人間界に召喚されたったwwwwwww (烏何故なくの)
しおりを挟む

人間界に召喚されたったwwwwwww
人間界に召喚されたったwwwwww


1:名無しの悪魔

部屋でダラダラしていたワイ、人間界からの召喚要請が届く

 

2:名無しの悪魔

マ?

 

3:名無しの悪魔

人間に呼ばれたの?

 

4:名無しの悪魔

うっそだぁ

 

5:名無しの悪魔

今時悪魔召喚なんぞするやつおらんやろ

 

6:名無しの悪魔

釣り乙

 

7:1

>>6嘘じゃないが?

ほれ画像

http://www.pic.../

 

8:名無しの悪魔

転移門とか久々に見たな

 

9:名無しの悪魔

今時ガチで悪魔召喚するやつおるんか……

 

10:名無しの悪魔

悪魔召喚とかいうオワコン

 

11:名無しの悪魔

何で悪魔召喚って廃れたんだ

俺も人間界行ってみたい アニメの聖地巡礼してえ

 

12:名無しの悪魔

天使連中のせい

 

13:名無しの悪魔

コストとかの問題だろ

 

14:名無しの悪魔

俺らが頼りにならないから

 

15:名無しの悪魔

>>14

これ

 

16:名無しの悪魔

>>14

ほんまこれ

俺ら全体的に刹那主義で快楽主義だからな…

 

17:1

羨ましいだろ

これから人間界の実況をしていくで

 

18:名無しの悪魔

わざわざ呼ばれるってことは結構イッチは高位の悪魔なんか

 

19:名無しの悪魔

弱い悪魔なんぞ今じゃマジで呼ぶ意味ないもんね

 

20:1

ワイバルバトス家の三女

魔術の腕には覚えあるで

 

21:名無しの悪魔

は?

 

22:名無しの悪魔

名門も名門じゃないか…

 

23:名無しの悪魔

やべえ奴で草

 

24:名無しの悪魔

何でこんな奴が掲示板にいんだよ

 

25:1

うるせ〜!掲示板楽しいんじゃ

いくらでも時間潰せる

人間界行く時ってなんか気をつけることある?

 

25:名無しの悪魔

武装はして行けよ

割と人間界は治安悪いらしい

 

26:名無しの悪魔

メシの確保

 

27:名無しの悪魔

歯ブラシと着替えを忘れないこと

 

28:名無しの悪魔

転移門に飛び込まない

召喚失敗した時に気をつけて、手だけ突っ込んで見る

 

29:名無しの悪魔

召喚失敗とかあんの?

 

30:名無しの悪魔

ある 

失敗すると体の一部がドロドロに溶ける

 

31:名無しの悪魔

そマ?

 

32:名無しの悪魔

サマナー側が雑な儀式やる事がある そのせい

死ぬまで行かなくても口が溶けて呪文使えなくなって

地獄に帰って来れなくなった悪魔が昔はちらほらいた

 

33:1

はえ〜知らんかった。ありがと

 

34:名無しの悪魔

まあこんな時代に悪魔召喚する奴はそんなミスしないだろ

 

35:名無しの悪魔

むしろこんな時代に召喚儀式の正しい手順が伝わってんのかな

 

36:1

ちょっと不安になること言うのやめろ

 

 

 

 

■ ■

 

 

 

73:名無しの悪魔

人間の娯楽ってマジで楽しい〜!

 

74:名無しの悪魔

SNSの通知気になり過ぎる

 

75:名無しの悪魔

エロ絵見るたび脳内物質ダバダバ出る

刺激が、強い刺激が欲しい

 

76:名無しの悪魔

悪魔なのに人間なんかの娯楽に堕落させられる…

 

77:1

召喚失敗した

助けて

 

78:名無しの悪魔

あ?

 

79:名無しの悪魔

草 

 

80:名無しの悪魔

手だけ突っ込めって言われなかったか?

 

81:1

テンション上がっちゃって…

 

82:名無しの悪魔

【速報】バルバトス家の三女、人間界で死亡wwww

 

83:名無しの悪魔

馬鹿丸出しで草

こいつ地獄でも有数の貴族の出ってマジ?

 

84:名無しの悪魔

地獄の未来は暗いな

 

85:名無しの悪魔

逆に明るい時あったかな…

 

86:1

うるさい

貴様らだって同じ状況だったらテンション上がって転移門に頭からダイブするだろ

 

87:名無しの悪魔

まあはい

 

88:名無しの悪魔

それはそう

 

89:名無しの悪魔

悪魔ってそんなもん

 

90:名無しの悪魔

おまえらがそんなんだから悪魔召喚はオワコンになる

 

91:1

どうしよう

身体中が溶けてる 手も足も内臓もドロドロ

人型を保つだけで魔力ごっそり持ってかれる

 

92:名無しの悪魔

こわ

 

93:名無しの悪魔

やっば

 

94:名無しの悪魔

とりまサマナーにあってみ

生贄を食えばちょっとは魔力回復するやろ

 

95:1

わかった

 

 

 

 

■□

 

 

 

(……最悪の気分だ。

結構良い服を着てきたのだが?

せっかくウキウキで人間界に来たのだが?

本場のジャンクフードが食べられると思ってきたのだが? くそが)

 

悪魔ーージェシカ・スタンプ・バルバトスが召喚された場所は室内らしい。何故か煙が充満しており見通しが利かない。

辺りにサマナー(召喚師)らしき影は見えない。

仕方がないので現在進行形で溶解中の体を引きずってサマナーを探す。

(くそう。なんだって妾がこんな苦労をせにゃならんのだ。サマナーには片腕を捧げるくらいしてもらわんと割に合わない)

 

しばらく歩いているとうっすら人影が見えてきた。

(まったく馬鹿な奴だ。召喚した悪魔をほっぽり出して歩き回るサマナーが何処にいる)

 

人影は30代前半ほどの冴えない男性だった。

右手でショットガンを持ち、左手で金髪の少女の手を引いている。

少女の手には五芒星の図形が刻まれている。生贄の印だ。

 

「…………aa………」

(よーしサマナー、生贄を渡せ)

そう言ったつもりだったのだが、爛れた喉からは掠れた小さな呻き声しか出ない。

(ああクソイライラする。キレそ〜〜〜!)

 

男はジェシカに向き直り、ゆっくりとした動作でショットガンをジェシカに向けた。

(…?何をしている?お前が差し出すべきなのはそっちじゃないだーー)

 

「Go to hell !!!」

妾の思考を遮るように男が叫び、ショットガンの銃口が火を噴いた。

至近距離で放たれた散弾がジェシカの溶けた体をさらにぐちゃぐちゃにする。

 

(えっ。何してくれんだこいつ)

 

 

 

 

□□

 

 

 

 

(最悪の気分だ。こんな事が現実に起こっていいのか?)

心の中で悪態をつきながら、ジョージ・トーレスは自分の娘、リラの腕を掴みながら疾走していた。

 

事の発端は数週間前。

リラは突如として失踪した。

妻に先立たれたジョージにとって、リラはたった一人の、大切な大切な家族であった。

ジョージは警察官としての立場を使い、死に物狂いでリラを探した。

寝る間も惜しんで聞き込みをし、財産を使い切る勢いで探偵を雇った。

そして行き着いたのだ。銀の雨空を名乗るカルト教団に。

 

銀の雨空。

信者数は10人ほどと小規模ながら、長く続いている危険思想の悪魔崇拝者達らしい。

雇った探偵の一人から渡された情報を頼りに、ジョージは銀の雨空に接触した。

奴らは過去無理矢理な集団自決を行ったとの情報もある。何をしでかすか分からない。

迂闊な手を打てばリラの命が危ない。

いや、すでに殺されている可能性もある。

ジョージは荒ぶる感情を必死に抑え、奴らと同じ気狂いの振りをし、どうにか教団に入り込んだ。

 

教団の仲間だと認められたジョージは、とある廃ホテルに連れて行かれた。

廃ホテルの地下の一室。生き物の死体でできた穢らわしい祭壇の中心。

そこにリラは倒れていた。

リラを取り囲むようにして、信者達は呪文を唱えている。

 

「新人、君は運が良い。正しき儀式の手順が見つかったのだ。今日こそ偉大なる方がお目見えにーーー」

信者の言葉が終わらないうちに、ジョージはスモークグレネードのピンを抜いた。

 

「なんだ!?」

「何が起こっている!!」

混乱と怒声の間を駆け抜け、信者共の脳天に拳を叩き込む。

地面に倒れ伏した奴の手からショットガンを奪い取り、祭壇の中心に駆ける。

リラの手首に触れ、脈がある事を確認したジョージはショットガンを構えた。

 

「あぎゃああっぁああ!!?」

「ぅううっ、腕がぁああああああ!!!」

発砲音が響くとともに信者共の絶叫が聞こえる。辺りに血の匂いが漂いだす。

しばらくすると悲鳴は聞こえなくなった。動く人影も見えない。

おそらく全員気絶したのだろう。

 

「………父さん……?」

「リラ!もう大丈夫だ、父さんが来た…!」

おぼつかない足取りのリラの手を引いて、出口に向かうジョージ。

 

その時だった。

 

びちゃり。

びちゃり。

びちゃり。

 

何か、背後から聞き慣れない音が聞こえた。

液体が地面に叩きつけられるような、不快な音。

思わず後ろを向くと、煙の向こうに巨大な人影が見えた。

 

(……人間……か…!?)

人間にしては巨大すぎる。身長が3mはある。

こんな奴は信者の中に居なかった。

こんな巨体では隠れる場合などないはずだ。

 

動けないでいるジョージの前からに、それが視認できる距離まで近づいてくるのに時間はかからなかった。

溶解し、異形の骨が見え隠れしている頭部。

血に濡れ、くすんだ色の美しかったであろうドレス。

今にも千切れそうな腕の先には、異様に煌めく杯が握られている。

人間の出来損ないとしか言い表せない、人影を模した何かが目の前に立っていた。

 

目の前の光景が信じられない。

手足が震える。

こいつが、例の偉大なるお方とでも言うのだろうか。

何故現れた。何が目的だ。

 

突如化け物が顔を動かした。

おそらく眼球が入っていたであろう空洞がリラを捉える。

「…………aa………」

隙間風の様な掠れた声だった。

原型をなくした化け物の指がリラに伸ばされる。

 

…頭が冴えてきた。震えが止まる。

ショットガンを構える。

(お前の目的が俺の娘なら、俺のする事は一つだ)

引き金に指をかける。

くたばっちまえ!!!(Go to hell !!!)

至近距離で放たれた散弾が、化け物の顔面を抉った。

 

化け物の体が倒れる。

ジョージはリラの手を引いて全力で駆ける。

チラリと後ろを振り返ると、化け物は手に持った杯を顔の前で掲げてジッとしていた。

何かに祈るように。何かに縋るように。

化け物の行動の意味など考るだけ無駄だろう。直ぐに思考を打ち切る。

第一ジョージには、あんな化け物に祈る相手がいるとは思えなかった。

 

 

 

■■

 

 

 

100:名無しの悪魔

人間に撃たれた 何故

妾の顔 ちゃんとついてる?

http://www.pic../

 

101:名無しの悪魔

うーわほんとにドロドロ

 

102:名無しの悪魔

グロし!

 

103:名無しの悪魔

顔面土砂崩れ(比喩抜き)

 

104:名無しの悪魔

てか画質いいな 端末何使ってんの?

 

105:1

聖杯型小型端末 

 

106:名無しの悪魔

聖杯型!!?!?!

 

107:名無しの悪魔

わざわざ聖杯型とかいう高級品使って掲示板見てんの?

 

108:名無しの悪魔

やっぱこいつ貴族だわ

 

109:名無しの悪魔

ブルジョワめ 死ね

 

110:1

どうしよう たしけて 体の溶解が止まらない

何をどうすればいいのかわからない

 

111:名無しの悪魔

体が溶ける理由は儀式の失敗だっけ

 

112:名無しの悪魔

正確にいうと不完全な儀式のせい

人間界での肉体の再構築が上手くいかなかったせい

普通は溶解が止まらないって事はないんだけど

 

113:1

ほんとに止まんない 嘘じゃない

 

114:名無しの悪魔

つまり…ドユコト…?

 

115:名無しの悪魔

これ儀式が終了してないんじゃね?

そのせいで何度も歪な形に肉体が再構築されてるんじゃ

 

116:名無しの悪魔

そういえばなんか人間に撃たれたとか言ってな

あれ何?

 

117:1

わかんない

生贄連れてるからサマナーかと思ったら急に撃ってきた

 

118:名無しの悪魔

あーはいはい なんかわかってきた

これ儀式途中で邪魔入ったな

 

119:名無しの悪魔

イッチを撃ったのはエクソシストとかじゃね

生贄を儀式の途中で連れ出したからバグが起きてんだ

 

120:名無しの悪魔

イッチはまだ生贄食えてないんだよな

悪魔召喚の儀って生贄を捕食するまでが儀式だから

生贄食えばとりあえず儀式は終わるはず

 

121:1

とりま生贄の子供食えばいいって事だよね

 

122:名無しの悪魔

多分

 

123:名無しの悪魔

体の溶解は止まるはず

 

124:1

頑張るぞ

狩りの魔神の一族の力を見せてやる

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人間界に召喚されたったwwww(2)

「此方ジョージ、応援を要請する!銀の雨空は本物のイカれだった。化け物がいるんだ!!」

『ジョージ、何を…』

「俺にも上手く説明できない!とにかく銃を持ってきてくれ!」

『…わかった!1時間もあればお前のいるホテルに到着する』

入り組んだ廃ホテルの地下を駆けながらジョージは自分の勤務する警察署に連絡をとっていた。

ショットガンではあの化け物は殺しきれなかったが、効果が無いわけではなかった。

銃火器を集めれば殺しきれるかもしれない。

 

「父さん、もう走れない…」

リラが口を開いた。

「我慢だ、もうすぐで出口に着く。そこに車を止めてある!」

今は休んでいる暇はない。いつ化け物が追ってきてもおかしくないのだ。

 

走って走ってようやく玄関にたどり着いた。

 

直後、轟音と閃光が当たりをめちゃくちゃに走り回った。

雷が目の前に落ちた事を察するのに時間はかからなかった。

 

「なっ……!」

止めてあった車を見ると雷が直撃したらしく、タイヤから白い煙を上げていた。

タイヤがバーストしてしまったらしい。

廃ホテルは山の上に立っている。この様子では、安全に山を降りるのは不可能だろう。

呆気に取られている俺の頭上に、一滴の雨水が落ちてきた。

瞬く間に激しい雨と風が降ってくる。

トランシーバーから声が聞こえてきた。

 

『すまない、お前のいる山を中心に、あ、嵐が急に街中で発生した!!信じられないと思うが本当にそうとしか言えないんだ!酷い強風でそっちに行けない!!』

 

(………ありえない。明らかに自然の法則に反している。あの化け物の仕業とでもいうのか?

……くそ、落ち着け!驚くより先にやる事がある筈だ。)

どう考えてもこの天気の中下山するのは現実的ではない。

この廃ホテルはかなりの大きさがある。隠れる場所も多い。

無理に下山するより、ホテルの中で隠れながら化け物をやり過ごす方が生存率は高いだろう。

(………冷静になれ。冷静になれ。俺は今からこの廃ホテルの中で、リラを守り切らなくては行けないんだ)

 

 

 

■■

 

 

130:1

とりあえず嵐呼んだ 男の物らしき車もウチの猟犬ちゃんがぶっ潰したし

これで矮小な人間さんは逃げられん筈やで

ワイやったら嵐なんてなんてことないけどな

 

131:名無しの悪魔

唐突な悪魔マウント

 

132:名無しの悪魔

急にイキリ始めた…

 

133:名無しの悪魔

さっき一人称変わるくらい動揺してたくせに

 

134:名無しの悪魔

天候操作できんの?エリートじゃん 死ね

 

135:名無しの悪魔

人間なんぞにマウントとって逆に虚しくないの?

 

136:1

黙れ 

 

 

□□

 

 

後ろからあの忌まわしい足音が迫ってくる。

ジョージはリラと階段を静かに駆け上がり、2階の適当な部屋に飛び込んだ。

化け物の足音は大きく独特で分かりやすい。

注意していれば追いつかれる事はない筈だ。

 

びちゃり。

びちゃり。

 

…きた。化け物の足音だ。

タイミングを見逃すな。

 

びちゃり。

びちゃり。

 

音がだんだん大きくなる。

 

びちゃり。

びちゃり。

「……………っ…!!」

「堪えてくれ、リラ…!」

音がどんどん大きくなる。一秒ごとに、どんどん。

 

びちゃり。

びちゃり。

…ガチャン。

 

「ひっ、やだ!」

「クソッタレ!」

ジョージは部屋の壁にキックで穴を開け、隣の部屋に飛び込んだ。

(扉を開ける音は一回だけだった。やろう、ピンポイントで俺達が隠れている部屋を見つけやがったんだ。くそ、どうやって俺達が隠れている場所が分かったんだ?

アイツは人間ではない。嗅覚や聴覚が人間のそれとは比べ物にならないのかもしれない。)

 

化け物が追ってくる音が聞こえる。

ジョージは振り返ってショットガンを構えた。

ここからは階段よりもエレベーターの方が近い。

 

「リラ!エレベーターに乗れ!」

「父さんはどうするのよ!?」

「すぐに行く!エレベーターで待っていてくれ!」

 

ジョージの視界の端に汚らわしいピンク色が映った瞬間、ジョージは弾丸を放った。

化け物が大きく体を退け反らせる。

高かったであろうカーペットが飛び散った肉片で赤く染まる。

 

そして。飛び散った肉片は。録画を逆再生する様に、化け物の下へと集まっていった。

よく見れば、地下でジョージが吹き飛ばした化け物の頭部はそのシルエットを取り戻している。

「不死身かよ、お前…!」

 

遮二無二ジョージはショットガンを打ちまくった。

化け物の体に風穴が開き、風穴が開いた体が再生し、再生した所を鉛が抉る。

「父さん!!」

リラが叫ぶ。

ジョージの数秒の攻撃の末、エレベーターが到着したらしい。

ジョージは勢いよく体を反転させ、転がる様にエレベーターに飛び込んだ。

リラは思い切り4階へのボタンと開閉ボタンを押した。

ゆっくりとドアが閉まる。

エレベーターの中でショットガンを構え直したジョージの目に、またもや杯を掲げて静止している化け物の姿が映った。

エレベーターはジョージの想像に反してなんの妨害もなく閉まり、4階に上がっていった。

 

 

■■

 

 

143:1

うわ 生エレベーターだ かっこよ

http://www.pic../

 

144:名無しの悪魔

生エレベーターだ!

 

145:名無しの悪魔

生エレベーターだ!!

 

146:名無しの悪魔

はえ〜すっごいモダン

 

147:名無しの悪魔

こっちに銃突きつけてる男が写ってなければいい写真だった

 

148:名無しの悪魔

瞬間移動の術がある地獄じゃ見れない道具

イッチ本当に人間界行ってたんだな

 

149:名無しの悪魔

自分の命かかった状況で掲示板に書き込むのヤベーな バカなのかな 

大丈夫?生贄生きたまま丸呑みしないといけないんだよ?殺しちゃダメなんだよ?

ちゃんとわかってる?

 

150:名無しの悪魔

もしかして:現実逃避

 

151:1

149>> 150>>違うが?

