?」

 

声に怒気が混じり始めたジャーニーにミカドは腕の中で混乱しているブエナに耳打ちする。

 

「ブエナ。」

「ふぇっ!!?////」

「今から逃げるけどじっとしていろよ?」

「えっ?」

 

ブエナを抱え(お姫様抱っこ)、向きを180°反転、そのまま猛ダッシュでその場を離れた。

一瞬何が起きたか分からなかったジャーニーだが、すぐさま切替て二人を追いかける。

 

「待ちやがれこの鹿毛共ぉぉぉぉ!!!!」

 

「うわぁwあいつの顔見てみろよブエナ。真っ赤になって追いかけて来てるぜwウケるwww」

「み、ミカド!私、走れるから!下ろして!////」

「多分下ろす間に追いつかれるから却下!少し我慢しな!」

「で、でも私を抱えたままだと追いつかれるかもだし…!」

「ブエナ。」

 

声のトーンをまた落とし、ブエナに声を掛ける。

 

「俺を誰だと思っている?日本が誇る無敗の三冠バだぜ?ただガムシャラに走っているわけじゃ無い。あの旅路の路を悪路に変えるルートは既に構築済みだ。」

 

ミカドの言葉に頭を傾げるがブエナはミカドが走っている方向とこのまま進めば何処に辿り着くかを考えた。

 

「………まさか…?」

 

そしてミカドがある場所で足を止める。ジャーニーもワンテンポ遅れて到着した。

 

「フゥ…なんだぁ?諦めたのか?」

「いや、別に。」

 

ニヤニヤした顔でジャーニーを見るミカドにジャーニーは再び顔を歪める。

 

「何がおかしい?」

「いやなに、ここまで上手くいくとは思わなかったもんでな。まだ居るかどうか少し賭けだったからな。」

「あん?さっきから何を言って………(ゾワァ……!)!?」

 

何か悪寒を感じ取ったジャーニー。覚えがあるのか、その顔はどんどん青ざめていく。

 

「ジャーニー?」

 

彼の背後から聞こえる可愛らしい声。普通ならなんてことない声だが今のジャーニーには死神の声だった。錆びた機械の様なギギギという音を出しながら首を動かし背後を見る。

 

「なんか騒ぎになっているみたいなんだけどぉ、知らない?聞いた話だとぉ…」

 

 

「荒っぽい口調の背の低い男の子が生徒二人を追いかけ回していたらしいんだけどぉ?知らない?」

 

チームアルスハイルの副リーダー、可愛いの権化カレンチャンがそこにいた。

そう。ここはアルスハイルのチーム部屋に近い廊下。そしてミカドは少し前にカレンチャンのウマスタの投稿バナーを偶然目にした。

 

《チーム部屋でお兄ちゃんとミーティング♪》

 

そしてジャーニーが絡んできたのはそのすぐ後。逃げ切るのは難しい。ならば、

 

相手が自分たちを追いかけ回さない様にすれば良い。

 

「あ、姉御……これは…その…」

 

「はいこれな〜んだ?」

 

彼女が見せたのは携帯の画面。そこには…

 

 

アルスハイル

 

オル:すまん、兄が暴れ回っているらしい。

 

スイ:なんか騒ぎになっているっぽいわ

 

ブラ:自分も見かけたけど追いかけていたのって生徒会の子じゃ…

 

トレ:ジャーニーのバカは何処だ!!あのバカは何処に行った!!

 

デュラ:カレン、リーダー命令だ。バカを捕らえろ

 

は〜い♡

 

 

「弁明は?」

 

「…………!?!???!」

 

正にヘビに睨まれたカエル。ジャーニーは恐怖のあまりに震えている。

 

「オ・ハ・ナ・シ…しよっか?」

 

「\(^o^)/」

 

 

ギィヤァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

 

 

=⏰=

 

 

「ご迷惑おかけしましたぁ♪」

 

「いえいえ……ふぅぅぅ…」

 

ドリームジャーニーが連行され、なんとか無事に乗り切ったことに安堵したミカドは大きなため息をはいた。

 

「ミ、ミカド…その…」

「ん?……ああ悪りぃ」

 

未だにブエナを抱えていたことを思い出し、彼女を下そうと顔を見た。

 

「………////」←恥ずかしさの余りに顔が紅い+抱えられて走った事がないので少し恐怖を感じて若干涙目。

 

「……………」←背後に雷が落ちる。

 

