予防接種に行ったハズなのになんでVtuberになってるの?? ~地味女子JKは変態猫や先輩V達にセンシティブにイジられるそうです~ (ビーサイド・D・アンビシャス)
しおりを挟む

第1話 Vtuberオーディション!(本人は知りません)

「それでは姫宮紗夜さん。あなたの志望動機を教えてください」

 私は首を傾げて思った。

 あれ、予防接種に志望動機いるっけ? と。

 

 雑居ビルの二階の一室。

 注射待ちの列に並んで、ようやく入れたと思ったらソファに座らされ……向かい側にはきれいな女の人とうさんくさい男の人が横並びになって座っていた。

 

 女医さんとその助手……なのかな? 

 もしこの女医さんの副業がモデルだって言われても、ちっとも驚かない。

 そのくらい、その人はきれいだった。

 

 通った鼻筋、シャープなフェイスラインにぱっちりお目目。

 私なんかとは大違いだ。

 

「姫宮さん?」

「あっ! あわっ、わっ、ごごごめんなさい。えっとえっと」

「落ち着いて姫宮さん。まだ一問目よ?」

 

 女医さんの心配する声が飛んできて、私は更にテンパってしまう。だってこんな美人さんと話す機会無いから……えっと志望動機、だよ、ね?

 

 多分、予防接種の前のアンケートみたいなものかな。だったら、私が予防接種を必要な理由を言わないと。

 

「えっと。私の家、隕石で潰れたんですけど」

「ちょっと待って姫宮さん」

 

「幸い、家族は全員出掛けてたし、ご近所さんにも被害はないんですけども」

「そんなことある? 姫宮さん」

 

「それで家計苦しくなって……私も稼がなきゃいけないんです!」

「止まってくれない姫宮さん」

 

「だから今、病気で休むわけにはいかないんです!」

 

 届け私の想い! 伝われ我が家の経済状況!

 

 労働(バイト)のために、私は絶対に予防接種を受けねばならないのだ!

 

 気付けば私はテーブルに手をついて、女医さんに向かって身を乗り出していた。

 

「な、なるほど。これ以上ない志望動機だわ姫宮さん。それじゃあ、次の質問に……」

 

 すると女医さんは身をのけ反らせて、私の目から視線を外した。

 ――――勝った……っ!

 

 数多のバイト面接を受けてきた私だから、分かる。

 これは受かる手応え! 

 私は女医さんに見えないよう、小さくガッツポーズした。

 やったよ、お母さん、伽夜ちゃん。私の志望動機《想い》ちゃんと届い……

 

「――君の志望動機、たしかにすごいねェ」

 

 安心・油断・刹那の隙。

 流れ出した勝利確定BGMを遮るように、女医さんの隣に座っていた男がテーブルに足を乗っけて――宣言する。

 

「ただし、日本じゃあー2番目だァ」

「なん、ですって……っ⁉」

 

 それはつまり……私以上に予防接種を求める人がいた……ってコト⁉ 

 

 にわかに信じられない。でも、この人の目を見ていく内に分かってしまう。

 

 一見うさんくさく見える、この男の人こそ――――主治医。

 私が女医さんだと思っていた人は女医さんではなく……看護師(ナース)だったのだ。

 

「くっ!」

「いや、『くっ!』じゃないから姫宮さん。悔しがらなくていいから」

 

「お願いします! もう一度、私にチャンスをください!」

「それは落ちた人のセリフよ姫宮さん? 貴女まだ落ちてないから安心して……」

 

「良かろう。では、ここからは俺が相手してやろう」

「ちょっ⁉ 駄目よ、あんたロクなこと聞かな」

 

「お願いします!」と、私は看護師さんの言葉を遮って頭を下げた。

 私はフンスと鼻を鳴らし、今度こそと気を引き締める。

 

 組んだ両手に顎を乗せて、主治医さんが問いかけてきた!

 

「君は……今日これ(Vの面接)が終わったら何をするんだ?」

「はい! (予防接種が)終わったら、店長(パパ)に報告に行きます!」

 

 勢いよく言ってから、「あっ」と後悔する。しまった。

 店長のこと――――パパって言っちゃったよ⁉

 

 いつもバイトの時は店長から『パパ』呼びを強制されていたから、つい癖で言ってしまった‼ 

 

 まずい、早く訂正しないと……。

 そう思ってたら、看護師さんが「へぇ~」と目を丸くして尋ねてきた。

 

「なんだか羨ましいです。家族仲が良いんですね」

「は、はい! アットホームさを売りにしてるので!」

「一気に不穏な気配が増したのですが?」

「そんなことないですよぉおおーーーー⁉」 

 

 私の馬鹿ぁああああああ‼ 

 後悔先に立たず、もう二人とも納得した感じの雰囲気で先に進もうとしている。

 

――――押し通すっきゃない‼ 

 

「じゃあ、もし受かったらお父さんがどんなリアクションするか言ってみてくれ」

 

「もっと早く受けてこい、このノロマって言います!」

 

「お父さん厳し過ぎない⁉」

 

「いやでも娘への期待値半端ねーな⁉ え、受からなかったら何て言うんだ?」

 

 私は思わず想像した。

 もし予防接種受けられなかったら…………あの店長だったら…………。

 

「――(シフト)入れさせて、くれないかもです」

「(家に)入れさせないの⁉ やっぱりあなたのお父さん厳しすぎでしょ⁉」

 

「獅子は子を谷に落とす、か……子も逸材なら親も逸材だなッ!」

「だなじゃないわ、このちゃらんぽらん! イヤよ私⁉ こんな話聞いて落とせないわよ!」

 

 そう叫んで、看護師さんが主治医さんの肩に掴みかかった。

 良いのそんなことして⁉ 

 

 看護師さんの態度にびっくりしたけど、何もなかったかのように、主治医さんが咳払いして、次の質問に移った。

 

「では仮に受かったとして。週に何回(配信)やれそう? ぶっちゃけ(配信)何時間までやれる?」

 

 私は少し考えて、質問の意味に思い当たる。

 

 これは……予防接種の後どんな生活をするか聞いてる、のかな? いやそうだ! ここまでの流れ的に絶対そうだ!