そもそも人間さんにはワイが作った探知用使い魔くっつけてるしどこに居るか分かる

実質勝ち確みたいなもん

 

152:名無しの悪魔

イッチって多芸だけどバカだよね

間違えた、バカだけど多芸だよね

 

153 :1

152>>ころすぞ

 

154:1

使い魔ちゃん殺されちゃった

人間勘がいいぞ

 

155:名無しの悪魔

即落ち二コマ

 

156:1

人間思ったより動けるし

掲示板に書き込みながら強めの使い魔作っておいて正解だったな

 

 

□□

 

 

エレベーターの中でジョージはリラのフードに隠れていた、バッタに人の目玉が生えたような異形の虫を握り潰す。

明らかに化け物の仲間だろう。

リラに危害を加えずにジッと隠れていた事、化け物がピンポイントで俺達を見つけた事を考えると、コイツが俺達の位置を化け物に知らせていた可能性が高い。

 

(再生能力に、嵐に、バッタ…あの化け物、えらく多芸だな。時折掲げているあの杯が関係しているのか?)

ショットガンの弾は残り少ない。

先程のように化け物をショットガンで足止めするのは厳しいだろう。

 

エレベーターが四階に着いた。

廊下の窓を見る。

嵐は更に激しさを増していき、雷がこちらを威嚇する様に光っていた。外に出るのは自殺行為だろう。

 

ぺたり。ぺたり。ぺたり。

唐突に、廊下の曲がり角の向こうから足音が聞こえる。

今まで聞いた事のない足音だ。

 

「なに、何なの………何がくるの……?」

リラの顔がくしゃりと歪む。目に涙が溜まっていく。

「………くそ。そろそろ休ませろよ」

リラの心は度重なる重度のストレスで疲れきっているらしい。

それも当たり前である。頭のおかしい集団に誘拐され、父が助けにきたと思ったら溶解する肉の塊が追ってくる。まだ11歳の女の子が体験していい様な事では無い。

 

ぺたり。ぺたり。ぺたり。

廊下の角から、何かが顔を出した。

それはガラクタの塊だった。

古びた椅子、食器、ろうそく。そう言った物の集合体であった。

生き物の様にガラクタを足の様に動かし、犬の様に素早くこちらに向かってくる。

それも一匹ではなく、三匹。

 

「リラ、俺の後ろから出るなよ…」

このホテルには目の前のガラクタ以外にもドロドロの化け物がいる。

不用意に逃げれば挟み撃ちにされかねない。

撃退できるならそれに越したことはない。

ジョージはショットガンの銃口を手に持ち、ショットガンを鈍器として構えた。

 

 

■■

 

 

159:1

なんか人間強くね?

 

160:名無しの悪魔

たかだか人間やろ

 

161:名無しの悪魔

お前が雑魚なだけ

 

162:1

http://www.pic../

 

163:名無しの悪魔

え、なにこれ

 

164:名無しの悪魔

人間がオオカミサイズの使い魔を殴り倒してる……

 

165:名無しの悪魔

使い魔の能力って大きさ依存でしょ?

このサイズなら普通のオオカミくらい強くなかったっけ

 

166:名無しの悪魔

人間ってオオカミに勝てるんだっけ

 

167:名無しの悪魔

アレェ?

 

168:1

あの人間ちょっとやばいよな

ワイから逃げる時に壁蹴って壊してたし

正面から攻めるとかなり抵抗されるな

 

 

□□

 

 

ジョージの振るったショットガンが、一匹のガラクタの怪物の顔を捉えた。

鈍い金属音が響く。ガラクタの怪物はゴロゴロと廊下に転がった。

残りの二匹はジョージを警戒している様にこちらを見ている。

「どうした?とっととこっちにこい、ぶっ殺してやる……!」

ジョージが唸り声を上げる。緊迫した空気が流れ出す。

 

硬直を破ったのはジョージでも、ガラクタの怪物でも無かった。

突如、廊下の壁が砕けた。コンクリート片が轟音と共に、辺りに破片となって撒き散らされる。

思わずジョージは音のした方に顔を向けるが、そこには何もいない。

「何ーーガァっ!?」

最後までセリフを言う事は叶わなかった。

ジョージの首に強い不可視の力が加わったからだ。

そのままジョージの体が上に向かって持ち上げられる。

 

「……aa……!」

徐々に徐々に、透明なマントを脱ぐ様にゆっくりと、見覚えのあるピンク色が現れ始めた。

 

 

■■

 

 

171:1

正面から攻めると万が一があるんで

「浮遊」と「不可視」の術を使って不意打ちしましょうね〜〜

 

172:名無しの悪魔

卑怯者です!

 

173:名無しの悪魔

少なめの脳みそでよく考えたな

 

174:名無しの悪魔

やるやんイッチ 

 

175:1

174>>妾、お前の事好きかもしれん………

 

 

□□

 

 

「父さん!!」

(くそ、くそ…!放しやがれ、ゴミカス野郎……!)

化け物は万力のような力でジョージの首を捕らえて離さない。

ジョージは化け物の腕を殴りつけ、足で腹を蹴り飛ばす。

化け物は体をのけぞらせた。それだけだった。

首を締め上げられ、だんだんとジョージの脳に酸素が行かなくなっていく。

 

ふ、とジョージの首の圧迫感が消えた。それと同時に感じる浮遊感。

化け物はジョージを投げ飛ばしたのだ。

化け物が先程空けた、廃ホテルの四階に空けた穴から外に向かって。

 




猟犬ちゃん:イッチが飼ってる使い魔。
イッチが狩りの魔神としての力で命を吹き込んだ雷。
かなり強いが精密な動作が出来ず、生贄のリラを殺しかねないので今回は余り出番がない。

狩りの魔神の力:物体に思考能力を与え、自身の使い魔として使役できる力。生き物も使い魔にできるが、ある程度知性のある存在には抵抗される可能性がある。
他の悪魔も使い魔自体は作れるが、思考能力のある使い魔を作れるのは狩りの魔神の力を受け継ぐバルバトス家だけ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人間界に召喚されたったwwww(3)

180:1

人間の男の方は無事死亡したで

そこそこできる奴やったがワイが強すぎてすまんな

GG対戦ありがとうございました

 

181:名無しの悪魔

急にイキリ出す

 

182:名無しの悪魔

急にバカになる

 

183:名無しの悪魔

煽るなカス

 

184:名無しの悪魔

対戦ゲームで煽りは大罪

 

185:名無しの悪魔

ゲームなのに何で煽るの?何でマナー1つ守れないの?

 

186:名無しの悪魔

ストレスで対戦相手の寿命にダイレクトアタック仕掛ける異常者どもがよ…

 

187:名無しの悪魔

生贄の幼女も無事ゲット

お前らロリコン待望の写真やぞ感謝して咽び泣け

http://www.pic../

 

188:名無しの悪魔

なんだこれ

 

189:名無しの悪魔

は?

 

190:名無しの悪魔

おいイッチ後ろ見ろ!!!!

人間が突っ込んできてるぞ!!!!!!

 

191:名無しの悪魔

やばやばやば

 

192:名無しの悪魔

能天気にピースしてるドロドロの肉塊と

肉塊に首根っこ掴まれて泣いてる人間のゲロ可愛幼女と

後ろから殺意丸出しで突っ込んできてる人間の対比が芸術的ですね

 

193:名無しの悪魔

混沌極まってんな……

 

194:名無しの悪魔

心霊写真みたい

普通逆じゃね?

 

195:名無しの悪魔

逆心霊写真ワロタ

人間の顔怖すぎワロエナイ

”差し違えても敵を殺す男”の顔してるわ

 

196:名無しの悪魔

ドロドロに溶けててもイッチ満面の笑みなのわかって草

はよ後ろ見ろ

 

197:名無しの悪魔

やっぱ後ろに目付いてない下等悪魔はダメだな

 

198:名無しの悪魔

首を切り飛ばすまで獲物から目を離すな

学校で習わなかったのか?

 

199:名無しの悪魔

…なんか、イッチレス遅くね?

 

200:名無しの悪魔

死んだ?

 

201:名無しの悪魔

いやあまさかそんな………

 

 

 

□□

 

 

ジョージは何とか生きていた。

落下する寸前で床の端っこにしがみつけたのだ。

腕がちぎれそうな程痛んだが、今のジョージには大した事では無かった。

 

「いや、いやぁあああぁああああっっ、父さん、父さぁあん!」

リラの泣く声が聞こえる。

あの化け物のせいだ。怒りで痛みなど気にならなくなる。

 

(たかだか、たかだが化け物風情が俺の娘を泣かしやがった!)

腕に力が張る。

ジョージの体中が、あの化け物を地獄に送ってやると叫んでいた。

ジョージは音を立てず腕の力で自身を四階まで引っ張り上げ、走り出した。

 

化け物が後ろを振り返る。

驚いた様に体を硬直させる化け物の隙を突き、リラを拘束している腕に向かってショットガンを振り下ろした。

化け物の腕がちぎれ飛ぶ。

そのままジョージは化け物の両脇に自身の両腕を差し込み、腰回りを両腕で抱え込んだ。

 

化け物に喉を掴まれた時。

ジョージのやぶれかぶれの拳は化け物は体をのけぞらせただけだった。

逆に言えば、宙に浮いて腰も入っていないパンチで、この化け物はのけぞったのだ。

「お前、踏ん張りが利かないんだろ!」

考えてみれば自然な事である。

化け物は絶えず溶解しており、肉体自体は3mという巨体にしてはかなり脆い。

その上化け物の足元には溶解して滴り落ちた自身の肉が水溜りを作っている。バランスを取るのはかなり厳しいだろう。

 

両腕に力を込める。

腰を捻りながら相手の軸を捉え、

「おおぉおおおおおおおっっっ!!」

ジョージは化け物を投げ飛した。

先程の意趣返しの様に、化け物が廊下の壁に空けた穴から外に向かって。

 

 

■□

 

 

廃ホテルの中庭で、ピンク色の肉塊が蠢いていた。

「………aaa………!!」

(ああああああいってぇええええ!!!死ぬ、死んでしまうぅぅうぅ……。妾はジェシカ・スタンプ・バルバトスだぞ!?

バルバトス家の三女だぞ!?こここ、こんなところでぇ……!)

 

余りにも咄嗟の事で「浮遊」の術を使う暇も無かった。

その結果地面に叩きつけられた衝撃でジェシカの肉体は上半身と下半身が分断され、四方八方に彼女の肉片が飛び散っている。

(人間こっわ。何だよアイツ……。肉体がかなり広範囲に飛んじゃったから、再生するのに使う魔力もかなり必要だし)

 

脳内で文句を垂れるジェシカ。しかし彼女が飛び散っている中庭には、今現在嵐の真っ最中であり。

(あっやばい!!妾の肉片が強風に煽られてる!!嵐なんか呼ぶんじゃなかった!!

待って待ってこれ以上体が広範囲に飛び散ったら死ぬ死ぬ死んじゃう……!)

 

 

■■

 

 

208:名無しの悪夢

イッチー?

 

209:1

死ぬかと思った

 

210:名無しの悪魔

イッチ!

 

211:名無しの悪魔

イッチだ!

 

212:名無しの悪魔

何があったん?レス遅かったけど

 

213:1

人間に殺されかけた

アイツ やばい 怖い

 

214:名無しの悪魔

あの写真見せられた後だとイッチの事笑えんよ

アイツは怖い

 

215:名無しの悪魔

雑魚乙

 

216:名無しの悪魔

GG対戦お疲れ様です

 

217:1

インターネットの悪いところ:ゴミが居る

 

218:名無しの悪魔

悪魔なんて皆こんなもん

 

219:1

生贄を踊り喰いする以外に肉体の崩壊を止める手段ない?

このままだとシンプルにぶっ殺される

 

220:名無しの悪魔

要は一旦召喚の儀式をストップすれば良いんでしょ?

 

221:名無しの悪魔

召喚陣を破壊する?

 

222:名無しの悪魔

召喚される前にするんならまだしも

すでにイッチは召喚された後だし

 

223:名無しの悪魔

「魔術破棄」の術は使えないの?

 

224:名無しの悪魔

「自己契約」使うとか

 

225:名無しの悪魔

>>223 >>224

そんな高度なの使う余裕ないよぉ

 

226:名無しの悪魔

「召喚」は契約術の一種だろ

できるか分かんないけど別の契約で上書き出来ないかな

 

227:名無しの悪魔

それだ

 

228:名無しの悪魔

誰と契約すんだよ

 

229:名無しの悪魔

男いんだろ 人間なんか我欲の塊だし

どうにでもなるはずだ

 

230:名無しの悪魔

問題:今まで殺しにかかって来た相手がいきなり

「俺と契約すればお前の願いを叶えてやろう」とか言ってきました

どうしますか?

 

231:名無しの悪魔

契約する

 

232:名無しの悪魔

契約

 

233:名無しの悪魔

契約でしょ

 

234:名無しの悪魔

クソバカ共が………

 

235:名無しの悪魔

おまえらがそんなんだから悪魔召喚はオワコンになる

 

236:名無しの悪魔

まあ悪魔はそんな生き物だよな

でも人間は違うんだ

 

237:名無しの悪魔

どうすんだイッチ

 

238:名無しの悪魔

掲示板越しに契約ってできたっけ?

 

239:名無しの悪魔

無理無理カタツムリ

 

240:1

サマナーとやる

 

241:名無しの悪魔

サマナー?誰だそれ

イッチの脳内フレンズ?

 

242:名無しの悪魔

急に新キャラ出すな

 

243:1

バカ

妾がここに呼ばれたんだから

呼んだ奴もいるだろ

 

244:名無しの悪魔

そういやそうだな

 

245:名無しの悪魔

バカって言った奴がバカ定期

じゃあなんでサマナーが今まで登場してないんだよ

 

246:名無しの悪魔

召喚されて真っ先に会ったのがエクソシストだかの男なんだろ

普通に考えてサマナー男に殺されてんじゃね?

 

247:1

死体さえあればワンチャン蘇生できる

第一死んでない可能性もある

 

248:名無しの悪魔

まあそうだな

 

249:名無しの悪魔

それに賭けるしかないかなぁ

 

250:名無しの悪魔

イッチがんばれ

応援してるぞ

 

251:1

>>250

ありがとう 地獄に帰ったら結婚しないか?

 

252:名無しの悪魔

 

253:名無しの悪魔

250を未亡人にするな

 

 

■□

 

 

ジェシカはなんとか歩けるくらいに体を再生し、強風の中ホテルの中に体を滑り込ませた。

(地下だ。妾の召喚された地下の部屋。サマナーの肉体があるとしたらそこしかない。例えサマナーが死んでいても死亡時刻と遺体の状態によっては蘇生できる…!どうかご先祖様お父様ルシファー様、妾にご加護を!)

 

なんとかサマナーを発見、蘇生でき、契約の上書きが成功するというか細い可能性にすがるジェシカ。

そんなジェシカの耳に、死神の声が聞こえた。

 

「…明らかに動きが鈍くなっている。化け物、お前の再生能力には限界があるらしいな。……お前に痛覚があるか知らんが、抵抗しなければ楽に殺してやる」

階段の上からあの忌々しい男が此方に銃口を向けて立っていた。

 

(あの男、イキリやがって……!クソ、どうする…?)

心の中で悪態を吐くジェシカ。

しかし状況は悪い。

最早魔力は底をつきかけ、肉体を維持できるのは10分程だろう。

例えあの男を殺せても、魔力が底をついてしまえばジェシカは肉体を維持できず死ぬ。

今から地下に行って自身を召喚したサマナーを探さなくてはいけない今のジェシカには時間がない。

どんなに軽い攻撃でも実質的な致命傷になりうる。

(わ、妾……詰んだ……?)

 

「思い上がるなよ貴様あっ!」

絶望しきったジェシカの後ろから男の怒号が飛んできた。

ジェシカが後ろを振り返るとローブ姿の男が、ヨダレを垂らしながら叫んでいた。

(ど、どちら様?!.....まさか、妾のサマナー!?)

 

 

□□

 

 

銀の雨空教祖、アンディ・スコークスリは代々悪魔を崇拝する、特殊な家で生まれた。

彼は父から魔術を教わり、地獄の悪魔を崇め、倉庫にあった古びて正確な内容が読み取れない古文書を解読する事に人生の半分を捧げた。

 

解読した儀式を実行に移すため、アンディは穢れなき少女を攫った。

この時の彼は知らない事だが、攫った美しい少女がジョージの娘、リラであった事は、彼の人生における最大の不幸であったかもしれない。

少女の生贄としての価値を最大限高める為、数週間に渡り儀式を行い彼女の霊的能力を引き上げた。

彼は喜びの絶頂にいた。

(遂にあのお方が降臨なさる。尊き方が顕現なさる…!)

 

儀式実行当日。

その日は彼にとって最高の日になる筈であった。

儀式は滞りなく行われた。

儀式の途中に、同胞の1人が連れてきた新しい同胞に声をかける。

「新人、君は運が良い。正しき儀式の手順が見つかったのだ。今日こそ偉大なる方がお目見えにーーー」

アンディの言葉が終わらないうちに、新しい信者は懐から取り出したスモークグレネードのピンを抜いた。

 

(クソ、あの男、最初からこのつもりで我が教団に忍びこんだな…!)

とっさにショットガンを構えたアンディだが、後頭部に痛みが走る。

忍び混んだ男に後頭部を殴打されたアンディは、意識を手放してしまった。

 

 

アンディが意識を取り戻した時、すでに男の姿も生贄の姿も無かった。

しかし、召喚は成功したらしい。

(な、これは……!)

部屋の中で点々と、召喚陣から足跡の様に等間隔に赤い水たまりが続いていた。

水たまりからはアンディが嗅いだ事のない異臭を放っていた。

(きっといらっしゃった、あの方はいらっしゃったのだ!)

アンディは水たまりを追って走り出した。

 

「……お前に痛覚があるか知らんが、抵抗しなければ楽に殺してやる」

アンディの耳に忌々しい、裏切り者の男の声が聞こえてきた。

急いで階段を駆け上がる。

そこで、アンディは廊下に佇む、肉体が溶解する魔神の姿を視界に捉えた。

 

(ああ、ああ!尊きお方……!申し訳ない、我らの過失により貴方をその様な不完全な姿で顕現させてしまった。申し訳ない!申し訳ない………!しかし今は後悔をする時ではない。あの男!あの冒涜者!尊きお方に「殺してやる」だと!?)

「思い上がるなよ貴様あっ!」

猿の様なかん高い声でアンディは絶叫した。

 

「死ね!死ねぇ!このお方を誰だと心得る!」

偉大なる魔王。

敵意の天使。

炎を喰らい力に変える、いける業火。

魂の火葬屋。

「魔王()()()()様だぞ!」

 

(………落ち着け、落ち着け。今するべき事は1つ。不完全な形で顕現なさったベリアル様を救わねばならん。我らの失態は我らの命をもって償おう)

アンディは手を合わせ、呪文を唱える。

古文書から読み解いた、もう1つの秘術。

使った者の命を使い、込められた魔力が尽きるまで消えない炎を呼び寄せる大魔法。

男が焦った様にショットガンを構えるが、もう遅い。呪文は完成した。

「ベリアル様、我が炎をお受け取り下さい!」

ンガイの終わり、と叫んだアンディの指先に、ボッと火が灯った。

それは瞬時にアンディの腕、胴体、足に絡みついていく。

火はアンディの体を呑み込むと、ホテル全体すら焼き尽くさんばかりにその体積を爆発的に巨大化させた。

巨大化した火は、意思を持ったかの様に魔神の肉体に突撃し焼き焦していく。

「ンガイの終わり」は強力な攻撃呪文だが、炎を喰らい力に変える存在にとっては最高級のディナーに等しい。

 

(ベリアル様、短い間でしたが、お会い、できて、こう、え……)

アンディは自らが呼び寄せた火に焼かれながら、しかし偉大な存在を召喚できた事を誇りに思いながら死んでいった。

 

 

■□

 

 

「魔王()()()()様だぞ!」

(えっ妾はバルバトスの生まれなんだけど)

思ってもいなかった見知らぬ男の言葉に動揺するジェシカ。

 

(…えっ……え?妾、もしかして間違いで呼ばれた?……なんだそれあっちゃっちゃっちゃっちゃっ!!!あっっっつ!!あっっつ!!!えっこれ「ンガイの終わり」!?!!?)

