転生したらメガテン世界だった orz (天坂クリオ)
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平和な世界に転生したと思ったら悪魔に襲われた件

それは二度目の十六歳のことだった。

俺こと伊吹雄利(いぶきかつとし)は、新しい人生を順調に歩んでいた。

 

俺は多少おぼろげではあるが、前世の記憶を持っていた。科学基盤の現代社会で普通に生きていた時の記憶だ。

そして今世もまた、前世とほぼ同じ現代社会で生活している。

幼い時は成長後の記憶と子供の体の差異に混乱したが、今はどういうことか理解できている。ここはいわゆる平行世界だ。

歴史は前世とほぼ同じ道をたどっていて、世界の国々もだいたい同じだ。細いところは違うが、誤差の範囲だと思う。

日本国内でも色々と違う気がするが、生きていく上で問題はない。

そんな世界ではあるが、前世の記憶があるぶん、学生生活はとても楽だった。

小学生程度の知識なら、塾へ行く必要なんてない。中学生になって少し難しい部分も出てきたが、勉強の重要さを理解して努力をおしまなかったので、学校の成績はとてもよかった。

そのおかげで割と有名な高等学園に入ることができたし、そこでの勉強にもついていくことができた。

 

運動だけでなく、勉強もできた方が人生は生きやすい。だからいい成績をとれるよう頑張っていた。

そして一番重要な能力、コミュ力もしっかり鍛えてきた。前世は深刻な厨二病を発症した結果、交友関係が狭くて独特なものになってしまった。

悪くはなかったが、もっと色々な人と話せた方が良かったななんて考えたことがある。だから後悔をくり返さないよう、幼い頃から他人と仲良くなる努力を続けてきた。

そのおかげで、今世はすでに前世の倍以上の人と仲良くなれた。

 

特殊な能力なんて必要ない。前世知識が一番のチートだ。

そう、思っていた。

今日のこの日に、悪魔に遭遇するまでは。

 

◇◇◇

 

今世では、神社仏閣がけっこう大切にされているようだった。学園へ向かう途中にも大きめの神社がある。

 

今日も部活の朝練に向かうためにその神社の横を通ったのだが、急に強い違和感がした。

まるで薄いカーテンの向こう側で大型トラックがアクセルをふかしているような圧迫感が神社から漂ってくる。

前世からの厨二病を引きずっているわけではないが、今世は違和感を感じることが幼いころからよくあった。

 

例えば子供の頃、違和感をたどった先でカラスの雛を見つけたことがある。巣から落ちたようなので戻してやったのだが、それ以来カラスが友好的になった気がする。

 

だがそんないい話は稀な方で、だいたいは得体の知れない動物の死体だとか、気味の悪い物体を見つける方が多かった。

動物の死体は穴を掘って埋め、物体の方は破壊して埋めれば妖しい気配はなくなった。両手を合わせて平穏を祈れば完璧だった。

 

今回もそういうものだと思い、簡単に済ませるつもりで神社の敷地へ入った。

朝の神社は清浄な空気が満ちていて好きなのだが、今日はそれが張り詰めているように感じる。

俺が入ったのは裏口側だったのだが、本殿への通路の途中が木の柵で封じられていた。まだ朝早いからかと思ったが、いつもだったら散歩がてら参拝している人がいたはずだ。

首をかしげつつ別な道を進もうとしたが、その先でも通路が閉じられていた。

 

もしかして、何か良くないことが起こっているんじゃないのか?

なんとなくだが、妖しい気配は収まるどころか強くなっている気がする。

とりあえず今回はここから出よう。神社なんだから、ここの人が何かするだろうし。

そう思って振り返った時、奇妙なものが視界に入った。

 

薄い茶色に黒の虎縞模様が入った生き物がいた。体高はおよそ2m。

ただの大きな虎かと思ったが、強烈な違和感がわき上がってくる。

まさかあれは、いや、ただの見間違えだ。自分に言い聞かせながら様子をうかがっていると、それがこちら向いた。

そこにあったのは、赤い肌のサルの顔……だと思うのだけれど、なぜかぼやけて見える。

 

「ヌエ?」

 

おもわず呟いてしまった。

昔話で語られる妖怪【鵺】。体は虎で頭が猿。他にも色々混ざっているパターンがあるが、正体不明のキメラモンスターであるのは間違いない。

 

ふと頭に浮かんだのは前世で遊んだテレビゲームに出てきた悪魔の姿であり、それとはデザインが違うななどと現実逃避してみたが、ヌエは相変わらずそこにいる。

興味を持たれてしまったのか、こちらをじっと見つめている。

逃げだそうにも逃げ道はヌエの先にある。妖気は強いが、害意はないように感じるから大丈夫じゃないかな。

なんて思っていたが、ヌエがゆっくりと体勢を変えるのが見えた。

 

ネコが獲物に飛びつく前にするように、後ろ足に体のバネを溜める格好。

ここで背中を向けたら、一気に飛びかかってくるだろう。

 

落ち着いて、ゆっくり下がるんだ。

自分に言い聞かせようとしたが、足が動かない。蛇に睨まれた蛙って、こういう状態か。

 

まだ、何かできることがあるはずだ。

息を止めていることに気付いて必死に呼吸をして、体を動かそうとする。様子をうかがいながら後ずさる。

呼吸を落ち着かせながら、やっと数歩下がった時、ヌエがニヤリと笑った気がした。

 

やばい。

 

とっさに腕をクロスしてガードするが、車に跳ね飛ばされたような衝撃を受けて体が浮き、石畳に押し倒された。

なんとか受け身をとったので後頭部をぶつけずに済んだが、肩を前足で押さえつけられた。

 

顔を近づけてくるのを両手で防ぐが、そもそも力が違いすぎる。いつまでも耐えることはできないだろう。

ふんふんと鼻を近づけてこちらの匂いを嗅いでくるのがくすぐったくて気持ちが悪い。俺は美味くないぞと言いたかったが、ダメージのせいで呼吸するのがやっとだった。

 

俺の今世はもうここで終わりなのか。

まぶたの裏に映るのは、羽の生えた天使が回るゲームオーバーの画面。何度も見た縁起でもない前世の記憶。

セーブができない人生だから、コンテニューなんて無理に決まっている。

けっこう頑張って生きてきたのに、こんなことで終わりとか悲しすぎる。

 

「くるな、やめろ!離れろよ!」

 

必死の抵抗もむなしく、ヌエがその口を開けるのが見えた。

長い舌でベロリとなめられて、背筋が粟立つ。

手も足も出ない。

それでも、最後の瞬間まであがいてあがいて、生き抜いてやる。

とにかくなんとかして、一矢むくいてやる。

 

決意を込めてにらみつけると、ヌエがわずかに動揺したように見えた。

 

「あっ、タマ公。やっと見つけたぞ。こんなとこまで遊びに来るなんて、誰かに見つかったらどうする……、って何やってんだお前!!」

 

白羽織に袴を履いた男が叫んだ。

 

◇◇◇

 

「いやあ、すまなかったね。まさか人が迷い込んでくるとは思ってなかったから。いちおう無事だとは思うけど、ケガとかしてないかい?」

 

「押し倒された時に背中を打ちました。あとマジで死ぬかと思いました」

 

「それは本当にすまなかった」

 

男が土下座で謝った。

横でお座りしていたヌエがそれを見て、ペコリと頭を下げた。かなり知能が高いようだ。

 

「とりあえず、この霊水でも飲むといい。痛みが消えるはずだ」

 

差し出されたペットボトルには、見たことのないラベルが張られていた。たぶん地方で売られている天然水の一種だろう。

 

「このヌエのタマ公は東京の藤原神社で飼っているんだが、ちょっとした理由があってこっちに一時的につれてきているんだ。わたしはその間のお世話係として雇われているんだが、まさかタマ公が見えるどころか触れる一般人がいるなんて思ってなかったよ。それとどうやって結界内に入ったんだい?」

 

「普通に入れましたよ。というか結界とかタマ公が見えるとかって、どういう意味なんですか?」

 

「そのまんまの意味だよ。この神社は今は外部の者が近づけないよう結界をはってあるから、我々が許可した人じゃないと入れないようになってるはずなんだ。それとタマ公はいわゆる霊的存在というヤツで、普通の人は触るどころかみることすらできないはずなんだ。キミはひょっとして、霊感がある人なのかな?」

 

そう聞かれて、腕組みをして過去を振り返る。幽霊だとかなんだとか特に気にした覚えはない。

 

「タマ公ほどはっきりした悪魔は見たことないですよ。幽霊らしい幽霊も見たことないので、たぶん今回が初めてじゃないですかね。まあヘンな気配とかならたまに感じることがあるけど……」

 

「なるほど、半覚醒みたいな状態なのかな。それにしてもタマ公がこんなに懐くなんて聞いたことないな。キミはこんな感じの妖しい呪物とか何かヘンな物を持ってたりするかい?」

 

男が取り出したのは人差し指くらいの魚のミイラっぽいもので、禍々しい気配が少し出ている。

男がそれをタマ公に差し出すと、器用に爪でつまみ上げて丸呑みにした。

 

「あー、持ってないけど、似たようなのなら壊して埋めたことがある」

 

「それ、どこ?」

 

「ええと、たしか……」

 

憶えている限りの場所を教えると、男は懐から取り出したメモ帳にそれを書き込んだ。

 

「なるほど、後で確認しておこう。キミが呪われている気配はないから、タマ公にしか分からない程度の残滓がついていたのかもしれない。ひょっとしたら、タマ公に呼ばれたから入って来れたのかもね」

 

ありがたくない呼ばれ方だ。

タマ公は理解しているのかしていないのか、首を90度近く傾けている。

 

「それでええと、キミの名前はなんだったっけ?」

 

「伊吹雄利(いぶきかつとし)です。そこの軽小坂学園の二年です」

 

「伊吹くんだね。わたしは織雅大助(おりがだいすけ)だ。職業は今のところ、アルバイターと言うべきなのかな」

 

「バイトで神社でヌエの面倒みてるんですか?」

 

「こっちにも色々あるんだ。そんなことより、キミのことの方が重要だ。キミには選択肢がある。ひとつはここで起こったこと何もかも忘れて日常に戻る。こんなことが起こった時のために、安全に記憶を消す方法が用意されているんだ。昔から行われてきたことだから、心配する必要はない」

 

そんな言い方されても、あまり信用できない。

妖怪とか目撃者である俺の存在ごとなかったことにするとかしてもおかしくない気がするんですが。

 

「そしてもう一つの選択肢があるんだが、それを教える前にひとつ聞きたい。キミはひょっとして転生者ではないかな?」

 

転生者。その言葉が他人の口から出てくるとは思わなかった。

 

「えっと」

 

「転生者。前世の知識を持っている人と言い換えてもいい。キミはさっきタマ公のことを【悪魔】と言ったよね?普通の人なら妖怪と言うはずなんだ。ヌエを悪魔と呼ぶのは、前世のとあるゲームシリーズをプレイしたことある人だけだと思うんだが、どうだい?」

 

その通り、俺は転生者だ。そしてそのゲームのことももちろんよく知っている。【女神転生】通称【メガテン】。

長く続くRPGのシリーズタイトルだ。

 

地球あるいは文明を【女神】に例え、それが一度破壊されて再生される過程を転生としているらしい。

そのタイトルどおり、このシリーズではだいたい毎回世界が滅びる。

主人公が頑張ればなんとか滅びを回避することができるものもあるが、ストーリーの途中で滅びたりあるいは滅びた後からスタートすることもある。

 

そしてそれは前世があるからこその知識だし、そんな質問をしてくるからには、同じ知識を持っていないとおかしい。

だから答えの代わりに、こちらから質問を返す。

 

「もしかして織雅さんも、転生者なんですか?」

 

「そうだけど、わたしだけじゃないよ。他にもたくさんいる」

 

「ええー」

 

そこから続いた織雅さんの話によって、俺の人生は大きく変わることとなった。

俺は全然特別じゃなかったし、何なら平均よりほんのちょっと上くらいの人間だったと判明する。

転生者はけっこういて、ネットの専用掲示板で交流していて、霊能力は修行で習得できるだとか。

悪魔や妖怪は現実に存在していて、霊能力者がそれらと戦っているとか。

そしてこの世界が、メガテンの世界観によって成り立っているとか。

 

メガテンの世界観は滅亡がすぐ近くにある。そしてこの世界もその例にもれず、近いうちに滅亡する気配が濃厚なのだとか。

 

俺の幸せな人生計画が、根本から崩れ去る音がする。

 

長く続いた厨二病(げんそう)はとても残酷な現実(リアル)によって、今日この時をもって終わることになった。

 



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Q、すぐに強くなるにはどうすればいいの? A、強くなるまで地獄を見ればいいよ!

数日後。俺は織雅さんが運転する車で、富士山へと向かっていた。正確には富士山にあるらしい修行場。そこで修行をすれば、俺も霊能力者として【覚醒】できるらしかった。

 

真面目に学生生活を楽しんでいると、部活や友人とのつきあいがあるので長期休み以外でのフリーな休日は意外と少ない。

だが世界の危機とそれを生き抜く方法の話を聞いたなら、平凡な一市民のまま過ごす選択肢はなかった。

なので数少ない連休を『オフ会』の名目で費やすことに、何のためらいもない。

 

「織雅さん、本当にそこで修行すれば、俺も魔法とかスキルを使えるようになるんですよね?あと悪魔の使役とかできるようになるんですよね?楽しみだなあ」

 

「ははは、伊吹くん落ち着きなさい。建前がもう跡形もなくなってるよ。今向かっているのは日本最高の神社で、神主は真性の能力者かつ転生者だ。彼の修行を耐え抜けば、キミも【覚醒】できるのは間違いないよ」

 

「マジですか。ファンタジーな事ができるようになるなんて、思ってもなかったなあ」

 

楽しみすぎて昨夜はなかなか寝付けなかった。

友人たちから色々と聞かれたが、曖昧にはぐらかした。本当の事を言ったって、信じてもらえるわけがない。

 

織雅さんの話を聞いて自分も件の転生者専用掲示板を覗いてみたが、信じられない内容の話が色々と並んでいた。

修行が無茶苦茶辛いとか、すぐに覚醒できるわけじゃないとか。それに覚醒できたとしてもまとも(・・・)なスキルが手に入るか分からないなど、悪い情報も結構あった。でも式神が使えるようになるのは確実らしい。

 

期待と不安半分でドキドキワクワクしながら、外に見える富士山をながめていた。

 

そして数時間のドライブと本格的な山歩きを経て、目的地へとたどり着いた。

 

「さあ着いたよ。ここが我らが総本山、阿頼耶(アラヤ)神社だ」

 

掲示板で最高の場所だと噂されていた神社は、シロウトの俺でも納得できるほど荘厳な気配が満ちた場所だった。

先ほどまで遭難したのではないかと思えるくらいの森の中を歩いていたら、突然視界が開けて立派な鳥居と社殿が現れたのだ。

目立つはずなのに気付かなかったのは、やはりここにも結界が張ってあったかららしい。

 

境内には白袴の神社関係者だけでなく、俺のような登山客めいた格好の人もけっこういた。

 

「あの人たちも修行のために来たんだよ。覚醒までの時間は人それぞれだから、毎週来る人もいるんだ」

 

それぞれの服装で、幾つかのタイプに分かれるらしい。

白袴の人はすでに覚醒して、ここで働いているのだとか。

登山客風の人たちが通いで、俺のようにカジュアルな服装の人が初回なのだとか。

ボロボロの修験服を着ている目が据わった人たちは、長期の泊まり込みで修行しているらしい。そこまでやっても覚醒できていないために、精神もすさんでいるから話しかけない方がいいと言われた。

 

「本当に才能と運によるから、あきらめて頑張るしかないよ。伊吹くんは半分は覚醒してるみたいだし、あの人たちほど苦労することはないと思うけど」

 

「だといいんですけどね」

 

自分の服装を見直して、ひょっとしてお気楽すぎたのではないかと背中を冷や汗が伝う。

 

「ここにいるのって、みんな転生者なんですよね」

 

「そうだよ。キミもあのスレを見ただろう?そもそも転生者限定だし、ここに入るには案内が必要だからね。それぞれが転生者だって確信がある人しか連れて来れないんだ。キミの話はもう神主に話してあるから、後で挨拶しておきなよ。って、噂をすれば、現れたね」

 

織雅さんの視線の先には、白袴を着こなした青年がいた。

眩しいほどの気配を放っていて、この場の誰よりもすごいことが見ただけでわかる。

 

「あの見た目で30越えてるっていうんだから詐欺だよね。わたしも覚醒するのがあと数年早ければなあ」

 

「覚醒すれば肉体も活性化するから、ピーク時の自分に近づけるんですよね?織雅さんも覚醒してるなら、少しずつ若返るんじゃないんですか」

 

「肉体が活性化しても、堕落した精神まで活性化するとは限らないのさ。一度ついた贅肉を落とすのは、並大抵の努力じゃ無理なんだよ」

 

「へー、そうなんですか」

 

イマイチ分からないが、そういうものなんだろう。

神主に挨拶しようと思ったら、他の参加者たちが集合して列を作り始めた。

 

「挨拶が始まるから行ってきな。ここから先は、キミ次第だ。わたしは普段は社務所の方にいるから、何かあったら声をかけてくれていいから。じゃあ、頑張って」

 

手を振る織雅さんにお礼を言って、列の後ろに並ぶ。

俺の人生の第一歩が、ついにここから始まるのだ。

 

◇◇◇

 

残念、きみのじんせいは、ここでおわってしまった!

 

そんなふざけたモノローグが頭に浮かんだ。

 

断る!死んでたまるか!

深い水底から水面を目指すように意識を覚醒させていく。

呼吸するために必死で泳ぎ、光の中へと浮かび上がる。

 

「かはっ!はあーっ、ひゅー」

 

深呼吸して、自分が生きていることを確認する。重い瞼をゆっくり開くと、神主の顔が目の前にあった。

 

「おめでとう。たった三日で覚醒できるとは、なかなか早かったね」

 

河原で気絶していたところ、経過を見るために巡回していた神主に発見された。

どうやら無事(?)に目的は達成できたらしい。

 

「死ぬかと思いました」

 

声が擦れている。

自分の言葉で、吹っ飛んでいた記憶が蘇ってきた。

 

修行はまさに地獄だった。

よくあるイメージの滝行ですら、死にかけるまでやらされた。というか気付いたら救護班に蘇生されていた。

いま思い返せば、夜闇の中で一人で延々と座禅をするのが、一番楽だった気がする。

そうして精神的にも肉体的にも何度も死にかけ、それでやっと覚醒できたらしい。

 

最後は神主が用意した式神と命がけの鬼ごっこをやらされ、最終的には賽の河原の手前まで行ったようだった。

 

いちおう救護班が常に待機していたとはいえ、『死んでも文句は言わない』という同意書が脅しじゃなかったことを実感した三日間だった。

 

「【半覚醒】していると、危機感が違うんだろうね。やっぱり悪魔の存在を感じ取れる方が、それに順応しやすくなるのかな。他の人でも試してみようかなあ」

 

神主は新たな拷問方法の検討をしているみたいだが、コメントする余力は残っていない。

新たな地獄が発生した気がするが、残念ながら俺に止めることはできそうもなかった。

これから修行にやってくる新人たちは頑張ってほしい。俺もやったんだからな。

 

何度も死にかけて精神が研ぎ澄まされたのか、明け方の空に残った月がとてもキレイに見えた。

 

「意識は残ってる?大丈夫そうかな?さっそくで悪いけど、キミのステータスを覗かせてもらうから動かないでね」

 

神主がこちらの目の奥をのぞき込んでくる。元気だったら距離を取りたかったが、今はもうどうにでもしてくれという心境だった。

 

「ほほう、これはこれは面白いスキルを発現したみたいだね。キミが手に入れたスキルは……おや、寝ているのかい?おーい。待ちに待ったスキルの発表だぞ」

 

「うい、きいてやす」

 

「言葉になってないよ。まあ二徹して走り回ったらこうなるか。休憩所に運んでおくから、今は安心して休んでいいよ。お疲れ様」

 

「んえ」

 

何を言おうとしたか思い出せないほど、あっという間に眠りに落ちていった。

 

【第n回】覚醒修行スレ【地獄へようこそ】

 

……

 

298:名無しの新人転生者

俺も覚醒しました。何度死ぬかと思ったか。

 

301:名無しの転生者

>>298

おめ。

 

302:名無しの転生者

>>298

おめでとう。やるじゃないか。

 

303:名無しの転生者

>>298 おめでとう。

今回もそこそこ覚醒できたみたいだな。

このペースで覚醒者が増えてくれればいいんだが。

 

305:名無しの転生者

>>303 脱落者の方が多いからすぐに頭打ちになるぞ。

 

306:名無しの転生者

そんなことより俺は新人たちがどんなスキルを使えるようになったのか気になるんだが。

 

307:名無しの転生者

そうそう。データ収集に協力しろください。

 

310:名無しの転生者

オレは【ジオ】だったぞ。攻撃魔法って当たりの部類だよな?

 

311:名無しの転生者

>>310 超当たりだよ!うらやましいからオレにくれよ!

 

313:名無しの転生者 >>310

>>311 だが断る

 

314:名無しの転生者

自分は【トラエスト】だった。これって逃走用の魔法だったっけ?

なんの役に立つんだよ!

 

315:名無しの転生者

>>314 異界に迷い込んでも一瞬で脱出できるじゃないか。けっこう当たりだと思うぞ。

 

316:名無しの転生者

>>314 救出とか逃走用で需要はあるぞ。異界ダンジョンに挑戦する時には同行して欲しい。

 

317:名無しの転生者 >>314

>>315

>>316

アリアドネの糸扱いじゃないですかー。やだー!

 

318:名無しの転生者

>>318 リスに気をつけろよ

 

320:名無しの新人転生者

みなさん魔法使えるようになったみたいでうらやましい。ちなみに俺は【勝利の息吹】でした。

 

321:名無しの転生者

>>320 おお、それって戦闘勝利時に全回復するやつだろ。大当たりじゃないか。裏山。

 

323:名無しの転生者

>>321 それは【勝利の雄叫び】だ。【息吹】とは別物だぞ。新人が覚えたのは『戦闘勝利時にHPとMPがわずかに回復する』方だ。

 

325:名無しの転生者

>>323 なんだけっこう微妙な効果だな。

>>314 >>320 覚醒ガチャハズレ組へようこそ!歓迎するぞ新人!

 

326:名無しの転生者 >>314

>>325 自分、レスキュー隊として活躍することに決めたんで一緒にしないでもらえます?

 

327:名無しの新人転生者

やっぱり微妙でしたか。くそう、俺も魔法使いたかったな。

 

328:名無しの転生者

>>326 急に前向きになっててワロタw

>>327 元気出せよ。おれもナカーマだ。

 

◇◇◇

 

というわけで【勝利の息吹】が使えるようになった。

戦闘勝利時に少量回復とか言われても、戦闘が楽になるわけじゃないからあまりうれしくない。

せめて敵に少しでもダメージを与えられるスキルがほしかった。

しかもこのスキルは悪魔を倒さないと発動しないため、修行によって発生した筋肉痛や疲労は回復しなかった。

おかげで、連休明けの一日目は休まざるをえなかった。

 

しかしあれだけ死にかけながらも一日で全回復したのは、覚醒した影響なのだろうか。

覚醒したはいいものの、強くなるには修行をするか悪魔を倒す必要がある。

悪魔を倒すにはやっぱり攻撃スキルが欲しい。それが無理なら戦闘用の式神があればいいのだが、需要に対して生産がぜんぜん足りていないらしく、俺がもらえるまでにはそこそこ時間がかかるらしい。

 

しばらくは日常を過ごしながら、自主的なトレーニングをするしかなさそうだ。

 

ため息をつきながら、学校へ向かう。

それにしても滅亡のカウントダウンが始まっていると言われても信じられないくらい、世界は平和だ。

ニュースでは大小様々な事件が報道されているが、悪魔が絡んでいるとは思えないものばかりだ。

もしかしたら俺は騙されたのだと思いそうになるが、現実に俺は厳しい修行を耐え抜いて覚醒したのは間違いない。だって普段から(なんとなく嫌だな)って思っていた街角に、不気味な思念体がいるのが見えているから。

 

メガテンで見たような悪魔はまだ見ていないが、見える世界が変わったことは間違いなかった。

 

「おっ伊吹じゃん。おはよう。急病はもう大丈夫なのか?」

 

通学路の途中で、クラスメイトと会った。

 

「山本か。おはよう。疲れは抜けてるけど、気分的にダルいかな」

 

「連休で遊び過ぎて風邪引くとか馬鹿だろ。皆勤賞逃して残念だな。だがそんなお前に、テンション上がること教えてやるよ。実はな、すっごいかわいい転校生が来たんだよ。あれヤバイよ、芸能人とかそんなんじゃねえ。まさに天女様ってやつだよ。オレたちとは住む世界が違うお嬢様なんだよ」

 

「ふーん」

 

「あっ、おまっ。反応鈍すぎだろ」

 

たしかに平凡な世界では驚きのニュースだろうけど、あいにく俺は能力に覚醒するというそれ以上の体験をしてきたのだ。

今さらかわいい転校生程度で揺らぐ俺ではない。

 

「伊吹も見たら絶対ビビるからな。ってオイ、あれ見て見ろ」

 

山本が必死に指さす学園の校門前に、黒塗りの車が止まった。

通学中の生徒たちが見守る前で、運転手が回り込んできてドアを開ける。

そこから出てきたのは、明らかに普通ではない雰囲気の少女だった。

 

輝くような銀色のショートヘア。雪のように白い肌。そして宝石のような青い瞳。

 

周囲と同じ平凡な黒のブレザーを着ていてもなお輝くような雰囲気をまとった美少女だ。山本が騒ぐのもわかる。

 

「あれだよあれ。あれが転校生のクズノハさんだよ。なあおい、あんなかわいい子がオレたちのクラスに入って来たんだぞ。信じられないだろ」

 

山本がテンション爆上がりしているが、俺は別なところに引っかかった。

 

「今なんて言った?【くずのは】って、そう言ったのか?」

 

「そうだよクズノハさんだよ。昨日は女子に囲まれてろくに話もできなかったから、今日こそ声をかけてやるぞ」

 

クズノハ、漢字で書くと【葛葉】。

それはメガテンシリーズと世界観を同じくするRPG、デビルサマナーシリーズの主人公とその家系を示す言葉だ。

デビルサマナーとして由緒ある家系であり、【葛葉ライドウ】を襲名した者が国の霊的守護を担っている。

 

つまり彼女もまた、霊能力者である可能性があるということだ。

 

「早く行こうぜ。急げば昇降口で追いつける」

 

山本が横から肩を叩いてくる。

まるでその声が届いたかのように、話題の葛葉がこちらを向いた。

 

100mは距離が離れていたし、間に他の学生たちが何人もいる。

それなのにクズノハは、俺のことを真っ直ぐに見つめてきた。その視線は鋭く、矢で射貫いてくるようだった。

 

「おいおい、クズノハさんがこっち見てるよ。オレに気付いてくれたのかな。前にも後ろにもクラスメイトっていないじゃん?なあおい、あれってオレを見てるよな」

 

「……ああ、そうかもな」

 

話しているうちに、クズノハは視線を逸らして行ってしまった。

このタイミングでなんで、葛葉の名を持つ者が現れたのか。俺には分からないが嫌な予感がする。

俺は山本に急かされながら、その背中を追いかけた。



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美少女クズノハは葛葉なのか

「ああ、また女子が群がってるよ。アレじゃあ今日も話せそうにないな」

 

教室の後方かつ窓際。いわゆる主人公ポジションの席にクズノハが座ってた。それを囲む壁のように女子が集まっている。

モデルというか作り物の人形のような外見なので、近づき難い雰囲気もある。

 

デビルサマナーの【葛葉】と関係があるのか探りたいが、今は無理そうだ。

クラスメイトならば話す機会はあるだろうし、気長に待とう。

 

そう思った直後、射貫かれるようなプレッシャーを感じた。

反射的に顔を向けると、クズノハが周囲を囲む女子の隙間からこちらをガン見している。

それは数秒続いたかと思うと、興味をなくしたかのようにフィッと前を向いてしまった。

 

俺は深呼吸をしたことで、自分が息を止めていたことに気がついた。

今のことについて話そうと山本の方を見るが、気付いてないのか別なクラスメイトと話をしていた。

さりげなく周囲を見渡すと、俺とクズノハについて誰も気にしていなかった。

 

予鈴が鳴り響き、みんなが自分の席へと戻っていく。

 

不気味なものを感じながらも、俺も自分の席についた。

 

 

勉強でも何でも、自分の成長を感じれるものは面白い。それが押しつけられたものでなく、自分で努力して勝ち取ったものなら最高だ。

寝不足や体調不良などは成長を大きく邪魔するので、健康的な生活をするよう頑張っている。

これがとても重要だと最初から知っているのも、転生のいいところだ。

それに学校の授業だけで成績が保てれば、余った時間を自分の好きなように使える。遊んでもいいし、勉強してもいいのだ。

押しつけのない時間は最高だ。

 

そんな風にいつも通り真面目に板書をノートに書き写していると、机の上に奇妙なモノがニュルリと滑り込んできた。

蛇のように長い体だが、白いふわふわの毛並みと四本の足を持っている。そして首から上が真っ黒で、狐顔に赤い縁取りのような模様がある。

 

俺はコイツを知っている。メガテンに出てきた【魔獣:イヌガミ】だ。

人に使役され、取り憑いて凶暴化させたりする妖怪だ。

 

それが机の上に、折り紙の鶴を転がした。

何かと思って手に取ると、イヌガミはそれを鼻先で指し示す。

開けってことだろうか。

 

折り鶴を広げみると、内側の白地に流暢な文字が書かれていた。

 

『放課後に、屋上へ』

 

これはつまり呼び出しってヤツだろうか。

 

イヌガミは机から飛び降りると、床を滑るように駆け抜けていった。

クズノハの方を見るが、普通に前を向いて授業を受けている。

 

妖怪を使役しているということは、やっぱりあいつはあの【葛葉】なのだろう。

とりあえず屋上に行く時は、警戒しておくことにしよう。

 

 

それ以降は何もなく時間は過ぎていき、放課後になった。

普段ならば部活があるのだが、まだ体調が万全じゃないから休むと連絡してある。

だからこのまま屋上へ行ってもいいのだが、問題はクズノハだった。

 

わざわざ屋上へ呼び出すのは、目立たないようにするためだろうと思っていた。だが帰りのホームルームが終わるとすぐに、俺の席のすぐ近くにやってきた。

 

「えっと、何か用?」

 

クラスメイトに注目されるけどいいのか?と視線で問いかけたつもりだが、わかっているのかいないのか、人形のような顔でじっと見つめてくる。

美人が真顔で見つめてくるのは、けっこう怖い。

 

もしかして一緒に屋上へ行くつもりか?

メモにあった『屋上へ』って、案内しろって意味なのか?

 

クラスメイトに変に勘ぐられないよう時間をずらして移動するつもりだったのだが、この分だと無理そうだ。

いつまでもこのままでいる方が目立つ。しかたない。

教室を出ようとする俺の後ろを、クズノハはしっかり付いてくる。こっちを見てくるクラスメイトに手を振りつつ、教室を出た。

 

 

 

屋上は立ち入り禁止になっているので、誰もいなかった。

本当だったらカギが閉まっているはずなのだが、なぜか開いていた。

 

広い屋上の中央で、俺はクズノハと向かい合う。

クズノハはこちらをじっと見るだけだったので、俺から口を開いた。

 

「クズノハさん。確認のために聞くけど、昼間のイヌガミはクズノハさんの使い魔だよね」

 

「……」

 

クズノハはわずかに目を見開いたように見えた。

 

「クズノハさんって、もしかして霊能力者の一族だったりする?イヌガミの他にも使い魔がいたりする?よかったら見せてもらいたいんだけど、いいかな?ああ、ちなみに俺はおととい霊能力に目覚めたばっかりでさ、昔からちょっと勘がいい方だったんだけど、なんとなく感じていたものがハッキリ見えるようになって色々と新鮮なんだ。でも霊の対処法とかあんまりよくわかってないから、よければ教えてくれると助かるんだけど……」

 

しゃべりながら一歩近づくと大げさに後ずさりされたので、熱くなり過ぎたことに気がついた。

 

「ご、ごめん。つい熱が入りすぎたみたいだ。ちょっとウザかったよね」

 

「……」

 

クズノハは黙ったままうつむいている。ドン引きされたようだ。

と思っていたら、急に顔を上げた。

 

「うるさいヤツじゃのう。いきなりベチャクチャ言われても、すぐに答えられるわけなかろ。もう少し常識のあるヤツかと思っておったが、ワシの見る目が曇ったかのう」

 

キレイな顔から出てきたのは、辛辣な言葉だった。

 

「く、クズノハさん!?」

 

「黙れ。質問はワシがする。貴様はそれに正直に答えるのじゃ。よいな?」

 

言葉に妙な圧力が感じられる。ここはとりあえず、素直にうなずいておく。

 

「よし、まず貴様は、ワシのイヌガミが見えていたと言ったな。それは本当か?」

 

「本当だ。それに今も……」

 

クズノハが急に雰囲気が変わってしゃべり出した時。うつむいていた顔を上げる直前に、その頭の上に出現したそれを指さした。

 

「クズノハさんの頭にある黒いイヌミミ。それってイヌガミのだろ?」

 

「はっ、イヌミミ?何を言っておる。そんなものあるわけ……。なっ!?なんじゃコレ!」

 

気付いていなかったのか。

自分の頭の上に手をやって、ぴこぴこ動くイヌミミを確かめている。

 

「雰囲気が変わったような気がしたけど、イヌガミを自分に憑依させたのか。イヌミミかわいいじゃん」

 

「このワシに嫌味を言うとは貴様は命知らずだな。一般人でなければ燃やしてやるところじゃぞ」

 

本心から言ったのだけれど、親の仇を見るような目を向けられてしまった。

 

「まあいい、続けるぞ。貴様はおととい霊能力に目覚めたとか言っておったが、それは本当か?本当ならばなぜ突然に目覚めたのかを答えよ」

 

ふむ。覚醒のこと今さら隠せることじゃないけれど、どこまで話していいのだろうか。

前世の記憶があるとか言ったら、心の病を疑ってくるだろうか。

 

「昔から不思議なモノをなんとなく感じることがあってね。ネットで検索してたら偶然にも同じような経験をしたことがある人たちの掲示板を見つけたんだ。そこで話をしたら幾つか審査をされて、合格したら覚醒修行に招待されたんだ」

 

「掲示板?なんじゃそれは」

 

「ものすごく簡単に説明すると、ツブヤッターみたいなものかな。匿名で色々と書き込めて、同じ掲示板を見てる人たちと会話ができる。情報交換もできるけど、顔が見えないから騙されないよう気をつけなきゃいけないのも同じかな」

 

「ツブヤッター?」

 

「そこから説明しなきゃならないの??」

 

クズノハのお嬢様は、どうやらかなり世間から乖離しているようだった。

 

一般的な話題は後回しにして、向こうが知りたがったことを答える。

修行場は富士山の麓の神社だったと話すと、納得してくれたようだ。

 

「優秀な跡継ぎがいると御婆様から聞いたことがある。霊場としても悪くないから、適切な方法ならば覚醒も可能じゃろうな。じゃが、そのことについて報告がなかったのが問題じゃな。報告されとればわざわざワシが駆り出されることもなかったはずじゃ」

 

「クズノハは誰かから命令されて来たってことか?」

 

「まあ、そうじゃな。本家からの指令は拒否なぞできぬ。外の世界を知ることができるいい機会じゃと思ったんじゃが、こうもあっさりカタが付くとは思ってもおらなんだ」

 

クズノハはため息をついた。

 

「ただの報告漏れとは、肩すかしもいいところじゃな。まさか破格の霊地を管理する神社が、次代を外部から選ぶとは思わなかったのう。む、じゃが代替わりしてまだ時は経っておらぬはずでは?……のう、貴様は覚醒するまで何年かかったんじゃ?」

 

「こないだの三連休だけだぞ。昨日は修行の反動で一日動けなかったけど」

 

「は?つまりなんじゃ、貴様はたった三日で覚醒したというのか??」

 

「そうだよ。俺も早いほうだけど、最速では一日で覚醒した人もいるらしい。一年以上続けてる人もいるらしいから、かなり運が良かったみたいだな」

 

「待て待て待つのじゃ。覚醒してる者が何人もいて、さらに今も修行を続けておる者たちが多数いるじゃと!?」

 

なんかすごい大変なことを聞いたような顔をしているが、そんなにすごいことなのだろうか。

 

「普通の霊場でだって、修行をしてる人たちはいっぱいいるだろ?そんなに驚くようなことじゃないだろ」

 

「いやいやいやいや。そんなことあるわけないじゃろ。普通の修行は己の精神を高めるためのもの。覚醒は副次的なものでしかないわ。というか覚醒なぞ狙ってできるものではない。いわんや覚醒修行なぞ、できぬことを謳った誇大広告でしかない」

 

「でも俺は覚醒してるし」

 

「ウソじゃろ……」

 

ウソだと言われても困る。

 

「詳しいことは、そっちで聞いてもらっていいかな?俺はどこまで答えていいか分からないし。こっちでもいちおう話を通しておくからさあ」

 

「ぐぬぬ。こんな報告しても、本家が素直に受け取るとは到底思えぬ。そうじゃ、貴様が出頭して直接話をすれば……」

 

『お嬢。それは無理ダ』

 

クズノハからイヌミミが消えたかと思うと、イヌガミがするりと顔を出した。

 

『本家ガ一般人に屋敷の敷居をまたがせるわけがないダロ。まず今日のことを報告して、その後のことは本家のヤツラに考えさせればイイ』

 

「……!……!」

 

イヌガミに抗議するように、クズノハが手を振り回している。

 

『それにお嬢だって、もう少しシャバの空気を味わっていたいダロ。コイツはその理由にピッタリだと思うゼ』

 

「…………」

 

クズノハに睨まれたので、笑顔で親指をグッと立てて見せた。

 

『オマエ、オレが見えるんだったな。オレは普通の人間には見えないから、代わりにお嬢のことを助けてやってくれ。いいダロ?』

 

「なら代わりに、霊能力の扱い方を教えてくれよ。ただ悪魔が見えるようになっただけじゃあ意味がないからな」

 

『それぐらいならお安いご用ダ。なあお嬢』

 

「!?」

 

『よし、決まりダナ。契約完了だ。コンゴトモヨロシクダゼ』

 

イヌガミがクズノハのポケットに滑り込み、金属の管を取り出した。

 

『コイツはお守りダ。契約書の代わりに、一本持っておきな』

 

「サンキュー。でも、勝手に話を進めていいのか?」

 

「……!……!」

 

クズノハがイヌガミを捕まえようとしているが、慣れた遊びのように避けられている。

 

『このくらいなら、お嬢の裁量の範囲内ダ。本家の意向に反しているわけじゃナイ。もしダメだったらオレが消されるだけダゼ』

 

「さらっと言うことかよ。ダメだったらすぐに返すから言ってくれよ」

 

『ハハハ。消されたら幽霊になって回収しに来るサ。おっと、お嬢。そろそろお迎えが来る時間ダゼ。じゃあなニンゲン、頼んだゼ』

 

イヌガミはクズノハの袖にするりと入った。

クズノハは不満顔でお腹を叩いていたが、俺に気がつくと軽く睨んできた。

 

「改めてよろしく。それと、俺の名前は伊吹雄利だ。貴様じゃなくて、名前で呼んでくれよ」

 

「……。葛葉、小夜(さや)

 

小さな声で名乗った後、葛葉小夜は走って屋上から出ていった。

 

 

◇◇◇

 

6:名無しの転生者

覚醒したけど、まだ実感ないよな。近所で浮遊霊見つけたから叩いたけど、経験値が少しも溜まった気がしない。

 

7:名無しの転生者

覚醒して初めて家に地縛霊がいたことが分かった。部屋を間違えたかと思って謝ったら、漫才みたいなノリで止められたぞ。

 

8:名無しの転生者

>>7 なにそれ詳しく

 

10:名無しの転生者

いや普通にドア開けたらすぐ目の前にいて、「あっ、すいません」って閉めようとしたら「ちょいちょいちょい、ここ自分の家やで」って言われた。

 

11:名無しの転生者

>>10 地縛霊になってもツッコミが上手いとか、さすが関西人だな

 

13:名無しの転生者

話してみたらすごい面白かったんで、今はルームシェアしてる。食費も手間も掛からない、いつでも話し相手になってくれる自宅警備員は最高だぞ。

 

14:名無しの転生者

>>13 体調に変化はないか?生命力吸われてないか健康診断させてほしい。

 

15:名無しの転生者

そんなことより、悪魔が出やすい場所を教えてくれ。レベル上げもマッカ稼ぎもできないんじゃ覚醒して意味ないんじゃ。

 

16:名無しの転生者

>>14 そのデータ共有してくれ。霊に憑かれた人間の傾向が分かれば病院で霊の居場所が見つけられるようになるかもしれん。

 

17:名無しの転生者

なにそれ面白そう。俺にも教えてくれ

 

18:名無しの転生者

俺も知りたい

 

19:名無しの転生者

俺も俺も

 

20:名無しの転生者

じゃあ俺も

 

21:名無しの転生者

>>18 >>19 >>20 お前らデータ分析できないだろ。座ってろ。

 

22:名無しの転生者

市街地で修行になりそうな場所ないのか?走り込みしかできなくて体重が減っていくばかりなんだが。

 

23:名無しの転生者

俺もかつてないほど運動してる。やっぱモチベーションがあると違うな。終末世界が待ち遠しい。

 

25:名無しの転生者

こうも何もないと、本当にこの世界がメガテン世界観なのか分からんな。実は平和な普通の世界だったりしない?

 

26:名無しの転生者

>>25 帰国子女のワイ、メシア教徒に勧誘されたことがある。

 

27:名無しの転生者

>>25 東北民だけど子供の頃に妖怪と遊んだことあるぞ。覚醒したらまた会えるかとワクワクしてる。

 

28:名無しの新人転生者

葛葉の関係者と会いました。

 

30:名無しの転生者

>>26 >>27 >>28 なにそれkwsk

 

31:名無しの転生者 >>26

ワイは普通に道歩いてたとこを勧誘されただけやで。普通に断ったら普通に帰ってったから面白い話はなしや。

 

32:名無しの新人転生者 >>28

葛葉の関係者が学校に来て、いつ覚醒したのかとか聞かれました。アラヤ神社で修行したって言ったら疑問符ついてたけど納得してもらえました。

あとこの掲示板についてフワッと教えたけど、ネットについてあまり詳しく分かってなかったような。

 

33:名無しの転生者

>>32 ココのこと教えたのはマズくないか?

 

34:名無しの転生者

>>33 そもそも入り口のパスワードが転生者じゃないと解けないだろ。似たような場所もあるし、ココが見つかる可能性は低いと思われ。

 

35:名無しの転生者

せやな。でも軽率に話を広めない方がええのは間違いないやで。

 

36:名無しの新人転生者

ココのことをどこまでなら話していいとか、ガイドラインってありますか?

 

38:名無しの転生者

>>36 個人の裁量で判断してください。

 

39:名無しの転生者

>>38 役立たずすぎてワロタww



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力は己の為である

質問が多かったので言っちゃいます。
本編(?)とは似て否なる別時空なので、本編(?)のストーリーをなぞることはありません。設定もちょっと違います。


葛葉小夜が来て数日が経ったが、特に何事もない日々が続いていた。

クズノハ本家からはまだ何も言われていないのか、普通に学校に来て授業を受けている。

ただ一つだけ、小さな変化として、葛葉が休み時間のたびに俺の席に来るようになった。

 

「……」

 

「いらっしゃい。いつものだよな?」

 

「……」

 

毎度のように問いかければ、無言でうなずきを返してくる。

もう慣れてしまった俺は、用意してあったノートを広げた。

 

「さっきの数学の授業は今までの応用だから、基本をしっかりやっておく必要がある。分からなかったならさかのぼって基本からやるべきだ。教科書のページはここ。とりあえず練習問題を解いてみて、分からなかったらまた聞いてくれ」

 

「おっ、葛葉さんも分からなかったの?オレもオレも。オレにも教えてくれよ」

 

「山本は先週教えたところをくり返せ」

 

「なんだよ薄情だな。もっと手取り足取り押してくれよう」

 

「あれ以上詳しく教えられない。あとは計算をひとつずつやってくしかないぞ」

 

「それが一番メンドイんだよ。もっと簡単な方法を教えてくれよ」

 

「ない。がんばれ」

 

「そんなー」

 

山本は不満げなため息をついた。

 

勉強というものは、普段から勉強する習慣をつけておくことが一番重要だ。

勉強が楽しいと思ったことが一度でもあるならば、その気持ちを持ち続けられたなら誰だって秀才になれる。

前世でそれを思い知った俺は、今世ではとにかく楽しく勉強できるよう色々頑張ってきた。

そのおかげで今の俺がいる。

 

友人たちにもそれを教えようとしているのだが、理解してくれたのはほんの少ししかいなかった。

ちなみに、その理解してくれた友人はさらに学力が上の学校へ行っている。俺が馬鹿だったわけじゃない。あいつらの頭が良かったのだ。

 

というわけで今は普通に勉強を教えているので、葛葉がそれに加わるのも不自然とは思われなかった。

 

軽子坂学園は進学校で、最近は特に学力向上に力を入れていた。

葛葉は編入試験に受かるくらい頭はいいようだが、それでも授業に付いていくのが難しいらしい。

何でもしれっとこなしてそうなイメージがあったから意外だったが、せっかく聞きに来たのだから無碍に返すことなどできない。

それに教えれば素直に聞いてくれるから、教え甲斐があっていい。

 

「……」

 

前日に貸したノートを無言で差し出してくるので受け取る。

ちょうど次の授業の予鈴が鳴ったので、それぞれが自分の席へと帰っていった。

 

俺も次の授業の準備をするが、その前に返してもらったノートを開く。そこには一枚の紙が挟み込まれていた。

 

『前略。いつも勉学を教えていただき感謝している。その礼も兼ねて、葛葉式呪法の基礎を伝授したい。時間はいつならよいだろうか。返答を待つ。敬具』

 

見た目ではわかりにくいが、ちゃんと感謝してくれているらしい。

放課後は部活があるのだが、魔法を教えてもらえるのならそっちを優先したい。この授業が終われば昼休みなので、そこで言えばいいか。などと思っていたら、机の上にイヌガミが顔を出した。

 

『了解。時間はがんばって空けるから早い方がいい。よろしく』

 

走り書きのメモを差し出すと、イヌガミは口にくわえて戻っていった。

 

 

 

昼休みになり、いつものように学食へ行くと背後に気配を感じた。

振り返ると葛葉が頭からイヌミミを生やして立っていた。

 

「ここが学食というものか。ずっと気になっておったのじゃが、なかなか来る機会がなくてな。こういうものは初めてなので、案内してくれぬか?」

 

「別にいいよ。すぐそこの券売機で食べたいメニューの食券を買って、あっちへ持っていけばいいんだ。俺はカツ丼が好きなんだけど、量が多いから葛葉は別なのがいいかもな」

 

「わしはキツネ蕎麦にしよう。む?向こうの者は卵をのせているようじゃが、この写真には乗っておらぬぞ」

 

「それはトッピングだな。下の方にあるだろ」

 

「これじゃな?おお、お揚げの追加もできるのか」

 

「ちなみに二つ買えばさらに追加できるぞ」

 

「二つじゃと!?なんと悪魔的な発想じゃ。恐ろしい」

 

目を見開いて口元を手で隠すという、古典的なリアクションをしている。

すぐに真剣な顔に戻って数秒悩み、お揚げと卵を一つだけ追加することにしたようだった。

 

 

 

「「いただきます」」

 

そこそこ混んでいる食堂で、横に並んで食事を取った。知り合いの姿がちらほら見えるが、なぜか誰も俺に気付いていないようだった。

 

「うむ、うまいのう。京の名店と比べるべくもないが、これはこれでなかなか良いものじゃ」

 

「値段からして比べちゃダメなやつだろ、それ。この値段でこの味とボリューム出してくれるんだから、学食サマサマだよ」

 

「なるほど、値段も考慮の対象になるのか。お主らも色々と考えておるんじゃのう」

 

なんだかんだ言いながらも気に入ったようだ。近くのテーブルの生徒が七味を使っているのを見て、葛葉も調味料置き場の七味に手をのばした。

その時、不思議なものを見た。

 

ちょうど葛葉の向かいに席をとった女子生徒が、少し遅れて七味を取ろうとした。

葛葉が先に七味を取ったのだが、女子生徒は手が空を切ったことに首をかしげた。

調味料置きを持ち上げて調べ、七味が直前まであったはずだと隣の友人に主張している。

 

七味を使い終わった葛葉が調味料置きに戻すと、友人の方が「そこにあるじゃん」と指摘して「いま急に出てきたみたい」などと恥ずかしそうに笑っていた。

 

まるで葛葉の存在に気付いていないようだった。

 

「なあ、葛葉。いま何か術を使ってたりするのか?」

 

「んむ?もちろんじゃ。【魅了】の術式の応用でな、ワシへの興味が著しく低くなるようにしておる。じゃから、知り合いでもない者には、ワシなどいないも同然なのじゃ」

 

「なんでわざわざそんなことをしているんだ?」

 

「なんでって、ほら、ワシってばカワイイじゃろ?何もせずにいると周囲に人が寄ってき過ぎて面倒なのじゃよ。というか、お主いまごろ気付いたのか」

 

「普段の態度があまりにも普通すぎて、違和感なかったよ。でも確かに、騒がれてたのって最初の方だけだったよな」

 

「お主がすぐに見つかったからの。目立つ必要がなくなって助かったわ。近くで騒がれるのは好かぬからの」

 

そう言われてみれば、初日にあれだけ騒いでいた山本が、今では普通の友人のように葛葉と話をしている。

女子と話すと調子に乗って騒ぎすぎるアイツが大人しいのは変だと思っていたが、そんな理由があったとは思いもしなかった。

 

「ところでお主も普通にワシと話しておるが、術は効いておるのか?最初から印象が変わらぬというなら、特に何もせずに術に抵抗したのかの」

 

「効いてないと思う。最初からずっとかわいいなって思っているし」

 

「……なるほど、お主はしらふ(・・・)でそういうことを言うヤツなのじゃな」

 

ははは、カワイイ子にはカワイイと言うべきだと前世に学習したからな。変に気負うから恥ずかしいのだ。褒め言葉は脊椎反射で言ってもだいたい問題ないのだ。

 

「まあ、いい。ここから本題に入るが、よいか?よいな。これは大事な話だから心して答えるように」

 

葛葉は急に真面目な顔でこちらを見た。

 

「お主は、本当に我らの呪法を習いたいのか?我らの術を知れば、もう霊能力者として生きるしかなくなる。全てを忘れて平和な世界で生きたほうが、一般人とっては幸せになれるのは間違いないのじゃ」

 

葛葉の目には、少しトゲトゲしたものが感じられた。

まるで何も分かっていない子供が、価値のある宝物を投げ捨てようとしているのを見つけたような、そんな愚かな行動をいさめようとしているかのようだった。

 

でも俺は、葛葉に向かって首を横に振った

 

「ちがうよ、そうじゃない。平和とか幸せとか、そんなのが理由じゃないんだ」

 

「では、どうして、何のために力を求める。まさか最強を求めるとか、そんな下らない理由ではないじゃろうな」

 

「それも違う。俺は、俺たちは生きるために力を求めているんだ」

 

葛葉は、俺の言葉が理解できないという顔をした。

 

「ちょっと待つのじゃ。『俺たち(・・)』じゃと?」

 

「『俺たち』は、あのアラヤ神社で覚醒修行を受けた仲間たちだ」

 

「そうか。お主ら沢山いたんじゃったのう。忘れておったわ。それで、お主らが力を求める理由について詳しく聞かせてほしいのじゃが」

 

「俺たちは、近いうちに世界に終末が訪れるという前提に従って行動している。これは確かな根拠があるわけではないが、その予兆は見え始めている。そうだろ?」

 

「むぅ。たしか、各地の霊脈に活性化の兆候が見られると聞いてはいたが、それが世界の終末に繋がるとは到底思えぬ」

 

それ(・・)は理由のひとつでしかないし、全く予想外の事件が起こるかもしれない。例えばカルト教団が地球のやり直しを企んでいるかもしれないし、あるいは核ミサイルが飛び交うことになるかもしれない。可能性はいくつもあって、そのどれかひとつでも現実になれば、あっという間に世界は終わる」

 

もっと言えば邪神にそそのかされた悪人が世界を支配しようとするかもしれないし、天上の神と悪魔が戦争を始めるかもしれない。

メガテン世界はとんでもない理由で世界が滅ぶのだ。

 

「にわかには信じられぬが、お主らはそれを信じておるのじゃな。つまりそれを阻止するために力を得たいというわけか」

 

「いや、一度は滅びるんじゃないかなと思ってる。阻止については、可能ならできればいいなあ程度かな」

 

「なんじゃと?」

 

「場合によってはすでに世界は滅んでいて、俺たちはそれに気付かず過ごしている可能性だってあるんだ。そんな仮初めの平和がある日突然剥がれて……ってなるかもしれないってね」

 

「さすがにそれは考えすぎじゃろ」

 

「だといいんだけどね」

 

甘い希望を許してくれないのがメガテン世界なのだ。とりあえず世界は一度終わるのが基本だと覚悟しておいて間違いはない。

 

「ええと、つまりお主……お主らは……」

 

「来たるべき世界の終末を生き抜き、崩壊後の世界で生き残ることを目的に力を求めている。ということだ」

 

「むぅ……」

 

葛葉はうつむいて考え込んでいる。

この辺は、メガテンの世界観を知っていないとなかなか納得できないだろう。同じ転生者であっても、メガテンをほとんど知らない者は納得していなかった。

俺だってあの日にヌエのタマ公に出会っていなければ、とても信じられなかったと思う。

霊能力に覚醒し、霊や悪魔が見えるようになってからやっと実感できた部分もある。

 

「理解してもらうのは難しいとは思う。俺が約束できるのは、得た力を無闇に振るわないし、私利私欲で悪用しないってことだけだ」

 

俺の言葉を聞いた葛葉は、悩みながらも顔をあげた。

 

「お主が言った理由に納得はできぬ。じゃがウソを言っておったようにも見えぬ。じゃから、その件に関してはまた後で話を聞くことにする。良いな?」

 

「もちろんだ。頼まれたなら、何度でも話をしよう」

 

「よし、ではコレをお主に渡しておく」

 

葛葉はそう言って、一冊のノートを取り出した。

 

「ワシらの呪法について書いたものだ。とりあえず今は基本の部分だけじゃ。納得はしておらぬが、今まで助けてくれた恩は返しておくべきじゃからな。詳しく教えることも今はできぬ。これがワシが今お主にできる精一杯じゃ」

 

「おお、まさか本当に教えてもらえるとは!ありがとう。俺、頑張るよ」

 

「お、おう。思った以上に喜んでおるようじゃの。ちょっとびっくりしたぞ」

 

これで勉強すれば、俺も魔法を使えるようになるのか。いや、この場合はクズノハ流の呪法と言った方が正しいのか。

 

「理論はそれに書いてあるが、訓練する時はワシの前でやってもらうからの。決して一人で勝手にやろうとはせぬように。わかったな?」

 

「イエス、マム!」

 

なんにしろできることが増えるのはいいことだ。

俺はうきうきしながら、これからの訓練の計画を立て始めた。



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葛葉小夜の憂鬱

ちょっと短めです。
ストックが尽きたので、また書き溜めします。


【葛葉屋敷】

 

光の入らない座敷の中を、四隅に置かれた燭台がゆらゆらと照らしている。

座敷の中には六つの鏡台が、等間隔に二列、向かい合っている。

ふすまが開いて入ってきたのは、黒い和服姿の葛葉小夜だった。小夜は礼儀正しくふすまを閉めると、そのまま背筋を伸ばして座った。

閉じた座敷のどこからか風が吹き込んだように、燭台の火がゆらめいた。

小夜は両手をついて頭を下げる。

 

闇を映すだけだった鏡台に、人の姿が現れた。それぞれ色の違う、上品な着物を身につけた女たちが、一つの鏡に一人ずつ。

頭を下げたままの小夜には当然その顔は見えない。

そして最後に、座敷の奥の部屋へと続くふすまが、両側に開かれた。

奥まで光は届かず、何も見通せない。だが、鏡の中の女たちも小夜と同じように奥の部屋へと頭をさげ、それから正面へ向き直った。

 

『みなみな様おそろいになられましたようで。それでは、お小夜さんの報告会を始めましょう』

 

小夜に一番近い鏡台の中、薄黄の着物の女が言った。

 

『報告書、読ませていただきましたわ。とても面白い内容でした。霊感持ちだった子供(・・)がたった3日の修行で覚醒したとか、とてもとっぴ(・・・)で良かったですわ。わたくし、続きがとても気になりました』

 

『そうですわね、お小夜さんは想像力が豊かなのでしょう。物書きの才能もおありのようですね』

 

『そうそう、それにその子供が言った内容も荒唐無稽で、わたくしにはとても思いつかないお話でした。世界の終末が近いだなんて、とても恐ろしくて口に出せません』

 

『まったくもってその通りですわ』

 

『わたくしもそう思います』

 

鏡の中の女たちが口々に語る声だけが、暗い座敷の中に響く。

小夜は最初からずっと頭を下げたまま動いていなかった。なぜなら彼女には、発言するどころか顔を上げることすら許されていないからだ。

小夜の報告会だと銘打たれているが、実際はすでに提出された報告書について女たちが好き勝手に話すだけの場でしかない。

頭の上でいくつもの言葉が飛び交うなかで、小夜はじっとしているだけだった。

 

しばらくして、座敷の左奥の鏡に映った、濃紺の和服の女が手を叩いた。

 

『みなさま、お話が脱線していますわよ。報告会の続きをしませんこと?お小夜さんも学生の身分でお忙しいでしょうし、ね?』

 

その言葉で座敷は一瞬の静けさを取り戻す。

では、と話し始めたのは、やはり薄黄の着物の女だった。

 

『一番新しい報告書によれば、お小夜さんは件の子供に葛葉の秘術を漏らしたようですね。これは葛葉の一族としての自覚の足りない、勝手な行動だとは思いませんこと?』

 

『そうねえ、そうかもしれませんねえ』

 

『あら、教えたのはほんのさわり(・・・)程度のものみたいですわよ。そこまで目くじらを立てるほどではないと思いますわ』

 

『そうよね。お小夜さんでも、そのくらい分かりますよね?』

 

『ですが秘術をみだりに広められては、葛葉の品位というものに傷が付きかねません』

 

『ただの無知な子供なら、理解できない内容でしょう。それにあの程度で満足する子供であれば、とてもかわいいものだと思いませんか?』

 

『わたくしもそう思います。あれではほんの基本の基本、秘術などと大げさな物言いです』

 

『ですが件の子供には仲間がいるようではありませんか。あの、存続が怪しい神社の小せがれが率いているとか。もしもそこに流れたらと考えたらわたくし心配で……』

 

『落ち着きなさい。葛葉の女として見苦しいですよ。あの程度の呪法が流れても、葛葉としては何の痛痒もありません。むしろ、あれを件の子供が使えるようになった時の方が面白いと思いませんか?』

 

『あれを?平民の子供が?まさか、ありえませんわ』

 

『そうですわ。霊能力に目覚めたばかりの子供が、葛葉の呪法を使えるようになるわけありませんよ』

 

『いえいえ、ありえないと思うからこそ期待してしまうのです。そうなればきっと楽しいと』

 

『面白がっていい事ではございません。わたくしは、お小夜さんの越権行為は目に余るものがあると……』

 

『ですが……』

 

『ですが……』

 

女たちの話は止まらない。

話が行きつ戻りつしながら、結論らしい結論がでないまま迷走していく。

 

話の中で小夜を貶める言葉がいくつも出てくる。庇う言葉の端々にも、小夜を軽んじるニュアンスが混じる。

しかし小夜は何も言わない。相変わらず頭を下げたまま、ただじっとしているだけだった。

 

『……やはり色恋にうつつを抜かしているようではダメよね。お小夜さんもまだお若いのだから、道を誤らないよう気をつけなさい』

 

『その通りです。色恋のために己の任務を投げ出すなんて愚かなことですわ。なんと言ってもあなたの父親は……』

 

女の声を遮るように、ぱちり、と音がした。

それは扇子を閉じた時に鳴る音だと、その場の誰もが理解する。大きな音ではなかったが、あれこれ言い合う女たちが一斉に口をつぐんだ。

 

開かれた座敷の奥の部屋。燭台の光が届かない闇の中に、何者かの気配があった。

 

鏡の中の女たちは居住まいを正す。

小夜もまたわずかに緊張しながら、何が起こるのか耳を澄ませた。

 

『お小夜さん、頭を上げなさい』

 

それは若い女の声だった。それは妖艶な響きを秘めていた。それはその場の誰よりも力を持つ者の声だった。

声の持ち主は、葛葉御前と呼ばれている。葛葉一族前当主の一人娘であり、今の当主に次いで(時として当主よりも)発言権の高い女だった。

葛葉本殿の奥で暮らしていて、その顔を直接見た者の数は少ない。本殿での会合でも御簾の奥で静かに話を聞いていることが多かった。

 

小夜だけでなく、その場の女たちもまさか声を聞くことになるとは思っていなかった。

張り詰めた空気の中で、小夜が今宵初めて言葉を発する。

 

「はい」

 

小さく、だが芯のある返答をしながら正面を見た。

 

『お仕事、ご苦労様。突然の遠方への長期任務になってしまったけれど、体調にお変わりない?なら結構。報告書を読ませていただきましたが、葛葉の者としてしっかり頑張っているようですね』

 

「ありがたきお言葉です」

 

御前の声音は優しいもので、小夜は肩の力をわずかに抜いた。

 

『このごろ世の中が慌ただしくなってきていて皆さんピリピリしていらっしゃいますでしょう?せっかくお話できる機会ですもの、もっと和やかにしましょう。ね?』

 

御前の言葉に小夜がうなずく前に、薄黄の着物の女が言葉を挟んだ。

 

『ですが御前様。お小夜さんの行動はあまりにも軽率だとわたくしは思いますわ。きっと実績を得たいのでしょうが、平民の子供に秘術を教えるなんてとんでもありません。色恋に目を曇らせたに違いありませんわ』

 

薄黄の女の熱弁に、しかし誰も賛同しない。

周囲との温度の違いに女が気付いたところで、再びぱちりと扇が鳴った。

 

『わたくしは、和やかにしましょうと言いましたが、あなたはそれに異論がありますの?』

 

『ひっ、いえっ、あのっ……ありません』

 

女が鏡の中で頭を下げる。

御前はそれ以上追求せずに話を再開した。

 

『呪法の伝授の話が出ましたが、あの程度なら件の神社でも扱っているでしょう。騒ぐことではありません。それに、任務中の判断する権利はお小夜さんのものです。難しい問題についてはちゃんと稟議を上げているようですし、大丈夫ですよ。ね?』

 

「はい」

 

『というわけで、これからも今までと変わらず任務に励んでくださいな。皆さんもそれでよろしいですね?』

 

御前の言葉に、女たちはそれぞれ同意を示す。

話し合いが平和に終わりそうだと小さく息を吐いた小夜に、御前が声をかけた。

 

『ところでお小夜さん。それとは別に聞きたいことがあります』

 

「はい、なにかありますでしょうか」

 

『これはとても重要なことなんですが、その少年。イケメンですか?』

 

「えっ、イケメン?」

 

質問の意味を受け取れずに戸惑うが、人柄について聞かれたのだろうと見当をつけて答えを返す。

 

「彼はその、好感が持てる人物ではあります。私たちに敵意はなく、むしろ子供のような興味を持って接してくる、素直な人だと思います」

 

『なるほどなるほど。これからに期待、ということですね。ならばお小夜さん、その少年のことを、しっかりと見定めなさい。そしてあなたが良いと思ったなら、本家に招くことを許します』

 

『御前様、それは……』

 

薄黄の着物の女が言いかけるが、すぐに口をつぐんだ。

 

『お小夜さん、わかりましたか?』

 

「はい、その通りにいたします」

 

小夜が頭を下げると、御前は満足そうに笑った。

 

 

報告会が終わり、座敷を整えた小夜がふすまを開く。それを待ち構えていたかのように、老婆が廊下に立っていた。

 

「無事に終わったようじゃな。意地の悪いヤツラに、余計なことを言われんかったか?」

 

「大丈夫」

 

「そうか。ならよかったわい。窮屈な格好で肩が凝ったじゃろ。お茶を用意してあるから、ゆっくり話を聞かせてくれ」

 

「うん。おばあちゃん、ありがとう」

 

老婆は小夜の言葉に満足そうにうなずきながら、先に立って歩き出した。



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【覚醒済転生者専用雑談スレ】

好評なようなので急いで仕上げました!
評価&感想ありがとうございます!!


 

7:名無しの転生者

近所の浮遊霊を片っ端から除霊してるけど、全然レベルが上がらない。このままじゃただの不審者で終わってしまう。

 

8:名無しの転生者

同じく、せっかく覚醒したのに、俺のジオが火を噴くタイミングがない。

 

9:名無しの転生者

>>10 ジオは雷だろ

 

11:名無しの転生者

そういや雑魚悪魔狩りしてたら坊さんたちが集団でやって来て横取りしてったけど、アレ何なの?いやがらせ?

 

12:名無しの転生者

>>11 雑魚でも悪魔が湧いてるとこあんの?教えて欲しいんだけど。

 

14:名無しの転生者

>>12 自殺者が多いと有名な所。近くの住民に聞けばみんな止めろって言ってくるからすぐにわかるぞ。

悪霊ばっかだけど、阿頼耶神社の破魔矢だけでどんどん溶けてくから楽だぞ。おかげでレベルが3つも上がってウハウハだ。

 

15:名無しの転生者

>>14 雑魚だけで3つも上がるとか裏山……。いやまて、あの破魔矢ウソみたいな値段してたぞ。それをオマエはどれだけ買ったんだ。

 

16:名無しの転生者

悪霊も溶けるが財布も溶けるってな。ガハハ。

 

17:名無しの転生者

>>16 笑い事じゃないんだよなあ。だがトラフーリしか使えないワイは金でレベリングするしかないんじゃ。これもマッカのため、卑怯とは言うまいな。

 

18:名無しの転生者

>>17 レベルのためなのかマッカのためなのかはっきりしろ。

 

 

19:名無しの周回転生者

>>11 坊さんの集団って言ったら浄増寺衆か?一人をとことんバフって殲滅するスタイルの。

 

20:名無しの転生者

>>19 あー、アレってそういうことだったのか。一人の坊さん囲んでみんなでお経唱えてて、イジメかな?って思ったら、急に無双乱舞しだしてドン引きしたゾ。

 

21:名無しの周回転生者

浄増寺衆は集団としてはそこそこなんだけど、抜き出て強いヤツがいないんだよなあ。経験値は集団で頭割りされるから、寄ってたかって雑魚を倒しても強くなれない。

 

22:名無しの転生者

そういや話変わるけど、葛葉って強いの?葛葉フレンズいたよな?

 

25:名無しの葛葉フレンズ

呼ばれた気がしたので。新人改め葛葉フレンズです。

葛葉流の呪法を教えてもらってますけど、魔法使う前の基礎の基礎って感じですね。

葛葉一族がどれくらい強いかは聞けてません。

 

26:名無しの周回転生者

>>22 葛葉はちょっとだけ強いのが数人いて、あとは一般人に毛が生えた程度ばっかりだな。先代のライドウはもう引退してて、今は空席になってるはず。

 

27:名無しの転生者

>>26 周回ニキ周回ニキー。頼まれとった封印強化しといたでー。あとで確認しといてやー。ついでにメシアとかガイアの情報あったら教えてくれへん?

 

30:名無しの周回転生者

>>27 トンクス。

メシアは戦場に出張ってるのがちょっと危ない。こっちには強いの来てないから気にする必要はないぞ。ガイアはまとまりなさすぎでわからん。ただ個人個人はそこそこ強いけど集団戦は話にならないな。

 

31:名無しの転生者

なんだ雑魚ばっかじゃん。こりゃあ勝ったなガハハ。

 

32:名無しの転生者

>>31 おれらも初期ステータスばっかだろ。強いのは神主くらいじゃね?

 

33:名無しの転生者

神主が強いのは間違いないな。神主をからかって遠隔呪法くらって動けなくなってたバカを見た時は腹抱えて笑った。

 

34:名無しの転生者

>>30 ガイアの名前を初めて聞いた気がするぞ。まあいるとは思っていたが

 

35:名無しの転生者

>>34 また周回ニキ特有の時差ボケじゃないのか?前世の記憶と混乱してるんだろ。

 

36:名無しの転生者

周回ニキって本当に周回しとるんか!?もしかして、そういう特殊スキルなんか?裏山。

 

37:名無しの周回転生者

>>35 ボケとらんわボケ!今までの経験からしたら、もう集団形成終わってる頃じゃい!

>>36 本当に周回しとるぞ。ちなみにスキルじゃあない。ワイが言えることはそれだけだ。

 

38:名無しの転生者

>>37 周回できるとか嘘くさいんですけど。

オマエラだまされるなよ

 

39:名無しの周回転生者

>>38 オマエも転生者だろ 

 

40:名無しの転生者

>>38 ワイら、すでに転生しとるんだが?

 

41:名無しの転生者

>>38 オレたちも転生してるだろ

 

42:名無しの転生者

>>38 オレたち転生者定期

 

43:名無しの転生者

>>38 フルボッコで草wwwwwwwwwww

 

44:名無しの転生者

まあ周回ニキはちょっと時差ボケする時もあるけど、情報くれるし仕事をまわしてくれるし周回が嘘でも本当でもどっちでもいいかなって

 

45:名無しの周回転生者

今日の質問回答はここまでじゃ。ワイも忙しいからもう行くからな。じゃあな。

 

46:名無しの転生者

>>45 周回ニキー!カームバーーーック!

 

47:名無しの転生者

オマエラがからかうから、周回ニキがどっか行っちゃったじゃないか。次の周回に旅立ってたらどうするんだよ。

俺まだ周回ニキから仕事の報酬もらってないんだぞ。

 

48:名無しの転生者

>>47 オマエもからかってたろ。てか旅立ってたらこの世界ごと消えるんじゃないの?

 

49:名無しの転生者

>>48 それは周回ニキの主観だろ。オレらの主観では消えるのは周回ニキの方だ。

 

50:名無しの転生者

>>49 なるほどわからん

 

以下、周回ニキについての考察が続く。

 

177:名無しの転生者

むつかしい話は終わりにしようぜ。こっちで頭を使いすぎて、仕事が全然進まない。

 

178:名無しの転生者

仕事で思い出したけど、阿頼耶神社から依頼を受けるためにはレベルを上げる必要があるって言われたんだ。

でもレベルを上げるためには依頼を受けて悪魔を倒す必要あるじゃん?堂々巡りで俺はどうしたらいいのか分からないんだが誰か教えてくれ。

 

179:名無しの転生者

>>177 仕事しろ

>>178 修行しろ

 

180:名無しの転生者

>>178 神主が覚醒者向けの修行方法を公開してるぞ。それをやれば依頼を受けられるレベルまでならすぐに上がるぞ。

 

181:名無しの転生者

>>180 アレはキツいからダメ。そういや葛葉の修行を教えてもらってるヤツいたろ。強くなれる修行方法をひとり占めしないで共有すべきだ。

 

182:名無しの転生者

>>181 オマエは何を言ってるんだ?

 

183:名無しの転生者

まあ、 >>181 の言うことはともかく、葛葉の修行方法は気になる。

 

184:名無しの転生者

葛葉フレンズー!葛葉フレンズはいるかー!?

 

185:名無しの転生者

葛葉フレンズいなそうだな

 

188:名無しの葛葉フレンズ

すいません、勉強やってました。

>>181 葛葉流の修行方法はオススメできません。はっきり言って、神主の阿頼耶流の下位互換です。

阿頼耶流をやってるからこそ、葛葉流でやらされていることが理解できるけど、葛葉流単体だと、なんも分からんになりますよ。

 

189:名無しの転生者

>>188 でも呪術とか召喚術とかも教わってるんだろ?阿頼耶流だと覚醒修行の延長でしかないから、俺も攻撃魔法とか悪魔召喚とか使いたいんだよ。

 

190:名無しの転生者

>>188 おう召喚術あく教えろよ

 

191:名無しの葛葉フレンズ

>>189 >>190 それも阿頼耶流に入ってますよ。葛葉流の修行やって分かったんですけど、阿頼耶流マジで最高効率のサマナー修行になってます。

だまされたと思ってやってみてください。マジで強くなれるんで。

 

192:名無しの転生者

>>191 やったぜ。真面目に阿頼耶流の修行をしてた俺は間違ってなかったんだな。

 

192:名無しの転生者

結局、地味な修行が一番いいってことなんだよな。

 

193:名無しの転生者

ウソだ! >>191 は自分だけ葛葉流で強くなろうとしている!

 

194:名無しの転生者

>>193 葛葉流で楽に強くなれるんなら、葛葉一族が最強になってるはずなんだよなあ。

そうなってないところを察しろよ。

 

195:名無しのデビルサマナー神主

>>191 阿頼耶流の宣伝をありがとう。アレを分かりやすくまとめるのに苦労したから褒めてもらえて嬉しい。

葛葉も他の霊能力集団も、伝統とか形式にしばられてて非効率的な部分が多すぎだったから、がんばってまとめ直したんだよ。

 

196:名無しの転生者

>>195 神主キター!

 

197:名無しの転生者

>>195 神主の言うことなら間違いないな。

 

198:名無しの葛葉フレンズ

>>195 葛葉本家との交渉を丸投げしてすいません。とても助かってます。

 

200:名無しのデビルサマナー神主

>>198 小まめな連絡のおかげで、いろいろと交渉がはかどってる。勝手な行動する人が多いから、見習わせたいくらいだ。

ここを見ている他の人たちも、霊能集団がらみで何かあったら連絡してほしい。ただし、ここだと見落とす可能性もあるから、ちゃんと神社のアドレスに問い合わせしてね。

 

201:名無しの転生者

>>200 はーい

 

202:名無しの転生者

>>200 はーい

 

203:名無しの転生者

>>200 ハーイ、チャーン、バブー。

 

206:名無しの転生者

>>203 いま幼児がいたぞ

 

210:名無しの転生者

>>191 >>200 神主も葛葉も効率的な修行方法を俺たちに隠している!ちゃんと教えるべきだ!

 

211:名無しの転生者

>>210 おいおい、もうやめろよ

 

212:名無しのデビルサマナー神主

>>210 じゃあキミにだけ特別に、すぐに強くなれる方法を教えてあげよう。来週の日曜にウチの修行場に来たら教えてあげるよ。

 

213:名無しの転生者

えっ

 

214:名無しの転生者

それはちょっとなあ

 

215:名無しの転生者

>>212 本当だな!絶対に教えろよ!

 

216:名無しのデビルサマナー神主

>>215 じゃあそういうことで契約成立だ。いっしょに頑張ろうね。

 

217:名無しの転生者

>>215 あっ

 

218:名無しの転生者

>>215 あっ

 

220:名無しの転生者

オイオイ、タヒんだわあいつ



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葛葉フレンズの休日

評価・感想ありがとうございます。
とても励みになります。

休みが増えるので更新が捗る・・・といいなあ(願望)


【伊吹雄利】

 

俺は放課後の空き教室で、今日も今日とてサマナー修行に励んでいた。

神主の公開している阿頼耶流のサマナー教材のおかげで、おおまかな方向性は掴んでいた。その後に葛葉からもらったノートで呪術と召喚術の基礎を勉強し、今は葛葉の指導で訓練をしているところだ。

 

背中に子供のような妖怪であるオバリヨンを背負ったうえで全身の霊力を循環させている。オバリヨンは妨害魔法(スクンダ)によって、俺の集中力を乱してくる。ゲームだと回避・命中が下がると表現されていたが、リアルでやられると鬱陶しいことこの上ない。

この状態で霊力の循環を続けるコツが、今日やっとつかむことができた。

 

[幽鬼:オバリヨン]

 いわゆる、おんぶオバケ。

 道を歩いていると「おばりょん(おぶって)」と声をかけてきて、背中に乗せるとどんどん重くなっていくという、日本古来からいる妖怪。

 

自分が強くなっている実感があると楽しくて、修行にも熱が入る。

そのおかげか、手のひらの上にちょっとした属性魔法を発生させられるようになった。

 

「……おぬし、本当に先日まで一般人だったのか?習得の速度が尋常ではないぞ」

 

「教材と先生がいいからだよ。それにこの程度じゃ、魔法を使えるようになったとは言えないだろ」

 

「ワシが術を覚えるのに、何年かかったと思っているのじゃ……。まあよい。その様子なら、悪魔退治を実践できる日も近いであろう」

 

「悪魔退治か。楽しみだなあ」

 

強くなるには、実戦経験を積むのが効率的だ。

葛葉一族には実戦修行ができる土地があるらしいので、そこを使わせてもらえるよう申請してくれているのだとか。

マジ感謝である。

 

「なあ伊吹よ、話題が変わるが、明日の休みは空いておるか?」

 

葛葉が、なんでもない話のように切り出してきた。

 

「明日?土日なら両方空いているけど、何かあるのか?」

 

「うむ、ワシはまだこの辺りについて詳しくないからのう。案内を頼もうと思っているのじゃ。無理にとは言わんのだが」

 

「それなら喜んで案内するよ。毎日訓練につきあってくれてるから、何かお礼をしたいとも思っていたんだ」

 

「よし、ならば葦土駅で待ち合わせでよいな?先に着いた方が携帯端末(スマホ)に連絡を入れるようにすればよいだろう」

 

そう言って、うれしそうにスマホを見せつけてくる。

クラスメイトの女子に色々と教わったようで、葛葉はスマホを使いこなせるようになっていた。

 

その後、家に帰ってから思ったのだが、ひょっとしてデートの約束をしたということなのではなかろうか。

 

 

 

翌日の朝10時。

葦土駅に着いた俺はけっこうドキドキしていた。

服装は、タンスにしまい込んでいたキレイなものを引っ張り出して準備した。

親にデートなのかとからかわれ、たぶんそうだと答えると紙幣を渡してくれた。

感謝。

 

待ち合わせ場所に着いたことをスマホで送ると、すぐ後ろで電子音が鳴った。

 

振り返るとそこには、私服姿の葛葉小夜がいた。

ものすごく意外なことに、葛葉はこれからジョギングにでも行きそうなスポーティーな格好をしていた。

鮮やかな色の動きやすい上下で、背中には小さなリュックを背負っている。

髪も高い位置でポニーテールにしていて、いつもと雰囲気がものすごく違う。

和服かあるいは制服の可能性が高いと考えていたせいで、数秒動きが止まってしまった。

 

「……」

 

「……」

 

「……あ、おはよう葛葉。えと、かわいい私服だな」

 

「ありがとう。行こう」

 

通常モードのクールな葛葉が微笑むと、その威力はバツグンだ。

またも動きが止まってしまい、置いて行かれそうになったのであわてて後を追った。

 

「動きやすそうな服装だけど、えーと、……運動は得意なのか?」

 

「あまり得意じゃない。だからこそこの格好」

 

なるほど。つまり葛葉は今日は運動かそれに近いことをするつもりで、こんな格好をしてきたということか。

……もしかして今日はデートじゃなくて、修行だったりします?

 

「迷いなく歩いてるけど、目的地はどこか聞いてもいいか?」

 

恐る恐るたずねると、葛葉は足を止めた。

 

「葦土沼の遊水池。そこに人面魚が出るって噂になってた」

 

「人面魚?」

 

最初に頭に浮かんだのは、マイクを通して会話ができる毒舌な魚のゲームだった。

だが、ここで言われているのは本来の意味である、頭の模様が人の顔に見える鯉のことだろう。

 

『それそれ、ボクが聞いてきたヤツだよ』

 

葛葉が背負っているリュックの中から声がした。カバーが開いて、中から青い肌の子供ような顔がのぞく。

 

[妖魔:アガシオン]

人間に使役される使い魔。精霊。

主に壺や瓶の中、あるいは指輪や護符に封じられている。

 

『おかけんの人たちが話してた。あしどぬまのゆうすいこうえんに、じんめんぎょが出る。それは行方不明になった人たちで、ぬまのあくまが人間を魚に変えているんだって』

 

「行方不明者が増えてるのは本当。周辺の寺社から、調査依頼が来た」

 

葛葉が、少ない言葉で補足する。

どうやら今日の目的は、葛葉家から回された仕事らしい。

 

「つまり、人面魚の噂が正しいかはともかく、悪魔が関わっているかどうかを調べるってことか」

 

そう聞くと、葛葉は大きくうなずいた。

 

 

 

葦土沼の遊水公園は、駅から5キロほど歩いたところにある。幾本も流れる川が入り組んでいて、渡る橋を間違えるとあみだくじ(・・・・・)のように遠回りすることになる。

地図アプリがあれば心配はないと思ったのだが、葛葉は地図を見るのが苦手なようだった。

 

なので昨日頼まれたとおり俺が先導して、遊水公園へとたどり着いた。

 

「ぱっと見、平和な光景だな」

 

休日の遊水公園は穏やかな空気に満ちていた。

遊歩道ではジョギングや犬の散歩をしている人がいて、広場では子供たちが楽しそうに遊んでいる。

悪魔や怪物などの気配とはほど遠い場所に見える。

 

「……向こう」

 

葛葉が周囲を見回してから、川の本流の方へと向かっていった。

荒川に繋がるこの公園には、その名の由来でもある葦の生い茂る水辺が長く続いている。

葛葉は上流方向の端まで行くと、安全柵の上から川をのぞき込んだ。

 

隣に並んで川を見る。

青々と茂る葦の足下には茶色く枯れた部分が広がり、水面はわずかしか見えない。

いったい何があるのかと葛葉の視線を追うと、水面にぷくぷくと泡が浮かび、そこからイヌガミが顔を出した。

 

イヌガミが枯れた葦の上にくわえていたモノを置く。

それは魚の死骸のように見えた。

 

「ただの魚に見えるけど、そうじゃないんだろうなあ」

 

『その通りダ。今からひっくり返すが、びっくりして声を出すなヨ』

 

イヌガミが魚をひっくり返す。

それは一言でいえば異形だった。魚の頭があるはずの部分は奇妙に膨らみ、人間の頭蓋骨のようになっている。

魚の皮膚は骨に押されて薄く伸び、異常な変化が起こったことを示している。

骨だけ見れば、人面魚だと間違われるかもしれない。

それは人間が魚になったわけではなく、魚の頭部が人間のそれに変化させられ、その途中で耐えきれずに死んだのだろう。

 

自然にありえることではない。だがどうやって、どうしてこんなことになっているのだろうか。

 

『こんなものが、下の方にいくつもあったゼ。味はイマイチだったナ』

 

「こんなの喰うなよ。腹こわすぞ」

 

イヌガミが異形化した魚をくわえて歩道へ登ってきた。

葛葉がリュックを開けて、タッパーを取り出した。

 

「なるほど、サンプルを回収するのか。ついでに俺も写真を撮っていいか?」

 

「……ん」

 

サイズ比較のために片方の靴を脱いで並べて、魚の写真を撮る。

写真を掲示板の【悪魔関連報告スレ】にコメント共に貼り付けると、すぐさま反応があった。

 

【悪魔関連報告スレ】

 

547:名無しの葛葉フレンズ

××県の葦土遊水公園にて葛葉が受けた依頼である、人面魚の噂の調査に同行しました。

現地の川で、頭蓋骨の半分が変形した魚を発見しました。

つ画像

【http:/xxx】

 

548:名無しの転生者

>>547 報告乙

 

549:名無しの転生者

>>547 報告乙

 

550:名無しの転生者

>>547 よくできた偽物か?靴のサイズいくつよ。

 

552:名無しの転生者

>>547 報告乙です。確認しました。

>>550 荒川下流域で同様の発見報告が数件あります。本物と断定してよいかと。

 

553:名無しの葛葉フレンズ

>>550 本物です。靴は27です。魚のサイズは30センチちょっとですね。

 

554:名無しの転生者

>>547 朝食のアジの開きが食えんくなった。訴訟。

 

556:名無しの転生者

>>554 飯食いながらこんなスレを見たオマエが悪い。敗訴。

 

557:名無しの転生者

魚の異形化は最近報告が入り始めたばかりなので、情報が少ないのです。

さらなる情報提供が求められます。

荒川流域周辺住人は、特に協力をお願いします。

 

558:名無しの転生者

>>557 こちら荒川上流住民。今まさに地域の人たちと河川の清掃やっているが、異形化してる死骸は見つかってない。

 

559:名無しの転生者

>>557 こちら荒川河口住人。小動物の頭蓋骨っぽいものが見つかるようになった件を調査中。もしかしたら同じものかもしれない。

つ画像

【http:/xxx】

 

560:名無しの転生者

>>547 >>559 似てる?……似てなくなくない? 

 

561:名無しの転生者

>>559 似てる希ガス。個体差の範囲内と言えるかも。数はどのくらいだ?

 

562:名無しの転生者

>>561 先週までに3つ見つかって、昨日もう一個が見つかった。野良悪魔が発生したか調査を依頼された。

 

563:名無しの葛葉フレンズ

>>561 葛葉の使い魔によれば、水中にいくつもあるらしいです。

 

564:名無しの転生者

>>563 マ?

 

565:名無しの転生者

>>563 いくつも?それマ?

 

566:名無しの転生者

>>563 それマ?

 

567:名無しの葛葉フレンズ

>>564 >>565 >>566 マです。

 

568:名無しの転生者

つ 葦土沼遊水公園周辺マップ

【http:/xxx】

 

569:名無しの転生者

葦土沼周辺は土壌が酸性だから昔からの骨は残りにくい……って解説する間もなく新情報が出てくるなあオイ。

 

570:名無しの転生者

これ葦土沼の近くに原因あるんじゃね?葛葉フレンズ出動じゃね?

 

571:名無しの転生者

>>570 気が早すぎだろ。事件の元凶がすぐ近くにあるとか、そんなに都合良くいくわけないだろ。

 

572:名無しの転生者

>>568 の地図見てたんだが、公園の上流にヤベーものを見つけたんだが?

 

573:名無しの転生者

>>572 どれだ?

 

574:名無しの転生者

>>572 ジュネスデパート……は流石に遠いか。

 

575:名無しの転生者

>>572 俺には見えないぞ。もったいぶらないで教えてくれ。

 

576:名無しの転生者

>>572 見つけた!【霊長類知能総合研究所】!略して【霊長知能総研】だ!!

 

577:名無しの転生者

>>576 それis何?

 

578:名無しの転生者

>>576 あった!これか!ソウルハッカーズに出てきたダンジョンか!

 

579:名無しの転生者

>>577 デビルサマナー・ソウルハッカーズに同名のダンジョンが出てくる。小学生向けのクイズがギミックとして配置されている。

マッドサイエンティストが改造した珍獣がボスで、同じく小学生向けのなぞなぞを出してくる。

 

580:名無しの葛葉フレンズ

>>579 あったなあ、そういうの。でもそれが原因とはまだ断定できないのでは?

