地上最強の高校生、憧れの青春を謳歌します (やってられないんだぜい)
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プロローグ

 今回から始まった異色のクロスオーバー!
 完全バトルと恋愛のコラボレーション!
 え?刃牙にも梢とのせっせがあっただろって?
 誰があんなの認めるか!
 ヒロインの癖に殆どヒロインしてねぇし!
 隣に住んでいて半年会わないカップルなんかカップルって言えるかぁ!
 刃牙にも青春ぐらいさせてやりたいんじゃ!
 まぁ今回は刃牙世界の物語を多少設定いじって説明してるだけなので次回から本番になりますがとりあえずどうぞ!
 


 この日本に『範馬刃牙』という少年がいた。

 

 刃牙は地上最強の生物である『範馬勇次郎』と、世界二大財閥の一角である朱沢コンツェルン会長である『朱沢江珠』を両親に持ち、この世に産まれ落ちた。言わば勝ち組と世間から言われる存在だった。………この一家が普通の家族なら。

 

 江珠の戸籍上の夫は勇次郎では無く朱沢鋭一という人物だ。そもそも彼女は朱沢コンツェルン御曹司である朱沢鋭一に嫁入りした身。ならば勇次郎は不倫相手か?違う。朱沢鋭一は既に死んでいる。勇次郎に殺された。江珠はその事実を目の前で見ていた。その上で惚れたのだ。そんなイカれた一家に産まれた刃牙が世間一般の勝ち組どころか、普通の生活すら出来る筈もなかった。

 

 刃牙は幼少期から過酷なトレーニングを課せられていた。その修行は一般男性がこなすもののレベルを遥かに超えていた。それらは全ては父の意思だ。自身の息子を最強の戦士に育て上げ、自らが最強の戦士を喰らう為である。喰らうとはつまり、殺すと言う意味だ。

 

 江珠もそれに賛同した。そもそも彼女は刃牙を勇次郎から守ろうと思わない。勇次郎に反抗する意思などは存在しない。何故なら、彼女にとって、自分の子供がどうなろうとどうでも良いのだから。所詮は勇次郎を自分に繋ぎ止めるための道具。江珠は勇次郎にさえ愛されればそれで良かったのだ。

 その為の金ならなんだってした。様々な刺客を送り込んだ。肉体を作るために世界一のコーチ陣と最新の化学も取り入れたり、不良を金で雇い約100人で襲わせたり、プロボクサーに刃牙を倒すよう交渉したり、あろうことか範馬の名を使ってまで刃牙を倒すようけしかけた。刃牙に勝てたら勇次郎に会わせると。

 

 そんな、産まれながらに理不尽な運命を背負わされながらも、刃牙は親の意向に反発しなかった。幼少期に見た父勇次郎の強さに憧れていたのもあるが、1番欲しているものを手に入れる為だ。それは愛。刃牙は母からの愛を何よりも欲っしていたのだ。

 

 江珠は勇次郎に見捨てられないように刃牙を強くする必要があった。その為、一人暮らししている刃牙の家を何度も訪れていた。その度にハグやら頰にキスをしたがそこに愛は無い。子供はそう言うのに敏感だ。刃牙も例外では無い。

 

 江珠が勇次郎に惚れたのは、彼の圧倒的な強さを肌で感じ取ったからである。なら、自分が勇次郎に勝てば自分を愛してくれる。自分をある程度見てくれると信じていたから。

 

 その為、刃牙は誰よりも強くなる為に数々の強者と文字通り命懸けの戦いを繰り広げて来た。

 

・ジュニアウェルター級チャンピオンでありながらヘビー級チャンピオンを含む6階級全ての制覇を目指す男、『騎馬民族ヂギールの末裔』【ユリー・チャコフスキー】

 ・体長2m余りの大猿、『飛騨山の主』【夜叉猿】

 ・齢14にして最強の極道、『喧嘩師』【花山薫】

 ・自衛隊最高戦力の一角にしてオーガ(勇次郎)と並び称される軍人、『環境利用闘法』【ガイア】

 

  彼等を相手に刃牙は12歳で見事に撃破った。勇次郎は刃牙が花山薫を倒した後、修行している彼の前に現れた。刃牙はこの時、既に父を憧れの対象と見ていなかった。それが起きたのは対花山薫戦での出来事だった。

 

 

 2人の戦いは、最初は花山薫が圧倒していた。持ち前の日本人離れした体格の彼は、パワーとタフネスで刃牙の攻撃を意にも介さない。しかし、持ち前の戦闘センスと身につけた動体視力で的確にダメージを与えていく。お互いボロボロになるまで戦い、見事刃牙の勝利で幕は降りた。互いに認め合い、痛み分けの形で2人の勝負は終わった。ギャラリーも2人の勇姿に拍手で賞賛した。

 

 そんな時に現れたのが刃牙の父である範馬勇次郎だった。彼はヘリからパラシュート無しにダイブし、2人の戦いで割れた窓から侵入した。勇次郎は2人の数を見ると『始まったばかり』と称し、戦いを続けるよう言い放つ。しかし、彼等の間では既に終えた戦い。続ける意思は無いと刃牙が言うと、勇次郎はこの程度は喧嘩ではないと言い、アマいと吐き捨てる。それにキレて襲いかかった花山薫を笑顔でボコボコにし、それを止めに走る刃牙も一撃でノックアウト。地上最強の前では、所詮子供の馴れ合いとその場にいた者は思わされた。

 

 

 自分の目指す最強は勇次郎の様な道行く者全てを破壊するのでは無く、絆の中にあると思い、憧れていた父と違う道を進む事を心に決めた。勇次郎が現れたのはそんな時だった。勇次郎は刃牙に1ヶ月後に立ち会う事を約束する。だが、目的はそれだけでは無かった。刃牙の初めて強敵(トモ)となった夜叉猿を殺し、生首を持参して目の前で粉々に砕いたのだ。勇次郎のもう一つの目的は刃牙の怒りを煽る為だった。親子の関係無しに刃牙が自分を躊躇無く殺しにかかる様に。刃牙は初めて父に敵意を覚えた。ガイアとの戦いは対勇次郎の為更なるパワーアップを目指す為だった。

 

 

 

 とうとう待ちに待った勇次郎戦。敵意剥き出しで顔面だろうと躊躇無しに攻撃を繰り出す刃牙だったが、勇次郎の前では赤子も同然だった。全くダメージを与えられず、一方的な敗北。刃牙の能力は既に近代格闘技一流の水準に達しているにも関わらずだ。

 

 そして敗北した刃牙に待っているのは死。勇次郎は既に意識のない刃牙を本気で殺しにかかった。その光景を目の前で見ていた江珠。勇次郎の楽しそうな表情に釣られて近づく彼女だったが、土壇場で親子の愛に目覚め、刃牙を守る為に勇次郎に立ち向かう。しかし、女性の彼女が勝てるはずもなく、勇次郎のあまりの力強い抱擁力に背骨を折られ亡き者となった。

 

 

 

 そこから刃牙は憎き父を倒す為、武器の使用以外のあらゆる行為が許される非合法格闘場所。東京ドーム地下6階に存在する『地下闘技場』の選手として己を鍛える。地下闘技場では賞金は存在しない。己の力の証明や名誉を求め、世界各地のならず者からそれぞれの武道の達人が集まる。

 

 ・鎬流空手、『紐切り鎬』【鎬昂昇】

 ・身長2mを超える巨人、『ジャイアント・デビル』【マウント斗羽】

 ・鎬昂昇の兄で天才外科医、『人体破壊戦法』【鎬紅葉】

 

 3年も経つ頃には、刃牙は地下闘技場チャンピオンになっていた。そんなある日、地下闘技場創設者徳川家現当主である徳川光成の主催により、最大トーナメントが開催される。

 

 ・卑怯の極み、『Mr.卑怯』【猪狩完至】

 ・中国拳法の若き達人、『魔拳』【烈海王】

 ・異母違いの兄、『勝つ為に明日を捨てた男』【ジャック・ハンマー】

 

 何度も敗北しかけるがなんとか勝利し、優勝を勝ち取った。決勝では異母兄弟であるジャック相手に範馬一族特有の筋肉が浮かび上がった。

 

 その後も彼の命懸けの戦いは終わらなかった。それどころか益々加速していく。世界各地の脱獄した死刑囚や常識が通用しない原人との戦い。

 

 ・死刑囚、『毒手使い方』【柳龍光】

 ・死刑囚、『ピンチ力』【シコルスキー】

 ・全局面対応型闘争術マホメド・アライ流拳法の噛ませ、『元恋のライバル』【マホメド・アライ・jr】

 ・世界で唯一刑務所を出入りする男、『繋がれざる者(ミスター・アンチェイン)』【ビスケット・オリバ】

 ・恐竜時代からの生還者、『原人』【ピクル】

 

 

 

 刃牙数々の強敵と戦い、強敵(トモ)を得た。そして2度目の勇次郎戦。彼は若干15という歳で範馬勇次郎と互角に渡り合う。最終的には我儘を勇次郎相手に通したという理由で勝利。地上最強の称号を名乗る事を認められた。(刃牙は負けを認め、名乗る事はしない)

 

 

 

 この濃厚な3年間。刃牙の考え方は色々と変化した。勇次郎への思いは憧れから怒り、憎しみへ。一時はそこに勇次郎がいるだけで怒りが湧き上がり吠えるほど。しかし、勇次郎の完璧な作法など、自分の知らない父の一面に触れたり、今まで出会った格闘士誰もの目標にしているのが自分の父である事を素直に誇らしく思っている。

 

 そして戦いの考え方においても同様だ。初めは地上最強を目指す格闘士『グラップラー』であった彼だが、いつしか出来た最愛の人を守り、尚且つ父親より強ければ良いと言う考えに変わった。(勇次郎が世界最弱なら自分は世界で2番目に弱くていい)だが、結局は強い奴と戦いたい戦闘狂へとなった。

 

 そんな刃牙だが、彼は物心ついた時から常人では考えられない修行をこなして来た。一時も休まずに。結論から言うと一時的に己の体を休ませたくなった。以前にガイアに『自分の体を思いやれ』と言われた事があったのを思い出し。この血生臭い環境から脱出したい訳では無い。結局自分もその血生臭い戦いが好きなのだから。それでもやはり夢に見る高校生活。

 

 そして現在、刃牙は勇次郎を家に呼び、重大発表をする。

 

 「親父。俺、青春を謳歌したい」

 

 

 




 ご愛読ありがとうございました。

 刃牙って色々とネタ凄いですよね。普通に格闘漫画としても好きだしネタとしても面白いので今作で刃牙知ったって方で格闘漫画に抵抗無い方はオススメです。

 では次回もお楽しみに!またね
 
 


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波瀾万丈

 お久しぶりですね皆さん!今作の前書き後書きについてのご説明をしたいと思います。

 基本的に前書きは皆様への訂正、誤字などの修正。その他の報告にさせて頂きますます。

 気になった感想などへの説明も返信以外に前書きで報告もします。

 後書きはキャラと作者のプチ雑談になります。

 何も無い場合は後書きだけになるのでご了承下さい。それでは本編どうぞ!

 

 


 俺は今、地上最強の生物である親父とちゃぶ台越しに向かい合っている。何故なら今日は親父に重大は報告があるからだ。その重大報告とはズバリ、

 

 『青春を謳歌したい!!』

 

 しかし、それ故に現在物凄いプレッシャーを感じている。何故なら親父が俺に求めた強くなる事と真逆に位置するものだからだ。今までも親父と意見がぶつかり合ったりもしたが、強くなる方法が違うだけで地上最強の生物(親父)に勝つというゴールは同じだった。しかし、今回は一時的にとはいえ完全に道を外れると言う事。強さ云々と無縁の生活をするという事だ。

 

 それを親父が許してくれるとは到底思えない。金銭、盟友、女、酒よりも闘いを好むあの男の事だ。言葉を発した瞬間、ちゃぶ台返しをしてからの踵落としが繰り出されるだろう。そのまま親子喧嘩再び勃発。結局口を開かぬまま茶やら煎餅を口にするうちに30分が経った。

 

 だが、いつまでもこうしてはいられない。それに喧嘩になったらそん時はそん時だ。また戦えば良い。ふとした事で喧嘩になる。親子なんてそんなもんだ。例え、たった一度の喧嘩で友達で無くなっても家族は違う。それで絶縁する様な家族は家族とは言えない。

 

 刃牙は意を決して口を開く。

 

 「なぁ親父………話があるんだ」

 「散々待たせておいて第一声がそれか?刃牙よ」

 「?!悪かった親父!」

 

 土石流の様な破壊力のあるオーラに刃牙は気圧される。しかし引きはしない。そもそも引くぐらいだったらしない。

 

 一緒に暮らしていないなら勝手に決めればいいと思うかもしれないがそう言う問題じゃない。確かに世界各地を自由気ままに巡るあの男に俺の日常生活なんて興味の欠けらも無いだろう。それでも俺のやる事を認めて欲しいのだ。世界にたった1人の肉親なのだから。

 

 「それで話なんだけどさ………俺、高校生活は青春したいんだ」

 「勝手にしろ」

 「分かってる!親父は許してくれる………ってええ?!親父?!良いのか!」

 「なんだ?文句あるのか?」

 「い、いや!」

 

 速攻声を荒げてあの頃のお返しと言わんばかりの星一徹ばりのちゃぶ台返しを披露すると思っていた。しかし、その予想は見事に外れてまさかの許可。

 いやいや、俺の意図をしっかり理解していないに違いない。

 そう思って説明をする。

 

 「親父、青春したいってのは一時的に戦いと離れるって意味だぜ。そりゃもうルーティーンの様に日課になってるから家ではするけどそれ以外は別。放課後はみんなでカラオケやらで遊びたいって意味だぜ」 

 「それは、この俺がお前の意図を汲み取る事も出来ないウツケと言うことか刃牙よ!」

 「そ、そんなつもりじゃねぇよ親父」

 

 これには怒るのかよ。それにしても意外だ。ブチギレすると思ってたのに。

 そんな刃牙に心を見透かした様に勇次郎が喋り出す。

 

 「刃牙、お前はエアとはいえ味噌汁を俺に作らすという我儘を通し、俺を相手に唯一戦い(ヤリ)抜いたんだ。それに俺は満足した。互いの目標は達成した。ならばそれ以上俺からお前に言う事は無い」

 「え……え?」

 「以前にお前に言った筈だ。お前が踏み込んではならぬ領域があると」

 「あ…ああ、母さんの事だね」

 

 以前に刃牙が勇次郎に母の事を尋ねた際に言った言葉だ。

 

 「それにお前は義務教育は終えた身。いちいち俺に許可なんか取るんじゃねぇ」

 「あ……ありがとう」

 「話は終わりか?くだらぬ事で俺を呼びつけるな。次くだらぬ事で呼び出したら今度は全力の※鞭打をお見舞いしてやる」

 「それはガチで勘弁」(あれで全力じゃねぇのかよ)

 

 ※鞭打 ・身体中の水分をイメージし、滑らかなになった全身を鞭の様にしならせて攻撃する。筋トレでは鍛えられない皮膚を攻撃対象とする為、全身が急所となる。 作者イメージはしっぺを極限まで強化した痛さ。

 

 あまりにあっさりした終わりに刃牙は、目の前の男は本当に親父かと疑う。自分以外の者は全て弱者。他人の事なんて自分を楽しませる道化師か、自分の疼きを止める鎮静剤、残りはゴミとしか思っていない男。それは例え息子だろうと関係ない。それが範馬勇次郎という人物の筈だ。しかし彼の姿を見間違える筈もない。身長190、体重100キロ超えで筋肉モリモリマッチョマンの変態(刃牙は勇次郎が変態だとは知らない)。顔まで作り上げた筋肉で僅かに歪む。自分の何倍もあるのではないかと錯覚させる程強烈なオーラ。本人以外の何者でもない。

 

 そのまま親父は玄関を開けて外へ出る。すると風が勢いよく中へ入ってくる。理由は彼の友人である軍人『ゲリー・ストライダム』(通称キャプテン・ストライダム)がヘリから梯子を垂らしていたのだ。また世界を歩き回るんだろうな。

 

 すると梯子に手を掛けた勇次郎が振り返った。

 

 「刃牙、勝手にしろとは言ったが腑抜けんのだけは許さねぇ。次俺がお前を見かけた時、腑抜けてだらしなかったそん時は俺がこの手でお前の人生を終わらしてやる。肝に銘じとけ」

 

 そう言って梯子を自分に強く手繰り寄せ、6mはあろう上空にあるヘリの入り口にジャンプする。ヘリは片側を思いっきり引っ張られた事でバランスを崩すがすぐに立て直し、勇次郎の塔乗を確認すると何処かへ飛んでいった。

 

 「はは、こりゃ次会った時に今より弱くなってたらガチで殺されるな」

 

 

 

 勇次郎の言葉に苦笑いした刃牙は頭を掻きながら家に入り、半年先の受験に向けて猛勉強に励んだ。目指すは凡矢理高校。学力は偏差値55と精々中の中程度でそこまで難しくない………と思うだろうか?それは甘い。刃牙は散々勉強を疎かにして強さを磨いてきた男だ。偏差値なんて測った事ないから正確には分からないが、30半ば程度だろう。それを半年で20上げるなんて時間が足りな過ぎる。そして塾に行く柄でも家庭教師を"雇う"柄でもない。そんなのは現実的ではないのだ。

 

 つまり、現実的でなければ良い。刃牙は世界の誰よりも、勇次郎よりも優れている技術がある。それはイメージ力。刃牙はこれまでイメージ力を駆使して世界チャンプや架空の敵を相手に闘いを挑み強くなってきた。彼のイメージ力があれば相手の打撃も完全に再現され、血を流す事にもなる。彼程で無いにしろ、

 

 そのイメージ力を今ここで発揮する!彼がイメージしたのはあの顔が妙に腹立つ時代遅れの唇現国専攻の講師。彼をこの場に召喚する!

