機動戦士ガンダムSEED 未来を担う剣 リメイク版 (Please)
しおりを挟む

プロローグ
戦士の誕生


C.E.70年。

 

コーディネイターとナチュラルが互いの存亡を懸けて大きな戦争を繰り広げていた。

 

その最中、ナチュラルが所属する地球連合が核ミサイルを使ってユニウスセブンを攻撃する。その被害でユニウスセブンは崩壊し、24万以上の犠牲者が出た。

 

その犠牲者の中には…俺の両親も含まれていた…。

 

 

 

コーディネイターで結成された組織ザフトの軍人として数々の功績を上げ、部下達からも敬愛され、俺の誕生日の時は必ず休暇を取って祝ってくれた父さん。

 

優しくて、いつも俺を気にかけてくれたり、家に帰ってきた時は暖かい笑顔で迎えてくれた母さん。

 

 

 

『血のバレンタイン』

 

その日は両親の結婚記念日で、当時の俺は父さんの友人であり、プラント最高評議会議長でもあるシーゲル・クラインの自宅で世話になりながら二人の帰りを待っていた。

 

しかし、ニュースで両親がいるユニウスセブンの無惨な姿を見た時…俺は大きなショックを受けた。

 

まるで頭を鈍器で殴られたような、そんな感じだった…。

 

その後は、シーゲルさんに引き取られ、息子のように大事に育てられたが…俺の心の中はまだ…両親を失った悲しみを残したままだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は昼間。

 

俺はいつもように、シーゲルさんが用意してくれた自分の部屋の椅子に座ったまま外の景色を見ている。

普通ならいい眺めであるその景色も、今の俺はどうでもいいと思っている。

きっと今の俺の目は、死んだ魚のような目をしているのかもしれない。

 

すると、俺の部屋のドアの方からノックする音が聞こえてくる。

 

 

「…ダン、(わたくし)ですわ」

 

 

可憐な少女の声が聞こえてくる。

 

この声は、いつも聞いているから、聞き間違える筈がない。

 

 

「……今開けるよ」

 

 

俺は椅子から立ち上がり、ドアの鍵を開け、ノックした人物を確認するように見る。

 

 

「ダン……」

 

 

そこには、桃色の長い髪の少女が心配そうに、そして悲しそうな表情で俺を見ている。

 

その少女の名前は、ラクス・クライン。

俺が世話になっているシーゲルさんの娘で、幼い頃からよく一緒に遊んだ幼馴染みだ。

 

 

「また……今日の朝食も、僅かしか口にしませんでしたわね…」

 

「……」

 

 

俺を心配してくれるラクスの言う通り、あまり食事に喉が通らず、ほとんど部屋で過ごす日々を送っている。

 

血のバレンタインから大分時が経っているが、まだ両親の死から立ち直る事ができずにいたからだ。

 

 

「…ダン、少し…よろしいですか…?」

 

 

俺はラクスの問いに無言で短く頷く事で答え、彼女を部屋に入れた後、自分のベッドに腰を掛ける。ラクスも隣に座り、尚も気にかけるように俺を見ている。

 

 

「ダン。ご両親が亡くなられて辛いのはわかりますわ。ですが、このままでは貴方が…」

 

「…」

 

 

彼女が俺を慰めてくれているのはわかっている。

しかし、それでも俺の心に両親を失った傷が残っているせいで、立ち直る事ができない。

 

 

「…ダン」

 

 

するとラクスは、俺の手を両手で優しく包むように触れる。

 

 

「これ以上、辛い過去に囚われて、生きる意思を見失わないでください…」

 

「…」

 

(わたくし)の知っているダンは…強くて、優しくて、そして…」

 

 

自分の手の平に俺の手を乗せ、優しく撫でながら言うラクス。

 

 

「自分の決めた事を最後まで貫く勇気を持っている人ですわ…」

 

 

そして、涙を流して俺を見るラクスを見て少し驚いてしまうが、すぐに幼い頃のある日を思い出す。

 

幼い頃、ラクスを虐めていた奴等を懲らしめた後、泣いていたラクスを俺が慰めていた頃を…。

 

あの時、ラクスに辛い思いをさせないと決めていたのに…。

 

それなのに、また彼女を泣かせてしまうなんて…俺はなんて情けない男なんだ…。

 

 

「…ごめん」

 

 

涙を流しながらも慰めてくれたラクスを俺はそっと優しく抱きしめて謝る。

 

 

「ダン…?」

 

「また君を泣かせて…本当にごめん」

 

 

俺の言葉を聞いたラクスは、俺と同じように優しく抱きしめてくれる。

 

 

「…いいのですよ。むしろ(わたくし)の方がダンに慰めてもらう事が多いですわ。だから、ダンが辛い思いをした時は遠慮なさらず、(わたくし)に言ってくださいな」

 

「…うん。わかった」

 

 

 

 

ラクスのおかげで立ち直る事ができた俺は、今は彼女達と一緒に幸せな日常を過ごしている。

しかし、それもいつ崩されるのかわからない。

 

だから俺は誓った。力を付けて戦士として戦う道を進むと。

 

もう俺のように大事なものを失う辛さを背負って生きる人間を増やさないように。

 

そして…

 

 

 

 

俺に生きる希望をくれた、ラクスの笑顔を守るために…。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ザフト編
偽りの平和


ザフトに入隊する事を決意した俺が、アカデミーの士官学校で様々な訓練を受けてから11ヶ月ぐらいが経った。

 

ラクスとシーゲルさんに伝えた時は、二人ともかなり驚いていた。特にラクスが…。

シーゲルさんは止めはせず、むしろ俺の意思を尊重して見送ってくれた。

 

無事に士官アカデミーを卒業し、ザフトの“赤服”としてラウ・ル・クルーゼ隊長が指揮するクルーゼ隊に所属している。

クルーゼ隊は最高評議会の要人達の子で結成された実力のあるエリート部隊だ。

俺は軍人の息子だけど、シーゲルさんの養子という事で特別にクルーゼ隊に所属という事らしい。

 

 

 

 

そして、C.E.71年。

 

俺達クルーゼ隊は旗艦であるナスカ級艦・ヴェサリウスで、同じクルーゼ隊の艦であるローラシア級・ガモフと並んで、あるコロニー付近の小惑星に紛れて潜伏している。

 

 

 

 

資源衛星コロニー・ヘリオポリス。

 

オーブ連合首長国が管理する中立コロニーで、宇宙における生産拠点で、そこには戦争を嫌う人達が平和に日常を過ごしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、それは表向きで、裏では地球軍が密かに“ある兵器”を開発している。

 

その“ある兵器”とは、地球軍とオーブのモルゲンレーテ社の共同による“G兵器開発計画”を元に開発している6機の新型試作モビルスーツの事だ。

 

クルーゼ隊の任務は、そのモビルスーツの奪取らしい。

 

俺達が銃、爆薬など任務に必要な武器のチェックを終え、ヴェサリウスに配備されているステルスランチに乗り込むと、俺と同じ赤服のパイロットの一人が気楽な口調で話し出す。

 

 

「しかし、いいのかねぇ?」

 

「何がだ?」

 

「中立国のコロニーに手ぇ出しちゃってさ~」

 

「…じゃあ、中立国がコロニーでこっそり地球軍の兵器を作ってるのはいいのかよ?」

 

「…ははっ。そりゃやっぱ、ダメでしょ」

 

 

ステルスランチが出発するまでの間、雑談をしている赤服の二人。

 

その内の一人はイザーク・ジュール。

プライドが高く好戦的で、アカデミーの時はよく俺に勝負を挑み、負けても何度も挑んでくる負けず嫌いな奴だ。

 

もう一人は、ラスティ・マッケンジー。

俺達の同期のお調子者で、場の風紀を盛り上げてくれるムードメーカーである。

 

この二人と俺の他にも三人の赤服がこの作戦に参加している。

 

 

 

 

ディアッカ・エルスマン。

イザークとはアカデミーのルームメイト。軽い性格をしているが、根は真面目な奴だ。

 

ニコル・アマルフィ。

優しく穏やかな性格だが、祖国を守りたいという気持ちでザフトに入隊した俺と“あいつ”の友人でもある。

 

最後の一人は、アスラン・ザラ。

俺が言っていた“あいつ”とはこいつの事だ。頭脳明晰で、何事も冷静にこなすしっかり者だ。そして、月のコペルニクス幼年学校時代からの親友でもある。

 

 

「…」

 

 

俺は隣にいるアスランの方を見ると、考え事をしているのか、難しい顔をしている。

 

 

「…アスラン」

 

 

俺がアスランに声をかけると、アスランも俺の声に気付きこっちを見る。

 

 

「無茶はするなよ。お前に何かあったら、“彼女”が悲しむからな」

 

 

俺が言う“彼女”とはラクスの事だ。

 

血のバレンタインからしばらく経った後、シーゲルさんとアスランの父親であり、国防委員長でもあるパトリック・ザラ委員長の決定で二人は婚約者同士となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

婚約が決定してから数十分後

 

ラクスが深刻そうな表情で俺の部屋に入ってくる。

 

 

「ごめんなさい、ダン…。わたくしは反対しましたが、もう決まってしまった事だとお父様に言われて…どうする事も…」

 

 

悲しい顔で戸惑いながら謝るラクスの頭を優しく撫でると、彼女は少し驚いた表情で俺を見る。

 

 

「大丈夫だよ。あいつは優しくてしっかり者だから、きっと上手くやっていけるし、君を守ってくれる」

 

 

俺がラクスに言えるのは、これくらいしかなかった。

 

 

「…ありがとう、ダン」

 

 

ラクスも無理をしていたが、笑顔で俺にお礼を言ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、今に至る。

 

 

「ダン…。だが、あれは…」

 

『お前ら』

 

 

アスランが俺に何か話そうとした時、俺達が乗っているステルスランチのモニターから一人の緑服のパイロットが通信で話しかけてくる。

 

名前は、ミゲル・アイマン。

俺達の先輩で、クルーゼ隊の緑服兵士。後輩に対しても敬語を使わせないほど俺達同胞の面倒見もいい。

 

 

『あんま待たせんなよ』

 

「わかってる。よし行こう。OK。ザフトのために、ってね」

 

 

ミゲルに返事をし、場の雰囲気を和ませるように気楽な口調で言うラスティ。そして遂にヘリオポリスに向けて俺達の乗るステルスランチが動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘリオポリスの入り口に張られている赤外線センサーなどの防衛システムを抜け、内部に潜入した俺達は、6機のG兵器がある場所に向かう途中、その内の3機がどこかに向けて搬送している光景を目撃する。

 

 

「あれだ。クルーゼ隊長の言ったとおりだな」

 

「突けば慌てて巣穴から出てくるって?やっぱり間抜けなもんだ、ナチュラルなんて」

 

 

残りの半機は、まだ工場施設にあるようだ。

俺達は二手に別れる事にし、イザーク、ディアッカ、ニコルの三人は搬送中の3機奪取の為に待機し、俺はアスランとラスティと一緒に、まだ搬送されてない3機がある工場施設に向かう。

 

地球軍に気付かれないように行動し、施設に到着した俺達は作戦開始の合図を待っている。

 

 

 

 

しばらくして、施設内にかなり大きな爆発音が鳴り響く。

 

それは同胞達が設置した爆弾が爆発した音であり、それと同時にザフトのモビルスーツ・ジンが攻撃を開始する。 

 

モルゲンレーテの社員達は既に避難を開始している。施設内に残っているのは地球軍の兵士達だけで、さっきの爆発とジンの襲撃でかなり動揺している。

 

それを合図に俺、アスラン、ラスティは3機に向けて行動を開始する。

 

 

「今だ!」

 

「よし、行くぞ!」

 

「な、何だ貴様ら…ぐあああああっ!!」

 

 

敵に隙を与えずそれぞれの奪取する機体へと向かうが、地球軍の抵抗もあり、激しい銃撃戦を繰り広げる。

 

 

その銃撃戦の中、ラスティが敵の凶弾を受けて倒れてしまう。

 

 

「っ!ラスティーーッ!!」

 

 

ラスティが撃たれた光景を見て、俺は同期を撃たれた悔しさで歯を噛み締め、アスランはラスティの名を叫ぶ。

 

だが、立ち止まる訳にはいかない。

 

一瞬だけ動揺するが、すぐに立ち直り、俺とアスランはそれぞれの機体に向かう。

俺はその途中、ラスティを撃った敵を撃つ。

 

残っている地球軍の女はアスランに任せ、俺は周辺を警戒しながらモビルスーツへと走る。

 

 

 

 

機体にたどり着いた俺は、すぐにコックピットに乗り込み、素早く起動コードを入力する。コードの入力を終え、起動した機体はゆっくりと起き上がる。

 

俺が奪取した機体は、GAT-X107ソウル。

G兵器の1機で、機動性に優れたモビルスーツだ。

 

 

「(ソウル…魂を由来にした機体か…)」

 

 

コックピットのレーダーで状況を確認すると、俺とアスラン以外は既に奪取に成功して離脱している。

 

俺達も急がないといけない。 

 

俺はすぐにソウルで離脱しようとした時、コックピットのモニターに映るアスランと対峙している少年を見て驚愕する。

 

 

「!?(あれは…)」

 

 

いや、そんな筈は…。

“あいつ”がここにいる筈がない。

 

そう思っていると、アスランの銃撃で右腕を負傷している地球軍の女がアスランに銃を向けて発砲するが、それを回避して別のモビルスーツへと向かう。地球軍の女も“あいつ”と一緒にコックピットに乗り込む。

 

その直後、施設周辺は次々と爆発し、炎に包まれる。

 

 

「(何故こんな場所に……

 

 

 

 

キラがいるんだ…?)」

 

 

俺はその疑問を抱きながらも、爆発する施設から脱出する事にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

崩壊する大地

爆発する工場施設から脱出する俺に続くように、アスランが乗る機体と地球軍が乗る機体も出てくる。

 

その直後、近くにいるミゲルが乗るジンから通信が来る。

 

 

『来たかお前ら』

 

「気を付けろ、あれに乗っているのはラスティじゃない」

 

『何っ?』

 

『向こうの機体には地球軍の士官が乗っている』

 

 

地球軍が乗っているモビルスーツは地面に着地し、倒れはしなかったがバランスを保ちながらゆっくりと移動している。起動直後に脱出したため、まだ本格的に機体の調整ができていないのかもしれない。

 

 

『…ならあの機体は俺が捕獲する。お前らはそいつを持って先に離脱しろ』

 

 

そう言ってミゲル機は、持っているアサルトライフル・重突撃機銃を腰にしまい、サーベル・重斬刀を抜いて地球軍の機体に攻撃をしかける。

 

 

「…アスラン、急げ」

 

『…ああ』

 

 

アスランはさっきの事を気にしていたのか、俺の声に少し慌てながらも返事をしてOSの書き換えに取りかかる。

 

気にしているのはアスランだけじゃない。何故キラがあそこにいるのか、俺も気にしているからだ。

 

 

 

 

キラ・ヤマト。

 

俺とアスランの幼年学校時代の親友で、あの頃はよく一緒に学校に行ったり、たまにアスランと一緒にあいつの家で三人で遊んだ事もある。

 

あれは、本当にキラだったのか…?

 

その事を考えながらも周囲を警戒し、アスランの機体調整を待っていると、ミゲル機が地球軍のモビルスーツに重斬刀を振り下ろそうとしている。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、地球軍のモビルスーツは斬られそうになる寸前に機体の色を変え、両腕をクロスさせてジンの重斬刀の攻撃を受け止める。

 

 

『何ぃ!?』

 

 

あまり負傷していない地球軍のモビルスーツを見て驚愕するミゲルは、地球軍の機体から距離を離すようにジンを下げる。

 

 

『こいつ!どうなってる!?こいつの装甲は!』

 

「そいつはフェイズシフトという装甲で出来ている機体だ。展開すればジンのサーベル、ライフルによる物理の攻撃は通用しない」

 

 

アスランのモビルスーツの色が灰色から赤へと変わる。どうやらOSの書き換えが終わったみたいだ。

 

その直後、数発のミサイルが俺とアスランに向かって飛んでくる。俺はソウルの頭部のバルカン砲でそのミサイル撃ち落とし、攻撃を仕掛けたミサイル搭載トラックを撃墜する。

 

 

『お前らは早く離脱しろ!いつまでもウロウロするな!』

 

 

そうミゲルは言うと、再び地球軍のモビルスーツに攻撃を仕掛ける。

 

 

…キラ…

 

 

 

 

 

「…行くぞアスラン」

 

「…ああ。わかった」

 

 

俺とアスランはミゲルを残して、奪取したモビルスーツをヴェサリウスに持ち帰るためにヘリオポリスを後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とアスランは、ヘリオポリスを脱出し、無事にヴェサリウスに帰還する。

しばらくして、ミゲルの操縦するジンが大破したというアナウンスを聞くが、ミゲルは無事に脱出して離脱しているようだ。

 

それを聞いたクルーゼ隊長は隊長機であるシグーでヘリオポリスに向けて出撃する。

 

その間、俺とアスランは奪取した2機のモビルスーツの最終チェックを行っている。

 

アスランが奪取したモビルスーツはGAT-X303イージス。

ソウルと同じG計画の1機で、高速強襲用としてモビルアーマーに変形できる機体だ。

 

 

「外装チェックと充電は終わりました。そちらはどうです?」

 

「ああ。こっちも今終わったところだ」

 

 

俺はソウルの最終チェックを終え一息つく。

アスランの方はまだイージスのチェックが終わってないようだ。いつもなら俺よりも早く終わっている筈だが、きっとキラの事を考えているんだろう。

 

 

「……」

 

 

チェックを終えた俺は目を閉じ、キラ、アスラン、そして俺の三人で過ごした幼年学校時代の頃を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜が舞う道を三人で歩いた日。

 

 

「本当に戦争になんて事はないよ。プラントと地球で…」

 

 

友情の証として、俺とアスランが共同で作ったトリィをキラにプレゼントした事。

 

 

「避難なんて意味ないと思うけど、キラもその内プラントに来るんだろ?」

 

「来た時は連絡くれよ。その時は、また三人で一緒に遊ぼうな」

 

「うん」

 

 

そして、あの時交わした再会の約束。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クルーゼ隊長機帰還。被弾による損傷あり。消火班、救護班はBデッキへ』

 

 

昔の頃を思い出していると、ヴェサリウス内にアナウンスが流れ、出撃したクルーゼ隊長のシグーが右腕を損傷した状態で帰還して来る。

 

 

「隊長機が腕を…」

 

 

隊長機が損傷している事に驚く整備班達。それもそうだ。機体を被弾させる事がないクルーゼ隊長がシグーを負傷させて帰還して来たんだ。

 

 

「(いや、キラなら…)」

 

 

キラは機体の設計やシステムに関する知識に優れた奴だ。

ミゲルが乗るジンを撃墜したのも、おそらく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミゲルがヴェサリウスに帰還し、俺とアスラン、ミゲル、その他の緑服を含めた5人は、クルーゼ隊長と一緒にミゲルが持ち帰ってきた地球軍のモビルスーツの戦闘データを見て、次の作戦の会議をしている。

 

 

「オリジナルのOSについては、君達も既に知っての通りだろう。なのに何故、この機体だけがこんなに動けるか分からん。だが我々がこんなものをこのまま残し、放っておく訳にはいかんという事ははっきりしている」

 

 

さらに話を進めるクルーゼ隊長。

 

 

「捕獲不可能ならば、今ここで破壊するしかない。戦艦もな。侮らずにかかれよ」

 

「「はっ!」」

 

 

説明を終えたクルーゼ隊長の敬礼に、俺達も返事と共に敬礼で答える。

 

 

「ミゲル、オロールは直ちに出撃準備!D装備の許可が出ている」

 

 

ヴェサリウスの艦長であるフレドリック・アデス艦長が言うD装備。大量のミサイルが搭載された要塞攻略用の重爆撃装備。

そんな装備をヘリオポリスで使って大丈夫なのか?

 

 

「今度こそ完全に息の根を止めてやれ!」

 

「「はいっ!」」

 

 

アデス艦長の指示を受けたミゲルとオロールは出撃準備に取りかかる為、ブリッジを後にする。

 

 

「アデス艦長!私も出撃させて下さい!」

 

 

アスランが突然、アデス艦長に出撃許可を求める。

きっと地球軍のモビルスーツを操縦しているのがキラかどうかを確かめる為だろう。

 

 

「機体が無いだろう。それに君は、あの機体の奪取という重要任務を既に果たした」

 

 

クルーゼ隊長の言葉も一理ある。

 

 

「ですが…」

 

 

しかし、それでも食い下がろうとするアスラン。

 

 

「今回は譲れ、アスラン。ミゲル達の悔しさも君達に引けは取らん」

 

 

アデス艦長にも言われ、黙ってしまうアスラン。

俺が無言でアスランの肩に手を置くと、観念したのか、ようやく引き下がる。

 

そんなアスランを連れてブリッジを後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の指令が来るまで待機する事になり、一旦はアスランと別れ、ヴェサリウスの艦内通路から宇宙を眺めていると、赤い何かがヘリオポリスに向かうのを見かける。

 

 

(今のは、まさか…)

 

 

俺はすぐにクルーゼ隊長達がいるブリッジへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにっ!?アスラン・ザラが奪取した機体でだと!?」

 

 

アデス艦長の怒号がブリッジに響く。俺の悪い予感が的中してしまったようだ。格納庫にいた連中の話によると、アスランが独断でイージスでヘリオポリスへ向かったらしい。

 

 

「呼び戻せ!すぐに帰還命令を!」

 

「行かせてやれ。データの吸出しは終わっている。かえって面白いかもしれん、地球軍のモビルスーツ同士の戦いというのも…」

 

 

慌てているアデス艦長とは違い、面白そうに笑みを見せるクルーゼ隊長。

 

 

「君もそう思わないかね、ダン」

 

「は、はい」

 

 

俺を見ているクルーゼ隊長の言葉に少し戸惑いながらも返事をして、アスラン達の帰還を待っていると、悪い知らせがやって来る。

 

ミゲル達が搭乗するジンのシグナルが全てロストしたらしい。

 

 

「(ミゲル達が討たれた…!?まさかキラが…?)」

 

 

俺はキラの事を気にしながらも、シグナルがロストしていないアスランを待っていると、ヘリオポリスから多数の救助ポッドが放出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その直後、ヘリオポリスが崩壊を始め、無惨な姿に変わっていく…。

 

 

「コロニーが…」

 

 

 

 

 

その光景を見て驚愕する俺は、アスランと向こうにいるかもしれないキラの無事を心の中で願いながらアスランの帰還を待つ事にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フェイズシフトダウン

ヘリオポリスが崩壊して少し経った後、アスランのイージスがヴェサリウスに帰還したらしい。

 

 

「心配だろう。早く行ってやりたまえ」

 

「は、はい」

 

 

俺はクルーゼ隊長に敬礼をしてブリッジを後にしてアスランのところに向かう。

 

 

 

 

艦内通路を通っていると向こう側から来るアスランと出会す。

 

 

「…アスラン!」

 

「…あ、ダン…」

 

「馬鹿野郎!無茶をするなと言ったのに、何で勝手に出撃したんだ!」

 

「…すまん。…どうしても確かめたかったんだ」

 

「確かめたかったって…まさか…」

 

「…あのモビルスーツに乗っていたのは…キラだった」

 

「っ!…確かなのか?」

 

「ああ。あいつと話をしたから間違いない」

 

 

俺はアスランから事実を聞いて驚く。

またキラがあのモビルスーツで現れた時、俺達は戦えるのか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は地球軍の新造戦艦を追撃する為、残骸となったヘリオポリスを離れて移動を開始する。

 

俺とアスランは同室の為、現在は同じ部屋で次の指示が来るまで待機している。

 

アスランはベッドで休憩を取り、俺はパソコンでキラが操縦していたモビルスーツのデータをチェックしている。

 

 

 

キラが乗っていた機体は、GAT-X105 ストライク。

 

ソウルと同じX100系で、6機の中で最後に造られた為、完成度は俺達が奪取した機体より高いモビルスーツだ。

 

 

 

ストライクの事を調べている途中、アスランの方に視線を向けると、涙を流しながら眠っている。ヘリオポリスでの戦闘で戦死したラスティとミゲルの事で悲しんでいるんだろう…。

 

無理もない。辛いのは俺だって同じだ。

アカデミーで仲が良かった2人が死んだのだからな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、アスランはクルーゼ隊長の出頭命令を受けて不在の為、部屋には俺一人しかいない。

おそらくあの時の無断出撃の事での呼び出しだろう。

 

 

「(アスランの奴…大丈夫なのか…)」

 

 

俺はアスランの事を気にかけてながら、自分のベッドで横になって少し仮眠を取る。

 

 

 

 

それから少し経ってアスランが部屋に戻って来るが、不安な顔をしている。

そんなアスランに俺はベッドから起き上がり話し掛ける。

 

 

「アスラン、どうだった?」

 

「ああ。懲罰は免れたよ」

 

 

それを聞いた俺は安心するが、アスランの顔は曇ったままだ。

 

 

「…だが、あの機体と…パイロットの事で色々聞かれたよ」

 

「…キラの事か?」

 

「ああ」

 

 

アスランから聞いた話によると、キラの事をクルーゼ隊長に話すと、俺達に気を遣って次の出撃は外すというと事だ。

しかしアスランはそれを断って、キラの説得も含めて出撃を求めたらしい。全く、アスランらしいな…。

 

 

「だが、どうしてキラがあれに…戦争を嫌っていたあいつが…」

 

「それはキラに会えばわかるさ。俺達の思ってる通りなら、またあのモビルスーツで出てくるかもしれない」

 

 

それぞれの疑問、今後の事を話しながら部屋で待機していると、艦内から警報アラームとアナウンスが鳴り響く。

 

俺とアスランはパイロットスーツに着替え、モビルスーツデッキで出撃準備を整えて待機していると、ブリッジにいるクルーゼ隊長が通信で話し掛けてくる。

 

 

『活躍を期待しているぞ、ダン』

 

「はい」

 

『アスラン、先の言葉を信じるぞ!』

 

『…はい』

 

 

おそらくクルーゼ隊長が言っているのは、キラの説得に失敗した場合に関しての事だろう。

 

アスランの乗るイージスがカタパルトに移動し始め、発進位置に着くとヴェサリウスのハッチが開き、宇宙へと飛び出す。続いて俺の乗るソウルがカタパルトに移動する。

 

 

「ダン・ホシノ!行きます!」

 

 

掛け声と同時にソウルを出撃させ、キラとの戦いが待ち受けている戦場へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…アスラン、そろそろだ」

 

『ああ』

 

 

コックピットのレーダーにキラの乗るストライクを確認する。

 

 

「(来たか、キラ…)」

 

 

俺はソウルのスラスターの速度を上げ、ストライクの横を素通りして通信を繋げる。

 

 

「キラ!キラ・ヤマト!聞こえるか?」

 

『ダン…ダン・ホシノ!君なのか?』

 

 

イージスは前方を、ソウルは後ろに回りストライクを囲む。

 

 

『剣を引け!キラ!同じコーディネイターのお前が、何故俺達と戦わなくちゃならないんだ!?』

 

「俺達は親友だろ!だったら戦う理由はないだろ!」

 

『…アスラン!ダン!』

 

 

俺とアスランは通信を通してキラに話し掛ける。

向こうではガモフから出撃したブリッツ、バスター、デュエルが敵戦艦と戦闘を繰り広げている。

それに気付いたキラが救援に向かおうする。

 

 

「待てキラ!」

 

 

しかし俺とアスランがその行く手を塞ぐ。

 

 

『キラ!同じコーディネイターのお前が何故地球軍に居る?何故ナチュラルの味方をするんだ!?』

 

『僕は地球軍じゃない!けどあの船には仲間が…友達が乗ってるんだ!』

 

 

ナチュラルの味方をするキラを説得するアスランに対し、キラは自分がモビルスーツに乗っている理由を話す。

 

 

『君達こそ何でザフトになんか…何で戦争なんてするんだ!』

 

「『…!』」

 

 

キラの言葉に俺とアスランは家族を失った過去を思い出す。

 

 

『戦争なんか嫌だって、君達だって言ってたじゃないか!その君達がどうしてヘリオポリスを…!』

 

『状況も分からぬナチュラル共が…こんなものを造るから…』

 

『ヘリオポリスは中立だ!僕だって!…なのに…』

 

「お前の言いたい事も分かる。だが、奴等がその中立のコロニーでこれを造っていたのは事実だ。その時点で、もうあのコロニーは…」

 

 

俺達が話し合っている途中、どこからか数発のビームがストライクを襲う。ストライクはそれを回避してソウルとイージスから距離を取る。

 

 

『何をモタモタやっている!ダン!アスラン!』

 

 

ストライクを攻撃したのはイザークの乗るデュエルだ。

敵艦の相手をブリッツとバスターに任せて、ストライクを討つつもりだ。ストライクとデュエルが戦闘を繰り広げている中、俺とアスランはそれを見ている。

 

 

『何をやってるんだ!ダン、アスラン、イザーク!頭を抑える!』

 

 

そこに敵戦艦と交戦中だったバスターとブリッツが加わり、ストライクを囲む形になる。デュエル、バスター、ブリッツが連携してストライクを攻撃するが、ストライクはそれを回避しながら迎撃している。数ではこっちが有利だ。

 

 

 

 

しかし突然、俺達のコックピットのモニターにヴェサリウスから入電が届く。

 

 

『ヴェサリウスが被弾!?』

 

『何故!?』

 

『俺達に撤退命令!?』

 

 

イザーク、ニコル、ディアッカの三人はこの入電を見て驚愕している。

俺達がストライクと敵戦艦を相手している間に別行動を取っていたモビルアーマーの攻撃でヴェサリウスが被弾したらしい。ストライクの方を見ると既に俺達の包囲を突破している。それを確認したのか、敵戦艦から帰還信号が出る。

 

 

『させるかよ!こいつだけでもっ!』

 

 

ヴェサリウスからの撤退命令を無視してデュエルがビームサーベルを抜き、再びストライクに攻撃を仕掛ける。

 

 

『イザーク!撤退命令だぞ!』

 

『うるさい!腰抜け!』

 

 

アスランが制止するも腰抜け呼ばわりしてそれを跳ね退けるイザーク。デュエルのサーベル、バスターのビームによる攻撃を回避してビームライフルで応戦するストライクだが、2機の連携に徐々に追い込まれる。

 

 

 

 

ビームライフルでエネルギーを使い過ぎたのか、遂にストライクのフェイズシフト装甲が白から灰色へと変わってしまう。

 

 

『貰ったぁ!!』

 

 

それを好機と見てデュエルがビームサーベル二刀流でフェイズシフトダウンしたストライクにとどめを刺そうと切り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その前にソウルのシールドでデュエルのサーベルを受け止め、ストライクの腕を掴んでイージスの方へ投げ飛ばす。

投げ飛ばされたストライクをイージスがモビルアーマーに変形して拘束し、デュエルから距離を離す。

それを確認した俺はソウルのシールドで防いでいるデュエルのサーベルを弾き、イージスの後を追う。

 

 

『何をする!ダン!アスラン!』

 

「見ての通りだ。この機体を捕獲する!」

 

『なんだとぉ!?』

 

『命令はそいつの撃破だぞ!勝手な事をするな!』

 

『捕獲できるならその方がいい。撤退する!』

 

『貴様らぁ!!』

 

 

イザークの怒号、ディアッカの文句を無視してストライクを拘束しているイージスと並んでガモフに向かう。ブリッツ、デュエル、バスターもその後について来る。

 

 

『アスラン!ダン!どういうつもりだ!?』

 

「見てわかるだろ。お前をガモフに連行する」

 

『ふざけるなっ!僕はザフトの船になんか行かない!』

 

 

キラは俺の言葉に反論し、必死にイージスの拘束から脱出しようと抵抗する。

 

 

『お前はコーディネイターだ!俺達の仲間なんだ!』

 

『違う!僕はザフトなんかじゃ…』

 

『いい加減にしろ!キラ!』

 

 

アスランは説得を拒み続けるキラに遂に痺れを切らせて一喝する。

 

 

『このまま来るんだ。でないと俺達は、お前を討たなきゃならなくなるんだぞ!』

 

 

アスランの言葉にキラ黙ってしまい、俺はそんなキラに話し掛ける。

 

 

「血のバレンタイン…。その日に、アスランはお母さんを…俺は両親を失った…」

 

『っ!』

 

「だから俺達は…」

 

 

俺が家族を失った過去をキラに話していると、突然コックピットに警報アラームが鳴り響く。

徐々に俺達に近付いて来る反応に警戒しても見当たらない。

 

 

「…アスラン!上だ!」

 

 

まさかと思って上を見ると、太陽の光に紛れてオレンジ色と青色の2機のモビルアーマーが現れ、ソウルとイージスに攻撃を仕掛けてくる。

青いモビルアーマーがソウルを足止めするように攻撃をしている間に、オレンジのモビルアーマーがストライクを拘束しているイージスに攻撃を仕掛ける。

 

 

『モビルアーマー!?しかも2機!?』

 

 

執拗にオレンジのモビルアーマーに攻撃されているイージスの援護に向かおうにも、青いモビルアーマーが行く手を阻むように攻撃してくる為、イージスの元に向かう事ができない。

そのせいで攻撃を受け続けていたイージスが応戦するために拘束していたストライクを放してしまう。

 

その隙にストライクが離脱し、敵戦艦の方へと向かってしまう。

 

 

『キラ!!』

 

「ちっ!」

 

 

ソウル、イージス、ブリッツ3機で敵モビルアーマー2機の相手をしている間に、デュエル、バスター2機がストライクを追い掛ける。

 

モビルアーマーとの戦闘中、爆発音が聞こえ、そこに目を向けるとストライクが向かった場所で爆煙が広がっているのが見える。

 

 

『やったか!?』

 

 

どうやらさっきの爆発音は、デュエルがストライクに攻撃を仕掛けた音らしい。

 

 

「(キラ…)」

 

 

キラの心配していると、爆煙の中から高エネルギーのビームがデュエルを襲うが、右腕を被弾しながらも回避する。

 

爆煙の中から遠距離用の武装に換装を終え、再びフェイズシフトを展開したストライクがビーム砲でデュエルとバスターに攻撃を仕掛ける。

 

 

『うわあぁぁぁぁ!!』

 

 

キラは雄叫びを上げながら、ストライクのビーム砲をデュエルとバスターに向けて乱射する。ストライクの反撃を受け、デュエル達は徐々に追い込まれている。

 

 

『引け!イザーク、ディアッカ!これ以上の追撃は無理だ!』

 

『何っ!』

 

『アスランの言う通りです。このままだと、今度はこっちのパワーが危ない!』

 

「墜とされたくなかったら、アスランの言う通りにしろ!」

 

 

アスランの指示に納得できないイザークだが、ニコルと俺にも言われ、ようやく撤退する気になったようだ。

 

俺達はストライクの猛攻を回避しながら離脱し、ガモフの方へ撤退する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガモフに帰還した俺はソウルから降りてモビルスーツデッキを後にし、待合室の手前まで来ている。

 

 

「貴様!一体どういうつもりだ!」

 

 

イザークの怒号が聞こえ、まさかと思いドアを開けると、そこにはイザークが鬼のような形相でアスランの胸倉を掴み、ディアッカが腕を組んでアスランを睨んでいる。

俺はすぐにアスランの胸倉を掴んでいるイザークの腕を掴んで無理やり引き剥がし、アスランを庇うようにイザークと睨み合う。

 

 

「暴力は感心しないな。少し頭を冷やしたらどうだ?」

 

「うるさい!そいつもだが、貴様もあそこで余計な事をしなければ…!」

 

「とんだ失態だよ。“誰かさん達”の命令無視のおかげで」

 

「…」

 

 

“誰かさん達”とは、どうせ俺とアスランの事だろう。

全く、こいつらは…。

 

 

「お前達こそ人の言えるのか?ヴェサリウスからの撤退命令が出ていたにも関わらず、それを無視して、勝手にストライクに突っ込んで、反撃されたのはどこの“誰かさん達”だ?」

 

「ちっ!」

 

「なんだとぉ!貴様ぁっ!」

 

 

イザーク達の問い詰めに対して黙っているアスランの代わりに俺が言い返すと、案の定、ディアッカは舌打ちしてイザークは激昂して俺に向かって右ストレートで殴り掛かってくる。

 

俺はそれを受け止めてそのまま後ろに回り込み、イザークを組み伏せて大人しくさせる。組み伏せられながらも俺を睨むイザークを無言で睨み付けていると、後から来たニコルが俺達の喧嘩を見て驚愕しながらも俺の側までやって来る。

 

 

「何やってるですか!やめて下さい!こんな所で!」

 

「俺はただアスランに当たってたこいつらを止めようとしただけだ。先に仕掛けて来たのはこいつの方だ」

 

「でも!それが喧嘩をしていい理由にはなりません!お願いですからやめて下さい!」

 

 

ニコルの必死な説得で落ち着いた俺は、すぐにイザークの腕を放してディアッカの方へ突き飛ばす。ディアッカに受け止められながもイザークはまだ懲りずに俺を睨んで来る。

 

 

「イザークもです!どうしてこんな事を…」

 

「5機でかかったんだぞ!それで仕留められなかった…こんな屈辱があるか!」

 

「だからといって、ここで仲間同士喧嘩をしても仕方ないでしょ!」

 

 

ニコルに正論を言われたのか、悔しそうに俺を睨んでから待合室から出ていくイザークにディアッカもついて行く。

それを確認した俺はさっきの険しい顔からいつもの顔でニコルに話し掛ける。

 

 

「悪いなニコル」

 

「気にしないでください。ダンが理由もなく喧嘩を起こす筈がない事ぐらい、僕も知っていますから」

 

「…ありがとな」

 

 

俺が礼を言うと、ニコルは優しい笑顔でそれに答えてくれる。その後、真剣な顔でアスランを見るニコル。

 

 

「アスラン…いつも冷静な貴方が今回はらしくないのは僕も思います。でも…」

 

「…すまんニコル、ダン。今は放っておいてくれないか」

 

 

そう言ってアスランも待合室を出てってしまい、残ったのは俺とニコルだけとなった。

 

 

「アスラン…」

 

「…ニコル。アスランだってきっと分かってるさ。けど、今はそっとしといてやろう。しばらくしたら立ち直るだろう」

 

「…そうですね」

 

「じゃあ、俺はそろそろ休むよ。またな」

 

「ええ。また後で」

 

 

俺はニコルと別れ待合室を後にし、パイロットスーツから軍服に着替えて自室に戻る。部屋に戻ってもアスランの姿がないって事は、まだ1人でキラの事を考えているんだろう。俺はアスランより一足先に休息を取る。

 

 

 

 

しばらくして、俺とアスランの2人は修理を終えたヴェサリウスにいるクルーゼ隊長からの帰投命令を受けてプラントに向かう事になった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

宇宙の傷跡

クルーゼ隊長から帰投命令を受けた俺とアスランは、クルーゼ隊長と一緒に修理と補給を終えたヴェサリウスで本国であるプラントに来ている。

 

プラント付近の宇宙港に到着した俺はアスラン達と一緒に、ヴェサリウスから降りて移動用シャトルに乗り換える。シャトルに乗ると男性が1人先に乗っているが、俺達の知っている人物の為、その人に敬礼をして挨拶する。

 

 

「御同道させていただきます、ザラ国防委員長閣下」

 

「礼は不要だ。私はこのシャトルには乗っていない。いいかね、アスラン」 

 

「…分かりました。父上。お久しぶりです」

 

 

俺達が敬礼した相手は、パトリック・ザラ。

プラント評議会国防委員長でアスランの父親だ。実の息子であるアスランに対して冷たい態度が引っ掛かるが、俺は心の中でそう思いながらもクルーゼ隊長達と一緒に席に座るとシャトルが動き出す。

 

 

「リポートに添付してあった君の意見には、無論私も賛成だ。問題は、奴等がそれほどに高性能のモビルスーツを開発したということにある。パイロットのことなどどうでもいい」

 

「!!」

 

「…」

 

 

ザラ委員長のその言葉にアスランは驚き、俺は顔を曇らせる。そんな俺達に気付かず、クルーゼ隊長とザラ委員長は話を続ける。

 

 

「その箇所は私の方で削除しておいた」

 

「ありがとうございます。閣下ならそう仰って下さると思っておりました」

 

「向こうに残してしまった機体のパイロットもコーディネイターだったと、そんな報告は穏健派に無駄な反論をさせる時間を作るだけだ」

 

 

穏健派とはシーゲルさんを中心としたクライン派の事だ。

あの人達は平和的に戦争を終結させる為に尽力しているからな。

そう考えていると、クルーゼ隊長がいつの間にか俺達の方を向いている。

 

 

「君達も自分の友人を、地球軍に寝返った者として報告するのは辛かろう」

 

「あ…いえあの…」

 

「…はい」

 

 

俺とアスランを気遣うように話し掛けるクルーゼ隊長に対して、俺とアスランに構わずザラ委員長は話を続ける。

 

 

「奴等は、自分達ナチュラルが操縦しても、あれほどの性能を発揮するモビルスーツを開発した…そういうことだぞ。分かるな…アスラン、ホシノ」

 

「…はい」

 

「…」

 

 

ザラ委員長の言葉に頷くアスラン。

俺は話を聞きながら、ヘリオポリスで起きた事を思い出す。ソウルのコックピット内でキラがアスランと対峙していた事を…。

 

 

「我々ももっと本気にならねばならんのだ。早く戦いを終わらせる為にはな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくクルーゼ隊長とザラ委員長の話を聞いている内にシャトルがプラントに到着する。

シャトルから降りた俺とアスランは、クルーゼ隊長と一緒にザラ委員長と別れ、エレベーターでアプリリウス市に向かっている。

 

 

『…では次に、ユニウスセブン追悼、一年式典を控え、クライン最高評議会議長が、声明を発表しました』

 

 

エレベーターで降下中、ニュースでシーゲルさんとラクスが出ており、シーゲルさんが演説を行っている。

 

 

『あの不幸な出来事は、我々には決して忘れる事が出来ない、深い悲しみです』

 

 

シーゲルさんの演説を見ていると、クルーゼ隊長が俺とアスランに話し掛けてくる。

 

 

「そういえば、彼女はアスランの婚約者で、ダンの幼馴染みだったな」

 

「は…はぁ…」

 

「…そうです」

 

「ラクス嬢は今回の追悼慰霊団の代表を務めるそうじゃないか。素晴らしい事だな」

 

「「はい」」

 

「ザラ委員長とクライン議長の血を継ぐ、アスランとラクス嬢の結びつき、次の世代にはまたとない光になるだろう。期待しているよ、アスラン」

 

「ありがとうございます」

 

「…」

 

 

親友であり、しっかり者のアスランなら、ラクスを任せても大丈夫だ。幼馴染みであるラクスの幸せの為なら、俺はどこまでも戦える。

 

 

「その時代を、今我々は守らねばならん。君のこれからの活躍にも期待しているよ、ダン」

 

「っ!ありがとうございます」

 

 

突然クルーゼ隊長から話を振られた為、一瞬驚くがすぐに返事をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アプリリウス市に到着した俺達は、最高評議会の本部に来ている。これから臨時査問委員会が行われるからだ。評議会には12人の議員が集まっており、その中にはシャトルで居合わせたザラ委員長の姿もある。俺とアスラン、クルーゼ隊長の3人はシーゲルさん達から離れた席に着いている。

 

 

「ではこれより、オーブ連合首長国領、ヘリオポリス崩壊についての、臨時査問委員会を始める。まずは、ラウ・ル・クルーゼ、君の報告から聞こう」

 

「はい」

 

 

臨時査問委員会が始まり、クルーゼ隊長が席から立ち上がり、ヘリオポリスでの地球軍による6機のモビルスーツの開発、機体の奪取、そしてヘリオポリス崩壊に関しての報告を行う。

 

 

 

 

「…以上の経過で御理解頂けると思いますが。我々の行動は、決してヘリオポリス自体を攻撃したものではなく、あの崩壊の最大原因はむしろ、地球軍にあるものと、御報告致します」

 

 

報告を終えたクルーゼ隊長はシーゲルさん達に敬礼をして席に戻ってくる。

 

 

「やはり、オーブは地球軍に与していたんだ…」

 

「条約を無視したのは、あちらの方ですぞ!」

 

「だが、アスハ代表は…」

 

「地球に住む者の言葉など、当てになるものか」

 

 

シーゲルさんとザラ委員長以外の議員達がそれぞれの意見を言っている途中、ザラ委員長が席から立ち上がる。

 

 

「しかし、クルーゼ隊長、その地球軍のモビルスーツ、果たしてそこまでの犠牲を払ってでも手に入れる価値のあったものなのかね?」

 

 

ザラ委員長の問いにクルーゼ隊長は席から立ち上がり答える。

 

 

「その驚異的な性能については、実際にその機体に乗り、また取り逃がした最後の機体と交戦経験のある、アスラン・ザラとダン・ホシノより報告させて頂きたく思いますが」

 

 

クルーゼ隊長の発言を聞いてザラ委員長はシーゲルさんの方を見ると、俺とアスランを見て少し考えてから口を開く。

 

 

「…アスラン・ザラとダン・ホシノの報告を許可する」

 

 

シーゲルさんから俺達の報告の許可が下りた為、先にアスランが席から立ち上がり前に出る。

アスランがシーゲルさん達に敬礼をすると、格納されているイージスの映像が映し出され、シーゲルさん達はそれを見て驚いている。

 

 

「まず、イージスという名称の付いたこの機体ですが…大きな特徴は……

その可変システムにあります」

 

 

更にイージスは、俺達が奪取した機体と異なるフレームで造られており、モビルアーマー時は“スキュラ”というエネルギー砲が搭載されているが、まだ実戦で使っていない。

OSはまだ直してる途中だが、機体のスペックは、機動性もパワーもザフトの主力機であるジンを上回るらしい。

 

GAT-X102 デュエル。

イザークが搭乗する近接戦をメインにした機体で、 他の5機の開発ベースになっているらしい。装備は他の機体と共通の武装のみとなっている。

 

GAT-X103 バスター。

ディアッカが乗る遠距離射撃を得意とした機体である為、シールドは装備されていないが、超高インパルス長射程狙撃ライフル、高エネルギー収束火線ライフル等の遠距離用の武装を多数搭載されている。

 

 

「…私からは以上です」

 

 

イージス、デュエル、バスターの説明を終えたアスランが敬礼をして席に戻って来る。

次は俺がシーゲルさん達の前に立って敬礼すると、格納されているソウルの映像が出てくる。

 

 

「次はソウルについて説明致します。この機体には……

ラジエータープレート兼用の大型可変翼と複数の高出力スラスターが搭載されており、機動性を増強させる事を主眼としている為、その機動力は他の機体よりも上回るものと思われます」

 

 

ソウルの説明をした後、ブリッツ、ストライク等の特徴の説明を始める。

 

GAT-X207 ブリッツ。

ニコルが操る機体で、微粒子ガスを展開させる事で、ほぼ100%に近いステルス性を持つ“ミラージュコロイド”を搭載した電撃作戦を得意とする。しかし、その代償としてフェイズシフトは展開できず、その間は物理による攻撃を受けてしまう為、細心の注意が必要な機体だ。

 

そして、キラが操縦するストライク。

この機体には、エール、ソード、ランチャーの3つの武装を持っている。ランチャー装備の時は、“超高インパルス砲”という高エネルギー砲、ガンランチャー等の遠距離武装、ソード装備の時は、対艦刀、ビームブーメラン等の近距離武装、換装無しの状態でも腰部には2刀の“アーマーシュナイダー”という実剣ナイフを持ち、あらゆる状況に対処できる汎用機となっている。

 

 

「…以上です」

 

 

残りのモビルスーツの報告を終えた俺はシーゲルさん達に敬礼して席に戻ると、シーゲルさんとザラ委員長以外の議員達が再び意見を述べ始める。

 

 

「こんなものを造り上げるとは…!ナチュラル共め!」

 

「でも、まだ、試作機段階でしょ?たった6機のモビルスーツなど脅威には…」

 

「だが、ここまで来れば量産は目前だ。その時になって慌てればいいとでも仰るか!?」

 

「これは、はっきりとしたナチュラル共の意志の表れですよ!奴等はまだ戦火を拡大させるつもり…」

 

 

徐々に意見が激しくなり、議員達が抗論を始めてしまう。

 

 

「…静粛に!議員方、静粛に…」

 

 

シーゲルさんの諌める事で静まる議員達。俺とアスラン、クルーゼ隊長はただそれを静かに見ている。

 

 

 

 

「戦いたがる者など居らん。我等の誰が、好んで戦場に出たがる?」

 

 

黙っていたザラ委員長が口を開く。

 

 

「平和に、穏やかに、幸せに暮らしたい。我等の願いはそれだけだったのです。だがその願いを無残にも打ち砕いたのは誰です。自分達の欲望の為だけに、我々コーディネイターを縛り、利用し続けてきたのは!」

 

 

更にザラ委員長は言葉を続ける。

 

 

「我等は忘れない。あの血のバレンタイン、ユニウスセブンの悲劇を!」

 

 

血のバレンタイン。

それを聞いた瞬間、俺は再び両親が死んだ過去を思い出す。

 

 

「24万3723名…それだけの同胞を喪ったあの忌まわしい事件から1年。それでも我々は、最低限の要求で戦争を早期に終結すべく、心を砕いてきました。だがナチュラルは、その努力をことごとく無にしてきたのです」

 

 

ザラ委員長の言葉も一理ある。

俺とアスランが軍人の道を歩むようになったのも血のバレンタインで家族を失った事がきっかけだ。

 

 

「我々は我々を守る為に戦う。戦わねば守れないならば、戦うしかないのです!」

 

 

ザラ委員長の決意を示すような発言に沈黙する議員達。シーゲルさんも観念するようにため息をついて黙ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨時査問委員会が終わり、議員達が次々と外へ出ていく中、俺とアスランはクルーゼ隊長を待ちながら、評議会本部に展示されている“ある化石”を見ている。

 

 

 

 

その化石は、2枚の翼を持つ巨大なクジラの化石だ。

 

名称はエヴィデンス01。

詳しく知らない人達は“宇宙クジラ”と呼んでいる。

 

この化石は、あの“ファーストコーディネイター”であるジョージ・グレンが木星探査の時に発見した“地球外生命体”の化石とされているが、それ以外の詳細は不明だ。

 

 

 

 

「ダン。アスラン」

 

 

俺とアスランが宇宙クジラを見ていると、シーゲルさんに声をかけられる。

 

 

「クライン議長閣下」

 

「お久しぶりです、議長閣下」

 

 

俺達はシーゲルさんに気付いて敬礼をして挨拶する。

 

 

「そう他人行儀な礼をしてくれるな。特にダン」

 

「はい…。ですが…」

 

「公式の場ならともかく、こういう個人的な時だけは、普通に呼んで欲しいのだがね」

 

 

シーゲルさんが俺の肩に手を置き、優しく微笑んでくれる。俺はそれに笑みを浮かべ、少し頷いて答える。

 

 

「ようやく君らが戻ったと思えば、今度はラクスが仕事で居らん。全く、君らはいつ会う時間が取れるのかな」

 

「…はい」

 

「申し訳ありません」

 

「私に謝られてもな」

 

 

シーゲルさんも俺達と同じように宇宙クジラを見ながら、少し困ったような顔で口を開く。

 

 

「しかし、また大変な事になりそうだ。アスラン、君の父上の言う事もわかるのだがな…」

 

「アスラン・ザラ!ダン・ホシノ!」

 

 

シーゲルさんと話をしている途中、後ろから声が聞こえて振り向くと、クルーゼ隊長とザラ委員長がこっちに歩いて来る。

 

 

「あの新造艦とモビルスーツを追う。ラコーニとポルトの隊が、私の指揮下に入る。出航は72時間後だ」

 

「「はっ!」」

 

 

俺とアスランは、クルーゼ隊長の指示に敬礼をして返事をする。

 

 

「失礼します!クライン議長閣下!」

 

 

それを確認したクルーゼ隊長はシーゲルさんに敬礼して立ち去り、俺とアスランもシーゲルさんに敬礼してクルーゼ隊長に続いて評議会本部を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルーゼ隊長を軍本部へお連れしている途中、街のモニターに歌っているラクスの姿が映し出されている。

 

 

「(ラクスは今どうしているんだろう…元気にしてるといいが…)」

 

 

その思いでラクスの歌を聞いている内に軍本部に到着し、クルーゼ隊長と別れた俺とアスランは“ある場所”へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

到着した“ある場所”。

そこは俺とアスランの家族、その他血のバレンタインで犠牲になった人達や、ナチュラルとの戦いで戦死した同胞達が眠っている墓地である。

俺は両親の、アスランは母親であるレノアさんの墓に、ここへ来る前に用意した花束を置く。

 

 

アスラン「母上…」

 

ダン「父さん…母さん…。遅くなってごめん。ここに来るまでに色々あったからさ」

 

 

この先待ち受けているキラとの戦いを考えるが、俺はそれを心の中にしまい込む。

 

 

「じゃあ、また会いに来るから。それじゃあ、行くか」

 

「ああ。では母上、また…」

 

 

家族に挨拶を済ませた俺達は墓地を後にし、任務の時間が来るまでしばらく休息を取る事にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

消えていく光

プラント最高評議会の臨時査問委員会から数時間が経ち、俺とアスランはそれぞれの休暇を取っている。

 

 

「ん?」

 

 

俺がベッドで仮眠を取っていると、部屋に設置されている通信機が鳴り響く。アスランはシャワーを浴びている最中のため代わりに俺がその通信機に出ると、モニターに女性オペレータの姿が映し出される。

 

 

「こちらダン・ホシノ」

 

「クルーゼ隊所属アスラン・ザラ。同じくダン・ホシノ。軍本部より通達です」

 

「はっ!」

 

「ヴェサリウスは予定を35時間早め、明日、1800の発進となります。各員は1時間前に集合、乗艦のこと。復唱の後、通信受領の返信を」

 

「ヴェサリウスは明日、1800発進。各員1時間前に集合、乗艦。ダン・ホシノ、了解しました」

 

 

俺はオペレータからの報告を聞きいて復唱、受領して通信を切るとシャワーを終えたアスランが戻って来る。

 

 

「ダン。さっきのは…」

 

「ああ。それが…」

 

 

俺は軍本部からの通信が来た事、ヴェサリウスの発進時間の変更と集合時間をアスランに教えていると…

 

 

『この船には、今回の追悼式代表を務める、ラクス・クライン嬢も乗っており、安否が気遣われています』

 

 

ニュースでラクスの名前が出て、俺とアスランはそのニュースに目を向ける。

 

 

『繰り返しお伝えします。追悼一年式典の慰霊団派遣準備のため、ユニウスセブンへ向かっていた視察船、シルバーウインドが、昨夜消息を絶ちました』

 

 

ラクスが行方不明になった事に、俺とアスランは驚きを隠せずにいる。

 

 

「ラクス…」

 

「…(ラクスが…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして予定時間となり、ヴェサリウスに到着すると、入り口前でクルーゼ隊長とザラ委員長を見つける。

 

 

「アスラン。ホシノ」

 

 

俺とアスランはクルーゼ隊長達に敬礼をしてそのままヴェサリウスに乗艦しようとするが、ザラ委員長に呼び止められる。

 

 

「ラクス嬢の事は聞いておろうな」

 

「…はい」

 

「しかし隊長…まさかヴェサリウスが?」

 

「おいおい、冷たい男だなアスラン。無論我々は、彼女の捜索に向かうのさ」

 

「…でも、まだ何かあったと決まったわけでは……民間船ですし…」

 

「公表はされてないが、既に捜索に向かった、ユン・ロー隊の偵察型ジンも戻らんのだ」

 

 

偵察型ジンが捜索から戻らない…?