そっとブエナを下ろすミカド。

 

「ありがとうミカド。じゃあ私はこれで…」

「待て」

「えっ?」

 

ドンッ

 

という音と同時にブエナの動きが止まる、否、止められた。

 

「………へっ?」

「……お前さぁ…それは反則だろ…」

 

壁ドンである。

 

「ミ、ミカド?どうしたn……!?」

 

先ほどジャーニーにやられた様に顎クイをされ、思考が停止するブエナ。

 

「今の俺は男なんだよ。正直いうとお前の行動にさっきから結構理性が限界に近いんだわ」

「はっ、えっほえ…?」

 

互いの顔が近づいていく。ブエナの思考は未だに纏まっていないがこれだけは分かる。

 

色々とヤバイ状況だと。

 

「文句は受け付けないし拒否権もないからな?」

 

互いの顔が重なるまで後少し…

 

 

「お前ら押すな少し離れろ!!」

「上手く見えないんですよ我慢してください!」

「お前さんら騒ぐな!気づかれるだろうが!」

「やめましょうよぉバレたら大変ですよぉ」

「私もやめた方が…あ」

 

ドンガラガッシャーン!!!

 

廊下の陰から大きな音が聞こえ、二人は反射的にそちらの方を見る。そこには…

 

「いてて…」 押しつぶされているノゾミフェニックス。

 

「誰ですか押したのは!」 フェニックスの上で倒れているノゾミライン。

 

「すまん俺だ。足滑った。」 二人の上に乗っているノゾミレオ。

 

「だ、大丈夫ですかぁ〜!?」 オロオロと慌てているノゾミカンパネラ。

 

「あ〜あ〜何してんだか…」 呆れているノゾミナチュラル。

 

ノゾミのウマ娘(大半が男体化)が陰から先ほどまでのミカドとブエナのやり取りを見ていたのだ。

 

「………」

 

「あっ、ミ、ミカドこれはだな」

「フェニックスが貴方がジャーニー君に追われていたのを見て野次ウマとして面白がって見ていました」

「おいライン!?テメェも『少しだけですよ』とか言ってノリノリだったじゃんか!」

「いやぁ〜ミカド、少し爪が甘かったな。俺らが人払いさせといたからよかったけど、ここ廊下だから普通に見られる可能性あったぞ。まあ、それはそれで面白そうだけどなw」

「ナチュちゃん。レオ先輩が火に油どころか業火にガソリンポリタンクレベルに注いでいる気がするんだけど気のせいかな?」

「カン先輩大正解〜。………バカ三人生贄に捧げて逃げるよ」

「Ho capito(イタリア語で、了解)」

 

そそくさと離れて行く二人に気付かないバカ三人衆(フェニックス・ライン・レオ)を絶対零度の眼差しで見つめるミカド。

 

「おい」

 

「あん?」「ん?」「ヤッベ」

 

三人(バカ共)が声の方に顔を向けると…

 

「貴様らは如何やら死にたい様だな。」

 

悪鬼羅刹が居た。

 

「堂々とやろうとした俺にも非があるのは認めよう。油断大敵。気を抜いていたのも事実だ。」

「だが貴様らは俺の逆鱗に触れた。怒髪衝天。ここまで怒りを顕にするのは久方振りだ。」

 

表情は見えない。しかし鋭い眼光だけははっきりと見える。誰が如何見ても分かる。

 

(((物理的にくびだっちされる)))

 

三人の心が一つになった。

 

「ミ、ミカドさん…申し訳「誰が話していいと言った?抗拒不承*2。貴様らに拒否権も生存権もない。」

 

レオの言葉を遮り一蹴。そして何処からか取り出した刀を手にし、鞘から刀を抜く。

 

「えっ本物?」

「模造刀だと思います。そうでなくとも刃引きされているでしょうし…」

「すまん、二人とも。あれ正真正銘のガチモンの日本刀。」

「「えっ?」」

 

「首を差し出せ。不埒者共!!」

 

 

この日、三人のノゾミの者がダートに埋められた。

 

埋めた張本人は冷静になった後なんてことをしようとしていたんだとパニックになり、宿敵とも言えるセイウンワンダーに介錯を頼み切腹しようとするが頼まれた本人と同期、チームメイト、そして色々やろうとしていた張本人に止められ、元に戻るまで反省文50枚と奉仕活動に精を出すことになった。

 

「あの三人を始末したことについて?微塵も謝る気なんてありませんよ。」

 

*1
人やことの到来を待ち望むこと。また、優れた人物の出現するのを待ち望むこと

*2
相手の依頼・要求を激しく拒否して認めない事




因みにミカドの刀はグラスが固有で出す薙刀と同じ扱いです。
次回は競走馬編に戻ります。ミカドの勇姿にご期待を!