 

 『今でしょ!今でしょ!』

 

 家庭教師を雇う気は無い。しかし作らない訳では無いのだ。今の彼のイメージ力は姿形物理的能力だけでなく、その者の知識もインプットする事が出来るのだ。刃牙はイメージで作ったムカつく家庭教師にこれから受験日まで毎日勉強に励んだ。専門じゃなくても高校受験くらいは平気だろと。

 

 『今でしょ!今でしょ』

 「黙ってくれるかな?」

 『   』ショボーン

 

 途中ひたすら『今でしょ』と喧しく、でん○ろう先生に変えようと何回も思った。しかし、そのムカつく顔に怒られたく無い為に必死になって勉強したのが、より自分を高める事に繋がったと後に語る。

 

 そして受験当日。刃牙は落ち着いた様子で席に座る。唇は召喚するつもりはない。自分のイメージ力は見える人には見えてしまうからと言うのもあるが、誰かの手を借りて試験に挑みたくない。戦いと同じだ。強くなる為にたくさんの人と触れ合うが、いざ決戦の時では1人で戦いたい。それに別に落ちたって命を取られる訳じゃないんだ。落ちる気はさらさら無いが気楽に挑む。

 

 そして答案用紙やら問題用紙が配られ試験開始の宣言がされる。

 

 「試験開始」

 

 刃牙は問題用紙を開く。最初は国語。問題を見るや否やすらすらとマークシートを埋めていく。あの唇は存在が煩かったけれど分かりやすく、頭に残ったからだ。

 

 「あ、」

 

 そうして解いていくと1つ開けた隣の席から小さな声が漏れる。横目で見るとどうやら消しゴムが机からこぼれ落ちた様だ。消しゴムを落とした彼女はとてもテンパっていた。こんなでは落ちるのは目に見えているだろう。しかしこうして気付いたのも何かの縁だ。凡矢理高校の入学席を争うライバルだが、刃牙は彼女に手を差し伸べた。机から転がり落ちる消しゴムを彼女も視認できない速さで地面に落ちる前に拾い机に戻す。周りからは刃牙が動いた事すら気付かれていないだろう。

 

 「え、え?」

 

 彼女は落ちた筈の消しゴムが机にある事に驚いて声を漏らし、尚且つ周りをキョロキョロしていた。

 オイオイオイ、落ちたわこいつ。試験中に声を出す奴がいるかよ。助けたのも無駄で退場だろうな。

 しかしそう思う刃牙だが、試験官は全く注意する様子は無かった。どうやら気付かれていない様だった。あんな動作をして気付かないとか試験官失格だと思う刃牙。しかし、軽い気持ちだった彼は、全教科の試験終了時にはこの学校大丈夫かと思うほど試験官の無能さに頭を悩ませる。

 

 (おかしいだろ。試験官も隣の女も。消しゴム落とすわ、シャーペン落とすわ、挙げ句の果てに問題用紙や解答用紙も落とすってどう言う事だよ。しかも試験官はその時に限って手持ちや教室の時計見たり、窓見たり、他の受験者見てたりで注意どころか気付きもしない。最後ら辺なんか落としたのが手持ちにある現象に感動を覚えたのか笑顔だったし)

 

 自分の試験と隣のもの拾いをして余計に疲れた刃牙。止めようかとは思わなかった。一度やったのだから最後までやりきる。途中で止める事はしない。

 

 

 そして面接がやってきた。と言っても所詮は高校受験の面接。入社面接より何倍も簡単。無難な回答をすれば良いのだから。入社面接なんかした事無いけど。

 

 「よろしくお願いします」

 「では下さい」

 「失礼します」

 

 試験官に促されて席に座る。作法を覚えていればどうって事ない。それも唇に叩き込まれた。だが少し変だと思った。試験官が1人なのだ。普通こういうのは複数いるものだというのに。まぁそんな事気にしても答えが出る訳もなく、面接が始まった。質問にも順当に回答していき、最後の質問になった。

 

 「それでは最後の質問にさせて頂きます。範馬さんは暴力についてどうお思いですか?」

 「暴力ですか?」

 

 まさかの質問に一瞬言葉が詰まるがすぐに立て直す。

 

 「そうですね。自分は唯の暴力は嫌いです。他人を傷つける事を目的とした暴力、自分の我を通す為の理不尽な暴力、快楽に任せた暴力、それらは全ていけない事だと思います。それらは人を自分の利益の為に不幸にする為の力です。

 ですが、力をつける事は大事だと自分は思います。先程までの理不尽な脅威から大切な者を守る事が出来るからです。

 『暴力はいけない、話し合いで解決するべき』

 よく聞く言葉で立派な考えです。でも、話し合いで解決出来ない事があるのも事実です。例えば愛する者がちょっかい出されている時、話し合いで解決すればそれが1番です。ですが相手が暴力的な人であれば簡単に暴力に発展します。そんな時、力がなければ愛する者を守る事が出来ません。すでに襲われている時なんか口は特に無意味です。後悔してからは遅いのです。

 他にも正義と信じている拳も嫌いです」

 「それはどうしてかね?」

 「正義と言えば聞こえは良いですが所詮は暴力。それに正義の拳と信じる者に限って一歩間違えれば悪の拳に変わる。その人が知らない内に!正義と信じて。

 守る拳は同時に相手を倒す拳でもある。だから守る拳も所詮は暴 暴走と言う事を理解しなければいけない。自分はそう思ってます。長々とすみません」

 「いや、大丈夫だよ」

 

 言ってて思った。長くね?って。自分が当事者だからか長くなった。てか結局は暴力を肯定したって内容になったけど危険人物に捉えられてないかな?。

 そう思う刃牙に試験官からの朗報。

 

 「ならこの映像は何かな?」

 「あ…………」

 

 試験官が見せたのはニコ動。急遽生配信され、アーカイブに30分も待たずに消去されたくせに世界で500万回再生を記録した伝説。タイトル、『史上最強の親子喧嘩 範馬勇次郎VS範馬刃牙』、つまり、刃牙の映像だ。顔までしっかりともろバレである。刃牙はこの映像を目にすると体が硬直した。500万再生と言っても見た人の99%は格闘ファン。こんな不良もいない平凡な学校なんかに知ってる人なんかいないと思ったがまさかの落とし穴。

 

 「これをどう説明するかな?範馬刃牙君?」

 

 CGにしか思えないヌンチャクの様に振り回されても無事でいる男が目の前にいるのだ。そんな危険人物を入学させてくれる学校があるか?否だ。つまりこの時点で不合格。なら自分を作る必要はもう無い。

 

 「どうもこうも全て事実ですよ。そのチビの方は間違いなく俺です。デカいのが父。唯の親子喧嘩ですよ、先程述べた暴力の」

 「やはりか」

 

 そう言った試験官の口はニヤけていた。まぁ犯行を実行される前に犯人を捕らえたみたいなもんだからな。ボーナスも出るだろうし嬉しいだろう。

 

 「ではこの暴力はどんな暴力かな?」

 「親子喧嘩に大した意味なんて無いですよ。俺の余計な一言と父の躾から始まった結果です」

 「それであれ程の事に……」

 「てかもう終わりなら帰って良いですか?どうせ俺不合格なんで」

 

 これ以上ここにいる意味はないと刃牙は立ち去ろうとする。しかしそんな刃牙は試験官は不思議そうな顔をする。

 

 「どうしてそう考える?筆記はまだ採点してないから分からないが面接はいまのとこ100点なのに」

 「点数なんて関係ないでしょ。その映像持ってたら。それにしても良く残ってますね。その映像どの動画サイトにも載せるの禁じられてるから持ってるだけでレアなのに」

 「ああ、それは私が君のファンだからだよ」

 「ファン?」

 「そうそう、地下闘技場の観客。君の試合は毎回見に行ってたよ。ここ最近は徳川様の考えに納得出来なかったり、君が出てなかったから行ってないけど」

 「ええ?!じゃ最後の暴力は?」

 「唯の興味本位だけど」

 「………はぁ〜〜びびったぁ!」

 

 刃牙は焦りから解放された事で緊張が解け、膝に肘をつけて体を支える。

 

 「こらこら、最後まで気を引き締めなさい。面接中なんだから」

 「はぁい」

 「それに君の性格は見てて知ってたからね。試合でも敵を後遺症に残る怪我をさせなかったり、必要以上に傷つけなかったからね。しっかり力の危険性を理解していた。まぁ少し時間が経ったから考えが変わってるか気になった感じだね」

 「それって変わってたら危なかったって事ですよね」

 「まぁそうなるね。ハハ」

 「笑い事じゃ無いですよね。それにしても先生が地下闘技場好きって結構危なく無いですか?」

 「常識は弁えてるよ。だから徳川様からジャック・ハンマーと死刑囚の試合を知らされた時は行かなかったし。凄い試合を見れるからって死刑囚が脱獄しても許す事は私には無理だし」

 

 

 

 なんだかんだあった受験も無事終了。後日無事合格が言い渡された。

 

 「無事合格出来たし、景気付けにカツ丼大食いに挑戦するか」

 

 この時刃牙は知らなかった。試験官の正体がまさか………

 

 

 

 

 

 

 

 




 刃牙「おい作者」
 作者「何?」
 刃牙「親父の性格どうなってんの?」
 作者「見た通りだけど?」
 刃牙「見た通りじゃねぇよ。親父が許す訳ねぇだろ」
 作者「それじゃ言い合いになって2話から親子喧嘩か?もうそれニセコイ要素皆無じゃん。刃牙単体じゃん。ただでさえ初感想で一歩間違えれば上等な料理にハチミツをブチまけるクロスオーバー言われてんだからいきなり冒険させるなよ」
 ??「それより私の名前登場しなかったんだけど」
 作者「ああ、君は多分次回から出るよ。負けヒロイン」
 ??「酷?!」
 刃牙「てか何回物落とすんだよ、鈍臭いな」
 ??「バキ君まで?!」
 刃牙「名前なんで知ってんだ?」
 作者「伏線?」
 刃牙「どうせ適当だろ」
 作者「………………それじゃ次回もお楽しみに!」
 2人「「逃げんな!」」

 てか試験官に触れてなかった


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ご対面

 よっ!俺の名前は範馬刃牙。今日から凡矢理高校に通う1年生だ。俺が高校生活に求めるのはただ1つ、平凡な日常だ。高校の名前にも付いている平凡、だけれど笑える楽しい毎日を送りたいのだ。何?平凡な毎日なんてつまらない?刺激的な方が楽しいだって?そんな奴等に一言言ってやる。刺激的な毎日なんて生まれてからずっと体験して来た。崖から落ちたり、極道に殴り込みしたり、戦場を体験したり、学校に死刑囚が乗り込んできたり、挙げたらキリが無い。平凡な日常こそ、俺にとっては未知の存在なんだ。それに徳川のじいさんの事だ。刺激的な事なんて望まなくてもやってくる。冥界だろうが異世界だろうが世界中の技術を結集させて何処からでも強い奴を連れてくる。あの件でもどうせ懲りてない。あのじいさんはそう言う奴だ。

 

 そしてとうとう俺の平凡な毎日が今日から始まる。入学式の前に下駄箱に貼ってあったクラスに入り、黒板に貼って席表に従い、自分の指定された席に座る。………この時、刃牙に電流走る。

 

 ((どうやって友達作るんだ?!))

 

 そう、楽しい日常に必要不可欠な友達の作り方を知らないのだ。友がいない事は無いが、その友は互いに全力を尽くして戦った結果仲良くなった者達。学友なんて呼べる者は1人もいない。それどころか中学まで学校でまともな会話した事がない。あるとすれば不良と絡んだりするくらい。別にコミュ障って訳では無い。ただ一般人がどんな会話をするのか知らないのだ。梢と付き合ってたけど殆ど会話は無く、デートでも2人で静かに散歩していたくらい。その梢とも現在連絡すら何ヶ月も交わしていない。

 

 しかも周りを見渡すと更に由々しき事態に発展していた。

 

 (あぁ?!やばい。既にグループが出来つつある。その中に入っていけるのは余程の猛者(コミュ力の)。戦いで言えばトップクラスの俺でもここ(学校生活)で言えば初心者、ヒヨッコもヒヨッコ。しかも、焦って策もなく突っ込んでいけば恥をかくのは明白。そうなればネタキャラと認識が定着し、クラス替えがあるまでずっとイジられる)

 

 ゲンドウポーズで策を練るが一向に妙案が浮かばない。『大丈夫じゃない、大問題だ』。このままでは高校3年間ボッチで寂しい高校生活確定だ。かと言って爆死してネタキャラになるのは我慢出来ない。それはそれで平凡だけれど。

 

 そんな時、隣の席に誰かが座る音が聞こえた。チラ見するとヘアピンと首に下げている少し大きめなペンダントが特徴の男子とメガネ男子がいた。

 

 「なぁ集、昨日のニュース見た?菅田将暉結婚だってよ。良いよなぁ」

 「知ったの昨日かよ。情報がイマイチ遅いよな楽って」

 「細かいことはいいんだよ。大事なのは結婚ってことよ。俺も結婚してぇな。それで明るい家庭を築くんだ」

 「小野寺とか?」ニヤニヤ

 「こんな所で言うなって!誰かに聞かれたら、ん?」

 「あ……」

 

 あ、やべ。バレた。

 一体どんな会話をしてるか今後の参考にしようと思って聞いていたら、本人にバレてしまった。だが、これは好都合だ。彼等の会話はいわゆる恋バナだ。訳の分からないドラマやゲームの内容なら兎も角、この手の恋バナは基本相槌打ったりしてれば良い。しかも分からない内容でも、それを聞き返せば相手も興味を持ってくれてると思い調子に乗ってくれる。チャンスなんだ。まずは自己紹介から。

 

 「盗み聞きして悪かったな。ワザとじゃないんだ」

 「別に気にしてねぇよ。勝手に騒いだ集が悪いんだ。『俺?!』隣の席なら聞こえちまうよな」

 「ははっ、俺は範馬刃牙。同中居なくて話す相手いなかったんだよ。俺も混ぜてくれないか?誰かにバラすなんてつまんねぇ事はしないからよ」

 「範馬?」

 「………」

 

 やばい、反応が薄い。もしかしたら迷惑がってるか?急に仲間に入れてくれって。しかも後ろのメガネも何も言わない。てか範馬って繰り返したけど試験官みたいに視聴者か?

 

 ヘアピンしてる少年は刃牙の顔を一通り見ると右手を差し出す。

 

 「範馬って珍しい名前だな。俺は……一条楽。よろしく」

 「ああ、よろしく一条」

 「?!ああ!でも下の名前で読んでくんないか?苗字は苦手なんだ」

 「じゃあ俺も刃牙でいいぜ楽」

 「ああ!よろしくな刃牙」

 

 ふぅ〜、範馬を知らない人で良かった。てか楽のやつ名前言うの渋ったり、苗字が苦手とか何かしらあんのか?一条って苗字か。……ま、いっか。詮索されるのいやだろうし、こっちだって似た様なもんだしな。

 

 「それで、そっちのメガネは?」

 「メガネ?!酷いな刃牙さんよぉ!ならば聞きたまえ!俺の自己紹介!俺の名前は舞子集!楽とは中学からの親友!自称凡矢理高校一の情報通で趣味は写真撮影!風景から人物に至るまで幅広く行なっております!いずれは写真館シュウで商売する気なのでその時はご贔屓を。オーダーメイドは料金割高になるのでご利用は計画的に」

 「自称ってまだ俺ら入学したてだろうが。刃牙、趣味は写真撮影じゃなくて盗撮だからコイツ」

 「盗撮も写真ですよぉダンナ。あ、俺の事も下の名前で良いぜ。俺も既に刃牙って呼んでるし」

 「面白い奴だな集って。まぁ盗撮も程々にしろよ」

 

 集は中々面白い奴だった。今まで会ったことの無いタイプ。楽も会話してるだけで冗談も分かる真面目な良い奴って感じがするし、良いバランスしてんだなこの2人。出だし好調、初日で友達2人ゲット!

 

 そしたら楽がちょいちょいと手招きし、顔を近づけると耳元で話しかけて来た。

 

 「なぁ、本当にバラしたらしないんだよな?」

 「しないって。そんな事したら秘密の共有出来ないし、話す相手もいない。そもそも高校での友達を無くしてまでする行為じゃねぇだろ」

 「そっか、なら良いんだ。小野寺はな「え?今呼んだ?」………」

 

 楽が話しかけて来た女子に気付くと固まった。楽の反応的に彼女が小野寺なのかな?彼女の話をしてるのを聞かれて動揺してるって所か。楽が惚れた女はどんな人なのかと思い彼女に目を向ける。確かに楽が惚れるのも納得する美少女だ。なんか見てるだけでほんわかするというか、なんというか、とにかくする。……でも何処かで会った事があるよ、う……な………?!

 

 「あ?!」

 「えっ、何かな?」

 「い、いや、なんでも」

 

 そうだ彼女は会った事があるなんて生易しいもんじゃない。今でも鮮明に思い出せるあの光景。試験の時に隣に座っていた消しゴムやらシャーペンやら落としまくるドジっ子だ!顔まで注視してなかったから直ぐに気付かなかったけど間違いなく彼女だ。『えっ』って声も一緒だよ。

 

 「………あ、私の勘違いだったらごめんない。もしかして試験の時隣だった人?」

 「そうだよ。」

 「やっぱり!そうだと思ったんだぁ」

 

 彼女は謎が解けた事で笑顔になった。楽は小野寺が俺と知り合いだった事に若干戸惑っているが、彼女の笑顔で顔がニヤけている。隠す気あるのだろうか?

 

 「それじゃ貴方は小咲の周りで超常現象が起きた事知ってるかしら?」

 「ちょっ?!るりちゃん?!」

 「え、誰?」

 

 彼女の後ろからひょこっと小さなメガネ女子が現れた。制服着てここにいるって事は高校生なんだろうけどとてもそうには見えない。中学生どころか、下手したら小学生レベルの身長だ。

 

 「貴方、今失礼な事考えたでしょ?」

 「い、いや」

 「まぁ良いわ。それで何か知らないかしら?例えば落ちた筈の消しゴムが机に戻ってるとか」

 「いや、知らないな。勘違いじゃないか?」

 「そう…」

 「小野寺、その話本当か?」

 「本当だよ一条君。落とした筈なのに一瞬で机の上に戻ってるの!それも時を止められたみたいに」

 「そんなDIOのザ・ワールドじゃあるまいし」

 「でも本当だもん!」

 「るりちゃんは見たの?」

 「問題解き終わって前向いたら、それらしき現象を何回か。私、小咲の後ろだったからよく見えて『それはカンニングですzぷぎぁあ?!』黙りなさい舞子君。でも確証は無いわ。ただ、気になるのは超常現象が起きたのは全部範馬君のいる右側だった事。そして試験終了時に異常に疲れた様子の範馬君が小咲をジト目で見てた事、ね」

 

 するとみんなの視線が刃牙に集まった。疑われているのは明らかだった。だが、俺はバレないと自信がある。

 

 「悪いな、えっとぉ『宮本るり』宮本。勘違いさせる行動して。異常に疲れて見えたのはまともにテスト受けたのが初めてだったからだと思う。小野寺の方を見てたってのは、小野寺じゃなくてその先の窓から見える空をみてたからだよ」

 「テスト受けたのが初めて?」

 「中学の頃は少しやんちゃで」

 「………そうなの、疑って悪かったわね」

 

 何故なら超能力なんて非科学的な能力なんてそう簡単にあってたまるかってんだ。じいさんの姉は別だが。それにあのスピードを見切れる訳が無い。何故なら人が知覚出来ないスピードで動いたからだ。人が脳からの信号で意識するまでの0.5秒より速く動き始め、行動を終える。その間人は無意識だから何があったか知る事すら叶わない。

 ※そこまで重要ではないので軽い説明ですが、詳しく知りたい方は『意識、0.5秒』や、『刃牙、無意識』などで調べれば出てきます。

 

 

 「私、宮本るり。よろしく」

 「私は小野寺小咲だよ。3人とは同じ中学だったんだ。これからよろしくね。範馬君」

 「あぁ、俺は範馬刃牙。出来れば下の名前で呼んでくれると助かる。苗字は呼ばれなれてないっつーか、なんつーか。嫌だったらあれだけど」

 「それなら仕方ない、かな。えっとぉ、刃牙…君。これで良いかな?」

 「ああ、これからよろしく頼む小野寺」

 「よろしく範馬君」

 「えっと、宮本?」

 「範馬君」

 「宮本……それで良いよ」

 「冗談よ、刃牙君」

 

 宮本は表情が変わらないから冗談かどうか分かりにくいな。それにしても友達が4人に増えた!マジで楽達が救世主(メシア)だったのかも知れない。

 

 その後も5人は軽い談笑をしていると、先生が教室に入って来た。クラス中に散らばっていた生徒達は直ぐに自分の席に座る。先生は白髪のおじさんだ。この人が担任になるのだろうか。

 

 「えー、これから入学式になりますので速やかに廊下に並んで下さい。並び順は自由で結構です。それと私は担任では無いので悪しからず」

 

 どうやら担任では無さそうだ。正直少しボケ老人の方が無駄な接触が少なくて助かったのだがしょうがない。彼の言う通り廊下に5人固まって並んだ。すると楽が肩を組んでコソコソ話しで話しかけて来た。

 

 「お前小野寺に名前呼びされやがって!俺だってまだなんだぞ」

 「俺も苗字で呼ばれたくないんだよ。てかなんで一条って呼ばれてんだよ。苦手じゃねぇのか」

 「女子に名前呼びは恥ずかしいだろ」

 「あぁ、なんとなく分かった。楽ってすげぇ奥手なタイプだろ。そうしてる間に小野寺取られても知らねぇぞ。小野寺モテそうだからな」

 「そんな事言うなぁ」

 

 彼の奥手具合には誰になるか知らないが彼女も苦労するだろうな。

 

 そして入学式。式は進んでいき、校長先生の話になり。俺は驚愕した。校長先生は試験官だったからだ。まさか校長自ら試験官してた事に驚く。校長も試験官やるんだ。そして校長は驚いた顔をしてるこちらに気付き、手を振って来た。

 

 式が終わる頃には新入生のグチが溢れていた。長々と話されて参っているのだろう。まぁ、元々話なんて右から左に受け流しながら瞑想してたので対して苦では無かった。そして軽い休憩中にトイレに行く事になった。楽は始まる前に行ったらしく、集と2人でトイレを済ませる。中には誰も居らず、2人きりの空間になった。

 

 「なぁ、刃牙」

 

 すると唐突に集が話しかけて来た。その内容は驚きのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お前ってあの地上最強の範馬刃牙?」





 刃牙「おい、馬鹿作者」
 作者「何?」
 刃牙「お前前回の後書きで試験官について触れるの忘れたろ。直ぐに入れたけど変な感じになったじゃねぇか」
 作者「すいません。本当にすいません。あれ本編描いてる時から入れようとしたけど忘れちゃったんですよ」
 刃牙「確認しとけよ」
 作者「今回からは気をつけます」
 

  楽「それにしても小野寺に超常現象か」
 小咲「ほんと凄かったんだよ!なんでも机に戻ってくるんだもん!家では出来なかったけど本当にビックリしたんだもん!」
  楽「お、おお、分かったから落ち着け」(小野寺かわええ!お持ち帰りしてぇ!)
 小咲「刃牙君の方に転がると全部戻って来たけどなんだったんだろ」
  楽「不思議だな」
 小咲「不思議だね」



 作者「あれでバレてねぇってすげぇな」
 刃牙「まぁ良いじゃねぇか。そして次回はとうとうニセコイ ヒロインの登場だ!」
 作者「さぁ!彼女は誰のヒロインになるのか?!原作通り楽?それとも今作主人公刃牙?それともまさかの集?オッズ10000倍の校長?!」
 刃牙「校長はねぇだろ」
 作者「さぁ!果たしてどうなるのか!因みに作者1番人気は集なので可能性はありますよ」
 刃牙「嘘だろ?!」
 作者「どうでしょう?」
  集「俺がどうした?」
 刃牙「入ってくんな!」バキ
  集「」チーン
 刃牙「あれ、集?集!しゅーーーー!!」
 作者「刃牙が殺陣を犯したので次回は予定を変更して突然の最終回になりますがご了承下さい」
 刃牙「殺してねぇし!終わりもしねぇ!次回も普通に続くからな!絶対に見てくれよな!


