東方黒狐録 (よるくろ)
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【い】 転生


 息抜きに書いた東方Projectの二番煎じ…

 私の原点である小説を書くのは少し恐れ多いですが、頑張って書いてみます。

 それでは、ご覧あれ…


 …眠い。

 

 ………眠い。

 

 ………………眠い。

 

 眠気さだけが残る、“夢の中”。

 

 そこでは僕と“狐”が横になっていて、僕は狐の尻尾を枕にして寝ている。

 

 

「『やぁ、災難だったね、君達』」

 

 

 声が聞こえてきた。

 

 はっきり聞こえるが、眠気さのせいではっきり聞き覚えることができない。

 

 

「『一匹の不運な狐を助けるために、優しい君が命を挺してまで守ったその姿に、僕は創世記時代以来の感銘を受けてね…そこで、僕が君達を転生させてあげることにしたんだ』」

 

 

 へぇ…そうなのか…でも、この狐はどうするんだ?

 

 

「『もちろん、一緒さ。でもただ一緒に転生させるだけじゃ面白くない。…そうだ、君達を一緒に“纏めて”転生させよう』」

 

 

 そりゃ手間もかからなくて良いや…本当は一人一人別々に転生、だっけ。させるんだろうけど、急ぎたいならいっぺんに済ませてしまえばいいもんな。

 

 

「『種族は…九尾かな。ねぇ、能力を手に入れるとしたらどんなのが良い?』」

 

 

 うーん…何でも、直す能力かな…壊れたら再生したり修復できたりするのって便利だから…。

 

 

「『ふむ…じゃあ修復能力と…あと容姿も変えられるけど、どうする?』」

 

 

 僕は人見知りだし…髪は長い方がいいかなぁ。好きな髪型にもできるし…あ、色は黒が良いな、日本人らしく、髪色は黒で。

 

 

「『なるほどね、髪は長め…で黒ね。うーん…あ、あと五感も強化してあげるよ。倍率的には…一般妖怪の五倍位かな。それ位じゃないと今の君達じゃ生きてけないし』」

 

 

 どんな所なんだろうか…いや、まぁどうせ人外魔境に放り込まれても死ぬ自信しかないよ。

 

 

「『大丈夫だよ。比較的安全なところに送ってあげるから。それじゃ、決めることは決めたし、そろそろ転生しようか』」

 

 

 あぁ、そうだ。僕達はこれから転生するんだった。

 

 

「『では、良い第二の人生…いや、“狐生”を。黒金鈴八君』」

 

 

 じゃあね…。

 

 すると、僕の意識は最も微睡んで…意識も保てなくなった…。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「…う…?」

 

 

 寝辛い。

 

 背中に踏み潰している花の感触…仰向けで寝てるのに、何故か寝辛い。お腹を圧迫されてるんじゃなくて、こう…背中と土の間に何かが入り込んでるような…

 

 と僕がその背中にある物を意識すると、少し動いた。

 

 生き物なのだろうか、いや、それにしては…というか、“感覚がある”。

 

 どういうことかと、妙に動かしづらい右手を背中側に持っていって、それを掴むと、確かに感覚があった。触れた感触もあるし、触れられた感触もある。

 

 

「…(尻尾?)」

 

 

 毛並みはサラサラ、綿のように柔らかくも、動物の毛のようにすぅっと毛並みがあるそれは、驚くことに“僕の尻尾”のようだ。

 

 まいったな…と頭を掻こうとすると、また異物。触れると、また触れた感触と触れられた感触。

 

 どうやらこれは耳のようだ。

 

 

「…(そうだ、狐はどこに行ったんだろう)」

 

 

 起き上がって見渡してみる。だけど僕の周りは森に囲まれた花畑だけで、狐どころかネズミ一匹見当たらない。

 

 あれ…と思い、首を捻っていると、起きる前の夢の中で聞いた、声のことを思い出した。

 

 

「…(“まとめて”転生…じゃなくて、“纏めて”転生…ね)」

 

 

 なんてことだ。じゃあ僕はあの狐と一緒になったということになるのか。

 

 …いや、そんなに悲観することでもないか。生きてれば万々歳だし。

 

 さて、これからどうするかだけど…うん、ここは静かだけど、“あっち”の方は煩いね。

 

 

「…(街か村か…文明があるのかな)」

 

 

 けど、行きたくないな。そもそも人の視線を遮るために髪を長くしてもらったんだし…そういえばどれくらい長くなったんだろ、首元までは欲しかったかな。

 

 頭から背中側に、髪の長さを確かめるように滑らせていくと…滑らせていくと……あれ、背中通り過ぎちゃった、え、腰、膝裏…足首で途切れた。

 

 長すぎじゃない?

 

 いや、せっかく長くしてもらったんだし、文句を言うのはお門違いだ。

 

 えーと、あと…あ、そうだ能力だ。確か…『修復』だっけ、どういうふうに使うんだろう。

 

 と、僕が思い悩むと、ふと下に、僕で踏み潰された花が目に入った。

 

 あちゃーと思いそっと触れると、するとその花はみるみるうちに元気もなり、他の花と同じように元気な花になった。

 

 あ、こういうこと?じゃあ植物でできるんだったら生物でもできるよね、便利な能力だなぁ。

 

 

「…(これなら、生きていけるかも)」

 

 

 さて…まずは水の確保からしなくちゃね。






 如何でしょう?

 私的には最低でも妖怪の山までは書きたいですね…

 息抜き程度で書きますので、頻度は期待しないでください。

 それでは、また次回…


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【ろ】 妖怪



 二本目投稿…暇なんでしょうか私は。

 今回の話はちょっと短めだと思います。

 それでは、ご覧あれ…


 さて、僕はわかってしまったことがある。

 

 それは、“この森から出られない”という事だ。

 

 そう、森の中に入って歩いて、まっすぐ歩いているはずなのに何故か花畑に戻ってしまう。それはどこからでも同じで、どこから出てもその反対側に戻ってしまう。無限ループって怖いね。

 

 でもこういうことはあり得るのだろうか。いや、ありえない。だけど転生というありえない事を体験した僕は、このありえないを完全に否定することができないでいる。

 

 今となってはありえないが現実だ。現実から目を逸らさないようにしなくちゃ。

 

 この摩訶不思議な現象に悩める僕は、とりあえず走った。歩く速度が問題なんじゃないか、早く走ればいいんじゃないかと思ったからだ。多分違うと思うけど。物は試しだ。

 

 でも途中でどうしようかな…と悩んで、それでもめげずに森を抜けようと走り続ける。走って走って走って走って…そして気づいた。

 

 

「(あれ、疲れない)」

 

 

 そう、疲れないのだ。そして出れない。

 

 今僕が走った距離は、メートル法に則ると大体三〇〇M(メートル)。しかも全力疾走なため、オリンピック選手でも息切れをするレベルだ。

 

 でも僕は息一つ乱してないし、何より足の疲労が全くない。どういう事なのかと推測していると、僕は一つの仮説を見出した。

 

 僕が狐と共に生まれ変わったせいで、僕に狐の運動能力とかが備わった仮説だ。

 

 基本動物の運動能力は人間の何倍もあり、それは持久力も含まれる。なので、狐の運動能力を手にしている僕がいくら人間の限界まで運動しても、疲れが来ないというわけだ。

 

 となると、僕は人間ではない…いや、耳と尻尾がある時点で人間じゃないけど。まぁ人間以外の種族…例えるなら、“妖怪”になったわけだ。

 

 妖怪かぁ…。前世の漫画で読んだ気がする、なんだっけ…思い出せないなぁ。ねこ娘が可愛かったことは覚えてるんだけど…。

 

 そうそう、妖怪となったからには何か別のものも備わっていたりしないかな。例えば妖力とか、よく戦闘系漫画で出てくる“氣”とか。確か自分の身体の中を意識してみるようにすれば感じられるんだよね…うん、何も感じない。

 

 というか、アホな事やってたらそろそろ暗くなってきそうだ、さっきから太陽は見えないけど、暗くなってきているのがわかる。

 

 そして最悪なことに、ここら辺にはお花畑しかない。ここは一つ、僕も子供になって脳内もお花畑にして何も考えずに寝るのが良いのだろうか。

 

 水も食料も家もない、サバイバルにしては最低最悪な状況だけど、妖怪となった僕ならば耐えれると信じたい。

 

 水とか食料は確保できなかったけど、今はとりあえず寝るしかないね。

 

 さて…どこで寝よう。

 

 さっきも言ったけど、ここにはお花畑しかない。都合よく洞穴とかあったりしないし、その上山になっているところもないから穴を掘ることもできない。

 

 だから森の木に寄りかかって寝るしかない。くそ、敵に情けをかけてもらうなんて…、

 

 さっきから前途多難だけど、頑張るしかない。

 

 

「…(服は着てるし、風邪は引かない…かな)」

 

 

 今の僕の服装は、黒い和服。ただ異様に袂が長く、僕の手が隠れてしまうくらいのただの和服だ。細かい作業をするときは上を脱がないとできないねこれ。

 

 今のところ寒くないけど、夜になると肌寒さは感じると思うし、今日のところは木に寄りかかって着物の中に引きこもろう。よく子供がやる事だけど、今ばっかりはこの服の中の暖かさがバカにできない。

 

 明日は何しようかな…いいや、明日のことは明日考える。さて、おやすみ。






 如何でしょう、

 結局わかったのは出られないことだけ。最初の場所は東方Projectの迷いの竹林風にしてみました。謂わば修行場ですね。

 次回は何をするか…お楽しみです。

 では、また次回…


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【は】 鍛錬



 三本目…?私は何を…指が勝手に…!

 というわけで、昨日に引き続いての第三話目。

 それでは、ご覧あれ…


 朝になった。

 

 目が覚めた僕はいの一番に背伸びをして、ちょっと眠い目を擦る。あ、目を擦ると手についた細菌とかが目に付くんだっけ。どうでも良いけど、妖怪の視力って細菌で悪くなるのかな。

 

 というか、朝日が見れないって辛いねぇ。こう森に囲まれてるから、日の出が拝めないのはちょっと残念かな。

 

 それにしても…やっぱりお花畑だ。一向に抜け出せない森に囲まれた事を除いては普通のお花畑なんだけど、やっぱり問題は森だよねぇ…どうなってるんだろ、よくある目の錯覚かな。

 

 自然の形態が、程よくちょうど良い感じに視覚の情報を騙してるとか。ま、ないか。

 

 となると、今の僕に出来ることは何もない。攻略本もないし、ましてや携帯なんてものもない今の僕じゃ出来ることなんてたかが知れてる。

 

 候補を挙げるとしたら、一つ、懲りずに森の脱出。これは脱出云々より僕が餓死しそうだから却下。

 

 一つ、諦めて死ぬ。普通にやだ。何が悲しくて手に入れた第二の人生を終わらせるんだ。

 

 一つ、鍛錬。これは森の木を一本一本破壊していけばいつか出られるんじゃないかという案の派生だ。強くなれるし、夢の声はここは比較的安全な場所って言ってたから、ここから出たら絶対安全じゃなくなる。だから強くなる必要があるし、僕が餓死しないために森の外に出る必要がある。

 

 決まりだね、これからの方針は鍛錬中心で、僕自身を鍛えていこう。

 

 まず腕力でしょ、脚力でしょ、腹筋もいいかな、いや背筋も…

 

 あ、あと何故か知らないけど僕はお腹が空かない…というと、僕が転生して結構経つのに、一向に空腹が訪れないからだ。何故かは知らないけど、これで空腹を気にすることなく鍛錬ができるってことだね。

 

 さて、早速始めよう。えっと…とりあえず木をぶん殴ろう。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 とある迷い森の奥深くにある、森に囲まれた花畑。

 

 その花達は万病の薬、百薬の神と呼ばれるほどの成分を持ち、滅多に咲かない幻の花である。

 

 その花畑を囲う森の一角。そこには一人の男が、森の木を揺らしている。

 

 

「ふっ…ふっ…ふっ…!」

 

 

 打撃、打撃、打撃。一発一発が全力以上の力が込められており、不壊と謳われる迷いの森の木を“揺らしている”。

 

 当然、そんな力を込めて全力で殴れば、拳は壊れるだろう。だが、男には幸として、何もかもをなおす力があった。

 

 拳が砕ければ治し、骨が折れれば治し、筋肉が裂ければ治し、細胞が古くなれば治す。その工程は『転生』と同じく、拳が放たれるほど、男の身体はより強く、より強靭(つよ)く、より頑丈(つよ)くなっていく。

 

 汗の一つ一つが美しい、拳を“撃つ”たびに揺れる黒髪が荒れ狂う海のように乱れ、川の流れのようにするりと空気を撫でる。

 

 打撃、打撃、打撃。一発は力強い大砲のように、一発は突き進む弾丸のように、一発は突き刺す槍のように。迷いの森の木を揺らしている。

 

 男…黒金鈴八は、より靭く(強く)なる。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 ふぅ〜、疲れた。手が痛いし、足がもうガクガクだよ。

 

 あ、そうそう。僕の能力である『修復』の新しい使い方でね、なんと壊れた拳も治せるんだ。一回…というか何回も拳が壊れたんだけど、その都度その都度で『修復』を使ってなおしてね、かなり頑張ったよ。痛みを我慢するの。

 

 少なくとも骨と肉は治せるよ。筋肉は分からないけど、多分治ってる。でもここまでやって筋肉疲労がないってことは、それほど運動してないってことなのかな…やっぱり不便だねこの身体。

 

 というかこの木硬くない?殴っても殴ってもびくともしないんだけど。何回僕の拳が砕けたと思ってるんだ。例えるなら鉄板に向かってポッキーの拳で挑むような感じだよもう。

 

 あ、そうそう。とりあえず殴ろうってなったけど、もう一つ殴ってる途中で新しい鍛錬方法を思いついたんだよね。

 

 それは柔軟。空手とか柔道でも、かかと落としとかする時身体が硬いとできないでしょ?関節の可動範囲を広げないと、思った通りの動きができないからね。

 

 武器もないし、危険なやつに徒手空拳で挑むんだったら攻撃の幅を広げないと。

 

 …でも、柔軟の仕方ってどうやるんだろう…。こうやって足を広げるのかな、少しずつすり足で…こう…あっ、結構キツイ!ちょ、戻れない!

 

 落ち着くんだボブ()、ゆっくり、ゆっくり足に力を入れて閉じて…

 

 あ、汗で足が滑___ヤバ___、

 

 

 

 

 あ”ぁ“っ

 

 

 






 あー、痛いですねぇ(経験者)

 柔軟って生きてるうちじゃ結構重要になりそうですね。身体が硬い人とか、動きがスムーズじゃなくて、サビたロボットのような動きになっていそうです。

 私は引きこもり体質ですが、柔軟は欠かさずやっていますよ。血流も良くなる、動きもコンパクトになる。良いこと尽くめです。

 皆さんも、暇があれば柔軟体操とかやってみると良いかもしれませんね。

 それでは、また次回…


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【に】 経過


 あー…先に違うやつをあげてしまいました。

 すいません、こちらの落ち度です。

 本当はこちらの話です、

 では、ご覧あれ…


 さて、僕が修行を始めて早一年が経過した。

 

 この頃で僕はやっと木の表皮を削れるようになった。相変わらず拳は砕けるけど。

 

 それで、これ以外進歩らしい進歩はしてないんだけど…『修復』のスピードが少し上がったくらいかな。前は拳一つ直すのに七秒くらい掛かってたけど、今じゃ三秒くらい。

 

 四秒の短縮だけど、これじゃあ進歩って言えない気がする。この能力にはもっと先があると思うんだ。例えば…うーん、感覚で言ってるから言葉で表せない。ま、その時になったら分かるか。

 

 でも、結構鍛えたと思ったのに筋肉だけは付かないんだよね。

 

 それに一年修行して、一回も筋肉痛とか起きてない。毎日汗を掻くほど修行しているはずなのに、それほど筋肉を使ってないていうことなのかな。

 

 相変わらずぷにぷにとした腕だ、とても一年間木を殴り続けた腕だとは到底思えない。もっと殴り続けないと筋肉がつかないのだろうか、妖怪の身体って大変だね。お腹が空かないのは便利だけどさ。

 

 あ、そうだ。うるさい方の“あっち”がもっとうるさくなったんだよね。森の向こう側のお陰か、流石に音は届きにくいけど、僕の聴覚はそれを敏感に感じ取るからうるさいったらありゃしない。五感が良いってのも考えものだね、意識しなくても関係ない音まで拾っちゃうもの。

 

 それと、柔軟も結構捗ってきた。あの頃の痛みはヤバかったけど、今じゃ新体操選手並みに身体を曲げることだってできる。手を使わずに足が肩に着くし、当然のように股を全部開くことができる。I(アイ)字バランスってのも出来た。初日のあれは事故じゃなかったんだ、うん。

 

 あ、あと気づいたことがあったんだった。この花畑の所って気温が変化しないどころか、“四季が無い”みたいなんだよね。太陽も月も見えないし、あるとしたら朝と夜くらい。

 

 そのせいでこの森の変わり映えしないし、見てて面白く無い。早くこの森を出たい所だけど、まだこの木を破壊するほどの力を持ち合わせていない。

 

 さて、一年前からお世話になってるこの木を、また殴り続けよう。今度は蹴りも交えてみようか、下段、中段、上段って風にして、脚の柔軟性も使った、ね。

 

 

 それから僕は、蹴りも交えて木を殴り続けた。

 

 起きていれば殴って、疲れ果てたら寝て、殴って、寝て、殴って寝て、殴って寝て殴って寝てを繰り返し、それが合計約三年した頃には、僕は木の表皮を砕くことが出来ていた。

 

 蹴りも上達して、最初の頃は下段、中段は上手く行ってたけど、上段になると身体の柔らかさでからぶっちゃって大変だった。どういう空振り方だって思うけど、思うより脚が上の方にいっちゃうから仕方ないよね。

 

 でも、三年経っても僕の身体は発達しないどころか、成長しない。妖怪の身体って不変なのかな、それじゃちょっと困るなぁ。今も十分だけど、もうちょっと背を伸ばしたいのに。

 

 今は…五尺三寸(159)位?もうちょっと欲しい、せめて五尺四寸(162)位は欲しい。ま、そこら辺は後々の成長に期待だね。

 

 さて…今日も殴ろうかな、木を。というか、本当にこの木硬くない?いくら殴っても表皮を砕くぐらいしか壊せないし、そろそろへし折れてもいい頃だと思うんだけど…。

 

 

 僕が転生して、計五年が経った。

 

 蹴りで表皮を砕く事ができるようになって、更には拳で表皮の内側を砕くこともできるようになって来た。ここまで来たら殴り続ければへし折れるだろって思うでしょ?

 

 出来ないんだよねこれが。どうやらこの木って再生能力が異様に高いらしくて、殴ったら回復、殴ったら回復みたいな無限ループ。これじゃ壊せない。

 

 だからこの木をへし折る方法はたった二つ。木の再生速度が追いつけないほどに早く殴るか、そもそも再生させないで、一撃で木をへし折るかの二択。

 

 前者は、結構難しそう。だってこの木の再生速度って僕の“『修復』位の早さで回復する”し、こんなに硬いものを早く殴って折るとなると最低でも秒間で数千発の拳突きを放たなくちゃいけない。

 

 それに対して、後者はもっと時間をかければ行けると思う。五年間木を殴り続けた結果が目に見えて分かってきてるし、これならもっと時間をかければ一撃で粉砕できるようになりそう。

 

 あ、最近拳が砕けにくくなったんだよね。比率的には、三殴りで一砕け(3:1)位。前だったら一回に一回(100%)は砕けてたんだけど、これは大きい進歩って言ってもいいかもしれない。

 

 『修復』の早さも上がって、今じゃ二秒。一秒短縮で、能力も強さも日進月歩中。柔軟も欠かさず続けてるし、今なら頭の上で足のつま先を合わせられそう。

 

 それと、自分の身体が強くなるにつれて、僕の中で何かが強くなってる感覚がしてるんだよね。これを感じ始めたのは一年前くらいで、今じゃその時よりもっとはっきり感じる。

 

 これが“氣”か妖力かなんだろうけど、いかんせん使い方が分からない。もっと強くなれば分かるのかなと思いながら、僕は木を殴り続ける。

 

 

 

 

 

 

 どうでもいいけど、最近尻尾の手入れも欠かさずしてるよ。







 尻尾の手入れは大事です。

 では、また次回…


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【ほ】 脱出



 第四話です。

 それでは、ご覧あれ…


 風の梵も無い、静かな森の中。

 

 葉っぱが擦れる音もしない、土を踏みしめる音も聞こえない、自分の呼吸の音も聞こえない。謂わば、超集中。僕の集中力は、強化された五感で持ってしても周囲の音が聞き取れないほどに昇華している。

 

 脱力、集中。身体全体の力を拳に行き渡らせるように、足首の捻れから加速して、股関節、腰、肩、肘、手首、そして拳に力を受け渡し、

 

 

「___ふっ…!」

 

 

 ばこんッッ!!という音が、僕の目の前の木から鳴り響く。

 

 すると目の前の木は大きなクレーターを僕の拳を中心にして作り出し、後ろに倒れる。

 

 ………よし!30年掛けてようやく一本破壊した!遅っ!

 

 いやいや、五年であそこまで行ったのに、どうして?二十五年の間で何があったの僕の身体。反抗期?僕の身体が僕に反抗してるの?

 

 いやまあ、最初の頃と比べたら…まぁ強くなったでしょ。あの頃は傷ひとつつけられなかったし、そう考えたら成長したもんだね。三十年も掛かったけど。

 

 力の受け渡し方も、上手くなったものだよ。足首から手首まで、関節全部を使うのに何年かかったことか。三十年だけど。

 

 あー、人が恋しい。いくら人見知りな僕でも、ここまで孤独となったら寂しいものだよ。知ってる?うさぎって寂しいと死ぬんだよ、狐だけど。なんなら捕食者(食べる側)だけど。

 

 でも、これで当初の目的である森からの脱出が望めるわけだ。まさか三十年も掛かるとは思わなかったけど、これで飲み食いができる。空気を吸うだけの生活とはおさらばさ。

 

 それにしても僕の身体って本当に成長しないよね。身長も変わってないし、三十年鍛錬して筋肉の一つや二つつくものだと思ったけど、全然つかない。まだぷにぷに。このまま鍛錬続けて現状維持だとしたら、やめたらどうなるんだろう。太るのかな?いや、そもそも食事っていう栄養補給をしてないんだから太る要素がないわけで…あれ、じゃあ栄養を消耗しまくってる僕の生活から考えると僕がガリガリに?あれ?

 

 …ま、妖怪だから問題ないでしょ。便利だね妖怪って言葉。

 

 あ、そうそう。妖怪で思い出した、僕妖力が使えるようになったんだった。

 

 こう、強くなっていく度に大きくなり続けてくる身体の中にある力が、臨界点に達した時に僕の身体から爆発するように放出して…こう、ぼしゅっと。その後はもう自分で操作できるようになって、今は前世の漫画の技術にあった纏ってる状態で留めてる。

 

 ゆくゆくは自由に操作できるようになりたいけど、満足に留められない今の状態でやったら、万が一暴走した時に目も当てられない状態になりそう。妖力の修行は後回しにして、今は森から出ることに専念しなくちゃ。

 

 

「…___シッッ!!」

 

 

 また一本、また一本と僕は木を折って、進んでいく。その進み具合は当然ながら歩くより遅いけど、数十年単位で一本の木を相手にしてた僕ならこの進み具合は相当速いと思える。

 

 一本一本全力を注いで殴って、時々蹴りでへし折って、時々折った木で木をへし折って、時々休憩して、時々遊びながら進んでいくと、ついに…

 

 

「…出れた」

 

 

 久しぶりに口から声を出した気がする。でも、それくらい嬉しかった。

 

 三十年という時間、あのお花畑に閉じ込められ、自主的にではあるけど休みの無い修行の日々。時々自暴自棄になって死んでしまおうかと思ったけど、それじゃ僕と交わって転生したあの狐に申し訳ないと思って、死ぬに死ねなかった。

 

 でも、その報いが今ここに。森からの脱出という形で報われた。

 

 いつのまにか、僕は拳を天に振り上げていて、喜びの姿勢を保っていて、

 

 

「…やった………!」

 

 

 心の底から、喜びの言葉を吐き出したのだった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 現在、ただいまお花畑に帰還しております。勿論、森の外に生えてたきのみや、襲いかかってきた猛獣の死体を持ち帰って。

 

 本当は牢獄みたいなここに帰ってくる必要はなかったんだけど、やっぱり長く住んでいたこともあって、ここが住処って思うようになって…住めば都ってこういうことを言うのかもしれないね。地獄も住処って良く言ったものだよ。

 

 それはそうと、この食料達…を見ると、口の端から涎が垂れてくる。当然だ、三十年と近い年月の間、食料どころか水も飲まず食わずだったんだから。そんな僕が食料を前にして、唾液腺を制御するなんて、無理に等しい。

 

 たとえこのきのみが毒々しい見た目であったとしても、この猛獣が明らかに毒を持っていそうな色味だとしても、僕はこれを食べたい。今だったら大嫌いな虫でも食べられそう。やっぱり無理。

 

 さて、実食。…と行きたいところだけど、これって火を通さずに食べられるのかな。明らかに毒を持ってそうだし、加熱処理をしないと死ぬんじゃないかな?

 

 でも、火種なんて持ってないし…どうしよう。僕は狐の妖怪だし…狐火?あ、出た。

 

 へぇ、狐火って黒いんだね。人魂と同じって聞いたから、青い炎を連想してたんだけど…まぁいいや、じゃあこの狐火に肉を放り込んで…と。

 

 ………まだかな。

 

 ……………まだかな。

 

 ………良い匂いがしてきた。………まだだね。……肉汁が落ちてきた、今だ!