ジェシカが動揺し考え混んでいる間に、見知らぬ男は「ンガイの終わり」の呪文を用いてジェシカを攻撃してきた。

「ンガイの終わり」は炎を喰らい力に変える存在にとっては最高級のディナーに等しいが、そうでない者には強力な攻撃呪文でしかない。

呪文によって呼び寄せられ、巨大化した火はホテル中に回っている。

忌々しい方の男は未だ健在。状況はただ悪くなっただけだった。

 

(…妾、詰んだ……)

 




スコークスリ家の古文書:恐ろしい事に古びていて詳しい内容は読み取れない。正しい内容を知る者は居なかったのでアンディの勘違いは誰も正せなかった。恐ろしい事である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人間界に召喚されたったwwww(4)

燃える。

燃える。

リラの目の前で、全てが燃えていく。

ホテルの床や家具、そしてあの化け物も。

炎は異様な勢いで化け物を飲み込んだ。

化け物の肉が焼け落ちていく。

異様な臭いが辺りに立ち込める。

 

ゆらめいた炎の隙間から、白色が見えた。

化け物の骨だ。

化け物は綺麗に炎に肉を喰い尽くされ、白骨と化しても生きていた。

 

骸骨と化してもなお動きを止めない化け物。

炎を纏いながら歩くその姿から、先程までのヘドロのような姿とは反対に、ある種の美しさ、神々しさをリラは感じた。

思わずリラは呟いた。

 

「……魔、王………べリアル………!」

 

 

 

■□

 

 

 

260:1の婚約者

250です

コテハン変えとくね

 

261:名無しの悪魔

 

262:名無しの悪魔

 

263:名無しの悪魔

玉の輿だあ

 

264:名無しの悪魔

1の未亡人の間違いだろ

 

265:名無しの悪魔

やめとけやめとけ!

イッチは酒癖が悪いんだ

 

266:1

>>256

風説の流布やめろバチバチにころすぞ

所で「ンガイ」の消し方わかる?

 

267:名無しの悪魔

イッチいて草

 

268:名無しの悪魔

生きとったんかワレ

とっくに死んだものかと

 

269:名無しの悪魔

サマナーと契約できたの?

 

270:1

二度とサマナーという単語をここに書き込むな

次サマナーとか言った奴はNG登録します

 

271:名無しの悪魔

急にどした?

 

272:名無しの悪魔

言ってる事に統一性、出そ?

 

273:名無しの悪魔

朝令暮改はダサいぞ

 

274:1

>>271>> 272 >>273 NG登録しました

所で「ンガイ」の消し方わかる?

 

275:名無しの悪魔

「ンガイ」の消し方とかあるの?

 

276:名無しの悪魔

 

 

277:名無しの悪魔

あっほんとにNG登録してる

 

278:名無しの悪魔

横暴だ!

 

279:1

此処では妾が法だ

分かったらなるべく早く「ンガイ」の話お願いしますマジでお金出すんで

 

280:名無しの悪魔

威張るのか媚びるのかどっちかにしろ

 

281:名無しの悪魔

お金が出るんなら真面目に話そう

てか「ンガイ」って消えるの?

あれ魔力切れるまで消えないのがウリでしょ

 

282:名無しの悪魔

まあ魔力切れまで待つしか無いんじゃ無い

 

283:名無しの悪魔

それしか無いねぇ

 

284:名無しの悪魔

いずれ消えはするよ

 

285:名無しの悪魔

後あれだ、べリアルの一族に食べてもらうとか

 

286:1

次べリアルって言った奴はNG登録します

 

287:名無しの悪魔

何で?

 

288:1の婚約者

何があったの…?

 

289:名無しの悪魔

 

290:名無しの悪魔

はい喧嘩

バルバトス家VSべリアル家

 

291:名無しの悪魔

やめなされやめなされ 不用意な発言はやめなされ

1は名門出なんだから…

 

292:名無しの悪魔

結局「ンガイ」の消し方って無い感じ?

 

293:名無しの悪魔

無い感じ

 

294:名無しの悪魔

まあルシファー様くらい強かったら無理矢理力技で消せるかもしれんが…

 

295:名無しの悪魔

普通は無理でしょ

 

296:1

だよなぁ〜〜〜〜〜〜

あ〜〜〜マジで人間とか言う下等生物絶滅しないかな〜〜〜〜〜〜

やってやろうじゃねえかよこの野郎 私はエリートだぞ

おまえらもし一時間以内に私がスレに帰って来なかったら私は死んだものと思ってくれ

 

297:名無しの悪魔

どうしたイッチ

 

298:名無しの悪魔

お前……死ぬのか……?

 

299:1の婚約者

詳しく状況を教えて マジで 何か助けになれるかも

 

300:名無しの悪魔

【朗報】バルバトス家の三女、無事死亡wwwwwww

 

301:名無しの悪魔

イッチのレスからまだ1分も経ってない定期

 

302:名無しの悪魔

イッチの事、3分は忘れないぜ……

 

303:1の婚約者

返事をしてくれ

私を未亡人にする気か

まだ顔を合わせても無いのに

 

 

 

□□

 

 

 

 

ジョージは化け物にショットガンを構え、引き金を引いた。

散弾が燃え盛る化け物に着弾し、ぱきりと骨が壊れる音がする。

しかし今までと違い化け物は退け反らない。

再度ジョージがショットガンを構えようとする。

その前に、化け物が動いた。

 

化け物がジョージに手のひらを向けた。

瞬間、化け物の手のひらからジョージの方に向けて勢いよく炎が放たれた。

 

 

 

■■

 

 

 

間一髪で炎を回避した男を見て、ジェシカはほくそ笑む。

(ぐへへ、なんとか成功した……)

骸骨と化した化け物、ジェシカの目論見は成功した。

「ンガイの終わり」は魔力を吸って巨大化する炎。

ジェシカは自分が魔力を注いでやれば、ある程度炎の規模を調整する事が出来ると考えたのだ。

 

(とにかく生贄だ、あのロリさえ食えればどうにかなる!)

生贄の少女が保有する魔力は凄まじい。

おそらく特殊な儀式を施されたのだろう。

あの少女を食らえば、この状態からでも生き延びるだけならできる。

 

あの結局何がしたかったのかよく分からない男に「ンガイの終わり」で燃やされた時は死んだかと思ったが、結果だけ見れば少ない魔力で使用できる強力な攻撃手段を得ることができたのだ。

 

「こ、のおっ!」

男がショットガンを投げてきた。

おそらく弾が切れたのだろう。

 

(何だ、弾切れか。くくくっ、無駄な足掻きを…!)

ジェシカは飛んできたショットガンを手で受け止める。

 

(これで奴に炎を纏った妾を攻撃する事は…いだっ!)

突然、ジェシカの腹部に痛みが走る。

 

ジェシカの腹にはジョージの拳が突き刺さっていた。

ショットガンは囮だったのだ。

当然、男の拳にも炎がまとわりついている。

(こ、コイツ…拳が燃える事も厭わず妾を殴りやがった!ちょま、痛い!やめろっ!)

 

ジェシカは腕から炎を放つ。

炎は男に避けられ、男の背後にあった柱を焼き焦がした。

 

(くそ、そんなに死にたければ貴様から殺してやるわ!)

 

 

 

□□

 

 

 

リラの目の前でジョージの皮膚が焼けていく。

化け物と同じように体に炎が纏わり付き、それでもジョージは攻撃をやめない。拳を止めない。

 

(………私の、せいだ)

リラは心の中で自身を責める。

 

(私がいなかったら父さんはこんな所に来なかった。私が、軽い気持ちで門限を破らなかったら、私が父さんの言うことを聞かなかったから………)

ばきり、と嫌な音を立ててジョージの背後の柱が倒れた。

化け物が放った炎に焼かれ、根元の部分が脆くなっていたのだ。

ジョージは後ろから迫ってくる柱に気付いていない。

 

「と、父さーーー」

ん、と言い切る前に柱がジョージに直撃した。

ジョージは柱の下敷きになりピクリとも動かない。

 

「あ、ああ、」

リラの脳内に後悔が走馬灯のようによぎる。

(母さんが死んで、何とか苦労して父さんが作ってくれたご飯を美味しくないと食べなかった私。

体の弱い私のせいで、何回も仕事中に帰宅を余儀なくされた父さん。

ーー今日だって、私は震えてるだけで何も出来なった)

 

ジョージの頭部から、じわりと床に赤いシミが広がっていく

(私のせいで、私の、せいで)

 

リラは思わず顔の前で両手を組んだ。何に祈っているかはリラ自身もわかっていなかった。

(どうか、お願いです。誰でもいいので。何でもいいので。私なんかどうなってもいいのでーー)

「父さんを、助けてください、お願いします」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人間界に召喚されたったwwww(エピローグ)

※別に完結ではありません


目が覚めたジョージの視界に、最初に映ったのは真っ白な天井だった。

記憶が朧げなジョージはおもむろに辺りを見渡す。

清潔感溢れる部屋。

自分が寝かされている真っ白なベット。

自分が着ている見慣れない服。

 

「……病院?」

ジョージが呟いたと同時に部屋の扉が開く。

扉の外に立っていたのはリラだった。

 

「リ、ラ?」

「父さんッ!!」

ジョージは状況を把握できないまま、自分の胸に飛び込んで来た愛娘を受け止めるのだった。

 

リラ曰く、ジョージが倒れてしまったあと、リラも恐怖から気絶してしまったらしい。

その後、嵐が収まって救助に来た警察官に起こされたのだそうだ。

周りには焼け落ちたホテルの残骸があるばかりで、化け物は何処にもいなかったらしい。

 

とりあえずジョージは医者を呼ぶ事にした。

リラには数日分の食事の為の金銭を渡し、一旦帰ってもらう。

医者には軽度の全身打撲と腕の骨折と診断された。

自分の記憶では、もっと酷い怪我を負っていたはずだが、事実体の調子はそこまで悪くない。

 

「や、大丈夫か?奇跡的に軽傷らしいな」

ベットに戻ったジョージに、お見舞いに来てくれたらしい同僚が声をかける。

 

「2、3日後には退院できるらしい」

「おお、本当に奇跡的だな…。火事になって焼け落ちた建物の下から見つかって軽傷とか…。天使様でも来てくれたのか?」

「まさか」

ジョージは苦笑する。

実際にあそこでみたのは魔王の姿だ。

 

「いや、でもそうでもないと説明つかねえだろ。どんな確率だよ」

「まあ、そうだが………。話は変わるが、昨日の事件はどう言う扱いになったんだ?」

「廃ホテルの地下から銀の雨空の信者の焼死体が見つかってな。カルト信者が集団自決したんじゃねえかって言われてるな」

「……なるほど」

 

同僚が帰り、ジョージ一人になった病室の中。

ベットの上で昨日の化け物について考える。

結局アレは何だったのだろうか。

夢だと断言するには余りにもリアルだったし、現実だと断言するには余りにも現実離れしている。

あの悪魔は、何処に消えたのだろうか。

 

「……案外、本当に天使様が助けてくれたとかか?」

悪魔がいるなら天使もいてもおかしくはない。

いや、それは自分に都合の良すぎる考えだ。

そこまで考えた所でジョージは思考を打ち切った。

どれだけ思考を巡らせようと、今自分が出来る事は、体を休めて怪我を治す事だけだ。

 

 

 

□□

 

 

 

病室から帰宅したリラ。

彼女は机の上に買ってきたポテトチップスの山を置き、()()()()()()()()に声を掛ける。

 

「…とりあえず、父さんを治してくれた分の捧げ物持ってきたよ、ジェシカ」

 

「…はは」

リラの鞄から煙が溢れ出す。

小さな鞄の何処に入っていたのか分からないほどの煙が。

「はは」

煙がだんだんと形を成していく。

最初に足が。

次に腕が。

体が。顔が。

「ははっははははは!!!」

数秒と経たずに煙は女性の形を取った。

美しい女だった。

きらきらと輝くエメラルドの髪。

ひと目で高価だとわかる、絢爛なドレス。

手には黄金の杯が握られている。

女が口を開いた。

 

「わぁい妾ポテチ大好きやったぁ!!」

 

 

 

■■

 

 

 

612:1

妾大勝利〜〜〜〜〜〜〜イェ〜〜〜イ!!!!!

 

613:名無しの悪魔

まーだ言ってるよこいつ

 

614:名無しの悪魔

うざ

 

615:名無しの悪魔

カス

 

 

 

□□

 

 

 

「父さんを、助けてください、お願いします」

『……aaa?』

昨日、炎に包まれたホテルの中で。

リラの祈りを、化け物だけが聞いていた。

 

リラの言葉を聞くと化け物は少しの間、動きを止めた。

すると声が響いた。リラの脳内から直接溢れ出すような、ノイズのかかったような気持ち悪い声。

 

『は、ハ母はハハハはは!いいゾ、良いzO。助け手ヤロウ』

「え、は、なにこれ…」

『ただ市、だいしョ宇はもラッテいクがナ?』

 

(だいしョ宇?ーー代償?)

化け物はどうやら対価を求めているらしい事をリラは理解出来た。

 

「あげるわ」

リラは即座に答えた。

一瞬の躊躇いすらなかった。

 

「なんでもあなたにあげる」

命でさえリラには惜しくなかった。

どれだけの時間がかかろうと、この化け物の望むものを持ってくる決意があった。

 

 

 

 

「人間界のポテチうっま!うますぎて馬になった…」

「……」

 

あった。ので。

間抜け面を晒しながらポテトチップスを食べる悪魔に、リラはなんだか納得がいかないのだ。

 

 

 

■■

 

 

 

620:1

あの絶望的な状況から生還した妾の事褒めてくれる人〜〜〜〜!

あの状況下から契約者作って安定した魔力供給源ゲットした妾の事褒めてくれる人〜〜〜〜〜!

 

621:名無しの悪魔

いるわけねえだろ

 

622:名無しの悪魔

ぺっ

 

623:1の婚約者

は〜〜〜〜〜〜い!

 

624:名無しの悪魔

 

625:名無しの悪魔

いたわ

 

626:1の婚約者

生還してくれてありがとう

本当にありがとう

なんか貢ぐ?

 

627:1

いや別にいいよ…

 

628:名無しの悪魔

なんでこんなにイッチに対して好感度高いんだこいつ…

 

629:名無しの悪魔

やば

 

630:名無しの悪魔

そういえば契約者とはどうなったの?

 

631:1

普通に仕事内容に応じてお菓子とか貰ってる

 

632:名無しの悪魔

ふっつ〜〜〜〜

 

633:1の婚約者

体乗っ取ったりした方がいいんじゃない?

 

634:名無しの悪魔

お菓子ってなに貰ったの?

 

635:1

>>633

別に今んところそれするメリットないし

人間界では空気中の魔力濃度低いから契約者(魔力タンク)のことは大切にしたい

>>634

ポテチ貰った!

えるしっているか 本場のポテチは喋らないんだぞ

 

636:名無しの悪魔

マ?

 

637:名無しの悪魔

人間界のポテトチップスって喋らないんだ

 

638:名無しの悪魔

ザックーム配合されてないんだろうか

 

639:名無しの悪魔

喋らないポテチは食べてみたい

普通のはうるさくて食べる気がおきん

 

640:名無しの悪魔

むしろなんで地獄のポテチはザックーム入れてんだよ

 

641:名無しの悪魔

味がね…

 

642:名無しの悪魔

ザックームはうるさいしキモいがうまいんだよなぁ

うるさいけど…

 

 

 

□□

 

 

 

「ジェシカは、どうして人間界に来たの?」

「……さあ?」

「えっ」

昨日の事件。

結局アレは何で行われたのか、ジェシカに聞いてみるリラであったが。

 

「いや妾、召喚された直後にお前たちに会ったし。何で召喚されたとかは知らん……」

「ええ……。あなたがあの教団を牛耳ってた訳じゃないの…?」

思わず困惑の声が漏れるリラ。

 

「いや全然。確かに妾は悪魔だが、そんな全ての黒幕みたいに言われても、困る……」

「……ご、ごめん…?」

「第一妾だって被害者であるぞ」

 

つらつらと自分の苦労を語るジェシカ。

突然頭にショットガンをかまされて死ぬほどビビったのだの。

魔力切れそうで焦っていたのだの。

お前の父は多分人じゃないだの。

 

「な、妾だって大変だったんだぞ」

「…大変だったんだね」

「妾の事を憐れむ気持ちがあるならもうちょっと菓子の量を……な?」

「………まあ、いいけど」

 

わぁいわぁいと喚くジェシカを無視し、リラは自分の為に買ってきた弁当を開ける。

リラが思っていたより、この悪魔はとっつきやすいらしい。

 




「念話」:半径5m以内の相手の脳内にノイズ塗れのメッセージを伝えるクソ魔法。因みに呪文は音として発する事が大事なので「念話」を使って呪文を唱えても魔法は起こらない。
    


人と契約する→毎日安定して人間から悪魔に魔力が供給される。悪魔に頼み事をする際はそれにプラスして報酬を支払う必要がある。
人を食べる→悪魔が一度にそれなりの量の魔力を補充できる。
因みにゲットできる魔力の事を考えると契約した方が断然お得。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

間話

誤字報告本当にありがとうございます。いつも助かっております。

今回は後半割とグロい話になります。


「いつもの安い所で悪いな、リラ」

「気にしないで。私あそこのハンバーグ好きだし」

 

廃ホテルの一件から数日後。

リラは無事退院したジョージに連れられ、レストランで外食をしていた。

リラにとっては久しぶりのご馳走であった。

久しぶりのご馳走、久しぶりの街の景色。

青青と茂る街路樹を眺めていると、だんだんとリラも元気が湧いてくるような気持ちになってきた。

 

「……ねえ。ちょっとサンズリバーに寄ってもいい?」

「ああ」

サンズリバー公園。

住宅街の真ん中に建設された、面積の広い公園だ。

自然が豊かで、リラは小さい時に母によく連れてきてもらった。

角を二つ曲がり、道を真っ直ぐに進む。

リラの目に、見事なピンク色が入ってきた。

 

「わぁ…」

サクラだ。

サクラが見事に咲き乱れていた。

(そういえば、もう春だった……)

リラが銀の雨空に拘束されていたのは、約三週間ほど。

その間に冬は春へと変化を始め、虫や動物は活動を始めていた。

 

公園の入り口を通り、並木道をただただ歩く。

春風に飛ばされ、舞い散るサクラの花びらが美しい。

光ってなんかいないのに、リラはサクラの花びらを宝石みたいだと思った。

満開のサクラを見にきたらしく、それなりに多くの人が並木道を行き来している。

そんな人混みに混じって、リラとジョージはサクラを鑑賞しながら歩く。

 

「あ、ジョージさんじゃないですか」

そんな二人に、後ろから声をかける者がいた。

180cm程の、背の高い女だった。

黒いジャケットに黒い髪。

癖毛の長髪と目の下の隈が印象的である。

暗いイメージの女性だが、何処か話しかけやすい雰囲気がある。髪にサクラの花びらがついているからかもしれない。

 

「久しぶりですね、アガリーさん。…リラは初めて会うか。こちらは探偵のアガリーさんだ。度々お世話になってる」

「はじめまして、リラちゃん」

「はじめまして」

リラはアガリーから差し出された手を取り、握手をする。

アガリーはリラの瞳を見つめ、次にリラの鞄に視線を向けた。

 

「………いい、バッグですね」

「あ、ありがとうございます?」

少しドキリとするリラ。

鞄の中には霧状になったジェシカが入っている。

使い古されたリラの鞄は、すっかり彼女の定位置と化してしまった。

 

「…お元気そうでなによりです。一人で銀の雨空に突っ込んだって聞いた時は肝を潰しましたよ」

アガリーはジョージに視線を向け、

 

「あー、その、心配をかけたようで申し訳ない…」

「もっと反省してください。アタシの情報のせいで死なれてたら、本当に寝覚めが悪くなる…」

どうやらアガリーもリラの救出に一役買っていたらしい。

 