 

 だから私は今後のシフトについて答えた。

 

「そうですね! 週に幾つ入れるかは分かりませんが(他の店員との兼ね合いもあるし)、やったらだいたい十は固いと思います!」

「十時間! 姫宮さん体力ありますね。私も以前やったけれど翌日に響いちゃって」

「へ? いや十日ですよ?」

「死ぬ気かしら姫宮さん⁉」

 

 看護師さんのオーバーリアクションに、私は「あはは」と穏やかに微笑み返す。

 

「やだなぁ。大丈夫ですよ、前にもしましたから(十連勤)」

「十日間耐久配信経験者⁉ なるほど、お父さんが期待する理由が分かったぜ!」

 

 手を叩いて喜ぶ主治医さん。やった! なんか知らないけど好印象! 

 

 ホッと胸を撫で下ろしていると、主治医さんは「最後の質問だ」と言ってから、眼光をキラリと光らせた。

 

「君の目標はなんだ?」

 

 その鋭さに私はごくりと唾を飲み込んだ。

 ここに来てようやく、私は主治医さんの、ひいてはこのアンケートの意義に気付けたかもしれない。

 

 そう、これは予防接種を受けてから先の人生、あなたはどう生きるのか。

 

 それを問いかけるためのアンケートだったんだ!

 だったら答えるしかない。

 今の私の、人生の目標は―――――――――――

 

「(健康寿命を)100年延ばすことです!」

「(チャンネル登録者を)100万伸ばすか! いいぞ、それでこそ逸材だぁ‼」

 

 ――――やっ……た。 

 

 受かる手ごたえを再び感じた私は今度こそ! 

 袖をまくって、主治医さんに腕を突き出した!

 

 すると主治医さんも腕を突き出した!

 

「合格だ! 君なら出来る! 目指せ金の盾‼ 目指せスパチャ1億! 我が事務所は総出を上げて君を支えるぞぉ‼」

 

 ガシィッ! と腕を組みかわす私と主治医さん。

 注射してもらえると思った私は…………

 

「ほわ?」と首を傾げた。

 

 こうして私は、Vtuber事務所【ヘブンズライブ】に所属するVタレントになった。

 

 私は合格通知が届いてからようやく、あれが予防接種じゃなくてオーディションだったことに気付き――――私を騙してオーディションを受けさせた妹を正座させた。

 

 泣かした。




本作は同サイトの「あれ?予防接種に志望動機っているっけ?~勘違いから始めるVtuber生活~」の改稿作です。
同じ箇所はありますが、後半につれてだいぶ違ってくるので、お楽しみください。
初めての方にも楽しんでいただけたら幸いです。

カクヨムコンテストにも参加しているので、ぜひ応援よろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 合格通知が届いたよ!(あと5分で初配信だよ⁉)

「くくくく……計画通り」

 

 さっきまでうつ伏せ痙攣していた妹は、涙目でにたりと顔を上げた。

 よっこいせ、と動けないように妹の上へまたがる。

 

「伽夜ちゃぁん? どういうことか詳しく教えてもらおうじゃないかぁ~?」

 

「ひぎぃっ! や、やだぁ! もうこちょこちょやめ……ァンッ‼ だめっ、だめだめだめ脇はだめぇ! だめだかっ――――あっっひぃいいいーーーーーーあはははははっははははははあゆるっ、ゆるひてぇえええええええーーーーーーーーーーー‼‼‼」

 

 えぇい、じたばたと暴れおってからに。

 上から抑えつけて、指先で脇の奥まで抉って細かくかき混ぜる。私のくすぐりは本気出せば、大人でも白目剥かせる自信がある(( -`д-´)キリッ

 

 でもあんまりやり過ぎると喋れなくなるから、くすぐるのを止めた。

 むっくりと体を起こした伽夜ちゃんはぷるぷる震えながら、

 

「し、しぬかと思った……っ! 一日に二回もだなんて……ひんじゃうぅ」

 

 そんな大げさな。

 呆れてため息も出ないけど、姉の威厳を精一杯引き出して、腰に手を当てた。

 

「さぁ、言いなさい! どうして予防接種って騙してまでVtuberのオーディションを受けさせたの⁉」

 

「Vtuberになってスパチャでじゃんじゃか稼いだらお姉ちゃんもうバイト行かなくて良いかなーって思ったのー♡」

 

「考えあっっさ⁉」

 

 うそでしょ、伽夜ちゃん⁉ 

 そんなにおバカさんだったっけ伽夜ちゃん⁉ 

 そんなの上手くいきっこないじゃない!

 でも伽夜ちゃんはムッと眉毛を吊り上げて、じたばたと反論する。

 

「浅くなんかないよぉ! 現に受かったじゃん! あたしからすれば予防接種だって勘違いしたままどうやって合格したのかが謎だよ! いやホントなんで?」

 

「ぃ、いや……そもそも変だなーとは思っていたのよ? 微妙に話嚙み合わないというか……今更だけどスパチャ1億って何? 金の盾? いや盾より注射針ください」

 

「その時点でなーんで気付かないかな、このお姉ちゃんは」

 

 う、ぅぅぅうううるさい! 

 鼻で笑うな! ため息つくなぁ! 