 

 タイミングを見極めた僕は、すぐさま肉を取り出して、齧り付いた。すると、僕の口内に刺激が走る。

 

 

 ___美味しい!

 

 

 口の中でじゅわっと滲み出る肉汁、外はパリッと、中はホルモンのように柔らかで、噛めば噛むほど旨味が出てくる。

 

 美味しい。この言葉以外の言葉が見つからずに、僕は何も考えずに肉を貪った。骨まで食べた。

 

 

「はぐっ…はぐっ…」

 

 

 いやでも、本当に美味しい。良く誰かが言ってた無限に食べれるって言葉をバカにしてたけど、今じゃその言葉を土下座して撤回できる。すいませんでした。

 

 視界の端っこで、残る肉が後少しだということに少し残念味を感じるけど、久々、超久々のご飯でもう僕は満足している。

 

 骨も残さずに完食した僕はその場に寝転んで、手の甲で口についた食べカスを拭う。あら、結構付いてた。

 

 

「…けふっ」

 

 

 思わずゲップが出ちゃった。でもお腹に溜まる空気って思わぬ嘔吐の原因って聞くし、人前じゃなかったら積極的に出したほうがいいと思う。人前でゲップするより、吐いちゃう方が嫌でしょ。オロロって。

 

 さて…お腹も満たしたことだし、これからどうしよう。人里を見つけるとか、このお花畑を後にして旅に出るっていうのも良いけど…あ、そうだ。

 

 転生初日から聞こえる、“あっち”のうるさい方に行ってみよう。多分人里か何かだろうし、行ってみる価値はあるよね。

 

 僕は立ち上がって、うるさい方の木を破壊していく。やっぱり硬いけど、お腹いっぱいになって元気一杯になった僕なら、この程度の木なんて割り箸に等しい。

 

 やがて、やたらと外までの距離が長かった森を折り抜けることに成功した僕は、驚きの光景を見ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 そう、この“金属”で構成された、天まで届くようなこの壁を。






 さて、古代スタートならではの化学都市の一部。

 鈴八くんはこれからどうするのでしょうか。

 それでは、また次回…


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【へ】 八意永琳



 来ました、八意永琳さん。

 最初のキャラクターである彼女は、鈴八にどんな影響を与えてくれるのでしょうか。

 では、ご覧あれ…


 

 

 なんと、ここは未来の世界だったのか。だったらあの森の仕様にも説明がつく。きっと近未来的な技術で、外に出ようとするとワープ的な仕組みでお花畑に戻されるのだろう。きっとそうに違いない。

 

 この高い壁は、きっと僕以外の妖怪が入らないようにするため。いや、多分だけど、空を飛ぶ妖怪とかもいるからこんなに高くしてるのかな。見たことないから分かんないけど。

 

 ただ、この壁は“侵入を拒むために作られた”っぽいね。叩いても響かないのは外からの攻撃に備えるため。壁が金属で、それに出っ張りも何もないのはよじ登りを防いで、そして直接誰かが外を見張ることがないようにするため。

 

 でも、これだけじゃこんな高い壁を作る原因と労働力が釣り合わない気がする。直接誰かが見張ることがないように…逆を言えば、直接見張ることができない原因が外にあるってことだよね。

 

 なんだろう…もしかして花粉症とか、ウィルス対策。でもこの壁を作るだけの技術があるのなら、外に出ても問題ないよね。対策が出来なくて、壁の中の人達が対応できない、謂わば未知。それか知覚は出来ているけど、どうしようもないもの。

 

 “妖力”?それだったら説明が付く。妖力が壁の中の人達に害を与えるものだとしたら、それを持っている妖怪をこの壁で遮断するのは当たり前のことで、当然遮断しているんだったら妖怪の研究も満足に出来ないわけで、当然妖怪の研究も満足に出来ないんだったら妖力への対策が出来ないわけだ。

 

 と、僕が勝手な推測にうんうんと頷いていると、横から気配がした。

 

 

「…(これは…妖怪と、あと人間?)」

 

 

 方向的に僕の方に向かってきているようだ。流石に妖怪と共闘して僕を倒しにきたわけじゃないだろうし、多分妖怪から逃げてるのかな。

 

 でも感じる妖怪の妖力的に、強くはなさそうだけど…

 

 と、見えて来た。茂みの向こうに、弓だけを背負った銀髪の女性…結構格好が奇抜だけど、美人さんだね。

 

 

「っ!また妖怪…!」

 

 

 向こうが僕を発見したようだ。でもこっちを見て絶望してる。…あ、僕も妖怪だからか。後ろの妖怪と同類と思われてるなんて…ちょっと心外だなぁ。

 

 でも、流石に見殺しには出来ないし、ここは助けるとしよう。

 

 

「…しッ!」

 

 

 僕が最大限加速できる速度で、女性を通り過ぎ、女性を追いかけていた妖怪の前に躍り出る。結構大きい。鱗もある。殴ったら拳が砕けそうだけど…あの木より硬いものはないと信じたい!

 

 脚が地面に着した瞬間、足首から手首に向かって力を受け渡し___

 

 衝撃。

 

 手のひらで水を叩いたような衝撃が拳に伝わって、その数瞬後に拳を中心に妖怪は爆散した。血はまばらに散って、僕にも後ろの美人さんにも降りかかった。すいません。

 

 頰に付いた血を拭って、美人さんに身体を向ける。こうして近くで見てみると、やっぱり美人さんだね。僕を恐れているのか、向いた途端びくりと身体を震わせるところも可愛いらしい。

 

 でも服装は奇抜。赤と青の配色で、上は右側が赤で、左側が青色。スカートは上の服と逆の配置をしていて、全体的に中華的な装いをしてる。所々に星座の模様があるけど、なんの星座かは分からないなぁ。

 

 っと、まじまじと見てたら失礼だね。まずは大丈夫か声を掛けないと。

 

 

「…大丈夫?」

 

「!、え、えぇ、大丈夫よ。ありがとう…ところで、貴女って妖怪よね?どうして人間の私を助けて…」

 

「…気まぐれ…かな」

 

「そ、それでもありがとう。感謝するわ。…じゃあ、私は行くわ。あんまり遅いと心配されるから。私は八意**…いえ、八意永琳よ。貴女は?」

 

「…黒金…黒金鈴八。あっちにある、硬い木の森に住んでる」

 

「それって___!いえ、もう行かないと、とにかくありがとう、鈴八!」

 

「…」

 

 

 そう言って美人さん…八意永琳さんは、門があるであろう方向に、壁に沿って走っていった。足取りが少し違和感があるけど、走る分には問題なさそうだ。

 

 取り残された僕は、浴びた妖怪の血を落とそうと、近場にある水場を探そうと、周辺を探索した。でも川があった形跡は見つかっても、肝心の水がなかったので、今日のところはこのまま森に帰ることにした。

 

 今となっては、拳じゃなくて貫手でも行けたんじゃないかと思う。思い出してみれば、あの妖怪も結構美味しそうだったし…あぁ、勿体無いことをした。それにまたお腹も空いて来ちゃったし…ひもじい…。

 

 

 

 

 

 翌朝になって、僕は日課の鍛錬をしていた。

 

 昨日気付いたことなんだけど、僕は拳を突き出す時に、狙ってるところよりちょっと下に行ってしまう癖があるみたい。他にもさっき試したけど、蹴りも少し下がる癖も。

 

 気づいたのは偶然だけど、見つかってよかった。狙い通りの所に拳を入れないと、その後も失敗が続くからね。あと硬いものを殴るときに、手首を骨折しちゃう危険性もあるし。

 

 蹴りだって、狙ったところをちゃんと狙わないと、バランスを崩してしまうこともある。それを未然の防ぐために、僕はこうやってこれから、鍛錬を始める。

 

 とりあえず今日は…少な目に3000回やろっかな、昼時には終わるでしょ。

 

 

 

 

 

 時間が経って、昼時になった。

 

 3000回もやれば癖も直ってきて、今じゃ狙った所に意識して拳を出せるようになってきた。蹴りも癖が治った上に威力が上がって、蹴りでも木を蹴り倒せるようになった。

 

 でも相変わらず筋肉は付かない。体質なのかな…それとも筋肉を作るためのタンパク質が足りないとか、食事の問題かもしれない。

 

 そうと決まれば、ちょっと森の外に出て一狩り行ってこようかな。

 

 

「…あ」

 

 

 あれ、八意永琳さんだ。昨日と変わらない格好でこの森に来てる彼女は、手に大きな籠を持って来てた。なんだろう、ピクニックしに来たのかな。

 

 

「えっと…鈴八、だったわね。昨日はありがとう。お礼と言ってはなんだけど…」

 

 

 すっと籠を僕に突き出して、渡してくる。

 

 僕は素直に受け取って、籠を覆う布を取り除く。

 

 すると中には、色とりどりの食材が、ぎっしりと詰め込まれていた。

 

 

「ここら辺妖怪しかいないから、食べる獲物が少ないでしょ?だからご飯をと思って…って凄く涎が出てるじゃない?!」

 

 

 八意永琳さんの言う通り、僕は目の前にあるご馳走から目を離せず、涎が止まらなかった。昨日から食べ物を前にすると涎を出してばっかりな気がする、なんだろう、狐の本能かな。

 

 何はともあれ、早く食べたい。食べてもいいかと八意永琳さんに目で訴えると、彼女は微笑ましげな表情で頷いた。

 

 

「…はぐっ」

 

 

 美味…!物凄く美味しい…!久しぶりの、三十年ぶりのまともなご飯だ!

 

 

「ふふ、ほら、そんなに慌てて食べなくてもご飯は逃げないわ?それはそうと箸の使い方上手ね貴女」

 

「はぐっ…はぐっ……うぅ…」

 

「泣くほど!?」

 

 

 不味い。いや料理がまずいんじゃなくて、ヤバい。美味しさのあまり目から汗が出て来てる。やっぱり三十年間まともな食べ物を食べてこなかったせいか、簡単な料理でさえ感動するようになって来てる。

 

 美味い美味い、食べれば食べるほど涙が出て来て、それを見かねた八意永琳さんが布で拭ってくる。視界の端で同情するような目で見てくる彼女が目に入ったけど、今は目の前の料理に気を取られててあまり意識を向けられない。

 

 やがて、籠にぎっしりと詰め込まれてた料理を全て平らげた僕は、箸を丁寧に籠の中に置いて、彼女に深々と頭を下げた。正座したままなので、土下座という形になったけど。

 

 

「良いわよ、お礼は。昨日助けてもらったお礼だし、なんなら明日も作って来てあげるわよ?」

 

「…(ぶわっ)」

 

「ちょ、だからなんで泣くの!?どこか痛い!?食中毒!?」

 

 

 僕は彼女が女神様に見えて来た。いや、女神様なのだろう。

 

 これからは八意大明神として毎日崇め奉って、彼女を信仰しよう。それだけ、一飯の恩は僕にとって大きいのだ。

 

 

「いや、やめてちょうだいね?私はただの薬剤師だし…あっ、そう!ここにある花を幾つか摘んで行ってもいいかしら!貴重な薬の材料になるの!」

 

 

 え?それなら幾らでも摘んでいって良いけど、遠慮しないで。元々こっちは気まぐれで助けただけだし、僕への恩は別にいらなかったんだよね。でも一飯の恩があるし、なんなら安全に帰れるようにあの壁のところまで護衛しようか?

 

 そう問いかけ、提案したが、彼女は首を振って背中に掛けている弓を取り出す。

 

 

「昨日は霊力が足りなくて逃げてたけど、霊力が回復した今なら私はそこら辺の妖怪より強いわ。ほら、こんなふうに」

 

 

 そういうと彼女は弓を引く動作をする。すると、件の霊力とやらで作られた矢が光りながら現出した。そして彼女が指を離すと、その光る矢は真っ直ぐと、目にも止まらない速さで空を駆け抜けた。…この森の木に向かって。

 

 

___パチュンッ

 

 

 なんとも気の抜けるような音を立てながら、木に当たった光る矢は霧散した。当然、木には傷一つつけられていなく、彼女は自信満々に矢を放ったためか、少し顔を赤らめていた。

 

 …護衛、しようか?

 

 

「お…お願いします……!!」

 

 

 

 






 銃弾やミサイルでも傷一つつけられない『迷いの森』の木を破壊する鈴八君の拳って一体…。

 次回は、月移住計画に写ろうと思います。

 それでは、また次回…


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【と】 変化



 読み方は”へんげ“です。

 妖怪としての狐にありがちな能力を付け足していこうかと思っています。

 では、ご覧あれ…


 

 

 さて、僕が永琳と出会って早5年。時間が過ぎるのが早いね。  

 

 僕と永琳は名前で呼び合う仲になり、付き合いはしてないけど、たまに僕の所に永琳が泊まりに来たりする。

 

 その時、最初の頃は永琳が布団や屋根代わりの布を持って来てくれたりもしたけど、今となっては自分ですぐに作れるから要らなくなった。

 

 というのも、僕はまた新しい能力に目覚めたからだ。名前は『変化』、物の見た目や重さを、妖力の許容範囲内で変化させることができて、任意で解除できる優れものの能力さ。また狐らしい能力を自覚できた。

 

 でも、僕は最初からこの能力に目覚めてたらしい。何故そう思うかと言うと、今僕のこの身体も、また変化で変化させたものだからだ。

 

 本当の身体は狐の身体で、毛並みは黒く、足首や首元に金色の模様がある。永琳からはこの状態の事を『黒金狐(くろかねぎつね)』と呼ばれていて、寝泊まりに来る時よくこの状態で抱き枕にされることも多々ある。

 

 それはそうと、もう一つ。実は妖力がすごく減っちゃったんだよね。理由は分かってるけど。

 

 今は変化で隠してるけど、僕にはもう一つ狐の尻尾が増えた。殆どの妖力はその尻尾の中にあって、その尻尾の変化を解除すると妖力は元に戻るって仕組みってわけ。

 

 今まで少しだけ妖力に頼った生活を送ってきたけど、今となってはその妖力もロクに使えないから、これは良い修行になると思う。鍛錬の時も無意識のうちに妖力を使ってたみたいで、今全力で森の木を殴っても、半分凹ませることしか出来なくなっていた。

 

 これからは本当に、素の身体能力でこの木を折らないといけないと思うと、また長い修行が続くのかと思うと、正直ちょっと楽しみになる。いつのまに戦闘民族みたいな性格になったんだろうと思ったけど、思い出せない。でも別に不便は感じてないから、この性格を直す気はない。

 

 さて、そうと決まったらまた鍛錬だ。永琳もさっき帰ったし、今からは思う存分鍛錬が出来るぞ!

 

 森の木の前にたった僕は、意気揚々と拳を構えて、いつも通り、拳を放った。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 彼と出会ったのは、今から五年前。

 

 薬の材料となる原料を採取するために壁の外に出て、霊力切れで雑魚妖怪から逃げていたあの日の事。

 

 当時の私はまだ未熟な薬剤師で、知名度もあまり無かった。構えていた診療所も都市の端っこで、滅多に客が来ることはなかったけれど、私と仲良くしてくれる人達は怪我や病気に掛かると真っ先に来てくれる。

 

 治安の良い都市だから、平和に診療所を営んでいたわ。でも、ある日のこと。

 

 

『永琳さんッッ!!私の、私の娘がっ!』

 

『かひゅっ…ひゅーっ…ひゅーっ』

 

『ッッ!?今すぐ診察室へっ!』

 

 

 常連の、いつも薬草の採取などを壁の外に行って来てくれる狩り人の男性が、重症の娘を連れて私のところに来た。

 

 どうやら、昨日の薬草採取から帰った時、娘と一緒に寝たらこうなってしまったとか。そんな状況で罹る病気は一つしかない。

 

 

『…穢れによる過敏反応…あなた、都市から帰った時に“消毒”をしていないわね?』

 

『うっ、ま、まさかそれが原因で!?』

 

『当たり前よ!穢れに免疫が出来ているあなたは問題ないけど、穢れに免疫を持っていない者に穢れで汚染されたあなたが近づいたり触れたりすればこうなるのは当然だわ!』

 

『あ、あぁ俺はっ、なんて事をっ!』

 

 

 普通、彼のような狩り人が外から帰ってくる際、身体についた穢れを除去するために“消毒”をしなければいけない。基本マニュアルにもそう書いてあるはずだし、そうしなかった場合のこともちゃんと記載されてあったはず。

 

 

『参ったわね、今ここに症状を治す材料がない…仕方ないわ、私が出向くしかないようね』

 

『お、俺が取ってきます!俺の責任だ、俺が行かないとっ!』

 

『ダメよ。この子の症状を治す薬は妖怪の溜まり場にあるの。霊力の少ないあなたじゃ、囲まれて終わり。私が出向くわ』

 

『でもっ…ッッ!!、わかりました…お願いします…!』

 

『えぇ、必ずあなたの娘は助けるわ』

 

『ありがとうございます…っ!』

 

 

 彼の娘が罹っている症状は、妖力を寄せ付けない特殊な花粉を持つ花を採取しなければいけない。だけど、その花には、近くに妖怪を寄せ付ける匂いを発する特性がある。だから採取する際はかなり命懸けなのだけど、私は採取に赴いた。一般人より霊力が多いっていう慢心があったのもあるけど、何より、人が苦しんでいる姿を見て、大人しくするわけにはいかなかった。

 

 妖怪は、一匹だけでは問題ないけれど、群れとなったら厄介なことこの上ない。連携も何もない、攻撃は仲間も巻き込むために対処がし辛い。それに妖怪には基本体力切れというものがなく、攻撃の手は一向に休まらない。

 

 

『グァウラァッッ!!』

 

『くっ……!』

 

 

 不味い!と思った時にはもう遅くて、私の霊力は底をついて、脚に一撃を貰ってしまった。走る分には問題ないけれど、痛みが尋常じゃなかったのは覚えている。

 

 それでも足を動かしたのは、苦しむあの子の、助けてくれと懇願する患者の辛い顔を思い出したから。助けなきゃという使命感、あの子の笑顔が見たいという私の思いから。

 

 薬草は懐に、あとは都市に帰るだけの私は妖怪から逃げて、かなりの距離を走ったと思う。当然、かなりの距離を歩いてきたからだけども。

 

 走っていくうちに都市の壁が見えて、あと少しだと足に力を入れて加速した。妖怪も逃げられると思ったのか私と同じように加速していた。

 

 あと少し…あと少し…!というところで、私の前に一匹の妖怪が立っていた。

 

 

『っ!また妖怪…!』

 

 

 思わず悪態をついてしまったけれど、その時の心情からすると仕方ないと思う。でも、その妖怪は私の予想を大きく裏切った。その妖怪も私に襲いかかると思ったが…唐突に姿を消して、どこに行ったかと思えば、私も後ろで私を追いかけていた妖怪と相対していたのだ。

 

 腰を深く落としていて、片腕を弓のように後ろに引き絞って、狙いを済ましている。追いかけてきていた妖怪はその妖怪に大きな爪を振り下ろして…花火のように、全部を爆発させて消し飛んだ。

 

 彼がやったことは至極単純で、ただただ殴っただけ。ただその速度が尋常ではなく、私の目を持ってしても“起こり”すら見えないほどの速さで、振り抜いた後の姿しか目視できなかった。

 

 後ろ姿は、踵まである黒い長髪に、狐…だろうか、耳と尻尾が生えていて、身に付けているのは金色の刺繍が所々にある黒い和服。じっと見ていた私に、彼は振り向いた。

 

 ハッと息を呑むほどの美貌。区域一の美人と呼ばれていた私でも言葉を失うような美しさがそこにはあった。

 

 細い柳眉に、こちらを見据える夜空のような瞳。流れるような鼻梁と小ぶりな唇は完璧な位置に配置されていて、天は彼に二物を与えすぎじゃないかと疑うほど。

 

 

『大丈夫?』

 

 

 そこから、何を話したかは覚えていない。急いで帰らないといけなかったし、穢れの消毒のために急いで処置をしなければいけなかったから。

 

 その日はあの妖怪が気になって一睡もできなくて、お礼に何をしたら良いだろう…と悩んで、一つ思いついた。あの近くには動物もきのみもないし、料理を作ったら良いのではないか。

 

 どう思った私は、思い立ったが吉日と言わんばかりに急いで料理を作って、彼の下に赴いた。場所は『迷いの森』。都市の近くにある、未確認、未探索の謎に包まれた森で、どんな重機を持ってしても伐採できなかった区域の一つ。なんだけど…森の外から一直線、彼の下にたどり着くまでの森の木は、一本残らず拳の跡を残して倒壊していた。

 

 まさか拳一つでこの森の木を殴り倒すとは思わなかったけど、昨日のあの惨状を見れば納得がいく。そう思いながら森を進むと…彼の住処である花畑で、彼と目が合った。

 

 

『あ…』

 

 

 相変わらず、綺麗だと思う。未だに着物についた血が残っているということは、水浴びすらしていないことになる。どうすればそんなに綺麗になるのかしら…。

 

 

『えっと…鈴八、だったわね。昨日はありがとう。お礼と言ってはなんだけど…』

 

 

 彼に料理の入った籠を差し出して、彼はそれを受け取った。

 

 

『ここら辺って妖怪しかいないから、食べる獲物が少ないでしょ?だからご飯をと思って…って凄く涎が出てるじゃない?!』

 

 

 物凄い量のよだれだった。

 

 早く、早く食べても良いかと、待てをされた子犬のような視線で訴えかけてくる彼の眼差しに私は思わずこくりと頷いた。

 

 彼は美味しそうに食べてくれていた。まさか涙を流す上に崇拝しようとしてきたのは驚いたけど…あ、あともう一つ収穫で、この花畑の花を持っていっても良いという許可を得られた。

 

 私の能力、『あらゆる薬を作る程度の能力』の応用で、私の目には薬の材料となる植物などが見えるの。この花畑にも材料があると思って能力を使ったんだけど…

 

 まさかこの花畑の全てが薬の材料になるなんて思いもしなかったわ。それも、どれも伝説と大差ないほどの効力。これならあの薬も作ることも夢じゃなくなってきそうね…

 

 

『…送っていく?』

 

 

 私が帰る頃に、彼はそう私に提案してきた。でも私は大丈夫だと言った。あの時妖怪から逃げていたのは霊力が底をついていただけであって、今は大丈夫だと。試しに自信満々でそこら辺の木に霊力の矢を撃ったのだけど…

 

 

___パチュンッ

 

 

 気の抜けるような音を立てて、霧散した私の矢。その時は、顔から火が出るかと思ったわ…。






 永琳の回想シーンです。

 次回からは人妖大戦の前兆が、そして妖怪達の首魁がつまみ食いをしようと…

 では、また次回…


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【ち】 異変



 今回は戦闘シーンあります。

 結構わかりにくいところもあると思いますが、どうかご容赦を、

 では、ご覧あれ…


「八意様!急患です!妖力の過敏反応あり!」

「八意様!妖力の過敏反応が都市の三分の一全体に行き渡っています!現在原因を調査中です!」

「八意様!」

 

「これは…一体どういうことなの…!?」

 

 

 昨夜から続く、都市全体に広がる急性妖力過敏反応の患者が、都市の端にあるはずの永琳の診療所までに流れ来る事態に、永琳は忙しなく働きながら唖然としていた。

 

 原因は謎。発生源も謎。措置として狩り人の壁外の出入りを禁じたが、それでも収まることを知らずに患者は増えていく。治しても治しても次から次へとてんてこまいにやって来る患者の波に、次々と都市内の診療所は機能しなくなってきていた。

 

 

「8番から12番を余すことなく使って!調合は一回も失敗したらダメよ!一回の失敗につき一人死ぬと思いなさい!」

 

「「「ハイッッ!!!」」」

 

 

 少なからず居た永琳の診療所の助手達が、忙しなく手を動かし、薬を調合する。それを見届けた永琳は、次の調合へと手を伸ばしたのだった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 これは…ヤバいね。どんどん妖力に汚染されていってる人間が増えてる。

 

 僕は壁の上に『黒金狐』の姿で座りながら、冷や汗を垂らして“空気に溶けている妖力“を眺める。その範囲は都市付近を丸々包む位で、当然僕よりも妖力の量は多い。

 

 この妖力は人間にしか作用しないようで、妖怪である僕には何の影響もない。ただちょっと息苦しくはあるけど。

 

 それに…都市に一番近い山の頂上にいる存在から溢れ出る、あの妖力。底が知れないし、高みが見えない。まるで海、まるで空。どうして何をすればそんなに強くなるのかが知りたい。

 

 とりあえず、これ以上ここにいると都市の人間に見つかってしまう。見つからない内に僕は退散しようと、壁の外の方に身体を向けて…

 

 

「『よぅっ!』」

 

 

 吹き飛ばされた。壁の内側に。

 

 都市の中にある高層の建物を三件位突き破って、四件目にめり込むことでようやく止まった身体。腹部にはくっきりと拳の跡が残っていて、相当強い力で殴られたらしい。

 

 あれは何だ、いつのまにとかそんな事を言っている場合じゃ無い。早く体勢を立て直さないと___

 

 

「『また会ったな狐!』」

 

 

 また衝撃。今度は咄嗟に妖力で身体を包んだから衝撃は少なかったが、それでも都市を横断して吹き飛ばされる。

 

 っく、迎撃するにもこの姿じゃ戦いにくい!早く戻らないと!

 

 

「『遅えなお前、堕ちろ』」

 

「かふっ___!?」

 

 

 今度は見えた!でも掠って落とされた…!

 

 大きな轟音を立てて僕の身体は都市外の地面に叩き落とされて、大きな土煙を巻き上げた。クレーターの中で変化を終えて立ち上がる僕と、僕を一方的に叩きのめした謎の妖怪が土煙から姿を見せ合わせる。

 

 …練度が僕の比じゃない。相手の妖力もそうだけど、立っているだけなのに隙がない。これは僕のような鍛えた強さじゃなくて…実践の中で鍛えられた、殺し合いに慣れた強さだ…!

 

 それに姿も、赤い肌に大きな角。唯一青い、後ろで纏められた髪がその妖怪から滲み出てる妖力で揺れている。

 

 …永琳から聞いたことがある。都市以外の人里が壊滅した原因、百鬼夜行。数多の妖怪を束ね、その強さで頂点に立つ、妖怪最強の…

 

 

「【鬼】…!」

 

「『おぉ、俺の事を知っているのか。そりゃ自己紹介が省ける。そうさ、俺が鬼の百鬼、百鬼夜行の主とは俺のことよ!それよりも!』」

 

 

 と、鬼の百鬼は僕を指差して、

 

 

「『お前!俺の百鬼夜行に加われ!』」

 

「…え?」

 

 

 え?

 

 

「『今まで俺の五割の拳を受けて立っていた奴どころか、そんなにピンピンしている奴もいなかった!つまりお前は強い!俺の配下になれ!』」

 

「…断ると、言ったら?」

 

「『そりゃお前、当たり前な事だろ』」

 

 

 百鬼は鬼らしい、邪悪な笑いを浮かべて、

 

 

___殺す。

 

 

 僕は妖力を余す事なく身体全体に纏い、構える。相手はまだ動いていない、先手は打てる!

 

 一歩の踏み込みで鬼の前へ、そこからいつも以上の全力で拳を叩きつけるっ!

 

 

「『はっ、そんだけか、狐っ!』」

 

「ふぐっ…ぅ!?」

 

 

 そんな、僕の全力が通用しないなんて…いや、まだ僕には余力がある。まだ見せていない手札がある。

 

 

「『ふんっ!はっ!』」

 

 

 でも、相手の手数が多すぎて中々手札を切れない。全力で身体に纏わせているおかげで痛手を負ってないけど、そろそろ妖力が底を尽きそう。

 

 

「『オラオラ!守るだけか狐ェッッ!!』」

 

「くっ……はッッ!!!」

 

「『うぉおう!!?』」

 

 

 苦し紛れに放った拳が丁度顔面に入ったみたい。でもダメージは無さそうで、余計に煽っちゃったかもしれない。

 

 

「『クハハハハ!!!良いぞ!良いぞ狐ェ!人間の大虐殺の前にこんな戦いができて俺は満足しそうだァ!!』」

 

 

 は?今なんて…

 

 

「何を…」

 

「『俺は今日より、百鬼夜行を連れあの壁の中にいる人間を全て皆殺しにする!本当は今からの予定だったが、今はこの戦いが終わるまで!心置きなくやろうぜ!』」

 

 

 …。

 

 させるわけがないだろ。

 

 

「『おー?ようやく反撃の手数が多くなってきたな、だが効かんぞ!』」

 

 

 あそこには、僕の友達が、永琳がいるんだ。そんな事、させるわけがない。

 

 

「『どうしたどうしたァ!弱いぞお前ェ!』」

 

 

 でも、そろそろ妖力が底を尽く。拳に力が入らなくなってきた、足の踏み込みが弱くなってきている。僕の心が…折れかけている。

 

 

「『終わりだ!狐!』」

 

 

 僕の命を奪わんと、鬼が拳に膨大な妖力を纏わせる。その妖力は深く禍々しく、正に自分の存在を大きく表しているようだ。鬼にふさわしい、力強い力。

 

 対して僕は、大した実力を持たない半端者で、目の前の彼よりも妖力の使い方が下手。強者は彼で、弱者が僕。弱肉強食の理は深く成立していて、僕は彼に殺されるしかないのだろう。

 

 だけど…

 

 

「…い」

 

「『あん?』」

 

「負けられない…!」

 

 

 負けられない理由が…僕には、ある___!

