とある特殊工作兵見習いの日常 (氷桜)
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山鳥 鷹-①
続きを書くかは未定。
※この作品は原作24巻までの情報を元に執筆しています。
きゅいいん、と乾いた音が手元で響く。
電気で動く工具の一種、先端だけが少し特殊な形で作られたここでしか使われない特注品。
空回りする直前で止め、蓋を取り外せば中身は幾つかのチップを収めるケースが目に入る。
けれど、埋まっているチップはたったの一枚。
「それで、何に変えたいんだっけ?」
「ええと……。」
薄目で、しっかりと見ないようにしながらそれを取り外し。
万が一何かが起こっても良いように小さなケースに収め。
此方を心配そうに見る少年へと目線を向け直した。
「そんなに心配するようなことでもないよ、向き不向きは誰にだってあるし。」
「そういうもの、なんですか?」
「そういうものなんだよねえ。」
最初に与えられたモノがどうにもしっくり来なかったから、と告げた彼。
抱えているものは、自分に対しての不安なのか。
それとも俺自身の腕に対してなのかは分からないが、まあ。
何しろ、周囲を見れば。
俺より年上しかいない……というよりも、明らかに俺だけが若すぎるんだから。
「それで? どの
「ええっと……レイガストから弧月に変えてみたいんですけど……。」
はいはい、と口にしながら。
彼の求める
(まあ、レイガストはどう扱うかも難しいしなぁ。)
新入隊員として加入して、既に二月程が過ぎているからなんだろう。
Cランク隊員……見習いのような、ボランティアのような立ち位置から抜け出そうと試行錯誤する事自体は応援する。
何より、こうして隊員を手伝うのも俺の仕事の一部なのだから。
「はいよ、交換終わり。」
「あ、有難うございます。」
「言うまでもないことだろうけど、使い勝手は全然違うから慣らしから入るように。 重さとか本気で違うから。」
「分かってます。」
そう、忠告のように口にしてしまうのも。
余計なことだと分かっていても、言葉として発してしまうのも。
俺には出来なかったことだから。
そんな内心が含まれているのは、誰よりも俺自身が分かっていた。
ぺこり、と頭を下げて去っていく彼を見送った後で小さく溜息を漏らす。
机の上に置かれた、一枚の写真を細目で見つめ。
隣に置かれた、小さな置き時計で時間を確認して。
「すいません、そろそろ時間なのでいつも通りにしてきます。」
「あ、もうそんな時間? 分かった、おつかれー。」
そう、室内の……俺と似たような事をしている先輩方に声を掛け、立ち上がる。
いつも通りと成りつつある、そんな日常。
求めていたものとは違ったけれど、自分に出来ることを探し続ける日常。
悪くはない、という思いと。
変えたい、という思いと。
平穏と変化とを同時に抱えながら、今日も普段と同じように身体を目的地へと向かわせる。
此処は、
そんな中の、
俺――――
今日もまた、
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山鳥 鷹-②
かつん。
かつん。
幾度も通った職場を歩きながら、ふとこの廊下へ意識を向けた。
俺を含めて、初めて来た人間の大半が迷うような作りで構成された本部内。
意図してなのか、それとも誰も気付かなかったのか。
何となく前者の割合が高いだろうな、と思いつつも。
迷っていた頃、ほんの少し昔を思い出す。
(そういや、あの頃はまだ――――。)
東北の一地方、自然豊かな土地。
俺は、そんな場所で代々猟師をしていた家系に産まれた。
両親に祖父、そして妹が一人。
何処にでもある、けれど少しだけ変わった家族の中で。
「祖父ちゃん、向こうに鹿。」
「おお、鷹はよく見えるなぁ。」
俺は、産まれた時から目が良かった。
良かった、というには
常に視力は2.0以上をキープし、本来なら望遠鏡で確認しなければいけないような距離でさえ目視で捉えることが出来た。
一つのものを集中して見てしまうと、周りが文字通りの意味で見えなくなってしまうという欠点もあったけれど。
見続けている間は、その物事に関してだけは時間が経つのが遅く感じるということも段々分かってきて。
そして、そうなってしまったとしても声を掛けられれば大丈夫だというのも学んだことで。
『そういうものなのだろう』
と、幼い俺は理解し。
家族もそんな俺を受け入れ、日常を過ごしていた。
そんな生活環境が変わったのは、中学三年の夏頃だっただろうか。
三門市に開かれた扉、異世界からの侵略者……そしてそれを防衛した組織。
彼等が一斉にニュースとして騒がれてから二年程が経った、そんな頃。
「山鳥くん、だったね。」
「? はい。」
『目が異様に良い』――――そんな話を何処から聞きつけたのか。
ボーダーからのスカウトを受けたのは、そんな時だった。
今でも思う。
それが、ある種のターニングポイントだったのだろうと。
中学生というのもあって、そんな誘いに乗り気になって。
両親を説き伏せ、高校に上がるのと同時に三門市に一人で引越した。
5つほど年下の妹は縋っていたけれど、それでも。
俺は、俺なら何かが出来ると信じていたから。
トリオン量……トリガーを操る才能、燃料の量にも運良く恵まれて。
さてこれから……と思っていた時に。
「……うん、これは
検査で告げられたのは、俺が生まれ持っていたモノについて。
この時点で、俺が取れる選択肢は殆ど喪失してしまっていた。
『強化知覚/視覚』。
そんな言葉で説明された、文字通りの副作用。
2つの能力を併せ持ち、だからこそ俺に悪意を向けた能力。
『物が良く見える。 一つのモノを見る場合は更に視覚距離が延長される。』
『物事を強く認知した際、その物事を処理する間は他の処理能力をそれに向ける。体感時間の延長。』
言ってしまえば、物が良く見えるのと走馬灯のような能力の合わせ技。
これらが合わさったことで、発生した事象。
物事が見えすぎるから、それを処理するために知覚を振り過ぎてしまう。
普段行っている、周辺視で捉えようとする認識ではどうしてもワンテンポ対応が遅れる。
感覚が延長されても――――肉体的な動作が早くなるわけではないのだから。
だからこそ。
Cランクから上に上がる条件の一つ、ソロでのランク戦に勝てない。
それどころか、Bランク以上でのランク戦に参加すること自体が難しい。
そう、周りが判断し――――それとなく告げられたのが。
技術者か、オペレーターとしての転属の道。
目的地、隅の方に設けられた小さな一室。
その扉に手を掛け、足を中に踏み入れる。
子供のように抱いていた、小さな想い。
それは確かに、一度折られ。
けれど。
もう一度立ち上がる切っ掛けを得たのも、また。
転属先での、出会いが始まりだった。
プロフィール:(本編開始、24巻 ※2014年2月時点)
山鳥 鷹(やまどり よう)
ポジション:(自称)トラッパー
年齢:16歳(高校二年)
誕生日:3月30日
身長:171cm
血液型:AB型
星座:はやぶさ座
好きなもの:読書、戦史研究、海産物、ラーメン、映画
パラメーター:
トリオン:11
攻撃:1
防御・援護:7
機動:4
技術:4
射程:6
指揮:3
特殊戦術:7
TOTAL:43
副作用:強化知覚/視覚
トリガー:
ランク指定外だが副作用による事故の危険性等を鑑みてCランクと同じものを支給されている。
スイッチボックスをセット済み。
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山鳥 鷹-③
多分一番合う適正は狙撃手だと思います。どっちか片方の副作用だけなら。
踏み入れた一室の中は、灰色一色で染まった空き部屋のような場所だった。
正確に言えば、この場所はB級に上がった隊員の中でもランク戦に参加するメンバー。
チームに与えられる一室と同じ作りをした、申請を出せば関係者なら誰でも使える。
そんな部屋。
「おう、元気か?」
「どう見えます?」
「相変わらず、って感じには見えるがな。」
そんな部屋で、中央に置かれたテーブルにパソコンを置いた男性が一人だけ。
普段とは違う、そんな室内の人員に疑問がまず一つ。
「……あれ? 今日は
「ん、
「特に聞いてませんけど。」
「シフトが変わったらしくてな、今は防衛任務に出てる。」
冬島隊隊長、冬島慎次。
元
俺に取っては技術者としての基礎からを叩き込んでくれた先輩で。
そして、『俺に出来る可能性』を提示し続けてくれる師匠。
「また急ですね。」
「しかたねーだろ、丁度手隙の人間がいなかったらしいんでな。」
成程、と言葉を一つ。
色んな意味で頭が上がらないし、口には出さないけれど尊敬し続けている相手に目線を向けた。
直視はしないように、少しだけ瞳を逸らしながら。
「そんじゃ真衣さんは……不参加で俺達だけですか。」
「不満か?」
「いえ全く。」
その分色々教われるだろうし、とは口にしない。
教え合う、意見を発するというのがこの集まりの趣旨なのだから。
内心そうは思っていても、決して言葉にはしない心持ちでいた。
その感情を、ある程度以上に察しているのが目の前の人物だとしても。
今現在、隊員として登録がある特殊工作兵は見習いとかいう曖昧な立ち位置な俺を除いて二名。
俺より半年程前に加入した、何故かトリオン体を丸く加工している(生身は愛嬌のある美人な)先輩……喜多川真衣。
そして、目の前の冬島慎次。
だから、予定を合わせる事は余り難しくもない筈なんだけれど。
「ま、とは言っても共有できるのが鷹だけじゃあんまり意味ないけどな。」
「まあ、この集まりの趣旨的にそうですよね……。」
特殊工作兵の性質上、そしてポジションの少なさと人員上。
ランク戦という形で戦うことは難しく、同時にC級からB級に上がるための条件も相応に特殊になる。
狙撃手であれば三週連続で正隊員を含めた全狙撃手の上位15%に所属すること。
そして、特殊工作兵として重視されるのは隠密性、戦術性、そして発想力。
トリオン量という大前提を超えても、其れ等が欠けた人物は工作兵としては成り立たない。
だからこそ。
数少ない特殊工作兵達はこうして集まり、互いに意見を交わしたり研究することをその代わりとしている。
「それでもしないよりはいいだろ。」
「それもそうですけど。 良いんですか?」
「後でお前から伝えとけよ。 そういう纏めるの得意だろ。」
「はいはい……。」
こうして振られることも、それなりに慣れてきた。
文書化、記録とすることで再度どういう目的で行われるのか、の復習にもなる。
理屈化された体術とも違う、相手の心理を読んだ上での攻防。
狙撃手でさえどうしても出来なかった俺にとって、戦場で何かが出来る唯
「じゃ、鷹。 いつも通りだが、お前から一つ出してみろ。」
指差した先にある一室――――仮想戦闘を行う為の訓練室。
いつも通りに、実際に設置・発動した上での意見交換を主としての教導。
「はい。」
それを、少しだけ楽しみにしている――――俺がいた。
プロフィール続き:
外見:
黒髪、後ろ髪は首元よりやや伸ばしている長髪。
目元は副作用を「軽減できる気がする」ので目が隠れる程度まで伸ばしている。
その上でやや狂った度のコンタクトを嵌めることで「注視」するのを物理的に防いでいる。(が視力自体は変わっていない)
体型はやや痩せ型、筋力はそこそこ。 瞬発型というよりは持久力型。
対人関係とかはぼちぼち描写しだしたら何処かの後書きで書きます。
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山鳥 鷹-④
メイン格にしたい女性キャラ三人程度にしたいけど二人しか決まらないのでまずは絞りたいのでご協力お願いします……。
相談会に費やした時間は、それでも尚普段と余り変わらない程度だった。
(やっぱり一人で考えてるだけだと煮詰まるなー……。)
直接的に相手を取る選択肢としての罠。
間接的に相手を惑わせるための罠。
「何かがある」と思わせるための布石としての罠。
一概に”罠”と呼ぶにしても、その目的自体は多種多様。
相手の前に立てない俺だからこそ、その先の先までを読み切る知識と思考が必要になる。
ただ、そんなものが一朝一夕で出来上がるはずもなく。
常日頃から考え続け、学び続ける必要性は俺自身が一番理解していても。
(結局、誰かと組まなきゃ本領は発揮できないのも事実なんだよなぁ。)
長時間話し合って、乾いた喉を潤そうと向かった先は食堂に程近い場所。
途中から少しずつ、直接的な職員ではない戦闘員達――――。
手を上げたり、小さく挨拶をしたり。
そんな、いつも通りの行動をいつも通りに過ごしながら向かう先で。
「お。」
「あ。」
面倒くさ……出来れば今は顔を合わせたくない知り合い、『友人』と自販機の前で遭遇してしまった。
先程まで考えてしまっていたことが脳裏に浮かび。
無意識に回れ右しようとして、肩を抑えられて。
「おいおい、何だよその態度。」
はぁ、と小さく心の中で自分に対し溜め息を漏らした。
トリオン体の身体なのに、妙に肩が痛くなるような違和感を感じつつもそちらを向く。
「研究会帰りでさ、頭使って疲れてるんだ。」
「別に疲れてたって相手くらい出来んだろーが。」
「まあそりゃそうなんだけども。」
「だったら露骨な態度やめろっつーの。」
苦笑いを浮かべ合うような、いつものようなやり取り。
自分の中で、どうにも割り切れない感情を抱く相手。
相手からもそれは何処か同じで。
けれど、何故か気が合うように『友人』付き合いを続ける相手。
「分かった分かった、俺が悪かったから手離してくれないかな……
「ったく。」
両手を上げて降参の意を示し。
それを以て肩から手を離され、自販機の前から一歩引く目の前の友人。
米屋陽介。
俺と同期で入隊し、持ち前のセンスであっという間に正隊員へと登っていった相手。
それを俺は、下から眺め。
途中で転属し、けれど付き合いは変わらずに今までを過ごしてきた同い年。
だからこそ、抱く奇妙な感情に名前を付けるのはどうにも躊躇う……そんな相手。
「んで、研究会ってーと冬島さんのとこのやつか?」
「そうそう。」
ことん、と落ちてくる紙コップに注がれる珈琲。
待つ間に時計を覗けば、もう既に午後の六時を回っていた。
砂糖とミルクをマシマシにしたそれが注がれ、取り出してまずは一口。
少しばかり疲れていたような、頭の芯に糖分が染み渡るような錯覚を感じつつも話を続ける。
「ただ、真衣さんが今日は来れなかったから。 文書化してたせいで疲れた疲れた。」
「あー……シフトの関係?」
そう、と再度頷いた。
ずず、と空気を含みながらの飲み方は余り行儀が良いわけでもないけれど。
今更それを気にし合うような間柄でもない。
というか、気にするような相手でもないし。
「ま、今のとこ
「だろうね。 俺も聞いてないし。」
支部を中心に防衛任務、として各部隊が配置される。
とは言っても、実際にトリオン兵が攻めてくるということもそう多いわけではないのだけど。