 

581:名無しの転生者

>>580 霊長知能総研についてちょっと調べたが支援団体が【箱船動物協会】だゾ。

 

582:名無しの転生者

>>581 うわあ、名前からして嫌な予感がひしひしと伝わってくるなあ。

 

583:名無しの葛葉フレンズ

>>581 それってもしかして

 

584:名無しの転生者

>>583 もちろん【メシア教会】の下部組織のひとつだ。

 

585:名無しの葛葉フレンズ

情報提供は終わったので帰りますね。お疲れ様でした。

 

586:名無しの転生者

>>585 オイオイ、逃げるな

 

587:名無しの転生者

>>585 スレ民からは逃げられない。

 

588:名無しの転生者

>>585 逃 が さ ん 

 

589:名無しの転生者

>>585 しかし、回り込まれてしまった!

 

590:名無しの葛葉フレンズ

>>586 ~ >>589 許してください!なんでもしますから!! 

 

591:名無しの転生者

>>590 ん?

 

592:名無しの転生者

>>590 ん?

 

593:名無しの転生者

>>590 ん?

 

594:名無しの転生者

>>590 ん?今なんでもって言ったな?

 

595:名無しの転生者

>>590 ん?今、なんでもって言ったな?

 

596:名無しの転生者

先輩わきすぎィ!

 

599:名無しの転生者

>>590 ネタはともかく、現在一番近いのは葛葉フレンズなので基礎調査をお願いしますね。応援も向かわせますので、安心して行ってきてください。

 

600:名無しの転生者

>>590 逝ってよし!

 

601:名無しの転生者

>>600 ヨシ!

 

603:名無しの転生者

>>600 ヨシ!……いやいや、よくない。

 

605:名無しの葛葉フレンズ

>>599 葛葉に話をしたら、向こうは乗り気なようです。というわけで逝ってきます。応援マジでよろしくお願いします。

 

606:名無しの転生者

>>605 がんばれ♡がんばれ♡

 

607:名無しの転生者

>>605 がんばれ♡がんばれ♡

 

608:名無しの転生者

>>605 がんばれ♡がんばれ♡

 

610:名無しの葛葉フレンズ

このスレこんなんばっかだな!!!!!



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潜入!霊長知能総研

【霊長知能総研】に向けて川沿いの道を辿ることおよそ30分。俺たちは葦の茂る川縁を、靴を濡らしながら歩いていた。

地面かそれとも枯れた葦なのか分からない場所を慎重に歩く。

葛葉は運動に慣れていないという割には、歩きにくい場所でもしっかりついてきていた。

 

「きゃっ!」

 

「危なっ!大丈夫か?」

 

「足が、沈んだ」

 

葛葉の右足が、土のない部分を踏んでしまったようだ。

俺がちょうど振り返ったタイミングだったので間に合ったが、運が悪ければ盛大にコケていたかもしれない。

 

「水が染みて、気持ち悪い」

 

「もうちょっとで足場につくから、そこまで急ごう」

 

なぜ俺たちがこんな歩きにくい場所にいるのか。その件に関しては数分前に遡る。

 

葦土沼遊水公園から川を上流に向けて歩き始めて十数分たったところで、ついに川沿いを辿れる道がなくなったのだ。

 

「伊吹、道は向こうに続いてるけど」

 

「真正面から『人面魚を作ってますか?』なんて聞いて『はい、そうです』って答えないだろ。川に異常が出てるんだから、まずは排水口を中心に調べてからの方がいい」

 

そう説明して、そして現在。やっと目的地である【霊長知能総研】の裏側にたどり着いた。

排水口は複数あり、その周辺をイヌガミに調べてもらったところ、やはり水中に魚の変死体が多く沈んでいた。

 

建物は白い外壁が清潔そうで、ガラス温室の中に背の高い植物が見えている。

川より高い位置にあるが、裏口から続く階段と、葦に隠れるような小さな桟橋があった。

裏口には監視カメラがあったが、アガシオンが無力化してくれた。

 

「さすが葛葉。使い魔の扱いがうまいな」

 

「みんなが協力してくれてる。いい子たちばっかりだから」

 

葛葉がやさしく頭をなでると、アガシオンもイヌガミも気持ちよさそうにしている。

 

監視カメラの下で濡れた靴を乾かしつつ小休止し、そのついでに【悪魔関連報告スレ】に経過報告をした。

 

 

 

 

883:名無しの転生者

やっぱり霊長知能総研は怪しいな。葛葉フレンズは、引き続き内部に潜入調査をよろしく。もし違ってたらゴメンねしといて。フォローはこっちでするから。

 

884:名無しの転生者

>>883 もう黒確定していいだろ。メシア教は叩くべし。

 

885:名無しの転生者

>>880 応援の準備は整った。これから何人かで向かうから、暴れて攪乱してくれてていいよ。その分こっちが楽になるから。

 

886:名無しの転生者

>>885 異界戦闘未経験の新人を突撃させた上で囮にするとか、鬼畜生かな?

 

887:名無しの転生者

そろそろこのスレ終わりだから誰か新スレ立てといて

 

888:名無しの転生者

>>887 空気嫁

 

889:名無しの転生者

>>887 オマエが立てろ

 

 

 

「ダメだこりゃ」

 

相変わらずのカオスっぷりである。

 

「?」

 

「こっちのことだ。ところで休憩はもういいか?ここからは、気合いを入れていこう」

 

装備を確認して、【霊長知能総研】へ侵入を開始した。

 

 

不用心なことに、裏口のカギはかかっていなかった。

葛葉の使い魔たちに調べてもらったが、罠や感知装置の類いすらないらしい。

 

ドアを開けると、獣臭さと血の臭いが漂ってきた。葛葉を振り返ってみるが、大丈夫だというように頷いてきた。

 

内部は薄暗く狭い廊下が続いている。

横合いにある小さな部屋から異臭が強く漂ってくるので、慎重に中の様子をうかがった。

中を見たことを、後悔した。

 

犬や猫を始めとした、動物の死骸が乱雑に並べられている。しかもその死骸は共通して、頭部が異形化していた。

 

吐き気をこらえて飲み込み、携帯端末のカメラを向ける。数枚撮影して閉めようとしたら、葛葉に扉を押さえられた。

 

「わしも見る」

 

「見ない方がいいぞ。気分が悪くなるだけだ」

 

『心配すんなって。お嬢はこのくらい平気ダ。葛葉一族をなめないほうがいいゼ』

 

イヌガミが言ったとおり、葛葉は表情を変えずに部屋の中に入って行った。死骸の前に座りこみ、いつの間に身につけたのか白い手袋ごしに死体を検分していた。

 

「すごい苦しんでた。かわいそう」

 

「生きたまま体が変化したんなら、激痛だろうな。というか魚だけじゃなく、動物まで人間化させようとしてるのか。ここのヤツラは、いったい何がしたいんだか」

 

「人間……でもこれは……」

 

葛葉がしゃがみ込んだまま、何かを考え始めた。

今のうちに撮影した写真をアップロードしようとして、電波が圏外になっていることに気がついた。

 

「葛葉、ちょっと一瞬外に出てくるけど……」

 

そう言いかけたとき、部屋の隅に何者かがいることに気がついた。それは葛葉に向けてゆっくりと手を伸ばそうとしている。

 

「……!」

 

まだ距離がある。いや、魔法で遠距離攻撃をするつもりか?

敵意は見えない?いや、狂人かあるいは本能で動くタイプかも。

走りこんでもギリギリ間に合いそうにない。でもまだ魔法を手から飛ばすことは成功してない。

ならやっぱり、体当たりで動きを止めるしか。

 

思考が頭を駆け巡ったが、それを行動に移す前に、葛葉のリュックからアガシオンが顔を出した。

 

しびれちゃえ!(ジオ)

 

バチッ!と電流が音を立て、焼かれた何者かが力なく倒れた。

 

「大丈夫……みたいだな」

 

「ん」

 

葛葉がアガシオンの頭をなでた。

俺は、助けられなかった。間に合わなかった。

アガシオンがいたから無事だったが、いなければもしかしたら、ケガをしていたかもしれない。

俺が迷ったから、弱かったから、そんな理由で他の誰か(くずのは)に傷を負うなんて、とても嫌だ。

 

「ごめん。次は、必ず」

 

「?」

 

守る、という言葉は恥ずかしくて口にできない。

それは俺の決意であり、誰かに聞かせる必要のないものだ。

 

葛葉が、倒れた何者かへと近寄る。

俺も後ろからのぞき込むと、それは少し大きな犬のように見えた。

 

「犬、だな」

 

「ん」

 

「でも今こいつ立ってたよな」

 

「そうなの?」

 

「立ってた。それにこの前足が、手みたいになってる」

 

見た目はほぼ犬であるが、骨格がなんとなく人間に近づいている。

人間寄りの犬。というかこいつ、どこかで見覚えがある。この感覚は、そう、前世の記憶だ。

「こいつ、コボルトだ」

 

【地霊:コボルト】

亜人の一種で、犬とよく似た特徴を持つ。妖精の一種とも言われる。文明のレベルは低く、汚らしい容姿をしている。主に洞窟に住む。

 

初期のメガテンシリーズにはよく登場していた悪魔だ。主に序盤の雑魚敵だが、レベルが低い時は攻撃が痛かったと記憶している。

 

普通の悪魔ならなんでもないのだが、他に大きな問題がある。それはこいつが普通の悪魔ではなく、受肉しているという点だ。

 

この世界がメガテン世界だと言っても、悪魔が気軽に出現できるわけではない。

悪魔の肉体を構成するのは主に【生体マグネタイト】と呼ばれる謎物質であり、悪魔たちはこれを【マッカ】と呼んで取引に使っていたりする。

生体マグネタイトは活動することで減少していくので、肉体を保つために生物を襲う。

人間が悪魔に襲われやすいのは、この生体マグネタイトが他の生物よりも多く持っているためらしい。

 

コボルトも本来は他の悪魔と同様に生体マグネタイトで構成されているはずなのだが、このコボルトの肉体は、死んでも生体マグネタイトの塊にもどったりしていない。普通の犬の死骸のように見える。

 

つまりそこから導き出される答えは……。

 

「人面魚は、人面魚じゃなかった」

 

「ああ、ここは動物を人間ではなく、悪魔化させるための研究をしているんだ」

 

 

葛葉とともに【霊長知能総研】を進む。通路は細長くて薄暗い。

ガラス張りの部屋の中では様々な動物が飼育されているが、そのどれもが異常な変化をしている途中で、苦しそうな声を出していた。

俺にはどうやって助ければいいかわからない。だから今はこれ以上の被害を出さないために、元凶を倒すべく先を急いでいた。

 

「吐き気がしてくるな」

 

「ふくろ、いる?」

 

「大丈夫。そういうことじゃないから」

 

葛葉がいてくれてよかった。一人だったら嫌悪感のあまり、関わりたくないと言って逃げていたかもしれない。

でも、俺はここまで関わってしまったんだ。俺が始末をつけなければならない。

 

研究所内を歩き回っていると、大きめの部屋に出た。そこは天井が高く、上階のガラス窓から見えるようになっている。そして監視カメラが四方に設置されていた。

 

「檻のある扉もある。ここは実験と観察の部屋か」

 

部屋を横切ろうとしたところで、壁のスピーカーが鳴った。

 

『テステス、マイクテス。あー、そこの二匹のモンキー、聞こえとる?アポなしで勝手に入ってくるとかホンマ(しつけ)のなってないお猿さんやで。何の用かなんてアホなことは聞かんで。裏口から入ってきたって事は、まともな理由やないやろな』

 

二階の窓から、白衣を着た男がこちらを見下ろしている。

あの特徴的なおかっぱ頭とワシ鼻とメガネは、前世で見覚えのあるそれそのものだった。

 

「Dr.スリル。やっぱりお前か」

 

『んん?ワイのこと知っとるんか??はっ、さてはデビルサマナーか!貴様らなんべんワイの邪魔したら気が済むんや。ガキやとしても許さへんで。ワイの研究成果を披露したるさかい、目ん玉かっぽじってよう見てきや。おい、犬どもの檻を()け』

 

Dr.スリルの声で、扉の檻が開かれる。中からはコボルトたちが、わらわらと出てきた。

 

『そいつらはちゃんとした完成品や。廃棄物どもと同じと思たらケガするで。まあ、ケガどころで済めばええがな。貴様らが生きてたら実験に使うてやるから、せいぜい頑張って生き延びてや。ほら犬ども、エサやで。GO!』

 

命令によって、コボルトたちがよだれを垂らしながら駆け寄ってきた。

 

「来るぞ、葛葉」

 

「伊吹は素人(しろうと)だから、無理しないで」

 

葛葉が、イヌガミとアガシオンを呼び出す。

 

「そんなこと言ってる余裕は無さそうだぞ」

 

念のために持ってきていた、皮のグローブを両手にはめる。警察に見られても問題ない装備がこんなものしか用意できなかったが、何もないよりかマシだろう。

 

『GAAAAッ!』

 

先頭で突っ込んできたコボルトの噛みつきに合わせて、顎の下からアッパーカットを決める

コボルトは舌を噛みながら浮き上がり、後ろに倒れた。

 

「よし」

 

意外と動きが見えるし対応できる。これが覚醒して、その後も続けた修行の成果か。

これならば、何匹かかってこうようが全然イケる。

 

燃えろ(アギ)!ぼさっとするナ。次々と来るゾ』

 

『イブキって強いの?えいっ(ジオ)

 

「だいたいの武道の基本練習はしたことあるけど。ワンツー!」

 

コボルトを殴り倒しながら答える。

空手とか剣道とか、ちょっとでも使えた方がいいと思って色々手を出していた。でも面白いモノ、やりたいことが多すぎるせいで、どれも長期間は続けてこなかった。

こんなことになると知っていれば、スポーツ競技よりも格闘技をメインにしてたんだけど、メガテン世界だと知るのが遅かったから仕方がない。

 

俺と使い魔とで、攻め寄ってくるコボルトを蹴散らしていく。このままなら、葛葉の出番は無さそうだ。

ちょうど振り返った時、葛葉の背後に駆け寄る小さな影を見つけた。

 

「葛葉!」

 

「!?」

 

俺の警告で周囲を見回しているが、敵が素早いせいで姿をとらえらていない。

使い魔たちは雑魚の迎撃にいそがしく、葛葉の守りがいない。

ならば俺が、なんとかしなくては。今度こそ、全力で、俺ができるすべてを出し切るんだ。

両手の平を前にむけ、そこに力を集める。

いつも途中までは上手くいっているんだ。そこから先は、気合いでなんとかしろ、俺!

 

「できるできる、俺ならできる!やるぞ、吹き飛べ(ザン)!」

 

広げた手のひらから、衝撃波を飛ばす。思った以上の反動に驚いたが、気合いでブレを押さえた。

衝撃波は葛葉に向けて飛びかかった小さな影に命中し、急角度で壁に叩きつけた。

ほら、やればできたじゃないか。

 

血を吐いて壁から落ちたのは、二足歩行の猫。おそらく【ケットシー】だろう。犬どもと言っておきながら猫も混ぜてくるあたり、Dr.スリルの性格の悪さがうかがえる。

 

「伊吹。術、使えるようになったの」

 

「初めて成功したよ。いけるとは思ってたけどな」

 

「そう。頑張ったね。じゃあ、見てて、凍りなさい(マハブフ)

 

葛葉が放った冷気によって、コボルトたちの体が凍っていく。動きを止めたコボルトたちを、使い魔の二匹がトドメをさしてまわっていった。

 

「つぎは、これね」

 

「アッ、ハイ」

 

葛葉は意外とスパルタなようだ。




アガ「おじょう、機嫌よさそうだね」

イヌ「か弱い女性扱いされたからダロ」

アガ「ならなんでお礼しなかったの?」

イヌ「きっとツンデレってやつダな」


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激戦!霊長知能総研!!

書いてくうちに展開変わってくと前の方も直したくなるよね?
そんなわけで遅くなりました。

いつも感想、評価ありがとうございます。ほんと励みになってます!


霊長知能総研の主任研究員であるDr.スリルは、備え付けの受話器に向かって怒鳴り散らしていた。

 

「だから、さっさと【ダーマ】を用意せい言うとるんや!あんな雑魚ども、すぐに突破されるに決まっとるやろがい!」

 

『いやいやいやいや、それは違いますよドクター。あれでいいんです、あのような廃棄物でも有効に利用しましょう。【ダーマ】は確かに切り札ですが、数少ない成功例でもあります。貴重なそれを壊される危険を(おか)す必要はないでしょう』

 

受話器の向こうから聞こえる声はとても落ち着いたもので、逆に不気味な気配を感じさせる。

 

「せ、せやけど、そんなん言っとる場合やないやろ。あいつらガキといえどサマナーやで。サマナーはガツンと叩いたらなアカン」

 

『ですから、質ではなく量で叩こうというわけです。子供というのは、無闇に生き急いでいるもの。廃棄物を連続で相手にして消耗したところで、一気に叩いてやればいいんですよ』

 

「まあ、警備主任のキミが言うなら、そうなんやろな。せやけど一応ダーマの準備はさせといてもらうで。何があるか分からんからな」

 

『まあ、いいですけど。そこまで心配するならワタクシが出ますよ。そろそろ箱船動物協会へ良い報告をしたいですからね。ああ、神よ。ワタクシの信仰心をどうぞ見ていてください』

 

「ほな、そっちで上手いことやってや。頼んだで」

 

スリルは話を聞き終えるまえに受話器を下ろした。

 

「【箱船動物協会】は、あんな気持ち悪いヤツばっかりなんやろか。まあ、ええわ。それよりさっさと逃げる用意しとかなアカンな。さっきから嫌な予感が背中にビンビンきとるで。ホンマ嫌やわあ」

 

気持ちの悪い警備主任と話したことで冷静になったスリルは、白衣を整えながら飼育研究室へと向かった。

 

 

通路には、コボルトやケットシーが大量に待ち構えていた。そのほとんどが、見た目が異形の、いわゆる成りかけ・成りそこないのものだ。

研究所にいるのを全て出してきたのかと思えるほど量が多い。

 

罪のない被害者である実験動物の成れの果てと戦うのは心が痛むが、このまま放っておくこともできない。

せめて楽に終わらせてやることが、俺ができるせめてもの救いだろう。

拳に慈悲を込めて、殺すつもりでぶっとばす。

 

「『衝撃』の、ファーストナッコゥ!」(自主規制)

 

魔法を纏わせた拳でぶん殴ると、成りそこないのコボルトは後ろにいた複数体を巻き込みながら吹き飛んでいった。そのまま崩れた群れに乱入し、手当たり次第に殴り飛ばす。

倒れた者たちにトドメを刺してから背後を見る。そこでは葛葉が、肩で大きく息をしていた。

 

スポーティーな格好をしていたが、それだけで運動が楽になるわけではない。成りそこないたちとの連戦で、すっかり息が上がってしまったようだ。

 

『お嬢、ワレも消耗したから、ちょっと楽させてもらうゼ』

 

「ぜえ、ぜえ。……うん、いいよ」

 

イヌガミが葛葉に憑依する。これはイヌガミなりの気遣いでもある。

憑依することで能力が全体的に底上げされるので、動き回るのも楽になる。

ちなみにアガシオンはMPの消耗のしすぎで、とっくにリュックの中に戻っていた。

霊水飲料などの回復アイテムを与えてあるので、少し休めばまた戦闘できるようになるだろう。

 

「伊吹よ。調子がよいのは分かるが、急ぎすぎじゃ。ワシをこんな場所に置いて行く気か」

 

「そんなつもりはないぞ。今だって、ほとんど俺だけで敵と戦っているじゃないか。レベルアップしたのか、成りそこないだけなら問題ないけどな」

 

「スタミナはともかく、MPが尽きる様子がないのは異常じゃ。おぬしは魔力が多いようにはとても見えぬぞ」

 

「魔法を飛ばすんじゃなく、手にまとわせて殴ってるからMP消費が少ないんだ。コボルトは魔法の方がよく通るし」

 

「だとしてもおかしいと言っておるのじゃ。おぬし、なにか別の異能を持っておるのではないのか?」

 

異能?俺はそんな特殊なスキルなんて……あ、【勝利の息吹】か。

【勝利の息吹】は、戦闘終了時にHPとMPを小回復するパッシブスキルだ。今回のような、弱い相手と何回も戦う場合にすごく役に立つ。最大HP・MPに対する割合での回復であり、レベルが上がればそれだけ回復量も増えるからだ。

今ではもう、属性拳ならほぼ無限に使えるレベルになっている。

 

「その顔、心当たりがあるようじゃな。まったく、ワシに対して隠し事をするとは、おぬしも意外と油断がならないのう」

 

「あはは」

 

とりあえず笑って誤魔化す。

隠していたわけじゃなく、本当は言うのを忘れていたんだけどね。

 

そんなやりとりをしつつ奥へ進んでいく。

先ほどの部屋が一番大きな群れだったのか、その後は数匹のグループがちょこちょこ出てくる程度だった。

 

そうしてたどり着いたのは、運動場のようになっている中庭だった。

ぐるりと囲む窓には研究者らしき姿がちらほら見える。観客がいるということは、何か大きな出し物が用意されているのだろう。

 

中庭の中央まで進むと、向かいから3人の警備員がやってきた。

先頭にいた制服の上にマントを羽織った男が、口を開いた。

 

「よくここまで来れましたね。侵入者くんと侵入者ちゃん。だがここから先は通行禁止です。といっても企業秘密なのはそっち側で、こっち側は一般用の見学可能な場所です。見られて困るのはそっち側だから、それを知ってるキミたちを通すわけにはいかない。分かりますね?」

 

「俺たちがここで見たことをバラしたら、この研究所はお終いだもんな。まあ、こんな非人道的な研究所はすぐにでも閉鎖させてやりたいんだが」

 

「何を言うんだ。ここは人類の未来を守るための研究をしているんだぞ。ここのおかげで、人類は上位の生命になれるんだ。素晴らしいとは思わないか?」

 

「思わないね。動物たちを無駄に苦しませているヤツラの言うことなんか信用できるか。どうせ、自分たち以外の人間なんか実験動物と同じにしか思ってないんだろ」

 

俺の言葉を聞いて、男は肩をふるわせて笑った。

 

「実験動物と同じ?思い上がってはいけません。大衆どもは何の役にも立たないゴミ以下ですよ。そんなゴミでも、ワタクシなら有効活用できる。このようにね。お前たち、行きなさい!」

 

男のかけごえで、警備員2人の様子が変わった。

苦しみだしたかと思うと、体を毛が覆っていく。制服を自分の手でやぶいて、毛むくじゃらな猿の悪魔に変わった。

 

【妖獣:カクエン】と【魔獣:ショウジョウ】。

どちらも猿の悪魔であり、物理タイプのステータスだったはずだ。

 

「葛葉、俺の後ろにいろ。回復は任せる」

 

「わかった。出でよ【アガシオン】。伊吹を手助けせい」

 

さすがに複数を一人で相手にするのはキツかったので、攻撃の手が増えるのはありがたい。

 

「とにかく数を減らしていく。集中して狙うぞ」

 

『おっけー、がんばる』

 

今日の俺は調子がいい。この程度の障害、さっくりと乗り越えてやる。

 

 

 

戦闘は、意外なほど楽に進んだ。

悪魔化した警備員たちの攻撃力は高いが、経験値が圧倒的に足りていない。くり出される攻撃スキルは大ぶりなものばかりで、余裕で回避できた。

カクエンは物理耐性があるが雷と風属性に弱く、俺とアガシオンの魔法が両方とも通る。

 

ショウジョウは理性が残っているのか、動きが人間的だし戸惑いのようなものが感じられた。

どちらも属性拳で吹き飛ばせば、人間の姿に戻って動かなくなる。

アガシオンの協力のおかげか、苦労せずに全てを行動不能にすることができた。

後で治療すれば、完全に人に戻れるかもしれない。

 

戦闘が終わり、残った主任警備員を見れば、驚きに目を見開いている。目の前で起こったことが信じられないようだった。

 

「いやいやいやいや、それは有り得ないでしょう。貴方がたはここに来るまでに廃棄物どもと戦い続けて、とうに力を使い切っていなければならない。なのに悪魔化した者どもを平気で倒すとか有り得ない有り得ない。えっ、なんで死んでないんですか?」

 

「俺たちが正義の味方だからだ。それにしても、動物だけじゃなく人間まで悪魔化させてるとは思わなかった。あんた、もしかして悪魔か?」

 

「はあ?ワタクシが悪魔だと!?ふざけるな!しかも悪魔化させることがまるで悪いことのように……ん”ん”っ、失礼。変な言いがかりをつけないでくださいますか。それに、実験をやってるのは研究員のヤツラです。ワタクシが非人道的なことをするわけありません」

 

急に怒鳴られてびっくりしていると、後ろで葛葉が呟いた。

 

「どうやら図星のようじゃな。外道とは思っておったが、まさか人間ですらないとはのう」

 

「ふん、無知蒙昧な大衆どもがどうなったって関係ないでしょう。むしろいるだけ邪魔です。ゴミなりにワタクシの役に立ち、ひいては神の役に立つことにつながることを感謝するべきです」

 

「人間じゃないなら、手加減はいらないな。とっとと正体を見せろよ」

 

俺の声に応えるように、警備主任は宝石のついた首飾りをとりだした。

 

「いいでしょう。神から与えられたワタクシの姿を、畏れ敬い、ひれ伏しなさい!」

 

言葉とともに、宝石が光りとなって警備主任の体を覆い、変化が起きた。

肌が青白くなり、筋肉が肥大し、身長が伸びていく。

制服が燃え、それが鎧兜と鎖帷子に置き換わる。

首飾りがロングソードへと変化する。

最後に、血のように赤い羽根が背中から生えた。

 

『ふは、ふはははは。ご覧なさい。これこそが神より与えられたワタクシの真なる姿。輝けるワタクシの、神徒としての名は……』

 

「【アークエンジェル】か。序盤の後半くらいの雑魚だ」

 

『なっ、雑魚……!?このワタクシが、雑魚だと!??』

 

ショックを受けているところ悪いが、メガテンプレイヤーからしてみれば先ほどの悪魔化した警備員と比べてそれほど強いとは思えない相手だ。

むしろあっちの方がレベルが高いことだってある。

 

「葛葉、作戦プランBだ。俺がヤツの攻撃を防ぐから、呪殺(ムド)をぶつけてやってくれ」

 

「うむ、わかったぞ」

 

『ワタクシの目の前で作戦会議をするなど、侮辱するにもほどがありますよ』

 

「それでも問題ないっつってるんだよ。怖いなら逃げてもいいんだぞ」

 

『その傲慢さ、万死に値します。後悔なさい!』

 

うまく挑発に乗ってくれた。あとは俺が耐えぬけばいい。

攻撃に使っていた魔力纏を防御に回して、アークエンジェルの動きに備えた。

 

◇◇◇

 

一方その頃、Dr,スリルはガレージへとやってきていた。

動物運搬用の大型トラックに実験動物を詰め込み、逃げ出すための準備を進めている。

 

「あのガキども、実験動物どもを苦も無く倒しとったなあ。あんなん相手にするとか、やっとられんわ。ただの警備員どもが勝てるわけあらへん。ワイはとっとと逃がさしてもらうで」

 

作業を研究助手に手伝わせていると、助手の一人が駆け寄ってきた。

 

「ああ?ガレージの前に怪しいヤツラが並んどるやと?まーた侵入者かいな。今日は厄日やで。いったいどうなっとるんや」

 

ぼやいていると、ガレージのシャッターが開かれていく。

逆光に目を細めて見ると、5人の男たちが横並びに立ちはだかっているようだ。

 

「邪魔や邪魔や、そこを退き!いったい何やお前らは」

 

「「よくぞ聞いてくれた。ならば答えてくれようぞ」」

 

よく見れば男たちはおもちゃのお面をかぶっている。そして一人一人がポーズを取りながら叫んだ。

 

「太陽に羽ばたく正義の翼【フェザーレッド】!」

「熱く燃えたぎる炎の翼【フェザーフレイム】!」

「真っ赤に流れる血潮の翼【フェザークリムゾン】!」

「光り輝く太陽の翼【フェザーサンシャイン】!」

「眩しく光る雷鳴の翼【フェザーライトニング】!」

 

「「5人そろって、【超翼戦隊・フェザーファイブ】!」」

 

「ちょいちょいちょいちょい!お前ら、ちょい待ちや!」

 

ビシッ!っとポーズを決めたフェザーファイブに、スリルがツッコむ。

 

「お面かぶって正義の味方ごっこするのはまあええわ。でもな、色のバランス悪いやろ」

 

「色の、バランス?」

 

「なんで誰も気づいとらんのや。お前の色は何や、順番に言うてみ」

 

「レッドです」

「赤です」

「クリムゾンです」

 

「全部赤やん!」

 

「黄色です」

「黄色です」

 

「黄色やん!この戦隊、赤と黄色しかおらんやん!二色しかない戦隊って、キミらおかしいと思わんかった?」

 

「自分、赤じゃなくてクリムゾンなんで……」

 

「クリムゾンも赤やろ!クリムゾンレッドやろ!なあ、レッド被ってんで!?」

 

「レッドは僕です」

 

「やから!被ってるんやって!!」

 

「ほらほら、だから言ったじゃん」

 

「キミらも!黄色と黄色で被っとるんやぞ!他人に言う前に自分らも変えようとは思わんかったんかい」

 

「僕ら二人だけだし」

 

「二人も三人も変わらんのや。五十歩百歩以下や。五十歩七十五歩や」

 

「「ええー」」

 

「ええー、やあらへん!」

 

そんな風にいつまでも続きそうなコントをやっていると、トラックから何者かがのっそりと降りてきた。

 

『ドクター。その辺にしとき。そいつらの目的はきっと時間稼ぎや。このまま続けとると、もっとぎょうさん敵さんいらっしゃるで』

 

「なっ、ダーマ!おまえなんで出てきとるんや」

 

ダーマと呼ばれたのは、大きなオスのゴリラだった。ただし頭が異様に膨らんでいるうえに、アンテナのようなトゲが脊椎から上に向かって伸びている。

実験により悪魔の力を得た成功例のゴリラ。それがこの【ダーマ】だった。

 

『そりゃあもちろん、こいつらと戦うためや。こいつらふざけとるようやけど、かなり強いで。ワイでも勝てるかわからん。せやけど、ここで勝たんとどのみち終わりや。ワイが生まれた意味を、せめてここで見せておかんとな』

 

ダーマが低く吠える。それは背中のトゲを震わせ、さらに空間を揺さぶる。

それに呼応するように、空間の揺らぎから異形の悪魔たちが姿を現した。

 

『ただのゴリラやとナメない方がええで。ほな【フェザーファイブ】さんたち、よろしゅうお願いします』

 

「「望むところだ。いくぞ、ダーマ!」」

 

こうして、【霊長知能総研】最後の戦いが始まった。

 



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決着!霊長知能総研!+おもしろ報告会

穢れよ(ムド)!」

 

『ぐわあああぁぁぁ!バカな、ワタクシが、消えていく……、こんなことありえないぃぃぃ……』

 

イヌガミ憑き状態の葛葉が放った魔法が、ついにアークエンジェルの抵抗力を削りきった。マグネタイトで構成された体が、結合力を失いドロドロと崩れていく。

依り代となっていた警備主任が床に放り出される。意識を失っているが、「ゲホッ」とマグネタイトを吐き出したので生きてはいるようだ。

 

「やったな!さすがに強かったが、葛葉のおかげで倒せた。ありがとな」

 

「はぁ、はぁ、ワシはもう、限界じゃ。体力も魔力も残っておらん。もう一歩も動けぬ」

 

「もう敵はいなさそうだし、ゆっくり休んでくれ。そうだ、ジュースでも飲むか?それとも霊水の方がいいか?」

 

「れい……いや、ジュースが飲みたい」

 

リクエストに答えて、缶ジュースのフタを開けて手渡す。

コクコク飲む様子はかわいいが、じっと見ているのも悪いので周囲を調べることにした。

 

壁に貼られた案内図によると、警備主任の言ったとおり、ここが対外的な終着点のようだ。

施設の秘密を探るなら元来た道を戻る必要があるが、俺はともかく葛葉たちはもう戦えない。後のことは、応援に任せることにしよう。

 

そう思った時、地面がズシンと揺れた。続いて空気の振動がビリビリと壁を揺らし、人や動物の騒ぐ声が聞こえてきた。

頭に浮かぶのは、ダンジョンをクリアしたら自爆スイッチが入るという、よくあるゲームのお約束展開だ。

 

ありえないとは言い切れないため、ジュースを飲みかけで固まっている葛葉に駆け寄る。

 

「急いでここから出るぞ。動けるか?」

 

「わかった、すぐに立つ。……あっ、足が」

 

立とうとしてフラついた葛葉を支える。このまま走らせるのは危なそうだ。

 

「担ぐぞ。緊急事態だから許してくれよ」

 

「わわっ、ちょっと待つのじゃ。まだジュースが飲みかけじゃ」

 

「新しいの後でやるから諦めろ」

 

俵担ぎにして自動扉をくぐる。レベルアップのおかげで、葛葉くらいなら余裕で担いで走れるようになっていた。

 

気絶している警備員たちまで連れて行く余裕はない。まずは自分と仲間。それ以外は余力があったら。そういう順番で助ける人を決めている。

もしも俺に文句があるなら、その人が自分で助けてやってくれ。

 

振動は一度だけだが、爆音が断続的に響いている。施設が爆発しなくても、逃げた動物が暴れるかもしれない。

職員たちが右往左往していたが、気にせず外へ向かって走った。

 

◇◇◇

 

施設から出たタイミングで、ひときわ大きな爆音が聞こえた。

そちらでは、黒い煙が上がっているガレージ前で、異形のゴリラが倒れるのが見えた。

 

安全な場所に葛葉を下ろして、一足先に駆けつける。

倒れたゴリラにすがりつくDr,スリルと、それを囲むお面をつけた5人の男。

カオスな絵面(えづら)ではあるが、きっとあの5人がスレで言ってた応援なのだろう。

 

決着は付いたようで、2人がガレージの方に走っていく。残った3人のうち1人がこっちに気がつき、手を振ってきた。

 

「やあ、キミが葛葉フレンズだね。って、もしかして伊吹くんかい?場所が近いからまさかとは思ったけど、世間は意外と狭いね」

 

「その声、もしかして織雅さんですか?いったい何をしてるんですか」

 

ヒーローのお面を被った男は、俺を霊能力(こっち)の世界に導いた織雅大助さんだった。

「もちろん、キミの応援に来たんだよ。何が起こるか分からないから、近場のメンバーを集めたんだけど、ちょっと戦力過剰だったみたいだ」

 

ガレージの周囲は魔法の余波で焦げたり凍り付いたりしている。あの爆音や振動は、この人たちが暴れた痕のようだ。

 

「ほんとに何してるんですか」

 

呆れ半分に言うと、それを聞きつけたDr,スリルが顔を上げた。

 

「せやせや!なんやキミら、ゴリラに生身で勝てるとかキミら本当に人間なん!?ダーマはワイが作ったスーパーゴリラなんやで」

 

「こう見えて【俺たち】は、異界攻略もしてる攻略組なんだ。ゴリラより強い悪魔とも戦ってる。でも、この世界では一瞬でも油断するとヤバイと知っているから、最初から全力でいかせてもらった結果だ」

 

「そうそう。でもそっちこそ悪魔を何体も召喚してきたし、ゴリラ自身も強かったら、油断してたら危なかったかもな。ここに来たのが俺たちで良かったよ」

 

監視している2人が答える。

どちらもどちらもお面をつけたふざけた姿だが、破れた服の下に異界攻略用のガチ装備が見えたので、彼らの言葉は本当なのだろう。

 

彼らの言葉にDr,スリルはため息をついた。

 

「……それで、ワイをどうするつもりなんや。表向きは隠しとるがここはメシア教の下部組織やぞ。そんなトコにキミらは襲撃かけたんや。知らんかった言っても、聞いてもらえるとは思わんことやな」

 

「もちろん知ってて来たんだぞ。これでも暴れたりないくらいだ。こっちも上の方に味方がいるから、誤魔化すのは難しくない。そのための部隊も後から来る」

 

「ドクターは俺たちと一緒に来てもらうよ。大丈夫、悪いようにはしないから」

 

「ワイがキミらに素直に従うと思うとるんか」

 

敵意を見せるドクターの手を、倒れているゴリラが弱々しく叩いた。

 

『ドクター、そいつらのトコ行き。ドクター言うてたやん、メシアのヤツラはクソやって。研究費は渋るし、ドクターの研究のことを悪く言うし。せやのに成果が出んとあれこれ文句言うてくるって、ワイに愚痴ってたやないか。なあ、アンタラは、そんなコトせえへんよな?』

 

「ああ、【俺たち】は他人の趣味嗜好を否定しない。むしろドクターには、最高の研究環境を用意する準備がある。貴方が本当にやりたい研究があることを、俺たちは知っている」

 

「まさかアレ(・・)のことを言っとるんか?ガキどもといい、ホンマ恐ろしいヤツラやで。せやけど、もしそちらに行ったとして、ワイの自由に研究させてもらえへんとちゃいますか」

 

「もちろんある程度の制限はさせてもらうよ。ただそれは、一般人への安全のためだ。倫理的な部分は、【悪魔】が相手なら現行法で規定されていないから心配しなくていい」

 

『ほら、ドクター。こいつら、思ったとおり悪いヤツラや。正義とか常識とか、メシアみたいなくだらん文句は言ってきいひん』

 

「俺たちに協力してくれるなら、そこのダーマくんも治療しよう。他に連れてきたい人や動物がいるなら、遠慮なく言ってくれ。貴方の研究成果が、【俺たち】のためになるのは間違いないんだ」

 

Dr,スリルは空を見上げてから、がくりとうなだれた。

 

「……そこまで言われたら、断る理由はないわな。ええやろ。何処へでも連れて行き。そんかわし、最高の設備を要求したるから覚悟しとけえよ」

 

こうして、Dr,スリルが【俺たち】の組織に加わることになった。

 

・・・・・・・・・・・・・

 

「織雅さん、あんなの加えて、本当に大丈夫なんですか?」

 

「人間性はともかく、研究者として優秀なのは間違いないからね。キミもゲームでお世話になったんじゃないかい?」

 

「確かに集めましたね。特殊なフロストたちを。でも面白い性能でしたけど、仲魔枠を圧迫された印象が強くて」

 

「知らない人には罠だよね、アレ。ははは」

 

面白そうに笑っているが、悪魔全書がない作品だったから削除できなくてホントに困ったんだよ。

 

「それはそうと伊吹くん」

 

織雅さんがガシッと肩を組んで、というかヘッドロックもどきを仕掛けながら聞いてくる。

 

「ひょっとしてキミが言ってた葛葉って、向こうにいるカワイイ女の子だったりするのかい?」

 

葛葉がこちらを見ていたが、じゃれているだけなのが分かっているのか、近づいてこようとはしなかった。

 

「えっ、まあそうですけど。……イテテ!頭が締まってますって!レベル差を考えて!」

 

「俺たちがひいこら修行をして異界攻略している時に、キミはかわいこちゃんとイチャイチャしてたのか。なあ、何か言うことないかな?」

 

「イチャイチャしてませんて。というかそんなこと言うならみなさんも霊能者の女の子と修行すればいいイタタタタ!ギブ!ギブ!」

 

「真実は時に人を傷つけるのだ。もうちょっと言葉を選びたまえー、ぇ……」

 

「だからギブなんで離してください……。って、どうかしましたか?」

 

頭の締め付けが緩んだ隙に抜けて、織雅さんを見る。

葛葉を見て固まっていたようだが、すぐに正気を取り戻してこちらを見た。

 

「……とにかく、この事はみんなに報告させてもらう。覚悟しておいてください。罪状はわかっていますね」

 

「自己責任での失敗からの逆恨み構文は止めてください」

 

「いいや、『言う』ね!」

 

「無駄に黄金の意思をみなぎらせないでください。やめてください。しんでしまいます」

 

そんなぐだぐだがありつつも、【霊長知能総研】事件は幕を閉じることとなった。

 

 

 

 

【悪魔関連報告スレ】

 

565:名無しの転生者

それでは葛葉フレンズの修行と言いつつイチャコラしてたのに俺たちに何の報告もなかった罪について、判決を下します。

 

565:名無しの転生者

判決:死刑

 

566:名無しの転生者

>>565 異議無し

 

567:名無しの転生者

>>565 異議無し

 

568:名無しの転生者

>>565 異議無し

 

569:名無しの転生者

>>565 異議無し

 

570:名無しの葛葉フレンズ

>>565 ちょっと待った!自分は別に葛葉とイチャイチャなんてしたことないし、ガチな修行ばかりでそんな雰囲気になったことないと主張します!

 

571:名無しの転生者

>>570 異議を却下します

というか、美少女と同じ教室の空気を吸っていたってだけで罪だって分からないのか?

 

572:名無しの転生者

>>570 葛葉のオトモダチになったら、ヒドイ事件に巻き込まれてこき使われたあげくに説教部屋で反省会開かれるんだろうなw

可哀相www

って思ってたオレらの同情を返せ。

 

573:名無しの転生者

>>572 同情にしては容赦なさすぎて草

 

574:名無しの転生者

葛葉フレンズの言うことも一理ある。だが許せるわけがない。

オレだって霊能力のある巫女さんとかシスターさんに手取り足取り教えて貰いたかった!

 

575:名無しの転生者

>>574 だがそうはならなかった。ならなかったんだよ。

 

576:名無しの転生者

>>575 悲しく話を終わらせるなwww

 

577:名無しの転生者

まあ冗談は置いておいて、葛葉家の戦闘スペックがある程度知れたのは大きいな。使える仲魔も多そうだし、友好的な付き合いができてるのはいいんじゃないか?

だから俺にも美少女紹介してください、お願いします。

 

578:名無しの転生者

>>577 ん?

 

579:名無しの転生者

>>577 ん?

 

580:名無しの転生者

>>578 >>579 なんでもするとは言ってねえよ。いや、美少女紹介してくれるならなんでもするけど!

 

581:名無しの転生者

俺もなんでもする!

 

582:名無しの転生者

俺も!

 

583:名無しの転生者

俺も!

 

583:名無しの転生者

俺も俺も!

 

584:名無しの転生者

ワイもワイも!

 

585:名無しの転生者

美少女と毎日修行できるんなら当然だよなあ

 

586:名無しの転生者

オwマwエwラwww

 

587:名無しの転生者

じゃあ俺も!

 

588:名無しの転生者

オマエラ座ってろwwwここは俺が!

 

589:運営

はい注目!そんな皆さんに朗報です。

ついに待望の【造魔】の量産が決定しました。

今までの【式神】と違って、ローコスト、低予算での戦力強化が実現できます。

大量生産を予定していますが、まずは1人につき1体ずつの提供となります。ご容赦ください。

 

ついでにフォローしておくと、これは先日の【霊長知能総研】攻略の成果なので、葛葉フレンズさんの功績とも言えます。

 

590:名無しの転生者

>>589 マジか!!

 

591:名無しの転生者

>>589 許す!

 

592:名無しの転生者

>>598 許せる

 

593:名無しの転生者

おwまwえwらw

手のひらドリルすぎwww

まあオレも許すけどwww

 

594:名無しの転生者

あのマッドドクター原作どおり【造魔】の研究してたんか。

ちなみにスペック的には【式神】とどう違うんだ?

 

595:運営

【造魔】は量産型の【式神】だと思ってください。

【式神】はその製造の都合上、【紙】の素体に複数の悪魔や生体素材をなじませる必要がありました。

 

一方【造魔】は、素体が生体なので内部構造の調整も容易なうえに、悪魔や概念の定着率も悪くありません。

 

式神製作班の作業も楽になり、涙を流して喜んでいます。

 

596:名無しの転生者

>>595 つまりオレももうボッチで異界に行かないで済むってことだな!?

 

597:名無しの転生者

>>585 でも、お高いんでしょう?

 

598:名無しの転生者

>>595 製作班はどうでもいい。それよりもニャンニャンできるかの方が重要だ

 

599:名無しの転生者

>>595 必死で草。つーかおせっせなら式神でもやれるようにもできただろ

 

600:名無しの転生者

式神と同衾するには人間に近づけるために、ある程度の汎用概念を付与する必要があった。

だが造魔なら最初からそれ用の肉体構造を作ればイケるだろうそうだろう。

見た目が心配なら、それこそガワだけ式神で作ればいいだろうし。

 

601:名無しの転生者

製作班も俺たちなんだから、そこら辺はもちろんわかってるよな?

 

602:運営

>>598 ~ >>601 もちろんですとも。ですが汎用概念がないと反応しないのは同じです。素材に特殊な悪魔を使えばわかりませんが、通常の式神(人造の悪魔という意味)だとプログラムした以外の反応はありません。

希望者はあらかじめ、それ用の悪魔を持ち込んでください。

 

>>597 値段については、式神よりは安くなります。素体レベルでの量産が可能なので、外見がデフォルトでいいならお手頃価格でご用意できますよ。

つ画像 【hppt:/xxx】

 

603:名無しの転生者

>>602 oh…… アイロボット……

 

604:名無しの転生者

>>602 不気味の谷が深すぎる……

 

605:運営

外見のカスタムはもちろん受け付けております。

ただこちらは相変わらず職人がひとつひとつ製作しておりますので、素材とマッカをご用意の上、早めにご予約をお願いします。

 

606:名無しの転生者

>>605 くそっ、この商売上手め! 

 

607:名無しの転生者

だが従来の式神と違って、いつ自分の番が回ってくるか分からない状況に比べたらマシなはず

 

608:名無しの転生者

>>602 オレは、これでも十分イケると思うんだが?

 

609:名無しの転生者

>>608 なかなかの上級者がいますねえ

 

606:名無しの転生者

>>602 閃いた!これちょっと改造するだけで、アイギスにできるんじゃないか!?

 

607:名無しの転生者

>>606 !!

 

608:名無しの転生者

>>606 天才か!

 

609:名無しの転生者

>>606 そ れ だ !

 

610:名無しの転生者

>>606 あなたが神か

 

611:名無しの転生者

運営ーーー!アイギスのプリセットをすぐに用意するんだーーー!

ついでにアクセサリでネコミミとしっぽもよろしくお願いします!!!!!!

 

612:名無しの転生者

メガネ!メガネ!

 

613:名無しの転生者

くぉれはキャラメイクが捗りそうですねえ

 

………………

 

(以下、造魔について盛り上がる)

 

………………

 

825:葛葉フレンズ

俺はどんなのにしようかな。夢が広がるなあ。

 

826:名無しの転生者

>>825 ただし葛葉フレンズ、テメーはダメだ。

 

827:葛葉フレンズ

>>826 なんでさ!?

 

828:名無しの転生者

>>827 当然だよなあ。もう美少女いるんだし、これ以上の女の子要素はいらんやろ。

 

829:名無しの転生者

>>827 もしもし葛葉さん?おたくのフレンズ、お人形が大好きなんですってよ?

 

830:運営

そういうことで、葛葉フレンズさんにはしばらく【造魔】は我慢していただきますね。

その代わりと言ってなんですが、試作段階の【合体剣】のモニターを依頼します。

最初の素体はこちらで用意しますけど、せっかくだから属性は安価で決めたいですよね?

 

と言うわけで炎・氷・雷・衝撃・物理から選んでください。

 

>>835

 

831:名無しの転生者

>>827 イチャついてた報いだ、ハハハ!って思ったら合体剣かよ!微妙に優遇されてない?

 

832:名無しの転生者

造魔無しは当然だが、戦力強化は必要だから仕方ない。炎

 

833:名無しの転生者

葛葉フレンズがハーレムパーティーにならなければなんでもいい

 

834:名無しの転生者

ところで試作って言ってたけど量産のあてはあるのかな?オレも欲しいんだが。

 

835:名無しの転生者

物理

特殊合体とかしてみたいよな。素材の悪魔がネックだな。

 

836:名無しの転生者

状態異常の剣もなかったっけ?

 

837:名無しの転生者

全体攻撃とかできるようになったら強いな

 

838:運営

というわけで物理タイプの【七星村正】になりました。

来週末には完成しているので、支部まで受け取りに来てくださいね。

 

839:葛葉フレンズ

せめて属性剣が欲しかった……



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剣術訓練と【俺たち】について

ついにねんがんの、七星村正をてにいれたぞ!

 

いや別に念願ではないんだが。とりあえずノリでポーズを取ってみる。

刀は男子の憧れだし、しかもそれが合体剣だとなればテンションが上がって当然だろう。

 

制作方法については聞いても教えてくれなかったが、職人による変態的技術の結晶だというのは理解できる。

だってコレ、“生きてる”んだもの。

 

「おらぁっ!」

 

訓練用の異界で試し切りをする。

素人剣術で斬りつけると、ちょっとした切り傷から血が噴き出す。しかも弱い悪魔ならそれだけで倒せてしまった。さらに、ちょっとした刃こぼれも一日経てば自動で修復されていた。

なにこれすごい。

 

剣術指導の教官は「見事だな!しかしその刀の性能のおかげだということを忘れるな!」と言ってきた。

ドヤ顔していたので、そのセリフを言いたかっただけなのかもしれないが。

 

「貴様は体力だけはある。だからとにかくその刀で敵を斬りまくれ。肉の斬り方、間合いのとり方、その他全部は戦いながら見つけろ。もちろん教官として手順も示してやるし、アドバイスもしてやる。というわけでまずは、敵を真っ二つにするところから始めろ!」

 

「いきなり大ざっぱ過ぎやしませんかね!?」

 

「その刀の切れ味と、貴様の【力】なら問題ない。力を切っ先に乗せて、真っ直ぐ振り下ろす。それだけでできる。私が保証する」

 

「うーん、まあ、そこまで言うならやってみます」

 

そんなこんなで、ハイペースでの剣術修行をやらされた。

訓練用の異界とは言っても、適性レベル帯よりも少し上の敵と戦わせられる。

教官曰く「敵に手番を回すと、運が悪ければ瀕死になるだけだ。そうなりたくなければ、一撃で戦闘不能にするか連続攻撃できるようになれ」だそうだ。

 

びびって踏み込みが浅いと倒せないし、反撃されやすくなる。

かといって突っ込めば、運悪く回避された後が怖い。

 

距離を測りながら隙をうかがい、立ち位置と足運びでタイミングを調節する。

チャンスだと思ったならば、一気に近づき刀を思いっきり振り下ろす。

腕力と刀に頼った戦い方だが、これが一番効率が良かった。

 

何度も失敗してぶっとばされたが、教官とその式神の回復で強制的に復帰させられていた。

死なないのはありがたいが、なんというか、もうちょっと手心を加えてほしかった。

 

「貴様、意外と猪武者だったな。それでも敵を殲滅できているのだから大したものだ。この成績であれば、次の修行へ進んでいいだろう」

 

「うっす」

 

土の上で、大の字に寝転がりながら応える。

「やれと言ったのはアンタだろうが」と言いたかったが、なんかもうどうでもよくなるくらい頑張った。

 

『敵陣のただ中に単身で放り込まれた』という想定で、教官の式神が敵を途切れ目なくトレインして(ひっぱって)きた結果である。

俺じゃなきゃ体力切れて死んでますよ?

 

「私の訓練を見事突破したお祝いだ。今日の晩飯は奢ってやろう」

 

「うっす、ありがとうございます。じゃあ焼き肉食べ放題でお願いします」

 

「うむ……、まあいいだろう」

 

「よっしゃ!」

 

「ただし、帰りの道中の敵は貴様だけで倒すのだ。今度は助けんぞ、私も式神もな」

 

「マジっすか」

 

文句を言いたくなったが、教官は俺ならできると思ってるから言ったんだろう。

ならやってやろうじゃないか。そういうことにした。

 

 

 

「末恐ろしいな。本当に刀とステータスだけでなんとかしてしまっているではないか」

 

「え、何か言いました?」

 

「気にするな。だが少し休もう。集中力が切れているようだしな」

 

異界を半分ほど戻ったところで、休憩することになった。

ここまで来れば後もう敵のレベルは俺以下、どんどん楽になっていく一方だ。

だから簡単な技を教わりたいと言ったら、まだ早いと言われた。

 

「貴様の訓練は今日始めたばかりだ。まずは基礎を体に憶えさせろ。家に帰ってからも、毎日素振りをやるのだぞ。後で竹刀をくれてやる」

 

「了解です」

 

そんな話をしていたら、誰かが怒鳴り合う声が聞こえてきた。

 

「む、どうやら女性を追い回す不埒な輩がいるようだな。助けに行くぞ、立てるな?」

 

「はいはいっと。もちろんですよ」

 

そろって、声のする方に走り出す。

教官の式神である【グフ】が先行する。たいていの転生者は美少女型にしているが、教官のように前世のアニメやマンガに出てくる人型兵器にする人も、目立たないだけでそれなりにいる。

 

俺もこういうのにすれば、自分の式神(もしくは造魔)を許可されるだろうか。

 

視界が拓けると、予想通り複数の男と女が向かい合っていた。男が三人、女が二人。

予想外だったのは、女性が奇妙なシルエットをしていたことだ。

 

どちらも俺と同じ未成年のようだが、一人は足に太く鋭い刃物を履いている(・・・・・)。もう一人は自分の体と同じくらい大きく無骨な金属の手で歩いていて、さらに胸がなんかもう、デカすぎだった。

 

「教官、あれ、なんですかね?」

 

「おそらくだが、メシア教過激派の被害者だろう。先日、我々の仲間がハワイにて過激派の拠点を襲撃。そして捕まっていた現地人を救出した。天使どもは捕獲した霊能力者の四肢を切断したり、人体を改造したりする。回復不能な一部の被害者を救済するためにこちらに引き取ったという話も聞いた。彼女たちはあのような体になっても、戦うことを選んだのだろう」

 

「つまりあの金属の手足が、義手義足ってことですね」

 

「であろうな。不用意なことを言って傷つけるなよ」

 

教官に念押しされながら仲裁に向かう。

道中、怒鳴っている男たちの話が聞こえたが、だいたい予想通りだった。

 

「キミたち、ケンカは止めたまえ。遠くまで声が響いていたぞ」

 

「うるせえよオッサンは黙ってろ。そもそもこの女が調子に乗って煽ってくるから悪いんだ」

 

「あらあ、調子に乗っているのはそっちでしょ?ちょっと優しい言葉をかけただけで、わたしにさわろうとしてくるのだもの。そんな無礼な男に対して足が(・・)出てしまうのも当然ではなくて?」

 

「そうです、メルトの言うとおりです。みんなワタシの胸ばっかり見てきたハレンチです。そんなんだからモテないんですよ。気色悪いので、みんなどっかに行ってください」

 

興奮してお互いの文句を言い合うばかりで、具体的な話が何一つない。

教官が必死になだめつつ辛抱強く話を聞くことで、やっと経緯がわかってきた。

 

曰く、女性たちが戦闘訓練をしているところに男たちが声をかけてきた。これは『善意』であり、下心などなかったらしい。

彼女たちは新しい手足に馴染んでいない、いわゆる『病み上がり』で、見ていて危なっかしかったのだとか。

そんな彼女たちに『アドバイス』をして、なんなら『手伝ってあげよう』としたのに、彼女たちは『暴言を吐いた』のだとか。

 

「だってこの人たち、私の胸しか見てないんですよ?そんな人たちのアドバイスなんて、参考になるわけないじゃないですか。カラスの鳴き声の方がまだマシです」

 

「それに、手伝ってやろう(・・・)だなんて上から目線すぎるわ。マジありえない。わたしの役に立ちたいなら、地面に這いつくばって「お願いします」くらい言いなさいよ。そしたら(くつ)の汚れ落としくらいには使ってあげるから」

 

うーん、この毒舌は、俺に向けられてなくてもイラっとするな。

ただ、男たちも他人にアドバイスできるようなレベルじゃなさそうだし、彼女たちの言い分が正しそうではある。

結論として、どちらも悪いと言えそうだ。

 

教官が大きなため息をついた。

 

「キミたちの言いたいことはわかった。だから今日のところはこれで終わりにしよう。お互いに相性が悪かったとして、次からはもうアンタッチャブルな関係にすればいい」

 

「なんでオッサンが仕切ってんだよ。オレたちはそいつらに謝ってもらわないと気が済まないんだ」

 

「それはこっちのセリフよ。そっちこそ今すぐ土下座しなさいな」

 

処置無しだ。(どうしようもない)

 

「教官。これもう、バトルさせるしかないんじゃないですか?勝った方が負けた方に謝る。ジャッジは教官。それしかないでしょう」

 

「だからなんで外野が決めてんだよ」

 

「負けるのが怖いんです?男が三人もいるのに」

 

「あ”あ”ん”?んなわけないだろボケ」

 

「ちょっと、勝手に話を進めないでよ」

 

「そうだよね、か弱い女の子はすみっこで震えてることしかできないよね」

 

「アナタ、言ってはならないことを言ったわね。いいわ吠え面かかせてあげる。切り落としやすいよう首を洗って待ってなさい」

 

元から頭に血が上っていたせいか、両方とも簡単に乗ってきてくれた。

そう思っていたら、教官がやれやれと言った。

 

「ここでの勝手な私闘は禁じられている。競いたいなら、悪魔の討伐数を比べればいいだろう。葛葉、貴様も参加しろ、たきつけたのだから責任を取るべきだ」

 

「俺が葛葉じゃあないんですけど、まあいいか。わっかりましたー」

 

そういうことになった。

 

準備のために荷物を下ろしていると、男たちの一人が聞いてきた。

 

「ずいぶん大きなカバンみたいだけど、何が入ってるんだ?そこまで用意しなくちゃ戦えないのに、オレたちに挑むなんて無謀すぎるだろ」

 

「だよな。オレたちはこの辺りの悪魔を三日間で10匹以上も狩っているんだぜ。諦めた方がいいんじゃないか?」

 

馬鹿にしたように笑う男たちに向けて、カバンの中身を見せる。

 

「ほとんどドロップアイテムだ。もちろん今日獲ったばかりのやつだけどな」

 

「正確には半日だ、次の階層の悪魔の。同じ時間で倍は獲ってもらわないと困るな。この階層ならな」

 

「教官、そんなに獲ってもカバンに入らないんですが」

 

「ならば両手に持って運びたまえよ。マグネタイトは私が持つ」

 

「マグネタイトは携帯端末に預けられるじゃないですか。意味ないですよそれ」

 

なんて話をしていると、男たちがコソコソと話をし始めた。俺の視線に気付くと、急に早口で話し始める。

 

「あっ、そうだ。オレたちこの後、重要な用事があったんだ。悪いけど、この勝負はまた今度ってことで」

 

「そうそう。いやあ、残念だな」

 

「勝負を諦めるのは別にいいけど、それならまず謝ってもらえるか?」

 

「取り決めを守れないなら、キミたちの訓練用異界への出入りを制限してもらうことになるぞ」

 

教官の追い打ちを聞いて顔を引きつらせながら、三人の男はもごもご言った。

 

「さーせんでした」「いご気をつけます」「ちっ、うっせーな」

 

「声が小さい!!」

 

「「「すいませんでした!」」」

 

教官に怒鳴られ、そろって頭を下げた三人は、逃げるように走って行った。

それを見送る俺たちの横に、女性二人がやってくる。

 

「へえ、アナタって見かけによらず、けっこう強いのね。気に入ったわ」

 

「ありがとうございます。私たちを助けてくれて嬉しいです」

 

二人ともなんか距離が近いな?

 

「別にいいけど、そっちは勝負とかは……」

 

「しません。もう意味ないじゃないですか。そのくらい分かってますよね?意地悪なんですからあ」

 

「悔しいけど、実力で負けてるのはハッキリしているわ。勝てる勝負だからこそ仕掛けてきたのよね。まんまと乗せられた自分が馬鹿みたいだわ」

 

喰い気味に答えたうえに、さらに体を寄せてくる。

 

「あの、もしよかったら私たちに戦い方を教えてくれませんか?やっぱり強い人に教えてもらうのが一番いいと思うんです」

 

「勝手に助けておいて、中途半端に投げ出すなんてことはしないわよね?」

 

「いや、そもそも俺が教官に戦い方を習っているところだし。ていうか俺たちこれから帰るところだし。もう疲れたっていうか……。ですよね、教官」

 

「ああ、そうだね」

 

助けを求めると、なぜか式神のグフが教官をなぐさめるように背中を叩いていた。

 

「戦闘を教わるのなら、自分たちに合った相手を探すのが先だ。それにこっちのことは置いておくとしても、キミたちだけでこの先に行くのは勧められない。キミたちも拠点に帰還し、そこで教官を探すといい」

 

「ちぇー、しかたないなあ。でもでも、帰り道は同じなんだし一緒に来てくれますよね?私、力だけはあるから、荷物くらい運びますよ。まかせてください」

 

「わたしも、出てくる雑魚の露払いくらいするわ。親切にも助けてくれたのだもの、そのくらいはしないとね」

 

「どっちも必要ないんだけど……。教官、どうすればいいですか?」

 

「好きなようにしたまえ。どちらにしても今日の結果は変わらない」

 

「なんですか、それ」

 

とりあえず荷物は自分で持ち、そのかわりに道中の雑魚は任せることにした。

 

 

 

 

拠点に帰還した後、連絡先の交換を迫ってくる彼女たちからなんとか逃げることに成功し、やっと夕食にありつくことができた。

 

教官が連れてきてくれたのは【俺たち】が運営に関わっている焼き肉屋で、小さな個室を選ぶことができた。

 

「彼女たちって、なんであんなに俺に寄ってくるんですか?教官の方が俺より強いでしょ」

 

「私には妻子がいる。おそらくそれを見抜いていたんだろう。貴様のような若い男は、二人とも相手をしてくれると思ったんじゃないのか?」

 

「教官、ひょっとしてモテなかったからスネてます?」

 

「スネとらんわい!」

 

教官はビールを飲み干すと、泡のヒゲをぬぐいながら続ける。

 

「いいか葛葉、よく聞くのだぞ。貴様はこれからも、今日のように若い女性に言い寄られることになるだろう。昨今の世界事情を考えると、これは当然だ」

 

「ないですよ。それに世界事情って……」

 

「いいや、間違いなくある。メシア教の被害者や地方を管理している霊能力など、自分たちの将来の不安を打ち消すために、我々【終末アサイラム山梨支部】を頼る者が増えている。彼らにとって我々【転生者】というSSRの血統は、喉から手が出るほど欲しいものなのだ」

 

「ちょっと待って下さい。その、【終末アサイラム山梨支部】ってなんです?」

 

「【俺たち】の名前だ。つい先日、スレの安価で決まったものだ。本スレくらい毎日確認したまえよ」

 

安価ぁーーー!

 

「もうちょっとマシな名前はなかったんですか?なんかこう、まともなやつとか」

 

「まともなもので納得する【俺たち】だと思うのか?そもそも、安価は絶対だ。それに場合によっては【ガイア連合】とか【メシア教絶対に○す団】になる可能性もあったんだぞ。それから比べれたら……どっちもどっちだろう」

 

個人的には【メシア教絶対に○す団】に一票入れたい。

 

「終末に備えた我々のアサイラム(保護施設)だと思えば、ふさわしい名前だと思うがな。まあ【ガイア】に関しては、絶対に入れないようにしてくれと周回ニキが神主に頼み込んでいたようだが」

 

「また周回ニキの周回知識ですか。あの人っていったい何周目なんですかね」

 

「知らんよ」

 

肉が焼けたので、山盛りのごはんに乗せて一口でほおばる。うん、美味しい。

 

「まあとにかく、貴様もこれからはハニートラップに気をつけるべきだ。でないと、噂の美少女葛葉に刺されることになるやも知れんぞ」

 

「ぶほっっっ!?」

 

思わず吹き出してしまう。

教官は予想していたのか、紙の前掛けで飛んできたごはんをガードしていた。

 

「ゲホッ。く、葛葉は関係ないじゃないですか」

 

「関係あるだろ。葛葉は貴様のパートナーなのだろう?ならば捨てられないようしっかりと手を掴んでおくべきだ。逆に聞くが、葛葉が見知らぬ男を連れてきたらどう思う?」

 

「それは……」

 

その場面を想像すると、胸の奥に黒い炎が燃え上がった気がした。

 

「むっちゃムカつきます」

 

「そうだろう。ならば、貴様は相手にそういう気持ちを起こさせないようにすべきだ。貴様の性格だと、その辺りをハッキリさせておいた方がよいだろう。次に会う時までに、覚悟を決めておけ」

 

「覚悟?覚悟って何のですか」

 

「これ以上は言わん。自分で考えることだな」

 

教官はそう言って、サラダをもしゃもしゃほうばった。

 

肉を味わうどころではなくなってしまったが、むしゃくしゃしたのでとりあえず腹いっぱい食べておいた。




【終末アサイラム】
本編()とは別世界線ということで、名前をマジで悩みました。
ガイア別に存在するって言っちゃってるし。

【教官】
ラルさん。
コスプレ&なりきり勢。
教育関係にプラス補正の入るスキル持ち。
式神は青いモビルスーツ型。


【女性二人】
ハワイ出身のメシア教被害者。今の名前はメルトとリップ。
メルトは四肢切断。リップは拷問&母体改造途中で救出された。
手足は改造式神で、技術班が(変な方向で)頑張った結果。
拷問により顔や体がひどく傷つけられていたが、治療班によって完治した。


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剣術修行は終了しました

剣術修行の最終日。三連休の最終日でもあるこの日は、異界に入ることを禁じられてしまった。

 

「貴様はすでに今回の目標を達成している。よく休め。それも訓練のうちだ」

 

教官にそう言われてしまえば、納得するしかない。

でも、訓練用異界のある場所の関係で宿泊所は市街地から離れている。ジョギングがてら行ってもいいが、それって休んでることになるのだろうか。

そんなのどうでもいいなと思ったので、最近おろそかになっていた授業の復習をすることにした。

 

気付くと昼になっていたので、ここ唯一の楽しみがある食堂へ向かう。

ここは俺たち【終末アサイラム山梨支部】が直接運営していて、食事や風呂に霊力回復効果がある。それになにより普通に美味しい。

今日もお気に入りの大盛りカツカレーを食べていたら、俺が訓練用異界に入れなくなったもう一つの理由である二人が食堂にやってきた。

入り口の前でこちらに気づき、当然のように両脇に座ってくる。

 

「わーい、お昼ゴハンだ!ねーねー、イブキさん、今日も私は頑張りましたよ!すごいですよね?ね?なのでいっぱいほめてくれていいんですよ?さあさ、どうぞどうぞ」

 

「頑張ったのはわたしも同じよ。リップとの連携も上手くなってきたし、自分が強くなっているのも実感しているわ。いい教官も貸してもらえたし、感謝してあげなくもないわ。頭をなでてあげようかしら?」

 

すり寄ってくるメルトとリップは無視するだけだと調子に乗ってくるので、強めに拒否する必要がある。

 

「二人とも離れてくれ。俺の飯を邪魔するな」

 

「「はーい」」

 

押しのければ離れてくれるのだが、意外と抵抗するので力加減に苦労する。

ぞんざいに扱っても傷ついた様子はない。ドMなのか反動形成なのか分からないが、どちらにしろ必要以上に関わりたくないのだが。

 

今日の教官は、俺ではなくこの二人の指導をしていた。

悪気があるのか知らないが、当然のように神経を逆なでてくるこの二人を冷静に指導できるあたり、ラル教官の人間力の高さがうかがえる。

俺にはとうてい真似できそうにない。

 

「私ごはんもらってくるね。メルトはどうする?」

 

「イブキと同じので」

 

「はーい。私もそうするー」

 

リップが二本の足で歩いていく。

彼女たちの武器でもある手足は式神製で、他人を傷つけないよう小さくすることができる。

その調節も慣れているようで、便利に使いこなしていた。

 

「ねえイブキ、午後は空いてる?できればわたしたちの修行に付き合ってほしいんだけど」

 

「教官に休めって言われてるからダメだ。それに俺とそっちじゃ、レベル帯が違うだろ。それとも半日だけで俺に追いついたのか?」

 

「いじわるな質問ね。どうせあなたは、わたしたち二人を合わせたよりも強いわよ。だからこそ、ちょっとくらい優しくしてくれてもいいと思わない?」

 

「別に思わないね。キミたちは俺の修行の邪魔してるってことを自覚してくれ」

 

「もう、つれないんだから」

 

メルトがすねるが、ほだされてはいけない。

元から俺は彼女たちの面倒を見るつもりはない。優しくして余計な気を持たせる方が罪深いだろう。

外野から恨みがましい視線が飛んでくるが、そんな目を向けるくらいなら彼女たちの気を引けるくらい強くなってほしい。そしてぜひ引き取ってくれ。

 

彼女たちも含め、ここにいる霊能力者は10人ほど。そしてその大半は、俺たちのような【転生者】ではなく一般人だ。と言っても霊能力者の家系であったり、悪魔に襲われていたところを助けられてたりして霊能力に目覚めた者たちだけど。

 

転生者と一般人では、才能の差がかなり大きい。これは第二次世界大戦後にメシア教が行った、霊能力者の粛正が関わっているらしかった。

【俺たち】は転生者特典とも言えるSSRの才能を持っている。それに対して、まともな霊能力者が刈り取られた後の一般人はほとんどがCかUCであり、R以上の才能は稀にいるかもというレベルらしかった。

 

転生者の中でも強さを求める攻略ガチ勢は、整備のされていない異界のような、もっとレベルの高い場所で修行をしている。

逆に戦闘が苦手な者はそもそもやって来ないので、ここにいる転生者は俺のような後発組だけだった。

 

一方、一般人は先述のとおりの才能なので、あまり強い異界には行けない。ここのレベルがちょうどいいため、人数が多いようだ。

しかもここを突破できれば上位入りなので、特にやる気のある人たちが集まっているらしい。

 

なので初日に両手に花を見せつけていたら(俺はそんなつもりはちっともないのだけれど)ケンカを売ってくるヤツが数人いた。

対人戦の修行になると思い審判ありの試合として受けたのだが、あっさり勝ててしまったのは自分でも意外だった。

 

「群れで悪魔を倒せたから、それを自分の実力と勘違いしたんでしょうね。ここが異界の中じゃないのが残念だわ。負けても生きているんですもの。敗者の顔なんて見たくないから、二度とここに来ないでくれるかしら?」

 

「ぷぷっ、倒した悪魔のレベルだけ見て勘違いしちゃったんですね。大見得切っておいてボロ負けしちゃって、今どんな気持ちですかー?」

 

「さすがにそこまで言うのはヤメテさしあげろ」

 

戦ったのは俺なのに、なんでこの二人がドヤ顔をしているのか。

だがメルトとリップの追い打ちが非道すぎたせいで、見物人たちももう口出しして来なくなった。

その点は楽になったのだが、そもそも二人がいなければこんな事態にならなかったよな?

 

「はいメルトにカレーをドーン!私もドーン!いただきまーす」

 

「ありがと。ここのカレーは絶品よね。いくらでも食べられそう。もちろんプロポーションを保つための運動は必要だけどね」

 

にぎやかに話す二人の言葉を聞き流しながら、食堂のテレビを見る。

協賛企業として【株式会社ドゥームス】と【アサイラム製薬】の文字が並んでいる。

最近よく見るようになったこの会社は、俺たち【終末アサイラム山梨支部】の関連会社だったらしい。

転生者の中にはすでに社会人として活動している者が多くいて、その中でも前世知識を利用して大企業を経営している人もいた。

例え大金を動かせるとしても、大破壊によって社会が壊れてしまえば一円も残らない。ということで大破壊を乗り切るために、湯水のように金を使って事業を拡大。そして【終末アサイラム山梨支部】を支援してくれている。

 

社会に根を広げて支配領域を増やし、悪魔や異界の情報を集め、都合の悪いことを金の力でうやむやにする。

なかなか暗黒メガコーポめいた動きをしていたりする。

 

ただ、それは必要なことでもある。

【俺たち】は霊能力者ではあるが、家族はそうではない。悪魔や異界と関係ない人がほとんどなので、そんな人たちに対する説明として『大会社の支社・子会社の所属』という肩書きを使えるのはとても助かっていた。

現に今も、転生者らしき三人組がテレビの前で話をしている。

 

「アサイラム製薬の関連会社に就職できたって言ったら、両親に泣いて喜ばれた。罪悪感がスゴイんだが」

 

「もれはコネを使ってドゥームスに弟を入れたぞ。これでいつタヒんでもあいつに両親を任せられる。なので、もっとハードな特訓ができるお」

 

「それに付き合うこっちまで回復代でカツカツになるからマジでやめれ」

 

和気あいあいとしている。俺もあんな仲間が欲しかった。

 

「あら、イブキはもう食べ終わったの?それともわたしの分も食べたいのかしら。欲しがり屋さんね。食べさせてあげるから、口を大きく開けて待ってなさい」

 

「あー、私もあげようと思ってたのにー。ほら、あーん」

 

「いらないから!俺はもう行くし!」

 

落ち着いて食後の余韻に浸るヒマもない。

食器を返して食堂を出るまで、二人の声と周囲の視線が辛かった。

 

 

 

食堂を出てホッとしてたら、教官とちょうど鉢合わせた。

 

「葛葉よ、ちょうど貴様を探していたところだ。神主の式神が会議室に来ているぞ、なにやら用事があるらしい。すぐに行きたまえ」

 

「わざわざ神主が?なんだろう。とりあえず了解しました」

 

敬礼してから会議室に向かう。

中に入ると小さな神主が、会議室のテーブルの上に座っていた。

 

『やあやあ、葛葉フレンズ。元気だったかな?修行は順調なようで何よりだよ』

 

「神主さんも元気そうですね。式神とはいえ【俺たち】のトップが来るなんて、俺なにかやっちゃいました?」

 

『やっちゃったといえばそうかな。ほら、この前の【霊長知能総研】のことさ。あれの調査結果が出たから、教えておこうと思ってね』

 

「ありがとうございます。でもあれ、米国……というかメシア教の圧力が強かったって聞きましたけど、大丈夫だったんですか?」

 

『へーきへーき。全部あそこの研究所の悪魔が暴走したってことにしたからね。研究内容を知ってる研究員は全員引き抜いたし、洗脳されてた警備員はカンペキに治療した。証拠のデータも残ってないし、かなり上手いことやれたよ』

 

神主の機嫌はとても良さそうだ。

 

『それで調査結果だけど、ハッキリ言って超お手柄だったよ。Dr,スリルを引き抜けたおかげでドリーカドモン、ひいては造魔を作れるようになった。これは式神製造の面から見ても大きい。それにあそこの研究所を放っておいたら、けっこうマズいことになりそうだったってのもわかった。早いタイミングで潰せたのは、すごく良かったよ』

 

「あの研究所って、そんなにヤバかったんですか?」

 

『そうだよ。だって動物を悪魔に変える研究をしてたんだよ?完成してたら、異界でもない街中を悪魔がうろつくことになってたんだから。悪魔は存在するだけで世界の理を狂わせる。異界の中なら異界をおかしくするだけで済むけど、街中に出るようになったら大破壊がすごく早まることになるからね』

 

なるほど、それはヤバそうだ。

 

『でももっとヤバそうなのが、コレだよ。分かるかな?』

 

神主が見せてきたのは、小瓶に入った芋虫のようなモノだった。

とげとげした“?”マークのような見た目のそれは、真3で見た憶えがあった。

 

「まさか、【マガタマ】ですか」

 

『ピンポーン。大正解っ★』

 

神主がノリノリで指さしてくる。

 

『ドクターたちはコレを使って、生物を悪魔に変えていたのさ。ただ、コレは劣化品の【マガタマ】だ。ただの人間を完全な悪魔にする力はないよ。才能のある人間を強化した上で飲ませれば悪魔になれるかもしれない、っていうくらいの性能かな?もちろん失敗したら命は無いよ』

 

あの時に戦った警備主任がその成功例だったのか。

よく成功したなと思ったけど、ヤツラは人体実験を平気でするような連中だ。たぶん失敗作が大量にいるんだろう

 

『もう一つ、ただの人間に悪魔を憑依させるためのマガタマもあったよ。どちらかといえば、こっちの方がヤバイかな。だって悪魔が憑依するのはマガタマの方だから、人間の才能にはあまり関係がないんだ。人間は完全にマグネタイト供給用のバッテリー扱いだね。だから悪魔が出てくる時間は短くなるけど、それだけで十分脅威だよ』

 

「これが、一般の警備員を悪魔化させたヤツですね。あの人たちは無事ですか?」

 

『いちおう生きているけど、衰弱してるね。まあ、時間が経てば復帰できそうだから、気にする必要はないよ』

 

思いっきりぶっ飛ばしてたから心配してたけど、それならよかった。

 

「その【マガタマ】を完成させるための研究だったんですね」

 

研究所にいた大量のコボルトと、その成りかけを思い出す。

真3では主人公がコレを飲まされ悪魔になる。その時にすごく苦しむ演出があった。

もしもこの研究が完成していたら、人でなくなる苦しみを味わう人間が、大量に出ていただろう。

ほんとうに阻止できてよかった。

 

『しかもコイツらタチ悪いことに、卵産むんだよ。信じられる?それが排水口から流出してさ、それを喰った魚たちまで変異してやんの。最初に報告してくれた魚がそれだね。まあ、魚の肉体が変異に耐えられずにみんな死んでたから良かったけど、研究が完成してたらかなりヤバかったよwww』

 

笑い事じゃないですよ、それ。

 

『まあそう言うわけで、頑張った葛葉フレンズにはボーナスが出ることになったから。装備かアイテムかそれ以外のどれが欲しいか選んでね』

 

「合体剣以外にももらっていいんですか?」

 

『合体剣は造魔のボーナスだよ。今回はメシア教の野望阻止ボーナスだから別だよ』

 

「じゃあ式神を」

 

『それはダメ。葛葉へ情報を流してるって疑ってるのがいてさ。もちろん僕はキミを信じているけど、それはそれ、これはこれってことでケジメを付けたよって示さなきゃならないんだ。それに葛葉なら封魔管とかあるでしょ。わざわざ制作コストのかかる式神とか必要ないでしょ』

 

「それが、葛葉から一応それっぽいものはもらったんですけど、使い方がわからないんですよ」

 

以前に渡された管を神主に見せる。

細長く華奢に見えるそれは意外なほどに頑丈で、中に悪魔が封印されてるかもと考えると、強引に開けることもためらわれた。

 

『ふうん、妙な封印がかけられてるね。特定の条件を満たした時に開くようになってるみたいだ。まあ、これを使えるくらい強くなれってことじゃないかな?期待されてるみたいだね』

 

「そうなんですかね?」

 

渡された状況を思い出すが、そんな感じではなかったと思う。

 

『まあ、とにかく、ボーナスには何が欲しいか考えておいてね。本体の方が忙しくなってきたし、今日はこの辺で帰るよ。じゃあ、またね』

 

小さな神主の姿が一枚の紙ぺらになり、一瞬で燃え尽きた。

相変わらず忙しい人のようだ。

 

「ボーナスか。何にしようかなあ」

 

武器は七星村正があるし、やはりここは装備にしておくべきだろうか。

俺には何が必要か、教官や葛葉に聞いてみるのもいいだろう。



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伊吹雄利のちょっと変わった日常

葛葉小夜(くずのはさや)

 

夜中に目が覚め、胸元を探る。

暗闇に心細さを感じるのは、またあの夢を見たからか。

夢は不安だけを残して消えていく。

 

探していたものは、あの日に彼の手に渡ったことを思い出し、深いため息をつく。

使い魔であるイヌガミの勝手な行動だったが、それは主人である自分を思ってのことであり、自分もまたそれを取り返そうとしなかった。

 

あれは父との(ヨスガ)でもあり、自分を締め付ける鎖でもあった。

それが手元になくなって、せいせいしたとも感じている。

 

(これは、あなたの父親から贈られたもの。捨てることならいつでもできます。今はしっかり持っておきなさい)

 

親代わりの老婆の言葉を思い出す。

 

結局あれは、自分には重荷でしかなかった。

父親は自分を捨てて家を出た。母親については名前さえ知らない。この寒々しくも広い家で、老婆と使い魔たちと暮らしてきた。

自分にはそれで十分だ。そのはずなのに、胸の奥が寒くてしかたがない。

 

なぜ今さらこんな気持ちになるのか。

自問すれば思い浮かぶのは先日の事件。それを共に解決した彼の顔。

それを思い出すと、寒さが少しだけ和らいだ気がした。

 

◇◇◇

 

伊吹雄利(いぶきかつとし)

 

思いもしなかった厄介事となった【霊長知能総研】の事件から1ヶ月。俺は比較的平和な毎日を送っていた。

悪魔や異界の噂を時々聞くようになったが、具体的な被害は聞こえてこない。

それはひとえに【俺たち】が処理しているからなのだけれど。

 

【霊長知能総研】からもれ出た【マガタマの卵】が野生動物に取り憑き、【成り損ないの悪魔】が生まれた。

【成り損ない】はすぐに死んでしまうが、ごく稀にマグネタイト消費の少ない低級の【外道】になって生き残ることがあった。

 

 

悪魔が出たと連絡が入れば、駆けつけて「破ァ!」をする。ワンパンで終わるので、移動にかける時間の方が多いくらいだ。

こんなの十分平和のうちに入るだろう。

 

そんな雑魚でも覚醒していない一般人には脅威なので、早めに処理する必要がある。もし人間を襲ってマグネタイトを得たならば、そこからさらに被害が拡大するかもしれない。

そうなれば恐怖から人の心が荒れて、より悪魔が生存しやすい環境になってしまう。

 

地道な活動が、今の俺たちには必要だった。

 

「平和すぎて退屈だよな」

 

「ウン、ソウデスネー」

 

何も知らずにのん気なことを言っている山本と登校する。

こういう普通の友人がいるから、俺も普通でいられるんだと思う。

 

「そういや伊吹オマエさ、最近、葛葉さんとはどんな感じなの?なんかあったっぽいけど」

 

「別に何もないけど。でも確かに、ちょっと距離とられてる感じはするな」

 

剣術訓練から帰った後、教官に言われた言葉を思い出したせいで葛葉を意識してしまった。なんとか普通に話をしようと思ったのだが、何故か前より距離がある気がしたのだ。

何かあったのか聞きたいのだが、先述の【成り損ない】を警戒するよう言われてしまい、呪術を教わる時間もとれていなかった。

 

「今日はシフト外してもらったし、話ができるといいんだけどな」

 

「派遣バイトだっけ?俺もやってみようかな」

 

「キツいからやめといた方がいいぞ」

 

主に覚醒するための修行が。

 

そんな話をしているうちに学校に着き、いつものように靴箱を開ける。その中に、いつもと違うものが入っていた。

 

「なんだこれ?」

 

「ラブレターじゃん。初めて見た」

 

まさかこんなものが俺に届く日がくるとは思ってもいなかった。

 

・・・・・・

 

放課後。手紙にあったとおり体育館の裏に向かう。

行く前に葛葉と話をしたかったのだが、話しかけるタイミングを逃してしまった。もしかしたら、今日も【成り損ない】を探しに行くのだと思われているのかもしれない。

 

気がのらないまま呼び出された場所へ着くとそこには、三人の女子がいた。

もじもじしている小柄な少女と、その友達らしき二人。全員が一年の後輩のようだ。

 

「あ、あの。伊吹先輩ですよね?わ、わたし、その……」

 

押し出されて出てきたのはごく普通のどこにでもいるような少女だった。

 

「俺で間違いないの?キミと会ったことあったっけ」

 

「はい。ぃ、一週間前にその、おっきな犬から助けてもらいました」

 

大きな犬?憶えがないな。その辺りは【成り損ない】を退治していたはずで……。

ああ、そうか。そういえば一週間前に大きめな【スライム】を退治した時、一般人が近くにいた気がする。

夕暮れだったからスライムを犬だと勘違いしたのだろう。

 

「ああ、あの時の」

 

「そ、そうです。ありがとうございました」

 

いいえいいえ。どうもどうも。お互いに頭を下げ合っていると、見学の二人が早く進めろと言ってくる。

 

「そ、それでですね。わたし、その……。伊吹先輩!好きです!付き合ってください!」

 

思い切るように言ってきたので、それをしっかり聞いてから答えた。

 

「ごめんなさい。俺はキミの気持ちには応えられません」

 

俺の言葉で、後輩少女は身をこわばらせた。代わりに、見学の二人が文句を言ってくる。

 

「ちょっと、なんでよ。せっかくマナちゃんが勇気を出して告ったのにヒドくない?」

 

「そうよそうよ。告られたんだから付き合いなさいよ」

 

後輩少女は何か言いたそうにしているが、言葉が出てこないようだった。

なんとなく受け入れたくないと言うのは納得してもらえないだろうから、適当な理由を探す。

 

「よく知らない相手にいきなり付き合ってくれって言われても困るよ。それに俺は……」

 

「葛葉先輩ですか?」

 

「えっ」

 

俺は忙しくて遊んでいるヒマがないと言おうとしたのだが、後輩少女が言葉を奪っていった。

 

「葛葉先輩ですよね。聞きました。伊吹先輩は、葛葉先輩と毎日いっしょにいるって。でも最近はそうじゃないですよね。ケンカしたんですか?もしも別れたのなら、わたしが先輩と付き合ってもいいよねって思ったんです。でも伊吹先輩は、まだ葛葉先輩のことが好きなんですよね。そうですよね」

 

「いや、えっと、俺はそもそも葛葉とはまだ……」

 

「すいません。わたし、勘違いしてました。そうですよね、ちょっとケンカしたくらいで、簡単に別れたりしませんよね。ごめんなさい。忘れてください。失礼します」

 

「あっ、マナちゃん!」

 

「まってよー」

 

後輩三人は走って行ってしまった。

俺の言葉をぜんぜん聞いてくれていない、ちょっとした嵐のような三人だった。

特に問題なく終わったはずなのに、喉に何かがつっかえているような気がしてしまう。

 

ため息をつきながら校舎へ向かっていると、山本が俺を見つけて手を振ってきた。

 

「おい伊吹、おまえどこ行ってたんだよ。探したぞ」

 

「ほら、朝の手紙の差出人のところだよ。もう終わったけど」

 

「そうか。そんなんことより、早く靴箱のところへ行った方がいいぞ。葛葉さんが、三年の赤根沢先輩につかまってたぞ」

 

急いだほうがいいと腕を引っ張られる。

 

「葛葉が?その赤根沢先輩ってどんな人だよ」

 

「知らないのか?学力テスト全国一位の天才だぜ。しかも運動もできる上に女子に優しいって評判の、学校一のモテ男だぞ」

 

言われて思い出した。

いつも女子に囲まれている、色々な意味で目立つ人。たぶんあの人のことだ。

少しクセのある黒髪なので、前世のとあるゲームに出てきたワカメを連想した憶えがある。

赤根沢って名前もワカメっぽいし。

 

「そのワカ……赤根沢先輩がなんで葛葉を?」

 

「そりゃあ、葛葉さんカワイイからだろ。たぶんそうだって。早く止めないと取られるかもしれないぞ」

 

「まあ、そうかも…いやいや、取られるって違うだろ。だいたいさ……」

 

言いかけたところで、逃げるように歩いている葛葉を見つけた。その後ろから、件の白服ワカメ先輩が追って来ている。

 

「早くいってこいよ」

 

山本に押されて走り出す。

 

「葛葉!」

 

「伊吹?」

 

すこし驚いたような葛葉を背に庇い、ワカメとの間に入る。

 

「逃げる女の子を追うのは、止めておいた方がいいんじゃないですか?先輩」

 

「キミ、誰?あー、もしかして、伊吹くんかな?葛葉さんとよく一緒にいるって噂の。ボクは葛葉さんに来てもらいたい所があるんだ。せめて今日一日だけでいいんだけどね」

 

「でも本人が嫌がっているでしょう?だよな、葛葉」

 

たずねると、葛葉は少しだけ考えてから答えた。

 

「伊吹が一緒でいいなら、行きます」

 

・・・・・・

 

そうして連れてこられたのは、校舎から少し離れたところにある弓道場だった。

ワカメ先輩に続いて中に入ると、弓道部員たちが出迎えてくる。

 

「葛葉さん、いらっしゃい。待ってたわよ。赤根沢くん、よくやったわ」

 

「ナンパだと勘違いされて、オマケもついて来たけどな。ちょうどいいから、そっちも世話してやってくれよ」

 

「りょうかい、りょうかい。私は弓道部主将の美綴綾子(みつづりあやこ)。よろしくね。さあ、靴脱いで上がって。更衣室に案内させるから」

 

美綴先輩に言われて、他の部員たちが寄ってくる。

男子更衣室に連れ込まれて、弓道着に着替えさせられた。

 

「弓は引いたことない?なら型の練習からした方がいいね。誰かゴム貸してあげて」

 

何が起こっているのか理解できないまま、弓のレクチャーが始まる。

先輩のマネをしているだけで、姿勢がいいとかしっかり引けているとか褒めてもらえた。でもなんで俺はこんなことをやっているんだ?