 

 

『合格…いや、及第点じゃ、黒鉄鈴八』

 

 

 

 刹那。僕の妖力は、底から一気に満たされた。満たされても湧き上がる妖力は止まることは知らずに、僕の身体から溢れ出している。

 

 

「『お前…最っ高だなァ!この状況で、尻尾も増やして…どれだけ俺を喜ばせる狐ェ!』」

 

「…僕は、狐って名前じゃない。…」

 

 

 ___『黒金狐』黒鉄鈴八だ。

 

 

「『そうか、鈴八!俺は百鬼!百鬼夜行の主!』」

 

「…ここで、殺す!」

 

 

 両方の妖力が、極限にまで高まった瞬間(とき)、僕と百鬼は動き出した。

 

 両拳がぶつかり合い、遅れて妖力がぶつかり合い、それは、自分が操る妖力の動きを凌駕している事を証明していた。

 

 これじゃダメだ。妖力の使い方は、こうじゃない。もっと、早く、速く、疾く操作を、妖力と一体を。

 

 段々と激しさを増す中で、僕の妖力の操作性能は、著しく上昇し、彼の拳を少しずつ退けている。少しずつ、少しずつ…彼の拳が、少しずつ“砕け始める”。

 

 

「『っ!?』」

 

「まだ…まだだ…!」

 

 

 妖力の動きが、少し遅れた、少し早かった。その少しのズレを修正して、修正して…今この瞬間、ピッタリと、時計の針が十二時で合わさるような感覚を感じた。

 

 

「『くく…くあハハハハ!!!面白いぞ!だったら俺は“能力”を解禁だ!』」

 

 

 すると、砕け始める彼の拳は、“時が止まった“ように砕けなくなり、僕の拳とぶつかっても壊れなくなってきた。

 

 どういう能力なのだろうか。

 

 そう思っていると、彼が勝手に自分の能力のことを話し始めた。

 

 

「『俺の能力は、『固定』!空間から時間、更には己の肉体の損傷まで固定する強力な能力!突破法は…俺でも分からん!』」

 

 

 関係ない、どんなに硬くなっても、僕は殴って壊すだけだ…!





 次回は『修復』と『固定』の対決!

 勝利の雄叫びは、誰が挙げるのか!

 では、また次回…


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【り】 鬼殺し



 さて、『修復』vs『固定』の戦い、勝利の女神はどちらの味方に…

 では、ご覧あれ…


 百鬼夜行の主、鬼の百鬼。

 

 『黒金狐』、妖狐の黒鉄鈴八。

 

 僕と彼の闘いは時間が経つほど激しさを増し、周囲に妖力の残滓を撒き散らしていた。

 

 

「『くあははははははははは!!!』」

 

「…っ!…!」

 

 

 片や、『固定』。片や、『修復』。

 

 固定された拳に拳を打ちつける僕の拳は砕かれるも、『修復』の能力で瞬時に回復。妖力の増加によって威力が増した僕の拳は、段々と僕自身の妖力に耐えられなくなってきていた。

 

 原因は妖力で拳を完全に纏わせていないからだ。少しでも妖力の操作が遅れたり、早かったりすると妖力の纏は綻びを広げて意味を無くしてしまう。ならばどうすれば良いか、妖力と拳のタイミングを全く同時にすれば良い。

 

 だけど、それは技術的に至難の技だ。それも戦闘中に、殴り合いの最中で行わなければいけない。だけどやるしか無い。壁の中には僕の友達がいて、その友達が今も頑張っているからだ。

 

 綿密な操作。針の穴に糸を二本同時に入れるような難易度だが、今の状態だと何故か出来そうな予感がする。今も、拳の方が早かったけど、さっきよりも拳と妖力の間が縮まっている。

 

 力と力のぶつかり合いの中で成長する僕の技術は、段々と相手の力を上回ってきていた。

 

 

「『力が強くなってんな鈴八ァ!楽しいなァ!』」

 

「…(まだ…まだ高められる)」

 

 

 百鬼は単純に、妖力を拳に固定して殴っているから僕の妖力の壁を無視して攻撃できる。だから僕は同じように妖力で拳を覆って百鬼の拳と相殺させているけど、このままじゃジリ貧になる。

 

 妖力を、覆うじゃなくて、ぶつける。拳と同時に相手にぶつけて、相手の妖力の壁を突破する。以前の僕なら出来なかったけど、今はできる気がする。

 

 ………今!

 

 

___バチィンッ!!!

 

 

「『うお!?』」

 

「っ!」

 

 

 成功した。妖力と同時にぶつけた僕の拳は黒い衝撃波を出して百鬼の拳を弾き飛ばした。

 

 腕を突き出したまま僕は、今の感覚を忘れないうちにもう一度拳を放った。

 

 

「『ぐっ!こいつっ、“直接体内に攻撃”っ?!』」

 

 

 どうやら僕の拳による打撃は百鬼の『固定』をすり抜け、直接体内を傷つけているようだ。それもそうだ、妖力で満たす為に『固定』はあくまで“体外”しか固定できない。もしも拳の中まで固定してしまったら、到底妖力は操れないだろう。

 

 だから、百鬼は“体内を固定できない”。体内に直接痛みを与える攻撃を、防ぐことができない。

 

 

「『くっ、ははは!かふっがはっ!』」

 

「流す、流す…!」

 

 

 僕の体内への攻撃の要は、妖力によるもの。だから、僕のこの攻撃は妖力を“流す”ことが重要になる。拳を妖力と同時に叩きつけ、妖力を流し、相手の中に勢いよく妖力を叩きつける。この間の精密な操作による工程が重要になる。

 

 流石にこの損害を無視するわけにはいかなかったのか、百鬼は初めて僕から距離を取って、肩から息をして息を整えていた。無論僕も息が上がっており、構えてはいるが、かなり消耗が激しい。

 

 

「『はぁ…はぁ…く…くくっ、お前はやっぱり最高だ!もう一度問う!俺の仲間にならないか!』」

 

「こと…わる………ッッ!!」

 

「『やっぱりか!本当ならこんな卑怯な手は使いたくなかったが…』」

 

 

 そういうと百鬼は頭上の遥か高いところまで、妖力の塊を打ち出し、爆破させた。どういう意図だろうか。

 

 …いや、待って。百鬼は百鬼夜行という妖怪の群れの主。つまり、百鬼のいるところには沢山の妖怪がいるわけで…ッッ!!

 

 じゃあ、今その妖怪の群れはどこに!?

 

 

「『たった今、俺を除いた百鬼夜行は人間の集落に向けて進行を開始した。数刻もしないうちに、到着するだろうな。勿論、それには俺も参加したい。だから…さっさと、この闘いに終わりを訪れさせようぜ!鈴八ァ!』」

 

「お…前ぇぇぇッッ!!」

 

「『奥義…『三歩必殺』!』」

 

 

「『一歩ォ!』」

 

 

 百鬼の一歩目の踏み込みは地を割り、

 

 

「『二歩ォ!』」

 

 

 二歩目の踏み込みで妖力がばら撒かれ、僕はバランスを崩し、

 

 

「『三歩…必殺!』」

 

 

 三歩目の踏み込みで…僕の顔面に拳が叩きつけられた。

 

 百鬼の拳の中に込められた妖力の密度。それは今までよりも強大で、何より強かった。でも…

 

 

___ガッ…!

 

 

「『なん…!?』」

 

「負け…ない!」

 

 

 僕は足を下げて踏ん張り、百鬼の拳を押し返した。

 

 

「『く、あははははは!最高ォ!』」

 

 

 それからは、今ままで以上の強烈な殴り合いになった。

 

 百鬼の拳を妖力と同時に叩きつける事で相殺。

 

 相殺。相殺。短い間での高速な殴り合いは周囲に衝撃波を齎し、近くに生えている草木は吹っ飛び、地面は段々と抉れだす。

 

 百鬼の邪悪な形相は見る影もなく、ボロボロで、普段は隠してあったであろう二本目の角が出ている。かく言う僕も気付けば二本目の尻尾が出ており、その分の妖力がまた上昇した。

 

 だが、それでも百鬼と互角。尻尾が一本でも互角だったはずなのに、二本目でも互角…と言うことは、百鬼もまた、僕と同じように闘いの中で成長しているのだと思う。

 

 その二本目の角も、この戦いで生えたのだろう。だったら、僕はまたその上を行くだけ…!

 

 

「はあああああああああッッ!!」

 

「『うらあああああああああああッッッッ!!!!』」

 

 

 気合を入れて放った拳は、百鬼の拳と同じく弾かれて僕たちはバランスを崩した。だけど、問題ない。僕は尻尾で地面と背中を支え、“頭に妖力を集中”させながら勢いよく起き上がって、

 

 

「「『ふんっっ!!!』」」

 

 

 向こうも同じ事を、頭突きを繰り出した。

 

 だけど、頭突きでの勝負は僕に軍牌が上がり、百鬼は後ろによろめいた。

 

 

「『なんっ…硬っ』」

 

 

 最後の一撃として、僕は拳にありったけの妖力を込めて___

 

 

「くたばれ…!『鬼殺し』ッッ!!」

 

「『がっ___ッッッッ!!!!』」

 

 

 百鬼の顔に、その勢いのまま百鬼を地面に叩きつけた。

 

 地面はさらに陥没し、大きなクレーターを作り出して…この戦いは、ようやく終わった。

 

 

「はっ…はっ…!」

 

「『………くくっ』」

 

「ッッ!!」

 

 

 まだ意識があったなんて…!

 

 僕はまた構えて、百鬼を見据える。百鬼は立ち上がろうと地面に手をつき始めたが、やがて手から力が抜けるように、また倒れ伏した。

 

 

「『あ“ーっ、もう無理だ。立てねえ!お前の勝ち!終わりっ!』」

 

「…はぁ〜…!」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間僕はへたり込んで、地面に背中から倒れた。ゴツゴツして背中が痛いけど、身体の痛みに比べたら問題ない。

 

 

「『初めて負けたぜ…くくっ、丸々百年はもう戦わなくても退屈しなさそうだ!つーかお前頭硬すぎんだろ!まだ痛えよ!』」

 

「知らないよ…」

 

「『にしても…くくっ、『鬼殺し』か。その名に相応しい良い拳だったぜ!』」

 

「…それは、良かったよ」

 

 

 すると百鬼は徐に、天に向かって手のひらを向けて、先ほどと同じように妖力を空に二回打ち出した。

 

 

「『壱は進軍、弐は帰還。今、百鬼夜行は進軍をやめて、妖怪の山に帰りつつある。…お前の勝ちだ、お前が百鬼夜行を退けたんだ、黒鉄鈴八』」

 

「…あぁ」

 

「『…なぁ、鈴八』」

 

「…百鬼夜行には入らないよ」

 

「『違えよ。なぁ、俺と友達になろうぜ?これだけ拳で語り合ったんだ、もう友達通り越して親友だろ』」

 

「…じゃあ、百鬼は第二の友達ね」

 

「『あん?一番目がいんのか』」

 

「うん、人間の…永琳。壁の中にいる人間の友達」

 

「『っかー!だったら俺を止めるわけだ!すまねえな!』」

 

「…大丈夫」

 

 

 それにしても、疲れた。妖力はもうすっからかんだし、拳ももう満足に力を込めて握れない。立とうとしても足が面白いくらいに震えてしまう。

 

 

「…立てない」

 

「『くく…ふぅ…どっこいしょ!』」

 

「…!」

 

「『ほら、手ェ取れ』」

 

「…ありがとう」

 

 

 僕は百鬼の手を取ると、百鬼は僕を引き上げて、肩を貸して立たせてくれた。クレーターの中から百鬼と共に出ると、周囲は酷い有様だった。

 

 

「『あーあー、やっちまってんなぁ俺ら。くく、まぁ大体俺の所為か』」

 

「…死骸もいっぱい…じゅる」

 

「『あん?お前あれ食うのか…』」

 

 

 百鬼がドン引きしてこっちも見るが、僕はもう狐火の準備ができている。今日は一日中何も食べてないし、いい加減お腹が___、

 

 

「…!」

 

「『はっ!?おい、俺は確かに___百鬼夜行の進行は止めたはずだぞ!?』」

 

 

 突然の爆発音に振り向いた僕の視界に映ったのは…もくもくと、黒い煙を上げる都市の壁だった。






 『三歩必殺』の原点、『鬼殺し』の原点が、今誕生。

 では、また次回…


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【ぬ】 別れの刻



 一世一代の大勝負に勝つは、黒き金狐の黒鉄鈴八。

 今宵最大の危機が、友に訪れる…

 では、ご覧あれ…


 

 

 

「急いで…百鬼!」

 

「『分かってらぁ!しっかり捕まっとけ鈴八!』」

 

 

 今僕は、百鬼の背中にしがみつきながら都市を目指している。

 

 どうやら、首魁である百鬼の統率外の妖怪の仕業らしく、百鬼が急いで進行跡を追うと、困惑している百鬼夜行がいたらしい。命令違反をしている妖怪は誰一人としていなく、百鬼と同じく、別の妖怪もこの日に都市に侵略を目論んでいた妖怪がいるようだ。

 

 

「『おそらく、『波旬』の奴だろォな…』」

 

「『波旬』?」

 

「『あァ、鴉天狗の波旬。俺と唯一渡り合える奴だが、その本質は姑息。能力も姑息で、『操作』っつー妖怪も人間も操る能力を持ってやがる』」

 

「なるほど…じゃあ今の襲撃も…」

 

「『あぁ。十中八九、波旬の『操作』で操られた妖怪の仕業だろ。アイツは自分で手を汚さねえからな。クソ、腹が立つぜ!』」

 

 

 そういうと、百鬼は怒りの所為か更に加速する。既に衝撃波が出るほどに走っているので、背負われている僕からしたら溜まったものじゃない。早く着く分にはいいけど。

 

 それにしても、『操作』…。恐らく、それは妖力の操作も含まれているだろうし、もしかしたら僕と同じ技術を使ってくるかもしれない。用心しないと…。

 

 と、警戒を深める僕と、憤怒の表情を浮かべながら走る百鬼は、黒煙の増えた都市へと辿り着いた。

 

 入り口である鉄の門は見るも無惨に壊されており、中には見る限りの妖怪。そしてその妖怪と戦っている、永琳曰く『狩り人』の姿。明らかに劣勢であり、どうやら僕達も人間側で参戦するしかないようだ。

 

 

「…いくよ、百鬼」

 

「『あー…俺はいかねえぞ?』」

 

「え?」

 

「『ったりめえだろ。どこに人間を助ける妖怪がいるってんだ。俺は獲物を奪いやがった波旬に喧嘩ふっかけてくっから、お前は好きにしろ』」

 

「…仕方ない」

 

 

 此処からは、僕一人でやるとしよう。

 

 百鬼は「『馬鹿は高いところが好きなんだったか!』」と空の方に跳躍して、どこかに行ってしまった。僕は両手に妖力を込めて、できる限りの速さで、初めて、都市の内部へと侵入した。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「___!数が多い!」

 

「ひ、ひぃいい!!」

 

「危ない!…全く、戦えもしない一般人を此処に寄越すなんて!上は何を考えてるの!」

 

 

 突然、鉄の門を壊して侵入してきた妖怪の数々。永琳とその狩り人、そして妖力という穢れに免疫がある者は、戦えない者も戦場に追い出されていた。

 

 

「はっ…はっ…不味いわ、霊力が尽きてきそう。どこか安全な場所は___!」

 

「八意様!新たな妖怪が門から侵入!ですが…次々と妖怪達を殺して行っています!」

 

「何ですって!?」

 

 

 妖怪殺しの妖怪。戦っている最中の永琳に届けられた情報は、今の永琳にとっては混乱する要素でしかない。新たな妖怪、妖怪達を殺し回っている、つまり人間を助けている。

 

 

「もしかして___!」

 

「はぁっ!……大丈夫?」

 

「鈴八!」

 

 

 そう、そんな妖怪は黒鉄鈴八ただ一人。門から入ってからずっと人間を襲う妖怪を殺し回ってから、数分。ようやく永琳を見つけた鈴八は辺りの妖怪達を殺してから永琳の前に立った。

 

 

「貴方、ボロボロじゃない!そんなになるまで…一体誰が!?」

 

「まって、落ち着いて。…今、この惨状の原因に、僕の友達が向かってる。都市の防衛は僕に任せて、永琳達は奥に行って」

 

「奥に行ってって…じゃあ貴方は!」

 

「永琳」

 

「…!」

 

 

 鈴八が永琳の名前を呼んで、永琳を黙らせる。

 

 

「…また明日」

 

「…!___えぇ、また明日!退がるわよ!皆!」

 

「は、はい!…狐の妖怪さんも、気を付けて!」

 

 

 会話の流れで、鈴八が味方だと言うことに気付いたのだろう。まさか応援されるとはつゆ知らず、呆然とした鈴八だが、少しすると笑みを浮かべて迫り来る妖怪達を視界に捉えた。

 

 

「ここは…通さない!」

 

 

 ありったけの妖力を拳に、そして間合いの外側にいる、飛びかかってくる妖怪目掛けて、思いっきり拳を振り抜いた。

 

 瞬間、拳を振る際の風圧が妖力とともに妖怪達に押し寄せ、数匹の妖怪を吹き飛ばす。中には巨躯を持つ妖怪もいた為、その巨体に踏み潰された妖怪も何匹かいた。

 

 拳、蹴り、頭突き、膝、肘、踵。使える身体の武器を全て使い、妖怪達を殲滅していく姿はまさに修羅。妖怪達の血を浴びながら動き回るその光景は、まるで芸術。

 

 動きの最適化。とにかく敵を素早く殺すことに特化した鈴八の動きは蝶のように舞い、蛇のように掻い潜り、鬼のように剛腕を振るう。

 

 数えられぬほどいた妖怪の群れは、いつしか片手で数えられるほどしか居なくなり、対照に、鈴八の周りには数えられるほどの妖怪の死体が転がっている。

 

 

「はー…はー…」

 

 

 百鬼との戦いの傷がまだ癒えていない。能力によって『修復』はされているが、体力までは回復できるわけではないのだ。

 

 動きに鈍さが加わり、その隙を付いた妖怪の一撃が、鈴八の脇腹に入ってしまった。

 

 

「がっふっ!?」

 

「グルル…!」

 

 

 膝を突いた鈴八に迫る、残りの妖怪。此処までかと、友達である永琳の顔を思い浮かべた鈴八に、救いの手が差し伸ばされた。

 

 

「『まっ___たせたなァ親友!』」

 

 

 大きな轟音とともに上から降ってきた破壊の権化、百鬼。

 

 その片手には、黒く大きな翼。そして遅れて降ってきた、黒い片翼を背中に生やした、男の姿。恐らくこの男こそが、今回の襲撃の主犯である『波旬』という鴉天狗なのだろう。

 

 

「…こいつが」

 

「ぐっ…何故だ、百鬼!何故人間を助ける!そこの狐もだ!何故人間如きを妖怪が助けている!」

 

「『俺ァ別に助けてねえよ。ただよォ…俺の断り無くして襲撃とはどういう了見だオイ!アァ!!?』」

 

「は…お前、さっき百鬼夜行をけしかけていただろう!それを見て私は潮時かと、『操作』した妖怪をここに___へがっ!!?」

 

「どうでもいい…」

 

 

 波旬の横っ面を殴り飛ばした鈴八が、頭に妖力を込める。

 

 戦いの中でそれを身に染みて体験した百鬼はこれから鈴八が何をするのかを予感し、顔をサッと青くして額を抑えた。

 

 顔を抑えてジタバタと転がる波旬の顔を、鈴八は掴み持ち上げた。

 

 

「お前が何をしようが、どう思って都市を襲撃したのかはどうでもいい…」

 

「は、離せ!そ、『操___」

 

 

 鈴八は頭を後ろに振りかぶって、そして___

 

 

「お前は…僕を怒らせた…!」

 

「はじゅぷっ??!」

 

「『うわぁ………』」

 

 

 勢い良く波旬の顔面に叩き付けた。

 

 波旬の顔面は陥没し、鼻は凹み、目玉は片方潰れるほどの威力。歯も何本か折れており、その光景を見た百鬼は生まれて初めて恐怖を覚えた。

 

 

「…ふんっ」

 

「『今度からお前の機嫌は損ねないようにするぜ親友!…それはそうと、早く逃げたほうが良いみたいだな』」

 

「…ん?」

 

「『ほら、見ろよ。人間の奴ら…此処を捨てて、“空”に行くらしい』」

 

 

 百鬼が顔を向けた先に、鈴八が顔を向けると。その向こうには巨大な鉄の筒が下から火を噴いており、少しずつ少しずつ浮き上がっていた。

 

 目を凝らしてみると、そこには永琳も乗っており、永琳もまた鈴八が見えていたみたいだ。ただ、何か必死な形相で訴えかけているが、距離も遠く、中にいるため何を言っているのかが全く聞こえない鈴八。

 

 だが、永琳の必死な形相に嫌な予感を感じた百鬼は、鈴八の腕を掴んだ。

 

 

「『逃げるぞ、やべえ予感がする…早くっ!』」

 

「うん……」

 

 

 最後の挨拶と言わんばかりに、鈴八は永琳に拳を突き出す。

 

 永琳はそれを見ると目を見開くが、やがて落ち着き、普段通りの笑みを溢すと、窓にコツンと、拳をぶつけた。

 

 

「またね、永琳」

「またね、鈴八」

 

「「___また明日」」

 

 

 最後の言葉だけが、届いた距離の遠い二人の会話。

 

 一足先に逃げた百鬼を追おうと後ろを振り返った瞬間。

 

 鈴八の意識は、白い光に包まれながら、黒くなった…。






 別れ、それは突然で、必然。地上を捨てて“空”を手に入れた古き人類は、穢れの克服と友に、妖怪への恐怖を忘れてしまった…。

 ただ一人、月の頭脳と呼ばれる最高の薬剤師を除いて…。

 では、また次回…


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【る】 黒狐の目覚め



 みなさんお気づきでしょうが、話数の表現はいろは歌で表しています。

 では、ご覧あれ…


『良くぞ頑張ったな、鈴八』

 

 

 …誰?

 

 

『妾か?妾は**、御主であり、御主ではない者。妾の全ては御主の物であり、妾の全ては御主である』

 

 

 …良く、分からないな。

 

 

『なぁに、時期に分かるのじゃ。…何せ、御主も日の下の妖怪。きっと日輪様が、御主を護ってくれよう』

 

 

 …そうだといいなぁ…

 

 

『ほれ、寝んねの刻はもう終わりじゃ。お早う、鈴八…また逢おうぞ』

 

 

 うん…分かった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 眩しい…

 

 意識の戻った僕が薄く目を開けると、そこは背の高い木が囲む樹海のような場所だった。

 

 木漏れ日が僕に容赦なく降り注いで、僕は両手で目を隠そうと腕を動かそうとして、何故だか動かせない、何かに抑え付けられているような感覚がした。

 

 

「ん……あれ」

 

 

 見ると、僕の腕…それどころか、身体全体に植物の蔦が這っていて、とても動ける状態じゃなかった。とりあえず僕は身体全体に妖力を込めて、力任せに蔦を引きちぎった後、立ち上がって周囲の状況を確認した。

 

 辺り一帯は全て樹林。颯爽と靡く風に吹かれて木漏れ日が揺れて、自然と心を落ち着かせてくれる。やっぱり、自然に囲まれると言うのはなんとも心地よい物だ。

 

 しかし、僕はあのあちどうなったのだろうか。白くて熱い光が襲ってきたのは知ってるけど、その後は何も知らない。百鬼もいないし…何処かに行ったのかな?

 

 探したいけど、右も左もわからない状況じゃ迷うだけだ。

 

 とはいえ、このままここで過ごすわけにもいかない。永琳は無事なのか、とか調べたいけど、今調べる術はない。

 

 でも、自分にできることがあるとすれば…生き延びること。生きて強くなることかな。そうだ。

 

 強くなるために、僕は、旅に出よう。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 と、意気揚々と旅路を悠々自適に歩いて、早千二百年くらいが経った。

 

 この頃には全く見かけなかった人里や妖怪を見かけるようになり、僕は妖怪に挑んだりもしたんだけど…どうやら新たに生まれた妖怪は弱いらしくて、軽く小突いただけでも死んでしまった。

 

 この調子なら人間も妖怪と等しく弱体化しているはず。ということで僕は、変化で人間に化けながら村を転々と旅して、人間を妖怪から守っていた。

 

 村を出る前も、将来有望そうな子に我流の体術を教えて来たから、そこら辺の妖怪には負けない程度には強くなっているはず。しかも、数ある内の人里の一つ、その平民の少年が、一回とはいえ僕の服の端を掠らせたからね。今の時代の人間も捨てたもんじゃない。

 

 そう、ついに僕は武器に手を出し始めた。変化でそこら辺の木の枝を木刀や薙刀に変えたりして、これまた我流で技も作ってたりする。

 

 でも、その技全てが鬼専用…というか、想像の中で戦える相手が百鬼しかいないから、自然と百鬼対策の技になっちゃったけど、それでも汎用性が高いからどんな妖怪にも有効に使える。中でも一番得意な武器が刀で、今は変化で首飾りにしているけど、人間の鍛冶屋に打ってもらった刀を使わせてもらっている。

 

 鍛治職人曰く、この刀の銘は『紅黒(べにくろ)』と言うらしく、太陽の光を吸収して熱を発する“紅陽鉱”と、たとえ岩で側面を叩き割ろうとしても全く折れないほどの強度を持つ“黒曜鉱”で作られた天下一品の刀だとか。

 

 柄は黒で、根元の黒から紅の階調が綺麗な刀身。軽く試し切りしてみたら岩が真っ二つになり、妖力で覆った僕の腕にかすり傷を付けるほどだ。こんなにいい代物を貰ったのに、「使い手が漸く見つかったので」とか何とかで、代金やお礼は受け取ってもらえなかった。

 

 その日から僕は刀の鍛錬も、いつもの鍛錬と同時並行ですすめており、素振りで2000回。自作の技の練習で500回を各技3個ずつを目処に鍛錬をしている。刀を使った鍛錬は、最初の頃は慣れなくて疲れたが、今ではいつもの鍛錬を終わらせる時間帯で終わらせることができるようになった。

 

 本当は徒手空拳ももっと練習していたいけど、刀の方が手加減できるから、弱い敵相手なら刀を使う方がいいかもしれない。そう思って、僕は今日も何処かの森の中で刀を振るう。

 

 

「…」

 

「ほわー…」

 

 

 …一体、何の用なんだろうか。

 

 さっきから辺な帽子を被った女の子が茂みに隠れながら僕を見ているが、一向に話しかけてくる様子がない。かと言ってどこかにいく気配もないし…どうすればいいのだろうか。

 

 それに、あの女の子からは辺な力を感じる。妖力でも、霊力でもない、何処か厳かで優しい力。一体どんな力なのだろう。

 

 とりあえず、次で最後の一回だ。

 

 僕は『紅黒』を上段に構えて、ゆっくり振り下ろす。一定に、僅かな空気の抵抗を斬るようなイメージで、日の輪をなぞる様な軌道で。

 

 切先が腰の位置まで下がると、刀身は止まって、僕は深く息を吐く。長年を越えて慣れた動作で刀身を腰の鞘に納めて手を離す。

 

 すると、先程まで茂みに身を隠していた少女の気配が気薄になり、遠ざかる気配がした。

 

 

「…待て、そこの」

 

「〜〜ッッ!?」

 

 

 こっちが驚く程ビックリした少女が恐る恐る振り向いてくる。金色の目と目が合い、少女の気配がさっきと同等になった。

 

 

「…い、いつから?」

 

「最初から…その茂みの後ろに続いている、小さい穴に入る所までは」

 

「そこからっ!?…え、えっと、不躾だったかな?そこは謝るけど…」

 

「構わない。…ただ、何者だ?妖怪でも、“人間”でもない」

 

「…へぇ、隠してたのに…気付いたのか」

 

 

 すると、ゆっくりと少女の身体から“力”が溢れ出し、周囲の地面が隆起する。目を凝らしてみると、僕がいるところを含めたここら一帯の地面に、少女の力が広がっている。これは…能力なのだろうか。

 

 

「…興味深い力。見たこともない」

 

「私としてはアンタのその妖力が気になるよ。…下手したら大妖怪、いやそれ以上の妖力量。この国に何しに来た?場合によっちゃ…私は“神”としてアンタを迎え撃つよ」

 

「___“神”…!」

 

 

 なんと、この少女の正体は神だったのか。それなら、その不思議な厳かな力の事も頷ける。過去にはいなかった存在、神。一体どんな力が…

 

 

「…一手、合わせても?」

 

「拳…刀じゃないのかい?」

 

「…生憎、此方が主です」

 

「…成る程ね。…もし私を倒したら、なんでも一つ頼みを聞いてやろう」

 

「では…いざ参ります」

 

 

 相手は神。気を抜いてはならぬ相手であり、手加減を一切加えてはならない相手。僕は尻尾を“五つ”根源させ、その分増えた妖力を全て脚と拳に叩き込む。

 

 ピキ…と拳と脚にヒビが入るが、『修復』で片っ端から治して治癒する。相手も力を地面に流して目の前の地面を隆起させており、防御の準備はできた様だ。

 

 では…!

