転生魔法女王、2度目の人生で魔王討伐を目指す。 (”蒼龍”)
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第1章『旅立ち編』
第1話『建国女王、転生する』


初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はこんにちは、自分は”蒼龍”と言います。
今作は夢の中で見た魔法物の内容(但し一回しか見ていない上余り深く内容が無かった)を文字起こしした初の一次創作となります。
何処まで内容を詰めれるか分からない拙い作品ですが、お付き合い頂けたら幸いです。
では、本編へどうぞ


 これはこの世界に生きる者達の物語である。

 

 

 

 

 

 

 始まりは500年以上前、『魔界』より現れし『魔族』達により『人間』や『エルフ』、『ドワーフ』と言った生命が生きる『地上界』が侵略された事に始まる。

 しかし、その侵略に争った勇者達の手により奪われた領土は取り戻され、新たに国を(つく)る事になった。

 

「…やれるだけの事は全部やった。

 後はこの『予言の日』に私が行動を起こすだけ…。

 さようなら皆。

 私、この世界を守って来るから」

 

 それから20年、勇者一行の大魔法使いにして魔法王国『セレスティア』の女王『ライラ』は同じく勇者一行の『ダークエルフ』の予言者『リリアナ』の予言により20年後の今日、領土を取り戻した地上界に再び魔族と『魔物』の大群勢が魔界と地上界を結ぶ『門』より2度目の侵略を開始すると予言されたのだ。

 

「今の地上界は疲弊し切っている、だからもう一度魔界から攻撃を受ければ今度こそ地上界は滅ぼされてしまう。

 なら、その前に………」

 

 ライラは例え勇者一行が健在であろうと2度目の侵略を許せば地上界は制圧され、魔族達の蛮行に対抗する者が根絶やしにされる事現状を把握しており、そうならない為にこの20年で全ての準備を進めて来た。

 そしてそれを終え、予言の日を迎えたライラは転移魔法である場所へと赴いた。

 その場所とは──。

 

「…魔族達が攻め入る前に門を封印する‼︎

 体内魔力、魔法元素(マナ)接続‼︎

 設置済み魔法陣起動1番から6番まで起動‼︎

 大封印魔法『縛られし門(バインドゲート)』発動‼︎」

 

 門がある海に囲まれた遺跡群その中心点、門の目の前であった。

 そして魔界の空気である『魔素』が濃くなり空が暗雲に包まれている中でライラは体内にある魔力と空気中の魔法元素(マナ)を20年の間に設置した魔法陣に接続し、それぞれから魔力の光が伸び門を中心に六芒星を形成、門から溢れる魔素を遮断し始める。

 

「な、何だ⁉︎

 門から出られないぞ‼︎」

 

「アレを見ろ‼︎

 忌まわしき魔法使いライラが居るぞ‼︎」

 

「まさか、門の封印をしているのか? 

 我々魔族にも出来ぬ事を⁉︎」

 

 そして門の中から魔族が出て来ようとした瞬間、見えない壁に阻まれ魔族達は者より外に出られず慌てふためく。

 更にライラの姿を捉え、彼女が魔族にも出来ない門の封印を試みていると察知し戦慄しながらも見えない壁に魔法や戦闘術技をぶつけ破壊しようとするが、その壁は一向に破壊される気配が無く寧ろ逆に強度が更に高まり始めていた。

 

「無駄だよ、この門の封印は私が20年の時間を掛けて作り上げた大魔法! 

 アンタ達魔族には一生掛かっても封印の壁を壊す事なんて出来やしないよ‼︎」

 

「お、おのれぇ‼︎

 なら魔物だ、魔物を連れて来い‼︎

 魔族が駄目なら魔物なら恐らく通れる筈だぁ‼︎」

 

 ライラは体内の血管や神経が焼き切れる感覚を覚えながらもそれを表情に出さず門の封印を続行する。

 魔族達は封印完了まで時間が無いと察知しならば『魔物』なら、自分達が作り上げた生命ならば通れる筈と一縷の望みを賭けて魔物を通そうとした。

 しかし、強弱関係無く全ての魔物すらこの見えぬ壁を通り抜ける事が叶わなかった。

 

「言った筈だよ、これは『門』の封印‼︎

 アンタ達魔族だけを通さないとか甘めの設定じゃない、門その物を封印して何者も通さぬ様にする大封印魔法と‼︎

 さあお別れの時間よ魔族達、いきがって2回目の侵略をしようとした時の光景を目に焼き付けながら魔界に閉じ込められろ‼︎」

 

「お、おのれ、ライラァァァァァァァ‼︎」

 

『キュイィィィィン、キィンッ‼︎』

 

 ライラは魔族に最後の言葉を掛けて門の封印を行い、魔族達は憎らしげにライラを睨み付けながら呪詛の言葉を投げかけながら壁を叩き続けた。

 そうしてその直後、門の封印が完全に完了し門の先に居た魔族も魔物も見えなくなり魔素も消え、太陽の日を通さぬ暗雲が消え青空が広がっていた。

 

「…はは、成る様に成るって良く言うけど本当に何とかなった…あ、はは………」

 

 ライラは大封印魔法の完了を見届け、自分の試みの『1つ』が成功した事にガッツポーズを取ろうとした。

 だが、大封印魔法の代償により体内の血管や神経が全て比喩表現では無く本当に焼き切れ、その生命の灯火が今消え去り倒れそうになった。

 

「──ライラァ‼︎」

 

『ガバッ‼︎』

 

 そんな倒れそうになったライラに大声で叫び、駆け寄って抱き抱えた人物が居た。

 それは勇者一行のリーダーであり、神剣を奮い世界を守った英雄の中の英雄、勇者『ロア』であった。

 更にロアの後方からリリアナやエルフの『ロック』、ドワーフの『ゴッフ』と勇者一行が勢揃いしライラの周りに集まっていた。

 

「皆…内緒にしてた筈なのに、何で…」

 

「ごめんなさいライラ、私、黙っていられなかった…」

 

「リリアナから聞いたぞ、門の封印なんてとんでもない無茶を‼︎

 アレは世界創世の時代からある代物、何事も無く封印するなら君レベルの魔法使いが10人居ないとならないのにたった1人でやるなんて‼︎」

 

 ライラは全てを内密に、それこそ大臣や子供達に親愛なる仲間達に全てを進め今がある筈なのにロア達が来た事を怪訝に思うがリリアナが直ぐに答えを出した。

 更にエルフであり知恵者でもあるロックはこんな大魔法はライラが10人居なければ無事に終わらないと話し、その上でそれを1人でやった事を咎めていた。

 

「畜生が、お前はいつもいつも後方担当なのに無茶してグイグイと前に出て来やがる‼︎

 おいリリアナ、早くライラに回復魔法を掛けてやれよ‼︎

 このままじゃあライラは死んじまうぞ‼︎」

 

「…ごめんゴッフ、もう手遅れなの。

 私の生命はもう此処で終わるの…」

 

「ライラ………」

 

 ゴッフは口調は荒いがライラの見た目は綺麗だが中身はズタボロになっている事を察知していた。

 その為リリアナに回復魔法を掛けて生命を救おうとするが、ライラは常に皆に見せた笑みを浮かべながらもう手遅れであると言い切り、リリアナを始めとした全員は目を背け、皆一様に涙を流していた。

 

「…何時もそうだ、僕は勇者と持て囃されながら何時も大切な人達を守れない! 

 家族も、友も、そして君でさえ‼︎

 僕は…勇者なんかじゃない、ただの愚か者だ…‼︎」

 

「…ロア、確かに救えなかった人達も居たけど、皆その瞬間瞬間を懸命に生きて、笑って生きて走り抜いたんだよ。

 そしてその分多くの人達を救い上げて来た。

 だから君は愚か者じゃない、私達にとって本当の勇者なんだよ…」

 

「ライラ………けど、僕は…‼︎」

 

 ロアは脳裏に救えなかった人々の姿を思い浮かべ、勇者なのにそれらを救えなかった事を悔やみ自らを愚か者だと蔑み、ライラも救えぬ事を悔やんでいた。

 しかしライラは救えなかった人々は後悔せずに生き抜いた事を語り、更に救った者達も引き合いに出してロアを勇者だと断言して頬の涙を拭いていた。

 

「ライラ…」

 

「それにね…ただ死ぬ為に、私はこの魔法を創り上げた訳じゃ無いんだよ? 

 もう1個だけ魔法を創り上げて、それに望みを託してこの大魔法を使ったんだ…」

 

「ライラ、それ、前に私に話していた…」

 

 ロアや皆がが悲痛な表情を浮かべる中でライラはもう1つ魔法を創り上げた事を話し、それに望みを託し此度の大魔法行使に至ったと告げる。

 それを聞いたリリアナはこの計画で話した魔法を思い出していた。

 

「…じゃあ、皆…封印魔法は大体200年で魔物が、500年後には効果が切れて魔族が通れる様になるから気を付けてね…。

 それから500年後には必ず魔王は倒される筈だから皆心配…しないで………ね………」

 

「っ、ライラ、ライラァ‼︎」

 

 ライラは最後に200年で門から魔物が、500年で封印が切れて魔族が通れる様になる事と、500年後には必ず魔王は倒されると確信めいた事を告げ終えると手がパタリと地面に落ち、その意識は黒く塗り潰されロアの叫び声を最後にライラはその生命を使い果たし息絶えてしまった。

 

「クソ、クソ、クソォ‼︎」

 

「ライラ…‼︎」

 

「(…ライラ、貴女の賭けが成功する事を祈るわ。

 だからそれまで、ロアの子孫や私達『ダークエルフ』やロック達エルフやドワーフが世界を守るから………だから…500年後に…)」

 

 この日世界は1人の英雄を失った。

 その悲しみは瞬く間に世界中に広がり、また200年後と500年後の脅威を忘れぬ様にと短命な人間も長命な他種族もこの日を大魔法使いライラの命日と定めその忠告を胸に刻み込む。

 そしてリリアナはライラが自身に何を託したのか遺言を英雄達の間で共有しそのとんでもない賭けが成功する事を祈るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからライラの魂は暗闇を彷徨い、何時しか明るい光に包まれその魂が新たなる形に変わる瞬間を認識し始めた。

 その瞬間ライラの魂は魔法陣に包まれ、その意識が再び浮上し始めた。

 

「(…術式解凍確認、魂の固定化開始。

 記憶、知識、技術継承を開始…同期開始、『転生魔法』の正常起動確認。

 …さあ目覚めよう、私の第2の人生を始める為に!)」

 

 ライラの魂は転生魔法と銘打ったその魔法の正常動作を確認し、ライラ『だった』頃の記憶や魔法知識に技術を第2の人生を始める新しい肉体に継承されて行く事を確認し賭けに成功した、そう確信を持ち光に向かって手を伸ばし………次の瞬間身体が軽くなっている事を感じていた。

 

「おぎゃぁ、おぎゃぁ、おぎゃぁ‼︎」

 

「国王陛下、王妃様、生まれました‼︎

 元気な女の子でございます‼︎」

 

「おおそうか、女の子か‼︎

 良く頑張ったな我が妻よ、そして良く元気に生まれて来てくれたな、我が娘『エミル』‼︎」

 

「はい、あなた…! 

 ああ、愛しいエミル、生まれて来てありがとう…!」

 

 そして目はまだ開かないが耳は聞こえ、ライラ『だった』者…エミルと呼ばれた娘は前世の記憶や知識、技術を受け継ぎながら国王と王妃の間に生まれた王女だと認識しつつ現状把握を終えて次の目標を思案していた。

 

「(よし、転生魔法が正常に働いたから此処はアレから500年後の世界で間違いない筈! 

 なら次に目指すべきは………修行し直してロアや皆で達成出来なかった最大の目標、魔王討伐の悲願達成よ‼︎)」

 

 そう、転生魔法はライラの時には達成出来なかった目標…地上界を侵略する魔族の長、魔王討伐の為に行った物である。

 こうして今此処に転生した建国女王、エミルの波瀾万丈の第2の人生が幕を開けた。

 そして世界の命運はエミルと彼女と出会う仲間達の手に懸かる事となったのは言うまでもなかった。

 全ては魔王を倒す為、エミルを中心に渦巻く物語が始まる。

 それを未だ本人は知らない。




此処までの閲覧ありがとうございました。
次回からはライラ改めエミルがメイドや執事、兄弟や姉と共にかつての自分が書き起こした理論内容を振り返りながら家族に夢を語る回になる予定です。
それから理不尽タグに付きましてはどんな意味を持つのかもまた次回に楽しみにお待ち下さいませ。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第2話『エミル、決意する』

皆様こんにちはです、第2話目更新でございます。
今回エミルで家族が登場したり色々な物が詰まってます。
専用単語も多いですか、それも世界観説明の一環ですのでご容赦下さいませ。
では、本編へどうぞ。


 エミルが生まれてから6年が経過した。

 初めの4年、エミルは立つ練習等普通の赤子の覚える事を教わるまでも無く行い、更に執事達の前での魔法行使でいきなり身体を強化する光の初歩魔法では無く火の初級魔法『火球(ファイヤーボール)』でも無く中級魔法『火炎弾(バーンバレット)』を発動させ周りにその魔法の才覚の大きさを見せ付け驚かせていた。

 

「(とは言えこの歳では体内魔力の形成がまだまだ出来上がってないから最上級魔法の『灼熱雨(マグマレイン)』所か上級魔法の『大熱砲(フレアブラスト)』、その他諸々の魔法が使えないから前世の100分の1にすら満たないんだよね〜)」

 

 エミルは中級魔法をいきなり使った事から数百年に1人の才覚の持ち主と持て囃されたが、これは全てライラの時の知識や技術を基に行使しただけであり本人にとってみれば呼吸と同じであった。

 故にこの世界の6属性ある原始魔法、一部の属性にある派生属性魔法を使い熟す事などエミルにとっては赤子が立つのと同義でありこれまた周りを驚かせた。

 普通の魔法使いで100%の力を発揮出来る属性は多くて3つなので、まるで初代女王ライラの生まれ変わりと持て囃された(実際そうなのだが)。

 

「(ああ〜早く魔法元素(マナ)の聖地で修行したいよ〜‼︎)』

 

 しかし生まれたばかりでレベルも当時の250から1に逆戻りした上に体内魔力も形成され切ってない為ライラの時の実力には程遠い為エミルは早く体内魔力を強化する修行をしたいとうずうずしていた。

 …但し現在の年齢では肉体がその負荷に今は耐えられない為、その修行はせめて10歳になった時にしようと計画を頭の中で計画を立てていた。

 

「では、今日はエミル第2王女様の授業を兼ねて魔法元素(マナ)と体内魔力、そして魔法の結び付きについての説明をさせて頂きます。

 よろしいですね『アルク』第1王子様、『レオナ』第1王女様、『カルロ』第2王子様?」

 

「はい、よろしくお願いします『アレスター』先生」

 

 そして6年目に入ったエミルは長男のアルク、長女レオナ、次男カルロとセレスティア王家4兄妹全員で専属魔法講師アレスターに講義を受ける事となった。

 因みに3人の兄妹達は全員エミルと同じ赤毛で、それぞれの人柄は長男のアルクは王位継承権第1位として強き者が前に立ち弱き者を守り導くノブレスオブリージュを信条とし、第2位のレオナはそんな兄を支えるべく外交や商業等を学んでいた。

 

「へっ、今更初歩中の初歩を学び直すなんざ時間の無駄だっての! 

 これなら『絶技』の練習をしてた方が有意義だっての!」

 

「おいカルロ、どんな事に於いても初歩を振り返り基礎を学び直す事はただ剣や魔法を振るうよりも有意義なんだと何度言えば分かるんだ! 

 …すみませんアレスター先生、カルロの不理解をお許し下さい」

 

 一方の第2王子のカルロは周りと比べて育った為か卑屈な性格をしており、更に魔法の才覚に満ち溢れた妹が生まれたとなりより一層自己中心的な性格となり周りを困らせる問題児となっていた。

 アルクやレオナはそんなカルロを何度注意しても悪化するだけであり、そんな様子を見ていたエミルはカルロには当たらず触らずと言う一定の距離を保ちながら、前世では謳歌出来なかった家族との温かな時を6年間過ごしていた。

 

「いえいえ、今回の講義は私からセレスティア国王陛下に進言して執り行われる事になった謂わば私の我儘です。

 なのでアルク王子様もレオナ王女様もどうかお気になさらずに軽く流す程度に講師を受けて頂いてもよろしいですよ」

 

 そんなカルロを見てもアレスターは自身の我儘でこの講義をしていると大人の対応をし、また何時かはカルロもアルク達の様に一皮剥ける筈と期待を掛けており余り贔屓になる様な咎め方はしていなかった。

 寧ろカルロも努力家である事を見抜き、大事に教え育てようと思っているのだ。

 最もカルロはそんな事は9歳になっても未だ気付いていないのか、それとも素直になれないのか、何方にせよ問題児には間違い無かった。

 

「では先ず魔法元素(マナ)について、アルク王子様お答え下さい」

 

「はい、魔法元素(マナ)とはこの世界に存在する元素の事であり、目に見えずとも酸素の様に其処に存在する魔法や絶技、剣術等の技の魔法版とも言うべき技の行使に必要不可欠な存在で、それらを使う事で消費される物です」

 

「はい、その通りです。

 補足として魔法元素(マナ)は世界各地の世界樹から放出されており、その放出量は我々『地上界』の生命が一生懸けても消費量を上回る事はないとされ、世界樹の群生地は特に魔法元素(マナ)が濃く体内魔力強化に打って付けの場所と言われてます」

 

 アレスターの講義に最初にアルクが答え始め

 この世界の魔法元素(マナ)の在り方を答えてレオナは真面目に聞きながらメモを取り、カルロは全く聞いていないと言った様子だった。

 一方エミルはこれは前世で自身が研究し尽くし論文や学術書に残した物だと振り返り、今の時代でもそれらが間違った知識が入る事無く脈々と受け継がれている事に感慨深い物を感じていた。

 

「では体内魔力について、カルロ王子様お答え下さい」

 

「…ふん、体内魔力は文字通り身体の中に出来る魔法や絶技を使う為の器官。

 魔法元素(マナ)を呼吸で体内に入れる事で形成されるから多かれ少なかれこの世界の誰もが体内魔力を有している。

 そして体内魔力の強化には高濃度の魔法元素(マナ)を取り入れる事が必要不可欠だけど最低でも10歳にならないとその修行に肉体が負荷に耐えられないから幼い子供には危険とされている、これで良い?」

 

 次にカルロが体内魔力について模範解答所か完璧な解答を行い、アルクやレオナも黙って頷きなんだかんだで正しい知識を身に付けているカルロを認めていた。

 エミルもまた同様の感情を抱き、カルロは矢張り王族であり、また影の努力家なのだと思っていた。

 

「はい、完璧でしたよカルロ王子様。

 矢張りカルロ王子様も王族、正しい知識を身に付けて反復していらっしゃるのですね」

 

「…けっ」

 

 アレスターもそれを理解しているのかしっかりとカルロの事を分け隔てなく褒めており笑顔を見せていた。

 しかしカルロは意地っ張りな問題児な為か素直になれず、そっぽを向き当たり前だと言う雰囲気を醸し出していた。

 

「では何故高濃度の魔法元素(マナ)吸収による体内魔力の強化が必要か、魔法元素(マナ)と体内魔力、そして魔法の密接な結びつきをレオナ王女様お答え下さい」

 

「はい、体内魔力の強化が必要とされる理由は体内魔力の大きさ、強度により同じ魔法や絶技を使っても威力に差が生まれる為です。

 この理論は初代セレスティア女王ライラ様がこの世界に形として残した最も世に知られる魔法理論であり、一つが欠けても魔法が成り立たなくなります。

 これを通称として『魔力一体論』と言われています」

 

 次にレオナが魔法理論の基盤となっている魔力一体論を答え、既に15のレオナはこの理論に基づいた修行を終えておりエミルの光の基礎魔法の一つ『観察眼(アナライズ)』ではレベル68となっておりそれ相応の努力をしていたと思っていた。

 

「(まぁ、アルク兄さんはレベル97と今の時代ではレベル100に入った時点で英雄と言われるラインの一歩手前まで来てまだ修行しているから、戦いの事はアルク兄さんやこれからのカルロ兄さんに任せてレオナ姉さんは外交メインの国のバックアップ担当だから此処でレベルを意図的にストップさせてるんだよね〜)」

 

 更にエミルは頭の中でレオナのレベルとアルクのレベルを見比べてレオナは外交等をメインに進める為にレベル上げを意図的に止めて外交等の事を学んでいる事を理解し、更に今の世界でアルクはもう少しで英雄と呼ばれる領域に立つ事も理解していた。

 因みにアレスターはレベル120の魔法の天才と謳われるエルフである。

 

「はい、これらが魔法や体内魔力、魔法元素(マナ)についての事柄です。

 エミル王女様、理解出来ましたか?」

 

「はい、お兄様やお姉様達、アレスター講師様の指導で私は魔法の基礎について学べました。

 それともう1つ、魔法元素(マナ)のもう1つの特性について話してよろしいでしょうか?」

 

魔法元素(マナ)のもう1つの特性…成る程、これから先必要になる知識でしょうからエミル王女様、どうぞ語って下さいませ」

 

 エミルは王位継承権第4位の末席の王女として兄や姉達の顔を立てながらかつて自分が打ち立てた理論を学び直す。

 更にエミルは此処で魔法元素(マナ)のもう1つの特性を話したいとアレスター達に話すと、アレスターはエミルを年に似合わず余程勉学好きと捉えて魔法元素(マナ)の第2の特性について話す事を了承する。

 

「はい、では…魔法元素(マナ)の第2の特性として魔物や魔族達の身体や魂を形成する魔素、特に戦闘により高純度にまで高まった魔素とと結合する事で劇的に肉体強度や反射速度、体内魔力の大きさや強度すら上げる特殊な元素となります。

 これを『熟練度元素(レベルポイント)』と呼び、魔物や魔族達の討伐の際にレベルが上がる事はこれを吸収する事により発生する現象とされています」

 

「その通りです、なので中には『レベリング』と言われる死と隣り合わせですが自身やパーティメンバーのレベルを上げる為に魔物の巣、『ダンジョン』に理由無く立ち入るパーティも居る程です。

 しかし、私は理由無きレベリングは推奨しません。

 それは命を粗末にする事と同じなのですから」

 

 エミルは魔族や魔物の身体や魂を構成する魔界特有の元素、魔素が魔法元素(マナ)と高純度で結合した際に生まれる元素、熟練度元素(レベルポイント)であると話してアレスターにそれが正しい知識である事、また危険な行為として魔物の巣に理由無く立ち入りレベルアップを図るレベリングと言う行為があるが、これは本当に危険であり推奨しないとアレスターは補足しカルロを含めた3人の兄や姉達は固唾を飲んでいた。

 

「(そう、レベリングは非常に危険が付き纏う行為。

 罠を張る知能を持つ魔物の巣(ダンジョン)に入り込んで罠に掛かって死んだ何て例が500年前も絶えなかった。

 だけど、500年前に関してはそうでもしないと魔物や魔族達から奪われた地上界の領土を取り戻せなかった…だから仕方無かった面があったのよね)」

 

 エミルもライラだった頃を思い出し、500年前の侵略完遂寸前だった地上界を取り戻すにはレベリングが必要だったのだと思い返しながら死んでしまった友や教え子達を思い返していた。

 そしてこの世界には高濃度の魔法元素(マナ)を取り込み体内魔力を上げる安全なレベル上げと熟練度元素(レベルポイント)吸収を目的とするレベリングと言う危険なレベル上げがあると言う自身の知識との摩擦が無い事をエミルはこの話で確かめたのであった。

 

「しかしエミル王女様はよく熟練度元素(レベルポイント)の事をご存じで。

 何処かの書庫で知識として読まれたのですか?」

 

「はい、アルクお兄様やカルロお兄様が書庫でレベル上げについて学んでいる所を横で見せて頂いて知識として身に付きました」

 

「おいエミル‼︎」

 

 アレスターは何故熟練度元素(レベルポイント)の事をエミルが知っていたのか尋ねると、元々知ってはいたがそれらが後世にも伝わっているか確かめるべくアルクや陰でこっそり本を熟読していたカルロの横からそれらを見て自分達が犠牲を払いながらも打ち立てた理論は危険な行為であるとされながらも伝わっている事を確認したのだ。

 当然陰で勉学していたカルロはそれを暴露された為エミルに顔を赤くしながら怒鳴り、当のエミルはごめんなさいと謝っていた。

 

「あっはっは、エミル王女様だけでなくカルロ王子様の勉学が伝わって来て私は陛下達にこの講義を進言した甲斐があったと思いましたよ」

 

「全くだよ。

 カルロも素直に俺と一緒に勉学すれば良いのに」

 

「うっせぇよブラコン兄貴‼︎

 ああもう今日は何で日だよ‼︎」

 

 アレスターはこの講義に確かな意味はあったと再確認し、カルロが問題児ながらも独自に勉学をし戦う王族として知識を身に付けている事をアルク共々喜んでいた。

 それをカルロは耳まで赤くなりながらそっぽを向き、講義室はアレスターや兄弟姉妹の微笑ましい笑い声に包まれていたのであった。

 

「(ああ、こんな温かな時は初めてだ………。

 ライラの時は夫と子供達を得ても明日にも魔族が攻め入るかもと言う恐怖に震えながら過ごして来た。

 こんな温かな時間が何時までも続けは良いなぁ…)」

 

 そしてエミルもまたライラだった頃には真に得られなかった家族温もりを肌で感じ取り、この様な平和な時間が続けば良い。

 そんな他愛の無い、しかしライラの時代の地獄…魔族や魔物に蹂躙され尽くす地獄を経験してるからこそ思う優しい願いをエミルは抱くのであった。

 

 

 

 だが、エミルは思い出した。

 否、忘れていたのだ。

 この世界には理不尽な事象が突然襲い掛かり、全てを奪って行く事を。

 

 

 

 それから3年後、カルロが10歳の誕生日を迎えて世界樹の下で修行をする事になってから2年の月日が経ち、エミルもいよいよ後1年で修行の旅に出る事になったある日の事。

 その日は雷雨が降っており、エミルは慌てた様子で城の弔い部屋へと息を切らしながら走っていた。

 それは、修行を途中で切り上げたカルロから齎された訃報であった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…‼︎

 カルロ、お兄様…‼︎」

 

「エ、エミル………畜生、俺の所為だ、俺の所為でアレスター先生がぁ…‼︎」

 

 其処には国王や王妃、更に3人の兄妹達が棺桶の周りに立ちエミルもヨロヨロと近付きながら棺桶の中を見ていた。

 其処には肌が青白くなりまるで眠る様に中に入れられたアレスターの姿があった。

 そう、アレスターは死んだのだ、カルロの修行の付き添い人として共に世界樹の下で修行していた時に。

 

「カルロそれは違うぞ、あれはあの場所付近に『エンシェントドラゴン』が偶然巣作りをしに来た所為であって」

 

「けど‼︎

 俺がちゃんと逃げ切れていたら‼︎

 俺があんな所で足を引っ掛けずに逃げ切ってたら先生は死ななかったんだ‼︎

 俺が転んだ所為で先生はエンシェントドラゴンの攻撃を受けて、それで戦わざるを得なくなって、命懸けの魔法でアイツを先生がぶっ殺したけど…けど…‼︎」

 

 如何やらカルロとアレスターは放浪型の魔物であり討伐推奨レベル140のエンシェントドラゴン…ドラゴン種の中でも上位に当たる竜に運悪く遭遇してしまい逃げ出したは良いが、カルロが逃げ遅れた為に止む無く戦闘になり、アレスターはカルロを庇いながらエンシェントドラゴンを討伐したのだ、その命を以って。

 それによりカルロはレベリングにより当初はレベル79で帰る予定がレベル105にまで上がり現在のアルクのレベル110に並ぶレベルにまでなっていたのだ。

 

「畜生、俺が、俺がもっとしっかりすれば先生は、先生はぁ‼︎

 うわぁぁぁぁぁ………‼︎」

 

「カルロ…アレスター先生…う、うう…」

 

 しかし、そんなレベルアップを喜ぶ程カルロは薄情では無く寧ろアレスターを陰では先生と呼び慕っていたのだ。

 そんな師が目の前で犠牲になった、それをカルロは大粒の涙を流しレオナも涙を流し、弔い部屋に居る王族達はカルロに如何声を掛けたら良いのか分からず暗い雰囲気が周りを包んでいた。

 

「…こんな事があるから嫌なんだ…魔物の存在も、魔族も…‼︎」

 

「…エミル?」

 

 そんな中、エミルはライラの時代からあった理不尽な隣人の死を思い出し、魔物や魔族達に対する怒りの感情を向けながら拳を作り、より一層自身の目標を達成しなければならないとさえ思っていた。

 そしてエミルはカルロの方を向き、彼の肩に手を出す。

 

「しっかりしてカルロお兄様、それでも貴方は王族ですか⁉︎

 貴方は何の為に生き残ったかしっかりとお考え下さい‼︎」

 

「五月蝿ぇよエミル‼︎

 お前に俺や先生の何が分かるんだよ‼︎」

 

「少なくともアレスター先生の気持ちなら分かります‼︎

 自分の教え子が危機に晒された、ならそれを救うのが教師の使命なんです‼︎

 アレスター先生はそれを全うして死んで行ったのです、ならカルロお兄様はアレスター先生の行為に答える義務があります‼︎

 生き残った者として先生の教えを伝え広めたり、更に強くなり先生が安心して眠られる様にする事ですよ‼︎

 違いますか⁉︎

 違うなら私を叩いて下さい、それが兄から妹への示しであるのですから‼︎」

 

 今までアレスターの死を悔やみ、カルロの姿に声を掛けられなかった周りの中でエミルは王家として、妹として、ライラの時代の感情を呼び起こしながらアレスターの気持ちを代弁する。

 彼が安心して眠りに就ける様にする事やアレスターの教えを広める事が義務だと叫び、初めはそれを突っ撥ねていたカルロもこんなしっかりとした意志を見せる妹が居るのに自分は情け無いと感じ始めていた。

 そして次第に涙を拭き、棺桶の中に居るアレスターを見ながら覚悟を決めた表情を見せていた。

 

「…先生、俺、エミルの言う通り戦いながら先生の教えを周りに伝えて来ます。

 俺は魔法と絶技の両方が使える『勇者』じゃないから魔法は使えないけど、絶技の教え方を先生流にアレンジして伝えて来ます。

 だから…今まで、ありがとうございました………‼︎」

 

 カルロはエミルに諭されアレスターが安心して眠るには自分がアレスターの跡を継ぎ彼の教えを広めて行こうと言う決意に満ち、そして家族の誰もが見た事が無い目の前の頭まで下げてアレスターに最後の礼を述べていた。

 こうして問題児カルロは一皮剥けて王族でありながら講師を目指す道を見出したのである。

 それも、嫉妬対象だった筈のエミルに諭されて、である。

 

「カルロ、お前…!」

 

「エミル、貴女は…!」

 

「(…教え子に先立たれてしまう、そんな悲しい事は嫌ですよね、アレスター先生…。

 だからこそ貴方は命を賭してカルロ兄さんを守ったのでしょう、そしてそれは例え王族であろうとなかろうと貴方はその道を選んだでしょう。

 ………そして、こんな理不尽をもっと少なくする為にも、私は…‼︎)」

 

 国王や王妃、兄妹達がカルロの決意やエミルの説得に驚く中で、エミルはライラの時代に何人も弟子が居たがその弟子達はライラが教え切る前に戦場で死ぬと言う悲しき別れを何度も経験していた。

 故に自身がアレスターの立場なら如何言っていたかを考えてカルロに話していたのだ。

 事実アレスターの人柄ならばカルロが王族であろうとそうでなくとも同じ道を選び死んでいただろう、教え子を持ったことのあるライラだったエミルにはそれが容易に想像出来た。

 そしてエミルの頭の中には自身の目標がより明確化していく感覚に満ち国王達家族を見ていた。

 

「…お父様、いえ国王陛下、お願いしとう事がございます」

 

「エミル…何なのだ改まって? 

 ワシに出来る事なら何でも言ってみせよ」

 

 セレスティア国王や王妃、兄妹達はこの弔い部屋でエミルが実の父に陛下と畏まり何かを話そうとする事にただならぬ雰囲気を感じ取りそれを国王は親子らしく軽々しく、しかし王として厳格な態度を持つと言うある意味矛盾した態度を見せながらエミルの目標…決意を聞こうとしていた。

 

「はい陛下。

 私魔法王国セレスティア第2王女エミルはこの様な理不尽をこの世から消し去る為………全ての元凶たる存在、魔界の王、魔王の討伐をしとうございます‼︎」

 

「っ、な、なんと…⁉︎」

 

「エミル、お前…‼︎」

 

 エミルは久しく忘れていた親しき者の突然の死別と言う理不尽なる蹂躙にライラの時代にあった正しき怒り…平和ボケと言えばそれでお終いだが、ライラの時代に碌に経験した事の無い長き温かな時間により目標達成をこの世界ならば気軽に出来る、優しい時間が長く続けば良いと言う頭の隅にあった気軽さと他愛無い願いを一切捨て去り、前世で果たせなかった悲願を必ず達成すると言う決意を此処に表明する。

 

「(そうだ、何処かにあった甘え…この世界の温かさから生まれた余裕を全部捨てて前世の時の刹那的な感覚を思い出せ‼︎

 お前は、その為に転生したのだろうエミル‼︎)」

 

 そしてエミル自身も自問自答をし、自身の中の悲願の大きさを再確認した上で魔王討伐に必要な事は全てやろう…そうする為に転生したのだとエミルは思い出す。

 かつて仲間達と果たせなかった悲願、その達成を現実にする決意を。

 

「…そうか、エミル。

 お前は荊の道を歩むと申すのだな。

 そしてその目はまるで伝説に伝わる初代女王ライラ様と同じではないか…ならば、誰にも止める事は出来ん。

 行って参れエミル、そして初代様の果たせなかった悲願を達成せよ、これは魔法王国セレスティア現国王の勅令である‼︎」

 

「…はっ‼︎」

 

 そして国王、更に王家一同はその瞳に折れこの決意表明を皮切りにエミルは書庫にあった生き残った弟子達が見出した魔法、絶技論文も全て見通し、そして1年後に群生する世界樹の中でも凶悪な魔物が巣を作っている箇所に狙いを絞りそれらに旅立ち世界樹付近の高濃度魔法元素(マナ)吸引の安全性とレベリングの危険性の両方を兼ね備えた危険な修行の旅に出るのであった。

 そしてこの旅はエミルの、ライラの時代から続く悲願を達成する為の第1歩を踏み出す物でもあった。

 




此処までの閲覧ありがとうございました。
補足説明として体内魔力についてはゲームで言う所のMP、絶技はMP消費して放つ技であります。
そして理不尽タグの意味、それは今の世界でレベル100オーバーは英雄や天才呼ばれる存在すら死ぬ時はサックリ死んでしまう事を初めとして色々物が詰まってるのです。
そうして改めて理不尽な死に直面したエミルは甘ったるい考えを捨てた修行に入ります。

次回もよろしくお願い致します。


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第3話『エミル、成長する』

皆様こんばんはです、第3話目更新でございます。
今回はエミルの修行と冒険者ギルドに入ろうとする話になります。
では、本編へどうぞ。


 エミルが10歳の誕生日を迎えた時の事。

 早速エミルは国王より魔王討伐の勅令書を作って貰った後に荷造りをして付き添い人抜きで城に書き置きを残して自身の世界地図を見て危険な場所が多い世界樹の群生地を目指す旅が始まった。

 

「しかし王女様良かったのですか? 

 王家の習わしである世界樹での修行には付き添い人が付く事を無視して家出同然に飛び出すなんて」

 

「これで良いのです、私が向かう場所は本来なら高濃度の魔法元素(マナ)により魔物が寄り付かない筈の聖地に巣を作る知能ある魔物が生息し、エンシェントドラゴンの様な魔物が立ち寄る危険地帯。

 付き人を迂闊に付けよう物ならその付き人を死なせてしまいます。

 ならば1人で行き、修行をする事が理不尽なる死を回避する事となるのです」

 

「王女様…」

 

 そう、エミルはアレスターの死から例えレベル100オーバーでも死ぬ時は死ぬと言う理不尽を改めて思い出し、ならば付き人を付けず1人で修行をした方がそんな理不尽な死を回避出来ると思い馬車で家出同然に城を飛び出したのだ。

 しかし馬主はその理不尽な死に自分を抜いているエミルの危うさに悲痛な表情を向けるが、エミルは覚悟の上だと言う表情を向け返し何も言わせようとしなかった。

 

 

 

 

 

 それから馬車に揺られて1週間が過ぎた。

 セレスティアの港街に何事も無く辿り着いたエミルは船に乗り込み、門が1番近くにある国、深緑なる森の木々溢れるエルフとダークエルフの国、『フィールウッド』の更に門の遺跡群に近い魔素が海を渡り届いてしまっている世界樹を目指して船旅に入った。

 

「フィールウッド国か〜。

 ロックやリリアナは元気かな〜? 

 まぁそれよりも、先ずはこの聖地でありながらトレントやダークドライアド、ドラゴンにゴブリンと言った知能があるモンスターが跳梁跋扈する危険地帯に着くのが楽しみだなぁ〜。

 体内魔力回復用と体力回復用ポーションも買いに買い込んだし、準備万端! 

 さあ最北の世界樹でビシバシレベル上げするぞ〜‼︎」

 

 エミルは甲板の上でかつての仲間達のリリアナやロックの事に一時想いを馳せたが、あの2人は長命で元気だろう、殺しても死なないと改めて思いそれよりも知能ある魔物の群の中の上位種が跋扈する世界樹で只管レベルを上げるぞと吼えて周りを驚かせた。

 それもこんな身形の良い小さな女の子があんな危険地帯を修行地に選ぶなど自殺行為でしか無いのだから。

 

「お、お嬢ちゃん、悪い事は言わねえからあの場所は止めとけって! 

 命が幾つ有っても足りないって言われてる危険地帯なんだぜ⁉︎

 そんなトコよりもフィールウッド国なら手頃な世界樹が沢山あるからそっちに」

 

「大丈夫大丈夫! 

 だって其処で修行しないと魔王討伐なんて夢のまた夢なんだから!」

 

「へっ⁉︎」

 

 船員が南に位置するフィールウッド国の最北の世界樹に行くと叫んだエミルに彼処は危険だ止めておけと警告をしたが、当然ながらエミルは聞く耳を持たず魔王討伐の悲願を口にして更に船員を驚かせた。

 そうして船に揺られて3日でフィールウッド国の港に着き、早速最北の世界樹付近に行く馬車に乗り込みその日の昼頃に世界樹のある森の前まで辿り着いた。

 

「うっわ、やっぱりおどろおどろしいねぇ〜」

 

「わ、悪いなお嬢ちゃん、この先からは魔物のテリトリーなんだ。

 近付いたら俺の命が無いんだ、だからこの先は」

 

「うん分かってるよ、後は自分の足で向かうから! 

 じゃあね〜!」

 

 そうして馬車の主はこの先からは魔境であり、魔物のテリトリーに入る為にエミル1人で向かう様に告げるとそのままUターンをして港町に戻って行った。

 それを見届けたエミルは1本森の中に踏み入る。

 すると全方位から殺気が飛び交い、まるで500年前の戦場に似た空気を感じ取り武者震いをしていた。

 

「…来た来た、この感覚、死と隣り合わせの戦いの感覚‼︎

 さあ魔物達、新しい大魔法使いエミル様の伝説の始まりを刮目なさい‼︎」

 

 エミルは杖を手に持つと自らを鼓舞して此れから4年間この地で修行をし、最低でも遠い場所を見渡す『千里眼(ディスタントアイ)』と転移魔法(ディメンションマジック)の両方が使えるレベル140まではこの地に留まりレベリングと高濃度魔法元素(マナ)吸引を繰り返すと決めて突撃を始めた。

 そして木の影からゴブリンロード、ダークドライアリード、ダークトレント等の魔物が襲い掛かり始め、エミルはこの1年で覚え直した上級魔法の数々を体内魔力回復用ポーションをガブ飲みしながら連発して使い、世界樹の下に向かい始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ来なさいゴブリンロード達‼︎

 私はアンタ達の罠を看破したわ、それでも怯えずに戦うなら掛かって来なさい‼︎」

 

『ガァァァァァ‼︎』

 

 修行開始から2年目になり、エミルはフィールウッド国の最北の世界樹

 が危険と言われている所以、海の向こうに門がある遺跡群がどの世界樹よりも近い位置にあり、魔素が濃い為に強い魔物達が集まり魔物の巣(ダンジョン)化しており討伐推奨レベル70〜100オーバーの魔物が跳梁跋扈しているのだ。

 そしてその巣に突入し、魔物退治によるレベリングを行なっているのである。

 

大熱砲(フレアブラスト)大熱砲(フレアブラスト)、『暴風撃(トルネードスマッシュ)』‼︎

 はぁぁぁぁ、やぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 そんな危険地帯の洞窟内で威力をやや絞った火の上級魔法2連発と風の中級魔法で洞窟内を逃げ場のない炎が魔物を襲う灼熱地獄にさせ、更に自分が焼かれない様にする為と近接攻撃をする為に身体の強度や力、速さや反射神経等を一時的に上げる『身体強化(ボディバフ)』の魔法を掛けて炎に巻かれて逃げ惑うゴブリンロードを杖で殴り倒し始めていた。

 因みにゴブリンロードの討伐推奨レベルは90であり、群れを成す為実際はそれ以上のレベルが必要だとエミルは記憶していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあエンシェントドラゴン、受けなさい‼︎

大水流(タイダルウェイブ)』‼︎

乱風束(バインドストーム)』‼︎

大地震(ガイアブレイク)‼︎』」

 

 そして修行開始から4年後、1年目はモンスターを倒しながら世界樹の下で精神統一や睡眠をし、2年目には魔物の巣(ダンジョン)に殴り込みをして魔物が絶滅しない程度に間引きしながらレベルを上げ、3年目は遂に魔素の濃い場所に寄り易い放浪型の魔物のドラゴン種に喧嘩を売り退治を続けると言う修行をしていた。

 因みに1年目に遭遇していたダークドライアリードは無害なドライアドが魔物化したダークドライアドの上位種で討伐推奨レベルは85、ダークトレントは森の番人のトレントが様々な理由で魔物化した存在であり、これが討伐推奨レベル70の最低値の魔物であった。

 

灼熱雨(マグマレイン)‼︎

極光破(ビッグバン)‼︎』

超重孔(ブラックホール)‼︎』」

 

 それ等を倒して倒してレベリングをした事によりエミルは最上級魔法を操る立派な14歳になり、最早最北の世界樹に生息する魔物でも寝首を掻こうとしても下級魔法で屠られ、起きてる時は最上級攻撃魔法の連発の実験台にされ魔物の方から出会い頭に逃げ出す様になってしまっていた。

 今のエミルの魔法大砲には最早アレスターを殺害したエンシェントドラゴンも迂闊に近寄らなくなっていた。

 

「ふう、自己レベル換算でレベル150台は堅いかな? 

 実際に千里眼(ディスタントアイ)転移魔法(ディメンションマジック)が使える様になったし、此れで最低目標は達成したね! 

 後はダークドライアリードとダークトレントの素材から作り出した魔法袋(マナポーチ)に倒したモンスターの素材が沢山入ってるし早速フィールウッドの港街『リリアーデ』にある冒険者ギルドに行って素材爆売りと冒険者登録だぁ‼︎」

 

 エミルは自分の4年前から比べて遥かに強くなり、アレスターを上回る魔法使いになったと実感を得ており天に手を掲げていた(但し前世の全盛期の50%の実力を漸く超えた程度であると認識している)。

 それから魔物や周囲の木々や草むらから手に入れた素材を冒険者ギルド…今の世界の冒険者パーティを管理する組織に冒険者登録をし、素材を売り魔王討伐の更なる1歩を踏み出そうと早速リリアーデ港に転移した。

 因みにこの光景を陰から見ていた魔物達は漸くエミルが消えた事で平穏を取り戻し溜め息を吐いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい早速リリアーデ冒険者ギルド前に転移完了! 

 それじゃあ早速…お邪魔しまーす!」

 

 エミルは周りの人間が同時に宿屋から目を離したタイミングで転移を終え、冒険者ギルド経営の宿屋を開けて受付にまで早歩きで向かった。

 宿屋内に居た冒険者や一般人達は赤いセミロングの髪の毛や色白の肌の手入れだけは行き届きつつも、服はボロボロと言う若者あるまじき異様な姿に目を引かれて直ぐに世界樹での修行を終えた人間だと察知する。

 

「貴女は…世界樹での修行を終えたばかりの子ね?」

 

「あ、分かりますか? 

 はい、此方の世界樹で修行をして色々服もボロボロになったりしたので冒険者登録と世界樹近辺で手に入れた素材を売りに来ました!」

 

「やっぱりね。

 貴女みたいにボロボロな若者が良く冒険者ギルドに登録に来るから直ぐに分かったわよ。

 良いでしょう、冒険者登録と素材売却を承ります。

 此方にサインと素材を出して下さいませ」

 

 ギルド経営宿屋の受付のエルフの女性はエミルの様なボロボロな若者でギルド登録に来るのは世界樹での修行を終えたばかりの者だと経験則から理解しており、スムーズに冒険者登録書を取り出しエミルも自身の名や出身国をスラスラと書きながらセレスティア国王の勅令書を出しつつ普通なら持てない量の物を入れて重さも無く持ち運ぶ魔法袋(マナポーチ)3つから素材を取り出し始めた。

 

「ほいしょっと!」

 

『…⁉︎

 っ! 

 っっっ!?!?』

 

 それも最北の世界樹近辺でしか生えない『月光花』や魔物素材に至ってはゴブリンロードの王冠やエンシェントドラゴンの牙等高額換金素材をドサドサと取り出し床一面に広げていた。

 その素材の山を見て冒険者達や受付嬢達は目が飛び出る程見開き、その素材を見て声が上がらずに居た。

 

「…と、名前書き終わりましたし勅令書も見せましたし素材を出し終わりました、換金と冒険者登録をお願い致します」

 

「は、はぃぃぃぃ‼︎」

 

 エミルはそんな周りの様子などいざ知らず受付嬢に登録と換金を終える様にお願いすると奥からギルド員達が大慌てで素材を調べ上げたり等をし始め、エミルは隙になった為宿屋のテーブル椅子に腰を掛け久々の都会の空気に伸び伸びとしていた。

 

「な、なぁ、今のゴブリンロードの王冠とかダークドライアリードの惑葉とかあったよな? 

 見間違いじゃ無いよな?」

 

「あ、ああ、俺もエンシェントドラゴンの牙とか初めて見たぞ⁉︎

 まさかあの子、最北の世界樹で…」

 

「いやいやいや、あの若さでそんな………いやしかし………だが勅令書って…」

 

 そんな中で周りの冒険者一同はザワ吐き始め、最北の世界樹でしか取れない魔物素材や月光花の様な高級アイテム用素材を見て、更に勅令書と言う単語を聞きエミルを何者なのだと思い始めていた。

 そんなザワ吐きを気にせず換金や冒険者登録が済むのを待つ事30分後、受付嬢がエミルの席まで小走りで少し息を切らしながら直接呼びに来ていた。

 

「エ、エミル王女殿下お待たせしました‼︎

 冒険者登録と換金が終わりましたので受付までお越し下さいませ‼︎」

 

「はい、分かりました。

 それと冒険者になるんだから敬語は」

 

「とんでもありません、セレスティア王国の第2王女殿下に粗相を働いたとなれば国際問題に発展してしまいます‼︎

 なのでどうかこのまま敬語や敬称を使われる事をお許し下さいませ‼︎」

 

「うーん、お父様やお母様は其処まで器量は狭く無いんだけど…まぁ、仕方無いよね。

 分かりました、では受付に参りますね」

 

 エミルはエルフの受付嬢に身分を堂々と明かされた事を特に何も思わなかったが敬語等はこそばゆい為それを抜いて貰おうとした所で国際問題になると言われて引き下がりながら受付まで歩いて行った。

 因みに周りの冒険者達はエミルの名を聞きセレスティア王国希代の魔法王女と言う2つ名を思い出しその2つ名に偽りは無かったと唖然としていた。

 

「で、ではまず素材の換金額をお伝え致します! 

 全ての素材が良質に保たれていた事と全ての素材が何れも此れも高額換金素材であった為、総額で500万G(ゴールド)とさせて頂きます! 

 それから、冒険者登録に当たり最後にスタートランクを決めたい為に観察眼(アナライズ)でレベルを測らせて頂きます! 

 で、では失礼致します!」

 

 エミルは受付嬢から全ての素材が良質であった為相場が落ちる事無く、また全て高額換金素材だった為この世界の通貨であるS(シルバー)G(ゴールド)の中で総額500万G(ゴールド)と言う普通に暮らすだけなら一生遊んで暮らせる額を手にした。

 これは魔法袋(マナポーチ)に入れた物はその時点の材質で保存される副次効果を利用した為である。

 そして次にエミルのレベルを測る為に受付嬢は観察眼(アナライズ)でレベルを測り始めた。

 すると受付嬢は腰を抜かしてしまう。

 

「は、はわわわわわわ、レ、レベル163⁉︎

 そんな、まるで500年前の冒険者の推奨レベルですよこれぇ⁉︎」

 

「ありゃ、150台と思ったら163だった。

 …まあ良いかな、私の悲願達成のスタートラインとしてはまぁまぁかな?」

 

 エミルのレベルは何と163と言う魔法の天才と言わしめたアレスターを更に超える、500年前の冒険者に必要ラインである150を有に超えた実力となっていた。

 観察眼(アナライズ)は鏡を使っても自分自身を対象には使えない為、エミルはレベルを良い意味で測り間違えてしまったのだ。

 これはエミルとっては良くもあり、ある意味悪い誤算でもあった。

 

「こ、ここここんなの前例にはありませんのでギルド協会本部と協議してランクを決めさせて頂きますぅぅぅぅぅ‼︎」

 

「あ、ちょっ…! 

 …まぁ、確かに私が調べた限りで冒険者ギルド登録で1番レベルが高かったのは78。

 その方達はCランクから冒険者を始めたってあったからなぁ。

 その倍以上だからそりゃこうなっちゃうか。

 でもそうなると協議するって言ってたから何れだけ時間が掛かるか分からないなぁ…如何しようかな?」

 

 すると受付嬢は前例に無い事態の為冒険者ギルド協会本部と協議してランクを決めると言い奥へと走り去ってしまいエミルは置いてけぼりを食らってしまう。

 しかし1番レベルが高かった前例は200年前のレベル78で冒険者ギルドに登録に来たエルフの女の子とドワーフの男の子の2人組であり、その時も今の様に置いてけぼりを食らいギルド協会本部と協議し合ったとされている。

 これが悪い意味での誤算である。

 因みにCランクの査定が下りたのは登録日から3日掛けての事だった。

 

「うーん、最低でも3日、最悪それより時間が掛かる訳だし…王族として理由も無くブラブラ遊びに行く訳にも行かないし………あ、そうだ‼︎」

 

 当のエミルは冒険者ランクを早く決めて欲しい、しかしそれは前例的に3日以上掛かると計算してその間に何をするか決めようとしていた。

 無論セレスティア王国第2王女として国の品格を落とす遊んで回るのを頭の中で排除しながら考えていた。

 その時エミルは1つの案を思い浮かび手をポンと叩き、それを見ていた周りは何を思い浮かんだのかを注目していた。

 

「──ー『勇者』を誘おう、それも飛び切り強くて本当の勇気を持つ勇者を‼︎

 私の悲願達成の為もそれが1番良い、うん‼︎」

 

 その案とは勇者──ー生まれた時から絶技と魔法を使う事の許された初代勇者ロアの血筋を継ぐ者。

 その中でも特に強く、勇者らしい優しさや勇気を持つロアの様な勇者を共に冒険しようと勧誘する事、それがエミルの案であった。

 

「魔王討伐には絶対に勇者の存在が必要不可欠‼︎

 今は何処にあるか行方知れずになったけど、『神剣』の担い手として一緒に冒険に出てくれる勇者を探さなきゃ! 

 うん、これが1番だ‼︎」

 

 更に魔王を倒す為には現在何処にあるのかあらゆる書物から秘匿され名前のみの存在となりし剣、真の勇者にしか使い熟せない『天界』の『神』の遣い、『天使』よりロアが授かった『神剣ライブグリッター』を振るう本当の優しさ、勇気を持つ勇者を探す事。

 これが次の最優先事項だとエミルは決定した。

 

「じゃあ早速………あ、皆様、此処で見聞きした事は絶対に口外しないで下さいませ。

 私が求める勇者が寄り付かなくなってしまう可能性がありますので。

 もし口止め料が欲しいなら差し上げますが…」

 

『いえ、大丈夫ですっ‼︎』

 

 エミルはそうと決めて宿屋の外に向かい勇者勧誘をしようとした──ーその前に、宿屋に居た全員に此処であった事を口外しない様に頼み込み、口止め料をたった今貰った換金された500万G(ゴールド)を取り出そうとした。

 が、この宿屋に居た全員は相手がセレスティア王国の王族、しかもレベル160オーバーのトンデモ存在である為逆らったら何をされるか分からないと思い全員一斉に口を揃えて口外しない事を誓うのであった。

 

「あ、はい、ではありがとうございます。

 ………さあ私の求める勇者さん、共に私の悲願達成をしましょう、そう、魔王討伐を‼︎」

 

 口止め料を払おうとしたエミルは宿屋に居た冒険者や一般人全員のやたら良い反応の良さに面食らってしまうが、直ぐに思考を切り替えて未だ見ぬ勇者に想いを馳せ、共に魔王討伐をしようと外に聞こえない程度の声で鼓舞すると宿屋の戸を引き外に出た。

 魔王討伐の為に勇者を募る為に。

 

「っと、その前にこの服もボロボロだからその前に防具屋で防護服の新調とお風呂に入って汚れを落とさなきゃ」

 

 しかしその前にパツンパツンでボロボロな服を見たエミルは先ず宿屋の風呂に入ってから防具屋に行き、手に入ったお金から超良質な魔法使い用の赤と黒を基調とした『ミスリル』を服の繊維内部に粒子レベルで融合させた防護服、ミスリルローブを買い、魔法使い用の大きなお洒落帽子も買いその後は勇者勧誘に必要な物を意気揚々と買いに行くのであった。

 




此処までの閲覧ありがとうございました。
エミルは作中修行する事に浮かれていましたが別にバトルマニアではありません、単純に魔王討伐の為のレベリングにうずうずしていただけです。
因みにS(シルバー)は1000S(シルバー)で1G(ゴールド)になり、1G(ゴールド)は現実金額換算で10ドルになります。
さて、今回は港街リリアーデについて書きます。
リリアーデ港街:初代勇者一行の1人、予言者リリアナがよく海を眺めていた場所として人々が集まり出来たフィールウッド国際大の港街。
近くには最北の世界樹があり、貿易品を乗せた馬車は回り道を強いられるが、この街はリリアナが直接魔物避けの結界を張ったとして最北の世界樹に生息する魔物達も近寄らず、ある範囲をテリトリーとする習性を魔物達は得るに至った由緒正しい街である。

次回もまたよろしくお願い致します。


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第4話『エミル、勧誘する』

皆様おはようございます、第4話目更新でございます。
今回からタグにあるもう1人の主人公、勇者が登場致します。
では、本編へどうぞ。


 防具屋から出たエミルは早速必要となる物を買い出し魔法袋(マナポーチ)の中に収め、更にリリアーデ港街の領主にある許可を貰うべく領主に謁見を求めた。

 

「すみません、セレスティア王国第2王女のエミルと申します。

 急で申し訳ありませんが、リリアーデ港街の領主様に内謁させて頂きたいのですがよろしいでしょうか? 

 因みに此方が私の身分を保証する勅令書となります」

 

「は、はぃぃ⁉︎

 えと、『この者は我がセレスティア王家第2王女エミルと認め、彼の者に魔王討伐の任を与えたし。

 セレスティア王国第12代国王ランパルド』………王家の家紋も朱印も本物…⁉︎

 す、直ぐに領主様との内謁の準備をさせて頂きます‼︎」

 

 領主館の受付はエミルの突然の訪問に驚き、更に現セレスティア国王の勅令書すらも見せられ大慌てで領主の下へと向かい、内謁する用意を取り急ぎ行っていた。

 エミルは少し悪い事をしたなと思いつつ受付を待った。

 

「エミル王女殿下、お待たせ致しました‼︎

 領主様との内謁の準備が整いましたのでご案内致します‼︎」

 

 そしてそれから15分後、受付前で立たされていたエミルの下に受付が小走りで戻り領主の間に案内を始めた。

 そして受付が領主の間の扉を開け、中にエミルを案内した。

 

「ああこれはこれはエミル王女殿下、この様な者に内謁して頂くとは有り難き幸せ! 

 ささ、どうぞ此方にお座り下さいませ‼︎」

 

「はい、失礼致しますリリアーデ港街領主様」

 

 その中にはリリアーデ港街領主が事務卓から立ち上がっており、エミルにお辞儀をしながら客席の上座へと座らせ自身は下座に座りお互いに挨拶と握手を交わしていた。

 

「それで、エミル王女殿下が内謁を希望されたとお聞き致しましたが如何されましたか? 

 確かギルド協会の宿屋で冒険者登録と素材換金をして頂いたと耳に入れましたが、まさかそこで何か粗相が?」

 

「いえ、素材は相場通りの価格で換金されました。

 そして冒険者登録については私のレベルが163と前例の無いレベルで登録してしまった為冒険者ランクについて協会本部と会議で決まるとの事です。

 それより私がこの場に赴いた理由はある事を許可して頂く為にあります」

 

 領主はギルド協会の宿屋での事を既に耳に入れており、大きな港街ながら情報伝達が早いとエミルは感心しながら宿屋では何も問題は無かったと話した。

 それよりも自身の目的、勇者勧誘の為にある事の許可を貰うべく来たと少し濁しながら話し領主の出方も伺っていた。

 

「え、えと、ある事とは………王女殿下には魔王討伐の勅命が国王陛下より承っておりますから………もしや、勇者の勧誘、でしょうか?」

 

「正解です。

 私は国王陛下より魔王討伐の任をこの身に帯びました。

 しかし矮小な私1人の存在では魔王討伐は絶対に叶いません。

 其処で考えたのは、共に戦う真の勇者の勧誘です」

 

 領主が必死になり頭の中で魔王討伐に必要な要素を知識の中から絞り出し、それが初代勇者ロアの血を引く勇者の存在であると言う答えに行き着く。

 エミルはそれに正解を出し、自分1人では矮小で魔王討伐は叶わないと話し、その上で共に戦う勇者…但しエミルの中では単に勇者ロアの血を引くのみならず、真の優しさと勇気を兼ね備えた真の勇者の存在が必要だと領主に伝え、その固唾を飲ませた。

 

「真の勇者とは今は我々セレスティア王家にすら在処を秘匿され所在が分からない神剣ライブグリッターを振るい魔王を斃す存在です。

 なので私は私の目で見定めた勇者を勧誘し、その勇者や恐らく今後旅やギルドで仲間になるであろう未だ見ぬ戦友(とも)達と共に魔王討伐を果たしたいのです」

 

「ライブグリッター…しかし、アレは名前だけで実際に見た者は居ないと」

 

 エミルは領主に真の勇者と存在が名前のみになり在処が秘匿されたライブグリッターを求めている事を口にし、更にこれから先出会うであろう未だ見ぬ仲間と共に魔王討伐をしたいと熱弁していた。

 しかし領主はライブグリッターは勇者や初代勇者パーティは存在すれど眉唾物だと口にしようとしながら汗を拭き始める。

 

「いえ、ライブグリッターは必ずこの世界に存在します! 

 何故ならフィールウッド国の王にして初代勇者パーティのエルフの賢王ロック国王陛下や予言者リリアナ様、更にドワーフの国、荒地と鉱山に囲まれた『ミスリラント』の職人王ゴッフ様までご健在で存在なされていますからライブグリッターも必ずやある筈なのです‼︎」

 

 するとエミルはライラだった時代に確かにロアは天使からライブグリッターを授かり振るっていた場面を何度も記憶しており、それを初代勇者パーティの長寿組が未だ健在である事からライブグリッターも必ずあると逆説を唱えその熱意にリリアーデ領主は圧に押され座席に背中を押しつけてしまっていた。

 

「…つ、つまり王女殿下はライブグリッターは必ずあると確信し、それの担い手である勇者ロアの後継者を見い出したい、そう仰られているのですね?」

 

「はい、ですから私にギルド協会から冒険者ランクが下りるまでの間に私の身分やレベルを隠した上で『勇者勧誘所』を経営させて頂きたいのです。

 既に勧誘所を建てる為の木材や椅子等も用意してあります、ですから後は領主様が全国に魔王を討伐する勇者勧誘中と言う情報を流し、勧誘所経営許可を下ろして頂きたいのです! 

 領主様、どうか、お願い致します‼︎」

 

 領主はエミルの熱意によりライブグリッターは存在し、彼女はその担い手を探しているとしっかりと理解する。

 そしてエミルは本題となる勇者勧誘所の経営許可を取得し、更に全国に勇者勧誘中の情報を流す様に説得を開始し勧誘所を建てるのに必要な木材や椅子等は既に自腹で用意していると話しその上で頭を下げてそれら全ての許可を取ろうとしていた。

 そして、領主の答えは………。

 

「…分かりました、貴女様の熱意には負けました。

 直ぐにエルフの建築士達を用意してその用意した木材で勧誘所を建てましょう、更に全国と言わずセレスティアやミスリラント、そして絶技の国『ヒノモト』にも情報を流し、魔王を討伐する為に勇者を勧誘する者が居る事を流布致しましょう!」

 

「あ、ありがとうございます、領主様‼︎」

 

 領主はエミルの熱意の懇願に首を縦に振り、勇者勧誘所の経営許可やエルフの建築士に費用は領主持ちとなりながらフィールウッド国のみならず故郷のセレスティアやミスリラント、更には絶技の国として熟達の剣士や槍士、騎馬兵などが集うヒノモトと全世界に向けての情報流布をすると約束され、昼前に手続きを全て終えて勇者勧誘所の建築が始まり、更に小さな店と言う事で直ぐに終わり太陽の日が西に傾き始めた所で次に流布する内容の取り決めが始まった。

 

「先ず身分は隠すとして、どんな風に勧誘をするのでしょうか?」

 

「そうですね…内容は『世界を救いたい勇者よ集え! 

 今こそ君の勇気と力が必要な時が来た! 

 女魔法使いと共に魔王を倒そう‼︎』で如何でしょうか? 

 勿論女魔法使いの部分に引っかかったエセ勇者は最初の段階でお断りしますが。

 あ、因みに私の容姿はこの帽子を深く被らせながら顔の上半分が見えないアングルで転写して下さい」

 

「はは…流布する内容にトラップを仕込むとは本気なんですねぇ」

 

 流布する紙の広告内容には帽子を深々と被りながらも端正な容姿だとキチンと判る様に魔法で転写し、更にエミルの言った内容の文言を大きく書き女魔法使いの部分は黒字では無く赤字にして目立つ様にし、堂々とトラップが仕込まれた広告が出来上がりリリアーデから全世界へ転送魔法で流布が始まった。

 因みにセレスティア国民も良く見なければエミルと分からず、一目でエミルと分かり更に広告に罠が仕掛けてある事を理解出来るのは家族のみであった。

 

 

 

 それから翌日の朝。

 エミルは勇者勧誘所で食事を摂り勇者が来ないかと待っていると早速ドアをノックする音が響いた。

 

「はい、入って下さい」

 

 エミルは早速勧誘勇者候補が来たのだと思いドアを開けさせると、其処には金一色の防具を着た如何にも地雷系の男が立っていた。

 

「へ〜い、君が勇者を勧誘している子か〜い?」

 

「アーハイソウデスネ」

 

 エミルは観察眼(アナライズ)職業(ジョブ)がちゃんと勇者だと見抜くが、レベルは57と及第点以下のチャランポラン臭が漂う男がいきなり来たと思い適当な対応をしていた。

 

「ああ〜声と絵を見た時から分かったよ〜、君は僕の運命の人なんだと〜。

 さぁ〜、一緒に魔王を倒しに行こう」

 

「あ、私の容姿に惹かれて来た人は門前払いなんでお引き取り下さいませ。

 私は簡単に靡かず、真の勇気と優しさ、強さを持つ真の勇者を求めてますので。

 さあ回れ右してお引き取り下さいませ〜」

 

「ガァ〜ン辛辣ぅ〜‼︎」

 

 そして早速容姿に惑わされてやって来たダメ勇者だと会話で判定して完全に話を聞く気も無く地雷勇者を門前払いして次の勇者候補が来るのを待った。

 それから30分後、再びドアがノックされてエミルが入る様に促すと、其処には巨大な戰斧を携えた軽装の少女が立っていた。

 

「魔王討伐をしたいって言う魔法使いはアンタか?」

 

「はい、そうですよ」

 

「なら良かった、丁度刺激が欲しかった所なんだ。

 魔王討伐なら願ったり叶ったりだよ」

 

 その少女は観察眼(アナライズ)で間違い無く勇者であり、またレベルも先程のチャランポラン勇者の倍以上の135を叩き出し、明らかに多くの魔物を狩って来たと言う雰囲気を顔や腕等の傷から醸し出していた。

 そして先程のチャランポランと違い容姿に惑わされて来た訳で無い為紅茶を出し、テーブルに座らせて対面面接を始める。

 

「…貴女は先程刺激が欲しかったと言いましたね? 

 つまり、戦う事その物を目的として旅をしてきたのですか?」

 

「ああそうさ、あたしの村は魔物に滅ぼされた。

 それをキッカケに戦いを始めて、其処で初めて勇者だって分かってあたしは魔物共を狩って狩って狩って来た。

 勿論復讐が全部じゃないけど、あたしは戦う為に生まれて来たんだって自覚してんのさ」

 

 如何やら彼女は生い立ちから不幸な始まりを持ち、其処で復讐心から始まった戦いは何時しか戦いその物が目的と化した謂わばバトルマニアとなっているとエミルは判断する。

 それらを聞き、この少女に真の優しさや勇気は備わっているか疑問に思うが、それでも質問を続けた。

 

「…では、貴女は弱き人々の事を如何思っていますか? 

 守りたいと思ったりしますか?」

 

「弱っちい奴は弱っちい奴、ただそれだけだよ。

 まぁ目の前で死なれちゃ寝覚めが悪いから一応助けといてやるけど、それ以上の感情なんて持ち合わせてないね」

 

 エミルは力無き弱く人を如何思うか少女に問うと、バトルマニアらしく興味が無い無いと言った様子で、しかし死なれたら寝覚めが悪いと話す事から多少の優しさはあるのだと分かった。

 が、この性格からして態々弱き者を無茶して、しかし必ず助ける様なロアの様なお人好しの様な優しさと勇気は持ち合わせて無いと判断して溜め息を吐き目をジッと見ながら話を進める。

 

「貴女の考えは分かりました。

 確かに貴女は多少は優しい方なのでしょう………けれど、真の勇者に相応しき真の優しさと勇気を持ち合わせていないと判断しました。

 残念ですが、貴女と旅は出来ません」

 

「…真の優しさと勇気ね。

 もしかしなくてもアンタ、伝説の神剣ライブグリッターを振るう勇者が欲しいんだろ、態々魔王討伐なんて大々的に広告してんだから。

 だったら諦めなよ、今の世の中には戦う覚悟も無いチャランポラン自称勇者か、あたしみたいなバトルマニアな職業(ジョブ)としての勇者しか居ないよ」

 

 エミルは戰斧の勇者に自分が求める真の勇者にはやや遠めな人物だとして共に旅する事は出来ないと話して頭を下げた。

 すると少女勇者は神剣ライブグリッターの事を知っていたらしく、且つ今の時代には最初のチャランポラン勇者や自身の様なバトルマニアと言った職業(ジョブ)としての勇者しか居ない事を告げながら席を立つ。

 

「それでもこの勧誘を続けるならあたしは止めない、寧ろ頑張んなよ。

 此れでも魔王に消えて欲しいのは本心だからさ。

 終わりが見えない戦いってのもちょいと堪えるしさ。

 だからアンタが求める本当の勇者、見つかると良いね」

 

「…はい、態々ご足労ありがとうございました」

 

 そして去り際に少女勇者はこの勧誘自体は応援している事を話し、最後に労いの言葉をエミルに掛けて去って行った。

 エミルも少女勇者に頭を下げて態々この場まで足を運んで来た事に礼を述べながら扉が完全に閉まるまで頭を下げるのだった。

 

 

 

 それから2日後、エミルは3日間で何度も来る勇者に勧誘を試みているが矢張りあの少女勇者の言った様な職業(ジョブ)としての勇者しか居ない事を嫌と言う程痛感し、遂にギルドからの通達で明日には協議が終了すると来てタイムリミットが今日までしかなかった。

 

「はぁ、真の勇者が居ないと魔王討伐の確率が限り無く0に近くなるのに何でチャランポラン勇者やバトルマニア、復讐者の様な勇者しか居ないんだろう…。

 やっぱり、ロアみたいな本当の優しさと勇気を持った勇者なんて奇跡みたいな存在だったのかな…」

 

 エミルは卓に突っ伏しながらロアの様な真の勇者は居ないのだろうか? 

 あれは奇跡の存在だったのか? 

 そんな諦めムードが漂い飲んでいる紅茶も不味くなる程に打ち拉がれ最早これまでかと感じ始めていた。

 

『トン………トントン、トン…』

 

「あ、ノック…入って来てどうぞ〜」

 

 するとドアから弱々しいが確かなノック音が響き、エミルは直ぐ様王族らしく正しい姿勢になりながら外に居る人物に入る様に促す。

 

「あ、あの、失礼、します…」

 

 すると外から青髪の、少しボロボロな軽装の鎧と剣を携えたエミルと余り年齢が変わらない気が弱そうな少年が中に入って来た。

 そしてエミルは直ぐに観察眼(アナライズ)を使いこの少年の職業(ジョブ)とレベルを調べる。

 すると確かに職業(ジョブ)は勇者だが、レベルの方が異常だった。

 

「…えっ、レベル160⁉︎

 凄い、今まで来た勇者の中で1番レベルが高いわよ君‼︎

 さあ座って、何で此処に来たのか私に聞かせて‼︎」

 

「え、ええ⁉︎

 僕が、1番………? 

 あ、あの、何かの間違いじゃ」

 

「間違いじゃないわ、実際観察眼(アナライズ)を使って測ってるんだから‼︎

 ほら早く座って‼︎」

 

 その気の弱い少年は見た目とは裏腹にレベル160とエミルと同等のレベルを誇るトンデモ少年であった。

 当の少年は何かの間違いではと言うが、エミルは間違っていないとしてその少年を座らせ、話を聴き始める。

 

「あ、あの…僕は『ロマン』と言います。

 此処に来た理由は、魔王を斃す勇者を求めていると知った、からです…」

 

「ロマン君ね、この広告で魔王討伐の方に着目したのはバトルマニアや復讐系勇者以外で君だけよ。

 それで、何で魔王を斃そうと思ったの?」

 

 少年の名はロマン、広告は魔王討伐に着目したとエミルの目を見ながら話し、彼は嘘を吐いていないと判断したエミルは何故魔王討伐をしようと思ったのか問い質してみた。

 

「あ、あの、僕はミスリラントの『アイアン村』って田舎の村に住んでいたんです。

 其処はセレスティアとの国境が近いから、他の地域と比べて緑があって、僕は農家の子として生まれたん、です」

 

「アイアン村…確かに彼処はミスリラントの中で1番緑があって農業が盛んね。

 カボチャが名物なのよね〜」

 

 ロマンは先ず生まれ育ったアイアン村の農家の子として育っていた事を話し、エミルはそれに合わせてアイアン村の名物であるカボチャの話をしてアイアン村を知っているニュアンスで話しロマンが話し易い様に会話を運ぶ。

 

「は、はい、僕の家もカボチャを作ってて、それで村1番を取った事もあるんです! 

 …3歳頃の話、ですけど。

 でも、僕は父さんと違って気が弱くて…元々絶技を使えたんですけどよくいじめっ子達の標的になってたんです…」

 

「そうなんだ…それでその後は?」

 

「それで6歳の頃にいじめっ子達の攻撃に反射で手を翳して、そしたら火球(ファイヤーボール)を撃ててしまって…それで、村で勇者だっていじめっ子からも持て囃される様になって…」

 

 ロマンの話にエミルは相槌を打ちながら生い立ちを聴き出し、いじめられっ子だった過去も話した上で6歳の頃に無意識の抵抗で魔法を撃ててしまい勇者の血を引く者だといじめっ子からも持て囃される様になったと少し暗めな表情で話していた。

 

「(…そうよね、幼くして今までの環境が劇的に変化したのだもの。

 その変化に付いて行けず今の様な気弱な性格のまま育つか天狗になるしかないもの)」

 

 ロマンの話を聴きエミルは無理もないと思っていた。

 6歳までいじめを受け、その多感な6歳の頃に勇者としての資質を見出してしまった事による環境の変化に幼い子が付いて行ける訳が無く今があると理解し、勇者の血を引くと言う事もある意味では呪いに近しい物だと此処で初めて気付くに至った。

 

「そ、それで父さんや母さんと一緒に魔法や絶技の練習をして、10歳にミスリラントの世界樹で修行を始めたんです。

 初めは辛かったけれど、村の皆や父さんや母さんの期待を裏切りたくないから出来る限り頑張ったんです!」

 

「…君なりに頑張ったんだね」

 

 そしてロマンは世界樹での修行を辛かったと話しつつ、皆の期待を裏切りたくない。

 そんな気持ちで辛さも我慢して頑張ったのだと話しエミルもその努力の仕方を500年前の最初期のロアや教え子、更にカルロと言った人物達を思い出しながら更に話に耳を傾ける。

 

「で、でも12歳の時、世界樹の修行の最中に………『ミスリルゴーレム』が現れて、僕達は逃げようとして………でも逃げられずに、父さんや母さんが必死に抵抗したけど、体にヒビを入れるのがやっとで、それで僕は父さん達を守れずに…‼︎」

 

 だがロマンの口から12歳の時にミスリルゴーレムに襲われ、両親の必死の抵抗も虚しく体にヒビを入れるのがやっとで蹂躙され、殺されたと話し始めた。

 その表情は悲痛な物になり、涙すら流し当時の事を記憶から引き出していた。

 

「ミスリルゴーレム⁉︎

 討伐推奨レベル130のゴーレム種の上位種…‼︎

 そんな物が世界樹の周りに理由も無く現れるなんて…‼︎」

 

 此処でエミルはミスリルゴーレムは金属、それも世界で2番目に硬く国名や魔物の名にもなっているミスリルを含む岩場の多い魔素の濃い場所にしか現れない上位種であると理解していた。

 しかしミスリラントの世界樹は最南の世界樹でさえ金属を含む岩場が少なく現れてもアイアンゴーレム程度しか出ない筈である為、何か恣意的な物を感じ取っていた。

 

「それで、僕は父さん達を殺された事で頭の中がグチャグチャになって………気が付いた時には父さんの剣を持ってミスリルゴーレムの体のヒビを壊して倒してたんだ…。

 でも、それが出来たなら僕がもっと早く、もっと上手くやっていれば…‼︎」

 

「…ミスリルゴーレムは文字通りミスリルで出来てる。

 魔法の通りも悪いし倒すなら君のお父様がした様に体にヒビを入れて、其処を崩すか最上級魔法をぶつけるしか無いわ…慰めにもならないけど、君やご両親は勇敢で、特にご両親は君を生かす為に最善を尽くしたのよ」

 

 そうしてロマンは気が付けばミスリルゴーレムを倒していたと話し、それをエミルは非情ながらもロマンやその両親の行動は勇敢であり今に繋がる事を口にする。

 ロマンは顔を伏せながら涙を流し、未だこの両親の死を乗り越えられていないとエミルに見せていた。

 

「…それで僕は、村の皆に父さん達を弔って貰った後1人で旅に出て、それで今魔王討伐の紙を見て此処に…」

 

「…待って、君は今まで1人旅だったの? 

 なのにそんなレベルに?」

 

「ううん、僕は…弱虫で何時も邪魔だからパーティから追い出されて、それでつい2日前もレベリングを切り上げようって話したらパーティから…。

 何時もレベリングは危険だから長い時間は止めようって言っただけで…」

 

 ロマンは両親を弔った後は旅に出ていたと話し、エミルはもしや1人旅だったのかと問うと如何やらレベリングの話で意見がすれ違い何度もパーティを追い出されていると話していた。

 これを聞いたエミルは、レベリングが危険だと弱気ながらも進言する『勇気』と皆の疲労等を気遣う『優しさ』があると言う見方が出来る事が分かり、最後に弱き人々を如何思うかを聞こうとした。

 

「ねえロマン、君は…」

 

『大変だぁぁぁぁ‼︎

 海からミニクラーケンの群れが出たぁぁ‼︎』

 

「なっ、街には魔物避けの結界がある筈なのに何で魔物が⁉︎」

 

 エミルが最後の問い掛けをしようとした瞬間、

 外からミニクラーケンの群れが現れたと言う叫び声が響く。

 エミルやロマンは街や村と言った生活圏にはギルド所属のレベル100オーバーの魔法使いが魔物避けの結界を張り、魔素が濃くても魔物が近付き難い様にしている筈なのに魔物が侵入した事に驚き外に飛び出た。

 

「あっ‼︎」

 

 その時2人の目に転んだ子供を庇う母親がミニクラーケンに襲われそうになっている光景が映り急いで助けねば2人の生命が失われると確信し行動に移り始める。

 

「うおぁぁぁ、間に合えぇぇぇぇぇ‼︎」

 

【キィィィィィン‼︎】

 

 先ずロマンがワンタッチの差で動き身体強化(ボディバフ)の魔法で親子の目の前に素早く立ち『結界魔法(シールドマジック)』を使いミニクラーケンの攻撃を防ぎ、そのか弱き生命を守り抜く。

 

「『風刃(ウインドスラッシュ)』‼︎」

 

 次にエミルが港に上がったミニクラーケンに風の下級魔法の風刃(ウインドスラッシュ)で小さな鎌鼬を発生させ切り裂き、ロマンの目の前のミニクラーケンも倒し親子の逃げ道を確保する。

 

「さあ早く逃げて‼︎」

 

「は、はい‼︎」

 

【タッタッタッタッ!】

 

「…よし、行ったね。

 行くぞ魔物達、僕達が相手だ‼︎

『疾風剣』‼︎

 はぁぁぁぁ‼︎」

 

 ロマンは逃げ遅れた親子が屋内に避難したのを確認するとミニクラーケンの群れに風の下位絶技で素早く斬り裂き、魔物を海鮮料理の具材に瞬く間に変える。

 

「私の目から逃れられない…喰らいなさい、大水流(タイダルウェイブ)乱風束(バインドストーム)‼︎」

 

 次にエミルは港の船着場まで移動し、『透視(クリアアイ)』と観察眼(アナライズ)の併用で海の中に居るミニクラーケンを全て捉え、水の最上級魔法で1ヶ所に集めた後風の最上級魔法で海水と共に巻き上げながら斬り裂き、風と水の渦によりミニクラーケンを全て内部に閉じ込める。

 

「今よ、雷で合わせて‼︎

極雷破(サンダーブラスト)』‼︎」

 

「分かったよ、『極雷剣』‼︎」

 

【ズガァァァァンッ‼︎】

 

 そして2人は最後に風の派生属性、雷の上級魔法と上位絶技を合わせて放ち、宙に浮く渦の内部に居たミニクラーケンは2つの巨大な極雷を水の浸透により全個体感電、丸焦げにして倒す。

 そして渦が消えた瞬間焦げたミニクラーケンは全て海に落ちて行き、屋内の窓から外を見ていた港街の人々はロマンが助けた親子含め歓声を上げ港街を守り抜いた2人を讃えた。

 

「ああ、皆無事みたいだ、良かったぁ…!」

 

「(…勇者ロマン、この人はあの親子を守る為に飛び出して、そして見事に救い出した。

 全く、大変無茶な事をしでかすわね………でも、あの親子を、街を守る事は無理じゃ無かった。

 恐らく私が居なくてもこの人は街を守り切れた…その普段の気弱さから考えられない決断力…勇気、そして他者を守る優しさで…私が聞かずともそれを行動で指し示した。

 なら私の聞く事は…)」

 

 ロマンは周りを見て街の人々が全員無事である事を確認すると良かったと呟き、本心から赤の他人達の無事を喜んでいた。

 一方エミルはこの港にもしも自分が居らず、彼だけが居たとしてもリリアーデ港街を守り抜いた筈だと思っていた。

 そう、普段の気弱さから考えられない勇気と他者を無茶してでも守る優しさを兼ね備えて。

 それを行動で示されたエミルは最後の質問内容を変更し、今この場で問い質し始める。

 

「…ロマン君、君にとって魔王って如何言う存在? 

 憎い敵? 

 ご両親の仇?」

 

「えっ…? 

 ………正直、分からないです。

 確かに僕の親は魔物に殺され、僕は今勇者として魔王討伐を目指してます。

 でも………憎く無いと言えば嘘になりますけど、僕は魔王がどんな存在なのか、何故こんな理不尽な事を生み出すのか知りたいです。

 そして…それが如何しようもない理由で戦う事を避けられないなら、僕は勇者として魔王を倒したいです! 

 そうすれば、少なくても僕みたいな思いをする人が居なくなる…期待を掛けてくれた皆を、裏切らずに済みますから…‼︎」

 

 エミルは最後か質問として魔王とは何なのかを問うと、ロマンは憎しみは無いとは言い切れないが戦いが避けられないなら倒したい。

 そうすれば自身の様な想いをせず、またこんな自分に期待を込めてくれた皆の想いを裏切らずに済むと答え、前を向きながら、エミルの目を見ながら全てを打ち明けた。

 

「(…凄い、凄いよこの子は! 

 そうだ、この子こそが私の探していた…‼︎)」

 

 それを聞いたエミルは彼が如何答えるか予想し、その期待以上の答えを以て返したのだ。

 何故ならば………エミル自身も見た事の無い『魔王』と話し合いで解決出来るならそうしたいと言う他人からは甘い、理解出来ないと言われる考えを示したのだ。

 しかしエミルは、それを無益な争いを好まない優しさから来る憎しみを超えた勇気の決断なのだと思い知り、彼女は確信する。

 この少年こそが自分が探していた『真の勇者』なのだと。

 

「…ロマン君、確かに魔王は初代勇者ロア様やセレスティア王国初代女王陛下のライラ様達の力を以てしても魔界に踏み入る事が出来ず、地上界の復興を何より優先して、そしてライラ様は門を閉じ生命を落とした事でどんな存在かも未だ謎に包まれています。

 けれど、魔族に関しては人間やドワーフ、エルフみたいに色んな者が居る事は知られてます。

 正々堂々を好む者、卑劣を好む者など…でも、その何もが地上界との戦いは避けられないと、500年前から遺された書物に記されています」

 

 エミルはライラの時代から魔王は居るとされたが自分達が終ぞ見えずに終わった事や、その目で見て来た様々な魔族について思い返しそれを書物に記されていたと若干の嘘を交えながら事実を話して行く。

 

「更にその魔族達は皆一様に『全ては魔王様の意向の下に』と言う思想統一されていて、地上界の侵略を緩める事は無かったのです。

 だから多分、魔王と話し合いでこの戦いを解決する事は難しいと思われます」

 

「…そう、ですか」

 

「でも、君…ううん、貴方様が無益な争いを好まない優しい性格といざと言う時に自ら苦難に飛び込む勇気の持ち主だと、私セレスティア王国第2王女エミルは見届けました!」

 

 そして魔族は全て思想統一が為されており、地上界の侵略の手を緩める事は一切無かった事を話しつつ、しかしロマンは自分が求めた優しさと勇気を兼ね備えた真の勇者、ロアの再来だと確信を持ちながらエミルは自らの身分を明かし、ロマンのそれを見届けたと高らかに声を上げる。

 

「え、ええ⁉︎

 セ、セレスティア王国の、第2王女様⁉︎」

 

「はい、身分を隠し、実力すら隠しながら勧誘をしていた無礼をお許し下さい。

 こうでもしないと相手が萎縮し、その方の素顔を、人格を見れないと思い隠していたのです。

 そしてその中で、貴方は私にロア様の再来だと確信を持たせる物を行動で指し示しました」

 

 ロマンはエミルがセレスティア王国の王女だと知り驚くと、エミルは身分を隠し自身のレベルまで隠さなければ対面する勇者の素顔や素の性格を見られなかったと話す。

 そして無礼を詫びながら頭を下げて、且つロマンこそがロアの再来だと確信を持ったと口にした。

 

「僕が、ロア様の………?」

 

「はい、実感は持てないでしょうが少なくとも私はそう確信を持ちました。

 なので、共に魔王を討伐する旅に付いて来て貰えませんか?」

 

 エミルはロマンの事を高く評価し、少なくとも自分はロアの再来だと信じて疑わないと話しながら魔王討伐の旅に付いて来て欲しいと再び頭を下げた後同意の握手を求めた。

 

「…あの、突然王女様だとか、初代様の再来だとか頭が追い付かないですけど、もしこんな僕で良いのでしたら、どうかその旅に同行させて下さい………王女様…」

 

「エミルで結構ですよ。

 私もロマン君と呼びますから」

 

 そうしてロマンは突然ロアの再来だと言われた事や目の前の少女が王女様だと驚きながらも、この500年も続く恐怖との戦いに終止符を打てるならと思い、エミルの求めた握手を優しく握り返してその旅に同行する事に決めた。

 

「(…ああ、転生して良かった…この時代に…こんな強くて優しい子が居る世界に…)」

 

 こうしてエミルは勇者ロマンと言う魔王討伐の最大戦力にして最高の仲間に早速出会い、自分はこの時代に転生して良かったと思いながら長いのか短いのか、兎に角体感時間は長い握手を交わしてロマンの様な優しい者と共に魔王討伐の旅をする事を喜ぶのであった。

 

 

 

「おやおや、勇者募集中と言う紙を見てリリアーデに魔物を適当に放ったが、如何やら圧倒的な力量差で制圧され返されたらしいなぁ」

 

「………」

 

 エミルとロマンがリリアーデの街を守った同時刻、肌が褐色色で額に赤い水晶が付き、漆黒色の鎧や軽装を纏う紅目の2人組の男女が港街を見渡せる空の上で見ながら男は嘲笑し、女は黙ってそれを見ていた。

 

「さて如何するかな『シエル』? 

 今ならあの2人を我々2人なら殺せるが?」

 

「…今は大した脅威と感じられない、お前が倒されれば話は別になるがな、『アギラ』」

 

「ほう…流石は『魔族』1の剣士様は余裕な事で。

 では私は臆病なので他の地上界に潜伏した魔族達にあの2人の脅威を伝えて来るよ。

 何せ、あの勇者…ロマンと言う小僧やあの魔法使いは我等魔族にとって危険な存在だからなぁ」

 

 互いにアギラ、シエルと呼ばれた者…魔物の創造主にして操りし者、魔族の2人は互いに意見を食い違わせ、アギラはエミルとロマンの実力を脅威と見做し他の魔族達に報告するべく転移魔法(ディメンションマジック)でその場から去る。

 

「………そう、今は脅威などでは無い。

 けれど、もしかしたら………」

 

 アギラが消えた後シエルはエミルとロマンの2人を見ながら何かを考える素振りを見せ、そしてアギラと同様に何処かへと転移し、

 その場に静寂が訪れた。

 そしてそんな魔族が居た事を、誰も知る由が無かった………




此処までの閲覧ありがとうございました。
もう1人の主人公、ロマンは弱気な勇者と少し勇者としては腰が引けた子ですが、いざと言う時は自ら苦難に立ち向かう勇気や弱き人々を無茶を押し通してでも守ろうとする優しさがある子です。
そんなロマンがエミルと如何に絡み、そしてどんな冒険譚を紡ぐのかお楽しみ下さいませ。

次回もよろしくお願い致します。


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第5話『エミル、糾弾する』

皆様おはようございます、第5話目更新でございます。
今回はタイトルにある様な行動をエミルが取ります。
では、本編へどうぞ。


 エミルとロマンがリリアーデ港街を守った日の夜、宿屋ではエミルとロマンの活躍を祝う為に宴会が開かれ、2人は中央席でぶどうジュース(※本当にただのジュース)をジョッキに注ぎながら、周りがガヤガヤと飲み食いする中でエミルは王族らしくテーブルマナーを守りながら食事をしていた。

 

「あの、エミルさ…エ、エミル。

 やっぱり王族なのにこんなどんちゃん騒ぎな宴会って馴染まない…よね?」

 

「いいえ、こう言った祝杯はどの様な形であれ私は大好きよ。

 勿論私は王族として、お父様達の品位を落とさない様にマナーを守りながらの参加になりますがね。

 それよりエミル君も一杯食べて一杯飲んで下さいな。

 折角の祝杯です、楽しまなきゃ損しか無いのよ?」

 

「あ…う、うん、分かったよ」

 

 ロマンはエミルがテーブルマナーを守りながら食事をする事に窮屈なのではと感じたが、それは王族らしく振る舞う為に仕方無い事であると言われた後にテーブルにまた料理が運ばれて来てエミルはロマンに沢山食べる様に促し、ロマンもこれ以上は宴会に無粋だとして運ばれて来た料理を食べていた。

 

「それにしても前のパーティはロマン君を追い出した上に食糧もお金も与えずに何処かに行ってしまうなんて如何かしてますね。

 それでロマン君が死んでしまったら世界の大損失所では無いのに」

 

「あ、あはは…でも、川の水とかを飲みながら此処まで来れて、それで外に張り紙であの広告を見たからエミルと出会えたから、ある意味では追い出されたのも悪くない…かも?」

 

「ロマン君、それ悪い意味しか無いよ」

 

 するとエミルはロマンを追い出した前の冒険者パーティの事を話し始め、金も食糧も与えずに追い出した為ロマンがもし道端で飢え死んだら如何するのかと不満を漏らす。

 だが追い出されたロマン本人はそれがきっかけでエミルと出会えた為ある意味良かったと話してた…が、矢張りエミルには悪い意味しか見出せない為ぶどうジュースを飲みながら次の食事に手を付け始めた。

 

『バタンッ‼︎』

 

「おうおうおう、何か楽しそうな宴会やってんじゃないか‼︎

 俺等も混ぜろよ〜!」

 

 すると宿屋の戸を勢い良く開けて、外から平均レベル97の剣士、剣士の腰巾着なシーフ、荷物を持たされてる魔法使いの少女、見た目から明らかにギャランと同類の女戦士と言った柄の悪いパーティと付き合わされてる1名が宿屋内に入り周りを見渡し宴会に混ぜろとリーダーの剣士が言い放って来た。

 

「あ、『ギャラン』達だ…」

 

「もしかして、2日前にロマン君を前に追い出したパーティ?」

 

「…うん」

 

 ロマンはリーダー格の剣士、ギャランとその仲間を見て萎縮し、それを見たエミルは敢えて彼に2日前に食糧を渡さず追い出したパーティなのかと問う。

 するとロマンは小さく頷きながら肯定し、エミルは面倒な事になったと認識していた。

 

「おっ、彼処に居るのは役立たずのロマンじゃねぇか! 

 おいお前等、彼処に弱虫君が居るから行こうぜ〜‼︎」

 

「あっはは、何か女の子の魔法使いと一緒にチビチビと食べてるし仲間外れの慰め合いかなぁ?」

 

「いやマジウケるわ」

 

 するとギャランは仲間の女戦士とシーフに声を掛けてエミル達の席まで歩いて来る。

 するとギャランは料理が置かれているテーブルの腰を付けると言うあり得ない行為に出て、取り巻きの2人はロマンを囲み魔法使いの少女はオドオドとしながら荷物を置きながらエミルの側までやって来た。

 

「ようようようロマンくぅ〜ん? 

 よく食糧も金も無く此処まで来てこの女魔法使いちゃんに集ってるなぁ? 

 やっぱ役立たずは役立たず、この嬢ちゃんに土下座でもしてご飯を食べさせて貰ってるのかぁ〜?」

 

『ギャハハハハハハハハ‼︎』

 

 ギャランと2人の仲間はロマンに絡み付き、ロマンの事をやれ役立たず、エミルに土下座して食べさせて貰ってる等俗な笑みを上げていた。

 一方エミルや宿屋に居る面々は宴会の主役の1人がこうも悪口を言われていては気分も悪く、更にエミルはギャランを『見た事がある』為尚更悪感情を抱いていた。

 

「あ、あの、ギャランさん、マナーが悪いです」

 

「あぁん何だぁ荷物持ちぃ‼︎」

 

「ひっ‼︎」

 

 すると魔法使いの少女がギャランに意見を出すが、ギャランは威圧してそれを黙らせてしまう。

 エミルは理解した、この魔法使いの少女もロマンの様にカースト制を敷かれ、ギャラン達に奴隷以下の扱いを受けているのだと頭の中で図式が出来上がった。

 

「ギャ、ギャラン、『キャシー』に僕が居た時以上の酷い事をしてるの⁉︎

 そ、そんなの本当に酷いよ…!」

 

「あぁん何だぁ‼︎

 一丁前にレベルだけ160とか行ってるだけの金食い虫が‼︎

 てめぇはもう俺達のパーティから追い出されてんだよ、何も言う権利なんざ無いぜ‼︎」

 

「そんなの、可笑しいって‼︎

 大体、キャシーは2日前に見た時より肌荒れしてるし目に隈が出来てるじゃないか‼︎

 い、幾らもう追い出されて無関係な僕でもこんなのは異常だって言い続けるよ‼︎」

 

 ロマンはキャシーと言う魔法使いの少女の状態が自身が居た時よりも明らかに酷くなっている事をギャランに糾弾するが、当のギャランやその仲間2人はロマンに嫌味な表情で睨み付けながら無関係な奴は出しゃばるなと言った文言を飛ばす。

 しかしロマンは弱気ながらも持って生まれた優しさからかキャシーを庇い続ける様に叫びながら席を立ち、ギャラン達が異常だと言い放つ。

 

「ったく、これだから田舎村の勇者様は…」

 

「おほん、失礼ですがセレスティア王国『ベヘルット侯爵家』の『ロード』・ベヘルット侯爵様、テーブルには料理が置かれており座る場所ではありません。

 そしてパーティメンバーの酷使や不当な締め出しはギルド協会から禁止されている行為ですよ。

 なので侯爵家の家門に泥を塗る様な行為はお止め下さいませんか?」

 

 ギャランはロマンの正義感にうんざりしながら田舎村の勇者如きと愚弄していた。

 そうしてこれ等一連のギャラン達の蛮行に遂にエミルは動き出し、ギャランの一族であるベヘルット侯爵家の名を出しながらテーブルマナーやギルド協会で禁止されている行為を口に出し注意する。

 

「あぁ! 

 何なんだてめぇは‼︎

 俺は侯爵家の息子なんだ、金さえ払えば何だって許されるんだよ‼︎

 それが分かって俺に指図してるのかぁこの田舎の魔法使い如きが‼︎」

 

「…あちゃ〜…」

 

 するとギャランはエミルの注意に侯爵家だから金さえ払えば全てが許されると高らかに叫び、彼女を指差しながら身分の差があると言わんばかりに罵声を浴びせる。

 すると周りに居た冒険者の1人がやってしまったと言わんばかりにあちゃ〜と呟き、目の前に居るロマンは穏便に済めばそれで良かったのに地雷を踏み抜いたとして顔を伏せて後はエミル側に全てを委ねると言った姿勢を見せた。

 

「あら、田舎娘で申し訳ありませんロード・ベヘルット侯爵様。

 そう言えば、私はこう言った者なのですが、失礼ながらこの勅令書を一読下さいませ」

 

「あ、ああ? 

 ちょ、勅令書? 

 ………な、な、セ、セレスティア第2王女エミル殿下……⁉︎」

 

『えっ⁉︎』

 

 エミルはロマンの態度を見てこの蛮行に終わりを告げよう、そう決意した瞬間勅令書をギャランに見せ、その内容を一読させた。

 そしてギャランは自分の侯爵家より遥か上の王族の姫に喧嘩を売ってしまったと知り血の気が引いて行き、更に取り巻き2人もギャランの口から出た王女殿下と言う単語に同様に青褪めてしまい、3人でガタガタと震え始めてしまう。

 

「お金で全てが許される、その愚考でギルド協会の敷いたルールを無視し、パーティメンバーを奴隷よりも酷な扱いをし、この祝杯の場でテーブルに腰を付け料理を台無しにし、挙句私の仲間であり友であるロマン君に罵声を浴びせた…。

 私に罵声を浴びせるのは結構ですが、それ等の蛮行は無視出来ません。

 受付嬢さん、『ギルドナイト』をお呼び下さい‼︎

 セレスティア王国第2王女エミルの名の下に彼等に拘束命令を出します‼︎」

 

「は、はい、承りました‼︎」

 

「あちょ、あっ‼︎」

 

 エミルは自らが見聞きしたギャラン達3人の蛮行に遂に自らの名の下に冒険者ギルド協会の法の番人ギルドナイトを受付嬢に呼び寄せる様に命じ、受付嬢もそれを聞きギャランの声になってない静止を無視して宿屋の奥へと走り出す。

 そして取り巻き2人は旗色が悪くなった為声を出さずに逃げようとしたが、周りの冒険者達にギャラン毎拘束されてしまう。

 

「ち、畜生、何で、何で…‼︎」

 

「何故こうなったか分からない様でしたら牢の中でじっくりと考え、そして2度と同じ事を繰り返さぬ事です。

 最も、この様な状況では冒険者ランク剥奪、そしてベヘルット侯爵殿まで貴方の不祥事を財力で黙殺していたのならベヘルット侯爵家は爵位剥奪も免れないでしょう。

 であるなら、貴方達が見下した者達と同じ目線に立ち自分達の罪を懺悔なさい」

 

 頭の中が真っ白になり、テーブルから退かされ床に膝を突くギャランにエミルは王族としての立場から彼が見下した者達と同じ目線に立ち懺悔する様に、またベヘルット侯爵家は爵位剥奪は間違い無いとも言い全てを失いながら罪を償う事になると暗に告げた。

 そして程無くギルドナイトが転移魔法(ディメンションマジック)で到着し、ギャラン達3人を捕らえて協会本部に連行して行った。

 

「…エミル、君はやっぱり本物の王女様なんだね」

 

「ふう、出来ればこんな事したくないのよ。

 王族としてマナーを守る程度ならまだしも、今みたいな王族の名の下に引っ捕らえよ〜とか色々苦手な物が多いんだから…」

 

 ロマンはエミルが改めて本物の王女だと思い知り、キャシーを救った事やこんな自分の為に怒ってくれた事を感謝していた。

 しかしエミルは社交辞令や今の様な物は大変苦手であり、それは寧ろアルクやレオナ達兄姉達の分野である為ドッと汗を流しながら椅子にゆっくり腰を付けていた。

 

「あ、あの、エミル王女殿下、この度は私をお救い頂き誠にありがとうございました。

 この御恩は一生」

 

「あ〜、そう言った物は大丈夫よ気にしなくて。

 それより、私に恩を感じたのなら貴女の目で、耳で、手で、足で、貴女の知らない世界を冒険して。

 そして何時か再会した時に私にそのお話を聴かせて、貴女の冒険譚を。

 それが私が貴女に求める物よキャシーちゃん」

 

 するとキャシーはエミルに恩を感じ一生忘れないと言おうとした所、当のエミルはキャシーに何かの恩返しは求めず、それよりもキャシーが自ら描く冒険譚を何時の日か聴かせて欲しいと言い握手を求めた。

 

「…うう、はい、王女様。

 私、未だ知らない物を見て聞いて何時の日か王女様にそれ等をお話致したいです…‼︎」

 

 その瞬間キャシーの涙腺は決壊し、止めどなく涙が溢れながらエミルに冒険譚を聴かせる約束を握手しながら交わした。

 

「じゃあ次からはあんな連中みたいなのには引っ掛からずちゃんとした冒険者パーティメンバーと一緒に冒険してねキャシーちゃん。

 幸い貴女のレベルは92だし、あんなの以外の何処のパーティでもやっていけるよ」

 

「はい…はい…‼︎」

 

「………うん、これならキャシーは新しい道を進められるね。

 ありがとう、エミル」

 

 次にエミルはキャシーにギャラン達の様な悪徳パーティに引っ掛からない様に注意し、更にレベルは92と英雄と呼ばれる領域に近い為何処でも上手くやって行けると話して自信を持たせる。

 キャシーもこれに懲りて人選びはしっかりしようと気を付けると心掛け、ロマンも自分が追い出されてから気掛かりだったキャシーがこれからは真っ当なパーティと共に冒険や魔物退治をする未来図を浮かべ、エミルにありがとうと告げるのであった。

 そのエミルはロマンの言葉にサムズアップで返していた。

 

 

 

 それから翌日、エミルの下に転送魔法(トランサーマジック)でベヘルット侯爵家の爵位剥奪が早急に行われた事や、ギャラン達が今まで行って来た悪事により冒険者ランクも剥奪、冒険者ギルド協会から永久追放になったと書簡が送られて来ていた。

 それをロマンにも見せロマンもこれでキャシーみたいな子が減る事に繋がればと考えていた。

 

「そう言えばロマン君、貴方が追い出された冒険者パーティって他にもあるんだよね? 

 それを訴えるって事は?」

 

「ううん良いんだ、特に酷かったギャラン達と違って他は僕だけが追い出されて、キャシーみたいな子は居なかったから…。

 それに話し合いで決まった事だし、彼等が何処に居るか僕には分からない上に訴える気は無いから…」

 

「…そっか。

 ロマン君が良いならそれで良いんだけど」

 

 エミルは他のロマンを追い出したパーティを問い質すと、当の本人は他のパーティはギャラン達程では無いと伝え、そして自分だけがそんな扱いなら幾らでも我慢出来る為今回はキャシーを救おうと動いたのだ。

 更にロマンは自分を追い出したギャラン達より前のパーティ達は今何をしているのかも分からないと伝えてそれ以上は求めないと言う雰囲気を出し、エミルもロマンがそれでOKならと言いながら1階へ降りた。

 

「あ、エミル王女殿下! 

 おはようございます!」

 

「受付嬢さんおはようございます。

 …そう言えばキャシーちゃんは何処に?」

 

「はい、実は朝早く祝杯の場でギャラン一行を取り押さえてくれたパーティに引き取られてそのまま旅立ちました。

 そのパーティはこのフィールウッド国で有名な冒険者達の集まりで、決してギャランパーティの様な事にはならない事を私が保証致します」

 

 1階へ降りたエミルは受付嬢からキャシーのその後を聞き、どうやら有名冒険者パーティに引き取られたらしい。

 この受付嬢が確実に信頼出来ると其処まで太鼓判を押すなら信じる事にし、キャシーの未来に幸がある事を祈っていた。

 

「あ、それとエミル王女殿下の冒険者ランクの協議が終わり、冒険者ランクの紙が本部から送られて来ました!」

 

「あ、そう言えば色々あり過ぎたから自分の冒険者ランクの事を忘れてた! 

 それで、冒険者ランクはどの位になりましたか?」

 

「ふふ、それはですね………今のエミルさんと同じBランクからスタートになりました‼︎

 此処から依頼を熟して、Aランクまで如何か無理なく頑張って下さいませ‼︎」

 

 そしてエミルの冒険者ランクも決まった事が受付嬢から告知され、ミニクラーケン襲撃やギャランパーティの拘束等ですっかり忘れていたランクの是非を聞くと、エミルは今のロマンと同じBランクからスタートとなり手渡された魔法紙(マナシート)にもそう書かれていた。

 

「Bランク…最高ランクであるAの、一個下…〜〜っ‼︎」

 

 エミルはそれを見て早速Bランクから始まる事に心が躍り、魔法紙を魔法袋(マナポーチ)に収納し、エミルはロマンに手を翳し、ロマンも何かとそれに合わせるとエミルからハイタッチをして爛漫な笑顔を見せていた。

 

「では、今後ともギルド協会をご利用下さいませ! 

 ギルド協会の違反事項は敢えて説明致しますが、渡した魔法紙(マナシート)に記載されていますので違反しない様にご注意下さいませ」

 

「大丈夫ですよ、ルールを守って無茶はしても無理はしないが私の信条ですから! 

 じゃあロマン君、早速防具屋に行って防具を新調しよう! 

 大丈夫、私まだ400万G(ゴールド)以上残っているから‼︎」

 

「あ、ちょ、エミルゥ⁉︎」

 

 受付嬢の違反事項の敢えての説明に先程の無茶せずと言う言葉と一緒にエミルはルールを守り、無茶はしても無理はしないと信条を語った後ロマンの手を引き防具屋でボロボロなロマンの防具を新調しようと言う話になる。

 そんな押しの強いエミルにロマンはタジタジになりながら手を引かれ、宿屋から外へと出て行った。

 

「………新たな冒険者に幸があらん事を」

 

 その後ろ姿を見ていた受付嬢は150年この仕事をして来た中で初めて現れる嵐の様に激しく、しかし花の様に美しい新人冒険者にその旅路………魔王討伐と言うとてつも無く大きな使命を帯びた魔法王女とその王女が見出した勇者。

 この2人の行く末に幸多き事を祈りながら扉が閉まる寸前に頭を下げてその去り際を見送るのであった。

 

 

 

 それからエミルとロマンは、エミルがミスリルローブを買った武器屋兼防具屋に立ち寄り、早速品定めを始めていた。

 

「うーん中々見つからないなぁ…これでもあれでも無いし…」

 

「えっと、エミルは何を探してるの?」

 

「えっ、それは勿論職人王ゴッフ一門が作り上げた武器と防具だよ。

 ほら、君の剣や防具に同じシンプルな金槌の紋様があるでしょ? 

 これが初代勇者パーティの一員で伝説として語られる武具を数多く作り出したドワーフの王様の使う紋様なんだよ。

 まぁ職人王様自体は300年前に弟子を漸く取って引退したって各国情勢の授業で教わったけどね」

 

 ロマンはエミルが何を探しているのかを問うと、本人はロマンの武器や防具にあるシンプルな金槌の紋様の物を探しているらしく、それはミスリラントの職人王ゴッフとその弟子が作り上げた物と聞きそれを知らなかったロマンは驚いていた。

 

「えっ、この剣や防具があのゴッフ様とそのお弟子様が作り上げた物なの⁉︎

 …このミスリルソードは父さんの形見で、それと同じ紋様の物を自然と選んでいたんだけど…」

 

 ロマンは父の形見のミスリルソードがそんな由緒正しい物と知らず驚き、更に同じ紋様の防具は確かに他より値段が高かったが身体に馴染む様な感覚があった為気にせず買っていた為再びタジタジになっていた。

 ギャランが金食い虫発言をした理由とは恐らくゴッフ一門の防具を買っていた事が一因だとロマンは知り、しかしそれでもギャラン達のやり方は許せなかった為同情は出来なかった。

 

「成る程ね〜…っと、漸く見つけた‼︎

 ゴッフ一門作ミスリル製戦士用防具‼︎

 お値段何と20万G(ゴールド)‼︎

 まぁ、やっぱり値段は張るけどこれ位の価値が無いと可笑しい、それがゴッフ一門の武具‼︎」

 

「おっ、やっぱりまたゴッフ様とそのお弟子さんの防具を買うのかい王女殿下! 

 なら勇者君のサイズに仕立てて………今なら街を救ってくれたりあの柄が悪い冒険者に一泡吹かせた事にサービスして出血大サービス20%オフの16万G(ゴールド)だ‼︎」

 

 エミルはロマンの剣が父親の形見と知り、ならこの後『やる事』には使ってはならないと思いながらも遂にゴッフ一門作の戦士用ミスリル製防具一式を発見し、それをレジに提示すると店長はロマンの身長に合うサイズを仕立てた上で、街をミニクラーケンから救った英雄とギャランパーティを永久追放した事にサービスして16万G(ゴールド)で売ると宣言する。

 

「おっとそんなにサービスしてくれますか…ならはい、20万G(ゴールド)払ってお釣りは要らないよ!」

 

「って元の相場のままじゃないかーい!」

 

 エミルは王女と言う事や街を救った事は兎も角ギャランパーティの件までこの店に伝わってる事を知り、この分では街中にギャラン達が冒険者ギルドから永久追放された事が広まってると思いつつ、其処までサービスされると逆に買うのが退けてしまう為か元の相場のお金を支払い釣りは要らないと話しながら防具を持ち着替え室にロマンを入れる。

 

「さあ、宿屋で洗濯された私服に新品の防具を着て私に見せて!」

 

「う、うん…よーし、袖を通して…」

 

 エミルはカーテン越しにロマンのボロボロになってたが洗濯して綺麗になった私服に新調された防具が装備された所を見せてと頼み、ロマンはそれに応えてレギンスやガントレット、無駄に重く無くしかし防御力が高いアーマーや盾を装備し始める。

 

「(…うん、やっぱり駄目だよね)」

 

 するとエミルはロマンのある言葉からこれから直ぐに実行しようとする事に、一部許容出来ない物が出来たと脳裏で考えそしてその案に静かに修正を行い、更にその先の旅路の道筋にも変更点を付け加えて行く。

 そしてエミルが思案し終わると同時にロマンの着替え終わりその姿を見せる。

 

「わぁ、やっぱり似合う! 

 私の見立ては確かだった!」

 

 ロマンは青と白を基調とした私服にミスリル製の防具一式を装備させ、丁度エミルの赤と黒を基調としたミスリルローブと対になる色合いとなり更に元々容姿は並以上だったロマンにしっかりとした防具が合わさり、未だ弱気に見えるがそれでも新調前の時よりも格好良くなったとエミルは思っていた。

 

「んじゃお古の防具は俺が引き取らせて貰うから、魔王討伐の旅に最初に買った防具は此処で買ったって事を2人共覚えてくれよな‼︎」

 

「は、はい、こんな素敵な防具ありがとうございます‼︎」

 

「それじゃあおじさん、またリリアーデに来たらお世話になるからその時もよろしくお願いしますね!」

 

 そして店主はロマンのボロボロになっていた古い防具を引き取り、2人に魔王討伐の旅に初めて立ち寄った店である事を覚える様に頼みながら見送る。

 それをロマンはこの防具を仕立ててくれた事に礼を述べ、エミルはまたリリアーデに立ち寄った時は立ち寄ると約束をして店の外に出て港前まで移動する。

 

「さてと、此処まで移動したらロマン君、少し道の端に寄って動かないでね」

 

「えっ、う、うん」

 

 するとエミルはロマンを道の端に立たせて動かない様に指示し、ロマンは素直にそれを聞いてジッと立つとエミルは杖を掲げ体内魔力を活性化させ、足下に魔法陣が現れる。

 

「じゃあ、ロマン君の防具一式に軽量化、防御力アップ、魔法ダメージ減衰魔法祝印(エンチャント)の3種を最大限のIV、刻みま〜す‼︎」

 

「えっ、わぁ!」

 

 するとエミルはロマンの防具全てに3種類の魔法祝印(エンチャント)を掛け、防具に3つの印が刻まれる。

 この支援魔法は武器や防具に様々な効果をI〜IVまでの効力で付与する物である。

 IとIIは例えば防御力アップ効果を引き出す代わりに重量増加デバフも掛かる様になるが、IIIからデバフ効果が消え、最大のIVになればIIIの効果量を上回る効力を発揮するのだ。

 

「す、凄い…魔法祝印(エンチャント)のIVの3種類を複数の物に同時掛けなんて、エミルは相当魔法の熟練度を上げたんだね…!」

 

 ロマンはそれを3種同時に掛け、更に支援魔法はその種類の魔法を何度も何度も繰り返して使わなければIVを使える様にならない為エミルを相当な努力を重ねた魔法使いなのだと認識する。

 

「うん、まぁね〜。

 魔王討伐を目指して最北の世界樹でレベル163まで修行したからね〜」

 

 当のエミルはライラの時の知識や技術を引き継いでいる為、やろうと思えばレベル18程度でも支援魔法IVは使える。

 しかしキチンとした効力や攻撃魔法の熟練度に応じた威力上昇を発揮するには『その肉体』で何度も同じ魔法を繰り返さなければならないとエミルは途中で気付き、最北の世界樹で攻撃魔法のみならず支援魔法の練習を欠かさなかったのだ。

 

「(修行前に転生魔法の弊害に気付いて助かったわ。

 でないと私はライラの時の技術継承に胡座を掻く所だった…4歳の時に火炎弾(バーンバレット)を使った時の違和感に気づいて正解だったわ)」

 

 そしてそれを4歳の時の魔法の天才児と周りに言われた際の魔法行使で熟練度も振り出しに戻ってる事に気付けた事は僥倖だったとエミルは思いながら船着場の旅客船を見ながら次の行動指針を、修正を加えた物をロマンに話し始める。

 

「ふう。

 ロマン君、私本当は貴方の剣にも威力上昇や強度上昇、軽量化魔法祝印(エンチャント)を付ける気だったわ」

 

「えっ、そうなの? 

 それじゃあ」

 

「でも私はその選択を捨てたわ。

 だってその剣は貴方のお父様の形見でしょう? 

 そんな物に勝手に魔法祝印(エンチャント)を掛ける程私は非常識な人間じゃないわ」

 

「あっ…エミル…」

 

 エミルはロマンの剣に魔法祝印(エンチャント)を掛ける選択肢があったが、父親の形見である事からそれを勝手に手を付けて良い訳が無いと彼女は思い、ロマンもまた剣に関してはかなり気遣ってくれた事を理解し魔法祝印(エンチャント)を気軽に頼もうとした自分に少し心に喝を入れてその先の言葉を紡がなかった。

 

「だから、その少し刃毀れもしてる剣を私は打ち直して貰ってしっかりと最後まで使える様にして貰おうって思ったの。

 他でも無いその剣を作った人、ゴッフ一門のお弟子さんに頼み込みに行こうと思うの」

 

「剣を作ってくれた人…つまり僕達の次の目的はそのお弟子様を探す事なんだよね?」

 

「そう、武具職人でもあり150年前にレベル78でエルフの女性と一緒に冒険者ギルド協会に登録して当時初の登録時Cランク発行をされ、今は私達と同じBランクになってるドワーフの男性…。

 ゴッフ一門のお弟子さん、『アル』さんを探しに行くわよ!」

 

 ロマンが自身に喝を入れる中、エミルはロマンの刃毀れしている剣を作った本人に打ち直して貰う事を告げる。

 それによりロマンは最初の旅の目的は自分の剣の打ち直すゴッフ一門の弟子を探す事と理解する。

 そしてエミルはそのゴッフ一門の弟子のドワーフは150年前にレベル78で相方のエルフの女性と共に冒険者登録をした者…武具職人アルを探す旅をすると海に指差しながら宣言するのだった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
ロマンを追い出したパーティですが、特に酷かったのはギャランパーティで、他は意見の食い違いの結果互いに違う道を取ろうとと話し合ったりしてロマンはパーティを出て行ってます(勿論お金や食糧は渡されてます)。
そしてエミルの王女としての立場が光ったり、次の旅の道筋が決まる回でした。
さて、今回は魔法の属性について説明致します。
魔法は火、水、土、風、光、闇の原始属性に風と水の派生属性の雷、氷が存在します。
原始属性は下級、中級、上級、最上級の4種魔法がありますが、派生属性は下級と上級しかありません。

次回もよろしくお願い致します。


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第6話「エミルとロマン、人助けする」

皆様おはようございます、第6話目更新でございます。
今回は新しい主要人物が顔見せ程度にですが登場致します。
では、本編へどうぞ。


 エミルとロマンが防具屋で買い物を終えた直後のセレスティアに港町『リーバ』の宿屋。

 其処の掲示板に貼られていたエミルの『勇者募集中』の広告が剥がされ出し、受付の男がそのまま奥に持って行こうとしていた。

 

『ガチャッ』

 

「あ、その紙もう外しちゃうんですか〜⁉︎

 私達もちょっと気になっていたんですけど!」

 

 其処に少し息を切らした緑服の弓兵用装備を着熟したエルフの少女が宿屋に入り、受付にエミルの作った『勇者募集中』広告を剥がす場面を目撃しそれが気になっていたと話す。

 すると受付は冒険者ギルドの一員として長い年月、それこそこの男性が子供だった頃から既に名のある冒険者として活躍していた為受付はこれが外される理由を話そうと思っていた。

 

「ああ『サラ』さん、おはようございます。

 此方の広告が剥がされる理由ですが、何でも昨日フィールウッド国の港街リリアーデでこの募集をしていた方が勇者を見つけたらしく、それでもうこの張り紙は必要無くなったって訳なんだ」

 

「えぇ〜、じゃあその紙に写されてる魔法使いの女の子は勇者を見つけちゃったの〜⁉︎

 あぁ〜、私達の『用事』さえなければフィールウッドに行ってその子に出会えたのに〜‼︎」

 

「………ごめんなさいサラ、今回の『山場』は私達が…この国で動かないとならないって、『予知』が見えたから…」

 

 するとサラは地団駄を踏みながらこの国であった『用事』があり、セレスティアの中央都市『ライラック』まで赴いていたのだ。

 それが終わり、馬車でリーバまで飛ばしてたった今辿り着きこの場面に遭遇したのだ。

 するとその後ろからロープを深々と被った褐色肌の少女…肌の色からダークエルフとわかるその子はサラに今回の『用事』は自分達が動かねばならないと予知で視た為、それを片付けてきた最中であった。

 

「ううん、『ルル』のせいじゃ無いよ! 

 悪いのは不正なお金を隠し持っていたり、冒険者の息子の不祥事をお金で揉み消したりしたベヘルット元侯爵の所為なんだから!」

 

 するとサラはルルの所為では無くベヘルット元侯爵が悪いと話していた。

 実はベヘルット元侯爵の爵位剥奪が手早く行われた理由はこのサラやルル、そしてドアから入り閉めた茶色い立派なヒゲが特徴のドワーフの男性…このドワーフこそが、エミルが探しに行こうとしているゴッフ一門の弟子のアルである。

 この3人が関わった為である。

 

「まぁそう言うこった。

 ルルの予知で俺らも関わらないといけないって出ちゃあそれこそ無視は出来ねえからな」

 

 そう、この3人がルルの予知でベヘルット元侯爵の悪事を暴く事を視えてしまった為サラやアルは無視出来ず、ルルも『本業』の発揮だとして張り切ったがベヘルット元侯爵は中々尻尾を出さず、昨夜になり漸く証拠を掴み近衛兵達に突き出して、それから馬車でリーバまで急いで戻って来た所であったのだ。

 それは奇しくもギャランがギルドナイトに連行されたのと同時刻であった。

 

「そうだけど〜…うぅ〜、魔王討伐の為に勇者募集なんて見たら私もうずうずしてこれが終わったら直ぐにフィールウッド国のリリアーデに向かうってプランだったのに〜‼︎」

 

「まぁお前の親父が初代勇者一行のロックで、お前は親父さんから魔王討伐の悲願を託されたからそううずうずするのは仕方無ぇが、世の中そう簡単に物事は運ばないんだぜ。

 俺様がゴッフ(ジジイ)の弟子になって武具職人になったのも俺が20で頼み込んで、30年も掛かって漸くゴッフ(ジジイ)が俺様の作った斧を見て折れた位だからな、早々苦労せず事が運ぶのは珍しいもんだ」

 

 サラがプランが崩れて地団駄を踏んでる所にアルがサラはエルフの国の国王、初代勇者一行の1人のロックが父でありその父の悲願である魔王討伐の使命を帯びてる為、天真爛漫が服を着た様なサラも強い使命感に満ちてる事を話しつつ、自分もゴッフの弟子になるまでかなり時間と鍛治回数が掛かった事を引き合いに出して世の中其処まで上手く行く事は珍しいと口は悪いが何処か達観した会話を交わし、するとサラの地団駄が止まる。

 

「うぅ〜、それはそう、そうなんだよね。

 でもやっぱりその魔法使いの子に会いたかったのよ、私みたいに魔王討伐を真面目に目指す熱意があの広告から伝わって来たから…」

 

「まぁ今から向かったんじゃ何処かで入れ違いになっちまう。

 だったら此処で待ってた方が良い訳だぜ」

 

「そう………ですね…。

 では…暫く宿を………あっ‼︎」

 

 サラは広告の女魔法使い…彼女は未だ知らないエミルが本気で魔王討伐を目指す熱意がその紙から伝わった事で会いたいと言う気持ちが生まれていたのだ。

 しかしゴッフは今からフィールウッド国に向かっても何処かで入れ違いになる事を話し、宿の予約をルルも賛成しながら取ろうとした。

 その時ルルは、脳裏にダークエルフの文字と予知のビジョンが浮かびそれ等を読み解き始めていた。

 

「如何かしたのかルル?」

 

「もしかして、また予知? 

 こんなに立て続けに予知を視るなんて珍しいね〜。

 それで、どんな内容だったの?」

 

 するとゴッフが心配する言葉を掛けると、サラが直ぐに予知がまた発動して何かを見た事を察知し、親友のルルにどんな物が視えたのかを問い掛け始めた。

 そうしてルルはフードの奥で瞳を閉じながら話し始めた。

 

「…『世界の命運を握りし彼の子、自らが求めし真の勇者見出し、我等を求め旅に出ずる。

 我等は彼の子等が来たるまでドワーフの国の鉄の村で待つべし』………これが、視えた内容、です…」

 

「ミスリラントの鉄の村? 

 そりゃアイアン村じゃねぇか。

 此処からなら海を渡るよりも国境門を越えて馬車で向かった方が早いぜ?」

 

「えっ、彼の子? 

 それってルルが14年前に視た予知にあった世界の命運を握る子だよね? 

 その子が勇者募集してたの〜⁉︎

 …でもそう考えたら自然なのかも…」

 

 ルルは2人に予知で見えた内容を整理し改めて予言として口にし、アルは鉄の村がアイアン村だと話して此処からなら馬車で向かった方が良い事を口にする。

 更にサラは14年前にルルが予言した世界の命運を握る彼の者と知り驚きながらも、その『予言に記されし者』ならば魔王討伐の為に勇者募集を行うと納得するに至った。

 

「あの、では宿のご利用は」

 

「ああ、すまんが無しにさせて貰うぜ。

 俺様達は馬車でセレスティア大陸のミスリラント領にあるアイアン村に向かうんだからな」

 

「うん、ルルの予知の的中率はリリアナ様と同じ位なんだから、絶対その子と勇者君は私達と出会う運命なんだよ! 

 だから受付さん、もしも勇者募集してた子が私達の内の1人を探してたならミスリラントのアイアン村に向かったってギルド協会全体で伝えて欲しいんだ。

 じゃあ善は急げ、それじゃあまたね〜!」

 

「…失礼、しました…」

 

 そうしてサラは宿屋の受付にギルド協会全体に自身やアル、ルルを勇者募集していたエミルが探している様ならミスリラントのアイアン村に来る様にと伝える為に情報共有する事を頼みながら3人は外に出て馬車へと向かって行った。

 

「ふう、やれやれだよ。

 まあこれも出会いの縁を繋ぐ為だと思えば良いか。

 さて、じゃあギルド協会全体に通信魔法が掛けられた水晶石で伝言を、と」

 

 宿屋の受付は宿泊客が予知で別の場所に向かった事にやれやれと思いながらも、水晶石でなギルド協会本部に各ギルド協会運営宿屋にサラパーティの居場所を聞いて来た者に彼女達はミスリラント領のアイアン村へ行った事を情報共有するのであった。

 ギルド協会はこう言った冒険者パーティ達の出会いのきっかけ作りも日々行い、冒険者同士の絆を深め合わせるのも仕事なのである。

 

 

 

 ロマンの新たなミスリル製防具に魔法祝印(エンチャント)を掛け終わり、エミルは海に指差して彼の剣を打ち直してくれる剣を打った冒険者兼武具職人アルを探すと意気込んでいた。

 

「あ、あのさ…そのアルさんを探すとして、一体何処に居るか分かるの?」

 

「私には分からないわ。

 千里眼(ディスタントアイ)も視える距離が名前に反して私の場合は約300キロメートル、もっと使い熟せば更に先が視える様になるはずだけど今はこれだけ。

 そして分かった事は300キロメートル範囲内に講義で習ったアルさんの姿は無かった。

 つまりフィールウッド国の更に奥か、それとも他国に居るか、になるわ」

 

 そんな中でロマンは現実的な意見としてアルは何処に居るか、冒険者なら1点に留まる訳が無い為エミルに聞くが、当のエミル自身にはお手上げらしく少なくとも彼女を中心として視れる300キロメートル範囲内に居ないとしてロマンも其処まで視れて居ないなら他国に居るのでは? 

 そんな風に思っていた。

 

「でも、私に手が無い訳じゃないわ。

 先ず宿屋に戻って受付嬢さんにアルさんが何処に居たのか、何処のギルド運営宿屋を利用したのか聞くの。

 其処でその国に向かって、次に何処に向かったのか情報屋でも何でも利用して場所を割り出せば…」

 

「…ああそうか、ギルド協会は冒険者同士の繋がりを持つ様に会いたい人に会わせられる様に協力するって制度があったね。

 それを利用する訳なんだ」

 

 しかしエミルにも策が無い訳では無く、ギルド協会の冒険者同士の出会いや遠い地方からのパーティ勧誘等をしている制度があり、ロマンもその先のプラン等を考えてるエミルはやっぱり聡明だと思っていた。

 因みにエミルが何故この制度を利用してロマンを勧誘しなかったのか、それは自分の目や耳でしっかりと見聞きしてライブグリッターを振るうに相応しい真の勇者か見極める必要があった為である。

 

「そうと決まれば早速宿屋さんに出戻りしてアルさんを探してる事を伝えに行こう!」

 

「うん、そうだね」

 

 そして善は急げとして先程の宿屋に戻り、アルの最後の居場所を聞こうと言う事に決まり2人は早速出て行った宿屋に戻って来た。

 それを見た受付嬢は何があったのか少し顔を傾げていた。

 

「あら、エミル王女殿下にロマンさん? 

 何か忘れ物でも致しましたか?」

 

「いえ、実は先程ロマン君の武具の仕立てをしてて、その中でロマン君が今使っているボロボロになったミスリルソードを手放せない理由が出来て、それで武器を打ち直して貰う為に剣を打った本人である冒険者兼ゴッフ一門の武具職人のアルさんを探したいのです」

 

 受付嬢がエミル達が戻って来た理由を忘れ物か如何か尋ねると、エミルはロマンの剣が父親の形見と言う重い理由を伏せながらそれを手放す訳に行かず、ならば剣を打った本人でもある冒険者のアルに剣を打ち直して貰う為に探して貰いたいと頼み込む。

 すると受付嬢はハッとしながらエミル達を見ていた。

 

「アルさん…そうだ、その件に関しましてエミル王女殿下達にお伝えしなければならない事がありました!」

 

「え、何でしょうか?」

 

「実はアルさんのパーティ、メンバーはエルフのサラさんとダークエルフのルルさん、この3名様が勇者募集をしていた方…つまりエミル王女殿下にミスリラント領のアイアン村に居るから来て欲しいとつい先程ギルド協会全体の情報共有がありました!」

 

 すると2人は何があったのかを問うと、受付嬢は先程エルフのサラ、ダークエルフのルル、そしてアルのパーティがエミルを探していて、しかもロマンの故郷であるミスリラントのアイアン村に居ると伝える様にと向こうからギルドの冒険者同士の交流制度を利用していた事を知らされる。

 

「す、凄い良いタイミングですね!」

 

「はい、なので何かの示し合わせかと少し驚いた次第なのです!」

 

「良かったねロマン君、これで剣を新品当然に鍛え直して貰えるよ! 

 それでは受付嬢さん、お教えして頂き誠にありがとうございました! 

 今度こそ失礼致しました‼︎」

 

 ロマンは何と都合の良いタイミングかと言うと受付嬢も驚いた様子を見せ、本当にタイミングが都合良く噛み合ったと思っていた。

 するとエミルはロマンの両手を持ち、形見の剣を鍛え直して貰える事を自分の事の様に喜び、再び宿屋の扉を開けて受付嬢に礼と挨拶を述べてロマンの手を再び引き今度は港へと向かって行った。

 

「さてじゃあ早速…船員さん、セレスティア王国リーバ港行きの船はありますか!」

 

「お、街を守ってくれた王女殿下に勇者君かい! 

 丁度今荷物の積荷をしているこの船がリーバ港行きの船になりますぜ!」

 

 エミルは丁度港に停まってる船の船員にリーバ港行きの船は無いかと聞くと、その船が丁度目的地に向かう船だと知り2人は互いの顔を見て正に渡りに船と言った表情で笑っていた。

 

「良かった、それじゃあお金を払いますので乗せて行って下さい!」

 

「勿論さ、海の男はあんなチャランポラン冒険者だろうが来るもの拒まずだぜ! 

 まぁやり過ぎたら締めるけどな!」

 

 エミルは船旅代を2人分取り出し、船員に渡して乗せて貰おうとした。

 すると船員はチャランポラン冒険者、ギャラン達の事を指しながら金を払うなら乗せると言い、しかしやり過ぎれば問答無用で締めると宣言して貴族や冒険者相手に物怖じしない海の男の意地を2人に腕っぷしを見せながら語っていた。

 

「ありがとうございます! 

 じゃあロマン君、早速乗って待ちましょう!」

 

「そ、そうだね、船の上で邪魔にならない様に待とう!」

 

 エミルは早速船旅代を出し、ロマンと共に船の上で積荷の邪魔にならない位置で出港する時まで待っていた。

 それから30分後、船員が船長と共に積荷の確認をし、セレスティア王国リーパ港に行く最終準備を整えていた。

 

「………よし、積荷確認終了! 

 出港だ、錨を上げて帆を張れ‼︎」

 

『オォォォォ‼︎』

 

 そして船長命令により錨が上げられ、帆を張り遂にリリアーデ港街から船が出港し、船が海に揺られながら前へと進み出し次第にリリアーデの街並みが小さくなって行った。

 

「さようなら、フィールウッド国。

 ロマン君の武器を鍛え直して貰ったら旅でまた立ち寄って探し物をするからその時はまた、よろしくお願い致します…」

 

「…えっと、エミル、探し物って?」

 

 エミルは離れて行くフィールウッド国に別れの言葉を投げ掛け、更にロマンのミスリルソードが直された暁には自身が求める物…神剣ライブグリッターを求める旅で必ず立ち寄る気でおり、その時によろしくとも言って頭を下げた。

 するとロマンはエミルがまだライブグリッターを探している事を知らずそれを彼女に質問する。

 

「うふふ、良くぞ聞いてくれましたロマン君! 

 私が探す物、それは魔王討伐には絶対欠かせない神器、神剣ライブグリッターよ‼︎

 それをロマン君に振るって貰って魔王を討ち斃すのよ‼︎」

 

「え、ええ、ライブグリッターってあの伝説の神剣⁉︎

 …た、確かに魔王を倒すには神剣が必要だって伝説で伝わってるし、エミルが言うなら多分実在する確証があるんだと思う。

 でも………僕に振るう事が出来るかな………?」

 

 ロマンに聞かれたエミルは嬉々としてライブグリッターを探し出し、ロマンに振るって貰うと彼女が魔王討伐の勅令を受けてる事を噂で知る船員達が聞いてる中で堂々と答える。

 ロマンは彼女は自信家であり、何処かその言葉の1つ1つに真実味があるとパーティを組み始めてから僅かな時間で悟り、そんなエミルが言うなら伝説の神剣も実在すると信じ始める。

 但し、それを自分が振るう資格があるか元からある弱気から不安になってしまう。

 

「大丈夫、貴方は私が見出した本当の優しさと勇気を持つ勇者なんだから、絶対に使い熟して魔王を討ち取ると確信を持ってるわ! 

 私を信じて、ね!」

 

「エミル………う、うん。

 僕、エミルの期待を裏切らない様に頑張るよ!」

 

 そんなロマンに対してエミルは失望する訳無く、寧ろロマンに対して自身が見出した真の勇者と鼓舞し、更に目を見ながら自身の事を信じて欲しいとまで言って来る。

 今まで其処まで期待をしてくれたのは死んだ両親位で、それを聞いたロマンは少し考えながらも此処まで自分を信じる彼女の期待に裏切らない様に頑張ると返し2人はまだ見えないセレスティア王国の方角を見ていた。

 

「(そうだ、こんなに期待をしてくれる人が現れたんだ! 

 なら、それに応えなくちゃいけない! 

 父さんから本当に信じてくれる人の信頼を裏切るな、そう教わったんだから…! 

 だから応えるんだ、この信頼に! 

 そしてなるんだ、エミルの言う真の勇者に‼︎)」

 

 ロマンは両親以外で此処まで自分を信じ切る人と接したのは初めてであり、此処で修行中に父から教わった事を反復し、エミルと言う自分を信じ切る者の信頼を裏切らない様にしよう、そう自らに言い聞かせた上で奮い立たせ、これからエミルと共に魔王を斃すに相応しい勇者になろうと決心をした。

 

「(うん、今はこれで良い。

 ロマン君は今まで本当に人に信じられる事無く此処まで来て自信が持てないんだろう。

 精々信じてくれたのはキャシーちゃんや同じ考え方の人位。

 だから、私が彼に自信を持たせられる様に何処までも信じるんだ、あの時私に見せてくれた他人を思いやる優しさと、他人を守る為に弱気な自分を奮い立たせて前に出た勇気を‼︎

 そして何より彼自身を‼︎)」

 

 一方エミルはロマンが自分自身に自信を持てない理由を、パーティから何度も追い出されては入ってを繰り返した結果真に信頼される事無く此処まで来てしまったと分析する。

 キャシーの様に信じてくれた人間も勿論居ただろうがそれは数少ないとすら考えた。

 故に自分だけは何があろうとロマンが見せた優しさや勇気、そして彼自身を信じようと此方も決心する。

 

「…さあ、お昼も近いし食堂でご飯を食べよう! 

 腹が減っては入る力も入らなくなりますから、しっかり食べれる時に食べましょう!」

 

「うん、じゃあ行こうエミル!」

 

 そうして2人は食堂に赴き、食事係から出された料理を食べながら船の旅を堪能しながらセレスティア王国まで目指す。

 前世はセレスティア王国初代女王にしてその知識と技術、記憶を継承した自信家な魔法使いエミル。

 自信は余り無いが優しさと勇気を持ち、信じてくれる者の期待に応えたい現代の勇者ロマン。

 この対照的な2人は、エミルには無い勇者の資質、ロマンには無い絶対的な自信を互いが持ち合わせ、そしてそれが2人を繋ぎ無い物を埋め合う立派なコンビである事は誰から見てもそう言えるだろう。

 

 

 

 しかし、船旅に何事も無いのはごく稀である。

 例えばミニクラーケンが成長したクラーケンやその他海に住まう魔物が襲って来たり、人間同士でも今エミル達が乗る商業船を襲う海賊が来たり等様々である。

 そして今回はと言えば。

 

「船長、9時の方向から海賊船がこっちに来てる‼︎

 しかもマストに張られた旗はこの辺で幅を利かせる『ディスト海賊団』の旗だ‼︎」

 

「何⁉︎

 ディスト海賊団…4隻の大小様々な海賊船が列を組み、そして相手を加虐的に追い詰めて船の積荷を全て奪うこの辺じゃ大きな海賊団だ‼︎

 船員はマストに登って全方位を監視、他に海賊船が居ないか見渡せ‼︎」

 

 如何やらこの辺りで大きな海賊船団に目を付けられたらしく、ギルド所属の船員達は望遠鏡を覗きながら周りを監視し始めた。

 するとエミルは千里眼(ディスタントアイ)観察眼(アナライズ)を使い周りを見渡すと既に4隻の海賊船に四方を囲まれた状態だった。

 

「あ〜駄目ね、既に四方600メートル間隔でこの船は囲まれてるわ。

 逃げようとして間を抜けようとしてもこっちが風上、前のは風下と逃げようとしたら直ぐに囲まれる様に配置されてる。

 そして相手の船員の平均レベルは80位、こっちの船員は1番強くて68、とてもじゃ無いけど数も質も負けてるわ」

 

「そんな、じゃあエミル、僕達が船を守らないと‼︎」

 

「勿論よ、その為に結界魔法(シールドマジック)は発動中よ」

 

 エミルは海賊船の配置を冷静に分析して面舵、取舵何方で逃げようとしても結局囲まれる事、更に相手の平均レベルは80とそこそこ高く、この商業船を守るギルド所属の船員はレベル68が精々であとは囲んで棒ならぬ大砲に撃たれるだけだった。

 ロマンはそれを聞き守らないとと口にすると、エミルはウインクして結界魔法(シールドマジック)を既に発動中だと話していた。

 

『ドォォォン‼︎』

 

「うお、迫撃砲でもう撃って来やがった‼︎

 だが、王女殿下の結界魔法(シールドマジック)が完全に防いでるみたいだ‼︎」

 

「まぁこの程度なら破られませんよ、だって船を覆う様に発動した結界魔法(シールドマジック)はIV、細心の注意を払って絶対にあの数ではどんなに砲塔を向けられて撃たれても破られない様にする為に最大防御を張ってますから」

 

 すると相手は其処まで辛抱強く無いのか、否、囲んで叩く用意が出来たので先ず迫撃砲が飛んで来るが、エミルの結界魔法(シールドマジック)IVがその悉くを防ぎ切り、且つ結界にヒビが入らない程に強固な物であった。

 エミルはもしもと言う可能性を考えてこの数の海賊船の砲撃では絶対に破られない最大防御結界を張り、船を守っているのだ。

 

「さ、流石レベル163の魔法使い! 

 まるでかつての魔法の天才アレスターを見てる様だぜ!」

 

「…当然ですよ、私の先生はアレスター先生だったんですから」

 

 すると1人の船員がエミルの事をまるでアレスターの様だと歓喜で叫ぶと、エミルは物悲しそうな表情で自分はアレスターの教え子だと、砲撃の爆音でロマンにしか聞こえない程度の声で話していた。

 すると四方から船が近場まで来て全方位から主砲の雨霰が飛ぶが、エミルの結界が全てを防ぎ切り全く海賊船の攻撃を寄せ付けなかった。

 

「ちぃ、なんで固い結界だ‼︎

 こうなりゃ直接乗り込め‼︎」

 

『オォォォォォォォォォ‼︎』

 

「無駄、風刃(ウインドスラッシュ)暴風撃(トルネードスマッシュ)‼︎」

 

 すると痺れを切らした海賊団船長『ディスト』は、直接乗り込むと言うシンプルながらも攻撃では無い物はすり抜ける結界魔法(シールドマジック)の欠点を突く作戦を出すが、エミルは飛んで来る鉤爪付きロープを風刃(ウインドスラッシュ)で切り、ならば船のロープを使い直接跳躍してくる海賊達には威力をかなり抑えた暴風撃(トルネードスマッシュ)で船に押し返し、自分達の船には1歩も近付かせなかった。

 

「ちぃ、なんて魔法使いだ‼︎

 数はこっちが上なのに全部捌き切りやがる‼︎」

 

「よし、ロマン君、一緒に火の中級魔法で海賊船の船底に穴を開けて船を沈めるわよ‼︎

 私に合わせて‼︎」

 

「分かったよ、エミル‼︎」

 

 ディストはエミル1人に80を超える船員全員が捌かれ切り、自分の船より小さな商業船に1歩も踏み込めない事に焦りが生まれ始めていた。

 するとエミルは前側の船に狙いを絞り、ロマンに指示を出して火炎弾(バーンバレット)で船底に穴を開ける様に言い放つとロマンも了解し魔法を撃つ用意を始めた。

 

「…よし、今‼︎」

 

火炎弾(バーンバレット)‼︎』

 

【ボォォォン‼︎】

 

 そしてエミルの合図で2人は前側の船の底に威力を絞った魔法を当てて穴を開けて、船員達は慌てて海に飛び込み周りの仲間の海賊船に逃げ込み出し、前側の海賊船は海の藻屑と成り果てた。

 

「げぇ、あいつ等中級魔法で船に穴を開けやがった⁉︎

 どんだけレベル高くて魔法を使い込んでやがんだ⁉︎」

 

「其処の海賊船団の船長達に告げる、今直ぐに降伏なさい‼︎

 これはセレスティア王国第2王女エミルの温情である‼︎

 もし降伏しないのならば全ての船を沈めると此処に宣告します‼︎」

 

「う、うげ、セレスティア王国の王女だと⁉︎

 しかも降伏しなきゃ船を沈めるたぁ………敵を撃つ奴は撃たれる覚悟をしろってこの事か…畜生め、お前等白旗を上げて俺の船に集まれ‼︎」

 

 ディストは船を沈めた魔法の威力に驚き、慌てふためく中でエミルは間髪容れずに王女の身分を明かしながら降伏する様に警告し、更に頭上にはロマンと一緒に火炎弾(バーンバレット)を待機させ、それを残りの船に向けて放とうとしていた。

 ディストはそれ等を聞き、此処で逃げても国の王女を狙った罪で一生追われ、降伏しなければ沈められると詰みに入った事を悟り残った船に海賊旗から白旗に変えて降伏をし、総勢80名以上に船団員は船団長船に集まる事になった。

 

「…よし、では船長、降伏した様ですから船団長に船に乗り込み彼らを縛り上げましょう。

 勿論向こうに移る時に砲撃して来ない様に魔法を発射待機しながら移動して、ね。

 ロマン君も手伝って下さいね」

 

「勿論だよエミル!」

 

 そうして全海賊団員がディストの船に集まった事を確認するとエミルは船長に彼等を縛り上げる様に告げると船員達が船の間に渡り板を付け、更に彼等がいきなり反旗を翻さない様に魔法を発射待機させながら縛り上げ始める。

 それをロマンも手伝い次々と海賊達を縛り上げ、そして最後に船長ディストを縛り上げて全員をその場に跪かせて残るはこの海賊船を先導する為のロープを固定するだけになった。

 

「うん、ではこの船の船首にロープを固定して私達の船で先導して」

 

「ハッハァ‼︎

 甘いぜ王女様よぉ‼︎」

 

 するとエミルは海賊船に敢えて乗り込み、海賊船の船首と自分達の船尾をロープで固定し航行を再開しよう。

 そう言おうとした瞬間ディスト以下10名程の海賊達が縄を仕込みナイフで斬りそのままエミルに向かって襲い込み始める。

 

「お、王女様ぁ‼︎」

 

「…はぁ、甘いですよ‼︎」

 

【ボカッ、バキッ、ゴンッ‼︎】

 

 船長がそれを見てエミルを守ろうと走り出した………そんな所でエミルとロマンは身体強化(ボディバフ)IIIを掛け、杖と鞘から抜かない剣でディスト達を叩き伏せて気絶させる。

 

「魔法使いだから近接は出来ないと思いましたか? 

 残念ですが身体強化(ボディバフ)を使えばこんな非力な女でも大の男を叩き伏せられますよ? 

 それに護身術は習ってますし。

 そもそも私のレベルは163、ロマン君も160ですから貴方達如きに初めから遅れを取る訳がありませんよ」

 

「…ふう、分かったならこのまま大人しくして欲しいよ。

 死なせない様に手加減するのって気を使うんだから…」

 

 ディスト達10名程を気絶させたエミルは残りの船員達に自分が近接戦も出来る魔法使いである事や、ロマンと共に160以上のレベルを誇る事を告げて絶対的な差を実践と言葉で示した。

 そしてロマンも人間で自分達よりも遥かに弱い相手の為死なない様に手加減するのが難しいと話しながらもうこのまま大人しくする様に警告する。

 

『は、はぃぃぃ、申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

 すると残った海賊達は青褪めながら首が取れそうになる位縦に振り、更に頭を船の床に抉りつけて土下座をしてエミルやロマン達に許しを乞いていた。

 それ等を聞きやっと実力差を理解した事を知ったエミルは気絶したディスト達を再び縄で、今度はマストに縛り付けてナイフも取り上げて逃げられない様にした。

 

「さて船長、このままこの船を先導して船旅に戻りましょう」

 

「ははっ! 

 …それから王女様と勇者ロマンさん、この海賊団を捕らえて頂き誠にありがとうございます。

 こいつ等はこの辺りの海域を荒らす厄介者で、偶に大きな貿易船すら狙って物資を奪って来た連中でした。

 これでこの海域での海賊行為が少しは減るでしょう」

 

 そしてエミルは船長に航海を続ける様に進言するとそれに了解を示す。

 そしてそれと同時にエミルとロマンにディスト達はこの辺りの海域を荒らしてた厄介者であり、彼等が捕まればこの近辺の海域の安全は更に確保されると話しながら頭を下げて礼を述べていた。

 

「良かったねロマン君、早速人助けが出来て」

 

「あ、あはは…船を守ったのはエミルだから僕は其処まで活躍して無いよ。

 …でもやっぱり、誰かを助ける事って心の奥が温かくなるね…」

 

 エミルは商業船に戻りながらロマンに人助け出来た事を良かったと労い、しかしロマンは船を守っていたのはエミルとして謙虚にエミルの方が活躍していたと話した。

 しかしその先に誰かを助ける事は心が温かくなると話して自分達の乗る船や将来此処を通る船舶の船員達の助けになった事を喜んでいた。

 

「ええ、弱きを助け悪しき者を挫く。

 それは私達冒険者の義務でもあり、そして理由が如何あれ良き事に変わらないのですよ」

 

 対するエミルも冒険者の義務でもある弱きを助け悪しき者を挫く事、更にエミルは王女の為兄アルクの様なノブレスオブリージュを背中で見て来た為それが当たり前だと思っていた。

 そして理由が如何あれ人助けは良き事であると締め括ると、ロマンもそれに頷きこれからも今回の様な人助けをもっとして行こう、そう思いながら2人は船に揺られるのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
サラやルル、アルは今後エミル達と深く関わる登場人物です。
それぞれのキャラを上手く動かしたいと思います。
さて今回はセレスティア大陸ミスリラント領について補足説明します。
セレスティア王国とミスリラントは本来地続きでしたが、500年前の戦いのツケが周り500年の間に地殻変動が起き一部が海に沈み、ミスリラント領はその時に沈まなかった名残りの大地です。
なおこの地殻変動による被害はリリアナの予言により事前に住民達がそれぞれの大陸に移動した結果犠牲者0で事が済みました。

次回もよろしくお願い致します。


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第7話「エミルとロマン、出会う」

皆様おはようございます、第7話目更新でございます。
今回いよいよエミル達がアイアン村に向かう話になります。
其処で待つサラ達の対応は如何なるかお楽しみ下さいませ。
では、本編へどうぞ。


 リーバ港に到着した3日目。

 2日目に海賊団を捕らえ、その後は船は何のトラブルも無く港に辿り着き、エミルとロマンは3日振りに大地に足を付ける。

 

「さあ来い、今までの略奪行為の代償を支払わせてやるからな!」

 

「トホホ…王族殺害未遂まで加わって一生牢獄暮らしかよ…」

 

「ブツブツ言わずにキリキリ歩け‼︎」

 

 そのエミル達を襲ったディスト海賊団全員はセレスティア王国軍王族親衛兵団とギルドの緊急依頼を受けた冒険者パーティに引き連れられ何台もの馬車で中央都市ライラックまで運ばれて行くのをエミルとロマンは見送っていた。

 

「王女殿下、ご無事で何よりです! 

 殿下と船を守った勇者ロマン、君にはこの親衛隊長の『マークス』が幾ら感謝しても仕切れない! 

 本当にありがとう、勇敢なる少年君!」

 

「い、いえ! 

 船を直接守ったのはエミル………王女殿下でありますし、僕は本当に微力ながら加勢しただけですよ‼︎」

 

 するとロマンは親衛隊の隊長マークスに頭を下げられ、エミルを守った事に深く感謝されていた。

 しかし此処でもロマンは自身よりエミルの方が活躍していた事、自分は微力な加勢だったと引き腰になりながらマークスに謙虚過ぎると思わせる程エミルを立てていた。

 

「あはは、マークスは顔が強面だけど誠実で親衛隊長として数々の実績を積み重ねた誠実な人だから、そんな人に褒められたロマン君は十分凄いよ。

 それでマークス、この後私達はロマン君の剣を打ち直す為にミスリラント領のアイアン村に行く用事があるから直ぐに行ける馬車の手配をお願いしたいんだけど、駄目かな?」

 

「ふむミスリラント領に。

 いえ、王女殿下の命であるならばこの親衛隊長マークスは人道に反さぬ限り従い申し上げます。

 では馬車屋に直ぐ手配致しますので少々お待ちを」

 

 するとエミルはロマンの肩に手を掛け、マークスが親衛隊長として厳格にして誠実な人物と紹介しその彼に褒められたのは凄い事だと説明する。

 ロマンはそれに実感を持てていなかったが、その横でエミルはロマンの剣を鍛え直す為にミスリラントのアイアン村に直ぐに行きたいとマークスに頼み、そのマークスも人道に反さない様なら王女殿下であるエミルに意見しないとして馬車屋に向かう。

 

「…親衛隊長さん、か。

 そんな人に僕は褒められたのにそれを無碍にしてちょっと僕って駄目だよね」

 

「そんな事無いよ、マークスはさっきのエミル君の発言で機嫌を損ねる様な人じゃないよ! 

 だってあの人は冒険者ギルドで実績を積み重ねた後お父様に直々に親衛隊に所属する事を頼まれた誠実な人物なの。

 其処から更に実績を重ねて遂に人格と実力を認められて親衛隊長に抜擢されたから、さっきのを気にする程器の小さな人じゃないから!」

 

 ロマンはマークスの言葉に及び腰になり過ぎた事を反省しながら駄目な奴と自分を戒めるが、其処にエミルがフォローに入りながらマークスの人柄を説明した。

 実際エミルが知るマークスは人道に反さないなら王族の命に忠実に従いつつ、そうでないなら意見をし考え直す様にと言われる程に誠実が鎧を着た人物とされ、レベルも4年前は115、現在は123と親衛隊長に相応しい実力を持つ人物であった。

 

「王女殿下、アイアン村行きの馬車の手配が完了致しました、直ぐに出発出来ます!」

 

「あ、早いねマークス! 

 おほん、馬車の手配に感謝致します、親衛隊長マークス」

 

「ありがたき幸せにございます。

 では王女殿下、陛下の勅令による旅路にご健闘をお祈り致します、どうか無理をなさらぬ様にお気を付けて下さいませ!」

 

 するとマークスは直ぐに戻り馬車の手配が完了したとエミルに報告を入れる。

 そして公の場である為エミルは跪く彼の手を取り、その仕事の早さを王女として労う。

 マークスもそれを頭を下げながら重く受け止め、エミルが手を離してから立ち上がり国王の勅令である魔王討伐の旅に健闘を祈っていた。

 そしてエミルとの会話を終えたマークスは隣に居たロマンに視線を送り言葉を投げ掛け始める。

 

「ロマン君。

 君は少し謙虚過ぎる、が、それと同時に誠実さや人道に反する行いを許さない正義を私は感じた。

 だからこそ敢えて申し上げよう、この旅路に同行出来ない私の代わりに王女殿下の御身をお守りする事を任せます!」

 

「えっ、あ、は、はい‼︎」

 

「…うん、良い返事だ、流石は王女殿下が見出した勇者だ。

 では王女殿下の期待に応えられる様に君の健闘も祈るよ、王女殿下をよろしく頼みましたよ!」

 

 マークスはロマンの一挙一動から彼の人柄を見抜き、エミルの旅に同行出来ない自分の代わりに彼女を守る様にロマンに頼み込む。

 それを聞きロマンはいきなりだった為驚きながらも返事をし、それを聞いたマークスはエミルの目に狂いは無いしっかりと人間が出来た勇者だと判断し、そして健闘を祈るとの言葉とエミルをよろしくと言う責務を任せると言うロマンに期待を寄せている事を示しながら馬に乗り去って行った。

 

「凄いよロマン君、マークスに期待されるって本当に将来有望な勇者だよ貴方は‼︎」

 

「…僕に、期待、健闘を祈って………。

 うん、その期待や信頼を裏切れない人がまた増えた…マークスさん、必ずエミルの事を守って魔王討伐を果たします‼︎」

 

 エミルはマークスが期待を掛けた事は誉れあるとしてロマンの両手を握りながら話すと、そのロマンは馬で去り行くマークスの背中を見つめながら期待や健闘を祈ってくれた、その想いを裏切らない様にしようとより一層気を引き締めるのであった。

 

 

 

 それから花束を買い手配された馬車に乗り込みエミルが手綱を握り、ロマンが隣に座り2時間。

 国境門に辿り着き見張り番にエミルは勅令書を帽子を外しながら見せ、その見張り番達は王女殿下が此処に来た事に驚きながらも馬車を通し、直立立ちをして馬車を見送っていた。

 

「さて、ミスリラント領のアイアン村にはこの馬車の速度で何事も無ければ更に3時間、日が落ちるより前には必ず辿り着ける計算になるわ。

 ロマン君、嫌な思い出も沢山あると思うけど故郷に帰る気持ちは如何かな?」

 

「うん…父さんと母さんの命日には必ず帰る様にしてたから其処まで足が重くなる事は無いよ。

 いじめっ子達も僕と同じ15やもっと大きくなって少しは物の見方も変わってる筈だから、嫌な気持ちは特に無いよ」

 

 エミルはこのまま何もなければ後3時間あればアイアン村に辿り着くとして、ロマンに故郷に帰る気分を尋ねるとロマンは両親の命日には必ず帰ってる事、かつてのいじめっ子達も成長してもう昔みたいな事はない筈として嫌な気持ちは特に無いと話しエミルに笑顔を向けていた。

 

「(…嫌な気持ちは無い、か。

 でもロマン君、貴方の口から『良い気持ち』があるとも私は聞いてないよ。

 それってつまりは、嫌な思い出…特にご両親を失った事に縛られて辛い気持ちでいるって事だよね…)」

 

 しかしエミルはその笑顔が苦笑であると感じ、更にロマンの口から良い感情があるとも聞いていない事から、エミルは彼が辛い思い出に縛られてしまい故郷に帰る事は本当は辛くなっていると穿った考え方をしており、その源流は間違い無く両親の死であるとエミルは手綱を握る力を強める。

 しかしロマンの口からそれが出ない為これ以上は踏み込めないとしてエミルは歯痒さを感じながらアイアン村に馬を走らせるのであった。

 

 

 

 そして3時間後、何事も無くアイアン村の木の門の前に到達し、門番がロマンの顔を見るなり直ぐ様後ろを振り向いた。

 

「おお〜い、ロマンが帰って来たぞ〜‼︎」

 

 すると門番は門を開けながら声を張り上げると、村の中から人々が門側に集まり始め道を譲りながらも馬車の周りを村人達が囲みロマンに話し掛け始めた。

 

「あらロマン君、数ヶ月振りね!」

 

「ロマンにいちゃんおかえりなさい!」

 

「ロマン、またレベルが上がったじゃないか‼︎

 160とか俺達の見れない先を行って、お前は本当に勇者だよ‼︎

 隣の女の子もレベル163の魔法使いとかヤベェよ‼︎」

 

 村人達は老若男女、様々な人が馬車に居るロマンに一斉に声を掛けて彼の帰郷を祝っていた。

 それら全員にロマンは手を振ったり握手したりと本当に村で勇者として持て囃されているとエミルは感じ、この環境もまたロマンの現在の性格を作ったとして良き部分もあれば悪しき部分もあるとさえ感じていた。

 

「…おほん、皆様、私達はとある方達を探してこのアイアン村までやって来ました。

 何方かご存知の方はいらっしゃらないでしょうか? 

 冒険者パーティでエルフのサラさん、ダークエルフのルルさん、そしてこのミスリラント領でも顔を知らない人は居ない筈のドワーフのアルさんなのですが」

 

「えっ、ロマンや嬢ちゃんはアルさんを探して来たのかい‼︎

 それなら丁度この村の『ガル』一家が営む宿屋、『かぼちゃ亭』に宿泊してるぜ! 

 何でも魔王討伐を目指す勇者と魔法使いの女の子を待ってるとかで………て事はロマンが魔王討伐を⁉︎

 お前本当に凄えや‼︎」

 

 するとエミルは周りに集まった人々にアル達がこの村の何処に居るか尋ねると、ロマンやエミルのレベルを測った青年がかぼちゃ亭と言う宿屋に泊まっている事を話し、更に魔王討伐をロマンやエミルが目指している事を告げると彼を中心にお祭り騒ぎになり、馬が少し驚き足を止めた為エミルは手綱を引きながら「どうどう」と言い止まる様に馬に指示した。

 

「あ、あはは………兎に角ガルさん達の所で泊まってるんだね。

 なら馬車を馬屋に預けて村長様に顔見せたら尋ねるよ、ありがとう『エヌ』」

 

 そしてロマンはこのお祭り騒ぎに苦笑しながら先ず村長に顔を見せてから宿屋に行く事を伝え、更にアル達の居場所を教えたエヌと言う青年に礼を言いながら馬屋に行くと話す。

 すると周りの人々は馬屋までの道を開けるとエミルは馬に進む様に指示を出し、そして馬屋に馬車と馬を預けて地面に足を付ける。

 

「ふう…それでロマン君、あの中に昔のいじめっ子達は居た?」

 

「う、うん、エヌがそのリーダーだったんだ。

 ただ、あの様子だと本当に落ち着いて大人になったって感じがするよ」

 

「ふむふむ…まぁロマン君がそう言うなら信じるし、それよりも早速村長様に挨拶をしましょう」

 

 村を歩く中でエミルは集まった人々の中に昔ロマンを虐めてた者は居るのか問うと矢張り居たらしく、しかも気前の良さそうな青年エヌがそのリーダーだったとロマンは告げる。

 しかし同時にロマンは気にしていない様子だった為エミルはそれ以上は言わずに村長への挨拶と、『もう一つの用事』を済ませてからかぼちゃ亭に向かう道筋を立てて村長宅に向かった。

 

「よし、それじゃあ…村長様、奥様、僕です、ロマンです!」

 

【トントントン!】

 

 そしてロマンは村長宅のドアの取手に手を掛け、名前を出しながらノックをすると鍵が開き、扉の先から初老の女性が現れロマンを見るなり驚いていた。

 

「あらロマン君‼︎

 ご両親の命日以外で帰って来るなんて珍しいわね‼︎

 お隣のお嬢ちゃんは旅の仲間かしら?」

 

「はい、申し遅れましたが私はセレスティア王国第2王女のエミルと申します。

 以降お見知り置きを、村長夫人様」

 

「ええ、王女殿下⁉︎

 そんな方が仲間になっていらっしゃるなんてロマン君は本当に凄い子ね‼︎

 あなた、ロマン君とセレスティア王国の王女様がいらっしゃっりましたからお出迎えの準備をしますわよ‼︎」

 

 すると出て来た村長夫人ロマンが親の命日以外で帰った事やエミルを見てロマンの仲間かと首を傾げると、エミルは礼節として魔法使いの帽子を取り、ミスリルローブの裾を掴み頭を下げる。

 すると村長夫人エミルを王女と知りそんな者を仲間にしたロマンを凄いと言いながら夫の村長に出迎えの準備をする様に叫びながら中に戻って行った。

 

「本当に凄いのはエミルなんだけどね」

 

「いやいやロマン君だって凄いわよ! 

 だって勇者としての資質もそうだし、レベル160なんて相当のレベリングや高濃度魔法元素(マナ)吸収をしなきゃ辿り着けない領域なんだから!」

 

 そんな村長夫人の凄いと言う言葉にロマンはエミルの方が凄いと口にしていたが、エミルはロマンの勇者としての資質もその鍛え上げられたレベルを相当なレベリング等をしなければ辿り着けないと言い放つ。

 その言葉にロマンは苦笑しながらも受け取り、そのまま村長夫人が来るまで黙って待ち続けた。

 

「お待たせ致しました王女殿下、ロマン君! 

 中で粗末ですがお茶菓子をご用意致しましたのでどうぞお上り下さいませ!」

 

「はい、失礼致します」

 

「お邪魔します」

 

 そして村長夫人は直ぐに準備を終えてパタパタと戻って来ておもてなしの準備が出来たとしてエミルとロマンを村長宅へと上げる。

 2人は挨拶しながら客間に入ると、初老の男性が立ちながら2人を待っていた。

 

「おおロマン、久し振りだな、元気にしてたか? 

 そして王女殿下、この様な粗末なお出迎えしか出来なかった粗相をお許し下さい」

 

「はい村長、お久し振りです」

 

「いいえ、此方も突然の訪問をした次第。

 ですので変に気遣いをなさらないで下さいませ」

 

 初老の男、村長はロマンの肩を叩きながら帰って来た事を喜びながら元気だったかと言い、更にエミルに村長的に王族を出迎えるのに不十分な物しか用意出来なかった事を謝罪していた。

 するとロマンは笑顔で久々に村長に会えた事を喜び、エミルは突然の訪問だから仕方無いと話して気にしない様にお願いしていた。

 すると村長夫人は2人の椅子を引き、座る用意をして2人は座ると出された茶菓子を礼儀良く堪能していた。

 

「それでロマンに王女殿下、何故この様な田舎村に訪問を? 

 ロマンに至ってはご両親の命日以外で帰る事は滅多に無いのに」

 

「それはですね、この村にロマン君が扱う剣を打ったゴッフ一門のお弟子様のアル様がいらっしゃるからです。

 私達は刃毀れや汚れ等の悪い状態のロマン君の剣を鍛え直して貰う為にフィールウッド国で出会ってから此処までやって来ました」

 

 それから村長と話し合いになり、突然この村に来た経緯を簡潔にエミルが説明し、フィールウッド国から此処まで来たと話していると村長は少し考える素振りをする。

 

「フィールウッド…もしや貴女様が魔王討伐の勇者を募った魔法使い様でしたか‼︎

 この村にもその張り紙が届き、かぼちゃ亭で貼られてましたから良く存じ上げております! 

 そうでしたか…そしてロマンの剣は確かにゴッフ様のお弟子様が打ったと彼の父親である『ケイ』から伺っておりました。

 そしてそのアル様がこの村に来て…これも1つの星の巡り合わせでしょう」

 

 会話の中で村長はあの張り紙の件を思い出し、かぼちゃ亭に貼られていたので知っていた事を話す。

 更にロマンの父、ケイの剣はアルが打った物だとも覚えており、その本人すら村にやって来ている事から星の巡り合わせと話して運命的な物を感じていた。

 

「はい、私達もこれは1つの運命として巡り合わせを神様に感謝しております。

 そして村長様達への挨拶ともう1つ…ロマン君のご両親のお墓に献花してご挨拶をしたらかぼちゃ亭に向かおうと道筋を立てておりました」

 

「そうでしたか…ならこの時間帯でしたら1泊村に滞在すると良いでしょう。

 この近くでミスリルが取れる鉱山まではとてもではありませんが、今からでは夜になるまでに村へ戻る事は出来ません。

 そして夜道は夜盗や魔物の跋扈する時間帯、王女殿下やロマンを危険に晒したくはありませんのでどうかご滞在をお願い申し上げます」

 

 そしてエミルも運命めいた巡り合わせを神に感謝しながら、村長への挨拶を終えた後にもう1つの用事…ロマンの両親の墓に献花し挨拶をし、それからアル達の居るかぼちゃ亭に向かうと話す。

 すると村長はこの村の近くでミスリルが取れる鉱山に今から行けば日が落ちるまでに村に戻って来れないと話し、1日の滞在を促した。

 エミルもロマンも確かに夜は魔物が活発化する為互いに隣に居るパーティのパートナーにもしもがあってはと考え、滞在する方に思考を落ち着ける。

 

「分かりました、ではアイアン村に滞在させて頂きます。

 それでは村長夫妻様、突然の訪問に美味なおもてなしをして頂き誠にありがとうございました」

 

「いえ、こちらこそこの村の名物のかぼちゃパイや紅茶を美味しいと言って頂きありがとうございます。

 ではロマン、ご両親に挨拶して来なさい」

 

「はい、村長に奥様、ご馳走様でした。

 …じゃあ、僕の両親の墓に案内しますね」

 

 そしてエミル達は村長への挨拶が終わり、名物のかぼちゃパイと紅茶をご馳走した夫妻に感謝しながらロマンが両親の墓がある共同墓地へとエミルを案内し始めた。

 因みに公の場であった為ロマンはエミルを呼び捨てする事無く拙い礼節の手を引きながらではあるがしっかりと案内をし、そして直ぐに墓地へと辿り着く。

 するとロマンの両親の墓に比較的新しい花が添えられていた。

 

「…あれ、父さん達の墓に誰かが献花している?」

 

「あ、本当ね。

 村の誰かが花を?」

 

「そうかも知れない…けど、この花添えられてからまだ新しいからきっと父さん達の知り合いの誰かが村に来て花を添えてくれたんだと思う。

 この村のルールで共同墓地に花を添える日が決まってるし、その日までまだ時間があるから…」

 

 エミルは村の誰かが花を添えたのかとロマンに聞くと、彼も誰が添えたか分からず、そもそもこの墓地に花を添える日は決まってる為村の外から両親の知り合いが花を添えた可能性も唱え、2人は不思議がりながらも献花をし墓の前でお祈りに話を掛け始めていた。

 

「…父さん、母さん、久し振りだね。

 僕、新しい仲間が出来たんだ。

 此方の魔法使いのエミル。

 エミルはセレスティア王国の王女様で、本当に凄い人なんだよ。

 自信家で、強くて、優しい…そんな人なんだ」

 

「初めましてロマン君のお父様、お母様。

 私はセレスティア王国第2王女のエミルです。

 彼は私を凄いと言いますが、ロマン君も本当に素晴らしい人です。

 その優しく、勇気ある人柄や強さは私の魔王討伐と言う悲願達成に1歩前進させて貰わせて頂きました。

 なので、これからも彼に大いに助けられる事になりましょう。

 立派な息子さんを育ててくださった事をとても感謝しております…」

 

 2人はそれぞれの思いや互いの良さを互いの目で見た物を思い出しながら話し、更にエミルはロマンが毎年命日に献花しに来る程互いを愛していた事を頭で理解し、ロマンを大切に育てた事に感謝しながらこれから彼が自分を助け、ロマンがエミルを助ける未来図を立てながら再び祈りを捧げるのだった。

 

「…それじゃあエミル、かぼちゃ亭に行こう。

 日が傾き始めたし、幾らセレスティアの近くでもミスリラント領は本国並に夜は寒くなるから早く屋内に入ろう」

 

「そうですね、では行きましょうかロマン君。

 さようなら、ロマン君のご両親様方。

 また何時か村に赴く事があればお伺い致します」

 

 そして、日が傾き始めた為ロマンがエミルに話を掛け、エミルも彼の両親に最後の挨拶を済ませた後2人でかぼちゃ亭まで歩き始めるのであった。

 

「それでエミル、かぼちゃ亭は村の中でのギルド運営の宿屋さんで、僕は其処で冒険者登録をして当時レベル77だったからCランクで旅に出る事になったんだ」

 

「つまりロマン君には色んな思い入れがある場所であり、旅の始まりの場所なのね。

 そんな所にアルさんが泊まってるって運命的だよね〜」

 

「うん、小さな村だけど宿屋ならもう一軒あるのにね………あ、此処がかぼちゃ亭だよ!」

 

 その案内の間にロマンはエミルにかぼちゃ亭こそがこの村のギルド運営の宿屋であり、ロマンが両親を失った際にレベル77で冒険者登録をし旅立った様々な物が詰まった場所だとエミルは口にし、其処にアルが泊まってるのも運命的だと話しながら2人はかぼちゃ亭に辿り着き扉を開けて中に入った。

 

「いらっしゃいロマン! 

 村の皆から君が帰って来たって大騒ぎになってたから来ると思ってたぜ! 

 何でも魔王討伐を目指す女魔法使いさんと一緒に来たんだってな!」

 

「お久し振りですガルさん。

 はい、そして此方に居る魔法使いの女の子、エミルがその魔王討伐を目指す子なんです」

 

「初めまして、魔法使いのエミルと申します」

 

 すると客がそれなりに居るかぼちゃ亭受付に立つ男性、ガルが入って来たロマンに村の騒ぎから此処に来ると思いながら待っており、更に魔王討伐を目指すエミルと共に来た事も伝わっており、ロマンはその魔法使いのエミルを紹介すると当のエミルはローブの裾を摘みながら挨拶をし、ガルは驚いた様子で彼女を見ていた。

 

「こりゃ驚いた、張り紙じゃ分からなかったけど直に見たら分かったよ、貴女はセレスティア王国の第2王女殿下じゃないですか! 

 そんな方とこの村が誇る勇者のロマンが魔王討伐に………まるで500年前の初代勇者一行の再来みたいじゃないですか‼︎」

 

「あはは、そう言われましたら私は初代女王のライラ様に当たりますね、勿論ロマン君はロア様に。

 それでなのですが、私達は探し人が居てこの村に来ました」

 

 ガルはエミルを王女だと見抜きながら、その王女魔法使いと勇者が魔王討伐の旅をする事を初代勇者一行の再来と話すとエミルは自身をライラみたいだと言い(実際前世はライラである)、ロマンをロアに見立てそれを横で聞いてるロマンは少し恥ずかしがりながら苦笑していた。

 そしてエミルは本題の人探しをしている事を明かしながら話を始める。

 

「それも聞いてますよ、ゴッフ様のお弟子のアルさんを探しに来たのでしょう。

 そのアルさんなら」

 

「俺様なら此処に居るぜ、王女殿下様よぉ!」

 

 ガルはエミル達がアルを探している事も聞き及んでいたらしく、その居場所を教えようとした所で宿屋の客席の一角から声が上がり、エミルとロマンがそちらを見ると爛漫な笑顔で手を振る弓を携えたエルフの少女に、ローブのフードを深々と被る体格的に見れば女性が、そしてドワーフの低身長に合わせた左右対称に巨大な刃が付いたの斧を背負い、更に手投げ斧も装備している髭が立派なドワーフが居た。

 

「(エルフの女の子に…あっちは多分ダークエルフの女の子、そしてドワーフの男性! 

 間違い無い、この人達だ!)」

 

「(あのドワーフの方は、やっぱりアルさんだ! 

 直接会った事は無いけど、間違い無い!)」

 

 エミルは直感し、ロマンもドワーフの男性を見て理解する、この3人がサラ、ダークエルフのルル、そしてゴッフ一門のアルだと。

 するとアルがジョッキの酒を飲み終えると席から立ち上がりエミル達の方にやって来る。

 

「ふむ、如何やら勇者の坊主の武具は俺の作った物一式らしいな。

 王女殿下様のミスリルローブもエルフの服職人と共同で編んでミスリルで仕立て上げた物だ。

 目の付け所は褒めてやる、俺様の作り上げた物を選んだんだからな」

 

「それは光栄に存じ上げます、ゴッフ様のお弟子様のアル様」

 

「アルで良い、様付けなんか痒いぜ。

 …所で、お前さん等俺様が魂を込めて作り上げたもんに魔法祝印(エンチャント)を掛けてやがるな?」

 

 アルは自身が作り上げた物を使うエミル達の目利きを褒めると、エミルはゴッフの弟子としてアルに礼節を以て話し掛けるが、本人は如何やらその手の物は痒くなると言い他人から様を付けられるのを拒んでいた。

 するとアルは続けて自身が作り上げた防具に魔法祝印(エンチャント)を掛けた事を見抜き、サラが「あ〜」と言いながら頭を押さえた所を見てエミルは何か拙い事をしたのかと思い始めた。

 

「あ、あの、アルさん? 

 エミルが掛けてくれた魔法祝印(エンチャント)が何か拙い事が?」

 

「ああ、大いにあるさ勇者の坊主。

 何せ………俺様が魂込めて作り上げた芸術品にして武具に勝手に魔法祝印(エンチャント)なんて小細工を掛けるのが俺様は気に食わないんだよ‼︎

 王女殿下様よぉ、そんな小細工が必要無い俺様の作り上げたもんに誰の許可を得て俺様の武具に魔法祝印(エンチャント)を掛けやがった‼︎」

 

 如何やらアルは自身が作り上げた物に絶対の自信があり、それに魔法祝印(エンチャント)を掛ける事を大いに嫌う性格らしくエミルに食って掛かり始めた。

 エミルは彼はライラの時に世話になったゴッフと違い魔法祝印(エンチャント)によるバフで自分の作った物にチャチを付けられたと感じる質だと思い、正直に謝ろうと思った。

 

「…それはごめんなさい、私は良かれと思ってロマン君の防具やこのローブに魔法祝印(エンチャント)を勝手に掛けてしまいました。

 貴方がご自身の作り上げた物に絶対的な自信と誇りを持っていると知らずに。

 この非礼は許して頂けるまでお詫び致します」

 

「あぁん? 

 詫びだぁ? 

 一度掛けられた魔法祝印(エンチャント)は武具が壊れない限り外れねぇんだよ、そしたら俺様の防具はそんじょそこらなもんじゃ壊れねぇから一生詫び続けるって事だぞ分かってんのか!」

 

「はい、それは大いに。

 なので詫び続けます、申し訳ありませんでした」

 

 エミルはアルに頭を下げ、勝手な事をした詫びを入れると言うとアルは自分の防具が壊れない自信があるらしく一生詫び続けるのかと問うと、それを肯定しながら頭を下げ続けていた。

 するとサラとルルがアルに近付き彼を押さえ始めた。

 

「ほらアル、エミル王女殿下は勇者君の力をもっと引き出したいから魔法祝印(エンチャント)を掛けてるんだからさ、イチャモンを付けるのは止めなってばぁ」

 

「イチャモンだぁ⁉︎

 俺様はゴッフ(ジジイ)の弟子として作り上げたもんは滅多に壊れないのとそんな小細工抜きでエンシェントドラゴンだろうが何だろうが通用する自信があるんだよ‼︎

 それを」

 

「はいストップ‼︎

 もうこれ以上は他のお客さんにも迷惑になるから押さえてよ! 

 じゃないとアルの髭を抜くよ!」

 

 サラはアルのヒートアップを止める様にエミルとの間に入り、彼女がロマンの為に魔法祝印(エンチャント)を掛けたと話しながらアルの文句をイチャモンと言い放つ。

 するとアルは自身の作り上げた物に対する愛着心から来る物をイチャモン呼ばわりされた事に更に怒るが、サラが髭を抜くと言うと舌打ちしながらエミルにこれ以上何かを言うのを止めた。

 

「ごめんね、アルってばこんな頑固者で気に入らないお客にも出てけ〜って言うタイプなの。

 気を悪くしないでねエミル王女殿下に勇者ロマン君」

 

「あ、私の事はエミルと呼んでくれて構いませんよ。

 そして以降お見知り置きを、賢王ロック様のご息女、サラ王女殿下」

 

「あ、私の方もサラで良いよ、多分だけどこれから長い付き合いになると思うし! 

 ささ、こっちに来て一緒にお話しましょ!」

 

 サラはアルの頑固振りを説明して謝ると同時に、エミルとロマンの事を互いに気軽に呼び合い更に自然とテーブルに招き話をする形になった。

 それを聞いていたルルはフードを取って褐色でサラやエミルに負けない美少女の顔を見せ、1回頭を下げるとまたフードを被り直した。

 

「な、何だか嵐みたいなパーティだよねエミル。

 でも、アルさんは頑固だけど自分に自信を持ってサラさんも元気一杯そうだよねエミル」

 

「ええ。

 そしてルルさんも何だか不思議な感じがするけど良い人そう。

 夜もこれからだから沢山話がしたいわ」

 

 それ等を見てロマンもエミルもアルは頑固者だが3人共根は良い人物だと思い2人で同じテーブルまで歩いて行きロマンの剣を含め沢山話をしようと決めるのであった。

 しかし、その中でエミルはサラを見ながらある事を考えていた。

 

「(…そう、話をしないといけない。

 私の先生のアレスター先生がどんな風に私達兄妹達を指導して、そして何故死んでしまったのかを。

 だってサラさん、彼女は『アレスター先生の実のお姉さん』なんだから…)」

 

 それは自分達の講師であり、魔法の天才と謳われた者、エルフの青年でありサラの弟…つまり賢王ロックの実子であったアレスターについてどんな風に自分達に講義し、そしてどの様に死んだのかを説明すると言う王女でもあり生徒でもあったエミルの重く辛い話をすると言う覚悟の要る事であった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
アルは自分の作った武具に勝手に魔法祝印(エンチャント)を掛けられるのが嫌いな人物でした。
つまり頑固者です、はい。
そしてアレスターは実はエルフでサラの弟でした…。

さて、今回は絶技の説明を致します。
絶技は魔法と同じく8属性存在し、技の種類は1属性につき下位と上位の2つになります。
そして技名は例えば風の下位絶技なら『疾風剣or疾風斧or疾風槍』と技名に使ってる武器の名前が入ります。
例外は光属性と闇属性の絶技になり、此方は名前が固定されてます。

次回もよろしくお願い致します。


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第8話「エミルとロマン、会話する」

皆様おはようございます、第8話目を更新致しました。
今回は主要人物達の会話に重点を置く回になります。
その中で意外な人物関係が分かったりするかもしれません。
では、本編へどうぞ。


「さて、私達について聞きたい事があるならジャンジャン言ってよ! 