 

 二回くすぐり泣かされても妹のふてぶてしい態度は変わらなかった。

 まぁそれはいつものことだけど……私は家に届いた合格通知に目を落として、息を吐く。

 

「伽夜ちゃんには申し訳ないけど……迷惑かけちゃう前に合格断らせてもらうね」

「――――なんで?」

 

 どうしてって……そんなの分かり切ってるでしょ。

 

 家族みんなでちょっと深夜にコンビニ行ったら、家にメテオ降って粉砕。

 通帳もクレカも家の財産は文字通り木っ端みじん。

 保険でなんとか六畳二間のアパートに住めたけど……とてもじゃないけど配信活動なんて出来る環境でも状況でもない。

 

「そんなの分かり」

 

「――――()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ハイライトが消えた妹の目に、言葉を遮られる。

 その一瞬の隙に、伽夜ちゃんは押入れのふすまを勢い良く開いた。

  

 しばらく見ていなかった押入れの中身が……なんということでしょう。

 

 壁に敷き詰められた防音素材、うなりを上げる配信用PCに機材諸々。

 極め付けはPC画面に流れるコメント欄と――その横にいる2Dモデルの美少女。

 

 劇的なアフターを見せられて呆然としてる私に、伽夜ちゃんは……にっこぉと満面の小悪魔スマイルを浮かべた。

 

「あと5分で初配信なのに?」

 

「………なにこれぇええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーー‼︎⁉︎‼︎⁉︎」

 

 天の川のように流れる白銀の長髪。

 円らで大きな空色の瞳。

 元の私よりもご……ご立派なお胸ぇ。

 良い感じにむ……むちっとした太ももぉ。

 そういうエ……エッチなところに限って切れ間《スリット》が入った、白基調のドレス。

 でも何より特徴的なのは、背中と頭に生えた四枚の――黒い翼。

 

「これがお姉ちゃんのガワだよ♡  堕天使【宵月レヴィア】!」

 

 可愛すぎて神が尊死()にそうになったから下界に堕とされた傲慢な堕天使。

 堕天の際、落下地点の宵月家を大破させる。

 お詫びとして下界で働きながら、宵月家に居候している――――という設定が事務所の公式サイトに載ってた。

 

 悶絶した。

 畳に転がった。

 可愛すぎるっておま……神が死にそうになるておま……堕天使っておま!

 

「厨二かぁ!」

「中二ですが?」

 

 そうでしたぁ! って、言いたいことはそこじゃなくて!

 いけしゃあしゃあと答える妹の肩を掴んで、私は突っ込んだ。 

 

「これ私ん家じゃん! 宵月家って姫宮家じゃん! 堕天使ってこれ、私ん家に落ちたメテオじゃーーーん!」

 

「どっちも落ちてんだから変わらないよ」

「あっ、なるほど……ってならないからね?」

 

「とにかく! あたしはこの日のためにずーーーっと『お姉ちゃんVtuber化計画』に専念してきたの! だから配信部屋に行って! ほら早く行って! 挨拶は【こんレビ】だよ!」

「待ってぇっ⁉ お姉ちゃんに考える時間ちょうだい⁉ お願いだからぁあああ!」

 

 その時、私は思い出した。

 私の妹は大人顔負けの天才で。

 その能力を全部【私のため】に全振りしてくるシスコンだって。

 

「じゃあ、トラブルあったら後ろ向いて? あたしがカンペで指示するから」

「この……状況がもう……トラブル」

 

「うん大丈夫そうだね! でもとりあえず第一声のセリフだけ書いといてあげる!」

 

 伽夜ちゃんはカンペとなる大きめのスケッチブックに、さらさらっと書いていく。

 ――――え、これ言うの? 

 

「あっ、ほら始まるよ!」

「えまってまってまって!」

「大丈夫だよ――――お姉ちゃんは綺麗だから」

「ぅううう〜〜〜、私は傲慢な堕天使私は傲慢な堕天使私は傲慢な堕天使ぃ!」

 

 自分にしっかりそう言い聞かせながら……もうどうにでもなれって気持ちで、第一声の挨拶を読み上げた!

 

「ふぁっ、ふぁーはっはっは! 待たせたな眷属達! さぁ、邂逅を告げし鬨の声を上げようぞ! こ……こんレビぃ‼」

  

[ コメント ]

・は?

・は?

・は?

・ハ?

・はぁ? 

 

 塩対応のコメントを前に、私はプルプル震えながら、真っ赤になった顔を覆う。

 

「殺して……殺してくださひぃ……!」

 デビュー後1秒で死を望む堕天使が今、生まれました。




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 初配信スタート!(もう何回PONしたんだろぅ……)

 私は傲慢な堕天使私は傲慢な堕天使私は傲慢な堕天使ブツブツブツブツ…………。

 待機画面の前、必死にそう言い聞かせた私は今――――――――

 

[ コメント ]

・なんて?

・も一回言ってみ

・か、かいこ……なんだって?

・よく聞こえないなぁ、おかわり

・声上擦ってるの可愛い

 

 コメントの総ツッコミに、顔真っ赤で悶えていた。

「言わないよぉ‼ あぅぅうううう何がおかわりだよぉ……しっかり召し上がってるじゃんかよぉ……可愛いってなんだよぉ~~恥ずかしいよぉ~~~」

 

[ コメント ]

・かわいい

・カワイイ

・可愛い

・カワ(・∀・)イイ!!

・KAWAI

 

「ちょっ、なんで……恥ずかしいって言ってんじゃぁん⁉」

 あれ私、日本語間違えた⁉

 可愛いという言葉に溢れるコメント欄に、私のメンタル限界。

 助けを求めて、伽夜ちゃんの方を振り返る。

 

 すると既にカンペに指示が書かれていた。

 さすが妹ぉ!

 私はカンペの通りにまた読み上げる。

 

「ほ、褒めて遣わす! わら、わりゃりゃをっぱりゃぱりゃっぱ!」

 

[ コメント ]

・噛んだーーーーーーー!

・盛大に神田

・転がり落ちるような噛みっぷり

・ゴロンゴロン!

・なんて?

 

 もぉぉおおおおお伽夜ちゃぁーーーーーーん‼

 

 私は一人称を『妾』に設定した伽夜ちゃんを恨みがましく睨む。

 

 こんなの噛むに決まってんじゃぁん! 

 でも今はそれどころじゃない。

 ンッンッ、と咳払いで恥ずかしさを消し飛ばす。 

 

「……妾じゃ。高貴な存在たる堕天使だからこそ、一人称まで厳かに……」

 

[ コメント ]

・ぬるっと言い直してんじゃねぇ

・仕切り直しざっっつwww

・わりゃりゃカワイイ!