 

そんなことを考えていたら、葛葉も女子更衣室から出てきた。

小柄ながら道着を着こなし、銀髪をポニーテールにまとめている。ものすごく様になっていて、思わず驚きの声がでてしまった。

 

「うんうん、やっぱり似合ってるね。私の睨んだとおりだわ」

 

美綴先輩が満足げに頷いている。

 

「えっと、どういうことです?」

 

「それはね……。葛葉ちゃん、あなた、弓道経験者でしょ」

 

先輩の質問に、葛葉がうなずく。

 

「やっぱりね。最初に見た時にピーンと来たのよ。姿勢とか動き方とかで、なんとなく分かるの。道具とか好きに使っていいから、どんどん射っていってね」

 

葛葉は小さく頷いて、道具を選び始めた。

男子更衣室からワカメ沢先輩が出てくると、他の部員が準備していた道具を渡す。先輩はそれを横に置かせて、柔軟運動を始めた。

 

「キミは勘違いしてたみたいだが、ボクはそいつに言われて弓道部に勧誘しただけだ。なにぶん、ウチの部はちょっと前に主戦力だったヤツがケガで抜けてね。団体戦で使えそうなヤツを探していたんだよ。ボクは勝てるけど、他が微妙だからね」

 

「赤根沢の実力はともかく、だいたいそういうことなの。だからできれば、葛葉さんに弓道部に入って欲しいんだけど」

 

「そうだ。ボクに負けたら入部してもらうっていうのはどうだ?弓道経験者だって言っても、最近は射ってなかったんだろ?腕が落ちてたなら、戻すためにも練習する必要がある。ちょうどいいだろう」

 

なんでそうなるんだと思ったが、俺が反論する前に葛葉が言った。

 

「いいですよ。その勝負、受けます」

 

おお、と部員たちがどよめく。

ワカメ沢先輩は、自分で言うくらいだから強いのかもしれない。

果たして葛葉は勝てるのだろうか。

 

 

 

 

「赤根沢、3。葛葉、4の皆中。葛葉の勝ち」

 

「「ありがとうございました」」

 

双方が互いに礼をする。

弓道素人の俺にはよく分からなかったが、ピシッとかまえた姿勢とか、撃ち終わった後の残心とかが、とても美しいと感じていた。

 

「嘘だろ。まさかボクが負けるとは」

 

「なんだよ赤根沢。あれだけ言ってて負けるなんて信じられないなあ」

 

「うっさい美綴。文句言うならオマエもやれ!主将なら皆中させてみせろよ」

 

「ほら、私は指導で忙しいし」

 

にぎやかに話す様子を、他の部員たちがほほえましく見守っている。

思っていた以上に、仲の良い部活のようだった。

 

・・・・・・

 

部活の時間が終わり、弓道場の前で先輩たちと向き合う。

 

「今日はありがとうございました。型の練習だけでしたけど、とても楽しかったです」

 

「それはよかった。よかったら伊吹くんも入らない?素質あると思うよ」

 

「今は刀の方の練習が忙しくて、弓まで手がだせません」

 

「あれ、剣道部だったっけ?違うよね?でもまあ、しかたないか。それと葛葉ちゃん、やっぱり入らない?」

 

「すいません。わたしも忙しいので」

 

「そっかー、残念だなあ」

 

「実力が分かっただけで十分だろ。どうしてもって時に、助っ人を頼めばいいんだから」

 

「ダメダメ。葛葉ちゃんもそれが無理だから入部を断ってるんでしょ。あーもう、本当に残念だなあ」

 

「オマエは気分の浮き沈みが忙しいヤツだな」

 

職員室に用事があるという先輩たちと別れて、葛葉と並んで帰る。

 

赤根沢先輩は、思っていたよりもいい人だった。美綴先輩もとても明るく楽しい人だった。もしも悪魔の心配がない世界だったら、弓道部に入ってもよかったかもしれないと思えるほどに。

 

「いい人たちだったな」

 

「うん」

 

「時間があったらまた行ってもいいかもな」

 

「うん」

 

いつものように話をしていて、ふと気付いた。

今、すごく自然に話せてないか?

いままであったためらいとか話辛さとかが、いつの間にかなくなっていた。今だったら、なんとなく避けられていた原因を聞き出せるのではないだろうか。

 

「……」

 

「……」

 

でもストレートに聞いていいものだろうか。何か地雷があった場合、また昨日までの状態に逆戻りしたりしないだろうか。

話を切り出すタイミングをうかがうが、イヌミミモードではない静かな葛葉では、表情が特に読みづらい。

ならばと思い切って聞こうとしたら、葛葉の方が先に言葉を発した。

 

「伊吹。その、聞きたいのだけど」

 

「あっ、えっ、なに?」

 

「伊吹は、ひとり?」

 

「そうだけど」

 

双子の兄弟とかドッペルゲンガーとかいないけれど、そういう質問じゃないかもしれない。知らんけど。

 

「もし、よかったら。葛葉の家に、来ない?」

 

思ってもいなかった質問でビックリした。まさか家に誘われるなんて思いもしなかった。

だって【葛葉】の家だぜ?霊能者の家系で、しかも業界ではビッグネームなはずだ。

一般人が気楽に遊びに行けるものではないだろう。

 

「行っていいのか?ちょっと気になってたんだよ。どんな所なんだろうなって。式神が家事とかしてたりするのか?」

 

「うん、手伝ってくれてる。ほとんど、お婆ちゃんがやってくれてるけど」

 

「そっか。楽しみだな。いつ行っていい?今週末だと早いか?」

 

「あの、ええと、うん。そうだよね。準備もあるから、一月後とか」

 

「一月後か。わかった。楽しみにしてるよ」

 

「うん、よかった」

 

葛葉がうれしそうに笑った。

それを見て、ああ、また話せるようになってよかったと思った。

 

◇◇◇

 

【■■■■■■】

 

夕暮れの校舎から出た時、メールの着信音が鳴った。

確認すると画面には『from:Steven [Devil summon program]』の文字が並んでいる。

 

「おーい、なにしてんだ。先に行くぞ」

 

呼びかけられたので、携帯端末をしまう。

 

「すぐ行く」

 

そう答えて、歩き出した。



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悪魔召喚プログラム

これが後編になるつもりだったのだけれど、おかしいなあ。


ある日の昼休み、食後にいつものように友達と話をしていると、携帯端末に着信があった。

発信元を確認して、友達に断って席を外した。

 

「こんちわっす。神主から電話って珍しいですね。何かありました?」

 

『元気そうだね。わりと重大な事件が起きたから、手分けして連絡を回しているところなんだ。そういうわけで答えて欲しいんだけど、悪魔が大量発生してるとか、ない?』

 

「は?冗談とかじゃないですよね?笑えないんですけど。とりあえず、こっちの方では特にそういう話は聞いてません。というか俺よりも、そっちの方が情報集まると思うんですけど」

 

『まあそう思うよね。じゃあもう一つ聞くんだけど……【悪魔召喚プログラム(・・・・・・・・・・)届いたりしてない(・・・・・・・・)?』

 

電話越しのはずなのに、神主からの圧力を感じる。

 

「届いてないですよ。てか、そんな怪しいの届いたら、まずそっちに連絡しますって」

 

『みんながキミみたいだと良かったんだけどね』と神主のため息が聞こえた。

 

『でもさ、【俺たち】だったら普通に開いちゃうと思わない?例えそれが九割ニセモノだと思っててもさ』

 

「あー、そうですね。俺も周りに被害が出なそうな場所にいたら、開いてるかもしれません」

 

メガテニストだったら、誰だってそうすると思う。自分たちの好奇心を優先したがる【俺たち】ならば、なおのことそうだろう。

 

「ん?ということは、まさか【悪魔召喚プログラム】がランダム送信されたんですか?スティーブンから?」

 

『そのまさかさ。いちおう日本のメールサーバーに関しては対策を打ってあったから大半を悪質な迷惑メールとして止められたんだけど、一部がどうやってかすり抜けたらしくてね。うちのメンバーからも二件ほど届いた連絡が来た。潜在的には何件届いているやら」

 

Oh……。それはなんて恐ろしい。

 

『プログラムに関しては、いま技術部が解析してる。でもコレがまた悪質な内容みたいで、ものすごく難航してる。もし見つけたら、開かないようにね。最悪、コンピューターを破壊していいから。被害については【アサイラム】が補償出すよ』

 

神主にここまで言わせるくらい、これは重大な事件だった。

メガテン世界では、米国の天才科学者スティーブンが、偶然に開発した(諸説あり)【悪魔召喚プログラム】を“悪魔の襲撃から世界を守るために”無差別にばらまいたことで、逆に世界中に悪魔が召喚されてしまった。

主人公はそれを受け取った一般人で、生き残ろうとしているうちに悪魔や天使の秘密に近づいていくというストーリーになることが多い。

 

何も知らない一般人が強力な悪魔を召喚してしまい、パクリと食べられてしまうという描写もあったはずだ。

 

やはりスティーブンを監禁しておくべきだったのでは?

 

『ちなみに周回ニキからの情報だけど、スティーブンがプログラムをばらまくのはよくある展開らしいよ。ただ毎回時期とか仕様が違うみたいで、今回はかなり早い方らしい。だからこっちの対策もカンペキじゃなかったんだけどね』

 

『外国まで手が回らなかったのが痛いなあ』と愚痴っている。

 

「もしかして【(株)ドゥームス】のCMで、ネットの詐欺メールの危険性の説明やってたのも対策の一つですか?」

 

『そうだよ。そのおかげでメールを削除したって人の話も入ってきてるから、お金をかけたかいがあったと思ってるよ』

 

なるほど。

【俺たち】は戦える力があるから、制御できていない悪魔を召喚してしまってもなんとかなる可能性が高い。だが一般人は無理だろう。

それに起きるかどうかわからない危険性を伝えるより、実際に起こりうる悪質な詐欺への注意と結びつけた方が、実行してくれる確率は高くなるのは間違いない。

 

『それで話の続きだけど、葛葉フレンズがいるのって【軽高】だろ?ハザマは大丈夫か、早めに確認してもらおうと思ってね』

 

「うちは【軽子坂学園】ですよ。【軽子坂高校】じゃないです。俺も過去に遡って調べてみたけど、【狭間】って名字の生徒は見つかりませんでしたよ」

 

ハザマとは、【女神転生if……】に登場したラスボスである狭間偉出夫(はざまいでお)のことだ。

ゲームのハザマは天才だったが、複雑な家庭環境のせいでひねくれていて、そのせいで周囲からイジメを受けていた。

ある日偶然届いた【悪魔召喚プログラム】を解析し、【魔界】の存在を発見。そしてその一部を掌握し、【魔神皇】として君臨。自分をイジメた生徒たちに復讐するために、【軽子坂高校】を魔界に落とした。

というストーリーだった。

 

「ハザマもいないし、白の学ラン着ている生徒も見てないです。だから大丈夫だと思いますけど」

 

そう説明したが、神主は信じられないことを言ってきた。

 

『いやいや、ハザマはいるよ。ちゃんと調べたもの。まあ、名字が違ってたから、気付かなかったのかもしれないけどね。というか、原作を履修してるなら気付いてほしかったな』

 

「えっ、マジですか。名字が違うって、なんて名前なんです?」

 

赤根沢(・・・)だよ。赤根沢偉出夫。この世界のハザマは父親ではなく、母親に引き取られていたんだ。まあ家庭環境が変わって性格もマシになってるかもだけど……』

 

「その名字、むっちゃ心当たりあります。すぐに探しにいきます」

 

『おっけー、よろしくね。プログラムが届いてから時間経ってないから大丈夫だと思うけど、気をつけて』

 

神主からの電話を切って、葛葉へ協力を求める。とりあえずは赤根沢先輩を見つけなければ。

 

 

 

三年のクラスを探していると、弓道部主将の美綴先輩を見つけた。赤根沢先輩の居場所を聞くと、最近は【コンピューター研究部】によく行っているらしい。

ちょっとマズいかもしれない。

 

「ちなみに赤根沢先輩のフルネームって何でしたっけ?」

 

「赤根沢偉出夫だけど?」

 

やっぱり当たりだった。orz。

なんで気付かなかった俺。性格とか服装とか表情が違いすぎで、思い至らなかったんだよ。

 

葛葉と合流してコンピ研の部室に向かうが、そこは妙に静かな気配が満ちていた。

 

「ふむ、どうやら内側から結界が張られているようじゃな。待っておれ、すぐに解除する」

 

「いや、そんな時間はない。強引にいくから、ちょっと離れててくれ」

 

「あっ、待て」

 

「破ァ!」

 

【衝撃】込めた拳で殴ると、扉が内側に向けて外れた。扉が壊れなかったあたり、かなり頑丈な結界だったのだろう。

反動で手がちょっと痛い。

 

「馬鹿者が。何が起こるかわからんのだぞ。急ぎすぎだ」

 

葛葉からの叱責を背後にコンピ研の部室に入ると、一つだけ電源の入ったコンピューターの前で尻餅をついている赤根沢先輩と、宙に浮かぶ青白い悪魔を見つけた。

 

「赤根沢先輩!」

 

「おまえら、どうして。いや、そんな場合じゃない。いますぐここから逃げろ!」

 

「そんなわけにはいきません!」

 

さすがに刀を校内に持ち込めてはいないが、普通の悪魔なら素手でも戦える。

そのつもりでいたのだが、悪魔はニヤリと笑うと開いたドアから姿をくらました。

 

「逃げたのか?」

 

悪魔の気配が離れていく。だがあまり遠くへは行ってなさそうだ。

赤根沢先輩に駆け寄るが、ケガはなさそうだ。

 

「この馬鹿。せっかくこの部室に閉じ込めていたのに、外へ逃げられたじゃないか。どうしてくれる」

 

「でも、先輩が危なかったじゃないですか。このパソコンで動いているの、【悪魔召喚プログラム】ですよね」

 

「そうだよ。オマエ、知っているのか。数日前に突然届いてね。怪しいとは思ったけどなかなかよくできてたから解析していたんだ。だが中身が混沌としたスパゲッティーコードになっていて、ちっとも美しくなかった。アレを作ったヤツは狂ってるよ」

 

妙なところに怒っていらっしゃる。

 

「だから少しでも修正してやろうとしてたら、スパゲッティー部分は後から付け足されたものだとわかったんだ。本来のプログラムはかなり整っていて、なかなか美しかった。そっちを作ったのはボクと同じ天才で間違いない。スパゲッティーの大部分は取り除けたんだけど、最後の一部に手をつけた途端に勝手に動き出して、気付いたらあんなのが出てきたのさ」

 

先輩がパソコンを操作すると、先ほど見た悪魔の画像が出てきた。

 

「【夜魔:ワイルドハント】。このプログラムで色々と制限をつけることができたから、うまくやればパソコンの中に送り返せるはずだ。ただ、そのためには直接交渉しなければならない。ちょうどいいから、お前らにも協力してもらうぞ」

 

「まかせてください。これでも悪魔と何度も戦っているんで」

 

「戦っている?」

 

自信満々に答えると、理解できないとでも言いたそうな顔をされた。

 

「とりあえずこのプログラム通りなら、人を襲えない設定になっているから心配はないと思うんだが、活動エネルギーだと思われる保有マグネタイトの量がちっとも減ってない。むしろ増えていってる。食事ではない方法で吸収しているのかも」

 

「それ、放っておいたらマズいことになりますよ。どこにいるか分かりますか?」

 

「まて、居場所を表示する……なっ!?数が増えてるだと」

 

「【ワイルドハント】って、嵐の軍団って意味もあったはずです。だからたくさん出現してもおかしくないですよ」

 

「冷静に分析してる場合か。くそっ、ボクはここでヤツの増殖を抑える。オマエは直接行って話をつけるんだ。携帯端末を貸せ」

 

端末を渡すと、赤根沢先輩が何かをダウンロードした。

 

「とりあえず、悪魔会話と送還のプログラムを送っておいた。直接話をつけて、送り返してやってくれ。お前が本当に戦えるか知らないが、無理はするなよ」

 

「わかりました」

 

「葛葉の方は、ボクから通話をつないだままにしてくれ。その方が連絡が早くできるからな」

 

「うむ、承知した」

 

そうして、葛葉とともに校内を走り回ることになった。

 

窓の外では強い風が吹き始め、空を黒雲が覆っていく。【嵐の軍団】が、雷雲を呼んでいるのかもしれない。

 

ワイルドハントの居場所は先輩が教えてくれるので、そこを目指して移動する。

校内のそこここで生徒や先生がぐったりしているが、マグネタイトを少し吸われただけであり、命の危険はなかったので放置している。これも先輩が設定した制限とやらのおかげなのだろう。

 

霊能力に目覚めたことで抵抗力を得ていなければ、俺もこうなっていたかもしれない。

 

一年の教室でマグネタイトを集めているワイルドハントを見つけたので、悪魔会話プログラムを起動する。

 

「生徒たちからマグネタイトを吸い取るのをやめろ。お前たちは人に危害を加えられないはずだろ」

 

『我々は、ただ存在してるいだけだ。呼吸するとこをヤメロとういのか?』

 

「そうだ。地上は悪魔が生きれる場所じゃない。自分で海中に入ってきたのに、呼吸できないと文句を言うのはお門違いだ」

 

『だが我々は呼び出さたれのだ。帰る法方がない』

 

「つまりそれが見つかれば帰るんだな?」

 

『そう考えもてよい』

 

「言ったな?【悪魔帰還プログラム】起動。さあ、自分で言ったとおり、魔界へ帰れ」

 

『……むう、本当に用意るすとは、しかなたい。いれわたとおりにしよう』

 

悪魔が携帯端末に吸い込まれていく。これでまず一体だ。

 

「先輩?」

 

小さな声が聞こえた。

その声の主は、先日告白してきた少女のようだ。他の生徒と同じく衰弱してるが、意識が残っているので大丈夫だろう。

 

『うまくいったみたいだな。つぎは下の階だ。急げよ』

 

生きているなら、問題ない。

先輩の声に急かされながら、教室を後にした。

 

 

 

 

その後の交渉は、順調とはいかなかった。

こいつらはそれぞれ繋がりがあるのか、前と同じ方法では帰ってくれなかった。

そのためマグネタイトやマッカ、あるいはアイテムを要求してくる。

 

前回の報酬として、神主から大量のアイテムを貰っておいてよかった。まさかこんな事で役に立つとは思ってもいなかったが。

 

渡せるものはだいたい渡していたが、葛葉の精神力を要求してきた相手は殴り合ってようやくお帰りいただいた。

 

「少しくらいなら大丈夫なんじゃが」

 

「加減してくれるか分からないだろ」

 

「危害を加えない制約があるのであろう?」

 

「許可することで、その制約が外れるかもしれないだろ」

 

「お主は心配性じゃのう」

 

自分のだったら我慢すればいいが、他人だと加減が分からないから許可できない。

そんなことをくり返しながら、ようやく最後の一体まで減らすことができた。

 

 

 

つかまれば帰還させられると思ったのか、最後の一体は校舎内を逃げ回っていた。

なので葛葉と協力して逃げ道のない屋上へ追い詰める。

空は暗雲がたれこめ、強い風が吹いていて、今にも雨が降りそうだ。

 

「てこずらせやがって。もう逃げられないぞ」

 

「まるで悪役のセリフじゃな」

 

うるさいよ。無駄に走り回されて、余裕がなくなっているんだ。

 

『ワタシを喚び出てしおいて、なぜまた送り返そうとるすのか。ワタシは喚び出れさた対価を求める』

 

「さんざんマグネタイトを吸収しておいて、この上さらに何かよこせって言うのかよ」

 

『あられはワタシであってワタシでなはい。だらかワタシは対価を求める』

 

いままで散々貢がされて、さらに要求されるのか。手に入るのが学園の平和だけというのが悔しいが、断ると帰ってくれないから要求をのむしかない。

 

『では……マッカで即決しうよ。10万マッカ。それでうどだ』

 

「ふざけんな!いくらなんでもボリすぎだ!!」

 

思わず叫んでしまった。

しまったと思ったが、悪魔の方も本気で言っていたわけではなさそうだった。

 

『冗談だ。ではそうだな。15000マッカでうどだ?』

 

それでも十分高い。だが払えないわけではない。

もう少し値切りたいが、断ったらそれで終わりになりそうだ。買おうと思っていた新装備は諦めるしかないだろう。

 

「わかったよ。ほら、持っていけ」

 

マッカ支払いアプリを起動すると『テッテレー!』と音が鳴り、支払いが完了した。

 

『まかさ本当に支払えるとは。戦闘にならずに済んでよかったな。いいだろう。これで縁は結ばれた。困ったことがあればたま呼ぶがよい』

 

「もう二度と来るな」

 

最後の1体が、送還プログラムによって消えていく。

 

ワイルドハントが消えたことで、風がやんで雷鳴もおさまった。

 

「終わったようじゃな。ワシは今回、役に立てなかったのう」

 

「いや、連絡役がいて助かったよ。それに、ケガがなくてよかった」

 

痛いのは俺の財布くらいなものだ。それだけの被害で済んでよかった。

コンピ研の部室へ帰ろうとすると、屋上への出入り口に誰かが立っているのが見えた。

それは名前は思い出せないが、あの日に告白してきた後輩女子だった。




今回のあの人の名前は、バレるかもしれないから早く続きを書かないとと焦ってました。
まあ全キャラをフルネームで憶えている人なんてそんなにいないよね。
しかもifというクソ難しいゲームの全ルートをクリアしてる人なんてさらにいないよね。

悪魔の言葉は誤字ではありません。マッド口調の亜種だと思ってください。


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天使の降臨

ワイルドハントを送り返した直後の屋上に、教室で倒れていたはずの後輩女子がきた。俺を追いかけてきたのだろうか。

心配ではあるが、どこか様子がおかしいのが気になる。

 

「キミ、大丈夫なのか?危ないから出歩かずに、教室に戻った方がいいぞ」

 

「……」

 

「おい、伊吹。そやつの様子がおかしくないか?」

 

「確かにそうけど、放っておくわけにいかないだろ」

 

その時、赤根沢先輩の焦ったような声が届いた。

 

『おい、そこに別な反応が現れたぞ。何かいるのか?』

 

周囲を見るが、ここに居るのは俺と葛葉と後輩女子だけだ。悪魔の気配はしない。

いや、後輩女子から何か別な気配が立ち上ってくる。

 

「先輩、どうして、どうしてなんです?どうしてワタシじゃないんです?どうして、どうして」

 

まさか、悪魔に憑りつかれている!?

 

「落ち着け。冷静に話し合おう。キミは悪魔のせいで混乱しているんだ」

 

「どうしてそいつなんです。どうしてどうして、どうしてワタシを愛してくれないんです。パパもママも、先輩も。どうしてワタシじゃないんですか。教えてよ、ねえ!」

 

後輩女子から、悪魔の気配が吹き上がる。空の黒雲に穴が開き、白い光が降りそそぐ。

その光に照らされる彼女の背後に、輝く羽を持つ天使の姿が浮かび上がった。

 

『ああ、マナ、愛しいマナ。オマエが悲しむことはない。ワタシはオマエを愛してやろう。ワタシと一緒に、神へ愛を捧げるのだ。そうすればきっと、神もオマエを愛してくださるだろう』

 

「ちがうちがうちがう。ワタシが欲しいのはそれじゃない。ワタシが欲しいのは、愛が欲しいの。ワタシを愛して愛してあいしてあいしてアイシテアイシテアイシテ」

 

マナと呼ばれた後輩女子が身もだえると、首元のロザリオが光を反射した。

先端にはメシア教のシンボルをかたどったものがついている。

 

「キミは、メシア教徒だったのか。でもなんで天使なんか召喚できるんだ」

 

『おい、聞こえるか?今オマエらの目の前にいるヤツが、悪魔召喚プログラムを起動してやがる!しかも、本人の肉体を媒介にして、悪魔を顕現させてるんだ』

 

マジか。言われて気付いたが、天使はマナの背中から上半身を出している。全身を一気に作れるほどのマグネタイトがなかったのだろう。

それにしても、召喚するために必要なマグネタイトを補うために召喚者の肉体を使うだなんて、恐ろしいプログラムだ。

 

『そこにいる悪魔は……【アブディエル】?解析しないとよく分からないが、さっきのワイルドハントと比べて、かなり強いぞ』

 

「アブディエル!?」

 

アブディエルと言ったら、真Ⅴに重要な役割を持って出てくる大天使じゃないか。

よく見れば面影があるが、顔がアンドロイドのように表情がとぼしいので、すぐには分からなかったようだ。

ロールアウトしたばかりで特徴がないAIみたいな感じだろうか。

 

……なんて考察をしている場合じゃない。こいつが完全に顕現したら、この学校だけでなく周辺地域が“浄化”されかねない。

 

「赤根沢先輩、今すぐ株式会社ドゥームスかアサイラム製薬に連絡してください。大天使が召喚されたって言えば通じるはずです」

 

『はあ?どうしておもちゃの制作会社と製薬大手がそこで出てくるんだよ。……いや、オマエの関係者なのか?そうなんだな。わかった。連絡しておくから、そっちは任せたぞ』

 

通話が切れた携帯端末を葛葉がしまう。

俺たちでアブディエルを倒せれば一番いいんだが、それはかなり難しそうだ。なぜならば。

 

「そいつそいつソイツそいつが全部ワタシから奪っていったんだ。返せ返せワタシにかえせ。ワタシに愛を愛を返せ返せかえせ!」

 

「やめろ!」

 

葛葉に襲いかかろうとした【マナーアブディエル】を、間に入って止める。両手でつかみ合うが、とても少女とは思えない力で手を握りしめてくる。

このまま攻撃をして倒すことできるが、それだとマナまでも殺してしまう可能性がある。

彼女は悪魔に利用されているだけだ。なんとしても助けたい。

 

「先輩先輩ワタシをアイシテ。ワタシを見てワタシを離さないでワタシのそばにいて」

 

「無理だ。俺は他にやらなきゃならないことがある。誰かをずっと見てるだけなんてできない」

 

「どうしてどうして、それならどうしてその女の隣にいるの。どうしてワタシを愛してくれないの。こんなに頼んでいるのに、こんなにいい子にしてるのに。どうしてママもパパもワタシじゃないの。どうしてどうして、ねえ、答えてよ!」

 

ミシミシと、つかみ合う両手から音が聞こえる。

耐えられてはいるが、ずっとこのままというわけにはいかないだろう。なんとかしなければ。

 

「俺じゃなくて、他の誰かを探してくれ。キミはかわいいんだから、誰か見つかるだろ」

 

「なんでダメなの!ダメなのダメです。みんなワタシじゃダメだっていうの。やさしい人も強い人も、ワタシを愛してくれないの。弱い人はダメ。ワタシを守ってくれないから。怖い人はダメ。ワタシを傷つけるから。だから強くて優しい人じゃないとダメなのダメなんです」

 

「それってつまり、俺じゃなくてもいいってことだろ」

 

この娘は俺を見ているわけじゃない。ただ誰かに愛されたいだけだ。

 

『マナを傷つけるとは。弱き者をいたぶる心悪しき者め、滅びよ!』

 

マナの背中から生えている天使が、光の剣を作り出した。

 

「伊吹危ない!堕ちよ(ムド)!」

 

『「ぐぁっ!」』

 

葛葉のムドが天使に命中すると、マナもよろめいた。やっぱり肉体が繋がっているせいか、ダメージを共有してしまうようだ。

手の力が緩んだので、振り払って距離をとる。

 

「待って!ワタシをおいて行かないで!」

 

「キサマは伊吹に近寄るでない!」

 

葛葉が再度ムドを放つ。外れはしたが、牽制にはなったようだ。その隙に傷薬で両手を治療する。

回復アイテムの残りは少ないが、出し惜しみしている余裕はないだろう。

 

「サンキュー葛葉」

 

「平気か?」

 

「手か?問題ないよ」

 

「違う。あの者は、知り合いなのだろう?そんなのを相手にして、戦えるのかと聞いておる」

 

「知り合いっていうか、ちょっと前に告られただけだよ。会ったのはその時だけだ。もちろん断ったし」

 

「こ……、そうか、断ったのか」

 

葛葉さんなんでちょっとホッとしてるの?そんでなんで俺もちょっとホッとしてんの?

 

「ああああああああ!おまえらあ!ワタシを無視するなあ!先輩を誘惑するなぁ!この魔女め!」

 

マナがロザリオをつかむと、それが光の短剣に姿を変えた。

 

『そのとおりだマナ。悪魔を使い魔術をあやつる魔女に正義の裁きを。そして、たぶらかされた哀れな男をオマエが救うのだ。そのために、ワタシも力を貸そう』

 

アブディエルの羽がマナを隠すように変形し、円錐になった。ドリルのように見えるが、回転していなければただの円錐だ。

 

「魔女め!しねえええぇぇぇ!!!」

 

「させるわけないだろ!」

 

葛葉の前に立ち、突っ込んでくる円錐をつかむ。わずかに滑るが、形が歪むほど力を込めれば止められる。

そう思った時、ドリルが横にずれた。

 

『騎乗槍術を知らぬ野蛮人め。自らの不明を悔いるがいい』

 

円錐の背後には光の短剣を構えたマナがいて、その両目をアブディエルの両手が隠している。

 

「ああああああああああああああああ!」

 

避け、いや、間に合わない!

 

マナが体当たりするようにぶつかってくる。その手に持った光の短剣が、俺の胸の中心に突き立った。

 

……

 

アブディエルに視界を隠されたマナが、光の短剣で俺の胸を差した。

その瞬間、まるで時間が止まったかのように錯覚した。

 

「伊吹?」

 

背後から、葛葉の心配そうな声が聞こえてくる。だが俺は、言葉を出せずにいた。

 

『愚かな男だ。魔女を庇ったりしなければ、もう少しだけ長く生きられたかもしれないのに。いや、これこそが穢れた魂に与えられる唯一の救い。神の御許でのみ、その罪は許されるのだ』

 

興奮したアブディエルが両手を広げたことで、塞がれていたマナの視界がひらけた。

そして自分が持っている短剣が俺の胸に刺さっているのを見る。

 

「え、どうして、こんな、なんで、え?え?」

 

『マナ。あなたは彼に救いを与えたのだ。あなたは善い行いをした。きっと天におわす神も喜ばれることだろう』

 

「そんな、そんな、ワタシ、こんなことするつもりじゃ……」

 

マナが手を離したことでロザリオが地に落ち、そして短剣となっていた光が俺の胸元に(・・・・・)吸い込まれた(・・・・・・・)

 

「っ、かはっ!」

 

ようやく圧迫から解放された。

胸を強く押されたことで、呼吸がちょっと止まっていた。むせながら空気を吐き出し、改めて深呼吸をする。

 

「くそ、死んだかと思ったじゃないか」

 

『な、なぜオマエは生きている!心臓を貫かれたはずでは!?』

 

「さあ、なんでだろうな?」

 

俺も疑問に思ったので、胸元を探ってみる。するとそこには、以前に葛葉からもらった魔封管があった。

 

神主曰く、特殊な封印をされているという魔封管。

内ポケットに入れていたはずのそれが、まるで俺を守るように胸元に浮いている。

管の表面は吸収した聖なる光によって輝き、閉じられていたフタがゆっくりと開いていく。

 

「封印が、解ける」

 

『この邪悪な気配は!?それを寄越しなさい!』

 

アブディエルの羽が、魔封管を空へはじく。

落ちてきたそれをアブディエルがつかみ取る。だが、そのフタはすでに開ききっていて、中身は残っていなかった。

 

「痛っ!」

 

マナが悲鳴をあげる。見ると、首元から赤黒いヒモのようなものが地面に落ちた。

それは地面を滑るように近づいてきて、俺の足から肩まで這い上ってきた。

 

『シシシ。危ないところだったな。オレサマが助けてやらなければ、オマエ死んでたぞ。せいぜい感謝しろよ?』

 

そう言ったのは、赤い体の蛇だった。その背中には不釣り合いな大きさのコウモリのような羽が一対と、小さな二対の羽が生えていた。

 

「もしかして【邪神:サマエル】か?」

 

『なに?オマエ、オレサマを知っているのか?さすがサマナーの子供だな。でも似てないな。そっちの女の方が、サマナーの女によく似てるのにな』

 

小さなサマエルが、葛葉を見て言う。

 

「お前が入ってた魔封管は、あの葛葉からもらったんだ。だから、お前の本当の持ち主は彼女の方だよ」

 

『そんなの知るかよ。俺はサマナーと、“管の持ち主を天使から守る”って契約したんだ。その持ち主が誰だかは内容に入ってなかったね』

 

なるほど。葛葉の父親は、まさか他人に魔封管を渡すとは思っていなかったのだろう。

でもおかげで俺の命が助かった。

 

「伊吹、お主、無事なのか?」

 

「ああ、コイツが助けてくれたんだ。葛葉からもらった魔封管に入っていたみたいだ。見た目は小さいけど、邪神サマエルらしい」

 

本来は見上げるほどの大きさだから、それと比べればアオダイショウくらいでも子供だと言えるだろう。

 

『小さいのは、オレサマが分霊だからだ。本霊はどっかで封印されてようだが、どうでもいいことだ』

 

「そうか。伊吹を助けてくれて感謝する。小さい邪神よ」

 

葛葉が伸ばした手を、サマエルはよけた。

 

『オレサマを封印したのはオマエの父親だ。コイツに協力するのはあくまで契約だし、それを結んだのはオマエじゃない』

 

「そうか。それはすまぬ」

 

いつも冷静な葛葉が残念そうにしている。ひょっとしてハ虫類が好きなのだろうか。

 

『まあいい。これから長い付き合いになりそうだから、許してやらないこともない。それより、そろそろ向こうが動きそうだぞ』

 

マナーアブディエルは、先ほどサマエルが何かしてから動きを止めていた。

 

『ニンゲンの方に呪殺の毒を入れておいた。天使の方とは違って耐性がないからな。だが体がつながっているから、天使の方にも毒が回るって寸法よ』

 

苦しんでいるマナの肩に、アブディエルが手をおいて声をかけている。

一見、毒により体力が奪われていくマナを励ましているように見える。だが実際は、アブディエルがマナから強引に体を引き抜いているようだった。

 

『くっ、まだ肉体が完全でないが、このままだとワタシまで呪殺毒にやられてしまう』

 

「ぐっ、ああ!痛いです!天使様、行かないで。アナタまでワタシから離れていくの?ワタシを捨てるの?ワタシの側にいるって言ってたのに」

 

『ええい、うっとおしい!毒の穢れがうつるではないか!ワタシにこれ以上近づくな!』

 

アブディエルがマナを蹴飛ばし、完全に分離した。

可哀相だが、これで安心してアブディエルを攻撃できるようになった。

 

「葛葉、状態回復のアムリタソーダを渡してあっただろ?アレを飲ませてやってくれ」

 

「わかった」

 

悪魔交渉で、アイテムを色々渡してしまっていたので、手元には傷薬しか残っていない。家に帰れば在庫はあるが、そんな時間があるわけない。

いくつかを葛葉にも持ってもらっていてよかった。

 

葛葉が転がされたマナに駆け寄り、俺はそれを庇うようにして立った。

 

「ようやく、気兼ねなく戦えるな」

 

『ニンゲンごときが、思い上がるな。神に背きし堕天使もろとも、ワタシが滅してくれる』

 

アブディエルが翼を輝かせた。

 

『【光よ(ハマオン)】!』

 

「効くかよ!」

 

破魔属性の攻撃は普通の人間には効かない。サマエルは俺を盾にして破魔を回避してから、飛び出した。

 

『お礼をくれてやる【全て穢れろ(マハムド)】!』

 

『ぐうっ!』

 

広範囲の呪殺を浴びて、アブディエルが顔をしかめる。

思ったよりも効いてなさそうなのは、サマエルが不完全な状態だからかもしれない。

本来のレベルだったら、俺の言うことを聞いてくれなさそうなので、そういう意味ではよかったかもしれないが。

 

『くっ、この程度の攻撃、どうということはない!さあ、死ね!』

 

振りまわされる光の剣を転がってよける。

アブディエルもまた完全ではなさそうだが、攻撃するスキがない。

 

『これは時間がかかりそうだぞ』

 

「時間が経てば仲間が駆けつけてくれると思うけど……」

 

「伊吹。こやつの毒は消えたが、衰弱が止まらん。向こうへ体力と魔力が流れていっておる」

 

「早く倒さなきゃならなくなったか」

 

どうやら肉体を切り離してなお、魔力のパスを使ってマグネタイトを吸い上げているらしい。どこまで人間から搾り取る気だ。

 

『ワタシの役に立つことは、神の役に立つということ。下賤なヒトにとっても光栄であろう』

 

「ふざけるな!」

 

攻撃しようと近づくと、アブディエルは光の剣で牽制してくる。

 

問題は攻撃できたとしても、威力が足りないということだ。

 

アブディエルの弱点は呪殺だけだ。雷と衝撃に耐性があり、破魔は反射したはずだ。それ以外は得意不得意はないはずだが、呪殺を使えない俺では攻めきれない。

 

『ちっ、オレサマの封印をもう少し早く解いていれば、すぐに強くなってやったのによ』

 

「解除するために天使から攻撃される必要あったんだろ?なんでそんな特殊条件にしたんだよ」

 

『うるせえ。文句なら封印したサマナーに言え!』

 

ごもっともだ。

 

『ワタシを無視するとは余裕ですね。喰らいなさい!』

 

「やなこった!」

 

『オマエが喰らえ!』

 

大振りの攻撃をよけ、その隙に魔力で強化した拳を振るう。わずかに発動が早かったサマエルの呪殺(ムド)とタイミングが同じになったので、それごと殴りつけた。

 

『ごっふぁ!』

 

すると思った以上の手応えとともに、アブディエルが吹っ飛んだ。

 

『き、貴様ら、いま何をした』

 

『オレサマが知るかボケ』

 

サマエルはそう答えたが、俺は思い当たることがあった。

 

「合体攻撃だ。スキルのタイミングを合わせることで、それぞれを合わせた以上の威力を発揮する攻撃だ」

 

ペルソナ2でのみあったシステムだが、再現できるとは思わなかった。

 

『へえ、そいつは面白いな』

 

『ちっ、厄介な技だ。ならば使いこなす前に、貴様らを叩きつぶすまでだ』

 

アブディエルは戦意をみなぎらせて立ち上がってくる。

 

『ずいぶんやる気じゃねえか。おい、サマナー。今のもう一度できるか?』

 

「当然だ。そっちが先にムドを使ってくれ」

 

『了解だぜ』

 

アブディエルの攻撃を避けながらタイミングをうかがう。合体技を警戒しているのか、近寄らせようとしない牽制が多めだ。

だからこそフェイントが刺さる。

 

『【穢れろ(ムド)】』

 

『ぐうっ、術だけだと!?しかしこの程度では……』

 

「隙ありだ!」

 

ひるんだところを蹴り、後ろをむかせる。

 

『くっ、小癪な。だが効かぬと何度言えば……』

 

そして振り返ろうとしたアブディエルへ向けて、全力を込めた一撃を放った。

 

「くらえ!【黒龍撃】!!」

 

『ぐわあああ!』

 

立ち直りかけていた顔面へ、呪殺をまとった拳をぶちかます。

今のはかなりの手応えがあった。

 

アブディエルは屋上の端まで吹っ飛び、落下防止柵に激突した。

 

トドメを刺すべく駆けよろうとした時、落下防止柵の外から二匹の天使が飛び上がってきた。その天使は、法衣を纏った男を運んでいる。

 

「大天使様、ご無事ですか?差し出がましいかと思いましたが、大天使様の一大事かと思い駆けつけました。ご無礼をお許しください」

 

『ああ、無礼であるが、今は許す。あの邪悪な人間を滅するために、ワタシに力をよこせ』

 

「いえ、それは難しいかと。何より、この場にあの者よりもっと危険な者たちが近づいております。今はここを離れ、お体をいたわるのがよろしいかと」

 

『貴様、このワタシに逃げろと言うのか?』

 

「いえ、大天使様の御力を振るうべきは、今ではないと申し上げているのです。大事の前の小事によって大天使様に傷がつくのを、これ以上黙って見過ごすわけにはいきません」

 

話をしている男と天使に近づこうとするが、お付きの二匹が牽制してくる。

男の実力も分からないし、無闇に近づくのは危ない。

 

『仕方がない。よく聞け、魔女と堕天使にそそのかされし愚かな人間よ。寛大なワタシの判断で、今回は見逃してやる。だが次にワタシの前に現れたとき、その命はないと思え』

 

アブディエルが翼を広げる。

 

「逃げるのかよ、卑怯者!」

 

『そーだそーだ。正々堂々一対一で戦え!』

 

『貴様らぁ!』

 

向かって来ようとしたアブディエルの前に、男が慌てて立ちふさがる。

 

「大天使様、落ち着いてください。ヤツラの言葉に惑わされてはいけません。今は辛抱の時です」

 

『くそっ。貴様ら、憶えていろ!』

 

アブディエルは捨て台詞を残して、男と天使を連れて飛び去って行った。




【大天使:アブディエル】
特殊な召喚プログラムにより喚び出された大天使。
強引な召喚と分離により弱体化している。

衝撃無効 破魔無効 呪殺弱点

〔スキル〕
不明



【邪神:サマエル】(幼体)
毒ありし光輝の分霊、その幼体。
能力が全て低下している。

雷耐性 衝撃弱点 呪殺無効

〔スキル〕
ファイアブレス
マハムド
毒かみつき
タルンダ


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プログラム事件の後始末と幕間

天使たちがいなくなったすぐ後、赤根沢先輩の通報によって【終末アサイラム】の人たちが駆けつけた。

 

学園の状況としては、【ワイルドハント】にマグネタイトを吸われたせいで、ほとんどの人が倒れていた。

全員がすぐに意識を取り戻し、体調不良も一日休めば回復できたようだ。

 

だがアブディエルを召喚したマナは、そうはならなかった。

彼女はアブディエルに多量のマグネタイトを奪われていて、一時はかなり危険な状態だった。

幸いにも覚醒した医師による心霊手術によって、魔力のパスを無事に切断できらしい。

数週間入院する必要があるが、命に別状はないのだとか。

 

ということを、神主本体が教えてくれた。

 

「そこそこの大騒ぎになったね。ガス漏れによる集団昏睡ということにしておいたけど、さすがに怪しすぎるよね。まあ、みんな気絶してたみたいだから、キミが疑われることはないと思うよ」

 

「軽子坂学園で起きた大事件ですか。魔界送りにならなかっただけヨシ!……とは言えませんよね。アブディエルは逃がしちゃいましたし、これからの天使の動きにはいっそう気をつけないと」

 

「そうだね。まずはその大天使の話からしようか」

 

神主はPDAを操作して、学園周辺の地図を表示した。

 

「大天使を召喚した女の子は、どうやら地元のメシア教会に通っていたようなんだ」

 

地図の一点をタップして、その教会にピンを立てる。

 

「ちなみにその子の携帯を解析した結果、どうやら彼女が持っていた召喚プログラムは、ハザマ……今は赤根沢だったっけ。彼が持っていたものとは違うらしい。召喚できるのは

天使限定で、しかもセーフティのない危険なものだった。あんなの使ったら、召喚者がマグネタイトを搾り取られた上で反逆されるの待ったなしだよ。彼女が生きているのが不思議なくらいさ」

 

「マジですか」

 

なんだその害悪プログラムは。

 

「その天使召喚プログラムなんだけど、スティーブンから送信されたものとかなり近いようなんだよね。赤根沢くんが改良してくれたからこそ分かったんだけど、基本は同じで後付けされたものが違うらしい。どっちにしろ危険なものには違いないけどね」

 

うん、ちょっとこんがらがってきたぞ?

 

「ええと、つまりスティーブン製のと赤根沢先輩のとメシア教会のの三つがあって、スティーブンのとメシア教会のは特に危ないってことですか」

 

「まあね。スティーブンの方は愉快犯の邪神が関わってるぽいね。メシア教会の方も似たようなものだけど、流通ルートが違うらしい。たぶんメシア教会員に配布されて、そこからさらに拡散しようとしてるんじゃないかな?まだ他に大天使が召喚されたって話は聞かないから、たぶんキミたちが遭遇したのがテストケースだったと思うよ」

 

なるほど。マナを実験台に使ってそれが成功したら大々的に天使召喚をしようとしていると。

「それってとてもマズくないですか?」

 

「うん、マズいね。だからぶっ壊した」

 

「ぶっこわした(・・)!?」

 

なに言ってるのこの人怖い。

 

「運がいいのか悪いのか、速報が入ったタイミングでちょうど黒札会議があってね。しかも内容が国内に残るメシア教過激派への襲撃について。ならば電撃作戦だって、みんなで突っ込んだんだ☆」

 

「☆」じゃねえよ。

組織の上位陣が気軽に暴力振るいすぎなんだよなあ。

ちなみに黒札とは組織内で使える特別なブラックカードのことであり、また、それを配られた俺たち【終末アサイラム】の上位陣の別名でもある。全員がレベル30越えのスカウター破壊者と言えば、そのすごさが理解してもらえるだろうか。

全員が全員どこかしらの危険な異界の最前線で戦っていて、彼らのおかげで日本の異界化を食い止められていると言っても過言ではない。

 

しかも、全員あたまのどこかがぶっ壊れているとも噂されている。

その噂は本当だったんだなと、今の話で納得した。

 

「まあそういうわけで、(くだん)の神父と天使召喚プログラムは押さえることができたよ。でもアブディエルは逃がされちゃった。一度逃げてるからか、二度目はためらいもしなかったね。残念だよ」

 

「しぶといですね。まあ次に見つけたら、俺たちがボコしますんで」

 

胸元のホルスターに収まっている魔封管を撫でる。

あの後サマエル(ベビー)とは正式に契約し、ついに俺にも初の仲魔ができた。

これでいっぱしのサマナーを名乗ることができるだろう。

 

「頼もしくなって何よりだ。それで話の続きだけど、今は天使召喚プログラムを強制停止させるワクチンプログラムを作っているとこ。これができれば、この後の被害をかなり抑えられる」

 

すでに召喚された天使を送り返せないらしいが、それ以上の被害拡大を防げるのは大きい。

 

「悪魔召喚プログラムの方は、赤根沢くんのバージョンを元に改良を続けているよ。今のままだと初回起動時にランダムな悪魔を召喚しちゃうから、それさえ取り外せればもう一歩で配布できる」

 

「つまり先輩のはデビサババージョンってことですか。初回の強制召喚を無くせたとして、配布しちゃっていいんですか?」

 

「もちろんセーフティをつけるし、渡す人も厳選するよ。それだけでも戦力が大きく上がるのは間違いないしね」

 

悪魔召喚プログラムは使う人によって危険なものになるから、面白さに一直線な傾向の強い【俺たち】が持つのはちょっと不安だ。

でも大破壊を回避するためには、思い切った手を打たないといけないとも思う。

 

「そう、赤根沢くん。彼は本当に天才だね。ハザマにならなくて本当によかったよ」

 

「そうだ、あの人は今どうなってます?いちおう俺たちの味方をやってくれたんですけど」

 

「うん、性格については原作ほどひねくれてないし、大丈夫だと思うよ。今も【俺たち】の話を聞いて、快く協力してくれているよ」

 

「こころよく?」

 

神主が笑顔すぎて、嫌な予感がする。

 

「天使召喚プログラムの解析も、悪魔召喚プログラムの改良も、彼がものすごい速度でやってくれているよ。いや本当に、キミはいい人材を見つけてくれた。感謝するよ」

 

「それ赤根沢先輩大丈夫なんです?脅して無理矢理ブラック労働させてません?」

 

「大丈夫大丈夫。なんたって本人が乗り気だし。悪魔とか魔界とかの話をしたら、自分も霊能力を使いたいって覚醒修行の予約までしてきたよ」

 

「魔神皇にならないかの心配まで出てきましたが!?」

 

「でもあの悪魔召喚プログラムのせいで、すでに覚醒できてるっぽいんだよね。スキル獲得してないみたいだけど。あのプログラム、一般人の強制覚醒には使えるかもね」

 

「そんなことまでできるんですか!?あのプログラムヤバイが過ぎません!?」

 

「まあ、強制召喚された悪魔を倒せないと結局死ぬけどね。他人が協力しても大丈夫だから、サポートつければ覚醒者を一気に増やせそうだ」

 

「ああなるほど、デビサバは協力して倒してましたよね。って、アレも一般人が使って事件を起こしてましたよね?」

 

「だから覚醒修行の最終手段かな。アレで一発で覚醒しちゃったら、今まで苦労した人たちが暴れそうだしね。頑張った人への救済措置にするつもりだよ。それにまだランダム性が強すぎて、未覚醒者だったらマグネタイト使い果たしそうな強いのも出て来ちゃってるしね」

 

「やっぱ自爆しかねないから、そんな機能はいらないのでは」

 

「レベル上限を設定すれば大丈夫でしょ」

 

神主は楽天的なことを言っているが、チートな神主の基準に一般人がついていけるわけないと思う。

でも、プログラムの配布は無しで、覚醒のためだけに使われるのならアリか。

覚醒者を増やすのは戦力的にも重要だし、神主が管理しているなら大丈夫だろう。

 

「こっちからの話はそのくらいかな。他に聞きたいことはある?」

 

「えっと、さっきの話だと、例の天使を召喚したあのマナも覚醒してるってことになりますよね」

 

「そうだね。彼女も覚醒してるね。精神的にも不安定になってるからそっちでも治療が必要だね。そういうところを、メシア教につけこまれたんだろうけど。あ、そうだ。キミが彼女の心のケアやってみる?」

 

「お断りします。できれば俺に絶対に近づけない方向でお願いします」

 

俺が会いに行ったら、ストーカーが加速するに決まってる。彼女の気持ちに応えるつもりがないのだから、二度と会わない方がいい。

 

「なら他の人に任せることにするよ。彼女の場合は、家族全体をなんとかした方が良さそうだしね」

 

マナが暴走していた時、家族から愛されていないようなことを言っていた。根本的な治療をするために、原因である家族の事情を探る必要があるだろう。

 

また、覚醒するとマグネタイト量が増えるので、それだけ野良悪魔に襲われやすくなる。本人だけでなく家族も危ないだろう。

大天使を召喚して生きているのだから、元からマグネタイトが多かったのかもしれない。

なのでせめて、自分の身は守れる程度には強くなってもらいたい。

とことん鍛えればいい戦力になるかもだけど、あの性格だと無理そうな気がする。

少なくとも俺は絶対に関わりたくない。

 

「まあ、そうだよね。キミには葛葉ちゃんがいるしねえ」

 

にこにこ笑う神主がちょっとムカつくが、残念なことに反論できない。

 

「あ、そうだ。その葛葉に、家に来ないかって言われたんですよ。いちおう別の組織だし、何か礼儀を通す必要ありますかね?俺が【俺たち】の代表って顔しちゃマズいですよね」

 

「友達の家に遊びに行くだけなら気にする必要ないと思うけど……ちょっと待って。どう誘われたのか教えてくれるかな?できれば一言一句同じように言って欲しいんだけど」

 

「ええ、なんですかそれ。からかうネタにするつもりですか」

 

「全然そんなことないよ。本当に重要だから、よろしく頼むよ」

 

「本当ですか?ええと、ちょっと前のことだからそのまんまとは言えないかもですけど」

 

頑張って記憶をたぐる。

 

「普通に、『葛葉の家に来ないか?』って言われましたね。準備があるから1ヶ月後にって……もう半月くらいですけど」

 

「なるほどそれで?他に何かいってなかった?」

 

「他にですか?うーん。あ、なんでか知らないですけど、俺は『ひとり』か聞かれました。どういう意味でしょうかね」

 

「たぶん、兄弟がいるかってことじゃないかな?キミは一人っ子だったっけ」

 

「ですね。親戚はけっこういるんですけどね」

 

「そうかそうか。なるほどなるほど」

 

神主はうんうんと頷いている。

 

「それで、どういう意味かわかります?」

 

「いいよ」

 

「えっ?」

 

「ぜひ行ってくるといい。こっちのことは心配しなくていい。キミは転生者の一人ではあるけど、この世界に生きる人間の一人でもある。だから好きなように生きていいんだよ」

 

いきなり何を言うんだこの人怖い。

 

「葛葉家の方には、こっちから連絡を入れておこう。なに、悪いようにはしないから、任せてくれよ。ただし、むこうにナメられないようガツンと決めるように。組織同士の友好でもあり、戦いでもあるんだからね」

 

「はあ、わかりました」

 

遊びに行くだけで、どんな戦いがあるというのだろうか。

 

「まだ時間はあるみたいだし、しっかりと準備を整えていくといいよ。支援を惜しまないから、やりたいことがあったらどんどん言ってくれたまえ。そうだ!どうせなら、異界攻略とかして箔を付けるといい。ちょうど参加者を募集しているところがあるから、葛葉ちゃんも連れていくといいよ」

 

「ありがとうございます。部外者いてもいいんですね」

 

「当たり前だよ。今のアサイラムは【俺たち】以外のメンバーの方が多いくらいだよ。前線では戦えなくても、サポートやら露払いくらいはできるからね。キミさえよければ最前線組に紹介するけど、どうする?」

 

「ははは、やめてくださいしんでしまいます」

 

「そう?そろそろ狩り場のレベルを一つ上げてもいいと思うんだけど。葛葉ちゃんも転生者じゃないけど意外と強いじゃん?Rの上位かギリギリSRくらいの才能はあると思うんだよね」

 

「そこまで強かったんですか?あんまり気にしてませんでした」

 

「強いよ。そうでなきゃ、天使をひるませるほどのムドなんて撃てないって」

 

神主は楽しそうに笑う。

 

「じゃあ異界攻略は三日後から始まるから、よろしくね。詳しくは後でメールしておくよ。葛葉ちゃんにも言っておいてね」

 

「ずいぶん急ですね。いちおう了解しました」

 

勢いに流されて色々とスルーしてしまった。神主のすることだから、多少ハードではあっても本当に死ぬことはないだろう。

そうであってほしい。

 

◇◇◇

 

【幕間:とある少女の夢】

 

夢を、夢を見ていました。

わたしはわたしが大好きな人の隣に、わたし以外の人がいるのを見て悲しくなりました。

わたしだって好きなのに。わたしの方が好きなのに。

そんな気持ちが強くなって、力強い声に後押しされて、気がつけば彼の胸に刃を突き立てていました。

 

こんなことをするつもりじゃなかったのに。

彼を傷つけたくなかったのに。

 

そう嘆くワタシに向けて、本当にそうだったのかとわたしが問いかけます。

だって彼の好きな人を傷つけたら、彼も傷つくにきまってます。

 

ワタシは「わからない」と言いながら泣いています。

心がぐちゃぐちゃになっていて、なんにも分からなくなっているのです。

 

悲しくても、泣いてばかりじゃどうにもならないのに。

見ていることしかできないわたし(・・・)とは違うのに。

 

苦しくて、痛くて、辛くなって、それが彼を傷つけた罰だと思った時、彼の隣にいたあの人に助けられました。

 

どうして?なんで?

これは哀れみ?それとも勝者の余裕?ワタシにはそんなものは要らない。放っておいて、と言いました。

でも、その人は首を横に振りました。

 

「ワシには父はおらぬ。母もおらぬ。兄弟姉妹もおらぬ。家にいるのは血の繋がらぬお婆様と、使い魔だけじゃ。だからワシは、血の繋がった家族がいる其方(そちら)がうらやましい」

 

その言葉に、ワタシはとってもムカつきました。

 

血の繋がった家族がいても、ワタシのことを見てくれないなら、いないも同じ。

お兄ちゃんのくせに、体が弱いという理由でパパとママの愛を奪っていくから嫌い。

彼から愛をもらえる場所を、ワタシから奪っていったあなたが嫌い。

 

ワタシはそう言いました。

 

「家族から愛がもらえなくとも、家族に感謝を伝えることはできるじゃろ。ワシは母の優しさも、父の頼もしさも知らぬのだ。家族と同じ家に住み、家族と食卓を同じにできる喜びを知らぬのだ。其方は、母の手料理を食べられるのだろう?父から贈り物をされるのであろう?それこそが愛ではないのか?」

 

ママがご飯を作るのは当たり前でしょ?パパが物を買ってくれるのは当たり前でしょ?そんなの愛じゃない。

 

「ワシは、その当たり前がないのじゃ。お婆様も使い魔も、ワシを助けてくれている。だが時々、寂しくなる。当たり前のことをしてくれる家族が欲しくなってしまうのじゃ。手に入らぬものほど、空の星のように光り輝くのであろうな」

 

そんなの知らない。なに言ってるか分からない。

ワタシはそう言うけれど、認めたくないだけだとわたしには分かりました。

ワタシは愛されていたけれど、その愛だけでは満足できなかったのです。

パパとママはお兄ちゃんにかかりきりだったけど、ワタシを見捨ててはいなかった。ワタシは家族を嫌いだと言ったけど、家族はワタシを嫌いとは言わなかった。

 

悪いのはワタシの方だと、気付いてしまいました。

 

今まで小さい子供のようなワガママを言っていたことが、とても恥ずかしくなりました。

でもそれをそうだと言えないから。ワタシはただただ泣きました。

 

泣いて泣いて、泣き疲れて、体の水がすべて流れてしまうのではないかと思いました。

そうしているうちに、わたしは眠ってしまいました。

 

………………

 

気付くと、朝になっていました。

近くで鳴ってる目覚まし時計に気付くまで、しばらくぼうっとしていました。

 

またわたしは、誰かの夢を見ていたようです。

夢の中身はすぐにどこかへ行ってしまったけれど、とても悲しかったことは憶えていました。

 

夢見心地のままご飯を食べて、気分転換に散歩に出ました。

いつもの景色が少しだけ、ハッキリしているように見えました。

そして、会いたかったあの人に会うことができました。

 

「かなみちゃん、おはよう」

 

声をかけてきたのは、隣に住んでいるお兄さんでした。昔からよく面倒を見てくれた、優しくて大好きなお兄さん。

最近は忙しいみたいから、今日は会えてうれしかったです。

 

「かつくん、おはよう。大きな荷物だね。どこかにお出かけするの?」

 

「実は、とある事情で学校がしばらく使えなくなっちゃってね。ちょうどいいから日数かかるバイトに行くことにしたんだ」

 

「ふうん。それって、彼女さんもいっしょ?」

 

「かっ、彼女!?いや葛葉は彼女ってわけじゃないけど……。でもまあ、今回は一緒に行くことになってるよ」

 

「それで、その人はいい人?」

 

「うん、いいヤツだよ。いろいろと助けてもらってる。だから、俺も助けたくなるんだ」

 

「そっか。よかったね」

 

ちょっとだけ、夢の中のワタシのことを思い出しました。でもまたすぐに、それは消えてしまいました。

 

「かつくん。がんばってね。負けちゃダメだよ」

 

「うん?ありがと。頑張るよ。そろそろ時間だ。かなみちゃん、またね」

 

お兄さんは手を振って行ってしまいました。

わたしの初恋は終わってしまったみたいだけど、どうしてか心はスッキリしていました。

 




【由託かなみ】
唐突に出てきて失恋した可哀そうな少女。伊吹とは三歳差なので同じ学校に通うことすらできない。

夢という形で他人の精神に入り込むことができるが、コントロールできない上に内容もほとんど憶えていない。だが記憶していないだけで経験にはなっているため、年齢より大人びている。
伊吹が気になってからは伊吹の関係者の夢を見ることが多くなり、さらに伊吹に惹かれるという悪(?)循環していた。
吹っ切れられてよかったね。

未覚醒。
今後の出番は今のところありません。


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異界攻略 準備編

わりと大変なアレコレがありまして大変遅れました。
でもまだ終わってないので更新速度は落ちます。


【伊地知潔高】

 

伊地知は真面目な性格がとりえの男だ。

霊能者の家系の生まれなのにその才能はほとんどなかったが、それでもできる仕事はあった。

 

成人した彼は、国家の霊的守護を担う省庁に勤めることにした。

才能のある親戚は国家の霊的守護の最前線たる根願寺に所属し、結界の維持や国外勢力への牽制役という重要な位置に就いていた。

彼はそのような役はとうていできなかったが、自分の才能のなさを恨んだりはしていない。自分のできることをコツコツこなしていくしかないと、真面目に仕事に取り組んでいた。

 

今日は、要人の送迎役としての仕事だった。

根願寺が盾とすれば、剣の役割を果たしている旧家の一つ、葛葉家。その一人である少女を迎えに、車を走らせていた。

黒塗りの高級車はとてもよく整備されていて、本物の手足のように動いてくれる。

高級車の外見から周囲の車は距離をとり、煽られることもない。送迎の仕事は、彼が好きなものの一つだった。

 

葛葉の大きな屋敷に到着し、少女を車へと案内する。その衣服は仕事着でもある羽織袴で、簡素でありながら可憐さを感じさせる。

このような少女が強力な力を持っているということが信じられないが、霊能力とは見た目に現れるようなものではない。

 

荷物をトランクに収めて運転席に戻ったとき、仕事の詳細を思い出した。たしか彼女ともう一人、同行者がいたはずだ。

 

「申し訳ありません。同行する方はどちらでしょうか?」

 

「駅へ行ってもらえますか?そこにいますので」

 

「駅ですか?わかりました」

 

てっきり、葛葉の家に住み込みで働いているのかと思っていた。

年頃の少女が一人で泊まりの仕事に出るのは難しいだろうから、その世話役でも連れて行くに違いないと思い込んでいた。

それとも、その世話役は住み込みでないだけだろうか。

 

言われたとおり駅へと向かい、駐車スペースへと停める。

すると少女が外を見て、顔をほころばせるのがバックミラーに写った。

 

車を降りて待つと、一人の少年が携帯端末を確認しながら近づいてくる。

どこにでもいるような、普通の少年だ。

大きめの荷物とともに、刀らしき長物が入った袋を担いでいる。

 

「迎えの人ですね。今日はよろしくお願いします」

 

礼儀正しく、というよりかは幾分フレンドリーに声をかけてきたことに不満はない。

だが、伊地知はわずかに眉を寄せた。

 

「あなたは、葛葉さんの何なんですか?」

 

「え?」

 

「彼女は、我が国の霊的守護を担う旧家の一つ、葛葉家のご令嬢です。見たところあなたはごく普通の一般家庭の方のようですが、そのあなたがなぜ、葛葉さんの同行者に選ばれたのでしょうか。この度の任務は、首都の防衛に関する一大プロジェクトなのです。あなたがどの程度の能力があるかは分かりませんが、遊びのつもりでいては命に関わりますよ?」

 

伊地知としては、意地悪で言ったわけではない。自分と同じく才能のない者が、無駄に命を失うのがしのびない。そう、彼のような一般人が、自分よりも強い霊能力者のわけがない。そう思ったからこその忠告だった。

 

「ええと、まず俺は、葛葉のクラスメイトであり、パートナーですね。もちろん相棒的な意味でですよ。今回の任務についても、ざっくりとした内容は聞いてます。異界の攻略ですよね。詳しい話は守秘義務があるから、まだ聞けてないんですけどね」

 

へらへら笑いながら話す少年に、伊地知は眉間のしわを深くする。彼は任務の重大さがわかっていない。

国家を守る仕事である上に、それを成す葛葉の少女を危険にさらす可能性もあるのだ。

 

少年を説得するためさらに言葉を続けようとしたが、その前に車の中から声をかけられた。

 

「伊地知さん、なにか不都合がありましたか?」

 

「いえ、彼が……」

 

「よう、葛葉、元気だったか?前は大変だったな。疲れは残ってないよな?」

 

「もちろん。今日はよろしく」

 

葛葉の少女がドアを開けてしまい、少年がそこから乗り込む。

伊地知は小さくため息をついて、運転席へと戻った。

 

車内では、少年と少女が楽しそうに話をしている。

少年の言葉に少女が一言二言を返すばかりだが、それでも楽しんでいるのは表情でわかった。

車を走らせながら、伊地知は自分で理解できない不満を募らせていく。

少年少女のやりとりに嫉妬しているわけではない。そもそも自分はすでに成人していて、少女は恋愛対象に入る年代ではない。

ならばやはり、才能だろうか。一般人にしか見えない彼が、葛葉と並ぶ才能を本当に持っているのだろうか。

 

心の内面に沈みそうになった時に、生来の生真面目さが自分の仕事を思い出させた。

 

「話が盛り上がっているところ恐縮ですが、お二人はこの度の任務について概要しか知らないのですよね?私から詳細についてお話しするよう言われているのですが、今からでよろしいでしょうか?」

 

「はい、お願いします」

 

葛葉の少女を差し置いて少年が答えたことにまたイラだったが、それを飲み込み話を続けた。

「この度の目的地は、東京に古くからある隔離された異界です。首都の守護としてすべての異界を排除すべきだと思われるかもしれませんが、それは必ずしも最良とは言えないのです。古来より『完成された後は衰え滅びゆくのみ』とされています。江戸の世を打ち立てた神君家康公はそのコトワリを逆手に取り、自身の神殿である東照宮の柱のひとつを逆さにすることで、永遠に続く未完成の建築を成しました。その手法は東京という都市の建造にも活かされました。街中にわざと異界を残すことで、霊的に不完全な永遠に続く未完成の都市としたのです」

 

伊地知はつばを飲み込み、喉の調子を整える。

 

「その異界こそが、【東京無限樹林】。今回攻略していただく場所になります」

 

「東京無限樹林」

 

「はい。以前より、入ったら二度と出てこれない禁足地として有名な場所でもあります。一般人が立ち入れないよう封鎖はしてありますが、なにぶん周辺は住宅地になってしまっているので大げさな封印はできていません。本当ならばそのまま維持を続けたいところだったのですが、昨今の霊脈の活性化の影響で、その異界から悪魔が漏出する危険があると警告を受けました。住民を危険にさらすわけにはいかないということで、この度の任務が発令されたというわけです」

 

「なるほど」

 

少年はもっともらしくうなずいている。

 

「異界の中は外の環境とほぼ同じで、人の入らない雑木林となっています。出現する悪魔の傾向としては、【妖獣】と【邪龍】の二種族が主に観測されています」

 

「式神による調査ですか?」

 

「その通りです。式神ならば調査用の使い捨てと割り切って使用することができるため、帰還を考慮することなく異界の奥まで侵入させることができます。数年前は悪魔の気配すら存在しなかったのですが、近年になって発見されました。地脈の活性化の影響もあるのでしょう、今年に入ってからはその数を増してきているので、早急な対応が必要になったのです」

 

伊地知の説明に、少年は難しそうな顔で何かを考え始めた。

 

「伊吹、何か問題が?」

 

「問題ってほどじゃないけど、面倒だなって。【妖獣】も【邪龍】も、状態異常にしてくるスキル持ちが多いんだ。麻痺とか石化とか、一人だけだと致命的なのもある。それに、けっこう広い異界みたいだろ?回復用のアイテムは持ってきてるけど、それだけじゃ足りない可能性もありそうだ」

 

少年の言葉を聞いて、伊地知は少し意外だと思った。ただの一般人ではそこまで詳しいわけがないのだ。

そうだ、霊能力は見た目では測れないものなのだ。

実力を誇示したがる者ほど、奇抜な格好をしたがる。

達人とまではいかないが、概念礼装でガチガチに鎧う必要がない程度には、悪魔に対する知識と自信があるのかもしれない。そう評価をし直す。

 

「状態異常の回復アイテムなら、少量ですが用意してあります。今回の重要な任務にあたる葛葉様のためにと、我々のつてをたどって集めました。ぜひご活用ください」

 

「本当ですか。それは助かる」

 

「伊地知どの、ありがとうございます」

 

「いえいえ、お役に立てるなら何よりです」

 

自分の仕事が認められて、伊地知は少し気分がよくなる。だがそれを顔に出すことはない。

 

車は順調に走り続け、目的地に近づいた。

住宅街の中をゆっくりと進んでいると、奇抜な格好をした集団が遠くに見えた。

 

「あそこですね。あのコス……個性豊かな集団が、今回の協力者である【終末アサイラム】の方々です。新興の霊能者集団で勢いもありますが、個人的には信用しがたいですね。なにせ服装からしてあのまとまりのなさです。伝統も礼儀も存在しない。【アサイラム】などと言う名前にしても、うさんくさすぎます」

 

「ヘー、ソウナンデスカー」

 

「ただ実力と人数はあるようなので、今回の任務にふさわしいと抜擢されました。根願寺の方々も少数ですがおられます。葛葉さんは、おそらく彼らと行動することになるでしょう」

 

「わかりました。いろいろと説明していただき、ありがとうございます」

 

集団から離れたところで停車し、先に降りてドアを開ける。

トランクから出した荷物は、少年がすべて受け取った。

 

「伊吹くん、でしたね。葛葉さんのことを、どうかよろしくお願いします」

 

「はい、もちろんです」

 

話してみれば人のいい少年だった。彼なら心配はないだろう。

異界の討伐という一大プロジェクトではあり危険も多いだろうが、どうか無事に帰ってきてほしい。

伊地知は心の中で祈りながら、少年少女の背中を見送った。

 

◇◇◇

 

【伊吹雄利】

 

それは、(はた)から見れば異様な光景だった。

運転手の人がコスプレ集団と言いかけた個性豊かな団体が、真昼の住宅街に列を作っている。

それだけでも面白いのだが、さらに興味深いのはここからだ。

列の先頭は工事中の看板と目隠しで覆われた一角で、何も知らなければ新しい家でも建つのかと思われるかもしれない。

だが、ぞろぞろと入っていくのは作業員ではなくコスプレ集団だ。

ミスマッチすぎて、何が起きているのか理解できないだろう。

 

列の前方から「地下のライブハウスは満員だな」というジョークが聞こえてくる。

それは説得力がありそうなカバーストーリーだ。何かの建物でもあれば、そういう説明もありえただろう。

 

俺たちもその列の最後尾に並んで入る。

中は聞いていたとおり雑木林になっている。外周が目隠しされているためか、かなり薄暗く感じる。足下は舗装されてはいないが、先人によって踏み固められているので歩きやすい。

 

小さなお社の前を通り、さらに先へと進む。

外から見た限りでは、もうとっくに反対の壁にたどり着いているだろう。それどころかあそこにいた全員が入ったら、動けないくらいぎゅうぎゅう詰めになっていないとおかしい。

そうなっていないということはつまり、すでに異界の中にいるということだ。

 

列の進みが遅くなったと思ったら、雑木林を切り開いた広場に集まっているようだった。

演台やら拡声器やらを用意しているので、ブリーフィングをするつもりなのだろう。

 

集団を見回していると、知ってる顔を見つけたので挨拶をした。

 

「ラル教官、お久しぶりです」

 

「おお、貴様は葛葉……のフレンズか。久しぶりだな。素振りは毎日しているか?」

 

「はい。いただいた竹刀で毎日やってます。教官、こちらが相棒の葛葉小夜さんです。葛葉、こちらが剣術の指導をしてくれたラル教官だ」

 

「ラル殿、はじめまして。葛葉小夜と申します」

 

「これはご丁寧に。私はここではランバ・ラルで通っている。気軽にラルと呼んでくれたまえ」

 

教官はハンドルネームで通すつもりのようだ。今さら本名を言われても混乱するから、そのほうがいいかもしれないが。

 

「それはそうとフレンズ。貴様はフレンズ呼びでいいのか?」

 

「えっ!?えっと俺は……」

 

俺はどうしようか。あまりオフ会には参加してないので、葛葉フレンズとして顔が知られているわけではない。知り合いは教官くらいしかいないし、教官になら本名を教えても大丈夫だろう。

 

「本名が伊吹なんで、伊吹でお願いします」

 

「わかった。では伊吹と葛葉よ、後で正式に発表があるだろうが、貴様らは私たちとチームを組んでもらうことになる。後で他のメンバーも紹介するから、そのつもりでいるように」

 

「わかりました」と応えたところで、ちょっとした懸念が浮かんだ。

 

「教官、そのメンバーってもしかして、あの二人だったりします?」

 

「メルトとリップか?安心せい、あの二人は置いてきた。今回の任務にはついて来れないと判断したからな。本人たちのやる気はあるが、やはり才能が足らんな。まだ伸びしろはあるだろうが、時間が必要だろう」

 

よかった。あの二人が葛葉とかち合ったら、余計なトラブルが起きそうな気がしていた。

 

「メルトとリップとは?」

 

「以前、剣術修行の時に同じ修行場にいた者たちでな。伊吹はその強さに惚れ込まれて、彼女たちから逃げ回っていたのだよ」

 

ちょ、教官。なんでバラすんですか。葛葉がジト目で睨んでくるじゃないですか。

 

「こういうのは隠すから余計にこじれるのだ。後ろめたいことがないなら、正直に言った方が問題が少なくて済む」

 

「確かにそうかもしれませんけど」

 

視線の圧力が強くて困る。

 

「葛葉のお嬢さんも安心するといい。伊吹は彼女たちの誘惑を、心に決めた人がいるからと断っていたよ」

 

「教官!」

 

嘘はやめていただきたい。

 

「がははははは。だいたい同じ意味だからいいだろう」

 

「記憶をねつ造しないでくださいます!?」

 

葛葉に向けて真実を話してもらいたかったのだが、教官は他の知り合いに呼ばれて行ってしまった。

葛葉からの圧力は減ったが、なんだか微妙な空気になってしまった。どうしてくれるんですか。

 

ずっと黙っているのも変なので空気を誤魔化すための話題を探していると、葛葉の方から話しかけてきた。

 

「あの……他の人たち、多いね」

 

「そうだな。見たところ、全部で80人くらいいるのかな?ただ半分以上が式神だな」

 

「式神?」

 

「そっか、葛葉は【アサイラム】製の式神を見たことなかったっけ。スライムとか悪魔を核にした式神に外側から肉付けして、見た目も行動も人に近づけているんだ。最初は機械的な動きしかできないけど、人間らしい概念を後付けしていくことでどんどん人間に近づけることができるんだ。最近だと人工の悪魔である造魔の技術も取り入れられてて、最初から人間ぽいのが作れるようになったって聞いたな」

 

「人間に近づけて、意味がある?」

 

「それは……」

 

【俺たち】の大半はコミュ障だから、見知らぬ他人よりも自分の式神の方が気楽にコミュニケーションをとれるから、なんて正直に言いたくないなあ。

 

「えっと、ほら。人間に近い方が、一般人が受け入れやすいんだよ。式神ってことは仮とはいえ肉体があるだろ?見た目が悪魔そのものだと、街中をいっしょに歩くことができないだろ」

 

「式神を連れて歩くの?」

 

「霊能力に覚醒すると、体内のマグネタイト量が跳ね上がるから野良の悪魔に狙われやすくなるんだよ。街中で不意打ちされると困るだろ。すぐ近くに頼れる相棒がいた方が安心できるんだよ」

 

「ふーん。そうなんだ」

 

どうやら納得してもらえたようだ。葛葉の機嫌もよくなったように見えるし、グッドコミュニケーションだったと言えるのではないだろうか。

 

不意に周囲からの強い視線を感じた。爆発しろなどの呪いの言葉が聞こえた気がするが、文句があるなら式神ではなく別なところに金と時間をかけるべきではないだろうか。

なんて口に出すと総攻撃されるだろうから、絶対に言えないけれど。




伊地知さんの所属は公安の第0課霊能対策室とかだったりします。
でも悪魔と戦えたりしないので調査と事後処理がメインのお仕事です。


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異界攻略 探索編

雑木林を切り開いて作られた広場に、仮設の演台が完成した。

その演台に、顔を文字の書かれた紙で隠した狩衣の男が上がった。

 

「どうもみなさん、本日の異界討伐作戦の指揮を執らせていただくことになりました、織雅大助と申します。よろしくお願いします」

 

なにやってんですか織雅さん。

 

パラパラとした拍手に軽く手を振って、織雅さんは話を続ける。

 

「今回の作戦は、東京の霊的守護を担う【根願寺】が主導する作戦ということで、実行する許可をいただきました。なので今の私は根願寺の実行部隊員という肩書きになります、よろしくお願いします」

 

大人の世界はどこでも大変なようだ。

そういえばここは東京で、それを守る大結界に関する作戦なのだから、根願寺が関わってくるのは当然なのだろう。

でも周囲の人を見れば、異界を討伐するためにはレベルの高さが必要なことがうかがえる。

今の根願寺には、ここまで高いレベルの人を用意できないのだろう。

だから俺たちがその仕事を下請けしたってことになるらしい。

 

「それでは次に、作戦の簡単な説明に移らせていただきます。ここは【東京無限樹林】などと名付けられていますが、実際は東京23区とほぼ同じ大きさです。つまり東京の裏世界ということですね。ここは東京に発生する負のエネルギーなどを引き受けて霊脈に還元する、いわば霊的な避水地となっていました。それが昨今の霊脈の活性化により、負のエネルギーが自然に還元するどころか蓄積し始め、悪魔が発生する事態となりました。このままだと表の東京に逆流して、そこら中で悪魔が発生することになります。そのため、この異界の討伐が決定されました」

 

だいたい車で聞いた話と同じようだ。織雅さんの方がくだけた言い方で、わかりやすい気もする。

 

「というわけで、今回の作戦名は【裏世界の汚水、全部抜く作戦】になります。内容としては、これからまずはこの異界の中心、表世界の皇居に向かいます。そこから時計回りにぐるぐる回りながら外周部へ向かい、最終的には東京湾に巣くう大悪魔の討伐が目的となります」

 

タイトルを聞いて思わず力が抜けたが、すぐに持ち直す。

数日かかる大がかりの作戦と聞いたけど、東京中の悪魔を倒しながら歩き回るなら納得だ。

 

織雅さんはその後にこの異界の特徴の話をする。

【妖獣】や【邪龍】が多いことや、雑木林が続くので視界が悪いので注意するように、など細かい話が続く。

最後に質問があるか聞いてきて、いくつか手が上げられた。

 

「異界のボスは中央にいるもんじゃないんですか?」

 

「たしかに中央には、この異界の核が存在します。でも人工の異界なので、ボスは今までは居ませんでした。ですが流れ出てくる負のエネルギーに釣られたのか、外縁部である東京湾に大悪魔が発生しました。ただ異界を潰しただけではそのまま裏の東京湾に残ってしまい、場合によっては新たな異界を作られる恐れがあります。なので大悪魔の討伐は必須事項です」

 

ずいぶんとやっかいな事になっているようだ。

 

続いて手を上げたのは、何か面白い事を言いたそうな顔をした少年だった。

 

「はいはーい、質問です。その大悪魔ってひょっとしてゴ●ラだったりしますかー?」

 

広場に笑いが起こり、織雅さんも笑いながら答える。

 

「ははは、面白い質問ですね。でも残念ながら、ゴ●ラではありません。でも同じくらいヤバい悪魔らしいことは確実ですね。神主の占術でもそういう結果になっているので、間違いありません」

 

笑いが続いた後に「それってマズイんじゃね?」という誰かの呟きで急に静かになる。

俺たちはレベルアップによってかなり強くなっているとはいえ、さすがに人間がゴ●ラと戦うのは無謀な気がする。

 

「安心してください、みなさんはゴ●ラ……じゃない、大悪魔と戦う必要はありません。ボスと戦うのは我々の最大戦力の一人であるこちら、霊視ニキです!」

 

演台に呼ばれた男性の登場に、拍手と歓声が上がる。

霊視ニキはスーツを着こなした、ゴツイ体格の男性だ。顔にまで傷跡があることから、歴戦の勇士だということがうかがえる。相棒はゴツイ鎧を着た金髪の式神。

黒札持ちの一人である彼がいれば百人力だ。

 

「ボスの相手は霊視ニキと私がしますが、みなさんの仕事は道中含めた雑魚悪魔の排除です。それなりの数の悪魔が確認されていますので、経験値やマグネタイトの稼ぎも期待できます。東京を守るという建前のもと、頑張って稼いでいきましょう!」

 

おおーーー!というかけ声がそこここで上がる。

かなり士気が上がるいい演説だった。

 

・・・・・・

 

演説の後に細かい打ち合わせがあり、それが終わるとラル教官が戻ってきた。

教官の後ろには二人の女性とその式神らしきロボットがいた。

二人は紙越(かみこし)さんと仁科(にしな)さんという、女子大生だと紹介された。

 

「よろしく」

 

メガネをかけた黒髪の紙越さんが言う。

 

「よろしくね」

 

金髪美人の仁科さんが言う。

 

「ヨロシクオネガイシマス」

 

トランス●ォーマーのようなロボットが言った。

 

「この子は私の式神のAP-1だよ。ホントは農業用機械だったんだけど、いろいろあって壊れちゃって、【終末アサイラム】に修理を頼んだらこうなって帰ってきたんだよ」

 

紙越さんが苦笑いしている。

うちの技術班が勝手なことをしてすいません。

 

「この二人は一般の出であるが、裏世界に詳しいということで同行してもらうことになった。もちろんそれなりのレベルの霊能を持っているぞ。紙越が索敵を行い、仁科とAP-1がその護衛と荷物持ちをすることになる。戦闘は伊吹と葛葉、そして私と式神のグフが行う。伊吹は調子に乗って前に出すぎないように。わかったな」

 

「了解です」

 

敬礼して答える。

 

しばらくして移動が開始された。

まずは皇居へ一直線に向かうということで、各班の索敵役が先頭付近に集まっている。

異界討伐のベテランである霊視ニキが索敵の指導をしているようだ。

 

敵対する悪魔は索敵班が見つけてくれるので、基本的に先手がとれる。

相性的に有利をとれる人が優先的に派遣され、さくさく倒していくので進行はかなり早かった。

 

ただ、ひとつだけ気になることがあったのだが、ここの悪魔は今まで戦ったことのある悪魔よりも活きが良かった気がした。

なんとなくのイメージでしかないのだが、同じことを他の人も感じているようだった。

 

同じ戦闘チームになった人が「いいもん食ってんじゃないのか?」と言っていたが、本当にその程度の印象の差があった。

 

 

その後も何度か出撃したが、俺だけが戦闘チームを何回か連続でやらされたのは、絶対にスキル【勝利の息吹】が関係してるだろう。

HPMPが戦闘後に微量回復する分、他の人よりも長く戦えるけど、精神的な疲れは他の人と同じだということは声を大にして言いたい。

回復魔法(ディア)】だけでは回復しないものが、この世にはあるのだ。

 

そんなこんなでやっと交代して戻ってくると、金髪美人の仁科さんが出迎えてくれた。

 

「お疲れ様。君たち若いのに強いんだね。高校生?」

 

「そうです、葛葉とは同じ学校に通ってます。仁科さんは大学生ですよね。どうやって悪魔を知ったんです?けっこう危ない目に遭ったんだとは思いますけど」

 

転生者でもない一般人が霊能に目覚めるなんて、そうあることじゃない。しかもここのような異界討伐に参加できるくらいのレベルになっているとか、どんなハードな経験をしてきたというのだろうか。

 

「そうね、私がちょっとした用事があって裏世界を探検してたんだけど、その時にそらを――紙越さんのことね――彼女と会ったのよ。それで二人で何度も裏世界に行ってたんだけど、かなりヤバい目にあってね。そこを【アサイラム】の人たちに助けられたってわけ」

 

「二人だけで裏世界を探検って、勇気がありますね」

 

「まあね。死んだと思うことが何度もあったわ」

 

笑って話しているが、聞いただけでもかなりヤバい。

かなり初期に裏世界で悪魔に遭遇して、仁科さんは左手が、紙越さんは右目が変異してしまったらしい。

そのおかげというか副作用で、霊体に触れるようになったし悪魔の弱点が見えるようになったと笑っている。

 

「これのおかげで今まで生き残れたのよ。悪魔?にも銃が当たるし」

 

そう言って、AKを見せてくる。

悪魔は情報生命体でもあるので、認知できない人間の攻撃は当たらない。だが逆に、認知できてしかも弱点が見えるのならば、格上相手でも倒すことができる。もちろん限度はあるが。

弱点属性をつくことなら俺たちでもできるが、情報生命体としての核を見抜いて破壊するなんて普通はできない。人間にとっての心臓がどこにあるかなんて、知識があっても外からは見えない。

紙越さんはそれを見通すことができるし、仁科さんはそれに触れることができるらしい。

それくらいの異能があったから、ここまでレベルが上げられたのだろう。

 

「ただいまー。うう、頭がいたい」

 

「お帰りー。ちょうど私たちの話をしてたところよ」

 

紙越さんが休憩に戻ってきた。

索敵のために右目を使いすぎたらしく、渡されたおしぼりを目に当てている。仁科さんは紙越さんを楽しそうに世話している。とても仲がよいようだ。

 

「私たちのことはいいからさ、そっちの話を教えてよ」

 

「そんなに面白くはないですよ?」

 

そう前置きして、俺たちの話を始めた。

 

…………

 

人間がレベルアップすると生物としての格が上がり、生命としてより強靱になる。

この異界討伐の参加者に選ばれたのは最低でもレベル10以上であり、戦闘要員は12以上だという。

なので、戦闘せずに歩いているだけでも一般人が休憩しているくらいは回復できる。

そういうわけでほぼずっと歩き通しで進んだ結果、まだ日が高いうちに異界の中心までたどり着けた。

 

「ここの奥に、異界の核が置かれている。理由は省くけどどうやっても壊せないし壊しちゃいけないから、注意するようにね」

 

織雅さんが示す先には水の張った堀と背の高い塀があり、そこに侵入することはかなり難しそうに思える。いちおう遠くに橋がかかっているのが見えるが、今は中に用はない。

 

「ここまでは速度を重視して戦闘はあまりしなかったけど、ここからは違う。できるだけ多くの悪魔を倒すことが目的になるから、そのつもりでいるように。ローテーションは今までと同じで三交代制だ。まずは堀に沿ってぐるっと回って、それから少しずつ周回半径を大きくしていく。いいね?」

 

「「了解」」

 

「リーダー、うちらちょっと止まって休みたいんだけど、いい?」

 

索敵要員の一人が言う。

 

「そうだな。じゃあ休憩チームは座って休んでいい。その間は、準備チームが護衛をする。外周を歩くのは戦闘チームだ」

 

「「ありがとうございまーす」」

 

そういうことになった。

 

 

 

皇居の周りはさすがに悪魔は現れず、ただ単に見回りするだけになった。

そこから周回半径を広げながら進んでいくのだが、各チームの索敵役の性能がバラけているのが問題になった。

 

どうやら紙越さんは『見抜く』能力が高いが、遠くまで『見通す』ことが難しいらしい。

しかも、やっかいなトラップになっている【グリッジ】を『見抜く』のは紙越さんしかできないのだとか。

【グリッジ】のある場所の傾向がつかめるまで休憩する暇がほとんどなく、今は青い顔をして横になっていた。

 

「うう、もう働きたくない。家に帰りたい」

 

「マジでお疲れ様です。【グリッジ】が東京湾方向に集中してるってことは、大悪魔が異界に干渉してるからみたいですね。とりあえず紙越さんの出番は東京湾方向だけって決まったから、後半になるにつれて休憩時間は増えますよ」

 

討伐の効率をあげるため、今は東京湾方向の手前にキャンプを作って休憩をしている。

周辺は一度広めに索敵して討伐してるし、まだ中心に近いのでそもそも悪魔の数が少ない。

なので休憩チームと少数の待機チームだけ残して、元気が有り余っている人を加えた戦闘チームだけが一周していた。

 

「大悪魔とか本当に迷惑なんだけど。グリッジ作るのやめてほしい」

 

「大悪魔はそこに存在するだけで異界をゆがめるらしいんで、グリッジ消すためには討伐するしかないですよ。それまでほどほどに頑張りましょう」

 

「休んだから、少しは元気でてきた……。ちょっと、メガネとって」

 

真面目な声で手を差し出してくるので、手元にあったケースを急いで渡した。

 

「何か見えたんですか?」

 

メガネをかけた紙越さんが、少し離れた林のほうをじっと見ている。

 

「あれ、あの木の陰の、人じゃないかな?見える?」

 

「どれです??」

 

指さされた先を見るが、木が多くてどれだか分からない。

仁科さんや葛葉もやってきて同じ方向を見るが、やはり見えないようだった。

 

「ああ、行っちゃった。でも本当に人みたいなのがいたんだって。近づけばきっと証拠が残ってるはず」

 

「そらを、落ち着いて。もう少しで戦闘チームが戻ってくるはずだから待ちましょう。あっちは東京湾方向よ。きっと新しい種類の悪魔よ。索敵が得意な人に見てもらいましょう」

 

疲れからか意固地になっている紙越さんを、仁科さんが説得して落ち着かせた。

 

ここは異界の中だ。こんな場所にまともな人がいるわけがない。

 

 

 

 

しばらくしてから戻ってきた霊視ニキに話をして、紙越さんが人らしきものを見た場所を調査する。

 

数人で調べていると、自衛隊に所属しているという人が、人間のものらしき足跡を見つけた。

 

「ほら、だから言ったじゃん。やっぱりアレは人だったんだよ」

 

休憩後だからか、紙越さんのテンションが妙に高い。

一方の霊視ニキは、静かに考えてから発言した。

 

「ふむ、そうかもしれないな。だとしたら、警戒を強める必要がある。進行速度は遅くなるが、ここからは全員まとまって行動した方がいい」

 

「え?それって、休憩チームも一緒に歩き回るってこと?」

 

「チームを分けたせいで各個撃破される危険を避けるためだ。人間型の悪魔だと、対応が難しい事が多いからな。全体で止まる休憩時間ももちろん作るから安心しろ」

 

さすが霊視ニキ。なんて冷静で的確な判断だ。

 

「また歩き回るのか。はぁ、しまったなあ」

 

「どちらにしろ遠からず同行させる予定だった。一周の距離がだいぶ伸びてきたからな」

 

残念そうな紙越さんに、霊視ニキが慰めにならない言葉をかけた。



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異界攻略 進行編

異界の中であっても時間は流れる。異界によっては時間の速度が外と違う場合があるが、ここは人工的に作られた東京の裏世界でもあるので普通と変わらない。

 

夜は悪魔の活動が活発になるのもあって、簡易的な結界を張った上で半分以上が休む。アサイラム製の結界なのだから全員休んでもいいんじゃないかという声もあったが、悪魔以外の不測の事態もあり得ると言われて反論できなくなっていた。

 

かまどを組んで飯ごう炊さん。お湯で温めるレトルトのカレー。

ここが異界だということを忘れそうなくらい、普通のキャンプみたいだ。

 

テントもアサイラム製で、HPMPの回復を促す効果があるとか。

『終末のキャンプにピッタリ!』という誤字のような売り文句のとおり、悪魔よけと隠蔽の効果もある。

三、四人用のテントであり、男である俺が葛葉と同じテントなのは問題がある。

なので当然のごとく教官とともに別な班の同輩とご一緒することになった。

 

「ねえねえ、好きな子とかいる?」

 

「修学旅行か!」

 

定番のボケをかましてきたのは、そのご同輩であるパンダ先輩だった。もちろん着ぐるみであり、さらに言うならその着ぐるみは式神を専用カスタマイズしたものでもある。

中身は転生者のコスプレ勢で、しかもけっこう強い。素の格闘センスにパンダ(式神)のアシストが合わさり最強に見える。

実際に初期勢の一人であり、黒札に続く実力があるらしい。

 

見た目だけでなく性格も楽しい人なので、こういうウザさがなければ完璧なのだが。

 

「伊吹には葛葉がいるであろう。もう告白はしたのか?」

 

「ええっ、告白ですって!?奥さんそれ本当なの?」

 

「ちょっ、教官まで乗ってこないでくださいよ。いい年こいたオッサンは静かにしろと注意するところでしょう」

 

「私は妻には早いうちから交際を申し込んでいたぞ。その様子ではまだのようだな。このヘタレめ」

 

「急にディスられてつらいです。てか、今さら告白なんてって気がするんですけど」

 

「そんなんだから貴様はヘタレなのだ。気持ちというのは、きちんと言葉にして伝えるべきだと何度も言っているだろう。作戦遂行のための意思確認は、おろそかにするべきではない」

 

「さすがラルさん、いいこと言いますなあ」

 

パンダのもふもふがウザく感じる。この場に味方はいないようだ。というか他に誰かいたとしたら、敵が増えるだけのような気がする。

 

「そうだ、パンダ先輩はどうなんです?俺にどうこう言うからには、彼女いるんですよね?」

 

「もちろんいるよ?絶賛同棲中。写真見る?」

 

マジですか?