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帝の取材/三冠の称号を持つ豪傑たち 前編

今回は少し短めです。
前編・後編で分かれているので後編も待っていてください。


聖蹄祭の開催が目前に迫る中、チーム・ヘルクリスはラストスパートをかけていた。

 

ノ「北米エリアの『ビッグ・レッド』のケンタッキーダービーのタイムが間違ってます!1分59秒ではなく1分59秒4です!」

シ「すぐに修正します!」

エ「香港の現地での名前の表記の直しが終わったよ〜…」

ノ「確認しますのでそこに置いておいてください!」

ク「ポスター含めた写真は全ての作業が終わりました!」

ミ「なら印刷して実物のチェックを終わらせてください!」

キ「ヨーロッパエリアは問題なく終わったわ!あとはオーストラリアや西アジアのところの映像資料だけよ!」

ノ「了解です!ジャス!!映像資料は!?」

ジャ「……………………………………」カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ

三徹により無心でキーボードをタイピングし作成を進めている。目が血走っている。

 

ノ「芦毛バカを今すぐ休ませろ!!あれもう極限状態!!」

 

……地獄絵図と化していたの間違いでした。

 

 


 

 

1時間後…

 

 

ノ「……生きているの、番号……1」

シ「……2」

エ「3〜」

キ「よ、4…」

ク「ご、5ぉ〜…」

ジャ「………………」

キ「ミカドさんジャスさんが真っ白に燃え尽きているわ…」

ジャ《……6》

キ「……ついに脳内に直接話しかけるようになったわ…」

 

資料を遂に完成させた彼女らは死屍累々になりかけながらもなんとか気力を保っていた。(約1名御臨終)

 

「ジャスには後で報酬の芦毛ブロマイド(本人たちに許可済み)を渡すから帰って来なさい。」

「……あ、あし……げ……!」

「ここまでくると狂気だなもはや…」

「ジャスちゃんは芦毛が大好きなだけだよシーちゃん〜」

「う〜ん…文字が…まだ目の前を…回って……ます〜」

「とにかく、みんなお疲れ様。あとは最終報告として生徒会と実行委員会に伝えるだけだから今日は解散。」

「「「「は〜い…」」」」

 

ぞろぞろと出ていくチームメンバーを見送りながら、ミカドは資料をまとめ、整理をしてから部屋の戸締りをした。

 

 


 

 

生徒会室

 

 

「……というわけでこちらがウチのチームの最終報告です。」

「うむ、ご苦労だったミカド。事事物物(じじぶつぶつ)*1のことをまとめ上げるのは苦労したことだろう。勤倹力行(きんけんりっこう)*2。君たちの頑張りに敬意を表すよ。」

「ありがとうございます。」

 

ルドルフに労られながらミカドはソファに座り込む。その顔には疲れが見て取れた。

実際あのメンバーの中で重労働をしていたのはジャスタウェイに次いでミカドなのである。役割を分担したとはいえ、最終チェックなどで実質すべての業務に加担していたのでその気苦労は尋常じゃない。

 

一例:

・翻訳ミスのチェック

・誤字脱字のチェック

・暴走するジャスタウェイの鎮静

・ポスターの作成

・発狂するジャスタウェイの鎮圧

・生徒会の業務

・ゴールドシップによって禁断症状が爆発してしまったジャスタウェイの粛清

etc…

 

「ぶっちゃけ発狂して保健室送りになってもおかしくなかったです。」

「待て一体何があった?」

「こっちの話です気にしないでください」

「そ、そうか…そうだミカド。今週末に時間はあるかい?」

「えっ、週末ですか?特に何もありませんよ?こんな感じだったんでトレーナーも気を使って今週末はフリーにしてくれたんで…」

「それはよかった。実は『月刊トゥインクル』から私と君を含めた三冠ウマ娘たちを取材したいと打診があったんだ。」

 

三冠ウマ娘

 

一生に一度しか挑戦できないレース

 

皐月賞

 

 

菊花賞
日本ダービー

 

その全てを制したものに与えられる称号

 

 