「そういやよ。」
「ん?」
「今さっきまで10戦やってたんだけどな、新人も活きが良いやつ増えてきてんだよなー。」
「へえ……って言ってもまあ二ヶ月も経てばそんなもんじゃない?」
相変わらず戦闘ばっかりやってるなこの槍バカ。
まあ、そうやって磨かれる腕という面があるから職員として何か言えるはずもないが。
「
多分そろそろ上に来るぜ。
そう、面白そうに口にする陽介に。
へえ、と口にしたつもりで。
言葉になっていたかは、分からなかった。
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山鳥 鷹-⑤
取り敢えずアンケートは次の話投げるくらいまで募集継続→6話でアンケート切り替え予定です。
諏訪さん……諏訪洸太郎。
諏訪隊隊長として活躍する、散弾銃を扱う
そして俺からすれば素直に頼れる先輩、兄貴分と言った人だと思う。
戦闘関係では接することは多くなくても、それ以外の活動ではちょくちょく顔も合わせるし
そんな人の弟子(とまで言っていいかは分からないけど)を相手取って圧倒できる新入り、か。
「実はよ、多分今もそいつら二人でやってるんだ。 どうよ?」
「それは……見に行かないか、って意味でいいんだよな?」
「モチ。」
戦闘狂、とまでは行かないが戦闘大好きな一面が思いっきり前に出てきて隠せていない。
俺自身も、見ること自体は嫌いじゃない――――というよりも、好きな方だ。
結局の所、戦術や作戦と言ったところで。
均一化された能力を全員が持つわけでなく、最終的には各個人の戦力と連携で決まるのがこの場所での「戦術」なのだから。
……だからこそ、自分が動けないことにいつまでもしがみついているのだけど。
最近は忙しくて中々見に来れてなかったし、いい機会か。
「まあ後は部屋に戻って、予習して寝るだけだから良いけど……。」
「ああ、お前寮だもんな。 ……って予習?」
職員専用の寮。
一人暮らしでなく此方を選んだ理由は……高校生という一身分ではまともに生活が出来るか不安だったから。
スカウトされてこの街にやって来ることが出来たのも、結局の所はその問題が解決できたからで。
C級では内部に与えられない、けれど上り詰めれば――――。
親と約束していた、一定期間での一人暮らしからの脱出。
当初の予定とは違ってしまったけれど、それでも尚約束には反していないというちぐはぐなのが俺の今の立ち位置。
「そりゃそうだよ。 最低限の基本じゃない?」
「いやー……俺テスト前の勉強くらいだし……。」
「それで成績ボロッボロになってんだからさぁ。」
そんな人外を見るような目で見られても困る。
今まで散々にフォローしてやってこう宣うんだからある種極まった戦闘脳だよな、と小さく息を吐きだした。
……というか、俺これでも
卒業まではAクラスにしがみつきたいし……。
「っていうか、学年末の試験は?」
「え? それ聞く?」
顔を真っ青にしながらそういう事言うのかお前。
テスト前に頭下げられたから仕方なく(テスト範囲とかが全然違うにも関わらず)教えてやったのに。
陽介の成績相当ギリッギリだからこそ、教えないと不味いと危機感を抱いたというのもある。
……仁礼さんとどっちがマシだっけ。
そんな雑談を交わしながら、向かう先はランク戦を行ういつもの部屋。
まあ、まだこれくらいの時間帯ならそれなりに隊員残ってるとは思いつつ。
角を曲がって、後は部屋まで直線を残すだけとなれば。
「あー……やっぱりバチバチやってるよな。」
「どんな感じよ?」
「モニターに見えるのは……うわ。」
副作用で、集中しすぎない程度に見る――――地元で動物を追っていた時のような感覚で、はっきりくっきり見える。
今回見に来たのは、其処ではない。
「銃手、突撃銃と拳銃同士でやってた覚えがあんな。」
「今は大型の方だと映ってる試合が違うっぽいし、小さい方で見るしかなさそうだなー。」
旋空弧月が振り翳され。
けれどその範囲を読んでいるように回避する光景が映っているが、意識して視線を外す。
隅の方。
小さくモニターに記された名前。
木虎 | ○ | ○ | × | ○ | ○ | × | × | ○ | ○ | - |
草壁 | × | × | ○ | × | × | ○ | ○ | × | × | - |
「木虎に、草壁?」
「そ。 最初から多めに得点貰ってたとかいう期待株だぜ? 木虎とかいうやつは。」
そうか、と画面を見上げる。
地形に誘い込む。
飛ぶ。
距離を取る/詰める。
そんな、互いを鍛え上げるような鍛造にも似た光景を見つめ。
ただ、見つめ続けて。
そして、一つの弾丸が頭部を貫く光景を見ていた。
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草壁 早紀-①
『勝者、木虎』
木虎 | ○ | ○ | × | ○ | ○ | × | × | ○ | ○ | ○ |
草壁 | × | × | ○ | × | × | ○ | ○ | × | × | × |
無機質な機械音が勝者の名前を告げる。
7対3。
其処に現れた結果が、現在の全て。
「結構差が出る試合だったなー。」
「同じ銃手同士の試合だったとはいえ、なぁ。」
攻撃手の間合い、に限りなく近い自身に有利な距離まで近付いて身のこなしを利用しての戦闘を仕掛けた木虎。
それを読んで、利用されないように建物のない場所まで引き込もうとした草壁。
けれど追い付かれ、最後の弾丸が先に突き刺さったのは木虎の扱う拳銃。
草壁が最後に放った弾は、相手の左腕を奪ったけれど――――と、そんな試合。
そんな試合を見て思ったこと。
「たださ。」
「ん?」
「あの飛んだり跳ねたりしてたほう……木虎か。 彼奴根本的に
適正間違いだなんてことは死んでも言えないし言うつもりもないが。
ただ、あの距離まで近付けるセンスがあるなら弧月なりスコーピオン使えば更に幅が広がるだろうに。
「あー、かもなー。 今はセンスで何とかなってる部分あるし。」
「相変わらずそういうとこは目端効くよなー。」
「そりゃそうでしょ、これでもバリバリの攻撃手よ?」
まあ、C級は使えるトリガーも一つだけという制限もある以上。
B以上……4000点を超えてからの話になる気もするが。
今、こうして
「お、出てきた。」
ブースから小さく溜息を吐きながら出てきた、先程の画面に見えていた人物。
俺よりも明らかに小さく見える
横顔だけは視界に入っていたけれど。
「何というか、無愛想って言葉が似合う気がするんだが。」
「可愛げがないって言ってやれよ。」
「変わらねえよ。」
苦笑交じりに言葉を出す。
まあ、仏頂面という意味合いではもっと凄い人がいたりするからまだあの程度は、と思ってしまう部分もあり。
周囲に視線を向けないその姿勢は、何かを考え込むようでもあったが。
もう片方のブース……先程まで戦っていた『草壁』というらしい相手も出てきたので、思考をそちらに向ける。
「…………。」
はぁ、と漏らす吐息は疲労からなのか別の要因からなのか。
長髪を二本に縛ったような髪型の少女がブースから現れた際には、顔色はあまり良くないように見受けられた。
「で、諏訪さんの弟子っぽい方があの子?」
「だな。 まー、あの人の事だし『弟子』とか認めるかは分かんねーけど。」
『見どころがあるやつの面倒見てるだけだっつーの』くらいは言いそうだよな、確かに。
そんな雑談を交わす俺達の視線に気付いたのか、一度小さく頭を下げた。
……少しだけ、興味が湧いて。
何が出来るわけでもないけれど、俺は彼女へと少しだけ近付くことにした。
後ろの陽介は、多分。
何か面白そうなものでも見られるように笑っている気がした。
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草壁 早紀-②
距離を詰めれば、浮かんだ表情は何処か訝しげなものだった。
それもそうだ、特に俺の格好とか明らかに通常隊員の物と違うし。
それよりも何よりも、知らない相手が急に近付けば少しは警戒するものだろう。
「思いっきり警戒されてんじゃん。」
「それくらいのほうが普通だと思うんだが。」
「ボーダー関係者がそんなもんでいいのかねえ。」
後ろから聞こえてきた陽介の言葉をスルー。
逆にお前が人懐っこすぎるだけって言っちゃダメか。
「悪い悪い、後ろの槍バカから諏訪さんから教わってるって聞いてちょっと気になってな。」
「は、はぁ。」
「うっせえ罠バカ。」
誰が罠バカだ。 そんな名前で呼ばれるレベルまで行ってないわ。
「距離取るのに失敗する、って感じ?」
何と言って良いのか悩ましげに。
それでも
完全な無面目、一切顔色の変化しない相手や表情を貼り付け切っている相手でもなければ。
表情筋の少しの変化から、推測することくらいは出来る――――出来てしまう。
「そう……です、ね。 負ける時は距離を潰されて、障害物を利用されるケースが多いです。」
それは、多分。
教わってる相手に対する『申し訳ない』、という感情なのだろう。
教わったことを活かせない。
或いは利用されて、発展できない。
特に今は互いにトリガー一つの状況で不利が付いている。
B級以上で、複数トリガーが解禁されれば……と。
そんな思考が欠片も無いとは思わないし、思わないなら隊員としてなにかが間違っていると俺は思う。
「なぁ陽介、お前ならどうするよ? 相手が……そうだな、スコーピオン使いだったとして。」
「近付かれる事を前提に仕込むんじゃね? スコーピオンなら打ち合えば脆いしなー。」
「やっぱりそういう方向性だよなー。」
余計なお世話だと分かっていて、こうして話しかけてしまった以上。
何かしら方向性を見出してしまいたくなるのも、多分悪癖に近い何か。
あの……と掛けられる後輩の声を手で抑えつつ、思考を回す。
「拳銃型に対しての突撃銃型の利点が援護のしやすさ……射程距離と制動性の良さの筈だしな。」
確かあの班で軽く話を聞いた時はそんな事を言っていた。
威力と弾数とかのバランスと、片手/両手何方で扱うとしても邪魔にならないデザイン性を模索してるとか。
その御蔭でちょっとずつ形が変わってるはずだし。
だが、今はその利点を押し潰されているわけで……となれば、まあ。
俺が提案できるのは一つか。
「悪い、ちょっと悪い癖が出てた。」
「癖……ですか?」
「こいつ、トリガーに関して考え込むと無駄に思考回すんだよ。 まあそれで良いのかもなー、
そう確かに呟くのが分かった。
……志望は
「彼女に対抗する手段、としてなら……教われる相手が諏訪さんってのも加味するなら、銃器の変更辺りを俺は勧める。」
直線間の距離でなく、近接の間合いでの動きを弾で制圧する。
それにぴったりな種類もあるし、師匠ともお揃いだし。
教えやすい部分もあると思うんだが。
「突撃銃から、ですか?」
「別にトリガー自体は好きなタイミングで変えられるし。 騙されたと思ってやってみるなら協力するけど。」
「…………少し考えます。 一応聞きますが、そのトリガーは?」
単純だよ。
そう前置きをしつつも。
「其処の陽介みたいにマスターレベルだと容易に対応してくるだろうけど、考えを変える練習としてね。」
散弾銃型、使ってみない?
弾種はそのままアステロイドとかで。
そう、何の気無しに提案した。
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迅 悠一-①
「少し、相談含めて考えてみます。」
結局、少しの時間を費やして彼女が告げた言葉はそんな結論だった。
確かに今までと立ち回りそのものが変わる、という部分はあるし。
今のままで対応したい、という考えの場合も尊重するものでもあるのだから。
「分かった、なら何かあったら
「山鳥さん、ですね。 改めまして……草壁早紀です。」
「ついでに俺も。 米屋陽介、三輪隊所属の
その後、陽介は適当にランク戦吹っ掛けて腕を磨くというので別れ。
草壁さん(ちゃん、と言うにはしっかりしすぎてるしそう呼ぶ勇気がなかったともいう)も少し休んで帰るというので別れ。
一人、元来た通路……とは少しだけ違う道を戻っていく。
トリオンで補強された、普通の――――学校などで見かける壁とは少しだけ違う、硬質性を保った道。
集中する余地がないから。 危険を感じる理由がないから。
特に俺のサイドエフェクトは、心持ち次第で作用してしまう部分が大きい側面を抱えているから。
自然に『安心』しているのだと、そう思う。
(副作用、とはよく言ったもんだ。)
それを身につける素養は、トリオン量次第。
仮にそれだけの量を保有していても持たない人間もいる。
例えば……そう、二宮隊の隊長とか。 本当に羨ましいと、そう思ってしまう。
ボーダーにも一定数の副作用保持者はいるけれど……。
「お。」
そんな感情を掘り下げながらの道行きの先。
考えすぎも良くない、と思った矢先。
曲がり角からぬっと現れた、見覚えのあるゴーグル姿。
「迅さん、何してるんです? こんなとこで。」
迅悠一。
たった二人のS級隊員……
そして、未来を見るというサイドエフェクトを保有する
視覚に関係するサイドエフェクト保有者同士、ということでそこそこ仲良くはさせて貰ってる。
「お、鷹。 いや、鬼怒田さんにちょっと用事があったんだけど……城戸さんに呼ばれてるとかでさー。」
「へえ。 あ、そうだ。 またオペレーターにセクハラしたんですって?」
「えー、どの件?」
それが趣味かというレベルで手を出しては殴られたりなんだり。
まあ愚痴とか文句、物理行使で済んでいる時点でこの人も相手選んでるんだろうなーと思わなくもない。
その内訴えられても一切庇う気はないが。
「複数ある時点で間違ってると思いましょうよ。 女子の間で噂されてましたよ?」
「え、このエリートのことを?」
「その内仕返しでボッコボコにする計画らしいです。」
「うわこっわ。」
城戸さん……城戸司令の一室と寮のある方向は同じ。
だからこそ、隣り合うように同じ方向へと向かっていく。
「あ、そうだ。 鷹、一応忠告しとくよ。」
「忠告……って何か見えたんですか?」
「ああ。 まあ半々くらいの確率だし、お前なら見過ごさないと思うんだけどな。」
先程の情報の礼とばかりに、一つ忠告をと。
なんだろう、この先で何か見るのだろうか。
「近い内にどうするか迷う事があると思うけど、お前の普段通りの判断してくれ。」
「……それが、忠告ですか?」
「そう。 少なくともお前さんには悪い影響が起きる未来は見えないから。」
分かりました、と。
少しだけ、嫌な予感を覚えつつ。
そう忠告される相手で、迷う事。
……一方的に距離を取ってる人達の誰かじゃなかろうか、という不安。
何となく、当たりそうだなぁなんて思わされてしまった。
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山鳥 鷹-⑥
BFF上とかで勘違いしてたところを付け加えたりしてるだけなので……。
そろそろアンケートは締め切っていいかな……明日いっぱいくらい?