毛皮の内側から出してきた写真には、普通に美人の女性が写っていた。

 

「うっわ美人だ。いったいどうやってたぶらかしたんです?」

 

「そんなんこの魅惑のボディを使ったのに決まってるだろ?ほら、(もふ)ってもいいのよ」

 

「ウザいけど説得力ありますね」

 

ふわふわしてる。いい洗剤を使ってそうだ。

 

「冗談はさておき、普通に大学でいろいろと面倒を見てくれたりしたからケジメつけるために告ったんだよ。それでも遅いって言われたがな」

 

「急にマジなトーンになるのやめてもらえます?」

 

「うっせえ、てめえもとっとと告白するんだよ!」

 

「ぐえ、パンダに潰される!」

 

いくらもふもふしてても、上に乗られれば重い。しかも相手は近接戦闘に慣れているので、なかなか脱出することができない。

そんな風にドタバタしていたら、ついに教官に怒られてしまった。

 

「貴様ら、いい加減にしたまえよ。そんなに元気が余っているのなら、明日はもっと活躍してもらうからな」

 

「「すいませんでした」」

 

パンダがどいてくれたので、やっと落ち着いて眠ることができる。

 

寝袋の中でじっとしていると色々と考えてしまう。やっぱり二人の言うように、俺もケジメをつけるべきなのかもしれない。

 

「教官、パンダ先輩。俺も告ろうと思います」

 

「ほう」

「マジか」

 

「ただ、今は悪魔討伐に集中したいんで、これが終わった後にします」

 

「そうだな、それがいいだろう」

 

「応援してるぜ」

 

パンダ先輩がサムズアップしている。

やることを決めたからか、落ち着くことができた。そしてもう少しで眠れそうだという時になって、パンダが余計なことを行ってきた。

 

「なあ、さっきのって、まんま死亡フラグじゃね?」

 

「黙って寝ろ」

 

教官に怒られてやんの。

でも、たしかにフラグだな。フラグを折るようなことを、何かしておくべきだろうか。

 

◇◇◇

 

翌日は、特に何事も起こらなかった。

悪魔は索敵チームが先に見つけてくれるし、意思疎通も効率的になってきて、連携もうまくいっている。

気をつけるべき時は教官や霊視ニキから声が飛んでくるので、万事順調に進んでいた。

 

「ヒートウェイブ!」

 

範囲物理攻撃で、前方にいる悪魔からのヘイトを集める。

悪魔はやはり東京湾方向に多い。林の中なので多数でも集団になりにくく、ヒットアンドアウェイがやりやすい。

 

敵対した悪魔が俺めがけて周囲から集まってくるので、引き離しすぎないように気をつけながら後退する。すると自然と細長い列になるので、隠れていた葛葉+仲魔と紙越+仁科さんが両側面から同時に攻撃をしかけた。

 

「マハブフーラ!」「マハジオ!」

「当たれえええ!!!」「ええい、この!動くな!」

 

魔法と銃撃の連打によって、悪魔の集団はあっという間に倒された。

 

「順調だな。MPと残弾は十分かな?大丈夫なら次を集めてくるけど」

 

「そ、そろそろギブアップ。弾も減ってきたし、悪魔も後はバラけているのばかりだし。私たちは休憩に戻るよ」

 

紙越さんが肩で息をしている。

銃を撃つ時にも目の力を使っているようで、体力消費が多いのだとか。ただの銃撃が必殺の威力を持つと考えれば、妥当ではあるのだろう。

 

「ワシらばかりがトドメをもらってばかりだが、伊吹はよいのか?」

 

「俺は戦闘チームで働かされてる、経験値はそっちで稼げてる。葛葉とレベルが開きすぎてもよくないから、しっかりレベルアップしてもらいたいくらいだ」

 

「うむ、おいて行かれぬよう、ワシも頑張るぞ」

 

ぞい!のポーズで気合いを入れてる葛葉かわいい。

昨夜の話題のせいで最初は顔を見づらかったが、トレイン役をこなしているうちに落ち着くことができた。

やっぱり適度な距離が大事だね。

 

「教官、俺たちは残ってる悪魔を倒しに行きます」

 

「気をつけて行ってこい。林の切れ目が近いから、悪魔を追ってグリッジに踏み込まぬようにしろよ」

 

教官たちを見送ってから、討ちもらしの悪魔を探して歩く。仲魔に索敵を手伝ってもらい、数匹の悪魔を倒した。

 

「ここら辺の悪魔はもう倒しきったかな?時間もあるし、そろそろ戻ろうか」

 

「ちょっと待て。なにか妙な気配がせぬか?……あっちじゃ」

 

葛葉が指さす方は林の切れ目であり、東京湾方向から伸びた泥の道が続いている。

グリッジも敵もそっちに多いので、少数では近づかないよう注意されていた。

 

枯れ枝などを投げて、グリッジがないか確認しながら進む。

グリッジはダメージ床みたいなもので、うっかり踏み込むと固定ダメージを食らってしまう。一般人にとっては即死しかねないが、覚醒者なら死ぬことはないらしい。

でもすごく痛いらしく、痛いのは嫌だから絶対に踏みたくない。

 

林の切れ目から泥の道を見る。

この道は、泥のせいで林が枯れて道ができたんじゃないかと思っている。

中心に近い泥の道の中にも枯れ木が残っていたが、その周囲はまるで泥によって溶かされたかのように低くなっていた。

 

その泥の道の上に、なにやらうごめく(・・・・)ものがあった。

悪魔に違いないとは思うのだが、今まで見たような妖獣でも邪龍でもない。かなり弱っているのか、ビクビク痙攣したりしている。

 

「報告に戻ろう。この辺りの悪魔は倒したんだ。後で横切るときに、アレが何か確認すればいい」

 

「わかった。そうしよう」

 

「おいお前ら、こんな所に隠れてイチャイチャしてるなよ」

 

「いやそんなこそしてませんし!」

 

反論しながら振り向くと、式神モードレッドを連れた霊視ニキがそこにいた。

 

「霊視ニキがなんでここにいるんです?」

 

「妙なものが見えたからな。確認しておくべきだと思ったから、先に来た。もちろんお前たちのことじゃないぞ」

 

「それって、俺たちが見つけたのと同じヤツですね。あっちで倒れてる悪魔なんですけど、今にも死にそうなんですよ」

 

霊視ニキはそれをすぐに見つけると、泥の道へと踏み込んだ。

 

「ちょ、グリッジ踏みますよ」

 

「どうせ固定ダメージだろ。死にはしない。それに、落とし穴でもダメージ床でも、踏んで確かめるのがメガテニストってもんだろ」

 

「ゲームと現実を一緒にしないでくださいよ」

 

などと言いながらも、霊視ニキの後に続く。

グリッジを踏み抜くと衝撃波が発生して周囲の泥が飛び散るので、後ろにいる俺が続けて踏む心配はない。

言ったとおりにダメージ床を踏み抜いていく背中が、男らしいと思ってしまった。

 

「もう死んでるみたいだな。体は泥でできてるのか?ぐっちゃぐちゃだぜ」

 

モードレッドが倒れた悪魔を足蹴にするが、悪魔はぴくりとも動かなかった。

霊視ニキはしゃがみ込んで、動かなくなった悪魔を見ている。

 

「こいつらが死んで泥に戻ることで、泥の道ができているってことか。……この泥、潮くさいな?東京湾から来ているのか。こうやってちまちま異界を浸食してるってことか?」

 

「ちょっと待ったマスター、泥の中に何かいやがるぜ」

 

モードレッドが警告するが、霊視ニキは袖をまくると腕を泥の中につっこんだ。

 

「うわっ、きったねえ」

 

モードレッドが引いているが、霊視ニキは気にせずに腕を引き抜く。

引き出されて出てきたのは、泥まみれの人間だった。

 

「ええっ、なんで悪魔の中から人間が出てくるですか。まさか丸呑みされたとかないですよね」

 

「こいつは……人間じゃねえなあ。アレだ、マネカタだ」

 

「「「マネカタ!」?」?」

 

メガテンの知識がなければわからないだろう。

マネカタとは、真3に出てきたキャラクターのことだ。

 

「たしかマネカタって、アサクサの地下の泥から生み出されたニンゲンモドキですよね?それがどうして悪魔の中から出てきたんでしょう」

 

「さあな。ただ、マネカタもこの悪魔も泥でできているのは間違いない。共通点はそのくらいだな」

 

「つまりほとんど何もわからないってことですね」

 

マネカタは霊視ニキに支えられていて、時々大きく痙攣する。ゲームでも不気味なところがあったが、生で見るともっとキモい。

 

そのマネカタは突然目を見開くと、霊視ニキに向かって手を伸ばした。自身を支えている霊視ニキの腕をつかむと、かみつこうと口を大きくあける。

 

俺がそれに反応する前に、モードレッドの剣がマネカタの首を切り落とした。

 

「てんで脆いな。経験値にもなりゃしねえ」

 

「攻撃を食らってみるまでもない。弱すぎる。これじゃあ、悪魔のエサになるだけだな」

 

二人とも、今の事態にまったく動じていない。さすがは高レベル能力者だ。

 

首を切られたマネカタは、すぐに形を失って泥の塊に戻っていく。

その時、泥の中から赤い燐光が湧き上がり散っていった。

 

「今の、マガツヒですよね。ここまではっきり見たのは初めてです」

 

「ここは異界だし、そもそもこいつはマネカタだ。マガツヒの生産者ってことだろうな」

 

なるほどと頷いていたら、俺たちの話を聞いていた葛葉がつぶやいた。

 

「とすると、目撃情報のあった人影は、このマネカタということじゃな。泥から生まれたこやつらが林の中を徘徊して、そこらの悪魔のエサになっているのじゃろう」

 

「そっか。他より悪魔の活きがよかったのは、マネカタで生体マグネタイト、というかマガツヒを吸収できていたからか」

 

マガツヒは真3から出てきた概念で、それまでのシリーズで使われていたマグネタイトとほぼ同じ使われ方をしていた。おそらく、世界観に合わせて呼び方を変えたのだろう。

 

「ところで、なぜわざわざ悪魔のエサになるようなものが生まれてくるのか不思議じゃな」

 

「うーん、悪魔のエサになるってことは、森の中でマネカタが死ぬってことだな。そうするとどうなる?なにかいいことがあるのか?」

 

「んなの決まってるじゃねえか。野良の悪魔が強くなるだろ」

 

「いや、マネカタの死体は泥になる。この泥は、ここの異界を浸食している。つまり、泥があっちこっちにバラ撒かれた方が、浸食速度が速くなるってことだ」

 

「たしかにそうですね」

 

「つまりマネカタを作っているやつは、この泥を撒いているヤツと同じ。東京湾に巣くう大悪魔ってことだな」

 

頭いいな、その大悪魔も霊視ニキも。

 

「謎はひとつ解けたようだな。本隊と合流して、方針を検討しよう」

 

歩き出す霊視ニキの背中はとても大きく見えた。

 

次の瞬間、バチコン!と新たなグリッジを踏み抜く。

あ、アレは漢マッピングをしてるわけじゃなくて、ステータス高いから気にしてないだけだ。




・パンダ先輩
 本人が着ぐるみを作るとき、パンダにするかクマにするか悩んでいた。
 クマにすると本物がいたときに被ってしまうので、パンダにすることにした。


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異界攻略 前準備編

仮設の本部であるイベント用テントで、マネカタと泥についての報告をした。

マネカタについては目撃談はすでにいくつもあったが、どれもすぐに逃げられていたので、確定できたことを感謝された。

 

織雅さんは顔を隠した紙を、ため息で少し浮かせる。

 

「目撃談でも、やっぱり東京湾方面が多かった。というか悪魔も東京湾方面に集中してるから、もしかしたら全部が全部、大悪魔の眷属なのかもしれない。これはちょっと、面倒なことになりそうだな」

 

「つまり、すごく強いってことですか」

 

「いいや、この場合はそのまま、『面倒くさい』ってことだ。戦力的にはわたしと霊視ニキがいれば問題ない。当初の予定ではボス戦はみんなの出番はなかった。でももしかすると、そうはいかないかもしれない」

 

織雅さんの言葉に、テントに集まっているメンバーが首をかしげる。

そんなみんなを代表して、霊視ニキが口を開いた。

 

「ここで座って予想をこねくり回してても意味ないだろ。そんなに心配なら、先にボスの姿を見てきたらどうだ。相手を早めに知ってた方が、対策を考える時間は増えるだろ」

 

「その通りだ。じゃあ霊視ニキ、何人かいっしょに連れてボスを見てきてくれるか?戦闘はできるだけ避けた方がいいだろうから、ちゃんと言うことを聞くメンバーを選ぶように」

 

「了解だ。というわけで、一緒に来たいヤツ手え上げろ」

 

霊視ニキの呼びかけに、かなりの数の手が上がる。ボスを見たいというより、霊視ニキについて行きたい人がほとんどだろう。

 

「じゃあ、お前とお前とお前と……あと葛葉フレンズも来い」

 

「俺ですか?わかりました」

 

一緒にマネカタを見つけたからだろうか。いきなり呼ばれてびっくりした。

集められたのは比較的レベルの高い転生者たちばかりで、俺がその中にいることが少しうれしかった。

 

そうと決まったら行動は早かった。

五人全員で林の中を走る。敵は避けられるなら避けるし、戦う必要があれば殲滅する。

メンバー全員のレベルが高いからか、戦闘が起きても他の悪魔が寄ってくる時間がないほど素早く倒していた。

 

東京湾に近づくにつれ、泥の道がだんだん低くなっていっていた。そのせいで、俺たちのいいる林の切れ目はちょっとした崖のようになっている。

水分も多いようで、あれはもう“泥の道”ではなく“泥の川”だ。

 

途中で霊視ニキが止まるよう合図し、メンバーを崖の際に集めた。

霊視ニキが指さす方を見れば、泥の川を悪魔が進んでくるのが見える。

仮面のような体、そこに空いた穴から泥を垂れ流しながら、触手のような足で泥の中を進んでくる。

 

「【邪神:ラフム】だ」

 

メンバーの一人の声に、霊視ニキが首を横に振った。

 

「いや、今は【邪神】じゃなくて【妖魔】だな。霊格が低い。レベルも15程度だ。氷結・衝撃・呪殺耐性。火炎が弱点。スキルはブフーラ、ムドオン、マハジオ、プリンパ。それと特殊スキルを持っている。葛葉フレンズ、何かわかるか?」

 

いきなりの質問に少し考える。わざわざ聞いてくるってことは、俺でも答えられるってことだろうか。

相手は【俺たち】が知っているラフムより全体的に弱体化している。つまり前世の知識は当てはまらない可能性が高い。

 

ならば別の方向から考える必要があるだろう。

 

ああ、そういうことか。ラフムは『泥』という意味だし、アイツは泥の道を歩いている。ならば答えは簡単だ。

 

「ラフムが、マネカタを生み出しているってことですね」

 

「そうだな。名付けるとしたら【擬人転生】ってところか。あのラフムのHPは徐々に減っていってるから、あのまま進んで力尽きたところで倒れる。そこからマネカタが産まれるってことだろう」

 

「そうして、異界を少しずつ自分たちの領土にしてるってことですね」

 

「ああ、それをやっているボスが、もう少しで見えてくるはずだ。行くぞ」

 

ラフムを無視して先に進む。

霊視ニキの言葉が正しいと判明したのは、それから数分後だった。

 

空気に潮のにおいが感じられるようになると、木々がまばらになってきた。その隙間から、遠くにそれ(・・)が見えてきた。

 

「ははっ、やっぱりゴ●ラじゃないですか」

 

メンバーの一人が、乾いた笑いをする。

 

「いいや、あれはゴ●ラよりもっとタチが悪いぜ。やつの足下を見てみろよ、ラフムがうじゃうじゃいやがる」

 

「あれ全部がラフムかよ。気持ち悪ぃ」

 

口々に感想を言い合うが、全員それ(・・)から目が離せないでいた。

足下にアリのようにラフムが集っている。多数の子供を従えるそれは確かにアリの女王のようであるが、全く違うことを俺たちは知っている。

 

大怪獣と言いたくなる巨大な姿。

優しげな目をラフム(こども)たちに向けながらも、恐ろしい存在であることを身にまとう魔力が伝えてくる。

原初の泥から全ての生命を生み出した母とも言われる、古き悪魔。

それがこの異界を侵略しようとするものの正体だった。

 

…………

 

邪龍 ティアマト Lv55

銃耐性 火炎無効 氷結吸収 電撃弱点 破魔無効 呪殺無効

 

ブフダイン 絶対零度 母なる大地 ディアラハン ピュアブルー ラスタキャンディ

黄昏の旋律 母の権能

 

…………

 

霊視ニキによるアナライズの結果に、さすがの軽口も聞こえない。

 

「レベル55って……。霊視ニキ、あんなのに勝てるんですか?」

 

「まあな。モードレッドもいるし、万全の状態で挑めれば心配はない」

 

「紙のお面野郎もいるしな。あいつ、ここに来てから全然戦ってないから、こき使ってやろうぜ」

 

「さすが転生者のトップ戦力。頼もしいっすね」

 

ほっとしたのも束の間、霊視ニキがとんでもないことを言い出した。

 

「俺よりもお前らの方がキツいかもしれないぞ。なんたって、あのラフムの群れを引きつけることになるんだからな。今のうちに予行演習してみるか?ああいう相手にちょうどいいヤツもいることだし」

 

なぜか俺に視線が向けられる。

 

「えっっ、ちょっ、待ってくださいよ。今回は戦闘は避ける方針でしたよね?」

 

「事情が変わったんだよ。見た感じ、ラフムはほぼ無限にわき出てくることになる。なんたって足下に材料が豊富にあって、それを原料に産み出すスキルがあるんだ。だから、お前らがどのくらい戦えるか知っておく必要がある。士気にも関わる重要な仕事だ」

 

「ええ~」

 

たしかに、霊視ニキたちがティアマトを倒すまで無限にわき続ける敵を倒し続けろって言われたら、参加を渋る者が出るかもしれない。

誰かが威力偵察をして、それを参考に示せれば説得材料になるだろうし、連戦に向いているスキルを持っている俺が選ばれるのもわかる。

 

でも、はっきり言って気が進まない。

 

「泥で汚れそうだし、あ、泥の上ってグリッジあるんじゃないですかね?ダメージゾーンの上で戦うのは、さすがの俺でもヤバいと思うんですが」

 

言った途端に、背後から肩を叩かれる。

 

「はい、【地形無効化(リフトマ)】。これで泥もグリッジも気にせず戦えるぞ。やったね」

 

お調子者の人が、笑顔でサムズアップしてくる。

 

「(余計なことをしてくれて)ありがとうございます」

 

「危なくなったら、ここから手助けする。安心して行ってこい」

 

「がんばれー」

「逝ってらっしゃい」

「逝ってらー」

 

「ちっとも安心できない応援やめてください!」

 

この怒りを力に変えてがんばるしかなさそうだ。

覚悟を決めて、泥の川に飛び降りた。

 

…………

 

結論から言えば、まったく問題はなかった。

俺一人だと少しキツいが、仲魔であるサマエルを喚び出せばかなりの時間を持ちこたえることができた。

 

ラフムは東京湾の中に一歩でも踏み込むと、途端にワラワラと寄ってきた。

距離があると【ムドオン】や【ブフーラ】を撃ってくる。複数で立て続けに撃ってくるものだから避けるのが難しく、耐性が無ければそれだけで一方的に撃ち殺されそうだ。

ただ俺は【アサイラム】製の耐性付き防具のおかげで、魔法のダメージはかなり抑えられている。

 

問題なのは攻撃面だが、ここでサマエルの出番がきた。

範囲内に複数回ヒットする【ファイアブレス】が、敵が密集しているせいで多段ヒットする。それでひるめば全体の動きが鈍くなるので、俺の【ヒートウェイブ】が使いやすくなる。

 

【リフトマ】の効果で、泥の上でも普通に動けるのはありがたい。足を踏ん張る感覚が地面と違うが、すぐに慣れて気にならなくなった。

 

ネックになりそうなのはサマエルのMPだろうか。ここでかなりマッカを稼げているので、回復アイテムをじゃんじゃん使ってもいいだろう。

 

『サマナー、そろそろアメくれアメ』

 

「チャクラドロップな。この集団を倒したら余裕ができるから、そこで……」

 

「その辺でいいぞ、撤収だ!」

 

「了解ー!」

 

『オレサマのアメは!?』

 

すぐさま煙幕を焚いて、一目散に撤退する。

東京湾から離れてもしばらく追ってきたので、途中でそいつらを撃退する。思いの外あっさり倒せたが、そういえば移動するだけでHPを減らしているんだっけ。

 

「生存時間を短くする代わりに、産まれた直後から戦力になるよう作られているんだ。しかも時間切れで死ねば、今度は戦力を持たない代わりに遠くまで移動できるマネカタが産まれる。よくできたシステムだな」

 

「面倒なヤツらだ。早く倒すべきだな」

 

しつこく追ってきているのは一つの集団だけだったので、すぐに倒すことができた。

 

 

 

 

テントに戻って報告すると、情報を元に作戦会議が始まった。

 

織雅さんは予定通り周辺の悪魔を狩ってからにするべきだと主張し、霊視ニキはすぐにでもティアマトに挑むべきだと言っている。

 

「うーん、ティアマトの泥による浸食速度は早くないだろ。急ぐ必要はないと思うが」

 

「ラフムを大量生産されたらどうする?もしくは他の悪魔を増やされたら?ここにいる【妖獣】や【邪龍】はティアマトの子供だろ」

 

「ラフムは産まれた直後が一番強いのだろう?ならいつ挑んでも同じじゃないか。他の悪魔に関しては戦力として育つのに多少時間がかかる。それに、泥の上で満足に戦えるのはラフムくらいだろ?こっちには【リフトマ】がある。よってティアマトの子供も問題ない」

 

「……まあ、そうかもしれないが」

 

「またこちらの戦力についても、周辺の悪魔を狩ることで全体的なレベルアップが見込める。それに周辺の危険を排除できれば、非戦闘員の護衛を減らして戦力にまわすことができる。相手は多数なんだから、少しでも味方は多い方がいいだろ」

 

「そこまで考えているなら、文句は無い」

 

「じゃあそういうことで決まりだ。予定通り明日、明後日で残りの悪魔を狩る。そして最後に東京湾のティアマトとの決戦となる。各自、しっかり準備して挑むように」

 

そういうことになった。

 

 

 

悪魔狩りが再開されたが、俺は連戦してきたということで休憩しろと葛葉たちにおいていかれた。

そんなわけでゆっくりしていたら、誰かの話し声が聞こえてきた。

 

「そういや、なんで日本にティアマトがいるんだろう。地脈から侵入したって言われても、繋がりがなさすぎじゃないか?それともどっかのダークサマナーが捨てたとか」

 

「なんかのシリーズで、地下にティアマト封印されてるのなかったっけ。そこから逃げ出してきたとかじゃね?」

 

「ソウルハッカーズですね。ティアマトかアプスーか倒す方を選ぶやつ。ティアマトは海水の属性を持つから、東京湾に繋がりやすかったのかもしれませんね」

 

ハッカーズは俺も好きな作品のひとつだ。何回もやりこんだ覚えがある。

 

「あれって、どっちか相手にダークサマナーが一人で戦ってたよな。あれくらい霊視ニキは強いってことかな」

 

「強いだろ、霊視ニキだし。それにモーさんも織雅さんもいるし、心配ないだろ」

 

「そうなんだけど、何か見落としてる気がして……」

 

なんだっけ。そういえば、何かあった気がする。

ハッカーズではティアマト(もしくはアプスー)を倒したのは雇われの最強のサマナーで、主人公はそのシーンをヴィジョンクエストで追体験していた。

 

ヴィジョンクエストになるからにはその最強サマナーは死んでいたことになるから、つまりそれは……。

 

「そうだ、たしか倒したダークサマナーが、その後に呪いか何かで殺されてたはずです。もしかしたら霊視ニキも危ないかも」

 

「「マジで!?」」

 

「その心配はない。こんなこともあろうかと、対策はしっかりできているとも」

 

通りすがりの織雅さんが、白い物体が入った小瓶を見せてきた。

 

「即死無効の身代わりアイテム【ホムンクルス】、その強化版だ。葛葉フレンズがラフムの呪殺(ムド)をたくさん受けてたから、そこから解析して完成したからね。ちょうど霊視ニキに届けるところだったんだ。これさえあれば、ティアマトに呪殺されることはない。安心していいとも」

 

いきなり話の矛先が飛んできてびっくりした。

なぜか拍手をされたので、恥ずかしいやらで居心地が悪い。

 

「さすが葛葉フレンズ。無謀なほどに戦う男」

「あんなに戦い続けるの、デスマーチみたいで真似したくないね」

「しかも美女に囲まれてて羨ましい。しねばいいのに」

 

「ちっとも褒められてないですよね!?てか最後、呪殺してくるの止めてくれませんかね!」

 

俺たちはノリで生きているせいで、群れるとたちが悪い。休憩所で休憩できないとか終わってませんかね。

 

「ちなみに【ホムンクルス】はそれなりに貴重だから、全員分は用意できていない。持ってたら強化することくらいはできるが、時間がかかるから早めに言うように。他の人にもそう伝えておいてくれたまえ」

 

そう言うと、織雅さんは霊視ニキのテントへ向かっていった。

 

「【ホムンクルス】持ってる?」

 

「持ってるわけないじゃないですか。けっこう高いですよアレ。アレ買うくらいなら、アイテムガチャ回してますって」

 

「だよなあ。まあ俺たちは周辺の雑魚狩るだけだし、近づかなければ問題ないだろ」

 

俺も同意見なので、特に何も言わない。

全員に配らないというということは、大丈夫なんだろう。きっと。




・伊吹のスキルについて
伊吹は【マハラギ】は使えない。異なる属性はジャンルの違う教科のようなものであり、学習するのはそれなりに頭を使う。
記憶容量というよりも、習得に必要な労力と成果の釣り合いから考えて【衝撃属性】に絞って訓練している。

・マネカタについて
真3のとは別種なのかそれとも成長する時間がなかったのか、会話もできず文化もない。
原始人というより野生の猿に近い生体をしている。


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異界攻略 ボス戦前夜→異界攻略スレ→????

各シーンが短かったので詰め込み気味になりました。許して。


二日後、俺たちは裏東京に発生した悪魔の大部分を討伐し終え、残るは東京湾の大悪魔【邪龍ティアマト】だけとなった。

 

最終決戦の前ということで、見張りはほんのわずか。

俺も休むよう言われているのだが、ちょっと眠れそうもないので一人でキャンプの外を歩いていた。

 

裏世界でも夜は暗くなる。空の見えない林の中なので、照明の届かない場所は不気味なほど暗く感じる。

人が寄りつかないので静かに瞑想するのにちょうどいい。敵襲の心配をせずにこういうのができるのも、周辺の悪魔を狩り尽くしたからこそだった。

 

目を閉じるまでもなく真っ暗で、自分の呼吸と、揺れる木々のざわめきだけしか聞こえない。

ここは、『 』しか存在しない。

自分は存在せず、よって意識も存在しない。

何も無い。なにもない。

それは『空』であり、それは『全て』である。

ゼロと無限の区別はなく、1と10に塵ほどの違いも無い。

 

……こんな思考も無意味だ。

考えてはダメだ。頭を空にして、何も考えずに、ただ『空』にならなければ。

 

 

 

どのくらいの時間そうしていただろうか。こちらに近づいてくる足音が聞こえて振り返ると、葛葉がカンテラ型のライトを持ってきた。

 

「何をしてるの?」

 

「瞑想で、心を落ち着けてる。明日がボス戦だろ?だから緊張して眠れなくてさ」

 

「そうなんだ。わしも、伊吹と一緒に戦いたかった」

 

本当に残念そうに見えるあたり、俺も葛葉のことがかなり分かってきたのだろう。

 

明日は霊視ニキたちの露払いとして、ティアマト以外のラフムを受け持つサブパーティーも大量に投入される。その一人に俺も選ばれたのだが、葛葉は後方組の護衛役として居残りとされてしまったのだ。

 

「そうだな、俺も残念だよ。その代わり、俺が葛葉の分も頑張ってくるから。戦闘区域の外とはいえ、そっちにもラフムが寄っていく可能性があるんだ。気を抜いていい仕事じゃないぞ」

 

「わかってる。わかってるけど」

 

葛葉が手を差し伸べ、少し迷ってから俺の袖をキュッとつかむ。

それからじっとこちらを見てくるので、思わず息が止まりそうになった。

 

なにそれすごいカワイイんですけど。

可愛すぎて思わず抱きつきそうになったけど、いきなりそれやったらヤバいんじゃないか?

こんな状況で葛葉が覚悟してないわけないだろいやでも今はダメだろくぁwせdrftgyふじこlp

 

鋼の意思で内なる衝動を抑えつけ、なんとか葛葉の両肩を抑えるだけで食い止める。

細いし小さいし柔らかいし壊れそうだし俺がヤバい。

ぜんぜん食い止められてないが、それ以上進まないようになんとか足を踏ん張る。

 

「くずのは、さん」

 

「はぃ」

 

なんか声がうわずってる気がするが、余計なことを考えてはダメだ。マズいのだ。

 

「今はちょっとアレなんだ。明日がアレだし、アレだから。明日のアレが終わったら、大丈夫だから、そのときにアレするから、だから、その時に。それでいいかな?」

 

「はい、待ってます」

 

「じゃあ、そういうことで。また明日、がんばろう!」

 

葛葉を置いて、闇の中を全力で駆ける。興奮しすぎてこのままでは寝るどころではない。

ヘタレとか言うな。何かあって明日のボス戦に参加できなかったら、スレで何を言われるか分からないだろ。絶対に二度と立ち上がれなくなるくらいのボコボコに叩かれる。そして延々とイジられ続ける。間違いない。

 

夜に林の中を走ると、普通なら目の前にいきなり木が出てくることになる。

だがレベルが高くなれば反射速度もあがるし、なにより目で見えなくとも気配を察知することもできるようになる。だから避けるのは簡単だ。

そうやってしばらく走り続けることで、葛葉のせいで高まった心拍を走った結果の心拍に変える。

 

キャンプを何周かしたところで、やっと落ち着くことができた。

 

汗を拭きにお湯をもらいにいくと、見張りを交代して戻ってきたパンダ先輩がいた。

 

「お疲れ様です」

 

「おう、明日がボス戦だってのに、ずいぶん青春してたみたいだな」

 

「え゛っ、まさか見てたんですか」

 

「そりゃ、キャンプの周りをぐるぐる走り回ってたら、見張りが気づかないわけないだろ」

 

「ですよねー」

 

あっぶねえ。葛葉と話をしてるところを見られたかと思った。

 

「あと、女の子はちゃんとテントまで送ってあげるべきだぞ。悪魔に襲われる心配はないとはいえ、一人で置いていくのは『無い』ぞ」

 

「しっかり一部始終を見てんじゃねえですか!」

 

「いっしょに見張りしてた女性に送ってってもらったから安心しろよ。それと他には広めていないオレの気遣いにもな」

 

「ありがとうございますコンチクショウ」

 

「はっはっは、いいってことよ」

 

着ぐるみの上から腹パンするが、びくともしていない。

フィジカルとメンタルが両方高いやっかいなパンダだった。

 

◇◇◇

 

【異界攻略実況スレ】

 

48:名無しの実況者

ボス戦は順調に進行中。ラフムもサブパーティーで対処できてる。今のところ問題なし。

 

49:名無しの転生者

楽して攻略できるとか裏山だな。もれが参加した天城山攻略は大変だったのに

 

50:名無しの転生者

>>49 スレチなんで黙っててもらえます?

 

51:名無しの転生者

ボスはティアマトと大量のラフムか。経験値もマグネタイトもウハウハなんだろ?俺も参加しておけばよかったな。

 

52:名無しの転生者

俺も地方出張じゃなければ……

 

53:名無しの転生者

俺も式神が届いていれば……

 

54:名無しの転生者

今北産業

 

55:名無しの転生者

>>54

ボス攻略班がティアマトに特攻

霊視ニキたちがティアマトと、残りはラフムを引きつけつつ散開

以降そのまま変化なし

 

56:名無しの転生者

>>55 サンクス

霊視ニキなら大丈夫だろ。勝ったな、風呂入ってくる。

 

57:名無しの転生者

余計なフラグ建てるなw

だが霊視ニキなら心配いらんな。風呂食ってくる。

 

58:名無しの転生者

霊視ニキの他にも戦ってるのおるんだろ?なのにけっこう時間かかってない?

 

59:名無しの実況者

ティアマトは全回復するディアラハン持ちだからダメージ与えても回復されてる。

でも、回復キャンセルさせる方法みつけたみたいだから、こっからはどんどん削っていけると思われる。

 

60:名無しの転生者

>>59 ディアラハン持ちのボスとかクソすぎワロタ

 

61:名無しの転生者

モト劇場よりかマシやろ。

 

62:名無しの転生者

永眠コンボよりかマシ

 

63:名無しの転生者

くちさけマハムド……うっ、頭が……

 

64:名無しの転生者

>>61 ~ >>63 みんな通った道だから……

 

65:名無しの転生者

メガテン世界が現実になるとかホンマ世の中クソだな

 

66:名無しの転生者

>>65 それ何度も言われてることだから

 

67:名無しの転生者

こんな世界に転生させた神とかいるんなら、何度でもヌッコロしてやりたいんだが

 

68:名無しの転生者

>>67 その時は俺も協力するから、呼んでくれよな

 

68:名無しの転生者

>>67 ほんそれな

 

69:名無しの実況者

あっ

 

70:名無しの転生者

>>69 どうした?何かあったか?

 

71:名無しの実況者

葛葉フレンズが死んだ

 

72:名無しの転生者

>>71 は?

 

73:名無しの転生者

>>71 このひとでなし!

 

74:名無しの転生者

>>71 このひとでなし!

 

75:名無しの転生者

>>71 この人で無し!

 

76:名無しの転生者

は?ネタじゃないよな?詳細情報求む

 

77:名無しの転生者

おいおい、死ぬ要素なんてあったのかよ。聞いてないぞ

 

78:名無しの転生者

葛葉フレンズってそんな弱かったの?

 

79:名無しの転生者

>>78

・初期スキルがHPMP回復する【勝利の息吹】で継戦能力高かった

・最近レベルが高くなってたので、敵が多いと思われる異界だったので声をかけられた

・葛葉一族の一人が相棒(美少女)

・【邪神サマエル】(劣化分霊)を仲魔にしてる

 

死ぬ要素あるか?

 

80:名無しの実況者

ティアマト発狂→魔法スキルにより領域(泥の東京湾)全体に氷の波が発生→敵も味方も一時氷結→氷の波で死んだラフムが即補充される→ブフーラ・ムドオンの弾幕再開

 

ある意味デスコンボだったとは言っておく

 

81:名無しの転生者

>>80 味方もろとも全体氷結はヤバいな。でも死んだの葛葉フレンズだけなん?

 

82:名無しの実況者

>>81 葛葉フレンズは直前にバックアタックくらって囲まれた後衛を助けに行って、その後衛が逃げきるまで一人でタゲを引き受けてた。

同じような状況は何度かあって、今回も同じく大丈夫だったと思ったらボスの特殊行動が運悪く挟まった。デスコンボさえなければ乙ることはなかった。

サマエルも攻撃食らってたけど、明らかに葛葉フレンズが狙われてた。

味方がもっといれば攻撃がばらけただろうし、早めに復帰したヤツが回復アイテム使えたはず。

事実ほかは一応みんな生きてる。

 

マジでタイミングが最悪だった。

 

83:名無しの転生者

まま、リカーム持ちがおるやろ

最悪でも式神ボディ使ってTS転生させれば問題なかんべ

 

84:名無しの転生者

>>83 オレの出番だな?最高のボディを用意してやろう

 

85:名無しの転生者

>>84 そしたらフレンズは葛葉家に嫁ぐことになっちゃう!?

 

86:名無しの転生者

>>85 えっ、フレンズもうそこまで話進んでるん?なら彼女ちゃんのためにも両方つけてあげないと!

 

87:名無しの転生者

>>84 わたしは百合でもいっこうに構わん!!

 

88:名無しの実況者

>>84 ~ >>87 おまえらそんな話してる場合じゃ無いだろwwwいい加減にしろwww

いま葛葉フレンズの救出隊が、バフ大盛りで救出に向かったわ。もどってきたらリカームするから、TSの用意はせんでいいぞw

 

89:名無しの転生者

ちっ、惜しいものを無くしそこねたな

 

90:名無しの転生者

>>88 ティアマト戦でバフ盛ったら危なくないか?

 

91:名無しの実況者

>>90 ティアマトと直接戦ってなければ大丈夫。

救出隊はレベル的にバフ盛りしないと危ない。

 

92:名無しの転生者

ちなみに葛葉フレンズのパーティーメンバーってどんなんだったっけ?

 

93:名無しの実況者

>>92 JK葛葉とJD二人とその式神とラル教官+グフ

 

94:名無しの転生者

>>93 やっぱりフレンズはTSさせておくべきでは?

 

95:名無しの実況者

>>94 ひがみはやめとけw

というか、JK葛葉が半狂乱になってて見ててツラい。JDの説得がなければきっと一人で突っ込んでた。

救出隊は上記のパーティー+α。

少人数だけど、死体回収して戻ってくるだけなら問題ないと思われる。

 

96:名無しの転生者

>>95 葛葉フレンズ女の子泣かすなんて最低だな。死ねよ。あ、もう死んでるか。

 

97:名無しの転生者

まあデスコンボはメガテンあるあるだから仕方ないね

 

98:名無しの転生者

>>95 葛葉フレンズの方はわかったから、全体の戦況を聞きたい。

 

99:名無しの実況者

全体的には立て直しが終わったところ。霊視ニキたちは問題なく戦ってる。

ティアマトはあの全体攻撃に回復効果ついてたみたいで、また全快近くまで回復してる。

 

100:名無しの転生者

>>97 やっぱりティアマトはヤバかったな

オレは参加してなくてよかったかも

 

101:名無しの転生者

なんにせよ霊視ニキならなんとかしてくれるだろうから心配ないな

 

 

◇◇◇

 

【伊吹雄利】

 

暗い、暗い場所に立っていた。

体が冷える。体の芯から冷たくて、震えが止まらない。ものすごく眠くて、まぶたが自然と降りてくる。

 

こんな所で寝ている場合じゃない。

俺はさっきまでラフムと戦っていたはずだ。はやく戦場に戻らないと。でもここはどこだろう。

寒すぎて体が思ったように動かない。

 

不意に、背後に暖かい気配を感じた。

ほんのり光る何かが頭を越えて前方へゆっくりと飛んでいく。

その暖かい光を追いかけて前へ進む。

 

その光は、よく見れば鳥の姿をしていた。光に目が慣れるにつれ、それは三本足のカラスだと分かった。

もしかして、【霊鳥:ヤタガラス】だろうか。

その羽の片方が大きく傷ついているのを見て、子供の頃の記憶がよみがえった。

 

幼い頃に、獣に殺されたカラスの死骸を見つけて家の近所の神社に持ち込んだ。

いま思い出してみると、神主さんはよく子供の無茶を聞き入れてくれたものだ。

 

神社の目立たないところにカラスの死骸を埋めさせてもらい、そこで両手を合わせた。

成仏を祈るのならお寺の方がよかったのだろうけど、その時は神社の方がいいと思っていた。

このヤタガラスは、きっとあの時のカラスだ。なぜかそう確信した。

 

どのくらい時間が経っただろうか。ヤタガラスが羽ばたきながら降りてくる。

気づくと目の前には粗末な桟橋がある大きな川があり、色あせた小舟がつながれていた。

 

ヤタガラスが桟橋の杭にとまると、小舟から老人が降りてきた。

 

『やっと来たか、待っていたぞ。あの時とは見違えるようだな。これは期待できそうだ』

 

老人が意外にハリのある声で聞いてくる。

思い出した、俺は前にもここに来たことがある。

ここは賽の河原だ。死にかけた魂が来るところ。そしてこの川の向こうはあの世で、行ったらもう戻れない。

 

覚醒修行で河原で命がけの鬼ごっこを強制されたあの日、気がついたらここにいた。

そして、この老人に契約を持ちかけられた。

 

この老人は日本では脱衣婆(だつえば)と呼ばれるものだが、メガテン的にはギリシャ神話のカロンの方が正しいだろう。

 

『どちらでもいい、ワシの役目は変わらん。それよりも契約の話だ。さあ、約束のものをもらおうか。嫌なら向こう岸へ渡ってもらうことになるが、どうするかね?』

 

老人が早くしろと急かしてくる。

この老人は、日本でもギリシャでも渡し賃を要求してくる。

一方メガテンでは、代金を支払うことで復活することができた。俺がこの老人と交わした契約も、それに近いものだった。

 

桟橋に止まったヤタガラスに腕を差し出すと、身軽に飛び乗ってくる。

このヤタガラスは、ずっと俺を助けてくれていた。

俺が覚醒するまでは陰ながら悪魔を遠ざけてくれていたし、覚醒してからはその能力を貸してくれていた。

 

【女神転生if~】に存在した強化システム【ガーディアン】。

悪魔が守護霊としてプレイヤーに取り憑き、ステータスやスキルを分け与えてくれる。

このヤタガラスは普通の烏の霊から進化したものなので、攻撃スキルを持っていなかった。でも【勝利の息吹】はあったから、そのおかげで俺はここまで強くなれた。

 

感謝をこめて頭をなでると、ヤタガラスは「気にするな」とでも言うように鳴いた。

次の瞬間、ヤタガラスの姿は消えて、手の中に暖かく光るコインが残った。

 

それを、待ちきれない様子の老人へと手渡す。

 

これが【ガーディアンシステム】の、ある意味で一番重要な部分。

プレイヤーが悪魔に殺されると、カロンによってガーディアン(守護霊)を憑け代えられて復活できる。

 

つまり俺は、これから新しいガーディアン(守護霊)を手に入れ、かつ生き返ることになる。

 

『うんうん、徳と業によってよく磨かれている。お前を選んだワシの目に狂いはなかった。では、次のをくれてやろう』

 

老人がザルで川底をすくうと、砂利の中に錆びたコインがいくつも混じっていた。

 

『さあ、どれでも選ぶといい。お前が現世で徳を積んでいれば、それに見合ったものがおのずと選ばれるだろう』

 

俺は覚醒してから今まで、かなりの数の悪魔を倒してきた。

それが人を救うことにつながるのだと言えれば、十分に徳を積んだことになるはずだ。

大丈夫、きっと次もいい守護霊が憑いてくれるはずだ。

 

いま戦っているティアマトやラフムを相手しやすいとなお良いのだけれど。

 

なんて考えながらザルに手を伸ばしたら、川からポチャンと音が聞こえた。

目を上げると一枚のコインが飛んできたので、反射的にそれをつかむ。

 

手を広げてみると、そのコインから声が聞こえた。

 

『よいぞ、とてもよい。(ワレ)相応(ふさわ)しき器であり、(ワレ)相応(ふさわ)しき場である。気に入った。(ワレ)がそなたを英雄にしてやろう。喜ぶがよい』

 

コインから水が出てきた。その水はあっという間に俺を飲み込み、背後へ押し流していく。

 

水流の中にいる俺に、老人の声が届いた。

 

『ずいぶんやっかいな霊に気に入られたようだな。だが選び直しはできない。また現世でしっかりそいつを磨いて来るのだ』

 

『ふふふ、磨いてやるのは(ワレ)の方ぞ。(ぬし)という()(ワレ)に貸すがよい。(ワレ)が手ずから、立派に輝かせてみせようぞ』

 

まるでジェットコースターに乗っているかのような速度。泳ごうともがいて(・・・・)も、どちらが上下かすら分からない。流れにもまれるうちに、いつの間にか意識を手放していた




ティアマトはHPが削られるとなんとか回復しようとする仕様。

ディアラハン……タメが大きいので攻撃叩き込むチャンス。ひるみでキャンセル

母なる大地……HP4分の1をきると発動。領域全体に氷結貫通攻撃。ダメージの半分のHPを吸収。ラフムも含む。

母の権能……死んだラフムを再誕させる。自動発動。(この時MPが消費されるので、他の魔法を使おうとしているとMPが足りずにキャンセルされる。霊脈に直結してるので、ターン経過でMPは大回復している)


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異界攻略 終

【葛葉小夜】

 

AP-1が、泥の上を元農業用機械とは思えない速度で走っている。

進路上のラフムは紙越・仁科の銃撃でひるませ、倒しきれない場合はハネ飛ばしていく。

【アサイラム】によって魔改造されたそれは、緊急用の追加装備も取り付けられていてまるで小さな戦車のようになっていた。

その上には、四人と一体の式神がいる。

 

ラル教官が操縦桿をにぎり、式神のグフが飛んでくる攻撃をはねのけていく。

撃ち落とせなかった魔法がいくつか車体に当たるが、AP-1はびくともしなかった。

 

「あの集団だ、見えたぞ!」

 

「お願い、急いで。サマエルが保たない」

 

小夜は多少は落ち着いたように見えるが、声に焦りがにじんでいた。

 

「衝撃に備えろ、突っ込むからな」

 

「わたしが、やる。全てを焼き尽くせ!(マハラギオン)

 

炎の渦がラフムを飲み込み、言葉の通りに燃やし尽くす。

突然の救援に驚いているサマエルの前に、AP-1が止まった。

 

「伊吹!」

 

『サマナーの体は無事だ。あとはオマエラに任せたぜ』

 

小夜が駆け寄るのを見て、消耗していたサマエルは魔封管の中に戻っていった。

 

「伊吹、伊吹!」

 

小夜は、泥で汚れるのも構わずに伊吹にすがりつく。それに紙越が気遣いながら声をかけた。

 

「葛葉ちゃん、気持ちはわかるけど、ラフムが復活してくるから、すぐに運ぼう。帰る道は他の人たちが確保してくれてるから、来るときより速く走れるからさ」

 

「さっそく復活し始めおったぞ、クズノハよ。急ぐのだ、伊吹を助けたいのならばな」

 

「わかった。行こう、伊吹」

 

「どこへ行くって?」

 

突然の声に、小夜は目を見開いた。

 

「そりゃあもちろん、拠点に……って、伊吹くん生きてたの!?」

 

紙越が驚き、声を裏返す。

 

「戻る必要はない。(ワレ)が全てを終わらせてやる」

 

「いぶき、なのか?」

 

「そうだ。(ワレ)が伊吹だ」

 

伊吹は小夜の手を退けて立ち上がると、刀をすらりと抜きはなつ。

放り捨てられた鞘がくるくると舞って、泥の地面につき立った。

 

「では肩慣らしといこう」

 

「生きていたのか。だが無理をするな、伊吹よ」

 

ラル教官が止めようとするが、気にもとめずに復活したばかりのラフムへと向かっていった。

伊吹が刀を一振りするとラフムの触手が地面に落ちて、二振りすると体がぶつ切りになって泥に戻っていった。

周囲から氷結(ブフ)呪殺(ムド)が殺到するが、身に受けても気にすることなくラフムを切り刻んでいく。

その姿はまさに、鬼神のようだった。

 

「どういうことだ、あいつは。伊吹は死んでいたのではなかったか?」

 

「生き返ったにしては、様子がおかしくない?」

 

伊吹が次々にラフムを倒していくのを見て、小夜は首を横に振った。

 

「あれは、伊吹ではない。伊吹は、あんなものじゃない」

 

「何を言うか。(ワレ)が、(ワレ)こそが伊吹だ」

 

声を聞きつけた伊吹が血振りをして、泥を地面にたたきつけた。

刀を肩にかついで、悠然とした足取りで戻ってくる。

 

「お前は伊吹ではない。すぐに伊吹の体から出ていけ」

 

「そう邪険にするな。(ワレ)の力を見れば、きっとお前の気も変わるぞ。特別に、その鱗片を見せてやろう」

 

伊吹はそう言って、刀を天へと掲げた。

 

◇◇◇

 

【伊吹雄利】

 

復活してからのことは、まるで夢の中にいるかのように感じていた。

なにもかもが現実感がない。口から出てくる言葉さえ、自分のものでないかのようだ。

それでも悪魔を倒せている。葛葉たちを守れている。だからそれでいいと思っていた。

 

「お前は伊吹ではない。すぐに伊吹の体から出ていけ」

 

そう言われたときは、何を言われているのか理解できなかった。

俺は俺だ。俺が俺から出て行くとか、できるわけがないだろう。

 

(ならば、(ワレ)の力を見せつけて分からせてやろうではないか。お前(ワレ)の実力ならば耐えられよう。心配せずに思いっきりやるがいい)

 

倒したラフムから、赤く光るマガツヒを吸収する。

それを呼び水にして、背後にある気配から力が流れ込んでくる。

力はどんどん量を増していき、体の内側で荒れ狂う。

 

(まだだ、まだだぞ。(ワレ)の導くとおりにすれば、お前(ワレ)の邪魔をできるものはいなくなる。さあ、見せてやるがよい。ワレワレの圧倒的なこの力を!)

 

大きな力の導きに従い、七星村正を構える。

暴力的なほどの力を秘めたまま、刀を斜め上段に掲げた。

 

「『刮目して見よ。そして、畏れ敬え。人智の及ばぬ力が、ここにあると知れ』」

 

空間を、斬る。

 

その剣閃は、山に流れる小さな川。

大きな山から流れる静かな清流。その流れに沿って、暴力的な力の奔流がほとばしる。それは川というわずかな道を強引に引き裂き、速度を増しながら遙かその先まで押し流していく。

 

「神剣【草那芸乃大刀(くさなぎのたち)】」

 

暴力的な魔力の奔流が、泥に満ちた東京湾の半分近くを洗い流した。

ラフムの群れの大半を押し流し、範囲の中で戦闘をしていたメンバーのほとんどが膝をついている。

草那芸乃大刀(くさなぎのたち)は、味方もまた巻き込んでいた。

 

「やっぱり転生者はしぶとくていいな。死人はいないみたいだし、よかったよかった」

 

「てん?いやいや、なに言ってるの。よくないでしょ。味方を巻き込んだらダメだよ。死人が出てたかもしれないでしょ」

 

「ティアマトの広範囲攻撃に耐えられたんだから大丈夫だろう」

 

紙越さんは心配性だな。

俺の大技に驚いて声も出ない他の人たちよりは、度胸がありそうなのはいいけどね。

 

「伊吹。そんなことよりも、おぬしの体が……」

 

葛葉に言われて自分を見ると、腕が赤く変色していた。大きな魔力を無理矢理に使ったから、魔力経路に負荷がかかりすぎたようだ。

だが不思議と痛みはない。大きな力が、俺を守ってくれているのを感じる。

 

「この程度なら心配ない。ほら、見ていろ」

 

先ほどまでラフムがいた場所から、マガツヒの赤い光が浮かび上がる。それがまとまってビームのように俺へと飛んできた。

マガツヒを片手で受け止めると、傷が修復し魔力も回復していく。

 

「どうだ?これで元通りだろ」

 

むしろ前より強くなった気がする。

あれだけ大量のラフムを倒したのだから、レベルが上がって当然か。

 

「まるで、魔人ではないか。マガツヒを直接吸収するだなんて」

 

「魔人って?」

 

「悪魔の力を手に入れた人間。あるいはそのなれの果てだ。我々としても放っておくことはできん、本当に魔人になっているのならな」

 

「ちがう、あれは魔人じゃない。でも伊吹じゃない」

 

教官たちの会話を、葛葉が否定した。

でもそれは正しくない。俺は、力を手に入れたのだ。

 

「伊吹だよ。(ワレ)は伊吹。邪龍にして龍神、龍神にして破壊神である伊吹大明神が子息。【伊吹童子】である」

 

「【伊吹童子】!?……って何?」

 

仁科さんの質問に、教官が答える。

 

「滋賀と岐阜にまたがる伊吹山に住んでいたとされる鬼だ。酒呑童子の別名と言われてもいる。ヤマタノオロチの縁者ともされていて、だからこそ草那芸乃大刀なぞ使えるのだろう。いやしかし、もしや我々の知識が混ざっているのか?だがどうしてあやつに……」

 

「よく分からないけど、つまりすごく強い悪魔の関係者が伊吹くんにとり憑いてるってことね?だったら、そらを(・・・)お願い」

 

「うん。彼に重なるように、鬼みたいなでっかい人影が見える。乗っ取られているというより、手取り足取り動かされているように見えるよ」

 

そうか、紙越さんにはそう視えているのか。

 

(ぶしつけに視られるというのは、あまりいい気分ではないな)

 

視られていても、ただそれだけだ。何ができるわけでもない。それより今は、ティアマトだ。裏世界とはいえ日本の土地を、異国の悪魔に好き勝手にさせるわけにはいかない。そうだろう?

それに速く倒すほうが、みんなのためになるだろう。

 

(であるな。泥人形も再びわき出してきおった。ならばもう一度、今度は全てを押し流してくれよう。多少肉体が壊れるかもしれないが、なに、心配はいらない。倒せば倒すだけ、より強く生まれ変わらせてやるからな)

 

七星村正を、再び上段に構える。

吸収したマガツヒにより、さっきよりも力が増しているのがわかる。

 

(先ほど、お前(ワレ)はためらっておったな。(ワレ)への不信か、それとも自身の肉体のもろさに臆したか?どちらであっても、今回は心配はないであろう。(ワレ)の力を存分に使うがよいぞ)

 

分かっているとも。

もっと力強く、もっと多く。すべて全部を押し流す力を。

俺が全部を終わらせてやる。

 

「『恐れ、敬え。これこそが暴威の顕現』」

 

「ダメ。そんな力を使ったら、今度こそあなたが壊れてしまう!聞いて、やめて、伊吹!伊吹雄利(いぶきかつとし)!!」

 

葛葉が抱きついてきた。

伊吹雄利。

 

……そう、そうだった、俺は伊吹童子じゃない。伊吹雄利だ。

 

(邪魔な小娘め。お前(ワレ)よ気にするな。ワレワレの邪魔をするものなど要らぬ。そのままもろとも流し去ってしまえ)

 

葛葉を?それはダメだ。できない。

 

(このままでは内に貯めた力が暴れ回り、お前(ワレ)の方が壊れてしまうぞ。それでいいのか?些末ごとなど気にするな。全てを流すのだ)

 

些末ごとはどっちだ。俺がどうなったとしても、葛葉は守らなければ……!

 

「仁科さん!紙越さん!雄利を、お願い!!」

 

「まかせて!とりこ、ここをつかんで、思いっきり引っ張って!」

 

「おっけー。ええい、彼を離しなさい!」

 

(な、なんだこやつらは!ええい、やめよ。なにをする!)

 

仁科さんの透明な左手が、俺の顔の横の何かを引っ張る。

 

急に、視界が開けた気がした。まるで今まで目を塞いでいたものが取り除かれたかのようだ。

それとともに、体中に燃えるような痛みを感じる。内側で荒れ狂う力が、出口を探しているのだ。

だがこのまま技を放っては、葛葉だけでなくみんなを巻き込んでしまう。

ラフムと戦っている人たちも、ティアマトと戦っている霊視ニキたちも。

 

なら、俺はどうすればいい。

 

お前(ワレ)よ、(ワレ)に任せよ。その力を出し尽くせば、お前(ワレ)は助かるぞ)

 

そうだ、お前の力を貸せ、伊吹童子。元々がお前の力なのだから、お前なら制御できるだろう。

 

(ワレ)は暴れ回る力の具現ぞ。それを制御しようなど烏滸(おこ)がましいにもほどがある)

 

そんな荒ぶる大自然の摂理であっても、みんなの知恵と力を合わせて制御してきたのが人の歴史だ。

おとなしく、俺の言うことをききやがれ!

 

「みんな頼む。そのまま俺を抑えていてくれ。この力を制御しながらぶっ放す」

 

「雄利、正気に戻れた!?」

 

「ありがとよ。お前の声、届いたぞ」

 

「どうでもいいから早くやっちゃって!」

「この体勢かなり辛いんだから!」

 

「了解。さあいくぜ、これが俺たち、人の力だ。【草那芸乃――】」

 

狙いを慎重につける。

押し流すのはラフムのみ。少しくらい取り逃しても、味方が絶対に倒してくれる。

有り余る残りの力は、全てティアマトにぶつけてやる。

 

「【――太刀】!」

 

振り抜いた太刀筋の通りに、留められていた魔力があふれ出す。

力の奔流はその筋をすぐに外れて暴れようとするが、これに負けるわけにはいかない。

伊吹童子の力を、全てここで使い切らせてやる。

 

(くっ、人が、神を、好きにしようというのか!)

 

神は人の発明だろうが!さあ、俺に、従え!

 

体からミシミシと音が聞こえ、手が壊れそうなくらいの痛みを感じる。でも、いま踏ん張らないでいつやるんだ。

 

「――ぉらあっ!」

 

暴れようとする流れを、時に抑えつけ、時に利用してラフムだけを飲み込ませる。

力の奔流は東京湾を縦横無尽に走り回り、空間を大きく揺らす。

 

(我が生け贄ごときが、小癪なり。(ワレ)の力を制御しきるなどとは。お前(ワレ)(ワレ)のものにならぬと言うのなら、(ワレ)もまた力の全てをくれてはやらぬ。働いた分の報酬は、もらっていくぞ)

 

不意に、体から力が抜けた。

俺に憑いていた力の半分以上が、【草那芸乃大刀】の流れにのって出て行った。

 

俺の制御から外れてしまったが、奔流の終着点はもうすぐ目の前だ。

東京湾にそびえ立つティアマト、その巨体にとぐろを巻くように絡みつき、その首元にかみついた。

 

『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!』

 

ティアマトの叫びが響き渡る。

二度目の氷の波が、ティアマトから発せられた。

 

『ミナサン、アブナイ!』

 

変身したAP-1が、壁になって俺たちをかばう。

威力を大きく減らしてくれたおかげで、俺たちのダメージはわずかで済んだ。

 

そのすぐ後、ティアマトから光の柱が吹き上がる。

霊視ニキたちが、トドメをさしたのだろう。

ティアマトは慟哭を響かせながら、ただの泥へと還っていった。

 

「終わったみたいだな」

 

「雄利が、生きててよかった」

 

葛葉が、抱きついた腕に力を込めてくる。だいぶ心配させてしまったようだ。

 

「私たちは離れた方がよさそうね」

 

「仁科さんも紙越さんも、ありがとうございました。二人がいなければ、あいつを抑えられなかったかもしれません」

 

「ホント、びっくりさせられっぱなしだった。でも、キミたちならきっと二人だけでもなんとかなってたと思う。私たちは、その手伝いをしただけ」

 

「そうそう、きっと大丈夫だったって」

 

「AP-1も、守ってくれてありがとうな」

 

『オヤクニタツノガ、ワタシノシゴトデス』

 

さすが耐性盛り盛りのロボット型式神だ。俺たちをかばっても、HPにまだ余裕があるらしい。

 

「私たちよりも、自分のことを気にした方がいいんじゃない?両腕がまた赤くはれちゃってるよ」

 

「そうですね、実はかなり痛いです。早く戻って治療したいです」

 

「おっけー。じゃあAP-1、車に戻って」

 

「いえ、その前にまだやることがあるみたいです」

 

話をする俺たちの目の前で、泥がうごめいた。

泥がゆっくりと盛り上がり、それはすぐに背の高い人の形をとった。

 

「げっ。こいつはまさか、伊吹童子!?」

 

「え、この人が伊吹くんにとり憑いていたの?おっきな女性に見えるけど、本物??幽霊じゃないよね」

 

紙越さんたちが距離を取って身構えるが、その必要はないと手で制した。

 

(ワレ)を放っておいて仲良く話をしているとは、ずいぶんと余裕だな。それとも(ワレ)の相手などする必要がないと?』

 

「まあ、そんなところだ。お前は俺の中に霊基を残してくれた。つまり、なんだかんだ言っても俺を守ってくれる気があるってことだろ?なら、心配する必要なんてないさ」

 

『それが契約というものだからな。ああ、まったく忌々しい。せっかくよい生け贄を見つけたと思ったのに、依り代にもできず、顕界にも失敗するとは』

 

伊吹童子の形が一瞬くずれ、すぐに形を取りなおす。だが細部になるほど安定せずに、曖昧な泥に戻ろうとしている。

『顕界にも失敗した』って言っているし、何か問題が起きているようだ。

 

「ティアマトを倒して、その霊基を手に入れたんじゃないのか?それとも貢献度が少なくて、思ったほど経験値をもらえなかったとか」

 

『そんなことではない。これはティアマトの残した呪いのせいだ。ヤツは、自分を倒したものを殺す呪いを用意しておった。おかげでこの(ワシ)はもうすぐ消える。忌々しい。何もかもがうまくいかぬ』

 

そういえばそんな呪いがあったなあ。

この伊吹童子はティアマトに攻撃する前に俺から離れていたから、俺は呪われなかったようだ。

もしも離れていなければ、俺はまたカロンと会うことになっていただろう。

すぐに復活できるとはいえ、そんなことをしたら守護霊(ガーディアン)が弱くなってしまう。

 

強い守護霊(ガーディアン)を憑けるには、たくさん悪魔を倒す必要があるのだ。

 

『まあ、よい。この(ワレ)は消えるが、お前(ワレ)の中には(ワレ)がいるのだ。顕界する機会はいずれまた訪れよう』

 

「それは遠慮したいな。ずっと大人しくしていてほしい」

 

『鬼であり、神でもある(ワレ)がヒトの言うことを聞くと思っているのか?笑わせるな。お前(ワレ)が隙を見せたなら、(ワレ)がすぐに乗っ取ってやるから覚悟しておくがよい。せいぜい気をつけることだな』

 

「ああ。お前に乗っ取られないように、鍛錬を続けるよ。じゃあな」

 

伊吹童子はニヤリと笑ったかと思うと、泥の塊に戻ってしまった。

 

こうして、俺にとって初の異界攻略は終わった。

状況についていけてないJD二人と、さっきから俺に抱きついて離れない葛葉を残して。

 

◇◇◇

 

【異界攻略スレ2】

 

789:名無しの実況者

以上で【東京無限樹林】の攻略を終了します。お疲れ様でした!

 

790:名無しの転生者

 

791:名無しの転生者

 

792:名無しの転生者

おつかれー

 

793:名無しの転生者

>>789 乙

 

794:名無しの転生者

よし、死亡者ゼロだから、トトカルチョはもれの勝ちのようだな

 

795:名無しの転生者

>>796 葛葉フレンズが死んでただろ。死亡者1名だぞ忘れんな。

 

796:名無しの転生者

リカーム分を数えないと、だいたいゼロで終わるから当然だよなあ。蘇生班が優秀で助かる

 

797:名無しの転生者

でも葛葉フレンズって、リカームする前に起きたんだろ?気絶してただけじゃないのか?

 

798:名無しの実況者

さっき聞かされたんだが、葛葉フレンズのスキルは【ガーディアンシステム】だったらしい。だから死んでもカロンに復活してもらえるんだと。

んで、刀から出てた『くねくねビーム』はそのガーディアンの専用スキルだったらしい。

 

799:名無しの転生者

>>798 葛葉フレンズずるくない?そんな強いガーディアン、オレも欲しいんですけど 

 

800:名無しの実況者

>>799 でもあいつ、そのガーディアンに体を乗っ取られそうになってたらしいぞ。強くなっても意識を乗っ取られたらダメだろ。

 

801:名無しの転生者

それでも欲しいね!強くなれるんなら何だってやってやるってばよ

 

802:名無しの転生者

謎が解けたわ。さっき神主がマジな顔して出てったけど、きっとそのガーディアンの本霊をしばきに行ったんだな。

 

803:名無しの転生者

神もしばけるとか神主すげえな。

 

804:名無しの転生者

前もそうだけど、日本の神って異界に封印されてるのも多かったじゃん?そいつらが勝手しないようにルール決めた方が良さそうだよな。

 

805:名無しの転生者

>>804 そこら辺は神主がもう決めてるらしいぞ。まだ正式発表されてないだけ

 

806:名無しの転生者

>>805 はえー、さすが神主

 

807:名無しの実況者

話を戻すぞ。

今回の件で、東京の異界は大幅に縮小して残すことになった。理由は大結界の維持にやっぱり異界が必要ってことになったからとか。

 

808:名無しの転生者

>>807 残すのかよ。さすが根願寺。素早い手のひら返しだ。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね

 

809:名無しの転生者

今回の件で懲りて、次はしっかり管理してくれるといいけどな。

またティアマトみたいなのが来たら困るし

 

810:名無しの周回転生者

>>807 ホントふざけんなよ根願寺!俺があれだけ説明したのに、あっさり手のひら返しやがって!絶許!!

 

811:名無しの転生者

>>810 周回ニキおっすおっす。だいぶ吹き上がってるけど、異界残しとくとそんなにヤバいん?

 

812:名無しの周回転生者

>>811 ヤバいというか、大結界が残ってると引きこもりすぎて対応が遅れる。

わかりやすく例えるとドジョウの地獄煮だな。

 

周辺国家がヤバくなっても、日本は【俺たち】である程度守れる。だが政府は根願寺の大結界があるからだって勘違いして【俺たち】への支援や外国との交渉が遅れるんだ。

その結果、大結界が壊れる時に大騒動になる。

 

今のうちから大結界がなくなれば切羽詰まった状況をしっかり認識してくれるから、終末期への移行がスムーズになる。

 

813:名無しの転生者

>>812 でも終末が遅くなる方がよくなくない?

 

814:名無しの転生者

>>813 お前って夏休みの宿題最後までやらないタイプだろ。

 

815:名無しの転生者

新学期はイヤでも来るんだよなあ

 

816:名無しの転生者

一年中休みだったらいいのに!……いや、ダメだな。それは前世で懲りてるからわかる

 

817:名無しの転生者

せっかく異界攻略したんだからもっと楽しい話しようぜ。なんかない?

 

818:名無しの実況者

今回の異界は稼ぎやすかったから、参加者のレベルは軒並みアップしてる模様。

素材もマグネタイトもウハウハだから、制作班は仕事が増えそうだぞ。やったね!

 

819:名無しの転生者

>>818 やめろォ!またデスマーチが始まるってのかよ!

 

820:名無しの転生者

>>818 マジか。せっかく作った装備がステータス制限とかで売れずに倉庫圧迫してたから、需要が増えてくれるのは助かるラスカル

 

821:名無しの転生者

>>820 その装備ってひょっとしてハイレグアーマーとかだったりする?ストアページでずっとセールしてたりするアレ。買うヤツおるん?

 

822:名無しの転生者

>>821 買う人いるもん!式神に装備させたりして喜んでるひといるもん!

 

823:名無しの転生者

需要が限定的すぎて草w

 

824:名無しの転生者

草に草はやすなwww

 

825:名無しの転生者

大天使のブラもあるぞ

 

826:名無しの転生者

>>825 そういうことじゃないんだよなあ




【邪龍:伊吹童子】

氷結無効 呪殺無効 身体異常弱点
マガツヒスキル【神剣 草那芸乃太刀】超広範囲に万能属性の大威力の攻撃。反動で大ダメージ。現在は使用不能。

本来は高レベルのため伊吹はまだ合わないはずだった。
だが条件が合致しすぎていたので本霊の方が伊吹を選んだ。

日本の、邪龍が出やすい異界で、水害によって死んだ、「伊吹」と呼ばれる人間。コレもう自分に捧げられた生け贄で間違いないよね!ということ。

守護霊という縁から力を送り込み加護を盛り盛りする。そして受肉するための器にしてしまおうと考えていた。うーん、この邪龍思考。

本人が言っていたとおり、龍神・鬼神・破壊神などの種族適性があるが、場に合わせて邪龍が選ばれた。
他の種族だったらそれによって性質が変わるが、結果はあまり変わらない。伊吹童子だし。


ティアマトがHP25%で【母なる大地】を使ったが、草那芸乃太刀によりラフムがほぼ倒されていたので、ほとんど回復できなかった。
そこに攻撃を畳み掛けて無事討伐。という流れ。


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大切なことの前準備

異界攻略を終え治療のために【アサイラム】の病院へ運ばれた俺は、そのまま隔離入院させられていた。

 

「理由はもちろん、【伊吹童子】との縁を薄くして魔人にならないようにするためさ。本霊の方は神主がやってくれてるらしいけど、こちらでもできる限りのことはしておきたいからね」

 

病人のような顔色をした医者が言うには、肉体的な傷の治りは常人よりかなり早くなっているらしい。それがまさに魔人になりかけていた証拠であり、しばらくは悪魔との戦闘も厳禁だと言われてしまった。

 

「そしてこれが最も重要なことだけど、しばらくは名字で呼ばれちゃダメだよ。分かっているとは思うけど、『名前』は最も原始的な魔術の一つだ。キミは名字で呼ばれるだけで、かの鬼に近づきやすくなっている。えっ、邪龍?まあ、どっちでも同じ事だよ。だからここにいる間はキミは【葛葉フレンズ】だし、そう呼ぶから。いいね?葛葉フレンズ」

 

「わかりました。ちなみに、退院した後は普通に呼ばれて大丈夫ですか?」

 

「そこまで時間が経てば問題ないよ。本霊の方には神主が話をつけてくれてる。学校が再開する頃になれば、普通に過ごして大丈夫さ」

 

それを聞けて安心した。

さすがに学校でまで【葛葉フレンズ】と呼ばれるわけにはいかないだろう。

 

その他の細かな検査結果を聞いてから病室に戻ると、ベッド横のテーブルに手紙が置いてあった。

開くと中から、小型の通信用式神が出てきた。

 

『やあ葛葉フレンズ、調子はどうかな?』

 

「神主さんお疲れ様です。色々とご面倒をおかけして申し訳ありません」

 

『仕方ないさ。さすがの僕でもガーディアンが乗っ取ろうとしてくるとは予想できなかったからね。本霊の方はアマ公にもしっかりと頼んでおいたから、もう向こうから浸食してくることはないはずだ。今はドクターの言うことを聞いておくようにね』

 

マンガの一反木綿のような紙人形が、神社で忙しく働いているはずの神主の声を届けてくる。

 

『前置きはこのくらいにして、本題に入ろう。まず、キミの【黒札】への昇格が決まった。封筒に入っているから確認してみてくれ』

 

神主の言うとおり封筒を確かめると、黒いカードが入っていた。

 

「俺がもう黒札をもらっていいんですか?まだレベル30になってませんよ」

 

『僕としては、【黒札】は転生者のみんなに渡したいくらいなんだ。でも非転生者も組織に組み込む事を考えると、優遇しすぎるのはマズいって言われてね。対外的にはレベルも査定基準に入れてるんだ。でも基準のひとつだから、やる夫くんみたいに貢献度が高ければレベルが全然足りなくても黒札を渡している場合もあるよ』

 

たしかに色白の貧弱ペルソナ使いの幹部がいたなあ。

直接話をしてはいないが、周囲の人たちが「前線は自分たちががんばるから、やる夫さんは事務作業に徹して欲しい」って力説してたっけ。

 

『続いてだけど、キミの七星村正は本格的に鍛え直すことになったから。負担をかけすぎたみたいで、修復のために素材とマッカが必要になったけど、異界討伐の報酬から引いておくから』

 

「え”っ、マジですか」

 

七星村正は俺の大事なメインウェポンだから修復は最優先にするべきだけど、報酬が減るのはちょっと痛い。

 

「別な素材で代用とかできないですかね?俺の血とか髪の毛とかも素材にできたりは……」

 

『もちろん診断に使ったキミの血も、有効的に活用させてもらうよ。その上で足りない部分をマッカで補う感じかな。そのぶん性能は高くなることは保証するって、ムラマサが張り切ってたよ』

 

ムラマサさんがそう言うなら、間違いなく強くなって戻ってくるだろう。

仕方ないから、この先の出費が少なくなることを祈っておこう。

 

『おっと、もうこんな時間か。僕からの連絡は以上だ。これから大変だと思うけど、頑張ってね』

 

通信用の式神は小さく折りたたまれていき、小指の先ほどになったところで燃えて消えた。

 

「ついに俺も【黒札】か。思ったよりも早かったな」

 

報酬が減るのは痛かったが、それも七星村正の強化のためと思えば諦めもつく。

それより、【黒札】がもらえたことがすごくうれしい。

組織の中で評価された証でもあるし、買えるアイテムが増えたり、割引をしてもらえたりと特典がものすごく大きい。

 

ベッドの上で黒札を眺めていたら、病室の扉が開いた。

 

「よう、お見舞いにきたぞ。オレがいなくて退屈だったろ」

 

「パンダ先輩?お見舞いに来てくれたんですか」

 

「それはついでだな。今日は重要な相談があって来たんだ。まあ、座れよ」

 

「座れもなにも俺のベッドなんですけどね」

 

とりあえずベッドの上であぐらをかく。

パンダ先輩はベッド横の引き出し式テーブルを出すと、そこにノートパソコンを置いた。

 

「それでは第一回、葛葉フレンズのデート対策会議を始めます。はい拍手ー」

 

『ガヤお:パチパチパチパチ

 その太:88888888

 モブノブ:ドンドンパフパフ』

 

ノートパソコンの画面では、何人ものコメントが下から上へと流れていた。

 

「えっ、何ですかコレは」

 

「いま言っただろ、葛葉フレンズのデートプランについてみんなで話そうってことになったんだ。オレたちの声は向こうに届いてる。いわゆるネットラジオ配信だな」

 

「いきなり何を言ってるんですか。ワケわからないんですけど」

 

「まあ耳を貸しなさい若人よ」

 

パンダ先輩が肩を組んで耳に口を寄せてきた。

 

「お前、異界討伐の最後で味方に大技ブッパしてきたろ。もちろん分かってる。悪魔に乗っ取られかけてて、お前の意思じゃなかった。それはみんな百も承知だ。だが、『仕方ないね』で済む話でもないことはわかるだろ?」

 

パンダ先輩の言うとおり、俺は伊吹童子に乗っ取られかけた時に、ラフムの群れを倒すための大技に味方を巻き込んでいた。

迷惑をかけたのだから謝るべきだと分かっていたのだが、急な入院でそのタイミングを逃がしていたとも思っていた。

 

「そうですね。はい、その節はすいませんでした。後でみなさんに【宝玉メロン】でも贈ろうかと考えてたんですけど」

 

「異界討伐の参加者全員分はさすがに金がかかりすぎるだろ。かといって攻撃に巻き込んだ人だけだと不公平だと言うヤツが出てきて角が立つ。だから今回の会議は、その代替案というわけだ」

 

「それは有り難いんですけど、結局みんな俺をからかいたいだけなのでは?」

 

「当然だろ。ちなみに、あの件で一番キレてるのはモードレッドだからな?お前の大技でトドメを取られたから、一発ぶん殴るって言って霊視ニキに止められてたからな」

 

レベル30超え(たぶん40以上ある)の式神にぶん殴られるなんて、冗談じゃない。またカロンに会うことになってしまう。

ここは無駄な抵抗をせずに、道化になるしかないだろう。

 

「すいませんでした。みなさんご協力よろしくお願いします」

 

『がやお:まかせろまかせろー バリバリバリー

 霊視:うちの式神が五月蠅いから早く始めてくれ

 その太:今回は霊視ニキも参戦か。婚約者持ちだから貴重な意見が聞けそう

 モブノブ:霊視ニキまだ結婚しとらんかったんか

 霊視:俺の話は別でやれ。ここは葛葉フレンズの話をする枠だ』

 

うやむやにもなってくれなさそうだ。

 

「じゃあ司会はオレことパンダがやっていくぞ。まずは現状の確認からだ。というわけで葛葉フレンズ。いま葛葉ちゃんとどこまで行ってんの?」

 

「いきなり直接すぎやしませんかね。とりあえず、異界攻略の時に『後で告るから』的な予告をしてます」

 

「ほほう、具体的には?」

 

「具体的も何もありませんよ。あの時はボス戦前だったし、詳しい話とかしてる場合じゃなかったし」

 

「つまりデートプランも何も考えていなかったと。みんな聞いたよな。これどう思う?」

 

『がやお:ダメだな

 モブノブ:0点

 その太:告るならシチュエーションとか雰囲気が大事だってばっちゃが言ってた』

 

「ほら、みんなこう言ってるぞ。やっぱり告るならデートして雰囲気を作ってからがいいんだ」

 

「ぐっ」

 

恋愛弱者なので、何も言い返せない。

前世での青春とか遙か昔すぎて何も思い出せない。ただ、若さと勢いだけで突っ走って手ひどい失敗をした覚えだけはある。

 

そうか、あの経験がおぼろ気ながら残っているせいで、今もビビっているのかもしれない。

 

「デート、必要ですか」

 

「もちろんだな。オレの経験からすると、飯でも菓子でもいいから物を食ってからの方が成功しやすい」

 

『がやお:パンダが人間の恋愛を語れるのかよ

 モブノブ:さすが中身イケメンの恋愛強者パンダさんだ

 霊視:デートプランについてはオレもパンダの意見を参考にさせてもらった

 がやお:パンダもしかして有能か?』

 

「まあな。オレのブログに必勝デートプラン書いてあるから、オマエラもしっかり読んで勉強しとけよ」

 

『その太:必要になったら読みにいきます

 がやお:俺たちにそれが必要になる時が来ると?

 モブノブ:その前に女子に好かれるにはどうしたらいいですかね?』

 

「女子に好かれたいなら、まずは風呂入って身だしなみ整えろ。服装についてはファッション雑誌を参考にしろ。少なくとも上から下まで真似しておけば、逃げずに話を聞いてくれる割合が増えるはずだ。後はオマエラ次第だな」

 

『がやお:顔はどうやってもマネできないけどなw

 モブノブ:声をかける段階でつまづいてるんだよなあ

 その太:シュートしないと一生ゴールできないんだぞ』

 

「オマエラの話は置いといて、今は葛葉フレンズの話だ。まずはスペックから説明してもらおうか」

 

「お互い高二のクラスメイトですね。葛葉は小柄で銀髪のハーフっぽい感じ。ただ葛葉家なんで、ガチガチの旧霊能系一族です。華道茶道とかお稽古事は一通りやってたらしいです。外国語を話せるわけじゃないし、運動は得意じゃないみたいです」

 

「えーと『誕生日は?』だってよ」

 

「葛葉は冬生まれらしいです。俺は……いらない?そうですか」

 

そういう対応されると思ってた。

パンダ先輩も当然のごとくスルーして進めていく。

 

「それじゃあ本題に入るけど、今まで一回もデートしてないわけじゃないだろ。それを元にして、何か案を出せるんじゃないか?」

 

一緒に事件を解決したのはデートに入るだろうか。入らないだろうなあ。

でも話をする中で、興味を引きそうな話題がいくつかあったのは覚えている。

 

「飯ですかね。普段が和食ばっかりらしくて、パスタとかクレープだとかそういうのをいつか食べてみたいって言ってました」

 

「ふんふん、それで?」

 

「えっ?あとは……服ですかね。普通の女の子が着るような普段着が少ないみたいな事も言ってました」

 

「なるほどオシャレと食事か。それだけでも悪くないが、他に何かあってもいいな。みんなの意見はどうだ?」

 

『がやお:やっぱデートといえば映画だな。恋愛もの観せときゃいいだろ

 その太:プールとか海とか?でも今は時期じゃないか

 モブノブ:今はゲーセンデートもありでしょ

 がやお:そういえば霊視ニキはどんなデートしたんだよ

 霊視:異界でレベリングを手伝ったな

 その太:それはデートと言えるのか?

 モブノブ:霊視ニキも俺らの仲間だからしかたないね

 がやお:はー、つっかえ

 霊視:(♯^〆^)ビキビキ』

 

「好みのジャンルが分かっているなら映画はアリだな。葛葉ちゃんはそこんとこどうなの?」

 

「映画は食いつき悪かったですね。クラシックコンサートの方がまだ興味ありそうでした。女子同士の会話を近くで聞いてた感じですけど」

 

「まあ、いちおう候補に入れておこうか。共通の話題を作るのは重要だからな。他には……『いっしょに運動するとかどうでしょう』か」

 

「葛葉は運動得意じゃないって言ってましたね。でも、街中を歩くだけでも楽しそうでしたね。うーん、神社巡りとか提案してみようかなあ」

 

「それは別な機会にやってくれ、オレたちがつまらないからな。それよりももっとデートらしいデートを企画すべきだろ。今はそういう話をしているんだからな」

 

そういやこの人たちは、俺を肴にして(からかって)楽しむのが目的だったな。

あまりにもヤバい提案してきたら、テキトーに誤魔化して乗り切った方がいいかもしれない。

 

「他にアイデアはあるか?オマエラもっと妄想力を高めていこうぜ」

 

『モブノブ:遊園地とかどうでしょう

 その太:そうだTDLに行こう!