 何でもは答えられないけど、答えられる物は絶対答えるよ!」

 

 エミルとロマンの2人がサラ達と同じ席に座った瞬間、サラは爛漫と言う言葉が似合う綺麗で明るい笑顔を見せる。

 それに合わせてルルもフード越しに頷き、アルはまだエミルの魔法祝印(エンチャント)の件で不機嫌なのか酒を更に頼み飲みながら、先程騒いだ事を料理を運ぶガルの妻『リィナ』に謝りながらチップを渡していた。

 

「えっと、それじゃあ……皆さんは何故アイアン村、僕の故郷へ来たのですか?」

 

「ああそれはね、ルルが予知で私達と君達がこの村で出会うって内容を視たからなんだよ! 

 ルルはね、リリアナ様の1人娘でリリアナ様の予知を受け継いで、リリアナ様と同じ位的中率が高いんだよ‼︎

 外した回数なんて両手の指で数える程度しかないの‼︎」

 

「ええ、リリアナ様の娘さん⁉︎

 凄い人の集まりなんだ、このパーティ…!」

 

 先ずロマンが当たり障りなく、何故アイアン村にサラ達が来た事を尋ねると何とルルは初代勇者一行の予言者リリアナの1人娘だと知りロマンも、そしてエミルもリリアナの娘やその予知により巡り合わせた事等に驚きながらルルを見ていた。

 

「…あ、あの………予知ならお母様の方が外さないですし、私は………シーフとして冒険してた方が…気が楽、何です…なので、私の事は様付けとかさん付け、しないで下さい…少し恥ずかしい、です」

 

「は、はい………ルルはシーフなんだ…。

 エミル、皆さんのレベルってどれ位なの?」

 

「えっとね、アルが162、サラが158、ルルはロマン君と同じ160だね。

 皆も相当のレベリングと高濃度魔法元素(マナ)吸収を繰り返したんだね」

 

 するとルルはフード越しに喋り、気恥ずかしそうにしながら自分より母の方が凄いと話しつつ、さん付け等をせずに呼び捨てして貰う様に頼み込んでいた。

 それを聞いたロマンは早速ルルを呼び捨てにしながらエミルに3人のレベルを聞くとサラ以外が160に到達しており、158のサラを入れても平均レベルは160を叩き出しており、エミルをして相当なレベリング等を繰り返していたと言わしめていた。

 

「まぁ俺様の武具職人の納期がある時期は一旦解散してそれぞれの仕事優先で仕事を終えたらまた集まってを繰り返しだからよ、本当ならゴッフ(ジジイ)のレベル250を超えたい所だが、それも中々出来ずにいるんだ。

 だからこそゴッフ(ジジイ)やその仲間達である賢王や予言者は本当に強えんだよ」

 

「…そうですね、ゴッフ様達は強いですよ」

 

 しかしながらこのパーティはゴッフの本業の繁忙期には一旦解散しそれぞれの本業、サラは王女の責務、ルルは恐らくリリアナの子として第2の予言者として活動をしているだろうとエミル達は思いながらそれが理由で中々レベル250に届かないとしてアルはゴッフをジジイと呼びながら本当に強いと尊敬している様だった。

 それを聞きエミルは彼等は本当に強かったとその当時の姿を思い描きながら笑みを浮かべるのだった。

 

「(そしてリリアナの子であるなら恐らくは……彼女は『ダークエルフと人間』のハーフ。

 リリアナには愛する人が居て、更に殿方も相思相愛婚だった。

 でも、私達のある取り決めでリリアナの夫を誰であるかを秘匿する事にした…そしてその子供…ルルももしかしたら…)」

 

 更にエミルはリリアナの事を特に思い浮かべ、その殿方は人間で相思相愛の末に婚姻を結んだ事を知っていた。

 しかし初代勇者一行の取り決めで夫の存在は秘匿され、その子供となればある可能性も頭に浮かべていた。

 しかし、それでもエミルは自分の『決めた事』を曲げる気は無いとしてルルには悪く思うが自分のプランを進める気でいた。

 

「じゃあ他に聞きたい事とか無いかな、無いかな?」

 

「…では個人的に、お話したい事があります、サラ、いいえ、サラ王女殿下。

 それは私の先生だった方、魔法講師アレスター先生の事です。

 あの方がセレスティア王国の専属魔法講師をしていらっしゃったのはご存知ですよね。

 …他でも無い、アレスター先生のご令姉であらせられる貴女なら」

 

「…うん、知ってるよ。

 死んじゃったアレスターが貴女達ランパルド国王陛下の推薦でご子息達の講師になって、皆の才覚を凄いって評価してた事を手紙とかで良く聞いたり見たりしてたから。

 それで、あの子の死に顔は如何だったの? 

 私はフィールウッドに運ばれた時の顔しか知らないから教えてくれないかな?」

 

 次にサラが何か他に聞きたい事は無いかと聞くと、エミルは王女としてアレスターの事を話したいと考えていた事を実行し、サラもそれを聞き少し苦笑気味になりながら弟が生徒達を高く評価していた事を聞いたり手紙のやりとりで知ったと話した。

 そしてフィールウッドに運ばれた際の死後の顔しか知らない為、エミルにどんな死に顔だったのかを問いた。

 

「…先生の最期を見届けたのは私のお兄様のカルロ第2王子でしたが、その後に運ばれて来た弔い部屋での顔は拝見しております。

 そのお顔は………生徒を守り切った事からの安堵か、安らかに眠る様に目を閉じておりましたわ、サラ王女殿下」

 

「…そっか、そうだよね。

 あの子が誰かを呪ったりする人じゃないし、ましてや生徒を守った末だったって話だったから満足して神様の下に旅立ったんだって改めて分かったよ。

 ありがとうございました、エミル王女殿下」

 

 エミルは嘘偽り無く死んだ後に弔い部屋に運ばれた際の顔を返答すると、サラも死因を知ってる為納得し改めて弟が満足して神の下に旅立って行った事を話すとサラはエミルに握手を求めて来る。

 無論それを拒む訳無く握手をする。

 するとサラの手が少し震えていた事を察知しながら思考し始める。

 

「(震えてる…無理も無いですね。

 サラは第1王女にしてロックの第1子、既に450年以上は生きておられる…もしかしたらロアを見た事もあるかも知れない方だ。

 対するアレスター先生は第3子にして第1王子、150年前に漸く生まれた男児にして魔法の天才だった。

 でもエルフからしてみれば余りに若過ぎる年齢で死んでしまわれた…辛く、悔しくある筈ですよ…)」

 

 エミルはサラが450年以上、正確には480年生きるロックの第1子である事をアレスターの世界の国々の王族達に関する講義で教わり、そのアレスターは第3子でまだ150年程度しか生きていないエルフからしてみればまだまだ若く早過ぎる死であった。

 それを考えればエミルは理不尽に何もかも奪う魔物や魔族達への怒りの炎が余計に、但し静かに燃える事を感じていた。

 

「………さて、しんみりしちゃったしお口直ししながら今度は私達からエミル達に聞きたい事があるよ! 

 エミルやロマン君は何で魔王討伐を目指すのかな? 

 私はお父様からその使命を受け継いだからだけど、2人は何でかな?」

 

 そうして握手を止めたサラは次にエミル達に何故魔王討伐を目指したのかを問い質して来る。

 自身も魔王討伐の使命をロックから継いだ事を明かしながら、2人を見やり返答を待っていた。

 

「あ、あの、じゃあ僕から。

 僕はエミルから君が真の勇者だって誘われる形で魔王討伐をする事になったんだ。

 でも僕自身は話し合いで終われば、とかも考えてたんだけどエミルに諭されてそれは無理だって知ったんだ」

 

 サラの問いに先ずロマンから答え、エミルに勇者勧誘で誘われそこで勇者の資質を見出され魔王を斃す旅に同行する事を話す。

 更に魔王と話し合いで決着出来れば良かったとも話して無益な争いを好まない優しさや、まさか斃すべき相手と話し合いで解決しようと言う斜め上の考えを抱き、生きて来た勇気ある部分もサラ達に見せ彼女達を感心させる。

 しかし話し合いの部分はエミルに無理だと言われている事も明かしていた

 

「じゃあ次は私ね。

 私は勿論アレスター先生の理不尽な死がきっかけだけど、私の場合生まれた後物心付いた時から魔王討伐をしようって考えてたわ。

 だってこれは私達の先祖である『ライラ』様の悲願、なら『私』が叶えるんだ、そう思いながら今お父様の勅令で旅をしているわ」

 

 次にロマンを旅に誘った張本人のエミルが答え始め、アレスターの理不尽な死からがきっかけとしつつ、現代に生まれ物心付いた時から魔王討伐を考えていたとしながら4人に明かした。

 それは『ライラの時』からの悲願であり、その転生者である『自分』が達成しなければならないのが本当の理由であるが、これを一族の悲願と言い換えながら国王の勅令で旅をしていると話した。

 

「すっごいよエミル‼︎

 物心付いた時から一族の悲願を胸に生きるって相当な決心だよ‼︎

 それにロマン君も、誰も思い浮かべなかった視点から戦いが終わればって考えるのは周りから色々言われるけど、それを持つのは勇気ある事だよ‼︎

 無益な戦いも嫌いそうだし、本当に勇者ロア様みたいな方だよ君‼︎

 そしてそのレベル、人間の寿命で其処まで上げたのは2人が長寿の私達以上に血の滲む努力をした証だよ‼︎」

 

「…ふん、認めてやるぜ、お前等の魔王討伐の想いは『本物』だってな」

 

 サラはそれを聞きエミルやロマンの凄さを実感し、エミルには悲願達成の使命感の大きさ、ロマンには無益な争いを拒む優しさと勇気を兼ね備えてる事を溢れんばかりの笑顔で満足気に話していた。

 更に長寿の自分達と違い寿命が短い人間の2人が自分達以上に血の滲む努力をした事も褒め称え、不機嫌だったアルもそれらを聞き少し機嫌を直した様子だった。

 

「そ、そうかな………と言うより、サラはご先祖様を見た事が?」

 

「うん、私は480年生きるエルフ、ルルは490年も生きるダークエルフと人間のハーフだからロア様を2人共見た事あるよ!」

 

「は、はい、あの方は、本当に素晴らしい勇者、でした」

 

 ロマンはロアの様だと言われ苦笑気味になるが、此処でサラは初代勇者ロアを見た事があるかと聞くと、サラは480年生きた中で、ルルも人間とダークエルフのハーフと490年も生きていると明かしながら見た事があると話した。

 そしてルルも此処でおどおどした口調ながらハッキリとした声でロアは本物の勇者だったと答えた。

 

「ルルは人間とダークエルフのハーフで、2人共ロア様が死んでしまわれた時に立ち会った生き証人なんだ…凄いな…」

 

「単に長生きなだけだよ〜。

 それにしてもロマン君もだけど、エミルも流石はルルが視た『予言に記された子』だよ、魔王討伐の意気込みが半端ないよ!」

 

「…えっ、予言に記された、子?」

 

 ロマンは長寿組の2人がロアが没した時代に立ち会った生き証人であることをすごいと口にするが、サラは単に長生きなだけと其処まで凄くはないと話していた。

 そしてエミルをルルが視た予知にある予言に記された子と呼ぶと、エミルは素っ頓狂な声を上げて何なのかを3人に聞き始めた。

 

「ああ、お前は14年前に俺様達が魔物討伐の依頼後に突然ルルが視た予知にあった奴なんだよ。

 その内容は『世界の命運を握りし彼の子、この世に誕生せり。

 その者世界を左右する選択を取りし者也、神託を受けし者達は彼の者の旅立ちを待つべし』だ」

 

 アルはエミルの疑問に応える様にルルが14年前、つまりエミルが生まれた時に予知でその存在を知り、更に自分が世界の命運を握っているとまで話され空いた口が塞がらず、ロマンも驚きながらエミルの方を見ていた。

 

「つまり俺様達はお前が旅立つその時を待ってたんだよ。

 そしたらお前関連の3度目の予知で魔王討伐やら真の勇者を見出して俺達を探してるから必ずアイアン村で待つ事とか色々とぶっ飛んだ事をやってるから俺様達はコイツは間違いねぇ、世界の命運を握ってやがると感じて予言の待ち合い場所のアイアン村でお前達を待つ事にしたんだ。

 丁度俺様も久々に会いたい奴等が居たから願ったり叶ったりだった…だがそいつ等は3年も前に死んじまったと言われちまったがな」

 

 更にアルは言葉を重ね、ルルはエミルが魔王討伐の旅に出たり、ロマンに真の勇者の資質を見出した事すら予知し、更には3人を探してるとまで当てられそしてアイアン村で待つ事すら予知により定められていたと知り此処まで当てられるとエミルもロマンもリリアナ譲りと言われた予知の的中率に驚愕していた。

 

「(さ、流石リリアナの子…物すっごい予言の的中率よ………それにしても私が世界の命運を握る、ねぇ。

 寧ろ命運を握ってるのはロマン君じゃ?)」

 

「あ、それと貴女に関する2度目の予知は『1人の勇者、悲しみを背負い故郷を旅立つ。

 その勇者、世界の命運を握りし彼の子に巡り逢いし運命也。

 しかし勇者と関わる事無かれ、勇者の資質を高める為艱難辛苦に向かわせるべし』だったんだよ。

 だから私達3人は勇者勧誘はせずに旅してたのよ」

 

「それって………僕の事、だよね、間違って無ければ…」

 

 エミルがルルのリリアナ譲りの予言的中に脱帽し、しかし世界の命運を握るのは勇者、つまりロマンの方だと感じていた。

 其処にサラが2度目の予言の内容を話し始め、其処には明らかにロマンの事を指す内容が予知されていた事が窺い知れ、更にサラ達側からロマンに関わってはいけないと制約付きの予言であった事まで聞き、ロマン本人は自信が無いながらも自分の事かと3人に問いていた。

 

「ああ、2度目と3度目の予言を照らし合わせばお前の事になるぜロマン。

 悲しみを背負ってとか言うのが何なのか分からんかったが………この村に来て知っちまったよ。

 まさか、お前にがケイと『テニア』の息子だったとはな。

 2人が死んでるのを初めて知って愕然としちまったぜ、俺様も」

 

「えっ、アルさ…ア、アルは父さん達を知ってるんですか⁉︎」

 

 するとアルが予言を照らし合わせれば勇者がロマンの事を指すのを話し、更に2度目の予言に記された『悲しみ』をこの村に来て初めて知り、且つロマンの両親の名を出してロマンに両親を知ってるのかと聞かれ、酒を飲みながら答え始めた。

 

「ああ、ケイは冒険者で俺が店に武具を直接納品してる時に初めて出会って、俺様の武具の良さを見抜いてその店で買って行ったんだ。

 そして俺様が作ったと知ってビックリ仰天してな、あれは面白かったぜ。

 オマケにそれをテニアに見られてそれがきっかけで2人は冒険して、そして結婚してからは冒険家を引退するって俺に言いに来たんだ」

 

「あ、因みにアルは気に入らない奴は客でも追い返す頑固者ね」

 

 如何やらアルはロマンの両親の旅の始まりに立ち会った者らしく、その時のエピソードを嬉々として語り、サラが頑固だと語るアルに此処まで言わせるのは本当の上客だったのだとロマンは知り、自分の両親の偉大さをまた1つ知れて嬉しさで笑みが溢れていた。

 

「そして息子が10歳の誕生日を迎えて、しかも勇者だった事を初めて俺様も聞いた。

 で、あの子に修行が終わったら俺様の打った最高の武器をあげたいって2人で話して来やがったから特別にミスリルソードを打って譲ってやったんだ」

 

「…父さん…母さん…」

 

 更に話は続きロマンが10歳の誕生日を迎え世界樹での修行を始める際に、それが完遂した暁にはアルの打った武器を渡したいと話に来ていた事を聞き、其処でミスリルソードを打ち鍛え譲った事を語り、ロマンはこの剣は元から自分に渡される予定の物だったと知り剣の柄頭に手を掛けながら両親の愛に涙を流しそうになりながら堪え、話を聞き続ける。

 

「そしてそれから5年が経過したからもう修行は終わってるだろうって思って予言もあったからアイアン村に来たら………2人は3年前にミスリルゴーレムに襲われて死んじまってた、息子はケイの形見のミスリルソードを持って旅立っちまったって村の連中に言われたんだ。

 だから俺様は花屋に立ち寄って墓地に花を供えたんだ、別れの言葉を掛けながらな」

 

「あの花はアルが…本当に、ありがとうございます」

 

 そしてアルは村に来て2人の死を初めて知り、さらに息子のロマンは形見のミスリルソードを持って旅立ったと言う事を聞き急ぎ花屋で花を買い墓に供えたと話す。

 2人が見たあの花束はアルが供えた物と知りロマンはアルに礼を述べて頭を下げた。

 アルは別段特別な事をした認識では無い為そっぽを向いていたが、黙って聞いている為これが彼なりの礼等の受け取り方なのだとエミルは思っていた。

 

「それで、しんみりした所で空気を一新するために聞くをだけど、エミルやロマン君は何で私達に会いに来てくれたのかな?」

 

「ああ〜それはですね、ロマン君の剣を打ち直して貰いたいからなんです。

 ロマン君、アルに剣を見せましょう」

 

「うん。

 あの、これが父さんの形見のミスリルソードなんですけど…」

 

 そうしてサラがジョッキのお酒を飲み直し、場の空気を帰る為に何故エミル達が自分達に会いに来たかを聞くと、エミルからロマンの剣を打ち直す様に話す。

 そしてロマンがアルに剣を鞘毎渡すとアルは唸る様に声を出し始めた。

 

「コイツは間違いねぇ、ケイ達にやったミスリルソードだ。

 さて、具合は…」

 

【シャキン】

 

「…ふむ、手入れは欠かされてないが刃毀れや刀身にダメージが目立つ。

 こりゃ打ち直しが必要だったのにそれが出来ねぇまま使い続けた結果だな。

 だが此処まで状態が悪いのに折れる様子が無いのは間違い無く担い手が良い腕をしてるからだな。

 よし良いぜ、この剣は俺様が直々に打ち直してやる、明日の朝に鉱山に向かうぜ」

 

 アルはロマンの剣をまじまじと見ながら指で刀身を叩いたり等をして今の強度を確かめ、それにより確かに剣はボロボロにはなってるが折れる心配も無い、ロマンの使い方が良かった為と言いながら剣の打ち直しと明日に鉱山に向かう事が決められると同時に鞘に戻したロマンの剣を返却する。

 

「あ、ありがとうございます‼︎

 お代は必ず支払い」

 

「ああ金なら要らねぇよ、俺様達は食い扶持に困る程貧乏じゃねぇしな! 

 それにコイツはお前の親に譲ったモンだ、それを更にその息子から金を取ったら俺様やゴッフ(ジジイ)の一門の職人魂を穢ちまう」

 

 ロマンは剣を打ち直す事を承諾したアルに礼を言い、それに掛かる代金を支払うと言おうとした所でアルが金は要らないと言い放つ。

 その最大の理由としてロマンの両親に譲った物であるその剣を直したとしてロマンから金を貰ってしまうとアルや師のゴッフの一門の職人魂を穢すと言う武具職人にしか分からない独特の感性による物だった。

 

「…で、でも」

 

「はぁ、それでも代価を払いたいなら…おい宿主、俺様からコイツ達に依頼を出したい‼︎

 内容は一緒に鉱山へ行ってミスリル鉱石を採掘する、報酬はコイツの剣の修理だ‼︎」

 

「はい、依頼を受託しました! 

 と言う訳でロマンに王女殿下、これを受託しますかい?」

 

 しかしそれでもロマンが引き下がらない為何とアルはロマンの剣を直す為のミスリル鉱石の採掘依頼を出し、その報酬に剣の打ち直すと言う依頼に対する対価を取り決めてそれをガルに叫びながら委任させる。

 そしてガルもそれを魔法紙(マナシート)に書き正式な依頼とするとロマンとエミルに受けるかと敢えて確認して来る。

 当然エミルの中の答えは決まってる為、ロマンを見ながら彼に返答を任せた。

 

「………はい、受けさせて頂きます!」

 

「あいよ、それじゃあエミル一行様に武具職人アルさんからの依頼を正式な受けた事を認めますぜ! 

 当然依頼の破棄には違約金が発生しますが…アルさんは如何しますか?」

 

「当然この話は無し、その程度だったってして2度と俺に会わねえって誓って貰うぜ! 

 このゴッフ(ジジイ)の弟子であるアル様と言う世界2位の武具職人に2度と会えねぇ、これ以上に無い違約金だぜ?」

 

 ロマンはエミルの表情を読み取り依頼を受ける事を元気良く返事すると正式な依頼として組まれ、違約金はアルに2度と会えない=腕の立つ職人に武具の修繕依頼を出せないと言う普通なら別の人に頼む選択肢があるが、アルはゴッフ一門を任されてる職人。

 彼の右に出る者が居るとするなら師のゴッフしか居ない為違約金として成立する物だった。

 

「はいでは………ロマンと王女殿下が依頼を受けた事を此処に証明します、魔法紙(マナシート)を渡しますので受け取って下さいな!」

 

「はい!」

 

 そしてロマンは受付まで歩き依頼が書かれた魔法紙(マナシート)を受け取りに行くと正式に依頼を受けた事がギルド協会に認められた判を押されエミルの初依頼はアルの鉱石取りの手伝いとなるのであった。

 

「ねっ、1度決めた事は曲げない頑固者でしょアルは? 

 でも腕は間違い無く保証出来るから絶対破棄しちゃダメだよ〜? 

 破棄したら本気でアルは見捨てに掛かるから」

 

「たく、俺様の腕をコイツ等にとって見ず知らずのお前に保証されても全く信用ならねぇっての! 

 兎に角明日だ、明日鉱山に向かうからそれまで力を付ける為に飲んで食うぞ!」

 

「は、はい…小口ながら、食べたり飲んだり、します…!」

 

 次に席に戻ったロマンと座って様子を見てたエミルにサラがアルは頑固者だが腕は確かだと言うが、それをアルはエミル達には見ず知らずの女に保証されても信用出来ないと本人の目の前で言い放ち、サラはブーイングを出すが明日の依頼の為にアルはガツガツと料理と酒を飲食し出し、ルルもチマチマと小口ながら食べ始めていた。

 

「じゃあ私達も料理を食べて明日に備えようロマン君!」

 

「うん、リィナさん注文を頼みます!」

 

 そしてエミルとロマンも料理を頼み始め、運ばれて来る肉料理やかぼちゃをふんだんに使った料理を食べ始める。

 更に宿屋にある風呂場でそれぞれ男性陣、女性陣に時間を分けて入り用意された2階の宿泊室のベッドに寝て英気を養うのであった。

 その中でロマンは剣を修復出来る事、エミルは初依頼を熟す事に心を躍らせながら睡眠を取り、その日は何時も以上に寝つきが良かったのだった。

 

 

 

 そうして迎えた翌朝、朝日が登り切る前に起きたエミル達とサラ達はほぼ同時に2階から1階に降り、するとリィナがテーブルを拭きながら5人が降りて来るのを待っていた。

 

「あらおはようございます、多分鉱山へ向かうから朝日が出る前に起きると思ってましたよ。

 直ぐに朝食をお持ちしますのでお待ち下さいませ!」

 

「はいリィナさん!」

 

 リィナは5人が鉱山に向かうならば朝日が登り切る前に起きて来ると冒険者達に長年料理を運んだ経験則から分かっていた為直ぐに5人の朝食に体が温まるお茶を用意し、5人はそれ等を食べ切りご馳走様の挨拶をするとリィナに見送られながらかぼちゃ亭を後にし、馬屋に預けていた馬と馬車を受け取り代金を払って門から外へ馬を歩かせ、そのまま一旦アイアン村から出て行った。

 

「さて、俺様達が向かう鉱山はミスリラント領の中の鉱山でもミスリルが採掘出来て1番近い『アグ山』の第2採掘場だ! 

 採掘道具は俺様の魔法袋(マナポーチ)の中に入ってるからお前等全員に貸してやるぜ!」

 

「分かりました、現地での採掘指示はよろしくお願いします」

 

 村を出た後のアグ山への道をサラ達の馬車(手綱はサラが握ってる)が前を行き、アルは馬車の荷台の中からサラ達含むエミル達4人に採掘道具を貸すと気前良く言い放ち、エミルとロマンは彼の指示を聞きながら採掘しようと決めながら馬車を運転して行った。

 エミルは冒険者になり初の、ロマンは形見の剣の今後が掛かった依頼を失敗しない様に心掛けながら東の方角から朝日が出始め、その温かな光に照らされながら目的地に向かうのであった。

 

 

 

「キシシシ、見ぃ〜つっけた〜!」

 

 しかし、その2つの馬車から800メートル後方の更に鳥達が飛ぶ様な上空にて、浮遊しながらエミル達の姿を捉える者が居た。

 その者は褐色肌に額に赤い水晶が付き、漆黒の鎧を付けし者………アギラの全体への忠告を聞きエミル達の命を狙い功績を立てようと画策した名も無き魔族であった。

 そしてエミル達はその魔族に狙いを定められた事を未だ知らずに居たのだった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
エミル達とサラ達には図にすると意外な繋がりがあり、それ等が結び付いて今回の会話回になりました。
因みにルルは人間とダークエルフのハーフだからと言って純血のダークエルフより寿命が短くなる事は無いです、この世界のエルフやダークエルフ、ドワーフはそんな種族です。
そして最後に不穏な影がチラつきましたが…それは次回、牙を剥きます。

次回もよろしくお願い致します。


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第9話「エミル達、遭遇する」

皆様おはようございます、第9話目更新でございます。
今回は漸く本格的なバトル回になります。
それがどんな内容かお楽しみに下さいませ。
では、本編へどうぞ。


 エミル達とサラ達、互いの馬車は街道を並びながら走行し、荷台からアルが顔を乗り出し自らの武勇伝、ゴッフに弟子入りするまでの話を始めていた。

 

「それで俺様は20にして他の武具職人達の研鑽して来た匠の技術を上回り、これならゴッフ(ジジイ)が俺を弟子にする筈だ、そう天狗になってたのさ。

 ゴッフ(ジジイ)は生涯現役とか抜かして弟子を取らずにいたからな、俺様がその初弟子になってやる、それが俺様の夢だった。

 だが…いざゴッフ(ジジイ)の下に向かうと職人勝負をして勝ったら弟子入りさせてやると言われ、其処で俺は周りを泣かせた武具作りの腕を見せたんだ」

 

 そのエピソードは彼が他のドワーフ達よりも才覚があり、ゴッフの弟子入りに相応しいのは我こそだと天狗になってたと自ら語る所から始まり、ロマンは興味津々に聞きエミルもあのゴッフが弟子入りをを認めた者の話には興味が引かれ耳を傾けていた。

 そして職人勝負をしたと話し始めた辺りで1つ溜め息をアルは吐いていた。

 

「だが…其処で俺様は天狗になってたと気付かされた。

 ゴッフ(ジジイ)が鍛え打った武具の輝きは当時の俺なんかが足下にすら及ばない本当に凄ぇもんだった。

 負けた、完膚無きまでに負けた。

 それからはもう天狗の鼻は折れて、あの輝きに1歩でも近付こうと踠いた。

 その度に負けて、だがそれでも諦め切れなかった、ゴッフ(ジジイ)の弟子になりたい、それは嘘偽りの無い夢だったからな」

 

 更にアルはゴッフに真の武具職人の業の輝きを見せ付けられ完全に負けて天狗の鼻は折れたと話し始めた。

 エミルもライラの時に見たあの鍛え上げられた武具の輝き、それはアルも言う通り真に武具職人の魂が乗った物だったと思い浮かべていた。

 そのゴッフの武具に何度も助けられた事も。

 そしてアルは夢を諦め切れずに何度も挑んだと語り、エミルやロマンは歴史の裏側を見ているかの感覚に浸っていた。

 

「そして50の時…俺様は遂にゴッフ(ジジイ)に負けだと言わしめる事になった。

 それは今も俺様が使っているこのミスリルアックスだ」

 

「えっ、そうだったんですか⁉︎」

 

「ああ、そしていざ弟子入りしたんだが…ゴッフ(ジジイ)はワシから教える事は無い、只管職人の道を歩めとか言って現役引退しやがったんだ。

 初めは何やってんだって癇癪を起こしそうになったが………思い返せば、あの職人勝負こそが俺様を弟子として鍛え上げていたのでは? 

 そんな単純な事に気付いたんだ、天狗の鼻が折れてたからな」

 

 そして50の時に今も武器として使っているミスリルアックスこそが弟子入りを決めた逸品だと話しエミルとロマンはその斧を見て確かに10年や20年じゃない、かなり使い古された戦斧だと改めて伺い知り歴史ある武具だと初めて気付いた。

 そして弟子入りした直後の引退宣言もあるの話を聞けば腑に落ちる物であり、エミルは立派な弟子を取る事が出来たと思い感慨に耽るのであった。

 

 

 

 しかし、その談話を嘲笑い、そして魔力を込め始める者が居た。

 そう、エミル達に狙いを定めた名も無き魔族である。

 

「キシシシ、コイツで殺してやる! 

 灼熱雨(マグマレイン)‼︎」

 

【ゴォォォォ‼︎】

 

 魔族は火の最上級魔法、本来なら拡散し辺り一体に名前通りマグマの雨を降らせる灼熱雨(マグマレイン)を収束し、巨大な灼熱の焔の塊にして手で抱える様に待機させ、そして腕を振り下ろしてその業焔がエミル達に迫る。

 

 

 

 エミル達はアルの話を聞き終えて馬車を走らせ、後2時間でアグ山に辿り着こうとしていた。

 

『ヒヒィィィン‼︎』

 

「うわっ、どうしたの⁉︎

 どー、どー‼︎」

 

「うわサラ、何馬を暴れさせてやがんだ、早く落ち着かせろ‼︎」

 

 その時、エミルとサラが手綱を引いていた馬達が暴れ出し、サラが宥めようと声を掛けたり等をし、アルは突然馬が暴れた事で荷台が揺れた為早く落ち着かせる様に叫ぶ。

 そしてエミルもまた馬を落ち着かせようとした

 

【ゾクッ‼︎】

 

「っ、殺気‼︎」

 

 その時、エミルは明確な殺気を感じ取る。

 それはこの時代の海賊達が放った矮小な物でも、魔物達の様な方向性の無い物でも無い、明らかに自分達を狙っている。

 しかもそれは500以上年前に明確に肌で何度も感じていた物………魔族が放つ圧力ある地上界の者への絶対的な殺意だった。

 エミルはその方向を見ると、収束された灼熱雨(マグマレイン)が放たれようとしていた瞬間だった。

 

「エミル、どうし…何、あの焔の塊は⁉︎」

 

「…来る…来る………悪意が、魔族の悪意が…‼︎」

 

「魔族だとぉ⁉︎」

 

 エミルが視線を向けた方にロマン、サラが向くと其処には巨大な灼熱の焔の塊があり、それが今放たれようとしていた。

 全てを灰燼に帰す為に。

 更にルルの予知が発動し、魔族の悪意が来ると告げ、アルはそれを聞き驚愕していた。

 何故ならサラ達も魔族を直に見るのは初めてなのだから。

 

【ゴォォォォ‼︎】

 

「っ、あの焔こっちに来てる‼︎

 エミル、ロマン君早く逃げ」

 

「もう逃げるのは間に合わない‼︎

 なら………相殺する‼︎

 火には水、土には風、闇には光‼︎

 相反する属性の魔法をぶつけ合わせた時威力が同じなら相殺される‼︎

 行け、大水流(タイダルウェイブ)‼︎」

 

【シュゥゥ、ドバァッ‼︎】

 

 サラはエミル達に逃げようと提案しようとしたがエミルは即座に間に合わないと切り捨て、ならばと火の最上級魔法に水の最上級魔法を打つけて相殺を狙う選択肢を取る。

 するとエミルの杖から巨大な水流が収束し、巨大な瀑布となり上空から迫り来る灰燼の焔と衝突する。

 

【ゴォォォォ、ドバァァァァ‼︎】

 

「っ、焔の塊を水流が穴を開けた‼︎」

 

「つまりエミルの方が勝った⁉︎」

 

 そして幾許かの衝突の末にエミルの放った清浄の瀑布が灰燼の業焔に穴を開け、水流が灼熱雨(マグマレイン)の放たれた方角へと向かう。

 更にエミルの千里眼(ディスタントアイ)が捉える、業焔を放った悪意の塊が水流を避けてエミル達の前方に向かう姿を。

 そしてそれは降り立った。

 

「キッシシシシ…! 

 結構真面目に撃ち込んだ灼熱雨(マグマレイン)を相殺所が打ち勝つとは…中々やるじゃねえか、矮小な人間の魔法使い!」

 

 褐色肌と漆黒の鎧、更に悪意に満ちた笑み、極め付けはその額に赤い水晶があるダークエルフともかけ離れた存在………エミルの記憶にあるそれと寸分違わない存在、魔族がエミルの放った大水流(タイダルウェイブ)で自らの魔法を打ち破ったのに感心しつつも、矮小な人間と付け加え明らかに見下した態度を取りながら漆黒の槍を構えて5人に絶対的な殺意を向けて来た。

 

「アレが魔族………アル、ルル、戦うよ‼︎」

 

「よし来たぜ、魔族に俺様の武具の力を見せてやる‼︎」

 

「…うん…‼︎」

 

 先ずサラ達が馬車から降り、サラが後衛、他2人は前衛に立ちそれぞれ弓、戦斧、そしてルルはフードを外し、小さな双剣を逆手で持ち、その表情はフード越しに見ていたオドオドとした態度から想像出来ない程眼光が強く、魔族の殺意に飲まれていない勇猛な物であった。

 

「ロマン君、私達も行くよ‼︎」

 

「わ、分かったよ‼︎」

 

 そのサラ達の直ぐ後にエミルとロマンも馬車から降り、エミルはサラの隣、ロマンはアルの隣に陣取り、サラの弓矢が通る陣形を整える。

 すると馬達は魔族の殺意に飲まれている為、乗り手が降りるとそのまま馬車を引きながら走って逃げてしまう。

 

「キシシシ、レベル150オーバーが5人も…これは殺せば大手柄だぜ! 

 他の奴らを出し抜いてアギラ様の幹部に上り詰められるぜ、シィィ!」

 

「…コイツは三流ね、獲物を前にして油断し過ぎてる。

 自分が逆に獲物になる可能性を考えない時点で救い様が無いわ、魔族だから元から救う気なんて無いけど、ね」

 

「確かにそうだなルル! 

 俺様達に狩られる恐怖ってもんを見せてやるぜ‼︎

 おぉりぃあぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 魔族はエミル達を前にして油断し過ぎてる様で自らの手柄の事しか考えておらず、己が斃される可能性を思考していない三流とルルは普段の口調と違う強い口調で魔族を睨み付けながら話す。

 それにアルが同調し狩られる恐怖を叩き込むとして真っ先に突撃し、魔族もその突撃に乗り槍のリーチを活かして突きを連打し、足がやや遅いドワーフの身体を悪意で貫こうとする。

 

「けっ、そんなトロい突きじゃあ俺様は止められねぇぜ‼︎

 うおらぁ‼︎」

 

「おっと危ない!」

 

【ドガァァァァァァ‼︎】

 

 しかしアルはその突きの連打を強引に潜り込むことで回避し、その勢いで土の上位絶技『震撃斧』で大地を力任せに穿つ。

 これが直撃すればこの魔族も一溜まりも無かっただろう。

 しかし魔族は前にジャンプして回避し、次はロマンに狙いを定める。

 

「させないよ、『暴風弓』‼︎」

 

【ビュゥゥゥンッ‼︎】

 

 其処にサラが風の上位絶技暴風弓を使用し、暴れる風を纏い速度の上がった矢が魔族に一直線に向かい鎧の間を撃ち抜こうとした。

 

「ははっ、『爆炎槍』‼︎」

 

 しかしそれを火の上級絶技『爆炎槍』を使い矢を弾きながら燃やし、そのまま着地しロマンに襲い掛かる。

 

「『疾風槍』‼︎」

 

「くっ、疾風剣‼︎」

 

 魔族は先ず小手調べなのか風の下位絶技同士で互いの武器を弾き合わせ、両鎌槍の穂とロマンの刃毀れしながらもまだ折れる気配の無い剣の刃が何度も打ち合いその度に周りに風が吹き荒れていた。

 もし冒険者でもレベルが低かったりそもそも常人がこの風を受ければその部位が両断されてしまう程の鎌鼬であり、それに近付こうと言う者は両者のレベルに近いか愚か者しかいないだろう。

 

「(なんて重い一撃、そして最初の不意打ちの魔法と言い明確な殺意を感じる攻撃なんだ…これが、魔族‼︎

 エミルの言う通りだ、話し合いの余地が無い‼︎

 何方が殺されるか、ただそれだけしか無い‼︎)」

 

 その中でロマンは魔族の攻撃1つ1つの重さや殺意に溢れたその突きを前にエミルが話した事を理解する。

 魔族は思想統一されてる、話し合いの余地は無い、それを肌で感じ嫌な汗が流れ始めていた。

 

「うぉらぁ、『極雷斧』‼︎」

 

「『氷結剣』‼︎

 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「おっと、『暴風槍』‼︎」

 

「っ、『爆炎剣』‼︎」

 

 そんな暴風にアル、ルルが突撃しそれぞれ雷、氷の上位絶技を使用し戦斧に極雷を、双剣に絶氷を纏わせ魔族を攻撃しようとし、それを見た魔族は爆風を槍に纏わせ、対するロマンも火の上位絶技で爆炎を剣に纏わせ4つの絶技が衝突する。

 

「ちぃ‼︎」

 

「…」

 

「くっ、強い‼︎」

 

 そしてそれぞれ技の衝突で地面を滑り距離が開き、更に重鎧や軽装の鎧等に傷が付いたり、頬や額に切り傷が出来る等の軽傷を負う。

 しかしロマンの鎧は魔法祝印(エンチャント)で強化されてる為か鎧やガントレットに傷が付く事が無かった。

 

「キシシシシシシシ‼︎

 矮小な地上界の者共にしては中々やる‼︎

 流石はレベル150オーバーと言った所か‼︎

 だが、それでも俺が勝つ‼︎

 何故なら我々は魔王様の忠実な僕であり選ばれし戦士だからだ‼︎

 貴様等矮小な存在に勝ち目は毛頭」

 

乱風束(バインドストーム)超重孔(ブラックホール)‼︎」

 

「其処だよ、『光流波』‼︎」

 

「っ、エミル、サラ!」

 

 同じ様に傷付いた魔族はロマン達を嘲笑しながら自分は負けないと高らかに宣言し、選ばれた戦士とも言い完全に地上界の生命全てを見下していた。

 だがそんな話を長々としている隙にエミルが遂に動き、仲間が密接状態だった為撃てなかった最上級魔法で魔族の動きを止め、更にサラが光の上位絶技を発動し、光を纏い閃光の矢となった物が風と闇の中を突き切り出す。

 

「ぐっ、矮小な存在はこんな小賢しい手しか使えんか‼︎

 だが無理も無いな、貴様等は劣等種なんだからなぁ‼︎」

 

 その閃光の矢は明らかに魔族に当たったらしく、吹き荒れる風に血が…しかし地上界の者と違い青い血が混じりサラに手応えありと感じさせる。

 

「今だ、皆に身体強化(ボディバフ)IV&ロマン君達に『回復魔法(ライフマジック)IV』‼︎

 まだまだ戦いはこれからだよ、油断しないで皆‼︎」

 

「回復と身体の強化か、ありがてぇぜ‼︎

 さあ魔族め来やがれ、職人王ゴッフの弟子のアル様の力を見せてやるぜ‼︎」

 

 更にエミルはタイミングを図り身体強化(ボディバフ)とロマン達3人に回復魔法(ライフマジック)を使い強化と体力を全快にさせ、それを受けたアルも魔族の粘り強さからか素直に礼を述べた後職人王の弟子の力を見せるとして戦斧を構う直した。

 

「お前の末路は予知するまでも無い、その魔法が消えた瞬間がお前の死だ!」

 

「…そうだ、僕の背後にも仲間が居るんだ…さあ来い魔族‼︎

 エミルやサラの方には僕達が行かせないぞ‼︎」

 

「ほざけ、下等生物が‼︎」

 

 更にルルが予知をするまでも無く敵の死を確信しながら双剣を構え、ロマンも盾と剣を構え直し背後に居るサラ、そしてエミルを守るべく弱気な自分を抑えて自らを奮い立たせる。

 そんなロマンに魔法の攻撃が収まった瞬間サラの矢の貫通痕が見える魔族が襲い掛かり、再び先程の風の下位絶技同士で弾き合う。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「っ、このガキバフを受けただけの筈なのに俺を上回り始めただと⁉︎」

 

 しかしそれは先程の焼き直しでは無い。

 ロマンはバフを受けた事、そして後衛の2人を守る為に奮い立った結果、剣に勢いが乗り魔族の槍を弾く回数が明確に増えていた。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「うお、ぐ、懐にぃ‼︎

 ぬおおあぁぁぁぁぁ⁉︎」

 

 そして遂に懐に飛び込み斬撃と突きを連発し魔族を後退させ始め槍の持ち柄等で魔族は徐々にガードをするしか出来なくなっていた。

 そしてその背後にアルとルルが回り込み、無防備なその後ろ側から攻撃を開始する。

 

「今度こそ食いやがれ、震撃斧ぅぅ‼︎」

 

「はぁぁぁぁぁ、『暴風剣』‼︎」

 

「な、ぐぁぁぁぉ‼︎」

 

 そしてアルとルルの攻撃をまともに受けてしまいアルの斧で右腕を肩から叩き斬り、ルルの双剣は鎧の背面の間を縫いながら突き刺され刃が背中に突き刺さり、それを更に間を縫いながら滑らせ抉り斬り魔族のバランスが崩れる。

 

「ロマン君ちょっと退いて、『暗黒撃(ダークバースト)』‼︎」

 

「『爆炎弓』‼︎」

 

 そしてエミルがロマンに退く様に叫ぶと、ロマンはエミルとサラの2人の射線上から離れ、アルとルルも既に離れてた為闇の上級魔法で放たれた闇の波動と火の上位絶技により爆炎を纏った矢は魔族の肉体に直撃し、それぞれのダメージを重く乗せる。

 

「グフッ、だがまだまだだぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 すると魔族は斬り落とされた右腕を取り、回復魔法(ライフマジック)で全快と行かずとも斬り落とされた右腕を癒着させて再び槍を構え、更に身体強化(ボディバフ)も掛けたのかロマンと再び弾き合いになった瞬間最初の焼き直しが発生する。

 

「くっ、さっきからダメージを与えているのに弱る気配が無い⁉︎」

 

「当たり前だ、我等魔族は高等生命、下等生物の貴様等と肉体の出来が違うんだよぉ‼︎」

 

【バキッ‼︎】

 

「うわっ‼︎」

 

 更に魔族はロマンのダメージを与えてる筈なのに堪えて無いのを魔族が高等生命だからと叫び、そして懐に入り蹴りを食らわしロマンをエミルの側まで吹き飛ばす。

 

「先ずは邪魔な後衛と勇者だ、死ねぇ、大水流(タイダルウェイブ)‼︎

 超重孔(ブラックホール)‼︎」

 

「死なない、こんな所で‼︎

 灼熱雨(マグマレイン)極光破(ビッグバン)‼︎」

 

 魔族はエミル達を殺そうと大水流(タイダルウェイブ)を使いエミルが不意打ち迎撃の際に使われた物と同等の大瀑布と魔族を押さえた時のと同等の闇の孔が押し寄せる。

 しかし、エミルは悲願達成の為にもこんな『名も無き魔族』に殺される訳には、ロマンを失う訳には行かない。

 その為今出せる『全力』の灼熱雨(マグマレイン)極光波(ビッグバン)を放つ。

 

【ゴゥゥゥゥゥ‼︎】

 

「な、何ぃ、お、押し返され…先程と違い本気で放った魔法が何故⁉︎」

 

「魔法は体内魔力の強度や熟練度によって威力が左右される。

 だからこそ言えるわ、お前如きより私の方が何方も上だったって事よ‼︎」

 

「そ、そんな、地上界の者共の中で更に矮小な人間如きが魔族の魔法を上回るなど…それではまるで…ぐあぁ‼︎」

 

【ドォォォォォォンッ‼︎】

 

 魔族はまさか全力の魔法を押し返されるとは思ってもみなかったのかエミルの魔法に驚いていた。

 しかし、エミルにとってみればこんな事は500年前にも出来た事。

 そして現代に転生してからその領域に近付く、否、上回る為に修行を重ね当時の250に1歩1歩近付いていた。

 そして魔族側もこの事象に思い当たる節があったのかそれを口にしようとしたが、魔法が直撃し遮られてしまう。

 

「やったの⁉︎」

 

「いえ、相手は未だ生きています‼︎

 しかも逃げようとしてます‼︎」

 

 サラがエミルに倒したのかを確認するが、エミルは現在透視(クリアアイ)観察眼(アナライズ)を併用し使っている為敵が逃げようとしている事を察知し、体内魔力回復用ポーションを飲み次の魔法の準備をしていた。

 すると爆炎の中から魔族が右腕は吹き飛び、左手で槍を持って空を飛び逃げようとしていた。

 

「逃がさない、乱風束(バインドストーム)‼︎」

 

「なっ、うおぁ‼︎」

 

 そして飛び去ろうとした所で乱風束(バインドストーム)に空中で捕まり、動けなくなりながら嵐を超える吹き荒れる風の中心で身体を漆黒の鎧ごと切り裂かれながら防御しようと結界魔法(シールドマジック)を使うが、その結界すら破られ始めてエミルの眼から見て魔族は焦り始めていた。

 

「今よ皆、あの中に攻撃を‼︎」

 

「おっしゃあ、行くぜぇ‼︎」

 

「分かったよエミル、此処で………斃す‼︎」

 

 そしてエミルの指示により全員が武器や杖を構え、絶技と魔法を乱風束(バインドストーム)内に叩き込もうとする。

 ロマンもあの魔族を逃したら駄目だ、そんな確信めいた物を感じ取り意志のある敵の命を奪う覚悟をして剣を構えた。

 

「くらえ、極雷斧‼︎」

 

「はぁぁぁぁ…『暗黒破』‼︎」

 

「爆炎弓‼︎」

 

「光流波‼︎」

 

超重孔(ブラックホール)‼︎」

 

 そしてロマンやアル達が雷、闇、火、光の上位絶技により戦斧から極雷と暗黒の闇を纏った逆手から普通の持ち手に変えた双剣による重ね一閃、弓から真っ直ぐ放たれた爆炎の矢、光を纏った剣の閃光の斬撃、そして闇の最上級魔法による暗黒の孔による超重力の拘束と圧殺が魔族を襲い、それぞれが直撃して大爆発を起こした。

 

「今度こそやったよな、エミルさんよぉ‼︎」

 

「爆煙の中から力尽きて落ちて来る姿が見えます…」

 

 アルは今度こそやったかとエミルに叫ぶと、爆煙の中から力尽きて落ちて来る魔族を確認していた。

 そうして飛ぶ力も失った魔族は地面に叩き付けられ、その場を転がった。

 また力尽きた際に鎧の一部が破損したり槍を手放してしまい地面に突き刺さる等勝利は確定した瞬間だった。

 しかしエミルは杖を構えたまま魔族に近付いて行き警戒した様子だった。

 

「エ、エミル、戦いは終わったんじゃ」

 

「まだだよロマン、魔族も魔物の様に死ねば熟練度元素(レベルポイント)が発生すると書物やお母様の話にあった。

 つまりは」

 

「まだ生きてやがんのか、しぶとい奴め、首を刎ねてやる‼︎」

 

 ロマンはエミルの様子に戦いは終わった筈と話したが、其処にルルが書物やリリアナの話から魔族も死ねば熟練度元素(レベルポイント)が発生する事を話した。

 ロマンはそれを聞き、自身の強さが変わった感覚が無かった為魔族が死んでいないと判断し、アルもサラも武器を構えてゆっくりと近付き始めた。

 

「………やっぱりアレで死んでないなんて、私もまだまだ修練不足ね。

 それで、お前には何か逆転の手はあるの?」

 

「は、はははは、今からアギラ様や他の仲間を呼び逆転を図ってみせる! 

 アギラ様のレベルは280、お前達が今勝てる様な相手では無い! 

 さあアギラ様、そのお力でコイツ等を………はっ? 

 な、何を仰られているのですかアギラ様‼︎

 早くコイツ等を………そ、そん、な………」

 

 エミルは魔族に逆転の目はあるかと聞くと、魔族はベラベラとアギラと言う名の魔族を口にし、更にそのレベルは280とエミルも流石に驚くべき数値を耳にしてしまう。

 それは自身がライラだった時の勇者一行のレベルを優に超えるからであった。

 その為矢張りかつての自分超えをする事が急務とプランに急変更を入れると、魔族は何故か独り言を話し、勝手に絶望して空を見上げてしまっていた。

 

「何だコイツ、独り言を話しやがって」

 

「アル、魔族はあの額にある赤い水晶を介して念話が可能なんだよ。

 お父様やリリアナ様が確かにそう言ってたよ、ね、ルル?」

 

「言ってたわ。

 そしてアギラ様とか言う魔族の名を出した後勝手に絶望した所を見るにそのアギラに見捨てられたと推察が可能よ」

 

 アルはブツブツと独り言を話した魔族を怪訝な目で見てると、サラとルルが魔族は額にある赤い水晶で念話が可能、更には勝手に絶望感に満たされている所を見てルルはアギラと言う魔族が死に体のこの魔族を切り捨てたと推察しながら次にエミルが何をするのかを見届ける気で居た。

 

「…逆転の目は無くなったわね。

 じゃあ心置き無く止めを刺すわ………但し、コレは貰うわ‼︎」

 

【ググッ、ブシャァ‼︎】

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 エミルは逆転する事が無くなった魔族に止めを宣言し魔法で殺す………かと思った次の瞬間、エミルは魔族の赤い水晶を引き抜くと言うロマン達も理解し難い行動に出た。

 そして水晶を引き抜かれた額からは青い鮮血が噴き出し、その血がエミルに掛かりながら魔族は踠き苦しみ始めていた。

 

「それじゃあ止めよ、消えなさい、『星珖波(スターバースト)』‼︎」

 

【キィィィィィン、ドォォォン‼︎】

 

 そうして漸く止めに入ったエミルは光の上級魔法を使い、星の光を集約して炸裂させ魔族を消滅させた。

 容赦無く、問答無用に。

 

「エ、エミル、何でその水晶を引き抜いて態々苦しめる真似を…?」

 

「別に苦しめさせる意図は無かったわ、ただ将来的な事に必要な物だったから引き抜いたのよ。

 それより…そろそろね」

 

 ロマンはエミルの行動について本人に問うと、エミルは将来的に必要だと話すだけだった。

 ロマン達には分からないがエミルにはしっかりとした目的があった。

 それは前世に残して来た課題であり、絶対にその課題を終わらせなければならないのだ。

 そしてエミルがそろそろと告げた次の瞬間、ロマン達はレベルが自分自身で明らかに上がったと感じる実感を持ち自身の手を見ていた。

 

「これって…レベルアップ? 

 でも明らかに強くなり過ぎてる気が…」

 

「当然よ、相手はレベル173と私達を上回ってた魔族よ。

 でもお飾りのレベルみたいで魔法も絶技も余り強く無かったわ……兎に角、サラ達もロマン君もレベルが20以上上がったわ。

 正確にはサラがレベル180、アルが184、ルルとロマン君が182よ。

 おめでとう」

 

 ロマン達は明らかに上がり過ぎたと感じる自分のレベルに違和感を感じていた所、エミルは黙っていた相手のレベルを明かし、その数値は173と明らかに自分達1人1人を上回る物であった。

 しかしエミル曰く飾りらしく、魔法も絶技も強く無いと言い放ち、しかしエミルもやや肩で息をしながら話を続けてロマン達全員はレベルが22も上がると言う違和感の正体を話していた。

 

「ほう、レベルが22も上がるか。

 なら魔族狩りでもやってみるか?」

 

「駄目よ、故意に魔族に挑むのは危険よ。

 特に名前がある魔族は全員レベルが220を優に超えてるって文献であったわ。

 そしてアギラと言う魔族のレベルは280だとさっきの名無しの魔族は言ってた。

 この事から私とロマン君はレベリングをしながら探し物をする事になったわ。

 アル、もう一度だけ言います、魔族狩りは駄目。

 名ありの魔族に当たれば死ぬわ」

 

 アルは此処で冗談半分で魔族狩りをしようかと提案した所、エミルは猛反発しライラの時の記憶や遺された文献から名前のある魔族に当たれば確実に死ぬ事を警告で伝え、2度も同じ事を念押しで言い放ちサラやルルもアルを心配した目で見ながら魔族狩りは駄目だと雰囲気で伝えていた。

 

「…けっ、冗談だよ、真に受けるなよ」

 

「それで良いわ。

 後、皆に言って置く事があるわ。

 500年前に冒険者推奨レベルが150以上必要だったのは何故か、よ」

 

 アルは冗談だと言い切り戦斧を背負いながらそっぽを向き少し地雷なジョークだったと内心感じていた。

 するとエミルは500年前の冒険者推奨レベルが何故150以上必要だったかを言うと話し始め、サラやルルは親から聞いてる為改めて復習を兼ねて聞く様にし、ロマンとアルは先程の名無しの魔族との戦いの後にそれを言う事にある程度予測が付き、しかし黙って聞いていた。

 

「それはエンシェントドラゴン等が今より居たのもあるけど、本当の理由は名無しの魔族の時点でレベル150オーバーだったからなの。

 これは王家の中に秘匿されたライラ様が残した検閲文献の中にそう書かれていたからよ。

 だから私は魔王討伐に当たりフィールウッド国の最北の世界樹で千里眼(ディスタントアイ)転移魔法(ディメンションマジック)が使えるレベル140を最低ラインにしてレベリングしたのよ、10程度の差は工夫すれば埋められるから。

 実際は163になったけれどね」

 

 エミルはライラの時の記憶や検閲文献内に書かれたその理由、名無し魔族の時点で最低150オーバーのレベルを持っていたからである。

 そしてエミルが最低140を目指したのも千里眼(ディスタントアイ)転移魔法(ディメンションマジック)を支える最低ラインでもあり、レベル10程度なら差を埋めるが可能な為でもあった為である。

 

「…そして、こうやって魔族が平然と現れた…つまりお父様達が言っていた戦いの刻が来たってことになるね…」

 

 それ等を聞き場の空気が重くなる中でサラが最後に賢王ロック達の言っていた戦いの刻が来たと告げるとルルも頷き、エミルも実感として持っていた。

 名無しの魔族が自分達の前に現れ、名ありの魔族に念話をしていたと言う事はそれ即ち、門の封印が完全に解けている事の証明であるからだ。

 更にそうであるならば魔界からの侵略が再び始まるのもそう遠くないのだと、その場に居た5人は理解せざるを得なかった…。

 




此処までの閲覧ありがとうございました。
ルルはフードを取るとスイッチが入り性格が超強気になる一癖ある子でした。
そして名無し魔族でレベル150オーバー、500年前の世界は魔境だったのです。
さて、今回は属性の関係についてです。
火と水、風と土、光と闇は反発し合い、雷は水系に大ダメージを与え、氷は強ければ火すら凍らし、雷と氷も反発しない様に見えて反発作用が発生します。
そしてこの反発作用の中で威力が上回った方の魔法は打ち勝ちますが威力がその分減らされます。
そして火は風と土に、水は土と風に対しては互いを助け合って片方の威力を上げたり拘束力を上げたりと副次効果が発生します。

次回もよろしくお願い致します。

追記:乱風束のルビ振りが初期案とごっちゃになって投稿されていたのに気付き過去投稿分の物までを修正しました、大変失礼致しました。


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第10話『エミル達、採掘する』

皆様おはようございます、第10話目更新でございます。
今回は前回の戦闘の後の続きとなります。
魔族の襲撃を突破したエミル達は本来の依頼に戻ります。
では、本編へどうぞ。


 エミル達が魔族を斃した後、エミルは浴びた青い鮮血を洗い流す為近場の川辺で身体を洗い、服も洗い火の下級魔法で焚いた焚き火で直ぐに乾かし、そして全員がエミルを待っている間に逃げ出した馬達も全てが終わった事を察し馬車を引いて戻って来ていた。

 因みにアルは気になる事があり魔族の破損した鎧の一部と槍を回収して荷台に乗せていた。

 

「それにしてもエミルが言っていたあの魔族の赤い水晶…『魔血晶(デモンズクリスタル)』が将来的に必要になるって何なんだろうね〜?」

 

「…分かり、ません。

 魔血晶(デモンズクリスタル)は………念話に使われるだけで無く…魔族の、核にもなってる、厄介な…物です………。

 アレが、ある限り………魔族は、名ありの、魔族に与えられた力で………復活します…」

 

 サラがエミルの言う将来的な事に必要になると言う言葉を改めて振り返り、他の3人にも質問してみるがアルはお手上げ、ルルはリリアナや書物から学んだ魔族の額にある赤い水晶、魔血晶(デモンズクリスタル)の持つ厄介な特性、名ありの魔族の手に渡れば魔族が復活する事を話し、尚の事必要になると言う意味が分からなくなっていた。

 

「…でも、エミルが必要だって言うなら絶対に必要なんだと思う。

 まだ数日しかパーティを組んでいないけど、エミルの自信家な部分は信用出来るんだ。

 だからそのエミルが必要だって言うなら僕は信じたい、エミルが僕を信じてくれた様に…!」

 

 だが此処でロマンがエミルが必要ならばと言った事に対して彼女は数日間で不思議と自信家な面が見え、ライブグリッターの話を加味してそのエミルが必要と言った言葉を信じたいと口にする。

 それはエミルが自身の優しさや勇気を信じた様に、エミルのその部分やエミル自身を信じたい、そんな信頼から出て来た言葉だった。

 

「…まぁ、アイツが世界の命運を握ってるってルルの予知で出ちまったし、何より会って直ぐの俺様達よりもお前が信じるっつうならそれで良いんじゃねぇか? 

 何せロマン、お前がエミルのパーティメンバーなんだからな」

 

「だね〜、ロマン君が言うならそれ以上私達から言う事は無いね〜。

 …あ、エミルが来た! 

 お〜い、早く早く〜!」

 

 そのロマンの言葉にアルやサラは世界の命運を握るエミルのパーティメンバーのロマンが言うなら自分達が口を挟む必要は無いとしてそれ以上何かを言うのを止めた。

 それと同時に川辺がある森からエミルが出て来た為サラは手を振り彼女を早足にさせた。

 

「ごめんなさい、待たせちゃった?」

 

「いや、魔族と戦った時よりかは時間は喰っちゃいねぇよ。

 さあ行くぜ、馬を歩きから走らせて少し時間短縮を図るぞ!」

 

「手綱を握るのは私だけどね〜」

 

 エミルは待たせたかと4人に聞くと、依頼人でもあるアルが先程の魔族との戦闘よりも待っていないと気を利かせた。

 しかし魔族との戦闘等もあり、予定よりも大幅に時間を取られたとして馬車を飛ばして時間短縮を図ると予定変更を叫び、サラ達は変わらずアルとルルは荷台に乗りサラが手綱を持った。

 

「あ、ロマン君少しお願いがあるんだけど馬の手綱を持ってくれないかな? 

 私はこの魔血晶(デモンズクリスタル)にちょっと用があって手綱を握られないから」

 

「そうなんだ…うん、分かった。

 じゃあ僕が馬の手綱引きを継ぐから荷台でそれに集中してて良いよ」

 

「本当にごめんねロマン君、この埋め合わせは必ず払うからね」

 

 するとエミルは魔血晶(デモンズクリスタル)に集中したいとして手綱をロマンに握る様に頼み出す。

 それを引き受けたロマンは快諾して荷台にエミルを乗せて手綱を握った。

 

「それじゃ行くよロマン君、ハイッ‼︎」

 

「うん、ハイッ‼︎」

 

『ヒヒーン‼︎』

 

 そうしてロマンが手綱を握ったのを確認してサラが先に馬に早く走る様に指示を出して馬車が急発進し、その後を追い掛ける為にロマンも馬に指示を出して後ろを付いて行くのであった。

 その間にエミルは首紐に掛けた魔血晶(デモンズクリスタル)に手を翳し、魔力を放出し小さな魔法陣を形成し、過去からの課題を片付ける為に作業を開始するのであった。

 しかしその間ロマンや馬の気分の悪くなる光が魔血晶(デモンズクリスタル)から放たれ、見た者や浴びた者、馬は気分が優れずにいたのだった。

 

 

 

 それから山道に入り、崖から落ちない様に間隔を開けながら馬車を操り合計1時間半後、ほぼ予定時刻の昼前に鉱山に辿り着き全員で第2採掘場前に馬車から降りてアルが魔法袋(マナポーチ)から取り出した鶴嘴等の採掘道具を全員に渡していた。

 

「さて! 

 本来ならロマンの剣の分のミスリル鉱石を回収して帰ればよかったがさっきの魔族との戦闘で俺とルルのミスリルアーマー一式やミスリルプレート、武器まで傷付きやがった。

 だから俺様達の分も含めて採掘せにゃならんくなっちまった。

 エミル、透視(クリアアイ)観察眼(アナライズ)が使えるなら純度の高い鉱石を俺様達に教えやがれ!」

 

「分かったわアル。

 それじゃあ採掘開始ね」

 

 そしてアルは鶴嘴を抱えながら本来の予定よりも更にミスリル鉱石が必要になった事をエミルとロマンにも伝え、エミルに透視(クリアアイ)観察眼(アナライズ)を使い純度の高い鉱石を見つける様に指示を出し、坑道内に設けられた松明に火を点けて行きながら奥へと進み始めた。

 

「あ、ロマン君此処に純度の高いミスリル功績があるから此処で採掘して。

 アルはこっち、サラはあっち。

 ルルは私と一緒にちょっと奥の方にある鉱石を掘ろうね。

 じゃあ採掘作業を楽にする為にも、身体強化(ボディバフ)III‼︎」

 

「おう、鉱石を傷めず確実に掘れる為に敢えて身体強化(ボディバフ)をIIIで止めるのは採掘についてそこそこ知識がある証拠だな。

 流石は王族、そんなトコまで教育が行き渡ってるか。

 じゃあエミルが言った場所で掘って掘って掘りまくるぞお前等ぁ‼︎」

 

 そうして坑道を歩く中でエミルは純度の高いミスリル鉱石が大量に含まれる採掘ポイントを割り出し、それぞれに掘る場所を指示を出すと更に鉱石を傷めず、それでいて楽に掘れる様に身体強化(ボディバフ)IIIを自身を含む全員に掛ける。

 それを見聞きしたアルはこんな炭鉱夫の知識すらある事に感心しながら全員に掘る様に指示を出し、皆がポイントに付き鶴嘴を振るったりし始めた。

 

「そう言えばルルって、フードを取って戦闘に入った時滅茶苦茶強気で普段の口調からは考えられない位、物をしっかりと言ってたよね? 

 アレは、何なのかな?」

 

「あ、あれは、その………戦闘モード、みたいな…物、です! 

 何方も、ちゃんとした私なので………気にしないで、下さい…!」

 

 そうして鉱石の採掘作業に入ると、エミルはルルに戦闘時の普段との変わり様について聞くとルル曰く戦闘モードらしく、何方もちゃんとした自分だと言って二重人格の様な物では無く気分がハイになっているだけだとエミルは解釈し、そう言う性分であると記憶に留める事にした。

 

「あ、わ〜いやった〜、ミスリル鉱石ゲット〜‼︎」

 

「わ、硬い! 

 これは…やっぱりミスリル鉱石だ!」

 

「ガッハッハッハッハ、大量大量‼︎

 これなら直ぐ必要な分が集まるわ‼︎」

 

 それから30分後、エミル達を含めて5人は次々と純度の高いミスリル鉱石を採掘し、これを眺めていたアルは高笑いしながら必要な分が直ぐに揃うと叫び、そして身体強化(ボディバフ)の効果が切れる度にエミルは掛け直しを行い、そうして採掘開始から1時間半が経過した頃、アルとエミルの魔法袋(マナポーチ)に大量の純度高めのミスリル鉱石が収められ坑道の外に出て作業を終了する。

 因みにエミルとルル、アルは当初の採る量より更に多く採っていた。

 

「ガッハッハッハッハ‼︎

 これだけあればロマンの剣を鍛え直すついでに俺様達の装備も鍛え直せるわい‼︎

 それじゃあアイアン村に帰るぞ、あそこの鍛冶屋を借りて早速作業に移るぜ‼︎」

 

「これなら日が落ちる前に帰れそうね。

 あ、ロマン君、帰りも手綱を握ってくれないかな?」

 

「うん、分かったよ」

 

 採掘道具をアルに返品すると、エミルのも合わせて魔法袋(マナポーチ)を覗き見て集まった鉱石を見てアルはご満悦と言った表情を見せ、早速アイアン村の鍛冶屋を借りて作業に移ると言い馬車の荷台にルルと共に乗り込む。

 そしてエミルは魔族を斃した後の鉱山に来る時と同じく、ロマンに手綱を任せて赤魔晶(デモンズクリスタル)に集中し始めた。

 

「後はまた魔族がまた襲撃して来なかったら日が傾く前に村に帰れるね」

 

「うん、どうか魔族が出ない様に…!」

 

「けっ、あんな不意打ちはレアケースだっての‼︎」

 

 気分が優れない光の中で馬車が動き出し、山道を馬達が馬車を転がさない様にゆっくり歩く中、ロマンは日が傾く前に村に帰れると話しつつ、魔族の襲撃が無ければと口にし、それを聞くとサラはまた魔族が出ない事を祈っていた。

 しかしアルはあの襲撃はレアケースだと話しながらまた来ないであろうと楽観視では無いが、魔族との戦いで感じたある種の死の匂いを感じない為恐らくは襲撃は無いと判断していた。

 

「…大丈夫、300キロメートル範囲内には魔族の存在は確認出来ないから」

 

「エミル、魔血晶(ソレ)に集中しながら千里眼(ディスタントアイ)で警戒してるの? 

 凄いマルチタスクだね…」

 

 するとエミルがロマンに聴こえる様に魔族の存在は確認出来ないと話し、それを聞いたロマンは魔血晶(デモンズクリスタル)に集中しながら千里眼(ディスタントアイ)で300キロメートル範囲内を警戒し、二の轍は踏まない様にしてる事を知り、そんなマルチタスクをこなすエミルをロマンは凄いとはっきりと口にした。

 何故なら自分にはそんなマルチタスクが出来ないからである。

 

「…ロマン君も、サラもアルもルルも凄いよ。

 初めての魔族との戦闘で小さな怪我をした程度で終わらせられたんだから」

 

「そ、それを言うなら………エミルも凄いと、思います。

 ………エミルも、魔族と『初めて』、戦ったのにちゃんと、魔法使いの…役割を、果たしてました、から…」

 

「…そうね、ありがとう、ルル」

 

 そのロマンの凄いと言う言葉にエミルは前世においての魔族との戦いは死が付き纏う恐ろしい物であるのに、本当に初めて戦ったのに軽傷と武具の少しの破損で済ませた4人にも凄いと言う。

 するとルルがエミルも初めて戦ってと言い、確かに『エミルでは』初めて戦った為額面通りでは無いが、ルルの言葉を素直に受け取り魔族との戦闘の勘は鈍ってない事を自身でも知るのであった。

 

 

 

 それから2時間半後、日が傾き始める直前にアイアン村に辿り着き、門が開かれ馬車が村の中へと入った。

 因みにエミルは魔力を魔血晶(デモンズクリスタル)に通すのを村の見える前で止めている。

 

「ロマンにアルさん達お帰り…って、皆そのレベル如何したの⁉︎

 ロマンとルルさんはレベル182、サラ王女殿下はレベル180、アルさんはレベル184、そしてエミル王女殿下もレベル185になってる⁉︎

 一体アグ山に行く間に何があったのさ⁉︎」

 

「あ、あはは、色々あったんだよ、色々…」

 

 するとエミルやロマン達を迎えたエヌは全員のレベルがたった半日程で22も上がった事に驚き、一体何があったのかと叫ぶとロマンも魔族に襲われましたと混乱を招く事は言わず色々あったと濁していた。

 

「それよりおい坊主、かぼちゃ亭で依頼達成報告をした後にこの村の鍛冶屋に案内しろ。

 俺様が俺様達の武具の鍛え直しをする為に借りてぇ」

 

「え、あ、はい、分かりました! 

 では話を通してかぼちゃ亭の外で待ってます‼︎」

 

 するとアルがエヌに鍛冶屋を借りて自分達の武具を鍛え直すと言い、それを聞いた瞬間エヌは敬礼をして鍛冶屋に話を通してかぼちゃ亭の外で待つと言いながらその場を去って行った。

 するとアルがロマンにウインクをし、これ以上根掘り葉掘り聴かれるのを防いだとロマンは理解し、アルに頭を下げていた。

 そして馬屋に馬車を入れ、馬達を預けると真っ直ぐかぼちゃ亭に向かい中に入る。

 

「いらっしゃいっと、ロマンにアルさん達か! 

 ロマンにエミル王女殿下、依頼は達成しましたか?」

 

「はいばっちりと、これがその証拠のミスリル鉱石です」

 

 宿屋の亭主のガルがロマン達が入って来たのを確認すると、依頼達成は出来たかと聞いて来た為エミルとアルは魔法袋(マナポーチ)からミスリル鉱石を大量に取り出し、最後に依頼の書かれた魔法紙(マナシート)を取り出しガルに提出した。

 

「うお、滅茶苦茶採掘しましたね! 

 何かあったのでしょうか?」

 

「はい、ある事が発生し、それにより懸念事項が出来た為ルルやロマン君達に協力して貰って多く採掘しました。

 そしてそのある事は………驚かず聞いて、騒ぎにならない様にして下さい。

 実は私達はアグ山に向かう途中で魔族に襲われました」

 

 ガルは大量のミスリル鉱石をみておどろきながらなにかあったのかと尋ねると、エミルはアグ山に向かう途中であった事…魔族の襲撃に遭った事を驚かず騒ぎにならない様に前置きをしながら話した。

 するとガルは周りを見て聞き耳を立ててる者が居ないか確認すると、カウンターから屈み気味になり小声でエミルと話を続け始めた。

 

「それは確かですか、王女殿下?」

 

「はい、現に私が今首から下げているこの赤い水晶、魔族の核たる魔血晶(デモンズクリスタル)です。

 1度お渡ししますので奥で魔力を通してみて下さい、ギルド協会の方なら知っている筈です。

 魔血晶(デモンズクリスタル)は地上界の者の魔力を通すと地上界の者の気分を害する光を放つと」

 

 ガルはエミルにそれは確かかと話し始めるとその当本人は魔族から摘出された魔血晶(デモンズクリスタル)の特性(無論検閲内容)を話し、ガルはそれを受け取り奥へ行き魔力を集中して魔血晶(デモンズクリスタル)に魔力を通した。

 

『っ⁉︎』

 

 すると赤き水晶は邪気とも言うべき物を多分に含む光を放ち、ガルは驚きそれを床に落としてしまった。

 更に巻き添えでリィナも皿を落とし割ってしまう。

 そして恐る恐る拾い上げ、直ぐにエミルの下に走りそれを手渡した。

 

「か、確認しました…間違い無くこれは魔血晶(デモンズクリスタル)、魔族の核です…! 

 い、依頼完了の承認後にこの事はギルド協会全体に共有し警告を促します、魔族が遂に出現した、と…!」

 

「はい、私が言いたかった事を率先して行うと言って頂きありがとうございました。

 では依頼完了の判をお願い致します」

 

 ガルは魔血晶(デモンズクリスタル)を返却し、エミルがやりたかった事の1つである全体への警鐘を鳴らす事を言う前から率先して行うと約束したガルに礼を述べながら魔法紙(マナシート)に依頼完了の了の判が刻まれ、これで依頼は達成され、報酬のエミルの剣の修理が行われる事になった。

 

「エミル、もしかしてガルさんに全体に警告を出して貰いたかったからそれを?」

 

「それもありますけど、本当は別の理由があるの。

 今は内緒ですけど伝えるべき時が来れば必ず伝えますよ。

 それよりロマン君、剣を鞘から抜いて状態を見てください」

 

 ロマンは魔血晶(デモンズクリスタル)を引き抜いた理由はこれなのかとエミルに尋ねると、そのエミルは今は内緒と言い本当の答えは未だ言わない様にしていた。

 そんな会話をしていた中、エミルはロマンの剣を抜き状態確認をする様に促した。

 

「え、うん………って、うわ⁉︎

 昨日アルに見せた時よりも更に酷い状態に⁉︎」

 

「…やっぱしか、俺様の見間違えじゃなかったみてぇだな。

 お前、持ち帰ったあの魔族の槍と何度も打ち合っただろ? 

 で、最後の方にはその状態、更に刃毀れして刀身もヒビ割れて何時折れても可笑しく無い状態になってやがった。

 エミル、防具にエンチャントを掛けた理由はこれか?」

 

 鞘から抜かれたミスリルソードは最早まともに戦いに耐えられない見るも無惨な状態と化し、それを戦闘後にアルは鞘に収める瞬間に気付き自分達の防具用と言い張りながらこの状態の剣を鍛え直そうとし、エミルも同じ事を考えていた為必要以上に鉱石を採掘したのである。

 そしてアルは問いた、ロマンの防具に魔法祝印(エンチャント)を掛けた理由はコレかと。

 

「ええ。

 嬉しい誤算だったのはロマン君が剣で弾いて防具にダメージが入らない様にした事。

 第4の魔法祝印(エンチャント)は防具の強度アップにしてあの魔族の武器で余計な傷を増やしたく無かったのだけど今は未だ付けなくて大丈夫…と思っていたら魔族の襲撃が来てしまったの、見通しが甘かったわ」

 

 エミルはアルの問い掛けにYESを出し、ミスリル製武具から付けられる様になる第4エンチャントは未だ抜きで大丈夫と踏んでいた所に魔族が現れた事で何もかもが見通しが甘かったと話し、完全な誤算だったと話した。

 

「(そう、見通しが甘かった、まさかあんなに早く魔族が来るなんて…。

 そして、魔族が現れたならもう門に掛けた縛られし門(バインドゲート)も解けてる…プランの大幅な見直しが必要になるわ)」

 

 事実エミルはエンチャントを完全にするのはロマンの剣が直ってからが良いタイミングだと考えていた為あの戦いは誤算だったのだ。

 しかしロマンが武器で弾き合いをした為防具に余計なダメージが入らなかったのだけは嬉しい誤算でもあった。

 でなければミスリル鉱石が更に必要になったからだ。

 そして同時に、エミルは自身の中のプランを大幅な見直しをしなければならないと考えていた。

 

「…ふん、兎に角ロマンの剣や俺様達の武具の鍛え直しが先決だ。

 何せ俺の斧も鎧も、ルルの武具も魔族の鎧を斬ったり槍を弾いたりしたから傷付いちまったからな。

 ついでにあの槍と防具の破片にどんな魔法祝印(エンチャント)が付いてるかも調べてやる。

 さあ、ルルもミスリルダガー2本とミスリルプレート、軽装ガントレットやレギンスも寄越しな。

 俺様の武具と一緒に直してやる」

 

「…はい…」

 

 それらを聞き、少しは納得したのか傷付いた自分達の武具とロマンの剣の鍛え直しをするとアルは宣言し、同時にあの槍や防具の破片に付いた魔族側の魔法祝印(エンチャント)も片手間に調べ上げると宣言する。

 エミルは壊れた防具からそれを読み解くのは難しい筈だが、ゴッフの弟子なら大丈夫だろうと思いそれもアルの目に実際に見て貰おうと考えた。

 そしてロマンとルルは自身の傷付いた剣と武具一式を渡した。

 

「さて久々の大仕事だ、こりゃ暫くは鍛冶屋に籠り切りだぜ…」

 

 アルは手渡されたロマンの剣、ルルの武具に自身の武具、そして改めて自身とエミルの魔法袋(マナポーチ)に入れたミスリル鉱石を持って外に出て、エヌの案内で鍛冶屋まで赴きその戸を開け中に入って行った。

 

「大丈夫かな、アルは…暫く籠るって言っていたけど…」

 

「心配ないよ〜ロマン君! 

 アルは頑固者だし色々納得させるのに骨は折れるけど仕事の腕は確かだよ! 

 だから、絶対皆の武具を鍛え直してくれるよ‼︎

 …でも鍛冶屋に籠るのは珍しいから、暫くは外に出ないだろうから食事は持って行ってあげようね」

 

 ロマンは剣の心配とアル自身の心配をし、その背中が梶谷の中に入るまで見送っていた所にサラが心配は要らないと話した。

 それは偏にアルの腕を信じているからこそ出る言葉であった。

 しかしそんなサラでも鍛冶屋に籠って作業は珍しいと話し、仕事は暫く掛かるだろうと話しながらかぼちゃ亭の中に入って行った。

 

「それじゃあ皆、アルが武具の鍛え直しが終わるまではアイアン村で待機しましょうか。

 あ、サラにロマン君、貴女の上級弓『フェザーボウ』や弓兵用防護服でも上位にある『賢人の衣』にフルで魔法祝印(エンチャント)を、ロマン君は防具に第4の魔法祝印(エンチャント)を掛けて良いかな?」

 

「えっ、良いの⁉︎

 じゃあ付けて‼︎」

 

「僕もお願い、エミル」

 

 そうしてエミルが手を叩き、アルの仕事が終わるまでは村に残ろうと話すとサラ達もロマンも頷き、アイアン村で暫く滞在する事になった。

 するとエミルは丁度良い為サラのフェザーボウと賢人の衣に魔法祝印(エンチャント)を掛けると提案するとサラは快諾。

 ロマンも了承しそれを聞きエミルは杖を取り出し早速準備に入った。

 

「先ずフェザーボウ、此方には射程距離アップ、威力アップ、魔力浸透率アップ、そして矢の速度アップを。

 次に賢人の衣には防御力アップと魔法ダメージ減衰、回復力アップ、そして移動速度アップ魔法祝印(エンチャント)全部IVを付与‼︎

 更にロマン君の防具全部に強度アップIVを付与‼︎

 えい‼︎」

 

「お、おぉ〜‼︎

 凄い、この服着てるだけで走るスピードが上がった事が実感出来る‼︎

 ありがとう、エミル‼︎」

 

 そうしてエミルは後衛のサラに掛ける魔法祝印(エンチャント)を考えて決め、直ぐに距離を空けて其処から速度が上昇し絶技用の魔力浸透率も上がった矢を放つのと元から距離が空いてる場合は射程距離が上がった弓で狙撃すると言う無駄が無い魔法祝印(エンチャント)を掛けていた。

 それにサラは大喜びし、エミルの手を持ち屈託の無い純粋な笑顔を向けていた。

 

「僕の防具も強度が上がって、更に硬くなったよ。

 ありがとう、エミル!」

 

 そしてロマンも第4魔法祝印(エンチャント)の効果を確かめるべくアーマーをガントレットで叩くと先程よりも硬くなった事が分かりエミルに礼を述べていた。

 

「…さて、そろそろ食事にしてアルにも食事を運びましょうか」

 

「そうだね。

 じゃあリィナさん、早いですけど晩御飯の用意をお願いします! 

 それから暫く宿泊しますのでよろしくお願いします! 

 後先程のお皿の代金は弁償致します」

 

「はい、わかりましたよ! 

 あ、皿は良いですよ、沢山ありますから!」

 

 その後魔法祝印(エンチャント)を掛け終え、やり切った表情を見せたエミルは早速食事にしようと咳に着きながらリィナに食事を注文し始め、更にお皿弁償と暫く滞在する為に宿泊すると言いリィナもそれを聞き宿泊者名簿にロマンやエミル、サラ達の名を書き始めていた。

 因みにお皿の弁償は向こうの意思を汲みしなくて済まされてしまった。

 

「(…さて、私は過去の課題に決着をつけましょうか。

 ライラの時代で結局片付けられなかった課題を…)」

 

 そしてエミルは首からぶら下げた魔血晶(デモンズクリスタル)に手を掛け、ライラの時に残してしまった課題の着手に掛かりこの滞在期間中にそれを片付けてしまおうと考え運ばれて来る食事を口にしながら思案するのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
ロマンの剣、更にボロボロになってしまうの巻。
更にアルとルルの武具も傷付いてしまってました。
この理由は次回に。
そしてロマンの防具に第4魔法祝印(エンチャント)、サラの武具にも魔法祝印(エンチャント)が付きました。
魔血晶(デモンズクリスタル)の特性は地上界の者の魔力を通されると不快な光を出すだけで無く魔族同士の念話、名ありの魔族や勿論魔王の手に渡ると肉体が滅せられた魔族が復活すると並べただけでもチートな物です。
それを手にしたエミルは何をするのか、またロマンの剣は無事に直るかお楽しみ下さいませ。

次回もよろしくお願い致します。


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第11話『エミル達、誓いの翼となる』

皆様おはようございます、第11話目を更新致しました。
今回はロマンの剣の修復とその他にも重要な事がある回となっております。
では、本編へどうぞ。


【カン、カン、カン‼︎】

 

 エミル達の滞在が決まり、鍛冶屋にアルが籠りその店主がアルが振るい上げ打ち付ける金槌とその音に耳を奪われながら、アルは先ずは先に直ぐに終わるルルの武具の修復から汗を掻きながら始めていた。

 

「ふう、ルルの戦闘スタイルは相手の防具の縫い目を狙いやり方で助かったぜ。

 お陰で前衛で1番ダメージ少なかったからな、がこれならアイツ等が寝静まる頃には終わりそうだぜ。

 さあ、ミスリルプレートは終わったから次は軽装ガントレット、レギンス、そしてダガー2本の順だ…さあ店主、火の魔法や溶けたミスリルの管理は欠かすなよ!」

 

「は、はい‼︎」

 

【ジュゥゥゥ、ジョワッ‼︎

 ギリギリギリギリ、カンカンカンカン‼︎】

 

 既にルルのミスリルプレートを修繕したアルは店主を即席助手にして簡単な火の魔法を浴びせて溶けたミスリルの温度管理等をやらせ、自身は常に持ち歩く鍛冶道具一式で溶けたミスリル鉱石を型に嵌めたり、冷やして固めたりルルの手に馴染む様に削り曲げたり、そして打ち付けるを繰り返し行い始めた。

 

「凄い、これが職人王ゴッフ様のお弟子様、アルさんの腕…‼︎」

 

 その手際の良さ、シンプルながらも他者を魅了する職人の輝き、それをアルは放ちながらミスリルガントレットの修繕があっという間に6割も終わり始めていた。

 店主はその職人芸にすっかり虜となり、温度管理をする傍らにそれ等を見て遥か高みの存在の鍛治を体験していたのだった。

 

 

 

 一方宿屋ではエミルが風呂を入り終えた後部屋に戻り、その地上界の生物を不愉快にさせる光が漏れぬ様に仕切りや窓に布を被せ閉め切り魔血晶(デモンズクリスタル)に魔力を集中して昼間にしていた事を更に続けていた。

 これを一刻も早く終わらせる事がエミルの絶対にやらねばならない事であり、それは自身がはっきりと分かってやっているのであった。

 

「(今頃アルはルルの武具の修繕を終えて自分の武具の修繕に入った筈。

 ロマン君の武器の鍛え直しは魔族の槍と打ち合ってあんな状態になっているから明日中掛かり通しにしないとならない筈)」

 

 その中でエミルはアルの仕事作業進捗を予想しながらロマンの剣が1番最後に回されるとも思っていた。

 それは『魔族の武器と打ち合った結果』、剣が更に酷いダメージを負った為鍛え直す範囲が広がり過ぎた為である。

 無論何故そうなったかはライラの記憶と知識を継ぐエミルには如何なる要素がそうしたか確信が持てていた。

 

「(なら私も明日、休憩としてアルやルルの武具にも魔法祝印(エンチャント)を掛ける事を聞きに行った後これに集中しよう。

 そしてその間に必ず過去の私(ライラ)が残した課題を…)」

 

 更にマルチタスクの思考はルルは兎も角魔法祝印(エンチャント)嫌いなアルの武具にすら魔法祝印(エンチャント)をする事を聞きに行った後にこの魔血晶(デモンズクリスタル)へ行っている作業に集中すると決め、そしてロマンの剣が仕上がる間に必ず前世で終わらせられなかった課題を片付けると心に決めながら魔力を魔族の核に通し続けるのであった。

 

 

 

 その翌朝、エミルは夜通しの作業の休憩に1階へ降りると、其処にはサラとルルと、そしてロマンが朝食を摂っていた。

 それを見つけたエミルは同じテーブルの椅子に座り3人に話し掛け始めた。

 因みに魔血晶(デモンズクリスタル)は万が一に盗まれない様に首から下げている。

 

「ロマン君、サラ、ルル、おはよう! 

 ルルの武具はまだ帰って来ないかな?」

 

「あ、エミルおはよう。

 うん、サラから僕の剣は多分大作業になるから今日に回されるって話だから先ずルルのが先に来ないか今こうしてご飯を食べながら待ってるんだよ」

 

 如何やらアルはまだ鍛冶屋から戻らないらしく、ロマン達は朝食を食べながら彼が来るのを待っていたらしい。

 エミルも朝食に焼きパンと玉子焼きと軽めの朝食を食べ、同じ様に席で待っていた。

 

「んぐ、んぐ…ふう、ご馳走様でした」

 

【ガチャ、キィィ】

 

「ようお前等、おはようだな」

 

 そうしてエミルが朝食食べ終わりご馳走様の礼をした直後、かぼちゃ亭の戸が開き、外からアルが自身の鍛え直した武具を装着しつつルルの武具も持って来てルルの前までやって来た。

 

「ほれルル、お前の武具だ。

 早く装備して来い」

 

「…ありがとう、アル…!」

 

 早速アルはルルに武具を渡すと、彼女は2階に上がり鍛え直されたミスリルプレート等の防具やミスリルダガー2本を装備して1階へと降り、全員で周りに人が居ない屋外の開けた場所に出るとルルはフードを取り、身体をクルリと回転させた後腰に差したミスリルダガー2本を抜き、軽く振り回して感触を確かめると以前よりも更に手に馴染み身体の一部の様に感じていた。

 

「…うん、コレなら前よりももっと戦える。

 本当にありがとう、アル」

 

「へっ、そう言ってくれるなら職人冥利に尽きるってもんよ。

 そんじゃぁ俺様はロマンの剣を鍛え直しに行くからまた明日会おうか」

 

 それからミスリルダガー2本を手の上で回転させながら鞘に収めると、ルルはアルに感謝の礼を口にするとアルは流石に鍛え直した物を軽快に使い熟すのを見て少し素直に礼を受け取りそのままロマンの剣の作業へと行こうとした。

 

「あ、その前に2人共、2人の武具にも魔法祝印(エンチャント)を掛けたいんだけどダメかな?」

 

 するとエミルは昨夜から決めていた2人の武具にも魔法祝印(エンチャント)を掛けたいと言う意志を伝える。

 ルルは何も言わずに居たが、アルは不機嫌そうにエミルのその目をじっと見ていた。

 サラは2日前の夜にアレだけアルは魔法祝印(エンチャント)嫌いなのを理解した筈なのにこのエミルの言葉に驚きながら、何時でも2人の間に入れる様に準備をしていた。

 

「………ふん、お前ならそう言うと思ったよ。

 ほら、好きなだけ魔法祝印(エンチャント)を掛けやがれ、この頑固者のアル様の機嫌が変わらねぇ内にな」

 

『えっ⁉︎』

 

 所が、何とアルはルルだけで無く自身の武具にも魔法祝印(エンチャント)を掛ける事を承諾し、サラと更に2日前の夜の出来事を目撃していた為明日は槍が降るのでは無いか? と3人に思わせてしまった。

 そしてそれを聞きエミルはアルの武具から先に魔法祝印(エンチャント)を掛け始めた。

 

「じゃあアルの防具一式には防御力アップ、魔法ダメージ減衰、軽量化、強度アップを。

 ミスリルアックスには威力アップ、魔力浸透率アップ、軽量化、強度アップ。

 手投げ斧には威力アップ、魔力浸透率アップ、投擲速度アップ、強度アップの魔法祝印(エンチャント)IVを一気に掛けるわ、えい‼︎」

 

 そうしてエミルの足下に魔法陣が現れ、アルの武具全てに4つの魔法祝印(エンチャント)が掛けられアルはその感触を確かめていた。

 

「…ふん、動き易くなったし俺様のミスリルアックスも振り回し易くなったな。

 そしてこの手投げ用の斧にすら最高効力の魔法祝印(エンチャント)を掛けるとは中々慎重だな」

 

「それは魔族と本格戦闘を見据えてるからよ。

 それを理解したからアルも嫌いな魔法祝印(エンチャント)を受け入れたんでしょう?」

 

「…ふん!」

 

 エミルはアルの武具全てに魔法祝印(エンチャント)を掛けた理由を魔族と戦うからと話すと、アルは鼻息を荒くしながらもそれ以上は何も言わずにそっぽを向きルルにも早く魔法祝印(エンチャント)を掛ける様に促していた。

 

「それじゃあルルの防具一式には防御力アップ、魔法ダメージ減衰、強度アップは共通として、元々軽装だから回復力アップを掛けるね。

 そしてミスリルダガー2本には威力アップ、魔力浸透率アップ、強度アップと硬い物を貫ける様に貫通力アップを掛けるね。

 サラの矢は魔族の鎧をあの時貫いていたから貫通力は問題無いからこれでOK?」

 

「良いわエミル、掛けて」

 

 そうしてルルの防具一式とミスリルダガー2本にも魔法祝印(エンチャント)IVが掛けられ、それを受けたルルは再びミスリルダガーを引き抜き火の下位絶技『火炎剣』を使うと自身の魔力がダガーにより浸透し、威力増加に繋がっていた。

 

「うん、コレなら魔族の防具や武器に掛けられた魔法祝印(エンチャント)にも負けない。

 ありがとう、エミル」

 

「どういたしまして、ルル」

 

「魔族の武具の魔法祝印(エンチャント)………あっ、忘れてた⁉︎」

 

 ルルはエミルの魔法祝印(エンチャント)に礼を言い、更に魔族側の魔法祝印(エンチャント)に負けないと口にしながらダガーに纏った火を消し鞘に収める。

 するとサラはルルの言葉で自身が忘れていた物を思い出し声を上げる。

 

「え、サラ、忘れてたって何を? 

 それに魔族の武具の魔法祝印(エンチャント)って何なの?」

 

「ロマン君、ロマン君の剣があんなになった原因はその魔法祝印(エンチャント)が関係してるのよ。

 魔族の防具には地上界の武器や魔法のダメージを減らし、地上界の武器が当たった瞬間強度を引き上げる魔法祝印(エンチャント)が。

 武器には地上界の者に対する殺傷力を高めて地上界の防具や武器の破壊効果がある魔法祝印(エンチャント)が掛かってるの。

 だからロマン君の剣はあんなにボロボロになったのよ」

 

 ロマンは魔族側の魔法祝印(エンチャント)が何なのかと聞くと、エミルが魔族の防具と武器にそれぞれ掛けられた対地上界用魔法祝印(エンチャント)と言うべき物が掛けられている事を明かし、ルルや思い出したサラは頷きそれが事実だとしていた。

 それを聞いていたアルも溜め息を吐き、後ろを振り返りながらエミル達に言葉を掛け始めた。

 

「俺様は、俺様の武具は何者にも負けない、それこそ魔族にさえ勝つとさえ信じていた。

 事実昨日の魔族には勝てたしな。

 だが…あの魔法祝印(エンチャント)が掛かった漆黒に澱んだミスリルの武具を見て、ルルからそれがどんなもんか聞いたらゾッとしたぜ。

 奴等は俺様達地上界の者を皆殺しにしたいからあんな魔法祝印(エンチャント)を掛けやがったんだってな。

 それに対抗するには同じ様に魔法祝印(エンチャント)で武具の防御力や強度を上げるしか無い、そう理解しちまったよ」

 

 アルは自身が作り上げた武具に絶対的な自信があり、魂を込めた物でもある為これなら魔族にも負けないと信じて疑っていなかった。

 だが魔族の武具を調べ魔法祝印(エンチャント)が掛けられていると知り、更にルルから聞いた内容で地上界に対する絶対の殺意とも言うべき物を背筋で感じてしまい、昨日は良く武具を破壊されずに勝てたと思い、自分は井の中の蛙だとゴッフとの職人対決以来に思い知らされてしまったのだ。

 その為エミルの魔法祝印(エンチャント)の提案を受けたのであった。

 

「さあこれで俺様が大嫌いな魔法祝印(エンチャント)を受けた理由が分かっただろ。

 なら今日はもう自由時間だ、お前等は英気を養ってろ。

 俺様はロマンの剣を鍛え直す、いや、最上の剣に生まれ変わらせてやるぜ」

 

 自らが嫌う魔法祝印(エンチャント)を受け入れた理由を語り終えたアルは、エミル達を置いて鍛冶屋に戻って行く。

 その去り際にロマンの剣を鍛え直す以上の出来にしてみせると語り、その背中からはその熱意が伝わり、サラとルルはこれならばロマンの剣の心配は要らないと感じエミル達の方を向く。

 因みにルルはフードを被り直した。

 

「じゃあ自由時間になったし、エミルやロマン君達はどうするのかな?」

 

「私はアルみたいに魔血晶(コレ)に付き切りになってやらなきゃいけない事があるから、ロマン君達は村の中を散策してて良いよ。

 それじゃあ解散、ロマン君後は任せたよ」

 

「え、エミル⁉︎

 …行っちゃった…あの魔血晶(デモンズクリスタル)にどんな価値があるんだろう…?」

 

 残されたサラはルルやエミル達に何をしようかと語ると、エミルは魔血晶(デモンズクリスタル)に付き切りになると宣言してロマンに2人を任せてかぼちゃ亭の宿泊中の部屋へと走り去る。

 サラはエミルが抜き取った魔血晶(デモンズクリスタル)にどんな価値があるか分からず首を傾げながら他の2人を見た。

 

「分からない。

 分からないけど…エミルなら無意味な事は絶対にしない、そう信じてるから僕は何か成果がある事を信じるよ」

 

「…確かに昨日の魔族との戦闘、最初の不意打ちに対応する時私の『逃げる』じゃなくて『相殺する』を選んだからね。

 逃げるのは間に合わないって即判断して。

 そんな子が無意味な事をする訳がない、何だかそう思えて来ちゃうね〜」

 

「…はい………」

 

 しかしロマンはエミルの事を信じると決めた日から彼女の自信家でありつつ慎重な姿勢、そしていざと言う際の大胆さを見て来た為無意味な事はしない、そう確信し何かを成すと信じ切っていた。

 その言葉を聞きサラも魔族の灼熱雨(マグマレイン)を相殺する選択をした事もあり、世界の命運を握るの有無に関わらずルルと共に信じよう。

 そう決めた2人はロマンに村を案内させて貰うのであった。

 

 

 

「グビ、グビ、グビ、ふぅ! 

 やっぱ大仕事には酒が欠かせないぜ、集中力が研ぎ澄まされる‼︎」

 

【カン、カン、カン、カン、カン‼︎】

 

「な、なんて方だ、刃毀れが全体に及んだ上に刀身にヒビが入ったロマンの剣をみるみる内に鍛え直している‼︎

 俺じゃあ諦めで新しい剣を薦めるのに…やっぱり鍛治職人としての腕が違い過ぎるッ‼︎」

 

 それから半日が経過して日が傾き、沈み始めた頃。

 アルは酒を飲みながら作業を続け、現在は金槌を振るい刀身をミスリルで刃毀れした部分やヒビ割れた部分を打ち直し最初にアルが見たミスリルソードの状態よりも良く修復が成され始める。

 アイアン村の鍛治師はとても自分には不可能な事をやって退けるアルの冴え渡る腕に感動すら覚え、溶かしたミスリルの管理をしながら業の数々を見ていた。

 

「グビ、グビ。

 ほれ、ミスリル流せ‼︎

 これを繰り返してロマンの剣を復活させんぞ‼︎」

 

「は、はい‼︎」

 

【ジュゥゥゥ、カンカンカン‼︎

 カン、カン、カン‼︎】

 

 それからも金槌でロマンの剣を打つ音が鍛冶屋の方から夜通し聞こえ、村人達もロマンの剣が直るか否かを心配する者も居れば、ゴッフ一門のアルが居るから何とかなると言うサラの言葉を信じた村人も居た。

 それは当然村長達もであり、アルの最高の腕を以てしてロマンの剣が鍛え直される事を祈っていた。

 

「(やってやるぜロマン‼︎

 ケイやテニアが残したこの剣、必ず修復してアイツ等の生きた証を、お前を守り抜いた愛と命、勇気に覚悟の籠った物をぜってぇ捨て去らせはしねぇぜ‼︎)」

 

【カン、カン、カン‼︎

 カン、カン、カン、カン‼︎】

 

 アルは更に自身が見送れなかったケイとテニア、2人の想いが詰まったこの剣を必ずや復活させると自らも想いを、魂を込めて鍛え直して行く。

 それが鍛治職人の、ロマンの両親を知るアルが金槌を振るう力を更に強く鋭くし、彼の持つ全てが、300年間職人王ゴッフの弟子として剣を作り上げたアルと言う1人のドワーフの誇りを輝かせる。

 

【カン、カン、カン‼︎

 カン、カン、カン、カン‼︎】

 

 そうして誰もが寝静まる頃にも金槌を振るう音が聞こえ、その音色は子供には子守唄、大人には魂の叫びに聴こえ村中にその音は1日中響き渡るのであった.

 

 

 

「………よし、魔血晶(デモンズクリスタル)の完全解析完了‼︎

 奴等がどんな原理で念話を使うのかも分かったわ‼︎

 ふう、思えば魔血晶(デモンズクリスタル)の解析半ばで奴等の復活の原理を魔法化させて転生魔法を作り上げたのよ。

 その私が解析出来ない訳が無いわね」

 

 一方同じ頃、魔血晶(デモンズクリスタル)に魔力を通して解析を完了させ、念話は原理までをも把握し切ったエミル。

 そして転生魔法は同じく魔血晶(デモンズクリスタル)を解析し、その半ばで作り上げる事が出来た過去の自分(ライラ)の記録に残らない禁忌の魔法だった。

 しかしそれを使い、500年の月日を掛けられエミルに転生し今日まで魔法を振るい続けたのだ。

 その自分自身が残した課題、魔血晶(デモンズクリスタル)の解析をし念話が何の様に行われてるかを知るのが課題終了の第1段階だった。

 

「さあ、次はこの魔族の念話を読み解き、聴く事が可能になる新しい魔法を作り上げるわよ‼︎

 何、心配するな私! 

 あの魔法が解析半ばで理論構築が出来て完成させられたんだ。

 今度は完全解析してから作り上げるからそう難しくは無い! 

 さあ行くわよ、体内魔力接続、魔法理論構築開始…!」

 

 そしてエミルは第2段階にして完成物、『魔族の念話を傍受する』魔法を構築すると言う全く新しく、誰も試みれなかった行為に踏み込み始めた。

 転生魔法を解析半ばで作り上げた自分なら此方も意図も容易く出来る、そう確信しながら魔法理論構を開始する。

 この日、ずっとエミルの部屋から少しだけ漏れていた不快な光は消え、代わりに彼女の魔力光が部屋を包みその光もまた、夜が明けるまで消える事は無かった。

 

 

 

 そして翌朝、エミル、アルが居ない中で3人は朝食を摂り始め、そして食べ終えるが肝心な2人は何方もまだ来ずロマンの剣を鍛え直しているアルは兎も角エミルが降りて来ないのは心配になり始めたロマンは階段を見始めて20分以上が経過した。

 

「エミル大丈夫かな、何かあったのかな…?」

 

「昨日は降りて来たのに今日は来ないって少し心配だよね〜」

 

「………エミルさん、大丈夫…なんでしょう、か…?」

 

 ロマンが心配する中でサラやルルも同様に心配し始め、昨日の元気な姿から全く姿を見せないエミルに三者三様の不安な気持ちが場の空気を支配し始めていた。

 そしてそれがピークに達した途端、ロマンは席を立ち上がり始めた。

 

「──僕、エミルの様子を見てくる!」

 

「あ、それなら私も!」

 

「…私も…!」

 

 ロマンはエミルへの心配から彼女の部屋に行き様子を見に行くと言い始め、するとサラやルルもその後に続き階段へ向かい上り始めようとした。

 

「あ、ロマン君にサラにルル、皆おはよう」

 

「あ、エミル‼︎」

 

 その階段を上り始めようとした所でエミルが階段を下り始めている瞬間を互いに目撃し、エミルは目に隈が出来ながら呑気におはようと言い、その姿を見たが目の隈が気になり大声を上げてしまうロマンと、全く対称的な2人の反応の差が出てしまう。

 そしてロマン達が階段から退くとエミルは階段を下り切り、改めて3人を見る事にするとエミルは3人が心配した様子を見せた事に気付き、口を開いた。

 

「あ〜、朝食を皆で食べるタイミングで起きて来なかった事で心配掛けちゃった? 

 ごめんなさい、でももう私がやるべき事は徹夜で終わったからもう心配しなくて良いよ?」

 

「そ、そうなんだ、その隈は徹夜したからなのか…良かった、その水晶に変な呪いが掛けられててそれで危なくなったのかと…」

 

 エミルは3人に心配を掛けた事を謝罪し、目の隈も徹夜が原因だと説明をするとロマンは未だエミルの首からぶら下がっている魔血晶(デモンズクリスタル)の所為で何かあったのかと心配になった事を告げると、3人はエミルを伴い自分達が座っていた席に戻り、エミルは朝食と紅茶を頼み席に座りながら休み始めた。

 

「…それで、徹夜したって魔血晶(ソレ)が関係してるよね? 

 一体何をしていたの?」

 

「ああ、新しい魔法を創る為に如何してもコレが必要だったのよ。

 だからあの魔族から態々魔血晶(デモンズクリスタル)を抜き取って、夜通し解析をしていたのよ」

 

「え、そんな凄い事を内緒でやってたの⁉︎

 しかも魔法を作創るって確か術式から構築しなきゃいけないから大変なのに本当に凄いよ‼︎

 それで、一体どんな魔法を作ったの⁉︎」

 

 ロマンは早速魔血晶(デモンズクリスタル)が原因で徹夜した事を話し、何をしていたかと問うとエミルはしれっと新しい魔法を創り上げたと話した。

 新しい魔法を創り上げるには理論を完璧に構築し魔法陣内で作り切らなければならず、そんな事をしたのはセレスティア王国初代女王のライラ位しかサラもルルも知らない為どんな魔法かと聞き始めた。

 

「ああ、それは…」

 

【ガチャ、キィィ】

 

「よう、お揃いだな…って、エミルお前も徹夜したのか? 

 ドワーフやエルフ達と違って人間の体は脆いんだ、余り無茶してパーティメンバーのロマンを心配させんなよ?」

 

 エミルは早速作り上げた魔法の説明をしようとした所でかぼちゃ亭にアルが袋に包んだ物…アルが態々持って来る物はロマンの剣しかなくいよいよ皆来たかと思い始め、その間にエミルは朝食を摂り始めた。

 するとアルは人間は他種族と違い体が脆い為ロマンに心配掛けるなと言われ反省するのであった。

 

「アル…遂に出来上がったんだね」

 

「ああ、お前の両親が遺した剣、しっかりと生まれ変わる事が出来たぞ」

 

 ロマンはアルに近付き頼んだ物が仕上がったのだと聞くとアルはハッキリと剣が生まれ変わったと彼は包みから鞘に収められた剣を取り出した。

 その瞬間にエミルの朝食は終わり早速立ち上がり見ると、鞘に収められてる時点で剣の鍔の形が少し変わり、十字型の鍔には変わりないが柄頭の様に鍔の真ん中に丸い紋様を彫った部分が加わり、鍔から柄の色も黒から金に変わっていた。

 

「鍔には昔ケイから教えられたお前の家の家紋を彫った。

 つまり正真正銘お前の剣だ。

 外に出て出来上がりを確かめな」

 

「本当だ、僕の家の家紋だ…うん、早速見てみるよ‼︎」

 

 アルは鍔の紋様はロマンの家の家紋である事を告げ、正真正銘彼専用の剣に仕上がった事を告げてその出来具合を確かめる様に話す。

 それを聞きロマンは早速ルルが出来具体を確かめた人気の無い広場に出て鞘を左腰に差し、そして柄を持ち勢い良く剣を引き抜いた。

 するとその刀身は刃毀れも1つも無くミスリルの名に相応しい1点の曇りの無い輝きを放ち、剣はロマンの身体の一部の様に吸い付き正に自分専用に相応しき物だった。

 

「…凄い、こんなに僕に馴染む武器に仕上がるなんて…ありがとう、アル‼︎」

 

「へっ、良いって事よ。

 俺様が直々に直したいからそうしただけなんだからな。

 …大事に使ってやれよ、両親の形見を」

 

 ロマンはその出来栄えに息を呑み、アルに心の底から感謝するとそのアル自身は頼まれたからやっただけと言いつつ、最後に両親の形見を大事に使う様に話してその肩を叩いていた。

 

「…それじゃあロマン君、改めて貴方の剣に魔法祝印(エンチャント)を掛けたいのだけれど………大丈夫かな?」

 

「…うん、やって。

 あの魔族の様に魔法祝印(エンチャント)抜きで戦って壊すなんて二の轍を踏みたく無いから…だからお願い、エミル」

 

「分かったわ。

 それじゃあ威力アップ、魔力浸透率アップ、軽量化、強度アップの魔法祝印(エンチャント)IVを掛けるわ! 

 えい!」

 

 そうしてエミルは改めてロマンの親の形見の剣に場保ちでは無く本格的な戦闘の為の魔法祝印(エンチャント)を掛けても良いかとロマンに問うと、ロマンは2日前の魔族の様な二の轍を踏み再び剣を壊したく無い為それを了承する。

 そうしてロマンのミスリルソードにも魔法祝印(エンチャント)が掛けられロマンは少し振るうと先程以上に使い易くなった事を実感し、それから鞘に収めた。

 

「さて、俺様達は依頼が終わって後は互いにそれぞれの道を行くだけだがサラ達は如何するんだ?」

 

「う〜ん、取り急ぎ用事も無いから如何しようかな…お父様に魔族の事を報告は多分ギルド協会からもう情報が流れてるだろうし…」

 

「…それなら、私からサラ達に提案があるんだけど良いかな? 

 勿論貴女達とロマン君の許可が要るけど」

 

 そしてアルは依頼の報酬を渡し、後はサラ達に如何するかを尋ねるとサラは魔族の件はギルド協会から伝わってるとしながら、やる事が見当たらない様子だった。

 するとエミルがサラ達に提案をし、彼女達とロマンの了承が要る事と話しながらサラやロマン達を見た。

 

「僕達の了承…何かそれが必要な事があるの、エミル?」

 

「うん、実は魔族を斃した辺りから思っていたんだけど………この場に居る5人でパーティを組まないかな? 

 それも目的は勿論魔王討伐のパーティを!」

 

 ロマンはエミルに了承が必要な事と言われ何なのかと問うと、そのエミル当本人は魔王討伐の為のパーティをこの場に居る5人で組まないかと話し、ロマンのみならずサラ達も驚きながらエミルを見ていた。

 

「だってサラの使命は魔王討伐なんでしょう? 

 それなら私達と組んで戦った方が効率も良いし手伝えるよ。

 何ならあの魔族と戦った時に私達の息はピッタリだったからパーティを組めばかなり良い感じになると思うのだけど…サラ達は大丈夫かな?」

 

 エミルはパーティを組む理由を話し始め、サラの使命を手伝えたり効率化が図れる事、更に名無し魔族と戦った際の息ピッタリな連携にパーティを組めばかなり良い物になると話した。

 それに対してサラ達の反応は。

 

「えぇ〜本当に良いの⁉︎

 ありがとう、魔王討伐を一緒にしてくれる仲間を探そうかなとかも思ってたから‼︎」

 

「おいサラ、勝手に………まぁ、名無しの魔族であれだけ強いんだ、戦力が多い事に越した事は無いか。

 俺様もあの魔族の物言いにはムカついたからな」

 

「…あの、後は………ロマンさんが、良ければ、よろしくお願いします…」

 

 サラはその話を快諾し、アルは少しムキになろうとしたが名無しの魔族でレベル173だった事や言動が気に食わなかった為、それを顧みて戦力が多い方が良いと判断し、反対意見を引っ込める。

 そしてルルは後はロマンが良いならと話して皆でロマンを見始めその答えを待った。

 そしてその口から出たのは………。

 

「…うん、この2日半でサラやアル、ルルの人となりも分かったし、エミルも同じ事を考えててくれたなら僕も嬉しいよ。

 だから、よろしくお願いします!」

 

「わぁ、ロマン君もエミルと同じ事考えててくれたんだ、ありがとう2人共‼︎

 アル達もありがとう‼︎」

 

 如何やらロマンも同じ事を考えていたらしく、エミルとも同意見で反対する理由が無かった為ロマンはサラ達3人に頭を下げた。

 するとサラは大喜びし、ルルはフード越しながら笑みを浮かべ、アルは仏頂面に見えそうだが口元は笑みを浮かべ満更でも無い様子を見せるのであった。

 

「それじゃあ早速かぼちゃ亭のガルさんに話を付けに行こうかサラ、アル、ルル!」

 

「了解〜‼︎」

 

 そうして5人はかぼちゃ亭内に入り、ガルにパーティを組む事を話しに行く。

 するとそれぞれのリーダーのエミルとサラが魔法紙(マナシート)を取り出し、其処に記載された別々のパーティが同じパーティを組む場合はリーダーを新しく選出し、それを両方が承諾した時パーティメンバーになれる項目を見せながらガルに話し掛けた。

 

「ガルさん、私達でパーティを組みたいんだけど良いかな? 

 リーダーは………魔王討伐を謳ってロマン君を選び抜いたエミルで!」

 

「あ、私になるの? 

 てっきりサラがリーダーになりたいって言うと思ったけど…でも何方も魔王討伐は一緒なので私はOKですよガルさん」

 

「僕達も大丈夫です!」

 

 するとサラがリーダーをエミルに選出し、本人は驚いていたが同じ使命を持つ為OKをエミルは出し、ロマンも同じく大丈夫だと話し、フード越しにルルも頷きアルも反対意見を出さなかった。

 

「よし、ならリーダーはエミル王女殿下にして…5人以上のパーティになったからパーティの名前を決める事が出来るけど何か名前はあるかい?」

 

「あります、私達は初代勇者ロア一行の様に魔王討伐を目指すメンバーです。

 なのでそんな彼等はパーティ名『誓いの剣(オースブレード)』を名乗っていました。

 それに肖り、私達は『誓いの翼(オースウイングズ)』を名乗ります」

 

 ガルはそれらを聞き5人パーティになってからパーティの名前が決められる事を告げ、案はあるかと言うとエミルは過去の自分(ライラ)達がロアをリーダーとして名乗った名である誓いの剣(オースブレード)を出し、それに肖る、否、今度こそ魔王討伐を果たすべくエミルは決意を込めて誓いの翼(オースウイングズ)にし、サラ達は父や母、師や先祖の名に肖る事を喜びエミルに声掛けし始めた。

 

誓いの翼(オースウイングズ)、すっごく良い名前だよエミル‼︎」

 

「…お母様の…パーティ名と、良く似た…」

 

「ふっ、ゴッフ(ジジイ)のパーティ名に肖るか、悪くねぇ」

 

「…誓いの、翼…僕達の、パーティ名…!」

 

 4人はそれぞれ嬉し気な反応を示し、エミルもこの名前にして悪く無かったと思い手に力を込め、このメンバーで今度こそ魔王討伐を成すと意気込み始めるのであった。

 

「それではギルド協会でエミル一行とサラ一行が合流して誓いの翼(オースウイングズ)を名乗る事になったと全体にお伝え致します。

 …ロマン、皆様、良き旅を」

 

「はい、ガルさん、リィナさん‼︎」

 

 そうしてロマンやエミル達は誓いの翼(オースウイングズ)の名を背負い、共に仲間として冒険の旅に出る事になった。

 それをガルや奥のリィナも祝福し、そのエールを背にかぼちゃ亭の宿泊代を払い外へと出た。

 

「大変だ〜‼︎

 セレスティア王国のランパルド国王陛下戦達が村にいらっしゃるぞ〜‼︎」

 

「…えぇ⁉︎」

 

 しかしその誓いの翼(オースウイングズ)に早速最初の胃痛になる関門が迫って来た。

 それはセレスティア王国現国王ランパルド達がやって来ると言うエミルにとっても想定外な事態であった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
ロマンの剣はケイがアルに譲り受けた時以上の物に修復され、エミル達とサラ達が合流し、初代勇者一行の誓いの剣(オースブレード)からその使命を継ぐ物として誓いの翼(オースウイングズ)を名乗る様になりました。
これからこの5人は共に魔王討伐を目指す仲間として行動を共にする事になります。
これからエミル、ロマン、サラ、アル、ルルがどの様に冒険するかお楽しみ下さいませ。

次回もよろしくお願い致します。


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第12話『誓いの翼、謁見させられる」

皆様おはようございます、第12話更新でございます。
今回は突然来訪したエミルの父達との話になります。
では、本編へどうぞ。


 ランパルド国王が来ると言う騒ぎの直後、アイアン村の門が開け放たれその外からは親衛隊長マークスを含む親衛隊がランパルド国王、更にこの4年で逞しくなり騎士甲冑を身に纏うアルク第1王子と更に王女らしくなったドレス姿のレオナ第1王女、そしてアルクと同じく騎士甲冑を身に纏うカルロ第2王子までもが現れ村は騒然と化した。

 因みにエミルが王女だと言う事は村の狭いコミュニティの為既に知れ渡っていた。

 

「うわぁ、セレスティア王国の王族が勢揃いだ…一体、何が起きるの…⁉︎」

 

「…これは、私達への最初の試練がお父様達になるとは…このエミルの目を以てしても見抜けなかったわ…」

 

「おい、バカ言ってねぇでお前さんが1番前に出るんだよ!」

 

 サラはセレスティア王国の王族が留守の王妃以外は勢揃いした事に驚き、何が起きるか珍しく爛漫な態度が消え慌てていた。

 一方エミルは最初の関門が大き過ぎた為少しふざけた事を言うと、アルが後ろから小声で1番前に出る様に言うとエミルは直ぐにハッとなり1番前に出てその後ろにロマン、サラ、アル、ルルが横に並びマークス達親衛隊が道を開けると馬からランパルド達が地に降り立ち、親衛隊達が跪くと、エミル達も合わせて跪き父王が何か言うまで顔を下げていた。

 

「面を上げよエミル王女よ。

 其方の活躍、マークス達やギルド協会から聞き及んでおるぞ。

 勇者ロマンと共にリリアーデ港街の守護ベヘルット元侯爵家の息子の蛮行の断罪、ディスト海賊団の拿捕、それらを聞き父は良き娘を持ったと誇りに思うぞ」

 

「はい、国王陛下。

 全ては私が悪しきを罰し、弱き民や不当な扱いを受けた冒険者を救おうとした結果であります。

 そしてそれ等は勇者ロマン殿も居なければ成り立たなかったと私エミル第2王女は心得ております」

 

 先ずランパルドが国王としてエミルに話し掛け、その活躍を全て聞き及び誇りに思うと口にしていた。

 しかしエミルはまだ顔を上げず、天狗にならず、かと言って謙虚過ぎる事も無くさり気無くロマンの顔を立てて自分の力だけでは成り立たないと口にしていた。

 実際ロマンが居なければリリアーデの民を無傷で守れたか怪しく、ギャラン達の蛮行を早々と押さえる事は出来ず、ディスト海賊団を早期に捕らえられなかったと感じていた。

 

「ふむ、では勇者ロマンよ、面を上げよ」

 

「は、はい、国王陛下!」

 

「其方が我が娘、我が国の第2王女の助けになったそうな。

 その事に偽りはないか、顔を上げ答えよ」

 

 次にランパルドはロマンにこれ等が偽りないかと話し始め、ロマンは真っ白になりそうな頭の中で必死になって考えた事を口にする。

 

「は、はい、エミル王女殿下の言葉に偽りはありません! 

 し、しかし………ぽ、僕1人でもそれ等を成せたかと言えば違うと申し上げます。

 全てはエミル王女殿下の自信と慎重さ、そして他者を想う優しさが全て噛み合い成り立ったとロマンは思います…」

 

 ロマンもまたエミルが居なければ国王が言う功績が成り立たなかったと2度も顔を上げる様に言われてから顔を上げ話し始める。

 それはロマンも嘘偽り無く、全ての事柄にエミルが関わらなければロマンはリリアーデに留まらず、ギャランの悪事を見逃した可能性がありキャシーを救えなかったかも知れず、船を海賊から守れなかったと思っていた。

 

「ふむ…では何方も顔を上げよ。

 両者は互いに互いの存在がなければこれ等は成せなかったと申すのか?」

 

「は、はい、国王陛下! 

 僕1人の力ではとても大きな事を成せず」

 

「無論私1人の力でも成り立ちませぬと申し上げます。

 結論を申し上げれば、我々2人は互いに助け合った結果上手く事を成せました。

 これが我々2人の見解でございます国王陛下」

 

 そしてランパルドは結論として互いの存在が無ければ成せなかったと2人に聞き上げると、ロマンもエミルも同じ見解を示し互いの助け合いによりあの激動の2日間は乗り切れなかった事を進言した。

 そしてそれを聞いた国王は………満足気な笑みを浮かべ言葉を続け始める。

 

「私が聞きたかった事を突然の来訪にも関わらず2人は進言出来た。

 エミルにロマン君よ、良く互いに頑張り事を成したな、ロマン君の友人の父親としても誇りに思うぞ」

 

「も、勿体無きお言葉にございます!」

 

「その言葉を聞き、私は大変嬉しゅうございます…お父様」

 

 ランパルドは国王から1人の娘の父親に戻り、2人が互いに頑張って此処まで来れた事を心から誇りに思い、優しい笑みを浮かべていた。

 ロマンは相変わらず及び腰ではあるが、それでもランパルドの言葉に心は温まり、エミルも同様に思い王女から1人の娘に戻りランパルドの様に優しく、久々にあった家族としての顔を覗かせていた。

 

「さて、もう他の皆も顔を上げ立ち上がって良いぞ。

 賢王ロック殿の第1子サラ王女、予言者リリアナ様の1人娘のルル殿、そして職人王ゴッフ殿の弟子アル殿」

 

『はい、国王陛下』

 

 そしてランパルドはサラ達にも顔を上げて良いと話しすっかり国王から末っ子娘の父親となり、3人は社交辞令として国王陛下と呼びながら顔を上げ5人は立ち上がる。

 すると馬からアルク、レオナ、カルロも降りて来て先ずエミルと談笑を始める。

 

「エミル、久し振りだな。

 大きくなったな」

 

「レベルもアルクお兄様やカルロを追い抜いて185、素晴らしいですわ」

 

「そのレベルをきっとアレスター先生も神様の下で喜んで見てるだろうな。

 そして、本当に自慢の妹だよ、お前は」

 

 成長し25歳の大人になったアルク、22歳レオナ、17歳になったカルロはそれぞれエミルの頭を撫でて久々に再会した末っ子を可愛がっていた。

 エミルも観察眼(アナライズ)を使いアルクは158、レオナは148、カルロは153と単騎で親衛隊を上回る戦力になると言う4年間会わなかった中で彼等もまた中身も成長し、恩師アレスターの死が彼等を更に一回り大きくし4年で魔族と戦う前の自身に並ぶ実力を手にしたのだと思いながら頭を撫でられる事を黙って受け入れていた。

 

「へっ、魔王討伐を目指す姫様も人の子かー…まぁ、じゃなきゃ人は寄り付かないか」

 

 アルはエミルの久々に会った末っ子として頭を撫でられてる姿を見てあの魔族と魔法対決で戦った凛々しい少女と打って変わって完全に兄達に愛され、自身も兄達を愛する姿を見て人の子と称し、仏頂面ながら悪くないと思っていた。

 

「貴方は武具職人ゴッフ一門のアル殿、賢王ロック殿の第1子サラ王女、リリアナ様の1人娘のルル様、ですね。

 お初にお目にかかれます、私はセレスティア王国第1王子にして王国騎士団団長を務めさせて頂いておりますアルクと申します。

 此方は第1王女で外交長官のレオナ、そして第2王子で絶技講師官のカルロであります。

 以降お見知り置きを」

 

 するとそのアルやサラ、ルルの3人にアルク達が話し掛け始めて来る。

 そのエミル以上に整った王族の雰囲気や役職等を聞き、更にアルは3人が自身の作った武具を身に纏い、更に生存性を高める為に魔法祝印(エンチャント)が掛けられていると知り、以前なら癇癪を起こしたが魔族の武具の影響もありそうはならなかった。

 

「サラ王女殿下、ルル様、お久しゅうございます。

 またこうして出会える幸運にこのレオナは喜びに満ち足りております。

 …そして、アレスター先生の件について何とお詫びすれば良いか…」

 

「ああ、その件なら大丈夫だよレオナの王女殿下! 

 立派な妹様のエミル王女殿下にご説明を頂きましたから! 

 なのでお互い、あの子を知る身としてアレスターを誇りに思いましょう、ね?」

 

「…私も………その方が、アレスター君は、喜ぶと、思います…」

 

 更にレオナはサラとルルと面識があり、サラ達が冒険者をし、レオナ達エミルの兄姉は更に修行やレベリングを積んだ為本当に、実に4年も会っていなかった事もありアレスターの件を話し始めようとしたが、エミルから話を聞いていた為サラはそれ以上は聞かず、アレスターを互いに誇りに思おうと言う形に落ち着きルルも交えて握手を交わすのだった。

 

「あ、それからエミル王女殿下にルル様、ベヘルット元侯爵の件はお世話になりました」

 

「良いの良いの、私達が関わるってルルの予知に出たし、ルルの『本業』発揮の時間だったからそっちも気にしないで良いよ!」

 

 更にレオナはベヘルット元侯爵の件の事で礼を述べると、それも気にしないで欲しいと言われ更にルルにも頷かれ、レオナも流石に苦笑したが本人達がそれで良いならと何も言わなかった。

 

「…家族、かぁ…」

 

「よう、お前がエミルが選んだ勇者ロマンだってな。

 俺は第2王子で絶技の講師のカルロだ、よろしくな。

 早速で悪いが何か絶技を見せてくれないか?」

 

「は、はい⁉︎

 エミル…王女殿下の、お兄様⁉︎

 それに絶技を見せてって…えっと、じゃあ空に向かって、光流波‼︎」

 

 一方ロマンは家族と言う結び付きを見て両親の遺志が詰まった剣の柄頭に手を掛けているとカルロが気軽に話し掛けて来た為面食らい、更に絶技を見せてくれと言われた為剣を引き抜き空に向かって光流波を威力を絞って撃った。

 するとカルロはそれを見て頷き、再びエミルに話し掛け始める。

 

「体内魔力と魔法元素(マナ)の結び付きに問題無し、技の熟練度も威力の絞り込み方も正しい…良い先生に教わったんだな」

 

「は、はい、死んだ…両親から。

 冒険者時代に魔力一体論を凄く教え方の良いエルフの人に教えて貰ったから、それで魔法と絶技の使用時の魔力の循環とかを教えて貰い、ました…」

 

 カルロはアレスターに教わった全てを頭に叩き込んだ上でロマンの絶技の使い方や魔力の流れを見てそれが正しい在り方である事を見抜き、良き師に教わったと話すとロマンは死んだ両親にと告げ、その両親も冒険者時代に教え方が良いエルフの人に自分が教わった事を伝授された事を話した。

 

「…凄く教え方が良いエルフの人…まさか………ふっ、良いご両親に育てて貰ったんだな。

 なら両親の事を忘れず、エミルが選んだ勇者だと気負わずありのままの自分でアイツを助けてやってくれ。

 アイツは、天才だが無茶するからな…支えてやってくれ、妹を」

 

「あ………は、はい‼︎」

 

 カルロはそのエルフについて心当たりがあり、まさかと呟いた。

 が、直ぐに切り替えてエミルをロマンと言うありのままの少年のまま守り抜いてほしいと彼女の兄であるカルロに頼まれる。

 それを聞きロマンはこのカルロ王子も自身に期待を寄せ、更にエミルが心配なんだと理解し力強くYESと答えた。

 その様子を遠目で見たマークスは矢張り自分の目に狂い無しともかんじていたのだった。

 

「さて、談笑も此処までにして我々が此処に来た理由を話したい。

 エミル、ロマン君、そしてサラ王女にアル殿にルル殿、我々4人とマークスと共にこの村のギルド運営の宿屋に来て貰えぬか? 

 他の誰にも聞かれたくない話があるのだ」

 

 そうして談話をする中でランパルド国王は自身達がこの場に来た本題をかぼちゃ亭で他の誰にも聞かれず話したいと告げるとエミルやロマンのみならずサラ達も含めそれをしたいと話した。

 この時5人は直感する、国王は魔族と戦った件でこの場に来たのだと。

 

「…分かりました。

 勇者ロマン、国王陛下や兄君達をかぼちゃ亭へと案内しましょう。

 ガル殿やリィナ殿はギルド運営の宿主夫妻故、話を聞いても問題は無いので陛下が仰った人達のみでかぼちゃ亭へと入りましょう」

 

「わ、分かりました、エミル王女殿下!」

 

 そうしてエミルも再び王女モードに入りながらロマンに話し掛け、ランパルドやアルク達をかぼちゃ亭に案内する事になりロマンは空気を読みエミルを王女殿下と呼びながらサラ達と共にかぼちゃ亭内へと入り、其処で飲み食いしていた客達には急いで外に出て貰い空いている席にランパルド、アルク、レオナ、カルロが座り他の面々は立ったまま話をする流れになった。

 

「さて、先ずこのまま話をしても良いのですが………折角ですから『新しい魔法』の一つを試しましょう!」

 

 するとエミルは話を始める前に『新しい魔法』と言い、杖を出すと魔法陣が足下に浮かび始め、そしてかぼちゃ亭全体を何重にも覆う結界魔法が発動し、更にその結界は本来なら無色透明のガラスの様な結界では無く、碧玉色の結界でありそれを見たランパルド達は驚いていた。

 

「この結界は一体…エミル、新しい魔法と言ったが、これは何なのだ⁉︎」

 

「この結界は外から盗み聞く事、そしてこの中ではある物を阻害する効力を持つ結界魔法…名前は『盗聴防止結界(カーム)』と名付けましょう。

 レベル40から使える様に魔法構築しましたので術式を流布すれば誰でも使える様になりますよ」

 

 ランパルド国王が狼狽える中、エミルは淡々とした口調で結界の名と効力を説明し、全員それを聞き新しい魔法を創ったエミルに脱帽し、ロマンは昨晩から取り組んでいた事とはこれだったのかと思い聞き始めた。

 

「あの、エミル王女殿下。

 もしかして貴女が仰った新しい魔法ってもしかしてこれの事でしょうか?」

 

「ううん、違うよロマン君。

 これは単なる副産物で出来上がった物だよ。

 ただ今の状況的に役に立つから使っただけだよ?」

 

「つまり別の魔法創ったついでにこれも創ったんだ…エミル凄いや…」

 

 ロマンは作った魔法はこれかと聞くとエミルは副産物で出来上がった物だと口にし、サラやロマン達はこの他にも新しい魔法を創り上げたのだと知り凄いと思っていた。

 しかしエミルにとっては過去の自分(ライラ)の課題を終わらせただけの認識の為別段規格外な事をしでかした覚えは無かった。

 

「と、兎も角、これで外部に漏れる心配は無いのだな? 

 なら話そう、我々が此処に来た理由を。

 と言ってもエミルやロマン君達5人を含めた時点で何なのか分かるであろう?」

 

「魔族、ですね」

 

「うむ、エミル達が魔族を倒したと聞きそれを確かめに来たのだ。

 それが真ならミスリラント、フィールウッド、ヒノモトと共に対策を考えねばならない。

 魔血晶(デモンズクリスタル)も有している…と言うより、エミルが首から下げているとも聞く。

 それをじっくりと見せ、そして魔力を通してみたまえ」

 

 ランパルド国王はエミルの為す事を半ば強引に受け入れつつ外部に話が漏れない事を理解し、本題である魔族の件についてをエミル達に話し始めた。

 それが事実ならば魔族を警戒する4国家で議論を交わす必要性が出ると腹積りをし、事実確認に来たのだ。

 そしてエミルに魔血晶(デモンズクリスタル)を見せ、魔力を通す様にと命じる。

 

「はい、国王陛下。

 これが魔族の核、魔血晶(デモンズクリスタル)でございます。

 その証明に例の特性もお見せ致します」

 

 エミルは命じられるまま首から下げた魔血晶(デモンズクリスタル)を見て、そして魔力を通し始めて地上界の者を不快にする魔の光が放たれ、その場にいる全員はそれを見て浴び、嫌な気分になり始めた。

 

「う、うむ…これは間違い無く魔血晶(デモンズクリスタル)だ…もう良いぞエミル、その光を消しておくれ」

 

「はい、陛下」

 

「これが魔族の核………となれば本当にエミル王女殿下は魔族を倒したのか…。

 となると伝承の門の封印が解けてしまわれたと言う事に…」

 

 ランパルド国王は十分確認が取れた為エミルに魔血晶(デモンズクリスタル)に魔力を通すのを止める様に促すとエミルは魔力を通すのを止め、1歩下がる。

 マークスは初めて目にした魔血晶(デモンズクリスタル)が悍ましく感じつつエミル達の功績が大変な物であると実感していた。

 しかし同時に門の封印が解けた事を指摘するとランパルド国王もそれに頷く。

 

「うむ、名無しの魔族が地上界に進出して来ている。

 その可能性は極めて高いと言えよう」

 

「更にアギラ、と言う名ありの魔族までいる事が判明しております。

 我々が斃した名無しの魔族がレベル280の、とも言っておりました。

 そして、名ありの魔族と念話をしていた事から間違い無くライラ様の縛られし門(バインドゲート)は解けてしまってます」

 

「名ありの魔族まで、しかもレベル280だと⁉︎

 何たる事だ、急ぎ4国会議を開かねばなるまい‼︎

 エミル、此度はその情報を持ち帰り助かったぞ!」

 

 ランパルド国王やエミルもマークスの指摘に同意し、更にエミルは名無し魔族が最後に呟いたアギラの名とレベルを開示し、それ等を聞いたランパルド国王はセレスティア、ミスリラント、フィールウッド、ヒノモトの王達を招き4国会議を急ぎ行う意志を見せる。

 そしてエミルにその情報開示をした事に礼を述べると席から立ち上がり、アルク達も立ち上がりランパルド国王と最後の会議を開く。

 

「では陛下、私が書簡で3国の各国王陛下にこれ等の情報を送り、セレスティア王国に招きます! 

 更にギルド協会全体に魔族出現を冒険者達に流布し、警戒を促します!」

 

「では私とカルロは親衛隊含む王国騎士団、魔術師団より人選しレベリングを図る為諸外国訪問の名目の下、危険地帯へ足を踏み入れ魔物退治を行います!」

 

「うむ、事は一刻を争う。

 手早く事を済ませ、それぞれの役割を果たせ!」

 

『はっ‼︎』

 

 先ずレオナが外交長官として他の3国の各王に書簡を送り、4国家会議を開く事を伝えると同時に冒険者ギルド全体に魔族出現を知らせ、冒険者達に警告を促すと話し、次にアルクがカルロやマークス等と共に人選した人物達と共にレベリングを図る事を提案し、ランパルド国王はそれを了承。

 そしてそれぞれの役割を果たす様に促すと3人の息子と娘、更にマークスは跪き王命を承る事となった。

 

「では国王陛下、私達誓いの翼(オースウイングズ)は魔王討伐の勅令に基づき行動し、最優先事項としてレベリングと共に神剣ライブグリッターの探索を行います」

 

誓いの翼(オースウイングズ)…そうか、其方達はパーティを組んだのか。

 そして伝説の神剣の探索か………確かにそれが無くば魔王討伐は果たせぬと言われている。

 良かろう、エミル達は引き続き勅令に基づき行動せよ‼︎」

 

『はっ‼︎』

 

 次にエミルがサラ達と合流して誓いの翼(オースウイングズ)と言うパーティ名になったと知り、更にエミルはライブグリッター探索をしている事を明かしてサラ達を驚かせながら、ランパルド国王より勅令に基づき行動する事を告げられ5人も跪きその命を承る。

 そして会議が終わった所でエミルは盗聴防止結界(カーム)の使用を止め、マークス達が先に出ながら周りを確認しそのままランパルド国王を外に出し解散となった。

 

「それにしてもエミルとロマン君はライブグリッターを探しているんだね〜! 

 確かにロマン君なら振るう事が出来る筈だね!」

 

「あ、あはは…兎に角、皆と助け合う為に僕、頑張るよ‼︎

 サラ達も、エミルもこれからもよろしくね‼︎」

 

「勿論だよロマン君!」

 

 そうして国王達の帰還を見届けに行きながらサラはライブグリッター探しをしている2人に関心し、更にロマンなら振るう事が出来ると話すとルルも頷き、信頼を寄せる人が一気に増えた為戸惑いながらもエミル達と共に助け合いながら頑張ると話すとエミルは少しずつだがロマンが自信を持ち、且つ独り善がりでは無い皆と支え合う道を行こうとしていると感じ取り矢張り自分の目は狂いがなかったとして笑みを浮かべていた。

 

「さて、じゃあライブグリッター探索の旅の最初の目的地はミスリラント本国、レベリングをしながら職人街ゴッフェニアを目指そう!」

 

「ゴッフェニア…成る程、誓いの剣(オースブレード)ゴッフ(ジジイ)に話を聞きゃぁ行方が分かるかもな。

 だが、レベリングはこんなレベルになっちまったらもう思う様には上がらないぜ?」

 

 それから暫くしてランパルド達は無言でエミル達に会釈すると門から村の外に出てセレスティアへ戻って行った。

 するとエミルはライブグリッター探索とレベリングを図る為ミスリラント本国のゴッフェニア、ゴッフの名を刻んだ職人街を目指すと決める。

 アルはゴッフなら何か知っていると合理的に考えたが、レベリングはレベル180オーバーでは中々上がらないと話して首を傾げていた。

 

「其処で依頼、ミスリルゴーレムに狙いを定めて薙ぎ倒すのよ! 

 連中は熟練度元素(レベルポイント)の塊で魔物の巣(ダンジョン)化した廃坑内をウロウロしてるから鉱石を乱獲するわよ!」

 

「ミスリルゴーレム………確かに、あれなら…レベル200まで上げる事が…出来るかも、知れません…」

 

 其処にエミルはミスリルゴーレムを依頼で受けながら鉱石目的で乱獲すると言い出し、ルルもミスリルゴーレムならば今のレベルでも上げられると話し、全員それで納得した上でその方針で行く事になった。

 

「それじゃあ早速このままミスリラント領の港から本国の港にまで行くとして…その前に、魔血晶(コレ)を、いい加減始末するわ‼︎

光龍波(ドラグライトウェイブ)』‼︎」

 

【ポイ、ジュワッ‼︎】

 

 そうして誓いの翼(オースウイングズ)の行動方針が決まった所でエミルは首から下げていた魔血晶(デモンズクリスタル)を空高く投げると光の中級魔法を使用し、今まで盗まれない様に肌身離さず持った魔族の核を消滅させ、あの名無しの魔族の一生を終わらせた。

 

「…もう魔血晶(デモンズクリスタル)は必要無くなったの?」

 

「ええ、アレは解析して新しい魔法を創る為に必要だった物ですからね。

 そうで無ければ百害あって一利無しの物を確保するメリットが無いですから」

 

 ロマンも魔族の核を破壊した事でエミルはもうアレは必要無くなったのだと思いながら敢えて聞くと、エミルは百害あって一利無しの魔血晶(デモンズクリスタル)を確保する理由が無くなればそのまま消すタイプと改めて知り、今後は魔族は魔血晶(デモンズクリスタル)を消滅させる様な攻撃しかしないだろうと思いながらならば自身もエミル達を守る為に魔血晶(デモンズクリスタル)を積極的に狙おうと覚悟するのだった。

 

「…うん、そうだよね。

 あ、そう言えば新しく創った魔法って一体何なの?」

 

「ああ、色々あって言いそびれちゃったね。

 じゃあ盗聴防止結界(カーム)を掛けてと」

 

 更にロマンは結局新しい魔法とは何か、エミルに問い質すとエミルも言いそびれていた事を思い出し、再び盗聴防止結界(カーム)を掛けながら話し始めた。

 

「私があの魔血晶(デモンズクリスタル)を解析して創り上げた魔法、それは魔族が魔法元素(マナ)を介して念話をする事から、その念話に使われた魔法元素(マナ)を見て連中が何を話しているかを視て聞く魔法…『念話傍受魔法(インターセプション)』よ」

 

「…魔族の、念話を………盗み見したり聴ける、魔法ですか…⁉︎」

 

 エミルは魔族の念話の仕組みを理解し、それを魔法術式を構築し組み込む事で念話を視て聞く魔法、念話傍受魔法(インターセプション)を作り上げた事を話すと、ルルを初めとした面々は驚愕し、あの魔血晶(デモンズクリスタル)1個からそんな魔法を創り上げ、副産物すらも用意したエミルと言う少女を改めて凄い人物だと思っていた。

 

「けど、誰彼もがこれを使って悪戯に魔族に命を奪われない様にする為に使用出来る人を名無しの魔族の最低ラインと同じレベル150以上にしたわ、理由は…少し分かるよね?」

 

「あ〜、皆使えたら魔族に挑み掛かる無謀な人とか出ちゃうから、でしょ? 

 その判断は正しいね」

 

 更にエミルはこの魔法を使える者をレベル150以上に設定し、変な気を起こす者が出ぬ様にし、その意図を皆に分かるか聞くとサラが真っ先に答え、賢王の娘は矢張り同じ様に聡いと思いながらエミルは頷き、ロマン達もまたそれが正しいと思っていた。

 

「で、私がこれを創った理由なんだけど。

 相手の動向を知りたいからってのもあるけど………相手ばっかり念話で秘密の作戦を立てるなんて狡いでしょ? 

 それにその所為で友人や知人を失うなんて結果は受け入れる事何て出来ない、そう思ったからなの」

 

 最後にエミルは念話傍受魔法(インターセプション)を創り上げた理由を話し始め、途中子供じみた理由があったが、大体は理不尽なる謀略を防ぐ為に作り上げたと言う事を話した。

 それを聞き皆が黙って聞き………そして頷き返された。

 

「へっ、エミルの言ってる事も分かるぜ、相手ばかりズルしてんじゃねぇってな! 

 それじゃあ行こうぜ、魔族に一泡吹かせる俺様達の初の旅路って奴によ‼︎」

 

「うん、さんせ〜い‼︎」

 

「…お、おー…!」

 

 そして、最初にアルがエミルの話した理由に同意しながら全員に声を掛け馬車へと走り、サラ達も自分達の馬車に乗り込み始め出発準備を整え残りはエミルとロマンだけとなったから

 

「さあ行こうロマン君、未だ見ぬ先の世界へ皆で歩んで行こう!」

 

「うん、行こうエミル‼︎」

 

 最後にエミルがロマンの手を引き、自分達の馬車へと乗り込むと馬屋に賃金を払い馬車を走らせ門を潜り村人達が見送る中でアイアン村をエミル達誓いの翼(オースウイングズ)は去って行った。

 全ては魔王討伐を果たす為に。

 その1歩としてライブグリッターを探索する為に。

 

「(…さて、新しく創った魔法が機能するか試運転しましょうか。

 …うん、成功ね。

 覚悟なさい魔族達、貴方達の好きにはさせないわよ…‼︎)」

 

 その中でエミルは念話傍受魔法(インターセプション)を使い始め、魔族にこれ以上好き勝手はさせないと固く誓いながら港へと馬車を走らせ、何かがあれば記憶し、全員に警戒を促す事に決めたのであった。

 

 

 

「ふむ、この先はミスリラント本国………なら罠を張らせて貰うとしますか。

 クフフ、フハハハ………」

 

 そんなエミル達の様子をエミルが感知する300キロメートル範囲外から千里眼(ディスタントアイ)を使用し、アギラが覗き込みミスリラント本国に向かう事を予想してその先に罠を張るべく転移魔法(ディメンションマジック)でその場から消えるのだった。

 悪意を剥き出しにした名ありの魔族にエミル達の行く末が如何なるか、それは誰も分からないのであった…。

 




此処までの閲覧ありがとうございました。
エミルは新しい魔法を創り上げた事により魔族側の念話傍受が可能に。
しかしアギラがその影から先周りを開始して来ました。
これにより誓いの翼(オースウイングズ)はミスリラント本国でも魔族との戦いは避けられない事になります…。

次回もよろしくお願い致します。


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第13話『エミル、内緒話しをする』

皆様おはようございます、第13話目更新でございます。
今回はエミルと誰かが内緒話をします。
その誰かは本編でお見せ致します。
では、本編へどうぞ。


 エミル達はミスリラント領から本国行きの船に乗り、1日でその大地に足を付けた。

 アルは戻ってきたぞ故郷と言わんばかりに空気を吸い、サラやルルももしフィールウッドに帰れば同じ事をするだろうと考えていた。

 

「ふう、懐かしの鉄と、砂の臭い。

 帰って来てやったぜ、この俺様がよ!」

 

「あ、よう兄弟元気してたか! 

 俺に会えなくて寂しかったか?」

 

「はっ、本国に帰って会うのがお前か『ゴン』、ああ元気にしてたぜこの野郎! 

 前に貸したメタル鉱石の分を早く返しやがれよ!」

 

 アルが生まれ育った本国の臭いを嗅ぎ、帰郷したと思いを馳せていた。

 そんな所にロンと呼ばれたドワーフが馬車に乗りながらアルに声を掛け、如何やら2人には貸し借りがある間柄らしく軽口を互いに叩きながらロンの馬車は鉱石を運びながら何処かに行ってしまった。

 

「アル、今のは?」

 

「ああ、アイツはゴン。

 ズボラでやや間抜けだが鍛治職人としては真面目で実直な奴だぜ。

 それと、アイツが兄弟っつったのは俺様達鍛治職人は皆兄弟の精神をゴッフ(ジジイ)から叩き込まれたからだぜ? 

 さて、5人用馬車を使ってこの港から離れるぞ」

 

 ロマンはゴンに付いて聴くとアルは軽めに説明し、更にゴッフが職人達叩き込んだ教え、鍛治職人は皆兄弟と言う精神から兄弟と呼ばれた事を全員に教えると、アルは早く馬車を借りて港から離れる事をエミル達に告げるとエミル達も頷き行動を開始する。

 

「すみません、5人用の馬車を貸して下さい」

 

「はいよってアルさん! 

 何だあんたらアルさんの知り合いなのか〜、料金はオマケしとくよ!」

 

「流石アル、この国には自分を知らない奴は居ないって毎日自慢してだだけはあるね〜」

 

 エミルは馬屋に向かうとその馬屋の主人もアルの顔を知ってるらしく、通常よりも料金を安くして馬車を快く貸してくれていた。

 それを見たサラはアルが毎日自慢していたこの国に自分の顔を知らない奴は居ないと言う話を思い出しながらアルを見ると、そのアルは如何だ思い知ったかと言わんばかりの表情を見せていた。

 

「よし、じゃあ最初に向かうのはゴッフェニアとこの港の間の街、2番目に大きな都市の『セレン』よ! 

 其処で廃坑内のミスリルゴーレム狩りの依頼を見つけるわよ!」

 

「なぁに、あの忌々しいゴーレム共が徘徊して廃坑になった場所は沢山ある、ミスリルゴーレムがうじゃうじゃ居る廃坑だってあるだろうさ! 

 そいつらを片付けりゃ鉱山も取り戻せてレベルアップを図れる、俺様達も職人達もウハウハだぜ!」

 

「じゃあ皆様、セレンに行こう!」

 

 エミルは地図を広げ、現在の港町とゴッフェニアを間に挟む2番目に大きな都市セレンに向かう事を決め、馬車に乗り込み始めると同時にアルはゴーレムの所為で廃坑になった鉱山が大量にあると告げ、其処からゴーレムを排除すれば職人達も喜ぶとしてエミルが提案したミスリルゴーレム狩りに乗り気だった。

 サラやルルからも反対意見が無い為ロマンが最後に号令を掛けて馬車が港から荒野へと向かい始め、誓いの翼(オースウイングズ)はセレンへと向かい始めた。

 

 

 

「セレンまでは馬車で2日は掛かる、この国は昼は暑く夜は冷えるから水の用意と焚き火をして馬を冷えさせない事も重要だぜ」

 

「それからギルド協会の情報屋にも会ったら一応ライブグリッターの話をしてみようよ、もしかしたら良い情報があるかもだし」

 

「…セレンに着くまでは………それが、良いですね…」

 

 馬車で移動している際にエミルに対してアルが昼夜の寒暖差がある為水と馬を冷やさない為に焚き火を欠かさない事を忠告され、サラからはギルド協会の情報屋に会ったらライブグリッターの事を話してみる事を提案され、ゴッフに聴くだけでなくそちらの線も当たる事もサラから出た事は良いと思い、自分1人が引っ張るのでは無く皆で知恵を出し合う事こそ冒険者パーティと思いながら耳を傾けてていた。

 

「サラ達の案も良いかもね、エミル」

 

「そうね…って、早速情報屋発見! 

 聞き出してみるわよ!」

 

 ロマンもサラ達が出した案を良いかもと話し、彼もまた冒険者パーティとしての本当のあり方を理解しつつありエミルはそれが嬉しく思いながら手綱を握っていた。

 其処に噂をすれば影と言う言葉通りにギルド協会の情報屋が現れ、エミルは馬車を止めると情報屋の馬車が横に来るのを待った。

 すると情報屋もエミル達を発見し馬車を止める。

 

「おや、アルさんが居るパーティ…と言う事は貴女達が誓いの翼(オースウイングズ)ですね、魔王討伐を目指す冒険者パーティの!」

 

「流石ギルド協会直営の情報屋所属なだけあって耳が早いですね。

 はい、そうです、我々が誓いの翼(オースウイングズ)です。

 早速なんですがある物の情報を伺いたいのですが大丈夫でしょうか?」

 

 情報屋はアルを見た途端、エミル達を誓いの翼(オースウイングズ)だと判別し、目的も知っていると言う情報屋らしい情報伝達の速さを見せる。

 するとエミルは早速ライブグリッターについて聴こうと言う流れになり、全員で情報屋に視線を向ける。

 

「王女殿下達やアルさんに期待されるとプレッシャーが凄いなぁ…聞きたい事とは何ですか?」

 

「あの、僕達は魔王を斃す為に伝説の神剣ライブグリッターを探して旅をしているんです。

 それで、その在処をギルド協会の情報屋として何か知りませんか?」

 

「ライブグリッター…あの伝説の神剣ですね。

 ギルドの古い情報になりますが確かに480年前まではその存在を確認が取れていました。

 当時のエルフの協会職員が初代勇者ロア様が携えていたと記録しておりますから間違いないです」

 

 情報屋はプレッシャーを感じながらもどんな情報が欲しいかと聞いてくると此処でロマンがライブグリッターについて笑われる覚悟で探している旨を伝え、何か知らないかと問うと、情報屋は古い情報として480年前にエルフの協会職員がロアが確かに携えていたと話し、笑われる所か存在証明がなされ一気にロマン達は伝説は実在していたとして笑みを溢した。

 対してエミルはロアの性格ならずっと持っていても可笑しく無いと思いながら話を聞いていた。

 

「そ、それでそれ以降は? 

 ライブグリッターは一体何処に行ったのでしょうか⁉︎」

 

「あー、それがですね…460年前、ロア様が80歳で没したその時にライブグリッターの管理についていざこざが発生してその際に紛失と言う記録がなされています。

 ロア様が振るった伝説の神剣なのに扱いが雑だと思いませんか? 

 その所為で当時の関わったギルド協会職員は免職を喰らい、その元職員達も人間なら亡くなり、長寿の者は行方しれずとなったみたいです。

 すみません、こんな情報しか無く…」

 

 ロマンは更にライブグリッターについて食い下がるが、情報屋は460前、ロアが没した年に起きたいざこざにより紛失と言う神剣にあるまじき扱いをしたことを語り、関わった職員は人間なら寿命で、長寿の者は行方不明となりライブグリッターの在処を知る者は居ないと話した。

 最後に一言謝罪をしながらエミル達を一瞥する。

 

「そう、なんですか…それじゃあ情報の対価を」

 

「ああいえ、あんなみっともない情報しか無いのでお代は結構です。

 では王女殿下達と勇者さん、魔王討伐を果たして下さいませ」

 

 ロマンはガッカリした様子を見せるが、それでも情報は出た為その代金を払おうとした。

 だが、情報屋は代金は要らないと話し、そのまま一礼して馬車を走らせて行く。

 するとエミルも馬車を走らせ、更に先程の話を聞いていた事である事が浮かび、そして一言だけ口にした。

 

「嘘を吐きましたね、情報屋」

 

「えっ、嘘⁉︎」

 

「ええ、それも最後辺りに話したロア様が没した年にの件辺りが」

 

 ロマンは信じていた様子だったが、エミルは最後の方のロアが死んだ年に起きたいざこざを聞いている際に、ほんの少し情報屋の顔の仕草…作り笑いに違和感を持った為である。

 しかもその作り笑いはそれと無く、自然過ぎる作り笑いだった為ロマンの様に見逃す者が大半と言う余りにも上手過ぎた物だった。

 

「え、じゃあエミル、情報屋さんが嘘を吐くメリットって何なの?」

 

「それは分からない…ただ、あの情報屋個人で嘘を付けばそれこそギルド協会の信用に関わる…となると可能性的には…」

 

「…ギルド協会で、ライブグリッターの在処は………秘匿する、様になっている…とか…?」

 

 サラはなぜ嘘を吐いたかメリット面をエミルに聞くが、エミルも万能では無い為他人の考え等は分からない。

 しかし、『ギルド協会の情報屋』と言う組織の人間であるならある程度は可能性を絞り込めるとして口にしようとした。

 そんな時ルルがエミルの代弁をして、ギルド協会全体でライブグリッターを秘匿する箝口令が敷かれている事を話すと、エミルは静かに頷きそんな可能性がある事を示す。

 

「箝口令…でも何でそんな物を?」

 

「さあ? 

 ただ私なら魔族が現れる500年後の事を思って奴等に神剣の在処を教えない為に極一部の者しか知らない様にするし、なんなら150年前に出来た『あの国』に奪わせない様にするとか?」

 

 ロマンは箝口令と言う言葉に何故と聞くとエミルは自分ならばと言う条件で未来を見据えて神剣の在処を魔族に知られない様にする為、更に付け加えて150年前に出来た『国』の話をすると全員それぞれ違った反応を見せるが、共通点は『快く思っていない』事であった。

 

「あの国…魔族信奉者共が魔物に支配されていた大陸を魔物を操る術を身に付けて建国してセレスティアを始めとした4国と国交断絶しながら魔族が来る時を待つ馬鹿野郎共の国…『グランヴァニア』か」

 

「そう、グランヴァニアは魔王を倒し得る神剣の存在なんか許さない、壊してしまいたいとすら考える筈よ。

 だからそんな連中に漏れない様にする為にあれこれするわよ、私なら」

 

 アルは魔族信奉者の国、4国でタブー視されている禁忌の国家グランヴァニアの名を口に出すとエミルは肯定しつつ、そんな神剣を壊したがる連中に神剣の情報が漏れない様にする為にライブグリッターの在処は徹底的に秘匿する事を話した。

 但し自分ならばと言う条件を加えながらである。

 

「…でも、そうなら僕でもその案には賛成しちゃうかも知れない。

 ご先祖様が振るった伝説の神剣を盗られたり壊されたりしない様にする為に」

 

「…私も、です…」

 

「私も…そうしちゃうかなぁ〜?」

 

 すると話を聞き終えたロマン、ルル、サラはエミルが出した箝口令の予測について考えた結果賛成すると話し、アルも無言の肯定をするとエミルは500年後の世界には面倒な者達が面倒な…魔物を魔族の様に自在に操って国を作ったものだと考えながら空を見上げ、照りつける太陽に体力が減り始めた為馬と共に日陰に行き水分を補給し始めるのだった。

 

 

 

 それからその夜、全員が寝静まる時間にエミルは焚き火の前で魔力を活性化させ、魔法理論を構築しまた魔法を作り上げようとしていた。

 無論念話傍受魔法(インターセプション)を使いながら。

 

「…まだ、起きていたの…ですね、エミルさん…」

 

「あ、ルル」

 

 すると既に寝ていたと思っていたルルが起きており、皆を起こさぬ様な小声で名前を呼び合った後、ルルはエミルの対面側に座りながら話を掛け始めた。

 

「…あの、また…新しい魔法を………作っている、のですか…?」

 

「うん、結界魔法(シールドマジック)の欠点…『攻撃以外はすり抜ける』って物を補う為にちょっと手を加えてるの。

 ただ、1から10まで作る訳じゃ無いから其処まで時間は掛からないし、終わったら直ぐに寝るから安心して」

 

 ルルはエミルにまた魔法を作っているのかと聞き、それにエミルはYESを出し結界魔法(シールドマジック)の欠点…攻撃以外、例えばロープやそもそも武器を持った者がすり抜ける、更に自然の雷もすり抜ける欠陥点がある為、それを補うべく結界魔法(シールドマジック)に手を加えているのだ。

 

「(最も500年前の世界では敵が近付いて来れば死ぬから後衛に近付かせる前にやれが基本だったから余り気にしなかったけど、今は違う。

 今の時代は平和を謳歌してそんな殺伐と無縁に過ごした人が多過ぎる。

 魔族の襲来があった今、これをしないと大勢が死ぬ…必ず。

 だからこそ手を加えなきゃいけない、『魔族達や天災』を寄せ付けない様にする為に)」

 

 しかし500年前の時点で敵が近付いて来たら死ぬと言う死と隣り合わせだった為、そんな欠点は敢えて見過ごしていたが流石に500年後の世界にそんな事は無い為急いで手を加えているのだった。

 このまま手を加えねば将来的に大勢の人が死ぬ、その可能性を考えた為に。

 そして地上界の者以外を近付けない様にする為に魔血晶(デモンズクリスタル)を解析し、魔族や魔物の魔力の波長すらも読み取りそれを組み込む事でこの結界は完成するのだ。

 

「…流石はエミル、世界の命運を握りし子…いえ、『ライラ様の転生者』であらせられますね」

 

「…えっ?」

 

 するとルルはフードを取り、エミルに世界の命運を握りし子…では無く、過去の自分(ライラ)の転生者である事をハッキリと告げられ、驚きながらも盗聴防止結界(カーム)を張りながらルルの方を見ていた。

 

「私、予知は余り外さないとサラ達が言ってましたよね? 

 その予知で少し嘘を吐きました。

『ライラ様の転生体』と言う部分を世界の命運を握りし子に…何方でも意味は変わらないから嘘になってない嘘、ですがね」

 

「あちゃ〜、貴女の予知は本当にリリアナ譲りで外れじゃないよ………ちょっとショック。

 でも、なら何で14年前にそんな嘘を?」

 

 ルルは予知でエミルがライラの転生体だと見抜いてしまっており、それを言葉起こしする際に嘘を吐き、ライラの転生体だと言う事を意図的に隠していた様である。

 エミルはリリアナには事前に予知で見ても誰かは知らせない事を告げてた為誰にも知られてないと思っていたが、リリアナの娘の予知にまで引っ掛かった事に頭を抱えてしまうが、それなら何故そんな嘘をとエミルは尋ねる。

 するとルルは静かに話し始めた。

 

「私、お母様に言われたんです。

 もしもライラ様の転生者に出会う様ならそんなに畏まらず、ありのままの自分で付き合ってあげなさい、その方がライラ様も喜ぶと。

 だから、それに従い貴女がライラ様の転生体だと言う事を隠しました。

 そしてこれからも貴女の事を『エミル』と呼び続けます…他でも無い、私の仲間として」

 

 如何やらルルはリリアナに前以てありのままの自分で付き合う様にと言われたらしく、それを実行する為にサラやアルにすら嘘を吐き、あの2人もありのままの自分でエミルに付き合ってくれてたのだ。

 それを聞き、エミルはリリアナやルルには敵わないと思いながら一呼吸入れて話を続け始めた。

 

「そっか…リリアナと貴女には感謝しないとね。

 お陰で私がライラだったって事を周りに内緒にしてたのを助けられたみたいだから。

 ありがとうルル。

 …それで何だけど、その内緒話をしたって事は私からも対価で何か話をして良いって受け取って良いの? 

 勿論お互いの秘密として」

 

「ええ、勿論」

 

 エミルはルルに感謝しながら、自分が内緒にしていた事を此処で話した為自分からも内緒話をして良いのかと聞くと、ルルは勿論と答える。

 エミルは副産物の盗聴防止結界(カーム)が大助かりになる場面が来る日が早くもあるとはと思いながら話し始めた。

 

「ルル、貴女は人間とリリアナの間に生まれた娘、確かそうサラからも言われてたよね?」

 

「はい」

 

 エミルはライラの転生体と前置きしてルルに聞きたかった事…『ルルの出生やそれらに関わる事』を、自身の目と耳で確かめたかった事を此処で聞く、そう意を決して彼女の目を見ながら踏み込み始める。

 誓いの剣(オースブレード)で取り決めた事、リリアナの夫は誰か、ルルの父は誰なのかを秘匿すると決めた事をこの時は『ライラ』として聞く為に言葉を紡ぎ始める。

 

「なら、その父親の事を敢えて私はライラの転生体として聞きたいわ。

 貴女の父親は………私達誓いの剣(オースブレード)が関係を秘匿すると決めた人………『初代勇者ロア』、彼なのよね?」

 

「そうです、私はお母様とお父様…ロア様の1人娘です。

 なので端的に言えば、私はロマン君の遠いご先祖の1人娘になります。

 そして私自身も、魔法と絶技の両方が使える…つまり勇者としての資質は、一応あります」

 

 エミルはルルの父親が、リリアナの夫と秘匿されたロアである事を確認すると彼女は両手から小さな炎を出し、魔法と絶技が使える勇者ロアの血筋である事を証明して見せた。

 それらを確認したエミルは内心でリリアナとロアにおめでとうと思いながら更に話を続けた。

 

「ライブグリッターを渡した天使…『アイリス』が残した言葉、『神剣を振るう勇者の血筋を絶やしてはならない、それは魔王を倒せなくなる事を意味する』と私達に伝えて来た事。

 それに従い私達は各地にロアの血筋が残る様に子を儲けさせた…ロアが倒れた後にその跡を継ぐ誰かを世に残す為に。

 ただ、ロア本人はリリアナだけを愛したかったから2人の仲を裂く残酷な事をしたって私は思ってた…だけど、それでも2人の愛は変わらず、私達はリリアナとロアが婚姻を結んだ事を隠した。

 そしてその後に貴女が生まれたのね、ルル」

 

 エミルはリリアナとロアに負い目を感じる事…天使アイリスの言い付けとは言えロアにリリアナ1人を愛する環境を作れない様にした事をしたのを当時後悔し、謝罪しても仕切れない事をしたとさえ思っていた。

 所が、リリアナとロアの愛は変わらず最後には婚姻を自分達の間だけで周りに秘匿して結んだ事があり、其処から10年経過し漸くルルが生まれたのだと理解する。

 ルルもそれに頷きながらエミルをじっと見続けていた。

 

「そっか、2人の子なのね…良かった、しっかり愛し合った2人の間にこんなに可愛い娘が出来て…ああ、良かった…あの2人の愛がしっかりと形に残って……本当に、良かった…」

 

 エミルはリリアナとロアにしっかりと娘が出来た事を泣きながら喜び、そして出会えた事に運命的な物を感じながら自信家の彼女から想像出来ない程大粒の涙を流していた。

 その涙はそれ程ロアとリリアナの行く末を気にしていた証明にもなっていた。

 

「…あの、感涙に咽ぶのは良いのですが、私からライブグリッターの在処を聴き出そうとか考えないのですか? 

 ロアとリリアナの1人娘、知らない訳が無いと思わないのですか?」

 

 しかし此処でルルはエミルに自分にライブグリッターの在処を聞こうと思わないか、知らない訳が無いと言う現実的観点をエミルが泣き止むのを少し待ちながら聞き始める。

 

「うん、思わない。

 だって、あの2人の事だから貴女に在処を託しても黙ってる様に伝えるでしょう? 

 私がライラだったって事を黙る様に伝えたリリアナなら」

 

 するとエミルはあっさりと思わないと答える。

 その理由もリリアナとロアならルルにライブグリッターの在処を託しても絶対に漏らさない様にすると2人の事を知る者として答える。

 事実、リリアナはライラの転生体は誰かだと話す事は無い様に伝えていた為、その理論は屁理屈だが通る物であった。

 

「…では、これからゴッフ様にライブグリッターの在処を聞き出すのも無意味では? 

 私の父が、お母様の夫が誰かを此処まで隠して来た方達なんですよ? 

 それなのに行くのですか?」

 

「うん、直接的な在処までは流石に言わないだろうけどヒントは必ずくれるって信じてるから。

 魔王を斃したい、その想いが真実ならば…だって、同じ目的で戦って来た『仲間』なんだから」

 

 ルルはリリアナがそうならゴッフに聞きに行く事も無意味だと投げ掛け、なのに行くのかと『エミル』に聞くと、本人は在処を直接は言わないだろうがヒント程度はくれると信じていた。

 その理由をエミルは魔王討伐と言う同じ目的で戦って来た『仲間』だと、様々な思いを込めながら笑顔で告げる。

 それを聞いたルルは少しキョトンとしながらも根負けしたと思い、溜め息を吐きながらも苦笑していた。

 

「…よし、話してる間に結界魔法(シールドマジック)の改良型の構築完了と。

 名前は…単純に『結界魔法(シールドマジック)V』で良いかな? 

 と言う訳で行動方針は変わらずセレンに行ってレベル上げをして、其処からゴッフェニアでゴッフに話を聴きに行くわ。

 後ルルには申し訳無いんだけど、ライブグリッターを振るうのはロマン君って私は」

 

「それなら大丈夫ですよ。

 昔持った事がありますが、私では4割しか使いこなせませんでしたから。

 多分今現在でも6割が精々だと考えてますから、私もロマン君が相応しいと思ってます」

 

 そうして結界魔法(シールドマジック)Vの理論構築を完了し、行動方針は変えないと話したエミルはその後にロマンにライブグリッターを継承させる気も譲らないと話す。

 するとルルはあっさりと引き自分では使い熟せ無かった過去を教え、更にロマンならばとルル自身も考えている事を話2人は秘密を共有する友人となり2人で笑みを溢していた。

 

「じゃあルルにもこの魔法を万が一があった場合の為に教えるわね。

 リリアナの事だから絶技も魔法も一流になってねって天然なんだけど妙にプレッシャーを感じさせる課題とか出してそうだから問題無く貴女も使えそうだから」

 

「はい、お母様はそのつもりは無いんでしょうが、なんかその…ちょっと怖い雰囲気を出すんですよ、偶に。

 …結界の強度自体はIVと変わらず問題点を改良したみたいね。

 これならもしもの時は使えます、ありがとう、エミル」

 

 そしてエミルはルルにも結界魔法(シールドマジック)Vを教えながらリリアナの少し怖い部分を互いに話し合い、そのつもりがないのに何故怖いのかと思いながら会話に花を咲かせ、そしてエミルは盗聴防止結界(カーム)を解除してお互いに寝床に就き始めた。

 

「じゃあルル、おやすみなさい」

 

「…おやすみなさい、エミル…」

 

 こうしてリリアナの1人娘とライラの転生者はちょっとした内緒話を共有する共犯者になり、ルルは少しサラやアルにまた悪いと思いながらもこの話を胸の内に仕舞い、エミルもルルから聞いた事は漏らさぬ様に、自分から話すまでは言わない様にしようと思いながら眠りに就いた。

 そしてその夜、エミルは過去の自分(ライラ)の時の夢を見ていた。

 内容は他愛の無い、魔王を斃した後に何をしたいのかと全員で語り合った、そんな過去の夢を。

 

 

 

 それからエミルは朝起きた後、ロマンにも結界魔法(シールドマジック)Vを教えた後何事も無く馬車は街道を進み、3日目の朝にして遂にセレンに到着する。

 ロマンは本国に来た事が無い為かリリアーデやリーバ等を超える大きさの街に四方を覗き見し、エミルはライラックより少し小さいが荒野に似合う石造りの建物とあちこちから聞こえる金槌の音や鍛治特有の臭いに流石ドワーフの王が治める国の都市の1つだと感心していた。

 

「ガッハッハッハッハ、これがセレンの街並みよ‼︎

 見よ、石造りの建物、鍛治職人達の汗水垂らすこの光景を‼︎

 セレンとゴッフェニアは他の国の中央都市にだって負けてないぜ‼︎」

 

「凄い街並みだね、皆」

 

「そうだね〜、何度来てもこんな大きな街だと迷子になるかもね〜?」

 

 アルは故郷の国の第2都市を自慢げに語り、その鉄の臭いや巨大な街並みにロマンやサラは圧倒されながら馬車は馬屋に預かって貰い、其処からギルド運営の宿屋へと向かい始めた。

 

「よう兄弟、久し振りだな‼︎」

 

「腕は鈍ってないだろうな兄弟‼︎」

 

「ガッハッハッハッハ、俺様を誰だと思ってやがる‼︎

 ゴッフ(ジジイ)の弟子のアル様だぜ、腕が鈍る訳無いだろうが‼︎」

 

 その間に行く先々でアルは人間やドワーフに兄弟と声を掛けられ、ロマンは改めてゴッフの弟子のアルと言う存在の大きさを知り、エミルも流石頑固者ゴッフの弟子だと思いながら歩いていた。

 そしてギルド運営の宿屋『酒飲亭セレン支店』に辿り着き中へと入るとドワーフ達が昼間から酒を飲みながらも和気藹々とした空気が宿屋から漂っていた。

 

「おっ、アルの兄弟じゃねぇか久し振りだな‼︎

 おお〜い『キーラ』の嬢さん、アルの奴が来たぜ〜‼︎」

 

「えっ、あらあらアルさん、お久し振りですね! 

 横に居る方達はパーティメンバーですか?」

 

 すると客の1人がアルに気が付くと、宿屋の主人であるドワーフの女性キーラを呼び出す。

 そのキーラも料理を運びながらアルが久々にセレンに来た事を驚きながら、連れの4人がパーティメンバーであるかを確認して来る。

 

「おう、ついでにリーダーはこの魔法使いの女だぜ」

 

「はい、誓いの翼(オースウイングズ)のリーダー、エミルです。

 今回この街に来た理由ですが、この近くの廃坑になった鉱山でミスリルゴーレムが数多く徘徊していて、それの駆除依頼が無いかを確かめに来ました」

 

 アルはエミルがリーダーだと告げると1歩下りエミルに話し掛けろと合図を送ると、エミルは一礼をしてから誓いの翼(オースウイングズ)のリーダーだと話し、更に近場の廃坑でミスリルゴーレムを駆除する依頼が無いかをキーラに尋ね始める。

 

誓いの翼(オースウイングズ)…ああ、つい先日出来上がったパーティね‼︎

 ええありますとも、ざっと数えて5件、その内1番近いのはこの『ビーエ山』の廃坑に大量のミスリルゴーレムが徘徊してますよ! 

 魔王を斃したいならこの依頼を片付けないとまず無理ですから頑張って下さいね‼︎」

 

 するとキーラはカウンターに戻り、地図と魔法紙(マナシート)を取り出しその中でビーエ山の廃坑にミスリルゴーレムが大量発生していると話して依頼書を渡してくる。

 エミルはそれにサインしながらキーラも流石にギルド協会の一員である為エミル達誓いの翼(オースウイングズ)の目的を共有しているらしく、これ位を片付けられないなら無理と言いつつ笑顔で激励し、エミルもそれを重々理解している為頷いていた。

 

「何だ兄弟、何時から正義の味方になったんだよ? 

 魔王を斃したいのは其処のサラちゃんやルルちゃん位だったろ〜?」

 

「五月蝿ぇそんなんじゃねぇっての‼︎

 俺様の作った武具が魔族、更には魔王をぶっ斃した事の証を立てたいだけだっつうの‼︎」

 

 すると客の1人がアルを冷やかしに掛かると、アルは自分の作った武具が魔族や魔王を斃した証を立てたい…と、話してはいるがサラやルルは長年付き合っている経験から知っている。

 アルは仲間の義理人情に行動で応えるタイプだと。

 それが魔王討伐と言う大役になり客でもあり仲間でもある自分達を心配しての事だと。

 

「さて、キーラさん。

 ギルド協会にこの魔法を冒険者に流布して欲しいのですが良いですか?」

 

「魔法? 

 …あらあらあら、これはまた3つの新しい魔法を作り上げてしまうなんて素晴らしいですわね! 

 魔王を斃しい意気込みが良く伝わりますわ、ええ此方はギルド協会で冒険者全体に流布致しますわ。

 ただ…このレベル150以上で使える魔法は余り使える人が出ないと思いますけどね」

 

 そしてエミルは自身が作り上げた3つの魔法を流布するタイミングは此処だと、名ありの魔族の件もありそう感じながら術式を写した魔法紙(マナシート)を3枚を渡す。

 それを見てキーラはエミル達の熱意を感じ取り、ギルド協会に流布すると話しながら奥へ行き始めた。

 但し念話傍受魔法(インターセプション)は使える者が限られると話しをすると、エミルは内心そうじゃ無いと困ると思いながらその背中を見送った。

 

「さて、少し休んだら早速ビーエ山に行くよ皆! 

 幸い其処まではそんなに離れていないから馬車を使えば直ぐに着くから頑張って行こう‼︎」

 

「お〜‼︎」

 

「え、えと、お〜…!」

 

 エミルは地図確認を終えてビーエ山に着くまでは馬車で其処まで掛からないと話し、号令を掛けるとサラが真っ先に応え、次にロマンが戸惑いながら号令に応え、アルとルルも無言で応え、5人は馬屋に戻り早速ビーエ山に向かい始めるのだった。

 

 

 

 そのビーエ山上空にて、エミル達が向かう瞬間を見たアギラは連れて来た部下の1人に向き命令を始めた。

 

「では手筈通りに『例の魔物』で奴等を殺すか追い詰めろ。

 追い詰めた場合は貴様が残りを詰めに入りあの魔法使いと勇者から優先的に殺せ。

 そうすれば名ありの魔族に昇級させてやる、期待しているぞ」

 

「はっ、必ずやご期待に応えて見せましょう‼︎」

 

 名無し魔族にアギラは命令を下すと転移魔法(ディメンションマジック)で消え去り、部下の魔物は昇級が後少しで出来る為か張り切りを見せ、用意した魔物に命令を下し始めた。

 

「さあ行け、中のゴーレムが邪魔ならお前の好きな様にするが良い。

 そして『同じゴーレム種』でも格が違うと坑道内のミスリルゴーレムや今から来る奴らにそれを見せ受けてやれ…」

 

 その部下の名無しの魔族はアギラから預かった『ゴーレム』に対し命令し、そのゴーレムは悪意に操られた他の魔物と違う命令に基づき動き始めた。

 そして洞窟内のミスリルゴーレムを自身の使命の邪魔になるとして排除を開始した。

 ゴーレムは知能が無いと思われがちであるが、実は魔族に一度操られれば無機物から生まれた存在からは考えられない思考能力を身に付け、下された命令に邪魔な者は排除する忠実な僕程度に思考出来るのだ。

 

「そうだ、そうやって邪魔な奴は排除し、今から来る勇者と魔法使いを殺せ…ふふふふ!」

 

 そうしてアギラから手渡されたゴーレムの思考能力を見届けると名無し魔族も転移魔法(ディメンションマジック)でその場から離れる。

 そして残されたゴーレムはミスリルゴーレムから攻撃を受けても傷1つ付かない、ミスリルとはまた違った輝きを持ちながら強度の差でミスリルゴーレムを粉砕する。

 こんな事が出来る理由はただ1つ、このゴーレムはミスリルゴーレムよりランクが上の、最上位に分類されるゴーレムなのだからである。

 そして魔族はこれからエミル達が味わう地獄に心躍らせながらアギラに報告の為に『念話』をするのであった。

 

 

 

「っ、魔族の念話がある、しかも『ビーエ山に罠を張った』って奴等は話してる!」

 

「あぁん、俺様の国で小細工をしやがるのかぁ? 

 そいつは頂けねぇなぁ、その罠毎奴等を粉砕してやるぜ‼︎」

 

 しかしその念話はエミルにより傍受され、これから依頼で向かうビーエ山に魔族の罠ある事をロマン達は理解する。

 そしてアルは生まれ育った国で好き勝手される事を良しとせず、魔法祝印(エンチャント)を掛けたミスリルアックスでそれらを粉砕しようと高らかに叫び、エミル達もこれから待ち受ける罠に敢えて飛び込む様にし魔族の思い通りにはさせないと警戒しながら馬車を目的地に走らせるのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
今までの中でルルの父親は誰だとエミルが予想立てするフラグがあり、それを回収しました。
更にルル側もエミルの正体に気付くと言う2人は仲間の中でちょっとした秘密の共有者になりました。
そして魔族の罠が張られた地にエミル達は飛び込みますがその結果は如何なるかお楽しみ下さいませ。
それからお知らせとしてストック切れにより更新速度が遅くなります。
楽しみに待っていた方は申し訳ありません。

次回もよろしくお願い致します。


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第14話『誓いの翼、罠に飛び込む』

皆様おはようございます、第14話目更新でございます。
今回罠に飛び込んだ誓いの翼の面々に待つものとは…?
後お知らせとしてストック不足な為毎日投稿から不定期更新に速度ダウン致します。
楽しみにしていた皆様、誠に申し訳ありません。
では、本編へどうぞ。


 エミルの念話傍受魔法(インターセプション)により、魔族がビーエ山に何らかの罠を張った事を知り、少し離れた場所で馬車から降りた後誓いの翼(オースウイングズ)は山道を登りその足で廃坑入口まで辿り着く。

 それから入口の外から中を覗き、武器を構えながらエミル達は陣取り、そして陣形を組みながら突入する。

 

「さて魔族の野朗共、どんな罠を仕掛けやがったか見せて貰おうじゃねぇか…!」

 

 前衛に立つアルは早速魔族の罠に熱り立ちながらミスリルアックスを構え前へと進み始める。

 それに続きロマンとフードを取ったルルが、そして後衛にサラとエミルが立ちながら周りを警戒しながら進み、エミルに至っては透視(クリアアイ)観察眼(アナライズ)を使い、岩場に隠れても直ぐに見つけられる様にしながら警戒心を最大限にしていた。

 

【カラカラ】

 

「むっ? 