 

 

 ___ピシッ…!

 

 

 脚に力を込めて前に出ると、遅れて僕の立っていた場所が大きく陥没する。初速で一気に最速へと至った僕はその勢いと拳の勢いを無駄なく併せ、百鬼と戦った時の様な、拳に宿る僕の妖力を残さず相手に叩き込む技術を、目の前の壁に容赦なくぶち込んだ。

 

 少女の巡らせた力の所為かすぐには壊れなかったが、次第にヒビが入りだすとその壁は呆気なく壊れ、その向こうにいた少女も壊れた壁の瓦礫と一緒に吹き飛ばされていった。

 

 だが少女は地面を背後で隆起させて身体を止め、ふわりと地面に脚を付ける。だがすぐに地に膝を突き、大量の脂汗を掻いて倒れた。

 

 

「…!大丈夫?」

 

「これが…はっ、大丈夫に…見えるかいっ」

 

 

 どうやら、少女の使う力は相当消耗が激しいようだ。見た限りでは少女の中にあった力も底をついている様で、それに体力の低下が伴っているのだろう。まるで妖力と同じだなと僕は思った。

 

 それにしても、この気絶してしまった少女をどうしようか。

 

 寝息を立て出した少女に、僕は困った表情を浮かべるのだった。







 刀の方が手加減できる鈴八さん…

 では、また次回…


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【を】 祟り神の『土着神』洩矢諏訪子



 さてさて、久々の投稿とはいえこの始末、どう落とし前をつけてくれやがりましょうか私よ。

 残業時間延長?有給減少?常に上司の嫌味を聞く?

 いやいや生ぬるい。

 これより私は…

 絶対に今度こそ多分投稿をミスりません。

 今こそ冷静に、落ち着いて対処するべきです。


 内心(やっべ忘れてたァァァァァァァァァァァ!!!!)

 
 ワスレテナイヨ。

 それでは、どうぞ…


 

「うーん……んへへ…」

 

「ん…」

 

 

 …手つきがいやらしいなこの少女は。わざわざ僕の膝を触らなくても良いだろうに。

 

 今僕は、たったさっき気絶してしまった少女の介抱として、膝枕をしている。というのも、僕の踏み込みのせいでここら一帯は土と岩だらけで、そんなところに頭を乗せたら痛そうだったからだ。現に寝心地が悪そうにしていたし、せめてもの償いとして僕の膝を貸しているわけだが…

 

 いかんせん、僕の膝を触りまくっているため、くすぐったくて仕方がない。五感の強化がされているためか小さな刺激でもくすぐったく感じてしまう。

 

 この小さな手をなんとかして押し留めたいところだが、今僕の手はさっきの全力で『修復』中だ。片手もさっきから動きまくるこの少女の頭が落ちない様に支えており、どうすることもできない。というか『修復』が遅いんだけどなんで?

 

 さっさと起きてくれ…と切実に願いながら、僕は虚空を見つめて時を待った。

 

 

「ん……んーっ」

 

 

 膝の上でもぞもぞと動き出した。どうやら意識を取り戻したみたいだ。

 

 少女は僕の膝の上で思いっきり欠伸をしながら背伸びをして、身体を解している。やがて目を開けると、今自分がどういう状況に置かれているかを瞬時に判断して、慌てて飛び上がっていた。

 

 

「うわぁっ!?妖怪!?…ってアンタかい」

 

「…今更か」

 

「それで…私に何を求めるんだい。言っとくけど、私は食べても美味しくないからね?」

 

「興味無い…」

 

 

 「それはそれで傷付く」と少女は複雑な気持ちになっている。だけど、僕の頼みはもう決まっている。それは…

 

 

「…ご飯をお恵み下さい…」

 

「…えっ、え?そ、それだけでいいの?」

 

「…ここ数日間、まともなもの食べてない…昔の妖怪の方が美味しかった…」

 

「え、えぇ…妖怪食べるのアンタ。変わってるね…よし!とりあえずウチの国においでよ!私神様だからさ、一杯御供物があるんだ!」

 

「…有難い」

 

「それじゃ!こっちだよ!」

 

 

 僕は少女に手を引かれ、早足気味に引っ張られていく。正直言ってかなり屈まないと行けないから走りにくいのだが、これはこれで足腰の鍛錬になりそうだ。…いつから僕は鍛錬好きになったんだろう。

 

 それはともかく、今はこの少女について行くことに専念しよう。あの場所はまだ直して使うし、道順を覚えなければ迷ってたどり着けないかもしれない。

 

 それにしても、緑豊かなところだ。千年前ほどではないが、周りと比べると圧倒的に緑が多い。それもこれも、この子の力なのだろうか。

 

 そうこうしていると、遠くの方で街を見つけた。いや…規模的に言うと国だ。高い壁もあるし、どこか『都市』に近いものを感じる。

 

 

「あれだよ!私の国…『諏訪之国』!作物も豊富で、争いもない平和な国なのさ!」

 

「おぉー」

 

 

 凄いな…妖力の気配が全くない。それほど軍事に優れた国で、悪意のある人間が全くと言っていいほど居ないのだろう。純粋で素直な、“善”の気配がする。とても懐かしい気配だ。

 

 っと、そろそろ尻尾と耳を隠さないとヤバいかな。変化っと。

 

 

「あ!そろそろ耳と尻尾を隠さないと…ってもう隠してるね、仕事が早い」

 

「…変化は御手のもの」

 

「へぇ、さすが狐の妖怪だねぇ。…にしても、随分と妖力が減ったね、さっきの影響かい?」

 

「…尻尾に妖力が詰まってるから」

 

「ふぅん」

 

 

 それにしても、と少女は静かにつぶやく。どうやら独り言の様で、一人でブツブツと何かを言っている。

 

 走行しているうちに門の前に着いてしまったのだが、門番は特に僕たちに気にかけることなく、「こんにちは」とにこやかに挨拶をしてくれるだけだった。一応会釈して挨拶を返したが、この村の警備は少し無警戒すぎじゃないだろうか。

 

 …本当に良い国だ。まだこの頃の時代には身分制度とかが分け隔てられていないようで、皆が自由に暮らしを謳歌している。農民や商人、男や女という差別も無く、各々が群れにして個の人生を楽しんでいる様だ。

 

 

「さて…着いたよ、私の家であり、この国の象徴…『洩矢神社』が!」

 

「おー…凄いな…不思議な力が、アレみたいな力で溢れてる」

 

「因みに、あの力は私の様な神様が使う“神力”っていう力だよ。一応私は祟り神でね、諏訪の大地を穢す者にしか手を出さない様にしてるの。本職は土着神だけど」

 

「へぇ……」

 

 

 土着神…じゃあミシャグジとかなのだろうか。前世の朧げな記憶しかないけど、ミシャグジって結構怖い見た目をしていた様な気がするけど、こんな可愛らしい見た目なのか。

 

 それはともかく、この神社はかなり大きい。本殿はここだろうが、遠くにこの神社と似たような建物がいっぱいあるし、さぞかし人間から好かれているのだろう。

 

 僕は少女の跡を着いていって、神社の中に入る。

 

 

「さ、上がった上がった!最高の飯を用意するから待っててね!」

 

 

 というと少女は靴を脱いで上がり、どこかへいってしまった。僕は置いてかれてしまった。玄関で。

 

 どうすれば良いのだろうか、とりあえず靴を脱いで上がるが、廊下は入り組んでいてかなり迷いそうだ。適当にすすんでも良いけど、勝手に行って怒られる場所はないのだろうか…いいや、先に案内しなかったあの少女にも非があるし、僕は悪くない。そう、僕は悪くないんだ。

 

 さて、確か人間は迷ったときに無意識に右に行くって聞いたことがあるから…左に行ってみよう。神社の参拝の基本も“左から”という決まりもある、ここは基本に従って左に行ってみるのも良いだろう。

 

 

「…おぉ」

 

 

 どうやら中庭に辿り着いてしまったようで、庭の中心には大きな木が聳え立っている。外からでも見えた為何処から生えているのだろうと思ったが、ここに生えていたのか。

 

 丁度お腹も空いて疲れたことだし、諏訪子に見つかるまで此処でゆっくりしていよう。僕は中庭側の縁側に、大きな木を見つめながら腰を下ろした。

 

 

「…(しかし、見事な木…盃の様に広がっているから、桜の木かな)」

 

 

 しかも幹は太いけど、枝が凄く細い。葉っぱの重みでも少し垂れ下がっているくらいだし、桜の花が咲いたら滝の様な見事な桜の木が見られるかもしれない。その頃まで滞在しても良いのかなと聞きたいけど…

 

 仕方ないので、僕は懐から櫛を一本取り出して、尻尾五本の内の一本を変化から解く。すると一本だけ尻尾が姿を現し、僕はそれを手に取ると櫛で丁寧に梳かし始めた。

 

 最初の頃はくすぐったかったけど、今じゃもう結構慣れてしまっている。あの頃は串も何もなかったから、指で時々失敗しながら梳いてたけど、櫛が作られて本当によかった。

 

 僕が桜の木を見ながら尻尾を梳かすのに勤しんでいると、背後から人間の気配がした。あの少女じゃないようだけど、誰なんだろうと振り返ってみると、そこには緑色の髪色をした、これまた小さな少女が僕の尻尾を興味津々に見ていた。

 

 

「…こんにちは」

 

「こ、こんにちは!…尻尾?」

 

「…触る?」

 

「…は、はい」

 

 

 ちょっと人見知りっぽそうだけど、僕の尻尾の魅力によってか、女の子は僕を警戒しながらだけど近寄ってきた。尻尾を恐る恐る触ると、女の子は「ほわぁ…」と丁寧に触る。

 

 

「…君、名前は?」

 

「えっ、あ、ゆ、縁です。諏訪子様に付けてもらいました!」

 

「…そう、縁…良い名だね」

 

「えへへ…ありがとうございます」

 

 

 顔を綻ばせる縁ちゃんは、まるで花のように可愛らしい。

 

 思わず手を伸ばして頭を撫でてしまったけど、一瞬驚いただけですんなりと受け入れてくれた。最初の警戒が嘘みたいだ。

 

 

「…あ、お名前は何ですか?」

 

「…鈴八。黒鉄鈴八だよ」

 

「鈴八様ですね!…あれ、何処かで聞いたことがあるような…」

 

「気の所為だと思うよ」

 

 

 実際、僕はそんなに何処かで聞くような時間村に滞在してないし、目立ったこともしてないと思うから。強いて言うなら妖怪とかを倒したりしたくらいかな、弱くて鍛錬の相手にもならなかったけど。

 

 

「鈴八さまは、男の人ですか?」

 

「…ん、僕は男だよ」

 

「わぁ…なのにお綺麗なんですね!この黒いお髪も綺麗ですし、とても男の人に見えません!」

 

「…よく言われるよ。ありがとう、でもちょっと傷つくかな…」

 

「わわっ、すいません!」

 

 

 男なのに女見たいって言われるとちょっと…傷つくなぁ本当に。いやまぁ髪を切れば良い話なんだけど、折角ここまで伸びたのを切るのってどうにも勿体無くて…というか切ってもすぐに肉体の損傷と自動判断して『修復』で自己再生してすぐ伸びるから無駄なんだけど。

 

 それより、少女…諏訪子だっけ。結構遅いけど、何か手間取っているんだろうか。

 

 

「どこー!狐ー!」

 

「…ここ」

 

「あ!いた!全く何処に行ってたのさ!居間で待ってれば…あれ?」

 

「…案内されてないけど」

 

「あっ……えへへ、こっちだよ」

 

 

 今の応答を無かったことにした諏訪子は愛想笑いをしながら僕と縁を、居間へと案内した。また長い廊下を歩くのかと思ったが、諏訪子はこの神社の廊下を熟知しているからか、居間までは最短距離で辿り着くことができた。

 

 

「さぁ___腕によりを掛けて作った自信作だ!たんとお食べ!」

 

「おー…!」

 

「す、凄い…!」

 

 

 辿り着いた先にある、襖を諏訪子が勢いよく開くと、そこには色とりどりの豪勢なご馳走が机の上に隙間なく置かれていた。

 

 海の幸、山の幸と一体どうやってこの短時間で作り出したのか分からない程の量が僕の目の前にある。これを全て食べて良いのだろうか。

 

 

「勿論!何でも頼みを聞くって話だからね!遠慮せずに食べて良いよ!…涎凄い!?」

 

「…じゅる」

 

「御夕飯はまだなのに…お腹が空いてきました…」

 

「緑と私のは別に作ってあるから、お構いなく!」

 

 

 いそいそと僕は席に着き、諏訪子と縁は別室で食事を取るようで、「ごゆっくり〜」と僕に言って退室した。

 

 さて…

 

 

「…頂きます」

 

 

 僕は箸に手を伸ばして、目の前にあるご馳走を、ゆっくりと喰らい始めた。







 やっぱりロリキャラには変態属性つけた方がやりやすいですね。

 どこぞの白リ夜叉(しろりやしゃ)のように。

 それでは、また次回…


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【わ】 神力



 お久しぶりでございます。

 ぶっちゃけた話をすると、話は湯水のように湧いてくるのですがそれを書き進めるたび比例して忘れていって、それを思い出そうとするたびに忘れていってということを繰り返していると


「…めんどいッッ!!!」


 と、あれ、よく考えれば私がここまで頑張る必要なくね?という考えに至ってしまった所存です。

 ですが、最近になって活発化してきた“◯NE PIECE”や“BLEA◯H”、“ヒ◯アカ”などの二次創作を見ていると


「書きてぇッッ!!!」


 と唐突に意欲が活火山になりました。

 これからちょくちょく、ぼちぼち、布団の中で扇風機の風を浴びる生活(秋)の中で書いていこうと思います。

 “こ◯すば”の方はただいま進めるか検討中です。なにせ私でさえ何を書いているのかわからなくなったので(爆)

 では、久々の黒金君をお楽しみくださいませ。

 それでは、どうぞ…


 

 

 僕が食事を始めて数分後が経った。

 

 

「ま、まさかあの量を全て食べ切るなんて…!」

 

「す、凄いです!鈴八様は大食漢なのですね!」

 

「…まだ食べたいけど…流石にこれ以上は申し訳ないからやめとく」

 

「まだ食べれるって言うのかい…!こりゃとんだ胃袋の持ち主だね…!」

 

 

 諏訪子は僕の食事量に戦慄し、縁はこの量の料理を一人で食べ切れていることに興奮している。実際はまだ胃袋の3分の2も満たしていないが、ここは腹一杯ということにしておこうと思う。

 

 

「…美味でした」

 

「そ、そりゃ良かったよ。お粗末様。…さて、そういえば自己紹介してなかったっけ?私は洩矢諏訪子。こっちは縁って言って、ウチの神社の祝子さ」

 

「…ん、知ってる。さっき縁に教えてもらった。僕は黒金鈴八」

 

「はい!鈴八様に教えました!」

 

「そ、そう。自己紹介が出来て良かったね、縁。…さて、鈴八はこれからどうすんだい?国に滞在する?」

 

「…うん、今の人間の文明も見てみたいし、なにより美味しいものがあるかも」

 

「へぇ…じゃあさ!ウチに住んじゃいなよ!宿代もバカにならないし、丁度良いさ!縁も懐いてるしね!」

 

「え!鈴八様も御住みになるんですか!?嬉しいです!」

 

「………じゃあ、お邪魔します」

 

 

 こうして、僕の『洩矢神社』への住み込みは決まったのだった。

 

 そして僕の寝床なのだが…

 

 

「…ここ?」

 

「うん、誰も使ってないから丁度良いと思って。縁の部屋の隣だしね、防犯にももってこいの部屋でしょ?」

 

 

 そこは、中庭の縁側の横にある、意外と広い一室だった。広さは8畳半位で、真ん中に小さな囲炉裏がある。一人鍋も出来そうな広い場所だった。

 

 

「布団は後で縁が持ってくるから、寝るときはそれ敷いてね?」

 

「…何から何まで有難うございます」

 

「良いって良いって!私がやったことなんだから!」

 

 

 胸を張って応える諏訪子に僕は改めて感謝を示して頭を下げる。本当に、今まで一回も宿を取っていないで野宿ばっかりしていたから、こういう部屋に泊まるのは新鮮だ。美味しいご飯までご馳走されたし…これは腕によりをかけて恩返しをしなければいけないだろう。

 

 どうすれば良いか…そうだ、諏訪子は神だ。ということは信仰を得ないといけない訳で、僕が人里で諏訪子の名前を広めながら人助けとかをすれば、この国の諏訪子への信仰が多くなるんではないだろうか。

 

 よし、明日から鍛錬の後にやろう。あ、そういえば何処かを借りて鍛錬をすることはできないだろうか。

 

 

「…鍛錬をする場所、何処にある?」

 

「あー…なんなら中庭を使いなよ。荒らしさえしなけりゃ自由に使って良いよ」

 

「…感謝」

 

 

 これで鍛錬をする場所の確保はできた。もうこれ以上の申し分は無いから、あとはこの分の恩返しをすればスッキリするね。

 

 

「んじゃ、私は普段居間にいるから困ったことがあったら来なよ!」

 

「…ん」

 

 

そういうと諏訪子は襖から出て、居間へと向かった。一人残された僕は一息付くと畳の上に正座して、囲炉裏に狐火を灯した。“金の混じった黒い炎“が部屋を灯して、僕はぼぅっとその炎をじっと見ている。

 

 人の文明が復活して約数年。千二百年前の旧文明よりは遥かに劣る技術力だが、前の娯楽に生きる技術とは違って、今の時代の技術は“生きる“ことを中心とした技術だった。おそらく原因は“霊力“の有無。今の時代では霊力を持つ人間がごく僅かしかいなくて、生身で妖怪に立ち向かえる人間がいないからこそ、妖怪に立ち向かえる技術が発展して今のような状況になったのだろう。

 

 昔の妖怪は強かった。でも、人間の技術はそれよりも上だった。だけど今の妖怪は弱い。が、人間はもっと弱い。一撫ですれば死んでしまうほど弱く、軽く拳をぶつけただけで体が壊れるほど脆い。だからこそ僕は今まで人間に手を上げず、守るべき存在だと接して来た。そのせいだろうか、僕の中に…“諏訪子と同じ力がある“のは。

 

 気づいたのはご飯を食べて、回復した妖力を確認した時だ。妖力が反発する何かを感じ取った時に、これが諏訪子と同じ力と気づいた。

 

 諏訪子はこれを“神力“と言っていた。そして、神力は人の信仰心によって増えていくものだと教わった。つまり僕の体の中にある神力の原因は、どこかの街や村の誰かが、僕を信仰しているということだ。いったいどこの誰かなのかはわからないが、こうして新たな力が手に入るのは新しい強さへの道のりができたということだから、かなり嬉しい。これから僕は、この人間の信頼の証明とも言えるこの力を正しく使えるようにしなければいけないのだろう。

 

 

「…鍛錬」

 

 

 今はそれしかやることがない。

 

 僕は狐火を消して立ち上がり、中庭へと続く襖を開けて、中庭へと赴いた…。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 “神力“。それは神が使う、世界の常識を超えた力のことだ。天地を創り、砕き、壊すほどの強大な力。それは生物の信仰心によって量が増幅し、そして生物の命を脅かす妖怪を裁く力である。

 

 では、その妖怪が神力を持った場合はどうなるのだろう。手に入れてしまったその力に苦しみ、信仰に殺されるのか。はたまたその力を自在に操り、妖怪にして神に至った存在として世界に君臨するのか。

 

 僕こと黒鉄鈴八は、その後者だった。

 

 拳に妖力を乗せて、一撃。その一撃にさらに神力を加えると、相乗効果にも比にならないほどの威力が空を切る。一撃が突風となって広がり、桜の木を大きく揺らした。

 

 

「…(凄まじいな)」

 

 

 軽い一撃でこの威力。かつての百鬼夜行の主と戦った時以上の威力であり、あの時の百鬼と今の状態で戦えば、おそらく勝負にもならないだろう。元はと言えばこれは妖怪を裁く力。妖怪の一種でしかない鬼である百鬼にはめっぽう強いのだ。

 

 それなのに一通り確認してみても、神力が僕の体を蝕むことはない。むしろ逆に活力が湧いてきて、今なら1週間はぶっ通しで戦い続けられそうな気がする。

 

 やはり、自分の力が高まる感覚は心地良い。もっと正確に、もっと的確に自分の力を見抜くことができれば良いのに…と僕は思う。そうすれば、僕の身体の事について深く知れるし、知ることができればもっと強くなれる。僕はまだまだ強くなれる、新たな力と新たな使い方を覚えて、もっと精進しないと…。

 

 

「…っ!」

 

 

 一撃一撃を丁寧に。寸分狂わない軌道で拳をゆっくりと突き、ゆっくりと構えを解く。そしてまた構え、丁寧に突き、解く。突き、解く。このルーティンを繰り返し、このゆっくりから少しずつ速くする。

 

 これは随分と前に“思い出した”鍛錬法で、名を“感謝の正拳突き”というものだ。とあるアニメの最強級のキャラクターが編み出した鍛錬法であり、その内容の本質は“武への感謝”というもの。

 

 感謝、即ち心の洗練。心から正し、肉体を正し、武を正す心身一体の修行法。感謝の礼から始まり、構え、拳を放つ。僕がやっているのはこの鍛錬法を少し変化させたものである。

 

 そもそもとして、僕の闘い方は“武”ではない。どちらかというと“喧嘩”や“闘争”に近く、生き残るための戦い方なのだ。肉体を鍛えるための鍛錬に、武への感謝はいらない。だから僕は、感謝を省いて生き残るために…“殺意”を込めて拳を突いている。

 

 闘争に於いて生きることとは、相手を殺すこと。僕にとっての闘争とは、生き残るための戦い。

 

 ひたすらに、いかに相手を殺すか、いかに相手に諦めさせるかを追求した闘い方。

 

 その大元となる殺意を洗練するために、僕は今日も殺意を込めて拳を突く。

 

 …それにしても、現代(いま)に知り合いがいないというのは寂しいものだ。

 

 永琳も百鬼もここ千二百年、姿形も噂すらも見つけられない。

 

 …もしかしたら、僕のような千を生きる妖怪はもういないのかもしれない。

 

 そう思うと…拳が重たくなった。思うように動かない、殺意が燻る。

 

 今日はだめだ、これ以上鍛錬を続けようにも確実に意味がない。

 

 僕は拳を下ろし、妖力と神力を納める。

 

 ふと上を見上げると、綺麗な満月が淡く輝っている。

 

 

「…永琳、百鬼」

 

 

 ___君達は今もこの満月を眺めているのかな。

 

 

 

 “また明日”はまだ遠そうだ。

 

 






 いかがでしたでしょうか?

 私は疲れました(絶)

 次回の話は何にしましょうか…とここ数ヶ月考えてるうちに私は成人と共に車の免許までとってしまう始末。偉業とも言っていい所業なので誰か褒めてください。次作書きますから(涙)

 上司には理不尽な理由やタイミングの悪さが重なって怒られ、仲が良かった同僚とはあまり話さなくなり、唯一の救いは私が大人になっても変わらない態度で接してくれる数少ない友人や家族、そしてサボテン(枯れかけ)。

 まだまだ弱卒&出来損ないの私ですが、これからの人生を頑張って、隙間を縫うようにしてこの小説を進めたいと思います。

 これからも私共々私の作品達をよろしくお願いします。

 それでは、また次回…


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【か】 日常




 はい、どうも。三日ぶりの投稿で申し訳ございません。誠心誠意反省しております(壁に肘ついて髪を掻き上げるポーズ)。

 仕事が忙しかったのもありますが、何より他の作家様の二次創作が面白すぎて執筆に手が届かないのです。毎晩ニヤニヤしながら見ております(気色悪)。

 見終わっていないシリーズもそろそろ見終わるそうなので、これからはちょっと…ちょびっと…雀の涙ほど…猫の額ほど…に更新頻度が上がる可能性が1%の閃きを引き出さないと上がらないかもしれないので皆様応援どうぞよろしくお願いします。

 それでは、どうぞ…


 

 

 

 『諏訪の国』へ滞在してから数日。

 

 そして現在は早朝を過ぎた時間帯。

 

 僕はまだ人通りの少ない大通りの真ん中で、身の丈の六倍はある野菜の山を荷台ごと持ち上げ移動していた。

 

 諏訪神社の信仰を集めるために、僕は諏訪子のお手伝いとして神社から派遣してきたという体で自主的にこうして人々のお手伝いをしている。無論”変化“で人間に化けながらだ。

 

 隣で野菜の山を見上げるお爺さんに声を掛ける。

 

 

「…ここでいい?」

 

「おう!あんがとな黒の兄ちゃん!今度神社の方に野菜をたっぷり持ってってやるよ!」

 

「…感謝」

 

「にしても兄ちゃん力強えなぁ、うちの女房より愛いのによ!うちの女房っつったらもう朝から怒鳴りっぱなしでもう大変よぉ。あー兄ちゃんみてえに静かだったら少しは可愛げが出てくるんだがねえ」

 

「…後ろ」

 

「あん?後ろ………ヒェ」

 

 

 自分の妻の悪口を言っていたお爺さんは背後にいるお婆さんに気付かず、仕方なく僕が声を掛けたことで気付いたようだ。しかしその件の人物は怒髪天を通り越しており、文字通り顔が鬼の形相になっている。

 

 

「こっち来な...」

 

「い、いや、店...」

 

「 こ っ ち き な 」

 

「ヒェァ…」

 

 

 首根っこを掴まれたお爺さんはお婆さんに引き摺られていき、店の中へと連れて行かれた。音が一切ないのが不気味だ。

 

 とりあえずここにいる理由も無くなったから、次のお手伝いに行こうかな。

 

 僕は野菜の山を店の前に置いて、その場を後にした。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 朝から現在に至る夕方まで、僕はとりあえず都で起こる困り事や揉め事を解決させて帰路についていた。

 

 

「うーっす黒さん、おかえりですかい」

 

「ん、水菓子のお兄さん」

 

「今もぎたての白桃があるんで、持って帰りませんかい。昨日も畑仕事手伝って貰っちまったんで、そのお礼に」

 

「…それなら、有り難く。今後とも諏訪神社をご贔屓に」

 

「あいよー。ほんでこれ白桃でさぁ、とびっきりの甘いもん選びましたよー」

 

「ん、帰って美味しくいただく。じゃ」

 

「またのお越しをー」

 

 

 

「まー黒ちゃん!お手伝い帰りかい?おつかれさん!あっこれうちの旦那が今日収穫した新鮮な胡瓜!沢山あって食べきれないから黒ちゃん持ってっちゃって!」

 

「ん。あれ、お爺さんいないけど…」

 

「“裏の川で冷やしてる”から大丈夫よ!ささっ、これ胡瓜ね?あと赤茄子も入れといたから食べときんさいな!」

 

「有り難く貰う。…今後とも諏訪神社をご贔屓に」

 

「はいな!それじゃ気をつけて帰るんよ!」

 

「ん」

 

 

 

「やぁやぁ黒殿___」

 

「お、黒の旦那___」

 

「きゃー黒さん!会いたかったですわぁ___」

 

「よぅ黒、今度___」

 

 

 

 …なんかいっぱい貰ってしまった。結構申し訳ないけど。

 

 でもこれは信仰の証だ、僕の地道な努力が今日も身を結んでいる証拠。

 

 諏訪子も「最近神力が調子良いんだよね!」って毎日の如く言ってるし、このままいけば諏訪神社は大きくなるだろう。

 

 そう思いながら、僕は諏訪神社へと脚を進めた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「妖怪被害?」

 

「うん、つい先日かな。畑仕事をしていた老人夫婦が妖怪に襲われて怪我を負ったってさ」

 

「ふむ…」

 

「こ、怖いですね…!」

 

 

 諏訪神社に帰り、現在は晩餉。

 

 貰ったばっかりの野菜や肉で作られた料理を食べながら、僕は先日から起こっている“妖怪被害”のことについてを諏訪子から聞いた。

 

 

「…それ以外に被害は?」

 

「都の外側の大柵の大部分が複数の妖怪によって破壊。あと関係ないけど都近くの村が著しく被害を受けてることかな。そのせいで都に避難してきてる人が多くなってきてる」

 

「…ほむ…」

 

 

 なんとも不可解な話だ。

 

 門ではなくて柵を破壊、そして都の近くにある村への被害。

 

 これは明らかに妖怪の本能だけで行われる行為ではない。人為的…知性ある妖怪が存在している。

 

 

「…僕は動こう」

 

「ん、そういうと思った。私は都を離れられないし、都の中は任せといてよ」

 

「ん…人は外に出さないように。間違えて殴っちゃうかもだから」

 

「う、うん。絶対に出させないね」

 

 

 僕の強さは初対面の時を以って諏訪子は理解している。

 

 神力の所は今のところ隠している。何故なら、今の諏訪の国の主人()は諏訪子であるからして、二人目の神がいるということになると恐らく良い思いをしない。

 

 最悪、僕を排除する動きをすることだって考えられるのだ。

 

 もしもバレたら、最低でも別れを告げてからまた旅にでも出よう。

 

 

「…鈴八さま?」

 

「…ん?」

 

「…いえ、どこか鈴八さまが寂しそうな顔をしていましたので」

 

「…そっか」

 

 

 やっぱり、緑には悲しい思いをさせるだろうけど、仕方がない。

 

 僕は妖怪、緑は人間、諏訪子は神。三つ巴でもなく、人間は神の味方で、神は人間の味方。

 

 妖怪に身を落とし…いや、妖怪と()った僕は、両者共通の敵であるのだ。

 

 

「…諏訪子」

 

「んー?」

 

 

 両足をぱたぱたさせながら、諏訪子は僕に顔を向ける。

 

 

「…いや、なんでもない」

 

「えー?なになに気になるじゃん」

 

「忘れた」

 

「忘れるの早くない!?」

 

 

 でも今は…この時を大事に過ごそう。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

『ぐるるる…』

 

『キャルル…』

 

「___ふんっ!!!」

 

 

 黄昏時を過ぎ、完全な夜になった時間帯で、僕は都の外で妖怪達を殺しまわっていた。

 

 妖狐になったことで敏感となった五感を満遍なく使って野良妖怪の位置を把握し、最短で殺す為の道を計算し、その道を全力で駆け抜けながら道中にいる妖怪を殴り飛ばす。

 

 途中途中刀なども使っているが、木が多い場所では振り抜ける場所が少なく___というか木をあまり切り倒すのも悪いと思って___刀があまり使えないのだ。

 

 

「…前より多い…」

 

『ぐるるるるるる』

 

 

 鍛錬を兼ねた旅をしているときはこんなに多くなかったのに、今ではその三倍ほど多くなっている。

 

 やはり首謀者の存在が浮き出てくるけど、今のところそんな気配は微塵も感じない。

 

 …もしかして、“神力”の影響?