まさかとは思うが…何か嫌な予感がしてくる。

 

 

「ユニウスセブンは地球の引力に引かれ、今はデブリ帯の中にある。嫌な位置なのだよ。ガモフはアルテミスで“足つき”をロストしたままだし」

 

「!!」

 

「まさか…!」

 

 

“足つき”とはキラとの戦いで見かけた新造艦の名称で、ガモフがその足つきを見失ったとなると、ユニウスセブンの近くいる可能性があるという事だ。

 

 

「アスラン、お前とラクス嬢が定められた者同士だという事はプラント中が知っておる。ホシノ、彼女の幼馴染みである君もそれは勿論知っているな」

 

「…はい」

 

「なのに、クルーゼ隊がここで休暇という訳にもゆくまい」

 

「あ…ですが…」

 

「彼女はアイドルなんだ。頼むぞ、クルーゼ、アスラン、ホシノ」

 

「「「はっ!」」」

 

 

ザラ委員長はそう言ってヴェサリウスを離れ、俺達は敬礼をしてそれを見送る。

 

 

「彼女を助けてヒーローのように戻れという事ですか?」

 

「それほど自分達を評価している、という事でしょうか?」

 

「もしくはその亡骸を号泣しながら泣いて戻れ、かな」

 

 

俺達はクルーゼ隊長の言葉を聞いて驚く。それは、ラクスが死んでいる可能性もあると言っているようなものだからだ。

 

 

「…(ラクス…)」

 

 

「…そう不安な顔をするなダン。まだそうと決まった訳ではない」

 

 

俺がラクスの安否を気にしているのを察したのか、クルーゼ隊長が俺に声をかけてくる。

 

 

「どちらにしろ、君達が行かなくては話にならないとお考えなのさ、ザラ委員長は」

 

 

そう言って、クルーゼ隊長は先にヴェサリウスに乗艦する。

俺はラクスの心配をしながらも、アスランと一緒にヴェサリウスに乗艦する。

 

それから1時間が経ち、俺達の乗るヴェサリウスはラクス探索の為出航する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェサリウスがプラントから出航してしばらく経ち、現在俺達は、ヴェサリウスのブリッジで途中入手した“ある情報”を元に会議を行っている。

 

 

「地球軍艦艇の予想航路です」

 

「ラコーニとポルトの隊の合流が、予定より遅れている。もしあれが、足つきに補給を運ぶ艦ならば、このまま見逃すわけにはいかない」

 

「仕掛けるんですか?」

 

「しかし、自分達にはラクス・クラインの探索が…」

 

「我々は軍人だ。いくらラクス嬢捜索の任務があるとはいえな」

 

 

クルーゼ隊長に異議を唱えるが、正論を言われ黙ってしまう。しかし心の中では、大事な幼馴染みであるラクスの事が心配でならなかった…。

 

 

予想航路付近に到着し、ヴェサリウスは地球軍の艦隊に徐々に近付いていく。

俺とアスランは、いつでもモビルスーツで出撃できるように発進準備をしていると味方からの通信が来る。

 

 

『やっぱり、隊長の勘は当たるな』

 

『ダン!アスラン!その機体の性能、見せてもらうぜ』

 

『ああ』

 

「そっちもしっかりな」

 

 

通信での短い会話を終え、味方の乗るジンが次々と発進し、アスランの乗るイージスも出撃する。

 

俺の乗るソウルの番が回り、カタパルトに移動の最中、俺は行方不明になっているラクスとの日常を思い出す。

 

俺が軍人になる前、ラクスと平和に過ごしていた…あの日を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はミルクティーにしましたの。いかがですか、ダン?」

 

「うん。美味しいよ」

 

「そうですか。それは良かったですわ」

 

 

いつものように、一緒にお茶を飲んだり、雑談をしたり…そんな楽しい時間を過ごしながらも、俺は“ある話”をする為にラクスに声をかける。

 

 

「ラクス」

 

「はい。何ですダン?」

 

 

いつものように優しい笑顔で返事をしてくれるラクスに、俺は決意を固めて話を切り出す。

 

 

「…実は、大事な話があるんだ」

 

「どうしましたの?急に改まって」

 

「実は俺……

ザフトに入ろうと思うんだ」

 

 

ラクスはそれを聞いた瞬間、俯いて口にしていたお茶を置く。

 

 

「…いつ、行かれますの?」

 

「…近い内に行こうと思う」

 

「…わたくしと一緒にいる事が、嫌になりましたの…?」

 

「違う…そうじゃないんだ…」

 

「なら、どうして…」

 

 

俯いていた顔を上げ、悲しい顔で言うラクスにその理由を説明する為に口を開く。

 

 

「怖いんだ…。血のバレンタインで父さん達を失ったように…突然、この幸せを失ったりするのが…。だから…」

 

 

ラクスは俺の話を黙って聞いてくれる。

 

 

「もうこの幸せを失わない為に…守る為に、俺は軍人として戦う道を選ぶ。それほど俺には、守りたいものがあるから…」

 

 

俺自身の思いをラクスに伝える為に、俺はその決意を言葉にして彼女に話す。

 

 

「…もう、決めてしまわれたのですね…」

 

「…ごめん」

 

「謝らないでください…そういう意味で言った訳ではありませんわ」

 

 

沈黙が流れ、しばらくしてラクスが口を開く。

 

 

「…軍に入ると…しばらくは、会えなくなってしまいますわね…」

 

「…そうだね」

 

「…時々、手紙をくださいね…?」

 

「うん。きっと送るよ。きっとね…」

 

「…無理も、しないでくださいね…」

 

 

心配そうに、寂しそうな顔で俺の手に自身の手を重ねるラクス。

 

 

「…うん。気を付けるよ」

 

「約束ですよ、ダン…」

 

 

俺の返事にラクスは安心したように笑顔を見せてくれる。

俺はその笑顔を見て、ラクスを守る決意を更に固める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ラクス…もう少しだけ待ってて…)」

 

 

俺は懐かしい過去振り返りながら、早くラクスの探索に戻る為、早期決着を決意し戦いに集中する。

 

 

「ダン・ホシノ!行きます!」

 

 

ソウルで出撃し、戦闘宙域に到着した俺は、敵艦隊から出て来るメビウスをビームライフルで撃墜しながら、敵艦を墜としていく。

 

イージスとジンの方も順調にメビウスを撃墜しているようだ。

 

メビウスの相手をジンに任せ、イージスと一緒に敵戦艦を撃墜していく。

 

 

 

 

そこへ、ガモフが見失っていた足つきが現れる。

 

ヴェサリウスにいるクルーゼ隊長からの指示で、足つき撃沈の為に周りの敵部隊の急遽撃破の指令が来る。

 

アスランはイージスをモビルアーマーに変形させ、スキュラで敵艦を一撃で沈め、俺はビームライフルで敵艦のブリッジを撃ち抜いて沈める。その直後、コックピットのモニターにストライクの映像が映る。

 

 

「(まさかと思ったが…やっぱり来たんだな、キラ…)」

 

 

キラのストライクがアスランのイージスに接近し、そのまま戦闘を始めてしまう。

 

 

「ちっ!(始まってしまったか…)」

 

 

俺は早期決着をつける為、ソウルの機動性を生かし仕掛けてくるメビウスと敵艦を次々と撃墜しながら足つきを目指す。

 

その途中、以前の戦闘でキラの確保を妨害した足つきのモビルアーマー2機がまた現れ、攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「あれは、あの時の…」

 

 

オレンジのモビルアーマーの方は近くのジンに任せ、俺は再び青いモビルアーマーを相手に戦闘を始める。この前の戦闘で攻撃パターンは分かっている。

 

 

「…そこっ!」

 

 

ソウルのビームライフルによる攻撃が青のモビルアーマーの装甲に命中するが、確実に仕留める事は出来なかった。

ソウルの攻撃で被弾した青いモビルアーマーは足つきの方へ引き上げて行き、オレンジのモビルアーマーもジンの攻撃で被弾して撤退したようだ。

 

ヴェサリウスも援護射撃を行い、敵を徐々に追い詰めこっちが優勢になっていく。

 

そして、ヴェサリウスの放ったビームが最後の一隻を貫いて撃墜する。俺はそれを好機と見て、ストライクの相手をイージスに任せ、ソウルの機動力を生かして足つきに近付く。

 

しかし、あの時のキラの言葉もあり、船を仕留める前に、足つきのブリッジまで近付き、ビームライフルを突き付け降伏勧告を進めるという考えだ。

甘い考えかもしれない。しかし、上手くいけばキラとの戦いを避けられるかもしれない。

 

 

 

 

《ザフト軍に告ぐ!こちらは地球連合軍所属艦、アークエンジェル!》

 

 

突然、コックピットに女の声が流れる。おそらく目の前の足つきからの全周波放送だろう。

 

 

「(アークエンジェル…。足つきの名前か…)」

 

 

俺は足つきに近付くのを止め、ビームライフルを構えて警戒していると、俺にとって衝撃が走る言葉を足つきから聞かされる。

 

 

《当艦は現在、プラント最高評議会議長、シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クラインを保護している》

 

『何っ!?』

 

「っ!?(今…何て言った…。ラクスが…あの船にいる…。俺の目の前の…あの船に…ラクスが…)」

 

 

俺達が驚いている中、足つきは更に話を続ける。

 

 

《偶発的に救命ポッドを発見し、人道的立場から保護したものであるが、以降、当艦へ攻撃が加えられた場合、それは貴官のラクス・クライン嬢に対する責任放棄と判断し、当方は自由意志でこの件を処理するつもりであることを、お伝えする!》

 

『卑怯なっ!』

 

「っ…」

 

 

キラと交戦中だったアスランは足つきの手段に激昂しているが、俺は足つきにラクスが乗っている事実に愕然としていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

分かたれた道

足つきからラクスを保護している事を全周波放送で聞き、唖然としていると、ヴェサリウスから攻撃中止の入電が来る。

 

その入電を受けて次々と撤退する味方のジンを見て、我に返った俺が周囲を見渡すと、残っているモビルスーツは、ストライク、イージス、そしてソウルの3機だけとなっている。

 

 

『救助した民間人を人質に取る……そんな卑怯者と共に戦うのが、お前の正義かっ!?キラ!』

 

『…アスラン…』

 

 

コーディネイターなら、一般人でも人質として利用するナチュラルのやり方に、アスランは激昂しながらキラを問い詰める。アスランの言葉に対して戸惑っているのか、キラは何も言えずに口ごもってしまう。

 

 

「…アスラン。ここは引こう。攻撃中止の命令が出た以上、今の俺達には何もできない」

 

『くっ…!…わかった…』

 

 

足つきに動きに警戒しながらも、イージスの側まで近付いて呼び掛けると、アスランはためらいながらも了承する。

 

 

『…彼女は助け出す!必ずなっ!』

 

 

アスランはキラに対して、少し敵意を出すような言葉を発し、イージスはヴェサリウスに撤退していく。

 

 

「…キラ」

 

 

イージスの撤退を確認した俺も、ヴェサリウスに引き上げる前に近くにいるキラに声をかける。

 

 

「確かにラクスはコーディネイター…。立場的には地球軍の……ナチュラルの敵だ。だが、彼女はコーディネイターにも、ナチュラルにも…誰に対しても普通に接する心優しい女性だ」

 

 

そう。

ラクスの優しさは…幼い頃から一緒にいた、俺が一番よく知っている。彼女の優しさのおかげで、俺は両親の死から立ち直り、前に進む事ができたんだ。

だから出来る事なら、今すぐにでもラクスを助け出したい…。

 

 

「もしその彼女を傷付けるような事を足つきにいる奴等にさせてみろ。その時は、その船にお前の守りたい友人が乗っていようと……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのふざけた真似をしたナチュラル共が乗っているその船を必ず沈める…」

 

『っ!!…ダン…』

 

 

俺はラクスを助ける事ができない悔しさと、彼女を人質にするナチュラルに対する怒りを込めてキラに伝え、ヴェサリウスへ撤退する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそぉっ…!」

 

 

俺とアスランはヴェサリウスに帰還するが、アスランまだは足つきの手段に対しての怒りを抱いていおり、その怒りを拳に込めて壁を殴る。

 

 

「ラクスは民間人だぞ…!そんな彼女を人質に取るなんて…!」

 

「…」

 

 

そんなアスランの隣で、俺は腕を組ながら目を閉じ、幼年学校時代に俺とアスランにトリィをプレゼントされて喜ぶキラを思い出している。

 

 

「(…キラ。何でお前はそんな奴等のところにいるんだ…?お前も俺達と同じコーディネイターで、幼年学校からの親友だろう…)」

 

 

いくら友人があの船に乗っているとはいえ、何故同じコーディネイターのキラが、そこまで俺とアスランに敵対しようとするのか…。

何故優しいラクスが人質として利用されなければならないのか…。

 

疑問と悔しさに苦悩されるが、今の俺達にはどうする事もできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘中止からしばらく経ち、現在俺達の乗っているヴェサリウスは足つきを尾行する形で動き、ブリッジで状況確認を行っている。

 

 

「このまま付いていったとて、ラクス様が向こうに居られれば、どうにもなりますまい」

 

「連中も月艦隊との合流を目指すだろうしな」

 

「しかし…みすみすこのまま、ラクス様を艦隊には…」

 

「ガモフの位置は?どのくらいでこちらに合流できる?」

 

「現在、6マーク、5909イプション、0,3です。…合流には、7時間はかかるかと」

 

「それでは手を打つ前に合流されてしまうか……難しいな…」

 

 

クルーゼ隊長とアデス艦長の会話を聞いての通り、今は何もできない状況に立たされており、俺達にできる事は、ただガモフとの合流が早まる奇跡が起きるのを祈る事しかできない。

それと同時に、俺は軍人になったにも関わらず、ラクスを救えなかった自分の無力さに腹を立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルーゼ隊長からの指示で、俺とアスランは万一の場合に備え、待合室でいつでも出撃出来るように待機している。その待機中の間、俺はラクスを足つきから救い出す作戦を考えている。

 

 

「…ダン…」

 

 

心配してくれているのか、アスランが俺の名前を呼んでいるが、どうやってラクスをあの船から助けるか、それを考えている俺には、アスランの声を聞く余裕すらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『足つきからのモビルスーツの発進を確認!』

 

 

待合室で待機してから少し時間が経ち、突然艦内に警報アラームと共にモビルスーツ接近の知らせがやって来る。

 

 

『第一戦闘配備発令!モビルスーツ搭乗員は、直ちに発進準備!繰り返す!モビルスーツ搭乗員は…』

 

 

俺とアスランは、ソウルとイージスを起動させ、いつでも出撃できるように準備を終え、待機していると…

 

 

 

 

『こちら地球連合軍、アークエンジェル所属のモビルスーツ、ストライク!』

 

 

ヴェサリウス艦内にキラの通信が流れて来る。

 

 

『ラクス・クラインを同行、引き渡す!ただし!ナスカ級は艦を停止!イージスかソウルのパイロットどちらかが、単独で来ることが条件だ。この条件が破られた場合、彼女の命は…保証しない…』

 

「何…?」

 

『キラ…?』

 

 

俺とアスランは、キラがラクスを足つきから連れ出した事に驚愕するが、俺はすぐにクルーゼ隊長がいるブリッジに通信を繋げる。

 

 

「隊長…自分に行かせて下さい」

 

『ダン?』

 

『敵の真意がまだ分からん!本当にラクス様が乗っているかどうかも…』

 

 

確かにアデス艦長の言う通り、普通なら罠の可能性が高い。

だが、キラは友達思いで優しいだけでなく、俺と同じように自分の決めた事を最後までやり通す奴だ。

 

親友として、俺はそんなキラに懸けてみようと思っている。

 

 

「敵の罠の場合は控えているアスランに出撃を求め、自分がストライクを討ちます。隊長!お願いします…」

 

 

俺が熱意を込めて出撃の許可を求めると、クルーゼ隊長は少しの間考えている。

 

 

『…分かった。許可する』

 

「ありがとうございます」

 

 

俺は許可をくれたクルーゼ隊長に礼を言い、ブリッジとの通信を切る。

 

 

『ダン。ラクスを頼む』

 

「…分かった。もしもの時は、援護を頼むぞ」

 

『ああ』

 

 

カタパルトに移動中、アスランからラクスの事を任された俺は、アスランに援護を頼んで通信を切り、ソウルと一緒にストライクとの合流位置に向けて出撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソウルを出撃させてしばらくして、ようやくストライクの姿が見え、ソウルをストライクに近付ける。

ストライクはソウルにビームライフルを向けてくるが、キラの性格を知っている為、ソウルの武装を取らずにストライクと対峙する。

少しの沈黙が流れ、キラの方から通信で話しかけてくる。

 

 

『ダン・ホシノか…?』

 

「…そうだ」

 

『コックピットを開け!』

 

 

キラの言う通りにソウルのコックピットを開けると、ストライクのコックピットも開かれ、そこにはパイロットスーツを着たキラと宇宙服を着た人物の姿が見える。

 

 

『話して』

 

『え?』

 

『顔が見えないでしょ?本当に貴女だってこと、分からせないと』

 

『あ~、そういうことですの』

 

 

キラと話しているもう1人の声を聞いて一瞬驚くが、それと同時に安心を覚える。

 

 

『お久しぶりですわ、ダン。お元気そうで何よりですわ』

 

 

その人物は俺に向かって手を振って優しい声で語りかけてくれる。

聞き間違えるはずがない。

何故ならその声は、俺が大切に思っている幼馴染みの声だからだ。

 

 

『ウォン!ウォン!』

 

『テヤンデイ!』

 

 

ラクスの他にも、子犬の形をしたロボットとピンクのソフトボールの形をしたロボットが、彼女に抱きかかえられているのが見える。

 

子犬型ロボットの名前はドルフ。

俺が作ってラクスにプレゼントしたペット型ロボットだ。小回りも利き、声も出せる為、普通の子犬と同じように動く事が出来る。しかし、耳が立っている為、正確には子犬ではなく子狼型ロボットである。

 

ソフトボール型のロボットの名前はハロ。

機械工作を趣味に持つアスランが作ったロボットで、ドルフと同じように声を出せる他、たまに人間的な感情も見せる。アスランがラクスの誕生日にプレゼントしたものだ。

 

 

「確認した。確かに本物だ」

 

『なら、彼女を連れて行け!』

 

 

キラに背中を押さしてもらい、こっちに向かってくるラクスを俺はコックピットから少し出て、手を差し伸べて受け止める。

 

 

『色々とありがとう。キラ。ダンも、来てくれてありがとう』

 

「無事で良かったよ」

 

 

ラクスの無事を安心し、心から喜んでいるのが分かったのか、彼女は優しく笑顔を見せてくれる。

俺はキラの方へ顔を向けると、幼年学校時代に見せていた優しい笑顔で俺とラクスを見ている。

 

 

「…キラ!お前もこっちに来い!」

 

『…!!』

 

「アスランもお前の事を心配してる!親友同士の俺達が戦う理由なんかない!そうだろ!?」

 

『ダン…』

 

 

俺はラクスを無傷で連れて来てくれたキラの誠意に答えるために、嘘偽りなく、友としての本当の思いを込めて説得する。

 

 

「僕だって…君達とは戦いたくない…。でも…あの船には守りたい人達が……友達が居るんだ!」

 

 

辛そうに、しかし決意を込めたような眼をしたキラに、再び説得を断られる。

しばらく離れている間に、それほど大事な友人ができたんだな。

 

 

「…わかった…。なら、次に会う時は、俺達は敵同士だ!戦う時は、どちらかがどちらかを討つ…それを忘れるな!」

 

「……わかったよ…」

 

 

短かったが、親友同士の会話を終えて、互いにコックピットを閉じて距離を離す。

 

 

 

 

ストライクから大分離れたのを確認した俺は、ラクスを連れてヴェサリウスに引き上げようとすると、ヴェサリウスの方から何かが出てくるのが見えた為確認してみると、1機のシグーがこっち向かって来ている。

 

 

「…シグー!?まさかクルーゼ隊長!」

 

『ダン!君はラクス嬢を連れて帰投しろ!』

 

 

そう言ってクルーゼ隊長のシグーはソウルを通り越し、ストライクの方へ向かっていく。どうやらストライクを討つつもりらしい。

同じタイミングで足つきの方からもオレンジのモビルアーマーが現れ、戦闘が始まろうとしている。

 

 

「…ラクス」

 

「ダン?」

 

 

俺の声にラクスがこっちに顔を向ける。

俺の真剣な顔を見て、察したようにラクスが頷くのを確認した俺は、クルーゼ隊長のシグーに通信を繋げる。

 

 

「ラウ・ル・クウーゼ隊長!止めて下さい。追悼慰霊団代表の私の居る場所を戦場にするおつもりですか?そんなことは許しません!すぐに戦闘行動を中止して下さい!」

 

『…』

 

「聞こえませんか?」

 

『…了解しました!ラクス・クライン』

 

 

クルーゼ隊長はラクスの言葉に不服そうな表情を浮かべながらも了承してくれたみたいだ。

 

 

「ありがとう、ダン」

 

 

ラクスは俺に優しく微笑んで礼を言う。どうやら、いざという時は自分が通信を繋いで止めるつもりだったらしい。

それに俺としても、ラクスを連れて来てくれたキラを助けたかったからだ。

 

俺はラクスに笑顔を見せる事で答え、クルーゼ隊長のシグーと一緒にラクスを連れて、アスランが待っているヴェサリウスへ帰還した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一時の安らぎ

「アスラン。お前もたまにはラクスの様子を見に行ってやったらどうだ」

 

「いや、しかしな…」

 

 

ラクスを無事にヴェサリウスに連れ帰った俺は、アスランと一緒に艦内の見回りで、艦内通路を渡りながら会話をしている。

 

 

『ハロ、ハロ、アスラーン、ダーン』

 

 

その途中、向こうからハロが凄い勢いで壁をバウンドさせながらアスランに突っ込んでくるが、アスランはそんなハロを受け止める。

 

 

『ウォン、ウォン』

 

 

ハロに続いてドルフも向こうから現れ、俺の近くまで来たドルフを抱き上げると、甘えるように前足をブンブン動かしている。

 

 

「ドルフ。ハロ。って事は…」

 

 

案の定、向こうからラクスがやって来る。

おそらく退屈という理由で部屋から出て来たんだろう。

 

 

「ハロもドルフもはしゃいでいますわ。久しぶりにあなた方に会えて嬉しいみたい」

 

「ドルフはペット型ロボットだからね」

 

『クゥン、クゥン』

 

「うふふ」

 

 

俺は抱えているドルフをラクスに手渡すと、彼女は笑顔で甘えるドルフを愛でる。

 

 

「しかし、ハロはドルフと違い、感情のようなものはありませんよ。貴女は客人ですが、ヴェサリウスは戦艦です。あまり、部屋の外をウロウロなさらないで下さい」

 

 

アスランはラクスを部屋まで連れて行き、俺もそれに着いていく。

 

 

「どこに行ってもそう言われるので、詰まりませんの」

 

「仕方ありません。そういう立場なんですから」

 

「でも大丈夫。時間が空いたら、またここに来るから」

 

「ダン」

 

「仕方ないだろ。ラクスは軍人じゃないんだ。じっとしてろと言われても無理な話だ」

 

「確かに彼女は民間人だが…」

 

「なら別にいいだろ」

 

「そういう問題じゃなくてな…」

 

「うふふ」

 

 

俺達の会話を見ていたラクスはクスクスと笑っている。

 

 

「どうしたの?ラクス」

 

「いえ。お2人共、本当に仲がよろしいですわね」

 

「あ、いえ…」

 

「幼年学校時代からの仲だからね。それより…君の方は?疲れたりしてない?」

 

 

俺の質問にラクスは一瞬だけきょとんとするが、すぐに笑顔を見せてくれる。その笑顔には嘘偽りもなく、本当に疲れておらず、むしろ楽しかったと思わせる感じだ。

 

 

「私は元気ですわ。あちらの船でも、お2人のお友達が良くしてくださいましたし」

 

「…そうか」

 

「キラ様はとても優しい方ですのね。そして、とても強い方」

 

「…あいつはバカです!軍人じゃないって言ってたくせに…まだあんなものに…。あいつは利用されてるだけなんだ!友達とかなんとか…あいつの両親は、ナチュラルだから…だから…」

 

 

ラクスからキラの話を聞いたアスランは感情任せに、あいつが足つきにいる事に対して不満を打ち明けていく。

そんなアスランの頬をラクスは優しく触れようとするが、顔を背けられ、少し距離を取られる。

 

 

「…あなた方と戦いたくないと、仰っていましたわ」

 

「僕達だってそうです!誰があいつと…」

 

「…」

 

 

俺達は何度も対峙し、何度も敵対し、何度も戦った。

だが、それは俺達が望んだ事ではなく、偶然にそうなってしまったんだ。

まるで…運命のいたずらのように…。

 

 

「…失礼しました。では、私はこれで」

 

 

ようやく落ち着いたのか、アスランはラクスに挨拶をして部屋から出ていく。

 

 

「辛そうなお顔ばかりですのね。この頃のアスランは…」

 

「ニコニコ笑って戦争は出来ませんよ…。先に行ってるぞ、ダン」

 

 

アスランが部屋を出た後、ラクスの表情は、少し落ち込んでいる。それもそうだ。将来、一緒になる旦那があんな感じでは流石に不安だろう。

 

俺はそんなラクスの頭に手を置き、優しく撫でる。

 

 

「ダン…」

 

「大丈夫。口ではああ言ってるけど、キラの事を心配して悩んでるんだ」

 

「…」

 

「それに、もしあいつが1人で抱え込むような事があったら、俺が親友としてあいつを支えるよ。だから心配ないよ」

 

「…ありがとう、ダン」

 

 

頭を優しく撫でられて安心したのか、ラクスの顔に笑顔が戻る。

 

 

「じゃあ、俺も仕事に戻るよ。終わったらまた来るよ」

 

「はい。いつでもお待ちしておりますわ」

 

「ドルフ。ハロ。しばらくの間、ラクスを頼むぞ」

 

 

『ウォン、ウォン』

 

『テヤンデー、テヤンデー』

 

 

ドルフとハロの返事を確認した俺は部屋を出た後、ラクスに向けて笑顔を見せる。ラクスもそれに気付き、優しい笑みを見せて答えてくれる。ラクスが元気を取り戻したのを確認した俺は、彼女の部屋を後し、軍の仕事に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある程度、軍の仕事を片付けた俺は、アスランを誘ってラクスがいる部屋に向かおうとするが、アスランは余り乗り気はなく自分の部屋に戻ってしまった為、俺だけ彼女のところに行く事になった。

 

 

「ラクス。俺だよ」

 

 

すると部屋の向こうから足音が近付き、ドアが開かれ、嬉しそうな表情のラクスが出てくる。

 

 

「ダン。お待ちしておりましたわ」

 

「約束通り来たよ」

 

『ウォン、ウォン』

 

『ハロ、ハロ、ダーン』

 

 

部屋に入るとラクスの後ろからドルフとハロがやって来る。

ハロは俺の頭の上に乗り、ドルフは俺の足元まで来て尻尾をブンブン振ってこっちを見上げている。

 

 

「ごめんラクス。アスランも誘ったんだけど、やる事があるからって先に戻ってしまったんだ」

 

 

ドルフの頭を撫でながら、アスランを連れて来れなかった事をラクスに詫びる。

 

 

「まあ、それは残念ですわ…。でも、ダンはこの後お暇なのでしょう?」 

 

 

そう言って、何故かさっきより嬉しそうに微笑むラクスが俺の腕に抱き付いてくる。

 

 

「そうだね。でも、いつ呼び出しが来るか分からないけどね」

 

「では、それまで一緒にいられますわね♪」

 

「うむ…」

 

「…駄目ですの…?」

 

 

俺が少し考えていると、ラクスが目を潤ませながら、こっちを見ている。俺と一緒にいたい時には必ず見せる顔だ。分かってはいるが、こういう時のラクスには弱い。

 

 

「…分かった。一緒にいようか」

 

「はい♪ではこちらへ♪」

 

 

上機嫌になったラクスは俺の腕を引き、俺はそんな彼女と一緒に部屋の奥へ進む。

ハロはいつの間にか、俺の頭の上から降りて、床でコロコロ転がっており、ドルフはそんなハロと一緒に遊んでいる。

俺はラクスと一緒にドルフ達が遊んでいる様子を見たり、彼女から足つきから脱出する時、キラ以外にも彼女を逃がす時に協力してくれた者達がいた事を聞く。

俺はラクスの話を聞きながら、心の中でキラとその協力者達に感謝し、幼馴染みの時間を過ごしながら、迎えの船を待つ事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクスとの時間を過ごしてからしばらく経ち、彼女をプラントへ送り届けるローラシア級艦が到着する。

 

 

「残念ですわね。せっかくお会いできたのに…もうお別れなんて…」

 

「そうだね。でも仕方ないよ」

 

「プラントでは、皆心配しています」

 

 

俺とアスランはラクスの手を引き、ヴェサリウス内に用意された内火艇まで誘導する。内火艇の入り口前には、すでにクルーゼ隊長と数人の護衛が待機している。

 

 

「クルーゼ隊長にも、色々お世話をかけました」

 

「御身柄は、ラコーニが責任を持ってお送りするとの事です」

 

「ヴェサリウスは、追悼式典には戻られますの?」

 

「さぁ…それは分かりませんが…」

 

「戦果も重要なことでしょうが、犠牲になる者のこともどうか、お忘れ無きよう」

 

「…肝に銘じましょう」

 

「何と戦わねばならないのか…戦争は難しいですわね…」

 

 

アスランは戦争の真意を問うようなラクスの言葉に辛そうな表情をしている。

 

 

「…そうですね。戦争のない世界になるよう、自分なりに努力しようと思います」

 

 

公式の場である為、敬語でラクスに自分の意思を込めて返事をすると、彼女も俺の返事に納得したように笑顔を見せて答えてくれる。

 

 

「では、またお逢いできる時を、楽しみにしておりますわ」

 

 

ラクスは俺達に挨拶をして数人の護衛と一緒に内火艇に乗り、ヴェサリウスの隣に停まっているローラシア級艦でプラントに向けて出発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何と戦わねば、か…。」

 

 

クルーゼ隊長、アスラン、俺の三人がラクスを乗せたローラシア級艦を艦内通路から見届けていると、クルーゼ隊長が話を切り出してくる。

 

 

「イザークのことは聞いたかな?」

 

「あ、はい…」

 

「確か、ストライクとの戦闘で、顔に傷を受けたとか…」

 

 

俺とアスランがラクスの護衛をしている間、ニコル達が乗っているガモフは、地球軍の第8艦隊と合流を試みる足つきに襲撃を仕掛け、後一歩のところまで追い詰めるが、キラが乗るストライクの奮闘によってイザークは顔を負傷し、第8艦隊と合流されてしまったらしい。

 

 

「そうだ。ストライク…討たねば次に討たれるのは君達かもしれんぞ?」

 

 

クルーゼ隊長は意味ありげな言葉を残し、艦内通路を後にして立ち去る。

 

その後、俺達の乗るヴェサリウスは足つきを討つ為、ガモフとの合流を急ぐのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

宇宙に降る星

《モビルスーツ、発進は3分後!各機、システムチェック!》

 

 

プラントへ戻るラクスと別れ、ニコル達が乗るガモフと合流した俺とアスランは、第8艦隊との接触まで後少しの距離まで近付いている為、パイロットスーツに着替え、それぞれの機体の出撃準備を整えて待機している。

次々とカタパルトに誘導され、発進していくジンに続き、イージスも出撃し、ソウルの番が来る。

 

 

「ダン・ホシノ、行きます!」

 

 

ソウルを出撃させ、イージスとガモフから出撃したブリッツ、バスター、デュエルと合流した後、足つきと第8艦隊がいる戦闘宙域に到着する。

 

敵戦艦から出てくるメビウスの部隊をソウルのビームライフルで撃破し、メビウスを発進させる前に敵戦艦を撃墜していく。

 

イージス、ブリッツ、バスター、デュエルもメビウスと敵戦艦を撃墜していくが、敵の抵抗も激しい為、数機のジンが撃墜されていく。

 

 

「そこだっ!」

 

 

戦局を変える為、ソウルの機動力を生かし、敵戦艦に接近し、ブリッジをビームライフルで撃ち抜いたり、敵艦の武装、メインエンジンを破壊したりと撃墜していく。

 

 

『くっ!』

 

 

イージスはモビルアーマーに変形し、スキュラで敵戦艦を一撃で撃ち抜き…

 

 

『まだ来る…!』

 

 

ブリッツは左腕に装備された有線式ロケットアンカー・グレイプニールを使って敵戦艦のブリッジを破壊し…

 

 

『グレイトッ!数だけは多いぜ!』

 

 

バスターは超高インパルス長射程狙撃ライフルで敵戦艦を正確に狙撃し…

 

 

『出てこいストライク…!でないと…でないと傷が疼くだろうがぁぁ!!!』

 

 

よく見ると、デュエルの姿がいつもと違い、新たに特殊装備が加えられている。

ストライクへの怒りで感情的になりながも、デュエルはビームライフルと特殊装備の連続射撃で敵戦艦の武装を破壊しながらと…

 

それぞれの機体の特徴を生かしながら、次々とメビウスと敵戦艦を撃墜していく。

 

ヴェサリウスからの援護射撃もあり、戦局はこっちが有利となっている。

 

 

 

 

「何…!?」

 

『アークエンジェルが!?』

 

『降りる!?』

 

 

足つきが第8艦隊から離れるように地球へ降下し始める。

 

 

『くっ!』

 

『させるかよっ!』

 

 

そうはさせまいとソウル、イージス、ブリッツ、バスター、デュエルは更に足つきへの接近を試みる。

しかし、それを阻止するように敵艦隊の抵抗が更に激しさを増す。

 

 

『くっそー!』

 

『ええい、諦めの悪い!』

 

 

デュエルとバスターは敵戦艦を撃墜しながら、降下する足つきに近付いていく。ソウル、イージス、ブリッツも足つきに近付く為、近くの敵戦艦に応戦して沈めていく。

 

 

「(あれは…)」

 

 

足つきの方を見ると、ハッチが開かれており、そこからストライク、オレンジのモビルアーマー、青のモビルアーマーの3機が出撃している。

 

 

『ようやくお出ましか、ストライク!この傷の礼だ!受け取れぇぇ!!』

 

 

デュエルはすぐにストライクに攻撃を仕掛け、バスターはオレンジと青のモビルアーマー2機と戦闘を始める。

 

 

 

 

ストライクとデュエル、バスターと2機のモビルアーマーが激戦を繰り広げている中、ガモフが突然、第8艦隊の旗艦であるメネラオスに向けて突撃を開始する。2機のモビルアーマーの攻撃を受けても特攻を止めず、近くの敵艦を沈めながらメネラオスを目指している。

 

 

『アスラン!ダン!ガモフが!!』

 

『「…!」』

 

 

俺はソウルのスラスターの出力を上げ、モビルアーマーに変形したイージスと一緒にガモフの援護に向かおうとするが、ヴェサリウスから後退の指示を受ける。

 

徐々に地球に降下していく足つきを見て頃合いと見たのか、2機のモビルアーマーも撤退していく。

デュエルとバスターは深追いをし過ぎた為、そのまま大気圏に突入してしまい、戻れなくなってしまう。

 

ガモフは、メネラオスのすぐ側まで来ており、相撃ち状態となり………

 

 

 

 

『ゼルマン艦長!』

 

 

特攻を仕掛けたガモフは、メネラオスの迎撃を受け、遂に撃沈されてしまう。しかし、メネラオスもガモフの攻撃を受けていた為、大気圏に耐えきれず爆散する。

足つきは大気圏に突入し、本格的に地球へと降下していく。

 

ストライクとデュエルは、大気圏に突入しても戦闘を続けている。

 

 

『イザーク!ディアッカ!』

 

 

徐々に遠ざかっていくデュエルとバスター、そしてストライクと足つき。

 

その最中、デュエルが何かを撃ち墜とし、それに近付いていたストライクが爆風に巻き込まれ、地球に落ちて行く。

 

 

『キラーー!!』

 

「…!」

 

 

その光景を見て、アスランはキラの名前を叫び、俺は歯を食い縛りながら、地球に落ちていくキラの無事を願い、見ている事しか出来なかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

おだやかな日に

キラ、脚付き、イザーク、ディアッカが地球に降下してからしばらく経ち、俺とアスランはヴェサリウスの待合室で整備と補給を受けているソウル、イージス、ブリッツの3機の様子を見ている。

 

 

「…ダン」

 

 

整備中のソウルの様子を見ている俺にアスランが話しかけてくる。

 

 

「何だ?」

 

「あいつは…キラは無事に地球に降りられたんだろうか…」

 

 

おそらく、第8艦隊との戦闘でキラが爆風で吹き飛ばされ、地球に落ちていった事が気になっているんだろう。

アスランの気持ちはよく分かる。俺も同じだからな。

 

 

「分からない。今は祈るしかないな」

 

「だが、無事だったとしても…その時は、また戦う事になるんだろうな…」

 

 

もしキラが無事なら、おそらく脚付きも無事だろう。その時は、あの艦を討つまでまた追撃を続ける事になるだろう。

そして、またあいつと戦う事も…。

アスランはそれを気にしているんだろう。

 

 

「…アスラン」

 

 

俺はそんなアスランに対し、静かに口を開く。

 

 

「今は敵としてではなく、友として、あいつの無事を信じてやったらどうだ?」

 

「…ダン…」

 

 

俺の言葉を聞いて落ち着きを取り戻したのか、不安そうな表情も少し柔らかくなっている。

 

 

 

 

「二人共、ここに居たんですか」

 

 

俺達がキラの話をしている最中、待合室のドアが開き、ニコルが入って来る。

 

 

「…ニコルか」

 

「イザーク達、無事に地球に降りたようです。さっき連絡が来ました」

 

「そうか…」

 

「あの大気圏を突破して、よく無事だったな」

 

「そうでもないですよ。二人共地球に着いた時は、かなりフラフラだったと言っていましたから。しばらくは、ジブラルタル基地に留まることになるようです」

 

「…そうか」

 

「…」

 

 

アスランは無言で下を向いている。まだキラの事を考えているんだろう。

 

 

「…アスラン?」

 

「え?あ、ああ…」

 

 

ニコルに声をかけられ、我に返ったアスランは少し慌てながらも俺達の方を向く。

 

 

「また一人で考え事か?余り一人で悩むな」

 

「ああ…。すまん」

 

「…ところで、出撃していたイザークは大丈夫だったのか?」

 

「ああ、それは…」

 

 

ニコルの話によると、どうやら傷が完治する前の状態で出撃したらしい。全く無茶をする奴だ。

 

 

「…でも心配ないですよ。あの時もあれだけの戦闘をやってのけたんですから」

 

「…そうだな」

 

「まあ、あいつはプライドが高すぎる事もあるが、粘り強いところもあるからな」

 

 

イザークの話をしていると、ニコルは整備中のソウル、イージス、ブリッツの方を見る。

 

 

「…でも、大丈夫なんでしょうか?」

 

「何がだ?」

 

「結局僕らはあの最後の1機、ストライクと新造戦艦の、奪取にも破壊にも失敗しました。この事で隊長は、また帰投命令でしょう」

 

「クルーゼ隊長でも落とせなかった艦だ。委員会でも、そう見ているさ」

 

 

第8艦隊を壊滅させたのは良いが、肝心の脚付きを墜とせなかった事で、クルーゼ隊長は委員会から呼び出しを受けたらしい。

 

 

「クルーゼ隊長の事だ。ただで帰投する程、何も考えずに行動するような人じゃないさ」

 

「そうですよね。ダンの言う通りかもしれません。僕、ちょっとブリッツを見てきます」

 

「ああ。後でな」

 

 

ニコルは待合室を出て、ブリッツがあるモビルスーツデッキに向かう。

 

 

「…アスラン」

 

 

ニコルが去ったのを確認した俺は真剣な顔でアスランに声をかける。

 

 

「…ダン…」

 

「さっきも言ったが、余り一人で背負うな。キラの事は、俺も一緒に考える」

 

「ああ。いつも心配かけてすまんな、ダン」

 

 

若干無理をして笑顔を見せているが、考え事をしていた時よりはマシになったのは見て分かる。俺はそんなアスランの肩に手を置いて笑みを見せて答える。

 

その後は俺の予想通り、帰投命令を受けたヴェサリウスは、再びプラントに戻る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくしてプラントに戻り、ヴェサリウスから降りた後、本部から休暇を貰った俺は、クルーゼ隊長と家族の所に帰るニコルと別れ、アスランと一緒に“ある場所”に向っている。

 

その“ある場所”とは勿論、クライン邸である。

ラクスが自宅にいると聞き、久しぶりに三人でゆっくり話をしようと思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダン、着いたぞ」

 

 

アスランの運転で車を走らせ、ようやくクライン邸に辿り着いた俺とアスランは、邸宅の手前にある門に設置されているカメラ付きのインターホンに自分達の身分証を見せる。

 

 

「クルーゼ隊所属、ダン・ホシノ」

 

「同じくアスラン・ザラ。ラクス嬢と、面会の約束で来ました」

 

《確認しました。どうぞ》

 

 

俺達の身分証が認証され、門が開いたのを確認した俺達は、車を進めて門を通り抜ける。

 

 

 

 

車を降り、インターホンを鳴らすと扉が開かれ、一人の執事が俺達を招く。

 

 

「お帰りなさいませ、ダン様」

 

 

執事が俺に一礼をする。その執事は、俺がシーゲルさんに預けられた時からよく世話をしてくれている人だ。

 

 

「ただいま執事さん」

 

 

俺は執事さんに久しぶりに挨拶をしていると…

 

 

 

 

「お帰りなさい、ダン。アスランも、よくいらっしゃいましたわね」

 

 

上の方から覚えのある声が聞こえてくる。

 

 

「ただいま、ラクス。久しぶりだね」

 

「はい。本当にお久しぶりですわ。お元気そうで安心しましたわ。」

 

 

階段で二階から降りて来るラクスに声をかけると、彼女は笑顔で返事をしてくれる。

 

 

「すみません。少し、遅れました」

 

「あら、そうですか」

 

『ウォン、ウォン』

 

『ダーン。アスラーン。ハロゲンキ!』

 

 

ドルフもハロも元気そうで何よりだ。

 

 

「そうだ。ラクスに渡す物があるんだ」

 

「ラクス。これを」

 

 

俺とアスランは、クライン邸に来る前に用意しておいた綺麗な花束をラクスにプレゼントする。

 

 

「まあ!ありがとうございます。ダン。アスラン」

 

 

受け取ったラクスは、とても喜んでくれている。彼女の喜ぶ顔を見ると、俺達も用意した甲斐があった。

 

しかし、一つ気になる事がある。

 

 

 

 

「ところで…この大量のハロは何?」

 

「はい。毎年私の誕生日にアスランがプレゼントしてくれるおかげで、こんなに集まって賑やかになりましたの♪」

 

 

ラクスから理由を聞いた俺は、大量のハロ達に囲まれながら呆れながらため息をつく。

 

 

「…アスラン」

 

「…すまん。まさか、そんなにプレゼントしていたとは気付かなくて…」

 

 

アスランは冷や汗をかきながら俺に謝っている。

まさか自分が気付かない程にハロをプレゼントしているとはな…。

俺達のやり取りを見て面白かったのか、ラクスの方を見るとクスクスと笑っている。

 

 

「さぁ、お二人共どうぞ」

 

「ごゆっくり」

 

 

ラクスに招かれて一緒に庭に向かう俺とアスランを執事さんは一礼をして見送る。

ドルフとハロ達も俺達に続くようについて来る。

 

 

「でも、いいのかい?」

 

「何がですか?」

 

「せっかくの婚約者同士の水入らずに、俺がいると邪魔になるんじゃないかな?」

 

 

俺は挨拶だけを済ませたら、二人がゆっくり話ができるように、久しぶりに自分の部屋でゆっくりしようと思っていた。

ラクスはさっきの俺の言葉に対して笑顔で首を横に振る。

 

 

「邪魔だなんて…そんな事思っていませんわ。むしろ、ダンも一緒にいてくれた方が楽しいですし、わたくしはとても嬉しいですわ」

 

 

正直、二人に悪いと思ったが、ラクスは逆に俺がいる方が嬉しいと言ってくれた為、彼女の言葉に甘え、ラクスとアスランと一緒にいる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オカピー」

 

 

庭に着くと、ラクスはドルフとは異なる犬型ロボットを呼んで、さっき俺達がプレゼントした花を預ける。

 

ラクスが呼んだ犬型ロボットの名前はオカピ。食事やお茶を運ぶ為に作られた給仕用ロボットで、人間が乗るように設計もされている為、幼い頃のラクスはよく乗って遊んでいた。アスランとの婚約後まで乗っていた為、一度は壊れてしまった事があり、ラクスはかなり落ち込んでいたが、俺とアスランがオカピを修理して直し、それがきっかけで俺はドルフを、アスランはハロを造ってラクスにプレゼントした。

 

 

「お花を持って行って。アリスさんに渡してね。それからお茶をお願いって」

 

 

アリスさんとはクライン邸に仕え、執事さんと同じ、俺達の世話をしてくれるメイドさんだ。

 

ラクスに頼まれたオカピは背中に花を乗せてアリスさんのところに向かっていく。

 

 

 

 

お茶を頼んでから少し経ち、オカピが持ってきたお茶と洋菓子を味わいながら雑談を楽しむ。

こういう時間を過ごすのは本当に久しぶりだ…。

 

 

「ネイビーちゃん、おいで」

 

 

ラクスが庭で遊んでいる複数のハロから一機を手招きして呼び出すと、名前を呼ばれた濃紺色のハロがラクスの所にやって来る。

 

 

『ハロ、ゲンキ!』

 

「今日はお髭にしましょうね」

 

 

ネイビーを手に取ったラクスはペンを取り出し、何とネイビーの顔に髭を書き始める。

 

 

「これでよし、っと。出来ました!」

 

 

書き終えたネイビーを見ると、顔に白い髭が書かれている。ネイビー………ドンマイだ。

 

 

「さぁ、お髭の子が鬼ですよー」

 

 

ラクスは席を立って、持っているネイビーを庭で跳び跳ねているハロ達の方へ放すと、鬼であるネイビーを先頭に次々とハロ達がついて行く。

 

 

『ウォン!ウォン!』

 

 

ドルフもこの中に加わっており、ハロ達よりも速い速度でネイビーを追いかけて行く。

 

 

「あらあら、ドルフが一番にネイビーちゃんを捕まえちゃうかもしれませんわね♪」

 

 

クスクス笑うラクスは再び俺とアスランのところに戻ってくる。

 

 

「追悼式典には戻れず、申し訳ありませんでした」

 

「いいえ。お二人のご家族の分、私が代わりに祈らせていただきましたわ」

 

「そうか。ありがとう、ラクス」

 

 

俺が礼を言うと、ラクスは笑顔で答え、皿から洋菓子のクッキーを取って細かく崩し、近くにいる小鳥達に与える。

 

 

「お戻りだと聞いて、今度はお逢いできるのかしらと楽しみにしておりましたのよ。今回は少し、ゆっくり御出来になれますの?」

 

「どうだろうね…」

 

「休暇の日程は、あくまで予定ですので」

 

「この頃はまた、軍に入る方が増えてきてるようですわね。

私のお友達も何人も志願していかれて…。戦争がどんどん大きくなっていくような気がします」

 

「そうなのかもしれません……、実際…」

 

 

俺もアスランも、一刻も早く戦争を終わらせる為に尽力して戦っているが、それでも戦争が終結する様子は見当たらない。

何を討てば、戦争は終わるのか…あの時のラクスの言葉通り、戦争とは難しいものだ…。

 

 

「そう言えば、キラ様は今頃どうされてますのでしょうね。あのあと、お会いになりました?」

 

 

戦争について悩んでいると、ラクスがキラの話を切り出してきた為、俺がそれに答えるように口を開く。

 

 

「キラは地球にいるよ。無事だとは思うけど…」

 

 

イザークとディアッカが無事に地球に降りたんだ。キラもきっと無事な筈だ。

 

 

「小さい頃からのお友達でいらしたのですか?」

 

「えぇ。5歳の頃から。ずっと月に居たのですが…。開戦の兆しが濃くなった頃、私は父に言われて先にプラントに上がって……」

 

「俺もアスランに続いて、両親と一緒に移動したけど…」

 

「…あいつも後から来ると聞いていたのに……」

 

 

あの時の俺とアスランはプラントに着いた後、キラも来るのを待っていた。しかしキラが来る様子もなく、連絡も取れずに時が流れ、あの血のバレンタインという悲劇が起きてしまった…。

そして俺達が軍人となり、初の任務でキラと違う形で再会をした…。

 

 

「そういえば」

 

「?」

 

「ハロとドルフのことをキラ様にお話したら、あなた方の事、相変わらずなんだなって」

 

「キラが?」

 

「嬉しそうに笑っておられましたわ。自分のトリィもあなた方に作ってもらったものだと。キラ様も大事にしてらっしゃるようでしたわ」

 

「…トリィ?」

 

「あいつ、まだ持って…?」

 

「ええ。何度か肩に居るのを見ましたわ」

 

「そう…ですか…」

 

「…」

 

 

幼い頃にプレゼントしたトリィを、キラはまだ持っていてくれていたのか…。正直嬉しかった。友情の証であるトリィをあいつは今でも大事にしてくれていた事が。

 

 

「私、あの方好きですわ」

 

「…えっ!」

 

 

アスランはラクスの発言を聞き、動揺している。

 

 

「ラクス。いくら冗談でもそんな事を言ったら、アスランが嫉妬するよ」

 

「な、何を言ってるんだダン!?」

 

 

俺が言葉にアスランは更に動揺する。

 

 

「うふふ。そうですわね♪」

 

「ラ、ラクスまで!?」

 

 

アスランの反応をラクスと楽しんだ後、ゆっくりお茶を飲んだり、三人で話をしたり、庭を歩き回ったりと、色々と楽しい時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして時間を過ごす内に、いつの間にか外は夕方になっている。俺はアスランと一緒にクライン邸を後にしようとしたが…

 

 

「お前はせっかく家に帰って来れたんだ。本部からの呼び出しが来るまでは、家族との時間を大事にしろ」

 

 

…と言われた為、俺はクライン邸に残り、アスランだけが帰る事になった。

 

 

「…行くのか?」

 

「ああ。ずっとここにいる訳にもいかないからな」

 

「議会が終われば父も戻ります。アスランにもお会いしたいと申しておりましたのよ」

 

「やることも色々ありまして…。その、あまり戻れないものですから…」

 

「そうですか…では仕方ありませんわね…」

 

「時間が取れれば、また伺いますので…」

 

「本当に!?お待ちしておりますわ」

 

「じゃあな、ダン。ラクス、おやすみなさい」

 

「おやすみなさい、アスラン」

 

「気を付けてな」

 

 

挨拶を済ませたアスランは車に乗りクライン邸を後にする。俺とラクスは車が見えなくなるまで見送り、クライン邸に入る。

 

 

「…アスランには感謝しないといけませんわね」

 

「何で?」

 

「だって、アスランがああ言って下さらなかったら…ダンも向こう戻ってしまわれたのでしょう?」

 

「…そうかもしれないね」

 

「ですから…アスランのお言葉に甘えて、次の任務が来るまでは、ゆっくりなさって下さいな」

 

「うん。ありがとう」

 

 

確かに、ここ最近プラントに戻る事があっても、こうしてラクスと話をする機会が少なくなってしまっている。

今の内に、この穏やかな時間を味わっておかいと…。

 

 

「それでは、お父様が戻って来るまで私とお話でもして待っていましょう♪」

 

 

 

 

その後、しばらくしてシーゲルさんがクライン邸に帰って来る。

 

 

「お帰りなさいませ、お父様」

 

「シーゲルさん。お帰りなさい」

 

「ただいま。久しぶりだね、ダン。元気そうで良かったよ。今度は、いつまでここにいられるのかね?」

 

「分かりません。いつ任務に戻るかは、まだ決まってませんから…」

 

「そうか。とにかく、呼び出しが来るまでは、ゆっくりしていきなさい。ここは君の家であり、私達は家族なのだから…」

 

 

家…。家族…。父さん達を失って絶望していた時に、シーゲルさんとラクスがくれた俺の新しい居場所。

そのおかげで、今の俺がある。

 

 

「はい。ありがとうございます」

 

 

俺はシーゲルさんに礼を言うと、シーゲルさんは俺の肩に手を置いて微笑む。ラクスはその様子を笑顔で見守っている。

 

 

「さあ、久しぶりに家族全員で夕食にしようじゃないか。

ラクスも、君に話したい事がたくさんあると言っていたからね」

 

 

シーゲルさんがそう言うと、いつものようにラクスが俺の腕に引っ付いてくる。

 

 

「さあダン、行きましょう♪」

 

「うん。そうだね」

 

 

俺は軍本部からの呼び出しが来るまでの間、シーゲルさんとラクスと一緒に久々の家族の時間を過ごした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

動き始める運命

俺とアスランがプラントで休暇を過ごしてからしばらくして、軍本部から任務の呼び出しを受け、再び脚付きの追撃を再開する為、宇宙港に停めてあるヴェサリウスの入り口前まで来ている。

俺達の見送りをする為に、ラクスとシーゲルさんも宇宙港に来ている。

 

 

「残念ですわ…。せっかく帰って来たのに、もう行ってしまわれるんですの?」

 

「申し訳ありません」

 

 

寂しそうに言うラクスにアスランが申し訳なさそうに謝る。

 

 

「仕方ないよ。休暇の日程も決まってなかったからね」

 

 

俺の言葉を聞いてラクスは更に落ち込んでいると、シーゲルさんが俺達に話しかけてくる。

 

 

「ダン。アスラン。また休暇を得た時は、いつでも家に来なさい。その時は、また皆で食事をしながらゆっくり話をしようじゃないか」

 

「ありがとうございます」

 

「その時は必ず連絡を入れます」

 

 

シーゲルさんにアスランは礼を言い、俺は返事をした後、今も下を向いて落ち込んでいるラクスの頭に手を置くと、彼女は少し驚いた表情で顔を俺に向ける。

 

 

「休暇を貰った時は、また会いに来るよ。それまで、待っててね」

 

「…はい!いつでもお待ちしておりますわ」

 

 

俺がラクスの頭を優しく撫でると、彼女は嬉しそうに笑顔を見せてくれる。

 

 

「では、行ってらっしゃいませ。ダン。アスラン」

 

「うん。行ってきます」

 

「行って参ります」

 

「二人共、気をつけて行くんだぞ」

 

「「はい」」

 

 

ラクスとシーゲルさんに挨拶をした俺とアスランは、彼女達に見送られながらヴェサリウスの艦内に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェサリウスの艦内通路を通っていると、向こうに見覚えのある緑色の髪の少年の後ろ姿が見えてくる。

 

 

「ニコル!」

 

 

アスランが声をかけると、それに気付いたニコルが俺達の方を振り向く。

 

 

「あ。アスラン!ダン!この間は、ありがとうございました」

 

「いや、こっちも招待してくれてありがとな」

 

「いいコンサートだったよ」

 

 

アスランの言うコンサートとは、ニコルのピアノによるコンサートの事である。俺とアスランは休暇の最中、ニコルから招待を受け、ピアノのコンサートを見に行ったのである。

 

 

「…寝てませんでした?」

 

「え…?そ、そんなことはないよ」

 

 

笑顔で言うニコルに対し、アスランは少し慌てながら言う。

 

 

「ニコルの演奏は聞いていると安心するからな。眠くなってもおかしくないさ」

 

 

俺の言葉を聞いて、アスランは呆れたようにため息をつき、ニコルはクスクスと笑っている。

 

 

「本当は、もっとちゃんとしたのをやりたいんですけどね」

 

「そうだな。今は戦争中だから、難しいだろうな」

 

「だが、この“オペレーション・スピットブレイク”が終われば、情勢も変わるだろうから」

 

 

オペレーション・スピットブレイク。

地球軍との戦争に終止符を打つべくプラント最高評議会において可決された作戦で、唯一地球軍が所持しているマスドライバー施設があるパナマ基地を攻略し、宇宙にある地球軍の月面基地と分断させる事が目的だ。これが成功すれば、状況はこっちが有利になり、戦争の終結が早くなる可能性がある。

 

 

「ですね。でも、今回は結構ゆっくり出来ましたね」

 

「ああ」

 

「そうだな。以前みたいに、また早めに任務に戻されるかと思ったがな…」

 

 

俺がそう言うと、アスランは苦笑いし、ニコルは再びクスクスと笑う。

 

 

「僕、降下作戦初めてなんです」

 

「俺だってそうだよ」

 

「とは言ってるが、俺達の初任務はヘリオポリスからだから、地球に行くのは全員初めてだろ」

 

「あ、そうか」

 

 

少しの間雑談した後、先に来ていたクルーゼ隊長と合流し、俺達を乗せたヴェサリウスは地球に降下する為、宇宙港から出航する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球付近まで近付いた俺達は、ヴェサリウスから降り、現在はそれぞれの機体に搭乗した状態で、ローラシア級の下部に備えられている楕円状の降下カプセル輸送艦で待機している。

 

 

《ジブラルタルサービス。晴、気温12、湿度45、風西北西27、バナローナ沖に低気圧警報》

 

 

オペレータの放送を聞きながら待機していると、別のオペレータが通信で話しかけてくる。

 

 

『グラウンドとのコンタクトはチャンネル2番。雲を抜ける事になる。揺れるぞー』

 

『はい』

 

「問題ない」

 

『隊長のシャトルは?』

 

『リムジンは既に降下を開始している。さあ、お前等の番だ。なぁに、目ぇ瞑ってる内に着くさー』

 

『…そんな事しませんよ…』

 

 

クルーゼ隊長は一足先にシャトルで地球に降下している。

オペレータとの短い会話を終え、ついに降下カプセルがローラシア級から切り離され、大気圏に突入しながら、地球に向けて降下していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大気圏を無事に突破し、地球に着地した俺達はジブラルタル基地に到着する。俺とアスランが機体から降りると、既にブリッツから降りているニコルが駆け寄ってくる。

 

 

「ダン!アスラン!クルーゼ隊は第二ブリーフィングルームに集合ですって」

 

「わかった」

 

「よし、行こう」

 

 

集合場所を確認した俺達は、すぐに第二ブリーフィングルームへ急行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パイロットスーツから軍服に着替えた俺達は、第二ブリーフィングルームの手前まで来ている。

 

 

「お願いします隊長!あいつを追わせて下さい!」

 

「イザーク、感情的になりすぎだぞ」

 

「ですが…」

 

 

ブリーフィングルームの室内から覚えのある声が聞こえてくる。

 

 

「(クルーゼ隊長と…イザークか)」

 

 

さっきイザークが言っていた“あいつ”とは、おそらく脚付きかストライク……

 

いや、大体はストライクの事だろう。

 

 

「失礼します!」

 

 

アスランが声をかけた後、俺達はブリーフィングルームに入室する。入室すると、クルーゼ隊長、イザーク、そして席に座っているディアッカの姿がある。

 

 

「イザーク!その傷…」

 

「ふん!」

 

 

アスランの言葉で、イザークの顔をよく見ると、わかりやすい程の傷痕がある事に気付く。傷痕を見られたイザークは、不機嫌な表情でそっぽを向く。

 

 

「よう、お久しぶり」

 

 

そんなイザークに比べ、ディアッカは落ち着いた感じで軽く挨拶をしてくる。

 

 

「傷はもういいそうだが、彼はストライクを討つまでは、痕を消すつもりはないということでな」

 

 

クルーゼ隊長の言葉を聞き、アスランは辛そうな表情を浮かべている。

 

 

「脚付きがデータを持ってアラスカに入るのは、なんとしても阻止せねばならん。だがそれは既にカーペンタリアの任務となっている」

 

「我々の仕事です隊長!あいつは最期まで我々の手で…!」

 

 

クルーゼ隊長の説明に待ったをかけるように、イザークが話に介入してくる。アカデミー時代に何度俺に負けても、勝負を挑んで来た頃を思い出す。

 

…面倒な意味でな。

 

 

「私も同じ気持ちです隊長!」

 

 

さっきまで落ち着いて聞いていたディアッカが突然立ち上がり、イザークに便乗するように声を上げる。

 

 

「ディアッカ…」

 

「…俺もね、散々屈辱を味合わされたんだよ」

 

 

いつも軽い性格のディアッカが、ここまで真面目になるとは以外だ。

 

 

「無論私とて、想いは同じだ。スピットブレイクの準備もあるため、私は動けんが…。そうまで言うなら君達だけでやってみるかね?」

 

「はい!」

 

 

クルーゼ隊長の言葉にイザークは嬉しそうな声で返事をする。よほどストライクを追撃できるのが嬉しいんだろう。

 

 

「ではイザーク、ディアッカ、ニコル、ダン、アスランの五人で隊を結成し、指揮は…そうだな…」

 

 

クルーゼ隊長は少し考え……

 

 

 

 

「アスラン、君に任せよう」

 

「え!?」

 

 

クルーゼ隊長に指名されたアスランは突然の事でかなり驚いている。

 

…イザークの奴は、凄い目付きでアスランを睨んでいる。

自分が隊長に任命されなかった事が、気に食わなかったんだろう。

 

 

「そして、アスランが不在の場合の隊長代理を…」

 

 

クルーゼ隊長は再び考えた後、何故か俺を見ている。

 

 

「ダン、君に任せる」

 

「…自分が…」

 

 

クルーゼ隊長から突然、隊長代理を任命される。アスランを睨んでいたイザークは、今度は俺を睨んで来ている。

 

 

「カーペンタリアで母艦を受領できるよう手配せよ。直ちに移動準備にかかれ!」

 

「隊長…我々が…?」

 

 

突然の事ばかりでアスランは動揺しているようだ。それを察したのか、クルーゼ隊長はアスランの肩に手を置く。

 

 

「いろいろと因縁のある船だ。難しいとは思うが、君達に期待する。アスラン。ダン」

 

 

俺とアスランにそう言い残し、クルーゼ隊長はブリーフィングルームを後にする。

 

 

 

 

「ザラ隊ね…。しかも、ダンが隊長代理とはね…」

 

「ふん!お手並み拝見と行こうじゃない」

 

 

後ろからイザークとディアッカの声が聞こえるが、いつものようにスルーした俺は、隊長に任命され、動揺しているアスランを心配しながら見ている。

 

それと同時に俺はあの時、キラと交わした言葉を思い出す。

 

 

 

 

《…次に会う時は、俺達は敵同士だ!戦う時は、どちらかがどちらかを討つ…それを忘れるな!》

 

《…わかったよ…》

 

 

 

 

あの時の互いの覚悟が実現するんじゃないのかと思いながらも、俺達はカーペンタリア基地に向かう準備に取りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準備を行ってから1時間程度が経ち、現在俺はソウルを乗せた中型輸送機の客室の席に座って、離陸を待っている。

 

 

「そろそろ離陸するぞ」

 

「カーペンタリアに着くまで、ゆっくり景色でも眺めてるといい」

 

「了解だ」

 

 

ニコル、イザーク、ディアッカは既に自分達の乗機を乗せ、離陸しているが、アスランとイージスを乗せる輸送機はチェックに少し時間がかかる為、遅れるようだ。

 

輸送機のパイロット二人に俺が返事をすると、輸送機は動き出し、離陸していく。

 

輸送機がジブラルタルを離れたのを確認した俺は、客席の窓から青い空と海を眺める。

 

 

「(綺麗だな…。俺達コーディネイターを批判するナチュラルが住んでるとは、思えないぐらいに…)」

 

 

そう心で思いながら、カーペンタリアに着くまで、俺はずっと空と海を眺めていた。

 

 

 

 

ジブラルタルを発ってからしばらくして、俺とソウルを乗せた輸送機は無事にカーペンタリアに到着し、ニコル達と合流、そして俺の次に到着するアスランとイージスを乗せた輸送機を待った。

 

しかしこの時…アスランが予想外の事態に巻き込まれるとは、俺はまだ知らなかった…。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大空を翔る翼

ジブラルタル基地を出発し、俺、ニコル、イザーク、ディアッカの輸送機は、無事にカーペンタリア基地にたどり着いたが、アスランの輸送機がまだ到着していない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在俺はカーペンタリア基地内の通路を通り、待機室の前まで来ている。

入室すると、そこには心配そうな表情のニコル、腕を組んで座っているイザーク、いつもの軽い感じで雑誌を読むディアッカの三人が俺の知らせを待っている。

 

…いや、正確には報せを待っているのはニコルだけで、イザークとディアッカはそれほど心配はしておらず、平然な顔をしている。

 

あれほど足つきを追わせろとクルーゼ隊長に主張しておきながら…無責任な奴等め…。

 

 

「ダン!アスランの消息は!?」

 

 

俺は心の中でイザーク達への怒りを燃やすが、それを一旦抑え、駆け寄って来たニコルに現状報告を説明する。

 

 

「アスランが乗っていた輸送機は、偶然遭遇した地球軍の戦闘機の攻撃を受けて墜とされたが、アスランは先にイージスで脱出して、輸送機のパイロット達もその後に脱出した後、無事に保護されたみたいだ」

 

 

俺の報せを聞いて、ニコルは安心な表情を浮かべるが、まだ報告は終わっていない。

 

 

「だが…先に脱出したアスランは、まだ発見されてないみたいだ」

 

「そんな…」

 

 

俺の説明でニコルは再び心配そうな表情に戻る。

すると今まで説明を聞いていただけのイザークが話に割り込んで来る。

 

 

「つまり、栄えある我がザラ隊の、初任務は…“隊長の捜索”、という事になるな」

 

 

“隊長の捜索”を強調し、にやけながら言うイザークの言葉を聞いたディアッカは大笑いし、ニコルはそんなディアッカを少し睨んでいる。

 

俺はそんなイザークとディアッカを無視して、ニコルを少し気にかけながらも話を再開させる。

 

 

「上層部にこの事を報告したが、ジブラルタルでクルーゼ隊長が仰った通り、スピットブレイクの準備で今は手が離せないらしい。となると、俺達だけでアスランを探す事になる」

 

「やれやれ、なかなかさい先のいいスタートだねぇ」

 

 

俺の説明を聞き、ディアッカはため息をつきながら言う。

 

 

「探すと言っても、もう日が落ちる。捜索は明日だな」

 

「そんな!」

 

 

イザークの発言を聞いたニコルは反論しようとするが、ディアッカが話に介入してくる。

 

 

「イージスに乗ってるんだ。落ちたって言ったって、そう心配する事はないさ。大気圏に落ちたってわけでもないし」

 

「ま、そう言うことだ。今日は宿舎でお休み。明日になれば母艦の準備も終わるってことだから。それからだな」

 

 

ニコルに反論の余地を与えないように発言したイザークとディアッカは、ソファーから立ち上がり宿舎に向かう為に待機室を後にしようとする。

 

イザーク達の発言を黙って聞いていた俺は呆れながら…

 

 

「そうか。なら勝手にしろ」

 

「ダン!?」

 

 

俺の言葉を聞いたニコルは驚愕しながらこっちを見ている。それもそうだ。言葉的には、投げやりのような言い方をしているからな。

 

イザーク達はドアの前に着き、俺の言葉を聞いていたのか、イザークは一度俺を見て鼻で笑った後、待機室を出て行こうとする。

 

 

「ただし」

 

 

俺はそんなイザーク達に対し、念を押すように口を開く。

 

 

「クルーゼ隊長と合流した時は、しっかりと報告させてもらうぞ。お前達二人の……

“隊長不在中の身勝手行為”を…な」

 

 

俺の言葉に反応したディアッカが驚愕し…

 

 

「…何だと…」

 

 

イザークも驚愕しているが、怒りも含めて俺を睨んでくる。

 

俺はそんなイザークを冷静に睨み返しながら、更に話を続ける。

 

 

「クルーゼ隊長の言葉を忘れたか?