行ってきます、と誰も返事を返さないのを分かっていて本部……寮を出る。
まだ朝の時間帯には寒気が残っていて、それでも少しずつ春の陽気が芽生え始めた時期。
春休み……卒業と入学の時期までを少し残した、ロスタイムのような時間帯。
さくり、と霜が張った土の残った地面を踏み締めた。
「……おはようございます。」
「……おはよう。」
後輩……六頴館の中等部の格好をした眼鏡の少女と普段通りの挨拶を交わし、追い抜かれていく。
同じように寮から出てくる学生……中学生や高校生の数はそう多くないとは言え、確かに存在する。
俺のように遠くからスカウトされてやってきた中でも、一人暮らしを選んだB級以上の隊員。
大規模侵攻での被害者の中で、正隊員になることを選んだ被害者達。
そういった様々な過去を併せ飲むからこそ、各派閥が存在してしまうんだけど。
(余り深く踏み込みたい内容ではないんだよな……。)
近界民に対して強く敵対心を抱く理由もなく。
防衛第一で、日常を守る専守防衛として専念出来る立場でもなく。
ある種の独自の立ち位置を持つ、
(いつかは、関わらなきゃいけないかもしれないけど。)
それぞれの派閥に多かれ少なかれ関わっている知り合いや友人の顔を思い浮かべながら、溜息を漏らした。
「朝から溜息だなんて、どうかしたの?」
そんな折だ。
背後に忍び寄っていたように、肩を叩かれたのは。
飛び跳ねるまではいかなくても、焦る――――そんな身体の反応を起点として、思考が回ってしまう。
流体の中を流れるように見える視界が一瞬浮かび。
けれど、その声色が知り合いの物だと気付くことで心拍数が急激に落ち着いていく。
「……朝から挨拶だね、栞さん。」
「元気がない鷹くんが悪いんでしょ?」
皮肉交じりで言っても余り意味がない相手で。
だからこそ、何か追求するのも疲れてしまうと判断してジトッとした視線で眺めるだけに留める。
そして、そんな内容を薄っすらと浮かべた笑みで受け流されるから相性が悪い。
宇佐美栞。
陽介の従姉妹で俺と同クラス。
成績は数学系で負けてるけど国語系で勝ってるくらいの微妙な間柄で、それなりに仲が良いボーダー関係者の同年代と言ったところ。
そして、今は独自の立ち位置を持つ支部……玉狛支部に所属する二人のオペレーターの一人。
「あんまり変わらないと思うんだけど。」
「じゃー、私の勘違いでもいいよ?」
「…………。」
どうにも話をしていて相性が悪いというか、噛み合わないというか。
ただ、そうして彼女が見せる明るい表情が崩れて欲しいとかそういうわけでもない。
純粋な、異性間の友情。 或いは同僚へと感じる好意。
そういったものが成り立っていると、俺自身は思っている相手ではあるので。
「まあいいや。」
「ん?」
一度、色々考えていたことを無かった事にする。
「おはよう、栞さん。」
「はいおはよう、鷹くん。 ご一緒していい?」
「好きにしてくれ……此処で拒否する理由もないし。」
「辻くんとかならするよ?」
「やめてあげない?」
彼は氷見さんに任せていいと思うんだ。
普通に話も合うし、良い友人だと思うけど女の子への免疫が無いからなぁ……。
「私はただ学生時代を楽しみたいだけなんだけどなー。」
「それは良いけど、人は選ぼうね。」
ただまあ、コンタクトをしている事は知られているので。
なにかあると眼鏡にしないかと勧めてくるのだけは困ったものだが。
そんな戯言を告げながら。
ただ、学校へと歩みを進める。
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宇佐美 栞-①
その日の授業も無事終了。
特に今日は部活動とかも無いし、と帰宅する準備をしていれば。
「鷹くん、今日暇?」
「?」
隣に座る栞さんが、此方に向けてそう問うてきた。
「昨日が朝からだったし、今日は特には。」
学生という身分も有り、そして同時に住んでいる場所が本部内というのも有り。
防衛任務のシフト程度……もう少し言い直すなら学業に支障が無い程度に仕事の量は抑えられている。
とは言っても臨時部隊みたいな余裕があるわけでもないので、2日に一度仕事――――その程度。
上の立場になってくると自主的に休日出勤してたりもするけど、それでも遊んだりする時間はあったりするのだし。
一番倒れられると困る人に限って休まないのは多分うちの組織の悪いところなんだろうなぁ。
「そっか~、じゃあちょっと時間あったりする?」
「別にいいけど……え、何用?」
少し怖いんだけど。
「
「クローニンさんいるじゃん……。」
カナダ人とか言ってる人。
前に話をさせてもらった時は、トリガーに関しての知識が豊富で色々勉強にはなったんだけど。
「今スカウトで県外なんだよねー……。 無理にとは言わないけど。」
「まあ玉狛は特に無いと困る、か……。 って言っても俺も触りしか分からないけど。」
「それでも良いよ、状態だけ調べたいんだけど取っ掛かりすら分からないと迷惑かけちゃうからさ。」
俺には良いのか、と考えなくもないが。
まあ時間もあるし……と思ったところで思い当たる。
(……昨日迅さんが言ってたのこれか?)
にしては早すぎるし、半々くらいになる確率がよくわからないんだけど。
壊れるか、持つかが半々だった――――ということなのだろうか。
「ま、前提が分かっててくれるなら良いよ。 久々に陽太郎にも会っておきたいし。」
懐かれていると言えば良いのか、遊ばれていると言えば良いのか。
本部に時折顔を出すちびっ子だが、目的の相手を待つ間は職員の誰かしらが面倒を見ていて。
例の……何だっけ、あの巨大な動物。 雷神丸って名前は覚えてるのに出てこない。
アレに跨った陽太郎と出会って、それなりに仲良くしてきたが此処暫くは忙しくて顔すら見れてない。
丁度いい機会といえばそんなタイミングだった所だ。
「良かった、助かる~。」
「……っていうか、何をしててそんな状態になったわけ?」
「えー、ちょっと趣味の調整をしてたら何だか姿がブレちゃってね……。」
「いや、栞さんのことだから無茶なことはしてないとは思うんだけども。」
玉狛関係者が破損させるとかは余り考えない。
ランク戦にこそ関われていないけれど、その理由も理由たる所以があり。
単独でチーム相当と定められる人員でさえ二人も抱えていることだし。
……やっぱり支部一つで一派閥形成できるのって何かおかしいよな、彼処。
「多分単純に配線系列の断線仕掛りとかだとは思うんだけどね、完全に姿が出なくなったわけじゃないんでしょ?」
「そうそう。」
「だったらまずは箇所の特定からかー……。」
まあ、あの中身を全て理解できているわけでもない。
それこそ鬼怒田さんみたいなド天才と、昔のボーダー関係者の知識。
後は”遠征”で得た内容の合わせ技みたいな部分は絶対あるんだろうし。
何をどうしたらトリオンの動きを再現できるんだろうか、未だに謎が深まる一方だ。
「私も勿論手伝うからね。」
「出来ればレイジさんとかの力も借りたいけどなー……。」
背後でヒソヒソ。
視線が幾つか背中に刺さる。
……唯のボーダー関係者同士の話程度だぞ、本当に。
噂されるようなことじゃない、と声を大にして言いたいが……聞いてくれないんだろうなぁ。
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宇佐美 栞-②
川の中ほど、元は何かの施設だったらしい建物。
玉狛支部はそんな場所にあって、今日も変わらず周囲の背景に溶け込んでいた。
「ただいま~。」
「お邪魔しまーす……。」
口々にそれぞれの場所への感想を告げて、手にぶら下げた袋ががさりと揺れる。
「お? しおりちゃんに……よーか!」
そして入口で出迎えたのは例の雷神丸に乗った陽太郎。
乗り物みたいにしてるが……良いのか? もう突っ込む気にもなれないけど。
「どーも、陽太郎。」
「おやつ買ってきたから皆で食べようね。 レイジさん達は?」
「ううむ、まだもどってない。」
おや珍しい。
数ヶ月くらい前までは一位だったが、今何位だったっけ。
玉狛独立というか一気に派閥化した際のゴタゴタでランク戦から離れたもんな、此処。
「何かあったりしたの?」
「とくにきいてないしどっかよってきてるんだろーなー。」
手荷物、というよりは今日のおやつ(少しいいとこのどら焼き、お徳用詰め合わせ)が入った紙袋。
俺の片手には途中で寄ったスーパーでの食材が入ったビニール袋。
なんでも今日の料理当番が何とか、と言ってたが……まあ食堂とかが隣接してるわけじゃないならそうだよな。
内部の人員で作るくらいしか無いはずだし。
「そっかー……どうする?」
此方に目線を向けての会話。
陽太郎はじーっと紙袋に目線を向けたままで。
……今何歳児だか分からないけど、この年頃ならまずそうだよな。
「先に状態見るよ。 プログラムとかのミスだったら栞さんのほうが詳しいだろうし。」
「分かったー、じゃあ一度主電源落とす?」
「その前に状態見せてもらえると助かるかなぁ。 写真とかで相談できるかもしれないし。」
「はいはい。 じゃあこれだけ仕舞って……。」
キッチンの入り口で待ち構えながら、今日のシフトを確認。
誰か相談しやすい人でもいればいいが……最悪は鬼怒田さんだな。
出来れば無理させたくないなぁ、シフト見る限り今日休みのはずだけどどうせ働いてるんだろうし。
まあ俺に無理なら明日報告ってことで相談しよう。
「ごめんね、お待たせ~。」
「別にいいよ、じゃあ見られる部分見ちゃう……前に、工具は借りても良い?」
「勿論! 私が普段使ってるのでよければ、だけど。」
クローニンさんのはちょっとねー、なんて言いつつ眼鏡を持ち上げて。
まあ、貸すのを嫌う人も勿論いるしな……。
ただ、あの人の場合はきちんと声をかければ大丈夫なタイプだと思ってる。
当人がいないから、ということだろ。 今回は。
「いや、俺から申し出てるのに誰のだから何て贅沢言えないって。」
「分かった、ちょっとだけ待ってて。」
工具が置いてあるというスペースに向かう彼女と別れ、制服が汚れないように上着を脱いで片隅に丸める。
腕を捲り、その上で状況を確認できるようにタブレットの電源を入れる。
様々な情報を確認できる用途で配布されているものだけど、俺の場合は専ら
ランク戦とかの映像を見る事もできるけど……時間が噛み合うなら実際に見に行ったほうが為になるし。
それに、Bランク以上なら……大体が俺の事情を知ってくれているから。
「なぁ、よー。」
「ん?」
気付けば近くに寄ってきていたちびっ子に話しかけられ、そちらに意識を向ける。
「しおりちゃん、なにかいいことでもあったのか?」
「いや、知らないけど。」
「さっきたのしそうになんかいってたぞ。」
…………何をだ。
恐る恐る、確認してみた。
「おにゅーのやしゃまるしりーずつくるんだー、とか。」
なにそれ。
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小南 桐絵-①
がちゃり、がちゃり。
少し軋む音を立てて、ボルトを再度締め直す。
「……はぁ。」
細かい部品、細かい部分を道具無しで確認できる……なんて、サイドエフェクトの微妙な使用法。
普段は特に道具を用いなくても周囲の観測なんかが出来る、って意味合いで使ってるものだけど。
なので、仲がいい相手からは『
……冬島さんから学んだ事を活かしたい、という感情は忘れたくはない。
だから、俺の出来る役割はその2つ。
「あれ。 もう終わり?」
「ん?」
そうして作業が一段落し、背後側から掛けられた見知った声色。
栞さんではなく、もっとこう……闊達な感じと言えば良いのか。
「帰ってたのか?