「あの、アガリーさんも私を探してくれていたんですか?」

「あー、アタシは人探しが仕事ですから。そんなに申し訳なさそうな顔しないでください」

アガリーはヘタクソな笑みを浮かべ、リラの頭を撫でる。

 

「………ジョージさんの元気そうな姿も確認できたし。そろそろおいとまします」

アガリーはそう言うとリラの頭から手を離し、歩き出した。

「では、また」

「さようなら」

リラとジョージも挨拶を返し、再びサクラの観賞を始めた。

 

 

 

 

思う存分公園を歩きまわった後、二人は家に帰った。

リラは手を洗い、階段を上がる。

二階の自分の部屋に入り、ドアを閉めた所で、鞄の中のジェシカが小さく声を上げた。

「部屋の中に居るぞ。驚いて声を上げるなよ、リラ」

「……居るって、何が」

「さっきの女だ」

「言っときますが、泥棒じゃないですよ?」

 

ジェシカの言葉が言い終わらないうちに、アガリーの声が聞こえた。

部屋のクローゼットが開く。

黒ずくめの長身の女が、小さなクローゼットの中から音もなく出てくる光景は何処かのホラー映画の様だ。

 

「久しぶりですね、バルバトスのお嬢さん」

「うむ、おひさだなアガリアレプト」

「……なんか、取っ付き易くなりました?」

 

どうやらアガリーとジェシカは顔見知りらしい。

つまりアガリーは。

 

「アガリーさんも、悪魔なんですね」

「そう言う事です、改めて自己紹介しましょう」

アガリーは気取った様に一礼する。

 

「明星騎士団が一柱、アガリアレプト。現在ルシファー様の命で人間界に潜入中。今はどうかアガリーとお呼び下さいな。リラちゃんが誘拐された件について、詳しいお話を伺いに参りました」

 

 

 

 

 

 

「…………ふむ」

あの廃ホテルでの顛末を聞き覚えたアガリーが口を開く。

「ジェシカちゃん。魔術を使う時に、何か違和感は有りませんでしたか?」

「いや、特に…」

「違和感なく呪文を詠唱できたと」

「いや、詠唱破棄したから呪文は詠唱してないぞ」

「えっなんて?」

 

突然アガリーが間抜けな声を上げる。

 

「いや、妾召喚失敗で喉溶けちゃったから…」

「……ジェシカちゃん何歳だっけ」

「ご、53」

嘘でしょう…100年も生きてないのに。ガリ勉なのは知ってましたがこんなに極めてたとは……

 

ブツブツと何か呟き始めたアガリーにジェシカが呼びかける。

「アガリー? 話の続きを…」

「す、すいません。……本来なら、この国では悪魔召喚なんて出来ないんですよ。その上悪魔は魔術の行使も出来ない筈なんです。この国は天使が結界を張ってますから。アタシはルシファー様に天使連中の目が届かない太平洋の上空に送ってもらったんですが…」

 

天使。

リラも悪魔がいるなら天使もいるかも知れないとは思っていたが、本当に実在するといわれるとかなりの驚きだ。

 

「天使連中の結界が作動していない。これは異常事態です。この異変の原因を突き止める為、天使がこの国に来ています」

「…つまり、妾が天使に見つかれば異変の原因として襲われる可能性がある、と」

「はい。その上ジェシカちゃん、数日前に派手に嵐呼んだでしょう?」

「あっ。………もしかして、結構マズイ状況?」

「はい」

 

「……天使ってそんなに強いの?」

リラは冷や汗をかき出したジェシカに尋ねる。

ジェシカは普段おとぼけのボケボケであるが、彼女の本質は恐ろしい魔神だ。

嵐を呼び雷を従える彼女が冷や汗をかくほど、天使は強大なのだろうか。

「一人一人がそこまで強いという訳ではないが、天使はとにかく数が多いのだ。一人いれば三十人はいると思っていい。……妾結構強いからな。見つかったら大天使を呼ばれるかもしれん」

 

「まあ、そういう訳で外出は控えてジッとしててください。人間の家に潜んでいれば、そうそう見つからないでしょう。あと、人間にも気をつけてください」

「ああ、天使の信徒にも気をつけねばな」

「それもありますが。――――天使連中、家畜人間を飼い慣らしてるそうです。奴らが飼い慣らした家畜人間は、普段人間界で暮らしているんだとか」

「ぱぇ?」

 

 

■■

 

 

継続スレ:人間界に召喚されたったwwwwwww

 

 

110:1

天使連中やばすぎwwwwww

家畜人間飼い慣らしとるらしいwwwww

クソワロタ・・・ワロタ・・・

 

111:名無しの悪魔

ファーーーーーwwwwwwwww

 

112:名無しの悪魔

そげなアホな

 

113:名無しの悪魔

家畜人間地雷です

勘弁してください

 

114:1

聞いた所によると、天使連中に飼われとる家畜人間、普段人間界にいるんだって

 

115:名無しの悪魔

イッチやべーじゃん

 

116:名無しの悪魔

(イッチはもう)死んだんじゃないの〜〜?

 

117:名無しの悪魔

家畜人間なんで人間界にいんの………?

 

118:名無しの悪魔

美食家のせい定期

 

119:名無しの悪魔

美食家くんさあ……

 

120:名無しの悪魔

怖いよお…

 

121:名無しの悪魔

家畜人間ってなんです?

 

122:名無しの悪魔

>>121

コイツマジ? ggrks

 

123:名無しの悪魔

ggrksってきょうび聞かねえな……

 

124:名無しの悪魔

拳神の一件から300年くらいしか経ってねえだろ 忘れんな

 

125:名無しの悪魔

実は俺も家畜人間について知りません…(浅学)

 

126:名無しの悪魔

ゆーて300年も前なんだから当時生まれてなかった最近の若い子は知らんだろ

家畜人間の事なんて語りたがるやつ少ないだろうし

 

127:名無しの悪魔

説明しよう!

家畜人間とは地獄の黒歴史だ!

 

128:名無しの悪魔

地獄の歴史の中に黒歴史じゃないのがありましたか…?

 

129:名無しの悪魔

簡単に言えば500年くらい前、人間の養殖が盛んだった時代があったんよ

食用人間が流行って、いろんな奴らが美味い人間を作ろうと思考錯誤してた時代

その結果生まれたのが家畜人間

 

130:名無しの悪魔

聞く限りそんなにヤバそうには聞こえんけど そんなやばいんか? 

 

131:名無しの悪魔

ヒント 人間ってね、霊的なレベルが上がる程美味いんすよ

そして俺ら悪魔は欲望を抑えられない生き物なんすよ

 

132:名無しの悪魔

あっ()

 

133:名無しの悪魔

全てを察した

 

134:名無しの悪魔

強くなった家畜に復讐されたか

 

135:名無しの悪魔

>>134

ちょっと違う アイツらは復讐とか基本しない

何故かというと、家畜人間に反抗されんよう当時の奴らが家畜人間の脳を弄って奴らから生への願望を抜いたんや

 

136:名無しの悪魔

つまり……ドユコト……?

 

137:名無しの悪魔

家畜人間は死が怖くないんや

自分の命に価値を感じないんや

そのせいで他人の命にもまったく価値を見出さんモンスターが生まれたんやけどな(震え声)

 

138:名無しの悪魔

自分の命に価値を感じないからなんとなくで死んだり

他人の命にも価値を感じないからなんとなくで殺しにかかってきたりする生き物

誰がこんな生き物作ったんだよ………俺らだよ………

 

139:名無しの悪魔

上位悪魔以上に高められたスペックを他者をまったく気にせず

好きな事の為に全身全霊で注ぎ込むからヤバい魔術とかちょくちょく生み出す

 

140:名無しの悪魔

地獄七大やべー奴の内の三人が家畜人間

ちなこれが地獄七大やべー奴

 

「明けの明星」

「糞山の王」

「拳神」

「美食家」

「調律師」

「皮モノ大好き侍」

「エンジェル・ダスト」

 

141:名無しの悪魔

>>140

いつ見ても酷い面子だ…

 

142:名無しの悪魔

>>141

なんでや明けの明星ことルシファー様は酷くないやろ!

 

143:名無しの悪魔

自分も他人も実験台にしてエグい術生み出すよね……

 

144:名無しの悪魔

家畜人間関連の禁呪いくつあるんだっけ

 

145:名無しの悪魔

こんな奴ら管理できんわな……

 

146:名無しの悪魔

一応300年前くらいまでしっかり管理出来とったで

 

147:名無しの悪魔

アイツらに娯楽渡すようになったのが全ての始まりらしいな

知ってるか? 拳神はボクシングの試合見てテンション上がって「俺もアレやってみたい」って理由で暴れ始めたらしい

 

148:名無しの悪魔

国三つ滅ぼした理由:ボクシング見てテンション上がったから

 

149:名無しの悪魔

これはガチな話らしい

状況証拠から考えてまず間違いないんだと

 

150:名無しの悪魔

いつ死んでもいいと思っていた奴らが楽しい事を知ってその事の為だけに生きる様になったんか…

 

151:名無しの悪魔

天使連中がこんな奴らを飼い慣らせるとは思えんが…

 

152:1

情報ソースは確かなとこからだぞ

 

153:名無しの悪魔

まあ家畜人間は死を恐れないって事以外は個人差大きいし…

穏やかな奴だったり、そこまで戦闘力高くない奴なのかもしれんし…

 

154:名無しの悪魔

遭難した悪魔が家畜人間に助けられた事例もあるらしいな

ご飯くれって頼んだら自分の腕千切って食わせてくれたんだと

 

155:名無しの悪魔

嫌なアンパンマンだな…

 

 




ルシファー:地獄の皇帝。明けの明星の二つ名を持つ。
現在地獄で唯一、空間に穴を開ける魔術「次元踏破」を使う事ができ、自力で人間界に顕現できる存在。この術を使いアガリーを人間界に送った。
因みにこの魔術は家畜人間「美食家」が開発した。


ヘルテイカーとデビザコの影響で悪魔は女の子キャラが多いです
背が高い子が多いのは趣味です よろしくお願いします



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

間話(2)

コメント、気のきいた返信ができないので返信はしておりませんが一つ残らず目を通しております。大変励みになっております。

今回は天使視点。


ジェシカが人間界にくる数ヶ月前の事。

とある街の外れに小さな教会があった。

一人の牧師が切り盛りしている、何の特筆すべき点もない小さな教会。

 

何気ない昼下がりの事だった。

その教会の裏手の墓地から鈍い音が響いた。唐突に湿った何が弾ける様な不快な音が響き、墓地の静寂を破る。

 

「………?」

 

その音に気づいたのは、教会の内部で掃除をしていた一人の牧師だけだった。

くすんだ色の金髪を揺らし、紙モップを使って黙々と掃除をしていた牧師、モナハンは掃除の手を止め、窓から教会の裏手を覗き込む。

モナハンは数秒視線を巡らせ、異常を見つけた。

 

「……は?」

 

血塗れの少女が墓地の隣に倒れていた。

驚愕と同時にモナハンは窓を開け乗り越える。勢いそのままに、教会の裏手に飛び出した。

全力で少女に駆け寄る。

モナハンの鼻に凄まじい鉄の臭いが飛び込んできた。

少女の体からは血が流れ続け大地を赤く濡らしている。

地面は少女を中心に円状に窪み、まるで強い力が少女を地面に叩きつけた様に見える。

 

明らかな緊急事態。

モナハンは躊躇いなく()使()()()の行使を始めた。

彼の黒いガウンを突き破り、背中から翼が伸びる。

 

「聖なるかな、聖なるかな……」

モナハンが讃美歌を小さく歌うたび、まるで映像を逆再生する様に地面に落ちた血が少女の体に戻っていく。

赤く染まっていた大地は元の色を取り戻し、墓地は普段どうりの景色を取り戻す。

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

モナハンの力は正直に言って大した物では無い。

天使の階級でも最下位、九階位(エンジェル)たる彼には他者の怪我を治すと言う高度な魔術の使用は厳しい物がある。

 

最低限の応急処置を済ませた後、教会の近くにいる自身より上位の天使に念を送る。

(ふぅっ………これでこの少女の命は助かるだろう)

モナハンは荒い息を吐き出しった後、もう一度治療に取り掛かった。

天使の力は万能では無い。もしかすると天使の力が上手く作用していない傷口があるかもしれない。

モナハンは少女の頭部に手をかざし、今すぐに命に関わる様な傷が無いかどうかをスキャンしていく。

脳から頭蓋骨、喉。ゆっくりと手を下に下げ、少女の体を隅々まで調べていく。

 

「ーーーーは?」

 

スキャンを続けていたモナハンの口から間抜けな音が吐き出される。

モナハンはゆっくりと少女の胸部の上に手を当て、自身のスキャンに間違いが無いか何度も確認する。

 

(ーー間違いない。この少女、心臓が二つある…!!)

 

心臓が二つある人間。いや、心臓が二つある人型の生き物。

モナハンはそんな存在に聞き覚えがあった。

悪魔が生み出した禁忌。

人から作られた人でない者。制御不能の魔人。生まれながらに最も菩提から遠い生き物。

 

「かっ家畜にーーーー」

「こんにちは」

 

少女が目を開ける。サファイアの瞳がモナハンを見据える。

少女はゆっくりと立ち上がった。

(さ、最低限の手当しかしていないのに、もう動けるのか!?)

家畜人間の恐ろしさが噂どうりなら、モナハンが生きていられる保証はどこにもない。

恐怖に目を開くモナハンに、少女が声をかける。

 

「……治療」

「え」

「治療、してくれたンすか?」

少女はパチパチと目を瞬かせながら、心底疑問そうに小首を傾けた。

 

「………は、ハイ」

「気持ち良かったっス。ありがとうございました。…でも何で治してくれたんです?」

「そ、それは貴方が血塗れで倒れていたから……」

 

噂からは想像出来ないほど理知的な質問が返ってきた事に安堵するモナハン。

何とか気を取り直し彼女に返事を返す。

 

(ーー待て、彼女が血塗れで倒れていたと言う事は、彼女を、家畜人間を打ち倒せるほどの存在がこの付近にいる……!?)

怪我には原因がある。殺人事件には犯人がいる。

当たり前の事ではあるが、モナハンは度重なる驚愕の連続で思考が追いついていなかったのだ。

上位悪魔すら素手で容易く葬り去るらしい家畜人間をここまで痛め付けられる存在がいるならば、今すぐにでも七大天使に来てもらわなくてはいけない。

 

「あ、あの! 一体貴方に何が…」

「この傷っスか? さっきウチ、自殺してたンすよね」

モナハンは頭が痛くなってきた。

 

 

「……自殺、とは…………。何ゆえ…?」

「ウチの家族、みんな寿命で死んじゃったンすよ。それで話し相手もいなくて、生きるのに飽きちゃいまして。それでこう、あの山のてっぺんから思いっきりジャンプを」

少女は教会の裏手の奥に聳える山を指さす。

小さい山だが、500m程はあっただろうか。

 

「………つまり、山の頂上から跳躍してここまで跳んできたと?」

「はい」

「身投げの為に」

「はい」

モナハンは目眩がしてきた。

余りにも規格外が過ぎる。

人知を超えた魔人の肉体を持つ少女。

「生きるのに飽きた」と語る彼女の顔からは微塵の悲しみも感じられない。

本当に“ただ飽きたから”で死ぬ生き物。

あまりにも虚な生き物。

 

「…………ええと。話相手がいないのなら、私が話相手になりましょうか?」

「いいんです?」

自分はこの状況で何をするべきか。

モナハンはしばらく悩んだ後、牧師として行動する事にした。

他者の悩みを聞き、悪心を退けるのが牧師たる者の役割。

 

「ええ、私は常に教会に居ますので。何なら泊まって行ってもらっても構いません」

「じゃあ、泊まって行ってもいいっスか? 家族が居ない家にいても暇なだけなんで」

この提案には彼女を野放しにはして置けないと言う打算もあったが、彼女を放って置けないと言うのもモナハンの本音だった。

 

「はい。…私はモナハン。貴方の名前は?」

「パルミラっス」

 

モナハンはパルミラの顔を見やる。

これからモナハンが応援に呼んだ天使たちがくる。パルミラの事は天使長に報告されるだろう。

もしパルミラが制御不能の危険な存在だと判断されたら、彼女は殺されてしまう。

(…パルミラを保護したのは私だ。私が彼女の内面をしっかり見極めねば)

 

「パルミラ。生きるのに飽きる、と言いましたが…。何か趣味などは?」

「趣味…」

「何か楽しかった、心がスッとする事などは?」

「んー。…あ、形のある物を壊すのは心がスッとします!」

パルミラは元気よくそう言った。

モナハンは胃がキリキリしてきた。




飼い慣らしてる(指示はあんまり聞かない)。

天使:ルールを重んじる、人間に友好的な種族。基本的にまとも。
神父や牧師として人間界で活動している者も多い。
基本的に悪魔と正反対の性質をしており、悪魔と仲が悪い。

次回はもっと早く更新できるはず


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リラの冒険
リラの冒険 (1)


遅くなって申し訳ない
プロットはオチまで出来たので許してくりゃれ


「ガハハッ、勝ちぃ〜! 雑魚乙〜〜っ」

「ジェシカ、マナー悪いよ……」

 

『your win !』と表示されたテレビゲームの画面を見て、ジェシカが山賊みたいな声を上げながら敵の死体の上で踊り狂う。

リラは今、ジェシカとバトルロイヤルシューティングゲームをしていた。

ゲーム機からソフトまでジェシカの私物のゲーム機である。

ジェシカの持っているゲーム機は地獄で発売された、魔術が組み込まれた斬新な機体だ。

演出から操作感まで、人間界のゲームとは別物なのである。

対戦相手が悪魔しかいないので民度がスラム街みたいな事に目を瞑ればほぼほぼ満点なゲームだった。

リラはこれにドップリとハマり、学校から帰った後はジェシカと一緒にゲームをする事が最近の日課になっていた。

 

次のゲームに進もうとしたリラの耳に、インターフォンの音が届いた。

「ジェシカ、ちょっと待ってて」

 

部屋を出て、玄関のドアを開ける。

ドアの後ろに中年の男が立っていた。

 

「……こんにちは、リラちゃん。おじさんは君のお父さんの同僚なんだ」

 

暗い声だった。不安を押し殺しているような声だった。

なんとなく、リラは昔の事を思い出した。

母が病気で、なんの前触れもなく倒れた日。

突然の不幸に襲われて動揺しながら、他人に不安を感じさせまいとしていた父さん。

あの時の父さんも、似たような声だった――。

 

「率直に言おう。君のお父さんが、失踪した」

 

 

□□

 

 

サマータイムマンション。有名な心霊スポットである。

そこで昨夜、若者三人が失踪したらしい。

それを捜索しに行った警官数名も、後を追うように姿を消した。

失踪した警官の内の一人に、ジョージ・トーレスがいた。

概要としてはそういう事らしい。

 

「え、怖…」

リラから説明を聞いたジェシカが声を漏らす。

「あの男が失踪するとか……。えぇええ……? そのマンションには何が…?」

「私に言われても…」

ジェシカはカラフルなグミをかじりながら立ち上がる。

「マンションの場所を教えろ。探しに行く」

「…いいの?」

 

ジェシカはズボラでトンチンカンではあるが、悪魔である事には違いがない。基本的に自身の欲望にのみ従って動く。

リラはお菓子やゲームでジェシカを説得するつもりであり、自分から助けにいってくれるとは思っていなかった。

 

「………? 其方にはあの男が必要だろう?」

「え…」

「其方は妾の友達だろう。友達が楽しければ妾も楽しい。……違うか? …え、人間にそういう文化ないの?」

 

ジェシカの言葉にリラは思わず胸が熱くなる。

彼女は本気でリラを友達だと思ってくれていたらしい。

 

「…私も行くよ」

「む。危ないぞ?」

「天使に見つかると危ないんでしょ。私のバッグに入れば見つからずに移動できるんだよね?」

 

ジェシカは体を霧に変えられる。

霧になれば体を物の隙間に隠す事が出来るが、その状態だと移動も攻撃も困難になるらしい。

ジェシカは普段、リラのバッグに体を潜ませてリラにいろんな場所に連れていってもらっている。

 

「では頼むぞ。移動は任せた」

「――うん。任せて!」

 

力強くリラは返事を返す。

何気ない言葉だが、リラはジェシカが「任せた」と言ってくれたのが嬉しかった。

いつも何も出来なかった自分が、出来る事を見つけられた気がして。

少ないながらお小遣いの入った財布。懐中電灯。地図。

必要そうな物を愛用のバッグに入れて、リラはすでに暗くなった家の外に飛び出した。

 

 

■■

 

 

行方不明者を探しに行くスレ

 

5:1

そういう訳でサマータイムマンションって所に行ったんすよ

 

6:1

マンション内を探したけど何もなかったんすよ

隅々まで探したけど何にもいない

 

7:1

それで外も探してみようって事になってマンションの外に一歩踏み出したんすよ

その瞬間急に景色が切り替わったんすよ

http://www.pic../

 

8:名無しの悪魔

!?