 …コイツはミスリル鉱石じゃねえか! 

 こっちにも、あっちにも沢山ありやがる! 

 こりゃまさか、ミスリルゴーレムの残骸か?」

 

「…うん、僕ミスリルゴーレムや他のゴーレムを倒した事があるから分かるよ。

 ゴーレムは倒したらこんな風に体を構築してた鉱石が崩れて動かなくなるって」

 

 それからある程度奥に進んだ中で前衛のアルとロマンはミスリルゴーレムの残骸を発見し、それがあちこちにある事を確認し合い更に本当にミスリルゴーレムの残骸かを確認し合いながら残骸を手に触れ、何故残骸になっているかを疑問に思っていた。

 

「…ねえアル、ロマン、それに皆、ミスリルってこんな削れ方をする? 

 ほらこの残骸、まるでミスリルより硬い何かに抉る様に攻撃された痕、みたいなのが沢山付いてる」

 

「あ、本当だ! 

 でも可笑しいよね、ミスリルより硬い物なんて言ったらこの世界で1番硬い鉱石、『オリハルコン』しか無いよね?」

 

 するとシーフと言う目利きが働く(ジョブ)に就いてるルルがミスリルゴーレムの残骸から『より硬い何かに攻撃され削られた痕』を発見し、サラも確認するとミスリルより硬い鉱石はこの世界には1つしか無く、それはミスリル以上に採掘が難しく発見され辛い超希少鉱石オリハルコンしかないと断言する。

 それを聞いたアル、エミルは更に周りを警戒し始め少しずつではあるが後ろに後退し始めていた。

 

「あ、あれ、如何したのアルにエミル?」

 

「如何したもこうしたもねぇよ‼︎

 今お前言っただろ、ミスリルより硬いモンはオリハルコンしか無ぇって‼︎

 つまりこれをやった奴はな…‼︎」

 

 サラはエミルやアルの反応に質問をすると、アルはサラの天然ボケ振りに頭を抱えながら先程彼女が言った事を反復し、ミスリルゴーレムをこんなにした者にある程度予測が出来た為後退し始めている事を告げようとしていた。

 

【ズン、ズン…】

 

 すると廃坑の奥から重い足音が響き渡り、その方向をエミル達は覗き見る。

 するとエミルが発動している2つの眼の魔法にミスリルゴーレムをこんな無惨な残骸に変えた主が移り、更に観察眼(アナライズ)で一体何なのか判別出来てしまった為固唾を呑み始めていた。

 

【カラカラ、ズン、ズン!】

 

 そして、その悪魔はミスリルゴーレムの残骸を踏み荒らしながら現れた。

 ミスリルの銀の光とは違う、金の光を放ち銅のような色合いを持つこの坑道には存在しない筈のモノがエミル達に近付いていた。

 

「…チッ、マジでで出やがったぜ…‼︎」

 

「こ、このゴーレムは…⁉︎」

 

「…『オリハルコンゴーレム』‼︎

 討伐推奨レベル210、ゴーレム種の…最上位の魔物…‼︎」

 

 そう、其処に居たのはミスリルゴーレムを超える最上位の魔物、全身がオリハルコンで構成された怪物、オリハルコンゴーレムであった。

 エミル達はこのゴーレムこそが魔族達が用意した罠だと判断し、1歩相手が近付く毎に後ろに下がり始める。

 

「…今よ、入口まで走って‼︎」

 

 そしてある程度後ろに下がった瞬間、全員でオリハルコンゴーレムから背を向けて入り口まで走り始めた。

 ゴーレム種は体内の核部分に攻撃を当て破壊すれば倒せるが、上位に上がる程体の硬さや魔法ダメージ減衰が上がって行き、オリハルコンゴーレムにもなれば生半可な魔法は反射され、強度アップIVの魔法祝印(エンチャント)が無いミスリル製武器はあっさり刃が砕け散る正真正銘の怪物と化すのだ。

 

「クソが、こんな所じゃエミルの魔法なんかも撃てはしないし真っ直ぐ来て殴り殺されるシンプルな図にしかならねぇ‼︎

 早く入口までずらかれぇ‼︎」

 

「魔族め、あんな怪物を用意するなんて…‼︎」

 

 アルもルルも完全に愚痴を溢しながら全速力で走り、エミルは後ろを振り返りながらオリハルコンゴーレムが真っ直ぐ、しかしゴーレムらしくゆっくりと近付いて来ている事を確認し、本来なら無差別に暴れ回るしか無い魔物が明確に自分達を狙いに来ている。

 これは魔族が直接操っている、エミルはそう確信していた。

 

「出口だ、皆頑張って‼︎」

 

 そうしている内にロマンが声を上げ、出口の光に全員で近付き、一気に走り抜け出した。

 更に後ろを見ればまだオリハルコンゴーレムは近付いて来ており、坑道の出口の少し先は崖になっており、エミルはその崖下を覗きながら杖を構えていた。

 

「おい、早く転移魔法(ディメンションマジック)を使って馬車まで行くぞ‼︎

 幾ら俺様自慢の武器でもミスリル製の武器で倒せる敵にも限度があるってもんだ‼︎

 エンシェントドラゴンより硬いオリハルコンゴーレムの相手は流石に想定出来てねぇぞ‼︎」

 

「…確かに竜鱗よりも硬い鉱石相手にミスリル製の武器で戦うのは無謀。

 だけど魔法祝印(エンチャント)IVで強度アップを付けたミスリル製武器はエンチャント抜きのオリハルコンに近い硬度まで上げられる! 

 そして魔物には魔法祝印(エンチャント)は付かない、ならちょっと苦しいけど戦えるわ‼︎」

 

 アルは流石にミスリルより硬い相手は自身の自慢の武器でも砕かれてしまうのを自覚はしてる為か、エンシェントドラゴンを引き合いに出し馬車まで転移する事をエミルに叫ぶ。

 しかしエミルは誓いの剣(オースブレード)がミスリル製武器で如何にオリハルコンゴーレムを倒したかを記憶している事、更に自分達の武具は対魔族用に魔法祝印(エンチャント)を施している為戦えると叫びながら杖を構えたまま立っていた。

 

【ズン、ズン、ズン‼︎】

 

「わぁ、来た来た来た来た来たぁ⁉︎」

 

「チッ、戦えるなら戦えるで早く指示しろ‼︎

 エミルさんよぉ‼︎」

 

「…後、少し」

 

 そうこうしている内にオリハルコンゴーレムが入口に辿り着き、サラが慌てふためきアルが腹を括る中、エミルはタイミングを図りながら杖を構え続けていた。

 そうして崖の直ぐ手前まで追い詰められたロマン達の前にオリハルコンゴーレムが腕を振り被る──。

 

「今、皆捕まって‼︎」

 

 その刹那、エミルから自身に捕まる様に叫ぶと全員がエミルに手を振れる。

 そしてそれを確認した0.2秒の内に転移魔法(ディメンションマジック)を使用、エミル達はその場から消える。

 するとオリハルコンゴーレムの振り被った腕は空振りに終わり、更に崖を攻撃してしまい崖先の岩場を崩してしまいオリハルコンゴーレムはそのまま崩れ行く足場と共に山から転げ落ち、高い地面へと真っ逆様になった。

 

 

 

 転移魔法(ディメンションマジック)でもしも先程の足場が崩れた際に落下する岩が何処に落ちるかを計算しながら崖の下にエミルは転移する。

 すると予想通り岩はエミル達には当たらず、オリハルコンゴーレムは転げ落ちて行く様を見ていた。

 

「わぁゴーレムがゴロゴロ〜」

 

「だがあればオリハルコン、『メタルゴーレム』程度ならこの山から落ちればそれでバラバラだが硬さが違い過ぎて落下してもダメージにはならないぜ? 

 一応倒し方なら存在するが…」

 

 サラはオリハルコンゴーレムが転がる様を見て呑気な事を言い始めたが、アルは流石にオリハルコンともなれば山から滑落させたとしても無意味と理解しており、如何に戦うかをエミルに問い質し始める。

 但し、鍛治職人としての知識を敢えて出さない様にしてである。

 

「職人のアルなら分かるんじゃないかな? 

『硬い物を熱して急に冷やして思い切り叩く』と如何なるか?」

 

「…やっぱりそれだよな。

 分かった、だったらやってやるぜ、とことんまでな!」

 

 するとエミルは少し余裕が生まれた為アルに笑みを浮かべながら『硬い物を熱して冷やして叩く』と言う言葉を投げ掛けた。

 それをアルも予想していた、と言うより現状はそれ以外にオリハルコンで出来た怪物を倒す手段が無い為、エミルの案に最後まで付き合うとして武器を構えた。

 そうして直ぐにオリハルコンゴーレムが落ちて落ちて来て、丁度エミル達が後ろに居りロマン達は前衛となっていた。

 

「お前等、一点狙いだ‼︎

 火の魔法、絶技で熱した後は水でも氷でも良い、兎に角熱した石野朗がキンキンに冷える奴を使って最後は俺達前衛の誰かが土の絶技でアイツをぶっ叩くんだ‼︎

 それを一点狙いで繰り返して戦うぞ‼︎」

 

「アル…そう言う事か、ロマン、サラもエミルも合わせる事、用意は良い?」

 

「分かったよ、アル、ルル! 

 その作戦で行くよ‼︎」

 

 オリハルコンゴーレムが起き上がる間にアルが周りに作戦を説明し、ルルが如何言う事なのかを理解すると次にロマンもエミルが伝えたヒントからアルが練った作戦でもあり、村に鍛冶屋があり其処で石や硬い物を同じ事をしたら如何なったか見ていた為理解し、声を張り上げながら応えた。

 その間にエミルは身体強化(ボディバフ)IVを全員に掛けていた。

 

「…ああ、そう言う事⁉︎

 なら私から行くよ、弓なら一点狙いが得意だからね、爆炎弓‼︎」

 

 最後にサラが理解すると矢を構え、火の上級絶技を使用して狙い易い胸の中心に矢を放つ。

 当然相手はオリハルコンその物の為矢自体は弾かれるが、矢に纏った炎はそのまま燃え移り始める。

 しかしその炎も直ぐに消えようとしていた。

 

「まだだ、もっと火で熱するぞ、爆炎斧‼︎」

 

『爆炎剣‼︎』

 

 だが其処にアル、ルル、ロマンの3人が同時に『サラが狙った箇所』に火の上位絶技を更に当て、アルは力任せに振り、ルルとロマンは斬り伏せた後に直ぐに離脱して距離を作りエミルが最上級魔法を使う環境を整える。

 

「まだまだよ、灼熱雨(マグマレイン)‼︎」

 

「爆炎弓‼︎」

 

 其処にエミルが動き出し、まだ熱するとして灼熱雨(マグマレイン)を出来るだけ小さく収束し、しかし威力は据え置きのまま熱し始めた箇所をサラと同時に熱する。

 すると矢が弾かれるのは一緒であったが、オリハルコンゴーレムの方に変化が現れた。

 炎で熱した金色に輝く胸部の中心がその炎の隙間から赤く熱せられた痕が見えていた。

 そしてそれをエミル達は見逃さなかった。

 

「今よ、大水流(タイダルウェイブ)‼︎」

 

「『絶氷弓』、いっけぇ‼︎」

 

 次にエミルが水の最上級魔法、サラが氷の上位絶技を使用し、熱せられていた箇所を一気に冷やし、元の熱せられていない状態に戻した。

 其処にアルが動き出し、ミスリルアックスを思い切り振り被る用意をしていた。

 

「うおりゃぁ、震撃斧ゥゥ‼︎」

 

 オリハルコンゴーレムが動き出す前に軽量化魔法祝印(エンチャント)をされた武具のお陰で1手早く動き、土の上位絶技を胸部の中心に力任せに叩き込み更に吹き飛ばし、地面に転ばせる。

 

「(確かにエミルの言う通りだ、武器に傷が付いちゃいねぇぜ‼︎)」

 

 そして本来ならオリハルコンに此処までミスリル製の武器を加減抜きで叩き付ければ武器側が折れる筈だが、エミルの強度アップIVのお陰で本当にミスリルの刃その物の硬度がオリハルコンに近くなっていた為刃毀れすらしていなかった。

 

【ググググ】

 

 それを確認したアルの目の前でオリハルコンゴーレムが起き上がりだし、再び行動開始をしようとしていた………だが、その胸部の中心を良く見るとオリハルコンに僅か、本当に僅かだが傷が付き、エミルやアルの考えた作戦が正しい物だったと証明された。

 

「おし、やっぱオリハルコンと言えど急に熱した後に更に急に冷やしてぶっ叩けば傷が付く‼︎

 お前等この調子で戦うぞ‼︎」

 

「OKだよ、アル‼︎」

 

 アルはエミルのヒントにより思い付いた事が正しかったとガッツポーズを取りながらこの調子で行けばオリハルコンゴーレムを倒せる、そう確信し全員に檄を飛ばしオリハルコンゴーレム討伐に集中し始める。

 

「………っ、エミル上‼︎」

 

 そう思っていた矢先にサラの危険予知が発動し、エミルに危機が迫っている事を叫び、エミルとサラが上を見ると魔族が上から迫り来ており、双剣を構えようとしていた。

 

「っ、結界魔法(シールドマジック)‼︎」

 

「はははバカめ、結界魔法(シールドマジック)は何もせずに懐に飛び込めば無意味と言う物‼︎

 アギラ様は何故こんな魔法使いや勇者を狙えと仰ったか分からんが、兎に角死ぬが良い‼︎」

 

「エミル‼︎」

 

 エミルは魔族の接近で咄嗟に結界を張るが、敵も結界魔法(シールドマジック)の欠点は熟知している為剣の柄から手を離しそのまま結界内に飛び込もうとし、ロマン達はエミルの危機に走り始める。

 …だが此処でルルは思考する、エミルは結界魔法(シールドマジック)とは言ったが何番であるかを宣言していないと。

 その為もしかしたらと思いながらも走っていた。

 そして………。

 

【ガンッ‼︎】

 

「グエッ⁉︎

 な、何故、結界魔法(シールドマジック)は攻撃以外はすり抜ける様になってた…筈…⁉︎」

 

 するとその魔族は結界に阻まれてしまい、素通りする事が叶わなかった為一旦距離を置き、何故そうなったのか分からず慌てふためきながらエミルを見ていた。

 

「大成功、岩が降って来る時もこれを使わないで正解だったわ‼︎

 そうよ、結界魔法(シールドマジック)はその欠点があったから改良型を作ったのよ、名付けて結界魔法(シールドマジック)Vよ‼︎」

 

 そのエミルは落石時にも結界魔法(シールドマジック)Vを使わず落石を避けれる形で転移した理由は魔族が何処かで見ている可能性を、オリハルコンゴーレムが自分達を明確に狙って来ている為近くで操っていると考えた為であった。

 そしてその予想は当たり、レベル200の魔族が現れ不意打ちを行おうとしたのである。

 因みに魔物は魔族に造られた生命の為レベル差に関係無くあらゆる魔族、そして魔王の命令を受け付けると過去の自分(ライラ)は魔族から直に聞いている。

 

「さてレベル200の魔族と討伐推奨レベル210のオリハルコンゴーレム…押さえるならやっぱり何時でもやれるオリハルコンゴーレムを押さえるべきね、結界魔法(シールドマジック)V‼︎」

 

 するとエミルは魔族とオリハルコンゴーレムの何方を押さえるべきかを考え、何時でも倒せて鈍重なオリハルコンゴーレムを押さえ、知性を持ち素早く行動する魔族を斃すべきだと考えたエミルはオリハルコンゴーレムに結界魔法(シールドマジック)Vを張る。

 但し逆張りであり、内側に効力が発揮される拘束タイプの結界を張ったのだ。

 

「な、あの結界は逆張りで魔物まで押さえる事が可能なのか⁉︎

 アギラ様が仰った魔法使いと勇者が危険な理由の一端が知れたわ…‼︎

 貴様、一体何者だ、名を名乗れ‼︎」

 

「あらこれは失礼を。

 私はセレスティア王国第2王女エミルよ。

 ああ覚えなくて良いわよ、どうせこの戦闘で何方が死ぬか片が付くから、ね‼︎

 大地震(ガイアブレイク)灼熱雨(マグマレイン)‼︎」

 

 双剣の魔族はアギラが言った勇者は神剣を万が一使える可能性がある為だが、魔法使いの方の危険性…既存の魔法を改良してしまうその人間離れした才覚に汗を流し、名乗る様にエミルに叫ぶ。

 そのエミルは片手間に身体強化(ボディバフ)IVを全員に掛け直し、切れる時間を延長しながら名乗りながら大地震(ガイアブレイク)灼熱雨(マグマレイン)を放った。

 

「くっ、結界魔法(シールドマジック)IV‼︎」

 

 双剣の魔族は上からの灼熱雨(マグマレイン)、下からの大地震(ガイアブレイク)を防ぐべく結界魔法(シールドマジック)IVを使い両方を防御する。

 しかし、その結界は2つの魔法の威力により結界が破れて行き、最終的に2つの魔法を結界分と魔法祝印(エンチャント)分を差し引きエミルの魔法大砲を受ける事になった。

 

「ぐおぉ、我が魔界の鎧を以てしてもこの威力を発揮するとは…貴様、これではまるで魔界で忌まわしき者と聞き及ぶセレスティア初代女王ライラの様ではないか⁉︎」

 

「私はライラ様の子孫よ? 

 ならその才覚を継ぐのは当たり前だと思わないの、魔族! 

 大水流(タイダルウェイブ)‼︎」

 

「極雷剣‼︎」

 

「暴風弓‼︎」

 

 魔族はこの魔法威力に噂に聞く誓いの剣(オースブレード)の魔法使いライラの様だと口にすると、エミルは子孫だからと言う理由付けをしながら大水流(タイダルウェイブ)を使い、其処にロマンも駆け付けサラと共に3人で攻撃をする。

 それを双剣の魔族は流石に危ないと感じたのか避ける選択を取り、魔法と絶技を避けて態勢を立て直す。

 其処にアル、ルルも駆けつけフルメンバーで双剣の魔族を相手にする事になり、全員で武器を構える。

 

「…はっ、アギラ様が警戒しろと仰った理由は良く分かった! 

 ならば我が双剣の餌食にし、名を授かりアギラ様に更に貢献させて貰う事としようではないか‼︎

 さあ来い下等な地上界の者共等貴様達の死に場所は此処だ‼︎」

 

「何方が死ぬかは最後まで分からない…全力で抵抗する‼︎」

 

「さあ来やがれ、今度は俺様が大嫌いな魔法祝印(エンチャント)次の武具で相手だ、覚悟しやがれよ魔族が‼︎」

 

 双剣の魔族はアギラが言った言葉を全て理解した上で下等な地上界の者共等とエミル達を蔑み、彼女達を殺して名を授かろうと言う欲を見せながら双剣を構える。

 対するルルは死ぬかは最後まで分からないとした上で逆手でミスリルダガー2本を構え、アルも大嫌いな魔法祝印(エンチャント)を受け入れた上での魔族との第2戦に挑む事となる。

 

「さあ、その首寄越せ‼︎」

 

「断る、僕達はこんな所で負けられない‼︎」

 

 双剣の魔族は先ず1番前に出たロマンから狙いを定め、漆黒の双剣で首を斬ろうとする。

 それをロマンが盾と剣で受け止め、その瞬間にアルやルルが割り込み引き剥がす。

 そして魔族の双剣を受け止めた剣と盾は傷が付かず、魔法祝印(エンチャント)とアルの腕前が合わさり魔族の武具と魔法祝印(エンチャント)に負けない様になっていた。

 

「凄い…刃毀れもしない、これなら皆を守る為に戦える!」

 

「そうよロマン、貴方は貴方の戦いをしなさい!」

 

「敵を能動的にぶっ斃すのは俺たちの役目だ‼︎

 さあ、行くぜぇ‼︎」

 

 ロマンが武具を見ながら心から誓いの翼(オースウイングズ)や心の中に思い浮かべた者達を守る為に戦えると気合を入れながら叫ぶ。

 それを聞きアル、ルルもロマンは自分自身の戦い方をする様にアドバイスし、エミルの魔法とサラの弓が飛び交う中3人の前衛は突撃し、双剣の魔族と戦いを更に繰り広げて行くのだった。

 

 

 

 一方ビーエ山の先頭箇所を覗き見出来る場所にて、アギラは頬を掻きながらロマンとエミル、特にエミルの方を見て苦々しい顔をしていた。

 

「ん〜む…あの結界魔法(シールドマジック)を欠陥を改良したのと魔法自体の威力と熟練度………更に私の眼から視える『魂の色』、あの女は矢張り…」

 

 アギラはエミルを見て様々な事柄から、特に魔族の眼が捉える『魂の色』を指摘しながら考え込みながら、このままエミルが育つのは危険だと判断し、次からは更に妨害工作を強めるべきか、それとも自らが立てた『プラン』を早々に決行し地上界を混乱に陥れてしまうか考えていた。

 

「…あの戦いを視ながら何かを思案する。

 当ててみせようかしら、魔法使いエミルと勇者ロマン達の妨害を更に続けるか、それとも貴方が魔王様に進言し許可を貰った計画を実行して地上界全てを混乱させようか…遊戯遊びが大好きな貴方が考えそうな事ね、アギラ?」

 

「む…おやおや、シエルにその唯一の部下3名様がいらっしゃるとは。

 これは失礼、突然来訪されては茶菓子を用意出来なくてなぁ」

 

 そのアギラの背後から転移魔法(ディメンションマジック)を使用し、以前アギラと会話していた魔族の少女、シエルが現れ、その背後には彼女の部下と呼ばれた赤髪の少年の魔族に青髪の少女の魔族、そして4人の中で最も背丈が高く、片目の瞼周りや頬等に斬り傷がある白髪の屈強な魔族が立っていた。

 

「それで、一体貴方は何を恐れているのかしら? 

 例え彼女達が脅威的になろうとも精々250が限界よ、それが『地上界の者達の限界ライン』よ。

 ならば貴方が無駄に恐れる必要は無い筈よ? 

 

「はっ、流石魔界1の剣士様は言う事が違うなぁ。

 確かに、地上界の者共は『レベル250を現状は超えられない』。

 だがその方法に気づいてしまったら? 

 その可能性に至る人物があの中に居るとしたら? 

 それを考えずに済むのは次元が違う化物の領域に立つ君らしい考えだよシエル!」

 

「アギラ、貴様シエル様に何たる態度を!」

 

 シエルとアギラは地上界の者がレベル250を超えるか否か、その口論となりながらシエルはその可能性は薄いと話しながら、アギラは逆にエミルの魂の色を目撃している為その方法を知る可能性を指摘しつつ、シエルを化物と呼称しながらその可能性を考えない事を嗤いながら遠回しに能天気だとアギラはシエルを馬鹿にしていた。

 それを聞き赤髪の少年が剣を引き抜こうとし、アギラもやる気かと挑発的な態度を取った。

 

「『ティターン』、止せ。

 アギラも挑発が過ぎるぞ、少しその口を直せ。

 それにお前が心配性ならばそれを私達が解消してやろうではないか?」

 

「…ほう、貴女から動くのは本当に珍しいですねぇ。

 其処まで私が神経質になってしまったから謝るよ、シエル殿?」

 

 シエルは赤髪に少年、ティターンを叱り付けると同時にアギラに対しても口が過ぎている事を指摘し、ティターンはシエルに謝罪の一礼をしながら矛を収める。

 更にシエルは続けて自分達でアギラの懸念を確かめると話しながら戦いを覗き見し始める。

 それに対してアギラはやや神経質気味になっていたとして謝罪しようとしていた。

 

「口先だけの言葉は必要無い、私達が結果を示してから何か言え」

 

「…アギラ、私『ティターニア』やティターン、『アザフィール』様、そしてシエル様が動く。

 それで貴方の懸念が杞憂であるなら真に謝罪なさい、それが挑発をして来た対価」

 

 そしてシエルはアギラの口先だけの謝罪を断り、自分達の行動で得られた結果を見て何か発言する事を求める。

 更に自らを『ティターニア』と呼ぶ魔族の少女はティターンと屈強な魔族、『アザフィール』で動き杞憂で終わるならシエルに謝罪せよと口にしながらシエルと共に戦いを視る。

 それをアギラは面白く無いと思いながらも、自身の手を汚さずシエル達が動くならと思いながら作り笑いを浮かべ、同じ様に戦闘を視るのであった。

 




此処までの閲覧ありがとうございました。
オリハルコンゴーレムと魔族との戦いを見て不穏な影をチラつかせるアギラとシエル達名あり魔族。
それらが絡み合った末の結末はまた次回に。

次回もよろしくお願い致します。


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第15話『誓いの翼、敗北する』

皆様こんにちはです、第15話目更新でございます。
今回は遂にタグの2つが機能し始めます。
そしてタイトルから…。
では、本編へどうぞ。


 オリハルコンゴーレムを逆張りの結界で閉じ込め、双剣の魔族側に集中を始めるエミル達。

 オリハルコンゴーレムは何度も結界を殴り破ろうと試みたり、双剣の魔族は絶技を使用し迫る。

 それも、左右で違う属性の上位絶技で、である。

 

「『瀑水剣』、極雷剣‼︎」

 

「爆炎剣‼︎」

 

「絶氷剣‼︎」

 

 魔族の水、雷の上位絶技に対してロマンは火、ルルは氷の上位絶技を使用し相殺し合いながら両者の威力はロマン達が弱かった為若干押され気味に距離が離れる。

 

「うぉりぁ‼︎

 暴風斧‼︎」

 

「キッ‼︎

 グググ…ッ‼︎」

 

 その次にアルが飛び込み風の上位絶技を使用し、暴風を纏った斧で魔族を叩き割ろうとするが、魔族は双剣でガードし吹き飛ばされながらも態勢を崩さず地面に着地し、ロマンやアル達を睨み付ける。

 そして距離が離れた瞬間を狙いサラとエミルが動き出す。

 

「『震撃弓』‼︎」

 

乱風束(バインドストーム)‼︎」

 

「っ、暴風剣、『震撃剣』‼︎」

 

 地の上位絶技を使用した矢が地面に刺さり、その場所から魔族に対して突き進む地割れが発生し、更にエミルが風の最上級魔法を使用し、その動きを封じ込めようとしていた。

 しかし魔族は風と土の上位絶技を使用し、先程の防御よりも相殺の道を選びサラの絶技とエミルの魔法、両者を相殺する。

 

「成る程、あの魔族は絶技を得意としている魔族の様ね。

 私より強い攻撃魔法が使えるならさっさと使う筈なのに使わないのがその証拠…皆、奴に対して攻撃の手を緩めず戦って‼︎

 傷の回復は私がしっかり果たすから‼︎」

 

 エミルは先程から双剣の魔族が攻撃魔法を使わず、絶技を左右で違う属性の物に分けながら使う戦闘スタイルから敵は攻撃魔法は自身以下の威力しか無いと判断する。

 それならばと攻撃の手を緩めず相手の攻撃数を上回れば単純に勝てるとしてロマン達前衛やサラに攻撃指示を出し、自身は回復魔法でダメージを抑えると全員に声を届かせた。

 

「分かった、エミル‼︎

 それと、お前がさっきから見せてる物、使わせて貰う‼︎

 光流波、暗黒破ぁ‼︎」

 

「猿真似が‼︎

 我が技を下等な地上界のダークエルフ如きが使った事を後悔させてやる、暗黒破、光流波‼︎」

 

 それを聞いたルルは目の前の双剣と言う戦闘スタイルが似た魔族が興味深い事………左右で違う属性の絶技を使い、此方に攻撃して来る事に思考をし、体内魔力を左右で持つミスリルダガーに送り込むと同時に別々の属性に変換、エミルが良くやる魔法連発の要領で魔族の技を盗み取り、光と闇の閃光が魔族に押し寄せる。

 それに怒った魔族も同じ技で返し、暗黒破の方が押され気味になるが光流波は逆に押していた。

 

「何、何故光流波の方が押される⁉︎」

 

「そっか、魔族は闇属性が強くなる傾向があるってお父様が言ってたからミスリルダガーで使う属性を光と闇、完璧に相殺するなら対抗属性を使わなきゃいけないからルルはそれで絶技の選択をそれにしたんだ‼︎

 なら私は相手の闇属性を押し返すのを手伝う、光流波‼︎」

 

 魔族が自身の光属性の上位絶技がルルの闇属性の上位絶技に押されているのに驚く中、サラは賢王ロックから学んだ魔族の闇属性が強くなる傾向を口にし、ルルも少し後ろを向きながら頷いていた。

 それ等を見聞きしたサラは魔族の闇属性絶技を押し返すべく光流波を使用、光の閃光を纏った矢がルルの光の閃光と重なり合い、其方も押し返し始めていた。

 

「チッ‼︎」

 

 それを見た魔族は分が悪いと判断し技を中断、回避に専念し、2つの閃光を躱す。

 その瞬間横からロマンとアルが飛び込み、既に極雷斧と絶氷剣を使用しており、既に振り被る寸前であった。

 

「絶氷剣、極雷剣‼︎」

 

 しかし魔族は持ち前の反応速度から反属性の絶技を使い、2人を押し返し何とかダメージを受けない様に攻勢防御を行う。

 しかし視線を少し外したのが魔族にとってのミスだった。

 その視界を外した一瞬の隙にルルが死角から懐に潜り込み、攻撃準備を行なっていた。

 

「な、しま」

 

「爆炎剣‼︎」

 

【グサッ‼︎

 ジュゥゥゥゥ‼︎】

 

 そしてルルは鎧の隙間に爆炎剣を突き立て、その突き刺さられた部分から肉が焦げる音と臭いがし、明らかに直撃したと言う感触がルルのダガーに伝わる。

 

「ぐぁ、このぉ‼︎」

 

 しかし魔族はその痛みに耐えながらルルを蹴り上げ、無理矢理ダガーを引き抜かせると直ぐに回復魔法(ライフマジック)を使用しダメージの回復を始めていた。

 エミルは矢張りこの魔族の男は絶技を得意とし、魔法は支援以外は苦手なのだと判別し早速魔法を使う用意が出来ていた。

 

「先ず皆に回復魔法(ライフマジック)IVと身体強化(ボディバフ)IV‼︎

 そして乱風束(バインドストーム)大水流(タイダルウェイブ)灼熱雨(マグマレイン)大地震(ガイアブレイク)‼︎」

 

「なっ、身体強化(ボディバフ)IV、結界魔法(シールドマジック)IV…ぐぉぉぉ⁉︎」

 

 エミルは回復と強化を全員に掛けた後、エンシェントドラゴンを単独で沈めた時の様な最上級魔法連射を行い、魔族もそれに驚き強化と結界の魔法を張るが、2つの魔法の時点で魔族の結界は破られていた為それが4つになった時点で完全にダメージを防ぎ切れず防御態勢になりやり過ごすしか出来なかった。

 そうして魔法連射が収まった直後、魔族は回復魔法(ライフマジック)を掛けながら突撃し始める。

 

「行かせねぇぜ、震撃斧‼︎」

 

「エミル達は、僕達が守る‼︎

 爆炎剣‼︎」

 

「はぁぁぁぁ、瀑水剣、暴風剣‼︎」

 

「邪魔だ貴様等、絶氷剣、極雷剣‼︎」

 

 その突撃はエミル達が狙いだとロマン達は判断し、3人で別々の絶技を使用し相手が属性による相殺を防ぎに掛かる。

 すると魔族も属性相殺を諦め、双剣に氷と雷の上位絶技を使い、威力自体による相殺をするべく3人の武器と衝突し合う。

 その結果は………拮抗だった。

 

「何ぃ、レベル200の我が双剣が、たかが180程度の連中に止められただとぉ…⁉︎」

 

 魔族はレベル差がありながら止められた事を理解出来ずにいた。

 しかし対するロマン達は3人で協力し合い、1人の魔族の双剣に挑み掛かる事で1人では止められずともこの誓いの翼(オースウイングズ)の3人ならば止められる事を証明してみせたのだ。

 

「ぐぅぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

「はぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「ふぅぅぅ、やぁ‼︎」

 

 そしてアル、ルル、ロマンが力を込めて武器で押し返すと、魔族は驚愕の表情を見せながら吹き飛ばされ、地面に着時して改めて認識する。

 この地上界の者達は将来的に、否、自分が負ければその熟練度元素(レベルポイント)を基に名無しの魔族が単体では間違い無く止められなくなる、それこそ自身は見た事無いが誓いの剣(オースブレード)達の様に。

 

「くそ、ならば尚更負けられん、魔族の将来の不安要素排除の為に、我が剣は折れる訳にはいかんのだぁぁぁぁ‼︎」

 

「負けられないのは僕達もだ‼︎

 此処で負けたら僕達に期待を敷してくれた皆さんや、この仲間の皆を裏切る事になる…! 

 だから、僕は、僕達は負けられないんだ‼︎

 少なくてもこの仲間の皆を守る為にも‼︎」

 

「そう言うこった、だからてめぇが此処で負けやがれ‼︎」

 

 魔族は地上界の侵略完遂の障害となり得る誓いの翼(オースウイングズ)に脅威を感じ取り、此処で排除するべく死に物狂いで絶技を使い始め、ロマン達への攻撃を強める。

 しかしロマン達もまた自分達に期待を寄せた者達やこの場に居る仲間達の為に負けられないと吠え、先ずロマンが盾と結界魔法(シールドマジック)の二重防御で絶技を防ぎながらアルやルルに攻撃のチャンスを与え、その間に自身もサラの矢と共に突撃する。

 

「オリハルコンゴーレムの結界がそろそろ壊れそうね。

 なら張り直す、結界魔法(シールドマジック)V! 

 そして回復魔法(ライフマジック)IV、身体強化(ボディバフ)IV、極光破(ビッグバン)超重孔(ブラックホール)、『極氷結(コキュートス)』、極雷破(サンダーブラスト)‼︎」

 

 其処にエミルが体内魔力回復用ポーションを飲みながらオリハルコンゴーレムの束縛、全員への支援、更に光と闇の最上級魔法と氷と雷の上級魔法を使い魔族の足を止めさせながら攻撃を加えて行く。

 ロマンの吠えた事に自身も自身のやり方で応えようと思いながらも。

 

「其処よ、光波弓、爆炎弓、『絶氷弓』‼︎」

 

 更に其処にサラが絶技の矢を連発しながら足が止まった魔族を射抜き、ダメージを蓄積させて行く。

 1人1人が与えるダメージ少なくとも全員で与えれば魔族の回復量を上回る。

 そして横に居る仲間達を信じ戦いを続けた。

 この魔族が張った罠を完全に突破する為に。

 

 

 

「あの魔族はもうダメでしょうね。

 魔法使いエミルと勇者ロマン達に確実に敗北する。

 そして彼女達はレベル210まで一気にレベルアップするでしょうね」

 

「全く面白く無い………それで、どうやって私に彼女達がレベル250を超える可能性は無いと如何に証明する気なんだい? 

『例の場所』すらライラが500年もの間、門を封印したが為に調査が遅れ破壊が出来ていないんだけど? 

 奴等が『深淵』を覗いたら如何する?」

 

 その戦闘の様子を見ていたシエル、アギラ達は双剣の魔族は最早これまでと口にし、アギラはそれ等を面白く無いとまで口にし、その上でシエルに250を超える事は無いのは如何に証明するかを問い始める。

 アギラが脳裏に浮かべる破壊したい場所も口にしながら不満を隠さずに話していた。

 この不満は自らの策が上手く行かない事への苛立ちである。

 

「…そんな事は簡単だ。

 あの5人の心を折る、圧倒的な実力の下に。

 それで再起不能にする」

 

「へぇ…弱い奴は殺さない、但し戦場に出る価値無しで心は折るお優しいシエル様のやり方が見れる訳ですねぇ。

 OK、それじゃあ奴等の心を存分にへし折って下さいな」

 

 其処にシエルはエミル達の心を折りに行くと宣言し、それを聞いたアギラは魔界でも同じ様にこの4人に心を折られては戦意喪失した魔族は数知れずと言われており、それを生で見れる事に興味が湧き観察する事とした。

 アギラは内心シエルを甘いと見下している。

 彼女が甘いのか否かを此処で見極める為に早く双剣の魔族には死んで貰わないとすら考え、部下は消耗品と言う彼の身内にも冷酷な考えがその笑みから透けて見えるのであった。

 

 

 

「うおぉぉ、我が剣に貴様等を殺せと命じたアギラ様の為にも早く死ねぇ‼︎」

 

「何度だって言うよ、負けてたまるかぁ‼︎」

 

 双剣の魔族は初めは絶技を以て互角以上に誓いの翼(オースウイングズ)達と戦っていたが、攻撃魔法を使わない事からエミルに狙い撃ちに晒されそれがダメージレースで魔族側が下回り始め、更にロマン達の前衛の粘り強さによりその攻撃が当たり始め、いよいよ以て魔族の勝ち目が薄くなり始めていた。

 

「く、くそ、アギラ様の為に負けられん、負けられんのに…貴様等は‼︎

 下等な地上界の者共め、我が剣の前に斃れ伏せろ、爆炎剣‼︎

 暴風剣‼︎」

 

「爆炎剣、震撃剣‼︎

 ぐっ…ロマンもアル達も言ってる、こんな所で負けていられないと‼︎

 なら私も、仲間の為にこの武器を手放さない‼︎」

 

 魔族は焦り始めながら技の繊細さを欠いて行き力任せに絶技を振い始めた。

 其処にルルが反属性の絶技で割り込み、力では負けながらもエミルの身体強化(ボディバフ)IVでそれ等を補いながら仲間の為にと武器を捨てず、勝つ気で絶技を振るっていた。

 其処にアル、ロマンが再び来るのを察知した魔族は距離を置き態勢を立て直そうとする。

 

大熱砲(フレアブラスト)、『暴水撃(アクアランページ)』、『嵐気流(ストレイトタイフーン)』、『岩石群(ロッククロード)』、星珖波(スターバースト)、『暗黒撃(ダークバースト)』、極雷破(サンダーブラスト)極氷結(コキュートス)‼︎」

 

「な、ぐあ⁉︎」

 

【ドォォォン‼︎】

 

 其処にエミルが隙を逃さないとして、足止め用に全属性の上級魔法を連射し爆炎が上がる。

 しかし最上級では無いとは言え、足止め用とは思えぬ威力に魔族は結界魔法(シールドマジック)が間に合わずただ撃たれ放題と化しエミルの狙い通り足が止まる。

 更に防御態勢と爆煙で魔族の視界は0になり、急いで透視(クリアアイ)を使わねばならなかったが、エミルの魔法連射がそれを許さなかった。

 

「光波流‼︎」

 

「グホッ‼︎」

 

 其処にサラの光を纏った矢が放たれ、魔族の鎧毎腹を貫き青い血を吐血する。

 更にそれを合図にルルが爆煙の中に飛び込み、左には風、右には炎の上位絶技を纏わせ鎧の間に刃を通した。

 

「がぁぁぁぁ‼︎」

 

 体内に風が吹き荒れ、その風が炎を強め体内を焼き始めながらルルは刃を滑らせ、腹を斬り裂き鎧の間を縫って身体を斬り裂くと身軽な身体を直ぐに後退させる。

 其処に詰めのアルとロマンが突撃し剣と斧を振りかぶっていた。

 

「極雷剣‼︎」

 

「震撃斧‼︎」

 

 ロマンの極雷を纏った剣と土の絶技により大地を割る斧がそれぞれ魔族を一閃し、双剣の魔族は魔法等で傷付いた鎧を肉体毎完全に斬られてしまう。

 そして青い鮮血を噴き出しながら額の魔血晶(デモンズクリスタル)もアルの斧で砕かれてしまいその生命を絶たれてしまった。

 

「アギラ…様…」

 

 最期にアギラの名を呼ぶと双剣の魔族は青い炎が噴き上がり、倒れながらその身を焼き尽くされ地面に倒れる頃には灰になり残ったのは破壊された鎧と傷つき始めていた双剣であった。

 そして残るはオリハルコンゴーレムだけとなり、エミルは観察眼(アナライズ)でレベルがそれぞれロマンとルルが212、アルが214、サラが210となり、ロマン達も更に力が増し今ならオリハルコンゴーレムを倒せる確信を持つに至った。

 

「へっ、俺様でも分かるぜ。

 今の魔族を斃したお陰で今も結界をぶっ壊そうと暴れてるオリハルコンゴーレムを倒せるってな‼︎」

 

「ええ、皆レベル210を突破したからね。

 さあ、残りはあのゴーレムを皆で倒してセレンに帰るわよ‼︎」

 

 アルも自らの力が先程と比べ物にならない事を自覚し、それをエミルが全員のレベルが210オーバーを果たしたからだと説明する。

 そして残るオリハルコンゴーレムを倒し、依頼を果たして帰るだけとなり全員で気合を入れ直しターゲットを見据えた。

 …そう、此処まではただ依頼を達成するだけであった。

 イレギュラーが発生するまでは。

 

「…『焔震撃(マグマブレイク)』」

 

【ドォォォォォォッ】

 

『うあぁっ‼︎』

 

 突如としてオリハルコンゴーレムの足下からエミル達の目の前までの間を大地震(ガイアブレイク)に火属性をそのまま追加した様な魔法が炸裂し、そのエミルの魔法を上回る爆煙を起こす威力にロマン達は吹き飛ばされそうになりながらも何とかその場に立つ事を維持し、目の前で何が起きたのかを把握しようとした。

 

「な、何が起きたの今⁉︎」

 

「まるで灼熱雨(マグマレイン)大地震(ガイアブレイク)をそのまま足した様な魔法が炸裂したのは確かだ‼︎

 おいエミル、今のは何なのか知らないか⁉︎」

 

「今のは…『複合属性魔法』………2つの属性を掛け合わせて発動する超高等魔法…。

 でも、あれはコントロールが難しいから使える者が限られる物の筈…なのに何故…⁉︎」

 

 サラが狼狽え、アルがエミルに何かを知らないかと問う中、本人は複合属性魔法と呟き、独り言をブツブツと口にしながら状況を飲み込もうと必死だった。

 何故なら複合属性魔法は、過去の自分(ライラ)がレベル250になり漸く安定して使える様になった最上級魔法を上回る威力とコントロールが困難な魔法であるからだ。

 それを使ったのは何者かと思い周りを見渡す。

 すると視線が自然と自分達の頭上付近の上空に向き、それを見つけてしまった。

 

「エミル、何を見て………なっ…」

 

「…魔族、それも4人も…⁉︎」

 

 ルルやロマン、サラとアルもその視線の先を見ると上空に魔族の男女が4人其処に居り、そして自分達に気が付いたエミル達を見て焔震撃(マグマブレイク)でボロボロになった地面に降り立ち、更に背後にあるオリハルコンゴーレムの『残骸』を魔族の少年が見て口を開き始めた。

 

「流石オリハルコン、アザフィールの旦那の魔法を受けても尚も原型を止めてるか」

 

「そうじゃ無いとミスリルを超えるとは言わないよ、ティターン」

 

「ま、だよなティターニア」

 

 ティターンと呼ばれた魔族はオリハルコンの硬さに太鼓判を出し視線を明らかにエミル達から外し隙だらけの様子を見せ、ティターニアと言う少女魔族もまたティターンに話し掛けていた。

 この隙だらけの様子に本来ならアルが真っ先に突撃する筈であった。

 しかし………誓いの翼(オースウイングズ)の全員がその魔族達から放たれる威圧感に押し潰されそうになり、動けない状態と化していた。

 

「(ち、畜生が! 

 このアル様が…震えてるだと⁉︎

 何だ、この魔族共は⁉︎

 名ありの魔族だからレベル220は突破してる筈だが、これはそんなレベルじゃねぇぞ⁉︎)」

 

「(やだ…怖い…何なの、この魔族達…⁉︎)」

 

 先ずアルとサラが頭の中で危険信号が鳴り響き、動けない所か恐怖すら感じ取り視線を外さずとも防御と逃亡を出来る姿勢を自然と、無意識に取ってしまい完全に飲まれてしまっていた。

 

「(名あり魔族…しかもあのティターンとティターニアもそうだけど、他の2人私達より遥か上に居る魔族だ…⁉︎

 こんな化物が存在するなんて…‼︎)」

 

「(こ、攻撃したら駄目だ‼︎

 盾を、盾を使って皆を守らないと…‼︎)」

 

 次にルルがティターン達が今の自分達より強く、他の2人…恐らく屈強で傷有りの魔族がアザフィールであり、彼等の中心に居る銀髪の魔族の少女が明らかに別格であり、ルルも化物と感じてしまう者が目の前に存在し、予知が引っ切り無しに発動し、迂闊に戦えば死ぬしか無い未来が脳裏に焼き付けられる。

 そしてロマンも攻撃したら駄目だと本能的に察し、盾を身構えながら全員の1番前に出ていた。

 

「ほう、攻撃してはならぬと感じ盾を身構えながら仲間を守ろうとするその心意気、流石は勇者と言えよう。

 このアザフィール、貴殿の勇気に免じてこの1撃を防げば見逃してやると約束しよう…防げれば、の話だがな」

 

「アザフィール、勝手に話を進めるな。

 お前の武人としての心意気は関心するが、私の許可無く決めるな。

 …だが、心を折るなら1撃で全てを決するのも有りだな」

 

「ではシエル様、私は行きますぞ」

 

 そしてアザフィールはロマンの剣では無く盾を身構える行動に分を弁えてる事や仲間を見捨てず守る心意気を感じ取り背中に背負った大剣を身構え、絶技の構えを取る。

 其処にシエルと呼ばれた4人組の魔族のリーダー格はアザフィールの行動について様々な考えを持ったが、最終的に1撃で全てを決する事で相手を折るのも有りだとしてエミル達を見ながらアザフィールを前に出した。

 

「お、おいエミル、奴等のレベルは⁉︎

 奴等のレベルは何なんだ⁉︎」

 

 其処にアルがエミル対して観察眼(アナライズ)で見ているレベルは何なのかと叫び、彼女の口からそれを聞こうとしていた。

 だが…エミルはシエル達と対面してから常に視線を外せず、異常な量の汗や呼吸を繰り返し、過去の自分(ライラ)も遭遇した事の無い前代未聞のレベル差に絶望的な何かさえ感じ取りながら、レベルを口にし始めた。

 

「はぁ、はぁ…ティターニアが1番低くて280、ティターンが290。

 あの大剣の持ち主、アザフィールが…350………そしてあのシエルって魔族は………450よ………‼︎」

 

「…何ぃ…⁉︎」

 

 アルはエミルから語られた1番レベルが低いティターニアの時点で280、今攻撃してこようとして来るアザフィールがレベルが350、そしてシエルが450だと聞かされ、アルもただ一言、絶望が支配するレベル差を全員が耳にしてしまい攻撃してはならない、逃げなければ死ぬと確信してしまう。

 

「では参る、死なぬ様に防げよ? 

 ふぅぅぅぅ…『爆震剣』‼︎」

 

【ズガァァァァァ‼︎】

 

 アザフィールは絶技、それも先程の複合属性魔法と同じく『複合属性絶技』を使用し、魔力が異常に収束した大剣を荒野に振り下ろす。

 その大剣から発生した爆炎が地を揺らし、割りながらエミル達の下に迫っていた。

 

『っ、結界魔法(シールドマジック)IV‼︎』

 

 それを見たエミル、ロマンは結界魔法(シールドマジック)IVを発動し、更にロマンに至っては盾を身構えながら魔法を発動し三重防御を敷きアザフィールの一撃をガードしようとしていた。

 そして先ずはエミルの結界にアザフィールの1撃が接触し………結界はあっさりと破られてしまいロマンの結界も当然破壊され、そしてミスリルシールドに爆震剣が接触した。

 

【ドガァァァァァァ‼︎】

 

『うわぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

 その瞬間、余りの威力と余波により全員が吹き飛ばされ、地面に全員が転がりながら倒れ、特にこの中で体力があるアルも気絶し、ミスリルシールドを持ったロマンは更に大きく飛ばされてしまい宙を舞ってしまっていた。

 

「っ、ロマン…君…‼︎」

 

 そして1番後列に居たエミルはロマンが地面に叩き付けられない様に風の魔法で落下速度を緩和し、ゆっくりと地面に降り立たせる。

 そのロマンの状態は盾は二重の結界が功を奏したのか破壊されていないが、1番前で攻撃を受けた為特にボロボロになっており、誰が見ても瀕死の状態だった。

 

「くっ…回復魔法(ライフマジック)…IV…!」

 

 エミルは直ぐ様全員に回復魔法(ライフマジック)IVを掛け、中には呼吸が絶えそうな者も居た為体力や傷を回復させてその生命を繋ぎ止めようとした。

 

『ゴホッ、ゴホッ!』

 

 すると全員息を吹き返し、呼吸が安定しこれ以上余計な攻撃を受けなければ何とか生き延びる事が可能だとエミルは思っていた。

 だが、それと同時にある事さえ感じていた。

 

「(…か、勝てない…過去の自分(ライラ)の時と同じ力を得ても勝てない…これだから、前世超えをしようって決めたのに…‼︎)」

 

 エミルはハッキリと勝てないと確信し、例え前世の最高レベル250に達してもこの4人には勝てない。

 魔王討伐、その前に立ちはだかった大きな壁………その大きさにエミルは500年後の世界で初めて、前世で散々味わい2度としたく無いと思っていた挫折をしてしまう。

 

「ふむ………死なない様に打った技だから別段気にもしないのだが、まさか魔法使いだけが意識を保つとは情け無い。

 うん、いや、これは………。

 …ふむ、ではこのアザフィールの剣を受けて生き延びた事を素直に喜ぶが良い。

 約束通り見逃してやる」

 

「………」

 

 更にアザフィールは当然ながら手加減していた事を知り、エミルは無言で杖を置き後は成り行きに任せるしか出来なかった。

 しかし、エミルは転んでもただでは起きない質の為念話傍受魔法(インターセプション)を発動し相手の念話を聞き出そうとしていた。

 

[アギラ、全員に我々魔族の真の力と言う物を見せ、骨の髄まで染み込ませたわ。

 そして私から言える事は1つ、矢張り彼女達はレベル250より上に行く事は無いわ。

 と言う事で例の場所をさっさと探しなさい、その為に10年以上前から潜んで活動したのだろう?]

 

[ふぅ〜ん…まぁ、君が言うなら私が臆し過ぎただけかも知れないな。

 ならばお言葉に甘えて『楔の泉』を探させて貰うよ。

 そのついでに、地上界も混乱に陥れるとしよう]

 

 シエルは如何やらエミル達に自分達の力を見せ付ける為に態々出向き、そしてアザフィールが1撃を加えた事をアギラとの念話を傍受しているエミルは知る。

 更にアギラ側は『楔の泉』なる場所を探しており、其処を破壊する事を目的とエミルは理解するが、それが何を意味するか分からずにいた。

 

[…アギラは行った様だ。

 お前達、我々も戻るぞ。

 …ああそうだ、魔法使いエミル。

 我々の念話を傍受しているのは分かっているぞ? 

 だから黙って聞いていると良い、一言でも話せば命は無いぞ、全員]

 

「(な、バレてる…⁉︎)」

 

 シエルはアギラが何処かに転移したのを確認すると他の3人と共にその場を去ろうとした…が、再びエミルに顔を向け、念話を傍受しているのを把握しながらアザフィール達と念話を続けエミルを驚愕させながら更に念話を続ける。

 

[何故念話を傍受してるのが分かったか? 

 単純だ、我々魔族は魂の色が視える、故に貴様があのライラの転生体だと把握し、我々魔族の念話に何の対策をしていないと私は思ってるからだ。

 まぁそんな事より、楔の泉について話そう。

 楔の泉は門の機能を制限し、『魔王』様が地上界に来れぬ様にする為の正に楔だ。

 神が魔界と地上界の争いを一方的な虐殺にせね様講じた安全策と言える。

 全部で3箇所ある]

 

 シエルはエミルがライラの転生体である事すら見抜き、その理由を明かしながら楔の泉について説明を始め、その性質は魔王が地上界に来られぬ様にする安全策と呼んでいた。

 しかし、その説明の仕方にエミルは違和感を持った。

 まるで『神が魔界と地上界の争いを望む』かの様な物言いであった。

 

[魔族はそれを探していた、500年前も。

 しかし神の隠し方は上手く、結果お前達地上界に反撃を許され500年も門を封じられてしまった。

 故に魔界側は今度こそ楔の泉を破壊すべく地上界の限界レベルである250より上の魔族を派兵したのだ。

 我々4人はその内の者だ]

 

 シエルはこの場を支配する語り部として500年前の戦いも同じく楔の泉を破壊する為に魔界は地上界を攻めていたと話すが、500年前にはレベル250を上回る敵など存在しなかった。

 つまりは、誓いの剣(オースブレード)がレベル250に到達したのが想定外だったらしく、その想定外を此度は無くす為にレベル250を上回る魔族が来たのだと言う。

 

[だからこそ言おう、此度の戦いは地上界に勝ち目は無い。

 …そう、貴様達地上界の者達の『限界レベルが250である』限り。

 そうはなりたくなければ『壁を破れ』、でなければアギラの様な小悪党が跋扈する事になるぞ]

 

「(…レベル250の…壁…?)」

 

 シエルは3人の部下と念話をしている内に地上界に勝ち目は無いと話す。

 しかしその内容は敵に塩を送る様な物言いで地上界の者には限界レベルがあり、それが誓いの剣(オースブレード)が到達した250だと言い放ち、その壁を破らなければアギラの様な者が好き勝手する世になるとさえ告げていた。

 しかしエミルはダメージで深く考える事が出来ず徐々に意識を失い始めていた。

 

[では我等は行く。

 …壁の破り方のヒントは魔力一体論にあり、アレスターはそれを察したから消された。

 ならばお前達も魔力を辿りその深淵を覗くと良い。

 尤も、悠長なレベリングをしている時間は無いから直ぐにでも壁を破る事が出来なければ地上界は終わりだ]

 

 更にシエルは壁の破り方のヒントとして魔力一体論を口にし、アレスターの名すら出して魔力の深淵を覗く様にと話す。

 更に悠長な時間は無く、それが出来なければ地上界は終わると一方的な勝利宣言をエミルに投げ掛ける。

 

「(この魔族、何を言って…駄目…意識が…)」

 

[其処のアザフィールの剣を受けて未だ生きている勇気ある勇者や仲間達にも伝えると良い、神剣探しは中止して目の前の魔族共を如何にかする方が先だとな]

 

 そうしてシエルはエミルが気絶する直前、アザフィールの1撃を受けて死ななかったロマンやサラ達にも神剣探しは中止、魔族の方を如何にかしろとまるで警告の様な物言いで転移魔法(ディメンションマジック)を使いエミルの前から何処かへと去って行く。

 それと同時に、エミルもまた意識を失い後に残ったのはアザフィールが1撃で屠ったオリハルコンゴーレムの残骸と魔族の双剣と鎧の一部、そしてエミル達誓いの翼(オースウイングズ)の5人だけであった…。

 




此処までの閲覧ありがとうございました。
半チート主人公エミルやその仲間達を超えるライバル組である魔族シエル組が動きました。
それによりエミル達は初敗北となりました、それも念話傍受すら見切られての。
それから今回登場した複合属性の魔法と絶技について説明を。
複合属性は反属性では無く組み合わせられる属性同士を組み合わせ使う単体の魔法や絶技を上回る威力を持つ物です。
しかしコントロールが難しく、ライラやリリアナ位しか使えなかった為現代では忘れ去られた物になります。
因みに雷は光、氷は闇としか組み合わせが出来ません、そして複合属性魔法&絶技は1つの組み合わせに1個ずつ存在します。

此処までの閲覧ありがとうございました。


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第16話『誓いの翼、行動転換する』

皆様おはようございます、第16話目更新でございます。
今回から少しずつエミルにも変化が…?

では、本編へどうぞ。


「爆震剣‼︎」

 

『っ、結界魔法(シールドマジック)IV‼︎』

 

 アザフィールの放った1撃がエミル達に迫り、エミルとロマンは共に結界魔法(シールドマジック)IVを張り、更にロマンは盾を構えその1撃を防御しようとする。

 

【ドガァァァァァァ‼︎】

 

『うわぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

 だが…結界は触れた瞬間から破られ、更にロマンの盾に直撃した瞬間炸裂し、全員吹き飛ばされ、特にロマンは宙を舞ってしまう。

 

「っ、ロマン…君…‼︎」

 

 其処に意識の残っていたエミルはロマンに風の魔法を使い衝撃を和らげ、ゆっくりと地面に降ろしそれから回復魔法の準備に入る。

 

「くっ…回復魔法(ライフマジック)…IV…!」

 

 そしてロマンやサラ達に回復魔法(ライフマジック)を掛け、全員の傷を治そうとした。

 だが………傷は回復すれど、全員が息を吹き返す事は無かった。

 

「…え…あ………」

 

 この瞬間、エミルは嫌でも理解してしまう。

 500年前に誓いの剣(オースブレード)と共に戦った冒険者、教え子達、そして現代ではアレスター。

 それ等と同じ末路に…死と言う絶望の闇の中へと叩き込まれたのだと。

 

「分かったか魔法使いエミル、いやライラ。

 これがお前達地上界の者達の限界だ。

 これで魔王討伐を謳うなど愚かな考えを持ったからだ」

 

 其処にアザフィールの後ろに待機していたシエルが前へと進み始めエミル、否、ライラに対し地上界の者の限界と魔王討伐が如何に愚かであったかを話し始める。

 それも、死に去った仲間達やいつの間にか周りに居る自分が良く知る者達の死体を指差しながら。

 

「あ………あぁ………」

 

「その結果がこれだ。

 良いか、お前に惑わされた者達は我々の手で死んだ。

 つまりは…」

 

 そしてシエルはエミルの前に立ちその顔を見下しながら侮蔑の目を向け、絶望の言葉を彼女に投げ掛け始めた。

 

「全てお前が招いた結果だ。

 魔法使いライラ、お前は自身の愚かさを見ずに突き進んだからこそ死なずに済んだ者も死なせた。

 偽善者にして愚者のライラ、人を騙すのが得意なお前に付いて来てしまったからこの結末がある。

 それを胸に刻み、我等魔族が地上界を支配する様を見届けるが良い」

 

 シエルはそのままライラに絶望の言葉を送るとその場から去って行き、更に空が暗雲に包まれ門のある方角から巨大な闇の柱が立ち上る。

 その中から『何か』が現れ、地上界に数多の魔法を放ち地上界を一気に荒廃させてしまう。

 

「いや…いや…」

 

 そして地上界が滅ぼされ絶望の淵に立つライラに『何か』は目を付け、ただ1人生き残っていた彼女にも自身とは比べ物にならない、強大で凶悪な魔法を放つのであった…。

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 その魔法が当たる瞬間ライラ、否、エミルは飛び跳ねる様に身体を起こし、嫌な汗を流しながら洗い呼吸をしながら周りを見るのであった。

 

「…今のは…夢…?」

 

 エミルは見知らぬ部屋、汗に濡れたシーツとベッド、そして包帯巻きにされた自身の身体を見ながら先程見た物は夢だと自覚する。

 しかし…アレが現実に起きてしまうと。

 そう思うと恐怖が支配し身体が震え始める。

 更に自分がこんな見知らぬ部屋に居るならロマン達は? 

 そう感じながらベッドから動こうとした。

 

【バタン!】

 

「エミル、如何したの⁉︎

 大丈夫⁉︎」

 

「あ…ロマン君、皆…」

 

 その瞬間、部屋のドアが勢い良く開き、其処からロマンやサラ達が同じく包帯を巻かれながらへやに雪崩れ込み始め、エミルの状態を見に来ていた。

 

「あ、エミル目が覚めたんだ…良かったぁ………」

 

「ロマン君…サラ…ルル…アル…目を覚ました………あっ!」

 

 エミルの様子を見に来た仲間達は彼女の様子を見るとサラとルルが泣き出し、アルが一息吐き、ロマンが近付いて来た後手を握りながら良かったと呟き顔を俯せる。

 それ等を見てエミルはゆっくりと記憶を呼び起こすと、アザフィールの1撃を受けてから全員を回復させ、そしてシエルの念話を聴いてから気絶した事を思い出す。

 

「思い出した様だな。

 そうさ、俺様達は負けちまったんだよ、あの4人組の魔族、しかもその中のたった1人の1撃を以てな」

 

「でも、皆生きてて良かったよぉ〜…‼︎」

 

 アルはエミルの様子を見て改めて自分達は完敗したのだと話し深刻そうな表情を浮かべていた。

 対するサラは全員が無事に生きていて良かったと泣き膝を突いていた。

 

「…皆、此処は?」

 

「…セレンの、酒飲亭の…宿泊室、です…」

 

「俺様達が気絶した後、ロマンの奴が気絶したフリをして息を殺し、奴等が去るのを待ってたらしい。

 そして奴等が転移したのを見ると全員を馬車まで運び、セレンまで戻って来て訳を話して部屋を緊急で借りたって訳さ。

 因みに依頼だが、坑道自体は使用可能になったからどんな形であれ成功だとよ」

 

 エミルはこの場所は何処かと聞くとルルとアルが此処はセレンの酒飲亭の宿泊室であり、如何やらロマンが気絶したフリと言う危ない橋を渡り、シエル達が去った後全員を馬車を乗せ、セレンの酒飲亭まで運び今に至ると言う。

 更に依頼は坑道が使える様になっていた為成功と見做された様であった。

 

「…そう…皆生きてる…良かったぁ…」

 

「エミル…」

 

 エミルそれらを聞き漸く自分達全員が無事に生きている事を再確認し、俯きながら泣き出すとロマンは今までの自信家のエミルでは無い、普通の少女のエミルを見てあの魔族達との遭遇は最早彼女の手に負える様な物では無かったのだと改めて感じ取る。

 サラ達も同様の感想を抱き、本当に自分達が生きているのが不思議でならなかった。

 

「エミル…兎に角僕達は生き残ったんだよ。

 だから今日はもうゆっくり休んで、明日からまた如何するか話し合おう。

 皆もそれで良いよね?」

 

「…おう」

 

 ロマンはエミルの様子を見ながら、全員に今日はゆっくり休み、明日に行動方針を如何するかを検討する事を提案すると、アルやサラ、ルルは同意して自室へと戻って行った。

 その時の部屋から去る目はエミルが奮起するのを信じる瞳であり、最後まで残ったロマンもゆっくりと手を離し、最後に「信じてるから」と励ましの言葉を投げ掛け部屋から立ち去って行った。

 

「うぅ………っ………!」

 

 その部屋に残されたエミルは完膚無きまでの敗北を静かに受け入れ、自身の想定が如何に甘かったかを思い知らされながら再びベッドの横になり夜通し涙を流すのであった。

 魔族シエルに現実で言われた事、悪夢で投げ掛けられた事をその胸に刻みながら………。

 

 

 

 エミル達が意識を取り戻していた頃のとある場所、其処にアギラが既にテーブルを用意し茶菓子も丁寧に自身を入れて3人分用意してると其処にもう1人の男の魔族、更に魔族シエルが転移して現れ用意された椅子に座り茶菓子に手をつける。

 

「シエルと『ダイズ』も揃った様だね。

 ではこれより第3回『魔王幹部三人衆』の会議を始めようと」

 

「誰が貴様如きと同列だアギラ、所詮は姑息な手段で成り上がっただけの者が、俺とシエルを同列に扱うのは反吐が出る!」

 

「ダイズの言う事も最もだ。

 アギラ、楔の泉を満足に探せないお前と『魔王』様降臨の下地作りを行うダイズ、そして大局を見極め一方に力を貸す私達を同列にされては折角の茶菓子も不味くなる」

 

 アギラは魔王幹部三人衆と言う括りでシエル、更にダイズと呼ばれた魔族を同列扱いに呼ぶと2人から反発があり、何方もアギラを姑息な手段で成り上がった為気に食わないと言う共通理由と、シエルに至ってはまともに指名達成出来ていないアギラを見下しこの反発を起こしていた。

 

「んん〜…とは言う物も、楔の泉は我々魔族の眼には只の泉にしか映らず、確証があってこれだ、と言う決め撃ちが出来ずまだ発見出来ないのが現実なのだけどね。

 私の使命に2人が協力的ならそれも捗るんだけどね…特にシエル、君には楔の泉に反応する『魔剣』の正統所有者なのだから」

 

「『魔王』様はそれぞれ出来る使命を与えて我々を派兵した。

 それを他の使命を与えられた私やダイズの責任と呼ぶのは些か可笑しくは無いか? 

 魔界1の策士のアギラ『殿』?」

 

 対するアギラはダイズとシエルの両名が協力的なら指名達成が可能であり、更にシエルに対しては楔の泉を探知する事が可能な『魔剣』を所持する者と呟くが、シエルはそれを一蹴し自らの手で使命を達成出来ず他の者に当たるのは可笑しいとしながらアギラを侮蔑する目で見つめていた。

 アギラはその2人の言動に手に血管を浮かせ魔力を放出し掛かるが、直ぐに収めて溜め息を吐いた。

 

「…ふう、分かりましたよ。

 楔の泉探索は私が最後まで行いましょう。

 幸いにして1個には当たりを付けました、其処を皮切りに残る2箇所をこの手で破壊しましょう。

 では、用意した茶菓子を堪能したらお帰り下さいませ、ダイズ様にシエル様?」

 

 アギラは自分の言い分が通らない事を悟ると楔の泉探索は自身の派閥が最後までやると宣言し、更に1箇所は当たりを付けたと話した後アギラは転移して後にはダイズとシエルの2人が残されるのみだった。

 

「ふん、下らない策に溺れる小物が…。

 それでシエル。

 魔法使いエミル、いやライラの転生体に関しては如何だった?」

 

「アザフィールが勝手に1撃を耐えたら見逃すと宣告したのでな。

 そしてあの中で意識を保ったのはエミルと今代の勇者ロマンだけだったよ。

 その中でエミルは念話傍受、ロマンは気絶したフリをして我々が去るのをジッと待っていたよ。

 片や期待通りに動き片や無謀と勇気を履き違えない弱気な者からは想像出来ない勇気を持つ者だ」

 

 アギラが去った後、紅茶に手を付けながらシエルに三者三様に気に掛けるエミル達の話を振ると、シエルはエミルは期待通りとし、ロマンは想像以上の無謀と勇気を履き違えない者と称し、紅茶を飲みながら2人のスタンスの違いや其処から生まれる物について想像していた。

 

「ほうアザフィール殿の…。

 俺やシエル、我等が師の1撃を受け切るとは、勇者達には『期待』が持てそうだ…」

 

「それは狂戦士(バトルマニア)としてのお前か、それとも私と『盟約』を結んだダイズと言う魔族としてか?」

 

「無論、何方も」

 

 ダイズはかつての自身やシエルの師アザフィールの1撃を受けて生きてる誓いの翼(オースウイングズ)達に狂戦士(バトルマニア)としての顔とアギラが知らないシエルと極秘の『盟約』を結んだダイズとしての顔、両方で『期待』を寄せながら茶菓子を口にし切り、両者も席を立ち転移する。

 シエルはアギラとダイズの両者を取り持ちつつ少数精鋭で支援、ダイズはアギラとはまた別の使命を帯びながら。

 そしてその場には紅茶の残り香しか存在しなくなった。

 

 

 

 エミルは夜通し泣き続けてから朝を迎え、こんな様子を仲間に未だ見せる訳にも行かない為涙を拭き、装備を整え包帯を巻かれた身体をゆっくり動かしながら全員のための椅子とテーブル、紅茶をキーラに部屋に用意して貰い、再びベッドに戻りながら色々と思い出していた。

 すると部屋のドアが開き、紅茶を飲みながら様子を見るとロマン達は同じタイミングで1部屋へと入って来る。

 

「あ、エミル! 

 もう具合とかは良いの?」

 

「ロマン君に皆、おはよう! 

 昨日あの後寝たらスッキリしたからね! 

 さっ、早く座って座って!」

 

 エミルの姿を確認したロマンが真っ先に駆け寄ると、彼女は夜通し泣いたのを隠し寝たから大丈夫と言い張り全員に座る様に促した。

 だがロマンやサラ達はそれが空元気だと直ぐに解る。

 何故ならその目元には涙の跡がくっきりと残っていた為であった。

 しかしそれを指摘しエミルの空元気を崩し今の彼女を折る訳には行かず、全員頷き椅子に着く。

 そしてエミルは早速盗聴防止魔法(カーム)を使い話を始める。

 

「さて、皆集まった訳だけど…ぶっちゃけあの魔族達の存在は想定外も良い所だったわ」

 

「ギルド協会のキーラさんに報告したら震え上がってたもんね〜。

 何、レベル350と450って? 

 私達が相手していた連中が可愛く見えるヤバヤバのヤバめって感じだったよね〜」

 

「…あの魔族の4人組、将来的に如何にかしないとならないからアレのレベルまで追い付くのは必至ね」

 

 話で早速エミルはシエル達4人の魔族、特にサラが言う様にアザフィールとシエルが規格化レベルの極みである為かルルもフードを人前で珍しく取り、深刻な表情でシエル達に追い付く事は必要だと進言する。

 

「だがあんな奴等が居たんじゃ悠長にレベル上げなんかしてる余裕はあるのか? 

 エミル、其処は如何なんだ?」

 

「それがね、あの連中目の前の魔族を如何にかしろとかどうのこうの念話で言ってたんだよね、思い出してみると。

 悠長にしてる暇は無いのは間違いないけど」

 

 アルは付け加えてシエル達の存在は正に悠長な旅をしながらレベルアップを図ってる暇は無いとエミルに話し、何か無いかと聞くとエミルはシエルに言い放たれた事全てを夜通しで思い出し、その内容を話そうとしていた。

 アルの悠長にしてると言う部分に同意しながら。

 

「えっ、エミルあんな状況で念話傍受魔法(インターセプション)を使ってたの⁉︎

 なんて無茶な…いや、魔族の魔法相殺したり新しい魔法作ったりで無茶苦茶やってるから今更だけど、僕より危ない事をしてるじゃないか!」

 

「私の信条は無茶はしても無理はするなだからね、彼処まで盛大に転ばされて何もしないのは魔族に屈した事を意味したから意地でも情報を抜こうと思ったのよ。

 ただ向こうも念話傍受をしてる事を看破して来たけど」

 

『なっ⁉︎』

 

 ロマンはエミルの念話傍受を自身の気絶したフリよりも危ない橋を渡り過ぎている事を話し、此処に来てロマンが火を吹きエミルの無謀に近い行動を咎めていると、エミルも真剣な表情で魔族にやられっぱなしは信条に反する為にやったと反論をした。

 その上でシエル達に念話傍受まで看破されていた事を話しロマン達は驚愕していた。

 あのエミルを4人組の魔族は完全に出し抜いてしまってたのだと。

 そしてあのエミルが彼女達の掌の上でただ転がされていた事を。

 

「其処まで看破されやがったのか…⁉︎

 それで、その後は如何なったんだ⁉︎」

 

「如何なったも何もこの通りになったわアル。

 ただ、あっちは何が目的かオリハルコンゴーレムを仕掛けた奴の上に居るアギラが何処かに行ったのを確認してから念話でこっちが傍受してるのは分かってるから黙って聞け、じゃないと全員殺すって言われたわ。

 …本当に完敗よ、こっちの手を完全に読まれ切ったんだから」

 

 アルが先ず口火を切ってその後の経緯を聞くと、エミルは向こうの目的が分からず終いな上に念話傍受を知りながらアギラ側に伝えず、その上で黙って聞く様にとアザフィール達との間の念話で言われてしまいエミルをして完敗だと言わしめていた。

 

「…それで、あのシエルって魔族は何を念話で漏らしたの? 

 黙って聞いてろって言われて、目の前の魔族を何とかしろって言われたなら他にも色々言われたんじゃないの?」

 

 その直後にサラからエミルに質問が為され、シエルがエミルに対して漏らした事が他にあるのではと問い質し始める。

 するとエミルはシエル達の事を考えながら少々不機嫌そうに話し始める。

 

「鋭いねサラ。

 ええ、あのシエルって魔族達は向こう側の重要そうな情報………楔の泉、って呼ばれる物を探してるだとか、地上界の者はレベル250が限界レベルだからそれを超えろとか訳の分からない、情報漏洩を敢えてして来たわ。

 それから、神剣探しは中止して目の前の魔族をってね」

 

 エミルが話した内容にロマンやサラ達はあの4人組はわざと情報を漏らしたのかと思う程魔族側の動きを話し、更に地上界の者達の限界レベルと言う自分達地上界の者が知らない様な事まで話し、その上で神剣探しは中止して魔族に集中せよと言う警告すら出し何がしたいのか不明な点が多過ぎた。

 

「…何か、不明瞭な事ばかりで分からなさ過ぎるのですか…楔の泉とは一体?」

 

「シエル曰く、地上界に3箇所あって魔王が門から出られない様にする楔。

 500年前から魔族が探す物、神が用意した魔界と地上界の争いを一方の虐殺にしない為の措置、だとか訳の分からない事を言っていたけど、重要なのは魔王がその楔の泉で魔界から出られないって事ね」

 

「…神様が、用意した…」

 

 ルルは考え込む様にしながらエミルに楔の泉の詳細を聞くと彼女はシエルに言われたまま、魔王が門から出られない様にする楔だと話し、重要な点であるこの楔がある限り『魔王は地上界には来れない』事を強調しながら言う。

 しかし此処でロマンやサラ、ルルにアルでさえ神が用意した、と言う部分に引っ掛かりを覚え、エミルが考えた様な事を脳内で思案し始めていた。

 

「まぁ兎に角私達があのシエル達の言う様に行動するなら目的は2つに絞られるわ。

 先ず第1に楔の泉を探索、そして出来るなら魔族が触れられない様に結界で守る事。

 第2に地上界の者の限界レベルと言う物を超える事。

 此方は態々あの魔族シエルがありがたい事にアレスター先生が何かに辿り着きそうだったから消されたと話してくれたわ」

 

「アレスターが⁉︎」

 

 その間にエミルは魔族4人組のリーダー格シエルが念話でわざと漏らした事を辿る道である楔の泉の探索、更に地上界の限界レベル突破を提示し、更に第2の議題にはアレスターが何かに辿り着き掛けて消された=殺された事を全員に話し、サラはアレスターの名を聞き驚きながらテーブルを揺らし、席を立ち上がった。

 

「魔族シエルの談が本当なら、ね。

 これを無視するなら私達は方針通りゴッフェニアに行く事にして神剣探しを続行するわ。

 ただ、これは私1人では決められないから皆の意見が聞きたいわ。

 皆はどっちが良い? 

 これまでの方針通りに行くか、それとも魔族シエルがわざと示した道を罠を想定して行くか?」

 

 そしてエミルは1番大事な話である自分達の今後の行動方針についてを4人に話し始める。

 1つは自分たちが決めた道を行き、神剣探しを行う道。

 もう1つは魔族シエルが提示した物に沿った道。

 それらから何方に行くかを自分1人では無く全員で決める様に促し始める。

 其処で全員が悩む様なそぶりを見せる…と思いきや、アルが先ず口を開き始めた。

 

「なら話は早い、頑固者のゴッフ(ジジイ)に神剣の手掛かりを聞きに行くより先に魔族シエルが提示した方に行く。

 あの女やアザフィールが350オーバーのレベルなら魔王はその上を行く筈だ。

 その出現阻止をする為に楔の泉とやらを意地でも探す方が先だろう、ライブグリッターならその後から探せる。

 何よりあの4人組に借りを返さなきゃアル様の名が廃るぜ」

 

 アルの言い分はライブグリッターと言うゴッフなら在処を知る物より楔の泉と言う聞いた事も見た事も無い物を探す無謀に思えるが、魔王出現を阻止する為に自分達に出来る事=魔族シエルから教えられた事から片付け、神剣は後回しにする選択をすると言う物だった。

 更に個人的な感情を挟むが魔族シエル達4人組に借りを返さないと気が済まないと言う物だった。

 

「アルの言い分は分かったわ、他の皆は?」

 

「私は…私は知りたい。

 アレスター、あの子が何を掴んだかを、何故あの子が殺される様になったか、あのエンシェントドラゴン襲撃は本当に偶然だったのか、知りたいの!」

 

 次にサラがアレスターが掴んだ物や彼が何故死に行く事になったかを知りたいと叫び、彼の姉として知らなければならない事が増えた為アルに同調しこれで方針変更側に2人が寄る事になった。

 それを聞きエミルが頷いていると次はルルが話し始めた。

 

「私も楔の泉探索に賛成するわ。

 実際如何言った物かは分からないけれど、確かお母様と賢王ロック様が不思議な泉を200年前に偶然発見した話があるわ。

 もしかしたらそれが件の泉かも知れない」

 

 ルルはリリアナやロックが200年前、偶然発見した泉の話をすると全員の目の色が変わり、もしかしたら楔の泉の1個目を早速見つけたのかと思いながらルルを見つめていた。

 

「僕は…僕の意見なんだけど…皆に合わせたってならない様に言うけど、知らなければいけない気がするんだ。

 魔族シエルが何故わざわざ僕達を試す様な真似を取るのか、その真意を。

 それと…楔の泉について教えたって事は、穿った見方をすると相手も大体の場所を絞り込めてるんじゃないかな? 

 ならそれを知る僕達が魔族達を止めて魔王の出現を止めないといけないと、僕は思うんだ!」

 

 最後に不安な表情を見せながらもロマンはその口で楔の泉探索をすべきだと自身の考えを持ちながら発言し、更に魔族シエルが何故この様な相手を試す様な真似をするのか、重要な情報を流したのは既に場所を絞り込み始めているのでは無いかと自身の考えを発言する。

 その上で魔王が門から出現するのを止めなければと、皆に同調気味にならない様に話すとエミルは全員の意見を聞き終え頷き始め、頭の中の行動方針に変更を加え始めて口を開く。

 

「皆の意見は大体同じみたいね。

 なら私は今後の方針転換としてゴッフェニアには行かずフィールウッド国の中央王村『ロックヴィレッジ』に向かうわ。

 賢王ロック様達に楔の泉らしき物を聴きに行くと同時にアレスター先生の知り得た事を解き明かそう。

 アレスター先生の遺品はフィールウッドに送られているから其処で閲覧して何方も同じ国で解消出来るかも」

 

 エミルは方針転換によりゴッフェニアに向かう事を変更し、フィールウッド国のロックヴィレッジに向かう事とし、其処でロック達が見つけた泉が楔の泉か確かめるのと並行しアレスターが掴んだ何か…地上界の限界レベルを超えるヒントを得る為彼の保管された遺品を閲覧しそれを知る事に決めてロマン達もそれで同意をした。

 

「それじゃあ何時から向かい始めるの?」

 

「今から。

 あんな化物レベルの魔族が出たもの、悠長に明日からなんて言ってられないわ。

 と言う訳で、食事を摂ったら直ぐに港へ向かってフィールウッド国へ行くわ! 

 早速1階に降りて食事して来ましょう!」

 

 サラは何時からとエミル聞くと、今からと返答が即座に返って来て理由も魔族シエル達の様な化物レベルの魔族が居る事を確認した為悠長な行動をしていられないと発言して盗聴防止結界(カーム)を解き1階に下り始めた。

 

「よし、そう言う事なら俺様達もさっさと行くぜ‼︎」

 

「うん、行こうロマン君、ルル!」

 

「分かったわ」

 

「うん!」

 

 その後にアルやロマン達も続き、さっと朝食を摂ると宿泊費等を払い、馬屋で預かってた馬車に乗り込みセレンの街からミスリラント本国1の港『ジルコン』へと馬を走らせ始める。

 

「(あの夢が私の持つ魔王像や完敗から来た負のイメージなら………それが実現しない様に頑張らないといけない。

 ………あんな光景は、ごめんだから…)」

 

 その間にエミルはあの悪夢の光景を思い出し、荒廃する地上界や知人、何よりリリアナ達前世の仲間達やロマン達今の仲間達、全てが無慈悲に失われ何もかもが魔族達の思い通りにならぬ様にと恐怖心を押し殺しながら決心し街道へと出てジルコンを目指した。

 

 

 

 しかし、エミル達の馬車がジルコンへ向かう場面を目撃する者が居た。

 それは銀髪のロングヘア額に赤い水晶を輝かせる褐色肌の少女………エミル達が現在最も警戒する者、シエルが居り、その背後にはアザフィール達まで佇んでいた。

 

「そうだ、それで良い。

 そうしなければアギラ達小悪党がのさばる結末を迎える。

 そんなつまらない結末など興味無いし見たくも無い。

 だからせいぜいアギラ如きには勝って見せろよ、エミル一行様?」

 

「では征きましょうシエル様、我等が『目的』が為に」

 

 シエルは彼女なりの思惑があるのかアギラ一派がのさばるのを良しとしない発言をし、何かエミル達に期待するかの発言をしながらアザフィール達と共に転移魔法を使いその場を去る。

 この魔族達の目的は何か? 

 それを知る者は『盟約』を交わしたダイズ位しか現在は居なかった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
誓いの翼(オースウイングズ)は魔族シエルが敢えて示した道を行く事になり、そしてシエル達は何らかの思惑を持って行動してますがそれが判明するのはまた随分先になると思われます。
更に魔族ダイズと言う名あり魔族の3派閥がある事になり、ダイズも『魔剣』を持つシエルと『盟約』を交わしていると言う複雑な関係に…。
これらが意味する所まで長いですがお付き合い頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願い致します。


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第2章『アギラの動乱編』
第17話『誓いの翼、結束する』


皆様おはようございます、第17話目更新でございます。
今回はロマン君がもう1人の主人公として動く回になります。
では、本編へどうぞ


 馬車に揺られて2日が経過し、エミル達はミスリラント本国の最大の港ジルコンに辿り着く。

 其処はエミル達が本国に入国した港より更に大きく、船の大きさも数も段違いであった。

 これにはロマンも初めて見る物に口を開けながら周りを見渡していた。

 

「おいロマン、田舎風吹かせてる暇があったらこの船に乗るぞ‼︎

 フィールウッド国までの直行船だ、早く乗れ‼︎」

 

「わっ、ごめんアル!」

 

 周りの船を見渡していたロマンだったが、それに気を取られ過ぎた為か他の仲間達と逸れそうになり、アルが大声でロマンを呼びフィールウッド国への直行船に共に乗る事が出来た。

 そうして船室で一旦集まり、全員で盗聴防止結界(カーム)内で改めて目的確認となった。

 

「じゃあ改めてだけど、私達の目的はフィールウッド国へ行き賢王ロック様達と謁見、珍しい泉やアレスター先生の遺物の閲覧。

 これを並行してやって魔族シエルが漏らした楔の泉や限界レベル250の真偽確認や事実なら泉の防衛策構築と限界レベルの突破をするわ、良いわね?」

 

「うん、大丈夫だよ〜エミル!」

 

 エミルは改めての行動方針を説明すると、サラが1番に同意し、他はサラの勢いに負けて頷く形になった。

 エミルとしてはアレスターの死に関連する事の為、姉として知りたいのもあるのだろう。

 この爛漫な元気さの裏にはそんな悲しい感情があるのだとロマン達は悟り黙って同意していた。

 

「うん、それじゃあ後は解散ね。

 皆これから5日間の船旅で英気を養おうね」

 

 そうして同意を確認したエミルは盗聴防止結界(カーム)を解除し、誓いの翼(オースウイングズ)は負傷した身体を休めながらの船旅になりそれぞれがロマンとアルの船室から女性陣の船室に戻り、船が出港する時を待っていた。

 

「(………そう、あんな夢が現実になるのはゴメンだから…)」

 

「(…エミル?)」

 

 その直前にエミルは自身が見た悪夢を思い出し、あの内容が現実の物になるのはゴメンだと考え、使命感と…若干の恐怖心を胸に秘めながら船室を後にする。

 その後ろ姿にロマンは何かを感じ、彼女を目で追うが手を伸ばそうとする前に船室にはアルと2人で残されてしまう。

 

「何かあったのかロマン?」

 

「………うん、何か………何時もの勢いが無くて。

 それでエミルに何か声を掛けないとって…」

 

 アルはロマンの様子から何かあったのかと声を掛けると、本人はエミルに何か声を掛けないと…そう言ってドアの方を見続け、船室は静寂に包まれる。

 そうしている内に船が出港したらしく、船全体が揺られ始めるのだった。

 

 

 

 それからロマンはサラやルル、アルにも協力してエミルに話し掛けようとしたが、その度に間が悪く話し掛けられず船旅2日目になり、その間に誰1人としてまともに彼女に話し掛けられなかった。

 

「あ〜もう、何でなの〜! 

 何でエミルに話し掛けようとしたら向こうは用事があったり、こっちに用事が回って話し掛けられないの〜⁉︎」

 

「………間が悪い、なんてレベルを、超えて…いますね………」

 

 テーブルに突っ伏したサラやフードを被ったルルはこの間の悪さに嫌気が刺し、食事も別々に摂る等明らかにエミル側から避けられてる様な感覚を覚え、現在の昼食時もアルが不機嫌に酒を飲んでいた。

 

「たく、俺様達は仲間だろ? 

 なのに何故避けやがるんだエミルは⁉︎

 おいロマン、お前何とか声を掛けるタイミングを図りやがれ! 

 サラやルルでダメなら俺様達じゃタイミングが合えばなんて言ってられねぇ、お前が何とかしろ!」

 

「うん…僕もそのつもりなんだけど………何か、上手く噛み合わないんだよね…」

 

 アルはコミュニケーション能力の高いサラやこう見えて話にはグイグイと行くフードありのルルでさえもエミルと話が出来ず彼等ではお手上げとして協力を求めたロマンに堂々巡りで出番を回されるが、ロマンも肉料理を食べながらタイミングが合わないと溢し全然上手く話をする場面を見つけられずにいた。

 

「うぅ〜、何だか誓いの翼(オースウイングズ)が結成早々に解散の危機みたいな雰囲気になってるよ〜う! 

 ねぇルル〜、何か良い案や予知は無いの〜?」

 

「…ごめんなさい、予知は任意で、見れる物では………。

 ………あれ、そう言えばこの海域は………」

 

 サラはお手上げな空気を出しながらルルに無茶ながら何か案か予知は無いかと聞くが、矢張りと言うべきかダークエルフの予知は任意で見れる物では無い為ルルも俯いていた………が、俯いた影響で懐に仕舞った世界地図を見つけ取り出すと、船の進行ルートと現在の海域を計算し始め、1人で何か唸っていた。

 

「如何したルル、何か案が浮かんだのか?」

 

「…はい、恐らくですが………今日の夜に………」

 

 アルはルルの様子から案が浮かんだのかを問い、サラやロマンも様子を見るとルルは自身が知る『反則情報』からエミルが今夜何をするのかを予測し、その反則情報の内容が分からない様にしながらロマン達に予測を伝えると、ロマンもそのタイミングしかないと感じルルの予測に思い切って乗っかろうと思っていた。

 そして現在の場所は………門がある遺跡群に近い海域であり、夜に最接近する航路を船は取っていたのだった。

 

 

 

 その晩、エミルは甲板に出て望遠鏡で門の遺跡群を覗き見ていた。

 500年前に自身(ライラ)の手で封印した門。

 其処から溢れる瘴気や暗雲からその時の場面を思い出し、そして溜め息を吐きながらある事を考えていた。

 

「(…アレスター先生の死やあの悪夢で麻痺していた感覚が戻った、500年前に常にあった隣人達の理不尽な死…。

 そして何より500年前に私が取った行動………それが最善策と思って、私はロックやロア達に…)」

 

 それは500年前にあった魔物や魔族達に仲間や友の命を奪われる理不尽な蹂躙、それにより生まれる喪失や絶望、哀しみ。

 エミルは…ライラはそれを防ぐ為に縛られし門(バインドゲート)使用を踏み切り、そして転生魔法により現代へと再び生を受けた。

 だが…特にあの悪夢を見た時から生まれた感情、それは誓いの剣(オースブレード)の皆に同じ絶望を自らの死で与えてしまった、その明確な後悔の念であった。

 

「(あのアザフィールやシエル達の実力差と完敗、そして悪夢…それで漸く私は私の犯した過ちに気付いた、気付いてしまった。

 自分の命を勘定に入れなかったから気付けなかった、リリアナ達に刻んでしまった哀しみや絶望。

 そして今度はロマン君達を死に掛けさせて私は…。

 なら私は、ロマン君達を死地に追いやるとんでも無い過ちを…⁉︎)」

 

 エミルはライラの時から自身の生命について軽薄で、勘定に入れず常に無茶をして来た。

 それをロア達に咎められた事もあるが結局そのまま突き進み500年前の最期に至った。

 その際に遺してしまった仲間達に絶望感を与えてしまったのでは? 

 そしてアザフィールやシエルの規格外なレベル差に今度はロマン達を自身の軽はずみな行動で死に追いやるのではと悪夢を見た時からその恐怖心が芽生え、遺跡群を見た瞬間それが膨らみ今まで考えなかった重圧に潰されそうになっていた。

 

「…エミル」

 

「っ⁉︎

 ロマン…君…」

 

 そんな重くのし掛かる負の感情に思考が支配されそうになった時、背後から声が掛かる。

 それは現代の仲間であり自身が見出した勇者ロマンである。

 そしてそのロマンから離れた位置にはアル達も居り、全員エミルを心配してその様子を見に来ていたのは彼女にも分かってしまう。

 

「あ〜、何か心配掛けたみたいね。

 でも大丈夫だから心配しないで良いよ。

 さ、船の中に」

 

「待ってよエミル! 

 …そんな辛そうな顔をして、大丈夫な訳無いでしょ⁉︎」

 

「…辛そ、う…」

 

 エミルはロマン達の顔を見て作り笑いをし、心配せず船内へ戻ろうと言い掛ける。

 だが、それをロマンが許さず腕を掴み彼女が辛そうであった事を伝える。

 それを聞いたエミルはその言葉が深く刺さり立ち止まってしまう。

 

「…ルルから聞いたんだ、この時間帯に多分エミルは遺跡群…門を見て何か1人で抱え込んじゃうんじゃないかって。

 それも全部、あの4人組の魔族が関係してるよね? 

 ねぇ、それなら僕達にもその辛さを教えて分けてよ、その為の冒険者パーティ…誓いの翼(オースウイングズ)なんでしょ!」

 

「ロマン君…」

 

 ロマンはルルからこの時間帯に此処に来て何かを抱え込むと聞き、それも内容は魔族シエル達が関わるとロマンはエミルが自身達を避け始めた事から考えに至っていた。

 そしてその鬱屈とした感情を自分達にも分ける様に叫び、その為の誓いの翼(オースウイングズ)だと言われ、エミルはその仲間思いで真っ直ぐな眼差しに誤魔化しが効かなくなり、諦めた様に甲板の背凭れに腕を掛け、遺跡群を見ながら口を開き始めた。

 

「…私さ、悪夢を見たんだ。

 あのアザフィールの攻撃で皆を助けられず、そしてあの遺跡群から魔王が出て来て地上界を滅ぼされる夢を」

 

「…そう、なんだね」

 

 エミルは詳しい内容は省きながら夢の内容を話し、ロマンや離れて聞いているサラ達はそんな悪夢を見ていた事を此処に来て初めて知り、あの敗北が自信家のエミルに深い傷を負わせたと考え、エミルの前世を知るルルはもっと複雑な理由があるのだと思いながら次の言葉を待っていた。

 

「それでね、私は夢の中であのシエルにこう言われたんだ。

 これがお前達の限界だ、お前に惑わされてこうなった。

 偽善者にして愚者エミル、お前が自らの愚かさを見ず突き進んだから死なずに済んだ皆が死んだ。

 その結末を胸に刻みながら魔族が地上界を支配する様を見届けるがいいって」

 

 エミルは更にライラである事を伏せながらも夢の中のシエルに言い放たれた言葉を告白し、その一言一言を告げる度に夢の中のシエルが向けた失望の眼差しや味わった絶望感が胸を締め付け、更にロマン達の死の光景や前世を含めた自身の愚かさを認識して行きその表情が曇り始め、腕も震え始めていた。

 

「…それで、エミルはその夢を見てどんな感情が1番大きかったの?」

 

「えっ、ロマン君…? 

 …恐怖、皆を失う事や、地上界で知り合えた人や全てを喪う事…それが、怖いって…」

 

 するとロマンはその夢の中で何の感情が大きくエミルを支配したのか彼女に問うと、エミルはロマンを真っ直ぐ見ながら皆を喪う事が怖かったのだと伝える。

 確かにエミルが感じた自己嫌悪の感情は全て恐怖から来ており、それは嘘偽り無き告白であった。

 それを聞きロマンは…笑みを浮かべながら口を開き始めた。

 

「そっか、やっぱりエミルも同じだったんだね」

 

「えっ?」

 

「僕も、あの時アザフィール達を前にして…怖かった、逃げ出したかった。

 けれど、エミル達を置いて逃げるなんて僕には出来なかった。

 だってエミル達の期待を裏切るなんて真似は出来なかったし、何より………エミル達を喪うのが怖かったから。

 だから、僕は…」

 

 ロマンはエミルが同じだと言い放ち、それを聞いたエミルは突然の事に惚ける。

 ロマンの言を思考に起こすと、如何やらアザフィール達の威圧感に怯みあの場から逃げようとも考えたらしかった。

 しかしロマンはエミル達から受けた期待を裏切れず、そしてその仲間達を喪うのが怖かったからこそ前に出て盾を構えたのだと言う。

 それらを話す時のロマンの手はエミル同様に震えていた。

 

「だからさ、エミルは仲間想いで優しくて、それでいてリーダーらしく自信家で…でも怖い物は怖くて…根本からして僕達と同じくお互いを想い合う人なんだよ。

 だったら、怖いって想いも僕達に分けて欲しいんだ。

 それが、仲間でしょ?」

 

 ロマンはその震えを押さえながら今まで自身が見て来たエミルの人物像を口にして行き、アル達も見ながら互いを思い合える者だとし、その上で仲間であるなら怖いと言う感情も共有しようと苦笑しながら自身が信じる『エミル』に想いを伝える。

 それを聞いたエミルは自身の前世を含め、その半分以下しか生きていない目の前の弱気な、しかし確かな勇気を持つ勇者に諭され少し俯き、そして全員に向き直る。

 

「…そう、よね。

 私達は誓いの翼(オースウイングズ)…苦楽を共にする仲間………ごめんなさい、私、皆を勝手に道を決めて突き進んで喪う事に勝手に怯えて、皆を避けちゃった…」

 

「僕達なら大丈夫だよ、エミルのそう言う部分も含めて支え合うのが仲間なんだからね。

 そうでしょ、皆?」

 

「…まぁな」

 

 エミルは自身の弱さにより仲間達を避けてしまい、更に勝手に仲間を喪う恐怖に怯えていた事を誓いの翼(オースウイングズ)の仲間達に告白しながら謝罪する。

 それをロマンはそのエミルの弱さも含め支え合うのが仲間だと口にしながらサラ達の方に向く。

 するとサラは和かに手を振り、ルルは気恥ずかしくなりながら頷き、アルもそっぽを向きながら肯定していた。

 

「さっエミル、船室に行って作戦会議をしよう。

 今度はアザフィール達にも負けない様に、これからの事をきっちりと話し合おう?」

 

「…そうね、ええロマン君、サラ、ルル、アル! 

 もうあの理不尽の権化みたいな連中に一泡吹かせる為に色々会議するわよ!」

 

「あは、何時ものエミルに戻ったね! 

 オッケー、夜中まで作戦会議をしよ〜う‼︎」

 

 そうして『仲間達』に自身が抱いた物を告白し、漸く胸の中にあった恐怖心を拭い去る事が出来たエミルは何時もの調子に戻り作戦会議をしようと高らかに叫ぶとサラもルルもアルも、そしてロマンも自分達が知るエミルに戻った事を喜びながら船内に戻り始める。

 

「…ありがとうロマン君、私の弱さとかを受け止めてくれて」

 

「それは僕もだよエミル。

 君は僕を優しさと勇気を持つ勇者だって言ってくれてるから。

 だから、これはお互い様だよ」

 

「…ええ、そうね」

 

 そうして船内に戻る途中でエミルはロマンにありがとうと口にすると、ロマンもリリアーデで自身を真の勇者だと信じたエミルに感謝しか無く、故にお互い様だと口にして船内へ戻った。

 そうしてロマンとアルの船室に再び集まり盗聴防止結界(カーム)を発動させて5人の作戦タイムに入る。

 

「それじゃあ作戦なんだけど、名あり魔族の中でもレベル230が2人までなら今の私達なら苦しいけど相手に出来る、これは共有して置くべきね」

 

「ならそれ以下の奴等なら其処まで物量で来られなきゃサックリ勝てる訳だな?」

 

「ええ、その認識で間違いないわアル」

 

 先ずエミル達は自分達のレベルならレベル230の名あり魔族2人までなら相手出来るレベルと魔法、技の熟練度を持っているとエミルは豪語する。

 其処にアルも物量で攻められなければそれ以下の魔族に勝てると発言すると此方もエミルは肯定する。

 それ等を共有し合い、次にフードを取ったルルが次の議題に入る。

 

「ならアギラは? 

 奴のレベルは280と聞くわ。

 今の私達では勝てないと思うけど?」

 

「それはそうね、ええ今は勝てない。

 レベル250になれればアギラ1人ならギリギリだけど勝てると思う…こっちも無事に済まない可能性を考慮しながらなら。

 ただレベル220から私達地上界の者はレベルが上がり辛くなるって書物にあったから…確実に勝つ為にはやっぱりアレスター先生が掴みそうだった物を私達で成すしか無いわ」

 

 ルルから現段階で行く先々で罠を張ったアギラ1人に勝てないと言われるとエミルはあっさり肯定し、レベル250になれればアギラ『1人ならば』犠牲を考慮してギリギリ勝てる様になる可能性が出ると発言する。

 しかしエミルは前世の経験からレベル220から先は中々レベルが上がり辛くなる事を書物で見たと話し、これが地上界の者の限界レベルに近付く事だと内心で考察していた。

 そしてアレスターの掴み掛けた物を自分達で掴むとも話す。

 

「ならアレスターの坊主の遺したもんを見る為に賢王ロックに会うのは絶対だな。

 予言者リリアナと一緒に見た珍しい泉の件も聞くならな」

 

「ええ、先生の遺した物とその珍しい泉がフィールウッド国に一緒にあったのは僥倖よ。

 その泉が楔の泉なら魔族から守る方法を見出すのも並行出来るから尚更ね」

 

 そしてアルもアレスターが遺した物と珍しい泉の確認は絶対だとし、エミルも肯定しながら楔の泉を守る専用魔法を作る事も考慮しながら船室からフィールウッドの方角を見ていた。

 その発言と目には既に恐怖心は拭い去られ、自信家のエミルが完全復活していた事を全員に知らしめていた。

 するとサラが手を上げ質問を始める。

 

「はいはいはーい! 

 じゃああのティターニアとティターン、アザフィールとシエルの4人組に会ったら如何するの?」

 

「うん、あんなの相手にしてたら生命が幾つ有っても足りないから逃げるが勝ちよ逃げるが。

 転移魔法(ディメンションマジック)で300キロ向こうに逃げ続けるわ。

 ただ追って来た場合を考慮して隠密用のアイテムやら分身魔法(アバターマジック)やらを駆使して全力で逃げるわ。

 …通用するか分からないけど」

 

 サラはシエル達4人組に会ったら如何するかを質問すると、エミルは風の魔法の1つである分身魔法(アバターマジック)や隠密アイテムを駆使して全力で逃げると恥ずかし気も無く宣言する。

 しかしアザフィールの1撃を受けて全員死に掛け、その上にまだシエルが控えている為妥当な判断だとして全員納得していた。

 逃げ切れるかは別問題としていたが。

 

「じゃあ纏めるとフィールウッドでシエルの言った限界レベル突破や楔の泉探索をロック様達の下でする、シエル達にあったら全力で逃げる、こんな感じで良いよねエミル?」

 

「ええ、そんな感じよロマン君。

 話の纏めありがとうね」

 

 最後にロマンが話の纏めに入り、エミルも概ねOKを出し作戦会議(特にシエル達4人組に関して)は終わり、全員がそれ等を共有し終わりエミルは一呼吸入れ、全員を見渡した。

 

「皆、敵は500年前の魔族を上回る強さを持つ恐ろしい存在よ。

 でもね………不思議と皆なら超えられる、必ず魔王を倒せるって予感がするの。

 私はこの予感を信じて、私は皆と一緒に何処までも行くわ! 

 だから、最後まで頑張るわよ、無理せず無茶を壊しながら‼︎」

 

 エミルはアギラを含め敵が500年前の敵を上回る事を改めて告げ、それでもなおこのメンバーとならそれ等を超え、魔王を倒す予感がするのだと口にする。

 最後に彼女の信条たる無茶はしても無理はするなも同じく口にしながらロマン達を鼓舞する。

 その反応はと言えば。

 

「ガッハッハッハッハ、心配すんな! 

 このアル様が無理を無茶にしっかり変えてやるぜ‼︎」

 

「うんうん、無理したら身体に毒だからね〜!」

 

「但しエミル、無茶振りも程々に」

 

「あ、あはは…でも、皆同じ気持ちだから前を向いて行こう、エミル!」

 

 それぞれ無茶に飛び込み押し通る気満々でエミルに言葉を返していた。

 ロマンも苦笑しつつも前を向き行こうと言い反対せずにエミルのガンガン行く事に賛同している事を示し改めて誓いの翼(オースウイングズ)の結束力が深まり始めていた。

 

「うん…じゃあ皆、作戦会議終了! 

 この後はしっかりと休みながらフィールウッドまで行くわよ、じゃあ解散!」

 

『おお〜‼︎』

 

「お、おお〜!」

 

 最後に作戦会議終了と解散をエミルが宣言して全員に休む事を言い渡す。

 それに対してサラ達は元気に、そして真っ先に返事し遅れてロマンも返事をすると盗聴防止結界(カーム)を解除し、女性陣は自身達の船室へと戻って行った。

 

「…ふう、良かったな。

 ウチのリーダー様の機嫌が直ってよ」

 

「うん、そうだね。

 じゃあアルおやすみ」

 

 その後ろ姿を見送りながらアルはエミルの機嫌が直った事を彼なりに気に掛けながらロマンに話すと、短く会話を交わした後消灯し、船に揺られながら2人はベッドの横になり眠りに就くのだった。

 この時ロマンはエミルと初めて出会った時の事を夢に見て、その時からずっと自分を信じてくれる彼女には感謝しかないと思いながら夢の中であの時の問答を繰り返すのであった。

 

 

 

「んん〜…面白く無いですねぇ。

 ちょっとシエルさん、ライラの転生体もその仲間達も完全復帰してフィールウッドに向かってるじゃないか、これは如何言う事かな?」

 

「私に聞くな、アザフィールのあの1撃で全て決したと私は思ったんだ。

 しかし存外しぶとい様だ、誓いの翼(オースウイングズ)を名乗るだけはある」

 

 その船から離れた位置の小島にて、千里眼(ディスタントアイ)を使いエミル達が完全復活したのを気に食わないアギラはシエルに対し捲し立てていたが、当のシエルは右から左に流しその話を聞いている様子は無かった。

 アギラはその態度に血管が浮き出ており、しかし此処でこの女に挑んでも神剣ライブグリッターの対となる『魔剣』を持つ魔界1の剣士にしてアザフィールの弟子であった者を殺せる訳が無いとして少し堪えていた。

 

「…ん、くくく、君が使命を怠慢しあの勇者達を野放しにしているのは分かったよ。

 ならシエル、この事を魔王様に報告させて」

 

「その『魔王』様からの伝言だ。

『何時になったら楔の泉を見つける、貴様の愉快な計画とやらの決行は未だか?』との事だ。

 今報告に戻れば確実に首が飛ぶのはお前の方だぞ、アギラ?」

 

「なっ⁉︎

 ぐっ…」

 

 アギラはシエルの態度から崇拝する魔王に彼女の行動を耳に入れ、その首を飛ばそうと画策しようとした…が、逆にシエルに魔王からの伝言を伝えられてしまい今魔界に帰れば生命が無いのは楔の泉発見に至らず、更に自身の計画を実行しないアギラ自身だと気付かされてしまい何も言えなくなりながらシエルを睨んでいた。

 

「それじゃあ私はダイズの使命を少し手伝ってくる。

 精々その策とやらで地上界を混乱させられる様に祈って置くとするよ、アギラ?」

 

 シエルは最後にダイズ側の魔王から与えられた使命の手伝いをすると宣言し、その軽い足取りと台詞を言い放ちながら転移魔法(ディメンションマジック)で恐らくダイズの近くに転移して行った。

 それ等を見て聞いていたアギラは………完全に切れて島の木々に大熱砲(フレアブラスト)を撃ち込み火災を発生させていた。

 

「がぁぁぁぁぁぁぉ、シエルシエルシエルゥゥゥゥ‼︎

 たかが『魔剣』を持つだけで魔王様の幹部になっただけの女がぁぁぁ‼︎

 私を苛立たせんじゃねぇぇぇぇぇ‼︎

 はぁ、はぁ、はぁ………良いだろう、計画実行と楔の泉破壊をしてやる‼︎

 それでお前が吠え面をかく姿を嘲笑ってやるわっ‼︎」

 

 アギラは周囲の木々を燃やし尽くした後シエルへの怨嗟の言葉を口にし、そして一通り辺りを燃やし尽くした後自身の与えられた使命を果たすべく転移してその場から消えるのだった。

 その思惑はシエルに屈辱を与えると言う余りに稚拙で、しかし彼女に対する恨みを滲ませる物であり明らかにシエルを蹴落とそうとしているのがこれを誰かが見ていれば分かる物だった。

 そして後に残ったのは灰と焼け落ちた木々がある小島だけだった。

 




此処までの閲覧ありがとうございました。
エミルが敗北の事を引き摺りネガティブな状態になっていた所でロマン君が気付き、ズルズルと引き摺るのを止めた回になりました。
そしてアギラ、遂にブチギレる(しかも実力差から周りに八つ当たりしか出来ない模様)。
結束する味方側と(主にアギラの存在の為)バラバラになる敵側と、書いている内に対比になりました。

次回もよろしくお願い致します。


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第18話『エミル、再会する』

皆様おはようございます、第18話目更新でございます。
本来昨日更新予定でしたが、用事があり更新が出来ませんでした。
その遅れを取り戻す為に執筆を急ぎます。
では、本編へどうぞ。


 船に揺られ5日間、海賊も海棲魔物にも襲われず船はゆっくりと揺られ、午後にリリアーデ港街に辿り着いていた。

 そうして港街へ降り立つとサラとルルは生まれ故郷の港街、しかもルルに至っては母がこの場で海を眺めていた逸話から名付けられた街に立った事で気分が普段より高揚していた。

 

「うわ〜リリアーデに着いた〜! 

 ねえルル、宿屋に行ったり色々見て回ろっ‼︎」

 

「サ、サラ………確かに、周りを見たい気持ちは、分かりますけど………早く、お母様達の所に向かわないと…!」

 

 サラはルルの手を引っ張り周りを見渡しながら店を覗いたり等をして燥ぎ、ルルは気持ちは分かるとしながら何とかしてそれを止め、馬車屋に引っ張り始めていた。

 

「まぁ故郷に帰ったにはある程度羽目は外すもんだが…何か俺様よりも羽目はを外し過ぎじゃねぇかありゃ? 

 アレが第1王女ってこの国の未来は大丈夫か?」

 

「あ、あはは…サラは人柄が良いから多分最低でもロック様並に国を繁栄させると思うよ? 

 …多分」

 

「私はノーコメントで」

 

 その様子を見ていたアル達はサラが統治する様になったフィールウッドを想像し、この国の未来が如何なるか行く末が心配になるアルだったが、三者三様の反応を見せた後馬車屋に行こうとする。

 すると宿屋の扉が開き、中からロマンとエミルが見知った顔の少女が現れる。

 それはロマン達が救った少女、キャシーであった。

 

「あ、キャシー‼︎」

 

「あ、ロマン君にエミル様! 

 お久し振り…って、その包帯姿は如何したんですか⁉︎」

 

「あ、エミル王女殿下に確かロマン君だったか…派手に怪我して如何したんだい⁉︎」

 

 ロマンはその姿に気付き、キャシーを呼ぶと彼女は他の、あの祝杯の時に居たパーティメンバー4人と共に来ると、アルを含めて全身に包帯が巻かれた姿を見て驚きパーティメンバーと共にその怪我を問い質した。

 

「あ、あはは、ちょっとレベル350の魔族に1撃でボコボコにされちゃって…あ、でもキャシーにその仲間の方はレベル160オーバーになってるじゃない! 

 すっごく成長したんだね!」

 

「レ、レベル350の魔族………ロマン君やエミル様がサラ王女様達とパーティを組んで魔族と戦ったって噂は本当みたいですね…。

 ですけど、ご無事で何よりですよ…」

 

 エミルは笑いながらアザフィールの威圧感溢れる姿を想像し、その大剣から放たれた爆震剣でボロボロにさせられた光景を思い出しながらキャシーに説明する。

 すると彼女もエミル達が魔族と戦った噂を聞いていたらしく、更にレベル350と言う前代未聞の名あり魔族に戦慄しながらも、それでも無事生きていた事を喜び胸を撫で下ろしていた。

 

「それで、そちらのパーティメンバーの方達は? 

 あの祝杯の場に居た方達なのは分かりますが…」

 

「王女殿下に覚えて頂けているとは誠に恐悦至極でございます。

 我々は『正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)』と言います。

 リーダーは私『ネイル』が勤めております」

 

 茶色の短髪で長身の男、ネイルが自分達のパーティ名を正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)と名乗る事にエミルは目に見えて驚き、直ぐに真剣な目になりネイルを見つめ始めた。

 

「あ、あの、何でしょうか?」

 

「貴方………ご先祖様に『シリウス』と言う方が居りませんか? 

 誓いの剣(オースブレード)と共に戦った英雄達の中でも特に武勲を挙げた正義の人と呼ばれる…」

 

「…ああ成る程! 

 確かに私の先祖は大英雄シリウスであります! 

 そしてこのパーティ名は代々我が一族がリーダーとなった際に名乗る仕来りとなっております! 

 もしご先祖様であるシリウスがライラ様の子孫と再び縁を結んだと知れば喜ばれるでしょう!」

 

 エミルは前世で共に戦った仲間の中に正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)を名乗った者達が居り、そしてネイルにそのリーダーだったシリウスの面影を見出し問い質すと、案の定シリウスの子孫である事が判明しネイルもライラの子孫(但し前世)と再び縁を結べた事を喜び、互いに握手を交わしその手にはシリウスと同じ正義を愛する温かさがあったとエミルは感じていた。

 

「うわぁ、大英雄シリウス様のご子孫が…」

 

「何を言っているんだいロマン君、君もあの勇者ロア様のご子孫じゃないか! 

 お互いに偉大な先祖を持ち、また魔族の侵略を許さない者同士、共に戦おうじゃないか!」

 

 ロマンは大英雄の子孫が目の前に居る事を驚きながら見ていた所、ネイルはロマンも初代勇者ロアの子孫と言う由緒正しい魔族と戦う者同士として共に戦おうと誠意ある笑顔を見せながら握手を求め、ロマンは少し戸惑ったがこのネイルもエミルの様に魔族から地上界の全てを守りたい正義を感じ、直ぐに表情が柔らかくなり握手を交わし合った。

 するとエミルはネイルの発言から魔族と戦う意志を感じキャシーに問い掛け始める。

 

「ねえキャシーちゃん、貴女も魔族と戦う事は承知済みなの?」

 

「は、はい。

 初めは私の鍛え直しと言う事でネイルさんや『ガム』さん、『シャラ』さん、『ムリア』と一緒に健全な心と肉体を得る為に正しい鍛え直しをすると言われて世界樹での瞑想や無理の無いレベリング、魔法の熟練度上げをしていました。

 けれど…魔族がネイルさんの暗殺を図って来て…」

 

 キャシーはエミルに魔族と戦う事について聞かれると旅の初めから話し始め、其処では無理無く彼女はレベルアップや魔法の熟練度を上げていた様であった。

 しかし、魔族がネイルの暗殺を図ったと聞き、エミルも驚きながら他の人間のパーティメンバーである糸目の槍戦士のガム、もう1人のキャシーより年上の魔法使いシャラ、肥満体型な斧戦士のムリアに視線を送る。

 すると彼等も話をし始めた。

 

「先ず俺達全員でエンシェントドラゴン退治が出来るレベルまでキャシーちゃんに合わせてレベルアップしてたんよ、そしたら」

 

「夜中に野営をして交代で見張っていた所に魔族が現れてネイルさんの首を狙ったのよ!」

 

「で、俺等ネイルの兄貴には正義や道徳を教えて貰って、此処まで鍛えて貰った恩があるから俺達兄貴を助ける為に魔族と戦ったんだよ〜。

 そうしてたらレベルアップして今や平均レベル160オーバー。

 キャシーちゃんやシャラには王女殿下の創った魔法を覚えて貰って魔族を警戒してるんだ〜」

 

 如何やら魔族はシリウスの子孫たるネイルを暗殺を図っていたと知り、更に彼を慕う者達の頑張りがありキャシー含めレベルが最低160になり、エミルが創り上げた3種の魔法をキャシーやシャラに覚えさせて魔族が近付かないか警戒する日々を送っているらしかった。

 そしてエミルはキャシーに振り返り、彼女の言葉を待った。

 

「私も…ネイルさんや皆さんのお陰で本当に大切な仲間って言う物を学び直して、ネイルさんからは正義の在処とかを考えさせて頂いてます。

 そしてエミル様やロマン君が魔族と戦っていて、今レベル210を超えて居ますよね? 

 そんなに魔族に狙われ続けて、理不尽な事が起きない様にしたいって私も考えて魔族と戦う事にしたんです! 

 だから…これからも、色んな意味でよろしくお願い致します、エミル様、ロマン君!」

 

 キャシーも如何やら決意は固いらしく、あのギャランに怯えていたか弱い少女はもう居らず、此処には魔族と戦う決意をした魔法使いの少女しか居なかった。

 それ等を聞きエミルはその選択を考えて選び抜いたならと思い何も言わずにキャシーに握手を求めた。

 そしてキャシーも握手をし、此処に500年の時を超えた別パーティ間の絆が蘇った瞬間をロマンやアル、ネイル達は目撃していた。

 

「おーいロマン君〜、エミル〜、アル〜、馬車の用意が出来たから早く行くよ〜!」

 

「あ、分かったわサラ! 

 それじゃあネイルさん達、キャシーちゃんをよろしくお願いします。

 キャシーちゃんも、無茶はしても無理はせずに逃げる時は逃げてね。

 今攻めて来てる魔族は500年前の時よりもずっと強いから!」

 

 其処にサラから馬車の用意が出来た事を聞き、エミル達は直ぐに向かう為にネイル達にキャシーを任せ、更にキャシーに自身の信条である無茶はしても無理はしない様にと告げ、ネイル達にも聴こえる様に逃げる時は逃げる様に言い聞かせてその場を後にしようとした。

 

「あ、エミル様少し待って下さい!」

 

「キャシーちゃん、何かあるの?」

 

「はい、実は…」

 

 するとキャシーはエミルに何か伝えたい事があるらしく、彼女から盗聴防止結界(カーム)を使い耳打ちでエミルに何かを伝えていた。

 それ等を聞きエミルは………夜通し念話傍受魔法(インターセプション)を使っていた結果分かっていた事をキャシーの口からも聞き、間違い無しだとして頷き始めた。

 

「…やっぱりね、分かったわ。

 この事はこれからロックヴィレッジに私達は向かうから、賢王ロック様達にも警鐘を鳴らす様に進言するわ。

 ありがとう、キャシーちゃん!」

 

「はい、エミル様達もお気を付けて!」

 

 そうしてキャシーからの秘密の会話を受け取り、ロック達に警鐘を鳴らす様に進言するとしながら馬車まで走り出し、キャシー達に一旦別れを告げてエミル達はサラとルルが用意した馬車に乗り込んだ。

 

「なぁエミルさんよ、あのキャシーって嬢ちゃんから何を言われたんだ? 

 態々外部に漏らさない様に結界を張ってまでして」

 

「それは私が直々にロック様達に進言するから、皆は何かあった程度に考えておいて。

 この事は万が一に備えて内密で伝えなきゃ行けない情報だから」

 

「…うん、キャシーやエミルがそう判断するって事は余り深く聞いて外部漏れを誘発する訳には行かないね。

 じゃあキャシーから聞いた事はエミルの中に秘めておいて良いよ」

 

 アルはエミルとキャシーが何の会話をしたのか気になり問い詰めると、外部に漏れるのを極力避けたいエミルはそれを口外する事無く、

 ロマンもエミル達がそう判断したならそれが正しいとしてそれ以上聞く事は無かった。

 

「ねぇねぇ、キャシーってさっきエミルと仲良しな魔法使いの女の子だよね? 

 あの子やロマン君って如何言う関係なの?」

 

「あ〜、キャシーちゃんはベヘルット元侯爵家の跡取り息子のギャランにロマン君共々不当な扱いを受けてたんだけど、リリアーデの宿屋でギルドナイトに通報して助けた子なの」

 

 するとサラはキャシーがどんな子なのかをエミル達に聞き始めると、エミルはギャランの話やベヘルット元侯爵家の話を出した上でギルドナイトに通報し助けた子と説明し、ロマンもギャランの名を久々に聞き目を瞑り無表情になっていた。

 最早温厚な彼の中ですらギャランの扱いは無関心になり、今何をしているのかも興味が無くキャシーが受けていた事の報いを受け今に至るとすら思っていた。

 

「ベヘルット元侯爵家…あぁ、ルルの『本業』が唸ったあの貴族崩れの馬鹿野郎の家か。

 息子の悪行を金で握り潰してた穀潰し共の末路は爵位剥奪、冒険者ギルドから永久追放だっけか? 

 はっ、当然の報いだな」

 

「ルルの『本業』…そう言えば私とロマン君、全くそれについて聞いていなかったね。

 ねえルル、もし良かったら『本業』について聞かせてくれないかな?」

 

「うん、僕も聞きたいな」

 

 その会話を聞いていたアルはルルが『本業』を発揮し爵位剥奪された貴族崩れの一家を思い出し当然の報いだと口にしながら森の中に入り始めた為ランタンの準備を始めていた。

 するとエミルとロマンは今更ながらルルがどんな『本業』をしているのかを聞いていない事を思い出し、それについて話を振る。

 するとルルは震え始め………笑い声を出し始めていた。

 

「ふ、ふふふ………やっと、やっと…聞いて、くれたわね………良いわ、教えてあげるわ! 

 ある時は弱気なダークエルフの女シーフ! 

 またある時は道端で裏情報を聞く謎の人物! 

 しかしてその実態は…闇夜を駆け巡り、不正や搾取を行う者を成敗し、奪われたお金や物を元の持ち主に戻す正義の義賊、『月下の華』のルルよ‼︎」

 

 するとルルは待っていましたかの様に自身の本業………様々な不正や搾取により富を得た者からそれ等を奪い去り、元の持ち主達に返還する義賊だと話す。

 それをエミルもロマンも噂で聞いた事がある月夜に舞うその少女の姿から月下の華と言われている義賊の事を思い出し、ルルを見ながら2人は興味津々になっていた。

 

「月下の華って、あの4国家を股に掛けて小さな悪徳商売から不当な統治に至るまであらゆる悪逆を裁いて来たあの義賊⁉︎

 私、レオナお姉様達と一緒に月下の華が題材になった本を沢山読んでこんな格好良く弱きを助け悪を挫く者になりたいって何時も目を輝かせて読んでいたわ‼︎」

 

「僕も、300年前にヒノモトで不当な税金を得たり裏で悪さしていた悪代官や行商人を成敗した話の本を見ていつかこんな風に悪者をやっつけたいって子供の頃に読んでいたよ‼︎

 その本人が目の前に居るなんて…凄い…‼︎」

 

 2人は幼い頃に読んだ月下の華を題材にした本の話をし、ロマンは言葉通りに、エミルは現代にこの様な人が居るならと童心に帰りレオナ達と共にこの様な人物になり人々を導いて行きたいと考え本当に憧れの的であった。

 それを聞きルルは満足気に過去の善行を思い返し、救った人達の笑顔を今でも忘れず月下の華としての活動を続けそれに誇りを持っていたのだった。

 

「いやぁ、初めはお母様みたいに誰かを助けたいって思いから始まった義賊行為にルルもノリノリになって、でも天狗にならず困った人達の為にを心情に動いたから今があるんだよね〜」

 

「ええ、勿論よ」

 

 ルルが初めは小さな夢から始まった行動が今や人々の憧れとなり、しかし本人はただ困った人達の為にと活動をし今に至る為これが当たり前だとも感じ、悪人から力の無い弱き人を救う事がある意味生き甲斐になっていた。

 そして、だからこそ魔族の地上界侵略はルルにとっては許せない物であり、何よりエミルが作った安寧の世を破壊する蹂躙者に対して怒りを抱いてるのだった。

 

「…そういや、この森は確か最北の世界樹の森じゃなかったか? 

 何時の間にか入っちまったが、此処は魔物共のテリトリーに」

 

「あ、それなら大丈夫だよ。

 4年前から私が此処で修行した影響で私の気配を感じると魔物の方から逃げる様になったから」

 

 その談笑の中でアルは最北の世界樹のテリトリー内に入り込んでしまった事を悟り、ミスリルアックスに手を掛け警戒を始める。

 しかしエミルが此処で4年間も修行していた為魔物達はエミルの存在を恐れ逃げ出す様になっていると話しながら手綱を握っていた。

 その証拠に木影に居る魔物は震え上がり、馬は意気揚々と蹄で道を踏み締めていた。

 

「…そっか、エミルが初めにレベル163だったのは此処で…やっぱり凄いね、エミルは」

 

「それ程でも無いわ。

 さ、このまま世界樹を横切って真っ直ぐ行けばロックヴィレッジには夜に辿り着くわ。

 それまでゆっくり休んでて良いわよ皆」

 

 ロマンはエミルのレベル163の秘密を改めて知り彼女を凄いと口にしたが、当の本人は前世の半分を漸く越した程度に過ぎなかった為かそれ程でもと言い、更に目を瞑りあの時の自分はアザフィールやシエルの存在を知らなかった為井の中の蛙であった事を痛感し、大体8割方の力を取り戻した今でも4人組が頭にチラ付き、それ等を超える為には如何すれば良いかと思考するのであった。

 

 

 

 それから数時間が経過し、最北の世界樹を真っ直ぐ突っ切った結果最短ルートでロックヴィレッジの目の前まで辿り着き、村の門の前で番兵をしているエルフが馬車のランタンに気付きエミル達を呼び止める。

 

「待て、お前達こんな夜中に一体何用があって」

 

「あ、やっほ〜皆! 

 お父様に会いに来ちゃった!」

 

「って、サラ王女殿下⁉︎

 と言う事は貴女方が誓いの翼(オースウイングズ)⁉︎

 で、では中へどうぞ‼︎

 ロック様やリリアナ様はまだ起床中であらせられます‼︎」

 

 門番は槍を持ちながら夜中に王村に来たエミル達を不審がっていたが、馬車の中のサラを見た途端畏まり、エミル達が誓いの翼(オースウイングズ)と知るや否やロックやリリアナはまだ起きていると説明し正に顔パスで王村ロックヴィレッジに入れた。

 それから馬車を預けると慌てた様子で近衛兵達がエミル達を村の中央にある巨大な木で作られた宮殿に案内される。

 

「賢王ロック様、及びリリアナ様‼︎

 サラ王女殿下と誓いの翼(オースウイングズ)御一行がお見えになりました‼︎」

 

「そうか、リリアナの予知通りだな。

 では兵達よ下がって良いぞ、これよりは娘とその友人であり魔王討伐を志す客人達との話し合いになるのだからな、出来れば我々のみで話がしたい」

 

『はっ‼︎』

 

 近衛兵達は跪き、エミル達も同様にしながらロック達の反応を見ると、如何やらリリアナが誓いの翼(オースウイングズ)が来る事を予知していたらしく、愛しの娘とその友人であり魔族と戦う有志達との話し合いになるとして兵達全員を下がらせ残ったのはエミルの記憶にある姿から皺が少し増えたり髭を貯えた親友のリリアナと友人のロック、そして自分達だけとなり盗聴防止結界(カーム)を発動させると………サラは勢い良く立ち上がりロックに抱き着いた。

 

「お父様久し振り〜‼︎

 元気だった? 

 ちゃんとご飯食べてた?」

 

「ははは、こらサラ。

 それはこちらの台詞だぞ? 

 全く、レベル350の魔族と遭遇し重傷を負ったと聞いた時は寿命が縮む思いをしたが…元気そうで何よりだ。

 本当に良く無事だったなサラ、ルル、そして客人達よ」

 

 サラはロックに甘える様に話し掛けると、そのロックはアザフィール達の事も耳にしておりサラやルル、そしてエミル達が無事だった事を喜び全員に立ち上がる様に合図を送るとエミル達は立ち上がり、ルルもリリアナの前にフードを取りながら話し掛け始めた。

 

「お母様、お久し振りてす。

 …そしてごめんなさい、魔族に完敗しました」

 

「良いのよルル、生きているなら敗北を糧にして立ち上がる事が出来るのだから。

 だから気にせず、貴女は貴女らしく生きなさい。

 私の娘として、義賊月下の華として、そして誓いの翼(オースウイングズ)として」

 

 ルルはサラと対照的に母リリアナにいの一番に謝罪し、頭を下げていた。

 が、リリアナは500年前の戦いの経験から生きていればそれを糧にし立ち上がれる事を知る為責める事無く、自分らしく生きる様に言い付けながら頭を撫でていた。

 そして伝説の英雄2人の視線はエミル達の方に向いた。

 

「そして我々2人は聞いておるぞ、誓いの翼(オースウイングズ)の鍛治師アル、勇者ロマン、そして魔法使いエミル…。

 まるで我々誓いの剣(オースブレード)がもう1つ生まれた様な組み合わせだ。

 ゴッフの弟子にロアの子孫、それにライラの子孫まで…」

 

「本当に、天の巡り合わせとはこの世に有るものですね…」

 

 その視線は今はこの場に居ないゴッフや今は亡きロア、そしてライラに想いを馳せた物であり、それ等を見聞きしロマンやアルは自然と頭を下げてその視線に応える。

 対するエミルは一度頭を下げた後、誓いの翼(オースウイングズ)のリーダーとして、かつての友だった者として目を開き2人の目を見ながら話を始める。

 

「ロック様、リリアナ様、我々が此処に来た理由はリリアナ様の予知で大体はお分かりでしょうが敢えて言わせて頂きます。

 敵は強大過ぎ、とても今現在の我々では勝ち目はありません。

 其処で私達セレスティア王家の専属講師であらせられた第1王子アレスター殿下の遺した書物全ての閲覧の許可をお願い申し上げます。

 其処に目の前の敵を超える為の鍵が眠っている筈です。

 そして貴方方が見つけた世にも珍しい泉についてお話し頂き、ご案内頂けたら幸いと存じ上げます!」

 

 エミルは王族として他国の王や英雄に対し物怖じせずに現状の説明をすると同時に自身達の目的であるアレスターの遺した書物全ての閲覧、更にはロックとリリアナが見つけた珍しい泉を見せる様にと話し、その姿にロマン達はエミルは現実的で且つ王女としての素質が高いと思いながら視線を送っていた。

 最もこれはエミルがライラだったからこそ物怖じせずに昔の感覚に王族の文言を付け加えた物であり、自身的には凄い事をしてる気など毛頭無かった。

 

「うむ、セレスティア王国第2王女エミル殿下よ、其方の言う通りリリアナの予知で大体の目的は把握している。

 近衛兵達には送られて来たアレスターの書物を纏めさせてある、直ぐに閲覧可能だ。

 そしてその泉については明日になってから案内したい、それで良いか?」

 

「はい、夜中の突然の訪問でありそうなると踏んでおりましたので大丈夫です。

 そして………賢王ロック陛下と予言者リリアナ様のお耳に入れたい事が内密であります。

 なので心苦しいのですが、サラ王女殿下達を先に書物か宿に案内させて貰えないでしょうか?」

 

 ロックはリリアナの予知で既にアレスターの書物全てを纏めてあると話し、更に泉に関しては明日改めて案内するとエミルに話し、当の本人もそれに納得していた。

 更に此処でキャシーに言われた事………そして『自身』の事を伝える為にロマンやサラ達を書物、或いは宿に案内させる様に頼むとロックとリリアナは互いに見合い、それに頷き始めた。

 

「うむ、如何してもと言う内密の話であるならサラ達も下がらせよう。

 サラ、悪いがルルや仲間達を連れて外の兵に宿に案内してくれないか? 

 アレスターの遺した書物は其処に全て纏めてある」

 

「うん、分かったよお父様! 

 じゃあエミル、先に行ってるね!」

 

「ええ、ごめんなさい皆。

 話す時が来たら話すから」

 

 エミルの話を聞き、ロックはサラに外で待機している兵に案内を頼ませる様に言い付けるとサラは元気一杯な返事をし、エミルに先に行く事を伝えるとエミルも話す時が来たらと言い、その背中を見送った。

 そしてその場には賢王と予言者と………大魔法使いの転生体が残る事になった。

 

「…ふう、久し振りだねロック、リリアナ。

 私からしたら14年、2人からしたら500年振りだね」

 

「…そうだな、『ライラ』。

 実に500年、転生魔法でこの時代にまた舞い戻るとお前が死んだ直後にリリアナから聞いていたが…予知や誓いの翼(オースウイングズ)の名、更にこうして話してみなければ実感が湧かなかった。

 だが………ああ、此処に居るんだな、我等が友よ」

 

「ああライラ、本当にまた会えるなんて…」

 

 エミルは早速『ライラ』としてロックやリリアナに話し掛け、エミルとしては14年だが当人達には実に500年振りの再会に涙を流し、ロックとリリアナは椅子から立ち上がりエミルに抱き付き始めた。

 その温もりを感じたエミルは500前と何ら変わらない2人の温かさに触れ、改めて1人で突っ走り勝手に死に彼等の心に疵を残してしまったと自覚する。

 

「ロック、リリアナ、本当にごめんなさい。

 勝手に縛られし門(バインドゲート)を使った挙句に…。

 私はつい最近、レベル350や450の魔族に負けてからその事に気付いて…その所為で皆を」

 

「いいえ、あれは私が魔界が2度目の侵略をしようとしてるって予知を貴女に伝えてしまったから…だから、貴女の所為じゃ」

 

「リリアナ、少しストップを。

 そうだぞライラ、お前は本当に何時も何時も無茶ばかりをして私達に心労を掛けて、挙句の果てに死に別れだ。

 ロアも悔しくて涙して、死に際にはこんな言葉を遺したぞ」

 

 エミルは早速自身が気付いた過ちの謝罪をし、それを聞いたリリアナは自身が魔界の2度目の侵略を予知した為、ライラがあの様な行動を取ってしまい今の様になったと、責任は自身にもあると発言しようとする。

 その途中ロックは昔の様に小言を言い始め、更にロアも遺言があるとしてそれを聞く様に促しエミルは2人の目を見ながらそれを待っていた。

 そしてその口から語られた言葉は…。

 

「…魔王を斃さずにこっちに来たら全力で拳骨してやる、だそうだ

 本当に何処までもあのお人好しらしい、無茶をする度に飛んだ重い拳骨が飛ぶだろうなぁ…」

 

「………そう、だね。

 ロアは優しくて、でも怒ると怖くて私に拳骨を何時も何時も浴びせてたよね。

 …全く、死に際でも勝手な死に別れに対して何も言わずに魔王を斃さなかったら、なんて…これじゃあ、絶対魔王を倒さなきゃいけなくなるわよ…」

 

 ロアの勝手な死に別れによる恨み節では無く、かつて旅をしていた時の様な言葉で魔王討伐をしなかったら拳骨と言う、誓いの剣(オースブレード)の日常になっていた物を本気で浴びせると言う何処までも他者を、それこそ魔族や倒すべき魔王すら恨み切れなかったロアらしい遺言をエミルは聞かされた。

 それを聞いてしまった為、エミルは絶対に魔王を倒さねばならないと思いながら笑みを浮かべながら涙を流し、また1つこの使命を達成しなければならない重みが増えるのだった。

 

「…ふう、さて、昔話は此処までにしようか。

 お前が今の仲間達、サラ達を先に行かせて私達に話があると言う事は、我々に関係して且つ外部漏れを心配しての事だろう? 

 無茶は良くやる癖に妙に慎重なライラらしい所だ………それで、用件とは?」

 

「ええ、実は………」

 

 そして昔話を終えた3人はエミルがサラ達を先に行かせた理由をロックが推察しながら話し、彼女の本題に入ろうと言う姿勢をリリアナと共に見せる。

 そしてエミルはキャシーからも言われた本題を話し始めるとロックやリリアナはそれらを聞き驚愕するも直ぐに表情を元に戻し、エミルの話を終えた所でリリアナが話し始める。

 

「…分かったわ、この事は私達が責任を持ってゴッフに書簡で伝えるわ。

 それも、私達流の書簡でね」

 

「ありがとうリリアナ、これで私も自分の事に集中出来るわ。

 …じゃあ、『気を付けて』ね」

 

 リリアナは誓いの剣(オースブレード)流の書簡、これを見て意味を伝えられた者で無い限り真意が分からない暗号化された書簡をゴッフに送ると話し、それを聞いたエミルは漸く自身の事に集中出来ると思い一呼吸を入れる。

 そして『気を付けて』と忠告し、盗聴防止結界(カーム)を解除してその場を去り始めて行く。

 

「さて、我々も4国会議の為の書簡をゴッフの奴に送り届けてやろうか、リリアナ?」

 

「そうね、ロック」

 

 そして残った賢王と予言者も職人王に対し4国会議の書簡を送ると話しながら自室に戻って行き、誓いの剣(オースブレード)流書簡を久々に送ろうと張り切り始めていた。

 こうしてキャシーも気付いた事をエミルが伝えた事で目の前の事態の対処の為に静かに、しかし着実にそれを果たす為に様々な者達は動き出すのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
ネイル達やキャシーはサブキャラとして今後もエミル達と絡む予定になります。
そして今回はの再会には様々な意味が込められていました。
エミルは今回のリリアナ達との再会で完全に吹っ切れ、キャシーとの再会で縁が結ばれると言うサブタイトルでした。

次回もよろしくお願い致します。


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第19話『誓いの翼、決心する』

皆様おはようございます、第19話目更新でございます。
今回は様々なイベントが詰まった回になります。
そしてタイトルの誓いの翼(オースウイングズ)が何を決心したか見届けて下さいませ。
では、本編へどうぞ。


 ロックとリリアナに警告をした後、エミルは早速アレスターの遺した書籍から日記に至る全てを宿屋の一室に移して貰ってる事から、近衛兵に頼み宿屋に移動してその部屋に入って行く。

 すると其処には100冊を超える論文書籍から日記までが置かれ、ベッドの間を縫う様に置かれそれにロマン達が机やベッドの裏で齧り付いて見ている光景が目に入る。

 

「あ、皆寝てなかったんだね」

 

「当たり前よ! 

 このアル様があんな風にボロ負けさせられて黙ってる訳には行かないからな、読書は苦手だが限界レベル突破とやらの糸口を探してるぜ!」

 

「それにしてもアレスターは本当に論文纏めが万人向けって感じがするね。

 ほら、この『魔法、絶技の熟練度等による効力の差分』って書籍。

 体内魔力の強度に自身のレベル、魔法等の熟練度が及ぼす威力、効力の差を分かり易く纏めてくれてるよ。

 本当に、あの子は天才だったんだよね…」

 

 エミルが話し掛けるとアルが天井に本を掲げながらパラパラとアレスターの本を読み、他の皆もルルに至ってはフードを取り齧り付く様に集中し、更にロマンも『武器の質が齎す魔法、絶技への影響』と言う論文を読みサラは少し悲しげに弟が遺した数多くの論文を見てそれらを全て1人で纏められる天才だったのだと思いながら頁を捲っていた。

 

「…うん、アレスター先生は本当に天才なんだよ。

 もしも今も生きていたらライラ様を超える程の………。

 さて、私も読むわね…基本の『魔力一体論:アレスター著書版』から当たってみようかな?」

 

 エミルはサラの話を聞き、アレスターを自身(ライラ)と比べても存命していれば間違い無く伝説を塗り替える逸材、真の天才だったと結論付けており、その生きた年齢差や才能の差から尊敬の念を込めて彼を常に『先生』と読んでいるのである。

 

「(…先生、貴方が一体何を掴みそうになって魔族に消されたのか、確かめさせて頂きます)」

 

 そんなアレスターが何を掴み掛けたのかを確かめるべくまずは基本の本から手に取り、少しの間畏敬の念と遺品漁りをする事への謝罪をしながら本を開き、この次には日記に何か残していないかを確かめるべく全員による夜通しの閲覧作業が5人で行われるのであった。

 

 

 

 ミスリラント本国、ゴッフェニアの玉座兼作業台において、今は火を灯していないが炉の手入れは欠かさないゴッフは今日も4国会議を控えながらも作業台や鍛治道具、自身の武器の手入れを欠かさず行なっていた。

 

「親父様、フィールウッド国より賢王ロック様と予言者リリアナ様の名で親父様への書簡が転送魔法(トランサーマジック)で送られて来ましたぜ!」

 

「あんだと、アイツ等から書簡っつうか手紙が送られただぁ? 

 ふん、4国会議前に何かあったか? 

 どれ、見てやるからさっさと持って来やがれ!」

 

 そんな時に番兵の1人が玉座に入り、転送魔法(トランサーマジック)でロック、リリアナの2人から書簡が送られて来た事を伝えられそれを見せる様にと番兵に持って来させる。

 なおこの書簡にはゴッフが直に触れて魔力を検知しないと封が切れない封印魔法が掛けられており、更に封には何と久方振りに見る誓いの剣(オースブレード)の印が使われており、ゴッフは驚きながら書簡を食い入る様に見入っていた。

 

「…ふむ、ふむふむ………。

 成る程な、通りでこの印を使う訳だな。

 さて、と!」

 

【ザンッ、ボォ!】

 

 ゴッフは手紙数枚の内容をじっくりと見入り、それ等を捲りながら熟読が完了した結果、ゴッフは何と自らのミスリルアックス(ライラの魔法祝印(エンチャント)付き)を徐に持つと、火の絶技を使いながら手紙を全て燃やしながら斬り、番兵を驚かせた。

 

「な、何をしてるんですか親父様⁉︎」

 

「なぁに、ただ昔話とムカつく黒歴史を延々と書き連ねただけのただの手紙だ。

 だから斬って燃やした、それだけだ。

 分かったらさっさと部屋前の警備に戻りやがれ、てめぇのこのサボりの時間分を賃金からしょっ引いて孤児院に寄付してやるぞ‼︎」

 

「は、はい、すみません親父様‼︎」

 

 それをゴッフはつまらない手紙を送って来たのだと番兵に叫ぶと、現在部屋前の警備から抜けているこの兵の時間をサボり認定し賃金からその分を差し引き孤児院に寄付すると脅し文句を叫ぶと、番兵は急ぎ自身の仕事へと戻るのだった。

 そうして玉座に1人残されたゴッフは空の月を見ながら先程の手紙の『内容』を思い出していた。

 

「(…ああ、お前等の警告はしっかり伝わったぜ。

 後は『その時』が来たら身体を動かせる様にしとくぜロック、リリアナ、そして…エミル、いやライラよ…)」

 

 ゴッフは手紙から伝わった『警告』を身に染みさせ、更にその手紙の中にライラがエミルとして転生した事も伝わり、存命しているロック達や死に別れ、セレスティア王国の勅令やら新魔法開発で顔が転写されたエミルの表情を思い浮かべながら玉座で瞑想を開始するのだった。

 

 

 

 ゴッフが書簡を読み、瞑想を始めた同時刻。

 セレスティア王国の貿易商人の自宅にて、銀髪の少女が横に居る長身の執事に見守られながら貿易の書類にサインをし、それ等を纏めながらの作業を繰り返していた。

 

「『エリス』お嬢様、『ザイド』氏からミスリル鉱石の発注、更に『ラーガ』氏から人員の融通をせよと言う要請書が届いておりますが如何致しましょうか?」

 

「あら『ティン』に『ティア』、何時もご苦労様ね。

 ザイドには発注された分を送り、ラーガには自分の信用に足る部下達で何とかなさい、私やザイドに頼るなと書簡でも送って遇らいなさい。

 どうせ何時もの馬鹿の浅知恵での人員搾取だから私達4人の誰かを回す必要は無いわ」

 

「畏まりました、ザイド氏には適切に、ラーガ氏には適当な対応を致します」

 

 エリスと呼ばれた少女はティンとティアと言う双子の兄妹にザイドと言う『貿易仲間』にはミスリル鉱石を送るサインをしながら書類を手渡し、ラーガには完全に呆れた様子を見せつつ人員配置の申請書類を破り捨て、ゴミ箱に捨てると2人にそれぞれの対応を命じ下がらせる。

 

「ふむ、ラーガも4国会議の日が近い為からか確実性を求め我々にも声掛けをし始めてる様だ。

 ですがお嬢様、ラーガ如きに力添えする事は無き様に。

 奴めの腹の底はお嬢様の落命をあわよくば狙っていると」

 

「分かってるわ『アズ』。

 私達は私達のやる事をするだけ、其処にラーガの意志など介入させる余地は無いさ」

 

 するとアズと呼ばれる執事がラーガの腹積りを読み、決して力添えしない様にとエリスに進言すると、エリスもそれは分かっているらしくやるべき事をするのみと言いながら書類に更なるサインを進め始める。

 そして、ランタンに照らされる部屋で映る2人の影は禍々しいオーラを帯びており、彼女達が何者であるかを知る者は未だ存在しなかった。

 

 

 

 アレスターの遺した論文を夜通しで隅から隅まで見続けていたエミル達は、朝になり朝食を摂った後にロック達に不思議な泉を見せて貰うべく宮殿まで歩いていた。

 

「ふぁ〜…眠い〜…」

 

「だが、ルルとエミルのお陰で本の半分は閲覧完了出来たぜ。

 残る半分を見終われば何かヒントがある筈だぜ?」

 

 サラは大きな欠伸を掻きながら歩き、ロマンやアルも眠気に襲われながらも集中して熟読していたルルにエミルのお陰で半分程は閲覧終了し、残りは論文と少しの日記となっていた。

 

「じゃあ私は日記の方を当たらせて貰うわ。

 恐らく論文なんて誰でも分かり易い物に自分が掴んだ物を載せるなんてリスキーな事は先生はしない筈だから」

 

「分かり、ました…。

 …じゃあ、私達は論文の方を、読み続け…ますね…」

 

 そうしてエミルはもう論文にはアレスターが掴んだ何かは無いと当たりを付け日記に手を出すと全員に話すと、ルルも論文を読み続けてそれが終われば彼女を手伝える為ルルはフードを被りながら気合いを入れながら歩いていた。

 そうしてエミル達が宮殿に辿り着くとロックが近衛兵達を下げ、その場には誓いの翼(オースウイングズ)と賢王、そして予言者のみになった。

 

「うむ、早め早めに来て貰えて何よりだ。

 では早速その泉へと案内しよう。

 リリアナ、封印解除を」

 

「ええ」

 

 するとロックは玉座から立つと全員を見渡しながら行動が早い事を褒めつつリリアナに案内をする為の封印解除を頼むと彼女は玉座に手を翳し、魔法陣が浮かぶと解除魔法が発動し、玉座が前に動き始める。

 それに驚きエミル達は駆け寄ると、元々玉座があった場所の下に石造りの階段があり、エミルは何処か門の遺跡群を思い起こす作りと模様にこの先に何かあると確信する。

 

「では行こうか」

 

「うん、分かったよお父様!」

 

 その光景を見てすっかり眠気が吹き飛んだ5人はロックとリリアナの案内の下に石造の階段を降り始める。

 するとリリアナは階段方面から再び封印魔法を発動し、玉座を元の位置に戻し辺りは真っ暗になる…筈だった。

 

「な、何だ、壁の間にある木が青く光って光源になってやがる⁉︎

 こりゃぁ、いよいよ何かありそうだぜお前等!」

 

「うん…!」

 

「では進もうか」

 

 アルは突如壁や天井にある木が青く輝いた事を驚き、この先に何かあると全員で確信しながらロックが最前列に立ちながら一段、一段と階段を降りて行きゆっくりと進み始める。

 すると光源も次第に強くなって行き、階段を降りると人工的な洞窟に突き当たりエミル達は更に進む。

 そうして10分程歩いた先に、青く輝く綺麗な泉が目に映りエミル達はそれに目を奪われていた。

 

「どうかね、これがリリアナが予知した君達やサラ、ルルが探している『神秘の泉』であろうか?」

 

 ロックはこの泉こそがリリアナが予知した『エミルやサラ達が探し出そうとする神秘なる泉』と話し、それに目を奪われながらもエミルは早速やるべき事をしようと前にで始める。

 

「…えっと、先ずは調べてみないと分からないですが…少し失礼します。

 魔法元素(マナ)の流れを、辿って………」

 

 エミルは泉に手を翳し、魔法元素(マナ)の流れを読み解く為に意識を集中し始める。

 この魔法元素(マナ)の流れを読む力はエミル…ライラに備わっていた才能であり、これがあった為に魔血晶(デモンズクリスタル)解析や念話傍受魔法(インターセプション)開発が可能となる類稀な才覚であった。

 その才能を以てこの泉の魔法元素(マナ)の流動を探ると………確かに、門に『繋がっていた』。

 それも縛られし門(バインドゲート)に似た魔法元素(マナ)の効力まで読み取ってしまっていた。

 

「…これ、この泉自体が縛られし門(バインドゲート)と似た作用で門を縛ってる! 

 皆、間違い無いよ、これが楔の泉‼︎

 魔王を魔界に縛る聖なる泉よ‼︎」

 

「マジかよ、手掛かりが見つかればと思ってたらいきなり当たりを引いたか‼︎

 俺様達は如何やらツイてるらしいな!」

 

 エミルはこの泉の存在に興奮気味に話し、これこそが楔の泉の1つであると確信し、誓いの翼(オースウイングズ)達は喜び合いサラがハイタッチを促し全員でタッチを行なっていた。

 

「楔の泉…ふむ、詳しく話を聞かせて貰えないかね、エミル王女殿下」

 

「我々も何か力になれると思います」

 

「はい、実は…」

 

 ロック達は楔の泉の名を聞き、エミル達から詳しい話を聞くべく彼女達に問い掛け始める。

 そうしてエミル達は自分達がアザフィールやシエル達4人組の魔族に敗北した際にシエルが漏らした楔の泉、地上界の者の限界レベルについて詳しく話すと、ロック達は互いに見合いながら再びエミル達に視線を戻す。

 

「この泉はそんな重要な物だったのか…! 

 リリアナと初めてこの泉を見た際に『真に信じ得る者以外に神秘なる泉の存在を明かす事勿れ。

 誤った者に知られれば地上界の未来は消え去るだろう』と不気味な予知をしたものでね。

 我々はゴッフと共にサラ達が十分成長し切るまでこれの存在を明かさないとした。

 そしてサラは仲間達を連れ平均レベル210を超えた、話すなら今だろうと考えた所で再び予知があったのだ」

 

 ロックは目の前にある楔の泉がその様な物であると知り、リリアナと共に初めて見つけた際の不気味な予知により今までサラやルル達には存在を少し珍しい泉程度にしか教えず、ゴッフと共に胸に仕舞い込んでいたのだ。

 そんな内にサラ達がアザフィールに負けたとは言えレベル210になった事で真にその存在を明かそうとした際に再びリリアナが予知を見たと話していた。

 

「それにしても私達地上界の者の限界レベルが私達が漸く到達した250で打ち止めだったなんて知らなかったわ…」

 

「それをアレスター先生が何か掴んでいたから、あの方は間違い無い天才でしたよ、ロック様」

 

 その話で盛り上がる中でリリアナは自分達誓いの剣(オースブレード)が血の滲む想いと悲劇等の積み重ねで漸く到達したレベル250が限界レベルだったと知りこれ以上強くなれず、また今回の敵は自分達を上回る存在すら確認された為愕然とする中でエミルは、アレスターは真に天才だったと話しながら彼の死が如何に魔族側に有益だったかを彼等に想像させる。

 

「あの、僕達はこの後もアレスターさんが遺した物を読み解いて何を掴んでいたのか僕等は絶対に知ります! 

 そして、限界を超えてみせます‼︎

 次こそは皆を守り切れる様にする為にも‼︎」

 

「…勇者ロマン、君は若い頃のロアにそっくりだ。

 勇気があり、そして他者の為に戦う…正に彼の子孫だよ。

 君や、エミル王女殿下にサラ、ルル、そしてアル…誓いの翼(オースウイングズ)に未来を託しても大丈夫だと、この短い会話の中で見出したよ。

 頑張りたまえよ、若者達」

 

 その想像をしてる間にロマンがロックやリリアナにアレスターの遺物を読み解き次は………つまりアザフィールやシエルが相手だったとしてもエミルやサラ達を守り切れる様にする為にと少し引き腰ながらも言い切り、2人に自分達を守り抜いたロアの面影を見出し、彼の血脈と意志がしっかりと継げられている事を見た誓いの剣(オースブレード)の2人は次代に未来を託し、自分達は支援に回ろうと此処で決意をするのだった。

 

「…ふう、じゃあこの場所の楔の泉の処置についてはリリアナ様の封印があるから大丈夫として、先代勇者一行から未来を託されたからには急いでアレスター先生の遺物を読み解きましょうか! 

 躓いて恥を見せない為にもね!」

 

「うん、そうだね〜‼︎」

 

「…はい…!」

 

 そうしてエミルは堅苦しい空気を消す様にアレスターの遺物解読を進める様に話しつつ、封印魔法が得意なリリアナがこの場を守っている為フィールウッドの楔の泉は彼女達に任せ、他は何とか探し当てて結界を張り守るなりの処置を考えつつ今度はリリアナ先導の下で地上に出て宿屋に戻り始めるのであった。

 

 

 

「クックックッ、フィールウッドに潜入して居たらこんな棚から牡丹餅…だっけか、ヒノモト特有の諺は? 

 兎も角苦労もせずにロックとリリアナが何かを隠している場面を目撃しちまうとは! 

 兎に角これを急いで魔族側に報告しなくては‼︎」

 

 しかしそんな場面を影から何の苦労もせずに目撃していたエルフの男が居り、それ等を見届けた後影からそそくさと立ち去り魔族達にそれを報告しに行こうとしていた。

 

【ビュンッ、ズシャッ‼︎】

 

「えっ…あ"………」

 

 しかし、その後の行動を起こそうとした瞬間矢がエルフの男の頭を貫き、男は脳症を垂れ流しながら倒れ死に絶える。

 その矢を射った者はサラの父、賢王ロックであった。

 更に木の上から1人のエルフの少女が降り立ち、その同族の男の服を弄りある刺繍を見つける。

 その刺繍は魔族信奉者の国、グランヴァニアの国旗を象った刺繍でありつまりこのエルフの男は魔族側の味方であったのだ。

 

「ふん、能天気だけどそれが良き姉上と違い私は貴様達スパイや怪しき者の動きは把握している………父上、矢張りグランヴァニアのエルフでした」

 

「そうか………魔族だけでも面倒なのにやれやれ、地上界の中にも獅子身中の虫が居るとはな…内偵ご苦労だった『リン』。

 引き続き内偵調査を頼むぞ」

 

 その木の上から現れたのはサラの妹であり、フィールウッド国の諜報員としてその身を捧げている少女、第2王女のリンである。

 彼女はこの男を前々からマークしており、そして確信を得た為ロックとリリアナ、近衛兵にしか分からない合図を送りロックはそれを受け男を射殺したのだ。

 更にロックは他にもマークしている者を内偵する様に命じる。

 

「はっ!」

 

【ビュンッ‼︎】

 

 その命を受けたリンは早速次なる行動へと移り、木から木へ飛び移りながら気配を完全に殺しロックとリリアナ位しかその気配を察知出来ぬ様になる。

 そうしてロックは近衛兵達にサラやエミル達にこの現場を見られぬ様に後始末を任せ、獅子身中の虫たるグランヴァニアに頭を痛めながらエミルから受け取った『警告』を気にしながら4国会議に向け、リリアナと共に出立の準備を進めるのだった。

 

 

 

 一方その頃エミル達は宿屋で論文や日記を熟読し、エミルは外の様子を透視(クリアアイ)で把握しつつも余計な事で全員を混乱させたく無いとして次の日記に手を付け始めていた。

 それも『魔力の流れを感知する様にしながら』。

 

「うーん、中々見つからないね〜」

 

「アレスターの坊主は隠し事も得意だったからな。

 簡単に見つけられちまう様なもんじゃねぇさ」

 

 一方サラもアルもアレスターの丁寧な論文を見つめながらヒントを残すにしても敵がもしも見て把握出来る様にはしていないとして更に本の頁をロマン達と共に捲り集中をしていた。

 そうしてエミルも2冊目の日記もハズレとして丁寧に置きながら次の日記を手に取り、同じ作業を開始し始める。

 

「………あっ‼︎

 コレよ、コレがアレスター先生が遺したヒントよ‼︎」

 

『えっ⁉︎』

 

 するとエミルは漸くアレスターが書き起こしたヒントを見つけた事を口にし、ロマン達も齧り付く様に見ると、それは一見して只のカルロ達生徒の成長を見守る日記であった。

 しかしエミルが間違える訳が無いとして全員で早く種明かしをする様にと視線を送っていた。

 

「良い? 

 この日記は本当にただ見るだけなら普通の日記なの。

 でも、指に魔力を集中して文字をなぞって行くと………」

 

【キィィィィィン‼︎

 ブォォォォン‼︎】

 

「げっ、日記の全部の文字が浮かんで球体を作りやがった⁉︎」

 

 エミルは早速アレスターが施した物を説明しながら魔力を集中した指で文字をなぞると、日記の文字が全て浮かび上がり球体を形作り、その中に文字が舞うと言う幻想的な光景を作り上げていた。

 更にその球体の中心には形がバラバラな文字があり、それがまるで金庫の鍵の様な物であるとロマンは思いながら、サラとフードを取ったルルはこの光景を見てあるエピソードを思い出す。

 

「そうだ、アレスターってこんな風に文字を書いた本に細工をして魔力を流さないと正しい文章が出ない様にしてた事があったわ!」

 

「そしてこの中心部は正に鍵。

 形がバラバラになった文字を正しい形に戻す事で本当の内容が出る仕組みになってた筈!」

 

「そう言う事、私やお兄様達も同じ事をされながら講師を受ける事があったからこの仕掛けが分かるの」

 

 如何やらアレスターにも悪戯心が何かか、本に魔法の細工をして本来の内容を隠して正確な文を出すには文字の球体の中心部にある形が崩れた文字を正しい形にしない限りその正しい内容が閲覧出来ない様に鍵掛けをするエピソードがあったらしく、エミルもアルク達を始めとしてこれをよくやられながら講師を受けていた為本を読む際は文字を魔力集中した指でなぞりながら熟読したのだ。

 

「さてと、正しい文字の形は………」

 

 そんなアレスターの講師を受けていたエミルは中心部の文字を弄り始め形を整え始める。

 そして、あれよあれよと正しい文字の形に整えて行き最後に文字を弄ると以下の文字が浮かんでいた。

『Open the magic books.』、魔導書よ開けであった。

 

【キィィィィィン‼︎

 シュバババ‼︎】

 

 すると文字の球体が崩れ、中の文字達が正しい内容で本に収まって行き、最後の文字まで日記の中に吸い込まれるとエミルは盗聴防止結界(カーム)を発動させながら音読を開始し始めた。

 

「…日記の正しき内容を読む人へ、この日記を正しく読んでいると言う事は私は何らかの理由で死んでしまったと言う事でしょう。

 なので、此処に私が掴み掛けたある物を書き記します」

 

「けっ、あの坊主若い癖に自分が死んだ時すら想定しやがってよ」

 

 エミルが内容を口にして行くと如何やらこの日記は自身が死んだ際を想定し書いた物だと分かり、アルも150しか生きていない坊主が死んだ時の事を考えるとはと考え、ロマンは先見の明が凄い人物だと思いながらその朗読を耳にしていた。

 

「私は70年前、父さんである賢王ロック様と共に魔物狩りに出た事があった。

 其処で私は順当にレベルアップをしましたが、父さんはレベルアップしませんでした。

 初めはレベル250まで上がり過ぎた為に熟練度元素(レベルポイント)を尋常ならざる量を吸収しなければレベルが上がらないのではと考えました。

 しかし、その考えは何度か狩りに出た際に違うと結論付ける事がありました」

 

 日記には70年前のロックとの魔物狩りを何度かした経験が書かれ、其処で自身は順当なレベルアップをしてたがロックは全くレベルアップしない事を不思議がり、そしてその何回か狩りを繰り返して行った事で熟練度元素(レベルポイント)が異常なまでに必要だと言う考えを否定するに至っている。

 その理由を知るべく更に内容を読み進める。

 

「私は魔力の流れを読む力が他の魔法使いよりも高かった、この事で父さんが本来得るべき熟練度元素(レベルポイント)が全く吸収されず霧散すると言う事に気付けました。

 一体何故? 

 私はこの謎を解明すべく自らを実験台として様々な修行法を試しました。

 そして、ある修行をした事で私の身体の中に体内魔力や様々な物を覆う枷があり、レベルアップする毎に枷も強固になる事に気付けました」

 

 其処にはロックが熟練度元素(レベルポイント)を全く吸収出来ずそれが霧散する現象をその目で見た事が綴られ、更にある修行を試した結果自らの中に枷が見つかり、レベルアップすればする程枷が強固になると書かれ、これが限界レベルの事だとエミル達は悟り互いを見合いながらエミルは更に朗読を続ける。

 

「そのある修行とは、高濃度魔法元素(マナ)が放出される土地、つまり世界樹周辺にある魔法元素(マナ)かほぼ感知出来なくなる絶縁地帯と呼ばれる場所で魔法元素(マナ)を感知し、己の体内魔力と魔法元素(マナ)の流れと体内魔力を覆う枷をイメージし、それに触れると言う瞑想に近い修行法です。

 これをする事で自らの枷に触れる感覚が分かる筈です」

 

 そしてその修行法は何と世界樹周辺にある絶縁地帯で瞑想とも取れる物を行い、其処でほぼ無い魔法元素(マナ)を感知し、体内魔力や魔法元素(マナ)の流れ等をイメージする事で枷に触れられると言ったある意味簡単な内容とも取れる物だった。

 

「何だ簡単じゃねぇか、だったらさっさとその修行をして限界レベルを」

 

「待って、まだ続きがあるわ。

 但し、あくまでレベル40時点での私では触れる事が精一杯で枷を壊すなど出来ませんでした。

 その為もっとレベルを上げてからこの修行法を試しました。

 レベル120になった今の私ならこの枷を壊せる…そう思い触れました。

 すると…私の意識は何処とも分からぬ場所に持って行かれてしまいました」

 

 アルは簡単だと話したその修行法の続きをエミルが読むとレベル120、つまり今の生前のアレスターがこの修行法を試した瞬間、自らの意識が何処とも分からぬ場所に持って行かれたと言う不気味な内容が書かれており、更にその続きがあった。

 

「更に私に誰とも知れない声が何かを問い掛けて来ました。

 その時の内容は覚えていないが、返答は『今の私には出し兼ねる、また次にこの場に立たせて貰った際に答えを出させて欲しい』と答えたのは覚えています。

 そしてその声もなら次まで待つとも言ってました。

 故に私はこの時に何かを答えていたら変わっていたのか、それとも…。

 兎に角この修行法は私が最も背筋が凍った修行法です、これを読んだ方達はやるならば相応の覚悟を以て行って下さい。

 限界の壁を超えられる可能性もあればもしかしたら死の可能性もあると」

 

 其処に更にアレスターの体験談として意識を持って行かれた場で謎の声に問い掛けられたと書かれ、一気にホラー色が増す修行法となり始めていた。

 そして文の中でアレスターは返答出来なかったと書き、もしも答えたら何が待ち受けていたのかも分からず終いであり、アルも固唾を呑む内容に不気味な物を感じていた。

 同時に確証は無いが可能性があるとされており、エミルはそれだけ確認出来ただけでも御の字としていた。

 

「次が最後の頁ね…そしてこれを開く貴方達へ。

 もしも開いてるのがアルク様達セレスティア王族の誰か、或いは全員か姉さん達だったのなら………本当にこの方法での修行は今までの自身を超える為でもオススメはしません。

 しかしこれを読んでいると言う事は決意は固いと言う事でしょう。

 なら私はこれ以上小言は言いません、ただ無事に修行を終える事を祈ります。

 セレスティア王家専属講師、アレスターより…先生…」

 

 そして最後にはアルクやカルロ、サラ達が読んでいる事を前提にして最後までこの修行をオススメはせず、しかし決意が固いならと死した身でありながら無事を祈ると締め括られ、アレスターの人想いにエミルやサラ、ルルは涙が流れ、ロマンは名前だけ知っていたが実際に偉大な魔法使いだったのだと思い知り、アルも流石に何も言えなくなっていた。

 

「…ねえエミル、私この修行をやるべかかなと思うの。

 限界レベルを超える云々関係なく、アレスターが見つけた方法が正しかったんだって私、証明したくなったよ、この文を見て」

 

「エミル、私もこれがアレスターの掴み掛けた物なら…!」

 

 するとサラ、ルルが真っ先にエミルに意見を出し、アレスターの見出した修行法が正しくあった事を証明したいと口にして彼女の同意を得ようとしていた。

 

「エミル、僕からもお願い。

 この文を見て、アレスターさんの偉大さや優しさ、僕はそれを受け継ぎたいって思えたから…」

 

「…俺様は限界突破してあの手の4人組に一泡吹かせてやりてぇ。

 だから枷を壊す修行に賛成だぜ」

 

 次にロマンとアルがそれぞれの理由でこの修行法をすると進言し、残るはエミルの意見で完璧に決まる所になっていた。

 そのリーダーのエミルは…早速パーティメンバーの命懸けになるあも知れない修行が頭の中で迷いを生みそうになる………だが、このメンバーなら突破して魔族達に一泡吹かせられる。

 何より、弱さを曝け出した後の為かエミルがそれを考えると迷いは消え皆の目を見て発言する。

 

「皆…早速命懸けになるけど後からやっぱ無しは言って良いわよ、誰も責めたりしないから…って言っても皆の決意はオリハルコンみたいに固くなっちゃったみたいだからね。

 ええ良いわ、この方法で限界レベル、突破してやりましょう‼︎」

 

『OK‼︎』

 

 こうしてエミル達は世界樹の絶縁地帯で魔法元素(マナ)を感知し、其処から様々なイメージをしながら自らの中の枷に触れると言うアレスター曰く危険が付き纏う修行をする事になった。

 その時の誓いの翼(オースウイングズ)の面々の表情は決死の覚悟が決まった物となっており、それぞれ瞳の奥に決意を燃やしていたのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
楔の泉、玉座で隠された階段の先にあったの巻。
そしてリリアナの封印は本人が許可を出さねば通れず、なら如何するべきかは封印で強固になった玉座を破壊→その後泉に到達し破壊するかするしかありません。
更にグランヴァニアのスパイ、エミル達が遂に件の日記を見つけその中の内容をやる決心を固める回でした。
それから書いたかも知れませんが転送魔法(トランサーマジック)転移魔法(ディメンションマジック)の違いについて。
転送は物しか送れず、しかし決まった場所に送られます。
転移は転送の上位互換で人も転移させられ、イメージ出来たり千里眼(ディスタントアイ)を使ったりすればその場所に辿り着きます。
パーティで転移するなら服や身体の一部に手を掛ければ一緒に跳べます。

次回もよろしくお願い致します。


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第20話「誓いの翼、勧誘する」

皆様おはようございます、第20話目更新でございます。
早い事20話目に突入し、物語も少しずつですが前に進み始めてます。
このまま無理せず更新し続けていきたいと思います。
なので閲覧して下さる皆様、お気に入り登録をして下さった皆様、これからもよろしくお願い致します。
では、本編へどうぞ。


 エミル達が日記解読をしていた頃。

 地上界、魔界でも無い空気が澄み、白き翼を持つ者、天使達が天を舞い常に空が青く、しかし太陽が無いのにも関わらず闇に覆われない世界。

 第3の世界、天界の神が住まう宮殿にて1人の紫の長髪が特徴の天使が正に神の前に跪きながら口を開き始めた。

 

「我等が父にして3界と全ての生命の創造主たる我等が神様。

 此度はこの不肖天使アイリスの進言をお許し下さい下さい」

 

「…良い、言わずとも分かる。

 現在地上界にて行われている『聖戦の儀』についての事であろう。

 天使アイリス、愛しき娘よ、聖戦の儀には我々天界は必要以上の肩入れは禁じ静観をしている。

 其方の進言は受け入れ難いと我々天界の立場の意味を知りなさい」

 

 跪いた天使、かつてロアに神剣ライブグリッターを渡したアイリスは地上界で発生している聖戦の儀………地上界と魔界、2つの世界間で発生している戦いについての進言を行おうとしたが、神はそれを天界は静観する側に回る為に一方への必要以上の肩入れは禁じてるとまで発言し威圧感は無い、しかし神々しさが溢れる雰囲気を纏いながらアイリスを嗜めた。

 するとアイリスは顔を上げて立ち上がり、更に進言を続け始める。

 

「しかし神様、現在魔界は地上界の限界値レベル250を遥かに上回る者達を派兵し、更には楔の泉を破壊し魔王を地上界に降臨させんとする聖戦の儀に定められた法を幾つも犯しています‼︎

 更に地上界は魔族信奉者の国まで出来上がる始末‼︎

 このままでは貴方様が嫌う一方による虐殺が本気で行われてしまいます‼︎

 神様、どうか我等天使に地上界への派兵を許し、魔界側による虐殺を止める許可を‼︎」

 

「アイリス、我々天界は一方への必要以上の肩入れは許されないのだ。

 今一度申そう。

 其方の進言は受け入れ難い」

 

 アイリスは感情を剥き出しにし、魔界側が聖戦の儀に定められた法を幾つも犯していると例すら上げ、その上で天使の地上界への派兵をする様に懇願するが、神は自らの意見を曲げずアイリスを再び嗜め話が其処で終わってしまう。

 

「…失礼致しました」

 

 アイリスは自身の言葉は神に届かないと知るとそのまま跪いた上で頭を下げ、そしてその場から翼を羽ばたかせながら神殿を後にし、地上界の様子が見れる泉の前に降り立ち各地を見ていた。

 

「アイリス姉様、また今日も神様に進言は通らなかったの?」

 

「…ええ、天界は一方への肩入れは出来ない。

 そう言って現状を………魔界側による明らかな虐殺への準備を見向きもしてない。

 このままでは地上界で必要以上の血が流れるわ。

 確実に、そしてそれは近い内に」

 

 其処に別の天使達が集まり、アイリスが日頃から神に進言している事を知りつつ地上界の様子を共に監視していた。

 そして、天使の中で最年長のアイリスは神に言われた文言を他の天使達に聞かせ、更に神は現状を見ていないと明らかに不敬な発言をしながら拳を握っていた。

 地上界で虐殺が起きる、その確信を持ちながら。

 

「でも地上界の人の中に限界値を突破をして相手側に対抗しようとする人達が居ますよね? 

 ほら、魔法使いライラの転生者とその仲間達。

 彼女達がこれを如何にかするって信じるのが私達の役目じゃ無いっすかね?」

 

 すると天使の1人がライラの転生者、エミルとその仲間がレベル250の限界値を超える為に動いている事を地上界を映す泉を見ながら発言し、他の天使達も神が無理なら彼女達を信じると言う選択肢を取るしか無いと考えエミル達の様子をじっくりと見ていた。

 だが、アイリスだけはエミル達のみならず地上界全体を監視し、その中でアギラやグランヴァニアの動きすら頭に入れながら考えていた。

 

「(確かに彼女達なら枷を外し対抗出来るかも知れない。

 けど地上界はグランヴァニアとか言う愚か者達が聖戦の儀で禁じられている『聖戦中の地上界同士の争い』を犯して魔界側に協力し、魔界側はアギラ派が虐殺計画や楔の泉破壊を狙っている…。

 恐らくライラ、いやエミル達だけでは間に合わない。

 ならば私は…)」

 

 アイリスはグランヴァニアの動きやアギラ達一派の動きを注視しており、既に聖戦の儀の定められた法は形骸化し混沌を極めつつある状態にあると脳内で思考していた。

 そしてエミル達だけでは間に合わないとまで考え、その時には…とエミル達が出来るだけ早く枷を破る事を祈りつつ彼女自身も何らかの行動を起こそうとするのであった。

 

 

 

 一方地上界、フィールウッド国ではエミルが盗聴防止結界(カーム)を使いながらアレスターの見出した修行法が書かれた日記をロックとリリアナに見せ、2人はアレスターの持って生まれた才能に改めて脱帽していた。

 

「アレスター…お前は私のレベルが250のまま上がらない事を疑問に思いながらこの修行法を見つけていたのか…。

 そしてそれを知ったが故に魔族に…。

 魔力や魔法元素(マナ)の流れを読むその力、正にライラと同格以上だよ………本当に、お前は天才だったのだな…」

 

「アレスター君…」

 

 ロックは其処に書かれた内容をリリアナと共に黙読し、その才能が彼等から見てもライラと同格以上だった事を知り、父として自然と一筋の涙が零れ落ちる。

 リリアナも幼い頃から魔法を見ていたある意味弟子であったアレスターに想いを馳せていた。

 そして2人はエミル達に日記を返却し話を続ける。

 

「それで、君たちはこのアレスターさえ危険だと文脈から断ずる修行法をする事はもう決まっているのだな?」

 

「はい、私達は250の壁を如何しても超えなければなりませんので。

 それがこの修行法でもしも超えられるなら、喜んで命を懸けてこれを行わせて頂きます。

 期限は4国会議が行われる6日後に必ず成果を出す為に、5日で成し遂げてみせます」

 

 ロックは誓いの翼(オースウイングズ)にアレスターさえ危険としたこの日記の修行法をエミルが代表し4国会議が行われる6日後に成果を出す為5日で成す事をロックとリリアナに約束し、全員の目から強く固い意志を感じた2人は最早何も言わず、エミル達に成果を期待する事にして頷きながら彼女達の意志を見届ける。

 

「それでなんですが、この修行法にもう1つの冒険者パーティも誘い、彼等も限界を超えて欲しいと私は考えました。

 その人達をこれから私達は誘いに行きます」

 

「何、その者達は一体?」

 

「…あっ、正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)、キャシーやネイルさん達の事⁉︎」

 

 するとエミルは今近場で誘え、且つアレスターのレベル120のラインを超えてる者達を誘うべくロック達にその者達を誘いたい旨を話した。

 当の2人は何者かと思ったが、此処でロマンがキャシーやネイル達正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)の事だと思いその名を出すとエミルはサムズアップをしていた。

 

正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)…成る程、シリウスの子孫の冒険者パーティか。

 因みにだが、平均レベルはどれ位なのだ?」

 

「平均して169、リーダーのネイルさんが190とかなりの戦力を誇っております。

 本当なら私の兄達や親衛隊長達も共にこの修行法をして戦力増強を図りたかったのですが、千里眼(ディスタントアイ)の範囲内には居ない為そちらは断念しました」

 

 ロックはかつての仲間達の中でも特に正義感が強かったシリウスの子孫をこの修行法に誘いたいと言われ、エミルに平均レベルを問うとその数値は169、1番高いシリウスの子孫ネイルのレベルが190とかなりの戦力値であり、この修行法に誘うに十分な平均レベルである為ロックは頷きエミル達に指示を出し始める。

 

「よし、では誓いの翼(オースウイングズ)の諸君は正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)と共にアレスターが見出した修行法を完遂せよ! 

 我々は近衛兵数名と共に4国会議でセレスティア王国に向かう為それを見届けられないが、その成果を期待して待っておるぞ! 

 サラ、ルル、私やリリアナの娘である意地を見せるのだぞ!」

 

『はっ‼︎』

 

 ロックはエミル達にネイル等と合流してアレスターの修行法を行い成果を出す事を命じ、それを4国会議で見届けられないが期待しているとして玉座からを立ち身振り手振りをしてエミル達に直ぐに行動に移る様にジェスチャーを送る。

 それ等を見てエミル達は馬屋に預けていた馬車を引き取り、全速力で森を駆け抜け始めた。

 

「それでエミル、ネイルさんやキャシー達はまだフィールウッドに居るの⁉︎」

 

「居る、千里眼(ディスタントアイ)透視(クリアアイ)で宿屋にいる事を確認したわ。

 でも入れ違いになりそうになったら直ぐ様転移してでもその足を止めるわ!」

 

 その全速力で森を駆ける馬車の手綱を握るエミルにロマンは横の席から揺られながらもキャシーやネイルがフィールウッドに居るかと問うと、如何やらエミルは千里眼(ディスタントアイ)透視(クリアアイ)を使い、リリアーデの宿屋に居る事を確認し再び最短ルートの最北の世界樹の森を真っ直ぐ突っ切り始める。

 しかしそれでも間に合わないならエミルは転移魔法(ディメンションマジック)を使い足を止めさせると宣告する。

 ネイル達からすれば突然の再会になる為迷惑だと思うが、エミルは世界の為にもある程度は度外視する気でいた。

 

「──ー最北の世界樹の森を抜けたわ、リリアーデまでこの速度なら10分も掛からないわエミル!」

 

「まだ宿屋に居るわ、このまま突っ走らせるわ! 

 頑張りなさいよ馬ちゃん‼︎」

 

 そうして激しく揺れる荷台から森を覗いていたサラは最北の世界樹の森を抜け、リリアーデに続く街道のある森に入った事を告げる。

 その間に街道に入る中、エミルはネイルやキャシー達がまだ居る事を確認しながら馬に頑張る様に叫び馬も気合を入れて地を駆ける。

 そうして予定より2分も早くリリアーデに到着し、エミル達は馬屋に馬車と馬を返却し、馬を撫でて誉めていると宿屋から丁度キャシーが出て来た。

 

「あ、やっぱりエミル様達でしたか! 

 最北の世界樹の森を真っ直ぐ馬車が駆け抜けるのを千里眼(ディスタントアイ)透視(クリアアイ)の併用で見えましたから何か御用なのかお待ちしてました!」

 

「あ、キャシーちゃん丁度良かったわ! 

 正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)に話があるから宿屋の部屋を少し借りさせて貰うわね!」

 

 キャシーも如何やらエミル達の接近を目撃して待っていたらしく、エミルは丁度良いと言わんばかりに正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)全員を宿屋の大部屋を借りて盗聴防止結界(カーム)を発動させながら話を始める。

 

「それでエミル王女殿下、我々に一体何用があって訪ねて来たのでしょうか? 