隊長であるアスランが不在の時は、隊の指揮権は隊長代理である俺にある。その俺の許可もなく、独断行動を取るという事は…命令違反としての報告には十分だからな」

 

「貴様…!」

 

 

イザークは歯を噛み締めながら俺をに睨んでくる。

今度は俺が反論の余地を与えないように話を進める。

 

 

「さあ、どうする?そのまま出て行って自分達の評価を下げるか…大人しく俺の指示に従い、一緒にアスランを探すか…俺はどっちでもいいがな」

 

 

俺のとどめの言葉にイザークは悔しそうに歯を食い縛りながら俺を睨み、ディアッカはそんなイザークを心配そうに見ている。

 

 

「…ちっ!いいだろう、付き合ってやる!」

 

 

イザークは舌打ちをしながらも了承し、ディアッカも両手を軽く上げ、観念したように笑っている。

 

それを確認した俺は待機室の窓から外を見る。

 

 

「この沈みようだと…だいたい2、3時間だな。すぐ行動を開始するぞ」

 

 

時間は既に夕方になっている。

俺はニコル達を連れて、残された時間を使い、アスランの捜索に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準備を行ってから数十分後。

俺とニコルは中型輸送機に収納してあるソウルとブリッツを発進位置に移し、出撃の準備をしている。

 

 

『やれやれ…。何で俺達が基地でレーダーによる探索なんだよ』

 

 

ディアッカはため息をつきながら、面倒くさそうに言う。

イザークとディアッカは、レーダーでアスランの探索をさせる為にカーペンタリアの指令室に残している。

 

 

「イザーク。ディアッカ。俺達が戻って来た時、お前達がいなかった場合は…」

 

 

『しつこい!何度も言われなくても分かっている!』

 

 

俺が釘を刺すように言うと、イザークが反論してくる。この様子なら問題なさそうだな。俺にあれだけ言われ、そのまま帰るのは、奴自身が許せないだろうからな。

 

 

「ならいい。ニコル、準備はいいか?」

 

『はい。いつでも行けます』

 

「よし。なら、行くぞ」

 

 

ニコルとの通信による確認を終え、先にソウルを発進させる。

 

 

「ダン・ホシノ、出撃する!」

 

 

モビルスーツ用のサブフライトシステム・グゥルに乗って空に飛び出すソウルとブリッツ。

外が暗くならない内に、アスランの捜索に取りかかる為、オレンジ色に染まった大空を翔け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捜索から二時間が経ち、カーペンタリアから少し離れ、ストライクと足つきとの遭遇に警戒しながら、周辺の海域と無人島を見渡すが、イージスらしき機体はどこにも見当たらない。

 

 

『ダン…。そろそろ、時間です…』

 

 

ニコルからの通信を聞き、コックピットに設置してある時計を見ると、すでに2時間が経ち、外も暗くなってきている。

一応、連絡を試みるも、通信が妨害され、全くアスランのイージスに連絡が繋がる様子がない。

 

何故ならこの地球には、“ニュートロンジャマー”が設置されているからだ。

 

 

 

 

ニュートロンジャマー。

 

血のバレンタインで地球軍の核ミサイルによる被害を受けた事で核を脅威と見たザフトが地球に降下後に設置した兵器である。

地上全体に設置した事により、核分裂が抑制され、核ミサイルを初めとするあらゆる核兵器を封じる事ができる。

しかし、副作用として電波が阻害され、それを利用した長距離による通信は使えなくなってしまう。レーダーも同様に撹乱されてしまう。

その為、現在もアスランの捜索が困難している。

 

 

 

 

「…仕方ない。戻ろう」

 

『…わかりました』

 

 

俺とニコルはアスランの捜索を中断し、カーペンタリアに戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーペンタリアの格納庫に到着し、モビルスーツから降りると、すでにイザークとディアッカが待っていた。

 

 

「ふん!やっと戻って来たか。で、捜索の結果はどうだ?まさか、あれだけ大口を叩いて、手ぶらで帰ってきた訳じゃないよな?」

 

 

嫌味の含んだ笑みを浮かべて言うイザークをニコルは睨んでいる。相変わらず、いけ好かない奴だ。

 

 

「よくもそんな事が言えるな。自分達の隊長の心配もせず、捜索を明日にしようとした奴等よりはマシだと思うがな…」

 

「っ…!貴様…!」

 

 

俺の仕返しにイザークは怒りを露にして近づいてくる。

そんなイザークを俺は冷たく睨み返し、いつでも迎え撃てるようにしていると…

 

 

「よせイザーク!今騒ぎを起こしたら、後が面倒だ」

 

 

イザークが俺に返り討ちにされるのを見てきたディアッカは、イザークの肩を掴んで止める。イザークはディアッカに止められるが、目は俺を睨んだままだ。

 

 

「捜索続行は明日の夜明けからだ。それまで、ゆっくり体を休めとけ」

 

 

俺はイザークの睨みを無視し、俺の後についてくるニコルを連れて格納庫を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軍服に着替え、休養を取る為に宿舎に向かう途中、俺は捜索に付き合わせたニコルに謝る。

 

 

「すまんなニコル。あれだけ付き合わせておいて…」

 

「気にしないでください。あの時、ダンがアスランの捜索を主張してくれた時…すごく嬉しかったです」

 

「…ありがとな」

 

 

俺の言葉にニコルは微笑んで頷いて答え、色々と話をしている内に俺達が休む部屋に到着する。

 

 

「じゃあ、また明日な」

 

「はい。また明日」

 

 

そして、夜明けにアスランの捜索を再開する為に早めに休養を取る。

 

数時間の休養を終え、俺達の母艦となる大型潜水母艦・ボズゴロフの準備とモビルスーツの収納が完了し、外も明るくなり初めた為、俺達はすぐにアスランの捜索を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

母艦を出航させてからしばらく経ち、海中を潜水しながら通信連絡を行いながらレーダーでの探索をしていると、突然通信が反応する。それを確認したニコルが呼びかける。

 

 

「アスラン、アスラン!聞こえますか?応答願います!」

 

『……ニコルか?』

 

「アスラン!良かった!」

 

 

アスランの声を聞いて安心しているニコルに続き、今度は俺がアスランに呼びかける。

 

 

「アスラン。無事か?」

 

『ダン!ああ。なんとかな』

 

「もう少し待ってろ。今電波からそっちの位置を特定する」

 

『わかった』

 

 

アスランとの通信を終え、その電波を辿ってアスランとイージスの位置を特定した俺達は、すぐにそこへ急行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスランがいると思われる島に到着した母艦が浮上すると、島に紛れて隠れていたイージスが現れ、コックピットからアスランが降りてくる。それを確認すると、ニコルが先にアスランの元に駆け寄る。

 

 

「アスラン!」

 

「ニコル!」

 

「無事で良かったです」

 

 

俺もニコルに続いてアスランに歩み寄る。

 

 

「心配したが、どうやら無事のようだな」

 

「ダン!すまなかったな。心配をかけて…」

 

「気にするな」

 

「アスラン。ダンに感謝してくださいよ。昨日はイザーク達が捜索を今日にしようとしたのを、ダンが隊長代理として限られた時間を使って捜索を主張して、一緒に探してくれたんですから」

 

 

ニコルから聞いたアスランはかなり驚いている。

 

 

「そうだったのか…。ありがとう、ダン」

 

 

俺に礼を言うアスランに対し、笑みを見せて小さく頷いて答える。

 

 

「ほら、いつまでもそこにいないで早く入れ。島で一晩過ごしたとはいえ、余りゆっくり休んでいないだろ?」

 

「ああ」

 

 

アスランは返事をするが、何故か後ろを振り向いている。

後ろにあるイージスではなく、更に向こうを見ている感じだ。

 

 

「…どうした?」

 

「え…。あ、いや。何でもない。すぐにイージスを持ってくる」

 

「わかった」

 

 

俺がアスランに声をかけると、少し慌てながらも返事をしたアスランは、イージスの元に走っていく。

 

さっきアスランが後ろを見ていた事を気にしながらも、無事にアスランと合流した後、アスランを部屋でゆっくり休ませ、一足先にストライクと足つきとの戦闘に備えて準備を進めながら、足つきの追跡を始めるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

平和な国へ

アスランと合流し、足つきの追撃を再開してからしばらく経ち、ようやく足つきを発見した俺達ザラ隊は、母艦からモビルスーツを出撃させ、足つきに攻撃を開始する。

 

 

『散開!』

 

 

足つきも反撃にビーム砲を撃ってきた為、アスランの指示を受け、分断して回避した後、再び足つきに攻撃を仕掛ける。

 

しかし、こっちは5機で攻めているのに、足つきはこれを迎撃しながら前進し続け、全く止まる様子がない。

 

 

『何をやっているディアッカ!さっさと船の足を止めろ!』

 

『分かっている!』

 

 

イザークは足つきの粘り強さに少しイラつきながら足止めをするように言い、ディアッカは少し焦りながらも返事をする。

 

バスターが足つきを攻撃しようとした時、上空から二つの影が現れ、一方はバスターに高ビームを撃ち、もう一方は対艦刀を展開してデュエルに接近する。

 

バスターは高ビームを間一髪のところで回避し、デュエルはビームサーベルを抜き、受け流すように対艦刀の攻撃を防ぐ。

 

さっき攻撃してきたのは、スカイグラスパーという地球軍の戦闘機だ。

 

 

 

 

スカイグラスパー。

 

調べたところ、大気圏内で活動可能な戦闘機だ。おそらく、この前の宇宙での戦闘前に第8艦隊から支給されたものだろう。

あの戦闘機はストライクの支援として、背部にはストライクが使っている装備を取り付ける事ができる。

更にあの戦闘機のシステムは自動式となっており、経験の浅いパイロットでも操縦する事ができるようになっている。

 

 

 

 

しかし、さっきの攻撃は、明らかに素人とは思えない操縦技術である為、乗っているのは、あの時のオレンジと青のモビルアーマーのパイロット達だろう。

 

攻撃を回避するも、すぐには動けないバスターに代わり、デュエルが単独で足つきに突撃を開始する。

 

 

『イザーク!一人で出過ぎるな!』

 

『うるさい!』

 

 

アスランが呼び止めるが、イザークは聞く耳を持たず、足つきに突っ込んでいく。

部隊長の指示を無視するとは…呆れた奴だ…。

 

 

「エンジンを狙うぞ!ニコル!向こうから回り込め!」

 

『はい!』

 

 

俺はイザークを無視して、足つきを止める為、ニコルに足つきの背後に回るよう指示する。

 

ソウルとイージスはブリッツの援護をする為、足つきのバルカン砲をビームライフルで破壊していく。

 

その後、足つきの横を通り過ぎると、足つきの守備の為、奮戦するストライクが見えてくる。

 

 

『っ!キラ…!』

 

「…ちぃ…!」

 

 

俺とアスランはなるべくキラと戦わないように、奮戦しながらストライクと距離を取る。

 

ソウルとイージスが戦っている間に、ブリッツは無事に足つきの背後に回り、右腕の攻盾システム・トリケロスに搭載している3連装超高速運動体貫徹弾・ランサーダートを放ち、足つきを攻撃するが、エンジンには命中していないようだ。

 

足つきの被弾に気付いたストライクがビームライフルで攻撃してきた為、こっちもビームライフルで応戦する。ソウルとストライクの放ったビームは互いの横を通り過ぎ、被弾はしなかった。

 

 

『下がれ!こいつは俺が!』

 

 

デュエルがビームライフルでストライクを攻撃しながら突撃していく。

 

 

『イザーク!迂闊に!』

 

 

アスランの制止を無視するデュエルの攻撃に気付いたストライクはビームライフルでデュエルの乗るグゥルのみ撃ち抜く。

 

 

『ちぃ!』

 

 

グゥルを撃たれたデュエルはグゥルから飛び降り、ビームサーベルを抜き、落下の勢いを利用してストライクに切り込む。

 

ストライクはエールストライカーのスラスターを利用して飛び上がり、ビームサーベルを抜いて近付いてきたデュエルのビームサーベルのみを斬る。

 

 

『なにぃ!』

 

『イザーク!』

 

 

ビームサーベルのみを斬られるという予想外の事にイザークはかなり動揺し、ブリッツがデュエルの援護に向かおうとするが、デュエルはストライクに背後に回られ、海に向けて蹴り飛ばされ、すごい勢いで落ちていく。

 

 

『くっそぉぉー!』

 

 

しかし、デュエルは落下中でもストライクに一泡吹かせようとレール砲で攻撃するが、ストライクはスラスターを利用したスピードで回避しながらブリッツに接近していく。

 

 

『う、うわぁぁ!』

 

 

猛スピードで近付いてくるストライクに対して驚きの悲鳴を上げ、反撃をする間もなく、蹴り飛ばされて乗っていたグゥルをビームサーベルで貫かれて破壊されてしまう。

 

 

『ニコル!』

 

「くそっ…!」

 

 

アスランはニコルの名を叫び、俺は現在の状況に歯を噛み締める。

デュエルとブリッツが海に落ちて戦闘不能となり、残ったのはソウル、イージス、バスターの3機だけとなる。

ソウルとイージスはビームライフルでストライクを攻撃するが、ストライクはそれを回避したり、シールドでガードして防ぐ。足つきに着艦したストライクはビームライフルで反撃してきた為、俺達はグゥルの機動性を生かし、ストライクの攻撃を回避する。

 

 

 

 

『接近中の地球軍艦艇、及びザフト軍に通告する』

 

 

激しい攻防戦が続く最中、突然どこからか音声が流れてくる。音声の方を見ると、足つきの前方の向こうに数隻の艦隊の姿が見える。

 

どうやらオーブの艦隊のようだ。戦闘に集中しすぎたせいで、オーブの領海に近付き過ぎたようだ。

 

 

『貴官等はオーブ連合首長国の領域に接近中である。速やかに進路を変更されたい。我が国は武装した船舶、及び、航空機、モビルスーツ等の、事前協議なき領域への侵入を一切認めない。速やかに転進せよ!』

 

 

オーブ艦隊は中立を貫き、引き返すよう発言をするが、後少しで足つきを墜とせるほどに有利な状況になっている。

 

このまま足つきを攻撃するか…。

それとも引き上げるか…。

 

どっちを選ぶべきか迷っていると、オーブ艦隊の警告が再び流れてくる。

 

 

『繰り返す。速やかに進路を変更せよ!』

 

 

俺達ザラ隊はともかく、足つきはオーブの領海に少しずつ近付いている。

 

 

『この警告は最終通達である。本艦隊は転進が認められない場合、貴官等に対して発砲する権限を有している』

 

 

それを確認したのか、オーブ艦隊は砲台を足つきに構え、攻撃体制に入る。

 

このままでは足つきだけでなく、キラまで討たれるのではという不安に襲われる。

 

 

 

 

『この状況を見ていて…よくそんなことが言えるな!!』

 

 

キラの心配をしていると、突然少女の怒鳴り声が通信に割り込んでくる。

 

 

『アークエンジェルは今からオーブの領海に入る!だが攻撃はするな!』

 

『な!?なんだお前は!』

 

 

怒鳴り声に驚愕しながらも、介入してきた少女にオーブ艦隊は問う。

 

 

『お前こそなんだ!お前では判断できんと言うなら行政府へ繋げ!父を…ウズミ・ナラ・アスハを呼べ!』

 

 

ウズミ・ナラ・アスハ…。

オーブ連合首長国前代表首長を務めている、あのウズミ・ナラ・アスハの事か?

 

しかも父って…まさか……。

 

 

『私は……

 

 

 

 

私はカガリ・ユラ・アスハだ!』

 

「『!?』」

 

 

少女の名を聞いて、俺だけでなく、アスランも驚愕している。

 

カガリ・ユラ・アスハといえば…ウズミ・ナラ・アスハの令嬢じゃないか。その令嬢が何故足つきと一緒にいる?

 

 

 

 

『…何をバカな事を。姫様がその船に乗っておられるはずがなかろう!』

 

『なんだと!』

 

『仮に真実であったとしても、何の確証も無しにそんな言葉に従えるものではないわ!』

 

『貴様ぁ!』

 

 

オーブ艦隊はそのカガリ・ユラ・アスハの言葉を疑って否定し、足つきに乗っているカガリ・ユラ・アスハはオーブ艦隊の対応に怒りを露にしている。

 

 

 

 

『ご心配なく、ってね!領海になんて入れないさ!

その前に決める!』

 

 

カガリ・ユラ・アスハがオーブ艦隊と口論している隙をつき、バスターは高エネルギーライフルで足つきを攻撃しようとするが、スカイグラスパーの高ビーム攻撃によって阻止されてしまう。バスターは回避して高エネルギーライフルで反撃するが回避されてしまう。

 

 

『ディアッカ!オーブ艦に当たる!回り込むんだ!』

 

『そんなこと!』

 

 

ディアッカがアスランの指示に反論していると、ストライクがビームライフルでバスターの乗るグゥルを撃ち抜く。

 

 

『くそっ!』

 

 

グゥルから飛び降りたバスターにスカイグラスパーが高ビーム砲で追い撃ちをかけてくるが、バスターは落下しながらも回避し、超高インパルス長射程狙撃ライフルで足つきを攻撃する。

 

バスターの攻撃を受け、足つきが怯んでいるのを確認した俺は、ストライクの相手をイージスに任せ、足つきに近付こうとするが、対艦刀を構えたスカイグラスパーが阻止するように接近してくる。

ソウルのビームサーベルを抜き、スカイグラスパーの対艦刀による攻撃を受け流し、ビームライフルで足つきのエンジンの一部を撃ち抜く。

エンジンの一部をやられた足つきは海へと降下していき、着水してオーブ領海に進入する。

 

 

 

 

『警告に従わない貴官等に対し、我が国は是より自衛権を行使するものとする』

 

 

足つきの進入を確認したオーブ艦隊は、一斉に足つきに砲撃を開始する。しかし、砲撃が一発も足つきに直撃する様子がなく、ほとんどの砲撃が足つきの周辺ばかりに落下している。

まさかと思い、オーブ領海の手前まで近付いて確認しようとするが、オーブ軍の戦闘ヘリコプターに行く手を阻まれ、近付く事ができない。

 

これ以上の追撃は不可能と判断した俺とアスランは、海に落下したニコル達を連れ、その場を離脱する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーブ領海から離脱し、母艦に帰還した俺達ザラ隊は、しばらくの間、母艦で待機しながらオーブの様子を伺っていると……

 

 

「こんな発表!素直に信じろって言うのか!」

 

 

そのオーブからある事が発表され、それを聞いたイザークは激怒している。

 

 

「「足つきは既にオーブから離脱しました」なんて本気で言ってんの?」

 

 

そう思うのも無理もない。俺達がオーブ領海を離脱してから、そう時間は経っていない。

おそらく、足つきはまだオーブにいる可能性が高い。

 

 

「それで済むって、俺達バカにされてんのかねぇ。やっぱ隊長が若いからかな」

 

「ディアッカ…」

 

 

ディアッカがアスランへの嫌味のような愚痴を言った為、ニコルが叱るような口調でディアッカの名前を呼ぶ。

 

 

「今は俺達の隊長への愚痴を言っている場合か」

 

 

アスランはディアッカの言葉を気にしている様子はないが、俺はニコルに便乗するようにディアッカを叱る。

 

 

「これがオーブの正式回答だと言う以上、ここで俺達がいくら嘘だと騒いだところで、どうにもならないと言うことは確かだろう」

 

「なにを!」

 

 

アスランの発言に対し、イザークは怒りを露にして睨みつける。

 

 

「押し切って通れば、本国も巻き込む外交問題だ」

 

 

少しの間、アスランを睨んでいたイザークだが、落ち着きを取り戻していく。

 

 

「…ふん。流石に冷静な判断だな、アスラン。いや、ザラ隊長」

 

「だから?はいそうですかって帰るわけ?」

 

 

何故かにやけながら言うイザークに続くようにディアッカがアスランに問いかける。

 

 

「ここまで追い詰めて、そんな無駄な事をするか。もう少し頭を使って、先の事を考えたらどうだ」

 

 

アスランに代わって俺が答えるが、俺の言葉が気に入らなかったのか、イザークは睨み、ディアッカは少し不機嫌そうに俺を見ている。

アスランが俺に気を使うように今後の事について説明を始める。

 

 

「カーペンタリアから圧力を掛けてもらうが、すぐに解決しないようなら、潜入する。それでいいか?」

 

「足つきの動向を探るんですね?」

 

 

アスランの説明の意味を理解したニコルの言葉を聞き、アスランは説明を続ける。

 

 

「どうあれ、相手は仮にも一国家なんだ。確証もないまま、俺達の独断で不用意なことは出来ない」

 

「突破して行きゃ足つきが居るさ!それでいいじゃない!」

 

 

ディアッカの直球すぎる反論を聞いた俺とアスランは、呆れながらもそれができない理由を説明する。

 

 

「だから、目先だけじゃなく、先の事を考えろと言ったはずだ。ヘリオポリスとは違うんだぞ」

 

「オーブの軍事技術の高さは言うまでもないだろ。表向きは中立だが、裏はどうなっているのか計り知れない、厄介な国なんだ」

 

 

 

 

「…ふん!OK従おう」

 

 

俺とアスランの説明に先に納得したのは…

なんと、俺とアスランに対抗心を燃やしているイザークだった。いつも突っかかってくるこいつが先に納得するのは意外だな。

 

 

「俺なら突っ込んでますけどねぇ。流石、ザラ委員長閣下の御子息に、クルーゼ隊長から隊長代理を任されたエリート様だ。ま、潜入ってのも面白そうだしな」

 

 

少し嫌味を含めた言葉を発し、イザークはディアッカを連れて作戦室のドアの手前まで移動し、俺達の方を振り向く。

 

 

「案外奴の…ストライクのパイロットの顔を拝めるかもしれないぜ?」

 

 

そう言ってドアを開けて退室するイザーク。ディアッカもそれに続いて出ていく。

さっきのイザークの言葉を聞いたアスランは、キラの事を考えているのか、複雑そうな顔で俯いている。

俺がアスランの肩に手を置くと、それに気付いたアスランは少し無理をしているが、笑みを見せて頷く。

 

その後、アスランの言う通り、カーペンタリアに要請して圧力をかけるが、オーブが圧力に屈しなった為、オーブ領内に潜入する為の準備に取り掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ。陸からじゃなく、まさか水中から潜入する事になるとはねぇ。しかも、こんな暗い夜中に…」

 

 

オーブに潜入する準備を終え、行動を開始する直前にディアッカは愚痴ってくる。

 

何故なら今の俺達は水中用のウェットスーツを着ているからだ。

 

 

「文句を言うな。アスランも言ってたろ。向こうの軍事技術は高いんだ。真っ昼間に堂々と変装だけで突破できると思っているのか?」

 

「…はいはい。わかりましたよ」

 

 

俺が説明を含めて注意すると、ディアッカは観念したような笑みで返事をする。

それを確認した俺はアスランの方に顔を向け、頷いて準備完了の合図を送ると、アスランもそれに頷いて答え、出発の号令をかける。

 

 

「よし、行くぞ」

 

 

号令後、アスランを先頭に俺達ザラ隊は次々と海中に潜り、目的地であるオーブ領内へ向かう。

 

 

 

 

しばらく海中を移動した後、ようやく目的地であるオーブ領内の岸辺に到着するが、目の前には3人の釣り人がいる。

 

しかし、俺達は動揺していない。

 

 

「クルーゼ隊、アスラン・ザラだ」

 

 

アスランがその三人に対し、自分がクルーゼ隊である事を明かす。

 

 

「ようこそ、平和の国へ」

 

 

一方の釣り人の内の1人がアスランに返事をし、互い握手を交わす。

釣り人を格好をしているが、この3人は俺達がオーブに潜入する為に連絡を入れ、待機させていたザフトの工作員だ。

 

無事、オーブの潜入に成功した俺達はウェットスーツを脱ぎ、オーブに隠れているかもしれない足つきを捜す為、行動を開始するのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キラ

オーブ領内の岸辺で味方の工作員と合流した俺達ザラ隊は、彼等から潜入に必要なIDカードを受け取る。

 

 

「そのIDで工場の第一エリアまでは入れる。だがその先は完全な個人情報管理システムでね、急にはどうしようもない」

 

 

個人情報管理か…。当然の対策だろう。

他所からのスパイの侵入を許すほど甘くはないからな。そう心の中で思ってると、工作員は念を指すように話を続ける。

 

 

「だが、無茶はしてくれるなよ。騒ぎはごめんだ。“獅子”は眠らせておきたいってね」

 

 

“獅子”とはおそらくウズミ・ナラ・アスハの事だろう。

噂では彼は「オーブの獅子」と呼ばれており、国民からは、かなり厚い信頼を得ている人物だと聞いている。

 

 

「健闘を祈るよ」

 

 

そう言って敬礼をする工作員達に対し、同じように敬礼で返した俺達は、森の中へ向かって歩き出す。

 

 

 

 

しばらく歩いて森を抜けると、オーブの軍港に到着する。

軍港をしばらく見渡した後、俺達は足つきの情報を集める為に街の方へと移動を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街に到着した俺達は、二手に別れて街の調査に乗り出す。

 

 

 

 

イザーク、ディアッカの2人と別れ、俺、アスラン、ニコルの3人は、賑わうほどに落ち着いている街の中を見渡しながら歩いている。

 

 

「見事に平穏ですね。街中は」

 

「ああ。昨日自国の領海であれだけの騒ぎがあったって言うのに」

 

「普通なら慌ただしくなると思うがな」

 

「中立国だからですかね?」

 

「多分な」

 

 

電化製品店のテレビに集まってゲームを楽しむ子供達。

ベビーカーに乗った赤ん坊を連れて雑談する主婦達。

まるで戦争とは無縁と思えるほどに平和な雰囲気だ。

 

 

「平和の国、か」

 

 

呟くように言うアスラン。

確かにこのこの様子を見れば、そう見えてもおかしくないだろう。

 

まるで外側でザフトと地球軍が戦争してるとは思えないほどに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大体は街を見て回った後、イザーク、ディアッカの2人と合流し、公園で休憩を取りながら、今後の事を話し合う。

 

 

「そりゃ、軍港に堂々とあるとは思っちゃいないけどさぁ」

 

「あのクラスの船だ。そう易々と隠せるとは…」

 

 

ディアッカとイザークが話した通り、まだ足つきに関する情報は掴んでいない。

 

 

「まさか、本当に居ないなんてことはないよねぇ。どうする?」

 

「ここまで来た以上、隅から隅まで探すしかないだろ」

 

「欲しいのは確証だ。ここに居るなら居る。居ないなら居ない。軍港にモルゲンレーテ、海側の警戒は、驚くほど厳しいんだ。なんとか、中から探るしかないだろ」

 

「問題は、どうやって中に入るかだ」

 

 

ソウル、イージス、ブリッツ、バスター、デュエル、そしてストライクの開発に関係しているモルゲンレーテを管理している国だ。

あれだけのモビルスーツを作る技術を持っているほど、この国の警備もかなり厳重だろう。

 

 

「確かに厄介な国の様だ、ここは」

 

 

イザークの言う通り、確かに一筋縄ではいかない国だ…。

 

休憩を終えた俺達は、足つきの手掛かりを探す為、再び行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

引き続き俺達はオーブを調査するが、あまり足つきの情報が集まらず、ある施設の近くで、どうやって奥へ進むか話し合っている。

 

 

「軍港より警戒が厳しいな。チェックシステムの攪乱は?」

 

「何重にもなっていて、けっこう時間が掛かりそうだ」

 

「もしもの場合は、通れる奴を捕まえて通るしかないな」

 

「まさに、羊の皮を被った狼ですね」

 

 

まあ、それは最終手段だがな。

なんとか隠密に潜入できる方法を考えていると……

 

 

 

 

『トリィ!』

 

「「!!」」

 

 

聞き覚えのある懐かしい機械声を発し、こっちに向かって飛んでくる“あるモノ”を見て、俺とアスランは驚愕する。

 

何故なら、その飛んでくる“あるモノ”とは…俺とアスランが幼年学校時代に、キラにプレゼントしたトリィだからだ。

 

 

『トリィ?』

 

 

トリィがアスランの手の甲に止まり、そんなアスランの隣でトリィを見ていると、イザーク達もそれに釣られ、集まってくる。

 

 

「なんだそりゃ?」

 

「へぇ、ロボット鳥だ」

 

『トリィ』

 

 

元気そうにしているトリィを見て安心するが、ここにトリィがいるという事は……

 

 

「トリィー!」

 

「「!!!」」

 

 

トリィと同じく、懐かしい声が施設側から聞こえてくる。

そして、施設から現れる声の持ち主の姿を見て、俺とアスランは再び驚愕する。

 

何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声の持ち主が、キラだからだ。

 

 

 

 

「あー、あの人のかな?」

 

 

俺とアスランに続いてニコル達もキラに気付き、アスランはトリィを連れ、フェンスの近くにいるキラの方へ向かっていく。

それに気付いたキラはかなり驚愕した表情でアスランを見ている。

 

そして、トリィを連れたアスランがキラの元に着き、ついに二人はへリオポリス以来の再会を果たす。

 

アスラン達がしばらく互いを見た後、アスランが手の甲に乗せているトリィを前に出し、キラは両手でトリィを受け取る。

 

それを見届けた俺はアスランに声をかける。

 

 

「おーい!そろそろ行くぞ!」

 

 

俺の声に気付いたのか、キラが驚愕した表情でこっちを見ている。

アスランは俺達の方に向かう途中、一度キラの方を振り向き、再びこっちに向かってくる。

 

その途中で金髪の少女がキラの横まで走って来て、アスランを見ている。

 

まさか、あの娘があの通信の時の……

いや、まさかな…。

 

 

 

 

そう考えていると、アスランが俺達の所に辿り着き、振り返ってキラと金髪の少女を見てから車に乗る。

 

俺達がその場を離れる前にキラを見ると……

あいつはとても悲しそうな表情で、俺達を…

いや、正確には…俺とアスランをずっと見ていた…。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

予想外の帰還

キラと再会した事で、足つきがオーブにいる事がはっきりとした為、俺達は母艦のボズゴロフに戻り、作戦会議を行った後、足つきとの戦闘に備えて準備をしている。

 

そのはずだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在俺は、宇宙往還機である大型スペースシャトルに乗って宇宙へ上がり、プラントに向かっている。

 

何故オーブで足つきを追っている最中の俺がプラントに向かっているのかというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前

 

オーブ近海 ボズゴロフ艦内作戦室

 

 

「何故足つきがオーブにいたと分かる!確証はあるのか?どうなんだアスラン!?」

 

 

両手で机を強く叩きながら、イザークはアスランに怒鳴るように問い出している。

 

その理由は、キラと再会したあの施設から離れ、母艦に戻った後、作戦会議中に……

 

 

 

 

「足つきはオーブにいる可能性が高い。母艦をオーブ領海の近くまで寄せ、足つきが現れたら出撃して叩く。いつでも出撃できるように準備をしておいてくれ」

 

 

 

 

…と、アスランが言い出した事が原因である。

イザークに問われたアスランは冷静にイザークを見ている。

作戦室内に沈黙が流れるが、それを破るようにアスランが口を開く。

 

 

「…いいから、俺の言った通り作戦を遂行してくれ。足つきはあの国に潜んでいる」

 

 

イザークは少しの間、アスランを睨むが、落ち着いたのかため息をつく。

 

 

「…OK。そこまで言うなら、今回は隊長の指示に従おう。だがもし、この出撃が無意味な結果に終わった場合は…」

 

「クルーゼ隊長に終始報告だな♪」

 

 

アスランに釘をさすように言うイザークに続き、楽しそうに言うディアッカの言葉を聞き、アスランは少しだけ顔を伏せる。

しかしそれは、イザーク達の言われた事を気にしているのではない事はすぐに分かった。おそらくこの先、待ち受けるキラとの戦いを気にしているんだろう。

 

 

 

 

作戦会議が終わり、足つきとの戦闘に備え、準備を進めていると、オペレータが1枚の書類を持って俺に話しかけてくる。

 

 

「ダン・ホシノ。君宛にジブラルタルから報せが来ているぞ」

 

 

オペレータが持ってきたのは、どうやらジブラルタル基地から送られて来た指令書らしい。

その指令書を受け取り、読んでみると、内容はこう書かれている。

 

 

 

 

ダン・ホシノに本国からの特殊任務の要請あり。

 

直ちにプラントに帰投する為、一旦ジブラルタルに急行せよ。

 

ラウ・ル・クルーゼ

 

 

 

 

差出人はクルーゼ隊長のようだ。

 

何故本国が俺を?

とにかく、ジブラルタルに戻って、クルーゼ隊長に会って確かめないと分からんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジブラルタル行きのもう一隻の母艦が到着し、乗艦する俺をアスランとニコルの2人が見送りに来てくれている。

イザークとディアッカは自室にいるのか、この場には来ていない。

まあ、期待はしてないがな。

 

 

「突然クルーゼ隊長から呼び出しとは…どういう事でしょうか?」

 

「さあな。それは直接聞けば分かるさ。それより、油断はするなよ。足つきはともかく、ストライクは俺達と互角に渡り合うほどの強敵だ。気を引き締めて行けよ」

 

「はい。こっちは任せてください」

 

 

ニコルの返事を聞いた後、アスランの方を見ると、不安そうな表情を浮かべていた。俺はそんなアスランの肩に手を置き、勇気付けるように話しかける。

 

 

「アスラン。俺が向こうに行く事でこの先厳しいだろうが、こっちの方を片付けたらすぐ戻る」

 

 

俺の言葉を聞いてアスランは少し驚くが、さっきよりは表情は柔らかくなったようだ。自分の肩に置いている俺の手の上に手を乗せ、少しだけ肩の荷が降りたように笑顔を見せる。

 

 

「…ありがとうな、ダン。こっちは任せてくれ。…無茶はするなよ」

 

「俺より無理してるお前が言えた事か?とはいえ、この先何があるか分からんからな。…そっちも気を付けてな」

 

 

互いに笑みを見せる俺とアスランを近くにいるニコルは笑顔で見ている。

 

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「ああ」

 

「ダンも、道中気を付けて」

 

 

俺はアスラン、ニコルの2人と握手を交わした後、もう一隻の母艦に乗艦し、アスラン達は母艦に入るまで笑顔で見送る。

そして俺の乗った母艦は潜水を始め、ジブラルタルに向けて移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジブラルタル基地

 

母艦が無事ジブラルタルに到着し、現在俺はクルーゼ隊長がおられる隊長専用の部屋の手前まで来ている。

 

 

「ダン・ホシノ、只今到着しました!」

 

「入りたまえ」

 

 

クルーゼ隊長の許可を頂き、部屋に入ると、そこには職務中なのか、クルーゼ隊長がパソコンに目を通している。

クルーゼ隊長はパソコンのキーボードを打っていた手を止め、俺の方を見て口を開く。

 

 

「足つきの追跡中に、いきなり呼び戻してすまないな。だが、どうしても君にしか頼めない任務なのでね」

 

「いえ。ところで、プラントからの特殊任務とは?」

 

「特殊任務というが、それほど難しいものではない。君にある人物の護衛を頼みたいのだよ」

 

 

ある人物?一体誰の事だ?

護衛という事は…シーゲルさんの事か。

 

 

 

 

…それとも、ザラ委員長の方か…。

いくらアスランの父親とはいえ、あの人だけは好きにはなれん。

 

それを察したのか、クルーゼ隊長は笑みを見せて話を戻す。

 

 

「ふふ。気になるのも無理はないが、安心したまえ。

君に護衛してもらいたい人物は……

 

 

 

 

ラクス・クライン嬢だ」

 

 

 

 

「……はい?(今、クルーゼ隊長は何て言った?ラクスの護衛って言ったような…)」

 

 

心の中でそう思っていると、それも察したのか、クルーゼ隊長は再び笑みを見せて話を再開する。

 

 

「ラクス嬢自身が君を指名しているようだ。

近い内に彼女が新曲披露の為、プラントでコンサートを開く予定らしい。君にはそのコンサートの間、彼女の護衛を頼みたい。いきなりですまないが、すぐに準備を整え、プラントに向かってほしい」

 

「…わかりました」

 

 

突然ラクスの護衛を任命され、少し動揺しながらも、俺はすぐにクルーゼ隊長に返事をし、ラクスがいるプラントへ向かう為の準備を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…という訳で、現在こうしてシャトルに乗り、プラントに向かってるという事だ。

 

だが、何故ラクスは俺を指名したのか…

それはプラントで彼女本人に聞くしかないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラント付近の宇宙港に到着し、シャトルから降りると、向こうに数人の護衛に守られながら、嬉しそうな表情で俺に手を振ってくれるラクスの姿が見える。

それを嬉しく思いながらラクスに近付くと、ラクスも俺の方に近付いてくる。

 

 

「お帰りなさいませダン!お待ちしておりましたわ」

 

「ただいまラクス。わざわざ来てくれてありがとう。ここには君だけかい?シーゲルさんは?」

 

「お父様は今、評議会のお仕事でおられませんの。ダンが戻られると聞いて、とても楽しみにしていましたのに…」

 

 

申し訳なさそうに言うラクスに気を遣い、俺は本題に入るように口を開く。

 

 

「クルーゼ隊長からは大体は聞いているけど、新曲のコンサートはいつやるんだい?」

 

「それは戻ってから説明いたしますわ」

 

 

俺の質問にラクスは笑顔で答え、俺のすぐ横まで近付いてくる。

 

 

「さあダン、参りましょうか」

 

「そうだね」

 

 

会話を終えた俺はラクスと一緒に、護衛に護られながら移動用シャトルに乗り、プラントに移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャトルでプラントへ渡り、クライン邸に戻ってきた俺は、彼女と一緒に庭でお茶を飲みながら、近い内に行われるコンサートについて話をしている。

 

 

「クルーゼ隊長から大体は聞いているけど、コンサートはいつから?」

 

「1週間後になりますわね。明後日からコンサート会場で新曲のリハーサルを行いますから、ダンにはそのリハーサルと本番の間、私の護衛をしていただきたいんですの」

 

「それは構わないけど…何故俺なんだい?俺以外にも経験の多い護衛は多数いると思うけど?」

 

「それは…」

 

 

ラクスは口にしていたカップを置き、俺を護衛として呼んだ理由を説明する。

 

 

「どうしても、ダンに私が作詞した新曲をお聞かせしたかったんですの。それに…ダンに守っていただけるなら、私も安心して歌う事ができますわ」

 

 

ラクスの言葉に一瞬だけ驚くが、俺を信頼してくれているラクスに、感謝の気持ちを込めて笑顔を見せる。

 

 

「そうか。そこまで期待されたからには、答えない訳にはいかないね」

 

「ありがとうございますダン。私も貴方と、楽しみになさってる方々に喜んでいただけるように、一生懸命頑張りますわ」

 

 

そう言ってラクスは俺の手の上に自分の手を優しく重ねて微笑む。

 

そんなラクスの手の温もりを感じながら、俺は彼女を守る決意を更に強め、明後日に行われるリハーサルに備える事にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嵐の前の静けさ

今日はコンサートに向けてのリハーサルを行う為、俺はラクスと一緒に車でクライン邸を発ち、コンサート会場に向かっている。

 

 

 

 

「…以上が本日のスケジュールになります」

 

「はい。わかりましたわ」

 

 

車内ではラクスが女性マネージャーから今日のスケジュールの内容について丁寧な説明を受けている。

女性マネージャーの説明を終えてから15分後。

コンサート会場に到着し、車から降りて数人の護衛を連れて会場に入ると、10人以上のスタッフ達がエントランスで待機している。

スタッフ全員がラクスに頭を下げ、責任者が落ち着いた口調で彼女に話しかける。

 

 

「ラクス様。お待ちしておりました」

 

「お出迎え、ご苦労様です」

 

「リハーサルでお使いになられる舞台の準備は既に終えております」

 

「そうですか。では、早速始めましょうか。皆さん、よろしくお願い致しますわ」

 

 

挨拶を済ませたラクスはスタッフ達と一緒にリハーサルに取り掛かる為、会場に移動する。

責任者やスタッフ達の説明を聞きながら舞台の立ち位置、本番の流れなどを覚えていく。

 

俺は他の護衛達と一緒に周囲を警戒しながら、そんな彼女を少し離れた場所で見守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リハーサルを始めてから数時間が経ち、腕の時計を見てみると、そろそろクライン邸に戻る時間に近付いている為、俺はラクスの側に歩み寄って声をかける。

 

 

「ラクス。そろそろ…」

 

「まあ。もうそんな時間ですの?」

 

 

ラクスが近くのスタッフに声かけると、スタッフはすぐに責任者のところへ報告に向かう。

事情を聞いた責任者はスタッフ全員に声をかけ、リハーサルを終了させる。

 

 

 

 

会場を出て周囲を警戒しながら、リハーサルを終えたラクスを車に乗せ、彼女に続いて車に乗り、スタッフ達の見送りを受けながら、会場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クライン邸に到着し、車を降りて邸内に入った後、シーゲルさんの帰りを待ちながら、ラクスと一緒にお茶を飲んでいる。

 

ラクスはリハーサルの緊張から解放されたのか、安心したように息を吐く。

 

 

「ふう…。疲れましたわ…」

 

「お疲れ。よく頑張ったね」

 

 

俺がラクスの頭を撫でると疲れていた彼女の表情が、元気を取り戻したかのように笑顔になっていく。

 

 

「マネージャーの方や、スタッフの方々の丁寧なご説明のお陰ですわ。それに…」

 

 

ラクスは俺に笑顔を見せたまま話を続ける。

 

 

「ダンがずっと見守ってくれていたお陰で、練習に専念する事ができましたわ」

 

 

頬を少し赤らめながら言うラクスの言葉を聞き、幼馴染としての俺の心は喜びで満たされる。

 

 

「そう言ってくれて嬉しいよ。ラクスが本番で悔い無く歌えるように、俺、頑張るよ」

 

 

俺の言葉を聞き、ラクスは自分の頭を撫でている俺の手に手を重ねて微笑む。

 

 

「ありがとうダン。私も貴方に、更に上達した歌を聞いていただけるように頑張りますわ」

 

 

 

 

しばらくして、シーゲルさんがクライン邸に帰ってきた為、三人で夕食を取り、就眠する時間までの間、ラクスと楽しく雑談をした後、明日のリハーサルに備える事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし……

 

この先、あの悲劇が再び繰り返されるような事件が起きるとは…俺もラクスも、まだ知らなかった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ダン

サブタイトルを変更しました。
大体半分くらいは修正したと思います。

それでは、今回もゆっくりお楽しみください。


リハーサルを始めてからしばらく経ち、ラクスの綺麗な歌声は更に上達している。

今日も本番に向けて、ラクスは会場で歌の練習に専念し、俺は護衛として彼女の側についている。

 

しかし、そこへ軍本部が厄介な報せを持って来る。

 

 

 

 

ユニウスセブンの周辺を巡回していたザフトの部隊が地球軍からの攻撃を受けているという事だ。

味方部隊も迎え撃つが、地球軍の抵抗が激しい為、状況は緊迫している。

 

その報告を聞いたプラントは早期決着を付ける為、本国から援軍をユニウスセブンへ派遣したという。

 

 

 

 

しかし、それはザフトの戦力の大半をユニウスセブンへ誘い込む為の地球軍の罠だったのだ。

 

地球軍の別動部隊がユニウスセブンの戦闘の隙を突き、本国であるプラントに迫って来ているという事らしい。

 

プラントに接近する地球軍を迎撃する為、ラクスの護衛の任務についていた俺にも出撃要請が来ている。

俺はその要請に応じて移動用シャトルに乗り、ヴェサリウスが停泊している宇宙港に急行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙港 ヴェサリウス入り口前

 

プラントを狙う地球軍の迎撃に向かう為、ヴェサリウスの入り口前にいるが、ラクスも一緒に来ている。

俺が出撃すると聞いて心配でついて来てしまったらしい。

 

 

「ダン…どうか、お気を付けて…」

 

 

ラクスは不安な表情で心配しながら俺の頬を触れる。

俺は自分の頬を触れているラクスの手の温もりを感じながらも、彼女の手に自分の手を重ねて安心させるように口を開く。

 

 

「うん。ラクスも、すぐに避難するんだよ」

 

「…はい…」

 

 

ラクスの返事を確認した俺は、彼女に見送られながらヴェサリウスに乗艦し、先にプラント付近で戦っている味方部隊がいる戦闘宙域に向けて出航する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェサリウスが戦闘宙域に近付いている中、俺は艦内のブリッジでアデス艦長の説明を聞いている。

 

 

「…知っての通り、現在地球軍は、このプラントに向けて迫りつつある。あの血のバレンタインの悲劇を繰り返さない為にも、何としても、奴等の侵攻を阻止しなければならん!」

 

 

 

 

血のバレンタイン…。

俺が両親を失った悲劇…。

もし俺達が地球軍の侵攻を止める事が出来なければ…今度はその悲劇が、ラクスがいるプラントで起きてしまう。

 

そうはさせない……

 

これ以上、俺の大切なものは奪わせない!!

 

 

 

 

「敵は既にプラント付近まで接近している。各員、直ちに出撃準備にかかれ!」

 

「「はっ!」」

 

 

アデス艦長の説明が終わり、出撃命令を受けた俺は、他のパイロット達と一緒にブリッジを後にし、モビルスーツデッキに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリッジを後にし、モビルスーツデッキに向かっていると……

 

 

「先程の君の眼、中々強い意思のこもったものだったよ」

 

 

後ろから誰かに声をかけられ、その声の方を向くと、俺と同じ赤服を纏った男が近付いてくる。

 

 

「…貴方は?」

 

「ああ。突然ですまない。俺はジャン・エクシーグ。君とは違う隊に所属しているが、プラント防衛の為に招集を受けてここにいる。君の活躍は噂で聞いているよ。今回はよろしく頼む」

 

「…こちらこそ」

 

 

ジャン・エクシーグという人物と挨拶を済ませた後、俺は彼と一緒にモビルスーツデッキに急いで向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パイロットスーツに着替え、久しぶりに乗機であるソウルに乗り込み、出撃準備を整える。他のパイロット達もそれぞれのモビルスーツに乗り込み、次々とヴェサリウスから発進していく中、ソウルに通信が繋がってくる。

 

 

『ダン・ホシノ』

 

 

通信相手はさっき艦内通路で出会ったジャン・エクシーグだ。

 

 

『守るべきものの為に闘志を燃やす事も大事だが、あまり燃やしすぎると、肝心なものが見なくなってしまう。くれぐれも気を付けたまえ』

 

「…分かった」

 

『俺も若いから引き起こしたくないものだ。若さによる功の焦りと、過ちというものを、ね…』

 

《エクシーグ機、カタパルトへ》

 

 

ジャン・エクシーグからアドバイスを受けていると、艦内アナウンスが彼の番を伝えてくる。

 

 

『どうやら時間のようだ。ではダン・ホシノ、先に向かっているよ』

 

「…ああ」

 

 

互いに通信を切り、エクシーグが搭乗するシグーがカタパルトに移動し、発進した後、俺の番が回り、ソウルをカタパルトへ移動させる。

 

発進位置に着いたソウルのコックピット内で、久しぶりの宇宙での戦闘に集中するように呼吸をする。

 

 

「…ダン・ホシノ、ソウル行きます!」

 

 

第8艦隊との戦闘以来の宇宙へソウルを出撃させ、エクシーグ機と一緒にプラントに迫る地球軍の迎え撃つ為、全速力で戦闘宙域に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘宙域に到着すると、すでに戦闘は始まっていた。

 

ソウルのビームライフルを構え、プラントに向かおうとしている数機のメビウスを撃ち抜き、エクシーグ機も続くようにアサルトライフルでメビウスを撃墜していく。

 

敵艦から次々と出撃してくるメビウスを撃墜するが、敵の勢いが落ちる気配がない。それでも俺達はプラントを防衛する為、迎撃に専念する。

 

 

 

 

地球軍を迎撃してからしばらく経ち、ようやく敵の勢いが落ち始めるが、そこへヴェサリウスからの入電で更に厄介な報せが来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プラントの背後に地球軍の艦隊…!?」

 

『なんと!ここの敵部隊も囮だったのか…』

 

 

俺達がプラントから少し離れた場所で攻防戦を繰り広げている間に、新たに地球軍の艦隊が本国の背後に現れたらしい。

まさかユニウスセブンだけでなく、プラントでも陽動を仕掛けるとは…。

 

 

『ダン!ここは俺達に任せろ!』

 

 

敵を迎撃している最中、味方のジンがソウルに通信を繋げ、プラントに戻るよう伝えてくる。

 

 

『ジャンも!俺達が敵を食い止めてる間に、早くプラントに!』

 

 

背中を押すようにもう1機の味方のジンがエクシーグ機に通信で伝えてくる。

 

 

『…ダン・ホシノ。ここは彼等に任せて、我々はプラントに戻ろう!』

 

「…了解した。ここは頼むぞ!」

 

 

エクシーグの言葉に答え、味方の部隊に後を任せ、ヴェサリウスに通信を繋げる。

 

 

「こちらソウル!プラント背後に現れた地球軍の迎撃の為、戦闘宙域を離脱する!」

 

『味方部隊!我々に続け!』

 

 

ソウルとエクシーグ機は、シグー、ジン数機を連れて急ぎプラントに引き返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラントに戻ると、すでに味方部隊が地球軍と攻防戦を始めていた。

ソウルはビームライフルで、エクシーグ機はアサルトライフルで、接近してくるメビウス部隊を撃ち墜としていく。

敵も反撃してくるが、それをソウルのスラスターを生かした回避とシールドで防ぎ、エクシーグ機は巧みに回避しながら迎撃していく。

 

 

 

 

しかし、少し目を離した内に、数機のメビウスがこちらの防衛網を突破し、プラントに進んでいく。

すぐに追撃しようとするが、敵に妨害されているせいで、追う事ができない。

敵の必死の抵抗で味方の数機が墜とされ、メビウス部隊は徐々にプラントに接近していく。

 

その光景を見た俺は、あの時の……

 

 

 

 

…血のバレンタインの時に両親がいたユニウスセブンが核ミサイルによって無惨と化した光景を思い出す…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクスが死ぬ……

 

両親を失った時のように……

 

 

 

 

させない……

 

 

 

 

そんな事はさせない……

 

 

 

 

絶対にさせない!!

 

 

 

 

ラクスは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対に死なせない!!