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条件

 日本シリーズ初戦マクガフがやらかした。完全に勝てる流れを1人でぶち壊しやがった。折角山本由伸から点をとって球数で降ろさせたのに。マジで酷いよ。

 そして今回から原作スタートです。お楽しみ下さい。


 「お前ってあの地上最強の範馬刃牙?」

 

 刃牙は集の一言に体を強張らせ、お小水が止まる。が、直ぐにチョロロと☆お小水のかほり☆を漂わせる。集の質問に対する回答は後回しにした。その間の集の表情は先程までのおちゃらけ顔ではなく、真剣な表情へと変わっていた。しかし、あの映像を知っていたら無理もない。常人なら目で追うのも至難なスピードでの戦いだ。映像でもその凄さは理解できる。CGならこの表情はしない。もし自分が、いや、それどころか対戦相手である勇次郎以外目の前の男に襲われたら誰も太刀打ち出来ないと思っているのだ。

 

 だから集にとってこれは賭けなのだ。刃牙の人間性を確かめる為の賭け。集は対してトイレに行きたかった訳じゃなかったが、トイレに行くと言ったのは刃牙を誘い出し、事実を聞き出す為だった。楽が着いてこないのは事前にトイレを済ましたことを知っていたからだ。別にトイレに人がいっぱいならそれで良かった。人混みなら周りに聞かれにくい。兎に角、刃牙と楽を離せればそれで良かった。

 

 既にもしもの為の手は打ってある。ポケットにしまってるスマホに、トイレに入る前にLINEで『範馬刃牙は危険。これを見次第スクショして刃牙に関わるな』と入力してある。後は刃牙が、自分に危害を加えようとした時に、この文を送信するだけ。勿論、学校だからと言って自分の身の安全は保障出来ない。もし刃牙が危険人物で、学校お構いなしなら自分はあの世行きだ。危険な賭け。それでも実行したのは、家柄の所為で苦労した恩人である親友に幸せになって欲しいという想いだった。

 

 チョロロロロロ……チョロ……ジジジ

 

 刃牙がお小水を済ましてチャックを上げる。遂に刃牙が動く。自分の意識がある内に楽にお別れの言葉を思った。

 

 (楽、俺を助けてくれてありがとうな。本当に感謝してる。今の俺がいるのはお前のお陰だ。絶対に幸せになれよ。あの世に言ってもいつだってお前の幸せを願ってるからな)

 

 「集………お前」

 「なんだ?」ゴクッ

 

 そして運命の瞬間、集は唾を飲み込む。全てが決まる。そんな集に向けた刃牙の一言は、集にとって意外な物だった。

 

 「格闘技ファンなのか?それも根っからの」

 「………え?」

 

 刃牙のまさかの疑問に集は思考が一時停止する。集は隙を突かれたと思ったがその様子は無く、本当に純粋の疑問の様だった。『ラヴ・ミー・ドゥー』は飛んで来ないし、ヒゲの落書きも無かった。

 

 「いやー、俺の事知ってんのって格闘技ファンが多くてさ。しかも裏情報まで知ってる人物大半。つい最近あの映像を見せて来たじーさんも格闘技(主に自分の)ファンだったからさ。それで集もそうなのかなって」

 「いや、俺はニコ動で流し見してたらたまたま見つけて」

 「へぇ、そうだったんだ。それで、見てどうだった?満足できた?」

 「あ、ああ。……凄かったぜ。あんな凄いの見たの初めてだ。CGじゃないんだろ?叔父にCGに詳しい人居るんだけど、その人はCGじゃないって言ってたし」

 「まぁな。そっかぁ、満足したか。ならよかった」

 

 刃牙に口封じの為にどうこうしようなんて気はさらさら無かった。ただ、あれを見てる人の大半はCGを疑っていた。校長は元々知ってたが、知らない人から見てどう思ったか気になっただけだった。

 

 そう言うと刃牙は手を洗い、出口に向かっていく。集は刃牙がバレたからと言って口封じをする様な奴では無さそうで少し安心する。

 

 「あ、そうそう」

 

 しかし、何かを思い出し、刃牙の足が止まった。集はまた唾を飲み込む。

 

 (口封じは忘れてただけってかよ。GMKやジル・ド・レェみたいな上げて落とすとか性格悪)

 

 集はポケットにあるスマホを握る力が強くなる。

 

 「俺の事、あんまりバラして欲しくないんだよね。例えば、さっきから過剰に意識してるポッケにあるスマホから楽とかに暴露するとか」

 「?!」

 

 完全にバレていた。相手が次に繰り出す攻撃を予測するのは格闘士として初歩中の初歩。その格闘士の頂点にまで上り詰めた刃牙には僅かな動作でお見通しなのだ。ポケットにあるのはスマホかハンカチ、ティッシュ。その中でこんな場面で意識するのは外との通信手段があるスマホになる。

 

 (ジョセフかよテメェは)

 

 「俺もさ、みんなみたいに普通の生活送ってみたいだけなんだよね。普通に登校して授業を受けて弁当食って授業を受けて帰宅する。そんな毎日をさ。今まで強さだけを目指した毎日を送ってきたからさ、親父を目指して。普通の子が体験する楽しく遊ぶってのを犠牲にして」

 「……」

 「だからさ、出来れば悪目立ちしたくないんだ。例えば、あの映像を公開されて学校に居にくくなるとかね。別に犯罪じゃ無くても。だから、ニコ動の話は周りにして欲しくないし、映像を持ってたらバラされたくもないんだ。だから、」

 「俺を、口封じの為に殺すってのか?」ビクッ

 「口封じ?!そんな事しねぇよ。誰かを殺すなんて事俺はしねぇ。なんだぁ、そんな事ずっと考えてたのか集は。だから震えてたのか」

 「え?あ、」

 

 集はそこで初めて自分が震えているのに気付いた。覚悟を決めたつもりだったが、やはり恐怖を乗り越えてはいなかった。そんな集を見て刃牙は軽く微笑んでから頭を深々と90度下げた。

 

 「悪かった。お前を怖がらせて。あの映像の張本人と2人きりのトイレだ。そりゃ怖かったよな。もし俺がやばい奴だったら自分が危ないだろうに。それでも俺の事を知らない楽や他の人の為に危険を知らせようと自分を餌にしてまでするなんて、良い奴だなお前って」

 「……別に、恩があるだけさ」

 「いや、恩があるからって普通、自分の命を賭けない。そこまで出来るのはお前が良い奴だからさ。普段はおちゃらけても、いざという時は友の為に行動出来る。カッケェじゃねぇか。そんなお前と出会えて俺は良かったぜ」

 

 集は刃牙に素直に褒められて、一瞬恐れていたのも忘れてしまう程素直に嬉しくなった。刃牙の言葉には基本表裏が無い。思った事をそのまま言葉に移しただけ。だからこそ、そこに建前やお世辞は存在せず、受け取る側は素直に嬉しく思う。

 

 「褒めてんじゃねぇよ。俺はお前を恐れてたんだぜ。顔を合わせた時から。見た瞬間、直ぐに気付いたさ。あの男だって。あの動きは人間の限界を超えていた。ふざけるのも忘れる程にな」

 「しょうがねぇさ。それが普通だ。でも恐怖に立ち向かえる勇敢な奴だ。そんなお前だから頼みがある」

 「なんだ?」

 

 刃牙はそう言ってまた頭を下げた。

 

 「俺の事はみんなに内緒にしてくれ。タダでとは言わない。もし俺の日常生活を見て危険で共に生活出来ないと思ったらクラス中のみんなの前で俺の事を暴露してくれていい。映像なら校長先生に頼み込めばくれる様、俺から言っておく。そしたら俺はお前からの思いとして潔く自主退学して、元の生活に戻ると約束するよ」

 「…………分かった。だが他に条件がある。これが守れないなら出て行ってもらう」

 「分かった。条件はなんだ?」

 「1つ、楽と小野寺の関係に余計な事をするな。2人を無理矢理くっつけたりするのは後々大きな歪みを生む。小野寺を楽から奪うってのも論外だ」

 「知ってるよ。第三者の一言で人生は大きく変わるって事は良く知ってるよ。それに友の好きな人を横取りなんてドロドロしたのは気分が悪い」

 「そして2つ、お前の今までの人生がどうだったか知らないが、もしお前関係のガラの悪い奴がいちゃもん付けてきたらお前が対処しろ。力を隠そうとしてこっちに被害を出すな」

 「了解。そん時は俺を置いてみんなを連れて直ぐに逃げてくれ。その隙に片付ける」

 「そして最後。折角同じクラスになったんだ。楽しく過ごせよ」

 「?!あぁ、勿論だ。その為に俺は高校生になったんだ」

 

 そう言って2人は手を取り合った。2人の関係は友としては歪かも知れない。まだ2人の間に壁があるのはしょうがない事だった。それでも、刃牙の素直な思いが集を条件付きで良いならと妥協させるに至った。始まりはマイナスからのスタート。しかし、卒業する時には1番の親友となっているとはこの時誰も想像出来なかった。

 

 

 

 

 

 そして入学式から2週間が経った。あれから普段は3人で行動している。集とあれ以降は普通に話している。普段ふざけている集。たまに話す恋バナでモテないと話す3人。楽は意中の相手がいるからそれ以外は興味無いとして、集は性格がアレなのと顔がフツメンだからモテないと本人は言うが、あの真剣な時の態度と表情は中々のイケメンだった。運動も卒なくこなし、勉強も意外と出来るので勿体なく感じる。

 

 刃牙の現在の悩みは、初日の4人以降友達が増えない事だ。楽しいのだが、もし別のクラスになった時が心配になる。

 

 そんな刃牙は今日も元気に走って登校している。別に大した距離じゃない。精々30キロだ。約1時間で着く。やはり今まで朝から運動してた身としては体を動かさなければ起きた感じがしないのだ。だからこれは食後の軽い運動とさほど変わらない。学校近くでランニングを止めて汗を軽く拭いてから、歩いて登校してるのを装う。教室に入ると楽が小野寺に鼻に絆創膏をしてもらっているのが見えた。

 

 「おーす刃牙」

 「おっはー刃牙」

 「おはよう刃牙君」

 「おはようみんな。どうしたんだ楽、その傷」

 「ちょっとな」

 「ふーん……まぁ、良かったな」

 「なっ!なにがだ!!」

 

 朝から絆創膏を貼ってもらえてご機嫌な楽。ホームルームでもニヤけっぱなし。これで良くバレてこなかったのが意外だ。

 

 「では転校生を紹介するぞー。入って桐崎さん」

 「はい」

 

 そう言われて入って来た桐崎という転校生は金髪で大きなリボンが特徴的な美少女だった。普通の人は彼女にこんな印象を受けるだろう。しかし刃牙は違った。

 

 (へぇ、結構身体能力高そうだな。何かスポーツでもやってたのかね?)

 

 「アメリカから転校して来た桐崎千棘です。みなさん気さくに接して下さいね」

 

 彼女はアイドル顔負けの笑顔にモデルの様なサラッと伸びた長く細い脚。彼女の登場にクラスは騒然とする。男女問わずクラスのみんなが彼女の美貌の虜になっていた。そんな時、彼女が何かと目が合うと大声で叫んだ。

 

 「「あ──────────!!」」

 

 その何かとは楽だった。

 

 (転校生と知り合いとかToL○VEる展開かよ)

 

 と、最近読み始めた恋愛漫画をさもよく知ってるかの様に思う刃牙であった。

 

 

 

 

 

 

 




 作者「刃牙はエチエチ漫画代表作であるT⚪︎LOVEるの読者となった」
 刃牙「あのさ、勝手に変な設定つけないでくれない?なんでよりによってあの漫画?作者が好きなのは分かるけどそれを俺に押し付けないでくれない」
 作者「刃牙は集から渡された漫画を読んでハマったのだった」(意味深)
 刃牙「何が意味深だ!このボケ作者が!エロいのはお前だけで十分なんだよ!俺をお前みたいな変態と一緒にすんな!」
 作者「はぁ?!T⚪︎L○VEる舐めるなよ!あれエッチな表現ばかり目が行くけど結構ストーリーもしっかりしてるんだからな!蜜柑可愛いんだからな!モモエロ可愛なんだからな!ヤミ最高だかんな!」
 刃牙「結局キャラじゃねぇか!てか色々と今作ってネタ作中に含めるのな」
 作者「話題を急に変えたのは如何なものだが確かにそうだな。以前から入れてみたいと思ってたんだよ。まぁめちゃくちゃって訳じゃ無いからタグにネタって入れるのはどうかと迷ってるんだけど。どう思う読者のみんな!」
 刃牙「入れなくて良いだろ。初戦作者の知ってるよネタって本気でネタ入れてる人からしたら数圧倒的にショボいし馬鹿にされるのが落ちさ」
 作者「まぁそうだよね。後、お前のヒロイン決まったぞ」
 刃牙「え?!誰だ!」
 作者「言うかよ、そしたらつまんねぇだろ。可愛いとだけ言っておく」
 刃牙「出た出た、主要キャラみんな可愛いからヒントになって無い奴。梢以外全員じゃん」
 千棘「か、かわ//」
 小咲「刃牙君//」
 るり「目おかしいんじゃ無いの?//」
 ??????「/////」
 刃牙「なんでみんなここに居るんだよぉ!まだ登場してないキャラまでさ!どう言う事だよ!」
 作者「安心しろ。ここはうみねこで言うメタ世界。盤上の世界になんの影響もない。だからこの世界のキャラと盤上のキャラの知識や記憶、感情は共有しない。しかもこの世界ではなんでも自由だ。ハーレム作るのも倫理観の無いこの世界では許される。
 女性陣「「「「「「「「「刃牙君」」」」」」」」」
 刃牙「た、たすけ、うわぁーー!」
 作者「ま、そんな訳でここは所詮茶番なので本編とは関係ありません。ヒロインは1人を予定しております!………てか今1人多かったようなグサ………ドサ」

 梢「斬滅すべし作者」


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謝れない人はガキ

 評価5人に達成した事に評価が付きました!

 遊戯君さん、Popo助さん、カイジイカさん、藤堂伯約、KAWU1235さん、本当にありがとうございます!これからも頑張ります!