・わりゃりゃ様ぁ~可愛いよぉ~

 

「そんなに言わなくても良いじゃあん⁉ な、泣いちゃうぞ⁉ 妾泣いちゃうぞ⁉ もうとっくに涙目なんだからな⁉ 後、わりゃりゃ様じゃなぁい‼ かわいくなんてない! もぉ~~かわいい禁止!」 

 

[ コメント ]

・いとあはれ

・あはれあはれ

・げに愛らしき天使なり

・愛い少女ぞ

 

「え? あ……みんな賢い。え、いや普通にすごい。妾の眷属、天才では?」

 思わず素でびっくりした。

 かわいい禁止に応えてくれたのもそうだけど、かわいいと同じ意味の言葉こんなすぐさま言えるなんてすごい! 

 

 私はマイクの前でパチパチパチと拍手した。

 そしたら

 

[ コメント ]

・めっちゃ褒めるやん

・やめろ拍手するな、恥ずかしい

・やだこの子、すごい褒めてくれる……

・もっと褒めてくださいお願いします!  

 

 わぁぁぁ……コメント欄が、『褒めてほめて』とすごい勢いで流れていく。

 こ、これ一人一人が言ってるんだよね……このコメントの一つ一つの向こうにいる人の顔をぼんやり想像した途端――――じわぁって、暖かい気持ちが芽生えた。

 

 胸の中、ずっとドキドキしてたけれど……たった今それだけじゃなくなった。

 

「み、みんな……すごいなぁ! さすが、妾の眷属! えらいなぁ!」

 

 大丈夫かな、ちゃんと言えたかな、ちゃんと聞こえたかな。

 目元を拭いながら、声が震えてなかったか心配になる。

 

 ちゃんとやりきろう。楽しんでもらおう。

 そう思えるように、今なった。

 

 ……って言っても何すれば良いの⁉

 

 そしたらコツン、と後頭部を小突かれた。振り返ったら伽夜ちゃんがマジックで書かれたカンペを指さしていた。 

 

『自己紹介。あと、挨拶やりなおし。普通に初めましてから』

 

 言わされた言葉じゃない。

 私自身の言葉で言えと、伽夜ちゃんは既に背中を押してくれていた。

 

「あ、あー、えと、その……今更であるが、あ、改めて。は、はじめまして。

 よ――宵月レヴィアである。よ、よろし、く頼む!」

 

 バクンバクンうるさい心臓のせいで、つっかえつっかえだけども。

 今、この時、ようやく私の中で『宵月レヴィア』の自覚が芽生えた。

 

[ コメント ]

・やっと名前言ったよこの子

・ふぁははが実質名前

・宵月ふぁはは

・わりゃりゃ様でもある!

・こいつ何回PONすんだろう

・マイクミュートしてなかったからな

・私は傲慢な堕天使って言い聞かせてたの可愛かった

・逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ

 

「――へ? 聞こえてたの? 私は傲慢な堕天使って? え? うそでしょ? 

だって……マイク、ミュート………ふぇええええええええ」




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 初配信にオド〇☆ココロが(お風呂鼻歌を勝手にUPされてました)

「ふ、ふぐっ……で、では軽く自己紹介をす、するぞ? まずは妾の種族であるが一応『天使』である。しかし、そのまぁ、なんだ……か、かか可愛すぎて神に堕天させられたといぅ……やめろやめろやめろ! かわいいを連呼するな神に同意するなぁ!」

 

 すんすんと鼻をすすりながら何とか設定を言ったら……すごい勢いで神の賛同者が増えてる⁉ 

 

 あぅ~~~~頬がにやけるぅううううはずかしうれしぃぃいいあああああ!

 

 赤くなった頬をつねって、話題を軌道修正。

 カンペに書かれた設定を横見しながら、自分の言葉で言い直していく。

 

「そんな訳で堕天使になった妾だがな? 天界から落とされた時に……一軒家を潰してしまってな? それで今はその家、宵月家に居候しておるのじゃ。堕天の弁償代としてバイトに明け暮れておった所、ヘブンズライブと出逢えたという訳じゃ」

 

[ コメント ] 

・堕天が思ったより物理!

・踏み潰してしまったか……

・堕天使さぁーん、どうしてそんなに大きくなっちゃったんですかぁ?

 

「真面目にやってきたから……じゃないよ! そんなにおっきくもないよ!」

 

[ コメント ]

・体重何キロ?

・一軒家の破壊規模からエネルギー規模特定して、堕天速度が分かればワンチャン計算できる? E=mc2の法則。人ひとり分の質量で被害が一つの家屋限定だから堕天速度はそんなでもなさげだけど(以下略)

 

「まってまってまって⁉ すごいインテリいた今⁉ すごい論理的に妾の体重計算しようとしてた⁉ ていうか堕天速度ってなに⁉」

 

 あれ? なんだか――――私、上手く配信やれてる? 

 だってなんだかんだ20分くらいずっと喋れてる。クラスメイト相手だったら1分も間が持たないのに。 

 

 あれちょっと嬉し…… 

 

[ コメント ]

・鼻歌動画から来ました! 可愛いかったです!

・寝息最高!

・声出し動画にしては、めちゃめちゃ沢山投稿してますね。これからも応援してます

・お風呂の水音+鼻歌カワイすぎ

・ふにゃふにゃ寝言言ってるあの動画、実質ASMR

 

「――――え? なにそれ知らない」

 

[ コメント ]

・知らない⁉

・なんで⁉

・草www

 

「え、え、え? お風呂? 寝息? は、はなう――――はっはっはっはっはっはっ」

 

 胸騒ぎが激し過ぎて過呼吸になる。

 生い茂るコメント欄を無視して、速攻YUTUBEのチャンネルを確かめた。

 あった。ショート動画が……30本近く。

 

「どゆことどゆことどゆこと⁉ まって知らない! 私こんなの知らないよ⁉」

 

 い、いやまだだよ。再生してみたら全然関係ない内容かもしれない!