 

9:名無しの悪魔

赤い空! スクラップでできた地面! 空をドーム状に覆う半透明の壁!!

 

10:名無しの悪魔

どこここ…?……本気で何処此処……?

 

11:名無しの悪魔

ミイラ取りがミイラになった……ってコト!?

 

12:名無しの悪魔

人間界でも地獄でも天界でもないっぽいね

 

13:名無しの悪魔

異世界転生じゃん 羨ましい(笑)

 

14:名無しの悪魔

状況から行方不明者達もこの謎空間に閉じ込められた説が妥当ですね

 

15:1

何にもわがんね

誰かこうなんか………情報ない?

 

16:名無しの悪魔

そげな無茶な

 

17:1の婚約者

なんかこの半透明の壁、天使連中の結界に似てない?

最近天使連中の結界が破られたんでしょ

結界をこの世界に取り込まれたとかあるんじゃない?

 

18:名無しの悪魔

>>17

かしこい

かしこいけどきもい こいつイッチのスレに毎回必ずくるよな

 

19:名無しの悪魔

>>17

可能性は高いですねぇ

普通なら天使連中がこんな異界放っておくわけがない

天使連中は自分達の結界を利用されてこの異界を発見できていないと考えれば自然です

 

20:名無しの悪魔

ほな

どる

 

21:名無しの悪魔

つまり………

天使連中の結界を剥ぎ取って利用する事を考えつく程度には知性があって

最低でも人間を何人も異界に引きずり込めるほどの力がある存在がここにいる………ってコト!?

 

22:名無しの悪魔

ヤバイわよ!

 

23:1

なにこれ

http://www.pic../

 

24:名無しの悪魔

キモし!

 

25:名無しの悪魔

なにこれ、タコ?

 

26:名無しの悪魔

タコと人の中間みたいな………

 

27:名無しの悪魔

見た目は子供 頭部はタコ

 

28:名無しの悪魔

まじでなんだこれ新種の生き物だろ

 

29:名無しの悪魔

ちょっと偉い人にこのスレ報告してくる

 

30:名無しの悪魔

うわーまじで無理なビジュアルしてる

タコっぽい頭部に人間の顔が中途半端に残ってる感じがまじで無理

 

31:1の婚約者

イッチ早く逃げて 

 

32:名無しの悪魔

そんなに慌てる事ないやろ

イッチの生命力の強さは折り紙付きやし

 

33:名無しの悪魔

全身ドロドロになりながら活動できるのは明らかに異常

 

34:名無しの悪魔

バカどもが多いインターネッツですね……

ヒント:天使の結界の中では悪魔は魔術を使えない

 

35:1

ヤッベ

今体を霧に変えてるんだが どうしよう 体を元に戻せない

 

36:名無しの悪魔

 

37:名無しの悪魔

 

38:名無しの悪魔

想定する限りで最悪の状況草

 

39:名無しの悪魔

/(^o^)\オワタ

 

 




悪魔:基本的に友情には厚い。
刹那主義なため、一度友達認定した相手がピンチの時には自分の人生投げ捨てる勢いで助けてくれる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リラの冒険 (2)

忙しい季節なので投稿遅れたのは許して下さい…。
もしリアルの事情で完結させる事が難しくなったら、最悪プロットを公開します。


「ゲームむむうううう買ったんだぞおれぇえええ」

 

「クソ、何度も何度も……!」

ジョージは自身に襲いくる、タコと人を合体させたような怪物に悪態をつく。

 

「貸してやってもいいから今度家こいよぉおお」

「うるさいん、だよっ!」

ジョージは近くのスクラップの山から引き抜いたパイプをバットのように振るい、迫り来る怪物の頭を打ち抜く。

フルスイングを受けてのけぞった怪物の頭部に二、三度ほどパイプを振り下ろす。怪物は一瞬体を悶えさせ、動かなくなった。

 

「ケッ、気持ち悪い…」

ジョージは地面に倒れ伏した怪物を睨みつけ、舌打ちをする。

頭部が肥大化し、後頭部から細長い触手が生えた気持ちの悪い姿。

何より悍ましいのは、まるで人間のように喋る事だ。

自分から襲いかかっておきながら、怪物の口からは日常のワンシーンを切り取ったような発言が溢れ落ちる。

異形の存在が、まるで人間のように喋るチグハグさ。

この怪物を撃退した後は、まるで人間を殺したような気分になる。

 

「し、死んだのか…?」

「多分な………」

 

ジョージは荒い息を吐きながら、同僚の言葉に返事を返す。

ジョージ達がこの異界に迷い込んでから半日ほどが経過していた。

既に持っていた拳銃の弾薬は尽き、襲いくる怪物に対する疲労と恐怖でジョージ以外は動けなくなってしまっている。

怪物達から身を隠す為、ジョージ達はスクラップで出来た町に点在している堀立小屋の一つに身を隠していた。

 

「…出口を探してくる。このままじゃジリ貧だ」

ジョージの言葉に、警官達に動揺が走る。

 

「外に出るのか…!? 危険だぞ!」

「ここだって安全じゃない。籠ってたって何も変わらないだろう」

「第一、出口を探すって言ったって、何処に行くんだよ!!」

 

半日間の探索の結果、この異界の構造は大凡把握できている。例えるならば宙に浮かぶスノードームと言った所だろうか。

スクラップでできた街にドーム型の光の壁がくっついており、それが真っ赤な空に浮いているのだ。

半日探索してもこの地獄からの出口は見当たらない。

しかしジョージは諦める気は無かった。諦められない理由がある。

 

「………俺達が入って来たってことは、何処かから出れる筈だ。30分後には戻る」

 

仲間達の言葉を聞き入れず、ジョージが堀立小屋を出る。

その瞬間、轟音と共に地面が揺れた。

ぐらりとジョージの体がよろける。体制を立て直そうとするジョージだったが違和感に気づく。

 

(傾いてるのは俺じゃない、地面だ…!)

 

だんだんと地面が傾いて行っている事に気づいたジョージは素早く地面から突き出た木材にしがみつく。

 

「クソ、なんだってんだ…」

 

意味がわからない。

ここに迷い込んでから意味のわかる事など無かったが、今回はとびっきりだ。

よりによって外の探索をしようとした時に異常事態が起こるなんて。

 

「ジョージッ!? 生きてるかぁー!!?」

「…ああ。デカい口叩いた後で情けないな」

 

流石にこの状況で探索を続けるのは無茶だろう。一旦戻るしか無い。

どうにか体制を立て直し、堀立小屋に戻ろうとするジョージ。

そんなジョージの耳が異音を捉えた。

木が折れるような、硬い物が壊れる音。

その音と共に降って来た人型の怪物が、掘立小屋に直撃した。

 

「ねこちゃんかわいいねねこちゃんかわいいねねこちゃんかわいいね……」

 

斜面となった地面から転がり落ちて来た怪物は、ぶつぶつと声を上げながら触手を掘立小屋に打ちつける。

掘立小屋がメキメキと嫌な音を立てる。

 

「テメエ……!」

 

ジャンプで掘立小屋に戻り、怪物を叩き落とそうと腕に力を込めるジョージの耳に、再度異音が届く。

上を見上げると、ゴロゴロと怪物が何体も転がり落ちて来ていた。

身を捩ってなんとか肉の雨を躱すジョージ。

しかし掘立小屋にはさらに怪物達がたかり出し、掘立小屋が軋む音はどんどん大きくなる。

何度も打ち付けられる触手に耐えきれずジョージの眼前でついに掘立小屋が崩れ出した。

警官達を中に入れたまま、地面から剥がれ斜面を転がり落ちて行く。

ジョージは声を出す事も出来ずに落ちて行く小屋を見つめる。

 

 

「あ〜〜。危機一髪って感じですねぇ」

 

 

落ちて行く小屋を、ネイビーブルーに輝く半透明の巨大なカエルが受け止めた。

呆気に取られるジョージに声がかかる。

 

「や。ジョージさん。生きてますね?」

「あ、アガリーさん……!?」

 

小屋を受け止めたカエルと同じ、半透明に輝く馬が宙に浮いている。

その背からは見覚えのあるクマのついた目が覗いていた。

 

「や。助けに来ましたよ。説明すると長くなるので取り敢えずアタシの後ろに乗って下さいな」

 

普段と変わらないアガリーの言動がますます混乱を加速させる。

彼女の跨る馬がジョージに左肩側を向ける。乗れという事らしい。

 

「………分かりました」

 

余りにも突飛な光景に呆然としていたジョージだったが、すぐに疑問を呑み込む。

疑問は山のようにあるが、今は緊急事態なのだ。

 

「んじゃ、次はあっちですね。アガシオン、頼みます」

 

アガリーが指を鳴らすと共に、小屋を受け止めていたカエルの口が開く。

そのまま狼は小屋を呑み込み。当然ジョージの同僚達も、カエルの腹の中だ。

 

「ちょっ………!! 何やってるんだ!」

「落ち着いて。アガシオンの口の中に保護してるだけです」

 

カエルは一息で飛びアガリーの元に飛び寄り、彼女の指輪の中に入り込むようにして消えていった。

 

「こんな大人数を連れて移動するのは骨が折れるでしょう? 少々絵面が悪いのは我慢して下さいな」

アガリーは後ろを振り返り、ジョージの体を見やる。

「ジョージさん、まだ動けます? 今からここから脱出しなきゃ行けないんで、出来れば手伝って欲しいんですけど」

「…まだ体力に余力はありますけど。俺なんかの助けがいるんですか?」

 

空飛ぶ馬に巨大なカエル。あの廃ホテルで見た怪物のように不思議な力を従える彼女に、殴る蹴るしか出来ない者のなどの助けがいるのだろうか。

 

「いえいえ、アタシは別に万能って訳でも有りません。その上結界———あの光の壁の中じゃ、アタシは力を殆ど使えない。今戦えるのは使い魔だけなんですよ」

 

嘶き声を上げ、このスクラップの街の中でも丁度真ん中辺りで光の馬が急停止した。

下を見ると街の中でも一際大きな掘り立て小屋が聳え立っている。

 

「ふむ、結界の核をガラクタで囲んで守っている……」

「アガリーさん」

「ん。どうしまし」「すいません」

 

大きな掘立小屋を見て考え込んでいたアガリーを抱きかかえ、ジョージは馬から飛び降りた。左後ろから、視線と猛烈な悪寒を感じたからだ。

瞬間、馬に鉄骨が突き刺さる。

馬は痛々しい悲鳴を上げながら、地面に墜落して行く。

ジョージは視線を感じた方向を見上げる。

 

そこには天使が浮いていた。

見慣れてしまった、頭部の肥大化した人型の怪物。しかし明らかに他の怪物と違う所があった。

羽だ。歪に膨張した上半身にサラミの様な色合いの歪んだ羽が付いている。肉の天使だ。

 

「クソ、悪魔の次は天使かよ…!」

 

ジョージは落下しながら、初めて見る異形にガンを飛ばす。絶対に家に帰る事を誓いながら。

 

 

■□

 

 

リラは辺りを見渡す。

リラの周囲にはジョージを襲った者と同様の、人型の怪物達が四人。

リラと怪物達の力量差は明確であり、普通で有ればリラはなすすべなく殺されてしまうだろう。

しかしリラの目は恐怖を湛えながらも怪物をしかと見据えていた。

 

「お願い、ポチちゃん!」

リラが右手を掲げる。そこに握られていた黄金の杯から、雷が溢れ出した。

閃光が走る。

一瞬のうちに怪物達の体が消し飛んだ。

 

『がーっはっはっはっ!!! 偉いぞ〜〜〜ポチ〜〜♡』

 

鞄の中のジェシカが「念話」を使って話しかける。体を煙にしてしまったから声を出す事が出来ないらしい。

辺り一面に落雷の音が響いた後、雷はリラの目の前で狼の姿を形作っていた。

狩りの魔神の力によって命を与えられた雷の猟犬。

ジェシカの使い魔である彼はどんな状況でも主の命令に沿って動くらしく、リラの手助けをしてくれている。

ポチが杯の中に戻ると、リラの目に炭になった怪物達が入ってくる。

 

「...殺して、良かったのかな。この人達。元々人間だったり…しない?」

『コイツらを調べなければならんな。リラ、その死体に近づいてくれんか?』

 

 

■■

 

 

45:1

超ド級のピンチかと思ったら別にそんな事無かったぜ!

コイツら100体来ても大して問題無いぜ!

http://www.pic../

 

46:名無しの悪魔

天使の結界が力を封じるのは悪魔だけだから使い魔は大丈夫なんですねぇ!

 

47:名無しの悪魔

>>34

バカはどっちだったかな

 

48:名無しの悪魔

>>45

イッチ鬼つええ! 今日はたこ焼きパーティーしようぜ!

 

49:名無しの悪魔

これはイッチの強さと言うより使い魔の強さなのでは? ボブは訝しんだ

 

50:名無しの悪魔

もしかしなくてもそうなのでは? 俺は訝しんだ

 

51:1の婚約者

生きてて良かった 不安にさせてスマソ

 

52:名無しの悪魔

>>51

イッチ早く逃げて(笑)

 

53:1の婚約者

殺すぞ

 

54:1

おっ サマナーから怪物の死骸の写真送られてきた

http://www.pic../

腹の中から人間の魂出てきてるな

うーんこれ…… 人間の魂と融合してるな…?

 

55:名無しの悪魔

ファッ!? なんだこの生き物!(驚愕)

 

56:名無しの悪魔

魂を…食ってる…

 

57:1

これは恐らく食ってると言うより寄生してる感じかな…?

えらく人間っぽい行動してると思ったら死んだ人間の魂食って生前の行動模倣してる…?

 

58:名無しの悪魔

これは魂から記憶を抜き出してますね間違いない

レギオンの吸精反応と酷似してる 恐らく魂切り離せば活動を止めるんじゃねえかな

 

59:名無しの悪魔

コイツら食うの人間の魂だけなんやろか

天使も食われてたりしてなw

 

60:名無しの悪魔

イッチは女…触手…捕食…閃いた!

 

61:名無しの悪魔

通報した

 

62:名無しの悪魔

>>58

そうっぽい 腹部をぶっ壊せばとりあえず動き止まるな

 

 

■□

 

 

「…どうだった?」

『んむ。人間の魂が入っとるな。…安心しろ。ポチの攻撃で魂が傷つく事は無い。コイツらに取り込まれた人間の事を思うならむしろ思いっきり攻撃して良いぞ』

 

ジェシカの言葉に安堵し、覚悟を決める。

必ず父を見つけ出す。

覚悟を決めてリラが一歩踏み出した瞬間、地面が傾いた。

リラの体もそれに伴って転がっていく。

 

「うわ、うわわ…!」

リラの体が堀立小屋にぶつかる寸前、すんでのところでポチがリラの体を受け止めた。

そのまま口を器用に使いリラを背中の上に乗せる。

 

「ありがとうポチちゃん」

『なんじゃこりゃ。地面が傾いて…?』

 

瞬く間に地面は坂道に変わっていく。建物も人型の怪物も、斜面の底に転がっていく。

 

『ふむ……。ポチ、原因を探りに行くぞ。下の方に向かってくれ』

 

主人の指示通りに猟犬は行動を開始した。

リラに負担をかけないよう、ポチはゆっくりと降下していく。

 

異界の端。

傾いた地面の底から、巨大な生き物が体を覗かせていた。

生き物の先端に付いている、人間のそれに酷似した口。

そこに転がり落ちた物ががなす術なく飲み込まれていく。

太く長い体にびっしりと敷き詰められた鱗。人間擬きの怪物と同じ、病的な白い皮膚。

その姿はまさしく———

 

『龍!??!!!』

 

 

■■

 

 

66:1

り、龍だーー!!?

http://www.pic../

 

67:名無しの悪魔

マジじゃん

 

68:名無しの悪魔

うわデッカ

 

69:名無しの悪魔

マジ?

 

70:名無しの悪魔

このスレは伝説になるな

 

71:名無しの悪魔

龍ってなんぞ

 

72:名無しの悪魔

そんくらい自分で調べろタンカス

 

龍とは:次元の狭間に存在している正体不明の巨大生物である。

あまりにも目撃した者が少なく、詳しい事は一切分かっていない。

時折偶発的に開いた次元の裂け目から、人間界や地獄に姿を現す事がある。

 

73:名無しの悪魔

サンクス 何も分からないという事が分かった

 

74:名無しの悪魔

ツンデレ姉貴兄貴好きだよ

 

75:名無しの悪魔

つまりこのスレで龍の正体が分かる…ってコト!

 

76:1

何この…何? 

http://www.pic../

自分で人型の怪物食ったあと人型の怪物をそのまま吐き出してる……

 

77:名無しの悪魔

 

78:名無しの悪魔

??

 

79:名無しの悪魔

意味のない行為で草

 

80:名無しの悪魔

シンプルに謎 コワ〜

 

81:名無しの悪魔

とりあえずあの人擬きは龍と関わりのある生物っぽい事は分かった 

 

82:名無しの悪魔

色合い一緒だし龍の子供とかそんな感じじゃね

 

83:名無しの悪魔

自分の子供食って吐いてるの…?

 

84:名無しの悪魔

そう言う生態かも知れんし

 

85:名無しの悪魔

ていうか龍の子供(?)多すぎじゃね

こんだけの数の人間が食われてるとしたら流石に天使に見つかるんじゃ

 

86:名無しの悪魔

やっぱ法律がどうのルールがどうの言ってる奴らは使えない はっきりわかんだね

 

87:名無しの悪魔

まるでオレらが何かの役に立つみたいな言い方だな

 

88:名無しの悪魔

普通に寿命かなんかで死んだ人間の魂を食ってるんじゃね

人間の魂って結構な数が次元の狭間を彷徨っとるって言うし

 

89:名無しの悪魔

人間の魂って天界行くんじゃねえの?

 

90:名無しの悪魔

行きたい奴は天界行く それ以外の奴はそれ以外の所に行く

天使以外を信じてる奴は根の国とかニライカナイとかハデスとかヴァルハラとか

 

91:1

>>89

それぞれの人間の価値観とかで行く場所は変わるで

善行積んで天使信じてる連中は天界

魂は大気中のメフィスト濃度を3.0〜4.5に上昇させてY的世界座標反応を起こすんや そんとき生前の信仰心が関係する訳やな エーテル体の法則やな

 

92:名無しの悪魔

 

93:名無しの悪魔

??

 

94:名無しの悪魔

???

 

95:名無しの悪魔

つまり天界とか行く時に次元の狭間を経由するって事でOK?