 

 

 

 

そう心の中で強く思った瞬間、俺の中で何かが弾け飛ぶような感覚がした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ラクスは、絶対に死なせない…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャンside

 

 

一体何が起きたというのだ…。

 

先程まで、俺と一緒に地球軍を迎撃していたはずのダン・ホシノは近くにはおらず、プラントに向かっていたメビウスの部隊は、いつの間にか残骸と化している。

 

 

 

 

そして、メビウスの残骸の近くには、ダン・ホシノが操縦するソウルの姿がある。

 

 

「まさか…彼がやったというのか…」

 

 

敵味方も少しの間、唖然としていたが、地球軍はすぐに立ち直り、ソウルに攻撃を仕掛けてくる。

ソウルはメビウス部隊の攻撃を、なんとシールドを使わず、スラスターによる機動力のみで全て回避し、ビームライフルで次々と撃ち落としていく。

 

 

それを見て不利と見たのか、メビウス部隊はソウルを無視し、プラントを狙って直進を始める。

残っている味方と共に迎撃してそれを阻止しようするが、またしてもメビウス数機を通してしまう。

 

 

 

 

しかし、その数機のメビウスをソウルはビームライフルで撃ち抜いたり、ビームサーベルで両断に斬ったりと一瞬にして撃墜してしまう。

 

ダン・ホシノの活躍もあり、プラント周辺の敵を一掃に成功すると、彼は単機で敵艦隊に突撃を仕掛ける。

 

 

「早期決着を着けるつもりか…」

 

 

しかし、俺と同じ赤服とはいえ、ただ1機で敵艦隊を突撃など、あまりにも無謀すぎる。

 

しかし、援護に向かおうする我々は目を疑った。

 

 

 

 

なんと彼は、数隻の敵艦の砲撃をソウルの機動性で一発も被弾せずに全て回避していき、メビウスを出撃させる隙を与えず、ビームライフルで敵艦のハッチとブリッジを撃ち抜き、次々と撃沈させてしまう。

 

ソウルが殲滅した艦隊が主力だったのか、残っているメビウスの部隊と、プラントから少し離れた宙域、そしてユニウスセブン周辺で味方と戦っていた敵艦隊は逃げるように撤退していく。

 

 

 

 

ソウルの驚異的な活躍には驚いたが、そのおかげで プラントの危機は去り、本国の防衛に成功する事ができた。

 

 

「…彼に感謝しなければな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンside

 

 

俺は必死だった。

 

ラクスを死なせたくない…その一心で、必死に戦っていた。

 

しかし、心とは反対に感覚は落ち着いており、冷静に敵の対処をしていた。

 

 

 

 

まるで自分自身が別人のように…。

 

 

 

 

そして気が付いた時には、地球軍の部隊は既に壊滅しており、残った敵戦力は月の方へと撤退していく。

 

とにかく、本国を防衛したソウルは、ジャン・エクシーグ達と一緒にヴェサリウスに帰還する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェサリウス艦内 モビルスーツデッキ

 

ヴェサリウスに戻り、ソウルから降りると、乗組員達が俺の周りに集まってくる。

 

 

「ダン!お前凄いじゃないか!」

 

「メビウス部隊をあっという間に倒しちまうとはな!」

 

「ダン。どうやったらあんな風にできるんだい?」

 

 

突然の歓声を受け、どう対処するか考えていると、ジャン・エクシーグが乗組員達の間を通り抜け、俺に話しかけてくる。

 

 

「先程の戦い、見させてもらったよ。見事な戦果じゃないか」

 

「いや、正直俺も驚いている。今までソウルを使いこなしているつもりだったが…まさかあんな風に操縦できるとは思ってもみなかった…」

 

 

俺はソウルを見上げながらジャン・エクシーグに返事をする。ソウルの事はデータを見て全て把握していたつもりだった。

 

 

「だが、理由はどうあれ、君が地球軍を退ける大きな功績を挙げた事には変わりはない。それは誇りに思うべきだ」

 

 

ジャン・エクシーグは優しい笑みを見せ、先程の戦闘を誉めてくれる。

 

 

「…ああ。ありがとう」

 

 

俺が礼を言うと、ジャン・エクシーグは手を出して握手を求めた為、彼の手を握ってそれに答える。

 

 

「…ではダン・ホシノ、今度会った時は、ゆっくり話をしようじゃないか」

 

 

握手していた俺の手を離したジャン・エクシーグは笑みを見せ、モビルスーツデッキを後にする。

俺は彼の後ろ姿を見えなくなるまで見届ける。

 

少し変わった人物だが、一緒にいて悪い感じはせず、逆に落ち着くほどに、不思議な人物だ…。

 

 

 

 

ジャン・エクシーグが去った後、再び乗組員達からの質問の嵐を受けながらも、俺は説明できる範囲を答えていき、ヴェサリウスでラクスが待っているプラントに戻るのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

手にした幸福

地球軍の迎撃に成功し、プラントに戻ると予想通り、プラント市民が歓声を上げて出迎えてくる。しばらくその歓声を受けていると、ラクスの護衛を一緒にしている数人のボディガードが市民の間を抜け、俺のところへ歩み寄ってくる。

 

 

「ダン・ホシノ。シーゲル様が向こうの車でお待ちだ」

 

 

ボディガード達に守られながら市民の間を抜け、一台の黒の車に乗り込むと車内にシーゲルさんが乗っていた。

 

 

「ダン。無事で良かったよ」

 

「シーゲルさん!」

 

 

俺が車に乗ると、ボディガードの運転で車が動き出し、市民の歓声を受けながらクライン邸へ向かう。

車がクライン邸に向かっている最中、シーゲルさんが俺に語りかけてくる。

 

 

「心配したが、無事に戻って来てくれて安心したよ」

 

「はい。シーゲルさんもご無事で。ところで、ラクスは?」

 

「あの娘なら自宅にいるよ。最初は一緒に君を待っていると言っていたが…あれだけの市民の数だ。大勢の前では話もしずらいだろう?だから先に家で待ってもらっているよ」

 

「…そうですか。ラクスも無事で良かったです」

 

「ああ。君が奮闘してくれたおかげで、プラントも、私達も守られた。本当にありがとう」

 

 

シーゲルさんの言葉を聞き、俺は先程の戦闘を思い出す。

あの時の俺は、敵の動きが見えるような感覚がした。

 

 

 

 

…あれは一体、何だったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とシーゲルさんを乗せた車が無事にクライン邸に到着し、邸内に入ると、ラクスが心配そうな表情でこっちに駆け寄って来る。

 

 

「ダン!お怪我はありませんか!?」

 

「大丈夫。どこも怪我はないよ」

 

「そうですか…貴方がご無事で、本当に安心しましたわ」

 

 

俺の返事を聞いてラクスは安心した表情で胸を撫で下ろす。

 

 

「さあ、立ち話はここまでだ。ダンも無事に戻ってきた事だし、皆で夕食にしようじゃないか」

 

「はい。お父様」

 

「ええ」

 

 

俺はあの時の戦闘の事を一旦忘れ、シーゲルさんとラクスと一緒に夕食を取る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食を取った後、俺は部屋の窓から夜空を眺めている。空には雲一つなく、多くの星が綺麗に輝いている。

 

本当に綺麗な星空だ。

 

 

 

 

空を眺めてると、ドアからノックの音が聞こえてくる。

 

 

「ダン。私ですわ」

 

 

どうやらラクスのようだ。

ドアの鍵を開けると、いつもの優しい笑顔を俺に見せてくれる。

 

 

「どうかしたのかい?ラクス」

 

 

「はい。ダンとお話がしたくて来ましたの。…少しだけ、よろしいですか?」

 

「ああ。構わないよ」

 

 

ラクスを部屋に入れ、彼女が座る椅子を用意し、俺は自分のベッドの上に座る。

何故かラクスも俺の隣に座っているが、それを気にせずに彼女に話しかける。

 

 

「それで、話というのは何だい?」

 

「…ダンが戻って来てから、何か考え事をしているように見えて、少し心配で…」

 

 

どうやら、ラクスには見抜かれていたようだ。

俺は先の戦闘での自分の行動について、知っている限りの事をラクスに説明をする。

 

 

 

 

「まあ…。そんな事がありましたの…」

 

 

敵の動きを見抜き、冷静に対処して敵を一掃してしまった自分に対して少し複雑な思いをしていると……

 

 

 

 

「…ですが」

 

 

ラクスが突然、俺の手の上に自分の手を重ね、優しく微笑む。

 

 

「ダンのその働きのおかげで、プラントも、父も、市民も守られたのでしょう?」

 

 

ラクスは俺の手を優しく握ってくる。ラクスの手の温もりのおかげで、心の中にあった複雑な気持ちが徐々に消えていく。

 

 

「もちろん、私も…」

 

 

ラクスの言う通りだ。

俺はラクスとシーゲルさんを失いたくない。その思いで戦った。そしてラクス達を守る事ができたんだ。

 

 

 

 

「ですからダンも、それを誇りに胸を張ってくださいな」

 

「…そうだね。ありがとう」

 

 

ラクスの言葉で心の中の複雑な思いが消え、俺が礼を言うと、彼女は満足したように笑顔を俺に見せてくれる。

 

その後、俺はラクスとしばらく雑談をしてから、明日に備えて休む事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラントの防衛から後日。

俺はラクスとシーゲルさんと一緒に車で最高評議会本部に向かっている。

理由は、先日のプラント防衛戦で功績を挙げたという事で、評議会本部で表彰式を行うらしい。

 

評議会本部に到着すると、俺の他にも数人の赤服が来ており、その中にはジャン・エクシーグの姿も見える。

 

 

 

 

表彰式が行われ、その最中、ジャン・エクシーグが俺に気付き、こっちに顔を向けて笑みを見せる。俺はそれを笑みを見せて小さく頷く事で答える。

 

俺とジャン・エクシーグは表彰だけではなく、隊長に任命され、それぞれ部隊を率いる事になった。

 

全員の表彰が終わり、拍手と歓声が鳴り響く。

俺の表彰式を見ていたラクスの方に顔を向けると、彼女は自分の事のように喜んで拍手を送ってくれている。

 

そんな幸福感に包まれながら表彰式は無事に終わり、評議会本部を後にし、それぞれの持ち場に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表彰式から2日が経ち、シーゲルさん達最高評議会の働きもあり、プラントは落ち着きを取り戻し、普段の日常に戻りつつある。

しかし、評議会では地球軍の襲撃もあり、ザラ委員長によるナチュラル討伐の主張が激しく、かなり緊迫化している。

 

プラントの市民の不安を少しでも取り除けるように、ラクスはコンサートに向けてリハーサルに励み、俺はいつも通り彼女の護衛を務めている。

 

 

 

 

「本日もお疲れ様でした。以前の騒動からしばらく経ってはおりますが、プラント市民はまだ不安に襲われております」

 

 

「そうですか…。せめて本番のコンサートでは、少しでも市民の方々の不安がなくなるとよろしいですわね」

 

 

リハーサルを終え、クライン邸に向かう車の中で女性マネージャーの言葉を聞いたラクスは、プラント市民の事を気にかけるように語っている。

 

それもそうだ。

地球軍…ナチュラルに自分達の居場所であるプラントを襲撃されたからな。不安になるのも無理はない。

 

しかし、この先何があろうと…俺はラクスを守る。

 

それだけだ。

 

 

 

 

その思いを抱きながら、俺はラクスと一緒にクライン邸に戻るのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

望まぬ再会

無事にクライン邸に帰宅し、邸内に入るとドルフとハロ達が出迎えにやって来る。

 

 

「ただいま」

 

「うふふ。みんな、良い子にしていましたか?」

 

『ウォン!ウォン!』

 

『『『ハロ、ハロ!ハロ、ハロ!』』』

 

 

元気良く返事をするドルフとハロ達を見てラクスは嬉しそうに微笑む。

 

リハーサルで不在の間、執事さん達にドルフ達の相手をしてもらい、一緒にいる機会が少ない為、心配していたが、帰宅時はこうして出迎えてくれている。

 

 

 

 

ラクスと一旦別れ、自室でドルフの相手をしながら寛いでいると、ドアがノックされる。

 

 

「ダン様。ユーリ・アマルフィ様からお電話が来ております」

 

 

どうやら、来たのは執事さんらしい。

 

ユーリ・アマルフィといえば、評議会議員の一人でニコルの父親だったな。ニコルの自宅に遊びに来た時は、いつも良くしてくれたり、お茶をご馳走してくれた事もある。

 

そのユーリさんが、一体どうしたんだ?

 

 

 

 

とにかく、俺は執事さんからの呼び出しに返事をし、2階から降り、電話があるリビングへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リビングに来てみると、一人のメイドのアリスさんが受話器を両手で丁寧に持ちながら待ってくれている。

 

 

「ありがとう。アリスさん」

 

 

俺が礼を言って受話器を受け取ると、アリスさんは一礼をしてリビングから退室する。

俺は受け取った受話器を耳にあてる。

 

 

「…もしもし」

 

「…ダンくん…」

 

 

元気がないせいか、声は少し小さいが、俺はこの声に聞き覚えがある。

 

 

「…ユーリさん?どうかしたんですか?元気がないみたいですけど…」

 

「…ダンくん…。ニコルが……」

 

 

ニコル?

 

ニコルはアスランと一緒にオーブで足付きを追っているはずだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ニコルが……死んだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ユーリさん…?今、なんて…」

 

「…今朝…軍本部から連絡が来て、オーブでの任務の最中…ストライクとの戦闘で…戦死したと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニコルが死んだ……

 

 

 

 

キラの手にかかり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分かってはいた……。

 

 

 

 

俺とキラは敵同士。

 

どちかがどちらかを討つ。それは当然の道理だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…しかし、違う結果になってしまった。

 

 

 

 

皮肉な事に、俺がプラントでラクスの護衛をしている間、オーブで足付きに奇襲を仕掛けるも、再びストライクの奮闘に徐々に追い込まれ、ブリッツを負傷させながらも、ストライクに討たれそうになるイージスを救う為に挑むも返り討ちに遭い、死んでしまったらしい…。

 

 

 

 

その後、ユーリさんは声を震わせながらも、ニコルの事を語り、落ち着いたのか、話に付き合わさせた事を俺に詫びて電話を切った為、俺も受話器を戻す。

 

 

 

 

「ダン。どうかなさいましたか?」

 

 

背後からラクスの声が聞こえ、振り返ると彼女が笑顔で立っていた。

きっとお茶が飲みたくて来たんだろう。

 

 

「…いや、なんでもないよ」

 

 

俺はラクスに心配させないように、すぐに笑顔を作り、彼女に返事をする。

 

しかし、俺の返事を聞いた直後、笑顔だったラクスの表情は次第に悲しそうな表情となり、俺の側まで歩み寄って頬を優しく触れてくる。

 

 

 

 

「……何か、ありましたの?」

 

 

俺はラクスの言葉を聞いて驚愕する。

ばれないように表情は平然を装っていたはずなのに…。

 

それを察したのか、ラクスは再び微笑む。

 

しかし、それはいつもの明るい笑顔ではなく……

俺が何に悩んでいる時にしか見せない…母親のような優しい笑顔を俺に見せる。

 

 

「ダンが何かで悩んでいらっしゃる事ぐらい、すぐに分かりますわ。それほど一緒に暮らしているんですもの」

 

 

…やはり、ラクスには敵わない。当然だ。

ラクスが俺の悩みを見抜くように、俺も久しぶりに会った時、彼女が公式の場で平然としていながらも、とても嬉しそうに微笑んでいる事を見抜くくらい、互いの事を良く理解しているからな。

 

とりあえず、俺はラクスと一緒に自室に移動する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウォン、ウォン』

 

 

俺がラクスを連れて自室に戻ると、ドルフが嬉しそうに俺達の側に駆け寄ってくる。

 

 

『…クゥン…』

 

 

しかし、俺が気を落としている事に気付いたのか、ドルフは俺の心配をするように鳴いている。

 

俺はベッドの上に座り、ラクスも隣に座ったのを確認すると、電話の相手がユーリさんであった事、電話の内容を彼女に説明する。

 

 

 

 

「……そうですか。ダンのご友人の方が…」

 

「分かってる…。俺とキラは今は敵で、互いに譲れないものもある…。頭では分かってる…分かってはいるんだ…」

 

 

しかし、心の中では特に仲が良かった友人のニコルが死んでしまった事に対する悔しさを噛み締めている。

 

すると、ラクスが俺を優しく抱きしめてきて、突然の事でかなり驚愕している。

 

 

「ダン……我慢しなくても、よろしいんですよ」

 

 

動揺する俺に気にする事なく、ラクスは俺の背中を優しくさすりながら静かに語り出す。

 

 

「大人になったら、色々と我慢しなければならない事もあります…。…ですが、私の前だけでは、素直な貴方を見せてくださいな…」

 

 

俺の頭を優しく撫で、抱きしめるラクスの暖かさを感じながら、俺は幼い頃に母さんがこうして慰めてくれた事を思い出す。

 

その瞬間、抑えていた感情が弾け飛び、俺は声を殺しながら、ラクスの腕の中で涙が枯れるまで泣いた。

その間、ラクスは俺の背中を優しくさすってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…落ち着きましたか?ダン」

 

「ああ。ありがとう、ラクス」

 

 

しばらくラクスの腕の中で泣いたおかげで、落ち着きを取り戻した俺は彼女から少し離れる。

そして俺の返事と礼を聞いたラクスは、安心したような優しい笑顔を見せてくれる。

 

その後は自室でラクスだけでなく、ドルフ、ハロ達を含め、雑談をしていると、ドアをノックする音が聞こえくる。

 

 

「ラクス様。ダン様。シーゲル様がお戻りになられました」

 

 

ノックしてきたのは、さっきリビングで受話器を持って待っていてくれたアリスさんのようだ。

アリスさんからシーゲルさんが帰ってきた事を聞いた俺とラクスは、ドルフとハロ達を部屋で待たせて玄関へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玄関に到着した俺達に気付いたシーゲルさんは、鞄とコートを執事さんに任せ、俺達に笑みを見せてくれる。

俺はラクスと一緒にシーゲルさんのところへ歩み寄る。

 

 

「ただいま、二人とも」

 

「お帰りなさいませ、お父様」

 

「シーゲルさん。お帰りなさい」

 

 

シーゲルさんと俺とラクスが返事をした後、笑顔だったシーゲルさんの表情が少し悲しそうな表情に変わる。

 

 

「ダン…。君の友人のニコル・アマルフィの事は聞いたよ…。とても辛いだろう…?」

 

 

そう言ってシーゲルさんは、気にかけてくれるように俺の肩に手を置く。

 

 

「心遣い、ありがとうございます。…しかし、今の俺はザフトの軍人です。戦いになれば、いつ命を落とすか分かりません。だからこそ、自分にできる事を精一杯やるだけです。それが…死んだニコルの為にもなると思います」

 

 

俺の言葉を聞いてシーゲルさんは少し驚き、ラクスは悲しそうに俺を見るが、これ以上ニコルに関しての話をする様子はなかった。きっと、俺を気にかけてくれるシーゲルさん達なりの優しさだろう。

その後はいつも通り、三人で一緒に夕食を取った後、自室でドルフの相手をしながら寛ぐ。

ニコルを失った俺を心配してなのか、ラクスも一緒に部屋にいて、寝る時間になるまで、ずっと側にいてくれたおかげで今日は落ち着いて眠る事ができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンサートまで後わずかとなり、俺達がクライン邸で朝食を取っている最中、シーゲルさんが話を切り出してくる。

 

 

「そういえば、今日はマルキオ導師がプラントにお越しになるそうだ」

 

 

 

 

マルキオ導師。

元は宗教界のナチュラルだが、ジョージ・グレンのあの公表から始まった遺伝子に関する宗教闘争に嫌気がさし、宗教界から抜けた後は “遺伝子操作による優劣”よりも“人と世界の融和による変革” を地球・プラントの双方に説くようになり、今ではナチュラルからも、コーディネイターからも信頼されている人物だ。

 

 

 

 

「どんな方なのかしら。楽しみですわね、ダン♪︎」

 

「ああ。そうだね」

 

 

笑顔で言うラクスに対し、俺も同じように笑顔で彼女に答える。

 

 

「はははっ。そう急がずとも、近い内に会えるさ」

 

 

シーゲルさんの話によると、連合側の事務総長オルバーニから託された親書「オルバーニの譲歩案」を評議会へ提出する為にプラントに来るらしい。

 

親書を評議会に渡した後は、地球に戻る予定だったが、別の用事の為、昼辺りにクライン邸に来るらしい。

 

 

 

 

しかし現在、最高評議会はシーゲルさんではなく、予備選別と住民投票を勝ち取ったザラ委員長が議長に就任され、現在は委員長率いるザラ派が政権を握っている。

ナチュラルに敵意を持っている、あのザラ委員長がその案を受け入れるとは到底思えない。

 

とにかく、朝食を終えた俺は、いつも通りにラクスの護衛の為、彼女と一緒にリハーサルへ向かうが、マルキオ導師の訪問もある為、今日のリハーサルは午前中で終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クライン邸に戻ると、まだマルキオ導師は来ておらず、シーゲルさんもまだ帰って来ていない。

きっとシーゲルさんはマルキオ導師を迎えに行っているんだろう。

 

庭でラクスとお茶を飲みながら帰りを待っていると執事さんがやって来る。

 

 

「ラクス様。ダン様。シーゲル様がお客様をお連れになり、お戻りになられました」

 

 

執事さんの報せを聞いた俺とラクスは、すぐに玄関の方へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玄関に着くと、シーゲルさんの側に盲目なのか両目を閉じている男性がいる。

 

 

「ただいま二人とも」

 

「お帰りなさいませ、お父様」

 

「お帰りなさい」

 

 

ラクスと俺が返事をすると、それを聞いたシーゲルさんは笑顔で頷き、盲目の男性の方に顔を向ける。

 

 

「マルキオ導師。この子達が先程お話した、娘のラクスと養子のダンです」

 

 

どうやらこの盲目の男性が、今朝シーゲルさんが言っていたマルキオ導師のようだ。

シーゲルさんがマルキオ導師に俺達の紹介をした為、俺達はマルキオ導師に挨拶をする。

 

 

「初めまして、マルキオ様」

 

「…初めまして」

 

「わざわざのご挨拶、痛み入ります」

 

 

俺達が一礼して挨拶すると、マルキオ導師も一礼をして答えてくれる。

 

 

 

 

マルキオ導師は何故か俺の顔をずっと見ている。

 

 

「…何か?」

 

「っ!これは失礼しました。貴方から……

“彼”と同じ感じがしたもので…」

 

 

俺が声をかけると、マルキオ導師は俺をずっと見ていた事を詫びる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“彼”?

 

 

 

 

「ダン、ラクス。実は、ここへ来たのはマルキオ導師だけではないのだよ」

 

「あら?他にも、どなたか?」

 

「はい。どうしても、あなた方に会わせたい方がいる為、ここへ連れて参りました」

 

 

俺達に会わせたい人?

 

一体誰の事だ?

 

 

 

 

そう思いながらもシーゲルさんとマルキオ導師についていく感じで外に出ると、シーゲルさん達が乗っていた車の他に、一台のワゴン車が停まっている。

ワゴン車の後部ドアが開かれ、そこから誰かを乗せたストレッチャーを引いた医師と看護婦が出てくる。

 

そして、そのストレッチャーの上で眠っている人物の顔を見て、俺は驚愕を隠せなかった。

 

 

 

 

何故なら、眠っている人物が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球にいる筈のキラだったからだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

慟哭の空

「……キラ…」

 

 

何故、地球にいる筈のキラがマルキオ導師と一緒にプラントに…?

 

 

 

 

…しかも怪我を負った状態で…。

 

治療後なのか、キラの体のあちこちには包帯が巻かれており、顔にはキズバンが貼られている。

 

 

一体、地球で何があったんだ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな疑問を抱いていると、キラを乗せたストレッチャーがクライン邸内へ運ばれていく。

 

俺達もそれに続くように邸内に入ると、医師がシーゲルさんのところに歩み寄ってくる。

 

 

「シーゲル様。仰る通りにここへ運びましたが、彼はどこの部屋で寝かせればよろしいでしょうか?」

 

 

医師の問いに、キラをどの部屋に寝かせるかで考えていると……

 

 

 

 

「あ。それでしたら、良い提案がありますわ♪︎」

 

 

そこへ自分の両手をパンと叩いて主張し出すラクス。

 

 

 

 

…何故か表情が楽しそうに見えるのは気のせいか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、何故ここなんだいラクス?」

 

「あらあら。私はとても良いと思いますが…。ダンはお気に召しませんでしたか?」

 

「いや、そういう訳じゃないが…」

 

 

ラクスが提案したキラを安静にさせる場所。

 

そこは客室ではなく、何故かクライン邸付近の庭で、周りはガラスの壁で覆われ、見渡しも結構良い。

 

キラの様子を見てみると状態は安定しており、良く眠っている。

 

 

「マルキオ導師。何故キラをここに…?」

 

「それはですね…」

 

 

マルキオ導師からの話によると、キラが持っていた認識票の刻銘のみで俺とラクスの関係者だと見抜いたらしい。

 

しかし、刻銘だけで俺達とキラの関係を知ってここまで運んで来るとは……

 

 

 

 

もしや、マルキオ導師は本当は超能力者なのか…?

 

 

「とりあえず、彼が目を覚ますまでは、このまま安静にさせておこう」

 

 

シーゲルさんの言葉に俺とラクスは頷いて答える。

マルキオ導師もしばらくの間はクライン邸に滞在するらしい。

 

その後は、マルキオ導師を含めた四人で食事を取ったり、ラクスと一緒に導師から地球について色々と話を聞いたり、それ以外に雑談をしながらキラが目を覚ます時を待つ事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから少し経ち、遂にコンサートまで明日となった。

 

昨日のリハーサルの後、スタッフから本番に備えて休むようにという事で、今日はリハーサル無しで、俺はラクスと一緒にクライン邸で休息を取っている。

 

 

 

 

『ウォン!ウォン!ウォン!』

 

『ハロ、ハロ!ハロ、ハロ!』

 

 

ドルフとハロ達は、俺達と久しぶりに1日中一緒にいられるのが嬉しいのか、かなりはしゃいでいる。

 

 

「よし、良い子だ」

 

「まぁ、どうしてそういうことするの?悪い子ですねグリーンちゃん。そういう子とは遊んであげませんよ?」

 

 

俺はドルフ、ラクスはハロ達の相手をしていると……

 

 

 

 

『テヤンデー』

 

「あ…ピンクちゃん、いけませんよ。そちらは…」

 

 

突然、単独でどこかへ行くピンクハロをラクスが追いかけていく。

俺はドルフに残ったハロ達の相手を任せ、ラクスの後を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンクハロを追って辿り着いた場所……

 

 

 

 

その場所は、俺達が用意したキラの寝室だった。

ピンクハロを見ると眠っているキラのベッドの上に乗り、じっとしている。

 

ラクスがピンクハロを拾い上げると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うぅ……」

 

「!?」

 

「あ!おはようございます」

 

 

 

 

眠っていたキラが、遂に目を覚ました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

約束の地に

「…こ…こ…は…」

 

 

目覚めたばかりなのか、キラの意識はまだはっきりとはしておらず、少し離れている俺にはまだ気付いていない。

 

 

 

 

 

俺は近くの木の陰に隠れ、しばらくキラ達の様子を見る。

 

 

 

 

「お解りになります?」

 

『ハロ!ゲンキ!オマエ!ゲンキカ!?』

 

 

ラクスの声に反応したキラは顔だけをラクスの方に向ける。

 

 

「…ラクス…さん…」

 

「あら。ラクスとお呼び下さいな。キラ。でも、覚えていて下さって嬉しいですわ」

 

『マイド!マイド!』

 

 

ラクス達のやり取りを見ていると、マルキオ導師がラクス達の方に歩いていくのを見かける。

その途中、マルキオ導師が木に隠れている俺を見るが、声をかける事なく、笑みを見せて小さく頷き、ラクス達の方へ歩いていく。

ラクス達のところに着いたマルキオ導師がキラに声をかける。

 

 

 

 

「驚かれたのではありませんか?このような場所で。ラクス様が、どうしてもベッドはここに置くのだと聞かなくて…」

 

「だって、こちらの方が気持ちいいじゃありませんか、お部屋より。ねぇ?」

 

 

キラはまだ意識がボーとしている状態で上を見上げる。

 

 

「僕は…」

 

「貴方は傷付き倒れていたのです。私の祈りの庭で……そして、私がここへお連れしました」

 

「あら?そういえば、ダンの姿が見当たりませんわね」

 

 

ラクスが俺の名前を言い出した途端、キラが上半身だけを凄い勢いで起こす。

 

 

「あぁ…ぁ…」

 

「キラ?」

 

 

キラは両手で頭を押さえながら震えている。

ラクスはそんなキラの両肩に手を置いて落ち着かせる。

 

 

『アカンデー』

 

 

ハロはハロで、相変わらず空気を読まずにはしゃいでいる。

 

 

 

 

「…僕は…アスランと…戦って……死んだ…筈…なのに…」

 

 

そんなハロの事は気にせず、キラはアスランと戦った事を語る。キラとアスランの殺し合いを知り、驚きを隠せなかったが、それでキラが怪我を負った理由を知る事ができた。

 

 

「キラ…」

 

 

ラクスに支えられながらも泣き続けるキラ。そんな状態のキラに会う事にためらいを感じた俺は、ばれないようにクライン邸内に入り、キラが落ち着くまでしばらく待つ事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウォン、ウォン』

 

「…ドルフか」

 

 

リビングからキラの様子を見ていると、ハロ達の相手をしていたドルフがこっちに向かって走ってくる。

 

 

「ハロ達の方は大丈夫なのか?」

 

『ウォン』

 

 

俺のところに来たドルフの頭を撫でると、尻尾をブンブン振りながら喜ぶ。そして一度だけキラがいる方向に顔を向けると再び俺を見上げる。

 

 

「…そろそろ会えって事か?」

 

『ウォン』

 

「…わかった。行こうか」

 

『ウォン!』

 

 

俺はキラの様子を見に行く為、ドルフと一緒にクライン邸から出て、ラクス達がいる庭に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『テヤンデー』

 

『ハロハロハロ』

 

 

庭に来るとハロ達とオカピが追いかけっこをしながら遊んでいる。

 

キラの方を見てみると、さっきより落ち着いた状態でベッドで安静にしている。

キラの横ではラクスがいつものように手慣れた手つきでお茶を入れ、キラの近くに置く。

 

ドルフと一緒にラクス達のところに向かっていると話し声が聞こえてくる。

 

 

 

 

「どうしようもなかった…」

 

 

キラは独り言のように語り出す。

 

 

「僕は…アスランとダンの仲間を…殺して……

アスランは…僕の仲間を殺した…」

 

 

 

 

「(…俺がいない間に、オーブでそんな事が起きていたのか…)」

 

 

落ち着いているとはいえ、今のキラの心と精神は不安定な状態だ。

このままだと、いずれキラの心と精神は崩壊し、脱け殻のようになってしまうだろう。

 

 

 

 

ニコルを殺された怒りを忘れた訳じゃない…。

 

…とはいえ、友であるキラを仇として討つつもりもない。

 

 

『クゥン…』

 

「…大丈夫だ。行くぞ」

 

 

俺は心配しているドルフを安心させ、キラ達の方へ歩み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから…」

 

 

 

 

「だから殺し合ったのか?」

 

 

 

 

続けて語ろうとするキラに対し、俺は割り込むように声をかける。

 

 

「…っ!?」

 

 

俺の声に反応したのか、キラは顔だけを俺に向け、目を見開いてかなり驚いている。

 

 

「…ダ…ン…」

 

 

驚愕しているキラとは対象的に、俺の表情はおそらく怒っているように見えるだろう。

心配そうな表情のラクスに見守られながら、俺はキラの方に歩み寄る。

 

 

「結果的に…お前はニコルを殺し、アスランはお前の仲間を殺した。それは紛れもない事実だ」

 

 

俺の言葉を聞いてキラは図星を突かれたように複雑そうな表情で俺から視線を背ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…だが…」

 

 

俺が言いたいのは、そんな事じゃない。

 

 

 

 

「それは仕方ない事じゃないのか?」

 

 

俺がそう言うと、キラは背けていた視線を再び俺に向ける。

 

 

「その時の俺達は、敵同士で…戦争をしていたんだ」

 

 

真剣な表情で言う俺を見て驚くキラに、今度はラクスが微笑んで話しかける。

 

 

「ダンの言う通りですわ。お二人とも敵と戦われたのでしょう?違いますか?」

 

 

ラクスの言葉が決め手となったのか、驚愕していたキラは落ち着きを取り戻したように上を見上げる。

 

 

 

 

「…敵…」

 

 

キラはそう呟いて上を見続ける。

 

とにかく、キラが落ち着きを取り戻したのを確認した俺とラクスは互いに笑みを見せる。

後はキラの怪我が完治するのを待つだけだ。

 

 

 

 

今後の事は…その後だ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

平和への祈り

マルキオ導師の訪問、そして安静中のキラが目覚めてからしばらくして、遂にラクスの新曲披露のコンサート当日を迎える。

 

 

 

 

玄関前には会場に向かう為の車が用意され、護衛の為のボディガード達も配置されており、執事さん達が見送りに来てくれている。

 

 

「ではマルキオ導師。しばらくの間、留守をお願いします」

 

「マルキオ導師。キラの事、よろしくお願いします」

 

「わかりました。道中お気を付けて」

 

「ドルフ、ハロちゃん達、ちゃんと良い子にしているんですよ?」

 

『ウォン、ウォン』

 

『『『ハロハロ、ハロハロ』』』

 

 

それぞれの会話を終えた俺達は用意された車に乗り、執事さん達の見送りを受けながらコンサート会場に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クライン邸を出発してから十数分後。

 

俺達の乗る車がコンサート会場の手前まで来ると、数えきれない程の観客、ファン達が歓声を上げながら手を振っている。

それに答えるようにラクスは車越しから観客達に笑顔を見せて手を振って答える。

 

会場入口に到着した後、俺は車から降りてボディガード達と一緒にラクス達の護衛をしながら会場内に入場する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーゲルさんを他のボディガード達に任せ、俺は数人のボディガード達と一緒にラクスを専用の控え室に送り届ける。

控え室前に着くと、既に女性マネージャーとメイク担当者が待機している。

 

 

「ラクス様、お待ちしておりました」

 

「衣装とメイクの準備は整っております」

 

「ありがとうございます。では皆さん、よろしくお願いします」

 

「じゃあ、俺達はここで見張りながら待っているよ」

 

「はい。しばらくの間、待っていてくださいね」

 

 

ラクスはそう言って女性マネージャーとメイク担当者と一緒に控え室に入っていく。

俺はボディガード達と一緒にラクスの準備が整うまで、不審者を近付けないように見張りながら待つ事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクスが控え室に入ってから30分が経ち、準備を終えたのか、女性マネージャーが出てきて声をかけてくる。

 

 

「ラクス様の準備が整いました」

 

 

それを聞いた俺とボディガード達はラクス護衛の為、更に周囲の警戒を強めていると、女性マネージャーが俺にしか聞こえない声で話しかけてくる。

 

 

「ラクス様が貴方に用があるとお呼びです」

 

 

「(ラクスが俺に…?)…了解だ」

 

 

俺が女性マネージャーと一緒に控え室に入ると、そこには、いつものロングヘアーと髪飾りではなく、ツインテールの髪型、空をモチーフとした水色のドレスを着用したラクスの姿があった。

 

いつもと違うラクスの姿を見て俺は言葉が出なかった。

いつものラクスも綺麗だが、コンサート用の別のドレスを着ているラクスは更に魅力的だった。

 

 

「うふふ。どうなさったんですかダン?」

 

 

そんな俺の思考を読んだようにラクスは優しく微笑みながら声をかけてくる。

 

 

「え…?いや…なんでもないよ」

 

 

少し顔を赤くしながら言う俺の表情を見て、ラクスはクスクスと笑いながらも笑顔を見せてくれる。

 

さっきまでいた女性マネージャーとメイク担当者は、いつの間にか空気を読むように退室している。

 

 

「それで…いかがですか?」

 

 

アピールをするように横にクルッと回りながらコンサート用のドレスを纏った自分の姿を俺に見せてくれる。

 

ラクスに声をかけられ少し焦りながらも、俺はすぐに自分の思ってる事を伝える為に返事をする。

 

 

「ああ。似合ってるよ、とても」

 

 

嘘偽りのない俺の返事を聞いたラクスは嬉しそうに微笑む。

 

 

「ありがとうございます。正直、ダンに喜んで頂けるか心配しましたが、そう言って下さってとても嬉しいですわ」

 

 

互いに笑みを見せ合った後、ラクスは静かに語り出す。

 

 

 

 

「いよいよ…ですわね」

 

「そうだね。色々あったね…」

 

 

ラクスの護衛…

 

プラントへの帰還…

 

地球軍の進攻によるプラントの防衛…

 

 

 

 

そしてキラとの再会…。

 

 

 

 

色々あったが、ようやく無事にコンサートを向かえる事ができて安心している。

 

後はラクスがリハーサルの成果を本番で発揮できるように、俺は自分にできる事をやるだけだ。

 

 

 

 

「さあダン、参りましょう」

 

「うん。行こうか」

 

 

ラクスと一緒に控え室を出た俺は、待機していたボディガード達と一緒に周囲を警戒しながら彼女の護衛をしながらコンサートの舞台裏への移動を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台裏に到着すると、カーテン越しからでも聞こえる程に観客の声が聞こえてくる。

ラクスの方を見ると、緊張しているのか、深呼吸をしている。

 

緊張しているラクスが少しでも落ち着くように、励ましの言葉を伝える為に彼女の肩に手を置くと、ラクスは少し驚きながら俺を見る。

 

 

「…ダン」

 

「大丈夫。ラクスは今日まで一生懸命頑張ってきたんだ。なら、後悔しないようにそれを全力でやればいい」

 

 

俺の言葉を聞いて緊張していたラクスの表情に笑顔が戻ってくる。

 

 

 

 

「ありがとうございます、ダン。私、頑張って歌いますわ。今日来て頂いた観客の方々と…私を守って下さる貴方の為に」

 

 

強い決意を瞳に宿しながらも優しい笑顔を俺に見せてくれるラクス。そんな彼女にスタッフが駆け寄ってくる。

 

 

「ラクス様、お時間です」

 

「わかりました」

 

 

ラクスはスタッフに返事をした後、一度俺に笑顔を見せて舞台に移動して配置に着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後。

 

司会の注意事項が会場内に流れ、遂にコンサートが始まる。

注意事項が終わると、ラクスがいる舞台の幕が開かれる。

俺はボディガード達と一緒に万一の場合に備えて周囲を見渡しながら警戒する。

 

ラクスのコンサートが無事に終わる事を心の中で願いながら…。

 

 

 

 

照明が舞台を照らし、その光がラクスへと集まってくる。

いつもと違う姿のラクスを見ただけで、観客達は歓声と共に彼女に拍手を送っている。

ラクスはコンサートに来てくれた観客達に感謝の言葉を伝える。

 

 

『皆さん、本日は新曲披露のコンサートへ来て頂き、ありがとうございます。皆さんへの感謝と共に、私も思いを込めて歌わせて頂きます』

 

 

ラクスが挨拶を終えると、観客達の拍手が更に大きくなる。

 

観客達の拍手が止み、曲が流れ出した事を合図にラクスは歌い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンサート開始から50分後。

 

 

 

 

ラクスが最初に作曲した『静かな夜に』から始まり、その後は他の歌が披露されるが、それはコンサート限定に彼女が作曲した歌である為、メインである“新曲”はまだ披露されていない。

 

ラクスが歌い終わったのか、観客からの拍手が響き渡り、彼女はそんな観客達に笑顔を見せながら語りかける。

 

 

『ここまで私の歌を聞いて頂き、ありがとうございます。名残惜しいですが、次の曲で最後となります』

 

 

「(遂にここまで来たか…)」

 

 

ラクスの言葉を聞いた観客達は残念そうな表情を浮かべたり、名残惜しそうな声を出すが、彼女は続いて観客達に優しく語りかける。

 

 

『次に歌う曲は…戦火が徐々に広がりながらも、可能性を信じ、希望を諦めない想いを込めて作曲しました。どうかお聞き下さい。その先の未来を信じ、平和への祈りを込めた、私の新曲を…』

 

 

 

 

ラクスの言葉を合図に曲が流れてくる。

 

水の音をイメージさせる音楽が流れ、ラクスは静かに歌い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『水の証』

 

 

 

 

この曲こそ、今回のコンサートで披露する為にラクスが作った新曲だ。

 

リハーサルでよく聞いていたが、改めて聞くと歌っているラクスの世界に対する優しさと平和への願いが伝わってくる。

 

 

 

 

俺はラクスが無事に歌い終える事を願いながらボディガード達と一緒に周囲を警戒しいると、遂に彼女は新曲を歌い終える。

 

その直後、観席から大きな拍手が響いてくる。

 

ある観客は嬉しそうに。

 

ある観客は涙を流しながら感動している。

 

拍手している観客達の中にはシーゲルさんの姿もある。俺達と別れた後、ボディガード達に守られながら特等席でラクスの歌を聞いていたらしい。

 

しかし、ある方向を見て俺は驚愕する。

 

 

 

 

何故なら、観客の中にジャン・エクシーグの姿もあったからだ。

 

彼もラクスの歌を聞く為にコンサートに来ていたらしい。

彼は優しく微笑みながらラクスに称賛の拍手を送っている。

 

 

 

 

ラクスの方を見ると、観客達の笑顔を見てとても喜んでいる。

ラクスは観客達に感謝の気持ちを伝える為に口を開く。

 

 

『どうか、皆さんが歩む未来が平和でありますように…その想いと願いを胸に、私も頑張って歌い続けますわ。本日はコンサートに来て頂き、誠にありがとうございます』

 

 

挨拶を終え舞台の幕が閉じていく最中、観席からの称賛の拍手が鳴り続ける。

 

ラクスを護衛しながら控え室に向かう途中でも観席からの拍手が止む事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

控え室に到着したラクスは緊張から解放されたように深呼吸をしている。あれだけ大勢の観客の前で歌ったんだ。今もかなり緊張しているはずだ。

ラクスが落ち着いてきたのを確認した俺は彼女に声をかける。

 

 

「…お疲れラクス。とても良い歌だったよ」

 

「ありがとうダン。そう言って頂けると私も頑張って歌った甲斐がありましたわ」

 

 

俺の言葉にラクスは嬉しそうに笑顔で答えてくれる。

その直後、控え室のドアからノックする音が聞こえてくる。

 

 

「ラクス、ダン。私だよ」

 

 

ドアをノックしたのはシーゲルさんのようだ。俺達が返事をするとシーゲルさんが控え室に入ってくる。

 

 

「ラクス、よく頑張ったな。ダンも、ラクスを守ってくれてありがとう」

 

「ありがとうございます、お父様」

 

「いえ。軍人としての責務を果たしただけです」

 

 

シーゲルさんの労いの言葉に俺とラクスは返事をして答える。

 

しかし、俺は心の中で“ある事”を気にしている。

 

 

 

 

「ダン。キラの事が気がかりですか?」

 

 

ラクスが俺の考えている事を見抜くように声をかけてくる。

 

 

「ああ。安静にしてると思うが…」

 

 

心配そうな表情で俺を見るラクス。そこへシーゲルさんが俺に話しかけてくる。

 

 

「そうだな。コンサートも無事に終えた事だし、そろそろ帰ろう」

 

「…はい」

 

 

その後、ラクスとシーゲルさんを護衛しながらコンサート会場前に配置されている車に乗った俺は、彼女達と一緒に観客達、スタッフ達の見送りを受けながらキラが待つクライン邸に戻る事にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

闇の胎動

コンサートを無事に終えてから数日が経ち、ラクスの護衛という任務を果たした筈の俺は、何故か地球には向かわず、現在もプラントに残ってラクスの護衛を続けている。

 

その理由は…

 

 

 

 

《引き続きプラントに残り、ラクス・クラインの護衛を続行せよ》

 

 

と、軍本部から指示を受けたからだ。

 

その報せをラクスに伝えると彼女はとても喜んでいた。

何故ならコンサートを終えてからの彼女は、俺が地球に降りると思い、落ち込んでいたからだ。

 

 

 

 

『ウォン!ウォン!』

 

『ハロ!ハロ!ナンデヤネン!』

 

 

ドルフは俺の隣に並んで歩き、ハロは相変わらずはしゃぎながら跳び跳ねている。

 

ラクスはというと……

 

 

「♪︎♪︎♪︎」

 

 

とても上機嫌にお茶を運びながら俺の隣を歩いている。

 

 

 

 

俺とラクスはキラがいる寝室に着くが…

 

 

「あら?あらあら?」

 

『アラアラァ』

 

 

ベッドに寝ていたキラの姿が見当たらない。

周囲を見渡してみると、少し離れた場所にキラの姿が見える。

考え事をしているような表情でキラは景色を眺めており、俺達には気付いていない。

 

まだキラを探しているラクスの肩をトントンと弱く叩き、彼女と一緒にキラに近付いて声をかける。

 

 

「何をしているんだ?」

 

 

俺の声に反応し、キラはこっちに顔を向ける。

 

 

「ダン…」

 

 

俺の名を呼んだキラは再び景色を見ていたが、次第に顔を俯かせる。

 

 

「キラの夢は、いつも悲しそうですわね」

 

 

今度はラクスが話しかけるとキラは静かに口を開く。

 

 

「悲しいよ…。

沢山…人が死んで…。

僕も…沢山…殺した…」

 

 

俯きながらラクスに返事をしたキラは、悲しさと辛さに耐えきれずに涙を流す。

 

 

「…だが」

 

 

そんなキラに今度は俺が声をかける。

 

 

「お前が戦ったからこそ、お前の仲間達を守る事ができたんじゃないのか?」

 

 

俯いていたキラが少し驚いた顔で俺を見ている。

 

 

「…本当に難しいな。戦争というのは…」

 

 

景色を見ながら言うと、静かに俺の言葉を聞いていたラクスが口を開く。

 

 

「さあ、そろそろお食事にしましょう!それに、キラはまだお休みになっていなくては」

 

 

ラクスを中心に俺とキラは彼女に腕を引かれながらクライン邸に引き返す。

 

 

『ウォン!ウォン!』

 

『ミトメタクナイ!ミトメタクナーイ!』

 

 

ドルフとハロも俺達に続くように着いてくる。

 

 

「大丈夫です。ここはまだ…平和です」

 

 

静かに語るラクスの言葉にキラはどう思ったのかは分からない。

 

しかし、これまでのプラントでの経緯を知っている俺にとっては、とても意味の深い言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クライン邸に戻ってから数時間が経ち、外はもう夕方になっており、太陽も半分まで沈んでいる。

 

俺とキラが夕日に照らされるプラントの景色を眺めていると、いつの間にかラクスが俺達の間に入り込むように並んで景色を見ている。

しばらく三人で景色を見ていると、ラクスが静かに語り出す。

 

 

「ずっとこのまま、こうしていられたら良いですわね」

 

 

願うように優しく微笑みながら言うラクス。

 

そんなラクスを俺達は一度見た後、再び景色を見る。

 

 

 

 

そしてこの先、完治後のキラとの戦いがない事、地球にいるアスランの無事を願いながら、夕日に染まるプラントの景色を眺めていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

まなざしの先

「キラ。体調の方はどうだ?」

 

「うん。前よりは良くなったと思うよ」

 

 

俺の問いに答えるキラ。その後は雑談をしながらクライン邸の庭からプラントの景色を眺めていると……

 

 

 

 

「間もなく雨の時間です」

 

 

声をかけられた俺とキラは、声の方向に顔を向けると、ドルフとハロを連れて歩み寄ってくるラクスがいる。

 

空を見上げてみると、空が若干曇りがちになっている。

 

 

「中でお茶にしませんか?」

 

「そうだな。ラクスが淹れてくれるお茶は美味しいからね。キラも良いな?」

 

「うん。そうだね」

 

 

ラクスの意見に賛同した俺とキラは、彼女と一緒にクライン邸に戻ってお茶を飲む事にした。

戻る途中ラクスの方を見ると、さっき褒められた事が嬉しかったのか、彼女は少しだけ頬を赤くして微笑んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達がクライン邸に入ってお茶を飲んでいると、雨が凄い勢いで降ってくる。俺は洋菓子を口にしながらお茶を飲み、ラクスは楽しそうにドルフとハロの相手をし、キラもお茶を飲んではいるが、外をずっと見ている。

 

 

 

 

「キラは雨がお好きですか?」

 

 

それが気になったのか、ラクスがキラに声をかける。

 

 

「不思議だな…って思って。なんで僕は…ここに居るんだろうって思って」

 

 

ラクスは更にキラに問いかける。

 

 

「キラはどこに居たいのですか?」

 

「解らない」

 

 

迷っているように返答をするキラに今度は俺が問いかける。

 

 

「ここは好きになれないか?」 

 

「ここに居て…いいのかな?」

 

「私達はもちろん。とお答えしますけど。ねえ、ダン?」

 

「そうだね。友人を追い出す理由もないからな」

 

「…」

 

 

俺達と一緒にお茶を飲んでいたマルキオ導師がキラに話しかける。

 

 

「自分の向かうべき場所、せねばならぬ事、やがて自ずと知れましょう。あなた方はSEEDを持つ者。故に」

 

 

マルキオ導師の言葉を聞いたキラは、少し考えるようにしばらく俯き、そして再び雨が降っている外を見つめる。

 

俺達はしばらくの間、色々な話をしながらお茶の時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく時間が経っても、雨が止む様子がない。

 

俺達は外を眺めながらお茶を飲んでいると、シーゲルさんがやって来てマルキオ導師に話しかける。

 

 

「やはり駄目ですな。導師のシャトルでも、地球へ向かうものは現在全て、発進許可は出せないという事で」

 

 

マルキオ導師はこうして俺達と一緒にお茶を飲んでいるが、本来ならキラをここに連れて来た後すぐに地球に戻る筈だったが、地球へ向かうシャトルだけが出港を禁止されているらしい。

 

それも既に終えているコンサートのリハーサルの時からずっとである。

 

 

 

 

そこへ部屋に設置されたモニターから執事さんが映し出され、客人から通信が来た事をシーゲルさんに伝える。

それを聞いたシーゲルさんが通信に出ると、モニターから女性の姿が映し出される。

 

 

 

 

女性の名前はアイリーン・カバーナ。

シーゲルさんと同じ最高評議会議員でクライン派の一人である。

 

 

 

 

『シーゲル・クライン!我々はザラに欺かれた!』

 

 

凄い剣幕で言うカバーナ議員にシーゲルさんは何があったのか分からないような顔をしている。

カバーナ議員はそんなシーゲルさんには気にせずに話を続ける。

 

 

『発動されたスピットブレイクの目標はパナマではない』

 

 

カバーナ議員の言葉を聞き、俺は心の中で驚愕している。

 

何故ならスピットブレイクの攻撃目標がパナマであり、そこにあるマスドライバーを奪取する事以外は内容を聞いていないからだ。

 

それにザラ委員長の名前が出た事で、何か嫌な予感がしてくる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アラスカだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだと!?」

 

 

カバーナ議員の言葉に驚きの声を上げるシーゲルさん。

 

どうやら、嫌な予感が的中してしまったようだ…。

 

 

 

 

スピットブレイクの事で頭を悩ませると、何かが割れる音が聞こえ、音の方を見ると、キラがかなり動揺しており、その近くにはキラが飲んでいたと思われるカップが割れている。

 

 

『彼は一息に地球軍本部を壊滅させるつもりなのだ。評議会はそんな事を承認していない!』

 

 

…つまり、ザラ委員長が独断で直前に目標を変更させたという事か…。

 

 

 

 

ラクスはキラの側に寄り、落ち着かせようと背中をさするが、キラはまだ動揺しており、全く落ち着く様子がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カバーナ議員からの通信からしばらく経ち、ようやく雨が上がり、青空が広がっている。

 

 

 

 

俺とラクスはさっきまで動揺していたキラの様子を見る為、あいつがいるテラスまで来ると、キラはプラントの景色を無言で眺めている。

 

そんなキラにラクスは声をかける。

 

 

「キラ?」

 

 

 

 

ラクスの声で振り返るキラだが、その表情は悲しそうで、目からは涙を流している。

 

それを見て俺とラクスが少し驚いていると……

 

 

 

 

「…僕は…行くよ」

 

 

突然そう言い出すキラにラクスがどこへ行くか聞くと、地球に戻るという事らしい。

 

 

「何故?貴方お一人戻ったところで、戦いは終わりませんわ」

 

 

ラクスの言っている事は確かだ。どれだけ戦闘経験のあるベテランでも、その場の戦局を覆す事はできても、全ての戦争を終わらせるにはかなりの時間はかかる。

おそらく、生きている間に終戦に繋げるのは難しいだろう。

 

 

 

 

「でも、ここでただ見ていることも、もう出来ない」

 

 

 

 

何も出来ないって言って、何もしなかったら、もっと何も出来ない。

 

何も変わらない。

 

何も終わらないから。

 

 

 

 

そう語るキラの話を俺とラクスは黙って聞く。

 

確かに、生きている間にやりたい事を全部やっておかないと、それをせずに死んだ後は、後悔しか残らないからな…。

 

 

 

 

「それで、向こうに戻ったら…また俺達ザフトと戦うのか?」

 

 

ヘリオポリスから地球までの俺達の立場を考え、もしもの返答を予想しながらも、俺はキラに今後の事を聞く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、キラはその質問を首を横に振ってそれを否定して返答した為、俺は少し驚いている。

 

 

「では地球軍と?」

 

 

ザフトと戦う事を否定したキラに今度はラクスが問いかける。

 

ザフトと戦わないとなると、地球軍と戦う以外は答えが残ってない。

 

 

 

 

しかし、キラはラクスの質問にも首を横に振り、口を開く。

 

 

「僕達は、何と戦わなきゃならないのか、少し、分かった気がするから」

 

 

キラの瞳は強い決意が宿っているように見える。俺達ザフトと対立し、迷っていた時とはまるで違う程に…。

 

 

 

 

「…解りました」

 

 

キラの決意を聞き、そう答えたラクスに呼ばれた俺は、キラにすぐに戻ると言ってその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラの所から離れて10分後、ラクスと“ある相談”をした俺は、執事さんにある物を用意させたラクスと一緒にキラの所に戻る。

 

 

「キラ。お前はこれに着替えろ」

 

「これは…」

 

 

執事さんがキラに手渡したのは、ザフトのエリートが着用する赤服の制服だ。

 

これから俺達は“ある場所”に向かうが、そこへ立ち入る事ができるのはザフトの人間だけだ。

 

 

「あちらに連絡を」

 

 

俺達のやり取りを見ていたラクスは、近くにいる執事さんに声をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラクス・クラインは再び、平和の歌を歌います。と」

 

 

 

 

それぞれの準備を終え、軍服に着替えた俺はラクスと、同じ赤服に着替えたキラと一緒に車に乗り込む。

そして俺の運転で車を走らせ、目的地に向けて出発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく車を走らせ、到着したのはザフト軍の軍事施設である。

施設に入り、しばらく通路を通っていくと、二人の見張り役の軍人がいる大きな扉にたどり着く。

ラクスが合図を送るように彼らに頷くと、その内の一人がカードキーを扉に設置してある端末に通して扉を開ける。

 

 

「さぁ、どうぞ」

 

 

 

 

ラクスに導かれるまま扉の奥に進むキラ。俺も続くように中に入ると辺りは真っ暗である。

 

 

 

 

…と思った瞬間、突然照明がつき、俺達の目に“あるもの”が写る。

 

 

 

 

それは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガンダム!」

 

 

照明に照らされるモビルスーツを見て、キラはかなり驚愕している。

 

 

 

 

ガンダム…

 

キラが向こうにいた時は、ストライクの事をそう呼んでいたのか…。

 

 

 

 

「ちょっと違いますわね」

 

 

驚いているキラにラクスが話しかけるように口を開く。

 

 

「これはZGMF-X10Aフリーダムです。でも、ガンダムの方が強そうでいいですわね♪」

 

 

 

 

モビルスーツの名前をキラに教えた後、楽しそうにガンダムという名前に興味を持つラクス。

 

そんなラクスに続くように、俺はキラにフリーダムの説明をする。

 

 

 

 

「この機体には、俺達ザフトがヘリオポリスで奪取した地球軍の機体の全性能を組み込み、実戦用に開発された最新型のモビルスーツだ」

 

 

俺からフリーダムの説明を聞いたキラがラクスに問いかける。

 

 

「これを、何故僕に?」

 

「今の貴方には必要な力と思いましたの」

 

 

キラの質問にラクスは微笑みながら答える。

 

 

「想いだけでも…力だけでも駄目なのです。だから…キラの願いに、行きたいと望む場所に、これは不要ですか?」

 

 

 

 

確かに、想いを言葉にして伝えても、それを理解しない者は山程いるだろう。

 

しかし、キラなら…このフリーダムを正しい事の為に使ってくれるかもしれない。

 

 

ラクスの言葉を聞いたキラはフリーダムを見た後、再びラクスの方を見る。

 

 

「君は誰?」

 

 

 

 

「私はラクス・クラインですわ、キラ・ヤマト」

 

 

 

 

「ありがとう」

 

 

キラの問いにラクスは笑顔のまま答える。

キラがラクス礼を言うのを確認した俺はキラに声をかける。

 

 

「…急げ。時間がない」

 

「うん。ダンも色々ありがとう。また君と昔みたいに話が出来て楽しかった」

 

「ああ。俺も楽しかった。しっかりやって来い。お前のやるべき事を」

 

 

俺に礼を言って握手を求めるキラに、俺はその手を握って答える。

 

 

 

 

遂にキラとお別れか…。

 

 

 

 

もう少し、色々と話がしたかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を仰っておられますの?ダンも地球に向かいますのよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…え?」」

 

 

突然のラクスの発言に俺とキラは唖然とする。

 

すぐに立ち直った俺は、ラクスに理由を聞く。

 

 

 

 

「ラクス。それはどういう事?」

 

「そのままの通りですわ。ダンにはキラと一緒に地球に向かって頂きますわ」

 

 

ラクスの言葉に驚愕しながらも俺はラクスに肝心な事を聞く。

 

 

「でもラクス、モビルスーツはどうするんだ?俺が乗っているソウルは、今はヴェサリウスにあるんだよ?」

 

 

そう。俺が操縦するソウルはヴェサリウスに格納されている為、取りに行くにも時間がかかる。

 

 

 

 

しかし、ラクスは心配無用と言わんばかりの笑顔で俺の問いに答える。

 

 

「それについては、心配はいりませんわ♪︎」

 

 

そう言ってフリーダムの隣の照明が照らされていない場所を見るラクス。

 

俺とキラもそれに続いてフリーダムの隣を見ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗かった場所に照明が照らされ、もう一機のモビルスーツが姿を現す。

 

 

「!」 

 

「もう一機の、ガンダム!」

 

 

驚いている俺とキラに気にする事なく、ラクスはいつものように落ち着いた笑みを見せながらもう一機のモビルスーツの説明をする。

 

 

 

 

「あちらの機体は、ZGMF-X08Aフューチャー。フリーダムと同様に地球軍のモビルスーツのデータを元に開発された機体ですわ」

 

 

 

 

フューチャー。

 

未来という名を由来としたモビルスーツ。

 

この機体の事は俺も知っている。

フリーダムと同じ時期に開発が行われ、実戦に投入される機体だ。

 

 

 

 

…ちなみにこれは噂だが、このフリーダムとフューチャーには俺と、あのジャン・エクシーグが搭乗する予定になっていたらしい。

 

 

 

 

「…でも、俺がキラと一緒に行ったら、ラクスはどうするんだ?万一の事があったら…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それ以上は言えなかった。

 

 

 

 

何故なら、心配しながら言う俺の唇がラクスの人差し指で止められたからだ。

 

そして彼女は、もう片手の人差し指に自分の唇を付け、しーっという表情を作った後、更に話を続ける。

 

 

「…ダンの眼が、キラの手助けがしたいと仰っているように見えましたから」

 

 

心の中を見抜かれた俺は驚愕する。

 

ラクスはそんな俺に微笑みながら問いかける。

 

 

「ダン。貴方は、どうしたいのですか?ダンの本当の気持ちを聞かせて下さいな」

 

 

 

 

俺はラクスの問いに目を閉じる。

 

 

「俺は…」

 

 

俺が本当に果たしたい事を考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キラと一緒に地球に行くよ。そしてキラが成し遂げたい事を友として見届ける」