 


 楽と転校生桐崎の言い争いは収まる事を知らない

 

 「あーだこーだ!」

 「そーだどーだ!」

 「アルファベーター!」

 「シグマオメガ!」

 

 クラスメイトを取り残し、段々と白熱していき、とうとう楽は女性全般の逆鱗に触れてしまう。

 

 「この……猿女!!」

 「誰が、猿女よ!!!」

 

 スッ

 

 桐崎の力一杯の拳が楽に向かって放たれる。本来ならドゴオォンと凄まじい音を立てる拳が刃牙の介入によって音も立たずに止められる。これにはクラスの誰もが驚愕する。美少女から繰り出される拳が次の瞬間には刃牙の手の中に収まっているのだ。驚くのは女子の拳を止めた事ではない。驚くべきは誰も刃牙が止めるまでの動きを視認出来なかった事だ。

 

 (すげぇ、あれが地上最強の実力かよ)

 (やべっ、思わず体が動いちまった)

 

 これは完全に想定外。格闘士としての本能が身体を動かしてしまったのだ。今まではこんな事なかった。対人戦を避けて来た故の禁断症状かも知れない。しかし、起きてしまった事を嘆いても仕方ない。この場を穏便に済ませるのが先決だ。

 

 「ま、まぁ2人ともそこら辺で済ませようぜ。今ホームルーム中だし周りが戸惑ってるしお互いにごめんなさいしようぜ。楽、いくらなんでも女子に猿女はいけないだろ。しかも転校初日に暴力女なんてイメージ悪くする言い方は良くない。失言だぜ。桐崎さんもどんな謝り方したか知らないけどしっかり面と向かって謝ったのか?鼻の絆創膏は鼻血が出たからだぞ。それをちょっとで済ませるのは駄目だろ」

 「……悪かったよ、桐崎さん。言い過ぎた」

 

 刃牙の言葉に楽は冷静になる。ムカつく相手ではあったが自分の行いを反省して謝る。しかし、桐崎の方はそうでなかった。

 

 「いやよ!私悪くないもん!それに何?女子にぶつかっただけで鼻血なんて。本当女々しいわね。もっと鍛えなさいよ!もやし!」

 「はぁ?!」

 

 桐崎は素直になれない性格だった。一度発言したものを簡単に謝罪する事が出来ない。例え刃牙の言葉が正しいと理解していても。楽ももやしと言われてまたカッとなっている。このままではさっきと状況が変わらない。なら強制的に変えるしかない。

 

 「まぁまぁ楽。それじゃ桐崎さんは謝んなくていいよ。君の言う通り楽も鍛えた方が将来役に立つぜ」

 「はぁ?!何言ってんだよ刃牙」

 「良いから座れって」

 「?」

 

 桐崎は理解出来なかった。謝れって言ったり謝んなくて良いと言われたり。

 

 「大人なんだから子供の我儘ぐらい笑って済ませてやれよ」

 ピシッ‼︎

 「おい刃牙?!火に油注いでどうすんだ!」

 

 子供の我儘と称された桐崎は刃牙へと矛先を変えていた。

 

 「誰が子供の我儘ですって?!」

 「お前に決まってんだろ」

 「?!」

 「だってそうだろ。悪い事をしたら謝る。誰だって分かる当たり前のことだ。お前はそれが出来てないんだ。子供以外何者でもないだろ。悪い事をして許される人物はいない。悪い事をして何も言われないのは謝る事を知らないガキか、誰も敵わない圧倒的な力で反発意見をも黙らす暴君だけだ。そして君は前者に当たる。まったく、我慢が通る歳はとっくに過ぎてんのに一体どんな甘やかされた環境だったんだよ」

 「誰がガキよ!!!」

 

 桐崎の拳がまた繰り出された。既に楽を殴ろうとした事から誰しも想像出来た。桐崎じゃなくてもあれだけバカにされたら怒るのは当然だ。流石にまぐれは2度は無い。それに第三者が止めるのとは訳が違う。今回こそ決まるそう思われた。

 

 スッ

 

 しかし、また音も完璧に吸収して止めた。拳が迫っているのに瞬きもせず、完璧に受け止めたのだ。

 

 「言ったろ。お前は前者だって。所詮は女の拳。圧倒的な力には程遠い。で、どうするんだ。謝るのか?謝らないのか?」

 「…………ごめんなさい」

 「謝んのは俺にじゃねぇだろ」

 「うぅ、ごめんなさい」

 「最初から素直になれば良いのに。だってよ楽」

 「いや、色々あってもう冷静になったし怒ってねぇよ」

 「そっか。それじゃ今度は俺だな」

 「え?」

 

 『今度は俺』そう言った刃牙は桐崎に頭を下げる。

 

 「ごめんなさい。桐崎さんの事悪く言って」

 「いや、私こそ悪かったわよ。殴ったりして。手ェ痛かったでしょ。女って言っても私力強いから」

 「平気だよ。女の拳に変わりない。音が出なかったのが良い証拠だ、大した事無いよ」

 

 そう言って刃牙は手をヒラヒラさせた。この行為は桐崎を手助けする行為だった。転校初日から暴力女と言われ拳も振るった。この行為だけ見れば危ない近寄り難い存在。しかし刃牙が易々と止め、平然としていた事で、力の弱い女子が怒って殴ろうとしたが簡単に止められたとしか周りには見えず、その殴ろうとしたのもキレても良い内容で馬鹿にされたからしょうがないと思われる。つまり、この件で桐崎の印象はそこまで変わらない。『怒らすと拳が飛ぶけど、その実態は可愛らしいパンチが飛ぶだけ』と、逆に好印象気味になっているのだ。被害を受けたのはどちらかと言うと刃牙だ。『喧嘩は止めたとはいえ、人の親の教育方針まで馬鹿にした』と。その後は素直に謝っているが、評価は若干下がっている。

 

 

 

 休み時間

 

 「良かったのか刃牙」

 

 廊下で風を浴びて街を眺めている刃牙に集が話しかけて来た。

 

 「何がだ?」

 「この件で被害を受けたのは、本来、喧嘩を止めた功労者であるお前だけだぞ。桐崎さんもお前に受けた悪口で逆に会話の花を咲かせてるしよ」

 「別に良いんじゃね。確かに女子からの印象は悪くなったけど楽の事も桐崎さんの事も助けられたからな」

 「桐崎さんも?」

 「彼女が本当に悪い奴なら俺だって助けないさ。聖人じゃねぇからな。初めに楽を殴る時に俺が音も出さずに止めたのあるだろ。確かに彼女の力より俺の方が上だってのもあるけどそれだけじゃねぇんだ」

 「力が弱いだけじゃ無いのか?」

 「いや、彼女の力はかなりのものだよ。だけど彼女はインパクトの瞬間で力を抜いていた。普通なら1番力が入る所で。拳はもう止まらないけど少しでもダメージを軽くする為に」

 「そうだったのか。キレて殴ろうとしても直ぐに冷静さを取り戻してたんだな」

 「あぁ、あんな口してるけど彼女は優しい奴だよ」

 

 そう言って女子達との会話を終えてから楽と言い合いしている彼女に目を向けた。

 

 「それにしても範馬君って感じ悪くない?」

 「ねぇ!なんか俺喧嘩止めてやりました感じ」

 「女子のパンチ止めて俺強いって思ってんじゃないのぉ?」

 「そうかな?」

 「え?!小咲ちゃん?!」

 

 刃牙の陰口を叩いてるクラスメイトの所に小野寺が話しかけていた。小野寺は他人の悪口を一切言わない子。それだけならぶりっ子と思われ、良く思われない事があるのだが、この数週間で彼女はただただ良い子だという認識がクラスで確立した。そんな彼女に、誰かの陰口を叩いてる姿を目撃されて彼女達は気不味くなっていた。

 

 「刃牙君は確かに口は良くなかったけど、結局だれも怪我無かったし。それに、あれがあった事で自然と桐崎さんに話しかけやすくなった子もかなりいると思う。転校生する子って何かしらの事情があると思うし、直ぐに話し相手が出来たのは物凄く助かったんじゃないかな?」

 「あ〜確かにね」

 「まぁ自然と会話する事が出来たかな」

 「でもたまたまじゃない?小咲ちゃん範馬君の事買い被り過ぎでしょ」

 「そうかなぁ?でもああやって止めに入るのは勇気ある事だと思うな」

 「それは……そうだね」

 「良く考えてみれば女子のパンチだからって簡単に止められないよね」

 「もしかして何かの格闘技やってるんじゃない?」

 「そうだとしたら格好頼りになりそうだよね」

 「ねぇ〜」

 

 彼女が入った事で刃牙の陰口の内容が悪から善へと変わっていた。彼女の言葉で考えが変わる。これも彼女の才能の1つなのだろうか。

 

 「でも小咲さっきから範馬君の事刃牙君って呼んでるよね?どうしてなの?」

 「もしかして付き合ってるの?!」

 「そっ……そんなんじゃ無いよ!刃牙君が苗字で呼ばれるの苦手って言うから」

 「ふーん、そうなんだ」

 「そうだよ。からかわないでよ〜」

 (((その苗字で呼ばれるの苦手って言うのは範馬君の作戦なのでは?)))

 

 小野寺のこの反応は素直に受け取ってはいけない。彼女はこの手の話になると毎回照れる。例えそれが好きな人でもそうでなくても。だから小野寺の好きな人が刃牙という確証は無い。

 しかし逆は違う。同性からしたら若干羨ましく思うが小野寺はモテる。兎に角モテる。やや童顔で100人に聞けば100人が可愛いと答える顔。性格も聖女の様に誰でも隔てなく優しく、だから刃牙が小野寺に名前で呼ばれたいが為に理由を付けたのもありうる話。3人の中で、『刃牙は小野寺を好きかも知れない』という認識が言葉を交わさなくても目で通じ合ったのだった。

 

 

 

 

 

 




 
 刃牙「小野寺ありがとうな。俺のフォローしてくれて」
 小咲「ううん、大丈夫だよ。それより凄かったねあれ。流石に地上最強だね!」
 刃牙「地上最強って言っても俺より上に親父以外にも宮本武蔵や恐らく範馬勇一郎も強いだろうしなんちゃってなんだよな」
 小咲「それでもだよ」
 作者「てか俺を置いて後書き始めないでくれない?ここのメインは俺だから」
 刃牙「そうだったのか?」
 作者「そうだよ!俺プラスゲストで盛り上がる場所なの」
  楽「そんなのどうだって良いんだよ!!小野寺にフォローされてて羨ましいぞこんちくしょー」
 刃牙「てか楽良いのか?こんな所で君暴露してて」
  楽「言ってるだろ。ここはメタ世界。つまり原作を知ってる。つまり俺の気持ちも知ってるんだ!勿論小野寺の気持ちもな!」
 小咲「一条君//」
 作者「まぁ原作と今作は違うので両思いになるかは分かりません。勿論小咲以外ともね」
  楽「うぇ?!」
 作者「しかも刃牙とくっつくのは1人の予定としても原作楽みたいに想いを寄せるのが1人とは限らない。楽がそもそも付き合うかどうかはまだ分からないんだよ」
  楽「嘘だドンドコドーン!」
 作者「それじゃ次回もよろしくね」
 
 


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ペンダント

 ヤクルト優勝おめでとうございます。最後の一戦で延長12回は熱過ぎる。山本由伸が9回まで投げるのも痺れた。これがエースだ!って証明だろうな。

 でも、来年は阪神が持ってきます!ネットで阪神上がり目無いとか言ってる人いるけど全然そんな事ないから。若手育ってきてるし中堅もそもそも落ちる歳じゃないから。全然優勝出来るから!!



 失礼、興奮してしまいました。本編どうぞ!


 桐崎の席は結局、刃牙と反対側の楽の隣となった。理由は休み時間に廊下で言い争っている所をキョーコ先生に見つかり、知り合いと勘違いされたかららしい。楽は知り合いではないと必死に弁解していたが、桐崎が教室に入る前に言葉を交わしていたのだから間違いではない。

 

    黒板側

 

  刃牙 楽 千棘  

 

 つまりこう言う並びになった(場所は適当だが)。こんな2人を隣にしていいのだろうかと思う人もいたが、刃牙はそんな2人が隣同士になる事になんの不安も抱いていなかった。

 確かに2人は一見相性最悪そうに見えるが、刃牙はそうと思わなかった。2人は良く似ている。例えば、2人とも思いを伝えるのが究極的に下手だ。なんでもない事は平気な癖に、大切な所に限ってヘタレになったり、思ってる事と逆を言ってしまう。素直じゃないのだ。他にも沸点が低そうな所も同じ。だが確実なのは、2人とも悪い奴等では無いという事だ。悪い奴は独特の匂いを漂わせるが、2人にそれは無い。きっと直ぐに仲良くなる筈だ。

 

 

  

 時間は昼休み、早速事件は起きた。楽が大事そうにしていたペンダントを落としたのだ。無くしたと思しきタイミングは、例の2人がぶつかった時だと言う。昼休みに飯を速攻で平げ、教室を飛び出したのはペンダントを探しに行ってたのだ。しかしペンダントは見つからなかったらしい。他のタイミングって可能性は無いのかと尋ねると『あのタイミングしか考えられない!』と言って話を聞かない。てかあれくらいの大きさで首からかけているペンダントが無くなった事に何故直ぐに気付かなかったんだろう。

 

 そんな楽は原因である桐崎に手伝わせようとするのだが、当然桐崎は首を縦に振らない。

 

 「ハァ⁉︎なんでそんなの手伝わなきゃいけないのよ。1人で探せば良いじゃない」

 「それで見つかんなかったから頼んでんだよ!」

 「そう声を荒げるなって楽。桐崎さんにだって予定はあるだろうし忙しいかも知れないじゃないか」

 「だからってよぉ!」

 「別に暇だけど、てかあんた何?関係ない奴は引っ込んでてくれない?」

 「そうだ刃牙。これは俺達の問題だから」

 「へいへい」

 

 隣にいるから折角口論にならないよう仲介人をしてやったのにこの有り様だ。2人とも頑固だ。特にイラつかせるのは桐崎だ。彼女は故意か無意識か、相手がイラつく言い方をする。自ら敵を作るタイプだ。もっと言葉を選べないものか。もはやあの美貌を持ってしても話し掛けるのすら面倒と思えてくる。『彼女から悪い奴独特の匂いはしなかったのに』と思っていた刃牙はダブルショックだった。戦いから離れて半月ちょっとしか経って無いのに自分の勘が鈍っている事と、もしこのままだと勇次郎に本気で殺されてしまう事に対するショックで刃牙の心はズタボロボンボンだった。

 

 (確かに犯罪的悪さじゃ無いけどさ、あれは駄目だろ。てか俺が腑抜けてるだけ?早速親父に殺されそうなんだけど。週末あそこ行こうかな)

 「どうしたの刃牙君、そんな俯いて。体調悪いの?」

 「んぁ?小野寺か」

 

 そんな刃牙に声を掛けて来たのは小野寺だった。彼女は俯いている刃牙の顔を覗き込んで心配する。ここまで他人を心配する事に感心する。他人を心から心配出来るなんてどんだけ出来た人なんだ彼女は。桐崎の後の小野寺だから余計に優しく感じる。そんな彼女を心配させまいと直ぐに原因を話した。

 

 「別に大した事じゃないよ。あの2人の事」

 「あの2人なんかあったの?」

 「どうやら2人がぶつかった時に楽がペンダントを落としたらしい。このままだとまた喧嘩になると思って仲介人したんだけど関係無い奴は黙ってろって」

 「はは…大変そうだね刃牙君」

 「全くだよ。相性抜群だと思ったんだけどな、あの2人」

 「そう……だよね」

 (……あ?!ヤベェ)

 

 刃牙は自分で言ってから、やらかした事に気付く。楽は小野寺が好きだ。でもそれを本人に伝えれずにいる。小野寺が分かりやすい人物なら反応で対策を考えられるのだが、誰にでも優しいから分からない。彼女に好きな人すらいるか分かっていないのが現状だ。戦闘なら相手の思考を瞬時に察知し、カウンターを叩き込む刃牙だが、それ以外で相手の思考を読む事なんて刃牙には出来ない。集は刃牙や楽が対策を練っている姿を見て微笑ましそうに見てくるがそれだけだ。

 

 だが会話や対応を見てる限り、好意的である事に間違いは無い。友達としてか、異性としてかは分からないが。そんな彼女に楽は桐崎と相性抜群なんて言ったら、楽は小野寺に好意ないと伝えているのと同義。既に小野寺が刃牙を好きで簡単に諦められない性格なら大丈夫だろうが、それ以外の多少気になる程度なら、既に意中の相手がいる人を狙うなんて事はまず無いだろう。その時点で恋心の芽は摘まれてしまうのだ。サポートするどころか、妨害しているだけ。このままでは不味いと思い、刃牙はすかさず先程の失言の帳消しを目論む。

 

 「ああ、あいつらなら良い友好関係作れると思ったんだけどな」 

 「え?友好関係?彼氏彼女とかの恋愛じゃなくて?」

 「俺が言った相性抜群ってのは友好関係だ。あのタイプは恋愛に発展せずに異性友達で終わると思う。例え付き合ってもぎこちなく、直ぐに喧嘩して別れるタイプ。見てる時は面白いけどやってみたらつまらないゲームみたいに。楽みたいな奴は優しくて自分に尽くしてくれる子が好みじゃないか。言い合う仲じゃなくて」

 

 さも恋愛マスターかの様に刃牙は語っているが、彼は紛う事なき恋愛初心者。1度付き合った事はあってもそれは肉欲をぶつけただけだ。

 

 (やべぇ、色々と言ってるけど何言ってんだろう。そんな事分かる訳無いじゃん。楽みたいなタイプが云々って言ってるけど楽みたいなタイプの恋愛どころか、普通の恋愛すら知らないのにタイプとか専門家みたいに格好つけてるし。てか、そのタイプも合ってんの?見当違いな事言ってたら恥ずかし過ぎるんだけど)

 

 刃牙のした事は経験ない癖に専門家の様に自慢げに語ってるひろ◯きと同じ。その手の人が聞いたら適当に言ってるだけと直ぐにバレる。自慢げに語っておきながら間違ってたとか恥ずかし過ぎる

 

 「そ、そうなんだ」

 

 どうやらバレなかった様だ。胸を撫で下ろした小野寺の横で刃牙も胸を撫で下ろす。

 

 「私手伝おうかな」

 「俺も手伝うつもりだよ。放課後予定ないし…ん?」

 「どうしたの?」

 「…いや、大丈夫。小野寺は放課後予定無いのか?」

 「私も大丈夫だよ」

 「そうか」

 

 刃牙は思いついたのだ。楽をサポートする方法を。先程のミスを挽回する方法を。

 

 「なぁ楽。俺らも手伝うよ」

 「みんなで探した方が早く見つかるもんね」

 

 刃牙はそう言って小野寺と声を掛ける。しかし、楽は変に頑固な所があり首を縦に振らない。

 

 「いや、こいつの所為なんだからこいつが探すのが筋ってもんだ。渋々だが探してくれるみたいだしボカッいってェ!!何すんだ!」

 「渋々とか一言余計なのよ!探すって言ったんだから良いじゃない!いつまでもネチネチと!女々しいわねぇ」

 「こんのクソアマ」

 

 桐崎の言葉に手をプルプルさせる楽。そんな楽にとっておき情報を与える刃牙。楽の肩をポンっと叩くと耳元で囁いた。

 

 「そうカリカリすんなよ。ここは素直に小野寺の優しさに甘えた方がいいんじゃねぇか?」

 「だからこれは俺と桐崎の問題だから小野寺を巻き込む必要なんてねぇよ」

 「でも小野寺が参加して俺が途中で消えれば小野寺と2人になれるぞ。桐崎さんもどうせ直ぐ帰るだろうし」

 

 そう言われた楽は妄想の世界にトリップする。妄想の世界は常に理想のシチュエーションなのだ。

 

 『悪いな小野寺、探し物手伝ってもらって。たくっ、桐崎も刃牙も途中で帰っちまうしよ』

 『ううん、大丈夫だよ。それに、私は一条君と2人っきりになれて良かったし』

 『お、小野寺?それはどう言う意味だ?』

 『今は誰もいないし、小咲って呼んで欲しいな。楽君』

 

 小野寺が楽に身体を預けて唇がくっつきそうな所で楽は妄想から現実に戻ってきた。確かに刃牙の案はいい。小野寺と自然に話す事が出来る。そこから今よりも仲良くもなるだろう。同じ時を過ごした2人はより親密になると決まっている。完璧な作戦だ。だからこそ、楽は決断した。

 

 「いや、やっぱり良い」

 「どうしてだ?」

 「俺の都合の為に小野寺を付き合わせたくない」

 

 楽の言葉に刃牙はそういうもんなのかと感心する。以前、地下闘技場の参加者に天内という勇次郎お墨付きのボディーガードがいた。彼は、対戦相手を『愛』していた。『愛』と言っても対戦相手に恋するなんて変態では無い。その真相は『戦いには愛が必要。恋愛と戦いは表裏一体。愛があればその人が望む好意が分かると同時に望まない好意も分かる。戦いは望まない好意を選ぶだけ』と、中々に残酷な発想だった。

 

 (なるほど、確かに恋愛と戦いは似てる。俺も相手に合わせたりするしな)

 

 刃牙の戦いも天内同様、恋愛に通ずるものがあった。刃牙も余裕が生まれると相手の土俵で戦いだす。例えば、プロレスラーにプロレス技で勝負したり、力自慢に力で対抗したりする。たまにそれまで圧倒していてもその所為で負ける事があるが。

 

 「それで、どんなペンダントなのよそれ?」

 「あ、俺らも聞いて良いか?見つけたら拾って置いてやるよ」

 「あ!これくらいのチェーンの先にこんな形の錠がついて」

 「え」

 

 楽がペンダントの形を指で描くと小野寺が反応する。

 

 「それって」

 「え?どこかで見たのか?」

 「あ、ごめん。勘違いかも……多分…」

 

 小野寺は沸切らない返答をする。

 

 5限目の授業。刃牙は上の空になりながら先程楽が言ったペンダントについて思う。

 

 (楽が言ったあのペンダント。見た事ある様な気がするけどどこだったっけ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな上の空な刃牙を見て前回出たモブ女1が思う。

 