 このメンバーで盗聴を恐れてる事から魔族やそれに絡んだ話だと思われますが」

 

「エミルで良いし敬語は公の場じゃないから余り不要よネイルさん。

 それでだけどその勘は大当たり、でも言葉で説明すると長くなるからこの日記を貴方達5人で読んで欲しいの。

 私達が何を言いたいか理解して欲しいから」

 

 早速ネイルはこの魔族と戦う事を共通とした目的を持つメンバーの為、それに関連した事を話し合うのだと予想する。

 それを聞きエミルは敬語は不要としながら予想が当たってると話し、更に自分達の口から説明するよりも早く理解して貰うべくアレスターの日記をネイルに手渡した。

 

「日記…著者は…フィールウッド国第1王子にして魔法の天才であり、恩師のアレスター殿⁉︎

 すぐに読もう、皆‼︎」

 

「あのアレスター様の日記…一体どんな内容が…」

 

 するとネイルは裏にある名前の欄を確認し、アレスターの名を見た途端昔世話になった記憶を思い起こしながら日記を読み始めるネイル達。

 キャシーも魔法の天才がどんな物を書き遺したのか気になり5人で読み始めた。

 

「…自身の死期が訪れる事さえ予期してこの内容を…貴方は真に天才だ、アレスター殿…。

 さて、読ませて貰ったがこれには命に関わるかも知れない危険な、自らの枷を壊す為にそれを知らせる修行法が書かれていたが、我々にもこれを?」

 

「はい、ロック様やリリアナ様がレベル250のまま止まっているのはこの枷が限界レベル値を決めてしまった為です。

 皆さんには…危険は承知でその枷を壊してレベル250の壁を超えて欲しいんです。

 無論パーティの命の危険を考えて強制はしませんが」

 

 ネイル達は日記を読み終わりエミルに返却すると、彼等も命に関わるかも知れない修行法に汗を流しながら尋ねると、エミルは強制はしないと話しながら枷を壊してレベル250を超える様に話す、強制はしないと最後に付け加えながら。

 

「うむ…皆、魔族と戦う為には恐らくこの修行法は欠かせないと私は思った。

 しかし、皆の命を考えると簡単に首を縦には振る事が出来ない。

 皆の考えを聞かせて欲しい」

 

 ネイルはこの修行法が命に関わるかもしれないと感じ取るとキャシーを始めとする他の4人の仲間達にこの修行法を試すか否かを考えを聞かせる様に頼み込んでいた。

 すると始めにガムにシャラの兄妹が口を開き始めた。

 

「それなら俺達兄妹の意見は決まってますぜネイルさん! 

 俺達は幼い頃身寄りが無くて窃盗してた所をネイルさんに見つけて貰えて」

 

「其処で同じ歳位なのに真摯に向き合って盗んだ物のお金を払ってくれたり、私達に道徳や人の意志を踏み躙る本当の悪って物を月下の華の本を読み聞かせて教えてくれました! 

 だから私達兄妹はネイルさんにとっくに命を預けてますよ!」

 

 ガムとシャラは昔は身寄りが無く物を盗みながら生きて来たが、ネイルが身寄りの無い2人に向き合い道徳や悪について学ばせたと彼等の口からそんなエピソードが出る。

 そして2人はネイルに命を預けていると話し、この修行法をする覚悟が決まっていた様だった。

 

「お、俺も、ネイルの兄貴が記憶喪失の俺の面倒を見てくれて、正義の事や人を助ける事の尊さを教えてくれたんだ〜! 

 だ、だから、俺もこの修行法で強くなってネイルの兄貴に恩返しをしたいんだ〜!」

 

 次にムリアも記憶喪失である自身の面倒を見てくれた恩に正義、人助けの尊さを1から教えたエピソードを語る。

 そして彼もまたネイルに恩返しをしたいと告げ、アレスターの修行法をやる覚悟を決めていた。

 そして最後にキャシーの番が回り、彼女も語り始める。

 

「私も、ロマン君やエミル様に救って頂いた後ネイルさんやガムさんにシャラさんにムリアさん、皆さんにパーティに加わらないかと誘ってくれただけじゃなくシャラさんは私には魔法使いの才能が自分よりあると言って皆さんでそれを花開かせる様に修行をさせて頂きました! 

 そして、その恩人の皆さんが魔族に襲われ、ロマン君達は重傷を負う程に追い詰められてしまいました…」

 

 キャシーは自身を救い、導いた恩人達の全員に対し感謝の念を抱き、その全員がそれぞれ魔族に襲われエミルやロマン達は重傷を負わされたと話し、一度瞳を閉じ辛そうな表情を浮かべる。

 しかしその直後に何処にでも居る普通の娘の風貌からは想像出来ない程の強い意志を秘めた瞳を開き、ネイルを見ながら答えを出す。

 

「だから、私は皆さんへの恩返しをしたいのと皆さんを守りたい、その意志を以てこの修行法をやりたいです‼︎

 その先が茨の道でも、私は進ませて頂きます‼︎」

 

「…皆の意思は伝わった。

 なら、我々がやる恒例のパーティの行動指針決定の際の儀式をしよう!」

 

 キャシーもまた恩返しや恩人達を守りたいと言う意志をネイルもそれを聞き終え全員が同じ想いだと知る。

 そしてそれに伴い部屋で円陣を組み始めたネイル達は武器を頭上に掲げ合わせ始め、エミルはこれはシリウスもしていた正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)の意思表示の儀であると知ってる為、邪魔にならない様にロマン達共々端に寄る。

 

『我等正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)、その意思決定により大魔法使いアレスター殿の遺せし修行法を執り行わんとすべし! 

 全てはか弱き人々の自由と生命を守らんとする正義の意志である事を我等は此処に誓う‼︎』

 

 ネイル達が行った意思表示であり誓いの儀は代々正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)が行って来た自分達の正義の意志と結束を固くし、そして互いに言い聞かせ正義に反する行いを禁じる正に儀式その物であり、シリウスの一族が正義を重んじた事の証明であった。

 その儀式を初めて見たサラやルル達は目を輝かせ、エミルに話し掛け始めた。

 

「か、格好良い〜! 

 ねえねえエミル、私達誓いの翼(オースウイングズ)もあんな風な誓いの言葉を考えてみないかな⁉︎」

 

「わ、私も…凄く、してみたい…です………‼︎」

 

「え、えぇ⁉︎

 そんなの急に言われても考えて無いから困るよ〜! 

 えと、アルにロマン君は何か案は無いかな⁉︎」

 

 エミルはサラとルルが誓いの言葉をやってみたいと言い出し、そんな事を急に言われたエミルは誓いの剣(オースブレード)もそんな事をしていなかった為困り果ててアルやロマンに助けを求める。

 

「あぁん? 

 俺様があんな小っ恥ずかしい事を考えてる訳無いだろ! 

 リーダーはお前なんだから何か考えとけやエミル‼︎」

 

「え、えっと…僕も、特に案が浮かばない…かな?」

 

 しかし助けを求めて掛けた橋はアル達本人により外されてしまい、特にアルにはエミルが何かを考える様に言われてしまい困り果てて何かないかと普段こう言った事では使わない頭を回転させ始めた。

 

「はっはっはっは、まあこれは私の父や先祖様達が代々行って来た誓いの儀だから即興で決まった訳じゃないんだ。

 しかしエミル殿も誓いの言葉を立てたいのならアドバイスとして心に浮かんだ言葉や仕草を形にして執り行う様にと言っておくよ」

 

 それを見ていたネイルもエミルが無理難題を掛けられたと思い、自分達の物は代々伝わる物で、更にアドバイスとして心に浮かんだ言葉や仕草を形にする様にと言葉を送る。

 それを聞きエミルは心の中で思い浮かべた言葉と行動を形にして行き、そしてそれに取り決める。

 

「じゃあ皆縁を組んで手を繋ぎ合わせて。

 そして目を閉じながら『我等誓いの翼(オースウイングズ)は世界を救う為、アレスター先生の修行法で己の壁を超える事を誓います』って言うわよ、良いかな?」

 

「わぁ、それっぽくて良いね‼︎

 じゃあやろやろ‼︎」

 

 エミルはサラやロマン達にネイル達の様な円陣を組みながら瞳を閉じ、初めての為予め決めていた言葉を言い合い誓いを立てる事を全員に伝えるとサラやルルはノリノリで円を組み、アルは渋々と言った様子で、ロマンはオドオドしながら縁を組み手を繋ぎあった。

 

「じゃあ行くよ、せーの!」

 

『我等誓いの翼(オースウイングズ)は世界を救う為、アレスター先生の修行法で己の壁を超える事を誓います』

 

 そうして誓いの翼(オースウイングズ)はエミル発案の誓いの言葉を立て、全員が世界を救う=魔族達に打ち勝つ事を思いながらアレスターの遺した修行法に望みを託す形の誓いとなった。

 

「(うん、後は先生が遺した修行法をやるだけね…)」

 

 エミルはその間に思考し、更に何故この修行法が限界レベルを超えられる確証があるのか? 

 それは自身もアレスターの様に魔法元素(マナ)や魔力の流れを視る事が出来る体質の為、そのアレスターが危険としながら可能性があるとした物にチップを掛けれるのだ。

 

「さて、じゃあ皆で転移魔法(ディメンションマジック)を使って最北の世界樹に行こう! 

 其処でアレスター先生の修行法をやって、4国会議が始まるまでの5日間で成果を出すわよ‼︎」

 

『おお‼︎』

 

正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)も同行しよう! 

 さあ行こう、皆‼︎」

 

 そして2つのパーティの計10名は宿屋の部屋を借りた代金を払い、その足で転移魔法(ディメンションマジック)を使い最北の世界樹へと転移し、エミル達は絶縁地帯に近い小高い丘の上に立ち海やリリアーデの街を一望しながらこれから始まる修行に想いを馳せるのだった。

 

 

 

「ふっ、遂にアレスターが遺した物を見つけた様だなエミル達は。

 さて、後は『スタートライン』に立てるか否かだが…恐らくは問題ないだろうな」

 

「うむ、特に魔法使いエミル達誓いの翼(オースウイングズ)、そしてあのシリウスの子孫であるネイルに関しては問題は無いと思われる」

 

 そんなエミル達を監視する様にシエル、ダイズ、アザフィール達がとある場所で千里眼(ディスタントアイ)を使いその光景を見ており、シエルとダイズ、更にティターン兄妹はポーカーで賭けをしながら、アザフィールがディーラーを務めながら会話を進めていた。

 

「で、残る4人の内期待出来そうなのはあのキャシーと言う田舎村風の娘がエミルと同等かやや劣る程度に魔法元素(マナ)や魔力の流れを読み取る力を備えているっぽいな。

 枷を壊した暁にはネイルやエミル達共々戦ってみたい物だ…レイズ」

 

「ガムとシャラは…結果を見なければ分からないがあのシリウスの子孫が選んだ者だ、凡人である訳が無い筈だろうさ…ふっ、レイズだ」

 

 ダイズはエミル達やネイル以外にキャシーを才覚があると目に掛けており、彼の狂戦士(バトルマニア)の性が花開いた彼等との戦いを望んでいた。

 一方シエルはガムとシャラ兄妹も凡人には収まらないとネイルの目利きを信じる形になりながら自身の『計画(プラン)』に必要な要素(ファクター)になる様に頭数に加えていた。

 

「それにしても最後の1人…ムリア、とか名乗ってたね? 

 彼は今後如何する気なんだろう…レイズ」

 

「知るかそんな事、気になるんだったらアギラにでも聞いてみやがれっての。

 まああんな小物に聞いても答えは1つしか出ないから無意味だけどな…んじゃオールイン! 

 これで掛け金は出揃ったな。

 じゃあ今日こそ勝たせてもらうぜシエル様にダイズさんよ!」

 

 次にティターニアが何故かムリアを気に掛ける発言をし、その行く末が如何なるか心配する様子を見せる。

 対するティターンはアギラに何故か聞く様に促し、しかしアギラの性分上答えは1つしか返ってこないとして無意味な問いと片付ける。

 そしてティターンが最後のオールインを行い勝つ自信があるのかニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「…悪いなティターン達、俺はロイヤルストレートフラッシュだ」

 

『なっ⁉︎』

 

 そして最初にレイズを行ったダイズからカードがオープンされ、ハートのロイヤルストレートフラッシュと最強の役を揃えてしまった為かダイズは平謝りし、負けを確認したティターン兄妹も役を公開した。

 因みにティターンは2と9のフルハウス、ティターニアは8のフォーカードであった。

 

「さてシエル、お前の役は何だ? 

 2人が公開しているが未だお前は非公開になっている、つまりこの役に勝つものが出来上がったのだろう? 

 早く見せてくれないか?」

 

「…ああ、5のファイブカードだ。

 この状況でお前のロイヤルストレートフラッシュを破るにはスペードのロイヤルストレートフラッシュかジョーカーを手にしてファイブカードを作る必要があった。

 そしてそれはサマ抜きで完成した、運が良かったよ」

 

 しかしこの1人勝ちの空気の中、狂戦士(バトルマニア)のダイズはシエルが自分の役を上回る役を作り上げたと確信し公開を迫った所、ロイヤルストレートフラッシュを上回るファイブカードをシエルは作り上げており運で掛け金全てを引き寄せる結果となった。

 これにはオールインしたティターンは項垂れてしまっていた。

 

「ではシエル様が勝利となり、全てのG(ゴールド)を没収とします。

 ティターン、運が無かったな」

 

 そしてディーラーのアザフィールは淡々と掛け金をシエルの下に引き寄せ、ティターンに運が無かったと武士の情けとしての止めの言葉をかけ、ティターンも普通フルハウスなら勝てるだろうと思いながら席を立ち部屋の隅で素寒貧にされた事を泣いていた。

 

【ブォン!】

 

「やあやあやあ、賭け事をしてるみたいだねぇ君達? 

 私も混ぜてくれないかい?」

 

「アギラ…貴様使命の準備は終わったのか?」

 

「その点は心配無く、順調に進んでいるさ。

 さあ、我等魔王幹部三人衆の会議をしながらポーカーをしようじゃないか」

 

 其処に突如アギラが現れ空気が一変し、全員が彼を睨む中アギラは準備は全て順調であると宣言し悠々とティターンが座っていた席に座り、ティターニアも席を立った事で再び幹部会議をしようと言いつつポーカーを始めるのだった。

 

「ストレートフラッシュ」

 

『ロイヤルストレートフラッシュ』

 

「………チッ」

 

 なお結果はアギラがイカサマを使うが、他2人に素寒貧にされた上にエミル達がアレスターの遺した修行法を行い始めた事を共有されないまま会議を終え、不機嫌を隠さぬままアギラは帰って行くのだった。

 なおシエル達がアギラにエミル達の行動を伝えない理由は自分で彼女達の行動を確認しない不手際による物であった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
この世界の娯楽についてですがセレスティア等はトランプやチェスが、フィールウッドが的当てを、ヒノモトが将棋に花札等をグランヴァニアを除く他国に提供してます。
そして遂に第3の世界にして神と天使が住まう天界の話も出始めました。
更に地上界と魔界の戦いにも聖戦の儀と言う名前がある事も判明しました。
修行編に突入しつつ新たな情報を出して行きますのでお楽しみ下さいませ。

次回もよろしくお願い致します。
そして今更ですが感想や指摘、評価をして下さると不肖この”蒼龍”は気分が高揚して書く気がモリモリ湧きますので感想や指摘をお願い致します。


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第21話『誓いの翼達、修行する』

皆様おはようございます、第21話更新でございます。
遂に始まった修行編、最初の内は如何なるかお楽しみに下さいませ。
では、本編へどうぞ。


 エミル達とネイル達はフィールウッド、ひいては全世界樹群生地の中でも最も危険地帯の最北の世界樹に転移で辿り着く。

 が、ネイル達は噂で魔物の巣窟となった筈なのに魔物を見掛けない為疑問符を浮かべていた。

 

「ふむ、最北の世界樹は危険地帯と聞いていたが実際はそうでも無いのか?」

 

「そりゃ此処に居る魔法使いの王女殿下様が4年間も此処で修行して魔物共をボコボコにしてたんだ。

 生態系の頂点に君臨してコイツの近場には此処の魔物は寄り付かないって話だぜ」

 

「生態系の頂点って…いや間違ってないと思うけど…」

 

 ネイルやキャシー達が警戒や疑問を浮かべているとアルがエミルがこの土地で4年も修行した結果、生態系の頂点に君臨してしまい魔物の方から逃げると伝え、エミルは抗議しようとしたが間違っていないのが皮肉な為抗議を取り下げていた。

 

「そうなんすか。

 じゃあエミル様はこの世界樹の周辺の絶縁地帯って把握してんすか?」

 

「驚く事無かれ、この後方4メートルの周辺からが絶縁地帯よ! 

 この絶景を見ながら朝日を迎えて夕陽を拝む、此処でテントや寝袋を用意しながら起床と就寝を繰り返すのが精神的な癒しになるのよ!」

 

 エミルが生態系の頂点と判明し、警戒する理由が無くなったガムは早速絶縁地帯の場所を聞くと、自分達の後方4メートル付近のこの丘周辺が絶縁地帯だと知り、エミルからは就寝や起床を絶景と呼べるこの場から行うのが精神を癒すと聞き、シャラやキャシーも魔法使いや絶技使用には精神を安定させないと正しい効力を発揮出来ない為その理論は正しいと思っていた。

 

「じゃあ早速アレスターさんの修行法を始めるんだね、エミル?」

 

「ええ、勿論よ。

 さて4メートル程下がって…うん、魔法元素(マナ)の感覚が途切れた。

 皆それぞれ精神を集中出来る様にしながら此処で微弱な魔法元素(マナ)の流れを感知するわよ!」

 

 それからロマンも直ぐに修行を始めると聞くと、エミルは当然YESと答え各々は姿勢を崩し、エミルは身体が痛くならない様に身体強化(ボディバフ)を全員に掛けてから杖を太腿の上に置きながら岩場の上に正座し始める。

 

「よし、じゃあ僕も…」

 

「へっ、俺様が1番集中出来るのはこれよ!」

 

 次にロマン、アルがエミルから少し離れた場所でロマンが膝を突き、剣の刀身を額に当て始め、アルは魔法袋(マナポーチ)を開けて其処から金槌を取り出し、瞳を閉じて適当な大きさの岩を目の前に置き、鍛治をする姿勢でジッとしていた。

 

「では私達も混ぜて貰おうかな?」

 

「ネイルさん達、此処空いてまっぜ!」

 

「じゃあ失礼するんだなぁ〜」

 

 次にネイル達がエミル達の方に集まり、ネイルも槍と盾を置きロマンと同じ様に剣の刀身を額に当て瞑想をし、ガムは腰を下ろし槍を立てながら瞳を閉じ、ムリアは良くある瞑想のポーズを斧を背負いながらやっていた。

 

「じゃあ男は男で集まって瞑想を始めたみたいだから私達もエミルの近くで集まって魔法元素(マナ)の流れを感知しよっ、ルル!」

 

「…じゃあ私もフードを取った方が集中出来るから取ろうっと」

 

 そうして男性陣が自然な流れで集まった中、サラが女性陣も集まる様に提案し膝を突きながら弓に手を掛けて瞑想を始める。

 其処にルルがフードを取り、戦闘モードに入りながら立ち続けて額に指を当てての瞑想に入り誓いの翼(オースウイングズ)達は全員違った瞑想ポーズになり、普通の瞑想の仕方をしてるのはエミルとロマンしか居なかった。

 

「わっ、あのダークエルフの子…えーとルルって言ったかしらね今? 

 フードを取ったらオドオドしてたのが豹変したわね…誓いの翼(オースウイングズ)も一癖二癖ある子が揃ってるわね。

 ウチでまともなのはネイルさんとキャシーちゃん位よ」

 

「あの、ご自身で自分をまとも側じゃないって言うんですね、シャラさん…」

 

 一方ルルの豹変やエミルとロマン以外のメンバーの瞑想の仕方で癖が強いと言った上で正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)も自身を含めネイルとキャシー以外は一癖二癖あると言い放つシャラに対し、キャシーはシャラの自身を含めて癖が強いと言ったシャラにツッコミを入れながらエミルと同じポーズで瞑想に入り、全員で魔法元素(マナ)の流れを絶縁地帯で感知すると言う極めて難しい物を始める。

 

「………なんか、何も感じないね」

 

「サラ、30分しか経ってないのに集中を乱さない。

 エミル達は汗を掻きながら魔法元素(マナ)の流れを感知しようと頑張ってるんだから貴女ももっと集中なさい、獲物を射抜く様な形で鋭く静かに」

 

 しかし30分経過しても何も感じない事に集中を欠き始めて話し始めると、ルルがエミル達の集中力を見習う様に促しながらサラには戦闘における弓で獲物を静かに狙い、矢で鋭く射る感覚で集中する様にアドバイスするとサラは腕をポンと叩き、早速先程の瞑想ポーズに加えて魔法元素(マナ)と言う獲物を捉えようと集中を始めた。

 

「………あ、魔法元素(マナ)の流れを感知出来た! 

 後は体内魔力と同期させて魔力その物の流れと自分の中の枷をイメージして………見つけた‼︎

 後はこれに触れれば…‼︎」

 

 それから更に30分後、計1時間の瞑想でエミルは要領を掴み魔法元素(マナ)の流れを感知に成功し、更にはアレスターの日記にあった魔力の同期、その流れや内に秘められた枷のイメージを始めると早速自身の体内魔力等を覆う強固な枷を見つけ出す。

 そしてアレスターの様に触れれば後は野となれ山となれと行く…筈だった。

 

【バチィィィィィ‼︎】

 

「きゃあっ⁉︎」

 

「っ、エミル大丈夫⁉︎」

 

 しかしエミルはそれに触れた瞬間身体中から魔力による電流が走り、拒絶反応により倒れ込んでしまう。

 それを見聞きしたロマンが慌てて直ぐに駆け寄り抱き抱える。

 

「エミル、大丈夫⁉︎」

 

「え、ええ、ダメージ自体は無いわ…。

 でも物凄い拒絶反応だったわ、アレスター先生はどうやってこれに触れられたのか…」

 

【バチィィィィィ‼︎】

 

「うおわぁっ⁉︎」

 

 ロマンはエミルの安否確認をし、周りの女性陣も心配そうに見ていたが彼女自身にダメージは無い為安堵していた。

 しかし同時にエミルはアレスターが最終的にどうやって枷に触れ切ったのか拒絶反応と照らし合わせながら考察を始める。

 するとその直後に次はアルが倒れ込んでいた。

 

「クソが、鍛治をやる要領で集中して見つけたから金槌でぶっ叩くイメージしたらこれだ‼︎

 叩く強さが弱かったのか、それともぶっ叩く事自体がダメなのか分からなかったぜ‼︎」

 

 アルも鍛治職人としての集中力を活かしそれらをイメージ出来たは良い物も、金槌で叩くイメージも行った瞬間拒絶されたらしく倒れ込みながら何が駄目だったのか見当が付いていなかった。

 

「きゃっ⁉︎」

 

「ぐぅっ‼︎」

 

「ひゃう⁉︎」

 

 更にキャシー、ネイル、サラと次々と拒絶されてしまい、エミルの中でレベル120以上だとアレスターの様に枷に触れられるが強くなり過ぎれば枷も強固になると思い始めていた。

 が、レベル160のキャシーとレベル215の自身が等しく拒絶された為、レベル差は余り関係無くやり方に問題があるのではとも考察をしていた。

 

「ぐっ⁉︎

 私も拒絶された! 

 少なくとも魔法や体内魔力の大きさ、強度と言ったそっち方面の才能の有無は関係なさそうだ…!」

 

「うぎゃっ‼︎」

 

「くぅぅ‼︎

 そ、その様ね…ただ差があるとすれば魔法元素(マナ)の流れを読む才能や集中力の差程度って感じかしらね…!」

 

 更にルル、ガム、シャラも拒絶反応により倒れ込み、ルルやシャラも考察をしエミルがそれらを自身の日記にメモして行き、結局残ったロマンやムリアも拒絶されてしまい勇者の血も関係無い事等が分かった程度であり、どうやってこの拒絶反応を突破するかが課題になり始めるのだった。

 

 

 

「わお、現代っ子凄い! 

 絶縁地帯で魔法元素(マナ)の流れを読んで枷に触れるイメージを掴むまで1日も掛からずに要領を掴みましたっすよアイリスお姉様!」

 

「ええ、ライラの転生体のエミルは兎も角として如何やら500年間で地上界の者達は才覚溢れる者が増えたようね。

 けどその後が頂けないわ、『壊す事に集中し過ぎてる』」

 

 その頃天界ではエミル達の様子をアイリスを始めとした天使達が覗き見ており限界レベルを決めている枷に触れ始めた事を名無しの天使が凄いと褒め、アイリスもその点は評価していたがその後が駄目だと言い放ちエミル達がこの修行法を如何に確立させられるのか気付くのを天使達は見ていた。

 

「アイリス姉様、これを見て下さい」

 

「如何したの、『リコリス』?」

 

 するとアイリスに話し掛けるピンク色のセミロングヘアとサイドテールが特徴の天使、アイリスと共に唯一の名あり天使リコリスがグランヴァニアの地を指さし、アイリスはそれを覗くと何故か険しい表情を浮かべていた。

 

「…矢張り魔族アギラによる虐殺は如何あっても避けられない様ね。

 もう一度神様に進言して来るわ、リコリス達は変わらず地上界の監視を続けてて!」

 

「はい、アイリス姉様」

 

 アイリスはアギラの策略をその眼で視てしまい、エミル達が限界値を超えても救えない命が大量に出る事を確信する。

 そしてもう一度神に進言しに行き自身達の介入の許可を得ようとリコリス達に監視を任せ神殿に飛ぶ。

 そしてリコリス達は言われた様に監視を続け、特にリコリスはアギラが行う『策』を何度も監視しながら舌打ちをし、彼の下劣さを毛嫌うのであった。

 

 

 

「うわぁ‼︎

 ダメだ、何度やっても拒絶反応で吹き飛ばされるよ!」

 

 それから数時間が経過しすっかり夕方になり、夕日が地平線に沈み始め代わりに東の空から2つの月が見え始めていた。

 その間にもロマンもエミルも含め全員が拒絶されてしまい思うように枷を壊せずにいた。

 

「勇者ロア様の血脈も、ましてや誓いの剣(オースブレード)の血筋も何も関係なければキャシーの様に魔法元素(マナ)の流れを読み解く力がエミル殿並にあるにも関わらず拒絶される…何かやり方を間違えているのか、我々は?」

 

 ネイルはそれぞれの偉大な英雄の血脈を継ぐ者やゴッフの弟子、キャシーの様な魔法元素(マナ)の流れを読む才能がエミル並にある者やこの中『では』凡人に近いガムやシャラも等しく拒絶された事から何かやり方が間違っているのかと思い始め考察を始めていた。

 

「やり方、やり方…アレスター先生の本には触れたら、としか書いていないから多分この後のやり方は自分で見つけなさいって無言のメッセージなんだと思うけど…。

 兎に角お腹が空き始めたからご飯にしましょう、考えるのも修行もお腹を満たしてからよ」

 

 それを聞きエミルもアレスターの日記を何度も読み返すが、枷をイメージした後は『触れたら』としか書かれて居らず、1から10まで全て考えさせずに教えるのは彼の流儀では無い為如何するかを考える事も課題だとエミルは感じていた。

 しかしそれと同時に空腹を感じて来た為、一旦食事休憩を取る事になり全員で野営と料理の準備を進める。

 

「さーて、食材はリリアーデで買って来るからちょっと待っててね〜」

 

「あ、エミル様私達も行きます!」

 

 その間にエミルがリリアーデに転移して食材の買い出しに出かけようとした瞬間、キャシーやシャラも転移で付いて来てメニューは鶏肉を使ったクリームスープとなり、パンも大の男5人が居る為大量に買い込み再び野営地に戻り料理を開始する。

 そしてそれから20分、鍋の中で良い匂いを醸し出しそれが全員の空腹を誘う。

 

「はい、皆の分を分けて………はい皆で頂きます!」

 

『頂きます‼︎』

 

 それ等を見てたエミルは早く胃袋に栄養を送りたい男性陣や少し空腹を我慢してるロマンやネイル、更に女性陣達の為にそれぞれの食べる分量分を分けてスープとパンを手渡し全員で頂きますの挨拶をして食べ始めた。

 なおエミルも公の場では無い為マナーをある程度崩し談笑しながら10人での食事を楽しんでいた。

 

「ほう、ルル殿はリリアナ様の1人娘にしてあの月下の華であらせられるのか! 

 私も幼い頃にガムやシャラに正義とは斯くあるべしと言う教材に使った程の正義の義賊として憧れておりました! 

 お会い出来て光栄です!」

 

『サイン下さい‼︎』

 

 ネイルはゴッフの弟子のアルや王女サラの様に余り顔を出さないルルに素性を尋ねるとリリアナの1人娘や憧れの月下の華だと聞き握手を求めており、ネイルから本を読みファンになっていたガムとシャラはサインを欲しがる等三者三様の反応を見せていた。

 

「あ、あの、私は…ただ、お母様の様に…か弱い人達を助けたかっただけで、其処まで…大それた事は…!」

 

「しかし、貴女の行って来た義賊としてか弱き人々の本来あるべき富を悪逆を成す者から奪い返し悪を法で裁き数多くの人々を救ってみせた。

 私達から見れば貴女は間違い無く正義の者です。

 なので誇って下さい、貴女の救って来た人々の幸せと笑顔の為に」

 

 しかしルルはただ単にリリアナの様にか弱い人達を救いたい一心から始めた義賊行為の為余り大それた事じゃないと言うが、ネイル達民衆目線から立てばルルは間違い無く正義の味方であった。

 その為ネイルはそれを救って来た数多くの人々の為に誇る様に言い、握手を再び求めた結果2人は握手を交わすのであった。

 

「んぐ、んぐ、んぐ、このスープとパン美味いんだな〜!」

 

「ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ぷはぁ‼︎

 よぅし酒も補充したし寝るまで修行を続けられるぜ‼︎

 サンキューな買い出し班‼︎」

 

「ありがとうございます、後お代わりはまだ有るから欲しかったら言って下さい!」

 

 その横ではムリアがスープやパンをガツ食いし、アルが酒を飲みまくり頭の集中力を高めながら買い出し班に感謝の言葉を示した。

 それに対してキャシーはお代わりはまだ沢山有る為食べたい人は名乗り出る様に行って来た。

 

「あっはは、こうやって大人数で集まって食卓を囲むのって本当に良いよねロマン君、エミル!」

 

『そうだね〜』

 

 そしてサラはエミルとロマンにこの大人数での食事も良いと話し、2人は頷きながら2つの月を見上げながら食事を楽しむのであった。

 それからお代わりも無くなり、食事を終えると食器類を洗い、魔法袋(マナポーチ)に仕舞い修行の再開をし始めた。

 

『うわっ‼︎』

 

『きゃっ‼︎』

 

 しかし、その日はアレスターの日記の枷がある部分を確かめられた以外何ら成果を得られないまま時間だけが過ぎて行き、終いには就寝時間となりエミルが居る為魔物に襲われる心配が無い為全員で寝袋に入り就寝するのであった。

 

 

 

「神様、本当にこのまま魔族達を野放しにして良いのですか⁉︎

 このままでは取り返しの付かない事が本当に‼︎」

 

「アイリス、理解なさい。

 我々は天界は聖戦に介入してはならない」

 

 その頃天界では再びアイリスが神に直談判し、地上界の介入を試みたが神がそれを再び嗜めてしまう。

 そうして会話は堂々巡りの平行線と化し、アイリスは無言のまま神殿を去りリコリス達の下に表情を険しくして戻る。

 

「アイリス姉様、神様は何と仰いましたか?」

 

「駄目よ、何も変わらない。

 天界は聖戦に介入してはならないの一点張りよ。

 このままでは取り返しの付かない事態を招くのに…‼︎」

 

 リコリスは険しい表情のアイリスを心配しつつ神への直談判の結果を問うとアイリスは平行線のままと告げる。

 それを聞き周りの天使達も落胆し、地上界を覗く泉からアギラが嬉々として計画を押し進めている事を見た瞬間アイリスは手を強く握り締めその蛮行をただただ見ている事しか出来なかった。

 

 

 

 一方地上界の夜、不意にエミルは目を覚ますと周りを見ているとムリアが寝袋に居らず何処かに消えていた。

 

「…ムリア?」

 

 エミルはムリアが居ない事を気にし始め、更に何と無く念話傍受魔法(インターセプション)を使い、魔族達の念話を傍受しようと魔力を集中していた。

 

[いい加減にして下さいよ〜‼︎]

 

「えっ、ムリア…⁉︎」

 

「…エミル様もお気付きになったのですね、行きましょう」

 

 すると魔族同士の念話からムリアの声が響いた為エミルは驚いているとキャシーやシャラが起きており、シャラは残り他のメンバーが行かないかを見張り残る2人は念話が送受信されている森の中に入って行く。

 すると其処には確かにムリアが居り、しかし褐色の肌に魔血晶(デモンズクリスタル)が額にあり、明らかに魔族の出立ちでその場に立っていた。

 

[お、俺はネイルの兄貴に拾われてから正義や道徳を知って、同時にアンタの卑劣さを知れたんだ‼︎

 だから、ネイルの兄貴を暗殺するなんて命令は聞けないんだな〜‼︎]

 

[はぁ、君には失望しかないですなぁ。

 私が2年前から出してる命令を未だ遂行せず、呑気に地上界の愚者達と旅を続けるなど]

 

 如何やらムリアは本来は名無しの魔族でありアギラの命令によりネイル暗殺を狙っていたらしいが、彼の誠実さや正義感がムリアの心を変えてしまったらしくアギラの命に反していたのだ。

 それをアギラはネイルを含め正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)が愚か者…そう口にした瞬間ムリアの目が見開かれた。

 

「黙れ、愚かで卑怯なのはアンタなんだな、アギラ‼︎」

 

 ムリアは力関係上は上司である事が間違い無いアギラに対し卑怯で愚かなのはネイル達では無くアギラだと念話も忘れて口で叫び抜いてしまっていた。

 それ程アギラが発言した事は彼の逆鱗に触れてしまったのだろう、そうエミルは感じ取っていた。

 

[…ふむ、では仕方ないなぁ。

 君の愚かさを身に染みさせる為に魔界に居る親兄弟を抹殺してやりましょうか!]

 

[な、と、父ちゃん達は関係ないぞ‼︎

 やるなら俺だけやれ、卑怯者‼︎]

 

[いや、やるなら俺だけなどと言っている馬鹿には身内から崩した方が良いと相場が決まってるからね。

 ではネイル暗殺の最後のチャンスは任せましたよ! 

 ふふふ、ふひはははははははは‼︎]

 

 するとアギラはムリアの魔界に居る家族を人質に取ると言う卑劣な手段を講じ、ネイル暗殺のラストチャンスを与えると言った上で高笑いしながら向こう側から念話を切り、ムリアは悔し泣きをしながら地面に斧を叩き付けて無力さを嘆いていた。

 

「畜生、畜生、ネイルの兄貴に与えられた恩を仇で返すなんて…でもそうしなきゃ父ちゃんや弟達が…」

 

「…成る程、この500年で魔族側も事情が大きく変わったみたいですね」

 

「っ、キャシーちゃんにエミル様…いや………ライラ様…‼︎」

 

 ムリアは人間の姿に戻るとネイル暗殺をするか、家族の命を取るかの究極の選択を取られてしまい如何するか涙を流しながら考えていると、木の陰からエミルとキャシーが現れ、エミルは魔族も500年の徳の間に魔王の意思統率以外に色々とあった事を察する。

 するとムリアはキャシーの前でエミルをライラ様と呼び、その目は藁にも縋る想いで満ちていた。

 

「え、エミル様がライラ様って」

 

「あーキャシーちゃん、この事は内緒にね。

 それで、貴方は元々アギラの部下らしかったけどネイルのお陰で変われたみたいね」

 

「そ、そうなんだ、だから兄貴は俺にとっては家族も同然なんだ〜‼︎

 だからライラ様、何とかして下さい、お願いします〜‼︎」

 

 キャシーはエミルのことで混乱し始めたが、エミルは口に人差し指を当てて内緒のポーズを取るとムリアの大体の事情を口にすると彼は泣きながら土下座を始め、魔界に居る家族を救う案を出す様に懇願し始めた。

 しかしエミルも万能では無い為如何すれば良いかと考え始め頭を掻き始め…ふと包帯に目が止まり、ムリアに聞きたい事を口にし始めた。

 

「ねぇムリア、今魔界は魔王がトップなのは分かるけどアギラや…あのシエルとか言う魔族が幹部っぽいのは分かるのよ。

 だから聞きたいのだけど、魔界の派閥は今如何なっていて、何処が信用し易いか分かる?」

 

「えっ? 

 えっと、今魔界は卑怯者のアギラ派と、狂戦士(バトルマニア)のダイズ派、そして魔界1の剣士にして神剣の対の『魔剣ベルグランド』を持つ実力主義のシエル派に分かれてるんだ…その中で信用し易いなら………魔界の争いを今の魔王の命の下1人で収めた英雄アザフィールの弟子のダイズ様とシエル様がイイブンなんだ〜…」

 

 エミルは魔界の勢力図を聞くと、如何やらアギラ派にシエル派、更に未だ見ぬ狂戦士(バトルマニア)のダイズ派に分かれ、更にあのアザフィールがシエルとダイズの師であり魔界の内紛を1人で収めた大英雄と知った上で、信用度はエミルもダイズも変わらないと話した。

 その中でエミルが考えた策は…最早これしか無いと思い口にし始める。

 

「ならムリア、鞍替えなさい。

 私は念話傍受魔法(インターセプション)で聞いた限りアギラとシエルは仲が良いとは言えそうにはなかった。

 だからシエルに頼み込んで家族を救う様に頼みなさい、報酬はアギラ派の力を失わせる…とかでね」

 

「うっ…や、やっぱりそれしか無いんだなぁ〜…。

 でも家族やネイルの兄貴達の為なら俺は幾らでも命を懸ける覚悟はできてるだ〜‼︎」

 

 エミルはムリアに対してアギラ派からシエル派に鞍替えし家族の安全を確保する事を提案し報酬はアギラ派の求心力を弱める事を提示する。

 ムリアもそれ自体は考えなかった訳は無いが彼自身の中でシエルもダイズも近寄り難い雰囲気があった為それが出来なかったが、ネイル達や家族の為に命懸けの交渉に移り始めた。

 

[…シエル様、私は正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)に送り込まれたアギラ派の魔族です。

 貴方様に、こ、交渉があって念話を]

 

[詳細は話さなくて良い。

 大方アギラに家族の命を天秤に掛けられ、しかしネイルの命を奪えない為八方塞がりになり私の派閥に家族の命を救って欲しいのだろう? 

 アギラのやりそうな一手だ。

 ええ良いわ、条件付きで引き受けてあげるわ]

 

 早速ムリアは念話を始め、エミルとキャシーが念話傍受魔法(インターセプション)を使い内容を傍受しているとシエルは条件付きではあるがあっさりと引き受け、これを聞いていたムリアとキャシーはキョトンとした表情を見せていた。

 しかしエミルは何か裏があるのかと思い注意しながら聞いていた。

 

[それで、私が出す条件は2つだ。

 1つはアギラの殺害ないし失脚だ。

 奴等は私やダイズの『盟約』の上で完全に邪魔な要素(ファクター)でしか無い、消えて貰いたかった所にこの交渉が来て私もタイミングが良かったよ。

 そして2つ目の条件、これが1番重要だ。

 ネイルにムリアと言う名を与えられた魔族よ、お前の心は何処にある?]

 

 シエルは2つの条件としてアギラの殺害ないし失脚を提示し、彼で彼女とダイズにとってはアギラ派の存在は邪魔でしか無いらしくこの時に交渉が来たのが良いタイミングだったらしく自身の手を汚さずともアギラ達が勝手に消えてくれるのが如何にもダイズとの『盟約』に都合が良いらしかった。

 そして重要な2つ目として………ムリアの心は何処にあると問い掛けて来た。

 

「(2つ目は完全に趣味に近い質問じゃない! 

 これの何処が重要なの⁉︎

 分からない、私にはこのシエルの思考が全く分からない‼︎)」

 

 それを傍受しているエミルはシエルの考えている事が全く分からずロジックエラーを起こし彼女にシエルと言う魔族の思考が全く理解が出来ずにいた。

 しかし、その質問をされたムリアは心が何処にあるかと問われるとハッキリと答えを突き付けた。

 

[…此処に、此処にあります。

 家族を想い、ネイルの兄貴にキャシーちゃんにガムにシャラ、こんな俺を仲間と呼んだ皆を想う心は、アギラの下にも魔王様…いや、魔王の下にも無い、此処にあるだ〜‼︎]

 

[…そうか、其処にあるのか。

 ならば良いだろうムリア、アザフィールに手配し家族の身の安全は保障しよう。

 だが必ずアギラの殺害か失脚を成せ、それが出来なければ私達の手でお前の家族の命は無いと知れ。

 …それから念話傍受を続けるライラの転生体エミルに言って置く]

 

 シエルはムリアの答えを聞き何か満足した声色になりアザフィールに手配し彼の家族の安全の保障を約束する。

 しかし代わりにアギラの殺害ないし失脚、つまりアギラを斃さねば家族の命は無いと代わりに人質の状態にし、しかしそれを成す時までは安全が保障されてる為御の字であった。

 そして念話を終わる直前にシエルはエミルに何かを言おうとして来た為身構えていた。

 

[私の言葉には其処まで深い意味は無い。

 下手なロジックエラーを起こすな、煩わしい。

 文面通りの言葉と受け取る事だ…では念話は終わる、アギラに聞かれたく無い]

 

 しかし来た言葉は自身の言葉に深い意味は無い、ロジックエラーを目の前で起こすのが煩わしい、文面通りに受け取れと言うシンプルな言葉であった。

 エミルはその言葉を加味すると限界レベルや楔の泉はただ知らせたかったから教えただけと言う身も蓋もない事実が浮上する。

 そしてアギラに念話を割り込まれたく無い為にシエル側から念話を終えるのだった。

 

「…魔族シエル、貴女の目的は何なのよ…」

 

 最後にエミルはやや冷たい風を浴びながらシエルの目的は何なのかと問うが、既に念話は終わり目の前にも居ない為彼女の最終目的が全く分からずに居た。

 ただ分かったのはアギラ派が邪魔である、そんな将来的に余り意味が無さそうな情報しか無かったのだった。

 

「あの、すみませんでした〜」

 

「ああいや、ムリアは悪く無いわ。

 寧ろ、貴方のお陰で更なる確信になる情報を手にしたから。

 そう、連中が地上界の者に化けて潜伏してるってね」

 

 そんな中ムリアはエミルに謝罪するとムリアのお陰で良い事も悪い事も分かり助かったとエミルは話した。

 その良い事は魔界側にもこの500年で変化が訪れている事。

 そして悪い事は、キャシーも警鐘を鳴らしロック達にも伝えた『魔族が地上界の者に化けている』と言う物であった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
ムリアは実は名無し魔族であり、元はネイルの命を狙ってましたが彼の実直で正義感溢れる性格により面倒を見て貰ってる内に情が湧き、アギラの命令を無視し始めました。
その為別の魔族がまた暗殺に来たけどムリア含めたネイル達に返り討ちに遭ったと言う設定があります。
シエル達がムリアの事を意味深に言っていた訳も魔族なのにネイルに肩入れした為です。
そしてアギラ、遂にその卑劣な性格を披露の巻。
これからもアギラの卑劣っぷりとそれに立ち向かうエミル達の話を書いて行きます。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第22話『誓いの翼達、枷を外す』

皆様おはようございます、第22話目更新でございます。
修行編2話にして5日で成果を出すの3日目が中心になります。
果たしてエミルやロマン達がタイトルにある様な物を如何やるかご覧下さいませ。
では、本編へどうぞ。


 ムリアとの念話は終えた直後、シエルはとある場所の部屋の中で溜め息を吐きながら近場で見ていたアザフィール達に目を配らせ、話し始める。

 

「…なぁアザフィール、ティターン、ティターニア、私は甘いか?」

 

「いえ、シエル様は『目的』の為に利用出来る物は利用する、ただそれだけです。

 決して同情等で動こうと思った訳では無いとこのアザフィールは思います」

 

『右に同じく』

 

 シエルは窓の外を見ながらムリアの家族を助ける交渉に乗った事を思いながらアザフィール達に自身は甘いかと問うと、アザフィールはアギラ失脚の為に利用出来るムリアやエミル達を利用したに過ぎないと話し、同情等で動いた訳では無いと励ますかの様に彼等はシエルの問いに答えていた。

 そうして目を閉じると見た目相応の少女の顔から戦士の顔になりアザフィール達を見た。

 

「そうか、ではアザフィールは魔界に居る我が同胞達に声を掛けムリアの家族を確保。

 ティターン達は此方の動きが悟られぬ様にアザフィールの支援をせよ」

 

『はっ‼︎』

 

 シエルは短く、しかし力強くアザフィール達に指示を飛ばし、アザフィール達も盟主シエルの名により動き出そうとした。

 

【バタン‼︎】

 

 するとその瞬間出入り口のドアが勢い良く開き、通路からダイズが部屋の中に押し入りシエルに駆け寄り始め、アザフィール達と入れ違いながら話が始まる。

 

「よしシエル起きてるな! 

 お前、アギラの策について情報は掴んだか⁉︎」

 

「いや、だがどうせあの男の事だから自身の『趣味』に走る下劣な策しか用意していないとは思っている。

 …その様子だと何か掴んだか?」

 

 ダイズはアギラの策についてシエルに問うと、彼女はアギラの事を下劣な策しか用意出来ない男と評価しており、今回の意気揚々と用意した策も彼の『趣味』に走った物だと予想していた。

 それからダイズの様子で何か掴んだかと問うと彼はシエルに耳打ちでそれを伝え始め、聞いていたシエルの表情は険しい物に変わって行く。

 

「確かなのかダイズ?」

 

「ああ、俺の内偵に出した部下がハッキリと見たらしい。

 如何する、このまま奴を野放しにしたら聖戦の儀の掟は破られ天界側が魔界を潰しに掛かるぞ? 

 そうなれば我々の『盟約』が破綻する可能性があるぞ?」

 

 ダイズに確かかと問うシエルに対し、ダイズは間違い無いと話しこのままアギラの策に対し手を打たねば聖戦の儀の掟が破られたとして天界が動き出す事を懸念し、それにより『盟約』の破綻すらあり得ると告げる。

 それらを聞きアザフィール達が去った後の部屋で思考を整えると、シエルはダイズに考え抜いた事を口にし始める。

 

「…寧ろそれが狙いでは無いか?」

 

「何?」

 

「『魔王』様が下劣なアギラを地上界侵略の将の1人に選んだ20年以上から思考し、我等が潜伏を開始始めた14年前からずっと拭えなかった疑問が此処に来て漸く氷解したよ」

 

 シエルは長年の疑問が氷解したと告げながら何故アギラが将の1人に選ばれたか、その理由がその『天界側が動き出す事』が狙いなのだと告げ、ダイズも考え始めるとハッとした表情を浮かべる。

 

「まさか、そう言う事か?」

 

「それしか無かろうな。

『魔王』様、いや、魔王の目的は唯1つ…アギラの手で聖戦の儀の掟を破らせ、天界側が、神が動き出すのを狙い、そして地上界と天界の両者を蹂躙し尽くす気なのだろう」

 

 ダイズが行き着いた解答をシエルが淡々と口にし、アギラが聖戦の儀の掟を破る事が寧ろ狙いで天界と神が動き出す事が狙いであり、それを魔王は地上界共々蹂躙する事が狙いだとハッキリと告げるのであった。

 その言葉を告げた瞬間、千里眼(ディスタントアイ)に映るグランヴァニアで雷が降り注ぎこれからの先行きが暗雲を見せ始めた事を予期していたのであった。

 

 

 

 一方最北の世界樹のエミル達の様子は如何なっているか、それは2日目も何ら成果を得られず3日目になり再び朝から修行法を試していた。

 

「ぐえぇ〜!」

 

「大丈夫かムリア? 

 気合が入っているのは良いが、空回りしては得られる成果も少ないぞ?」

 

「大丈夫っすネイルの兄貴〜! 

 心配ありがとうございますなんだな〜!」

 

 ムリアは2日目の夜になりシエル側から念話で『家族の安全を確保した、後は其方が約束を違えるな』と告げられた事で気合が入り修行法への集中が1日目等と比べても比較にならない物を見せていた。

 

「(あのエミル様、ムリアさんの事を黙ってくれてありがとうございます。

 私とシャラさんで相談して、ネイルさんに危害を及ぼす所かその助けになりたいと姿勢や発言から分かってましたので変な混乱を避ける様にして頂いた事を感謝いたします)」

 

「(気にしないで、貴女も私の前世がライラだって事を黙っててくれたからそのお礼よ)」

 

 その間にエミルとキャシーは小声で話し始め、エミルがムリアの事を黙ってくれた事をキャシーやシャラは感謝し、逆にエミルは前世がライラである事を黙ってくれたキャシーに感謝し、エミルはまた女子の間で秘密の共有をしているのであった。

 しかしその間にも…。

 

「きゃっ‼︎」

 

「くっ、駄目だ全然触る事すら出来ねぇぞ‼︎」

 

 サラとアルが吹き飛ばされ枷を壊す事が出来なく流石のアルも2日も成果無しには苛立ちを覚え始め、サラは「何が違うの〜⁉︎」と叫び堂々巡りが始まっていた。

 

「可笑しい、アレスター先生には出来たのに私達には出来ない。

 この2日間の間に才能の差は関係ない事は立証出来たのに一体何が違うの⁉︎」

 

 それらを見ていたエミルは日記を再び読み返し、ロジックエラーを起こしながら何が違うのかと纏まらない思考で考え始め流石の彼女も焦りが生まれていた。

 約束の5日目までタイムリミットが僅かになり始め如何すればと他の皆の様に答えが出ない思考の迷路に迷い始めていた。

 

「…あのエミル様、日記をお見せ出来ませんか?」

 

「えっ、キャシーちゃん? 

 …分かったわ、はい」

 

 するとキャシーは何か思い付いたのかエミルにアレスターの日記を見せて貰う様に懇願すると、エミルはあっさりと手渡しその様子を見ていた。

 するとキャシーは何度か読み返した後、「ありがとうございます」と言って日記をエミルに返却すると再び修行法を行い始めていた。

 

「キャシーちゃん、何か分かった事が」

 

【ドサッ!】

 

「っ、キャシーちゃん⁉︎」

 

 エミルはキャシーが何か掴んだのかと問い掛けようとした刹那、キャシーは意識を失い倒れてしまいエミルや周りに居た全員が駆け寄り声を掛け始めた。

 

「キャシー、如何したのキャシー⁉︎」

 

「キャシー、目を覚ますんだ‼︎」

 

「キャシーちゃん‼︎」

 

 ロマン、ネイル、エミルがキャシーを囲み、エミルが抱き抱えると彼女に3人で声を掛けながら揺すり目覚めさせようと必死になり名前を呼び続けていた。

 何故なら日記には『何処とも知れない場所に意識を飛ばされた』とあった為、もし戻れない様な事があれば大変な事態になってしまうからであった。

 

「…はっ⁉︎」

 

 するとキャシーは直ぐに目を覚まし起き上がると周りを見て一息吐き、如何やら彼女もいきなりこんな事態になった事に焦っていたらしく汗を掻いていた。

 

「キャシー、良かった無事だったんだな!」

 

「はい、ネイルさんに皆さん。

 それで何ですけど、私が今さっき如何なったか話したいので少し離れてもらって良いですか?」

 

「あ、うんごめんねキャシーちゃん」

 

 そうしてネイルを初めとした全員が心配する中、キャシーは自身に何があったかを話すべく少し全員に離れて貰う様に頼むとエミル達は距離を置き、腰を下ろして話を聞き始める。

 

「それでキャシー、先程の状態はアレスター殿の日記にあった状態になったと思われるが、一体如何やってそこに持って行けたんだ? 

 我々は枷を壊そうとして何度も失敗していたのに」

 

「そう、其処が間違いだったんですよ皆さん!」

 

 先ずネイルがキャシーにアレスターの日記にあった意識を持って行かれた状態に自分達は散々失敗してるのに何故いきなりなり、倒れたのかを問うと彼女は枷を壊すと言う部分をネイルが話した瞬間それが間違いだったと話した。

 

「えっ、ど、如何言う事なのキャシーちゃん?」

 

「えっとエミル様、私達は1日目の夜中に魔族のシエルと言う方の念話を傍受していたらエミル様が『私の言葉に深い意味は無い、ロジックエラーを起こすな、文面通りの言葉に捉えろ』って傍受してるのがばれて言われちゃいましたね? 

 それをさっきふと思い出してアレスター様の日記を見て、『今なら壊せると思い枷に触れた』と書かれてましたのでその通りに壊す様な真似をせずゆっくりと、静かに触れたんです。

 そしたら…」

 

 エミルは如何言う事かと聞くとキャシーはムリアの事を伏せながらシエルの念話を傍受し、彼女がエミルに投げ掛けた言葉を思い出しアレスターの日記を読み、ただ触れたとしか書かれていない為にその様に触れた瞬間今の様になったと話しロマン達はシエルの念話を傍受していたエミルは一旦置いて置きキャシーの素直さが突破口を開いたと全員で思っていた。

 ただ1人を除き。

 

「…って、私またあの魔族にヒントを与えられていたの⁉︎

 何、何考えてるのよ⁉︎

 もう、一体何なのよ魔族シエルは‼︎」

 

 エミルはシエルにヒントをまた与えられた事に憤慨し地団駄を踏み始め、それを見ていた全員は苦笑しながらも、直ぐにロマンが咳を払い全員を注目させた。

 

「こほん、つまり枷を壊すんじゃなくて単純に触れる事が重要だったってキャシーが証明してくれた訳だね。

 じゃあ皆もそうしてみようよ、エミルも」

 

「うぅ〜…そうする…悔しい、ホント悔しい、自分で気付けなくて悔しい」

 

 ロマンはキャシーが突破口、枷を壊す為に触れるのでは無く単純に触る事が重要だと纏めると全員の顔を見てそうする様に促し、そして悔しがるエミルにもそうする様に言うと未だ引き摺るエミルも修行が先だとして周知を始め、そして全員枷を再びイメージすると、それに手で静かに触れる様なイメージを思い描く。

 

【ドサッ!】

 

 すると全員意識を失いその場に倒れ込むのだった。

 その瞬間その場に転移して来る者が居た。

 それは魔族シエルとダイズであった。

 

「やっと『向こう側』に意識を持って行けたか。

 全くエミル、貴様は私が関わると思考が鈍化する常時低下(パッシブデバフ)でも罹ってるのか?」

 

「まぁ良いだろう、これでスタートラインに立つ用意ができたのだから。

 さあ、この辺りの魔物にコイツ達を襲わない様に命じるぞ」

 

 シエルはエミルを見ながら自分が関わると思考が固まる癖が出来た彼女に常時低下(パッシブデバフ)が罹ったのかと白い目で見ていたが、アギラはそれより彼女達がスタートラインに立つ用意が出来た事を喜びつつエミル達を周りの魔物が襲わない様に命じ始めに行った。

 …しかし魔物達はエミルの存在から起きたら何されるか分からないと言う恐怖から寧ろ離れて行き、2人はこの女は此処で何をしたのかと疑問に思い始めるのだった。

 

 

 

「あれ、此処は? 

 エミル、キャシー、ネイルさん、皆何処なの‼︎」

 

 するとロマンの意識がいきなり周りが真っ暗であり、足場が光っている以外は闇の中に居り他の皆の姿が見当たらない為周りを見始めていた。

 

『…汝、勇者ロマンに問う』

 

「っ、誰!」

 

 すると空間の中から謎の女性の声が響き渡り、ロマンは咄嗟に武具を構えるイメージを取るとミスリルソードやシールドが装備され、周りを警戒し始める。

 すると闇の中にビジョンが浮かび上がり、其処には魔族が5人の人を攻撃する直前で止まっていた。

 

『汝に問う、汝が何もせねばあの人々は死に、汝が魔族と戦えば1人の犠牲で済む。

 汝は如何なる道を取るか答えよ、勇者ロマン』

 

「…えっ⁉︎」

 

 すると謎の女性の声はそのビジョンの先の物を再生し、ロマンが何もしない場合は5人全員が死に、戦えば1人が死ぬと結果を見せ如何なる道を取るか選択を迫った。

 

「…その答えなら簡単だよ、それは…」

 

 ロマンはそれを聞き、以前何処かで見た様な問題を出されたと思いながらも、これなら迷う必要はないと考えて自分の考えを口にし始めるのだった。

 

 

 

『王女サラ、貴女の最愛の弟アレスターは魔族に殺された、ならばその復讐を、仇を取りますか?』

 

「えっ…?」

 

 更にサラの方ではアレスターが亡くなった場面に於いて1人の魔族がエンシェントドラゴンに命令を下しアレスターを亡き者にしたビジョンが流れる。

 それを聞きサラは考え始め、答えを出そうと賢王の娘として思考を始める。

 

 

 

『鍛治師アル、このまま戦い続けたらアンタ鍛治職人の道を進むより戦いに没頭しちゃうよ? 

 夢を簡単に諦めて良いの?』

 

 次にアルの方では誓いの翼(オースウイングズ)として戦い続けるとゴッフを超える職人になる夢が頓挫するビジョンを見せ付け、如何するかを問い始めていた。

 

「あぁん? 

 そんなの答えは決まってやがるぜ‼︎」

 

 アルはそんな質問に対しあっさりと答えを告げようと口を開き始め、更に斧を構えてビジョンの前に立つのだった。

 

 

 

『リリアナの娘にしてロアの血を濃く注ぐルル。

 貴女は勇者になる資格があり、また神剣ライブグリッターも今なら真の力を発揮させられるでしょう。

 なら貴女はこのまま勇者の血を引く事を隠すか、勇者に改めてなるか、答えなさい』

 

「…私は…」

 

 次にフードを取ったルルがビジョンの先で神剣を手に取り、周りから勇者と持て囃され亡き父ロアからも喜んで迎え入れられる物を見せつけられ、謎の女性は答える様に迫るとルルは瞳を閉じ、そして考え抜いた末に口を開き始めた。

 

 

 

「その答えは、僕が魔族の攻撃を防いで皆を守る、だよ‼︎」

 

『それでは汝が犠牲になるぞ、それでも良いのか?』

 

 ロマンはビジョンの中に入り、魔族の攻撃と無辜の民達の間に入り盾を構え、結界魔法(シールドマジック)も発動し防御態勢に入りその攻撃を待つ。

 すると謎の女性の声はそれでは代わりにロマンが犠牲になると話し、答えが変わらないと言うニュアンスで話していた。

 しかし、ロマンは笑っていた。

 

「犠牲になんてならないよ、だって…‼︎」

 

【ドォォォン‼︎】

 

 すると魔族の攻撃が結界に直撃し爆煙が周りを立ち込める…するとその爆煙の中から手斧と矢が飛び、魔族を仕留める。

 そしてロマンの横にはエミルが更に結界を張り、他の3人も側に居り全員がロマンに笑みを浮かべその行動を支えていた。

 

「だって僕には、信じられる仲間が居るんだから‼︎」

 

 そしてロマンはその声の主に頼れる仲間達が居り、その仲間と共に危機を乗り越えると言う深層意識にある人々を守りたい勇気と仲間を信じに抜く勇気の両者が示される。

 するとビジョンは砕け、足場の光が更に強まると同時にロマンの身体も光り始め、闇を照らす光となりながら宙に浮き始めた。

 

「仲間を信じ抜き、誰1人として死なせぬ様に勇気を振るうその姿、正に勇者ロアの子孫也。

 我は汝の勇気を認め、『この枷を外す』に足る資格があるとも認めよう…」

 

「…貴女は、天使様…⁉︎

 それに…ああ、温かい光が僕の中に…!」

 

 そして謎の女性は最後の最後で姿を現し、背中に白き翼を生やしフードを被った者…伝説に聞く天使その物の姿であり、その天使が祝福の様な光を授けるとロマンの中で『何か』が外れ、力が漲る様な感覚を得るのだった。

 

 

 

「私、確かにアレスターが殺されたのは凄く悔しいし、この手で仇討ちをしてやろうとか考えたこともあったよ。

 でも皆と過ごす内にそんな復讐よりも皆との大切な『今』を守らなきゃって感じるんだ。

 だからこの魔族に会っても復讐のためじゃ無い、皆を守る為にこの矢を射るよ! 

 それにアレスターも、復讐なんて望んで無いはずだから‼︎」

 

 サラは仇を、復讐を果たす事を一度は考えた事を告げつつ今はそれよりも皆との、アルやルル、エミルやロマン達との日常を守る為に矢を射ると叫び、それに加えてアレスターは復讐を望まない筈だと告げて仇討ちを否定する。

 声の主は黙って聞きながら、しかし満足した雰囲気を出しながらサラの前に現れる。

 その次にアルが話し始める場に移ると、何とアルはビジョンを斧で叩き壊してから言葉を発し始めた。

 

「その答えはなぁ、戦い続けながら鍛治職人の頂点、ゴッフ(ジジイ)を超えるんだよ‼︎

 どっちかしか選べねぇとか情け無ぇ質問なんか俺様には関係無ぇよ、俺様は何方もやり抜くんだよ‼︎」

 

「うわ凄い強欲⁉︎

 でも面白いじゃん‼︎

 その答え気に入ったよ‼︎」

 

 次にアルは戦いながら鍛治職人としてゴッフを超えると言うとっくに決めた答えを話し、それを叫び抜くと声の主であった天使の1人はそれを気に入り光を授け始める。

 更に次にルルが別の場で答えを話し始めた。

 

「私は、自分が勇者になりたいとは思わない。

 だって勇者に相応しい人は既に現れたからそれで良いの。

 そして、これでも満足しないなら私はこれまで秘密にして来たロアお父様の娘だってことを皆に明かして、勇者を神剣に導く『巫女』の役割がある事も告白してやりますよ‼︎」

 

 ルルはロマンこそが偉大な父を継ぐに相応しいと考え現状に満足している事を告げ、更にその答えでも満足しないならとこの後に自らの血筋やリリアナやロアに課せられた使命…勇者を神剣の下に導く『巫女』の役割すら告白すると叫び周りを見る。

 すると天使リコリスがルルの前に現れ、ルルに手を翳していた。

 

「貴女の覚悟、そして真の勇者を見出したとする答えを全て聞き届けたわ。

 さあ、これで貴女の枷は外れるわ。

 この後は自由よ、皆に血筋や使命を話すなり何なり好きにして良いわ。

 幸いにして貴女の憧れのライラの転生者が盗聴防止結界(カーム)を作り上げて話し放題ですから、ね」

 

 すると天使リコリスの手から光が溢れ、アルやロマンの様に力が溢れ出しながら瞳を閉じ意識を遠退かせていく。

 そしてサラの方に現れた声の主は…女性では無く男性、更にサラが良く知る者に天使の羽が生えた青年、エルフのアレスターだった。

 

「…アレスター…⁉︎」

 

「あはは、地上界で初めて限界値を知った事やあの日記を残した事、更に魔法論文を色々纏めたら天使になって姉さん達の試練に顔出しして良いよって言われました。

 …本当に姉さんは素晴らしいよ、過去よりも今を見つめ、未来に想いを馳せるその姿勢は父さんや母さんそっくりだよ。

 そんな姉さんの話を聞けて、私はとても満足しましたよ」

 

 サラの前に現れたアレスターは特別に天使になって良いと許可を貰った上にサラや自身が試練を与えようと言う大役を務めた事を明かした。

 そしてサラの答えを聞き偉大な父ロックやその妻であり現在は外交官として夫を支える『リーズ』の様な聡明さや優しさを思い浮かべ、そして笑みを浮かべながら手を翳し光を授け始める。

 

「さあ姉さん、これで貴女の枷は消えましたよ。

 これで思う存分仲間達との今やこれからの未来を守り、過去を思い出として大切に仕舞ってくださいね」

 

「アレスター…うん………ありがとう………‼︎」

 

 アレスターの最期の言葉として過去の思い出を大切に仕舞い、今や未来を守る様にと告げられると光がサラを包み、最後の最後で2度と会えぬと思った弟に感謝の言葉を泣きながら意識が現実へと回帰するのであった。

 

 

 

 そして、それらを見ていたエミルは背後に居る天使アイリスに向き直りながら会話を始める。

 

「それで、皆の試練が無事に終わったのは見せられたから良いけど私の分はないのかしら、天使アイリス?」

 

「貴女の場合は何を問おうとも答えはブレないから意味が無いの。

 だから試練は特別に合格扱いにして、私から貴女に伝えるべき事を伝えるわ。

 この地上界と魔界の間で行われている聖戦の儀についてを」

 

「…聖戦の…儀…」

 

 アイリスはエミルがどんな質問もブレずに返す為試練の意味が無いとして、代わりに地上界と魔界の間で行われている聖戦の儀の説明に入ると話す。

 それを聞きエミルは矢張りかと天界が何らかの形で戦いの根幹に関わってると疑問が確信に変わってしまう。

 

「先ず聖戦の儀は何方か一方の世界が貧困、飢餓、疲弊、土地不足等様々な理由から行われ、そして片方の王がもう片方の王にいつ攻め入るか伝えてから発生する戦いよ」

 

「えっ、でも500年前は突然魔族が攻めてきた筈よ! 

 それは間違い無いわ‼︎」

 

 エミルはアイリスから様々な理由で一方が攻め入るのを伝え、其処から発生する戦いだと話されると500年前は確かに一方的に攻められてしまった記憶があり魔族や魔王を斃す使命が生まれた筈だった。

 

「それはあの戦いで死んだ当時の地上界側の王に問題があったからよ。

 そんな御伽噺めいた戦いなど知るか、女や金を寄越せと欲望三昧で過ごした結果一方的に攻め入れられた形になったのよ」

 

 しかしアイリス曰く当時の地上界の王の失態により聖戦の儀は一方的に魔界側が攻め入る形になったと言われてしまい愕然としてしまう。

 500年前の戦いの裏側はそんな地上界が愚かだとしか言えない事情があった為当然の反応だった。

 

「…そんな…」

 

「しかし神様はそんな地上界を見兼ねて神剣ライブグリッターを授ける事を許可し、結果魔界側はエミル、いやライラ達の反撃を受け一時撤退し、更に縛られし門(バインドゲート)で地上界との行き来を封じられ500年の間互いに力を蓄える事になってしまった。

 そして地上界にライブグリッターがある以上、公平を期す為に魔剣ベルグランドを魔界に送ったわ」

 

 エミルが信じられない様子で聞いているとアイリスは淡々とあの戦いの表側も語っていき、最後はライラの縛られし門(バインドゲート)で戦いは中断、互いに力を蓄え更に地上界に神剣が贈られた様に魔界にも魔剣が授けられ、それをシエルが今所持しているとムリアの話から思い出した。

 そして魔剣の出所も天界だとして何処までも傍観者気取りで居る事にエミルは無性に腹が立ち始める。

 

「我々が傍観者になるのは聖戦の儀に定められたルールに天界は一方の味方になってはならないとあるからだ、許して欲しいとは言わない。

 …しかし、それより重要な事がある、魔界側がこのルールを破り始めている」

 

「えっ?」

 

 そんなエミルにアイリスは天界側に定められたルールを説明し、謝罪はしないが申し訳なさそうではいた。

 しかし、それより重要な事として魔界側がこのルールを破り始めていると話し、アイリスはエミル額に指を当てるとその脳内に聖戦の儀の知識を刻みながら言葉を続ける。

 

「先ず魔界側は楔の泉を破壊してはならないんだ、魔王による一方的な虐殺を阻止する為に。

 同じ様に戦いでは無い殺戮の禁止をし、更に地上界の限界レベル値250を上回る魔族の派兵は許されないんだ」

 

「ちょっと待ちなさいよ、魔界は500年前から楔の泉は探してるってシエルは言ったし、虐殺だって行ってきたわよ⁉︎

 それにレベル250を超える魔族だって今…‼︎」

 

 するとアイリスは魔界側に決められたルールの話を進めると、エミルは500年前から2つも破り今があり、現在に至ってはシエルやアザフィール達が送られ、限界値超えの敵が来ている事を叫びアイリスの肩を掴んでいた。

 するとアイリスはエミルに知識を刻み終えた後その手を取りながら真剣に2人は見つめ合った。

 

「…矢張り500年前からルールを犯していたのね、魔族達は。

 ならこれを神様に3度目の進言を行い、更に貴女の記憶から読み取った事例も全て見せて天界が介入して聖戦の儀の中止を図るわ。

 ただ…これには期待しないで、神様は数多くの事例を見せても天界は介入する事勿れを貫いているから。

 それじゃあ、貴女の仲間達に聖戦の儀の事をしっかり伝えるのよ、エミル‼︎」

 

「あ、ちよっと‼︎」

 

 アイリスは知識を刻むと同時にエミルがライラの時の記憶や現在の記憶も読み取りそれ等を事例にして天界が介入出来る様に神に取り計らうと告げる。

 しかしそれと同時に神はそんな事例を見ても全く動く事が無い為期待しないでとも言い、そのまま光に包まれながら聖戦の儀の知識を全て仲間達に伝える様に話す。

 するとエミルも光に包まれ、アイリスに手を伸ばしたがその手は届かず溢れる光により2人は離れ離れとなるのであった。

 

 

「はっ⁉︎」

 

 それから何れ程の時を寝ていたのか、エミルは身体を起こすと全員が既に目覚めており、そして何故か分からないが何れ程の時を眠り目覚めたのか自覚し、更に身体の内側から力が溢れ出し千里眼(ディスタントアイ)等も以前より遠く見える、そんな気がしていた。

 

「皆、お疲れ様」

 

「うん、エミルもお疲れ様」

 

 そうして体感4時間、3日目の昼下がりになりながら全員にエミルはお疲れ様と言うとロマンが代表してエミルに労いの言葉を掛けた。

 そして2人は握手すると、それだけで互いに枷が外れてレベルが250を超えている、今の千里眼(ディスタントアイ)ならばミスリラントやセレスティア、ヒノモトにグランヴァニアの何処でも見える。

 そんな全てがクリアになった感覚を感じ取るのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
枷に触れる際の拒絶は枷を壊す事が先走って居た為起きたシンプルエラーです(そしてまたシエルの言葉がヒントになったエミル的には不具合)。
更にアレスターの天使化ですが、本来なら枷を初めに外すのは彼だったり数多くの功績を残したり、次の輪廻転生までに間がある為特別に天使になる事が許された形です。
なおネイル達の問い掛けはロマン達と似たり寄ったりや話が長くなる為あえなくカットになりました…。
そしてエミル、遂に聖戦の儀を知ってしまいました。
これがどんな影響を齎すかまた先に…。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第23話『誓いの翼達、更に修行する』

皆様おはようございます、第23話を更新致しました。
修行回第3回にして修行中盤を越しました。
枷を外したエミル達が次に何をするかご覧下さいませ。
では、本編へどうぞ。


 エミル達の試練が終わった後、アイリスはエミルの記憶をビジョンとして神に見せ、リコリスや他の天使達と共に3回目の進言が始まっていた。

 

「神様、魔法使いエミルの記憶から魔界は500年前から聖戦の儀の法を犯しています‼︎

 そして念話傍受で魔族シエルが楔の泉を500年前より探し、破壊の為に魔族が動いてるとあります‼︎

 これでも我々天界は聖戦の儀の中止をし、魔界側に罰則を加えぬのですか、我らが父たる神様‼︎」

 

「神様、私からもお願い致します。

 魔界は魔族アギラが虐殺計画を練っております。

 そしてそれを止められるのは我々天使だけ、お願い致します我々を地上界へ派兵して下さい!」

 

 アイリスとリコリスが中心となり神に地上界への派兵許可を得ようと必死に説得し始めていた。

 それ等を見聞きした神は瞳を閉じ、そして開き答えを出し始めた。

 

「天使アイリス、リコリス、そして愛しき我が娘に息子達よ。

 汝達の叫びは伝わり、魔界側に明らかな法を犯す証拠を私は見た」

 

「…なら」

 

「しかし同時に理解して欲しい。

 我々天界は一方に肩入れしてはならないと。

 よって天界からの派兵は禁ずる。

 我が子等よ、分かっておくれ。

 神が悪戯に介入すればそれに世界は甘えてしまうのだ。

 だから、この話はもう終えよう」

 

 だが神は自身の介入でいざと言う時は神が助けると言う事例を作らないが為に数ある証拠を突き付けてもなお動かず、そして話を一方的に切り上げてしまう。

 それを聞いたアイリスは………遂に怒りが爆発し、武装して神に斬り掛かり、それを神は身動きせず結界で防いでいた。

 

「神よ、貴方のやってる事は生み出した者達の成長を願い見守っている事では無い、ただの欺瞞による放任だ‼︎

 そんな事例を作りたく無い⁉︎

 巫山戯るな‼︎

 なら何故聖戦の儀の法を作った‼︎

 何故法を犯せば天界が動くと定めた‼︎

 答えろ、我等が愚父よ‼︎」

 

 アイリスは天界、ひいては神が何故聖戦の儀の法を作ったのかと怒りに任せながら問い、更に現在の神が行っている事は成長を見守るのではなく放任、身勝手に動くのも咎めぬ毒親と同じであった。

 その為アイリスは天界の光の槍を持ち結界を突き斬ったり等して矛を届かせようとしていた。

 

「アイリス姉様、矛を納めて‼︎

 皆、姉様を取り押さえて‼︎」

 

『は、はい‼︎』

 

 その突然の暴発にリコリス達は慌ててアイリスを押さえ、神殿から飛び去り地上界を監視する泉まで飛ぶのであった。

 そして矛を突き付けられた神はその事については気にしなかったが、アイリスの言葉を静かに繰り返していた。

 

「…何故そんな法を作った、愚父か…。

 初めは互いに戦う事でしか解決しない物を解消すべく作ったのだが…何時から形骸化し、私は愚かになったのだろうか…」

 

 神はその法を作った理由は、戦いでしか解決しない勝利者を決めてそれを解消しようとした筈だった。

 しかしそれは何時しか形骸化し、自身も全く決断が出来ない愚か者になったと1人愚痴を零し、そして天界にも浮かぶ2つの月を見上げるのであった。

 

 

 

 一方その頃地上界にて、盗聴防止結界(カーム)を使いながらの遅めの昼食となり修行によりその先で見た試練の話になっていた。

 但しエミルは全員分の物を見ていた為その話題が終わってから聖戦の儀の刻まれた知識を話そうと思っていた。

 

「…つまり私やロマン君は所謂何かを犠牲にしてしか誰かを救えない問題を出され、我々は仲間を信じ攻撃を止める選択を取ったと」

 

「俺様は戦いと鍛治職人の両立を聞かれ、サラは復讐で弓を引くかをアレスターの坊主から聞かされ、そしてルルは自身の血筋に関わる………それも、まさかルルが勇者ロアの娘だったなんてな…」

 

 先ずロマンとネイルが共通の試練を課され、次にアルが冒険者と鍛治職人の両立、サラが過去を想い、今と未来の為に弓を射る事を告げ、そしてルルが今まで内緒にしていた勇者ロアの娘である事を覚悟を持って話し、ロマンに先祖の娘が未だ存命してた事を驚かされる。

 

「でも、やっぱり真の勇者はロマンだよ。

 私よりも勇気や優しさの意味を深く理解してる…だから試練の内容も正義の味方に関する問題だったと思う。

 だから私は私のままで良いんだ。

 そしていつか神剣の下に貴方や皆を導くからその時まで待ってて」

 

「ルル…ありがとう…」

 

 しかし、勇者の資質はある事も見せるが矢張りロマンが真の勇者とルルは推すのだった。

 それは試練の内容、更にロマンが潜在意識で優しさや勇気を知る為と答え自身はシーフ、義賊のままで良いと口にしてロマンから礼を言われてしまう。

 だが本人は好きな様に生きたいだけの為その礼は不要だった。

 更に神剣ライブグリッターの下には何時か導くと話してそれでルルの話は終えた。

 

「で、俺やシャラは凡人のままで良いかって質問に…」

 

「ネイルさんを守るのに天才だとかそんな特別は必要無い、凡人魂見せてやるって答えだったね」

 

 ガムとシャラは凡人なままであり続けるかと言う問いに対して凡人魂を見せると言ってみせ、2人の特別な才能をいらないと言う無欲の勇気に天使は満足したらしい。

 

「…んで、俺は同族と戦う覚悟はあるかって聞かれて、ネイルの兄貴や家族の為、アギラみたいな卑怯者を野放しにしない為に戦うって答えを出したんだ〜。

 つまり、俺実はネイルの兄貴を暗殺する様に命令された魔族なんだ〜。

 皆、記憶喪失なんて騙しててごめんなさい〜…」

 

 続いてムリアが自身の素性を告白し、魔族の証の魔血晶(デモンズクリスタル)や褐色肌を見せながら全員に土下座して謝り、如何なる非難も受ける気でいた。

 しかし、返って来た言葉は…。

 

「でもネイルさんを今まで暗殺するタイミングでやらなかっただろ? 

 だからノーカンだよノーカン!」

 

「それにムリアは弱き人々の為にその斧を振るい救って来たんだ、その心に嘘偽りは無いと私は思う。

 そして地上界にも悪逆を成す者がいる、ならば魔界に正義を成す者が居ても何ら可笑しく無いさ」

 

 ガムとネイルのムリアの善性を信じ、また正義の者だとネイルが呼びそれは正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)内では最高の褒め言葉であった。

 それらを聞きムリアは涙ぐんでしまい、ネイルの胸の内で泣き出し、ネイルはそれを静かに受け止めていた。

 

「良かったですね、ムリアさん」

 

「そうね…所でキャシー、貴女はどんな内容を問われたのかしら?」

 

 それを側で見ていたキャシーやシャラは良かったと呟きムリアが謂れの無い批判を受ける事がなかったのを喜んでいた。

 するとシャラはキャシーに試練の内容はどんな物だったかを問い始め、ネイルやガム、ロマン達も注目を始めていた。

 

「えっと、貴女には初恋があり、そしてそれを叶える為の魔法使いの才覚がある。

 それ等を腐らせたまま眠らせて良いかって聞かれて、私は女を舐めないで下さい! 

 恋も才能の開花も自分の力で成し遂げます、貴女にとやかく言われる筋合いは無いです‼︎

 ってムキになって叫んじゃいましたら、女の子の意地を見せて貰ったって言われて合格でした、はい」

 

 するとキャシーの内容は彼女の恋心や魔法使いの才覚に関する問いかけだったらしく、それを聞いたキャシーはムキになってしまいアドバイスをくれそうな雰囲気の物を自分で蹴り飛ばして両方とも自分で叶えると叫んでしまったらしい。

 そして天使はそれを気に入り合格となったと気不味く話していた。

 

「あら恋パナ? 

 お姉さん少し気になるなぁ〜」

 

「そ、そんな事より最後にエミル様‼︎

 エミル様はどんな試練を⁉︎」

 

 するとシャラはキャシーの恋話に興味を持ち聞こうとしたが、本人にはぐらかされてエミルにどんな試練の問いが待っていたかを聞き始める。

 キャシーの中では前世がライラであるエミルの事の為複雑な内容の物が来たのだろうと思っていた。

 

「いや、私にそんな試練の問い掛けなんか無かったわよ? 

 代わりに皆の答えを見せて貰ってて、何故私に試練の問いが無いか天使に聞いたら私がブレなさ過ぎて意味が無いって言われちゃったわ」

 

「え、えぇ…。

 でも、魔王を斃す事にブレが無いのは確かだし、その為の明確な答えをとっくに持ってそうだよね、エミルって」

 

 しかしエミルはそんな物は無かったと答え、天使からブレなさ過ぎて意味がないと言われた事も話すとロマンを初め、誓いの翼(オースウイングズ)の皆は納得してしまい、ネイル達もエミルはそんな人物なのだとこの3日で思い知りながら話を聞いていた。

 

「でも天使、しかもライブグリッターを授けたとされるアイリスから今地上界と魔界の間で行われている戦い、聖戦の儀についての知識を頭に刻み込まれたわ。

 それを皆に話すわね」

 

『聖戦の…儀…?』

 

 しかしエミルは何もせずに枷が外れたのかと言えば違い、自身の頭に刻まれた聖戦の儀の知識について全員に共有を始める。

 この中でロマンやサラ、ルルにネイルは天界がそんな名前の戦いを決めてる事を疑問に思いながらエミルから話される内容に他の皆と共に聞き始める。

 因みにムリアは元名無し魔族とは言えその知識がある為復習を兼ねて聞いていた。

 

「先ず聖戦の儀は天界が定めた地上界と魔界の間で発生する戦いの名前で、発生原因は貧困から土地不足と多岐に渡りそれを戦いで解消するルールみたいなの」

 

「な、何だそりゃ⁉︎

 それじゃぁ俺様達の命懸けの戦いは天界が決めたそんな変なもんで起きて続いてやがるってのか⁉︎」

 

「極端に言えばそうね」

 

 エミルは先ず聖戦の儀の概要から話し、その発生原因も様々で天界はそれを戦いで解消する様に定めたと話すとアルは憤慨し、天界がそんな物を決めた為にこんな戦いが500年も続いているのかと叫ぶとエミルは極論でYESと答え他の皆も天界が傍観者を気取る事に不快な気分を抱き始めていた。

 

「そして戦いが起きる時は片方の王がもう片方の王に何時攻めるかを伝えてから戦いが始まるわ」

 

「むっ? 

 エミル殿少し待って欲しい。

 確か500年前の戦いは魔界が一方的に攻め入ったと言い伝えられている筈だが如何なんだろうか?」

 

「そだよ、お父様達も突然攻められたって言ってたし、これってルール違反だよね?」

 

 エミルは更に話を続け、戦いが起きる際のルールも話すとネイルとサラが反応し言い伝えや生き証人達からは突然攻められたと話し、サラは其処にルール違反と付け加えたが、エミルは頭を抱えながらアイリスに言われた内容をそのまま口にし始めた。

 

「それが…500年前の地上界の王は女や金に溺れて聖戦の儀を御伽噺と片付けて何ら準備をしなかったらしいの。

 そして500年前の戦争が起きて、アイリスが救済措置として神剣ライブグリッターをロア様に授ける羽目になったとか言ってたわ」

 

「…何それ、それじゃあお母様達はその愚王の為に地獄を見せられたの? 

 許せない…‼︎」

 

 エミルは500年前の地上界の王の愚行をそのまま口にし、ライブグリッターが授けられた原因の1つと語るとルルはその愚王の行いに怒りを覚え、他の面々も同様の感想を抱いていた。

 

「で、その結末は皆も知っての通りライブグリッターを振るうロア様やシリウス様達の活躍により魔族達を一時撤退させ、ライラ様が縛られし門(バインドゲート)を使って500年間両者は疲弊を回復させ、力を蓄える事になったわ。

 因みに天界はライブグリッターが地上界にある為、魔界に対の魔剣ベルグランドを授けて、あの魔族シエルが持ってるらしいわ」

 

 そして500年前の結末を改めてエミルは話し、更にシエルが魔剣ベルグランドを持つ魔族の中でも勇者ロアの立ち位置に居る人物だと伝えると皆ムリアを見てシエル等の情報を聞き始める。

 

「えっと、シエル様は聖戦の儀が起こる前の魔界の争いを今の魔王の下で収めたアザフィール様の弟子の1人で、魔界1の剣士と言われて物すっごく強くて今の魔王の幹部三人衆最強の女と呼ばれる実力主義者なんだな〜」

 

「あのシエルって魔族はそんな恐ろしい人だったんだ…そしてアザフィールは魔界の英雄でシエルの師匠で今は部下…頭が痛くなる実力相関図だよ…」

 

 ムリアのアザフィールやシエルの説明を聞き、ロマン達はシエルやアザフィールがそんな地上界の勇者ロアやシリウスの様な存在だと知り頭を抱えていた。

 

「だが連中はレベル350と450だ、俺達は枷を外して更に強くなれるから直ぐに奴等と」

 

「あ、三人衆の内狂戦士(バトルマニア)のダイズ様とシエル様達は実力をアギラに合わせてレベル低下(デバフ)を自分に掛けて本来の実力じゃないんだな〜」

 

「え"っ、つまりそのアギラ以外は手加減してアレなの…⁉︎」

 

 しかしアルはレベルの枷が外れた為、順当に行けば350のアザフィール達と戦えると話すが、ムリアが直ぐにアギラ以外は自身にレベル低下(デバフ)を常に掛けてると話す。

 それを聞いたサラは嫌そうな表情を浮かべて手加減していたアザフィールにズタボロにされた事実を突き付けられてしまう。

 

「…さて、シエル達の話は後にして聖戦の儀のルールについて話すわ。

 両者の共通事項として虐殺禁止、レベル250オーバーの戦力の派兵禁止とか色々あるわ。

 で地上界側の独自ルールとして魔界に攻め入るには神様の許可が如何なる時も必要、聖戦の儀中は地上界の者同士で争ってはならない、意図的に地上界を裏切る真似をしてはならないってのがあるわ」

 

 するとエミルはシエル達の事は思考の隅に追い遣り、聖戦の儀のルールを話し始める。

 すると直ぐに全員がルール違反を魔界側、更に地上界はグランヴァニアが行なっていると思い口にしようとしたが、まだ魔界側のルールが出てない為その先を聞こうと出そうとした言葉を喉の奥に引っ込める。

 

「で、魔界側は魔王を魔界に縛る楔の泉を破壊してはならない、魔王は地上界に来てはならない、必要以上の地上界への攻撃をしてはならないってルールがあるわ。

 …皆の思う事は分かるわ、地上界はグランヴァニアが、魔界はもう全体がルール違反を犯してこれ等のルールが形骸化してるわ」

 

「確かに…ではエミル殿、ルール違反の際に天界は何らかの罰則を課すのかな?」

 

 エミルは最後に魔界側のルールを話すと同時にそれ等のルールが現状形骸化し、ルール違反が多発している事を告げるとアルは気に入らないと言った表情を見せ、其処にネイルが天界側のルール違反に対する動きをエミルに問い始める。

 

「ええ、天界はこれ等のルールを破る者達に天使を派兵して聖戦の儀の中止、そして違反側に罰を与えるわ、本来なら」

 

「…本来、なら?」

 

 エミルはネイルの問いに天界から天使が降り立ち本来なら罰則を与えると話す。

 しかし、本来ならと言う言葉に全員引っ掛かりを覚えた為、エミルに何が起きてるのかを視線で問い始める。

 

「アイリス曰く、神様が証拠を見せても動き出そうとしてないらしいわ。

 だから天使が来るのを期待しない方が良いと言われたわ」

 

「何じゃそりゃ⁉︎」

 

「神様って、無責任な奴なのね…」

 

 エミルは今の神の事をアイリスに伝えられた通りに言いつつ展開が動かなそうと話すとガムとシャラは心底驚き、同時に神の傍観者気取りに落胆するのだった。

 そしてそれはロマンやネイル達も同じく、特にロマンの方は神を「意気地無しな…」とボソッと冷淡に呟き、ネイルは「神であろうと、混沌とした世を治めぬのならそれは悪だ!」とキッパリと悪認定してしまった。

 

「とまぁ、神『サマ』の放任主義の話は此処までにして、以上が聖戦の儀の情報よ。

 そして私達誓いの翼(オースウイングズ)は楔の泉を破壊しようとする魔族を倒す為に動くわ。

 でもその前に残り2日で皆にマスターして貰いたい絶技と魔法があるわ。

 思ったより直ぐに枷外しが終わって助かったわ」

 

 そうしてエミルの聖戦の儀の話が終わり、食事も丁度終えた所でエミルは誓いの翼(オースウイングズ)の行動方針をネイル達に話し、彼等も楔の泉が破壊されれば魔王が動き出す事を聖戦の儀のルール説明で理解しそうするのが理想的と思っていた。

 そんな所にエミルは更に覚えて欲しい魔法等と口にするとロマン達は身構えてしまう。

 

「覚えて欲しい奴…アザフィールの野朗が使った複合属性の魔法と絶技だな?」

 

「そう、皆を鑑定眼(アナライズ)で視たら全員レベルが260になっていたの。

 これなら複合属性魔法や絶技を使っても身体が壊れず上手くコントロール出来ると思ったから、時間が許す限りこの2つの『全部』の熟練度を上げて欲しいわ」

 

 アルはアザフィールの放った焔震撃(マグマブレイク)や爆震剣等を思い出し身震いし、ロマン達も固唾を呑み自分達もアレを覚えるのかと感じ固まっていた。

 

「エミル殿、失礼するが複合属性とは一体?」

 

「ネイルさん達も知らなくて当然よ、これは250になったリリアナ様や書物でライラ様が必死になって漸く使える様になった代物なんだから。

 複合属性は文字通り属性を混ぜた物よ。

 火は水、土は風、闇は光、氷は雷と相反する属性以外の組み合わせで混ぜ合わせ使える魔法よ。

 例外的に氷は闇、雷は光とこの4つの属性はこの組み合わせでしか使えないけどね」

 

 ネイルの質問にエミルは懇切丁寧に説明を始め、相反する属性以外の組み合わせで放つ物で、但し光は雷、闇は氷としかこの4属性は組み合わせられないと話し、するとエミルは杖を持ちながら実践に入ろうとしていた。

 

「じゃあ試しに1個空に向かって撃つわ…『雷光破(サンダーバースト)』‼︎」

 

【ズガァァァァァァァァァ‼︎】

 

『⁉︎』

 

 エミルは空に向かって光+雷の魔法、雷光破(サンダーバースト)を放つ。

 その見た目は下級と上級魔法しかない雷の魔法に光はの魔法が加わり白い稲妻が耀きながら空に放たれ一閃の雷を美しいと思う者も居た。

 しかし魔法使い組やネイル、複合属性で倒されたロマン達は感じ取る。

 初めて放つ魔法、しかも上級魔法までしかない雷が光を混ぜただけで熟練度を高めた最上級魔法に匹敵する物だと、

 

「これが複合属性魔法よ、初めて使った割には熟練した最上級魔法並の火力があるでしょ? 

 これが廃れた理由の1つ、250にならなきゃ使えないし威力はバカ高いし手加減して放てる代物じゃないから禁術扱いになってるわ。

 でも、260になった皆ならコントロール困難なこの複合属性を使い熟し魔族との戦いを終わらせるって信じてるから」

 

 エミルは複合属性の威力を見せ付け、廃れた…と言うより禁呪扱いされてると話しロマン達は汗を掻くが、その汗は嫌な悪感情から来る物では無い。

 エミルがこんな物を使い熟すと信じると言う無茶振りからの汗だった。

 

「…はっ、上等じゃねぇか‼︎

 このアル様が複合属性絶技を使い、侵略して来た魔族をボコす。

 俺様の冒険者と鍛治職人の両立の野望に鮮烈な1頁が加わるって訳だな‼︎」

 

 先ずアルから前に出て自身の試練の問いにあった冒険者と鍛治職人の両立の野望を高らかに宣言し、聖戦の儀でやって来る敵魔族を斃すべく複合属性絶技を物にしようとしていた。

 

「わぁ、アルったら相変わらず…でもアルがやる気満々なら私だってやらなきゃね! 

 魔王を斃す事を託されたんだから‼︎」

 

「私も…遂にロアお父様の娘と告白した以上、魔法も使って皆を助けます‼︎」

 

 次にサラ、ルルがそれぞれの決意を語り、更にルルに至っては皆に勇者ロアの娘だと告白した為魔法も使い皆を助けると話した。

 そして誓いの翼(オースウイングズ)最後の1人ロマンも前に出てエミルに話しかけ始める。

 

「僕も…皆と一緒に戦って、互いに守り合って最後には皆で笑い合ってこの戦いを終わらせたい! 

 神様の取り決めとか、そんなの関係無く、僕は僕が守りたいと思ったものを全て守りたい! 

 だからエミル、僕にも複合属性絶技と魔法を教えて欲しいよ‼︎」

 

「皆ならそう言うと思ったからこの後からビシバシ教えるから覚悟しててね」

 

 ロマンもまた守るべきものの為に戦うと、戦闘時の勇気を振り絞った答え方をしエミルを満足させる。

 そしてエミルもまた4人に直ぐに複合属性を使い熟す為にスパルタで教える気満々であり、生温い教え方で残り2日を無駄にしない様に決める。

 

「なら我々正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)もまた残り2日の時間を共に付き合い、悪を成す魔族達と戦うべく複合属性絶技や魔法を教えて貰いたい。

 が弱き人々を守る為にも…この答えでは不満かな、エミル殿?」

 

「ううん平気よ。

 幸いこっちの魔法や絶技を教えるのは試練の問いみたいに背筋が凍る訳じゃ無いから。

 でもキャシーちゃん達と言えど甘くしないから覚悟はしてね?」

 

 するとネイル達正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)もこの残り2日を更に有意義にすべくエミルから絶技や魔法を教わる選択を取り、キャシー達全員もその気だった為エミルは彼等にもスパルタ方式で絶技と魔法を教えると宣告し、其処から皿を洗い特訓が始まった。

 

「属性を同時に使うんじゃ無い‼︎

 それじゃ別々の絶技や魔法になるだけよ‼︎

 良い、複合属性を使うコツは『属性を混ぜる』イメージを持つ事よ‼︎

 同時に2つの属性を使う程度なら名無し魔族だって出来る、魔力の流れを読み取って2つの属性を混ぜなさい‼︎」

 

 エミルは複合属性魔法の熟練度を高める傍ら、2つの属性を別々に使う者達に『属性を混ぜる』と言うイメージのコツを教えながら実際に使い、更に別々の属性の絶技を使う程度なら名無し魔族も出来ると双剣の魔族を思い出し、アレが成長して複合属性を覚えたら拙かったと思いつつ更にスパルタで教えて行く。

 

「(さて、私も複合属性を使い熟すのと並行してあの魔法祝印(エンチャント)を再び使える様にしなきゃ。

 前世の私(ライラ)が開発したあの魔法祝印(エンチャント)を…!)」

 

 そしてエミルも複合属性魔法や絶技を教え、使い熟す傍らで前世でロア達やシリウス達の武具に掛けていた通常の魔法祝印(エンチャント)とはまた別の特殊な魔法祝印(エンチャント)を再び使い熟せる様にすべくその魔法祝印(エンチャント)も並行して使い続け、体内魔力回復用ポーションをガブ飲みしながら3日目の夜を迎え、夕食と特訓の繰り返しになるのだった。

 

 

 

 

 

 一方その頃セレスティアのある場所で、ダイズとシエルがチェスをしておりシエルが今回肌色が悪くもう直ぐ勝敗が決する場面になっていた。

 

「チェック、さあ次はどうするかな…」

 

「…無理だな、残り5手でチェックメイトだ。

 投了(リザイン)しよう、今回は負けたよダイズ」

 

 ダイズは意気揚々とシエルのキングにチェックを行うと、彼女は残り5手でどう足掻いてもチェックメイトは避けられないとして投了(リザイン)を宣言し、自身のキングを指で弾いて倒しながら素直に負けを認めるのであった。

 

「ふう、これで2589勝2596敗7200分け、あと7回勝利で戦績が並ぶな」

 

「勝ち負けにこだわるお前らしいよダイズ。

 そしてその戦績になった後は勝ち越しを狙っている訳だ。

 ああ怖い怖い」

 

 2人はアザフィールの弟子の時代からずっと競い合い、暇さえ有れば実際の戦闘訓練からジャンケン、今回のチェスの様な小さな勝負までして暇を持て余しながら優劣を決めようとしているのだ。

 するとドアのノック音が響き、中にアザフィールが入って来てシエルの報告を始める。

 

「シエル様、ダイズ殿、ムリアの家族の安全確保が完了しました。

 並びに試練の問いを完遂したエミル一行達は複合属性の習得を開始しました」

 

「そうか、此方は予想通りに動いてくれるな。

 あの連中の飲み込みの速さだ、複合属性を5日目の夕刻までにはマスターするだろう」

 

 アザフィールは交渉条件だったムリアの家族の安全を確保し、更にそれが終えた直後にティターニア達をエミル達の監視に当たらせ状況報告をする。

 するとシエルはチェスの駒を増やして並ばせ、エミルやネイル達に見立てた駒がアギラに見立てたキングに徐々に迫る事を駒を動かし表現していた。

 

「それで、天界は動き出すと思うかシエル? 

 動くなら天使アイリスやリコリスに戦いを挑みたいのだがな…『盟約』の範囲内、でだがな」

 

「さあ? 

 其処は不確定要素だから気にしなくてもまだ良いわ。

 問題はアギラがこのまま死ぬか否かよ」

 

 其処にダイズが駒を更に増やし、天界に見立てたポーンやクイーン等が動くか狂戦士(バトルマニア)として気にしていた。

 しかしシエルは其処を重要視するのはまだ早く、アギラが早く死ぬか否かを重要視してアギラのキングを指で転がしていた。

 

「…さて、そろそろ『表の顔』の時間ですぞ、早くお召し上がりをして下さいませ『エリスお嬢様』、『ザイド殿』」

 

「ああ、そうするよ『アズ』。

 2人にももう帰る様に連絡を入れて欲しい」

 

「さて、俺達は俺達に与えられた使命と副官から言われた効率的な侵略法…『魔族の地上界潜伏、経済その他諸々の支配と物資の横流し』を粛々としてやるか」

 

 するとアザフィール、ダイズ、シエルは魔法を発動し、ムリアの様に人間等に化けるとシエルは貿易商人エリスの顔として活動を始め、ダイズも政治家ザイドとしてムリアも知らない魔王から与えられた使命の魔界への物資横流しや、経済や政治の支配を進めるべくテーブルで貿易の話を淡々と始めるのであった。

 そして今日も地上界はその裏側を魔族に侵食されていた。

 しかしムリアの存在がエミルに知られている為それに気付かれるが時間との勝負にもなっている事をシエル達は知っているのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
天使アイリス、遂にブチ切れる。
更に聖戦の儀の知識をエミルの口からロマン達に伝わりこの戦いは天界が定めた法の下で起きてると知り唖然。
そしてアザフィールが使った複合属性魔法、絶技の習得を目指して修行は終盤に入りました。
そしてシエル達の表の顔も…。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第24話『4国会議、始まる』

皆様おはようございます、第24話目更新でございます。
修行回はこれにて終わります。
エミルはまた新しい魔法(但し500年前創ってる)や様々な話があります。
では、本編へどうぞ。


 エミル達はその後も複合属性魔法と絶技会得の修行を続けていると、寝る前に全員1発ずつ複合属性魔法と絶技を撃つ事に成功し、4日目の昼には全員で全ての複合属性魔法、絶技を会得しそれぞれが熟練度向上の為に別々に修行をしようとしていた。

 

「うん、皆やっぱり飲み込みが早くて助かったわ。

 さて、そんな皆にプレゼントをあげるわね!」

 

「エミル様の…プレゼント?」

 

 するとエミルは杖を構え、皆にプレゼントを出すと言うとキャシー達は不思議がり、ロマン達はまた魔法祝印(エンチャント)なのかと思いその様子を見る事にしていた。

 そして魔法陣が浮かび上がり杖を掲げ始めた。

 

「ネイルさん達も魔法祝印(エンチャント)内容が私達と似てて良かったよ、ムリアの入れ知恵なのも容易に想像出来るわ。

 さて行くわよ…『二重魔法祝印(ダブルエンチャント)』発動‼︎

 えいっ‼︎」

 

「うおっ⁉︎

 …何だ、鎧が服の様に軽くなったし、ミスリルが明らかにオリハルコンを超える強度になってやがるし絶技の魔力浸透率も上がりやがった‼︎

 エミル、こりゃどんなもんなんだ⁉︎」

 

 エミルは複合属性魔法の練習の傍ら、同じ様に熟練度を積みしっかりと使える様にした前世で開発した魔法…二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を発動する。

 これを受けたアルは鎧や武器が軽くなったのみならず強度も上がり、元々掛かっていた魔法祝印(エンチャント)が二重に掛かった様になり驚愕し、他の全員も同様の反応だった。

 

「ふふ、これがセレスティア王国に伝わる秘術、二重魔法祝印(ダブルエンチャント)よ‼︎

 これはレベル250からしか使えないから廃れて書物庫送りにされてたけど、実際に使うとあら不思議、元々掛かっていた魔法祝印(エンチャント)が二重に掛かる様になるのよ‼︎」

 

「つまり威力アップIVや強度アップIVが二重に掛かって、更に相手に硬くなるしダメージを与えられる様になるの⁉︎

 凄い魔法祝印(エンチャント)だよこれ…‼︎」

 

 エミルは昔自身が魔族の魔法祝印(エンチャント)に打ち勝つ為に創り上げ、その後は秘術としてセレスティアに代々伝わったがレベル250になった物しか使えない為廃れた二重魔法祝印(ダブルエンチャント)の効力を話し、それにロマン達は驚きルルやキャシーは前世の力を純粋に取り戻したのだなと感じていた。

 

「さて、皆にプレゼントが終わったし、明日の昼には修行を切り上げてセレスティア王国に行くわよ! 

 今の私やキャシーちゃんにシャラさんなら此処からミスリラントやセレスティアを千里眼(ディスタントアイ)で視える、その視えた場所に転移して行くわ。

 目的は勿論その次の日に執り行われる4国会議の護衛よ! 

 さあ、複合属性の熟練度上げ再開よ‼︎」

 

正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)も了解した!」

 

「分かったよ、エミル‼︎

 …4国会議の護衛、つまりエミルが態々それをするって事は…」

 

 エミルは休憩の二重魔法祝印(ダブルエンチャント)と次の目的、4国会議を護衛すると話すとネイル達もエミルがそれが必要だと感じるならと二つ返事で了解と話し、誓いの翼(オースウイングズ)もロマンが代表者として頷き、アルやサラ、ルルも頷いていた。

 そしてロマンは態々4国会議を護衛すると話した事にその場で何かが起きる、そう予期しながら複合属性魔法、絶技を更に使い熟し始めるのだった。

 

 

 

 その頃天界ではアイリス達が地上界を覗き視ており、エミル達が複合属性魔法と絶技の特訓をしている事や二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を目撃しアレスターは改めて驚いていた。

 

二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を使い熟すなんて凄いですよエミル様! 

 幾らライラ様の生まれ変わりでも、たった1日で二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を使い熟すには繊細な魔法祝印(エンチャント)付与技術や熟練度が必要ですよ! 

 流石は僕が見てきた中でも特に優秀な生徒にしてライラ様の生まれ変わりでもありますよ!」

 

 アレスターは自身の生徒であるエミルやアルク達を中心に視て、最後にエミルを視ると様々なレベル250に到達し初めて使える魔法の数々を熟知しながら使い熟すエミルを、死後特別に天使になった後に知らされたライラの生まれ変わりにして転生魔法使用者だと聞かされその才能や技術に一定の理解をしながら、それでも生徒の成長は嬉しくアルクやカルロ達を視てた際も同じ反応であった。

 

「あーはいはい可愛い教え子がすっごく頑張ってるのを視れて良かったね〜」

 

「はい、アルク様達ネイル君も大変満足する成長を遂げたので私としては嬉しい限りです! 

 それも死後に天使様達にこの様に視せて頂けるとは、このアレスター来世でも天使様達に感謝致します!」

 

 アレスターは本来知る事の出来ない死後の世界を特別に向こう100年は天使にすると言う待遇に感謝し、来世でも忘れないと興奮しながら周りの天使達の手を取り彼女達や彼等に恩を感じていた。

 

「…そのエミルだが、まだ伝えていないが、いや、小さな頃から禁書も読み漁った程に現代の知識を飲み込んだ。

 だから気付いているだろうな、『転生魔法が禁術化している』事に」

 

「…でしょうね。

 口には出してませんが、彼女は『死んだら次があると思い転生魔法を使用』していませんからね。

 500年前のライラ様の死後に貴女が降臨し、転生魔法を世に広めるなと2代目の王や父さん達に伝えたらしいですからね。

 理由も父さんから聞き及んでます」

 

 その近くでアイリスが転生魔法が禁術化している事に触れ、アレスターも父からその経緯等を聞き及んでいるとして頭を下げながら答え出し、更に地上のエミルも次があるからと口にせず転生魔法のての字も口にしない事から理由は察しているとアレスターは推察していた。

 

「そうか…転生魔法は生と死の輪廻の輪を乱し、1度切りの命を軽んじる可能性がある術だった。

 まさか魔族が核さえ無事なら復活する特性に目を付けて開発するなど思わず当時の天界でも大騒ぎになり、私が地上界に派遣され当時の権力者や誓いの剣(オースブレード)にそれらを説明して使ってはならない正に禁術に唯一指定させた程だ。

 我等が父もライラは破天荒だと頭を抱えて言っていたからな」

 

 そうしてアイリスはアレスターも聞き及んだ転生魔法の禁術化の原因、生と死の輪廻の輪を乱すと言う理由を話し、それ等をロック達や権力者達に1から10まで説明して絶対使用する者が現れない様にし、この500年間それが現れる事は無かった、特に寿命が短い人間達にも。

 

「…さて、アイリス様はこれから再び神様に進言なさるおつもりですよね?」

 

「無論よ、あんな答えで満足なんて出来はしないわ。

 だから進言は止めない、あの固い頭を縦に下げさせるまで時間が足りないけど私も諦める気はないから」

 

 次にアレスターはアイリスに神に再び進言するか問うと彼女自身あんな答えで満足する程の追従者では無い為、時間が刻一刻と迫る中でも諦めず震源に向かい始めた。

 

「…どうか、その進言が通るのを祈ってますよアイリス様。

 地上界の分水嶺は4国会議の日です。

 それまでに天界がアギラの蛮行を未遂に終わらせられる事を祈ります…」

 

 アレスターは地上界での分水嶺、ターニングポイントが4国会議の日だと口にしながら、再び泉に目をやりアギラの行動も逐次監視しながら神が首を縦に振る事を祈りながら地上界の様子を眺めるのだった。

 

 

 

 エミルが二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を全員に贈ってから1日が経過して5日目の午後、遂にタイムリミットとなり全員を一堂に集め盗聴防止結界(カーム)を使いながら話を始める。

 

「皆、此処まで修行してくれてありがとう。

 さて、何故皆を盗聴防止結界(カーム)内に集めた理由を説明するわね。

 明日の4国会議、其処で必ず魔族が動くと踏んだからよ。

 これは元アギラ派のムリアにも確認済みよ」

 

 エミルは集まったロマンやネイル達にムリアから確認を取ったとしながら魔族が4国会議の時に動き出すと話し、ムリアもそれに頷きながらその通りと言った様子を見せる。

 するとサラがムリアの話が出た辺りからある理由を思い浮かべそれを話し始めた。

 

「それって、ムリアみたいに地上界の人に化けてるのが一斉に動き出すって事?」

 

「ええ、私は今日の朝にギルド協会を間に挟んでアルクお兄様宛の極秘の書簡を送ってるから、私が行けば話がすんなり通る筈よ。

 そしてその日は私達は念話傍受魔法(インターセプション)を使って誰が魔族か感知したり、ムリアが直接見て誰が魔族かを探し当ててお父様やロック様達を守るつもりよ」

 

 サラはムリアの様に地上界の者に化けた魔族がその日に暴れ出す事を想定し始めると、エミルは何時も重要な事を書く日記を出しながらYESと答え、その日は念話傍受魔法(インターセプション)や魔族のムリアを活用して敵魔族を見分け、ランパルド国王やゴッフにロックとリリアナ、更にヒノモトの現女王『サツキ』を守るつもりだと話す…と同時に溜め息を吐いていた。

 

「本当ならムリアが使ってる『変身魔法(メタモルフォーゼI)』を解析し切ってそれを見破る『看破魔法(ディテクション)I』を創り上げたかったんだけど…複合属性を教えたり二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を取得したりで忙しくて間に合わなかったわ、ごめんなさい」

 

「エミル、また新しい魔法をあんな忙しい中で作ろうとしたんだ…でも、本当に忙しかったから仕方ないよ」

 

 するとエミルはムリア達魔族が使ってる変身魔法(メタモルフォーゼ)を看破する為の魔法すらあの忙しい2日の間に作り上げようとしたらしく、しかし間に合わなかった事を謝罪するとロマンが忙しかったから仕方無いと言いエミルの激務を労いつつ出来なかった物に対しては余り触れず、その代わりに複合属性絶技と魔法を岩場や空に撃ち熟練度は問題無い事を示した。

 

「うーん、そう言う事にしてこの魔法を創るのはお父様達を守った後にするわ。

 それじゃあ、セレスティアのライラックまで転移するわ!」

 

「シャラ、キャシー、我々も行くぞ! 

 悪逆が成されるのを黙って見過ごす訳には行かない!」

 

『了解です‼︎』

 

 そうして転移魔法(ディメンションマジック)を使用し、レベル260を超えたパーティ2組が一気にフィールウッドの最北の世界樹からセレスティアの中央都市ライラックを囲む外壁前まで転移する。

 すると門前の兵が一瞬驚き槍を構えそうになるが、エミルの顔を見た途端槍を仕舞い始める。

 

「おーい、エミル王女殿下が帰還なされたぞ〜‼︎

 門を開け〜‼︎」

 

 更に兵士の1人がエミルの帰還を叫び門を管理する兵士達に開門をさせ、中央都市ライラックへの道を開かせる。

 そして門の奥からも見えるセレスティア王国のセレスティア城を一望し、ロマン達は言葉を失っていた。

 そこに兵達が10人用の大型馬車を用意し、城まで走らせていた。

 

「中央都市ライラック、相変わらず街並みが美しくその象徴たるセレスティア城もまた素晴らしい城だ…」

 

「あれ、ネイルさん達もライラックに来た事があるのですか?」

 

「ああ、1年前に要人の護衛依頼で来た事がありますよエミル殿」

 

 するとネイルがライラックに住まう人々や街並み、更に国の象徴たる城を相変わらずと話した為エミルが来た事があるかと聞くと、如何やら1年前にガム、シャラ、ムリアと共に護衛依頼来ていたらしくキャシーやロマン達以外はライラックに来た事を明かしていた。

 その間にサラは周りを見て興奮し、アルも「まぁまぁ」と零し、ロマンとキャシーは街の雰囲気に圧倒され言葉を失っていた。

 

「エミル王女殿下が帰還なされた、城門を開けよ‼︎」

 

 すると馬車を運転する兵が城門でエミルの帰還を叫び、門を開かせると橋も降り城壁の内側へとエミル達は通される。

 そして馬車から降り立つと其処にはアルク達王族兄妹とマークス、親衛隊達がエミル達を迎えた。

 

「お帰りエミル、そして城へようこそ各々方! 

 此度は我々セレスティア王家4名が客人の皆様をおもてなしさせて頂きます!」

 

「あーそんな畏まらなくたって良いってアルク君達さ〜! 

 公の場じゃ無い感じで普段通りに話そうって! 

 …エミルからの話があるし、さ」

 

 すると長兄アルクが畏まりながら客人であるロマンやネイル達をもてなそうと話し掛けてくると、サラが笑みを浮かべながら普段通りに話そうと促した。

 その途中でふと真顔になりエミルからの話と言って親衛隊を含む城の重要人物全員がエミルから送られた書簡の話と察し真顔に一瞬なり、しかし直ぐに笑顔となり次にレオナが話を始める。

 

「分かりましたわ、ではサラさん、ルルさん、そして皆様、エミルの話をする為客間へと案内致しますわ」

 

「ふっ、それにしてもネイル達までエミルに引き寄せられるとはな、人間磁石か何かか俺達の妹は?」

 

 レオナはサラの言う通り公の場では無い様に振る舞い、サラやロマン達を客間に案内すると話す。

 次にカルロはエミルの人を惹き付ける魅力を磁石に例え、更に護衛依頼で出会ったネイル達にも会釈しつつエミルの頭をワシャワシャと掻いていた。

 

「アルク殿達御兄妹やマークス殿もお変わりない様子で何よりです」

 

「ネイル殿こそな、では中へどうぞ」

 

 ネイルも護衛対象だったアルク達兄妹に共に護衛を務めたマークスが元気そうな様子を見てそれぞれ握手を交わし、最後にマークス達親衛隊が護衛を務めつつ客間へと向かい始める。

 そうして客間に辿り着き、親衛隊達は立つ中でエミルやアルク達は席へと座り、用意された紅茶を飲みながら話が始まる。

 それも盗聴防止結界(カーム)ありで。

 

「それでエミル、このアレスター先生式の書簡にあった魔族が地上界の者に化けて4国会議の時を狙って暴れようとしてるのは本当か?」

 

「はいアルクお兄様、現に此方にいらっしゃるムリアは魔族ですが、ネイルさんの正義の心に触れ直属の上司から手を切り我々地上界に力を貸して下さってます」

 

 そうしてアルクが開口1番に本題である魔族が地上界の者に化けて潜伏し、4国会議の場を狙って動き出すのかをエミルに問うと、彼女はムリアの事を説明しながらそれが事実だと口にし、ムリアが実際に魔族としての本来の姿を見せた事で周りは騒めき始める。

 

「静かになさい、それでも映えある親衛隊ですか! 

 兎に角、向こうの計画を知る方が味方になって下さったのは心強いわ。

 お父様達を守る用意が出来るわ。

 それで、ロック様達から極秘に伝えられたアレスター先生が遺した枷を外す修行法…如何やら成功したみたいね、エミル達全員レベルが260となっているわ」

 

 その間にレオナが騒つく親衛隊達に静かにする様に叫び、更にムリアの事はエミルが信用している点から魔族と変な区別はせず同じ志を持つ仲間として見る様にしていた。

 そしてカルロやアルク達が少し懐かしそうな物を見る目でアレスターの遺した修行法の話を切り出し、エミル達10人がレベル260となった点を鑑定眼(アナライズ)で見て成功したと察していた。

 

「お兄様やお姉様達もマークスもレベル240オーバーを果たしているじゃないですか。

 …もしや魔族に狙われましたか?」

 

「ああ、お陰でレベルは上がったが負傷者も出て修行中に地上界は相当数の魔族が潜伏してやがる事を察せたぜ。

 たく、アレスター先生も奴等に狙われたって話だし、本格的な戦争は眼下に迫って来てるぜ」

 

 エミルも鑑定眼(アナライズ)でアルクとマークスが遂に250、レベルが248、カルロが249に到達し、親衛隊達も平均レベル200を上回り最早戦力としては計り知れない物になっていた。

 が、同時にレベルの上がり方が異常の為魔族に狙われたのか問うとカルロがその通りと答え、カルロは負傷者とアレスターの事を想いながら大きな戦争が迫っている予感を告げる。

 

「戦争…そうだね、魔族との戦いが遂に…」

 

「その魔族との戦いについて、私が修行法の中で天使アイリスと接触しこの戦いが聖戦の儀と呼ばれる物と知りました。

 それについてお話しします」

 

 ロマンも先程まで晴れていた空が曇り、雨が降り始めたのを見てこの先の魔族との戦いの暗雲が迫ると思いながら見ていると、エミルはアルクや親衛隊達にも聖戦の儀についての情報や楔の泉について日記を見せながら話をし、アルクやカルロ達は天使達の立場等に驚愕しながらもそれらを聞き、話を更に深めていくのだった。

 

 

 

 そして翌日、セレスティア城に設けられた円卓にランパルド、ロックにリリアナ、ゴッフ、そしてヒノモト女王のサツキが座り、護衛には親衛隊の一部やロマン、アル、ルルとキャシー、そしてアルクやカルロが立っていた。

 そしてリリアナが盗聴防止結界(カーム)を発動させ準備が完了する。

 

「ではこれより4国会議を執り行う物とする。

 先ずはお集まり頂いた賢王ロック殿、予言者リリアナ殿、職人王ゴッフ殿、女王サツキ殿、今日という日にお集まり頂き感謝の意を込めて進行を務めさせて頂くと存じ上げます」

 

「いえいえランパルド殿。

 此度は我々地上界の未来を守る為に必要な会議、出席しない訳には行きませぬよ」

 

 そうして会議が始まり、円卓を囲む中でランパルドが立ち上がり進行を務めると話した後、ロックが此処に集まる者は皆地上界の未来を憂う者故に出席したと話し、ならばグランヴァニアは違うのだなとロマンは自然と思ってしまっていた。

 

「さて、堅苦しい挨拶は此処までにして会議を始めるぜ。

 魔族共の好きにさせねぇ為にな」

 

「妾もゴッフ殿の意見に賛成させて頂きます。

 ではランパルド殿、先ず最初の議題からお話を」

 

「うむ、では先ず魔族達の目撃例について話し合いたい」

 

 次にゴッフが堅苦しい挨拶を抜きにし、サツキも同調し初めの議題、魔族の目撃例について話し合うべく円卓中央部の水晶石から映像が流れ、其処にグランヴァニアを含む世界地図が映され各所に✔︎印が付いた物になっており、中にはロマン達の最初に遭遇したアイアン村近くにも付いていた。

 

「ご覧の様にセレスティアやミスリラントのみならず、フィールウッドやヒノモトにさえ出現例があり、内撃破した物はこのチェックマークの半分にも満たず、此処にいる勇者ロマンやゴッフ殿のお弟子のアル殿やリリアナ殿の娘のルル殿や我が子達等、一部の者しか倒せず犠牲を払い撤退が数多い」

 

 ランパルドの口からこれらの目撃例に対して倒せた数は少なく、逆に犠牲を払って逃げ延びた事例が多くあると告げられ、ロマン達の場合は運が良かった、エミルの判断力や自分達の連携が良かったから成せたと理解しロマン達もアルク達も心を痛めていた。

 

「それで、ワシ等の戦力は如何なってる? 

 ミスリラントはやわな鍛え方をしてねえからレベル210を平均にした兵団がゴロゴロ居るぜ」

 

「フィールウッドも同じく戦争に赴く兵は皆レベル200を超える様にしていますぞ」

 

「妾達ヒノモトは絶技の国故、レベル240の兵達を用意可能じゃ」

 

 次に戦力が水晶石の映像に映り、それぞれの国の兵士達のレベルの平均値と兵力が映し出されセレスティアが190とやや低めだがそれでも戦力としては申し分無く、1番戦力の高いヒノモトは平均値240と武を極める事を矜持とする国柄故にこの様なレベルの高い兵士が揃ってる様だった。

 しかし国の大きさもありヒノモトは1番兵が少なく、ミスリラントが1番多いと言った具合になっていた。

 

「ヒノモトは1万2000の兵、ミスリラントは8万の兵、我々セレスティアとフィールウッドは6万の兵が居り、敵の戦力は量と質が揃った厄介な者達だ。

 しかしそれぞれの国には切り札の兵団がそれぞれある筈。

 それ等を基にして連合軍を編成すれば魔族達と戦えるか…?」

 

「やれる事はやる、それだけでしょう」

 

 そうして兵力の話に移り、魔族が何れ程の戦力を持つか分からなくランパルドは慎重に考え出しているとロックがやれる事全てをやると至極当然の事を口にし、リリアナも含めた全員が頷いていた。

 

「次に地上界が守るべき対象についてです。

 地上界には楔の泉と呼ばれる魔王を地上界に降臨させぬ様に門の機能を制限する泉があります。

 それを発見し守る事は重要事項です。

 幸いフィールウッドは1箇所を既に発見し万全な守りを固めています。

 残る2箇所を発見して守り切れば魔王を地上界に来させなく出来ます」

 

 次にリリアナは楔の泉の事を共有し始め、正確な場所を伏せつつフィールウッドが既に1箇所確保済みだと話し、ランパルド達も手元の資料から楔の泉の重要性を理解し、内偵等を使い意地でも発見せねばならないと判断し始め唸り声を上げていた。

 

「一応ミスリラントは隅々まで探したがそれらしいもんは無かったぞ。

 てか荒地にそんな大それた泉があってたまるか」

 

「ヒノモトの探しとうはしたが、矢張り見つからぬ故、残るはセレスティア…そしてグランヴァニアでは無いかと妾は踏んで居るぞ」

 

 その楔の泉をゴッフはセレスティアに来るまでに探したが見つからず、サツキも国内を隅々まで探したが矢張り見つからず残るはセレスティアとグランヴァニアにしか無いと発言し、もしもグランヴァニアなどに有れば話がややこしくなる一方の為、そうで無い事をランパルドやロマン達は祈るばかりであった。

 

「次に魔族のレベルについてだな。

 奴等は500年前と比べ物にならない奴等をこっちに仕向けやがった。

 其処は理解しているな?」

 

「うむ、レベル350のアザフィールに450のシエル…280のアギラ。

 確かに500年前からの資料からは想像も付かないレベルだが…それでも我々は戦わねばならない、魔族の好きにさせぬ為にも」

 

 次にゴッフがアザフィールやシエルの話に移り、前代未聞のレベルに全員の空気が重くなるがそれでもと戦う意志を放棄しなかった。

 これも全ては地上界を守る為、その意地から来る物であった。

 

「では妾から、この手元の資料にある聖戦の儀とは一体何なのじゃ? 

 天界、我等が神と天使が取り決めた魔界と地上界の戦いの法と書かれておるが真か?」

 

「はい、我が娘エミルが天使アイリスと接触した際に刻まれた知識です。

 更に魔界側はルール違反を幾つも犯し、しかし天界が未だ傍観していると書かれてるのも娘が事細かに資料作成しました」

 

 残る議題が僅かになり、サツキは聖戦の儀についてランパルドに問いただすと、昨日のエミルがアルク達に話した内容が全て其処に書かれており、天界の助けは期待不可と書かれておりロックやゴッフは天界の傍観振りに握り拳を作り、リリアナは怒りから左腕を強く握ってしまっていた。

 

「…では最後に魔族が地上界の者に化けて潜伏しているとありますが、これも事実で?」

 

「はい、正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)のムリア氏がその魔族の1人であり、彼は此方側に手を貸す正義の者です。

 これは情報提供やエミルやネイル殿からの証言から間違い無いです」

 

 最後に魔族が地上界の者に化けている議題に入りそれは事実であるとランパルドは答えつつムリアは正義を成す者と説明し彼の名誉を守る発言をしていた。

 そして議題が出揃い、今後の課題についてランパルドが口を開く。

 

「では今後の課題として地上界に潜伏する魔族の見分け方について、これは念話傍受魔法(インターセプション)やムリア殿の目、更にエミルが創ってる途中の魔法が完成次第炙り出しをする。

 更に我々地上界の限界レベルはアレスター殿が遺した修行法、試練の問いを乗り越える事で突破し、更には21万2000の兵とエミル達試練を超えた者達で聖戦の儀を乗り越える、これで構いませんな?」

 

『異議無し』

 

 そうして出された課題はエミルの創った魔法による魔族の炙り出し、試練の問いを超える事、目下に迫る戦争については総力21万2000の連合軍の兵力で乗り切ると決まり、全員が異議無しと答え4国会議は幕を閉じようとしていた。

 

「よし、では4国会議の終了を此処に」

 

【ギュァァァァァァッ‼︎】

 

「っ、何じゃ⁉︎」

 

 ランパルドが会議の終了宣言を行おうとした…次の瞬間、水晶石が赤く輝き、何らかの映像が映り始め全員が困惑し始める。

 更にロマンがふと外を見ると、外の水晶石も同じ反応を示し、全員何が起きているのか慌ただしくなる。

 すると、黒い玉座に座る肌色の悪い人間の男が座る映像が映り始めた。

 

『魔族に歯向かう愚かな者達へ、初めまして。

 私はグランヴァニア帝国皇帝『ドゥナパルド4世』と申す。

 突然の全国家の水晶石掌握と言う非礼については謝罪したい…が、何故そうしたか理由も聞いて頂きたい』

 

 すると肌色の悪い男は自らをグランヴァニア帝国皇帝ドゥナパルド4世と名乗り、4国の水晶石を全て掌握したと話し、更にその理由を語ろうとしていた。

 その時映像に額に魔血晶(デモンズクリスタル)を付けた魔族が現れ、ドゥナパルド4世の横に立った。

 

『我々が水晶石を掌握した理由…それは、此方に御座す魔王様の幹部が1人、アギラ様と共にこの地上界全てを明け渡し、未来永劫続く恒久和平を結ぶ為である‼︎』

 

『何だと⁉︎』

 

 ドゥナパルド4世は水晶石を掌握した理由を語り始め、その理由はランパルド達正常な感性の持ち主に理解し難い地上界の全てを其処に映るアギラや魔王に開け渡し恒久和平と言う身勝手な降伏宣言を行うと言う物であった。

 

『ふっ、ふふふふ』

 

「あの野郎がアギラか…成る程、腐った性根がそのまま面に出てやがるぜ…‼︎」

 

『………』

 

 そうして青髪の長髪の魔族、ナルシストな一面や腐った性根を一切隠さない男、アギラに対しアルは辛辣に語る中他の全員は事の成り行きを見守りつつアギラに不快感を示すのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
メインイベント、グランヴァニアの魔族への降伏イベント発生。
これがどんな事態を招くか次回に。
さて、転送魔法(トランサーマジック)転移魔法(ディメンションマジック)の違いについてら。
転送の方は物しか転送出来ませんが決まった場所に送れます。
転移は見える範囲なり安全に生物も物も送れますが壁の中に居るが発生したしまう場合があるためたあ


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第25話『アギラ、動く』

皆様こんにちはです、第25話目更新でございます。
今回はアギラと言う魔族が如何に残忍で冷酷な卑劣漢か判る様に描写しました。
そして此処からアギラ派との戦いに本格的に移って行きます。
では、本編へどうぞ。


 全国家の水晶石がジャックされ、グランヴァニアの玉座が映る中でドゥナパルド4世の演説と呼ぶ事も出来ない降伏宣言の後、更に言葉が続く。

 

『我々地上界は本来なら500年前の時点で魔王様の支配を受け、その中で1つの思想の下で平和を享受すべきだった。

 だが愚かにも抵抗し、門を封印した愚者の為にその平和が訪れる事は』

 

「巫山戯るな、ロアやライラが命懸けで齎した平和を無意味だと言うな、魔族信奉者が‼︎」

 

 ドゥナパルド4世は500年前の戦いの時点で地上界は魔界の支配を受けるべきだったと主張し、それを聞いたロックは普段の温厚な性格からは考えられ無い程の憤慨をし、円卓を叩きながらドゥナパルド4世を睨み付けていた。

 そしてそれはロックだけで無く、ゴッフやリリアナも逆鱗に触れられ同様に怒りを抑えなかった。

 

『そして、我々は考えた結果今日この日に地上界を明け渡す草案と共に降伏をし、真の平和を勝ち取ると決めた!』

 

【パチパチパチパチパチパチパチパチ‼︎】

 

 更に続く降伏演説の中でドゥナパルド4世はその手に草案となる所管を手に持ち、玉座から立ち上がりアギラの前まで歩き、彼に跪きしながら書簡と王冠を手渡すと周りの臣下から拍手が湧き上がり完全にアギラをグランヴァニアの新たな王にする事を受け入れていた。

 

『ありがとうグランヴァニアの諸君。

 君達の物分かりの良さに私も心打たれ、真の平和の為に君達を導きたいと思ったよ』

 

【パチパチパチパチパチパチ‼︎】

 

 次にアギラが玉座に座り、グランヴァニア帝国の魔族信奉者達に対し大振りな仕草で喜びを演出し、それ等を見た臣下は再び拍手喝采をアギラに向けて浴びせた。

 

『ではこの草案はしっかりと読ませて貰うと同時に、前皇帝を含め私からある命令をしたい。

 さあドゥナパルド4世、此方へ来たまえ』

 

『はい、新皇帝陛下』

 

 するとアギラは草案を読みながらその場に居るドゥナパルド4世含む臣下達に命令を下したいと話し、彼を自身の前まで呼び寄せた。

 ランパルド達はこの者達を使い何か…と言っても考えられるのは1つ、他の4国家の侵略をするのだろうと考えていた。

 但しロック達誓いの剣(オースブレード)は違う可能性も考慮していた。

 

『では君達に最初の命令を下そう、良く聞きたまえ』

 

『はっ‼︎』

 

 ドゥナパルド4世は玉座の前に再び跪き、アギラが下す最初の命令を聞こうと待っていた。

 そしてアギラは彼に手を差し伸べて立ち上がらせ、ドゥナパルド4世や臣下達はどんな命令が来るのかを心待ちにしていた。

 それが地上界侵略に加担する事でも喜んで受けただろう………そう、『そんな程度』の命令ならば。

 

【グサッ、ズシュ‼︎】

 

『………えっ………アギ、ラ…様………』

 

【プシャッ‼︎

 ドサッ‼︎】

 

 次の瞬間アギラは残忍な笑みを浮かべながらドゥナパルド4世の胸に手を突き刺し、そして脈打つ心臓を抉り抜き握り潰した。

 ドゥナパルド4世は突然の出来事に理解が追い付かないまま倒れ、鮮血が床を汚し始める。

 そしてアギラはその場に居る地上界の臣下達に『最初で最後の命令』を下す。

 

『──貴様達地上界の者共一切鏖殺されるべし。

 くくく、くはははははは‼︎』

 

『きゃぁぁぁぁ‼︎

 ぐあぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

 一切鏖殺、即ち皆殺しを命じた瞬間魔族達が転移し始め、王宮は血の雨が降り首を斬り落とし、槍を投げ複数人を刺し貫く等の惨殺が行われる処刑場と化した。

 それをアギラは再び玉座に座りながら笑みを零しながら未だジャックされている水晶石から言葉を発する。

 

『図に乗るな、家畜以下の地上界の塵芥共。

 貴様達が我々と対等のテーブルに立てると思ったか? 

 笑わせる、何処までも愚かだ‼︎

 だがグランヴァニアは自ら降伏し国を明け渡した、それに免じて1番初めに皆殺しにしてやると決めていたよ! 

 …さて、これを見ている地上界の者共よ。

 次は貴様達の番だ、手始めにセレスティア王国に集まった王共と国民を処刑しようでは無いか‼︎

 あっはははははは‼︎』

 

【ビュンッ‼︎】

 

 アギラはその根底にある思想、地上界の者は全て家畜以下であり全て鏖殺されるべき物としか見ていない事を語りながら自ら降伏したグランヴァニアを真っ先に皆殺しに掛かる残忍性を見せ付けた。

 ロック達は考えられた最悪のパターンが来た事で魔族アギラの危険性を確認すると、そのアギラは次は4国会議中の王達や国民の処刑を宣言し、その瞬間水晶石の映像が消える。

 

【ドンッ‼︎

 バリィィンッ‼︎】

 

「あっはっはっはっはっは‼︎

 死ねえ、地上界の塵芥共ォ‼︎」

 

 更にその次にはドアを蹴破りセレスティアの兵士…しかし額に魔血晶(デモンズクリスタル)が付いた地上界の者に化けた魔族と、窓ガラスを破り他の魔族達も突入し四方八方から魔族がランパルド達に襲い掛かろうとする…が、此処でゴッフが素早く円卓の上に立ち、斧を持ち宙から突撃して来た魔族達に愛用のオリハルコンアックスを振り回す。

 

「ずぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ‼︎」

 

【ブゥゥンッ、ズガァァァァァ‼︎】

 

 そして窓から突撃して来た魔族全てを一振り斧を振り回して全員斬り巻き込みながら壁に叩き付け、其処にロックの矢が連射され壁に叩き付けられた魔族の魔血晶(デモンズクリスタル)を正確に射抜き、最後にリリアナが極氷結(コキュートス)でその魔族達を刹那の間に氷の檻に閉じ込め、残るはドアから突入して来た魔族達だけになった。

 

「はぁぁ、暴風剣、瀑水剣‼︎」

 

 先ずルルが突撃して二重魔法祝印(ダブルエンチャント)が掛かったミスリルダガー2本で回転斬りを行いながら風と水の上位絶技をつかい。

 

『爆炎剣‼︎』

 

 其処にロマン、アルク、カルロが火の上位絶技により魔族達の鎧を溶かしながら斬り付け。

 

極氷結(コキュートス)‼︎」

 

 其処にキャシーがリリアナと同様に極氷結(コキュートス)を放ち、ドアから来た魔族達も全て凍結させ、2つの氷の塊が会議室の場に誕生し、魔族達はこの時点で既に絶命していた。

 

「おらぁ、砕けやがれ‼︎」

 

 最後にアルがミスリルアックスを叩き付け、氷の彫刻と化した魔族達を粉々に砕き、その影響で氷の中で青い炎が燃えて魔族の完全絶命を全員は確認していた。

 

「はっ、ゴッフ(ジジイ)達もまだまだ衰えて無いみてぇだな! 

 俺様も惚れ惚れする斧捌きだぜ‼︎」

 

「ふん、まだまだ若造共には負けてられんわ‼︎」

 

 そうして第1波はゴッフ達やロマン達の手により殲滅され、アルは自らの師達は腕を衰えておらずその斧や弓捌き、そして魔法の強烈さを見せ付けられ、ゴッフ達もアル達にレベルは抜かれたがそんな事を全然感じさせない腕を見せ付けた事で若者達にまだ道を譲る気は無い事をその武器や魔法の冴えで伝えていた。

 

「気を付けて下さい、魔族達はまだまだ此処に来て陛下達を狙ってます‼︎」

 

「…私も感じる、来るよ、魔族の悪意が‼︎」

 

 其処にキャシーが念話傍受魔法(インターセプション)を使い魔族達がランパルド達の首を未だ狙っている事を告げると、ルルの予知が魔族の悪意を感知し、次の瞬間第2波が突入して真っ先にランパルドとサツキを狙う。

 

「甘いわ、大熱砲(フレアブラスト)‼︎」

 

【ドォォォン‼︎】

 

「ぐぇ、ランパルドの奴の魔法も強」

 

【ザンッ、スゥゥゥゥゥ、キンッ‼︎】

 

 ランパルドは第2波の魔族達全てに大熱砲(フレアブラスト)を当て、足止め…但し足止めには過剰な威力を当てて魔族達がその魔法の力に驚愕していた瞬間、サツキがいつの間にか懐に下げていた刀を抜刀しており、そして第2波の魔族達全ての首を断ち、刀を鞘に収めた瞬間魔族達の首が地面に落ちその身体は青い炎に包まれるのであった。

 

「ふん、このランパルドも魔法使いの1人、舐めて掛かるで無いわ‼︎」

 

「ふう、妾を熱くさせる敵と思いきや唯の雑兵風情…こんな物で妾の首を狙うとはアギラとやらはお粗末のよう」

 

 ランパルドもサツキも敵が自分達の首を狙うことに恐怖はせず、何方も魔法や抜刀術で第2波を瞬きの間に全滅させ、彼等もまた守られてばかりのお飾りの王達では無い事をロマン達に見せ付けていた。

 

「報告、城内各所、及び中央都市全域で魔族との戦闘が発生‼︎

 現在レオナ王女殿下、及びエミル王女殿下達やマークス殿を中心に魔族を迎撃中‼︎

 また魔族が入隊した兵士に化けてる者も居り、エミル王女殿下やムリア殿達の活躍で未だ大丈夫ですが、指揮系統にも混乱が生じております‼︎」

 

 するとセレスティアの親衛隊の1人が青い返り血を浴びながら部屋に突入しながら跪き、現在の状況を詳しく説明し始めた。

 ロマンやアルク達はレオナやエミル達のお陰で化けた魔族を見破り何とかなっていると報告を受けた為、そちらは安心しつつ中央都市全域の戦闘に関してはカバーしなければ拙いと考えていた。

 

「報告ご苦労‼︎

 では若者達よ、我等王は此処に留まりこの首を狙う魔族達を迎撃する‼︎

 

 君達は城内やライラック全域へと駆け抜け、魔族達を殲滅せよ‼︎」

 

『はっ‼︎』

 

 するとランパルドも同じ事を考えたのか、王達を1箇所、しかも襲撃し放題の会議室に留まりロマン達や息子や臣下の兵には城内やライラック全域をカバーする様に命令し、ロマン達もこの場に居る王達ならば安心だと思い命令に従い城内を駆け抜け始めた。

 

「さあ各々方、我々地上界の国の王と予言者の力、奴等に見せ付けてやりましょうぞ‼︎」

 

「さあ来いや魔族共、テメェ等の獲物は此処に居るぜ‼︎」

 

 そしてロマン達を見送ったランパルドはロック達全員に各々の力を魔族達に見せ付けんと鼓舞を始め、それに真っ先にゴッフが反応して獲物は此処だと叫び自らが呼び水となりて魔族達を誘う。

 

「魔族達の悪意、来ます‼︎」

 

 そしてリリアナも危険予知が入り、魔族の悪意が迫る事を告げ臨戦態勢に入る。

 こうして王や予言者は再び来た第3波を自らの手で迎撃して行き、中にはレベル250の魔族さえ居たがその悉くをレベルに関係無く打ち斃して行き、自身等を撒き餌にした迎撃は上手く行くのであった。

 

 

 

灼熱雨(マグマレイン)‼︎」

 

大水流(タイダルウェイブ)‼︎」

 

極光破(ビッグバン)‼︎」

 

 一方城壁付近ではレオナ、シャラ、エミルの最上級魔法で魔族達は文字通り塵一つ残さず消え去り、セレスティア王国騎士団の魔法使い達も上級魔法で足止めをし、前衛が止めを刺す戦法を取っていた。

 なお騎士団の武具にはレオナの魔法祝印(エンチャント)IVが掛けられており、此方側の武具が一方的に破壊される事態を防いでいた。

 

「卑劣なる魔族達よ、我等が正義の刃を受けよ‼︎

 光流波ァ‼︎」

 

「正義の槍もついでに受けな、爆炎槍‼︎」

 

「えい、暴風弓‼︎」

 

 更に正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)のネイルとガムの剣と槍が魔族の鎧を砕き貫き、サラの放つ矢もまた一撃必殺の威力となり魔血晶(デモンズクリスタル)を砕きながら宙を舞う魔族達を撃ち落として行く。

 

「き、貴様⁉︎

 貴様はあのネイルを殺す様にとアギラ様から命じられた筈だ⁉︎

 なのに何故」

 

「俺の心は、正義はな〜‼︎

 ネイルの兄貴達と一緒にあるんだ〜‼︎

 震撃斧〜‼︎」

 

 更に魂の色を視る為魔族の変身魔法(メタモルフォーゼ)Iが通じないムリアが何故かネイルやエミル達の味方をするのを理解出来ない魔族達は武器を振るいながらも驚愕し、そのムリアも土の上位絶技を使用しながら正義の心はネイル達と共にあると叫び、敵魔族を次々と力任せに両断して行く。

 

「我が名はセレスティア王国親衛隊隊長マークス‼︎

 我が槍によりその悪意、祓わせて貰う‼︎

 暴風槍‼︎」

 

『グァァァァァァァァ‼︎』

 

 更にマークスが名乗りを上げながらその槍を以て魔族達を刺し貫き、此処に集う者達の中でもネイル達と同格だと見せ付け更にガムと背中合わせで槍を振るい、魔族の命を絶つ。

 その他親衛隊も王族達を守る為の力を奮い立たせ、魔族を蹴散らして行く。

 

「危ない、やぁ‼︎」

 

 するとネイルは遠くに居た王国騎士団の魔法使いを助けるべく持っていた剣を回転を付けながら投げ、それが直撃した魔族は両断され青い炎に包まれ灰になる。

 するとネイルを狙い敵が押し寄せるが、それをネイルは副武装たる槍を振るい全ての魔族を迎撃し、それらをマークス達に劣らぬ技捌きで撃破して行く。

 

「悪は滅ぶべし‼︎」

 

『ガバッ⁉︎』

 

 そうしてネイルを此処ぞとばかりに狙った魔族達は青い炎に包まれ、魔血晶(デモンズクリスタル)も砕かれながら死を迎えそれ等魔族達をネイルは悪と断じ、滅ぶべしと最期の言葉を投げ掛け彼等の正義が自らの悪逆を上回ってしまっていた事を悟らせるのだった。

 

「ネイルさん‼︎」

 

【ビュンッ、ガシッ‼︎】

 

「ロマン君にアルク殿達、城内の状況はどうなってるか!」

 

 すると城壁にロマンが現れ、ネイルの剣を投げて返却し、それを受け取ると中からアルやカルロ達まで現れた事で一旦城内の様子を彼等に問い質し始める。

 

「城の中の魔族達は化けてる奴等も含めて何とか倒した‼︎

 不意打ちだらけで休まる暇が無かったがな‼︎

 今は城壁周りの敵を迎撃し切ったから次は街の敵を殲滅に向かう‼︎」

 

 するとカルロが城内の敵は一掃仕切り、更に城壁周りの敵も撃破した事で残るは街で暴れ回る魔族達を迎撃すると叫び、すると兵士が城門を開き街に駆け込む準備を整える。

 

「うん、なら私達誓いの翼(オースウイングズ)は西から南に掛けての防衛をするわ‼︎

 ネイルさん達は北から東までをお願い‼︎」

 

「了解した‼︎

 キャシー、シャラ、転移して無辜なる民を救うぞ‼︎」

 

「王国騎士団も続け、我等が守るべき民達を守れ‼︎」

 

 そうしてカルロの話を聞いたエミル達誓いの翼(オースウイングズ)が西から南を、正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)が北から東をかけて防衛戦を開始し、それぞれが転移し現場に向かう。

 更にアルクとカルロが馬に乗った騎士団達を率いて街に進撃し、罪無き民を狙う悪意の塊を倒しに向かい始めた。

 そしてエミル達は転移した先では女も老人も子供も関係無く殺されている残酷な光景が目に映る。

 

「ひ、酷いよ…こんな…‼︎」

 

「くっ…魔族共が‼︎」

 

「おっ、へっへっへ、誓いの翼(オースウイングズ)とか言う正義の味方面の馬鹿共が来たぜ‼︎

 俺の名は『ケミル』、この名は覚えなくて良いぜ、何せお前等は死ぬんだからなぁ‼︎

 野郎共やっちまえ‼︎」

 

 更に転移した先で、その光景にサラやロマンが悲しみ、アルとルル、エミルが怒りを溜め込んでいると名あり魔族のケミルが大勢の魔族を引き連れ、エミル達に襲い掛かり始めた。

 そしてエミル達はこれを為した魔族達に怒りを爆発させ眼前の敵を迎撃し始めた。

 

「テメェ等卑怯な魔族に血も涙も無ぇ事は分かった、なら俺様達も全力でぶっ潰してやる‼︎

『爆震斧』‼︎」

 

「許さない、お前達みたいな卑劣な奴は僕達が斃す‼︎

『暴焔剣』‼︎」

 

 真っ先に飛び出したアルとロマンは早速複合属性絶技を使用し、数だけは達者な魔族達を一気に屠り始め溜め込んだ怒りを爆発させていた。

 その戦い振りは正しき怒りを振るう正義の化身であった。

 

「げぇ複合属性絶技⁉︎

 し、しかもこいつ等、レベルが250を超えてます‼︎

 ケ、ケミル様如何しましょう⁉︎」

 

「落ち着け、物量で押し切れば」

 

『『雷光破(サンダーバースト)』‼︎』

 

 アルとロマンの複合属性絶技を見た名無し魔族は一気に震え上がり、この中で唯一の名ありであるケミルに如何すれば良いかと慌て始める。

 しかしケミルは至極当然の物量で押し切る命令を下す…その瞬間ロマン、ルル、そしてエミルの光と雷の複合属性魔法によりその場に居た名無し魔族の6割が魔血晶(デモンズクリスタル)毎消し炭になり、物量の差が一気に消え始めていた。

 

「ま、拙い、陣形を整え」

 

「『嵐瀑弓』‼︎

『氷黒弓』‼︎」

 

 更に陣形を整え反撃に出ようとした瞬間サラの複合属性絶技の矢が魔族達を貫き凍結させ、更に其処にロマン達前衛の攻撃により闇の氷は砕け、中の魔族達は一気に絶命し青い炎に包まれ始めた。

 

「クソ、役立たず共が‼︎

 こうなれば俺が自ら貴様等を殺してくれる‼︎

 はぁぁぁぁ‼︎」

 

「やぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 それ等を見て業を煮やしたケミルは背中に背負う兎に角サイズが背丈より大きな両刃の大剣を片手で振るい、それをロマンが大きさが半分にも満たない普通の剣で打ち合う。

 それに対しケミルは余裕を見せ、魔界の魔法祝印(エンチャント)もある為例えミスリルソードでも簡単に圧し折る事が出来る。

 そう高を括っていた。

 

「くうぅ、やぁ‼︎」

 

「はっ、地上界の武器など我々魔族の武器の前では所詮無力よ‼︎」

 

「俺様の作った武具、そしてエミルが付与した魔法祝印(エンチャント)‼︎

 最高の武具に最高の魔法祝印(エンチャント)が加われば如何なるかその目で確かめやがれ高飛車野郎‼︎」

 

 ロマンが何度も剣や盾で打ち合い、それを見たケミルは完全に自身の戦に持ち込んだと意気揚々に大剣を乱暴に振るうが其処にアルやルルも割り込み、アルは自身の作り上げた武具に自信が認めたエミルの魔法祝印(エンチャント)が加わったら如何なるかを思い知らせるべくミスリルアックスを力を込め振るう。

 

「はっはっは、地上界の者如きが我等魔族に何を言おうが何も響かんわ‼︎」

 

「呆れた奴、周りの状況も見れないなんて指揮官失格よ‼︎」

 

 そのアルを嘲笑うケミルに対しルルは周りの状況も見えない事を指摘すると、ケミルは何時の間にか部下達が全て倒され、更にカルロ率いる騎士団にも囲まれて最早詰みに近い状況下に陥っていた。

 

「其処の魔族‼︎

 この地区に残ったのは貴様のみだ‼︎

 降伏するなら」

 

「降伏ぅ? 

 それをやるのは…お前達だぁ‼︎」

 

「この、大馬鹿‼︎」

 

 カルロは最後通告をケミルに叫ぶが、それをケミルは無視し再びロマン達に襲い掛かり始めた。

 それをロマンは大馬鹿と叫びながら再び剣同士で打ち合い始める。

 するとケミルは未だ気付かない変化が戦場に起きる。

 それはケミルの魔界の魔法祝印(エンチャント)付きのミスリル製大剣に起きていた。

 

「今だ、やぁぁぁ‼︎

 爆震剣‼︎」

 

 それを目撃したロマンは複合属性絶技を纏った剣で鍔迫り合い始めると、ケミルの大剣に明確なヒビが入り始める。

 そしてそのヒビから一気に大剣はロマンの小さな、二重魔法祝印(ダブルエンチャント)が付与された剣に圧し折られ、振り返した瞬間両腕も両断されてしまう。

 

「ギャァァァァ、俺の腕ぇぇ⁉︎

 うわぁぁ、逃げ」

 

「逃がさない‼︎

 喰らいなさい、『瀑風流(タイダルストーム)』‼︎」

 

「『雷光弓』‼︎」

 

 其処にエミルとサラが追撃に魔法と矢、しかも何方も複合属性で攻撃し、剣を折られ腕が切られたショックで宙に逃げようとしたケミルを撃ち落とす。

 そしてその眼下には既にロマン達が立っており、ジャンプし武器を構えた。

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

 そして3人はそれぞれの武器でケミルを空中ですれ違い様に斬り裂き、その命と魔血晶(デモンズクリスタル)は砕かれケミルは最期に何も言えぬまま青き炎に包まれ地面に叩き落とされる。

 それから着地したロマン達は周りに敵が居ないかを確認し始め、その様子からこの地区の魔族は居ないと判断していた。

 

「…念話傍受魔法(インターセプション)にもアギラを助けを求める声はネイルさん達の方にしか聞こえない! 

 カルロお兄様、兵達と共に生存者捜索を‼︎」

 

「分かっている、全員生存者を見つけエミル達の下へ連れて行くか生存者の下に来させろ‼︎

 傷の手当てを回復魔法(ライフマジック)でさせて避難させるぞ‼︎

 良いか、1人でも多く民達を救い出せ‼︎」

 

 担当地区の戦闘が終わった直後にエミルはカルロに生存者を探す様叫び、カルロ自身も兵士達と共に逃げ遅れた生存者を探し始め1人でも多く救おうと奔走し始めた。

 アレスターの時にされた救える命を自らの命を賭して救うを行う為に。

 そして見つかった重症者達もエミル達の回復魔法(ライフマジック)で一命を取り留めた者が多く居た………だが、それでも救えなかった命はあるのであった…。

 

 

 

『悪よ、消えて無くなれぇ‼︎』

 

「我等騎士団の力を受けよ、魔族共‼︎」

 

『ギャァァァァ‼︎』

 

 一方北から東を担当したネイル達も名あり魔族やその他魔族軍団をアルクにレオナ、マークス達親衛隊と騎士団撃破し、戦闘を無事に終わらせる事に成功する。

 

「よし、マークスに親衛隊、そして騎士団の皆は逃げ遅れた生存者を探し出せ‼︎

 レオナ、回復魔法(ライフマジック)の用意を‼︎

 ネイル殿達も手伝ってくれ‼︎」

 

「無論です、か弱き民達を救うのは我々力ある者の使命! 

 皆、共に探し出しムリアとシャラ、キャシーは回復魔法(ライフマジック)で救える命を出来る限り救い出すぞ‼︎」

 

『了解‼︎』

 

 アルクも戦闘が終わった直後に逃げ遅れた民達を救うべく瓦礫の下や建物の陰等を探し始め、ネイル達も同様に探し始め此方はムリアの魂の色を視る眼が大いに役立ち弱り掛かってる民達から次々と回復させ、避難させて行く。

 しかし、此方も救えぬ命は如何足掻こうとも出てしまい、ネイル達はその無情なる現実を受け止め、この無念を怒りに変え次なる戦いに力を蓄えるのだった。

 

 

 

 一方その頃血濡れのグランヴァニアの宮殿跡の地上界の者達の亡骸が積み上げられ、それを玉座から眺めながらアギラはセレスティア、更に裏で他3国にも地上界の者に化けた魔族で同時に不意打ち攻撃を仕掛けていた。

 が、セレスティア王国同様何の戦線も戦績が芳しく無く、更には念話を傍受されていた節があると報告を受けアギラはシエルとダイズを呼び出しそれ等やエミル達がレベル260を突破している事を苛立ちながら問い質していた。

 

「如何言う事だシエル、ダイズ? 

 念話が傍受されている等私は聞いていないんだが? 

 それにシエル、貴様あのライラの転生体共が『試練の問い』を突破してレベル250の壁を超えてるじゃないか‼︎

 納得の行く答えを出すんだろうな⁉︎」

 

「存外、地上界の者達の精神は簡単には折れなかったらしいな。

 しかも『何処か』で試練の問いさえも知ってしまった。

 こればかりは私の情報リサーチが甘かった様だ、済まなかったなアギラ」

 

 アギラは特にシエルを捲し立て、折れた筈のエミル達が何故試練の問いを知りそれを突破したのかを問うが対するシエルは平謝りばかりしかせずまともに取り合おうとしていなかった。

 その態度に遂にアギラの堪忍袋の尾が切れ玉座から立ち上がりシエルに対し剣を抜いていた。

 

「リサーチ不足だと、巫山戯るなこの魔剣に選ばれただけの女が‼︎

 貴様は奴等が試練の問いを超える可能性を見出しながら見過ごしたのだ‼︎

 その罪、魔王様の名の下に断罪してくれるわ‼︎」

 

「…ほう、私に剣を向けるかアギラ? 

 なら良いだろう、貴様がその気ならば私にも考えがあるぞ…」

 

 アギラは剣を向け距離を一定に保ちながらシエルが行った事への自身の予想を立てつつ敬愛する魔王の名の下に断罪するとまで宣告する。

 その瞬間シエルの目も座り、懐に携えた魔剣…では無く、オリハルコンソードを引き抜き型の無い脱力と何処から攻撃が来ても対処可能な構えとも呼べない無型の剣術の態勢を取り、アギラに対し殺気を放ち来るなら来いと言わんばかりに1歩ずつ近付いた。

 

「其処までにしろアギラ、シエル。

 今は何の戦線も戦績が良く無いならいっその事グランヴァニアまで兵を下げ、奴等をこの地で迎え撃つ選択も視野に入れたら如何なんだ? 

 特にアギラ、お前には未だ策があるんだろう、しかも貴様的に『取って置き』の物が」

 

 すると2人の間にダイズが割り込み、2人の剣を素手で持ち現在の戦況から決戦の舞台をグランヴァニアにし、其処でアギラが取って置きの策を使う様にダイズは言い回す。

 するとアギラは一旦怒りを鎮めて剣を収めながら2人を見渡した。

 

「…ええ、ありますとも。

 取って置きの、地上界の者達が如何足掻こうが乗るしか出来ない私好みの策が、ね。

 良いでしょうシエル、今回の件は無かった事にし互いに水に流し合いましょう。

 ですが次の戦いでは貴女方の戦力も借りたい、魔物でも良いから寄越しなさいな」

 

 アギラは取って置きの策が地上界の者では如何足掻いても乗るしか出来ない事を豪語しながら笑みを浮かべ、それが決まった際の快感を想像しながらシエルに今回の件は水に流すと告げる。

 但し無条件では無く2人に戦力寄越す様に要求すると、2人は考え始めそれを纏めると口を再び開く。

 

「…なら私からは『オーバーロードドラゴン』を3体くれてやる。

 地上界換算で討伐推奨レベルは380、絶好のタイミングで使うが良い」

 

「俺からは副官にして貴様が絶縁した妹の『アリア』をくれてやる。

 アリアからの忠告は素直に聞けよ? 

 でなければお前は勝てる物も勝てないからな」

 

 そうしてシエルからは地上界には未だ出現例が無いドラゴンの最上位種『オーバーロードドラゴン』を3体と言うアギラも唸る魔物を寄越すと言い、ダイズからはアギラの妹とは信じられない程性格が真逆であり、実力も軍略もアギラを一方的に追い抜き彼から嫉妬から絶縁を叩き付けたダイズの副官アリアを寄越すと宣言される。

 但し忠告は素直に聞く様にと釘を刺しながらである。

 

「アリア………あの小生意気な愚妹か。

 ふん、無いよりかマシか。

 良いだろう、私もそれで取り敢えずは満足しよう。

 さて、奴等を迎え入れ後は…くふふふ…」

 

 アギラはアリアの名を聞いた途端に不機嫌になるが、自身の策が綺麗に決まる事を夢に見ながら玉座に座り、積み上げた亡骸にダーツ投げをしながらその時を待ち、2人はそれを見た後に転移し別の場所…門の前まで来ていた。

 

「ふん、アギラの奴め悪趣味な事を嬉々としてやるその神経が知れん。

 如何してあんな奴の妹のアリアが有能で経済、政治から支配した方が効率が良いと進言出来るのに奴はあんな…」

 

「自分の趣味と楔の泉破壊を同時にやろうとする結果だろう。

 さて、それぞれ手配した戦力を奴に手渡しに1度魔界に戻るぞ。

 …次の戦いかその次で奴の限界を知れる良い機会だからな…」

 

 ダイズはアギラとアリア、2人の兄妹で何故能力や性格に差が生まれたのか不思議がり、シエルはアギラの性格から趣味を満たすのと楔の泉破壊を同時にやろうとする内心愚かと思う結果の為と分析しながら門を潜ろうとしていた。

 そして…シエルはアギラの底が知れるとも口にしながら、敢えて戦力を回してその結末を静かに想像するのだった。




此処までの閲覧ありがとうございます。
今回でアギラと言う魔族の本性が分かったかと思います。
そしてこの残忍な魔族にエミル達や地上界の4国は立ち向かい、勝利を掴めるかお楽しみに下さいませ。
因みにケミルの由来は『ケミカル』からです。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第26話『4国連合、グランヴァニアへ征く』

皆様お久し振りです、第26話目を更新しました。
今回は魔族、アギラ派との戦争準備に入る回になります。
では、本編へどうぞ。


 魔族襲撃から1夜が明け、4国で魔族に殺された民達の国葬が執り行われ、エミル達はセレスティアで参加し、雨が降り頻る中喪服を着用し黙祷を捧げていた。

 

「何で、何であの子が死ななきゃいけなかったの⁉︎

 未だ5歳だったのに…あぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「くっ、爺様…‼︎」

 

「兄上ぇぇぇぇぇ‼︎」

 

 国民の中に犠牲になった者の遺族達も居り、理不尽な死による永遠の別れに涙を流し今にも精神が壊れそうな程に叫んでいた。

 その間にエミル達は静かに拳を握り締め、今日執り行われる第2回4国会議、それも現在も虐殺が執り行われているであろうグランヴァニアについての話し合いにエミル達も参加する予定であった。

 

「…何時の世も、こんな理不尽が変わらず、そして天界ではこれを聖戦と呼ぶ…これの何処が…‼︎」

 

「エミル…僕もそれは思ってるよ。

 それに、こんな虐殺が起きてるのに未だ天界は動かない…本当に理不尽だよね、こんなの…‼︎」

 

 その中でエミルとロマンはこんな物が聖戦であるわけが無いと感じ、また天界が未だ動かぬ事も含め全てが理不尽だと感じ天を見ながらこの様な法を定めた神を初めて、2人は悪感情を抱くのであった。

 

 

 

 それから数時間後の昼、円卓会議室から大客部屋へと会議の場が移りエミル達誓いの翼(オースウイングズ)、ネイル達正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)、そしてアルク達王子王女一同や親衛隊長マークス等も参加し大所帯になりながら会議が始まった。

 

「では先ず各国の被害状況について。

 セレスティアは…見ての通り特に我々が狙われた為美しきライラックの街並みが見る影も無く、国民も兵士と合わせて2000以上の犠牲者が出た」

 

「他は…犠牲は押さえられなかったが、王が居ない事から激しい攻撃はされず合計数百の死傷者が出た。

 500年前の戦争と違って前準備が整ってたとは言えコレだ、敵魔族共の恐ろしさが伝わるぜ」

 

 先ず被害報告から始まり、各国から書簡で送られた兵や民達の被害はセレスティアが狙われただけあって1番多く、かと言って他国が被害0だった訳も無く全員が全員アギラの悪逆に対し怒りを露わにし表情も険しかった。

 

「そして、此度の暗殺計画をエミル王女殿下達が警鐘を鳴らさねば更に犠牲者は増えただろう。

 先ずはエミル王女殿下達、そして殿下達と共にレベル250の壁を超えた2組の冒険者一行に感謝を」

 

 その中でロックはエミルやキャシー達が警鐘を鳴らさなかったなら犠牲は更に大きくなり、最悪自分達の命すら無かったと感じ全員が立ち上がりエミル達に頭を下げると、エミル達も無言で立ち上がり礼を受け返した。

 そうして全員が席に座り込み、会議を続ける。

 

「それで、総合的な兵の数はどれ程になりましたか? 

 我々セレスティアは5万9000以上をギリギリ維持出来ております」

 

「ミスリラントは8万のままだ」

 

「ヒノモトも1万2000のままじゃ」

 

「フィールウッドも5万9000以上ですぞ」

 

 その次に残った兵力を話し始め、戦争に参加可能なレベル150オーバーの兵士達は合計20万は未だ超えており、水晶石の映像の奥で殺戮を繰り返したアギラ達との戦いは可能となっており、またグランヴァニアに派兵する予定もこのまま会議が進めばエミル達は決まると思っていた。

 但しある1点を除けば。

 

「それで、今も海の向こうで虐殺を受けているグランヴァニアの連中は如何する? 

 助けるか、それとも無視して魔族と戦うか?」

 

 そう、問題はグランヴァニアの国民達の救済をするか否かにあった。

 確かにドゥナパルド4世が殺害され、その臣下も全て皆殺しに遭った後国民達も間違い無く鏖殺対象である。

 しかし、元々魔族信奉者だった為、それさえ受け入れ死を望む者さえ居るかも知れない。

 そんな狂った国民性を持つのがグランヴァニアであった。

 

「確かにグランヴァニアの国民を助けるメリットは薄い、だが同じ地上界に生きる者として放って置く事も出来ないのも事実。

 さて如何したものか…」

 

 ランパルドはこの難しい議題に対して悩み、地上界に生きる者同士として救うかそれともみすみす見過ごすかの選択を迫られ、1人では決められない様子を見せていた。

 すると………その中でロマンとエミル、2人が同時に手を挙げ、エミルは先に挙げたロマンに発言権を譲り、ロマンもそれを受け立ち上がりながら発言し始めた。

 

「あの、子供の勝手な意見と捉えて結構なのですが、グランヴァニアの人達を此処で救わないのは違うかなって思います。

 確かに僕も初めは無関心で何ら感情を抱いてませんでした。

 けれど…それでもやっぱりこの世界に生きる人々であり、あんな理不尽に命を奪われて行く中で僕達が手を差し伸べないのは、初めの頃に感じたグランヴァニアの人達の印象と何ら変わらなくなる、そんな気がしてなりません‼︎」

 

 ロマンはこの重い空気の中で発言する勇気を振り絞り、自身が初めに感じていたグランヴァニアの印象で無関心を貫いていたが、あの様な虐殺を見た後では矢張り同じ世界に生きる者として救わないのは違うとロマンは思った為、各国の王達に出し救い出そうと言う意見を出した。

 その次にエミルが立ち上がり、バトンタッチを受けながら発言を始める。

 

「ランパルド国王陛下に各国諸王の皆々様方、私セレスティア王国第2王女エミルもまた同じ意見にございます。

 幾ら魔族信奉者とは言え、彼等も地上界の者。

 其処は絶対に変わりません…故に、此処で救わねば我々はアギラと同類と化すでしょう! 

 ならば、一刻も早く救いに行くべきだと進言致します‼︎」

 

 如何やらエミルもロマンと同意見だったらしく、今この時にグランヴァニアの国民達を救わねばアギラの様な外道と同レベルに堕ちると発言し、一刻も早く救うべきだと言う考えを周りに出した。

 するとネイルも手を挙げ、発言を始める。

 

「私もロマン君やエミル殿達と同じ意見であります。

 アギラの悪逆を見過ごす事は私の正義に反する行為です‼︎

 ならばこそ、正義を成す為に我々は武器を取り、グランヴァニアの国民達を救いに行くべきだと進言致します‼︎」

 

 ネイルもまたアギラの悪逆を見過ごす事が出来ない、彼の正義の心がグランヴァニアの民を救う様に燃えており、もし此処で彼を止めてもネイルだけでも動こうとし、正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)メンバーは既に覚悟が決まっており彼等もまたネイルに付いて行く気だった。

 そしてそれはサラ達も同じであった。

 

「(…ああロアよ、もしお前が生きていたらこの子達の様に魔族を信奉する者でも救いに行ったのか…?)」

 

 その様子を見ていたロック達誓いの剣(オースブレード)、特にロックはグランヴァニアの民達を救おうと言うロマンにロアの影を見出した為、自身達が何時の間にか凝り固まった思考となりグランヴァニアに憎悪に近い嫌悪を示していたと自戒しつつ、ロアなら関係無くエミル同様救いに行ったかを考え始めそして己が考えを改め始めていた。

 

「…君達の意見は理解した。

 ではこの此度の諸国王暗殺計画を防いだ勇士達と同意見の者は立ち上がって欲しい」

 

【ガタガタガタ、ガタ!】

 

 ランパルドはエミル達の意見に頷きその意見を理解した上で周りの王や王子達に彼女達グランヴァニアの国民達を救う意見と同じ者は立ち上がる様に話す。

 するとランパルドを含め、その場に出席した全員が同意見となり反対派は1人として出る事は無かった。

 

「…我が子等と諸王達の意見を私も見させて頂きました。

 ではこれより我々はグランヴァニアに船を出し、魔族により命の危機に晒されている民達を救い出そう‼︎」

 

「では我々は直ぐに自国に戻り兵達を結集し、グランヴァニアへと向かう準備をしよう!」

 

 ランパルドは全ての意見を纏め上げ、グランヴァニアの国民達を救うべく派兵すると決め、ロック達も同様に直ぐに自国に戻り軍の派兵準備を始めようとし、ゴッフもサツキも頷き出入り口に向かおうとした。

 

「あ、国へお帰りになるのであるならば私とキャシーちゃんとシャラさんが転移魔法(ディメンションマジック)でお送り致します‼︎

 今の我々ならばグランヴァニアも千里眼(ディスタントアイ)で覗く事も可能です‼︎」

 

「何と、枷を外したものはその様な事も可能なのか…ならば妾達を直ぐに国へ送って貰えぬか?」

 

『はっ‼︎』

 

 その時エミルが枷を外した自分達ならばこの場から諸王達の国の玉座、更にはグランヴァニアまで千里眼(ディスタントアイ)で覗きつつ転移が可能だと話し、サツキは純粋に驚愕しながら自身達を国に送る様に命じるとエミルはミスリラント、キャシーはフィールウッド、シャラがヒノモトに王達を送り届け、直ぐに帰還し次にアルク達を見ていた。

 

「では次にアルクお兄様達とマークスにやって貰いたい事があります。

 お兄様達にはこの国の世界樹に向かい、其処でアレスター先生が遺した修行法…我々はその性質から試練の問いと呼んでおります。

 それを完遂し、複合属性絶技に魔法を覚えて頂き戦力増強を図って頂きます。

 よろしいですね?」

 

「国中の兵達が集まるまで時間はそれなりに掛かる、ならばその間にアレスター先生が遺した物をやるのが1番効率的だな…よしエミル、早速その修行法をさせてくれ‼︎」

 

 次にエミルは国中の兵が集まる時までにアルク達兄姉達やマークスを試練の問いと呼ぶ事にした修行法をする事と複合属性魔法、絶技の取得等をする事を告げるとカルロもそれが効率的だとし、そのままエミルの転移でセレスティアの中で1番安全な世界樹にまで跳ぶ。

 

「じゃあキャシーちゃん、私の妹にリンって子がいるんだけど、その子や他の子達を私を連れて行って試練の問いをさせる様にしてくれないかな?」

 

「なら俺様はシャラに頼むぜ、頼れる兵の知り合いを即戦力に変えてやるぜ!」

 

『はい!』

 

 その次にサラはキャシーにフィールウッドに再び跳ぶ様に頼み、妹にして内偵のリンや自身が戦力として申し分ない物達に試練の問いをさせる様に説得しに行くと頼み込み、アルはシャラにミスリラントに跳び知り合い達を即戦力に変換する様にと頼むと、2人は早速跳びそれぞれが動き始めた。

 

「じゃあ僕は…ルル、一緒にヒノモトに来て女王様に特に強い人達を選んで貰って試練の問いに挑戦させて戦力増加を図ろう。

 僕達は女王様を救ったし、多分顔パスで通れる筈」

 

「は、はい…いざと言う時は、月下の華の名を…出しますから………じゃあ、跳んで下さい…」

 

 最後にロマンがルルと共にヒノモトに跳び、サツキ女王に頼み特に強い者達を選び試練の問いをさせる様に頼み込みに向かい、残ったムリアやガム、ネイルは手ぶらにならない様にランパルドに頼み込み馬に乗り兵達セレスティア各所に兵を集める様にと伝令の手伝いを頼まれる。

 

「では私は西側を、ムリアは南側、ガムは北側に伝令を送り兵を集めるぞ。

 事は人命に関わる、急ぎ兵達を集まらせるぞ‼︎」

 

「了解っすネイルさん‼︎」

 

「じゃあ行って来るっすよ兄貴達〜‼︎」

 

 そうして残った者達もまた兵を集めるべく国の各所を周り各々が人命を救うべく使命を帯び動き始めた。

 これに魔族達の妨害があるかと思い、エミル達はそれぞれ警戒を強めたが特に妨害も無くすんなりと試練の問いや複合属性絶技、魔法、そして兵の集結等が進み始めるのであった。

 

 

 

 一方天界では遂に始まったアギラの虐殺計画についてアイリスとリコリスが神に進言し、神に首を縦に振る様に何度も話し合っていた。

 その議論はアイリスが一度感情を爆発させた為か白熱化し、周りの天使やアレスター達はまた矛を構えないか心配で伺っていた。

 

「神様、アギラが遂に虐殺を始めました‼︎

 これでも我等は静観しろと、黙って見過ごせと言うのですか⁉︎

 お願いです、我々天使を地上界に派兵させて下さい‼︎

 でなければ次のアギラの策は止められません、お願いします我等が父たる神様‼︎」

 

「…ああ、視える…魔族アギラの手で地上界に住まう子等が悪戯に死に行くその光景が…」

 

 アイリスの地上界を憂う発言に横で聞いていたリコリスもまた黙りながらも心中は同調しており、2人で首を縦に振らせようとした。

 その時神は瞳を閉じ、未来を視通す力を発揮し、アギラの虐殺計画により命が悪戯に失われる光景を眼にし、心を傷めていた様であった。

 

「なら何故我々を派兵させぬのですか⁉︎

 以前の様な答えは最早聞きませぬ、納得の行く理由をお教え下さい‼︎」

 

「…我々が介入し、アギラを滅し聖戦の儀の正常化を図る。

 確かにそれこそが正しく、また命を守る事に繋がる。

 しかし魔王、彼の者は天界すら攻撃対象に定めている。

 実際、アギラは魔王の命でこの天界すら戦場にさせんとしている」

 

『なっ⁉︎』

 

 そうしてアイリスが以前よりも明確な答えを求め、再び矛を構えようとした瞬間、神の口から現魔王は天界すら攻撃しようと画策している事を話し天使達全員を驚愕させる。

 魔族、特に魔王が天界すら狙ってると言う答えは前代未聞であり、それを聞きアイリスとリコリスは驚愕の余り立ち上がってしまう。

 

「私は我が子達を不安にさせず、またアギラが滅せられようと第2第3の楔の泉を狙う者を魔王は擁立しその野望を完遂させようとするだろう………私はそれが恐ろしく、静観しか選択肢が無かった」

 

 神は例えアギラを消しても第2第3のアギラの様な者が立ち、再び楔の泉破壊を狙う事を恐れる余り静観していたと口にしていた。

 神はこの天界が戦場になり、混沌と化す事に恐怖していたとまで話していた。

 

「だが、此処まで命が悪戯に失われると言うのであるならば…」

 

 しかし、それに言葉を続けさせ神は未来を視た時の自身達が適切なタイミングで介入しなかった際の失われてしまう命を考え、そして瞳を開きアイリスやリコリス達を見据えながら神としての命令を下すのであった。

 その命を聞いたアイリス達は黙って跪き、そして翼を広げ地上界を監視する泉へと飛ぶのであった。

 

 

 

 一方、グランヴァニアへの派兵が決まった地上界にてシエル改めてエリスはこの2日間慌ただしく各国の武器輸入輸出を繰り返し資料と二者面談する時間が増えていた。

 

「エリスお嬢様、次はミスリラント、フィールウッドへの武器輸出のサインを。

 それからラーガ…いえ、アギラめが極秘ルートを使いミスリル鉱石4tを用意しろと催促しております」

 

「4tとか馬鹿げてる、200kgで我慢なさいと書簡で伝えて。

 さて後は魔界に流す分も含めてあれこれサインをしてそれから…」

 

 エリスはアギラが馬鹿げた量のミスリル鉱石を密輸する様に催促を促した事を一蹴し、アザフィール改めアズも静かに了承し、この戦いに於いては中立を保ちながら両者の行く末を観察するつもりであった。

 

「(さて、この戦いは何方が果たして勝つか? 

 アギラが勝てば地上界はそれまで、地上界が勝てばアギラもそれまで。

 何方が生存競争で生き残るか…見させて貰うぞ、特に誓いの翼(オースウイングズ)達よ…)」

 

 エリスは戦いの行く末を考察しながら、この戦いは傍観者として事の成り行きを見守り、何方が生き残るかを見守り、特にエミル達にムリアの交渉でもあったアギラ失脚に期待しながら何方が勝っても可笑しく無い密輸を含めた貿易手腕を見せ、決戦の日まで待ち続けた。

 

 

 

「お久し振りですお兄様、早速私が作った作戦案を目に通して下さい」

 

 一方グランヴァニアではアギラの下にダイズの副官、彼の妹のアリアがオーバーロードドラゴンと共に辿り着き、手渡した資料にはオーバーロードドラゴン1体やレベル260オーバーの魔族やその他の魔物の混成部隊による地上界連合軍上陸直後の奇襲、戦力に打撃を与えた後アギラの『趣味』を使い更なる打撃を与えオーバーロードドラゴン2体とグランヴァニアに集結中の全戦力で地上界の軍を殲滅する案が書かれていた。

 

「ふむ、悪くない戦術だ…だが駄目だね‼︎

 私の趣味を優先させる為に此方の作戦を展開し、オーバーロードドラゴンはその詰み場面で使わせて貰うよ‼︎

 無論…この大陸にある楔の泉、遂に見つけたから奴等に水晶石を通して守る対象を何も守れない絶望を与えてやるんだ、くくくく…‼︎」

 

 アギラは妹が立てた案を悪くないと言いつつその案の神を目の前で破り捨てて、代わりに自身が考えた『趣味』全開の案を押し出し、アリアの案を踏み付けながら嬉々としてその作戦を説明し、それを聞いたアリアは考え込み修正案を出そうとした。

 

「ならこの作戦は使うタイミングを考えねばなりません、

 であるなら、彼等の主戦力が船に乗り直して出航した時点で」

 

「ええい五月蝿い、この案が奴等軟弱な地上界の者の精神を壊すんだ‼︎

 お前は黙って見ていろ‼︎」

 

 しかしアギラは修正案を一切聞かず、自らが描いた台本をそのまま作戦としてするとし、ダイズから言われたアリアの言う忠告を聞くのをしっかり忘れ、地上界の者達が自分の掌の上で踊り狂い絶望する様を夢見ていた。

 だが、それ等を聞いていたアリアはこの時兄が何も変わっていないのと同時に考えていた事があった。

 

「(これは…勝てる戦いを趣味でぶち壊して負けるパターンですね。

 なら、ダイズ様の言う通りにし、私やオーバーロードドラゴンの内2体は泥舟に付き合う気は無いわ。

 1体だけその時に残して行くからそれで自分が勝てる戦いを自らの手で逃した事を知るが良いわ、愚かな兄アギラ…)」

 

 アリアはダイズから「言われた負け戦に最後まで付き合うな、ある程度渡した戦力を回収して俺の下に戻れ」を忠実に守り、腹の底で既に負け戦が確定した事でアギラに見切りを付け、そのまま退散する事を決め決戦の日まで兄のくだらない言葉を流し続けるのであった。

 

 

 

 そうして迎えた兵士集結の日。

 セレスティアの各港に最大1万の兵が乗船可能な船内に空間圧縮魔法が掛かった軍用魔法船を集結させ、食糧から武器に至るまで様々な物を積み込ませ出港の時を今か今かと待っていた。

 

【ドドドドドド‼︎】

 

 その時戦場に立つセレスティア王国騎士団計5万9000以上の兵士達が馬に乗り集結し、船に乗り込み始めた。

 その中にはランパルド国王や転移で直接港に跳んだエミル達修行組が姿を表し、ランパルドに話し掛け始めた。

 

「陛下、我々王族とマークスは試練の問いを完遂、そしてエミル、カルロ指導の下複合属性魔法と絶技を会得に成功しました!」

 

「うむ、レベルも260オーバーとなり見違えたぞアルク達よ。

 では早速船に乗り込み出港準備を整えよ‼︎

 グランヴァニアへの船旅は魔法使い達で風を起こし通常より早く駆け抜け3日で先ずヒノモトにと辿り着き、そこから半日でグランヴァニアの船を付けられる湾岸へ辿り着き、兵士達を進軍させるぞ‼︎」

 

 アルクは兄妹やマークスの代表となり修行の成果が出たとして報告し、ランパルドも少しだけ笑みを零した後直ぐ様アルク達全員に船に乗り込み出港準備を整える様に命じるとアルク、レオナ、カルロ、マークスは転移を用いて別々の船に乗船し、エミルはランパルドの護衛の為王船に乗り込もうとした。

 その時背後から転移の音が聞こえ、キャシーやシャラの手でサラとアルが、そしてロマン達も転移して誓いの翼(オースウイングズ)が集結する。

 

「皆、如何やらそれぞれ行動を起こしたようね、成果は?」

 

「バッチリ‼︎

 試練の問いを受けさせたい人達を完遂させたよ‼︎」

 

「それだけじゃ無く複合属性絶技とかも覚えさせて来たぜ‼︎

 じゃぁキャシーとシャラはネイル達の所に行け、俺様達はもう大丈夫だ‼︎」

 

 エミルは全員が自分と同じ行動に出たと感じ、成果を聞くと全員が全員満足と言った表情を見ぜていた。

 それからアルはキャシーとシャラにネイル達と合流させる様にと言うと2人は頭を下げてネイル達と合流、アルク達の船に乗り込み物資を乗せる手伝いを始めていた。

 

「じゃあ私達も乗り込んで準備を」

 

「ねぇ皆、あのアギラって魔族について話があるから少し船の端で話しないかな?」

 

「サラ? 