 

 僕は急停止して、木の上に避難する。一旦考えを纏めるためだ。

 

 諏訪の国に居座る前は多くなかった妖怪が、今になって増えた事実。

 

 それは神力が関係しているのではないかと思う。

 

 僕が諏訪神社の信仰を高める為に行った、都の人達へのお手伝い。その対価として、僕は都の人たちに諏訪神社…諏訪子への信仰をお願いした。

 

 諏訪子の証言(つぶやき)でも神力の調子が良いと言っていたし、時期的に考えると神力が関係しているのは明確だ。

 

 神力の出どころは諏訪子で、それで信仰によって神力を高めるよう促したのは僕で……………?

 

 

「……」

 

 

 犯人、僕?

 

 






 ヒェア…犯人は…画面の前の貴方かもしれません…。

 それでは、また次回…


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【よ】 宣戦布告



 ウィッス。

 それでは、どうぞ…(逃亡)


 

 

 

 

 土下座。

 

 それは頭を地面に付け、最大限の謝罪を身体で表現する、謂わば最大限の謝礼。

 

 僕は今、とある人物にそれを行なっている。

 

 ___諏訪子だ。

 

 

「…」

 

「…」

 

「…???」

 

 

 横で少しあわあわとしていながらも状況を理解していない緑を精神安定剤としつつ、意識はまっすぐ諏訪子へと向ける僕。

 

 というか顔が見えないせいで諏訪子がどんな感情なのかわからない。ただ不穏な雰囲気なのは確実にわかる。

 

 あぁ、嫌われたかな…と思っていると、諏訪子の声が響いた。

 

 

「鈴八」

 

「っ」

 

「…顔を上げて」

 

 

 言われた通りに顔を上げる。

 

 視線の先にある諏訪子の顔は…笑顔だった。

 

 

「そーんなことで鈴八を嫌いになるわけないじゃん。だってさ、鈴八は妖怪でも良い妖怪じゃん。態々都の人たちの手伝いをしてくれるし、神力の調子が良いのだって鈴八のおかげでしょ?じゃあ文句ないよ私」

 

「…」

 

「だよね?緑」

 

「は、はい!鈴八さまは字も教えてくださいますし、寝るとき子守唄を歌ってくれますし、一緒に遊んでくれますので、お母様みたいで大好きです」

 

「ウ”ッ」

 

「あ、あはは。…まぁ、そういうわけだよ、鈴八。私達は鈴八を嫌いにならない。むしろ隠さずに話してくれてありがとう。はいっ、これでおしまい!以上っ!」

 

「…感謝」

 

「よし!緑、晩餉の準備するよ!」

 

「はい!諏訪子さま!」

 

 

 パタパタと諏訪子について行く緑の姿を見送って、僕は足を崩して座る。

 

 …やっぱり、昔に比べて人間は脆い。

 

 でも…優しい存在になっている。

 

 

「いつか…また…」

 

 

 永琳と…会いたいなぁ…。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「…や………ずや…」

 

 

 ん……眠い………。

 

 

「………や!」

 

 

 …うるさい……。

 

 

「鈴八!!!」

 

「んぅ…???」

 

「早く起きて!大変、大変なんだよ!」

 

 

 んー…一体どうしたっていうのさ…。

 

 

「…ん」

 

「戦争が…始まっちゃう…」

 

 

 へー…戦争…戦争ねぇ………

 

 戦争!!?

 

 その言葉を理解した途端僕の頭は瞬時に覚醒して、身体が飛び上がった。

 

 

「せん…なん…えぇ…?!」

 

「おぉう鈴八の慌て様で冷静になったよ。えっと…大和の神から宣戦布告されて、一週間後に信仰を掛けた戦争をするんだって…あ、形式はこっちで決めて良いってさ」

 

 

 いやいやいや…急にそんなこと言われたって…

 

 

「…とりあえず一週間なんて待てないから今から乗り込もう。大和の神ってどこ?」

 

「なんでやねん!いやほんと待って!?一週間も猶予あるのに一日目から強行突破は本当にやめて!?」

 

「むぅ…」

 

 

 諏訪子に止められた僕は床に座り直した。

 

 

「さて…まずは作戦を考えよう。戦争の形式?はこっちで決めて良いらしいから、形式から決めよっか」

 

「総戦力戦」

 

「却下。なるべく国の住民は出したくない」

 

「全員で突撃」

 

「同じだよね?却下」

 

「総攻撃」

 

「だから同じだよね!?なんで鈴八は国の住民を巻き込もうとするの!?」

 

「肉壁…?」

 

「緑!?一番君が言っちゃいけない言葉だよそれ!誰に習ったの!?」

 

「鈴八さまです!」

 

「鈴八ァァァアアアアアッッ!!!」

 

 

 面白…大変そうだね、諏訪子。

 

 

「誰のせいだよ!」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 戦争の形式は、大将戦に決まった。

 

 自軍の一番実力の高い者同士を戦わせて、買った方が無条件で勝利するというものらしい。

 

 諏訪子は

 

 

「もちのろんで鈴八を出すよ?」

 

 

 僕は

 

 

「え、やだ」

 

 

 と、きっぱり断ってやった。

 

 

「え、えええええなんで!?」

 

「いやだって…めんどくさいし」

 

「いやめんどくさいっていう理由でウチの最高戦力が行動不能になってたまるかって!ねーおねがい!おねがいだから相手方をぶちのめしてきてよぉ!」

 

 

 なんとも物騒な言葉を使う神様だ…。

 

 とまぁ、僕が行きたがらない理由は別にある。

 

 ちょっとこっそり大和の国に行ってみたけど…まぁ、うん。

 

 正直”相手にならないかな“…って。

 

 いやね?そりゃあちら方の兵士とかも凄い統率が取れてるし、何より一般の人間よりかは普通に戦いの練度が高い。それに武器や防具も充実してるし、総戦力戦だったらまず勝ち目はないと思う。

 

 その上大和の神とやらも、今の諏訪子より高い神力に、どうやら肉体派らしいかなり鍛えられた身体。とても女性とは思えなかったけど、少なく見積もって永琳と同等の身体能力だと思う。

 

 神、そして人も実力は諏訪の国よりも遥かに上だ。

 

 でも…やっぱり、僕に“届く者”はいなかった。

 

 

「…じゃあ、こうしよう」

 

「ん?」

 

「…一週間、諏訪子を僕が鍛える」

 

「なんで!?」

 

「僕、めんどくさい。諏訪子、殺る気ある。相手、強い。なら、鍛える」

 

「そのめんどくさいで全く耳に入ってこなかったけど、つまり私が強くなれば良いんだね?じゃあやってやろうじゃない!」

 

「…良し。じゃあ…今からやろうか」

 

 

「……………えっ」

 

 

 こうして、僕と諏訪子の五日間の特訓が始まった。

 

 

 

 

「ねぇ…おかしくない…?」

 

 

 震えた声で諏訪子が言う。

 

 

「…?」

 

 

 それに対し、僕はすっとぼけた顔で首を傾げる。

 

 

「デカくない…?」

 

 

 諏訪子の前にあるのは、諏訪子の身の丈の十倍以上もある大きさの岩。

 

 僕がわざわざ国から離れた山岳から“持ってきた”もので、諏訪子にはこれを今から割ってもらおうかと思っている。“素手で”。

 

 

「岩って素手で割る物じゃないよね?」

 

「僕は割れる」

 

「鈴八はね!?でも私一般神(いっぱんじん)だから割れないのよね!?」

 

「だから、割る」

 

「いやだから、せめて道具か何かを使わせて欲しいなぁ!?」

 

「割れ」

 

「命令形!?」

 

 

 むー…わちゃわちゃと喧しい。今の諏訪子は肉体が弱いから強化しないといけないのに、何故頑なに拒むんだろう。

 

 別に諏訪子の身体能力で絶対に割れないと言うことは無いはず。仮にも神、その身体は少なくとも人間の基本性能を凌駕している筈なのだ。

 

 だから本気で殴っても手が痛いだけで済む筈なのだが…。

 

 

 ぺちん

 

 

「いったぁーい!」

 

「………???」

 

 

 手を真っ赤に腫れさせた涙目の諏訪子。おかしい、やはりなにかがおかしい。

 

 …もしかして。

 

 

「諏訪子って運動したことない…?」

 

「…いや、さすがにしてるよ?」

 

「たとえば…?」

 

 

 えーっと、と諏訪子は思い出す素振りを見せる。

 

 

「例えば、神社の階段を上り下りでしょ?神様として街を歩くこともあるし、たまーに街人の手伝いもしたりしてるし、運動不足ってのはないと思うね」

 

「…頻度は?」

 

「三ヶ月に一回くらいかな」

 

「立派な運動不足おめでとう」

 

 

 なんてことだ。

 

 

 






 ストックあるから余裕やろ的な感じで行きたいですけど、ストックに過信して毎日投稿とかいう夢物語をやらないためにも週一(+気分)で更新しようかなーって思ってます。

 そして今回からめちゃくちゃ久しぶりに投稿するということで、後書きになんか質問コーナー的なのを配置しようかなーなんて思ってます。

 まぁこんな過疎小説にコメントが来るとは思ってないですが。

 ではQ&Aいきまっす。


 Q.『迷いの森』って『都市』の技術で調査されなかったの?
 A.まず『都市』は都市外に漂う『穢れ』を厳重注意していて、迷いの森どころか都市の外すらも満足に調査できてません。人妖大戦ちょっと前までなら迷いの森のような特殊なエリア以外の場所の調査は終えてますが、迷いの森レベルになると安全な調査のために迷いの森ごと都市の壁と同等の壁で囲わなきゃいけないみたいな感じになります。

 Q.百鬼の『固定』ってどこまで万能なの?
 A.鈴八君の『修復』レベルには万能です。初っ端から自分の身体に固定掛けてれば、自分で消耗するエネルギー以外に妖力や体力ロスは無いですし、何より固定の実質無限の防御力でいかなるダメージも通しません。しかしどんな能力にも欠点はあるわけで、鈴八君の貫通攻撃対策で体内を固定させようとしても、それをしてしまったら体内で操っている妖力ごと固定してしまいバフのセルフ無効化が起きます。それを承知で固定しても覚醒&バーサークモードの鈴八君に圧倒的に力負けしてしまい、最終的にスタミナ負けで勝負アリ。

 Q.やっぱテキストがシンプルな能力なほど強いの?
 A.原作だと『程度の能力』がついてますが、この作品、尚且つ古代では能力の強力さが桁違いとなります。『程度の能力』を取っ払うだけで元々強力な能力が万能になり、様々な事象を起こすことができます。

 ヨシ!

 それでは、次回をお楽しみに…


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【た】 決戦



 ドモ、とりあえずストックが五個できてるので、六個目のストックができた時に一個射出投稿するって感じで行こうと思うます。

 それでは、どうぞ…


 

 

 

 うーん。

 

 

「弱い」

 

「修行六日目でド直球に酷いこと言われたァ!」

 

 

 僕の言葉に泣き喚く諏訪子。

 

 いやでも、本当に弱い。能力を使わないとここまで弱体化するとは思わなかった。

 

 諏訪子の能力は『坤を創造する程度の能力』。

 

 岩石、土、水、植物、溶岩とかを無から創造、操作出来ることができるらしい。

 

 これを聞いた時僕も『おー?』ってなったけど、一回試しに溶岩で攻撃してもらったけど…

 

 軽い拳の一振りで跳ね返せちゃって、溶岩の攻撃が全部諏訪子の方に雨みたいに降りかかって…

 

 

『あぢゃぢゃぢゃぢゃッッッ!!!』

 

 

 三日間くらい修行の密度を下げないといけないくらいの火傷を負ってしまうという事件が起きてしまった。

 

 ともかく、今の諏訪子は能力込みでは勝率三割、能力なしでは勝率一割までには持ち込めたけど…まだ弱い。

 

 

「…明日…なんだけど…」

 

「…明日、私の勝敗でこの国の存命が掛かってるんだね…」

 

 

 そう、先ほども言った通り、諏訪の国の命運を決める戦いは明日だ。

 

 僕が諏訪子に内緒でひっそりと大和の国に密偵に行ったのだが、相手はどうやら僕が「お?」ってなった女性の神が出るらしい。

 

 完全な肉体派であるため、諏訪子には肉体を鍛えながら能力も鍛えて貰おうと思ったんだけど…

 

 

「やっぱり弱い」

 

「唐突にまた酷いこと言われたァ!」

 

 

 僕の言葉にまた泣き喚く諏訪子。

 

 諏訪子が地面を叩く度にちょっとだけ地面にヒビが入っていくが、相手は恐らく神力による身体強化も含めると恐らく山脈を崩す程の一撃を持っていると言っても過言じゃないかもしれない。

 

 諏訪子はまだ神力強化込みで“山を砕く程度”しか威力が出ないから、もうちょっと山脈を揺らすくらいの威力は欲しかったけど…これ以上は時間的に高望みかな。

 

 あとは本人が努力の成果を発揮するしかない。

 

 僕の役目はここまでだろうね。

 

 

「…明日に備えて今日はもう寝る?」

 

「うん…もう疲れたよ。精神が」

 

「ん…じゃあ、おやすみ」

 

「おやすみぃ…」

 

 

 寝転んだ状態から起き上がった諏訪子その場で別れ、僕は自室…いや、中庭兼僕の修行場へと向かう。

 

 やけに長く感じる廊下を渡り、辿り着いた先には僕が拳の風圧で舞い散らかす度に『修復』で咲かし直していた立派な桜の木があった。

 

 僕は縁側に座り、桜と、それに重なるように夜空に浮かぶ三日月を眺める。

 

 

「…」

 

 

 そういえば、永琳達は下から火の噴き出る筒に乗って空を飛んでいた。

 

 それこそ、空の果てまで、僕からしても驚異的な速さで。

 

 もしかすると、永琳達は月にまで飛んでいったのかもしれない。

 

 だけど、空というのは上に行けば行くほど空気が薄くなって、終いには無くなってしまう。それは実際に体験したから間違いない。

 

 でも永琳達の技術力だと、そんなものは些細な問題なのかもしれない。

 

 …いつか、無理をして月に行ってみよう。呼吸なら数時間は持つし、空高くから落ちて燃えても、僕の身体なら傷一つなく耐えることができる。落下込みでもだ。

 

 問題は呼吸による制限時間だけ…いつか頃合いを見て、永琳達を見つけに行こう。

 

 僕は三日月を見ながら…静かに決意した。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「あわわわわわわわついにきちゃった来ちゃったよこの時ががが」

 

「落ち着いて。まずは僕の脚から手を離して」

 

 

 決闘当日。

 

 諏訪の国を後ろに立つ僕らの前には、夥しいほどの兵士、馬、戦車。

 

 それらは諏訪の国を取り囲むように静止しており、一寸たりとも誰も動いていない。

 

 そして、その先頭に立つ注連縄しめなわを背負った女性の神…八坂神奈子。

 

 彼女は一歩だけ前に進み、腕を組みながら声高らかに声を放った。

 

 

「諏訪の国、総大将“洩矢諏訪子”!私は大和の国総大将“八坂神奈子”!簡潔に言う!我々に降伏する気はないか!!!」

 

「ないッッッ!!!」

 

 

 おぉ、さっきまで泣きそうだったのに急に…それだけ国を渡したくない覚悟があるってことね。

 

 

「ならば、双方が決めた通り、これより“大将戦”を行う!両陣営の大将の一騎討ちだ!大和からは私が出る!さぁ、私の相手は誰だ!」

 

「私だッ!」

 

 

 神力での身体強化状態のまま諏訪子は前に歩み出て___まるで絡繰のようにぎこちない歩みで___、八坂神奈子の前に立った。

 

 

「私の国は、渡さない…!」

 

「ふ、ふふ…良い、研ぎ澄まされた強大な神力…お前は強いな!」

 

「それほどでもないよ…まだまだ私は、師に及ばないからね」

 

 

 開戦の合図は無かった。

 

 ごく普通の会話が数瞬途切れた刹那の間に…諏訪子と八坂神奈子の拳は人の目に捉えられない速度で合わされた。

 

 けたたましい音を立てながらぶつかり合った拳同士は弾かれ…そのまま乱打での応戦と成り代わった。

 

 相手の顔面をどうにかして殴りつけようと我武者羅に振るう諏訪子の拳はものの見事に八坂神奈子に合わせられており、必死な表情の諏訪子とは裏腹に相手はまだ余裕の表情で戦っている。

 

 

「どうした洩矢諏訪子!それが限界か!」

 

「んぐぅあああああああああああああああッッ!!!」

 

 

 益々激しくなる諏訪子の猛攻を未だに合わせる八坂神奈子は笑みを引っ込め…落胆の溜息を吐いて拳を固めた。

 

 

「残念だ、諏訪の神。…これで、終わりだ」

 

 

 ___あ、これはやばいかも。

 

 

「諏訪子、避け___」

 

 

 ズトムッと鈍い音を立てて、八坂神奈子の拳は諏訪子の腹を抉った。

 

 深々と埋まった拳の威力に諏訪子は血を吐きながら吹き飛び、受け身も取れずに転がった。

 

 

「かはっ…!」

 

「神力の割には大したことがなかった…ふん、所詮は信仰だけの国か。神でこれなら人も大したことはないだろう。簡単に墜とせそうだ」

 

 

 …こいつ。

 

 僕がその言葉に怒りを覚えて前に出ようとすると、諏訪子が立ち上がる。

 

 

「…気絶させたと思ったが、まだ浅かったか。すまんな、今度こそトドメを刺そう」

 

 

 と、また拳を握る八坂神奈子の前で、諏訪子は言った。

 

 

「…私は肉弾戦は嫌いなんだ。だって、能力があまり使えないから」

 

「なに?」

 

「私は“祟り神”…あまり私を痛い目に合わせると…お前を祟っちゃうよ」

 

 

 ふらふらだけど、二の足をしっかり地面につけて拳を握って…地面に叩きつけた。

 

 

 どこからともなく地響きが鳴り、そして…“それ”は姿を現した。

 

 

「…これは…」

 

「『蛇威しへびおどし』…こっからの私は、一味違うよ」

 

 

 見上げるのも億劫な巨大な蛇の上に諏訪子は乗り、口についた血を拭いながら八坂神奈子を見下ろす。

 

 八坂神奈子の後方で待機している兵士達の狼狽がハッキリと見え、中には逃げ出す者もいた。

 

 

「なるほど、お前は大地を操るのか」

 

「いいや、私が操るのは『 坤こん』さ。大地も溶岩も…全ては私のもの!」

 

「へぇ、まるで私とは真逆だ。私が操るのは『乾けん』。…空は私のものだ」

 

 

 八坂神奈子の能力であろう。

 

 晴天の空は瞬く間にして暗雲が広がる空になり、雷鳴と嵐が広がる魔境となった。

 

 

「“地”と“天”。どっちが強いか決着をつけようじゃないか」

 

「臨むところだ。私の国は、絶対に渡さない!!!」

 

 

 風の力で空に浮かんだ八坂神奈子に、諏訪子は岩の大蛇を操って突撃した。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 はっきり言って、諏訪子は劣勢を強いられていた。

 

 

「ふはははは!その程度か洩矢諏訪子!」

 

「くっぅ!まだまだぁぁああああ!!!!」

 

 

 蛇を操って空に行くのは良いものの、天から降る雷や切れる風に翻弄され、ようやく近づこうとも、また八坂神奈子から放たれる雷や風のせいで攻撃できずに引き、多少攻撃は与えられども決定打が繰り出せないでいる。

 

 

「『蛇威しへびおどし』!!!」

 

「甘い!『天津風あまつかぜ』!!!」

 

 

 諏訪子の巨大な岩蛇による突撃は八坂神奈子の生み出す強風に押し返され。

 

 

「『天穿ちあまうがち』!!!」

 

「『雷豪八卦らいごうはっけ』!!!」

 

 

 地面から放たれる先の尖った巨大な岩も、天から落ちる巨大な雷によって撃ち落とされる。

 

 まさに天と地の、極端に位置するもの同士の戦い。

 

 その戦いに…ついに終止符が打たれた。

 

 ___八坂神奈子の手で。

 

 

 諏訪子がようやく八坂神奈子の懐に入り込むことができ、拳を握る。

 

 だが八坂神奈子はそれに慌てた様子もなく、口を歪め、

 

 

「かかったな、洩矢諏訪子」

 

「な___」

 

 

 パチンっ___と、その手に生み出した雷撃により、諏訪子は意識を失った。

 

 

 







 Q.神力とは?
 A.人間を含め、生物から信仰された生物及び人間の信仰によって産み出された神が持つようになる“神の力”です。本来ならばその性質上妖怪である鈴八くんは神力に蝕まれるのですが、とある存在によってそれは起こり得なくなっています。

 Q.結局古代から何年経ってるの?
 A.核爆発により核汚染が数百年程度。地上の核汚染が自然経過により鎮まるが、核に汚染された土壌が分解者によって正常に戻されるまで約二千年。土壌汚染が解消されたとはいえ不毛の大地となったその地に鳥や虫が種を全域に撒き終えるまで数百年。普通の森林ができるまで数百年。森林から樹海になるまで数千年。そして樹海が出来てから鈴八君が起きるまで数千年。合わせて一万年と二千年以上は過ぎております。尚鈴八君は無意識化による妖力の防御と『修復』により全くの無傷とする。


 それでは、次回もお楽しみに…


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【れ】 旅立ち



 カゼヲヒキマシタァーッ!

 それでは、どうぞ…。


 

 

 

 

 諏訪の国が大和の国に負けて、実に数日が経った。

 

 農民は全て労働力とされ、大事にしていた家や畑は焼かれ、諏訪の国の象徴である洩矢神社は取り壊さ___ることもなく。

 

 諏訪子は“神奈子”と一緒に洩矢神社の縁側でお茶を飲んでいた。

 

 どうやら神奈子の目的は諏訪の国の領地や労働力ではなく、諏訪子を倒すことによって信仰対象を自分に仕向けようとしていたようだ。

 

 だから最初から諏訪の国や国民には興味がなく、あくまで国民の“信仰”を目的として布告したらしい。

 

 

「そうならそうと最初から言ってくれれば良いのにー」

 

「すまんな、だがこれを言うとお前は本気にならなかっただろう?」

 

「ふん、何がなんでも私は国の為なら全力を尽くすさ。どっかの薄情狐と違って」

 

「そういえば狐の妖怪がいたな。あれはなんなんだ?」

 

「鈴八は私の師匠みたいなものかな、体術の。漬物石も持てないくらい貧弱な私を約一週間であっこまで鍛えてくれた妖怪だよ」

 

「へぇ…『能力』持ちなのかい?あんたは聞いてないの?その鈴八っていうやつの能力」

 

「使ったところ見たことないから知らなーい。聞けばわかるんじゃない?鈴八ー!」

 

 

 と、大声で呼ばれた僕は鍛錬を取りやめて、中庭から外の縁側へと向かう。

 

 途中何やら忙しそうな緑とすれ違い、ぶつかったが緑は慌てながら謝罪し、僕のもとから去っていった。

 

 そして縁側へと顔を出すと、諏訪子は開口一番。

 

 

「鈴八の能力って何?」

 

 

 と、言ってきたので。

 

 

「内緒」

 

 

 と返した。

 

 

「なんで!!!」

 

「…教えて欲しかったら僕に勝つこと」

 

「ゔっ」

 

「そんなに強いのかい?だったら後で私と…」

 

「いややめといた方がいいよ神奈子」

 

「なんで?強い方が楽しいじゃないか」

 

「うちの鈴八は素面で私の全身全霊でぶっ放した『蛇威し』をただの蹴りで砕くんだ。それくらいできなきゃ鈴八の前に立つのも難しいと思う」

 

「…マジで?」

 

「マジマジ」

 

 

 驚いた表情で僕を見てくるので右手でピースした。

 

 そしてそのピースで神奈子に目潰しをした。

 

 

「ぎゃああああ!何すんだいいきなり!」

 

「…知ってる?外国語でこの指の形ってピースって言うんだけど…意味は『平和』らしいよ」

 

「悪魔かこいつ!全然平和じゃないぞ!」

 

「なんかうちに来てから鈴八が凶暴になっていくんだけど」

 

「…あ、諏訪子。明日旅出るから、よろしく」

 

「あーい。明日ね明日………明日…?旅ぃ!!?」

 

 

 突然諏訪子が叫び出し、僕に掴みかかってきた。

 

 

「なんで急に!?私のことがいらなくなったの!?それとも別の女ができたの!?この浮気者ぉ!!!」

 

「あばばっばばばばば」

 

「離してやんなよ諏訪子…鈴八が口から泡吹いてるじゃないかい」

 

 

 突然諏訪子が騒ぎ出して、僕の胸ぐらを掴んで揺さぶってきた。

 

 恐らく現代で一番僕に効いた攻撃じゃないだろうか。

 

 

「…だって、僕はそもそも友人を探すために旅してたし…諏訪子も神奈子がいるし問題ないかなって…」

 

「いやいやいや、でもさ、なんか…あるじゃん?そういうの数日前とかに言うべきじゃない?」

 

「だって思いついたのさっきだし」

 

「このお馬鹿!?」

 

 

 バカとは失礼な…と思いつつ、僕は旅に出る一番の理由を切り出す。

 

 

「…何より、この国に神は“3人もいらない”でしょ」

 

「いやまぁ…過剰って言えば過剰だけど…良くない?別に」

 

「まぁ神が一つの国に一杯いてはいけなかったら八百万の神とかいう言葉も生まれてないだろ」

 

「…あれ?」

 

「ん?どうしたの鈴八」

 

「いや…聞かないのかなって」

 

「え?あぁ、鈴八が神だってこと?最初から知ってたよ?」

 

「え?」

 

「いや、初対面の時とかはともかく、中庭であんな神力出されたら嫌でも気づくって。あんな暴力的なの」

 

「ちなみに私も初対面の時の時点で気づいてたぞ」

 

 

 嘘…ってことは僕のはやとちり…?