 がやお:ジェットコースターとお化け屋敷は外せないな』

 

「遊園地はダメですね。近くを通るだけでイヤな顔してました。たぶん何かあると思うんで、デートには一番向かないでしょう」

 

『モブノブ:Oh、マジかあ

 がやお:遊園地がダメとか家庭に問題あるんじゃね

 その太:一番の安牌が無くなったか』

 

「その理由とか掘り下げなかったのか?付き合うならいずれちゃんと聞いておいた方がいいぞ」

 

「あいつ、両親いないみたいなんですよ。お婆さんと暮らしてるらしいんですけど、たぶん普通の家族みたいなのに憧れがあるんじゃないですかね」

 

「そりゃあ聞きづらいな。でもそこら辺をしっかり受け止めてやるのも大事だからな。茶化さずにしっかり聞いてやれよ。マジで」

 

「了解です」

 

パンダ先輩が真剣なトーンで

急に重い話をされたら、笑って誤魔化す自信がある。パンダ先輩に言われてなかったら、絶対にそうしていただろう。

さらっと終わるならいいんだけど、ずっと重い空気が続くのに耐えられるメンタルを持ってない。

 

「よし、じゃあ話を戻して、他の案を検討しよう」

 

『その太:異議無し

 モブノブ:せやな』

 

その後もいろいろな意見が出た。

自分一人ではここまで思いつかなかった。というか、告白前にデートして雰囲気を作るってことすら考えていなかった。

半分以上がノリとはいえ、面白いことが大好きなヤツらがいてくれて有り難いと思えた。

 

「だいたいこんなもんだろ。今まで出た意見から考えてみた結果、葛葉フレンズ向けのデートコースは……」

 

『その太:どんなのになるんだろうなあ。自分じゃないのにドキドキする

 がやお:ドコドコドコドコ(ドラムロール)

 モブノブ:スリザリンはイヤだスリザリンはイヤだ』

 

「ジュネスゴールデンモール巡り!これで間違いない!!」

 

パンダが力強く宣言した。

 

「ジュネスゴールデンモール巡り?」

 

「そうだ。ジュネスゴールデンモールはジュネスデパートが中心になった集合商業施設で、敷地面積は25万m²もある。ここでなら大体のものは揃うし、何より一日かけても回りきるのが難しい。映画館はもちろんのこと、ゲーセンや運動場もあってデートにももってこいだ。カフェやお菓子の店が各地にあるし、中心には大きなフードコートもある。ここなら好きな所を選べるし、次のデートの予定も立てられる。まさに活動的な学生向けのデートスポットと言えるだろうな」

 

「説得力のある案が出てきましたね。マジすごいです。いいですね」

 

「だろう?」

 

パンダ先輩のどや顔も、これなら当然のこととして受け入れることができる。

 

「だいたいの流れはこうだ。まず歩きながらウィンドウショッピングして、フードコードで昼飯。その後に話題が無ければ映画で時間を稼ぐ。話が続くんならカフェで盛り上がってもいいな。んで、その後に食べ歩きしながら夕日の見える屋上に行ってそこで告白。以上」

 

「かなりざっくりですね。細かい部分はどうしたらいいんですか?」

 

「そこら辺はお前が自分で考えるんだよ。まあ今はリスナーがいるから、話し合って決めてもいいだろう。でもきっちり決めすぎるとフレキシブルな対応ができなくなるから気をつけろ。何が起こってもおかしくないと思っておいた方がいいぞ」

 

『その太:デート中に悪魔が乱入してくるとか?

 モブノブ:悪魔が乱入したら華麗に倒して『さすオレ』を実現できるのでは?

 がやお:妄想乙』

 

「野良のガイア教徒か過激派メシア教徒が来る可能性もあるな。それくらいのトラブルはあってもおかしくないと思っておけよ」

 

『霊視:いまメシア教って言ったか?

 その太:メシア教ぜったいに●すマンは座っててもろて』

 

デートプランとか考えたことなかったから、こういうのはマジ助かるな。

歴戦のパンダ先輩の立ててくれたプランなのだから、信頼性は高いだろう。

 

「そうすると、話を続ける自信がないから映画を決めときたいですね。今って何か面白いのやってます?」

 

『モブノブ:ヒーローズ戦記

 がやお:とりあえず恋愛ものにしときゃいいだろ

 その太:キリングシャークトルネードクラッシュ

 モブノブ:サメだ!サメがいるぞ!!

 がやお:サメ増えすぎだろいい加減にしろ』

 

「これ参考になります?」

 

「やめといた方がいいと思うぞ」

 

そんなこんながありつつも、デートプランは組み上がっていった。



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密着!(みんなが見ていることは)秘密のデート!!

ワクチン3回目の副反応でダウンしてました。申し訳ない。


【葛葉フレンズのデート実況配信】

 

画面の前の皆様こんにちは!

本日は【ピーピンの覗き見チャンネル】にいらしていただき、まことにありがとうございます。

本日の配信内容は、タイトルの通りとなっております。

皆様ゆっくりしていってくださいね!

 

予定よりも少々早い配信開始で皆様とまどっておられるようですが、実は葛葉フレンズが待ち合わせの30分前から待機しております。

まあ張り切りすぎてる様子を撮影することができて、面白いからワタシ的にはオッケーです。

 

ではさっそくですが、葛葉フレンズのファッションチェックから始めましょう。

ジャケットにジーンズ、そして斜めの肩掛けカバン。ファッション誌から丸パクりしたのがよく分かりますね。

 

えっ?『ちゃんとパンダのアドバイスを活かしているな』ですか。なるほど、あれは先人の知恵のおかげなんですね。

皆様はおおむね好印象なようなので、これ以上のコメントは控えましょう。ワタシが炎上しそうなので。

 

さてさて、そんな話をしている間に、約束の時間まであと10分少々となりました。果たしてお相手は時間通りに来てくれるでしょうか。

皆様は、デートの待ち合わせは何分くらいまでなら遅刻は許しますか?もしくは遅刻したことがありますか?

男の度量が試されるとか、男をじらすべきだとか、それぞれ意見はあるでしょう。ですが遅刻はどれだけ相手をナメているか、相手にナメられているかを計る基準だと個人的には思っております。

一回二回なら許せても、次は無いぞと声を大にして言いたい。

 

おっと?そんな話をしていたら現場に動きがありました。

なにやら普通にカワイイ女子が、葛葉フレンズに声をかけております。

葛葉ちゃんは、普段は和服か学生服を着ているとの情報がありますので、別人による逆ナンでしょうか?

葛葉フレンズも戸惑っています。

では声をひろってみましょう。

 

「えっ、葛葉!?いつもと印象が全然違うからビックリしたよ」

 

「紙越さんと仁科さんに頼んで、一緒に選んでもらったのじゃ。変じゃないかのう?」

 

「すごく似合ってるよ。……テレビとかに出てそうだ」

 

「ありがとう」

 

なんと彼女こそが葛葉ちゃんだった!

フレンズが褒め慣れていないことがよく分かるコメントだが、言いたいことは分かります。そのままテレビドラマに登場しても違和感がない可愛いコーディネートだ。アイドル事務所にスカウトされてもおかしくない!

 

ご視聴中のプロデューサー諸氏、どうですか?え?『アイドルは恋愛禁止だから』だって?

いいじゃないですか、彼氏持ちのアイドルがいたって。

ちょっ、石を投げないでください!すいません失言でした。

 

気を取りなおして実況に戻ります。

本日の目的地は、ジュネスゴールデンモール。移動方法は電車であり、予定より早く来たため待機時間が長くなりますが……、話が盛り上がってて問題なさそうですね。

そろそろ駅の中に移動し始めたほうがいいんじゃないかと、ワタシの方が気になりはじめてきました。

 

「そろそろ電車来るし、行こうか」

 

「うむ、そうしようか雄利(かつとし)さん」

 

「ぐっ」

 

おおっと!?不意の名前呼びでフレンズがぐらついた!これはクリティカルヒットしたか!?

 

初見の方に解説しますと、葛葉フレンズはとある事情により、名字で呼ばれることを禁止されていました。

現在は解禁されているはずですが、果たして葛葉フレンズはどう対応するのか?

 

「大丈夫、行こう、小夜ちゃん」

 

「はい」

 

ああっと!否定せずにそのまま名前呼びで返した!

これにはコメント欄も大騒ぎであります。

 

微笑ましい

お前ら付き合いたての中学生か

爆発しろ

 

ですよねー。ワタシもそう思います。

コメントの流れが早くて追い切れないですね。

二人はそのまま駅へと入って行きます。ワタシもこれから追っていきたいと思います。

それではここで一旦CMです!

 

…………

 

(数時間後)

 

…………

 

うーん、楽しそう。実に楽しそうですねえ。あまりにも幸せそうなデートすぎて、一部の皆様のヘイトが高まっているご様子ですね。

そんな皆様に耳寄りな情報です。ゴールデンモール横の未整備地区で不法ガイア教一派の【電波感謝協会】が非合法儀式の準備を始めているようです。

壁よりも殴りがいのある相手の出現が予想されますので、どうぞ奮ってご参加ください。

 

それ以外の方は引き続きチャンネルをご視聴ください。

 

さてさて葛葉フレンズは、次はどうやらゲームセンターに向かうようです。

 

なんで映画じゃないのか!

ここは映画に決まっているでしょう!?

今ならあの話題作が絶賛上映中なのに、なんで映画を選ばないのか。映画だったなら撮影中に偶然カメラに写っても仕方ないってなるの……ごはぁ!?

 

(大きく揺れる画面。真面目そうな男の顔がドアップで写る)

 

パトくんいきなり何をするんですか。まだワタシは何もしてませんよ?ワタシは与えられた職務を忠実に熟しているだけでありまして……ああ!アームロックはヤメテ!人が、人が見てるから!!

 

唐突なイケメンの出現で草

おい異形頭スキーネキ、コイツらお前の式神だろ、なんとかしろよ

 

ファッ!?このイケメンって式神なの???

 

ピーピンが偵察特化でパトが見破り・捕縛得意のコンビ。元ネタは映画泥棒だな

 

式主の異形頭スキーネキは、このカップルを間近で見るために存在感空気を極めているという変態腐女子筆頭ぶりよ

 

待って意味がわからない

 

つまり「推しの空気になりたい」を実現した変態

 

しかも古参で準幹部級の実力を持ってるらしい。上層部はホント変態ばっかだな

 

言葉の意味はわかるんだけど、今の僕には理解できない

 

お見苦しいところを見せてしまい、大変失礼しました。

皆様は勝手に盛り上がっていただいているようで、ワタシは安心しています。

 

さて気を取りなおして実況に戻りましょう。

葛葉フレンズはちょうど両替を終えたところのようです。

向かう先はメガテンといえばプリクラ……ではなく、その前にあるクレーンゲームのようですね。

葛葉ちゃんが現在プレイ中で、狙っているのはぬいぐるみキーホルダーでしょうか?

 

カードゲームのかわいいモンスターのようですが、葛葉ちゃんはゲームやるんでしょうかね?

失敗続きのようで、ここでフレンズに交代しました。

 

フレンズは躊躇せずに500円玉を複数投入しています。すぐには取れないと宣言しているようなものですが、ある意味いさぎよいですね。

 

予想通りフレンズは苦戦しているようですね。

皆様はクレーンゲームは得意ですか?クレーンゲームにもいろいろな種類がありますよね。

単純にクレーンでつり上げるものや、下に引き下ろすもの。さらには棒で押して落とすものなど、クレーンゲーム要素のないクレーンゲームもありますよね。

 

おっと、そんな話をしているうちに取れたようですね。意外と早かった。

取れたのは二頭身のミイラのようですが、果たして葛葉ちゃんの反応は?

 

……喜んでます!うれしそうだ。

アレが良かったのか。カワイイと言えなくもないですが、独特なセンスしてますね。

 

フレンズはガッツポーズを取っています。

 

オレなら一発で取れた

いくら金をつぎ込んでるんだよザコが

金かけ過ぎだろ

あんなのがいいのか?センス悪いなあ

 

 

ひがみコメ大杉だろw

お金は関係ないでしょう

好きな人が自分のために取ってくれたってのがいいんじゃないかな

だからオマエラはモテないんだぞ

 

 

ヤメロその言葉はオレに効く

それ言われたら戦争しかないだろ

 

 

コメント欄は平常運転のようで、ワタシは安心してます。まさに実家のようですね。

 

ちょうどいいので、今のうちにCMへ行きましょう。

 

◇◇◇

 

【伊吹雄利】

 

俺は葛葉とともにジュネスゴールデンモールへとやってきた。

休日だからか他の客が多いので、はぐれないようにと手を差し出すと、おずおずと握り返された。

 

葛葉も緊張しているのか、指先が冷たくて少し震えている気がする。

すべすべしててやわらかい。

 

にやけそうになるキモい自分を押さえつけて、なんでもない振りをしながら手を引いて進む。

駅からモールの入り口までの途中に何やら配っている人がいるが、ティッシュ配りやら宗教の勧誘っぽかったのでスルーする。

 

モールの入り口をくぐれば、賑やかな店が並ぶ空間が先まで続いているのが見えた。

 

「わあ、すごい」

 

葛葉が小さくつぶやきつつ身を寄せてくる。

早足で奥に向かう人の流れに圧倒されているようなので、店に近づいてゆっくり歩くことにした。

 

「いろんな店があるのう。こんなに物があって、他から無くなったりはしないのじゃろうか」

 

「人がたくさんいるから、物もたくさんあるんだろ。ここは近くに住宅地もあるし、遠くから来る人も多いみたいだしな」

 

「あれは菓子なのか?その隣のは知っておるぞ。むかしお婆さまに買ってもらったやつじゃ」

 

「駄菓子か。懐かしいな。何か買っていくか?」

 

「いや、いい。他にもたくさんあるんじゃろ?そっちを見てみたいからのう」

 

瞳が子供のようにキラキラ輝いている。

一緒にいる俺も楽しい気分になりながら、ゆっくりと店を巡っていった。

 

当初の予定では葛葉の服を見て回るはずだったが、すでに服を買っていたことでその計画はなしになった。

予定が崩れてどうなるかと思ったが、心配はまったく必要なかった。

特に買い物をせずとも話をしながら歩いているだけで楽しい。文字通り飛び上がらないように、浮き足立つ気分をがんばって抑えていた。

 

次に行く場所を複数提案すると、ゲームセンターに興味を示した。ちなみに映画館はやはり乗り気ではなかった。

 

クレーンゲームでミイラをモチーフにした人形を取ってプレゼントすると、花がほころんだような笑顔を見せてくれた。

普段がクールなだけに、この笑顔は破壊力が高すぎる。

デートが始まってからドキドキしっぱなしで、心臓が落ち着くヒマがない。

 

だいぶ時間が経ったので、心臓の休憩をかねて、先日のデート会議の時に決められていた店に行くことにした。

 

「小夜ちゃん、次は俺が行きたい店あるんだ」

 

「もちろんよいぞ。何の店なのじゃ?」

 

「いわゆる武器屋だよ。俺たち専用のカードを見せれば入れるんだ」

 

その店は、見た目は普通のオモチャ屋だった。模型などの箱物が多く並んでいて、客はそれほど多くはない。

店員に【黒札】(ブラックカード)を見せると、待ってましたとばかりに奥へ案内された。

奥の部屋は意外なほど広く、ショーケースの中に様々な武器防具が並べられている。ここにあるのは全体のごく一部で、強力なものはカタログから注文して取り寄せる形式らしい。

 

「保管するためのコストもかかりますからね。店内にあるのは保管しやすい一般流通品か、もしくは所持するのにも制限がかかる扱いづらいものです。たとえば持ち歩くだけで悪魔が寄って来やすくなる黄金の爪とかですね」

 

「そういうものこそ倉庫に閉まっておくべきでは?」

 

「所持していなければ、客寄せになるんですよ、これが」

 

お客様は神様ならぬ悪魔ですってことかな?

今日はネタ武器を見に来たわけではないので、本題をさっさと済ませてもらうことにする。

 

「連絡いただいたものは、向こうの個室にご用意してあります。確認はご本人様だけにしていただきたいので、お連れ様はこちらでお待ちいただければと思います」

 

「わかった。待っておるからな」

 

小さく手を振ってくれたので同じく振り返す。

 

案内された部屋には、いくつもの品物が並べられていた。

そのラインナップを見て、思わずため息が出てしまう。予想できていたとはいえ、ヒドいものばかりだった。

 

お手頃価格の優秀装備   【ハイレグアーマー】

             【にゃん2クロー】

 

高価格だけど高品質高性能 【大天使のブラ】

             【クイーンウィップ】

             【ノルニルリング】

 

超高価格。でも超高性能  【歓喜の寝具】(持ち歩くだけで仲間のHPを回復し続ける)

 

これらは先日のデート会議の後に俺に分からないよう安価で選ばれたものだ。

俺はこの中から葛葉へのプレゼントを選ばなくてはならない。

 

「どれも制作者様が自信を持ってオススメしています。品質保証つきですし、【黒札】割引も効きますよ」

 

「それでもバカ高いですけどね」

 

「それだけの素材と技術が使われていますから」

 

そうなのだ。ネタ臭が強い装備ばかりだが、悪魔との戦闘に役立つのは間違いない。これがゲームの中ならば、金を使い切っても買う価値があるものばかりだ。

 

でも、残念ながらこれは現実である。

俺が、葛葉に、ハイレグアーマーをプレゼントとかできるわけないだろ!加減しろバカ!!

 

 

「パーティーメンバーに配っている人もいますよ?」

 

俺にできないことをやってのける。そこにしびれるしあこがれる。ただしマネはできない。

くり返すが、デートでのプレゼントだぞ。そっちの変態性を押しつけるな。

 

ただ、強制的に指定されたものを買うことにならなくて助かった。

選ぶ余地があるのは救いである。

 

「こちらの【歓喜の寝具】が当店オススメですよ?」

 

「そもそも金が足りません」

 

「そんな!」

 

持ち歩くだけでHP回復するとか超性能すぎるんだよなあ。

ソウルハッカーズの【秘神 カンギテン】の魔晶変化品だったっけ?

そもそも歓喜天は夫婦仲とか子宝に功徳のある神様だったはずだ。これを提案したヤツは俺の困った顔を想像してほくそ笑んでいるに違いない。

 

次の候補は武器だけど、【にゃん2クロー】も【クイーンウィップ】も葛葉が使えるのか疑問である。

使い慣れない武器を渡されても困るだけだろう。

 

だとすれば選択肢は一つしか残らない。

高額ではあるが、今まで稼いだ分があるので問題ない。

これからも一緒に戦うことも考えれば、必要経費と言えるだろう。

 

「じゃあ、コレをお願いします」

 

「はい、承りました!ラッピングはサービスしますね♥」

 

店員はやけに高いテンションでそれを包んでいく。

まともなものだから、からかうためのネタに使われる心配はないと思うのだが?

 

カードで支払いを済ませてプレゼントを受け取り、部屋から出る。

 

「待たせて悪かった。退屈だったろ?」

 

「気にするな。こちらも買いたいものが見つかったから問題ない」

 

葛葉も何かをポーチにしまったようだった。

 

「雄利さんは、新しい刀が見つかったのかや?」

 

「刀?ああ、七星村正は修理に出してるよ。技の反動で刀身までダメージ負ってたけど、ちゃんと直るって言ってもらえたから。今回はそれとは別な買い物だ」

 

そう答えると、さっきまで葛葉の相手をしていた店員が咳払いをした。

何かあったのかなと思ったら、葛葉がおずおずと切り出してきた。

 

「そ、その。それなら、わしから服でも贈らせてもらえぬだろうか。今まで色々と世話になっておるし、せめてもの礼に、それで良ければなのだが」

 

「それなら喜んで」

 

「良かった。こんど葛葉家に来る時用にも、あったほうがいいと思っていたしのう。ではさっそく、採寸を頼もうか」

 

葛葉の言葉で、店員がメジャーを持って素早く寄ってくる。

 

「えっ、そんな本格的なの?既製品でいいんだけど」

 

「お任せください、プロですから。きっと気に入っていただける衣装をバッチリ作成したします」

 

手慣れた対応に抗うこともできずに、あっという間に採寸されてしまった。




葛葉フレンズは、先日の会議+そこでの指令だけだと考えています。
撮影されているのには気づいていません。


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二人の告白

買い物をしているうちに、時間は昼を過ぎていた。

 

「フードコートは人がいっぱいだな。空いてる席を探すのは苦労しそうだ。食事だけなら他の店に行くって手もあるし、テイクアウトできるものを買って外で食べることもできるけど、どうする?」

 

「わし、アレを食べたいのじゃが、持ち出してもよいのじゃろうか?」

 

葛葉が指さしたのは、テイクアウトの王道である【ビッグバンバーガー】だった。

 

「全然問題ないぞ。じゃあアレ買って、中央広場のベンチにでも行こうか」

 

「うむ、そうしよう」

 

レジ前の列に並んでいる間に、何を食べようか話す。

レベルが上がって運動量が増えたからか胃袋が大きくなっているので、コメットバーガーくらい余裕で食べられてしまう。

普段から食事量はバレているので、このくらいは今更だ。

ちなみに葛葉は、普通のバーガーセットだった。

 

バーガーの入った紙袋をかかえて中央広場へ向かおうとすると、中央出口のすぐ外に人だかりができていた。

何かと思って近づくと、子供たちが応援する声が聞こえた。

 

「「「グレートフェザーロボ、がんばえー!」」」

 

『おう、まかせな!』

 

中央広場では、グレートフェザーロボの頭をかぶったフルアーマーのモードレッドが悪魔と戦っていた。

相手は木の葉の体にしめ縄をまとった姿の【国津神 ヒトコトヌシ】である。

 

『こ、これはヒトコトで言えば「ヤバイ」のである!』

 

『せっかく顕現したんだ。もうちょっと気合いを見せてくれよ。なあ!』

 

モードレッドが圧倒的に優勢だ。

あれではどっちが悪役だか分からない。それにしても本物の悪魔を使うなんて、ジュネスが企画したイベントだろうか。

 

周囲を見るとスタッフの腕章をつけた人たちがそこら中にいて、一般人にまぎれて怪しい動きをしている人に声をかけている。

野良ガイア教団が悪いことをしようとして、それを鎮圧がてら突発のショーに仕立て上げたってとこだろう。

 

「のう、アレはどこかで見たことある気がするのじゃが」

 

「そうだな。でも俺たちが手を出す必要はなさそうだ。ここで食事は無理そうだから、他へ行こう」

 

そんなわけでさらに歩き、モールから離れたところにある公園に来た。

人は少なくなったが、ここでなら落ち着いて食事ができそうだ。

 

ベンチに並んで座り、バーガーを取り出す。

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

食べようと包みを開いたところ、葛葉がバーガー相手に両手を合わせたのであわてて俺もそれにならう。

 

あらためてバーガーにかぶりつくと、ジューシーな肉汁が口いっぱいにひろがった。

口の中の肉を噛みながら葛葉を見れば、少しずつ味わいながら食べている。

 

ちょうど目が合ったので、お互いに少し笑ってしまった。

 

「食べ方、変だったかのう」

 

「いや、いいと思うよ。気楽に自由に食べられるのがバーガーのいいところだ」

 

正直に言えば、すごくいい。ちょっとずつ食べるところが特にかわいい。

バーガーの食べ方ですら上品だ。

それに比べて自分は……などと一瞬考えてしまい、慌てて首を振って弱気を飛ばす。

今からヘタレているわけにはいかない。

 

バーガーを食べ終え、そのままとりとめのない話をする。

変に意識をしてしまったせいで、ぎこちなくなっているのが自覚できてしまう。そのせいで会話が思ったほど弾まない。

朝は大丈夫だったのに、なぜだろう。話題のペース配分を間違えたのだろうか。

 

告白のタイミングについて、パンダ先輩の話ではもうちょっと時間が経ってからみたいなことを言っていた。でもこのままの時間が経過して、雰囲気が悪くなったりしないだろうか。

いっそ今すぐ告るべきか?

 

昼食後の気だるい雰囲気を装いつつ、内心でこの後の予定を流れをシミュレートする。

今すぐいくべきなのか、それとももう少し雰囲気を作るべきなのか、それが問題だ。

 

とりあえず話をつなぐためにテキトーな話題を探していると、葛葉の方から声をかけてきた。

 

「ちょっと話をしてよいか?」

 

「ん、なんだい?」

 

「ずっと前から、言いたかったことがあるんじゃが……」

 

改まって切り出されると、つい身構えてしまう。

俺ってば、なにかマズい事をしていなかっただろうか。明らかな失敗はないと思うが、自分では当然と思っていた事でも彼女にとっては眉をしかめるような事だったかもしれない。

いきなりバツを突きつけられることはないと思うけれど。

動揺をとりつくろいながら待っていると、葛葉は数秒ためらった後に言った。

 

「わしは、お主に謝らなければならない。すまなんだ」

 

「えっ、何が?」

 

いったい何を謝られたんだろうか。

 

「そもそもわしがお主に近づいたのは、お主を疑っておったからからなのじゃ。本家からの指令もあったのはその通りじゃ。でも、わしは信じておらなんだ。霊能力のない家系に産まれたものが、いきなり力に目覚めたなどとうてい起こることではない。そう思っていたのじゃ」

 

まあそれは、俺が前世持ちというある意味チートのような存在だったから起こりえたことだ。普通はあり得ないのだから、葛葉の考えは間違っていない。

 

「それにお主が今のように強くなるとも思っておらなんだ。葛葉家の優秀な者たちさえ、今のお主には及ばぬだろう。そしてわしも、お主のおかげでここまで強くなれてしまった」

 

葛葉の手の中で、バーガーの包み紙が凍り付く。それが端から細かく砕け、砂のように崩れた。

その塵を紙袋にまとめつつ、葛葉は言葉を続ける。

 

「謝ることはもうひとつある。お主の所属する【アサイラム】の長である神主、阿頼耶ハオ。彼のことを調べる役目もわしにはあった」

 

「神主を?」

 

あの人は転生者であり、【俺たち】の中でも最強の能力を持っている人外レベルの化け物だ。

でも転生者のことを知らない人は、それ以上の不気味なものを感じているのかもしれない。

 

「あの神主の家系もまた、霊能者としてはごく普通の能力しか持たなかったと聞く。そんな家から規格外の力を持つ者が現れた。お主と同じように」

 

産まれた順番としては神主の方が何年も早いんだけどね。あの人は少年のような見た目だが、実際は三十路のショタオジなんだよなあ。

 

「そしてそれと同じような事例が葛葉家にもあったのだと、御前様が教えてくださった」

 

「同じような事例が?」

 

それはつまり、葛葉家にも転生者がいたということだろうか。

 

「そう、霊能者の家系に突如産まれた天才。それがわしの父親、第十六代目【葛葉ライドウ】じゃ」

 

ファッ!?なんだって???

 

「小夜ちゃんの父親があの(・・)葛葉ライドウ!?」

 

葛葉ライドウと言えば、メガテンシリーズの中のデビルサマナーシリーズで主役を張った名前だ。

ゲームでは十四代目だったが、大正時代の話なので今は十六代目でもおかしくない。いや、代はもうちょっと進んでるべきなのか?なにか理由があるのかもしれないが、俺には分からない。

 

「ライドウの名を知っておるのだな。そうじゃ。かつて大日本帝国と呼ばれていたこの国の守護を担っていた葛葉ライドウ。その名を継いだのはわしの父じゃった。じゃがある日、父は葛葉家から姿を消した。理由はわからぬ。そして16年前のある日に突然現れ、赤子だったわしを預けてまたいなくなったらしい。わしは父のことを知りたかった。父と似た出自を持つ神主、そしてお主。その秘密を知るために、お主に近づいたのじゃ」

 

話を聞く限り、彼女の父親が転生者なのは間違いないだろう。それがどうして葛葉家から出て行ったのか、その理由はわからないが。

 

「それなら俺から、神主に聞いてみるよ。あの人ならその辺のことにも詳しいと思うし」

 

転生者のくだりは理解してもらうのは難しいかもしれないが、出奔の理由や今どこにいるかなどは、転生者の互助会の面がある【アサイラム】には情報が入ってきているはずだ。何より【葛葉ライドウ】というビッグネームが関係しているなら、メガテニストたちも積極的に協力してくれるだろう。

 

「うむ、ありがとう。でもそれは、もうよいのじゃ。お主とお主たちを疑って調べ回るのは

、お互いの信頼を損なうことになる。わしの父とお主たちはきっと関係ない。そもそも、神主の力は最初から葛葉家を超えていたのじゃ。わしの父一人を隠す意味など、どこにもなかったことが知れたしのう」

 

葛葉はベンチに両手をついて頭を下げてきた。

 

「疑ってすまなかった。お主も、お主の組織にも、失礼なことをした」

 

「いいって、頭を上げてくれよ。葛葉の、小夜ちゃんの考えも当然だ。それに、もしかしたら本当に小夜ちゃんのお父さんが【アサイラム】にいるかもしれないし」

 

「じゃが、それは……」

 

「ぜんぜん悪いことじゃないって。親のことを知りたいって思うのは当然だよ。どこにいるか調べるくらい簡単だよ。あっ……」

 

「何か?」

 

「いや、俺たちはそれぞれ偽名というかハンドルネームを使っているから、本名を隠してたら分からないなって。個人情報だからセキュリティーレベルも高いだろうし。神主から本人へメッセージを送ってもらうことくらいできるかな?」

 

「それを言うなら、【ライドウ】も代々継承してきた名じゃ。本名は別にある」

 

「そっか、そのライドウじゃない名前は教えてもらえるかな?」

 

「むろんじゃ。父の名は、【倫太郎】。葛葉倫太郎じゃ」

 

その名前に、やはり俺は心当たりがなかった。

後で掲示板を使って情報を集めることにしよう。

 

…………

 

公園でしばらく過ごした後、俺たちはゴールデンモールに戻ることにした。

そこまで距離があるわけではないが、すぐ近くでもない。

 

川のほとりにオシャレな屋根の東屋(あずまや)があった。

近くにはファンシーな石像があり、川を眺められる景色の良い場所である。

 

その石像が遊んでいる子供のゾウだったからか、プレゼントを選んだ時のことを思い出してしまった。

選んだものはゾウのマークの【歓喜の寝具】ではないが、スレ民の意見はどれを選んでも同じようなものだったろう。

プレゼントの内容どころか、渡し方にも注文をつけてきていたのだから。

 

これ以上時間を引き延ばしても辛いだけだし、ちょうど人気がなくなった今がチャンスかもしれない。

 

急に立ち止まったことを不思議に思ったのか、葛葉が声をかけてきた。

 

「どうしたのじゃ?」

 

「小夜ちゃん、その、俺もいい加減に覚悟を決めようと思って」

 

東屋のイスに荷物を置き、そこからプレゼントを取り出す。

それはあえて外しやすいようにラッピングされていた、小さな箱だった。

 

「あの時は言えなかったけど、今はもう言える。俺はまだ学生だし、偉そうなことは言えないけど、今のこの想いは本当だから、その……」

 

考えてきた台詞が吹き飛んだ!俺は何を言おうとしていた?

 

葛葉は俺の言葉を待っていてくれている。

というか、スレ民の無茶振りが悪いのだ。それぞれプレゼントに応じて言う内容を安価してあるとかバカだろう。しかもそれを買った後に言うとか鬼畜すぎて草も生えない。

仕舞いには店員も「いずれ言うことなら、いつ言っても同じでしょう。それとも他に相手がいるんですか?」とか煽って来やがって。いねえよ、バカ!

 

「俺には、お前しかいない。だからその、受け取ってくれ!」

 

プレゼントの箱を開け、中身を見せる。

それはシンプルなデザインながら神々しさを感じさせる【ノルニルリング】だった。

 

「わしで、よいのか?」

 

葛葉の声が、心なしか震えているような気がする。

 

「お前以外に、渡す相手なんていない。その、学生だから色々とまだ早いから、いま言われても困るかもしれないけど」

 

「困ってなどおらぬ。信じられなくて、現実を受け止めきれてないだけじゃ」

 

「じゃあ、いいってことだよな?」

 

動かない葛葉の左手をいささか強引にとり、薬指に指輪をはめる。

 

スレ民ども!安価はこれで果たしたぞ!

これ見られてたら川に飛び込んででも逃げるんだが?

怒りで恥ずかしさをなんとか誤魔化す。

 

葛葉の目に、うっすらと涙がにじんでいる。それはカワイイというより、綺麗な芸術品のように見える。

 

見つめていると、葛葉が俺の胸に飛び込んできた。

 

「すまぬ、今は、顔を見られたくない。しばしこのままでいさせてくれぬか?」

 

「もちろんだ」

 

涙声で鼻をすすっている音も聞こえるが、些細なことだ。葛葉の手が、俺の服を強くにぎりしめている。

俺も力を入れすぎないよう気をつけながら、葛葉を抱きしめた。

 

…………

 

えんだあああぁぁぁ!

 

     いやあぁぁぁ!

やりやがった!やりやがったよ!

 

 ちくしょうめ!祝ってやる!!!

結婚式の上映プログラムはこれで決まりですね

 

  ヒトコトで言え!

もっと愛を叫べよ!!!

 

葛葉ちゃんのためにも十六代目ライドウこと倫太郎さん出てこいよ!

         お前の娘さんフレンズに取られたぞ。ねえ今どんな気持ち?

 

ちょっとこれからライドウのこと聞きに神主に凸ってくる!

神主これから式神降霊のために岩戸に籠もるって

        逃げやがったなあのショタオジめ

 

ちょっと新しいスレ立ててくる

オレも行くぞ行くぞ



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【終末アサイラム定期報告会スレ】

 

1:運営

みんなー!第n回、定期報告会、はっじまるよー!

 

2:名無しの転生者

>>1 わーい

 

3:名無しの転生者

>>1 わあい(^^

 

4:名無しの転生者

>>1 わあい(^^

 

5:名無しの転生者

>>1 わーい(^^

 

6:名無しの転生者

待ってました!

 

7:名無しの転生者

早く始めろー!

 

8:運営

今期はみなさんのおかげで、様々な成果を得ることができました。

もったいぶってもアレなので、目玉から一気に発表していきます。

まずは皆様おまちかねの、悪魔召喚プログラム入り携帯端末【スマートCOMP】略してCOMPの発売が決定されました!

 

9:名無しの転生者

うおお!待ってました! 

 

10:名無しの転生者

ついにやってくれたな! 

 

11:名無しの転生者

でかした!

 

12:運営

仲魔のストック数はなんと大容量の最大3体。

もちろん既存のアプリも併用できます。

悪魔会話やアナライズ・悪魔全書・マッパー・エネミーインジケータも充実しています。

念のために追記しますが、契約していない悪魔が出てくることはありません。

 

13:名無しの転生者

最大3体は少なくない?

まあそれ以上を管理しきれるかと聞かれたら無理だと言うが。

 

14:名無しの転生者

悪魔合体機能はさすがに無理か。

でもゲームと違って仲魔のレベルも上がりやすいから、合体する意味が薄いんだよなあ。

スキルはカードで付けられるし、なにより愛着がわいてしまう。

 

15:名無しの転生者

>>14 わかる。合体すると概念上は別の悪魔になるから絆レベルも下がってるし、合体後のレベルが自分より高くなったら反逆させるかもだからなあ。

 

16:名無しの転生者

ぼくのピクシーたんを合体させるなんてとんでもない

四属性プラス回復魔法とメギドまで使えるピクシーたんかわいいよ

 

17:名無しの転生者

>>16 ただのヘンタイかと思ったらガチ強ピクシーで引くんだが

 

18:名無しの転生者

>>16 貴殿のピクシー愛に賞賛を送ろう

 

19:名無しの転生者

>>16 仲魔への愛なら負けないぞ!オレのマーメイドをくらえ!

【hppt:/xxx】

 

20:名無しの転生者

>>19 マー……メイド?

 

21:名無しの転生者

>>19 ちょっと妖艶すぎる。どっちかって言うと、これ八百比丘尼じゃね?

 

22:名無しの転生者

>>19 年増尼さん人魚とかこれもうわけわかんねえな?

 

23:名無しの転生者

>>22 おうちょっとオマエ面かせや

 

24:名無しの転生者

ケンカならよそでやってくれ。今は運営からの定期報告会の時間だ。

 

25:運営

続けますよ。

追加のアプリとして【デビルオークション】こと【デビオク】もリリースします。

仲魔にできる悪魔が出品されるので、それをオークション形式で競り落とすことになります。

スキル、耐性も入札前に確認できますので、参考にしてください。

 

26:名無しの転生者

デビオクか。これはますますマッカが足りなくなりそうな予感がするぜ

 

27:名無しの転生者

でも悪魔合体できないならそこまで悪魔の需要は高くないのでは?

所持枠3体ってすぐ埋まりそうなんだが

 

28:名無しの転生者

>>27 こないだ仲魔と円満に契約解除したオレが通りますよっと。

悪魔と一度契約しても、相性が悪かったりで上手くいかない場合は双方の合意があれば契約解除できる。というかそういう文言を入れて契約しとけば安全。

こっち優位でも悪魔優位でもトラブルの元だから、対等な契約にしといた方がいいぞ。

 

29:名無しの転生者

>>28 COMP無しでどうやって契約すんだよ。嘘乙

 

30:名無しの転生者

>>29 そもそもCOMPは既存の儀式を再現するものなんだよなあ。

悪魔会話も悪魔召喚も古代から存在する技術だし、巫女や神官みたいに霊的存在の力を借りれる人もいる。

そういう人に仲介してもらって悪魔と契約するのがデビルサマナーの基本だぞ。

 

31:名無しの転生者

>>30 はえー、しらんかった

デビルサマナーって野良悪魔をスカウトするだけじゃなかったんだ

 

32:名無しの転生者

こないだ捕まえたダークサマナーが、野良悪魔をスカウトするより自前で召還するのが安価で安全だって言ってたぞ

 

33:名無しの転生者

ダークサマナーの言うことは、あんまり信用できないぞ

 

34:名無しの転生者

>>33 それはそう

 

35:名無しの転生者

けっきょく悪魔との契約はどうするのが正しいのか

 

36:運営

その辺の面倒くさいことを肩代わりするためのCOMPでありデビオクです。

COMPなら悪魔との契約時に条件の調整などのサポートもしてくれます。

ぜひ購入をご検討ください。

 

37:名無しの転生者

>>36 これは有能な運営

 

38:名無しの転生者

COMPのためにマッカ貯めるかー

 

39:名無しの転生者

ネコマタちゃんのためにマッカ貯めるかー

 

…………

 

(以下、運営からの連絡と雑談が続く)

 

……

 

122:名無しの転生者

それにしても、このプログラムって軽子坂学園の事件の時のヤツなんだろ?

あれから三ヶ月経ってないのに、もう製造ルート用意できてるのか。

プログラムの方も、セーフティ設定してデバッグするのを考えると、どんなデスマーチを敢行したのか聞くのも恐ろしいんだが。

 

123:運営

>>122 だいたい周回ニキのおかげですね。あの人が神主に重要事項を伝えて、神主が適切なタイミングで製造開発依頼を出したり、事件の調査依頼を出したりしてます。

ハードの準備が整っているので、デスマーチするのはソフトだけで済んでます。済んでいてコレです(白目

 

124:名無しの転生者

>>123 結局デスマーチはあるんですね……(震え声

 

125:名無しの転生者

>>124 当然だよなあ

 

126:名無しの転生者

>>123 周回ニキ、チートすぎない?

 

127:名無しの転生者

こんなんチートや。RTAやないか!

 

128:名無しの周回転生者

残念ながら、周回しててもルートは安定しないんだなこれが。乱数がブレすぎるからRTAとかほぼ不可能に近い。バタフライエフェクトとか設定したの誰だよ!

 

129:名無しの転生者

>>128 それはもちろん神ってヤツさ

 

130:名無しの転生者

>>128 周回ニキオッスオッス

 

131:名無しの周回転生者

まあ細かい事件は周回する都度変わるから、憶えている意味がない。

でもメシア教過激派の天使召喚プログラムみたいな大きな事柄は、他の世界線でも起こっているから対応しやすくて助かる。

某邪神は何度でも叩く。絶対にだ。

 

132:名無しの転生者

>>131 殺意高杉て草 

 

133:名無しの転生者

周回ニキが全部なんとかすることはできないの?なんでも知っているんでしょ?はやく世界救ってよほら

 

134:名無しの周回転生者

>>133 なんでもは知らないよ。知っていることだけ。

まあぶっちゃけ、オレ一人でできることなんてタカが知れている。神主は生まれた時から修行してても勝てるか分からんくらい強いし、プログラム開発しようとしても本職には敵わない。

みんなの協力なしには、トゥルーエンドに到達できないのだよ。だからオマエラも世界平和に協力しろください。

 

135:名無しの転生者

周回ニキの目指すトゥルーエンドってのが知りたい。

大破壊はどうやっても起こるんだろ?

なら何をもってクリアとするんだ?一生周回し続けるつもりか?

 

136:名無しの周回転生者

あー、そーね。そろそろそこら辺を解説していこうか。

 

大破壊あるいは大崩壊が起こるのは確定してる。理由は世界に満ちた竜脈エネルギーにある。竜脈はこれからも活性化を続けて、何もなかったとしても数年で地球の表面に吹き出して文明が『あぼん』する。

メシアやら悪魔やらは、そのエネルギーを使って自分の思い通りの世界にしようとしてる。

オレの描くトゥルーエンドは、大破壊が起こった時に人間の被害を極力減らすこと。少なくとも家族や【俺たち】への被害をできるかぎり小さくしたいと思ってる。

 

137:名無しの転生者

>>136 本当に大破壊を食い止めることはできないのか?周回ニキなら可能な気がするけど。

 

138:名無しの周回転生者

>>137 何度も挑戦したことがあるけど、成功したのは一回だけ。しかもビターエンドだった。

具体的には今の世界は続くけど、神主含めて【俺たち】はほぼ全滅もしくは廃人コース。

一般人はそれに気付くことなく過ごしているし、メシアの過激派も生存しているという不穏な終わりだった。

生きてる【俺たち】がいたら、闇落ち待ったなしの世界だぞ。

 

139:名無しの転生者

>>138 なにその地獄

 

140:名無しの転生者

>>138 周回ニキは生き残ったんか?それとも廃人コースか?

 

141:名無しの転生者

>>138 そうそう、オレも巻き込まれてタヒんだゾ

 

142:名無しの転生者

>>141 ゾンビニキは成仏して

 

143:名無しの転生者

そこで終わってたら周回ニキはここにいないってことだろうな

 

144:名無しの転生者

諦めたらそこで人生終了ですよ

 

145:名無しの周回転生者

まあそういうわけで、比較的大人しい大破壊を起こして竜脈エネルギーを消費しつつ世界を救うRTA進行中だ。

ゆっくり攻略していってくれたまえ。

つーかオマエラも協力してくれ。頼むから。

 

146:名無しの転生者

>>145 おK

 

147:名無しの転生者

>>145 了解

 

148:名無しの転生者

>>145 まかせろ

 

149:名無しの転生者

協力するにはやぶさかではないが、何をどうするのか分からないと協力しようがないぞ

現状の詳しい説明と、未来への道筋を示してもらいたい 

 

150:名無しの転生者

>>149 オレもそれが言いたかった

 

151:名無しの周回転生者

じゃあ現状の説明から。

大破壊に至るシナリオは複数あって、そのおよそ八割にメシア教過激派がからんでる

 

152:名無しの転生者

>>151 残りの2割は?

 

153:名無しの周回転生者

>>152 だいたい三賢者と閣下と四文字。というかそれらが過激派の一部ともつながってる。

叩くんなら根元から叩く必要があるってことだ。

 

154:名無しの転生者

>>153 実質十割じゃないですかー!やだー!

 

155:名無しの周回転生者

今はその残り二割部分を潰してるところ。

具体的には南極に発生するシュバルツバースを初期段階で弱体化し、縮小させる【シンクロニティ】計画を実行中。

これの作戦完了を確認するために、南極行ってくれる人員を募集してる。

今ならデモニカスーツのプロトタイプを無償で提供するぞ。

 

156:名無しの転生者

>>155 デモニカスーツ!?完成していたのか!

 

157:名無しの転生者

あー、なるほど。そのための悪魔召喚プログラムか。理解したわ 

 

158:名無しの周回転生者

>>156 まだ一着だけな。

 

それとは別に、【箱船計画】なる悪巧みも南極大陸で計画されているのを確認した。

こっちは竜脈のエネルギーを使って南極の氷を溶かして世界を洗い流そうっていう、過激派の立てた計画だ。

こっちも別口で人員を募集する。報酬についてはまだ検討中だから、今のうちから希望を出しておけば欲しいものがもらえるかもしれないぞ。

 

159:名無しの転生者

>>158 それって、スキルガチャのガチャチケットでもいいのか?

 

160:名無しの転生者

>>159 落ち着け、チケットじゃなくてスキルカードそのものを強請るんだ

 

161:名無しの転生者

南極かー。某邪神に関連するのもいそうだなあ。

 

162:名無しの周回転生者

>>161 いるぞ。

ただ、そっちは専門チームが対処するから心配しなくてもいい

 

163:名無しのシ者

邪神滅ぶべし。慈悲はない。

 

164:名無しの転生者

>>163 ひえっ!邪神スレイヤー=サン!ナンデ!?

 

165:名無しの転生者

>>163 ナムアミダブツ!

 

166:名無しの周回転生者

数年以内に解決したいことはそのくらいだな。あとは様子を見つつ臨機応変に対処していく感じになる。

公開しすぎても、未来が変わる可能性があるからここまでだ。

 

167:名無しの転生者

>>166 ちょっと説明すくないな。少なくない?

 

168:名無しの周回転生者

オレが話せることは神主には全て話してある。なので運営から適宜クエストが発行されるので、それをこなしていってほしい。

って言えって運営に言われた。つまり今のでも話しすぎたらしい。スマンな。

まあ未来のブレが大きくなったとしても、過激派を叩かなきゃならないのは変わらないから大丈夫大丈夫。

 

169:名無しの転生者

>>168 ちょっwおまwww

 

170:運営

というわけで、ただいまより周回ニキクエストの大量募集を開始いたします。

いま出たものの他にも様々なクエストと報酬が用意されているので、みなさま奮ってご参加ください。

 

171:名無しの転生者

グエー。彼女もまだおらんのに終末を防ぐために南極大冒険とか、ますますオレが末代になる可能性が高まるんじゃが

 

172:名無しの転生者

葛葉フレンズもいいタイミングでプロポーズしよったな。もれも勝ち抜けしたいンゴ

 

173:名無しの周回転生者

>>172 ファッ!?プロポーズ???ちょっとそれ詳しく!

 

174:名無しの転生者

>>173 周回ニキはデート中継見てなかったのか?アーカイブ残っとるで

つ【葛葉フレンズのデート実況配信】

 

175:名無しの周回転生者

>>174 サンクス

ちょっと席外すわ

 

176:名無しの転生者

>>175 いってらー

 

177:名無しの転生者

周回ニキってばアレを見る余裕無いくらい仕事してたんかな。

アレ見て笑ってリフレッシュするといい。



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葛葉家への招待

【葛葉屋敷 本家】

 

『それは、正気で御座いましょうか』

 

鏡の中の女が言った。

燭台の明かりが照らす部屋の中に、四つの鏡台が並んでいる。

その鏡台の並ぶ部屋の一つ奥、御簾の中から妖艶な女の声が返ってきた。

 

「わたくしの正気を疑うと、そう言っていらっしゃるのかしら?面白いこと」

 

『いいえ、そういうわけでは』

 

「優秀な若者を葛葉家に引き入れることに、何の不都合があると言うのかしら。それとも、件の彼よりも優秀な者に心当たりがあるとでも?」

 

『あの、その』

 

『ございます』

 

言いよどむ女の横からかぶせるように、別の鏡から声が上がる。

 

『どこぞの馬の骨とも知れぬ者が、伝統ある葛葉の家の者よりも優秀なはずが御座いませぬ。我が息子であれば、必ずや御前様のご期待に添えることができましょう』

 

「まあ、それは本当に?頼もしいわ。ところで他のかたがたはどう思うのかしら」

 

『我が夫であれば、件の若者に負けることはないでしょう』

 

『我が家としては、御前様のお言葉に異論はございません。新たな風を入れるのも、お家のためになる事でしょう』

 

『ええ、はい。我が家も、その、問題ないと考えます』

 

『あら、アナタも賛成なさるの?先ほどは正気かなんておっしゃっていたのに』

 

『先ほどはその、我が家の方でも色々とあったところだったので……』

 

『まあ、それは大変ねえ。ですがそれでは……』

 

『ですが……』

 

『ですが……』

 

女たちは口々に話し合い、話題がつぎつぎに変わっていく。

しばらく経ったところで葛葉御前が、ぱちりと扇子を鳴らした。

 

「みなさんのおっしゃりたいことは、よくわかりました。反対意見が複数ある以上、このままわたくしの意見を押し通すのは、よろしくないでしょうね」

 

『それでは、考え直していただけるので?』

 

「ではどうすればみなさんにご納得していただけるか、わたくし考えましたの。どうでしょう、みなさんで件の若者の実力を試してみませんこと?時と場所はわたくしが用意します。みなさまは、これは(・・・)という最高の手札を以て、彼を試してくださいまし。もちろん手加減は必要ありませんわ」

 

葛葉御前の提案に、鏡の中の女たちは顔を見合わせる。

まるで最初から用意していたかのような提案だが、それを断る選択肢は彼女たちには与えられていないようだった。

 

『そ、それは素晴らしいことでありますね。ではさっそく家の者に言って、準備させるといたしましょう』

 

『はい、その通りでございます。我が家の実力を以て、力の証明とさせていただきましょう』

 

『御前様のお言葉に従います』

 

『えっと、その、はい。微力を尽くさせていただきます』

 

「期待していますよ、みなさん」

 

葛葉御前は楽しそうに笑い、会合を締めくくった。

 

◇◇◇

 

【伊吹雄利】(いぶきかつとし)

 

約束の日、いつもの駅前へ行くと前と同じ黒塗りの車が待っていた。

黒塗りの車は俺だけを乗せて十数分走り、立派な門構えの旧家の前で止まった。

運転手が外から回り込み、降りやすいようドアを開けてくれる。

 

ここが、あの葛葉家なのか。

重厚な木製の門は閉じられている。ここでノックをしても、家まで届かなさそうだ。

声をかけるればいいのだろうか。

 

手触りが気になり手を伸ばすと、届く前になぜか門が内側に開かれた。

 

「ようこそいらっしゃいました。どうぞ中へお入りください」

 

門の前には、和服の老婆が待ち構えていた。

 

 

 

老婆に案内されて、屋敷の中に入る。

この人が小夜ちゃんが言っていたお婆さまかと思ったが、気配が人間のそれではない。

たぶん、この家に憑く使い魔のたぐいなんだろう。

気張る必要はなさそうだ。

 

「どうぞこちらでお待ちください」

 

案内されたのは小さな和室だった。

閉じられた障子の向こうで老婆が去っていく気配を感じながら、用意された座布団に座る。

するとすぐに、新たな気配が近づいてきた。

 

「失礼します」

 

静かに開けられた障子の向こう側にいたのは、和服姿の小夜ちゃんだった。

 

「お待ちしておりました。ここを自分の家だと思って、ゆっくりしていってください」

 

「ありがとう。よろしくお願いします」

 

丁寧な挨拶につられて頭を下げる。

いくぶん棒読みになるのも仕方がないだろう。緊張するなという方が無茶だ。

 

落ち着いた色合いの和服は小夜ちゃんにとても似合っている。

そしてその後ろに、先ほどの老婆がいた。

いや、服装がさっきよりも良い物に変わっている。こっちが本物のお婆さまなのだろう。

 

小夜ちゃんと同じくらい小柄ではあるが、その体から迫力のようなものがにじみ出ている。

背筋がピンと伸びていて、こちらまでつられて背筋が伸びる。

 

小夜ちゃんが隣に座り、お婆さまが向かいに座る。

まずは招かれたことにお礼を言い、お土産にと菓子折を渡す。渡した直後にデパートで買った物で良かったのかと後悔したが、もう遅い。

お高い和菓子ではあるので、大丈夫であることを祈ろう。

 

そうして話が始まる。

内容は主に俺と小夜ちゃんの今までの話だ。改めて口にすると妙に現実感がない。まるでラノベを読んでいるような気分になる。

 

出されたお茶は普通のものだったし、お茶菓子は俺が持ってきた菓子折だった。二人とも特に気にしていない様子なので、ほっとした。

普通って素晴らしいね。

 

しばらく話をしたところで、廊下に使い魔の気配がした。

お婆さまが使い魔にうなずき、こちらへ告げた。

 

「風呂の準備ができたようじゃ。雄利どの、案内させますので身を清めてきなされ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

言われるままに席を立つ。

 

ちなみに両親には「お付き合いさせてもらっている相手の家に泊まりに行ってくる」と言ってある。

最近の俺の様子から気づかれていたようで、あまり五月蠅く言われなかった。

こんど紹介しろとからかい口調で言われたくらいだ。

 

ただ、相手が旧家のご令嬢だとか、指輪を渡してあることまでは伝えていない。

そもそも自分の霊能力のことすら伝えてないので、そっちから理解してもらうのは難しいかもしれない。

頑張って説明してくれ、未来の俺。

 

今日のこれからだって、ナニかあるとは思っていないし思われてもいないだろう。もちろん小夜ちゃんだってそう思っているはずだ。

とりあえず顔合わせで、詳しいことはおいおい決めていくことになると思っている。

そうだよな?

 

案内された先にあったのは木製の風呂で、清々しい木の香りが浴室に満ちている。

作法とか分からないので、普通に体を洗うことにする。

置いてある石けんも良い香りがする。少なくとも薬局で買えるようなものじゃないだろう。

 

ちょうど体の泡を流したところで、脱衣所の方に誰かが入ってきた。

気配からすると小夜ちゃんのようだ。

 

「雄利さん、お着替えをここに置いておきますね」

 

「ありがと」

 

それだけで小夜ちゃんは戻っていったようだ。

 

べ、別にラノベ的なお約束を期待していたりなんかしないし!

残念だとか思ってたりしないし!

 

緊張した分だけ余計に脱力しながら、風呂で暖まる。

霊地である阿頼耶神社の温泉には遠く及ばないが、このお湯にも若干の回復促進作用のようなものが感じられる。

匂いからして、薬湯のたぐいだろう。

 

風呂から上がり、体を拭いてから用意された着替えを確認する。

真新しい肌着はゴールデンモールでも売っていた既製品だ。俺がいなかった時に買っていたのはコレだったのかもしれない。

 

そして服の方だが、黒のズボンとワイシャツだった。両方ともぴったり体に合うので、これはもしかしたら採寸されたオーダーメイドのものかもしれない。

そういえば「葛葉の家に来る時に必要だから」みたいなことを言ってた気がする。

 

風呂場の外で待っていた使い魔に案内されて、今度は広い部屋につく。

そこではお婆さまが、大きな包みを用意して待っていた。

 

「こちらが正装になります」

 

そう言って開かれた包みの中にあったのは、黒の学生服と黒の外套だった。

こちらも体にしっかりフィットする作りだった。だが、デザインを見て思わす苦笑いが浮かぶ。

これを小夜ちゃんがオーダーしたわけじゃないよな?

デザインが、ゲームの葛葉ライドウをかなり意識して作られている。

 

きっとデザイナーがゲームのライドウを知っていて、悪ノリしたのだろう。魔封管と拳銃用のホルスターまであるのがその証拠だ。

剣帯には持参していた木刀を吊るす。

残念ながら【七星村正】はまだ修理が終わっていなかった。

 

しかし着てみるともの凄く動きやすくて、制作者の技術の高さを感じさせる。

自分の趣味と品質を両立させるところもまた【俺たち】らしくある。

 

外套なんて普段着けていないので、これでいいのか自信が無い。

姿見で確認していると、小夜ちゃんがやってきた。

 

「お待たせしました」

 

小夜ちゃんもまたお風呂に入ってきたようで、まとめられた髪がつややかになっている。

服は俺と同じく黒の学生服。スカートの丈が長い。

 

小夜ちゃんは俺の服を見ると、小走りで寄ってきた。

 

「ふむ、問題はなさそうじゃな。とても良い仕事がされておる。あの店にはよい職人がおるようじゃな」

 

小夜ちゃんは俺の周りを回りながら着こなしを確認している。

自分の注文した以上のものができたのか、口調が満足気だ。

 

「小夜さん?」

 

「お、お婆さま!?失礼しました」

 

気づいていなかったのか存在を忘れていたのか、小夜ちゃんがあわてて頭を下げる。

 

「いえ、いいのですよ。わたしはあちらの準備をしてきますね」

 

お婆さまが座敷から出て行くのを見送ってから、小夜ちゃんは照れたように笑った。

 

「ちょっとはしゃいでしもうた。しかし本当によく似合っておるのう」

 

「小夜ちゃんも似合ってるよ」

 

はしゃぐ小夜ちゃんも照れる小夜ちゃんもかわいい。

 

「そうそう、今のままでも十分に格好良いが、これでより完璧になるぞ」

 

そう言って渡してきたのは、ライドウのトレードマークとも言える黒い学生帽だった。

もう完全に葛葉ライドウのファッションだが、期待に満ちた目をされたら断ることなんてできるはずがない。

覚悟を決めて学生帽を被った。

 

「どう?変じゃないかな」

 

「おお……。はっ、格好よすぎて、見とれておった」

 

「それほどでも、ある?」

 

シュバっとポーズをとると、小さく拍手をしてくれるのでポーズを変えまくる。

外套をバサッとひるがえすと、思った以上に動きがでてカッコイイポーズが取れている気になってくる。

小夜ちゃんが褒めてくれるので気分マシマシだ。

 

そんなことをしていると、障子の外から声がかかった。

 

「こちらの準備はできました。そちらは大丈夫ですか?」

 

「「はい、大丈夫です!」」

 

変なやりとりしていたのがバレたような気がして、つい返事に力が入ってしまった。

 

…………

 

お婆さまに案内されて、屋敷の裏にあった倉に入る。

中には地下へと続く階段があり、それを下った先に一つの扉があった。

 

「ではこれより、葛葉本家への道を開きます。二人とも、覚悟はよろしいですね?」

 

「はい」

 

「えっ、本家への道?」

 

思わず聞き返すと、小夜ちゃんに不思議そうな顔を向けられる。

 

「そうじゃ。ここはわしが雄利さんのいる学校へ通うために用意された家じゃ。葛葉の本家に行くには、この道を使う必要がある」

 

『葛葉の家』って小夜ちゃんの住んでる家ってことじゃなく、『葛葉本家』の事だったのか!?

あれれ、なんか思った以上に大事になっていませんかねえ。

 

「竜脈を利用した人工の異界であり、通路でもある。この地と葛葉本家を繋いでいるのじゃ。地上を進むより、遙かに早く向かうことができるぞ。特段の用事が無ければ使用することはできんのじゃが、今回は使用の許可が下りた。すなわち、本家も雄利さんのことを認めたということじゃろう」

 

「へー、そうなんだあ」

 

うーん、やっぱり大事になってるっぽいなあ。

いや、将来のことも考えれば、手間が省けたと考えるべきか?

小夜ちゃんだって葛葉一族なんだし、どこかのタイミングで本家に挨拶しておいた方がいいのは間違いないだろう。

それに向こうが受け入れ準備もしているようだし、今更やめたとは言えないだろう。

 

「おーけー、わかった。覚悟を決めた。行こう」

 

俺の決意が揺らぐ前に、勢いで行ってしまおう。

 

「では、開きますよ」

 

お婆さまが年代物の鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。

ガチャリと音がした瞬間、扉の向こうから風が吹いた気がした。

 

蝶番が大きな音を立て、扉がゆっくり開いていく。

その向こうは真っ暗だ。そう思った次の瞬間、音を立てて燭台に火がともる。

ろうそくが刺さっただけのシンプルな燭台が、一定間隔で木の廊下を照らしていた。

 

「それではご武運をお祈りします」

 

ご武運ですと?

小夜ちゃんを見るが、やる気の満ちた顔で見返してくる。

まあ、いいか。

深呼吸をしてから、廊下へ足を踏み出した。

 

 

 

 

「しばらくは振り返ってはならんぞ」

 

「わかった」

 

廊下を歩き出してすぐ、扉が閉められる音が聞こえた。

狭い廊下を並んで進むと、T字の突き当たりが見えた。

 

「こっちじゃ」

 

小夜ちゃんが進む方向を教えてくれる。

代わり映えのしない廊下が続くが、迷う様子もなく進んでいく。

途中に障子や木の扉があるが、必要のあるところだけ開けて通過する。余計なところを開けると山の中に放り出されるかもしれないらしい。

メガテニストとしては残らずマッピングしたいところだが、今は無理だ。残念。

 

「雑霊が思った以上に少ないようじゃな。これは進みやすくて良い」

 

たしかに、弱い気配がいくつか感じられるが、こちらに寄って来ない。それどころか近づくと逃げるように遠ざかっていく。

 

「普通は人間の魂の輝きに惹かれて、雲霞(うんか)のごとく寄って来おるんじゃが。もしやあやつら、雄利さんに怯えて近寄って来ないのかもしれぬ」

 

レベルの低い雑魚敵が逃げていくってことか。こっちから積極的にぶつかっていかない限り、戦闘になることはないのだろう。

 

そのまま少し進んで、障子戸が並んだ場所に到着した。

小夜ちゃんに目配せされ、慎重に障子を開く。

中は広い部屋になっており、青い畳が何畳にもわたって続いている。

その中央に少年が一人立っていた。

 

「自分らもう来たんか、早すぎんか?おおかたライドウん()は自分の縁者やからって、道中にクソ雑魚しか用意しとらんかったとかなんやろ。ズッコいわあ」

 

少年は大げさに肩をすくめる。

口調とは裏腹に口の端をつり上げているところが、無邪気という言葉では誤魔化せない性格の悪さを感じさせる。

あれも葛葉家の人間なのだろうか。

 

「キョウジの家の直哉じゃな。次代の当主を自称する程度には実力がある」

 

まだ中学生程度にしか見えないが、小夜ちゃんが言うならそうなんだろう。

葛葉キョウジには直接会ったことはないが、根願寺と【終末アサイラム】の折衝役として間に入っている苦労人だと聞いている。

少なくともあの子供がそれをできるとは思えないから、次代当主うんぬんは霊能力に関してなのだろう。

 

「小夜ちゃんヒドいやん。せっかくオレがお(めかけ)さんにしたる言うとったのに、かってに男つくっとるなんて……」

 

直哉はスタンディングスタートのポーズをとったかと思うと、次の瞬間、消えたと錯覚するほどの高速で接近してきた。

 

「悪い子は教育したらなアカンn……ぼへぇ!?」

 

「あ、悪い」

 

捕まえようとした手が勢い余って、もろに顔面に入ってしまった。

直哉は空中で一回転し、畳に四肢で着地した。

 

「いきなり何すんねん!痛いやないかボケカスぅ!」

 

「いきなり突っ込んできたのはキミだろ。戦闘開始って言ってたら、もうちょっと優しく止められたよ」

 

「ウソこけ。おまえみたいな劣等人種がオレのスピードについてこれるわけないやろがっ!」

 

再び消えたように見える速度で突っ込んできたので、今度はえり首を捕まえてぶん投げる。

乱暴な投げだが着地までに体勢を立て直しているので、怪我はないだろう。

それなりに実力がある相手は、手加減が楽でいい。

 

「クソがっ!雑魚が無駄な抵抗すんなや!素直にオレにボコられとけやっ!!」

 

「痛いのはイヤだなあ。誰だってそうだろ?」

 

「オレに口ごたえすんな!」

 

頭に血が上っているのか、やはり直線的に突っ込んでくる。

捕まえようとした時に目の前から消えた時は少し驚いたが、背後に出てくるのもまた素直だと言えるだろう。

不意打ち狙いで殴りかかってきた腕をつかんで投げてやれば、悔しそうな顔で飛んでいくのが見えた。

 

それから何度も何度も突っ込んでくるのを、捕まえては投げ飛ばす。

フェイントがたまに挟まるようになったが、対応できないほどじゃない。

 

最初は消えるような速度だと思ったが、どうやらわずかな時間だけ本当に消えているように見える。きっとそういう術を使っているのだろう。

 

直接攻撃が俺に当たらないことがやっと分かったのか、今度は呪殺(ムド)を飛ばしてきた。

だが今の俺はガーディアンのおかげで呪殺は無効だ(効かない)

 

「なんでだよ!クソザコのくせに!!ズルすんなよ!!!」

 

「泣いたって現実は変えられないぞ。もう負けを認めたらどうだ?」

 

「オ゛レ”は”、負”け”な”い”!”」

 

最後には自棄(やけ)になったのか、術も何もなしで突っ込んできた。

力任せの特攻など、力で勝っていれば簡単に止められる。

 

そういえば体育の授業で柔道の練習をやったなー、などと思いながら、習ったとおりの背負い投げをキメる。

 

「はい一本。俺の勝ちね」

 

「ウ”ソ”た”オ”レ”か”負”け”る”わ”け”な”い”!」

 

「人間は負けを認めることで強くなるのだよ。いつか自分の弱さを直視できるくらい強くなれるといいね」

 

「や”た”や”た”や”た”や”た”ーーー!」

 

ギャン泣きする子供の相手はしたくない。

助けを求めて小夜ちゃんを見ると、うなずいて寄ってきた。

 

「直哉を子供扱いするとは、さすが雄利さんじゃ。惚れ直したわ」

 

「こ”と”も”し”ゃ”な”い”も”ん”」

 

「先への道はちゃんと見つけてある。ささ、早く次へと参ろう」

 

「う”わ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ん”」

 

小夜ちゃんは腕をとって引っ張ってくる。

泣きじゃくる直哉は無視なようだ。

まあ、最初のやりとりで仲が良くないのは分かっていたから、こうなるのは当然なのかもしれない。

 

次期当主を自称しているし、このまま放っておいても大丈夫だろう。




・ライドウの服
小夜がオーダーしたのは黒の制服風の戦闘服。男女1セット。それと下着。
オーダーを受け付けた店員が全てを理解(自己解釈)し成し遂げやがりました。

・葛葉家の人々
霊能力者としての選民意識があるので性格が悪い人が多い。
ただ、全体的に能力が低いのでイヤなヤツ程度でおさまっている。一族同士で殺し合いとかするわけないよなあ。(なおお仕置き部屋)

・直哉くん
モデルは呪術の彼の少年時代。
葛葉家の中で強くても、鍛えた転生者にはとうてい及びません。
才能はRくらいあるのは間違いないんですけどね。


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葛葉家への道 第二、第三の試練

おかしい、二話くらいで終わる予定だったのに……。
これは陰謀の匂いがするぞ。
予定にない話を思いつく限り書いてしまう誰かの陰謀の匂いが。


【転生者用雑談スレ】【俺の嫁こそ最高】

 

288:名無しの転生者

やっぱり式神彼女が最高だよな。三次元はオワコン

 

289:名無しの転生者

造魔技術も合わさって最初から人間に近くなってるし、もはや理想の嫁なのでは?

 

290:名無しの転生者

オレの式神はスーパーロボット型だ……

美少女型の式神にしとけばよかった

 

291:葛葉フレンズ

楽しそうな話をしてるみたいだけど、ちょっと質問あるんだ。

もし葛葉家のお嬢様方と合コンできるって言ったら、参加したいヤツおる?

 

292:名無しの転生者

 

293:名無しの転生者

三次元はなあ……

 

294:名無しの転生者

>>292 ここにいるぞ!

 

295:名無しの転生者

>>292 話だけでも聞こうじゃないか

 

296:名無しの転生者

 

297:名無しの転生者

葛葉か……

葛葉か……

 

298:名無しの転生者

合コン……数合わせ……うっ、頭が!

 

299:葛葉フレンズ

意外とみんな乗り気だな?

とりあえず概要だけど、葛葉家の一部のお嬢様方が【俺たち】に興味あるらしい。

試しに合コンでも開催して、お互いを理解したいとのことなんだ。

 

300:名無しの転生者

>>299 お前は何を見て乗り気だと思ったのか

でもまあ、試して見るのは悪くないな

 

301:名無しの転生者

葛葉フレンズが犠牲者を増やそうとしておる……

 

302:名無しの転生者

地方霊能者からすれば【俺たち】は優良な種馬らしいが、そうとだけしか見られないのはツラいだろ

 

303:名無しの転生者

>>302 それ以外に取り柄はあるのか?

 

304:名無しの転生者

>>303 やめろカカシ、その言葉はオレに効く

 

305:名無しの転生者

オレにも効く

 

306:名無しの転生者

真実は時に残酷なものだなあ

 

307:名無しの転生者

地方ならモテるらしいが、そのためだけに遠征するのもみっともないと思っていたところだ。

これは渡りに船というヤツなのでは?

 

308:名無しの転生者

興味はちょっとあるけど、組織のバランスとか考えると神主に確認取るべきなのでは?

 

309:名無しの転生者

>>308 そこは自由恋愛って言っておけば大丈夫だろ

 

310:名無しの転生者

神主は転生者にけっこう甘いからなあ。修行以外は。

 

311:名無しの転生者

だよな。修行以外は

 

312:名無しの転生者

>>310 >>311 そこはホラ、愛の鞭というアレだから(震え声

 

313:葛葉フレンズ

いちおうすでに運営にも話は通っているらしい。あとは運営にぶん投げて、詳しいことはそっちで調整してもらうつもりだ

 

314:名無しの転生者

>>313 まあそれが安パイやな

 

315:名無しの転生者

また余計な仕事が増えて運営くんカワイソス

 

316:名無しの転生者

>>313 ところで重要な質問なんだが、相手のスペックはどんなもんなんだ?

写真とかある?

メッセやってる?

どこ住み?

 

317:名無しの転生者

>>316 前のめり杉ワロタw

 

318:名無しの転生者

盛大に掛かっとるw

 

319:名無しの転生者

これは知力Dランクw でも最重要事項だし仕方ないね

 

320:葛葉フレンズ

>>316 年齢はだいたい20~30代。霊能力は無~微レベル。

全員が非戦闘要員らしく、家事含め事務能力には自信あり、だとか。

一部だけだけど写真もある。

 

能力が無の人【写真】

 

一番年上の人【写真】

 

321:名無しの転生者

なんだBBAか。オレ帰るわ。

 

322:名無しの転生者

>>321 ロリコン乙

 

323:名無しの転生者

無っちゃん、大人しい感じで悪くないな?

 

324:名無しの転生者

無っちゃん好みだわ

霊能力なくても許せる

 

325:名無しの転生者

霊能力など飾りです!偉い人にはそれがわからんのです!

 

326:名無しの転生者

年上のお姉様も美人だな。さすが葛葉家とでも言うべきか

 

327:名無しの転生者

お姉様これ化粧の効果だろ。年齢に対して肌が若すぎでは

 

328:名無しの転生者

>>327 霊能力が早めに覚醒したから老化が遅れているとかではござらぬか?

 

329:名無しの転生者

>>328 霊能力が本当に弱いんなら、相当早くに目覚めなきゃこんな肌にはならんやろ

つまりコレは画像加工だQED

 

330:名無しの転生者

葛葉フレンズどっちなのか正解プリーズ

 

331:名無しの転生者

>>329 残念ながらこの写真に加工された跡はない

が、拡大したら顔と手の色に差が大きいことがわかった

つまり化粧うわなにをすr

 

332:葛葉フレンズ

>>329 情報提供者いわく「本人に聞かなければわかりません」とのこと。真実は闇の中です。

 

333:名無しの転生者

やはり葛葉……化けるのが上手いんだな

 

334:名無しの転生者

事務できるなら、普通に社員として雇えばいいのでは?

 

335:葛葉フレンズ

>>334 葛葉家としては結婚が前提らしい。

戸籍的に嫁入りするのはいいとして、産まれた子供は葛葉家の所属にしたいんだとか。

でも親子を引き離すつもりはないらしいぞ。

 

336:名無しの転生者

>>335 それ種をもらったらお別れってこと?ひどくない?

 

337:名無しの転生者

>>336 さすがにそれはないだろ。向こうだってもらえるなら二人三人欲しいだろうし

 

338:名無しの転生者

やはり転生者の子供が狙いか。萎えるわー。

 

339:名無しの転生者

>>338 でもオマエラにそれ以外の取り柄あるのか?

 

340:名無しの転生者

>>339 だからそれはヤメロと

 

341:名無しの転生者

>>339 やカそ効

 

342:名無しの転生者

>>341 無理矢理略し杉www

 

343:名無しの転生者

別に伝統があるわけじゃないし、オレが末代じゃなくなるなら悪い話じゃないかもしれない

 

345:名無しの転生者

でも葛葉の嫁って ちょっと怖いな

 

346:名無しの転生者

いきなり結婚ってのはちょっと

 

347:名無しの転生者

だからこその合コンだろよく読めよw

 

348:名無しの転生者

つまりは相性チェックってコト?そうか、それが合コンというものだったか・・・

 

349:名無しの転生者

話のネタになるかもだし、参加してもいいかな

 

350:名無しの転生者

じゃあオレも

 

351:葛葉フレンズ

OKとりあえず専用スレ立てた

 

【葛葉家合コン会場相談室】

 

以降の詳しい話はそっちで

 

352:名無しの転生者

早いw

 

353:名無しの転生者

別に興味あるわけじゃないけど?ちょっと見ていってやろうかな?

 

354:名無しの転生者

見るだけならタダだし、見ていってもいいかな。

 

355:名無しの転生者

オマエラ興味津々じゃねえかw

よし、オレも行くか

 

◇◇◇

 

【葛葉本家への道】

 

「というわけで乗り気なのは何人かいるみたいです。こんなもんでいいですかね?」

 

「はい、ありがとうございます♥そちらの運営?さんからすでに了解は得ているので、あとは私どもにお任せくださいねっ」

 

着物姿の女性が、しな(・・)をつくってウィンクしてくる。

美人の部類の顔だとは思うのだけれど、興味がないから逆に鬱陶しいなと思ってしまう。

こんな場面を小夜ちゃんに見られたくないので、2mくらい離れていてほしい。

 

二番目の試練は二人分かれて別々の迷路を踏破することかと思いきや、俺のルートだけがこの部屋に直通していた。

そこで待っていた女性が出してきた課題が、【俺たち】との合コンのセッティングだったのだ。

 

しかも驚いたことに、この女性は【終末アサイラム】の中核である【転生者】を指名してきた。

隠しているわけじゃないが、眉唾とも思える情報を真実として見抜いてくる辺り、警戒した方がいい気がする。

 

「それにしても、こんなのを試練ってことにしていいんですか?もっと戦闘とかの方がいいんじゃないですかね」

 

「戦闘能力なら、他の家の方々がしっかり見てくれてます。私どもの武器は主に交渉です。アナタがこちらの課題にどう応えるのかが重要なんです」

 

話ながらどんどん距離を詰めてくるので、そのたびに下がって距離をとる。

ただ後ろに下がるだけだといずれ壁に追い詰められるので、畳の上をぐるぐる回って逃げていた。

 

「運営とすでに話をつけていたのなら、俺が中継する意味あったんですか?」

 

「それはですね、『合コンを開く許可はあげるけど、メンバー集めはそっちでやってね』とそんな意味の返答をもらったからなんです。あと、こちらの本家からの許可をもらうのにすっごい苦労したんです。なので、そちらとの窓口になってくれる方を探していたんですが……」

 

「そこにちょうど俺がやってきたと」

 

「はい、その通りです♥」

 

なんなんだろうなあ。

別に葛葉家と【俺たち】が仲良くなるのが悪いとは思わないが、簡単に信頼してよいのか疑問が出てくる。

この人たちの霊能力は戦後の霊能力者狩りによって衰えているが、むしろその低い能力で生き抜くため手段を選ばず活動してきた一族なんだ。

ポッと出の平和ボケした【俺たち】とは比べものにならないほどの深謀遠慮を秘めているのではないだろうか。

 

「やっぱり納得できないですよ。ちょっと簡単すぎるというか……」

 

「はっきり言って、理由の半分以上が我が家の利益を見込んでのことです。霊能力というものは血が重要ですからね。あなた方のような優秀な能力者の胤がいただけるなら、一時的な評価の下落など考慮に値しません。そもそも我が家は、アナタとお小夜さんの婚姻にも反対していませんので」

 

ウソをついているようには見えないが、何か隠していたとしてそれを見抜けるとも思えない。ならば納得するしかないだろう。

 

「本家もそうですけど、他の葛葉四天王の人たちは我が家のことを見下しているんですよ。四天王から転落したくせにイスにしがみついている無能力者だ、って。でもこの合コンがうまくいけば、将来的にはその評価を逆転できるんです。多少は他にも取られるかもしれませんが?それでも我が家を通すことになる以上、手綱はこっちが握れるんです。もう雄利さんには足を向けて寝れません。なのでお礼に何でもいたしますよ♥」

 

「ならば雄利さんから離れてもらおうかのう」

 

すり寄ってこようとした女性の目の前に、鬼火が割り込んできた。

 

「小夜ちゃん」

 

「あら、もう迷宮を踏破したのね。やるじゃない」

 

「お主の企みにもっと早く気づけていたなら、こんなに時間はかけなかったわ」

 

小夜ちゃんが俺の腕を強く引いて、女性から距離をとった。

 

「ふふ、あの他人の目を気にしていた子供が、よくここまで成長したわね。お姉さん感動しちゃうわ」

 

「女狐の代表がなにを言いよる。雄利さん、こんな女は放っておいて行こうぞ」

 

「お、おう。それじゃあ」

 

「はーい、また会いましょう♥」

 

「二度と顔を出すな」

 

小夜ちゃんに押されて部屋を出る。

 

彼奴(あやつ)に何か変なことをされなかったじゃろうな」

 

「なにもなかったよ。ウチの方との交渉のつなぎ役にされただけだ」

 

「本当じゃな?」

 

「本当だって」

 

部屋であったことを逐一説明して、やっと納得してもらえた。

 

…………

 

三番目の試練は小さい部屋で、そこには気弱そうな女性がいた。

小夜ちゃんの血縁でもあるライドウの家系らしいが、なぜか気まずそうな雰囲気を醸し出している。

 

「わしは分家であり、しかも先代ライドウであった父が出奔しておる。わしに対して、いろいろと含むモノがあるんじゃろうな」

 

「いえ、その……。はあ、いまさら何を言っても言い訳にしかならないですよね。ウチとしては倫太郎くんのことはもう諦めてます。お小夜さんがその分まで頑張ろうとしてきたことも知っています。なので、ええ、今までのことはこのとおり、謝ります。申し訳ありませんでした」

 

女性は深く頭を下げた。

 

「幼子だったアナタの世話を乳母一人に任せっきりにした私が今さら何をって思うかもしれないけど、あれが私にできる精一杯だったの。ウチの人たちは倫太郎くんに期待していただけに裏切られたと感じていたから」

 

そんな女性の謝罪に、小夜ちゃんは驚いているようだった。

 

「えっと、悪いのは、父の方だと分かっております。余計なことを言ってこないだけありがたいと、お婆さまも言っておりました。だから、その……その謝罪を受け入れます」

 

「ありがとう。そう言ってもらえてうれしいわ。こういうこと言うと風見鶏みたいだって思うかもしれないけど、ライドウの家としてあなた方を全面的に支援する用意はできています。なので、いつでも頼ってきてくださいね」

 

女性はほっとしたような顔をした。

 

どういうことかイマイチ理解しきれていないので整理してみようか。

まずライドウの分家に小夜ちゃんの父親が産まれた。それが成長してライドウに選ばれた。

分家から家の代表が選ばれたのだから、本家は素直に喜べなかったのかもしれない。

 

それがある日、急にいなくなった。これを裏切りと感じるのは当然だろう。

そして数年後に誰のものとは知れない子供を預けて再び消えた。その子供は乳母に任せっきりにした、と。

でも、もしもライドウ本家にいたならば、イジメられていたんじゃないだろうか。

距離を置いていたのは最悪ではないと思う。

 

なかなか複雑な家庭事情のようだ。

 

「では改めて、ライドウ家からの試練を課します。二人とも、これを手にとってください」

 

そう言って台に乗せて差し出してきたのは、二本の魔封管だった。

 

「これはウチで飼育している管狐の中でも、特に強力な子たちです。その分気性が荒いので、従えるのは難しいでしょう。この子たちに自分を仲魔だと認めさせてください」

 

クダギツネ、メガテン的に言えば、【珍獣 クダ】のことだろう。

うちの組織でも利用している悪魔の一種で、式神よりも安価な戦力として一部の人間に提供されている。

だが生き物ゆえに日常の世話をする必要があったり、相性の悪さから懐かない可能性があるなどのデメリットがある。

そのため仲魔にするには一定のレベルや相性などの審査を通過しなければいけない。

 

俺も戦力増強の手段のひとつとして考えてはいたが、レベルが上がった今ではマッカを稼げる目算が立ったので、自分好みにカスタマイズできる式神の方がいいと思っていた。

スレ住人からは美少女型の式神は買わせないよう目をつけられていたが、動物型やロボット型くらいならいいだろうと制作班を説得している途中だった。

なのにまさかクダギツネの方が先に手に入ることになるとは。

 

それぞれ一本ずつ管を受け取ると、封が勝手に開いた。

中から出てきたのは黒銀の毛並みを持つキツネで、興味深そうに俺の手のにおいを嗅いでいる。

 

それから袖に入り込んで服の下を駆け回り、襟から顔を出して肩に乗る。

小夜ちゃんの方も同じように遊ばれていて、二匹が交代しながら俺と小夜ちゃんの上を駆け回り、満足したのか一声鳴いてから管の中に戻っていった。

 

「……どうやら気に入られたようですね。さすがと言うべきでしょうか」

 

「大切にします。ありがとうございます」

 

「はい。その子と、お小夜さんのことをよろしくお願いします」

 

女性はまた深く頭をさげた。



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葛葉家へ 最終戦

長い廊下を抜けた先に、大きな扉があった。それを押し開けた先は、薄暗い竹林になっていた。

竹林の中には距離をおいて石灯籠が並んでいる。その先に同年代のメガネの女と、壮年の男が立ってた。

女は学生服を着ていて、男性は和服の上に外套を羽織っている。外套の下ではおそらく、刀を腰に差している。

両方とも長い髪を後ろで一つに結んでいる。立ち姿が似ているので、たぶん親子なんだろう。

 

「私が第十九代目、葛葉ゲイリンだ。前置きはいい、私に勝ってみせろ」

 

男性……ゲイリンが外套を投げつけてきた。

外套にゲイリンの姿が隠れて見えなくなる。この先の展開がいくつか予想できるが、するべき対応はだいたい同じだ。

 

「【ヒートウェイブ】!」

 

腰の木刀を抜刀する勢いのまま技を放つ。

投げられた外套を含めた広範囲をなぎ払い、相手の行動できる範囲を制限する。

 

「くっ」

 

飛び上がって回避したゲイリンに体当たり気味にぶつかっていく。

木刀は刀でふせがれた。

ゲイリンがこちらを蹴り離そうとするのが見えたので、それに足を合わせて押し飛ばす。

飛んでいったゲイリンを追う前に小夜ちゃんを振り返るが、大丈夫というようにうなずかれたので、そのまま女の横を走り抜けた。

 

◇◇◇

 

【葛葉小夜】

 

小夜は雄利を見送ったあと、残った女と向かい合った。

 

「よう、小夜。久しぶり。元気してた?」

 

「おう、むろんじゃとも。真希の方はどうじゃ?」

 

「元気にはしてたけど、急に東京から呼び戻されたのにはムカついたよ。でも小夜がいい男を見つけたって聞いたからな。ぜひとも顔をおがんでやろうと思ったわけさ」

 

真希と呼ばれた女性はからかうように笑い、小夜は楽しそうに笑い返す。

 

「とても格好良かったじゃろう?真希も早ういい人が見つかると良いな」

 

「女を置いて一人で先に行くヤツがいい男だっていうのか?」

 

「もちろんじゃ。なにせわしを信頼してくれたのだからのう」

 

真希は笑顔を崩さないまま、服の内側から三節棍を取り出した。

 

「ずっと御前様の影に隠れていたヤツが、男ができた途端に威勢が良くなったな。虎よりも犬の威の方が好みだったのか?」

 

小夜も腰のベルトから、鋼色の鉄扇を抜いた。

 

「きゃんきゃん吠える仔犬はおぬしじゃろう。いくら吠えても親は戻ってきてくれぬぞ?」

 

「あんなクソ親父なんざ顔も見たくないね。それよりもアンタ、生意気を言うだけの覚悟はできてるんだろうな」

 

真希が三節棍を振りかぶりながら迫る。小夜はそれを正面から迎えうった。

 

遠くで振り下ろされた勢いが、鎖を伝って棍を伸ばす。

先端の速度は目で追うのが難しいほどになるが、小夜は踊るような足さばきで回避する。

 

広い攻撃範囲の中では、四方八方から棍が飛んでくる。

しかし小夜は落ち着いてそれを回避し続け、あっという間に真希の正面に立った。

 

「間合いに入れば攻撃できないと思ったかよ!」

 

小夜の背後から死角をつくように棍がせまるが、振り返りもせずに鉄扇ではじいた。

真希はその結果を見る前に体勢を低くし、足払いから始まる三連撃を放つ。

小夜はそれを跳び、打ち合い、避けて距離を取った。

 

流れとしては小夜が一方的に攻撃されているが、冷や汗をかいているのは真希の方だった。

 

「なんだ、意外と動けるようになっているじゃないか。引きこもりはもう止めたのか?」

 

「そっちこそ、以前より動きが鈍っておらぬか。もしや手加減してくれておるか?会わぬ間にずいぶん優しくなったのう」

 

真希が小夜の強さに驚いているが、小夜もまた自身の成長に戸惑ってもいた。

小夜と真希が会うのは数年ぶりであるし、そもそも話をするような仲ではなかった。

刀術を中心とした物理型の戦闘方法を主体とするゲイリンの家系と、悪魔を使役して戦わせるライドウの家系。その違いから、お互いを下に見ている部分さえあった。

 

小夜は、小柄な自分が直接戦闘に向いていないことを理解していた。なので前衛を仲魔にまかせて、自分は後方から術で攻撃やサポートに徹していた。

なのに今回そうしていないのは、なんとなく戦えそうだと思ったからだった。

以前は感じていた暴力の気配が、今は怖いと思わなかった。

 

それはステータスの差から来る脅威判定であり、その生い立ちから他人の様子をうかがって生きてきた小夜が身につけていた能力だった。

 

それが今の小夜なら、真希と互角に戦えると言っていた。

 

「そろそろ体が温まってきたころじゃろ。準備運動が不足して負けたとは言わせぬぞ」

 

「そこまで挑発しておいて、後悔すんなよ。おい、“一番”をよこせ!」

 

真希が三節棍を投げ捨ててから言うと、竹林から武器が飛んできた。

長柄の先に蛮刀のついたそれを手に取り、勢いのままくるくると振り回す。

ずいぶんと使い慣れているようで、身長ほどの長さのあるそれを手足のように扱っている。先ほどの三節棍よりも、使い慣れていることは明らかだ。

 

それを見た小夜は、口の中で小さくつぶやく。

 

「やれやれ、意地を張るのは楽ではないな」

 

小夜もまた二本目の鉄扇を取り出した。

 

「正々堂々、一対一で決着を付けよう。それでよいな?」

 

「はっ、余裕こいて、後悔しても知らないからな」

 

お互いの視線が交差し、空気がピンと張り詰める。

風がさわさわと竹林を鳴らし、どこかで獣が鳴く声が響く。

 

数分か、あるいは数秒か。無言で見つめ合う時間が続いた後、風が大きく竹をしならせた。

 

その瞬間、真希が先に動いた。

矢のような速度で走り出し、その勢いのまま武器を投擲する。

 

回避どころか反応すら難しい神速の一手。

だが小夜は、それにギリギリで反応して真上に弾いた。

 

「は?」

 

自らの武器を視線で追った真希へ向けて、振り上げた鉄扇を踏み込みざまに振り下ろす。

直撃ではないが手応えはあった。

 

転がった真希を目で追うと、足跡だけ残してすでにその場を離れている。

見失ったかと視線を巡らせた瞬間、背後に殺気を感じる。

 

放たれたゼロ距離の打撃を鉄扇で受け止め、距離を取るために下がる。

しかし真希はぴったりと追ってきながら、連続で打撃を放ってくる。

二撃三撃。鉄扇で防いでいるからか、思った以上のダメージはない。

四撃五撃。相手の動きを目で追えていると理解する。

六撃七撃。わずかな隙間で呼吸を整える。

 

八撃目に鉄扇を合わせ、反動で距離をとる。

逃がさぬとばかりに真希が追ってくるが、その目の前に先ほど打ち上げた長柄が落ちてくる。

真希はそれを分かっていたかのように受け止め振るおうとする。しかしそれは小夜の読み通りだ。

落ちてきた武器がつくる死角を利用して真希の胸元に滑り込み、右の鉄扇を首元に、左の鉄扇を死角である腰にめがけて振るう。

 

それを腕と長柄で食い止めたのは、さすが真希と言うべきか。

 

次の瞬間に反撃の膝が飛んできたので、小夜はとっさに距離をとった。

 

「小夜、お前マジで変わりすぎだろ。後衛の術士が打撃戦で私に優位とるとか、あり得ねえよ」

 

「経験の差、というヤツじゃな。狭い家の中では見ることはできなかったものを、外でたくさん見てきたのじゃ」

 

「異界の討伐……か。やっぱり私もなんとかして参加しとくべきだったな」

 

真希は肩をすくめてから構えを解いた。

 

「難しいんじゃないかのう。あの異界は状態異常を仕掛けてくる悪魔が多かった。わしは後ろから術を飛ばしておればよかったからなんとかなっとったが、前に出ておったらあっという間にやられておったと思うぞ」

 

「お前じゃないんだからそう簡単には……」

 

「そういうことは、わしの攻撃を避けてから言うんじゃな」

 

「くっ、小夜のくせに言いやがる。でも、一発くらい食らったとしても回復してからまた殴りにいけば……」

 

「その一発で、麻痺とか石化とかされておるよ。囲まれたなら、袋だたきじゃろうな」

 

「マジで?」

 

「マジじゃ」

 

小夜の言葉の意味を、真希は数秒考える。

 

「ちょっとくらいオマケできない?」

 

「状態異常に耐性のつく装備は持っておるか?」

 

「んな高級品あるわけないだろ」

 

「では無理じゃな」

 

「そうだ、私でも遠距離攻撃ができりゃいいんだろ?なら弓でも持って行けば……」

 

「初対面の一般人におぬしが前を任せられるのか?」

 

「一般人?ああ、一般から出た霊能集団に外注してたんだっけか。……あー、そりゃ無理だ。私がそいつらより後ろにいるなんて許せるわけがない」

 

小夜は口元を隠して微笑む。

真希は武闘派ではあるがバカではない。彼らの実力を目の前で見せられれば、自分との差を理解できるだろう。

だがそれでも由緒ある葛葉一族の者として、守るべき一般人に守られる自分など考えられないのだろう。

 

「難儀なヤツじゃなあ」

 

「む、お前いま私のこと笑ったろ」

 

「笑ってはおらぬぞ」

 

「いーや、笑った。絶対に笑ってたね。そういう陰険なことやってると彼氏が逃げるぞ」

 

「し、失礼じゃな。そんなことあるわけないじゃろ!」

 

「どーだかな。わかんねえぞ」

 

少女たちの言い合いは、雄利が数分後に戻ってくるまで続いた。

 

◇◇◇

 

【伊吹雄利】

 

無事に全ての試練を突破した俺たちは、葛葉本家で歓迎……される前に、なぜか俺だけ別の座敷に案内されていた。

 

いちおう一人ではなく、話し相手が一人いたが。

 

「私は認めん。貴様の剣は素人同然で、技術も何もなかった。私の剣術は、貴様になど負けてはいない」

 

先ほど一対一で倒したはずのゲイリンが、殺意のこもった視線を向けながらぶつぶつ言っていた。

たしかに剣術の腕はゲイリンの方が上だが、基礎であるレベルとステータスは俺の方がはるかに上のようだった。

レベルが上がるほど、同じ一秒の中でできる判断と行動の精度が上がる。だから技術は重要ではあるが、それだけでレベル差を覆すのは不可能に近い。

たとえば神主は幹部級の人によく勝負を挑まれているが、神主にあと一歩で届くように見えて、その一歩は地獄のフルコースを食べきらなければ踏破できない。

そんな格差があるのだと霊視ニキが言っていた。

 

「そもそも貴様の武器はただの木刀ではないか。それで私の名刀虎徹に、勝つ、など……ありえるわけがない。つまり先ほどの勝負は無効だ」

 

「別にいいですよ。なんなら今度は素手で相手しましょうか?何の技術もない素人の振るう木刀に負けたゲイリンさん」

 

「殺す」

 

懐に忍ばせていたのか、短刀が俺の目の前に迫る。

 

本人が自慢するだけあってゲイリンの技術は神業と呼べるもので、抜刀からの流れが自然すぎて攻撃だと認識ができない。

ただでさえ剣先が見えないくらい速いうえに、たとえ見えていても反応することができないのだ。

 

だが俺はもうそれを何度も見ている。

それが攻撃だと思えなくとも、抜刀体勢に入った段階で刀の軌道から逃げればいい。

正座した状態から上半身を後ろに倒し、そこから後ろに跳びずさる。

当たらないと思っていた短刀は、前髪の数本を斬り飛ばした。

だがそれだけだ。

 

最適な打点を外せば攻撃の威力は激減する。それでも無理に当てようとすればズレた分だけ体勢が崩れ、次の行動までの硬直が発生する。

返す刀が流れるように振るわれるが、もうそこに俺はいない。そしてゲイリンは隙だらけだ。

 

「【吹き飛べ(ザン)】」

 

衝撃でゲイリンの肩を撃ち抜き、部屋の反対側へ転がした。

 

「何度やっても同じですよ。いい加減に理解してください」

 

「ぐぅ、わ、私はまだ、負けていない」

 

「そういう負け惜しみは、悪魔に殺されてから言ってください。次はその短刀()折りますからね」

 

「うう、わ、私の虎徹ぅ……おおお!」

 

うーん、みっともない。

先ほどの戦いで、俺はゲイリンの刀を折ってしまっていた。偶然であり狙ってやったわけではないのだが、折られたことに気づいたゲイリンは文字通り硬直してしまい、勝負どころではなくなってしまった。

 

折った時は悪いことしたと思ったけど、そもそも俺が二回勝ってからの泣きの三回戦目だったし、しつこすぎてうんざりしてたので気遣う気持ちはすぐに消えた。

 

しかしもうこのオッサンの相手をするのがイヤになってきたな。

 

そんなことを思っていたら、廊下の障子が勢いよく開けられた。

 

「やっほー、かつとしくん元気しとるー?お、ゲイリンのおっさんオモロい格好してオモロい顔して何やっとんの?写真とってSNSに上げたろ」

 

クソガキもとい直哉少年が入って来るなりスマホでパシャパシャやりはじめた。

ゲイリンはどうでもいいのだが、こいつにはどう対応したらいいのかちょっと迷う。

 

「えっと、何か用でもあるのか?」

 

「あ、そうだ。かつとしくんの歓迎会の準備が終わったんで呼びに来たんや。主役の登場をみんな待っとるで」

 

直哉は機嫌良さそうに廊下へ走り出た。

 

「そうそう、かつとしくんは後でオレが必ずヘコましたるから、他のクソどもに絶対に負けたらアカンで。そこんとこ、よーく覚えといてや」

 

「そういう結論になったの?まあ、わかったよ」

 

面倒くさくはあるが、ゲイリンのようなヤツが増えなくて良かったなとも思った。

 

…………

 

葛葉家の歓迎会は、賑やかなものだった。

俺と小夜ちゃんが上座に案内され、座っているだけで色々な人が挨拶にくる。

 

正直に言って、誰が誰だかすぐに憶えられるほど頭がいいわけではない。

とりあえず試練の道にいた人たちはそれなりに偉い立場だったが、それより上の人も何人かいたことは分かった。

 

直哉の父親らしい当代のキョウジは、仕事でまだ東京にいるらしい。

というか葛葉本家であるここは京都にあるらしく、俺たちは新幹線に乗るより早くたどり着いたのだとか。

異界はとことん現実離れしていることを実感させられた。

 

ゲイリンの奥さんからは旦那のしたことを軽く謝られ、その上で「お詫びにウチの真希をもらってくれない?妹の真衣をつけてもいいわよ」などと言われたので断固お断りさせていただいた。

 

挨拶の人が途切れたところで、場が急に静かになった。

 

「葛葉御前様のおなりです」

 

その場の全員が頭を下げたので、俺も同じようにする。

 

沈黙が満ちる部屋の中、入ってきたのは式神でできた服(・・・・・・)を着た女性だった。




・ゲイリン
某呪術のクソ親父。
HNくらいの才能の限界まで剣術を鍛え上げた。だが無意味だ。
娘の才能はN。妹はギリHN。


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葛葉御前の話

 

「みなさま、楽にしてくださいませ」

 

葛葉御前様が言った。

黒髪のおっとりとした顔立ちの女性で、二十代くらいに見える。

葛葉家のトップだと聞いていたのでかなり年上だと思っていたのだが、早いうちから覚醒してるならショタオジ(かんぬし)と同じく若く見えてもおかしくない。

 

だが何より一番気になったのが、その服だ。

青を中心とした豪華な和服を幾重にも重ねたそれは、前世でも有名だったFGOの玉藻の前の三臨を連想させる。

そしてその下に着ている白の襦袢が、【シキガミ】のような気がしてならない。

 

俺たちが【終末アサイラム】を名乗る前、神主が初期から制作していた、美的センス0の一反木綿がごとき式神。

一度そうだとそう思ってしまうと、気配もそんな気がしてくる。

 

御前様も【転生者】だった?いや、神主はそんなことを言っていない。それに、御前様は強くなさそうだ。レベルはかなり低いだろう。

でもそれならどうして式神を持っているのだろうか。

 

そこまで考えたところで、横から小夜ちゃんにつつかれる。

御前様の話をスルーして思考に没頭していたが、小夜ちゃん以外には気づかれていないようだった。あぶない危ない。

小声でお礼を言って、御前様の話に意識を戻した。

 

「……彼は見事にみなさまが課した試練を突破しました。これをもって葛葉家に入るに足ると、彼自ら示しました。みなさま、それでよろしいね?」

 

「はい、我ら葛葉四天王家一同、異論はございません」

 

代表らしき女性が頭を下げ、居並んだ人たちがそれに続く。

御前様はそれへ鷹揚にうなずいてから、俺の前に来た。

 

「雄利さん、葛葉家は貴方様を歓迎いたします。どうかこれから末永くよろしくお願いしますね」

 

「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いしまし、します」

 

最後で噛みそうになった。意外と緊張しているのかもしれない。

御前様は美人だし、なんというか、迫力があるのだ。

その胸元から意識して視線をそらす。隣からの視線が痛い。

 

「さて、めでたい席での長話は嫌われてしまいますね。そろそろ乾杯でもいたしましょう」

 

「はいはーい、御前様。オレ、かんぱいってやりたい」

 

直哉少年が手を上げて、母親が後ろから慌てて止めている。

それを見た御前様はニッコリ笑った。

 

「いいですよ。では直哉さん、元気よくお願いしますね」

 

「よっしゃあ!じゃあいきまーす。かつとしくんの葛葉入りと第十七代目葛葉ライドウの誕生を祝って、かんぱーい!」

 

「「「乾杯!」」」

 

全員がコップや杯を掲げて言う。

俺も合わせてコップを掲げて、小夜ちゃんのコップに軽くぶつけてから口をつける。

 

……うん?俺の葛葉入り?第十七代目葛葉ライドウ??