「あんたその言い方やめろって散々言ったわよね……?」
小南桐絵、華も逃げ出す女子高生。
こんなのでも俺よりボーダー歴では明らかに先輩、古参。
ただ(戦闘能力を除いて)敬う気がほぼ起こらないのは逆に凄いと思う
変に敬称を付けるのも互いに違和感があったせいか、単純に呼び捨てになって幾星霜。
「何してるんだ?」
「それは此方の台詞なんだけど……なんであんたいるのよ、
「お前のその言い方もやめろって言った気がするんだけど……。」
「お合いこよ、お合いこ。」
そんな言葉知ってるんだ……ってのはまあ良い。
身体半分だけ出して覗き込んでるのは流石に問いかけても許されると思うんだがどうだ。
集中してたからだろうが、見られてたことに全く気付かなかった。
「俺はあれだ、栞さんに頼まれて訓練室の修理……前の調査?」
「あんたが? 大丈夫なの?」
「完全に直す自信が無いから調査してたんだよ。」
「あっそ。」
全く以て似合わない
前にちょっと聞いた限りでは1オペレーターとして振る舞ってるとか何とか。
ドヤ顔だったか恥ずかしがってたかまでは忘れたけど……どっちだったっけ。
「そんでどうなの?」
「内部配線の断線……になりかけ、ってところっぽいな。 状況としては電線繋ぎ直せば済むレベル。」
「ならやっちゃいなさいよ。」
「その配線が此処にねーんだよ。 明日本部から持ってきて対応すればまあ終わる……ってとこか。」
ただ、作業をする上で邪魔になる部分があるしやはり男手が一人欲しい。
京介はバイトで忙しいだろうし、可能ならレイジさんの力借りたいな。
……本来は本業の配線屋、電気屋でも呼べれば良いんだが。
迂闊に内部に人を招くわけにも行かないし……資格取り立てのニュービーで対応できる範囲でまだ良かったという感じ。
「ふぅん。 あ、そうそう。 レイジさん今日帰り遅いみたいだから何かあるならあたしから伝えとくわ。」
「じゃあ明日車と人手貸してください、って伝えといてくれ。 俺は帰ってチーフに状況説明と相談しとく。」
「はいはい。」
本日は此処まで、ということで手を叩き。
凝り固まった身体を伸ばしながら立ち上がる。
「あ、そうそう。 うさみがお礼にってご飯作ってるけど食べてくでしょ?」
「えー……邪魔じゃない?」
「一人分増えるくらいなら変わんないわよ。 それに鷹なら今更じゃない。」
「……礼儀って知ってる?」
「知らないわけ無いでしょうが!」
そんな風に誘われて。
特に否定する理由もなく、報告の写真をタブレットで送付してから。
工具類を部屋の片隅に移動しようと、持ち上げた。
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小南 桐絵-②
「……ちょっと意外だった。」
「何が?」
「いや、栞さんの料理の味。」
帰り道。
小石を一蹴りしながらの河原沿い。
俺の副作用を知っているからか、特に夕暮れ時は一人で帰そうとはせずに。
『ちょっと本部まで付いてくわ、丁度用事もあったし。』
そんな言い分を突きつけて、小南と共に道を歩く。
トリオン体での暗視補正程効果がある訳ではないが、それでも『視力』という五感に関わる能力。
真の闇の暗さを身を以て体験しているのもあって、この街の暗闇くらいは朝や夕方と然程変わらなく見えるのに。
もう一つの副作用が、その隙間を貫いてくる。
「そりゃ一週間に一回は確実に回ってくんのよ? 出来ないわけ無いでしょーが。」
「そりゃそうだ。」
「っていうか、鷹は食べたこと無かったんだっけ?」
「無いねえ、レイジさんとか京介のは男同士ってのもあって気楽に食べられたが。」
そっかー、と言いつつも足元でコロコロと転がってくる石ころ。
蹴り返せば、足先で受け止めもう一度蹴り飛ばす。
「その内また来なさいよ、あたしのも食わせちゃる。」
「…………出来るのか?」
「あんたね……。」
「待て、冗談だ。 だからその手を降ろせ。」
首元に手を伸ばすのはやめろ。
知り合いにでも見られたら不味いだろ。 お前が。
「全く。」
「悪い悪い。 ……しかし、良くお前学校で正体バレてないよな。」
「その辺は慣れてるもの。」
「慣れで何とか出来るのも十分な才能だと思うけどな。」
ふと、空を見上げる。
いつかも見た、変わらない星々と三日月が浮かんでいる。
「そういえば。」
同じように、小南も足を止め空を見上げていた。
「
「あー……三日月だったっけ、そういや。」
小南との最初の邂逅。
やる気が全くなさそうにしながら、入隊式の手伝いとして並んでいた時。
『広報部隊』としての役割を持ち始めていた嵐山隊と一緒に新入隊員を案内して。
そして、その前の段階で疑問を抱かれ始めていた俺の異常さを突きつけられた時。
医務室まで付き添ったのも、小南だった。
ボーダー本部から出て、ただ何も考えられずに空を見つめた時も――――こんな空だった気がする。
「あんたはさ……まだ諦める気はないわけ?」
「何だよ、急に。」
「いやー、はっきり聞いた覚えないなーって思ってね。」
「そーだなー。 ……まあ、諦めるつもりはないよ。」
特殊工作兵と、観測手としての二輪。
何となく、その方向性がやっと掴めてきた気がする。
まあ、ランク戦に出られないから机上の空論に過ぎない状態だが。
「ふぅーん。」
「何だよ。」
「んー、別にー。 たださぁ、うさみとも仲良くやってるなら一つ提案するだけしてみよーかなーって。」
「何をだよ。」
え、大したことじゃないわよ。
「特殊工作員だか観測手として動けるか。 防衛任務に同行して試すのも手だとあたしは思うんだけど……どう思う?」
賛同するならうちの
無論、その前段階で何度か実験してからになると思うけどね。
そんな、月の下での提言。
「勿論、オペレーターにも協力して貰う必要はあるしー、サイドエフェクトを
勇気はお持ちですか?
おどけながら。
くるり、と。
小南は、目の前で一度此方に目を向けて――――小さく笑ったように見えたのだ。
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那須 玲-①
『実際どうなるかは分かんないけど、覚悟だけはしとくように。』
本部の入り口でそんな言葉を残して去っていった小南。
少しの間そこで立ち尽くした後で、自分自身について息を吐いた。
ああ、みたいな。
曖昧な返事を彼女は了承の返事として受け取っていったけれど。
俺は――――はっきりと、返事を返せなかった。
経験が甘い、実際に現場に出たことがない。
幾らでも理由を付けられても、結局の所は自分を認められていなかったから。
(恥ずかしい……。)
自分を恥じる。
自分に何かが出来ると思いこんでいても、前に踏み出す契機として受け取っても。
『防衛部隊』の中で何が出来るのか、大手を振って言い切れないと心の何処かで思ってしまっていたからか。
或いは。
”誰かの為”。
”復讐の為”。
”戦いの為”。
”未来の為”。
俺は、活躍という結果だけを求めているからなのか。
出歩く人数も少ない道を進み……食堂前へ。
思ってしまったものを抱えたまま自室に戻りたくなくて。
少しだけ休んでいこう、そんな逃避の感情を込めて向かった先で。
「……あら。」
(…………。 おいおい。)
防衛任務上がりなのか。
トリオン体の女性――――どうにも忌避感が抜けない少女が珍しく座っていた。
隊の部屋ではなく、此方にいるという意味合いで珍しく。
そして、そもそも一人でいるのもなかなか珍しい少女……那須玲。
「……どうも。 任務上がりですか?」
「そう――――ね。 少しだけ、喉が渇いてしまって。」
身体が弱く、トリオン体で普通の生活を得た彼女。
トリオン量の影響……サイドエフェクトの影響で日常生活を含め影響が出た俺。
同じトリオンを用いても、正と負の影響方向の差が出てしまっている。
だからこそ、彼女のことを不思議と苦手にしていた。
……知り合った当初の出来事がなければ、事務的な話さえ行うか分からない。
余り知らない間柄で済んでいたはずなのに。
「山鳥くんは……今帰り?」
「ええ。 少し用事がありましてね。」
実際は、こうして出会うことがあれば
積極的に探す、ということはお互いに余り無いけれど。
機会があれば話し込んでしまい――――後で、自分に対して何かの負の感情を覚えてしまいがちな人。
精神的にかなり強い……というよりは仲間思いで、同時に『軍人』としてタフな資質を兼ね備えた人物。
そんな事は当然のように分かっていて、誰からも慕われる相手なのも分かっていて。
どうしても比較してしまうから、なのだろうか。
「珍しいわね、用事だなんて。」
「体の良い肉体労働ですよ。
そう、なんて。
呟きながら口を付ける。
薄暗い室内に漂う白い湯気が、棚引いて見えた。
「任務の方は?」
「トリオン兵が一体、弓手町支部の方で出たわね。 特に問題なく片付けたから。」
極自然に、当たり前のようにそう告げる。
それをするだけの訓練をこなし、それを出来るだけの腕前を持つ彼女に。
何も思わないのかと言えば、嘘になる。
「……座らないの?」
「そう……ですね。 それじゃあ。」
何となく、立ち去る機会を失って。
勧められるがままに、腰を落ち着けてしまった。
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那須 玲-②
周囲に漂っていたのは甘い匂いと、少しのカフェインのような香り。
カフェオレか何かでも飲んでいたのか。
両手に抱えられたカップの中には未だ半分程中身が残っているようだった。
「……。」
「…………。」
目線を交わす。
口を開こうにも、話題が浮かばなかった。
苦手としていても、嫌いなわけではない。
それなのに浮かばないのは、多分に。
先程までの混乱が残っているのが大きな要因を占めていたのだと、そう思う。
けれど。
こういった静寂の環境は時折起こるもので。
そして互いに、それを嫌うというよりは
だからこそ、飲み物を飲む際の喉音さえも響く環境で。
――――心を落ち着けるには、十分過ぎる時間が過ぎていく。
「……ねえ。」
「はい?」
そんな静けさが打ち破られたのは数分後。
彼女から告げられたそんな言葉が切っ掛け。
「……少しは、落ち着いた?」
ぽつり、と漏らす言葉が闇の中に響く。
「……え、っと。」
「気付かないと思ったのなら。 少しだけ、嫌な気分かな。」
上手く誤魔化す言葉を選ぶのにも失敗し。
畳み掛けるように告げられた言葉に、頷くしかなくなる。
「何があった、とかは……
君、と言った少しだけ離れた言葉。
変に気を使わずに言ってくれる言葉。
それ自体が、此方を慮って告げてくれる気持ちを示しているのが伝わってくる。
「大丈夫?」
「……はい。 ちょっと、その。 個人的な感情というか、バカバカしい事なので。」
入隊の時期としては彼女のほうが後で。
年齢としては同い年で。
そして、組織への貢献や知名度としては彼女が上で。
後輩のような、上司のような。
俺が一方的に抱く感情を含め、昔父が言っていた『難しい間柄』というのはこういうものなのか。
ただ、男女間にある性別差――――という言葉だけでは片付けられない奇妙な想い。
「話を聞くくらいなら、いつでも出来るからね。」
「……有難うございます。」
任務以外では。
殆どが家にいなければならない、病弱の身であるからこその言葉で。
そして、それを良く知っている俺は……させてはいけない表情で。
「那須さんも。」
だから。
咄嗟に言葉を口にしたのだと思う。
少しでも、そんな顔を打ち消そうと思ってしまったから。
「うん?」
「……時間がある、ってのも中々無いでしょうけど。 少しくらいなら付き合えますからね。」
普通にしているのなら、隊員達と仲良くしている筈なので。
特にオペレーターの志岐さんは男性が極度に苦手だったはずだから、余計に無いとは思うけど。
「隊員には言い難いことの吐き出し先くらいには、なれますから。」
正負の反対側だからこそ。
実際の肉体面でも、正反対だからこそ。
受け止められることがあるのだと、そんな風に思って口にする。
「ふふ。」
「……笑うことですか?」
小さい笑み。
その意味合いは、多分先程とは違っていた。
「ううん、有難う。 ……色々考えて言ってくれたことは、嬉しかったわ。」
「なら良いんですけどね。」
「後一杯だけ飲んだら、部屋に戻るわ。」
「家には戻らないので?」
「今日は家に戻っても、誰もいない日だから。」
そうですか、と答え。
そうなのよ、と返され。
「だから……もうちょっとだけ、付き合ってくれる?」
「……熊谷さんとか、呼べばどうですか?」
「くまちゃんは心配性だから。 それに、鷹くんが見ててくれるでしょ?」
「……そうですか。」
彼女の手元の湯気は――――気付けば、完全に消えていた。
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山鳥 鷹-⑦
奇妙な感覚と合わせ、目を開く。
周囲がゆったりと、水の中でも漂うように鈍足に見える。
自分の体が錆びついたようにしか動けない中、思考だけが正常に回り続ける。
(……また
目覚めたばかりの薄ぼんやりとした思考だと判断する部分と。
何かを――――まるで走馬灯のように思考を回転させ続ける部分と。
何方をも俯瞰するような自我を保った俺が脳内にいるような奇妙な感覚。
一言で言ってしまえばパソコンやタブレットのような。
複数の並列思考を走らせているのを理解し、認識し続けているだけの状態。
ずっと昔から
(……。)
少しずつ、周囲へと知覚を振り分ける。
誰かが近くにいるのなら、掛けられた声や動作でそちらに意識が向くから解除できるけど。
単独の場合は少しばかり時間を要する。
こういった部分も狙撃手という――――瞬間を切り取り、放つ役割には向いていて。
同時に不向きだった。
「んん……。」
周囲の遅延も次第に正常に戻っていく。
時間に取り残されたような感覚。
時間に追いつくような感覚。
決定的に何かが外れているような、誰かがいなければ気でも狂ってしまいそうな世界の中で。
普段のように、目を覚ました。
(今何時だ……?)
時計を覗く……目覚ましが鳴るまで残り十分。
毎朝とまでは言わないが、ほぼ毎日起こるこの状態から目覚めるまでを加味してのこの時間。
長い時には十数分程度掛かることを考えると――――端的に言って、時間が余っていた。
身体を起こし、ケーブルに接続したままの枕元の端末を手に取る。
(緊急連絡は無し、ただ昨日の連絡の通りに配線は準備しておく……っと。)
すいすいと指先で確認。
見る限り、俺の今日からの仕事は玉狛支部の修理でタスクが埋められている模様。
(早々
ランク戦の映像を見たり、本部からの通達を受け取ったりと様々な役割を持つこの端末だけど。
俺達
間違っても充電忘れで電源が入らないとかいうオチがないようにだけは気をつけている。
……たまにその影響で携帯電話の充電を忘れる人もいるけど。
「で……此方は何?」
次いで携帯電話の方を確認すれば、知り合いからのメールが幾つか。
その中の一つ……いや正確に言えば二つを見てみれば、そんな言葉が漏れてくる。
『今日の夜からゲーム大会開催! 来ること!』
『柚宇さんから連絡行ってねえ? 頭数足りてねえんだけど時間あるなら頼む。』
「またあの人達なんかやる気なのか……。」
弾バカなI氏とゲーマー先輩からのお誘いというよりは強制……だろうか。
届いた時間は
……ってことはこの人達、防衛任務やったから公欠する気だろ。
勉強は良いのかって聞くと目線逸らすか堂々と頼るって言うからな……。
隊長が隊長だけに色々酷いけど、実力だけは一位だからこそ本気で困る。
「仕事終わった後で顔出します、後今週掃除予定日ですけど……っと。」
深く、深く溜息を吐きつつもそんな返信を返す。
余り対戦系のゲームはしない側だったのに、気付けばこうして巻き込まれるように参加させられている。
強制的な話――――でも。
こういう切っ掛けから、隊員との繋がりが出来始めたというのも事実。
逆らえないし、色んな意味合いで縁を繋ぎ続けたい相手たちでもあるので。
(まずは、学校終わってからだな。)
一度大きく伸びをして。
同時に、枕元で目覚ましが小さく鳴り響いた。
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荒船 哲次-①
「相変わらずやること山積みだな、山鳥。」
「本当に勘弁してほしいんですけどねー……。」
昼休み。
進学校、とは言え
中高一貫ということもあるし、年齢差を超えた「戦友」にも似た雰囲気を持つからかもしれないが。
「最近はどうですか? 荒船さんの方は。」
「そろそろ目標まで届きそうだ。 近々移行するつもりでいる。」
弁当を食べながら、それでも礼儀がきちんとしていると感じさせる佇まいの先輩と。
昼食を作るのがどうにも億劫で、購買で購入したパンで食事を摂る俺。
そんな二人が並んで食事を摂る光景も中々珍しいのかもしれない。
「ってことはマスターまでもう届くんですか。」
「ああ、鋼の腕も俺を超えてるしな。
こんな形での光景が始まったのは他でもない。
趣味が同じだったこと(とは言え俺は特に嗜好は持たず、荒船さんはアクション映画という差はあるが)。
そして、他にはまだ恥ずかしくて言いにくい事だから黙っていて欲しい、と前置きをされた上で。
同じ学校、そして戦闘員と接する機会がそう多くない
”
その計画自体に俺が燃えてしまったというのも大きな原因だと思う。
「それじゃあ次は……何に行くんですか?