 (モブ女言うな!……それにしてもあの2人、放課後の予定聞くとか絶対なんかある。特に範馬君。小咲ちゃんに予定聞いてからの授業はずっと何もない天井見てるし、彼が好意あるのは確実!これはボスに報告ね)

 




 作者「………」
 刃牙「………」
 小咲「………」
 千棘「………」
  楽「見るな!そんな目で俺を見るな!」
 一同「あの妄想を見たら…ねぇ」
  楽「うわぁああああああ!」
 作者「楽のライフが0になった所でみんななんかある?」
 千棘「はい」
 作者「はい千棘さん」
 千棘「私の扱い悪くない?まるで今の所私酷い奴としけ認識されてないし」
 作者「だって今のところ原作でも大差なくね?ツンデレになるのもまだで、今の所見た目可愛いだけの暴力ヒロインだけどi⚪︎みたいに」
 千棘「そうだけどぉ」
 作者「まぁ今後挽回させるから」
 千棘「約束よ。てか刃牙もペンダント持ってるの?」
 刃牙「知らね。漫画とかだとこう言うのって持ってるパターンだけど、現実は勘違いってパターン多いし」
 小咲「でもこれフィクションだよ」
 刃牙「でも所詮二次創作だし、半々ってとこじゃない?」
 作者「まぁどうなるかね。てかモブ女1って前回出てきた刃牙の陰口言ってたモブ女の1人だからね。名前どうするか迷ってる。最後までモブ女で通すか、どっかで名前つけて多少のオリ話考えるか」
 刃牙「まぁそれはこのssが安定してからでいいと思う。てかそれよりボスっめ」
 作者「では次回もお楽しみに!」
 刃牙「かってにしm」
 


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委員会

 今回小咲がキャラ崩壊仕掛けたり、原作に影響しない内容で若干設定改変されています。ご了承下さい。

 後今回は完全にオリジナル回です。


  

 桐崎が転校して今日で7日目だ。この数日の間、楽はなんとか桐崎との溝を埋めようと努力していた。帰国子女で日本語に慣れてない彼女の為に現国のノートを取ってあげたり、少しでも理解しようと自ら話題を振ったりなど。しかしその溝は埋まる気配すらない。可愛げの無さにイラつく楽だが、その光景を小野寺に褒められた事でその行為は無駄じゃ無かったと思えたと、彼の笑顔が物語っていた。

 

 だが、肝心の鍵が見つからない。原因の桐崎が探すべきと言っていたが、なんだかんだ言って刃牙と小野寺も手伝う事になった。しかし、見つからずに今日に至る。桐崎が帰るタイミングに刃牙も帰る事で楽と小野寺を2人きりにさせようと企むが、桐崎は文句を垂れながらも毎日下校時間まで一緒に探していた。

 

 「じゃ、また明日な。今日は俺委員会だから」

 「おう、そうか。頑張れよ」

 「頑張れって言ってもどうせ人来ないだろ。俺らいないからって桐崎さんと喧嘩すんなよ」

 「その保証は出来ん」

 「終わったら俺らも参加するから」

 「サンキューな。あんな事言っときながら」

 「お安い御用だよ」

 「ありがとうな」(でも小野寺を含めて俺らって言われるのは胸に来るというか、若干イラつくな)

 

 刃牙は放課後になると楽に一時的に別れを告げて、自分の委員会の持ち場へ足を運ぶ。楽は小野寺と同じ委員会に所属している刃牙を羨ましく思うのだった。

 

 凡矢理高校は委員会かクラス係が存在し、基本的にこのどちらかに所属しなければならない。

 

 まずクラス係。クラス係はその名の通り、クラスに関係する仕事を担当する。黒板消し等がこれに該当する。仕事をサボっても本人が怒られるだけでそこまで責任度は低い。その代わりに毎日仕事が存在する。人数は例外を除いて1人制である。

 

 そして委員会。委員会の仕事内容は学校に全体に関わるので、責任度が高い。生徒会等がこれに該当する。しかし、生徒会等の例外を除いて仕事頻度は低めに設定されている。委員会は男女ペアとなっている。

 

 だが、どちらにも属さない例外が、凡矢理高校には存在する。その名も、『学級係』。因みに楽が所属する飼育係はこの学級係である。学級係は、学年で決められた仕事をする事になる為、その学年独自の仕事内容となっている。今年はたまたま飼育係になった訳だ。学年で6クラス制となっているので仕事頻度は6日に1度とクラス係より低頻度、委員会より高頻度となっている。複数の種類の動物を飼っているので飼育方法を覚えるのが大変。しかも、動物と言うだけあって思い通りの行動をしてくれず難航する。サボったりミスしたら動物達が病気にかかったり、最悪死んでしまうので責任重大と、まるで仕事の三大苦を体現しているかの様な役職なのだ。上限はあるが、野良犬や猫をここで飼ってもいいという粋な決まりもある。経費も学校で落ちるので費用は掛からない。初めは大変だが、次第に愛着が湧いて来るので、飼育係卒業生はみんなこの係に所属して良かったと語っている。因みに、文化祭や、体育祭に来た人で気に入った動物を貰う家族も存在する。

 

 何故この学級が飼育係になったのか。それは入学前に提出した事前アンケートが関係している。アンケートと言っても簡単もの。ただし、学級係の候補に関係するアンケートだ。その結果、『育てるのが好き』が1番数字を取ったのだ。きっと育成ゲームを連想した人が多かったのだろう。そして、この学級係は卒業するまでやる人は変わっても変更される事無い。

 

 

 

 そんな役職決めをしたのは入学して直ぐの桐崎がまだ転校してくる前だった。

 

 結論から言うと刃牙が所属したのは委員会の方だ。だが、委員会といっても比較的楽な委員会と言える。仕事するのは1/18の確率で仕事頻度は少ない。委員会の特徴である大掛かりな仕事も長期休みの時に図書室に全員で集まって大掃除するくらいだ。その大掃除も全学年共通の大掃除の時間に図書室を優先して掃除するだけ。その掃除が毎回ギリギリか、終わらないからと知ってる人は敬遠するのだが、経験の無い1年生には関係ない話である。

 

 もう図書室の掃除と言ってる時点で答えは分かっていると思うが明言しておこう、『図書委員会』である。1年に人気な図書委員会だが、このクラスはそれが顕著だった。主に男子である。理由は1つ。1番人気の彼女が、図書委員に立候補したのだ。

 

 「私やりたいです。//」

 

 小野寺小咲である。今でこそ桐崎が転校してきて埋もれてる感ある彼女だが、元々はクラスどころか、学年No. 1と言っても過言では無いレベルの美少女だ。そんな彼女が所属する委員会に入りたいと思うのは男として、自然な摂理である。

 

 「ううぅ、図書委員……」

 

 楽もそんな有象無象と一緒の思いだったと言うのは言わずもがな。だが彼は既に飼育係に立候補し、内定していた。つまり、彼に立候補する権利は無いのだ。現在はうつ伏せになって元気良く立候補している有象無象を睨んでいる。刃牙もその有象無象と同様に手を挙げてる為、睨まれる対象となっていた。そんな恨めしそうに周りを睨んでいる楽に、耳元で話しかける刃牙。

 

 「なんで小野寺が決まる前に手挙げちゃうんだよ。それじゃ一緒の委員会になれる訳無いだろ」

 「だって動物好きだし、ここ来たら飼育係したいって思ってたし」

 

 楽はモジモジしながら呟く。聞くと学校案内で楽しそう動物を飼育している男子生徒先輩の姿に憧れたそうだ。しかし、その姿に男らしさのオの字すら微塵も感じなかった。

 

 「今なら間に合うと思うがどうするんだ?立候補するなら手を引いてやってもいいぞ。俺は別に図書委員がやりたい訳じゃ無いしな。楽そうなのが図書委員だっただけだ」

 「いや、俺はずっと前からこれに決めてたんだ。変える気はねーよ。それに今更変えて小野寺が立候補したからって周りに思われるのも嫌だし」

 「………そっか」

 

 刃牙は楽の言葉に少し沈黙した後、そっけなく返した。

 

 肝心の図書委員が誰になるかはジャンケンで決める事になっている。刃牙にとってこれは出来レースだった。刃牙には必勝の策がある。

 

 ジャンケンは運勝負。普通の人はそう思っているだろう?しかし、答えは否だ。ジャンケンは運ではなく、動体視力が物を言う勝負だ。相手が出す手を読むのでは無く、見切る。ギリギリまで出す手を決めず、相手の手の動きを見切り、それに相性の良い手を出せば勝ちとなる。人数が増えても同じだ。いずれは頂点に踊り出る。例えば横の人がグーを出したとしよう。自分がパーを出せば負けはない。他の人にチョキを出す人がいても現れても引き分けになるだけ。勝負が決まった時が自分の勝利なのだ。

 

 後出しでは無い。相手が手を出し切る前に見切り、同時に出しているから平気なのだ。そんな出来レースで負ける筈は無く、結果、刃牙が図書委員となった。

 

 

 そして現在、誰も来ない図書室の本の貸し出し場所で小野寺と暇していた。そもそもネットが普及した今、図書室に来なくても大体のものが読めるので来る者は殆どいない。本好きは端末ではなく、紙で読みたいと思うが、そういう人はわざわざ図書室を利用せず、買っているだろう。仕事が無くてつまらないが、もし誰か来た時の為にサボる訳にはいかないのだ。

 

 しかし、ただつまらない訳では無い。待ち時間に本を読んではいけない決まりなどは無い為、図書室の本を読み漁る。図書室には色んな本が置いてある。漫画に雑誌、有名人の自伝など様々だ。現在刃牙は最近アニメ化するジョジョ6部を読んでいる。小野寺もスイーツ雑誌を読んで暇を潰している。1人暮らしをして誰かに誕生日を祝われる事も無く、自らスイーツを買ったこと無い刃牙は雑誌に載ってるクレープに目を移す。そんな刃牙の視線を最初は気にせずにいた彼女も、あまりにもガン見していたので気になって声を掛けた。

 

 「……えっと、刃牙君。どうしたの?」

 「いや、ごめん。そのクレープが気になって」

 「クレープ好きなの?」

 「好きって言うか、食った事無いかな。クレープだけじゃなくてスイーツ全般」

 

 刃牙の発言に小野寺は信じられないと言った様な顔をしていた。

 

 「もしかしてアレルギーとか?」

 「そう言う訳じゃ無いよ。ずっと1人暮らししてて栄養ばっか気にした食生活してたし、家族と暮らしてた時も誕生日にケーキなんて習慣ウチには無かったからそういうのと縁が無くてな。飴とかは舐めるけど」

 「…………勿体ない」

 「え?」

 「勿体ないよ刃牙君!」

 

 刃牙が食べた事無い理由を話すと小野寺は顔を伏せた。かと思ったら今度は大声を出した。図書室ではお静かにの紙が揺れたのを感じた。

 

 「勿体ないよ!お菓子だよ!スイーツだよ!人類が生み出した至高の間食フード!アレルギーでも無いのに食べないなんて!それは偉人への冒涜だよ!」

 「お、小野寺?」

 

 小野寺のあまりの変貌に刃牙はたじろぐ。小野寺の家は老舗和菓子店。小さい頃から店の和菓子を食していた小野寺は、自然と和菓子以外のスイーツにも興味を持ち始め、食して来た。ありとあらゆるスイーツを食して来た小野寺は、人の何倍もスイーツの良さを知っているのだ。その為、その良さを知らずにいる刃牙は勿体ないと思えて仕方無いのだ。彼女は遂に到達したのだ。

 

 穏やかの心を持ちながら、激しい勿体なさによって目覚めた伝説のJK、『超スイーツJK!小野寺小咲』に!

 

 そんな彼女は刃牙にある質問をする。

 

 「刃牙君今週の土曜日空いてる?」

 「え?別に平気だけど」

 「ならその日私が美味しいスイーツ店紹介してあげる」

 「ええ?!」

 「シッ!図書室で騒いじゃダメ」

 

 小野寺のいきなりの誘いに刃牙は同様する。楽の恋を応援している為、こんな誘いに乗ってはいけない。それは楽を裏切るのと同じだからだ。

 

 「小野寺、折角の誘い嬉しいんだけどそれは」

 「それって何?」

 「え?」

 「だからそれって何?スイーツの事?スイーツは要らないって言うの?それに予定無いんでしょ?なら良いじゃん」

 「でもいきなりは」

 「今日ならまだしも土曜日じゃん。後5日あるのにいきなりなの?」

 「え、えぇっと」

 「行くの?行かないの?」

 「………行きます」

 

 小野寺のあまりの迫力に勇次郎以上の圧を感じた刃牙。彼女のスイーツへの想いは彼女を暴走させてしまう程だった。この度胸が普段から有れば彼女の恋も発展するのというのに、勿体ないのは彼女である。きっとその会話を誰かが聞いたら勘違いするだろう。この2人はそういう仲なのだと。

 

 「………小咲。貴方いつの間に刃牙君とそんな仲になったの?」

 

 宮本だった。彼女は気になって、図書室にいる彼女の様子を見に来たのだが、色んな意味で驚いた現場に立ち会ってしまい、今の今まで言葉を発せられずにいたのだ。まさかの目撃者がいた事で冷静になった小野寺は、自分のした行為に顔を真っ赤に染める。

 

「るりちゃん?…………ボッ!!違うの!これはそういうんじゃ無くて!刃牙君がスイーツ食べた事無いって言うから勿体ないなと思って教えてるだけでそんなんじゃないからぁー!」

 「ちょっと?!小咲どこ行くの?!」

 「うわぁぁぁぁぁぁーーー」

 

 羞恥心がMAXになった小野寺は図書室を飛び出して行ってしまった。残された2人は顔を見合わせる。

 

 「えっとぉ、とりあえず小野寺が言った事は本当だよ。俺は彼女とそういう仲じゃない」

 「別に好きになるのは自由よ」

 「あれ?信じてない?」

 

 宮本は刃牙を見る。そして思い出すはモブ女に言われた言葉。

 

 『ボス!報告があります!』

 『ボスって言わないで』

 『了解であります!ボス』

 『………』スッ

 『ごめんなさいるりちゃん。それで報告なんだけど刃牙君と小咲ちゃんが両思いみたいなの!」

 『それは間違いよ。また貴方の早とちり』

 『今回のは本当よ!だって放課後の予定を刃牙君が聞いたのよ。小咲ちゃんは名前呼びだし』

 『刃牙の事は私も名前で呼んでるし、予定を聞いたのはきっと一条君のペンダント探す為でしょ。小咲から直接聞いたから知ってるわよ。因みに名前呼びなのは苗字で呼ばれたくないからとも』

 『そうなの?でもそれに便乗して小咲ちゃんにちょっかいだすかも知れないよ。苗字が嫌なのも名前で呼んでもらう為だったり』

 『きっと大丈夫よ。じゃあね』

 『あ、』

 

 (あんな事があってもしかしてと思って来たけどすごい場面に出くわしちゃったわ。小咲ってスイーツの事になると夢中になる事あったけど、あそこまでなるなんてね。あの行動力を一条君に使えればいいのに。刃牙君が小咲を好きそうに見えないし、やっぱりモブ女1の勘違いね)

 

 「それにしても大丈夫なの?1人になって」

 「別に大丈夫だと思うよ。人来ないし」

 「そう。それで、スイーツ食べた事無いって本当?」

 「本当だよ。そんな暇無かったし」

 「?まぁ良いわ。デート楽しんで来てね」

 

 刃牙の言葉を理解出来なかった宮本は深く考えない事にした。

 

 「デートって程のものじゃないと思うけど。お互い好きでも無いのに」

 「男女が休日に出かけたらそれはデートよ」

 「そういうもんか」

 「そうよ。それよりるりって呼んでくれない?」

 「え?なんで?」

 「私だけ名前で呼ぶのはおかしいしって思ったのよ」

 

 るりが刃牙に名前呼びをさせる意味は今言ったのだけでは無く、自分が名前呼びされたら小野寺と刃牙が好き同士という彼女達の考えが無くなると思ったからだ。これで自分が巻き込まれても痛くない。噂を立てられたって不利益になる相手はいない。だが小野寺は違う。一条がいる。なら自分はどうでもいい。

 

 「……別に、名前の方が良いならそうするけど、自分を犠牲にするなよ」

 「?!なんで」

 「なんとなくそう思っただけさ。兎に角、自分の人生大切にろよ。決めるなら自分の意思でだ。お前の人生は誰の為でもない、お前の為にあるんだから」

 「………ふ、それが貴方の口説く手口なのかしら?」

 「そんな器用な事俺には出来ないよ」

 「どうかしら」

 

 るりは笑みを浮かべ、近くにあった本棚に目を通す。確かに最近は小野寺の為に動いていたかも知れない。このまま『小咲の為、小咲の為』と行動していると、それは自分の人生では無く、小野寺の人生のサポートキャラになってしまう。自分の人生に戻れなくなるかも知れなかった。しかし、今の一言で戻って来れた。やる事が変わる訳じゃない。これからも小野寺のサポートを続けるつもりだ。自分がそうしたいから。

 

 (ありがとう刃牙君……ん?……え、)

 

 戻って来れたお礼を心の中でしていた彼女がなんとなく手に取った本。それは誰も手に取ってないのではないかと思う程、シワが付いてなかった。題名『若者を導く男が語る天才武術家達』。著者Lonely・SeaKing。その裏表紙に書かれている主な登場人物の1人、『範馬刃牙』

 

 (刃牙君?)