 

周囲からは「めでたいめでたい」「これでライドウの家は安泰だ」などの声が聞こえてくる。

そういえば御前様からは「末永くよろしく」とか言われていたし、これってもしかして、葛葉家公認での婚約というか婿入り決定させられてしまったのでは?

俺としては今日は小夜ちゃんとのお付き合いを認めてもらうだけのつもりだったのだが。

悪いわけではないのだが、まさかこんなに簡単に話が進むとは思っていなかった。

 

コップを持ったまま固まっていると、小夜ちゃんに横からつつかれた。

顔を向けると、幸せそうな笑顔で言われた。

 

「ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」

 

「……はい、コンゴトモヨロシク」

 

そんな風に言われて、断れるわけないじゃろがい!!

 

 

…………

 

 

歓迎会というより、もはや宴のようになった。

 

展開の早さについていけずに流されるまま時間をすごしているうちに、いつの間にか外は夜になっていた。

 

トイレに行きたくなったので一人で外に出る。

女中さんに案内してもらい、スッキリ済ませてから廊下に出ると違和感がした。

 

宴会場からそう遠くなかったはずなのに、音が届いてこない。

気配をさぐりながら部屋の前まで戻るが、やはり障子の向こうは静かなままだ。

 

警戒しながら障子を開くと、中は何もない静かな座敷が広がっていて、その奥に御前様が一人だけ立っていた。

 

「お待ちしておりました、雄利さん。驚かせたみたいでごめんなさいね。貴方と二人きりでお話をしたいと思ったので、別の部屋にご案内いたしました。奥のふすまからすぐに戻れるので、少しだけよろしいかしら?」

 

御前様は穏やかな顔で座っているだけで、特に何かを企んでいるようには見えなかった。

ここまで歓迎しておいて俺に何かしようとするとは思えないので、うなずいて部屋の中に入る。

 

御前様は俺の頭からつま先まで見てから、ため息をついた。

 

「その服を見ると、彼のことを思い出します。お小夜さんから聞いていますよね、先代のライドウである、倫太郎さんのこと」

 

「はい。天才と呼ばれるくらい強かったのに、20年くらい前に突然いなくなったと聞いています。そして、子供だった小夜ちゃんを預けに一度だけ帰ってきたとも」

 

「そうです。彼がどうして消えたのか、私には教えてくれませんでした。最初は葛葉家に愛想を尽かしたのかとも思いましたが、それは違うようでした」

 

ここに来るまでのやりとりで、お世辞でもいい人ばかりとは言えない集まりだとは分かっていた。それは御前様も理解しているのだろう。

 

先代のライドウはほぼ確実に転生者だろう。ならばいずれ来る【大破壊】に備えるために行動したのだと考えられるが、別に葛葉家から出る必要はない気がする。

 

実際に、俺が葛葉家に婿入りすることを神主は拒否しないどころか簡単に認めていた。というか俺本人に黙ってコトを進めていた可能性すらある。

理由はたぶんその方が面白いからだろう。

 

だから先代ライドウはきっと別な理由で家を出る必要があったに違いない。

 

「御前様は、先代ライドウと面識があったんですか?」

 

「ええ、そうです。彼は私の幼なじみであり、そして許嫁(いいなずけ)でもありました」

 

「許嫁っていうとつまり、婚約者ってことですか?」

 

「そうです。分家の分家に突然現れた高い霊能力を持つ男児を、本家の格を上げるために使う。双方の親はそう考えていたようですが、私も彼も、そんなことは関係無しに親しくなりました。彼は他の誰より大人びていて、物知りで、頼もしかったです」

 

御前様が懐かしそうに語っている。この人は本当に先代ライドウを好きだったのだろう。

 

「そうだ、もしかしてその服って……」

 

「そうです。彼が紹介してくれた呉服屋であつらえました。伝統の服を新しいデザインで表現するって、最近になって特に評判が上がっているんですよ」

 

くるりと回って見せてくる御前様は、まるで少女のように喜んでいる。

服屋業界にも転生者がいるのか。

それはいいことなんだけど、俺が言っているのはそこじゃない。

 

「とてもキレイな服だと思います。ですが、俺が言っているのはその、内側に着ている白い服の方です」

 

「こちらですか?ええ、その通り彼から贈られたものです。もしかして、コレが何か知っていらっしゃるのですか?」

 

御前様が着ている白襦袢が動き、角隠しのような兜を形作る。しかしすぐに元の襦袢に戻った。

やっぱりあれは、神主製の式神だ。

 

「それは俺たちの【終末アサイラム】で作られている式神です。それを御前様に渡したということはつまり……」

 

「……倫太郎さんはそこ(・・)にいる、ということでしょうね」

 

御前様はどこかほっとしたような表情をした。

 

「俺たちはハンドルネーム……いわゆるあだ名(・・・)のようなものを使って交流しています。だから本名を知っている相手は少ないんです。たとえ倫太郎さんに会っていたとしても、顔を知らないとそうとは分かりません」

 

「昔の写真でよければ持ってますよ。見ますか?」

 

御前様は懐から、布の包みを取り出した。その中には手帳が入っていて、間に挟んであった一枚の写真を見せてきた。

 

「えっ、これってもしかして」

 

写真に写っていたのは少女のころの御前様で、その隣には若く背の高い男がいた。

ノリノリでジョジョ立ち(ポージング)しているせいで男の顔は半分ほど隠れているが、その顔には見覚えがあった。

 

「知っている人でしたか?」

 

「はい、何度か会っていて……。え、でもあの時は何も……」

 

信じられないという想いのせいで、思考がまとまらない。

これが本当なら、なんであの時にあんな態度を取っていたのだろうか。

考え込みそうになったところで、御前様が見ていることに気づいた。

 

「失礼しました。この人に会ったことがあります。今すぐにでも連絡を……あ、向こうからばっかりだ。なら掲示板を使うしかないか」

 

「いえ、その必要はありません。彼が必要だと思えば、向こうから連絡してくるでしょうから。そうでないなら、それは余計なことなんでしょう」

 

「でも、会いたくないんですか?」

 

「もちろん会いたいですよ。でも、いいんです。その代わりに教えてください。彼は元気でしたか?」

 

聞かれて、最後に会った時のことを思い出す。はっきり見てはいないが、最初にあった時と変わってないなと思った記憶がある。

 

「疲れたような顔のせいで老けて見えてたけれど、すごく頑張っていました。たぶん、やらなくてはいけないことを頑張っていたんだと思います」

 

自分の楽しみを優先しがちな【俺たち】の中でも少し変わった人だと思っていたが、この写真が本当だとするなら、今までの話が色々と意味が変わってくる。

 

「この、先代ライドウは何か言ってましたか?なんというか、目的とか決意みたいなことととか」

 

「そうですね。……そういえば彼が葛葉家を出て行く前に、一言だけ言ってくれました。私を必ず助ける(・・・・・・・)と。それがどういう意味かは分かりません。ですが、この服をくれた時も同じことを言ってくれました」

 

目的は、葛葉御前を助けること?

もしも俺の予想通りなら、先代ライドウ(・・・・・・)周回ニキ(・・・・)であるのなら、この言葉は重い意味を持つことになる。

 

でもあの人(・・・)だったなら、あの時の態度が俺には理解しがたい。

 

「分かりませんが分かりました。とりあえずこの件は俺が調べます。俺も本人に聞きたいことができましたから。何か分かったら御前様にも連絡します」

 

「そうですね。でしたらクダギツネを使ってください。すでに持っていますよね?」

 

「はい、こいつです」

 

黒銀のクダギツネを喚び出して、御前様に見せる。

クダギツネは大人しく、御前様のされるがままなでられていた。

 

「かわいいですね。ところでこの子の名前は考えてありますか?」

 

「毛並みからギンコと名付けました」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

メガテンといえばギンコだと思って名付けたのだが、もしかしてすでにギンコさんいたのか?

ああそうだ、ソウルハッカーズでは葛葉一族のお目付役としてマダム銀子がいたんだった。

 

「まずかったですかね?」

 

「いえ、大丈夫だと思いますよ。たぶん」

 

そういう御前様の目はいくぶん泳いでいた。




・葛葉御前
本名【葛葉まゆり】
葛葉本家が一族の衰退を防ぐため、霊的資質の高い者どうしの子供を選択していった結果生まれた、ある意味人工的な能力者。ランクはR上位~SR下位。
血が濃くなった影響で体が弱く、めったに外出しない。
その能力は主に結界の維持や礼装の作成などに使われている。

・クダギツネ
黒銀のギンコ。
小夜の方は茶金なのでコガネと名付けた。

・マダム銀子
cv杉田


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分岐路

【大型揚陸艦ゴールデン・ハインド号】

 

荒れ狂う嵐の海を、大きな鉄の船が進んでいた。船の名は【ゴールデン・ハインド】号。かつてイギリスで活躍していた私掠船船長【フランシス・ドレイク】の船と同じ名前だ。

その船内は外観から想像できるとおり広く、操舵室に複数ある大型スクリーンは外の荒れた海を映し出していた。

船内は揺れが軽減されているものの、外が大荒れのため慣れていないものが船酔いするには十分すぎるほど揺れている。

 

船長のイスに座っている青年もまた、青い顔をしていた。

 

「うっぷ。くそっ、そとの景色を見ても、ちっとも楽にならないじゃないか。それどころか、カメラが揺れてるせいでもっとヒドくなった気がする」

 

青年が弱々しく毒づいていると操舵室の扉が開いて、学生服の少年が入ってきた。

 

「やあ、ワカメ沢さん。こんなところにいたんだね。何をしているのかな?この船は全自動で動けるから、ワカメ沢さんが見ている必要はないんだけど」

 

赤根沢(・・・)だ。見ての通り船酔いだ、うっぷ。船室にいるとライダーがうっとおしいから、こっちに逃げてきたんだよ」

 

「ライダー?ああ、【英傑 フランシス・ドレイク】のことだね。彼女(・・)はキミの式神なんだから、早く仲良くなっておいた方がいいよ」

 

「フランシス・ドレイクが女だとか、式神とか造魔とか、突飛すぎてついていけない。そもそもなんでボクがこんなところで船長にされているんだ。ボクは留学のための船を用意するとしか聞かされていなかったんだぞ。それなのにどうしてこんなことに」

 

赤根沢偉出夫は操作盤に触り、荒れ狂う海の画面を航路図に切り替えた。

航路図は南アフリカ大陸に沿ってインド洋を南下する線を描いている。

 

「赤根沢さんが船長に選ばれた理由?作成した専用の式神造魔が合体事故によって偶然【英傑 フランシス・ドレイク】になったとか、たまたま開始直前の作戦に高度な航海技術か航海の加護が必要だったとか色々あるけど……。まあ、一言で言うと『全て邪神のせいだ』ってコトですよ」

 

「雑っ」

 

船酔いのため、ツッコむ言葉にキレがない。

 

「いやいや、僕は大真面目ですよ。邪神は偶然というものが大好きで、僕らがサイコロの出目によって一喜一憂するのを見て楽しんでいるんです。だから、偶然とかたまたま大変なことに巻き込まれた時は、たいてい邪神の仕業なんです」

 

「……。その邪神ってのは、ろくでもないんだな」

 

「その通りです」

 

少年はニコニコ顔でうなずく。

 

「僕らはこれから、その邪神を退治しに行くんです。赤根沢さんも今のうちに休んでおいた方がいいですよ」

 

「休むも何も、こんな嵐の中で落ち着いていられるワケがないだろ」

 

「大丈夫ですよ。ドレイクが持っているスキル【嵐の航海者】は、その名の通り嵐の海でこそその真価を発揮します。このまま嵐にのって、目的地まで直行です」

 

「このまま、嵐に乗って、だって?」

 

「そうですよ。予定通りに行けば5日後には到着します。早くあの邪神の顔面を殴ってやりたいですね」

 

赤根沢は、拳を固める少年を信じられないという顔で見る。

 

「ぼ、ボクはお前たちを送り届けるだけだからな。ボクは技術者なんだから、お前たちみたいに悪魔と戦ったりしないぞ」

 

「赤根沢さんも才能あるんだから、鍛えればそこそこ戦えるようになると思うんですけどね。(まあ、魔神皇になられちゃ困るから、鍛えない方がいいかもだけど)」

 

少年のつぶやきは、赤根沢には聞こえなかった。

 

「何を言われても、ボクは戦闘には協力しないからな」

 

「ええ、それでいいですよ。ところで話しているうちに、船酔いがだいぶマシになったみたいですね。航路の監視は僕が引き継ぐので、赤根沢さんは船室に戻って休んでください」

 

「くっ。誤魔化されたみたいでムカつくが、楽になったのはその通りだ。今日のところはこれくらいにしてやる」

 

「はい、ゆっくりと休んでください」

 

赤根沢は立ち上がると、ふらふらしながら操舵室を出て行った。

 

◇◇◇

 

【転生者用雑談スレ】

 

1:名無しの転生者

おつかれー

うまいこと神主が釣れてよかったー

 

2:名無しの転生者

>>1 立て乙

そして乙

天岩戸作戦とかまんまな作戦名聞かされた時はどうなるかと思ったが

家の前で祭りが始まれば出てこざるを得ないのは当たり前だったな

神主もやはり人の子か

 

3:名無しの転生者

>>1 立て乙

引きこもりは祭りに弱い

古事記にもそう書かれている

 

4:名無しの転生者

>>3 おっ、そうだな

でも最初に神主に気づいたのはやっぱり霊視ニキだったんだろ?

バレないように気配を消して祭りに紛れ込んでいるとか、神主はニンジャだった?

 

5:名無しの転生者

>>4 座敷童かもしれない

 

6:名無しの転生者

霊視ニキじゃないと神主見つけられないとか、かくれんぼやったら神主最強じゃね?

 

7:名無しの転生者

>>6 その理屈だと最強なのは霊視ニキなんだよなあ

まあ神主が通常業務に復帰してめでたい

引きこもっている間にスキルカードとか量産してたみたいだし、次のピックアップガチャが楽しみだな

 

8:名無しの転生者

ガチャか……。

オレ、次こそは式神とイチャイチャするんだ……。

 

9:名無しの転生者

ガチャ……ガチャ……

 

10:名無しの転生者

房中術引きました

房中術引きました

房中術引きました(素振り

 

11:名無しの転生者

まだマッカ全然たまってないよ

誰か稼ぎのいい仕事をくれ

短期でもいいから

 

15:名無しの転生者

始まる前から死屍累々とは驚いたなあ

 

16:名無しの転生者

この話題やめよっか?

誰か面白い話してくれない?

 

17:名無しの転生者

俺に任せろー バリバリ

 

18:名無しの転生者

>>17 やめて!

 

19:名無しの転生者

>>17 >>18 ずっと気になってたんだけど、それどういうギャグなの?

 

20:名無しの転生者

>>19 えっ、それマジで言ってる?

 

21:名無しの転生者

>>19 その昔にマジックテープ財布というものがあってな…… 

 

22:名無しの転生者

>>19 やめろカカシその技はオレに効く

 

23:名無しの転生者

この話題もダメじゃない?

 

24:名無しの転生者

だれか、頼む!流れを変えてくれ!!

 

25:名無しの転生者

じゃあここはオレが

 

26:名無しの転生者

>>25 いやここはオレが

 

27:名無しの転生者

>>25 >>26 じゃあオレも

 

28:名無しの転生者

>>27 どうぞどうぞ

 

29:名無しの転生者

>>27 どうぞどうぞ

 

30:名無しの転生者

>>27 どうぞどうぞ

 

31:名無しの転生者

>>27 どうぞどうぞ

 

32:名無しの転生者

>>28 ~ >>31 増えんなwww

 

33:名無しの転生者

>>28 ~ >>31 多いwww

 

34:名無しの転生者

 

35:名無しの転生者

息合ってんなオマエラw

 

38:名無しの転生者

よしマジで話変える。

葛葉家との合コン終えたワイ、ついに最初のデートの約束を取り付けることに成功

 

39:名無しの転生者

やっと最初のデート?遅くない?

 

40:名無しの転生者

デートの約束しただけで勝ち誇るとか、恋愛弱者かな?

 

41:名無しの転生者

普通にすごいやんとか思ったんだけど、みんななんでそんな反応なん?

 

42:名無しの転生者

>>39 >>40 なんでそんな冷たいんだよ!ワイ頑張ったんやで!もっと褒めてくれよ!!

 

43:名無しの転生者

>>42 だってねえ、前スレですでににゃんにゃん済ませた報告あったし……

 

44:名無しの転生者

>>44 にゃんにゃんってなんだよ!!

 

45:名無しの転生者

>>45 にゃんにゃんはにゃんにゃんだよ

言わせんな恥ずかしい

 

46:名無しの転生者

ピュアボーイはそれでいいじゃないか。

汚れっちまったオレたちには、その純情さがまぶしいのだ。

 

47:名無しの転生者

>>46 前世からの童貞継続ニキオッスオッス

 

48:名無しの転生者

>>47 どどど童貞ちゃうわ

 

49:名無しの転生者

>>48 でも嫁いないんでしょ?

 

50:名無しの転生者

はいこの話題もヤメ!もっと楽しい話をしようぜ!

 

51:名無しの転生者

じゃあ話を戻すけど、初デートの心構えとか教えてほしい

 

52:名無しの転生者

>>51 ヤメって言ったろ!戻すな!!

 

53:名無しの転生者

>>51 パンダの恋愛講座でも見て学んでくれ。

つ【http:/xxx】

 

54:名無しの転生者

>>53 そういうのじゃなくて、もっとこう、簡単なのはないか?

 

55:名無しの転生者

>>54 コレを読んでしっかり理解した者たちからせいこうしている。オレもそうだ。

 

56:名無しの転生者

>>53 コレはマジで有効だぞ

 

58:名無しの転生者

せいこう(意味深)

 

59:名無しの転生者

基本はやっぱり大事なんやなって

 

60:名無しの転生者

ところで葛葉家の人たちってどんな感じだったん?

ワイの知り合いの地方民が葛葉クソって言っているんだが

 

61:名無しの転生者

>>60 普通にいい人ばかりだったぞ

ちょっとネコ被ってる感じはするが、クソな要素は見当たらなかったな

 

62:名無しの転生者

>>60 慎み深くて丁寧。まともすぎてこっちが申し訳なくなるくらいだ。

オレじゃなくてもっといい人いるだろ?ってなってる。

オレが釣り合ってなさすぎて、逆に胃が痛い。

 

63:名無しの転生者

>>60 葛葉は能力主義()だから、能力あるヤツが威張ってて性格がクソ

逆に能力ないヤツはあるヤツの言いなりになってる

つまり相手よりも霊能力があればそれだけで立場が上になるってことだ

 

64:名無しの転生者

>>63 葛葉に限らず、伝統ある優秀な地方霊能組織(笑)ほどそんな感じだな

 

65:名無しの転生者

マシな組織もあるにはあるが、自分たちが地方を守ってるってプライドもあるんだろうからその辺にしといてあげなよ

 

66:名無しの転生者

>>65 プライドあるなら地方異界をしっかり管理していてほしいんだよなあ

 

67:名無しの転生者

>>66 戦後の霊能者狩りで弱体化してるんだから許してあげて

 

68:名無しの転生者

>>67 つまり結局メシア教過激派が全部悪い

 

69:名無しの転生者

当然の帰結

 

70:名無しの転生者

まとめると今回の葛葉家との合コンは大成功ってコトだな

第二回早く企画してどうぞ

 

71:葛葉フレンズ

>>70 次は葛葉四天王の家系も参加するらしいから

性格キツいの増えるから覚悟しておいて。とのこと。

 

72:名無しの転生者

>>71 葛葉フレンズおっすおっす

神主出てきたみたいだけど十六代目ライドウのことは聞けたんか?

 

73:葛葉フレンズ

>>72 神主からは口止めされてるから言えないっていわれた。

周回ニキなら答えられるかもだからそっちに聞けだとさ。

ちなみにその周回ニキは南極大冒険中らしい

誰かちょっと南極行って周回ニキ引っ張ってきてくれない?

マッカ払うからさあ。

 

74:名無しの転生者

>>73 なんで神主がダメで周回ニキが……

ああ、周回ニキなら前の周回でライドウの秘密を知ってるってことか

前の周回での約束というか縛りがあっても、今回には持ち越してないとかそういう抜け道だな?

 

75:名無しの転生者

周回ニキ主催の南極クエストは長期任務だからなあ。結局、シュバルツバースの事前調査と邪神の調査の両方をやることになったんだっけか。

南極の神性っつったら古き者どもだっけか?

 

76:名無しの転生者

>>75 ショゴスじゃなかった?どっちもか?

 

77:名無しの転生者

南極は広いし船だから移動時間もかかるし、しばらくは戻ってこれないやろ

 

78:名無しの転生者

南極クエストかあ。

デモニカスーツは興味あったけど、長期任務だと家庭持ちは参加しづらいんよなあ

 

79:名無しの転生者

>>78 そこでワイらの出番よ!

 

80:名無しの転生者

>>79 いよっ、末代!

 

81:名無しの転生者

>>80 草www

 

82:名無しの転生者

>>80 吹いたw

 

83:名無しの転生者

>>80 お茶返せwww

 

84:名無しの転生者

>>80 絶許

 

85:名無しの転生者

実際に参加してるのは式神嫁勢がほとんどだからな。

家庭持ちは予備隊に割り振られたらしいし。

 

86:名無しの転生者

長期戦を覚悟してんだねえ。マジな作戦みたいで終末が近づいてるんだと実感する。

 

87:名無しのブン屋

【速報】北米で邪神クトゥルーが顕現するもこれを撃破【大勝利】

 

88:名無しの転生者

>>87 ファッ!?

 

89:名無しの転生者

>>87 どういうことだってばよ?

 

90:名無しの転生者

>>87 いったい何が起こったってのか

 

91:名無しの転生者

>>87 情報少なすぎるんよ

 

92:名無しの転生者

>>87 ファッ!?えっ、何この……何?

 

93:名無しの転生者

>>87 もっと詳しく教えてくれYO!

 

94:名無しのブン屋

現在分かっていることを簡単にまとめます。すぐ次の板に行くので質問には答えられません。悪しからず。

・マサチューセッツ州のセイラムにて、ダゴン教団が邪神召喚の儀式を進めていた。

・同州の大学にはスティーブン(現地メンバーが救出)の悪魔召喚プログラムがあった。

・その悪魔召喚プログラムの発注元はメシア教であり、残されたプログラムをナイア神父とかいう邪神の化身が魔改造していた。

・我らが邪神スレイヤーがナイア神父を撃破。その際に置き土産としてクトゥルーを召喚される。

・ちょうど沖合に停泊していた揚陸艦ゴールデンハインド号がこれと接触、戦闘に。

・揚陸艦の支援と高レベル転生者たちにより撃破。

・ちなみにクトゥルーはプログラム含めもろもろ不完全だったため、弱体化していたもよう。

 

95:名無しの転生者

>>94 待ってくれたまえ ことばの洪水をワッといっきに浴びせかけるのは!

 

96:名無しの転生者

>>94 だれか三行で説明してくれ

 

97:名無しの転生者

>>94 なるほどわからん

 

104:名無しの転生者

>>96 アメリカでナイア神父が邪神クトゥルーを召喚

南極に行っていたはずのゴールデンハインド号がクトゥルーを討伐

ナイア神父は邪神スレイヤーがスレイ

 

105:名無しの転生者

>>104 サンクス!

 

106:名無しの転生者

>>104 ちゃんと産業じゃないか。有能。

 

107:名無しの転生者

はえー、えらいことになってるんだなあ

 

108:葛葉フレンズ

>>南極行ってたはずのゴールデンハインド号

周回ニキいま北米にいるのん?

 

109:名無しの転生者

>>108 いやゴールデンハインド号は追加部隊で、周回ニキは先に南極行ってるはず。

てか追加部隊がまるまる北米行ってるってことは最初からこれする予定だった?所要時間的に日本から船で直行してる計算になるんだけど。

 

ああそうか、全部周回ニキの作戦ってことか。

 

110:葛葉フレンズ

>>109 詳しい説明たのむ

 

111:名無しの転生者

>>110 簡単に言えば、南極の邪神討伐の話がブラフだったってこと。

ナイア教授が本当に邪神の分身だったなら、正面から行ったら逃げられてた可能性が高い。

だから南極に行くと見せかけて不意打ちした。と思われる。

 

112:名無しの転生者

つまり周回ニキの周回知識が火を噴いたってことか

 

113:名無しの転生者

俺らにまで噓の情報出すとか、手が込みすぎだろ

さすがに神主はこの作戦のこと知ってるよな?

話題に出さないために引きこもってたとかあり得る?

さすがに考え過ぎか??

 

114:名無しの転生者

でもそこまでする必要あったのん?

 

115:名無しの転生者

>>114 バッカお前クトゥルーって言ったら一般人が直視したらそれだけで発狂案件だぞ。つまり時間が経てば経つほど被害が拡大するんだ

それを速攻で倒せたんだから大金星どころじゃないだろ

倒せてなかったら今ごろ北米だけじゃなく映像中継されたお茶の間がSAN値ピンチだぞ

 

116:名無しの転生者

>>114 邪神の分身が悪魔召喚プログラムを持ってたってだけでヤバすぎるゾ

ほっといたら人類全部に「キミの後ろに這い寄る混沌♥」されてもおかしくないゾ

 

117:名無しの転生者

>>115 >>116 ヒエッ、何それ怖い

 

118:名無しの転生者

でもゴールデンハインド号のおかげで悪は去ったってことだな

 

119:名無しの転生者

勝ったなガハハ

 

120:葛葉フレンズ

それで結局は周回ニキはまだ南極にいるってことなんだな?

 

121:名無しの転生者

>>120 せやな

 

122:名無しの転生者

周回ニキ稼ぎのいいクエストもれにもクレヨン

 

123:名無しの転生者

被害が少ないせいで盛り上がらないな。

まあGPバク上がりして終末案件になるよかマシか




・赤根沢偉出夫の式神
デスマーチによる悪魔召喚プログラムのリリースも含め、報酬のひとつとして式神が用意されることになった。
本人からの外見オーダーは、『包容力のある大人の女性』。
縁をたぐって素体を召還した結果、【夜魔 ワイルドハント】の要素が強く出ていた。
造魔技術と合体事故により、【英傑 フランシス・ドレイク】が誕生した。
英傑ではあるが造魔(式神)でもあるので、まだ自意識が薄い。

・ゴールデン・ハインド号
フランシス・ドレイクが乗るならこれしかないだろ!とノリとスキル効果を期待されて名付けられた。実際に性能は向上している。

・邪神召喚テロ阻止
邪神「既プレイ勢の乱入はルール違反ニャルよ!!」
周回ニキ「行けっ、邪神スレイヤー!」
ペルソナ使い「邪神死すべし慈悲はない」

・周回ニキ
「今後のためにも北米の存続は必須。南極のことはこっちに任せろー(氷バリバリ)」


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加速する世界

北米でクトゥルーが召喚され、ゴールデン・ハインド号の乗組員によって倒された。

邪神が顕現していたのは半日にも満たず、またその『見た者の正気を奪う』という性質もあって真実を知るものは驚くほど少なかった。

 

そのため、表向きは日本のアミューズメント会社【株式会社ドゥームス】の突発的な大型プロモーションとして処理された。

バケツのようなヘルメットを被った特殊部隊員が大型の揚陸艦に乗って恐ろしい怪物と戦う様子が幾つものカメラにより記録されているが、それがCGではない現実の光景だと言われても、誰も信じられないだろう。

 

真実を知るのは米国政府のごく一部の高官のみである。

一方、その邪神を召喚したナイア神父は死亡し、そこに至るまでの騒動はテロの未遂事件として調査が進められた。

これによりメシア教過激派が関与していた証拠が見つかり、大がかりな捜査が開始。

複数ある施設に隠されていた危険な薬物や非人道的な実験の記録が見つかり、メシア教過激派はテロリスト集団として厳しい監視の目を向けられることとなった。

 

これで終われば『めでたしめでたし』だったのだが、メガテン世界にそのような生ぬるい結末は訪れない。

 

世界中で大小様々な異界が多数発生し始めたのだ。

 

邪神クトゥルーが召喚されたせいでGP(ゲートパワー)と呼ばれる異界からの浸食度が上昇したのだ。

さらに竜脈の活動も活発化していて、今後もますます増えていくだろうとのこと。

【終末アサイラム】では「狩り場が増えるよ。やったね!」という声が出ているが、それへの返答はもちろん「やめろ、バカ!」である。

異界は潰さなければ内部で悪魔が増え続け、放っておけば現世(こちら)へあふれ出てくることになる。

そうすると地上は悪魔がはびこる魔界と化し、人間は地下のシェルターへ引きこもることになるだろう。

 

まさに今は【大破壊】の一歩手前なのだ。

 

この事態に日本の霊的防衛組織の要である根願寺も焦りを感じているようだったが、その思考はいささかズレたものだった。

 

「帝都大結界の周辺に多数の異界が発生した。このままでは首都圏への物資の輸送がままならない。主要幹線道路の周辺だけでもいいから、異界の討伐を急ぐのだ」

 

「先日の異界討伐の後に、大結界を解除しなかったからそうなっているんですよ」

 

「大結界がなければ東京に異界が発生していたんだぞ!」

 

「でも数は今までの半分以下だったでしょうね。東京だけを結界で守っているから、その外にしわ寄せが行っているんです」

 

「ええい、過ぎたことをクドクドと五月蠅い。そんなことはいいから、なんとかしてくれ」

 

「なんとかするための人手が必要です。手配するための予算はいかほどで?」

 

「金、金、金!そんなに金が欲しいのか。お国のために無償で働くという気概はないのか。この金の亡者め!」

 

「今日のお前が言うなスレはここですか?」

 

以上が【アサイラム】と【根願寺】の話し合いの大まかな流れである。

 

幸いなことに発生したての異界のレベルは大したものではなく、転生者であれば少人数での攻略が可能であった。

根願寺から引き出せた報酬は【終末アサイラム】の活動のための権利拡大くらいしかなかったが、転生者たちは「マッカ!」「経験値!」「素材!」と叫びながら嬉々として異界を攻略していったとか。

 

これを機に【終末アサイラム】は対悪魔、対終末組織として根願寺以上の存在だとみなされた。

また【人外ハンター組合 ドゥームス】として表舞台にも姿を現した。

そして在野の霊能者のみならず、一般人からも広くハンター候補生の募集を開始。

候補生は覚醒訓練を受け、見事覚醒すればハンター免許を与えられる。

 

貢献ポイントによるハンターランク制度と、それを管理するハンター用スマートCOMPの配布。

それらはまるでこのような事態を予測していたかのように、素早く的確に用意された。

 

「まるでファンタジー世界に異世界転生したみたいだ。テンション上がるなあ」

 

「異世界転生はある意味間違ってはいないんだよなあ」

 

そんな会話が転生者の間で交わされていたとか。

 

◇◇◇

 

【ロリ転生者に目を付けられたんだがどうしたらいい?】

 

1:名無しの転生者

ヤバイやつに目を付けられた

どうしたらいいか分からない

誰か助けてくれ

 

2:名無しの転生者

>>1 乙 オレらも転生者だろ定期

 

3:名無しの転生者

>>1 乙 ロリなのにヤバイのか?

 

4:名無しの転生者

>>1 ロリのところを特にkwsk

 

5:>>1

頼むから真面目に聞いてくれ

昨日なんだが、もれがいつものように小学生の集団下校の様子を見守っていた時のことだ

邪魔にならないように10mくらい離れた所にいたんだが、年長のJSが急にこっちを見たんだ

 

6:名無しの転生者

いつも見守っていたのかなるほど。もしもしポリスメン?

 

7:名無しの転生者

10mくらい離れた所ってのがリアルでキモい有罪

 

8:名無しの転生者

>>5 通報した

 

9:>>1

>>6 ~ >>8 キモいのは分かっているからこそ遠くから観察してたんだよ!

最近は悪魔がよく目撃されるようになってきたし!シャドウも出てくるかもだし!

もれが活躍できる場面がくるかもしれないだろ!

 

 

10:名無しの転生者

>>9 犯罪者はみんな同じことを言うんだゾ

 

11:名無しの転生者

>>10 あわよくばという期待が見え透いているんだよなあ

 

12:>>1

とにかく話を続けるぞ

こっちを見たJSは昔から知ってる子で、もれにも普通に挨拶してくれる子なんだ

お嬢様ってほどじゃないが割と立派な家に住んでる、しっかりした良い子なんだが

アニメとかマンガとかも普通に見てて、その話で盛り上がったこともある

 

13:名無しの転生者

これほんと早くポリス呼ぶべきでは?

 

14:名無しの転生者

さすがに犯罪者は庇えんよなあ

 

15:名無しの転生者

スタッフー、バインドの準備しといてー

 

16:>>1

だからJSがこっちに来たことに驚きはしたものの、逃げる必要は感じなかったんだ

危機察知は得意だから、悪魔相手にもバックアタックを食らったことはないのが自慢だ

だがそのJSはもれの前で止まって、こう言った

 

「今日も私を見守ってくれてありがとうございます。安珍様」と

 

17:名無しの転生者

ひえっ

 

18:名無しの転生者

安珍?

 

19:名無しの転生者

あっ

 

20:名無しの転生者

>>16 安珍だと何かヤバいのか?

 

21:名無しの転生者

>>20 ヤバイかヤバくないかで言えば、>>1 の身の安全がヤバい

 

22:>>1

ここで否定しなかったのがマズかったし、さらに言えば驚いて「清姫?」って聞いてしまったんだ

前世の知識がにくい

ちな、この後何が起こったか、おまいらになら分かるだろ?

 

 

23:名無しの転生者

>>22 火葬

 

24:名無しの転生者

>>22 火生三昧

 

25:名無しの転生者

>>22 み い つ け た

 

26:>>1

>>25 悪い冗談はやめてくれ!思わず後ろを振り返ったわ!!

>>22 >>23 さすがにいきなりそれはなかった

その子を仮に【清子】ちゃんとしておくが、本名は清姫じゃなかったし今までそう呼ばれたこともなかったはずだ

なのにもれのことを「安珍様」って呼んだし、もれもうっかり「清姫」と呼んでしまったものだから、本物認定されてしまったらしくてな?

 

27:名無しの転生者

何言っているのかさっぱり分からんのだが

 

28:名無しの転生者

>>27 「安珍清姫」でググってこい

 

29:名無しの転生者

香典の準備をしておこうか

 

30:>>1

>>29 まだ焼かれるまでは行ってない

その時は清子ちゃんが「後でまた会いに行きますね」ってすぐ戻っていったから、何か勘違いだったのかなと思ったんだ

そう思いたかったんだ

だがもれが家に帰ったらすぐにインターホンが鳴ってな?

扉のレンズから見たら清子ちゃんが下からレンズを見ててな?

「安珍様」って外から呼ぶんだよ

 

31:名無しの転生者

ひえっ

 

32:名無しの転生者

これはポリスメン案件?いやむしろエクソシスト案件か?

 

33:名無しの転生者

流れ変わったな?

 

34:名無しの転生者

>>33 もどして

 

35:名無しの転生者

も ど し て

 

36:名無しの転生者

急展開w

 

37:名無しの転生者

今はまだ怪談の時期じゃないんだよなあ

 

38:名無しの転生者

で、結局 >>1 は焼かれたの?

 

39:>>1

焼かれてないゾ

とりま何かあっても勘違いされないように、いつものように子供がたくさんいる公園で仲良くお話した

他の子と遊ぶように勧めたけど離れてくれなかった

 

40:名無しの転生者

話を聞く限り >>1 はロリコンなんだろ?むしろご褒美なのでは?

 

41:名無しの転生者

>>39 すでに勘違いされてそうなんだが、って打とうとしたら目に入る「いつものように」という文字。

やはりポリスメン呼ぶべきでは?

 

42:>>1

>>40 清子ちゃんはカワイイんだけどね?さすがに選択肢ひとつ間違えたら丸焼きにされるリスクはお菓子たくない

それにもれはみんなのものだから

 

43:名無しの転生者

>>42 むしろ煩悩ごとこんがり焼かれてどうぞ

 

44:名無しの転生者

>>43 ほんそれな

 

45:名無しの転生者

>>1 この清子ちゃんてどういう存在だ?子供に【キヨヒメ】がとり憑いたとか?

ところでキヨヒメって鬼女だったっけ?

 

46:>>1

>>45

話を聞いたところ、夢の中で【キヨヒメ】に「我は汝、汝は我」されたらしい

だからたぶんペルソナ持っていると思う

ペルソナ2基準ならSTRENGTHだと思う

ちなみにもれもペルソナ使いな?

ペルソナは【HERMIT 猪悟能】だ

 

47:名無しの転生者

>>46 猪八戒じゃねーか!

 

48:名無しの転生者

>>46 安珍じゃねーのかよ!

 

49:名無しの転生者

>>46 運命の出会いかと思ったら全然ちがいましたねえ

 

50:名無しの転生者

>>46 別人じゃないですかー!やだー!

 

51:名無しの転生者

安珍は坊さんだったらしいけど、共通点それくらいか?

八戒もいちおう仏徒だし

 

52:名無しの転生者

だがまだ本名が安珍だった可能性がある。だろ? >>1

 

53:>>1

安珍ではない

だが「あんチン」とは呼ばれていたからきっとそれじゃないかなあ

あだ名がにくい

 

54:名無しの転生者

>>53 むしろそれしかないだろ。つながりあって安心したわ

 

55:名無しの転生者

なんだよ(運命)できんじゃねーか

 

56:名無しの転生者

>>1 前から知り合いだったみたいだが、あだ名以外で好かれるエピとかあったんか?

JSに話しかけるオッサンとか普通にポリス案件だろ

 

57:>>1

親同士が友人だから小さい時から顔を見てる

清子ちゃんはわしが育てたと言っても過言ではない

 

58:名無しの転生者

>>57 よかったなおめでとう。釣り鐘の中に一緒に入ってどうぞ

 

59:>>1

>>58 ほんとかんべんしてしてほしい

いま思い出したけど、そういや半月前にマヨナカテレビに迷い込んでたから出してあげてた

エントランスで困ってただけだからすぐ終わったせいで、すっかり忘れてたわ

 

60:名無しの転生者

>>59 それしかないレベルでそれだよ!お前の脳みそスカポンタンかよ!

 

61:名無しの転生者

頭空っぽだから夢詰め込めそう

 

62:名無しの転生者

>>61 詰め込んだ夢のせいで実在ロリを記憶できない不具合起きてますがそれは

 

63:名無しの転生者

>>59 マヨナカテレビということは>>1は八十稲葉民か

 

64:>>1

>>63 沖奈市民だお

ちなソロプレイヤーだから早くペルソナ使える式神ほしい

 

65:名無しの転生者

ソロプレイヤーすごいと思ったがロリコンとチームは避けるか普通は

 

66:名無しの転生者

>>64 式神がロリっ娘で清子ちゃんに >>1 ごと焼かれるんですねわかります

 

67:>>1

>>66 !? 

 

68:名無しの転生者

>>67 もしや気づいておられなかった?

 

69:名無しの転生者

やはり頭が夢でいっぱいだったか

 

70:名無しの転生者

ペルソナが猪八戒なの納得しかない

 

71:名無しの転生者

流れをぶったぎって失礼するが、前世が歴史上の人物だと思い出す現地転生者って最近増えているのだろうか

実は私の娘も英雄の転生者らしいのだが

 

72:名無しの転生者

>>71 それマ?誰?

 

73:名無しの転生者

>>71 現地転生者の話はごくまれに聞く

そしてつい昨日も似たような件で相談したいと言われた

 

74:>>71

>>72 隠しているわけじゃないが念のため言わない

>>73 やはりいるのか。ならただの夢とか思い込みの可能性は低いのかな

 

75:名無しの転生者

>>71 それ神主に聞いたが、どうやらGPが上昇したせいらしい。

雑魚悪魔ならともかく大悪魔が出てくるのはまだ難しいから、ちょっと才能ある現地民に力を分けたりして信者を増やそうとしてるって理由もあるらしい。

 

76:名無しの転生者

>>75 うーん、キヨヒメに関連する大悪魔って思いつかないのだが?

 

77:名無しの転生者

>>76 仏の誰かじゃなかろうか。

猪八戒まで関連してると考えると、お釈迦様の可能性もあるな。

 

78:>>1

おのれマツコ菩薩

 

79:名無しの転生者

風評被害ワロタw

マツコは関係ないだろw

 

80:>>71

>>75 現地転生者が増えているのなら、やはり娘も本物と考えるしかないか。

これからの参考になったよ。

さっそく対応を話し合うことにするよ。ありがとう。

ではこれで乙。

 

81:名無しの転生者

>>80 乙ー

 

82:名無しの転生者

>>80 乙ー

 

83:名無しの転生者

現地転生者か。才能はどんなもんなんかね

 

84:名無しの転生者

俺たち転生者の子供なら才能アリなの間違いないだろ

両親ともに転生者ならSSRいくんじゃないか?

 

85:名無しの転生者

清子ちゃんは現地民ならRくらいかな?誰かアナライズしに池YO

 

86:>>1

結局もれはどうすりゃいいんだ?

 

87:名無しの転生者

>>86 火無効とればいいんじゃね?

 

88:名無しの転生者

>>86 浮気しなけりゃいいだろ。簡単だろ。

 

89:>>1

>>88 式神は浮気に入りますか?

 

90:名無しの転生者

>>89 式神によると言いたいが、たぶんアウトだろうなあ

 

91:>>1

必死にマッカ貯めてプリヤ型式神を注文したんだYO!なんとか許してくれYO!

 

92:名無しの転生者

>>91 予想通りのアウトで草。今から外見をルビーに変更してもらってこい。

 

93:名無しのブン屋

【速報】北米でメシア教過激派によるテロ発生。【魔王 プルート】が召喚される。現在米軍が交戦中。なお苦戦しているもよう。

 

94:名無しの転生者

>>93 突然のニュースにビビるし内容もビビるんだが

 

95:名無しの転生者

>>93 ニュース乙。ブン屋さん最近忙しそうだね

 

96:名無しのブン屋

【速報】アフリカ・欧州にて過激派によるテロ発生。終末の四騎士が出現。

【速報】中東で(ry トランペッターが(ry

 

97:名無しの転生者

>>96 ファッ!?

 

98:名無しの転生者

>>96 待て待て待て待て

 

99:名無しのブン屋

【速報】アジア大陸にて過激(ry バビロンの大淫婦が(ry 神の戦車メルカバーが(ry

 

100:名無しの転生者

>>99 多い多いw

 

101:名無しの転生者

なんだこれは、世界壊れるなあ

 

102:名無しのブン屋

【速報】南極大陸にてシュバルツバース発生。周回ニキをはじめとする先遣調査隊が飲み込まれたもよう

 

103:名無しの転生者

>>102 シュバルツバース!?バカな、縮小封印できたはずでは?

 

104:名無しの転生者

>>102 いやそれよりも周回ニキが巻き込まれたって?シュバルツバースのことは予見してなかったのか??

 

105:名無しの転生者

>>104 予見してただろ?プロトタイプとはいえ全員デモニカ装備してたし、中型の次元揚陸艦に乗ってたはず

 

106:名無しの転生者

>>104 北米でゴールデンハインド号の複製を始めてたはずだが、これは間に合ってないな

 

107:名無しの転生者

ゴールデンハインド号で救援に突っ込むしかとか思ったが、そもそも世界中が過激派によってピンチだったな

これじゃ協力どころじゃないなあ

 

108:名無しの転生者

ああもうメチャクチャだよ




・仏
お釈迦様=仏陀
マツコ菩薩=ミロク菩薩

・娘が現地英雄の転生者
作中で明言してないけどリスペクト出演です。
タイトル入れた方がいい?

・世界がヤバイ
本編()に似た状態だが、周回ニキの情報を元にした神主たちの作戦によって北米の過激派はかなり押さえ込まれている。
そのため『核+天使召喚ミサイル』が不発になり、代わりに天使召喚プログラムを使った自爆テロが発生した。
ただミサイルよりも被害範囲が小さい上に、過激派の能力者が消費されるため本編()よりはマシなもよう。
その代わりに何者か()の策略によりシュバルツバースが活性化した。


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人間はしぶといよね

クトゥルーの出現以降、世界各地で悪魔が発生した。

竜脈の活性化、GPの上昇、メシア教過激派による大悪魔の強制召喚。それらが相互に影響し合い、世界は終末へと加速していた。

 

そんな不安定な世界情勢ではあるが、日本は他国より落ち着いていた。

他国の文化を柔軟に受け入れる国民性という部分もあったかもしれないが、一番の理由は【アサイラム製薬】と【株式会社ドゥームス】による情報操作にあった。

 

俺たち【転生者】が多数関わるこの二社は多数の中小企業を統合していて、今や日本になくてはならない特大企業になっている。

それらが総力を挙げて、ご老人向けのテレビから若者向けの雑誌にまで広告を出し、『終末が来ても大丈夫』という空気を作り出していた。

 

そのおかげで、年が変わる前に我らが軽子坂学園は再開。世間でもクリスマスや初詣などのイベントもいつものように行われた。

 

高校三年を前にして進路指導では【人外ハンター】の道が提示され、厨二病を未だに抱える学友たちがこぞって体験イベントに参加した。

大半はドゥームスの最新VR技術を使ったダンジョンシミュレーターでボコボコにされ、一方的に死亡判定を突きつけられた。

それでもくじけない者たちだけが、辛い訓練と退屈な座学のあるハンター塾への入塾パンフレットを手渡された。

彼らが無事に覚醒できることを祈ろう。

 

友人の山本に「お前はどうするんだ?」と聞かれたが、「すでにハンターライセンス持ってる」と言って黒札を見せると、「ウッソだろ!?」裏切られたような顔をしていた。

 

親にも人外ハンターをやっていることを話したが、「そうじゃないかと思っていた」と言われたのでこっちが驚いた。

普段から泊まり込みのバイトと言って出かけていたし、帰ってくるたびにたくましくなっていたから薄々そうだと思っていたとか。

 

しかもそのバイト先であるドゥームスとアサイラムが、最近になって悪魔の実在とハンターの募集を始めたものだから、これはもう間違いないとなったらしい。

 

「お前の人生なんだから、好きにやればいい」と言ってくれるあたり、理解のある両親で本当によかった。

 

「ちなみに付き合っている子がいて」

 

「知ってる」

 

「その子と婚約することになって」

 

「もうそこまで行ってるのか!?」

 

「先方の家には挨拶に行ってて」

 

「この前の時か!」

 

「先方は人外ハンターみたいなことを昔からやってる伝統ある家です」

 

「これから緊急家族会議を始める」

 

さすがにスルーしてくれませんでした。

 

…………

 

頑張って両親を説得した結果、「お前の人生なんだから好きにやればいいんじゃないの?」と思考放棄した(わかってくれた)ようだった。

 

自分でもさすがに自由すぎるな?思う。ホント申し訳ない。

 

俺たちはそんな平和な日常を守るためにも、世界の崩壊をなんとかすべく戦わなければならない。

 

俺も十七代目葛葉ライドウとして、アサイラムや根願寺からの依頼をこなしていた。

特に根願寺からは、塩漬けになっていた異界の討伐という面倒なものが多かった。

すぐに対処していればいいものの、手が足りないという理由で放置されていた異界は成長が進んでいて、制作者を問い詰めたくなるようなギミックが発生していたりする。

 

さらにGPが上昇したことで悪魔のレベルも上がっており、一人だと危ない場面も出てきた。

なので小夜ちゃんと仲魔のレベリングをメインに考え、敵が弱い異界から順番に攻略していくことにした。

 

◇◇◇

 

【異界 裏・羅生門】

 

「トドメだ、【ブレイブザッパー】!」

 

『云おおおおおおおお怨』

 

愛刀が大型怨霊の核を切り裂くと、真っ二つになった怨霊が爆散した。

 

舞い上がる血煙を外套で防ぐ。

バラ撒かれる怨念は結界がある程度抑えているし、俺は守護霊(ガーディアン)が無効化してくれる。

 

人々の悪意を収集し蓄積させた怨霊は、高いHPと呪殺を連打してくるという嫌らしい特性を持っていたが、俺にとっては戦い易い相手だった。

 

倒れた怨霊の向こう側で、自称【現代に蘇った蘆屋道満】が睨みつけてくる。

 

「ンンン、どうやらここまでのようですね。仕方がありません、今回は拙僧の負けということでいいでしょう。ですが、これで終わりと思わないことです。いずれ第二第三の拙僧が……」

 

その言葉を遮って、スマホを取り出しコールする。

 

「悪いが、そっちも対策済みだ」

 

「ンンン?それはどういう意味でございましょうか」

 

道満は首をかしげる。だが騙されてはいけない、アレはとぼけているだけだ。

呼び出した相手は3コールで出てくれたので、道満にも聞こえるようにスピーカーモードにする。

 

『おうライドウ、こっちの形代は処分したったで。にしても、貸してもろたこの【コッパテング】なかなか役に立つやないか。コイツ後でオレにくれへん?』

 

「借り物だから無理だ。欲しいなら自分で仲魔に勧誘しろ」

 

『えー、そんなケチ言わんといて。オレとライドウの仲やん。あ、他のヤツラも処分終わったみたいや。コッパテングも全部見つけた言うとる』

 

「了解。じゃあこっちもそろそろ終わらせるから、後始末の準備をしといてくれ」

 

『はいはーい。ヒマしとるヤツラのケツを蹴飛ばしとくわ。オレもちゃんと仕事したんやし、後で修行に付き合ってや』

 

「全部終わってからな」

 

通話を終えてから、蘆屋道満に向き直る。

 

「聞こえたとおり、お前の形代(スペア)は全部処分した。あと残っているのは、今その体だけだ」

 

「なるほど、木っ端とはいえ天狗を使役し、その神通力で拙僧の運命を見通したのですか。デビルサマナーとはなんと忌々しい者どもでしょうか。ですが拙僧の行く先をなくしたところで終わりとは思わない方がよろしいですぞ。今この場にいる貴様を食い殺してから逃げおおせればいいだけのこと。この【裏・羅生門】にて収集せしめた怨念悪霊にて、拙僧は新たなる神へと成り上がってみせましょうぞ」

 

蘆屋道満の妖気がふくれあがる。人の皮がめくれ、ミイラじみたおぞましい姿になる。

追い詰められた獣は凶暴になると聞くが、その獣が高い知性と残虐性を持っていたらどうなるか、その答えが目の前に現れた。

 

『ンンンンンン。熟成不足か、いささか不格好ではありますが、すべて終えてからまた力を蓄え直せばいいだけのこと。さあ、新しき葛葉ライドウよ。新しき神へと至るこの【髑髏烏帽子蘆屋道満】の力を思い知るがいい』

 

「はぐれの転生者か、それとも本物の悪霊に乗っ取られたか現地民か知らないが、そこまで行ったらもう戻れないだろう。せめてこれ以上罪を重ねる前に終わらせてやる」

 

魔封管から【サマエル】と【クダ】を召喚する。

クダにタルカジャとスクンダを使わせて、戦力差を広げる。

 

サマエルは主に回復役だ。今までの経験でそこそこ育ってはいるのだが、主戦力にするにはまだ足りなかった。

 

道満が怨霊の塊をはき出す。それはゴーストや鎧武者などの形をとって襲いかかってきた。

大量の手下の後ろから範囲攻撃をしてくる戦略のようで、ただひたすらうっとおしい。

怨霊たちを片付けると、また新たな怨霊をはき出してくる。

倒しても倒しても終わらないイタチごっこだ。

 

ただ、本人が手下にくらべてあまり強くないので、負ける心配はまったくない。

 

たぶん異界の維持と隠蔽工作、配下の悪魔の調整、さらには時間稼ぎのための外部への破壊工作など、手広くやりすぎたんだろう。

つまりはリソース不足ということだ。

 

配下が意外に育っているので、このまま放っておいたらマズかったかもしれない。

 

小夜ちゃんには、形代捜索部隊の護衛をしつつ湧いている悪魔を狩ってもらっている。

雑魚とはいえそれなりに強くしかも数が多い敵を相手に、味方を守りながら戦っているのだ。俺がボスを早く倒せばそれだけ、向こうが楽になる。

 

大技で一息にトドメを刺すしかないだろう。

 

「お前ひとりにいつまでも付き合っていられないんだ。恨むなら、神を名乗った自分の不明を恨め」

 

愛刀を抜き、そこに霊力を乗せていく。

以前の異界で、伊吹童子の力を使ったことで消耗した七星村正は、作者であるムラマサの手によってより強い刀へと生まれ変わった。

 

俺の血と多数のフォルマを注ぎ込んで鍛えたそれは、ムラマサ本人が認める最高の逸品に仕上がった。

 

人が作った至高の名刀。

神をも斬れる人斬り包丁。

 

その名は……。

 

「これが俺の【都牟刈村正】(つむかりむらまさ)だ!」

 

大きく踏み込み、刀を振り抜く。

 

『この程度の攻撃が何の……なん……だと?』

 

受け止めようとしたその手どころか、頭まで一気に両断する。

 

ヤマタノオロチの尾から出た草薙剣と同一視される都牟刈の太刀。それを再現した刀は霊力を込めて振るえば、神さえ斬り裂く。

 

普通の刀だったなら止められただろう。

だが都牟刈村正はそうはならない。

 

蘆屋道満の身に無理矢理詰め込まれた怨霊が、傷口から噴水のように吹き出していく。

頭を両側から抑えても、斬られた傷はふさがらない。

 

『あああ、ダメです、いけせん、いくな、ありえない。私があれほど時間をかけて集めたのに、魂たちが逃げていく。私の努力が、金が、時間が、全て無駄になってしまう!今度こそはと反省し、地道にコツコツ頑張ってきたのに。強く、自由な、素晴らしい存在になれるはずだったのに。どうして、私の邪魔をする!どうして、私を傷つける!私は、ただ幸せになりたかっただけなのに!!』

 

「話が長い!いい加減に往生しやがれ!!」

 

白く輝く都牟刈村正をもう一度、叩きつけるように振り下ろす。

 

『ぎにゃあああぁぁぁ!』

 

蘆屋道満はため込んだ怨霊ごと爆発四散した。

 

「お前の幸福は、他人から奪って手に入れたものだからだ。お前はその本当の価値が分からないから、手に入れても色あせて見える。だから、また別の幸福が光り輝いて見える。自分で作り上げたワケじゃない幸福が長続きするはずがないだろ」

 

散った後だから、もう声は届いてはいないかもしれない。

だが生き残ろうとする執念がすごかったので、もしかしたらまだ魂の欠片でも残しているかもしれない。

 

念のために、後でもう一度調査をさせよう。

 

…………

 

異界の主に収まっていた蘆屋道満を倒したことにより、配下の悪魔たちは統率を失い個別に討伐されていった。

これで今回の依頼は完了だ。後始末は葛葉の処理部隊がやってくれる。

 

小夜ちゃんと合流し根願寺の担当者へ連絡用の式神を送ったところで、スマホにメールが届いた。

 

送ってきたのは神主で、タイトルを見て思わず変な顔をしてしまった。『【極秘】周回ニキの告白【一人で見てね】』

 

なんだこれは。どう反応すればいいのだ。

 

「なにやら変な顔をしておるが、どうかしたのか?」

 

「うおっ、小夜ちゃん!?いや、なんでもないよ、ほんとに。いやあ、今日の仕事も大変だったなー。帰ってゆっくり休みたいなー」

 

「そうか?ならば早く帰るとしよう」

 

なんとか誤魔化しつつどうするべきか考える。

周回ニキは小夜ちゃんの父親だ。なら見せた方がいい気もするが、タイトルにわざわざ一人で見てと書いてるのだから、そうした方がいいかもしれない。

とりあえず中身を見てから判断するしかない。

重要な部分だけ俺から伝えればいい。そうしよう。




・都牟刈村正(専用装備)
武器スキル:敵単体に特大威力の万能属性攻撃。クリティカル時に威力上昇。


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周回ニキの周回 前編

今回は短めです。


ただ暗い画面の中央に、スポットライトが灯った。

照らし出されたのは黒いマントを羽織った男で、フルフェイスの黒いヘルメットを被っている。

前世で見たことがある。一時期ネットミームに使われたアニメキャラのコスプレである。

黒のコスプレ男は、静かに語り始めた。

 

「キミがこれを見ている頃には、私は旅立っているだろう。そして人生で一度は言いたかった言葉ベスト5に入る台詞を言えて、私は今とても感動している」

 

わかる。

 

「改めて言い直そう。キミがこれを見ている時には、私はおそらくシュバルツバースへ侵入しているだろう。今までの経験上、北米でのクトゥルー出現から始まる悪魔召喚ミサイル群が発射されなかった場合、ほぼ確実に竜脈エネルギーがシュバルツバースへ流入するからだ。それを終息させるためには、誰かが侵入して内側から攻略する必要がある。そのための準備を今まで整えてきた。この世界線に生きる者たちを救うためには、この作戦は必ず成功させる必要がある」

 

コスプレ男はマントを(無意味に)バサリとひるがえして、それから重々しく告げる。

 

「私はシュバルツバースを終息させた後、そのまま次の周回へと旅立つつもりだ。シュバルツバースはその性質上、複数の可能性が同時に存在するいわば特異点と言える場所だ。旅立つためのエネルギー消費が少なくて済み、目標地点への移動がしやすい。そこが次の周回への出発地点として最適なのだ」

 

「私の名前はもう知っているだろう。掲示板では周回ニキと名乗っている。本名は葛葉倫太郎。かつては第十六代目葛葉ライドウと呼ばれた男だ」

 

「この映像は、私への質問があることを予想して神主の監修のもと記録したものだ。多少の編集はあるだろうが、内容についてはキミが知っても問題ない物ばかりだ。他の誰かに話すかどうかは、キミの判断に任せよう」

 

周回ニキが移動するとスポットライトが別な場所で灯る。そこにはティーカップが乗ったテーブルとイスが置いてある。

周回ニキはイスに座ると、ゆっくりと話し始めた。

 

「それでは順番に話すとしよう。まずは私の始まりである、一周目の話だ」

 

…………

 

私は、葛葉ライドウの家の分家に生まれた。

自分が転生者だと思い出したのは三歳のころで、その時から悪魔を見ることができていた。

 

五歳になるころには完全に覚醒していて、家族には天才だともてはやされていた。

だいたいの転生者なら『俺強え展開』だと調子に乗るだろう。実を言えば私もそうだった。

葛葉という名字からこの世界がメガテン世界だと予想できていて、しかも自分が未来のライドウ候補だと聞いて「俺主人公じゃん」と喜んだよ。

ちょうどその頃に、葛葉本家のお嬢様と引き合わされた。彼女の名前は葛葉まゆり。私の許嫁(いいなずけ)だと言われた。

 

自分は勝ち組だと一度は思ったが、ここがメガテン世界であると思い直して修行にうちこむことにした。ゲームと違って死んだらコンテニューはできない。序盤のガキにパトられないよう、真面目に取り組んだとも。

そのかいあって順調に強くなり、一五になる頃にライドウを襲名した。

葛葉家の中で私にかなう者はいなかったし、外にもいなかった。

多数の仲魔を使いこなし、いくつもの依頼をこなした。

数年後にまゆりと結婚し、子供も産まれた。

私は幸せだった。自分の人生が完璧だと思っていた。だが、それは思い違いだった。

 

あの日、北米でクトゥルーが召喚された。間をおかずに世界中に大陸間弾道ミサイルが発射され、悪魔が召喚された。核と悪魔が地上に満ちた。

不幸中の幸いか日本は守られたが、それを成したのは【カオス連合】を名乗る組織だった。

 

世界各地ではメシア教が天使を召喚して人類を粛正していて、それでも人類が生き残れていたのは日本に本拠地をおくカオス連合の技術供与があったからだった。

ゲーム知識があったせいで、私はカオス連合を警戒していた。

それ以前にも根願寺を経由していろいろな情報を得ていたが、頭カオスな連中の集まりだとして遠ざけていた。

 

私は一人で戦っていた。

世界には終末が近づき、日本にもまた終わりが近づいていた。だが私はライドウとしての勤めを果たそうとして必死にあらがっていた。

 

そんなある日、まゆりが死んだと言われた。

 

私が異界で悪魔と戦っている時に、葛葉本家が襲撃されたらしい。首謀者はメシア教過激派の天使どもで、まゆりと子供を使徒に変えるつもりだったらしい。

私はその天使どもを消滅させ、彼女たちの亡骸とともに家へと帰った。

最初は私も死のうと思った。世界はすでに終末を迎えていて、日本もどう見ても終わりだった。

 

だが、それをしようとする私の前に、一人の老人が現れた。

【魔人 時の翁】だと名乗るその老人は、私にあることを教えてきた。

港区にある建築中のまま放置されたホテルシーアーク。その最上階への入り方。

それを聞いた時、私は自分が何をすべきかを知った。

 

私は悪魔の巣窟となったシーアークを攻略し、全てのスワチカを集めた。

そして、私は二周目の世界へと旅立った。

 

…………

 

二周目の世界では、【カオス連合】を利用することにした。

まゆりを救うためには自分一人の力では足りない。だから都合の良い手足として使うつもりだった。

だがそうはならなかった。

 

カオス連合は私と同じ転生者の集まりであり、つまりはこの世界線での【終末アサイラム】だった。

盟主はやはり神主で、自分が未来からスワチカの力で戻ってきたと伝えると半信半疑ながら話を聞いてくれた。

私が知る限りの情報を伝えたり、ライドウの立場を使って彼らと協力したりもした。そのおかげで被害を減らすことができた。

 

転生者の被害を減らし、効率よく鍛えたことで過激派との戦いも順調に進んでいた。

 

そして運命の日が来た。

 

異界の討伐はカオス連合にまかせ、俺は葛葉家で守りを固めていた。

過激派の力を削いでいたので、襲撃に来る可能性は低かったが念のための対策だった。

 

そして、葛葉家が異界に飲み込まれた。

 

一周目の情報から日本の異界を効率的に封印していった。そのせいで消費せず蓄積していた竜脈のエネルギーが暴走し、葛葉家を含む一帯を異界に変えた。

 

蓄積されていたエネルギーは膨大で、異界の中は文字通りの地獄だった。

私はまゆりと引き離された。家の敷地内なら駆けつけられると思っていた、自分の油断を呪った。なんで私は彼女の側にいなかったのか。

 

私がようやくまゆりを見つけた時、彼女はすでに死んでいた。

 

私はその異界を消滅させると、ふたたびスワチカの力を使って過去へと跳んだ。

 

…………

 

三周目からは、似たようなことの繰り返しだった。

それまでの周回から得た経験を元にして、より効率的で安全な方法を探した。

 

小さな被害は黙認して、いくつかの異界は放置した。

過激派は事件を起こした後に対処することにした。

 

それでもまゆりは助けられなかった。

一つの死因から遠ざけるたびに、別な死因が彼女を襲った。

そのたびに私は過去へと戻った。

 

何度も何度もくり返し助けようとして、何度も何度も彼女の死を見た。

もはや私は彼女を殺すために過去へと戻っているのではないかという気になった。

だが、私は諦められなかった。

 

そんな周回の中で、一回だけ上手くいきそうになった時があった。

どんな行動が作用したのかわからないが、運命の日を過ぎても彼女が生きていた時があった。

私はそれを実感できず、夢の中にいるような日々を送っていた。

世界は終末を迎えていたが、まゆりと子供たちが生きていれば大した問題はなかった。だが、その幸せは長く続かなかった。

 

ある日、まゆりは起きてこなかった。調べてみれば眠り続ける人は世界中にいて、それが刻一刻と増えているようだった。

元気なのはメシア教徒ばかりで、自分たちが世界を管理する日が来たのだと喧伝していた。

 

転生者にも突如眠る者が出てきたことで、私はまた過去へ戻ることにした。

周回することへの忌避感は無く、すぐに戻れるよう準備していたことが役にたった。

 

私は諦めてはいなかった。こここそが、私にとって重要な世界線だからだ。

 

…………

 

私はその周回を再現する要素を探した。まゆりが運命の日を生き延びたのだ。そこが突破口であるのは間違いなかった。

 

ふたたび周回をくり返し試行錯誤を重ねることで、その周回を再現する方法を見つけることができた。

そこまでいけば、その後すべきことは、メシア教徒が言う世界の管理を阻止する方法を見つけるだけだ。

 

そうしてあらゆる手段を使って探した結果、北の大国で聖杯を降臨させる計画があることを突き止めた。

 

だからその対処法を探すために、私が直接現地へ向かうことにした。




●まゆり生存の条件
・メメントスの最奥へメシア教関係者を含めたパーティーが到達することで、日本にある○○の場所が判明。他に戦力割いている場合じゃねえ!となるので襲撃が無期限中止される。
・異界の一定数の討伐。残っているのが多すぎると悪魔だらけになって世紀末まっしぐら。
・竜脈エネルギーの調整。異界討伐しすぎるとデッカイ異界ができてしまうので、余剰分を竜脈を通してシュバルツバースへ流しました。
etcetc……

●本編()時空に周回ニキはいるか?
・いても問題ないと思う。ただし周回数はだいたい0~5以下。
・正直に全部話したとしても全部をまるっと信用できないだろうから、序盤の対策は遅れると思われる。
・周回を重ねるうちにショタオジ本人から「これを言えばすぐに信用するよ」的な秘密のワードを教えてもらい、次の周回から効率が上がる。


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周回ニキの周回 後編

諸事情あって次回の更新は遅れます。申し訳ない。


私がそこに行ったのは、18歳になる前。それより遅くなると、【聖杯】の足取りがつかめなくなるからだった。

その聖杯さえ取り除ければ、まゆりがいつまでも生きられる世界が完成する。

ちなみに私はその時点ではまだ結婚していなかった。

 

目的地は寂れた地方都市だった。

ネット環境などない、冬になれば雪に閉ざされる、そんな貧しい場所だった。

インフラの整備は遅れていたが、人々は信仰をよりどころに強く生きていた。

 

目的の聖杯は、名前の通りの『杯』の形はしていない。それは『聖杯の器』たる要素を持った、人だということまで調べがついていた。

この地に住む魔術師が、メシア教の支援のもと人工的に【聖杯】を作り出す研究をしているらしい。

 

おそらく運命の日にその【聖杯】が完成し、世界を管理しようとするのだろう。

私はその研究を中止あるいは破壊するためにここに来た。

 

錬金術を極めた魔術師アインツベルン。

彼とその研究をより詳しく知るために、その助手に近づくことにした。

 

その助手の名はクリスティーヌ。銀髪の美しい女性だった。

 

…………

 

私の調査は驚くほど上手く行った。それというのも、クリスティーヌが日本語を流暢に話すことができたからだ。

寒村に産まれてすぐにメシア教に引き取られ、そのまま魔術師に引き渡されたと本人が言っていた。

 

彼女はとても頭が良く、霊的才能ではなくその頭脳によって実験材料の地位から脱していた

そして魔術師の最高の弟子とまで呼ばれるまでになっていた。

 

調査を進めるうちに、私はとある事実に気がついた。それは彼女の言葉の端々から感じ取れていたことで、ある日思い切って聞いてみたところ、確信となる言葉を引き出すことができた。

 

「ぬるぽ」

「ガッ」

 

彼女もまた転生者だった。

 

私は彼女の協力を得ると魔術師をより詳しく調査した。

魔術師の望みはホムンクルスによって理想の女性を再現することだった。

私は魔術師と直接交渉し、神主の式神の技術と【俺たち】の美術センスによる可能性を示すことで、メシア教からの離脱を約束してもらうことができた。

 

そうやって調査を進める課程で、私は彼女を愛してしまった。

彼女はとても頼りになる相棒で、その冷静な頭脳と垣間見える愛嬌(ツンデレ)に私は惹かれていった。

 

私はまゆりが死ぬことに疲れていたのだと思う。

何度も何度も死ぬ彼女を、もう見たくなくなっていた。だからその時はもう、葛葉ライドウとしての活動は少なかった。

まゆりとも意識的に距離を取っていた。そのせいで、クリスティーヌに救いを求めてしまったのかもしれない。

 

私は葛葉家から離れ、クリスティーヌと結婚した。そして一年後に娘のサーヤが産まれた。私たちは幸せに暮らせるはずだった。

だが新たな過激派が襲撃を仕掛けてきた。

 

彼女を守るため、魔術師と協力してメシア教過激派と戦った。それに勝利したことで、聖杯が起動することはなくなった。

 

これでまゆりが死亡する未来はなくなった。

だがその代わりとでも言うように、クリスティーヌが死んだ。

 

過激派が報復のために襲撃してきたのだった。

私が囮となり、単独で敵を引きつけた。レベルは大きく引き離していたため命の危険は感じなかった。だが敵の数は多く、全てに対応するのは難しかった。

やはり別働隊がいたのだろう。街の出口で大きな爆発が起こった。敵を蹴散らして駆けつけたそこには、結界で守られたサーヤしか残っていなかった。

 

 

 

私はまた愛する者を救うことができなかった。

もしかしたらサーヤも失ってしまうかもしれない。私は愛する者たちの近くにはいられない。

自分の運命を恐れた私は、サーヤを葛葉に預けることにした。

 

そして私は別人となって葛葉から縁を切り、行動を始めた。

 

…………

 

(黒ずくめの男が、黒いヘルメットを脱いだ。その顔は以前に見たことがあり、何度か会ってもいる。ただ、以前よりさらに疲れているように見えた)

 

手始めに私は名前を変えることにした。

 

『織雅大助』

 

それが私の新しい名前だ。

神主の知り合いの、単独で活動するデビルサマナー。この肩書きならば、人付き合いは必要最低限で済む。

 

私はただの転生者の一人として、終末への対策を始めた。

と言っても、以降のルートはだいたい確定できている。あとできることは、戦力になりえる転生者のスカウトくらいだった。

 

それまでの周回で、戦力になりえる転生者の存在は知っていた。

覚醒することで自分の身を守れるようになる者がいる。修行期間が増えればそれだけ活躍できる機会が増える者がいる。

 

伊吹くん、キミもまたその一人だ。

 

キミは以前の周回であれば、悪魔の実在が一般に知られ始めた今くらいの時期に加入していた。

今は多数ある小異界の討伐のせいで、新人を丁寧に指導することが難しい。そんな中でもキミは順調に強くなっていった。

キミが早く仲間になっていたら、終末を乗り切りやすくなる。

 

私がキミに声をかけたのはそのためだ。

だがキミが成長したサーヤと知り合いになるとは思ってもいなかった。

掲示板でキミの書き込みを見て、まさかと思って手が震えたよ。

 

サーヤのことはまゆりに任せていたから、どうなっているかは知らなかった。ただ元気で生きていてくれたらいいと思っていた。

 

キミに言いたいことは色々あるが、彼女から離れることを選んだ私にそれを言う権利はない。

だから私は『おめでとう』とだけ言おう。

 

キミならばきっとサーヤを幸せにしてくれるだろう。

私のようには決してならないで欲しい。

 

では、次の周回で会おう。キミは覚えていないだろうけれど。

 

◇◇◇

 

映像は、男の疲れた笑顔で終わった。

 

暗い画面を見つめながら色々と考えていたら、ため息とともにつぶやきがもれた。

 

「織雅さん、アンタ、馬鹿すぎだよ」

 

…………

 

一晩悩んだが、やはり俺だけの胸に仕舞っておくわけにはいかないと思ったので、クダギツネのギンコに頼んで御前様に連絡を取った。

 

小夜とともに葛葉本家に行き、二人の前で映像を再生する。

しかし内容が某科学アドベンチャーノベルゲームのアニメの第一話に変わっていたので、要らん汗をかいてしまった。

 

ええい、余計な小細工をしやがって。

しかも制作が株式会社ドゥームスになってるじゃないか。よりにもよってこのアニメにしたのは、おそらく発注された先が悪ノリした結果だろう。趣味が悪すぎる。

 

仕切り直して、俺が見た内容を二人に伝えることにする。

内容を多少誇張してしまったかもしれないが、映像を二人に見せられるようにしなかった織雅さんが悪い。

 

二人は最後まで黙って聞き、終わってからもしばらく何も言わなかった。

と思ったら、すんすんと鼻をすする音が聞こえる。よく見るまでもなく、御前様が瞳をうるませていた。

 

「倫太郎くん、かわいそう。ううん、今もがんばっているんだね。私は何も知らなかった」

 

「悪いのはあの男の方です。御前様に何も言わなかったのですから。なので悲しむ必要はまったくありません」

 

小夜がぴしゃりと言ったのでビックリしてしまった。

御前様も驚いたのか目を大きくして、それから優しげに微笑んだ。

 

「お小夜さんは優しいですね。でも私に気を遣う必要はありませんよ。あなたのお父さんとお母さんの話なんですから」

 

「いえ私の親は守ってくれた御前様と、育ててくれたお婆さまお二人だけです。会ったこともない人を今さら両親だとは思えません。強がりなどではなく本当に、両親というものが分からないのです」

 

「そうなのですね……」

 

小夜はなんでもないふうに言うが、それはとても悲しいことだと思う。

 

こんな時、なんて声をかければいいのだろうか。

気の利いた言葉なんて思いつかないし、なぐさめの言葉も余計な気がして何も言えなくなってしまう。

 

そんな空気の中、御前様が申し訳なさそうに口を開いた。

 

「過去に行ってクリスティーヌさんを助けられればいいんでしょうけど、それをやっても無駄になるってことですよね。でも私のことを諦めれば、クリスティーヌさんは救えるのでしょうか」

 

「それはダメですよ。そもそも先代は、御前様を助けるために周回をくり返したんです。それをやっても、スタートに戻るだけです」

 

「うーん。過去に戻れてもダメなんですね」

 

「そもそも私たちには、過去へ戻る方法がありません」

 

スワチカは周回ニキこと先代が回収して、シュバルツバースへ持ち込んでいるはずだ。

他に俺たちが過去へ戻る方法なんて、残っていない。

 

「過去へ戻る方法なら、ありますよ」

 

「「えっ、本当です?」か?」

 

小夜と声がハモった。

 

「詳しくは調べ直す必要がありますが、十四代目ライドウが残した文書に、時を渡る回廊の存在がありました。それを使うことができれば、過去へと戻ることができると思います」

 

アカラナ回廊か!