「いや、
荒船さんの部隊って言うと……。
「狙撃手三人の部隊……ですか?」
「ああ。 今までは俺を援護して貰う形での運用だったが、それも面白そうだろ?」
「確かにまぁ、嵌まれば凶悪ですよねぇ。」
どの銃器を選ぶかでも変わるとは思うが。
この人のことだから近接戦対策に弧月くらいは積んで運用するだろうし……本当にアクション俳優にでもなるつもりなんだろうか。
何よりそれが実現すれば絶対格好良いし似合うのが容易に想像できる。
「とは言え、まずは慣らしからだ。 山鳥、いつも通りに頼むぞ。」
「弾のバランス調整とかですよね。 ……加賀美さんへの相談は?」
「ちょくちょくしてはいる。 穂刈や半崎だけでなく三人となると支援対応も負担が増えるからな。」
まあ、その辺りはこの人が外すことはないだろう。
最後の一欠片を口に含んで飲み込んで。
「ただ、さっきも言った通り申し訳ないですけど直ぐには無理です。 今度の……日曜辺りの予定でいいですか?」
「ああ、俺としてもその辺りのほうが有り難いな。」
そんな形で予定を立て、当日の時間調整を簡単に行う。
トリガーの研究とかもやりたかったけど、暫くは此方のフォロー系の業務が増えそうだ。
「後、そうだな。」
「?」
「その後で映画でも行くか? ちょうど土曜公開のアクション映画あっただろ。」
「ああ、良いですね。 何か新しい発想に繋がるかも。」
隊室に映像装置とか用意されてても、実際に劇場で見るのとでは大きく違う。
そういう意味でも、気が合う先輩というのは――――有り難かった。
「他にも良さそうなのがあれば那須でも誘えば良いんじゃないか?」
「前にも言いましたけど、何でそういう話が出てくるんです?」
「趣味同じだろ、俺等と。」
「それなら荒船さんも連れていきますよ……。」
そんな、何処にでもある日常。
一応三人とも同じ趣味。
(ただアクション派スナイパーさんはアクション映画に対して他二人は映画表記)
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木崎 レイジ-①
一日の終わりを示す鐘が鳴る。
各個人、勉強に部活に友人関係に。
各々の今日の予定へと動き出し始める時間帯。
「栞さん。」
「ん?」
ボーダー関係者も各々の予定に合わせて準備をし始めている。
氷見さんとか午後から防衛任務とのことで公欠していったし。
それが日常と化している、少しだけ変わったこんな学校。
「レイジさんから連絡。 正門前で拾っていってくれるって。」
「あ、そうなの?」
「本部経由だからちょっと手間になっちゃうけどね。 どうする?」
木崎レイジ。
色んな意味で凄い筋肉な人。
小南と栞さんの繋がりから知り合った、何かと気を配ってくれる人が出来た先輩。
「あ~……うん、じゃあ私もお願いしようかな。」
「分かった、じゃあ先に行って待ってるから。」
ちらり、と窓から見れば。
恐らくは連絡した時にはもう着いていたのか、車が一台。
鞄を手にそう声を掛けて先に部屋を出る。
宇佐美さんどうしたの、なんてクラスメイトの声が背中越しに聞こえる。
ちらり、と隣のクラスを見れば真木さんと三上さんが談笑しているのが見える。
(……冬島さんに言っても中々信じないんだよなぁ、こういう姿。)
少しだけ足を早め、階段を駆け下りて正門へ顔を見せれば幾度も見た車が一台。
外国車……というよりは軍用車、とでも言ったような荒れ地でも走れるタイプの映画で見るような車。
運転席側には、窓枠に腕を乗せた状態で人を待つようにする男性。
「レイジさん。 お待たせしました。」
「鷹。 いや、此方から持ちかけた話と聞いている。 これくらいは当然のことだろう?」
こういう所だ。
彼と同い年の先輩は何人もいるけれど、安心感という意味合いでは間違いなく一位だと思っている。
それに加え、偶然耳にしてしまっただけだが。
レイジさんに頼まれたなら俺は一も二もなく協力するだろう。 そういう人。
「レイジさんみたいな人ばっかりなら俺達も喜んで仕事できるんですけどねー……。」
「何かあったのか?」
「ああいえ、理解してないから致し方ない部分はあるんですけど。 C級の入りたてがたまに調子に乗ってたりするので。」
全能感に浸っている小学生から中学生辺りでたまに見る。
まあそういうやつに限ってB級以上に上がれないんだけどさ。
周囲からも浮いていくし、明らかに腕も良いわけではない。
「ああ……。 すまないな。」
「いえ、レイジさんに謝られるようなことじゃないです。 どっちにしても矯正されていきますからね……。」
「今後本部に行く機会があれば注意してみることにする。」
……愚痴みたいになってしまった。
そんなつもりはなかったので、慌てて話を切り替える。
「それで、今日の予定に付いてなんですけど。」
「小南から簡単には聞いてはいるが。 訓練室の配線変えだったか?」
「はい、原因と思われる部位をある程度特定はしたので、ケーブルの皮膜剥がしてそれぞれ繋ぎ直して格納ですね。」
その際、どうしても一人では作業が難しい場所が存在してしまう。
正確に言えば出来るのだが、後片付けに掛かる手間が倍以上必要になる。
だからこその協力依頼。
「成程。 なら俺は基本的に鷹に従えば良いんだな?」
「すいませんけどお願いします。」
「気にするな。
こうした話一つ一つもテンポ良く進む。
こういう人に近づければいいな、と思うが……。
余り筋肉がつかないタイプの人間だし、俺。
「宇佐美はどうした?」
「クラスメイトと何か話してましたね。 そろそろ来るとは思いますが。」
「成程……取り敢えず、だ。」
?
首を傾げた。
「先に乗って待っていろ。 立ったままもおかしな話だろう。」
……それはそうだ。
助手席側に移動して、扉に手を掛けた。
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小南 桐絵-③
「あ、此処抑えておいて貰えますか?」
「こうか?」
「はい。」
明かりだけが付けられた訓練室。
足元には本部から持ち出した配線作業用の工具一式。
部屋の隅には万が一を考えて多めに用意してもらった配線を巻いた状態で準備完了。
壁沿いには四隅のボルトを外した板状のパーツが幾つも並んでいる。
ぱちん、と音を立てて原因と思われる配線部位をある程度余裕を見て切断。
「よし、取り敢えず原因部分っぽい場所はこれで分離できました。」
「そうか。 後は?」
「実際に一回電気を流してみて、問題がないことを確認して復帰作業ですね。」
時間としては然程掛かるまい。
元がどういう状態だったのか、は念の為写真で撮りつつ作業していたからその通りに戻すだけだし。
「もしこれで正常動作しなかったらもう一回分離してみて、それでも無理なら全面調査になるので……。」
「更に時間が掛かる、か。」
「はい。 もしそうなったら
実際こういう作業をしてるだけで勉強になる。
その機械一つ一つがどういう動作をしているのか、までは読み取れるわけではないが。
気になったものは後で調べ、分からなければチーフに聞けばいい。
罠に関しての見解聞くついでに冬島さんに聞いてもいいかな。
「まずは試してから、だな。 宇佐美に声を掛けてくる……鷹も少しは休め。」
「え、其処まで疲れてませんけど?」
「時計を見ろ。 お前が集中し過ぎているだけだ。」
言われて時計を見る――――あれ?
気付けばもう六時半回ってる……?
最後に見た時は五時くらいだったと思ったんだけど。
端末使ってた筈なのに全く気付かなかった。
「相変わらず集中しすぎると時間を忘れるな、お前は。」
「あー……すいません。 もう少し早く気付くべきでした。」
「今後の修正箇所だな。」
それに、恐らくそろそろ……だなんて。
レイジさんが何かを考え始めると同時、入口側が大きな音を立てて開く。
「レイジさーん、ご飯できたけど……ってまだやってたの?」
「小南、もう少し落ち着いて開けろ。 壊れたらまた厄介だろ。」
まあ、この支部でこんな事する人間はほぼ限られる。
そのうちの片割れ、小南が顔を見せる。
開けた扉からは空腹に刺さる刺激臭。
そして見慣れない格好。
「鷹、直ったの?」
「これからそれを確かめようと思ってたとこ。 ……で。」
「何よ。」
「お前のその格好何?」
時折見かける、活動的な行動向きの私服の上にエプロン。
そしてこの匂いから考えると。
「何って、私が今日の当番なだけなんだけど。」
「昨日の今日かよ。」
「別にいいでしょ。」
……昨日の発言、分かってて言ってたのだろうか。
なんか忘れてて言った気もするけど。
「洗い物とかもあるし、出来れば一緒に済ませたいんだけど。」
「……何? 自然と俺のまで用意してる?」
「カレーですけど何か文句でも?」
目が微かに光った気がして、危険を感じた。
危うく発動しそうになった
いえ全く、とそんな意味を込めて首を横に振る。
「……鷹、どうする?」
「あー……。 問題ないかだけ栞さんに見て貰ってからにしません?」
「そうするか。 とのことだ、小南。」
「はいはい。 じゃあうさみに声掛けとくわね。」
じゃあお皿はー、なんて呟きつつ部屋を出ていく小南。
ほ、っと溜息。 良かった危険は去った。
噛みつかれるのは勘弁。
「手早く済ませるぞ。」
「アイ・サー。」
「多分、お前に食わせることも考えて作ってたようだからな。」
へ、と一言。
「今日の具を見て考えてみろ。」
そんな突き放すような言葉を最後にして。
栞さんを待つ態勢に移行したレイジさんを横に。
どういう事だろう、と俺は首を捻っていた。
尚具はシーフードでした。
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国近 柚宇-①
「態々有難う御座いました。」
「何、荷物もあったからな。」
レイジさんに礼を告げ、駐車場から入り口まで荷物の運搬を手伝ってもらいそこで別れ。
何往復かしつつも、今日の仕事が無事に完了したことを回想する。
(しかし、無事に直って良かった。)
無事に正常動作するのを確認して一安心。
食事をとった後陽太郎をちょっと構って休憩し。
丁度その頃に顔を出した林道支部長に挨拶した後に修復作業開始。
結局、その辺りの作業が完了したのは午後九時を回ったくらいだった。
『これから本部に戻るんだろう? 送っていこう。』
そんな言葉に甘え、幾つかの器具や残った材料を積み込んで出発。
妙に眠そうにしている小南と陽太郎に見送られ、車に揺られること暫く。
(……そう言えば、
ふと、元太刀川隊の所属……現玉狛支部所属の一人の青年を思い出す。
年下だけど先に入隊している、という意味合いで何と呼べば良いのか悩む一人。
性格的な面でも(一部を誂う事を除けば)立派な好青年。
ただ、公平やら太刀川さんとはそれなりに交流はあったけれど。
彼はバイトの掛け持ちとかで中々会う機会もなく。
他の人員と比べれば、ではあるけれど疎遠な……でもファンが異様に多いイケメン。
(今日もバイトか何かだったのかねー……。)
よいしょ、と荷物を担ぎ直して
倉庫、とでも呼べば良いのか材料などが積まれた一室に余った物を格納し終える。
お疲れ様でしたー、と中の夜勤当番の人達に声を掛け。
そのままの足で向かう……前に差し入れを兼ねて飲み物を幾つか購入。
(とっ捕まってるの俺以外……誰だろうなー……。)
公平はメール的に確定。
太刀川さんは分からない、遊んでるかランク戦してるか大学関係で捕まってるかが分からないから。
現状二人でA級一位を維持するのは良く出来るよな……と思うが。
……あれ、でもこないだ
なんでだったか、理由。
両手に飲み物を抱えながら廊下を進む。
室内から微かにワイワイと声が聞こえ。
入り口際に一度手荷物を降ろして携帯で連絡。
1コール、2コール。
ぷつり、という音と共に向こう側から声が聞こえた。
『もしもーし、鷹くん?』
「呼ばれてきましたよ。 開けて貰えます?」
『はいはい、ちょっと待ってねー。』
効果音が向こう側から聞こえる。
タタタ、と何かを撃ち放つような物音からして銃器を扱うゲームか何かか。
……チーム対抗戦か個人戦かどっちだろう。
「はいお待たせ、いらっしゃい。」
「こんばんは、これ差し入れです。」
目の前に映る、片隅に纏められた片付けられていない荷物。
ソファーにはぐったりした頭が一つ。
そして、(雰囲気だけは)緩い女性らしい女性。
国近柚宇。
一個上の先輩。 凄いゲーマー。
そして部屋の片付け由来と、弾バカ由来の二通りから知り合った人。
……少しだけ、好意を持っていたこともある人が目の前にいた。
(過去形)
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国近 柚宇-②
「其処だー!」
「ちょっ、
目の前の光景をどこか遠くに見ながら、ふと思い返す。
彼女に対して”そう”思ったのはふとした切っ掛け。
入隊時に、サイドエフェクトで弾かれて。
その後に、トリオンの正負で苦手な相手が現れて。
色々な感情を内面に溜め込んでいた時期。
『ねえ、君。 今時間ある?』
『……へ?』
休日に食堂で一人食事を食べていた時の事。
新しいゲームを買ってきたらしい先輩が相手を探していて、それに捕まって。
それが改善の切っ掛け。
当時はまだA級に届いていなかった太刀川隊から縁が広がって。
あちこちに伝手も出来、礼をと言ってもそれを受け取らず。
『わたしはただゲーム出来る知り合いが欲しかっただけだから。』
と、小さくはにかみながらもそれだけを口にした。
それくらいからだったっけ、互いに下の名前で呼び出したのは。
今となってはそれが本心だというのも分かる。
一人でいたからこそ声を掛けてくれた、という事も少しだけは理解できる。
ただ、その時はそれに救われたような気がして――――気付けば、その感情が切り替わっていた。
小南にも、那須さんにも。
二人に対して見せられる感情の大本、始まりは彼女との出会いから。
絶対に誰にも言う気はないが、