 

97:名無しの悪魔

OK

 

98:名無しの悪魔

イッチの唐突なかしこさアピール

 

99:1

は? キレそう

 

100:名無しの悪魔

あ そういえばイッチはこの異界に人探しに来たんだよね?

そいつ龍の食事(?)に巻き込まれて死んだんじゃね?

空でも飛べないと逃れられんでしょこれ

 

101:1

 

102:名無しの悪魔

かしこさアッピルしてる場合と違うぞ!

 

103:名無しの悪魔

コイツいっつも迂闊だな

 

104:1の婚約者

そんな所がかわいいんだぞ

 

105:1

いいぞ その調子でもっと妾のいい所言ってくれ

 

106:名無しの悪魔

お前はそれでええんか?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リラの冒険 (3)

斜面に着地したジョージの全身を衝撃が駆け巡った。

痛みに悶える暇も無く、ジョージの体が重力に従い後ろへ倒れ込む。両手の塞がっている状態では受け身を取ることも出来ない。

ジョージの体は斜面を滑り降り、乱立していた堀立小屋の一つにぶつかってようやく止まった。

 

「ジョージさっ……!? 生きてます!??」

「なんとか…」

 

足から這い上がってくる衝撃と痺れを足に力を入れてかき消す。

アガリーが結界の核と言っていた建造物からだいぶ遠ざかってしまった。

その上敵は未だ健在なのだ。いつ追撃が来てもおかしくはない。立ち止まっている暇はない。そう考え、ジョージは足を運ぶ。

 

「ふーっ、ふーっ。……大丈夫です。行きましょう」

「は? いやちょっと」

「大丈夫ですから」

 

呼吸を整え、斜面に手を掛ける。傾斜が大きく、通常の方法では登れそうにない。

頼り切りで心苦しいが、アガリーの術でどうにか登れないだろうかと思案する。

 

「アガリーさん、さっきの馬は…」

 

もう一回出せるんでしょうか、と言葉が続くよりも速く、地面から飛び出たアガリーのカエルがジョージを飲み込んだ。

カエルの口から頭だけ飛び出た状態で呆気に取られるジョージの前で、アガリーが仁王立ちする。

 

「大丈夫な訳ないでしょバカなんですか?」

「え、あの」

 

怖い。

シンプルに怖い。

今までにないアガリーの怒気に、思わずジョージはたじろぐ。

 

「自分を客観的に見るとか出来ないんですかあの天使みたいなヤツはアタシ達を追って来ずに反転して元いた場所に戻っていきました分かったらじっとしといて下さい応急処置するので!!!!!」

 

あまりの剣幕にジョージには心なしかアガリーの体が三割増で大きく見えた。

いつもふらふらと底を見せないアガリーの怒りに、思わず動けなくなる。

そんなジョージの頬に手を当て、アガリーはブツブツと呪文を唱えはじめると、体の痛みが徐々に引いていく。

 

「………まずはお礼が先でしたね。ジョージさんのおかげで生き延びれました」

「あ、いえこちらこそ…」

「…さっきの馬はまた出せます。その気になれば直ぐに結界の核は破壊しに行ける。…今は情報を集めましょう」

 

アガシオン、とアガリーが呟くと先程見たネイビーブルーの狼が現れる。

先程一つと違うのは、口に一体の怪物を咥えていた事だ。

アガリーは狼が乱雑に床に投げ捨てた怪物の側にしゃがみ込むと、後ろポケットからナイフを取り出した。

 

ぶちぶちと聞きなれない音を立てながら解体されていく肉の塊。

辺りに得体の知れない粘液が飛び散り、すえたような匂いが漂い出す。

数秒の後、バラバラになった肉塊の内部を覗き込んで、アガリーは納得したような声を出す。

 

「ふ、む…。なるほど。コイツらは取り込んだ魂に染み付いた生前の動きを模倣してるだけ、見たいですね。だから動きが変に人間的で規則的…」

「…つまりあいつらは、ゾンビのような存在という解釈でいいんでしょうか」

ジョージの質問にアガリーが頷きを返す。

 

「おおよそそんな感じでしょう。………でも、それだけだと此方を襲ってくる事に説明がつかない。何かの意思が植え付けられてる」

 

ジョージは今まで自分を襲ってきた人モドキを思い返す。

確かに、全ての怪物が同じ様な気配を放っていた様に思う。

それは敵意というには凶悪で、しかし殺意というには粘っこく、悪意というには何処か切実で。言うなれば———。

 

「食欲...」

「恐らくそれですね。目に入った者に喰らいつくようプログラミングされてる」

 

捕食が目的にしては些かおかしな、非効率的な点もありますがね———とアガリーは付け加える。

 

「…凄いですね」

思わずジョージは称賛の言葉を口に出していた。

それは人モドキにではなく、アガリーの手際の良さに対してだ。

このような異常事態に置いても動揺せずに思考を回し続ける。行動が早い。

感情的になり、無鉄砲に突っ走ろうとしていた自分とは大違いだ。

少なくともジョージはこの異界に取り込まれて動揺の連続だった。

 

「別に大した事じゃあないです。こうした事態には慣れてるので。…強いて言うなら考察と洞察が怪物から生き残るコツ、と言いますか」

「…」

 

冷静そうな口調とは裏腹にアガリーの口はニマニマと波打っている。

存外に褒められ慣れてないらしい。器用にも満面の笑みを浮かべながら、平時と変わらない声を出している。

ジョージの視線に気づいたのか、アガリーは何度も咳払いをする。

 

「……作戦を言います。一度攻め込んで直ぐに引き返す。行動がパターン化されてるならあの肉天使は直ぐには追ってこない筈です。何度も攻めて、肉天使の守りが薄い所を探す。………アタシにはちょーっとした、秘密兵器がありましてね…」

 

 

■■

 

 

115:1

なんだこれは…

http://www.pic../

 

116:名無しの悪魔

?????????

 

117:名無しの悪魔

クソコラか?

 

118:名無しの悪魔

親方! 空からマネキンいっぱい!

…これ、何が起こってるの?

 

119:名無しの悪魔

進撃の巨人の92話で見たやつ

 

120:1の嫁

あー? これ見た事あるな?

 

121:1の嫁

アレだろ 明星騎士団の秘密兵器

人形に魔力を流して対象のコピーをいっぱい作るヤツ

 

121:1

あ〜〜〜〜っ!!アガ

 

122:1

この前人間界に潜入任務中の明星騎士団に会った事がある

ジョージと親しい仲だったから、おそらくジョージを助けにきたんだと思う

 

123:名無しの悪魔

途中で書き込み切れてて草

 

124:名無しの悪魔

イッチに個人名をネット上に書き込まない理性があったことに驚き

 

125:名無しの悪魔

ネット上に個人名書かれかける潜入任務中のアガ(仮)さん

 

126:名無しの悪魔

脳波を使って掲示板に書き込みしてるとうっかりいらない情報まで出力しちゃう、あるあるすぎる

 

127:名無しの悪魔

明星騎士団ってルシファー様をヨシヨシナデナデする係の人達だろ〜〜〜〜? 

秘密兵器とか持ってんの?

 

128:名無しの悪魔

まあ赤ちゃんモードのあの方止める為には秘密兵器の一つや二ついるだろう

 

129:名無しの悪魔

ルシファー様を守る精鋭部隊だゾ  

地獄最強の「明けの明星」に護衛なんて要らないって? それは…そうなんですが…

 

130:名無しの悪魔

ネット上で明星騎士団の事を乳母さん達って呼ぶ風潮ほんま好き

 

131:名無しの悪魔

マジでなんで出来たんだっけ明星騎士団

 

132:名無しの悪魔

あの方に護衛とかいらんだろマジで

 

133:名無しの悪魔

それなりに政治が出来て命令に忠実な悪魔の中でもマトモよりのやつが集められた部隊だぞ

だからいつも俺らのやらかしの後処理をやらせられる

不憫

 

134:名無しの悪魔

>>127

幼児退行したあの方から俺らを守ってくれとるんやで

 

135:名無しの悪魔

いいですよねオギャルシファー様

硝子玉のような透き通った声に濁音つけながら全力駄々こねするのほんと可愛い 推せる

 

136:名無しの悪魔

>>130

良いわけあるか

 

137:名無しの悪魔

>>127

あの駄々見て可愛いって言えるのは猛者

 

138:名無しの悪魔

>>127

駄々こね(嵐)(竜巻)(ハリケーン)

 

139:名無しの悪魔

地獄最強の肉体スペックそのままで幼児退行されたらそれはもう災害なんよ

 

140:名無しの悪魔

「明けの明星」の名前は伊達でもなんでもないからな

 

141:名無しの悪魔

まあ俺らみたいな頭ポンどものリーダーを何年もやってたら何かしら患うよな…

 

 

 

□□

 

 

「行きますよ」

 

アガリーの言葉に頷きを返し、ジョージは半透明の精霊馬の背に跨った。

ケルピーが四肢に力を入れる。蹄が空を掴み、彼は矢のように結界の核に向かって駆け出した。

 

空を移動しながらアガリーが懐から一つの人形を宙へ放り投げた。マネキン、あるいはデッサン人形に近い。

人形は数度回転した後、重力に逆らい空中で動きを止めた。

人形は瞬く間に巨大化していく。一秒とかからずに、人形はアガリーと瓜二つの姿になった。

アガリーの分身がさらに人形を宙に放り投げる。分身はドンドンと増えていく。

 

結界の核を包む掘立小屋が見えてくると同時に、肉天使が翼をはためかせているのが見える。

 

「行け」

 

アガリーが指を振ると、分身は精霊馬のように宙を走り肉天使に一直線に向かっていく。

それに合わせて肉天使は手に持った鉄塊を無造作に投げつける。

頭部を破壊された人形は、肉の通っていない滑らかな断面図を覗かせながら地面へと落下していく。

しかし肉天使が撃退できたのは一体のみ。人形達は仲間の残骸を意にも介さず、死体を漁るハゲタカのように肉天使を分解していく。

 

肉天使の分解を終えた人形達は、新しい餌を求めるように堀立小屋へと集り出した。

そのの細い腕からは想像も出来ない力で掘立小屋の壁を引きちぎっていく。

壁が剥がれるのと同図に、中から大量の人モドキの波が這い出てきた。

人モドキの触手の波に人形達が飲まれていく。

触手の波の中から、何匹か此方へ飛び上がってくる。

 

「ふむ、むやみに突っ込まずに正解でしたね」

 

アガリーは表情を崩さずに人差し指を上に上げる。

人形の一体が垂直に跳び上がり、人モドキに組み付き頭を捻じ切った。

 

その後も人モドキの跳躍攻撃は続いたが、アガリーは指を指揮棒のように振り、完璧に人モドキの抵抗を捌き切る。

人モドキは殲滅され、もはや勝利は目前に思えた。

 

(……いやいや、冷静になれ、俺。…気を緩めるな、思考を止めるな。アガリーさんだって万能じゃないんだ。観察と洞察を怠るな...)

 

ここは人知を超えた異常な空間なのだ。アガリーといえど、無敵ではない。何かの間違いが起こってからでは遅い。

そもそも、あの肉天使がここにはいるはずなのだ。

ジョージはそう自分に言い聞かせ、空中から戦場を見渡す。万が一がないように。

 

そうして戦場を見渡して数分。

一瞬、ほんの一瞬であったが…一匹の人モドキとジョージの目があった。

 

「……?」

ジョージの背筋に得体の知れない怖気が走る。

なんとなく、見覚えがある目だったのだ。

しかし誰だったのか思い出せない。

人モドキの肥大化した頭部には髪も生えていない。タコのような膨らみに人の顔が張り付いているだけなのだ。

髪の毛や服装といった特徴が当てにならない。

ただ、ギラギラとした瞳がジョージの脳にこびりついていた。

 

ジョージの怖気をかき消すように、地面から轟音が鳴った。

ジョージの人生で今まで体験した事もないような、ダイナマイトを50個一斉に爆発させたような爆音。

そして震度。

ガラクタで出来た街が、そこら中に撒き散らされた人モドキの残骸と共に崩れてぐしゃぐしゃになっていく。

 

「なんだ....!?」

「先程地面が傾いた時と、同じ事が起こっているようですね。ただし凄まじい勢いで」

 

確かに、斜めになっていた地面が平らになってきている。

幸いな事に、振動は空中にいる精霊馬まで届くことはない。

 

「これは…、何が……」

「…!! アガリーさん、あれ!」

 

ジョージの目の先で、掘り立て小屋が完全に崩れていく。

そしてその中から、異様なギラつきを放つダイアモンド状の物体が露出した。

 

「結界の核です! あれさえ壊せればだっし———」

アガリーの言葉が言い終わらない内に、角材が飛んでくる。

肉天使だ。

露出した結界の核の上に浮遊し、自らが守護者だと誇示しているように翼をはためかせている。

精霊馬は身を捩り角材を躱す。

あの肉天使がいる限り、結界の核には近づけない。

ジョージは手に持ったパイプへ力を込め、肉天使に意識を集中させる。

肉天使は近くの廃材から道路標識を引き抜き、投擲の構えに入る。

 

肉天使の投擲に合わせ、また爆音と震動が辺りを襲った。

そしてジョージの体に、手足がちぎれるほどの衝撃が走った。

 

 

 

「が、あ……?」

 

ジョージは空中で現状を確認する。

あたりには先程の振動で粉微塵になったガラクタが、ジョージと一緒に宙を舞っている。

 

(地面が、跳ねた……?)

 

そうとしか形容が出来なかった。

勢いよく跳ね上がってきた地面が、精霊馬ごと二人をカチ上げた。

 

ジョージは空中で身を捩る。

すぐそばに足を青紫色に染め血を吹いているアガリーと、力なく手足を伸ばしている精霊馬が目に入った。

 

(う、動けっ……! このままだと、アガリーさんが地面に叩きつけられて死ぬ……!)

 

ジョージは腕の力だけでアガリーを精霊馬の方に投げ飛ばす。

精霊馬はアガリーがぶつかってきた衝撃で意識を取り戻したのか、アガリーを背に乗せた体制のまま空中で静止した。

 

(よ、良し…!)

 

ジョージはそのまま落下し、地面に頭から叩きつけられた。

 

「く“っ……っっ………!!」

 

ジョージの口の中でゴキャリ、と異音がした。衝撃で歯か顎かが折れたのだろうと推測する。

頭部が裂けたようで血が止まらない。目に流れた血が入りこみ、視界が赤く染まる。

 

「あ、ああ”ーっ。くそっ……」

ジョージは悪態をつきながら立ち上がる。

視界がふらつくが、まだ歩ける事を確認しアガリーの無事を確認しようと当たりを見回す。

 

 

アガリーよりも早く、何かを投げたような肉天使の姿が目に入った。

 

(あ? …なんだ?)

 

肩の辺りがやけに熱い。

手を当ててみると、何か硬い物がそこにある。

数秒ほど立って、中ほどで折れたサバイバルナイフが自分の肩に突き刺さっているのにジョージは気づいた。

 

「———あぁ“ああああぁああぁぁ!!」

 

ジョージの絶叫を意にも介さず、肉天使が再び投擲のフォームに入る。

 

(何処かに、身を隠さなければ…!!)

 

ジョージは太ももに力を込め、足を動かす。

このままではなぶり殺されるのは目に見えていた。

そうしてゆっくりと、赤児のような速度で動くジョージの足を、ブヨブヨとした物が包んだ。

無理矢理足の動きを止められ、ジョージは転びそうになった。

 

下を見る。

人モドキだった。倒壊していく建物に巻き込まれ、地面に埋まっていたのだ。

人モドキがこちらを見る。ギラついた光とジョージの目が合う。

ジョージはその目に覚えがあった。その狂気に覚えがあった。

 

「アンディ・スコークスリ…!」

 

あの廃ホテルで怪物を召喚した男が、人モドキとしてこちらを見つめている。

人モドキは生前の動きを模倣しているだけだとアガリーは言っていたが、アンディの目には明らかな悪意が顔を覗かせていた。

 

 

 

 

■□

 

 

 

異界の端。ガラクタで作られた地面の下で、リラは龍の奇行を見守っていた。

何をするべきか分からず、リラはジェシカに助けを求める。

 

「……ジェシカ。あいつ、どうしよう。」

『今の妾じゃ無理。ポチじゃあの巨体を殺しきれんし』

 

とりあえず張られている結界を壊す方向で、とジェシカ。

その言葉に答え、ポチは背に乗せたリラを落とさないようにゆっくりと上昇していく。

その瞬間だった。

 

ダイナマイトを50個一斉に爆発させたような爆音が、リラの鼓膜を叩きまくった。

爆音の音源をリラの目は捉えていた。

突如として人モドキを飲み込みまくっていた龍が、猛然と異界の地面へ頭突きをしたのだ。

無理矢理に傾いていた斜面が平らに戻され、その衝撃で地面を構成していたゴミが空へと突き上げられていく。

 

「う、うわ…!」

 

ポチはなんとかゴミの散弾を躱そうとするが、うまく避けられない。

ポチはそもそも雷である。普段の速度で動けば、リラはその負担に耐えられない。

ポチはそもそもジェシカの猟犬である。加減をしながら動くなど、した事がない。リラに負担のかからない速度で動くという事が、ポチにとってはかなりの負担であった。

 

そして避けきれなかったゴミの一つ、コンクリートブロックがリラの頭部に迫る。

 

『ファイトぉ!!』

 

回避は不可能な軌道で迫るコンクリートブロックとリラの間に、ジェシカの入ったバッグが割り込んだ。

 

『いっぱぁっつ!』

 

バッグの中のジェシカは霧に変えた体を総動員し、バッグを膨らませクッションにする。

コンクリート片を受け止めるには少々頼りないクッションは、しかし膨らんだタイミングが良かったのだろう。

膨らんだクッションに横から押される形でコンクリートブロックは軌道を変え、リラの斜め上へと飛んでいった。

しかしその衝撃により、年季の入ったバッグの紐は切れる。

 

「ジェシカっ!?」

 

リラが肩からぶら下げていたバッグはずり落ち、無情にも地面へと落ちていく。

リラが手を伸ばすが僅かに遅く、バッグはどんどんと小さくなっていった。

 

 

「ありがとう、ポチちゃん」

ゴミの散弾が止まった後、リラは地面へと降下しジェシカを探す事にした。

ポチからは降りている。辺りには人モドキが徘徊している以上、リラはの背に跨っている間はポチは全力を発揮出来ない。

リラは年齢に見合った短い足で、異界を探索する事を選んだ。

 

「どうもぉおおおっっ!!」

「とくばいだよぉっ」

 

バリっ。ガシャン。

雷の猟犬に対し、時折現れる人モドキはあまりに無力だった。

ポチは現れた二人の人モドキを炭へと変え、リラの元へと戻る。

 

(気持ち、悪い……)

 

強力な仲間が居るとはいえ、命を常に狙われている感覚はリラの精神に負荷をかけ続けていた。

命のあるように思える存在が炭になっていく匂いも気分が悪い。

 

(…ジェシカがいないと、こんなに怖いんだ……)

 

どんな事態でも平常運転で言葉を投げかけてくる友人に、安心していた事を自覚する。

ポチは強いが話し合い手にはなれない。ストレスは発散できず、リラの内側に溜まっていく。

 

「……?」

 

鬱鬱と異界を彷徨っていたリラの目に、カラフルな小石が目に入った。

近づくとそれは石のように無骨に削れておらず、丁寧にキャラクターの形に形成されている事が分かった。

 

「グミだ」

 

そういえば、ジェシカが出かける前にグミを食べていた事を思い出す。

リラは辺りを見渡す。遠くない位置に、もう一つグミが置かれていた。

間違いなく、ジェシカの置いた目印だろう。

 

「ジェシカって、こんなに機転が利くんだ…」

 

なんとなくポチから圧力を感じた為、口を閉じてリラはグミを追うことにした。

 

 

 

 

 

『—n———r』

「あっ!?」

グミの目印を追いかけて数分。

リラの脳内にジェシカの声が響いた。先程までのようなスムーズな声では無い。

ジェシカと炎の中で契約を交わした時のような、ノイズがかかった音だ。

 

「確か、ジェシカと距離が離れてるほどノイズがかかるんだよね…?」

 

一度ジェシカに、このテレパシーの説明を聞いた事がある。

テレパシーが届く範囲は5mくらいらしい。すぐ近くに、バッグは落ちている筈だ。

 

「……多分、この中だよね」

 

リラはすぐ近くに建っていた、掘り立て小屋の中に足を踏み入れる。

グミの目印は等間隔に落とされて、一直線にジェシカの元まで続いていた。

もし落下しながらグミを地面に落としたとしたら、こうはならない。

 

(多分、人モドキに拾われちゃったんだよね)

 

ジェシカの話では、人モドキは生前の行動を模倣しているという。

落ちたバッグを拾って持って帰る者がいてもおかしくは無い、とリラは推測する。

 

『田かラ——ナ』

 

またジェシカの声が聞こえた。今度は先程より鮮明に。

 

「待っててね…! すぐ行くから!」

『大臣丈夫だが来』

 

呼びかけるとしっかりと返事が返ってきた。

ノイズ混じりで意図は汲めないが、大体の位置は察しがついた。

リラは不出来な家の中を走り、ジェシカのいるであろう部屋の扉を開く。

 

 

 

 

『だいじョョョウウウ部だから』

 

 

『来るなリラ 妾は大丈夫だから』

 

 

その部屋は、おそらくリビングを模しているらしかった。

大きなテーブルの周りに椅子の代わりになりそうなゴミが並んでいる。

部屋の隅に帽子置きのような物が置かれており、バッグはそこに掛けてあった。

一体の人モドキが、その帽子置きの前に立っていた。

ゆっくりとした動きで、人モドキがリラを見る。

リラと目が合う。目が合ってしまった。

 

 

 

「………かあさん?」




人モドキ:生前の感情を模倣している。目の前に殺したい程憎い相手がいれば悪意を放ちながら殺しにかかるし、娘のバッグが落ちていたら拾って家に持って帰る。

心身の不調などで更新が大変遅れた事を謝罪します…。
完結させられる自身がなくなってきており、活動報告にプロットを公開ております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リラの冒険 (4)

ジョージの目に、ゆっくりと攻撃を始める肉天使の姿が見えた。

瓦礫の山に手を突っ込み家庭用アンテナを槍投げの選手のように構える。

 

(逃げなければっ……!)