 カチッ。

 

 

『へいじょーい、ふんふふん、ふんふんふん♪ いっじょーぃん♪ ふふん、ふふふふんウッ!』

 

 

「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」 

 

 ちゃぱちゃぱ、と湯舟でリズムを取りながら、私の鼻歌はご機嫌に心躍らせていた。

 

[ コメント ] 

・ウッ☆

・カワイイ過ぎるwwww

・私呼び、助かる

・ウッ☆

・Wo☆

・心オドッテんねぇ!

・お風呂のちゃぱちゃぱが妄想掻き立てるぅ!

 

「あぁあぁあ……あ、あ、あ、あ」 

 

 ぴくぴくと突っ伏した体が震える。なんで……なんでなんでどうして。

 一体誰が――――後ろを振り返る。

 カンペを持った伽夜ちゃんがニコニコ笑顔で舌を出していた。

 

「ちょと、ちょっと一旦ミュートするぞ。すまなんだな眷属達。ちょっと……話つけに行ってくるわ」

 

[ コメント ]

・消えたwww

・ガチトラブルやんけ

・本人じゃないなら誰なんだ?

・え、普通に歌声可愛くない? 

・上手くはないけど好きなんだな~って伝わってくる

・これは歌枠が楽しみだぁ

 

 ――温かいなぁ、眷属のみんなは本当に温かいなぁ……っ! 

 だからこそ配信裏(こんなすがた)見せられないなぁ〜〜〜。

 

「はぃぃ! あたひはぁ! おねいちゃの生活音録音しへぇ! 勝手にupしまひたぁぁーーーーんあひぃぃいぃやめっ! もっ、やめへぇーーーー‼︎‼︎‼︎」

 

 妹泣かしてるとこは見せられないなぁ〜〜〜。

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 初配信終了!(次回のコラボはヤバい猫⁉)

「戻ったぞ〜〜眷属達よ〜〜、犯人は宵月の娘じゃった〜。聞き苦しいものを公開してしまって申し訳なかったの。後でしっかり削除するでな、安心して……」

 

[ コメント ]   

・やめてぇ!!!

・消さないでぇ!

・聞き苦しくなんかないよぉ!

・控えめに言って天国なんよ

・癒し動画を消さないでぇ!

 

「え、え?え?え? な、なんで? だって下手くそじゃろ、妾の歌⁉︎ 妾、カラオケで下手くそ過ぎて友達いなくなったんじゃからな⁉︎」

 

コメント

・草www

・自分からぼっち暴露していくぅ

・友達いないんですねわかります!

・そんなこと無いけどな〜

 

「良いか、眷属達よ! 具体的にはこれから入学、クラス替えする眷属達よ! ――――親睦会のカラオケでハジけるな‼︎ 死ぬぞ‼︎」

 

コメント

・気迫がすごいww

・遭難かな?

・寝るな死ぬぞ並のガチ感草

・説得力がちがう

 

「と、とにかくもうこの話終わり! 終わりじゃもぅ……でもショート動画は残しとくねそのーーーーぅ、嬉しかった……から」

 途端、コメント欄がすごい勢いで流れていった。カワイイばっかり……っ! 恥ずかしくて顔を覆ったら、ほっぺが熱い! ちらっと指の隙間から見てみたら、たまたま目についたコメントを拾った。

 

「なになに? えーと、妾がどんなバイトを経験されてきたかだと? コンビニである」

 配信前に話して良いことを伽夜ちゃんと決めてて良かったぁ。

 私はウキウキと質問に答える。

「こう見えても妾、棚整理めちゃ得意なのだぞー。お客のおじさんに褒められてなぁー。でもレジ打ちは未だに苦手で……ほんと途中から水道代の紙とか出すのやめてほしぃ……妾のスマイルは商標登録されてないんじゃよぉお……」 

 

 ――ハッ、しまった!

 自慢話(誰も聞いてくれないから)しようとしてたのに、いつの間にか愚痴になってしまった! 今のはあんまり堕天使らしくなかった、どうしよう!

私は慌てて訂正しようと思ったら……

 

[ コメント ]

・公共料金の支払いは最初にやろうね

・わかるマーン

・スマイルで金取りたい

 

 あ、れ? 

 意外と反応が良かった。むしろ共感してくれるコメントの方が多かった。  

 それを見て私は……おそるおそると、アノ事について触れてみることにした。

 

「あの、眷属達に聞きたいことがあるのだが――――店長から『パパ』って呼んで欲しいって言われたこと、ある?」

 

[ コメント ]

・は? 

・え、コンビニだよね?

・きしょいきしょいきしょいきしょい

・ヤベェ職場じゃねぇかww

・すまん、吐いてくる

・パパって呼んで♡(このコメントは通報されました)

 

 自分の顔が一気に晴れやかになるのを感じた。

 

「だよねぇ⁉ やっぱり変だよねぇ⁉ いや私だって変だなーって思ってたの! 『アットホームな職場ってこういう意味だっけ?』って首傾げたもん! ちがうよね、バイトにパパ呼び強制はアットホームじゃないよね⁉」

 

 その時、私の中で何かタガが外れた。

 どうしよう、止まらない。ずっと我慢してたことが溢れてくる。

 伽夜ちゃんが後ろから小突いてるけど、一人称『私』に戻っちゃってるけど、構わず話し続ける。

 みんな、そんな私の愚痴に共感して付き合ってくれるから、ブレーキも利かなかった。

 

「タバコの銘柄とか言われても分かんないよぉ~~! 棚の番号で注文してよぉ~~~! 『マイセン一ミリ』ってなんだよぉーーーー‼」

 

[ コメント ]

・あれ、酔ってる?

・泣き上戸カワイイ

・脳内でアルコール分泌できる天使

・良い大人のみんな、タバコは棚番号で注文しようゼ! 