 

 自分と同じ空間にいる彼と同じ漢字、読み方も同じ。彼がこの題名の本の登場人物にいる事に驚愕する。るりは後日、改めてこの本を借りる事を決意した。

 

 

 




 一同『ご愛読ありがとうございました!』
 作者「少し投稿が遅れてしまってすいませんでした」
 刃牙「今回完全にオリジナル回だな。後本編ちょっと飛ばしてダイジェスト的で終わらして」
 作者「まぁ、楽と千棘の話はみんね知ってるでしょ。絡ませるシーンもなかったし」
 るり「てかこれだと完全に私ヒロインレースに加わってない?」
 作者「まぁね」
  集「え?じゃあ俺のヒロインは?」
 作者「安心して、その場合は2人の子供におじちゃんって呼ばれる役にしてあげるから」
  集「のおおおおおお!」
 作者「てこ今回疲れたから今日はこれくらいでお開きにするね。次回もお楽しみに!またね」
 lonely・seaking「試合放棄かな?」
 


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思い

 結局、小野寺はあれから数十分経った頃に少し顔を赤くして帰って来た。肌が先程より潤っていた事から顔を洗ったのだろう。小野寺は刃牙の顔をチラチラ見ながら近づき、目の前まで来ると深々と頭を下げた。

 

 「ごめんね刃牙君。私、昔からスイーツの事になると我を忘れちゃう癖あって。最近はそんな事無かったからてっきりもう治ったのかと思ってたんだけど」

 

 (それはその手の話題が貴方相手に挙がらなかっただけよ。小学生の頃、当時その事を知らずに言った私の何気ない一言、『スイーツそんなに食べないわね』。その後に貴方の語ったスイーツ愛はクラスで有名だったから。本来奥手な貴方が異性を誘うなんて暴走したのは、きっと私の時より刃牙君が深刻だったからね)

 

 「別に気にしてないよ。それどころか小野寺がそこまで夢中になるスイーツがどんなものか余計気になったぐらいだし」

 「本当?!そんな事言われたらますます気合い入っちゃうなぁ。何処に行こうかなぁ。あそこも良いし、あそこも捨て難いし〜、う〜ん。でも、絶対気にいるの見つけてあげるからっ!」

 ((あっ、約束は継続なのね))

 

 スイーツ店を巡る約束は継続のまま委員会は終了となった。本来はまだ時間じゃ無いのだが、誰も来ないだろうと言う事で特別に司書さんから『少し早いけど今日は上がっていいよ』と上がる許可を貰った。刃牙と小野寺はこの後楽達の元に向かうつもりである。ついでにるりの事も誘ったのだが、用事があるの一点張りだったので、2人で向かう事になった。

 

 「それにしても小野寺は良い奴だよな。話を聞いたとはいえ、楽の為に毎日手伝ってあげるなんて中々する事じゃないと思うけど。

 「そっそっそっ、そんな事無いよ!普通だよ!友達なんだもん!」

 

 刃牙の一言に小野寺は見るからにきょどり出した。明らかに普通では無い。『このままでは不味い。これ以上自分の話が続けば墓穴を掘って自分の楽への思いがバレてしまう』と察した小野寺は話題を刃牙にすり替える。

 

 「そんな事言う刃牙君だって同じだよ。毎日手伝ってるのは一緒でしょ」

 「俺の場合はやる事がないからね」

 「帰った時親に聞かれたりしないの?『こんな時間まで何してたの?』って。私は毎回言われてるけど」

 「別に何も言われないさ。だって俺一人暮らしだし」

 「一人暮らし?!凄いねっ!」

 「凄くねーよ。母親は小学生の時に死んで、親父は現在も何処にいるか分かんないだけだから」(まぁ母親が生きてる頃から一人暮らしだけど)

 「ご、ごめん。余計な事聞いちゃって」

 「別に気にしてないからいいよ。母さんも死ぬ時は幸せそうだったし、親父だって別に死んだ訳じゃ無いからね」

 

 小野寺は理由を聞くなり直ぐに謝った。彼女に悪気があった訳では無い。それでも、その人にとって辛い想いを呼び起こしてしまった事に謝罪するのは常識だから。

 

 実はこの時、刃牙と小野寺の中で1つのすれ違ったが起きていたのだ。小野寺は刃牙の『親父は現在も何処いるか分からないだけだから』という言葉を、『刃牙の父親は行方不明なのだ』と勘違いしていたのだ。実際には刃牙の親父勇次郎は世界中を好き勝手歩き回ってるだけである。でも、それを知らない彼女から見た彼は、とても強さを持った人なのだ。

 

 「そうなんだ。……強いね、刃牙君って。私もね、お父さん亡くなってるんだ、小さい頃に。まだ小学校に上がる前の頃で思い出もあんま残って無いんだけど、それでもたまに寝る前に思い出すと悲しくなったりするんだ」

 「そうなんだ。………なら小野寺のお父さんは幸せだろうね」

 「え?」

 「死んで10年近く経っても娘にこんなに想われてるんだ。しかも記憶が抜けやすい幼い頃だって言うのに。死してなお、娘の中に存在する事が出来る。幸せに決まってるさ」

 「……そうだといいな」

 

 小野寺は小さく呟くと数秒目を瞑った。きっと心の中で父親に何かしらの言葉を掛けているのだろう。その間、刃牙も胸ポケットにしまっている物を優しく撫でた。大切な友に貰った宝物。自分はあの出来事があったから成長したと自信を持って言える、そんな思い出の品。一時も忘れた事が無い。もしこの宝物を無くしたなんて事があったら毎日探す。見つけるまで探す。四六時中ずっと探す。楽が大切にしていたペンダントを無くしたと言ったあの時、刃牙は自分が無くした可能性を思い描いてしまったのだ。その時に感じたのは『申し訳無さ』。プレゼントを無くすと言うのは、その時のその人の気持ちを踏み躙る行為。だから探すのを手伝っているのだ。

 

 例の場所に着くと2人の怒鳴り声が聞こえてきた。嫌な予感を感じながら駆け寄ると案の定2人は喧嘩していた。

 

 「ふざけんな!てめーの過失でもあんだろうが!」

 「あんたがしっかり持ってなかったからでしょ!」

 「馬鹿、喧嘩すんなって言ったのに」

 「ははっ…」

 

 刃牙は頭を押さえ、小野寺は苦笑いを浮かべる。一応手が出てない程度で済んでる事が唯一の救いだった。

 

 「だいたいあんたもあんたよ!もう1週間なのよ!いい加減諦めなさいよ!きっともう誰かが持ち去ったのかゴミと間違えて捨てたのね!」

 「んなの分かんねーだろ。それにあれは俺にとっては…」

 「フン!ペンダント1つ無くしたくらいで。どーせ昔好きだった子に貰った物とかなんでしょーけど。あーやだやだ。昔の事引きずって女々しいったら無いわ!」

 「……‼︎」

 

 桐崎はイライラが募っていた。毎日、あるかどうかも定かでないペンダントを探す毎日。しかも、相手は友人でも恋人でもない、それとは真逆の嫌いな人物。しかもその手伝いが原因で付き合ってると勘違いされる始末。彼女の溜まりに溜まったフラストレーションが言ってはならない一言を言ってしまったのだ。

 

 「どーせその相手だってあんたにそんなもんあげた事なんて忘れてるに決まってんのに。ほんっとダサ‼︎ばっかみたい」

 

 刃牙が夜叉猿に頂いた大切な戦利品。その時の思い出が鮮明に蘇る。楽も幼い頃の為記憶は微かだが、思い出の彼女の言葉が脳裏を過ぎる。

 

 『あなたのお陰で強くなれた』

 『ずっと大切に持っていよう』

 『今度は私が……』

 

 「うるっせぇな!!!」「ブン殴るぞテメェ!!」

 

 楽が叫んだタイミングと同時に刃牙もドスを効かせた声で怒る。言葉が言葉なだけに隣にいた小野寺は2、3歩後ろへ後退りする。だがそれなら可愛いものだ。ここで本気で恐怖したのは桐崎だ。彼女は家柄上、怒気や殺意を自分に向けてじゃないとはいえ、身近に感じて来た。学校で子供が怒った時に言う『殺す』なんて軽い意思では無い本物の怒り。例え向けられたのが自分でなくても恐れるには充分な意思。そんな本物の怒気を刃牙は桐崎に向けたのだ。楽もそれを感じ取っていた。例え自分に向けられていなくても恐怖するには充分な代物を。

 

 「何で……あんたが」

 「まずはその醜い口を閉じろ」

 「っ!」

 

 刃牙はゆっくりと桐崎に歩き始める。楽は刃牙に恐怖しながらも、何とか怒りを鎮めようとする。先程までの怒りが嘘だったかの様だ。

 

 「ば、刃牙。落ち着いてくれ」

 「楽、そこをどけ。俺は今そいつに用があるんだ」

 「用だって?桐崎はさっきまで俺と…」

 「桐崎は言ってはならない事を言ったんだ。そいつは今、人の思いを貶した」

 「人の思いだって?」

 「そうだ。こいつの言葉はお前だけじゃねぇ、ペンダントをお前にあげた相手の思いまで侮辱したんだよ。それだけじゃねぇ。俺や小野寺、全人類が持ってるだろう過去大切な思いを侮辱したんだ。なぁ桐崎。いつも偉そうにしてるがテメェはそれ程偉ぇのか?人の思いをどうこうする権利を持つ程テメェは偉ぇのか?」

 「……」

 「黙ってりゃ済むと思ってんじゃねぇぞ!!!」

 

 例え女の子だろうと子供だろうと関係ない。駄目なものは駄目なのだ。例えば貴方は自分の好きな人への思いを馬鹿にされて怒らないのか?引っ越しで離れ離れになった当時の恋人との思い出を『どうせ忘れてるに決まってんのに思い続けるなんて』と馬鹿にされて頭に来ないのか?もしそれで頭に来ないのだとしたら、所詮その程度の物だったか、貴方自身が情けないと思わざるを得ない。

 

 刃牙のあまりの威圧感に足が竦み、涙を流す桐崎。楽もあまりの凄みに立ち入る事が出来ずにいる。小野寺に至っては地べたに座り込んでいる。

 

 「人は確かに忘れる生き物だ。楽の相手だって忘れてるかも知れねぇ。でもな、そんな事、テメェが決めんじゃねぇ。それに相手が覚えてるから大切にしてるんじゃねぇ。大切な思い出だから大切にしてるんだ。それが分かったら2度と人の気持ちを、思い出を馬鹿にすんじゃねぇ」

 「?!刃牙止めろ!!」

 

 刃牙は膝をゆっくり引いて殴る姿勢を作る。楽は反応が遅れたが慌てて止めに入ろうとする。このままでは刃牙の拳は桐崎の顔面を捉える。いくら桐崎が乱暴と言っても女子である事に変わりない。女子の顔面を傷つけるのは絶対やってはいけない行為。自分が犠牲になっても間に入って止めようする。

 

 (不味い!刃牙の奴本気で殴るつもりだ!確かに女を本気で怒鳴ったり、本気の怒りを見せた時は本気でビビった。けど俺はあいつの言葉に救われたんだ。お前が正しいって心の底から思う。それでも、桐崎を殴ればお前が終わっちまうんだ。間違ったのはお前じゃなくてもお前が終わるんだ。そんな事絶対させない!お前は俺が守る)

 

 しかし楽の必至の思いも虚しく、拳は放たれた。普段使う素早さ重視の拳では無く、威力重視の拳を。それでも外さない。外す理由が無い。間に合わなかった、そう思われた。

 

 「刃牙君だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 ドンッ

 

 刃牙の拳は桐崎の鼻先で止まった。小野寺の叫びのお陰か分からないが、兎に角止まったのだ。桐崎の髪は刃牙の拳圧で後ろに靡いている。

 

 「…………え?」

 「楽や小野寺に感謝するんだな。でも、もし次に思いを侮辱する行為をお前がしたら容赦しない。心に留めておけ。楽、悪かったな。知った様な口で語っちまった」

 「だ、大丈夫だ」

 「今日は俺先に帰る。小野寺には悪い事したからお前が送ってやってくれ」

 「……分かった。また明日な」

 「……ああ」

 

 刃牙は鞄を持ってその場を後にした。

 

 (あーあ。やっちまった。短かったな。俺の高校生活。まともな青春も送れずにアウトか。最悪花山さんの通ってる学校にでも転校させてもらうかな。……ダッセ)

 

 




 一同「ご愛読ありがとうございました」
 刃牙「やったなこれ」
 作者「やったね」
その為「やったね」
 作者「まぁ刃牙は色々と人の思いに触れて生きて来たからね。胸ポケットの物もその一つだし。だから思いについては人一倍大切にしてるからね。まぁ原作ならキレたりしないだろうけどね。刃牙って人の繋がり意識が強いからキレたら良いんじゃないって思いで書いた感じ」
  楽「てか胸ポケットに入れてたのってなんなんだ?俺と同じペンダントか?それとも別のなにか?」
 作者「それは秘密。それにしても読者の皆さんは楽とーーみたいな過去の女の子との約束ってありますか?私があるのは約束では無く、謝罪出来なかった後悔ですね」
 千棘「へぇ、それってどんな?」
 作者「あ、本編で本気で泣かされた千棘さん」
 千棘「半分って言うか、ある意味泣かしたのは貴方だけどね。てか話逸らさないで」
 作者「大した話じゃ無いけどね。小学校の頃、地域で決められた班で班登校するんだけど自分班長だったんだ。けど当時同級生だった副班長の女子を歩き遅いからって置いてって怒られたんだよね。それで素直に謝んなかったってのが本当に申し訳無かったと思う」
 一同「うっわ」ドン引き
 作者「本当にガキだったって思う」
 刃牙「ま、そんなクズ作者は置いといて次回も楽しみにしててくれよ。それじゃまたな!」
 


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友の言葉


 すいません、更新遅れてしまいました。

 何故こうなったか?完全にサボってました。具体的にはサマポケ見てました。まじであれ神ゲー


 桐崎に豪語した翌日、刃牙はポケットに手を突っ込みながら大した用もなく、その辺をぷらぷらと歩いていた。時刻は既に10時を回っている。今日は火曜日。祝日でも無い。季節外れのインフルエンザによる学級閉鎖でも無い。特別な記念日でも無い。嵐による休校でも無い。そもそも嵐ならこんな所を意味もなく歩いていない。いわゆるサボりというやつだ。刃牙の無遅刻無欠席記録は入学1ヶ月にして早くも途絶えた。普段通りの時間に起きたのだがなんとなく登校する気になれなかったのだ。

 

 「………」

 

 いや、なんとなくでは無い。理由はハッキリしていた。学校に行けばどうなるか目に見えているからだ。昨日の出来事。桐崎が楽に言った言葉を聞いた刃牙がキレて、彼女を怒鳴りつけるや否や、顔面へと拳を放った。楽や小野寺の静止の声と、僅かに残っていた刃牙の理性によって寸止めで終わったとはいえ、髪が靡く程の拳圧。少女が恐怖を覚えるには充分だ。

 

 楽はあの時『また明日』と言ってくれた。つまり、楽自身は刃牙との関わりを断つつもりは無いと言える。しかし、だからといって昨日の出来事をそのままにしない筈。必ず誰かに相談する。その時、1番に白羽の矢が立つのは彼の親友である舞子集だ。楽は集に必ずこう言うだろう。『刃牙の前で桐崎の話は止めてくれ』と。楽はあの出来事で刃牙を刺激してはいけないと思った筈だ。しかし、そう言われて集が素直に聞く筈が無い。必ず理由を問う。刃牙を危険かどうか判断する為に。そうなれば楽は多少渋っても最終的には教える。集は笑い話で済まない内容を暴露する奴では無いと信じているからだ。だが、そうなれば全ての終わり。話を聞いた集は即座に刃牙を危険人物と断定し、昨日の行いから、刃牙の正体まで知ってる事全てをクラスでバラすだろう。そうすれば約束通り刃牙は学校を去らねばならない。刃牙の青春は僅か1ヶ月でジ・エンドって訳だ。

 

 

 どうせなら暇になった時間を有効に使おうとエコバッグを取りに帰り、食材の買い出しのためスーパーに来ていた。

 

 「米に肉類に野菜類に納豆に………卵も切らしてたな。それに調味料も残り少しだし買っとくか……?」

 

 スーパーで食材を選んでいると周りのおばさん方が騒ついてる事に気付く。学生の癖に昼間からこんな所にいる事に不思議がっているのだろうか?こういう時、身長が低い(163cm)と面倒だ。簡単に学生だとバレてしまう。しかし、どうやら騒がしい原因は自分ではなさそうだ。おばさん方の視線は刃牙ではなく、刃牙と反対方向にいる2人の白スーツと黒スーツの男達(主に白スーツ着た男)に釘付けになっていた。悪い意味で。

 

 「へぇ、松坂牛が5%offか。ラッキーでしたね」

 「止めろ。通常価格のを買え 」

 「なんでですか大将?勿体無いじゃないですか。駄目ですよ、お金は大事に使わなきゃ」

 「俺が言ってるのはそう言う事じゃねぇ。割引してるって事はそれだけ良くねぇって事だからだ。割引されてるのは入荷してから時間が経ってたり、そもそもの素体が駄目だったりとな。特に肉や魚は新鮮さが大事なんだ。だったら多少値はついても通常価格の良いものにしろ」

 「なるほどぉ!分かりました!」

 

 白スーツの男に黒スーツの男が感心する。普通の人がこれを言えば『そう言う考え方もあるのか』と感心するところだが、これを言ったのはとても一般人とは思えない巨漢なのだ。その人物の身長は190cm程で、ボンボンボンの肉体をしている。しかし、決してデブなのでは無い。彼の膨れた体の正体は筋肉の集合体なのだ。モテる為に作られたシュッと締まった筋肉では無く、全て破壊するパワーがその身に宿っている。あの太腿みたいな太い腕に捕まったら脱出不可能。しかもその筋肉は一切鍛えられてないのが驚きだ。この情報を聞いただけで忘れる事は無さそうだが、更に特徴的なのは男の顔面だ。眼鏡の奥に見える鋭い眼光………では無く、普通の生活では絶対に付かないであろう顔面に刻まれた傷だ。ただでさえ恐ろしい肉体を、顔の傷が更に恐怖心を煽っている。この者は只者では無いと。

 

 「何あれ、凄い傷」

 「怖いわ。絶対893の人よ」

 「警察に連絡した方が良いかしら」

 「でも通報したのがバレるのが怖いわ」

 「ね、あれ見て。あの男が手に持った松坂牛。あれ割引してないやつだわ。すぐ隣に割引したのがあるのに」

 「きっと違法な方法で稼いだ金で買ってるのよ。だからあんな無駄遣いが出来るんだわ」

 「しかも凄いニヤついてる」

 「きっと昨晩バラした肉と見比べてるのね」

 「「「「怖〜い」」」」

 (いや、あんたらの方がよっぽど恐ろしい会話してね?)

 

 男達の会話内容を聞かず、勝手に悪い妄想をする老がry……オホンッ。おばさん方。悪い事しなくても見た目が怖いからと勝手な妄想をされ、通報されかねない。なんとも可哀想な事だ。まぁ、実際に極道なので通報されても仕方ない(あく)ではあるのだが、外道ではない。特に白スーツの男はとても良い奴なのだ。

 

 「失礼しますね」

 「ちょっと?!危ないわよ」

 「そうよ!坊や!戻ってらっしゃい!」

 

 刃牙はおばさん方の横を通り過ぎて男達に近寄る。後ろのおばさん方から静止する声が聞こえるが無視する。語り手が先程から男を知ってるかの様な口ぶりだが、それは何故かって?それは刃牙が白スーツの巨漢の男を知っているからだ。それも、ただ知っているのでは無い。刃牙にとって巨漢の男は強敵と書いて『とも』呼んだ間柄。その男の名は、

 

 「お久しぶりです、花山さん」

 「刃牙か?久しぶりだな」

 

 花山薫。暴力団藤木組系花山組2代目組長。現在17(高3)。齢14にして組長就任。ステゴロ(素手の喧嘩)なら極道最強と言われており、『喧嘩師』の異名を持つ。トランプを摘んで引きちぎる程の並外れた握力の持ち主。過去には父親を殺害した敵対組織『源王会』の事務所を1人で襲撃し、数十人を相手に素手で倒した伝説を持つ。しかも当時13歳。

 

 4年前、刃牙はそんな花山とやり合った過去を持っている。初めは刃牙が花山組の事務所に花山と喧嘩する為に大人10人を引きずってまで侵入。その時に、軽く向かい合った花山のこめかみに刃牙の左ハイキックが命中。花山は膝をついた。当時、大人相手でも敵なしだった彼のプライドは12歳の、しかも自分より一回りも二回りも小さい少年の一撃によって打ち砕かれた。激怒した花山は翌日、刃牙を尾行し人目も憚らずゲームセンターで刃牙を襲撃した。

 

 実は、花山も元から刃牙を襲おうとしていたのだ。刃牙の母、『朱沢江珠』の部下だった栗谷川等(くりやがわひとし)の依頼によって。依頼内容はシンプルに『刃牙と戦って欲しい』という内容。初めはこんな依頼いくら積まれても受ける気はなかった。しかし、刃牙の父が範馬勇次郎と知ると話は別だ。この世界(裏世界)で生きる者にとって絶対の名である範馬勇次郎。通称『オーガ』。刃牙を倒せば奴が現れると思い、依頼を受諾した。なので、この花山組襲撃が無かったとしても刃牙と花山は戦っていただろう。しかし、襲撃があった事で刃牙は花山を怒らせ、より熾烈な戦いへと発展したのだ。

 

 互いに死力を尽くした激闘の末、刃牙が辛勝。終戦した頃には刃牙への怒りは消え、そこには友情が芽生えていた。

 

 

 「どうしたんですか?平日なのに昼間っからこんな所に」

 「よく分かんねぇが学校が建てられた記念日らしくて今日は休みなんだ。それにそれを言うならお前こそどうしたんだ?高校行ってんだろ」

 「んー、ちょっとね」

 

 「え?!何?!なんで普通に話してるの?!」

 「もしかしてあの坊やも893なの?!」

 「嘘ぉ?!信じられない!あんなに小柄なのに!」

 

 893と小柄な少年が普通に会話をしてる事に驚きを隠せないおばさん方。

 

 「ちょっと騒がしいですね。ここじゃ落ち着いて話も出来ないんでどっか喫茶店に寄りません?」

 「……分かった。おい、後は頼む」

 「分かりました。では何かあったら先日買ったケータイに連絡して下さいね。直ぐに駆けつけます」

 「分かってる。LINEってアプリに文字打てばいいんだろ」

 「はい。それか電話して下さいね。受話器のマーク押せば掛かるんで。他の組の者に喧嘩売られても1人で買っちゃダメですからね」

 「おう、それじゃ行くか」

 

 花山は部下に買い物を任せ、刃牙と最寄りの喫茶店に入った。窓側の席で外の景色を眺められ、結構いい感じだった。

 

 「酒は?」

 「いえ、俺まだ未成年年ですし。てか花山さんもでしょ」

 「誰も俺が未成年と思わねーさ」

 

 注文したのは、刃牙がオレンジジュース。花山がワイルドターキーだった。注文は直ぐに届いた。互いに一口飲むとまず花山が切り出した。

 「なんかあったみてぇだな」

 「ええ、実は……」

 

 そう言って刃牙は入学するまでの出来事から昨日の事まで話した。話を終えると花山が一言漏らす。

 

 「驚いたな」

 「何がですか?」

 「刃牙がそこまで感情的だった事だよ。戦いならまだしも、ただの女の一言にキレるなんてな」

 「別に元から我慢強いって訳じゃ無いけど……まぁ、俺も意外でした。なんでこんな怒ったんだろうって」

 「……」

 「確かにあいつとの事を馬鹿にされた事は怒ります。それでもあそこまでとは、それこそ唯の女に拳を向けるなんて思いもしませんでした」

 「ま、それ程お前にとって大事だったって事だろ」

 「そうですね。あ〜あ、俺の高校生活は何もせずに終了ってつまらん高校生活だったな」

 「なら元の生活に戻るだけだ。地下にな。金稼ぎたいなら格闘技のプロになれ。簡単に頂点になれるだろうよ」

 「まぁ最悪そこなんだろうけどさ………ねぇ、花山さんの学校に転入出来ないかな?」

 「何?」

 「別にあそこにこだわる必要無かったし、続けられるなら続けたいし」

 「………刃牙、表出ろ」

 「?!」

 

 ガシャン!!