 

 

俺の出した答えに満足したようにラクスは優しく微笑みながら俺を見つてから話を切り出す。

 

 

「では、早速準備に取りかかりましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクスと一旦別れ、パイロットスーツに着替えた俺とキラは、フリーダムとフューチャーの手前で待っている彼女の所へ戻る。

 

 

「ラクス。本当に大丈夫なんだね?」

 

「はい。私も歌いますから。平和の歌を」

 

「…分かった。気を付けてね」

 

「ええ。お二人も…」

 

「色々、助けてくれてありがとう」

 

 

キラの礼を聞いたラクスは俺達の傍に近寄る。

 

 

「私の力を、貴方方と共に…」

 

 

突然ラクスにキラは手の甲、俺は右頬に口付けされる。

 

 

「ぁぁ…」

 

「っ!!」

 

 

キラはパイロットスーツの上から手の甲に口付けされた為、少し驚愕しているが、俺は直接肌に口付けられた為、頬を赤くしながら驚いている。

 

 

「…では、行ってらっしゃいませ」

 

 

同じように頬を赤く染め、俺とキラから離れていくラクスをしばらく見届けた後、キラはフリーダム、俺はフューチャーに乗り込んで準備に取りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フューチャーのシステムを起動させると、フリーダムに乗っているキラから通信が来る。

 

 

『ダン。この2機、ストライクとソウルの4倍以上のパワーがあるかもしれない』

 

「そうだな。もしかするとこの2機には…“あれ”が組み込まれている可能性があるな」

 

 

フューチャーの発進準備を進めながらコックピットのメインモニターを見ると、入口で扉が閉まるまで微笑みながら俺達に手を振ってくれているラクスの姿が見える。

 

 

 

 

ラクス……

 

 

 

 

また離れる事になるけど、きっと帰って来るよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰だ貴様ら!何をしている!』

 

 

機体の発進準備を終えるのと同時に、突然何者かの通信が割り込んでくる。

 

おそらくラクスの関係者以外の者からだろう。

 

 

 

 

「こちらクルーゼ隊所属ダン・ホシノ。スピットブレイクを開始する友軍の援護の為、これから地球に急行する」

 

 

俺は通信にそう返答するが、それは地球にいるキラの仲間の元に向かう事を誤魔化す為だ。

 

俺が時間稼ぎをしている間にフリーダム、フューチャーの頭上のハッチが開かれ、いつでも出撃できるようになっている。

 

 

『待てダン・ホシノ!本部からはそんな報せは聞いていないぞ!』

 

 

軍本部に確認したのか、更に問いかけてくるが、出撃できるようになった以上、もうこいつらの話に付き合う必要はない。

 

俺は無視して通信を切り、キラに通信を繋げる。

 

 

「…行くぞ。準備は良いか?」

 

『うん。いつでも行けるよ、ダン』

 

 

互いの確認を終えた俺達は、それぞれの新たな機体と共に宇宙へ翔び立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラントを脱出し、地球に向けて急行していると、前方に巡回中のジン二機の姿が見えてくる。

 

一時的だが、俺はさっきのように通信を繋げ、道を開けてもらったのを確認し、全速力で突破する。

 

 

 

 

しかし、しばらくして軍本部からの連絡を受けたのか、俺達を通したジン二機はこっちに向かって追撃を始め、アサルトライフル・重突撃機銃で撃ってくるが、キラと俺はフリーダムとフューチャーの機動力を生かし、その攻撃を全て回避していく。

 

 

『止めろ!僕達を行かせてくれ!』

 

 

ジン二機の攻撃を回避していると、またしても前方からジンが二機が現れ、俺達を追撃するジン二機と同じようにアサルトライフルで攻撃してくるが、俺達はこれも回避しながら減速せず、そのまま突き進む。

 

 

『ダン!』

 

「ああ。後ろは任せろ!」

 

 

キラの呼び声に答え、攻撃を続ける後方のジン二機に向けてフューチャーのルプスビームライフルを放ち、そのビームはジン二機に見事に命中する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、命中したのはコックピットではなく、アサルトライフルを持つ右腕、メインカメラ搭載の頭部などパイロットに危害が及ばない武装部分である。

 

攻撃手段を失った後方のジン二機は追撃を断念したのか、その場で停止している。

 

キラもフリーダムの腰からラケルタビームサーベルを抜き、前方のジン二機の武装のみを素通りするように斬り裂いて無力化させる。

 

ジンの四機の追撃を振り切り、フリーダムとフューチャーのスラスターを全開にし、地球へ急行する。

 

 

 

 

その最中、地球から上がって来た宇宙往還機のシャトルを見付ける。

 

俺達はそのシャトルを素通りし、地球を目指す。

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

そのシャトルには、キラと俺の関わりのある人物が乗っている事には気付かなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

舞い降りる剣

ザフトの追撃を退けたキラと俺は、アラスカにいるキラの仲間の救援に向かう為、フリーダムとフューチャーで地球への降下を始めようとしている。

 

 

 

 

周囲が赤く染まり、揺れも激しくなっていく。

 

どうやら大気圏に入り、地球の重力に引かれ始めたようだ。

 

 

「キラ。そろそろだ」

 

『うん。行こう、ダン』

 

 

フリーダムとフューチャーのラミネートアンチビームシールドを構え、大気圏の熱を抑えながら地球へと降下していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大気圏を無事突破し、ようやくアラスカに到着するが、そこでキラと俺が見たのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラの仲間が所属している地球軍がザフトのモビルスーツ部隊に一方的にを追い詰められている光景だった。

 

 

 

 

『っ!あれは…』

 

 

俺達が地球軍が苦戦している状況に驚愕していると、一隻の白い戦艦がザフトのモビルスーツの集中砲火を受けている光景が見える。

 

 

 

 

その白い戦艦こそ…今まで“足つき”として何度も対立してきたアークエンジェルである。

 

 

 

 

地球軍も奮闘しているが、モビルスーツの圧倒的な数と性能に、アークエンジェルを除く地球軍の戦車と兵器が次々と破壊され、徐々に追い込まれてしまう。

 

好機と見たのか、グゥルに乗った1機のジンがアークエンジェルに近付いていく。

 

 

『ダン!』

 

「ああ。急ぐぞ!」

 

 

それを見た俺達はフリーダムとフューチャーのスラスターを全開させ、アークエンジェルに向けて最大全速で降下を急がせる。

 

アークエンジェルの側まで近付いたジンは、アサルトライフル・重突撃機銃をアークエンジェルのメインブリッジに向けて構え、今にも撃ち抜こうしている。

 

 

 

 

この状況ではもう間に合わないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…俺達が“フリーダムやフューチャー以外”のモビルスーツに乗っていればの話だ。

 

 

「…キラ」

 

 

降下している最中、俺は通信を開いてキラに話しかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く安心させてやれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…うん』

 

 

俺の言葉に返事をしたキラは、一足先にフリーダムでアークエンジェルの元に急行していく。

 

それを見届けた俺はフューチャーのルプスビームライフルでアークエンジェルの前にいるジンに狙いを定め、引き金を引く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フューチャーの放ったビームは、アークエンジェルにとどめを刺そうとしているジンのアサルトライフルを持つ右腕を正確に撃ち抜く。

 

被弾したジンは突然の事態にかなり動揺している。

 

そこに追い撃ちをかけるようにキラはフリーダムの腰からラケルタビームサーベルを抜き、一瞬でジンの頭部を斬り飛ばす。

 

メインカメラを失ったジンはよろめきながらアークエンジェルから離れていく。

 

 

 

 

そして一足先にアークエンジェルに辿り着いたフリーダムに続き、フューチャーもアークエンジェルの近くに到着する。

 

 

『こちらキラ・ヤマト!援護します。今のうちに退艦を!』

 

 

それを確認したキラがアークエンジェルに通信を繋げ、退艦を呼び掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラと俺の介入で少しの間、侵攻を停止していたザフトであったが、再び俺達を含めてアークエンジェルに攻撃を仕掛けてくる。

 

 

 

 

それを確認したキラと俺は、フリーダムとフューチャーのウイングを展開させ、巻き込まないようにアークエンジェルから距離を離して前に出る。

 

コックピットのメインパネルの中央に設置してある立体型表示パネルを起動させると、パネルに表示されている敵機を次々とロックオンしていく。

 

 

 

 

このフリーダムとフューチャーには、マルチロックオンシステムが搭載されており、単機で多数のモビルスーツを同時に捕捉する事が可能となっている。

 

 

 

 

そしてビームライフルを含めた5つの武装、砲門から一斉射撃を行う態勢、ハイマット・フルバーストで進攻してくるザフトのモビルスーツを次々と無力化しながら迎撃していく。

 

 

 

 

『マリューさん!早く退艦を!』

 

 

アークエンジェルの艦長なのか、キラはマリューという人物に再び退艦を呼び掛けるが……

 

 

『…あ…本部の地下に、サイクロプスがあって、私達は…囮にっ…!』

 

 

サイクロプスだと…!?

 

マイクロ波で人間を一瞬で焼きつくす上に、システムが完全に壊れない限り、作動し続ける大量破壊兵器の事か。

 

その厄介な兵器がこのアラスカに…。

 

 

『作戦のなの!知らなかったのよ!』

 

 

感情の籠った言葉を発しているとすると、どうやら嘘ではなさそうだ。

 

 

『だからここでは退艦出来ないわ!もっと基地から離れなくては!』

 

『分かりました!ダン!』

 

「分かってる。そっちの方は任せる!」

 

 

 

 

事情を聞いたキラの呼び掛けに答えた俺は、キラと一緒にザフトの迎撃を再開する。

ザフトのモビルスーツをハイマット・フルバーストで無力化していきながら、俺が通信回線を開く。

 

 

「ザフトに伝える。こちらクルーゼ隊所属ダン・ホシノだ!」

 

 

一部のザフトは進軍を停止するが、俺はそのまま迎撃を続けながら話を進める。

 

 

「このアラスカ基地の地下にサイクロプスが仕掛けられており、間もなくそれが作動し、自爆する!ザフト軍、直ちに戦闘を停止し、撤退せよ!繰り返す!」

 

 

 

 

キラは地球軍に、俺はザフトに撤退を呼び掛けていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ダン!貴様、どういうつもりだぁー!!』

 

 

覚えのある声が聞こえ、その声の方を見ると、イザークの乗るデュエルがビームライフルを構えてこっちに向かってくる。

 

 

「(この忙しい時に…)」

 

 

 

 

デュエルはビームライフルによるビームを撃ってくるが、フューチャーの機動力で難無く回避し、フューチャーのビームライフルでデュエルのビームライフルのみを撃ち抜く。

 

ビームライフルを失ったデュエルは、今度はビームサーベルを抜いて斬りかかって来るが、その攻撃もフューチャーのシールドで防ぎ、更にデュエルの左手によるストレートをフューチャーの右手で受け止める。

 

 

 

 

「いい加減にしろイザーク!これはハッタリじゃないんだぞ!」

 

『何を!裏切り者がぁー!!』

 

 

俺は通信を繋げ、怒鳴りながら撤退するよう呼び掛けるが、イザークは聞く耳を持たず、フューチャーの頭部に向けてレール砲を撃ってくるが、頭部を少し動かす程度でデュエルの攻撃を回避する。

 

しかし、デュエルは更に頭部で頭突きを仕掛けてくるが、それをデュエルの胴体を蹴って宙返りをしながら距離を取り、フューチャーのビームライフルでデュエルのレール砲とビームサーベルを持つ右腕を撃ち抜いた後、腰からビームサーベルを抜いてデュエルの胴体目掛けて斬りかかる。

 

 

『う…うわぁぁ!』

 

 

斬られる恐怖に悲鳴を上げるイザーク。

 

俺は、そんなイザークを容赦なくデュエルの胴体ごと真っ二つに両断する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…筈もなく、フューチャーのサーベルがデュエルのコックピットに当たる寸前で角度を変え、デュエルの両脚のみを切断して後ろに回り込む。

 

 

「さっさと離脱しろ。命を無駄にするな!」

 

 

俺はイザークにそう言い、フューチャーで両脚を失ったデュエルを近くにいるディン目掛けて蹴り飛ばす。

 

ディンに受け止められたデュエルはそのまま戦場を離脱していく。

 

 

 

 

面倒な奴とはいえ…

 

アカデミーの同期を手にかけるほど、俺はそこまで冷酷じゃない。

 

ディンに運ばれながら撤退していくデュエルを見届けた後、まだ撤退せずに侵攻してくるザフトの迎撃を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…サイクロプス起動!?』

 

 

ザフトの迎撃の最中、アークエンジェルから突然の報せがやって来る。

 

…もう作動させたのか…!

 

 

『機関全速!退避!!』

 

 

キラと通信で話していた女性の掛け声を合図に、フリーダムとフューチャーはアークエンジェルと一緒に全速力でアラスカから離脱を開始する。

 

フューチャーとフリーダムの機動力があれば、すぐにマイクロ波から逃れる事はできるだろう。

 

しかしその途中、負傷しながらも避難しているジンを見かける。

あれでは離脱する前にサイクロプスのマイクロ波を浴びてモビルスーツもろとも焼かれて終わりだ。

 

すると、近くにいたフリーダムは負傷しているジンの元に向かって引き返していく。

 

 

「全く…無茶をする奴だ」

 

 

フリーダムに続くようにフューチャーをジンに近付け、そのジン腕をそれぞれ片方ずつ掴んで全速力でサイクロプスのマイクロ波との距離を広めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後。

 

サイクロプスによって多くの犠牲を出しながらも、キラと俺、アークエンジェルは何とか窮地を乗り越え、現在はアラスカから大分離れた孤島にいる。

 

俺達はそれぞれの機体をアークエンジェルから少し離れた場所に着陸させ、さっき助けたザフトのパイロットの手当てをしようとしたが、既に虫の息である為、助かる見込みは低い。

 

 

「しっかりして下さい!大丈夫ですか?」

 

 

パイロットに呼び掛けるキラを俺は後ろで見守っている。

 

 

「…君達が…あの2機のモビルスーツの…」

 

「はい」

 

 

パイロットの問いにキラは言葉で、俺は頷いて答える。

 

 

「何故…助けた…?」

 

 

 

 

「そうしたかったからです」

 

 

続けてのパイロットの問いにキラが答え、パイロットはキラの返答に驚愕している。

それもその筈だ。見ず知らずの人間を助かる者は、戦場では余り見ないからだ。

 

パイロットは次第に笑みを浮かべて……

 

 

 

 

「…殺した方が、早かっただろう…に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言い残し、息を引き取った…。

 

 

「…くそぉー!」

 

 

キラは目の前の人間を救えなかった悔しさに、右拳に怒りを込めて地面を殴る。

 

 

「…」

 

 

 

 

例え力を持っても守れるものに限りがある。

 

 

 

 

俺達が気付かない場所で誰かが命を落とす事もある。

 

 

 

 

俺達が誰かを救えなかった事で、その人を大切に思う誰かから恨まれる事もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが……

 

 

 

 

それでも俺達は立ち止まる訳にはいかない。

 

 

 

 

この先何が待ち受け、何が起こり、その後はどうなるか分からなくても……

 

 

 

 

俺達は自分の信じ、選んだ道を進むしかないんだ。

 

 

 

 

それが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクスから力を託された……

 

 

 

 

俺達の責任だ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

正義の名のもとに

ザフトのパイロットの死を見届けたキラと俺は、現在アークエンジェルの乗組員達と向き合う形でフリーダムとフューチャーの前に立っている。

 

キラがヘルメットを取ってクルー達に顔を見せるとかなり驚愕している。

そんなクルー達にキラは一歩前に出て…

 

 

「間に合って、良かったです」

 

 

仲間を救えた安心感を含めた優しい笑みをクルー達に見せる。

 

 

「…キラ!」

 

 

ピンク色の軍服を着た少女がキラの名を呼んで駆け寄り、それに続くようにクルー達もキラに寄ってくる。

 

無事を喜ぶクルー達に色々な話題で話しかけられるキラだが、その表情は困っているよりは本当に喜んでいるように見える。

 

俺はそんなキラ達を少し遠くで見ていたが、それに気付いたのかクルー達が驚いたり、複雑そうにと様々な表情でこっちを見てくる。中には警戒している者もいる。

 

それに気付いたキラが俺を庇うように俺の前に立つ。

 

 

「彼は敵じゃありません。僕の大事な親友です」

 

 

キラの言葉に驚愕するクルー達。

その最中、クルー達の後ろで様子を見ていた茶髪の女性、パイロットスーツを着た男、ケガをしているのか右腕をギブスで固定している男の3人がキラの方に歩み寄ってくる。

 

あの女性…どこかで見た事があるような気がする…。

 

 

「お話ししなくちゃならない事が、沢山ありますね」

 

「そうね。でも、その前に…」

 

 

そんな事を考えていると、3人が俺の方に歩み寄って来た為、キラと同じようにヘルメットを取って顔を見せる。

 

互いに対立している軍の所属である為、突然の事態に対処できるように真剣な表情で様子を伺っていると、向こうから話を切り出してくる。

 

 

「アークエンジェル艦長マリュー・ラミアスです。先程の救援、感謝します」

 

 

マリュー・ラミアス。さっきの戦闘でキラと話していたのはこの人だったのか。

 

 

「アークエンジェル所属ムウ・ラ・フラガだ」

 

「同じくタキ・リューグだ」

 

 

三人が名乗った為、俺もそれに答えるように名乗る。

 

 

「元ザフト所属ダン・ホシノだ」

 

「ザフト?キラ。お前は今までザフトに居たのか?」

 

「…そうですけど、僕はザフトではありません。そしてもう、地球軍でもないです」

 

 

キラの発言にクルー達はかなり驚愕している。

 

 

「俺もザフトに追われているが、地球軍に寝返るつもりはない」

 

 

キラに続いて発する俺の言葉にラミアス艦長も少し驚いているが、彼女はすぐに話を戻す。

 

 

「…分かったわ。とりあえず話をしましょう。あの機体は?どうすればいいの?」

 

 

おそらくフリーダムとフューチャーの事だろうか、ラミアス艦長は二機に視線を向けている。

 

 

「整備や補給のことを仰っているなら、今のところ不要かと。あの二機には、〝ニュートロンジャマー・キャンセラー〟が搭載されている」

 

「ニュートロンジャマー・キャンセラー?」

 

 

 

 

ニュートロンジャマー・キャンセラー

 

地球各地に設置しているニュートロンジャマーの影響を打ち消す為にザフトが開発した装置で、この機能によって核分裂が可能となり、それに関する原子炉を導入する事もできるようになっている。

 

そして、これを利用して核エンジンを搭載した事で、無限に近いエネルギーを手に入れたのが、キラと俺が乗るフリーダムとフューチャーである。

 

 

 

 

「まさか、あの機体は核で動いているのか?」

 

 

タキ・リューグがニュートロンジャマー・キャンセラーの意味を理解し、次第にクルー全員があの二機が核で動いている事に驚愕している。

そんな彼等に対してキラは真剣な表情で口を開く。

 

 

「データを取りたいと仰るのなら、お断りして、僕は彼と一緒にここを離れます。奪おうとされるのなら、敵対しても守ります」

 

「キラ君…」

 

「お前…」

 

「あれを託された、僕達の責任です」

 

 

決意を示すようなキラの警告にラミアス艦長を含めたクルー達はかなり驚いている。

 

 

「(キラ…。お前は本当に変わったな)」

 

 

キラの成長に心の中で感心しながら、俺はもしも向こうが強行手段を用いろうとした場合に備えてクルー全員の動きに警戒しながら様子を見ている。

 

少しの間、沈黙が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…解りました。あの二機には一切、手を触れない事を約束します」

 

 

ラミアス艦長がその沈黙をやぶり、後ろにいるクルー達の方を向き……

 

 

「いいわね!?」

 

「「「はい!」」」

 

 

ラミアス艦長が確認の言葉をかけると、クルー達は躊躇う様子も無く返事をする。

強力な兵器が目の前にあれば、普通は欲しがってもおかしくないというのに、彼等はそんな様子を見せる事なく、キラの思いを尊重するように答える。

 

ナチュラルにも、これだけ仲間思いな人達がいるんだな…。

 

 

「ありがとうございます」

 

「ご協力、感謝します」

 

 

キラと俺はラミアス艦長とクルー達の気遣いに感謝し、今後の事を話し合う為、アークエンジェルに乗艦する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後。

 

フリーダムとフューチャーをアークエンジェルに収納した後、キラと俺はメインブリッジでラミアス艦長とクルー達からアラスカ基地での出来事を聞く。

 

キラは連合の軍服に着替えているが、俺はパイロットスーツしか持っていない為、整備班の作業服を借りている。

 

 

「…成る程」

 

「それが作戦だったんですか?」

 

「おそらくは」

 

「私達には、何も知らされなかったわ」

 

 

ザフトの追撃を振り切ってきたアークエンジェルに説明無しで戦場に駆り出した地球軍の上層部の考えが理解できんな。

 

 

「となると、本部はザフトの狙いがアラスカだという事を最初から知っていたんでしょう」

 

「ああ。でなきゃ地下にサイクロプスなんて仕掛け、出来る訳がない」

 

「そして自分達は安全なところで高みの見物か。…ふざけた奴等だ」

 

 

タキ・リューグとムウ・ラ・フラガのやり取りを聞き、地球軍の上層部に対して怒りを覚えていると……

 

 

「…プラントも同じだ」

 

 

キラの言葉にアークエンジェル一同は何の事か分からないような顔をしているが、俺だけはその言葉を聞いてあの人の話を思い出す。

 

 

 

 

「(我々はザラに欺かれた!発動されたスピットブレイクの目標はパナマではない。アラスカだ!)」

 

 

 

 

スピットブレイク発動直前の変更…

 

アイリーンさんから聞いた時は驚いたが、ナチュラルを憎んでるザラ委員長なら変更させてもおかしくはない。

 

 

「それでアークエンジェル、マリューさん達は、これからどうするんですか?」

 

「どうって…」

 

 

キラが言っているのは、おそらく軍に復帰するか、否かという事だろう。

 

 

「Nジャマーと磁場の影響で、今のところ通信は全く」

 

「応急処置をして、自力でパナマまで行くんですか?」

 

「歓迎してくれんのかねぇ、いろいろ知っちゃてる俺達をさ」

 

「おそらく無理に近いでしょう」

 

「命令なく戦列を離れた本艦は、敵前逃亡艦、という事になるんでしょね」

 

「原隊に復帰しても軍法会議か…」

 

「また罪状が追加される訳ねぇ…」

 

「なんだか…何の為に戦っているのか解らなくなってくるわ…」

 

「「「……」」」

 

 

話がまとまらず黙ってしまうクルー達。

 

 

 

 

軍に復帰。

 

できたとしても上の連中によって口封じの為に、どこかの施設に幽閉される可能性が高い…。

 

沈黙した状況を破るようにキラがラミアス艦長達に話しかける。

 

 

「こんな事を終わらせるには、何と戦わなくちゃいけないと、マリューさんは思いますか?僕達、僕とダンはそれと戦わなくちゃいけないんだと思います」

 

 

キラの言葉を聞いて、ピンクの軍服を着た少女と青の軍服を着た3人の男達が少し驚いた表情でキラを見ている。

今までとは違う落ち着いているキラの姿を見て驚いているんだろう。

 

それは俺も同じだ。プラントに着た直後は動揺する事もあれば、悲しい顔ばかりする時もあった。

だが、俺とラクスと過ごす内に落ち着きを取り戻し、何と戦い、何をするべきかを自分で考えるようになった。

 

 

「(プラントに残ったラクスはどうしてるんだろう。無事だといいんだが…)」

 

 

ラクスの安否を気にしながらも、俺はキラとラミアス艦長達と今後について話し合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話し合いの結果、アラスカの戦闘で損傷したアークエンジェルを修復する為にオーブに向かう事になった。

 

アークエンジェルがオーブに向かっている間、俺はキラにアークエンジェル艦内を案内してもらう事にした。

 

 

 

 

「ここが食堂だよ」

 

 

MSデッキ、居住区、観望デッキなど色々な場所を改めて案内してもらい、今は食堂に来ている。

 

 

「おーい。こっちこっち」

 

 

すると向こうから声が聞こえ、その声のする方を見ると青の軍服の少年がキラと俺に向けて手を振っている。

他にももう一人の青の軍服の少年とピンクの軍服の少女が俺達を見ている。

 

三人に近付くと、手を振っていた少年が席から立ち上がる。

 

 

「そういえば、まだ自己紹介とかしてなかったな。俺はトール・ケーニヒ」

 

「ダン・ホシノだ」

 

 

互いに名前を紹介して握手を交わすと、ピンクの軍服の少女が俺に話しかけてくる。

 

 

「ミリアリア・ハウよ。よろしくね」

 

「俺はサイ・アーガイル。よろしく」

 

「どうも」

 

 

トール・ケーニヒに続き、ミリアリア・ハウ、サイ・アーガイルと握手に交わす。

 

 

「キラ」

 

 

それぞれの自己紹介を終えると、サイ・アーガイルがキラの方を見る。

 

 

「少し、話があるんだ…」

 

「…うん。いいよ」

 

 

察したのか、キラはサイ・アーガイルからの用件に応じるように返事をする。

 

 

「ダン。また後でね」

 

「ああ」

 

 

キラに返事をした俺はサイ・アーガイルと一緒に食堂を後にするキラを見届ける。

 

 

 

 

「…あのサイ・アーガイルという男…少し辛そうな顔をしていたな」

 

「うん。ちょっと、色々とね…」

 

「…そうか」

 

「あ、そういえば君キラとは幼馴染みなんだよな?」

 

「ん?ああ。そうだが…」

 

 

トール・ケーニヒ、ミリアリア・ハウの二人と少し話をしてからしばらくして、キラとサイ・アーガイルが戻ってきた為、アークエンジェルがオーブに到着するまで今度は五人で色々と話をする事した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オーブ編
神のいかずち


大変お待たせしました。

更新が遅れた理由はシンプルです。

リアルが多忙で気分転換にゲームをしていると、ついハマってしまいました。

こんな感じですが、皆様に楽しんで頂ける作品を作るよう努力します。


アークエンジェルがオノゴロ島に近付くと大型の飛行艇がこっちに向かって来るが、以前のように攻撃を受ける事はない。

オーブに向かう時に事前に連絡を取っていたからだ。

 

オノゴロ島の戦艦用ドックにアークエンジェルが収納された頃、キラと俺は艦内通路を通り、フリーダムとフューチャーが収納されている格納庫に向かっている。

 

 

 

 

「キラ!!」

 

 

後ろから少女の声が聞こえ、振り向くと金髪の少女が突然現れてキラに飛び付いてくる。

キラは支えきれず、その少女ごと後ろへ倒れてしまう。

俺も突然の事態で唖然と倒れた二人を見ている。

 

 

「カガリ?」

 

 

カガリ…?

 

まさかこの少女がカガリ・ユラ・アスハ…。

 

 

「…このバカァ!!お前…お前…!」

 

 

キラの上に乗っているカガリ・ユラ・アスハはキラの姿を見て安心したのか、目を閉じて大粒の涙を流している。

 

 

「死んだと思ってたぞ、この野郎!!」

 

「ごめん」

 

「本当に生きてるんだな?」

 

「生きてるよ。戻ってきたんだ」

 

 

いつの間にか二人だけの空間になってしまっている。俺はそんな二人を黙って見ている。

 

 

「「!?」」

 

 

俺に見られている事に気付いた二人は慌てて起き上がって距離を取る。

 

 

「だ、誰だお前は!い、いつからそこにいた!?」

 

「…あんたがキラに抱き付く前からだが…「うわぁー!!///」…いきなり何をする?」

 

 

見られていた事への恥ずかしさのせいか、顔を赤くしたカガリ・ユラ・アスハが右ストレートで殴りかかってきた為、それを左手で受け止める。

 

カガリ・ユラ・アスハは顔を赤くしながらも俺を睨んでくる。

 

それを呆れながら見ていると、キラがカガリ・ユラ・アスハを止めるように声をかける。

 

 

「しょ、紹介するよカガリ。彼はダン・ホシノ。幼い頃からの僕の親友だよ」

 

 

キラから俺の紹介を聞いたカガリ・ユラ・アスハは少し驚きながらも落ち着いたのか、俺に受け止められていた右手を引っ込める。

 

 

「ダン…それじゃあ、お前があいつの言っていた…」

 

 

〝あいつ〟…?

 

 

「ダン、彼女は…」

 

「カガリ・ユラ・アスハだ。カガリと呼んでくれ」

 

「…ダン・ホシノだ」

 

 

キラが紹介する前に彼女が自分から自己紹介をしてきた為、俺も自己紹介をしてそれに答える。

 

 

「…実は、お前達に話したい事がある」

 

 

カガリの真剣な表情を見てキラと俺は互いを一度見合わせてから彼女を連れて格納庫に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか。アスランに会ったんだ」

 

 

格納庫に着いたキラと俺は、カガリからキラとアスランが死闘を繰り広げたオノゴロ島でアスランを見つけた事を聞く。

 

 

「知っていたのか。アスランの事を」

 

「ああ。少し前からな」

 

 

カガリからの話によると、アスランとは無人島に遭難した日に知り合ったらしい。

どうりで無人島で合流したアスランの様子がおかしいと思った。

 

カガリはフリーダムを見上げながらアスランの話を続ける。

 

 

「キラを探しに行って見つけたの、あいつだったんだ。滅茶苦茶落ち込んでたぞ、あいつ。キラを殺したって、泣いてた」

 

「あの時、アスランはタキ大尉を殺した。そう思ってた。でも生きていて、でも僕は、アスランとダンの仲間を殺した。アスランが僕を恨んでも、無理もないと思う」

 

 

悲しそうに語るキラの話を聞き、俺は腕を組んだまま黙って目を閉じ、プラントで療養していたキラを思い出す。

 

キラは既に克服しているが、何だか複雑な気分だ…。

 

そんな雰囲気を吹っ飛ばすように、カガリは別の話を切り出す。

 

 

「小さい頃からの友達だったんだろ、お前ら」

 

「…まあな」

 

「ダンとアスランは昔から凄くしっかりしててさ、僕はいつも助けてもらってた」

 

 

キラ昔を懐かしむように語っている。

その途中キラはたまに俺に対し優しい笑みを見せる。

 

 

「なんで…その…そんなアスランとダンと戦ってまで、地球軍の味方をしようとなんて思ったんだ?」

 

「え?」

 

 

カガリの質問にキラが少し驚き、それに戸惑いながらも彼女は質問を続ける。

 

 

「いや…だってさ、お前…コーディネイターなんだし、そんな…友達と戦ってまでなんて…なんでだよ」

 

「…」

 

 

キラはカガリの質問に対し、少し間をあけてから答える。

俺は腕を組んで目を閉じながら静かに聞く。

その理由をプラントで全て聞いて知っているからだ。

 

 

「僕がやらなくちゃ、みんな死んじゃうと思ったから。僕、コーディネイターだし」

 

 

キラはフリーダムの方を向いて話を続ける。

 

 

「ほんとは…ほんとのほんとは、僕がアスランを殺したり、アスランが僕を殺したりするなんて事、ないと思ってたのかも知れない」

 

 

キラは切なそうに語り、カガリは同じように切ない表情でキラを見つめ、俺は腕を組ながら聞いている。

 

その後は色々と話をしていると、格納庫にラミアス艦長、フラガ少佐、リューグ大尉が入ってくる。

 

どうやらウズミ代表がアラスカの件について話があるという事で国防総省に来てほしいという事らしい。

 

とりあえず俺達はラミアス艦長達と一緒にウズミ代表がいる国防総省に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国防総省に到着した俺達は、ラミアス艦長を中心にウズミ代表にアラスカで起きた事を説明する。

 

 

 

 

無論、サイクロプスによる一件も…。

 

 

「サイクロプス?しかし、いくら敵の情報の漏洩があったとて、その様な策、常軌を逸しているとしか思えん」

 

「ですが、アラスカは確かにそれで、ザフト攻撃軍の8割の戦力を奪いました。立案者に都合がいい犠牲の上に。机の上の…冷たい計算ですが」

 

「それでこれか…」

 

 

ウズミ代表がモニターをつけると、中年の男が何かを主張している。

 

 

『…我々が生きる平和な大地を、安全な空を奪う権利は、一体コーディネイターのどこにあるというのか!この犠牲は大きい。が、我々はそれを乗り越え、立ち向かわなければならない!地球の安全と平和、そして未来を守る為に、今こそ力を結集させ、思い上がったコーディネイター等と戦うのだ!』

 

「解っちゃいるけど堪らんね」

 

 

呆れるように語るフラガ少佐に同感する。

正直俺も呆れてため息が出そうな気分だ。

 

ウズミ代表はモニターを切り話を再開させる。

 

 

「大西洋連邦は、中立の立場を採る国々へも、一層強い圧力を掛けてきている。連合軍として参戦せぬ場合は、敵対国と見なす、とまでな。無論、我がオーブも例外ではない」

 

「奴等はオーブの力が欲しいのさ」

 

 

カガリの言う通り、オーブの戦力は大きい。

欲しがってもおかしくはない。

 

 

「御存知のことと思うが、我が国はコーディネイターを拒否しない。オーブの理念と法を守る者ならば、誰でも入国、居住を許可する数少ない国だ。遺伝子操作の是非の問題ではない。ただコーディネイターだから、ナチュラルだからとお互いを見る。そんな思想こそが、一層の軋轢を生むと考えるからだ。カガリがナチュラルなのも、キラ君とダン君がコーディネイターなのも、当の自分にはどうする事もできぬ、ただの事実でしかなかろう」

 

「そうですね」

 

「確かに」

 

 

ウズミ代表の言葉に納得するようにキラと俺はそう返事をする。

ウズミ代表の言う通り、コーディネイターもナチュラルも関係なく俺達の命は自然に生まれてきたものだからな。

 

 

「なのに、コーディネイター全てを、ただ悪として敵として攻撃させようとするような大西洋連邦のやり方に、私は同調することは出来ん。一体、誰と誰が、なんの為に戦っているのだ」

 

 

ウズミ代表が語っている最中、フラガ少佐が話に割り込むように口を開く。

 

 

「仰ることは解りますが…失礼ですが、それはただの、理想論に過ぎないのではありませんか?それが理想とは思っていても、やはりコーディネイターはナチュラルを見下すし、ナチュラルはコーディネイターを妬みます。それが現実です」

 

 

確かに。フラガ少佐の言う通り、ウズミ代表の言葉をただの幻想、綺麗事だと嘲笑う連中もいるし、世の中もそう上手くいくほど甘くはない。

 

 

「解っておる。無論我が国とて、全てが上手くいっているわけではない。が、だからと諦めては、やがて我等は、本当にお互いを滅ぼし合うしかなくなるぞ。そうなってから悔やんだとて、既に遅い。それとも!それが世界と言うのならば、黙って従うか?どの道を選ぶも君達の自由だ。その軍服を裏切れぬと言うなら手も尽くそう。君等は、若く力もある。見極められよ。真に望む未来をな。まだ時間はあろう」

 

 

フラガ少佐の言葉を受けても、諦めない決意を示す言葉を語るウズミ代表に今度はキラが話しかける。

 

 

「ウズミ様は、どう思ってらっしゃるんですか?」

 

「ただ剣を飾っておける状況ではなくなった。そう思っておる」

 

 

ウズミ代表の言葉を聞いて納得したようにキラは微笑む。

 

それは俺も同感だ。

 

飾るだけならなんでもいい。

 

だが剣なら必要な時に使わなければ意味がない。

 

キラと俺がラクスから託された剣を正しく使うよう心がけているように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウズミ代表との会話を終えて翌日。

 

俺達の元に急な報せがやって来る。

 

アラスカの戦闘から日が経たない内に、ザフトが地球軍のパナマ基地に侵攻を開始したらしい。

 

 

 

 

アラスカであれだけの犠牲が出たにも関わらず…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

キラと俺はフリーダムとフューチャーのチェックをする為、モビルスーツデッキに来ている。

 

フリーダムとフューチャーの近くに到着すると、既に誰かが二機の足元付近にいる。

よく見るとフラガ少佐とリューグ大尉である。

 

それを確認したキラと俺がフラガ少佐達に歩み寄ると二人も俺達に気付く。

 

 

「キラ。それから、ダン・ホシノ、だったかな?」

 

「…そうです」

 

「そういえば、お互い名前しか言ってなかったな」

 

 

今後の方針や重要な話以外は会話の機会がなかった為、俺とフラガ少佐達は互いの事を改めて紹介する事にした。

 

 

 

 

ムウ・ラ・フラガ

 

アークエンジェル所属のパイロットで『エンディミオンの鷹』と呼ばれている。

搭乗機はオレンジ色のモビルアーマー・メビウスゼロとランチャーストライクのビーム砲を装備したスカイグラスパー1号機。

ある資産家の家の出身だったが、火災で両親と家を失った事が理由で地球軍に入隊したらしい。

 

 

 

 

タキ・リューグ

 

フラガ少佐と同様にアークエンジェル所属のパイロット。

『エンディミオンの流星』の異名を持ち、青色のモビルアーマー・メビウスゼロ・プロトとソードストライクの対艦刀を装備したスカイグラスパー2号機に搭乗している。

コンピューターや機械いじりが趣味で、地球軍に入隊時はメカニック担当であったが、操縦技術を評価され、後にパイロットに任命されたらしい。

 

ちなみにリューグ大尉はオノゴロ島の戦闘でストライクを援護する為にイージスに挑むが、シールドによる投擲攻撃を受けて操縦していたスカイグラスパー2号機が損傷するが、不時着中に飛び降りて機体から脱出した為、片腕を骨折する程度で済んだらしい。

 

 

「スカイグラスパーが岩に激突して爆発した時は、タキさんが死んだかと思いましたよ」

 

「ははは。心配させて悪かったな」

 

 

リューグ大尉が無事だった事に安心しているキラに対して大尉は心配をかけた事を詫びる。

 

 

 

 

「ホシノ君」

 

 

しばらく間をあけてからリューグ大尉が俺に話しかけてくる。

 

 

「一つ確認しておきたい事があるんだ」

 

「…何でしょうか?」

 

「君は現在キラと一緒に行動しているが、この後…どうするんだ?」

 

「…どういう意味ですか?」

 

「君はこの前ザフトに追われていると言っていたが、もしザフトと戦う事になったら…君は彼らと戦えるのか?」

 

「タキさん!」

 

 

リューグ大尉の問いにキラが大尉の名を呼んで止めようとする。

そんなキラにリューグ大尉は真剣な顔を見せる。

 

 

「キラ。これは大事な話なんだ。彼は君と違って正式な軍人なんだ」

 

 

リューグ大尉の言う通り、俺は自分の意思で軍人になる事を選んだ。

それほど俺には守りたいものがあったからだ。

 

リューグ大尉は引き続き、俺に問いかけるように話を再開する。

 

 

「その軍が再び敵として現れる可能性がある。そうなったら、かつての仲間と戦う事になるかもしれないんだ」

 

 

リューグ大尉の話を聞きながらキラに視線を向けると心配そうに俺を見ている。

 

 

「一緒に戦うなら信頼したい。君は、どうなんだ?」

 

 

モビルスーツデッキ内に沈黙が流れる。

 

俺はリューグ大尉の問いに答える為に口を開く。

 

 

「…俺は、軍人としての勤めを果たす為に戦っていました。しかし、今はキラが果たそうとしている事を見届ける為に戦っています」

 

 

俺の返答にフラガ少佐とリューグ大尉は静かに聞き、キラは優しい笑みを見せながら聞いている。

 

 

「たとえこの先何が待ち受けていようと、俺は友としてキラと一緒に戦い続ける。それだけです」

 

 

俺の答えを聞いたフラガ少佐とリューグ大尉は少し驚きながらも真剣な表情の俺を見た後、二人は納得したように笑顔を見せる。

 

 

「どうやら俺の質問は愚問だったみたいだな」

 

 

そんなリューグ大尉に答えるように俺は笑みを見せる。

 

 

「ところでキラ」

 

 

フラガ少佐がキラに声をかける。

 

 

「お前と彼は二人だけでも戦う気なのか?」

 

 

フラガ少佐の言葉にキラは真剣な表情を見せる。

 

 

「出来る事と、望む事をするだけです。このままじゃ嫌だし、僕もダンも、それで済むと思ってないから」

 

 

キラの返答にフラガ少佐は少し驚いている。

 

俺とリューグ大尉はキラと同様に真剣な顔でキラを見ている。

 

キラの言う通り、何もしない後悔を引きずって生きる事はかなり辛い事だろう。

 

 

 

 

「キラ!ダン!」

 

 

会話の最中、カガリがキラと俺の名を呼びながらこっちに駆け寄って来る。

 

 

「エリカ・シモンズが来て欲しいってさ。なんか“見せたいもの”があるって」

 

 

「(“見せたいもの”?)」

 

 

カガリの言葉を気にしながらも、俺達はエリカ・シモンズの元に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カガリの案内で到着した場所。

そこはモビルスーツが並んで収納されている格納庫である。

 

そして格納庫内には一人の女性と三人の少女が立っていた。

 

 

「来たわね」

 

 

女性がキラ、俺、カガリ、ラミアス艦長、フラガ少佐、リューグ大尉の六人が来たのを確認する。

 

 

「っ!タキさん!」

 

 

メガネをかけた青い髪の少女がリューグ大尉の姿を見た瞬間、嬉しそうな表情で大尉の近くに駆け寄る。

 

 

「タキさん。お久しぶりです!」

 

「ああ。君も元気そうだね」

 

「はい!」

 

 

リューグ大尉も覚えがあるのか、メガネの少女に笑顔で返事をし、楽しそうに雑談している。

 

その光景を見ていると、短めの赤髪の少女が俺に近付き、顔を覗き込んでくる。

 

 

「…」

 

「…何だ?」

 

「うーん。君、目付きは少し怖いけど、よく見たら結構格好いいんだね」

 

「…何?」

 

「君、今付き合ってる人とかいるの?」

 

 

突然の爆弾発言を言う赤髪の少女を目を細め、少し警戒しながら見ていると……

 

 

 

 

「ちょっと二人とも!今は雑談してる場合じゃないでしょ。それに、そこの彼だって困ってるじゃない」

 

 

少しクセの強い金髪の少女が二人の少女に注意するように声をかける。

 

 

「「え~」」

 

 

注意された二人は不満そうな表情で金髪の少女を見ていると……

 

 

 

 

「はいはい。そこまで」

 

 

女性が手を叩いて三人を止める。

 

そして今度は俺の方に顔を向ける。

 

 

「そういえば、貴方とは初対面ね」

 

「…ダン・ホシノです。キラとは幼年学校時代からの友人です」

 

「そう。私はエリカ・シモンズ。このオーブのモルゲンレーテの主任設計技師を勤めているわ。よろしく」

 

 

自己紹介を終え、エリカ・シモンズは後ろにいる三人の少女達の方を向く。

 

 

「そしてこの娘達が、ここに並んでいるM1アストレイのテストパイロットよ」

 

 

エリカ・シモンズが三人の簡単な紹介をする。

 

 

 

 

M1アストレイ…

 

この多数のモビルスーツの名前か?

 

 

「初めまして。私はアサギ・コードウェル」

 

「私はマユラ・ラバッツ。よろしくね」

 

「ジュリ・ウー・ニェンよ」

 

「…よろしく」

 

 

少女三人の紹介が終わった為、俺は彼女達に対し返事で答える。

 

 

「それじゃあ、早速本題に入りましょう」

 

 

それを確認したエリカ・シモンズが話を切り出す。

 

 

「カガリ様から聞いているとは思うけど、“見せたいもの”はこの奥にあるわ」

 

 

そう言ってエリカ・シモンズはM1アストレイが並んでいる格納庫の奥にある巨大な扉の方を見る。

 

 

「さあ、行きましょうか」

 

 

先頭を歩くエリカ・シモンズについていくように俺達も巨大な扉を通って“見せたいもの”がある場所に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻られたのなら、お返しした方がいいと思って」

 

 

エリカ・シモンズが言う“見せたいもの”がここにあるらしい。

 

 

「あっ!」

 

「っ!」

 

 

格納庫の“あるもの”を見てキラと俺は驚愕する。

 

 

 

 

何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラとアスランの死闘によって損傷したストライクと大破した筈のイージスが完全に修復された状態で収納されていたからだ。

 

 

 

 

「回収の際に貴方のOSを載せてあるけど、その、今度は別のパイロットが乗るのかなぁと思ったもんだから」

 

「例のナチュラル用の?」

 

「ええ」

 

「もうそこまで終わってるんですか?」

 

「オーブの技術にかかれば、ね」

 

 

フラガ少佐とリューグ大尉の質問に次々と答えていくエリカ・シモンズ。

 

しかし、ナチュラル用に造り変えたとはいえ、この二機に誰が乗るつもりだ?

 

 

 

 

「私が乗る!」

 

 

するとカガリが突然声を上げる。

 

どうやらストライクとイージスのどちらかに自分が乗るつもりだろう。

 

それを聞いたキラとラミアス艦長は驚愕した顔でカガリを見ている。

 

 

「え、カガリ様が?」

 

「操縦できないのに?」

 

「やめといた方がいいと思うけど」

 

「うるさい!」

 

 

アサギ・コードウェル、マユラ・ラバッツ、ジュリ・ウー・ニェンの三人に言われた事が気に触ったのか、カガリは怒鳴るように言い返す。

 

 

「あ、もちろんそっちがいいんならの話だけど」

 

キラとラミアス艦長の視線に気付いたのか、カガリはラミアス艦長に搭乗の確認を求めていると……

 

 

 

 

「いいや、駄目だ」

 

 

フラガ少佐がカガリの主張に異議を唱えるように会話に割り込む。

 

 

「なんで!」

 

 

それが不服だったのかカガリはフラガ少佐に突っ掛かるように反論する。

 

そんなカガリに対しフラガ少佐は真剣な顔を見せ……

 

 

「…俺がストライクに乗る」

 

 

自分がストライクに搭乗すると言い出す。

 

 

「えー!」

 

「少佐!」

 

 

フラガ少佐の主張を聞いたラミアス艦長はかなり驚愕している。

 

 

「じゃないんじゃない?もう。マリューさん?」

 

 

ラミアス艦長を安心させるようにフラガ少佐は優しい笑みを彼女に見せる。

 

 

「あ、それじゃあ…」

 

「ちなみに、イージスには俺が乗るよ」

 

「なっ!」

 

「タキさん!」

 

 

リューグ大尉がイージスの乗ると主張し、先を越されたカガリはかなり驚愕し、ジュリ・ウー・ニェンは心配そうにリューグ大尉を見ている。

 

 

「大丈夫。上手く使いこなしてみせるさ」

 

 

そう言ってリューグ大尉はジュリ・ウー・ニェンに優しい笑みを見せる。

 

それを見たジュリ・ウー・ニェンは少し安心したのか、笑顔をリューグ大尉に見せて答える。

 

 

 

 

「これで、パイロットは決まったわね」

 

「むぅー!」

 

 

エリカ・シモンズの言葉にカガリは不満そうな顔でフラガ少佐とリューグ大尉を見ている。

 

そんなカガリには気にせず、フラガ少佐とリューグ大尉は互いに笑みを見せて小さく頷き、キラと俺は笑顔でそんな二人のやり取りを静かに見守る。

 

エリカ・シモンズの提案でフラガ少佐とリューグ大尉はストライクとイージスのテストを含めた模擬戦を行う為の準備に取り掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後。

 

起動したストライクとイージスの目が光り、互いに向き合うように立っている。

 

 

『タキ。そっちはいいか?』

 

『ええ。いつでもどうぞ』

 

『よし。じゃあ、いくぜ!』

 

 

通信による確認を終え、ストライクとイージスは互いに駆け出し、初搭乗とは思えない程の動きで模擬戦を繰り広げる。

 

 

 

 

キラと俺、エリカ・シモンズ、アサギ・コードウェルは真剣に

 

マユラ・ラバッツは興味津々に

 

ラミアス艦長、ジュリ・ウー・ニェンは心配そうに

 

カガリは不満そうに

 

色々な表情で少佐達が操縦する二機のモビルスーツの戦闘を見守っていた。




アストレイ三人娘を登場させました。

今回は会話シーンのみですが、次回から戦闘シーンを出してオリ主達を活躍させようと思います。

気に入って頂けた方はお気に入り登録を、面白いと思った方は高評価を、誤字があった場合は誤字報告をお願いします。

それでは次回まで楽しみにお待ち下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決意の砲火

相変わらずの投稿速度ですが、完結まで頑張ろうと思います。

それでは、今回もゆっくりお楽しみ下さい。


ストライクとイージスの模擬戦を行って後日。

 

キラ、俺、フラガ少佐、リューグ大尉の4人はストライクとイージスのシステムチェックをする為、アークエンジェルのMSデッキに来ている。

 

 

「おっ。来たか坊主」

 

 

ストライクとイージスの近くに着くと、30代ほどの作業着を着た男性が俺達のところに歩み寄って来る。

 

 

「お前さんが坊主の友人の…」

 

「…ダン・ホシノです」

 

「そうか。俺はコジロー・マードック。階級は曹長。このアークエンジェルの整備士をやっている」

 

「よろしく」

 

 

互いに名前を教え、握手を交わす。

 

 

「マードックさん。ストライクとイージスの状態は?」

 

「ああ。坊主達がシステムを細かくチェックしてくれれば完了だ」

 

「わかりました」

 

「了解だ」

 

 

マードック曹長から作業内容を聞いたキラと俺は、フラガ少佐とリューグ大尉を連れ、ストライクとイージスのシステムチェックの作業を始める。

 

俺達の後ろではアサギ・コードウェル、マユラ・ラバッツ、ジュリ・ウー・ニェンの三人が様子を見ている。

 

特にマユラ・ラバッツが笑顔で俺を見ており、彼女の方を見れば手を俺に向かって振ってくる。

 

 

 

 

ストライクとイージスのシステムを大体はチェックした後、キラと俺はそれぞれの愛機のシステムチェックを行う。

 

その最中もマユラ・ラバッツは笑顔でこっちを見ている為、手を振って答えると彼女は嬉しそうに手を振ってくる。

 

そんな彼女の視線を気にしながらも、俺はフューチャーのシステムチェックを行う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空いた時間を利用し、体が怠けないよう鍛練を行ってからMSデッキでフューチャーのチェックをしていると……

 

 

 

 

「おーい!全クルー集合だってよ!」

 

 

マードック曹長が大きい声でクルー達を呼び集める。

 

フューチャーから降りると、キラもフリーダムから降りており、ラミアス艦長がフラガ少佐、リューグ大尉、カガリ、キサカ一佐を連れてMSデッキにやって来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルー達全員が整列したのを確認したラミアス艦長は話を切り出すように口を開く。

 

 

「現在、このオーブへ向け、地球連合軍艦隊が進行中です」

 

 

ラミアス艦長の話を聞くクルー達は、かなり驚愕している。それもそのはずだ。

今まで所属していた軍が自分達のいるこのオーブに攻めてこようとしているからな。

 

 

「地球軍に与し、共にプラントを討つ道を取らぬというのならば、ザフト支援国を見なす。それが理由です」

 

 

動揺するクルー達に対し、ラミアス艦長は引き続き話を再開させる。

 

 

「オーブ政府は、あくまで中立の立場を貫くとし、現在も外交努力を継続中ですが、残念ながら、現状の地球軍の対応を見る限りにおいて、戦闘回避の可能性は、非常に低いものと言わざるを得ません」

 

 

ラミアス艦長の言う通り、ナチュラルのあの様子では話し合いで解決とは到底思えない。

 

 

「オーブは全国民に対し、都市部、及び軍関係施設周辺からの退去を命じ、不測の事態に備えて、防衛態勢に入るとのことです」

 

 

オーブの行動は当然の事だ。

万一の場合もある為、少しでも万全な備えはしておいた方がいいからな。

 

 

「我々もまた、道を選ばねばなりません。現在アークエンジェルは脱走艦であり、我々自身の立場も定かでない状況にあります」

 

 

確かに、あの窮地を逃れる為とはいえ、上からの命令を無視したんだ。

 

向こうから見れば、脱走艦と思われても無理もないだろう。

 

 

 

 

…筋書きを書いた奴等は、そうは思っていないだろうがな。

 

 

「オーブのこの事態に際し、我々はどうするべきなのか、命ずる者もなく、また私もあなた方に対し、その権限を持ち得ません」

 

 

つまり、この後の事をどうするかは自分で考えて決めろ、という事か…。

 

クルー達は顔を見合わせ、カガリは不安そうな表情でキラと俺を見てくる。

 

そんなカガリに対し、キラと俺は頷いて答える。

 

 

「回避不能となれば、明後日0900、戦闘は開始されます。オーブを守るべく、これと戦うべきなのか。そうではないのか。我々は皆、自信で判断せねばなりません。よってこれを機に、艦を離れようと思う者は、今より速やかに退艦し、オーブ政府の指示に従って、避難して下さい」

 

 

ラミアス艦長の言葉にキラ、俺、サイ・アーガイル以外のクルー達は驚愕している。

 

 

「私のような頼りない艦長に、ここまで付いてきてくれて、ありがとう」

 

 

そんなクルー達にラミアス艦長は一礼をする。

 

その様子をキラと俺は静かに見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アークエンジェルの方針の話し合いを終え、キラと一緒に艦内通路を歩いていると……

 

 

「キラ!ダン!」

 

 

後ろからカガリが駆け寄ってくる。

 

 

「あ、あの…」

 

「落ち着けカガリ。お前はオーブの獅子の娘だろう。そんな奴が動揺していてどうする」

 

「え?そ、そうか…そうだな。でも…オーブが戦場になるんだ!…こんな事…」

 

 

俺の言葉を聞いて少し落ち着くカガリだが、まだ動揺しているようだ。

 

 

「でも正しいと思うよ」

 

 

そんなカガリを落ち着かせるように静かに口を開くキラ。

 

 

「オーブの執った道。一番大変だとも思うけど」

 

「キラ…」

 

 

不安そうな表情で見ているカガリを励ますようにキラは話を続ける。

 

 

「だから、カガリも落ち着いて。出来るかどうか分かんないけど、僕達も守るから…お父さん達が守ろうとしているオーブって国をさ」

 

「俺達もいる。お前達オーブだけで背負う必要はない」

 

「…お前ら!!」

 

 

俺達の言葉が嬉しかったのか、カガリは涙を流して抱きついてきた為、少し動揺している。

 

 

「いや…だからさ…ね」

 

 

キラは動揺しながらもカガリを落ち着かせようとするが、彼女が泣き止むには少し時間がかかり、それまで艦内通路を通る乗組員達の視線が少し恥ずかしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後。落ち着いたカガリを連れて艦内通路を歩いていると、曲がり角の向こうから話し声が聞こえてくる。

 

 

「どうせそうだろうけどさ…でも…だって俺、出来ることなんかないよ…戦うなんて!そんなことは出来る奴がやってくれよ…」

 

 

声がする方へ向かってみると、トール・ケーニヒとサイ・アーガイル、そして私服姿で荷物を持っている同年齢の少年が話をしている光景を見かける。

 

 

「キラ。あいつは確か、メインブリッジでの話し合いの時にいた…」

 

「うん。カズイ・バスカーク。彼もへリオポリスで一緒にいた友達なんだ」

 

「…そうか」

 

 

二人と話をしているカズイ・バスカークの服装から見て、どうやら軍を除隊する気らしいな。

 

 

「解ってる。向いてないだけだよ。お前には戦争なんてさ。お前、優しいから」

 

「お前自身が選んで決めたんだ。俺達はお前を責めたりなんかしないよ」

 

「…サイ…。…トール…」

 

 

サイ・アーガイルはカズイ・バスカークの肩に手を置いて話を続ける。

 

 

「平和になったら、また会おうな。それまで、生きてろよ」

 

「落ち着いた時は、連絡くらいよこせよ」

 

 

サイ・アーガイルとトール・ケーニヒの言葉が嬉しかったのか、カズイ・バスカークは顔を俯かせている。

 

 

「…俺、やっぱり…「だから止めとけって。そういうの。また後悔するぞ」」

 

「そうそう。俺達のさっきの言葉、台無しにするなよ」

 

 

三人のやり取りを隠れて見た後、後ろにいるキラの方を見ると、悲しそうな表情で俯いている。

 

カガリはそんなキラを心配そうに見ている。

 

俺はキラを気にかけながらも、トール・ケーニヒ達に見送られながら出口に向かうカズイ・バスカークの後ろ姿を見届ける。

 

カズイ・バスカークの姿が見えなくなり、トール・ケーニヒとサイ・アーガイルが去った後も、キラ、カガリ、俺の三人はしばらくはその場を動く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日後。

 

ラミアス艦長の説明通り、地球軍の艦隊がオーブ付近の海域まで押し寄せて来る。

 

迎撃の為、キラと俺はそれぞれの愛機のシステムを起動させ、いつでも出撃できるようにコックピットで待機している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして爆音が聞こえてくる。

 

どうやら戦闘が開始されたようだ。

 

それを合図にアークエンジェルは出航し、MSデッキのハッチが開く。

 

先にキラが乗るフリーダムが出撃し、俺が乗るフューチャーの番が回り、発進位置へと移動していく。

 

 

『フューチャー、発進、どうぞ!』

 

「ダン・ホシノ、フューチャー、行きます!」

 

 

メインブリッジからの発進許可を確認し、フューチャーと共に戦場へと飛び出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周囲を見渡すと、すでに戦闘は始まっており、オーブと地球軍が激しい攻防戦を繰り広げている。

 

地球軍のモビルスーツをよく見ると、ストライクの量産機なのか、頭部以外はストライクとほぼ似ている。

 

 

『ダン!』

 

「ああ。二手に分かれよう!」

 

『うん!気を付けてね』

 

「キラもな」

 

 

フリーダムと別れ、フューチャーのルプスビームライフルで地球軍の量産機を無力化していく。

 

地球軍の量産機と交戦するM1アストレイを援護する為、フューチャーの機動力で一気に近付く。

 

フューチャーの素早さを活かし、腰からラケルタビームサーベルを抜いてM1アストレイと交戦していた敵数機の武装を斬り裂き無力化させる。

 

更に立体型表示パネルを起動させ、多数の敵機をロックオンし、ハイマット・フルバーストで次々と無力化していく。

 

キラの奮闘もあり、戦況はほぼこちらが優勢になっている。

 

フラガ少佐のストライク、リューグ大尉のイージス、そしてアサギ・コードウェル達三人のM1アストレイも奮戦し、地球軍の進攻を食い止めている。

 

 

「(やるな…。俺も、負けていられないな)」

 

 