 

 時間はあっという間に吹き飛んでしまい、伽夜ちゃんがカンペでバァンと頭叩いてくれてやっと正気に戻れた。 

 

「あぅぅうう……えっと、その、取り乱した……ごめんなさい。みんなが優しいから甘えてしまった……ほんとにごめんなさい」

 

[ コメント ]

・⁉ ⁉ ⁉

・何の音⁉

・誰かいる?

・甘えたって……ええんやで

・せやせや

・一向に構わん

 

「~~~~っ! 温かい……みんな温かいなぁ……ぅぅぅごめん、ほんとうにごめん……優しい、ほんとやさしいぃなぁみんなぁ――――おわり、たく、ないなぁ」

 

 じわっと広がる胸の温もりに切なさを覚える。

 あんまり上手くできなかったのに……本当にありがたくて、目が潤む。

 でもさっきからずっと伽夜ちゃんがツンツンと頭をつついている。

滲んだ視界に次回の配信予告について書かれたカンペが映る。

名残惜しさに後引かれながら、配信画面に向き直る。

 

「――――うむ! でも明日もまたみんなと会えるから! だからちょっとだけバイバイなのだ! うむ! という訳で明日はきゃ……【キャスパー】? というVtuberとコラボ……するらしい! 眷属のみんなぜひ来てくれ!」 

 

 最後くらいハツラツに、ハキハキと!

 そう思って元気よく言ったんだけど――――直後、コメント欄に不穏なざわめきが走った。 

 

[ コメント ]

・え

・あっ

・あっ、これは

・うそやん

・初手であれとコラボ⁉

・天使が汚されるぅぅううううう!

・貴重な天使枠が……

・こうしてあの猫の毒牙にかかるのね……

・キャスパァァァーーーー‼

・あの猫はヤバいですよ、レヴィアたん

 

「……え? え⁉ ちょっ、それってどういう……」

 詳しく聞こうとした途端、後ろから伸びた手が配信終了ボタンを押した。

 

「初配信、お疲れ様☆ おねーーちゃん!」

 伽夜、ちゃん?

 振り返って見た私の妹の顔は――――年より幼い、無邪気な笑みを咲かせていた。

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 身バレこわいよぉ!(クラスメイトが私を推してました)

 バイトやめてきた。

 というより「やめさせられた」って言った方が近い。

 

『いいねいいねぇ! お姉ちゃんやっぱ最高だねぇ! 登録者数じゃ、もう収益化の条件クリアしちゃったよ⁉ すごいよぉ! これからも一緒に配信頑張ろうね、お姉ちゃん! あ、ちなみにバイト先に辞表出しといたから、もう行かなくてよいよ』

 

 これが、妹が起こしにやってくる微笑ましい日常シーンのセリフである。

 ぅぅうう、朝から胃が縮んだよぉお。

 

 妹目覚ましが早い時間だったから、学校に行く前にバイト先のコンビニに行って確認してきた。

 マジだった。

 

「怖い……もう怖い……伽夜ちゃんが怖い」

 

 私の筆跡そっくりの辞表を見た時の寒気は、未だに収まらない。

 春のお日様はぽかぽか温かいのに、胸の中は冷え冷えだった。

 

 冷え冷えな原因は分かってる。

 朝日に照らされた通学路からスマホに視線を落とす。そして【宵月レヴィア】のYUTUBEチャンネルを見る。

 

 わぁ~~、4桁超えてりゅ~~~~~。

 

 色々悟った私の顔をパァ~~とお日様が照らす。

 そして笑顔のまま、私はガ君と膝から崩れ落ちた。

 

「どう、しよ……どうしよどうしよどうしよどうしよぉ~~~~⁉」

 

 不安に叩き伏せられた私は、ひしっと電柱にすがりつく。

 ――――バレてたらどうしよう⁉

 

 昨日、配信が終わった後ふと考えちゃったんだ。……もしクラスの誰かがあの配信を見ていたら? って。 

 

 そんなのあるわけないじゃーんと思って寝ました。起きたらチャンネル登録者1万人超えてました。

 

「お願ぃ、嘘だと言って……」

 もう一度、【宵月レヴィア】のチャンネルを見る。数字は変わらなかった。

「あぅぅ……こ、こんなことならボイチェンすれば良かった……いや、日頃からボイトレしていれば……」

 

 どれだけ後悔しても、もう遅い。

 まぁクラスに友達はいないし、名前も覚えてもらえてるかどうかって感じだし。

 

 声を掛けられる時なんて、宿題写さしてと頼まれた時とか、放課後の掃除を頼まれた時とか、クラスの雑用を頼まれた時しか無いし………………良いように使われてるなぁ〜〜〜。

 

 それでも私と宵月レヴィアの声は同じだ。

 クラスで【Vtuber界隈】に詳しい人はいないと思うけど、でもチャンネル登録者が増えれば、認知度が増えれば、それだけバレる確率高くなるわけで!

 

「……いや、よく考えてみて」

 

 私は努めて冷静さを取り戻しながら、校門をくぐる。

 クラスの誰かにバレると言ってもさ、この世界にはすごいエンターテイナーはたくさんいるわけで。

 

 クラスで話題になるレベルなんて、登録者ウン十万超えのトップVtuber位にならないと。

 

 つまり……そこまで気にしなくても、良いかも。

 そんなこんなで教室の前に着く。

 いつもの習慣で度無しメガネを掛けてから、自分に言い聞かせる。

 

「うんそうだ絶対そうだ! そうだよ、私が思う程、みんな私なんかに興味ないじゃん! アハハッ、胸が軽くなってきた!」

 

 気付かない内に自意識過剰になってたよ。はーぁ、杞憂杞憂♡

 私は胸を撫で下ろしながら、教室の戸をサラッと開けた。

 

 

「好きなVtuber? 【宵月レヴィア】かな。昨日、初配信したばっかの子なんだけどさ……切り抜きあるよ。見る?」

 

 

 クラスの中心《イケメン》がおもっきり布教してた。

 

「 三波くぅーん‼ ちょっと私と一緒に来てほしぃィィィなぁァァあああ‼⁉ 」

 