だからこそ苦手で、同時にだからこそ頼れる人。
「鷹くーん、次から混じる?」
「鷹、この人止めるの手伝え! おれ一人じゃ無理だわ!」
ぼーっと画面を見ていれば、前方から飛ぶ声が2つ。
一人は購入者、ある意味で部屋の主の一人である柚宇さん。
もう一人はこれでも
槍バカ弾バカ罠バカ、と冗談めかして纏めて呼ばれたりするのでイラッとする。
そんな集まりの一人。
「いやぁ、そりゃぁ見てれば分かるけどさぁ……。」
「何だよ。」
「この人相当やり込んでるでしょ? 二人で対処できんの?」
今もほら、掛かってこいやー!みたいな顔してるし。
「少なくともおれ一人じゃ無理だわ!」
「まあうん、それも見てたら分かる。」
明らかに公平数人分くらい差が出来てたし。
っていうか置き弾系の
それを踏まえた上での二重罠。
「なら言ってねえで協力しろ!」
「全く操作も知らない人間を引き込もうとは……。」
「じゃあはいこれ、説明書。」
相変わらずだなこの人。
俺が何言うのか読んだ上で被せるように手渡してきたぞ。
「あっ、はい。」
「じゃあ出水君。 鷹くんがやってる間にもう一回。」
「柚宇さん、虐殺する気!?」
「頑張ればいけるって! 今日は寝かさないよー!」
…………。
説明書を見ているフリをして、冷めた目で二人を見た。
(勉強する気がマジで一切ない……。)
今さんに後で告げ口しとこう。
あの人なら多分叱ってくれるだろう。
効くかどうかは別として。
相変わらず色々な意味で問題児が多いなこの隊。
「じゃ、じゃあ次はこの突撃銃で……。」
「ならわたしは狙撃銃でも使おうかなー。」
「……狙い撃ちする気だこの人?」
「そんな事しないよ? 狙えるなら狙うけど。」
……まあ。
居心地は良いんだよな、この場所。
諏訪さんとことか荒船さんとこくらいには。
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那須 玲-③
そんな日常を過ごして、少しだけ時間が過ぎ去った。
授業も終わり、進級・進学・就職……そしてその為の準備期間ともなる春休み。
とは言っても、学生達にとっては其処まで深く考えるような時間でないことも確かで。
ある人は家業の手伝いに。
ある人は少しでも早くB級に上がるためにランク戦に掛かり。
ある人はレポート提出が遅れたせいで師匠にこっ酷く叱られ。
そしてまたある人は、自分の思うように過ごしている。
そんな中、俺は。
残りの半分を
微かに残った部分を知り合いと遊んだり休憩時間として設定する予定で動いていた。
だが、そこで待ったを掛けたのが
『仕事をするのは当然だが、お前の場合は隊員を諦めたわけではないのだろう?』
と。
……そんなこんなで話し合いが行われ。
扱いとしては冬島さんと同じく、
もう少し正しく言うなら『
結果技術を身につける時間が減り、代わりに様々な勉強する時間が増え。
そして休みが少しだけ増えてしまった、そんなとある日。
「……もう一度、言って貰えます?」
「勿論。」
昼食を取ろうとやってきた食堂。
幾つかの人気メニューが虫食いのように売り切れ表示となる中。
何とか確保できたA級定食(然し何故この2つをセットにしたのか)を食べる反対側。
食堂のこの時間帯では特に見かけない顔、那須さんが何故か座っている。
手元には……デザート? 杏仁豆腐らしきものを掬って食べているのが目に入る。
「次のランク戦が始まる前に、色々と調整がしたいの。」
「それは分かります。」
「……力を貸してくれない?」
「……えーっと。」
戦闘フィールドになんか出たら一瞬でトリオン体が爆散してしまう。
『攻撃に気付く』事は容易に出来ても、『其処から回避に移る』までのタイムラグがどうしようもないのだし。
「俺の体質……というよりは
小さく、少しだけ悲しそうに頷いた。
……真正面から対峙することが出来ない俺に何をさせる気なんだろうか。
というよりもオペレーターの志岐さんが動けなくなるんじゃないか、内容次第じゃ。
「何方かと言えば……そうね。 サイドエフェクトを利用して、かな。」
「……どういうことですか?」
「チームのランク戦じゃなくて、個人の方で少し試したいことでね。」
詳しく話を聞いてみればこうだ。
小南の野郎(女)と少しだけ学校で話した時に、俺の話題が出た。
まああの二人の共通の知り合いの一人だし、抱えていることや
それ自体はまあおかしくはない。
そしてそこで出た『実験』の話題――――こないだ彼奴が言ってた、俺が動けるかのテスト。
実際に防衛任務に出る前に、幾度も現場に出ている攻撃手だけでなく射手の視点からも確認したいと。
その際に
「それに……。」
「?」
「特殊工作兵って特殊な役割だし、殆どチームが固定されて他の人は多分戸惑うと思うの。」
「ぁー……。」
そういやそうか、『役割有りき』である程度考慮に入れてる相手とそうじゃない相手。
唯でさえ珍しいポジションなんだし、きちんと理解してる人のほうが少ないのは当然のことか。
「だから、私たちの目線からも言えたら良いなぁ、って。」
「それに合わせて、隠し玉も練習する?」
「そう。 駄目?」
ちょっと考え。
否定するような内容がないことを確認し。
「……那須さんの体調と、時間に都合が付くようなら。」
そう、答えて。
互いに、小さく口元を笑みに変えた。
少しだけ、苦手意識が消えたような気がした。
※関係ないですが一応。
BFF上で「タブレットっぽい端末は正隊員(B級以上)の隊員が持つことを~」とありますがこの辺りは職員(本部・支部内に部屋を持つことが許される身分)に貸与権限があると読み替えています。
正直アレの有り無しで仕事の効率化がどれだけ変わるか考えるとちょっと……。
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冬島 慎次-①
食堂で別れて
途中で光景を見られていた奴等に絡まれたけど努めて無視しつつ。
到着してみれば、冬島さんは何やら作業を寺島さんと行っていた。
そろそろいつもの時間ですよ、と口にして。
一礼しながらその場を離れて最初に向かった先。
其処は、夜勤者とかで直ぐ売り切れることで知られている自販機だった。
「ついさっき補充されたんだよ。」
置かれているのは主にエナジードリンクとかブラックコーヒー。
飲み過ぎれば身体に悪い、と分かった上で売り切れているという事情を察するべきか。
トリオン体は栄養の吸収効率が異様に高いから、態々トリガー解除までして飲みたくなるのを咎めるべきか。
少なくとも寺島さんは食ってばかりだけども。
「一本だけ飲んで、もう少し研究進めねーとな。」
そんな事を呟きながら、小銭を入れてがちゃんと取り出した二本。
取り出されたのはカフェオレとブラックコーヒーだった。
「ほれ。」
「あの、遅れますよ?」
「それならそれでいいだろ、俺が謝れば済む話だ。」
「そういう問題でもないと思うんですけど……。」
ほれ、と差し出された
「喜多川ちゃんは理由言えば納得してくれるやつだって、お前だって知ってるだろ?」
「……まあ、はい。」
そんなこんなで飲み始め。
そういえば、と持ち出されたのが先程の話。
既に広まってるってどうなってんだ、と暇人達に恐怖すら覚えながらも。
一体何があったんだ、と問われて答えて。
「正直戸惑ってるんですよねー。」
「若いねぇ。」
そんな笑うような、でも少しだけ怯えているような表情を浮かべた。
……女子高生苦手って言っても其処までなのか。
まあ真木さんとか怖いのは分かるけど絶対要因其処だけじゃないし。 この人の場合。
「ただ、鷹。 いい機会だしお前も挑戦したほうが良いのは分かってんだよな?」
「……はい、其処は。」
そうしない道を選んだのは俺の意思だし、それを告げたのも分かった上で。
ただ、何となく気になるからこそ引っかかってしまっている――――というだけ。
向こうが善意のみで協力を依頼している……
「向こうも
「大分特殊なトリガーですもんねえ。」
”トリオン”を多く使うトリガーである代わりに、設置した罠の種類を入れ替えることすら出来るトリガー。
射程は目視圏内、且つトリオン量に寄って変動。
主に冬島さんは
「実際問題、小南や那須が扱うなら小転移だけでも十分な支援になるからな。」
「”トリオン反応が目立つ”って弱点も他と組み合わせればいいですからね。」
味方と連携しての置きメテオラ。
何方かと言えばランク戦そのものよりも、「防衛手段」として扱うトリガー。
「それが分かってんだったら素直に行って来い。」
「うっ。」
「それでもまあ、まだ引っ掛かるっていうんだったら。」
缶コーヒーを飲み干して。
「終わった後で礼でもしてやれ。 噂にならないようにやれよ?」
「……冬島さんは出来なかった事を?」
「余計なこと言うんじゃねー。」
まあ、そうか、と。
立ち上がって。
何か礼でもすればいい、という言葉が。
すとん、と胸の内側に落ちてきた。
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喜多川 真衣-①
中空に浮かび上がる各隊の
幾度となく見た、というのが正しいくらいに目に焼き付いた二種類の刻印。
冬島隊と加古隊、それぞれA級の隊としての誇りとも言える証。
「ほう。 喜多川ちゃんはそんなとこに、か?」
「ここなら ふたばちゃん うごきやすい。」
訓練室、それもランク戦でのマップを再現した戦術を練るのに使われるモード内。
内部に存在するのは、俺を含めて三名。
けれど、浮かび上がった部隊章は二つ。
残り一つは薄い、本部……
「うーん……。 トリオン消費量の兼ね合いからしても
「
視界を送った先に転移できる試作型トリガー、テレポーター。
最近
無論転移自体もノーリスクで無制限に使用できるはずもなく、当然のように制限はあるものの。
「攻撃を透かす」「想定外の方向からの連撃」など様々な策に利用できる事が予想できる一品。
「
「
「グラスホッパー+弧月かスコーピオンで不規則稼動とあまり変わらないこと出来るとは思うんですけどねー。」
「それなら素直にグラスホッパーと銃でだな……。」
難度は絶対高いけど。
オペレーターの負担も半端無さそうだけど、上手く決まるなら最初の一人は持っていけると思う。
…………どっかの魔王とその配下みたいなのは普通に逃げ出しそうだよなぁ。
確実に詰められる盤面の一つくらいは作ってみたいものだけど。
「よーくん ちょっと いい?」
「あ。はい。 どうしたんです真衣さん。」
思考に浸る中。
声を掛けられたので少しだけそちらに移動する。
「うん。 那須さん と 小南ちゃん だと いろいろちがうとおもうけど。」
「……あー、どっち向きで合わせていくか、みたいな?」
そう、と頷く
先程、口頭での報告の時には真衣さんにも伝達済みだから……この人も考えてくれたんだな。
「と、言いましてもね。」
確かに機動力を活かしつつも毎回弾の軌道を描いて詰めていくタイプの那須さんと。
二刀・合体して大型武器と変幻自在に振るう小南だとそれぞれへの相性問題もある。
……とは言え、今回の主題は合わせる合わせないの前のお試し的な要素が強いし。
何より、簡易にでも合わせられない人間がB級中位以上にいるとは思えない。
「その内考えますよ。 そういう事考えられる段階にすらいませんし。」
「そう?」
「そうです。」
そもそもの話。
狙撃手……狙撃や移動、潜伏は出来ても単独で見つかれば確実に
”普通じゃない”のが分かった上で普通に接してくれるボーダーの仲間達には口にはしないが感謝してる。
「まあ……少しでも、何か出来るようになりたいですね。」
「そう だね。」
内心を知ってか知らずか。
そう呟いた声に、そう返答が返ってきた。
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草壁 早紀-③
お願いします、と。
彼女……草壁さんがやってきたのは、俺が
「どうするか決めた?」
「はい。 その……相談も色々としまして。」
手元に置いてあった、5月入隊組用の幾つかのトリガー用の資材を一旦脇に纏めておく。
「散弾銃型でいいの?」
「はい。 余りに合わないようならまたお願いすることになるかと。」
「オッケー。」
準備にはまだ早い、と思われがちではあるが。
4月に入ってしまうと学生特有の様々な面倒事や行事、防衛任務の際に発生する不調なんかの調整等々。
あっという間に時間が消し飛んでしまうというのは昨年自分の身を持って理解していたので、手隙に少しずつ進めていた。
まあ内部のトリガー用チップは幾つか入れ替える必要性が出てくるだろうけど、其処まで手間でもないし。
「分かった、じゃあ交換だけ済ませちゃうか。」
手を伸ばし、トリガーを受け取る。
C級だからこそ、微調整や改造などが認められる身分にない……言ってしまえば未だボランティア、志願兵の状態で。
とは言え合う合わないがあるからこそ、どんな武器を選ぶのかは当人の意思次第で任意に変えられる。
……本来はこういった部分、師弟制度みたいな形とは別に均一化した訓練とかも課すべきなんだろうけれど。
未だ大きい組織でない以上、少数精鋭でやっていかなければならないという反面部分も存在している。
職員だからこそ、そういった部分には目が行ってしまうし。
隊員であっても、そういった部分に目が行く人員は将来の幹部候補や指導員として
まだ公言はしてないから大丈夫だろうけど、荒船さんとか候補として名前挙げられそうなんだよな。
(……ただ、B以上に上がれる人間はそれだけで優秀ってのもあるから何とも言えないか。)
きゅいん、きゅいんと手元の専用ネジを外す。
チップを入れ替え、パソコンと接続し。
内容が変化しているのを確認した上で彼女へと画面の方向を向ける。
「一応確認して。 散弾銃型……で、弾の種類は?」
「まずは
「了解。」
たまにいるんだよな、
大体1~2ヶ月で諦めて別のに変えるけど、それでもたまに良いとこまで上がってくる爆破魔がいるのは結構面白い。