 …分かったよ」

 

 それからエミル達も物資搬入を手伝おうとした所でサラが何故か真顔でアギラについて話があると言い、フードを取ってるルルやロマン達も何かあるなと感じ取り、邪魔にならない船の端に立ち話を聞き始めた。

 

「それで、俺様達にあの屑野郎の話があるって何なんだ?」

 

「うん…アギラはね、エンシェントドラゴンを嗾けてアレスターを殺した魔族なんだ」

 

『⁉︎』

 

 アルは何の話かと単刀直入に聞くと、サラはアギラこそが当時のアレスターとカルロの下にエンシェントドラゴンをけしかけ、それを見ながらアレスターを死に追いやった魔族だと告げると全員驚愕し、エミルは深呼吸して気持ちを落ち着かせサラに話を続けさせる。

 

「それは確かなの?」

 

「うん、試練の問いで見せられた魔族の顔と国中の水晶石を乗っ取って映ったアギラの顔は一緒だったよ。

 だから私から提案したいの、アギラは私達の手で斃そうって。

 もうアレスターやグランヴァニアの王達みたいな悲劇を繰り返させない為にも」

 

 エミルの問い掛けにサラは真顔で間違い無いと告げ、今まで変な隠し事や嘘を吐いてないサラの口からそれが出た為全員でそうなのだと納得する。

 更に彼女からの提案によりアギラは誓いの翼(オースウイングズ)の手で斃すと告げられ、エミルはシエルが提示したムリアの家族の安全に関する交渉で誰がアギラを殺すないし失脚させるかを全く指定されてない為、頭の中でOKを出しつつ皆に視線を送り答えを聞く。

 

「俺様の斧の錆にしてやる準備は出来てるぜ?」

 

「アレスターやセレスティアの国民達、グランヴァニアで今も犠牲になってる人達の悲劇を止める為に、私も賛成よ」

 

「エミルも賛成なんでしょ? 

 なら僕達でアギラを倒そうよ‼︎」

 

 アル、フードを取ったルル、そしてアギラの悪意ある行動に怒りを未だ抱いているロマンもアギラを倒す事に積極的になっており、全員の意見を聞いた後エミルは無言で円を組み、ロマンやサラの片腕を握り誓いの翼(オースウイングズ)流の誓いの言葉の準備に入ると全員瞳を閉じ、言葉を紡ぎ始める。

 

『我等誓いの翼(オースウイングズ)は悲劇を止める為、アギラをこの手で斃す事を誓います』

 

 今度は何等指し示しも無く自然で言葉が重なり、全員アギラを斃す事を誓いセレスティアの国民達、グランヴァニアの人々、そしてアレスターや恐らく同様の手口で死んだ者達の悲劇をこれ以上連鎖させぬべく誓いを立ててエミル達はグランヴァニアのある方角を見つめる。

 その時彼女達の背後で兵士がランパルドに話し掛け始めていた。

 

「陛下、物資の搬入は全て終了の旗が各船から上がりました! 

 王船も同様ですので何時でも出港可能であります‼︎」

 

「うむ、では我が命の下グランヴァニアに向け出港せよ‼︎

 帆を張り、水の魔法と風の魔法を欠かすな‼︎」

 

 王船の物資搬入班長の兵が全ての船が物資搬入完了の旗を上げた事を望遠鏡で覗き、それ等をランパルドに説明した瞬間ランパルドは王命により出港する事を声を声を張り上げる。

 騎士団の魔法使い達も水と風の魔法を使い船のスピードを意図的に上げる用意を始める。

 

【ブォォォォォン‼︎】

 

 更に1人の兵士が備え付けてある巨大な船笛を吹き、全ての軍船に合図を送ると向こうからも同様の音が鳴り響き、それが合図となり先ず王船が錨を上げ帆を張ると出港を開始、見送りに来た国民達や参加出来ないレベルの兵士達に見送られながら全ての船は大海原を駆け抜け始めた。

 

「いよいよ、グランヴァニアへ突入だね皆」

 

「えぇ…待ってなさいよアギラ、貴方の残忍な行いは私達地上界に住まう者全てが止めてみせるわ…‼︎」

 

 ロマンが戦いを予感しながら海の先を見る中でエミルもアギラを斃す意志を明確に見せながら5人で船首の先を見つめ、グランヴァニアへの到着を待った。

 それから1日半が経過した頃にはフィールウッド、ミスリラントの軍船も合流し大船団がグランヴァニアに向けて進んでいた。

 そしてこの後の予定はヒノモトに寄りグランヴァニアに行くと言うシンプルな物であり、全員が戦いに向けた眼を光らせるのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
試練の問いについて、エミル達が正式名称を言い当てたのは偶然であります。
そして此処からアギラ派との本格的な戦いになります。
アギラの悪辣さやエミル達の地上界を守る為の戦いを何とか上手く描きたいと思います。
因みに他の冒険者達はあえなく落選しました(レベル120未満が多過ぎた)

此処までの閲覧ありがとうございました、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第27話『4国連合、皇貴妃を救う』

皆様おはようございます、第27話目に更新でございます。
今年最後の更新になります。
今回からグランヴァニアでのお話になります。
此処からアギラとの戦いがスピードアップして行ければと思いながら更新して行きます。
では、本編へどうぞ。


『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…‼︎』

 

『ガァァァァァ‼︎』

 

 グランヴァニアにある辺境の森の中、身分の高そうなドレスを着た子供連れの女性が子供と共に魔物から逃げ出し、せめてこの子だけでも…そう心に思いながら森を駆ける。

 

「ほらほらほらぁ、さっさと逃げなきゃアギラ様の命でさっくり殺しちまうぜぇ‼︎」

 

 その時背後から魔物達を率いていた魔族の男の声も響き、自分達の命がドゥナパルド4世の様に狩り殺される、そう思いながら走っていた。

 

「は、母上…‼︎」

 

「大丈夫よ『リヨン』、貴方だけは私が必ず守るから…‼︎」

 

 息子のリヨンにその身を案じられる中、彼の母は行く当ても無い森を先へ先へと走り、魔族の矢が気に当たりつつも何としてもこの子だけは守る、そう決めて駆け続ける。

 

「…あっ⁉︎」

 

 しかし、逃げ切ろうと言う希望は絶望へと変わる。

 何故なら、走り抜けた末に森を抜けてしまい、更に前方には海が見える沿岸部が見えてしまったからである。

 

「そ、そんな、母上…‼︎」

 

「…大丈夫よリヨン、貴方だけは絶対私が守るから…‼︎」

 

 母の身を案じるリヨンは最早逃げ道すら無くなり、これからどうすれば良いのかと母を見ると、リヨンの母は杖を構え守ろうと魔族や魔物達の前に立ちはだかる。

 

「ひっひっひ、追い詰めたぜぇ…?」

 

 しかし悲しきはそのレベル差、魔族はレベル230あり、付き従う魔物も『ハイゴブリンロード』と言う地上界に居るゴブリン種最強であり討伐推奨レベル170、更に『ヘルスパイダー』と言う討伐推奨レベル160の巨大蜘蛛型の魔物やミスリルゴーレムと言った高レベルモンスターで固まっており、絶対に生き残れない包囲網が完成していた。

 

「さぁ死ねぇ‼︎」

 

 魔族は魔物達に突撃させ、親子を崖から突き落とすか惨たらしく少しずつ殺していくか、何方にせよ魔物達に襲わせる必要がある為それをじっくりと見ようとしていた。

 そしてリヨンや母親も体が強張り絶望が迫る。

 

【ビュン、キィィィィィン‼︎】

 

『なっ⁉︎』

 

 だがリヨンと母親、そして魔族は驚愕する。

 2人と魔物の間に転移し、親子を結界魔法(シールドマジック)で守った5人が現れたのだから。

 

【ビュン‼︎】

 

「魔物達よ、正義の刃を受けろ‼︎」

 

 更に5人の者が転移し、魔物達に剣、槍、斧、魔法で攻撃し、先に転移して来た者と力を合わせ魔物達と戦い、そしてあっという間に魔物を全滅させる。

 

「なっ、魔物共が…⁉︎

 お、お前らよくも俺の遊戯を…‼︎」

 

「さぁ次はお前の番よ、魔族‼︎」

 

 魔族は魔物達をいきなり全滅させられ、ワナワナと怒りで震える中、結界を張る赤毛の魔法使いの少女が次は目の前の魔族の番だと叫び全員がそれぞれ構える。

 母親とリヨンは思った、魔族信奉者の国であり、魔族を受け入れてしまい自滅の道を辿った自分達にも神は救いのチャンスを与えて下さったのだと。

 そして赤毛の少女…エミルの咆哮と共に魔族側も増援を呼び物量で押し返そうと戦闘が始まるのであった。

 

 

 

 エミル達が親子達の前に現れる20分前、エミル達はセレスティア、ミスリラント、フィールウッドの船団と共にヒノモトに到着、そして其処でヒノモトの軍と合流して元の船団にヒノモトの船も加わり4国連合軍船団が完成し、半日かけてヒノモトの先にあるグランヴァニアに辿り着こうとする中、エミル達は用意されたり兵達が装備する武具に二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を転移し各船に跳びながら全てに掛けた。

 

「ふう。

 アルクお兄様の船で全ての兵や用意された武具に二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を掛け終えたわ。

 キャシーちゃんやシャラさん、レオナお姉様やロマン君達も手伝ってくれてありがとう」

 

「いえいえ、全てはこの3日で私達セレスティアの人間じゃ無い私達に王女殿下達が優しく二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を会得させて実用段階まで熟練度を重ねさせてくれたお陰ですよ!」

 

 キャシーはエミルの礼に謙遜しながら言うが、実際この3日間でエミルとレオナはキャシー、シャラ、ムリア、ロマン、ルルに枷が外れた影響で取得した魔法、絶技の熟練度もカンストする副次効果から二重魔法祝印(ダブルエンチャント)も覚えさせ、各船を回り魔法祝印(エンチャント)付与をさせたのだ。

 

「レオナ王女殿下にエミル、国の秘術を僕達にも教えて下さりありがとうございました‼︎」

 

「ふふ、良いのよ。

 この船の数や武具の量では2人では回り切れないと判断して枷を外した者の中で魔法を使える組に二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を教えただけなのですから。

 言わば兵達の未来の為の投資ですわ」

 

 ロマン達全員がエミルとレオナ姉妹に頭を下げる中で、レオナは兵達の生存性を上げる為にもロマンやルル(ルルの場合エミル伝てに聞いた)みたいな勇者の血筋の者やキャシー達魔法使い、更に味方魔族のムリアに二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を教え、連合船団の武具全てに魔法祝印(エンチャント)を掛け回る手が欲しかった為にエミルと共にロマン達にも教え、そして船を回ったのである。

 

「でも俺に教えても〜」

 

「ムリアさんは私達の仲間ですからね! 

 アギラとの戦いが終わったらハイ裏切りなんて考えられないですよ!」

 

「キャ、キャシーちゃーん‼︎」

 

 其処にムリアが自身の裏切りの可能性を考慮して二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を教えて良かったのかと話すとキャシーが直ぐ様裏切りの可能性を否定し、それにムリアは嬉し泣きをしてると全員嵐が訪れる前なのに気持ちが晴れやかになっていた。

 

「さて、私達はグランヴァニアの監視でも…っ⁉︎

 お姉様、皆、母親と子供らしき子が2人、森の中で魔物や魔族に襲われてます‼︎」

 

「えっ…あ‼︎

 本当です、早く助けに向かわないと‼︎」

 

「お、俺兄貴達呼んで来るよ〜‼︎」

 

 それからエミルはグランヴァニアを監視し、港から降り立つ為千里眼(ディスタントアイ)透視(クリアアイ)を使い探し始めると、森の中で親子らしき2人が魔族や魔物に襲われているのを発見し、キャシー達も見つけた後ムリアはネイル達を呼びに向かう。

 

「ロマン君、ルル、私達もサラとアルの下に行きましょう‼︎」

 

『分かった‼︎』

 

 エミル、ロマン、フードを取ったルルは王船に転移して戻り、中に入り会議室に丁度居たアルやサラ、更に会議中のランパルドを発見し叫び始める。

 

「伝令、魔法祝印(エンチャント)付与終了後に親子らしき2人組がグランヴァニアの森の中で魔族と魔物達に終われているのを発見しました‼︎

 このままでは森を抜け、沿岸部に出てしまい襲われてる2名の命はありません‼︎」

 

「何ぃ⁉︎

 そりゃ拙いぜ‼︎

 おい王様達、早く俺様達に救助させに向かわせてくれや‼︎」

 

 エミルはロマン達と共に会議室に駆け込むと、ランパルドや他3国の王に状況を説明し自身の代理として会議に参加させたアルやサラもエミルからの伝令に驚き、特にアルは早く向かわせてくれと頼み込む。

 それらを聞いたランパルドはロック達と頷き合いながら席を立ちながら誓いの翼(オースウイングズ)に王命を言い放つ。

 

「ならば早く助け出すのが先決だ、誓いの翼(オースウイングズ)正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)と共にその親子を救い出せ、これは4国連合初の人命救助である‼︎」

 

「陛下、ロック様達、ありがとうございます‼︎

 じゃあ皆、ネイルさん達の下に行こう‼︎」

 

「勿論よロマン君‼︎」

 

 ロマンは諸王達に一礼するとエミルの手により、ムリアやキャシー達の手で集まったネイル達の下に転移し、互いを認識し合う。

 

「エミル殿、首尾は⁉︎」

 

「皆様から許可貰いました、早速跳びますよ‼︎」

 

「魔族共め、俺様達の武具の錆にしてやる‼︎」

 

 ネイルは転移して来たエミル達に首尾を聞くと、エミルがサムズアップしながら許可を貰ったと呟くと全員引き締まった顔になり、アルはミスリルアックスを構えながら血の気の多い言葉を叫んだ瞬間、10人は追い詰められた親子の前に転移しエミルは結界魔法(シールドマジック)Vを使い親子を守るのであった。

 

 

 

 それからは先程のリヨン親子が見た様にエミル達は瞬く間に魔物を全滅させ、最後に魔族に処刑宣告をする場面だった。

 それらを聞いた魔族は慌てて鑑定眼(アナライズ)を使い、エミル達のレベルを測ると平均270オーバーとなっておりかなり焦っていた。

 

「く、くそ、コイツ等アギラ様が仰っておられた枷を外した者共か⁉︎

 拙い、1人では勝てない、何とか逃げ」

 

【ビュン、グサッ、グサッグサッグサッ‼︎】

 

 魔族はエミル達に勝てないと知るや否や直ぐに逃げ出そうとし、転移を始めようとしたが其処にアルの手斧、サラの矢が魔族目掛けて放たれ手斧は魔血晶(デモンズクリスタル)に直撃し破壊し、矢は首や鎧を貫き心臓を撃ち抜き魔族の殺害に成功し青い炎に包まれ魔族は灰になった。

 

「おっと手が滑っちまったぜ」

 

「私も手が滑ったよ〜」

 

 魔族に逃亡や念話を刺せぬ様に攻撃した当の2人は手が滑ったと主張し、アルは手斧を回収後も周りを警戒する。

 一方千里眼(ディスタントアイ)透視(クリアアイ)等で敵が居ないか確認したエミルは一呼吸置き、結界を張りながらリヨン親子に話し掛け始める。

 

「ふう、お怪我はありませんでしたか?」

 

「貴女達はグランヴァニアの者では無い…誰なのですか?」

 

 リヨンの母は自分達を気遣うエミル達をこの国の者では無いと見抜き、リヨンを庇いながら後退りをする。

 しかし後ろは直ぐ崖なので後退りと言ってもほんの数センチ分しか出来なかったが。

 

「ええ、我々はグランヴァニアの者では無いです。

 我々は悪逆を成す魔族達からグランヴァニアを救う為に来た者です!」

 

「はい、私達は4国連合軍所属の冒険者です。

 なので貴女達に危害を加えません、寧ろ助けに来たんです」

 

 ネイルとエミルはそれぞれ自分達の立場を明かし、共通して魔族達からグランヴァニアの人々を救いに来たと話し、警戒心を解こうとする。

 すると何かを考え出したのか母親の方はリヨンに見守られながら数刻黙り込み、そして再び口を開く。

 

「…本当にグランヴァニアの人々を救いに来たなら私達をその連合軍の場所に案内なさい。

 私の名は『フィロ』、グランヴァニア帝国皇帝ドゥナパルド4世の皇貴妃、この子は皇位継承権第3位のリヨンよ」

 

「! 

 ドゥナパルド4世の皇貴妃様と皇子様であらせられましたか! 

 分かりました、我々がランパルド国王陛下達の下にご案内致します!」

 

 リヨンの母、フィロはリヨン共々身分を明かすとエミルは相応の対応で頭を下げ、2人をランパルド達の下に案内すると言い出すと手を差し伸べ、その手が取られたのを確認すると転移魔法(ディメンションマジック)で全員をセレスティアの王船の下に転移し、後に残ったのは魔族の灰と魔物の亡骸だけであった。

 

 

 

 それからフィロ、リヨン親子がランパルド達の下に案内され、会議室にて紅茶や軽い食事で2人をもてなし始めていた。

 しかし会議室でもてなされている事にフィロは明らかな不満を見せていた。

 その中でフィロはお腹を空かせたリヨンに食べ物を分け自身は紅茶のみで済ませながら、その事情をランパルドが直々に説明を始める。

 

「この様な場所でもてなしてしまい申し訳ありません、フィロ皇貴妃殿。

 我々連合軍は敵の本拠地が占領されたグランヴァニア宮殿である事は分かっております。

 しかし、どの港から攻め入ればこちらの戦力を失わずに辿り着けるか会議しておりました。

 皇貴妃殿は今までどうやって生き延び、また何処から攻め入れば良いか存じておありで?」

 

 ランパルドはリヨンに食べ物を分けるフィロの姿に心苦しくなりながらも、彼女達が生き延びた理由とどの港から攻め入れば良いのかを尋ね、フィロは席を立ち上がると羽ペンを持ちながら説明を始める。

 

「先ず私は皇貴妃ではありますが所詮お飾り、皇后と違い彼の方に愛されていた訳ではありません。

 しかし皇室の取り決めにより秘密の密輸港含む全ての港を頭に取り入れております。

 生き延びた理由はあの日私とリヨンは魔族アギラに顔を合わすのも恥ずかしいと幽閉されていた為です」

 

「合わせるのが恥ずかしい、何故ですか?」

 

 フィロは密輸港を含む全ての港を知るとしながら地図に場所をマーキングして行くのと同時に、自らはお飾りでありアギラに合わせるのが恥ずかしいとも話し、それを聞いたエミルは何故アギラと顔合わせが恥ずかしい物とされ、腫れ物扱いされているのが気になり問い掛ける。

 すると、フィロは一呼吸置きながら話し始める。

 

「…お恥ずかしながら、私は魔族信奉者の国にありながら神様を信じ、魔族を忌むべき侵略者と心の奥で思っておりました。

 陛下はそんな心の奥を見透かしていたのでしょう。

 だから国民や自分達に与えたアギラの『祝印(ギフト)』を与えず、私やリヨンはお飾りにし、そして幽閉まで…」

 

 如何やらフィロは皇貴妃でありながら魔族を侵略者と見ており、それをドゥナパルド4世に見透かされリヨン共々幽閉されたと話していた。

 しかしその途中祝印(ギフト)と言う謎の単語が出て来た為全員首を傾げ、エミルはその事も聞き始める。

 

「あの、祝印(ギフト)とは一体?」

 

「私もリヨンも詳細は分かりません、ただ単に国民や陛下達魔族信奉者全てに与えられたとしか聞いてません.

 …さて、どの港から入れば良いかと言う情報は侍女達が私達を逃す際に密輸港も全て押さえられ、唯一使える港はこの国の表側で1番大きな『ヴァレルニア港』しか国から逃げ出す場所が無いと言われ、私達は其処を目指していたら魔族達に見つかり…」

 

 フィロやリヨンは首を横に振り、祝印(ギフト)の事は分からないとして切り上げ、フィロがマーキングした港に次々と×を付けて行き、最後に残ったヴァレルニア港が唯一使える港と話し、自分達も其処に向かっていたと話しつつ先程の状況に陥ったと話した。

 するとエミルは此処まで来るのに時間としては兵を集めるのに2日掛かり、計6日半掛かったのに今までフィロ親子が見つからずに居た事やこの港のみ使えるのが不自然に感じていた。

 

「失礼ながら我々が此処まで来るのに6日半を要しました。

 なのに見つからずにいたのは何故でしょうか? 

 それと、この港のみ使える理由は?」

 

「港の方は分かりません、しかし我々が見つからなかった、と言うより逃げられた理由は魔族達は国民達を自分達の作った収容所に押し込めていた為です。

 その為私達の逃げる時間が偶発的に出来上がり、ヴァレルニア港が使える事を調べ上げながら逃げていた次第です」

 

 フィロは自分達が逃げられた理由をあの虐殺を働いた魔族達が国民達を態々捕まえる為の収容所を作り、生き残った国民全てを押し込めていた事により逃げ出す猶予が生まれたと話し、エミル達は何故国民を収容所に押し込めると言う手間の掛かる真似をしたのか気になっていたが、間髪入れずにフィロが話を進め始める。

 

「それとヴァレルニア港なのですが、其処から北西に約30キロの位置に収容所群の1つがあります。

 更に北に20キロ、此処に2つの収容所群が存在しており、その先にグランヴァニア宮殿跡があります。

 なのでこれは私の勝手な頼みなのですが、ヴァレルニア港に行くならこの収容所群から我が国民を救って頂きたいのです。

 お願い致します!」

 

 更に羽ペンで⚪︎マークを付け、その下に『第1収容所群』と名前を付け、この距離ならば馬で走れば夜中に襲撃可能位置に当たり、諸王達やエミル達は其処にフィロの願いを聞く。

 確かに彼女はドゥナパルド4世によりお飾りにされた者ではあるが、皇族としての品位と民を想う心が有ると感じ取り会議している全員で見合い、如何するかをランパルド達王に任せると4人の王は互いに頷きフィロに視線を戻す。

 

「分かりました、元よりグランヴァニアの民達を救う為に来た身。

 ならば第1収容所群に襲撃を掛けて国民達を救いましょう」

 

「! 

 ありがとう…ございます…‼︎」

 

「良かったですね、母上」

 

 ランパルドはフィロとリヨンに対し国民達を救う願いを聞き入れ、この一言により連合軍の航路はヴァレルニア港へ船を着港し、軍の物量で収容所群を襲撃する事になりフィロは席を立ち、ランパルド達に深々と一礼するとリヨンも立ち上がり礼をした後、フィロを気遣う言葉を掛け慰めていた。

 そんな中でエミルは深々と考え事をしていた。

 

「エミルさん、如何したんすか?」

 

「何か心配事でもあるの、エミル?」

 

「ああガムさんにロマン君。

 うん、何故魔族が港を1個使える様にしてるか、更に態々地上界の者を収容所何て物を使って1箇所に集めているのか分からなくて…」

 

 ガムやロマンはエミルの様子に気が付き、他の皆もエミルの言葉を聞き確かにあの虐殺、一切鏖殺を宣言して置きながら収容所に集めるのは変だと感じ、ネイル達も交えて考え始めていた。

 

「ねえムリア? 

 アギラとか言う魔族は策を弄するのが好きみたいだけど、何か思い当たる物は無いの?」

 

「いや、全く分からないんだな〜。

 でもあの卑怯者が何の考えも無く収容所なんか作らないから、何かあると思って警戒した方が良いんだな〜。

 それに、祝印(ギフト)ってのも何か引っ掛かるんだな〜」

 

 シャラは元アギラの部下であるムリアにこの様な事に思い当たる節はあるか聞くが、そのムリアも様々な物に引っ掛かりを覚えるが明確な物が見えず、しかし卑怯な策士たるアギラが何かを準備していない訳が無い為全員に警戒する様に促していた。

 

「ふむ、ムリアがアギラとの警戒心は分かる、あの4国会議の日で見た奴の目は正に悪意の塊、邪悪その物だった。

 エミル殿にロマン君達も警戒した方が良いだろう、あの手の目をした者は卑劣な者であるからな」

 

「ネイルに同意見、月下の華として活動して来た身としてもあの目をした奴は危険過ぎる」

 

 更に正義感が強いネイルに多くの数百年間で不正を暴いたルルもあの手の目をした者は危険だとして警戒心を顕にし、その態度は圧倒的な実力を持つシエル達とも違う、明確な嫌悪感から来る危険な臭いを感じており、エミルとロマンに強く警戒する様に念押ししていた。

 

「ええ…警戒しないなんて間抜けな事はしないわ、あんな残忍な卑怯者には…」

 

 それ等を聞いたエミルは前世(ライラ)の記憶からもアギラの様な策士はレベルがバカ高い者以上に警戒する必要がある事を知っている。

 その警戒する内容は無論卑劣な策、それも自身の駒や様々な物を使って行う物を平然とする魔族が居る為である。

 そしてエミルの目から見て、アギラは間違いなくその部類に当たる魔族だった。

 

 

 

 それから連合軍はヴァレルニア港に辿り着くと船から兵や物資を下ろし、この港に拠点を作り、兵站線を築き上げるべく各国の枷を外した者達が食糧庫と武器庫を築き上げ、それから作戦が盗聴防止結界(カーム)を使いながら全体指揮官に任命されたアルクからなされる。

 

「連合軍全員静聴! 

 この先30キロ北西には地上界の者達を収容する施設がある。

 我々は真夜中に襲撃作戦を展開する! 

 セレスティアとヒノモトは正面から襲撃し、ミスリラントとフィールウッドは側面から攻撃せよ! 

 誓いの翼(オースウイングズ)は正面側、正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)は側面側に同行し計2万の魔族と魔物達を蹴散らせ‼︎

 この1戦にはグランヴァニアの国民の命が懸かっている、それを肝に銘じ弱き民達を救う為死力を尽くせ‼︎」

 

『オォォォォ‼︎』

 

 アルクの作戦説明として2国家のバランス配偶をし、更にエミル達とネイル達の戦力バランスを配慮し、それぞれが切り札として活躍する側に同行させる様に命じ、そしてこの1戦にはグランヴァニアの国民達を救う為の大事な1戦である為死力を尽くす様に命じると同時に敵戦力は10分の1程度だと叫び、それに呼応し全員が雄叫びを上げた。

 

「次に戦術指揮の補佐としてエミル第2王女、そしてムリア殿から話がある、皆心して聞く様に!」

 

 次に魔族、特にアギラの様な策士タイプを良く知るエミルとアギラの元部下であったムリアが前に立ち、懸念事項を口にし始めた。

 

「セレスティア王国第2王女エミルと正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)のムリア殿です、アルクお兄様は敵が2万と、フィロ様から齎された情報から話しましたが敵は陛下達を暗殺しようとしたあのアギラと言う策士です、それだけが戦力では無いでしょう」

 

「オマケに奴は卑怯者なんだな〜。

 だから、グランヴァニアの国民を人質に取るかだし伏兵も居るかも知れないから気を付けるんだな〜!」

 

 エミルとムリアはフィロが齎した収容所群を守備する魔族と魔物は2万ではあるが、アギラがそんな単純な数で守る訳無く伏兵、人質を取る事に警戒する様に発言すると全員がそれを徹底し始める。

 

「ではライラ様の祝福を受けし皆よ、行くぞ‼︎」

 

「初代ヒノモトの王、『スクナ』王の子等よ、妾に続け‼︎」

 

 そうしてランパルドとサツキは初代女王と初代王の名の下にセレスティア、ヒノモトの軍を率いて突撃し始める。

 

「我等ロックの同胞(はらから)も行くぞ!」

 

「ワシのドラ息子共、行くぜぇ‼︎」

 

 更にロック、ゴッフの長寿組もまた自らの名の下にフィールウッド、ミスリラントの軍勢と共に進撃する。

 総勢20万の兵達が馬を駆りグランヴァニアの大地を走り、第1収容所群へと目指した。

 例え其処に如何なる卑劣な罠があろうと必ず乗り越えると心に悪逆を赦さぬ火を灯しながら。

 

 

 

 一方グランヴァニアの第3収容所群とグランヴァニア宮殿跡を一望出来る山の頂上にて、アザフィールにティターン兄妹を率いたシエルとダイズが立ち、第1収容所群の方を千里眼(ディスタントアイ)を使い全員で覗き見ていた。

 

「ありゃりゃ、地上界の連中はやっぱ魔族信奉者とは言え同胞を見捨てられないみたいですよシエル様?」

 

「当然だ、それが地上界の強さであり弱さだからだ。

 しかしこれでアギラの策は奴等を襲うぞ、まるで火山の噴火の様に」

 

 ティターンは連合軍は第1収容所群に進撃したのを確認し、やや首を傾げながらシエルに報告すると彼女はそれこそが地上界の強さであり弱さ…つまり美徳だと言い放ちながらも、アギラの策が襲う事が確定すると瞳を閉じた。

 それに呼応して風が吹き美しい銀の髪が靡き、それが様々な感情を表してるかの様にティターン兄妹やアザフィール達には見えていた。

 

「…それで、天界は動くと見るか?」

 

「動くだろう、が、神の眼は未来を見通せても実際に事が起きねば動かない。

 よって第1収容所群は捨て石になる他無い、天界が動く大義名分を確実に得るためにも、な」

 

 ダイズは展開は動くか否かシエルに問うと、動く可能性はあるとしつつ、事が起きねば聖戦の儀の法を犯したとハッキリとした主張が出来ない為第1収容所群が結果的に捨て石になると発言し腕を組みながらグランヴァニア宮殿跡を見つめ始める。

 それも落胆した表情で。

 

「それにしてもアギラにはガッカリだ。

 地上界の連中にその策を使うと如何なる結果を生むか知ろうともせず使い、そしてアリアの忠告を無視し、最初で最後の盟約に泥を塗ったのだからな」

 

「ふん、所詮は他人の蜜を啜り、他人を蹴落とし成り上がる事しか出来ない愚か者の頭には肉親の忠告すら耳に入らない物さ。

 そしてその代償を払う時が近い事を未だ知らないのも間抜けの証だ」

 

 シエルはアギラの行為を全否定し、更に彼が行おうとする物が如何なる結果を残すか、忠告を無視した代償を知ろうともしない愚か者に対し冷淡な瞳で見つめ、ダイズもまたシエルと同意見であり代償を支払う時が近いのにも気付かない間抜けと侮蔑し、そのまま転移で5人は去って行った。

 そして残ったのは嵐の前の静けさを物語る風の音のみであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
嫌なフラグを立てながら終わりましたがこれの回収は早いと思います。
そしてアギラが講じた策がどんな物かお楽しみ下さいませ…。
それと、ちょっとしたご報告ですがこの小説を小説家になろうにも掲載させて頂きました。
あくまで本家は此方で更新は此方が先になりますので向こうは亀更新ですが見かけたらよろしくお願い致します。

それでは次回も、そして来年もまたよろしくお願い致します。
よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第28話『魔血破』

皆様新年明けましておめでとうございます、第28話目更新でございます。
今回はあるキャラの再登場とその結末を用意致しました。
それがどんな物なのかご覧下さいませ。
では、本編へどうぞ。


 第1収容所群前、真夜中に魔族達は魔物を操り防御陣形を取り千里眼(ディスタントアイ)を使い連合軍の動きを見ていた。

 連合軍は作戦通りに2つの勢力に分かれ、片方ら正面の馬でも真っ直ぐ降りれる緩やかな丘ともう片方は転移してから側面の平地から突撃していた。

 魔族達の表情は正に獲物を前に欲を丸出しにした飢えた獣だった。

 

[へっへっへ、さあ来やがれ地上界の弱者共が! 

 誰が1番お前達を殺すか勝負してるんだからな!]

 

[数で此処を押し切れると思ったら大間違いだぜ、全員あの丘と平地で殺してやる‼︎]

 

[さあ来やがれ、そして無様に死にやがれ!]

 

 アギラ派の魔族達は念話で互いに誰が多く地上界の者達、連合軍を殺せるかを競い合い、アギラに取り入ろうとする魔族が数多く居り、その制御下に入った魔物達もまた咆哮を上げ連合軍が来るのを今か今かと待ち侘びていた。

 

 

 

「敵は既にこちらを感知して迎撃準備を整えてます‼︎

 陛下、丘を登り切る前に魔法を使える皆で結界魔法(シールドマジック)Vの用意を‼︎」

 

「うむ、では皆結界の用意をせよ‼︎

 正面突破せんが為に我らの盾を作り上げよ‼︎」

 

 その一方念話傍受をしたエミルはランパルドに結界魔法(シールドマジック)Vを全体で使用する様に進言し、ランパルドもそれに頷き魔法を使える者全員に結界を張る様に命じ、ロマンにルル、レオナ、ランパルドやエミルも含めたセレスティアの軍勢が馬を駆りながら結界魔法(シールドマジック)を何重にも張り丘の上に到達し、そしてそのまま緩やかな丘を下り始める。

 

「今だやれ、灼熱雨(マグマレイン)‼︎」

 

超重孔(ブラックホール)‼︎」

 

「魔物達もやれぇ‼︎」

 

 魔族達は灼熱雨(マグマレイン)を初めとした最上級魔法を使用し、遠距離攻撃を持つ魔物達も攻撃を開始、近距離しか攻撃手段が無い魔物は突撃を開始する。

 

「くっ、敵魔族の魔法が…重い…‼︎」

 

「怯まないで騎士団の魔法使い達‼︎

 臆すれば死ぬわよ‼︎」

 

「エミルの言う通りよ、このまま結界を張り続けなさい、我等が王国騎士団達‼︎」

 

 魔族達の攻撃が直撃し、何重にも張られた結界の内2枚が砕け、1枚がヒビ割れ始める。

 騎士団の魔法使い達も魔族達の攻撃に冷や汗を流し今にも結界が割れるのかと思い始めた。

 しかし、エミルとレオナが騎士団達に呼び掛け移動しながらの結界維持に力を入れさせる。

 

「はっ、中々固い結界らしいな‼︎

 おらぁお前達どんどんやるぞ〜‼︎」

 

「させると思う⁉︎

 大地震(ガイアブレイク)‼︎」

 

 魔族達か人間側の固い結界に殺し甲斐があると思い、更に攻撃を加えようとする。

 しかし、そこにエミル、更にレオナやランパルドの妨害の為の大地震(ガイアブレイク)が魔族達の足を取らせバランスを崩させる。

 それにより魔族からの攻撃が止み、ドラゴン種のブレスやゴブリン種の弓矢等魔物達の攻撃に収まり始める。

 

「陛下、王女様、魔物や一部魔族と接敵します‼︎」

 

「前衛達は武器構えよ、敵の鎧や身体を斬り裂け‼︎

 魔法使いや弓兵達は丘を背後に後衛を陣取り魔法と弓を絶やすな‼︎」

 

 騎士団の1人がいよいよ魔族達と接敵する事になり声掛けをし、ランパルドは騎士団達の前衛には武器を構える様に、後衛には魔法使いと弓兵達を配置しそれぞれの役割を果たす様に命令し自身も魔法使いであるが故後衛の先頭に陣取り始め結界魔法(シールドマジック)Vを前衛と後衛に張り、同時に攻撃魔法を用意し始める。

 

「ヒノモトもセレスティアに続け、妾達の力を見せつけてやるのじゃ‼︎」

 

『はっ‼︎』

 

 其処にサツキの命令が加わりヒノモト全軍がセレスティアの前衛に加わり、刀や薙刀等を引き抜き突撃をし騎士団前衛と共に悪逆なる者達に刃を向ける。

 

「ちい、足を取られた‼︎

 おい、魔法で迎撃を」

 

「おい、9時の方向からもうエルフとドワーフの連中が来やがったぞぉ‼︎」

 

 エミル達に足を取られた魔族達は再び魔法を使おうとした瞬間、1人の魔族がフィールウッドとミスリラントの軍勢が時間差で現れ、セレスティアとヒノモト全軍が今にも魔物達の前衛に接触しそうになりながら未だ迫り来る。

 

「ガッハッハッハッハ‼︎

 ワシ等の足が遅いと思ったら大間違いだぜ、魔族共ぉ‼︎」

 

「弓隊、魔法使いはドラゴン種を中心に矢と魔法を放て‼︎」

 

 更にゴッフの声が上がるとドワーフ達は勢いを増しながら突撃を始め、ロックは自身が率いる弓隊と魔法使いにエンシェントドラゴンや地上界で確認されたドラゴン種の最上位、『アークドラゴン』を中心に魔族ごと射抜き始め、他の前衛達はミスリラントの軍勢と共に並列し始める。

 

「クソ、予想以上に攻撃が早い⁉︎

 アギラ様に援軍を」

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎』

 

 魔族達は連合軍の足の速さに焦り始め、攻撃していたドラゴン種も矢の雨に晒され自分達を守ろうする事で必死になりながらも何とかしようとアギラに念話を送ろうとした瞬間、セレスティアとヒノモトの前衛がゴブリン種や様々な魔物と魔族に接敵し、戦闘開始となる。

 更にサツキ、ロマン、アル、ルルの3人が戦闘となり突撃し名無し魔族を次々に葬り去って行く。

 

「うおぉぉ、正義の刃を受けろぉ‼︎」

 

 其処に続々とフィールウッド、ミスリラントの軍勢が到着し、その最前列にはゴッフ、更にはネイル、ガム、ムリアが続きロマン達と合流し敵を次々と葬り去って行く。

 

[な、何だこいつら強過ぎて止まらない⁉︎

 アギラ様、援軍を、援軍をお願い致します‼︎]

 

[ぐわぁぁ、アギラ様ァァァァ‼︎]

 

 その間に魔族達は念話でアギラに助けを求め、援軍を頼むがその間にも戦線は崩れ去って行き、ドラゴン種を含む魔物、魔族達は次々に地上界の軍勢により斃れ死に伏して行く。

 この間も魔族達はアギラに助けを求めるが向こうからの返事は一切無かった。

 

「今だ、アル、ルル、収容所内に突入しよう‼︎」

 

「我等正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)、収容所に囚われし弱き民達を救わん‼︎

 我等に続く者は来れ、罪無き者達を救おう‼︎」

 

 更にはロマン、アル、ルル、ネイル、ガム、ムリアを中心に収容所への突撃部隊がその場で結成され、決死隊としてグランヴァニアの民を救うべく馬を駆り始めた。

 それに魔族達も気付き、ロマン達に視線を向ける。

 

「おい、収容所へ向かってる奴らが居るぞ‼︎

 あいつらを早く殺せ」

 

極光破(ビッグバン)

 

『ギャァァァァァァァァァァ‼︎』

 

 それから魔族、アークドラゴンがロマン達に向かおうとした瞬間、エミル、レオナ、キャシー、シャラ達を中心とした魔法使い部隊がその魔族達に極光破(ビッグバン)を放ち、真夜中を照らす極光となり空に居る魔族とドラゴンを薙ぎ払う。

 それらを見た魔族の指揮官は更に命令を飛ばし始める。

 

「ええいなら地上だ、地上部隊は収容所に向かう愚か者共を」

 

『暴風弓‼︎』

 

『ウアギャッ⁉︎』

 

 指揮官が地上部隊に命令を下そうとした瞬間、暴風弓を使用したサラやロック、更に弓兵部隊にゴブリンやゴーレム、魔族も全て撃ち抜かれ戦線が完全に崩壊する。

 これ等を見た指揮官は青褪めながら周りを見渡し、次々と斃される同胞と魔物を見て絶望していた。

 

「そ、そんな、アギラ様からはこの戦力なら迎え撃てると聞いていたのに…何故…⁉︎」

 

『やぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

 指揮官はアギラに2時間前にこの戦力なら質で勝てると説明を受けた事を思い出していたが、質も量も完全に負けておりアギラが嘘を吐いたのかと後退りした瞬間、アルクとカルロが指揮官の首を跳ね飛ばし、更に魔血晶(デモンズクリスタル)も砕き魔族の指揮官は斃され、そしてそれを皮切りに全ての魔族、魔物が斃され始めたのであった。

 

 

 

 一方収容所群に到達したロマン達は其処にも居た魔族達に見つかり案の定魔族達は収容所群を背に戦闘を始めていた。

 

「う、動くな‼︎

 動いたらこの収容所群を火の海に」

 

「爆炎弓‼︎」

 

 魔族達が如何にも悪役の台詞を吐いていた瞬間、ロマン達の背後にサラ、キャシー、シャラ、そしてエミルが転移し、魔族の魔血晶(デモンズクリスタル)をサラが全て的確に撃ち抜き、意識が飛んだ瞬間ロマンやネイル達が防衛中の魔族達の首を刎ねる。

 

「人質を使う悪辣な者達に正義無し‼︎」

 

「エミル、サラ、キャシーにシャラさんナイスタイミングだよ! 

 さあ、中に入るよ‼︎」

 

 ネイルは収容所内の人々を人質に使おうとした魔族達を悪と断じながら青い血を払い落とし、ロマンはエミル達が絶好のタイミングで転移し、援護して来た事に親指を立てるとそのまま収容所群の1つの扉の鍵を剣で破壊して開ける。

 その間にエミルやキャシーにシャラ、ムリア達は透視(クリアアイ)を使い中の様子を見て敵は居ないと確認し合っていた。

 

「あれ…魔族…じゃない、人だ! 

 おーい皆、人が来たぞー‼︎」

 

 するとその内部は幾つもの大きな牢獄が存在し、その中の1つからロマンを見た者が人が来たと叫ぶと周りの牢屋から声が騒つき始め牢屋の中から手を伸ばす者達で溢れ返った。

 それ等はガリガリに痩せこけており、ロマンは魔族の行いに怒りが込み上がり手を握りしめていた。

 

「ロマン君、気持ちは分かるが今は人々の解放を優先しよう。

 皆下がってくれ、牢の鍵を破壊する‼︎」

 

「ロマン君、行きましょう。

 人々を解放したらお父様やお兄様達と合流、1度ヴァレルニア港に帰る必要があるから大規模転移魔法(ディメンションマジック)2回と体内魔力回復用ポーションを用意してて」

 

「…分かったよ、エミル」

 

 ネイルはロマンの気持ちを汲みながらも今は人々解放が優先としてガム、ムリアや付いて来た部隊と共に牢屋の鍵を破壊して回り、更にエミルが大規模な転移魔法(ディメンションマジック)で連合軍と収容所の人々を合流、更にヴァレルニア港に戻る事を伝えロマンもエミルの言葉に頷くと収容所群を回り、牢屋の鍵を破壊して行き中に居た総勢13万人の人々を解放する。

 

「あの、収容所に居る人々はたったこれだけですか?」

 

「はい、この収容所はこれだけです。

 でも他の収容所は更に大きく、其処に収監された人々はこの比じゃないです。

 …けれど、皇帝陛下達が殺されたあの日に一緒に殺された者も多く…」

 

「そう、ですか…」

 

 そうしてエミルが全ての人々を解放すると、中に居たエルフに話を聞くとこの収容所群にはこれだけしか囚われて居らず、他の収容所群の方が数が多いと話され、その上であの4国会議の日に殺された人々も多いと話され、エミルは目を伏せ死んだ者達の冥福を祈ると同時に大規模転移をキャシーやロマン達と協力し、戦闘が終わった連合軍の前に転移する。

 

「収容所に囚われし者達はこれだけか、エミル?」

 

「はい、他の人々は彼処以外の収容所に囚われてる模様! 

 なので陛下、此処は1度ヴァレルニア港に戻り収容所群内の人々をヒノモトに移す様にしなくてはならないと進言致します‼︎」

 

 合流してランパルドはエミルに13万の民しか居なかったかと問い掛け、エミルは間違い無いとして答えこの収容所の民達をヒノモトに移す様にする事を進言し、他の3国の王がサツキを見遣ると、サツキもそれで良いと無言で頷き、ランパルドはそれを確認すると号令を掛け始める。

 

「よし、魔法使い達は私と共に大規模転移の用意をせよ‼︎

 ヴァレルニア港へ戻り、グランヴァニアの民達を避難させるぞ‼︎」

 

『はっ‼︎』

 

 そうしてランパルドは杖を持ちながら大規模な転移魔法(ディメンションマジック)を使用を開始し、更にエミルや勇者の血を引くロマンとルル、魔族のムリア達も含めた各国の魔法使い達一同も同様に魔法を使い、真夜中の魔族と魔物の血で汚れた荒地に眩い光が集まる。

 そして光が消えると同時に連合軍とグランヴァニアの民を含めた全ての人々が消え去り、戦いの後の冷たい風が吹き荒ぶのであった。

 

 

 

 一方その頃、千里眼(ディスタントアイ)で戦場や収容所群の一連の動きを見ていたアギラはチェス盤を用意し、自身のポーンを一個のみ取り除くと不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ふふふ、祝印(ギフト)を与えなかったあの者共を餌に収容所群の者共を『予定通り』救ったな、地上界の者達。

 さあ、後はそのまま………ふふふふふふ」

 

 アギラはポーンの駒を投げ捨てるとフィロ達を餌に使い収容所群のグランヴァニアの民が連合軍の、そして自身の『予定通り』に救われた事に悦びその後の展開も予想する。

 そして右手は親指を中指に触れさせ、何時でもパチンと音を鳴らす用意をしながら自分の策が上手く行く事を嗤っていた。

 

「(…その後に何が起きるか、未だ分からないか…)」

 

 一方アリアは別の可能性が発生し得る事を予想し、兄が図る策がそのまま綺麗に決まると思い切って居らず、その後の身の振り方も考え始め戦力図式を逐次頭の中で更新するのであった。

 

 

 

 収容所群から人々を救い出してから20分が経過し、船に続々とグランヴァニアの民が乗り込みだしそれを外から見ていたフィロとリヨンはその光景を見て笑顔を浮かべていた。

 

「ああ、我が国の民達が…ありがとうございます、4国の勇気ある皆々様…‼︎」

 

「その礼は全ての民達を救うまで取って置いて下され、フィロ皇貴妃、リヨン第3皇子」

 

 フィロとリヨンが涙を流しながら民達が船の中に入る光景を見て4国の王達に礼を述べていたが、ロックがそれは全てが終わってからにしようと話しながらグランヴァニアの民達を見ていた。

 一方エミルとロマン達、ネイル達は少し離れた場所でそれを見ており、更にはレオナ達も民達の誘導や今直ぐに食事が必要な者達に簡単な料理を食べさせてから船に乗せる様にしていた。

 

「…」

 

「如何したの、エミル?」

 

「少し『上手く行き過ぎてる』、そんな気がしてならないのよロマン君。

 何か胸騒ぎがするのよ…」

 

 だがエミルは前世(ライラ)の経験から今の何もかもが上手く行き過ぎている事に胸騒ぎを覚え、険しい表情をしながらアギラが次に打つ手が何なのかを考察し始めそれに付随した言葉が無かったか今までの会話から思い返していた。

 

「あ、お前はロマン‼︎」

 

「えっ、その声は…ギャラン⁉︎」

 

 その時、ロマンに声を掛ける者が居りエミル達は視線を移すと其処にはギャラン、更にはベヘルット元侯爵に夫人の3人が居り、 エミルやルル達も意外な人物とグランヴァニアで再会した事に驚きそちらに視線を向ける。

 するとキャシーは未だギャランがトラウマなのかロマンとネイルの陰に隠れてしまう。

 それを見たネイル達はキャシーを庇い、ロマンが話し始める

 

「ギャラン、それにそのご両親も…何でグランヴァニアに?」

 

「お前や其処の王女サマ、それに其処の月下の華達に親の方共々悪事をバラされまくってどの国でも白い目で見られるからグランヴァニアに行くしかないって話になったんだよ‼︎

 お前等には恨みしか無いぞこの野郎‼︎」

 

 如何やらギャラン達は親もルル達に悪事をバラされ、元侯爵家と言う身分が足枷になり最早4国の何処に行こうとも白い目で見られるしか無くなりグランヴァニアへと渡って来ていたらしかった。

 その証拠に身形や鎧等が手入れされておらずボロボロになっており、ロマンに剣を向けるがその剣すらボロボロであり、見るに堪えなくなっていた。

 

「あん時の恨み、全部此処で晴らしてやる‼︎

 うぉらぁ‼︎」

 

「ふんっ‼︎」

 

【カン、バキィィン‼︎】

 

 ギャランはリリアーデでの恨みを晴らすべく剣で斬り掛かって来るが、ロマンはそれをミスリルシールドで防ぐとギャランの剣は折れてしまいその刀身は地面に刺さる。

 そしてギャランは折れた剣に視線を向け、ロマンの方にも視線を向けるが最早恨みも今の1撃で折れてしまいへたり込んでしまう。

 するとロマンは近付きギャランに再び話し掛け始める。

 

「ギャラン、君は今みたいに何度も何度も間違って此処まで来ちゃった。

 その果てがその剣だって、僕は………そう思ったんだ。

 だから上手くは言えないし安易にやり直そうとかは言えない、だけど…」

 

 するとロマンはギャランの目線に立ちながら折れた剣と彼の目を見て話し始める。

 其処には呆れも何も無く、しかし今の彼は最早見るに堪えない落ちぶれた果てだった。

 その彼に安易にやり直そうと口にせずただただ話し続け、だけどと付け加えると…ギャランに手を差し伸べていた。

 それも極自然に。

 

「…もしも困った事があるなら、この手を伸ばして君を助けるよ。

 それが、僕が君にしてあげる唯一の事だと思うから…」

 

「ロ、ロマン…」

 

 ロマンはお人好しとも呼ぶべき優しさからギャランを助けると話し、それが自分に出来る唯一の事と言い切り彼に手を伸ばしたままだった。

 それを見聞きしたギャランはロマンの優しさに恨みも何もかも折れた為その手を泣きながら取り、そして彼に手を引かれながら立ち上がり折られた心を優しさで包まれていた。

 

「…一件落着、か?」

 

 アルはこの光景を見て2人の間にあった何かが崩れて漸く対等な人間同士になったのかと思い、それを口にすると陰に隠れていたキャシーも顔を出してそれを見ていた。

 当事者のエミルも涙で顔を濡らすギャランはこれからも苦難があるだろうと感じ、しかしその度にロマンが手助けする関係になるだろう。

 そう思いながらロマンの優しさを改めて実感した瞬間だった。

 

 

 

「今だ」

 

【パチンッ‼︎】

 

 同時刻、ロマンとギャランのお涙頂戴の茶番劇を目撃していたアギラはこのタイミングだと感じ、魔力を手に集中しながら指を鳴らした。

 その音は冥府から聞こえる冷たい音であり、アリアも目を閉じ始まったかと思い始めていた。

 

 

 

「うっ、うっ、ロマン…」

 

 ギャランはロマンに泣き付き自身が彼にした数々の蛮行の末でも未だ自分を見捨てないロマンの優しさを改めて感じ取り、漸くロマンと言う勇者の大きさを知った。

 これからも彼に救われて行くだろう…そうギャラン自身すら思っていた瞬間、彼とベヘルット元侯爵達の胸が光り始めていた。

 

「? 

 ギャラン、その胸の光は?」

 

「え、あ、これ魔族達に祝印(ギフト)って言われて胸に押し込まれた赤い鉱石が…」

 

 ロマンはギャラン達の胸の光に注目すると、彼は魔族から祝印(ギフト)と言われ、胸に押し込まれたと言う赤い鉱石が光り始めたとギャランは口にする。

 

「赤い…鉱石…まさか⁉︎」

 

 するとそれを聞いた魔族であるムリアは透視(クリアアイ)を使用し、胸の鉱石を確認した上で魂の色も視て慌ててロマンとギャランを引き剥がし、ギャランを押し退かせロマンをまるで庇う様に間に割って入る。

 

「ちょ、ムリアさん⁉︎」

 

結界魔法(シールドマジック)V‼︎」

 

 その突然の行動にロマンは抗議の声を上げるが、ムリアは結界魔法(シールドマジック)Vを使いギャランが近付けない様に行動を取る。

 ネイル達はムリアが無意味にこんな事はしないと知る為、ギャラン達に何かあるのかと凝視し始める。

 

「な、なあロマンこれ如何なって──」

 

【ドォォォォォォォン‼︎】

 

『………えっ…?』

 

 ギャランは何が如何なっているのかロマンに問い掛けた………次の瞬間、ギャランとベヘルット夫妻は突如として爆発し、それ等を見ていたエミル達は乾いた声しか喉から出て来ず、何が起きたのか理解が追い付かずに居た。

 

「何だ、今の爆音は一体何なんだ⁉︎」

 

「皆〜、収容所の人達から離れろ〜‼︎

 爆発するぞ〜‼︎」

 

 その爆音に驚き様子を見に来たカルロの前でムリアはハッキリと『収容所の者達が爆発する』と驚愕の内容を叫び、しかしムリアは今まで正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)として戦い、4国会議でも王達を守る為に戦った正義の者の為その言葉を聞いた者達は収容所群の者達から離れ始め、ランパルドは結界を最大強度で張り始める。

 すると収容所群に居た者達の胸が一様に赤く光り始める。

 

「ちょっ、何なんだこのひか──」

 

【ドォォォォォォォン‼︎】

 

「きゃあっ‼︎」

 

 すると収容所群に居たエミル達に情報を与えたエルフが何の光なのか慌て始めた瞬間爆発し、更に爆発はあちこちで起こり、船までも爆発し更に食事を運んでいたレオナ達も爆風で吹き飛ばされ地面に倒れ伏した。

 そして直ぐに視線を戻し、エミル達も周りを見ると…其処には地獄と呼ぶに相応しき光景が目に映る。

 

「ぎゃぁぁぁ、腕がぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「あ、足が…ぐぅぅああああ‼︎」

 

「ゴフッ…‼︎」

 

 ある者は腕が、またある者は足が爆発により吹き飛び地面に落ち踠き苦しみ、またある者は爆発をまともに受けてしまい全身を裂傷し絶命すると言う先程までの和やかな空気は一変してしまっていた。

 そして船からは全身を焼かれ苦しみながら海に飛び込む兵士等が次々と海に落ちていた。

 その爆発により連合軍の負傷者、死者は有に1万を一気に超えてしまっていた

 そして、絶望感が港街に満ち始める。

 

 

 

「あーはっはっはっはっは‼︎

 そうだ、この地上界のゴミ共の絶望する様は心地良い‼︎

 あーはっはっはっはっは‼︎」

 

 一方グランヴァニア宮殿跡でアギラは連合軍が完全に訳が分からず絶望する様を見て興奮しながら笑い上げ、アリアの前で愉悦に浸っていた。

 それを見ていたアリアは内心で悪趣味と思い良い顔はしなかった。

 

 

 

「──っ、魔法使いは爆発で捥がれた部位を持ちながら負傷者を回復魔法(ライフマジック)で治療‼︎

 他の兵はこの騒ぎに乗じて魔族が来ないか警戒せよ‼︎

 レオナお姉様、カルロお兄様も自らに出来る事をなさって下さい下さい‼︎」

 

『っ、わ、分かった‼︎』

 

 エミルは祝印(ギフト)の正体がこの惨劇を生み出したと悟り、カルロとレオナに自らに出来る事をする様に叱咤しながら魔法使い達には負傷者達に回復魔法(ライフマジック)を使用し、他の兵には魔族達を警戒する様にと叫び自身もキャシーやシャラを連れて負傷者の治療に当たり始めた。

 

「そ、そんな…私の…国の民達が…」

 

「は、母上…!」

 

 そんな中ランパルドの結界で守られながら目の前で自国の民が爆発し塵も残さず死ぬ光景を間近で見たフィロは絶望に項垂れ涙を流し、リヨンはそんな母を支える様に肩に手をやりエミル達より子供なのに気丈に振る舞おうとしていた。

 

「何なんのだ…何故こんな事が起きた⁉︎」

 

「おいムリア、お前何か知ってんだろ⁉︎

 何があったのか説明してくれよ‼︎」

 

 ランパルドやロック達各王、女王は目の前の惨劇を受け止めきれず憤りを隠せずに居た。

 そんな中ガムがムリアに何が起きたのか説明する様に言い寄り、当のムリアは目の前でギャラン達が爆死したのを見てしまった放心状態だったロマンの頬を叩き、無理矢理意識を向かせると重い口を開き始める。

 

「…『魔血破(デモンズボム)』、魔界で採掘出来る爆発性の赤い鉱石で、他の生命体の身体にも埋め込む事が出来て魔族の特定の波長の魔力を送られると爆発する物なんだ…。

 本来の使い方は鏃に爆発性を付けて撃つ物か手投げ爆弾として使うか何だけど………こんな…こんな…‼︎」

 

 ムリアはその口から爆発性鉱石、魔血破(デモンズボム)の名前を口にし、特性や本来の使い方を説明し始める。

 それ等は矢に魔法を頼らず爆発する物理的な爆裂鏃や手投げ爆弾として使われると話すが、他の生命体の身体にも埋め込められる特性まである事を話してた上でこの惨状にムリアは怒りで手を震わせていた。

 

「…ギャラン………くっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 それ等を聞きロマンは折角その手を取れたギャランが目の前で爆死した現実を漸く理解し、その手を地面に何度も叩きながら直前に何もしてやれなかった事を悔いながら様々な感情から泣き叫んでいた。

 

「ムリア、なら救う方法は無かったのか⁉︎

 魔族のお前ならその方法が…‼︎」

 

「………魔血破(デモンズボム)は天使の魔力を受けないと無力化しないって魔界で言われてるんだ………実際そうなのか分からない………ごめん、ネイルの兄貴…‼︎」

 

 ネイルはムリアに救う手立ては無かったのかと叫ぶが、ムリアは実際にそうなのか不明だが天使なら無力化出来た事を口にすると謝罪し始めた。

 そしてその謝罪は救う手立ては無かった事を彼の口から言わせる物であった為、ネイルもやり切れぬ怒りを抱いていた。

 

「ひゃっはぁぁぁぁ‼︎

 流石ギャラン様、馬鹿な地上界の連中が慌てふためいているぜぇ‼︎」

 

 その時、爆煙が浮かびながらエミル達が奔走するヴァレルニア港の街の地上と空中に魔族の軍団が現れ、その数は8万を有に超えておりガムやアル、サラ達は嫌でもこれが本命だったのだと悟りながら魔族達を見ていた。

 

「くっ、レオナお姉様、私やキャシーちゃん、シャラさんは魔族と戦います‼︎

 お姉様達は何とか負傷者達を救って下さい‼︎」

 

「分かったわエミル、この私の全ての体内魔力が枯れ果てるまで、負傷者達を守り治癒するわ‼︎」

 

 エミルはその魔族の軍団を目撃するとキャシーとシャラを引き連れて戦う事を選択し、レオナはエミルに言われ他の魔法使い達と共に負傷者達の治癒と防衛をすると宣言する。

 すると無事だったアルクやカルロ、リン達は無事な兵達と共に魔族達と既に戦闘を開始し、戦闘音が港街に鳴り響き渡っていた。

 

「ぎゃははははは、さあ足掻け足掻け塵芥共‼︎

 どうせ抵抗しても此処でお前達が死ぬ事は決まってるんだからなぁ‼︎」

 

 すると魔族の1人が嘲笑いながら戦場全体を見渡し、混乱し切る中で抵抗する連合軍を尻目に自身の獲物を見定めようとしていた。

 その言葉を聞いたロマンはフラッと立ち上がり、剣を構えてその魔族の前に立ち、更にネイルも剣と槍を構えながらロマンの横に立っていた。

 

「おお勇者様に英雄さんの子孫だぜ、お前等集まれ‼︎」

 

『ギャハハハハハハ‼︎』

 

 するとその魔族はロマンとネイルに狙いを定め、他の魔族も呼び周りを囲み何時でも襲い掛かれる様にロマンやネイル、アル達の前立ち塞がっていた。

 

「貴様達に問う、これが貴様達の正義か?」

 

「ああん? 

 地上界の連中を爆弾にしたから頭沸いてるのかコイツ?」

 

「もう一度問う、これが貴様達の正義か?」

 

 そんな囲まれたロマン達を救おうとアル達も武器を構え始めると不意にネイルがこの行いが魔族達の正義かと問い始め、仲間を呼んだ魔族は頭が可笑しくなったのかと嘲るが何度も問い掛ける勢いで正義であるかを問いた。

 すると周りの魔族達も笑いながらそれに応え始めた。

 

「そうさこれが正義さ‼︎

 お前達塵芥の地上界の連中には分からない高等な生命である魔族、特にアギラ様の正義なんだよ‼︎

 如何だ、これで満足したか?」

 

 問い掛けられた魔族はあくまでも自分達こそ高等な生命であるとしながらこの惨状を自分達のトップであるアギラの正義と語り指を指しながら笑い、そして周りの魔族共々武器を構え始める。

 すると………その問い掛けられた魔族の首が無言のまま距離を詰めたネイルの剣で刎ねられた。

 

『…なっ⁉︎』

 

「こんなのが…こんなのが正義であって堪るか‼︎

 うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

 周りの魔族達はそのスピードに驚愕した瞬間、ネイルはこの行いが正義であって堪るかと慟哭の叫びを上げながら魔族達に剣と槍で乱舞を始め、それを皮切りにアルやガム達も魔族達に突撃したり矢を放ち始めた。

 

「…ギャランの、ギャランの仇だ………うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 そしてロマンも今までに無い怒りを胸に抱き魔族達の群れの中に飛び込み始め剣で次々と魔族を斬り始める。

 そしてヴァレルニア港街は混沌を極める戦場と化し、魔族も次々と転移して来るのだった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
安易なネタかも知れませんが、ええ使いましたよ…人体爆弾。
アギラの趣味はこんな物を使うし虐殺だって平気に行う、そんな清々しい悪役を目指しました。
そしてギャラン、君の事は忘れません…。
それから、アギラの策は未だちょっとだけ続きがあります。

此処までの閲覧ありがとうございました、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第29話『4国連合、反抗する』

皆様こんばんはです、第29話目更新でございます。
今回は前回の続き、ロマン達の怒りが爆発してから本格的な戦いになります。
果たしてエミル達の戦いが実を結ぶかご覧下さいませ。
では、本編へどうぞ。


 混乱を極めるグランヴァニア、ヴァレルニア港街でエミル達は次々と現れる魔族に最大火力の魔法を放ち、ロマン達は怒りに任せ突撃していた。

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「ちぃ、コイツ等止まらねえ‼︎

 お前等、雑魚は構うな‼︎

 勇者とその仲間共を狙え‼︎」

 

 特にロマンやネイル達の一騎当千振りは目ざましく、他の兵達を助けながら魔族達を屠りこれ以上の犠牲を出させない様に怒りに身を任せながらも立ち回っていた。

 それに焦った魔族達はロマン達に狙いを絞り始めるも、背中を見せれば連合軍に斃されると一騎当千の者達と他の兵で連携が出来上がりつつあった。

 

「ちぃ、塵芥の地上界のゴミ共が‼︎

 アギラ様の話なら連中はもっと混乱状態になって殺し易くなるって筈なのに‼︎」

 

「確かに我々は今は混乱状態にある‼︎

 だが、それよりも我々は今怒りの炎で燃え上がり、貴様達をこの手で討つと誓い立つ者が多いだけだ‼︎

 雷光けぇぇんッ‼︎」

 

 魔族達はアギラの話ならばもっと混乱して殺し易くなる手筈と口にしたが、アルクが怒りの炎で燃え立ち上がった者の方が多いと口にし、複合絶技である雷光剣を使用し魔族達を薙ぎ払う。

 この間も魔族達は転移して来て攻撃を開始して無人の港街は戦場の炎に晒されるのだった。

 

「負傷者達を狙え、大水流(タイダルウェイブ)‼︎」

 

「させません、結界魔法(シールドマジック)V‼︎」

 

「からの『瀑風流(タイダルストーム)‼︎」

 

 魔族達は今度は負傷者と治療に当たる魔法使い達を狙い最上級魔法、更には中には複合属性魔法が混じり彼等を襲おうとしたが、其処にキャシーがシャラと共に結界で最上級魔法を防ぎ、複合属性魔法は焔震撃(マグマブレイク)だった為エミルが真逆の属性の複合魔法たる瀑風流(タイダルストーム)で相殺、否、押し返し最上級魔法を放った魔族ごと薙ぎ払い次の混戦地帯に向かい始める。

 

「怪我人しか狙えねぇ腰抜け共が、俺様達を止められると思うな‼︎」

 

「許さない、卑劣なお前達だけは絶対に許さない‼︎」

 

「こんな、こんな命を弄ぶ事を悦ぶなんて…フィールウッド第1王女、そして魔王討伐の使命を賢王から継いだ身として私はこの度し難き行為を断罪する‼︎」

 

 その混戦地帯の1つでアル、ルル、サラもまたこの命を弄ぶアギラの策にロマン程苛烈では無いが怒りを燃やし斧を、2本のダガーソードを、矢を用いて並み居る魔族の軍勢を斃し続けていた。

 

「悪よ、滅びよぉぉぉぉ‼︎」

 

「ネイルさんに及ばないが我が正義の槍、篤とご覧あれ‼︎」

 

「俺の怒りは今頂点に達した、人の姿を今この時は捨て、罪ありき魔族の姿としてお前達同胞(はらから)を討ち払わん、おりゃぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 更にその先では剣と槍で乱舞しながらネイルが襲い来る魔族達を滅ぼすべき悪として屠り、ガムも槍で魔族を翻弄し、ムリアは敢えて変身魔法(メタモルフォーゼ)Iを解き魔族の姿でアギラ派の同胞(はらから)達を斧と魔法で討ち滅ぼして行く。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「ぐぁぁぁぁ、勇者が止まらねえぇぇぇぇぇ⁉︎」

 

 そしてロマンは魔族の軍勢の中心に飛び込み、青い返り血を浴びながらネイル達以上に魔族達を剣、魔法、絶技の全てを以て殺して行き、ギャランや収容所の者達が何をされたのか分からないまま死んだ無念をぶつけ、怒りのままに更に突撃する。

 

「くそ、この勇者怒り任せの癖に的確に俺達を殺して来やがる⁉︎

 こうなったら魔力切れを狙って」

 

「『大震波(タイダルブレイク)‼︎』」

 

『グァァァァ‼︎』

 

 魔族達はロマンの猛攻にたじろぎ、魔力切れを狙い撃ちする作戦にしようとした瞬間、エミルがその場に立ち入り水と土の複合属性魔法で魔族200人を一気に消し飛ばし、更に杖と剣を持ちながら自身やアルやネイル達に身体強化(ボディバフ)を掛け剣と杖で魔族を斃せずとも退かしロマンの横に立つ。

 

「ロマン君はいこれ、体内魔力回復用ポーション‼︎

 それと私と一緒に戦って魔力切れを起こさない様にして‼︎」

 

「エミル⁉︎

 んぐ…ゴクッゴクッ、ありがとう。

 これで僕はまだ…戦える‼︎

 はぁぁぁぁ‼︎」

 

 エミルは慌ててロマンの口に体内魔力回復用ポーションを無理矢理押し込みながら飲ませる。

 それにロマンは驚くが瓶内の液体を飲み干しながら継続戦闘出来ると話し、少しは頭を冷やしながらも未だ怒りに燃えながら突撃する。

 それをエミルは止めず空瓶を魔族に投げ付けた後魔法大砲を連発し援護を始める。

 エミルも冷静を装っているが内心は怒りに満ち、ロマンを止める気など無いのだ。

 

「ち、畜生が‼︎

 あの勇者に魔法使いが付いた瞬間更に動きが良くなりやがった‼︎

 一体如何したらあいつ等を止められる⁉︎」

 

「俺様達を止められると思うなクソ野郎共がぁ‼︎

『激水斧』‼︎」

 

 魔族達はロマンとエミルの合流で更に手が付けられなくなったと愚痴を零し、如何すればと独り言を話していたその背後から遂にアル達が合流。

 独り言を話した魔族は周りの魔族ごと土と水の複合属性絶技で葬られ、多くの魔族が集結する場所に誓いの翼(オースウイングズ)も集結する。

 

「ロマン、このまま魔族達を押し切るよ‼︎」

 

「お前の背中は俺様達が守る‼︎

 だからお前も俺様達を守りやがれ‼︎」

 

「さあロマン君、行くよ‼︎」

 

 ルルが先ず魔族達に回転乱舞を叩き込み、アルも手斧を投げたりミスリルアックスで薙ぎ払い、サラも矢を連発して援護をしながらロマンに声を掛けこのまま戦うと話す。

 それを聞いたロマンは静かに頷きながらアルやルルと共に前衛として戦い、サラの弓矢とエミルの魔法が炸裂する。

 その別の場所ではネイル達の絶技や魔法が飛び交い、戦場は正に怒りに燃えた戦士達の独壇場となっていた。

 

「ええいクソ、もっとだ、もっと戦力を投入しろ‼︎

 アギラ様より戦力投入は好きにしろと言われてるんだ‼︎」

 

 すると1人の魔族は戦況が思わしく無いと判明したのか戦力の更なる投入を決行し、それに伴い魔族が更に次々と転移し戦場に入り始める。

 それ等に対し4国連合、正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)、そして誓いの翼(オースウイングズ)は激しい抵抗をし、3時間以上に及ぶ戦闘が繰り返され、空は徐々に明るくなりながらなお戦闘が続いた。

 そして港街の建物は完全な瓦礫になり、街は見る影も無くなって行った。

 

「う、うう、助かりました………では、王女様、我々も…」

 

「待ちなさい、病み上がりで戦場に出ないで‼︎

 我々が守るから貴方達は休みなさい‼︎」

 

 その間に負傷した兵達はレオナ達の回復魔法(ライフマジック)により捥げた腕や裂傷した箇所が治され、回復した兵士達は戦場へ躍り出ようとしたがそれをレオナや魔法使い達が静止する。

 結界を張りながら攻撃魔法を放ち病み上がりの兵達を守護する。

 その間も戦況は激化の一途を辿り、戦場は火の海となり双方に完全な死者が出始めていた。

 

「うおぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

「はぁぁぁぁ‼︎」

 

 その頃戦場の中心地ではエミル達とネイル達が合流し、更にマークスやアルク達枷を外した者達も兵士達を引き連れて合流し物量で押そうとする魔族達を逆に押し返し始め、徐々に混乱した戦場は連合軍に軍配が上がり始める。

 その証拠としてエミル達の魔法大砲が魔族達を薙ぎ、ロマン達が斬り捨てていた。

 

「ええい何をしている‼︎

 我々の大半の魔血晶(デモンズクリスタル)はアギラ様に預けて逐次再生と戦闘への再参加が出来るんだぞ‼︎

 なのに何故奴等を殺せない⁉︎」

 

 その時1人の魔族が声を荒らげ何故押し返されるか理解に苦しんでいる様子だった。

 それを聞いたエミルやロマン達は確かに大半の魔族の額に魔血晶(デモンズクリスタル)は無く、さっきから同じ魔族を斃してばかりだと気付き体内魔力回復用ポーションが切れるか魔族達が諦めるかの根比べと化していると気付き戦いの疲労による汗が更に服や頬を濡らした。

 

灼熱雨(マグマレイン)‼︎

 地上界の勇士達よ諦めるな‼︎

 武器と魔法を振るい、魔族達の蛮行を許すな‼︎」

 

「我等の心は1つ、グランヴァニアの民を爆弾に変えた者達への正しき憎悪と怒りだ‼︎

 それ等を正義の心に変え、悪意ある魔族達を打ち払うぞ‼︎」

 

『オォォォォォ‼︎』

 

 そんな中でランパルドはフィロやリヨンを守りながら戦場の兵達に激励を飛ばし、それをアルクが更なる激励とし兵士達の疲労を忘れさせる言霊となり青と赤の血で濡れる地面を踏み鳴らし例え魔族が再生しようとも必ず押し切る様に連合軍は更なる躍進をし魔族達を押し返す。

 それ等により魔族達は地上界の軍勢に恐れを抱き始めていた。

 

「く、くそ、このままじゃマジでこっちが負けるんじゃ…⁉︎」

 

「あ、おい、後ろの空を見ろ‼︎」

 

 魔族達は地上界の勇士達の反抗にたじろぎ敗北のイメージすら過り始め撤退を視野に入れていた。

 すると魔族の1人が後方の彼方の空から1つの影が猛スピードで近付くのを確認し、ニヤリと笑みを浮かべ始めていた。

 

「何だエミル、何が近付いて来てやがる⁉︎」

 

「ド、ドラゴン…でも、金の竜鱗で覆われたアークドラゴンじゃない‼︎

 赤黒い…見た事も無いドラゴンが…来る‼︎」

 

 アルは魔族達の様子からエミルに何が近付いて来るか問うと、エミル達の千里眼(ディスタントアイ)に最上位と思われたアークドラゴンとはまた違う、赤黒く翼には棘が更に増え、全身が禍々しくなった見るだけで分かる今までの魔物が可愛く見える邪竜が近付きつつあった。

 そしてその邪竜はエミル達が視ている中で長距離から口に蒼炎を溜め込み始める。

 

「っ⁉︎

 拙い皆逃げて、あのドラゴンのブレスは今のエミル位じゃないと結界で防御し切れない‼︎」

 

【ボゥゥ‼︎】

 

 その時ルルやリリアナの危機予知に全体で防御した際の末路が見えてしまい、ルルが大声でエミルのレベルの結界じゃなければ防げないとして全員に逃げる様に叫ぶ。

 その瞬間邪竜の口から蒼炎のブレスが放たれまだ小さな影しか見えない長距離から一気にヴァレルニアの港街に巨大な蒼い炎の光が閃光の如く空を奔り始める。

 

「拙い、皆避けろぉぉぉぉ‼︎」

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

【ゴォォォォォォォォォォォォ‼︎】

 

 それをアルクが直感から全体に避ける様に叫ぶと兵達は一斉に回避し始めるが、連合軍ごとヴァレルニアの港街に蒼炎が襲い、大地を穿ち海を割りながらブレスが地平線にまで届き一気に街は蒼の炎に覆われ、数万以上の兵士達が魔血晶(デモンズクリスタル)の無い魔族ごと灰も残らず焼却されてしまう。

 エミルやキャシー、レオナ達はギリギリで結界で防いだが防ぎ切った瞬間結界は砕け散り、術者達は地面に倒れ伏していた。

 

「あぐ…何て威力のブレス…私達の結界が最後の最後に破られた…‼︎」

 

「うっ、く………はっ、へ、陛下⁉︎」

 

「ぐぅぅぅ…‼︎」

 

 エミルは余りの威力のブレスに驚愕し、融解した地面や割れた海を見てそれが直撃してたら死んでいたと嫌でも思い知り、アルク達やリン達も恐怖し、その中でランパルドの近くに居たレオナの目に父王の右腕が焼滅していた光景が映っていた。

 

「そ、そんな、ランパルド国王様、私やリヨンを庇って…‼︎」

 

「ふ、ふっ…救える命を救わずして何が王か…ぐぅぅ‼︎」

 

 何とランパルドは逃げ遅れたフィロとリヨンを庇って右腕にブレスが直撃し、杖ごと焼き払われたのだ。

 それをフィロやリヨンは何故自分達の為にと感じたが、ランパルドは王として救える命を救ったと話しながらも苦しみ、フィロは回復魔法(ライフマジック)を使い焼けた腕のこれ以上の痛みを和らげようとした。

 

「な、何てブレスだ! 

 アークドラゴンなんかが可愛く見えるやべぇ威力だ…‼︎」

 

「っ、そのドラゴンが来るよ、皆構えて‼︎」

 

 アルは見た事も無い威力のブレスにただただ驚き身震いし、そのアルを含め現存する連合軍全体にエミルは邪竜が来ると叫び構える様に促した。

 そうして連合軍が立ち上がり身構える中彼方の空から猛スピードで焼け落ちた大地に赤黒い邪竜が姿を現す。

 

『グォォォォォォォォォォォォォォォォォォ‼︎』

 

『…っ‼︎』

 

 その邪竜は地に降り立った瞬間獲物達に咆哮を上げ、全身から放たれるプレッシャーに連合軍はたじろぎ、エミルすらも後退りながらこの邪竜を前にしていた。

 その時魔族達が水晶石を焼け爛れた大地に幾つも投げ捨てると、その全てが赤く光り其処にはアギラと複数の魔族の姿が映し出されていた。

 

「アギラ‼︎」

 

『やぁやぁやぁ、勇敢な地上界の戦士達よ。

 私からの魔血破(デモンズボム)を埋め込んだ愚民達、更に今送ったオーバーロードドラゴンのプレゼントは気に入ってくれたかな?』

 

 エミルはアギラの名を叫ぶと、本人は悪意の笑みを浮かべながら魔血破(デモンズボム)やこの邪竜、オーバーロードドラゴンをプレゼントとして贈り気に入ったか否かを問いていた。

 するとロマンはあの残酷な命を爆弾に変えた策やこの竜を気に入ったかと言われた瞬間彼の中で何かがプツリと切れる。

 

「巫山戯るなこの悪魔‼︎

 あんな…あんな残忍で命を弄ぶ行為やコレを気に入ったかだって? 

 そんな訳あるか‼︎」

 

『おや、如何やらお気に召さなかった様子らしい。

 これは失礼、今度からプレゼントの内容は考える事にしましょうか。

 それより、その水晶石から映るこの光景は見えるかな?』

 

 ロマンは怒りのままアギラがプレゼントと称した物全てを憎み出し剣を握る力が増していた。

 それは他の皆も同じであり、アギラを見る目は正に怒りと憎しみが込められた物だった。

 それを見たアギラは次はもっとプレゼントを考えると話した後、水晶石を通して映る光景が見えるかと問いた。

 するとエミルはその先には不思議な光を放つ泉があり、まさかと考えていた。

 

「まさかそれは…‼︎」

 

『そう、楔の泉です‼︎

 我々魔族の目にはただの泉にしか見えない為探すのに苦労しましたが、この国の愚民達が魔王様降臨に邪魔な存在だと話したら嬉々として探し出してくれましたよ‼︎

 故にこの国から滅ぼしてやろうとも考えてましたよ‼︎』

 

「悪趣味な…‼︎」

 

 エミル達はまさかと思うとアギラはあっさりと楔の泉だと吐き、グランヴァニアの民達が魔王降臨に邪魔と流布して探し当てた事まで話し、其処からこの国から滅ぼす計画まで立てたと話しネイルも余りの悪趣味さに歯軋りし、エミルは急いでアギラが居る場所を探そうと千里眼(ディスタントアイ)で探そうとしていた。

 

『おっと、今更探そうとしても無駄ですよ魔法使いエミル! 

 何故ならもう既に魔法を放ちこの泉の破壊準備が整ってますからねぇ! 

 それに仮に我々を止めたとしてオーバーロードドラゴンを放置してお仲間が焼かれるのを見過ごす気ですか? 

 薄情な女ですねぇ〜』

 

「アギラァ…‼︎」

 

 するとアギラは既に泉破壊の用意が整っていると話し、更にオーバーロードドラゴンを放置して自分達の所に来るのかと2つに1つを迫りエミルはアギラの悪辣な策に目を血走らせ睨み付けていた。

 それをアギラは鼻で笑い、そして泉に視線を戻し始めた。

 

『さて、ではそろそろ貴女達の目の前で楔の泉を破壊するショーを始めましょう‼︎

 さあ忌々しい楔よ、魔王様降臨を妨げるその光と封印を解放しろぉぉぉぉ‼︎』

 

「だ、駄目ぇぇぇぇぇ‼︎」

 

 アギラは複合属性魔法を手を掲げながら用意し、それをショーとして見せ付けながら破壊を開始する。

 エミルはあの悪夢が頭を過り、手を伸ばして静止しようとしたがそんな物が届く筈も無く魔法は楔の泉へと吸い込まれる様に放たれた。

 エミルは再びアギラを見つけて転移しようとし、オーバーロードドラゴンはそれを見てエミル達にブレスを放ち反応が遅れたエミルは蒼い炎が迫るのと楔の泉に魔法が打たれるのを同時に見ていた。

 そして────。

 

【キィィィィィィィィン‼︎】

 

 楔の泉、並びにエミル達の前に光の壁が現れ、魔法とブレスの両方を完璧に防ぐ。

 それを見たエミル達は何が起きたのか理解が遅れ、更に水晶石の先のアギラは明らかな動揺を見せていた。

 

『こ、これは天使の守護結界⁉︎

 何故、天界が動くにしても早すぎる⁉︎

 一体何が起きたんだ⁉︎』

 

 如何やらこの光の壁は天使達の守護結界らしく、アギラは天界が動くとしてももっと遅い、少なくともこの泉を破壊しきってからと踏んでいた為動揺し過ぎで混乱していた。

 するとエミル達の居るヴァレルニアの空が黄昏の光に包まれ、その天から白いフードを纏った者達が降り始める。

 それは天使と呼ばれる、天界に住まう戦士達であった。

 更に水晶石の先でも木の陰から1人の人物が現れる。

 

魔血破(デモンズボム)使用とオーバーロードドラゴン投入後に必ず此処に来る、そう踏んで警戒した甲斐がありましたよ…お陰で貴方の最後の詰めを阻止出来たのですからね』

 

『き、貴様は…アレスター⁉︎』

 

「アレスター⁉︎」

 

 その人物は何と天使化したアレスターであり、如何やらこの場所に警戒を強めてアギラの悪辣な策を崩す様に動いてたらしく言動からもそれが窺い知れた。

 更にアレスターの近場にも天使が降り立ち、エミル達の目の前には天使アイリスともう1人フードを取った天使、リコリスが降り立っていた。

 

「さあ地上界の戦士達、反撃の時ですよ…我等天界の戦士、聖戦の儀の法を破りし魔族アギラ達の断罪を成さん‼︎」

 

『グォォォォォォォォォォォォォォ‼︎』

 

 アイリス達がダメージを負った連合軍に回復魔法(ライフマジック)を掛け、傷を癒しながらその瞳を見開くと水晶石の先に居るアギラに対してアイリスが光の矛を向け断罪すると宣言する。

 するとオーバーロードドラゴンが咆哮を上げ天使達を威嚇するが、その天使達は怯みもせずそれを合図に魔族達と戦闘を開始し始める。

 

『く、くそ、何故貴様が天使に⁉︎』

 

『そんな事は自分でお考えなさい、それが私からの課題ですよ。

 さあ、可愛い生徒達を痛ぶった分の授業料は払って貰いますよ‼︎』

 

『ぐ、ぐおあっ⁉︎』

 

 更に水晶石の先でもアギラとアレスターの戦闘が行われ、そのビジョンを皮切りに水晶石の映像は途切れる。

 するとエミル達の意識は目の前の魔族やオーバーロードドラゴンの方に移り、誓いの翼(オースウイングズ)正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)が相手取る事となる。

 その瞬間オーバーロードドラゴンは再びブレスを放つが、これをアイリスとリコリスが難なく防ぐ。

 

「天界が、天使が手を貸してくれるの⁉︎」

 

「あくまでオーバーロードドラゴンを斃すのは貴方達地上界の戦士達に任せます! 

 我々はブレスの防御に回ります! 

 不安にならないで、この数時間魔族と戦い続けレベルアップを何度も経た貴女達ならばこの化け物トカゲ1体如き退治可能です‼︎」

 

 ロマンは天使達が手を貸し始めた事に驚くと、リコリスがアイリス共々オーバーロードドラゴンのブレスを防ぐに留め、退治はエミルやロマンたちに任せるスタンスを取っていた。

 一方他の天使達は連合軍に手助けし、魔族達を攻撃し彼等を救っていた。

 それ等を見たエミルは天使達の立ち位置を大体理解し、杖を構えた。

 

「…ならそのトカゲ退治、やってやろうじゃないのアイリス、それと其処の天使さん‼︎

 皆、オーバーロードドラゴンを集中攻撃するわよ‼︎

 身体強化(ボディバフ)IV‼︎」

 

 そうしてエミルは大見得を切りながらオーバーロードドラゴン退治を10人で開始し、全員に身体強化(ボディバフ)IVを掛けるとそれが合図となり戦闘が開始されロマン達前衛が駆け抜けた。

 するとオーバーロードドラゴンは尻尾で薙ぎ払おうとすると全員避け、先ずはアルとムリアから攻撃を開始する。

 

『おぉぉぉぉぉぉ、暴焔斧‼︎』

 

【ズシャッ‼︎】

 

 アルとムリアは火+風の複合属性絶技を使いその身体を斬るが、竜鱗はオリハルコンと思わんがばかりに硬く余り刃が通らず表皮を傷付けるだけだった。

 

「くっ、何て硬さだ、刃が通らねぇ‼︎」

 

「なら私達が行く‼︎」

 

 すると其処にルル、ガムが突撃する。

 オーバーロードドラゴンの腕払い等を避け懐に潜り込み、アル達が傷付けた部分に狙いを定め武器を抜く。

 

「やぁぁ、嵐瀑剣、爆震剣‼︎」

 

「『激水槍』‼︎」

 

『ガァァァァァァァァァ‼︎』

 

 ルルは2本のダガーから別々の複合属性絶技を繰り出し、ガムも水+土の複合属性絶技を放ち、アル達が表面を傷つけた部分を再び攻撃して漸く肉に刃が突き刺さりオーバーロードドラゴンは苦しみ出した。

 すると再びブレスを放つ用意を始め、口に蒼い炎が溜まり始める。

 

「させ、ないよ‼︎」

 

【ヒュンヒュンヒュンヒュン、ズシャシャシャ、ボンッ‼︎】

 

『グォォォォォォォォォォォォォォ‼︎』

 

 するとサラが口の中に何発も絶技込みの矢を放ち、ブレスの暴発を誘発させてオーバーロードドラゴンを更に苦しめる。

 この行動にはアイリス、リコリスも不要な援護だったかと思いながら戦士達を見つめていた。

 

燋風束(マグマバインド)‼︎』

 

 其処にエミル、キャシー、シャラの3人による火+風の複合属性魔法が炸裂し、オーバーロードドラゴンの視界や動きを遮り行動制限を与えながらダメージを重ねて行く。

 

「行くぞ、ロマン君‼︎」

 

「はい‼︎」

 

 そうして最後の真打ちであるロマン、ネイルがオーバーロードドラゴンに突撃し、2人でオーバーロードドラゴンの手の払い除け、翼の羽ばたきを回避しながら懐まで潜り込み攻撃を開始する。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

 先ずネイルが剣と槍で相互に複合属性絶技を使い、何度も何度もオーバーロードドラゴンを斬り付け刺し突き、硬い竜鱗などお構い無く兎に角攻撃をし、時には回避しながらダメージにダメージを重ね始めて行き、エミル達の援護もありながら攻撃を緩めずにいた。

 

「はぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 其処にロマンも攻撃に加わり、2人で縦横無尽に駆けながら竜鱗を剥がして行き、其処にアル達も再び加わり重い1撃を叩き込みオーバーロードドラゴンの脳を揺らす。

 更にルル達も攻撃を加え竜鱗が剥がれた箇所から肉を裂き、竜の生き血が噴き出しオーバーロードドラゴンはいよいよ踠き苦しみ始めた。

 

「喰らいなさい、闇氷束(ブラックフローズン)‼︎」

 

【ガシャガシャガシャン‼︎】

 

 そんなオーバーロードドラゴンに対しエミルは闇+氷の複合属性魔法を使い邪竜の脚から下半身、更に翼を黒き氷で凍結させ動けなくさせる。

 それを見たアル達はいよいよ止めの時が来たと悟りながら一旦後ろに下がる。

 

「うおぉぉぉぉぉぉ、邪竜よ、この世から去れぇぇぇぇぇ‼︎」

 

【ザン‼︎

 ズシャァァァァ‼︎】

 

『グォォォォォォォォォォォォォォ‼︎』

 

 其処にネイルが槍を足に投げ、剣を両手で持ちながら邪竜の首を狙う。

 しかしこの邪竜は只の竜に在らず、何と凍結を無理矢理小さなブレスで溶かし、足等を動かし首を捻り斬首を躱す。

 しかし右腕と翼がネイルの剣により切断され踠き苦しむ姿が更に苛烈になった。

 そしてその頭上、既にロマンが首を捉え剣を構えながら急降下していた。

 

「これで、トドメだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

【ザァァンッ‼︎

 ブシャァァァァァァァァァ‼︎

 ボトッ‼︎

 ズゥゥゥン‼︎】

 

 ロマンは魔力を剣に込め、最大火力の爆震剣でオーバーロードドラゴンの首を遂に斬首する。

 その首から鮮血が迸り、無念とも取れる表情をした邪竜の顔は地面に落ちた後白目になり、残された体も地面に倒れ伏し漸くオーバーロードドラゴンは斃されるのであった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…‼︎」

 

『…見事、地上界の戦士達』

 

 ロマンは剣先を地面に突き立て肩で息をし、他の面々も大体が同じ様子の中アイリスやリコリスはエミル達を見事と賞賛し、回復魔法(ライフマジック)や体内魔力回復用ポーションを取り出し飲ませ始め回る。

 一方その頃連合軍は天使達の手助けもあり無限とも思えた魔族達の軍勢を完全に押し切り、地獄の惨状から始まった怒りの戦いに一旦の決着をつけるのであった。

 

 

 

「ぐぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 更にその頃、アギラは天使化したアレスターに完全に圧倒され取り巻きの魔族達も消滅させられ絶体絶命とも言うべき状況下に追い込まれていた。

 

「く、くそ‼︎

 何故私の策がぁ…‼︎」

 

「貴方はやり過ぎたんですよ。

 最早貴方に授業を課すのも無駄だと判断しました、次で消滅させます」

 

 アギラは自身の策が完全な失敗を遂げた事に何故、完璧な策だったとしたと思った物が何故崩れたと嘆いていた。

 それをアレスターはやり過ぎたと口にし、周りの天使達と共に裁きの魔法を放とうとした。

 しかし………その時赤黒い雷と共に5人の魔族達がアギラの目の前に転移して来る。

 それはアギラも忌々しいと思うシエル達だった。

 

「なっ、魔族シエル達⁉︎

 何故邪魔を」

 

「待ちなさい貴女達、動かないで下さい‼︎

 動けば彼女達は攻撃して来ますよ‼︎」

 

 名無し天使達は何故聖戦の儀の法を破ったアギラをシエル達が救うのか理解出来ず光の矛を構えようとしたが、それをアレスターが静止させる。

 動けばシエル達に殺されると判断したからである。

 

「流石は魔法の天才アレスター、見敵眼も優れてるな。

 それでこそ俺の拳が砕くと決めたに相応しき者」

 

「…退けアギラ、お前の策は失敗した。

 ならば次の策を講じるか披露しろ。

 魔界1の策士ならばあるんだろう、私達があっと驚く策が」

 

「…くっ‼︎」

 

 ダイズはアレスターの見敵眼を褒め称え、魔力を込めた拳を彼に向け敵意を剥き出しにする。

 そのプレッシャーに名無し天使達は完全に呑まれ彼とは戦えないと一瞬で理解する。

 対するシエルはアギラに策がまだあるのだろうと挑発する様に撤退を促していた。

 それを聞いたアギラは苦虫を噛み潰した様な表情で転移をした。

 

「…」

 

「アギラを見逃した事は別に悔いるなアレスターよ。

 シエル様やダイズにはそれぞれ思惑がある、それを邪魔されたくなかっただけだ。

 …ではさらばだ」

 

 アギラを逃した事を失策と内心で思っていたアレスターにアザフィールはシエルやダイズにも思惑がある為だと話し、悔いるなと話した。

 そしてシエル達5人は再び転移し、その場にはアレスター達のみが残された。

 

「…その思惑と言うのが分からないのですから困るんですけどね…」

 

 アレスターはボソリと彼女達が何を考え行動しているか分からない為頭をぽりぽりと掻くと、後ろを振り向き楔の泉の守護結界を更に強めてからエミル達の方を向き、そちらに転移を始めた。

 そして後に残ったのは戦いが終わったと言う静寂と光り輝く泉だけだった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
遂に天界が介入してアギラの詰めの1手を潰して地上界と共に戦いを始めました。
更にアイリスとリコリスや1度は死んだアレスターが参戦し、いよいよエミルの旅立ちからこのグランヴァニアの戦いが大詰めを迎えつつあります。
では、今回はオーバーロードドラゴンの討伐推奨レベルとエミル達のヴァレルニア港街戦闘前から戦闘後のレベルを書いて後書きは終えます。
オーバーロードドラゴン:討伐推奨レベル380。
エミル達のレベル:戦闘前290 戦闘後387。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第30話「作戦会議、行う』

皆様こんにちはです、第30話目更新でございます。
いよいよこの作品も30話目に突入し、アギラとの戦いも佳境を迎え始めました。
両陣営の差を見比べながら話を楽しんで頂けたら幸いです。
では、本編へどうぞ。


 戦闘終了後のヴァレルニア港街跡にて。

 エミル達は犠牲になった者達に簡易的な黙祷を捧げ、その魂が天に昇る様にと冥福を祈り上げていた。

 その中で天使達は忙しなく動き、失われた物資の補填、遺体の送還を国まで直接飛んで行き各国に哀悼も含めて要求し始めていた。

 

「ありがとう、天使の皆様方。

 お陰で我々は救われました」

 

「…いえ、我々は礼を言われる立場ではありません」

 

 右腕を失ったランパルドはアイリス、リコリスに頭を下げ、他の王も漸く天界が動いた事を知り1つ溜め息をしながらそれを見ていた。

 が、アイリスは礼を言われる立場では無いと何処か後ろめたさを感じさせる様な物言いをし、リコリスはアイリスのフォローに回ろうとした………だが、此処でエミルがロマンを連れてアイリスの前に立ち睨む様な表情を見せていた。

 

「エミル、ロマン君、一体何が」

 

「陛下、これから我々2人は天使に対し傲岸不遜の問い掛けをします。

 ですが、それを止める事無き様にお願い致します」

 

「僕からもお願いします」

 

 ランパルドはエミルとロマンの様子を見て何かと思うと、2人は直ぐに天使達に余りに失礼極まり無い質問をするとして彼等を驚かせ、ロマンまで同じ側に立つ為サラ達も何事かと思いその様子を見ていた。

 

「…私達への問い掛けとは何か…いえ、内容はもう決まってますよね、貴女方は」

 

「ええ、私達からする質問は3つよ、1つはアレスター先生がいきなり現れた事から天使は何時からグランヴァニアに潜伏していたの? 

 2つ、貴女達はアギラがあんな策、いや、ドゥナパルド4世達を虐殺する事まで何時から、何処まで把握していたの? 

 そして3つは2つ目の質問を答えてからするわ」

 

 アイリスはエミルやロマンがする問い掛けに対して予想が付きながらそれを聞き始め、エミルは1に何時グランヴァニアに潜伏開始したか、2にアギラの謀略を何時、何処まで把握してたかを問いた。

 するとリコリスが前に出ようとした瞬間アイリスがそれを静止し、エミルの問いに答え始める。

 

「1の何時から潜伏したかは2日前、何とかギリギリバレない状況下での介入をするにはそれしかなかった。

 2は…全て把握していたわ。

 皇帝達や民に対する虐殺も、魔血破(デモンズボム)も、何もかも」

 

 アイリスはエミルが問いた事を淡々と答えて行き、2の問いの答えを聞いたサラやネイル達は唖然とし、4国会議時点から既にアギラの謀略を全て把握していたとするアイリスに驚愕、或いは怒りの感情を向ける者が大多数だった。

 それを聞いたエミル、ロマンは拳を強く握り締め、第3の問いに移り始める。

 

「なら第3よ、貴女達天界はそれ等全部を知りながら何故直ぐに動かなかったの‼︎

 動けばアギラの謀略を全て止められた、こんなに犠牲者が出る事は無かったのに何故よ、答えなさい天使アイリス‼︎」

 

 エミルは怒りに身を任せ、第3の問いとして初めから直ぐ動かなかった理由を問い質し始める。

 そうすれば第1収容所群のグランヴァニアの民達は爆弾に変えられ爆死する事無く、オーバーロードドラゴンが数万の兵を焼き払う事無く、果てはセレスティアや全ての国で虐殺行為が行われず犠牲はもっと少なかったと糾弾し、答える様に叫んでいた。

 対するアイリスの答えは…。

 

「…全て私の責任であり力不足が招いた事態だ、そして貴女達には私を殴り、叩く権利があるわ………煮るなり焼くなり好きにして良いわ」

 

「良い覚悟ね天使様は…‼︎」

 

「…だったら、僕達は叩かせて貰うよ‼︎」

 

【バシン、バシン‼︎】

 

 アイリスは全てが自分の責任、力不足だと発言し、煮るのも焼くのも好きにする様にと答える。

 それを聞いたエミル、そして温厚なロマンもアイリスの頬を2人で叩き、ロマンは涙を流しながらその手を出していた。

 

「お前達、アイリス姉様何たる無礼を‼︎」

 

「良いのよリコリス、私の妹、弟達も‼︎

 全ては天使の最高位に居る私の力不足が招いた過ちなのだから彼等にはそれを糾弾する権利があるわ‼︎」

 

 それを見たリコリスは光の刃が付いた籠手を装着し、他の天使達も光の矛を装備するが、アイリスは今居る地上界の戦士達は自身を糾弾する権利があるとして再び静止させる。

 その瞬間ロマンがアイリスの首根っこを掴みながら叫び始めた。

 

「何で動かなかったんですか‼︎

 貴女達がちゃんと動いていればギャランも、収容所の人達も、連合軍の兵も、誰もが悪戯に死ぬ事無く事は済んでいたんですよ⁉︎

 楔の泉を狙っているって明確なルール違反があったのに何で介入しなかったんですか‼︎」

 

「…すまない、私の責任だ…そう、私の…」

 

 ロマンは泣きながらアイリスを、天界を糾弾し彼女達の法の執行者としての立場を正しく行使していればこうならなかったと叫び、その手に籠る力が強まっていた。

 それをアイリスはただ自身の責任だとロマンの目を見て話し、その瞳には悲しみが満ちていた。

 

「止めなさい勇者ロマン‼︎

 アイリス姉様はアギラの謀略を察知してから毎日毎日、何度も神様に我々の介入の許可を得る為に奔走し時には神様に矛さえ向けていたのよ‼︎

 そんな姉様を責めるのは間違って」

 

「リコリス、間違っていないわ。

 全ては私の力不足、神様の首を縦に振らせられなかった私の怠慢、そして何より私が神様の代わりに全ての球団を受ける立場なのだから。

 だからリコリス、下がりなさい」

 

 其処にリコリスが割って入り、アイリスは神に天界の介入を何度も進言した事や創造主たる神に矛すら向けた事を口にし、この事態を避けようと奔走していたのだと話した。

 しかしアイリスは神の代わりに全ての糾弾を受ける立場であり、自身の力不足と言う認識を変えず彼女を下がらせ、割って入らせた為にロマンとも距離が離れてしまうがそれでも彼の目をじっと見ていた。

 

「…ふう、このままじゃ埒が明かないから単刀直入に聞くわよ。

 アイリス、天界は何故こうなるまで介入を拒み、悪戯な犠牲を出したのか? 

 私の責任だの何だの抜きにして神様の思惑を話しなさい」

 

 それらのやり取りを見ていたエミルはこのままでは話は平行線のままで前に進まない為、天界の総意たる神の考えを口にする様に話しこの事態の根本の原因を探りに入る。

 するとアイリスは重い口を開きながら言葉を紡ぎ始める。

 

「…神様はアギラや魔王の思惑が天界の介入その物、天界すら戦場に変えて3世界の支配を目論んでいたからと仰られたわ」

 

「魔王が…!」

 

 アイリスはアギラ、更に魔王の思惑を口にし天界すら支配しようと言う恐るべき野望を抱いている事をエミル達に話し、彼女達はそれらを聞き自分達が大いなる野望の一端に巻き込まれていると理解して額に汗を伝わせる。

 

「神様はそれを恐れて天界の介入を遅らせ、でも魔血破(デモンズボム)の人体爆弾としての使用等を未来視していよいよ介入を開始する様に宣言されたわ。

 但し、魔血破(デモンズボム)等を使用しないなら楔の泉を護るだけに留めよと付け加えながら…神様も魔族の善性を信じたのよ、結果は…」

 

 更にアイリスは神がそれを恐れたが故に天界の介入を拒み静観を貫いた事、しかし未来視でいよいよ見過ごせない虐殺が始まるとして遂に介入を許すも、魔血破(デモンズボム)やオーバーロードドラゴンの使用をしなければ楔の泉防衛にのみに留める気だったと話し、魔族の…アギラの善性を信じての行動制限を掛けていた。

 しかし結果は虐殺が起き、アギラに善性無しとして断罪が決まった様であった。

 

「…そう。

 でもそれなら楔の泉1個を破壊される程度なのに過剰反応し過ぎじゃ」

 

「その認識は甘いわエミル、今の魔王は楔の泉が3つ正常に働かなければ縛れない程の力を有し、1つでも破壊されれば地上界は死滅(デッドエンド)を迎えてしまうわ。

 だからこそ私達は虐殺前に特に楔の泉に監視を付け、奴の策を崩す瞬間を待ったわ。

 そして…その監視者が泉を守護結界で固めてからやって来たわ」

 

 更にエミルの認識では楔の泉は1個破壊されても残り2つの機能で門と魔王を縛れてる筈なのに異様にガードを固めた理由をアイリスから言われてしまいゾクッと背筋が凍る感覚を彼女は覚える。

 何故ならあの時アギラが泉破壊を完遂したら悪夢通りになってしまったと考えたからである。

 それによりエミルの中で分かっているフィールウッドの1個を死守から全て死守に切り替わる。

 

【ビュン‼︎】

 

「よっと、ふう。

 アイリスさん、頬が腫れていますね。

 回復魔法(ライフマジック)は要りますか?」

 

「良い、これは殴られる権利を行使しただけだから」

 

 そんな中アイリスが監視者と呼ぶ者、アギラと対峙していた天使化したアレスターが共に居た名無し天使達と転移魔法(ディメンションマジック)を使い皆の下に跳ぶとアイリスに回復をしようかと言うが、これは殴られる権利を行使…つまり自分から殴られに行ったと話しており、アレスターはまだまだ蟠りがあると感じながら頭を掻いていた。

 

「先…生………カルロの話で天使になったと聞きましたが、まさか本当に…!」

 

「はい、次の輪廻転生までの間は天使になる様にと特別に天使化しました。

 それにしてもアルク様、レオナ様、そしてカルロ様にエミル様は本当に成長なされた………教師としてこれ程鼻が高い事はありませんよ」

 

 そのアレスターの姿を見たアルク、レオナはカルロの試練の問いの話から彼が天使になったと聞かされており、それがあのアギラの策を破り今目の前に居ると思い感涙に咽びそうになるとアレスターも4人の生徒が生前の自分を大きく超えた事を見て此方も感涙を流し、それを拭いながら全員を見て話し始めた。

 

「さて皆さん、天界の対応に不満不平があるとお思いですが少なくともアイリスさん達を許してあげて下さい。

 私はこの目で見てきました、彼女達が地上界の皆さんの為に1日も早い介入を神様に進言し、その度に落胆しては新たな証拠を見つけてはまた進言を繰り返した………他人で別世界の人達を心配して、また本当に見守り有事にこの世界に来ようと努力なされてました。

 なのでどうか、此処は1つ穏便に事を収めて下さい」

 

 すると次にアレスターは天界の対応についてを話し、その中でアイリスがかなり苦労し、証拠を見つけては進言して1日でも早く介入をしたい事を見て来たと告げる。

 そうして彼も天界側になった為アイリスが殴られに行った様に魔法使いの帽子を外しながら頭を下げて連合軍、エミルやネイル達に穏便に済ます様にとお願い…しながらエミル達枷を外した者達に天界独自の魔法でアレスターの視点から視たアイリス達の行動の記憶を見せて彼女達の優しさを感じて貰おうとした。

 

「…はあ、分かりましたアレスター先生。

 如何にもこの天使達は神様の決定に毎日不満を抱えながら生きてきたみたいですし、私達が戦うべきはアギラ達魔族の方ですからもう荒波は立てませんよ」

 

 そして激昂していたエミルやロマンもアレスターの記憶を垣間見てこの天使アイリス達が何処までも優しく、何処までも地上界の為に動いて来た事を知り、またこの怒りをぶつけるべきはアギラ達と捉えてもうこれ以上の不毛な言い争いをしない様にするのであった。

 

「ふう、アレスター…私は神様の代行で来たんだ、だから殴られる権利があったのに」

 

「そう言う少し頭が固いのもアイリスさんの欠点ですよ? 

 地上界の事を自分の事みたいに心配していた美点も加味すると、やっぱり貴女は優しい頑固者ですね」

 

 アイリスはアレスターの行動に神の代行としての殴られるべきと言う物を丸く収められた事にジト目で見ており、それをアレスターは優しい頑固者と称して美点と欠点を述べる。

 それにはリコリスも頑固者に同意しつつ顔には出さず、アイリスは溜め息を吐きもうこれ以上殴られに行けば話しが拗れる為もうこの話は終わりにし、次に進もうと考え始めていた。

 

「さっ、此処は守護結界と盗聴防止結界(カーム)を何重にも張らせて貰ってますので食事をして次の戦いに備えましょう! 

 此処はアギラが支配する領域なのですからね」

 

「…そうですね、傷付いた人達は回復魔法(ライフマジック)で治癒を、他の料理が出来る者は残った船から食糧を取り出してお腹を満たしましょう! 

 次なる戦いの為に!」

 

 するとアレスターは手を叩くと何重にも結界を張った為食事と次の戦いに備える様にと話し、エミルもそれに賛同して魔血破(デモンズボム)やオーバーロードドラゴンのブレスに巻き込まれなかった船から食糧を取り出し料理と傷付いた者に回復魔法(ライフマジック)を掛ける様に促しながら声を張り上げる。

 すると兵士達は死者への哀悼を胸に秘めながら立ち上がり行動を開始するのだった。

 

「アレスター先生…試練の問いで散々話したからもう何話せば良いか分からないけど…俺、これからも先生みたいな教師になりたいです! 

 魔法と絶技の違いはありますが」

 

「はは、そうですね。

 カルロ様、貴方が良き教師になる日を次の輪廻転生まで見守らせて頂きますよ。

 さて…」

 

 するとカルロがアレスターに近付き、彼に恩師の様な教師になる事を目の前で誓うとアレスターはその日を心待ちにして見守ると応える、但し輪廻転生の順番待ちと言う条件付きで。

 その次にアレスターはロマンに目を向けて近付くと、ロマンは初めて会う天使化したエルフにサラに似た面影…姉弟だから当然の雰囲気を感じながら何故来たのか首を傾げていた。

 

「…うん、やっぱり君はケイ君やテニアさんの息子さんですね! 

 大きくなられましたね、優しい顔立ちはテニアさん寄りで、強い正義の心を持った目はケイ君にそっくりです!」

 

「え、えぇ⁉︎

 あの、父さんと母さんを…」

 

「はい知ってます、あの2人に魔法や絶技の手解きをしたのは私ですからね。

 それと赤ちゃんの頃にもお会いした事がありますよ」

 

 そのアレスターは何とロマンの父と母の名を口に出し、ロマンも何故知ってるのかと思うとアレスターが彼等の先生になった事を知り、此処でロマンは生前の両親から告げられた物教えの良い恩師のエルフがアレスターと知り親の縁を辿り不思議な巡り合わせが今相成った事に感動を覚え、この話をロマンから聞いていたカルロは矢張りかと思いながら見守っていた。

 

「ねえねえアレスター、天界ってどんなとこなの⁉︎

 天国、本当に天国なの⁉︎」

 

「アレスター…会いたかった…‼︎」

 

「わわ、サラ姉さんにリン姉さん⁉︎

 いきなり飛び付かないで下さいよ驚いてまだ慣れない翼で叩いちゃう所ですよ⁉︎」

 

 その時ロマンの背後からサラとリンの姉妹が天使化した最愛の弟に飛び付き、2人でアレスターを困らせる様子が見られたが遠目でそれを見ていたアルやルル、そして何より父親のロックは嬉し泣きをしながらその光景を目に焼き付けていた。

 もう2度と会えないと思われたアレスターの姿を目に刻む為に。

 

 

 

 一方その頃、シエル達の取り計らいで命辛々グランヴァニア宮殿跡に撤退したアギラは目の前にある大量の魔血晶(デモンズクリスタル)に魔力を送り、肉体が消滅した魔族達を復活させ始めそれを直ぐに終えていた。

 

「ええい天使共め、天界め、そのまま臆病風に吹かれて殻に閉じこもっていれば良い物を私の策を狂わせやがってぇぇぇぇぇ‼︎」

 

「ア、アギラ様どうかお怒りを沈めに」

 

「黙れ無能共‼︎

 大体貴様らがもっと地上界の塵芥、特に魔法使いエミルや勇者ロマンを殺してればこんな事にはぁ‼︎」

 

 アギラは部下達を復活させた途端に癇癪を起こし、身を案じる部下にまで当たり散らしエミルとロマンさえ殺せば後は如何ともなると話し、特にエミルとロマンを警戒している事を露わにしながら部下達に止め処なく怒りの言葉を口にしていた。

 するとその宮殿跡に足音が3つ響き、全員がそちらを向くとその方向からシエル、ダイズ、アザフィールがアギラに向かって歩いて来ていた。

 

「如何したアギラ、何をそんなに癇癪を起こしているんだ? 

 たかが天界の者共が少し早く介入した位で」

 

「そのタイミングが問題だったんだ‼︎

 後少しだけ遅ければ魔王様は降臨なされたのに…くそ、忌々しい天使共、アレスターめ‼︎」

 

「たらればを話すな見苦しい、それより悪いニュースを2つ持って来たから良く聞け」

 

 シエルはアギラの癇癪を余裕ある笑みを浮かべながら天界の介入が早かった程度と話すと、アギラはタイミングが悪過ぎたらしくもしもアレスターさえ居なければ…そんな可能性を話した。

 しかしたらればを嫌うダイズが睨み付ける様にそれを切り捨て、悪いニュースを2つ持って来たと話しアギラを注目させる。

 

「先ずは俺達の盟約、戦力提供の話だがお前は自らの趣味に走り過ぎ俺の忠告たるアリアの話を聞けすら無視した。

 よって俺からはアリア、シエルからはオーバーロードドラゴン2体を没収する」

 

「なっ、待て⁉︎

 オーバーロードドラゴン2体を投入すれば未だ戦局は」

 

「アギラ」

 

 ダイズは第1に忠告等を無視し地上界の者達の絶望に染まる瞬間を見たいと言う趣味に走ったアギラに対し貸出した戦力を没収すると宣告するとアギラの横にいたアリアはダイズの横へと行く。

 するとアギラはオーバーロードドラゴン2体を投入すればまだリターンが来ると話そうとした瞬間アザフィールが大剣を床に突き立てながら睨み付けていた。

 

「貴様は盟約の内容を忘れ、悪戯に戦力を減らした。

 更には魔王様降臨前に天界の介入を許した、その愚策極まり無き行い、万死に値する!」

 

「なっ、わ、私を今殺すのか⁉︎

 私は魔王様から地上界の侵略を任された幹部、お前はシエル達の師とはいえ今はシエルの部下! 

 任された大役に差がある者の首を刎ねるのか、魔王様の許し無しに⁉︎」

 

「その『魔王』様から最後通告だ、アギラ」

 

 アザフィールはアギラの愚策を糾弾し、多くのアギラ派の魔族がいる前で今にも首を刎ねる殺気を出していた。

 アギラはそんなアザフィールに魔王から大役を任された身である事を口にしその幹部の者を一介の魔族が魔王の許し無しに殺すのかと口にする。

 が、其処に同じ身分のシエルから魔王からの最後通告と言う言葉を口にされ、アギラは滝の様な汗を流し始める。

 

「もしも今躍進気味の魔法使いエミル達を殺せたら今までの失敗を全て無かった事にする。

 だが敗北すれば処断はシエル達に任せるとの事だ。

 良かったな、未だ名誉挽回のチャンスがあるじゃないか」

 

「が、あ、ぐっ…‼︎」

 

 シエルは魔王が現在レベルが380を超えたエミル達を殺せたら今までの失敗は無しに、次に失敗すれば間違い無く彼女達に殺される事を告げられ喉から言葉を出そうにも出せない状態になった。

 それをシエルは和かな笑顔で名誉挽回のチャンスがあると告げた為、周りの魔族達は矢張りダイズやアザフィール、そして何よりシエルを敵に回すのは命がないと悟り後退ってしまっていた。

 

「ではアギラ、次の戦いが名誉挽回のチャンスだ。

 アレスターとリコリス、そしてアイリスは私達3人が止めてやろう。

 その間にお前は誓いの翼(オースウイングズ)正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)を殺せ。

 良いな…と言っても拒否権は無いから必ず遂行しろよな、魔界1の策士様?」

 

 シエル達は最後通告を言い切ると振り返りながら自分達はアイリス達を止めると話し、その間にアギラにはエミル達とネイル達を殺す様にと話してその場を少し歩き転移し去って行く。

 それをアギラは玉座に座りながら手摺に手を打ち付け、エミル達に怨嗟の感情を抱きながら口を開き始めた。

 

「良いだろう………殺してやる、絶対に殺してやるぞ、エミル、いや、ライラ共…‼︎」

 

 アギラは今までに無い余裕が完全に消え失せた口調でエミルをライラと呼びながら千里眼(ディスタントアイ)で守護結界や盗聴防止結界(カーム)内に居るであろう彼女達に飽く無き憎悪をぶつけようと決意するのであった。

 

 

 

「あれで奴の尻に火は付いただろうか?」

 

 グランヴァニア宮殿跡から転移したシエル達は空中で策に溺れ過ぎたアギラは漸く小細工抜きに行くのかを尻に火が付いたと表現しながら言うとシエルは振り返り冷淡な表情で語り始める。

 

「如何転ぼうが私には構わない、ライラのてんせ…いや、『エミル』達が死ねばそれまで、アギラが負ければそれまで。

 何方にせよ私達が最後にやるべき事は変わらんさ…お前もそう思うから狂戦士(バトルマニア)として私と盟約を交わした、違うかダイズ?」

 

「…ふっ、違わんさ」

 

 シエルはライラの転生者と見ていたエミルを漸くこの世界に生きる『人間』と見始め、そのエミル達とアギラが何方が負けて死のうと自分達が『最後にやるべき事』は変わらないと話し、ダイズも狂戦士(バトルマニア)として違わないと話しアザフィール、アリアを伴い再び転移する。

 その内にアギラすら知らぬ魔王と比べれば小さな願い(野望)を秘めながら。

 

 

 

 それから連合軍は天使の計らいで亡くなった者達の遺体を綺麗な状態で家族の下に送り届けたり、食事で腹を満たした中でアイリス達天使を含めた作戦会議が行われ、其処には無理を押して未だ戦闘に参加しようと言う右腕を失ったランパルドの姿もあった。

 

「では作戦は以下の通りだな。

 我々は天使達と共にグランヴァニア宮殿跡前に転移で向かいアギラ派の魔族や魔物、そしてアギラを斃しこの戦いを終わらせる。

 幸いにして他の収容所群は天使の守護結界で守られ、魔血破(デモンズボム)も説明が行われながら解除されたと聞く。

 ならば後はアギラを潰して戦いを終わらせるのみだ」

 

「それはそうだがランパルドの坊主、右腕が無いのに戦いに出るのは自殺行為だぜ? 

 それでも行く気か?」

 

 ランパルドはアルクやマークス、エミル達やネイル達にアイリス達を囲みグランヴァニア宮殿跡前に転移しアギラを斃す事に集中出来る環境が整った為アギラ達を潰し戦いを終結させようと話す。

 するとゴッフが失った右腕を見ながらその状態で戦場に出るのは自殺行為と警告し、それでも行くかと職人王として問いていた。

 

「ふっ、私は魔法使いだ。

 其処まで前に出なければ死にはしないさ、じゃじゃ馬娘のエミルと違ってな」

 

「お父様…いえ、陛下…」

 

 ランパルドは魔法使いとして後衛に陣取り、エミルの様にロマンと共に戦場の中心に立たなければ死にはしないと話し、それを聞いたエミルは悲しげな表情を一瞬浮かべたが直ぐに戦場に立つ者の顔に戻り父王に畏敬の念を送っていた。

 

「それで、もしもシエルやアザフィール達が乱入したら如何するの? 

 ハッキリ言って今の僕達でも勝てる気がしないよ」

 

「シエルの相手は私がします、魔界最強の剣士にして魔剣ベルグランドの担い手…今は未だ只のオリハルコンソードしか使ってませんが、万が一アレを使われたら止められるのは私しか居ません。

 なのでリコリスが魔界の第2の将であり同盟者のダイズ、魔界の英雄アザフィールはアレスターが相手をして下さい」

 

『はい!』

 

 次にロマンがシエル達の乱入が発生した場合の可能性を考慮すると、シエルの相手はアイリスが取ると答え、彼女からはシエルに負けない自信に満ちた声が出ておりアル達もこの天使なら任せられると思い始める。

 次にアイリスはリコリスはダイズ、アレスターはアザフィールと指定して乱入者に対する対応を取り決めていた。

 

「では、我々連合軍と天使達の混成部隊はグランヴァニア宮殿跡への路を切り開き、誓いの翼(オースウイングズ)正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)にアギラを討たせる………それで良いかな、皆の者?」

 

「妾も構わぬ、妾の国を荒らした魔族と魔物を1匹でも多く殺せればそれで良い」

 

 最後にロックが駒を用意し、エミル達とネイル達を見立てた駒を宮殿跡に居るキング、アギラを討たせると話しそれで構わないかと問い掛けるとサツキ女王もヒノモトを荒らした者達を殺せたらそれで構わないとして了承し、リリアナも頷きこの作戦で行く事を決めた。

 

「よし、作戦が決まった‼︎

 全員集まれ、集まれ‼︎」

 

 そうして決まった防衛網突破作戦を説明する達アルクが声を張り上げ全員を立たせ国ごとに並ばせ、そして天使達は左右を囲みながら少し地面から浮きながら話を聞き始めた。

 

「我々の次の作戦が決まった、それはグランヴァニア宮殿跡防衛網突破作戦だ‼︎

 先ず我々連合軍と天使達が宮殿跡に集まる魔族達を引き付ける、そして誓いの翼(オースウイングズ)正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)がその防衛網を突破、一気にアギラを討ち取る‼︎

 幸い収容所群の魔血破(デモンズボム)は無力化されたと聞く、ならば後は戦うだけだ‼︎」

 

『オォォォォォォォォォ‼︎』

 

 アルクは兵士達全員にグランヴァニア宮殿跡防衛網突破作戦の概要を説明し、自分達連合軍と天使がアギラ派の魔族や魔物の防衛網を破壊し、エミル達にアギラを討たせると言うとてもシンプルな作戦を伝える。

 更に収容所群の心配も消え、後はただ戦うだけと叫ぶと兵達も失われた命への怒りの叫び声を上げ応える。

 するとアルクの横にアイリス、リコリス、アレスターが立ち天使達に説明を始める。

 

「我々も聖戦の儀の法を犯したアギラ派の魔族達を断罪し、その為に地上界の勇士達と共に戦う。

 だけど貴女達は魔族シエル達を見掛けても戦わないで、彼女達は私達3人で相手するわ、良いわね私の妹、弟達?」

 

『はい、アイリスお姉様‼︎』

 

 アイリスは聖戦の儀の法を犯したアギラ派の魔族、魔物を討伐する為連合軍と共に戦う事を口にし、されどシエル達は自分達が相手をする為手出ししない様に忠告を出すとアイリスの妹、弟達は同時に応えそのような運びになった。

 

「では行くぞ、転移魔法で宮殿跡の10キロ前で陣形を組みそのまま戦場へと征かん‼︎

 恐るな戦士達よ、汝らの勇気が明日を切り開く力となるのだ‼︎

 全霊を込めて戦え、そして魔族達に打ち勝つぞ‼︎」

 

『オォォォォォォォォォォォォォォォォォ‼︎』

 

 最後に各王達が馬に跨りアルク達の横に立つと隻腕のランパルドが勇気を振り絞り、全霊を込めて戦えと命じると皆が剣や槍、斧、弓、杖を掲げて応えて己が力全てを振り絞る事を誓い合うと巨大な魔法陣が彼等全員の馬の足下に浮かび始めた。

 

「さあいざ征くぞ、この戦いの決戦の地へ‼︎」

 

【ビュゥン‼︎】

 

 ランパルドの最後の一言を合図に大規模転移魔法(ディメンションマジック)が発動し、目標地点から10キロ離れた地点にフィロとリヨン、更に護衛の天使達数名を残して転移する。

 そしてあれだけ騒ついた声が一気に無くなり嵐の前の静けさとも言うべき静寂がフィロ達を包む。

 

「我々グランヴァニアを救いに来て下さった戦士の皆様、天使様達、どうかご武運を…」

 

 最後に齢12のリヨンが連合軍と天使達の武運をフィロと共に膝を突いて祈り、この戦いが地上界の勝利に終わる事、これ以上の無駄な赤い血が流れない様に祈りながら2人はジッとその場で祈り続けていた。

 例えそれが届かないとしてもずっとずっと願いを込め続けていたのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
アギラは最後通告により後が無くなり、更にアリアやオーバーロードドラゴンを回収された為正面から戦うしか無くなりました。
一方連合軍は天使を加えてこれまた正面から衝突し、アギラをエミル達の手で斃す様な作戦になりました。
そして次回ではアイリス達やシエル達の戦いも確定しており、それを描写しながらグランヴァニア最後の戦いを描けたら良いなと目標にしてます。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第31話『決戦、来たれり』

皆様おはようございます、第31話目更新でございます。
いよいよグランヴァニアでの戦いも最終局面を迎えました。
エミル達とアギラ派の戦い戦いも大詰めとなります。
その上でもう少しお付き合い頂けたら幸いです。
では、本編へどうぞ。


 グランヴァニア宮殿跡前、空は既に黄昏に染まり天使が収容所群に引き篭もり守護結界で虫1匹すら通さない様にしており、魔族達は苛立っていた。

 折角の花火を爆発させられ無い事に。

 

「糞、天使達が‼︎

 折角の魔血破(デモンズボム)を無力化しただけじゃなく収容所群に守護結界を張りやがって‼︎

 お陰で人体爆弾のお楽しみも鏖殺も出来なくなりやがった‼︎」

 

「ああ、忌々しいよな。

 だが、今はそれよりも…」

 

 魔族達は不平不満を口々にし、地上界の者達を殺せない事や天使達を睨み付けてストレスの吐口にしていた。

 が、1人の魔族がそれよりもと収容所群よりも先、宮殿跡と収容所群の間の1キロ前に陣取る魔族達の千里眼(ディスタントアイ)に同じく守護結界を張りながら収容所群まで馬で駆け抜ける地上界の連合軍と天使達の軍団が映り、守護結界が張られている間は並の魔族は手出し出来ない為に身構えているしか無かった。

 

「畜生が、アギラ様の言う通り次が俺達の首が飛ぶか奴らが死ぬかの戦いになる‼︎

 絶対に連中をぶっ殺してやる‼︎」

 

 魔族達は空と地上の両方に陣取り、オリハルコンゴーレムやハイゴブリンロード、アークドラゴンと更に蜘蛛型魔物の討伐推奨レベル160の『ヘルスパイダー』を数に物を言わせて並ばせて地上界と天界の両軍を相手にしようと弓や魔法を構えて決戦の地に敵が踏み入るのを待ち構えていた。

 

 

 

「この先が第2、第3収容所群よ! 

 そして千里眼(ディスタントアイ)で視えてる通り奴等は収容所群と宮殿跡の間の1キロ地点に陣取ってる、兵達は天使達の守護結界から抜けない様に馬を走らせながら決戦の地へ進みなさい‼︎」

 

『はい、エミル王女殿下‼︎』

 

 その頃エミルはロマン達と並走しながら第2、第3収容所群の前1キロまで漸く到達し、連合軍の兵士達に大声で天使達が張っている守護結界から出ない様にしながら従わせ馬達も背に乗せた人間達の命令を聞き一定のスピードで走りながら収容所群の500メートル前まで一気に駆け抜ける。

 

「(…待ってて、生き延びたグランヴァニアの民達。

 この戦いを終結させたら必ず…‼︎)」

 

「(必ず収容所から出してあげるから、だからそれまでもう少しだけ…‼︎)」

 

 エミルとロマンは通り過ぎ行く第1収容所群よりも規模が大きい2つの収容所群を見ながら中に居るグランヴァニアの民達に想いを馳せながら決戦の地に目を向けて過ぎ去って行く。

 それはサラ達やネイル達、アルク達や連合軍も同じであり、全員が罪無き民を救う為にアギラ達との戦いを一刻も早く終わらせようと決意を固めていた。

 

「────決戦の地に着いた‼︎

 全員速度を落として止まれぇ‼︎」

 

 そうして馬を走らせて駆け抜けて行く中、アルクが魔族やドラゴン達を目視で小さく確認すると全体に馬を走りから歩きに変え、ゆっくりと決戦上に向かい始めると徐々に魔界の軍団の数が見え始め、その数は最早20万を上回り物量ならば完全に連合軍の初期の軍勢すら超えていると。

 だが連合軍の、地上界の軍勢に恐怖は無かった。

 あるのは魔族アギラ達への怒りと平和を願い戦う心であった。

 

「ライラ様の祝福を受けし者達よ、スクナ様の子達よ、ロック殿の同胞(はらから)よ、ゴッフ殿の義兄弟達よ‼︎

 いよいよ決戦の時は来た‼︎

 諸君の心にあるのは怒りと平和を願う心だろう、分かるとも‼︎

 私も同じ想いを抱いているからだ‼︎」

 

 そうして決戦の地を目の前にランパルド、ロック、ゴッフ、サツキが前に出て鼓舞する為の言葉を掛け始める。

 初めはランパルドから口を開き、連合軍と天使達は黙って聴き始め、その背後に居る魔族達は武器を地面に突き、足を地に叩き付け戦い前の熱気を帯び始めていた。

 

「妾達の友は、家族は、あのヴァレルニアでの戦闘で死した者も多かった。

 グランヴァニアの民達の犠牲と共に…! 

 じゃが、それを妾達は無意味な血が流れた様にしては祖先の名に誓い決して出来ぬ‼︎」

 

 次にサツキは先のヴァレルニアでの惨劇を話し始め、事実あの魔血破(デモンズボム)とオーバーロードドラゴンが生み出した悲劇により友を、家族を喪った兵が多く居た。

 中にはあのブレスで消し炭になり遺体すら残らなかった者も数多く居た。

 しかしサツキは語り出す、その犠牲を無意味な物に変える事は出来ないと。

 

「我等地上界に生きる命は、あの様な悲劇や500年前の戦いによりこの世界に流れた血と涙をこの胸に刻み込み、それ等を決して只の過去の出来事にしてはならない! 

 今起きている戦いの為に無差別に流れてしまったとこの心に仕舞い込み、そして我等の未だ見ぬ未来の為にそれを終わらせ、2度と起こさせぬ様にしなければならない‼︎」

 

『オォォォォォ‼︎』

 

 ロックは今を生きる者達は500年前から続く悲劇の全て、大地に流れた血と涙を只の過去の産物にせず今も続く戦いの為だと断じ、先の見えぬ未来の為にこの果てしなく続く戦いを終わらせ2度と同じ悲劇を起こさせぬ様にと鼓舞すると連合軍の兵達が魔族達の地鳴らしに負けぬ声を轟かせる。

 

「ドラ息子共、武器を取れ、魔法を放て‼︎

 この戦いをその悲劇の無い未来の為の第1歩にさせるぞ‼︎

 もっと雄叫びを上げやがれ、ワシ等の怒り、ワシ等の平和への想いは、死んで逝った奴等の無念はこんなもんじゃねぇだろぉ‼︎」

 

『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォ‼︎』

 

 ゴッフは武器や魔法を振るう様に叫び、この戦いを平和の未来の為の1歩とする様にと命じる。

 更にもっと声を高らかに雄叫びを上げる様に叫び兵士達に様々な感情を込めさせて行く。

 それ等を聞いた兵達は魔族達の地鳴らしを掻き消さんばかりの雄叫びを上げ目の前の敵達を睨み付けていた。

 その声に、視線に魔族達は地鳴らしを止めて行き武器を構え始めていた。

 そしてそれは連合軍も同じだった。

 

「………皆、行くわよ、より良い今と未来の為、過去を胸に抱きいざ我等は戦わん‼︎

 進め、この地に集まりし地上界の戦士達よぉぉ‼︎」

 

『ウオォォォォォォォォォォォォ‼︎』

 

【ドドドドドドドドドドドドドドド‼︎】

 

 最後にエミルが覚悟を決めると号令を掛け、より良い現在と未来の為、喪われた過去を胸に秘め遂に連合軍がグランヴァニアでの最後の戦いに踏み出した。

 その瞬間兵士達を守っていた守護結界も消え、天使達も連合軍に並行して飛翔し決戦の火蓋は落とされた。

 

「魔法と矢を放て、地上界の塵芥と天使共を蹴散らせ‼︎」

 

「敵の攻撃魔法を迎撃、又は矢と共に結界で防げ‼︎」

 

【ドォォォン‼︎

 キィィィィィン‼︎】

 

 魔族の現場指揮官が魔法と矢を放つ様に叫び、それに対抗する様にアルクが迎撃が防御を何方か出来る方にやらせ、空中で魔法や絶技の矢が相殺され合い、そうで無い物は互いの結界に阻まれる。

 更に天使達は魔族達の魔法、絶技を守護結界と違う光の盾と言うべき魔法で守りながら突撃し魔族や魔物と接敵する。

 

『オォォォォォォォォォォォォォ‼︎』

 

【カンキンキンキンカンキィン‼︎】

 

 更に地上で遂に連合軍と魔族、魔物が接敵し互いの武器で斬り結び合い赤と青の鮮血が地を濡らし合い、武器と鎧に付着する。

 その中で魔族達はエミルやロマン、ネイル達を執拗に狙い、明らかに彼女達をターゲットにしていると見て取れる戦況になり連合軍や天使もその妨害を始める。

 

「死ねぇエミル、灼熱雨(マグマレイン)‼︎」

 

「もうアンタたちは私の敵じゃない、火球(ファイヤーボール)‼︎」

 

【ドォォォン、ボォォォッ‼︎】

 

 それでも数は多くエミル達に敵が行かない事は無く名無し魔族が何体も火の最上級魔法で焼き尽くそうとした。

 しかし、エミルは既にこの時代で初めて魔族と戦った頃を遥かに凌駕する為、火の下級魔法で最上級魔法を打ち破り名無し魔族を灰燼に帰させていた。

 

『死ねぇ勇者に英雄サマの子孫共がぁ‼︎』

 

『邪魔だぁ‼︎』

 

【ザン、ブシャァァ、ボォォォッ‼︎】

 

 更にロマンとネイル達の方も襲われるがそれぞれ武器や魔法を駆使して前に進み出し、並居る魔族や魔物を全て屠り始めていた。

 一方アイリス、リコリス、アレスターは襲い来る魔族を葬りながらオーバーロードドラゴンがまた来ないかも警戒しつつ周囲を見渡していた。

 が、オーバーロードドラゴンは何処にも見当たらずアイリスも怪訝な表情を浮かべていた。

 

「可笑しい、オーバーロードドラゴンは全てで3体居た筈。

 なのに残り2体が現れないのは一体…」

 

「簡単な話だ天使アイリス、アレは私がアギラに貸し与えたモノ。

 よって、趣味を優先し盟約を破った奴から回収したまでの事だ」

 

 残り2体のオーバーロードドラゴンの出現兆候が無い事を魔族やアークドラゴンを屠りながら呟いていた所、其処に猛スピードでシエル、ダイズ、アザフィールが現れアイリス達の前に浮かびながら立ち塞がっていた。

 

「シエル、それにアザフィール‼︎」

 

「そして、アイツが魔界の第2の将、狂戦士(バトルマニア)のダイズって野朗か‼︎」

 

 上空を見上げたエミル達誓いの翼(オースウイングズ)は忘れもしない顔、自身達を敗北させライブグリッター探索から魔族への対処に目的変更をさせられたシエルとアザフィールを見て苦々しい表情を浮かべていた。

 その中でアルは見慣れぬ魔族をアイリス達の言った第2の魔族の将ダイズと判断して汗を掻いていた。

 

「シエル、ダイズ、そしてアザフィール! 

 矢張り現れましたね…我が妹、弟達、そして地上界の勇士達‼︎

 予定通り彼女達の相手は私達3人がやります、横槍や援護は不要です‼︎

 寧ろ巻き込まれない様に気を付けなさい‼︎」

 

「おや、奇遇だな。

 私達もアギラの名誉挽回の邪魔にならない様にお前達を相手取ろうとしていた所だ。

 ならアギラの部下達も横槍入れるなよ…死ぬぞ?」

 

 アイリスは乱入して来たシエル達を妹、弟の天使達や連合軍に相手をし、巻き込まれない様に注意を促す。

 するとシエル側もアギラの名誉挽回をさせるべく同じ考えだった為、アギラ達の部下に横槍を入れたら死ぬと警告を入れる。

 

『ゴクッ…』

 

 魔族達はそれがアイリス達に殺されるか邪魔した為シエルに殺されるかの何方かだと考え天使達と共に距離を置く。

 そしてアイリスはシエル、リコリスはダイズ、アレスターはアザフィールの前に対峙し相手を見定め、ダイズ以外は武器や杖を構えた。

 

「ふっ、天使リコリス…天界のNo.2の実力者、ならば此方も本気にならねば無作法と言う物だ。

 はっ‼︎」

 

【パキィィン!】

 

「…なっ………レベル440が、760に…⁉︎」

 

 するとダイズはリコリスに本気にならねばと口にし、気合を入れると彼の身体を包んでいた枷が現れては砕け散り、圧倒的なプレッシャーが戦場を支配する。

 エミル達魔法使いやロマンとルルは鑑定眼(アナライズ)で彼のレベルが440から一気に760まで跳ね上がった事に恐怖すら覚え、ならばシエルとアザフィールはどんなレベルなのかと絶望的な計算を始めていた。

 

「アザフィール、我々も本気を出すぞ。

 アイリスは天界最強の天使、アレスターはエルフから天使化した、ならばその実力は推して知れ」

 

「勿論、分かってますとも………ふん‼︎」

 

 更にシエル達も同じく力を込めると身体を覆った枷が砕け散り、その真の力が白日の下に晒される。

 鑑定眼(アナライズ)で見えたレベルはそれぞれ450、350から800、750にまで跳ね上がってしまいこれがシエル達の真の力だと知りエミル達は未だ自分達はシエルの真の実力の半分にすら到達していない事に愕然としていた。

 

「ではリコリス、アレスター、我々も本気を出しますよ。

 彼女達相手に油断しない事を」

 

「分かっていますわ、アイリス姉様」

 

「ではお二人共、ご武運を…すぅぅ…」

 

 するとアイリス達も本気を出すと話し、アイリスは2人に解っている忠告を敢えて出し、アレスターが2人の武運を祈ると3人は精神統一の様に瞳を閉じた。

 すると黄昏の空から3本の光が3人を包み、平均してレベル400だった3人はアレスターが745、リコリスが755、そしてアイリスはシエルと同じレベル800と化し、背中から生えた天使の羽は白銀の光を放ち3人のそれぞれの瞳の色が金色に変わっていた。

 

「こ、これがアレスター先生達の、本気…‼︎」

 

「何と、人知の及ばぬ………途方も無い領域に先生達は…‼︎」

 

「さ、流石最強の天使様達とシエル様達なんだな〜…‼︎」

 

 エミルとレオナはアレスター達のレベルがシエル達の本気に驚愕し、シエル達の真の力を知っていたムリアはアイリス達3人の実力が全く劣らない事の方に流石だと褒め称えながらその神々しさに天使も魔族も圧倒され、魔物はシエル達の殺気込みで怯えてしまっていた。

 

「さあ、行くぞ‼︎」

 

「ふっ‼︎」

 

【ドォォォォォォォン‼︎

 ドドドドガンキンガンキンバキドガドドドドドォォォン‼︎】

 

 そして6人は正に目にも止まらぬスピードで空を駆け、アイリスとシエルは矛と剣、リコリスとダイズは刃を展開した籠手と素手、アレスターとアザフィールは魔法戦や時々近接戦闘を挟み、それぞれが空中で衝突する度に余波が地上にまで及び足を取られる者が多数居た。

 

「くっ、皆、あの化け物達はアイリスやアレスター先生達に任せて早くアギラの所に向かうわよ‼︎

 折角押さえてくれてるのに動かなかったら何時まで経っても戦いは終わらないわよ‼︎」

 

「わ、分かったよエミル‼︎

 サラ、ネイルさん、皆行くよ‼︎」

 

 するとエミルは思考を直ぐに切り替えてシエル達をアイリス達に任せ自分達は作戦通りにグランヴァニア宮殿跡に向かう事をロマン達に指示を出す。

 それを聞いたロマン達も自分達の役割を思い出しそのまま馬を走らせ邪魔する魔物や魔族達を蹴散らし始める。

 

「(そう、それで良いんですよエミル様! 

 貴女達は作戦通りこの血みどろの戦いの根本たるアギラを斃して下さい‼︎)」

 

「ははは、流石天界のNo.2‼︎

 攻撃が重く俺の心を躍らせる‼︎

 さあ、もっと俺を愉しませろぉ‼︎」

 

「ふっ、はっ、せいやぁ‼︎」

 

 その戦いの中でアレスターは一瞬エミル達に目を向けてアギラを斃しに向かう事を正しい判断だとしてアザフィールと高速移動しながら魔法で撃ち合い、ダイズとリコリスは激しい殴り合い(リコリスは籠手のブレード込み)のノーガードで原始的な戦いをし、互いに拳で絶技を放ち腹や顔面、心臓の上の胸等を骨を砕き、内臓を破裂させては回復魔法(ライフマジック)で再生させ吐血等を繰り返していた。

 

「はっ‼︎

 ふふ、妹さんがダイズと殴り合って血反吐を吐いてるぞ? 

 助けなくて良いのかアイリス?」

 

「リコリスは良く出来た妹です、だからこそ心配は不要、よ‼︎

 はぁぁぁぁ‼︎」

 

 そしてアイリスとシエルはリコリスとダイズの戦いを見ながら高速で矛と剣を打ち合わせ、肩を薄く切られたり脇腹を掠めたりと言った小さな傷を作るのを高速でやり合い、更に至近距離での複合属性魔法の撃ち合いや絶技の応酬を繰り返し、3対3の中で1番熾烈な戦いを繰り広げていた。

 尤も、これ等は常人の目では捉えられず枷を外したアルク達やエミル達でさえ動いた影を捉えるのがやっとな超スピードである。

 

「クソォ、魔法使いエミルと勇者ロマン達を殺せぇ‼︎

 アギラ様の下に行かすなぁ‼︎」

 

「邪魔よ退きなさい‼︎」

 

 魔族達も漸くエミル達への攻撃を再開し、何度も近付こうと試みるがサラの矢や エミルやロマン、ルルにキャシーにシャラ、ムリアの魔法で撃ち落とされる者が出たり近付いてもロマンやルル、アルにネイルとガム、ムリアの武器で屠られエミルの杖で殴られて吹き飛ばされたりサラは矢を直接刺したり等して徐々に包囲網を突破し始める。

 

「皆の者、我が娘達の活路を開く為エミル達に近付く魔族と魔物を集中して攻撃せよぉ‼︎」

 

『オォォォォ‼︎』

 

 更に此処でランパルドが全軍にエミル達の活路を開く様に指示を出し、連合軍と天使達はエミル達が先に進める様に彼等を庇いながら先へ先へと行かせる。

 その中にはアルクにレオナとカルロ、マークス、リンとエミル達に関わりが深い者達がエミル達の為に路を開こうとしていた。

 

「皆…ありがとう…行くよ皆‼︎」

 

「うん、行こうエミル‼︎」

 

 そうして皆がエミル達を庇う中、遂にグランヴァニア宮殿跡に続く路が切り拓かれ10人の初めに地上界で枷を外した者達の進撃が始まり魔族達がそれに追い縋ろうと必死な抵抗を見せる。

 

「おっと、アルの兄弟のトコには行かせねえぜ外道魔族共‼︎」

 

「姉さんの下には、命を懸けてでも行かせない…‼︎」

 

「行ってこいエミル、ロマン君! 

 この戦いに終止符を打つんだ‼︎」

 

 其処にアルの兄弟職人やリン、アルク達が路を阻みエミル達へエールを送りながら魔族や魔物達と戦い始め、転移する集中すらさせない様にしながら戦い抜いた。

 

「頼んだぞ、我が娘達…‼︎」

 

 それ等を見ていたランパルドや各王達も武運を祈りながら娘や弟子、その仲間達が必ずアギラを討ち斃すと信じて自らの戦いを繰り広げていた。

 その空中ではアイリスとシエル達の超常的な戦いも続いており、これ等の戦いが何方に転び勝利を手にするかはエミル達の双肩に掛かるのであった。

 

 

 

 そうしてエミル達誓いの翼(オースウイングズ)、ネイル達正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)はグランヴァニア宮殿跡前に漸く辿り着き、馬から降りて宮殿内に侵入する。

 其処にはアギラの部下達もまだ当然居り、エミル達の路を阻もうとしていた。

 

「待て、この先には我等アギラ様親衛隊が行かせは」

 

「邪魔だ退きやがれこの木偶の棒共が‼︎」

 

「親衛隊だかなんだか知らないけど、250程度が今更束になっても私達には敵わない、退きなさい‼︎」

 

 その魔族達は自らを親衛隊だと名乗っていたが、ルルの鑑定眼(アナライズ)で最高でもレベル250程度のレベル387の今の彼女達の敵では無く1番重装備のアルにも木偶の棒と呼ばれ、ルルに瞬きする間に斬り刻まれたりされ第1陣があっさり突破される。

 

「くそ、これ進ませて」

 

「我等が正義の刃を止められると思うなぁ‼︎」

 

「死にたく無かったら退いて下さい‼︎」

 

 次の第2陣はネイルの剣、キャシーの魔法で屠られ最早親衛隊がその機能を成しておらず、続く3陣4陣もあっさり突破され、そしてエミル達は遂に玉座の間へと辿り着く。

 

「見つけたぞ、アギラ‼︎」

 

「もう貴方の理不尽で悪趣味な策は此処まで、今直ぐ私達にその首を差し出しなさい‼︎」

 

 ネイル、エミルは玉座に座るアギラに対し殺気を全開にし此処でその首を差し出す様にとすら要求しながら全員で武器を構え何時でも戦闘開始を可能な状態にする。

 するとアギラは…この状況でありながら笑っていた。

 

「ふ、ふふふ、遂に来たかぁ…待っていたぞ、忌々しい勇者ロマンと魔法使いエミル…いや、ライラの転生体一行共‼︎」

 

『………えっ⁉︎』

 

 アギラは口を開くとエミルの事をライラの転生体だと暴露しながら叫び声を上げ、ムリアとキャシー、ルル以外がそれに驚いてエミルを見る。

 が、エミルは毅然とした態度のまま杖を構えていた。

 

「おやお仲間に言ってなかったのか、これは失礼を。

 何せ我々魔族の眼には魂の色が見えますからね。

 1人1人がそれぞれ全く違う色を持ちながら存在するのに、その女は500年前のライラと全く同じ魂の色を持つのだ‼︎

 理由に付きましては禁忌の魔法と流布され禁書の中に記された転生魔法を使いこの世に蘇ったのだろう。

 違いますかね、500年前の亡霊さん!」

 

 アギラはベラベラとロマン達が聞いてもいない事への解答を話し始め、魔族の眼には魂の色を視る力が備わっている、禁書内の禁忌とされる転生魔法を使い現代に蘇った亡霊と嘲りながら指を指す。

 そのアギラの話にエミルは未だ杖を構えていた…が、溜め息を吐きその閉ざしていた口を開いた。

 

「…そう、私は転生魔法を作り上げて500年前の死んだ時から現代に蘇ったわ、全ては魔族達の蛮行や魔王を討伐する為に‼︎

 理不尽な謀略を消す為に‼︎

 …皆黙っててごめんなさい、でも話さなかったのには理由があるの。

 この話をしても余計な混乱を生むか作り話かどちらの反応をするしか無い、だから黙ってこの世界で14年の間生きてきたのよ」

 

 エミルはそれを事実だと話し、話さなかった理由も余計な混乱を作りたく無いと言う、旅をして来た、魔族と共に戦って来たから分かる彼女の自信家でありながら慎重な態度を見せる『らしさ』があった。

 ロマンはそれ等を聞きエミルが何処までも自信家だった、が慎重を重ねる理由がストンと腑に落ちた感覚を覚えていた。

 するとこれを聞いたアルはエミルに問い掛け始める。

 

「なあ、お前さんは500年前の知識を持っているからガキの頃に誰かをそれを自慢する事はあったか? 

 ライラとして誰かを鼻で笑った事があったか? 

 そして…今此処に立つお前さんは『どっち』なんだ?」

 

 アルの問い掛けは500年前の知識と言う物を使い披露しては自慢してたか、優越感に浸った事はあったか、今此処に立つのはライラかエミルか何方かを問いていた。

 するとエミルは杖の構えを解かない、魔族アギラから視線を外さないを継続しながら答え始めた。

 

「いいえ、知識を出す時は誰かの顔に泥を塗らない様に努めたし、アレスター先生を本当に先生としてみて、この方ならライラを超えると確信を持っていたからたかが前世(ライラ)程度と思えたわ。

 そして、何より私が『エミル』として14年間生きて魔族や魔王討伐を悲願としてこの場に立つ事は変わらないわ‼︎」

 

 エミルは過去にアレスターとの授業で知識を自慢する事や誰かに泥を塗る行為をした事は無く、現在までそれを務めて更にアレスターを前世(ライラ)を超えると信じてたが故にライラ程度、と優越感に浸る事は無く寧ろその才覚を憧れたりした為にアルの問い掛けに誰かをライラとして貶した事は無かった、そしてこの14年の間も魔族や魔王討伐を悲願として生きて来た事に変わり無しと答え叫んだ。

 それを聞いたアルは頷きながらアギラの方を向く。

 

「なら良いや。

 だったら早く乙女の秘密も暴露しやがるこのクソッタレを斃して祝杯を上げようや‼︎」

 

「エミル…ありがとうね、アレスターの事をそんな風に想ってくれて。

 じゃあ私からも何も言わないわ‼︎

 そしてこの様子だと誰も変な考えを持つ事は無いみたいだから安心してよエミル‼︎」

 

 アルはアギラをさっさと斃し祝杯を上げようと話しながら笑い、サラもエミルがアレスターをどれだけ慕い、どれ程の才能があったかを見抜きながら彼から手解きを受けてたかを知ると最早何か言う事が無くなり、弓を構える。

 そしてそれはネイルやガムにシャラ、何より共に居た時間が最も長かったロマンも同じであった。

 

「そうだ、エミルが自分の前世をライラ様なんて言わなかったのは、周りの皆が…何より、僕を真の勇者って認めてくれた時に余計に萎縮させるから伏せてくれたんだ、自分の成長や周りの成長を自然体で見守り、『一緒に歩く為』に! 

 エミルはそんな優しい女の子なんだ…だからアギラ、お前の変な言葉には惑わされないぞ‼︎」

 

「おやおや、重大な秘密を隠していたのをそんな子供の様な理由で結束を高めるとは…苛立たしい。

 なら次はライラ、いやエミルがこの聖戦の儀を悪化させた事を話しましょう!」

 

『⁉︎』

 

 するとアギラはエミルの秘密で余計に結束が強まった事が気に食わず眉を顰めると、次にはこの聖戦の儀を悪化させたのはエミルだと話し、周りや何よりエミル自身を驚愕させる。

 

「エミル、貴女が縛られし門(バインドゲート)で門を500年封印したから地上界は戦いの前、いやそれ以上の復興を遂げました。

 しかしその一方、魔界では門が封印された為魔法元素(マナ)の流れが可笑しくなり、作物は枯れ貧困に喘ぐ最悪の500年間を過ごす事になったんですよ! 

 故に、今の魔界であの時代を経験して恨みが無い魔族は居ませんよ‼︎

 かく言う私もあの頃は名無し魔族として2度目の侵攻に参加した1人ですからねぇ‼︎」

 

 アギラはエミルが前世で門を封印した事で魔界側の魔法元素(マナ)の流れが可笑しくあり、貧困に喘いだ魔族達が数多く居りエミル…ライラを恨まない魔族は居ないとまで話した。

 初めはそんな事はと思い聞き流そうとしたが、エミルは魔族達が忌々しいライラと特に敵視していた事を思い出し、もしも事実なら自分は地上界の為にやった行いはとんでもない爆弾を仕掛けた事になるのでは? 

 そう思い始め固唾を呑み込み出していた。

 

「ふはははは、分かったかこの偽善者! 

 お前の行いの所為で碌に食べる物が無く死んだ魔族が居て、魔王様もそれはそれは大変お怒りになり、魔界側の聖戦の儀のルールを破ろうと決断を」

 

「────その口を閉じるんだな、嘘っぱち‼︎」

 

 アギラはエミルの事を顎に手を当てながら糾弾し始め、魔王も聖戦の儀のルールを破る決断をした…そう口にし始めていた所で、アギラを見ていたムリアがアギラを嘘吐きだと叫びその口を閉ざさせていた。

 

「エミル様、最北の世界樹で聖戦の儀の法を知った時やシエル様の話を良く思い出すんだな! 

 魔界側は500年前も楔の泉を探したり虐殺行為を裏でしていた事をしてたんでしょ⁉︎

 エミル様は日記をつけて何があったか要点を纏めて、それを俺達にも良く見せてくれた筈なんだな! 

 それで聖戦の儀の法が形骸化してるって結論付けたじゃないですか‼︎」

 

『…あっ‼︎』

 

 ムリアはエミルに対し最北の世界樹で聖戦の儀を知った時やシエルから楔の泉を探している話を思い出す様に言われ、皆も実はエミルが良く日記を書き、何かあればそれを見せて全体的に内容を共有して他のを思い出しながらアギラの話に矛盾点が見つかり全員ハッとしながらアギラがドゥナパルド4世達を騙した様に自分達にも嘘を吐く事をしたと知り怒りが満ち始めていた。

 

「それと魔界は確かに貧困に喘いだけど、200年後に魔物達が門を通れる様になってから徐々に解消されて、70年で生活は安定したんだな! 

 そして何より…お前は嘘を吐く時は顎に手を当てながら人を観察する癖がある事はお前の元部下の俺でさえも知ってるんだな‼︎」

 

「んぐ⁉︎

 うぅ、ゥゥゥ…‼︎」

 

 更にムリアは貧困に喘いだ時代は確かにあれど、魔物達が門を抜けれる様になって70年で生活水準は安定を取り戻した事、更に…アギラの癖である嘘を吐く時は顎に手を当てながら他人を観察する癖を暴露し、エミル達はドゥナパルド4世を騙してた時も確かに顎に手を当てていた事を思い出した。

 それ等を暴露されアギラは唸り始め…そしてシエル達の様に枷を砕き、レベル400になりながら吠え始めた。

 

「がぁぁぁぁぁクソがぁ‼︎

 私の策も、何もかもお前達に関わってから碌に成果を上げられない‼︎

 だから魔王様にラストチャンスと言われ後が無くなったんだ‼︎

 許すまじ、エミルにロマン‼︎

 特にロマン、お前は『ミスリルゴーレムを嗾けたあの時』に両親と一緒に死んでいればこうならずに済んだんだァァァ‼︎」

 

「…何だって…じゃあ父さん達が死んだのは…お前が…‼︎」

 

 アギラは玉座を魔力で吹き飛ばし、地団駄を踏みながらエミル達に関わったが故にこうなったと逆恨みを吐きながらエミルとロマンを名指しし、更にロマンにはミスリルゴーレムを嗾けたあの時に死ねばと口にし、ロマンやエミル達は此処でロマンの両親がアギラの所為で死んだと悟り、全員はアレスターが死んだ時とロマンの両親が死んだ状況が酷似している事に気づき目を見開き始めていた、それも怒りで。

 

「ああそうだよ、私の使命の1つには将来的に地上界侵攻の邪魔になる危険性が高い人材や勇者の血を引く者をあらゆる手を使い暗殺するってあったんだよ‼︎

 なのにアレスターまでは問題無かったのに勇者の血を引く奴は天性に運が良いのか悉く生き残りやがって‼︎

 其処からどんどん生き残る奴が増えやがったんだ‼︎

 だからお前やエミルは必ず殺してやる、この手で必ずなぁ‼︎」

 

 エミル達はアギラの使命にアレスターの様な天才やロマンの様な勇者ロアの血を引く者を暗殺する事を暴露し始め、アレスターまで暗殺したは良いが勇者の血を引く者を狙い出した途端にその使命が頓挫して行き趣味の地上界の者が完全な絶望に歪むフラストレーションを溜めてた様であった。

 それを聞いたエミル、サラ、そしてロマンは…特に怒りを爆発させ始めた。

 

「…そう。

 なら僕からはこう言ってやる、ギャランや父さん達の仇だ‼︎

 これ以上お前の所為で僕の様な思いをする人を無くす為に、僕達はお前を討つ‼︎」

 

「アレスターの仇討ち、此処で果たさせて貰うよ、この外道‼︎」

 

「やれる物ならやってみろ、塵芥共がぁぁ‼︎」

 

 ロマンやサラが仇討ちを叫び、エミルもアレスターやロマンの両親、更に恐らくはあの村を魔物に滅ぼされた勇者の少女もアギラの手でそれが行われたと悟り、この外道を斃すべく全員がロマンを中心に突撃を始める。

 それに応じアギラも戦闘態勢に移り迎撃を始める。

 そして今、グランヴァニアでの戦いの最終決戦は幕を開けるのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
シエルやアイリス達の真の力を発揮しながら戦い、アギラはエミル達に精神攻撃を仕掛けようとして失敗、フルパワーで戦い始めました(それでもダイズも及ばない)。
そして遂にエミルの前世がライラだとロマン達に暴露されました。
これを仲間内で知るなら此処だ、と思い描写致しました。
そして次回はいよいよアギラ戦になります、皆様グランヴァニア最後の戦いを後少しお待ちくださいませ。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第32話『断罪の刃、下る』

皆様おはようございます、第32話更新でございます。
遂に来ましたグランヴァニアでの最終決戦、エミル達の戦いを最後まで見届けてくれましたら幸いです。
では、本編へどうぞ。


 エミル達とアギラの会話が始まった頃、宮殿跡外では変わらず死闘が繰り広げられており、中でも超越者6名による空中での大戦闘は更に熾烈さを極めていた。

 

「ふっ、このアザフィールの剣を避けつつ零距離魔法で我が鎧、肉体に傷を付ける貴殿のその実力、驚嘆に値する‼︎

 誇ると良い、汝が実力と才能は私の想定の上を行った事を‼︎」

 

「これはご丁寧にありがとうござい、ます‼︎」

 

「(けれど私の本気で、殺す様に撃った魔法を相殺、更に何発受けても倒れる気が全然しない‼︎

 これが今の魔王の下、魔界の戦乱や様々な事象を収めた大英雄アザフィールの力ですか…‼︎)」

 

 アレスターとアザフィールは魔法戦で何度も何度もアレスターの魔法を相殺し、更に受けても全く倒れる気配が無いアザフィールに心底畏怖していた。

 しかし負ける訳には行かず剣を避けつつ再び魔法を放ち続ける。

 

「グフッ‼︎

 く、くふふ…全く、やるじゃないか天使リコリスゥ‼︎」

 

「ガハッ‼︎

 く、いい加減倒れなさいよ、この化け物魔族‼︎」

 

 リコリスとダイズは相変わらずのノーガード戦で拳と拳、たまにブレードが衝突させ合いながら互いに攻撃を受けては回復を繰り返して恐らく6人の中で最もダメージを受け続けているが、何方も倒れない耐久力を発揮しながら尚もノーガードで戦い続ける。

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

 しかしそれでも1番熾烈な戦いをしているのはアイリスとシエルである。

 互いに一撃必殺の斬撃や魔法を放ち、それが頬を掠める肩を少し抉り脇腹や翼も傷付ける、アザフィールやダイズ達が受ければ数発で戦闘不能になる死闘を繰り広げていた。

 更に6人の戦闘は相変わらずグランヴァニア宮殿跡の空気を震わし、大地が泣いてるかの如き震動が両軍に伝わっていた。

 

「くっ、連合軍よ怯むな‼︎

 空の戦いは天使アイリス達が押さえている、ならば我等は我が妹エミル達がアギラの討伐を信じ戦い抜け‼︎」

 

「地上界の塵芥共とクソ天使共を殺せぇ‼︎

 アギラ様がエミル共を殺すまで奴等を殺し続けろぉ‼︎」

 

 一方連合軍+天使達とアギラ派の魔族+魔物達の戦いも激化し、連合軍の中から犠牲者も出始めるが、それでも天使が加勢している分魔族や魔物達を押し気味であり、魔族の現場指揮官は去勢を張りながら敵を殺し続ける様命令し、アギラへの狂信が垣間見える戦場と化していた。

 

「(エミル、ロマン君、ネイル殿、頼んだぞ。

 ワシ達はそなた達がアギラの首を取るまでこの戦いを切り抜け続けるぞ‼︎)」

 

「(サラ、私の愛娘よ、あの悪逆なる魔族を我等地上界の誇りにかけて討つんだ‼︎)」

 

 その戦場にてランパルドやロックは自身の娘や勇者ロマン、シリウスの子孫ネイル達の武運を祈りながら魔法と矢を放ち続け魔族や魔物を倒し続けていた。

 

「(ルル、ロアと私の愛しい子。

 あの人に似た正義の心でアギラを倒して‼︎)」

 

「(漸く魔法祝印(エンシェント)を認めたバカ弟子が! 

 帰ったら色々教えてやるから覚悟してやがれよ‼︎)」

 

 更にリリアナ、ゴッフもルルとアルがアギラを討ち取ると信じながら魔法と斧を振るい、戦場に居る兵達の希望たる誓いの剣(オースブレード)と言う英雄の役割を演じながらこの戦いに終止符が打たれるまで戦い続ける覚悟を以て血に濡れた荒野を駆け抜ける。

 

「さあヒノモトの勇士達よ、魔族共を叩き斬るのじゃ‼︎

 あの卑怯者の首をエミル達が刎ねるまで戦い続けるのじゃ‼︎」

 

 そしてゴッフやアルク達と共に前線に出ているサツキも突入した若き戦士達を信じてヒノモトの戦士達に戦い続ける事を命じ、連合軍の皆と同じ想いの下刀を振るい続け魔族達を斬り捨てていた。

 全ては自分達が希望を託した者達の勝利を願っての事であり、彼女等の帰る場所を守る為でもあった。

 

 

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

「この塵芥共がぁ‼︎」

 

 一方宮殿跡内部ではエミル達の戦いが開始され、エミル達は身体強化(ボディバフ)を掛けてアギラもレイピアを構えて前衛全員と鍔迫り合いながら矢を避け、魔法が飛んで来ようとする場面を目撃して距離を離して同じく魔法の準備をしていた。

 

焔震撃(マグマブレイク)‼︎」

 

瀑風流(タイダルストーム)‼︎」

 

雷光破(サンダーバースト)‼︎」

 

 エミル、キャシー、シャラはそれぞれ複合属性魔法を放ち、アギラを穿つ為の最大火力の魔力の塊は真っ直ぐ悪逆の魔族アギラを捉えていた。

 しかしアギラも名あり魔族にして第3の将、故にこの魔法に臆する事無く正面から迎え撃とうとしていた。

 

「甘いわ、瀑風流(タイダルストーム)焔震撃(マグマブレイク)闇氷束(ブラックフローズン)‼︎」

 

 アギラは3人が放った魔法の対抗属性である複合属性魔法を放ち、それぞれを相殺すると次にロマンに向かって突撃し始める。

 それを止める様にサラが矢を連射するがそれは最小限の動きで避けられロマンの前に辿り着いてしまう。

 

「アギラ、お前だけは絶対に許さない‼︎

 爆震剣‼︎」

 

「ほざけ、運だけで生き残った勇者が‼︎

 嵐瀑剣‼︎」

 

【ガキィィィィィィィィン、ドォォン‼︎】

 

 ロマンはアギラと何度も鍔迫り、許さないと口にした直後に複合属性絶技を使用し、アギラもロマンを運だけで生き残った者と罵りながら対抗属性絶技を使い鍔迫り、それらの魔力エネルギーが衝突した事で爆発が発生し両者は後方に足を擦りながら吹き飛ばされるも直ぐに態勢を立て直す。

 

「悪なる魔族アギラ‼︎

 我等の正義の刃を受けろぉ‼︎」

 

「シリウスの子孫と腰巾着に裏切り者がぁ‼︎

 口を開けば2言目には正義正義、鬱陶しいんだよこの正義中毒者共が‼︎」

 

 其処に剣と槍を装備したネイル、ガム、ムリアがアギラに突撃しその刃を向ける。

 だがアギラはネイル達を正義中毒者と怒りながら罵倒し、3人の一斉攻撃をレイピアで全て捌き切り、蹴りでそれぞれ吹き飛ばす。

 其処にムリアが魔法を崩れた態勢で放つが、アギラはこれも対抗属性で相殺し、今までの魔族とは格が違う事をロマン達やネイル達の身体に刻み付けていた。

 

「どうだこれが私の力だ‼︎

 地上界の侵略三人衆に選ばれた私の力だ‼︎

 地上界の塵芥共め、消えて無くなれぇ、雷光破(サンダーバースト)ォ‼︎」

 

「危ない、闇氷束(ブラックフローズン)‼︎」

 

結界魔法(シールドマジック)V‼︎」

 

 するとアギラは10人を目標に雷光破(サンダーバースト)を力を溜めて放ち、その規模は大きく宮殿跡の天井も周りも全て破壊しながら雷光がロマン達を穿とうとした。

 それをシャラが闇氷束(ブラックフローズン)を、キャシーが結界魔法(シールドマジック)Vを使用し対抗属性魔法による相殺と万が一に相殺しきれなかった場合の防御、瓦礫の直撃を防ぐ為に二重の防御策を実行する。

 

【ガラガラガラガラ、バチィィィィィィィィィィ、キィィィィィン‼︎】

 

「くぅ、うぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 すると瓦礫が結界で弾かれてる間に矢張り相殺し切れなかった魔法も結界に直撃し、キャシーは結界に込める力を更に強め魔法と瓦礫を防ぎ切ろうとする。

 それから1分か10秒か、長い時間とも短い時間とも取れる間に宮殿跡の玉座周辺は黒い氷と粉々に砕け散った瓦礫の山と化し、その中でエミル達はキャシーの結界で守り切られ、アギラは自身の雷光で瓦礫を破壊し両者は無事であり戦いは吹き抜けとなった宮殿跡で仕切り直しとなる。

 

「アギラ、貴方の行いは全て絶対に許さない‼︎」

 

「俺様達の武具の力を見せてやるぜ、ずぉぉぉりゃぁぁぁぁ‼︎」

 

「黙れリリアナの娘とゴッフの髭面ジジイの弟子が‼︎

 特にリリアナの娘、お前が勇者ロアの娘だとは思わなかったわ‼︎

 今直ぐ死ねこの場で死ねぇ‼︎」

 

 仕切り直しの初めはルルとアルが突撃し、アギラのレイピアとルル達の武具が絶技を混ぜながら激しく打ち合う。

 その中でアギラはルルが初代勇者ロアの娘だと知らずに見過ごして居た為憎悪が2割増になっており、アルの攻撃を弾けばルルを執拗に攻めようとレイピアで斬り掛かり、3人の攻防は激しさを増すばかりだった。

 

「アギラ、ギャランやこの国の、お前の手に掛かった皆の無念をここで晴らす、はぁぁぁぁ‼︎」

 

「我等も行くぞ、ガム、ムリア‼︎」

 

 其処にロマン、更にネイル達3人も加わり6対1の戦いになり、ロマンとルルは魔法まで放ちアギラの攻撃を上回る手数で押そうと連携を取りながら自身の武具を振るいアギラを討ち取ろうとする。

 しかしアギラはそんな6対1の状況でも何と自身もややダメージを負いながらもロマン達の攻撃を弾いては擦り傷を負わせながら全員を後方に吹き飛ばし戦況は拮抗気味であった。

 

「くっ、コイツ全然表に出て来なかった如何にも腹黒汚物軍師の癖に俺様達とほぼ互角に戦いやがって!」

 

「当然だぁ、私は魔王様から地上界侵略を任されたアギラ様だぞ‼︎

 そんな私が地上界の塵芥6人の同時攻撃如きに怯む訳…うおっ⁉︎」

 

【ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン‼︎

 ドドドドドドドォォォン‼︎】

 

 アルがアギラを罵倒しながらもその実力に驚きを隠せず、片手で頬から垂れた血を拭きながら眼前の敵をロマン達と共に見据える。

 それをアギラは相変わらず地上界の者を見下し更に自身に様付けをするナルシズムを見せ、大振り手振りでロマン達の6人同時攻撃

 に怯む訳が無い。

 そう言い切ろうとした瞬間アギラを矢と魔法が襲い掛かり、アギラは急ぎ全てを回避していた。

 

「隙あり過ぎなのよ、アギラ‼︎」

 

「くっ、この塵芥共め‼︎

 私が優越感に浸ってる所に不意打ちを仕掛けて来るしか能が無い卑怯なゴミ虫め‼︎」

 

「アンタみたいな卑劣な奴に言われたく無いわよこの下衆‼︎」

 

 サラが不意打ちから開口1番に隙ありだと叫ぶとアギラは自身の事を棚に上げて卑怯だと叫び返し、それを聞いたシャラは下衆に言われたく無いと叫び返しながら魔法と矢は雨霰に放たれ続けた。

 そんな中でエミルはアギラの様子をずっと無言で観察しつつ、魔法を放ち続けていた。

 

「この、いい加減にしろ塵芥ァ‼︎

 燋風束(マグマバインド)ォ‼︎」

 

大震波(タイダルブレイク)‼︎」

 

 アギラは魔法と矢に痺れを切らせ、焔の風による拘束と目眩しを後衛に放つが、それをエミルが土と水による濁流の津波を発生させ相殺する。

 その瞬間アギラ舌打ちをしながら再びロマンに向かって突撃し、ロマンもアル達を伴い突撃しながら迎え撃ち始めた。

 

「お前の所為で、どれだけの人が不幸になって、死んでいったか‼︎

 その苦しみも何もかもを此処で絶対に断ち切る‼︎」

 

「黙れ塵芥、地上界の者など所詮は私に絶望に歪み苦しみ死ぬ恐怖を提供し、私を喜ばせる玩具でしか無いんだよ‼︎

 そんなゴミ共が高貴な魔族様に逆らってんじゃない‼︎」

 

【カンカンカンカンキンキンキン‼︎】

 

 ロマンはアギラの為に死んだ者や不幸になった者達を想い、その苦しみも全て断つべく元凶の魔族の将に断罪の刃をアル達と共に振るう。

 対するアギラは地上界の者は自身の悦楽の道具でしか無いと断言し悪意が剥き出しになった刃を振るいロマン達と何度も何度も斬り結ぶ。

 

「この‼︎」

 

【バキッ‼︎】

 

「うあっ‼︎」

 

 そしてそれらの合間にロマンを蹴り上げ、吹き飛ばした後ルルに突撃し、この中で最も勇者の血が濃く神剣を振るう可能性がロマンよりあると考えた彼女を殺すべくレイピアを振り被り絶技を放とうとしていた。

 

「爆震剣が来るわよ、ルル‼︎」

 

「っ⁉︎

 嵐瀑剣‼︎」

 

【ガァァァァァン‼︎】

 

 その瞬間エミルはアギラが爆震剣を放つとルルに叫び、それを聞いたルルは一瞬そうなのかと感じながらもエミルを信じ対抗属性の水と風を纏った嵐瀑剣をレイピアが振り抜かれる前に放ち、そして対抗属性同士だった為熟練度や体内魔力の差で相殺し切れるかレイピアとミスリルダガー2本が反発し合い、そして両者共に後方に吹き飛ばされ、ルルは身体を回転させながら態勢を立て直し、アギラは片手を地面に突き足と籠手でその速度を落としながら驚愕していた。

 

「バ、バカな⁉︎

 な、何故私が今爆震剣を放つと分かった⁉︎

 い、いやただの偶然だ、喰らえ」

 

雷光破(サンダーバースト)‼︎」

 

【バチィィィィィ、ドォォォンッ‼︎】

 

 アギラは何故爆震剣を放つか判別されたか理解出来ず、しかし只のまぐれだと判断して今度は魔法を放とうとしたがエミルが先に雷光破(サンダーバースト)を放ち、闇氷束(ブラックフローズン)を放った直後に相殺、目の前で反発により爆発するとアギラは焦げた左手を見つめながら何が起きているかさっぱり分からないと言った様子を見せ、他の皆もエミルを見つめ始めていた。

 

「アギラ、何故絶技も魔法も出す前に対抗属性を判別されて相殺されたか教えてあげるわ‼︎

 魔法、絶技は体内魔力、そして『空気中の魔法元素(マナ)を消費して』放つ物よ‼︎

 魔力一体論の基礎中の基礎よ…そして私はアギラ、お前を観察してある事が分かった、だから魔法も絶技も見抜いたのよ‼︎」

 

「ある事…? 

 エミル様、勿体振らず言ってくれや!」

 

 エミルは茫然としているアギラに対し、魔力一体論の基礎中の基礎を話し始め、更に戦闘中に観察し続けた結果ある事が分かり、それのお陰で何の絶技、魔法が来るか分かったと話していた。

 それを聞いていたガムは何の事かさっぱり分からず早く答えを言う様に話していた。

 

「この‼︎」

 

瀑風流(タイダルストーム)‼︎

 …私が分かった事、それはアギラが魔法や絶技を使う時に『必要以上に体内魔力と魔法元素(マナ)を練り上げて放ってしまっている』事よ‼︎

 そのお陰でどの属性に変換した魔法、絶技が来るか魔力や魔法元素(マナ)の流れを見て判別出来るのよ‼︎

 戦い慣れてない新米の兵達がやるミスをお前はやってる、だからどんな属性の物が来るか判別出来る‼︎」

 

 アギラはエミルが話している途中で魔法を放とうとしたが、それをエミルが迷わず瀑風流(タイダルストーム)を放ち相殺すると更に説明を続け、アギラが新米の兵や冒険者がやってしまう魔力や魔法元素(マナ)を練り上げ過ぎて放つと言う初歩的なミスを口にし、魔法元素(マナ)の流れを読む力が天才の域にあるエミルならではの判別の仕方にロマン達は驚き、またアギラがそんなミスをしていたのかと言う事に驚愕していた。

 

「幾ら策士とは言え、魔族の将がそんなミスを⁉︎」

 

「ええしてるわ、だからどんな攻撃が来るか感覚で分かるのよネイルさん! 

 アギラ、お前は碌に戦場で同レベルやそれに近い者と戦わないでレベルアップして経験も積まずに今の地位に胡座をかいていたでしょ‼︎

 だからもう、お前の攻撃は私達は見抜き次の手を打てるわ‼︎

 ロマン君‼︎」

 

「! 

 はぁぁぁぁ‼︎」

 

 ネイルは魔族の将がそんな自分達もやらないミスをしていたのかとエミルに信じられない様子で問うと、彼女は自信満々に感覚で分かると発言し、今の地位に胡座をかいたアギラの攻撃は全て見抜けると発言し、ロマンに指示を出すとロマンは阿吽の呼吸でそれを聞きアギラに向かって走り出す。

 

「クソがァァァァ‼︎」

 

 エミルの発言を全て聞き、ワナワナと震えていたアギラは最早自身のプライドが全てズタズタにされてしまいヤケを起こしてロマンを迎え撃つべくレイピアを構えながら突撃し、ネイル達は絶技がぶつかるかと一瞬思っていた。

 

「危ないロマン君、焔震撃(マグマブレイク)を使って‼︎」

 

「っ、焔震撃(マグマブレイク)‼︎」

 

【ドォォォォォォォン‼︎】

 

 しかし斬り結ぶまで後数歩の所で次にキャシーが焔震撃(マグマブレイク)を使う様に警告し、ロマンは足を止めてそれを使った。

 するとアギラも足を止めてしまい対抗属性の瀑風流(タイダルストーム)を使い両者の魔法は相殺され、再びロマンは吹き飛ばされるがアルやネイル達が受け止めてそのまま立たせ、アギラは仲間がいない為柱に背中を打ち付けてしまう。

 

「キャシー、私にも分かったわよ! 

 アイツ、接近戦を仕掛けると見せ掛けてレイピアに魔力は一切通さずにエミル様が言ったミスを左手でやってたわね⁉︎」

 

「はいシャラさん‼︎

 ですからアギラ、貴方フェイントの使い方も下手過ぎますよ‼︎

 こんなんじゃガムさん達だってフェイントだって見抜けますよ‼︎」

 

 するとシャラがキャシーに今のがレイピアに魔力を通さず至近距離で魔法を仕掛けるフェイントだと見抜き、キャシーもこれを肯定してアギラがフェイントすら下手だと酷評し、ガム達も見抜けてしまうと言った瞬間ガム達も先の一瞬を過ぎた辺りで気付き頷いていた。

 

「く、クソォォォォ‼︎

 この、この塵芥共め‼︎」

 

「…そして2つ目の弱点、私は今気付いたわ。

 アギラ、お前は気付いているか分からないけど魔法の威力が徐々に弱って来てるわよ‼︎

 恐らくフルパワーで戦った事が少ないからその反動で力を浪費しているのよ‼︎

 魔法を使う事が少ないロマン君の魔法で先程まで私の魔法を相殺してたのがいきなりロマン君の魔法でも相殺出来たのが証拠よ‼︎」

 

 アギラは地面に左腕を叩き付けながら憎らしくエミル達を睨み付けていた。

 だが此処でエミルは更に気付いた弱点…フルパワーでの戦闘慣れをして無い所為で反動が襲い力を浪費している事を告げた。

 それはエミルの魔法で漸く相殺してた魔法がいきなりロマンの魔法で相殺可能になった事を例にしながら論じ、他の全員…アギラも含めて驚いていた。

 

「対する私達は全ての戦いを全力で戦い、その中でフルパワーを維持する様に継続戦闘も熟している‼︎

 つまりアギラ、もうこの先お前が勝つ可能性は更に減り続けるわ‼︎

 …その身に断罪の刃が刺さる事に怯えなさい‼︎」

 

「で、出鱈目を言うな塵芥の中の更なるゴミがぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 そしてエミルは自身達は常に全力で戦い、その中でフルパワーを長時間維持する様に心掛けて戦い続けた事を話しながら全員で体内魔力回復用ポーションを飲み、そしてアギラにこの先勝ち目が更に無くなると叫ぶとアギラも体内魔力回復用ポーションを取り出し、それをガブ飲みしながら突撃し始めレイピアを構え始めた。

 

「はぁ‼︎」

 

 しかしアギラの目に先程よりも速くなったロマンが自身の攻撃を完全に盾で受け止め、右手に持った剣で斬り付けるとアギラは咄嗟に避けるが剣先がアギラの鎧を掠め金属同時が擦れ合う音が響いた。

 

「くっ、何故スピードが上がったんだ⁉︎

 身体強化(ボディバフ)を二重に掛ける魔法を創り上げたのか、エミル‼︎」

 

「違うよアギラ…僕のスピードが上がったんじゃない、お前のスピードが落ち始めたんだよ…! 

 体内魔力回復用ポーションを飲んでこれならエミルの言う通りお前に勝ち目は無い、此処で討たせて貰うよ‼︎

 はぁぁぁぁ‼︎」

 

 アギラは突然ロマンのスピードが上がった事をまたエミルが新しい魔法を創り上げたのかと思考し叫ぶ。

 だが、ロマンから出た一言はアギラの方が遅くなってしまってるのだと言う自身が信じたく無い一言であった。

 そしてロマンは此処がチャンスだと叫び前衛全員が突撃を始め、サラが矢を放ちエミル達は魔法で援護を始めた。

 

「ぐ、ぐあ⁉︎

 く、クソこの塵芥共」

 

「塵芥塵芥五月蝿ぇんだよこの傲慢トンチキサイコパスド三流策士が‼︎

 震撃斧‼︎」

 

「正義の心が、お前を討つ‼︎

 暴風槍、瀑水剣‼︎」

 

「はぁぁぁぁ、極雷剣、絶氷剣‼︎」

 

 前衛6人の攻撃や後衛4人の援護をパワーダウンが始まったアギラに捌き切るのはやっとであり、それが彼のプライドを尚も傷付け口癖の塵芥を再び口にした。

 が、いい加減聞き飽きたアルが最大級の罵倒を以て複合属性では無く敢えて上位絶技を使いアギラの鎧にミスリルアックスを当ててネイル、ルルの方に吹き飛ばすと2人も上位絶技の乱舞を始めダメージを重ね始める。

 

「がぁぁぁぁぁぁ‼︎

 この塵」

 

「もう喋らせない、爆炎弓‼︎」

 

「キャシー、行くわよ‼︎」

 

「はいシャラさん、乱風束(バインドストーム)‼︎」

 

 しかしその乱舞をレイピアで無理矢理弾き返すと全員に向かって再び塵芥と叫び魔法を放とうとしたが、その前にサラの矢が鎧を焼きながら貫き、シャラとキャシーの乱風束(バインドストーム)の風で切り刻まれながらその場に拘束されてしまう。

 

「ぐ、うおあぁぁぁ…‼︎」

 

「ムリア、行くぜ! 