 

 刃牙が何か言う前に彼の頰に花山の拳が炸裂。完全に油断していた刃牙がなす術無く窓を粉々にして店の外に吹っ飛んでいき、強制的に店の外に表に出された。店内と店先からは悲鳴が広がる。

 

 「キャー!!」

 

 しかし、そんな事も気にせず花山は既に崩壊して役割を果たしていない窓から外に出て刃牙を見下ろす。刃牙は急に殴られた事で口を切っていた。口に広がる血をペッと吐いて花山を睨む。

 

 「いきなりなんすか?花山さん」

 「鍛え直してやるんだ」

 「何?」

 「分からねぇか?腑抜けたと言ったんだ刃牙!」

 「?!」

 

 花山は振りかぶった刃牙に向かって振り下ろす。刃牙は即座に立ち上がり避ける。避けた事で花山の拳は地面に直撃。地面のコンクリートにヒビが広がり、中央の拳があった場所には小さなクレーターが出来ていた。その出鱈目な威力に周りの人は悲鳴をあげてその場を立ち去った。周りの店もガラガラっとシャッターを閉める音が響き渡る。

 

 「腑抜けた?俺がいつ腑抜けたってんだよ!」

 「それが分からねぇ時点で腑抜けてんだよ!」

 

 花山はまたも大きく振りかぶって殴りかかる。しかし、そんな動作の大きい攻撃が刃牙に通用する筈も無く、簡単に躱される。何度攻撃を仕掛けても躱される。

 

 「なぁ、止めにしねぇか?花山さん。確かに以前戦った時はギリギリの勝負をした。でもな、出来ちまったんだよ。俺と花山さんの間には決して埋まらない実力差が」

 

 そんな事を言う刃牙。花山はそれに怒る訳でも無く、ただ無言で刃牙を狙い殴り続ける。刃牙は花山を憐れみながら避け続ける。反撃しない事で実力差を分からせる為に。哀れみの目を向けられても、それでも止めない花山に刃牙はため息を吐くと、彼の拳をキャッチした。

 

 「?!」

 「な…だから言ったろ。花山さんはもう、俺の敵じゃない」

 

 花山の自慢の拳を止めた刃牙。これ以上続けても意味が無いと分からせる為であった。

 

 「………」

 

 無言が続く花山。分かっていた。本当は分かっていたんだ。既に自分には手の届かない位置に刃牙はあると。あの、範馬勇次郎との戦いを目の前で見ていた彼は理解していたのだ。それでも、拳を向けなければ自分の気が治らなかった。

 

 「花山さん。訳を話して下さいよ」

 

 刃牙も花山が意味もなく攻撃を仕掛けてこないと知っている。何かしらあるのだと。それは、目的も話さず泣きじゃくる子供に向けた親の目と同じだった。

 

 「最初から言ってる。腑抜けたと」

 「だからどうして?」

 「何故転入なんて言葉を言った?そんな逃げの言葉を言ったお前を腑抜けた以外になんと言うんだ」

 「?!」

 「以前のお前は違った。目的の為、守る者の為ならなんでもした。がむしゃらだったあの頃のお前だったら絶対そんな弱者の言葉は出てこない!」

 

 花山に言われて気付いた。確かに自分は腑抜けていたと。以前の自分は弱かった。弱かったが強さを持っていた。目的を達成しようとする強い意志を。今の自分にそれは無い。既に人生の目的は達成した。親父を満足させるという目標を。それを終えた今の自分は抜け殻も同然。ただ経験した事がないからと始めた青春。そこに強い意志は無くても、れっきとした新たな目標の1つだ。それが潰れかけてるのに自分はどうだ?簡単に諦めている。現状を変えようとしないで現在進行形で逃げている。それどころか別の高校ですればいいと考えるとなれば救いようが無い。憐れなのは花山では無い。自分だったのだ。

 

 「確かに……花山さんの言う通りだ。完全に腑抜けていた。それこそ親父に有無を言わさず殺されるくらいにね。ありがとう、花山さん。目が覚めた。これから学校行ってくる。何が何でもしがみついてやるさ!」

 

 刃牙は花山に頭を下げるとダッシュで家に帰った。制服を着て学校に行く為に。

 

 「頑張れよ、刃牙」

 

 余談だが、花山が店の修理費を全額プラスαを支払う事でお咎め無しになったのを刃牙が知ったのは大分後の話だった。

 





 無し!疲れた!


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裏側

 ssをずっと読んで来たのに書き始めてから作品にハマる事が出来ない。面白いと思う作品でも何故か途中でやめてしまう。好きな作品は自分で書けばいいと知ったから。

 それでも自分の何倍も完成度のある作品に今一度ハマりたい!誰か教えて下さい。バトル系、ヒロイン複数だけど精々2.3人位の規模、ヒロインとのデレデレイチャイチャはいらない。ある程度の距離を保ってるの。主人公強キャラ。ギャグネタ有り。そんな作品。誰か知ってる人は教えて下さい!


 花山と軽く一戦交えた刃牙は、家に戻り指定の制服に急いで着替え、全速力で学校へダッシュした。結果、彼は約30キロの距離を、僅か50分で走り切ったのだ。フルマラソンの世界記録が1時間59分40秒と考えると、驚異的なんて生易しい言葉で語れないのは容易に想像出来るだろう。残り12キロ強をキロ5分のペースでジョギングすれば世界記録を塗り替えられるのだから。

 

 刃牙は学校にたどり着くと真っ先に教室へ向かった。担任に謝る為だ。本来こういう時は職員室に行くのが常識だが、そんな学校の常識が中学までまともに学校に行ってない刃牙には通用しない。

 

 教室の前に行くと中から賑やかな談笑の声が聞こえる。この時、談笑している声が聞こえる事を何故疑問に持たなかったのだろうと刃牙は数秒後に後悔する事になる。

 

 刃牙は軽く深呼吸していた。緊張からでは無い。息を整える為だ。普段は30キロ走っても息を乱さなかった刃牙も、今回ばかりは10秒程息を整える時間がいる。息が整ったと同時に教室のドアに手を掛け、勢い良く開けた。

 

 ガラガラ!

 

 「すいません。遅刻しました…って、え?」

 「………」

 「………え?」

 

 ドアを開けると目をつむり頭を軽く下げて謝罪した。しかしその瞬間、廊下まで聞こえていた賑やかだった声は、一瞬にして静まり返った。微妙な雰囲気が教室を漂う。何故だろうと思った刃牙は目を開ける。すると理由が分かった。先生がいない。それどころか各々が弁当を広げている。現在の時刻は昼休憩の時間だったのだ。つまり、授業中でも無ければ教師不在のクラスメイトしかいない教室で謝罪したのだ。一部の友達を除いたクラスメイトは口をポカンと開けて唖然としていた。この空気が耐えられなかった刃牙は気恥ずかしさで顔を赤くしながらそそくさと自分の席に荷物を置く。そして隣で昼飯を食ってる楽と集を見る。2人とも必死に笑いを堪えているのが見えた。

 

 「くすくすくす、お前、教師のいない教室でww」

 「マジで……それな……ぷっ!時間考えれば分んだろww」

 

 訂正、2人笑いを堪えられて無かった。そんな2人に照れ隠しで軽く言葉に力が入る。

 

 「急いでたから時間気にしてる余裕無かったんだよ!」

 「悪かったよ。それにしてもどうしたんだ?こんな時間に登校なんて……寝坊か?」

 「ちょっとな。それと集、食事中悪いんだがちょっと来てくれないか?」

 「ん?急にどうし「頼む」……分かった。楽、ちょっと行ってくるわ」

 「あ、ああ」

 

 そう言って楽を1人残して2人は教室を出て行く。残された楽はきょとんとした顔をしていた。そんな楽に小野寺が声を掛ける。

 

 「一条君」

 「どうしたんだ小野寺」

 「大した事じゃ無いけど………大丈夫かな?刃牙君」

 「どういう事?」

 「ほら……昨日の事とか。舞子君にも」

 「多分だけど大丈夫じゃ無いか?集には触れんなって言っといたし。それにもし触れたとしても集は人を傷つける事なんかねーよ。だから刃牙も怒る事は無いと思うぜ。なんか真剣な感じはしたけど」

 「だけど」

 「小野寺、そんな心配すんなよ」

 「一条君……」

 「刃牙と出会ってからまだ日は浅いけど、刃牙がそう簡単に手を上げる男に見えたか?」

 

 楽に言われて刃牙との思い出を、思い返す。

 思い出と言っても刃牙と出会って数日。しかも楽達と違って常に一緒にいる訳でもない。会話したと言えばホームルーム前や図書委員会、鍵探しでしたたわいも無い話だけ。やはり印象的なのは桐崎との事だろう。彼女が転入してから彼は既に2度怒りを見せた。転校初日と昨日だ。そう言う意味で危ないと思うだろう。しかし、彼の場合は自分に嫌な事をされて怒ったのでは無く、桐崎がした悪い事を叱ったという感じだった。

 

 特に最初。彼は楽と桐崎の言い合いを止め、彼女の拳から楽を守った。なかなか謝らなかった彼女に『子供じゃないんだからしっかり謝る』と口こそ悪かったが正論で彼女を導いた。

 

 昨日にしてもそうだ。人は多種多様の価値観を持っている。だから、思い出1つにしても、受け取り方は違うのだ。第三者から見て下らない思い出も、本人達からしたら素敵な思い出である事もある。今回なんかが良い例だ。彼女が馬鹿にしたものは、楽にとって、そして似たような思い出がある小野寺にとっても大事な思い出なのだ。他にも思い出繋がりである小野寺の父への想い。それらを刃牙は守ろうとしたのだ。もしかしたら……いや、きっと彼にも大切な思い出があるのだろう。誰にも汚されたくない思い出が。だからあれ程怒ったとも言える。それでも、間接的にでも守ってくれた優しい刃牙が簡単に手を上げる男に思えない。

 

 小野寺は小さく首を横に振った。

 

 「ううん。思わないよ」

 「だろ。だったら信じようぜ。これ以上心配すんのは俺らが刃牙を信用してないだけ。それじゃ刃牙を裏切るのと一緒だ」

 「……うん。そうだね」

 

 小野寺は楽の言葉に頷き、無事教室に2人で帰ってくる事を信じた。

 

 一方その頃、刃牙達はと言うと無人のトイレに来ていた。

 

 「無人のトイレ、男子高校生2人、何も起こらない筈もなかった。数分後、5限目前にトイレを済ませようとした男子生徒がトイレのドアを開けるとそこには」

 「気色悪いから止めてくれ。俺にそっちの趣味はない」

 「俺にだってねぇよ………それで話ってなんだ?」

 

 集は先程までのおふざけモードではなく、軽くだが冗談を封印した真剣モードになっていた。刃牙は唾を読み込む。この先自分の処遇は集に決められる。例えOUTだとしてもセーフに変えてやる。勿論こふry………話し合いで。刃牙は覚悟を決めると話を切り出した。

 

 「頼み事があるんだ。今回の件、お咎め無しにしてくれ!」

 「いいぜ」

 「え……………………え?今なんて?」

 「だからいいぜって」

 

 予想外の返答&返答スピードに刃牙は目を丸くする。最初何を言ったか分からなかった。意味ではなく、意図がだ。こんな危ない出来事をした人物を追い出す絶好のチャンス。それを何故見送るのか。そして直ぐに理解した。今回の件を誤解しているのだと。恐らく楽が色々と誤魔化して説明したのだろう。優しい配慮なのだが、今回に関しては余計なお世話。騙してこの場を乗り切ったとしても後々バレれば印象は今よりずっと悪くなる。ならここは真実を打ち明け、その上でお咎め無しを勝ち取るのだ。

 

 「良いか、今回の件って言うのはな」

 「楽から聞いてるから知ってるぜ。桐崎の言動にキレて殴り掛かったんだろ。寸止めだったらしいけど。まぁ確かにヤベェよな。特に顔面に殴りかかったとこ。相手は女子なんだから顔は駄目だろ。せめて、………せめて………いや、ねぇな。女子に殴って良い場所なんてなかった。」

 

 集は最初は他の部位をあげようとしたがあげられなかった。女子の体は男の何倍もデリケートで傷つけてはいけない体だ。顔面にしても、腹にしても、男女では訳が違う。

 

 しかし、そんな事刃牙にはどうでもいい。問題なのはお咎め無しだと言う事。

 

 「な、なら……知ってるならどうしてだ?俺のした事は」

 

 お咎め無しなら良かった筈が、なにも咎められずにセーフと言われ、逆に気になってしまった。

 

 「どうしてって言われてもな。……強いて言えば、怒ったからかな」

 「怒ったから?」

 「正確には想いや思い出について怒った事だな」

 

 刃牙はこの集の言葉の意味を直ぐに理解した。

 

 「あるのか?集にも」

 「まぁそう言う事だ。刃牙が怒った事は間違いなんかじゃねー。中々いないと思う。この歳で女子にしっかり言えるなんて。大体の奴は言った後の事を考えて笑いながら話しかけてやんわり考えを改めさせるか、黙ってるのに」

 「後の事?」

 「女子に村八分にされ、男子も女子に嫌われたくなくてそれに便乗するとかだな」

 「それは怖いなぁ」

 「まぁいくら怒ったからって殴り掛かるのは駄目だがな」

 「それは反省してる」

 「まぁ楽も俺もお前の言葉には感謝してるからな。私情で判断するのはどうかと我ながら思うが、今回はお咎め無しって事で」

 「そうか、ありがとうな」

 

 刃牙は自分こそ楽と集に感謝していると思った。

 

 

 

 

 

 

 そして放課後。刃牙を除いたメンバー、楽と桐崎と小野寺の3人で鍵探しをしていた。楽も桐崎にキレたが、同時にキレた刃牙の方がインパクトが強烈すぎて2人は怒った事も、怒られた事も気にせず、一緒に探していた。だがそこに会話へ無い。ひたすら草を掻き分ける音が風に乗って過ぎ去って行く。そこに刃牙が爆弾を放り込む。

 

 「なぁ、桐崎。いいのか?」

 「何が?」

 「ほら、刃牙と話さなくて良いのかって」

 「ビク?!な、何で私があんな!………あの人と話さなきゃいけないのよ」

 (完全にビビってるよ。『あんな』から『あの人』に変わってる時点でトラウマ植え付けられてるよ)

 

 桐崎はあの拳1発で完全に刃牙に恐れを抱いていた。それだけじゃ無い。あの怒気を真正面でぶつけられたのだ。トラウマになるのも無理は無い。刃牙が登校して来た時も1人だけ彼から目を逸らしていた。いつも我儘な桐崎がここまで怯えるのはちょっと気分が良い。しかし、いくら仲の悪くてもこのままなのは若干忍びない。なんらかの形で彼女のトラウマを克服させたかったのだが、この様子じゃまともに会話出来なそうだ。まぁ、昨日の今日でそれは無理なのかも知れないが。

 

 (刃牙も刃牙だよな。集と帰ってきた後、何事もなかった様に話せて嬉しかったけど、鍵は探せないって。気にしないでいいのによ)

 「……」

 

 

 

 そして週末の金曜日の放課後。今日も3人で鍵を探していた。すると桐崎が突然大きな声で叫んだ。

 

 「あったー!」

 

 彼女は急に立ち上がって右手を天高く掲げている。その拳にはずっと探していた楽の鍵が握られていた。

 

 「おお!よっしゃー!あったー!」

 

 楽もそれを見ると立ち上がり2人ハイテンションではしゃぎだした。その光景を小野寺は微笑ましそうに笑う。

 

 「やっと見つかったわ!」

 「やっとだー!帰って来たぜマイスウィートペンダント!」

 

 鍵に頰をスリスリする楽。その光景に若干引く2人。引いた事で冷静になった桐崎は先程まで一緒にはしゃいでいた事が恥ずかしく思え、彼女十八番のスキル天邪鬼が発動した。

 

 「ふ、ふん!見つけてあげたわよ!感謝しなさい!」

 

 先程まで『一緒になって喜んでいたのに』と小野寺は桐崎に苦笑いを向ける。

 

 「お前、急にテンション変えやがって………まぁ。サンキューな」

 「あ、うん」

 

 素直に楽に礼を言われるとは思っていなかった桐崎は、この後どうすれば良いか分からず、数秒固まる。しかし、直ぐに当初の約束を思い出す。

 

 「え、えーと……あ!そ、そうよ!これで約束は果たしたんだからあんたも約束通りこれから話しかけないで頂戴!」

 

 そう言って彼女はこの場を立ち去った。楽はそんな彼女の背中を見てイラッとする。

 

 「なんだよ。本当可愛くねー奴」

 「はは、」

 「……まぁあいつの言ってる事も正しいんだろうな」

 「え?」

 「刃牙がキレたやつの事だよ。俺は刃牙に感謝して正しいと思ってるけど、冷静に見たら桐崎の言葉だって正しいだろうなって。10年も前の事なんか覚えてる方が珍しい。いい加減忘れた方が正しいんだろうな」

 「そんな事ないよ!」

 「?!」

 「誰かと約束したんでしょ。もしその人も一条君と同じように覚えていたらきっと悲しむよ。たとえそれが10年も前の子供の約束だとしても……その人にとっては大切かも知れないよ」

 

 え?小野寺?