 談笑中、否、布教中の彼の袖を引っ張って、私は彼を教室から引きずり出した。

 ホームルーム開始を告げるチャイムが後ろから聞こえてきた。

 

 そうして教室とは反対側の校舎、その裏の日陰まで来た時に、彼――三波恭介君が声を掛けてくれた。

 

「あの~もうそろそろ良いんじゃない?」

「え……っ⁉」

 

 だから今気付いた。

 袖をつまんでるだけと思っていた私の手は……三波君の手を握ってた。

 

「ひゃあ⁉ ご、ごごごめんなさいっ!」

 

 私はパッと彼の手を離すと、慌てて頭を下げた。

 彼は後ろ手で頭を掻きながら、首を傾げた。

 

「いいって謝んなくて。で、俺を連れ出したのはなんで?」

 

…………………………まずい。

私は頭を下げて顔が見えないことを良いことに、たらたらと汗を垂らす。どうしようどうしようどうしよう何か言わなきゃ、でも何言ったらいいの⁉ 

 

「え、はっ、その、あの……あ、の」

 

 う~~うるさいよ心臓ぉ! 

 前髪をサッサッと降ろして、赤くなっちゃった顔を隠す。

 なんで! 

 よりによってなんで……三波君が【レヴィア】を知ってるの⁉

 

 彼の名は三波恭平。学校を代表するイケメン君だ。

 スポーツ万能・成績優秀で『フィクションご出身です』と言われても納得しちゃうくらいの美男子。

 

 そんな人が、彼が、どうして。

 

 そうこう考えてる内にどんどん辺りに静寂が包んで――――サァァァァッとどこからか風が吹いた。

 

 日陰に咲いた桜の花びらが、私と彼の間に舞い込む。

 

「もしかしてさ――――姫宮さん……好きなの?」

「……ひぃえ⁉」

 

 バクン‼ と心臓がひと際強く胸を叩いた。ぼわって顔が熱くて熱くてアダメだ訳分かんなくなってきた! 

 

「そ、そんな! ちが……っ! 私なんかが三波君と」

「宵月レヴィア、好きなの?」

「だなんて………………エ?」

 

 桜の花びらを押しのけて、ぐいっと一歩踏み込んだ彼の顔。

 その切れ長クールな瞳の中にある輝きは……伽夜ちゃんと同じだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 推しを語り合う仲になりました(推しは私自身です)

「宵月レヴィアは間違いなく次にクるVtuberだよ。姫宮さん、Vtuberって前から見てたの?」

「あ、いや、妹が見てたのを横でちょっこっとだけ……」

 

「そっか、それで宵月レヴィアを知ってるのすごいね。推すタイミングは人それぞれだけど、レヴィアたんに関しては今が推し時だよ」

「れ、レヴィアたん……」

 

「愛称だよ、昨日、初配信だったんだけどすごく可愛かった」

「か、かわっ! かわ……かわ……かわ」

 

「そう、俺も最初はガワから興味持ったんだ。ヘブンズライブのステラってVtuberが描いてるんだけどさ。ほんと可愛いんだよ、でも俺が本当に好きになったのは最初の挨拶でさ。堕天使の威厳っぽさを出す高笑いなんだろうけど、あんまりにも似合ってなくて可愛いよね」

「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~っ!」

 

「それとあのショート動画! お風呂鼻歌は最&高だった。ココロ〇ドルをあんな可愛くできるのは天性の才覚だよ。湯舟の水音も良き」

「っ! っっ‼ ~~~~~~~~~っ‼‼(声にならない悲鳴)」

 

「でも俺は寝言の方もイチオシなんだよ。ムニャムニャ感がすごく庇護欲かきたてられるというか……撫でたい、頭撫でたい。イヤホンあるけど聞く?」

「勘弁してください……おねがひしまひゅ……」

 

 こてんと地面に転がった私は「はぁはぁ」と息絶え絶えで彼にお願いした。悶え過ぎて息が辛い……! いやもう彼の語りが辛い!

 

 三波君、真顔で淡々と推し語りしないでよぉ!

 

 クラスの中でもイケメンとして知られてる彼の鉄面皮はすごい強度だった。

 ぴくりとも動かないんだよ、表情筋。

 なのに目だけは無邪気に燦然と輝いてるんだよ!

 

「……ごめん喋り過ぎた。嬉しかったんだ。Vtuberの話できる人、いなくてさ」

「え、でもさっき話してたよね? れ……レヴィアちゃんのこと」

「あれはどうしても話したくて。でも、あんまり伝わってなかった。好きなものを語り合いたいだけだったんだけどなぁ……」

 

 その時の三波君の顔があんまりにも寂しそうで……。

 

 私は、なんて言えばいいんだろう?

 あぁ――――こわい。

 

 どうして、言葉ってこんなにこわいんだろう。

 嫌われないかな、引かれないかな。

そういう不安が喉を塞ぐ。私にとっては慣れた感覚――――昨日起こったことが特別過ぎて忘れてただけの感覚。

 

 ――――でも。

 

 コメント欄が頭の中に浮かんで流れてくる。

 好きだって言ってくれた。

 可愛いって、言ってくれた。宵月レヴィアを、あんなにも。

 三波くんも、その中の一人なんだ。

 ……勘違いしちゃ、いけないって分かってるけど。

 

「私も、好きだよ」

 

 きゅっと、隣にいる彼の袖をつまんで、言う。

 堕天使だった自分を、脳裏に描いて、言う。

 

「宵月レヴィアが好き。だからっ」

 

 応えたいと思った。目の前の眷属に。

 すっごい恥ずかしいけどっ、でもそれ以上に……嬉しかったから。

 

「ここで、私と語り合いませんか」

 

 声が震えた。指が震えた。でも、胸の中は震えなかった。

 

 言わなきゃいけないことを、伝えなきゃいけないことを、言えたから。

 彼はきょとんと目を丸くして――――鉄面皮が、綿毛のように解けた。

 

「良いの?」

 

 暖かくなった目の輝きに、私はふにゃって頬が緩んでしまった。

 