俺は心の中で自分を奮い立たせ、更に進攻してくる地球軍の迎撃に集中する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵機を大体撃退すると、コックピットに敵機接近の警報が鳴り響く。

 

メインモニターを見てみると、フリーダムと交戦している3機のモビルスーツの姿が映っている。

 

その3機は、2門のビーム砲を両肩に背負った緑、鳥のような形をした黒、そして大鎌を持った薄緑と見た事のないモビルスーツだ。

 

 

「…敵の新型か」

 

 

それを確認し、キラの援護に向かおうとするが、フリーダムと連合の3機が戦闘をしている場所の近くを見て驚愕する。

 

そこには、避難をしている最中か、家族らしき民間人が軍港に向かって走っているところを見かけたからだ。

 

フリーダムが連合3機と交戦している為、流れ弾に巻き込まれる可能性がある。

 

俺はフューチャーのスラスターによる最大速度で彼らの元に急行する。

 

その最中予想していた通り、戦闘中の流れ弾が彼ら目掛けて飛んでいく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その流れ弾は避難民に直撃する事なく、間一髪のところで間に合い、彼らを守るようにシールドを構え、周囲を警戒する。

 

そうしている間にオーブの兵士達がこっちに駆け寄って来る。

 

それを確認した俺は、スピーカーでオーブ兵達に呼びかける。

 

 

「早く彼らを連れて行け。急げ!」

 

 

俺の声を聞いたオーブ兵は民間人を連れ、その場を離れ、軍港に向けて走っていく。

 

メインモニターでそれを見届けた後、フリーダムの状況を見てみると、連合3機に苦戦しているようだ。

 

今度こそ援護に向かう為、キラの元に急行する。

 

 

 

 

一方向こうは、隙を突くように黒いモビルスーツがフリーダムの前に現れ、ビームを放とうとしている。

 

そうはさせまいとフューチャーの機動力を活かし、黒いモビルスーツをフリーダムから距離を離すように蹴り飛ばす。

 

 

『っ!ダン!』

 

「大丈夫か?」

 

『うん。何とかね』

 

 

俺の介入に驚いているのか、連合3機は少しの間動きを止めていたが、すぐに立て直して攻撃を仕掛けてこうとした時、上空から連合3機に向かってビームが飛んでくるが、間一髪のところで回避されてしまう。

 

ビームが飛んできた上空を見上げると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1機の赤いモビルスーツが連合3機に向けてビームライフルを構えていた。




今回はあの一家を登場させました。

原作を見た方はご存知だと思います。

フューチャーの無双シーンを書くのも難しいですね。


気に入って頂けた方はお気に入り登録を、面白いと思った方は高評価を、誤字があった場合は誤字報告をお願いします。


それでは、次回もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アスラン

今回は少しの戦闘&幼馴染みの会話シーンとなります。

それでは、ゆっくりお楽しみ下さい。


連合の3機体との戦闘に突然介入してきた赤いモビルスーツの姿に驚くが、俺はすぐに立て直し、万一の場合に備えて警戒する。

 

赤いモビルスーツに攻撃された事が悔しかったのか、連合の黒いモビルスーツが赤いモビルスーツにビームを放って襲い掛かる。

 

しかし、赤いモビルスーツはそのビームを回避する。

 

鎌を持ったモビルスーツはキラと俺に向けてビームを放ってくるが、それを難無く回避する。

 

 

『こちら、ザフト軍特務隊アスラン・ザラだ。聞こえるかフリーダム!フューチャー!』

 

 

赤いモビルスーツからなのか、突然こちらに通信を繋げてきた為、警戒していたが、アスランの名を聞き、内心驚いている。

 

 

「(…アスランだと…?)」

 

『キラ・ヤマトとダン・ホシノだな?』

 

 

その通信の最中、黒いモビルスーツが突進しながら再び赤いモビルスーツにビームを放ってくる。

 

赤いモビルスーツはビームサーベルを抜き、もう一本と連結させた双刃型アンビデクストラス・ハルバードを構え、シールドでビームを防ぎながら黒いモビルスーツに向かっていく。

 

見たところ、あの赤いモビルスーツが使用している武装は色は異なるが、フリーダムとフューチャーと同型のようだ。

 

赤いモビルスーツは黒いモビルスーツに斬り掛かるが、シールドで防がれ、距離を取られる。

 

鎌を持ったモビルスーツが赤いモビルスーツを追撃しようとするが、フューチャーのビームライフルで鎌持ちのモビルスーツを攻撃する。

 

 

 

 

しかし、そのビームは鎌持ちのモビルスーツに直撃する寸前で別の方向に曲がってしまう。

 

 

「(ビームが曲がった…?)」

 

 

攻撃は失敗したが、一瞬動きを止めた鎌持ちのモビルスーツにフリーダムがビームサーベルを抜いて向かっていく。

 

フリーダムがビームサーベルで鎌持ちのモビルスーツに斬り掛かるが、回避されてしまう。

 

 

『どういうつもりだ!ザフトがこの戦闘に介入するのか!?』

 

 

アスランの声を聞いて動揺しているのか、キラは少し声を荒らげながら問いただす。

 

 

『軍からはこの戦闘に対して、何の命令も受けていない!この介入は…俺個人の意志だ!』

 

 

通信の最中、黒いモビルスーツが赤いモビルスーツに連続でビームを放つが、それを全て回避する。

 

フリーダムは鎌持ちのモビルスーツに向けてビームライフルを放つが、先程と同じようにビームが別の方向に曲がってしまう。

 

フリーダムが続けて鎌持ちのモビルスーツをビームライフルで攻撃する。

 

緑のモビルスーツが味方もろともビーム砲を撃ちながら割り込んでくるが、そのビームを回避する。

 

緑のモビルスーツが近くの戦艦の上に移動し、続けてビーム砲で攻撃してくるが、それも機体の機動力を活かして回避する。

 

その攻撃は、鎌持ちのモビルスーツにも飛んでいくが、鎌持ちのモビルスーツはガードを利用して、なんと味方である黒いモビルスーツに向けて跳ね返す。

 

黒いモビルスーツはビームを回避するが、その隙を突くように、赤いモビルスーツが鎌持ちのモビルスーツに向けてバルカンで攻撃する。

 

鎌持ちのモビルスーツはその攻撃も防ぐが、予想通り曲がることはなく、そのまま普通にバルカンが直撃する。

 

 

「(あのモビルスーツ、物理の攻撃は曲げられないのか…)」

 

 

俺と同じように鎌持ちのモビルスーツの弱点に気付いたのか、フリーダムがレール砲で鎌持ちのモビルスーツに追い撃ちをかける。

 

それも防がれるが、反撃の隙を与えないようにフューチャーのレール砲で追撃しながら、鎌持ちのモビルスーツに近付く。

 

 

 

 

それに乗じるように赤いモビルスーツもフューチャーの横に並び、二機同時による機動力を活かした蹴りを鎌持ちのモビルスーツに食らわせる。

 

黒いモビルスーツがフューチャーと赤いモビルスーツにビームを撃ってくるが回避する。

 

フリーダムの高ビーム砲による攻撃を黒いモビルスーツに仕掛けるが回避され、左腕の鉄球による攻撃をしてくるが、散開して回避する。

 

フリーダムが先陣を切って、黒いモビルスーツに向けてビームサーベルを抜いて仕掛けるが、回避されてしまう。

 

しかし、赤いモビルスーツがその隙を見逃さず、黒いモビルスーツに膝蹴りを食らわせる。

 

その勢いに乗じ、フューチャーの素早さを活かして黒いモビルスーツを蹴り飛ばすと、地上にいた緑のモビルスーツがビーム砲で攻撃してくる。

 

フリーダム、フューチャー、赤いモビルスーツは回避した後、フューチャーのビームライフルで反撃するが、回避されてしまう。

 

周囲を見渡すと、黒いモビルスーツと鎌持ちのモビルスーツの姿が見当たらない。

 

 

 

 

『っ!アスラン!ダン』

 

『上だ!』

 

「知ってる!」

 

 

キラの呼び声に答えて上を見上げると、太陽の光に紛れて鎌持ちのモビルスーツがフリーダム、フューチャー、赤いモビルスーツに向かって突進してくる。

 

それを回避すると、フリーダムがビームライフルで鎌持ちのモビルスーツを攻撃するが、弾かれてしまう。

 

赤いモビルスーツが背部に装備されているフライトシステムを分離させ、鎌持ちのモビルスーツを攻撃する。

 

その隙を突くように、フューチャーのレール砲で鎌持ちのモビルスーツの胴体に直撃させる。

 

黒いモビルスーツがフリーダムとフューチャーに向けて高ビームで攻撃してくるが、機動力を利用して回避する。

 

俺達の援護の為、赤いモビルスーツが背部のフライトシステムのビーム砲で黒いモビルスーツを攻撃するが回避される。

 

その最中、緑のモビルスーツは味方である黒いモビルスーツと鎌持ちのモビルスーツをビーム砲で攻撃する。

 

 

『こいつら味方も平気で…!』

 

「…狂ってやがる…」

 

 

連合三機のやり取りを見ながら次の攻撃に備えていると、突然連合三機の動きが停止する。

 

少し間を空けた後、連合三機は自分達の母艦がある方へと撤退していく。

 

連合三機の撤退を確認したように、地球軍の艦隊から信号弾が発射され、それを見た連合のモビルスーツ部隊が次々と撤退していく。

 

 

 

 

地球軍が完全にオーブから撤退したのを確認した後フリーダムとフューチャーは赤いモビルスーツと向き合う。

 

 

『援護は感謝する。だが、その真意を、改めて確認したい』

 

 

キラが通信を繋げて話を切り出し、俺はその様子を静かに見ていると、赤いモビルスーツのコックピットからアスランが現れる。

 

 

『俺は…フリーダムとフューチャーの奪還、或いは破壊という命令を本国から受けている。だが今、俺はお前達と、その友軍に敵対する意志はない』

 

 

コックピットから出ているから本格的な操縦はできないだろう。アスランの発言に偽りはないようだ。

 

 

『…アスラン…』

 

『話がしたい、お前達と…』

 

「…事情は把握した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夕方となり、キラ、アスラン、俺の機体がアークエンジェルが停泊している場所に到着すると、ストライク、イージス、そしてM1アストレイのパイロット達が体を休めている。

 

フリーダムとフューチャーをアークエンジェルの近くに着地させると、アスランのモビルスーツが向かい側に着地する。

 

それを確認した後、キラと俺が愛機から降りるのと同時にアスランもモビルスーツから降りる。

 

 

 

 

モビルスーツから降り、ラミアス艦長とアークエンジェルのメンバー、そしてカガリ達オーブ勢がこっちを見ている中、キラと俺は向こう側にいるアスランと向き合う。

 

しばらくして、キラと俺、アスランが互いに歩み出す。

 

その最中、アスランが視線を横に向けている事に気付き、その方を見るとオーブの兵士達がアスランに銃を向けている。

 

 

「彼は敵じゃない!」

 

「発砲はするな!」

 

 

キラと俺は、すぐにオーブ兵に呼びかけ、発砲させないように止める。

 

俺達の呼びかけにオーブ兵達は銃を下ろす。

 

至近距離まで辿り着いたキラと俺、アスランは真剣な表情で互いを見ている。

 

 

 

 

《トリィ!》

 

 

しばらく俺達が互いを見ていると、上空からトリィが飛んで来てキラの肩に止まる。

 

一度トリィを見たキラは優しい笑みをアスランに見せて話しかける。

 

 

「…やあ、アスラン」

 

「…キラ…」

 

「…久しぶりだな」

 

「…ああ…。そうだな…」

 

 

キラと俺の言葉に躊躇いながらも答えるアスラン。

 

 

 

 

「…お前らぁぁぁぁ!!」

 

 

俺達の様子を遠くから見ていたカガリがこっちに向かって駆け寄り、キラとアスランの間に割り込むように抱き付く。

 

 

「カガリ!?」

 

 

突然のことでキラとアスランは驚愕している。

 

無論、俺もキラ達と同じ顔をしているだろう。

 

 

「この…馬鹿野郎…!!」

 

 

そんな俺達に構わず、カガリは涙を流しながらも嬉しそうに笑っている。

 

俺もカガリと同じようにキラとアスランの間に立ち、二人の肩に手を置く。

 

そしてしばらくの間、俺達は互いに笑みを見せながら、久しぶりに幼馴染みが揃ったことを喜び合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウズミ代表からアスランの入国の許可を得た後、キラと俺はMSデッキに収納されている愛機達の近くで、オーブの現状とこれからの方針についてアスランと話し合っている。

 

俺達以外にも、周囲にはカガリとアークエンジェルのメンバー、そしてM1アストレイのパイロット三人組も俺達の様子を見ている。

 

 

 

 

アスランが乗っていた赤いモビルスーツの名はジャスティス。

 

ZGMF-X09Aジャスティス。

 

正義を由来とし、フリーダムとフューチャーと同様に奪取した機体のデータを組み込んで開発された機体だ。

二機と同じようにニュートロンジャマーキャンセラーが搭載されおり、フリーダムとフューチャーとは兄弟機でもあるらしい。

 

 

「しかし…それは…!」

 

「うん。大変だってことは解ってる」

 

「だが…キラと俺、そしてオーブが選んだ道だ」

 

 

会話の最中、俺達の分の飲み物を持ったカガリが小走りでやって来る。

 

 

「ありがとう」

 

「すまない」

 

「悪いな」

 

 

カガリから飲み物を受け取った俺達は話を再開させる。

 

 

「でも、仕方ない。僕もダンもそう思うから。カガリのお父さんの、言う通りだと思うから」

 

「オーブは中立を貫く国だ。もし地球軍に加担すれば、問答無用でプラントを攻める為に、その力を利用されるだろう」

 

「ザフトの側に付いても、同じことだ。ただ、敵が変わるだけで。それじゃ、しょうがない。そんなのはもう、嫌なんだ。僕達は。だから…」

 

「しかし…!」

 

 

何かを言いたそうなアスランに対し、キラは更に話を続ける。

 

 

「…僕は、アスランとダンの仲間、友達を殺した」

 

 

キラのその言葉を聞いたアスランは顔を俯かせる。

 

 

「でも…僕は、彼を知らない。殺したかった訳でもない」

 

 

知らなかったとしても、どれだけ時が経っても、ニコルを殺してしまった罪は、呪縛のように決して消す事はできないかもしれない。

 

 

「アスランも…タキさんを殺しそうとした。でも…君も、タキさんの事を知らない。殺したかった訳でもないだろ?」

 

「俺は…お前を殺そうとした…」

 

「…僕もさ…」

 

 

キラの言葉にアスランは、少し驚愕した表情を見せる。

 

 

「アスラン」

 

 

アスランの名を呼んだキラはフリーダムを見上げる。

 

アスランと俺もキラと同じように、それぞれの愛機を見上げる。

 

 

「戦わないで済む世界ならいい。そんな世界に、ずっと居られたんなら…でも、戦争はどんどん広がろうとするばかりで…」

 

 

アスランは考えるように少し顔を伏せ、俺は静かにキラの話を聞く。

 

 

「このままじゃ、本当にプラントと地球は、お互いに滅ぼし合うしかなくなるよ。だから、僕もダンも戦うんだ」

 

「キラ…」

 

 

キラの考え、決意をアスランが聞いた事を見届けた俺も、後押しするように口を開く。

 

 

「守る為に武器を取って戦ってきたが、同時に、多くの大切なもの奪ってきた。お互いにな」

 

 

俺の言葉を聞いたキラは、俯きながら呟くように語る。

 

 

「僕達も…また戦うのかな…」

 

「キラ?」

 

 

キラの様子を気にするアスランに対し、キラは切なそうな笑みを見せる。

 

 

「もう作業に戻らなきゃ。攻撃…いつ再開されるか分かんないから」

 

「そうだな。俺もすぐに行く」

 

「うん。また後でね」

 

「ああ」

 

 

キラはフリーダムのチェックに戻ろうと立ち上がって去ろうとする。

 

 

 

 

「…キラ!」

 

 

アスランは何かに気付いたようにキラを呼び止める。

 

 

「一つだけ聞きたい。フリーダムとフューチャーには、ニュートロンジャマー・キャンセラーが搭載されている。そのデータをお前とダンは…」

 

「ここで、あれを何かに利用しようとする人が居るなら、僕達は討つ」

 

 

そうアスランに言い残し、今度こそその場を後にするキラ。

 

俺は立ち上がり、キラの後ろ姿を見るアスランの肩に手を置く。

 

 

「…ダン…」

 

「キラは本気だ。フリーダムとフューチャーは核で動いている。それを私利私欲で狙う者、そして奪おうとする者が現れた場合は…」

 

 

決意を示すように、俺は真剣な目でアスランを見る。

 

 

「誰だろうと、俺もキラと同様に、それと戦う。…たとえそれが、ザフトでも」

 

 

その後、驚愕するアスランに笑みを見せ、フューチャーのチェックをする為、その場を後にする。

 

その途中、マユラ・ラバッツと鉢合わせをするが、心配そうな表情で俺を見ている。

 

そんな彼女を少しでも安心させようと、できる限りの優しい笑みを見せてから、フューチャーの元に歩いて行った。




今回は戦闘からの会話シーンを更新しました。

相変わらずの更新ですが、少しでも楽しんで頂けるよう頑張ろうと思います。

気に入って頂けた方はお気に入り登録を、面白いと思った方は高評価を、誤字があった場合は誤字報告をお願いします。

それでは、次回もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暁の宇宙へ

今回は、お気に入りの挿入歌が流れた、あの胸熱シーンです。

それでは、ゆっくりお楽しみ下さい。


モビルスーツデッキでフューチャーのチェックを終え、しばらく休息を取っていると、突如デッキ内に警報が鳴り響く。

 

 

《モビルスーツ群航空機隊オノゴロを目標に侵攻中!》

 

「迎撃ー!モビルスーツ隊発進急げ!」

 

 

放送後、整備員の号令でパイロット達がそれぞれの機体に向かっていく。

 

爆音が響き、既に戦闘が再開されている為、俺はフューチャーのコックピットに急行する。

 

その途中、フリーダムの近くでキラとアスランが話をしているところを目撃する。

 

俺は二人の様子を見る為に物陰に隠れる。

 

 

 

 

「この状況では、どのみちオーブに勝ち目はない。解ってるんだろ?」

 

 

確かに、オーブの技術が優れているとはいえ、兵力差では、こちらの方が不利。

 

勝つことは難しいだろう…。

 

 

「…うん。多分、皆もね。でも、勝ち目がないから戦うのを止めて、言いなりになるって、そんな事できないでしょ」

 

「キラ…」

 

「大切なのは、何の為に戦うかで。だから僕も行くんだ。本当は戦いたくなんてないけど、戦わなきゃ守れないものもあるから…」

 

 

俺は腕を組み、様子を見ながらキラの言葉を聞く。

 

キラは優しい奴だ。

友人思いで争い事を嫌いながらも、偶然戦争に巻き込まれ、生き残る為、友を守る為に、やむ得ず戦ってきたんだからな。

 

 

「ごめんね、アスラン。ありがとう。話せて嬉しかった」

 

 

話を終えたキラは昇降機に乗ってフリーダムの元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キラ…」

 

 

キラの乗るフリーダムが発進位置に移動していくのを見届けたアスランはその場を動こうとはしない。

 

俺は物陰から出て、アスランの元へ歩み寄る。

 

 

「ダン…」

 

 

こっちに気付いたアスランに俺は声をかける。

 

 

「…キラの奴、変わったな」

 

「…ああ。昔とは大違いだ」

 

 

今のキラは、なるべく命を奪わないように、そして自分が信じているものを守る為に戦っている。

 

それは俺も同じだ。

 

ラクスに託されたフューチャーを自分が正しいと思う事の為に戦っている。

 

 

「(ラクス…。今君は、何をしているんだ…?)」

 

 

心の中でラクスの事を気にかけていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まいったねぇ」

 

 

横から覚えのある声が聞こえてくる。

 

 

「ディアッカ…!」

 

「…お前、いつからいた?」

 

「俺の扱いひどくない!?」

 

 

ディアッカに気付き、アスランは驚き、俺は思った事を声に出し、ディアッカは俺からの自分の扱いにショックを受ける。

 

気を取り直したディアッカからの話によると、オノゴロ島の戦闘で乗っていたバスターが、敵対していた頃のアークエンジェルの砲撃を受けて損傷した為、やむ得ず投降し、捕虜にされていたらしい。

 

しかし、アークエンジェルが脱走艦となり、このオーブが戦場になるという事で釈放されたようだ。

 

 

 

 

正直、アスランの事ですっかり忘れていた。

 

 

「…ところでアスラン。お前、あのフリーダムとフューチャーの奪還命令、受けてんだろ?」

 

 

ディアッカの言葉にアスランは俯く。

 

 

「やっぱりまずいだろうなぁ。俺達ザフトが介入したらよぉ。あ、ダンはもうザフトじゃなかったっけ?」

 

「…ならどうする?今ここで俺を討つか?」

 

 

俺は目を鋭くしてディアッカを警戒しながら見る。

 

俯いていたアスランはすぐに顔を上げ、驚愕した表情で俺達を見ている。

 

アスランが不安そうに見ている中、俺とディアッカは真剣な表情で互いを見た後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いや、やめとくよ。そんな事をしたら、ここの連中に目の敵にされるし、そんなつもりは最初からないからな~」

 

 

ディアッカはいつものマイペースな笑みを俺に見せる。

 

それに釣られるように俺もディアッカに笑みを見せて答える。

 

そんな俺達を見て安心したのか、アスランはほっとしたような表情をしている。

 

 

「それで、お前はどうするんだ?アスラン」

 

 

ディアッカに話を振られたアスランは少し驚きながらも、目を閉じて考えるように顔を伏せる。

 

 

 

 

「俺は…」

 

 

アスランはしばらく考えた後、静かに口を開く。

 

 

「俺はあいつを…あいつらを死なせたくない!」

 

「…そうか」

 

 

アスランの本心を聞いた俺は、アスランの肩に手を置き、そう言葉をかける。

 

 

「めずらしく、てか、初めて意見が合うじゃん。俺達」

 

 

俺に続いてディアッカもアスランに話しかける。

 

…確かに、ザフトにいた頃は対立する事が多かったからな。

 

まあ、ほとんどはイザークに便乗する事ばかりだったがな。

 

 

 

 

とにかく、今やるべき事を見つけた俺、アスラン、そしてディアッカの三人は、すぐにそれぞれの愛機に乗り込み、発進準備を急がせる。

 

俺が先に準備を終えた為、一足先にフューチャーで出撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場に到着すると、地球軍のモビルスーツ部隊がM1アストレイの部隊を撃退しながら侵攻しているところを目撃する。

 

こっちに気付いた敵モビルスーツ達がビームライフルをフューチャーに向けて攻撃してくるが、フューチャーの機動力を活かし、ビームの雨を抜けながら回避する。

 

隙を見て立体型表示パネルを起動させ、多数の敵モビルスーツをロックオンし、ハイマット・フルバーストで迎撃していく。

 

周辺の敵部隊を無力化した後、敵艦が撃ってきた複数のミサイルをハイマット・フルバーストで全て撃ち落としていく。

 

その爆煙を煙幕代わりに、素早く地球軍のモビルスーツ部隊に近付き、フューチャーの腰からラケルタビームサーベルを抜き、敵機の全武装をことごとく切り裂いていく。

 

 

 

 

数十機以上の敵を無力化させ、コックピットのモニターで周囲を警戒していると、ここから少し離れた場所で、この前戦った地球軍の新型三機と交戦しているフリーダムを目撃する。

 

敵の猛攻を回避したり、防いだりしているフリーダムだが、3対1という状況である為、かなり追い込まれている。

 

 

『ダン!』

 

 

そこへ、後から出撃したアスランの乗るジャスティスがフューチャーの横まで駆けつける。

 

 

『っ!キラ!』

 

 

アスランも苦戦しているフリーダムに気付き、驚愕している。

 

 

「急ぐぞ!」

 

『ああ!』

 

 

フューチャーとジャスティスの機動力を利用してすぐにフリーダムの元へ急行する。

 

まずフューチャーがハイマット・フルバーストで、フリーダムに直撃させないように、連合三機を狙い撃つが紙一重で回避されてしまう。

 

追い打ちかけるように、ジャスティスは肩からバッセルビームブーメランを抜き、連合三機に向けて投げるが、それも回避される。

 

しかし、フリーダムから距離を離す事に成功する。

 

 

「キラ。待たせたな」

 

『ダン!』

 

『キラ!』

 

『アスラン!どうして!?』

 

 

俺からの通信に答えたキラは、アスランの参戦に驚愕している。

 

フューチャーとジャスティスの介入に一瞬だけ動きを止めていた連合三機だが、すぐに立て直して攻撃してくる。

 

黒いモビルスーツが撃ってきたビームを回避するが、そこへ鎌持ちのモビルスーツが斬り掛かってくるが、それも回避する。

 

敵の攻撃を回避しながら、アスランはキラとの会話を通信で続ける。

 

 

『俺達にだって解ってるさ!戦ってでも守らなきゃいけないものがあることぐらい!』

 

『アスラン…!』

 

 

自分の本心を語るアスランと、それをキラに、俺は通信を繋げて話しかける。

 

 

「話したい事は山程あるだろうが、今は奴等を黙らせるぞ」

 

『…うん!』

 

『ああ!』

 

 

俺の言葉にキラとアスランが返答をした後、連合三機の攻撃を回避したのを合図に、それぞれの愛機の長所を活かした連携で敵に応戦する。

 

フリーダムは鎌持ち、ジャスティスは黒いモビルスーツ、フューチャーは緑のモビルスーツと別れて交戦する。

 

こちらに向けて緑のモビルスーツが海上からビームを撃ってくるが、フューチャーの機動力に素早さを利用して全て回避し、ルプスビームライフルで反撃するが、横に飛んで回避される。

 

 

 

 

しばらく交戦していると、緑のモビルスーツが攻撃の手を緩めるような様子を見せる。

 

 

「(まさか、もうエネルギーが…)」

 

 

新型とはいえ、フューチャーのように核で動いている訳ではない為、ビーム兵器を使用しすぎたせいでエネルギーを多く消耗したのだろう。

 

好機と見て、フューチャーで緑のモビルスーツに近付き、居合いのようにビームサーベルを抜いて斬り掛かるが、上に飛び上がって回避される。

 

そして、ジャスティスと交戦中の筈の黒いモビルスーツの上に乗り、一緒に自分達の軍艦の方へ撤退していく。

 

残るは鎌持ちだけだが、フリーダムとの接近戦で追い込まれ、二機を追うように引き上げていく。

 

 

 

 

『『はぁ、はぁ、はぁ』』

 

 

連合三機との戦闘での緊張が解けたのか、キラとアスランは大きく呼吸をしている。

 

俺もキラ達ほどではないが、肩で呼吸をして緊張を解く。

 

一度だけではなく、二度も地球軍を退く事ができたが、このまま防衛戦を続けてもキリがないだろう。

 

そう考えていると、アークエンジェルから通信が入り、ウズミ代表から呼び出しを受けた報せを聞く。

 

どうやら全員、カグヤ島に集合してほしいという事らしい。

 

カグヤ島には、宇宙に向かう為のマスドライバー施設の他、イズモ級戦艦を収納する格納庫があり、宇宙との連絡用の設備を備えられている。

 

とにかく俺達は、ウズミ代表の言う通りにカグヤ島へ急行する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カグヤ島に到着し、ディアッカと合流した後、ウズミ代表と先に着いているカガリ、ラミアス艦長、ブラガ少佐、リューグ大尉がいる指令室に向かっている。

 

指令室の近くまで来ると、ウズミ代表の話し声が聞こえてくる。

 

 

 

 

「…が、例えオーブを失っても、失ってはならぬものがあろう。地球軍の背後には、ブルーコスモスの盟主、ムルタ・アズラエルの姿がある」

 

 

その名を聞き、俺達ザフトは少し驚愕する。

 

 

 

 

ブルーコスモスといえば、反コーディネイターを掲げる政治団体だ。

 

そしてムルタ・アズラエルは噂でしか聞いた事がないが、反コーディネイター運動に最大の出資をしてきた財閥の御曹司でもある。

 

 

 

 

「そしてプラントも今や、コーディネイターこそが、新たな種とする、パトリック・ザラの手の内だ」

 

 

ザラ委員長の名を聞いた後、アスランの方に顔を向けると、険しい顔で俯いている。

 

 

「このまま進めば、世界はやがて、認めぬ者同士が際限なく争うばかりのものとなろう。そんなもので良いか!?君達の未来は」

 

 

話を続けるウズミ代表の言葉を俺達は黙って聞く。

 

 

「別の未来を知る者なら、今ここにある小さな灯を抱いて、そこへ向かえ。またも過酷な道だが、解ってもらえような?マリュー・ラミアス」

 

「…小さくとも強い灯は消えぬと、私達も信じております」

 

 

ブラガ少佐の方を見た後、返答するラミアス艦長の言葉を聞き、ウズミ代表は納得するように笑みを見せる。

 

 

「では、急ぎ準備を」

 

「は!」

 

 

ウズミ代表の指示に従い、ブラガ少佐達を連れて指令室を後にするラミアス艦長。

 

ラミアス艦長達が去った後、ウズミ代表は近くにいるカガリの頭を優しく撫でながらキラを見ている。

 

その様子を気にしながらも、俺達パイロット組もオーブからの脱出の為の準備に取りかかる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指令室を出た後、すぐにアークエンジェルとクサナギの脱出準備が開始され、現在はアークエンジェルが宇宙へ上がる為、プラズマ・ブースターの取り付け作業を行っている最中である。

 

 

 

 

クサナギとは、モルゲンレーテ社が開発したイズモ級の宇宙戦艦である。

元はモビルスーツの運用艦であったが、M1アストレイの開発と同時に改修が加えられている。

 

 

 

 

2隻の艦が準備を終えるまで、キラ、俺、アスラン、ディアッカのパイロット組は、敵に備えて愛機と共に外で待機している。

 

 

「そりゃぁ、このままカーペンタリアに戻ってもいいんだろうけどさ、どうせ敵対してんのは地球軍なんだし…」

 

 

確かに、アスランとディアッカは俺とは違い、まだザフトにいる為、これ以上俺達に関わらずにカーペンタリアに戻れば問題ないかもしれない。

 

待機している間での会話中、アスランは何を考えているような表情をしている。

 

 

 

 

「…ザフトのアスラン・ザラか」

 

 

突然の呟くようなアスランの声に、キラ、俺、ディアッカの三人はアスランの方に顔を向ける。

 

 

「彼女には解ってたんだな」

 

「アスラン?」

 

 

アスランに声をキラだが、アスランはそのまま話を続ける。

 

 

「国、軍の命令に従って敵を討つ。それでいいんだと思っていた。仕方ないと。それで、こんな戦争が一日でも早く終わるならと」

 

 

アスランの話を、俺達は真剣な表情で黙って聞いている。

 

 

「でも、俺達は本当は、何と、どう戦わなくちゃいけなかったんだ?」

 

 

アスランの言う通り、戦う為には敵となる相手が必要だ。

だが、だからとはいえ、戦う事ばかりに執着し過ぎれば、それは戦いに飢えた獣だ。

とはいえ、戦わずに静かに過ごしても、誰かがそれを壊す可能性もある。

 

キラと俺は既に戦う覚悟はあるが、アスランは戦う事に迷いが生じ始めているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…一緒に行こう、アスラン」

 

 

沈黙を破るように、笑みを見せながら口を開くキラを、アスランとディアッカは少し驚愕した表情で見る。

 

 

「みんなで一緒に探せばいいよ。それをさ」

 

 

そう語るキラに便乗するように、俺もアスランに話しかける。

 

 

「一人で考える必要はない。焦らずに、ゆっくりと探して、見つければいい」

 

「…うん」

 

 

俺達の言葉にアスランは笑みを見せて小さく頷き、ディアッカもそれに賛同するように笑みを見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく待機していると、突然警報が鳴り響く。

 

どうやら地球軍が3度目の侵攻を仕掛けて来たようだ。

 

オーブを完全に掌握するまで何度も侵攻する気だ。

 

フューチャーに乗り込み、いつでも出撃できるように待機していると、指令室にいるウズミ代表からアークエンジェルへの通信が入る。

 

 

『ラミアス殿!発進を!』

 

『解りました!キラ君?』

 

『発進を援護します。アークエンジェルは行ってください』

 

 

アークエンジェルとクサナギの援護の為、俺達パイロット組は愛機を起動させ、それぞれの持ち場につく。

 

 

「クサナギの方は?」

 

『すぐに出す!すまん!』

 

 

俺の確認に答えるウズミ代表。

クサナギもいつでも発進できるようだ。

 

 

『空中戦になる。バスターでは無理だ。ディアッカはアークエンジェルへ!』

 

『チッ!』

 

 

アスランの呼び掛けに舌打ちをするディアッカだが、バスターをアークエンジェルに急行させる。

 

 

 

 

 

バスターを収容した後、プラズマ・ブースターを付けたアークエンジェルは発進を開始する。

 

それと同時に連合三機が姿を現し、こっちに向かって来る。

 

 

「例の三機が来たぞ!」

 

『キラ!』

 

『発進急いで下さい!』

 

 

キラの指示に答えるように、アークエンジェルは上空に向けてローエングリンを発射する。

 

そして、それで生じたポジトロニック・インターフェアランスを利用して加速させ、宇宙へと上がっていく。

 

かなり遠くまで上がったアークエンジェルを連合三機は追撃しようする。

 

しかし、フリーダム、フューチャー、ジャスティスのビームライフルによる攻撃でそれを阻止する。

 

しばらくは射撃戦をメインに連合三機と戦闘を繰り広げていると、カグヤ島からクサナギが発進する光景を見かける。

 

 

『アスラン!ダン!』

 

『ああ!』

 

「急ぐぞ!」

 

 

キラの掛け声に答え、全速力でマスドライバー上を走っているクサナギに急行する。

 

クサナギはかなりの速さで走っている為、機動力に優れた機体でも追い付くには時間がかかる。

 

フリーダムとフューチャーはクサナギに到着し、ジャスティスも後少しのところまで来ている。

 

フリーダムとジャスティスが互いに手を伸ばし、徐々に距離を縮めていく。

 

しかし、そうはさせまいと連合三機がこっちに向けてビームを乱射しながら妨害してくる。

 

 

「ちっ!(しつこい奴等め…!)」

 

 

フリーダムとジャスティスの援護をする為、フューチャーのビームライフルで応戦し、隙を突いて連合三機のすぐ近くの海面にビームを撃ち込んで注意をそらす。

 

 

「今だ!急げ!」

 

『『うおおぉぉ!!』』

 

 

連合三機が怯んだ隙にフリーダムとジャスティスは、ようやく互いの手を掴む。

 

フリーダムがジャスティスの手を引き、三機は無事にクサナギに乗り込む事に成功する。

 

さっきの反撃に激昂したのか、連合三機は尚も俺達を乗せたクサナギにビームによる猛攻を仕掛けてくる。

 

キラ、俺、アスランの三人は通信用のモニターで合図を出すように頷いた後、追って来る連合三機付近の海面に向けて、フリーダム、フューチャー、ジャスティスの全武装による一斉射撃を放つ。

 

連合三機を退け、遂にクサナギは宇宙へと上がっていく。

 

 

 

 

徐々に小さくなっていくオーブ。

 

そしてカグヤがあったと思われる場所から小さくも、強い光が見えた。

 

まるでオーブを脱出する前に、ラミアス艦長が言っていた…

 

 

 

 

小さくても強く輝く灯のように……。




今回は、あの胸熱シーンを再現できるように、主人公組の活躍を頑張って書かせて頂きました。

ディアッカとの会話のシーンは、再会した後も考えましたが、原作でのアスランの反応を見て、こちらのイメージで書かせて頂きました。

次回から宇宙でのストーリーになると思うので、近い内に“彼女”も再び登場すると思います。

気に入って頂けた方はお気に入り登録を、面白いと思った方は高評価を、誤字があった場合は誤字報告をお願いします。

それでは、次回もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三隻同盟編
ゆれる世界


無事にオーブから脱出して宇宙へ上がった俺達は、クサナギ周辺の巡回にあたっている。

 

 

《ハルD、距離200、ハルC、距離230、軸線よろし》

 

 

フリーダム、フューチャー、ジャスティスの他、M1アストレイの部隊に守られながら、クサナギはドッキング作業を進めていく。

 

 

《全ステーション、結合ランチ、スタンバイ》

 

 

オペレータの放送が流れる中、アークエンジェルが使っていたプラズマブースターをクサナギに取り付け、無事にクサナギのドッキングは完了する。

 

それを確認した俺は、キラとアスランと一緒にクサナギに向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クサナギに到着した俺達は、それぞれの愛機をMSデッキに収納し、ノーマルスーツから着替えた後、クサナギにあるカガリの部屋に向かっている。

 

艦内にいるカガリの様子を見る為だ。

 

前までは、アークエンジェルの作業着を着ていたが、クサナギからオーブのジャケットを用意された為、それを着用している。

 

 

 

 

オーブからの脱出時に見た小さな光。

 

あれは俺達が無事に宇宙へ上がった事を確認したウズミ代表がカグヤ島を自爆させたものらしい。

 

これはクサナギのメンバーから聞いた話の一つであり、もう一つ報せがあるようだ。

 

 

 

 

 

そのもう一つは、カグヤの自爆……

 

ウズミ代表の死を見て、カガリがウズミ代表の名を呼びながら泣き崩れた事だ。

 

今は大分落ち着いてきたという事だが、立ち直るには少し時間がかかるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カガリの部屋の前まで到着し、キラが確認の為に中にいるカガリに呼びかける。

 

 

「カガリ…」

 

 

一声かけたキラは部屋に入り、俺とアスランもキラに続いて部屋に入る。

 

部屋にいるカガリは、まだ制服の姿のまま机に顔を伏せて座っており、そんな彼女にキラは肩に手を置いてもう一度声をかける。

 

 

「カガリ」

 

 

キラの顔を見た瞬間、泣き止んだばかりのカガリは再び、涙を流してキラの胸に飛び込む。

 

突然の事で少し驚くキラだが、泣いているカガリの頭を優しく撫でて慰める。

 

俺とアスランは、そんな二人を見守る事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カガリがしばらく泣いてから数十分後。

 

俺はキラとアスランと一緒に、カガリが着替えを終えるまで、彼女の部屋の前で待機している。

 

 

「カガリ、大丈夫?」

 

 

そろそろと思ったのか、キラは部屋にいるカガリに声をかける。

 

 

「ああ、今行く」

 

 

さっきよりは落ち着いた声で返事をするカガリ。

 

部屋から出て来た彼女を含め、俺達はクサナギのメインブリッジにいるラミアス艦長達と合流する為に移動を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「L4のコロニー群へ?」

 

 

クサナギのメインブリッジに到着すると、ラミアス艦長、フラガ少佐、リューグ大尉、キサカ一佐の四人が今後の事なのか、何かの話し合いをしている最中だった。

 

キラ、俺、アスラン、カガリの四人はメインブリッジに入り、話し合いに参加する。

 

 

「クサナギもアークエンジェルも、当面物資に不安はないが、無限ではない。特に水は、すぐに問題なる。L4のコロニー群は、開戦の頃から破損し、次々と放棄されて今では無人だが、水庭としては使えよう」

 

 

キサカ一佐の説明にも一理ある。

 

水はよく使われる事が多いからな。

 

 

「なんだか思い出しちゃうわね」

 

 

水の補給の話で何かを思い出すように呟くラミアス艦長。

 

 

「大丈夫さ。ユニウスセブンとは違うよ」

 

 

どうやらラミアス艦長は、ユニウスセブンでの事を思い出していたらしい。

 

そんなラミアス艦長を、フラガ少佐が安心させるように話しかける。

 

L4の話に心当たりがあり、それを話すべきか考えていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「L4にはまだ、稼働しているコロニーもいくつかある」

 

 

アスランの声が聞こえた為、俺達はアスランの方に視線を向ける。

 

 

「だいぶ前だが、不審な一団がここを根城にしているという情報があって、ザフトは調査したことがあるんだ」

 

 

アスランが説明を始めた為、俺もそれに便乗して話を切り出す。

 

 

「住人は全員避難して誰も居ないが、設備を稼動させたまま放棄されたコロニーが数基あると聞いた事がある」

 

 

説明を終えた後、それを聞いて少しの間考えるキラ達。

 

 

「じゃあ、決まりですね」

 

「うん」

 

 

俺とアスランに賛同するキラとカガリ。

 

それに相槌を打つメンバー達。

 

これで、今後の方針は決まったようだな。

 

 

 

 

 

「…しかし、本当にいいのか?ダンはともかく、君の方は」

 

 

しかし、そこへフラガ少佐がアスランに問いかけるように話しかける。

 

 

「無論君だけじゃない。もう一人の彼もだが」

 

 

もう一人というのは、おそらくディアッカの事だろう。

 

フラガ少佐の言葉の意味に気付いた俺は、あえて口を挟まず、そのまま様子を見る事にした。

 

 

「少佐…」

 

「オーブでの戦闘は俺だって見てるし、状況が状況だしな。着ている軍服に拘る気はないが…」

 

 

心配そうにフラガ少佐に声をかけるラミアス艦長だが、それでも少佐は確認するように話を続ける。

 

 

「…」

 

 

アスランもフラガ少佐の言葉の意味に気付いているようだ。

 

 

「だが俺達はこの先、状況次第では、ザフトと戦闘になることだってあるんだぜ。オーブの時とは違う。そこまでの、覚悟はあるのか?君はパトリック・ザラの息子なんだろ?」

 

「誰の子だって関係ないじゃないか!アスランは…」

 

 

アスランを気にかけてなのか、さっきまで話を聞いていたカガリが、フラガ少佐を止めるように口を挟む。

 

そんなカガリをフラガ少佐は真剣な表情で見る。

 

 

「軍人が自軍を抜けるってのは、君が思ってるより、ずっと大変なことなんだよ。ましてやそのトップに居るのが、自分の父親じゃぁ」

 

 

フラガ少佐の言葉にアスランは顔を伏せ、キラも心配そうにアスランを見ている。

 

俺もアスランを気にかけながらも、真剣な表情でフラガ少佐の話を聞く。

 

 

「自軍の大儀を信じてなきゃ、戦争なんて出来ないんだ。それがひっくり返るんだぞ?そう簡単に行くか?彼はキラと違って、ザフトの正規の軍人だろ?」

 

 

真剣に話をするフラガ少佐に押され、ついに押し黙るカガリ。

 

 

「…」

 

 

アスランの方を見ると、まだ顔を伏せたままだった。

 

 

「悪いんだけどな、一緒に戦うんなら、当てにしたい。いいのか?どうなんだ?」

 

 

ブリッジ内に沈黙が流れる。

 

 

 

 

しばらくして、その沈黙を破るようにアスランが静かに口を開く。

 

 

「オーブで、いや、プラントでも地球でも、見て聞いて、思ったことは沢山あります。それが間違ってるのか正しいのか、何が解ったのか解っていないのか、それすら、今の俺にはよく分かりません」

 

 

フラガ少佐の問いに答えるように語るアスランの話を、俺達は静かに聞いている。

 

 

「ただ、自分が願っている世界は、あなた方と同じだと、今はそう感じています」

 

 

アスランの返答を聞いたフラガ少佐は、納得したように笑みを見せる。

 

 

「…しっかりしてるねぇ君も、ダンも。キラとは大違いだ」

 

「…昔からね」

 

 

キラは少し驚愕した後、幼年学校の頃を思い出したのか、俺とアスランに対して優しく笑みを見せる。

 

 

「ウズミ代表とオーブが命を懸けて俺達に託したものだ。途中で投げ出す訳にはいかない」

 

「うん」

 

「そうだな」

 

 

俺の言葉に、キラとアスランが賛同するように返事をする。

 

 

「こんなたった2隻で、はっきり言って、ほとんど不可能に近い」

 

「そうね」

 

 

フラガ少佐の話に相槌を打つラミアス艦長。

 

フラガ少佐の言う通り、2隻だけで、ザフトと地球軍を相手にするのは難しい。

 

おそらく途中で命を落とす可能性も高いだろう。

 

しかし、キラも俺も、そしてここにいる全員も、やらないで後悔する事だけはしないだろう。

 

 

 

 

「でも、いいんだな?」

 

「信じましょう。小さくても強い灯は消えないんでしょ?」

 

「その思いは、ここにいる全員が持っている。そうでしょう?」

 

 

フラガ少佐の言葉に、キラと俺が返答をすると、フラガ少佐とラミアス艦長は納得したように笑みを見せる。

 

 

「プラントにも同じように考えている人は居る」

 

 

プラントにいる俺達と同じ考えの人物…。

 

おそらく、“彼女”だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラクス?」

 

 

俺の意思を察したのか、キラがラクスの名を口にする。

 

 

「ああ」

 

「あのピンクのお姫様?」

 

 

キラの質問に答えるアスラン。

 

フラガ少佐も、ラクスの事を思い出したように話に加わる。

 

 

「プラントの歌姫で、アスランの婚約者だ」

 

 

キラとアークエンジェルのメンバーは、あの時にラクスと会っているので知っているだろう。

 

しかし、カガリとキサカ一佐達はラクスを知らない為、俺は改めて彼女の事を簡単に説明する。

 

それを聞いたカガリは、かなり驚愕した表情でアスランを見ている。

 

 

「彼女は今追われている。反逆者として。俺の父に…」

 

 

顔を伏せてラクスの現状を説明するアスラン。

 

キラと俺が、ラクスからフリーダムとフューチャーを託された時から思っていたが、彼女の事をアスランから聞かされた俺の心は複雑だった。

 

 

 

 

ラクス……

 

無事でいてくれればいいが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クサナギのメインブリッジでの話し合いからしばらく経ち、俺はキラと一緒に、MSデッキでM1アストレイの調整を手伝っている。

 

この先の戦闘に備え、キラと俺はそれぞれの場所でクサナギ所属のパイロット達にM1アストレイに関する色々な説明を行っている。

 

 

「…つまり、相手が量産機一機の場合でも、三機一組で応戦するようにしろ。そうすれば生存できる可能性が高いだろう」

 

「「「はい」」」

 

「他に質問は?」

 

 

大体は説明した為、パイロット達からの質問はないようだ。

 

 

「それじゃあ、さっき説明した事を忘れないように」

 

 

説明を終え、パイロット達と別れた俺は、同じように説明を終えたキラのところへ向かう途中……

 

 

 

 

「あ。お~い、君~!」

 

 

聞き覚えのある声がする方を見ると、M1のコックピット内で、こっちに向かって手を振っているマユラ・ラバッツの姿を見つける。

 

俺は小さくため息を吐いた後、マユラ・ラバッツが乗っているM1へと向かう。

 

 

「…何だ?俺は忙しいんだが」

 

「皆への説明も終わったのに?」

 

「生憎、この後アークエンジェルに戻って、色々とやる事があるんだ」

 

「色々って?」

 

「あまり人のプライベートに関わるのは感心せんぞ」

 

「あう」

 

 

追求してくるマユラ・ラバッツのヘルメットの額部分を軽く突く。

 

 

「…じゃあな」

 

 

マユラ・ラバッツと別れ、キラと合流した後、アスランのいる待機室に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達が待機室に着くと、アスランは一人で考え事をしているところを目撃する。

 

そんなアスランにキラが声をかける。

 

 

「アスラン!」

 

 

キラの声に気付いたアスランが俺達の方に顔を向ける。

 

 

「そろそろアークエンジェルに戻るぞ。M1のチェックも大体済んだからな」

 

「どっちに居ても同じだけど、こっちM1でいっぱいだし」

 

 

俺とキラの話を聞いたアスランは、再び考え事をするように少し顔を伏せる。

 

俺達がアスランの様子を気にしていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キラ!」

 

 

声のする方を見ると、待機室の出入口前にカガリの姿があった。

 

 

「ちょっと…いいか?」

 

 

大分落ち着きを取り戻している様子のカガリ。

 

しかし、今の彼女は何かを話したいが、躊躇っているようにも見える。

 

 

「…ダン…」

 

 

そんなカガリを見たアスランは、俺の側に来て話しかけてくる。

 

まあ、大体は分かっている。

 

 

「先に行っているぞ、キラ」

 

「ちょっ、ちょっと…」

 

 

俺はキラに一声かけ、アスランと一緒に待機室を後にしようとしたが、カガリに呼び止められる。

 

 

「いいから…二人も居ろって…。いや…居てくれ…」

 

 

カガリの様子を気にしているアスランに代わり、俺が無言で首を縦に振って答える。

 

それを確認したカガリは、俺達の横を通ってキラに近寄る。

 

 

「どうしたの?カガリ」

 

 

いつもの様子でカガリに問いかけるキラ。

 

 

「…これ…」

 

 

カガリはポケットから写真を取り出し、それをキラに手渡す。

 

 

「写真?誰の?」

 

 

キラがその写真に目を通し、俺とアスランもその写真を見る為、キラの側に寄る。

 

その写真には、二児の赤ん坊を幸せそうに微笑んで抱き抱えいる、一人の若い女性が写っている。

 

 

「…裏…」

 

 

カガリが写真の裏を見るように勧めてきた為、言われた通りに写真の裏を見てみると……

 

 

「え!?」

 

「「っ!?」」

 

 

キラだけでなく、俺とアスランも驚愕する。

 

何故なら、写真の裏には、二児の赤ん坊のものなのか、二つの名前がローマ字で書かれていたからだ。

 

 

「KAGARI…え!?」

 

 

その一つの名前をキラが読み、俺達は再び驚愕した表情でカガリを見る。

 

俯きながらもカガリは静かに口を開く。

 

 

「…クサナギが発進する時…お父様から、渡されたんだ…」

 

 

どうやら写真はウズミ代表から渡されたものらしい。

 

カガリの名前だけでも驚いているが、もう一つの名前を見て更に驚愕する。

 

何故なら、そのもう一つには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

KIRA……

 

つまり、ローマ字でキラの名前が書かれていたからだ。

 

 

 

 

「お前は…一人じゃない…兄妹も居るって!」

 

 

俯いていたカガリが顔を上げ、今にも泣きそうな表情でキラに兄妹の事を伝えると、再び俯いて隣にいるアスランの服の袖を掴む。

 

俺達はそんなカガリを見た後、キラの方を見てみると、突然の事で動揺している。

 

 

「…どういうことだ…?」

 

「そんな…僕にだって…そんな…」

 

 

カガリに問われたキラはまだ動揺しており、カガリは複雑そうな表情で俯く。

 

 

「…二人の名前が書いてあるという事は…」

 

「…まさか、双子…?」

 

 

俺がキラの持つ写真に関して考え、アスランがそれに答えるように発言する。

 

待機室内に沈黙が流れる。

 

しばらくして、それを破るようにキラが口を開く。

 

 

「とにかく…でも…これだけじゃあ、全然わからないよ」

 

「この写真の他に手掛かりがあればいいが…」

 

「この赤ちゃんを抱いてる人は?」

 

 

アスランの質問に対し、カガリは俯いたまま首を横に振る。

 

どうやらカガリにも分からないようだ。

 

 

「…お前と兄妹って…じゃあ私は…」

 

 

カガリは俯きながら涙を流している。

 

無理もない。

ウズミ代表に実の娘のように大切に育てられたんだ。

 

そんなカガリにキラは優しく声をかける。

 

 

「今は考えてもしょうがないよ、カガリ。それにそうだとしても、カガリのお父さんは、ウズミさんだよ」

 

「キラ…」

 

 

キラの優しさが嬉しかったのか、カガリの目は潤んでいた。

 

とにかく、キラのおかげで一先ずは安心だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、カガリが落ち着きを取り戻した為、俺はキラとアスランの二人と一緒に、クサナギのMSデッキでそれぞれの愛機の発進準備を行っている。

 

その最中、コックピット内から待機室の方を見てみると、落ち着いたとはいえ、少し気分が優れないカガリが俺達の方を見ている。

 

 

『キラ』

 

 

カガリの様子を見たアスランが通信でキラに話しかける。

 

 

『付いててやった方がよくないか?』

 

『…いや、一緒に居ると返って考え込んじゃいそうだし』

 

 

アスランの問いに、そう答えるキラ。

 

キラの意見も一理ある。

キラとカガリが兄妹である事が事実とはいえ、それを突然告げられたキラも悩んでいるだろう。

 

今キラをクサナギに残し、カガリと一緒にいさせても、何の解決にもならんだろう。

 

そう思った俺はキラに相槌を打つようにアスランに声をかける。

 

 

「…キラの言う通りだ。今はそっとしておいた方がいい」

 

『…そうか…』

 

 

一応納得するアスランだが、まだカガリの様子が気になる感じだ。

 

発進準備を終えた後、フリーダム、フューチャー、ジャスティスの順番でクサナギから発進し、アークエンジェルへと向かう。

 

 

 

 

『キラ』

 

 

その最中、アスランがキラに通信で話しかける。

 

 

『アークエンジェルへ戻ったら、シャトルを一機、借りられるか?』

 

『アスラン?』

 

 

シャトルを…アスラン、まさか……

 

 

 

 

『俺は一度…プラントに戻る』

 

『え!?』

 

「何?」

 

 

プラントに戻ると言い出すアスランに対し、キラと俺は驚愕している。

 

 

『父と一度、ちゃんと話がしたい。やっぱり…』

 

 

やはり、パトリック・ザラと直接話をする為か…。

 

シャトルは万一の場合、ジャスティスを奪われない為の対策だろう。

 

ジャスティスはフリーダムとフューチャーと同様に核で動いているからな。

 

 

『アスラン…でも…』

 

「今プラントに戻るのは危険だ。お前はフリーダムとフューチャーの奪還命令を受けているだろう。そんな中手ぶらで、しかもジャスティス無しで戻ってみろ。どんな罰を与えられるか…」

 

 

そう。アスランはフリーダムとフューチャーの奪還の他、パイロット、それに関係する全ての人物、施設の排除をパトリック・ザラから言い渡されている。

 

だが、アスランはそれをまだ成し遂げていない。

 

あのパトリック・ザラの事だ。

息子のアスランでも容赦なく罰するかもしれない。

 

 

『それは分かってる!でも…俺の父なんだ』

 

 

俺の説明を聞いても、アスランは家族として、パトリック・ザラを信じたいようだ。

 

そのアスランの言葉に、俺達はこれ以上何も言えなかった。

 

少し間を空けてからキラがアスランに声をかける。

 

 

『…解った。マリューさん達に話すよ』

 

「キラ!」

 

『仕方ないよダン。アスランの性格は君も知っているだろ?』

 

 

それを聞き、よく考えてみればキラの言う通りだ。

 

アスランの性格は昔から知っている。

一度決めた事は曲げず、最後まで貫こうとする。

それがアスランだ。

 

 

「…アスラン、お前の事だ。どうせダメだと言っても聞かないだろう。なら好きにしろ」

 

『すまない…』

 

 

キラに説得を受けた俺は、やむを得ずアスランの要望をキラと同様に認める。

 

それに対してアスランは、キラと俺に詫びの言葉をかけてくる。

 

通信での会話を終え、アークエンジェルに戻った俺達は、ラミアス艦長達に事情を説明し、アスランがプラントへ向かう為の準備に取りかかる事にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラクス出撃

今回は、久しぶりに“彼女”が登場します。

それでは、ゆっくりお楽しみ下さい。



アークエンジェルに到着してからしばらくして、俺はキラとアスランと一緒に、アスランが乗る為のシャトルに移動している。

 

シャトルの近くに着くと、アスランは見送りに来たディアッカに話しかける。

 

 

「もし戻らなかったら、君がジャスティスを使ってくれ」

 

「…いやだね。あんなもんにはお前が乗れよ」

 

 

万一の場合備え、ジャスティスを託そうとするアスランに対し、ディアッカはいつもの皮肉を入れた言葉で断る。

しかし、その口調はアスランを気遣うようにも聞こえてくる。

 

キラの方は心配そうにアスランの様子を見ている。

 

俺が無言でアスランの肩にそっと手を置くと、それに気付いたアスランは少し驚きながらこっちを向く。

 

そしてしばらくして、アスランは自分は大丈夫だと伝えるように、落ち着いた表情で頷く。

 

俺もそれに頷いて答える。

 

 

 

 

「ちょっと待てお前!アスラン!」

 

 

聞き覚えのある声の方を見ると、カガリがこっちに近付き、そしてアスランに詰め寄る。

 

おそらくクサナギのメンバーから聞いて、急いでアークエンジェルまで来たんだろう。

 

 

「お前、どうして?」

 

「…カガリ…」

 

「なんでプラントなんかに戻るんだよ!」

 

 

どうやらカガリは、アスランがプラントに行く事に反対らしい。

 

 

「ごめん」

 

「ごめんじゃないだろ?だってお前、あれ、置いて戻ったりしたら…」

 

 

謝罪の言葉をかけるアスランに対し、カガリはジャスティスの方を見ながらアスランに問いかける。

 

 

「ジャスティスはここにあった方がいい。どうにもならない時は、キラとダンがちゃんとしてくれる」

 

「そういうことじゃない!」

 

 

アスランの説明を聞いても、カガリはまだ納得できない様子らしい。

 

 

「でも…俺は、行かなくちゃ」

 

「アスラン!」

 

「このままには…できないんだ…俺は」

 

 

必死に止めようするカガリ。

 

それでも自分の意思を変えないアスラン。

 

そんな二人のやり取りを見兼ねたのか、キラはカガリに声をかける。

 

 

「カガリ」

 

「キラ…」

 

 

キラに便乗するように、俺もに加わる。

 

 

「アスランの性格は、お前も少しは知っている筈だ」

 

 

アスランの性格を多少は知っているカガリは、心配そうにアスランを見ている。

 

一方アスランは、カガリを安心させるように笑みを見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カガリを落ち着かせた後、アスランがノーマルスーツを着た姿で戻り、シャトルに乗り込んだのを確認した俺は、キラと一緒にそれぞれの愛機のコックピットで発進準備を進める。

 

 

『シャトル護衛のため、発進します』

 

「しばらく留守になる。念の為、警戒を」

 

『分かったわ。気を付けて』

 

 

ラミアス艦長との通信会話を終え、モビルスーツを発進させた後、アスランの乗るシャトルと一緒にプラント方面に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キラ。ダン』

 

 

しばらくプラント方面にモビルスーツを進めていると、アスランからの通信がやって来る。

 

 

『そろそろヤキン・ドゥーエの防衛網に引っかかる。二人共、戻ってくれ』

 

「…そうか」

 

 

 

 

ヤキン・ドゥーエ。

 

元は資源採掘用の小惑星だったが、C.E.70年に起こった第一次ヤキン・ドゥーエ攻防戦後に造り変えられ、現在はプラントの最終防衛の要となる宇宙要塞となっている。

 