 

死の気配。

今までにない程に濃密なそれが、ジョージに絡みつく。

思考を鈍らせ、自身の足が拘束されているのにも関わらず逃げの手を打たせようとする。

 

逃げなければ。

逃げなければ。

逃げなければ死んでしまう。

 

 

 

そう思い、後ろを振り返った所で。

ジョージは地面に倒れ伏す、アガリーの姿を見つけた。

 

(———ダメだ。俺が逃げたら、アガリーさんに当たるかもしれない)

 

さらに、ジョージの視界がゆっくりになった。

思考が研がれて研がれて鋭利になる。

「観察と洞察を怠るな」。脳裏にアガリーの言葉がよぎった。

 

(…攻撃のタイミングは、分かる)

 

肉天使は、攻撃の際に3秒かかる。

何度も攻撃を食らった。その間、ジョージはアガリーの言葉通りに観察も洞察も怠らなかった。

 

(攻撃が狙うかも、半分勘だが予想は出来る)

 

最初に肉天使に会った時、馬を攻撃された。

さっきも頭や胸じゃなく、肩をやられた。

ジョージは肉天使に気づいていなかった。いくらでも殺せた。しかし今ジョージは生きている。

規則的な行動しか取れない奴らの欠点だろう。

手足をもいでからトドメを刺す、という生前の行動を繰り返すしかないのだ。

ジョージの左手が使い物にならなくなり動きを止めた今。狙ってくるのはおそらく心臓か胸。

 

1。

2。

3。

 

きっかり3秒経ってから、肉天使はアンテナをジョージに投げつけた。

風を噛みちぎりながらアンテナがジョージの心臓目掛けて疾走する。

 

 

(攻撃を受け止めるだけの盾も…ある!)

 

 

ジョージは全力の力で右足を引き上げた。

ジョージの足に引っ張られる形でアンディが地上に引っ張り出される。

そのまま足を高く上げアンテナの射線上に人モドキの肉体を置く。

一瞬の衝撃。

その後、驚愕の顔で固定されたアンディの顔からぬぅっとアンテナが生えた。

 

アンディの頭部を貫いてなお勢い止まらぬアンテナを、ジョージは右手で掴み取る。

手の皮が剥がれ血が吹き出すがアンテナはジョージの鼻先で確かに止まった。

 

「おおおおぉおおおおっっっっ!!!」

 

ジョージが吠えた。そして腕の力のみでアンテナを肉天使に投げ返す。

アンテナは、投げたジョージ自身が驚く程の速度で肉天使へと飛びかかる。

 

「くったばれぇっっ!!!」

 

ぞる。肉の裂ける音。そして、パシッというガラスが砕けたような音。

肉天使の腹に穴が開く。

ジョージの投げたアンテナはミサイルのように肉天使の腹を穿ち食い荒らしたのだ。

そしてそれは肉天使を突き破っても勢いを殺さず、肉天使が守護していた結界の核にも穴を開けていた。

 

ピシッ、パシ。瞬く間に異界を覆っていた透明なドームにヒビが入っていく。

次の瞬間、ドームは粉々に砕け、雪のように細かい結晶になって空中へ溶けていった。

 

 

■■

 

 

「あ、ああああぁあああ」

 

リラは目の前の地獄から目が離せなかった。

脳みそがぐちゃぐちゃになる。手足が冷えていく。

思い出の中でのみ自分に笑いかける母の顔が、人モドキの頭部にくっついていた。

 

目の前の人モドキが足を前へと踏み出す。

咄嗟に逃げようとして、初めてリラは自分の腰が抜けている事を理解した。

 

「り、らぁああああっ?」

「う、うぷ…」

 

リラは気分が悪くなった。

視界がぼやけ、何も考えられなくなる。

目の前の肉塊が、母の声を出している事実に吐き気が込み上げてきていた。

ポチを呼ぶ事もなく、リラはただただ棒立ちするしかなかった。

 

ポチに頼めば、一瞬で目の前の人モドキを倒す事が出来るだろう。

しかしリラには出来なかった。母親を攻撃する意思が持てなかった。

 

(母さんなら、いいかな…)

 

何となく、リラはそう思った。

母さんが私を殺そうとするなら、沢山迷惑をかけた母が私を殺そうとするなら。

なんとなく、仕方がないと思えた。

 

「ごめんねぇっ」

 

だから思ってもいない言葉が人モドキから飛び出した時、リラは思わず顔を上げた。

 

「ごめんねぇっ、からだがよわくってごめんねぇ」

 

そう言いながら人モドキはリラを締め上げる。

食欲を植え付けられた彼女らは、獲物を前にしてはそうする事しか出来ない。

 

(やめてよ………。そんな姿になってまで、私に謝るのやめてよ…………!)

生前、母の口から何度も聞いた言葉。

それを壊れたテレビのように繰り返す姿。

どうしようもない現実に憤った、嘗ての自分の感情が蘇る。

 

「かあさんげんきになるから、ら、ら、ら」

「…………」

「そしたらこうえんに、ばばら、バラ、見に行こうねぇ」

 

(そういえば、母さん、サンズリバーの花壇が好きだったっけ…)

母の口から飛び出した、前向きな言葉。

余命が残り少なく荒れていた母のイメージに邪魔をされ、記憶の底に沈んでいた母の趣味。

 

こんな言葉、母から聞いた覚えは無かった。

「モドキは生前の行動を再現するだけだ」と言っていたジェシカの言葉が思い出される。

 

(もしかして、母さんはずっとこうしたかったの…?)

 

自分と一緒にバラを見に行きたかったのだろうか。

元気になった体で、自分の足で立って自分を抱き上げたかったのだろうか。

そう思った瞬間、リラの中で色んな思いが湧き出た。

そしてその思いはリラの中で渦巻いていた恐怖や嫌悪と混じり合い、それらは怒りという矢印に引っ張られ、一つの方向を向く。

 

「ポチちゃん!!!!」

ありったけの力で雷の猟犬へと呼びかける。

空中に現れたポチは、何処か測るような目でリラを見た。

 

「お願いっ! 母さんをやっつけて!!!」

リラは叫んだ。目には怒りの火が燃えていた。

一刻も早く母さんを解放させてやりたい。母さんに私を殺させたくない。

こんな異界(ばしょ)を作った奴が許せない!!

猟犬はその思いに応えるように光を纏う。

 

その瞬間、ガラスの割れるような音が響いた。

リラが反射的に窓から外を見れば、異界を覆っていた半透明のドームが粉々に砕け散っている。

 

リラの体がガクンと落ち、尻を床に打ち付ける。

人モドキの腕が根本から吹き飛ばされたからだ。

 

狩りの魔神が、人モドキの後ろに立っていた。

3mはある巨体は部屋に高さに収まりきらず身を窮屈そうに縮めている。

 

ジェシカは腕を振る。

人モドキは前のめりに倒れ伏し、動かなくなった。

ジェシカはリラへ向き直り、右手を差し出す。

 

「リラ。……ほら、母さんだ」

そう言って差し出されたジェシカの手のひらには、蝋燭のような輝きを放つ光球が握られていた。

 

「母さん、って…」

「お前の母の魂だ」

 

光球は蝶のようにふらふらとした動きでドームの無くなった空へとゆっくり、ゆっくり飛び去っていく。

リラはそれをぼぉっと目で追いかけていた。

 

光球が見えなくなった後、リラは後ろを振り返る。

そこには穏やかな顔をして倒れ伏す母の顔があった。

もしポチに攻撃をしてもらっていたら所々消し炭になっているグロテスクな肉塊が出来上がっていただろう。

……自分の友人は気遣いも出来るらしい事を、リラは学んだ。

 

「…リラ。あそこを見ろ」

ジェシカが指を指した前には、何かの裂け目のような物が宙に浮かんでいる。

その裂け目からは青い空とコンクリートで出来た街が見えた。元の世界だ。

 

「あそこから帰れる。先に帰っていてくれ」

「…分かった」

 

リラは頷く。ジェシカの声には有無を言わせぬ迫力があった。

これから自分は邪魔になるという事が嫌でも察せられた。

 

「ジェシカ。勝ってね」

「おうよ」

 

一言だけで十分だった。

ジェシカの暴の恐ろしさを、リラはよく知っている。

 

「全部終わったら、バラ。見に行きたい」

「死亡フラグやめーや」

 

ジェシカの軽口に吹き出しながら、リラは窓から外に出て裂け目に向かって走った。

 

 

■□

 

 

163:1

なんか知らんけど結界が壊れた

復活したわ

 

164:名無しの悪魔

イッチほぼほほ役に立ってないの バ レ バ レ

 

165:名無しの悪魔

幼女ちゃん身を張って庇った所くらいしか褒める所がない

 

166:名無しの悪魔

復ッ 活ッ

イッチ復活ッッ

イッチ復活ッッ

イッチ復活ッッ

なおほぼイベント終わった模様

 

167:1

もうあらゆる制限がなくなったので 今から龍を全力でぶち殺す

オフ会、開催します

 

168:名無しの悪魔

!?!???

 

169:名無しの悪魔

オフ会……!? 

そっかこいつ上位悪魔やったわ 多重召喚術使えるんやな

 

170:名無しの悪魔

オフ会とか何百年ぶりだよ……たぎっちまうな…………

 

171:名無しの悪魔

そっか 異界には天使の目もない!

ハッスルしても問題ないのか!

 

172:名無しの悪魔

も り あ が っ て ま い り ま し た

 

173:名無しの悪魔

興奮しすぎて尻が暑い 排熱の為にパンツ脱いだ

 

174:名無しの悪魔

お尻蒸れ蒸れ兄貴正直好きだよ

 

175:名無しの悪魔

オデ……敵、コロス………………

 

176:名無しの悪魔

>>17

魔法陣のリンク貼っとく

 

177:名無しの悪魔

きたぁあぁあああぁああああ

 

178:名無しの悪魔

イクゾー!(でっでっでででで カーン

 

179:名無しの悪魔

サバトだ!

 

180:名無しの悪魔

有休取ってきた 遊ぶぞ〜

 

181:名無しの悪魔

有休取ってないけど仕事が嫌になったからそっち行くわ 暴れるぞ〜

 

182:名無しの悪魔

龍のサンプル集める為に仕事でそっちに行くわ めんどくせぇなぁ…

 

183:名無しの悪魔

暴力! 暴力! 暴力!

 

 

 

■■

 

 

ジェシカが唸る。

その度に魔力が飛び散り、風1つなかった異界に風が吹き出す。

 

ジェシカの巨体を極小の嵐が覆い始めた。

この前ジョージを廃ホテルに閉じ込めた時とは規模も風速も何もかもが違う。

それもその筈、この風は狩りの魔神を獲物の元へと連れて行く嵐の戦車なのだ。

 

ジェシカは足に力を込め、解放。

その体を弾丸に変えて真っ赤な空へと飛び出す。

 

ジェシカは悠々と空を泳いでいた龍の姿を視認すると、その側面に全力で体を叩きつけた。

 

「おおおおぉおおぉっっ!!!」

 

旋風が肉を刻み、龍の体を真っ赤な花火へと変える。

ドリルと化したジェシカはそのまま肉の塊を掘削し続け、ついに龍の巨体を貫いた。

龍は鳴き声一つ上げずにピクピクと痙攣した後、人間のような口をジェシカに向け、ガチガチと歯を鳴らす。

 

「何だ、威嚇のつもりか?」

 

拙い威嚇を、狩りの魔神は笑い飛ばす。

 

「威嚇とはな、こうやるのだ」

 

凄惨な程の獰猛な笑みを浮かべたジェシカの背中に、膨大な量のエネルギーが溢れた。

気圧されたように動きを止める龍の前で、ジェシカの背中から後光のように魔法陣が広がっていく。

 

「うくく」

「きひひ」

「うひゃひゃひゃ」

「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!」

「テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるな〜」

「ぶっ殺すどすえ」

「お、オデ、肉、見たい!」

 

魔法陣から、異形の人型が溢れ出した。

緑の肌に尖った牙の男がいた。上裸で梟の頭を持つ男がいた。臓物をぶら下げた首が空に浮かんでいた。舞妓のような格好でエセ京都弁を話す女がドスを振り回していた。

龍が吐き出すのが人モドキなら、こちらは亜人の群勢と言った所か。

三者三様、纏まりのない混沌の軍勢がジェシカの背後から溢れ出す。

爪が、拳が、炎が、ドスが、殺意を持って龍の体をちぎり取っていく。

 

はるか昔、悪魔が人間界にまだ居た時代。

彼らはその力を持って災害のような祭り———祭り(オフ会)を開いていた。

嵐を纏い行進する異形の軍勢。

人間はこれらを百鬼夜行(ワイルドハント)と名付け恐れたのだ。

 

 

□□

 

 

「んん……っ」

身体中に響く痛みに急かされ、アガリーは目を覚ました。

 

(‥…アタシは、えっと。なんで…倒れて…? えーと、床、が…)

そこまで思い出して、アガリーは跳ね起きた。

未だ戦いの真っ最中、今動かなければ全てが終わってしまう。

そう思い傷ついた体を無理矢理持ちあげ、辺りを見回す。

 

アガリーの目に、見慣れない黄色が入ってきた。

 

「あ、起きましたか」

「………じ、ジョージさん?」

 

アガリーは声をかけられて漸く、目の前の黄色い物体がジョージだと認識した。

ジョージの体、服、髪には黄色い液体がべっとりとついており、遠目からだと人間かすら分からない。

 

「アガリーさん、安心して下さい。結界の核と肉天使は、俺が破壊しました」

 

ジョージの指を刺す方を見れば、家庭用アンテナで串刺しになっている結界の核に穴が空いた肉天使の姿が。

控えめに言って意味が分からなかった。

 

(え……? ち、超人ってこんなにヤバいんですか……?)

アガリーはジョージが“超人”と分類される特殊な人間である事を知っている。

人類の中で時折生まれる、異常な身体能力の保持者。人間界が人間の世界である理由。

そもそも、アガリーがジョージに接触したのは生の超人を観察する為であった。

 

だが、それはそれとして全身真っ黄色なのはどういう訳なのだろうか。

 

「え、あ、え…。それは良かったです……。それでそのジョージさん…? なんか、き、黄色いですよ…」

「…あ? なんだコレは…? 膿でも潰れた…訳じゃないよな…?」

 

(自分の事なのに分からないんです…?)

 

ますます意味が分からない。

とりあえず、人モドキ由来の異常で有ればジョージの体に有害である可能性が高い。

アガリーはジョージの体に近づき観察をする事にした。

よくよく見れば、黄色は傷口の近くについている。

まるで血液が流れ出る最中に黄色くなっていったのかの様に。

 

(血の色の変化……血の色の変化……? …か、覚醒始まってる———ッ!!)