全ての歴史の始まり 栄光の初代

セントライト

鉈の切れ味と称えられた末脚 神と言われた二代目

シンザン

掟破りのエンターテイナー タブーも恐れぬ三代目

ミスターシービー

レースを支配する永遠の皇帝 絶対が許された四代目

シンボリルドルフ

影をも踏ませぬ怪物 孤高の五代目

ナリタブライアン

まるで飛んでいるようと言われた英雄 衝撃を与えた六代目

ディープインパクト

苦境に立たれながらも勝利を掴んだ帝 希望を魅せた七代目

ノゾミミカド

全てを破壊する金色の暴君 荒々しい八代目

オルフェーヴル

 

すべてのウマ娘が目指す一つの到達点に君臨するのが彼女たちなのだ

 

 

「そんな物々しいメンバーを一堂に集めて大丈夫なんですか?絶対に大変なことになりますよ?」

「まあ…向こうにも日頃世話になっている。だからこそ応えたい。ミカド、受けてくれるか?」

 

ミカドからしたらとんでもないクセを持つこの生徒の中でもとびっきりのクセのある生徒とともに取材するなんてまっぴらごめんだ。現在在学している三冠の称号を持つウマ娘は初代と二代目を除いて『六名』。無事に終わる確率の方が低い。

しかし、トゥインクルの乙名史記者には世話になっているし、ルドルフからの頼みもあると断るに断れない。

 

「……わかりました。お受けします。」

「そうか…!助かったよ。実はオルフェーヴルが君がいるなら受けると言っていたから、君が断ると流れてしまう可能性があったんだ。」

 

(あっこれ絶対面倒ごとに巻き込まれるパターンになったな…)

 

 


 

「ふ〜んあの話受けることになったんだ。楽しみだな♪」

 

「……チッ、面倒なことだけはごめんだ」

 

「おや、話は決まったみたいですね。では準備をしますか。」

 

「……来るかノゾミミカド。貴様には……!」

 

 

各々の考えが渦巻く中、素晴らしく豪華(で地獄)な取材が始まる。

*1
あらゆるものごと

*2
仕事に励み慎ましやかにし、精一杯努力すること




因みになんで『飛行機雲』がいないのかはまだいないだけです。
あの世代以降の娘たちはまだ入学前みたいな扱いでお願いします。


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帝の取材/三冠の称号を持つ豪傑たち 後編

そこまで間を空けないで投稿!


初めまして皆さん。

私は乙名史悦子、月刊トゥインクルの記者をしております。

 

本日は錚々たるメンバーを集めた特別な取材となっており胸を躍らせてきたのですが……

 

「ミカド、余と走れ。いつかの決着をつけるぞ。」

「今はそのことについて言うような場ではない。大人しくしろ暴君。貴様の戯言に付き合う気は毛頭ないのでな。」

「貴様はやはり面白い。余の忠言を戯言と申すのは貴様かジェンティルぐらいだが…貴様の方が世の好みだ。」

「ふざけてないで座れ。他に迷惑だ」

 

とんでもない光景が目の前で繰り広げられています…

 

片や『暴君・オルフェーヴル』さん、片や『希望の帝・ノゾミミカド』さん。お二人はトゥインクルシリーズでかつて鎬を削った仲。オルフェーヴルさんの姉であるドリームジャーニーさんと仲がよろしくないことは聞いていましたがまさかオルフェーヴルさんも…

 

「あ〜らら…やっぱりこうなった。あの二人いつもああだよね?」

「二人の仲がそこまで良いものではないことは聞いていたが、考えなくてもこうなる可能性になるのは自明の理だった…」

「だから言ったんだぞ私は…『責任取れるのか?』と…こうなるのは火を見るよりも明らかだったぞ」

「……仕方ありません。先輩方、少々お待ちを…」

 

他に待機していた方の中で小柄な鹿毛の黒く長い髪を靡かせるウマ娘さんが前に出る。

 

「あ、あなたは…!?」

「乙名史記者、少々お待ち下さい。」

 

そのお方は睨み合うお二人の前に出る。身長が高めなお二人(ミカド:163cm、オルフェ:167cm)と並ぶとさらに際立つ。

 

「御二方。」

 

「ん?」「はい?」

 

 

「これ以上は乙名史記者にも迷惑がかかりますのでやるのであれば外でやって下さりますか?」

 

ゾクっ!