チーム戦に参加できるのか、とか防衛任務で何処まで周囲被害を起こさないか、とか。
そういった部分に目を向けているのかはまた別問題なんだけど。
「この辺も諏訪さんに?」
「いえ、基礎的な部分ですから。 あの人も……その、忙しいでしょう?」
はは、と乾いた言葉で誤魔化した。
詳しく言うつもりはなかったので。
諏訪さんに直接聞いてみた時の反応を楽しみにしつつ、誤魔化せたとは到底思えない言葉で流しきったと強引に進める。
「暫くはランク戦とかより練習に費やしたほうが……なんてのは余計なお世話だな。」
「はい。 ……ところでその、練習が出来る場所とか何処かにあるんでしょうか?」
……この辺りもちゃんと教える規則作ったほうが良い気がするんだけどなぁ。
流石に甘すぎるか、いつ侵略されるかわからない地帯なんだし。
「そうだな……。」
先程思ってしまった言葉を反芻し、ちょっとだけ思いついた。
まあ変な顔しつつも面倒見てくれるだろう、あの人なら。
「諏訪さんに連絡取るから、一緒に行くか。」
「へ?」
「俺も少し用事があるんだよ。」
顔が広いあの人に、少しばかり協力を依頼しに。
想像もしていなかっただろう彼女の不思議がる顔が、少しだけ愉快だった。
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諏訪 洸太郎-①
来年も宜しくお願いします。
…………そろそろ恋愛描写出したいけど誰がいいか今年いっぱい~1/1午前中くらいまでアンケート投げておきますね(
「おう。」
「お疲れ様でーす。」
「ど、どうも……。」
個人ランク戦のためのブース近く。
階段を登った辺りで、相変わらずの特徴的な格好……口に何かを咥えたトリオン体を形成する諏訪さんを見つけた。
向こうも気付いたのはほぼ同じ瞬間で。
そして、その場所にいたのは一人ではなかった。
「よ。」
「あれ、柿崎さん? 珍しいですね、諏訪さんといるなんて。」
B級柿崎隊隊長、柿崎国治さん。
色んな人から慕われている大先輩。
「ちょっと諏訪さんに用事があってな。」
「つっても大学についてのことだかんな?」
「そうですか……まあ、逆に丁度良かったかも。」
「あ? つーか草壁と一緒にいんだよ山鳥ィ。」
周囲を確認してみても。
常に一緒、なんてことは言わないけれど結構な頻度で見る隊員の顔が見当たらず。
それに加えて唯でさえ忙しい時期に本部にいるのがどうにも気になった。
草壁さんは何だか居場所が無さそうにしているけれど、きちんとした姿勢で立っている。
「諏訪さんには相談してるって聞いてますよ。 入れ替え担当したのが俺ってだけの話です。」
「あ~……。 つーか話持ちかけたのもオメーか?」
「俺と陽介っすね。 実際ソロで戦うならそっちのが合ってるように思えたんですよ。」
「つってもな。」
まあ最終的には此奴が選んだことだがよ、と視線が草壁さんに向かう。
……と、そうだ。
「あ、柿崎さん。 此方、C級隊員で諏訪さんの弟子の草壁さん。」
「諏訪さんの?」
互いに知らないのは柿崎さんと草壁さん。
細かい話は個人でして貰うとして、大雑把に紹介しておく。
この人なら正しい意味で適当に、適切に対応してくれるっていう信用があるので。
「は、はい。」
「ほーん。」
「何か言いたいことでも?」
「いいえ別に。」
まあそんな心暖まる会話を横目に。
俺の要件だけでも先に口にしておかないと、と口火を切った。
「で、良いですかね?」
「面倒事じゃねえよな?」
「そもそも其処まですら行くか分からない段階の話ですよ。 訓練室の案内について、なんですけども。」
C級として入隊した後、仮想訓練室にて擬似再現されたトリオン兵との戦闘訓練がある。
其処での討伐時間次第で才能のあるなしを最初に判別できる、とランカー達は言っているんだが今はいい。
「武器の扱いに関して訓練する場合って幾つか手段があるじゃないですか。」
「あー、隊室での訓練とかか?」
「ええ。 んでも、
ランク戦用のブースも数に限りがある。
勿論誰かから教わる場合はポイントのやり取りを抜きにして実戦形式で学べばいいが。
それ以前の……どんな使い方が出来るのか、とかの試しとしては余り適切な場所ではないのもまた事実。
「なんで、どういう事ができるのかー、とか。 基礎中の基礎的な部分に関しては教える機会があっても良いんじゃねえかなぁ、と。」
「つってもよ。 それくらいのコミュニケーションが取れなきゃやってけねえってのもマジだろ?」
「其処には同意しますけども。 唯、今後を考えるとそれだけにも行かないでしょうし。」
「まだ考えるのが早すぎる気がしねーでもねーけどな。」
何かいい案有りませんかね? と。
二人に投げかけた言葉の返事を待った。
簡単過ぎるけれど、腹案はある。
組織上の負担問題もあるから一概に回答できるかも不明瞭。
ただ、この二人……特に諏訪さんに話を持ちかけたのは、きちんとした理由があった。
この人の将来的な立ち位置、上層部の考えを考えた時。
そんな浅ましい考えが。
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諏訪 洸太郎-②
「何にしろ今直ぐ決められることじゃねーな。」
数秒間考え込むような仕草の後。
諏訪さんはそう断じるように呟いた。
「柿崎、お前はどう思うよ?」
「大方のところで諏訪さんと同意見ですかね。 ただ、個人個人で教える分には今まで通りでいいでしょうし。」
「お前は自分で話しかけに行くヤツだろうが……。」
ケッ、と
「で、お前はどう考えてたんだ山鳥。 何も考えねーで話持ちかけてくるようなやつじゃねえのは知ってる。」
「そこで評価されてるのは嬉しいっすけどね。 万が一を考えれば外に流出は絶対に防止しなきゃいけないでしょうし。」
「電子媒体って手もあるだろうが結局B級以上じゃなきゃ持ち歩けねーしな。」
今回の話には該当しない、どころか本末転倒になってしまうやつ。
書面や案内板なんかが一番楽ではあるが、万が一外部への流出――――引いては本部への攻撃があった際には大問題になり得る。
「最初の……あー、入隊式の後のタイミングで全員に一回説明しとくくらいですかね。 今考えてるのは。」
「後の……っつーと、トリオン兵との模擬戦の時か?」
「ええ。」
あの部屋全体を縮小した感じなのが各隊に用意される部屋内部の訓練室。
なので用途次第に寄って使い分けるのが大事になるわけで。
「『此処でも良いけど、個人で練習がしたいなら職員に確認しろ』……と、言って貰うだけでも結構違うと思うんですよ。」
「複数での訓練やら対人戦の練習なら普通に仮想訓練室使うからか。」
「ええ。 次、誰が手伝いやるかは分かりませんけど……もし担当するなら言っといて貰えます? 嵐山さんには俺から言います。」
まあそんくらいなら、と二人の頷き。
根本的にはそういったルールを全体に浸透させる必要があるとは思ってるが。
幹部勢が考えていないとは全く思ってない。
ただ、
何方の意見も共通したなら話は早い……それだけの話。
「話はそんだけか?」
「ええ。 お時間有り難うございました。」
「話聞いただけだ。 草壁、時間もあるし少し見てやるから付いてこい。」
「あ、はい!」
時間を取ったことに礼。
ただいつも通りそんな事を気にせずに、一声だけを告げて立ち去っていく。
草壁さんにも当然声を掛けているところ、ホントそつがないな。
「ああ、じゃあ俺も行く。」
「柿崎さんも、有り難うございました。」
「後から入る奴等を大事にするのは必要だからな。」
互いに礼を告げ、柿崎さんが立ち去るのを見送り。
妙に緊張したような気がする体を解しながら息を吐いた。
サイドエフェクトが発動しなかった、というのは純粋に相手が見知った相手だったからに過ぎないし。
(俺だけでも何とかできるようにしたいんだがなー……。)
根本的な対策には別のアプローチが必要。
そんな事は分かっているが、それでも考えてしまう。
悪癖だな、と自分の心の内側にその感情を沈めた。
そんな折に。
ぴぴっ。
携帯電話が小さく震え。
その鳴り方から、メールが届いたことを示す。
「……誰だ?」
ポケットからそれを取り出し――――内容を上から確認し始めた。
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小南 桐絵-④
途中まで勝ってたキャラで取り敢えず一話。
送り主は小南。
件名は特に無く、本文の内容も大分簡素。
『次の休みは?』
書かれていた文面はそんな内容。
理由も分からず、自分の要件だけを書いている……
ただ、悪い感情を抱かせないのは彼奴の憎めないところと言うか。
周りの人に(色々な意味で)愛されているところなのかなぁ、なんて事も思いつつ。
『いや何でだよ。』
此方も同じように簡素な内容で返す。
これが連絡を取り合う相手の中でも違う人物。
例えば柚宇さんだったり、滅多に無いことだけど那須さんだったりすればもう少し丁寧に送る。
(人によって内容変えるなんて当たり前だけども……。)
ただ、知り合ってそう長くはないはずなのに。
大分前から……それこそ小学校か中学校くらいから付き合っている友人のような適当さでやり合える相手。
そんな認識を俺は持っているし、小南も似たようなものなのだと思う。
(楽なんだよな、いつも思うけど。)
その場で待ち続けてるのも何だか変だし、食堂方面へと足を伸ばす。
軽食と飲み物を購入して腰を下ろしたのは窓側の席。
携帯電話の画面を眺めれば、移動中に返ってきていたらしい返信が届いている。
『こないだの話……ああもういいわ、手が空いたら電話して。』
最初から電話してこいよ、と思わなくもない内容。
まあいつもどおりか、と内心考えつつも発信ボタンを押下する。
ぷるるる、ぷるるる。
2コール程の時間を介して、通話を取った時特有の雑音が耳元に聞こえた。
『もしもし?』
「もしもし。 俺は平気だがお前は今良いのか?」
『あー……うん、平気平気。』
「今用事があるなら後回しでも構わねーけどな。」
軽く聞こえる騒音……とまでは言わない乱雑な音。
彼方此方から聞こえる音から察するに路上……外の何処かにいるような感じ。
何かの店前か、或いは人通りが多い駅前辺りだろうか。
『いーのよ、ちょっと出てるだけだし。』
「なら良いけど。 で、さっきのメールに関して聞きたいんだが。」
『そうそう、その件ね。
勝手に伝えてた件な、聞いてる聞いてる。
あの人は聞いた側だから何も言えないがお前は何勝手に周りに漏らしてんだよ。
思い返すとちょっとイラッとした。
「聞いてるけど……人の
『仕方ないでしょ、とりまるとかレイジさんに頼るってのも考えたけど。 玲だって気にしてたんだし。』
「……まあ、文句言うのもお門違いか。 そんで? それが何で休みに繋がるんだ?」
すいません、なんていう通話越しの声。
何かを買いに出た、というか商品名からして良いとこのどら焼きじゃねえか。
お前この間も食ってたよな?
言葉が返ってくるまで十数秒。
『全員の予定合わせなきゃしょーがないでしょ。』
「それでお前が取り纏めしてるの凄い違和感……。」
『ぶっ飛ばしていい?』
「真面目にやめろ、
冗談としての二重の意味で。
それを聞いた向こう側からは、少しだけ笑うような声がした。
『玉狛戻ったらあたしの防衛任務のスケジュール送るからそん中から日時選んで。』
「那須さんの方は?」
『スケジュールはあたしが聞いてるけど……一応そっちでも聞いといて。 二人で擦り合せしたほうが確実だろーし。』
「ん。」
少しだけ連絡するのに不安があるけど。
今までよりはマシになっているはず。
「で、場所は?」
『うさみに頼むのもあるしー……
……楽そうであんまり噂されないのなら、玉狛かなぁ。
少しだけ、遠い目をしながら――――電話口に、そう告げた。
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小南 桐絵-⑤
数日後。
玉狛支部の入口前で一人佇む俺がいた。
(予定噛み合った、って言っても良くこの短期間で決まったな……。)
内心そんな事を思いつつ、時計を見て嘆息。
女性は時間が掛かる、とは言うが何で彼奴は人を入口前で待たせているのか。
せめて入って直ぐとかにしてくれませんかね。
春先とは言え、まだ少し寒さが残ってるんだが。
(ん、で……。 もう
B級隊員、及び単独で1チーム扱い、そして職員。
前者二人はスケジュール的に余裕を空けやすい立場とは言え、一番苦労したのは俺だったりする。
これが
考えるのも少し恐ろしい位。
そんなこんなで決まった俺の実験、及び那須さんの秘密訓練日。
ただの訓練、というよりは学校でのクラスメイトと(小南にしては非常に珍しく)
まあ学校内で自分のポジションを偽ってるやつだとそうもなるんだろうけど。
問題としては、初の来客者……那須さんの生身での不調を加味した場合。
トリオン体で移動すれば済む話ではあるが……
出来れば車などで移動できる相手がいる此方で見て貰えるほうがいい、と言い張ったのが彼女当人だった。
その為、駅前で合流からの玉狛への案内……の前の段階で小南と合流後に出発するということになっていたのだが。
(流石にそろそろ出ねえと待たせることになるぞ?)
はぁ、と溜息を吐きながら入り口に手を掛ける。
開けようとすると同時。
向かい側、内側からきゃっなんていう声がして。
腰を落とした……転んだ様子の小南が目の前に映っていた。
「……何してんだ?」
「何も何も無いわよ!」
手を伸ばす、手を取って立ち上がる。
もっと身軽に動くのは知ってるが、目の前でそんな体勢だったら手を差し伸べるくらいはする。
「開けようとしたらアンタが反対側で同じことしたせいでバランス崩したじゃない!」
「いやそれは理不尽じゃねえ?」
どうどう、噛み付こうとするのは落ち着け。
子供……いや、獣か何かか?
物理手段に出るのはまあ個性と思って諦めるが……。
玉狛の外じゃ流石にやってはないよな?