 

 

 

『分かった。じゃぁこの辺で待機する』

 

『…いや、戻ってくれ』

 

「…アスラン」

 

 

アスランの言葉に少し気になり、俺はアスランに声をかける。

 

 

「万一父親との会話が無駄に終わった場合、自分だけで何とかしよう等と考えていないだろうな?」

 

『っ!!』

 

 

俺に図星を突かれたのか、アスランは少し驚愕している。

 

 

『アスラン…君はまだ死ねない。

解ってるよね?』

 

『…』

 

 

驚愕しているアスランに、キラが再び話しかける。

 

 

『君も、僕も、ダンも、まだ死ねないんだ』

 

『まだ…』

 

『うん。まだ』

 

「キラの言う通りだ。お前の帰りを待っている奴等がいる事を、忘れるな」

 

『俺の帰りを…』

 

 

俺とキラの言葉を聞いたアスランは、少しの間を空けた後…

 

 

 

 

『分かった。覚えておく』

 

『忘れないで』

 

「全くだ。お前はいつも一人で何もかも抱える、悪い癖があるからな」

 

『ああ。気を付けるよ。今度こそ』

 

 

会話を終えた俺とキラは、シャトルを繋ぐ通信用のワイヤーを外し、シャトルから距離を離す。

 

そしてヤキン・ドゥーエに向かうシャトルを見送った後、俺達は周辺の小惑星に潜伏し、万一の場合でも動けるように待機する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくヤキン・ドゥーエの防衛網範囲外付近で待機していると、突然コックピットのレーダーが複数の反応を見せる。

 

 

『ダン!これって…』

 

「ああ。おそらくザフトのモビルスーツ部隊だ」

 

 

しかし、モビルスーツの反応以外に、戦艦級の反応もあり、モビルスーツの部隊はその戦艦を追っているようにも見える。

 

 

『ダン』

 

「…分かってる。アスランの可能性もある。調べに行くか」

 

『うん。行こう』

 

 

俺とキラは状況を確認する為に、現場に急行する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反応がある現場に到着した俺達が見たのは、鳥をイメージしたような一隻のピンク色の戦艦が、ザフトのジン部隊によるミサイルの攻撃を、迎撃しながら振り切ろうとしている光景だった。

 

ジン部隊が放つミサイルを次々と撃ち落としていくピンク色の戦艦。

 

だが、多勢に無勢の状況である為、徐々に追い込まれ、数発のミサイルがピンク色の戦艦に向かっていく。

 

 

「戦艦の方が不利のようだな。どうする?」

 

『とにかく、助けに行こう』

 

 

方針を決めた俺達はフューチャーとフリーダムの機動力を生かしてピンク色の戦艦付近まで近付き、ルプス・ビームライフルで一部のミサイルを撃ち落とす。

 

更に向かってくるミサイルを次々と迎撃していき、全てのミサイルの撃墜に成功する。

 

 

『ダン!』

 

「ああ。あっちも片付けるぞ!」

 

 

それを確認した俺達は、マルチロックオンシステムで全敵機に狙いを定め、ハイマットフルバーストでヤキン・ドゥーエ防衛部隊を無力化させる。

 

 

 

 

ヤキン・ドゥーエ防衛部隊の全モビルスーツの無力化を確認した後、フューチャーとフリーダムをピンク色の戦艦に近付ける。

 

 

『こちらフリーダム。キラ・ヤマト』

 

「こちらはフューチャー。ダン・ホシノだ。そちらの戦艦、応答願いたい」

 

 

通信で戦艦に声をかけると…

 

 

 

 

 

『…ダン!』

 

 

聞き覚えのある声が俺の名前を呼ぶ。

 

今の声…

 

この戦艦に乗っているのは、まさか……

 

そう思った俺は、今度はモニター通信を戦艦に繋げる。

 

 

 

 

 

『もしかして…』

 

「…ラクス、君なのか?」

 

『はい!ご無事で良かったですわ』

 

 

思った通り、コックピットのモニターにラクスの姿が映る。

 

しかし彼女は、いつものドレス姿ではなく、和風の着物を着用している。

 

そんな彼女は俺の顔を見た瞬間、嬉しそうな表情を俺に見せてくれる。

 

俺だけでなく、キラもラクスが戦艦に乗っている事に驚いているようだ。

 

 

 

 

 

『よおー少年、助かったぞ。君にも感謝するよ。プラントを救ったエース君』

 

『っ!…バルトフェルド…さん?』

 

「…砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルド…」

 

 

アンドリュー・バルトフェルド。

 

「砂漠の虎」という異名を持つ北アフリカ駐留軍司令官で、指揮官としてもパイロットとしても一流で、ザフトでは知らない者はいないほどだ。

 

無論、元ザフトの俺も知っている。

 

そんな人物を見た瞬間、驚愕するキラ。

 

しかしそれは俺も同じだ。

 

噂では、アフリカ砂漠でキラと戦い、戦死したと聞いていたからだ。

 

 

「とにかく、ここは危険だ。急いで離れよう」

 

『そうだな。またザフトの追撃隊が出てくるかもしれないからねぇ。歌姫様もそれでよろしいですかなぁ?』

 

『はい。ではお二人共、ご案内お願い致しますわね』

 

 

バルトフェルド隊長とラクスの了承を得た後、アークエンジェルとクサナギが先に向かっているスペースコロニー・メンデルに向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくしてメンデルに到着し、ラクス達が乗っていた最新艦エターナルを入港させる。

 

 

 

 

エターナル。

 

ザフトが開発した最新戦艦で、戦艦の中でも速いナスカ級を上回る程の高い機動力を持っている戦艦らしい。

 

 

 

その後、バルトフェルド隊長とラミアス艦長が挨拶を交わす。

 

 

「初めまして、と言うのは変かな。アンドリュー・バルトフェルドだ」

 

「マリュー・ラミアスです。しかし驚きましたわ」

 

「お互い様さ。な、少年?」

 

 

ラミアス艦長への挨拶を終えたバルトフェルド隊長が近くにいるキラに話しかける。

 

話を振られたキラは複雑な表情を浮かべる。

 

 

「…貴方には、僕を撃つ理由がある」

 

 

キラの言う“理由”とは、おそらくアフリカでの戦闘の事だろう。

 

これも噂で聞いた話だが、その戦闘にはアイシャというバルトフェルド隊長の恋人も参加しており、モビルスーツの爆発に巻き込まれたと聞いている。

 

ここにいないという事は、おそらく……

 

 

 

 

 

「…戦争の中だ。誰にでもそんなもんあるし、誰にだってない」

 

 

普通なら愛する者を奪った相手が目の前にいれば、殺しにかかってもおかしくないだろう。

 

しかし、軍人としての心得を持っている為か、バルトフェルド隊長は冷静な表情で笑みを浮かべ、そして落ち着いた口調でキラにそう返答する。

 

 

「…ありがとう」

 

 

その言葉を聞いたキラは、哀れみを含めた笑みでバルトフェルド隊長に礼を言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラとバルトフェルド隊長の会話を見届け、ノーマルスーツからオーブジャケットに着替えた俺は、アークエンジェル、クサナギ、エターナルが見えるターミナル通路でラクスと久しぶりの会話をしている。

 

 

「お元気そうで、本当に安心しましたわ」

 

「ああ。君も無事で、本当に良かった」

 

 

再会を心から喜ぶように微笑む彼女に対し、俺は自分が今思っている事を言葉にして答える。

 

しばらく互いの笑顔を見た後、俺は気になった事を聞く為にラクスに話しかける。

 

 

「そういえば、アスランの腕がケガをしていたように見えたけど…」

 

「ああ、それはですね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そうか。アスランの奴、随分無茶をしたな」

 

「そうですわね。ですが、アスランらしいと思いませんか?」

 

「ああ。そうだね」

 

 

プラントに戻り、父親であるパトリック・ザラと再会した後のアスランは思った通り、かなりの無茶をしたようだ。

 

パトリック・ザラからのフューチャーとフリーダムの奪還を問われても、核を使用してまで戦争に勝利しようとする父親に、その真意を正面から問い出す等、度胸のある行動に出たとか。

 

そして質問に答えない事に業を煮やし、銃を取り出したパトリック・ザラに突っ込んで肩に銃撃を受けたらしい。

 

全く…相変わらず困った奴だ。

 

 

 

 

 

アスランのケガの事を聞いた後、もう一つの気になる事をラクスに聞く。

 

 

「そういえば、シーゲルさんの姿が見当たらないけど、一緒じゃないのかい?」

 

 

ラクスがいるという事は、シーゲルさんもここに来ていると思い聞いた瞬間、笑顔を見せていたラクスは表情を曇らせて俯く。

 

 

 

 

 

「…父様は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…父様は…死にました…」

 

「…何だって…」

 

 

ラクスのその言葉を聞いた俺は、一瞬意識を失いそうになった。

 

しかし何とか持ちこたえた俺は、その理由を予測する。

 

 

 

 

 

シーゲルさんの死。

 

おそらく、それにはパトリック・ザラが深く関わっている可能性が高いだろう。

 

何せ奴は、シーゲルさんとは余り良い関係という訳ではなかったからな。

 

 

 

 

 

「………」

 

 

今も俯いているラクスの名前を静かに呼びかける。

 

 

「…ラクス…」

 

 

俺に呼ばれたラクスが顔を上げると、その目からは涙が流れている。

 

そして彼女は、俺の胸に飛び込んで泣き始める。

 

俺の腕の中で泣き続けるラクスの頭を優しく撫でながらも、実の子同然に育ててくれたシーゲルさんを死に追いやったパトリック・ザラへの怒りなのか、俺の心の中は激しい闘志を燃やしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ラクス…」

 

「…心配しないで下さいダン。私なら、大丈夫ですわ…」

 

 

しばらく経ち、ようやく泣き止んだラクスだが、まだ表情は少し曇っている。

 

そして今は、用意されたターミナルの客室に来ている。

 

 

「…今は少し、休んだ方がいい」

 

 

そうラクスに言い、客室のベッドに彼女を優しく寝かせる。

 

 

「…ダンの方も、無理はなさってませんか?…」

 

「大丈夫。俺は、そこまで疲れていない」

 

 

自分が辛い思いをしても気遣ってくれるラクスに、俺は優しく笑みを見せて答える。

 

 

「…ダン」

 

「なんだい?」

 

 

俺の名前を呼ぶラクスに返事をすると、彼女は俺の手を優しく握ってくる。

 

 

「私が眠るまで、こうしていて、頂けませんか?ダンがいないと、とても不安で…」

 

「…わかった。君が眠るまで握っているから、安心して、ゆっくり休んで」

 

 

俺の言葉を聞き、安心したように笑顔を見せたラクスは、そのまま目を閉じる。

 

 

 

 

少しして、ラクスの小さな寝息が聞こえてくる。

 

相当疲れたのか、すぐに眠ったようだ。

 

無理もない。フューチャーとフリーダムを俺とキラに託してからも、彼女はプラントを脱出するまで色々と行動をしていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクスを客室に休ませた後、俺はターミナル通路でエターナル、アークエンジェル、クサナギの三隻の様子を見ている。

 

そこへ……

 

 

「ダン」

 

 

覚えのある声の方を向くと、思った通りアスランであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、そこにはアスランだけでなく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その隣には、帽子で顔を隠したザフトの緑服を纏った男がいた。




大変長くお待たせしました。

相変わらずのリアル多忙の為、更新がかなり遅れました。

しかし、時間はかかっても完結はさせますので、次回もお楽しみ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再会

ターミナルで整備中のアークエンジェル、クサナギ、エターナル三隻の様子を見ている時、アスランに声をかけられ、その方を向くと、アスランだけでなく、緑のザフト服を纏い、帽子で顔を隠している男が隣にいる。

 

見たところ、年齢は俺とアスランとほぼ同じぐらいで、事故のせいか両足は無いが、周辺が無重力で手刷りの支えもある為、バランスを保っている。

 

 

「…アスラン。そいつは?」

 

「ああ。こいつは…」

 

 

紹介しようとするアスランを男は静かに右手で制して止め、手刷りを利用して一歩分ほど前に出る。

 

アスランは信用しているのか、男に警戒をしている様子はない。

 

俺は念のため、警戒を解かずに男の様子を見る。

 

 

「初めまして。と言うよりは…お久しぶりと言ったところでしょうか?」

 

 

警戒する俺に気にする様子もなく、男は普通に挨拶をしてくる。

 

…だが、この男の声…聞いた事があるような……

 

 

 

 

少し驚く俺の表情を見て察したのか、緑服の男は被っている帽子を取って顔を見せる。

 

俺は男の顔を見て驚愕する。

 

何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ニコル…?」

 

 

男の顔が、オーブでの戦いで戦死したはずのニコルによく似ていたからだ。

 

唖然としている俺に、彼は手刷りを利用しながら近付いてくる。

 

そんな彼に気付き、少し戸惑いながらも声をかける。

 

 

「…本当に、ニコルなのか…?」

 

 

俺の問いに、戦場でできたものか、彼は傷がある顔で優しい笑みを見せながら頷いて答える。

 

 

「俺もエターナルに乗り込んだ時は驚いていたよ。だが、今お前の目の前にいるニコルは、幽霊でも幻でも、別人でもない。間違いなく本人だ」

 

 

アスランの言葉を聞き、今も優しく笑みを見せるニコルを見た俺は、目を閉じて歯を強く噛み締める。

 

 

 

 

「…ユーリさんからお前の事を聞いて…死んだかと思っていた…」

 

「…そうですか。心配をかけしましたね、ダン」

 

 

心に溜めていたものを口に出す俺に、ニコルは俺に近付いて手刷りに置いている手とは逆の手を俺の肩に乗せ、変わらない優しい表情で答える。

 

俺はニコルに問いかけるように語りかける。

 

 

「ニコル。生きていたなら、何故連絡をくれなかった?」

 

「そうだぞ。連絡くらいくれても…」

 

 

俺の質問に便乗するようにニコルに問うアスラン。

 

 

「…それは…」

 

 

ニコルは俺達の問いに答えるために、これまでの経緯の説明を始める。

 

 

 

 

 

話によると、九死に一生を得たのは、キラに討たれる前に現れたスカイグラスパーの不意打ちを受けた事が原因らしい。

 

アスランを助ける為にブリッツで特攻をかけた時、ストライクの背後から突然現れたリューグ大尉の乗るスカイグラスパーのミサイルによる攻撃を受けて後方に下がり、コックピットから少し離れた部分にストライクの攻撃が直撃した為、両足を失う重傷を負いながらも、命を取り留めたという事だ。

 

その後、巡回中のオーブ軍の艦に保護されて治療を受け、しばらくして迎えに来たザフトに引き渡され、ニコルを引き取りに来たのは、バルトフェルド隊長と一緒にここへ来たマーチン・ダコスタという人らしい。

 

宇宙へ上がった後は、色々と準備を進め、エターナル奪取後はラクス達と一緒にプラントを脱出したという事だ。

 

アスランとはプラントを脱出した直後にメインブリッジで再会したらしい。

 

 

 

 

 

「…という事で色々とあって、知らせたくても、連絡する暇がなかったんですが…」

 

 

大体の説明を終えたニコルは少し顔を伏せている。

 

 

 

 

 

「…実を言うと、迷っていたんです」

 

 

ターミナルの窓ガラスに映る自分の姿を見て、話を続けるニコル。

 

 

「こんな変わり果てた姿で…会っていいのか、迷っていたんです」

 

 

辛そうに、そして悲しそうに今の自分を見ながら語るニコル。

 

 

「でも、ラクス様からダンの事を聞いて、一緒に戦う事ができなくても、支援する事くらいならできる。そう思ったから…」

 

 

両足を失い、パイロットとして戦えなくても、それでも自分なりに力になろうとするニコルに、俺は心の中で感謝しながら声をかける。

 

 

「ニコル。たとえ、どんな姿だろうと、俺はお前が生きていてくれて良かった。そうだろう、アスラン」

 

「ああ。そうだな。俺もお前と再会できて嬉しいよ、ニコル」

 

 

俺とアスランの言葉を聞いたニコルは伏せていた顔を上げ、少し驚いた表情で俺達を見る。

 

そして次第に優しい笑みを俺達に見せる。

 

 

「ダン…。アスラン…。二人とも、ありがとうございます」

 

 

ニコルに礼を言われた俺とアスランは、それをニコルと同じように優しいで頷いて答える。

 

その後、俺達は再会できた事を喜び合うように、オーブで俺がザラ隊を離れた後、アスランがオノゴロ島での死闘を終えた後など、自分達が今まで何をしていたのかを色々と語り合った。




大変長らくお待たせしました。
相変わらずの多忙ですが、何とか頑張っています。

ご覧の通り、ニコルをあの絶望的な状況から生存させました。
次は、おそらく“あの艦”が登場するかもです。

それでは次回もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

立ちはだかるもの

ニコルとの再会を果たし、色々と語り合った後、アスラン達と別れた俺はラクスの様子を見る為、彼女が休んでいる部屋の前に来ている。

 

 

「ラクス。俺だ、ダンだ」

 

 

確認の為に声をかけると、ドアが開かれ、ラクスが現れる。

 

 

「ダン…」

 

 

まだ万全という様子ではないが、泣いていた時よりはマシになっているようだ。

 

 

 

 

 

『ウォン、ウォン』

 

『テヤンデー。テヤンデー』

 

 

覚えのある機械音が聞こえ、ラクスの後ろを見ると、ドルフとピンクハロが俺達のところに近付いてくるのが見えた。

 

俺とラクスの近くまで来たドルフは足元で嬉しそうに尻尾を振りながら見上げ、ハロもドルフと同じように喜んでいるのか、俺達の近くでピョンピョンと跳び跳ねている。

 

こいつらも無事で良かった…。

 

ドルフ達の無事も確認し、ラクス達と一緒に部屋に入った俺は、彼女に声をかける。

 

 

「ラクス、もう大丈夫なのかい?」

 

「はい。ご心配をおかけしましたわね」

 

 

ラクスは大丈夫と言っているが、やっぱり少し無理をして笑顔を作っているように見える。

 

 

 

 

 

『ダン、聞こえる?』

 

 

そんな彼女を気にかけていると、部屋に設置されている通信端末からキラの声が聞こえてくる。

 

通信端末を操作すると、モニターにキラの姿が映し出される。

 

 

「どうした?」

 

『これからマリューさん達と今後について話し合うんだけど、ダンもどうかな?』

 

「大丈夫だ。場所はどこだ?」

 

『アークエンジェルのメインブリッジだよ。それじゃあ、また後で』

 

「ああ。後でな」

 

 

キラの会話を終え、通信端末の電源を切る。

 

 

「ダン…」

 

 

話を聞いていたラクスが俺の服の裾を掴みながら呼びかけてくる。

 

 

「その、私も…」

 

 

様子から見て、ラクスも一緒にアークエンジェルへ行きたいようだ。

 

彼女の調子がまだ万全じゃないのが気になるが……

 

 

 

 

 

「…わかった。一緒に行こうか」

 

「っ!はい!」

 

 

ラクスの返事を聞いた俺は、彼女と一緒にアークエンジェルに向かった。

 

その間、隣にいたラクスは俺の手を握ってくる。

 

それは離れていた寂しさを埋める為なのかはわからないが、俺はそれを優しく握り返す事で答える。

 

アークエンジェルの出入口に着くまで間、俺達は互いの手を決して離さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とラクスがアークエンジェルのメインブリッジに到着した時には、キラとラミアス艦長、カガリ、リューグ大尉、ミリアリア、キサカ一佐が既にメインブリッジに着いていた。

 

 

「…これで全員か?」

 

「ううん。後はムウさんとバルトフェルドさんだけなんだけど…」

 

 

メインブリッジの出入口の方を見るが、フラガ少佐達が来る様子がない。

 

 

「全く、少佐達は何をしているんだか…」

 

「仕方ないわね。私達だけで始めましょうか」

 

 

呆れるようなリューグ大尉の言葉にラミアス艦長が先に始めるようすすめてきた為、俺達だけで話し合いを行う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話し合いを始めてから10分後……

 

 

 

 

 

フラガ少佐とバルトフェルド隊長がメインブリッジに入ってくる。

 

それを確認した後、ラクスが話を再開させる。

 

 

「当面の問題はやはり月でしょうか?現在地球軍は奪還したビクトリアから次々と部隊を送ってきていると聞いています」

 

「プラント総攻撃というつもりなのかしらね?」

 

 

ラクスの話を聞いて自分の予想を口にするラミアス艦長。

 

 

「だが、その総攻撃も一度は失敗している。さすがに同じ手を使うとは…」

 

 

実際に地球軍の迎撃に参加した俺が発言すると、バルトフェルド隊長がそれに答えるに口を開く。

 

 

「どうだろうねぇ。元々それがやりたくて仕方ない連中がいっぱい居るようだからな。“青き清浄なる世界”の為に?」

 

 

“青き清浄なる世界”という言葉を聞いたラミアス艦長は辛そうな表情で顔を伏せる。

 

それに気付いたフラガ少佐はラミアス艦長を気遣うよにバルトフェルド隊長に話しかける。

 

 

「よせよ!」

 

「僕が言ってるわけじゃないよ」

 

「ま、事実だけどな」

 

 

フラガ少佐の納得したような発言を聞き、バルトフェルド隊長は話を再開させる。

 

 

「なんでコーディネイターを討つのが、青き清浄なる世界の為なんだか。そもそも、その青き清浄なる世界ってのが何なんだか知らんが、プラントとしては、そんな訳の分からん理由で討たれるのは堪らんさ」

 

 

話を聞いていると、いつの間にかラクスが俺の肩に手を置いている事に気付く。

 

そしてカガリが話の途中でメインブリッジを後にするが、気にはしなかった。

 

おそらくアスランのところに向かったんだろう。

 

 

「しかし、プラントもナチュラルなんか既に邪魔者だっていう風潮だしな、トップは。当然防戦し反撃に出る。二度とそんな事のないようにってね。それがどこまで続くんだか」

 

「酷い時代よね」

 

 

討たれたから討ち返すという現状にラミアス艦長は失望するように発言する。

 

しばらく沈黙が流れるが、それを打ち破るようにラクスが口を開く。

 

 

「でもそうしてしまうのも、また止めるのも私達、人なのです。いつの時代も、私達と同じ想いの人も沢山居るのです。創りたいと思いますわね、そうでない時代を…」

 

 

たとえ過ちを犯しても、それに気付き、やり直そうとする者達は、少なくとも必ずいると信じているように、俺に向けて優しい笑顔を見せて自分の思いを伝えるラクス。

 

 

「…ああ。俺も、生きている間には必ず見てみたい」

 

 

そんなラクスに答えるように、俺も自分の思っている事を彼女に伝える。

 

それを聞いたラクスの笑顔はとても嬉しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メインブリッジでしばらく話し合った後、アークエンジェル、クサナギ、エターナルの最終調整を行っている最中、俺はキラとアスランと一緒にアークエンジェルの待合室でメインブリッジにいるラミアス艦長と通信端末で話をしている。

 

 

「エターナルが専用運用艦だというのなら、フリーダムとフューチャー、ジャスティスはそちらへ配備した方がいいでしょうね。こちらはストライク、イージス、バスターの三機で」

 

「分かりました。では僕達はエターナルへ移乗します」

 

 

ラミアス艦長の言う通り、エターナルに移った方が整備も補給もかなり万全になるからな。

 

キラとラミアス艦長のやり取りが終わり、俺達は愛機と一緒にエターナルに移動を始めようとした時………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『総員、第一戦闘配備!繰り返す、総員、第一戦闘配備!』

 

 

突然アークエンジェルの艦内に警報が鳴り響く。

 

 

「ダン!アスラン!」

 

「行くぞ!」

 

「ああ!」

 

 

警報を聞いたキラ、俺、アスランの三人は急いで愛機に乗り込んでシステムを起動させる。

 

出撃準備を終え、フューチャーのコックピット内で待機していると、突然激しい揺れが発生する。

 

おそらく敵からの攻撃だろう。

 

迎撃の為、アークエンジェルとクサナギが港の外に出るが、エターナルはまだ最終調整を終わっていない為、まだ出撃する事はできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらは地球連合軍、宇宙戦闘艦ドミニオン。アークエンジェル聞こえるか?』

 

 

通信回線から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

キラとアークエンジェルのメンバーも知り合いの声なのか、かなり驚愕したような声をあげる。

 

 

『本艦は反乱艦である貴艦に対し、即時の無条件降伏を要求する』

 

 

間違いない。

この声は、ラクスが行方不明になっていた時に出くわしたアークエンジェルの乗組員の女だ。

 

いつの間にアークエンジェルのメンバーと別行動を取っていたんだ?

 

 

『ナタル…』

 

『バジルール中尉…』

 

 

ナタル・バジルール。向こうにいる女の名前か。

 

 

『この命令に従わない場合は貴艦を撃破する』

 

『艦長、敵艦の光学映像です』

 

 

メインブリッジだけなく、俺達パイロットが搭乗している機体のモニターにも映像が映し出され、それを見た俺達は驚きを隠せずにいた。

 

 

『アークエンジェル!?』

 

 

これがドミニオン……

まるでアークエンジェルだな。

 

 

 

 

 

『お久しぶりです、ラミアス艦長。このような形でお会いすることになって、残念です』

 

『…そうね』

 

『アラスカでのことは自分も聞いています。ですが、どうかこのまま降伏し、軍上層部ともう一度話を。私も及ばずながら弁護致します』

 

 

ナタル・バジルールは、さっきの堂々とした口調とは異なり、知り合いであるラミアス艦長に対し、優しさを含めた口調で降伏を呼びかけてくる。

 

 

『…ありがとう。でもそれは出来ないわ!アラスカの事だけではないの。私達は、地球軍そのものに対して疑念があるのよ。よって降伏、復隊はありません!』

 

 

ラミアス艦長が決意を固めた返答で降伏宣言を断ると、突然男の笑い声が聞こえてくる。

 

 

『言って解ればこの世に争いなんて無くなります。解らないから敵になるんでしょう?そして敵は、討たねば』

 

『アズラエル理事…!』

 

 

アズラエル?

まさか、ムルタ・アズラエルがこの戦線に来ているというのか…!?

 

 

『カラミティ、フォビドゥン、レイダー、発進です。不沈艦アークエンジェル、今日こそ沈めて差し上げる』

 

 

カラミティ、フォビドゥン、レイダー。

それがあの3機のモビルスーツの名称らしいな。

 

 

『キラ君!ダン君!ムウ!』

 

『了解!出撃します!』

 

 

ラミアス艦長のかけ声を合図にキラは返答し、フリーダムでアークエンジェルから飛び立つ。

 

 

『フューチャー、発進どうぞ!』

 

「ダン・ホシノ、フューチャー、行きます!」

 

 

フリーダムの発進から少しして、メインブリッジからの合図が出た為、フューチャーを出撃させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘中域に突入すると、向こうからドミニオンがこっちに近付いて来る。

 

 

『ダン、アスラン、あの3機だ!』

 

「ああ。油断はするな」

 

『わかってる。行くぞ!』

 

 

ドミニオンから出てきた例の3機が現れ、向こうから砲撃を仕掛けてきた為、それを回避して応戦を開始する。

 

そんな俺達に続くようにストライク、イージス、バスターもアークエンジェルに迫る敵の量産型モビルスーツ・ストライクダガーを次々と撃破していく。

 

その最中、アークエンジェルの次に港から出たクサナギが進行を停止させる。

 

いや、よく見ると何かケーブルのようなものが絡んでいるようだ。

 

 

 

 

 

それに気付いたのか、鎌持ちモビルスーツがクサナギの方に向けて飛んでいく。

 

 

『クサナギ!』

 

「ちっ!アスラン、ここは任せろ。お前はクサナギの方に向かえ!」

 

『ああ、わかった!』

 

 

俺の呼び声に答えたアスランはクサナギへと急行する。

 

それを確認し、敵モビルスーツ2機と交戦していると、ドミニオンから発射された多数のミサイルがアークエンジェルに迫っているのを目撃する。

 

敵の隙を突いてフューチャーとフリーダムのプラズマビーム砲で全て撃ち落とすと、フリーダムがドミニオンに向かって突撃する。

 

 

「キラ!」

 

 

フリーダムを追いかけようとするが、敵モビルスーツに行く手を阻まれた為、応戦に集中する。

 

そうしている間にも、フリーダムはドミニオンの集中砲火の回避に専念していたが、そこに黒いモビルスーツが介入した為、徐々に追い込まれていく。

 

 

『キラ!』

 

『キラ君!』

 

「くそぉっ!」

 

 

それぞれの戦闘で手が離せず、フリーダムの援護に向かう事ができない。

 

そんな俺達が目にしたのは、ドミニオンから放たれた無数のミサイルがフリーダムに迫っている光景だった。




相変わらずの遅い更新ですが、少しずつ仕上げていこうと思います。

ここまでご覧いただき、ありがとうございます。

気に入って頂けた方はお気に入り登録を、面白いと思った方は高評価を、誤字があった場合は誤字報告をお願いします。

それでは、次回もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

螺旋の邂逅

フリーダムに迫るドミニオンからの無数ミサイル。

 

その間も俺とアスラン達はそれぞれの敵の対処で手が離せない。

 

しかし敵の隙を突いて距離を離し、フューチャーのマルチロックオンシステムでミサイルの群れに狙いを定める。

 

キラの方も俺と同じ考えだったのか、フューチャーとフリーダムのハイマットフルバーストが同時にドミニオンのミサイルを全て撃ち落とす。

 

フリーダムの危機を退いたと思ったが、黒いモビルスーツがその隙を突いてフリーダムに攻撃を仕掛けようとした為、フューチャーのルプスビームライフルによるビーム攻撃でそれを阻止する。

 

 

『ありがとう、ダン』

 

「そのセリフはまだ早い」

 

 

緑のモビルスーツも黒いモビルスーツに続いて背部のビーム砲で撃ってきた為、フリーダムと一緒にそれを回避してフューチャーの機動力を利用して緑のモビルスーツに近付く。

 

緑のモビルスーツからの砲撃を難無く避けながら腰のラケルタビームサーベルを引き抜き、緑のモビルスーツのビーム砲を狙ってサーベルを振るが回避された為、右手のバズーカ砲しか斬れなかった。

 

 

 

 

そこへ黒いモビルスーツが緑のモビルスーツと合流し、連携のような砲撃を仕掛けて来た為、こっちもフューチャーとフリーダムによる連携で応戦する。

 

その交戦中の最中、緑のモビルスーツが腹部から高ビームを撃とうとしている。

 

フリーダムを庇うようにラミネートアンチビームシールドを構えて敵の砲撃に備えていると、鎌持ちのモビルスーツと交戦中だったジャスティスが目の前に現れ、緑のモビルスーツが放った高ビームをシールドで受け止める。

 

敵の砲撃を防いだジャスティスは損傷はしなかったが、左手に持っているシールドの表面がさっきの高ビームの熱で少しだけ溶けている。

 

 

『アスラン!』

 

「大丈夫か?」

 

『ああ、平気だ』

 

 

アスランと合流した俺とキラは、再び向かって来る敵モビルスーツ2機の応戦に専念する。

 

その最中、ジャスティスと交戦していた鎌持ちモビルスーツが俺達に向けて高ビームを乱射しながら迫って来る。

 

それを回避して鎌持ちから離れるが、鎌持ちは俺達…というよりはアスランを執拗に追うように特攻を仕掛けて来る。

 

 

『…滅茶苦茶だなおい』

 

 

アスランの言う通り、あの鎌持ちの仕掛け方は尋常じゃない…。

 

 

 

 

そう思っていると、さっきまで進行を停止していたクサナギが再び動き出す。

 

どうやらクサナギに絡んでいたワイヤーのようなものの駆除が終わったようだな。

 

動けるようになったクサナギはアークエンジェルの援護をする為か、ドミニオンがいる方に向けて行動を始める。

 

尚も鎌持ちに追われているジャスティスの援護をする為、フューチャーのクスィフィアスレール砲を鎌持ちに向けて放つ。

 

鎌持ちが回避した隙を突いて距離を詰め、ビームサーベルで斬りかかるが、持っていた鎌で受け止められてしまう。

 

フューチャーの攻撃を鎌持ちが受け止めたのを見た俺は、左手に持っていたシールドを手放し、もう1本のビームサーベルを逆手で引き抜いて鎌持ちの右腕を斬って蹴り飛ばす。

 

 

 

 

 

その直後、信号弾のような光が見え、その方向を見ると、それはアークエンジェルとクサナギと交戦中のドミニオンが打ち上げたもののようだ。

 

それを確認したのか、緑と黒のモビルスーツ2機はドミニオンに撤退しようとするが、鎌持ちはそれを無視して再びこっちに向けて攻撃を仕掛けて来る。

 

フューチャーのレール砲で応戦しながら距離を取っていると、緑のモビルスーツが鎌持ちの前に割り込んで来る。

 

 

 

 

少しして落ち着いたのか、鎌持ちのモビルスーツがドミニオンの方へ飛び去り、それに続くように緑のモビルスーツも去っていく。

 

 

『キラ!ダン!』

 

 

連合3機が去っていったのを確認すると、アスランが接触通信でキラと俺に呼びかけてくる。

 

 

「アスラン」

 

『大丈夫?』

 

『ああ。しかし、あのパイロット達…』

 

「お前もそう思うか?ナチュラルにしては、モビルスーツの操縦が上手すぎる」

 

『ちょっと正規軍とは思えないな』

 

『それに……ナチュラルでもないみたいだ』

 

 

俺達はそれぞれの意見の述べながらも、ドミニオンと連合3機の姿が見えなくなるまで警戒を解かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球軍を退け、最終調整中のエターナルのところまで戻ると……

 

 

 

 

『おい!フラガとエルスマンから連絡は?』

 

 

エターナルのブリッジにいるバルトフェルド隊長の声がして事情を聞くと、フラガ少佐とディアッカが地球軍との戦闘中にコロニーの奥へ向かったらしい。

 

 

『ディアッカ!少佐!…駄目です。コロニー内部に通信が届きません!』

 

『ディアッカ!聞こえますか?こっちも連絡が通じません!』

 

 

ミリアリアとニコルの呼び掛けに応じる様子がない。

 

通信が繋がらず、少佐達の身を案じていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『僕が行きます。みんなは今のうちに、補給と整備を』

 

『キラ君!』

 

 

キラが少佐とディアッカの探索を主張し出す。

 

 

「待てキラ。一人では危険だ。俺も一緒に…」

 

『ジャスティスも問題ない。俺も行く』

 

 

それを聞いた俺とアスランは、キラに同行しようと呼びかける。

 

 

『いや、ドミニオンもまだ完全に引き揚げた訳じゃないから。ダンとアスランはこっちに残って』

 

「何?」

 

『キラ!?』

 

 

キラが俺達の同行を断り、一人で向かおうとする事に驚愕する。

 

 

『大丈夫だ。俺も一緒に行く』

 

「リューグ大尉?」

 

 

キラを一人で行かせない為に、リューグ大尉がキラとの同行を主張する。

 

 

『タキさん?でも…』

 

「キラも一人で行こうだなんて無謀すぎるぞ。それにもし二人がモビルスーツから降りている場合は、機体から降りて自分で動かなければならない事態もあり得る」

 

 

確かに。リューグ大尉の言う通り、キラはモビルスーツの戦闘では敵無しだが、キラ自身は俺とアスランとは違って戦闘訓練は受けていない。

もし銃撃戦になれば、確実にキラの方が不利になる。

 

 

『モビルスーツ戦はともかく、直接な戦闘なら役に立つ筈だ』

 

 

俺達より実戦経験が多いリューグ大尉ならキラの護衛には十分だ。

 

 

「…わかりました。キラの事、頼みます」

 

『キラ。気を付けろよ』

 

『大丈夫だよ。無茶はしないから』

 

 

リューグ大尉にキラを任せ、コロニー内部へ進んで行くフリーダムとイージスを見送る。

 

そこへエターナルにいるラクスが通信を繋げてくる。

 

 

『各艦は、補給、整備を急いで下さい。向こうの港にザフトが居るとなれば、事態は再び切迫します。私達は、今ここで討たれるわけにはいかないのです』

 

 

ラクスの言う通り、急がないと地球軍とザフトに前後から挟撃される可能性がある。

 

なら準備は急いで行った方が良い。

 

ラクスの指示を受けた俺達は、ドミニオンとの再戦、そしてザフトとの交戦に備えて各艦の準備を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰還してから30分後……

 

 

愛機から降りたアスランと俺は、各艦の損傷した部分の修復、補給、整備を急がせている。

 

 

「つまりB5線にブリッジブレーカーを並列増設させて、バンク25のダイオードアレイと結線するんです」

 

「急げ!敵がいつ来るか分からんぞ!弾幕と食料は?」

 

「弾幕は全部積み込みました!食料の方は後少しで終わります!」

 

 

補給の状況を担当の者に聞いた俺は、それを頷く事で答える。

 

各艦の準備を徐々に進めていると、港内全体に警報が鳴り響く。

 

敵が再び動き出した可能性がある。

 

そう思いながらも俺はアスランと合流し、それぞれの愛機を起動させて万一の場合に備えるのであった。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

開く扉

大変長くお待たせしました。

今回はオリ主達の戦闘シーンがかなりある回になると思います。

それでは、ごゆっくりお楽しみください。


警報を聞いた俺とアスランはエターナルに戻り、それぞれの愛機に乗り込み、戦闘に備えて待機している。

 

しかし、しばらく待っても敵が攻めて来る様子がない。

 

それも気になるが、もう一つ気になる事がある。

 

そのもう一つというのはキラ達の事だ。

 

フラガ少佐とディアッカを探しにキラとリューグ大尉がメンデルの奥に向かってからしばらく経つが、4人が戻って来る様子がない。

 

 

 

 

 

『キラ達の帰りが遅すぎる。ジャスティス、出るぞ』

 

 

アスランがキラ達の探索に向う為にジャスティスを出撃させようとする。

 

 

 

 

 

『認めません。指示があるまで待機していて下さい』

 

 

しかし、ラクスがそれを認めず、アスランを止める。

 

 

『しかし…戻ってこないと言うのは…』

 

『ならば尚のことです。これ以上迂闊に戦力は割けません。ドミニオンの攻撃もいつ再開されるか…分からないのです』

 

 

ラクスの言う通り、ドミニオンは完全に撤退した訳ではないし、アスランがここを離れた後に襲撃されたら厄介だ。

 

あの3機の事もあるしな。

 

 

 

 

 

「アスラン。今はキラ達を信じて待つんだ。俺達には俺達のやるべき事があるんだ」

 

『例えキラ達が戻らなくても、私達は戦わねばならないのですから』

 

 

しばらく沈黙するアスラン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……了解した』

 

 

俺とラクスの説得に応じるように返答するアスラン。

 

それを確認した後、ドミニオンに警戒しながらもキラ達の帰りを待つ事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドミニオンが来ます!距離50、グリーンブラボー!』

 

 

警報が鳴り響き、アークエンジェルのミリアリアからドミニオンの再出撃の通信が届く。

 

 

『総員、第一戦闘配備!』

 

 

ラミアス艦長の号令を聞き、出撃の番が来るのを待っていると……

 

 

『接近する熱源3。熱紋照合、あの3機です!』

 

 

……来たか。

 

どうやら、俺とアスランであの三機の相手をするしかないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フューチャーを出撃させた後、ジャスティスと一緒に先陣を切ってメンデルの宇宙港から飛び立つ。

 

それに続くようにM1アストレイ部隊、アークエンジェル、クサナギ、エターナルがメンデルから出て来る。

 

 

『君達は船の守りを』

 

「例の三機は俺達が引き受ける」

 

『了解!』

 

 

M1部隊に船の守備を任せ、俺とアスランは連合の三機との戦闘に備える。

 

 

「来るぞ。油断するな」

 

『ああ。分かってる』

 

 

黒いモビルスーツの鉄球の攻撃を回避した後、ジャスティスがルプスビームライフルで反撃するが、黒いモビルスーツの前に鎌持ちのモビルスーツが割り込み、ビームを防いでしまう。

 

しかし、ジャスティスがビームライフルで鎌持ちを攻撃している間にフューチャーのクスィフィアスレール砲で攻撃する。

 

黒いモビルスーツをジャスティスに任せ、鎌持ちの相手をしていると、緑のモビルスーツがこっちに向かってビーム砲で攻撃してくる。

 

俺達はそれを回避し、三機に対処していく。

 

 

 

 

 

ジャスティスは肩からバッセルビームブーメランを抜いて鎌持ちに向けて投げるが、鎌で弾かれてしまうが、そこへフューチャーのレール砲で追い打ちをかけてバランスを崩させる。

 

黒いモビルスーツが再び鉄球で攻撃してくるが回避し、フューチャーの機動力を活かして黒いモビルスーツに近付いて蹴りを食らわせ隙を作る。

 

それに続くようにジャスティスはビームライフルとフライトシステムで反撃するが回避される。

 

黒いモビルスーツと鎌持ちに集中している俺達の隙を突くように、緑のモビルスーツがジャスティスの背後を取り、攻撃しようとしているが、先程の黒いモビルスーツの時と同じように緑のモビルスーツに一気に近付き、蹴り飛ばしてジャスティスから引き離す事に成功する。

 

蹴り飛ばされた緑のモビルスーツはビーム砲をこちらに向けて反撃しようとするが、阻止するように一発のビームが緑のモビルスーツに襲いかかるが回避されてしまう。

 

ビームが来た方向を見ると、一機のモビルスーツが凄い速度でこちらに向かってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンデルの奥に向かっていたフリーダムだ。

 

 

『アスラン!ダン!』

 

『キラ!』

 

「無事みたいだな」

 

 

キラの無事を確認した後、戦闘を再開するようにフリーダムが緑のモビルスーツに向けてバラエーナプラズマビーム砲を撃って攻撃するが回避される。

 

緑のモビルスーツがビーム砲で反撃してくるが、フリーダムは腰からラケルタビームサーベルを抜いて弾いていく。

 

緑のモビルスーツはフリーダムに、黒いモビルスーツはジャスティスに任せ、残った鎌持ちとの戦闘に集中する。

 

 

 

 

 

高ビームを乱射しながら迫ってくる鎌持ちから距離を取るようにビームライフルとレール砲を撃ちながら対応する。

 

そこへキラと一緒に戻って来たディアッカの乗るバスターが援護をするように超高インパルス長射程狙撃ライフルで鎌持ちを狙撃するが、防がれてしまう。

 

ディアッカも無事のようだな…。

 

 

 

 

 

今度は黒いモビルスーツと緑のモビルスーツがフューチャーとフリーダムに対し、コンビネーションによる射撃を仕掛けてくるが、持ち前の機動力を活かして全て回避し、ビームライフルとプラズマビーム砲で反撃する。

 

 

 

 

 

その最中、ドミニオンから発射された複数のミサイルの一部がエターナルに直撃する光景を目撃する。

 

フューチャーとフリーダムのビームライフルでミサイルの対処を行い、ハイマットフルバーストで全てのミサイルを迎撃する。

 

 

 

 

 

ドミニオンと連合三機との激戦を繰り広げている最中、様子を見るように遠くにいたザフトのナスカ級三隻がこちらに向かって進軍していた。




相変わらずの多忙と、そのストレス発散の為のゲームにはまった為大分遅くなってしまいました。

しかし原作を見直し、大体のイメージはうかんでいるので、1~2週間ずつ更新する予定です。

気に入って頂けた方はお気に入り登録を、面白いと思った方は高評価を、誤字があった場合は誤字報告をお願いします。

それでは、次回もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

たましいの場所

連合三機との激闘を繰り広げている最中、クルーゼ隊に所属していた頃に乗艦していたヴェサリウスを先頭にザフトの戦艦数隻がこっちに向かって進軍してくる。

 

迎撃の為、クサナギとエターナルが動き、ザフトと交戦を開始する。

 

ジャスティスは黒いモビルスーツ、フリーダムは緑のモビルスーツ、フューチャーは鎌持ちのモビルスーツを相手に戦っている中、ザフトのジン部隊とクサナギのM1アストレイ部隊が戦闘を行っている光景が見えた。

 

以前俺が教えた通り、3機1組でジン一機に対処している為、被害は最小限に抑えているが、いつまでも持ち堪えられるか分からない。

 

 

『まずいぞ!M1だけじゃジンに対抗しきれない!追い込まれるぞ!』

 

 

少し焦りを見せるように通信で話しかけてくるアスラン。

 

 

「分かってる!だが……」

 

 

アスランの言う事も分かるが、連合三機を放っておく訳にはいかない。

 

しかし、アスランからの通信を聞いている筈なのに、キラから返事が聞こえないのが気になる。

 

フリーダムの動きはいつも通りだから、問題ないと思うが……

 

キラの事も気になるが、今の状況を打開する為に戦闘に集中する。

 

 

 

 

 

しばらく戦闘を続けていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お願い、アークエンジェル!!』

 

 

突然通信から少女の声が聞こえてくる。

 

どうやら国際救難チャンネルのようだ。

 

少女からの通信で状況は若干混乱しているが、俺は連合三機との戦闘に集中しながら様子を伺う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フレイです!フレイ・アルスター!』

 

『っ!!フレイ!?』

 

 

その戦闘の最中、一緒に連合三機と交戦していたフリーダムが少女の名前を聞いた瞬間、動きを止めてしまう。

 

 

「っ!!」

 

『キラ!?』

 

 

突然動きを止めたフリーダムに俺とアスランが驚愕する。

 

そこへフリーダムの隙を突くように黒いモビルスーツが背後からエネルギー砲を放ち、フリーダムはその攻撃をまともに受けてしまう。

 

 

『ぐぅっ!』

 

『キラ!』

 

 

被弾したフリーダムを見て救援に向かおうとするジャスティスだが、それを妨害するように緑のモビルスーツが高ビーム砲を放とうとしている。

 

鎌持ちのモビルスーツと交戦中だった俺は、隙を見てルプスビームライフルによるビーム攻撃を放って阻止する。

 

俺は通信回線を開き、キラに呼びかける。

 

 

「どうしたキラ!しっかりしろ!」

 

『キラ!!』

 

 

俺とアスランが通信で呼びかけてもキラからの返事はなく、フリーダムがそこから動く様子がない。

 

その時、コックピットのモニターに救命ポットの姿が表示される。

 

こっちと同じように気付いたのか、緑のモビルスーツが救命ポットの方に向かうように行動を始める。

 

それに気付いたフリーダムは焦るように緑のモビルスーツの後を追う。

 

今のキラは混乱している可能性が高い。

 

そう思った俺は再び通信でキラを呼び止めようとした時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『か、鍵を持ってるわ!私……戦争を終わらせるための鍵!だから…だからお願い!』

 

 

鍵…一体何の事だ?

 

 

フレイ・アルスターという少女の言葉について心の中で少し考えていると、黒いモビルスーツと鎌持ちがフリーダムに攻撃しようとしている。

 

しかし、救命ポットしか見ていないのか、フリーダムはそれに気付いていない。

 

 

「キラ!おいキラ返事をしろ!聞いてるのか!」

 

 

通信で再びキラに呼びかけるもやはり返事がなく、その最中にフリーダムは黒いモビルスーツと鎌持ちからの攻撃を受けて頭部を破壊されてしまう。

 

連合二機の攻撃を受けてフリーダムが行動を止めたのと同時に、緑のモビルスーツがフレイ・アルスターが乗っている救命ポットを掴んで回収してしまう。

 

 

 

 

 

そこへ俺達から少し離れた位置から信号弾の光を見つける。

 

どうやらアークエンジェルから発射された信号弾のようだ。

 

とにかく、信号弾が放たれたとなると、一旦ここは撤退するしかないようだな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フレイ!フレーイ!!』

 

 

しかし、アークエンジェルから信号弾が発射されたにも関わらず、フリーダムは緑のモビルスーツ…というよりはそいつが回収している救命ポットに再び向かおうとしている。

 

黒いモビルスーツが射撃攻撃で妨害してくるが、フリーダムはそれを回避しながらドミニオンに向かう緑のモビルスーツに突っ込んでいく。

 

 

『ダン!』

 

「ああ。分かってる」

 

 

アスランの呼びかけに答えた俺は、フューチャーの機動力を活かし、敵からの集中放火を回避しているフリーダムの腕を掴み、すぐに敵の射程範囲から離れる。

 

 

「この馬鹿が!周りをよく見ろ!」

 

 

キラの行動を指摘するように通信で怒鳴った後、フリーダムを抱えてフューチャーの機動力によるスピードで戦場から離れる。

 

 

黒いモビルスーツが追撃してくるのをコックピットのモニターで確認するが、ジャスティスがバッセルビームブーメランを抜いて黒いモビルスーツに向けて投げて攻撃する事で援護をしてくれる。

 

しかし、黒いモビルスーツにジャスティスの攻撃を回避されてしまうが、ビームブーメランであるため、円を描くように曲がり、黒いモビルスーツの右脚を斬り裂く。

 

 

 

 

 

黒いモビルスーツの動きが一瞬止まった隙を見て、ジャスティスもフューチャーとフリーダムに追い付いてくる。

 

 

『しっかりしろキラ!その状態で一人で敵艦へ突っ込む気か!』

 

 

俺と同じように、アスランが通信でキラの行動を問い詰めいると、今度は鎌持ちが鎌を構えながらこっちに向かって突っ込んでくる。

 

フリーダムをジャスティスに任せ、ラケルタビームサーベルで鎌持ちの攻撃を受け止め、以前のようにシールドを手放して逆手でもう1本のビームサーベルを抜いて攻撃するが、相手もこっちの戦法を知っているのか後退して回避される。

 

しかし、あくまでも撤退が目的であるため、後退した鎌持ちに向けてクスィフィアスレール砲を撃ち込んで距離を離す事に成功する。

 

鎌持ちを退けた後、超高インパルス長射程狙撃ライフルによる射撃攻撃で殿を勤めるバスターの援護を借り、再び撤退を開始する。

 

 

『僕が傷つけた…僕が守ってあげなくちゃならない人なんだ!』

 

 

独り言を呟くように語るキラ。

 

フレイ・アルスターという少女とは深い関わりがあるようだな…。

 

 

 

 

 

すでに緑のモビルスーツによってドミニオンに連れて行かれている以上、もう手の出しようがない。

 

懲りずにプラズマ砲を放ちながら追撃してくる鎌持ちをビームライフルで応戦しながらアークエンジェルを目指す。

 

バスターとアークエンジェルの援護射撃もあり、連合二機の追撃を振り切り、アークエンジェルへの着艦に成功する。

 

エターナルとクサナギは既に撤退しており、アークエンジェルが通行する辺りはエターナルとクサナギの砲撃で被弾したヴェサリウスが見える。

 

他のナスカ級二隻は旗艦であるヴェサリウスが被弾して混乱しているのか妨害してくる様子はないようだ。

 

ヴェサリウスの横を通行する途中、俺はヴェサリウスに向けて敬礼をする。

 

今は敵対しているとはいえ、クルーゼ隊に所属していた時は共に任務を遂行してきた戦艦だ。それなりに思い出もある。

 

 

 

 

 

アデス艦長…ありがとうございました。

 

その心の声に応えるように、ヴェサリウスのメインブリッジからアデス艦長がこっちに向けて敬礼をしている姿が見えた気がした。

 

 

 

 

 

俺達が通行したのを見届けたように、ヴェサリウスのあちこちが爆発し、そして大爆発を起こして撃沈する。

 

ヴェサリウスの最期を見届けた後、アークエンジェルと一緒に先に撤退したエターナルとクサナギに追い付くためにスペースコロニー・メンデルを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザフトと地球軍の挟撃を逃れ、エターナルのモビルスーツデッキにそれぞれの愛機を収納したキラ、アスラン、そして俺の三人は現在、エターナルの待合室で一時的に休息を取っている。

 

 

「キラ、大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫。でも…ごめん」

 

 

アスランの気遣いに答えるキラだが、どう見ても調子は良くなさそうだ。

 

 

「ダンもごめん。足引っ張ったりして…」

 

「…もういい。気にするな」

 

 

俺の返事を聞いたキラは一瞬だけ辛そうな表情をした後、気を失い倒れてしまう。

 

 

「キラ!」

 

 

俺とアスランが駆け寄り、アスランがキラに声をかけるが、起きる様子はない。

 

それもそうだ。

 

キラの関係のある人物が突然現れ、目の前で連合のモビルスーツにドミニオンへ連れて行かれたのだからな。

 

 

「とにかく部屋に運ぶぞ」

 

 

俺の言葉に頷いて答えたアスランと一緒にキラをエターナルに用意されているキラの部屋に運ぶ事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に到着し、キラをベッドに寝かせた後、しばらく看病をしながら様子を見ていると……

 

 

 

 

 

「ダン」

 

 

ラクスがカガリを連れてキラの部屋に入ってくる。

 

クサナギにいるはずのカガリの方は、おそらくキラの事を聞いて見舞いに来たんだろう。

 

 

「お二人とも、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫」

 

「俺も大丈夫だ」

 

 

俺とアスランの返事を聞き、安心したように笑顔を見せてくれるラクスに同じように笑み見せた後、再びキラの方に顔を向ける。

 

まだ眠っているキラを気にかけていると、カガリはキラの近くに置いてある写真立てに気付く。

 

その写真立ての写真を見て驚愕したカガリは、慌ててポケットから写真を取り出して見比べる。

 

カガリが持っている写真は確か、ウズミ代表から貰った女性と二児の赤ん坊の写真だな。

 

写真立ての方を見てみると、どうやら同じ写真のようだ。

 

何故同じ写真が二枚も……?

 

 

 

 

 

その事について考えていると、眠っていたキラが目を覚ます。

 

 

「目が覚めたか、キラ」

 

「…ごめん。心配かけたね」

 

「キラ…」

 

 

体を起こしたキラは、カガリが持つ写真を見ると目を背けるように辛そうな表情で顔を伏せる。

 

キラの様子を見た俺とアスランは互いを見て頷いた後、アスランがカガリを連れて部屋の出口に向かう。

 

 

「あ!おい…」

 

 

突然の事で不満なカガリを連れて先に部屋から出ていくアスラン。

 

しばらく部屋に沈黙が流れ、それを破るようにラクスがキラに声をかける。

 

 

「キラ…」

 

「大丈夫…僕、もう泣かないって…決めたから…」

 

 

口では大丈夫と言うキラだが、どう見ても顔の方はそんな感じではない。

 

 

「今はゆっくり休め。おまえには、十分な休息が必要だ」

 

 

そうキラに語った俺はラクスの肩に優しく手を置く。

 

ラクスは少し驚くが、俺の顔を見た後すぐに優しく微笑んで頷いてくれる。

 

それを確認した俺はアスランと同じように、ラクスを連れて部屋の出口に向かう。

 

 

 

 

 

「キラ」

 

 

出口手前に着き、ドアを開ける前に俺はキラの方に顔を向ける事なく語りかける。

 

 

 

 

 

「無理はするな」

 

「っ!」

 

 

自分の思考を読まれたのか、驚くような声をあげるキラだが、俺はキラを見ずに話を続ける。

 

 

「泣きたい時は、思い切り泣け。吐き出したい思いは、我慢せずに吐き出せ。そうする事で…再び決意を持って前に進む事だってできるはずだ」

 

 

そうキラに言い残し、俺はラクスと一緒にキラの部屋から出ていく。

 

しばらくしてキラのすすり泣く声が聞こえてくる。

 

やはり、相当我慢していたんだろう。

 

それともメンデルで何かあったのか……。

 

 

 

 

 

……いや、その事については後にしよう。

 

今はキラが落ち着くのを待つしかないな。

 

 

 

 

 

今も泣き続けるキラがいる部屋を後にして艦内通路を通っている最中、隣にいるラクスが俺の服の袖を掴んでいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悪夢は再び

しばらく時間が経ち、ようやくキラが落ち着きを取り戻してきた頃、ノーマルスーツを着用しているキラ、アスラン、そして俺の三人はクサナギにいるカガリから通信端末である情報を耳にする。

 

 

「月艦隊がボアズに侵攻?」

 

『ああ、彼らの話だとそろそろか、もしかしたら既にってことだ』

 

 

驚愕するアスランにそう答えるカガリ。

 

彼らとはラクスとバルトフェルド隊長達の事だろう。

 

 

「それで、ラクス達は?」

 

 

少し間を空け、俺は現状を確認する為にカガリに問いかける。

 

 

『今、アークエンジェルと話してる』

 

「マリューさんと?」

 

『ああ』

 

 

俺とキラの質問に返答するカガリ。

 

どうやらしばらくの間は、ラクス達の次の方針の決定を待つしかないか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全艦発進準備。各艦員は至急持ち場に就け。全艦発進準備。各艦員は至急持ち場に就け』

 

 

オペレーターの艦内放送を聞いた俺は、キラとアスランと一緒にエターナルのメインブリッジに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラクス!」

 

 

ブリッジに到着し、ラクスに声をかけると彼女と近くにいるバルトフェルド隊長がこちらに顔を向ける。

 

 

「動くのか?月艦隊のボアズへの侵攻というのは…」

 

「いいえ…事態はもっと早く、そして最悪な方向へ進んでしまいました」

 

 

アスランの問いに答えるラクスの言葉を聞いたキラは少し驚いている。

 

 

「こっちのルートからさっき入った情報だと、ボアズはもう落ちた。地球軍の核攻撃でな」

 

 

何?核だと……!