 

 「小野寺?」

 「あ…ごめん!変な事言って」

 「俺、忘れるなんて一言も言ってないぞ?」

 「え?」

 「桐崎に言われて確かに忘れた方が正しいと思ったよ。子供の頃の約束を鵜呑みにして、いつまでも待ち続けて、約束に囚われて踠き苦しむくらいなら忘れた方が何倍も利口だ。でも、俺は忘れない。忘れたく無い。例え相手が忘れていても大切な物には変わりないからな」

 「一条君」

 「つっても刃牙の受け売りだけどな。小野寺もサンキューな。んじゃまた明日」

 「あ!うん……また明日」

 

 楽も帰り、この場に残ったのは2人になった。

 

 「……良かったの?教えなくて」

 「良いんだよあれで。小野寺だって2人の距離が縮まったって思うだろ」

 

 誰かが校舎裏から小野寺へと歩み始めた。小野寺はその人物に最初から気付いていた様に話す。

 

 「確かにそうだけど……でも本当に見つけたのは刃牙君でしょ」

 

 刃牙だった。刃牙はずっと3人が探している裏で1人鍵探しを続けていたのだ。小野寺には直ぐバレてしまったのだが黙っていてもらった。桐崎が怖がるからと。桐崎の怯えようは小野寺も見ていたからこの提案は受け入れた。

 

 そして昨日やっと見つけた。最初は直ぐに楽に返そうとした。でももっと良い案を思いついたのだ。それは小野寺と協力して桐崎と楽の間にある蟠りを少しでも排除しようというものだ。まず小野寺に見つけた鍵を渡す。それを3人で探してるフリする。頃合いを見て桐崎の近くに鍵を置いて彼女に見つけさせる。彼女はそれを楽に返せば楽は彼女に感謝し、ある程度態度も入れ替えると言う作戦。

 

 「見つけたのが誰だとかじゃ無いんだよ。結局は誰が返したかそれが重要なんだ」

 「それでも、それじゃ刃牙君が不憫だよ」

 「そんな事ないよ。あんな事して仲間に居させてくれてるだけで十分さ」

 「刃牙君………」

 「それじゃまた来週ね」

 

 刃牙もその場を立ち去ろうとする。すると刃牙の腕を小野寺が両手で掴んだ。彼女の突然な行動に刃牙は驚く。

 

 「え、どうしたの?」

 「今、来週って言ったよね?」

 「い、言ったけどそれが?」

 「来週じゃなくて明日でしょ。10時に喫茶店。もしかして忘れちゃった?」

 「いや、忘れては無いけど………あんな事あったし小野寺も行きたく無いだろうって」

 「……刃牙君言ったよね。人の思いどうこうするなって。それじゃ今刃牙君がしてるのは?」

 「あ、……してるな」

 「人にするなって言った事を自分がやるのはいいの?」 

 「それは駄目だな」

 「ふふ、」

 

 刃牙と小野寺は普通に話していた。あんな事があったのに。目の前で見ていたのに。

 

 「なぁ小野寺」

 「ん?何?」

 「怖くないのか?俺の事。あんな事あって桐崎は勿論、楽も平静を装ってたけど初めは怖がってたのに」

 

 疑問。あんな事、優しい暴力とは正反対の位置にいる彼女が何故恐れないのか。

 

 「…怖かったよ。あの時は怖かった………ううん。今でもほんの少しだけ怖いかも」

 「なら」

 「でも………でも、懐かしく感じたの。それに、怖かったけど優しくも感じたの」

 「小野寺……」

 「ハッ!ごめんね!変な事言って。矛盾してるのにおかしいよね!それで話って終わり?」

 「あ、ああ」

 「なら明日ね。楽しみにしてて。必ず好きにしてみせるから」

 「ああ。じゃあな」

 「うん。バイバイ」

 

 彼女は去り際に振り返り、笑顔でそう言った。彼女の笑顔は夕日に照らされて輝いていた。彼女の言った『好きにしてみせる』と言うのはスイーツの事なのだが、そうと分かっていても彼女の笑顔はドキッとしてしまう魅力があった。

 

 「その笑顔を俺じゃなくて楽に見せて欲しいんだがな。楽。彼女を逃すなよ。彼女は最高級の魚だからな」

 




 一同『おつかれ様でした!』
  楽「今回は若干原作と違う形になったな」
 千棘「そうね。普通に一緒に私も探してるし」
 作者「まぁ原作みたいに仲違い的な感じにならなかったしね」
 刃牙「てかどうするの?千棘にトラウマ植え付けてるけど。大丈夫なの?」
 作者「大丈夫、大丈夫。最初は苦労するけどそう言う奴に限っていい感じになったりするのがお約束じゃない?」
 刃牙「ギャルゲーなんてやった事無いくせに」
 作者「サマポケはやってるぞ。あれ一応ギャルゲーらしいから。まぁギャルゲーって言うよりあの花みたいな感動系アニメ感覚で見てたけど」
  集「ギャルゲーの定義も分からずに語るのはいかがなものだぜ」
 作者「まぁそれもそうだな。じゃあこの話は終わりって事で。てか岸辺露伴は動かないアニメ録画し忘れた」
 刃牙「どんまい。ドラマはしっかり録画しとけよ」
  楽「てかセリフに本編と関係ないネタ挟むなよ。読者が勘違いしたらどうすんだよ」
 作者「まぁ分かる人に楽しんで欲しかったので。今日ゲームコラボしたし」
  楽「紛らわしいやり方はほどほどにな。てか刃牙、お前何小野寺とイチャイチャしてんだ?俺と小野寺をくっつけるのはどうした?」
 刃牙「俺は知らん。文句なら作者に言え」
  楽「おいクソ作者!」
 作者「情緒不安定かよ。別に忘れた訳じゃねーよ。刃牙(本編)は楽と桐崎の仲を普通にしようとしただけだ」
  楽「なおさら駄目じゃねーか」
 作者「それへ違う」
  楽「何?」
 作者「原作のお前らがあれほど仲良くなったのはどうしてだ?」
  楽「どうしてってニセコイしたからだろ」
 作者「はぁ、分からないならいいや。この考え言うと刃牙の心情もバレるから」
 一同『なんだよぉ』
 作者「ま、そう言う訳だから次回もよろしくね」


 バイバーい
 


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謝罪の本質


 新年、あけましておめでとうございます!

 いやー、ガキ使見たかったなぁ。え?今更その話だって?そりゃそうでしょ。投稿してなかったんだから。





すいませんでした。もう一度心を入れ替えて頑張るので応援よろしくお願いします。


 

 楽、桐崎side

 

 「「ハァ〜〜〜〜」」

 

 時刻は既に8時を過ぎ、満月が燦然と輝き辺りを照らしている。景色はこんなにも輝いているのに、それを見ている2人の心は酷く淀んでいた。何故桐崎が一条邸にいて、 仲の悪い2人で縁側で星を眺めながらため息を吐いているのか。その原因は数時間前に遡る。

 

 「それでは!VTRどうぞ!」

 「おおい⁈今のジャージ男は一体だれだ⁉︎作者か?作者なのか!!」

 「この作者やってるわね。最近投稿サボってアニメ見てたからってキャラに作者本人をツッコませて面白い風を装って元々無かった人気を回復しようとしてるわ。貴方如きがパクるなんて烏滸がましいわね」

 

 ホワンホワンホワン

 

 「あ!こいつアニメ特有の回想入る時のモヤモヤで逃げようとしてるぞ!」

 「そうはさせないわ!とっ捕まえて投稿が遅れた事に対する謝罪と、投稿ベースを最低でも週1に行う誓約書でも書かせてやるわ!」

 

 ホワンホワンホワン  「うおおおおおおおお!」

 ホワンホワンホワン  「でりゃああああああ!」

   フッ(耳)     「「あふん♡ ブルル」」

 

 「フ、某嵐を呼ぶ5歳児の必殺技は最強なり」

 

 ホワンホワンホワワンプツン

 

 

 

 楽は家に帰るなり、父の一征に呼ばれ彼の部屋に直行した。

 

 「なんだよ親父。突然呼びつけたりして」

 「楽、突然だが恋人欲しくねーか?」

 「は⁉︎なんだよいきなり……そりゃ、欲しいけど」

 「なら丁度いいな。お前も知ってるだろうが最近ギャングとの抗争が激しくてな。全面戦争になりそうなんだわ。だから楽。お前それを止める為に向こうのボスの娘と恋人のフリしてくれ。あっ拒否権はねーぞ。こっちも命かかってっからよ」

 「お、おい待てよ!俺の意見全無視かよ!俺にだって……」

 「欲しいって事は彼女いねーんだろ」

 「んぐっ……」

 「なら良いじゃねーか。因みにもう来てるぞ。俺はもう見たけど中々の美人さんだ。ま、母さんの次ぐらいにな。良かったな楽!」

 「もうかよ⁉︎」

 

 帰ってきて唐突に偽の恋人関係を迫られる楽。確かに最近ギャングとの抗争が酷くなってるのは知っていた。下校する時も見かけるから。でもまさかそこまでの事態に発展してるなんて思いもしなかった。しかもそれを止める為に急に恋人関係しろなんて完全にとばっちりだ。どうせ互いの2代目(仮)が恋仲とあれば若い連中も水を刺す訳にはいかなくなると考えているのだろう。だからって当人に相談無しはあんまりでは無いか?せめて事前に教えて欲しかった。恋人はいなくても好きな人はいるのだから。だが…

 

 「そいつは都合が良過ぎる話なのかもな」

 

 普段ヤクザというものを毛嫌いし、話をまともに聞こうとしなかった癖にいざって時は事前に教えろなんて我儘なのかも知れない。まぁなんにせよあくまで恋人のフリだ。そんな事で戦争を避けられるなら安いもんだ。

 

 「…………!」

 「…………」

 

 お相手の方も何やら言い争ってる。事前に教えられなかったのもお互い様ってところか。

 

 「だからまだやるって決めた訳じゃ!」

 

 楽は聞いた。聞き覚えのある声を。最近学校に転校して来た。傲慢で我儘で良く喧嘩するから気が強いと思ったら強く言われるとシュンとなる女らしさを持っている。なぉその相手限定で。それでも見た目だけは金髪ロングで美形でスタイルもいい文句無しのお嬢様気質。現在自分の隣の住人である彼女と瓜二つな声を。

 

 「ご開帳!」

 「まだ心の準備が…」

 「「?!」」

 

 一征がカーテンに手を掛け勢いよく開けると、向こうはそのお嬢様の姿が見えた。お互いは顔を見合わせるなり固まる。

 

 「こちらが桐崎千棘お嬢ちゃん。お前ら2人は今から卒業するまでの3年間恋人同士になってもらう」

 

 楽の悪い予想は的中した。それと同時に理解した。何故彼女が刃牙相手にトラウマになるまで恐怖を抱いたのか。自分とは平然と喧嘩し、怖い者知らずと思えた彼女があそこまで恐怖を抱いたのかを。

 

 悪口では無いが刃牙は見た目で言うと怖いとは思えない。身長は楽より低く、顔も強面ってタイプでは無い。どちらかと言うと中性的な顔をしている。着痩せはしてそうだが、1番肉体が分かる体育の時に刃牙はジャージに長ズボンを履いていて服の上からでは分からない。桐崎が転校した初日や、トラウマ事件の身のこなしから考えてなにかしらの格闘技はしてそうだが。

 

 そんな彼に怒られたとして、普段の彼女がトラウマに残る程恐怖すると誰が予想出来ようか。否だ。普段の強気な彼女からは想像出来ない姿。反論するどころか、謝る事すら出来なかったのだ。彼女は感じ取っていたのだ。刃牙が放つ裏の住人しか出せない本当の殺気を。だからここまで恐怖を抱いたのだ。自分や桐崎の様に裏の住人を見て育った者にしか感じ取れず、普通に生きていれば感じ取る事が出来ない本当の殺気を感じ取ったから。彼女は刃牙の言葉では無く、彼の常人では発する事は叶わない殺気に恐怖したのだ。

 

 

 

 

  ホワワン!

 

 「ん?あれ?俺一体どうしたんだ?」

 「えーっと、ニセコイ?関係になって、みんなから質問攻めにあってやっとのことで解放されてここで休んでたんだっけ?」

 「そうそう。なんか忘れてる感じするけど…忘れたって事は大した事じゃねーんだな」

 

 2人はしばし連中からの質問への返しや鍵についての会話を弾ませる。

 

 「それにしてもだいたい何よあの答え!好きな曲に対する返答がヘヴィメタで、好きな料理が豚の丸焼きって!あんたの中で私はどんだけワイルドなのよ!それに豚の丸焼きなんて食べるどころか生で見た事も無いわよ!私のフォローが無かったらあんた大変な事になってたわよ」

 「悪かったって……!」

 

 他にも恋愛の経験が無い2人はこれからどう振る舞えば正しいのか、そして鍵の事について話した。その時、ガサツな彼女から『ロマンチックなのは嫌いじゃない』なんて微笑まれ、不覚にも可愛いと思ってしまった事は内緒だ。

 

 そして、楽はついにあの話題を切り出す。

 

 「なぁ、刃牙の事だけどさ」

 「?!」ピク

 

 やはりだ。この話題になった瞬間彼女の体が硬直し、顔が強張る。よっぽど怖かったのだろう。まだ傷が癒えていない彼女にこの話題は酷かも知れない。だが今、今でなければ駄目だ。楽は姿勢を正すと頭を下げる。急に頭を下げた彼を桐崎は不思議に思う。

 

 「悪かったな。怖い思いさせて」

 「……え?」

 「お前の気持ちも考えずに刃牙に話しかけさせようとして」

 「……」

 「初めはさ、普通の女子ならいざ知らず、毎回俺と言い争ってる男勝りなお前がなんでそこまで怯えるか不思議だった。流石に怯え過ぎじゃねって」

 「は?何?謝ってんの?それとも喧嘩売ってんの?どっち?喧嘩買うよ。もやし如き簡単に捻り潰してあげる」

 「でもギャングの娘として育ったお前は実際に向けられた事が無くても幼少期から殺気を感じて育った筈だ。感受性豊かな子供の頃に感じていたからこそ、殺気を感じ取れる様になっちまった。俺みたいにな。だから刃牙の殺気を感じ取ってしまったんだ。あの殺気を感じてしまったが故に、お前は誰よりも恐怖を覚えた筈だ。それなのに殺気の流れ弾如きにビビって止めに入れずにお前に更なる恐怖を与えちまった。本当にすまねぇ」

 

 楽の誠心誠意の謝罪に桐崎は驚いていた。彼はこの件に関して何も悪い事をしてない。どちらかと言うと原因を作ったのは楽の約束や、彼の何かを侮辱した自分だ。今回の件は鍵を探す事も含めて最初から自分のミスだ。それなのに彼は私への申し訳無さ。自分の不甲斐なさ。そして友の釈明の為に頭を下げた。外国暮らしが長く友がいなかった彼女にとって、自分に非が無くとも友の為に頭を下げるなんてのは夢物語だった。彼女はそこに楽の優しさを見たのだ。

 

 桐崎の表情に柔らかさが宿る。

 

 「いいのよ。あれは全面的に私が悪かったもん。貴方の約束の子の話を聞いて余計そう思ったし。それに流れ弾とはいえ恐怖なら貴方だって感じ取ったんでしょ。それでも助けようとしてくれた」

 「桐崎……」

 「間に合わなかったけどねっ!」

 「ぐはぁ‼︎何も言い返せねぇ」 

 

 あの桐崎から優しい言葉を投げかけてもらえて温まった心に鋭い一撃。楽は膝から崩れ落ちる。その様子をまるでオモチャでも見つけた子供の様な目でクスクスと笑う。

 

 「でもなんで今?傷ついてる女の子にその話題振るなんて鬼畜の所業なんですけど。性格最悪よ。自分の性格見つめ直す事をオススメするわ」

 

 膝を抱え、ジト目で見てくる桐崎。

 

 「言われるとは思ったけどお前は相変わらずど直球だな。でも俺は考えて今だと思ったんだ」

 「へぇ、その心は?」

 「謝罪ってのはな、直ぐじゃなきゃいけないと俺は思うんだ。例え相手が傷ついて口も聞きたく無いと思っていてもな。謝罪を引き伸ばせばする程、お互いの心はすり減っていく。悪さをした奴は反省意欲があればあるほど罪の意識を重く受け止めてしまう。受けた方も謝罪が無い事で相手に対する怨念が増し、謝罪に対して敏感になる。

 だから例え相手が会いたく無いと思っていても直ぐに謝る事が後々を考えると最善の策だと思ってるんだ」

 

 桐崎は楽の考えに驚嘆する。楽の謝罪はなんの考えも無い謝罪だと高を括っていた。どうせ謝れば済む程度の考えだと。でも違っていた。彼は最初から2人の思いが大きくなり過ぎない今のうちに終結させようとしていたのだ。先程彼は受ける側は怨念が増すと言っていたが、被害者は感じるのはそれだけでない。恐怖だ。思い出は美化される。良い思い出はより美しく、嫌な思い出は最悪へと。恐怖は人生をめちゃくちゃにする。彼はそれに気付いていたのだろうか?こんな事言える人だ。きっと気付いているだろう。気付いた上で言葉を伏せたのだ。恐怖を意識させない様にしたのだ。

 

 (あんた、優しいのね。……もやしだけど)

 

 「とにかくこの状況を早くなんとかしねーと。お前と恋人とか耐えられねー!」

 「それはこっちの台詞よ!ただでさえこんな美貌なのにもギャングのボスの娘というブランド付きなのよ!なんで仲良くも無ければデリカシーも無い、しかももやしみたいに貧弱なあんたが彼氏じゃいくら命があっても心身共々持たないわよ!」

 「いくらなんでも言い過ぎだろ!まぁ今日からって言っても対してやる事無い気がするけどな。適当に電話してる様子見せとけば納得するだろ」

 「そうよね。学校以外でも貴方の声聞くのは癪だけどこの際仕方無いわね」

 「顔は見なくて済むからな」

 「そーね」

 

  

 

 

 

 「今日は色々と大変な1日だったな」

  

 ブーッブーッ

 

 「スマホ鳴ってっけど疲れたし明日でいいわ」

 

 

 

 

 「やばいやばいやばいやばいやばい。色々あって小野寺と明日出掛けるの言うの忘れてた!このままじゃ楽を出し抜いて遊んだ事になる。裏切りだ。どうあがいても小野寺は俺を連れてこうとしてるから、せめて楽を誘おうとしてんのに」

 





   一同「ご愛読ありがとうございました!」
 作者以外「じゃねーだろー!」
   作者「うげー!何すんだよ」
    楽「じゃねーだろ!今何日だと思ってんだよ!9日だぞ!前回から2週間以上たってんだぞ!」
   作者「だってぇ、書こうとサイト開いても指が動かなかったんだもん」
   千棘「それこそ甘えじゃない。5話で私の事甘やかされたとか言ってたけどあんたの方がよっぽどじゃない」
    楽「しかも初っ端。なんだあれ?おふざけじゃねーか」
   千棘「いきなりやってもついて来れるわけ無いじゃない。やるなら最初からしなさいよ」
   小咲「2人とも、そこまでにしてあげなよ。頑張って書いてるんだから」
   作者「うわぁぁん!小咲ちゃんまじ天使!良し!そんなマイラブリーエンジェルな小咲はメインヒロインにしちゃう!」    
   一同「はぁ?!」
   千棘「そんなんで決めるなんて駄目に決まってるでしょ!」
   作者「あれ?なんでそんな怒るの?刃牙のヒロインになりたいの?」
   千棘「そ、そんな訳じゃ」
   作者「それじゃこれからはヒロイン小咲でね!ばいちゃ」
   



  







 ちげーから!


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