そういえばそんなものもあった気がする。でも時の迷い子になったり、平行世界に出たりというリスクもあったはずだ。

本当に回廊が使えるようになったとしても、その辺のリスクをなんとかする必要がある。

 

「その回廊について知りたいのですが」

 

「はい、私も知りたいです。なのでさっそく、手の空いている者に書庫を調べさせましょう。時間が少々かかると思いますので、お小夜さんと雄利さんは、過去に戻ってどうするかを考えておいてください。二人が出した結論なら、私はどんなものでもいいと思います」

 

御前様は笑顔でそう言った。

その言葉にウソはないだろうし、本当に自分が犠牲になってもいいと思っているだろう。

でも俺はその結末はダメだと思う。

 

なんとしてでも、みんなが幸せになる道を見つけてやる。そう心に決めた。




・クリスティーヌ
転生者。貧しい地方の生まれでも教育さえあれば色々と気づいてしまう天才。
ここの魔術師は合理的な実力主義だったから養子になれた。ちょっとでもかみ合ってなかったら実験材料にされてたかもしれない、悪運が強い人。
戦闘経験は少ないが、魔術の知識はとても豊富。

・小夜の母親
小夜の母親は現地人だと言った(かもしれない)な。アレはウソだ。
つまり小夜はSSR相当の才能を持っているということになる。ヤバイですね。

・魔術師
アサイラム関連の企業でしれっと研究員やってる。
式神の知能関連の担当をしていたが、造魔が作れるようになってからはホムンクルスへの応用に関心が移ってるもよう。
研究第一で合理的。でも非情。


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終末の兆し

【暗渠地下神殿】

 

高い天井とそれを支える柱が並ぶ地下空間に、うめき声が響いていた。

それを発しているのはかつてアブディエルと呼ばれていた大天使であり、しかし今はそれとは分からないほど大きく膨れている。

 

まるで大きな赤ん坊をかたどった人形のようであるが、その身の内にある力は以前よりも増していた。

 

その空間の入り口にひざまづき、祈りを捧げる男がいた。

男は口の中で言葉をくり返しながら、ただひたすらに祈っていた。

 

 

その祈りの効果なのか、熱病に苦しんでいるようだったうめき声が小さくなり、アブディエルの目が薄く開いた。

 

『う、ヴェルドレ、司祭』

 

「……」

 

ヴェルドレは呼びかけられてもなお祈り続けている。

 

『ヴェルドレ、なぜだ。なぜお前は、このような事をした。答えろ。答えろヴェルドレ』

 

「……お許しください」

 

強く問われたヴェルドレは、声を絞り出すようにして答えた。

 

『なんだ、と?』

 

「お許しくさい、神よ。私は、私は怖いのです。世界に危機が訪れ、哀れな人々に審判が下る。それは逃れ得ることではない。ですが、いや、だからこそ、私は恐ろしいのです」

 

ヴェルドレは一度しゃべりだすと、堰を切ったように立て続けに言葉を並べた。

 

「天使様はおっしゃいました。世界は確実に破滅すると。このままでは世界にあふれた悪魔が無秩序に振る舞い、地上が地獄となるであろうと。それを防ぐために愚かな人々を導き、汚れた魂を粛正し、神に従う良き者たちが住まう地を作り出すのだと。ならば、と。私は御言葉に従い、成すべき事を成してきたのです。天使様。私の行いに、間違いはあったでしょうか?」

 

『お前の献身は知っている。だが……』

 

「そうでしょうとも。私は天使様の御言葉通り、神の国を作るために行動して参りました。人々に神の教えを広め、天使様を呼ぶことのできる機械を配りました。それも来たるべき神の国のため、世界のためを思ってのことです。ですが……その時が来ないではありませんか!」

 

ヴェルドレの声は次第に大きくなり、ついには地下空間に響き渡るほどの声量となった。

 

「預言されていた邪神は降臨しましたが、それも一瞬の事だったと聞きます。しかも人の力により退けられたとも。また、世界の各地で魔王が出現しましたが、それにも対抗できているらしいではありませんか。黙示録の獣たちも現れたようですが、どれもこれも大した被害は出ていません。いえ、死んでいる人々も多いでしょう。ですが、それなり(・・・・)の数でしかないではありませんか。神に祈ることしかできないような、圧倒的な、絶望的なものではありません。これでは、世界に、破滅は、訪れない!」

 

ヴェルドレはひときわ大きな声で叫ぶと、数秒使って荒い呼吸を整えた。

 

「天使様。私は、怖いのです。このままでは、私が行ってきた今までのことが無意味になってしまいます。いえ、それどころか人を欺き世界を混乱させた悪の首魁とされてしまうかもしれません。全て天使様の御言葉に従い、神の国のために尽くしてきたことなのに、私はただの犯罪者となってしまうかもしれない。それが恐ろしいのです」

 

『貴様は、神を疑っているのか』

 

「そんな事はありません。しかし、人々は愚かなのです。私は神が望まれた通りに正義を成しただけなのに、世界は、世間はそれを理解しようとしない。であるならば、どんな方法を使ってでも、神の国を作るべきでしょう。そう思いませんか?」

 

ヴェルドレは理性的な男であったが、保守的でもあった。自分は正義であり、その自分を守るのは正当なことであると疑っていなかった。

その盲信こそがヴェルドレを司祭にまで押し上げた推進力であり、致命的に間違えることになった原因でもあった。

 

「天使様の御言葉通り、今まさに世界は破滅の危機を迎えています。ですが人々は愚かにもそれに抵抗できてしまっている。であるなら、世界の危機を後押しする必要があります。そうでしょう?大丈夫、全ては神のお導きです。準備はすでに整っているのです。私はそれにやっと気づくことができました!」

 

『ヴェルドレ、貴様、狂ったのか』

 

「何をおっしゃいますか、これこそ神の意志なのです。私はそれに従ったまで。これによって天使様はより強くなり、神の国の実現へと大きく近づくことになるでしょう。そうです、これこそが祝福なのです!」

 

最初とは一転し、幸福に満ちた表情でヴェルドレは祈りを神へと捧げている。

その耳にアブディエルの言葉は、やはり届いていなかった。

 

◇◇◇

 

【???】

 

気がつくと、大きな石の上に突っ伏していた。

頭を振りながら周囲を見回すと、うら寂しい陰気な河原が続いている。

懐かしい感じがするここがどこかを考え、すぐ答えに思い至った。

 

既視感があって当然だ。ここは以前も来た【賽の河原】だ。

 

それに気づけば芋づる式に、ここにいる理由も思い出す。

俺はメガテン世界で【ガーディアンシステム】と呼ばれる、死ぬと守護霊を変えて復活する能力を持っている。

 

死んでも復活できるのはいいのだが、その時に持っているガーディアンポイントと呼ばれるポイント量によって、次の守護霊のランクが変化する。

このポイントが少ないと弱い守護霊になってしまうので、連続して死に続けると最終的にはゼリーマンと呼ばれるよわよわ守護霊となり、それに引きずられて自分もよわよわになってしまうというデメリットもある。

 

ガーディアンポイントは悪魔を倒すことによって増加するので、任務をいくつもこなしてきた俺なら弱体化することはありえない。

なんなら、一気に4つくらい上のランクの守護霊になるかもしれない。

ゲームと違ってガーディアンポイントの蓄積具合が見えないが、なんとなく感覚で分かる。

 

ポイントは貯まっているので、ものすごい強敵との戦闘中に死亡して、より強い守護霊に変えて復活。逆転!という展開も燃えるが、現実は物語のように上手くはいかない。

守護霊が変われば弱点などの属性相性も変わるし、ステータスだってもちろん変わる。

その違いに慣れておいた方が、最初から安定して戦えるだろう。

 

ただし現実は、ゲームと違って死のうと思って簡単に死ねるものじゃあない。

街中で『死んでくれる?』をしてくれる【魔人 アリス】はいないのだ。

 

正確に言うと【アサイラム】内にアリスに類似する存在はいるらしいが、それへの伝手(つて)を持ってない。

なので困った時の神主だのみだ。神主ならなんとかしてくれる!

 

そう思って聞いてみれば、「アリス?会えるよ」という返答をもらった。神主マジすごいな。

 

だが残念なことに神主が仲魔にしているわけではなく、『幼い少女の霊』という概念が悪魔になった形だけのアリスなので、無邪気に死をもたらす残酷な部分は持っていないらしい。

というか存在を魔人に寄せないように、人殺しから遠ざけているのだとか。

 

なら気楽には頼めないなとガッカリしていると、神主がニヤリと笑って言ってきた。

 

「安全に死にたいなら、最高に頼れる存在が目の前にいるじゃないか」

 

あー、そう言えばこの人は、毎日のように人を殺しているんだったか。

 

「人聞きが悪いなあ。僕は本人がそう望んだからやっているんだぜ。それに、すぐに復活できるよう肉体を必要以上に傷つけたりしないし、安全にも気をつけているんだぜ」

 

「えー、本当でござるかあ?」

 

「よし、そんなに死にたいならサクっと殺ってあげよう。葛葉ニキなら復活は自分でできるだろうから心配ないな!」

 

神主が右手を振りかぶる。

 

「ちょっ……」

 

ちょうどそこから記憶が途切れている。

ノリがいいのも考え物だ。

 

ここへ来た経緯は思い出せたので安心(?)できた。

以前のように船着き場を探して河原を歩くと、目的の老人はすぐに見つかった。

 

「やあカロンさん、また来たよ」

 

「お前さんか。ふむ、きちんと魂を磨いて来たようだな。どれ、寄越すがいい」

 

俺の中からコインが飛び出し、カロンがそれを受け止める。

 

「とてもいい仕事をしたようだな。これなら次も期待できるだろう。どれどれ、いま次のを用意してやろう」

 

カロンが川に向かおうとした時、持っていたコインが光りながら浮かび上がった。

 

またか(・・・)と思うまもなく川から水が飛び出して、光るコインを包み込んだ。

 

カロンが慌てて水に手をつっこみ、コインを取り出す。

光るコインは無事に回収できたようだが、それとは別のコインが水の中に浮かんでいた。

コインを包む水は体積を増し、どんどん大きくなっていく。集まった水は徐々に形を取りはじめ、見覚えのある大きな女性の姿になった。

 

『やっほー生贄くん。元気してた?あれ、死んじゃってるから元気とは違うかー。でもまた会えて、お姉さんうれしい』

 

なんか以前とキャラ違いませんかね?

外見も以前より神々しくなっている気がするし。

 

『もちろん違うわよ。前の私は邪龍の私で、今の私は龍神の私だからね。存在としては神である私の方が当然前より強いから、安心してくれていいわよ』

 

まったく別の守護霊ではなく、同じ存在の別側面が来るとは思わなかった。

 

『当たり前よ。なんたって貴方は私の生贄なんだもの。死に別れたって逃がさないわよ。ヘビは執念深いんですから』

 

伊吹童子はするりと寄ってきて、背後から顔を寄せてくる。

 

『あとこれは神霊つながりで聞いたことなんだけど、今ってどんどん顕界しやすくなっていってるみたいで、いろんな悪魔たちが頑張ってるらしいの。だから私も負けないように、生贄くんを本気で応援しよっかなって思ったの』

 

たしかにGP(ゲートパワー)が上昇しているせいで、強力な悪魔が分体を送りやすくなっているとは聞いていた。

そのせいで悪魔の力を使って理想の世界を作ろうという、ゲームで【ガイア教】と呼ばれる新興宗教が増えているとも聞いた。

悪魔が人をそそのかしたのか、はたまた人が都合の良い悪魔を崇めたのかの違いはあるが、やっていることはどこも同じようなので【ガイア教】とひとくくりにしていた。

 

『そうそう。これからやっかいな相手も増えてくるだろうし、生贄くんも力を求めてまたここへ来たわけでしょ?だから私としてもちょうど良かったのよ。それじゃあ、一皮剥けた私の力をしっかり使いこなしてね。期待しているわ♥』

 

背後から力強く抱きしめられるが、苦しくはない。

大きな力を受け止めて使いこなせるだけの実力を持っているということだろう。

 

いつの間にか閉じていたまぶたの外に光を感じ目を開けると、見覚えのある河原の石の上だった。

見知った空だなと思っていたら、前回と同じく神主が顔を覗き込んできた。

 

「お帰り。うまく逝って帰ってこれたみたいだね」

 

神主(おそらくシキガミ)に記憶している限りを伝えると、「やっぱりこれからはガイア教も相手にしなきゃダメか」なんて言っていた。

 

◇◇◇

 

時間は少し流れ、俺は高校を無事に卒業した。

 

そしてほぼ同じタイミングで、葛葉家に婿入りという形で小夜ちゃんと結婚した。

結婚式は旧家らしい堅苦しいものだったので、基本的にはお互いの親族だけの参加だった。

 

なので、友人を含めた関係者への披露宴は別の日に行った。

参加してくれた山本からは、「いつかそうなるだろうとは思っていたけど、さすがに卒業と同時に結婚とか予想してなかった」というコメントを頂戴した。

 

「実はお前、女子にけっこう人気があったんだぞ。それまで普通の『いい人』だったヤツが、実は高ランクの人外ハンターだったんだ。カモが実は名品のネギを背負ってたって判明したみたいなもんだからな」

 

「ネギってそこまで重要か?」

 

「じゃあネギだけじゃなくて高級鍋セット一式そろえてたってコトでいいよ。で、そんな美味しそうなカモに近づこうとするんだけど、そうすると必ずどこからともなく葛葉さんがあらわれるんだとか。一部の女子たちはお前が首輪を付けられて飼われてるんじゃないかって噂してたらしいぜ」

 

葛葉家にとって俺は監視対象だったのだろうが、事情を知らない一般JKを遠ざけてくれるというありがたい面もあった。

聞いた話だが、一般人を彼女にしたらその家族がいつの間にかメシア教徒になっていたとか、任務で出かけるのを浮気と勘違いされたとかあるらしくて、他人事ながら大変だなあと思っていた。

 

それに俺は複数の女子に囲まれてちやほやされたいわけでもないし、感情の爆弾をうまく管理できるとはとても思えない。

 

「俺には小夜ちゃんがいてくれればそれで十分だから」

 

「くっ、これが結婚できる男の実力ってヤツか!?」

 

などと大げさリアクションをされた。

そもそも、ハーレムというものに憧れは持っていなかった。

 

【終末アサイラム】でハーレム持ちの転生者に何人か会ったことがあるが、全員が苦労人の顔をしていた。

地方の霊能組織の関係者に多かったが、仕事の他にもヤらなきゃいけない事があるようで、たまに遠い目をしていたのが印象的だった。

 

披露宴には友人以外にアサイラムの関係者も招待していて、彼らからの出し物で俺が小夜ちゃんに告白したシーンの隠し撮り動画を大スクリーンで流された。

 

ゴテゴテの編集入りで茶化されていたおかげで致命傷で済んだので、関係者には後でお礼代わりに重要任務をおすそわけしてやろうと思う。

根願寺経由の塩漬け依頼だから、さぞやりがいがあるだろう。

 

そんなこんながあったものの、大きな事件は起きないままに時間は過ぎて行った。

悪魔の存在が認識が一般人にも浸透したせいか少し強くなってしまったが、【終末アサイラム】による覚醒修行や避難訓練のおかげで被害は食い止められている。

人外ハンターも増えてきたし、このままゆっくりと終末に向かうことになるのだろう。

そう思っていた。




・龍神 伊吹童子
弱点属性相性は据え置き。
レベル、ステータスは大幅に上方修正。(邪龍 LV.25周辺、龍神 LV.40周辺)
スキル追加

・ヴェルドレ司祭
敬虔なメシア教の司祭だが、臆病な一面を持っている。
つるっぱげ、ではなく、ふさふさしたロンゲ。


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事件の話はいつもスレから

【シキガミへの愛を語るスレ】

 

1:名無しの転生者

ついにねんがんの ペルソナ仕様のマイシキガミをてにいれたぞ!

 

2:名無しの転生者

>>1 ころしてでもry

 

3:名無しの転生者

>>1 ころry そしておめ

 

4:名無しの転生者

この台詞から始まる新人シキ主多いな。多くない?

 

5:名無しの転生者

シキガミはみんなの念願だからワンパターンだとしても仕方ないね

 

6:名無しの転生者

ペルソナ仕様ってことは >>1 はペルソナ使いなんだな。

造魔技術が入ってから多少は作りやすくなったとか聞いたが、性能はどんなもんなんだろうか

 

7:名無しの転生者

ドリーカドモンが材質的に人間というかホムンクルスに近いから、紙と悪魔だけが材料の旧型シキガミよりかは自意識の獲得をしやすいとかうんたらかんたら

 

8:名無しの転生者

そういやアイギスって、原作だとペルソナ使える機械だっけ?

未プレイなんだけど、あれの理屈どうなってんの??

 

9:名無しの転生者

>>8 しらそん

 

10:名無しの転生者

>>8 ヒント メガテン世界は人間の価値が軽い

 

11:名無しの転生者

ただのシキガミに戦闘力どころか人間並の知能を持たせられるとかやっぱりショタオジはすごいんやなって

 

12:>>1

スレ立てたのもれなんだが、なんで関係ない話になっていくのよ!

 

13:名無しの転生者

>>1 が制御しないかぎりどんどん勝手に進んでいくんだゾ

 

14:名無しの転生者

>>1 ほら早く話題を提供して。立て主でしょ。

 

15:>>1

おまいら容赦成さすぎぃ!

もれはシキガミちゃんの自慢をして羨ましがられたいんだ

見た目とか性能とかどんどん質問してクレゾール

 

16:名無しの転生者

>>15 うwざwいw

だが素直なのはキライじゃないから質問してやろう

どんなシキガミなんだ?

 

17:>>1

>>16 そんなに聞きたいの?仕方ないから教えてあげよう

もれのシキガミはプリヤちゃんだ

魔法少女コスで発注したが、もちろん普段着に着替えさせることもできるぞ

 

18:名無しの転生者

>>17 おまえロリコンかよぉ!

 

19:名無しの転生者

ん?ペルソナ使えるプリヤのシキガミ??ちょっと前にどこかで聞いたような……

 

20:名無しの転生者

あれだ清姫に補足された安あんチン珍だ

 

21:名無しの転生者

>>20 汚いワードを並べないでくださる?

 

22:名無しの転生者

>>20 何それ知らんぞ。どういうこと?

 

23:名無しの転生者

>>22 どっかのスレで猪八戒がペルソナ清姫に覚醒した女児に火生三昧されたらしい

 

24:>>1

>>23 まだされてないYO!

それともれのペルソナは【猪悟能】で、安チンは昔のあだ名だYO

そのせいで清姫の転生者っぽい清子ちゃんにストーキングされてるんだYO

 

25:名無しの転生者

>>24 ウソつけ一緒にパーティ組んでマヨナカテレビ行ってるだろ

女児と一緒にジュネスのテレビに入っていく陰キャオタクをオレは見たぞ

 

26:名無しの転生者

おっ、ポリスメン呼ぶ?それともジュネスの警備員?

 

27:名無しの転生者

パーティ組んでいるなら合法……なのか?

 

28;>>1

清子ちゃんのストーカーレベルが上昇しててな、もれの行く先々に先回りしてるんだよ

休日はもう一人になれないし、平日でも放課後はほぼ監視されてるZO

 

29:名無しの転生者

これどっちを通報するべきなんだろうな

 

30:名無しの転生者

女児のご両親とかどんな感じなのか気になるな

 

31:>>1

>>30 それがとても普通のご夫婦なんだ

清子ちゃんも清姫のペルソナに目覚めるまでは普通だったし、やはり神様はろくでもない

 

32:名無しの転生者

>>1 こちらアサイラム特別調査班ですが、ご両親もたいがいヤバかったです。

ストーカー気質の奥さんと超束縛系の旦那さんのカップルでお互いの嗜好が偶然合致したという奇跡的にトラブルになってないご夫婦でした。

 

33:名無しの転生者

>>32 なにそれ

 

34:名無しの転生者

>>32 奇跡の夫婦わろた

 

35:>>1

えっ、ごく普通のおしどり夫婦だと思ってたのに

 

36:名無しの転生者

>>1 強wくw生wきwろwよw

 

37:名無しの転生者

この展開は草はえますわ

 

38:名無しの転生者

まあロリコンとそのストーカー女児ならこっちも奇跡的にかみ合ってると言えなくもないな

 

39:名無しの転生者

見なかったことにしよう

 

40:名無しの転生者

超法規的措置だ

 

41:名無しの転生者

前世の記憶か?

 

42:名無しの転生者

>>1 見なかったことにして話を戻すが、清姫いるのに嫁シキガミなんて手に入れて大丈夫なのか?

今度こそ火生三昧されないか?

 

43:>>1

>>41 BPSだっけ?

>>42 シキガミは人間じゃないから実質浮気じゃないと説得した。ウソは言ってないから大丈夫だ

 

44:名無しの転生者

>>43 お、そうだな

 

45:名無しの転生者

まあ焼かれてないなら本心からの言葉だったんだろ。

この先 >>1 がいつ焼かれることになるかちょっと楽しみになってきた。

 

46:名無しの転生者

>>45 シキガミが自我を持つようになった辺りが危ないだろうな

 

47:名無しの転生者

>>45 じゃあオレは >>1 がシキガミとプロレス(意味深)したタイミングを『火サス』されるに一票入れるぜ

 

48:名無しの転生者

火サスの使い方間違えているような?

どちらかといえば家政婦じゃないのか?

 

49:名無しの転生者

>>48 なるほど『火清婦』ですね分かります

 

50:名無しの転生者

>>49 だれうま・・・いや、うまくないな?

 

51:名無しの転生者

なんかオレの携帯端末に【ラプラスメール】とかいうのが来たんだけど、おまいらはどうなってる?

どこかで聞き覚えのある気がするんだが、どうしても思い出せん。

 

52:名無しの転生者

>>51 スレチだぞ。よそでやれ

 

53:名無しの転生者

>>51 オレのにも来てた。代々木公園で殺人事件が起こるとか、夕方に大規模停電が起こるとか書かれてる。

元ネタはデビルサバイバーだったか

 

54:名無しの転生者

>>53 デビサバ!それだ!!

そのメールが本当なら、その内容は予言というか未来予知のはずだ。本当に起こるから気をつけろよ。

 

55:名無しの転生者

このメールが本当に起こるとすると、オレって明日に死ぬらしいんだが?

 

56:名無しの転生者

>>55 ゲームの通りなら、悪魔が襲ってくるからそれを倒せば予知を乗り越えられる

今のままじゃ無理ってことだから、アサイラムに助けてもらうとかして強化すればいいと思う

 

57:名無しの転生者

デビサバの1ってたしか山手線で封鎖されるんだろ?もしかしてラプラスメール届いているのって山手線内にいる人間とか?

ちなオレは地方住みだから届いてない

 

58:名無しの転生者

>>57 同じく地方住み。届いてない。

 

59:名無しの転生者

>>57 わい都民で届いてるわ。ひょっとしてこれマジモンか?

 

60:名無しの転生者

>>57 アキバにいるが届いてないって言おうとしたら、友人は届いてるらしい

オレの端末がCOMPじゃないから?

 

61:名無しの転生者

たまたま都内に来てた俺にも届いた。他にもいるだろうから、専用の別スレ立てておく

【hppt:/xxx】

 

62:名無しの転生者

>>61 立てナイス

 

63:>>1

またもれのスレが別の話題に乗っ取られてる・・・

 

64:名無しの転生者

NTRられる >>1 か・・・。誰得?

 

65:名無しの転生者

>>64 それって >>1 が火生三昧されそうだな

 

66:>>1

>>65 風評被害なんです止めてください!

 

…………

以下>>1いじりとシキガミ嫁についての話題が続く

…………

 

◇◇◇

 

【デビサバ】ラプラスメールが届いた件について【発生】

 

4:名無しの転生者

あえて聞くけど、ラプラスメールってなんなの?

 

5:名無しの転生者

>>4 簡単に言うと、未来予知のメールだな。だが霊能的なものじゃなくて、大量の情報を集めて分析した結果はじき出される機械的な予測だったはず。

元ネタは3DSの【デビルサバイバー】。主人公たちもこのラプラスメールで24時間後に死ぬって予言されたから、COMPで悪魔を使役して予言を乗り越えていくって話だった。

 

6:名無しの転生者

デビサバの黒幕って閣下だったけ?

 

7:名無しの転生者

>>6 閣下は黒幕じゃなくて、その協力者?だったと思う。黒幕は聖書に出てきたある男の転生者だったような?

超天才でラプラスメールだけじゃなく悪魔召喚プログラムとかもそいつが作ってた、はず。

 

8:名無しの転生者

>>7 うろおぼえすぎだろwww

 

9:名無しの転生者

追加のラプラスメールで、池袋でガイア教のテロが起こるってのが来た。

誰か近くにいるなら池袋に来てくれ。避難誘導だけでもいいから頼む。

 

10:名無しの転生者

>>9 今日の夜に護国寺で死ぬってメール来てるんですけど、もしかしてその事件関係ですか?

だとしたら逃げたいんですけど

なんか残り寿命が0日とか出てるこわい

 

11:名無しの転生者

>>10 戦える仲間が増えれば戦力も増えるから、集まった方が生存率が上がると思われ

都内だし人も多いだろうから、協力して助け合えばいいのでは

 

12:名無しの転生者

>>10 私も同じく護国寺で死ぬメールが届きました おそらくそこへ避難した後で何あると思います

 

13:名無しの転生者

>>10 池袋で働いてますが、護国寺メールは届いてないですね。もしかして自分のレベルが関係しているとかですかね?ちなみには15です。

 

14:名無しの転生者

>>13 ボクはレベル5です。レベル関係あるかもしれません。

レベル15以上ある人に集まってもらえば助かるかもですね。

 

15:名無しの転生者

>>13 レベル15以上だな?運営に連絡しておく

 

16:名無しの転生者

根願寺で仕事の話をしてたら、自衛隊が山手線の範囲を封鎖するとかいう話が出てきた。

ゴトウ陸将の試作デモニカ部隊が指揮を執るらしいから、生で見たいなら東京に来るといいぞ。

アサイラムの所属だと証明できれば山手線圏内に入れてくれるよう話はつけた。

 

17:名無しの転生者

自分の弟が修学旅行で東京見学行ってるはずなんだ

東京なら大結界があるから大丈夫だと思ってたのにどういうことだよ

 

18:名無しの転生者

>>17 最近は東京でも悪魔の存在は確認されてたぞ。ガキ以下で弱かったけどな。

裏世界の大討伐の件で大結界は弱体化してたし、やっと事件になったかって感想だ。

 

19:名無しの転生者

やっぱり大結界は弱体化させるべきではなかったのでは?

 

20:名無しの転生者

>>19 何ヶ月か前に東京大結界周辺に異界が大量発生したじゃん?アレ大結界がしっかりしてたら、逆に東京が隔離されてた可能性があるらしいぞ

 

21:名無しの転生者

おっ、東京受胎の話かな?

 

22:名無しの転生者

>>21 そこまでの話じゃない。悪魔絶対通さない結界の外側に、人間食べたい結界が発生してたかもしれないって話だ。

 

23:名無しの転生者

話が大きすぎてイマイチわかんねえな?

 

24:名無しの転生者

つまり東京の周囲に異界という名の空堀(一般人が落ちたら死ぬ)が発生してたかも、ってコトだ

大結界が弱ってたからその分周囲の異界も連結が弱くて、多数の小異界になったってコト

 

25:名無しの転生者

大結界の弱体化するのって周回ニキが考えたんだろ?そこまで見通してるとはさすが周回ニキだな

 

26:神主

周回ニキそこまで深く考えてないと思うよ?

 

27:名無しの転生者

>>26 真顔でなんてこと言うの千代ちゃん

 

28:名無しの転生者

>>26 って神主やんけ!どういうことか洗いざらい吐いてもうらおうか!じゃないと運営に通報するぞ。どうせまた仕事抜け出してきたんだろ?

 

29:神主

>>28 普通の休憩中だよ、残念だったな?

隠すようなことじゃないから言うけど、大結界の異界隔離や小異界発生について周回ニキからは一言もなかった。

つまり今回の周回で初めて発生したことだと予測できる。もしくはどっちにしろ現地の戦力で対処可能だから言う必要がなかったとかね。

【ラプラスメール】についても言ってなかったらこれも同じだろうね。それでも何かあるかもだから、行ける人は応援に行ってあげて。

 

30:名無しの転生者

>>29 マジか、コレ黒札いなくても対処可能な件なのか。

ところで神主は来れないの?山梨からならすぐに来れそうじゃない?

 

31:神主

息抜きに行っても良いんだけど、運営くんが離してくれないの。

でも大丈夫、現地にはすでに葛葉ニキが行っている。葛葉ニキならなんとかしてくれるさ。

 

32:名無しの転生者

葛葉ニキ?ああ、元葛葉フレンズか。そうか、ついにフレンズじゃなくなったのか。

 

33:名無しの転生者

【俺たち】の中からライドウになるヤツが出てくるとはな。正直言って誰かいるだろうと予想してたけど、まさかフレンズがそうなるとは思ってなかったな。

 

34:名無しの転生者

葛葉フレンズとか大したことないだろ

オレの方が強いし

 

35:名無しの転生者

>>34 おまえが葛葉フレンズより上のわけないだろ。

あの人のおかげで前世含めた年齢イコール独身年数のオレにも人間の嫁が出来たんだ。

おまえにオレが救えるか!

 

36:名無しの転生者

>>34 葛葉フレンズのおかげで救われた【俺たち】は沢山いるんだ。書き込む言葉には気をつけた方がいいぞ。

 

37:名無しの転生者

現地人もかなり助けてるしな。友達とか知り合いから感謝されてる。

オレは葛葉ニキに仲介してるだけなんだが、威張らずに対応してくれるからマジ頼みやすい。

 

38:名無しの転生者

葛葉の所属になったってのに本人は普通の【俺たち】なんだよな。実力あるのにひけらかさないとか、目立たずにひっそりしたい陰のモノっぽくて共感できる。

 

39:名無しの転生者

童貞どもがうるせえよ

オレだって実力あるし、葛葉と会えてたらもっと活躍できてたんだ

あいつはだた運が良かっただけだろ

 

40:名無しの転生者

>>39 活躍してから言ってどうぞ

 

41:名無しの転生者

>>39 禁止ワードが見えたので呪殺しました

 

42:名無しの転生者

>>39 トイレ行きたくなーれ☆

 

43:名無しの転生者

>>39 流れ弾で被弾したので反撃しますね?これは正当防衛だから仕方ないね[呪]

 

44:名無しの転生者

馬鹿どもめ、遠隔呪殺なんて神主が止めるに決まってるだろが

 

45:名無しの転生者

知っとくマル秘情報!実は神主も童貞なんだよ☆

 

44:名無しの転生者

えおいちょっとまて身代わり人形がすごい勢いで減ってくんだが!?

おい神主こいつら止めろよ!

 

45:運営

神主の休憩時間は終わりました

 

46:名無しの転生者

運営つかえねーなおい!

くっそこうなりゃ呪いを逸らして葛葉に誘導してやる

お前らのせいだからな!

 

47:名無しの転生者

>>46 あっ、それヤバイぞ

 

48:名無しの転生者

>>46 それだけはヤメロ

 

49:名無しの転生者

今さら遅いんだよばっっっっっっっっっっっっっっっっっっk

 

50:名無しの転生者

今から任務あるヤツを呪うなよ

 

51:名無しの転生者

葛葉ニキって雑魚に定期的に絡まれてるよな

 

52:名無しの転生者

本人の見た目が普通すぎるから舐められ易いんだよなあ

 

53:名無しの転生者

>>52 ニキの本気モード見たことないだろ。濡れるぞ

 

54:名無しの転生者

>>53 そもそも本気出すような場面が少ないんだよなあ

 

55:名無しの転生者

急に静かになったけどクレーマー落ちたか?

 

56:名無しの転生者

>>57 身代わり人形尽きたんじゃね?

 

57:名無しの転生者

>>56 たぶん葛葉からの呪詛返しで落ちた。呪い元であるワイの身代わり人形までちょっと焦げてる

 

58:名無しの転生者

呪詛返しって直で返却されてるイメージあるけどこの場合どうなんの?

 

59:名無しの転生者

>>58 状況証拠しかないが、呪いを逸らしてぶつけた >>46 が呪いのほとんどを被ったんじゃないかな?

呪い送った大元は生きてる?

 

60:名無しの転生者

>>59 おトイレの呪い送ったワイ、動いたら出そうな程度で済んでる

ワイが送った呪いの半分以下の効果

余波だからまだマシだと思われ

 

61:名無しの転生者

ガッツある報告者w

マジレスするが葛葉家を呪うとか無謀がすぎると言わざるを得ないw

特に葛葉ニキは周囲の防御が堅すぎるから、遠隔呪殺なんかしたら倍以上の威力で返されるぞw

 

62:名無しの転生者

もしかしてニキの結婚披露宴の同時視聴スレでトイレに行く人が続出したのって……

 

63:名無しの転生者

葛葉ニキはいつの間にか呪殺反射になっていたのか

それはそれとして身代わり人形買っておこう




・葛葉ニキ
フレンズが取れた。
根願寺に別件で呼び出されていた。
根願寺の話が長いので携帯端末いじってたら大変なことになってた。スレは書き込みしてから見れてない。
呪殺反射は葛葉家による呪詛返しの結果なので、返せるのは遠隔呪殺かつ葛葉家以下の技量に限る。


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真東京DS新宿御苑

東京に悪魔が出現したという情報は、根願寺の連中にとっては寝耳に水だったようだ。

先ほどまでは退屈で無意味に感じられた会議室に、今は混乱の波が起きている。

『大結界があるからと安心しきっているせいで対応が遅れる』という周回ニキの言葉が頭をよぎった。

 

なんにせよ結論が出るのは遙か先になりそうなので、俺は自分のやるべきことをやるために席を立った。

 

「ちょっと待つんだライドウくん。キミがここを離れたら、悪魔が襲撃してきた時にどうなると思っているんだ」

 

「放棄して逃げればいいのでは?お役目のほとんどは終末アサイラムに移行してるし、それが出来ない任務はだいたい俺が片付けたはずです。ここに残っているのは、重要書類くらいなものでしょう?全員でそれを担いで、大結界の基点がある御所へ行けばいいと思いますよ」

 

「そんなこと、簡単にできるわけがないだろう。我らにもメンツというものがあってだな」

 

「俺にもやるべきことの優先順位というものがあります。その中ではメンツは下の方なんです。それに、今までの異界討伐でそこそこ戦力になる人員が確保できてますよね?こういう時のために……レベリングさせたんですから、ちゃんと彼らを使ってください」

 

レベリングの前に『わざわざ』『面倒くさい』という形容詞をつけそうになったが、理性で押しとどめた自分を褒めたい。

 

まだ何か言いたげなお偉いさんをその場に残して部屋から出た。

待機していた小夜は出発する準備をすでに整えていて、アイテムベルトとそれを隠す外套を差し出してきた。

 

「ありがとう。まずは新宿御苑に向かいつつ情報を集める。場合によっては解決まで数日かかるかもしれないから、そのつもりでいてくれ」

 

「わかった、家の方に伝えておこう。あと聞きたいのじゃが、この【ラプラスメール】というのはアサイラムのものなのかや?」

 

「不確定だが、たぶん違う。それについても情報を集めてからだけど、いちおう信頼できる内容だという前提で動くつもりだ。俺のCOMPに届いているのは、『新宿御苑で殺人が起こる』と『夕方に大停電が起こる』の二つだ。これらの対処が第一の目標だが、余裕があれば池袋へ行く」

 

「わしのにも同じものが届いておった。じゃが池袋というのは無かったぞ?」

 

「掲示板で情報共有した結果だ。『死ぬ』と予言されたヤツラが池袋周辺で多かったらしいから、それへの救援が目的だ」

 

「絶対に行く、というわけではなさそうじゃが?」

 

「戦力になりそうなのを集めてたからな。ラプラスメールの予言は情報を集積しての予測だから、それを上回る前提を用意すれば阻止できる」

 

「ふむ?まあ、お前様が言うからにはそうなんじゃろうな」

 

ゲームの設定がそのまま使われているか分からないし、前世の話なのであやふやな部分がある。

なので曖昧な部分をとりあえず置いておくことにする。そっちは専門の仲間に任せよう。

今この世界の情報は、これから少しずつ確定していくしかない。そうしなければ、どこかで足下をすくわれることになるだろう。

 

根願寺から出ると、車が用意されていた。

あのお偉いさんはナンダカンダ言いながらも、俺に協力するつもりだったらしい。

運転手はいつもの伊地知さんだった。

 

「新宿御苑ですか?途中に悪魔が出現したとの情報があるので、最短距離を通るのは難しそうですが」

 

「えーと、ピクシーにマンドラゴラ。ちょっと強くてケットシーか。このくらいのレベルなら、人外ハンターだけでなんとかなりそうですね。じゃあそこを避けて向かってください」

 

ゲームと同じで、レベル差がありすぎる相手だと倒しても経験値がほとんど入ってこない。

それならば敵とレベルが近い味方に倒してもらった方が、戦力の増強にもなる。

 

車中で情報を集めると、悪魔は森や地下の暗渠などの人気の無いところから出てくるようだ。

地下に突撃したハンターによると、暴走した違法改造COMPがいくつも放置されていたらしい。

明らかに何者かによるテロだろう。

 

悪魔が召喚されるほど局所的にGPが高まり、より強い悪魔が召喚されているようだ。

このまま東京で悪魔が発生し続ければ『東京に悪魔がいるのは当たり前』ということになり、場合によっては大ボスクラスの悪魔が発生する可能性まで出てくる。

それは阻止しなければならない。

 

ある程度強いハンターを中心にして突撃部隊が組まれ、各地の暴走COMPを止める方向で話が進んでいる。

ただ、中心になれるレベルのハンターの数が不足しているらしく、かなりの地域が後回しにせざるをえないようだ。

 

「高レベルハンターはほとんど地方在住か。東京に今まで悪魔が出なかったことが、ここでも響いてくるんだな」

 

「葛葉家からも何人か寄越すと連絡があったが、すぐには来れぬじゃろうな」

 

葛葉の連中も異界討伐に同行させてレベルを上げてあるが、それでも主戦力にはならないだろう。

 

「山手線の外側にアサイラムのメンバーが集まり始めたから、外周から中心に向かって潰してもらう方が効率良さそうだな。葛葉家は根願寺と協力して、政府系施設とかの入るのに許可が要る場所を担当してもらおう」

 

「わかった。そう伝えておく」

 

家への連絡は小夜に任せて、俺は根願寺に話をつける。彼らは予想通り防衛が主な任務らしく、暴走COMPの処理は難しそうだ。

 

デモニカスーツが配備されている自衛隊のゴトウ部隊は、山手線封鎖をしているから動かせないらしい。

悪魔が東京中に広がらないようにするのと、情報封鎖の役目もあるようだ。

アサイラムのメンバーにももっと早く、一般人には情報を広めないように言っておくべきだった。

 

そんな風に指示を出しているうちに、車は新宿御苑に到着した。

御苑の一部は改装工事でふさがれているが、どうやらそこから悪魔が出てきているようだった。

 

そのせいで御苑内は人気がなくなっていて、入り口には腰の引けた警備員がいるだけだった。

話を聞くと、数匹の悪魔が中にいた人を捕まえて工事現場に連れて行ったらしい。

アサイラムのメンバー以外は誰も入れないように言ってから、御苑内に侵入する。

 

そこには【妖精 ジャックフロスト】【幽鬼 ポルターガイスト】【妖獣 バグス】などが徘徊している。

俺なら楽に倒せるが、東京の人外ハンターたちでは難しいだろう。

 

【クダ】のギンコに探らせたところ、連れ去られた人たちは奥にいるらしい。まだ生きているのなら、助けられるかもしれない。

 

「普通の悪魔なら、その場で人を食らうはずじゃ」

 

「その通りだ。だから、生かしておいて後で何かに使いたいヤツがいるんだろう」

 

「ならバレぬように、戦闘は避けて進むということじゃな?」

 

「ああ、【悪魔避け(エストマ)】と【罠避け(リフトマ)】を頼む」

 

「うむ、任せよ」

 

小夜の【クダ】であるキンカに、補助魔法をかけさせる。そうやって気配を隠しつつ、俺たちは工事現場へと進んだ。

 

 

御苑内は特に問題なく、工事現場までスムーズにこれた。

 

工事現場の中をうかがうと、悪魔に連れて来られただろう人たちが、悪魔と踊っていた。

数は多くないのだが、その異様な光景に一瞬思考が止まってしまう。

楽しそうな声が聞こえて上を見れば、子供たちが宙を飛びながら悪魔と追いかけっこをしていた。

 

「なんじゃアレは。悪魔と遊んでおるのか?」

 

「そう見えなくも無いけど、踊っている大人たちは理性をなくしているようにも見える。原因になってる悪魔がどこかにいるはずだ」

 

いつまでも驚いているわけにはいかない。

捕まっている人たちは遊んでいるわけではなく、『遊ばれている』と言う方が近いだろう。

特に大人たちは顔色が悪く見える。

 

悪魔にバレないように工事現場の中に侵入して、様子をうかがう。

組み立てられた足場の上に稼働しているCOMPと、その近くで倒れている人間を見つけた。COMPは暴走してはいないようだが、何かしらのプログラムが動いているようだ。

 

「あそこにCOMPがある。あれを止めれば、とりあえず悪魔の出現は抑えられるはずだ」

 

「上じゃな。しかし階段が取り外されておるように見えるぞ。どうやって上へ行ったらよいだろうか」

 

小夜の言うとおり、足場の階段が外されていた。組み立てるには知識と時間が必要だし、そんなことをしていたら周囲の悪魔に気づかれるだろう。

全部倒すことは難しくないが、できるだけ早くCOMPを壊したくもある。

 

『あなたも上へ行きたいの?なら飛べるかやってみようよ』

 

解決策を思いつく前に、耳元で声が聞こえた。顔を向ければ、金髪の妖精がそこに浮かんでいる。

 

「上へ飛ぶ?もしかしてあの子供たちはオマエが飛ばしているのか」

 

『飛んでいるのはあの子がキレイな心の持ち主だったからよ。さあ、キミも飛べると信じてジャンプしてみて』

 

妖精が光輝く粉を振りまく。

それが俺へと降りかかる……直前に、小夜が扇で風を起こして吹き飛ばした。

 

「なにをしておる。悪魔の言葉に耳を貸すとは、お前様らしくないぞ」

 

「ゴメン、そういうギミックかと思って」

 

先ほどの妖精を探せば、小夜の風に巻き込まれたのか問題のCOMPの近くで伸びていた。

 

「取ってくるから、ここで待ってて」

 

力を入れてジャンプすれば、簡単に足場に乗ることができる。

レベルが上がっているから、このくらいは簡単なのだ。ゲームじゃないので、チートだと言われる心配もない。

最初から悩む必要もなかった。

 

COMPを回収し、倒れていた人間と妖精を捕まえて下へと降りる。

悪魔たちをCOMPを操作して帰還させ、捕まっていた人たちを救出する。

 

先ほどの妖精を目覚めさせて話を聞くと、気絶している人間に呼び出されて『好き勝手に遊んで良い』と言われたらしかった。

 

『わたしをナントカ・ベルにするんだって言ってたよ。わたしはわたしなのにね』

 

妖精にしては割と理性的で力があるため、彼らの計画に組み込んだのだろう。

ただ、好き勝手やりすぎたために召喚者でもある本人のマグネタイトを消費しすぎて気絶したようだ。

捕まった人たちは、遊び相手を兼ねたマグネタイト補給用だったようだ。

 

「まだ誰も殺していないようだし、二度とやらないと誓えるなら、命までは取らない。約束できるか?」

 

『殺してなんかいないよ。遊べなくなるじゃない。えっ、誓えって?うーん、わかったよ。ニンゲンは殺しません。ほら、これでいいんでしょ』

 

妖精は不機嫌そうではあったが、約束してくれた。

ここでの犯人は捕まえたし、これで殺人事件は起こらないだろう。

 

『あなたたちって何か面白そうだよね。言うこと聞くから、あたしも連れてってよ。こんな狭いところだけじゃなくって、もっと色々と見てみたいの』

 

どうやら妖精に気に入られてしまったようだ。

小夜に相談すると、俺がいいならいいと言われた。

何かあったら神主に押しつければ良いか。そう思って連れて行くことにする。

 

『わたしは【妖精 ハイピクシー】よろしくね!』

 

ピクシーじゃなかったのか。

デザイン的にソウルハッカーズのピクシーに近いから、レベルが高いだけのピクシーかと思っていた。




・ハイピクシー
なんとかベルにされそうだった、ピクシーにしては力と知恵が強い個体。
被害が拡大してたら『子供の夢を叶える妖精』に成っていたかもしれない。
まだ誘拐だけだったので制御可能と判断したため、討伐対象にならずに済んだ。


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停電の推理とメメントス

全話までヨヨギ公園としていましたが、代々木公園は山手線の外側だったため新宿御苑に変更します。
確認してたはずなのに、なんで気づかなかったんだorz


新宿御苑の事件の処理を警察に任せ、俺たちは車に戻ってきた。

そして次に向かう場所について相談しているのだが、残念ながら行き止まりにぶつかっていた。

 

ラプラスメールによる二つの予言のうち、『新宿御苑で殺人事件が起きる』の方は阻止することができた。

次はもう一つの『夕方に大規模停電が起こる』の方の対処をしたいのだが、それについての情報が少なすぎるのだ。

 

「どこで、誰が、どうやって。その内のどれか一つでも分かればとっかかりになるんだけど、情報がさっぱり集まらないな」

 

「そもそも我らがどうにかできるものなのかが問題じゃろ。山手線の外であったり、変電所の故障であったりしたら手が出せぬぞ」

 

「たぶんその心配は無いと思う。ラプラスメールの内容には個人差があって、本人の余命みたいな重要なものが多い。だからこの大規模停電についても、俺たちが食い止められるもののはずだ」

 

「今から夕方までという時間区分で考えると、渋滞していますし北は護国寺・南は天現寺あたりが限界ですね。西は皇居まで行くことはできないでしょう」

 

運転手の伊地知さんのコメントにうなずく。

 

「たどり着いただけで時間切れになると考えると、もっと場所は絞れそうだな。他に同じメールが届いた人はどんな感じだろうか」

 

「む、先ほどの死亡予告についてじゃが、『寿命が延びた』という者が急に増えたようじゃ。ほぼ護国寺関連のようじゃが、これは関わる人が多かったということかの?」

 

「そうだろうね。避難所だろうから、優先的に解決に動いたみたいだ」

 

一般のスレには『池袋のギャングチームがタッグを組んだ!』とか『首無しライダー強すぎだろ!』とか興奮気味なレスが並んでいる。

 

『自販機ぶん投げてるヤツいるけど人間なのか?』

『↑通常運転です』

 

とかあるので、レベルの高い人も参加したことがうかがえる。

そんな風にスレッドをいくつか見ていると、伊地知さんが声をかけてきた。

 

「ええとそれで結局、次はどこへ向かえばいいんでしょう?」

 

「ええ、それが本題でした。普通に行けるところは人外ハンターたちが見回りを終えているようなので、一般人が入れない場所の可能性が高いです。だからやっぱり、入るのに許可が必要な場所だと思います」

 

それと念のため、アサイラムに山手線の外で可能性がありそうな場所を見てもらっている。

メガテン関連だったら大型の自動車工場とかが考えられるけど、そこは山手線の外側だ。俺たちが手出しできる範囲を超えている。

 

直接見つけられないなら、消去法で探していくしかない。

そう考えていたら、小夜が携帯端末の画面を見せてきた。

 

「のう、お前様。この【死亡予告改変スレ】に時々出てくる【メメントス】とはどこにあるんじゃろうか。地図で探しても出てこぬのじゃが」

 

「あー、メメントスはペルソナ使いしか行けない場所なんだよ。渋谷の地下鉄から入れる別世界みたいな場所で……」

 

説明している途中で気づいて、俺も【死亡予告改変スレ】を開く。

まだ変わらない人のリストを見ていくと、その内訳はペルソナ使いが半数以上で死亡予想時刻は夕方以降だ。

そしてその死亡者のほとんどに、停電予告のメールが届いている。

 

「渋谷だ。メメントスは認知世界だから、現実世界に直接影響を与えることはできない。でもそこから出れば地下鉄だし、何より鉄道は電気を使って動いている。きっと地下鉄に原因があるんだ」

 

「地下じゃと?」

 

「暴走COMPも人気のない場所に置かれているだろ。地下鉄の路線内なら人の目はほとんどないはずだ」

 

「なるほど。特に今は緊急事態のため電車の運行はされていないので、特に人目が少なくなっているでしょう」

 

点と点が一本につながった気がする。

そうとわかれば、急いで対策を整えなければ。

 

「地下鉄内の捜索ができるように、根願寺に話をつける。小夜は葛葉の人たちに、先にシキガミで捜索するよう頼んでおいて」

 

「わかった」

 

「渋谷駅まですぐにお連れします」

 

伊地知さんが車を動かす。

悪魔の出現による混乱のせいで道路はかなり混雑している。

今から渋谷駅に向かってどのくらい猶予があるか分からない。せめて到着してからすぐに行動できるよう、準備を済ませておかなければ。

 

◇◇◇

 

【メメントス】

 

「せっかく東京に来れたと思ったのに、聖地アキバに行けないとかテンション下がるお」

 

メメントス入り口となる認知世界の改札前で、青年が肩を落としていた。体型は普通であるが猫背気味で、チェックのシャツにジーパン。そしてメガネと指ぬきグローブというオタクファッション全開である。

 

その隣で和風デザインの服の少女が寄り添うように、いや、寄りかかるようにして腕をつかんでいる。

 

「ここがメメントスですか。マヨナカテレビと違って霧は無いみたいですが、不気味なのは同じですね」

 

「やっぱりメガネは無くてもモーマンタイみたいだお。メガネ装備バージョンはマヨナカテレビで見れるから、プリヤちゃんはメガネ無しでいこうか」

 

「ちょっと安ちん様(お兄さま)、隣にわたくしがいるのに人形の話をしないでくださいます?」

 

「ごめんごめん。姫ちゃんはメガネあってもなくてもどっちでもカワイイから……」

 

「まあ、そんな。急に褒められたら困ってしまいます」

 

照れたようにくねくねする少女と、それを見て鼻の下を伸ばしている青年。その二人の後ろで魔法少女姿のシキガミが無感情な顔で立っている。

 

彼らは沖奈市在住のペルソナ使い、【猪悟能】の安ちんと【清姫】の姫(スレでは清子)。そしてペルソナ使い型のシキガミ【プリヤ】だった。

 

彼らは転生者専用スレで東京で協力者を募集していると知った安ちんが『ペルソナ使いでもおK?』と聞いたことにより、『メメントスはいつでも協力者を募集しています。今なら送迎代をこっちで持ちますよ』との返答を受けてやってきたのだった。

 

「『トラフーリ』って言ってましたっけ?沖奈から東京まで一瞬で来れるなんて、転送魔法ってすごいんですね」

 

「たぶん輸送課の人がすごいんだと思うお。普通はもっと近距離しか無理なはず」

 

彼らを送ったペルソナ使いは、『次の仕事があるから』と慌ただしく飛んでいってしまった。緊急事態である数日間だけの出張なので、後日また送り返してもらうことになっている。

 

「ところで急な話だったけど、姫ちゃんのパパママはよく外泊を許してくれたね。お友達の家に泊まることにしたんだろうけど、確認されたりしなかったの?」

 

「いえ、お兄さまと旅行に行ってくるって正直に伝えましたわ」

 

「え”っ」

 

安ちんの背に冷たい汗が流れる。

 

「ママは快く送り出してくれましたよ。それとパパが、帰ったら家に連れてきてねって言ってました。きっと具体的な式の日取りのことを相談したいんでしょうね。パパは気が早いから」

 

「OH……」

 

安ちんはため息のような言葉しか出なかった。

姫の両親はとても善良な一般市民(に見える)だ。一人娘が知り合いの男と外泊するとか、普通は簡単に認められないだろう。

安ちんは普通の人間のフリが完璧にできている(と思っている)ので、○歳も年下の少女に手を出すことはないと思われているのだろうと結論づける。

 

しかし少女は清姫のペルソナを発現している。ご両親が了承してしまったら、それを理由に同じ部屋のベッドに入って来かねない。

そのせいで間違いがあったなら、法律を理由にしたとしても、「責任を取ってくれないんですの?」と丸焼きにされかねない。

 

ゆえに(理性を強く持たねば)と決意を新たにする。

 

「それじゃあ今日は初日だし、浅い階層で慣らしをしよう。マヨナカテレビとは勝手が違うだろうしね」

 

「はい♥」

 

「了解しましたマスターさん」

 

二人と一体が改札をくぐる。

今日のメメントスは普段よりも不穏な気配が強まっていたが、今まで来たことが無い彼らにはその違いは分からなかった。

 

 

メメントスは東京中の人々の共有無意識が作り出した認知世界である。深くなればなるほど根本の感情に近いドロドロとした情念によって強力なシャドウが湧くが、浅い場所なら理性という仮面(ペルソナ)によって力が押さえ込まれている。ゆえに徘徊するシャドウはあまり強くない。

 

そのはずなのだが、安ちんたちが思っていたよりも少しだけシャドウは強かった。

 

「ここのシャドウは、マヨナカテレビと違ってペルソナに近い姿をしていますね」

 

「その方がデータ容量を節約できるゲフンゲフン。やっぱり東京は人が多いから、人が想像できる姿になりやすいんだと思うお」

 

「さすがお兄さま、博識ですね」

 

「それほどでもない」

 

少女に褒められ、自慢げに謙遜する安ちん。だが得意げに胸を張りながらも、微妙な違和感に内心で首をかしげていた。

転生者として戦ってきた安ちんはともかく、ペルソナ使いとして目覚めたばかりの姫と新戦力のプリヤはまだペルソナ使いとしてのレベルが低い。

なのでレベル上げのためにも浅い階層で経験値稼ぎをしようとしたのだが、思った以上にギリギリだった。

高レベルかつ体力タイプのペルソナを持つ安ちんが壁役をしているので被害はほとんど出ていないが、姫とプリヤだけだとピンチになりかねない。

 

聞いていた話と違うので予定を変えるべきか、それとも効率が良いからもっと続けるべきか。悩みつつもなかなか結論を出せずにいた。

 

(まあすでに二人とも2レベルも上がっているし、もう少し粘ってもいいよな?)

 

普通に考えられれば、同じ転生者でない姫とプリヤが短時間で2レベルも上がっているということで敵の強さが分かるはずだ。

だが初めての東京であることと美味しい狩り場だという認識が、煩悩に弱い【猪悟能】のペルソナを持つ安ちんの判断を狂わせていた。

 

数十分後、安ちんの背中には冷や汗が流れていた。

 

(ここ、どこだお?ゲームと違って歩きだから、どれだけ進んだか分かりにくくて迷ったかもしれないお)

 

メメントスが出てきたペルソナ5では車で走り回っていたが、現実にはそんなものはない。少なくとも自分で持ち込まない限りは。

 

そのため徒歩で進んでいたが、ペルソナに覚醒したせいで身体能力が上昇しているために思った以上に奥に進んでしまったようだった。

 

「ごめんなさいお兄さま、ちょっと疲れてきちゃいました」

 

「もれもそろそろ終わりにしようかと思っていたお。たぶんそろそろ中間地点があるだろうから、そこからいったん外へ出ようか」

 

そう提案したが、シキガミであるプリヤが首を横に振った。

 

「残念ですがマスターさん、まだ中間地点まで二階層分あるようです」

 

「ええ、これだけ進んでまだ先があるだって?やっぱり移動手段が欲しいお。仕方ないから、とりあえずここで少しだけ休憩しよ」

 

回復用の霊薬ジュースを配ってから、COMPで掲示板を覗いてみる。

メメントスでの移動手段などを調べようとスレッドを開いてみると、新しく立てられたばかりのスレッドが目に入った。

 

【メメントス】地下鉄に強力な悪魔が潜んでいる可能性あり【特に注意】

 

「ブブー!?」

 

「お兄さま大丈夫ですか!?」

 

思わず霊薬ジュースを吹き出した安ちんに、姫がハンカチを差し出した。

 

「もれは大丈夫。だけど姫ちゃんとプリヤは早く脱出した方がいいかもしれないお」

 

「そんな!私はお兄さまといつまでも一緒です!!」

 

「ああ、うん。もちろんもれも一緒に出るお」

 

言葉選びが間違ったかなと安ちんは汗を拭う。

 

「問題は進むか戻るか、どっちの方がいいのかだけど……」

 

エレベーターを利用して帰って行き来できる中間地点は、5階層ごとに1つある。

今いるのは3階層の終盤で、距離的には先へ進んだほうが近い。だが、この先の敵が強くなる可能性を考えると、戻った方が安全だろう。

 

「今までで通ってきた道の方が安定してるだろうし、上へ戻ろう。それに経験値稼ぎにもなるだろうし」

 

「はい、お兄さまがそう言うなら」

 

「分かりましたマスターさん」

 

そうして、来た道を戻ることになった。




・安ちん
ペルソナが猪悟能だからって別に太ってはいないが、煩悩には非常に弱い。
東京に行けばアキバに行けるんじゃね?と参加した。だが非常事態のため電車は止まっている。当然だよな?

・姫
掲示板では清子と仮称された少女。お兄さま大好き。
プリヤについては「人形が好きって、男の人っていつまでも子供なんだから」と自分を納得させた。

・プリヤ
まだ自我は芽生えていないので、設定された行動しかできない。
安ちんは「お兄ちゃん」と呼ばせたかったが、姫ちゃんのプレッシャーに負けて「マスターさん」に妥協した。


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特殊イベントメメントス

コロナ陽性になりましたorz
引きこもったおかげでかなり回復したので投稿します。


安ちん一行は時間をかけて地下一階へと戻ってきていた。

一度通ってきた道なので、効率厨の気がある安ちんが宝箱探しのために隅々まで歩き回る必要がなかったのも大きい。

 

あとは改札階へ戻るだけのはずだったが、先頭を歩いていた安ちんは何かを聞き取り立ち止まった。

 

「お兄さま、どうしたのです?」

 

「……聞こえる」

 

「私にはわかりませんが、何が聞こえたのです?」

 

「助けを求める、少女の声が!」

 

安ちんは進路を90度変えて、脇道へと入っていく。

 

「待ってくださいましお兄さま。お人形(プリヤ)さん、あの先はどこに続いていますの?」

 

「マップだと、少し先で行き止まりになってます」

 

「でもこっちから聞こえてくるんだ」

 

つき進んでいく安ちんを姫とプリヤは追いかける。

プリヤの言葉の通りその先は行き止まりだったが、安ちんはその壁を睨み付けた。

 

「やっぱり、この壁の向こうから声が聞こえる。きっとこの先には隠し通路があるんだ」

 

P5(ゲーム)でも隠し通路は存在していて、車の体当たりで壁を壊して進んでいた。

だが彼らは車を持ってはいない。

さすがに車がなければ、いかに壊れやすい壁だとしても壊すのは難しいだろう。ただしそれは普通ならばの話だ。

 

「こんな程度の壁など、幼女を助けるためならば、障害になりはしない!うおおお、いくぞ【猪悟能】」

 

ペルソナを発動させるとペルソナ使いの身体能力は常人の数倍は高くなる。

しかも転生者であり、なおかつもう一人の自分(ペルソナ)を完全に受け入れている安ちんは、同レベル帯の一般のペルソナ使いよりもその力を引き出せていた。

 

「【突撃】!」

 

背後に出現した巨漢のイノシシ男のペルソナごと勢いよく突っ込むと、壁がまるで発泡スチロールでできていたかのようにはじけ飛んだ。

 

「あらまあ、さすがお兄さまですわ」

 

姫による賞賛の声を背後に聞いて、安ちんはマッスルポーズを取った。

 

 

 

隠し通路の奥には、空間がねじれて先が見えなくなった黒い渦があった。

ペルソナ使いであっても最初は不気味に感じる光景だが、安ちんは納得した顔でそれを見ていた。

 

「お兄さま、これは何ですか?」

 

「そっか、初見だとびっくりするよね。簡単に説明すると、イベントボスのいる部屋につながるゲートだお。やっぱりこの先から声が聞こえてくる。姫ちゃん、プリヤ。中に行くけど準備はいいかい?」

 

「いつでも大丈夫です。マスターさん」

 

「わ、私も大丈夫ですわ」

 

「よしそれじゃあ、のりこめー^^」

 

安ちんが最初に飛び込み、二人がそれに続いた。

 

イベントボスの部屋は普通ならメメントスの通路に似た空間が広がっているはずだったが、そうなってはいなかった。

 

まるで大きな病室のような内装だが、中央にある大きな物体のせいで窮屈に感じられる。

 

それはいくつもの装置が集まって作られた台座だった。

規則的な音を出す多数の生命維持装置と、その他いくつものモニターと装置。それらにつながる何本ものコードが、床と壁を覆い尽くしている。

そしてその上には一見すると医療用のベッドのように見えるものがあり、そこに幼い少女が張り付けになっていた。

 

少女は白いワンピースのような服を着ていたが、その下の肌も白かった。少女は少し痩せていて、目の下に薄いクマがあり、瞳に生気の輝きはなかった。

そして驚くべきことに、その少女の髪はもの凄く長かった。

 

金色の美しい髪が、薄暗い部屋の中でまるで光を放っているように感じられる。それがおよそ3mの位置にある少女の頭部から、地面に届きそうな位置にまで垂れている。

 

その光景を見た三人はそれぞれ小さく感嘆の声を上げ、それが聞こえたのか少女が反応を示した。

 

「ぁ」

 

息を吐いただけのような音だったが、それを聞いた安ちんは何を言いたいのか理解できたようで、はっきりと力強く答えを返した。

 

「そうだ、もれたちは、君を、助けに来た」

 

「は……」

 

少女はまた息を吐き、そしてかすかに微笑んだ。

そして次の瞬間、少女の髪が大きく動いた。

 

まるで一匹のヘビのように鎌首をもたげると、今度は幾本にも分かれてそれぞれの先端に刃を作り出した。

 

「ムッ、【挑発】(こっちだ)お!」

 

「【ラクカジャ】です!」

 

プリヤの補助を受けた安ちんに、髪の刃が殺到する。

多数は外れたが、幾本かは服を切り裂き皮膚へと届く。

ペルソナ使いとして鍛えた体に刺さることはなかったが無傷とはいかず、幾本もの血の筋ができていた。

 

「ひゅー、死ぬかと思ったお。プリヤちゃんナイス!」

 

「私のお兄さまにいきなり何をなさいますの!【燃えなさい(マハラギ)】!」

 

姫が放った炎が髪の刃を焼いていく。

燃えたのは表面の数本だけのようで、数は減ったがまだまだ残っている。

 

金髪はまたひとまとまりに戻ると、今度はドリルのようにねじれながら安ちんへと狙いをつけた。

 

「おっ、これは危なそうだお」

 

防御姿勢を取った安ちんに、金髪のドリルが襲いかかる。

武器にしている農業用フォークで受け止めたが、威力を殺しきれずに後ろに飛ばされた。

 

「回復します【ディア】」

 

「いててー。このままだとヤバそうだお」

 

言いながらコンビニおにぎりを取り出して食べる。

体力特化型である安ちんでもHPの回復がギリギリということは、彼らの平均レベルより上の相手だということだ。

 

姫の【火炎(アギ)】が効いている(弱点な)のは良かったが、安ちんが壁役を続けられないと戦線が崩壊する。

 

金髪の攻撃ですぐに倒されることはないが、それは安ちんの防御とプリヤの回復とでなんとか釣り合っているからだ。

強力な攻撃は防御しなければならないし、通常の攻撃も何ターンも回復なしに食らうことはできない。

プリヤの防御強化(ラクカジャ)とアイテムによる追加の回復で、二人の手はふさがってしまっていた。

 

「どうすれば……。ん?」

 

同じような動きを3ターンほどくり返したところで、金髪の動きが変わる。

今度は細かく分かれた数本がうねうねと気持ちの悪い動きをし始める。するとその髪たちから「チ、チ、チ、チ、チ、チ」と小さな音が発せられた。

 

「ムッ。二人とも、念のため防御して」

 

「はい、マスターさん」

「っ、わかりました」

 

体力の低い二人を庇うようにして待ち構える。

金髪たちが青く光ったように見えた次の瞬間、バチバチという音とともに電撃が部屋全体に放たれた。

 

「……っ、傷は浅いです。おそらく【マハジオンガ】相当だと思われます」

 

「~~、お肌が、ピリピリします」

 

安ちんはともかく、姫とプリヤにとっては痛手になるダメージだった。しかし安ちんは笑って言った。

 

「逆にこれはチャンスだお。姫ちゃんは攻撃アップのスキルを使って、プリヤは回復」

 

「了解です。ペルソナ!」

 

「はい、お兄さまがそう言うなら……【焔色の接吻】!」

 

プリヤの【メディア(全体回復)】により、全員のHPは上限近くまで回復する。

そして一方の姫の手元には、消えない炎が作られていた。

 

「そしてもれが使うのは、【鎧通し(この技)】だ!」

 

農業用フォークが金色の髪の壁に穴を空ける。髪の毛で出来ているために穴はすぐに埋まるが、しかし【鎧通し】は当たった対象の防御力を下げる技だ。

メメントスという認知世界では特に『そういうものだ』という共通認識が広まってさえいれば、『そういうもの』として効果が発揮される。

 

まぶしいくらいの金色だった髪は何度も火にあぶられ、傷ついたことで輝きが鈍っている。

そこに『防御力が下がる』という概念を打ち込まれたことで、金色の髪は見た目以上に弱っていた。

 

「よし、今だ!合体技で一気にたたみかけるお!」

 

「了解です。準備を始めます」

 

「続けていくお。姫ちゃんキメちゃって!」

 

「任せてくださいまし。これこそ私とお兄さまの合体魔法(共同作業)タワーインフェルノ(燃えさかる愛の炎)】!ですわ!!」

 

炎の嵐が金髪の塊を焼いていく。

その威力は髪だけに留まらず、設置されていた大きな装置までも溶かし変形させていた。

 

炎が収まった時、髪のほとんどは燃えカスになっていた。髪の持ち主である少女はフレームが歪んだ装置に今だ張り付けになっている。

装置の大切な部分が壊れたのか、致命的な音が鳴って装置がグラつく。

それとともに少女を張り付けにしていた金具が壊れて、それごと少女が落下した。

 

「おっと、危ないお」

 

見た目からは想像が出来ないほどの機敏さで駆けつけた安ちんが少女を抱き止める。

少女の髪は最初の5分の1以下になっていたが、それでもロングヘアと呼べる長さは残っていた。

 

受け止めた少女は信じられないほど痩せていて軽く、顔色も良くない。

しかし安ちんの顔を見ると、安心したように微笑んだ。

 

「ぁ…………ぅ」

 

「うん、どういたしまして」

 

安ちんがうなずくと、少女の姿が薄くなり、まるで最初から存在していなかったかのように消えた。

 

 

渋谷駅の地下入り口前は、コスプレ会場かと思えるほど個性的な格好をした人が集まっていた。

一般の人たちは『立ち入り禁止』テープの外側から、何かのイベントかと興味深そうに見ている。

 

そんな中に安ちんたちが出きたのをアサイラムの職員が見つけて声をかけてきた。

 

「君たちはメメントスの探索帰りだよね、全員無事かな?おかしな事は無かったかい?」

 

「みんな無事ですお。おかしな事は……ちょっと強いイベントボスと戦ったくらいかな?」

 

「イベントボス?」

 

首をかしげる職員に、隠し通路の先で起こった戦闘の内容を話していく。

 

「一階層で?隠し通路とは、まだ誰も見つけてないのは偶然かそれとも別な条件が?まあいいか。病室みたいだったって言ってたけど、どこの病院とかは分かったりする?」

 

それは無茶な質問だった。

東京にはいくつも病院があり、まして今日来たばかりの地方民が把握しているはずもない。

しかし、安ちんは普通ではなかった。

 

「新宿衛生病院ってベッドに書いてありましたお」

 

「新宿衛生病院だって!?」

 

姫とプリヤは確認の視線を向けられるが、元一般人の少女とシキガミは曖昧に首をかしげることしかできない。

 

「あと名前も書いてあったお。メリッサ・ベルって読むんだと思うお。外国の子ってお人形さんみたいでカワイイよな」

 

安ちんはその時のことを思い出す。まるで写真を撮ったかのように、一瞬一瞬を鮮明に脳内に浮かべることができる。

女の子のいた空間、その弱々しくも若々しい肉体。そして服のシワの一つ一つが脳に刻まれている。

それは今までの人生で培われた特殊能力。

安ちんは女の子が関係すると能力が上昇する変態(紳士)だった。

 

それを知らない職員は半信半疑ながら書き取ると、情報伝達のために走って行った。

 

「さすがお兄さま。あの異様な空間においてなお、冷静に周囲を観察していらっしゃったのですね」

 

「ぜんぜん大したことじゃないお」

 

謙遜しているわけではない。本人は誰でもできることだと思っていた。自分はその能力の使い方が他人と違うだけだと。

 

「それより休憩しようか、姫ちゃんも疲れてるだろ。向こうで飲み物もらえるみたいだお」

 

姫とプリヤの背中を押しながら配布用のテントへ向かった。

 

◇◇◇

 

安ちんたちが休憩している間に情報がまとめられ、東京中のアサイラム職員と人外ハンターに共有される。

 

俺と小夜はその情報を渋谷の地下鉄構内で受け取った。

 

「新宿衛生病院?なら向こうにいた方が近かったか。いや、結果論だな。うわ、マップでも確かにつながってるし」

 

地下工事組合から提供された地下のマップは通路が複雑にからみあっていたが、目的地がはっきりしていれば読み解くことは可能だった。

誰がどういう意図で作ったのか分からないが、病院の地下と一般の通路でしっかりとつながっている。

 

「その【メメントス】とやらは渋谷(ここ)にあるのじゃろ。まさかそれが線路を通じて新宿まで伸びておるのか?」

 

「設定的には渋谷の地下だけだと思うけど……。人間の共有無意識の空間だとしたら、距離とか関係ないのかな?そういえば、全然別の場所にいるはずの人間のシャドウも現れてたな」

 

ゲーム中では、ネット越しに予告を受けた対象のシャドウがメメントスに現れた。

つまり条件さえ満たせれば、どこにいたってメメントスに現れるのだろう。

 

「たぶんだけど、俺たちが探していることが向こうに伝わったから出現したんだろう。自分が悪いことをしている認識があったのか、それとも助けて欲しかったのかもしれない」

 

「メメントスとは、とても奇妙な異界なんじゃのう」

 

説明が面倒くさいのでそういうことにしておく。

渋谷の地下にあった暴走COMPの大半はすでに破壊し終えていた。

時刻はすでに夕方を過ぎているが、大停電は起きていない。おそらくだが、メメントスに出たというイベントボスを倒したことで回避できたのだろう。

 

俺は停電を回避できなかった時の次善の策として、人外ハンターに協力を呼びかけて、あらかじめ地下に設置された暴走COMPを破壊してもらっていた。

喚び出されている悪魔のレベルが思ったよりも低かったので、葛葉一族や現地のハンターたちでも対応できている。

 

ちらほら強い個体も見つかっているようだが、そっちは俺を含めた高レベルハンターが対応することで被害は抑えられていた。

 

「でも暴走COMPは囮で、本命はメメントスの中にあったってことか?ちょっと回りくどい気がするなあ」

 

「ぶつぶつボヤいとらんでしっかりするのじゃ。悪魔の気配が近いぞ」

 

小夜に言われて気を引き締める。

この先にいるのが、報告を受けた強い悪魔とやらの最後の一体だった。

 

「やっぱりそこまで強そうじゃないな」

 

「それでもレベル20はあるじゃろ。一般ハンターにとっては十分に脅威になるわ」

 

「そうだったな。じゃあさっくりと倒しておくか」

 

仲魔を呼び出し、万全な準備を整えてから強い悪魔とやらの前に立った。




・タワーインフェルノ
ペルソナ2罪に登場する合体魔法
水撃系・地変系・火炎系の順番で発動。敵一体に火炎属性の大ダメージ。

・メリッサ・ベル
見た目はグラブルのハーヴィン。
髪の毛がオートで攻撃と防御をしていた。

・安ちんは紳士
数少ない接触の機会を最大限に生かすために瞬間記憶能力(幼女限定)が強化されたらしい。


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ベルの因子

すいません。今回は短いです。
コロナは思った以上に長引くので、予防はしっかりしてくださいね。
マジでやる気がそがれます。


最後の暴走COMPを守っていたボス悪魔は少しだけ強かったが、問題なく倒すことができた。

これで渋谷の地下に配置されていた暴走COMPは全て破壊できたはずだ。

 

「ふう。これで低レベルのペルソナ使いが悪魔に殺される危険は排除できたな。後は停電に関係してそうな、新宿衛生病院の入院患者か」

 

「そっちは他の人が向かってくれておるんじゃろ?もう時間が遅くなっておるし、わしらは今日のところはもう休んだ方が良いと思うのじゃが」

 

「そうだけど、気になるんだよなあ」

 

今日は完全に推理を間違えた。

絶対に渋谷の地下鉄で間違いないと思っていたのに、実際は俺たちがいた新宿の近くだったのだ。

どうりでラプラスメールの予言で並んでいたわけだよ。あっちが終わってからすぐに向かえば、連続して解決できたんだから。

 

しかし新宿衛生病院はゲームに出てくる重要な場所なので、もしかしたら強い敵がいるかもしれない。ボス悪魔とか配置されてる可能性が高いだろう。

それならば今からでも俺が行った方がいいのではないだろうか。

 

なんて思っていたら、地上に出たところでメールが来た。

 

『新宿衛生病院の件、対象の確保が完了しました。衰弱していますが、命に別状はありません』

 

はい、終わり。今日はもう寝ようぜ。

 

◇◇◇

 

「ヴェルドレ司祭様、メリッサ・ベルが人外ハンターどもに奪われました。処理装置も破壊されたため、【ベルの因子】の回収は不可能です」

 

「ふむ、予想よりだいぶ早い。アレはたしか、電力を魔力にするだけの無害な変換装置だったはずだが、彼らはそんなものまで討伐の対象とするのか」

 

「アサイラムの愚かな不信心者どもめ。どこまで我々の邪魔をすれば気が済むんだ。あいつらが今までのんきに暮らしてこれたのは、我々が世界の平和を守ってきたからなんだぞ」

 

「落ち着きなさい。迷える子羊に見えるのは狭い牧場のみ。広大な世界を知る我らが神のご意思を理解できるわけがありません。我々は神のご意思に従って、粛々と進めなければなりません」

 

「失礼しました、ヴェルドレ司祭様。残された【ベルの因子】を持つ者は多くありません。こうなっては時間をかけて【ベルの悪魔】の成熟を待つしかありません」

 

「時間、か」

 

ヴェルドレ司祭はため息をつく。

そもそも残されていた時間が少なかったからこそ、彼らはこのような計画を実行することになったのだ。

 

【ベルの悪魔】計画。

それはナイア教授という天才が残した計画案を、天才にはとうてい届かない俗物たちが改造した妥協案だった。

 

不完全な天使召喚プログラムでは強力な悪魔を喚び出すことが難しい。ならば、強力な悪魔を自分たちで作り出せばいい。

まず【ベルの因子】を持つものを複数造り、その力を一体の悪魔に集約させることで強力な個体を作り出す。

壺毒の呪法にも似たこの儀式は、呪術にうとい者たちでも理解がしやすかった。

 

さらに【ベルの因子】を持っているなら、ただの人間であっても素体にできるという点が都合が良かった。

 

かくして、逆転の一手として【ベルの悪魔】計画は進められることとなった。

【ベルの因子】を持つ被検体が集められ、様々な方法でその因子を強化し凶悪な悪魔に変えていく。

もちろん簡単ではなかったが、追い詰められたメシア教過激派にとっては、その課程で出る犠牲は全く気にしなかった。

 

失敗した被検体は【ベルの悪魔】を喚び出すための生贄に使える。実に無駄が無いではないか。その程度の認識だった。

 

メシア教過激派の勢力が弱体化していたことで、犠牲となる人が大きく増えなかったのは世間的には幸運だった。

かつての過激派であれば犠牲者は何倍にも増えていただろう。だがそもそもこんな不完全な計画に手を出したのは、弱体化していたからなのだ。

 

ともあれ計画は進み、数体の【ベルの因子】を持つ人間と悪魔が完成した。

完成はしたがどれも弱く不完全であり、完全なものとするためにはより多くの生贄が必要だった。

 

だが過激派にはもう生贄に十分なほどの信者はいない。

ならばどうするか。こんなに頑張っているのに不幸な自分たちとは対照的に、のんきに暮らしている不信心者どもに世界の真実を教えるとともに神の世界のための礎となってもらえばいい。

そう結論づけられた。

 

自分たちの理想に基づいた、理想的な結果が約束された計画。

だがそれはあくまで理想であり、現実がその通りにいくわけがない。

 

【ベルの悪魔】は必ず失敗するだろう。

人生の苦労を知り、また小心者であるヴェルドレはそう確信していた。

だが司祭程度の自分ではそれを中止させることなどできはしない。ならばむしろ積極的に推進することでその手綱を握り、自分のために利用しようとしていた。

 

「今ある全てを使いなさい」

 

「司祭様、いま何とおっしゃいましたか?」

 

信者の問いかけに、ヴェルドレはいかめしい声で答える。

 

「この計画には、我々の未来がかかっている。成功すれば世界各地にいる同胞に希望を与えるであろうし、そうなることを支援者の方々に期待されている。我々の献身こそが、世界を照らす光となるのだ。そのために、私もこの身体の全てを投げ出そう」

 

「司祭様……!」

 

感動に身を震わせる信者に向けて、ヴェルドレは最後の指示を出す。

 

「来たるべき神の世のために、我々の全てを投げ出すのだ」

 

信者は司祭の言葉を伝えるために、部屋を飛び出していく。

この指示により都内に残った過激派は崩壊するだろう。だがヴェルドレにはそんなことはもう関係がなくなる。

 

「全ては平穏のために必要なのだ」

 

ヴェルドレは水で満たされた棺をなでる。

その中では、人形のような姿の大きな女性が眠っていた。



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【リアルデビルサバイバー報告スレ】

699:名無しの転生者

霞ヶ関の暴走COMPの駆逐が完了しました。

皆様のご協力に感謝いたします。

 

700:名無しの転生者

ええんやで

 

701:名無しの転生者

それほどでもない

 

702:名無しの転生者

オレタチ有能オマエラYou Know?

 

703:名無しの転生者

COMP捜索中にとても面白い物を見ることができたが、守秘契約のおかげで何一つ話すことができないぜ。そんなところがまさに霞ヶ関だって感じだったな。

 

704:名無しの転生者

>>703 そう言わずにちょっとでいいから教えてくれよ。気になるジャマイカ

 

705:名無しの転生者

>>704 無理に聞き出そうとする相手を自動で呪ってくれるらしいゾ。まだ試したことはないから、結果を教えてもらえるとうれしいゾ。

 

706:名無しの転生者

>>705 ハハハ、まさかそんngr

 

707:名無しの転生者

ヤムチャしやがって・・・

 

708:名無しの転生者

特に惜しくない者をなくしてしまった・・・

 

709:名無しの転生者

死んでない死んでないwちょっとふざけただけだスマンなw

ただ本当に発動したなら大腸と括約筋がちょっと不調になるのは噓じゃないよ

 

710:名無しの転生者

>>709 紛らわしいことすな。しかもちょっと不調になる程度じゃ済まないんだよなあ

 

711:名無しの転生者

一日中トイレから出れなくなるだけだゾ

 

712:名無しの転生者

神主の遠隔呪術のおかげで外出時は他人を煽らないよう自制できるようになったぜ

 

713:名無しの転生者

>>712 つまり外で漏らしたのかサイテー

 

714:名無しの転生者

>>712 家の中でも他人を煽るな

 

715:名無しの転生者

このスレ遠隔呪術の被害者大杉ィ!

 

716:名無しの転生者

顔が見えない相手にはついつい強い言葉を使いがちだからね

遠隔呪術って反撃を食らうまで画面の向こうの相手をサンドバッグだと勘違いしてしまうんよ

 

717:名無しの転生者

そう考えると遠隔呪術てネット教育に使えるよな。一般人上がりのイキリ新人ハンターはトイレ駆け込むまでがセット。

 

718:名無しの転生者

>>717 でも一日トイレから出れなくなるのはヒドいと思うの。もう少しこう何というか、手心というか……

 

719:名無しの転生者

>>718 痛くなければ覚えませぬ

 

720:名無しの転生者

>>719 これ真理

 

721:名無しの転生者

>>720 なお何度痛くされてもくり返す馬鹿もいるもよう

 

722:名無しの転生者

ドMは放っておいてもろて報告に戻るけど、アキバの暴走COMPはやっぱり初期に見つかった数台だけっぽい。

アサイラム製の悪魔召喚プログラムがワクチンプログラムとして機能してたみたいだ。

 

723:名無しの転生者

さすがオレたちのアキバ。ワクチンプログラムの広がり具合が段違いだぜ。

 

724:名無しの転生者

>>723 良いこと言ってる風だけど、それって結局のところ無許可で他のPCにプログラムコピーして解析しようとしたってことだからな?

 

725:名無しの転生者

>>724 一般ハカー程度には悪魔召喚のプロテクト解放なんて不可能だからへーきへーき

 

726:名無しの転生者

悔しいがワイの実力ではマジ不可能なのですごく悔しいです

 

727:名無しの転生者

不可能なことを可能にするのは不可能なんですよ

 

728:名無しの転生者

なお一方の天使召喚プログラムは・・・

 

729:名無しの転生者

天使の方は改造してくれと言わんばかりのザルっぷりで逆に罠じゃないかと思ったな

ヘタに触るだけで簡単に暴走COMP作れるんだぜ

怖すぎだろ

 

730:名無しの転生者

>>729 それもこれもニャルニャルの仕業なんだ

 

731:名無しの転生者

>>730 真実過ぎて草も生えない

 

732:名無しの転生者

>>730 コード解析しようとしたらスパゲッティーどころか触手並の混沌コードでSAN値直葬したゾ

 

733:名無しの転生者

>>732 早く精神鑑定してどうぞ

 

734:名無しの転生者

空気を読まず報告しますー

根願寺と協力しての重要施設の点検が終わりましたー

暴走COMPは見つからなかったものの、ちょっとした悪魔の痕跡が見つかったのでついでに排除しておきましたー

詳しくは運営に報告書上げておくんでそっちで確認しといて下さーい

 

735:名無しの転生者

>>734 乙

 

736:名無しの転生者

暴走COMPの問題はだいたい片付いたんじゃね?報告来てないのあとどこよ

 

737:名無しの転生者

地上は人海戦術で終わらせた

政府系施設は根願寺くんたちが徹夜で終わらせた

地下鉄はローラー作戦で終わった

……これもう解決したのでは?

 

738:名無しの転生者

そういやボス悪魔見てないんだけど、誰か見た?

 

739:名無しの転生者

ボス級の悪魔を使役できないから暴走COMPを使った感じだな

COMPを設置してたのはどっかの狂信者っぽかったな

 

740:名無しの転生者

>>739 それ実は『どっかの狂信者』じゃなくて『メシア教過激派』だったらしいんスよ

 

741:名無しの転生者

>>741 バッカお前メシア教過激派つったらアレだぞラスボスの手下で全ての元凶みたいなとこだぞ。それがこんなちっちゃなテロで済むわけないだろ

 

742:名無しの転生者

オレも >>740 と同じ話を聞いたぞ

 

743:名無しの転生者

メシア教過激派も落ちたものだな

 

744:名無しの転生者

もともと堕ちてるだろいい加減にしろ

 

745:名無しの転生者

性格は元から堕ちてるが、ついに実力も落ちたのか

 

746:名無しの転生者

過激派の本拠地は欧州だぞ。日本に残っているのが残念なヤツラばかりってのが本当のところだ。

他に戦力を回す余裕がないって意味なら落ちてるが。

 

747:名無しの転生者

今回の悪魔召喚に関わってる需要人物は『ベルの因子』が関わってる

比較的強い狂信者にはだいたい『ベル』ってついている

 

748:名無しの転生者

『ベルの因子』?あー知ってる知ってるアレねアレ。

 

749:名無しの転生者

なおベルの因子持ちは割といるもよう。ただし大半は因子が弱すぎて非覚醒状態なんだとか。他のベルの因子持ちから奪うことで強化できるらしいが、効率的にやっても大量殺人犯になるしかないらしい。

 

750:名無しの転生者

補足するとベルの因子を持ってる悪魔もいるらしい。例:ベル・ゼバブ

 

751:名無しの転生者

>>750 地獄の副官とか無理ゲーすぎでは

 

752:名無しの転生者

バブさんなら今回は欠席するって言ってたぜ。提示された生贄が少なすぎるから、どうやっても大赤字になるから来ないってさ。

 

753:名無しの転生者

>>752 それは助かるラスカル

 

754:名無しの転生者

>>752 ちょっと待てベルゼバブと話せるとかオマエ何者だ

 

755:名無しの転生者

倒した『ベルの因子』持ち信者は拘束して治療中。

大体が洗脳された被害者みたいで、社会復帰するには時間がかかるらしい。

 

756:名無しの転生者

つまりあの時のベルファストさんはやっぱり操られてただけなんだな?

悪魔にとり憑かれていたとはいえ、美人を殺すのは忍びなかったから無理して助けたかいがあったな。

 

757:名無しの転生者

そういやオレが助けた信者も美人だったなアレがベルの因子持ちだったのか。

・・・もしかして暴走COMPを守ってた『ベルの因子』持ちが敵なのに生存率が高かったのって、美人と美少女が多かったから?

 

758:名無しの転生者

>>757 なんて論理的で説得力のある理由なんだ

 

759:名無しの転生者

>>757 ひょっとして天才か?

 

760:名無しの転生者

ベルの治療募金とか設置したら秒で治療費集まりそうだな?

 

761:名無しの転生者

>>760 ちゃんと治療経過を教えてくれるなら払ってもええで?

 

762:名無しの転生者

>>760 写真と映像記録もよろしくな

 

763:名無しの転生者

>>761 お前だけに良い格好させるかよ。オレも払うぜ。

 

764:名無しの転生者

>>761 しょうがないですね。わたしも払いますよ。

 

765:名無しの転生者

>>761 わいもわいも

 

766:名無しの転生者

まったく度しがたいヤツラばかりだな。そんなに金が余っているなら分けて欲しいくらいだ

 

767:名無しの転生者

>>766 じゃあもしもお金に余裕があったら?

 

768:名無しの転生者

>>767 オレがあしながおじさんだ!

 

769:名無しの転生者

 

770:名無しの転生者

 

771:名無しの葛葉ライドウ

緊急要請

ラプラスメールに『本日夕刻に神宮外苑にて【母】が降臨。数百人規模の被害が発生』という予言が届いた。

避難誘導と対処のための人員を募集する。

情報も募集。

 

772:名無しの転生者

で た わ ね

 

773:名無しの転生者

さすがライドウニキやばい案件を引き当てるなあ

 

774:名無しの転生者

やばいwオレにもメール来たんだけど、新宿行ったらオレ死ぬらしいwww

 

775:名無しの転生者

>>774 レベルいくつよ?

こっちはレベル5だけど別に問題無さそうだぞ

 

776:名無しの転生者

>>775 オレ27なのになんで死ぬのwラプラスメールくん死亡予測壊れてね?w

 

777:名無しの転生者

わいレベル11だけど生き残れるぽい。これもしかして高レベルほどヤバイ案件か?

 

778:名無しの転生者

当方レベル25。【母】の歌により死亡とメールが届いた。

 

779:名無しの転生者

やっぱり高レベルがダメなのか?だとするとライドウニキもダメそう?

 

780:名無しの転生者

ボクはレベル28だけど大丈夫そうです。チームの中で回復役のボクだけが死亡通知なかったので、近づいたらダメなのかもしれません。

 

781:名無しの転生者

あー、ヘタにレベル高いと戦おうとして殺されると。レベル低いと近寄らないから生存、みたいな?

 

782:名無しの転生者

つまりこの先遠距離攻撃が必要

 

783:名無しの転生者

死亡通知来てるから新宿行きたくないけど、予言されてるならどうやっても新宿行くことになるんだっけか

 

784:名無しの転生者

まともに戦えるのライドウニキだけか?戦うにはニキレベルにならないとダメっぽい?