 

俺と同じくキラとアスランもかなり驚愕している。

 

 

 

 

 

それもそうだ。

 

ニュートロンジャマーの影響を受けている地球では核は使えない上にニュートロンジャマー・キャンセラーの情報も地球軍は知らない筈だ。

 

 

 

 

 

核の事も気になるが、今はプラントに向かう必要がある。

 

何せボアスはヤキン・ドゥーエと同様にプラントの防衛の要だからだ。

 

それが落とされたとなると、地球軍の次の目標は恐らくプラントだ。

 

となると急がないといけない。

 

 

 

 

 

しばらくの話し合いの後、俺達エターナル組はアークエンジェルとクサナギに連絡を入れ、プラントに全速力で急行する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エターナル、アークエンジェル、クサナギの三隻がプラントに向かっている最中、俺は愛機であるフューチャーに搭乗し、コックピット内でシステムを起動させる。

 

 

『プラントも核、撃ってくると思う?』

 

 

いつでも出撃できるように待機している最中、キラが通信を繋げて話しかけてくる。

 

 

『父が正気なら、まさかと思うが…今は…判らない』

 

 

キラの質問に答えるアスランの意見も分かる気がする。

 

アスランは父親としてパトリック・ザラを信じたいだろうが、俺からしては、ナチュラル打倒に燃えるあの男ならやりかねないと思っている。

 

 

『…なんでそんなもんがあるんだろうね』

 

 

呟くようにそう語るキラ。

 

 

『核兵器なんてさ。モビルスーツも銃も、同じだけど』

 

 

 

 

 

キラの言葉にしばらくの間沈黙が流れ、これ以上の会話をすることなく、次の指示が来るまで待機することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『総員、第一戦闘配備!繰り返す、総員、第一戦闘配備!』

 

 

艦がプラントに近付いたのを知らせるように、艦内に警報が鳴り響く。

 

最初はフリーダムがカタパルトに移動し、次にジャスティス、そして俺が搭乗するフューチャーの番が回ってくる。

 

 

『フューチャー、発進どうぞ!』

 

 

カタパルトへの移動を終え、メインブリッジからの発進指示を得て、フューチャーを出撃させて戦場となるプラントへ急行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラントに到着し、俺の目に写った光景は過去の悪夢を思い出させるものだった。

 

思った通り、核を手にした地球軍はボアスを落とした勢いに乗り、そのままプラントを落とすつもりだ。

 

核を搭載したメビウス部隊がすでに核をプラントに向けて発射しており、普通に迎撃していては間に合わないほどの数だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、普通の迎撃ではな。

 

 

 

 

 

先にプラントに到着したフューチャーとエターナルの主砲であるミーティアを装着したフリーダムとジャスティスはマルチロックオンシステムを起動させる。

 

無数の核ミサイルに狙いを定め、フルバーストで全ての核ミサイルを迎撃して撃ち落としていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『地球軍は直ちに攻撃を中止して下さい。あなた方は何を討とうとしているのか本当にお解りですか?もう一度言います。地球軍は直ちに攻撃を中止して下さい』

 

 

全ての核を撃ち落としのを確認したようにエターナルにいるラクスが通信回線を開き、地球軍に攻撃中止を呼び掛ける。

 

それを妨害するようにエターナルに向かおうとする連合三機をフューチャー、フリーダム、ジャスティスの三機で迎撃するように阻止する。

 

俺達が連合三機を相手にしている間もストライク、イージス、バスターが再びメビウス部隊から放たれた核ミサイルを次々と迎撃していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

核ミサイルの迎撃を続けて数十分ほど時間が経ち、同じように核や地球軍の量産機を相手にしていたザフトの量産機部隊が突然戦場から離脱し始める。

 

 

 

 

 

ザフトの部隊が引き下がった後、巨大なアンテナの形をした兵器が姿を現す。

 

 

『下がれ!フューチャー!ジャスティス!フリーダム!ジェネシスが撃たれる!』

 

 

 

 

 

ジェネシス…それがあの巨大な兵器の名前か。

 

 

 

 

 

突然のイザークからの通信で驚くが、あの兵器が何か仕掛けてくるような予感をした俺達はすぐにその場から離れることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その直後、巨大な兵器がまだ戦場に残っている地球軍に向けて眩い光を放った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

怒りの日

大変長くお待たせしました。

相変わらずの多忙によるストレスの発散の為のゲームプレイにハマりすぎて遅くなりました。

その分、努力して本文を書き上げたので、ゆっくりお楽しみ下さい!


突然現れた巨大兵器・ジェネシスから放たれた砲撃によって、その射程範囲内にいた地球軍のモビルスーツ部隊と艦隊はその光に巻き込まれ次々と撃墜されていく。

 

 

「なんだ、あれは…」

 

 

その光景を目にした俺は、『血のバレンタイン』の時以上の恐怖を抱きながら驚愕している。

 

 

『こんな…』

 

『父上…』

 

 

俺だけでなく、キラとアスランもその光景にかなり驚愕しているようだ。

 

 

 

 

「っ!あれを見ろ」

 

 

ドミニオンがザフトの部隊に向けてローエングリン発射する様子を目撃する。

それを合図にするように全ての地球軍の艦隊が撤退を始める。

 

しかし、ザフトは逃がすまいと地球軍を追撃し、追い付かれた地球軍のモビルスーツ・ストライクダガーがザフトのモビルスーツ・ジンのサーベル・重斬刀によってを胴体を両断され撃墜される。

 

 

『止めろ!戦闘する意志の無い者を!』

 

 

それを見たキラは、フリーダムをミーティアから分離させ、全速力でザフトに突っ込んでいく。

 

 

『ダン!』

 

「ああ。分かってる」

 

 

アスランの呼び掛けに答えた後、放置されたミーティアを装着したフューチャーで、ジャスティスと一緒にフリーダムの援護に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追撃するザフトと逃げる地球軍の間に割り込み、ルプスビームライフルでザフトのモビルスーツを無力化していくフリーダム。

 

フライトシステム・ファトゥム-00とミーティアのビーム砲で援護射撃を行うジャスティス。

 

それに続くようにマルチロックオンシステムを起動させ、フューチャーとミーティアによる多数の砲門から放つフルバーストでザフトのモビルスーツを次々と無力化させていく。

 

 

 

 

『フリーダム!フューチャー!ジャスティス!』

 

 

しばらくザフトと交戦していると、エターナルにいるバルトフェルド隊長が通信で呼び掛けてくる。

 

 

『一旦引き、作戦を立て直します。すぐに戦線から離脱してください』

 

 

バルトフェルド隊長に続き、ラクスが撤退するよう呼び掛けてくる。

 

 

「…了解。引き上げるぞ」

 

『うん』

 

『…分かった』

 

 

ラクスの指示に従い、俺はキラ達と一緒にプラントから離脱する事にした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラントから離れてからしばらく経ち、エターナル、アークエンジェル、クサナギの三隻は敵に発見されにくい小惑星に潜伏している。

 

エターナルに帰還し、フューチャーから降りた俺は、同じく愛機から降りたキラとアスランと一緒にメインブリッジへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メインブリッジに到着すると、ラクスとバルトフェルド隊長だけでなく、ラミアス艦長とカガリも来ている事に気付く。

 

 

「ダン」

 

 

先に俺達に気付いたラクスが俺の名前を呼ぶと、他のメンバーも俺達の方に顔を向ける。

 

 

「どこまで話は進んだ?」

 

「これからエリカ・シモンズから、あの巨大兵器についての説明を聞くところだ」

 

 

俺の質問に答えるバルトフェルド隊長の言葉を聞き、ブリッジの巨大モニターにエリカ・シモンズの姿が写っている事に気付く。

 

 

『では、あの兵器を調べて分かった部分を説明します』

 

 

俺達が気付いた事を確認したエリカ・シモンズは、クサナギのメインブリッジからジェネシスについての説明を始める。

 

 

 

 

『あの兵器から発射されたのはγ線です。線源には核爆発を用い、発振したエネルギーを直接コヒーレント化したもので、つまりあれは巨大なγ線レーザー砲なんです』

 

 

ジェネシスから放たれたレーザーの砲の説明の後、ジェネシスと地球の映像が写し出される。

 

 

『地球に向けられれば強烈なエネルギー輻射は地表全土を焼き払い、あらゆる生物を一掃してしまうでしょう』

 

 

ジェネシスの砲撃を受けた後の地球のイメージ映像を見た俺達は不安に襲われる。

 

 

「撃ってくると思いますか?地球を…」

 

 

ラミアス艦長の質問にラクスは険しい表情で顔を伏せている。

 

そんなラクスの肩に優しく手を置くと、それに気付いた彼女は安心させるような微笑みを俺に見せる。

 

 

 

 

「…強力な遠距離大量破壊兵器保持の本来の目的は抑止だろ。だがもう、撃たれちまったからな。核も、あれも…」

 

 

その最中、ラミアス艦長の質問にバルトフェルド隊長が答えるように口を開く。

 

 

「どちらももう躊躇わんだろうよ」

 

 

バルトフェルド隊長の返答にしばらくメインブリッジに沈黙が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その沈黙を破るようにバルトフェルド隊長は話を進める。

 

 

「戦場で、始めて人を撃った時、俺は震えたよ。だが、直ぐ慣れると言われて確かに直ぐ慣れたな」

 

 

“直ぐ慣れた”という言葉にラクスは驚愕した表情でバルトフェルド隊長を見る。

 

 

「あの兵器も、核も、ボタンは同じと…」

 

「違うか?人は直ぐ慣れるんだ。戦いにも、殺し合いにも」

 

 

更に続くラミアス艦長の質問を現実的に答えるバルトフェルド隊長。

 

それを聞いたアスランは顔を背け、そんなアスランをカガリは気にかけるように見ている。

 

 

 

 

「兵器が争いを生むのでしょうか?それとも人の心が…」

 

 

呟くようにラクスは悲しそうな笑みを俺に見せる。

 

そんな彼女の言葉を聞いた俺は少し考える。

 

強い兵器があれば、それにすがり、慣れていき、それが戦争の火種にもなる事もあり、無意識の内に戦いを求めてしまう事もあるかもしれない。

 

ザフトに所属していた俺もそうだった。

 

両親を『血のバレンタイン』で奪ったナチュラルを憎み、その怒りをナチュラルにぶつけるように軍人になり、多くの命を奪った。

 

だが、ラクスやキラ達、そしてラミアス艦長達と関わっていく内に、命の大切さ、支えてくれる相手がいる事の有り難みを知った。

 

そのおかげで俺は、自分の本当に信じるもの、やるべき事に気付く事ができた。

 

だからこそ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「力があれば、大事ものを守れる。それを当たり前のように受け入れ、生きる為なら相手の命を奪う事も躊躇わない。現実的には当然の道理だろう」

 

 

今の世界を受け入れるような言葉に聞こえたのか、キラ達、というよりはラクスがかなり驚愕しており、それと同時に悲しそうな眼差しを俺に向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

俺が言いたいのは、そんな事ではない。

 

 

 

 

 

「だが、それは余りにも悲しく、虚しい事だ」

 

 

平和に生き、静かに暮らしたい。

 

最初はそう願いながらも、現実に押し潰され、本来願っていた夢とは異なる道を辿ってしまった者も多い。

 

だからこそ、完全とはいかないが、平和という夢が実現できるきっかけを作らなければならない。

 

それができるのは、現実的に考え、武器を取り、多くの命を奪い、その罪を背負いながらも、本当に歩みたかった未来の為に戦っている俺達だけだ。

 

 

 

 

 

「核にもあの光にも、絶対に互いを討たせちゃ駄目だ」

 

 

俺と同じ思いだったのか、キラが俺に続くように口を開き、俺とキラ以外のメンバーがキラに顔を向ける。

 

 

「そうなってからじゃ、全てが遅い」

 

 

そう言ってキラは、真剣な表情で俺とアスランを見る。

 

 

 

 

 

「ああ」

 

「…そうだな。何もせずに後悔する事だけはしたくないからな」

 

 

笑みを見せ合う俺、キラ、アスランの三人を優しい笑みで見つめるラクスに気付き、俺も彼女ほどではないが、優しい笑みで答える。

 

 

 

 

 

「では、エリカさん。説明の続きをお願いします」

 

 

ラクスの話の切り出しより、エリカ・シモンズから再びジェネシスについての説明を聞く。

 

 

『ジェネシスは連射がきかないのが唯一の救いです。おそらく、一射毎にこのミラーを交換しなければならないのでしょう』

 

 

エリカ・シモンズの説明の後、モニターにジェネシスのミラーが交換されるイメージ映像が写し出される。

 

 

「だが本体はフェイズシフト装甲、その前にはヤキン・ドゥーエと何重にも張り巡らされた防衛線だ。地球軍も総力戦で来るだろうが、こりゃ容易じゃないぜ」

 

 

バルトフェルド隊長の言葉を聞いた俺は複雑な表情でモニターのジェネシスを見ている。

 

ヤキン・ドゥーエの防衛の厚さは、ザフトに所属していた俺もよく理解しているからだ。

 

それを察したようにラクスが俺の服の袖を掴み、心配そうな表情で俺を見ている。

 

それに気付いた俺は安心させるように笑みを見せて頷くと、ラクスもそれに応えるように優しく微笑んで頷いてくれる。

 

 

「ミラーの交換に要する時間は?」

 

「二射目の照準は月か、それとも…」

 

「地球軍はまた核を撃ってきますよね?」

 

「…ええ」

 

 

ラミアス艦長、バルトフェルド隊長、キラの三人の会話を聞いた俺は真剣な表情で口を開く。

 

 

「とにかく、動くなら急いで準備をした方がいい」

 

 

俺の言葉を聞いたキラ達は頷いて答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《全艦発進準備。繰り返す、全艦発進準備》

 

 

エターナルの艦内に警報とオペレーターのアナウンスが鳴り響き、それを聞いた俺達はそれぞれ持ち場に向かう為にエレベーターに向かおうとした時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダン!」

 

 

俺がキラ達と一緒にエレベーターに乗ろうとした時ラクスに呼び止められる。

 

俺に寄り添うラクスの表情は不安に満ちており、そのまま沈黙が流れる。

 

俺がキラとアスランに対し申し訳なさそうに笑みを見せると、二人は察したように笑みを見せてエレベーターを操作して先にモビルスーツデッキに向かう。

 

残っているのは俺とラクスの二人だけだ。

 

 

 

 

「どうしたラクス?」

 

「これを」

 

 

そう言ってラクスは指輪を取り出し、俺に渡してくる。

 

その指輪を受け取り、エレベーターに乗るとラクスも俺の側に来て一緒にエレベーターに乗り込む。

 

 

「…指輪、ありがとう」

 

「帰ってきて下さいね。私の元に」

 

「………」

 

 

ラクスの言葉に俺はすぐには返事をする事はできなかった。

 

しかしそれは、ラクスの思いを裏切る訳ではない。寧ろその逆だ。

 

次の戦いは、ザフトと地球軍の総力戦に介入するんだ。

 

途中で命を落とし、約束を果たせない可能性もある。

 

俺はそれを恐れているからだ。

 

 

 

 

「ダン…」

 

 

エレベーターから降りると、ラクスに呼び止められる。

 

その声を聞いた俺は歩みを止め、しばらく沈黙が流れる。

 

ラクスの方に振り返えると、彼女は心配そうにこっちを見ている。

 

 

 

 

「あ…」

 

 

俺がそっと抱き締めると、ラクスは少し驚きの声を出すが、離れようとはせず手を俺の背中に回してくる。

 

そんな彼女の背中を優しくトントンとしながら静かに口を開く。

 

 

「ラクス。どんな事があっても、最後まで諦めたら駄目だよ。君の願ってる未来はここでは終われない。そうだろ?」

 

 

ラクスの不安を取り除けるか分からないが、俺なりに自分の想いを言葉にして彼女に伝える。

 

 

「ダン…。そうですわね。まだ、終われませんものね。私も、貴方も…」

 

 

俺とラクスは互いの存在を確かめ合うように、しばらくの間その場から動く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、いってらっしゃいませ」

 

 

しばらくして落ち着きを取り戻したラクスは優しい笑顔を見せ、それを笑みを見せて頷く事で答える。

 

 

「…いってきます」

 

 

そう言って繋いでいた手を離し、ラクスに見送りを受けながらフューチャーが収納されているモビルスーツデッキに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モビルスーツデッキに到着すると、すでにキラとアスランが到着していた。

 

 

「ダン」

 

「待たせたな」

 

「いや、俺達もさっき来たところだ」

 

「そうか」

 

 

しばらく沈黙が流れていると……

 

 

 

 

 

『トリィ』

 

「トリィ!」

 

 

トリィの鳴き声と気付いたキラの声で、俺とアスランもモビルスーツデッキ内を飛び回っているトリィに視線を向ける。

その最中、俺は色々な事を思い出す。

 

 

 

アスランとのヘリオポリスでの初任務。

 

立場の違いによるキラとの戦闘。

 

プラントでのキラとの再会。

 

ラクスからフューチャーを託された日。

 

地球に戻った直後のアラスカでの戦闘。

 

オーブでの地球軍との戦闘。

 

宇宙に上がった後のラクスとの再会。

 

 

 

…などと、今日まで色々と経験してきた事を思い出す。

 

 

「ダン。アスラン」

 

 

トリィを見ていたキラが俺とアスランに声をかけ、俺達はキラの方に顔を向ける。

 

 

「生きて、戻って来ようね。必ず…」

 

「…ああ」

 

 

アスランはそれを返事で答え、キラとアスランの間にいる俺は二人の肩に手を置いて口を開く。

 

 

「…俺達には、まだやる事が残っているからな」

 

 

俺の言葉にキラとアスランは優しく笑みを見せて答える。

 

 

 

 

会話を済ませ、互いに頷いた後、キラとアスランがフリーダムとジャスティスの方に向い、二人を見届けた後フューチャーのコックピットに乗り込む。

 

 

 

 

《ジャスティス、フリーダム、フューチャー、出撃スタンバイ》

 

 

メインブリッジにいるニコルの艦内放送を聞きながら、キラ、アスラン、俺の三人は、それぞれの愛機に乗り込みシステムを起動させて出撃準備を行う。

 

 

 

 

『モビルスーツ、発進して下さい』

 

『全艦、モビルスーツ発進!』

 

 

ラクスとバルトフェルド隊長の出撃指示が艦内に響き渡った直後、ジャスティスが先にカタパルトへと移動を開始する。

 

ジャスティスが発進し、次にフリーダム、そしてフューチャーの番が回ってくる。

 

 

 

 

ラクス……。

 

 

俺も、諦めないから。

 

だから……

 

 

生き残ろう。

 

 

絶対に。

 

 

 

 

『フューチャー、発進どうぞ!』

 

「ダン・ホシノ、フューチャー、行きます!」

 

 

ニコルからの出撃許可を得た俺はフューチャーを発進させる。

 

その後、ミーティアを装備したフリーダム、ジャスティスの二機と一緒に、ザフトと地球軍が激戦を繰り広げているヤキンドゥーエに向けて出撃した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

終末の光

フューチャーを発進させ、ミーティアを装備したキラのフリーダム、アスランのジャスティスの二機と一緒にヤキン・ドゥーエを目指していると、ジェネシスが再び発射され、地球軍の拠点である月面基地を壊滅させてしまう。

 

月基地を破壊されたとなると、地球軍は残った戦力でザフトと戦う事になる。

 

更にザフトがジェネシスを撃ったのなら、地球軍も核を使って報復するに違いない。

急がないといけない。

 

 

『ダン!アスラン!』

 

 

俺と同じ考えか、キラは俺とアスランの名を呼ぶ。

 

 

『分かってる、急ごう!』

 

「キラとアスランは先に行け。俺もすぐ後を追う」

 

『うん。気を付けてね、ダン』

 

 

ミーティアを装備して高い機動力を持つフリーダムとジャスティスを先にヤキン・ドゥーエに向かわせ、エターナル、アークエンジェル、クサナギの進路を確保する為に、フューチャーで既に周囲で交戦しているザフトと地球軍のモビルスーツ部隊の対処を開始する。

 

 

 

 

先陣を切って敵モビルスーツを無力化させている最中、一機のM1アストレイがザフトのモビルスーツ・ゲイツに2連装ビームクローで貫かれそうになるところを目撃する。

 

コックピットのモニターで確認すると、マユラ・ラバッツが操縦するM1のようだ。

 

既に70式ビームサーベルで迎撃に出ようとしているが、今からでは間に合わない……。

 

 

 

 

そう思った俺は全速力でマユラ機の方に向かいながら、ルプス・ビームライフルでゲイツのビームクローを展開している腕を狙い撃ち、素通りするようにゲイツの頭部と武装をラケルタ・ビームサーベルで斬り裂いて無力化させる。

 

すぐにマユラ機の隣に近付いて通信を繋ぐと、コックピットのモニターにマユラ・ラバッツの姿が映し出される。

 

 

『ダンくん!』

 

 

俺の姿を見て、安心したような笑みを見せながら俺の名を呼ぶ。

 

 

「大丈夫か?」

 

『うん。なんとかね』

 

 

モニターに移るマユラ・ラバッツは激戦を目にして不安に襲われている。

 

 

「状況は見ての通りだが、最後まで諦めるな」

 

『……ありがとう、ダンくん』

 

 

俺は自分なりに彼女を勇気付ける為に激励の声をかける。

 

 

「先に行っている。無茶はするなよ」

 

『うん。君もね』

 

 

俺との通信でマユラ・ラバッツの様子はさっきより落ち着いてきたようだ。

それを確認した俺は、笑みを彼女に見せてから通信を切り、フューチャーで周辺でM1部隊と交戦している敵モビルスーツを無力化させながらヤキン・ドゥーエへ急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラ達と合流を果たした俺は、ヤキン・ドゥーエで戦闘を行っているザフトと地球軍のモビルスーツ部隊と艦隊を無力化している。

 

俺はフューチャーの機動力を活かしたビームサーベルによる素通り斬りとハイマット・フルバーストで敵モビルスーツを次々と無力化させていく。

 

キラ達の方を確認すると、フリーダムはミーティアによる一斉射撃で複数のザフトのモビルスーツを無力化し、ジャスティスはミーティアのビームソードで地球軍の戦艦のメインブリッジを叩き斬って撃墜し、カガリが乗るストライクルージュとディアッカが乗るバスターも数機のザフトと地球軍のモビルスーツを撃ち墜としていく。

 

 

 

 

『ドミニオン、他数隻転進します!』

 

『ナタル!』

 

 

アークエンジェルから突然の報せを聞いた俺、キラ、アスラン、ディアッカの4人は驚きを隠せなかった。

 

 

『くそ!プラントか!?』

 

『追います!エターナルとクサナギはジェネシスを!』

 

『解った!』

 

 

バルトフェルド隊長とラミアス艦長のやり取りを確認した俺達は、ドミニオンをアークエンジェルに任せてジェネシスに急行する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェネシスを目指している最中、俺達はある光景を目にして驚愕する。

 

それは核を装備したメビウス部隊がプラントに向けて進行している光景であった。

 

 

『あの部隊は!』

 

「まだ懲りずにプラントを…!」

 

『やらせるか!』

 

 

再びプラントに向けて核攻撃を行おうとするメビウス部隊を止める為、俺はキラと一緒に急いでプラントに急行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達がプラント付近まで来た時は、メビウス部隊がプラントに向けて核を発射したところである。

 

 

『何故そんなことを!平然と出来る!』

 

「どいつもこいつも…!」

 

 

それを見たキラはかなり激昂している。

俺もキラと同じ気持ちだ。

 

すぐにフューチャーのマルチロックオンシステムを作動させ、プラントへと放たれた多数の核に狙いを定め、フルバーストで次々と撃ち落とす。

 

 

フリーダムとジャスティスもミーティアの一斉射撃で核を迎撃していく。

 

それでもメビウス部隊は懲りずに再びプラントへ核を発射してくる。

 

ジャスティスが迎撃に向かおうとするが、そこへ邪魔が入ってしまう。

 

 

 

 

連合の鎌持ちモビルスーツがジャスティスに襲いかかって来たのだ。

ジャスティスがビームソードで鎌持ちを迎撃している最中、メビウス部隊が放った核がジャスティスの横を通過してしまう。

 

しかし、その核をストライクルージュがビームライフルでいくつか撃ち落とす。

 

まだ交戦中のジャスティスの代わりにフューチャーのフルバーストでプラントに向かっていた核を全て撃ち落としていく。

 

その最中に敵と交戦しているM1部隊の援護も行い、少しでも自軍の被害を最小限に抑えるように戦い、両軍の敵モビルスーツと核を相手にしながらも、俺はキラと一緒にこの死地を乗り越える為に奮闘する。

 

 

 

 

フューチャーとフリーダムで核を迎撃していると、連合の黒いモビルスーツが妨害するように2連装の防盾砲による高速弾を放ってくるが、それを回避する。

 

 

「この忙しい時に…!」

 

『アスラン!』

 

 

キラの呼び声に応えるようにジャスティスがビームソードで黒いモビルスーツを攻撃するが、回避されてしまう。

再び攻撃を行うジャスティスだが、これも回避される。

 

ジャスティスの援護の為ビームライフルで黒いモビルスーツに追い打ちをかける。

 

 

『なんなんだよ!お前達は!』

 

 

その時、アスランではない別の少年のような叫び声が通信を通して響いてくる。

 

まさかあの黒いモビルスーツ、俺達と同じ年齢の少年が乗っているのか?

 

しかし、戦闘中である為一旦考えるのを止め、黒いモビルスーツとの戦闘に集中する事にした。

 

ジャスティスはミーティアのミサイルを発射して攻撃するが、高速弾によって全て迎撃されてしまう。

 

 

『なに必死にやってんだ!』

 

 

追い打ちをかけられてイラついたのか、再び通信で荒い口調で煽るように叫びながら頭部からエネルギー砲を放ってくるが、それを回避する。

まるで駄々をこねる子供みたいな奴だ…。

 

 

『お前達こそ何だ!一体何のために戦っている!』

 

 

黒いモビルスーツのパイロットの言葉に憤りを感じたのか反論するアスラン。

 

ジャスティスは再びビームソードで黒いモビルスーツに斬りかかるが回避されてしまう。

 

 

『そんなこと俺は知らないね!やらなきゃやられる、そんだけだろうが!!』

 

 

黒いモビルスーツは左手に持つ破砕球を俺達に向けて飛ばしてくるがそれを回避し、ビームライフルで反撃するが回避されてしまう。

 

 

『やられないけどね』

 

 

腹立つ口調で煽ってくるが、感情に流されては向こうの思う壺だ。

 

 

 

 

そう思い冷静に黒いモビルスーツと交戦している最中、核を迎撃しているストライクルージュに向けて鎌持ちのモビルスーツが誘導プラズマ砲を放とうとしているところを目撃する。

 

モビルアーマー形態になって突っ込んでくる黒いモビルスーツを上昇して回避した後、クスィフィアスレール砲を頭上から撃ち込んで怯ませた隙を突いてストライクルージュの元に急行する。

 

今にもプラズマ砲を発射しようとしている鎌持ちを蹴り飛ばし、ストライクルージュへの不意討ちを阻止する事に成功する。

 

 

『ダン!』

 

「ここは任せろ。先に行け」

 

『わかった』

 

 

俺に気付いたカガリを先に行かせた後、すぐに鎌持ちを警戒する。

 

体勢を立て直した鎌持ちは、今度はこっちにプラズマ砲を撃とうとしているが、それを阻止するようにビームが鎌持ちの方に飛んでいくがビームを曲げられて防がれてしまう。

 

ビームが飛んできた方を見ると、アサルトシュラウドを装備したデュエルがビームライフルを鎌持ちに向けて構えていた。

 

デュエルの介入に少し驚いていると、黄色のビームが鎌持ちに向かって飛んでいく。

 

おそらくバスターの超高インパルス長射程狙撃ライフルによる遠距離からの攻撃だろう。

鎌持ちはそのビームを防ごうとするが、耐えきれずにバランスを崩す。

 

それを見ていたデュエルはビームサーベルを抜いて突っ込み、鎌持ちは迎撃しようとプラズマ砲をデュエルに向けて発射する。

デュエルはビームを耐ビームシールドで防ぎ爆煙が広がる。

 

 

「(イザーク…)」

 

 

イザークの身を案じていると、爆煙からアサルトシュラウドを外したデュエルが姿を現し、二刀流のビームサーベルで再び鎌持ちに突っ込んでいく。

 

鎌持ちがデュエルにプラズマ砲を撃とうとした為フューチャーのレール砲を撃ち込んでバランスを崩させる事によってそれを阻止する。

そして、デュエルはバランスを崩した鎌持ちの両腕をビームサーベルで斬り落とし、もう一本のビームサーベルで鎌持ちのコックピットを貫いた。

 

デュエルに貫かれたコックピット部分から火花を散らして爆散する鎌持ち。

 

厄介だった連合の三機の内の一機を討ち取る事に成功する。

 

それを確認した俺は残っているイザークとディアッカの事を気にしながらも、フューチャーの機動力を活かしてフリーダムとジャスティスの元に急行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラ達がいる宙域に到着すると、フリーダムとジャスティスが緑のモビルスーツと交戦している最中であった。

 

緑のモビルスーツがフリーダムのビームソードを回避した隙を突き、ラミネートアンチビームシールドを一旦手放し、ビームライフルを腰に仕舞った後両手にビームサーベルを持った状態で緑のモビルスーツに迅速に近付き、緑のモビルスーツが持っていたバズーカ砲と背中の2連装ビーム砲を切断する。

 

二刀流による素通り斬りの為か、完全に避けきれずにバランスを崩した緑のモビルスーツをジャスティスがビームソードを背後から叩き込んで真っ二つに両断する。

 

斬られた緑のモビルスーツは一瞬だけ火花を散らして爆散し、これで残る連合のモビルスーツは後一機となった。

 

 

「仕留めるぞディアッカ!」

 

『了解』

 

 

その最後の一機である黒いモビルスーツをフューチャーとバスターのコンビネーションの射撃で攻撃するが、全て回避される。

 

しかし、一瞬の隙を突いてビームサーベルで黒いモビルスーツの鉄球を装備した腕を切断する。

 

斬られた黒いモビルスーツは距離を空けるが、逃がさないようにレール砲で追い撃ちをかけ、回避した瞬間を狙ってビームライフルで残った腕と右足を狙い撃つ。

 

バランスを失った黒いモビルスーツのコックピットをバスターが超高インパルス長射程狙撃ライフルで狙い撃って撃墜する。

 

 

 

状況は緊迫しているが、俺達は奮闘して敵モビルスーツと敵戦艦を次々と撃破していく。

戦況が少し落ち着いた内に俺達はアークエンジェルの近くに寄る。

 

 

『マリューさん!』

 

『必要な機体は補給を!ドミニオンは抑える!ジェネシスへ!!』

 

「了解!」

 

 

ラミアス艦長の指示を受けた後、イージス、バスター、そして何故か残っているデュエルにアークエンジェルの守備を任せ、フリーダム、ジャスティス、ルージュの三機と一緒に既にジェネシスに向かっているエターナル、クサナギと合流に急ぐ事にした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

互いの信念

今回は少しオリジナル要素があります。

それでは、ゆっくりお楽しみください。


ヤキン・ドゥーエ付近でザフトと地球軍を激戦を繰り広げている最中、俺はキラ達と一緒にジェネシスに接近している。

 

 

『ザフトは直ちにジェネシスを停止しなさい!核を撃たれ、その痛みと悲しみを知る私達。それでも同じことをしようというのですか?討てば癒されるのですか?』

 

 

戦争の虚しさを演説で伝えるラクスが乗るエターナルと隣にいるクサナギを守りながら、妨害してくる敵モビルスーツと敵艦隊を迎撃しながら徐々にジェネシスに近付いていく。

 

 

『同じように罪無き人々や子供を。これが正義と?互いに放つ砲火は何を生んでいくのか、まだ解らないのですか!?まだ犠牲が欲しいのですか?』

 

 

ジェネシスまで後少しのところまで来ると、フリーダムが突然俺達から外れていく。

 

 

『キラ!?』

 

『ダン。アスラン。カガリを頼む!何かが!』

 

 

カガリが通信で呼び掛けるが、キラは俺とアスランにカガリの事を任せてそのまま飛び去ってしまう。

 

まるで何か勘づいたように。

 

 

『……解った』

 

『キラ!』

 

「……急ぐぞ。時間がない」

 

 

了承したアスランと一緒にまだ通信でキラに呼びかけるカガリを連れて先を急ぐ事した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵の迎撃に少し手こずったが、ようやく目標であるジェネシスに近付く事に成功する。

 

 

『フェイズシフトとて無限じゃないんだ!一斉射撃用意!』

 

『ローエングリン!てぇ!』

 

 

バルトフェルド隊長とキサカ一佐の号令と共に、エターナルとクサナギがジェネシスに向けて一斉射撃を行う。

 

 

 

 

 

しかし、ジェネシスは二隻の砲撃を受けた筈なのに手応えがないように無傷であった。

 

 

『くそ!厄介なものを!』

 

 

傷一つないジェネシスを見て悔しそうな声を出すバルトフェルド隊長。

 

このままではジェネシスが地球に撃たれるのも時間の問題だ……。

 

 

 

 

 

『ヤキンに突入してコントロールを潰す!』

 

『っ!アスラン!』

 

 

アスランの言葉を聞いたラクスはアスランの名を呼びかける。

 

 

ジャスティスは装備していたミーティアと分離し、ジャスティスの隣にストライクルージュが並ぶ。

 

 

『ダンは艦の守りを頼む!行くぞカガリ!』

 

『うん!』

 

「……了解だ」

 

 

俺の返答を確認したアスランはカガリと一緒にヤキン・ドゥーエに突撃を始める。

 

 

『アスラン!カガリさん!』

 

『大丈夫だ。任せろ』

 

 

カガリが心配するラクスに安心させる言葉をかけた後、ジャスティスとルージュはヤキン・ドゥーエへと向かって飛び去っていく。

 

それを見届けた後、俺は残っているM1部隊と一緒にエターナルとクサナギの防衛をしながら、周辺にいる敵の対処にあたる。

 

 

 

 

 

しばらく敵の迎撃を行い、ハイマット・フルバーストで周辺の敵を無力化させた直後、突然緑色のビームがフューチャー目掛けて飛んでくるがそれを回避する。

 

ビームが飛んできた方を見ると………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ソウル……!」

 

 

そこには、俺と一緒に戦場を駆けた前の愛機・ソウルがビームライフルの銃口をこっちに向けていた。

 

 

『まさか、ここまでできるとはな』

 

 

聞き覚えのある声がコックピットの通信から伝わってくる。

 

この声……間違いない。

 

 

 

 

 

「……アンタ、ジャン・エクシーグか?」

 

『久しぶりだな。元気そうで安心したよ、ダン・ホシノ。だが、君がプラントを離れた時点で、君と俺は今は敵同士。ならば、俺達のやるべき事は一つ……』

 

「……そうだな。あんたとは言葉より、戦いで語った方が早いからな」

 

『……ふっ。やはり君は話が解るな。同志なら心強いが、敵となったなら、いずれはプラントの脅威となりかねん。だからこそ、俺は今ここで君を討つ!』

 

 

久々にエクシーグと再会し、短い会話を終えた後、フューチャーとソウルは同時にビームライフルを放って、戦闘を始める。

 

しばらくビームライフルやビームサーベルでの戦闘が続くが、モビルスーツの性能の差もある。

更に以前の愛機が相手である事もあり、ソウルの特徴は俺の方がよく知っている。

その為ソウルの攻撃を回避したり、アンチビームシールドで防ぎながらソウルを徐々に追い詰めていく。

そして一瞬の隙を突き、フューチャーのビームライフルでソウルのビームライフルを撃ち抜いて破壊する。

 

 

『チィッ!』

 

「生憎、ソウルの事は俺がよく知っている。スピードも武装も全て把握している」

 

『そうらしいな。だが俺も軍人だ。そう簡単に退く訳にはいかないな』

 

「……そうか」

 

 

エクシーグの覚悟を確認した俺は、フューチャーの機動力を活かしてソウルに接近する。

エクシーグもそれに気付きソウルのブースターを全開にして応戦の構えを見せる。

 

先にソウルがビームサーベルで斬りかかって来た為、フューチャーのシールドで防いだ直後に弾き返す。

 

そしてソウルの隙を突いて相手がシールドで防ぐ間も与えないスピードでソウルの片足、利き腕をビームサーベルで斬り裂いて無力化させる。

 

観念したのか、ソウルはこれ以上仕掛けてくる様子を見せない。

 

それを見た俺はビームサーベルをフューチャーの腰に仕舞う。

 

 

『……トドメを刺さないのか?』

 

「……俺がここへ来て戦うのは、アンタを倒す為じゃない。大切な人と明日を生きる為だ」

 

『っ!』

 

 

コックピットのモニター越しで驚愕の表情を見せるエクシーグに対し更に話を続ける。

 

 

「そして、大切な人とこの先の未来を一緒に作っていく為に、俺は戦っている。もしアンタにも、そういう人がいるのなら、戦士としての誇りの為だけでなく、その人と一緒に未来を生きる為に戦え」

 

 

エクシーグに伝えたい事を全て言葉にした俺は、ソウルをその場に残し、フューチャーのブースターを全開にし、すぐにエターナルとクサナギの方に戻る事にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

終わらない明日へ

遂に原作の最終回まで来ました!

今回は戦闘演出が長めです。

それでは、ゆっくりお楽しみください!


ジャン・エクシーグとの戦いに勝利した俺は、無力化されたソウルをその場に残し、ラクス達と合流する。

 

 

『ダン!』

 

「ラクス、大丈夫か?クサナギも無事か?」

 

『はい』

 

『何とか全員生きている』

 

「そうか……」

 

 

ラクスとキサカ一佐の返答で仲間の無事を聞いた俺は安心して少し息を付く。

 

しかし、その直後にコックピットのレーダーに見た事のない番号の反応がかなりのスピードでこっちに向かって来ている。

という事はモビルスーツであるのは間違いないだろう……。

 

確認のため、アスランが乗るジャスティスがその場に放置したミーティアをフューチャーに装着させ、その反応がある方へ向かう。

 

 

『ダン!?』

 

 

俺がエターナルとクサナギから離れるのに気付いたのか、ラクスが咄嗟に俺の名を叫ぶ。

 

 

「見た事ない反応がこっちに向かっている。様子を見てくる。ここは頼むぞ!」

 

『了解した!ジェネシスは任せろ!』

 

『ダン!』

 

 

バルトフェルド隊長の返答を聞き、その場を後にしようとする俺を尚もラクスは呼び止める。

 

 

「無茶はしないさ。すぐ戻る」

 

 

安心させるためにコックピットのモニターから心配そうな表情を見せるラクスに優しく笑みを見せた後、通信を切って今度こそ反応の場所に急行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反応がある場所に近付き、コックピットのモニターで確認すると見た事のない新型らしきモビルスーツの姿が表示される。

 

謎のモビルスーツはこっちの存在に気付いたのか、背中から遠隔操作兵器らしき武装を射出させ、そこから緑色のビームを放ち、フューチャーに攻撃を仕掛けてくる。

 

かなりの数のビームの雨をミーティアの機動力を活かし、何とか回避に成功した後、ウェポンアームから高エネルギー砲を放って応戦するが、相手は余裕を見せるように回避してしまう。

 

それに今の遠隔操作兵器………

 

まさか……例のドラグーン・システムというやつか。

 

 

 

 

ドラグーン・システム

 

噂ではコックピットからの無線によって誘導する兵器で、それに複数のビーム砲を取り付ければ無数のビームを遠距離から撃つ事ができる兵器だ。

 

噂でしか聞いていなかったからまだ未完成だと思っていたが、もう完成していたというのか……。

 

 

 

 

しばらく射撃戦を繰り広げ、隙を突いてビームソードで斬りかかるが、左腕のビームサーベルで返り討ちにされ、片方のアームを失う。

 

 

『筋は良い。だが私を仕留めるには程遠いな』

 

 

聞き覚えのある声を通信で聞いた俺は驚き隠せずにいる。

何故なら、その声はザフトを離れた俺、アスラン、ディアッカの三人にとって、よく世話になった人物だからだ。

 

 

「まさか……クルーゼ隊長……?」

 

『ほう……。やはりフューチャーのパイロットは君だったのか、ダン。随分久しぶりだな』

 

 

謎のモビルスーツに乗っていたのは、思った通りクルーゼ隊長であった。

 

だが、何故クルーゼ隊長がこの宙域に単独で行動を取っているんだ?

 

 

「クルーゼ隊長。貴方はここで一体何をしていたんですか?」

 

『無論見届ける為さ。この世界の終演を。そして新たに生まれ変わる世界の誕生をね』

 

「……何?」

 

 

クルーゼ隊長の意味のわからない発言を聞いた俺はそう聞き返す事しかできずにいた。

そんな俺を気にする事なく、クルーゼ隊長は戦闘の最中でありながら余裕を見せるような感じで更に話を進める。

 

 

『強い力を持ち過ぎて傲慢になった全ての人類を、その力を持って互いを撃たせ、全てをリセットする。ザフトのジェネシスと地球軍の核という二つの力をぶつけさせる事によってね……』

 

 

クルーゼ隊長……いや、クルーゼの言葉を聞き、気になっていた疑問について彼に問いかける。

 

 

「まさか、地球軍が核を……ニュートロンジャマーキャンセラーのデータを手にしたのは……」

 

『君の予想通りだ。地球軍にニュートロンジャマーキャンセラーのデータを渡したのは……この私だよ』

 

 

ザフトの軍人でありながら、敵対関係である地球軍に核のデータを送った事に驚きを隠せずにいた。

 

 

「敵である地球軍に……何故そんな事をしてまで人類を滅ぼそうとする?」

 

『何故?憎いからだよ。私のような存在を生んだ、この世界そのものがね!』

 

 

いつもの冷静なクルーゼとは違い、感情を剥き出しにして発言するクルーゼに驚きながらも、俺は更に問いかける。

 

 

「そこまでして今の世界を終わらせたいのか?今の世界には、もう可能性も未来もないと言いたいのか?」

 

『それが私が生き、そして見てきた世界だ』

 

 

俺の問いに即答したクルーゼは世界への憤りを抑える事なく、感情のままに主張する。

 

 

『全ての人類は平等、互いに手を取り合えば、そう言いながらも、強い力を求め、それを手にすれば、その力に頼り過ぎ……そして次第に優しさを捨てていった……』

 

 

強い力によって変わっていく人の心。

 

確かに手に入れた力を簡単に捨てるのは難しい。

 

だが………

 

 

 

 

 

「例えその力を手にしても優しさを捨てなかった者達もいる。手に入れた力を、自分達にしかできない事……守るべきものの為に振るおうとする連中も大勢いる」

 

 

そう、俺とラクス、そしてキラやアスラン達のように……。

 

 

『……それは君やラクス・クラインなどの一部の人間だけではないのかね?それに、そんな甘い考えを持つ者から先に死んでいくのだよ。どれだけ優しさや平和を主張しても、綺麗事と吐き捨てる者達に裏切られ、傷つけられ、そして絶望しながら命を落とす……。君もその一人だよ、ダン。今の内にその甘い考えを捨てなければ、いずれ君もその運命を辿る事になってしまうぞ?』

 

 

確かに、クルーゼの発言にも一理あるかもしれない。

意見の食い違いで事態が悪化し、更に対立を深める事もある。

 

 

 

 

 

しかし、まだ希望が潰えた訳ではない。

 

 

「……かもしれない。だが、まだそうなると決まった訳じゃない。まずは貴方を……アンタを止めてからジェネシスを止める。そしてその先の未来がアンタの言うような結末を辿る事のないように、俺達は俺達にできる事を力の限り尽くす。今の俺にできるのはそれだけだ!」

 

『……残念だよダン。だが敵となった以上、君はここで討たねばならん。私の大願を果たす為にな!』

 

 

互いの主張を終え、繰り広げていた戦闘は更に激しさを増す。

 

しかし、相手は自分の隊長であったクルーゼである為、フューチャーでもその実力差を埋めるのは難しい。

 

無数の向かってくるビームの雨を回避し、フューチャーとミーティアによる一斉射撃で応戦するが、次第にミーティアも傷付き、そしてクルーゼ機のビームライフルとドラグーン・システムの攻撃を受けて爆破されてしまう。

 

爆発寸前に分離した為、フューチャー自体には損傷はないが、戦況は圧倒的にクルーゼの方が優勢だ。

 

 

「(まだだ……まだ、終われない!)」

 

 

ラクスの元に戻るまでは、俺はまだここでは死ねない。

 

クルーゼとの戦闘の最中、この状況をどう打開するかを考えていると、緑色のビームがクルーゼが操るモビルスーツに向かって飛んでくる。

 

クルーゼ機がそのビームを回避したのを確認し、ビームが飛んできた方に視線を向けると………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには別行動を取っていたフリーダムがこっちに向かいながらビームライフルで更にクルーゼ機を攻撃する。

 

 

『あなたは!あなただけは!!』

 

 

クルーゼと何かあったのか、キラは怒りの声を上げながらドラグーンをビームライフルで破壊していく。

正確にドラグーンを撃ち落としていくフリーダムに驚くが、この状況を見逃さないように、キラに便乗するようにフューチャーのビームライフルでドラグーンを破壊する。

 

 

『ふん!いくら足掻こうが今更!』

 

 

しかし、この状況でもクルーゼは余裕の声を発しながらビームライフルとドラグーンで攻撃を仕掛けてくる。

 

フリーダムと一緒に全てのビームを回避した後、クルーゼ機の方を見ると、ジェネシスの方へ逃げていくのを発見する。

 

まずい、ジェネシスの近くにはラクス達がいる!

 

 

『ええい!!』

 

「逃がすか!」

 

 

妨害してくるドラグーンを数機ビームライフルで破壊した後、俺とキラはすぐクルーゼの後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とキラはクルーゼに追い付き、ビームサーベルで斬りかかるが、クルーゼもビームサーベルで俺達二人に応戦してくる。

 

 

『これが定めさ!知りながらも突き進んだ道だろう!』

 

『なにを!』

 

『正義と信じ、解らぬと逃げ、知らず!聞かず!その果ての終局だ!もはや止める術などない!』

 

「まだだ!まだ終わってない!」

 

『いいや終わる!私が終わらせる!そして滅ぶ、人は!滅ぶべくしてな!』

 

 

俺達と距離を離したクルーゼは、まだ残っているドラグーンで一斉に攻撃してくるが、それを回避したり、ビームサーベルで弾きながらクルーゼに近付く。

 

 

「俺達が生きているこの世界の未来を、アンタが勝手に決めるな!」

 

『そんな、あなたの理屈!』

 

『それが人だよ!キラ君!ダン!』

 

『違う!!人は…人はそんなものじゃない!』

 

 

フューチャーとフリーダムのハイマット・フルバーストでドラグーン数機を撃墜するが、クルーゼ機にはまたしても回避される。

 

 

『ふん!何が違う!何故違う!』

 

 

クルーゼは反撃にビームライフルを連射してくるが、俺とキラはフューチャーとフリーダムの機動力を活かして回避する。

 

 

『この憎しみの目と心と、引き金を引く指しか持たぬ者達の世界で、何を信じる!?何故信じる!?』

 

 

クルーゼ機のビームライフルの攻撃を回避している最中、フリーダムは右足を、フューチャーは左腕を被弾してしまうが、戦闘に支障はない。

 

 

『それしか知らないあなたが!』

 

 

フリーダムはクルーゼ機に近付き、ビームサーベルで斬りかかるが、シールドで防がれる。

 

 

『知らぬさ!所詮人は己の知ることしか知らぬ!』

 

「アンタには大切に思う人もいないのか!?」

 

 

キラとクルーゼが距離を取ったのを確認した俺はビームライフルで攻撃するが、クルーゼはそれを回避してドラグーンで攻撃してくる。

 

 

『そんな事をして何になる!いずれ裏切られ、絶望するのは目に見えている!まだ苦しみたいか!いつか!やがていつかはと!そんな甘い毒に踊らされ、一体どれほどの時を戦い続けてきた!?』

 

 

クルーゼの激昂の声を聞きながらも、俺達はドラグーンの攻撃を回避しながら迎撃していく。

 

その時、ヤキン・ドゥーエからザフトの戦艦とモビルスーツが次々と出てくるが、少し様子がおかしい。

 

 

『ふふふ……ははははは!』

 

 

俺達と交戦しているクルーゼが突然勝ち誇ったような高笑いを上げる。

 

 

『どのみち私の勝ちだ!ヤキンが自爆すればジェネシスは発射される!』

 

『えっ?』

 

「何だと?」

 

『もはや止める術はない!地は焼かれ、涙と悲鳴は新たなる争いの狼煙となる!』

 

 

まさか、ヤキンの自爆とジェネシスの発射が連動しているというのか?

 

 

「まずい!ヤキンにはアスランとカガリが突入している!」

 

『そんな!アスラン!カガリ!』

 

 

クルーゼと交戦している最中、キラはアスランとカガリに通信を繋げて呼びかけるが、応答する様子はない。

 

 

『人が数多持つ予言の日だ!』

 

 

クルーゼ機のビームライフルとドラグーンのビーム攻撃によってフリーダムは右腕を、フューチャーは両足を被弾してしまう。

 

両足を失った事でフューチャーのバランスが少し崩れてしまう。

 

 

『そんなこと!』

 

 

キラも負けじとフリーダムのビームライフルでクルーゼ機の左腕とドラグーン一機を撃ち落とす。

 

 

『それだけの業!重ねてきたのは誰だ!!君達とてその一部だろうが!』

 

 

クルーゼ機のビームライフルの攻撃でフリーダムはビームライフルと右腕を同時に被弾してしまう。

 

 

『それでも!守りたい世界があるんだ!』

 

 

そう叫ぶキラは、フリーダムのビームサーベルを連結させ、アンビデクストラス・ハルバードを手に持ってクルーゼ機に突っ込んでいく。

 

フリーダムはクルーゼ機のビームライフルの攻撃を回避しながらクルーゼ機のビームライフルを持つ右腕を切断する。

 

 

『くっ!』

 

 

後退したクルーゼ機が残ったドラグーンで尚も突撃するフリーダムを攻撃しようとしている。

 

キラがあれだけ奮戦しているんだ。

俺も遅れを取る訳にはいかない。

 

まだ動けるマルチロックオンシステムを作動させ、フリーダムに集中しているクルーゼ機の頭部と残っているドラグーンに狙いを定めてハイマット・フルバーストで狙った箇所を破壊する。

 

 

『何ぃ!?』

 

 

不意を突かれたのか、クルーゼは突然の事でかなり動揺している。

 

 

『でやぁぁぁ!!』

 

 

その隙を突くように、フリーダムは手に持つビームサーベルでクルーゼ機のコックピットを貫き、長時間の激戦に遂に終止符を打つ。

 

 

 

 

その直後、ヤキンが突然爆発を起こす。

おそらくヤキンの自爆システムが作動したんだろう。

 

ヤキンがあちこちで爆発している最中、ジェネシスが突然動き始める。

 

となると………まずい!

 

まだクルーゼ機をビームサーベルで貫いているフリーダムの腕を掴み、フューチャーのスラスターを最大まで全開にしてその場を離れる。

 

その直後にジェネシスが発射され、まだその場に残っているクルーゼはジェネシスのエネルギー波の光の中へ消えていった。

 

しかしそれだけでは終わらず、ジェネシスのエネルギー波の余波がフューチャーとフリーダムに襲いかかる。

 

 

「(くそっ!ここまでなのか……)」

 

 

そう思った瞬間、ジェネシスが突然内部から爆発するのを見たのと同時にフューチャーとフリーダムも光に包まれ、そして次第に意識が遠退いていく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェネシスの突然の爆発からどれくらい経ったのか、意識を取り戻して目を覚ますと、流されたのか、周辺が虹色に包まれた宙域を彷徨っており、大破したフューチャー以外に少し離れたところに同じように大破したフリーダムが放置され、その近くにキラがいるのを目撃する。

 

 

『宙域のザフト全軍、ならびに地球軍に告げます』

 

 

コックピットの通信から放送が流れ、よく聞いてみると、クライン派に所属しているアイリーンさんの声だ。

 

 

『現在プラントは地球軍、およびプラント理事国家との停戦協議に向け、準備を始めています。それに伴い、プラント臨時最高評議会は現宙域に於ける全ての戦闘行為の停止を地球軍に申し入れます』

 

 

停戦協議か……。

 

ジェネシスや核などの切り札を互いに失ったんだ。

もうこれ以上の無駄な命の取り合いはしないだろう。

 

放送を聞き終えた俺は、まだフューチャーのシステムが動いている内に、外部にバレないように暗証コードを利用してエターナルに向けて救難信号を送る。

 

これでしばらくすれば救援が来るだろう。

それまではここで待つしかないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救難信号を送ってからしばらく経ち、迎えを待ってはいるが、なかなか来る様子がない。

 

 

 

 

そう思っていると、向こうの方から点滅する光が徐々にこっちに向かって来ている。

 

よく見てみると、近付いてきたのはトリィとフェイズシフトダウンしたストライクルージュであり、開かれたままのコックピットからカガリとアスランの姿を見つける。

 

アスランの方はジャスティスを失っているが、アスラン自体には怪我とかはなさそうだ。

 

俺とキラを見付けたカガリとアスランは涙を流しながらも笑みを見せて俺達の無事を喜んでくれている。

 

二人とも無事で良かった……。

 

きっと今の俺の顔は、アスラン達と同じ笑みを浮かべて涙を流しているだろう。

 

キラの方を見てみると、俺達と同じように嬉しかったのか、笑みを見せた後、目を閉じて涙を流している。

 

そんなキラと、キラに近付くアスランを見た俺は安心して息を吐きながら心の中で思った。

 

 

 

 

 

また新しい明日を皆で生きる事ができるんだと………。




ようやく原作まで終わりましたが、まだ少し続きます。

それまで、次回をお楽しみ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ
託されし未来


ついに今回で本編が完結します!
当初は更新続けられるのかと気になっていましたが、無事に最後まで書き抜く事ができました。

それでは、ごゆっくりお楽しみ下さい!


第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦で隊長であったラウ・ル・クルーゼとの決着を付け、クライン派のアイリーンさんが起こしたクーデターのおかげで、プラントと地球連合の間で停戦条約が結ばれ、長かったコーディネイターとナチュラルの戦争に終止符が打たれた。

 

その後、一部の者達はその場に残り、俺は表舞台から姿を消した………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一ヶ月後

 

 

 

オーブ連合首長国のとある海岸

 

 

 

 

 

時刻は夜。

 

あの大戦(第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦)を戦い抜いた俺は、ラクスとキラ、アスラン、カガリ、そして三隻同盟の仲間と一緒にオーブで隠遁生活を送っている。

 

そして現在俺はオーブの海岸で空に広がる星を見上げている。

 

 

「綺麗な星空ですわね」

 

「……そうだな」

 

 

俺の隣で腕を組む綺麗な、そして優しい声で語りかける女性。

 

そう。ここにいるのは俺だけでなく、ラクスも一緒に来ている。

 

いつもはモルゲンレーテ社のエンジニアの仕事をしている為、ラクスと一緒にいる時間は少ない。

 

その為、空いている時間はこうして必ず一緒にいる事が多い。

 

無論、仕事中は“偽名”を使っている為、三隻同盟以外の外部には俺がザフトに所属していた“ダン・ホシノ”である事はまだ知られていない。

 

 

「お仕事は大丈夫ですか?疲れたりしていませんか?」

 

「大丈夫。それほど疲れる仕事じゃない。それより君の方は?子供達の相手は大変じゃないのか?」

 

 

俺の問いにラクスは優しく微笑む。

 

 

「いいえ。むしろ楽しいですわ♪︎元気に遊ぶ子供達の相手をするのは」

 

「そうか。なら良かった」

 

 

ラクスほどではないが、俺なりに優しい笑みを彼女に見せる。

 

寄り添うラクスの温もりを感じていると、彼女は俺に問いかけるように話しかけてくる。

 

 

 

 

「キラ、少し変わりましたわね」

 

「……そうだな」

 

 

第二次ヤキン後のキラは変わった。

 

まるで悟りを開いたように………。

 

 

 

おそらく理由はヤキンでのクルーゼとの対決前にあるだろう。

 

後から聞いた話では、クルーゼがエターナルとクサナギに接近する前に、キラがクルーゼと対峙して戦うが、俺と同じようにドラグーン・システムに苦戦していたらしい。

 

その最中、ドミニオンから退艦し、アークエンジェルに向かっていた避難用シャトルが偶然遭遇し、それをクルーゼが沈めたらしい。

そのシャトルには、キラの大切な人であるフレイ・アルスターが乗っていたらしい。

 

それがキラの怒りを爆発させ、クルーゼと互角に渡り合う原因となったらしい。

 

クルーゼを討ち、フレイ・アルスターの仇を取ったキラだが、その後は別人のように少し雰囲気が変わってしまい、本人に聞いても……

 

 

 

 

「……大丈夫。少し、疲れただけだから」

 

 

 

 

……と言っていたが、俺達から見れば、そんな風には見えなかった。

 

 

「無理もない。あの大戦で、キラは自分が守るべき人を、あの男(クルーゼ)に奪われたんだ」

 

「……そうですわね」

 

 

こればかりは俺達にはどうする事もできない。

 

失った命を戻すという、神のような事ができないのと同じように………。

 

 

「キラの心の強さを信じて待とう。あいつ(キラ)が自分から立ち直るのを」

 

「はい。キラなら、きっと立ち直りますわ。あの時のように……」

 

 

ラクスの言葉を聞いた俺は、プラントでキラとラクスと過ごした日を思い出す。

 

そう。キラが重傷を負ってプラントに運ばれた時、あいつは肉体も精神もかなり傷付いていた。

 

だか長い時間をかけ、あいつは仲間(アークエンジェル)が危機に陥っている事を聞いた時、自分で立ち直って彼らを救う為に地球に戻ろうとした。

 

 

 

だからこそ俺達は信じて待つ事にした。

 

いつかキラが、あの時のように立ち直ってくれる事を………。

 

 

 

 

「……戻ろうか」

 

「……そうですわね。明日も忙しいですし、そろそろ戻りましょうか」

 

 

俺が先に立ち上がり、ラクスの方に手を指し伸ばすと、彼女はそれを微笑みながら取って立ち上がる。

しかし、ラクスは俺の手を離さず、むしろ離れたくない気持ちを表すように、痛くない程度に強く握ってくる。

俺も同じ気持ちである為、ラクスの手を離さず、彼女のペースに合わせ、カガリが用意してくれた別宅に向けて歩き出す。

 

 

 

 

「ダン」

 

 

歩いている最中、ラクスは優しい声で俺の名を呼びかける。

俺は返事の代わりに、ラクスの方に顔を向ける事で応える。

 

 

「この先、どのような事があっても、どんな世界になろうと、私が貴方を思うこの気持ちだけは、決して変わりませんわ」

 

 

告白に近いラクスの言葉を聞いて少し驚くが、それ以上に心の中が歓喜に溢れ、俺は彼女の思いに応える為に口を開く。

 

 

「……俺もだ。どんな運命が待っていても、君の未来は、俺が守る。そして生きよう。この先の未来を、一緒に……」

 

 

俺の返答を聞いたラクスは優しく、そして嬉しそうに微笑み、俺に寄り添ってくる。

そんな彼女を手を握る事で応え、そのまま別宅に歩き続ける。

 

 

 

多く戦いを通し、多くの命を犠牲にしながらも、ようやく訪れた平和。

 

無駄にはしない。

 

死んでいったミゲルやラスティ、そして多く者達の為にも。

 

決して………。

 

 

 

その思いを忘れず、今を生きる為に。

 

大切な人と一緒に、その先にある明日を目指して。

 

そして………

 

 

 

 

 

俺達と同じ思いを持つ者達が願う、平和な未来へと繋いでいく為に。




これにて本編は終了します。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 20~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。