 

 

「だからさ、友達探しはもうちょっと後にして国にいようよ」

 

「ンー…でも千二百年くらい待たせてるし…」

 

「え?まって?鈴八何歳?」

 

「…目覚めてからは軽く千二百年経ってる」

 

「最低でも千二百歳…そんなお婆ちゃんだったのかいアンタ」

 

「いや神奈子、鈴八の場合はお爺ちゃんだよ。いやでもびっくりなんだけど、私より千も上って…」

 

「…まぁ、眠る前の時間が分からないから…もっと上かも」

 

 

 一回(恐らく)焼け野原になった土地が樹海になるほどの時間だし、万年くらいは経ってるんじゃないだろうか。

 

 それを言うとまた騒がしさが再燃しそうだし、口には出さないけど。

 

 

「…そういうことだから、部屋は片付けておく」

 

「片付けるって、あの部屋の武器全部持っていくの?絶対嵩張るでしょそれ」

 

「何個かあげる。武器術もまたいつか再開した時に教え込む」

 

「うへ…神奈子もいる?」

 

「あぁ、何個か貰おうか。諏訪子と打ち合いたいし」

 

 

 そうして僕は、荷物(武器)の殆どを諏訪子と神奈子にあげたあと、夜に軽い宴会を開いて僕の出発を祝った。

 

 縁だけがなぜか元気がなさそうで、どうかしたのかと聞いても何でもないの一点張り。

 

 その後は自室へと姿を消した縁が寝静まるのを待って、宴会を静かに再開した。

 

 そしてその宴会も終わり、諏訪子も神奈子も寝静まった時間帯に、僕は中庭の縁側で一人毛繕いをしていた。

 

 

「…」

 

 

 中庭の桜は風に揺られて散り、ざわざわと騒ぎだす。

 

 夜空を舞う桜の花弁が風に乗って舞い、地に落ちる。

 

 こちらに飛んできた花びらの一枚を手に取り、眺める。

 

 すると、背後で気配がした。

 

 

「…鈴八さま」

 

「…縁?」

 

 

 その気配は、縁のものだった。

 

 振り返ると寝巻き姿の縁が何かを持って立っており、少し寂しそうな表情でこちらを見ている。

 

 

「どうしたの?」

 

「…もう、旅に出られるのですよね。長い旅に」

 

「うん…ここでの生活はとてもいいものだった…でも、僕は友達を探さないといけない。…ごめんね」

 

「…いえ、鈴八さまが決めたことなので…。………おとなり、よろしいですか?」

 

「うん」

 

 

 縁は僕の隣に座って、頭を僕の肩に乗せる。

 

 

「…寂しいです。私の大切な日々には、鈴八さまがいないと…とても、心がからっぽになります…」

 

「…うん」

 

「…心細いです…。私を守ってくれる人は、いつも鈴八さまや諏訪子さまでした…。とても、心が冷めていきます…」

 

「…うん」

 

「…できれば、私も連れていって欲しいです。でも、そしたら諏訪子さまが一人になっちゃうし、鈴八さまの邪魔になります。…どっちを選べばいいのか、わかるのに…どっちも、選べないです………」

 

「………縁」

 

「…はい」

 

 

 僕は毛繕いを止めて、尻尾で縁の身体を包む。

 

 

「…君に、これを託す」

 

「…これは?」

 

「僕の愛用の刀…の予備。とても重いし、とても切れる。それを…縁に預ける。友達を探し終わるのはいつになるか分からないけど…いつか必ず、それを返してもらいに来る。それまで…それを使って強くなって」

 

 

 僕の刀『紅黒』の小太刀版を縁に渡す。

 

 縁は手の上にある重くずしりとしたそれを乗せて眺め、少しだけ刃を出してまた眺める。

 

 

「…綺麗です」

 

「…そろそろ僕は行く。…それを使いこなせるようになったら、僕と戦おう」

 

「…はい…っ」

 

 

 ぽろぽろと涙を溢す縁の目を袖で拭ってあげながら、僕は立ち上がって中庭の真ん中に行く。

 

 そこで縁側で座る縁に向き直って、手を軽く振る。

 

 縁も振り返して来るのを笑って見届けた僕は…音を立てないように跳躍して、一回も足をつけることなく諏訪の国の領域を出た。

 

 またね、『諏訪之国』。ありがとう、諏訪子、神奈子、縁。

 

 僕の新しい友達たち。






 Q.鈴八君の力ってどんくらいなの?
 A.富士山を少しズラせる程度ですね。まだ強化します(キチガイ)

 Q.弱点は???
 A.強いて言うなら妖力の放出ができないので妖力による遠距離攻撃や浮遊はできません。でも拳で衝撃波放ったり空中を蹴って空飛べるので弱点とは言えません。


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【そ】 鬼




 続きでございやす。

 それでは、どうぞ…


 

 

 

 『諏訪之国』を発って、そろそろ10年は経つだろうか。

 

 僕は相変わらず各地を転々としながら修行を繰り返して、過ごしている。

 

 途中に立ち寄った村や町を襲う妖怪を屠りながら旅をしていたお陰で一部の場所では有名になってしまったけど、妖怪だとはまだバレてない。変化の術で耳と尻尾を消しているからだ。

 

 まぁ、時々勘の良い者や、妖怪退治に精通している人間からはバレることもあるけれども。

 

 今日はいつもと変わらない森の中の獣道を、少しだけ()の姿に戻って進んでいる。

 

 というより人の姿じゃ獣道が通れない挙句、着物のせいで枝に引っかかったりなんやらで、三歩歩いただけでボロボロになった。

 

 髪も乱れて最悪すぎる。狐の姿でも結構枝に引っかかったりするけど人の姿よりは幾分かマシだ。

 

 というかまだ抜けないのかな、この道。

 

 と、心の中で愚痴をこぼすと、不意に開けた場所に出た。どうやら獣道は終わったらしい。

 

 ただその代わり、僕にとっては嬉しい者がいた。というより、種族が。

 

 女性の割に背丈は大きく、額に大きなツノ。肌こそ赤くはないが、それはまさに…

 

 

「…“鬼”」

 

「ん?…なんだい狐か、あっち行きな。シッシ」

 

 

 まるで嫌いな動物にあったというような表情で追いやるような仕草をして、酒を飲んでいる。その大きな盃はどこかで見たものだ。

 

 過去に百鬼との闘いで彼の腰らへんにチラッと見えた気がする。

 

 

「…それ、百鬼の盃?」

 

「___ッ!?」

 

 

 僕が喋ったから、ではないだろう。恐らく、僕が百鬼の存在をしているから驚愕している。

 

 綺麗な酒の飛沫を散らし、慌ててこちらを見るその女性は口元を拭いながら睨みつけてきて、下手な真似をすればすぐに飛びかかられそうな気配をしている。

 

 

「なんだいオマエ。なんで“あの方”の名前を知ってんだい」

 

「…友達だから」

 

「友達ィ?…いいや、嘘だね。狐は嘘吐くし、何よりあの人に友達がいるはずがない」

 

 

 なんて酷いことを言う奴なんだ。

 

 

「…まぁ、信じてくれなくてもいいけど…百鬼はどこにいるの?」

 

「…それをアタシが教えるとでも?」

 

「…なら、力尽く」

 

 

 僕は瞬時に人の姿になって、相手持つ。構えずに両手の力は抜いて、相手の出方を待つ。

 

 

「……強い!」

 

 

 人化した僕に呆気取られた様子が数秒。気を取り直した女性は自分に発破を掛けると、地面を砕くほどの脚力を以て加速し、数瞬で僕の前に来た。

 

 急停止した勢いで拳に勢いを乗せながら僕の顔面を狙う拳。

 

 ___勿論、食らうつもりはない。

 

 

「『廻転(かいてん)』」

 

「ぅおわぁ!?」

 

 

 勢いよく迫ってくる女性の拳を掴み、威力がこっちに伝わる前に引っ張りながら捻る。

 

 すると拳の勢いと引っ張られる力で女性の体は持ち上げられ、更に捻られた力でぐるんと拳を起点に回転する。

 

 そして手を離して投げ飛ばす形にしたが、女性は見事な身のこなしで体勢を立て直し、着地する。そしてまたこちらに殴りかかってきて、僕はまた同じ対処をする。

 

 ンー…本当にこの人鬼?ちょっと流しただけで全部持って行けるんだけど…。

 

 

「っ!全力でも流されるってどんな反射神経だいっ!」

 

「…君、案外力が無いんだね」

 

「あ“ぁ”!?テメ…潰すッッ!!!」

 

 

 あ、この構えは…。

 

 

「『三歩必殺』ッッッ!!!」

 

 

 『三歩必殺』…懐かしい、昔はこれをモロに食らったからね。

 

 

「『一歩』ォッッ!!!」

 

 

 一歩目での踏み込みによる地割れに問題なく対処し、

 

 

「『二歩』ォッッ!!!」

 

 

 二歩目の踏み込みと同時にばら撒かれた妖力を、僕の身体に妖力を纏うことで打ち消し、

 

 

「『三歩…必殺』ッッ!!!」

 

 

 三歩目の踏み込みで振われた拳を、僕は手の甲でパシッと受け止めた。

 

 

「なんっ___」

 

「…もういい」

 

 

 

「…これ以上の手合いは、意味がない」

 

 

 拳を受け止めた手の甲を返し、拳を掴むと、僕はほんの少し押し返し…この女性を吹っ飛ばした。

 

 吹っ飛ばされた女性は木々を薙ぎ倒しながら飛んでいき、やがて止まる頃には…約三里程離れた場所で気絶していた。

 

 うーん…ちょっとやり過ぎたかな…この頃手加減の具合が悪いや、力の調整も鍛錬に入れようかな…。

 

 と、一人反省して女性を見る。

 

 兎にも角にも、せっかく見つけた百鬼への手掛かりだ。

 

 とりあえず、動ける程度に治療して目覚めを待とう。

 

 そう決めて、僕は女性へと歩みを進めた。






 Q.あののじゃロリ系みたいな喋り方の人物は何者?
 A.【ネタバレ防止】

 次回をお楽しみに


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【つ】 友の死



 ( *・ω・)ノやぁ


 それでは、どうぞ


 

 

 

 

「死んだ………?」

 

「…あぁ。数年前の、陰陽師を主に集められた妖怪退治を得意とする集団による…『妖怪之山掃討』の時にね」

 

 女性…星熊勇義は続けて言う。

 

「集められた集団に関しては、アタシ達でも対処できたし、アタシ達以外の弱い妖怪でもなんとか対処できてた。でも、陰陽師…特に、あの般若の面を被った男は別格だった。

「集団で囲んで攻撃しても結界術で周囲を覆ってるのか、飛び道具も遠距離も効かないし、殴ったら殴ったでこっちの拳が壊れるし、あの時は力不足で情けなかったよ。

「でも、百鬼様は違った。アタシ達が苦戦してた般若の面の男を一撃でぶっ飛ばして、他の陰陽師も下っ端達も妖力も使わずに腕っぷしだけで蹂躙してってさ!

「…勝ったと思った。百鬼様の勝利を疑わずに、アタシ達はぼーっと突っ立ったままその光景を見続けてた。それが行けなかったんだ。

「一人、隠密が得意な陰陽師が潜んでてね。気がついた時にはそいつはアタシの背後にいて、その手には妖怪には猛毒な『神力』が込められた短刀が握られてた。

「…それで、それに気づいた百鬼様はアタシを庇って…」

 

「死んだ…か」

 

 

 …そっか、死んだんだ。

 

 あの…名付けるなら『人妖大戦』か。あれから少なく見積もって数千年余りが経過したけど…そうか…。

 

 どうやら僕の精神は、友の死を受け入れられるほど強くはなってなかったらしい。

 

 

「そっか…っ」

 

 

 滲む視界、鼻で呼吸ができない、呼吸がし辛い。

 

 袖で目を拭っても拭っても袖が濡れるばかりで、嗚咽が漏れ出す。

 

 感情を制御できない。

 

 

「ぐすっ…う、…うあ…」

 

「…狐………」

 

 

 不意に頭に何かが触れて、身体が反射的にびくりと跳ねる。

 

 嗚咽を漏らしながら顔を上げると、それは勇義の手だった。

 

 

「あぁほら、袖で鼻拭うんじゃないよ。…百鬼様とアンタの関係は知らないけど、百鬼様の死を悲しんでくれるってなら、それはアタシにとってとても嬉しいことだ。…だから」

 

「ぁっ…」

 

 

 肩を抱かれて、引き寄せられて、抱きしめられる。

 

 そのまま頭を撫でられて、背中を摩られる。

 

 勇義の暖かい体温が、悲しみを包み込んでくれる。

 

 

「今だけは…アンタの悲しみを隠してやるよ」

 

 

 思い出す。過ごした時間はあっという間だったけど、敵という存在から、友となった百鬼の姿を。

 

 思い出す。瀕死の僕を背負って、都市まで走ってくれた百鬼の背中、温もりを。

 

 でも、その全てが冷たくなっていく。

 

 そのままでいてくれた勇義の中で、僕は暫く泣き続けた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「すんっ………ありがとう」

 

「良いってことさ。それに…泣いてるアンタの方が可愛げがあったしね」

 

「っ、ふんっ!」

 

「おぐふっ」

 

 

 余計なことを言う勇義の脇腹に手刀で突きを放つ。

 

 この身体に転生してから初めて泣いたからか、羞恥心が芽生える。現にちょっと今顔が熱い。

 

 でも…勇義には感謝してる。

 

 

「…どうしよう」

 

「…とりあえず、百鬼様の墓に行ってみるかい?墓っていうか、死んだ場所だけど…まぁアレは墓か…」

 

「…?うん、行く」

 

 

 どこか歯切れの悪い勇義の提案に賛同して、勇義と一緒に立ち上がる。

 

 「こっちだ」と僕の手を引っ張って百鬼の墓に向かう勇義。

 

 

「…えっと」

 

「ん?どうしたんだい」

 

「…手?」

 

「あぁ、森の中を突っ切って行くからね、アンタが迷子にならないように手を繋いでやろうと思って」

 

 

 その言葉に僕はちょっとムッとした。

 

 

「…そんなに子供じゃない」

 

「ははっ、そうかい。まぁ…あれだ。仲良く行こうってことで」

 

「…まぁ良いけど」

 

「じゃ、決まりだな」

 

 

 と、勇義はそのまま藪を蹴散らし、枝を態々僕の方のまでへし折りながらずんずんと進んでいく。

 

 おかげで進みやすいけど、良いのだろうか。

 

 そう思って悩んでいると、勇義から声が掛かった。

 

 

「そういえば、アンタの名前は?聞いてなかったからね」

 

「…僕は、黒金鈴八。狐の妖怪」

 

「へぇ、鈴八、黒…がね………?」

 

「うぎゅ」

 

 

 急に勇義が止まって、ぶつかった。

 

 なんだよもう…と思ってたら勇義が恐る恐る振り向いてきて、「マジ?」みたいな顔をしてきたので思わず頷く。

 

 すると。

 

 

「ええええええぇぇぇええええええええええええ!!!!!????」

 

「うるさ」

 

 

 空気が震えるほどの大声で叫ぶから思わず耳を両方閉じて、狐の耳もペタンと閉じる。

 

 そうやって絶叫が過ぎるのを待っていると、急に勇義が肩をガッと掴んできて、顔を近づけてきた。

 

 

「ほ、本当にかい!?あ、あの”頭のおかしい金剛(デコ)助狐“の黒金鈴八なのかい!?」

 

「よーし誰だその異名言ったの。お望み通り頭突きしてやる」

 

 

 絶対に許さん。手加減無しに三発ぐらいやってやる。

 

 

 

 

 

 あの後冷静を取り戻した勇義にまた連れられること三分。

 

 漸く森を抜けて、少し歩いた先には…墓?というよりも、瓢箪や盃の塔が建っていた。

 

 しかも酒気の匂いがここまで漂ってくるってことは、アレ全部酒だ。

 

 うへぇ…と匂いに顔を顰めながらそれを眺めて、その塔に近寄る。

 

 勇義も背後をついてくる。

 

 

「…久しぶり、百鬼」

 

 

 懐かしい妖気の残滓が、微かにそこにあった。

 

 

「…多分、数千年ぶり…かな?僕は千…えっと、三百年か、それくらい前に目が覚めたけど、君はどうなんだろ。頑丈な君のことだし、数十年経って目覚めたのかな」

 

 

 そんなことを喋りながら残滓の前に胡座を掻いて、手を足に乗せて若干前のめりになりながら残滓を見つめる。

 

 

「僕の方は、結構な旅路だったよ。一手だけだけど神と戦ったり、大きな国の神社に住んだり…妖怪の癖に人助けはしてるけどね。あと、武器も使うようになったんだ、手加減用に。刀とか、槍とか…全部百鬼に使おうと思ってたけど、それもできないか………あと数年早ければ、君を助けられたのかな。百鬼」

 

 

 右の拳をギュッと握って見つめる。

 

 それから残滓に目を戻して、目を閉じる。

 

 黙祷。

 

 拳を胸に当て、心臓の音を聞きながら、百鬼の死を心に刻む。

 

 

「…いつか空の上で、またやろう」

 

 

 そう言って目を開けて、立ち上がる。

 

 友の一人を探し出せた。友の死を知った。悲しみを乗り越えた。

 

 これは、この経験は僕を更なる強さに引き上げてくれるだろう。

 

 そして振り返り、背後で黙って見ていた勇義の元へ歩く。

 

 

「…もう、良いのかい?」

 

「別れは済んだ、約束もした。…あとは空で会うだけ」

 

「…そうかい。なら…会うのはもっと先になりそうだねぇ」

 

「…うん。…じゃあ、僕はもう行くよ。これ以上、此処には用がない」

 

「本当だったら他の鬼の奴らにもアンタを紹介したかったけど、まぁそれはまた会った時でいいか。別に永遠の別れってわけでもないんだろう?」

 

「…探してる友人が、あと一人いるからね。探すまでは絶対に死ねない」

 

「ははっ、応援してるよ、鈴八。あ、そうだ、コレ」

 

 

 そう言って差し出された百鬼の盃。

 

 

「百鬼様の形見として持ってなよ。一応四天王の証って形で持ってたけど、アタシはこれはアンタが持つべきだと思う」

 

「…いや、いいよ。お酒を飲むわけでもないし、それに…」

 

 

 後ろを振り返って、少し揺らいだ気配のする百鬼の残滓に微笑む。

 

 

「百鬼なら『形見なんざ女々しい』って言うかもだし」

 

「…くくっ、そうだね。言いそうだ。…じゃあな、鈴八。友探しの旅、応援してると」

 

「ありがとう、勇義。…それじゃ」

 

 

 別れを交わして、僕は妖怪の山から飛び出すように跳躍して空へ踊り出す。

 

 そのまま人の手が加えられた道を探し出して、そっちに向かって身体を向けて空気を蹴って行こうとする。

 

 すると、跳んだ場所から何かチカリと光ったのが見えて、目を向ける。

 

 そこには、盃や瓢箪でできた墓の天辺にある盃に入ってる酒が、眩い太陽の光を反射していた。

 

 

「くすっ……じゃあね、百鬼」

 

 

 






 Q.頭のおかしい金剛(デコ)助狐???
 A.言葉通りの意味です。

 Q.あれ、天狗とかは???
 A.鬼ある場所に天狗無しってことで、後で出します。


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【ね】 猛吹雪の毛繕い職人



 それでは、どうぞ…


 

 

 

 

「(ンー………お日様が気持ちいい…。)」

 

 雪が積もる季節のこと。

 

 僕は変化の術で変化させていた畳一畳を丈夫な木の上に置いて、その上でお日様のぽかぽかを堪能していた。

 

 尻尾も妖力を抑えながら全部顕現させて、仰向けになりながら大の字に天日干しされるような感じで身体全体でお日様を浴びている。

 

 

「くぁぁ〜〜〜」

 

 

 鍛錬は…いっか、今は。夜に“纏めて”やっちゃおう。

 

 それにしても、あとちょっとで日本一周かぁ…あー、そういえば歴史の人物に日本一周した人いたっけ。本多忠勝だっけ?

 

 今の調子でいけば、多分僕が目覚めた樹海に辿り着くまで残り十日ってところかなー。

 

 日本一周したあとはどうしようか、歴史を見て回るとか?また諏訪子のところに行くのも良いな…あ、走って海を渡って海外に行くのも良いかも。

 

 あーでも外国語が話せないや。二千年代以降のだったらなんとか記憶を掘り起こして喋れるかもだけど、今の外国語はさっぱりわかんないや。

 

 あーうー…あー、勇義のとこに遊びに行くのも良いかも。お酒でもお土産に持って行こうか。

 

 ………すっごい眠いなぁ。今日はこのまま夜まで寝てしまおうかな。

 

 そう考えて、意識を手放そうとした瞬間。

 

 不意に頬に冷たいものが柔らかく降ってきた。

 

 

「…雪?」

 

 

 そう呟いて目を開ける。すると暖かな太陽を覆い隠すように、かなり速い速度で迫ってくる大きな雲を見て、僕は嫌な予感がして立ち上がって畳を葉っぱに変化させて枝の上に立つ。

 

 …この距離からでもかなり強い風が吹いてる。しかも雪まで飛んできてるってことは…大きい吹雪が来そうだ。

 

 あーあ、せっかく良い天気だったのに。

 

 しょうがない、今からでも吹雪を過ごせる場所を見つけるかぁ。

 

 枝から飛び降りた僕はそんなことを考えながら、小屋か何かないかと歩いて探し回った。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「ひゃー」

 

 

 これはすごい、前が全く見えないや。

 

 結局吹雪が来る前に何も見つけられなかった僕は、既に雪で埋め尽くされつつある道を歩きながら冷たく振り注ぐ雪をその身で受けていた。

 

 既に暖かい太陽は黒い雲に覆い尽くされて見えなくなっていて、地上は極寒の地と化した。

 

 特に向かい風が凄い。向かい風というか四方八方から来る強風が凄い。

 

 今は迷惑だとは思いつつ足を地面に一歩ずつ埋めながら進んでるけど、多分それをしなかったら僕はもう空の彼方だ。着物も相まって(ムササビ)のようになること間違いない。

 

 しかし、ここまでの吹雪はここ数十年ぶりだ。何がどうなってここまでの規模になったのかはわからないけど、今年と来年は多分もっと酷くなる気がする。

 

 …もう道が完全に見えなくなってきてるし、早いところ古屋かなんかを見つけなきゃずっと寒いままだ。

 

 いっそ地面の中で吹雪が過ぎるのを待とうかな。

 

 …ん、なんか…おお、危ない。踏み抜いた地面の横スレスレにお地蔵さんの頭が。

 

 よかった、罰当たりなことしないで。お地蔵さんの位置を元に戻しつつ、僕は先に進む。

 

 お、あれは…古屋だ。

 

 お地蔵さんのところからそう遠くない場所にある古屋を目指して、目の前の扉の前に立つ。誰も住んでなさそうなボロ小屋だし、多分勝手に入って良いよね?

 

 そう信じて扉を開け、中に入る。うん、見たところ人がいた形跡もないし、風は少し入ってくるけど雪は入ってこない。吹雪を過ごすには最適な場所かな。

 

 ちょうど囲炉裏もあるし…狐火で暖でも取ろうかな。

 

 狐火狐火…と、はーあったかい。ついでに尻尾も出して毛繕いでもしようかな。

 

 櫛の葉っぱは…これか、戻してっと…。

 

 ………………。

 

 ………………………。

 

 …………………………………。

 

 尻尾の毛繕いは意外と奥が深い。

 

 まず、尻尾の生え際が腰のあたりから生えているのが面倒臭い。後々楽をするために付け根から始めるのだが、これがなんともやりづらい。

 

 腰を回して振り返れないのだ。腰を回せば当然尻尾も遠ざかる。始めたての頃は無理やり関節を外してやっていたものだ。

 

 今はコツを掴んで、腰を回さずに上半身を捻る術を身につけた。これぞ匠の技だろう。

 

 さて、付け根九本分が終われば、次は一本一本を丁寧に櫛を通すだけだ。

 

 尻尾の芯にギリギリ触れることなく、毛だけを優しく撫でるように柔らかい手つきで繕うのがコツだ。

 

 付け根付近から先っぽまで、川の流れを意識するようにすっと滑らかに、櫛を船として操る。毛の絡まりという岩は船頭でぶち壊せば良い。

 

 単純で早く終わる。しかし、早く終わらせれば良いというものではない。心を込めて、じっくりと時間を掛けて九本分を行う。

 

 尻尾毛繕い職人の奥は深い…って職人ぶってみる。

 

 毛繕いしてる時は無心になれるけど、ただ無心になるだけじゃ退屈だから職人風な語りを入れてみたけど、思ったより虚しくなるだけだった。

 

 当然今の間で吹雪は止む気配もないし、やっぱり今日は小屋篭りかな…

 

 と、吹雪に不満を抱きながら毛繕う手を止めずにいると、外から扉を叩く音が聞こえた。

 

 一度目は気のせいかと思いたくて無視していたが、二度目は少し強くなって叩かれる。それでも無視していると三度目の強打がやってきて、流石に出てやろうかと櫛を置いて立ち上がった。

 

 一応尻尾も耳も隠して扉の前に立ち、開ける。

 

 そこにいたのは…

 

 

「…ようやく開けてくれましたか…くしゅんっ」

 

 

 厳かな帽子を被った、緑色の髪色をした少女…?