「全く……。 折角卸したっていうのに。」
「卸した……ああ。」
大きく溜息を吐いた後で服に付いた砂埃を払う。
背中を見せて見ろ、と仰るので問題ないことを告げて。
「だから普段見ない私服だったのか?」
「そーよ。」
「まさかとは思うが、それでこんなに人を待たせたとか言わないよな?」
「言うけど?」
おいコラ、初めから時間分かってたんだから言い訳にもならねえだろ。
そんな目線を向ければ。
やれやれとか言いつつも口を開いたので怒りゲージが更に加速する。
「星輪らしい格好ってのが必要になるのよねー、特に多数の目がある場所だと。」
「だったら普段からそうすれば?」
「嫌よ肩が凝っちゃう。」
なんで其処行ってるんだよ、と前々から疑問ではあった。
ただ、それを問い掛ける機会がなく。
同時に何かを抱えているのだろう、という感覚だけはあったから有耶無耶になったまま今日まで至っている。
「で。」
「何だよ。」
「感想。」
「似合ってるとは思うぞ。 小南は何だかんだ明るいイメージ似合うよな。」
細かい感想は従兄弟殿にでも聞いてくれ。
「そ、そーう?」
あからさまにテンション上げたな。
くるり、と背中を向けて歩き出す。
「……とっとと行くぞ。 那須さん待たせるかもしれんだろ。」
「あ、ちょっと!」
後ろから走る物音。
隣まで追いつくまで、後数秒。
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那須 玲-④
果たして駅前。
街路樹の真下で立つ、私服姿の那須さんの姿があった。
「ほら、やっぱり待たせてる。」
落ち着いた色合い、白を基調としつつも茶褐色の上着を羽織る姿で立ちつくす少女。
「まだ時間前!」
「時間前から待ってくれる人ってことじゃないか……。」
途中から小走りで向かっていた俺達。
並走しながらの雑談は相応に迷惑を掛ける危険性もあったが……そこはまあ、ボーダー隊員。
裏道に近い道筋を把握しているからこそ人気も余り無く、故に時間内に何とか間に合わせた。
軽く息を整える意味もあり、見え始めた距離から歩いて近付く。
サイドエフェクトの関係でそれなりに遠くが見えるわけだけどそれが丁度いい。
時計を見れば待ち合わせた時間に対して五分前。
「というか、こういう事言うのは何だが……少し前に着くのは礼儀みたいなもんじゃないか?」
「それはそうね。 でも待ち合わせ時間に遅れてないのに何か言われるのは嫌。」
特に
問い詰めようとしたら一人だけ逃げるように駆け出して、溜息を漏らしながらその後を追いかける。
「玲、お待たせ!」
「あ、桐絵ちゃん。」
…………やっぱり違和感があるんだよなぁ。
そんな言葉は口には出さず。
二人の話が耳に届く。
学校で元気っ娘全開に押し出してるとは思えないし、少なくとも猫を被ってるのは間違いなく。
同時に同クラスで友人(当人談)だからこそ、一定以上の親交があるのも間違いない。
ただ、
或いは隠しているを気付かれていて――――?
「山鳥くんも、こんにちわ。」
「ぁー……はい。 どうも、那須さん。 早いね。」
「そうは言ってもほんの少し前に着いちゃっただけだから。」
気付けば二人の間近まで近付いていて。
掛けられた言葉に反応して思考の海から浮かび上がる。
外で生身と生身、という状態では
「どれくらい前?」
「ええっと……十分くらい前、かな?」
とすると、大体十五分くらい前には待っていたと。
……本来出る予定だった時間に出てればほぼ同じくらいには到着できたんじゃないのか?
「十分早いじゃないのよ。 もっとゆっくりで良かったのに。」
「まあ確かに。 那須さんの場合は身体のこともあるんだし。」
小南の名誉のためにも(そして言うとしても二人きりのほうが都合がいいのも有り)今は黙っておくことにする。
心配するのは何方も彼女自身の身体の事。
言われ慣れているとは思っても、口にしないのは有り得ない――――そう思う。
「待たせるの、余り好きじゃないから。」
小さく笑いながら、羽織った上着の肩口を軽く整え。
それに合わせて身体が揺れて、何とも無しにそれを眺めた。
「って言ってもねー……。」
更に何かを言いたげな小南に対して肩を叩く。
「なによ。」
「此処でずっと話すような内容でもねーだろ。 それに今日はまだ冷え込むし。」
「そう?」
そうだよ気付けよ。
震えるとまでは言わないとしても。
俺はともかくとしても。
「んー……じゃあ玲。 予定通りで良い?」
「ええ。 今日は宜しくね、二人共。」
「それは俺の言葉ですよ、っと……。」
三者三様に言葉を告げて。
予定通りに、まずは玉狛支部へ。
用事が終わればその後は――――珍しくも、昼食会だ。
コナセン:明るい衣装、動きやすい衣装(猫被りだとお嬢様っぽいロングとか着る)
那須さん:落ち着いた衣装、温かい格好(トリオン体だと別)
柚宇さん:女の子っぽさが時折感じられる感じ?(余り服装に拘り過ぎない)
大雑把なイメージ。
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山鳥 鷹-⑧
しゅいん、という物音を立てながらのトリオン体への換装。
それぞれの衣装が切り替わる中。
俺のトリオン体への変移は言ってしまって地味。
「通常の衣装と全く同じだと区別がつかない」なんて理由から、格好だけは基本的なジャージに近いものではあるのだが。
(……結局格好だけ変えたのも引っ掛かる要因になっちまったもんな。)
目前にいる、医療へと方向を向けたトリオン体の被験体として成功した那須さんと同様に。
俺自身も
彼女の場合は肉体的な問題で。
俺の場合は恐らく脳、そして神経回路的な問題が大きくて。
その差異も有り、結果も明暗を分けた――――それだけの話、なのだけど。
「? 何、鷹。 どうかしたの?」
「いや、別に。」
小さく息を吐き、今の思考を端へと避ける。
どういった感情なのか、ある程度以上に知り得てしまっているのは師匠筋。
そして今の俺に気付いているのか曖昧な
出来れば気付いて欲しくない。
そう思うことも我儘なのだろうけど。
『じゃあ準備は大丈夫?』
幾度か息を吐いた後に耳元に聞こえるオペレーター……栞さんの声。
耳元に響くような、トリオン体全体で受け取るような声を受けて頬の辺りを指で叩いた。
「大丈夫。」
『オッケー。 じゃあまずは何からやる?』
「そうだなー……。」
他の二人にも同様の声は聞こえているはずだ。
舞台は特に定めているわけではない『市街地A』。
狙撃がしやすかったり、室内戦有利だったりと特殊な区別が余り見られない戦域。
言ってしまえば地形戦と言った周囲の影響を無視しやすい、『力押しが出来る』場所。
その中の一本の道路に三人で並び立っている。
「まずは鷹からやってみる?」
「別にいいけど……スイッチボックスを実体験させる感じ?」
「何が出来るかー、ってのは実体験したほうが早いでしょ。」
「そりゃそーだが。」
攻撃手、射手、銃手、狙撃手。
一般的に分けられる4つの立ち位置(万能手系列は4つの役割の何れかを複合するから無視)とは少し違う。
言い換えれば特殊な才能、知見、或いは一般に分類できない人物でなければ選ぶことはほぼ無い特殊な役割のトリガー。
だからこそ、味方として経験する機会はなかなか無いモノではあるのだが。
「はっきり言って
出来ることに幅が有り過ぎるこのトリガーの唯一にして最も使い難いと思わせる仕様。
まあ罠を完全に隠してしまえば仕掛けた側も踏む危険があるので一長一短なんだけれども。
「そりゃね。」
「……でも、一人でないなら?」
「まあ、多分ご想像通りです。」
罠のトリオン反応を利用して誤魔化す。
仮にBランク以上に上がれた場合にやってみたい合わせ技の一つも、丁度小南がいる今なら実験できる。
ただ立ち位置だけで考えると那須さんと合わせたほうが良いのかもしれんが。
「なら。 山鳥くんの――――からで、お願いできる?」
「見た目は地味ですからね?」
そういうものでしょう、と。
当たり前のことだと呆れる顔と。
苦笑する顔が、二つ並んでいた。
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山鳥 鷹-⑨
オペレーター、及び外部視覚機能的な意味でのナビゲーターの補助機能を利用することで
掌よりやや大きめの四角い形をした物体が一つ。
「そんじゃ実験開始。」
目の前の……アタッシュケース程の大きさを持つ、機械仕掛けにも見える特殊なトリガー。
冬島さんモデルをそのまま流用している特殊戦術用トリガー、《トラップボックス》。
その中の設置した罠を起動するボタンを押下。
浮かび上がる本部のマーク、そして離れたところでの微かな光。
ほんの一呼吸程の間を空けて、地響きと爆発音が市街地の一角を支配する。
「よし無事に成功。」
「……地味ね。」
「地味だっつっただろ、最初から。」
吹き飛んだ先をビルの屋上から見つめる俺達三人。
その効果範囲や影響などを確認しているのが那須さんで。
ぶつくさ言いながら眺め続けているのが小南と俺。
「いや、でも実際そうでしょ。
「そりゃ何もない場所でやりゃそう見えるっつーの。 それがメインの使い方じゃねーんだよこれは。」
「でもねえ、《メテオラ》でこれでしょ?」
今実行した事を言葉にすれば単純だ。
自分で使用したものではないトリガー、《メテオラ》。
それを置き玉状態でチーム全体に使用権限を委任。
仮のチームとして登録されている俺がそれを《トラップボックス》の中の罠の一つ、テレポートで飛ばした。
本来は銃や弾トリガーで行う遠隔での起動・起爆技を応用した地味テク。
「俺の使い方は爆薬的な使い方だからな、お前と似たようなもんだわ。」
「あたしはもうちょい使い方考えるわよ!」
「大体直感で動いてるようなもんじゃねえか……。」
トラップボックス内に存在する罠達の中で、広範囲に影響を与えるもの。
それも周囲の建物を破壊するようなものは消費するトリオン量を考えれば
他の
俺の場合は見つからないことに重きを置かないと行けない、と考えれば。
メイントリガーの最後の一枠は《メテオラ》か《強化レーダー》の何方かにするのはほぼ確定。
……実際、肉眼での確認を考えれば強化レーダーを外してもなんとかなるんじゃないかという甘い憶測がないとは言えないし。
「桐絵ちゃん、山鳥くん。」
「ん?」
「はい?」
そんな戯言を言い合い、エスカレートする寸前。
外部から掛けられる声に互いに反応して目線を向ける。
「自分だと、まだ経験が浅いんだけれど……《メテオラ》の利点ってなんだと思う?」
彼女の隠し玉。
トリガー内に入れる、
それ自体も《メテオラ》。
だからこそ、ふと気になったことを口にしたのだろうと判断して。
「私見で良いなら……大体三つだと思いますけどね。」
「あたしの場合は他のに比べて応用が効かせやすいから選んだ感じだしー……鷹の言う三つって何だか気になるわね。」
そうか、深くは聞かないことにする。
小南のいつも通りの発言を流しつつ、口を開いた。
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山鳥 鷹-⑩
大体鷹くんの考え方。 持ち運べて任意転移できるダイナマイト。
「一つは他の銃/弾トリガーとは違って、
指を一つ立てる。
爆発する、という事象そのものを発生させるトリガー。
銃型のグレネードランチャー型、
「……いやまあ、それが《メテオラ》じゃない?」
「言っとくが此処物凄い違いだからな?」
『弾』として内部構造それぞれにトリオンを割り振って形成する《アステロイド》等との違い。
まあなんだかんだで小南は直感的に把握してるんだとは思う事。
那須さんは……感情的な面も目立つが、基本は理論的に身に付けるタイプだと俺は思ってる。
だからこそ改めて口にする。
「当たらなければ意味がない、当たればトリオン量が低い隊員でも貫ける弾との違いは
「……ああ、何となく言いたいこと分かるわ。
「無論当てた方が確実だと思いますけどね。」
まあ、使い方全然違うもんな。
「それと合わせて二つ目は
通常弾、変化弾、誘導弾、炸裂弾。
用意された4つの弾型トリガーの中でで俺が最も重視する所が此処。
「上から放り投げる、とか確実に当てに行く……よりも前に置き弾なのね。 ま、鷹らしいっちゃらしいわ。」
「それが出来てれば今こうして悩んでると思うか……?」
口にするのやめようかと思うが、聞いてきた当人が苦笑いしつつも先を促している。
……答えたくねえなぁ。
戦闘員というより技術者、工作兵目線での使用手段だし。
「……あによその眼。」
「別に。」
小南に向けた、色んな感情を込めた視線がバレた。
まあいいや別に此奴だし。
「まあ改めて言うだけ言うが、1つ目の特性があってこそだな。」
他の弾トリガーは基本的に弾速/威力/弾数を切り分けてその場で構築する。
これの有意差は置いといて。
威力(範囲)の調整のみで殆どが片付く《メテオラ》は利用しやすさだけで言えば上位に並ぶと思う。
「連携の仕方にもよる、わよね。」
「そうですね。 この辺ははっきり隊での相談内容になると思います。」
その場で利用する《シールド》迂回やら疑似
どう扱うかは当人の直感と機転次第なんだと俺は思う。
「じゃ、三つ目は?」
「なんでそう急かすんだお前。」
「いやだって、まだ一回しか練習してないじゃない。」
「それはまあ確かに。」
訓練室でし続ける内容でもないか。
ならとっとと言ってしまおう。
「三つ目は……まあそうだな、それを持つことでの心理的な圧力の掛け方が変わるって所。」
「メテオラで?」
「メテオラで。」
他の弾トリガーだったら遠距離での戦いやら間を狙う攻撃、その他諸々の『直接的な戦闘手段』として見ればいいが。
事、他の弾トリガー+メテオラ装備の場合。
「例を挙げるが市街地Dのショッピングモール。 彼処にメテオラ持っていくだけでかなり変わるのは分かるよな?」
「持ってることが分かればねー。」
「だから何処かで無駄に切ることで思考を絞る選択肢を強いれる、って考えもあるんだよ。」
全く効かない相手も相当数いるけど。
東さんとか東さんとか。
「まあ、
「オメーの場合は近接トリガーで壊せない場合の装甲破壊とかそっちだろ……。」
は? ん? と言葉にしながら言い合えば。
くすり、と第三者の口から笑みが溢れた。
……面白いところありましたか?
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