 光流波‼︎」

 

「勿論だなガム、暗黒破‼︎」

 

 そうして動けないアギラにガム、ムリアはそれぞれ光と闇の一閃を竜巻の中に放ち、アギラの鎧は更に貫かれ青い血を吐血し始める。

 もう誰の目から見ても分かる、アギラは既に倒れる一歩手前まで追い込まれ始めたと。

 

「ガフッ、ぐ、裏切り者、がぁぁ…‼︎」

 

「アギラ、受けなさい‼︎

 焔震撃(マグマブレイク)‼︎」

 

「ギャァァァァァァァァァァァァ‼︎」

 

 アギラは裏切り者のムリアに憎しみの込められた目で見つめるが、其処に本命のエミルから複合属性魔法である焔震撃(マグマブレイク)で足下の床を焔の震撃が襲い、そのエネルギーによりアギラは断末魔の悲鳴を上げながら焔に焼かれながらその命が風前の灯火と化していた。

 

「ロマン君、止めを‼︎」

 

「分かってる、これで終わりだアギラ‼︎

 雷光けぇぇぇぇぇぇん‼︎」

 

「グフッ、ひょ、氷黒剣…‼︎」

 

【ガキィィィィン、ギギギギギギギギ‼︎】

 

 そしてエミルはアギラの手でギャランを殺され、両親を死に追いやられたロマンに止めを刺す様に叫び、いざと言う時はサラやエミル達も控えながらロマンはジャンプしながら雷光剣を兜割で、アギラは最後の力を振り絞り氷黒剣を弾く様に放ち鍔迫り合いが発生する。

 その鍔迫り合いは周りに衝撃を伝播させ、正にアギラの最後の力と呼ぶべき物だと全員に知らしめた。

 

「ぐっ、おぉぉぉぉ…‼︎」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、やぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

【バキィィィィィン‼︎】

 

 それからその鍔迫り合いが30秒以上経過した瞬間、アギラが膝を崩し始めるとロマンはそれを見て此処だと全身全霊の力を込めて剣を振り下ろした。

 その瞬間アギラの魔界式魔法祝印(エンチャント)が掛かったレイピアの刃が叩き折られ、右腕を肩から鎧ごと切断されレイピアの刃が宙を舞った。

 

「がぁぁぁ…‼︎」

 

「これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 そしてロマンは再び雷光剣を使用しアギラの身体に刃を振り上げる様に振るい、そのミスリルソードが遂にアギラの鎧ごしに身体に食い込み、そしてそのまま振り上げられ────。

 

「『時間停止魔法(タイムストップ)』」

 

【カチッ‼︎】

 

 瞬間、世界の時間は静止しロマンの剣もアギラの上半身を半分以上食い込ませそのまま頭まで切断する直前で止まる。

 更にその場にティターン、ティターニア兄妹が現れ、アギラやロマンの前に立っていた。

 

「はっ、策士策に溺れるってのはこの事だな! 

 ザマァ無いぜアギラ! 

 ほら、ティターニア行くぜ」

 

【ブシュ‼︎】

 

 するとティターンはアギラの事を最大限に見下し、負けた事を自業自得だと発言した後彼の魔血晶(デモンズクリスタル)を回収してティターニアと共にその場から去ろうとした。

 しかしティターニアはロマンの目を見ながら少しその場から動かず、しかし兄の命により近場に立ち振り返る。

 

「さようなら勇者一行様達、取り敢えずアギラ撃破は祝福するわ」

 

【ビュン、カチッ、ザァァンッ‼︎】

 

 そしてティターニアがアギラを倒した事を祝福すると、2人で何処かに転移し消え去る。

 その瞬間止まった世界が動き出し、アギラはそのまま切断され青い炎に包まれて倒れ去った。

 

「やった、アギラを倒したよ皆‼︎」

 

「ええ、皆良くやったわね‼︎

 ロマン君もお疲れ…ロマン君?」

 

 アギラの死を確認した瞬間サラが遂に仇敵を倒した事を喜び、全員も手に力を込め死んだ者達の無念を晴らしたと思い、そしてエミルが全員を労い、ロマンにも声掛けをした…その時、ロマンだけが険しい顔をしており、エミルは何事かと思い声を掛ける。

 

「…ねえエミル、この世界に時間を止める魔法って存在するの?」

 

「えっ? 

 …いえ、500年前から今までそんな魔法は聞いた事も無いわ。

 何かあったの?」

 

 ロマンはこの世界に時間を停止させる魔法が存在するかと急にエミルに問い掛け始め、エミルはライラの時代からそんな魔法は聞いた事も無いと告げるとロマンは溜め息をしながら自分が『見聞きした物』を話し始めた。

 

「うん、急に身体や世界の時間が止まったって感覚が来たと思ったらティターン兄妹が僕の目に映って、アギラの魔血晶(デモンズクリスタル)を引き抜いて何処かに去ったんだ、アギラ撃破おめでとうって言いながら」

 

『何だって⁉︎』

 

 何とロマンは世界が静止した瞬間やその間の出来事を認知し、何が起きていたかとエミル達に告げると全員驚愕し、エミルは特に時間を停止させる魔法の存在を初めて認知しつつアギラの核が回収された事に不安を覚えながら黄昏の空を見るのであった。

 

 

 

「ぐぅ、はぁ、はぁ、はぁ…素晴らしいぞ天使リコリス、俺を此処まで追い詰めたのは我が師アザフィールやシエル、魔王様に続いて4人目だ…‼︎」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…‼︎」

 

 少し時を遡り外での戦いにて、ダイズはリコリスの実力に満足しながら自身を追い詰めたのは師であるアザフィールとシエルに何と魔王に喧嘩を売って追い詰められた事を暴露しつつ4人目と話しながら傷を癒す魔力が無くなりながらも構えていた。

 一方リコリスも片腕の骨を治す魔力すら尽き掛けながら構えており、その顔や素肌には打撲痕が残っていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、未だ倒れないんですね…‼︎」

 

「ふ、ふふふ…これでも未だ若いものには遅れをこれ以上取らせる訳にはいかんのでな…‼︎」

 

 更にアレスター、アザフィールもボロボロになっており、アレスターの方は魔法を撃つ余力を失いつつあり、アザフィールも絶技を1発か2発撃てれば良い所まで魔力が尽き、残りは素の剣術で戦う他に無かった。

 

『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!』

 

 そしてアイリスとシエルも他4人まで余力が無い訳では無いが相当力を使い果たし、何方が倒れても可笑しく無い状況になっていた。

 しかしシエルは相変わらずオリハルコンソードでベルグランドを残した状態であり、アイリスは今アレを使われたら防げないと感じながら矛を構えていた。

 

【カチッ‼︎】

 

「っ、これは時間停止魔法(タイムストップ)⁉︎

 姉様‼︎」

 

「分かってる、ティターン兄妹だ‼︎

 奴等、アギラの核を抜き取ってる‼︎

 此処でアギラを逃す可能性を作る訳には」

 

「待て、戦いは終わりだ」

 

 瞬間、世界が静止し同じ魔法を覚えてる超越者6名以外の時間が完全に止まり、リコリスとアイリス、アレスターはティターン達が時間を止めアギラの核を回収した事を視るとアギラが生き残る可能性を潰すべく兄妹を止めようとする…が、突然シエルが戦いは終わりだと告げ剣を納め始め他の2人も構えを解いていた。

 

【カチッ‼︎】

 

「戦いは終わり、それはどう言う⁉︎」

 

「こう言う事だ…聞け、アギラ派の者共よ‼︎

 お前達の将アギラはたった今死んだ‼︎

 よってこの戦いは我々の敗北である、即時退却せよ‼︎」

 

 アイリスは再び動き出した世界の中で戦いは終わりとは何なのかと問うと、シエルは何とアギラは死に、戦いは敗北したと魔族や魔物達に叫び、それを聞いた連合軍や天使、魔族達は騒つき始めた。

 

「ア、アギラ様が死んだだって⁉︎

 そんな馬鹿な…‼︎」

 

「…あぁ、アギラ様のお身体が灰になって魔法使いエミル達が立っている⁉︎

 て事は…‼︎」

 

 しかしアギラ派の魔族達は簡単には信じられず宮殿跡を透視すると、アギラは実際にエミル達の手で灰にされた光景が映り、アギラが『敗北』した事を理解してしまう。

 

「もう一度言う、アギラは死んだ‼︎

 よって現場指揮は私が取るが、これ以上の戦闘による消耗は本格的に我等が敗れ去る事を意味する‼︎

 なのでアギラ派の魔族達は魔物を引き連れ、撤退せよ‼︎」

 

「っ…ち、畜生‼︎」

 

【ビュン‼︎】

 

 更にシエルはアギラは死んだと強く告げ、またこれ以上の消耗こそ本格的に魔界が敗れた事を意味する為魔物を伴い撤退する様に命令する。

 すると魔族達は目の前の敵を無視して魔物全てを連れて撤退し、残るはシエル達3人だけになり連合軍や天使達の視線が自然と集まった。

 

「何故、アギラの魔血晶(デモンズクリスタル)を回収したのにそれを彼の部下達に言わないのですか?」

 

「理由は簡単だ、奴は『魔王』様より最後のチャンスを賜ったのに物にしなかった。

 よって我々が奴を始末すると言う命を実行するだけの事だよ。

 では何時かまた会おうか、天使アイリス」

 

 アイリスは疑問であるアギラの核を回収した事を告げなかった理由を矛を構えながら問うと、それをシエルは指で摘みながらラストチャンスを掴めなかった為始末するからだと答える。

 それからアイリスに対し不敵な笑みを浮かべると転移してその場から消える。

 

「ではさらばだ天使リコリス、次に会ったら決着をつけようか?」

 

【ビュン‼︎】

 

「はぁー、はぁー、もう2度と戦いたく無いわ…‼︎」

 

 するとダイズもリコリスに次に会えば決着をつけるかと質問を投げ掛けながら転移し、対するリコリスはアイリスからの治療を受けながら2度と戦いたく無いと話し、光の籠手のブレードを畳み戦闘態勢を解除する。

 

「なら私も去ろう、さようならだ魔法の天才アレスターよ。

 …出来れば、輪廻転生の時が未だ先であり戦う機会があれば是非手合わせを願いたい物だよ」

 

【ビュン‼︎】

 

「あっはは…輪廻転生ばかりは私には如何しようもありませんけれどね…」

 

 そして最後にアザフィールも去り、アレスターの輪廻転生が未だ先だと願いつつ、また手合わせをしたいと言う戦士の矜持を見せ付けて行く。

 対するアレスターも輪廻転生ばかりは如何しようも無いと語り、頭を掻きながら一先ず戦いは終わった事に一息を吐いていた。

 

「聞いたか、我が妹達が悪逆の将アギラを討ち取ったぞ‼︎

 我等は勝利したぞぉぉぉぉぉ‼︎」

 

『ウォォォォォォォォォォ‼︎』

 

 そしてアルクが最後にエミル達がアギラを討ち連合軍が勝利した事を告げると、連合軍は少なくない犠牲を払いながらも勝利を喜び、またこの戦いで死んだ者達の鎮魂を込めて勝鬨を上げる。

 その様子を見たアイリス達は一先ずこの空気に水を刺さない様にティターン兄妹の行動を伏せながら集まる天使やカルロ達に頭を撫でるのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
遂に明確な悪将アギラは斃されました。
魔血晶(デモンズクリスタル)は彼には後が無い状態の為シエルが始末を付ける様に動き出すべく待機させていたティターン兄妹を動かし盗る様にしました。
つまりどちらにせよ詰みです。
次回はそんなアギラの末路を書ける様にしたいです。
またロマンが時間停止中に『視えていた』理由はいずれ語ります。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第33話『誓いの翼達、天界へ行く』

皆様大変お待たせ致しました、第33話目更新でございます。
今回は前回の後書きに書いた事等の話になります。
では、本編へどうぞ。


 連合軍が勝鬨を上げていた頃、シエル達3名はアイリス達に追い込まれつつあったが、其処にティターン兄妹の合図があった為魔族達に撤退を促した後、自身達はセレスティアのシエルがエリスとして商業している屋敷の地下に転移した。

 

「シエル様にダイズさんにアザフィールの旦那、大丈夫ですか⁉︎

 かなりの戦闘だったと見受けられますが…‼︎」

 

「…死んでいないのだから問題は無いわ。

 それより2人共、アギラのクリスタルを出しなさい」

 

 ティターン達はアギラの止めに介入する間シエル達がかなりダメージを受けていた事を見ていた為、3人に駆け寄り回復魔法(ライフマジック)を掛けていた。

 その心配を疲労しているシエルは死んでいないから問題無しだとし、2人に回収したアギラの魔血晶(デモンズクリスタル)を渡す様に要求する。

 すると2人は回復を手早く終わらせて頷きながらアギラの核をシエルに手渡した。

 シエルは受け取ったそれを床に投げ、魔力を送り込み始める。

 それによりアギラはこの場で復活する。

 

「…はっ⁉︎

 こ、此処は⁉︎

 奴等は何処に⁉︎」

 

【シャキッ、カチャ‼︎】

 

「此処は私の表の顔で拠点にする屋敷の地下だ。

 奴等はお前に勝ったよ、そしてお前は負けた。

 それで今私に剣を構えられて、転移封じの鎖に縛られている、その意味は分かるな?」

 

 アギラはグランヴァニア宮殿跡では無い別の場所で復活し、此処が何処なのか理解出来ないでいるとティターン達がアギラに手鎖を付け、シエルが剣を構えながら此処がエリスとして拠点とする屋敷地下だと話しながらオリハルコンソードを向け、罪人用の転移封じの鎖を付けられた意味を理解してるかと問うと、アギラは滝の様な汗を流し始め弁明の為に口を開く。

 

「まっ、待ってくれシエル、ダイズ‼︎

 私には未だ策が沢山あるんだ‼︎

 それに奴等の戦闘スタイルは見た、だから次こそは必ず」

 

「アギラ…貴様、『魔王』様に 最後のチャンスを賜っていた事を忘れたか? 

 それをふいにして置いて次こそは? 

 …此処まで愚かな奴だとは思わなかったよ、この役立たず。

 折角私達も身を削ってアイリス達を止めてたのにそれも意味が無かったな。

 だからこそハッキリと言ってやる、今直ぐ死ね、魔界1の愚者」

 

 アギラは次こそはと口にしながら未だ策があると弁明した瞬間、シエルが地獄の底から聞こえる様な暗い声色で魔王からの最終通告(ラストチャンス)を棒に振った事を口にしながら、自分達がアイリス達を止めてた意味まで無かった事を話し、そしてそのボロボロになりながらも綺麗さを保つ容姿と口から魔界1の愚者と口にしながら死ねと発言し、剣を振り被ろうとしていた。

 

「ま、待ってくれ本当に頼む、魔王様にも一緒に弁明して欲しい‼︎

 そしたら本当に今度こそは」

 

【ザンッ、ブシャァァァァァァァァァ、ボォッ‼︎】

 

 アギラはこの期に及んでも尚も魔王に共に弁明して欲しいと頼み込み、更に今度こそ…それを言い切ろうとした瞬間シエルの刃が振り下ろされ、アギラのクリスタルごと身体を斬った瞬間鮮血が飛び散り、そしてアギラの身体は灰になりアギラは今度こそ完全に死んで行った。

 それを返り血を浴びたシエルがそれを剣に少し付いた血を拭い、鞘に収めてから拭き取ると再び冷淡な表情で口を開き始める。

 

「…ふん、共に弁明を、と言ったがどうせある事無い事を私達に擦り付けて生き延びようと言う魂胆だったのだろう? 

 そうすればお前の死は変わらずとも上手く行けば私達を道連れに出来ると考えたからだろう…が、『魔王』様はその程度の物はお見通しだ。

 よってお前は今死ぬか『魔王』様にジワジワと嬲り殺されながら処刑されるかの2択しか無かったんだよ」

 

 シエルはアギラの性格、そして他人を蹴落とし今の地位についた事を念頭に入れながら自分達も道連れにしようと最後の足掻きをしようと企んだと断じる。

 しかし、魔王はそれを見抜く事も口にしながらこの時点で魔王により処刑されるかシエル達に殺されるかの2択しか無かった事をアギラだったモノに告げる。

 

「ではさらばだアギラ。

 最後まで保身しか考えなかった愚者、アリアの兄でありながら妹にすら劣るその低脳さは1日だけは覚えておいてやる」

 

「はっ、良かったなアギラ! 

 ダイズさんに興味が無い奴が1日でも顔を覚えてられるなんて相当レアケースだぜ! 

 あの世でアリアに感謝するんだな!」

 

 そうしてシエルとアザフィールは最早何も言う事が無くなり地下室を去る中、ダイズが元々魔族の将の1人と言うだけで力も策もアリアに劣り興味が無かったアギラに対し、興味が無い者は覚えない質でありながら1日だけは覚えると宣告し、ティターンもレアケースだと叫びながら死んだアギラに対しアリアに感謝しろと叫びながらティターニアと共に最後にその場を去った。

 そして後にはアギラだったモノとその血しか残されていなかった。

 

 

 

 一方グランヴァニアでは、勝鬨を終えた後死んだ兵士達が再び綺麗に整えられ天使達に家族の下に送られ、全員が長く黙祷を捧げた後収容所群の扉は開け放たれ、中からはグランヴァニアの国民が大勢黄昏の空の下に出て来ていた。

 その間にフィロやリヨンも国民達の前に連れて来られ唯一の皇族、そして国の代表として連合軍や天使達の前に立っていた。

 

「皆様…セレスティアを始めとした4国、更に天使様達の皆々様方、我等魔族信奉者と言う生まれ付いた背信の徒であったグランヴァニアを命を懸けてお救い頂き誠にありがとうございました…‼︎

 このご恩は、未来永劫忘れません…‼︎」

 

 フィロは自身達が魔族信奉者と言う地上界の膿であった筈なのに命懸けで救いに来た4国連合軍や天使達に感謝の言葉を述べ、その恩を未来永劫忘れないとして頭を下げ、感涙を流していた。

 それに続き国民達も啜り泣きながら頭を下げ、本当に自分達を救った恩人達に感謝の念を抱いている様子を見せていた。

 

「どうか頭を上げて下され。

 我等は同じ地上界に生きる同胞、それを見捨てればアギラの様な悪逆なる者と同類になる。

 そう娘や勇者ロマン君達に教えられて救いに来た身。

 故に未来永劫と重く受け止める必要は無いですぞ。

 ですからこれからも助け合いましょう、地上界に生きる同胞として」

 

 それを隻腕となったランパルドは自分達は同じ地上界に生きる同胞とエミルやロマン達に彼女達を見ながら教えられたと話す。

 それを聞いたロックにゴッフ、サツキはランパルドを1番前にしながらその同胞として助け合おう、その言葉を発した瞬間辞儀をし諸王全員がフィロやリヨン、グランヴァニアの民達に頭を下げていたのだ。

 それを見たフィロや今まで泣くのを堪えたリヨン、グランヴァニアの民達は嗚咽しながら4国やエミル達に感謝するのだった。

 

「これで良かった…けれどもアギラの魔血晶(デモンズクリスタル)をロマン君の見た通りならティターン兄妹に奪われた事になる、また奴が暗躍したら…」

 

 エミル達は離れた少し離れた場所からそれを見て良かったと口にする一方、アギラのクリスタルがティターン達、つまりその主人たるシエル達の手に落ちた事を気にし、もしも再び暗躍したらまた犠牲が出る可能性を考慮して少し暗めの表情をしていた。

 ロマンもあの時瞳にティターン達が映ったのに身体を動かせなかった事を悔い、拳に強い力を込めていた。

 

「恐らくその心配は要りませんよエミル。

 魔族シエルが撤退する前に魔王から最後のチャンスを貰ったのに物にしなかった、だから始末すると言ってました。

 もし仮にシエル達が始末しなくてもアギラは死ぬでしょう、今の魔王は実績がある者に褒美、失敗続きには死を徹底してますから」

 

「まぁ、結論から言えばアギラは終わりですよ、はい」

 

 すると其処にアイリス達が歩きながら近付き、シエルが魔王の最後のチャンスを棒に振った為アギラを始末すると話し、更に魔王は功績には褒美と失敗続きには死を徹底してると話した。

 更にアレスターも結論としてアギラは終わりだと告げ、全員それを聞きアギラはロマンの最後の攻撃を受けた時点で終わっていたと悟り、少しだけ悲劇が繰り返されない事にホッとし始めていた。

 

「では我々天使はアギラ派の断罪が終わったのでこれで失礼………少し待って。

 はい神様、アイリスです」

 

『???』

 

 そうしてアイリス達はアギラの断罪が終わった為その場から天界へと転移…しようとした瞬間、如何やら神からの念話がアイリスやリコリス、アレスターに届き空に顔を向け会話を始めていた。

 それをエミル達は何事かと思い顔を傾げながら見ていた。

 するとアイリス達はいきなり驚いた様子を見せていた。

 

「えっ、い、今何と仰いましたか⁉︎

 …し、しかし………は、はい、分かりました、その様に致します…!」

 

「アイリス達にアレスター先生、何かあったんですか?」

 

 するとアイリス達は何かを神に言われたらしくオーバーリアクションを起こし、更にアイリスは何か神に言われてそれを抗議するかの様な声を上げるが、最後には折れて命じられた事を実行すると話して念話が終わる。

 エミルが代表して何があったかを3人に問い質すと3人は互いを見合わせて、頷きながらアイリスが前に出て話し始めた。

 

「…はぁ、神様が『誓いの翼(オースウイングズ)正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)を天界の私の前に招待する様に』と命じられたのだよ。

 天界は地上界も魔界の者も死してしか辿り着けない神聖な地、輪廻転生を司る世界だから生者は連れて行けない、ましてや神様の前にお連れするなんてこの世界創世の時代から見ても初の事例よ…」

 

『…えぇ⁉︎』

 

 するとアイリスは神がエミル達とネイル達の10人を天界の自身の前に連れて来る様にと命じたらしく、これをアイリスは輪廻転生を司る世界である天界に生者が、しかも神の前に連れて来る事が初の事例だと話すと、エミル達は声を上げて驚き離れていたランパルドやアルク達の耳にもその声が届き何があったかと寄って来ていた。

 

「エミル、素っ頓狂な声を上げて何があったのだ?」

 

「あ、お父様達…えと、これから私達誓いの翼(オースウイングズ)正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)はこれから天界の神様の下に連れて行かれる、みたいです…」

 

『…な、何と⁉︎』

 

 ランパルドは娘が突然叫んだ事に何事かと問い質すと、エミルは自分達10人は天界の神の前に連れて行かれると話した。

 それを聞いたランパルドやアルク、ロック達は突然の神の下へ呼ばれた発言に仰天しカルロも「マジかよ」と発言して心底驚いた様子を見せていた。

 

「では、エミル様とロマン君、サラ姉さん達は神様の下に一旦連れて行きます。

 直ぐに戻る筈なので皆様はヴァレルニア港街跡でお待ち下さいませ」

 

「じゃ、じゃあお父様達、行ってきます‼︎」

 

【ビュン‼︎】

 

 そうしてアレスターがランパルド達に先にヴァレルニア港街跡に向かう様に伝え、エミルが出立の挨拶をした瞬間アイリス達が転移魔法を使い、彼等の目の前でエミル達10名は天界へと転移して行った。

 

「…全く、我が末っ子と仲間達は破天荒であるな」

 

「ええ、そうですね父上」

 

 ランパルド達親子とエミルとその仲間達の破天荒さに苦笑しつつ、末っ子が成長した事を喜びながら黄昏が晴れて行き、元の青空になりつつあるグランヴァニアの空を見つめていた。

 

「如何やら、今代の勇者も魔法使いも只者では無い様じゃのう」

 

「…ええ、そうですな」

 

 一方サツキはロック達にエミル達が只者では無いと話すと、ロック、ゴッフ、リリアナはかつての戦友(とも)が今や自分達を超え、その先の先まで行ってしまった事を寂しく思いつつもより一層頼もしくもなったと感じ、これからは心の何処かにあったライラとして見るでは無く『エミル』として接して行こうと3人は密かに誓い合って行ったのだった。

 

 

 

【ビュン‼︎】

 

 エミル達は突然のアイリス達の天界への招待を受け困惑しながらも転移すると、其処は緑で青空が地上界以上にあり、魔法元素(マナ)も世界樹周辺の高濃度さから更に濃くなっている世界、天界に辿り着いた上に目の前には神々しいと一目で感じてしまい誰もが萎縮する宮殿が其処にあった。

 

「さあ、神様がこの先で待っています。

 早く行きましょう」

 

「それと、神様に失礼無き様にお願いしますよ。

 アイリス姉様を打ったみたいな事をしたら私が許しませんから」

 

 すると右手側にはアイリスが立ち、案内を始めると左手側のリコリスは神に無礼を働かない様にと忠告を入れながら歩き始めた。

 全員の後ろではアレスターが和かに笑い大丈夫と言った雰囲気を出しながら固唾を呑む全員を歩き始めさせた。

 そうして全員が神殿を真っ直ぐ歩き、その奥に辿り着くとこの神々しさを放つ光に包まれし男が石の椅子に座っていた。

 

「待っていたぞ、地上界の混乱を収めし若き我が子等、そして魔法使いライラの転生者よ」

 

「…は、はい、神様…」

 

 エミル達はその神々しさから自然と、自ら跪き頭を下げていた。

 エミル達は直感する、この神々しき者こそ世界を創造したと伝説で謳われる存在…この世界の絶対的な上位に立つ者、神であると。

 

「我等が父にして偉大なる神様、地上界を混乱の渦に沈めし咎人、魔族アギラの断罪をこのエミル達が成し遂げました」

 

「うむ、我が未来をも見透す(まなこ)でそれ等全てを見透してた。

 アギラは勇者ロマンの手で討たれ、魔族シエルの手により粛清された。

 この世に生まれ、正義を成した若き我が子等よ、そなた達の活躍に私は感服し、また私自身が慎重になり過ぎた為犠牲者を悪戯に増やしたとも理解している。

 本当に申し訳なかった、我が子等達よ」

 

 アイリス達も跪き、アイリスがアギラをエミル達が断罪した事を話すと、神もその眼で見透しロマンが直接倒し、その後はシエルが粛清した事を口にしてエミルはアギラが生きてる可能性が0になりホッとしていた。

 そしてエミルやロマン達の活躍に心を動かされ、更に自身の慎重さが今回の犠牲を生んだと深くエミル達に頭を下げていた。

 それをアイリス達は驚愕し、エミル達は上目遣いでそれを見ていた為同様に驚愕していた。

 

「では、私がそなた等をこの輪廻転生を司る天界に招きし理由を説明して」

 

「あ、あの、神様…失礼な事だって分かってるんすが…出来るだけ現代風に話して貰えませんかね? 

 余り古めかしい言い方だと俺さ…こ、この馬鹿なアルには、分かり辛い物でして…」

 

『(あ、アルゥゥゥゥ⁉︎)』

 

 それから神が本題の話に入ろうと口を開いた瞬間、アルが畏まりながらも神に現代風に話して貰うように頼み込み、理由も話しながら俺様呼びを控えて分かり辛いと進言する。

 それを聞いたエミル達は顔を上げなかったがアルの発言に仰天しエミルは不敬で何らかの処罰が下らないかと冷や汗を掻きながら震え始め、リコリスは早速不敬を働いたアルを射殺す様に見つめつつ自身もアルが何かの罪に問われないかと内心では心配していた。

 そして、神の次の言葉はと言えば………。

 

「…成る程、それは失礼をして済まなかった、地上界の子達よ。

 では分かり易く現代の話し方でこれから先の話を進めようか。

 分かり辛くて本当に申し訳なかった、ゴッフの弟子アルよ」

 

『か、神様ぁ⁉︎』

 

 何と神はアルの発言を受け入れ、古めかしい言い方を止めて現代風に話を進め始め、アルにも分かり辛かった事を謝罪し、アイリス達を含めて全員を驚かせた。

 如何やら神はちょっとやそっとでは波風は立てない、アギラの様な者に断罪の刃を振るう様に命じる寛大な者であったと、エミル達は思い知らされた。

 

「さて、私が皆を本来は死に魂となってしか来る事が出来ない天界に招いた理由は3つある。

 先ず1つ目はアギラをその手で討ち果たした事だ。

 私の尻拭いを地上界の皆にさせてしまった謝罪やアギラの様な罪人を討った礼を述べたいと思い招いたのだ。

 地上界の勇士達よ本当に申し訳なかった、そしてありがとう…」

 

「か、神様…い、いえ、僕達は、アギラの様なやつを許せなかったから倒しただけで大それた事は一切してません…」

 

 神はそのまま本題に入り、3つな理由を話し始め、1つ目はエミル達がアギラを討ち果たした事に対する謝罪と礼であり、それを聞いたエミルは神自身もアギラを見過ごしていた事を罪に感じているとアイリス達の様子から予想してた物が当たり、自身はアイリスに怒りをぶつけた為そのまま何も言わず頭を下げる。

 対するロマンは大した事はしていないと話し、本当にやりたかった事をしたかっただけと思い、神もそれを見透かしてか頷くだけだった。

 

「では次は…エミル、君の存在と転生魔法についてだ。

 私はあれを禁忌の魔法と見定め、アイリスを通して地上界全土にそれを伝えた。

 理由は、王族として検閲書物や禁忌魔法一覧を見て理解しただろう?」

 

「…はい、転生魔法は輪廻転生の輪を崩し、その影響により死への忌避が薄れ次があるからと平気で自死する者が増える為です。

 創り上げた私が迂闊であった事を此処に謝罪し、また2度と転生魔法を使わない事を約束致します」

 

 次に神はエミルに対し転生魔法についての話をし、エミルはこの話が遂に来たかと感じ、かつての自身が作り上げた魔法は禁断の物となっていた事を14年で理解し尽くした上で理由も輪廻転生の輪を崩す秩序を乱す物だと書庫で見た時から深く反省し、もう2度と使用しない事を誓いつつこれが世に漏れない事を祈りながら14年の月日を過ごしてたのだった。

 そしてかつての自分の罪を認めながら神にそれ等を話すと神は嘘は無いとして何も言わずに神気で手を作り、エミルの頭を撫でていた。

 

「さて、最後に3つ目だが君達が今代の魔王のみならず、この先に待つ災厄に立ち向かう為の鍵になると未来視で分かった。

 よって君達10人にはこの腕輪を授けようと思う」

 

 すると最後に神は椅子を立ち、エミル達を見つめてこの先にある災いや魔王に立ち向かうのに中心的な人物となると話し、手の上に10個の腕輪を転送魔法(トランサーマジック)の様に浮遊させながら現させ、それをふと下から押す様に手を動かすと10個の腕輪はエミル達の前に飛び、目の前にフワフワと浮いており、アイリス達はその腕輪を見て驚愕した表情を浮かべていた。

 

「あの、神様、この腕輪は一体?」

 

「『時空の腕輪』と呼ばれる貴重な腕輪だ。

 私や魔王しか管理していない数少なく新たに作り出すのに100年単位は掛かる代物だ。

 この先直ぐに訪れる災いにはこれが必要になる、だから受け取りなさい。

 その時になればアイリス達が使い方を教えてくれる」

 

 神は時空の腕輪と呼ばれるアイテムを渡し、魔王や自身しか管理していない貴重品であり、次の災いに必要と言われ、それぞれが受け取り腕に装備すると神は頷きながらこれで良いと言う表情を浮かべていた。

 

「か、神様、時空の腕輪が必要になる事態とは一体何なのですか⁉︎

『この世界の時空が乱れる』と言うのですか⁉︎」

 

「そうだ、我が娘にして創世の世界から3世界を見守り続けた私の娘アイリス、そしてその妹にしてアイリスの次に長生きしているリコリス。

 この言葉の意味を深く捉え、そなた達も時空の腕輪を受け取ると良い。

 更にアイリス達に2個ずつ渡すべき人物を見定めて渡す様にする為多めに渡す」

 

 するとアイリスとリコリスは時空の腕輪が必要になる事態が発生する事に驚愕しながら問い掛けると神は肯定し、その意味を深く捉えるように命じながら彼女達にも腕輪を渡し、更に手渡すに相応しき者に手渡す様にと2個ずつ渡し、アイリス達は深々と頭を下げながら腕輪を装備し、天界製の魔法袋(マナポーチ)に入れる。

 

「それからアイリスはエミル達に、リコリスはネイル達に付いて行きアギラの様な輩が2度と跋扈しない様になさい。

 アギラの様な者を見掛けたら逐次私に報告し、断罪の刃を振るいなさい」

 

「‼︎

 ………はい、このアイリスとリコリス、深く承りました…‼︎」

 

 更にアイリスとリコリスにそれぞれエミルとネイル達に付き、アギラの様に聖戦の儀の法を破ろうとする者を断罪する様に命じるとアイリスとリコリスは今まで神に報告していた努力が報われたと感じながら命を承り、頭を下げていた。

 

「そして………魔法の天才アレスター、君には言うべき事がある」

 

「…はい、遂に近付いて来たのですね、私の輪廻転生の時が」

 

「その通りだ、よってアレスターは今後は天界で身を清め、次なる生に備えなさい。

 …特別に天使化させたせめてもの計らいとして、家族や生徒達に別れを告げて来る許可を与える、それ以降は天界で過ごしなさい」

 

 すると最後に神はアレスターに輪廻転生の時が迫りつつある事をエミルやサラ達の前で伝え、更に天使化した事で地上界と行き来出来る事から生徒や家族に別れを告げて来る計らいをし、それを聞いたエミルやサラはアレスターを見て悲しげな表情を浮かべていた。

 

「良いんですよサラ姉さん、エミル様。

 生きとし生きる者は全て輪廻転生の輪の中に組み込まれていて、本来なら私が家族や姉さん達に再会する事自体が本当に特例、奇跡だったんですよ。

 ですからそんな悲しい表情を浮かべないで笑って別れましょう。

 それが、再会を許された私達の最高の別れですよ」

 

 そんなエミルとサラにアレスターは輪廻転生を説き、この様な再会すら特例であり奇跡の産物だった事を話しながら彼女達の目を見ていた。

 そして2人に近付き抱きしめ、笑顔で別れる事を最高の別れだとも話した。

 その中でエミルとサラは震え…泣きながらも必死笑顔を崩さない様に努めていた。

 

「うん、うん、分かったよ………バイバイ、アレスター…私達の大切な家族だった人…!」

 

「アレスター…先生…貴方は最高の先生でした…! 

 そんな方の生徒になれた巡り合わせを誇りに思います………‼︎」

 

「はは、私もですよ…」

 

 サラ、そしてエミルは涙に濡れながらも笑顔を崩さずに互いに自分達にとってアレスターは大切な存在であり、サラにとっては唯一の弟、エミルにとっては学び直しや500年前に無かった温もりを教えてくれた先生として誇りに思うと伝えると、アレスターもまた自分も同じ想いだと2人に伝えると2人の背中を摩り、そして自然と3人は離れ始めた。

 

「…では、カルロ様達やリン姉さん達に別れを告げたら私達の再会の時は終わりですね。

 さあ、地上界へ行きましょうか」

 

「…はい。

 神様、確かにアギラに対して慎重になり過ぎた事は神様のミスでしたが、アイリス達を送ってくれたのもまた貴方様でした。

 ですので、我等が父たる貴方様に感謝致します…それでは、失礼致しました‼︎」

 

 アレスターは最後にアルクやカルロ達、更にリン達に別れを告げて奇跡の時は終わりだと告げるとエミル達は重く受け止め立ち上がる。

 そして神にアギラに慎重になり過ぎた事をミスだったと告げつつ、しかしアイリス達を派兵したのもまた神の為それらも加味して最大の感謝の意を込めて礼をし、そしてアイリス達に伴われて神殿から離れて行った。

 それから神はエミル達が転移したのを見届けると、椅子に座り空に浮かぶ2つの月を見ながら未来を再び視ていた。

 

「…矢張り『彼方なる者』が再び目覚め、3世界の時空は乱れ行く…。

 そうなれば聖戦の儀所では無くなる…どうか希望なりし我が子等よ、その手を結び合せ彼方なる者を討滅せしめて欲しい…」

 

 神の眼には彼方なる者と言う時空を乱す存在が映り、それと戦うエミル達の姿まで映っていた。

 そして神の眼に映る希望なりし者達が手を取り合う姿も映り、それが3世界を救うと信じて瞳を閉じ、時の流れに身を任せるのであった。

 

 

 

 そうしてエミル達は地上界へ戻り、アレスターも別れを済ませ天界へと戻って行き、フィロの名の下グランヴァニアも4国と国交を正常化させ戦いで死んで行った者達の国葬が終えてから3日が経った頃。

 エミル達とネイル達の下に『貴女様方にお会いしたいです、どうか3日後にセレスティアの我が屋敷へ来て下さいませ。

 最高のおもてなしを致します、貿易商人エリスより』と言う手紙が届き、エミル達はその屋敷に馬車で向かってる途中であった。

 

「ねえエミル、貿易商人のエリスさんってどんな人なの?」

 

「私は直接会ったことが無いから分からないわ。

 ただ凄いやり手の商人らしくて、彼女に見放された者は商人界隈で生きて行けなくなるとか噂されてるわ」

 

 ロマンはエミルにエリスと言う人物がどんな者か問うと、エミル自身は会った事は無いがかなりのやり手だと話し、ネイル達も噂で同じ様な事を聞いてる為そんな人物が何故自分達に会いたいか分からず困惑していた。

 ただ3名、ムリアとアイリス、リコリスを除いて。

 

「さて、着いたわよ。

 此処がエリスさんの屋敷よ」

 

「わぁ、大きい」

 

 そうしてライラックの隣街『ハーティス』の一角にある屋敷に到着すると、その広さは爵位持ちの貴族の屋敷並に大きくロマンは圧巻されていた。

 するとその屋敷を見ていたルルは瞳を細め、フードを半被りにしながら値踏みするかの様な仕草を見せた。

 

「あれ、如何したのですかルルさん?」

 

「…臭う、月下の華の勘が此処は何か黒い、そんな感じがするわ」

 

「チッ、ルルのこの反応はかなりの確率で『当たり』だぜ、お前等気を付けて行くぜ」

 

 その様子を見たキャシーがルルに如何したかを問うと、彼女は月下の華としての勘が働き此処は何か黒いと感じダガーに手を添えていた。

 アルはこの勘は良く当たると話し、全員もルルの本業の勘を信じて緊張を走らせる。

 その中でムリア、アイリス、リコリスだけは気付いてしまったかと思いながら門を叩くと中からメイドが直ぐに現れ、門を開ける。

 

「お待ちしておりました、エミル王女殿下と皆々様。

 私ティアが屋敷の入口までご案内致しますので付いて来て下さいませ」

 

「(…あれ、この子何処かで…?)」

 

 メイドのティアと名乗る使用人は全員の顔を拝見した後お待ちしてましたと礼儀正しくお辞儀をし、屋敷の入口まで全員を案内し始める。

 その中でロマン、更にエミル達誓いの翼(オースウイングズ)はティアの容姿に既視感を覚え、ルルの言った黒いと言う言葉が堂々巡りを始め此処は何なのか、エリスとは何者なのかと考え始めていた。

 そうしている間に入口に辿り着き、エミル達が中に入ると筋骨隆々の大柄の執事が全員を出迎えた。

 

「な、て、てめぇは…⁉︎」

 

「ようこそお越し頂きました、私はこの屋敷の執事長のアズと申し上げます。

 以降お見知り置きを」

 

 アルは、否、エミル達はその執事長…アズと名乗る男の容姿に見覚えがあった。

 それもごく最近も出会い、そしてアイリス達の前に立ちはだかった者と瓜二つなのだ。

 

「…アザフィール‼︎」

 

 そしてエミルはアズを自分達が良く知る魔族…アザフィールの名を口にして杖や武器を構えようとした瞬間アイリス達とムリアに首を横に振られながら止められ、エミル達は苦々しい表情を見せながらアズ…アザフィールを見ていた。

 するとアザフィールはお辞儀をするとほんの少し変身魔法(メタモルフォーゼ)を解き、そして再び人間に変身しながら不敵な笑みを浮かべるのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
アレスターは輪廻転生の時が近くなり天界に留まる様に神に命じられました。
以降はアレスターが戦闘参加する事は無いです。
そしてエミル達はエリス…シエルの手紙により遂に日常下での接触が起きようとしてます。
これが如何なるかはまた次回に。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第34話『誓いの翼達、勝利する』

皆様おはようございます、第34話目更新でございます。
今回で物語は一旦の節目を迎えます。
今回のエミル達が如何なるか、お楽しみに下さいませ。
では、本編へどうぞ。


 アザフィールが人間に化けたアズに客間へと案内され、其処で先にティア…ティターニアから茶菓子を出され、予め「アギラと違い毒物は入っておりません」と言われてその部分だけは信用出来る為口に含みながら、アイリス達の方を見ていた。

 

「…ねぇアイリス達は知っていたの? 

 此処の主人エリスの正体とか?」

 

「はい、知ってました。

 しかし聖戦の儀に反する虐殺行為等はしていなかった為見逃し、地上界の人々が勘付く事に委ねました。

 まぁ、反する行いはしていないとは言えアギラにも少ないとは言え力添えはしてたので要監視対象でしたが」

 

 エミルはアイリス、リコリス、それとムリアにこの屋敷の主人が何者か知っていたかを問うとリコリスとムリアは頷き、アイリスが代表して口を開き聖戦の儀に反する行い自体はしていなかった事を告げる。

 しかしアギラにも力を貸していた為監視対象だったとも話し、エミル達はそれで納得させながら主人のエリスを待っていた。

 するとドアがノックされ、其処からアザフィールが現れ中に入って来た。

 

「お客様、お待たせ致しました。

 私共の主人エリス様、そしてミスリラントの政治家のザイド様をお連れ致しました。

 お嬢様、ザイド様、安全は確認されましたので中へお入り下さいませ」

 

「ご苦労様ですアズ。

 お客様の皆々様、態々ご足労を頂いたのに待たせてしまい申し訳ありませんでした。

 私がこの屋敷の主人であるエリスと申します。

 そしてこちらがミスリラントの政治家で私の『友人』のザイドと申し上げます。

 以降お見知り置きを…そして、貴女方の『好きな方』で名をお呼び下さいませ」

 

 そうしてアザフィールの案内によりドレスに身を包んだ知らぬ者が見たら見惚れる程の綺麗な銀髪の少女、エリスが現れその隣には同じくスーツを着熟した黒髪の青年ザイドが現れ互いに社交辞令の挨拶を交え、更にはエリスはエミル達の『好きな方』で呼ぶ様にと発言し、自分達の正体が割れているのを承知で笑みを浮かべていた。

 そしてエミル達は感じた、この笑みは攻撃的な笑みであると言う事に。

 

「…ええ、なら好きに呼ばせて貰うわよ…シエル、そしてダイズ!」

 

 それに啖呵を切ったエミルは相手の正体…エリスはシエル、ザイドはダイズと呼び、2人は笑みを浮かべたまま瞳を細目で開け、変身魔法(メタモルフォーゼ)を解きながら言葉を紡いだ。

 

「…アイリス達が居ると言う安心感では無く、こちらと実力差があろうとも戦うと言う意志を示しながらの私達の真の名を呼ぶ…合格だよエミル達。

 もしこれでアイリス頼りだったり日和ってエリスと呼んでいたらそれなりの対応しかしなかったが、自分達から態々危険地帯に飛び込んだその勇気は褒めてやろう」

 

 そしてエリス…シエルはエミル達が日和る事無く、更にアイリスと言う対抗策が居る安心感では無く自らの意志で敢えて茨に飛び込んだ勇気を啖呵を切ったエミル、更にロマン達を見据えながら合格と口にし、その表情は正にエミル達が良く知るシエルの物になり、背筋を指す冷たいプレッシャーがエミル達を襲う。

 しかしエミル達は恐怖に負けぬ様に武器を握り締め、相手が襲って来たら全力で抵抗する意志も示した。

 

「ふふ、この状況でもなお勇気を出し我々の威圧に耐えるか…本当にアギラやその一派の者共とは大違いだ………。

 ふう…さて、お茶会に致しましょうか」

 

 それ等を見たシエルはエミル達を本当に気に入ったのか、アギラ達と大違いだと話しながら笑みを浮かべた後再びダイズと共に人間の姿に変身をし、手を合わせて和かな笑顔を浮かべ直してお茶会をすると話し、シエルとダイズが隣り合わせで座った後、部屋にティターンが入りシエルとダイズの分の茶菓子を置き、そのまま去って行った。

 

「(…この変身魔法(メタモルフォーゼ)、ムリアの物より完璧な上に私が『この女達はシエル達魔族だ』と強く意識していないと判別出来なくなる認識阻害まである! 

 気を抜いたらシエルに対してでは無く『エリスに対して』話し掛ける様になる‼︎)」

 

 更にシエル達を見ていたエミルは彼女達の変身魔法(メタモルフォーゼ)には認識阻害まで掛かる事を肌身で感じ、ムリアのそれより更に完璧な変身を目の当たりにし戦慄すると同時に目の前の女達は魔族と認識阻害に流されない様に意識すると、その変身に驚愕している事を表情に出さず紅茶を一口飲み話を始める。

 

「ふう、客人を呼んでおいて待たせて威圧してからお茶会を開くなんてマナー違反じゃないかしら? 

 これが魔界流のおもてなしと言う物なの?」

 

「それは失礼した、俺の提案でお前達が真に勇気がある者か蛮勇か、あの愚かな策士と同様な臆病者共か試させて貰ったんだ。

 このマナー違反はシエルには落ち度は無い、許してやってくれ」

 

 エミルは2人に客人を自ら呼んだにも関わらず待たせて更にはその客を威圧してからお茶会を開いた事をマナー違反だと話すが、それをダイズは彼自身の提案でこの様な形になったと話し、隣に居るシエルに落ち度は無かったとしながら紅茶を飲みながらエミル達を見ていた。

 対するエミル達も警戒しながらシエルとダイズを見ており、両者の間に(と言うよりエミル達が)緊張が走る中、ムリアが手を挙げてシエルに話し掛け始めた。

 

「あ、あの〜…俺の家族はアレから無事、なんですか〜?」

 

「ふふ、当然ですよムリア。

 アレからアギラ一派の魔族達が報復行為をしない様に私の派閥が幽閉の名目の下で保護し続けてます。

 そしてこの命は万が一私が死のうとも続ける様にと命じてます、だから安心して『貴方は貴方の信じる物の為の戦い』をして良いですよ」

 

 ムリアはその後も気掛かりだった家族の安否を確認すると如何やら幽閉の名目下で保護し、アギラ派の魔族から狙われない様にしていると話し、それを聞きムリアは胸を撫で下ろしていた。

 更にこの命令はシエルが死のうがずっと続けると言う事も話し、シエル本人はムリア信じる物…ネイルや彼等から教えて貰った正義の為に戦う様に話しながら紅茶を口にしていた。

 

「つ、つまり、ネイルの兄貴達と一緒に戦い続けて、もしも仮に貴女やダイズ様に刃を向ける事になっても良いんですか〜? 

 俺、ネイルの兄貴達とこれからもずっと一緒に居られるんですか〜?」

 

「ああ、寧ろそうしてくれなければシエルが態々お前の家族を完璧に保護した意味が無いぞ、地上界に力を貸す魔族の戦士ムリア。

 だからお前はシエルの言う様に自分自身が信じた物の為に戦え。

 さもなければ俺達の見込み違いだったと落胆するしか無いからな」

 

 更にムリアはこれからもネイル達と共に戦い、シエル達に刃を向ける事があっても良いかを問うと次にダイズがそうしなければ困ると言うニュアンスで話し、更には信じる物の為に戦えとまるでエールを送るかの様な発言をする。

 これ等を聞きエミルは500年前に攻めて来たアギラの様な魔族達と本質が違い過ぎると思い、困惑した表情を浮かべていた。

 

「ふふ、500年前の魔族達とまるで違うと思っていますねエミルさん? 

 当然ですよ、魔族にも千差万別があり500年前の魔族達はアギラの様な思想に凝り固まった愚か者達の集まりでしたから。

 それ等が貴女の前世や仲間達に間引かれ、そして500年の間に私達も力を付けた結果『魔王』様の下、3つの派閥に分かれる事になりましたから」

 

 その困惑したエミルに表の顔の口調で話すシエルは魔族にも千差万別があると説き、そして500年の間に魔王がトップなのは変わらないが勢力図が変わり旧然とした一派がアギラ派であり、それ以外は良く分からないが魔王の思想統一による個性の圧死が消えている様であるとエミルは改めて感じ、ロマンもエミルから聞いた話と事情が変わってると思い始めていた。

 

「それにしても皆様、その左腕に付けている腕輪は時空の腕輪ではありませんか? 

 地上界には存在しないアイテムを何故貴女方が付けていますのでしょうか? 

 アイリスさんよりお渡しされたとか?」

 

「げっ、目敏い魔族………はぁ、アンタ達に教えた所で痛くも痒くも無いから言うけど、これ天界で神様が次の『時空が乱れる災い』に必要だから持って行きなさいって渡してくれたのよ」

 

 そうして菓子にも手を付けた両者の中でシエルはエミル達の左腕に地上界に無い筈の時空の腕輪が装備されている事に気付き、アイリスに渡されたかと問うとエミルはありのままの事実を話した。

 これが神から直接天界で手渡された物、次の災いは時空を乱す物であると。

 何故そうしたかと言えば特段シエル側に隠しても何処かで調べ上げる可能性が高かった為である…が、シエルやダイズ、アザフィールはその言葉を聞き思考が若干停止し、そして驚愕し始めた。

 

「て、天界に生身で立ち入ったのですか⁉︎

 それも神様に御目通りして直接時空の腕輪を手渡されたと⁉︎

 貴女達………私達の予想の遥か斜め上を行きましたわね…!」

 

「俺も正直に驚いたぞ、まさか死してしか立ち入れない天界に生きたまま行き、そして神に出会うとは………。

 ふっ、シエルが目に掛けているだけあって中々に興味深い事をしてくれるじゃないか!」

 

 シエルは顔をエミルにグイグイと近付け、前代未聞の快挙に只々興味津々な少女の顔を見せながら驚いていた。

 更にダイズも興味深いと呟き、エミル達が預かり知らぬ所でダイズのエミル達に対する興味度が上がりいずれ本気で手合わせしたいとまで考え始める様になっていた。

 対するエミル達はアイリス達の反応からも矢張り生者が天界に行く事は前代未聞だったのだとシエル達も見ながら思っていた。

 

「…うっ、うふふ。

 本当に興味深いですよ貴女方は………。

 そうだ、此処で賭け事をしませんか? 

 貴女達が勝てば私達は今地上界で行っている侵略行為から手を引き、正攻法…つまり魔族の兵と地上界の勇士達の戦いに切り替えて正々堂々真正面からぶつかる事を誓いましょう。

 逆に貴女達が負ければ今行っている侵略行為を止めないまま正攻法でも攻めさせて貰う…如何でしょうか?」

 

『なっ⁉︎』

 

 するとシエルは不意に顔を押さえながら笑い始めると、手を叩き賭け事をしようと話し始めその賭ける物の内容はシエル達が今行う侵略行為を止める…シエルは敵に回せば貿易が成り立たなくなるやり手の商人、ダイズはミスリラントで有名な政治家。

 つまり政治と経済の両方を牛耳る回りくどいが血を流さない侵略行為を止めて正攻法の戦いのみにすると話しエミル達はアイリス共々驚愕し彼女達を見ていた。

 一体何が彼女達をその賭けに走らせたか知る為に。

 

「理由を知りたい、とお考えの様ですね? 

 簡単ですよ、貴女達は神様が天界に招くに相応しいとした方々、つまりは特別な存在になっているのです。

 ならそれ相応の事でもてなし、そして貴女達が私達を1つでも上回る可能性を見せて貰いたいと思ったのですよ…アズ、茶菓子を片付けてトランプを出して下さいな!」

 

「畏まりました」

 

【カチャ、カチャ、カラカラ】

 

 シエルはエミル達の様子を見て神が天界に生者のまま招いた事が余程特別な事だと判断し、ならばその特別な存在に対して相応のもてなしや何か1つでも上回る可能性を見たいと話すや否や、アザフィールに茶菓子を片付けてトランプを出す様に命じた。

 それを聞いたアザフィールはお茶と菓子をカートに片付けると、懐から封を切っていないトランプを取り出してエミル達に見せた。

 

「さてエミルさん、貴女の好きなゲームで私達に勝ってみて下さい。

 そうして運すら味方にする貴女を真の強さを、勇者ロマン様と共に私とダイズにお見せ下さいませ」

 

「…上等よ、ならポーカーよ‼︎

 ロマン君、行くわよ‼︎」

 

「エ、エミル⁉︎」

 

 そうしてシエルは運すら味方にする強さをロマンと共に見せる様に発言すると売り言葉に買い言葉になりロマンを巻き込みポーカーで勝負する事になり、ロマン本人は困惑して慌てふためいていた。

 

「エミル殿、勝算はあるのか?」

 

「やってみなくちゃ分からない、けどコイツにいい加減ギャフンと言わせないと気が済まないわよ‼︎」

 

「滅茶苦茶だなオイ」

 

 ネイルはエミルに勝算があるかを問うと、エミルはギャフンと言わせる為にも勝ち目があるか分からない勝負に乗ったとしてアルですら滅茶苦茶だと言いお手上げをしていた。

 そうしてチップとカードがシャッフルされ配られる中、エミルは相手のカード交換枚数を見て1枚のみ交換し、ロマンも腹を括り3枚交換してディーラーのアザフィールから受け取り、互いに役を確認してシエルとダイズは頷くだけだった。

 

「もう、エミル様も熱くなり過ぎよ! 

 大体賭け事で世界の命運を懸けるなんて非常識よ! 

 それに、これ相手の土台で戦ってイカサマされ放題じゃ」

 

「魔法使いシャラ、俺達をあの小汚い策士と一緒にするな。

 俺達は透視(クリアアイ)もリストバンドにカードを仕込む真似すらしない、したら互いを軽蔑し合う。

 そして殺し合いに発展するだろうな…さて、ハンドは確認し終わったな、賭け金を決めるぞ。

 エミル達から金額を決めろ」

 

 それを見ていたシャラは賭け事で世界の命運が左右されるのと相手のイカサマし放題の土台で戦うのは非常識だとエミルに冷静になる様に発言するが、それを聞いたダイズはシャラに殺気を放ちイカサマは一切しないと公言し、したらシエルと互いに殺し合いになるとまで話して小汚い策士=アギラと違うと言い放つ。

 そうして互いの役を確認し終え、エミル達から賭け金を決める様に話し始めた。

 

「…ならオールインよ! 

 初めから勝つか負けるか2択なら全てを賭けるわ‼︎」

 

「ふふふ、矢張りそうしますよね。

 なら私は」

 

「但し、只のオールインじゃないわ。

 貴女達が地上界侵略すらチップに入れてるなら私も相応のチップ…私の命を賭けるわ‼︎」

 

『⁉︎』

 

 そしてエミルはシエル達が予想したオールインを選択し、シエルもこれは当然だとして自身もオールインを選択…しようとした瞬間、エミルはシエル達が地上界の裏からの侵略もチップに入れてるならばと言う理由から何と自身の命すらチップに含むと言う狂気の沙汰を見せ、シエル達も驚きながらエミルを見ていた。

 

『エミル⁉︎』

 

「エミル殿、正気なのか⁉︎

 貴女が死ねば地上界の魔族からの侵略を誰が止めれば」

 

「後釜ならもう見つけてるわ…キャシーちゃん、私と同等の才覚を持つ人。

 負けたら貴女に後を託すわ」

 

 エミルの賭け金にサラ達は驚き、ネイルもエミルの選択に固唾を呑みながらエミルが死ねば誰がと言うが、これをエミルはキャシーを見ながら自身の後釜に見出している事を彼女に告げると、キャシーはネイル達の下で心も鍛え直した為このカミングアウトを受けても動揺せず、黙って頷きながら受け止めていた。

 

「良いんだな、ならば俺達もオールインだ。

 勇者ロマン、お前はどうだ?」

 

「…だったら僕だってオールインする‼︎

 エミルが命を懸けるなら、僕が同じ様に命懸けで守るんだ‼︎」

 

「…その意気や良し、なら私から公開しようか、コール! 

 …ふっ、意気込んで今回は2のワンペアしか作れなかったよ。

 私はこう言った命運を懸けた戦いには弱いのかな?」

 

 ダイズは最終勧告としてオールインを選択し、ロマンに対しても威圧を行うとロマンもエミルの命を守る為のオールインを選択して覚悟を見せる。

 するとシエルとダイズは自然と変身を解くと先ずシエルから役を公開するとワンペアと言う明らかに絶対強者の彼女らしく無い弱さにサラ達もイカサマは無い…と判断し、次の役が公開されるのを待った。

 

「悪いが俺はスペードの6から始まるストレートフラッシュだ。

 これを破るにはクイーンやキングを含むストレートフラッシュかロイヤルストレートフラッシュ位しか無い。

 さあ魔法使いエミル、お前の役は何だ‼︎」

 

「…私の役は、これよ‼︎」

 

 するとダイズが容赦の無いストレートフラッシュを見せ付けてそれを上回る役を説明しながらエミルに役の公開を迫った。

 するとエミルは自信満々にカードを全て公開し、全員を驚かせた。

 それは何と………どの役にすら成りきれないノーハンド、俗に言うブタであった。

 

「なっ⁉︎

 ブ、ブタ⁉︎

 エミル、貴様何故ブタなのに自信満々にオールインをした⁉︎

 私達がフォールドを選択するなんて淡い賭けに出た、なんて言わせないぞ‼︎」

 

「何で私がオールインを選択したか? 

 ブラフ? 

 フォールド狙い? 

 そんな訳無いよ、だって私は…」

 

 シエルとダイズはエミルの謎の行動に椅子から勢いよく立ち上がり、特にシエルはテーブルを叩きながら何故こんな行動に出たかを問い始める。

 それをエミルは瞳を閉じながらブラフやフォールド狙いを否定し、その間にロマンがカードを公開した。

 其れを見た瞬間シエル達は固まり、サラ達は笑顔を浮かべていた。

 何故ならば…。

 

「…だって私は、仲間を信じてるんだから‼︎」

 

「…5の、ファイブカード…‼︎

 アザフィールの様子からエミルもロマンもイカサマをした形跡は一切無い…ならば、仲間を信じる心がこの結果を生んだ? 

 …は、ははは、あははは、あははははははは‼︎

 本当に、本当に色んな意味で期待を持てる様だなエミル、そしてロマン‼︎」

 

 ロマンは5のファイブカードを作りエミルの命を守る結果を作り出し、それを見たシエルはイカサマもせず仲間を信じた結果これがあると見せ付けられ、狂乱したかの様に笑い出しダイズも不敵な笑みを浮かべエミル達が自分達の想像を超えつつある事を理解した。

 そして一頻り笑い終えた後冷静に戻り、言葉を紡ぎ始めた。

 

「…ふう、良いだろう。

 我々の地上界の政治、経済の侵略は約束通り取り止めよう。

 アザフィール、部下達に作戦は失敗、直ぐ様痕跡を消し撤退する様に命じろ!」

 

[アリア、俺だ。

 今朝方話した賭けは俺達の負けだ、各国に潜伏した部下達に活動中止を命じ、今後は真正面から地上界と戦う様に行動をシフトさせると命じろ]

 

 シエルはアザフィールに直接、ダイズはアリアと言う魔族に念話で命令を下し始めるとアザフィールは念話を開始し、それを聞き付けたティターン兄妹が屋敷の家具類を転送し始め、本当に裏側の侵略を止め始めていた。

 

「本当に引き払い始めたわね」

 

「我々はアギラと違い言葉は違えない。

 それだけお前達に興味を持ち、また魔界の戦士の誇りを持つのだからな…さて、これで漸く裏側からの侵略と言う100年プランは終わりを告げたわけだ。

 後は言い残す事は無い、今度は戦場で出会うとしようか。

 さらばだ、魔法使いエミル達」

 

【ビュン‼︎】

 

 エミルは言葉を違えずに行動し始めたシエル達に関心を持つと、彼女達はそれだけエミル達に興味を持った上で魔界の戦士の誇りを説き、アギラと本格的に違う事を匂わせながら次は戦場で出会うと話しながら屋敷に居た魔族達は消え去った。

 恐らく他の国でも同様な事が発生し、混乱が多少発生するだろうとエミルは窓から空を見ながら瞳を閉じ何も無くなった屋敷から出て行くのであった。

 

 

 

 一方その頃門の前に転移したシエル達はエミル達が話していた事を振り返り深刻な表情を浮かべながら話し合いをしていた。

 

「それにしても、次の災厄には時空が乱れる、と言っていたな…まさかアザフィールにダイズ、『アレ』が目を覚してしまうのか?」

 

「矢張りお前も同じ考えか。

 ならば暫くは魔界に篭り『アレ』を監視するぞ、『アレ』が目覚める危険性を考えれば魔王様も侵略の手を緩めるのもお許しになる筈だ」

 

「では急ぎましょうかシエル様、ダイズ殿」

 

 シエルは時空が乱れると言う単語から魔界に伝わるある存在が目を覚ましてしまうと言う考えを口にするとダイズも同様だったらしく、これを魔王に報告しその存在の監視を強める事で意見が一致する。

 そうしてアザフィールが急かす様に他の魔族達を門に入れると、最後にティターン兄妹を含めた5人が門を潜ると其処には誰も居なくなっていた。

 その間に聞き手になっていたティターン達もその存在の危険性を承知していた為、黙ってシエル達に付いて行ってたのであった。

 

 

 

 それから2日後にライラックの会議室でランパルドや王妃、集まった諸王達に再び4国会議を開き魔族達は経済や政治にすら介入していた事を暴露したエミル達は、それを裏付ける証拠としてエリスとザイドが失踪した日と同じ日に消えた人物達をリストアップしてアルク達が見守る中で報告していた。

 

「むむむ…まさか地上界の内側に魔族が入り込み、更には此処まで内部に切り込まれていたとは…本当に100年以内に経済と政治の両方を支配される所だった…エミル、ロマン君達、良くこの裏の侵略を防いでくれたな、本当に感謝しかない」

 

「いえ…何故か向こうから手の内をバラして来た上に私達は更に何故か賭け事で解決した事ですから…何か、今更考えるとシエルの掌の上で踊らされたわね」

 

「僕はブタなのに命までオールインするエミルにビックリだったよ…」

 

 ランパルドやロック達は各国の経済や政治に完璧に食い込んでいた事に驚愕しつつ、

 それを暴いたエミル達を称賛するが、エミルは冷静になって考えるとシエルの掌の上で踊らされていた事を考え頭を掻いていたが、ロマン達はノーハンドでオールインを選択した事に未だ引いており、ロマンがケアしていなかったら2人の命が無かったと思いジト目で エミルを見ていた。

 

「ふむふむ…勝算が無いのにエミルは命すら賭けたのか?」

 

「いえありましたよ。

 だって私は、仲間の皆やロマン君を信じていましたから!」

 

 ランパルドは全く勝ち目が無いにも関わらず全てを賭けたのかとエミルに喝を入れようとしたが、エミルは仲間達全員を、何よりあの場で共にポーカーをしていたロマンを信じていたと話すと、アルすらも呆れながらエミルは自信満々に仲間を信じ切ると言うある意味美点でもあり危うい面を見せ全員で溜め息を吐きながらしっかり見ていなきゃ危ないリーダーだと改めて認識させるのであった。

 

「…ふう、さてじゃじゃ馬娘の説教は後日に回して。

 諸王の皆様やアルク達兄妹を集めたのは他でもありません、我が夫にして現国王ランパルドの進退についてを皆様にお知らせする為です。

 知っての通り陛下は右腕を失いました、そして息子達は父を超える力を身に付けました。

 これを気に陛下は王位を息子達の誰かに譲ると話されました」

 

 すると王妃『ミサ』はランパルドの進退についてを語り始め、ランパルドも頷きながら王位を退く事を初めてアルクやエミル達にも告白しアルクやエミル達は騒つき始めた。

 特にエミルに関しては王位を継ぐ気が無かった為許嫁も居らず、万が一自分が継いだ場合を想定しアルクに譲る気で話を聞き始めた。

 

「息子達よ静かに。

 それで王位に関しての話だが、先ず順当に行けばアルクが次ぎ、その許嫁の『カトレア』が王妃となる。

 しかしアルクが譲るとなればレオナが女王となり『マカリオ』が王配になる。

 だがレオナも譲るとなればカルロが国王になるが、カルロもエミルも許嫁が居ない。

 これでは片方の席を空席にしてしまう。

 よって私はアルクかレオナに継がせたいと思うがカルロ達の意見は」

 

『異議無し!』

 

 ランパルドはそのままミサから話を継ぐ様にそれぞれが王位を継いだ後の事を話すと、カルロとエミルは許嫁が居ない為に片側の席が空席になってしまう危惧があり、円滑に話を進める為に矢張りアルクやレオナに王位を継ぐ様に話し、カルロ達の確認を取るとエミル共々ノータイムで異議無しと答える。

 何故ならエミルは魔王討伐をしたいが為に継ぐ気は無く、カルロも講師になりたい夢がある為今も許嫁を後回しにし、アレスターの書物等を読み漁っている最中なのである。

 

「お前達は少しは真剣に考えて…いや、2人はそれぞれの目標があるから王位を継ぐのはそれを諦める事になるから仕方無いとも言えるか…。

 ふむ…レオナ、お前は女王になりたいか?」

 

 アルクはエミル達の態度に少し頭を押さえてしまうが、直ぐに王位を継承するよりも重い自らの夢がある事を思い出し、それ以上は何も問わずに考えを王位継承の対抗になっているレオナの方に向ける。

 するとレオナも待ってましたと言わんばかりに口を開き始めた。

 

「いいえ、私は誰かのサポートは出来れどアルク兄様やカルロ達の様に前に出る事は苦手です。

 故に外交官と言う道を進んでいるのです…カルロもアレスター先生の様な講師に、エミルはライラ様の様な魔王討伐をする者になりたい、だから許嫁を未だ作らずにその道を進み続けているのです。

 だからこそ…アルクお兄様、いえ、アルク新国王陛下、我等をお導き下さいませ」

 

 レオナは自分は誰かの前に出る器では無いと、誰かをサポートする事が得意だと話しつつ外交官の道を歩んでいると説いた。

 それと同時にカルロとエミルも同様に自身の夢や悲願を達成する為にその道を進んでいると話し、最後にアルクを新国王陛下と呼びながら膝を突き、ロック達諸王以外が跪く形になっていた。

 それを見たアルクの答えは…。

 

「…分かった、お前達の意思は固い事も俺が皆を導く方が円滑に物事が進むと言う事も理解した。

 であるなら父上、貴方様の重き物全てを謹んで継承致します」

 

 アルクは父王ランパルドに対して王位継承をすると答えると、ランパルドやミサも頷きながらこれを重く受け止め、次なるセレスティアの王はアルクになる事が此処に決まった。

 そうして厳格なる空気の中でアルクは早速次代の王としてやるべき事をしようと皆を見ながら話し始めた。

 

「では、次期王になる私から正式な継承をする前にやるべき事をしたい。

 諸王の皆様、今お集まり頂いたのは正に天命がそうせよと私に告げているのでしょう。

 其処で頼みたい事が1つあります、それは試練の問い、アレを冒険者ギルドや軍全体に流布し地上界のレベルの枷を外したいと申し上げたいです」

 

「第2王女のエミルも同意致します。

 あの試練の問いのリスクについてアイリスに尋ねた所、リスクは『問いの内容を全て忘れ、自分を見つめ直す時間が増える』だけであり、アレスター先生の考えは杞憂だったみたいです。

 なので、今後もレベル250を超える魔族に対抗する為にこれを流布する事は必然性があると言えます」.

 

 アルクは次期王になる前にロックやゴッフ、サツキ達に試練の問いを各国の軍や冒険者ギルドに流布し、地上界のレベルの枷を外し平均レベル値を底上げしようと言い出し、エミルも同様の事を進言しようとしていた事もあり乗っかり、試練の問いのリスクが小さい事をアイリスに聞いたと話し流布する必然性が高い事を理由を添えて説明した。

 

「確かに我々のレベルを超える敵が現れれば対抗策が今エミルやサラ達だけと言うのは心許無い…フィールウッドは賛同しましょう」

 

「ミスリラントも異議は無いぜ」

 

「ヒノモトもじゃ」

 

 それ等を聞きロック、ゴッフ、サツキも同意をし、その理由もレベル250オーバーに対抗出来る者達が少な過ぎると言う理由であり、これ等を聞きランパルドも納得したのか頷き始めていた。

 

「では試練の問いの流布を決定と致しましょう。

 そしてアルク、これからはお前が国を、民を守るんだぞ。

 エミルも魔王討伐の勅令は継続とする、良いな?」

 

『はっ‼︎』

 

 ランパルドは現国王としての最後の仕事を果たす様に試練の問いの流布を決定しアルクには次代の王としての責務を、エミルには魔王討伐を継続する様に命じると2人は跪きながら父王最後の命を受け取りそれ等を必ず果たすと心に誓っていた。

 こうして4国の現在の王が集まる会議は幕を閉じ、エミル達は王宮から立ち去り始めた。

 

 

 

 それから王宮の門を抜け、城下町に繋がる橋を渡り切るとその隅にはアイリス、リコリスがルルの様にフードを被りながら10人を待っていた姿がエミル達の目に映った。

 

「アイリスにリコリス、そんなに待ってたならやっぱり会議に顔出しだけでもすれば良かったのに」

 

「いいえ、我々天使は本来なら聖戦の儀の法を破った以外で過干渉は避けるべきなのです。

 でなければ地上界の成長を見込めませんから、ですよねアイリスお姉様?」

 

「…と言うよりも、私達が居るだけでノイズになるから会議には参加しない方が良かった、が正しいわリコリス。

 過干渉云々は神様から地上界に派兵されてる時点で干渉はして良いと解釈しているもの」

 

 エミルは2人も外で寂しく待つよりも会議に参加すればと話したが、リコリスは過干渉を避けるべきと話し、アイリスは自分達の存在が会議のノイズにならない様にしたいと言うスタンスから参加しなかったと話し、干渉に関しては神から実質許可を貰ったとして気にしていない様子だった。

 それに気付けなかったリコリスは自らを未熟と口にして頭を押さえていた。

 

「だがあの様子ならば別に余計な雑音にはならなかったと思われますぞ? 

 アイリス殿もリコリス殿も余り気を使わず次は会議に参加して下され、何故なら我々は正義を成す仲間なのですから」

 

「…出来るだけそうするわ」

 

「たく、頑固者な連中だぜ」

 

 するとネイルはあれならば会議に参加しても問題無かったと話し、全員で頷くとネイルは2人を正義を成す仲間だと話し会議にそれとなく参加する様に促すと、アイリスは出来るだけと言いつつリコリス共々エミル達の後ろに陣取る。

 それをアルは頑固者な連中と口にすると、周りから苦笑が飛びアルは「何だよ!」と発言し自身がブーメランを投げた事に気付いていない様子だった。

 

「さて、皆ライラックの冒険者ギルドの宿屋にやっと完成した看破魔法(ディテクション)Iや試練の問いを流布しに向かうわよ!」

 

「…はい………あぐ‼︎」

 

 そうして周りの空気を堪能したエミルはライラックにある冒険者ギルドの宿屋に魔族の変身魔法(メタモルフォーゼ)Iを見破る為に創り上げた看破の魔法と試練の問いを流布しに向かい始め、ルルも歩調を合わせて歩き始めた………その時、いつもの予知とは違う頭痛に似た危険予知が発動し、ルルはその場で蹲ってしまう。

 

「ルル、如何したの⁉︎」

 

「コイツは…危険予知、それも途轍も無くヤベェ奴を予知しちまったんだな‼︎」

 

「ルル、深呼吸して‼︎

 後は落ち着いたら内容を話せば良いから休んで‼︎」

 

 エミルは突然のルルの様子に驚いていると、アルは危険予知、それも途轍も無く大きな物を予知したと話すと、サラと共に慣れた様子でルルを介抱し、近くにあった公園の椅子に座らせて落ち着くまで待った。

 するとルルは少し落ち着き、フードを取りながら皆を見ていた。

 

「はぁ、はぁ、ごめんなさい皆。

 私、今途轍も無く大きな危険予知を視たわ…ミスリラント領の大地が海に沈む以上に危ない予知よ…‼︎」

 

「地殻変動で大地が海に沈んだアレより危ないって世界規模って意味よね⁉︎

 ルル、どんなのだったかゆっくりで良いから皆に話してみて!」

 

 ルルは皆に謝罪しながら視えた予知がミスリラント領の大地が海に沈んだ事を予知した時以上に危ないと表現しながら話す。

 それを聞いたサラや全員はその予知が世界規模だと判断し、ゆっくりと話す様に促し始める。

 するとルルは瞳を閉じて言葉を紡ぎ始めた。

 

「…『彼方なる者、現世に再び目覚め時空を乱さん。

 誓い立てし翼と正義掲げし鉄剣は彼方なる者を討滅すべし。

 さもなくば時空は乱れ、魔界、地上界、天界は滅びを迎えん』…これが視えた予知の内容よ」

 

「時空が乱れる…神様の仰られた通り…そして原因は彼方なる者…そう呼ばれた者は世界に1人しか居ない! 

 まさか、矢張り『奴』の封印が解ける…⁉︎」

 

 ルルは視えた内容を一言一句違わず話し、誓いの翼(オースウイングズ)正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)が原因である『彼方なる者』と呼ばれた者を倒さなければならない事、倒さなくては地上界のみならず天界も魔界も滅ぶと言う内容にエミル達は固唾を呑んでいた。

 そしてアイリスは神の警告とルルの予知が一致し、彼方なる者と呼ばれた者が1人居た事を思い出しながら封印が解けると恐れ始めていた。

 

「アイリス、リコリス、彼方なる者って何者なの? 

 教えてくれるわよね?」

 

「ええ勿論よ、奴が復活すれば最早聖戦の儀をしてる場合じゃないわ…‼︎

 その者は禁忌の魔法の中でも更なる禁忌、世界の秩序を乱す『時間跳躍魔法(タイムジャンプ)』を会得し、あらゆる時間軸に跳び歴史の改竄の果てを見ようとした、今の魔王がアザフィールと共に封印をした大罪を犯した魔族…その名は、『ソーティス』‼︎」

 

「ソーティス…それが、次に僕達が倒すべき…」

 

 エミルは慌てた様子を見せるアイリスとリコリスに彼方なる者の情報開示を求めると、アイリスも聖戦の儀所では無いとしてどんな者かを話し始めた。

 その者は歴史の改竄の果てを見ようと目論んだ魔族であり魔王がアザフィールに命じ封印をした程の大罪の魔族…名はソーティスと叫んでいた。

 そしてエミルやロマン達はそのソーティスこそが次なる敵として息を呑みながら脳内でその名を反復させるのであった。

 

 

 

 その同時刻、魔界のある場所に形成された異空間の中に形成状の何かが浮かびそれが定期的に光っていた。

 これは空間封印魔法に加え、球体は更に個人を外から縛り永久に封印する窮極封印魔法の二重封印が施されている証明であり魔族達も、魔王自身も何かの影響で封印が破れてしまわぬ様に近付く事が許されない禁忌の地である。

 

【ピキ、ピキピキピキ、パキン‼︎】

 

 だが、その窮極封印魔法が突如ひび割れ、更に一部が欠けてしまい其処から左目と一部の銀色の髪の毛が見える様になってしまう。

 そしてその黄色の眼は開き、外を睨み付ける様に眼球を幾重も動かし、そして最後は一点を見つめていた。

 

「…魔王…アザフィール…‼︎」

 

【ピキピキピキピキ‼︎】

 

 更に封印魔法の中から怨嗟の声とも取れる地の底から響く様な恐るべき声が響き、窮極封印魔法はそのひび割れが更に広がり出し、まるで内側から食い破る様に封印魔法が破れ掛かり始めた。

 こうして彼方なる者は世界にその目醒めを知らせ、次なる災厄の権化として、3世界の秩序を乱す者として封印を更に食い破り始めるのであった…。




此処までの閲覧ありがとうございました。
今回は次回からの敵となる者の名前等を出し、此処から更に物語を広げて行きたいと思います。
そしてその敵にエミル達が如何やって立ち向かうかお楽しみ下さいませ。
後はちょっとした報告でこの回を投稿後に章管理を致します。
それから投稿頻度もリアル事情で落ちると思います。
それでもこの物語は更新し続けて行きますのでお付き合いの程をお願い致します。

それでは次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第3章『時空改竄編』
第35話『ロマン、決闘する』


皆様おはようございます、第35話目更新でございます。
少しストックが出来上がったので新章の投稿を始めます。
これから物語がどんな風に進むかお楽しみ下さいませ。
では、本編へどうぞ。

追記:気付けば2000UAを突破してました。
此処まで閲覧して下さった読者の皆様、お気に入り登録をして下さった皆様、本当にありがとうございます‼︎


 これは遠き記憶、『彼』が覇道を歩むきっかけになった記憶の1つであり過ぎ去りし過去、変えようの無い昔の記憶。

『彼』には身体が弱い妹が居た、が両親は居なかった。

 妹が生まれると同時に両親は『彼』等を捨てて何処かに消えてしまったのだ。

 その為『彼』は幼いながらも妹を育てるべく力の限り育てたが、幼い故に限界もあり、更に生まれ付き妹は身体が弱かった為ベッドで寝た切りの生活をしていた。

 

「『ティア』、ほら今日も働いて稼いだお金で作ったご飯だよ、お食べ」

 

「ありがとう、お兄ちゃん…ゴホッ、ゴホッ!」

 

 ティアと呼ばれだ褐色肌の少女は兄である『彼』が命を取り合う闘技場で勝ち、金を荒稼ぎしている噂を耳にはしているがそれでも兄が自分の為に命を賭けたのならと、その額に淡く輝く魔血晶(デモンズクリスタル)と瞳に反射する『彼』の哀しげな顔を見て咳をしながらも食事を食べて元気になって兄を闘技場から引かせようと想っていた。

 

「(守るんだ、俺がティアを守るんだ! 

 他人を殺してでも、俺の命を懸けて守るんだ‼︎

 俺やティアを捨てたあの屑の両親に代わって俺が…‼︎)」

 

 一方『彼』は兄として他人の命を奪ってでも金を手にし、ティアを少しでも裕福に暮らさせる為にその血に濡れた金で食べ物を買い、そして料理し自分達を捨てた両親の代わりに妹を命懸けで守ると誓ったのだ。

 その甲斐あってか身体が弱かったティアは10歳を迎えるとベッドから立てる様になり、家も荒稼ぎした金で少しは大きくし2人で少し歪ながらも幸せに暮らしていたのだった。

 2人の願いはただ1つ、お互いが無事に平穏に過ごせたら、そんな淡い願いであった。

 

「(守るんだ、守るんだ絶対…‼︎)」

 

 そうして『彼』外に一旦出て握り拳を作りながら空を見上げ、その闇く闇く黒き漆黒の意志を全て妹に捧げながら何を犠牲にしてでも守ると2つの月が照らす闇黒の空に誓うのだった。

 しかし、されどこれは記憶、過ぎ去った物である。

 故に現在(いま)の『彼』には過去(かつて)など意味が無い物であった…。

 

 

 

 シエル達が賭けで敗北し、地上界の裏側からの侵略を止めてから約1ヶ月が経過した魔界にて。

 窮極封印魔法は更に食い破られ始め、最早全体がひび割れて何時封印が破れても可笑しく無かった。

 それを魔王の宮殿にて呼び戻されたシエルと ダイズ、アザフィールは巨大な水晶石で茶髪で良くある短髪だが威圧感がある存在、『魔王』と共にそれを見ていた。

 

「ふん、神の未来視は正しかったと言うわけか。

 我とアザフィール、2人で施した封印魔法を内側から食い破り始めたか…。

 ソーティスめ、大事な時期に空気を読まず自分の『研究』を進めたがる癖は治ってない様だな」

 

 その水晶石を玉座に座りながら魔族の王たる魔王は水晶石に映る封印魔法が破られ始めた事を椅子の手摺りに指を叩きながら見上げていると忌々しい神の未来視が正しかった事に期限を損ねてはいるがそれ所では無い為余計な感情は見せずにシエル達に視線を移し替え跪く彼女達に威圧感がある言の葉を紡ぎ始めた。

 

「それで、ソーティス対応は如何する気だシエル、ダイズよ? 

 アザフィールも使うのは目に見えているが、それ以外は如何する?」

 

「要らぬ犠牲を増やさない様に私とダイズ、アザフィールの3人のみで対応します。

 更にこの際利用出来る物は利用して天界のアイリス達や地上界の誓いの翼(オースウイングズ)達も利用して奴を対処しましょう。

 上手くやれば向こうにのみ損害を与えられます。

 それと、封印がこうして破られ掛けてる以上殺す事に思考を変えねば貴方様の望む世界も奴に只々『壊される』だけです」

 

 魔王はシエルにソーティスへの対処を如何にするかを問うと、シエルは魔界側からは自身やダイズ、アザフィールのみで対処し残りは天界と地上界の特記戦力であるアイリスや誓いの翼(オースウイングズ)達を利用すると案を出す。

 更に封印が破られ掛けてる以上ソーティスは封印では無く処刑しなければならないと進言し、魔王が望む物も壊されるだけと警告していた。

 

「ふっ、賭けで奴等に負けたお前の口にしては良く回る…まあ、アレはどうせ副案だった為失敗にカウントはしないが、此度の事態は失敗は許されない。

 最悪の場合はベルグランドを抜け、アレはソーティスの様な輩を討つ為に存在する忌まわしい神器の1つよ」

 

「無論、心得ております『魔王』様」

 

 魔王はシエルとダイズがエミルとロマンに賭けで負けてしまい100年計画が失敗に終わった事を口にするが、魔王としてみればそれは副案に過ぎなかった故に失敗に見做さなかった。

 しかし今回のソーティスの件は失敗出来ない為魔剣ベルグランドを使用する事も命じるとシエルはダイズ、アザフィールと共に頭を下げて勅令を賜っていた。

 

「よし、では先ずソーティスの監視を強めるぞ。

 時空の腕輪を装備し『禁断の地』に足を運び何時でも────」

 

【ピキピキ、バギィィィィィィンッ、ビュン‼︎】

 

『⁉︎』

 

 次に魔王はソーティスの監視を強める様に彼の者が封じられた土地である禁断の地に時空の腕輪を装備してから派兵し何時でも対処する様に命じようとした…その刹那、水晶石の先のビジョンから封印が一気に全て砕け散り、中から何かが一瞬転移したかの様な様子を見せた。

 それに対してシエル達は早過ぎると思考し、魔王も何を思ったか不明だが「ほう」と一言口にした。

 その瞬間魔王の玉座の間の扉が開かれ、ティターン兄妹やアリアが目を見開きながら突入して来る。

 

「魔王様、シエル様、ダイズ様‼︎」

 

「アザフィールの旦那‼︎」

 

『‼︎』

 

 ティターン達は魔王やシエル達の名を叫び手を伸ばすとシエルと魔王の間に銀髪のはねた癖毛が特徴の黄色い眼をした魔族が現れ、隙がある魔王に対し無表情で手刀を繰り出していた。

 それを見た3人は立ち上がり『時間家族魔法(タイムアクセル)』まで使い魔王と銀髪の魔族、ソーティスの間に割り込もうとした。

 そして────。

 

 

 

 一方地上界にて、エミル達はアイリス、リコリスから時間操作魔法の一連を教わり、その究極形であり到達点にして禁断の領域『時間跳躍魔法(タイムジャンプ)』について1ヶ月前の説明のおさらいを聞いていた。

 

「つまり、時間の加速や遅延、停止等の先に時間を跳躍して別の時間軸に自分自身を跳ばす魔法が存在するから、地上界にこれを悪用されない為にそもそも時間操作系魔法を伝説にある創世期の時代の魔界も天界も他の魔法は教えどそれだけは教える事は無かった、と?」

 

「概ねその理解で正しいわ。

 そしてソーティスは800年前に今の魔王やアザフィールと親睦を深めつつ時間操作の果てに650年前に辿り着き、魔界最後の戦乱である『ソーティスの乱』で封印された魔族よ」

 

 エミルとルル、サラはアイリスの話を聞き入り魔族や天使が魔法を齎したとされる創世期に地上界の者が悪戯に時空を乱さない様に敢えてその存在を伏せたのが時間操作系魔法であり、ソーティスは禁忌を破り完成形に辿り着いた為アザフィールと現魔王に封印されたと聞き更にはそのソーティスとの戦いが魔界最後の戦乱とまで聞き、如何に時間跳躍魔法(タイムジャンプ)が禁忌かを理解しようとしていた。

 

「それで、時間跳躍魔法(タイムジャンプ)の恐ろしい所は過去の改変すら可能だと聞いたけど、過去を変えると今や未来が変わってしまう…のよね?」

 

「そう、過去の改竄は現在、未来すら影響を及ぼす。

 例えば今死んでいる人を生きている様に変えたり、生きてる人を死んだと変える現象…神様の言う時間改変現象(タイムパラドックス)が発生するわ。

 これが一度起きれば時空の流れは乱れ、大本を断たない限り時空は乱れ続け最後には世界が崩壊する…と神様は私達に説明してくれたわ」

 

 エミルはアイリス達の話を日記に纏め始め、時間跳躍魔法(タイムジャンプ)時間改変現象(タイムパラドックス)を発生させ、これを放置すれば世界が崩壊すると纏め、欲が深い者がこれを使えば確かに大変な事…例えば今生きているアルクを過去に跳び殺して死んだと改変する事さえ出来ると頭で纏め、サラやルルも同様の考えを纏めて青褪めていた。

 

「そして時空の腕輪の第1の効力として身に付けていれば敵の時間操作系魔法の影響を受けないと」

 

「例え時間改変現象(タイムパラドックス)であっても、ですよね?」

 

「その通りよサラ、キャシー」

 

 次にサラとキャシーが時空の腕輪の効力について話し、これさえ身に付ければ時間改変現象(タイムパラドックス)を含む全ての時間操作系魔法の影響を受けなくなる事を確認し、アギラ討滅の際のティターン達の横槍の様な事は起きなくなると改めて理解する。

 

「で、偶に時間操作系の魔法を覚えてなくてもに耐性を持つ者が居てそれが例としてティターン達の時間停止の中で彼等の姿を視認した勇者ロマン、と言う訳よ。

 因みにそう言う者程時間操作系魔法を覚え、完成系に近付き易い性質があるわ」

 

「成る程、ロマン君はそんな適性が…」

 

 更にリコリスはロマンのティターン達の時間停止魔法(タイムスリップ)中に彼等を視認した現象を時間操作系に耐性があると説明し、そう言った体質の者がそれらを覚えソーティスの様に完成系の時間跳躍魔法(タイムジャンプ)に近付き易い危うい面もあると説明し、エミル達はそうならない様にロマンを支えないとならないと考え日記を閉じてアイリス達の授業を終えた。

 

「…で、そのロマン君なんだけど…」

 

【カンカンカンカンキンキンキン‼︎】

 

「オラァロマン、そんな何処の馬の骨とも分からねぇ野郎に負けんじゃねぇ‼︎」

 

 するとエミル達は『現実逃避』をいよいよ止めてロマンやアルの方を向くと、ロマンはヒノモトから来た剣士と絶賛実剣での模擬戦(と言うよりも決闘)中であり、アルは昼間から酒を飲みながらロマンを応援し、近くに座っているガムはヒノモト側を応援しネイル達は相変わらずお手上げと言った様子を見せていた。

 そして観客と言う名の野次馬も最初と比べると更に増えていた。

 

「…どうしてこうなったの⁉︎」

 

 エミルは一連の戦いに何故こうなったと叫び声を上げ、サラやルルは頭を押さえアイリス達も溜め息をし、こうなった経緯を思い出し始めていた。

 事の発端はあれから魔族が潜伏していないかエミル達が各国を回り始め、ヒノモトに到着した時まで遡る。

 

 

 

 エミル達は地図にセレスティア、ミスリラントと印を付けて魔族が潜伏して居ない事を確認し、残るはフィールウッドかヒノモトになり、広大な森が広がるフィールウッドは直ぐに終わらない為島国であるヒノモトに寄り、其処で全体を見て魔族が居ないかを確認する任をギルドから依頼として受けていた。

 因みにエミルやネイル達はグランヴァニアの功績により遂にAランク冒険者になり、この様な重要依頼を任される様になっていた。

 

「見えたわ、他の国とまた違う独特の文化を持つ島国、ヒノモトが!」

 

「ひゃ〜、ヒノモトもひっさびさだなぁムリア」

 

「んだな〜。

 確か半年は来てなかったんだな〜」

 

 そうして船で移動している間にヒノモトを眼前に捉え、それぞれが違った感想を見せており特にヒノモトに来た事が無かったロマンは目を輝かせていた。

 因みに転移魔法(ディメンションマジック)で転移しなかった理由は1ヶ月前の様な緊急事態以外でそれをすれば不法入国で捕まる為である。

 そうして船は港に着きエミル達はヒノモトの大地に足をつけた。

 

「ギルドの依頼を受けた皆々様、ようこそお越し下さいました。

 私達はヒノモトのサツキ女王より案内人を承った者です〜。

 ささ、立ち話もなんですので早速ヒノモトの案内をさせて頂きます〜」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 するとヒノモト独特の服、『着物』を着た若い女性達がエミル達の案内を始め、2〜3人馬車に乗りヒノモトの港町をエミルは看破魔法(ディテクション)Iと透視(クリアアイ)を使いながら見ており、魔族への警戒心を表面には出さずに女性達の説明を聞いていた。

 

「この港街『ワダツミ』はヒノモトの誇る最高峰の港街でして、歓楽街も盛んで人の往来の多い町で貿易や旅行業が最も多い町なんです〜」

 

「成る程そうなんですか…ふむふむ」

 

 エミルはロマン同様ヒノモト独特の文化に目を輝かせるキャシーを横にメモを取りながら、ワダツミの魔族潜伏数を0と書き、今までの国同様魔族達が急に居なくなり魔物の出現頻度が下がり始めた事を不気味に感じながらメモと睨めっこをしていた。

 そんな中で女性達は歓楽街の食べ物屋の集合地前に馬車を停めるとエミル達は何事かと思い女性を見始めた。

 

「そんなに難しい顔をしていては依頼と言えど折角の観光旅行が楽しめませんよ、此処は1つお団子やお茶を飲みながら休憩して下さいませ〜」

 

「あ〜成る程、気を遣わせてしまいましたか、態々すみません。

 職業柄どうしても見過ごせない事案でしたので…では、休憩致しますのでお店にご案内よろしくお願い致します」

 

「はい、ご案内させて頂きます〜」

 

 如何やら案内人のリーダーはエミルが難しい顔をしていた為、リラックスを促す為に甘味処が並ぶ場所で馬車を停めたらしく、エミルは気を遣わせたと少し反省し案内をされ始める。

 すると女性達は団子屋に案内し、こし餡やみたらし餡など複数の団子を用意し、大きな日傘で外に座るスペースにエミル達は座ると提供された団子に目を輝かせるロマン、サラ、キャシー達を筆頭に女性達を見ていた。

 

「ではお寛ぎ下さいませ〜。

 十分休まりましたらまた馬車で案内します〜」

 

「はい、では皆様、頂きます」

 

『頂きます!』

 

 女性達は馬車を邪魔にならない位置に置き始め、休憩し終えたらまたヒノモト全体を案内する様に待機すると全員で頂きますと挨拶し、団子に手をつけ始めた。

 

「もぐもぐ…んん〜、ヒノモト本場のお団子美味しい〜!」

 

「ゴク、ゴク…ふう。

 そしてこれがヒノモトのお茶、緑茶ですか。

 甘味にこの絶妙な味が合わさってお団子と緑茶、両者の味を引き立てますね」

 

 サラはキャシーやロマンと共に団子を食べ頬が落ちるかの様な味に笑顔が漏れ、エミルも緑茶を飲みその味を堪能し団子と共に飲食しながら空を見ていた。

 

「本当に地上界は食べ物のバリエーション多いですね、アイリス姉様」

 

「そうね…聖戦の儀の監視じゃなければもっとゆっくり堪能したい位ね」

 

 一方アイリスとリコリスも地上界の食べ物の多さに驚いており、聖戦の儀の監視でなければお忍びで旅行を楽しみたいとも話し、特にアイリスは創世期から生きて来た中で現代の地上界の食は各国で独特の進化を遂げてる為か感慨深い感情を抱いていた。

 それを見ていたエミル達はアイリス達はロックやサラを遥かに超える歳月を過ごし地上界も魔界も見守り続けて来たと感じていた。

 

「…失礼、貴殿達は誓いの翼(オースウイングズ)正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)だな?」

 

「あ、はい…あれ? 

 確か貴方はルルと一緒にヒノモトの城で試練の問いをサツキ女王様にする様に言われた方の1人、ですよね?」

 

 そんな休息を満喫しているエミル達の前にヒノモトの服と軽装の鎧、刀を差した青年が現れ、エミル達に誓いの翼(オースウイングズ)正義の鉄剣の(ソードオブユースティティア)かと尋ねてくる。

 その青年を見たロマン、ルルは1ヶ月前のグランヴァニア遠征前にサツキの紹介の下で試練の問いをさせた者、エミルは二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を付与させた者の1人と思い出し青年をエミル達は観察を始めていた。

 

「矢張り勇者ロマンや月下の華ルル、そして魔法使いエミル王妹殿下にネイル達が居るからそうだと思ったぞ。

 俺の名は『リョウ』、1ヶ月前のアギラの戦いにも参加した流離人だ。

 早速で悪いが頼みたい事がある………勇者ロマン、俺と決闘してくれ」

 

『………えっ? 

 えぇ⁉︎』

 

 その流離人のリョウはアギラの戦いにも参加していたと口にし、あの戦いは未だ魔血破(デモンズボム)の事がある為エミル達の頭から離れず偶に救えなかった者の最期の顔を夢に見る程鮮烈に記憶に残っていた。

 その中でリョウは頼みたい事として要求したのは………何とロマンとの決闘であった。

 これにはエミル達もビックリ仰天し、ロマンに至っては理解が追い付いていなかった。

 

「あの、冒険者…この国の呼び方では流離人のリョウ、さん? 

 何故ロマン君と決闘をしたいと思ったのですか?」

 

「理由は簡単だ、あの悪逆の将アギラに止めを刺した者、強くない訳が無い。

 よって、その強さを理解する為に我が刀と勇者の剣、何方が上か確かめさせて貰う。

 無論嫌とは言わせない、戦うと言うまで俺は後を付いて行くぞ」

 

「うわぁ、ダイズ様みたいな狂戦士(バトルマニア)なんだなぁ〜。

 ロマン君、これ受けないと一生付いて来るんだなぁ〜」

 

 リョウはアギラを斃したロマンが強く無い、弱い訳が無いと話し、その強さを理解したいとして刀の鍔に指を掛けて刀身を鞘からギラリと見せていた。

 更にムリアはリョウはダイズの様な狂戦士(バトルマニア)タイプだと口にした上でロマンに勝負を受けないと一生付いて来ると話し、彼に同情しながらも受ける以外の選択肢がない事を遠回しに伝えていた。

 そうしてロマンは少し考え、エミル達もみながら下した決断は…。

 

「…分かりました、貴方が満足するかは分からないけど僕達にも旅や様々な目的があります。

 それに巻き込まれて死んでしまっては困りますので戦いましょう!」

 

「ふっ、仲間の心配のみならず俺まで心配しているか…噂通り甘いと言われる程優しいのだな。

 では行くぞ、道の真ん中に立て」

 

 ロマンは考えた結果、エミル達の旅の邪魔になる可能性やリョウが巻き込まれて死ぬと言う悲惨な結果を避けるべく決闘を受ける事にした。

 それをリョウは甘いと断じながらも優しいと話し、一定の理解を示しながらロマンに道の真ん中に立つ様に促した。

 そして両者は剣と刀を抜き、正面から見合っていた。

 

「んじゃ決闘の合図は俺様から出させて貰うぜ‼︎

 両者見合って…始め‼︎」

 

『はぁっ‼︎』

 

【ガン、ガンキンキンキンキンキンギリリリリッ‼︎】

 

 そしてアルの合図により決闘が始まり、ロマンとリョウは1撃を素早く打ち込み相手よりも多く攻撃し勝負を早々に決しようとしていた。

 しかし2人共同じ考えの為途中で迫り合いが発生し膠着状態が発生しつつあった。

 

「ふっ、流石は勇者。

 アギラを斃したと言うその腕に嘘偽りはない訳だ!」

 

「僕1人で斃した訳じゃないですけどね。

 それにそちらこそ、あの戦いを切り抜いた事はあります、ね!」

 

【ギリリリリッ、ギン‼︎

 カンキンキンキンキンキンキンキンギリィィィィィッ‼︎】

 

 その状況でリョウはロマンを確かにアギラを斃したと認め賞賛する。

 ロマンも仲間と共に戦った故に自分1人ではないと話しながら、リョウの腕前をグランヴァニアの戦いを切り抜いたと賞賛し返すと再び激しい斬り結び合いが発生し、それらを見ていた野次馬達も盛り上がりを見せ始めていた。

 

「ふう、男の子って決闘が好きなのかなぁ? 

 ロマン君も意外と良い顔して汗流してるし」

 

「アギラの戦い前後では心休まる時が一切無くグランヴァニアの戦いを迎えたから、ロマン君もこうして日常に戻りたい事もあるんだろうと私は思うがね」

 

 エミルはその決闘を見ながらロマンも男の子かと思いながらお茶を啜り、彼が自分では少し分からない世界に入ってると感じていた。

 するとネイルはアギラの戦い前後…シエル達に問答無用で戦闘不能にされた辺りから心休まる時が無かったとエミルの日記から推察し、故にこうした日常に戻れる時が欲しいのだと考え、エミルもそうなのかと思い始めていた。

 

「おっ、凄い決闘だ! 

 そこだやれやれ‼︎」

 

「異国の戦士君も頑張れ〜‼︎」

 

「…それにしても野次馬が増え過ぎてる、どうしてこうなるの?」

 

 しかし、野次馬達の数がロマンとリョウが剣と刀の刃を斬り結び合せる度に増えて行き、エミルはどうしてこうなるのかと一言を言うと、周りを見ればアルやガムも決闘に夢中になり頭を抱える事態になりつつあった。

 サラ達もこれはお手上げだとジェスチャーで示すと、決闘はロマンが勝つとは信じているが、それ以上の熱の入り様が無いエミルは如何しようかと考え始めていた。

 

「ならエミル、時間操作系魔法やルルが予知した彼方なる者ソーティスについて振り返る為に説明をし直しましょうか?」

 

「あ、良いのアイリスにリコリス? 

 なら、お願いしても良いかしら。

 皆、アイリスが説明をするから聞きたい人は耳を傾けるのよ?」

 

 するとアイリス達は1ヶ月前のルルの予知の直後に説明した時間操作系魔法やソーティスの事を説明し直すと切り出し、エミルは聞きたい者達に耳を傾ける様に声掛けをし、決闘中のロマンや観客に回ったアル、ガムは返事せずその他の者がアイリスを見て説明を聞き始めていたのだった。

 そしてこれがエミルがどうしてこうなったと叫んだ経緯であった。

 

「あーもうまた観客が増えてるよぉ…本当にどうしてこうなったのよ…!」

 

「…えっと、時空が乱れたりしたらどうなってしまうかも説明しますよ。

 時空が乱れるとこの世界の魔法元素(マナ)の流れに淀みと言う異変が起きます。

 淀んだ流れになる、と言っても実際そうならなければ分かりません。

 だからそうなる前にソーティスは斃すべきです、でなければその初期段階から第2段階の異変、時空の腕輪を装備した者か同じ時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を取得した者しか認知出来ない空間の亀裂が生じますから」

 

 エミルはこの決闘沙汰が大事になり過ぎた事に頭を抱えている中、アイリスは説明を続け時空が乱れると何が起きるかを更に深掘りし、エミルは頭を抱えながらもそれを聞き、時空の腕輪を見てこれが其処まで重要なアイテムだと思い視線を向けていた。

 そして時間跳躍魔法(タイムジャンプ)は本格的に世界を乱すと考えたエミルは、これを取得は絶対にしないと胸の内で誓っていた。

 

【ギリリリリッ‼︎】

 

「くっ、うぅぅ‼︎」

 

「ふぅ、成る程、これが勇者の力か…‼︎」

 

 そうエミルが誓ってる中でロマンとリョウの決闘は続き、ロマンとリョウの刃が擦れ合い金属音が鳴り響く。

 その中でリョウはロマンの力を見抜いたかの様な発言をし、力を抜きロマンの剣に押される形で後退する。

 そして再び刀を構え、ロマンも剣を構えて膠着状態に入る。

 そして────。

 

【カァァァァァァァン、ザクッ‼︎】

 

 2人は一閃を斬り結び、その結果…リョウの刀が手元から弾かれそのまま地面に刺さる。

 これによりロマンの決闘による勝利は確定し、リョウに一礼し剣を収めた。

 

『ワァァァァァ、ヒュー‼︎』

 

 すると周りの野次馬からは歓声が、アルは口笛を吹きガムは「惜しい!」と口にし、決闘し合った2人は息を少し荒くしながらも握手を交わし互いの健闘を讃える様に立ち振る舞っていた。

 するとエミルはやっと決闘が終わり、しかしながらロマンが勝った事に上機嫌になりながら2人に近付いていた。

 

「はい、2人ともこれで互いの実力は分かったでしょう? 

 ならこれ以上の危ない決闘は止めましょうね? 

 それにしてもリョウさん、貴方レベル414って今の私達に近いレベルとなってるわね…相当あの戦いで魔族を斬り、今も修行を続けているのね」

 

「当たり前だ、流離人とは言え俺達ヒノモトの戦士の使命は女王サツキ様の守護。

 それを果たすのに弱き者で如何すると言うのか…。

 それと、勇者ロマンと斬り合っている内にある事が思い浮かんだんだが言って構わないか、王女殿下?」

 

 エミルは2人の決闘はもう終わりとこれ以上続かない様に敢えて言いながら鑑定眼(アナライズ)でリョウのレベルを測っていた。

 すると今のエミル達は420に対し彼は414とかなり近い実力を持ち、あの戦いでの活躍やその後の鍛錬を想像しているとリョウは女王を守る事がヒノモトの戦士の使命と話して相応の実力が必要だと語る。

 更にその後、リョウはエミルに対しある事を提案するべく話を掛け、エミル達は何だと思い聞き始めていた。

 

「俺をお前達の旅、そして恐らくはギルドから任された魔族の調査、討伐の依頼を熟している為ヒノモトに来たのだろう。

 ならば俺も連れて行って欲しい、お前達の誰かを守りたいと言う決意が俺が女王様を守る至高の剣になると勇者ロマンとの決闘を通じて感じた。

 故に、俺をお前達の旅路に連れて行って欲しい」

 

 如何やらリョウはサツキ女王を守る1番の剣になるのが目標らしく、それにはエミル達に付いて行くのが早いとロマンとの決闘で判断したらしく、彼はエミル達にそれ等を伝えて一礼をしていた。

 

「(えーと、さてどうするか…このまま放って置くと彼はこっちの旅の後を付けて来そうな予感しかしないし、もしも私達の戦いに勝手に巻き込まれて死んでしまったら私達は理不尽な死を避ける為に行動してるのに何をやってるんだって話になる…。

 ならいっその事私達と一緒に行動させた方がこの人の為になる筈…)」

 

 その中でエミルはリョウの実力や諸々を考え出し、このまま放って置いても再びロマン以外に決闘を持ち掛けてはパーティ加入をして来るだろうと思考し、ならばそんな事になって面倒事や自身が嫌う理不尽な蹂躙を避ける為ならば此処でリョウを行動を共にさせた方が良いと考え抜く。

 

「分かりました、では近くのギルド運営の宿屋でパーティ登録しましょう、誓いの翼(オースウイングズ)6人目のメンバーとして」

 

「感謝する」

 

 エミルは諸所の理由によりリョウを仲間にすると宣言した瞬間リョウは頭を下げ、更にロマン達もこの事は予想はしていたらしく溜め息もせずにエミルとリョウが握手を交わす所を静かに見守っていた。

 それを祝福するかの様に鷹が空で鳴き声を発していた。

 

「では皆様、先ずはギルド運営の宿屋に向かうでよろしいですか〜?」

 

「はい、それで大丈夫です。

 ではリョウさん、改めてよろしくお願いします」

 

「リョウで良い」

 

 案内人が皆に話し掛ける中、ロマンは改めてリョウによろしくと言うと、リョウは呼び捨てを所望しそれを聞いたエミル達はそうしようとアイコンタクトをしていた。

 

「さて、じゃあ早速」

 

「お待ちなさい剣士リョウ、誓いの翼(オースウイングズ)に入るならこの腕輪を左腕に付けなさい」

 

 それからエミル達はギルド運営の宿屋に向かおうとしたが、其処にアイリスが時空の腕輪をリョウに見せ、それを左腕に付ける様に要求した。

 この時点でアイリスの中ではリョウもソーティスを打倒する戦力と考えている事が窺い知れた。

 

「この腕輪は?」

 

「これは時空の腕輪と呼ばれる希少な物です。

 身に付けていればある現象から身を守るのみならずそれの対抗策になります。

 近い将来これが絶対役立ちますので付けなさい」

 

 アイリスはリョウに時空の腕輪を説明し、エミル達も聞いたこの腕輪の効果の1つに時間改変現象(タイムパラドックス)から身を守る効果があると少し暈しながら伝え、しかしその瞳は真剣その物で近い将来に必要だと話すとリョウはそれを少し見た後左腕に付けた。

 

「これで良いんだろう、天使アイリス」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

 決闘の余韻で周りが騒つく中、リョウはアイリスの正体をフードの中を見た上で理解しエミル達にしか聞こえない声でアイリスの名を口にしながら時空の腕輪を付けた左腕を見せた。

 それに対するアイリスの答えは大丈夫だと言う物だった。

 

「じゃあ、リョウって新しい仲間が増えたから改めて誓いを立てようよ!」

 

「はっ、サラにしちゃ良い意見だぜ。

 じゃぁリョウよ、縁を組め!」

 

 するとサラが誓いの翼(オースウイングズ)の誓いを新たに立てると提案すると酒が回り上機嫌なアルもそれに乗る。

 するとエミル達はリョウを含めて手を繋ぎあい、5人が瞳を閉じるとリョウも合わせて瞳を閉じ、エミルが一呼吸入れるとリョウは少し遅れ気味に誓いを立て始めた。

 

『我等誓いの翼(オースウイングズ)は世界を救う為に新たなる仲間、リョウを加えて魔王討伐を誓います』

 

「はい、私やリコリス、正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)が見届けましたよ」

 

 こうして誓いの翼(オースウイングズ)に新たなメンバーが加わり、エミル達はこれを機会に魔王討伐を改めて誓い合い、それをアイリスとリコリス、ネイル達が見届けた。

 エミルとロマン達は新たな息吹を受けながらこのルール無用と化した聖戦の儀を終わらせるべく行動を取り始める。

 無論ソーティスと言う未だ見ぬ敵を警戒しながらである。




此処までの閲覧ありがとうございました。
魔界側は混乱が始まる中、エミル達地上界側は魔族が潜伏してないかの調査中になります。
そして新たに仲間になったリョウですが、ダイズの様なバトルマニアでもあり純粋にサツキ女王を守る剣であろうとする人物であります。
では、歴史が関わってくるのでこの世界(地上界)の暦の設定を書きます。
地上界の暦は神が世界を創った創世期から2回変わり現代は魔法暦と呼ばれています。
その魔法暦は今年で2035年になります。
更に月日の周期は風、火、土、水の月の4つに分かれ4、5、6が風、7、8、9が火、10、11、12が土、残りの1、2、3が水となり、1年は我々の世界と同じ365日になります。
そして肝心な月日の呼び方はは○の月○日になります。
そして現在は土の月その2の21日です。


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第36話『彼方なる者、現る』

皆様こんにちはです、第36話目を更新致しました。
今回は戦いの序章となります。
各勢力が如何動くかお楽しみ下さいませ。
では、本編へどうぞ。


 遠き日の『彼』の記憶、其処には9歳になり少しだけ元気になり家の中だけなら歩ける様になったティアの姿があった。

 そのティアは兄である『彼』が作った料理を共に食べていた。

 

「ティア、美味しいか?」

 

「うん、美味しいよ。

 ありがとうね、お兄ちゃん」

 

 ティアは自分の手でスプーンやフォークを使いながら包帯だらけの『彼』の料理を摂り、その中で兄妹の会話で微笑ましい空気を醸し出しながら少し咳をしながらも料理を全て自力で食べ終えていた。

 

「ご馳走様でした。

 …あのねお兄ちゃん、お願いがあるの」

 

「何だい、ティア?」

 

 ティアはご馳走様と手を合わせて挨拶をすると『彼』は頷きながら食器を手に取り、重ねて台所に持って行こうとした。

 するとティアが何か『彼』にお願いと言って少し悲しげな表情を向けて話を掛け始める。

 

「あのね、もう闘技場でお金を稼がなくても大丈夫だよ? 

 お家にはもう沢山のお金の蓄えがあるから、お兄ちゃんが怪我をしてまでお金を手に入れなくてももう良いよ? 

 それに闘技場だともしかしたらお兄ちゃんが死んじゃうかも知れないから、だからもう…」

 

「ティア…心配するなって! 

 お兄ちゃんはティアが居る限り無敵なんだ! 

 だから闘技場で死ぬ事は無いさ‼︎

 それにもしもティアに何かあったらお医者様に診て貰うのにお金が必要だからもうちょっと蓄えなきゃいけないから、闘技場引退はもう少し待っててくれって、な?」

 

 ティアは兄が闘技場で荒稼ぎをして金の備蓄が沢山あり、更に生き死にすら賭ける闘技場でもしもがあればと話す。

 しかし『彼』は医者に診て貰う為にもっと蓄えが必要と話し、ガッツポーズをしながら妹が居る限り無敵だとも豪語して死なないと話し、闘技場引退はまだ先になると言って食器を置きティアの手を取りながら優しく微笑んでいた。

 

「お兄ちゃん………うん、分かったよ。

 でも無理は禁物だからね、危なくなったら降参もしてね! 

 絶対だからね!」

 

「ああ、約束するよ。

 だからティア、心配はしないでもうベッドに行こうな?」

 

「うん…ゴホ、ゴホ!」

 

 ティアは何を言っても『彼』は折れる事が無いと悟り、ならばと無理はしない様に話すと『彼』も約束を交わしベッドに向かわせて始める。

 その過程でティアが咳き込んだ為背中を摩りながら2人で歩きベッドに寝かせる。

 

「(…ああ、俺はティアが居る限り無敵なんだ、だから絶対死ぬもんか‼︎

 そしてティアを絶対に守るんだ‼︎)」

 

 それから妹を寝かし付けた『彼』はティアの存在が自分を強く保っている事を再認識した後に再度妹を絶対に守ると決意しながら回復魔法(ライフマジック)を使用して怪我を治し、戸を開けて再び闘技場へと向かう。

 愛しき唯一の家族を守る為に。

 だが『彼』は知らない、ティアはこの僅か半年後に身体を壊し病に罹り、そのまま死ぬ運命が待つ事を…。

 

 

 

 エミル達が地上界でリョウを仲間にし、ヒノモトに見回りを始めてから1週間後の魔界にて。

 魔王の玉座は戦闘痕が各所に残り、その場に居たシエル、ダイズ、アザフィールは所々にダメージを負いながらもティターン達の回復魔法(ライフマジック)IVを受けており、騒ぎが終わった玉座に瓦礫撤去の為に魔族が集まっていた。

 しかし、その場にソーティスの姿は既になかった。

 

「不覚…まさか奴をあの場で逃してしまうとは…」

 

「ふん、1週間も継続戦闘をし我やシエル達の攻撃を凌いだのだ。

 余り気にするなアザフィール、奴が相当力を溜め込んでいただけの事よ」

 

 アザフィールはソーティスをあの場で逃してしまった事を不覚と言い放つも、魔王は敵対者が力を溜めていた為として自身が振る剣を鞘にしまうと再び玉座へと座る。

 そうして魔王やシエル達の回復をティターン達は終えると直ぐに跪き始める。

 

「それでティターン、ティターニア、お前達は何故玉座に来た? 

 時空の腕輪を持って来るのは如何した?」

 

「そ、それがシエル様、魔王様…」

 

【スッ】

 

 シエルもオリハルコンソードを鞘に収めるとティターン兄妹に時空の腕輪を持って来る念話を魔王との謁見中に送っていたのに何故玉座に向かって来たかと問うと、ティターンは恐る恐る懐から何かを出した。

 それはダイズやアザフィールも見間違える筈の無い時空の腕輪だった。

 それが割られており、最早宿っていた力も無くなっていた。

 

「これは…2人共、詳しく説明しろ」

 

「はい、俺達はシエル様からの念話で時空の腕輪の保管庫から3個持って来ようとしてました、しかし…」

 

「私達が腕輪を取ると時空が揺らいで全ての腕輪が破壊された後でした…。

 それでシエル様達が危ないと玉座に…」

 

 ダイズが2人に何があったかを問うとティターン兄妹はシエルの指示通りに時空の腕輪を持って来ようとしたが、時空の揺らぎが起きたと感じた次の瞬間には全ての腕輪が壊れた状態になりシエル達の危機を感じ玉座に向かって来たと報告していた。

 

「ふむ、時間操作系魔法をある程度会得していれば時間改変現象(タイムパラドックス)にも耐性が付き、何が変わったか一部分かるであるからその判断は正しいと言えよう。

 ふん、ソーティスめ今度は余計な邪魔が入らぬ様に魔界の時空の腕輪は我が身に付けた1個以外は全て破壊したか…これでは我以外は何も出来ぬのよう」

 

 魔王は冷静に時間操作系魔法使いは時間改変現象(タイムパラドックス)への耐性がある事を語り、ティターン兄妹の行動は正しかったと語りつつソーティスの今回の行動を分析し、自身が左腕に装備した時空の腕輪以外が破壊された為、ソーティス討滅に自由に動けるのは自分しか居ない、しかし魔王は地上界に行けぬ為に不敵に笑いしてやられたと言った仕草を見せた。

 

「それで『魔王』様、時空の腕輪無き今ソーティス討滅は如何に?」

 

「何も変わらん、お前達3名が事に当たり時空の腕輪を天界経由で手に入れろ。

 ソーティスめも神の領域には手を出せぬ、故に天使共から腕輪を手に入れるのだ。

 幸いにしてお前達も時間改変現象(タイムパラドックス)への耐性はある、ならば奴が貴様達に直接干渉をする前に手に入る可能性はある。

 さあ行け、そして奴を殺せ」

 

 シエルはこの後を如何にすると尋ねると魔王は何も変わらずソーティス殺害を命じる。

 シエル達3名が時間操作系魔法を使える事で時間改変現象(タイムパラドックス)に耐性がある為天界経由で時空の腕輪を入手すれば良いとさえ言い放ちシエル達3名にそのまま行く様に魔王の名の下に無茶な要求をするのだった。

 

「…はい、『魔王』様」

 

 するとシエルが率先して命令を受諾すると、立ち上がり踵を返して魔王の玉座から離れ、更に門の前まで転移しその前まで立っていた。

 するとティターン達まで転移しシエル達を追い掛けて来ていた。

 

「シエル様、ダイズさん、アザフィールの旦那、あんな命令無理ですよ‼︎

 ソーティスに直接干渉される前って、奴がシエル様達に干渉しない訳が無いですよ‼︎」

 

「そうです、奴はシエル様達を今からでも時間改変現象(タイムパラドックス)で…‼︎」

 

 ティターン達は魔王の命令は無茶苦茶であり、時間改変現象(タイムパラドックス)で干渉されない訳が無いと断言し2人でシエル達3人の身を案じていた。

 するとシエルは2人の頭を撫で始め、3人で笑みを浮かべながらアザフィールから口を開き始めた。

 

「ふっ、ティターン達。

 ソーティスは我々3人に干渉しない自信はある。

 何故なら奴は根からの探究家、障害が無ければ何も燃えないと昔から息巻いていた。

 そして魔界側の時空の腕輪を破壊したのは挑戦状だとも私や魔王様は考えた。

 そう、魔界以外で時空の腕輪を手に入れられるならばそうしろ、と言うな」

 

 アザフィールは自身の中にあるソーティスの人物像を振り返り、障害が無いと火が付かない探究家だと話した。

 その上で魔界での時空の腕輪破壊は挑戦状と受け取り魔王も同じ考えだとも口にし、大剣の柄を握り締め始めていた。

 

「ならばその挑戦状、受けない訳が無い。

 玉座で相対して見た奴の力…必ずや上回り俺の拳で砕く!」

 

 それにダイズも反応し、拳を握り締めて顔の前に立てると彼の狂戦士(バトルマニア)の側面が全体的に現れ、ソーティスに完全に狙いを定めて砕くとすら豪語していた。

 これを見たティターンとティターニアはダイズも止められないと悟り、最後の主たるシエルを見ていた。

 

「そんな子犬が甘えたい様な顔を見せるな、2人共。

 心配は要らんさ、ソーティスは我々やこれから利用するエミル達の手で斃される。

 その予感があるから私達は安心して征ける………それにアザフィールは間違った事は言わない。

 だからこそ私はそれを信じ剣を振るいに行く、それだけさ」

 

 最後のシエルは2人を子犬に例えつつソーティスは必ず討たれると話し、更にはエミル達と言うカードがある為笑みを崩さずに頭を撫で続けた。

 そしてアザフィールの言は間違わないと断言し、それを信じて剣を振るうとして2人から手を離し振り返り門へと歩み寄る。

 

「お待ち下さいダイズ様」

 

「…アリアか。

 止めようとしても無駄だぞ?」

 

 そんな3人、その中のダイズに転移して話し掛ける者が居た。

 それはアリアだった。

 ダイズは彼女に止めても無駄と話し彼女の顔を見ようとしていなかった。

 

「いいえ止めませんよ。

 ただ一言、ご武運を」

 

「…武運か、なら受け取っておこう」

 

 しかしアリアは止める所か見送りに来た者としての言葉を贈り彼の背中を押していた。

 それをダイズは受け取ると言うと門を潜り地上界へ転移し始める。

 それを見たアザフィールやシエルも門を潜り始め、シエルに至ってはティターン達に背を向けながら手を上げて見送りに来た事を労う仕草を見せた。

 

【ビュン、ビュン、ビュン‼︎】

 

 そしてソーティス討伐の任を帯びた3人は地上界に向けて転移して行き、見送り組の3人はそれを見届けながらそれぞれの主やアザフィールが無事に帰還する事を祈りながら、魔界側の荒野に佇む門の前で少し立ち尽くした後自身に出来る事をしに転移して去るのであった。

 

 

 

 一方地上界では、リョウを仲間に加えてヒノモトの見回りを終えたエミル達は船でグランヴァニアに向かい、この大地に魔族が潜伏していないかを見回り始めた。

 因みにグランヴァニアは国交正常化後に冒険者ギルドの宿屋も立ち並ぶ様になり、ヴァレルニア港街も慰霊碑が建てられ、その他の街も徐々に復興の兆しが見えていた。

 そして今は2台の馬車でグランヴァニアの街道を見回っていた。

 

「グランヴァニア…あれから復興されつつあって良かったね」

 

「ええ、でもまだそれは始まったばかり。

 私達がこの聖戦の儀を終わらせないと全て解決した事にはならない。

 だから何としても魔王を斃して全てに決着をつけなきゃいけないわ」

 

 ロマンは復興され行くグランヴァニアに良い印象を抱き、エミルもそれは変わらないが矢張り聖戦の儀が終わらない限りアギラの様な理不尽な死を齎す者は現れ続ける為、魔王を斃すと口にし遠い空を見上げていた。

 ロマンもそれを聞き気を引き締め前を向き始めた。

 

「…成る程、アギラの目的は魔王の降臨。

 この戦いは天界側の想定から大きく外れている為天使があの時介入するに至ったのか」

 

「そう…それで、天界の対応の遅さに幻滅したかしら?」

 

「いや天使アイリス、天界も狙われたとなれば最高神様も慎重にならざるを得なくなっただろう。

 しかしそれでも力を貸してくれた、それが答えだろう」

 

 一方荷台ではアイリスやサラ達がリョウにこの戦いの裏側、聖戦の儀についてを話しており、アイリスは天界の対応に幻滅したかと自虐的な発言をする。

 しかしリョウは神の考えについて一定の理解を示し、更にアイリス達が力を貸した事こそが答えと言い放ち必要以上に気にする様子は見られなかった。

 

「じゃあ次の街、『シリンダーツ』に早く向かいましょうか。

 其処でいつも通り見回りをしましょう」

 

 するとエミルは手綱を強く握り馬の走るスピードを少し上げて目的地のシリンダーツに続く街道を進み出した。

 しかし空が暗雲が立ち込め始め、これは雨になると思ったエミルとネイルは馬に走る様に指示を出し馬車が走り始めた。

 

 

 

「見つけたぞ、時空の腕輪を身に付けた者達。

 そして天使アイリスにリコリス、良い実験台になってくれよ?」

 

 その暗雲の先に黒いズボンのポケットに手を入れた銀髪の魔族、ソーティスが浮いておりエミル達を視界に捉えて実験台と呼称して直立不動のまま地面に向かって落ち始めた。

 その瞳に邪悪な意志を映し、全てを実験台にしか見ない魔族がエミル達に狙いを定め彼女達の前に現れようとしていた。

 

 

 

「………っ、止まりなさい‼︎」

 

『ヒヒーン‼︎』

 

 エミルは暗雲が立ち込める空を見上げながらシリンダーツに早く辿り着こうと馬に走る様に指示を出しながらも偶然にも千里眼(ディスタントアイ)の発動を止めていなかった。

 その為なのかエミルは視界に直立不動で空から落ちて来る魔族を目撃する。

 それに伴い馬に止まる指示を出すと馬は急に止まり、それに伴い荷台が揺れネイル達の馬車も急停止を余儀なくされる。

 

「イッテェ‼︎」

 

「エミル殿、何があった⁉︎」

 

「空から魔族が来る‼︎」

 

 荷台が急に揺れた為アルは頭を打ち、他の面々もバランスを崩す中後方のネイルから何かあったか大声を出して確認するとエミルは空から魔族が来ると簡潔に伝え、全員がその言葉で頭を戦闘状態に切り替え馬車から降りようとした。

 しかしルルは頭を押さえて苦しみ始め、1ヶ月前の様な危険予知が発動をしていた。

 

「ルル、大丈夫⁉︎」

 

「うぅ…来る…彼方なる者が…来る…‼︎」

 

『っ‼︎』

 

 サラはルルの状態を気遣い背中を摩ってると、ルルはその口から彼方なる者が来ると苦しみながら口にした。

 その瞬間誓いの翼(オースウイングズ)全員とアイリス、更に魔族と天使故に耳が良いムリアやリコリスが驚愕した表情を浮かべた。

 その次の瞬間、エミル達の馬車の5メートル先に勢い良く魔族が直立不動で落ち、地面に着く30センチ手前で浮かびそのまま静かに大地に足をつけた。

 

「あ、あれが…彼方なる者…ソーティス…‼︎」

 

 エミルやロマンは馬車の運転席からその魔族、ソーティスの姿を目撃するとそのシエル達と同等以上の威圧感に汗を流すも、ネイル達を含めて全員で馬車から降りて武器や杖を構え、アイリス達も本気を出した事で暗雲の空が黄昏に染まり2人から白い翼が生えた。

 

「ふむふむ、如何やら時空の腕輪を身に付けた者は天使アイリス達を含めて13名。

 実験台となるには十分な数だな。

 後はこの実験に付き合うに相応しい実力を持つか検証が必要だな」

 

「お前が彼方なる者ソーティスね‼︎

 私達の前に立ちはだかる災厄なら何であろうと払うのみよ‼︎

 焔震撃(マグマブレイク)瀑風流(タイダルストーム)雷光破(サンダーバースト)‼︎」

 

 ソーティスはエミルやネイル達を値踏みしながら数は十分とし、それに見合う実力があるかを検証…つまりは確認する必要があると話してポケットから手を出した。

 そんな中エミルはソーティスを災厄と断じて払うと宣言した瞬間、複合属性魔法を3種同時に発射し戦闘が開始された。

 ソーティスはそれをジャンプで躱すと次にシャラ、キャシーに視線を移した。

 

「っ、燋風束(マグマバインド)‼︎」

 

大震波(タイダルブレイク)闇氷束(ブラックフローズン)‼︎」

 

「ふっ」

 

 視線から悪意を感じたシャラ、キャシーはそれぞれ複合属性魔法を空中のソーティスに向けて発射し、その動きを止めようとした。

 が、ソーティスは突如信じられない速度で降下、エミルの目の前に立ちその顎に手を添えていた。

 

「っ‼︎」

 

「ふむ、魔法使い達は合格、実験台として申し分無いな………では勇者達は如何かな?」

 

「馬鹿に、するな‼︎」

 

【ブンッ‼︎】

 

 ソーティスは魔法使い3人を合格と話し、次は隣に居る勇者達の実力を推し量ろうと思考を移すが、顎に手を触れられたエミルは馬鹿にされたと感じ杖でソーティスに殴り掛かり、更に隣のロマンも剣で斬り掛かると再び超スピードで後退しそれ等を避ける。

 するとサラが隙ありと矢を放つとソーティスはそれを受け止めて折ると、次にロマン、アル、ルルが突撃し始めた。

 

『はぁぁぁぁ‼︎』

 

「ふむ、弓使いの矢を放つタイミングにそれに合わせた前衛の突撃も間違い無く正しい。

 しかし正しいだけが良いのかな? 

 それを確かめさせてくれ」

 

 サラの矢を手放したソーティスはロマン達が突撃するタイミングを正しいとしながら、それだけで良いのかと哲学的な問いをしながら腕を後方に直立させ、上半身を微動だにさせない特殊な走り方でロマン達に迫り始めた。

 

「喰らいやがれ‼︎」

 

「ふふ」

 

【ガァン‼︎】

 

 まず最初にアルがジャンプし、ミスリルアックスに複合属性を纏わせてソーティスに斬り掛かる。

 しかしソーティスはそれを躱さず急に立ち止まると右手を斧に向かって振るい、何と手刀でアルの一撃を止めてしまった。

 

「ふっ!」

 

【ドンッ‼︎】

 

「ぐぇっ…‼︎」

 

 更にソーティスは左手で魔力を纏わせた掌底を軽く、しかし鋭くアルの鎧の上に押し込まれた瞬間アルはカエルが潰れたかの様な声を上げながら後方に倒れてしまう。

 

「アル‼︎

 やぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「はっ!」

 

【ガキィィィ‼︎】

 

 それを見たルルはミスリルダガー2本でソーティスの急所を突こうとした。

 対するソーティスもダガーに対し手刀の突きを繰り出し、明らかに生身なのに金属同士が衝突したかの様な音が響きダガーが1ミリも動かない拮抗状態にもつれ込んでしまう。

 

「何、だ、これ…⁉︎」

 

「すぅ、はぁ!」

 

【ドガァ‼︎】

 

「ルル‼︎」

 

 ルルは生身で刃に対抗する上に微動だにしない拮抗状態に困惑し何とか押し込もうとした。

 その瞬間ソーティスはルルを引き込む様に手刀を後退させ、少々呼吸をすると今度は蹴りをルルに浴びせて吹き飛ばす。

 それを見たサラはルルの体を抱き止めながら地面に背中を擦らせ、しかしルルへの地面への衝突のダメージを和らげた。

 

「む、今のは内臓を潰すつもりで蹴ったがその感触は無かった…? 

 …そうか、避けられないと知りダガーを蹴りの衝撃が来る直前に此方から離れる様に突きながら体を逸らして威力を和らげたか。

 成る程、聡いな」

 

「よくもアルとルルを‼︎

 許さない、やぁぁぁぁ‼︎」

 

【ガンガンガンギンギンギン‼︎】

 

 ソーティスはルルの内臓を潰す攻撃を繰り出したつもりが思った様な感触が無く考察すると、ルルがダメージを余り負わない様に工夫したと結論付け、それらを総評して聡いと口にしていた。

 その瞬間ロマンがソーティスの前に踏み込み剣で斬り付け、手刀と拳を盾で防ぎながら何度も接近戦を繰り返していた。

 

「ふむ、仲間が危機に陥った瞬間力を発揮するタイプか。

 完全な勇者気質だな」

 

「ロマンばかりに目を向けるな‼︎」

 

【ガンガンガンガンガンガンガンガンガン‼︎】

 

 ソーティスは先程見ていたロマンよりも今の彼の方が力強く感じ取り勇者気質と笑みを浮かべながらその力が何処まで伸びるか検証する気で居た。

 が、その瞬間リョウまでロマンの隣に立ち刀で斬り掛かり2人掛かりでソーティスの相手をしていた。

 しかしソーティスはそれらを手刀で防ぎ斬りながら未だ期待の笑みを浮かべ未だ確かめる側に立っていた。

 

「くっ、テメェふざけんじゃねぇ‼︎」

 

「ぐっ、はぁぁぁぁ‼︎」

 

「アル、ルル‼︎」

 

 其処にアル、ルルが復帰して再びソーティスに向かい武器を振るい4人で連携しながら連撃を浴びせようとする…が、ソーティスのスピードが上がりそれら全てを捌き切り4人同時であっても全然拮抗が取れずにいた。

 

「ガム、ムリア、我等も行くぞ‼︎」

 

『はい‼︎』

 

 其処にネイル達も加わり7人、ルルとネイルがダガーと剣、槍の二刀流になってる為実質9人分の攻撃をソーティスへと浴びせロマンとルル、ムリアは魔法まで加えて攻撃していた…だが、ソーティスは更に加速してそれら全てを魔力を纏わせた手刀で振り払いダメージを負わせられずにいた。

 

「くっ、また速くなった‼︎

 まさか自分に時間を加速させる魔法を掛けてるの⁉︎」

 

「ご明察さ勇者ロマン、時間加速魔法(タイムアクセル)はこれが普通の使い方なのさ。

 そして君達の連携も素晴らしい、そちらは時間操作は抜きで此方に時間加速魔法(タイムアクセル)を5割5分使わせるとは実験台に相応しい! 

 合格だ、おめでとう諸君、君達は我が時間改変現象(タイムパラドックス)の行く末を見るに相応しいと評価しよう‼︎」

 

 ソーティスの異常なスピードにロマンは時間加速魔法(タイムアクセル)を自らに使いそのスピードを発揮してるのかとティターン兄妹達に似た感覚から口にするとソーティスは肯定した上でこれが55%の速さと言い放ち全員を弾いて一定の距離を保たせると全員に対し合格と宣告し、自身の実験の末を見る権利があると評価していた。

 するとロマン達の背後からアイリス、リコリスがソーティスに向かい出し光の矛とブレード付きの籠手を構えて突撃をしていた。

 

「ソーティス、時空を乱す者‼︎

 お前の存在は在ってはならない、神様に代わり我等姉妹がお前を消す‼︎」

 

「漸く来たかいアイリスにリコリス、実験台達の身定めは終わったからこれから君達とも戦おうと思っていた所さ。

 さあ、君達も実験台に相応しいか見せておくれよ‼︎」

 

 アイリスは光の矛を何度もリコリスのブレードと共に振るいながらソーティスはこの世界に在ってはならないと叫び、神の代わりとして戦いを始める。

 そのソーティスも手刀でそれらを弾きながらアイリス達が漸く戦いに来た事を喜び、エミル達同様に実験台に相応しいかを彼女達の様に判断しようとしていた。

 

「アイリス、僕等も行くよ‼︎

 はぁっ‼︎」

 

「アイリスや今のロマン君達なら巻き込まれる心配は無い、焔震撃(マグマブレイク)‼︎」

 

 すると其処に再びロマン達が乱入し、更に今のロマン達ならもう攻撃魔法に巻き込まれる心配は無いとしてエミル達も魔法を全力で放ち、サラも矢を乱れ撃っていた。

 そのエミルの予想通りロマン達は攻撃魔法を避けるソーティスをそれ等を掻い潜りアイリス達と共に9対1の状態に持ち込み乱戦が始まる。

 

「せい、はっ、とう!」

 

 しかしソーティスは時間加速魔法(タイムアクセル)込みの手刀で全てを捌き、更にアルやルルにやった様な掌底や蹴り技を放ち、ロマンは盾でそれを防ぐと掌の跡が盾に残りながら押し出され、他のアイリス達以外のメンバーはギリギリで回避したり蹴りが直撃する前にバックステップで衝撃を和らげたりをし、その度にエミル達から回復魔法(ライフマジック)身体強化(ボディバフ)の掛け直しがあったりと正に入り乱れると言う言葉が正しかった。

 

「くっ、はぁ‼︎」

 

 対するアイリス達は攻撃を受けても我慢し、ソーティスに何とか1撃を浴びせようと躍起になり自身等も時間加速魔法(タイムアクセル)を掛けてソーティスに追い付き攻撃を加えていた。

 それを受けたソーティスは青い血を流すが、笑みを浮かべロマン達と同様にアイリス達も実験台に相応しいと感じ始めていた。

 

「はぁぁぁぁ‼︎」

 

【スパッ‼︎】

 

 その間もロマン達も果敢に攻め続け、アイリスが攻撃した直後にロマンも攻撃した瞬間その剣がソーティスの二の腕を捉え斬り付ける。

 その結果斬られた箇所から青い血が流れ始め、初めてエミル達側の攻撃でソーティスに僅かだがダメージを与える事に成功する。

 

「…ほう、アイリス達の対処への隙に俺にダメージを与えるとは…お前達の評価を上げなければならないな。

 ふっ‼︎」

 

「え、うわっ、うっぐぅぅぅ…‼︎」

 

【グググググググ‼︎】

 

 アイリス達の攻撃後に連携と隙を狙いソーティスへの攻撃に成功させたロマン達に、ソーティスは不敵な笑みを浮かべた後ロマンに時間加速魔法(タイムアクセル)による超スピードで接近し、首を締め上げ片手でロマンを持ち上げ始めた。

 

『ロマン君‼︎』

 

『ロマン‼︎』

 

「さあ次は如何する? 

 次は如何やって俺の予想を超えてくれる?」

 

 エミル達ははロマンが締め上げられる中で何とか救おうと武器を振るうがその度にソーティスに蹴り上げられてしまい前衛は近寄れず、後衛はロマンを盾に使われてしまい攻撃出来ずにいた。

 その中でソーティスは嘲笑い、次なる1手を見る為にその手に収まる首に力が込められ、ロマンも意識を失い掛け、剣に込める力も薄れ始めてしまった。

 

「ふふふ」

 

【ビュゥン、ドドドン‼︎】

 

「っぐ⁉︎」

 

 その邪悪な笑みを浮かべたソーティスの斜め上の背後から魔法が直撃し、ソーティスは態勢を崩しながらやや吹き飛ばされロマンは拘束を解除されて咽せながら息を吸い始めていた。

 

「ゲホッ、ゲホッ、い、今のは…?」

 

【ビュゥゥゥゥ、スゥゥゥ】

 

 ロマンやエミル達は今の魔法が放たれた方角の空を見ると、その空から3人の魔族が降り立ち地に足を付けた。

 その魔族達はエミル達も良く知る、見間違える筈の無い彼女達を助ける行動を取るのに予想外な者達だった。

 

「見つけたぞソーティス‼︎」

 

「魔王様の命の下、貴様を討滅する…かつての我が友よ‼︎」

 

「…ほう、勇者ロマン。

 ソーティスに傷を付けたのか? 

 剣に青い血が付いてるぞ…ふっ、全く想像を超える者達だよ本当に…。

 聞け地上界の戦士と天使達、現時刻を以て聖戦の儀は一旦停戦させて貰う、これは『魔王』様のご意向である‼︎」

 

 その魔族達はソーティスを見るや否や戦闘態勢に入りつつ、魔族の少女はロマンの手を持ち立たせ、その剣に付着した青い血を見て魔界側にとっても目の上の瘤でしか無いソーティスに一矢報いた事を讃え不敵の笑みを浮かべた。

 そしてその少女、シエルはダイズとアザフィールと共に魔王も聖戦の儀を停戦させる意向を叫び、エミル達に視線を送っていた。

 

「…魔界もソーティスが邪魔者だと、そう言いたいの?」

 

「その通りだよエミル、よってお前達から何かして来なければ攻撃はしないと誓う。

 さて、1週間戦い続けてオリハルコンソードが決定打にならないと知れたんだ…故に初めから全力で、此方を抜かせて貰うぞソーティス‼︎」

 

【ビュン、キィィィィィン‼︎】

 

 エミルの確認に対しシエルは此方から何かしなければ彼方も何もしないと誓いを立てられ、ならば目下対策すべきはソーティスと頭を切り替えていた。

 そんな中シエルは1週間の戦いで自身の愛剣が有効打にならない事を結論付けていた為異次元に保管していたある剣を目の前に召喚し、鞘から引き抜き、更にこの武器を十全に扱う為に鎧も魔法でミスリル製の物からオリハルコン製に換装させる。

 そしてその後に鞘を再び異次元に収めた。

 

「その剣は…形はライブグリッターと同じ。

 でもまるで気配が逆…まさかそれが、魔剣ベルグランド⁉︎」

 

「ふっ…」

 

 その剣に形こそライブグリッターと同じだが、ライブグリッターは緑色の魔法元素(マナ)が刀身を覆い強度自体もオリハルコンを超えているとされていた。

 対する此方は赤い魔法元素(マナ)が刀身を覆い禍々しさすら感じさせる物だった。

 エミルは記憶に残る神剣のそれと照らし合わせて直感する、これが魔剣ベルグランドだと。

 それを聞きシエルは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「矢張りベルグランドを抜く事になりましたね、魔族シエル…!」

 

 そのベルグランドを抜いたシエルに対し、魔界に剣を授け誰が担い手になるかを見ていたリコリスはソーティス相手ならば致し方無しと考え、光の籠手を再び構えてその敵を眼前に捉えていた。

 

「…あんた達が何もしないなら私達も何もしない、だからしっかりその分アイツを斃すのに貢献なさい‼︎

 回復魔法(ライフマジック)IV、身体強化(ボディバフ)IV‼︎」

 

「…私達にも支援魔法を。

 ふっ、決断が早いなエミル」

 

 更にエミルはシエルの言葉を1ヶ月前の賭けから信用し、ソーティスを斃す事に貢献せよと言い放ちながらダメージを負った者に回復、そしてシエル達を含めて身体強化(ボディバフ)を掛ける即決を見せてシエルに再び笑みを浮かばせ、そのシエル達はロマンやアイリスの近くに立ち共通の敵であるソーティスに対して武器を構え睨み付ける様にその姿を見据えていた。

 

「地上界、天界、そして魔界…中でもアザフィールとその弟子、更にはベルグランドの担い手と現代で戦えるか! 

 これだからこの魔法に手を出したと言う物、障害が大きく無ければ『時の果て』を見れない‼︎

 さあ来い、少しの間戦ってやろう‼︎」

 

 それ等を見ていたソーティスはベルグランドを抜いたシエルや天界の最強天使アイリス、更には現代の勇者一行達と戦う事自体を喜んでおり、時の果てと呼ばれる物を見たい彼は目の前に立つ3界の勇士達に戦ってやると宣告し魔力を解き放つ。

 そのレベルはエミル達の鑑定眼(アナライズ)で見るとレベルがバラバラに映り測定自体が出来なかった。

 そうして戦いは第2ラウンドに突入し始めるのだった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
ソーティス1人に対し誓いの翼(オースウイングズ)正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)、そしてアイリス&リコリスにシエル達3人と言う3界の最高戦力が戦う事になりました。
更に前章では結局シエルは抜かなかった魔剣ベルグランドを引き抜き、完全に殺る気で満ち溢れてます。
その結果はまた次回に。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第37話『呉越同舟の戦い』

皆様こんにちはです、第37話目更新でございます。
今回は前回からの続きとなっております。
ソーティス1人に3界の戦士達は如何なるのか見てて下さいませ。
では、本編へどうぞ。


「先手必勝、嵐瀑弓‼︎」

 

雷光破(サンダーバースト)‼︎』

 

 第2ラウンド開始時にサラが昂揚するソーティスを水+風の複合属性絶技で狙撃し、更にエミル達はアザフィールも含めて光+雷の複合属性魔法を撃ち敵対者を穿とうとした。

 しかしソーティスはそれを全て時間加速魔法(タイムアクセル)による超スピードで全て躱し切ると突撃し始めた。

 

「ソーティス、我等の正義の刃を受けろ‼︎」

 

「その脳みそカチ割ってジュースにしてやるぜこの野朗‼︎」

 

「はぁぁぁぁ‼︎」

 

 次にネイル、ガム、ムリア、リョウ、アル、ルルが突撃し剣、槍、刀、斧、ダガーを風の絶技で速度を上げながら振るったり、氷の絶技で足を凍らせようと武器を振るった。

 しかしソーティスはそれも全て躱し今度は全員の足を払った後に回転蹴りを見舞い6人を難なく吹き飛ばす。

 

「ソーティス、俺の拳を受けろ‼︎」

 

「世界の秩序を乱す者、死に絶えなさい‼︎」

 

「ふっ、魔族と天使が共に来るか…面白い!」

 

 その次にはダイズ、リコリスが時間加速魔法(タイムアクセル)を使用しソーティスと同等のスピードを得て2人で何故か息があった即席コンビネーションを発揮して拳やブレード、蹴りも合わせて浴びせ始めた。

 それをソーティスは面白いと称して全ての攻撃を受け流し、躱し、そして2人の拳が同時に放たれた瞬間にそれを重ね合わせたと思うと受け流す投げ技を披露し2人を遇らう。

 

「くっ、舐めるなぁ‼︎」

 

「はぁ‼︎」

 

 しかし投げ飛ばされたダイズは怒りを剥き出しにするとリコリスと共に態勢を空中で立て直しソーティスに向かい再び突撃して拳を浴びせようとした。

 その技のキレは視界に捉えてるシエルやアイリスの中で1番だった。

 

「甘い」

 

【ドンッ‼︎】

 

『ぐはぁっ‼︎』

 

 しかしソーティスは2人を迎え撃つべく突撃し、彼等よりも早く掌で押す動作で攻撃して2人を吹き飛ばす。

 ダイズ、リコリスはこの攻撃は一見すると大した事の無い攻撃に少し吐血していた。

 これはアルも他の皆も受けた魔力を帯びた掌を無駄な動作無く全身の内部に送り込まれ内側からダメージを受けるソーティス独自の技である。

 そしてこれをモロに、加減抜きで受けた為動けなくなってしまう。

 

「リコリス‼︎」

 

「視線を逸らすな勇者ロマン、奴等なら大丈夫だ‼︎

 それよりも奴が来たぞ‼︎」

 

 リコリスに視線を向けるロマンにシエルが視線をソーティスから逸らさずに大丈夫だと言い放ち向かって来る敵に集中せよと警告する。

 それを見てか先ずはアザフィールからソーティスに向かい、その大剣を振り下ろし手刀とぶつかり合った。

 

「ソーティス、かつての我が友にして共に魔界を治めようとした者よ‼︎

 我が剣で貴様の過ち、時の改竄をもう起こさせはせん‼︎」

 

「アザフィール、お前から来てくれるとは嬉しいぞ‼︎

 さあ、かつての如く戯れるとしようではないか、友としてなぁ‼︎」

 

【ドンガンギンガンッ‼︎】

 

 アザフィールとソーティスはかつての友同士と言う立場でありながら思想から対立し合い、そして今正に殺し合いをしておりその激しさは感情的に見れば明らかにダイズやリコリス以上に動いており其処に篭る殺意もまた段違いであった。

 更に戦い方も互いの手癖、戦法を理解し合っての潰し合いであり矢張り今まで突撃し合った者達の中でも苛烈な戦いを繰り広げていた。

 

「す、凄い…」

 

「ぼーっとするな勇者ロマン‼︎

 我々も行くぞ、アイリス‼︎

 それから勇者ロマン受け取れ、時間加速魔法(タイムアクセル)‼︎」

 

 ロマンはその戦いを観て凄まじさを体感し、改めてダイズやリコリス、アザフィールの領域は遠く険しいと思いながら背後に居るエミル達へのガードは緩めずにいた。

 しかしシエルにはぼーっとしてた様に映ったらしく背中を叩かれアイリスと共にその戦いの場に向かう事を叫ばれた。

 更にシエルはこのタイミングでロマンに時間加速魔法(タイムアクセル)を掛けて来る。

 

「わ、わっ⁉︎

 周りの風景が…ゆっくりに見える⁉︎」

 

「はぁ、時空の腕輪は装備者が敵対者と認識する者の時間操作系魔法を受け付けなくするのに…ロマン、貴方はお人好しですよ全く!」

 

 時間加速魔法(タイムアクセル)を受けたロマンは周りを見るとエミル達の動きがゆっくりに映り、アザフィールとソーティスの動きも超然としながらも先程と比べても少しは目で捉えられるスピードに収まり驚いていた。

 対するアイリスは時空の腕輪の効果で時間操作系は敵対者に掛けられても無効になる筈なのに時間加速魔法(タイムアクセル)が発動した事にお人好しと叫びながらソーティスにシエルと共に攻撃を開始し、遅れてロマンも攻撃に入る。

 

「ソーティス、事を起こされる前に貴様は始末する‼︎」

 

「時空を乱す者の存在は許されない、消えなさいソーティス‼︎」

 

「やぁっ‼︎」

 

 シエル、アイリス、ロマンが自身が加速中にアザフィールとソーティスの間に割って入り攻撃を開始する。

 それを見たアザフィールは少し後退し、連携が取れる位置に立つ。

 そしてシエルはベルグランドを振るうが、ソーティスは今まで手刀で打ち合っていた物を避け、アイリスやロマンの矛と剣の方を手刀や蹴りで対処していた。

 

「ベルグランドを避けてる…? 

 なら、シエルを中心に攻撃しよう‼︎」

 

「…チッ!」

 

 ロマンはシエルの攻撃ばかりを回避してる事に気付き、其処からシエルを中心に攻撃パターンを組むと叫ぶとソーティスは要らぬ事に気付いたなと言わんばかりに舌打ちをし、ロマン達が攻撃してる間にシエルを攻撃に参加させると言う足止めに入りアザフィールも当然ソーティスを殺す為にその戦法を使い始めた。

 

「ほらほら如何したんだ彼方なる者、そんなにベルグランドが怖いのか? 

 なら、もっともっとこの刃を受けろ‼︎」

 

「ふっ、1週間戦い続けて有効打が見つからないからゴリ押しで来るか…間違っては無いが俺の嫌いなタイプだな!」

 

 そのシエルもまたベルグランド『だけ』は避け続けてる事を既に察している為時間加速中に飛んでくる魔法や矢、更に何とか捉えようとするアルやネイル達に同じく加速中で直ぐ様復帰したダイズとリコリス、アイリスやロマン達の間を縫ってベルグランドを当てようとしていた。

 ソーティスはそんなシエルに苛立ち、ベルグランドの斬撃を避けるのに必死になっていた。

 

「はぁ‼︎」

 

【ズシャッ‼︎】

 

「っ、流石勇者か、時間加速の中でも適応し始めたか!」

 

 其処にロマンが隙を見つけて斬り掛かり、ソーティスに2度目の傷を付けた。

 それを見たソーティス自身は勇者としての資質の高さを評価し胴体に付いた小さな傷を拭い、ロマンを見据えていた。

 

「今が好機、リコリス‼︎」

 

「はい姉様‼︎

 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

【ガキガキガキガキガキーン‼︎】

 

 その時アイリスがリコリスに指示を出し、共に魔力を集中すると光の矛がソーティスを囲み内張の結界魔法(シールドマジック)Vの様な内部の者を拘束する空間結界を作り出しソーティスはその結界を叩くが意外に硬く直ぐには破れない様子であった。

 

「チッ…!」

 

「良く動けなくしたなアイリス、リコリス! 

 ではこれから処刑を行う、覚悟しろソーティス‼︎」

 

【バチバチバチバチバチバチバチ、キィィィィィン‼︎】

 

 その結界をまたと無い好機と見たシエルはベルグランドを両手で持ち、振り上げる前の姿勢を保ち魔力を込め始めた。

 するとベルグランドは赤い魔力の輝きから赤黒い闇の絶技と同じ禍々しい魔力光に包まれるが、その込められた魔力は明らかに暗黒破を遥かに上回る魔力量を見せ付けていた。

 そしてシエルが立ち止まった為エミル達にもその光景は普通の速さで映っていた。

 

「あれは…やっぱり…‼︎」

 

「光ある所闇あり、生は死に反転し全てを蹂躙し尽くす………受けるが良い、絶界魔剣‼︎

 ベルグランドォォ‼︎」

 

【ズガァァァァァァァァァッ‼︎】

 

 エミルはその闇き魔力光を神剣ライブグリッターをそのまま反転させた様な物だと感じ取り敵に回せば間違い無く死が待つその剣に汗を流していた。

 その間にシエルは瞳を閉じながらベルグランドの真の力を解放する為の詠唱をする。

 更にそれが言い切られた瞬間ベルグランド全体から赤黒い魔力が充満した所でその眼を見開きソーティスを捉える。

 そして剣を振り上げた瞬間暗黒破の様な闇き一閃が大地を穿ちながらソーティスに向かい始めた。

 

「…ふう、矢張り目覚めたてはこれが限界か…!」

 

【ブゥン、カチカチカチ、ビュン、ズガァァァァァァァァァッ‼︎】

 

 しかしソーティスはそんな闇の一閃を前にしながらも余裕を見せ、自身が現代に目覚めてから時間が余り経っていない現状はこれが限界と見切ると手を翳し、その先に時計の様な魔法陣が現れソーティスはその中に吸い込まれる。

 その直後にベルグランドの魔力の斬撃が空間結界諸共その場を破壊の渦に飲み込んだ。

 後に残ったのは穿たれた大地のみとなっていた。

 

「…チッ、ソーティスは時間跳躍魔法(タイムジャンプ)で逃げたか」

 

「我々天使の空間結界もアレには対応してませんからね…」

 

「だがソーティスはベルグランドを恐れてる、それだけ知れたなら僥倖だろう」

 

 それからその場を見たダイズは直前の行動からソーティスは時間を跳び逃げたと察し、アイリスも全力戦闘形態を解除しながら天使の空間結界も時間跳躍魔法(タイムジャンプ)には形無しだとして逃した事を気に掛けていた。

 対するシエルはベルグランドが現段階で有効打だと知れただけでも良かった為ベルグランドを再び異次元に保管して戦闘態勢から警戒態勢に変わっていた。

 

「畜生が、俺様達は全く役に立たなかった…‼︎」

 

「いや、アイリス達も使うのを渋った時間加速魔法(タイムアクセル)抜きで此処まで保たせたんだ、お前達は十分活躍したさ。

 …それでアイリスにリコリス、何故時間操作系魔法を使うのを渋った? 

 ソーティス相手に出し惜しみは無しにしなければならないと理解出来なかったか?」

 

 警戒態勢に入ったアル達はロマンしか碌に役に立たなかった事を悔いていたが、シエルは時間加速魔法(タイムアクセル)抜きで自身達が来るまで耐えた事を称賛していた。

 しかしそんなシエルはアイリス達の方を呆れた目で見つめながら何故時間操作系魔法を使い渋ったかを問い始めた。

 

「…目覚めたてのソーティスならばエミル達と私達だけでも仕留められる、そして奴を討滅するのは天使の役目と考えたからよ。

 けれどその考え自体甘かったと痛感したわ…エミル、キャシー、シャラ、ロマン、ルル、ムリア、これから時間操作系魔法を貴女達に授けるわ。

 これも私達の怠慢の対価よ」

 

 アイリスやリコリスは目覚めたばかりのソーティスならばエミル達と協力すれば時間加速魔法(タイムアクセル)等を使わずに倒せ、更に彼方なる者は天使が討つのが使命と語るが、それが怠慢だった事を認めてエミル達魔法使いやロマン、ルル、ムリアに時間操作系魔法を授けると話し術式を教えようとしていた。

 

「(アイリス…あれだけ忌避していた時間操作系魔法を私達に教えるなんて…余程ソーティスの実力が想定外過ぎたのね…)」

 

 しかしエミル達はアイリスが時間操作系魔法を他者に教える事を避けていた事を知る為、特にエミルはソーティスが其処まで想定外の実力を発揮していたのだと言動や態度から感じ取り特に何か噛み付く事はせずに彼女達を見守る事にした。

 これも1ヶ月もずっと一緒に過ごして等身大の彼女達を知れた為である。

 

「怠慢次いでにアイリス達に頼みたい事がある、時空の腕輪を私とダイズ、アザフィールの分を用意してくれ。

 生憎と魔界にあった腕輪は奴に全て破壊されてしまい天界を頼らざるを得なくなってな」

 

「…そう、なら3人は此方に来て。

 リコリス」

 

「はい…」

 

 するとシエルはアイリスに頼み事として時空の腕輪を3人分用意してくれと話すと、アイリスは先程の落ち度もあってかすんなりと要求を通し、リコリスと共に天界製魔法袋(マナポーチ)から時空の腕輪を所持して丁度残った3個を取り出し、それをシエル達に引き渡して左腕に装備するのを見届けた。

 

「…よし、これで時間改変現象(タイムパラドックス)に怯える心配は失せたな。

 後はソーティスを存分に追うだけだな」

 

「…もしかして神様は、リョウだけじゃなくシエル達にも時空の腕輪が必要だって未来を視て時空の腕輪を4個アイリス達に渡したのかな?」

 

 シエル達3人はそれを装備してこれが時空の腕輪で破壊されてない物と確認していた。

 時間改変現象(タイムパラドックス)の脅威に怯える心配は無くなったと一見して怯えている様子の無いシエルが話すと、エミルは神がこの事態になると未来視で視た為時空の腕輪を4個アイリスとリコリスに託したのかと話し、アイリス達もそう言う事なのだろうと納得していた。

 

「有り得る話だ、神は全てを見透す眼を持つとされてる。

 ならば俺達がソーティスを追う事も把握してる筈だ」

 

「流石は我らが世界を創造し、今なお世界を見透す者であると言えるだろう」

 

 ダイズやアザフィールもエミルの想像に頷き、神は全てを見透す事を話しながらこの事態を想定したと断言しながら時空の腕輪を確認し終えて彼女達を見据えながら会話をしていた。

 

「…それにしても、魔界もソーティスを追って来るなんてね」

 

「当たり前だ、あんな居るだけで全ての土台を引っ掻き回す存在など『魔王』様で無くとも目障りと判断するさ。

 だからこそ今地上界には私達以外の魔族が居ないんだ、ソーティスへの警戒からな」

 

「あ、そうなんだ」

 

 それからエミル達は互いに距離を取りながら会話を始め、同族を魔界側が追う事を不思議がったがその答えをシエルは目障りと魔王が判断せずとも自分達が判断する様に言葉を口から出していた。

 更に魔界側の情勢としてソーティスへの警戒へ全振りした為地上界には魔族が現在ソーティス以外には自分達4人しかいない事を暴露した。

 

「同族にまで此処まで警戒されるたぁ相当だな。

 時間跳躍魔法(タイムジャンプ)は其処までの禁忌って訳か」

 

「そうさ、全てを支配したい『魔王』様は時空が乱れ支配する対象その物が滅ぶ可能性を秘めたこの魔法を自身で覚え使う事が無い様にしてる程だ。

 故にソーティスがこれを会得した時点で危険因子と見做してアザフィールと共に奴を封印した程だ。

 此処まで言えば魔界側が如何に奴を警戒してるか分かるな?」

 

 そうしてアルは改めてソーティスが事態に疎い地上界以外から最大級の警戒をされてると理解すると、シエルが魔王も自身の野望を潰しかねないこの魔法を覚える気も使う気がないと話す。

 更には会得した時点で危険因子だと見做してアザフィールと共にソーティス封印をしたと説明し、エミル達は互いに友と呼び合ったアザフィールを見てそれ程厄介かと判断していた。

 

「それにしても、あの絶好の機会と言える場でソーティスを逃したのは手痛いだろう…」

 

「シエルのあの暗黒破を更に強めた様な1撃を避けられた上に何処に逃げたんだろうね…?」

 

「暗黒破みたいな、か。

 ふっ、寧ろ闇の絶技の方がベルグランドの模倣なんだがな。

 さて…」

 

 その中でネイルがソーティスを逃したのは手痛いと口にすると、サラもシエルの強大な1撃を避けた上に何処に逃げたのかと周りを見てエミル達は手を上げると、アイリスとベルグランドが闇の絶技の本元としれっと語るシエルはベルグランドで穿たれた場所に移動して時空の腕輪を胸元の前に構える。

 すると赤い文字が腕輪の上に浮かび上がり構えた腕を戻してその文字を見始めていた。

 

「…? 

 ロマン君」

 

「うん」

 

【ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。

 バッ、キィィィィィン、カチカチカチカチ】

 

 それを見たエミルとロマンもアイリス達に近寄り同じ様にしてみると時計の音がしながらまた同じ様に文字が浮かび上がった。

 更に遠目で分からなかったがこれを近場で見るとそれは数字であり、エミルとロマンは数字を見ながら何なのかと思っていた。

 

「赤い数字…そしてこの暦と日時…奴は1ヶ月前に跳んだな」

 

「えっ? 

 …えっと、この数字を今の魔法暦に変えてこっちを日時に変えると…確かに『魔法暦2035年』になってこっちは1ヶ月前、土の月その1の28日になるわね。

 その時は確か…魔血破(デモンズボム)が起爆された日ね………」

 

 シエルが腕輪に浮かんだ数字や赤い文字から1ヶ月前と断定すると、エミルは直ぐに数字の並びを見ると確かに現在の時間から丁度1ヶ月前、魔血破(デモンズボム)が起爆した日になっていると解読しロマンも同じ様に見ると確かにとなりつつ、目の前で爆破されたギャランの事を思い出し暗い気分になっていた。

 

「時空の腕輪で奴を追うには先ず時間改変現象(タイムパラドックス)が起きなければその異常地点に跳ぶ事が出来ない…疲労が回復するまで其処に潜伏する気ね、考えたわね」

 

「其処がソーティスの厄介さよ。

 奴は慎重に事を運ぶと思いきや大胆に動く、更には自身の無理を理解してその無理を行う事が無い。

 現時点でシエル様達を含めた我等に勝てぬと踏んでの潜伏も其処から来ている。

 全く、見極めが良過ぎる奴だ」

 

 リコリスは時空の腕輪を使った追跡は時間改変現象(タイムパラドックス)で異常が発生しなければその地点には行けないと話すとソーティスを良く知るアザフィールが彼の厄介さや無理は行わない慎重さを語りつつ大剣を仕舞いシエルとダイズの側に立ち2度も仕留められなかった事を気にした様子を見せていた。

 

「アザフィール、奴を仕留められなかったとは言え矢張りベルグランドが奴を殺す鍵だと知れたんだ。

 余り気にするな」

 

「…御意」

 

 シエルはアザフィールの表情からソーティスを仕留められなかった事を悔いている事を悟り有効打が見つかったと言う自身達に有意義な情報を前面に出していた。

 それを聞いたアザフィールも自身の手で決着をと思っていた所から頭を切り替えて次のソーティス対策を脳内で構築し始めた。

 

「さあエミル達、今度は抜からない様に教えられる範囲の時間操作系魔法の術式を全て教えるから来なさい」

 

「ええアイリス。

 …え、あれ? 

 この魔法、術式を見たら光でも闇でもない、と言うより属性が無い? 

 支援魔法は光属性か闇属性が一般なのに…」

 

 一方エミル達側はアイリスから時間操作系魔法を教えられる分のみ教えると術式を展開しみせられていた。

 それを見たエミルはこの魔法が支援魔法は光属性か闇属性が一般である筈なのにこの魔法には属性その物が無いと読み取り困惑していた。

 

「ええ、時間操作系魔法は属性が全く無い魔法の中でも特殊な物なの。

 だから属性を変換する技術も要らないから直ぐ使える。

 それに覚えて使うなら複雑な体内魔力の流れを必要としない、強いて言うなら持続時間を上げるためだけに体内魔力の量が必要になるの。

 故にこれは別名無の魔法と呼ばれているわ」

 

 アイリスは時間操作系魔法…無の魔法を詳細に語り出し火属性の様に属性変換する体内魔力の流れをコントロールしたりする技術が必要無く、体内魔力の量で効果時間の持続を上げるのみの為覚える事も使う事も難しく無いと話した。

 現にエミルから見て術式には本来ならある一定値のレベルで使える様になるリミッターとも言える推奨レベル値が設定されていなかった。

 

「そしてエミル程の才能やロマンの様な耐性が有れば時間跳躍魔法(タイムジャンプ)まで自力で術式を頭の中で構築出来てしまう…これだから私は貴女達に教えず、あの場でソーティスを始末したかったのよ」

 

 更にアイリスはエミル程の才能やロマンみたいな時間操作系魔法への耐性があれば術式を教えなくても時間跳躍魔法(タイムジャンプ)の術式を自然と構築出来る危険性があった為、アイリスはこの魔法を教えずにソーティスを始末しようとしたとまで話してエミル達をこの手に掛ける可能性を排除したかったらしい。

 

「…そう、だから渋ってたのね。

 私達がソーティスの様になるのを避ける為に」

 

 それを聞きエミル達はアイリスの考えを納得しながら術式を覚え一通りの魔法を使える様にした。

 そして試しにエミルは自身に時間加速魔法(タイムアクセル)を使うと体内魔力が浪費され続けながら加速中の世界を体感し、これが先程までロマン達が見てた光景と思いながら直ぐに魔法を解除した。

 

「おまけに時間操作系魔法は熟練度に左右されずに効果が発揮できる。

 これで全ての時間操作系魔法を会得し、他の時間にまで跳ぶソーティスの厄介さが分かったか?」

 

「…ええ、それにアイリスの言う通り時間跳躍魔法(タイムジャンプ)の術式が頭に浮かびそうで怖いわ。

 貴女達は良く平気な顔でこの魔法を使えるわね?」

 

 するとシエルがエミルの前に立ち、周りがやや警戒する中でこの体系の魔法は熟練度が必要無い事やエミルはアイリスが危惧した様に時間跳躍魔法(タイムジャンプ)の術式が頭の中で浮かび上がり掛けたりと言った事を確認し、ソーティスの厄介さや彼女やアイリス達が平気でこれらを使う神経の図太さに逆に関心を覚えていた。

 

「ふん、こんな物平静を保つか俺の様に別の狂気を持つ事でそちらに意識が向かずに済む。

 現に狂戦士(バトルマニア)である俺が時間跳躍魔法(タイムジャンプ)に手を伸ばしていないからそれは実証済みだ」

 

「…平静を保つか、自ら別の狂気に身を浸す事でそちらに意識を向けない様にする…言ってる事は滅茶苦茶だけども理には適ってるわね。

 狂戦士ダイズがそれを証明している訳だからね」

 

 其処にダイズが時間跳躍魔法(タイムジャンプ)への欲求から意識を逸らすには平静か別の狂気が必要だと話し、自身の存在を実証としてエミルの目の前に立たせる。

 するとエミルも滅茶苦茶ではあるが理に適っていると話して頷いていた。

 これにはロマンも滅茶苦茶と思いつつ、シエルやアイリス達を見ながら納得せざるを得なくなっていた。

 

「さて、改めてだがエミルとロマン達。

 ソーティスを始末するまでは互いに手を出さない限りは共闘関係でいる事とする、これで問題は無いか?」

 

「…貴女の魔剣ベルグランドが奴に有効打だと明らかになっているからそれしか道が無い事は明らか、なら合理的に考えて私は反対はしないわ。

 けど背中から斬って来たら倍返しでは済まさないから覚悟なさいよ」

 

「それはお互い様だ」

 

 最後にシエルがエミル達にソーティス討伐までは共闘関係である事を敢えて話すと、エミル達は神剣ライブグリッターが無い為魔剣を持つシエルを中心に戦陣を組む事を余儀無くされてるので背後から攻撃したらただでは済まさないと互いに警告し合いながらソーティス討伐の共闘関係が改めて結ばれた。

 

「さて、これから過去に逃げたソーティスを如何するかなんだけど…」

 

「過去に逃げた以上、事が起こるまでは此方から干渉しようが無いです。

 奴が小さな時間改変現象(タイムパラドックス)を起こすのを待つわよ、エミル達」

 

 次にエミルは過去に逃げたソーティスを如何するかと話すと、アイリスは事が起こるまでは干渉出来ないと話しソーティスが時間改変現象(タイムパラドックス)を起こすまでは待たなければならないとしてリコリスと共に逃げた馬達の回収をしていた。

 

「なら俺達の武具をシリンダーツで直すぞ。

 見ろよこれ、奴の手形や手刀の斬り傷が鎧に残ってやがるぜ‼︎」

 

「これはソーティス独自の戦い方の為だな。

 奴は手や腕に魔力、脚を集中させて絶技無しでも敵の内側にダメージを与える独特の戦い方をしてる。

 実際身体の外側より内側の方が痛いだろう?」

 

 するとアルは全員の武具を指差しながらソーティスの手形や手刀の傷跡がある為シリンダーツでこれらを直そうと提案するとエミル達は頷く。

 その中でシエルはソーティス独自の、ダイズの拳法とはまた違う戦い方の所為であると話して身体の内側を破壊するのが目的の拳だとしてソーティスの拳や掌底等を受けた全員はその部分を摩っていた。

 

「(さて、1ヶ月前の過去に逃げたとしてその次は一体何を如何する気だ、ソーティスよ…)」

 

 その中でアザフィールは過去に逃げたソーティスがどんな事を起こすのかを考え始め、エミルやアイリス、シエル達全員も神経を研ぎ澄ませて何が起きても良い様に警戒態勢を解かずにシリンダーツに向かうのであった。

 因みにシエル達は『変身魔法(メタモルフォーゼ)II』を使い地上界の者に化けて余計な混乱を避ける様にするのであった。

 

「(それにしても属性が『無い』ね………もしかしたら、行けるかも知れないわね…)」

 

 そしてエミルは時間操作系魔法に属性が『無い』事に着眼し、別の意味で使えるかも知れないと考えて脳内で魔法術式を構築を開始し、全員に内緒でまた魔法を創り上げようとしていた。

 そのエミルの顔を見てロマンはまた何かを思い付いたと察し、彼女の口から語られるその時を待つ選択を取った。

 これも全てはエミルを信頼しての事であり、彼女との絆が深まってる証

 であった。

 

 

 

「ふう、矢張り世界の均衡を守る為の神器は俺には特攻となってしまうか。

 それだけ知れただけでも先の逃走は意味があったな」

 

 一方、1ヶ月前の過去に逃げたソーティスは魔剣ベルグランドは自身には毒になる事を理解し、それを知った事を意味のある物と捉えながら門の前に立っていた。

 

「…さて…これから有意義な実験を始めようか。

 現代の勇者達はこれを見抜くか、また時の果てをいよいよ以て見る事が出来るか楽しみだ…ふっ!」

 

【ブン、カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

 そしてソーティスはエミルやロマン達が自身が仕掛ける実験や罠に気付くか、更には自身の目的である時の果てを見る事が出来るかを楽しみにしながら再び時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を発動し何処かの時間軸に跳び去った。

 彼が何処に跳んだか、また実験とは何か誰1人として分からぬままそれが行われるのを、現代のエミル達は待つしか無かった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
ソーティスは結局逃げ果せ、エミル達はシエル達と取り敢えずの同盟を結びました。
そしてそのソーティスはまた別の時間軸に跳び、何かをしようとしていますがそれが何なのかはまたいつか…。
因みに前回シエルが鎧を換装した理由ですが、ベルグランドの真の力に耐えられる鎧はこの世の中でオリハルコン製しか無く、幾らミスリルに二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を掛けても内側から融解してしまうからです。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第38話『時間改変現象』

皆様こんにちはです、第38話目更新でございます。
今回からこの章の主題となる事件が発生致します。
これをエミル達が如何に解決するかお楽しみ下さいませ。
では、本編へどうぞ。


 遠き日の『彼』の記憶、あれから4ヶ月が経過した時にティアが突然倒れ、以前よりも体調が悪化し苦しむ日々が続いていた。

 それも、日に日に悪化して行き遂に熱を出して倒れてしまっていた。

 

「先生、ティアは、ティアは治るんですか⁉︎

 また立って歩けるんですよね⁉︎」

 

「…これは現在の魔界の医学では治せない病気になってしまってる。

 元々生まれた時からレベル220を超えて名前を得て、その所為で体内魔力を制御出来ずに内なる魔力が身体を壊し切った結果によりこうなったとしか言えないね。

 保って2ヶ月…覚悟はしておいた方が良いよ」

 

 闘技場で荒稼ぎした金を使い名医を呼んだ『彼』はその医者から残酷な余命宣告を受けてしまう。

 それを聞いた『彼は』膝から崩れ落ち、この世で唯一の最愛の妹が残り2ヶ月の生命しか無いと言う絶望の淵に立たされ、涙すら流れていた。

 

「ではせめて痛みを和らげる為の痛み止めを処方して置きます。

 …こんなにボロボロになって良く頑張ったね、残りの時間は妹さんと一緒に過ごしなさい、それが妹さんの為だよ」

 

 それから医者はこの病気の痛みを和らげる痛み止めを処方箋として『彼』に渡すと、肩を叩きながら残り僅かな時間を妹と過ごす事がティアの為だと告げると部屋から出て行き、家からも去って行った。

 

「はぁ、はぁ、お兄ちゃん…ゴホッ、ゴホッ…‼︎」

 

「ティアッ‼︎

 …クソ、クソ、何でティアばかりがこんな…‼︎」

 

 ティアが意識を失いながら兄を苦しみながら呼ぶ姿を見た『彼』はゆっくり薬を飲ませると床を叩き、泣き崩れながら死ぬしか無い運命を呪い始めていた。

 此処から2ヶ月間弱り行くティアを看病し続け、そしてそのまま死んでしまい『彼』は覇道を歩む事になるのだ。

 それが運命のあるべき形である。

 確定した、変える事が出来ぬ流れの果てである。

 

 

「ふっ、ふっふっふ…」

 

 しかし、その運命に何者かの介入が無ければである。

 その兄妹の家の前に、彼等に害意を及ぼす者がたった『今』現れるのだった。

 それも、誰にも気付かれず密かに…。

 

 

 

 一方の現代、シリンダーツの鍛冶屋をアルが借りてソーティスの手により傷付いた自分達の武具を全て直すと、それぞれに武具を宿屋で渡していた。

 

「おらよ、全部キッチリ直してやったぜ。

 ったく、エミルの二重魔法祝印(ダブルエンチャント)で強度が上がってるのに何故傷が付きやがったんだ」

 

「それは単純ですよ、オリハルコン製の武具でしかソーティスの闘法に耐えられる武具が存在しないからです。

 幾ら魔法祝印(エンチャント)で外側の強度を引き上げようと、内側にダメージを浸透させる彼の技にミスリルでは耐えられないのですよ」

 

 アルはエミルの二重魔法祝印(ダブルエンチャント)付きの武具なのに傷を付けられた事を不審がると、隣の席で3人で座るエリスの姿になったシエルは淡々とソーティスとまともにやり合える武具はオリハルコン製の物以外に無いと話しながら紅茶を飲みながら告げていた。

 外側より内側にダメージを与えるソーティスの闘法ではミスリル製は無意味とも取れる言動をし、アルに舌打ちさせていた。

 

「…アンタ、ソーティスにはオリハルコンの武具しか対抗出来ないのは分かったけど何時もの口調で話してくれない? 

 そのいかにもお淑やか風な口調に慣れないんだけど」

 

「あらごめんなさいエミルさん。

 この姿になるとこの口調になる癖を付けてしまって何時もの口調が出し辛くなっていますの。

 これも練習の成果、と言った所ですわ」

 

 するとエミルはシエルの今の口調に調子を狂わされ、魔族としての姿の方の堂々とした口調で話す様に要求したが、シエルはこの姿になると口調もこのお淑やかな口調になる癖が付いていると話し、如何やら本人も意識して話そうとしない限りは何時もの口調が出なくなる様であった。

 しかし2人の雰囲気はシエル側は笑みを浮かべているが、エミルは不機嫌であり明らかに相性が悪いと言った様子だった。

 

「…それで、魔界も今回の件が厄介だから聖戦の儀は一旦停戦にしてソーティス1人を倒す事に全力を注ぐって認識で合っているの?」

 

「ああ、その通りだ勇者ロマン。

 だが奴に魔王様以外で対抗出来るのは現代には俺やシエル、アザフィール殿しか居ない為この3人で事を当たる様にしてる。

 つまり、お前達の力も存分に使わせて貰う、と言う訳さ」

 

 それからロマンは険悪ムードな2人を一旦置き、ダイズに魔界の対応についての認識を両者で共有すると、魔界は矢張り魔王以外ではこの3人しかソーティスに対抗出来ない為、ティターン兄妹の姿も見当たらない事から理解し、更に自分達地上界、天界の主戦力を使うとあっさり彼は話しながらロマン達に期待の目を向けていた。

 

「そんな事言って、上手い事私達だけ負傷とかさせてアレコレしようとか考えてるんでしょ?」

 

「サラの言う通りよ、貴女達が無償で手助けなんかする訳が無い。

 そう言う意図があるんでしょ、シエル?」

 

「はい、勿論ですよ。

 ただ事はそんなに上手く運ぶ訳がないですからこうなったら良いなぁ〜と言った願望程度ですけれどね」

 

 しかしサラは矢張り今まで敵対した者がそんな簡単に手を取り合う訳が無いと考え、地上界にだけ打撃が入る様な同盟関係にあるとルルと共に考えを語るとシエルはあっさりと肯定した。

 しかしそんなに都合良く行かないとも話し、その態度からこの姿になってもシエルはシエルのままと改めて思い知らされる。

 その為余計にエミルに険悪感を出させる結果を生んでいた。

 

「おほん、だがそれを隠す事無く此方に話すと言う事は、矢張りソーティスは其処までの難敵であると言う事なのだろう?」

 

「その通りでございます、ネイル殿。

 かつての私の友はあの様に厄介極まり無い存在であります。

 故に此方も手は抜けないのです」

 

 するとネイルは咳払いをしてからそんな打算的な物も隠さないで話すと言う事はソーティスと言う存在が厄介過ぎると言う事を聞くとアザフィールがその通りと答え、それ故に手を抜けないとまで明かしてシエル共々あくまで共通の敵が居る為仕方無く、しかしやるから手を組むからには徹底的にと言う気概が感じられ、此処まで清々しければ逆に信用出来るとエミルは渋々考えた。

 

「ならばその剣、拳で全てを語れ。

 そうすれば俺達も全力で応えよう」

 

「…ほう、ヒノモトの剣士。

 お前からは俺と似た波長を感じるな…ああ良いぞ、全力で応えさせて貰うさ」

 

 最後にリョウがダイズ達に対して武器と拳で語る様に告げると、ダイズが真っ先に反応し自身の様な存在が地上界に居る事を知りこの上無い笑顔になり互いにシンパシーを感じながら話を終える。

 するとエミルとシエルは思った、この2人は監視してないと道端でいきなり決闘し兼ねないと。

 ロマン達も何故か会ってはいけない2人が出会った様な感覚に陥り頭を抱えていた。

 

「はぁ…それじゃあ先ず行動方針としてソーティス対策の為にオリハルコン製の武具を作り上げるで良いわよね? 