 

 とりあえず厄介ごとの気配がしたので扉を閉めた。

 

 

『ちょっ!?この吹雪の中こんな少女を締め出すのですか!?くっ、開けなさい!開けて暖を!というかさっき頭を踏み砕きかけたことも謝ってもらいます!開けっ、固…ぬぁああああ!!!』

 

 

 明らかに人間の力の範疇ではない力で扉を開けようとしてくる少女に抵抗して、僕は人差し指で対抗する。

 

 恐らく向こうは顔を真っ赤にして本気を出しているのだろう。運動して暖かくなれるのだからいいことだと僕は思う。

 

 まぁ、厄介ごとの気配がするとはいえ初対面でここまで拒絶する必要はないので、大人しく指を離してやるとする。

 

 するとさっきまでの力の均衡(笑)が嘘のように扉がものすごい勢いで開いて、扉の前にいた少女が一瞬にして姿を消した。

 

 扉から少し顔を出して外を見ると、件の少女は積もりに積もった雪に顔を突っ込んでおり、ぴくりとも動かない。

 

 死んだか…と思いその場で合唱すると、少女は突然起き上がって此方を睨みつける。

 

 そしてわなわなと肩を怒らせると、此方に指を突きつけて、

 

 

「そこに…直りなさああああああいッッ!!!」

 

 

 吹雪の音を掻き消すように、少女の怒声が響きわたった。






 Q.鈴八君ってどのくらい物を変化させて持ってるの?
 A.余りに多くて書き出すのがめんどくさいので全ては言いませんが、今一番大きい物では一軒家を懐に入れてます(驚愕の事実)。

 それでは、次回もお楽しみに…


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【な】 四季映姫







 

 

 

「全く!こんな猛吹雪の中に締め出すなんて人格に問題があり過ぎます!

「いくら近かったとはいえ、あの距離を歩くだけでもかなり寒かったんですからね!?

「それに!先程あなたに頭を踏み砕かれそうにもなりましたし!それについても謝ってもらいたいです!

「聴いているんですか!?大体貴方は初対面の人に対して失礼な態度が多すぎます!私が雪に突っ込んだ時もそうですし、あの時だって助けてくれてもよかったんじゃないですか!?

「まぁそのことはいいんです。考えれば貴方からすれば私は知らない人物で、このご時世こんな人里離れた道端に建つ古屋を尋ねるなんて、精々が野盗か遭難者、もしくは妖怪。警戒するのも分かります。

「しかしそれとこれとは話が別でしてね!あれ怖かったんですよ!?吹雪で倒された時も“あー倒れちゃったなー、誰か運良く助けてくれないかなー”なんて思って、そう思った矢先にやけに地面に響く足音と人の気配がして“これはもしかして!”と思えば、ちょっとでも私の方に歩幅がずれていたら頭バッカーンですよ!?多分その時にこの身体になってたら生理現象的に絶対出ては行けない物が出てきたかもしれないです!今も思い出したら漏れそうなんですもん!

「とにかく!貴方は私を怖がらせたことと、私に恥をかかせたことの二つについて謝ってもらいます!いいですね!?」

 

 

「……………あっ、終わった?」

 

 

「ぬぁぁああああああああああああああッッッ!!!!!!!!!」

 

 

 うるさ。

 

 人の小屋に(僕のではない)勝手に押し入ってきたと思えば、狭い部屋の中で大声上げて…常識がないのだろうか。

 

 折角毛繕いをしている最中なのに、こうしてうるさくされちゃ集中できない。仕方ないから尻尾を消して、櫛を葉っぱに変える。

 

 

「……で、君誰?」

 

「そこからですか!?…いえ、そういえば私の名乗っていませんでしたね。私は四季映姫、貴方が頭を踏み抜き掛けた地蔵です」

 

「あらま……僕は黒金鈴八。狐の妖怪」

 

「狐…ですか?鬼ではなく?あ、そういえば尻尾ありましたもんね」

 

「地蔵…そういえば地蔵ってなんの妖怪なんだろう」

 

「誰が妖怪ですか。地蔵にはいろんな役割があるのですよ?例えば疫病から村を守ったり、旅人の安全を祈願したりと。それに僅かではありますが、私のように自我を持った地蔵には『神力』があるんです。例え貴方のような力の強い妖怪であろうと、『神力』を用いて戦えばただでは済みませんよ」

 

「『神力』なら持ってるけど」

 

 

 へ?と僕の言葉に呆けた映姫の目の前に手を差し出し、狐火を灯す。本来ならば黒い炎の筈が、神力を込めると忽ち金色が目立つようになる。

 

 その光景に、映姫はこれでもかというくらい目を見開いた。

 

 

「あ、ありえません!まさか妖怪を信仰してる村が…というか神力に蝕まれてない!?本当に妖怪ですか貴方!?神力は妖怪を裁く神の特権の筈なのに…」

 

「…そこら辺は全然わかんない」

 

 

 まぁ多分、ここ数十年の間に人助けとか妖怪退治とかしてたからかなぁ。勘の良い人間には妖怪ってバレ掛けてるし、なんなら陰陽師とかにはバレてるし、そこら辺の人間が信仰してるって可能性もある。

 

 

「ま、まぁ良いです。いや良くないですけど。…ふぅ、それにしても止む気配がありませんね」

 

 

 そう言って映姫は横目で、小屋の壁の少し大きな隙間から見える吹雪の景色を見る。

 

 まぁ確かにここ数年は見ないほどの大吹雪だけど、永遠に止まないわけじゃないから良いでしょ。

 

 四百年前くらいにはこれより酷い吹雪があった記憶あるし…風が強すぎて木々が根っこから吹き飛んでたなぁ。その時寝てたから僕まで空高く飛ばされちゃったし。

 

 咄嗟の事の上に落下速度も風のせいで増してたから、着地地点が人里近くなくてよかった。めっちゃ大きい穴空いたのは良い思い出。

 

 しかもその穴から温泉が湧いて出たっけ。吹雪の中で入る温泉は気持ちよかったなぁ。顔は冷たくなるのに身体は暖かくぽかぽかする感覚は新鮮だった。

 

 念の為整備してそのままだけど、荒らされてなかったらまた入りに行こうかなぁ。

 

 

「…そういえば、少し聞いてもよろしいですか?」

 

 

 炎を見つめながら思い出に馳せてると、映姫が不意に話しかけて来た。

 

 特に断る理由も無いため頷く。

 

 

「ん…」

 

「では…。かなり前に聞いた話なのですが、数十年前に大和の国と合併した『諏訪之国』にある伝承があるらしいです。話せば長くなるので簡潔に言いますが、その国の神には妖怪狐の師匠がいるとか。神が妖怪に師事するなんて眉唾物ですが、同じ狐の妖怪なら貴方は何か知っているのでは?」

 

「…んー、多分僕」

 

「…え?」

 

「一週間だけだけど、諏訪子を鍛えたよ。弱っちかったけど」

 

「え、え、え、え、え。ちょっと待ってくださいね?頭が混乱して来ました…。………すいませんもう一度言ってくれませんか?」

 

「僕、神の師匠」

 

「聞き間違いじゃなかった!」

 

 

 そんな大した事じゃ無いと思うけどね。

 

 精々オタマジャクシから足が生え掛けのオタマジャクシになった程度だし。

 

 

「じゃ、じゃあ数十年前から様々な人里でよく聞くという御狐様って…」

 

「多分…僕?」

 

 

 さっき話した妖怪退治関連の話かなぁそれ。

 

 それにしてもそろそろ眠くなって来たなぁ…。

 

 

「はぁー…なんだか貴方と話すの疲れて来ましたね」

 

「…じゃあ、暇だし寝る。おやすみ」

 

「え、あ……おやすみなさい」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「(突然眠ってしまった…)」

 

 

 この吹雪によって倒れた私を___頭を踏み抜かれそうになりましたが___起こしてくれた狐の妖怪、黒金鈴八さん。

 

 この人の話を聞けば聞くほど過去に通りがかる人間達の会話で聞いた嘘みたいな内容の話に出てくる妖怪に似ていて、どうせ違うだろうと思いながら単刀直入に聞いてみればまさかの大当たり。少なくともそこらの妖怪とは比べ物にならない程の実力を持つ、神力を持った大妖怪だった。

 

 というか神力を得ておいてなんで死なないんですかね?本来なら妖怪の身であるその身体に神力が宿れば苦しみながら死ぬ筈なんですけど。普通の妖怪なら。

 

 …まさか、純粋な妖怪ではない(・・・・・・・・・)のでしょうか。人間の“恐れ”から産まれる妖怪では無いとすれば、他にも妖怪が産まれる原因が存在するという事。

 

 しかし、私はそんな話は聞いたこともない。思えばこの知識だって、私の身体を彫った人間の知識ですから、情報に間違いはない筈です。

 

 妖怪の知識を引っ張り出せば出すほど、私は目の前の妖怪がどのような存在なのか分からなくなる。綺麗な顔をしていますが、狐の妖怪だけあって姿を変えているのかもしれませんし。

 

 そういえば、狐の妖怪の変化は見た目だけ変化して、中身は変わらないそうですね。………ま、まぁ少しだけ…。

 

 

「………」

 

 

 …へ、変化しているだけかもしれないと思っていても、この顔を触るとなると変な緊張が…、え、ええい!女は度胸!いざ行かん!

 

 そんな内情とは裏腹に緊張に震えた指先でこの人の頬を突いてみる。

 

 ___すっごい柔らかぁい。

 

 気付いたらこの身体になっていた数十分前、私は私の身体を探ってみたりする過程で顔も触って感触も確かめて見てみましたけど、この人のように綺麗な肌でも無いですし、何より柔らかく無いです。

 

 あ、あぁ手が勝手に突くだけじゃなく摘んでしまう…うっ、や、やばいです、ついに手のひらまでが出陣しちゃってます…!

 

 

「……うーん」

 

 

「(ドッキィッッ!!)」

 

 

 お、起こしちゃいました!?わ、私は悪く無いんです!私のこの手が“黒”なんです!私は“白”です!

 

 内心でよくわからない言い訳を続ける私の目の前でこの人は起きる気配もなく寝返り、向こうを向いてしまいました。

 

 …ほっ。助かりました。良い加減これを機にやめなくては。

 

 粗相を働いた右手を左手で抓りつつ、私はすっと離れようとし…また寝返りを行った鈴八さんにびっくりして硬直する。

 

 

「…寒い」

 

「へっ?」

 

 

 寝言でそう呟いた鈴八さんは立ちあがろうとして床についた私に手を掴み、ぐいと引っ張りました。そしてそのまま体制の崩れる私をまるで抱き枕のように、私の向きが自分に鈴八さんの方へ向くように抱きしめ…………………………!!??!?!?

 

 そこで私の意識は、目の前の光景に対する許容範囲を余裕で超えて闇へと葬り去られました。

 

 次に目覚めた時、私は思い出すでしょう。

 

 はだけた着物から見える、真っ白い首と鎖骨を___。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとついでに男性とは思えないほどの甘い匂い。

 

 

 






 Q.『諏訪之国』の伝承。
 A.大和之国と合併した際に、縁によって制作された書記。当時は鈴八くんの情報があまりなく、ただただ物語として書いていただけだが、日本各地で囁かれる鈴八くんの噂話をかき集めて伝承として形にした。『その狐、拳一つで神が産みし大蛇を砕く』

 Q.整備された温泉
 A.鈴八くんが生み出したクレーターから湧き出した温泉を、鈴八くんが己の手で整備して整えた秘湯。古代ほどではないが、その秘湯がある森は迷いの森と化しており、余程運が良くないと辿り着けない秘湯と噂されている。


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【ら】 閻魔フラグ


 お久しぶりです。

 それでは、どうぞ…


 

 

 

 

 真冬の最中に猛威を振るう、大吹雪。

 

 囂々と吹き荒れる暴風に乗って空から放たれる雪は降り始めて約半日という短い時間に、幼子が約二人分程が丸々埋まるまで地面に降り積もった。

 

 人里に建つ何軒かの家は屋根に降り積もる雪の重さによって潰れ、田圃や畑は雪に覆い尽くされ、家畜なども大多数が凍死するという、ここ数十年で比にならないほどの被害を出している。

 

 しかし、それらだけではなく、人間や妖怪もこの大吹雪による大被害を被っている。

 

 (やまと)の人間の総人口の内、三割が凍死及び圧死による死亡。

 

 同じく妖怪の総数の内、二割が凍死を除いた同一の理由により死亡。

 

 単なる自然災害で片付けてはいけないと、今の時代の人間はこの大吹雪の文献を残した。

 

 だが、その文献には吹雪の事は完全には書かれなかった。

 

 故に、後に“五大厄災”の一つ、“辻風”として遺されることとなる。

 

 

 

 

 さて、この歴史的な自然災害の中、妖怪である鈴八は(鼻血を垂らしながら)気絶していた映姫をそのままに、数時間前から小屋の外へ出ていた。

 

 吹雪は未だ最高潮。衰えを微かにすら見せない雪を交えた暴風は厄災の名を冠するに相応しい。

 

 そんな中、不思議な光景が見える。

 

 いつもの着物を葉っぱに変え、修行用に作った丈の長い黒い胴着に袖を通している鈴八。両拳を前に構え、腰を落とし、足を肩幅に開き、その姿勢を一寸たりとも崩さずに、じっと石像のように構えている。

 

 所謂中国武術の鍛錬の一つである“站椿“と呼ばれるそれを数時間行っている鈴八の周りに雪はない。

 

 鈴八を中心に熱気が立ち込めているのだ。

 

 吹雪を物ともしない程の熱気を発する鈴八の身体には滝のような汗が流れており、真下の地面を酷く湿らせる。

 

 実を言うと鈴八の胴着は大岩を変化させている物であり___その重量は、大凡約八百貫(3000kg)にも及ぶ。

 

 そんな頭の悪い胴着を着ながら、約数時間。

 

 鈴八が動き出す。

 

 長く保っていたその姿勢を崩し、一息。

 

 

「っふー………………………」

 

 

 極寒の中で吐き出す息は蒸気のように白く、やがてそれが落ち着くまで立っていた鈴八は積もり始めた地面に目を落とす。

 

 

「…終わるか」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 ふー、やっと終わった。いつもの疲弊感が出てくるまで結構掛かっちゃったなぁ。

 

 そろそろ胴着も替え時かぁ……あ、そうだ。今度は思い切って“山”を使ってみようかな。

 

 大岩の胴着だって、最初は筋肉とか骨とか折れ潰れたけど、諦めずに『修復』を使いながら続けてたら一ヶ月で慣れたし、山だったら…まぁ三ヶ月くらいでいけるでしょ。

 

 あーあ、早く吹雪止まないかなー。人里離れた消えても問題ない山見つけたいなー。

 

 あと全力で動いても問題ない場所。出来れば地面とか諸々が鉄とかで出来てるところとかないかな。

 

 そんな妄想をしながら小屋へ向かう。前が吹雪で見えないけど、小屋の中には今も僕が灯した狐火があるからそれを感知すれば簡単に戻ることができるのだ。

 

 着いた着いた…映姫はまだ寝てるのかな?

 

 そっと戸を開けて隙間から見てみると、中で起きていた映姫が今の音に気付いて素早くこっちを見る。

 

 戸を開けて中に入ると、僕だと分かった映姫が「おかえりなさい」と声を掛けてくる。

 

 

「ただいま」

 

「どこに行っていたんですか?」

 

「鍛錬。ちょっと遠くまで」

 

「よく帰ってこれましたね…」

 

「狐火があるから」

 

 

 納得した表情の映姫の前に正座で座る。…床がガタガタで座りづらい…僕と映姫の分の座布団を葉っぱから戻して映姫に渡す。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 僕の下にも敷いて、座る。ふぅ、やっと落ち着く。

 

 ……座布団だけだとちょっと物寂しいな…毛布とかも出そうかな。

 

 毛布を二人分葉っぱから戻して片方を映姫に渡す。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 毛布を肩にかけて包まる。

 

 ……やっぱりもうちょっと欲しいな、半纏とかも出そうか。

 

 半纏を二人分戻して片方を映姫に渡す。

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 半纏に袖を通して、毛布に包まる。

 

 …後ちょっとだけ物足りないな。

 

 そう思ってまた葉っぱから戻そうとすると、映姫から待ったが掛かった。

 

 

「ちょ、流石に多いです。そこまで寒くないですよ?」

 

「そっか……やっぱ毛布もう一枚いる?」

 

「要らないですって!」

 

 

 いやだって…こんな小屋の中とはいえ寒い時期に半パンって見るだけで寒そうだもん。

 

 まぁそれを言ったら僕だって着物一枚しか身につけてないし、お互い様だけど。でも見た目の差がね?

 

 でも座布団出す前までは映姫も僅かに寒そうにしてたし、あげて正解かな。

 

 せめて隙間風とかなくなればいいんだけどなぁ…と言っても流石に工具とか板とか持ってないし、どうしようか。

 

 …いや……ある。

 

 いや、資材はないけど…多分解決できるかも。

 

 

「…試してみる価値はあるか」

 

「?」

 

 

 姿勢はそのままに、僕は片手を床について……『修復』。

 

 すると古びた床や壁はみるみるうちに時が戻っていくように新しくなっていき…。

 

 数秒経つ頃には、まるで建てたばかりのような新築の小屋ができていた。

 

 

「なっ!?」

 

「やっぱり。応用性が高いね」

 

 

 映姫がそれに唖然として、僕は能力の利便さに感心していると、気を取り戻した映姫が僕に詰め寄ってくる。

 

 

「な、何をしたんですか!?」

 

「僕の能力で小屋を直した」

 

「…あ、貴方も能力持ちなんですか…いや、むしろ持っていない方がおかしいですね、経歴的に」

 

「貴方もってことは…」

 

「あ、はい。『白黒はっきりさせる程度の能力』という能力を持っています」

 

 

 ふーん。裁判官向けみたいな能力だね。戦闘には向かなそう。

 

 

「大したことなさそうみたいな表情ですね…。でも結構便利なんですよ?私を前に嘘はつけませんし、私が判決を下せば絶対に覆せませんし。まぁ机上でしか暴れられない能力です」

 

「へぇ……仮に、死んだら怖い能力だね」

 

「ん?」

 

 

 映姫がよく分かってなさそうな顔をする。いや、僕の言葉が足りなかっただけだ。

 

 

「…確か、死んだら閻魔に天国か地獄かに行かされるんでしょ?もし映姫が閻魔だったら、問答無用で分けられるじゃん。何の抵抗もできずに」

 

「…なるほど、考えたこともありませんでしたね」

 

 

 顎に手を当てて考え込む映姫。

 

 でも実際、閻魔になる条件ってなんなんだろうね?生きて何かの実績を果たせば死後閻魔になれるのか、死んで天国か地獄のどっちかで誠実に過ごせば閻魔になる権利が与えられるのか。

 

 まぁ寿命以外で死ぬつもりもない僕が考えてもあれかな。

 

 というか僕の寿命ってどれくらいなんだろう?今の妖怪は大体千年くらい経てば自然消滅するけど、昔の妖怪はよくわかんなかったし…。

 

 なんなら僕の実年齢すらもわかんないからね。分かる範囲で千とちょっとって言ってるけど、実際は数千年は経ってるかもだし…。

 

 考えても仕方ないか。

 

 

「…確かに、私にとっては天職かもしれません」

 

「でしょ?あ、じゃあ今からでも媚び売って天国行きにしてもらわなきゃ」

 

 

 そう言ってわざとらしく手を合わせると、映姫は慌てたように両手を前に出す。

 

 

「い、いえいえ。えっと、遠い過去の記憶なんですが、神の類なる生物は死しても現世に留まるそうです。あと幾ら媚びを売ろうと厳粛に判決を下しますので無駄です」

 

「そっかぁ」

 

 

 後半の声が真剣だった。

 

 

 






 すっごい間違えました。

 Q.鈴八くんの『修復』の汎用性は何処まで?
 A.作者の脳みその限界の果てまで。

 Q.閻魔になる条件って?
 A.前提条件が地蔵として生を持つ事。そして地蔵として死んだ場合には死後死者に携わる職務に就く為、その職の中で順調に出世すれば木端地蔵でも閻魔になる可能性がある。しかし映姫は強制的に成らせる、


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【む】 故郷(仮)消失



 なんかふとランキング漁ってたら「珍しく東方の二次日間にあるやん」思いながら題名見たらなんとこの小説が3/5日の日間ランキングの58位にランクインしてましたね。

 いや、なんか執筆者として一流の三流としてはすっごい嬉しいんです。でもまたこの小説をダラダラと書いて、その間にこの小説が廃れると思うとちょっと怖くてですね。

 ともあれ、僕の憧れの生写しのような鈴八くんをここまで応援してくださってありがとうございます。それでは、

 どうぞ…


 

 

 

 

「……………止まないねぇ」

 

 

 映姫と過ごした小屋を離れて、数日が経った。

 

 本当だったら吹雪が止むまで映姫と共に止まるつもりだったのだが、何日経っても止む気配のない大吹雪に映姫が、

 

 

『私は吹雪が止めばこの小屋を拠点にして、近くの人里や村に説法を行おうと思います。それからは小屋を離れて、この倭を旅しながら、同じ事を行おうかと。ですから、鈴八さんは私のことを気にしなくてもよろしいです』

 

 

 と言って、僕が旅を再開したいのを見抜いて言ってきた。

 

 ここまで言われては遠慮する理由もないかと、念の為幾つかの食料と防寒具を置いて僕は旅を再開した。

 

 と言ってもこの止まない吹雪の所為で中々前に進まないし、なんなら再開初日に小屋を経って数分後に小屋に戻ってきちゃったし。映姫が呆然としてた。

 

 まぁ、感覚的にもう少し歩けば僕がいた樹海に辿り着くかなぁって感じで、ようやく進んでる。

 

 さて、樹海は無事かなぁ、更地になってたら僕の故郷がなくなったも同然だからね。

 

 未だ止む気配を見せない吹雪の中で呑気に考えながら、僕は雲さえ見えない空を見上げて歩いていた。

 

 

 _________!

 

 

 …ん?

 

 今…?なんだろう、変な感じがした気がする。

 

 感覚を研ぎ澄ませてみると、僅かに…極々僅かに感じる妖力の気配。

 

 この冷たい吹雪に混じって、そんな気配を僕は察知した。

 

 うーん…しかもこの方角、樹海の方だ。変なことされてなきゃいいけど。

 

 そう思い、少し早めに歩いて樹海を目指す。

 

 進むたびにつれ妖力の気配は濃くなっていく。あんまり大したことないけど、昔の妖怪レベルの妖力量だ。

 

 つまり、今の生物じゃ到底太刀打ちできない程の妖怪が、樹海にいる。

 

 

「…見えた」

 

 

 吹雪の向こうにうっすらと見える樹海の影。

 

 歩くのをやめて走って樹海に近づくと行くと、吹雪を“抜けた”。

 

 

「…は?」

 

 

 氷だらけの大地。それだけだった。

 

 氷の中に木があるわけでもないし、木々の間に氷が敷き詰められているわけでもない。

 

 不思議と七色に輝く氷が、“樹海の形”をしてそこに鎮座しているだけだった。

 

 …なるほど。

 

 ………なるほど。

 

 ………………………なるほどォ。

 

 

「………“面白い”」

 

 

 足元がビキビキとひび割れる。

 

 妖力を全力で激らせる。

 

 あぁ、長らく感じてなかったこの感情、実に懐かしい。

 

 感謝しよう、まだ見ぬ妖怪よ。

 

 ここ数百年、忘れかけていた感情を取り戻させてくれて。

 

 お礼に、全力で___。

 

 

「殺してやる………ッッ!!!」

 

 

 怒りが、滾る。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 五大厄災の内の一つ、“大吹雪”。

 

 未来では情報不足故に“辻風”と遺されたそれは、妖怪の仕業であった。

 

 氷の妖怪、氷結の妖、氷河妖。

 

 様々な名前で未来に残された、その妖怪の名は___雪女。

 

 その身に宿る妖力を加減なく振るい、産まれた瞬間から国の半分を吹雪で覆った大妖怪。

 

 その妖怪は、過去に巨大な爆発によって更地と化し、長い年月を経て樹海と成り果てたその場所を、氷の大地へと変えてそこに鎮座していた。

 

 

「…ふふ、あぁ、来るわ…また死んだ。また満たされる」

 

 

 この吹雪によって死んだ生物の力が、雪女へと届く。

 

 それにより大吹雪の“結界”に使っていた妖力が回復する。

 

 雪女は、この分だとあと数十日は余裕で行けそうだと確信する。

 

 

「…それにしても、“半分”は請け負ったけどあの“四人”は上手くやってるのかしら?最近全然連絡が取れないけど…」

 

 

 まさか退治されてないわよね…と呟きながらまた入ってくる力に酔いしれる。

 

 そろそろこのまま寝てしまおうかと、座っていた氷山に寝転がろうとした刹那。

 

 

「んぐっふ…な、なにっ!?」

 

 

 後方から莫大な妖気が津波のように押し寄せてくる気配に、咽せながら振り返って目を見張る。

 

 

 ___溶けてる!?いや“晴れてる”!?

 

 

 雪女が見るその先…。

 

 吹雪を降らせていたその雲から太陽が姿を現し、樹海を模った硬い氷は今の莫大な妖気が起こした振動によって全壊している。

 

 それだけでなく、砕けた氷は全て溶け、不毛となった大地が顕になる。

 

 

「な、何が、誰が…どんなバケモノが!」

 

 

 明らかに自分に向けられた妖気に恐れ慄きながら、雪女は己の中にある全ての妖気を全て使う気概で、振り絞り眼前に巨大な氷塊を作る。

 

 それを全力で射出し、大砲のような音を出しながら音速に近い速度を出して飛び去って行く氷塊を横目に、雪女はこの場を急いで離れようと踵を返す。

 

 

「はやく、早く逃げなきゃ___っ!?」

 

 

 太陽に照らされ、雪女の影を覆い尽くすような巨大な影が急に出てくる。

 

 それに慌てて振り返ると、遠い空に自身が打ち出した氷塊の姿が見える。

 

 そして、その下には“氷塊を掴んでいる”鈴八の姿。

 

 

「う……受け止めたっていうの!?受け止めて、あんな場所まで飛んで…どんな重さだと!」

 

 

 そこまで叫んだところで、鈴八が動く。

 

 その動作は掴んでいる氷塊を雪女に投げようとしているようで…。

 

 

「い、いやよ!こんなところで…!」

 

 

 急いで逃げねば、殺される。と、今若干力が入ってきたことによって回復した妖力を使って、自信を強化して走ろうとするが、時すでに遅く。

 

 頭上からとんでもない重量を感じた瞬間、雪女の意識は二度と覚醒することはなかった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 呆気ないなぁ。

 

 すっかり晴れた空に“空を蹴って”滞空しながら、そうぼやく。

 

 妖力を使った普通のは何故かどうしてもできないから、蹴って滞空するしかないんだよね。

 

 …はぁ、故郷はもう不毛の大地と化しちゃったし、これからどうしようか。

 

 僕が投げた氷塊以外は全部溶けて、あとはいつも通りの光景となっている。

 

 多分、さっきまであったこの結界の外も、あの妖怪が死んだ瞬間いつも通りの光景に戻っているはずだ。

 

 …はぁぁぁぁぁ………………………。

 

 

「………」

 

 

 もう…なんか…ため息しか出てこないや。

 

 すごい吹雪だなーって思ってたら実は妖怪の仕業で、その妖怪が僕の故郷(仮)を氷漬けにした挙句更地にして…しかもこんなでっかい氷残して…。

 

 あーあ、どうしよ。

 

 

 






 Q.あっさりしすぎじゃない?
 A.だって敵を強化しても主人公がバグだから何をどうしてもフィジカルで片付けられちゃうもん。

 Q.浮遊はできていいんじゃない?妖力操作的に。
 A.空中浮遊しながら常時高速移動するレジギガスがいていいと思ってるのか。

 次回をお楽しみに


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【う】 洩矢神社



 続きです。

 それでは、どうぞ、


 

 

 

 

「で、知らないうちに故郷が滅ぼされちゃったから、暫くウチに置いて欲しいと。いやいいけどさ、何十年か振りに会って感動の再会的なのを日々想像してたのに、あんな登場はなくない?屋根突き破ってから土下座は斬新過ぎだって」

 

「てへぺろ」

 

「何それ!?」

 

 

 故郷がぶっ壊れてから数日。とりあえず長い長い日本一周が終わり、次なる目的地も無くなったので、僕は第二の故郷とも言える『諏訪之国』へと赴いた。

 

 道中は「諏訪子なら寛大な心で許可してくれるか」とたかを括ってたんだけど、途中から諏訪子の寛大さはどこまで大きいんだろうかと気になってしまい…。

 

 とりあえずなんでもいいから懇願の意を含めた衝撃的な出会い方はなんだろうかと考えた結果が今諏訪子が言った通りの行動である。

 

 反省も後悔もしていない。

 

 

「いや流石に反省はしろ???さっきの音で翡翠(ひすい)が驚いて引きこもっちゃったし!今加奈子があやしに行ったけど」

 

「翡翠?え、赤ちゃんできたの?」

 

「私のじゃねえよ???いや縁が拾ってきた子だよ。二年前に」

 

「へー。そういえば縁は?」

 

「今中庭。鈴八から貰った刀で鍛錬してるよ」

 

「ふーん。…ちょっと行ってみよっかな」

 

「…あの、中庭壊さないでね?マジで」

 

 

 あ、ちょっとやる気になっちゃったのバレちゃったかも。

 

 でも、仕方がないじゃん?