 

そんな擬音が聞こえるくらい部屋の温度が一気に下がる感覚に襲われた。

 

声色も態度も口調も何も変わっていない。しかし纏う雰囲気は先ほどまでとは別物。

 

(こ、これが近代日本レースの結晶と言われたウマ娘……『ディープインパクト』さんの覇気……!)

 

無敗三冠を成し遂げ、GⅠ7勝をも達成したルドルフさんの再来と呼ばれた最強のウマ娘。そんな方から放たれた覇気を真正面から受けたお二人も冷や汗をかいているのがわかる。関係がない私ですら震えが止まらない。いやむしろ真正面から受けて冷や汗で済んでいるお二人も凄い!

 

「……っ。興が醒めた。今は貴様に従ってやろう『英雄』」

「………申し訳ございませんディープインパクトさん。」

 

「いえ、わかっていただいて何よりです。」

 

いつの間にか元に戻ったディープインパクトさんに促されながらもお二人は席に着く。

 

(やっと取材ですね。おっと、私も座らないと……!?)

 

振り返って私は再び凍りつく。そこには…

 

「へぇ……」

 

「ふむ……」

 

「ほう……」

 

 

まるで獲物見つけた肉食獣のように目をギラつかせた三人がいたからです。

 

(無事に終わると良いのですが…)

 

今までにないタイプの緊張とこれから始まる素晴らしい回答への高揚感に挟まれながら取材を始める私だった。

 

 


 

 

「そ、それでは三冠ウマ娘たる皆さんに取材をさせていただきます。ご存知かもしれませんが一応自己紹介を。私は月刊トゥインクルの乙名史悦子と申します。本日はよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくお願いします。では我々も、トレセン学園生徒会会長のシンボリルドルフと申します。」

「……副会長のナリタブライアンだ。」

「生徒会の書記兼経理のノゾミミカドです。お願いします。」

「ミスターシービーだよ。よろしくね♪」

「ディープインパクトです。先程はお騒がせしました。」

「……オルフェーヴルだ。」

 

「はい、よろしくお願いいたします。ではまず最初に皆さんは『三冠ウマ娘』という称号をどう感じていられますか?」

 

「ここは私から行こうか?この中じゃ私が最初に取ったわけだし。」

「そうだな、では頼むよシービー。順番は世代順で行こう。」

「任された。まずそうだな…凄い栄誉なことであることはわかっているよ?でも私はそういう栄誉みたいなものには興味がなかったからね。私が好きなように走っていたら手にした称号みたいなものだから…強いて言うなら『私が自由に走った結果手にした証』かな?」

「なるほど…」

 

シービーは自由をこよなく愛するウマ娘。強制されることや束縛されることを誰よりも嫌がり自由にターフを駆けることこそが彼女の目的。だからこそ三冠というもの自体にこだわりを持たないのだろう。

 

 

「次は私だな。私は『全てのウマ娘の幸福のため』にその前線に立つものとして、皇帝として、シンボリの名に恥じない走りをすることが第一にありました。三冠も結局はその目的を達成するために手にする必要があったから手にしたに過ぎません。勿論素晴らしい栄誉であることは重々承知しておりますが三冠は手段であって目的ではないのです。ですので私にとって三冠は『己が存在の証明』だと思っています。」

 

ルドルフは日本レース界で初の無敗三冠を成し遂げた存在。そんな偉業を成し遂げた彼女はその栄誉がどれほどのものかを理解し、己の目的のために利用する。圧倒的強者として、後輩たちの目標として存在するために。

 

「さ、さすがですねシンボリルドルフさん…!」

「いえ……私もこれくらいにしておこう。時は金なりだ。時間は有効(・・)に使ってゆうこう(・・・・)ではないか。」

 

・・・・・・・・

 

 

「チッ…!さっさとやるぞ。私はただ強い奴と走りたかったからだ。以上。」

「……ブライアン先輩、もう少し、もう少しだけコメントお願いします!」

「……私は常に渇きを感じていた。だがその渇きが癒える瞬間がレースではあった。強者との戦いでは特にだ。だからクラシックレースに参戦した。三冠には強者が集うからな。そしたら手にしていた。私にとって三冠は『強者を追い求めた道』だろうな。」

 

三冠に挑む度にブライアンは着差を広げていった。怪物と称される彼女にとっては三冠など微々たるもの。強きものたちに出会い挑むために手っ取り早いから挑んだまで。全ては渇きを癒すため。

 