 

785:名無しの転生者

レベル33のワイは生存できるぽいで

 

786:名無しの転生者

生存できるレベル高んよー。いや、18レベルの自分も生きてるぽいから【母】とやらに近づかなければいいのか?

 

787:名無しの転生者

ところで【母】って何だよ。母要素のある悪魔だけじゃ絞りきれないぞ

 

788:名無しの転生者

母多過ぎ問題

 

799:名無しの転生者

親の顔より見た母

 

800:名無しの転生者

もっと親の母見て

 

801:名無しの転生者

親の母はおばあちゃんなんだよなあ

 

802:名無しの転生者

つまり敵はおばあちゃんというわけか

 

803:名無しの転生者

おばあちゃんを敵にまわすな

 

804:名無しの転生者

とりま避難誘導だけならだいじょぶそうだな?戦闘はライドウニキがんばって。

 

805:名無しの転生者

ライドウニキぼっちで戦うの?カワイソスw

 

806:名無しの転生者

ライドウニキはリアル嫁がいるからボッチじゃないんだよなあ

 

807:名無しの転生者

つまりワイのシキガミ嫁が最強だと

 

808:名無しの転生者

悪魔嫁も良いぞ

 

809:名無しの転生者

嫁自慢は別のスレへ行ってどうぞ

 

810:名無しの転生者

ダメだライドウニキ以上の情報が出てこねえ。あとは現地行って調べるしかないんか?

 

811:名無しの転生者

ライドウニキー!早く次の情報を出すんだー!間に合わなくなっても知らんぞー!!

 

812:名無しの葛葉ライドウ

新情報になるのか分からないが、新宿御苑で仲魔にした妖精ピクシーが特殊進化した。名前は【ティンカー・ベル】で、『ベルの因子』を持つ悪魔らしい。

 

813:名無しの転生者

は?なんて???

 

814:名無しの葛葉ライドウ

本人が言うには、いきなり力が集まって来たんだとか。確保してる『ベルの因子』持ちの信者たち、ちゃんと生きているよな?

 

815:運営

>>814 大丈夫です。全員バイタル正常です。

 

816:名無しの転生者

まだ見つけてない因子持ちが生贄になったか?だとすると過激派がやったのか?そうすると【母】とやらもベル関係か?

 

817:名無しの転生者

新宿にて怪しい集団を発見。間違いなく明治神宮方面へ向かっている。一般人の避難誘導をお願いします。

 

818:名無しの転生者

メールに来てるのって夕刻だっけ?まだ12時前だから、時間的な余裕はあるだろ

 

819:名無しの転生者

オレタチが妨害するからこそ夕刻までかかるって可能性もあるから、早めの行動推奨だ

 

820:名無しの転生者

ギャー!上野の雑居ビルの地下で狂信者たちの集団自殺を見つけちまった!問題のベルの因子持ちかもしれない!

 

821:名無しの転生者

どんどん裏付けがとれていくなあ。これやっぱり新宿の母がラスボスっぽいな?

 

822:名無しの転生者

いよいよ盛り上がって参りました!



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嵐の前の静けさ

【神宮外苑】

 

ラプラスメールの情報を得てから車に乗り、移動しながら掲示板に書き込みをしていたのだが、降りる直前で着信があった。

 

「池袋でまた悪魔が暴れ出した?え、ただのケンカ?……いや、バーテンダーがダークサマナーと戦ってるって意味わからないんだけど」

 

通信端末(COMP)越しに派手な戦闘音が聞こえるが、報告者は慌てている様子は無い。その上はやし立てるような応援の声まで聞こえる。

報告の通り個人同士の争いであり、それを楽しむ野次馬がいるということなのだろう。

 

一方はどこからか手に入れたスマートCOMPを使って悪魔を使役する一般青年。

人外ハンターでもなくアサイラムにも所属していないデビルサマナーということはつまり、ダークサマナーという分類になる。

 

もう一方は一応は人外ハンターらしいのだが、どうも未覚醒の部類らしい。それなのに電柱を引っこ抜いて悪魔をぶっ飛ばしているとのことで、「なんで?」としか感想が出てこない。

そもそも未覚醒なのに悪魔見えてるの?違法なアイテムとかヤバイ薬とか使ってない?

 

言葉選びに苦労しながら尋ねるが、報告者は『あの人にはそんな心配いらないッスよ』と自信満々に答えてくれた。

なんの解決にもなっていない。

 

二人は以前からの顔見知りでよくケンカをしているらしく、今回もその延長だと認識されているようだ。

だがいくら一般人の避難は完了していると言っても、悪魔を使った戦闘を放っておくわけにもいかない。

なので止められないか聞いたが、『あの二人の戦争(ケンカ)を止められるヤツなんているわけないッス。オレらにできるのは応援と後片付けくらいッスね』と自慢げな返事をされて、思わずため息が出た。

 

「なにやら面倒なことになっておるようじゃな」

 

「聞こえてた?これからボス戦が始まりそうって時に、人外ハンター……普通じゃ無いハンターとダークサマナーがケンカを始めたらしい。仲裁して帰ってくるだけなら時間的に難しくないだろうけど、そうなると前準備やってる時間が無くなりそうだ」

 

神主に連絡はしてあるが、あくまでボスと戦うのは俺ということになっている。

ラプラスメールから死亡予告が来なかったからという理由だが、そもそも葛葉ライドウが解決に当たっていると知られている以上やらない訳にはいかない。

 

池袋のケンカは放っておきたいが、戦闘による周囲の被害が大きいらしいので対処しなくてはいけなさそうだ。

ケンカしている二人はそこそこ実力があるようだし、止めるには相応のレベルが必要になる。

 

「では、わしが行こう」

 

「えっ、小夜が?」

 

「なんじゃ、わしが信頼できぬのか?これまでも別々にいくつも依頼をこなしておったではないか。それに今は昼日中の街の中じゃ。何かあっても、人は沢山おるじゃろ」

 

「まあそうだけど……」

 

時間がないのは間違いないし、それがベストなのも確かだ。

 

「……わかった、頼む。相手は普段から暴れてるような馬鹿二人らしいから、少しくらい乱暴にしても問題は無いと思う。文句言われたら俺の名前を出していいから」

 

「心配性じゃのう。でも悪い気はせぬな」

 

小夜は腕に抱きつき、それからネコのように首をすりつけてくる。

 

「その気持ちは素直に受け取っておくぞ。わしも離れたくはないが、今はワガママを言える時ではない。……よし、わしは満足した。こちらは任せた」

 

腕に残った暖かさとかがものすごく名残惜しかったが、しぶしぶ車から降りる。

車の中から手を振る小夜を見送ってから、外苑へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

およそ3時間後、俺は本題の過激派信者たちを見つけた端からボコって簀巻きにしていた。

警官に連れて行かれるメシア教過激派信者たちは、どこか憑きものが落ちたような顔をしていた。

彼らは天使族の悪魔を使役していたが、【アークエンジェル】や【プリンシパリティ】では相手にならなかった。

協力して【パワー】や【ヴァーチャー】を召喚してくるのもいたが、むしろ彼らを殺さないようにマグネタイトが枯れる前に倒す縛りがやっかいだった。

 

『オレサマのおかげだぞ。まあ天使はオレサマのエサでしかないからラクショーだがな。感謝しろよサマナー』

 

「わかってるよ、ありがとなサマエル」

 

『シシシ』

 

【邪神:サマエル】は俺とともに幾つもの依頼をこなしてきたからか、サイズ的にもかなり成長していた。

最初は大きめのアオダイショウくらいだったのが、今ではアナコンダくらいまで大きくなっている。

レベルも俺と小夜に次ぐ40超えの、主戦力の一角だった。

 

『これでオレサマの半身が見つかれば、完全な姿を取り戻せるんだがな』

 

「封印されてるんだから無理だろ。それに、今のままでも十分強いじゃないか。というか余計な力を持ったら、今度は俺がお前を封印することになるかもしれない。だから今までと同じように俺と一緒に成長してくれ」

 

『シュー。つまらないなあ。まあいいか。それよりも天使はもういないのか?』

 

【クダ】のギンコに探らせているが、もう信者も天使も残っていないようだ。この周辺の安全は確保されたと思っていいだろう。

 

つまらないと愚痴るサマエルを魔封管に戻そうとしたところで、紙きれが飛んでくるのが見えた。

あれはただの紙ではない。神主が作った連絡用の【シキガミ】だ。

 

『ライドウニキやっと見つけた。例の件だけど、やっと裏がとれたよ』

 

『例の件てなんだ?』

 

巻き付いてくるサマエルの頭をおさえつつ答える。

 

「メシア教が起こす事件が、俺たち【転生者】が知っている技術や計画に基づいているのが多いのが気になってたんだ。だからある仮説を立てて、その検証をアサイラムの運営に頼んでいたんだ」

 

『仮説?』

 

「難しいことじゃない。俺たちと同じ知識を持っているなら、向こうにも転生者がいるんじゃないかってだけだ」

 

これは実に順当な、あり得る推理だ。

 

『うんうん、当然だね。日本にもメシア教の教会はあるし、その身内に産まれた転生者もいるだろう。ボクとしては彼らも助けたかったんだけど』

 

「説得は不可能だろ。それこそ洗脳くらいしなくちゃ、味方にはなってくれないだろうな」

 

相手は腐っても一神教の大派閥の一つだった組織だ。信者の信仰心は堅いものだろう。

そんなところの身内に産まれてしまったら、救世主の再来だとかもてはやされて、ちやほやされてその気になっている可能性が高い。

 

『そうだったみたいだ。穏健派から聞いたんだけど、預言者と呼ばれる存在が産まれてから過激派が様々な計画を立て始めたらしい。ただ、現時点では実行不可能なものも多かったみたいだけどね』

 

「さもあらん」

 

メガテンというゲームは、発売された時代でも未来を先取りしたような設定が使われていることが多い。

インターネットが流行り始めた時代にすでにVR空間を使った交流の場を表現していたりするのだ。

そんなアイデアを提示されても、現実の常識がそこまでたどり着いていないのだから理解できる者は少ないだろう。

 

そう考えると、未来の技術を再現して広めた財閥系・技術者系転生者ってすごいんだな。

 

……話を戻そう。

そんな風な転生者が立てた計画のひとつが、今こうして現実に行われている。

こちらも知識があったからこそ対応できたが、そうじゃなかったら後手に回っていただろう。

それはいい。良くはないけど、対応できているから問題ない。今までは。

 

「今回の事件がデビサバだけならもう片付いている。でも、ラプラスメールにあった今日の事件の内容が問題だ」

 

『そうだね。新宿に現れるという【母】。そして比較的レベルの高い転生者でも死にかねないという強さ。ここから察すると、別のゲームのアイデアも伝えてそうだよな』

 

「新宿暗黒盆踊り……。うっ、頭が」

 

アクションゲームだったのが急に音ゲーになる某鬱ゲータイトルの三作目が脳裏をよぎる。

 

『複数いるわけじゃないから、盆踊りはしないだろうけど』

 

冗談じゃなく、本当に頭が痛くなりそうだ。

 

「今の状態だと、暗黒盆踊りみたいにバリア防御で対応しなくちゃいけなさそうなんですけど。食らったら即死の攻撃を失敗せずに防ぎ続ける自信が無い」

 

『暗黒?即死?なんだ、何の話をしているんだ??』

 

『ここに現れる【母】は、リズミカルな全方位攻撃を放ってくる可能性が高いのさ。そしてそれは同じ属性の広範囲攻撃で相殺するか自己の周囲に強固なバリアを張るしか防ぐ手立てはない。元ネタを知らないと理解しがたい内容だろうね』

 

サマエルが宇宙ネコみたいな顔をしている。割と貴重なシーンな気がするな。

 

『そんな感じでヤバそうな事態だけど、ラプラスメールはライドウニキの死亡は予言してないんだよね。本当は、何か対策があったりするんじゃないかい?』

 

シキガミの向こう側で、神主がニヤリと笑っている気がする。

 

「まあタイミング的に【母】は今回の事件と関連しているだろうから、このタイミングで進化した【ティンカー・ベル】が切り札になってそうな気はする」

 

【ピクシー】から進化した【ティンカー・ベル】は有名なアニメ風ではなく、古典的な妖精に近い姿をしていた。

これは仲魔にした後に人間(特に子供)に夢の粉を使わないよう言い含めた結果、原点に近い『金物の妖精』としての要素に寄ったのだろうと思う。

 

そんな話を休憩がてら続けた。



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ウタが きこ える

 

騒ぎを起こしていたメシア教過激派は全て捕らえ、隠れ潜んだ悪魔がいないかと探知型のシキガミを動員して調べていた。そんなこんなで16時を過ぎた頃、ついに異変が起こった。

 

どこから歌声のようなものが響いてきた。

距離を取って調べていた者たちと目配せし合い、大多数が注目した場所は地下の排水溝だった。

 

暴走COMPの件もあるので、そこは真っ先に調べている。

その時は特に何も見つからなかったので、この異変は地下を通ってきたかあるいは……。

 

「地下施設の壁が何者かによって破壊されました。中から高魔力反応……大型の悪魔と推定されます」

 

「魔力を遮断する隔壁か?やはりここにも隠し神殿があったようだな」

 

対悪魔専門の捜査官の話を、移動式の統制室であるトレーラーの中で聞く。

彼らは人外ハンターのライセンスも持っている、公式の最前線で悪魔と戦う者たちである。

 

「敵のレベルは?」

 

「アサイラム基準で40以上と推定されます。ですが我々のD調査機器(デビルスカウター)ではそれ以上の詳しい数値はわかりません」

 

「ふっ、どちらにしろ我々にはそんなバケモノと戦う実力はない。というわけで、後は任せた」

 

捜査官はこちらを見てうなずく。

ですよねー。

 

「分かってますよ。それではみなさんも避難を始めてください」

 

「すまない。情報はシキガミを通じて適宜知らせるようにする」

 

捜査官の言葉を背に、トレーラーから降りる。

排水溝から聞こえる歌声が、だんだん大きくなってきている。破壊音も混じっていることから、直線的に地上に向かって来ているようだ。

 

悪魔の出現予想地点は野球場の中。何の目的があるのか分からないが、施設の中なら人目を避けられるだろう。

 

観客席に上がって待つ。

 

「出てこい。【サマエル】【ティンカー・ベル】」

 

『シシシ、いよいよだな。待ってたぜ』

 

『うう、何か嫌な感じが近づいて来るんだけど』

 

「その通りだ。お前の力が必要になるから、前に説明した通りに頼むぞ」

 

『はーい』

 

しぶしぶうなずくティンカー・ベル。

 

近づいてくる歌声とともに、球場の中央の地面が沈み始めた。

 

固められた地面だったはずが、まるで砂のように細かな粒子となって滑り落ちていく。

そうやって大きく空いた穴からはいっそ五月蠅いほどの歌声とともに、大きな人が這い出てきた。

 

それは、まるでマネキン人形のようだった。

服を着ていなければ髪の毛も無い。それどころか皮膚もなく内側の肉がむき出しの人型の怪物。

女性のようにも見えるそれが、球場に這い出てきた。

 

「予想の範囲内ではあるけど、思ったよりグロいな」

 

そんな呟きをしている間に、巨人と呼べるそれが口を開け、大きく息を吸い込む音が聞こえた。

 

「早速来るぞ!サマエル、ティンカー・ベル!」

 

『シュー。いつでも行けるぞ』

 

『準備はできてるよ』

 

待ち構える俺たちの目の前で、巨人が声を張り上げた。

集中して身構えていたからか、それとも予想していたからか。その音の性質を見て取ることができた。

 

「白、破魔属性だ!」

 

『よっしゃ【マハンマオン】』

 

【拡散共鳴】(リンゴーン)!』

 

サマエルの使った魔法をティンカー・ベルが受け止め、増幅しながら放つ。それが巨人の歌とぶつかると、金属がぶつかるような音だけを残して消えた。

 

「予想通り上手くいったな。捜査官、観測しているか?」

 

『ああ、今の歌声はこちらまで届かなかった。相殺されたのは間違いない』

 

「あの巨人がどんなものかは分かるか?」

 

『そっちはまだ解析中だ。その調子で時間を稼いでくれ』

 

「了解」

 

簡単に言ってくれるが、この先も予想通りだとするととても面倒なことになるだろう。

 

『サマナー、今のうちに攻撃を仕掛けたほうが良くないか?』

 

「そんなヒマはないぞ。ってほら来た、今度は黒、呪殺属性だ!」

 

『ちっ【マハムドオン】』

 

【拡散共鳴】(リンゴン)!』

 

先ほどと同じように魔法と声がぶつかると、今度は少しだけ低い金属音が響き渡った。

 

『シィ!今のタメが無かったぞ。結構ギリだったぞ』

 

「だから気をつけなくちゃいけない。攻撃を仕掛けるには、反撃を封じておく必要がある」

 

『一発くらいなら食らっても大丈夫じゃないか?』

 

「それはオススメできないな。反対側の応援スタンドを見てみろ」

 

魔法による相殺で防いでこちら側は無事だが、反対側のスタンドはまるで十年以上野ざらしにされたかのように劣化していた。

 

「余波だけでああなるんだ。歌声を直接浴びると一気に灰になりかねないぞ」

 

『それはイヤだ』

 

サマエルはしおれているが、一発即死の可能性がある攻撃をお試しで受けられるわけがない。

「続けて来るぞ。白、白、黒だ」

 

『メンドーくさいぞコレは』

 

サマエルは文句を言いながらも、マハンマオンとマハムドオンを放つ。

 

相殺を任せている間に巨人の様子を確認しているが、俺たちが平気そうにしていることが気に入らないのかイラだっているように見える。

 

巨人が口を閉じたので、その隙にチャクラドロップをサマエルたちに食べさせる。

長丁場になる可能性があるので、MPはできるだけ最大値近くで保っておきたい。

 

そう思っていたら巨人が動いた。

地面に膝立ちしていたのだが、身をかがめて右足をしっかり地面につける。

まるでクラウチングスタートの体勢だと思ったが、これはまるで(・・・)じゃなくそのものもだ。

 

『OAAAAAAAA!』

 

「【怪力乱神】!」

 

ロケットのように突っ込んできた巨人に対して抜刀の勢いのまま攻撃スキルを置いておく(・・・・・)

振り下ろしてくる腕の側面に当てることで攻撃を逸らすと、巨人の手は無事だった観客席を床ごと粉砕した。

この威力では、俺でも直接受け止めるのは危険だろう。

 

近づいてきてくれたので、お返しとばかりに顔面に斬りつける。

様子見のつもりの攻撃だったが刀は深く刺さり、痛みに巨人がのけぞった。

こいつ、攻撃特化で防御力は弱いのかもしれない。

 

一気にたたみかけるべく観客席の手すりに足をかけたところで、サマエルが胴に巻き付いて止めてきた。

 

『サマナー、次の攻撃がくるぞ』

 

「……っ!?黒、黒!」

 

『【マハムドオン】【マハムドオン】』

 

痛みに悶えながらの叫びは音ばかりが大きく、攻撃としての性能は低かった。

しかしサマエルが止めてくれなかったら、間近でアレを浴びていただろう。

 

「助かった、ありがとう」

 

『ったく、オレサマに感謝しろよ』

 

巨人は少し離れた所からまた声を連発し始めた。

先ほどより近いから余裕は減ったが、落ち着いて見極めれば相殺は難しくない。

そうやってしばらく耐えていると、巨人が喉を押さえて血を吐いた。

 

『おっ、声が止んだな』

 

「今のうちにMPを回復しておこう」

 

『まだリンゴンしなきゃならないの?もう疲れたよ』

 

「文句は向こうに言ってくれ」

 

かなり耐久したので仲魔のMPは残り少なくなっている。今がチャクラポットの使いどころだろう。

 

一方の巨人は咳き込みながらこちらを睨んでくる。あの歌声は大きな負担になっているようだ。

相殺しているこちら側はまだ無事だが、反対側の観客席はすでに砂になっている。

 

巨人が拳を固めたのを見て、刀を抜いて構える。

 

『SHIIIII!』

 

「【ブレイブザッパー】!」

 

さっきの攻防で、向こうの実力は分かっている。

俺の攻撃は巨人の拳を真正面から割り、巨人はその痛みで大きくひるんだ。

 

「声を使えない今が攻め時だろ。くらえ【都牟刈村正】!」

 

気合いを込めた必殺の一撃を、巨人の頭にたたき込む。

巨人は大きくのけぞったかと思うと、そのまま後ろ向きに倒れた。

 

「やっ」『やったか!?』

 

サマエルに言葉をかぶせられ、あれそれフラグじゃね?と思い至る。

 

よく見れば倒れた巨人の口が大きく開き、空気をいっぱいに吸い込んでいた。

 

「また歌声がくる!」

 

『マジで?しぶといな』

 

『【拡散共鳴】すたんばい!』

 

『UUU、OAAAHAAAAAAAA!!!』

 

耳をつんざくような叫びとともに、白と黒の波動が連続して放たれた。

 

「……っ、白白白黒白白白」

 

『は?【マハンマオン】【マハンマオン】【マハンマオン】【マハムドオン】【マハンマオン】【マハンマオン】【マハンマオン】』

 

『り、【リンゴーン】【リンゴーン】【リンゴーン】【リンゴン】【リンゴーン】【リンゴーン】【リンゴーン】』

 

「黒黒黒白白白」

 

『【マハムドオン】【マハムドオン】【マハムドオン】【マハンマオン】【マハンマオン】【マハンマオン】』

 

『【リンゴン】【リンゴン】【リンゴン】【リンゴーン】【リンゴーン】【リンゴーン】』

 

「黒白黒白白黒黒」

 

『【マハムドオン】【マハンマオン】【マハムドオン】【マハンマオン】【マハンマオン】【マハムドオン】【マハムドオン】』

 

『【リンゴン】【リンゴーン】【リンゴン】【リンゴーン】【リンゴーン】【リンゴン】【リンゴン】』

 

「白、黒、白、黒」

 

『【マハンマオン】【マハムドオン】【マハンマオン】【マハムドオン】』

 

『【リンゴーン】【リンゴン】【リンゴーン】【リンゴン】』

 

長く続いた叫びの後で、巨人が血を吐き声が止まった。ずっと叫び続けた反動でしばらくの間は声が出せないだろう。

 

サマエルもティンカー・ベルもよく頑張ってくれた。どっちらかが力尽きていたら、全員まとめて死んでいたかもしれない。

 

感謝の意味も込めてチャクラポットを渡しておき、俺一人で巨人へ近づいた。

 

「悪いが、お前の歌声は危険すぎる。これ以上被害を広げないためにも、ここで首を落とさせてもらう」

 

声をかければ巨人は理解しているのか、腕を振って払いのけようとしてくる。

大雑把な攻撃なので避けるのは難しくない。振るわれる両腕を回避しながら近づき、頭を飛び越えざまに首へ刀を振るった。

 

「【ブレイブザッパー】」

 

両断とまではいかなかったが、背骨は確実に斬れた。人間と構造は違うだろうが、首を斬られればどんな怪物でも致命傷になる。

 

巨人は何か言いたそうに口を開けたが、出てくるのは血液だけだった。

 

やっと終わった。

そう思った次の瞬間、ドクンと巨人の身体が脈動した。

 

距離を取って身構えると、巨人の腹部が大きく膨らんでいく。

妊婦のように膨らんだそれを見て、ラプラスメールが【母】と呼んでいたことを思い出す。

つまりこの巨人の腹の中には、別の悪魔が潜んでいたということか。

 

出てくる前に、最大火力で吹き飛ばす。そう決断して気合いを溜めるが、準備が終わるより早く巨人の腹に亀裂が入った。

 

腹の中にいる何者かが、内側からこじ開けようとしている。

バリバリと大きな音を立てながら、巨人の腹が強引に開かれていく。

大量の血と蒸気が吹き出す中から現れたのは、黒髪の青年だった。



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夢の成れ果て

【母】と呼ばれた巨人の腹の中から、黒髪の青年が出てきた。

当然ながら全裸。夕闇で局所が隠れているから映像的に問題は無いと思いたい。

 

青年は自分の手足を不満そうな顔で確認している。知性は十分高そうだ。

青年の目が自身の下腹部へと向かう。そこには巨人の腹から伸びたへその緒が、青年の腹とつながっていた。

次の瞬間、大きく息を吸い込み喉に詰まっていた痰を吐き出した。

 

「がはっ、んんっ。あー、あー。私としたことがみっともない。だがこれで話しやすくなった」

 

遠くから光が投げかけられ、青年がそのまぶしさに目を細める。

 

巨人が倒れたことが捜査官たちにも分かったのだろう。彼らが用意した光を発する使い魔たちが寄ってこようとしていたので、近づかないように手で制した。

 

「話は通じるか?お前は何者だ?」

 

「話が通じないのはそっちだろう。いつもいつも我々の邪魔をする。こっちは正しき信仰のために行っているのだと言っても聞かず、我々が全ての元凶だと攻撃してくる。キミ達にはもううんざりだ」

 

「認識の相違だな。言葉が通じても理解し合えないタイプか。どっちが悪いかなんて話は無意味だからしないが、いちおう聞いておく。日本国憲法に従って、裁きを受けて罪を償う意思はあるか」

 

「世界はもうすぐ終わるのだ。人の定めた不完全な法は、もうすぐ何の意味も無くなる」

 

「だがまだ終わっていない。だから意味はある」

 

青年は聞こえよがしに、大きくため息をついた。

 

「終わりが来たら、もう遅いのだ。だからそれまでに、生き残るための準備をしなくてはならない。私が生き残ろうと努力しているのに、キミ達は必ずその邪魔をしてくる。何故だ。生きようとすることの何がいけない。幸せになろうとすることの何がいけないのだ」

 

「法律を守ってないからだ。そして、他人の命を奪い、他人の幸せを壊しているからだ。自分がそれをやられる覚悟がないのに、他人にそれをやろうとするな」

 

俺の言葉に、青年は苦虫を噛みつぶしたような顔をした。

 

「……。キミは、分かっていない。神の国にあっては人は家畜同然。しかしその外は悪魔の蔓延る地獄であり、そこで生きることは苦痛でしかない。そんな未来でどう生きればいいか分かっているか?分からないだろう。ただ私だけが、その答えを知っている」

 

「それってつまり全部が地獄じゃないか。やっぱり神の世なんてろくでもないな。そんな世界を実現させるわけにはいかないと改めて思うよ」

 

「……やはり異端者には話が通じないか。神の決めた未来は絶対なのだ。我らにはそれを覆す事などできない。ならせめて、人の未来を守るため私の力となってもらおう」

 

青年がこちらへ手のひらを向けてくる。

どんな攻撃でも対処する自信があったので身構えたが、身体から少し力が抜ける感覚がした。

「っ、これは【エナジードレイン】か?」

 

エナジードレインは敵からHPとMPを吸い取るスキルだが、レベルに差がなければ脅威ではない。

やっかいではあるが、普通に攻撃される方が痛い。

 

「ちっ、やはりこの程度か。まだまだ力が足りない」

 

『サマナー、これはもう戦闘開始だな?オレサマはやるぞ【メギド】!』

 

サマエルが万能属性の魔法を放つ。

耐性、無効、反射をされない万能属性魔法は相手の耐久力を測るだけならいい選択だ。

 

メギドの光が青年の間近で爆ぜる。

それが収まった跡に立っていた青年は、少し怪我をしているものの、大した痛手にはなっていないようだ。

なのに青年は、苦痛に顔をゆがめていた。

 

「痛い、痛いではないか。うう、野蛮な悪魔め。私が死んだらどうするのだ。【母】よ、早くこの痛みを癒やしてくれ」

 

青年が傷を庇いながら祈ると彼とつながったへその緒が脈打ち、傷が回復した。

 

「お前それ、その巨人からエネルギーを奪っているのか」

 

「【母】が【子】に栄養を分け与えるのは当然であろう?それに私が力を貸し与えたことで、【アブディエル】は上位の存在へと変わることができたのだ。貸したものに利子をつけて返してもらうのは当然だろう」

 

「力を貸した?いや、それよりも、その巨人がアブディエルだって?」

 

巨大なマネキンのような外見に、アブディエルの面影は残っていない。何がどうなったらここまで変質するんだ。

 

「どんな世界になっても生き残るためには、不老不死となるしかない。私はそう結論づけた。不老不死となれば死の恐怖から解放される。しかし人は不老不死にはなれない、なぜなら産まれ持った寿命があるからだ。ならば、人を超えた真人として産まれ直せばいい。そうだろう?」

 

「何を言ってるかさっぱり分からない」

 

「産まれ直すためには母胎が必要だ。幸い、我々の組織にはその(たぐ)いの知識が豊富にあった。そして失敗続きのマグネタイト(無駄飯)喰らいを使う許可は、思いの外すんなりと降りたよ」

 

暗くなったスタジアムの中で、明かりを持った使い魔たちが青年を照らしている。

警戒と監視のためなのだが、青年にとっては演者が浴びるスポットライトのように感じているのかもしれない。

 

サマエルが攻撃したがっているが、声を出さずにそれを宥める。

青年の正体が誰でどういうつもりなのか、自分からしゃべってくれるなら聞いておきたい。

 

「天使を進化の卵たる母胎へと変え、私が真人へと進化する。それに必要なエネルギーを集めるために【ベルの因子】計画を実行した。お前達が邪魔をしなければ、きっと今頃は完全な不老不死を得ていただろう」

 

「他人の命を奪ってまで、不老不死になりたかったのか」

 

「私は死ぬことが怖いのだ。今まで真面目にコツコツ築いてきた全てが、死んだらそれで終わってしまう。そのような未来など、受け入れられるはずがない!」

 

突如興奮した青年が腕を振ると、風圧で地面の砂が舞い上がった。

こいつ、さっきより強くなっていないか?

 

「私は、人として真面目に生きてきた。メシア教の敬虔な信徒として、ずっと組織に尽くしてきた。司祭として、何人もの人々を救ってきた。なのに死んだら全てが無駄になる。私の実績、私の財産。それらが全て無意味になるなんて、そんなの、あんまりではないか。今まで他人を助けてきたのだ。それを私に返してくれてもいいだろう?いや、返すのが当然だ!そうだ、全て私に返せ!」

 

青年が放った波動が、周囲からほんの少しずつエネルギーを奪っていく。こいつはそうやって、自分を強化しているのか。

このまま放っておいたらヤバそうだ。

 

「【ブレイブザッパー】」

 

「ひいっ」

 

首を落とすつもりで振るった刀が、青年の腕に阻まれる。

腕くらい切れると思ったが、深めの傷をつける程度で防がれてしまった。その傷も見ているうちにどんどん治っていく。

もしかして、最初から全力で攻撃するべきだったか?産まれたてだったらもっとダメージを与えられていただろう。

 

「ふ、ふははははは。なんだ、この程度か。これなら安心して進化を続けることができるな。私は誰にも傷つけられない、誰にも殺されない存在になるのだ」

 

まだ切り札が残っているが、発動には少し時間が必要だ。それに他にも不安要素がある。それでも今やらないと、手を付けられなくなる。

青年は勝利を確信しているのか、こちらに目もくれていなかった。

 

「我が名はヴェルドレ。【ベルの因子】を持つ最後の一人。【母】よ、世界よ。我に力を返し給え。そして私は真の人へと至るのだ!」

 

ヴェルドレから波動が放たれる。

それは世界を揺らし、エネルギーを奪うための力。

ヴェルドレの足下の巨人――【母】となったアブディエル――は急速に水分を失い、枯れ木のようにやせ細っていった。

 

近くにいると俺たちまで力を吸い尽くされそうだ。

合図をして大きく下がるが、ティンカー・ベルがその場に残った。

 

「なにしてるティンカー・ベル。はやくそこから離れるんだ!」

 

『……サマナー、アタシがやるべきことが見つかったよ。だってアタシも【ベルの因子】を持つ悪魔だから』

 

「ティンカー・ベル。お前、まさか」

 

『アタシは、子供に夢を与えるモノとして喚ばれた。捧げられた力が少なくて完全ではなかったけど、その願いはアタシの中に残っていた。これはアナタの願いだったんだね』

 

ティンカー・ベルの身体が震え、カランカランと澄んだ音が響き渡る。それとともに鱗粉のように光がこぼれ落ち、それがヴェルドレへと吸い込まれていく。

 

「おお、まだこんなにも【ベルの因子】が残っていたのか。これさえあれば、私は不老不死へと近づける。さあ、それを私にもっと寄越すのだ」

 

『うん、全部あげる。そして不安も恐れも無い、素敵な夢を見せてあげるから』

 

ベルの因子を吸い込んだヴェルドレの肉体に変化が起こった。青年だった肉体が、どんどん若返っていくのだ。

 

「ははは、すごいぞこれは。私は、ボクは、サイキョーになったんだ」

 

進化を止めようにも、切り札を使うための魔力はまだ溜まらない。不完全な状態で攻撃しても致命傷にはほど遠いだろう。

一撃で倒せなければすぐさま回復してしまう。あいつはそういうギミック持ちだ。

 

「ボクはムテキだ。なんでもできるぞ」

 

『そうだよ、だから安心して眠れるよ。夢の中なら、空だって飛べるんだから』

 

魔力を溜めながら見ている間もヴェルドレの変化は止まらない。少年になってもさらに幼く若返っていく。

 

『シュルル。なあおいサマナー、ちょっと様子がおかしくないか?』

 

「たしかに。プレッシャーが逆に小さくなっていっている。回収したエネルギーが全て進化に使われているのか?」

 

ヴェルドレは幼く小さくなっていく。それでも変化は止まらず、離れた場所にいる俺たちから見えないほどに小さくなってしまった。

それとともに力を吸収する波動も小さくなり、放たれる魔力がわずかにしか感じ取れなくなっている。

 

ティンカー・ベルが地面へと落ちた。

彼女の身体から出ているのはベルの因子であり、それは彼女の存在と深く結びついている。それを放出するということはつまり、彼女の存在を削り落とすということだ。

慎重に近づくと、身体の一部だった(ベル)がすっかり錆び付いてた。

 

「ティンカー・ベル、どういうことだ?お前はいったい何をしたんだ」

 

『私は子供の夢を叶える妖精。夢の世界でなら、どんな願いも叶えられるの。空だって飛べる』

 

さっきまでヴェルドレが立っていた場所には、幼子よりもさらに幼い胎児が眠っていた。

俺たちが見ている前で、こじ開けられていた巨人の腹がゆっくりと閉じられていく。

力を吸い取られた分だけ小さくなった巨人は、花が閉じるように胎児を包み込んでいく。

胎児が見えなくなると枯れ枝のような手足が腹だったものをしっかりと固定し、開かぬようにつなぎ止めた。

 

大きめのバランスボール大の種子のようになったそれは、わずかなぬくもりを発していた。

 

『おやすみなさい。いい夢を』

 

ティンカー・ベルはそう言うと目を閉じた。

 

◇◇◇

 

「それで、これがそのヴェルドレの成れの果てというわけじゃな」

 

戻ってきた小夜が言った。

 

ボロボロの神宮スタジアムを捜査官たちが歩き回っている。【母】の滅びの歌によって、広範囲が砂のような物質に変わってしまっていたので、その調査と安全確保も彼らの仕事だ。

 

他の人外ハンターも立ち入れないようにしているので、今ここにいるのは俺と小夜、そして神主の遠隔通信用のシキガミだけだった。

 

『いやあ、これはなかなか面倒そうだ。かつてメシア教の司祭であり、その立場を利用して天使を改造したあげく不老不死になろうとした男の成れの果て。しかもまだ生きていて、この先どう進化するかは分からない。やっかい事の匂いがプンプンしてくるね』

 

神主の楽しそうな気配がシキガミ越しに伝わってくる。

 

「笑い事じゃないと思うんですけど。今ここでバッサリ割っちゃうわけには行かないですよね」

 

『もう確保しちゃってるしね。しかも何処から伝わったのか、メシア教の穏健派から面会の予約が来ちゃってるんだよね。耳が早い上に手が早いからホントどうしよう。もう笑うしかないよ。ハハハ』

 

メシア教穏健派の代表の顔を思い出す。

天使のようにカワイイ顔でありながら、【天使】のように底知れない雰囲気を持つ少女だった。

どこまで本気か分からないが、神主のことを『運命の人』とか呼んでいたりする。

何も考えていなように見えて、何もかも見通しているような動きをする恐ろしい面もある。

 

要するに、政治力の低い俺では相手にならないだろうということだ。

 

「できるなら神主に全部お任せしたいです。こんな(やく)い物体、処分するにしても封印するにしてもかなり複雑な処置が必要ですよ。根願寺どころか葛葉家でも持てあましますよ」

 

『だよねー。ささっと処分しちゃいたいんだけど、そんな訳にはいかなくて。それを知ってるからか穏健派が引き取りの打診をしてきてるんだよね。しかも高額のお布施をちらつかせててさあ』

 

「お布施かあ」

 

建前が必要なのはどの世界でも同じである。

この厄い物体は様々な理由からメシア教にとって喉から手が出るほど欲しいものであり、文字通り手段を問わずあらゆる手を尽くしてくるだろう。

 

大破壊が目の前に迫っている現状、その対処に使えるリソースは無いに等しいし、そこまでして守っても利用する方法が見当たらない。つまり価値がない。

 

これはもう、素直に売り払う方がいいのではないだろうか。

 

『そうなんだよね。こっちでも契約書で厳重に縛りを重ねて、悪用できないようにして渡すのが一番だって結論になったよ。今はその契約書の作成に追われているところ。そこで君たちに、その物体の運搬を頼みたいんだ』

 

「ものがものだから、他人に任せるのは難しいですね」

 

『そうそう。どこか他の組織に渡ったらマズイことになるのは確実だから、どんな手を使っても良いから指定した場所に届けてね』

 

「簡単に言ってくれるなあ」

 

今現在の日本に他の組織の強力な霊能力者がいるとは思えないが、絶対にいないとも言いきれない。

過激派なら大天使を召喚するくらいのことはやってきそうだ。

なので手段を探したいのだが、俺にはとりあえず基本しか思い浮かばない。

 

「似た荷物を複数用意して、運び屋を俺たち以外にも複数用意して、どれが本当か目くらましして運ぶとかかなあ」

 

俺たちと、捜査官の一部と、あとは人外ハンターを雇うくらいか。

 

「そういえばお主よ。ちょうど先ほど優秀な運び屋と知り合うことができたのじゃが、声をかけてみてはどうかの?」

 

「運び屋?」

 

「うむ、池袋を本拠地としておって、先のケンカしておった者どもと知り合いらしい」

 

「優秀なら雇いたいが、でも悪魔と戦うかもしれないぞ」

 

「それなら心配はないと思うぞ。なにせあやつも悪魔じゃからの」

 

そう言って小夜が電話で呼び出したのは、首無しライダー……正しくはデュラハンの運び屋だった。

 

そうして複数ルートを使った結果、様々なトラブルがありながらもなんとか厄い物体を目的地に届けることができた。

 

そうして今回の一件は、なんとか無事(?)に終わることができたのだった。




・ヴェルドレ
若返った結果、擬似的な不老不死に至った。無敵だが無力。
最初はマナ→ゼロ→アブディエルというだけのDODネタだったが、ここまで膨らんで大きくなるとは思ってもいなかった。

・デュラハン
デビサバの絵師つながりで池袋が舞台の小説ネタを使ったけど、それならやっぱりこのキャラを出さないわけにはいかないと思った。反省はしていない。

・ティンカーベル
生きてる。ただしベルの因子を出し切り弱体化。

・【母】
「早すぎたんだ!腐ってやがる!!」と言わせたかった。だが言える人がいなかった。残念。


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【リアルデビルサバイバー報告スレ そのXX】

699:運営

『荷物』は先方に無事届けられました。

これにて今回のリアルデビルサバイバー事件は終了となります。

皆様ご協力ありがとうございました。

 

700:名無しの転生者

>>699 お疲れ様でした!!

 

701:名無しの転生者

>>699 おつー

 

702:名無しの転生者

>>699 乙

 

703:名無しの転生者

>>699 乙カレー

 

704:名無しの転生者

>>699 乙

それにしても今回は思ったほど被害が出なかったな

ゲームのデビサバは被害者山盛りだったろたしか

 

705:名無しの転生者

大半がナレ死というか被害報告で終わってたな。イベントで56されてたのもいたけど。

だがそうならなかったオレらスゴイ!

 

706:名無しの転生者

被害者が少なかった理由は対策が早かったのが大きくて、理由としては以前から都民の避難方法が検討されてたから、それそのまま使ったかららしい

 

707:名無しの転生者

「こんなこともあろうかと!」ってヤツだな

 

710:名無しの転生者

避難方法検討してるとか、やっぱ東京が一番危ないんやなって

 

711:名無しの転生者

だいたい東京くん死んでるから……

 

712:名無しの転生者

「こんなこともあろうかと!」\ICBM/

 

713:名無しの転生者

>>712 トールマン大使は祖国に帰ってくれませんかね?

 

714:名無しの転生者

>>713 大使ってオレらの仲間じゃないのか?神主と時々お茶してるって聞いたけど。

 

715:名無しの転生者

大使とゴトウ陸将で神主を取り合ってるって噂もあるな

 

716:名無しの転生者

おっ、さすが神主大人気だな

 

717:名無しの転生者

ムキムキの男に狙われるショタオジwww

絵面から犯罪臭しかしないがwww

 

718:名無しの転生者

>> ウホッ

 

719名無しの転生者

>> なにその話くわしく

 

720:名無しの転生者

>>717 ~>>719 スレチなのでBL板行ってくださいねー

 

721:名無しの転生者

話を戻すけど、情報分析班が今回の件は一般人だけでなくオレらの被害もけっこう出てたかもしれないって言ってた。

減らせたのはラプラスメールの死亡予告が大きかったとか。

今後もラプラスメールが使えるなら利用したい所さん。

 

722:名無しの転生者

>>721 制作者曰く、今回は条件が整ったから使えただけ。とのこと。

さらに専用サーバーがトンだのでラプラスメールはもう来ないとのこと。

 

723:名無しの転生者

>>722 どういうことだ?

 

724:名無しの転生者

サーバーには【ベルの因子】を管理するシステムと霊的な結びつきがあって、その【ベルの因子】が封印されたからシステムのパワーが足りなくなるらしい。

 

725:名無しの転生者

オレは今回のボスがベルの因子を回収したせいでサーバーが壊れたって聞いた

 

726:名無しの転生者

>>725 それもあるらしい。

あと隔離された限定地域でないと情報量が多すぎて未来予測ができないとかなんとか。

ゲームではしばらく保ったシステムが、今回は3日でダウンしてたのも外から入ってくるオレらが多かったからだとか

 

727:名無しの転生者

つまりオレらカオスすぎってことか

 

728:名無しの転生者

今からカオス勢力になるってことですか?オススメの地母神紹介しますよ?

 

729:名無しの転生者

>> ならない。座っとけ。

 

730:名無しの転生者

今回のボスはイマイチぱっとしなかったな。しかしそれ以上に【母】戦のデータが残ってないのが残念すぎる。

あの巨人ちゃんのでっかい部分がどう動くか見てみたかったのに。

 

731:名無しの転生者

>>730 現地に来て砂になってればよかったのに

 

732:名無しの転生者

>>731 辛辣ぅ!お前ツンデレかよぉ!

 

733:名無しの転生者

>>732 ツンだ。デレない。

 

734:名無しの転生者

>>730 どんなもんか葛葉ニキ本人に聞いたら、DODのラストバトルの規模を小さくした感じだって教えてもらった。

再現ゲームの動画見たけど、規模小さくてもヤバそうだな?

 

735:名無しの転生者

>>734 リアルであの音ゲーを?正気じゃないな。

 

736:名無しの転生者

どんなクソゲーなの?オレにも教えてくれよ。

 

737:名無しの転生者

つラスボス戦動画【hppts//xxx】

 

738:名無しの転生者

>>737 なにこれえ

 

739:名無しの転生者

それ攻略動画だから簡単そうに見えるけど、実際は喰らうと一撃死だからな?

裏技使わなかったら死にながら憶えてちょっとずつ進んでいくしかないからな?

 

740:名無しの転生者

>>739 なんだよ裏技あるんじゃないかよ

それならラクショーだろ

 

741:名無しの転生者

>> スタートボタンで一時停止して、色を憶えてから相殺する作業だぞ。現実で時を止められると思うか?

 

742:名無しの転生者

>> スタンド使いニキ……?

 

743:名無しの転生者

>>742 時を止められても相殺できなきゃ意味ないんだよなあ

 

744:名無しの転生者

結論。それを倒した葛葉ニキは変態。

 

745:名無しの転生者

>>744 同意しかないwww

 

746:名無しの転生者

>>744 レベルを上げて素早さ高まれば誰でもイケるのでは?

 

747:名無しの転生者

>>746 相殺できるほどの出力ある魔法が撃てるかも問題だな。ちな葛葉ニキは【ベルの因子】で強化されたティンカー・ベルがいたからなんとか相殺できたらしい。

相殺できなかったらスタジアムと同じく砂になってたってさ。

しかもそのティンカー・ベルは、もうただのピクシーに戻っちゃったとか。

 

748:名無しの転生者

なんともったいない

 

751:名無しの転生者

ピクシーたんの方がいいだろ常識的に考えて

 

752:名無しの転生者

ピクシーガチ勢ニキおっすおっす

 

755:名無しの転生者

そういやその大活躍した葛葉ニキは今どこに?

 

756:名無しの転生者

運搬の囮役やってそのまま直帰したんじゃない?

 

757:名無しの転生者

>>756 会社かw

 

758:運営

葛葉ニキは長期休暇に入りました。必要な報告は受けてあるので問題はありません。

また葛葉ニキへの連絡があれば運営で受け付けております。

 

 

759:名無しの転生者

長期休暇かー。終末が近づいているこんな時期に休暇とか、さすが上位陣は余裕がありますなあ。

 

780:名無しの転生者

>>759 あんさん京都人でっしゃろ?

 

781:名無しの転生者

葛葉ニキだけでなくオレも休暇が欲しい。最近悪魔が増えすぎなんよ。休日も急に呼び出されて素材集めの周回要員になった気分なんじゃ。

 

782:名無しの転生者

32連勤してるワイ、無事にドクターストップかかったもよう。現在は家でゆったりとリモートワークしてるなう

 

783:名無しの転生者

>>782 休めよ

 

784:名無しの転生者

何もしてないと落ち着かないんだ。働いている方が安心する。

 

785:名無しの転生者

休んだ方が作業効率上がるぞ。仕事してる方が気楽なワーカーホリックじゃない限り、休めるんなら休んだ方がいい。

 

786:名無しの転生者

そうそう。葛葉ニキはずっと行けてなかった新婚旅行に行くんだって聞いたぞ。

友人の友人のシキガミから。

 

787:名無しの転生者

>>786 それもう他人のシキガミじゃねーかw信頼度どーなんよw

 

788:名無しの転生者

>>786 新婚旅行ですって!?こんな時期に行くなんて許せませんなあ!

 

789:名無しの転生者

>>788 嫉妬乙

 

790:名無しの転生者

むしろ今まで新婚旅行行けてなかったお嫁さんかわいそう

 

791:名無しの転生者

葛葉ニキめ、オレには嫁どころか恋人すらいないのに

 

792:名無しの転生者

>>791 そんなあなたにシキガミ嫁

 

793:名無しの転生者

>>791 そんなあなたに葛葉家との集団お見合い

 

794:名無しの転生者

>>791 そんなあなたに地方霊能家との集団お見合い

 

795:名無しの転生者

>>791 海外勢力からのお誘いもあるぞ

 

796:名無しの転生者

>>792 ~>>795 お誘いが多すぎて逆に引くんだがwさすがに怖すぎww

 

797:名無しの転生者

>>796 そんなこと言ってるから彼女いないんだぞ

 

798:名無しの転生者

>>797 グハッ!

 

799:名無しの転生者

>>797 クリティカルヒット!

 

800:名無しの転生者

>>797 真実は時に人を傷つける……

 

801:名無しの転生者

傷が深くなる前に話題を変えよう。

お題は首都高ライディングデュエルについてだ!

 

802:名無しの転生者

首都高ライディングデュエルですって!?……マジでなにそれ

 

803:名無しの転生者

最後の重要物品を目的地まで運んだアレだろ?

結局ライディングデュエル組は偽物だったから重要じゃないのでは?

 

804:名無しの転生者

>>803 ばっかお前ライディングデュエル中継見てないんかよ。動画サイトにあるから見といて損はないぞ

 

805:名無しの転生者

葛葉ニキも運搬に参加してたけど、本命と見せかけて偽物だったんだっけか。

 

806:名無しの転生者

葛葉ニキは荷物はともかくバトルの結果は分かりきってたからなあ。消化試合だから盛り上がらなかったよ。

 

807:名無しの転生者

ライディングデュエル組は偽物を運んでたんだろ?なんでそんな盛り上がるん?

 

808:名無しの転生者

>>807 運んでる時点では誰が本物を持ってるか分からないんだよ。だからワンチャンに賭けて運んでる厄物を欲しがるヤツラが襲ってくるんだ

 

809:名無しの転生者

本命はやっぱり葛葉ニキだが、そこらのダークサマナーじゃ太刀打ちできないからなあ

 

810:名無しの転生者

倒せそうだと思われたヤツから狙われるゲームだったな。

しかしあんなふざけたバイク乗ってて強いとか意味わからん。

 

811:名無しの転生者

真面目に襲いに来たダークサマナーくんがカワイソウ

 

812:名無しの転生者

カード型シキガミにあんな使い方があったとは。実力はともかく見た目が派手で面白かった

 

813:名無しの転生者

普通にデュエルしてるところも見たくなるよな

 

814:名無しの転生者

>>813 それは言うな……、いや、言っていいのか

 

815:名無しの転生者

これはデュエルが絶対に流行る(*´ω`*)

 

816:名無しの転生者

>>815 その顔文字は流行らないし流行らせない

 

817:名無しの転生者

なにそれ何かのネタ?

 

818:名無しの転生者

デュエルが流行るのは同意しかないな。アプリさっそくダウンロードしたわ。

 

819:名無しの転生者

マジで?最近過疎ってるっぽかったからすごい嬉しいわ

 

820:名無しの転生者

ライディングデュエルはできますか?

 

821:名無しの転生者

>> 危ないからダメです。普通にデュエルしよう。

 

822:名無しの転生者

そんなー(T_T)

 

823:名無しの転生者

顔文字流行らせようとしてるの?

 

824:名無しの転生者

結局本物は誰が運んでたんだ?

 

825:名無しの転生者

黒ずくめのライダーだな。影の鎌とかバイクが馬化して壁を走ったりしてて、それなりに見所あったな。

 

826:名無しの転生者

あの人って人間じゃないってホント?正体は悪魔だって噂を聞いたんだけど

 

827:名無しの転生者

この人知ってる!池袋の首無しライダーだ!!

 

828:名無しの転生者

首無しライダー?メットの下はからっぽってことか?

てか影の鎌とか馬とかどういう能力?

 

829:運営

本人の秘密に関わることなのでここに書き込むことはご遠慮ください

 

830:名無しの転生者

>>829 サーセンwww 

 

831:名無しの転生者

>>829 サーモンw

 

832:名無しの転生者

とりま池袋行って本人?から聞けばいいかな。ちょっと池袋行ってくるわ

 

833:名無しの転生者

>>832 これが彼の最後の書き込みだった……

 

834:名無しの転生者

>>833 縁起でも無いこと言うなよwww




次回から最終章です


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周回ニキの旅立ち

スプラトゥーン3やってて遅くなりました。
本当に申し訳ない(金属男博士顔)


【シュバルツバース・エリダヌス】

 

自らの尾を喰らう蛇、【ウロボロス】が消滅していく。

無限を意味する大蛇はその再生能力を失い、人の手によって虚無へと還っていった。

 

その様子を二人の男が見送っていた。

一人は満身創痍。膝をついて肩で息をしている。装備しているデモニカスーツのエネルギーは残り少なく、仲魔のほとんどが死亡している。運良く生き残ったような有り様だった。

彼の名前は【只野仁也】(ただのひとなり)。終末アサイラムが見いだした、現地人主人公の一人だ。

しかし年齢はゲームの設定より若い16歳。少々老け顔ではあるが、精神面は年相応の若々しさを持っていた。

 

「はあ、はあ。どうですか、やってやりましたよ」

 

「ふっ、やるじゃあないか。正直、ウロボロスに挑むには少し早いと思っていたんだがな。私の予想を超えたことを褒めてやってもいいぞ」

 

そう言ったのは、特注の黒いデモニカスーツを着た男。かつては葛葉倫太郎と呼ばれていた【周回ニキ】その人である。

 

「悪役みたいな褒め方はやめて下さい。それよりも、自分との約束を覚えていますよね?ウロボロスを自分のチームだけで倒したら、このデモニカスーツの改良をしてくれるんですよね」

 

「もちろん、覚えているとも。この地点は多数の次元を繋ぐ中心地点であり、ウロボロスを倒したことでその封印が解放された。これで地上と連絡が取れるようになったはずだから、早速改良データを送ってもらえるようとりはかろう」

 

「よし。これでこのクソ重いスーツが少しはマシになる」

 

そう言うと仁也は仰向けに寝転がった。

常日頃から身体を鍛えていたが、彼が身につけているデモニカスーツは総重量が50kg以上ある。

これでも自衛隊に配られたモノを改良し軽量化されているのだが、それでもそんなものを装備してシュバルツバースの中を探索するのは、肉体だけでなく精神をも疲労させる。

そんな過酷な状況でも適応し、あまつさえ強力なボス敵であるウロボロスを倒したのはさすが主人公キャラだと言えるだろう。

 

周回ニキはウロボロスがドロップしたレアフォルマを回収する。

 

「この分なら、もうお前達だけでも大丈夫そうだな。焦る必要はない。少しずつ進んでいけば必ず攻略できる」

 

「な、何を言っているんですか教官。ここから一人で出れるわけないでしょう。それに教官がいなくなったら、フォルマを含めたリソースの収集効率がどれだけ落ちると思っているんですか。自分たちだけでは数週間と持ちませんよ」

 

「いや、君たちならきっとなんとかなる。それにこの場所はちょうどいいんだ。さっきも言ったが、複数の次元に繋がっているこの場所は次元を超越するためのエネルギーも少なくて済む。今までよりもずっと遠くの過去へ跳ぶことが可能なはずだ」

 

「教官、本気で言っているんですか?」

 

「もちろんだとも。だが、すぐには跳び立つつもりはない。本部への報告は必要だし、可能なら別れの挨拶もしておきたいからな。そのためにも先ずは、レッドスプライト号の到着を待とう」

 

「教官……」

 

無線でレッドスプライト号と連絡を取る周回ニキの背中を仁也が見つめる。

教官である彼には秘密があることは周知の事実であるが、詳しくは知らなかった。

 

仁也は自衛官志望であったが、自己鍛錬のために人外ハンター登録をした。

登録後の覚醒訓練の場で偶然(・・)周回ニキの指導を受けることになり、才能を見いだされた。

少々強引に訓練用異界を連れ回され、気がつけばデモニカスーツを与えられて【シュバルツバース】などという巨大異界に連れてこられた。

 

常に怪しい言動をしている教官のことを、それでも仁也は信頼していた。

この人は自分をすごいところへ導いてくれる。そう思っていただけに、遠回しに別れを告げられて戸惑った。

 

(どうすれば引き留められるだろうか。いや、それはひょっとして自分のエゴではないのか?)

 

16歳の若者らしくアレコレ悩みながら頭を抱えていると、不意に周回ニキが振り返った。

仁也は自分が見られたのかと思ったが、そうじゃないと気づいて視線を追う。

するとウロボロスを倒したことでぽっかりと空いた空間に、黒い穴が発生しつつあることに気がついた。

 

「えっ、これ、何か起こるんですか?」

 

「只野、お前は後ろで待機しつつ仲魔の治療を行え」

 

言われたとおり周回ニキの背後で仲魔の治療を始める仁也。

その視線の先で黒い穴は確固とした形をとり、そしてそこから二人の男女を吐き出した。

 

周回ニキは、彼らがアサイラムの関係者だとすぐにわかった。なぜなら彼らが着ているスーツは、ライダー型とよばれるデモニカスーツだったからだ。

 

アサイラムの制作班はオリジナルのデザインをするよりも、前世にあったサブカルの再現を好む傾向がある。

男の方のは黒地に銀のメタリックなスーツだが、顔面に『デモニカ』の文字が堂々と入っていた。

一方の女の方は黒のスーツに白の外套を羽織ったようなデザインで、同じく顔に『デモニカ』の文字が入っている。

自己主張の激しいデザインだが、一発で所属が分かるだろう。

 

そんな男の方が進み出て、親しげな様子で声をかけた。

 

「周回ニキですよね?お久しぶりです、シュバルツバースの探索は順調なようですね」

 

「キミたちは新しい応援か?ずいぶん派手な登場だったが、ついに次元を超える技術でも見つかったのか」

 

周回ニキの質問に、男は背後にある黒い穴を親指で示した。

 

「いえ、ご覧の通り、裏道を通ってきました。本格的な追加部隊については本部に聞いて下さい。ところでこっちはどんな状況ですか?」

 

「つい先ほどウロボロスを倒したところだ。それで次元の封印が解けて、キミたちが通行できたような穴が空いた。区切りがついたので、私はこれから次の周回に旅立つところだよ。私の代わりにキミたちが参加してくれるなら、安心して行くことができる」

 

「えっ、せっかく会ったばかりなのに、もう行くんですか?シュバルツバース攻略は大丈夫なんですか?これから先ってまだ長いと思うんですけど」

 

「その心配はない。今までの調査によって、次のフォルナクスが最後だと判明している。シュバルツバースが発生してから成長しきる前に突入できたのが大きい。敵も予想よりも数段弱いし、彼らだけでもなんとかなると判断した」

 

周回ニキの言葉に、男はなるほどと頷いた。

 

「じゃあもうここを離れるつもりなんですね。引き継ぎとかも終わっているんですか?」

 

「必要最低限のことは、AIのアーサーに伝えてある。後はまあ、挨拶くらいなものだ」

 

周回ニキの言葉にうなずく男に、女が近寄り声をかける。そして卍型の物体を彼に手渡した。

 

「こっちが大丈夫なようで安心しました。では俺たちも必要なものは手に入ったんでおいとまします。ああ、ついでにアイテムをいくつか置いてくので、良ければ使ってください」

 

男はそう言いつつ、手に持った卍型の物体を振ってみせる。それを見た周回ニキはとっさに自分の荷物を探った。

 

「なっ、それは私のスワチカ!貴様いつの間に」

 

「そりゃあ、話している間にですよ。俺には頼りになる相方がいますので。それじゃあまた会う日まで」

 

そろえた二本の指をシュピッと掲げてから、正体不明の男女が次元の穴へと消えていく。

 

「待て、それがなければ過去に戻れなくなるんだぞ!くそっ。ヒトナリ、後は頼んだ!」

 

「はい!えっ、どういうことですか……」

 

仁也が言い終わる前に、周回ニキもまた彼らを追って次元の穴へ入っていった。

直後に穴は収縮し、何も無かったように消えてしまった。

 

立ち尽くす仁也の背後から、轟音とともに時空潜航型揚陸艦レッドスプライト号が突入してきた。

着陸したレッドスプライト号は桟橋を下ろし、そこから隊員達が駆け下りてくる。

彼らになんと説明したらいいのだろうかと、仁也は頭痛を感じ始めて頭をおさえた。

 

とりあえず確実に言えるのは『上位陣は変態ばっかりだぞ』という先輩の言葉が正しかったということだけだ。

 

◇◇◇

 

【過去への回廊】

 

ここは、アカラナ回廊と呼ばれる次元の裏道。過去と未来をつなぎ、幾重にも分岐する平行世界の隙間を縫うように走る回廊。

そういう場所だと前世と今世の知識によって気づいた周回ニキは、思わず舌打ちする。

 

この回廊を使えばスワチカを使わなくても過去に戻れるが、肉体的な問題が出てくる。

スワチカは『現在の自分』を『過去の自分』へと重ねる【強くてニューゲーム】だが、アカラナ回廊は『現在の自分』のまま過去へ行く【タイムトラベル】だ。

 

肉体が若返るわけではないし、『自分がもう一人いる』といったパラドクスを引き起こしかねない危険もはらんでいる。

 

(早くスワチカを取り返さなければ)

 

周回ニキは小さく呟く。

 

幸い、奪われたスワチカは5個中の1個だけだ。見つければすぐに取り返すことはできるだろう。

奪っていった相手の正体も予想がついている。だが彼らがなぜこんなことをしでかしたのか、周回ニキにはそれが分からなかった。

 

次元の寄せ集めであるアカラナ回廊は不安定であり、その構造も複雑怪奇なものとなる。

現世よりも根源に近い場所であり、その分ここに存在する悪魔も強力なものとなる。

現世のDPがそこまで高くないおかげでここの悪魔も強すぎるということはないが、それでも迷宮じみた構造もあって追跡には苦労する。

 

追跡する相手の目的が見えないために行き先を想像するのが難しいために、手段としては単純に相手が残した痕跡を追うことになる。

たまに存在する意識だけの思念体は話が通じないことが多く、通じたとしても目的の人物を知っているとは限らない。

 

それでも焦りは禁物だと自分をなだめながら、周回ニキは追跡を続けた。

 

それからしばらく先で、やっと彼らが残した重要な手がかりを見つけた。

それは次元に空いた黒い穴であり、ウロボロスのいた場所に空いたものと同じものだった。

 

この先がどうなっているのか分からないが、周回ニキには入らないという選択肢はない。

『奪われた過去を取り返す』それが周回ニキの生きてきた意味だからだ。

 

周回ニキは油断無く身構えながら次元の穴へと入る。

出てきたそこは寂れた地方都市のようであり、夜空には星が輝いていた。

 

「ここは……見覚えがある?」

 

街の様子よりも、星の並びに既視感を感じて空を見る。

周回ニキが視線を彷徨わせていると、遠くから腹に響く爆発音が聞こえてきた。

 

「あれはまるで……いや、ちがう。そのもの、なのか」

 

都市の一部に、火の手が上がっている。それは過去の光景の再現どころではなかった。

 

「だとすると……クリスティーヌ!」

 

過去、守ると誓った相手が消えた時、消えた場所。そうだと気づいた周回ニキは駆けだした。




・只野仁也
ヒトナリくん。ストレンジジャーニーの主人公。ゲーム時よりだいぶ若い。
メガテン主人公は基本的に選択肢しか発言しないから影が薄いよね。

・特注デモニカスーツ
時を駆けるライダーであるジ○ウとツ○ヨミ型。中の人は覚醒者なのでスーツのレベルアップシステムは排除し以上空間での生存性能を重視して作られている。その分かなり軽く動きやすくなっている。



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周回ニキの再会

デモニカスーツのヘルメットを脱ぐと、乾いた風が周回ニキの頬をなでた。

それは十数年の時を超え、周回ニキをあの日(・・・)へと一気に引き戻す。

 

周回ニキこと葛葉倫太郎の頭の中が、クリスティーヌを助ける事で埋め尽くされた。

 

彼はずっと『過去に助けられなかった愛する者』を助けるために生きてきた。

スワチカを使い過去の自分へと戻ることをくり返すうち、それが彼の生きる意味となっていた。

助けることを諦めることは、それまでの人生を否定することになる。そしてくり返してきた人生の中で協力をしてくれた、そして犠牲にしてきた仲間たちを裏切る行為にもなる。

だからもう、彼には迷うことはできなかった。

 

「スワチカよりも、今はクリスティーヌを探す方が先だ」

 

魔封管から【ケルベロス】を召喚してその背にまたがる。クリスティーヌがいるはずの、街の入り口まで少しでも早く着くために。

 

『そこのアナタ、止まりなさい。この街は神の名の下に……』

 

「邪魔だ!」

 

『あべし!』

 

街中を徘徊する低位の天使とメシア教過激派を、鎧袖一触で吹き飛ばす。

【聖杯作成計画】を阻止した過去の倫太郎への報復のためこの街ごと破壊しようとしている、そんな者たちに容赦しない。

 

そうやって邪魔するものを排除しながら目的地まで真っ直ぐに進んでいると、曲がり角から飛び出してくる影があった。

彼からスワチカを奪っていった二人組のうちの一人。特注デモニカ(ツクヨミモデル)スーツを着た女が、【オルトロス】に乗って併走してきた。

 

「周回ニキ、あなたに聞きたいことがあります」

 

「俺の邪魔をしに来たのか?」

 

「違う。質問に答えてくれたらスワチカを返してもいい」

 

女の言葉を周回ニキは鼻で笑った。

 

「フンッ、それは後で返してもらう。だが今はお前の相手をしている暇はない」

 

「それは何故?ここで過去を変えたとしても、今のあなたが幸せになれるわけじゃない」

 

この場所でクリスティーヌが助かれば、クリスティーヌが存在する未来へと変わるだろう。だがそれは平行世界としての新しい分岐となり、今の周回ニキの人生が変わるわけではない。

周回ニキがクリスティーヌとの生活を望むなら、スワチカを使って過去に戻る必要がある。

だが周回ニキは首を横に振った。

 

「俺の幸せに意味は無い。俺が望んでいるのは、愛する者が生きている世界だ。クリスティーヌが助けられるなら、今の俺がどうなったって構わない」

 

「……なら、葛葉御前様は、まゆり様のことはどうでもいいって言うの」

 

「まゆりはもう大丈夫だ。まゆりを助けるためにはアイツから離れるしかなかったが、そのかいあってアイツが死ぬ世界線から切り替えることができた。俺ではアイツを幸せにできなかったが、生きているならそれでいい」

 

「クリスティーヌさんも、あなたが幸せにするのは諦めるというの?」

 

「生きているなら、この時代の俺が幸せにするだろう。何度くり返したとしても、俺が必ず助ける。絶対に」

 

狂人のようにも見えるほどの確信を持って、周回ニキは断言した。

 

「…………そう、わかった。なら急ぐといい。もうすぐ終わるだろうから」

 

ツクヨミスーツの女はそれだけ言うと、スワチカを投げる。周回ニキがそれを受け止めた時には、彼女はどこかへと消えていた。

 

周回ニキはケルベロスに先を急がせる。やっと街の入り口が見えたところで、【天使 ドミニオン】と戦う特注デモニカ(ジオウモデル)の姿があった。

 

『神敵滅殺、【破魔の雷光】!』

 

「なんの、【ザンダイン】!」

 

双方の魔法がぶつかり、閃光と爆風を巻き起こす。

周回ニキはそれを見て思い出す。かつて遠くから見た、あの日の爆発はこれだと。

 

『ええい、しつこい。いい加減にそこを退きなさい!』

 

「いい加減にするのはお前だ、いちいち回復しやがって。喰らえ新技【穢れの指先】!」

 

『ぐわあああぁぁぁ!』

 

ジオウスーツの男の攻撃で、ドミニオンが大きくひるむ。そこへ続けて、刀を大きく振り下ろした。

 

「トドメだ、【都牟刈村正】!」

 

魔力を帯びた刀が、ドミニオンの首をはねる。

ドミニオンの身体は飛ばされた首をさがし、その背中に刀を突き立てられるとやっと動きを止めてマグネタイトへと還っていった。

 

周回ニキが近づくと、ジオウスーツの男はすぐに気がついたようだった。

 

「遅かったですね。襲撃部隊の裏ボスは、いま倒しちゃいましたよ」

 

「お前達は……いや、それよりもクリスティーヌは何処だ」

 

「それについては、見てもらった方が早いですね。ああ、ついでに娘さんはそっちの建物の中です。ちゃんと結界で守ってあるんで大丈夫ですよ」

 

ジオウスーツの男が指さす先、戦闘の余波で傷だらけの建物の中で、娘のサーヤがすやすやと眠っていた。

それを見たことで、周回ニキの脳裏に過去の記憶が強く思い出される。

産まれた時は弱々しく見えたが、意外と神経が太いのか、にぎやかな場所でもよく寝ていた。自分では育てることはできないとサーヤを葛葉家に預けた時も、この子は同じように眠っていた。

この子を自分たちで育てられたらどんなによかっただろうか。その時を求めて過去へ戻ったとして、再び産まれてくる子供は同一の存在なのか。

その答えは『否』だと、これまでの周回が告げている。

初期の周回でまゆりとの間に産まれた子供は、同じ名前を付けても性格は少し異なっていた。

定まっている運命は、周回ニキの伴侶となった葛葉まゆり、あるいはクリスティーヌの死のみ。

周回ニキは絞り出すように小さく「すまない」と告げた。

 

あと数分もしないうちに、この時代の周回ニキがここへ来るだろう。

ジオウスーツの男は周回ニキが建物から出てくると、ベルトを操作して空間に黒い穴を開けた。

 

「こっちです。来て下さい」

 

周回ニキは娘がいるビルを振り返ってから、男の後に続いて穴へと入った。

 

◇◇◇

 

周回ニキがアカラナ回廊に入る。

そこには特注デモニカスーツの二人と、長い銀髪を持つ一人の女性が待っていた。

 

「クリス……」

「リンタロー!」

 

周回ニキこと葛葉倫太郎の記憶にあるとおりのクリスティーヌが、飛びかかるように抱きついてきた。

 

「怖かった。何よりも、あの子を守りたかったのに、私の力では無理だった。でももうダメだと思った時に、この人たちが助けにきてくれたの」

 

「……そ、そうか。それは良かった」

 

「リンタロー?」

 

違和感にクリスティーヌが顔を上げる。

周回ニキにとっては過去に助けることができなかった妻であるが、クリスティーヌにとってはお互いの仕事で数時間前に別れたはずの夫と再会したら10歳以上老けていたという状況だ。

 

どんな態度をとればいいのか、どんなリアクションをされるのか、周回ニキが緊張していると、クリスティーヌが彼の顔に手を伸ばした。

 

「髭の剃り残しがあるわよ。目の隈もあるし、肌色も悪い。ちゃんと睡眠とってるの?」

 

「え?いや、その……」

 

「目的があると突っ走るのは相変わらずみたいね。でも私と出会った時よりマシにも見えるから、いい人がいたのかしら?」

 

「ああ、とてもいい仲間のおかげで、元気でやってこれたよ。みんなのおかげで、ここまで来れたんだ」

 

周回ニキの目に涙がにじむ。それからクリスティーヌの背中に腕を回し、強く抱きしめた。

 

「やっと、またキミに会えた。もっと時間がかかるかと思ったけれど、意外と早くて良かった」

 

「私たちのために頑張ってくれたのね。ありがとう」

 

クリスティーヌは子供にするように周回ニキの頭をなでる。

彼女は過去に、周回ニキから話を聞いていた。彼が大切な人を助けるために、何度も何度も人生を周回しているという話を。

だから、周回ニキがどういう経緯でここに来たのか、おおよそ予測がついていた。

 

「あなたが助けたかった人は、助かったのね?」

 

「ああ、彼女もちゃんと生きているよ」

 

「そっちはもう大丈夫なの?」

 

「ああ、心配ない。そしてキミの無事も確認できた。これで俺は……」

 

これで周回ニキの目的は達成された。

過去のクリスティーヌはアカラナ回廊に避難したから、その時の周回ニキは見失った。

ここから過去に戻って変化をさせたとしたならば、また別な結果となりクリスティーヌがどうなるかは分からなくなる。

だからこそ、ここが周回ニキの周回の終わりだった。

 

「そう、よかった。ところで、サーヤは元気?今はいくつになったの?」

 

「えっ……、それは、その」

 

周回ニキが言いよどみ、クリスティーヌが首をかしげる。

その様子を見ていたツクヨミスーツの女性が声をかけた。

 

「その男は、まだ赤ん坊だった娘をかつての実家に置いて一人で出て行きました」

 

「そっ……!?」

 

「リンタロー、それは本当なの?」

 

至近距離からの視線に、周回ニキはうろたえる。

 

「娘は両親の顔を知らないまま育ちました。色々ありましたが、今は幸せに生きてますよ」

 

ツクヨミスーツの女性がヘルメットを取ると、クリスティーヌと同じ銀髪がなびいた。

 

お久しぶりです(・・・・・・・)お母さん」

 

「サーヤ、あなただったのね」

 

クリスティーヌは倫太郎を突き放すと、小夜に駆け寄って手をとった。

 

「大きくなったのね。いくつになったの?」

 

「今年で20になります。それとこちらが……」

 

小夜の隣に並んだジオウスーツの男がヘルメットを取る。そこにいたのは十七代目葛葉ライドウこと雄利だ。

 

「小夜さんと結婚させていただきました、葛葉雄利といいます。お義母さま初めまして」

 

「結婚!?なんてこと……。ついさっきまで赤ん坊だった娘が成人していたと思ったら、結婚相手まで現れたわ」

 

クリスティーヌが事態の急な展開についていけずにふらつく。周回ニキがそれを支えるが「後で話を聞かせてもらうからね」とキツく言われた。

 

「さて、積もる話もあるでしょうが、それは帰ってからにしましょう」

 

雄利がヘルメットを被り直す。

 

「俺たちの時代まで案内します。周回ニキはその人を守ってくださいね」

 

「勝手に一人でどこかに行かないでくださいね、お父さん(・・・・)

 

「ぐっ!分かっている……!」

 

小夜のチクリとした言い方に、周回ニキは胸を押さえる。そしてクリスティーヌと手をつなぐ。今度は決して離さぬように。




・新婚旅行
ライダースの中身は葛葉ライドウ夫妻でした。
アカラナ回廊経由シュバルツバース~過去の世界というハードな行程でしたが、小夜は満足していたようです。

・穢れの指先
守護霊(ガーディアン)のスキル
敵単体に特大威力の呪殺属性攻撃。確率で毒を付与する。
元ネタはFGOのあの人。


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周回ニキの結末

京都の一角にある葛葉本家。その一室に俺と小夜はいた。

向かいには小夜の母親であるクリスティーヌさんが、和服を着て座っていた。

 

「ごめんなさいね、正座は慣れていなくて。貴方たちも足を崩してくれていいからね」

 

「ありがとうございますお母様。でも大丈夫、私は慣れていますから」

 

小夜は他人行儀な返事をしている。

クリスティーヌさんの救出から一月ほど経っているが、クリスティーヌさんとの間がまだギクシャクしていた。

実の親子といえど、およそ20年という年月は溝が大きすぎるらしい。

小夜からすれば突然出てきた母親だし、クリスティーヌさんからすれば娘がいきなり大人になっていたという状況だ。

何より親子だというのに、二人の年齢の差はほとんど無くなっていた。

 

「それにしても、小夜さんってすごく若く見えますね。私も若く見えるとは言われてたけど、貴女はそれ以上よ」

 

「敬語は必要ありませんお母様。霊能者は能力に覚醒すると老化が遅くなるんです。特に私はお父様とお母様ともに優れた霊能力を持っていらしたので、娘の私もそれを受け継いでいるのです」

 

「そうなんですね。あ、ごめんなさいね、私ったらまだ慣れてなくて。そうよね、私たちは家族なんだし、もっと砕けてていいわよね。小夜さ……サーヤも普通に話してくれていいわよ」

 

「いえ、私はこれが普通なので」

 

「ぶふっ」

 

横で聞いていてつい吹き出してしまい、ジト目で睨まれた。

 

「いやさ、これから会う機会がたくさんあるだろ?どこかで絶対にバレるって。だったら今のうちから慣れてもらったほうがいいと思うけど」

 

「……」

 

小夜はこちらを恨めしそうに睨んでから、ため息をついた。

 

「それもそうじゃな。母上、これがわしの普段の口調じゃ。育てのお婆様と暮らすうちにこうなってしもうた。聞き取りにくかったら、遠慮なく言ってほしい」

 

恥ずかしそうに頬を染めて言う小夜に、クリスティーナさんは少し驚いたような顔をした後、勢い込んで言った。

 

「すごい、のじゃロリ口調って言うんでしょそれ。アニメで見たわ!本当にそういうしゃべり方する人がいたのね!!」

 

「母上!?」

 

「もうちょっと色々と言ってくれないかしら。そうね、あれよ、『たわけ』とか『なんとかなのじゃ~』とかお願いしたいわ」

 

「母上!???」

 

突如オタクと化した母親の姿に、小夜は珍しく慌てていた。

 

 

「ごめんなさい。本物が見られてつい興奮してしまって」

 

「いえその、喜んでもらえたなら良かった……のじゃ」

 

小夜が付け足した語尾に、笑いが漏れそうになるのを全力で耐える。

あれからしばらくクリスティーヌさんのリクエストが続き、小夜は戸惑いながらもそれに応えていた。

その様子はとても微笑ましく、記録しておけば良かったと全力で後悔中である。

 

だが今のやりとりで、だいぶ距離が近くなったようだ。膝と膝が近い位置で、二人であれこれと話をしている。

 

「……というわけで、軽子坂学園へ通うことになったのじゃ。そこで件の霊能力者とやらはすぐに見つかったのじゃが、それこそが雄利さんだったというわけでの」

 

「まあ、すごい偶然ね。聞く限りだと、転生者?ってそれなりにいたんでしょ?それなのに彼のいた所に行くなんて、運命みたいじゃない」

 

「あの、その件なんですけど実は……」

 

 

楽しそうに話しているが、訂正すべきことがあるので少し申し訳ないが口を挟ませてもらう。

 

「そもそも小夜が学園に来たのって、俺が霊能力に覚醒してから学園に戻ってくる前だったんです。だから本当は葛葉家が調査しようとしてた霊能力者って、俺じゃないらしいんです」

 

「むむ、それは本当か?あの日以前から半分覚醒していたと言っていたではないか」

 

「それもあるかもだけど、実は俺が覚醒する前から学校のすぐそばの神社に【アサイラム】の関係者がいたんだよ。神主の知り合いからの依頼で、とある神社の悪魔の世話をしてたんだ」

 

「へえ、つまり勘違いだってことなのね。でもそうなると、ますます運命みたく感じるわね」

 

クリスティーヌさんはもう何でも運命を感じてしまうようだ。

その時の霊能力者とは織雅さん……つまり周回ニキこと葛葉倫太郎さんが使っていた偽名である。

彼は偶然だと言っていたが、本当はこうなることを予測していたのではないかと邪推したくなってしまう。

 

「リンタローも運命かもしれないって言ってたわ」

 

「えっ?」

 

「突然話が飛んでごめんなさい。でもリンタローが言ってたの。私がこんな風に助かるなんて、まったく予測してなかったって。彼は自分以外が私を助けるだなんて思ってなかったみたい。そもそも雄利さんとサーヤのことも、彼にとって偶然だったんだって」

 

そういえば、ビデオレターでそんなことを言われた気がする。

周回ニキといえど周回で経験してないことは分からない。

小夜を葛葉家に預けてから、ほとんど周回してないみたいなニュアンスだったから、本当にたまたま俺と小夜が出会い、俺たちがクリスティーヌさんを助けたのだ。

 

つまりは、周回ニキは運命をつかみ取ったとも言えるのではないだろうか。

 

そんな風に話をしていたら、ドタバタと廊下を走る音が聞こえてきた。

何事かと思う間もなく障子が勢いよく開かれて、話題の周回ニキこと倫太郎氏が入ってきた。

 

「げっ、しまった。すまない邪魔するつもりじゃなかったんだ……ってもうそこまで来てる!?仕方ない。頼む、俺をかくまってくれ!」

 

「リンタロー!?いったい何があったの?」

 

「まゆりに追われているんだ。俺は奥に隠れてるから、適当に誤魔化してくれ」

 

そう言って奥のふすまを開く倫太郎氏。だがそこには葛葉御前ことまゆりさんが、満面の笑顔で立っていた。

 

「げえっ、まゆり!」

 

「倫太郎くん、なんでまゆりから逃げるの?お話しましょう、ね?」

 

「わかってる、話すから、落ち着こう、な?話せばわかる」

 

「まゆりは落ち着いてますよ?倫太郎くんこそすっごい汗かいてるね。拭いてあげるからこっち来てね」

 

まゆりさんはこっちに手を振ってから、倫太郎氏を引きずってふすまの奥へと消えていった。

倫太郎氏の悲鳴が聞こえた気がしたが、たぶん気のせいだったろう。

 

「不潔なのじゃ」

 

小夜さん落ち着いて。

 

 

「申し訳ありませんでしたァ!」

 

周回ニキこと倫太郎さんが、まゆりさんに向けて土下座した。

俺と小夜はそれを後方から見ている。

 

どうして謝罪しているのかといえば、倫太郎さんが葛葉家から無断で離れ今まで帰って来なかった件についてで、なんで今さらなのかと言えば、今日になるまでまゆりさんに会っていなかったからである。

 

「リンタロー、さっきまで二人だけで話していたはずなのに、どうしてそこで謝らなかったの?」

 

「いやそれが、謝る前にその、別な話題を持ってこられてだな」

 

「別な話題?」

 

聞き返したクリスティーヌさんと同じく俺も首をかしげていると、まゆりさんが倫太郎さんの隣に移動して腕をからませた。

 

「まゆりも倫太郎くんと暮らすことにしたのです。というわけでクリスティーヌさん、これからよろしくお願いします」

 

「えー」

 

「は?」

 

突然の事に声を出して驚いたのは、俺と小夜だけだった。

当事者であるはずのクリスティーヌさんは、困ったような顔をしていた。だがそれはまゆりさんに対してではないようだ。

 

「リンタローはそれがイヤで逃げ回っていたの?てっきり話はついていると思っていたんだけど」

 

「お、俺は葛葉家から出て行ったんだぞ、しかも許嫁だったまゆりを放り出してだ」

 

「だから元に戻るだけなので問題ないのです」

 

「まゆりお前は黙ってろ。それといったん離れてくれ」

 

「だめです。そしたら倫太郎くんまた逃げるでしょ」

 

「逃げない。約束するから。今まで俺が約束を破ったことあるか?」

 

「お嫁さんにしてくれるって言ってた」

 

「あー、それとこれとは違ってだな」

 

「おなじですー」

 

なんだこの痴話げんか。俺たちもう帰っていいですか?

 

「ハイハイふたりとも、落ち着いて。イチャつくのは後にして話を進めましょう」

 

クリスティーヌさんの仕切りでまゆりさんが元の位置に戻る。

それから改めて話を始めた。

 

「お小夜さんたちは知らないと思うから、順番に話すね。まず葛葉家は、倫太郎くんの家出を許すことにしました」

 

「家出て」

 

倫太郎さんのツッコミを、クリスティーヌさんが目で制する。

 

「ただ何も言わずに突然出て行った人を無条件で受け入れるわけにもいきません。そこで、条件をつけることになりました。これは罰も兼ねていると思って問題ありません」

 

当然だろう。歴史ある霊能力者の家を自称しているのだから、離反者を簡単に許すわけがない。特に倫太郎さんは十六代目葛葉ライドウの地位にいたのだ。

きっと本来こなすはずだった大量の仕事を押しつけられるとか、そういう罰に落ち着くと思っていたのだが。

 

「その条件ですが……」

 

まゆりさんが言葉を句切り、タメをつくる。倫太郎さんとクリスティーヌさんは、態度がどこか変だった。

 

「倫太郎くんはまゆりとも結婚して、子供を作ってもらいます」

 

「……?」

 

罰?罰とはなんぞや?(哲学)

 

いつの間にか別な話になったのかなと思ったが、どうやら繋がっているらしい。

頭に疑問符を浮かべていると、クリスティーヌさんが咳払いをした。

 

「んんっ。詳しい説明は私がします。まず私はリンタローと話し合って葛葉家に来ました。リンタローは葛葉家に事情を話して謝るべきだからです。もしも許されなければ今までどおりフリーのデビルサマナーとして活動すればいいとも思っていました」

 

倫太郎さんはまゆりさんとクリスティーヌさんの二人を助けるための自由が必要だったから、葛葉家を出ていた。

その二人が助かったのだから自由に行動する理由がなくなり、事情を話して勝手な行動を謝罪するのは間違ってないだろう。

俺と小夜もその話し合いを聞いていたし、葛葉家との仲介役をしたのも俺だ。ここまでは知っているから問題ない。

その時に弁護もしておいたし、本家の人たちに無茶な罰を与えないように頼んでもおいた。

もちろんまゆりさんにもちゃんと連絡をしてあったのだが。

 

「まゆりはそれを聞いて、なんとかしなければと思いました。倫太郎くんがネコにされたら大変だからです。それでみんなをこう(・・)説得しました。『悪いのは倫太郎くんを繋ぎ止めておけなかったわたくしです。なので責任をとって御前の地位から引退します。そして今後の葛葉家のために、優秀な子供をいっぱい産みます』と」

 

御前の地位からの引退という重大な発表があった気がしたが、後半のインパクトが強くて霞んでいる。

 

「もちろん引退はしても葛葉の結界の維持とか仕事は続けます。葛葉家の最高位を別な人に譲るというだけです。葛葉家を盛り立てるためにも、今後の戦力は必要不可欠なのです。そこのところを力一杯説明しました。そうして頑張った結果、倫太郎くんを葛葉家の一員と認めて、クリスティーヌさんも迎え入れることを決定させたのでした」

 

ぱちぱちぱち、と自分で手を叩きながら口でも言っているまゆりさん。

『決定させた』と言っている辺り、引退すると言っても発言権は落ちてない気がする。

 

クリスティーヌさんは小さく息を吐いてから、「そういうことになりました」と背筋を伸ばした。

 

「私はリンタローが家に帰れるならそうした方がいいと思う。まゆりとも仲良くしたいと思っているし、葛葉家が私を受け入れてくれるというのなら、とても有難く思います。だから、リンタロー。あとはアナタ次第なのよ」

 

やっとこれで最初に戻ってきたのか。

倫太郎さんは大きくため息をついてから顔を上げた。

 

「まゆり。お前は本当に、俺を許してくれるのか?」

 

「うん、倫太郎くんはまゆりをずっと助けようとしてくれていたんでしょ?ならお礼を言うのはまゆりの方なのです」

 

「クリスティーヌ。キミはそれで本当にいいのか?」

 

「まゆりさんが心を許せるのはアナタだけなのよ。それに私にはサーヤがいるわ」

 

小夜はその言葉に頷いていた。

倫太郎さんは、どうやら諦めがついたらしい。

まゆりさんに向けて再び頭を下げた。

 

「まゆり、今まですまなかった。これから、よろしく頼む」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

どうやらこれで一件落着したようだった。

 

 

「あ、お小夜さんも急いだ方がいいよ。雄利さんの跡継ぎがまだだからって、分家の人たちがお妾さんを送り込もうとしてたから」

 

ちょっ、こっちにも飛び火するのやめてください。

 

「えっ、はい。承知致しました」

 

承知したの!?何を?とは聞けないが、俺も頑張ろうと心の中で固く誓った。




・処罰について
回転説教する歴代の意思のエネルギー源も大部分が御前様(まゆり)だと思うので、生きている人たちがを説得できるなまゆりさんの意見がほぼ通ります。

・地位を譲る
次の当主は葛葉キョウジさんに決まったもよう。
アサイラムと根願寺との協力も含めて頑張ってほしいですね。どうか過労で死なないで。

・妾候補
四天王家(ライドウ家含む)からそれぞれ一人ずつ出そうとか画策しているもよう。
果たして逃げ切れるだろうか。

【ご挨拶】
これで一応本作品は完結となります。
長い間のお付き合いありがとうございました。
もしかしたら他のキャラの後日談などを付け足すかもしれません。
時間と気分が向いたなら、もしかしたら。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。



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