 

 こんな“滾るような闘気”、やる気にならない方がおかしいって。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 中庭中庭〜っと…この扉だっけ?

 

 記憶の通りに中庭を目指して、目の前の戸に手をかける。

 

 そして静かに引くと、目の前に映る立派な桜が鎮座する中庭。

 

 そして…刀を構え、その身に宿る闘気を燃やしながら、瞑想する年老いた縁の姿があった。

 

 蒸気の様に燃え盛る様はまるで業火の如く、荒々しい。しかし、その中に隠された洗練さが見え、それを見て分かる通り僕が見てきた中で一番の‘強者“であることがわかる。

 

 …振るね。

 

 数瞬前を察知した僕の予想通り、縁は瞑想した状態から刀を一振りした。

 

 日輪を描く様に振るわれた刀は、一寸のブレもなく初動から終わりまでをゆったりと、空を裂いた。

 

 張り詰めた息を吐き、闘気と共に刀を鞘に収めると、縁は目を開いてこちらを振り向いた。

 

 そして一瞬目を見開くと、昔と変わったしわくちゃな顔を破顔させて笑う。

 

 

「お久しぶりでございます」

 

「うん。久しぶり」

 

「お元気で在らせられましたか?」

 

「生憎妖怪は風邪なんか引かないさ」

 

「羨ましい限りです。私は風邪を引くと辛く辛く…」

 

「人間だからね。仕方ないさ」 

 

「そうですね。しかし、人間だからと甘えてばかりじゃありませんよ」

 

「分かるさ。君は強くなった」

 

「えぇ、私は強くなりました。人を斬り、岩を斬り、都を斬り、山を斬り、妖怪を斬った。そして、これから」

 

 

 そう言って、縁は鞘から小太刀を引き抜き、構える。

 

 同時に、先ほどまでとは桁違いの闘気が吹き荒れる。今度は技術のへったくれもないただの力任せな闘気だ。

 

 

 

 

 

「『貴方を斬って見せます』」

 

 

 

 

 

 

「やってみろ…ッッ!!!」

 

 

 とはいえ、僕の拳に人間は耐えられない。これはどれだけ手加減しようと絶対だ。

 

 だから僕も、刀を使う。

 

 葉っぱの変化を解き、刀に戻す。

 

 彼女の覚悟に応えよう、【紅黒】。

 

 

「では…ッッ!!!」

 

 

 彼女が駆け出すと同時に、僕も縁側から飛び出す。

 

 甲高い金属音と共に僕の手にずっしりと乗ってくる一撃。

 

 そこから始まる二撃目三撃目と繰り出される攻撃を僕は捌き続けて対応する。

 

 段々と早くなるそれを延々と捌き続ける。それだけじゃない、早くなるにつれ重くなってきている。これは闘気…じゃない、霊力だ。

 

 いつの間にこんな力を身につけたのだろうか。余程の才能がなければ、感知すら不可能な程だというのに。

 

 

「考え事をする余裕がお有りですかッ!」

 

「っ!」

 

 

 なんだ?今の。攻撃が同時に来た?

 

 考え事に集中しすぎてよく見てなかった、なんだったんだ今のは。

 

 

「ッシ!!!」

 

「っ、なるほど!」

 

 

 斬撃を増やしている…違う、同時の二連撃!寸分の時間の狂いもない、全く同時に降りかかる一撃なのか!

 

 なるほど、本当に強くなった。人間の身でよくこれだけの絶技を身につけた。

 

 でも、僕はそれの更に上を行こう。

 

 

「___シッ!」

 

「ぐっぅ…!?」

 

 

 神速の“五連撃”。

 

 縁と全く同じ速度で刀を振っただけだが、縁には同時に5回の攻撃が来たと思ったはずだ。

 

 しかしまだ、

 

 

「まだ上はある」

 

「___ぁっ!」

 

 

 少し速度を速くしての“八連撃”。

 

 八回分の斬撃を受け止めた縁は、その衝撃を受け止めきれずに小太刀を弾き飛ばされた。

 

 刀を弾き飛ばされたままの体制で無防備になる縁の懐に入り込み、その首に刀を添えようと、刀を振ろうと瞬間___。

 

 縁の黒い目が、仄かに緑に輝いた。

 

 

「___『無刀』」

 

「っ!?」

 

 

 キンッ___と、ある筈のない縁の刀と僕の刀が衝突した。

 

 即座に追撃しても“見えない刀‘に阻まれ、僕の攻撃が捌かれる。

 

 なんだ、縁に何が起きた?

 

 

「…これが、”神力“…いや、まだ至ってないですね」

 

 

 神力…いや、違う。それにしては力が”薄い“。

 

 その様な力、今まで見たことがない。

 

 諏訪子に聞けば何か………いや、今はやめよう。

 

 今は…縁の相手をしてあげないとね。

 

 

「…申し訳ありません、鈴八様。この力は相当消耗が激しい様で…次の一手で終わらせましょう」

 

「…分かった」

 

 

 尻尾を一本顕現させて返事を返す。

 

 縁はその力を操り、力を込める。その姿勢は居合に近い。

 

 

「『無刀流』」

 

 

 なら僕もだ。

 

 

「『稲荷流』」

 

 

 百鬼だけじゃなく、手加減用や人間の悪人相手に原型を保って斬る用に開発した、僕だけの流派にして型。

 

 今回使うのは後者の方だ。

 

 構えた僕に対して、縁は無音の踏み込みと共に今までで一番速く…神速に近い速度で迫ってくる。

 

 

「『無間』」

 

 

 まさに僕との間が最初から無い様な、凄まじいまでの距離の詰め方だ。

 

 しかし、それは“僕以外から見た視点”だ。

 

 縁が近づいて抜刀した瞬間、僕も技を繰り出す。

 

 

「『梶原斬り』」

 

 

 鞘から抜いた刃をブレさせず、速度を落とさず、ただひたすら相手をまっすぐに斬る。ただそれだけの技。

 

 その技を以て繰り出された刀身は、僕の首元まで迫ってきていた見えない刀身を容易く“斬り”捨てた。

 

 そして、縁の首に刀を添える。

 

 

「…参りました」

 

「…縁」

 

 

 約束を果たしてくれた様で何よりだ。

 

 

 

「『強くなったね』」

 

 

 

 

「…全て、鈴八様の所為でございます」

 

 

 伏せた目から涙を静かにこぼしながら、縁はそう言った。






 Q.鈴八くんの【稲荷流】はいつ出来たの?
 A.人里を巡って人の悩みを解決して回っていたりしていた時期に、誤って辻斬りを捕まえようとしたら拳で粉々にしてしまったため、殺してしまってもせめて原型が残るようにと開発された。型は五つあり、一刀両断の梶原斬りから始まって相手をサイコロステーキ(分子レベル)にする光明千切りという技まである。

 Q.鈴八くんの最大連撃数は?
 A.24


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【ゐ】 親しき仲にも礼儀あり



続きでございます。

 それでは、どうぞ


 

 

「いやいや、本当に強くなったね。古代の人間より強い人間なんて、僕の生きる中で一度も見たことがないよ」

 

「それはそれは…光栄でございますね」

 

 

 戦いが終わった後。目の前の光景を疲弊した縁と見て、先の戦いの評価をする。縁側に飛び散った石をパッパと払い、僕は縁側に、縁には三本顕現させた僕の尻尾座椅子に座らせている。

 

 …ふむ、やっぱり微量に縁から神力が流れて来てる気がする。おかしいな、本来神力は自分の中で産まれて廻るという自己完結が為される筈。だから神力が“流れてくる”なんてことは普通あり得ない。

 

 そういえば、人が神を信仰する場合はただ単に神側でしか変化が起きないけど、神が神を信仰する場合はどうなるんだろう。

 

 縁は、まだ片足突っ込んだだけとはいえ、既に神の域へと達している。それは即ち、人の身にして神の身へと至ろうとしているということ。

 

 世界での基準ではわからないけど、僕の基準で言えばそれはもう神と呼んでも良い。既に、僕は縁を神と認めている。

 

 じゃあ、その神が僕という神を信仰していたら?

 

 多分、縁の神力が、僕に信仰という形で神力を渡してくれるという現象が起きる。

 

 まだまだ新米の神だからか、増えた神力の量は微量だけど、これからもっと強くなればもっと渡してくれる神力が増える筈だ。

 

 …そうだな、良い事を思い付いた。

 

「ねぇ、縁」

 

「なんでございましょう」

 

「鍛えてあげようか、神になった記念に」

 

「…はて、どういう事でございましょう」

 

 縁は惚けた表情で言う。まさか、気づいてないのかな。

 

「…気づいてないの?神力には気づいてたのに」

 

「…アレは、神力は使えるからとはいえ、神になったわけでは無いのでは?」

 

「いやいや、神ならざる者が神力を扱えるわけがない。縁が神力を使えるのは、人の身にして神へと至った…つまり、“現人神”へと成った故だね」

 

「現人神…」

 

「じゃあ、もう一度聞くよ。…僕に鍛えられる?」

 

「……勿論でございますとも…!」

 

 

 闘志を滾らせて、力強い視線を投げて寄越す。

 

 上等。

 

 最低でも僕の鍛錬相手ぐらいに成ってくれるまで鍛えてあげよう。

 

 

 

 

「ねぇ?」

 

 

 おっと諏訪子だ逃げないと。

 

 即座に縁を尻尾で包んで離脱しようとすると、目の前に諏訪子が出したであろう土の大蛇が現れる。

 

 背中にビシバシ感じる殺気にゆっくりと背後を向くと、そこには怒りのあまり黒く見える神力を纏った諏訪子が腕を組んで仁王立ちしていた。

 

 前門の大蛇、後門の諏訪子。絶体絶命でもない僕は客観的に見れば窮地に立たされていると思われるが、実はそうでもない。

 

「言ったよね?私。あんまり中庭壊すなって。あれ?言ってなかったっけ?」

 

「言ったねぇ」

 

「言ったよねェ。まァ鈴八から妖力が滲み出てた時から分かってたよ。『あ、こいつ絶対中庭の被害一切考えずに遠慮なくぶっ壊す気だ』って。でもさァ、幾ら鈴八が人間ではなく妖怪だとしてもだよ。“親しき仲にも礼儀あり”って言うじゃん。礼儀ないじゃん。なんなら感動の再開の時オマエ出会い頭にウチの天井ぶっ壊してっからな!?ふざけんなよオマエこの神社にどんだけ愛着あると思ってんだ!何が礼儀だよ無礼だよ妖怪が神にやって良い事じゃねェだろオイ!」

 

「大変だね」

 

「_________ッッッ!!!!!(声にならない叫び)」

 

 

 あー、すごい背中に衝撃がくる。きっと岩で出来た蛇が誰かの怒りに呼応して突進してきているんだろう。マッサージにもならないけど。

 

 とはいえ、確かに諏訪子の言う事も一理ある。親しき仲にも礼儀あり。とすれば、僕も礼儀を尽くすべきだろう。

 

「どうどう、落ち着いてよ。すぐに“修復(なお)す”からさ」

 

「私馬じゃねえし、この庭作るのに職人数十人掛かりで数ヶ月掛かったんだけど?奇跡的にも無事な桜の木は置いといてそれ以外が惨劇的だから作り直すしかないんだけど?」

 

「大丈夫。壊されたのなら、修復すればいい」

 

 

 縁を尻尾から解放して地面に立たせて、僕は未だに突進してくる岩の大蛇を振り向きざまに裏拳で粉々にして中庭に向き直る。

 

 後ろから「ミジャグジ様ァーッ!?」と聞こえたが、空耳だろう。

 

 僕は地面に手を当てて、僕と縁が破壊する前の記憶にある綺麗な中庭を正常な状態として定義し、能力を発動する。

 

 すると変化はすぐに訪れ、美しい風景の土台を担う小粒の石の破片が時が戻るかのように修復され、綺麗な波紋を形作る。所々に植っていた松の木も、均等に置かれていた岩も、(瀕死の)鯉が泳いでいた池も、余波で壊れていた縁側も、(すべ)て。

 

「な、な、な」

「…これはこれは…」

 

 やがて全ての破壊痕が一切なくなると、僕の能力は自動的に停止する。

 

 目の前には、昔通り綺麗なままの桜が聳え立つ綺麗な中庭。

 

 我ながら便利な能力だと思っていると、後ろから諏訪子の絶叫が聞こえた。

 

 

「ななな、何これ!?変化じゃないよね!?いやというかこんな規模での変化だっておかしいんだけども!」

 

「能力」

 

「あーなるほどそりゃ納得___できるかァ!!!

 

「しかもこれ、死にかけだった鯉が元気になってるのを見ると、治癒の効果までありそうだねぇ」

 

「あ、神奈子。久しぶり」

 

「久しいね、鈴八。大体数十年ぶりくらいか?」

 

「そうだね。…ところで、その子は?」

 

「っ」

 

 僕は縁側に立っていた神奈子に数十年ぶりの挨拶を交わすと、神奈子の足元に小さな子供がいることに気づく。

 

 その子は幼い頃の縁の生写しのように、僕がこの国を発つ前に見た縁にそっくりな女の子だ。

 

 ただ少し臆病なようで、僕が視線を向けると神奈子の衣服の裾を握って顔を隠してしまった。

 

「この子は翡翠。縁が拾ってきた子だよ」

 

「私も先が長くありませんし、これからは鈴八様との修行に専念する為、この洩矢神社を守る巫女の後継を育てようと思いまして。今は、簡単な手習いを日々行っております」

 

「へぇ。…うん、中々悪くない。それどころか、見た感じ現時点で霊力に目覚め掛かってるね」

 

「翡翠がですか?」

 

 現に、翡翠からは微かな霊力の残滓を感じる。恐らく日常の中で無意識に一瞬だけ漏れ出てる感じなんだろう。

 

 恐る恐るこちらを見上げてくる翡翠に近づいて、目線を合わせるようにしゃがんで顔を合わせる。

 

「こんにちは」

 

「…こ、こんにちは…!」

 

「僕の名前は黒金鈴八。君の名前は?」

 

「わ、わたしはもりやひすいです!よろしくお願いします…!」

 

「うん、よろしく。翡翠」

 

 

 簡潔にだが、翡翠に自己紹介をする。少し話してみたけど、あまり僕に対しての恐怖は無いようだ。多分、初対面の人には人見知りする子かな。

 

 そう思っていると、翡翠が遠慮がちに口を開く。

 

 

「え、えっと…鈴八さま…?」

 

「うん、なぁに?」

 

「ぶふっ」

 

「くっ…おい、聞いたことないぞ鈴八のあの声

 

鈴八って小さい子相手だとあんな声出すんだ

 

あれ大抵の人間だったらすぐコロっと堕ちるぞ

 

「確かに」

 

 

聞こえてるからな。

 

 背後から聞こえてくるひそひそ声を無視して、僕は未だ口ごもる翡翠の言葉を待つ。

 

 そして、翡翠が口を開いた。

 

「あの、鈴八さまは…」

 

「うん」

 

「諏訪子さまと神奈子さまのお嫁さまなのですか…?」

 

バカ二人、こっちに来て

 

 ちょっとお話があるんだよね。






 Q.ミジャグジ様?
 A.実はここ数十年の間で顕現した諏訪子のちょっと上位存在的な存在。祟り神の中でも諏訪子が気に入っていて、今は諏訪子の眷属として洩矢神社に住んでいる。神社の天井やら中庭をぶっ壊した鈴八に怒りを抱いていたが、裏拳一発でぶっ壊されてからちょっとトラウマを植え付けられた。

 次回もお楽しみに


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【の】 一手のみの手合い・神奈子



※ 迷走中

 それでは、どうぞ


 

 

 

 小さな女の子にトンチキな事を吹き込んだバカ二人に対して、鬼にも通用する頭突きをお見舞いした。

 

 少し加減を間違えちゃったのか少し地面が陥没してしまったけど、そこはすぐに修復したから問題はない。二人は治してないけど。

 

「いってー…あ、待って瘤のせいで帽子がちゃんと被れないんだけど」

 

「カッタいデコが…おー、脳が揺れるー…」

 

「だ、大丈夫ですか…?」

 

「翡翠、その二人は置いといて、こっちで縁と話そう?」

 

「は、はい…!」

 

 

 諏訪子と神奈子との再会、縁との戦い、洩矢の新しき風の翡翠との出会い。長く感じた濃い一日は、諏訪子の「そろそろ日が落ちてきたし、夕餉にしない?」という言葉で締め括られようとしていた。

 

 昔より格段に上達した縁の作ったご飯は、今まで立ち寄ったどの村や町で食べたご飯よりも美味しく、思わず腹八分目*1くらいまで食べてしまった。

 

 短い間にどんどん積み重なる皿を見て諏訪子と神奈子はドン引きしていたが、それとは裏腹に縁はなんと霊力を行使しながら調理の手を加速させ、翡翠は僕の隣でほぇーと声を零しながら僕が積み重ねる皿の山を眺めていた。

 

「鈴八の食いっぷり見てたらさ、国の食糧難とかなんとかなると思わない?」

 

「あー、こっちまで腹が満たされるってことかい?まず鈴八のせいで国が食糧難になるだろ」

 

「確かに」

 

「「お前が肯定しちゃダメだろ」」

 

「ほぇー」

 

「洒落になりませんので冗談でもそういう事を言わないでいただけますか?*2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝になり、眠りから醒めた僕は寝ている諏訪子の枕元にある馴染みの深い帽子の中に、神社の庭で冬眠していたカエルをしこたま詰め込んで、そのまま神奈子の元へ向かった。

 

 どうやら昨日から寝ずに鍛錬をしているようで、神奈子の神力が神社の裏手にあるらしい武道場から感じる。

 

 昨日聞いた諏訪子の道案内を元に歩けば、扉が開いたままの武道場があった。

 

 中へ入れば、そこには旅立つ前に色々と置いてきた元僕の武具の数々が壁に掛けられてあり、中で鍛錬をしている神奈子はそのうちの一つである槍を手にしていた。

 

 いつもの服装とは違って、色合いは普段通りの動きやすそうな服装で汗を流している。一度(ひとたび)槍を振るえば、流れる汗が綺麗な放射を描いて飛び散る。

 

「…や、神奈子」

 

「ん?お、鈴八。おはようさん」

 

 隙を見て挨拶をすると、槍を構えていた神奈子は石突きを床に付いて構えを解く。

 

 汗を拭う神奈子に、僕は一つ助言した。

 

「夜の時と違って、最後の踏み込みがちょっと甘かったよ。寝ずにするのは効率が悪いと思う」

 

「…あ?まさかずっと見てたのかい?」

 

「んーん、寝ながらでも聞こえてたから」

 

「こっから客間までどんだけ離れてると思ってんだい」

 

 少なくとも普通の人間だったら耳をよく澄ませても自分の鼓動しか聞けない距離だね。

 

 様々な感情が混じった呆れを見せる神奈子。するとふと何かを思いついたような顔をした神奈子は、ニヤリと顔を歪ませて、僕に向かって槍を構えた。

 

「そーいやぁ鈴八お前、諏訪子と初めて会った時一手やり合ったんだって?諏訪子だけズルいぞ、私ともやれ」

 

「えぇ…まぁ、いいけど。槍でいいの?」

 

「得意なのでいいよ、私は大抵の武器ならなんでも使い熟せるからね」

 

「…ふーん、じゃあ僕も槍」

 

 

 そう言って僕は懐から葉っぱ一枚を取り出して、変化を解いた。

 

 変化が解かれる時に出てくる金色が混じった黒い炎が晴れると、僕の手には石突きは赤く、持ち手は黒く、刃が紅黒と同じく赤と黒の階調が美しい槍があった。

 

 名を貫刺(かんざし)。本来は投擲用の鋒が鋭いだけの槍だけど、別に打ち合うだけなら問題はない。

 

 久しぶりに触るので振ったり回したりして、槍を片手で持って先端を神奈子へ向ける。

 

「諏訪子と同じく、一手だけね。そっちからだけ」

 

「…しょーがないねぇ、じゃあ大人しく胸を借りると___するよッッ!!!」

 

 刹那の間に、先程から全身に回していたらしい神力を身体能力の向上に全て消費すると、武道場の床どころかその下の地面を踏み込みの余波だけで砕いて僕に向かって超接近する。

 

 距離にして約三尺。槍を突き出しながら向かってくる神奈子を冷静に見届けた僕は、

 

 ゆったりと、

 

 悠長に、

 

 僕の槍の間合いの中に入ってきた瞬間に、

 

 僕は持っていた槍を動かした。

 

 

 

 ___チンッ。

 

 

 

 その音が意味するのは、

 

 僕の槍の先端が、神奈子の放った一撃を受け止める事実だった。

 

「っ!(分かっていたけど、ここまで…いや、どこまで離れているのかすらわからないなんてね…!)」

 

 神奈子は理解したんだろう。

 

 全身で突っ込んで、全霊で槍を突き出して、全力で放った一撃が、

 

 さして大きくない音に収められる程に威力を吸収される技術の前に完全に敗北したことに。

 

 文字通り全力だったのに、全力の手加減をされた。

 

 どこまで力の差が離れているのかを知りたかったのに、力を引き出すどころか圧倒的な技術の前では“差”すら理解できなかった。

 

「…ふぅ、流石だ。千年を生きる妖怪だけあって、全然敵う気がしない。敵じゃなくて良かったよ、マジで

 

「まぁ、千年の差をたかが数百年に越えられるわけにはいかないからね。…あと生きた年数で言ったら千年じゃすまないし、年上が年下に負けるってのも…

 

「え?」

 

「いや、なんでも」

 

「いや、今ちょっと聞こえ……まぁいいか」

 

 呟いたつもりなのに、聞こえちゃったらしい。

 

 まぁ、大した情報でもなし。気にしなくていいか。

 

 

*1
キロ数にして60kg

*2
既に二回旅の途中で立ち寄った村の食糧の八割を食い切った事がある






 まるで初期のゾ○ロvsミホ○ークのような戦い…

 Q.ぶ、武道場ーッ!
 A.後でスタッフ(鈴八くん)修復(直し)ました。
 
 Q.鈴八くんと本気で殴り合えるヤツはいるのか?
 A.少なくとも鈴八くんの中国武術の歴史を軽く越える程の技量の持ち主じゃないと力の押し合いに持っていけない(ジャオー!)


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【お】 不審者撃退



 続きです。

 それでは、どうぞ…


 

 

 『縁側で 木漏れ日浴びて 寝転がり

 欠伸を溢し 怠惰を貪る』

 

 数日の間で最早僕の定位置と化した縁側で、大きな桜の木の隙間から溢れる陽の光を浴びる。

 

 神社の御神木のような役割でもあるのか、この桜はどこか神聖な気を纏っているんだと感じる。その木の側でいると、気分が落ち着く。

 

 今日は縁の稽古も無し。翡翠も縁や神二人と何処かへ出掛けたし、今日の神社は僕一人しかいない。

 

 だからこそ、僕は遠慮なくぐーたらできる。

 

 何者も、僕の怠惰を邪魔する者はいないのだ。

 

 そう、いない…んだけど…。

 

 

「ふぅん、此処が洩矢神社……中々良い趣味してるじゃない」

 

 

 妖怪の中でも逸脱した僕の聴覚が捉えた、突然現れた女性の声。そして離れた距離の中でも感じ取れる妖力の気配。

 

 恐らく、今の時代では大妖怪に入る程の実力の持ち主だろう。

 

 何が目的で天敵である神の社に入ってきたのかは知らないけど、今は僕が留守を任された身。話し合いが出来ることを願いたいが、出来ないとしたら…此処は一つ、実力行使で出ていってもらおう。

 

 僕はゆっくりと立ち上がって、縁側から神社の中に入って妖怪の元へ向かう。

 

 妖怪は何か漁るわけでもなく、ただただそこにいるだけ。

 

 そしてその妖怪がいる部屋の襖を開けて、中に入って襖を開けたままにして立つ。

 

 妖怪は、気付いていない。

 

 全体的に紫がかったゆったりとした服を着ていて、手には日傘を持っている。能力で作り出したであろう謎の空間から身を乗り出す形で周囲を見渡していて、時折小さい紙の束に字を書いている。

 

 何がしたいのかは知らないけど、出ていってもらおうかな。

 

 僕は気配を解放する。

 

「ッッ!!?」

 

「…や、不法侵入者さん。何か御用かな」

 

 気配を解放したと同時に妖力の弾を飛ばしてくる。

 

 それを手のひらで受け止めた後握りつぶし、何事もないように妖怪へ問いかけた。

 

「…貴女、妖怪?なんでこんなところに…」

 

「それを言ったら君もだけど。…まぁ、一応攻撃してきたし、反撃はして良いのかな」

 

「…ふふっ、反撃?私に?見たところ妖力があまり無いように見えるけど、どう私に勝つのかしら」

 

「勝つ必要は無いんだよ」

 

 妖怪がその言葉に怪訝な表情をした瞬間に、僕は室内が荒れない程度の速度で女性の背後を取る。

 

「___どこに」

 

「要は君を出て行かせれば良いんだから」

 

 僕が背後を取ったと理解した妖怪は即座に反撃しようとするが、僕の方が圧倒的に早い。

 

 妖怪の首根っこを掴むように引っ張り、空間の穴から引き摺り出してそのまま下に振りかぶる。

 

 そして僕が開けっぱなしにしてきた中庭にまで続く通路に狙いを定めて、僕は妖怪をぶん投げた。

 

 ぶん投げられた妖怪は中庭にまで飛び出した瞬間体制を整えて着地する。顔には先ほどのような嘲りの表情はなく、真剣な表情で僕を見据えようとしている。

 

 でも僕はもう既に妖怪の背後にいる。

 

 

「此処で引いたらもう何もしないけど」

 

「!!!………分かったわ、大人しく引く」

 

「…なら良いけど、来るならちゃんと家主に事前に伝えてね」

 

「…事前に伝えたらいいの???」

 

「うん」

 

 そう言ったらなんか困惑し出した妖怪。

 

 なんとなくもう危害を加えそうな雰囲気は無くなったので縁側に座ると、妖怪はまた困惑を深くさせるも、しばらくして謎の空間を開いて、その中へと消えていった。

 

 よし、不審者撃退完了。

 

 また僕は、さっきと同じように木漏れ日を浴びてぐーたらを再開した…。






 Q.短くない?
 A.ネタがない。ネタがないネタがない

 Q.妖力があんまないってホンマに言うとるんかあのBBA(ネタバレ)
 A.実はうちの鈴八くん最近になって漸く尻尾八本目に突入したんです。だから七本目〜の妖力分が全部八本目に封印されてたんで、素の妖力量がなかったんですね。


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