「強者を追い求めるその姿勢、素晴らしいです!!!他にも聞きたいですがここは堪えて……ディープインパクトさん、お願いします。」

 

「はい。私は先程の皆さんの話が混ざった感じになりますが、私も走ることが大好きで特にレースで強い方と走ることが堪りません。三冠も強きものと相見えるために目指しました。ライバルたちと出会い、競い、その戦いを勝ち抜き、己の力を証明しました。レースはライバルたちとの雌雄を決する場であり、あの三つのレースは最高の舞台でした。私の三冠は『戦友たちとの決戦の場』といったところでしょうか?うまく説明できなくてすみません。」

 

圧倒的な走りはかつて走っているのではなく飛んでいるかのようだと称えられたその豪脚。彼女にとって最高のライバルたちと競い合ったあの舞台は掛け替えのない存在となったのだろう。

 

「いえ、熱い気持ちがヒシヒシと伝わってきたので無問題です!」

「そうですか、ありがとうございます。ではミカドさんどうぞ。」

 

「承りました。私がレースに憧れを持ったのはシンボリルドルフさんのレースを見た時でした。三冠を取った菊花賞を見て、胸の内側にあるものが溢れ出しそうになるくらい高揚したことをはっきり覚えています。そしていつかあの舞台に、私が三冠を取って立ってやると目標を掲げました。皐月賞で三つ巴になり、ダービーで囲まれたのちに骨折が発覚、そして調整不足が言われる中での菊花賞の出走、全てを乗り越えて手にしたこの称号はかけがえのないものになりました。私に取って三冠は『憧れを追い、逆境を乗り越えて手にした冠』です。」

 

三冠ウマ娘の中でも特に波瀾万丈ともいえる経歴をもつミカド。前4人は圧倒的な実力を三冠路線で見せたが彼女だけはどのレースでも接戦を演じた。どんな不利な状況になろうと最後まで足を止めず、生来の諦めの悪さで冠を手にした彼女にとって三冠は憧れを自らの手で掴んだ何よりも変え難いものだろう。

 

「どのレースでも苦境に立ちながら最後まで諦めずに走り切ったミカドさんのその思いは素晴らしいものです!!さてでは最後にオルフェーヴルさん、よろしくお願いします!」

 

最後の1人、金色の暴君オルフェーヴルが口を開く。

 

「我は我の好きなように走った。もとより三冠は元々我のもの。故に我の手で取り戻したに過ぎない。あれに触れることは誰であろうとこの我が許さん。三冠は『我の所有物』…これは決定している」

 

天上天下唯我独尊を貫く彼女にとって三冠は最初から己の所有物。だから取りに行ったに過ぎない。シンボリルドルフのごとくカリスマを持ち、ナリタブライアンのごとく闘争心を合わせ持つ彼女は正に暴君。乙名史もそのカリスマに惹かれてしまう。

 

「はわわ…!最初から決まっていたと言わんばかりの自信…これがオルフェーヴルさんのカリスマ性につながるのですね…」

 

「だからこそ」

「へ?」

 

「我の所有物を掠め取った此奴らが気に食わん」

 

オルフェーヴルの空気がまた変わる。

 

「我こそが真の三冠ウマ娘。貴様らなど雑兵に過ぎん」

 

「あ、あのその辺に…」

 

これはまずいと思った乙名史だが…

 

「ほう…ならば…」

 

もう遅い

 

「貴様は七冠を手にすることが出来たか?」

「タブーを起こすことが出来た?」

「3000mを七バ身の差で勝てるのか?」

「無敗でその称号を手にしましたか?」

「骨折明けの短い間隔で長距離レースを勝てるのか?」

 

既に全員、普段は見せないような好戦的且つ僅かに怒りを含ませた表情でオルフェーヴルを見つめていたからだ。

 

「ならば全員掛かってくるがいい…!貴様らなど我の敵などではないことを教えてやろう!!」

 

かくして、取材はいつの間にか『三冠ウマ娘たちによる夢(地獄)のレース』に成った。

 

「……なんでこう成ったんでしょうか?」




補足
オルフェーヴルとミカドは基本的に仲が悪いです。これは競走馬編でいずれ語ります。

最後のシーンではシービー以外少しだけ怒ってます。シービーは雰囲気に乗っただけ。

CB「だってそっちの方が面白いでしょう?」

もちろんこの中で一番イラついてるのはミカドです。
というか基本的にミカドフェスタ以外のステゴ産駒と仲がよろしくないです。


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