 じゃないとソーティスにまた遭遇して武具を損傷させられてたらキリが無いわ」

 

「…時間的猶予があるとは言えませんが、先ず貴女方の装備を整える意味ではそれは必至ですね。

 ではそうしましょうか」

 

「それじゃあ行くわよエミル、シエル達。

 オリハルコンを採掘しにミスリラントや世界各地に眠る鉱脈を掘りますよ、可及的速やかに」

 

 それから溜め息を吐いたエミルはソーティスの闘法対策として武具をオリハルコン製の物に変える事を提案し、更にオリハルコンの武具は一般では出回っていない為1から作り上げると行動指針を決めるとシエルも猶予は無いが賛同する。

 行動指針が決まった所でアイリス、エミル、シエルの順で前に立ち代金を支払うとそのまま宿屋の外に全員出て行く。

 

「…えっ、何ですかあの白い光は⁉︎」

 

 すると宿屋から出たキャシーが真っ先にこの世界の空に走る白き光に驚きエミル達が警戒する中でアイリスやシエルはいよいよかと言う表情を見せていた。

 

「始まりましたね、彼方なる者の時間改変現象(タイムパラドックス)が‼︎」

 

「あれはその前兆、世界が書き変わる瞬間に発生する『時空の柱』よ‼︎

 アレを観測出来るのは神様の眼か時空の腕輪の装備者、時間跳躍魔法(タイムジャンプ)修得者しかいません、全員身構えなさい‼︎

 あの光は時空の腕輪を着けてる者には衝撃となって襲い来ますわ‼︎」

 

 アイリスは時間改変現象(タイムパラドックス)がいよいよ起きたと叫ぶと、シエルもその光の柱の名を時空の柱と叫び特性や時空の腕輪装備者に衝撃が襲うと説明してエミル達に身構える様に促した。

 その瞬間、時空の柱から光が広がり世界中を包んだ。

 

『きゃぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

 その光が身構えていたエミル達を包んだ瞬間それは確かな衝撃となっており、しっかりと足腰に力を入れねば吹き飛ばされる程の暴威に襲われ今にも後方の彼方に飛ばされそうになっていた。

 

『………っ⁉︎』

 

 その中で薄らと目を開けていたエミルとロマンは目撃する。

 この光に包まれたグランヴァニアの民達が次々と消えて行く瞬間を。

 まるで水晶石の通信にノイズが発生した様に身体中がモノクロのノイズに包まれた後に消滅する瞬間を。

 そして2人は本能的に理解してしまう、これが時間改変現象(タイムパラドックス)、世界が書き変わると言う事なのだと。

 

 

 

 それから10秒、1分、10分と長いとも短い後も言える暴威に晒された後、エミル達は光が収まった事を悟り身構えるのを解き周りを見渡していた。

 するとシリンダーツの街は先程までの活気を失う所か宿屋や店、民達の家が砂や埃だらけになりすっかり廃れ切った様子を覗かせサラ達を混乱させた。

 

「な、何なの…何なの、これ⁉︎」

 

「分からねぇ‼︎

 分からねぇが、何かが起きたとしか俺様には言えねぇ‼︎」

 

 サラやアル、ルルにネイル達は自分達には衝撃があると説明されただけで、ただ光に包まれたグランヴァニアの民達や建物が時空の柱発生前と後でガラリと様子が変わり誰も居なくなった事にただただ混乱して周りを見渡したり、建物の中に入り誰か居ないか、先程までの品々が無いかを確認していた。

 が、矢張り何も無く宿屋前に居るエミル達の下に全員戻って来る。

 

「ネイルさん、物品だけじゃない‼︎

 人っ子1人も居なくなってる‼︎」

 

「…皆、光の中に消えた…アレが…時間改変現象(タイムパラドックス)…」

 

「私やダイズも初めて体験するが…成る程、コレが時間改変現象(タイムパラドックス)か…」

 

 ガムは宿屋前に居たネイルに人も物も消えたと叫び、エミルとロマンは先程見た光景を思い出し血の気が引くと言う表現が正しい程に青褪めながら立ち尽くしていた。

 一方周りに地上界の者が居なくなった為シエル達は変身魔法(メタモルフォーゼ)IIを解除し、アザフィールを見ながらこの現象こそが件のそれと確認し、アザフィールも無言で頷いていた。

 

「遂に起きてしまったわ…これで時空の腕輪装備者の私達は擬似特異点(セミシンギュラリティ)になったわ…」

 

「…擬似特異点(セミシンギュラリティ)?」

 

「時空の腕輪を装備し、時間改変現象(タイムパラドックス)に左右されず時の改竄点、本来の歴史を正確に認識が可能な者の事よ。

 それを作り出すのが時空の腕輪の第2の効力。

 そしてその歴史の改竄点を修復するのが私達の使命よ」

 

 アイリスは遂にソーティスが動いた事を理解し、更に此処に居る16名が擬似特異点(セミシンギュラリティ)であると説明してその使命も語り始めた。

 エミルもロマンも先程までの活気に溢れていたシリンダーツが本来あるべき歴史の姿だと認識し、今広がる光景はソーティスが何かを書き変えこうなったと理解し始めた。

 

「更に擬似があると言う事は真の『特異点(シンギュラリティ)』が存在すると言う事。

 無論それは」

 

「ソーティス、奴なのね…‼︎」

 

 其処にアザフィールが真の特異点(シンギュラリティ)が存在すると発言するとエミル達はソーティスがそれだと察しており、握り拳を作り前を見据え始めていた。

 

「兎に角時間改変現象(タイムパラドックス)は全て解消しなければならないわ。

 エミル、キャシー、皆、この世界の変化として魔法元素(マナ)の流れが淀み始めた事が分かるでしょう? 

 これが前にも話した第1段階でこの状態が進行すればこの青い空も変色し始め、第2段階で空間に亀裂が走るわ! 

 無論それを認識出来るのは今の私達だけよ!」

 

 そのエミル達の側にアイリス達は並び始め、今世界に起きてる変化に魔法元素(マナ)の流れが淀み始めた事を話すとエミル達に魔法元素(マナ)の流れを確認させると、エミルとキャシーが真っ先にその流れ方に何とも言えない、確かに淀みと表現しか出来ない異常な流れ方をしていた。

 それからアイリスはヒノモトやその前にも散々説明した事を口にする。

 

「確かに空気中の魔法元素(マナ)がさっきまでと違って淀んでるわ…明らかに異常よ、こんなの…!」

 

擬似特異点(セミシンギュラリティ)…僕達が、正しい歴史の証明者…!」

 

 それ等を聞いたエミルとロマンが1番前に立ち、自分達こそが正しい歴史の証明者と言う認識を持ちソーティスの歴史改竄を正そうと言う使命感が強まり始め、それが他のメンバー達にも伝播していた。

 そうして全員が立ち上がる中、ルルは何かを思い出した様に魔法袋(マナポーチ)を確認して頷いていた。

 

「ルル、何かあったの?」

 

「いえ、持ち物が時の改変で消えてないかの確認」

 

擬似特異点(セミシンギュラリティ)の持ち物も改変から守られるから大丈夫よ、ルル」

 

 するとサラがルルの行動の確認をすると、彼女は持ち物の確認をしていたと話すと、リコリスが擬似特異点(セミシンギュラリティ)の持ち物も改変から守られると話し、ルルはそれを聞き胸を撫で下ろしていた。

 

「さあ先ずは歴史の改竄点を探しましょう‼︎

 正確に改竄された部分を認識出来れば時空の腕輪が改竄点へ誘います‼︎」

 

「分かったわ、ソーティスが先に跳んだのは1ヶ月前だから先ずグランヴァニアでの戦いに異常が起きたのは間違いない! 

 ならあの戦いの結末を知る諸王達に確認すれば………え?」

 

 アイリスは早速転移魔法(ディメンションマジック)を使用準備に入り、歴史の改竄点を探す事が第1歩であり後は時空の腕輪が誘うと話した。

 それを聞いたエミルは先ずこの光景はグランヴァニアでの『アギラの動乱』時に異常が起きたとソーティスが1ヶ月前に跳んだ事から考察し、ならば王達に話を聞けば………そう話した所で、エミルは何かに気付きアイリスの作る魔法陣から外に出る。

 

「如何したのエミル?」

 

「今、誰かが咳き込む声が聞こえて来た様な…」

 

 ロマンは何かあったのかと共に魔法陣から出るとエミルはこの誰も居なくなったシリンダーツの街で誰かが咳き込む声が聞こえて来たと話し、アイリスやシエルも不思議がりながらも透視(クリアアイ)で周囲を見渡し、サラもエミルの『気がした』を信じ狩りや戦闘時の集中力を発揮し神経を研ぎ澄まし僅かな音も聴き漏らさない様にする。

 

「────ゴホッ────ゴホッ──」

 

「っ、聴こえたわ‼︎

 あっち、広場の方‼︎」

 

「っ‼︎

 …あれは、魔族の、子供⁉︎」

 

 するとサラは確かに咳き込む声を聴き取り、透視(クリアアイ)を使っていた者達もサラが指差した広場を見るとエミル達はそれを見て驚いていた。

 何と其処には少し身形の良い服を着ている黒髪の魔族の女の子が居り、地面に倒れながら咳き込んでいた。

 それを確認したエミル達は走り出し、シエルが魔族の女の子を抱き抱えていた。

 

「…凄い熱だ。

 それにこの体内魔力の流れは…。

 おいお前、大丈夫か、しっかりしろ!」

 

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ‼︎

 はぁ、はぁ、はぁ…お姉ちゃん達、誰…? 

 お兄ちゃん、何処…ゴホッ、ゴホッ‼︎」

 

 エミル達も駆け寄る中でシエルは額に手を当てて熱が物凄いと感じ取り身体を揺すり女の子を起こそうとした。

 すると女の子は意識を取り戻し周りを見て見知らぬ者達に少し怯え、泣きそうになりながら兄を呼び始める。

 すると再び咳き込み始め、容態が芳しく無いと誰が見ても明らかだった。

 

「拙い…おいお前達、諸王に話を聞くんだろう? 

 ならフィールウッドのロックに聞きに行くぞ‼︎」

 

「シエル、この子は一体」

 

「良いから早く連れて行け‼︎

 この子の生命に関わるんだ、早くしろ‼︎」

 

 シエルは容態が急変し始めた魔族の女の子の様子から慌て始め、エミル達もあの鉄仮面なシエルが此処まで取り乱すのは変だと思い始めたが当人は物凄い剣幕を張りフィールウッドに行く事を周りに言い出していた。

 するとアイリス、リコリスも時空の腕輪に目を配りながら女の子の様子を見て頷き魔法陣を展開し始めた。

 

「魔族シエル、貴女の要望通りフィールウッド国に先ず転移します。

 この地上界で最も優れた医師が居る彼の国へその子を連れて行きます」

 

「…助かる…」

 

 周りが置いてけぼりの中でアイリスはシエルに対して地上界1の名医が居るフィールウッドに魔族の女の子を連れて転移する事を伝えるとシエルは女の子を抱き抱える中で一言礼を言うと女の子の額を撫でながら何処か優しげな表情を浮かべていた。

 

「ゴホッ、ゴホッ‼︎

 はぁ、はぁ、おにい、ちゃん…」

 

「…心配しないで良い、君のお兄さんには見つけた私達が会わせてやる。

 だから先ずは元気になるんだ…」

 

【ビュン‼︎】

 

 相変わらず怯えて兄を恋しく呼ぶ女の子にシエルは兄に会わせると安心させる様に声を掛けて、更に元気になる様に言い聞かせた瞬間全員がその場から転移し、シリンダーツの街には誰も居なくなった。

 

【カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

「ふっ、そうだろうな。

 お前達はそう言う道を選ぶと思ったぞ…ふふふふ」

 

【ブン、カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

 その転移した直後に突如ソーティスが現れ、シエルやエミル達は絶対に女の子を助ける道を選ぶと思ったと口にすると不敵な笑みを零しながら再び時間跳躍魔法(タイムジャンプ)で何処かの時間軸に跳び去って行く。

 そして、それを知る者はこの世界では全てを見透す神以外に存在しなかった…。

 

 

 

【ビュン‼︎】

 

「なっ、エミルにロマン君達⁉︎

 それに…魔族シエル達⁉︎

 何故エミル達が魔族と⁉︎」

 

 一方エミル達はフィールウッド、しかも何とロックとリリアナの目の前にアイリス達が転移をし、いきなり現れたエミル達やそのエミル達に何故かシエル達も一緒にいると言う訳の分からない構図に困惑していた。

 すると近衛兵が魔族の名を聞き玉座に集まり始め王村の森の宮殿は緊迫した空気に包まれた。

 

【シュ、カシャン!】

 

 するとシエルは武器であるオリハルコンソードを床に置き始め、アザフィールも大剣を床に置くとダイズも含めロックに跪き始めた。

 それを見たエミル達はいよいよシエルが本格的にこの女の子を助けたい一心だと理解し始める。

 

「賢王ロック、魔族と言う身でありながらこの地に訪れた不敬不遜を赦して頂きたい‼︎

 今はこの女の子を救いたいのです、どうかこの国1の名医にこの子を診て欲しい‼︎」

 

「何…? 

 その少女も魔族…だが、何か病気の気がある…しかし…」

 

 シエルは更に武器を遠くに蹴りながら女の子が無理のない姿勢を取らせながらロックに不敬にして不遜と知りつつもこの地に来た事を謝罪し、その上で女の子を医者に診て欲しいと懇願する。

 するとロックはその女の子も魔族だが、たった今意識を失い何らかの病気を患っている事を見抜く。

 しかし将来の敵を増やすかも知れないと言う考えや相手が魔族と言う事もあり簡単に首を縦に振る事が出来ずにいた。

 

「賢王ロック様、魔族シエル達は私達が監視します。

 ですのでこの子の容体を診てあげて下さい。

 幾ら魔族と言えど、この様な小さな女の子を見殺すはアギラと同等の畜生に堕ちる事になります」

 

「それにこの子が将来の禍根にならない事を天使アイリスとリコリスが保証します。

 なので賢王殿、その智を凝り固めぬ様にして頂きたいです」

 

 其処に王女モードに入ったエミルがシエル達の監視を買って出る上に小さな子を見殺しにするのはあのアギラと同じ畜生になると告げてロックも魔血破(デモンズボム)や様々な事を思い出したのか言い返せなくなり、更に駄目押しにアイリスとリコリスが魔族の女の子が禍根になる事は無いと断言した上に長寿のエルフの智慧を変に固めない様にとまで発言した。

 其処にロマンやサラ達の真剣な眼差しまで追加されロックは頭を押さえ始めた。

 

「…分かった、直ぐに医師を呼ぶので宿屋で待っていて欲しい。

 但しシエル達の監視は怠らぬ様に、良いなエミル王女殿下にサラ達?」

 

『分かりました』

 

 これ等によりロックは遂に折れてしまい医者を呼ぶと宣言し、代わりにエミル達にはシエル達の監視を任せる事を強く言い聞かせるとエミル達は全員で跪き勅令として受け取り宿屋に向かい出す。

 その間にアザフィールが大剣を背負いロマンがシエルに剣を渡し、片手で腰に差した所で再び女の子を両手で抱き抱えながら歩き始めた。

 

「それにしてもアイリス、何でこの子が将来の禍根にならないって断言出来たの? 

 私は其処が不思議でならないわ…その一声があったからロックも頷いたと思うけど」

 

「理由は簡単です、この子が『時の迷い子』だからですよ。

 先程時空の腕輪を近付けてその反応から分かったのですがね」

 

「時の迷い子?」

 

 その間にエミルはアイリスに何故この名も分からぬ女の子が禍根にならないかと問い掛け始めると、アイリスは時空の腕輪を見ながら時の迷い子と言う単語を出し、また分からぬ単語が出た為エミル達は首を傾げ始めていた。

 そんな様子のエミル達に今度はアザフィールが話し始めた。

 

「時の迷い子とはこの世界に稀にある何処かの時間軸から何らかの理由で弾き出されてしまい現れる本当の迷い子の事だ。

 擬似特異点(セミシンギュラリティ)や時空の腕輪の用途の1つにはこの迷い子を元の時間軸に送り帰す役目がある」

 

 如何やら時の迷い子は別の時間軸から来た迷子であり、擬似特異点(セミシンギュラリティ)にはそう言った者を送り返す役目があると話し、この中でリコリスの次に長寿のアザフィールの知識量にエミルは頷いていた。

 

「しかし、迷い子であるならそのまま何もせずに送り帰すべきでは? 

 今の我々が干渉して病気を治して送り返してしまうとソーティスの様な時間改変現象(タイムパラドックス)を引き起こしてしまう可能性が出て来るのでは無いだろうか?」

 

 するとネイルが時の迷い子に関して時空の腕輪の力で擬似特異点(セミシンギュラリティ)になった自分達が過干渉した上で送り返すと寧ろ時間改変現象(タイムパラドックス)を引き起こす可能性があると言及し、ロマン達も年長組のネイル故に気付いた事をアイリスに対し視線を向けて質問を投げ掛けていた。

 

「心配は要らないわ、擬似特異点(セミシンギュラリティ)時間改変現象(タイムパラドックス)を引き起こす影響力は無いわ。

 所詮時空の腕輪の力で擬似的な特異点(シンギュラリティ)になってるだけ、時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を会得した真の特異点(シンギュラリティ)の様な世界の秩序を乱す力は無い。

 ただこの子や元の時間軸にとってはちょっと良い夢を見た程度に過ぎないわ」

 

 するとアイリスの話によれば時空の腕輪には時間跳躍魔法(タイムジャンプ)の様に時間改変現象(タイムパラドックス)を引き起こす事は無いと断言し、最終的に収まる形は良い夢を見ていた程度でしか無いと話して自分達が秩序を乱す側に回らない事を話した。

 

「寧ろ時の迷い子を送り帰さない方が秩序を乱すんだ。

 ソーティスの様な急激な時空の乱れでは無いが、その時間軸と現代では僅かな乱れが起きて『世界の修正力』が働きこの子を消してしまう。

 そちらの方が大問題だ」

 

 その時相変わらず気を失ってる女の子を抱き抱えるシエルは時の迷い子を送り返さない方が問題だと話し、僅かな時空の乱れで世界の修正力が働いてこの女の子が消えると話し、宿屋に着いてまだ咳き込む女の子の背中を摩りながらベッドで寝かし始めていた。

 するとまた分からない単語が出た為エミルは一気に日記に書き留めながらアイリス達にまた質問の視線を投げ掛けた。

 

「世界の修正力とは文字通り世界がその様にあるべきと乱れを正そうとする力の事です。

 そもそも時空の乱れで世界が崩壊するのはこの修正力を上回る乱れの所為で世界の均衡が破壊されてしまい崩壊するのです。

 そして時の迷い子を送り帰さなかった場合は修正力によりこの子は初めから存在しなかった事に…」

 

「…確かに、それは…酷ね…」

 

 アイリスは最後に世界の修正力の説明をし、時の迷い子程度の乱れの場合は修正力が迷い子の存在を消すと話し、更に時間改変現象(タイムパラドックス)の様な大きな時空の乱れは世界の修正力を上回る乱れが発生し最後は世界崩壊を迎えると説明した。

 それ等を聴きエミル達はこの子は何も悪く無いのに消されるのは残酷だと思い始めていた。

 

「…じゃあ、この子を元気にさせたら送り帰しつつ時間改変現象(タイムパラドックス)を処理する、これが僕達の使命で良いよね?」

 

「その認識で良い。

 さて、後はこの迷い子を元気にしてやる事だ…私の想像通りならばこの子の状態は…」

 

 そうして最後にロマンが方針としてこの魔族の女の子を元気にさせたら元居た時間軸に返し、ソーティスの時間改変現象(タイムパラドックス)を対処すると簡潔に纏めるとシエルが何時もの調子に戻りつつこの魔族の女の子の状態に心当たりがある様に話しながら医者が早く到着するのを待つのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
過去が書き換わり、今の歴史に影響を及ぼす事態がソーティスの手で起きました。
それを正すのが時空の腕輪、そしてエミル達になります。
また、途中に出て来たシエルが助けようとしている女の子の正体…これについては名前が明らかになるまでこちらでは明かしません。
しかしこの子も今章のキーマンになる、とだけ今は言います。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第39話『歴史の齟齬と水と油』

皆様こんにちはです、第39話目更新でございます。
今回は前回の続き、迷い子の容体を診る事やロック達との対話等になります。
それにより何が齟齬なのかお楽しみに下さいませ。
では、本編へどうぞ。


 ロックが医者を呼ぶと約束してから15分が経過した頃、白衣を着たエルフが宿屋に到着し

 女の子が寝かされている部屋にノックして入って来た。

 

「賢王ロック様の命により馳せ参じました。

 それで、患者はその魔族の女の子でしょうか?」

 

「その通りです、どうか診察して下さい」

 

 医者は鞄を持ちながら部屋を一瞥するとベッドで咳き込む魔族の女の子を見て患者はその子かと周りに聞くと、サラが頭を下げながら診察する様にお願いをしていた。

 この国での発言力はエミルよりサラの方が上の為エミル達も頭を下げる程度にお願いのサインを送ると、医者は頷きながら女の子の前に立っていた。

 

「其処に患者がいるなら誰でも診察します、例え相手が魔族であってもです。

 では先ず痛み止めを処方してから回復魔法(ライフマジック)を掛けつつ血を少々注射で抜き、鑑定眼(アナライズ)で血液中の中に何か菌が居るか否かを確認します」

 

「お願いします」

 

 医者は患者ならば例え魔族でも診察するとまで断言すると、痛み止めを飲ませてから回復魔法(ライフマジック)を掛け始め、更に血管に注射を打つと其処から血を少し抜き専用の採血管を鑑定眼(アナライズ)で見ると、医者は少し険しい顔を見せた。

 

「如何しましたか? 

 まさか、この子は難病でも?」

 

「いえ…ただ珍しい病…『ロート熱』の菌が見つかり少し驚いたのです。

 この病は300年前に治療薬が完成し、200年前に根絶した筈の病なんです。

 放って置けば生命に関わる病です………が、治療薬は常に何があっても良い様に備蓄されてますので1日待てば治療薬を持ってきますので、この風邪薬を飲ませながらその子に付いてあげて下さいませ。

 では、薬の手配をして来ます」

 

 ロマンは医者の顔を見て難病かと思ったが、医者曰く根絶した病気を患っているらしくそれで顔を険しくしたらしかった。

 その後医者は基本的な風邪薬の処方箋をサラ達に渡しながら薬の手配をする為に宿屋から去って行った。

 それからエミル達は治らない病気では無いとしてホッと一息吐いていた。

 

「良かったですね、不治の病じゃなくて」

 

「そうだな、ロート熱は魔界側も600年前に根絶している。

 だが問題は病の方じゃ無い…エミル達、この子に鑑定眼(アナライズ)をしてみろ」

 

「えっ?」

 

 キャシーは女の子が治らない病気では無かった事に喜びながら額を撫でていると、手を握っているシエルが病が問題では無いと発言し、更にはエミル達に鑑定眼(アナライズ)をする様に要求する。

 エミルは太々しいと思いながらも言われた通りに鑑定眼(アナライズ)を使った。

 すると、この女の子のレベルが名あり魔族基準の220をオーバーし、レベル300を叩き出していた。

 

「なっ、レベル300⁉︎

 魔族ってこんな子供でも普通にこのレベルになれるの⁉︎」

 

「そんな訳あるか、魔族であろうが地上界の者同様子供に其処までのレベルに辿り着く力は無い! 

 …だが偶に、レベル220を超えてこの世に誕生してしまう魔族の子供も存在する。

 そんな子は少し特殊な方法で体内魔力の制御を教わらない限り内なる魔力が身体を壊し尽くすんだ。

 私が生まれる以前の世の中では忌み子だの何だの呼ばれ親から捨てられてた…らしい」

 

 エミル達この幼い女の子がレベル280と地上界では普通では考えられないレベルを持っていた為、シエルにこれが普通かと聞くと違うと断言される。

 しかし偶に生まれながらにレベル220を超えて誕生すると話され、シエルが誕生するより前の魔界では忌み子と呼ばれ捨てられる存在だったと聞き、エミル達も魔界側の事情を聞き固唾を呑んでいた。

 更に特殊な体内魔力の制御をしないとならないと聞きエミル達は黙って聞いていた。

 

「その特殊な体内魔力の制御法だが、こうやって他の魔族がそう言う子の魔力を吸い上げながら我々が付けているレベルの枷を外部から付けて、身体に魔力が馴染む様にしながら地上界でもやる体内魔力の操作を覚えさせる。

 これが我々魔族の特殊な子の育て方だよ」

 

 するとシエルは女の子の魔力を吸い出しながら外部からレベルの枷を少しずつ付けて魔力が身体に馴染む様にして残りは体内魔力の操作を覚えさせると説明し、現にシエルは今この場でも女の子の手を掴みながら魔力を吸い上げていた。

 それをアザフィールもダイズも止める様子は無く、如何やらシエルの話通りの対処が正しいらしかった。

 

「そう…でもこの子は何処かの時間軸から迷って来ちゃった子なんでしょ? 

 同族とは言え貴女親身になり過ぎよ、もしかしてこの子は貴女の知り合いなの?」

 

「いや知らない、知らないが………私が親身になる理由があるとすれば私もこの子と同じく生まれながらの名あり魔族で、しかもアザフィールに引き取られるまで違法な奴隷として家族に捨てられた所為だな。

 この子が兄を呼ぶのに親に助けを求めないからもしかしたら私の様に捨てられた子かも知れないと考えたからだよ。

 だから放って置けないんだ、こう言う子は」

 

 そうして周りの空気がしんみりとする中でシャラは何故シエルがこの子に親身になるのかと問うと、シエルは少し身の上話を挟みながら自身もこの女の子と同じ様な存在であり、親に助けを求めていなかった点を踏まえて昔の自分自身の様に感じているらしく同情等の感情で知らない子供を救おうとしていると明かしていた。

 

「…貴女も人の子なのね、シエル」

 

「悪いか、エミル? 

 私とて救える命が目の前にあれば救うさ、例え元の時代に帰せばこの行為が無意味になる時の迷い子であってもだ」

 

 エミルやロマン達はシエルの事は超然とし、何を考えているか分からない魔族としか思っていなかった為、人並みの感情を見せる彼女に今までのイメージが崩れて優しさがある者と映り、シエルはそれに少し噛みつきながら女の子に対処療法を施し続けていた。

 彼女の言う様に元居た時代に帰せば無意味になるとしても、シエルの目にはこの子を救うと言う意志が感じられた。

 

「…言って置くが、ソーティスを倒すまでしか同盟は無い。

 その後は私達は殺し合う運命だ、余計な感情を挟んで来るな」

 

「っ、分かってるわよこの強情っ張り‼︎」

 

 それを横目に見たシエルは今回のソーティスの件が終われば殺し合う運命だとして彼女にとって余計な感情を挟もうとするエミル達に釘を刺すが、エミルにはそれは強情を張っている様に見えた為最後に悪口を添えてエミルは外方を向く。

 すると窓側にいたエミルは近衛兵が宿屋に近付いている事に気付きドアの方に身体を向けるとノックが為され、シエル以外は視線を向けた。

 

「サラ第1王女殿下、セレスティア王国エミル第2王妹殿下、勇者ロマン殿、天使リコリス様、そして…魔族の将ダイズ殿。

 賢王ロック様がお呼びです、王の御前までお越し下さいませ」

 

「俺まで? 

 …成る程、アイリスならばシエルと師父アザフィール殿を押さえられると踏んでのこの面子か。

 良いだろう、賢王殿の前まで案内しろ」

 

 近衛兵達はサラ、エミル、ロマン、リコリス、更にはダイズにロックが呼んでいると伝えると、ダイズまで誘われた事に魔族陣も興味を持ち近衛兵を見ていた。

 するとダイズはアイリスを残す意味も捉えてこの面子になったと納得してロックの下に案内され始めた。

 

「エミル殿、ロマン君達、何かあれば我等を呼んでくれ」

 

「其方もね、ネイルさん」

 

 其処にネイルが何かあれば呼んで欲しいとエミル達に言うと、エミルもソーティス討滅の同盟を結んでたり女の子を救おうとしてるとは言えシエルやアザフィールが居る以上警戒心は一定に保ち続ける必要がある為ネイル側も呼ぶ様にと話してから部屋を後にし始める。

 

「賢王ロックの判断は正しい、所詮我々は本来なら敵同士、警戒して監視するのが正常だ」

 

「はいはい、それじゃあ行くわよロマン君、サラ、リコリス。

 それからダイズ、変な事しないでよ」

 

「ふっ、戦衣装を整えてない者に襲い掛かる程見境が無いと思われて心外だな」

 

 最後にシエルがエミルの背中越しに本来は敵同士で警戒し合う事が正しいと話していると、エミルはもう彼女の言動に振り回されたく無い為軽く遇らう。

 更にダイズに襲い掛かるなと意訳して言うとダイズも軽口を叩きながらエミル達に囲まれる形で宿屋を出てロックとリリアナの居る宮殿内に入り始めた。

 

「賢王様、予言者様、客人と魔族の将を連れて来ました」

 

「ご苦労、では近衛兵達は下がりたまえ。

 魔族の将ダイズ相手では1国の兵全てが相手でも止められない上に悪戯に犠牲が増えてしまうからな」

 

 そうして直ぐにロック、リリアナの2人の前に立ち、近衛兵達はロックの指示により下がらされた。

 エミル達もダイズ1人が暴れればフィールウッドを落とすのも容易いと考え、また腹を割るなら他の者が居ない方が良いとも考え近衛兵達が出て行くのを待ち、そうして最後の1人が出たのを確認した後エミルから話を切り出した。

 

「それで賢王ロック様と予言者リリアナ様、私達を呼んだ理由は何故魔族、しかも将2人とその副官の1人と共に居るのか、ですよね?」

 

「その通りだエミル達。

 魔族に屈したとは思わないが、何か理由があるなら説明して欲しい。

 天使リコリスもその説明に加わって欲しい、我々も少し混乱しているんだ」

 

 早速エミルはロック達が混乱してる原因である魔族、それもシエル達と共に来た事を切り出し、ロックも説明して欲しいと頼み込んで来た為自身達の遭遇した事、ソーティス関連の事、更に時間改変現象(タイムパラドックス)の事をリコリスと共に説明を始めた。

 その間にダイズは何もせず佇みながら話を聞いていた。

 

「…彼方なる者ソーティス、時間跳躍魔法(タイムジャンプ)、それに時間改変現象(タイムパラドックス)に時の迷い子。

 俄かには信じ難い話だが、天使リコリスも此処まで補足説明を入れて話しているからには間違い無い話なのだろう」

 

「何とも恐ろし事でしょう、あらゆる時間軸に介入し歴史を改竄するとは、其処に生きた者達の証を否定し変えてしまう行いです…」

 

 ロックやリリアナはソーティスや時間改変現象(タイムパラドックス)の事を聞き自身の蓄えた智慧を上回る未知の領域の話に頭を押さえるが、リコリスの説明やエミルとロマンにサラの真剣な眼差しに嘘偽りが無いと判断して彼女達を信じる事にした。

 それと同時に長寿故の智慧者である為その恐ろしさまで理解していた。

 

「それから魔族の将ダイズ、改めて聞きますが本当にソーティスを倒すまでの間は魔族は聖戦の儀に当たる行為をしないのですね?」

 

「ああ、魔王様もソーティスが居ては目障りだと話して魔族を全て魔界に引き上げさせた。

 聖戦の儀停戦が決まったのは奴が目覚める3日前だがな」

 

 更にダイズもリコリスに問われ、魔王の停戦命令が出たのはソーティス覚醒の3日前と明かし、それ以前に一旦全ての魔族を帰還させたと言う。

 そのニュアンスからはソーティスに関連付いた撤退だとエミル達は感じていた。

 此方も嘘は吐いていないと感じエミルは日記に注釈をメモしていた。

 

「それで、この国に来たのはあの迷い子を助けるためだけでは無いのだろう? 

 恐らく我々が知る今の歴史とサラやエミル達の知る歴史に齟齬があって来たのだろう? 

 だからこそソーティスの話をした、違うか?」

 

「流石お父様! 

 そうなの、私達はシリンダーツに着く前にソーティスと戦って、その後に人で賑わってたシリンダーツの街の人々が消えて荒廃した街の跡に変貌したの‼︎

 お父様、1ヶ月前のグランヴァニアの戦いの話を互いに共有して何処が違うか確認させて‼︎」

 

 それ等を聞き終えたロックはその聡明な智慧を絞り、エミル達が来た理由を当てるとサラはシリンダーツ前での戦いやそのシリンダーツでの出来事を話し、グランヴァニアの戦い…アギラの動乱を互いに共有して何処が本来の歴史と違うかを確認し合おうと話した。

 

「アギラの動乱での食い違い…グランヴァニアで人々が………成る程。

 なら開戦理由は4国会議でアギラの部下達の襲撃があり、エミル達がそれ等を退けた後に虐殺を受けてるグランヴァニアの民を救おうとロマン君が言い出した、で合ってるか?」

 

「うん、その後に私達は試練の問いを突破した人を増やして、戦いに備えた後にグランヴァニアに向かって征き、それからフィロ皇貴妃様とリヨン第3皇子を助けたんだよね?」

 

「はい」

 

 ロックはそれを聞き少し考え、エミル達と自分達の知る歴史に摩擦が無いかを確かめるべく動乱の始まりから話し、其処からサラがフィロとリヨンを救った事を話すとリリアナが頷く。

 ダイズやリコリスも此処までは食い違いは出てないと判断し、黙って聞いていた。

 

「それからフィロ様のお願いで第1収容所群の人達を救ったけど………けど、魔血破(デモンズボム)で…‼︎」

 

「ああロマン君、アレの為に救った民達の命は失われた。

 そしてオーバーロードドラゴンが投入され、そのブレスによりランパルド前国王とフィロ皇貴妃、リヨン第3皇子が『巻き込まれて焼滅してしまった』、此処まで合っているか?」

 

 それからロマンが第1収容所群の話を切り出し、魔血破(デモンズボム)やギャラン達、犠牲になった者達に手を振わせるとロックやリリアナも悲痛な面持ちになりながら話した。

 だが此処で歴史の齟齬が判明する。

 それはオーバーロードドラゴンが放ったブレスで本来はランパルド前国王の右腕が焼かれるだけの筈が前国王も、フィロ親子も焼かれ死んでしまったとロックは語っていた。

 

「そ、そんな、あの戦いではお父様は2人を庇って右腕を焼かれただけで済んだ筈‼︎

 なのに3人共亡くなるなんて…‼︎」

 

『エミル‼︎』

 

「…そうか、其処がエミルやサラ達の知る歴史と今の我々の歴史の決定的な違いなのだな。

 あの戦いではランパルド前国王殿やフィロ皇貴妃殿達は生き残っていたのか…」

 

 エミルは突然の父やフィロ親子の死に驚愕し取り乱してしまい、膝を突き掛けるがサラやロマンが支えて何とか立たせる。

 しかしロックやリリアナはヴァレルニア港街での戦いでランパルド達は生き残っていた事を知り愕然とし、頭を抱えていた。

 

「じゃああんなに賑わっていたシリンダーツの街の人盛りが時空の柱が出た後に消えたのは…フィロ様達が死んだ事になって皇族が全員居なくなったから…グランヴァニアは国家として機能しなくなったから…⁉︎」

 

「その通りだ、サラ達がアギラを倒した後に残ったグランヴァニアの民達は各国で引き取ろうと言う話になったのだ。

 そしてセレスティアもランパルド前国王殿が死した為アルク第1王子が国王に…」

 

 それからサラはグランヴァニアの街があの様に荒廃した原因はフィロ達の死と言う時間改変現象(タイムパラドックス)で現在の歴史が書き変わった所為だと確信し、アルクが王になった経緯も異なりエミルはこれが歴史を改竄する事かと思い知らされてしまった。

 

「これで改竄点が確定した、ヴァレルニアの戦いでランパルド、フィロ、リヨンの3名が死亡した事が時間改変現象(タイムパラドックス)の一因だ。

 それをシエル達に話し、擬似特異点(セミシンギュラリティ)の使命を果たしソーティスを殺すぞ」

 

「あ、待ちなさいダイズ‼︎

 地上界での勝手な行動は慎みなさい‼︎」

 

 するとダイズは歴史の改竄点を見極めた瞬間これ以上話す事は無いと雰囲気を醸し出して森の宮殿から徒歩で出歩き、それをリコリスが追い勝手な行動を慎む様に促そうとしたがそのまま宿屋まで先に行かれてしまった。

 それ等を見ていたエミル達はロックとリリアナに指示を仰ぐ様に視線を向ける。

 

「ふう…いざ自分達と娘達の間で認識の違いが露呈すると此処まで愕然とする物なのだな…ではサラ、そしてエミル殿下にロマン君よ、賢王の勅令としてアギラの動乱での歴史改竄を正して来るのだ‼︎」

 

『はい、賢王陛下‼︎』

 

 ロックは歴史の齟齬を目の当たりにして頭を押さえながらもサラ達に毅然としてアギラの動乱時の改竄点を正す様に勅令を下し、エミルやロマンも共に跪き頭を下げて承るとダイズとリコリスを追って宿屋まで走り始める。

 その後ろ姿をロックは見送りながら1つ溜め息を吐いた。

 

「まさか天界に招かれた次には時空、歴史に関わる事件に巻き込まれるとは………エミルやロマン君にサラ、ルルにアル、そしてネイル達あの動乱を首謀者を滅し収めた仲間達は我々の予想を大きく超えるな、リリアナ」

 

「ですねロック。

 これも偏に彼女達の絆と、それ等を中心に様々な物を呼び込む天命からでしょう。

 善し悪し、何方も含めて」

 

 ロックはあの動乱の最後にアイリス達に天界へ招かれたと思えば次には時空を乱す敵と戦う事になったエミルやサラ達を自身達の想像を超えた存在になったと改めて思い知らされると、リリアナはそれを彼女達が築き上げた絆と天命による物だと締め括り後ろ姿を見送っていた。

 そう、エミル達はロック達の遥か前を歩み止まらずにいるのだ。

 それを見送るのもまた長く生きた者の使命と2人は思うのであった。

 

 

 

 一方現代の魔界にて、とある屋敷に2人の魔族の男が集まり只管何も無い空間に目を閉じながら跪き何かを待つ様にじっと動かずにいた。

 否、待っていたのだ。

 魔法元素(マナ)の淀みが発生するこの時を魔族の兄弟は650年もの間待ち続けていたのだ。

 

【カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

「ふむ、良く帰還を待ってくれてたな我が助手、『ネロ』と『ヴァイス』よ」

 

『はっ、お帰りなさいませソーティス様!』

 

 其処に時間跳躍魔法(タイムジャンプ)でソーティスが現れ2人の魔族、ネロとヴァイス兄弟を助手と呼びその2人もソーティスを様付けし跪きながらその姿を見て喜びを露わにしていた。

 

「660年前にお前達に俺の研究や実験の書物を全て破棄して潜伏する様に命じた。

 なるべく魔王に目を付けられぬ一般魔族としてな」

 

「はい、しかしそれも今この時点で雌伏の時は終わり我等兄弟も雄飛するのです、貴方様の下で‼︎」

 

 ソーティスは650年前より更に前、自分が魔王に封じられる可能性を考えネロ達に自身の研究を知られぬ保険を掛け、兄弟の弟ヴァイスも雌伏が終わるとして面を上げてあらゆる時間軸に跳ぶ彼の者を崇拝していた。

 それこそ魔族が魔王に心酔するかの如く。

 それ等を見てソーティスは2人の魔族兄弟は時を経ても自分への想いは変わらぬと見定め2人の額に指を当てる。

 

「では研究の成果としてお前達のその脳に直接時間跳躍魔法(タイムジャンプ)の術式を刻もう。

 これでお前達も第2、第3の特異点(シンギュラリティ)だ…ふっ‼︎」

 

【キィィィィィン‼︎】

 

『うっ、ぐ、うぅぅ‼︎』

 

 ソーティスは指に魔力を込めると2人の脳に時間跳躍魔法(タイムジャンプ)の術式を刻み込み、ネロ達は苦しむがそれすら受け入れて耐えに耐えた。

 彼等にとってはこの痛みは650年間のソーティスとの離別に比べれば何ら苦痛では無いのだ。

 そうして数分後にソーティスが指を離すと、2人の目が一瞬光る。

 

【バッ、ブゥン、カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

 すると3人は手を天井に翳すと時計の魔法陣が現れ、3人は何処かの時間軸へと跳ぶ。

 そう、ソーティスは構想していた実験の1つ『本来会得すべき魔法を課程を飛ばして脳に直接刻み込み、その魔法を使える様にする』を成功させ、ネロ達を第2、第3の特異点(シンギュラリティ)に変える事に成功した。

 

「よし、実験は成功した。

 これで俺は自由自在、あらゆる時間軸に特異点(シンギュラリティ)を作り上げる事が出来る様になった!」

 

「流石です、我等が主ソーティス様」

 

 この結果にソーティスは自らの研究が正しかった事を証明し、満足していた所でネロ達は再び跪き自らの主を讃えた。

 更に2人はソーティスの横に立てる悦びを噛み締め、650年の忠誠が果たされる時が来たと感じ取っていた。

 

「さて…実験は成功したので2人には先ず任務を与えたい。

 魔法暦2035年土の月その1の28日へ跳び、其処でセレスティア国王ランパルドとグランヴァニア皇貴妃フィロとその息子リヨン皇子を殺せ。

 タイミングや方法は任せる、俺は俺で別の時間軸で行動を起こす」

 

『はっ、畏まりましたソーティス様‼︎』

 

 それからソーティスは2人の魔族兄弟に魔血破(デモンズボム)が爆破した時間軸に跳びランパルド達を殺す様に命じるとネロ達は快諾し、時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を使いその時間軸まで跳ぼうとしていた。

 

「それから…今回の件でアザフィールのみならず狂戦士ダイズ、更に我々時の果てを見ようとする特異点(シンギュラリティ)への特効として魔剣ベルグランドを振るうシエル、更には地上界の現代の勇者一行と天使アイリス達が動いている、十分に気を付ける事だ」

 

「ダイズにシエル…地上界侵略の将ですか。

 分かりました、気を付けます。

 行くぞヴァイス」

 

「おう兄者‼︎」

 

【ブン、カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

 最後に今回の件ではシエルやダイズ達、エミル達にアイリス達に気を付ける事をネロ兄弟に告げるソーティス。

 2人はその名を聞きアザフィールのみならず厄介な魔族が動き、天使アイリスまで居る事に何処の陣営も相当時間改変現象(タイムパラドックス)を警戒していると理解すると2人は時間跳躍で消え、その時間軸にはソーティスしか居なくなった。

 

「さて…勇者の血筋、特に2度も攻撃を当てて来た勇者ロマン、奴とシエル達をアイリス達には注意を払わんとな…ふっ!」

 

【カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

 そうしてソーティスも時間加速魔法(タイムアクセル)無しで自身に攻撃を1回、更にそれを受けてからもう1回自身に傷を与えた勇者ロマンやシエル、アイリス達に警戒心を強めながら時間跳躍魔法(タイムジャンプ)で再び何処かの時間軸へと跳んで行く。

 こうして彼の『研究』と言う魔の手が世界の喉元に迫りつつあった。

 無論これを止められるのは現状エミル達だけである………。

 

 

 

「そうか、グランヴァニアのヴァレルニアでランパルド達が死にあの国が滅びたと言う事になったか。

 大方の予想は出来ていたが、それならシリンダーツの現象も説明が付く」

 

「確かにそうですね。

 ならヴァレルニアに再び向かうと言う事で良いでしょうね」

 

 その頃エミル達は先に出て行ったダイズ達を追い宿屋に戻り、全員にロック達との歴史の齟齬を説明するとシエルは女の子の手を握りながら納得し、アイリスもヴァレルニアに向かう事を確定させ周りも頷いていた。

 

「所で、その子の状態は如何なの?」

 

「今こうして身体を壊す体内魔力を吸い上げているが…この子の潜在能力が高過ぎてこうして吸い上げてもなお魔力が減らずに肉体への負荷が減らない。

 エミル、お前は何か良い案は無いのか? 

 この子を助けたい、しかしこのまま此処に留まる事は出来ない、お前の発想力でこの子を救え」

 

 そんな中エミルはシエルに魔族の女の子の容体を聞き取ると、この女の子の潜在能力が高過ぎるらしく体内魔力の吸い上げで追い付かない程の魔力量を小さな身体にあると言われる。

 更にシエルはエミルにヴァレルニアに向かいたいとこの子を救いたいを両立させる良い案は無いかと無理難題を押し付け始める。

 これにエミルはこの難題押し付けを他人の命が懸かってる為何も言わず考え出し、すると直ぐに思い付いた事があった。

 

「少し聞くけど、吸い上げた魔力は自分の物に変換してるのよね?」

 

「ああ、其処から魔力浪費をしてプラマイ0の状態にしてるが如何した?」

 

「ならいっその事、この子の魔力を使って無理の無い魔法を空に放ったら如何よ? 

 自分の魔力に変換してるなら出来るでしょ?」

 

 するとエミルはこの女の子の魔力を使いシエルが魔法を放つと言う彼女がこの子の魔力を自身の物に変換していると言う部分に着眼し、シエルに提案した。

 すると彼女は少し考え始め、可能か否かを頭の中で整理し始めその答えを出した。

 

「…やった事は無い、がやれない事では無いな。

 良いだろう、その案を使わせて貰おう」

 

「けっ、エミルが態々考えてやったのに感謝の言葉すら無いのかよこのプライドマシマシ女は?」

 

 結論としてシエルはこの案を使えると判断して魔力を相変わらず吸い上げながらエミルの提案を使うと宣言する。

 するとアルは自分の仲間が知恵を出して作った案に対し礼は無いのかと発言して何とか丸く収まってる子の面子に亀裂を生じさせかねない発言をする。

 

「礼なんて要らないわよ、この子を救えたらそれで良いって思ってるだけでシエルに礼を言われたい訳じゃ無いから」

 

「それに礼を言うならこの子を完璧に救い、元の時代に送り届けたらになる。

 それまでは簡単に感謝の言葉は述べないぞ。

 それに我々は元々」

 

「はいはい敵同士敵同士、分かったから私の案の準備を整えなさいよ」

 

 それをエミル側から礼を突っ撥ねる文言を口にすると、シエルも礼はこの女の子を元の時代に送り届けるまで述べないと完全に2人は水と油の様な反応を見せ、ダイズ達を含めて頭を抱え始めていた。

 

「…あの、ダイズ…」

 

「何だ勇者ロマン?」

 

「なんか………この2人案外似た者同士だからこうやって同族嫌悪、みたいな反応になってるのかなぁ…って…」

 

「奇遇だな、俺も不機嫌なシエルが2人に増えた気分だ…」

 

 そんな中ロマンはダイズに対しエミルとシエルが似た者同士故に同族嫌悪をしていると話をするとダイズも不機嫌な状態のシエル…頑固で意固地になり簡単に折れなくなる事を知る為、2人が似ていると肯定していた。

 それを聞いていたアザフィールも幼い頃のシエルもエミルの様な感じであり、彼女の近くに居る所為で地の部分が出ていると思っていた。

 

「ねえロマン君、一体誰が誰と似てるって言ったのかな?」

 

「おいダイズ、貴様一体誰が誰と似てると言った?」

 

 すると2人は似ていると言われた事が不服だったらしく、同時にロマンとダイズに誰が似ていると抗議をすると言う何処から見ても似た者同士な反応を見せ、サラやネイル達は超然としたシエルの地を見てこれがシエルの全体像だと知り不思議と受け入れられる様な感覚になっていた。

 

「兎に角、先ずこの子のロート熱を治してからエミルの案を実行する。

 だからお前達はもう寝ろ、私はこの子の看病をしてる」

 

「あのねぇ…交代で診に来るに決まってるでしょうが」

 

 それから不機嫌が治らないシエルはロート熱の治療薬を待ち、それからエミルの案を実行すると言って全員に寝る様に話した。

 それも自分だけ寝ずの番をする宣言をしながらである。

 それを聞いたエミルは当然の如く交代で診に来ると話し、2人の水と油振りにこれでソーティスと言う共通の敵を倒せるのかと肩を落とすロマン達であった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
迷い子の病気は魔界も地上界も根絶した病気で、更には子供ではあり得ないレベルを持ち魔力量も異常な為に女の子が体調を崩してしまっている事や救う方法が判明。
更にはランパルド、フィロ、リヨンが時間改変現象(タイムパラドックス)で死亡した事になってる等が判明しました。
更にソーティスは着々と助手や別の時間軸で行動を始めました。
そしてこの章の書き方についてはソーティス達の存在の為時間軸がバラバラに書いてる部分がありますがご了承下さいませ。
なお時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を直接脳に刻まれた2人は他の時間操作系魔法まで自動的に使える様になってます。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第40話『迷い子、目覚める』

皆様こんにちはです、第40話目更新でございます。
いや〜、此処まで長く続いてますがまだまだ話はこれからなのでよろしくお願い致します。
では、本編へどうぞ。


 エミル達が魔族の女の子を救ってから1夜が明けようとしていた頃、最後の交代にエミルとロマンが訪れ、部屋にノックして入って来た。

 

「本当に交代で診に来るとは、ダイズもアザフィールも含めて暇人か?」

 

「あの2人は多分アンタの事も心配してるんじゃないの? 

 あの場で指摘しなかったけど、他人の魔力を吸い上げて自分の物に変換して浪費するって簡単に言うけどそれってコップに水が一杯詰まってる所に更に水を足す行為よ。

 体内魔力は魔法行使をしない限り消費される量は少ないからアンタ、無理してるでしょ?」

 

 シエルは最後に来たエミルとロマンに暇人と非肉を言うが、それを無視してエミルは魔族と言えど地上界の者と変わり無いと言う彼女が女の子の体内魔力を吸い上げている際に言った言葉から彼女が今無理していると指摘する。

 ロマンも馬鹿では無い為同じ様な事を考えていた為エミルの言葉に確信を持ちながらシエルを見ていた。

 

「だから如何した? 

 私の勝手でそうしてるだけだ、お前達には」

 

「関係あるわよ、アンタはソーティス対策の戦力の要なのよ? 

 それが無理して倒れました〜なんてギャグな事になって貰いたく無いのよ」

 

「えーとつまり、僕もエミルも君の事が心配だから必要以上に無理は止めてって事なんだよ、うん」

 

 シエルは関係ないと言う雰囲気で突っ撥ねようとしたがエミルもシエルと言う魔族を『戦力』として見てる為無理は見過ごせなく、ロマンが意訳して心配していると話す。

 何故意訳が必要でロマンなのか、それは今までの会話から2人を会話させるとシエル側は徹底的に無視、エミル側は噛み付くと言った光景が此処まで続いた為仲間内やダイズ達から意訳役が必要とされ、その貧乏くじをロマンが引いた為であった。

 

「ふん、私の心配よりも自分達の心配をしてろ。

 お前達もソーティス討滅には欠かせない『戦力』だからな」

 

「そりゃどうも、私達は十分休んだからもう結構ですよ〜だ。

 それよりアンタの方をね」

 

「あ〜もう2人共少し止まって、寝てるこの子の前なんだから!」

 

 するとシエルも自身の心配をエミル達にされたのが不服だった為お返しとしてエミル達に冷ややかな視線を送り、対するエミルは噛み付くとロマンが2人の間に割って入り、寝込む女の子の前で喧嘩に発展しそうな事態を押さえる。

 すると2人は視線を外し無言になり部屋に重い空気が漂っていた。

 それに堪え兼ねたロマンはシエルに話を掛ける。

 

「…シエル、1日中この子に付きっ切りな上に体内魔力を吸い上げているんだよね? 

 この子みたいなちょっと特殊な子ってこんなに付きっ切りにならないと駄目なの?」

 

「…いや、この子は前例が無い程魔力を秘めて身体やレベルが付いて行ってない。

 普段なら…アザフィールが私にしてくれた様に3時間もあれば済むのに1日中などあり得んと言った感じだな。

 それにロート熱もある、余計に付きっ切りにならなければならない状態にあると言える」

 

 ロマンはこの女の子に付きっ切りになってるシエルにこう言う子にはこれが普通かと尋ねると、シエルは自身の身の上を交えながら踏まえると病気もあり前例が無い状態だと告げてエミルにも予断を許さない物だと分かる様に話した。

 するとエミルはそんな子に自身が提案したこの子の魔力を使った魔法行使は大丈夫なのかと考え始めていた。

 

【コンコンコン、ガチャ】

 

「お待たせしました、ロート熱用の特効薬を持って来ました」

 

「! 

 早いお仕事ありがとうございますお医者様!」

 

 すると部屋に昨晩の医者が部屋に入り、カバンから瓶を出してロート熱用特効薬を見せた。

 まだ日が昇らない内に仕事を済ませた医者にエミルとロマンは頭を下げ、シエルも頷く様に頭を下げていた。

 

「さて少し失礼して…」

 

「ゴホッ、ゴホッ………ん、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ…」

 

 すると医者は患者である女の子の身体を少し持ち上げ、特効薬たる薬液をゆっくりと飲ませた。

 そうして3人が見守る中薬は全て飲み干され、再び医者が寝かせ始めた。

 

「これで朝日が昇ってから2時間もすればロート熱は完治します。

 しかし、それ以外の症状は私には見当も付かない為如何しようもありませんが…」

 

「其方は私に任せろ、対処法は分かってる」

 

 医者は朝日が昇り2時間経てばロート熱は完治する事を告げるが、流石に医者の目は誤魔化せないらしく他の症状もある事は分かったらしい。

 しかし対処法は分からないと告げるとシエルがそれを知ってると答え、後は魔族の領分だと雰囲気で察しさせる。

 

「分かりました、では患者の今後はお任せします。

 ですが、日が昇って2時間経つまでは安静にさせて下さい」

 

「分かってる、世話になった。

 金は…ふむ、これ位か。

 取り敢えず5万G(ゴールド)払う、釣り要らない」

 

 医者は後の事はシエル達魔族に任せると、魔法紙(マナシート)に代金を書きシエルに渡すと、シエルも魔法袋(マナポーチ)から5万G(ゴールド)を支払う、それも釣り要らずで。

 それを見たエミルとロマンはチラッと代金書を見ると法外な代金を要求してる訳では無く、単にシエルが感謝料込みで支払ってると考察していた。

 そうして代金を受け取った医者はそのまま去って行った。

 

「さて日が昇るまで後30分、更に其処から2時間と念の為の15分経過観察してからエミル、お前が出した案を使わせて貰う。

 その後はこの子にレベルの枷を付けてからこの子を連れてヴァレルニアに向かう。

 理由はアイリス達に聞けば少しは分かる」

 

「あれこれ言わせようとしないわねコイツ………」

 

「あの、其処までツンケンしないでこの子を連れてく理由を教えてくれても…多分世界の修正力関係なんだろうけど…」

 

 それからシエルは再び女の子に付きっ切りになりながら時間管理を話し、計2時間45分後にエミルの案を使うと話した後、その後にする事を話しつつこの子も同伴させる事を告げてからジッと黙り込む。

 それに対しエミルはジト目、ロマンは出来るだけ波風立てない様に理由の説明を求めた。

 但し2人は世界の修正力に関係していると予想は立てており、其処からの答え合わせを求めていたのだ。

 

【コンコンコン、ガチャ】

 

「医者が帰ったので見に来ましたよ。

 それでシエル、この子の容体は如何に?」

 

「日が昇ってから2時間経つまでは安静に、念の為経過として15分様子を見る。

 それからエミルの案を使い、この子の中にある膨大過ぎる体内魔力を見た目相応の魔力量分まで練り上げて魔法を空に放つ。

 その後レベルの枷を付けて体内魔力が適正値を上回らない様にしながら同伴させる」

 

「分かりました、その予定で行きましょう」

 

 そんな中件のアイリスが部屋を訪れ、シエルに女の子の容態を尋ねるとシエルは今後の予定込みで2時間45分は安静にさせると説明した後視線を女の子に戻し、過剰な体内魔力の吸い上げに集中する。

 アイリスもそれを聞き予定はその通りにすると話し納得した様子を見せた。

 

「ねえアイリス、この仏頂面が何も言わないから聞きたいんだけど何でこの子を同伴させなきゃいけないの? 

 世界の修正力関連って予想は出来るんだけど教えてくれないかしら?」

 

「おい其処の魔法使い、誰が仏頂面だ誰が」

 

 エミルは早速シエルに指差しながら仏頂面が説明しないとして女の子の同伴理由を問い質し始める。

 但しその仏頂面発言にシエルは反応しオリハルコンソードに手を掛けよう…としたが、此処は宿屋且つ自分達は居させて貰ってる立場且つ女の子を安静にせねばならない為剣に手を掛けるのを止めて睨むだけにしていた。

 

「はあ、この2人はこの調子なのですね…同伴させなければならない理由はこの子が時の迷い子であり、常に特異点(シンギュラリティ)擬似特異点(セミシンギュラリティ)の近くに居ないと世界の修正力が働き掛けて短ければものの10分、或いは私が知る中では最長3日で消滅の兆候が現れ、そして消滅します」

 

『やっぱり…』

 

 エミルとロマンは呆れ気味なアイリスから同伴させなければならない理由を聞き、自身達の予想通り世界の修正力で消えない様にする為だと聞き口を揃えてやっぱりだと発言しシエルに脳天気では無いとエミルは見せ付けていた。

 無論その態度にシエルは無表情で見る、と言うより睨み付けていたが睨まれた本人は『教えないからだ』と言う態度を見せていた。

 

「これが迷い子のこの子を常に連れて行かなければならない理由です。

 因みにこの目測は今現在の時間では無く『世界がこの子を認識した瞬間』です。

 その時間をリセットするには当然私達がこの子の側に行かなければなりません」

 

「つまり、世界の目を誤魔化す為にもこの子は私達の側に居続けなきゃ駄目な訳ね…」

 

 更にアイリスは今1分1秒と流れている現在の時間では無く世界そのものがこの子を認識してからの時間と言う目測も話し、その時間をリセットするには自分達が側に居なければならないと話し、これをエミルは日記に警告文として残してロマンと2人でこの子は絶対に側に付いていなければならないと思っていた。

 

「更に迷い子を側に置く理由は時空の腕輪にどの時間軸から迷い込んだかを感知させ切る為にあります。

 そうしなければ元居た時代に送れません」

 

「成る程…」

 

 アイリスは付け加えて迷い子を側に置く理由は元居た時代に帰す為だと話し、2人は魔族とは言えまだ幼きこの罪無き子を送り返す為には矢張り自分達が側に居続ける必要があると理解し、女の子を見ていた。

 

「…エミル、この子を送り返そうね」

 

「勿論よ、魔族とは言えただの子供なんだから…」

 

「…ふん、甘過ぎるなお前達は。

 その内寝首を掻かれても知らんぞ?」

 

 ロマンはエミルに改めて女の子を送り返す決意を語ると、彼女もこんな子が訳の分からないまま消える理不尽な結末を避ける為それに頷いていた。

 そしてそれ等を聞いていたシエルは甘過ぎるとエミル達に言うが、見ず知らずの子に必ず兄に会わせると宣言したシエルにも言える事だとエミルは思うが、これ以上拗れるのも不毛な為喉に留めたまま時間経過を待つのだった。

 

 

 

 それから日が昇り全員が部屋に1回様子を見に来てから2時間12分が経過し、部屋に付きっ切りになっていたシエルやそれを見ていたエミル達も部屋に軽めのパン類を持って来て貰い、それを口にしてからも女の子の様子を見続けていた。

 

「すぅ…すぅ…」

 

「薬、凄い効き目だね。

 もうすっかり咳をしなくなって熱も下がってるよ」

 

「魔力を吸い上げてるのもあるが、矢張りロート熱の特効薬を飲ませた事が大きいな。

 これならエミルの案も問題無く出来そうだ」

 

 ロマンは薬の効き目に絶賛し、あれから2時間以上経過してすっかり快復し始めており病気が治らない不安が無くなりエミルと共に胸を撫で下ろしていた。

 更にシエルも特効薬を飲ませた事が大きいと地上界の医者も医学も捨てた物じゃないと内心評価しつつ、エミルの案を使う事も問題無さそうだと思っていた。

 

「…日が昇ってから2時間15分経過、そろそろ行きましょうシエル様」

 

「よし、この子をゆっくり運ぶからお前達邪魔するなよ?」

 

「いやしないわよ、何処の鬼畜外道野郎なのよ私達は?」

 

 それから部屋に食事を運んでから残っていたアザフィールが時間になった事を知らせるとシエルは女の子を抱き抱えて外に出ようとした瞬間、エミル達を見てその邪魔をするなと発言した。

 が、聞いていたエミルも流石に外道では無い為と反論すると全員の脳裏にアギラが浮かぶが直ぐに振り払いながら下へ降りて行く。

 

「あ、その子良くなったんだね! 

 それからシエルに報告、エミルの案を使う為に必要な広場をお父様に言って借りて、住民も家の中に一応避難させたから直ぐ向かおう!」

 

「ほう、それは重畳だな。

 では早速その広場へ向かうぞ」

 

 宿屋の飲食スペースに降りたエミル達にサラ達がそれに気付き、代表でサラが駆け寄りロックにエミルの思い付いた案を使うスペースを確保しつつ野次馬が来ない様にしたと報告すると、シエルは満足気な笑みを浮かべて早速向かい始めた。

 アザフィールもパンが乗ってた皿を受付に運ぶと直ぐに後ろに付いて行き、サラの案内の下木々が開けた広場に辿り着いた。

 

「ふむ、これなら周りの被害を気にせず空に向かって魔法を放てるな…。

 では早速始めるぞ、貴様達少し離れてろ。

 少し派手になるぞ?」

 

 そうして辿り着いた広場はシエルが想定した広場と合致し、周りの被害を気にせず空に魔法を放てるとしながら派手になると話してアザフィールすらも下げて広場の真ん中に女の子を寝かせて左手で右手を掴みながら、自身は上を向き右手を空に掲げた。

 

「さて、一応森に火が付くのは厳禁だから使う魔法は水、そしてこの子の中の体内魔力を一気に適正量にするなら最上級魔法を使うのが妥当だな。

 無論攻撃力を0にしてな。

 さあ行くぞ…はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

【バチバチバチバチバチ、ゴボゴボゴボゴボ‼︎】

 

 そうしてシエルは周りの配慮をしながら魔法を選び、女の子の体内魔力を一気に練り上げる為に大水流(タイダルウェイブ)を使用すると宣言すると女の子の魔力が一気にシエルの魔力に変換され始め翳した手の先には巨大な水の塊が出来上がりつつあった。

 

「うわデッカい‼︎

 今のエミルが全力で作ったくらいデッカい‼︎

 あの子の体内魔力ってあんなにあるの⁉︎」

 

「だがこれならあの子も救えそうだなエミル殿………エミル殿?」

 

 サラやアル達はシエルの手により作られた魔力の水の球体の大きさについてエミルの全力で例え、それ程巨大な魔力の塊が出来上がってると全員に知らしめる。

 だが上手く魔法が発動し、撃つ準備も出来つつあったのでネイルはエミルに大丈夫そうだと声を掛けた。

 だが………当のエミルは顔を険しくし、それを観たキャシーやシャラも目を凝らして『視た』瞬間慌てた様子を見せ始めた。

 

「拙い、皆離れて‼︎

 ガムやアル達も離れて、あの魔力の塊をシエルはコントロール出来てないわ‼︎」

 

「な、何だって〜⁉︎

 ………うわ本当なんだな、このままじゃ暴発するんだな〜‼︎」

 

 シャラは全員に離れる様に叫び、特に前で見てるガムやアル達に離れる様に促し始めた。

 その理由をムリアも魔力の流れを視で判断し、あの魔力の塊をシエルでさえコントロールが出来ず暴発する最悪の事態が迫りつつあると叫んでいた。

 

「ぐ、うぅぅ、まさか、これ程の体内魔力が潜在しこの身体に収まってるとは………通りで私が魔力の吸い上げなんかしても、焼け石に水、でしか無かったのか…‼︎」

 

 女の子の魔力を変換しているシエル本人も実際やってみた瞬間彼女すらも把握し切れていなかった体内魔力の底が魔法を使い漸く理解したが、そんな物をこの小さな身体に収まった事自体が正に『前例が無い』に尽きた。

 更に言えば今までの吸い上げも焼け石に水、もっと言えば巨大な湖の水をバケツで掬い上げる様な物だったと判断した。

 

「く、うぅぅ、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 シエルはアイリスとの全力の戦いでしか歪ませなかった顔を見せながらレベルの枷を外し、文字通りの全力で魔力を変換、コントロールしようとしていた。

 それに伴い魔力の塊は更に巨大化し始めていた。

 だがその様子にダイズやアザフィールもこれでダメなら被害を最小限且つシエルが生き残る手段…遺憾ながら女の子を見捨てる選択をしようと覚悟し、視線を送り合って確認をしていた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、う、ぐぅぅぅぅ‼︎」

 

「な、バカな、レベル800のシエルでもあれをコントロール出来てないのか⁉︎」

 

 それからシエルは当然の選択として全力を振り絞り魔力変換とコントロールをしようと躍起になる。

 が、初めこそ当初よりも更に巨大な水の塊を作り上げてコントロールし切っていた様に見えたが直ぐにシエルは再び苦痛に表情を歪ませ始め、ルルもあの未踏の領域に立つシエルの全力でも駄目なのかと声を上げていた。

 

「…これは、ソーティスへの対抗策を失う訳には行きませんから…リコリス」

 

「…分かってます、アイリス姉様」

 

 すると天使の2人も断腸の思いを表に出しながら、ベルグランドを操るシエルを喪う将来的なリスクを思考しダイズやアザフィールの様に女の子を見捨てる選択を取ろうとして足に力を込め始めた。

 そして…この事態に他の誰にも聞こえない小声で何をするかを示し合わせ真っ先に動き出した2名が現れる。

 

「アイリスやダイズ達、その選択待ったぁぁ‼︎」

 

「くっ、はぁぁ‼︎」

 

 何とエミル、ロマンが真っ先に動き出し、アイリス達も迂闊に近付けば魔力の濁流に巻き込まれ弾かれる所をエミルが先導し魔力の暴威が少ない部分からシエルと女の子に近付き、2人はシエルの右手を自身の片手で握り、もう片方の腕を翳してシエルの魔法コントロールの外部補助を行い始めた。

 

「うっわ、これ、きっつぅ…‼︎」

 

「こんな物を、この子は…そしてシエルは…‼︎」

 

「なっ、貴様等本当の馬鹿か⁉︎

 離れろ、この魔力で貴様等もボロボロになるでは済まない、身体が保たずに死ぬぞ‼︎」

 

 エミルとロマンはいざやって来て魔法の外部補助をした瞬間、その膨大な魔力量に身体が千切れそうになる感覚を覚えながらもシエルの補助を続ける。

 それを見たシエルは2人を本気で馬鹿だと思いながらこのままでは死ぬとハッキリと告げて離れる様に促した。

 しかし、2人は補助を続ける。

 

「くっ、うぅぅ…アンタはね、ソーティスへの切り札その1なのよ‼︎

 こんな所で、この子諸共死ぬなんて許さないから‼︎

 それに…‼︎」

 

「1人で駄目なら、2人! 

 2人で駄目なら、3人で、シエルもこの子も生きる道を作り上げるんだ‼︎」

 

 先ずエミルが前半は打算的にシエルが喪われた際の戦力ダウンは計り知れない為、後半は此処でこの罪無き子と共に死ぬ事を許さない感情的な物で動いた事を話した。

 更にロマンが理想論ではあるがこの3人でシエルも女の子も生きる道を作り出す事を語っていた。

 これを聞きシエルは本格的に2人が馬鹿だと結論付けていた。

 

「ぐっ、エミル、ロマン‼︎」

 

「くぅぅ、さっきよりも圧力が強くてもう近付けない…‼︎」

 

 そんなエミルとロマンを地上界の仲間達が何とか近付こうと1歩を踏み出そうとした。

 が、2人が補助に回った為更に魔力の塊は更に巨大化しその荒れ狂う暴威を強めた為、最早レベルの枷を外したアイリス達しか近付く事が出来ない状況になりサラやネイル達は吹き飛ばされない様にするのでやっとな状態だった。

 

「くっ、シエル…今、どれ位この魔力の塊に変換出来たの…⁉︎」

 

「大方、8割だ‼︎

 後少しで…この子の魔力適正量まで体内魔力を練り上げられる…‼︎」

 

「何だ、後2割ね…‼︎

 だったら、このまま余裕でやってやろうじゃないのよ‼︎」

 

 そうして中心点に居るロマンはシエルに大体の目測を聞くと、これで8割と返事が返って来て後2割でこの子の魔力適正量まで練り上げると話した。

 それを聞いたエミルは残り2割程度なら余裕だと強がり、今にもバラバラになりそうな身体に鞭を打ちながらシエルの補助を更に続けた。

 

「ぐぅ、うぅぅぅぅぅ‼︎」

 

「絶対に、救うんだ、シエルもこの子もッ‼︎」

 

「ぐっ、ぐぅぅぅ、あぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

【ギュゥゥゥゥゥゥン、バチバチバチバチバチバチ‼︎】

 

 エミル、ロマン、シエルはそれぞれ持てる力や技術、更に意地と根性を振り絞り女の子の中の荒れ狂う体内魔力を更に練り上げ、超巨大な水の塊を遂に作り上げた。

 此処でエミル達はこれが暴発しない様にこの塊を整え出し、吹き荒れる魔力の暴風を抑え始める。

 そうして其処には綺麗な、しかし余りに巨大過ぎる…直径1キロを超える水の塊が宙に鎮座していた。

 

「────よし、今だ撃つぞ‼︎」

 

「何時でも良いわよ、シエル‼︎」

 

大水………流(タイダル………ウェイブ)‼︎』

 

【ボォォォォォォォォッ、バシャァァァァァ‼︎

 ザァァァァァァァァァァ‼︎】

 

 シエルは2人にもう撃つと宣言するとエミルは何時でもと答え、ロマンも空を向いていた。

 そうして3人同時に超巨大な水の塊となった大水流(タイダルウェイブ)が放たれ、それが空中で弾け飛びこの日フィールウッドの例年を上回る大雨がロックヴィレッジ周辺で降り注ぎ一応家屋内に避難していた国民達が大騒ぎとなっていた。

 

結界魔法(シールドマジック)V!」

 

 それを見たエミルやキャシー達は直ぐに結界魔法(シールドマジック)Vを張り自分達に大雨が降り注がない様にすると、その雨は互いに前が見えなくなる程の降水量であり王村全体は一気に水浸しになり、中には床下浸水所か床上まで浸水し足首まで水が浸かる家屋も出始めそれが約2分間続いていた。

 

「…降り終わったわね。

 じゃあ結界解除して………うわぁ、何処も水浸し…」

 

「まさか此処まで体内魔力の量が凄まじいとは思わなかった、これは私の落ち度だ。

 それよりこの子だ、後はレベルの枷を填めて………よし、一通りの処置は終了だ…ふう、一苦労したな」

 

 シャラが雨が降り終わったのを確認すると魔法使い組が結界を解除した。

 すると雨の被害を見て周りが引いてる中、シエルはこの魔族の女の子の潜在的な魔力を見切れなかった落ち度だとハッキリと認めていた。

 その間にレベルの枷を填めて彼女は汗を拭きながら尻餅を突き、処置終了を宣言した。

 するとエミルとロマンも仰向けに倒れ始めた。

 

「わっ、エミルにロマン君大丈夫⁉︎」

 

「うぅ、縛られし門(バインドゲート)を使った時みたいに神経がズタズタになるかと思った…誰か私達に回復お願い、ちょっと動けない…」

 

「全くお2人は無理をなさって‼︎

 はい、回復魔法(ライフマジック)IVです‼︎」

 

 エミル達を見たサラ達は2人に駆け寄るとロマンは口も動かせない、エミルは前世の縛られし門(バインドゲート)を使用した際の反動並みの物が来そうだったと口にして動けない為キャシーが無理をした2人に回復魔法(ライフマジック)を使い治癒を開始していた。

 

「ふん、この程度で動けなくなるとは情け無いな」

 

「そう言うシエル様が1番無理をなされてる様に見受けられますが?」

 

「違いない、お前鼻血が出ている事に気付いていないぞ」

 

 その2人を見てシエルは情けないと口にしたが、そのシエルは右手がズタボロになり鼻血が垂れている事に気付かないと言う明らかにエミル達よりボロボロになっている事に気付いていないと言う無理をし過ぎて身体の感覚が麻痺している事を証明していた。

 その為アザフィールとダイズが2人掛かりで回復に努め始めていた。

 

「はぁ、取り敢えず3人が回復してこの子が目を覚ましたら色々聞き取ってからヴァレルニアに向かいますよ。

 ………エミルとロマン、2人の行動が功を奏しましたわ、ありがとう2人共。

 お陰でシエルとこの子の命を天秤にかける事態を避けられました」

 

「は、ははは、僕達は何時も通り無理はせず救える命は救うを貫いただけだよアイリス。

 ただ…今回は予想以上に無理をしちゃった…イタタタ‼︎」

 

 アイリスはこの様子から3人の回復を待つのと女の子が目を覚ますのを待つのを宣言しつつ、最悪シエルと女の子の命を天秤にかけると言う残酷な結果を回避出来た事をエミル達に礼を述べていた。

 すると口が動かせる様になったロマンが無理せず多少無茶を通しても命を救うを行った結果だと話し始めた。

 が、今回は無理の方面が強かった為エミル共々仲間達に耳を引っ張られてしまっていた。

 

「…ふう、回復完了ですよ無理をしたお馬鹿さん2人組さん。

 起き上がってみて下さい」

 

「キャシーちゃん怒ると怖い、今後怒らせない様にしよう…っと、身体の痛みは消えて魔力の使用も問題無し。

 ありがとうシャラさんにキャシーちゃん、ルルにムリアさん」

 

「僕もだ、ありがとう皆」

 

 そして耳を1番強く引っ張ったキャシーがエミル達に起き上がる様に言うとエミルはキャシーが起こると仲間内でロマンの次に怖いと感じつつ、起き上がって火の玉を掌の上で作り握り潰すを2人でやるともう身体も神経も問題無いとして全員に礼を述べていた。

 

「…さて、シエル様も回復が終わりましたぞ。

 起き上がって下さい」

 

「了解だアザフィール、それからダイズ、少し付き合え」

 

 するとシエル側も終わったらしく、アザフィールから起きる様に言われるとシエルは立ち上がった後、剣を引き抜きダイズに付き合えと要求する。

 

「良いだろう…はっ‼︎」

 

【ガンガンガンキンキンキン、ビュッ‼︎】

 

 ダイズもシエルの要求を呑むと拳を作り、女の子から離れた彼女の剣とダイズの拳が何度か打ち合った後互いの首筋に拳と剣が寸止めで添えられ、その後2人は構えを解きシエルは剣を鞘に仕舞った。

 

「うむ、此方も問題は無い」

 

「そして今ので2589勝2596敗7201分けだな」

 

「…何やってんの、あの2人?」

 

「矢張り奴は俺と同じか…」

 

 シエル側も打ち合いが終わり互いに問題無い事を確認し、シエルは何時もの無表情に近い表情に戻りダイズも引き分けと言う結果に少し納得出来てない様子を見せた。

 それ等を見たエミルはツッコミを入れるが、地上界側は水を得た魚の様なリョウ以外誰1人として答えられず、アイリス達はまた怪我したら如何すると頭を抱え、アザフィールは無言で見守るだけだった。

 

「う、ううん…」

 

「‼︎

 ちょっと皆女の子が目を覚ましそうよ、強面って自覚ある人は下がってて!」

 

「そのガキンチョがビビらねぇ様にする為だろ、分かってるわそんな事」

 

 そんな空気の中女の子の意識が浮上し始めた事を察知したエミルは周りに女の子を怖がらせない様に強面な者達は下がる様に叫ぶと真っ先にアルが反応して理由も添えて広場の通路の入り口側まで下がり始めた。

 更にガムやムリアとリョウ、ダイズとアザフィールも強面の自覚がある為下がり結果男性はネイルとロマンしか残らず女性陣中心に女の子を囲まない程度に集まった。

 

「ううん…此処は………?」

 

「気が付いたみたいね、良かった…」

 

「えっ………っ⁉︎

 お姉ちゃん達、誰なの⁉︎

 此処は何処⁉︎

 お兄ちゃん、何処に居るの⁉︎」

 

 そして遂に女の子の意識は完全な覚醒を果たし、エミルが気が付いた事に胸を撫で下ろすと当の女の子は意識がハッキリした時点で見知らぬ者達が自身の周りに居て自身も良く知る場所から見知らぬ場所に居る事にパニック状態になり兄に助けを求める声を上げながら後退りを始める。

 

「待って、私達は貴女がとある街で倒れていた所を見つけて病気の治療をしていたの! 

 だから貴女に害意を加えはしないわ‼︎」

 

「嘘、お兄ちゃんが私を捨てるはずないもん‼︎

 お兄ちゃん助けて‼︎」

 

 パニックになった女の子にサラが事情を簡単に話して治療していたと説明していたが、女の子にはそれが=最愛の兄が自分を見捨てたと感じそれを否定しながら周りを見て兄に助けを求めた。

 

「…ああ、君の兄は君を捨てる訳が無い。

 そんな身形が良い服を与えて此処まで育てた君との間には我々には計り知れない大きな絆があるだろう。

 だが此処は一旦我々の目を見て信じて欲しい、我々は人攫いでも奴隷商人でも無い、君を助けた集団だと」

 

 するとシエルが女の子の目線に立ちながらその言葉を肯定しつつ、彼女とその兄には絆があると強く言い切り且つ害意を齎す存在では無い、一旦は自分達の目を見て信じて欲しいと話した。

 それ等を聞いた女の子は目の前の見た事の無い者達の真剣な眼差しを見て、兄が自分を愛し守ったものに少し似ていると感じ落ち着き始めた。

 

「…お兄ちゃんみたいな真剣な目………じゃあ、此処は何処なの? 

 お兄ちゃんは一体何処に? 

 私のお家は?」

 

「それを説明するには少し長くてややこしい物を話さなきゃいけないの。

 だから先ずはお互い自己紹介しましょう? 

 私はエミル、こっちはロマン君とシエル。

 貴女の名前は?」

 

 女の子はその目から少しだけ信じる気になり、更に当然な質問を始めるとエミルとロマンも前に出てややこしく長い説明になるとして先ず前に出た自身を含む自己紹介から始めてシエル同様女の子の目線に立ちながら彼女が名前を口にするのを待った。

 それから数回、名前を言う事を躊躇う仕草を挟みながら女の子は意を決して自身の名を口にし始めた。

 

「………『ティア』、私の名前は、ティア…」

 

「そう、ティアちゃんだね。

 改めて僕はロマン、君の力に必ずなってあげるからね」

 

「ふう、シエルだ。

 私も君の力になると誓おう、私の連れとエミル達の仲間共々な」

 

 そうして女の子、ティアは漸く名を口にした瞬間ロマンやシエルもエミルからの紹介から改めて名を口にし、この小さな子の力になると誓いを立てる。

 それを聞いていたサラやルル達も、アイリス達やキャシー達も同様であり皆快くティアを迎える。

 そしてその眼差しを見たティアも、兄の様に信じられる存在か否かを見極めようとするのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
迷い子の正体がティアであると気付いていた方は多いかも知れません。
はい、この子は非戦闘員ですが今章のキーマン的少女でエミル側とシエル側を繋ぐ子であります。
元来の性格がどんな物かお楽しみ下さいませ。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第41話『誓いの翼達、準備する』

皆様こんにちはです、第41話目更新でございます。
最近筆が走り過ぎて毎日更新になっていますがそろそろペースダウンするかも知れません。
さて、今回は準備回になります。
まだ物語が動かないのかと思われますが、そろそろ動き出します。
では、本編へどうぞ。


 ティアが名前を教えてから20分が経過し、宿屋で料理を頼み彼女に与えながら事情や現在の情勢を説明していた。

 その際ティアは9歳、兄から家に居ながら教育も受けてた為ある程度教養がある事も判明していた。

 

「…えっと、つまり此処は地上界…人やエルフの皆が居て、魔界と別の世界なんだけど…私が居た時代とはまた違う地上界、なの? 

 だから、魔界に行ってもお兄ちゃんは居ないん、だよね…? 

 それで今は魔界と地上界の人達が戦ってる…で、合ってるよね?」

 

「そう、この時空の腕輪に君が別の時代から来たと言う反応があって分かったんだ。

 手っ取り早く違う時代と証明するなら、君が居た時代の魔王は誰だったか知ってるかい?」

 

 ティアは混乱しながらも此処が魔界では無く地上界、更には自身が元居た時代と別の地上界だと、更に戦争中だと何とか整理していた。

 が、まだ信じ切れない部分があるのか警戒心がある為シエルが手っ取り早い方法としてティアの時代の魔王が誰かを聞き始めた。

 するとティアは考え始め、直ぐに思い浮かぶ。

 

「確か…魔王様は『グレイ』様、だった筈だよ」

 

「魔王グレイ…奴めか…」

 

「アザフィール殿、その魔王をご存知で?」

 

 ティアは魔王をグレイ様と呼び、アザフィールがその名に反応するとネイルがその魔王を知ってるかと尋ねる。

 するとアザフィールは瞳を閉じながら語り始めた。

 

「魔王グレイ、奴は愚王とも呼ばれてるそれまでの魔界を無法地帯にした愚か者であり、今の魔王と私が討滅した1世代前の魔王である。

 アギラを魔王にしたら、と考えればイメージ出来る筈」

 

「…成る程ね、そんな愚王が統治してた時代からこの子は来たのね…因みに今の魔王の名前は?」

 

 アザフィールはグレイを愚王と呼び、イメージはアギラを魔王にしたらと言うエミル達でさえ分かる最悪な統治者だと想像に難くなかった。

 次いでとしてエミルは今の魔王の名前をアザフィール達に聞くと、全員黙ってしまう。

 其処は機密なので教えないのか…と思っていた所でダイズが吐き始めた。

 

「今の魔王様に名は無い、あの方は自らの名を過去と共に捨て去り今の魔界を実力主義、しかしティアやシエルの様な子供を育て切る方法と規律を作り上げたり等それまでの魔界を変えたお方、と言って置こう」

 

「えっ、今の魔王様に名前が無いの? 

 …お兄ちゃんは名前は自分を自分と証明する証だって言ってたから、その証を捨てるって悲しいよ…」

 

 ダイズは魔王は名を捨て、今の魔界を実力主義且つ例としてティアの様な子供を育てる規律を作りそれまでの物を変えたと腕を組みながら話すが、ティアは名前はその者の証と教えられた為それを捨てた今の魔王に悲しいと口にしていた。

 

「兎に角、此処は貴女が生きてた時代では無いわ。

 だから私達が送り返すわ」

 

「…本当?」

 

「ええ、ティアちゃんのお兄さんに必ず会わせてあげるから私達と一緒に行こう、ね?」

 

 それからアイリスは此処はティアが生きていた時代では無い為送り返すと話し、彼女も最愛の兄の下に帰れるのかと思い本当かと周りを見て問いた。

 その時エミルが前に出て必ず会わせると力強く発言するとロマンやサラ達も頷き、ネイル達の方も頷き返していた。

 そしてエミルは手をティアに差し出して握り返すのを待った。

 

「(…この人達、お兄ちゃんみたいな真剣な目をしてる…。

 それにあの同じ魔族の…シエル達も、私の事を心配してくれてる………お兄ちゃん以外は見捨てた私を…)」

 

 ティアも兄みたいに真剣な眼差しのエミル達やさっきからチラ見しているシエルや同族のダイズ達に自身を心配している様子を見てこの場に居る者全員が親や隣人も自らを見捨て、兄以外に大切にされた覚えが無い彼女には眩しく映り自然と手を伸ばし、エミルの掌に小さな手が乗り温かみがあるその手でティアの心を包み始めていた。

 

「さて、その子供の対応も終わった所で本題に入ろう。

 俺達はヴァレルニアに向かい土の月その1の28日に向かい改竄点を正す。

 だがその子供は時の迷い子であり置いて行けば消滅し此処までのやり取りが無駄に終わる。

 其処で、その子供を連れて過去に跳び誰かが付きっ切りで守る役目を担う訳だが、誰がやる?」

 

 するとダイズはティアの信用を勝ち取った所で本題に入り始め、ヴァレルニアに向かうは良いものもティアは迷い子の為置いて行けば消滅してティアの心を開いた意味が無くなると話し、其処で誰が常に守るかを問い始めた。

 するとエミルが真っ先に手を挙げていた。

 

「じゃあ私が守るわ。

 常に一緒にいて結界で守りながら皆を魔法で援護、これが理想型じゃない?」

 

「魔法使いエミルが、か…。

 確かに後衛に置くのが最適解だろう、前衛に居たのでは戦闘で動けなくなる者も出るからな。

 なら言い出したならしっかり守れ、我等も気が回れば援護する」

 

「エミルがティアちゃんを守るなら僕も2人に敵が向かわない様にしながら戦うよ。

 エミル、任せたよ」

 

「任されました」

 

 アザフィールがエミルが守ると言い出した事に後衛にティアを置く事が最適だと判断し、ならばと言い出しっぺのエミルに守れと話す。

 更にロマンも2人や後衛全員を守る気で戦う覚悟を決めて最後に自身が1番信頼する魔法使いに任せると手を翳すと、エミルも手を翳してハイタッチをして誓い合った。

 

「んじゃぁ早速ヴァレルニアに向かおうぜ、あのスカした野郎の雁首を斬り落としてぶっ殺してやるぜ‼︎」

 

「こらアル! 

 ティアちゃんの前だから汚い言葉を使うのは禁止‼︎」

 

 こうして方針が決まった瞬間早速ヴァレルニアに向かうと叫び、ソーティスの態度が気に食わなかった為か鼻息を荒くしてその首を斬り落として殺すとハッキリと大声で叫ぶと、サラがアルの後頭部を叩きティアの前で汚い言葉を使うなと叫び、アルは叩かれた頭を押さえながら何も言わずにそれを受け入れた。

 

「だが武具は如何する? 

 奴相手にミスリルは通用しないと分かり切ってる以上、先ずはオリハルコン採掘と武具への加工が先だと私は進言するが?」

 

「確かに…一々武具を傷付けられて修繕しては非効率ね。

 シエルと同じ意見ってのが少し癪だけど私達はオリハルコン採掘を優先して武具の新調をする事を先に終えたいわ。

 このままじゃ戦いの土台に立てないわ」

 

 だが其処にシエルが口出しし、最初の戦いでオリハルコンじゃなければ傷付けられてしまうのを思い知らされた事を思い出させ、先に武具新調を済ませるべきだと進言すると、エミルもシエルと同意見と言う部分に癪だと話しながらもソーティスとの戦いに武具新調は必至と考えこちらも進言した。

 

「なら私は我が先祖、大英雄シリウスの武具を使う時が来たとして我が家に戻り装備し直して来よう。

 大英雄シリウスの武具はオリハルコン製、更にエミル殿の前世で二重魔法祝印(ダブルエンチャント)が付加されている筈である故、採掘数が少なくなる筈」

 

「それと後衛の武具もそれぞれ新調すべきだと思うよ。

 私だったらフェザーボウから世界樹の枝で作られた最高の弓『エターナルボウ』、衣も『聖者の衣』にして少しでも攻撃力や防御力を上げるべきだよ」

 

 するとネイルが先祖のオリハルコン製武具を引っ張り出すと話しそれで必要なオリハルコンの数が減ると話し、サラも自身の現在の武具から更に上の最高峰の武具に変えるべきだと考えを示し、武具新調は必須事項となった。

 

「ならシャラさん、ネイルさんを実家に送って下さい。

 私達魔法使い組も世界樹の枝で作られた『世界樹の杖』作成と『オリハルコンローブ』を直ぐに鉱石採掘してこのロックヴィレッジで全てを行います」

 

「分かったわ、ならネイルさんが武具新調を終えたら合流するわ。

 さあ、行きましょうネイルさん!」

 

【ビュン‼︎】

 

 それからエミルはネイルの実家を知るシャラに彼を送り届ける様に話すと、魔法使い組も今の装備からワンランクアップさせる、採掘後はロックヴィレッジに戻ると予定を告げ彼女にネイルを転移させた。

 

「さて、次に我々だが地上界で経済と政治の侵略を進めた際にオリハルコン採掘が済んでいない未開拓の鉱山がある事も、既に開拓された鉱山内に大量のオリハルコンがある箇所がある事も把握している。

 其処で、我々はこの開拓済みの場所でオリハルコンを採掘する事とする。

 場所は此処と此処、更に此処とミスリラントに集中しているからゴッフの弟子アル、貴様の顔が通し易い筈だ」

 

 次にシエルが世界地図を広げて自分達が何処にオリハルコンが眠っているかを裏側侵略の際に把握していた為、今回は開拓済み鉱山内に狙いを絞り採掘すると指揮をしていた。

 するとその場所にはあのビーエ山にまで✔の印が付き、エミルは因縁の場所にもオリハルコンがまだあるのかと感じていた。

 するとロマンは少し考えて、この手は使えないかとシエルに問い始めた。

 

「ねえシエル、ちょっと考えてこの手は使えないかな?」

 

「何だロマン、何かあるなら言ってみろ。

 考えてやる」

 

「えっと、僕達はビーエ山で多分アギラが用意したオリハルコンゴーレムに襲われたんだよね、君達に襲撃されたあの日。

 ならさ、魔族のシエル達が居るならその…魔素を送り込むとか何とかして鉱山内のオリハルコンをゴーレムに変えられないかな?」

 

 ロマンはシエル達が襲って来た日の事を思い出し、あの時に恐らくアギラとその部下が用意したオリハルコンゴーレムにも襲われた事実を思い出し、それならばとシエル達が何かをして鉱山内のオリハルコンをゴーレムに変えられないかと提案を始めた。

 するとエミルやシエル、ダイズ達全員は目を見開き、その手があったかと言う風に手を叩いていた。

 

「…確かに、その方がより高純度のオリハルコンが大量に手に入り且つ熟練度元素(レベルポイント)の塊を倒してエミル達のレベルアップを図れる。

 考えたなロマン、その手を採用する」

 

「ならネイル達が帰ってき次第二手に分かれてこの案を使うぞ。

 …ふっ、全く地上界、中でも短命な人間は機転が良く働くな。

 其処が美点であり強さなのだがな」

 

 シエルやダイズはそのロマンが考えた手は使えない所か時間短縮、高純度鉱石採取、レベルアップの一石三鳥となる1手だと驚かされながらも使えると判断し、早速ネイル達が帰還次第二手に分かれてその手で採掘すると決まる。

 その際にダイズは人間の機転の良さを改めて理解し笑みを零すのであった

 

 

 

 それから15分でネイルが帰還し、オリハルコンの武具に身を包んだ姿にロマン達は唸った後に特にオリハルコンが眠る鉱山に向かい、採掘してる作業員達にアルがエミルの手で転移しながら此処が戦場になるとルルが予知したとちょっとした嘘を吐き彼らを避難させる。

 

「わあ凄い、初めてお外に出て空を飛んでいるよ私‼︎」

 

「ふふ、そうかティア。

 なら良かったな外に出れる様になって………さて、そろそろ始めるか!」

 

 アイリスに抱き抱えられながら空や地上を見て、初めて見る外の世界にティアは心を躍らせていた。

 それを聞き笑みを浮かべた後、念話でそれぞれの上空で合図を出しシエルとダイズが魔物を生む術を鉱山内のオリハルコンに掛け始めた。

 そして此処はシエルと誓いの翼(オースウイングズ)達が担当するビーエ山の坑道内。

 エミル達は武器を構え因縁の魔物出現を待ち構えていた。

 

【ズズズズズズズズズ‼︎】

 

「来やがったぜオリハルコンゴーレム‼︎」

 

「それも大量大量…皆、行けるわね‼︎」

 

『OK‼︎』

 

 シエルの術が発動し、オリハルコンゴーレムが大量に現れるとリョウを含む全員が小規模な魔法、矢を全員の合間を縫って放つ等をひ、坑道中でゴーレムを攻撃を開始した。

 特にロマン達はアザフィールの一撃で倒されたあの頃の倍程強くなり、振るう剣や斧、ダガーでオリハルコンゴーレムを的確に倒しリョウも攻撃に参加する。

 それによりあれよあれよと高純度オリハルコンの山が積み重なり、エミル達もレベルアップして行った。

 

「オラオラオラァ‼︎

 あん時のリベンジマッチ+鬱憤晴らしだ‼︎

 砕けやがれこの人形野朗‼︎」

 

「はい其処、隙ありだよ‼︎」

 

「今なら中級でも通用する、『水流波(ウォーターストリーム)』‼︎」

 

 アルは更にグイグイと突撃し二重魔法祝印(ダブルエンチャント)で外部強度が上がったミスリルアックスで叩き砕き、その隙にサラが砕けた部分の核を撃ち抜き、エミルは枷が外れた上に今のレベルなら中級魔法でも十分通用するとして水の中級魔法でオリハルコンゴーレムの体を穿つ。

 

『はぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

 そしてロマン、ルル、リョウも積極的に攻撃しその一閃一閃が最上位のゴーレムの核を斬り裂き、此方もレベルアップとオリハルコンの山を積み上げて行った。

 リョウは知らないが此処にはもうあの頃の弱かった自分達は居ない、アザフィールに付けられたトラウマを克服する様にオリハルコンゴーレム達をエミル達は薙ぎ倒して行くのであった。

 

 

 

 そうして集まったオリハルコンを全て回収し、作業員達を坑道内に安全確認させてから戻してロックヴィレッジにシエル達ごと帰還、それと同時にネイル達も帰還しそれぞれ対面していた。

 

「あ、エミル様にロマン君達お帰りなさい! 

 結果は…凄い、リョウさん含めて皆レベル550になっちゃってますよ‼︎」

 

「そう言うネイルさんやキャシーちゃん達も同じレベルになってるわよ。

 さて、これを見て如何思ったかな、シエルは?」

 

 キャシーが早速鑑定眼(アナライズ)でエミル達のレベルを確認すると、全員550になっており420程から130以上レベルアップし、遂には枷を付けたシエルを超えるレベルとなり全員力が更に付いた実感が湧いていた。

 特にエミル達はシエルを見ながら彼女の反応を待っていた。

 

「想定では500位かと思ったが50オーバーか、中々良いレベルに仕上がったな。

 少なくとも枷を外した本気のティターン達でも相手に出来なくなってしまったな」

 

「ふーん、つまりあの2人は今の私達を下回るって訳ね…もしかしたら元々レベルアップ前の私達と互角位だったのかしらね?」

 

 シエルも想定以上に仕上がった事に満足が行ったらしく頷きもうティターン兄妹では相手出来ないと漏らしていた。

 それを聞きエミルの予想でレベルの枷を外した彼等の本気はレベルアップ前の自分達位と口にすると何も答えなかった。

 それが答えだとエミルは思い、それならあの2人には何かあっても勝てると踏んでいた。

 

「さて、それぞれの成果を出そうかエミル殿」

 

「ええ。

 皆、オリハルコン出すわよ〜」

 

【ガラガラガラガラガラ】

 

 それからネイルの切り出しからエミルは合図を出し、全員でオリハルコンを魔法袋(マナポーチ)から取り出した。

 其処には金の輝きを放ち銅の様な色合いを持つ鉱石が山の様に積まれた。

 

「わぁ、これがオリハルコンなの! 

 綺麗…」

 

「ええ、そして3界で最も硬い鉱石よ。

 さて鍛治師アル、貴方はこのオリハルコンを精錬し武具に加工する技術はありますか?」

 

ゴッフ(ジジィ)から教わってるから問題無いぜ! 

 後は温度調節の補佐役が居れば直ぐにでも作業に入れるぜ!」

 

 ティアは初めて目にするオリハルコンの実物に目を輝かせながら触っていると、アイリスが頭を撫でて最も硬い鉱石と発言すると次にアルを見据え、武具に加工出来るかと問い掛ける。

 無論アルはゴッフから教わった技術の中にオリハルコンを精錬、加工する技術も含まれてる為補佐が居れば直ぐに作業出来ると断言する。

 それを聞きエミル達は流石アルと思っていた。

 

「ではリコリス、補佐に入りなさい。

 我々天使の加工技術を彼に見せて差し上げなさい」

 

「私達からはアザフィールを寄越そう、アザフィールもその道に精通している。

 さぁ行け、魔界の技術を見せて置け」

 

『はっ!』

 

 するとアイリスはリコリスを、シエルがアザフィールをそれぞれアルの補佐に出してオリハルコンを村の鍛冶屋へと次々と運び込み始める。

 エミルは只でさえ鍛治師最高峰クラスのアルに展開と魔界の技術が合わさると常人には使えない悪魔的なキメラ武器が出来上がってしまうのか少しだけ心配になり始めていた。

 

「さあ次は世界樹の枝だ、此処から近い最北の世界樹から採取して後衛の武器作りをするぞ、キリキリ動け時間の猶予は無いぞ!」

 

「いつの間にアンタが仕切ってるのよシエル…まぁ私達が手ぶらだし、パパッと行って採取して来ましょうか」

 

 そんなエミル達にシエルが次の必要アイテムである世界樹の枝を最北の世界樹から採取する事と取り仕切ると、エミルはいつの間にか仕切られた事を不服としながらも何もしないよりマシな為魔法使い組とサラ、アイリス、シエルが転移しその場から消える。

 

「…それで、残された僕達は如何すれば…」

 

「仕方ない、ロマンやネイル達はティアの相手をしていろ。

 迷い子は常に俺達の誰かが側に居ないとならないからな。

 …さてヒノモトの剣士リョウ、この組み合わせならば…」

 

「分かっている、他の誰の迷惑にならない別の地で決闘するぞ。

 今はお前の全力に及ばない、だが女王の至高の剣になる俺にとって貴様は超えるべき目標の1つ、よって手合わせ願おうか!」

 

 最後に残されたロマン、ルル、ネイル、ガム、ムリアはダイズからティアの相手をする様にと彼女を預けられ、リョウはダイズに遂に決闘を申し込むに至り刀に手を掛けていた。

 それを煽ったダイズは笑みを浮かべて彼の手を引き何処かに転移して行った。

 

「あーあ、遂にやっちゃいましたよ決闘。

 ネイルさんにムリア、如何する?」

 

「ああなったダイズ様は止められないからもう放って置くしか無いんだな〜」

 

「…仕方ない、我等はダイズの指示通りティアの相手をしてあげようか」

 

 そして残された5人は念の為ガムがムリアに決闘を止められ無いかと聞くが矢張り止まらないらしく、指示通りティアの相手をする様にするしか無くなりロマンとルル(フード付き)が彼女に近付き、目線に立つ様に腰を下ろしながら話し始めた。

 

「じゃあティアちゃん、何かやりたい事とかある? 

 僕達で良ければ相手になってあげるよ」

 

「本当? 

 ならえっと、えーと…」

 

【ぐぅ〜】

 

 ロマンがティアに話し掛けてやりたい事の相手をすると話すと、ティアは色々な遊びを思い付いていたが丁度お腹が鳴り、彼女は顔を赤くしながらお腹を押さえるとロマンももうそんな時間かと思い、ルルと2人で頷き合っていた。

 

「じゃあ…ティアちゃん。

 お姉ちゃん達と一緒に………ご飯、食べましょう?」

 

「丁度僕達もお腹空いてたからね」

 

「ホント? 

 じゃあ地上界の料理を食べてみたい! 

 私、お兄ちゃんの作る料理が1番だけど他にも色々食べてみたい!」

 

 2人も上手く話を合わせてティアにご飯を食べる様に誘導すると、彼女は全く未知な地上界の料理に興味が湧き食べたいと話していた。

 それを聞きネイル達も頷き近付いた。

 

「では皆を待ちながら宿屋で料理を食べようか。

 きっとティアが驚く様な料理が沢山あると思うぞ」

 

「じゃあエミル達が来るまでにご飯食べよう!」

 

 ネイルがガム達の代表で同じ目線に立ちながら話すとティアはエミルを呼び捨てにしながらご飯を食べると決まり、歩き始めていた。

 これは彼女が目覚めてからの自己紹介で呼び捨てで良いと気軽にエミルが話した事と彼女の本来の時間軸で兄に遠慮していた部分が無くなり子どもらしい地の部分が出ている為である。

 

「じゃあ僕達も行こうか、ルル」

 

「…その前にロマン、内緒話が」

 

 ティアがネイル達と共に宿屋に歩き始めた時、ロマンも立ち上がり後を追う為にルルと共に歩こうとした………その時、ルルから小声でロマンに耳打ちしながら2人の内緒話が始まり彼はルルの話に頷き始めていた…が、途中から顔に出る程の驚くべき内容が語られロマンは内緒話中の本人の顔を見た。

 

「それ、大丈夫なの⁉︎

 何か問題にならない?」

 

「大丈夫、過去が変わる前に関係者からは許可を貰って持ち出してる、それも半月前からよ。

 そして擬似特異点(セミシンギュラリティ)の私の持ち物に変化が無かった。

 だからこれが、ソーティスに対する絶大な切り札になると思う。

 …ただ隠し札でもあるから私が此処だって思った時にしか出さないから余り頼らない様にもして、気取られたくないから」

 

 ロマンはルルがやってる事を心配するが、エミルが全員に一度離れ離れになり必要な準備をする事を話した際にルルも関係者各位に周りある物の持ち出し許可を貰い、それをずっと隠していたのだ。

 そしてこれはソーティスに絶大な切り札になるが、気取られたら効果が激減すると思いルル自身が決め打ちした瞬間に使わせる雰囲気を出してロマンも頷き、ルルにそのタイミングを任せると無言で伝える。

 

「お〜いロマーン、ルルー、早くしないと全部食べちゃうよ〜‼︎」

 

「あ、分かったよティア、今行くよ‼︎

 …じゃあ、エミルや皆にも内緒で」

 

「そうして…下さい」

 

 するとティアが宿屋の入り口で待っており、ロマン達に料理を食べてしまうぞと叫び2人を呼んだ。

 それからロマンとルルはこの話を胸の内に仕舞い宿屋に走りテーブルに座る。

 そして6人でそれぞれ料理を頼むと、ティアは兄が出す料理全てを食べていたため嫌いな食べ物が無い(但し魔界の物だが)が分かり、それに近い料理を注文してエミル達の帰還を待つのであった。

 

 

 

 それからリョウがボロボロになってリョウ程で無いにしろダメージを負ったダイズが決闘から帰って来て大騒ぎになり2人に決闘禁止令が出されたり、世界樹の枝や聖者の衣に必要な世界樹の葉や其処で採取できる泉の水を採って来たエミル達が帰って来てボロボロな2人に回復魔法(ライフマジック)を掛けて同じ様に禁止令が出されたりする中、ティアの部屋でエミルとロマンの立ち合いの下シエルが彼女とチェスをしていた。

 

「えっと、此処‼︎

 チェック‼︎」

 

「むっ………驚いた、手加減した覚えは無いんだが………投了(リザイン)だ。

 相当強いんだなティアは」

 

「うん、お兄ちゃんと時間がある内に遊んでたらお兄ちゃんより強くなっちゃったんだ〜!」

 

 その結果は特に手加減していないシエルが投了(リザイン)宣言して敗北すると言う、エミル達も見てて奇策や瞬時な対応にこれは自分達も勝てないとお手上げしながら見ていた。

 如何やら一通りの遊びは兄とやる内にその兄を超える強さを得たらしく、これは手強い子供だとエミルやロマン、シエルは感じていた。

 

「じゃあ次は何をするの、トランプ?」

 

「そうねぇ…じゃあ此処はブラックジャックかなぁ? 

 ルールは分かる?」

 

「うん、手札が21になったら勝ちだよね!」

 

 次にティアは何で遊ぶかと話すとエミルが適当にブラックジャックをすると話すと、ティアもルールは分かるらしく子供らしく遊び相手が増える事に喜びを持っていた。

 

[と言う訳だダイズ、アザフィールが手を離せない以上お前がトランプを持って来てディーラーをやれ]

 

[良いだろう、誰が吠え面をかくか見てやる]

 

「…魔族の念話をそんな俗っぽい理由で使うんじゃないわよ」

 

 それを聞いたシエルは念話でダイズにトランプを持って来させ、ディーラー役をやらせる命を出すが傍受していたエミルは魔族の特性を俗っぽい理由で使われ方をして肩を落としていた。

 そして部屋のテーブルで囲みダイズが手早くシャッフルを始めていた。

 

「じゃあ賭けとして…私達3人の誰かが勝ったらティアちゃんは体内魔力制御を私達から教わる、ティアちゃんが勝ったら私達の恥ずかしい失敗話を聞ける、で良いかな?」

 

「うん、良いよ! 

 よーし、勝っちゃうよ〜‼︎」

 

 するとエミルはロマン、シエルのうち誰かが勝ったら体内魔力の制御法と言う真面目な話、必要な事をやりティアが勝てば3人の恥ずかしい失敗談を聞けると言う賭けをしてティアは了承してやる気に満ちていた。

 そうしてカードが配られ始め、互いにカードを見ていた。

 

「ふんふふ〜ん」

 

「ヒットだね」

 

「私もヒット」

 

「…えっと…ごめんなさい、スタンド‼︎」

 

 全員がカードを見て追加で引いて行く、そんな中ロマンは謝りながらカードをこれ以上引かないと言う選択をしてエミル達の視線を集めた。

 それも悪い意味で。

 

「おい、おいまさかロマン貴様…」

 

「…取り敢えずこれ以上カードを引くプレイヤーは居ない? 

 ならダイズ、最後のカードを引いて」

 

「ああ…20でバースト無しだ」

 

 全員で見合ってこれ以上のカードを引かない選択を取りダイズ17より下の札の為最後のカードを表にし、自身の札と合わせて20となりそれ以上引かない様になった。

 それから全員ロマンに注目すると、先ずは右のカードをオープンしJ、10の数である。

 そしてこれ以上引かないと言う事は10の数以上は確定と考え左のカードに関心が向くとロマンは左もオープンした。

 

「…うわ、スペードのA、マジモンのブラックジャックだ…」

 

「何なんだその理不尽な引きは…たく、賭けは私達の勝ちだが勝負に負けたぞ…」

 

 エミルとシエルはロマンの理不尽な引きに頭を抱え、あくまで21に近付けるゲームの趣旨をいきなり不意にされてしまい気分を害していた。

 特にエミルは日記にロマンにカードゲーム類禁止と書き、ロマンも無言で頭を下げていた。

 

「凄〜い‼︎

 ロマンって運が凄く良いんだね‼︎

 本当に凄い‼︎

 でも次は負けないからね‼︎」

 

 対するティアは子供らしい感性でロマンの運の良さを凄いと純粋に反応し、されど次は負けないと話して元気に振る舞っていた。

 ロマン達はこんな子供の感性を懐かしく感じ、この子は守らないとと更に決意を固め始めていた。

 それは一見仏頂面のシエルもティアをチラ見している為、ダイズは同じ師父の下で修行した彼女もロマン達と同じと考えながらカードを片付けていた。

 

「…ふう、さてティアちゃん。

 貴女は強大な体内魔力が身体を蝕んで今は枷を付けて9歳の子供の魔力適正量を上回らない様にこっちから小細工してるのは話したよね? 

 なら今度はその体内魔力に慣れる様に制御法を学んで行く事になるわ、良いね?」

 

「うん、良いよエミル、ロマン、シエル‼︎」

 

 それから落ち着いたエミルは早速体内魔力の制御法の基礎をアル達の鍛冶や杖等の新調が終わるまで勉強させ始める為に現状の振り返りと目標を設置し、その目標を達成させる様に話すとティアは元気良くエミル達の名を呼んでいた。

 かく言うティアもビーエ山上空の様な世界を、例え夢に終わる物だとしてももっと見たいと考える様になりエミル達から体内魔力のイメージを思い浮かばせ、魔力一体論に基づく魔力制御を行ない始めるのだった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
兄である『彼』に遠慮していたティアですが、本来はこんな風に多感な女の子になります。
さて、ロマン達の武具がオリハルコン製にこれからなりますが、前までの防具は愛着とある人はとある話の為持ち物に残ります。
そしてルルが何かしてたみたいですがそれは後程に…。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第42話『歴史の修正、始まる』

皆様こんにちはです、第42話目更新でございます。
今回からいよいよこの章の本番が始まります。
つまり、敵との戦いに移り始めます。
その戦いをご覧下さいませ。
では、本編へどうぞ。


 アルが鍛治職人魂を奮い、村で世界樹の杖とエターナルボウ、聖者の衣が製作され始めてから2日後、エミル達は朝ご飯を食べ始めながら宿屋のテーブルで雑談を話し始めていた。

 

「それで、ティアちゃんの魔力制御は如何なのエミルさん?」

 

「万事順調、つい昨日の夜には空に張った結界に火炎弾(バーンバレット)を放てる位に飲み込みが早いわよシャラさん!」

 

「えへへ、見ててくれたエミルやロマンにシエル、怖そうだったダイズも褒めてくれたんだよ!」

 

 朝食にパンとスープを頼んで大人数用テーブルを囲う中、シャラはエミルにティアの魔力制御が上手く行ってるかと尋ねるとエミルを始め、ロマンと目を閉じながらコーヒーを飲むシエル、ダイズが笑みを浮かべつつ順調だと話し、更にたった2日で中級魔法が使える程に才能があったらしくキャシー達も驚いていた。

 

「身体を壊さなければこの子は数百年の逸材となっていたでしょう。

 本当に、とても只の9歳の女の子とは思えませんよ。

 ですよね、シエル?」

 

「ふっ、そうだな。

 愚王グレイの時代に生まれていなければ私が面倒を見て正しく育てた位さ」

 

 アイリスもその様子を遠目で見ていた為かなりの逸材となっていたかも知れないと言う可能性の話をシエルに振る。

 すると彼女はドヤ顔で同じ時に生きていれば面倒を見たと話し、如何やら彼女も色んな意味でティアに愛着が湧き始めている様であった。

 黙っているダイズも反応からすれば同様であり、ティアはすっかりこの呉越同舟同盟の癒し枠になっていた。

 

【バタン!】

 

「おう良く食ってるなお前等‼︎

 このアル様達も混ぜてくれや‼︎」

 

「アル殿達! 

 もしやオリハルコンの武具が完成したのか!」

 

 すると宿屋にアル、リコリス、アザフィールの3人がドアから入ってエミル達を見渡すと、ネイルもこんなにも早くオリハルコンの武具が完成したのかと驚きながら声を掛けていた。

 

「おうよ、補佐の連中が大変優秀なんで2日間貫徹を決め込んだら完成したぜ‼︎

 まぁ俺様の腕も無きゃ完成さなかったがな、ガハハハ‼︎」

 

「ええ、彼の鍛治師の腕は最高峰でした。

 さあ、全員朝食を食べたら自分の装備を受け取りなさい。

 それぞれの武具が入った魔法袋(マナポーチ)に名札を貼ってますので持って行って下さい」

 

 アルは上機嫌で席に座り運ばれてきた肉を食べながらアザフィールやリコリスが優秀だったと話し、されど自身の腕前が無ければこんなにも早く完成しなかったと自慢すると、リコリスもアルの腕を評価し最高峰クラスと話していた。

 黙ってるアザフィールも頷いており、如何やら天界魔界でも通用する職人技を持つ事が判明した。

 それからリコリスは朝食が食べ終わった者から魔法袋(マナポーチ)を渡して行き、装備新調の時がいよいよ来ていた。

 

「俺のは…こいつか!」

 

「俺はこれなんだな〜」

 

「へぇ、オリハルコンローブも仕立て上がってるわねぇ」

 

 先ずはガム、ムリア、シャラが袋を手に取るとシャラが中を確認するとオリハルコンローブも仕立て上がってる事を確認し、更に自身の黄色主体のカラーに仕上がっていると思い唸っていた。

 

【バタン!】

 

「サラ王女殿下、発注令を受けていた聖者の衣にエターナルボウ、世界樹の杖が完成致しました!」

 

「あ、丁度良かったわ‼︎

 ありがとうね仕立て屋さん、はい代金だよ‼︎」

 

 其処に更にこの国1の仕立て屋が宿に到着し、発注されたサラ用の武具とエミル達の杖を運んで来た。

 その到着を受け、仕立て屋にサラが料金を支払うと早速エミル達に杖を渡した。

 するとエミルは席を立ち上がり、客が少し離れている場所で杖を手遊びで回転させ、感触を確かめるとバッチリと感じていた。

 

「うん、とても良い出来だよこの杖。

 じゃあ皆、早速装備新調するわよ‼︎

 アイリス、シエル、ティアちゃんを少しお願いね」

 

「分かってるから早く行け、此処までに2日時間を掛けたんだ。

 直ぐにでもヴァレルニア港街に向かいたいんだからな」

 

 それからエミルは全員に装備新調する様に指示を出し、アイリス達新調が必要無い組にティアを預けるとシエルがさっさとやれとニュアンスで伝えて来た為全員走って部屋で装備を新調した。

 それから直ぐに全員降りて来ると、パーソナルカラーは変わらないが、オリハルコン特有の金色の輝く部分が鎧やローブに追加され、その上でミスリル製のアーマー等と同等に軽く着心地が変わらなかった。

 

「流石アル、前の鎧と余り変わらない着心地だよ‼︎」

 

「ひゃあ〜これがゴッフ一門の腕か〜、すっごい仕立て上げだな〜!」

 

「ガハハハ、もっと褒めやがれ‼︎」

 

 全員腕を上げたり鎧を叩いたりしてその感触を確かめアルの腕を持て囃しているとアルは上機嫌で笑い声を上げ、自身の功績を讃える様に話していた。

 

「何だかあのアルっておじさん、顔は怖そうだけど面白い人だね!」

 

「お、おじさん…ま、まぁ子供からしてみれば俺様もオッサンか………ドワーフの誇りであるこの髭も相俟って…」

 

 するとティアがアルを面白いおじさんだと口にした瞬間その無邪気な言葉がアルの心に深々と刺さり、9歳の子供からすればドワーフの350歳はおじさんもおじさん、先祖レベルだと思い始め笑い声を沈めて髭を弄り始めていた。

 

「さて、おじさんのアルも元気出してティアちゃんの魔力を消費した広場に行くわよ。

 あ、宿屋さん、これ宿泊料ね」

 

「おいエミル、お前までおじさん呼ばわりするのは流石に許さねぇぞおい‼︎」

 

 それからエミルがアルを茶化しつつ宿屋の受付にシエル達を含めた全員の宿泊費を払うと、エミルにおじさん呼ばわりされたアルはカチンと来て彼女の跡を追い始め全員ティアの歩調に合わせた小走りで彼女を救った広場に集まり、早速エミルはロマン達全員を並ばせた。

 

「さて、ネイルの武具は前世で二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を掛けてるからもう必要無いとして、私を含む他武具を新調した全員に前の武具と同じ魔法祝印(エンチャント)を掛けてからの二重魔法祝印(ダブルエンチャント)‼︎

 はいよいしょ‼︎」

 

【キィィィィィン‼︎】

 

 ロマン達を並ばせたエミルは前世(ライラ)の時に二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を掛けていた大英雄シリウスの武具にはもう魔法祝印(エンチャント)の必要が無い為自身を含む武具新調組に前の武具と同じ魔法祝印(エンチャント)を掛けてから二重魔法祝印(ダブルエンチャント)を掛ける。

 その瞬間広場に煌びやかな粒子状の光が辺り一帯を包み込み、ロマン達は再びエミルの魔法祝印(エンチャント)が自分達を守る感覚を覚えた。

 

「わぁ、綺麗…‼︎」

 

「これが魔法使いエミルや地上界の者達の真骨頂、個々の力は弱くとも仲間の能力を引き上げ補い合う、我々魔族や天使には無い絆と呼ぶ物さ、ティア」

 

 ティアはその光に見惚れ舞い踊っていると、シエルはこれがエミル、そして地上界の者達の絆と説き、アイリスとリコリスやエミル、ロマンはその様子からシエルはティアの事を例え一時の夢の様な結果になってもと思いながら気に掛けていると見て取れた。

 何よりシエルの鉄の様に固い表情の仮面、その下にある優しさを見てエミル達は今まで見て来た魔族と違う事を改めて思い知らされていた。

 

「…さて、二重魔法祝印(ダブルエンチャント)も終わって準備は整ったしアイリス、リコリス、ヴァレルニアに向かいましょう‼︎」

 

『ええ!』

 

【キィィィィィン、ビュン‼︎】

 

 しかしエミルは今は目の前の事態の解決を優先すべきだと考え、アイリス達にヴァレルニアへ転移する事を促すと2人の天使はシエル達4人の魔族を含めてロックヴィレッジから転移した。

 そして、エミルが魔法祝印(エンチャント)を掛けてた際に集まっていた野次馬達を尻目に注目されてた者達は消え、更にその場にロックとリリアナが訪れ住民達は平伏していた。

 

「頼んだぞサラ、エミル達」

 

「ルル、ロマン君、貴女達の行く末に幸があらん事を」

 

 ロックとリリアナは次に見た時にはまた自分達を突き離すレベルに至ったエミル達に期待、幸、様々な感情を込めて天を見つめ見送りこの自分達には及び付かない事態の解決を、その身の無事をただただ祈るばかりである。

 その姿にロックヴィレッジの住民達もサラ達が何かに巻き込まれているのを悟り、彼等もまた無事を祈り続けるのだった。

 

 

 

【ビュン‼︎】

 

「着いたわねヴァレルニアに。

 …予想していたけど、10日前とガラリと光景が変わりすぎてる。

 あの戦闘があった後のままに………」

 

 エミル達は転移して次の瞬間に目に映った光景はヴァレルニア港街であった。

 しかし、ほんの少し前に訪れ復興され始めた街はオーバーロードドラゴンのブレスや戦闘の痕ばかりが残り、自分達が10日前に見た街と同じとは到底思えずに居た。

 

「悲観している暇があるなら準備を始めるぞ。

 先ずは時空の腕輪を目の前に構えろ」

 

「分かってるわよシエル。

 ソーティスが逃げた時みたいに構えて…」

 

 そんなエミル達にシエルが喝を入れ、全員が時空の腕輪を胸元の前に構えるとソーティスが逃げた時の様に赤い文字が浮かび上がった。

 しかしそれはソーティスの時と違いノイズが走り、数字も時々文字崩れを起こしていた。

 

「アイリス、これがもしかして」

 

「はい、その通りですよ。

 過去の時間軸に改竄が起きた事を示す反応です。

 後はこの数字を頭に思い浮かべて腕輪を天高く掲げて下さい。

 そうすれば、私達は過去の時間軸に跳ぶ事が出来ます!」

 

 アイリスの近くに居たルルがこの状態を問うと帰って来た答えは当然の如く、其処に浮かぶ時間軸に改竄が発生していると言うものだった。

 アイリスは更に腕輪の上に浮かんだ数字の時間を思い浮かべ、天高く腕輪を掲げるとソーティスの様に時間を跳ぶ事が出来ると伝えるとエミル達は頷き、集中しながら数字を思い浮かべ始めた。

 

「ティア、私達の手を掴んでなさい。

 そうすれば貴女も私達と一緒に跳べるわ」

 

「わ、分かったよシエル」

 

 その際にシエルがティアに手を取る様に指示を出し、そうすれば共に跳べると説明をしてティアに自身の右手を取る様に促した。

 無論彼女は自身の身を知ってる為、消えない様にシエルの手を強く握っていた。

 それから直ぐに集中し切り、全員が天高く時空の腕輪を掲げた。

 

【キィィィィィン、カチカチカチカチカチカチ、ビュゥゥゥゥゥゥゥン‼︎】

 

 その瞬間周りに時計の様な魔法陣が浮かび上がり、それが反時計回りに針が高速で回り始めるとエミル達は光に包まれ、眩しく感じたエミル達地上界組やティアは瞳を閉じた瞬間身体が転移の時の様に重力から解放された感覚を覚え、そしてその場から光が消えた時にはエミル達も消え去っていた。

 それにより今のヴァレルニア港街には誰も居ない状態となり、冷たく寂しげな風が埃を吹き飛ばして行くのだった。

 

 

 

 それからエミル達は眩しい光が消えた後に目を開けると周りは巨大な時計が幾つも浮かぶ不思議な空間に出てエミル達は息を呑み始めていた。

 

「このまま腕は掲げ続けて下さい、それで跳ぶ時間に無事に辿り着きます。

 それからティア、この時空間で手を離さないで下さい。

 時の流れに飲まれて何処とも分からぬ時間軸に跳ばされてしまいます」

 

「う、うん、シエルの手を離さないよアイリス‼︎」

 

 アイリスは周りの全員にこのまま腕輪を掲げ続ける事、ティアには手を離さない様に忠告を入れながら自身も時空の腕輪を掲げていた。

 ティアはその言葉にビクッとなりながらもシエルの右手を両手で強く握り、シエルも離さない様に握り返していた。

 

【カチカチカチカチ、カチャ、ビュゥゥゥゥン‼︎】

 

 すると周りの時計の針が12時でピタリと止まり、次の瞬間エミル達は時空間と呼ばれる場所から転移し、再び実空間に出るとヴァレルニア港街から少し外れた位置にある小高い丘に転移が完了した。

 更にエミル達はその眼前に広がる光景に見覚えがあった、あの魔血破(デモンズボム)が炸裂し、数時間以上に及ぶ戦いが繰り広げられた瞬間だった。

 

「くっ、またこの光景を見るなんてね…‼︎」

 

「何、これ………これが、戦いなの…?」

 

 エミル達は再び悪夢の光景を目にし、眼下では過去の自分達が必死の抵抗をしているあの時の1つ1つの瞬間が広がっていた。

 更にティアはこの燃え広がり、奥の結界で守られてる人々は腕や足が治癒で繋がれてる最中、最前線のロマン達は雄叫びを上げながら魔族達を斬り伏せておりこんなに酷い光景が戦いかと青褪めていた。

 

「…違う、これは戦いでは無いです。

 これは、虐殺と言う一方的な蹂躙に抵抗する光景です。

 本来戦いとはこんな泥沼なものじゃありません。

 …魔界側にアギラと言う将軍が居たのです、その者は地上界の者達を痛ぶり、絶望に打ち拉がれる姿を見て悦ぶ悪逆の限りを尽くしてたのです。

 その結果がこれです」

 

 そんなティアにこれは魔界側のアギラと言う魔族が虐殺に走った結果だと話し、自戒の意を込めながらこの光景を再び目に焼き付けながらアギラの趣向を口にし、幼いティアも本の物語の悪役以上の悪意に恐怖心を覚え、エミルやシエル達の後ろに隠れ始めていた。

 

「…ティアちゃん…」

 

「おいお前達、そろそろ集中しろ。

 オーバーロードドラゴンが戦線投入されるぞ」

 

 エミルがティアを心配する素振りを見せる中、ダイズがオーバーロードドラゴンが来る時が迫った事を知らせ、隠れて服を掴んでいるティア以外の全員でランパルドとフィロ、リヨンの3人に注目し、改竄される瞬間を目撃しようとしていた。

 

「拙い、皆避けろぉぉぉぉ‼︎」

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

【ゴォォォォォォォォォォォォ‼︎】

 

 そうしてアルクの叫び声が響き渡り、兵達の悲鳴が上がる中オーバーロードドラゴンのブレスが街に降り注ぎ地を穿ち、更に逃げ遅れたフィロ達を庇いランパルドが右腕を犠牲にして押し出そうとしていた。

 

【カチッ‼︎】

 

「っ、これは時間停止魔法(タイムストップ)‼︎」

 

 その瞬間世界が静止し、全員が時間停止魔法(タイムストップ)が発動したと認識した瞬間ランパルド達の方に注目し、ソーティスが居ないかどうかを確かめ始めた。

 すると…其処には、黒髪黒服の魔族と白髪白服の魔族が立っていた。

 

「何、ソーティスじゃない⁉︎」

 

「だがあの様子、奴等が時間停止魔法(タイムストップ)を発動させたと見るべきである‼︎

 シエル様、ダイズ殿、全員奴等の前へ‼︎」

 

 シエルはソーティスでは無い別の魔族が現れた事に驚き立ち上がると、アザフィールがあの時のこの戦場に居なかったその2人の魔族がこの時間停止を行なったとして全員でその魔族達の前に飛び出し始めた。

 

「ねぇ、何で皆止まっちゃったの⁉︎

 これ、なんなの⁉︎」

 

「えっ、ティアちゃんの時間が止まっていない⁉︎」

 

「驚く事は無いです、ティアが擬似特異点(セミシンギュラリティ)の貴女達に接触してる為に時間操作系魔法から逃れる事が出来ているのです‼︎

 それより戦いの用意を‼︎」

 

 そんな中ティアの時間が止まっていない事にエミル達は驚いたが、アイリスが擬似特異点(セミシンギュラリティ)のエミル達に接触してる為時間停止から逃れられたと説明し、今は目の前の謎の魔族2人組との戦いの用意をする様に指示を出し、エミルがティアを抱き抱えながら杖を構え他の全員も武器を構えると2人の魔族が此方に気付き出した。

 

「むっ、兄者‼︎

 やっと魔剣の将シエル達が来たぞ‼︎」

 

「分かってる、それに天使に…これが今代の勇者一行達か。

 確かに油断は出来ないレベルに仕上がってるみたいだな…」

 

 ランパルド達に群がっていた2人の魔族はシエルを初めに確認し、その後他の全員も確認して2人の魔族も剣を構えていた。

 魔族2人の内1人はシエル達が現れた為、自分達で実行しようとした案も何も出来ない為人質行為として刃先をランパルドに向けながら構え、それを見たエミル達は迂闊に近付けないと感じ構えを解かずに緊迫状態が続いていた。

 その中で先ずネイルが口を開いた。

 

「お前達は何者だ、ソーティスは何処に居る‼︎」

 

「ソーティス様は此処には居ない、今頃別の時間軸に跳び実験の照明をし始めている頃では無いか? 

 そして我々か? 

 我々はソーティス様の助手だよ」

 

「助手…だって⁉︎」

 

 ネイルが何者か、ソーティスは何処かを問うと黒髪の魔族はそれ等1つ1つに律儀に答え、更に自分達こそがソーティスの助手だと言い放ちガムや他の面々を驚かせる。

 

「そうさ、我等兄弟は彼の方から脳に直接時間跳躍魔法(タイムジャンプ)の術式を刻まれ、時を跳べる様になったソーティス様の助手よ‼︎

 それにしても時間跳躍魔法(タイムジャンプ)さえ脳に直接刻まれればその過程の魔法も全て会得済みになる実験は大成功だな兄者‼︎」

 

「そうだな、ヴァイス」

 

 更に白髪の魔族、ヴァイスはエミル達も聞いた事の無い脳に直接術式を刻み込むと言う失敗したリスクを度外視した手段で2人は時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を会得した事を告げる。

 そうしてこの2人の魔族から感じるソーティスへの狂信に今までの魔族の忠誠対象が魔王からソーティスに変わった物とエミル達は心で感じ始めていた。

 

「さて、我々があの方より授かった使命を果たすべくお前達を此処で排除するとしよう。

 最後に我が名はネロ、貴様達の命を奪う者の名前だ、しかとその胸に刻め!」

 

「来るわよ、全員戦闘開始‼︎

 ティアちゃんは私の後ろで隠れてて‼︎」

 

「う、うん‼︎」

 

 それから黒髪の魔族、ネロもこれ以上の話は不要と感じたのか遂にヴァイスと共に自身の使命を邪魔無く果たすべくエミル達を排除しようと襲い掛かり始めた。

 それを見たエミルは全員に戦闘開始と指示した瞬間、ロマンやシエル達全員に身体強化(ボディバフ)IVと時間加速魔法(タイムアクセル)を掛け、自身はティアを庇いながら結界魔法(シールドマジック)Vを張り彼女を守りながら攻撃魔法の用意をしていた。

 

「久々のソーティス様の為の戦いだ、腕が鳴るぜぇ‼︎」

 

「ネロ、ヴァイス、時を改竄する蛮行を許す訳には行かない‼︎

 我等が正義の刃を受けろ‼︎」

 

「さて、貴様等2人は弱者か、強者か見せて貰うぞ‼︎」

 

 ネロ、ヴァイスが支援魔法が行き渡ったのを見届けた瞬間自身達も時間加速魔法(タイムアクセル)を使用し停止した時間内でエミル達は加速しながら戦闘を開始。

 先ずネロをダイズが、ヴァイスをネイルが相手をしティアの目にも止まらぬスピードでオリハルコンの刃と魔族の剣が斬り結び、狂戦士の拳と剣が何度も衝突しつつネロ達を停止中のランパルド達から遠ざけ出す。

 

「ソーティスの仲間なら容赦しない、神様の名の下消えなさいネロ、ヴァイス‼︎」

 

「ふふ、最強の天使様達も来るか。

 ではその天使アイリス達に敬意を払い全力で相手しよう!」

 

「オラァ、俺様達も忘れんじゃねぇ‼︎」

 

 其処に直ぐアイリス達天使2人も参戦し2人の魔族に対して攻撃し、ネロもそれに敬意を払うと余裕を見せていたが、其処にアル達も乱入し2対多数の乱戦状態と化した。

 だがネロ、ヴァイスはこの状況を楽しんでおり、次は何が来るか待っている節が見て取れた。

 

「アンタ達、舐めるのもいい加減になさい‼︎」

 

雷光破(サンダーバースト)‼︎』

 

「エミル達に合わせて、『絶氷弓』‼︎」

 

 そんなネロ達の態度に苛立ちを覚えたエミルはキャシー、シャラと共に世界樹の杖と言う最高峰の杖に二重魔法祝印(ダブルエンチャント)により魔力浸透率、変換効率や威力が増大した雷光の魔法がネロ達を襲い、彼等がこれを避けた瞬間サラの放った矢が遂に2人に擦り、青い血がその箇所から垂れ始めた。

 

「ほう、これは…」

 

『やぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

 ネロは現代の勇者一行達のレベル以上の実力に関心を持った瞬間、ルルとロマンも遂に戦闘を開始。

 鋭い刃が彼等の喉元スレスレを掠め、更に的確に急所を狙う2人の攻撃に少し冷や汗が出始めていた。

 

「ふう、この2人はまた格別だな…‼︎」

 

「今だ、この至近距離なら避けられない、焔震撃(マグマブレイク)‼︎」

 

【ガガガガガガガ、ゴォォォォッ‼︎】

 

 2人の攻撃を避けていたネロ達が互いに接近した瞬間を狙い、ロマンは焔震撃(マグマブレイク)を放ち至近距離過ぎて避けられない2人に的確な魔法ダメージを与えた。

 更にその焔震撃(マグマブレイク)の合間を縫いアザフィール、シエルが突撃していた。

 

「その首、断たせて貰う‼︎」

 

「ほら、貴様等の大好きな魔剣だ、受け取るが良い‼︎」

 

「来たか、アザフィールとシエル‼︎」

 

【カンキンキンガンッ、ギリギリギリギリギリギリ‼︎】

 

 アザフィールは大剣を軽々と振るいヴァイスの首を断とうと接近し何度も打ち合いとなり、シエルは時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を使用する者達の有効打であるベルグランドを魔力を放出しながら振るい、ネロはその魔力を避けつつ剣同士の打ち合いと鍔迫り合いとなるが、明らかに他の面々と戦っていた時と違う反応をしておりエミル達は矢張りシエルがこの者達の攻略の鍵だと確信する。

 

「はぁ‼︎」

 

「っ、勇者が来たか‼︎」

 

 そのネロに対してロマンがシエルと共に攻撃し、確実に1人を潰す戦法を取り2人で1人を攻撃し続ける。

 これにはネロも流石に堪らなかったのか途中で距離を離し魔法で目眩しをしようとした…が、サラがそれを許さず足下に矢を放ち更に後退させ始めた。

 

「良くやったサラ、さあ貴様もこれで終わりだ‼︎

 絶界まけ」

 

「待ちなさいシエル、ネロの背後を見なさい‼︎

 ランパルド達が‼︎」

 

 シエルはサラがネロを釘付けにした所を見計らい、ベルグランドの力を解放しようとした………だが、アイリスがそれを中断させ、その理由もランパルド達がネロの背後に居り、避けても避けなくてもベルグランドの闇の一閃でランパルド、フィロ、リヨンの3名が死亡する為このままでは歴史の改竄を修正出来なくなってしまうのだ。

 

「…チッ‼︎」

 

「ふう、危ない危ない。

 まさかこれ程強く連携も烏合の衆では済まされないとはな」

 

「ぐおあっくっ‼︎

 兄者、奴等強えな‼︎」

 

 シエルは解放しようとした魔剣の魔力を霧散させながら舌打ちすると、ネロはわざとらしく身振り手振りを行いつつ、自分達の主の敵は烏合の衆で無い事を理解した。

 その時ダイズ、ネイル、アルの攻撃で吹き飛ばされたヴァイスがこれ等を以て強いと称し、だがそれでも笑みは崩さず戦い足りないと言った様子を見せていた。

 

「…ふう、矢張り我等3人だけでは無理があるか。

 ならば次は『数を揃える』事から始めようか…行くぞヴァイス、ソーティス様の下へ帰還するぞ」

 

「けっ、身体が温まって来た所なんだがな‼︎

 まぁ、兄者の判断は間違えた試しが無い。

 だから此処は引くぜ…但しコイツ等の首を斬ってからな‼︎」

 

 それからネロはヴァイスに撤退命令を出し、次の算段を口にしながらソーティスは下へ帰還しようと発言する。

 ヴァイスもそれに従う様子を見せる…が、直ぐに後ろを振り向きランパルド達の首に剣を振り下ろそうとし始め、その凶刃がランパルド達の命を奪おうとしていた。

 

「止め」

 

闇氷束(ブラックフローズン)‼︎」

 

 ロマンがそれを見てから走り出そうとした、が明らかに間に合わない。

 誰もがそう思った瞬間エミルが今までに無い反応速度でヴァイスの右腕ごと剣を黒き氷で凍結させ、ヴァイスも威力や範囲を自分の右腕限定に絞って複合属性魔法を放たれた事に驚き、エミルを睨んでいた。

 

「誰が、誰の首を斬ると?」

 

 エミルは彼女の後ろに隠れているティアには見せられない、目が笑っていない笑みを浮かべながらヴァイスの凍った腕を見ており、更に杖に魔力の光が集まっており次はもっと悲惨な目に遭わせると2人にこれ以上何かすれば生命を奪ると明確に暗示しており、絶対零度の殺意が魔族の兄弟を襲っていた。

 

「ヴァイス、もう止めておけ。

 これ以上の長居は無用だ」

 

「…チッ、分かったって兄者‼︎

 …次あったら殺してやるからな魔法使い、覚えておけ‼︎」

 

【ブゥン、カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

 ネロはヴァイスに警告を発し、撤退を再度呼び掛けると流石にヴァイスも懲りたのか撤退し始め、更にヴァイスに至ってはエミルに殺してやると殺害予告を出すと時間跳躍魔法(タイムジャンプ)で撤退し、時間停止はアイリスが引き継ぎその場には1ヶ月前のランパルド達や自分達、そして未来から来たエミル達しか居なくなった。

 

「良いのかエミル殿、1人は確実に減らせた筈だが?」

 

「いや、あれ全然まだまだ余裕ある奴の態度だったからあれ以上やったら逆上して何するか分からなかったわネイルさん」

 

「マジか〜…」

 

 それからネイル達全員が集まり、ヴァイスをあの場でヤれた筈とエミルに問いたが、前世(ライラ)の経験も合わせてヴァイス達はまだ何があると感じた為エミルはあれ以上の追撃は元よりやるつもりが無かった。

 それを聞いたガムはまだ倒せないと聞き顔を押さえながら面倒だとさえ思っていた。

 なおロマン達エミルと付き合いがより長い組やシエル達はあれがハッタリと見抜いていた。

 

「さて、彼等は消え去ったので後はランパルドを右腕だけが巻き込まれる様に、更にフィロ達は巻き込まれない様に彼等の位置を把握し、ズレている場合は調節しましょう」

 

「ええ…お父様ごめんなさい、でもこれが正しい歴史の流れだから………不甲斐無い娘を許して下さい…」

 

 そしてアイリスは邪魔者が消えた為、残すは元ある歴史の形に直す様にランパルドの右腕を焼滅する様に調整する事を話し、エミルも同意して率先してブレスの範囲を計算、位置の微妙なズレを直したり等しながら不甲斐無い娘である事を詫びており、無表情にならなければ泣きそうになる為表情を変えずにあるべき形へと戻し始めていた。

 

「…さて、他に変わった点はないか? 

 なも知らぬ兵士が実は生きてたのに死んでいた等と言うオチは許さんぞ?」

 

「大丈夫です、私が記憶していますから。

 これで全てが整いました、後は我々が帰るのみです」

 

「アイリス姉様は一度見た物は忘れないから間違いないわ」

 

 最後にシエルが他に変わった点が無いかを問い質すと、アイリスが自身の記憶能力で全てがあの時と一致して後は帰るだけだと伝えると、リコリスもそれを保証しならばと全員集まり、アイリスに帰る方法を教えて貰い始めた。

 

「帰る時は簡単です、ただ腕輪を天高く掲げてしまえば良いだけです。

 そうすれば我々は元の時間軸に帰れます」

 

「そう…ならティアちゃん、捕まっててよ!」

 

「うん、分かったよエミル!」

 

 アイリスは帰る際はただ腕輪を掲げれば大丈夫だとエミル達に伝えると、エミルは後ろに隠れていたティアの手を掴みティアもまた彼女の手を掴んでいた。

 

【キィィィィィン、カチカチカチカチカチカチ、ビュゥゥゥゥゥゥゥン‼︎】

 

 それからエミル達は来る時と同様に時空の腕輪を掲げると、時計の様な魔法陣が浮かび上がり今度はしっかりと針が時計回りになりながら光に包まれ未来から来たエミル達は消え去った。

 

【ゴォォォォォォォォォォォォォォォォ‼︎】

 

 それと同時に時間停止魔法(タイムストップ)が消え去りオーバーロードドラゴンの炎が街を穿つのであった。

 因みにこの時間軸のシエル達は突然時間停止した事に驚き、事態を把握しようとする動きが増えていたがこれは未来のアイリス達が消えると同時に記憶からも消え去り、残りは元通りの歴史の形に戻るだけであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
時空の腕輪の時間跳躍は改竄箇所を直す為に時間跳躍魔法(タイムジャンプ)使用者よりも少し前の時間に跳躍します。
その為時差が発生する場合がありますが、時間跳躍魔法(タイムジャンプ)使用者がその時間軸に何度も行き来しているとその限りでは無いです。
さて、今回から歴史改竄を行う者達との戦いに移りましたがその結果が如何なるかお楽しみ下さいませ。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第43話『生は死に、死は生に』

皆様こんにちはです、第43話目更新でございます。
今回は前回から続き、修正完了した現在如何なったかから描かれます。
その中で何が起きるかもお楽しみ下さいませ。
では、本編へどうぞ。


【カチカチカチカチ、カチャ、ビュゥゥゥゥン‼︎】

 

「っと、元の時間軸のヴァレルニアに戻ってきたけど様子は………」

 

『ガヤガヤガヤガヤ』

 

 エミル達はネロ達の撃退後、約1ヶ月後ヴァレルニアに戻った。

 光が消え去り、周りの様子を見てみると………ヴァレルニアは復興し始め、街に人々が往来し慰霊碑も建てられたり等、自分達が知るヴァレルニアが戻って来ていた。

 

「良かった、僕達が知るヴァレルニアだ…‼︎」

 

「その様ですね。

 あ、エミルさんティアちゃんにこのローブを着させて下さい、額を見られたら少し面倒になりますよ?」

 

「アンタ達いつの間に変身魔法(メタモルフォーゼ)使ってた上に子供用フード買ってるのよ…」

 

 ロマンは自分達が知るヴァレルニアに元通りに戻り、他の面々も頷く中シエル達はエリス、ザイド、アズに化けた上にいつの間にか買っていた子供用ローブをエミルに渡し、その用意周到さにエミルだけ呆れつつもティアにローブを着させ、更にフードを被せて額の魔血晶(デモンズクリスタル)が見えない様にしていた。

 

「…でもエミル様、まだ魔法元素(マナ)の淀みが消えてませんよ?」

 

「つまりは他の部分でも時間改変現象(タイムパラドックス)が起きているのでしょう。

 特に人の生き死に、歴史を変える様な物がまだ発生し続けているのでしょう。

 先ずは再びロックヴィレッジに向かいましょう、其処で賢王ロック達の反応を見ましょう」

 

 しかしキャシーは魔法元素(マナ)の流れを読み取り、未だ淀みが消えていないと全員に話すとアイリスは他の部分でも時間改変現象(タイムパラドックス)が発生していると確信をは言い放ち、更に王村ロックヴィレッジに再び向かいロック達の反応を確認しようと話していた。

 

「何か変化があるの、アイリス、シエル?」

 

「多分ロック様達がひっくり返っているでしょう、ふふふ」

 

 ロマンは何かあるかと尋ねるとシエルは笑いながら賢王達が倒れてると少し悪戯心がある様な笑いを見せ、エミル達は何のことだと思い始めていた。

 

「百聞は一見に如かずと言う言葉がヒノモトにあります。

 どんなに聞いた物もただ一目見た事実の方が分かり易いのです、さあ行きますよ」

 

【ビュン‼︎】

 

 更にアイリスもヒノモトの言葉を引用し、一目見ろと遠回しに話して来た上に全員を転移させ、再びロックヴィレッジの宮殿内にエミル達は跳んでいた。

 するとロックやリリアナ達が駆け寄り、エミル達に話し掛け始めた。

 

「おお、エミルにサラ達‼︎

 矢張りそなた達が話していた事は事実の様だ、今の我々の記憶に『ランパルド前国王殿達が死んでいた』物と『3名が生き残り、グランヴァニアは復興し始めている』と言う矛盾した2つの物が頭の中で駆け巡り、国民達も混乱に陥っている‼︎」

 

「これが貴女達が言った時間改変現象(タイムパラドックス)、その影響の記憶でしょうか!」

 

 ロックとリリアナは何とランパルド達が死んでいた記憶と本来の記憶が混在し、国民達もその記憶に混乱を生じさせているとして、これが時間改変現象(タイムパラドックス)の影響なのかとエミル達を問い質していた。

 エミル達もまさかと思いながらアイリスやシエルを見ていた。

 

「そうですね、この現象は大元の原因が断たれない限り続きますよ。

 つまりソーティスやあの助手を名乗った2人を斃さない限り混乱は収まりませんよ」

 

「残念ながらこの人に化けたシエルの言う通りです。

 1つ1つの時間改変現象(タイムパラドックス)を解消するとこの様な現象が発生します。

 世界の修正力でその内消えますが、手っ取り早く解消するにはソーティス達を消すしか無いです」

 

 エリスに化けたシエルは悪戯心が前面に出た笑みを浮かばせながらも、早い解決策を掲示してアイリスに続きの説明をさせると、時間改変現象(タイムパラドックス)を解決する毎にこの矛盾した2つの記憶が残り、世界の修正力がそれを消すと語り、しかし矢張り早い解決策はソーティスやネロとヴァイスを殺す手段を採るべきだと公言する。

 

「兎に角、我々は一旦セレスティアに跳び5国緊急の会議を執り行う。

 君達もこの事態の中心人物だ、是非参加して欲しい‼︎」

 

「わ、分かりました‼︎」

 

 ロックは事態の深刻さを受けて、エミル達を伴った5国の緊急会議を実施すると宣言し、中心人物を参加させて改めて差し迫る危機を各国に警告すると話した。

 これにエミル達は直立立ち礼をしながら参加する事とし、エリスに化けたシエルもドレスの裾を摘みながら礼をして彼女達も参加すると態度で表明するのであった。

 

 

 

【カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

「くそ、あの魔法使いめ‼︎」

 

【ガシャァン‼︎】

 

 一方その頃、何度もあの時間軸に行きエミル達を待ち構えていたが、いざ戦うと別の時間軸に撤退する羽目になったネロとヴァイス。

 特にヴァイスはエミルに小馬鹿にされた様な態度を取られた為、怒りのまま剣ごと右手の凍結部分を砕き元の状態に戻して周りに当たり散らそうとしていた。

 

「止めろヴァイス、奴等の力は矢張りソーティス様が懸念した通りであった。

 それだけ知れただけでも十分情報的価値はあった」

 

「だが兄者‼︎

 あの魔法使いは‼︎」

 

「落ち着け、次出会えたら殺せば良い、それだけだろう」

 

 その怒りで我を見失い掛けたヴァイスをネロは肩に手を置き、今回の戦いは本腰では無いと言い聞かせる様に宥め始める。

 しかしヴァイスはエミルの顔を思い出す度に怒りが増しそうになるが、ネロは次に殺せば良いと淡々と口にしてそれ等を聞き漸く怒りを沈め始めた。

 

【カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

「ふむ、ネロとヴァイス。

 その様子では矢張り奴等に手痛い目に遭わされたな?」

 

「申し訳ありませんソーティス様、任務を任された身でありながら」

 

「構わない、未だ時間改変現象(タイムパラドックス)は種を蒔いて実っている。

 それより、新たな同志を紹介しようでは無いか」

 

 其処に時間跳躍魔法(タイムジャンプ)によりソーティスが現れ、2人の様子から撤退に追い込まれた事を察していた。

 ネロは任された任務を失敗に終わらせた事をヴァイスと共に跪き詫びると、ソーティスは然して気にしてない様子を見せ、その次には新たな同志と称し再び時間跳躍魔法(タイムジャンプ)の魔力を放出すると、それをジャンプポイントとして複数の魔族が時間跳躍して来た。

 

「ソーティス様、此奴らが」

 

「そう、俺が時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を直接刻んだ同志達だ。

 仲良くしてやってくれ」

 

 ネロは跳んで来た魔族達を一瞥し、ソーティスは同志と呼びヴァイス達と仲良くする様に要求する。

 しかし2人には不安材料があった、何故ならその同志には愚王グレイ、更に魔界の愉快犯『ナイア』、更にナイア同様の大罪の魔族が存在し、仲間でも敵でも足を引っ張る行いしかしないだろうかと侮蔑と不安の感情を抱くのであった。

 

 

 

 一方地上界、セレスティアの大会議室ではフィロ達を含む5国の諸王、更に時間改変現象(タイムパラドックス)で死んだ事になっていたランパルドやエミル達に加え、いい加減変身魔法(メタモルフォーゼ)IIを解く様にエミルに言われたシエル達が座っており、会議が進んでいた。

 

「うむむ…まさか私とフィロ現女帝陛下、リヨン王子があの戦いで死んだ事になったとは…しかもその記憶も我等にもある…」

 

「これがエミル殿下達の言う彼方なる者ソーティスとその仲間の仕業、ですか…」

 

 ランパルドやフィロは自身がヴァレルニアの戦いで死んだ記憶と現在までの記憶が混在し、混乱している中でこれがソーティス達の仕業と認識し、この様な事が今後も起きてしまうのは必然だとも感じ取り事態は切迫詰まりつつあるとも思い始めていた。

 

「そして魔族シエル達は聖戦の儀を一旦停戦し、ソーティス達を討伐するまでは此方と交戦する意思が無い…で、合っているか?」

 

「その通りだよ、アルク新国王陛下殿達。

 我等もまたソーティス、更に奴の助手を名乗った魔族2名が邪魔で仕方無いんだ。

 よって『魔王』様の命の下、お前達地上界の者達と一切の戦闘はする気は無い。

 尤も、貴様等が後ろから狙うならその限りでは無いが、な」

 

 更にアルクがシエル達を見ながら交戦の意思が無い事や聖戦の儀の停戦を確認すると、シエルは背後から襲うならその限りで無いと脅しを込めながらそれ等を肯定し、不敵な笑みを浮かべたまま会議の空気を掴んでしまっていた。

 

「変に脅かすのは止めなさいシエル! 

 兎に角、魔界がソーティス達を邪魔だと断じた事は彼女達と共に戦った我々や天使アイリス達が確認してます。

 なので我々と同行させ、事態の沈静化を図ります‼︎」

 

「…分かった、この件はエミル達に任せる事としよう。

 他の王達も構いませぬか?」

 

『異議無し!』

 

 其処にエミルがシエルに下手に脅かすのを止める様に忠告を入れた後、自分達とシエル達で同行させてこの未曾有の事態を収束させると力強く公言する。

 それがアルク達に伝わったのか、諸王達はエミル達にこの事態を一任する事で意見が一致し、世界の命運がたった今エミル達やシエル達の双肩にかかった瞬間が訪れるのだった。

 

「さて、エミル達に全てを託したとして…其処の魔族の子供、彼女は時の迷い子と言う特殊な子、なのだろう?」

 

【ビクッ‼︎】

 

 次にアルクはシエルの隣に座っているティアに視線を送り、急遽作られた資料を読みながら彼女が時の迷い子と言う存在だと確認をした。

 するとアルク達の視線に驚いたのか、ティアは席を立ちシエルに抱き付くと彼女は少し笑みを浮かべ『大丈夫』と念話を送りながら頭を撫で始めていた。

 

「はい、そしてあの子を元居た時代に送る事も私達の使命です。

 なのでティアちゃん…あの子に対する干渉も如何かご容赦下さいませ」

 

正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)のネイルからもお願い申し上げたい!」

 

 エミルとネイルはティアを見ながらこの時代にやって来た彼女を送り返す事も使命だと語り、アルク達が干渉する事に対して容赦する様にと嘆願する。

 

「…ああ、エミル達の使命にそれが含まれるなら我々はあの子には干渉しない。

 エミル、あの無実の子の身をその力を以て守るんだぞ?」

 

「はっ‼︎」

 

 それからエミル達やティアを一瞥したアルクはそれ等を理解し、干渉を一切しないと公言し且つエミルにティアを守るのだと命じ、対するエミルは兄アルク新国王の判断に感謝しつつ勅令を受命した。

 

「ではこの事態解決はエミル達に一任し、魔族シエル達への干渉はしないとする事として我々は我々の出来る事、民を守る事に集中する事にする‼︎

 以上で会議を終了する事とします‼︎」

 

【バッ、スッ】

 

 そうしてアルクは最終確認としてこの時間改変現象(タイムパラドックス)解決をエミル達に任せ、自身達は民を守る事に専念すると宣言した直後に会議終了が言い渡され、全員がアルクに一礼するとティアも真似て頭を下げ、それから諸王達は部屋を出て行き最後にエミルやシエル達が外に出た。

 

「エミル、ネイルさん、話し合いの結果は?」

 

「バッチリ、私達に事態解決を一任しつつシエル達に手を出さないって決まったわ。

 これで貴女達も大手を振って出歩けるわね」

 

「ああ、一々変身魔法(メタモルフォーゼ)を使うのも疲れるからこの措置は有難い」

 

 その廊下でロマン達が待って居り、エミル達に結果を聞くと自分達が何処までも大手を振れる様に事態解決を命じ、シエル達やティアにも干渉しないと結果を話しながらエミルはシエルに堂々と表に出られると話し始める。

 すると彼女も変身魔法(メタモルフォーゼ)で口調ごと変化するのは疲れるらしく、背伸びをした後にティアを抱き寄せながらアルク達の判断に感謝していた。

 

「じゃあ私達に勅令書が直ぐ出る筈だからそれまで待ちながら今後の方針を一旦話し合いましょう。

 私達が如何動くか決める為にも」

 

「エミル殿の言う通りだ、恐らく奴等は1つや2つの歴史に干渉したでは済まないだろう。

 其処で此処に居る16人で如何するかを話し合おう!」

 

 それからエミルはこの後発行されるであろう勅令書が来るまでに誓いの翼(オースウイングズ)正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)、アイリスやシエル達で如何に動くかを話し合い方針を決めようと頷き合うと、エミルが近場の会議室を兵に頼み借りると全員席に座り中で話し合いが始まった。

 

「さて、私たちは今16人居るわ。

 けどお父様達が生きた歴史にしっかり修正してもまだ魔法元素(マナ)の淀みが消えていないから時間改変現象(タイムパラドックス)は他にも起きてると言えるわ」

 

「確かに、ランパルド前陛下達を生かしてもなおもキャシーが淀みを感じ取っていたから間違いないでしょうな」

 

 エミルは全員が座ったのを確認すると自分達はランパルドやフィロ、リヨンが生きた元の歴史に修正しても未だ魔法元素(マナ)の淀みが解消されていない事から未だ自分達が知らないだけで改竄された部分があると断言し、ネイルもそれは間違いないと考え深刻な表情を全員で浮かべていた。

 

「其処で、私達は戦力を2分割して全ての時間改変現象(タイムパラドックス)を直す事を提案したいわ。

 ソーティスを倒すのが1番手っ取り早いけど、アレを倒すには未だ私達、特に地上界側の力が足りて無い。

 だから、先ずはネロ達の方から先に斃して時間改変現象(タイムパラドックス)の数を減らしたいわ」

 

 するとエミルは戦力を2分割しつつ歴史改竄を直すと提案した。

 その理由もソーティスを倒すには自分達の力が足りないと話し、それならばネロ達周りにいた自分達でも戦えて斃せる相手を斃し、改変現象の数を減らす事を全員に向かって話した。

 

「確かにソーティスを斃すにも連中は邪魔だ、ならば先に馬に当たるネロ達を殺す事が先決だな。

 それで、分割内容は如何する?」

 

「勿論誓いの翼(オースウイングズ)正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)よ。

 魔族組はシエルは私達に付いて来て、アザフィールとダイズがネイルさん達側に行って8:8の戦力にするわ」

 

 ダイズはソーティスを狙うには先ず周りから消す必要がある事を承知すると、戦力配分は如何するかと話し、エミル達側はアイリスが必ず付く為シエル1人を付いて来させ、残りはネイル達に付いて行く様に分割する。

 これをダイズはアイコンタクトでシエルと確認し合うと、彼女は問題無いと合図を送っていた。

 

「よし良いだろう、ならばそうしよう。

 …所でティア、この子は何方に同行させるんだ?」

 

「それはティアちゃんの意志で。

 ティアちゃん、私達が話した通り皆一旦半分に分かれて行動するのよ。

 ティアちゃんはどっちが良いか希望はあるかな?」

 

 ダイズもこれに納得しそうすると話すとアザフィールも無言で頷き同意する。

 だが此処でティアを何方が連れて行くかで問題が発生し、ダイズがエミルに尋ねると当然が如く彼女の自由意志に任せるとして、ティアにどっちに付いて行きたいかと希望を尋ねた。

 するとエミル、ネイル、ロマン、キャシー、シエル、ダイズをそれぞれ見て、それから手を上げて答え始めた。

 

「えっと、ならエミルやロマン、シエルと一緒が良い! 

 ネイル達も嫌いじゃ無いし助けてくれたから好きなんだけど…この3人が居る方が私は良いって思ったの!」

 

「そうか。

 ならエミル殿達、ティアを任せたぞ」

 

『はい!』

 

 ティアは最終的にエミル、ロマン、シエルの3人が居る方に付いて行く事を選び、フォローとしてネイル達も好きだと話したが矢張り付きっ切りで面倒を見た3人が居る方が安心出来る様で選び抜いたらしい。

 それを聞きネイルはエミル達にティアを任せると話すとエミルとロマンが立ち上がり了承してティアを守ると誓い合った。

 

「方針は決まったな、なら早く行動を起こして」

 

【ブゥン、カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

「っ、アギラ⁉︎」

 

 こうして方針が決まり、全員が席を立ちそれぞれ行動を起こそうとした瞬間部屋に時間跳躍魔法(タイムジャンプ)の魔法陣が現れ、その上にあのアギラが現れ、フラフラと歩き出し全員がティアを庇いながら身構えた。

 すると、アギラはシエルの足にもたれ掛かり涙を流しながら彼女を見上げていた。

 

「シエルゥ‼︎

 頼む、私を殺してくれぇ‼︎

 私が魔王様の手に入れるべき世界のノイズとなりたく無いんだ、魔王様に忠誠を誓ったまま死にたいんだぁ‼︎」

 

「アギラ、貴様ソーティスに時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を刻まれたか。

 お前はこの歴史では死んでいる者、それが生きている事こそが時間改変現象(タイムパラドックス)その物と言えるだろう。

 しかも特異点(シンギュラリティ)化した異質な存在だ、余計時空を乱す禍根になるな…」

 

 アギラはシエルに自身を殺す様に懇願し、魔王への忠誠心だけは一流と見せながら、シエルはアギラの存在は特異点(シンギュラリティ)でありながら世界を乱す時間改変現象(タイムパラドックス)の温床その物だと断じながらアギラに冷たい目を向けながら剣を引き抜こうとしていた。

 

「…ちょっと待ってシエル、ソーティスが何の考えも無くこんなバカな三流を特異点(シンギュラリティ)にするの? 

 私にはそう思えない…何かあるとしか思えないわよ?」

 

「…ふむ…ではアギラ、奴はお前に時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を刻んだ際に何か言っていたか? 

 貴様が何かの役に立つとかをほざかなかったか?」

 

 だがその剣を抜くのをエミルが止め、あの探究心に満ち溢れたソーティスがアギラみたいな三流策士を起用するかと疑問を投げかけると、シエルも直ぐ斬り捨てようと考えていたがその言葉で止まる。

 それからソーティスに何を言われたかと問い、アギラに相変わらず冷淡な口調で話していた。

 

「や、奴等が直ぐに私を殺すか、私が起こした事件内で時間改変現象(タイムパラドックス)が弾き起こってるのにそれを修正せずに特異点(シンギュラリティ)となった私を処分するか試してやると…」

 

「チッ、そうか………特異点(シンギュラリティ)は死ねばその時点で全ての時間軸の自分自身が死ぬ、だが過去のコイツを殺しても特異点(シンギュラリティ)になったコイツは死なない。

 その特性を利用してアギラに時間跳躍を覚えさせ私達が殺したら事件そのものが起きなくする、更にコイツが今まで起こした事件内の出来事を改竄する事で何が変わったか分からなくさせる…二重の罠か、考えたな」

 

 アギラはソーティスに言われた言葉を反復させると、シエルはこの愚者を特異点(シンギュラリティ)にしたのも過去の時間軸で起きた事件を正しく修復する前に死ねば何が変化したかを分からなくさせる+特異点(シンギュラリティ)が死ねばその時点で全ての時間軸のアギラは死ぬ為、起きるべき事件を起こらない様にする二重の罠を掛けたと理解し舌打ちしていた。

 

「仕方ない、コイツを殺すのは後回しだ。

 せめて改竄を直した後に殺し、世界の修正力でどんな形であれあるべき形に戻す様にしなければならない。

 …ソーティスさえ殺せばこんな事になる事実も消えるんだがな…!」

 

 シエルは最終的にアギラを殺すのは後回しにする、アギラが起こした事件を修正してから世界の修正力であるべき形に戻す様にすると話した。

 尤もソーティスさえ殺せば全て解決するらしいが、そのソーティスが見つからない為苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべていた。

 

「で、では私を殺すのは…⁉︎」

 

「後回しだな。

 それと三流策士、貴様が魔物を使った、又は自身の手で起こした事件全てを魔法紙(マナシート)にリストアップして俺達に回せ。

 そして貴様は俺とアザフィール殿で監視してやる、良かったな最後には魔王様の為に死ねるんだからな」

 

 アギラが周りを見て青褪めている中、ダイズがこの三流策士を殺すのは後回しにすると宣言し、更に魔法紙(マナシート)に今まで起こした事件全てリストアップする様に命令し、更に監視は自身とアザフィールで行うとまで話し絶対に目を離さないと言う意思を見せる。

 

「…そうか、魔王様の為に死ねるのか…」

 

 すると後々になるがしっかりと現魔王の為に死ねるのかと考え、その口で復唱したアギラは項垂れながらも魔法紙(マナシート)に自身が起こした事件をリストアップして行き、エミルとネイルに手渡し始める。

 そしてその数の多さにエミル達は改めてアギラに嫌悪感を見せ、この魔族は絶対に許してはならないと思考するのであった。

 

 

 

【カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

「アギラは死ななかったみたいだねぇ。

 彼方には頭が回る奴が居るみたいだ」

 

 アギラがエミル達の前に時間跳躍した直後、悪戯な笑みを浮かべた女魔族『ナイア』とソーティスが現れ、千里眼(ディスタントアイ)でその様子を見ながら2人で嗤っていた。

 

「勘の良い者達の集まりで良かった、これで『アギラが起こした事件を奴を特異点(シンギュラリティ)化した後に阻止したら如何なるか』の実験に入れる。

 さあ行くぞナイア、お前の愉快犯振りを発揮してもらうぞ」

 

【ブゥン、カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

 そしてソーティスはアギラを特異点(シンギュラリティ)にした第2の目的、過去の彼が死んでも影響が無くなった後に担当していた事件を阻止したら如何なるかと言う歴史を弄ぶ実験を起こす為に再び時間跳躍魔法(タイムジャンプ)でその場から消えた。

 更に用意周到な事に、周りに人が居ない場所に跳んで来ていた為誰もソーティス達の存在を確認した者は居なかった………。

 

 

 

 それから1時間後、勅令書とアギラの事件リストアップが終わりそれぞれが誓いの翼(オースウイングズ)正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)に分かれ、アギラをネイル達に預けると全員で向き合って話し始めた。

 

「では私達はセレスティアとミスリラント領、フィールウッドを調査して改竄箇所が無いかを確かめますね」

 

「うむ、ミスリラント本国とヒノモト、グランヴァニアは任せて欲しい。

 そして互いに正義を胸に込め、この歴史を弄ぶ蛮行を解決しよう!」

 

 エミルとネイルは自身達の担当地区をそれぞれ確認し合い、アギラに手枷を填めさせながら互いにこの時空や歴史を弄ぶ事象を許さぬ正義の心を以て誓い合い、両者がたがいの武器を重ね合わせて固く結び合った後直ぐに互いに背を向けて転移を開始し両者共にその場から去って行った。

 

【ビュン‼︎】

 

「さて先ずは…ごめん下さい、セレスティア第2王妹のエミルとその仲間達です、どうか開けて下さい!」

 

【コンコンコン!】

 

 それから先ずエミル達はセレスティアの中にリストアップされた将来的に魔界の障害となる人物宅を訪れていた。

 そしてその人物が生きていた場合…歴史の形通りにすべく、残念ながら過去に跳びその人物が亡くなる様にすると言うエミルは他の誰にも言わない残酷だが時空を正す為の行動を実行しようと脳内で道筋を作り上げていた。

 

「あら王妹殿下、よくぞ我が家にいらっしゃい下さいました‼︎

 ささ、どうぞ仲間の皆様と一緒にお上がり下さいませ‼︎」

 

「はい、失礼致します」

 

 それから最初に上がった家でアギラが起こした暗殺事件で死した者が生きていない事を確認し、魔法紙(マナシート)の名前に線を引き異常無しと言う印を付け、アイリスも家族構成に天界で見ていた時と全く変わり無い事を証明してある程度話をして家から出て行った。

 

「(…よし、考えていた魔法術式の構築が終わったわ。

 後は頃合いを見てこの新しい魔法が理論上のまま使えるか、否かを確かめる必要があるわね………もし使えるなら、絶大な力になる。

 そんな予感がこの魔法にはある、だから使えるって証明させてよ…)」

 

 エミルは地道にこれを続けて行く中で、更に新たな魔法の術式構築を頭の中で成功させ、残るは使えるか否かの立証のみとなっていた。

 エミルはこの魔法に期待を寄せており、使えれば対ソーティス達への攻撃手段になると何処か確信しながら1度空を見て、また魔法紙(マナシート)に書かれた人物の生家を訪れて行き始めていた。

 ソーティス達が何か変化を及ぼしてしまっているか知る為に。

 

「(それに………もし『今』生きてる人を過去を修正して『また死なす』なんて責任は、誓いの翼(オースウイングズ)リーダーの私が背負わなきゃいけない物だから、率先してやり遂げないと…例え皆から責められる結果になっても………)」

 

 更にエミルはこの行為が『歪んだ現実で生きてる者』を『再び殺す』と言う誰にも相談が出来ない、前世(ライラ)も経験した事の無い余りに重圧が掛かる事象であった。

 エミルは時間改変現象(タイムパラドックス)の中とは言え他者の生命を奪う行為に覚悟を決め、例え誰であろうとも再び死の淵に戻すと内なる決意を秘めながら、誰にもこれを言わずに足を運び出すのだった。

 

 

 

 しかしエミル達は未だ知らない。

 このアギラが起こした事件を辿る先に待つ最大の試練が待ち受けている事を。

 そしてそれを知った際に如何なる選択を取るのかを未だ自分自身であっても知る由が無かったのであった。

 また、エミルの選択がある人物に重圧を掛ける事になるとも彼女は知らなかった。

 

 

 

「ふう、今日も良いかぼちゃが取れたなテニア」

 

「ええ、今年の出来はロマンが3歳の時以上に良いから、村1番のかぼちゃ農家にまた選ばれるかも知れないわね。

 それにしてもロマンは本当に凄い活躍をしてるわね、あの子は私達の誇りねあなた」

 

 そうして此処はアイアン村。

 其処でエミル達が知る前に既に変化が起きてしまっていた。

 そう、ロマンが12歳の時に亡くなった筈の彼の両親が手入れせず廃業となった筈の農園で耕したかぼちゃ畑から過去最高の出来栄えの物を収穫し、更に様々な活躍をしているロマンの事を想い、彼等にとって大切な息子であり大きく成長した誇りある人物だと妻テニアは語っていた。

 

「そうだな………そろそろ成長したロマンに会いたくなって来たな」

 

「ええ。

 でも私、直ぐに会えそうな予感がするんです。

 だから何時でも出迎えられる様にしておきましょう?」

 

 それから夫のケイもロマンに会いたくなり始めていた為、2人で何時でもアイアン村のこの生家で出迎えられる様に準備を始めていた。

 そして、この2人の存在こそがエミル、そしてロマンに降り掛かる最初の大きな試練であり、彼等に襲い掛かる幸せ(災い)でもあった。

 

「ふんふんふふ〜ん」

 

 だがそんな事は本人達も、アイアン村の住人も気付く事無くまた1日を過ごし彼等と会話をしていた。

 これこそが時間改変現象(タイムパラドックス)の恐ろしき部分………『本来死した者が生きている』と言う心を抉る部分の象徴でもあった。

 更にエミル達がそれを知る時は、もう既に差し迫っているのであった………。




此処までの閲覧ありがとうございました。
一旦ロマンとネイル達で分かれて行動する事になりました。
そしてエミル達側では早速最大級の試練が待ち受けています。
それをどうするかお楽しみ下さいませ。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第44話『誓いの翼達、苦悩する』

皆様こんにちはです、第44話目更新でございます。
今回は誓いの翼(オースウイングズ)側、最初から試練が発生致します。
そしてこれは前編であります。
では、本編へどうぞ。


 エミル達が復活させられたアギラからリストアップした彼が引き起こした事件を辿って行き、セレスティア国内で起きたものに変化が無い為ミスリラント領のアイアン村………つまりロマンの両親の死に変化が無いかを確かめ始めるべく街道を歩きながら向かっていた。

 

「それにしても今の所何も変化は無ぇな。

 アギラが復活した事がソーティスの野朗共のブラフって可能性もあんじゃねぇか?」

 

「有り得る話だね〜。

 私達を混乱させて自分は他の時間軸で悠々自適に歴史改竄をしちゃったりとか、そっちの線も考えて置くべきだよね」

 

 そんな中アルはエミルがチェックして線を引いたリストを見て何も変化が無い事からアギラが復活した事自体がブラフであり、サラもその線の可能性を考え出しソーティスはその間に他の改竄を進めてるかと言葉に出し周りにも有り得ると考えていた。

 

「で、ですが…アギラが特異点(シンギュラリティ)化した所為で、今彼を………殺すと、今までの事件が、無かった事になる…んですよね………?」

 

「ええ、しかもアギラが起こした暗殺事件はリストアップした様に多い上に中には歴史の転換点となるべき事件すら起こしてます。

 それが無くなれば、時空の乱れが更に大きくなり、修正力が余計な働きを起こす可能性があります。

 そしてこの事件内の物の何れかを改竄した可能性すらある…それを確かめるまでは奴は殺せませんよ」

 

 しかしフード付きのルルがアギラが時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を覚え今生きてしまっている時間改変現象(タイムパラドックス)が発生した為、今のアギラを殺すと特異点(シンギュラリティ)の特性で全ての時間軸のアギラが死ぬ為これらの事件が無かった事にすらなると話す。

 それをアイリスが神の次長く生きた者としての知識で世界の修正力が余計な作用を起こし、更に事件の改竄点を知るまでは殺せないとしてアイリスすら悩ませていた。

 

「…えっと、それにしてもルルって面白いよね! 

 フードを掛けたら喋り方が変わるんだから凄く個性的だよね!」

 

「ふふ、それは多分今地上界の者に化けている私の様に世を忍ぶ仮の姿、と言う物でしょうね。

 だから人格が変わったかの様にスイッチが切り替わるのでしょうね」

 

 そんな重い空気を如何にかしようとしてティアがルルの事でフードの有無で話し方が変わる事が個性的だと話すと、エリスに化けたシエルが自身の様にスイッチが切り替わり世を忍ぶ仮の姿になると話しながら手を繋いでいた。

 

「…ふふ、確かにルルの切り替わりって劇的よね。

 余り慣れが無い子が見るとこんな新鮮な反応になるのね」

 

「エ、エミル〜…!」

 

「世を忍ぶ姿…カッコいい…‼︎」

 

 そんな他愛の無い、しかしティアの思い遣りの言動にエミル達も頬を緩め、慣れてしまったが改めて考えるとルルの切り替わりは面白いと考えていた。

 その話題を口にしたエミルに対しルルはフードを半脱ぎし、顔を赤くしながら彼女にムスッとした表情を見せていた。

 それ等を見たティアは世を忍ぶ姿と言う言葉に反応して目を輝かせていた、まるで物語の主人公の様だと。

 

「さて、空気も緩んだ事だからアイアン村前に転移して早く確かめる事を確かめてしまいましょっか。

 皆集まって!」

 

 それからエミルは空気が少しは軽くなったので周りの皆を1箇所に集め、転移魔法(ディメンションマジック)を使いアイアン村前に転移して行った。

 …しかし、それを彼女達の視界外、否、時空の狭間から聞いている者がその場に居た。

 その者はエミル達が転移したのを見て嘲笑っていた。

 

「ふふふ、束の間の安らぎをたっぷり味わうと良いよ。

 これからはボクが用意する遊戯に君達は踊る事になるんだからねぇ…ふ、ふふふふ…」

 

【カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

 その時空の狭間から覗き込んだ者、780年前に現魔王から悪辣な遊戯を何度も行った大罪人として、魔王とその右腕のアザフィールと共にこれから魔界に必要無いとして討滅された女魔族、ナイアがエミル達の安らぐ場面を見届けた後時間跳躍魔法(タイムジャンプ)で別の時間軸に跳んで行った。

 更なる遊戯を広げる為、全てを弄びたいが為に。

 

 

 

【ビュン‼︎】

 

 一方エミル達はアイアン村前に転移し、門まで進んで行くと見張り番がロマンやエミル達を見て直ぐ様門を開け、全員を中へと入れ始めた。

 

「おお〜い、ロマンやエミル王妹殿下達が来たぞぉ‼︎」

 

「えっ、ロマン⁉︎

 本当だ、皆ロマンが帰って来たぞ〜‼︎」

 

 すると見張り番がロマン達が来た事を叫ぶと、エヌが真っ先に反応して全員に村が誇る勇者が帰って来た事を叫ぶと、村の者達全員が集まりだし、周りは人盛りで埋め尽くされていた。

 

「ロマンおにいちゃんおかえり〜‼︎」

 

「うわっ、新しい客人はヒノモトの人にお嬢様、それと…ルルさんみたいにフードを被った人にちびっ子? 

 兎に角、ヒノモトの人やロマン達はレベル550、フードの人はレベル400台とかもうすっげえレベルじゃんか‼︎

 流石アギラの動乱を収めた俺達の勇者と王妹殿下達だぜ‼︎

 よし皆、ロマンを胴上げだぁ‼︎」

 

「え、ちょ、うわっ‼︎」

 

 村の子供はロマンの帰還を純粋に喜び、エヌはエミルやロマン達のレベルを見て最早自分が及び付かない域にまで辿り着いた彼等やこれでも力を制限しているアイリスに目を輝かせ、村の誇る勇者とエミル達だと褒め称えて胴上げをしようとしていた。

 無論ロマンは抵抗する間も無く胴上げされ、全員でそれを見ていた。

 

「ふむ、此処がアイアン村。

 カボチャの名産地であり村も他所者大歓迎と聞く…音に伝え聞いた通りの地だな。

 そして、ロマンの過去から此処がやや歪だとも、な…」

 

「…みたいですね、人間は特に都合の良い部分しか見ず、汚い物に蓋をしたがる癖がある様で少し幻滅ですよ」

 

 それを遠巻きで見ていたエミル達にしか聞こえない様にリョウが旅で伝え聞いたロマンの過去と、音に聞くアイアン村の評判を比較して歪だと断じるとシエルも人間の悪い癖が出ていると口にし、エミルがかつて初めてロマンから過去を聞いてから此処に訪れた時と変化が無い事に嬉しさ3割、寂しさ7割の感情を抱きながら表情に出さずに居た。

 

「あ、そうだロマン‼︎

 お前に1番会いたがっている人達がそろそろ来るぜ‼︎」

 

「えっ、僕に一番会いたい人…?」

 

 するとエヌが思い出したかの様に胴上げを一旦中止し、ロマンに彼に会いたがっている人達が居てそろそろ来ると話すと、ロマンは誰なのか想像が付かずに頭の中に疑問を浮かべていた。

 

「…嘘でしょ…」

 

 だが察しの良いエミルはリストを取り出し、それを見たサラ達もまさかと考えてその衝撃が襲う時を覚悟して待ち構えた。

 そして………村の者達が波を割る様に道を開けると、2人の人物が人の間を通りロマンの前に立ち、ロマンも目を見開きながらその2人を見ていた。

 

「やあロマン、久し振りだなぁ! 