 

「えーと、ええと、あの、あ、あ、アーッ!」

「ぶっ」

アガリーは地面に埋まっていたコンクリート片を引き抜き、ジョージをぶん殴った。

ジョージは突然の一撃に抵抗する事も出来ず、モロにコンクリート片を顔面にくらいぶっ倒れた。

ジョージが地面に倒れ伏すと、体についていた黄色の血は元の赤色に変わる。

 

「はぁーっ、はぁーっ、危なかった……」

 

この状況下でジョージの覚醒など、笑い話にもならない。

時折訪れる、超人の覚醒という現象。

それは天使達が人間界に居る理由であり、人間を助けるという名目で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でもある。

あらゆる可能性を孕んだそれをこの場で目覚めさせる訳にはいかない。

最悪、龍より余程恐ろしい怪物が顕現する。

 

「ちょ、ケルピー? ジョージさんを頼んでいいですかね……」

 

自身の相棒である精霊馬を呼び出し、ジョージを背に乗せる。

幸いな事に、結界は既に崩れている。このまま帰還する事は出来るだろう。

何事もなければ、だが。

 

「おそうざざあざざいがやすいよぉおおおおおお」

「むしとりむしとりむしとり………」

 

2体の人モドキ達が、虫のように瓦礫の下から這い出てくる。

三桁に及ぶ人モドキが結界の核を守るように集まっていたのだ。

地面にカチ上げられシェイクされても生き残っていた幸運な個体がいてもおかしくはない。

 

「ここが正念場ですかね…」

アガリーが懐に手を突っ込み、人形を取り出そうとする。

 

 

その瞬間、2人の人モドキの首が同時にちぎれ飛んだ。

 

 

「ふぇぇえ…今度はなんなんです…?」

立て続けに起こる事態に、アガリーの口から泣き言が漏れる。

そんな彼女に、下手人である少女はサファイアの瞳を瞬かせながら話しかけた。

 

「大丈夫ッス…じゃない、大丈夫ですか? …もう安心ですよ。ウチらは正義の味方ですんで」

 

三日月のような笑みを浮かべながら手についた血を舐めるシスター服の少女は、何処からどう見ても正義の味方の対義語みたいだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【緊急】邪龍討伐オフ会

この話で「人間界に召喚されたったwwwwwww」は未完で終わろうと思っています。
応援してくださった皆様、大変に申し訳ないと思っています。
ですがこのまま不用意に連載のまま読者様に期待を持たせるのも申し訳なく、この話で未完だと宣言しておこうと思います。
この話を完結させられなかったのは明確に私の落度であり、次回作こそは完結させようと思います。


 

「あああぁっ!!」

赤い空にエメラルドの髪を靡かせながら、狩りの魔神が吼えた。

風の手綱を握り、嵐を纏って敵に向かって突撃。

考えなどない力任せの一撃。当たり前だ、魔神には力がある。獲物の小細工をねじ伏せられる力がある。

 

口を開き、己の命を奪わんとする狩人に龍が吠えた。

トラックのような大きさの歯が魔神をすり潰さんと迫る。

 

「オオッ!!」

 

瞬間、加速。

弾丸と化したジェシカは龍の口内を貫き、引き裂き、肉塊に変える。

 

ジェシカは龍を完全に翻弄していた。

唸り声が空に響く度に嵐の戦車は龍の肉を抉る。

数分と立たず、龍の身体は白アリに食われた柱の様に無数の穴が空いていた。

 

龍も一番の脅威がジェシカである事に気がついてはいるようで、何度も鎌首をもたげなら狩りの魔神目掛けて突貫していく。

 

「ポチ」

 

その度に雷鳴が轟き、龍は地面に叩き落とされる。

周りに漂う肉の焼ける臭いが魔神と龍の埋められない実力差を表していた。

龍の白かった体表にはグロテスクな火傷跡が顔を覗かせ、ミミズのように腫れ上がっている。

そして地に付した龍の元へ、悪魔達がアリの様に群がる。

 

「ケヒャーッ!! 弱い者イジメは大好きだぜ———っ!!」

「死ねどす! 死ねどす!」

「おで、敵、ごろすうぅうぅ!!」

 

完全に遊び半分だった。

子供が虫の手足を千切って遊ぶように、悪魔達は残酷に、醜悪に弱点を剥いでいく。

槍が、爪が、大鉈が龍の体を地面に貼り付けていく。龍の体が不器用な子供が作った昆虫の標本のようにズダズダに引き裂かれる。

 

スレ民が龍を地面に縫い留めているのを見たジェシカは空から急降下。地面から頭を出す鉄の塊に両手を添えた。

 

「———うぉおおあおおおチェストおおおぉおおぉ!!」

 

ずるずると地面から引きずり出されるのは、50mもありそうな鉄塔だ。

異界の地面を構成する一部となっていたそれを、ジェシカは握力に物を言わせて引っ張り上げる。

鉄塔は轟音と共に全身を地面から引き上げられ、くたびれたその全体を外気に晒す。

 

「オラっ死ね!!」

 

ジェシカは言葉と共に全身を捻り、腕に力を貯める。

解放、のち轟音。

魔神の剛力でぶん投げられた鉄塔は、空気を切りながら鉄塔へ迫る。

 

「…………rooooooaaaoooooooorrrr!!」

 

ジェシカが投げた鉄塔の先端が、空中で裂ける。いや、正確ににいうならば口を開く。

魔力によって命を吹き込まれた鉄塔は産声を上げながらサメの様に身体をくねらせ、その顎を開く。

開かれた牙は断頭台の如く。性格無比かつ冷徹に、龍の喉笛を噛み砕いた。

 

「———!!!!!」

 

龍の口から漏れ出る、声にならない絶叫。

掠れた笛のような断末魔を流して龍の頭部らしき物がごとりと地へ叩きつけられる。

それはおそらく、どうしようもないくらいの死で。

 

「…………っ、とったど————っっっ!!!」

 

悪魔達にとっての、勝利の証だった。

 

 

 

「ガハハハ!!」

「あはあはあは」

「キェーっキェっキェっキェっ」

 

悍ましい笑い声を上げながら、異形の群勢は龍の死体を囲み踊り狂う。

お調子者の悪魔が数百人揃えば、そこはもう祭りの会場だ。

異界を構成する堀立小屋を売店代わりにし、商いを始める者や龍の死体の上で楽器を取り出し掻き鳴らす者。

龍の死体に喰いつく者や、仲違いを起こして殴り合いを始める者も現れた。

 

乱雑で、粗暴な悪魔の宴。

そこにふらふらと近づく、一人の少女がいた。

 

「……あ? なんだあいつ? 人間……?」

「イッチの契約者……じゃないよな……?」

 

売店から酒を貰い、酒を酌み交わしていた二人の悪魔が少女に気づく。

彼らは顔を見合わせると、下卑た笑みを浮かべ少女に笑いかけた。

 

「イッチの関係者じゃないなら殺しても大丈夫だよなぁ?」

「俺人間って食ったことねぇんだよなぁ! 楽しみだぜ〜〜〜!!」

 

そう声を上げ、少女に遅いかかった二人の悪魔。

鉄すら引き裂く鉤爪が、少女に襲いかかる。

 

「——あんたら、悪い人っスね?」

 

次の瞬間、彼らの腕が消し飛んだ。

ぐしゃぐしゃに捻れた二本の手が宙に舞う。

 

「あ……? え……?」

「い、ぃぎぁああぁあぁっ!!」

 

痛みに悶え、地面を這いつくばる悪魔達には目もくれず、少女——パルミラは歩を進める。

パルミラのサファイアの瞳には、一人の悪魔が映っていた。

宴の中心で指揮を取る、一際大きな声ではしゃいでいる悪魔。すなわちジェシカである。

 

「ボスっぽいの、見つけたっス」

 

パルミラはその場で深く深く踏み込み、ミサイルのような勢いで跳ねた。

ドゴンッッ!! と激しい爆音と共に地面が蜘蛛の巣状に陥没する。

パルミラは宙で拳を構え、一直線に突き出した。

 

「ん?」

 

ジェシカが首を傾けた時にはもう遅かった。

亜音速で突き出されるパルミラの拳は、ジェシカの左目に突き刺さった。

そしてそのままパルミラの小さい拳は眼球を破壊、貫通し、ジェシカはその脳みそを盛大にぶちまけた。

 

 

□□

 

 

56:名無しの天使

武装よし

人数よし

憂いはありません 

 

57:サリエル

よし、準備はいいな?

今から突如出現した異界に突入する。

必ず生きて帰るぞ!!!

 

58:名無しの天使

おおおおおぉおおおっっっ!!!

 

59:名無しの天使

我らに祝福が在らん事を!!

 

60:名無しの天使

すいません パルミラが独断先行しちゃいました

 

61:名無しの天使

おおおおおぉおおぉお!!!

 

62:名無しの天使

おおおぉおおおおお!!!

 

63:名無しの天使

>>60

は?

 

64:名無しの天使

は???

 

65:サリエル

おい

おい

ちょっと待て

 

66:名無しの天使

あの子少々お転婆でして………

 

67:名無しの天使

お転婆でしてじゃありませんが?

 

68:名無しの天使

だから私は今回の計画に家畜人間を連れていく事に反対したのですが???

どうするんですかこれ 

 

69:サリエル

……お前ら、全速力だ!!

あのスットコドッコイが何かする前にとっとと終わらせるぞ!!!

 

70:名無しの天使

了解!!

 

71:名無しの天使

了解!!

 

72:名無しの天使

了解!!

 

73:名無しの天使

了解!!

 

74:名無しの天使

了解!!

  

 

 

■■

 

 

「が、ぁぁぁぁぁああっっっ!!」

 

脳みそをかき混ぜられ、絶叫を上げながらも、ジェシカは自分を襲った下手人の姿を無事な右目で見据えた。

そして腕を伸ばし、パルミラの首をへし折ろうとする。

 

(コイツ……! 脳みそを潰されても、まだ動けるんスか……??)

 

これに驚いたのはパルミラだ。

頭を潰されようと活動を開始する生き物など彼女の知識には無かったのだ。

パルミラは驚きながら、自分の首に手を伸ばす二つの手を殴打で粉砕する。

ジェシカの手首から上が弾け飛び、手のひらが空を舞う。

 

「これでどう——へぶっっ」

 

攻撃の手段を奪ったと思い込んだパルミラの頬を、衝撃が襲った。

 

「なめ、んなぁあぁぁっっっっ!!!」

 

ジェシカはもげた手首から露出した骨でパルミラを殴り飛ばしたのだ。

思わずよろめくパルミラに、ジェシカのラッシュが叩き込まれる。

 

「おおおああぁあぁぁっっっ!!」

「こ、の……! いい加減に死ねっス!!」

 

ジェシカの拳を拳銃に例えるなら、パルミラの拳は大砲のそれだ。

一撃一撃の威力が違う。ジェシカの体は至る所を削り取られ、穴あきチーズのように痩せ細っていく。

しかし、ジェシカは止まらなかった。

腕がもげれば蹴りを。足がもげれば頭で。

全身を使って、パルミラを殴りつけてくる。

 

殴り負けたのはパルミラだ。

ジェシカに殴り飛ばされ、地面に激突する。

 

「く……!」

 

土煙の中、立ちあがろうとするパルミラは忘れていた。

ここが祭りの中心部、敵地の真ん中である事を。

 

「オラっ催眠!!」

「……!!?」

 

謎の掛け声と共に、パルミラの体が一瞬固まる。

ジェシカとパルミラの戦いを観戦していた悪魔の一人が、パルミラにちょっかいをかけたのだ。

その隙をつくように、舞妓風の衣装をきた女がドスを構え、パルミラに斬りかかる。

 

「死ねどすっっっっ!!」

 

舞妓の一閃をかろうじて回避するパルミラ。

パルミラの金色の髪が二、三本、宙を舞う。

返しの拳を舞妓に見舞おうとパルミラが拳を構えるが、

 

「おでぇえぇ、敵! 殺すっっ!」

 

フクロウ頭の巨漢がパルミラをショルダータックルで吹き飛ばす。

パルミラは受け身も取れずに地面を転がった。

 

「………貴様、家畜人間だな?」

 

倒れ伏したパルミラに向かって、ジェシカが声を掛ける。

 

「か、家畜……!」

「コイツがあの……!」

 

周りの悪魔がどよめくなか、パルミラは周囲を油断なく観察していた。

 

(………あのデカい緑髪に、フクロウ頭……コイツら、めっちゃ強い……!! それに他の奴らも厄介っス……。一人一人は大した事なくても、こんだけいれば……)

 

負ける。

パルミラの頭にその三文字が浮かび上がった。

 

そして。

パルミラは、笑った。

 

(………く、ふひひ……!! 楽しい、楽しいっス!! ドイツもコイツも頑丈で、壊し甲斐がある!!)

 

ケタケタ、ケタケタと笑うパルミラに、周囲の悪魔がたじろぐ。

パルミラは自分の命に価値など感じていない。そういう生き物だからだ。

パルミラの頭にあるのはどうやって相手を壊すか。それだけだ。

 

「さぁ、行くっスよ!! 簡単に壊れないで下さいね!!!」

 

 

■■

 

 

180:1の婚約者

保守

 

181:1の婚約者

保守

 

182:1の婚約者

保守

 

183:1の婚約者

……あれ、もしかして自分以外、全員オフ会行った?

 

184:1の婚約者

………。

 

185:1の婚約者

……。

 

186:1縺ョ蟀夂エ??

ワイも行くか……。

 

縲格d:r187縲?87??縺ョ蟀夂エ??

 

縲格d:r187e縲九??

縲格d:r188縲?88???

 

縲格d:r188e縲九??

縲格d:r189夂エ??

 

縲格d:r189e縲九?

縺ョ蟀夂エ??

 

 

[ただいま地獄にて大規模な魔力嵐が発生しました]

[掲示板の接続が不安定になっております……]

 

 

■■

 

 

「おぁぁぁあぁっっっ!!」

「はぁああああぁああっっ!」

 

パルミラの拳がジェシカの体に穴を空ける。

ジェシカが全身を使ってそれを迎え撃つ。

 

先程と同じ光景が戦場の真ん中で繰り返される。

ただ一つ違うのは、パルミラの気迫。

パルミラは、ジェシカの攻撃を殆どガードしていなかった。

 

「ははは! きひ、くひひひっ!」

 

悪魔よりも悪魔めいた声を上げながら、パルミラは拳の嵐をジェシカに見舞う。

最早ジェシカの体は半分程が血煙と化していた。

それでもなお、ジェシカは引かなかった。戦いを止めなかった。

 

狩りの魔神と家畜人間。

二人はゼロ距離でお互いの返り血を吸い込みながら、殴り合いを加速させた。

 

 

「はい、そこまで。人の嫁にあんまり酷いことしないでくれる?」

 

 

突如として、戦いの間に割り込んできた気の抜けた声。

それに気を取られた瞬間、パルミラの体が吹き飛んだ。

 

「……えっ?」

 

ジェシカの口から間抜けな声が漏れる。

気づけばジェシカは長身の男にお姫様抱っこをされていた。

痩せぎすで、猫背な男だった。

白髪の髪から、品のいい顔がジェシカに向けられている。

白と黒の囚人服を見に纏い、手には鎖が千切れた手錠がはめてあった。

 

「や、はじめまして。やっと会えたね。我が婚約者どの」

 

そう言って猫のように笑う男の顔に、ジェシカは見覚えがあった。

 

「………べ、ベルゼ、ブブ……?」

「おや、オレの事を知っているのかい! これは説明の手間が省けた!」

 

ベルゼブブ。

地獄最悪の爆弾魔にして、地獄唯一の囚人。

痴情のもつれから何人もの大悪魔を爆殺し、臓物と糞が飛び散る爆破現場で呵々大笑する「糞山の王」。

悪魔も恐れるシリアルキラー。

誰が呼んだか、地獄七大やべー奴の一角に数えられる存在である。

 

そんな男に抱き上げられ、あまつさえ婚約者と呼ばれる今の状況を理解し、ジェシカの頬を冷や汗がつたう。

 

「あ、あの……」

「愛しき我が婚約者よ。少々この場は小蠅が多い。少し待っていてくれ、すぐに奴らの羽音を止めて見せよう」

 

ベルゼブブがそう言った瞬間、赤い異界の空に光が走った。

天上の光。聖なる光。天使の現れる兆候である。

 

「……この異界の騒動はテメェが主犯か。ベルゼブブ」

「酷いなぁサリエル。オレはたまたまこの場に居合わせただけだせ?」

「信じられるか、このゴミが」

 

(ゲーっ、七大天使………!!)

 

天使の群勢の正面に立ち、ベルゼブブと舌戦を繰り広げるのは、大きな鎌を持った真っ白な男。

七大天使が一人、サリエルだ。

 

宿敵である天使の幹部に、超弩級の狂人。

ジェシカにとって関わり合いになりたくない奴らのハッピーセットである。

 

(……コイツらが争っているうちに、逃げるか……?)

 

そう思い、ジェシカは逃げてしまおうと後ろを振り返る。

拳を構えているパルミラと目が合った。

 

全門の七大天使、後門の家畜人間。隣にはベルゼブブである。

 

(た、助けて………!!!)

 

内心で冷や汗を垂らしながらジェシカは助けをこう。

パルミラの単純な物理攻撃と違い、天使の浄化の光やベルゼブブの蝿爆弾(フライボム)はジェシカを殺しうる。

 

ジェシカが悪魔のくせに天に祈り始めた瞬間の事だった。

突如異界に振動が走った。

 

「何だ、何が起こった!!」

「さ、サリエル様! 龍が、龍が……!!」

 

その言葉を聞いてジェシカは顔を上げる。

空を見れば、確かに先程殺した筈の龍が何事も無かったかのように空を漂っていた。

 

()()()()()

複数の龍は異界の地面に絡みつき、その巨体を持って悪魔達の足場を粉砕しようとしていた。

 

「な、なんだぁっ!? なぜ龍がここに!!」

「さっき倒した筈じゃねぇのかよアイツ!!」

 

突如現れた、巨大な肉塊。

自分達の身を脅かす第三勢力に、天使、悪魔の双方に混乱が広がる。

 

「狼狽えるなお前達!! ……悪魔が混乱している? この事態はテメェらの仕業じゃないのか?」

「だからそう言ってるじゃん? ……なぁ、サリエル。手を組まないか?」

「あ? 何寝言ほざいてるやがる」

「状況が分かっていないのはお前だ。()()()()()()。人間界が滅びるぜ?」

 

ベルゼブブが指を指すのは、下。

異界に浮かぶガラクタで出来た地面の底。

 

そこには、巨大な赤子がいた。

一つの街ほどに大きな、真っ白な赤ん坊がいた。

体に不釣り合いな大きさの頭部を持つ赤ん坊は、瞬き一つせずにサリエルを見ていた。

 

龍の体は、その赤ん坊の頭部から生えていた。

赤ん坊の頭から、何千、何万と生えていた。

 

「……おいおい、コリャどういう事だ?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……1のレスが遅いから心配して顕現してみれば、恐ろしいのがいるじゃないか。たまには直感に従ってみるものだね」

 

「な、何だあれはぁぁっっ!?」

「ひぇええっっ、お家帰るぅうっっ!!」

 

突如現れた怪物に、悪魔も天使も恐慌状態に陥る。

天使はともかく、悪魔は面白半分でここに現れた烏合の衆である。そうなるのも当然と言えた。

 

ただ一人、パルミラだけが赤ん坊をじっと見つめていた。

 

「………フェネキア?」

 

 

□□

 

 

パルミラがフェネキアについて覚えていることはそう多くない。

ただ、彼女がいつも自分に向けてきた食欲については覚えている。

殺意にも似た、ねばつっこい視線。

唾液を垂らしながら「大きく育つのよ」と囁くその顔。

それだけは、鮮明に覚えていた。

 

「フェネキア……?」

 

パルミラはポツリと言葉をこぼし、彼女にしては珍しく焦った顔を浮かべる。

 

フェネキア。

パルミラの故郷で暮らしていた家畜人間であり、パルミラとその家族を魔術の実験により人間界に飛ばした張本人である。

天使達の話によれば、「美食家」という二つ名を持った悪い人らしい。

確かにパルミラから見ても、彼女は少し変だったような気がする。

 

目の前で浮かぶ赤ん坊と思い出の中のフェネキアの容姿は全く違うが、その体から放たれる肌を刺すような食欲は一緒だ。

 

「フェネキア、だと……? あれがかの「美食家」とでも言うのか!?」

「そ、そうっス。あの食欲は間違いないっス」

 

パルミラの隣にいた緑髪の悪魔が、唾を飛ばしてパルミラに食ってかかる。

パルミラは揺さぶられながら、悪魔の質問に答えた。

 

「ん……つまり、龍を動かしているのは「美食家」? 龍は人を取り込む種族では無かった……? ……いや、むしろ龍が人の魂に入り込まれやすい存在だったと言う方が説明がつくな」

「……つまり、どういう事っすかね?」

「「美食家」はあの龍を殺そうと……恐らく捕食しようとして、返り討ちに遭ったのだ。そして龍はその怨念に取り憑かれた、と理解していればいい」

 

今まで殺し合っていた相手に教えをこうのは、パルミラとしても不本意ではあったが緑髪の悪魔は素直に教えてくれた。

新しい体験に困惑しながらも、パルミラは殺到してくる龍の群れを見据える。

 

「……ウチは飛べないっス。援護をお願いしてもいいですか?」

「この状況だ、文句は言わん」

 

緑髪の悪魔はパルミラを抱き抱え、ふわりと空中に浮き上がる。

 

「……名前は、何て言うんスか?」

「ジェシカだ。ジェシカ・スタンプ・バルバトス」

 

 

 




この後は、ベルゼブブを追って異界に顕現したルシファーがベルゼブブにぶん投げられ、龍の本体の口の中に放り込まれたり。
ルシファーが作った隙を突いて、パルミラがポチを身に纏って龍の本体の中にある、フェネキアの魂目掛けてライダーキックしたり。
何とかパルミラのライダーキックから逃れようとしたフェネキアの魂を、ベルゼブブの蝿爆弾が吹き飛ばしたり。
龍との戦いが終わってジェシカに求婚しようとするベルゼブブが、ブチギレたルシファーに半殺しにされて地獄に連れ帰られたり。
身体能力が高すぎて普通の人間相手だと一緒に遊べないパルミラが、ジェシカを友達としてロックオンしたり。
自分の無力を実感したリラがデビルサマナーを目指したり。
そんな話を想定しておりました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。