 前にあった時はアルさんに譲って貰った剣を打ち直しに来た時だったな!」

 

「それからまた大きくなって…本当に、私達の誇りで愛すべき息子ね、ロマン」

 

 その2人の人物は男性はロマンに外見が似た筋肉質で身長が大きく、女性は目元や笑顔がロマンにそっくりであり2人共質素な格好をしてるが、佇まいはかつて冒険者だった事を思わせる物があった。

 そしてロマンとアルはこの2人に見覚えがあった、見間違える訳が無かった。

 何故ならその2人は『本来なら既に他界した人物』達である…アルの客であり、ロマンの両親であるケイとテニアであるのだ。

 

「………父さん………母さん………‼︎」

 

「ああ、お前の父さん達だぞロマン!」

 

「…何か辛い事があったのね、家でゆっくり聞くから泣いて良いのよ、ロマン」

 

 ロマンはもう2度と会う事が無い、それもアレスターの様な天使化した様な事が無い、明らかに生きているのが不自然である両親を前にして悲痛な表情を覗かせると、2人は何かあったのかと思いながら安心させる様に声掛けをして、更に辛い事を隠さない様にと話して彼を2人で抱きしめていた。

 この事態にロマンは涙を、それも時間改変現象(タイムパラドックス)で2人が生きていた歴史に改竄された事を知り泣き始めていた。

 

「…そんな、こんな事って…」

 

「だから言ったのです、生きた者を死んだ事に、『死んだ者を生きてる事』に変えると。

 これが時間改変現象(タイムパラドックス)の恐ろしい所、そして貴女達が超えるべき試練、修正すべき箇所ですよ…」

 

 サラはこんな残酷で酷い仕打ちがあるのかと嘆き始めていると、アイリスが前に出て時間改変現象(タイムパラドックス)の恐るべき点を改めて話し、そしてこれこそが変え直す部分であり超えるべき試練と話しながらエミル達を見ていた。

 まるで、否、この一見普通な親子団欒を壊してあるべき形に直すのか、と………。

 

 

 

「…そうか、あのグランヴァニアでの戦いはそんなに酷い物だったんだな。

 ロマン、その重荷を背負わせる道を選ばせてすまない…」

 

「ごめんなさいロマン、私達も貴方が勇者だと浮かれ立ってたばかりに…」

 

 その後泣き続けたロマンはエミル達と共に生家に上がらせて貰い、取り敢えずグランヴァニアで起きた戦いの顛末…かつて共に旅した事のあったギャランやグランヴァニアの民13万人の人々を救えなかった事を話し、それを聞いた2人はそんな重圧を、重荷を背負わせた事を謝罪しながらかぼちゃパイや紅茶を全員分出していた。

 

「おいケイ、テニア、こいつはそんなに弱い人間じゃねぇ。

 ロマンはな、俺様達や他の連中を守る為に戦って戦って戦い抜いた強い奴だ。

 だからそんな強い奴の生き様を否定するんじゃねぇよ…」

 

 するとアルがロマンは弱くない、強い奴だと話し、そのロマンが刻んだ道を否定する謝罪を止める様に、しかし今まで死んでいたケイやテニアに視線を合わせるのも覚悟が要る事らしくアルらしく無い語気が弱い物になってしまっていた。

 

「アルさん………そうですね、ロマンはロマンなりに必死に頑張ったんです。

 だからそれを我々親が否定する訳には行きませんよね…」

 

「でもねロマン、何か辛い事があったら私達やエミル王妹殿下達に相談するのよ? 

 私達は親で、エミル殿下は仲間なんですから」

 

 ケイはアルに諭され、ロマンなりに必死に頑張って今があると理解し、それを親である自分達が否定してはならないと考え直していた。

 更にテニアもロマンに辛い事があれば仲間や自分達に相談する様にと話していた。

 それは自分達の人生経験から来るアドバイスであった…が、その辛い事の象徴たる2人にそれを言われ、ロマンは余計に萎縮し始めていた。

 

「………かぼちゃパイ、美味しいですね。

 今年1番の出来栄えでしょうか?」

 

「はい、そうですね皆様! 

 今年のかぼちゃは村のコンテストで優勝を狙える位良い出来でして! 

 皆様もどんどん食べて下さい、お代わりは沢山ありますから!」

 

 エミルはそんな様子のロマンを見兼ねて話題を切り替え、カボチャの出来を聞くと如何やらコンテストに出品する予定と聞き、確かにこの美味さなら前に食べたかぼちゃパイ以上の旨味がある為村1番を狙えると考え、サラ達もそれは食べて違いが分かる程の味だった為静かに食べていた。

 

「…所で皆様、そのフードの女の子。

 その子は魔族ですよね? 

 額の魔血晶(デモンズクリスタル)が見えました」

 

【ビクッ、カラン‼︎】

 

 するとケイがティアを見ながら魔族と見抜き、更に額の魔血晶(デモンズクリスタル)が見えたとまで口にするとフードを被りながら食事していたティアが驚き、フォークを落としながらフードを更に深々と被りアイリスとシエル、エミルが庇う様に近くに立ちサラが事情説明の為に話をしようとしていた。

 

「あ、あのですねロマン君のお父様達、この子はちょっと特殊な子供でして、私達が責任を持って面倒を見てこの子のお兄様の所に送り帰さなきゃいけないって言うか、何と言うか‼︎」

 

「良いんですよ、ロマンが連れて来る人に根からの悪人も居ないと私達は存じてますから。

 だからその子の事、責任を持って家族の下へ送りなさいねロマン?」

 

 サラがティアは特殊な事情を抱え込んでいる事を説明しようとした所で、テニアがロマンが連れて来たならと信じる様子を見せる。

 しかし母親として責任を持ってと少し厳しめに話すとケイも「うむ」と頷きながらロマンを見ながらティアを守り家族に会わせよと誓いを立てさせようとしていた。

 

「わ、分かってるよ母さん、父さん。

 この子…ティアは必ず家族に会わせる、そう約束したから絶対にエミル達と一緒に守るよ…」

 

「はい、良く出来ました! 

 もうオドオドして弱気なロマンは居ないわね………本当に、成長したわね…」

 

 ロマンはティアをエミル達と共に守り抜き、彼女を唯一の家族である『兄』の下に送ると話すとテニアは両手を叩き、ロマンが昔の様に弱気であった様子は見られない事を見届けて大きく成長したと認めて頭を撫でていた。

 

「…あ………」

 

 するとロマンは涙をまた流し始め、聞きたかった言葉を聞けた事とこれからの事で思考が滅茶苦茶と化し、表情が固まってしまっていた。

 これにはもうアルも、付き合いがまだ短いリョウも視線を外さざるを得なくなりエミル達もロマンの背中を見ていた。

 

「如何したのロマン、さっきから泣いてばかりよ? 

 まだ何か辛い事があったの?」

 

「っ‼︎

 な、何でもないよ、ただ目に埃が入っただけだから…モグモグ、それじゃあご馳走様でした‼︎」

 

 するとテニアはロマンの様子からまだ何か辛い事があるのかと問い掛けると、ロマンは現状が辛い事を誤魔化し、目に埃が入ったから涙が出たと話した後自分のカボチャパイを食べてご馳走様と挨拶をして、自身の皿を洗って片付けるとその手を拭いて上にある自身の部屋に駆け上がって行った。

 

「ロマンの奴、如何したんだ? 

 何かあったかエミル殿下達は分かりますか?」

 

「いえ………分かりません」

 

 ケイはそんなロマンの様子から何かあったかは分かるがその何かが分からないと言った親特有の勘を見せ、エミル達に何かが分かるかと問うとエミルは表情筋から嘘を見つけられない様にしながら分からないと答えた。

 それを聞き2人は疑問符を浮かべるが、ロマンが話すまでは深く切り込まない様にしようと視線で会話をしていた。

 

「………では殿下、また殿下とロマンの出会いや冒険譚を聞かせて下さい。

 今はどんな冒険をしているかも含めて」

 

「…分かりました。

 ではお話します、私がロマン君と出会ったのはリリアーデ港街で、其処で…」

 

 するとケイ達は手暇になった為、食事を囲みながらロマンとエミルの出会いから現在の冒険譚を聞きたいと提案する。

 それを了承したエミルは少し暈しを入れながら今までの話、更に今巻き込まれた事件の話をし始め、その話は矢張りケイやテニアの理解が追い付かない程大きく、そしてロマンを成長させるのに十分なものだと改めて感じるのであった。

 

 

 

 それから話は長く続き、夜中まで続いた為エミル達は生家で一夜を過ごす事になったロマンを置いて一旦かぼちゃ亭に泊まり、女性陣と男性陣で分かれて今日はエミルがティアと共に寝る番となっていた。

 そんなエミルはまだ寝付く事が出来ず、それからベッドから起き上がり窓の外………ロマンの家の方を見ていた。

 

「ううん…エミル………?」

 

「あ、ごめんティアちゃん。

 起こしちゃったね」

 

 すると不意にティアが起きてしまい、自分がベッドから出た為に起こしたと思い謝っていた。

 するとティアは目を擦りながら起き上がり、エミルの横に立ち彼女の視線を追い、その先にはロマンの家が方角的にあった。

 

「…ロマンの事、心配なの?」

 

「ええ、とっても。

 私は…あれこれ言って混乱させたくないからこの可能性を言わなかったの。

 でもそれが今マイナスに働いて…彼を苦しめている。

 親が生きてる間違いを正せば歴史は元に戻る、でもそれをするって事はロマン君は親を………」

 

 ティアは多感な為エミルがロマンの事を心配していると察し、エミルもこの可能性について話す事を避けてしまった、その為にロマンが苦しんでいると話した。

 何より擬似特異点(セミシンギュラリティ)の使命を果たせば、歴史は元に戻ってもロマンは親を見殺しにする選択を取る事になる、それをティアには最後まで言わなかったが彼女も察し悲しい表情を浮かべ始めた。

 

「だからアイリスが言っただろう、これは試練だと。

 貴様も、ロマンも、それぞれ正しい選択をしなければならない。

 例えそれが親殺しであっても」

 

「シエル………ならアンタはその選択が取れるの? 

 同じ立場になったらその正しい選択とやらが出来るって言いたいの⁉︎」

 

 するとシエルも起きていた為エミルに話し掛け、アイリスの言葉を復唱しながら正しい選択を取らなければならないと主張する。

 そんなシエルにエミルは眉を潜ませ、彼女に対してその正しい選択が出来るのかと水掛け論になりながらシエルに叫び、その声でサラやルルも起きてしまいティアも叫び声でびくついてしまう。

 

「エミル、出来る出来ないの問題じゃない、やらねばならないんだ。

 貴様だってそれは理解して後は如何ロマンを説得するか考えていたんだろう? 

 私が貴様ならそうしていたぞ」

 

「だったら何よ、アンタは平気でロマン君に親を殺しに行くって言いに行く訳⁉︎

 例えばアンタを救ったアザフィールが死んでて、それを正しに行く時にアンタはそんな顔で平然と、淡々と歴史を直しに行く訳なの⁉︎」

 

「ちょ、エミルストップ‼︎

 ティアちゃんが怖がってるしもう止めて‼︎

 シエルも油注がないで‼︎」

 

 しかしシエルは相変わらず表情を変えずにエミルに対し正論をぶつけ、エミル自身もそれを理解していると話して自身がエミルの立場なら説得していたと話す。

 だがエミルは此処で感情的になり、アザフィールがもしも本当は死んでいたらと話しながら首根っこを掴み、今の様な平然な顔で歴史を直すのかと更にヒートアップしてしまう。

 それを見たサラが2人を引き剥がし、ルルが背後からエミルを羽交締めにして押さえ付ける。

 

「…平然、淡々、だと? 

 ………そうか、お前は私はそんな超然的な者に見ていたと言う訳だ、だからこうして水掛け論になる。

 だったら言ってやる………平気な訳が無いだろ‼︎

 だがそうしなければならない、それが迫られていると、そう話してるんだよ私は‼︎」

 

 するとシエルはエミルの平然と言う言葉に眉をひくつかせ、そこから笑みを浮かべながらエミルの自身に対し超然的、何にも囚われない様に見ていた事を此処で理解し、其処からシエルもエミルに詰め寄り平気な訳が無いと叫び、だがそうするしか無いと今度はシエルがヒートアップしていた。

 

【バタン‼︎】

 

「何だ何だ、夜中に騒ぎやがって‼︎

 っておいお前ら何掴み合いになってやがる⁉︎

 おいリョウ、お前はエミルを押さえろ‼︎」

 

「ちっ、何となく爆弾を抱えてると思った所でこれか…!」

 

 すると隣の部屋からアル、リョウが突入し始めエミルとシエルが掴み合いになってた場面を目撃し、2人でそれぞれを取り押さえ始めた。

 しかし2人はそれでも互いに掴み掛かろうとし、その表情は2人、特にシエルは今まで見た事の無い表情をしており両者共に感情的になっていた。

 

「アンタはロマン君の事が心配じゃないようね、ああそうねアンタと私達は初めから敵同士だから心配のしの字も無い訳ね‼︎

 だからそうやって正論しか言わない訳よ‼︎

 他人の、地上界の人の苦悩を知らないから‼︎」

 

「心配してない訳が無いだろ、奴はソーティスに傷を付けた、間違い無くお前達の中で強い奴だ‼︎

 そんな者がこんな苛立ちしか覚えない状況に置かれて潰れないか心配してるわ‼︎

 それに、こんなの正論しか言えないだろうが‼︎

 下手に同情して逃げ道を作ったら奴が更に傷付くだけだろうが‼︎」

 

 エミルとシエルは互いにロマンの事で感情的な言葉の殴り合いに発展し、エミル側はロマンの心を只管心配し、シエル側は戦力とその精神が潰れないかの心配をしており、更に此処で安易な逃げ道を作ったら更に傷付くと互いにロマンと言う少年の心配をしながら意見を違え、大の男とサラとルルに取り押さえられながらもまだ掴み掛かろうとしていた。

 

「エミル、シエル、もう喧嘩は止めてよ‼︎

 何でロマンを心配している2人が喧嘩するの⁉︎

 もう止めてよ、こんなの可笑しいよ‼︎」

 

「っ、ティアちゃん…‼︎」

 

「ティア…」

 

 其処にティアがロマンを心配し合ってる筈の2人が喧嘩をするのが可笑しく映り、喧嘩を止める様に叫びながら泣いていた。

 それを見聞きしたエミル、シエルは感情的になり過ぎた、互いにロマンが心配だと幼い子供の叫びにより漸く気付き喧嘩が収まり出していた。

 

「喧嘩中失礼しますが、ロマンが家を飛び出し墓地へ向かってますよエミル、シエル達」

 

「…えっ⁉︎

 ロマン君…‼︎」

 

【バッ‼︎】

 

 すると開いていたドアからアイリスが現れ、ロマンが生家から飛び出て墓地に向かったと知らせる。

 それを聞いたエミルは驚き、羽交い締めにしていたルルやリョウを振り払い魔法使い帽子を被り杖を持って外へ走って出てしまう。

 

「あ、エミル‼︎」

 

「チッ、仕方無い…ティア、舌を噛まない様にしっかり口を閉じてろ!」

 

「えっ、きゃっ!」

 

 ルルが窓の外を見ながらエミルの名を叫ぶが全く止まらず共同墓地まで走って行ってしまう。

 喧嘩中に相手側が急に冷静になった為、シエルも冷静になりながら窓を開け、ティアを抱き抱えて飛び降りてそのまま後を追って行った。

 

「俺様達も早く行くぞ、ルル身体強化(ボディバフ)‼︎」

 

「ええ‼︎」

 

【ジュゥゥン、バッ‼︎】

 

 アル達も2人とティアの後を追う為身体強化(ボディバフ)を受けて窓から飛び降り、そのまま走り出しアイリスは窓から空を飛びエミル達の後を追い村の共同墓地へと向かった。

 其処にロマン、仲間が居る場所に。

 

 

 

 ロマンは夜中、父と母が生きている、その目の前の光景と記憶の中でミスリルゴーレムの襲撃で記憶が飛び、最後は自分1人だけが立っていた記憶との摩擦が生まれ、それらを受け入れられず吐き気と眩暈に襲われながら家を飛び出し共同墓地へ向かった。

 自分の記憶にあるエミルと共に見た2人の墓を確認する為に。

 

「…ない…ない、ない、ない…‼︎」

 

 だが、其処にはケイとテニアの墓は無く、それが有った場所はまだ誰の墓も作られていない、土の平地が広がっているだけであった。

 

「………夢なんかじゃない…それじゃあ、僕は………うっ、っっっっっ‼︎

 オェ、オェェ…‼︎」

 

【ビチャビチャ‼︎】

 

 ロマンは頬も引っ張り、更に持ち出した剣の先を左手で握り、血が滴り鋭い痛みが走る中これは夢なんかでは無い、自分は世界の安定の為に今生きている父と母をこの手で殺さねばならないと考え、墓地から離れて近くの野原で胃液を吐いていた。

 そうしてロマンはあの笑顔を奪わねばならない現実を直視し、更に思考がグチャグチャになり如何すれば良いのか分からなくなっていた。

 

「…ロマン君…」

 

 すると左手の傷が回復し、その背後から自身が良く知る人物の声が聞こえた。

 そうしてロマンは藁に縋る思いで後ろにに居る自分が1番信頼する人物…エミルの姿を見た。

 そのエミルの背後からシエルとティア、更にアル達の順でエミルの側に集まり最後にアイリスが地に降り立った。

 

「エミル………皆………僕、僕は如何したら良いの…⁉︎

 今いる父さんと母さんはちゃんと『生きてる』、でも本当は『死んでいなきゃ』いけない人達なんだ‼︎

 ねぇ、僕は如何したら良いの、誰か答えてよ‼︎」

 

 ロマンは泣きながらエミルやアル、サラにルル、リョウ、更にはアイリスとシエル、幼いティアにすら時間改変現象(タイムパラドックス)で生きている両親は死んでいなきゃならない事実は認識してるが、両親に生きて欲しい感情が邪魔をして何を如何すれば良いか分からず叫びながら問いていた。

 

「ロマン君………ごめんなさい、こうなると思って黙っていたのが返って余計に重圧を与えてしまったわ………ごめんなさい、ごめんなさい…」

 

 エミルもこうなる未来が容易に予想出来た為黙っていたが、それがロマンと言う少年に余計な重圧を与えた事を泣きながら、目を逸らさずに謝り続けていた。

 エミルの横に立ったシエルはこうなっても目を逸らさない彼女は生命を奪う覚悟は出来ていて向き合い、だが答えを出せないで居ると悟り、目を閉じてからロマンを見据えた。

 

「…ならば勇者、いやケイとテニアの子ロマン、お前がこの状況を如何したいんだ? 

 良く考えろ、お前はたった今『両親は死んでいなきゃならない』と叫んだんだ。

 ならば、そうするには如何すれば良いかお前自身が決めるんだ。

 …如何にも、エミルにも安易な答えを出す事が出来ないからな…」

 

『ロマン…』

 

 するとシエルはロマンに対しこの状況を如何したいのかと問い掛けて、更には自分自身が答えとなる言葉を発した事を指摘した上で自分の中で答えを、道を決めろと話した。

 エミルにも出せない答えを、この場で出させようと敢えて試す問い掛けをシエルはした。

 それ等を聞いたサラ達やティアは泣きながら、アルやリョウ、アイリスも悲しげにロマンの名をただ呼ぶ事しか出来なかった。

 そのロマンは幼い頃に一緒にかぼちゃを耕した事、勇者と判明しても変わらぬ愛情を注がれた事、そして世界樹で稽古した等の思い出が流れ出し、その中で必死に答えを探していた。

 

「………僕は………僕は、この歴史を、正さなきゃいけない…例え父さん達の生命をまた奪う事になっても…。

 そうしなきゃ、父さん達が生きてた過去が…無意味になるっ…!」

 

 そして、20分以上肩を震わせながら立ち上がり、考えに考え抜き泣きながら全員を見てこの間違った歴史を正す事を選んだ。

 それは過去に生きた両親の証が無意味にしない為の決意であった。

 それを聞きシエルもロマンの心の痛みを理解してその姿を見届けていた。

 するとロマンはエミルに抱き着き、全員突然の事に驚いていた。

 

「ロ、ロマン君…⁉︎」

 

「ごめんねエミル、こんなに重い事を独りで背負わせようとして………本当にごめん…。

 これからは、僕も一緒に背負うから…‼︎」

 

 如何やらロマンはこんな重圧をエミルの小さな肩に背負わせようとした事に負い目を感じ、これからは自分も一緒に背負うと決意を口にしながら涙で頬が濡れていた。

 対するエミルは………そのロマンの傷を負う決意を無言で受け取りながら同じ様に泣いていた。

 

「ロマン達だけじゃないよ、私達だって…グス…」

 

「ああ、俺様達は仲間なんだから同じ痛みを背負ってやるぜ…」

 

「私も、私もロマンやエミルの心が痛いのを背負うよ‼︎

 私を助けてくれたんだから、同じ様に助けたいよ‼︎」

 

 其処にサラやルルも泣きながら、アルとリョウも決心した表情で近付きこの理不尽な痛みを背負い合う事を誓い合った。

 其処にエミルとロマンに救われたティアも同じ様に背負うと泣きながら叫び、アイリスがその頭を撫でて多感な小さな子の決意を讃えていた。

 

「…ならもう寝るぞ、そして明日実行に移す。

 時間を掛ければ掛ける程、決意が揺らぐからな…」

 

 最後にシエルがこの歪んだ現実の修正の決行日を明日に定める。

 その理由も決意が揺らがない内にこの歴史を正す為であった。

 それを聞いたロマンとエミルは抱き合うのを止め、泣いていた者達は涙を拭き取り宿屋や実家の寝室に戻ろうとするのだった。

 

『………』

 

 しかしエミル達はその会話を聴いていた者の存在に気が付かぬまま就寝に入り、そしてロマンの両親をあるべき形に戻そうとするのであった。

 

 

 

 それから朝を迎え、ロマンは階段を降りた後後ろ髪を引かれそうな気分になりながらも昨日の決意を込めて1歩足を踏み出し玄関を開けようとした。

 

「おはようロマン、朝ご飯が出来てるから食べなさい」

 

「あ、おはよう父さん母さん…えっと、これから直ぐに行かなきゃいけない場所があるんだ。

 だから、ご飯は…」

 

「だからよ、ご飯を食べて力を付けなきゃ何も出来ないわよ!」

 

 だがそれをケイ達に見られ、ロマンは急いでエミル達の下に向かう為に振り返らず行こうとしたが、両親に向かう場所があるならと朝ご飯を食べる様に言われ、肩を引かれて居間に連れて行かれ、其処でかぼちゃパイがテーブルに置かれており2人から目を離して抜け出せないと諦めたロマンは大人しく両手を胸の前で合わせた。

 

「…頂きます」

 

「はい、召し上がれ」

 

 ロマンは頂きますの挨拶をしてかぼちゃパイを食べ始めた。

 その味は昔、良く自分の為に作ってくれた優しさがこもった味だった。

 それを一口食べる度に泣きそうになるが、ロマンはそれを堪えながら静かに味を噛み締め、そして最後の一口を頬張り、しっかりと咀嚼して飲み込み食べ切った。

 

「…ご馳走様でした」

 

「ああ、ご馳走様。

 それじゃあもう行くのか?」

 

「…うん、行って来ます」

 

 ロマンはご馳走様の挨拶をするとケイ達も丁度食べ終え、もう目的地に向かうのかと口にされるとロマンは行って来ますと挨拶を交わしながら席を立った。

 

「そうか…なら、これでもう俺達とはお別れだな」

 

「…えっ⁉︎」

 

「昨夜の話、聴いていたわよ。

 行きなさいロマン、貴方が正しく思う事をして来なさい。

 それが貴方のやるべき事なんでしょう? 

 なら、私達はそれを応援するわ…」

 

 するとケイはこれでお別れだと口にし、ロマンは何故と思いながら振り返るとテニアが昨夜の話を聞いていたと明かした。

 つまりこの食事は成長した我が子を送り出す為の最後の家族の団欒の時だったのだ。

 ロマンはそれを聞き涙を再び流し始めそうになるが、テニアが肩に手をかけながら笑顔で正しく思う事…つまり歴史修正を行なって来る様に言い聞かせていた。

 この別れを惜しませない、その一心で。

 

「────っ、父さん、母さん、行って来ますっ‼︎」

 

【バッ、バタン‼︎】

 

 ロマンは本当に『最後』の別れの挨拶をしてエミル達の下に走って行った。

 もうこれ以上振り返らない為、2人の愛と温もりを背負いながら。

 

「ロマンは、大きくなりましたね…」

 

「ああ、そうだなぁ…」

 

 その後ろ姿を見ていた2人は、本当に最愛の息子が大きくなったと理解しながら自分達はあるべき形に戻る時が来たと思いながら、2人で抱き合いロマンの行く末に幸があらん事を祈りながら一筋の涙を流しながら瞳を閉じた。

 そして………2人の耳から、外に出ていったロマンの足音が聞こえなくなったのだった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
今回エミルとシエルが激しく衝突し、ロマンは苦悩しながら歴史を正す選択を取りました。
その選択をロマンの両親が最後に背中を押してその道を行く様に応援し最後の温もりを与えました。
そして、次回がこの話の後編になります。
その話がどんな風に展開するかお楽しみ下さいませ。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第45話『ロマン、離別する』

皆様お待たせ致しました、第45話目更新でございます。
今回は前回よりの続き、ロマンが後押しされた後のお話になります。
では、本編へどうぞ。


 エミル達は軽く朝食を済ませた後、広場でロマンが来るのを待っていたが、少々時間が過ぎて行き彼を待ち続けてから約10分程度が経過した。

 その間にエミル達は文句の1つ言わずも準備運動をしていた。

 全ては昨夜のロマンの言葉を信じているからである。

 

【ザッザッザッザッザッ‼︎】

 

「あ、おはようロマン………君…」

 

 そんなエミル達の前にロマンは走ってやって来た。

 その姿を見たエミル達は元気に迎えようとした………が、ロマンは息を切らしながら、更に大泣きしながらエミル達の前に現れた為、誓いの翼(オースウイングズ)達全員朝に何かあったのかと思いながらも切り込めずに居た。

 

「………何かあったのか、ロマン?」

 

「…父さんと母さん、昨日の話を聞いてた…‼︎

 でも、僕が正しいって思う事をやれって…‼︎」

 

 エミル達がこの様子の為シエルが何があったか問い掛けると、ロマンは朝の両親との会話を息を途切れ途切れに、涙を流しながら俯きつつ話し、エミル達は昨日の話を聴かれながらもケイ達がロマンを見送った親としての覚悟、愛情を感じ取りこの歴史の修正は失敗出来ないと此方も覚悟を改めロマンを見ていた。

 そのロマンは…涙を拭き、しかしまだ流れ落ちながらもエミル達を見ながら決心した表情となっていた。

 

「…じゃあ行くよ、僕が勇者として旅を始めるきっかけになった世界樹………セレスティアの『安寧の世界樹』に‼︎」

 

【ビュン‼︎】

 

 ロマンは全員に向かって転移魔法(ディメンションマジック)を使用し、12歳の時に事件が起きた安寧の世界樹にエミル達を転移させた。

 其処は安寧の名が良く似合う、最北の世界樹とは真逆の森そのものが澄んだ場所となっていた。

 

「此処はレオナお姉様も修行に使った場所…此処でアギラが…」

 

「さてロマン、お前が今回は時空の腕輪でこの土地に起きた改竄点を感知するんだ。

 何せ、お前の両親が生きているとなるとお前が擬似特異点(セミシンギュラリティ)になってなければ今のレベルを得たり、そもそもエミルと出会ってたか怪しくなる歴史の転換点だからな」

 

 エミルは周りを見て、レオナが使ったこの土地で事件が起きたと思い、少し痛ましく思っていた。

 するとシエルがロマンに対し腕輪を構える様に指示を出していた。

 そして言い方はキツいが、もし此処でアギラが起こした事件がなければそもそもエミルと出会いがあったかも怪しいと話し、サラ達も今更ながら気付きこれは大きな時間改変現象(タイムパラドックス)だと思っていた。

 

「勿論だよ…改竄が起きたのは絶対あの時、魔法暦2032年火の月その2の9日、僕の誕生日だ…‼︎」

 

 ロマンはシエルが言った言葉を飲み込み、腕輪を構えながら事前にどの年月に改竄が発生したかを発言した。

 すると腕輪には間違い無く魔法暦2032年の火の月その2の9日と赤い文字がノイズや文字崩れを起こしながら現れ、エミル達も改めて誕生日が親の命日などアギラの悪辣さを理解するに至っていた。

 

「さあ皆行くよ、僕の知る歴史に………正す為に‼︎」

 

「ええ、勿論よロマン君‼︎」

 

【キィィィィィン、カチカチカチカチカチカチ、ビュゥゥゥゥゥゥゥン‼︎】

 

 そしてロマンの合図で全員が腕輪を抱え、ティアは今回はロマンと手を繋ぎながら時空の狭間に跳ぶ。

 更にティアはロマンの目が並々ならぬ決意に満たされた事を察し、其処から何か声を掛けようと思っても何も声を掛けられなかった。

 

【カチカチカチカチ、カチャ、ビュゥゥゥゥン‼︎】

 

 そしてヴァレルニアの様に時計の針が12で止まった瞬間全員で3年前の安寧の世界樹に辿り着いた。

 それから全員で少し隠れていると全員が12歳の頃のロマンがケイと剣の稽古をしている場面を目撃する。

 

「父さん、母さん…」

 

「さてアギラ、あの屑野朗は何処に居やがる…‼︎」

 

 ロマンが感傷に浸り、しかし直ぐに決意を前面に出して剣を引き抜くと全員でアギラを探し始めた。

 すると、過去のロマン達を挟んで自分達の反対側の丘にアギラが悠々と転移し、ロマン達を見ながら何かを口にしていた。

 

「あの悪魔、何を言っている?」

 

「えっと読唇術で多分だけど、『目障りな勇者の血筋よ、此処で惨たらしく死ね』じゃないかな………うん、ムカっとするね!」

 

 リョウはアギラが何を話しているのかと少し気にすると、サラがその眼と読唇術から悪意しか無い言葉を吐いていると察し、今にも矢で射ろうとしてしまい掛けてた。

 

「おい、それより改竄点を探すぞ。

 こんな単純な地形だ、何かあれば」

 

【カチッ‼︎】

 

 だがシエルはサラの弓を押さえ、改竄点を探す事に全員の労力を割き始めた。

 シエルの言う通り世界樹と言う単純な地形から何かあれば直ぐに見つかる………そう彼女が口にしようとした瞬間時間停止魔法(タイムストップ)が発動し、対面側のアギラの心臓の部位に剣が突き刺さり、更に頭の魔血晶(デモンズクリスタル)も後ろから砕かれ、首を刎ねられる事態が発生した。

 

「ひっ⁉︎」

 

「なっ、アイツはヴァイス‼︎

 それと………あの女魔族は誰だ⁉︎」

 

「兎に角時間停止魔法(タイムストップ)は継続させて貰う‼︎」

 

 そのアギラ殺害を実行した犯人は何とヴァイスと、見慣れぬ女魔族であり、それにティアは怯え、ルルは驚いていたがシエルが解除され掛かった時間停止魔法(タイムストップ)を上書きで継続させ、アイリスがティアも連れて全員を対面側の丘に転移し2人の前に8人が立ちはだかった。

 

「来やがったな女魔法使いエミル‼︎

 ヴァレルニアの借りは返してやるぜ‼︎」

 

「それから初めまして、かな? 

 ボクの名はナイア、よろしく頼むよ」

 

 するとヴァイスは剣に付いた過去のアギラの血を拭うとエミルに剣を向け、借りを返すと叫び今にも飛び掛かろうとしていた。

 が、それを女魔族ナイアが前に立ち押さえるとよろしくとフレンドリーに挨拶をしていた。

 

「ナイア…確か780年前に現魔王とアザフィールに処刑された大罪の魔族‼︎」

 

「私も聞いた事がある、虐殺から破滅確定の『お遊び』と称した悪辣な行為を行った魔族、アギラなんかが可愛く見える程の恐るべき魔族だったとな‼︎」

 

「何ですって⁉︎」

 

 するとナイアの事をアイリスとシエルがアギラを超える大罪の魔族だと称し、それを聞いたエミル達は身構え、ナイアを必要以上に警戒していた。

 これも全てアギラを超える悪辣と聞いたためである。

 

「おやおや、ボクはまだ何もしてないのに凄い嫌われようだ。

 まあ過去で何かやっても刺激が足りないから現代で色々やりたいのにソーティスがまだその時じゃないって止めるからさ〜、ヴァイスを使ってちょっとアギラを殺すしか出来ないんだよね〜」

 

 対するナイアはエミル達からの嫌われ振りに苦笑し、しかし地震は現代で事件を起こしたいと意訳で話していた。

 が、ソーティスに止められているらしくヴァイスを使いアギラを殺す程度しか出来ないと嘆く真似をしていた。

 

「巫山戯るな、アギラをこの時点で殺せばミスリルゴーレムが現れずケイ達が生き残る改竄が発生するだろう‼︎

 そして貴様………アギラを殺したと言う事は、私にあそこの2人を殺す様に仕向けてる、違うかこの愉快犯‼︎」

 

「…ピンポンピンポ〜ン‼︎

 正解だよシエル‼︎

 いやぁ、アギラを殺せば後は君達が彼等を殺すしか改竄を直せないよね? 

 ボクはそれでどんな反応をするか見たいからこの過去の三流を殺したんだよね〜!」

 

 だがシエルやサラ、エミル等知恵が回る者はアギラがこの時点で死ぬと改竄を直しに来た自分達でケイとテニアを殺さなければならなくなると指摘すると、ナイアは愉快犯らしくそれでエミルやロマン達がどんな反応をするか見たいと言って宙に浮いていたアギラの首を何処かに投げて嘲笑っていた。

 

「何て悪辣な…私達に人殺しをさせたい為にもう特異点(シンギュラリティ)化したアギラの過去を…未来に何ら影響が無い物を敢えて殺すなんて…‼︎」

 

「この愉快犯め、アンタには手加減なんかせずこの手で‼︎」

 

 アイリスはナイアの悪辣さに辟易し、エミルも杖を構えてティアを庇いながらナイアにターゲットを絞り始めていた。

 だが、ヴァイスはこれを無視されたと感じ取り癇癪を起こし始めていた。

 

「エミルてめぇ‼︎

 てめぇは俺の獲物だ、余所見すんじゃねえ‼︎」

 

「エミル、ティア‼︎」

 

 癇癪を起こしたヴァイスは怒りのままエミルに突撃すると、ロマンとシエルが止めに入りその剣と大きな図体を何とか止めていた。

 それを見たエミルはヴァイスも邪魔だと感じ取り始めていた。

 

「アハハ、さあ楽しい遊戯の始まりだよぉ‼︎

 君達も存分に踊ってね‼︎」

 

 そうしてナイアが遊戯の始まりだと宣言し、エミル達に躍る様に要求しながら自身も魔法を使いエミル達を攻撃し始めた。

 エミルは早速全員に身体強化(ボディバフ)IVと時間加速魔法(タイムアクセル)を掛け、身体能力とスピードを上げる。

 更にエミル達への攻撃を見たアイリスがルルと共にナイアの対応に移り、激しい魔法戦が開始された。

 

「ほらほら、闇氷束(ブラックフローズン)だよ!」

 

「余り調子に乗らない事です、雷光破(サンダーバースト)‼︎」

 

【ドォォォン、ガシャガシャン‼︎】

 

 アイリスはナイアの闇氷束(ブラックフローズン)を相殺しようと雷光破(サンダーバースト)の雷光で黒き氷を砕こうとした。

 だが若干、ナイアの方が威力が上回った為か黒き氷がアイリスの側まで迫る。

 

「アイリス、結界魔法(シールドマジック)V‼︎」

 

 其処にルルが結界魔法(シールドマジック)を使用し、黒の氷からアイリスを守ると彼女が相殺し切った分の残った攻撃だった為ルルでも防御可能だった。

 そして黒の氷を結界と共にルルが砕くと、目線で1人が駄目なら2人と会話し、アイリスも頷くと2人はオリハルコンダガーと光の矛を構えてナイアに接近戦を始めた。

 

「おっと、うわ、ひゃあ危ない! 

 ボクは根っからの魔法使いタイプだから絶技は門外なんだけどなぁ、爆震剣‼︎」

 

「いやそれは杖でしょうが、嵐瀑剣‼︎」

 

 ナイアは2人の攻撃を避けながら魔法使いタイプだと口にしながら、杖で爆震剣を発動させた為ルルも嵐瀑剣を発動させ火と土、水と風の複合属性絶技が衝突した。

 

【キィィィィィン‼︎】

 

 その時、ナイアの杖から明らかに鳴ってはならない金属音が響き、ルルは杖に視線を送ると、杖の一部が剥がれ中から仕込み刀が現れそれがルルのオリハルコンダガーと衝突していたのだ。

 

「ふぅぅぅぅ、はぁ‼︎」

 

【ガァァン‼︎】

 

「ほら押し負けた、だからボクは魔法使いタイプで」

 

「そんな物信用なりませんよ、雷光槍‼︎」

 

「もう、氷黒剣‼︎」

 

【キィィィィィン‼︎】

 

 鑑定眼(アナライズ)でレベルが830もあるナイアがルルに押し負けたのを絶技が不得意だと、魔法使いタイプだと叫んでいたがアイリスは一切信用せず雷光槍で矛に白き雷光を纏わせ突撃すると、ナイアも氷黒剣で黒き氷を纏わせた仕込み刀で応戦する。

 すると先程のルルと同様アイリスの威力の高い絶技が相殺された。

 その結果から、ルルの時は手加減していた事が証明された。

 

「手加減…舐めてくれるわね…‼︎」

 

「ほらほらムキにならないで、これは遊戯なんだからさ‼︎」

 

 ルルは手加減された事にムキになり、ダガーを構え首筋を狙い始めるとナイアはあくまで遊戯と主張し、仕込み刀で応戦しながら急所狙いを全て捌いていた。

 其処にアイリスも追加し、2人で攻撃していた…そんな時にリョウが刀でナイアの横から一閃し、彼女の顔に傷が出来上がった。

 

「2人でダメなら3人だが…不要だったか?」

 

「ふっ、絶妙なタイミングでしたよリョウ‼︎」

 

「…傷…ボクの顔に傷………あーあ、これは遊戯だって言ってるのに、何で分からないかなぁ‼︎」

 

 リョウは2人に絶好のタイミングで援護された為、2人が親指を立てているとナイアは顔に傷が出来た事で不機嫌になり、遊戯から『殺戮』に切り替えて3人に襲い掛かり、計4本の武器に1本の仕込み刀で応戦し、明らかにさっきと動きが違うと3人に思わせながらも何とか応戦をする。

 

「魔法使いぃぃぃぃ、俺と戦えぇ‼︎」

 

「行かせる訳無ぇだろうがアホンダラァ‼︎」

 

「エミルやサラの所には行かせないよ‼︎」

 

「ほら、お前達の怖い怖い魔剣が首を狙ってるぞ、思う存分避けろよ‼︎」

 

 対するヴァイスは頭に血が上っており、エミルと戦う様に叫ぶがアル、ロマン、シエルの3名で止められてしまい、更にシエルには魔力を放出しながらのベルグランドの斬撃が飛び、それはヴァイスは避けながら3人に拮抗し戦況は3対1が2つ出来上がっていた所だった。

 

「………よし、ぶっつけ本番行ってみるか………サラ、ナイアをヴァイスの側まで誘導して‼︎」

 

「エミル? 

 …うん、分かったよ‼︎

 ほらほらナイアさん、彼方の方にご案内ですよ‼︎」

 

【ビュンビュンビュンビュンビュンビュン‼︎】

 

 この状況を見てエミルは決心してサラにナイアをヴァイスの側にまで誘導させる様に指示を飛ばす。

 サラもそれを聞き頷き、キレてるナイアに執拗に矢を放ち、ナイアはそれを避けてるとベルグランドの斬撃を避けてるヴァイスと背合わせになり、これを狙ったエミルはナイアとヴァイスと一直線に並ぶ様にティアを伴いながら移動して『魔法』を放つ用意をした。

 

「皆、射線上から離れて‼︎

 さて、時を弄ぶ者達、受けなさい‼︎」

 

 エミルは全員に『魔法』の射線上から退避する様に指示を出すと、全員がエミルの指示でバラバラに避けると、もう巻き込まれないと感じたエミルはこの2人に問答無用で『魔法』を放った。

 それは一筋の白き『光』であり、それが一直線に2人の敵対者に向かって行った。

 それを見たナイアは一目で『これはヤバい』と感じ回避態勢を取った。

 

「ああん、今更光属性単体の魔法なんざ効かねぇんだよ魔法使い‼︎

 暗黒破ァ‼︎」

 

「バカ、避けっ…‼︎」

 

 だがヴァイスはその『光』を光属性魔法と思い、暗黒破を使い相殺しようとした。

 ナイアは直ぐに避けろと言おうとしたが間に合わず、その『光』は暗黒破を飲み込み、棒立ちのヴァイスに一直線に向かって行った。

 

「は、はっ‼︎

 そっちの威力が強かっただけで後は防御出来るんだよ、結界魔法(シールドマジック)IV‼︎」

 

「だから避け…うわっ⁉︎」

 

【ズガァァァァン‼︎】

 

 ヴァイスは頭に血が上っている為、暗黒破を『相殺』されたと思い込み、結界魔法(シールドマジック)で残った威力を防御しようとしていた。

 だがナイアは本能的に何か『ヤバい』と感じ取った為ヴァイスに避ける様に叫ぼうとした………が、それをいつの間にか空中から接近し、零距離でベルグランドの真の魔力を放つシエルに阻まれ、ナイアはこれを避けるので一杯一杯であった。

 

【ピキピキ、パキン‼︎】

 

「…はっ?」

 

【バァァァァァァァァァッ、シュゥゥゥゥゥゥ…‼︎】

 

 一方ヴァイスは防御出来る、そんな自信があり全力の結界を張っていた。

 だが、その『光』は結界すら飲み込む様に、否、飲み込みヴァイスの右手から胸元、更にその上を『光』が包んで行った。

 そしてそれが消えた瞬間ヴァイスは右腕の前腕部全てと胸元から上が光に包まれていった部分から『消え去り』、血も噴き出す事無くヴァイスはそのまま倒れ死亡した。

 

「だから避けろって言ったんだよあのおバカ…‼︎」

 

「さあ次はアンタの番よ‼︎」

 

「絶界魔剣…‼︎」

 

 ナイアは死んだヴァイスを見ながら、エミルの放った『光』を避ける様に指示したのに無視した彼をハッキリとバカだと言い放ちながら汗を拭いていた。

 自身も当たれば只では済まなかった為である。

 するとエミルは先程の『光』をまた杖の先から見せ、更にシエルがベルグランドの力を解放していた。

 これは所謂詰みであった。

 

「………はは、ボクは誰かが踠く遊戯は好きだけど、自分が明らかに詰んだ遊戯の方は苦手かな…‼︎

 と言う訳でさようなら皆様、また次の遊戯をお楽しみに‼︎」

 

【ブゥン、カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

 ナイアはこの状況を見て自身の趣向を語りながら時間跳躍魔法(タイムジャンプ)で逃亡する。

 それを見たエミル達は武器の構えを解き、しかし時間停止魔法(タイムストップ)は解除せずにエミルに駆け寄ると、全員に熟練度元素(レベルポイント)が付加され、エミル達は一気にレベル750に、アイリスとシエルは其処までレベルは上がらず820となった。

 

「す、凄いよエミル、自分よりレベルが上のヴァイスを斃しちゃった‼︎」

 

「エミル、あの魔法は何なの? 

 何だか…『怖い』感じがしたよ…」

 

 サラは純粋にエミルがレベル785のヴァイスを斃した事を喜んでいた。

 その一方でティアはあの魔法を『怖い』と話し、両者で意見が食い違いエミルはこれが正しいと感じ、ティアの頭を撫でていた。

 

「あの魔法はね、時間操作系魔法に属性が存在しないことに着目してね。

 そんな物があるなら『全属性を融合させた無属性』も創り上げられるんじゃって思って、結果はあの通り相殺も防御も許さない魔法が出来上がったわ」

 

「全属性を、融合⁉︎

 相反する属性すら全て混ぜ込んで、それで魔法を創った⁉︎

 前代未聞ですよ、そんな魔法…‼︎」

 

 エミルは先程の魔法の種明かしをし、時間操作系魔法に属性が存在しない事に着目したエミルは『8個全ての属性を融合させ無属性を創り上げた』と話した。

 アイリスは無論創世期からそんな物は聞いた事が無い為驚愕し、更に相反する属性すら融合させた事も偉業であり、エミルは改めて魔法の天才だと全員が感じていた。

 

「でもこれぶっつけ本番だったから下手したら腕が消滅してたかもね。

 …あ、名前は勿論『消滅魔法(ディストラクション)』ね」

 

「ぶっつけ本番って…そんなテストもしてない魔法を使うなんて、エミル無茶が過ぎるよ‼︎」

 

 しかしエミルはこの魔法、消滅魔法(ディストラクション)はぶっつけ本番で使った事を明かし、更に下手すれば腕が消滅していたとまでさらりと言った為、サラも流石に今回は無茶が過ぎている為怒っていた。

 だがエミルは少し悪びれた後直ぐに首と胴体が離れたアギラの死体に駆け寄り、ロマンが過去に話した状況を再現するには最早自分達がやるしか無いと考えを移していた。

 

「…ねえシエル、ミスリル鉱石はこの場所にあるわよね?」

 

「…ええ、過去のアギラがこんな状態だから私がやるわ。

 貴方達、少し離れて…ロマン?」

 

 エミルはこの土地にミスリル鉱石があるかと尋ねると、シエルは透視(クリアアイ)を使いあると断じる。

 そして過去のアギラが殺害された為自分でやるしか無いと考え、丘に座り込み魔物を創成する術式を展開しようとした………だが、丘からロマンが離れずに膝を突きながら下を覗いていた。

 まるで詫びる様な姿勢で。

 

「…シエル、お願い、やって………父さん達の歴史を、『元に戻して』あげて…‼︎」

 

「ロマン…分かった、お前の願い、聞き届けよう」

 

 ロマンはシエルに両親の歴史を元に戻す…つまりこの場で死なせる様に願いながら堪えた涙を流し始めた。

 シエルもこれ以上ロマンを苦しめる真似をさせぬ様に時間停止魔法(タイムストップ)を解除後、魔物創成術を使いミスリル鉱石に魔素を集中させ、ミスリルゴーレムを創り上げた。

 

「ミ、ミスリルゴーレム⁉︎

 何でこの場所に魔物がっ…‼︎」

 

「ロマン、逃げなさい‼︎」

 

「父さぁん、母さぁん‼︎」

 

 そうして眼前の丘下にミスリルゴーレムが現れ、ケイとテニアがロマンを庇いながら戦い始め、過去のロマンは泣き続けたまま腰が抜けて逃げられず両親に向かって叫んでいた。

 それから直ぐに雨が降り始め、エミル達もこの光景を目に焼き付ける為に丘の先に立ちケイ達が剣や魔法を駆使して何とかミスリルゴーレムに傷を付けるまでに至った。

 

「よし、後すこ」

 

【ドガァッ‼︎】

 

「っ、ゴフッ…‼︎」

 

【ドン、ゴロゴロゴロ、カラァン、バギッ‼︎】

 

 ケイはミスリルゴーレムの核がある部位にヒビが入った事で油断したのか、ミスリルゴーレムの剛腕をモロに受けてしまい吹き飛ばされ、持っていた剣が手から離れ、ゴーレムに踏まれて砕かれると同時に背中に携えていた鞘に収まった剣がロマンの前まで飛んで来ていた。

 

「あ、あなたぁぁぁ‼︎」

 

【ドガァッ‼︎】

 

「…コヒュッ………」

 

【バサッ、ゴロゴロゴロ‼︎】

 

 更にケイが吹き飛ばされた事に気を取られたテニアはミスリルゴーレムの接近に気付かず、腹に打撃をそのまま叩き込まれまるで蛙が潰れたかの様な声で過去のロマンの前まで吹き飛ばされ、口から血が垂れながらその目に光が映っていなかった。

 つまり…テニアは今の1撃で死亡したのだった。

 

「と、父さん、母さん………あ、あぁぁぁぁ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

【ガシッ、シャキンッ、ガキンガキンガキンガキン‼︎】

 

 過去のロマンは母が殺された、父が動かなくなった、その事実で脳が満たされ、そして目の前には父が大事に携えていた剣が転がっていた。

 その為過去ロマンは剣を鞘から引き抜き、ヒビ割れた箇所に何度も攻撃を開始した。

 エミル達はあの剣に見覚えがあった、それはアルが打って譲り、そして形見となったミスリルソードであった。

 

「…ごめんなさい、父さん母さん、ごめんなさい………‼︎」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

【ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン、ピキピキパキィッ、ズシャッ‼︎】

 

 ロマンはこの場で死んだ父と母に詫び続けながらこのゴーレムと過去の自身の死闘を目に焼き付け、5分か10分、或いは1分かも知れない。

 そんな曖昧な時間の中でヒビ割れた箇所を何度も何度も刃毀れしても攻撃を続け、そして遂にゴーレムの核が露出した瞬間過去ロマンは剣を突き刺し、ミスリルゴーレムの核を潰した。

 

【ガラガラガラ、ガラァ‼︎】

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…くっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 こうして漸くミスリルゴーレムを倒した過去ロマンだったが、両親を救えなかった事実に無力感に苛まれ虚しい雄叫びを上げるしか無かった。

 そして現在のロマンもその光景に涙を流し、両親の2度目の死を体験し心を抉られる様な感覚に陥っていた。

 

「…これでロマン、貴方の歴史の転換点は守られました。

 帰りましょう、我々の時代に。

 シエル、汚れ役ご苦労様でした………」

 

「気にするな、私が魔族で過去のアギラの代わりに魔物を創成出来る、それだけの話だ」

 

 アイリスは過去のロマンの両親が確実に死んでいる事を遠めながら確認し、シエルにも汚れ役を率先して引き受けた事に頭を下げていた。

 だがシエルはアギラの代わりをしただけと話し、それ以上は何も言わなかった。

 

「(…あ………そう、よね、昨日あれだけ騒ぎ合えたんだから、シエル貴女は…)」

 

 だがエミルは此処で1つ気付いた事があった。

 それは一瞬シエルが後ろめたそうに目を下に逸らした事だった。

 エミルは今までシエルを『超然的な敵』だと思っていたが、昨日の言葉の殴り合いや今の目を逸らした事で漸くシエルの『地の部分』を理解した。

 それは、口だけは強く保っているがロマンに後ろめたく思う…つまりは彼に対して詫びていると。

 

「シエル…」

 

「…大丈夫だティア、問題はない。

 さあロマン帰るぞ、我々の時代に」

 

 今まで魔族と戦い続け、目が曇ったエミルと違い純真なティアにはシエルも無理しているとその目に映り、心配をしていたがシエルは笑みを…今のエミルの目には作り笑いにしか映らないもので大丈夫だと発言し、ロマンに帰る事を促した。

 それを聞いたロマンは雨と涙に濡れながらティアの手を掴み、腕輪を掲げ始めた。

 

「…何処が大丈夫なのよ、アンタは…」

 

「私は魔族の将だ、ならばどんな物を抱えようが平然としなければならない。

 それが私だ」

 

 エミルも手を掲げ始めると、シエルに対し皮肉を口にすると彼女は自身の立場を口にしながら常に平然としなければならないと話され、この部分はノブレスオブリージュで滅多に弱みを見せないアルクを思い起こさせ、エミルは本当に漸くシエルと言う魔族の性格を、自分達は案外似た者同士だったと本当の意味で理解し始めていたのだった。

 

【キィィィィィン、カチカチカチカチカチカチ、ビュゥゥゥゥゥゥゥン‼︎】

 

「…父さん、母さん…」

 

 そうして時空の腕輪が時空の狭間にエミルとロマン達を跳ばし、ロマンが俯きながら濡れていた服が時空の狭間に水滴ごと流され、まるで何も無かった様に乾き始めていた。

 アル達もこの結末に気分が落ち込み俯きまともにロマンの顔が見られずにいた。

 

『………気にするな、ロマン!』

 

『貴方は、貴方が正しいと思った事をしただけよ…』

 

『………えっ⁉︎』

 

 するとロマンの耳にケイとテニアの声が響き、その声は他の皆にも聞こえたらしく顔を上げて驚いた表情を見せていた。

 

【カチカチカチカチ、カチャ、ビュゥゥゥゥン‼︎】

 

 そしてその声が響いた直後に現代の安寧の世界樹の原っぱにロマン達は降り立ち、あの声について誰かが聞こうとしても聞けない、そんな状況の中ティアの手を握りながら左腕を胸に付けたロマンは空を見上げ始めていた。

 

「………父さん、母さん…く、うぅぅあぁぁぁ………‼︎」

 

【ビュオォォォォォ!】

 

「あ………暖かい、温もりの風…これ、ロマンの両親の…!」

 

 そしてあの声は幻聴なんかでは無い、キチンとした両親の別れの言葉だったのだと思ったロマンはただただ只管泣き続け重い空気を作り出していた。

 その時季節外れの暖かい風がエミルやロマン達を包み、草花が空に舞い上がっていきながらからエミル達はこの風がケイとテニアの想いの具現だと感じ、ロマンは暖かな風に身を包まれながら涙を流し続けるのだった。

 

 

 

 一方その頃、別の時間軸に逃げたナイアはエミルの最後に見せた魔法やベルグランドの厄介さを噛み締めながら他の皆がこの時間軸に帰って来るのを待っていた。

 

「あーやだやだ、あんな魔法使い聞いてないし。

 ボクも危うく死ぬところだったじゃないか…全く、アザフィールの弟子のお嬢ちゃん並に厄介じゃないか魔法使いエミル、そしてその仲間達」

 

 更にソーティスからエミルと言う魔法使いの厄介さを聞いてはいたがあんなのだとは思っていなかった為愚痴りながら床を蹴り、次あった時はあの魔法の対策をしなければならないとすらかんがえていた。

 更にエミルとシエルだけで無く他の者達も要警戒と魔法紙(マナシート)に書きながらテーブルの上に置いた。

 

「…でも本当におめでたいよね、君達はまだ何も『気付く事すら出来ていない』んだから…ふふふふふふ、あははははは!」

 

 だが、そんなエミル達の姿を思い出しながらまだ何も気付いていないと何かを指しながら話し、そしてテーブル席に座りながら邪悪な意志が込められた笑い声を上げ続けていた。

 一体エミル達が何に気付いていないのか? 

 また時空を乱す者達は何を知っているのか? 

 それは、この時点で知る者はナイアやソーティス達位であった…。




此処までの閲覧ありがとうございました。
ナイアが仕掛けた遊戯とはロマン達にケイ、テニアの生存した歪んだ現代を見せつつ過去でアギラを始末し、ロマン達自身の手でケイ達を殺させると言う悪辣な物でした。
そしてロマンやエミル達はその遊戯を完遂する形で歴史修正を行いました。
因みに最後の方に聞こえたケイ達の別れの言葉は幻聴か現実かは内緒とさせて頂きます。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第46話『正義の鉄剣達、調査する』

皆様こんにちはです、大変お待たせしました第46話目更新でございます。
今回は少し時を遡りネイル達の視点で物語が進みます。
では、本編へどうぞ。


 時は巻き戻りネイル達正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)がエミル達誓いの翼(オースウイングズ)と別れた後、アザフィールとダイズの監視によりアギラは何も出来ない様にされつつ、彼がリストアップした事件の被害者宅を訪れては線を引く作業の繰り返しで行っていた。

 

「ふう、此処も変化は無しだったな。

 …だが変化があれば、その者を死に戻さねばならなくなる。

 エミル殿達は気付いているのだろうか…」

 

「多分…エミル様なら、誰にも言わず独りでやり遂げようと…」

 

 それからミスリラント本国に跳んだネイルが再び線を引くと、ネイルはこの作業の先にある可能性、もしもリストにある者が生きていた場合再び歴史通りに死ぬ様にしなければならないと気付いており、それを予めガム達にも説明していたがネイルは寧ろエミル達の方が心配になっていた。

 それをキャシーはエミルは独りでやろうとすると話し、ネイルもエミルなら確かにと思っていた。

 

「ふう、それが地上界の者の美点であり弱さだ。

 何でも独りで出来ると思っている内は半人前だ、例えそれが仲間を結果的に傷付ける物に繋がる事象の解決であろうとな」

 

「耳が痛い限りなんだな〜」

 

「だがダイズの言う通りだ、もしもエミルがそうするなら袋小路に当たるだろう。

 それを如何にするか、それが彼女の今の課題だろう」

 

 それを聞いたダイズは地上界の美点と弱さを兼ねたその考えを師父アザフィールの教えである『独りで何でも出来ると思う内は半人前』を語り、アザフィール自身もエミルが袋小路に突き当たる事を予想し、それを如何するかが彼女の課題だと語る。

 それを聞いたネイル達も自分達の正義は独りでは成せないと考え、横にいる仲間達と共に正義を貫こうと改めて頷き合っていた。

 

「…何でもよろしいけど、何故私は手枷を付けられたままなのか⁉︎

 私はソーティスの被害者、魔王様の忠実な僕ですぞ⁉︎

 なのにこの扱いは」

 

「黙れ愚者、貴様を自由にしたら何を起こすか分からない上に特異点(シンギュラリティ)なんだ、今死なれたらソーティス思う壺なんだよ! 

 だから貴様は何も言わず枷に繋がれたままキリキリ歩け‼︎

 ったく、口を開けば被害者面、これなら口も塞いだ方が良いかもしれんな‼︎」

 

 そんな中手枷を付けられたまま変身魔法(メタモルフォーゼ)を使用しているアギラは自身は被害者なのだと発言し扱いに対して不満を漏らすと、ダイズが理由を懇切丁寧に話し、更に口を塞ぐ事も検討し始めていた。

 それ等を聞いていたネイル達もアギラが被害者発言をするのは門違い、悪逆の限りを尽くした者である故に快い表情を見せずに睨む様に見ていた。

 

「良かったなアギラ、今貴様の首を刎ねずに済む理由があってな…」

 

「う、うぐぐ………わ、分かりましたよ、私は本来の歴史では敗者、ならば勝者の弁を聴きますよ…‼︎」

 

『(嘘だ)』

 

 アザフィールも大剣の柄に手を掛けながら威圧し、この場で殺されない事を幸運に思う様に話すと、アギラは観念して勝者の弁を聴くと発言する…が、これを直ぐに全員に嘘と見抜かれた為、ネイル達は警戒心を最大限にし、背中から襲って来ても良い様にするのであった。

 

 

 

 一方何処かの時間軸。

 そこにはナイアが席に座りながら他を待っており地上界の菓子を食べながらソーティス達の帰還を待ち侘びていた。

 

【カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

「ソーティス様と共に戻りました………ナイア、ヴァイスは何処に?」

 

「ああ〜済まないねぇ、私は何度か避けろとか命令したんだけど聞かなくて………死んじゃった♪」

 

 そこにソーティス、グレイ、ネロが時間跳躍で現れると、ネロはヴァイスの姿が見えない事にナイアに何処かと尋ねると、ナイアは済まないと口にしながら巫山戯た態度を見せながら死んだと口にした。

 

【ドガガラガラァ‼︎】

 

「貴様…私の弟をよくも…‼︎」

 

「いやだから想定外だったんだって。

 何あのエミルって魔法使い、頭可笑しいの?」

 

 するとネロは怒りに任せテーブルを蹴飛ばしナイアの首根っこを掴み持ち上げ、その明らかに分かる憤怒に身を焦がした状態になっていた。

 しかしそれでもナイアは想定外だったと話し、エミルが想像を上回る厄介者だったのだと軽く口を開いていた。

 

「止めろネロ! 

 それでナイア、エミルが想定外とは如何言う事だ? 

 私はあの女は切れ者であり前世はライラと言う初代勇者一行の魔法使いだったと伝えたが?」

 

「いやそれがね、私の全く知らない未知の攻撃魔法を創って使ったと思ったらあ、コレやべ当たったら死ぬって危険信号がビンビンに立ってね〜。

 そうして避けず結界で防ごうとしたヴァイスは当たった右腕と頭が文字通り『消滅』して、ね」

 

 ソーティスはそんなネロの手を掴み上げ、切れ者と伝えた筈が何があったかをナイアに問うと彼女は未知の攻撃魔法でヴァイスを殺し、ナイア自身も当たれば死ぬと確信して避けたと話した。

 更に特徴として当たった箇所から『消滅』したと話すと、ソーティスは思い当たる節があるのか眉を顰め始めた。

 

「…まさか…いや、俺でも不可能な事を…」

 

「ソーティス様、ヴァイスは何故死んだかお教え下さい! 

 このままでは私ネロは憤怒で身を焦がしてしまいます‼︎」

 

「…恐らく全ての魔法属性を均一に融合させ、それを放ったのだろう。

 時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を会得した俺でも不可能な事をエミルは実現した、その結果がこれだと言う訳だ」

 

 ネロは怒りに身を震わせながらソーティスに問い掛けると、そのソーティスも自身には不可能だった全魔法属性の融合し放つ魔法を創り上げた、結果ヴァイスが死んだと話しネロはそれ等を聞きエミルに対し怒りを燃やし、ナイアは道理で危険だと理解したのだった。

 

「はん、役立たずが1人減っただけでは無いか。

 何をそんなに悔しがる、代わりなどソーティスが幾らでも生み出せるだろうに」

 

「何だと…グレイ貴様ッ‼︎」

 

「止めろネロ、グレイも口を慎め! 

 ヴァイスは俺の助手だったのだ、それを喪い何もかも手痛いのだ!」

 

 其処にグレイが全く空気を読まずヴァイスを役立たず呼ばわりし、ネロに火を付け掛けた所でソーティスが2人の間に割って入り掌底を2人の腹の目の前で止め、この渦中を無理矢理鎮めた。

 するとネロは俯きながら時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を発動させようとしていた。

 

「待てネロ、何処へ行く?」

 

「『ニグラ』の迎え、そして魔法使いエミルが私の大事なものを奪ったなら私も奴から仲間を奪ってやります…。

 アギラの特異点(シンギュラリティ)化が終わり、残る研究は後2つ。

 もう私が居らずともソーティス様ならばそれ等を完遂し、時の果てを見る事が出来ましょう…では、これにてお別れです」

 

【ブゥン、カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

 ソーティスはネロに何処に行くかと語気を強めて話させると、彼は最後の仲間ニグラの迎えとエミルから仲間を奪うと伝え、更には残る研究議題は2つでありそれ等を完遂し主が時の果てを見る事が出来ると信じ、ネロは憤怒に身を焦がせながらエミル達が居る時間軸に跳んで行った。

 ソーティスに今生の別れとも取れる言葉を残しながら。

 

「…ふう、出来ればネロ達と見たかったよ。

 140年もの間研究に付き合い、私が復活して共に私が来る場所を予測して待っていたのだからな…」

 

 ソーティスは自身の願いとしてネロ兄弟と共に時の果てを見たかったと発言し、長い間研究を空論と呼ばずに付き合った事への思い入れがあるのだった。

 それをナイアは残念と思い、グレイは酒に溺れ如何でも良いと感じると三者三様であった。

 

 

 

 一方現代、ミスリラント本国を周りながらリストに線を付け、遂にミスリラントでのアギラによる暗殺事件調査は終わりを迎えるのだった。

 

「うむ、ミスリラントは変化が無い様ですな」

 

「ええ、アギラ事件の死者は死者のままでした。

 ならヒノモトやグランヴァニアを調査しましょう、ダイズ達も早く来なさい」

 

 ネイルはゴッフェニアを最後に線を引きアギラの起こした事件ではミスリラントに変化は無いとネイル達は安心し、リコリスは他の担当の国を回る様にダイズ達にも促し歩き始めさせた………が、ダイズだけは何故か動かすゴッフェニアの街並を見ていた。

 

「ダイズ、何故来ないのです?」

 

「可笑しい…ゴッフェニアは確かに豊かな街だが………こんなに『職人の数が少なかった』か? 

 ………何かある、間違い無く。

 リコリス、ネイル達今直ぐ職人王に謁見するぞ‼︎」

 

「え、ダイズ様〜⁉︎」

 

 するとダイズはミスリラント本国で政治側担当の侵略をしていた甲斐があり、ミスリラント本国の職人の数を頭の中に叩き込んでいた。

 その為彼にのみ、或いはアルが此処に居れば勘付いた事、『職人の数が少ない』に気付きダイズは早速ゴッフに謁見しようと言う話になり職人王の宮殿に足を進めて行ってしまった。

 

「全く…だがダイズの話が本当なら何かアプローチが違う可能性がある、ネイルよ奴を追おう」

 

「確かに此度の事件は怪しきはとことん突き詰めねばなりませんからな。

 アザフィール殿、皆、行こう‼︎」

 

「…仕方無いですね」

 

 アザフィールもダイズが宮殿に向かい始めた事でエミル達と違うアプローチがソーティスに為されているのではと言う疑問が浮かび上がり、ネイル達も怪しく思えば突き詰める事とし、アザフィールの後に付いて行くのだった。

 それを見ていたリコリスも仕方無いと思いつつ、アギラの手枷に付けた縄を引っ張りながら元魔族の将も含めて宮殿内へと勅令書を見せつけながら入って行く。

 

「おうおうおう、早速ワシ等が作った勅令書を使いながら入って来やがったなオイ‼︎」

 

「急な訪問に際し申し訳無く思います。

 ですが、魔族の将ダイズ殿が何かに気付いたらしくその話を聞こうと思い馳せ参じました」

 

 ゴッフは早速勅令書を使って宮殿に入ったネイル達をアルの師匠と分かる口調で出迎えると、ネイルはダイスが何かに気が付いたと話すと彼は髭を弄りながらダイズを見つめていた。

 

「職人王ゴッフ殿、1つ聞きたい事がある。

 この王都に居る鍛治職人の数を教えてくれ」

 

「あん? 

 ……137だ、勿論馬鹿弟子を入れてな」

 

「…矢張り少ない」

 

 ダイズはミスリラント本国王都ゴッフェニアに居る鍛治職人の数を尋ねると、ゴッフはアルを入れて137と答えると、ダイズはハッキリと少ないと口にし、全員を見た。

 

「少ないとは?」

 

「そのままだ、ゴッフェニアには『本来485の鍛治職人が居り毎日職人勝負』をしていたんだ。

 なのにこの街に入ってから職人勝負の喧騒が少なかった…」

 

 ネイル達は少ないと言う言葉に反応しその意味を問うと、ダイズはゴッフェニアには485もの鍛治職人が居たと話し、更に毎日職人勝負をしていたとも説明していた。

 

「…そういや、やけに職人の声が少なかった!」

 

「確かに、1年前のゴッフェニアと比べても明らかに違っていた‼︎」

 

 それを聞きネイル達は思い出してみると1年前のゴッフェニアの喧騒がやけに少ないと今になり気付き、リコリスは地上界の仕事事情に疎かった為分からずに居た。

 

「ふむ…ではゴッフ殿、この国の職人事情は一体如何なっているか、説明して貰いたい」

 

 するとダイズは何処からか眼鏡と手帳とペンを取り出し、ゴッフに国の職人事情を尋ね始めた。

 しかも変身魔法(メタモルフォーゼ)を使い、政治家ザイドの時の格好になりながらである。

 

「う、うむぅ…職人事情か。

 確かにお前の言う様にゴッフェニアが栄華に満ちていた時はあったんだ。

 だが、50年前に突然出来た街にセレンも此処も、何処も彼処も職人を独占されちまったんだ」

 

「その街の名は?」

 

「忘れられねぇぜ、あの憎らしい都市…『シェブグラニス』をな‼︎」

 

 ゴッフはダイズに尋ねられた事に答え、50年前に突然出来たシェブグラニスと言う都市に何処も彼処も職人を独占され、憎らしげに椅子を叩きその日が忘れられない様だった。

 

「では、その都市の場所は?」

 

「元『マグネウム』だった場所だよ‼︎

 だが彼処は独立都市を謳いやがって納税だけはしてこっちの干渉を一切合切受けやがらねぇアホ臭え都市だぜ‼︎」

 

 ダイズはゴッフの言葉に耳を傾けながらシェブグラニスが元マグネウムだった事、更に現在は税は納めても干渉は受け付けない独立都市を謳い国の王の干渉すら跳ね除けると言う有様だと話された。

 

「それではまるで国ではありませんか⁉︎

 そんな都市、明らかに存在その物が可笑しいですぞゴッフ様‼︎」

 

「ワシもそう思ってるわい‼︎

 だが…いざ使節団を送っても全員何故か腑抜けて帰って来ちまうんだよ‼︎」

 

 ネイルはシェブグラニスがまるで現在の5国体制になる前にあったとされる大陸内に幾つも偏在した小国を思い起こし、ゴッフに対しまるで国だと指摘したが、ゴッフ側も送った使節団が役立たないと嘆きながら頭を抱えていた。

 

「ふむ…ならば改竄箇所は明らかにマグネウムと言う都市その物だな。

 なら改竄を直しに行くぞ、こんな寂れたミスリラントは見るに堪え兼ねる」

 

「待ちな、行くなら彼処の領主夫人に気を付けやがれ‼︎

 使節団は全員奴に腑抜けさせられた‼︎」

 

「…分かりました、気を付けましょう」

 

 ダイズは手帳に結論としてマグネウムが改竄箇所であるとし、ペンや眼鏡と共に懐に仕舞うと其処に向かい始めようとした。

 するとゴッフが警告として領主夫人に気を付けろと話し、全員その夫人に何かあると知り、全員で礼をしてから宮殿を後にして行く(因みにアギラは床に這い蹲れていた)。

 

「さて、マグネウム近くに転移するぞ。

 準備は良いな?」

 

「ああ…それとダイズさんや、何故そんなにミスリラントに肩入れするんだい? 

 何か思い入れがあるの?」

 

 宮殿から出た後ダイズは変身魔法(メタモルフォーゼ)を解き、マグネウム近郊に転移すると話し、仕切り始めていた。

 その様子にガムがミスリラントに思い入れがあるのかと問い掛けると、ダイズは笑みを浮かべながら話し始めた。

 

「俺は元来の狂戦士(バトルマニア)だ、だから勝負に対して拘りを持ってるのさ。

 そう、勝負とは何方も誇りを賭けて己が魂をぶつけ合う事だと………だからシエルとくだらない勝負でも本気で勝ちに行く。

 それと似てるのさ、この国とヒノモトの決闘はな」

 

 ダイズは自らの矜持に基づき勝負に魂を賭けてぶつかり合うと話し、それがミスリラントの職人勝負やヒノモトの決闘が似ている為、この2国が特に好きな様子を見せていた。

 そのダイズだからこそ、ミスリラント侵略担当になったのだと逆説的に証明出来てしまっていた。

 するとネイル達は頷き始め、円陣を組み武器を掲げ始めた。

 

『我等正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)、その意思決定によりミスリラントの改竄修復を執り行わんとすべし! 

 全てはか弱き人々の自由と生命、そして魔族の将ダイズ殿の誇りを守らんとする正義の意志である事を我等は此処に誓う‼︎』

 

「お前達…ふっ、シエルが甘いと言う訳だ。

 だが、嫌いじゃないぞその魂の誇りは」

 

 ネイル達は誓いの儀でダイズの誇りすら守る事を此処で誓い合わせ、リコリスやダイズがそれぞれ本来なら敵なのにと感じつつ、ダイズはその正義の誇りに共感を覚え嫌いじゃないと話し、ネイルに向かって拳を向けるとネイルも拳を出し、互いに軽く拳を突き合わせ魔界と地上界の括りを超えた魂の繋がりを得ていた。

 

「ふ、私が見ぬ間に地上界もダイズも大きくなったな…」

 

「あーもうむず痒い‼︎

 そう言う友情展開は良いから早く目的を果たしに行けよ‼︎

 時空の乱れによる時間制限があるのを忘れてるのかお前等ぁ‼︎」

 

 アザフィールはその光景を見てぶつかり合うべき敵同士が繋がり合う事に弟子の成長や地上界の者達の心の豊かさを感じ取り笑みを零していた…のだが、此処でアギラが自身の嫌う展開その2が起きた事に背中を掻き立てたくても手枷で出来ない為足をジタバタさせながら早く目的地に行けと騒ぎ始めていた。

 

「全く空気を読まないバカだ…では行くぞネイル、アザフィール殿、リコリス‼︎」

 

『応‼︎』

 

【ビュン‼︎】

 

 そうして少しアギラに気分を害されながらもネイル、ダイズ達は転移魔法(ディメンションマジック)を使い目的地近郊まで一気に転移する。

 ダイズは寂れたミスリラントを元に戻す為、ネイル達も同じく、そしてダイズの誇りも守る為に。

 正義を掲げる者と狂戦士はこうして手を組み目的の為に全力を注ぐのであった。

 

 

 

「うふふ…」

 

【ブゥン、カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

 しかしそれを歓迎しない者も当然居た。

 その者は時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を使用しダイズ達の後を追うのであった。

 

 

 

【ビュン‼︎】

 

「こ、これは…⁉︎」

 

 ネイル達は転移して元マグネウム、現シェブグラニス近郊に辿り着くとその街並に息を呑んだ。

 その街は上層部と下層部に分かれており、上層はゴッフェニアに負けぬ程の豊かさを持ち、しかし下層はとても都市と呼べないスラム街となっており、その歪さが手に取る様に分かる物だった。

 

「こんな…こんな貧富を明白にし過ぎた歪な都市は存在して良い訳が無い‼︎

 ソーティスか、それともネロとヴァイスか、こんな街を作り上げた者は‼︎」

 

「確かに、彼処にはミスリラントの誇りと魂は無い…あるのは欲望と死骸、夢を掴み弱者を搾取する者、夢に敗れ強者に搾取される者………そんなミスリラントではあり得ない縮図で出来た物だ、アレは!」

 

 ネイルはこの歪な都市はあってはならないと断じ、作り上げた者に怒りを露わにしていた。

 それはダイズも同様でありミスリラントの誇りと魂が一切無いとして拳を握り、此処にアルが居れば特攻してしまっていただろう。

 

「皆さん、怒りは皆同じですから先ずは領主と領主夫人について聞きましょう‼︎

 こう言う時には情報は役立つんです‼︎」

 

「流石キャシーちゃんね、じゃあ街に潜入しましょうか!」

 

 其処にキャシーが情報収集を優先するべきだと話し、その冷静さに全員頷き始め、再び転移してスラム街の人が多い場所に転移し、それと無く人盛りに混じると適当な人物に話しかけ始めた。

 

「失礼其処のドワーフ殿、少し話は良いか?」

 

「…あぁ?」

 

 ネイルは見てくれから話し易そうなドワーフを見つけ、話を掛け始めた。

 そのドワーフは見てくれはスラム街の住人らしく貧相な格好はしてるが、まだ瞳に熱があると感じ取り、夢を諦めていないと感じながら声を発し、耳を傾けた。

 

「我々はこの街に来たばかりで不慣れなのだが、この街の領主殿とその夫人殿について話して貰いたい」

 

「この街の領主…元マグネウム領主の『ゴルドル』だよ、あの欲丸出しのコンチクショウめ………。

 夫人は…悪いが名前は分からないんだ。

 と言うかこの下層部に居る連中全員知らないんじゃないだろうか? 

 知りたいなら何とか上層部に上がる事を目指しな、けど殆ど無理だろうけどさ…」

 

 ダイズが手帳を取り出すとマグネウムの項目を見て其処の冴えないドワーフのゴルドルが領主と知り此処は自然と考えた。

 しかし、夫人の名前が下層部は分からないと聴き何か不穏な気配をネイル達は感じ取り、上層部の方を見上げながら顔を険しくしていた。

 

「…分かった、では何とか上層部へ向かう方法を探してみるよ。

 情報ありがとう、50G(ゴールド)だが受け取って欲しい」

 

「こ、こんなに良いんかい⁉︎

 あんた等、神か…?」

 

 それからネイルは情報料として50G(ゴールド)を渡し、礼を述べると貧相なドワーフはネイル達を神と呼び、讃えていた。

 そんな様子を他の住民達も血眼でネイル達を見ていた…が、アザフィールが眼光で威圧すると全員散り散りになりその場でネイル達に近付く者は居なくなった。

 

「では次は上層部を目指すぞ。

 キャシー、シャラ、頼む」

 

『はい‼︎』

 

【ビュン‼︎】

 

 それからネイルはキャシーとシャラに転移を任せると、全員で上層部の人混みの中に転移し、先程の様に人混みに紛れて情報収集を行おうとしていた。

 しかし下層部はあの有り様では仕方無いとは言え、上層部も職人勝負がされておらずミスリラント本国らしからぬ光景だった。

 ネイル達がその異様さを可笑しいと感じながら周りを見ると、先程のドワーフの様な目をした身形の良い職人が居り、ネイルはその者にターゲットを絞り話し掛けた。

 

「失礼其処のドワーフの方、少しよろしいか?」

 

「あ、何だい何か買うのか?」

 

「いや、此処の領主夫人殿について話を伺いたいのだが、知っている事は無いかね?」

 

 ネイルは変に取り繕う事無くストレートに領主夫人についてを問い掛け、自分達はその件の領主夫人側には居ない事を示し、何か情報が出ないかと身構えていた。

 するとドワーフの男は周りを見て、それから顔を寄せるジェスチャーをしてネイルとダイズが顔を近付けた。

 

「あ、アンタ等ゴッフ様の使節団か何かなのかい?」

 

「まぁ、そんな者だと考えて欲しい。

 それで、夫人殿の情報…名前や普段の素行について聞きたいのだが、良いかな?」

 

 ドワーフの男は如何やらネイル達をゴッフが寄越した者だと解釈した為、話を合わせる為にほんの少しだけ方便を使う。

 するとドワーフの男は慌てた様子を見せ、ネイル達に話を更に始めた。

 

「だ、だったら早く帰った方が良い‼︎

 此処の領主、て言うか夫人はやべえ奴なんだよ‼︎

 もし目を付けられたゴルドルみたいに骨の髄まで搾り尽くされちまうぞ‼︎」

 

「何、ゴルドルが領主では無いのか?」

 

「んなもん表向きだよ、ゴルドルはもうとっくに夫人に搾り尽くされておっ死んだって話だぜ‼︎」

 

 するとドワーフの男は夫人はやばいと話し始め、ゴルドルの様に絞り尽くされると話し、ネイルやダイズ達はその話を聞き驚愕し、更に詳しく聞けばゴルドルは既に死んでいる可能性があるとまで話され、ガムやムリアは固唾を呑みながら話を聞き続けた。

 

「良いか、此処の領主夫人…ゴルドルから領主の座を奪った女は本当は魔族だって話だぜ‼︎

 不思議な魔法で誰でも彼でも魅了して虜にしちまうんだ‼︎

 俺はそいつが堂々と出て来てこの上層部の中央の塔に男も女も連れてかれるのを見たんだ‼︎

 だからアンタ等も早く逃げた方が良い、長生きしたいならその方が良い‼︎」

 

 身形の良い職人ドワーフは領主夫人が魔族であると小声だが鬼気迫る様に話し、更に魔法で誰でも虜にすると口にしていた。

 更に証言として上層部の中央の塔に男も女も連れて行かれたと主張しダイズが手帳にそれ等を全て書き記して懐に仕舞った。

 それを確認してネイルが最後に一言話し掛け始めた。

 

「ありがとう、そんな危険な状態の中こんなに話してくれて感謝する。

 その礼と言っては何だが………我々が必ずこの街を解放し、貴方達を自由にしよう」

 

「な、アンタ等正気かよ⁉︎

 俺は散々警告したかんな、死んでも後悔するなよ⁉︎」

 

「大丈夫、何故なら…正義は必ず勝つからだ!」

 

 ネイルは情報提供の礼として街の解放………つまり、このドワーフに及び付かないが歴史改竄を直すと宣言した。

 対するドワーフは警告を散々してこれだった為、後で後悔するなよと言い放つ。

 だがネイルは正義は必ず勝つと自信満々にドワーフに振り返りながら言うと人混みの中を歩きながら中央の塔を見据えた。

 

「それでダイズ殿にアザフィール殿、魔界には誰彼も魅了する魔法が存在するのか?」

 

「心当たりならある、しかしそれは私が780年前に斬首した魔族が持った究極の魅了魔法だった…。

 もしもソーティスが時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を刻み特異点(シンギュラリティ)にさせたのなら、心を強く持て。

 さもなくば彼の者に心を支配されるだろう」

 

 それからネイルが時空の腕輪を使う前に最終確認として誰でも掛かる魅了魔法が存在したかを話すと、アザフィールが斬首した魔族が持つ魔法の中にあったと話した。

 そして心を強く持たなければ支配されると話しながら時空の腕輪を構えた。

 其処には赤い字で魔法暦1985年土の月その2の16日と字崩れしながら表示されていた。

 

「俺も聞いた事がある、何人もの魔族の男と婚姻を結び女とも堕落した関係を結び、シエルの様な生まれながらの名ありの者を数多く当時の魔界に誕生させたが、育てる事無く更なる標的を求め、ただ只管愛されて居たかったとされる魔界1の大淫婦………シエルの家系を辿ると辿り着いてしまう女、大罪の魔族の片割れニグラ。

 その毒牙に掛かった者は数知れず、だったな」

 

 ダイズも淡々と語り始め、何人もの魔族の男が毒牙に掛かり、シエルやティアの様な子を産み落としては育てず、ただ自分だけが愛されたかったとする女魔族。

 シエルの家系図にも載ってしまっている者、ニグラの話をしていた。

 更にダイズがこの話を語る目はまるで親の仇を見据えている様な目であった。

 

「じゃあ、そのニグラって魔族の女性がこの街を作り上げたかも知れないんですね?」

 

「その真実を知るならば時空の腕輪を掲げる事です。

 さあ行きましょう、彼の時間軸へ‼︎」

 

【バッ、キィィィィィン、カチカチカチカチカチカチ、ビュゥゥゥゥゥゥゥン‼︎】

 

 最後にキャシーがこの歪な街を作り上げた者がニグラかも知れないと話すと、リコリスが真実を確かめるべく腕輪を掲げる様に指示を出した。

 そうしてアギラを伴いながら全員が時空の狭間へと跳ぶ。

 この先にあるミスリラントが変貌した真実を知る為に。

 

「…もしもニグラが相手ならば再び斬首してくれよう。

 それこそが奴を1度殺し、シエルを育て上げた我が使命也」

 

「俺もニグラが相手なら手加減など絶対にしない。

 必ずこの手であの淫婦を砕いてくれる………シエルの名誉を傷付けるあの女だけはな…‼︎」

 

 その狭間の中でアザフィールはニグラが相手ならばシエルを育て、更に本人を殺した者として斬首すると語り、ダイズもまた右手に血が滲み、時空の狭間にその青い血が流れ消える程強く握りしめていた。

 この2人の意気込み…否、殺意はアギラやムリアが震え上がる程凄まじく、そして恐ろしい物であった。

 

「(何故ニグラと言う魔族が相手ならアザフィール殿やダイズ殿は殺意を此処まで込める? 

 シエルの血筋を穢した大罪人だからか? 

 それとも、他に理由があるのか…? 

 …いや、幾ら考えても分からぬのだ。

 ならば変わらない1つの事実をみなければ…)」

 

 これ等を見ていたネイルは何故アザフィールやダイズが此処まで殺意を滲ませているのかが理解出来ず、可能性の1つとしてシエルの血筋を、名誉を穢す存在なのだからなのかと考えたが、一つの事実を見るまで幾ら考えても堂々巡りになると途中で思考を止める事にした。

 矢張りどんな可能性よりも一つの事実に勝るものは無いのだから。

 

「(…恐らくニグラが相手として、彼女を見ればネイル達も理解する筈。

 何故2人が此処まで殺意を抱くかを)」

 

 そして、その答えを知る天使リコリスはネイル達がニグラを目撃すれば何故2人が共通の敵と共に戦う者が怯える殺意を抱くかを嫌でも知ってしまうだろうと考え、ならばその嫌悪が続かぬ様にこの手でニグラを処断しよう、そう考えながら時の針が逆回りする様子を見ていた。

 

【カチッ‼︎】

 

 それから時の針は12を指し、いよいよ過去に跳び終える。

 そう感じ取った戦う者達は剣を、槍を、斧を、杖を、拳を振るうイメージを立てていた。

 そして、ネイル達は光に包まれるのだった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
次なる敵はニグラと言う大罪の魔族です。
彼女が如何なる者か、またどんな性格等はまた次回に。
そして此方側は余り仲間内の衝突が無い予定です。
それだけ溝がある人が居ないと言うのが原因です。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第47話『正義の鉄剣達、狙われる』

皆様こんにちはです、第47話目更新でございます。
今回は今までの話と少し毛色があるキャラの所為で変わりますが、上手く表現出来てると思いたいです。
では、本編へどうぞ。


 50年前のミスリラント、マグネウム近郊にて。

 現在時刻は夜の8時を回り冷たい風が吹き荒ぶ時期と時間であった。

 

【カチカチカチカチ、カチャ、ビュゥゥゥゥン‼︎】

 

「っと、この丘はシェブグラニスが見えた場所だな。

 さて、あの街は………」

 

「…うむ、元のマグネウムのままだな。

 矢張り此処で特異点(シンギュラリティ)が介入した為に改竄が起きたと確定だな」

 

 其処に時空の腕輪で時間跳躍して来たネイル達が現れ、最初にシェブグラニスを見た丘から再び街を見ると、其処には至って長閑な田舎町、マグネウムが存在していた。

 するとダイズは早速右の拳を左手に当て、ヤる気に満ち溢れている姿を見せた。

 

「さあニグラ、本当に貴様が介入者ならば逃げずに掛かって来い。

 貴様が獲物と思いそうな奴は此処に居るぞ…‼︎」

 

「落ち着けダイズ、先ずは歩いてマグネウムの街へ行く事だ」

 

 しかもそのヤる気は言葉にも出ており、今にも暴れそうな気迫を見せており背後には般若と呼ばれるヒノモトの悪鬼が見えそうなオーラが立ち上っていた。

 それをアザフィールは宥め、先ずは足で歩いて行く事と話していた。

 

「ふぅ、ダイズさん怖え………ムリア、アレを次は宥められるか?」

 

「無理言わないで下さいよガムさん〜‼︎」

 

 それ等を見ていたガムは改めてダイズを恐いと感じ取り、背筋が一瞬震えていた。

 そんな覇気を纏っているダイズをムリアに宥められるかと問い掛けると、ムリアは当然無理だと叫び頭を抱えていた。

 その光景を見ていたキャシー達はクスリと笑い、ネイルもにっこりとしていた。

 

「さあマグネウムで情報収集後に領主邸に突入しよう。

 其処で件の魔族が相手か否かを見極める必要があるぞ、皆!」

 

『OKネイルさん‼︎』

 

「…確かにニグラじゃない可能性もあるんだったな…いかんな、落ち着け(ダイズ)………すぅ…はぁぁ………」

 

 それからネイルは街で情報収集をし、その後領主邸に突入と段取りを話すと正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)はそれを了解し、ダイズは違う可能性も考慮して落ち着けと自制を深呼吸して心を鎮めた。

 

「ふむ、ではダイズを見習い心静かに、されど刃は研ぎ澄ますとしようか…」

 

「どの道最後は敵と戦うのです、なら覚悟を決めましょう…ふっ‼︎

 すぅぅぅぅぅ………」

 

「(…本当に私、場違い)」

 

 それを見たアザフィールは弟子のダイズを見習い熱くなり過ぎない程度に心穏やかに、だがその秘めたる刃は研ぎ澄ますと心掛け始めた。

 リコリスも最後は敵と戦うとして覚悟を決めながら正拳突きを1発宙に入れると同じく心を平静に保った。

 一方枷に繋がれているアギラは場違いだと思いながら背中のむず痒さを我慢するのだった。

 

「では皆行こう、マグネウムに」

 

[………たよ]

 

「? 

 キャシー、シャラ、リコリス殿、何か言いましたか?」

 

『???』

 

 そうしてネイルは心の準備を終えた全員にマグネウムへ行くと告げて丘を滑りながら降り始め、手枷を付けられてバランスが取り辛いアギラも上手く滑っていく中、ネイルは不意に女性の声が聞こえた気がした為、女性陣に何か言ったかと尋ねると3人は頭に疑問符を浮かべていた。

 

「(…気の所為、か?)」

 

[見つけましたよ、熱き燃え上がる正義の心を持った御仁達。

 さあ早く私の、この卑しく愛されなければ気が済まない魔族、ニグラの下に来て下さいませ。

 そしてその正義の心を存分に見せて下さいませ…ふふ]

 

「(‼︎

 矢張り気の所為では無い‼︎

 何だ、これは…⁉︎)」

 

 ネイルはキャシー達が何も知らない様子から気の所為と思おうとした………だが、ネイルの脳に直接声が響き気の所為では無い事が確定する。

 更にその声は自らをニグラと呼び、どこか艶がある声でネイルに正義の心を見せる様に話し掛けて来ていた。

 それを丘を滑り降りたネイルは考え始めながら歩き始めていた。

 

「如何したネイル、何かあったか?」

 

「…今私の頭の中にニグラと名乗る女の声が響いた。

 その者は私に正義の心を存分に見せろと、まるで戦う事になるのを望むかの様に発言していた…!」

 

『えっ⁉︎』

 

「…チッ、落ち着く様にしてた所でコレか。

 ニグラ………あのクソ女め…‼︎」

 

 ダイズはネイルの様子を見て何か変だと勘付き、その何かを聞き出すと、ネイルは先程のニグラを名乗る女の声が頭に響き此方を誘っているとニュアンスで伝えるとキャシー達は驚愕し、それから聞き出したダイズは反吐が出ると言った仕草を見せ、拳を作り血管を浮かばせていた。

 するとアザフィールは考え始め、それから話を始めた。

 

「…ふむ、彼方から仕掛けて来たのであるならば語らない訳には行くまい。

 ニグラ、何故奴が大淫婦と呼ばれ何人も逆らえなかったかを。

 奴は如何やら特異体質であらゆる者に念話を飛ばし魅了魔法を掛けるらしい、魔族は言わずもがな魔物、更に一度ニグラの所業を戒める為に来た天使すらも餌食となった」

 

「誰彼にも念話ってマジで⁉︎」

 

 アザフィールは先ずニグラが大淫婦と呼ばれた所以の1つであるあらゆる者達に念話を飛ばし、それに魅了魔法を加えて魔物や天使すらも餌食となったと明かすとガムはビク付き、更にリコリスはその時の件を思い出し瞳を閉じていた。

 

「更に…奴は如何やらその特異体質には他者の精気…生きる希望、戦う気力、更に多岐に渡る我々が生きる為の活力を吸い上げる力があるらしい。

 そしてその精気吸収には中毒性もあるらしく、一度狙われた者は文字通り全てを吸い尽くされるまで奴の虜になる」

 

 アザフィールは更なる警告としてニグラの特異体質に他者の精気を吸収する力、そしてその精気吸収には中毒性も含まれているらしく、故に毒牙に掛かった者が大勢に及んだとネイル達は想像する。

 

「して、此度はネイルが狙われたらしい………よってこれより先は念話傍受魔法(インターセプション)の使用を禁ずる、奴の餌食になる者を増やしたく無い」

 

 そのアザフィールはこの先は念話傍受魔法(インターセプション)を使うのも禁ずる様に指示を出した。

 恐らくニグラの念話を聞く人数を減らす為だと考え、狙われたネイルは合理的だと感じていた。

 キャシー達は息を呑み、何時もの癖で念話傍受魔法(インターセプション)を使わない様に気を付け始める。

 

「待ってくれよ、じゃあ狙われたネイルさんは如何するんだよアザフィールさん⁉︎」

 

「此処に来る前に話した様に心を強く持つ他無い。

 奴の魅了の支配から脱するにはそうするか、元々魅了に掛からない体質の者が立ち向かう以外あるまいよ」

 

 するとガムがアザフィールに抗議し始め、狙われたネイルは如何すれば叫ぶと、彼は元から魅了が効かない者以外は心を強く持つ以外に無いと話し、所謂それはネイルの心次第だと諭しながら前へと進み始めた。

 ガムはそれに気を落としていたが、ネイルが近付き方を叩き始めていた。

 

「ネイルさん…‼︎」

 

「心配するなガム、私の正義の心は簡単に靡きはしない! 

 必ずやこの誘惑を打ち破り、正義の刃をニグラに突き付けよう!」

 

[あらあら、本当にお噂通りお熱い方なんですね。

 その熱意に………私の身体、蕩けてしまいそうです。

 さあ、もっと貴方の熱意を…み・せ・て…]

 

 ガムの心配にネイルは正義の心を燃やし、必ずニグラの誘惑を打ち破ると語り胸を叩いた。

 その瞬間耳元で囁く様な声が頭に再び響き、ネイルの熱さに関心を見せているらしくもっとそれを見せる様に誘う。

 それはまるで甘い蜜の匂いで虫を誘う食虫植物の様だと、ネイルは感じ始めるのだった。

 

 

 

 それからネイル達は小走りでマグネウムの街の門前へ辿り着く。

 すると、街の門番も何故か顔が蕩けた様な恍惚とした表情を見せながら心此処に在らずと言う言葉が似合う状態になってしまっていた。

 

「これは……⁉︎

 門番よ、我々は旅の者だ、門を開けて欲しい‼︎」

 

「あ〜………? 

 あぁ…アンタらも彼の方にお会いしに来た方なんだなぁ〜…。

 最近昼夜問わず訪問者が来るから彼の方は本当に凄いんだなぁ〜…。

 は〜い、今開けますぅ〜」

 

【ガラガラガラ…】

 

 ネイルは慌てた様子で門番に門を開ける様に叫ぶと、その本人はまるで誰かを尋ねて来たかの様に解釈しながらその人を凄いと話しつつもんをゆっくり開ける。

 そうして街の中に入ったネイル達の目に信じられない光景が映っていた。

 何と老若男女、誰彼問わず地べたや手摺りに凭れ掛かり門番の様な惚けたとしか言えない表情を浮かべ、街としての機能が麻痺していたのだ。

 

「こ、これは一体…⁉︎」

 

[これが皆私を愛した、愛された結果ですわよ。

 皆、皆、私のと・り・こ…。

 貴方様は何れだけ勇猛に私を責め立ててくれるのかしら………早く来て下さいな、私の下に、領主様の館に………]

 

 ネイル達がその光景に驚愕しているとネイルの頭に再び念話が響き、先程よりも近付いた所為か今度は身体に抱きつかれてる様な感覚に陥り、その念話の主は自分の仕業とハッキリと明かす。

 更にネイルが何処まで自分を責め立てられるかを楽しみにしていると発言し、自身が領主の館に居ると居場所まで吐き、早く来る様に促していた。

 

「ネイルさん、ダメです、誰に聞いてもボケ〜ってしてて全く話にならない‼︎」

 

「こっちもなんだな〜‼︎

 アザフィール様、これがニグラの魅了の力なんですか〜⁉︎」

 

「…ふむ、間違い無いな。

 対処法は後でやるとして、今は奴の下に向かい被害を抑える必要がある。

 ネイル、奴は何か話したか?」

 

 するとシャラの声が耳に届き、ネイルは顔を横に振ると顔を叩き気付けをすると報告を聞くと誰もが門番以上に酷い状態になっているらしく、何を聞いても無駄らしかった。

 それをムリアはこれがニグラの魅了かとアザフィールに問う。

 すると前例を知る者は間違い無いと断定し、今度はアザフィールが狙われたネイルに問い掛けると一旦目を閉じ答え始める。

 

「…奴は自らの仕業だとあっさり自分の仕業だと明かしていた。

 更に私を完全にターゲットとしてるらしく、この街に入った後の念話による魅了…なのか? 

 それが強くなった気がする…そして、奴は案の定領主邸に居るとも吐いた‼︎

 これ以上の被害を、あのシェブグラニスと言う歪な街が作られるのを阻止する為にも皆、行こう‼︎」

 

 ネイルは念話の内容を伝えると、領主邸にニグラが居ると話しその内に燃える正義の心を以てシェブグラニス建設を阻止する為、全員(アギラは除く)は頷きながら領主邸へと走り出した。

 それから直ぐに領主邸に踏み入ると警備の者は街の人よりもげっそりと痩せこけており余りにも痛ましかった。

 そしてネイル達は領主の応接室、寝室と調べた後ダンスホールのドアを蹴破り中を見た。

 

「Le〜Le Le〜 Le〜、 Le〜 Le〜」

 

 すると其処には床にはビクビクと痙攣し泡を吹いている領主ゴルドルと、ダンスホールの窓から照らされる月明かりの下で背中を向けて何か歌を歌っている銀髪褐色肌の女性が居た。

 ネイルはその声が念話のそれと同じと確信し、この者が件の魔族…ニグラと確信する。

 

「貴様がニグラだな、この街での蛮行を許す訳には行かない、我等が正義の刃でお前を斬る‼︎」

 

 ネイルはニグラに向かって剣を構え、リコリスは時間加速魔法(タイムアクセル)でゴルドルを救出し、ネイル達の近場で回復魔法(ライフマジック)で容体を安定化させると、守護結界を張りその身を守ると自身も光の籠手を装備し構える。

 

「…そのお声、直で聞いて矢張り思いました。

 貴方様の熱意は素晴らしい物だと、ですから今宵は…このニグラに、貴方達の正義の心を独占させていただけませんか?」

 

 するとニグラはネイルの声を聞き大変満足したらしく、歌うのを止めてネイル達の方にその顔をゆっくりと見せた。

 それは月明かりで照らされている為どんな容姿なのかはっきりと分かってしまう。

 

「………なっ…⁉︎」

 

「…シエル…様…⁉︎」

 

 その照らされた容姿はネイル達が良く見た事がある、シエルの姿を更に大人らしい女性にして妖艶な雰囲気を纏わせた様な物であった。

 アザフィールとダイズはその容姿を見て吐き気の様な胸がむかむかとする感覚に陥っていた。

 

「矢張り私とシエルと言う子は似ているのですね………隔世遺伝でしょうか、私の様に愛される姿に生まれて来たのでしょうね」

 

「黙れ淫婦、貴様とシエルを同じだと見做すな‼︎

 シエルは貴様などとは比べ物にならぬ程気高く強い‼︎

 それを穢す貴様の存在そのものを、俺は許さん‼︎」

 

 ニグラはシエルが自身に似ている事を隔世遺伝だと話し、更に自身の様に愛される姿に生まれたと口にした瞬間、ダイズがシエルの方が気高く強いと叫び、それ等を穢すニグラを許さないとして拳を構え全員で戦闘態勢に入り、アギラは虜になり易いと考えられリコリスに無言で腹パンを受けてしまい気絶してしまっていた。

 

「あらあら、ネイル様の様にお熱い方が沢山いらっしゃるのですね。

 この熱気に私の身体が溶けてしまいそうです…。

 では初めに、『その熱気の、堕落した甘い甘い蜜を………味見をさせて………く・だ・さ・い』………」

 

 するとニグラは手を叩き、ターゲットのネイルみたいな者が多いと確認すると汗ばむ身体を抱き寄せ、頬を赤らめながらネイル達を見据えていた。

 だがその次にはその表情のまま言葉を紡いだ………その瞬間、ネイル達の頭に『ニグラの物になりたい』、『ニグラと蕩ける時間を過ごしたい』と言う感情が突如湧き始め、武器を落としてニグラを倒すと言う想いと矛盾した思考による頭痛で頭を押さえていた。

 

「ぐぁぁぁぁぁ、な、何だ、これはぁ…⁉︎」

 

「気を付けよ、これがニグラの魅了の魔法だ‼︎

 もしもそれに負ければ忽ち奴の虜となる‼︎

 心を強く持て、己が信念を貫け‼︎」

 

「あらアザフィール、魅了が効かない体質の貴方も居たんですね。

 興味が無かったので視界に映りませんでしたよ。

 …それにしてもアザフィール、此処に集まった方達は私を蕩けさせる方々ばかりと思いませんか? 

 だってほら、シエルの誇りと言っていた方が…」

 

 その時アザフィールがネイル達全員に叫び、心を強く持たなければニグラの虜…つまり魅了魔法を受けきってしまうと叫び、大剣を床に突き立てながらニグラを睨んでいた。

 対するニグラは元々魅了が効かないアザフィールに微塵も興味が無く今初めて気が付いた様子を見せた。

 そして…そのアザフィールやネイル達に自分を満足させる者が多いと話し、その証拠としてダイズを指差していた。

 

「ダ、ダイズ殿‼︎」

 

「ま、まさかこの魅了に掛かっちゃったんですか⁉︎

 く………う、うぅぅ‼︎」

 

 ネイル達は頭を押さえながらダイズに視線を移し、同性すら魅了されるこの魔法に苦しむキャシーが真っ先に魅了に掛かったのかと思い始め、床に落ちた杖を拾い上げようとした…が、片膝を突く形になり頭痛が強まった。

 

「うふふ、そうよ。

 皆私を愛して………そしたら私も貴方達を愛してあげるわ…。

 さあ、いらっしゃい小さな魔族の子…」

 

 ニグラはこの様子を見てそれが正しいと言う様子を見せながらダイズに向かって歩き始めた。

 そしてその顎に指を1本1本撫でる様に絡ませると、更に近付いて行き頬に手が触れようとしていた。

 

「ダ、ダイズ殿ぉぉ‼︎」

 

「心配するな、アレはそんな柔な育て方はせん。

 何故なら…」

 

 それを見ていたネイルはダイズに手を伸ばすと、アザフィールはまるで心配しておらず寧ろ期待した目と声でダイズを見守っていた。

 そして…。

 

【ドゴォ‼︎】

 

「何故なら、常に強者を求める狂気と理性を兼ね併せる様に育てたのだからな」

 

「………はい?」

 

「…うおォォォォォォォォォォォォ‼︎」

 

【ドガドガドガバキバギグギバギガンッ、ドガァァァ、ドサァッ、ゴロゴロ‼︎】

 

 ダイズは頬に手が触れようとした所でアザフィールがどんな風に育てて来たか話した所でニグラの脇腹にパンチを与え、何が起きたと思う彼女を他所に目、耳、鼻、喉、心臓の上、腹と様々な急所を雄叫びを上げながら目にも止まらぬスピードで打撃を加え、中には骨が砕けた音も混じりながら蹴り上げられ、更に空中に上がりダブルスレッジハンマーを首に叩き込み床に落とし、その華奢な身体が青い血に濡れながらダンスホールを転がる。

 

「ダ、ダイズ殿、無事だったのか⁉︎」

 

「こんな魅了など、強者と常に戦いにと言う狂気に飢えた俺にとっては子守唄にもならん‼︎

 それより貴様等、正義や誇りと声を上げたが貴様達の正義はこんな小細工に負ける弱き物だったのか‼︎

 思い出せ、貴様達の内なる熱を、それでこの小細工を上回れ‼︎」

 

 ネイルはダイズが無事だった事に驚いていると、彼はこの魅了が効いてる様子を一切見せていなかった。

 如何やら彼は強敵を求める狂気が魅了を弾くと言う常人に理解し難い方法で正気を保っている様である。

 更にダイズは正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)やリコリスにこんな魅了に負ける様な正義や誇り程度でしか無かったのかと叱咤激励し始め、その内に眠る熱意で魅了の魔法を上回れと叫んでいた。

 

「ぐ、うぅぅぅ‼︎」

 

 するとネイル達はこの街に来た理由、マグネウムの人々の様子を思い出し、その蛮行を行った魔族が此処に居ると思い出し、その心に弱き人々を守る正義の心の炎が再び燃え上がり始め、リコリスも神より生み出され、今に至るまで育て上げた自らの誇りを思い出し始め…。

 

「そ、そうだ…我等の心は、正義と共にありぃぃぃぃぃ‼︎」

 

【パキンッ‼︎】

 

 ネイルが代表として雄叫びを上げながら武器を手に取り、自分達の心は正義と共にありだと叫び立ち上がった。

 その瞬間心の中を縛っていたニグラへの『気持ち』が砕け散り、他の皆もネイルの様に声を上げながら立ち上がった。

 

【グリグリグリ、グギギッ‼︎

 スッ】

 

「…アザフィールの様な者がまだ居るとは聞いてませんよ? 

 それよりも…私の魅了を自力で破る人達が居るなんて素敵………是非とも、『私の側に居てほしい』ですわぁ…」

 

「黙れ悪逆なる者よ、我等が正義の刃、此処に受けろぉぉぉぉ‼︎」

 

 すると骨が捻じ曲がっていたりしていたニグラの身体が軋む様な音と共に元に戻り、そのまま自然と立ち上がり始めた。

 更にまだ魅了を止めないニグラはダイズとアザフィール以外に掛けると、ネイル達はその魅了を破る『コツ』を掴んだ為、ニグラに全員で攻撃開始した。

 するとニグラは『全ての攻撃を避けず』受け続け、腕や足、そして首が刎ねられそれぞれ刎ねられた部位がダンスホールに転がり、青い鮮血が床を濡らした。

 

「やったか⁉︎」

 

「まだだ、ニグラの特異体質はこの程度では無い、一旦離れろ‼︎」

 

 それからガムがニグラを討ち取ったと思い声を上げると、ダイズはまだ終わっていないと話し前衛に距離を離す様に叫ぶとネイル達はニグラの身体から距離を離す。

 

【…グググ】

 

『⁉︎』

 

 するとニグラの切断された腕、足がモゾモゾと動き始め、離れ離れになった肉体と1つになると立ち上がり、最後は頭を持ち、首と1つにすると青い鮮血で濡れたドレスに傷無しの魔族の女性と言う異様な光景が広がっていた。

 

「こ、これは一体⁉︎」

 

「これもニグラの特異体質、幾ら心臓を潰そうが首を刎ねようが死なない身体の持ち主よ‼︎」

 

「奴を殺すには全てを塵に還すしかない。

 私は先ず斬首する際に身体を全て塵とし、残った頭を灰燼に帰した。

 そうでもしなければ奴は死なん」

 

 ネイル達が驚く中、リコリスとアザフィールがニグラの特異体質の身体の説明をし、それを聞いたネイル達は擬似的な不死だと感じ取り厄介なと思い始めていた。

 

「…本当、簡単に手に入らない物程手に入れたくなってしまう。

 貴方達のその身体と心、私の虜にして手に入れたいわ…」

 

 それから妖艶な雰囲気を纏っているニグラはネイル達を見定めて、改めてネイル達を欲しいと考え始め、全員で身構えていた。

 

【カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

「死ね…‼︎」

 

「っ、危ないネイルさん‼︎」

 

「な、うおっ⁉︎」

 

 その次の瞬間、ネイルの背後からネロが現れ、ネイルの首を狙い剣を振るった。

 しかし時間跳躍直前にそれに反応した時空の腕輪の力のお陰からキャシーと最も近いネイルが勘付き、その斬撃を頭を下げて回避した。

 

「このっ‼︎」

 

【ズシャ、ドォォン‼︎】

 

「ぐはっ…⁉︎」

 

 それを見たリコリスは直ぐに動きネロの背後から籠手のブレードを突き刺すと、それがまるで釘を打つかの様に勢い良く動きネロの心臓を潰しながらその身体をニグラの横まで吹き飛ばした。

 だがネロは心臓が無くなっても執念なのか、空中で身体を立て直しニグラと並び立つ様に着地する。

 

「あらネロ様、一体如何されましたの?」

 

「ソーティス様の命だ、ニグラは帰還しろ。

 そして次の使命を果たせ」

 

「あら、もう此処での役割はお終いなんですか…仕方ありませんわ、あの人達の機嫌を損ねない様に帰りますわ。

 それより貴方、もう死にそうですが大丈夫ですか?」

 

 ニグラはネロに何用か聞くと、如何やらソーティスの命令で次の使命を果たす様にと話していた。

 それを聞きニグラは帰る気だったが、死に掛けのネロを見て大丈夫かと問い掛けていた。

 

「…ヴァイスがエミル達に殺された。

 ならば私は弟の仇を、奴等の大切な仲間の命を奪うと言う形で果たさねば死ねない。

 だから早く行け、今我が身は憤怒の炎に身を焦がしている」

 

「あらヴァイス様が………それは、残念でしたわね。

 分かりました、では少し失礼して………ああ、復讐の炎が温かく心地良いですわぁ…。

 それではネロ様、さようならですわ。

 ネイル様達もまた会いましょう」

 

【ブゥン、カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

 ネロはヴァイスがエミル達に殺された事を言い放ち、ならば彼女達の仲間の命を奪わないと気が済まないと話してニグラを撤退させようとした。

 そんなニグラはネロに抱き付き、傷跡から垂れる血を舐め取ると復讐の炎を感じ取り満足した様な形で時間跳躍した。

 但しネイル達に狙いを定めたまま。

 

「…今のがニグラの精気を吸収する行為なのか?」

 

「そう、肉体に汗や血でも良いので吸収する事で精気を吸収するのだ。

 無論奴の気分次第で量は決まる。

 そして奴が満足しないと言う理由から使わんが直接触れずとも一度魅了に完全に堕ちた者から精力を吸い上げる事すら可能だ」

 

 するとガムは最後のニグラの行為の意味が分からずアザフィールにアレが精気吸収かと尋ねると、血や汗でも良いから直接身体に吸収or魅了に堕ちた者から精気を直接でなくとも吸収可能と、本人の意思次第で量を決めて吸えると話されガムは嫌な想像をした為オエっと吐き気を模様していた。

 

「と言う訳だ、我が弟の為に誰か生贄になって欲しい」

 

「断る、我々は此処で死ぬ訳には行かない。

 よって………我々の正義の刃で、お前をヴァイスの下に送る‼︎」

 

 するとネロは先程のニグラの行為を全く気にせずネイル達の誰かを殺そうと剣を向けたが、ネイルがそれを断り剣と槍の二刀流になりヴァイスの下に送る…つまりこの場で斬ると宣言し構えた。

 

「そうか、ならば………私が勝手に決めさせて貰おう‼︎」

 

『させるかぁぁぁ‼︎』

 

 そうしてネロは誰も生贄になる気が無い為勝手に誰かを殺そうと動き出し、ネイル、ガム、ムリアは叫びながら突撃しそれを止め、更にリコリスとアザフィール、ダイズまで加わり6対1の多勢に無勢で徐々に身体に傷が増えるネロだが、そんな物何処吹く風と言わんばかりに拮抗しながら戦闘していた。

 

「皆さん援護します、身体強化(ボディバフ)IV」

 

時間加速魔法(タイムアクセル)‼︎」

 

 其処にキャシーとシャラの身体強化(ボディバフ)時間加速魔法(タイムアクセル)が発動し拮抗した状態だった戦況が一変し全員の1撃が入る様になり、ダイズの蹴りやムリアの薙ぎ払いを受けたネロは距離を引き離された。

 

「ぐ、うぅ‼︎」

 

「今よ‼︎」

 

瀑風流(タイダルストーム)‼︎』

 

 其処にキャシー、シャラの風と水の複合属性魔法が放たれ、風と水の渦がネロを拘束し、その嵐が鮮血を洗い流す。

 

「ぐ、うおぉぉ‼︎」

 

「これで‼︎」

 

「止めだぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 そうして嵐で動けなくなったネロに対し、嵐の上部分、風が無い地点までリコリス、ガム、ネイルがジャンプしそのまま中まで突入する。

 それから中に突入した3人が乱舞し、ネロの生命を削る。

 そして最後の1撃として嵐が晴れた瞬間ネイルがネロの身体を一閃した。

 

「────」

 

 最後にネロは何かを言おうとし、ネイルに斬り掛かろうとしたがその剣は彼の眼前でゆっくり止まり、それからネロの身体は青き炎に包まれ死んで逝った。

 これ等を見て戦闘終了としたネイル達は武器を仕舞い始めながら思う、この戦いは始まる前のリコリスの1撃で決していたと。

 すると熟練度元素(レベルポイント)がアザフィール以外に吸収されネイル達はアザフィールと同じ750に、リコリスとダイズは800になり完全にネロが死したと察した。

 

「終わったか…そう言えば何故アザフィール殿はレベルが上がらないのだ?」

 

「全盛期を過ぎ老いて行く老兵だからだ」

 

 ネイルは一息吐き、一旦全員で集まると何故アザフィールがレベルが上がらないかと尋ねると、彼は既に老兵らしく老いて行けど成長はしないと言う感じに話し、ダイズにも視線で確認すると彼も頷き、それが正しいとしていた。

 

「さて…ニグラが居なくなったのでもう歴史改竄は正された………とは行かないな、この街の有り様では」

 

「ええ、ニグラに精気を吸われた者は回復魔法(ライフマジック)を掛けた後気付け薬か魔力を少し込めた1撃…ビンタ程度を当てないと、上手く精気吸収の中毒性から抜けられないわ。

 しかもゴルドルの様な者は1週間栄養ある食べ物を食べさせてそうしないと元に戻らないわ」

 

 それからネイルは現状確認としてニグラが消えたのでそれでお終いでは無いと勘で話し、それをリコリスが肯定して精気を吸われた者用の治療しなければならないと話された。

 

「それしなきゃ勿論この街は廃れてはい終わりって感じっすか?」

 

「そうだな………マグネウムの街だけでも廃れてしまうのは見兼ねるな。

 ならば、暫くこの時間軸に留まって患者の治療に当たるぞ。

 さあ、忙しくなるから早く動け!」

 

 更にガムがその治療をしなくてはマグネウムは廃れて終わりと確認しリコリス達は頷き、特にダイズは思い入れあるミスリラントの街が消えるのは堪え兼ねると話し、更に言えば元々あった街が荒廃するのはグランヴァニアで経験してる為ダイズの暫く止まるにネイル達は賛同し、キリキリと動き始めた。

 

「(それにしてもあのニグラと言う魔族、異様だった………それをあの容姿で言われればダイズ殿達も怒るに決まってる。

 それに…確かに歴史改竄をしていたが、何を目的に彼女はこんな改竄をしていた? 

 …この時間軸の中に居る内にダイズ殿達や皆に相談しなくては…)」

 

 その中でネイルはニグラと言う魔族の思考が異様過ぎた事を思い出し、更にシエルに似た容姿であの言動をされれば彼女の同志であるダイズ達が怒るのも納得した。

 が、次には何故こんな歴史改竄を起こしたのかが気になり、何が目的だったか考え始めていた。

 しかし、独りで考えても分からない物は分からない為、アザフィールやダイズ、リコリスと言った長寿組の知識や仲間達の発想に答えを託し、この時間軸中で仲間に相談すると決めるのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
ニグラはナイアと共にかつてのアザフィールに処刑された魔族ですが、罪は無論魅了魔法による誘惑と精気吸収で魔界の住民を惑わした事です。
そして驚異的な再生能力を持つ彼女を如何に斃すかお楽しみ下さいませ。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第48話『巣立ちと苦悩の運命』

皆様こんにちは、お久し振りでございます、第48話目更新です。
色々諸事情が重なり更新が遅れ気味ですが、この様な不定期更新の形にして少しずつですが話しを進めて行きます。
なお、今回は エミルとロマン達側の話になります。
では、本編へどうぞ。


【カチカチカチカチ、カチャ、ビュゥゥゥゥン‼︎】

 

「…元の時間軸に帰れたね。

 行こう、アイアン村に」

 

「ええ、行きましょうロマン君、ちゃんと修正されたか確かめなきゃ…。

 その前に何処かでお花、買おうね…」

 

 ヴァイスを倒し、あの場で殺された過去アギラ代わりにシエルがミスリルゴーレムを生み出し歴史通りに修正し、それを見届け元の時間軸に帰って来たエミル達。

 その修正が上手く行ったかを確かめるべくロマンの提案でアイアン村に再び行く事になり、2人で転移魔法(ディメンションマジック)の用意をしていた。

 但し花を買うとエミルが言った為目標地をライラックに一度変更する。

 

「ロマン、エミル…」

 

「アイアン村に着き、其処を離れるまでか話し掛けられるまでは何も言うなティア。

 他の者も良いな?」

 

「分かってらぁ…コイツには心の整理が必要だってな…」

 

 ティアは2人が心配になり声を掛けようとした所でシエルが肩に手をそっと掛け、瞳を閉じながら向こうが整理がつくまで話し掛けない、また向こうから話し掛けて来るまでは何も言わずに居る様にと言われる。

 更にシエルはアル達にも同様の事を話すと、ロマン達と共に居た時間が長い組や空気を読めるリョウやアイリスはシエルと同様の意見を結論として出していた。

 

【ビュン‼︎】

 

「…さて、お花を見繕って…すみません、この花束を下さい」

 

「はい、お題は30S(シルバー)ですよ王妹殿下!」

 

 それからエミルは花言葉に『ありがとう』、『さようなら』、『永遠の愛』とある花を選び抜き、其処から花屋の店主に代金を渡して花束を持つ。

 

「じゃあエミル、皆、アイアン村に行くよ」

 

「ええ。

 ………後皆、覚悟した方が良いかも知れない、私達は歴史修正をしたけどその代償を見る事になる筈だから」

 

「代償…」

 

 ロマンが転移役を続けアイアン村に転移するべく魔法陣を展開した。

 するとエミルが全員に歴史修正の代償を見る事になると話し、サラやルルは何が代償なのか容易に想像出来てしまい、ティアが少し怯えている中アルがクシャクシャと頭をフード越しに撫でて、その目は何かあっても守ると言う目であった。

 

【ビュン‼︎】

 

「あ、皆〜、ロマンとエミル殿下達が来たぞ〜‼︎」

 

 そうしてロマンはアイアン村の中では無く再び門の前に転移し、門番に顔を見せると門番は慌てた様子で村の全員を呼び寄せ門を開く。

 すると村長を含む村人全員が門の外に集まり、村長が代表して前に出てロマンとエミルに話し掛け始める。

 

「ロマン、エミル殿下、我々は…可笑しくなってしまったのだろうか? 

 我々は確かに『ケイ達はロマンが12の時に死んだ』と覚えておるのに、『今まで村に居た』と言う記憶すらあるんじゃ。

 一体何があったのか説明して貰いたい」

 

「………良かった、戻ってる………う、うぅぅ…‼︎」

 

 村長はロマン達にケイ、テニア夫妻が確かに死んだ筈なのに村に居た記憶も持ち混乱に陥り、何か事情を知るなら説明してほしいと話し始めた。

 するとロマンはそれを聞き元に戻った事を知り、歪んだ歴史の中で最後に見せた両親の笑顔を思い出し泣き始め、自分はそれを直した(奪った)為に膝を崩し、地面に手を突きながら涙を零していた。

 

「ロマン君………村長さん、事情は掻い摘んで説明致しますのでしかと聞き届けて下さい」

 

「殿下…分かりました、では此処では無くかぼちゃ亭の食事席へ。

 彼処が村1番広く、客人達も共に座れる場所であります」

 

「じゃあ行こう。

 …ロマン君、辛いけど行こう?」

 

 エミルはロマンの様子から花束をアイリスに渡し、背中を摩りながら村長に何が起きたか掻い摘み話すとその場で説明の約束を取り付けると、村長はかぼちゃ亭の食事席で話を聞くとして村人達の波を開け、移動を始める。

 するとサラがエミルと共にロマンを立たせて歩き始めた。

 すると村人達はその様子から何と話し掛ければ良いか分からず、ロマン達の背中を視界に入れながらかぼちゃ亭に入って行くのを見送った。

 

「では此方に。

 殿下、何があったか説明をお願い致します」

 

「はい、今我々が直面している事態について説明致します」

 

 それからかぼちゃ亭に入った全員が村長に席に座る様に促され、其処から説明を請われた為エミルが一般人の村長にも理解出来る様に歴史を改竄する敵、その敵の所為で幾つも歴史が変わりその中にロマンの両親の死についてまで変わったと話し、自分達はそれからその歴史を直した結果、村人達に2つの記憶が存在する様になってしまったと説明した。

 

「…そんな事が………ですが、人の生き死に程度ならば直す必要は」

 

「生き死に『程度』? 

 村長、貴方様は理解しておりませんわ、人の生き死には歴史にとって、その者が歩んだ軌跡であり残された者にとって変えてはならない物です。

 それこそ国を揺るがす事になったり、ロマンさんの場合でしたら彼が此処までストイックに強く逞しくなる事は無く、アギラの動乱に参加出来たか怪しくなります。

 それを程度と言うのは、村を治める者として失格ですよ」

 

 村長は歴史が変わる事と聞き漠然とした様子を見せ、だが人の生き死に程度ならば戸口にした瞬間、エリスに化けているシエルが人の生き死にの重要性を話し始め、国を揺るがす事態やロマンが英雄と呼ばれる者になれなかったかも知れないとお嬢様口調だが語気を強め、眼光も鋭くして村長を射抜いていた。

 それ等を聞き、村長は自分の認識が甘過ぎると理解させられ、何も言えなくなってしまった。

 

「それに村長さん、ロマンはね‼︎

 優しいお父さんやお母さんが生きている事を考えて考えて考えた後に、これは間違ってるって泣きながら話して、それで歴史を元に戻したんだよ‼︎

 ロマンは沢山苦しんだんだよ‼︎

 だから、それを否定する様な事は言わないで‼︎」

 

「お、お嬢ちゃん………こんな子供にまで説教され、ロマンが苦しんだ事を理解出来ていないとは、私は村長失格だ…許してくれ、ロマン…‼︎」

 

 するとティアがロマンが必死に考え抜いて歴史を元に戻したと、沢山苦しんだと叫びそれを否定する事を言わないで欲しいと彼女なりに話すと、流石の村長も堪えてしまい頭を抑え、ロマンが苦しんだ事を理解しなかった事も含め村長失格だと口にしながらロマンに頭を下げて謝罪していた。

 

「彼が如何に苦しんだか少しは分かっていた頂けたなら幸いですわ。

 では説明は以上ですよねエミル様? 

 なら私達は行くべき場所がある筈ですよ」

 

「シ………エリス…。

 そうね、お話は以上です。

 村長さん、ロマン君の痛みを理解しろとは言いません、ただ苦しんだ末に選択したと覚えていて下さい」

 

 その謝罪を見たシエルはそれで満足したのか説明は以上だと、行くべき場所があるとエミルに言うと、エミル自身もそれを理解し、村長に苦しんだ末の選択だった事を覚えて置く様に話すと、村長は何度もロマンやエミル達に頭を下げて事の重大さを身に染みて理解し始めその背中を見送った。

 それからかぼちゃ亭の扉を開けると村人達が群がっており、全員で何をしたら良いか分からない様子を見せた。

 

「…村人さん達、私達はこれから村の中で行くべき場所があります。

 私達だけで行きたいのでどうか普段通りの生活に戻って下さい、お願いします」

 

「で、殿下………分かりました、ほら皆農業から門番まで普段やる事をやるぞ‼︎

 早く道を開けろ〜‼︎」

 

 エミルはそんな村人に向かう場所があると話し、自分達だけで行きたいとも言うと普段通りの生活に戻る様にお願いした。

 するとエヌが初めに頷き、全員に普段通りに戻る様に叫び群がりを終わらせ道を開け始めた。

 

「じゃあロマン君、皆、行きましょう。

 …シエル、貴女の村長に話した事、私達に響いたわよ」

 

「それは何よりですわ。

 ではロマン様、皆々様、行きましょう…共同墓地へ」

 

 それからエミルはロマンの背中を摩りながら歩き始め、更にシエルに対し先程の言葉が響いたと言うとシエルも満足し、それから向かうべき場所………共同墓地へと全員で足を運び始めた。

 ゆっくり、ロマンやティアの歩くスピードに合わせながら目的地に向かい、やがて辿り着くと…其処には、しっかりとケイとテニアの墓があった。

 

「…父さん、母さん、僕…正しいと思った事をやったよ…」

 

 墓地に辿り着き、アイリスから花束を手渡されたロマンは2人の墓に献花し、歪んだ歴史の中で言われた正しいと思った事をやり遂げた事を報告し、手を合わせ祈りを捧げた。

 するとティアも含めて全員が祈りを捧げ始め、更にエミル等ケイ達の顔を初めて見た者達はその優しさや愛を忘れないと思い、瞳を閉じていた。

 

「…それじゃあ父さん、母さん、僕達は行くよ…」

 

【スッ、ゴソゴソ、スチャ、シャキン、ザッ!】

 

 祈りを捧げ終えたロマンはそれから魔法袋(マナポーチ)を漁り始めると、形見のミスリルソードを取り出して鞘から抜くと、2人の墓前の間のスペースに立てる様に地面に突き刺して最後に胸に手を添えて別れの挨拶をすると後ろを振り返った。

 

「良いのか、形見の剣だぜ?」

 

「良いんだよアル、父さん達は僕を何時も見守ってくれてる、それに2人が死んだ歴史が正しいと思った僕は親離れしなきゃと思ったんだ。

 だからこれはけじめなんだ、僕なりの…」

 

 アルは形見の剣を手放す事を良いのかと話すと、ロマンは自身の考えやけじめだと話しながら空を見上げ、1羽の鳥が羽撃いているのを見つめながら親離れするのだと話し、全員それを聞いて決意が固いロマンに何も言わずにそれを受け止めていた。

 

「…さあ皆、次の場所に向かおう! 

 歴史をこれ以上改竄されない様に僕達の使命を果たそう‼︎」

 

「ロマン君…分かったわ。

 でも無理せず辛かったら私達に言ってね。

 だって私達は仲間なんだから…‼︎」

 

「うん、勿論だよ」

 

 そうしてロマンは泣きそうな表情から普段の表情に戻り全員に次の目的地に向かおうと話し、エミルはそれが強がりで無いかを確かめつつ仲間に辛ければ言う様にと話した。

 するとロマンは何時もの表情で応え、それから全員で門の外に出た。

 その時向かい風が吹き荒ぶが、ロマンは振り返らずにその場に立ち、アルやエミルから見たら一皮剥けた様に思えた。

 

「さて、次はフィールウッドですよ。

 皆用意は良いですね?」

 

「うん…えっとね、ロマン!」

 

「? 

 如何したのティア?」

 

 それ等を見たアイリスは転移魔法(ディメンションマジック)の用意を始め、次のフィールウッドへ向かう準備は出来たかと全員に尋ねると、ティアがロマンに向かって話し掛け始めた為、ロマンは何なのかと思い視線を合わせながら話を聞き始めた。

 

「えっとね、さっきロマンのお父さん達にお祈りをしてた時にね、私ロマンのことを守ってねってお願いしてたの‼︎

 だから、ロマンの家族の2人は必ず守ってくれるよ‼︎」

 

「ティア…ありがとうね。

 君は本当に優しい子だよ。

 うん、じゃあ僕も約束してあげる、お兄さんの所に送り届けるって! 

 そしてお兄さんにティアを守る様にお祈りするよ!」

 

「わぁ、ありがとうロマン‼︎」

 

 如何やらティアは先程のお祈りでケイ達にロマンを守る様に祈ってたらしく、更に自身の兄の様に優しかった2人なら守ってくれると励ましの言葉を掛けていた。

 それに対しロマンは必ず兄の下に送り帰す事やティアがやった様にロマンがティアの兄に彼女を守る様に祈ると約束した。

 それを聞きティアは満面の笑みを浮かべながら抱き付く微笑ましい光景が広がっていた。

 

「ふふ、如何やら心配は無さそうですね。

 ではフィールウッドへ行きますよ‼︎」

 

「はい‼︎」

 

【ビュン‼︎】

 

 それ等を見たエミル達はもう心配は無いと確信し、アイリスもそれを頷きながらフィールウッドへと全員で跳んだ。

 その瞬間狼の親子が木陰から現れ、親狼から1匹の子狼が巣立ち始め原っぱを走り始める。

 それはまるで、たった今親離れをしたロマンの様に…。

 

 

 

 一方何処かの時間軸にて、ニグラが帰って来た後残った4人で食事をしながら卓を囲み話し合いを始めていた。

 

「モグモグ…成る程ねぇ。

 それでネロ君は退場と」

 

「はい、その際にあの方の血を頂きましたが、身体が火照る程の熱い、熱い憤怒の炎に私の心は昂りましたわ。

 ソーティス様の命が無ければネイル様達の正義を堕落させて甘い、甘〜い蜜を深く深く味わっていましたわ」

 

 食事を摂るナイアはネロが帰って来ない経緯を簡略的に話し、リコリスの1撃で心臓が潰れた後そのままネイル達を殺そうとして逆に殺されたと話していた。

 その際にネロの血を啜った事で心が昂った事、ソーティスの命が無ければネイル達を精気吸収するまで相手していたと喋っていた。

 

「ふふ、流石はワシの代でも有名になった大淫婦様だなぁ。

 狙いを定めた獲物は逃さないと来たか。

 如何だ、その前哨戦としてワシがお前の相手を1夜を共にしてやろうか?」

 

 するとグレイはニグラの獲物を執拗に狙う姿勢を誉めており、それと同時にその目にはこの女魔族を独占しようとする剥き出しの欲が映り混み、言動も明らかにニグラの『身体』が目的である事は明白だった。

 

「………残念ですが、貴方様の様な方からは腐った実の味しかしない事を、貴方様みたいな方々を『お相手』した時に良く分かっていますの。

 だから貴方様は出番で成果を出すまでは………お・あ・ず・け、ですわ」

 

「んがっ⁉︎」

 

 しかしあらゆる者を毒牙に掛けた『経験』があるニグラはグレイの様な愚者が出す精気が『不味い』と良く分かっていた。

 その為、そう言う相手には成果を掲示し納得するまでは精気吸収をしない事と決めていた。

 それをお預けと称したニグラはグレイの唇に指を添えて軽く顔を押していた。

 それ等を聞きグレイは侮辱されたと感じ頭に血が昇り始めていた。

 

「それよりニグラ、次のポイントを改竄しろ。

 そうすれば俺の実験の集大成にまた1歩近付く事になる、さあ行け」

 

「はい、分かりましたわソーティス様。

 …何れ貴方様も私の事を愛させる様にいたしますわ、それまでどうか席を空けていて下さいませ…では、行って参ります」

 

【ブゥン、カチカチカチ、ビュン‼︎】

 

 それ等を見ていたソーティスは要らぬ衝突と実験を次の段階に進めようとしてニグラに次の歴史改竄命じると、その本人はソーティスも獲物と捉えているらしく何れ魅了魔法を掛けるのを仄めかして時間跳躍魔法(タイムジャンプ)で消える。

 そうして残されたナイアは腹を押さえつつ静かに笑い、グレイは料理が並べられている卓を蹴り上げた。

 

【ドガァ、ガシャンパキンッ‼︎】

 

「おのれあの売女め、魔王のワシを愚弄しおって‼︎

 帰って来た時にはその素っ首を斬り落としてくれるわ‼︎」

 

「く、くふふふ…ニグラは相変わらず相手を見る目の基準が低いか高いか良く分かんないなぁ、ああ面白かった!」

 

「何だとこの屑が、貴様の使命は如何した、何故此処に留まっているのだ‼︎」

 

 グレイは魔王と言う立場からニグラに馬鹿にされたと感じた為斬首すると叫ぶと、ナイアは嗤いながらニグラの基準点の曖昧さを面白いと称しながら卓を元に戻し始めた。

 するとグレイはニグラの件で怒り心頭の中ナイアにまで食って掛かり槍を取り出しながら彼女の首に押し当てようとしていた。

 

「止めろグレイ、ナイアなら既に使命を果たしに動いている。

 それも、自身の力を使ってな」

 

「そゆこと、ボクが如何やって彼方此方で『遊戯』を起こしていたか、その片鱗を見せてあげるよ…ふふふ!」

 

 するとソーティスが槍の刃先を持ち上げ、彼を制止させながら既にナイアは動いていると宥めた。

 するとナイアも自信満々になりながら手を叩き、グレイに自身が何故愉快犯かと呼ばれていたかの所以の片鱗を見せると宣言しながら笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 一方現代のフィールウッドにて、一旦最北の世界樹に寄ったエミルは目の前にシエルを立たせ、何かを始めようとしていた。

 

「おいエミル、下らない事をしようとする暇があるならさっさとリストを埋めに行くぞ」

 

「下らない事じゃないって。

 兎に角貴女、さっさと変身魔法(メタモルフォーゼ)IIを使ってみてよ」

 

「だから何故だ………ふう、使いましたけれど、何かありますか?」

 

 エミルはシエルに変身魔法(メタモルフォーゼ)IIを自分の前で使う様に指示し、シエルは何がしたいのかと呆れながらも従いエリスに化け始める。

 するとエミルはジッとシエルを見つめ………そして座っている岩から立ち上がりガッツポーズをし始めた。

 

「よっし、遂に術式が完成したわ‼︎

 いやぁ、何度も変身魔法(メタモルフォーゼ)IIの発動する時に発生する消費魔力や直ぐ消える魔法陣を目を凝らして見た甲斐があったわ‼︎」

 

「はい、完成した? 

 ………まさか、変身魔法(メタモルフォーゼ)IIに対応した看破魔法(ディテクション)を? 

 術式も見せてもないのに使用してただけで対抗魔法を創り上げましたの? 

 貴女………ふう、偶に変人とか言われないか?」

 

 エミルは術式が完成したと叫びながらシエルを見つめ、何度も変身魔法(メタモルフォーゼ)IIを見た甲斐があったと話していた。

 それを聞いたシエルは直ぐに魔法陣が消えるこの魔法に対する対抗魔法を創り上げた事に驚き、変身を解除しながらエミルに対して変人と呼ばれていないかと問い始めた。

 

「残念だけど私は変人なんて皆に呼ばれていないわよ。

 でしょ、皆?」

 

 対するエミルはドヤ顔を浮かべながら変人と皆に呼ばれていないと話し、そして剣の修行をしているロマンやリョウ、エミルかロマンか何方かを見ていた全員に聞き始めた。

 

「ああこいつは変人じゃねぇ、ただのバカだ」

 

「そうそうバカバカ………ってこらぁアルゥ‼︎」

 

 するとロマンの方を見ていたアルは何といきなりエミルをバカ呼ばわりし、エミルは変人と呼ばれていないがバカ呼ばわりされたことに怒りアルを猫が威嚇する様に睨んでいた。

 

「うーん、エミルはちょっと変わった魔法使いかなぁ? 

 だって魔法使いなのに前線にズカズカ走って行くしさ」

 

「えっと………面白い方、だと思います…」

 

「えっ、サラ、ルル?」

 

 其処にサラとルルが変わった魔法使い、面白い奴とフォローになっていない言葉を入れるとエミルは2人も見ながらプルプルと震え始める。

 そんなエミルに対してまだフォローが無い事にシエルは笑うのを堪えていた。

 

「そうですね、エミルは『バカ』ですね。

 転生魔法を創り上げただけじゃなく念話傍受魔法(インターセプション)に全属性融合の消滅魔法(ディストラクション)も創り上げるわ、新しい看破魔法(ディテクション)も見てから創り上げましたとなっては『魔法バカ』と褒め言葉で呼ばせて頂きます」

 

「ア、アイリスゥゥゥ⁉︎」

 

「ノーコメントだ」

 

 更に其処に今まで魔血晶(デモンズクリスタル)由来の魔法や今までに無い全属性融合をさせ創り上げた消滅魔法(ディストラクション)、更に術式を見た訳じゃ無いのに新しい看破の魔法すら創り上げてしまった事にアイリスに本人曰く褒め言葉として魔法バカと呼ぶと言われ、エミルもオーバーリアクションしながらアイリスを見ていた。

 因みに飛び火しない様に刀を仕舞ったリョウは何も発言しないと事前に言われ、残るはロマンとティアになった。

 

「えっとね、エミルは凄い人かな? 

 だって弱気だった頃の僕の事を信じ切って旅の仲間にして今まで旅を続けているし、それにそんな発想や才能からどんどん新しい魔法を創り上げたり、その魔法で皆を支えてくれてる………だから僕はエミルの事をバカだとか思えない、本当に凄い人だって感じるよ!」

 

「ロ、ロマンくぅ〜ん…‼︎」

 

 するとロマンはエミルを凄い人だと評し、その理由も始まりから今までずっと旅を続け、様々な発展や才能から魔法を創っては既存のと合わせて皆を支え続けているからだと話し、それもエミルの目を見ながら話していた。

 それを聞いたエミルはロマンの言葉が胸に響き目をウルウルとさせながら見ていた。

 するとアルがロマンやエミル本人、『まだその年頃』では無いティア以外を手招きして呼び出しヒソヒソ話を始めた。

 

「(おい皆、今のロマンの言葉…)」

 

「(うん、単に褒めているって言うよりもあれってまるで………)」

 

「(…つまりアレか、ロマンはあの魔法バカに『惚れている』のか、それも2人共無自覚、或いはエミルが気付いてないのか? 

 やっぱりバカなのか、エミルに加えてロマンも?)」

 

 アル達はヒソヒソ話でロマンの言葉を反復させるとサラもアレが褒め言葉に止まらないと感じ、ルルとアイリスも頷きリョウは溜め息をしていた。

 そしてシエルが結論として『ロマンがエミルに対して惚れている』と話し、更に2人共無自覚、或いは片方が無自覚であると話し彼女は2人共バカなのかと呼び、集まった全員で頭を押さえ始めていた。

 まさかのロマンの想いに勘付き、それに気付かないエミルを見てる為である。

 

「私もエミルは凄い人だと思うよ‼︎

 私を助けてくれたし、お兄ちゃんに会わせるって約束してくれたし、魔法で皆を守るし、本当に強くてカッコイイ魔法使いなんだから‼︎」

 

「ティアちゃん〜‼︎

 ロマン君どティアちゃんだげが私の味方だよ〜‼︎」

 

『(………はぁ…)』

 

 最後にティアがエミルは凄くてカッコイイ魔法使いだと理由を添えながら話した所、エミルは感涙に咽びロマンとティアが味方だと話しながら2人に抱きついていた。

 するとロマンは頬を赤らめ苦笑していた、それを見た瞬間全員の『予想』が『確信』に変わり、これから恋心に気付かない者と片想いの勇者の会話を聞き続ける事になると思いシエルすら口から砂糖が出る様な感覚に陥るのだった。

 

 

 

「さて、そろそろ休憩は終わりだ。

 次で最後のリスト………アレスターの生死確認をする為にロックヴィレッジに戻るぞ。

 サラ、1つ確認するが覚悟は出来ているか?」

 

「…うん、大丈夫、出来てるよ。

 行こう皆、これでフィールウッドの確認も終わるから‼︎

 さあ、早くロックヴィレッジに行こうよ‼︎」

 

 それからアルがストレッチしたり、エミルがティアの魔法指導をして遂に灼熱雨(マグマレイン)や他の最上級魔法を体内魔力回復用ポーションを飲みながら放ち、頃合いとして枷を少し外しレベル30から90と枷が8分の1になりながらもティアは何ら体調の変化が起きない中、最後にアレスターの生死確認をするべくシエルが声掛けした。

 するとサラは覚悟は出来ていると話して何時もの明るい様子を見せていた。

 

「(サラ…もしかして何時も明るくしてたけど、私みたいに初めから…? 

 なら、サラはかなり苦悩した筈なのに表に出さないなんて…)」

 

「(サラ…君も凄いよ、僕よりもずっと…)」

 

 その言葉や何時もの様子を見せるサラにエミルやロマン、他の面々はかなり苦悩してロマンの様な決断を下したと考える。

 特にエミルやロマンはその苦悩をアイアン村で嫌と言う程経験した為、サラが誰にも相談せずにこの答えに行き着いた事に矢張り自分達よりずっと長く生きているだけあって何を成すべきか見極めているとして凄いとしか思えなかった。

 

「サラ、ロマンみたいに辛くなったら私や皆に相談してよ‼︎

 あんな風になる姿を私、見たくないから‼︎」

 

「ティアちゃん、ありがとうね。

 でも大丈夫、私はやるべき事をやるだけだから‼︎

 だから今度も上手く行く、大丈夫だよ‼︎」

 

 するとティアがサラに対し、ロマンみたいに苦しんだ末の決断や修正する際の姿を思い出し、常に明るいサラもそうなって欲しくないと思いながら声掛けした。

 それをサラは大丈夫だと口にし、頭を撫でながら笑顔を見せていた。

 

「(…馬鹿野郎が)」

 

「(サラ、貴女も『決断し切れていない』じゃないか…何が『大丈夫』なのよ、頑固者)」

 

 しかしこの中で最もサラと付き合いが長いアル、ルルの年長組はサラが『未だ結論が出ていない』と察し、2人でサラに近付きながら話し掛け始める。

 

「サラ、いい加減正直になりやがれや。

 お前もロマンみたいに結論が出てないんだろうが」

 

「えっ、な、何を言ってるのかな? 

 ほら私は大丈夫だって、世界の安定の為にも早く」

 

「辛いなら辛いって言って欲しいよ。

 支えてあげるから。

 私達はその為の仲間でしょうが」

 

 先ずアルが正直になる様に切り込み、サラから後ろの逃げ道を無くす。

 するとサラは大丈夫だとまだ話すと今度はルルが仲間は辛い時に支える為に居ると話して前の逃げ道すら塞いだ。

 するとエミルやロマン、リョウはサラの何時もの様子だった為気付けずに居たのでそれに気付いたアル達を矢張り付き合いが長い分気付けたと思い始めた。

 

「………如何して気付いちゃうかな…。

 うん、私アレスターが『生きてた』時を想定したら怖いよ…だってまた『殺す』んだから…何で気付けたの?」

 

「お前、辛い時に自分に大丈夫って言い聞かせている癖があるの分かってないのか? 

 さっきから大丈夫って連呼してるぜ」

 

「だから気付けた、以上。

 さあ、辛いなら吐き出して」

 

 サラは何故気付かれたかと尋ねると、アルが自身も気付かなかった癖、自分が辛い時は大丈夫と言い聞かせると明かし、更に先程からそれを口にしていると指摘する。

 ルルもだから気付けたと話し、辛いなら吐き出す事を口にしながら肩に手を添えていた。

 アルも腰をつけ、話を聞く姿勢になった。

 それからサラは………表情を崩して泣き崩れ始めた。

 

「う、うぅぅあぁぁぁぁぁ‼︎

 怖いよ、怖いよ‼︎

 もしもアレスターが『生きてた』ら、私があの子をまた『死なせる』なんて嫌だよぉ‼︎

 でも、ロマン君だって同じ道を選んだんだよ、だから私だけが駄々を捏ねる何て出来ないよぉ‼︎

 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………‼︎」

 

 サラはもしも自分が言った先にアレスターが『生きてる』痕跡を見つけた瞬間、ロマンの様に『死なせる』しか無く、だがサラ自身にそれをする決断が出来ていなかった。

 幼い赤子だった頃のアレスターを抱いた感触、魔法使いの才能に秀でた事が分かり祝杯をあげた事、セレスティアの専属講師になったお祝い、全てが得難き思い出だったのだ。

 

「サラ………気付けてあげられなくてごめん。

 そうだよね、辛くない訳無いよね…」

 

「サラ…ごめんなさい…」

 

 だが、ロマンがこの決断を苦しみながらやったので、自分だけそれから逃げる訳にはいかないと王族や彼の姉、そしてロマンの決断を無駄にしたく無い為にこの痛みが伴う道を行くしかなかったのだ。

 その苦しみに気づけなかったロマンやエミルは彼女を見つめながら謝罪し、その場で立ち尽くしティアはサラの頭を悲痛な表情で撫で始め彼女が泣き止むのを待つしか出来なかった。

 それに対してシエルやアイリスは口出しせず、思うまま泣かせるのであった

 

 

「さあ早く来て下さい、そして私を…『殺して下さい』、サラ姉さん、エミル様、ロマン君、皆様方…」

 

 そして運命とは何処までも残酷だった。

 ロックヴィレッジのアレスターの書斎には彼が『生きて』座っており、本を閉じながらサラやエミル達が来るのを待ち侘びていた。

 そう、今この場に居る自分を『殺して』欲しい為に。

 そんな残酷な運命の道筋を、エミル達は未だ知らなかった………。




此処までの閲覧ありがとうございました。
ロマンの形見のミスリルソードは墓前の地面に深々と刺されて親からの自立をする事になりました。
更に今度はサラの番になります、果たしてこれを如何に乗り越えるかは…後編更新までお待ちくださいませ。
なお、ロマンのエミルに対する感情がそうなったのは彼女がロマンを信用し、彼もエミルと言う少女を信じ合った結果そうなった訳です。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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第49話『誓いの翼達、遊戯を破る』

皆様お久し振りでございます、第49話目を更新致しました。
ストックを少しずつ書いていますので失踪はしてません。
完結までの道筋は既に思い描いてますのでそれまで長いお付き合いお願い致します。
では、本編へどうぞ。


 サラが泣き始めてから10分が経過し、未だ彼女は泣いているがそれでも彼女は立ち上がり、涙が止まらずとも前を見ていた。

 その悲壮感に満ちた姿にシエルは改めてサラを見て問い掛け始めた。

 

「改めて問うぞサラ、行けるか?」

 

「………うん、行こう…お父様達の下に…‼︎」

 

 サラは大丈夫と言う言葉は一切使わず、ただ行こうとしか言わずに居た。

 それはもう決意を固めたと言う意思表示であり、それ以上の問答は無用と彼女側から自身に言い聞かせた証だった。

 

「じゃあ行く前にロマン君、ルル、アイリス。

 貴方達に『看破魔法(ディテクション)II』を授けるわ。

 シエルの眼は魂の色が見えるから必要無いわよね?」

 

「ああ、だがもしも使う時が来るなら私からも変身魔法(メタモルフォーゼ)IIと少し精度は落ちるが他人にも掛けられる様に改良されたIIIを授ける。

 何方も看破魔法(ディテクション)IIで看破されるが、これを我々の内で広めて置けば何かに役立つかもしれん。

 さあ、術式を解読しろ」

 

 それからロックヴィレッジに向かう前にエミルからは看破魔法(ディテクション)IIを、シエルには何かに使えるとして変身魔法(メタモルフォーゼ)IIと他人に掛けられる様になったIIIを術式を見せてそれぞれに授けると、ティアも変身魔法(メタモルフォーゼ)IIだけは使える様になり、早速使い人間の女の子の姿に化けた。

 

「ティアちゃんやるわね〜。

 ………さて、じゃあ出発よ‼︎」

 

『OK‼︎』

 

「ではロックヴィレッジの宮殿内へ‼︎」

 

【ビュン‼︎】

 

 最後にエミルがティアを褒めながら出発の合図を取るとその場に居た殆どが返事し、アイリスとシエルが今回転移役となりロックヴィレッジに宮殿内へと跳び始める。

 そうしてすっかり転移先に選ばれた宮殿の玉座前に全員が跳ぶとロックやリリアナは歓迎状態となりながら全員を出迎える。

 賢王達の懐は広いのだ。

 

「サラ、エミル殿下、ロマン君ようこそ王村へ………ロマン君? 

 君は少し大人になったかい、何処か雰囲気が変わった気がするよ」

 

「…歴史改竄で『死んだ両親が生存している』と変えられた物を『直しました』。

 そして、親離れをしようって心に決めてきました」

 

『なっ…⁉︎』

 

 ロック達はサラやエミル達を迎え入れた所、ロマンの雰囲気が変わった事をロックが気が付き何かあったかを尋ねると、ロマンは両親の歴史を改竄された事を話し、更にそれを直し親離れをすると簡略的に伝える。

 それを聞いたロック達は考えていた遂に人の死を生に変える歴史改竄をロマンの両親でやられたと聞き、改竄者達の悪辣さに拳を作り始めるのだった。

 

「失礼ながらロック様怒りをお鎮めに、この件は既に『終わりました』。

 ですが私達はある確認の為に此処へ来たのです。

 ロック様………『アレスター先生は元気ですか』?」

 

「エミル殿下、アレスターなら『自室に居てそろそろ来る』と近衛兵が………まさか、『そうなのか』⁉︎

 アレスターが………‼︎」

 

 エミルは怒りに震わせるロックを諌めると、次にアレスターは元気かと尋ねる。

 するとロックはアレスターは此方に向かって来ていると話した…その瞬間サラは目を伏せ、エミルは矢張りかと言った様子を見せた。

 その反応にロック、リリアナはまさかと思い始め、特にロックが青褪めて行った。

 

「失礼します、アレスター只今馳せ参じました。

 …『お久し振り』ですねサラ姉さん、エミル様、アイリス様。

 私は『覚えてます』よ」

 

「アレスター先生………」

 

 その時背後からアレスターが現れ礼をしながらエミル達の側まで歩いて行く。

 その間にアレスターは久し振り、『覚えている』と言う単語を出し、歴史改竄の認識があると言った様子を見せていた。

 それに気付いたエミル達は頭を下げ、アイリスとシエルは時間操作系魔法会得者故に時間改変現象(タイムパラドックス)に完全では無いが耐性があると理解していた。

 

「アレスター…一つ問いたい…お前が生きているのは…間違っているのか?」

 

「はい、陛下。

 私が生きている歴史は間違っていますよ」

 

「…そんな…」

 

 ロックは恐る恐るアレスターに自身が生きてる事は間違いか否かを問い質すと、アレスターは苦笑しながら間違いだとハッキリと告白し、ロックの気力を削いでしまった。

 だが修正すれば嫌でも分かる為、今予め教えるのが良いとアレスターは考えていた。

 

「アレスター………それじゃあ、何処から違うのか、分かるの?」

 

「はい、私達が赴いた世界樹でエンシェントドラゴンに襲われましたが、『とある方に救われて生き延びました』。

 そのとある方とは…其処の近衛兵さん、此方に来て下さい」

 

「えっ、何かありましたかアレスター様?」

 

 サラはならばと何処が違うかと問い掛けると、如何やらアレスターは何者かに救われたらしく、その為生き延びたと話した。

 更にその何者かを答える際に、宮殿内に居た近衛兵に声掛けをして呼び掛ける。

 するとその近衛兵は近付いて来る………するとエミルは見覚えが無い為試しに看破魔法(ディテクション)IIを使用し、その近衛兵を視た。

 

「‼︎」

 

極氷結(コキュートス)‼︎』

 

 その瞬間エミルとアレスターはノータイムで息を合わせ、窓や出入り口を極氷結(コキュートス)の氷で塞ぐ。

 それを見てロマン達は驚いていた、その刹那シエルがベルグランドを引き抜きその近衛兵に向かって魔力を込めて斬り付けるが、それを近衛兵は爆転をして避けていた。

 

「甘い、闇氷束(ブラックフローズン)‼︎」

 

「って、だから人間が何でボクの作った変身魔法(メタモルフォーゼ)を看破出来るの」

 

「遅い」

 

【ザンッ、ブシュゥゥゥゥ、ゴロッ‼︎】

 

 だがエミルはその近衛兵に対し闇氷束(ブラックフローズン)を使用し、手足を凍らせて動けなくする。

 その近衛兵…化ていたナイアはとうとう観念して変身を解きながら何故バレたのか分かっていない様子を見せていたが、シエルに斬首され鮮血が床に流れ落ちた後斬られた首が床に落ち、ナイアは青い炎に包まれた。

 

「…可笑しい、改竄者達の1人のナイアは倒されたのにレベルアップしない、如何言う事なの?」

 

「奴の特異体質、『実体のある分身魔法が使える』所為だな。

 奴はその実体のある分身を使い様々な悪辣を働いた。

 オマケに本体と分身は全て互いの情報共有が出来る。

 其処に特異点(シンギュラリティ)のあらゆる時間軸に跳べるが加われば…ふっ、厄介だな」

 

 だが、本来なら此処で熟練度元素(レベルポイント)が発生するのに何も無い為エミルは疑問符を浮かべていた所、シエルがナイアの特異体質の実体のある分身魔法を使えると言う物をエミル達に語った。

 その性質に特異点(シンギュラリティ)のあらゆる時間軸に跳べるが加われば、どの時間軸でも情報共有出来る為シエルは厄介と発言した。

 

「なら此方のカードを余り切らずに相手を追い詰めましょうか。

 幸い何で変身魔法(メタモルフォーゼ)を看破されたか知らないみたいだし恐らく行ける………そう言えば、あいつがこの魔法を?」

 

「はい、彼女の特異体質と彼女が創ったこの魔法でナイアは『千の顔を持つ実体無き魔女』と呼ばれ、現魔王とアザフィールに捕らえられ殺されるまでに様々な『死の遊戯』を繰り返してました。

 捕らえられた理由も悪辣な遊戯を繰り返し、それを無数の分身共々アザフィールに突破された為であります」

 

 それを聞いたエミルはならばとカードを切らない様にしながら戦うと話しつつ、アイリスからナイアの二つ名を聞きそのままだと感じ、最期もアザフィールに遊戯を突破されて終わったと聞き、彼が魔界の英雄と呼ばれてる理由を悟りながらアレスターを見ていた。

 

「良く合わせられましたとお考えですねエミル様。

 当然です、私はエミル様の教師であの近衛兵は『正しい記憶』に存在しない者でしたから、この者が天使化した際に与えられた知識にあった魔女ナイアだと決め打ちし先ずは逃れられない環境を作ったのですっと」

 

【パチン、パキパキン‼︎】

 

 アレスターはノータイムでエミルに合わせられた理由を話し始め、様々な観点から見てあの近衛兵こそがナイアだと気付き決め打ちをしたと話し、更に指を鳴らして氷を砕き魔法の天才の所以を此処で見る事になりアイリスも改めて感心していた。

 

「(………アレスターさん、さっきからサラと会話してない…)」

 

「サラ、如何して家族なのに会話しないの! 

 これが最後になるんだよ、だったら弟さんと何か話してよ‼︎」

 

 しかし………ロマンとティア、更にエミルは此処である事に気が付いた。

 サラとアレスター、姉弟の2人が全く会話していないのだ。

 それをティアが2人を交互に見ながら何か話そうと促していた。

 だが…サラとアレスター、2人は似た笑顔を見せ、サラが漸く口を開いた。

 

「ごめんねティアちゃん、何か話さないとって思ったけど…いざ出会うと何も話す事が無くなっちゃった。

 多分泣いたお陰で決心がついたんだと思うんだ」

 

「つまりお互い語るべき事はもう無いんですよ。

 …敢えて言うなら、後は任せました位なんです」

 

 サラとアレスターは互いに語るべき言葉が無いと話し、アレスターがティアの頭を撫でながらサラの方を向くと最後の一言に使うべき後は任せたを言ってしまい、サラも一筋の涙を流しながらサムズアップし、エミルに近付いた。

 

「…さあ行こっか、アレスターの最期の場所に」

 

「サラ…分かったわ、なら私は何も言わない。

 アレスター先生、お世話になりました!」

 

「はい、行ってらっしゃいませ、皆様」

 

【ビュン‼︎】

 

 サラはティアを抱き寄せてエミルにアレスターが死した場所に行く様に促すと、これ以上は留まっても意味が無いと悟りアレスターに世話になった礼をするとセレスティアの『最西の世界樹』に全員で跳び後にはロックとアレスター達しか残らなかった。

 

「アレスター…」

 

「こんなの認められないって顔をしてますね父さん。

 ええ、残酷なこの歴史改竄を認める訳には行きませんよ………そうだ、父さんが納得するまで話し合ってみませんか? 

 其処まで時間は無いと思いますが、せめて今生の別れとして…如何ですか?」

 

 ロックはこの様な事を認められないと思い、それを察したアレスターはあくまでも自分は死んでいるべきだとニュアンスで話し、サラの様に我慢はしていない未練無き笑顔を見せる。

 更にロックは未だ納得してない父に納得するまで話し合おうと提案した。

 それを聞きロックはアレスターの決意は変わらない事を察し、顔を伏せた。

 

「ロック…」

 

「では立会人としてリリアナ様も聞いて下さい。

 私が死した後に特別に天使化して地上界を見守っていた事や天界がどんな場所かを…」

 

 ロックの心情を案じるリリアナも悲痛な顔を見せる中、アレスターは天使化した事、天界が如何なる場所か、自身が正しい歴史の中で経験した事をゆっくりと話し始めた。

 その間にロックは頷きながら涙を目に溜め、最愛の家族の1人との最後の時間を過ごすのであった。

 

 

 

【カチカチカチカチ、カチャ、ビュゥゥゥゥン‼︎】

 

「よし、9歳の時の最西の世界樹に辿り着いた‼︎

 後はどんな改竄が起きるか目を凝らすわよ‼︎」

 

「OKエミル、さあナイア………何処から来るの…‼︎」

 

 それから最西の世界樹に着き、直ぐ様異常発生点に跳躍し何処が異常だったかアレスターに聞き既に把握しているエミルとサラ達。

 特にサラはナイアが何処から来るのかと矢を引きながら待ち構え、エミルはアレスターと幼いカルロが修行中の場面を目にしながら、これも変えてはならないと思い透視(クリアアイ)千里眼(ディスタントアイ)を使用しながらナイアを探した。

 

【カチッ‼︎】

 

「っ、来た………ってヤバっ‼︎」

 

【ビュン‼︎】

 

結界魔法(シールドマジック)V」

 

 時が止まった瞬間エミルは来たと感じ森の中を見た瞬間、全員を一斉にアレスターはカルロの前に転移させ結界魔法(シールドマジック)Vを発動させる。

 ロマンは何があったか………それを聞こうとした瞬間結界に向かって来る者が居た、それも『複数(ひとり)の魔族』が。

 

「なっ、ナイアが何人も⁉︎」

 

「これが実体ある分身ね‼︎

 本当最悪、同じパワーで結界を同時に破壊して来ようとしてる‼︎

 皆、この分身魔族を倒して‼︎」

 

「合点だぜ、ずぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 ロマンはナイアが複数体居る事に驚き、エミルも同じ攻撃力で結界を攻撃している事を最悪と表現し、今攻撃しているナイアを倒す様に指示を出す。

 するとアルが早速動き、攻撃しているナイアをオリハルコンアックスで叩き斬り、今攻撃して来た3人分は倒した。

 だが、それと同時に森からナイアが宙を飛びながら数えるのも面倒な程ワラワラと現れ始めた。

 

『あっははははは‼︎

 現代で監視役のボクが殺られちゃったからゲームのルールを変更させて貰うよ‼︎』

 

『五月蝿い、同時に喋るな、1人で話せ‼︎』

 

 複数人のナイアは同時に喋り、同じ声が反響して響く様な感覚を覚えながら不快に思ったエミルは苛立ち始め、シエルもまた1人で話せば良いのに全員同時に喋った為此方も苛立ちを募らせ遂に同時に同じ意見をナイアに叫ぶ。

 するとナイア達は手をたたき、1人が手を挙げて代表として話しはじめた。

 

「いやぁごめんごめん、御尤もな意見ありがとうと同時に不快にさせちゃったね! 

 それで何だけど、さっきも言った様に君達に仕掛けるゲーム内容変更を伝えるよ!」

 

「ゲームですって‼︎」

 

 ナイアの1人は平謝りしながらゲームの内容の変更を一方的に話し始め、エミルはこの分身魔族が言うゲームに理解が出来なかった為怒りのまま叫んだ。

 それはロマン達も同じであり、結界内から睨み付け始めていた。

 

「そう、元々は『変装したボクを見破ってアレスターをちゃんと此処に導いて元の死に方にする』簡単な物から、『変装が通じないからこの時間軸内に居る無数のボクからアレスターとカルロを守る』にハードなルールに変更したのさ‼︎

 君達が悪いんだよ、ボクの変身を勝手に看破したんだからね‼︎」

 

 向こう側の言い分によれば、無数の変装したナイアの分身を見破りアレスター達を此処に導けば良かったものを、エミル達が看破魔法(ディテクション)IIで現代のナイアの変装を見破った為に力技のナイアの群れからアレスター達を守るに変更したと話し、身勝手な言葉に全員怒りが満ちはじめた。

 

「それじゃあ第1ゲームスタートだよ、ちゃんとアレスター達を守るんだよ‼︎」

 

『あははははははは‼︎』

 

「五月蝿いこの変人‼︎

 皆、アレスター先生達を守りながら戦うわよ‼︎」

 

 するとナイア達はゲームスタートを宣言し、嘲笑いながらアレスター達に向かい始める。

 するとエミルはそれを変人と叫びながらアレスター達を守る様に全員に指示を出した。

 更に戦闘開始と同時に恒例の身体強化(ボディバフ)時間加速魔法(タイムアクセル)をエミルが使用し、全員を支援する。

 

『(…第1(・・)?)』

 

 だがそんな中でロマンとサラはナイアが第1ゲームと口にした事を疑問に思い、何かこの後にあるのではと勘繰りながら剣を振るい、矢を放ち続けていた。

 

「勿論時間跳躍でこの結界内にも入るから気を付ける様に」

 

【ザン、ブシャッ、ゴロッ、ボォォォ‼︎】

 

「手の内を明かすな、三流ゲームマスター」

 

 するとナイアの1体が同じ時間内を跳躍し結界内に入り込み襲い掛かろうとした瞬間、シエルが時空の腕輪の反応から先読みしてベルグランドを首に向かって斬り払うと、そのナイアの首は刎ねられ青い血が流血しながら青い炎に包まれた。

 

「あはは、反応速度は流石だねシエルちゃん‼︎

 じゃあ数で来られた場合は如何するか!」

 

「僕達で対処するに決まってるでしょ‼︎」

 

【カンキンキンカン、ザシュッ、ザン、ブシャッ‼︎】

 

 ナイアはシエルの反応速度を称賛すると、次に数で攻められたらと話した瞬間、ロマンが真っ先に突撃して5人以上のナイアを的確に対処していた。

 前までならば3人が限界だった筈が、心の持ち様が変わった為か更に多くの数を対処出来る様になっていた。

 しかも何れも斃しながら時間稼ぎに徹し、他の仲間が来るまでの対処であった。

 

「おやおや勇者君、ポクのお陰で何か吹っ切れたのかい?」

 

「お陰様でね! 

 それからナイア!」

 

「真横注意だぜ、オラァァァァ‼︎」

 

 そんな鉄壁の対処をするロマンに挑発するかの様に自分のお陰で変わったと話した。

 それをロマンは皮肉として受け流しつつ、時間稼ぎに徹したお陰でアルがナイア達の横からアルが遂に到着し、斧を爆震斧を発動しながら回転し振り回して合計20名以上のナイアを1度に両断した。

 

「ふぅ怖いこわ」

 

【ビュンビュンビュンビュンビュンビュン、ザシュザシュザシュザシュザシュザシュッ‼︎】

 

「余所見してる暇があったら私も注意しなさいよね、ナイア‼︎」

 

 その回転乱舞を避けた6人のナイアが胸を撫で下ろしてると矢が飛び、分身ナイアの魔血晶(デモンズクリスタル)を頭ごと貫き絶命させる。

 今この中で最も怒ってるのはサラであり、その証拠に全員がナイアを攻撃し易い様に矢で誘導したり、射抜いたりする等何時も以上の活躍をしていた。

 しかしナイアはまだまだ出現し、周りを埋め尽くす。

 

「おやおや、随分と全力全開だねぇ。

 でも忘れたのかな、君達はこれがゲームだって」

 

【シャキンッ、ブシャッ‼︎】

 

「こんな下らない物を遊戯と呼ぶなら底が知れるぞ、ナイア」

 

 するとナイア達は全力を発揮するエミル達にゲームだと言おうとした瞬間、リョウがナイア数体の胴体を斬り裂き、その言動から其処が知れるとまで話しつつ血を拭った。

 するとエミルは気付いた事があり全員に指示を飛ばす。

 

「皆、このナイア達は防御を全くしていないし熟練度元素(レベルポイント)が無い‼︎

 恐らく本体はこの中には居ないからどんどん攻撃して分身を全滅させましょう‼︎」

 

「分かりましたよエミル、雷光破(サンダーバースト)‼︎」

 

 エミルはこのナイアが全て分身だと気が付き、更に分身故か防御もしない事に気が付き攻撃を更に続ける様に叫ぶ。

 それを聞いたアイリスは早速雷光破(サンダーバースト)でナイアを複数薙ぎ払い更に光の矛を構えて次々とナイアを倒し始める。

 

「絶界魔剣、ベルグランド‼︎」

 

「暗黒破、光流波ぁ‼︎」

 

【ズバァァァァァァァァァ‼︎】

 

 更に其処にシエルがベルグランドの魔力を解放し、サラが誘導させた空に向かってルルの光、闇の絶技と共に振るった。

 それにより今居るナイアの3分の1以上が消滅し、更に其処からナイアの分身が増える事が無くいよいよ終わりが見え始めて来ていた。

 

「皆、もうナイアが増えてないよ、頑張って‼︎」

 

「分かったわティアちゃん‼︎

 じゃあ景気付けに燋風束(マグマバインド)‼︎」

 

「からの『雷光弓』‼︎」

 

 その状態をエミルに抱き付いたティアが叫び全員を鼓舞すると、エミルとサラが真っ先にそれを受け燋風束(マグマバインド)による炎の竜巻を威力を絞り発動、森に火が付かない様にする中サラが雷光弓でそれ等を撃ち抜き分身達を次々に絶命させる。

 

「痛いなぁ。

 たく、分身も全体共有だから死ぬ感覚も伝わるんだ、ちょっとは手加減」

 

「するかこのイカレ外道底辺ゲームマスター気取りの三流魔族が‼︎

 俺様の斧のサビになってもう一片人生を輪廻転生して来やがれやオラァァァァァァァァ‼︎」

 

【ズバァァァァァァァァァ‼︎】

 

 ナイアは死すら感覚共有してしまう為に手加減を要求するが、アルが真っ先にそれを斧で薙ぎ払い斬り裂く。

 これによりナイアの要求は真っ向から粉砕される事となった。

 

「だけど甘いよ‼︎」

 

【キィィィィィン‼︎】

 

「って、最初より結界の範囲が人1人分に狭まってる⁉︎

 こんな結界操作を今の魔法使いは出来る訳⁉︎」

 

 だがその時ナイアの分身の2体がアレスターとカルロに時間跳躍の奇襲を仕掛けた…のだが、結界魔法(シールドマジック)の常識である最低でも人3人分までしか範囲を狭められないと言う前提をエミルの結界が崩し、何とアレスターとカルロて丁度埋まる範囲まで結界を狭めると言うナイアも聞いた事の無い結界の使い方をされ、彼女は驚愕していた。

 

闇氷束(ブラックフローズン)‼︎」

 

【パキパキ、キン、プンッ、バキィィィン‼︎】

 

「残念だったわね、手の内を晒し過ぎよ‼︎」

 

 其処にティアを抱き抱えたエミルが闇氷束(ブラックフローズン)でナイア2体を凍結、そのまま杖で殴って砕き手札(カード)を晒し過ぎだと叫びながら更に魔法を使い全体を攻撃、支援を欠かさず行い、抱き抱えられたティアが体内魔力回復用ポーションをエミルに飲ませて魔力切れを起こさせない様にする。

 

「たく君達ぃ、ポクはゲームマスターなんだよ? 

 なのに何でこっちの意図を無視してゲームを進め」

 

「お前のゲームなんか、知るかぁぁぁ‼︎」

 

 ナイアは自分が仕掛けたゲームが上手く行かない事に地団駄を踏み、何故自分が楽しくなる様な趣旨通りにゲームを進ませないかと叫ぶと、数が減った為更に縦横無尽にロマンが戦場を駆け抜けナイアを次々に斬る。

 そうしている内に3分の2以上の分身ナイアが消え去り、残るは28体のナイアのみになっていた。

 

「残りは28か、ならばこれで消えろ‼︎

 光ある所闇あり、生は死に反転し全てを蹂躙し尽くす、絶界魔剣ベルグランドォォォォ‼︎」

 

『うわぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

 その残り数を数えていたシエルは次々に空中に誘導されている分身ナイアをベルグランドの2発目の魔力放出で塵も残さず消し去り、後5体地上に残るだけとなった。

 

「クソ、クソ、クソ、まるでかつてのアザフィールの様に幾ら分身を用意しても1撃で全て消し去る脳筋バカが居るからちっとも上手く行かない‼︎

 やっぱりあいつの関係者と私達は相性最悪だ‼︎」

 

「(私達…?)」

 

 残った分身ナイアの代表がいよいよ怒りを爆発させてシエルを見ながらアザフィールが力技で分身を消し去る、ゲームを土台から破壊する、挙句捕えられてしまい処刑を待つ身になった事を思い出し彼の弟子であるシエルを指して相性最悪と話した。

 その際に『私達』と話した事をエミルは聞き逃さず頭の中に留めた。

 

「さあ残り5体、決めますよ皆さん‼︎」

 

「勿論よアイリス、これで終わりよ‼︎」

 

『うわ、くそ、ギャァァァァァァァァァァ‼︎』

 

 そうしてアイリスが残り5体だと叫び、全員に終わらせる様に叫ぶとサラが最後に吠え、他の4体をロマン達が片付けると残りの1体はサラの矢により針山の様に身体中に突き刺さりながら絶命、これによりナイアの分身の全てが消滅する事になった。

 それにより戦闘が終了して残るはアレスターが歴史通りに死ぬかを見届けるのみになった。

 

「…さあ、奴から継続していた時間停止魔法(タイムストップ)を解除して歴史通りに進むかを確かめるぞ」

 

「はい…ナイアの血は炎となり消えましたから森に隠れて見届けましょう」

 

 それからシエルが周りにナイアが居ない事を確認すると時間停止魔法(タイムストップ)を解除して残りの確認をすると話し、アイリスも賛同して森の中に隠れて様子を見始めた。

 するとアギラが空に現れ、エンシェントドラゴンを呼び寄せるとそのまま操り始め、歴史通りにカルロが逃げようとして転び、其処にブレスが放たれアレスターが庇い、そのアレスターも魔法で迎撃し両者致命傷を負う事になった。

 

「アレスター………くっ‼︎」

 

 それ等を見ていたサラは弟が死に掛けているのに何も出来ない事を歯痒く感じながらそれを見届け、歴史通りに全てを運ぼうと手に血が滲み出す程握りながら決心していた。

 それを見ていたエミル達もサラの悲しい決意に水を刺さぬ様に動かない様にしていた。

 

【カチッ‼︎】

 

「っと、此処で第2ゲームだよぉ‼︎

 それ〜‼︎」

 

【ビュンビュン‼︎】

 

「っ、ナイア‼︎」

 

 すると再び時間停止魔法(タイムストップ)が発動し、此処で第2ゲームとしてアレスターとカルロに対して彼等の近くに現れたナイアがナイフを投げた。

 そのナイフはナイアの魔力を帯びており、サラの矢の様に止まった時の中も突き進む様になっておりエミルやアイリスは反応が遅れナイフ迎撃が間に合いそうになかった。

 そうしてナイフはアレスター達に目掛け飛ぶ………。

 

『邪魔するなぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

【ビュンビュン、カキキン‼︎】

 

 だが此処でロマンがナイフに対し『時間遅延魔法(タイムスロウ)』を発動しナイフの速度を極限まで遅くし、サラが弓兵の反応速度とアレスターの危機と言う2つの事柄が絡み合い守る事に一級線のロマン並の反応で矢を放ち速度遅延したナイフが迎撃され、ナイアは必ず成功すると思ったゲームを破られ目を見開いていた。

 

「な、何故ゲームが失敗する⁉︎

 この距離、このタイミングなら成功する筈なのに」

 

闇氷束(ブラックフローズン)‼︎」

 

「っ‼︎」

 

 ナイアは何故第2ゲームが失敗したのか理解出来ず、慌てふためく中エミルは漸く反応が間に合い闇氷束(ブラックフローズン)を放った。

 それを見たナイアは今度は『避ける』行動を取り、凍結させられない様に空中に避けた。

 

「今度は避けたな? 

 なら貴様は本体か、な‼︎」

 

「やばっ‼︎」

 

【ブゥン、カチカチカチ、ズシュ、ビュン‼︎】

 

 其処にシエルが最高速度で突撃してベルグランドを突き刺そうとしていた。

 それを見たナイアは今度は時間跳躍魔法(タイムジャンプ)で逃げ始めた。

 そうしてナイアは時間跳躍で逃げた…が、ベルグランドの刃先には青い血が付着しており、それは突撃攻撃が当たっていた事を意味していた。

 

「ロマン君、サラ、アレスター先生達は大丈夫⁉︎」

 

「うん、僕が咄嗟にナイフに時間遅延魔法(タイムスロウ)を発動させて」

 

「私が迎撃したから何とか…‼︎」

 

 するとエミルは慌ててロマンとサラにナイフの方は大丈夫かと聞くと、2人はしっかりと対処したから大丈夫だと話すと、アイリスが矢やナイフを全て回収し、エミル達に頷くとシエルも含めてまた森の中に入った。

 

「…それにしても良くアレを迎撃出来たな2人共。

 何故奴がまた来るって分かった?」

 

「…ナイアが『第1(・・)ゲーム』って言ってたから油断出来なかった、からだよ」

 

「右に同じくね」

 

 するとアルは何故ナイアの迎撃が間に合ったかをロマンとサラに尋ねると、如何やら2人共『第1ゲーム』と言う言葉に引っ掛かりを覚えた為に悪足掻きが来ると想定したらしく、それが功を奏しこの迎撃が間に合った様だった。

 それを聞いたエミル達は今度からナイアの言葉に注意しようと思い、今度はエミルが引き継いだ時間停止魔法(タイムストップ)を解除した。

 

「私の生徒には、指1本触れさせはしませんよ………ぐ、うぅ…‼︎」

 

「アレスター先生‼︎

 クソ、このトカゲ野郎がぁぁぁぁ‼︎」

 

 アレスターが杖を構えながらも倒れた中、カルロは虫の息のエンシェントドラゴンに止めの1撃を放ち遂にドラゴンは斃され地面に倒れ伏せた。

 それを見た過去アギラは撤退し、カルロは倒れたアレスターに話し掛けていた。

 

「…これで歴史通りになるけど、最後まで見るかサラ?」

 

「…ううん、このまま帰るよ。

 後はカルロ君とアレスターの2人の時間、ナイアもベルグランドでダメージを受けたからもう来ない筈。

 だからもう良いんだ………このままだと、私が皆にアレスターを助ける様にお願いしちゃうから…」

 

「…分かった、ならば帰還しよう」

 

 エミルはこれで歴史通りになるが、サラに最後まで見届けるかと尋ねるとサラはこのまま見てれば誰かにアレスターを救う様にと頼んでしまうと話し、幾ら擬似特異点(セミシンギュラリティ)は歴史に影響を与えないと言っても最低限のルールがあると思いながら苦笑していた。

 それを聞いたシエルも帰還準備に入り始める。

 

「…分かりましたよサラ。

 これでエミル、貴女や彼女の転換点は守られました」

 

「あ…そうか、私はアレスター先生の死からレベルを163まで上げる事になったんだ…」

 

「そしてサラは弟のアレスターの死から冒険者業に更に没頭する事になったんだぜ…」

 

 そんな中アイリスがエミルやサラの歴史の転換点は守られたと口にすると、エミルはアレスターの死からレベルを500年前までの最低基準値まで上げると決意した事を思い出していた。

 更にアルがサラはアレスターが死んだ故に冒険者業に更に没頭し始めた時と口にし、2人の生き様に関わる転換点だったとロマン達は理解した。

 

【キィィィィィン、カチカチカチカチカチカチ、ビュゥゥゥゥゥゥゥン‼︎】

 

 そして全員で時空の腕輪を掲げ、時間跳躍をしてその場から消え去った。

 この場に過去のカルロとアレスターを残して。

 

 

 

「ア、アレスター先生………俺、俺の所為で…‼︎」

 

「あ、あはは、生徒を守る事が教師の義務ですから気にしないで下さい、カルロ様…だから、気にしないで、下さい…」

 

 それからカルロは自身の所為でアレスターが死に掛け、もうポーションで治らない…回復魔法(ライフマジック)でも治せるか怪しい状態となっていた。

 だがアレスターは生徒を守る事が自身の使命だと話し、死の間際に立たされてもなお笑顔を絶やさずにその生命が事切れるまでカルロを安心させようと努めた。

 

「(ああ、此処で私はもう終わるんだな…アルク様とレオナ様はもう心配は無い、けど気掛かりがエミル様だ。

 無茶しないか、少し心配ですねぇ…それに、家族を遺して逝くのも、避けたかったですね…。

 そして何より…)」

 

 その心の中でアルク達やエミル、サラ達家族を思い起こし、死の間際には様々な事が思い浮かぶとアレスターは初めて知りながら様々な事を考えた。

 そのアレスターが最後に考えた事は…。

 

「…カルロ様…貴方には、貴方にしか無い才能、私みたいに教師になる才能が、あります。

 如何かそれを自覚なさって、邁進し続けて、下さい。

 ………それが、私の最後の、願い…で、す………」

 

「先生、先生‼︎

 いやだ、死なないで、先生ぇぇぇぇぇ‼︎

 うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 目の前に居るカルロが他の3人と違う才能、自身の様な物を教える才能がある事を伝えそれを自覚し邁進して欲しいと願いを伝える事だった。

 そうしてアレスターは安らかな笑みを浮かべながら瞳を閉じ、2度と目を覚ます事は無かった。

 それをカルロは悲しみ、叫び声を上げながら降り始めた雨も気にせずアレスターを抱きながらドラゴンが世界樹に向かったと報告を受けた騎士団が来るまで泣き続けるのであった………。




此処までの閲覧ありがとうございました。
これでエミル編その2後半は終わりました。
次回からは再びネイル達の話になります。
重ね重ねになりますが鈍足亀更新ですがどうぞよろしくお願い致します。

次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。


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