「私で、良かったら」

 

 こうして私は、三波君と【宵月レヴィア】について話し合う仲になった。

 

「じゃあ、一緒にレヴィアたんの寝言聞こっか」

「――――え?」

 

「はい、イヤホン。いやさっきも言ったけど、俺のイチオシは入浴鼻歌じゃなくて寝言の方でさ。想像以上のふにゃふにゃっぷりで、しかも出てくる単語が『なんでそれ?』みたいなものばっかで」

 

 キュッと問答無用で、耳にイヤホンを詰められる。

 初めてクラスメイトの男の子とイヤホンを分け合いました。

 聞くのは自分の寝言です。

 

「一体レヴィアたんってどんな夢見てるんだろうね」

「…………ホントにね」

 

 この後、私はめちゃめちゃ悶えまくりました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 マジできつい淫乱猫(女子のみんな、逃げるよ!)

「どう? レヴィアたんの寝言。本当ふにゃふにゃでかわいいよね。ちょっとしたASMRだよ。ぜひとも寝起き凸配信をやってほしい」

 

 はぃぃ、分かりました、一考しておきます……。

 

「? なんで顔隠して小刻みに震えてるの?」

「か、かわいすぎてぇ! つらぃなぁ!」

 

 ヤケクソ気味の自画自賛に、当然だけど彼は気づかず、むしろ指をぱちんと鳴らす。

 

「分かりみが深い。尊みの過剰摂取だよね、見た者を心肺停止に追い込むなんてさすが堕天使、罪深い」

 

 冤罪だよぉ‼ 

 わたしそんな悪くないよぉ! 諸悪の根源、私の妹ぉ‼

 

「? なんで口パクパクしてるの?」

「……(真実を伝えられなくて)つらたん」

「ね、つらたんだね、プリティはギルティだね」

 

 プリティギルティレヴィアちゃんってか? こいつぁ傑作ダゼこんちくしょうめ。

 体育座りしてた私は、両ひざの間に顔をうずめた。

 

 伽夜ちゃ~~~~ぁン! 幾らなんでも投稿し過ぎでしょうよぉ!

 帰ったら妹が痙攣するまでくすぐろうと思った。

 そんな風に復讐の決意を固めてたら、ふと三波君のスマホ画面が目に入った。

 

 宵月レヴィアのチャンネルに今夜の配信のリマインダーが表示されている。

 サムネにいるレヴィアと猫のアバターを見ながら、私は三波君に聞いてみようと思った。

 

「ね、ねぇ三波君。キャスパーってどんな人? い、いやね? 今夜、あの人とレヴィアちゃんコラボするじゃない? 私、他のVtuberは詳しくなくて」

「あー……キャスパー、ね。うん……あれは、個人で活躍してるVtuberでね」

 

 あ、あれ? なんだろう? テンションが露骨に落ちてるような。

 明らかにローテンションだけど、三波君は語ってくれた。

 

 キャスパー。

 私みたいに企業とか事務所に所属していない、個人で活動しているマスコット系Vtuber。

 白くてモフモフの毛、ぴょこんと立った長耳に……子猫特有の、あの魔性の魅力を秘めたプリティフェイス!

 

「かっ、かわ! かわいぃーーーー‼」

 

 キュンッと胸の中が絞めつけられて、声が絞り出される。可愛すぎてぱたぱたと悶えてたら、三波君が「猫好きなの?」と尋ねてきた。

 

「うん! だいす……き」

 

 パァッと心の底から笑顔になれそうだった私は……額を抑える三波君を前にして、しりすぼみ的に声が小さくなった。

 

「そっか……そっかぁぁぁ~~~~~~」

「え、え? ど、どうしたの?」 

 

 なんだろう、なんかこの反応見たことある気がする。少し思い返せば、すぐに思い至った。――昨日のコメント欄とまったく同じ反応してる⁉

 

 同級生に他人の寝息を聞かせてきたあの三波君が、躊躇いながら聞いてきた。

 

「……知りたい? どんなVtuberか」

「え、う……うん、知りたいよ。だって……」

 

 だって今夜話す相手なんだもの。

 

 なのに昨日のコメント欄しかり三波君の反応しかり……どんどん怖くなってきた。

 でも、このまま何も知らずに、その人とコラボする方が――――よっぽど怖い!

 

「分かった。じゃあ、キャスパーのBwitter(ブイッタ―)のアカを送るよ」

 

 ほどなくして、さっき交換した三波君のBINE(バイン)から、URLが送られてきた。

 あれ? 話してくれないの?

 

 私がそう思ったのが伝わったのか、彼は念を押すように言った。

 

「いいかい、いくら俺でも同級生の女子にアレを見せるのは躊躇うんだ。見るなら自己責任で見てくれ―――俺には荷が重い……」

「こ、ここまで恥ずかしい思いさせといて……今更躊躇う……だとっ⁉」

 

 思わず本音が漏れてしまった。

 私は慌てて首を傾げた三波君からスマホの画面に目を移した。

 そしておそるおそる……URLをタップ。

 キャスパーさんのBwitterのアカウントに飛んだ。うん、プロフもアイコンも別に普通……………

 

『ぼんような猫ならたべてねるだけだろうけど、吾輩はおなにーもできるえらいねこだ。にんげんよ、ほめたたえよ、しこしこできてえらいねってほめたたえよ』

『ねこのにんしんりつは百パーセントなのだ。つまり吾輩のちんちんはNTRの竿役に適役なのである』

『クレアちゃんによしよしびゅっびゅっされたいよーー、ステラちゃんのちっちゃい手でもふもふしてもらったあとにぎこちなくしこ

 

 スマホを投げた。

 今までこんな剛速球投げたことないってくらい、ぶんなげた。

 140キロはかたかった。

 

 肩が震える息が荒い。

 がたがたと肩を両手で抑える私を、三波君は優しい目で見守ってくれてる。

 

「ご……ごめっ、なっ……ごめなさい。こ、こんな時……どんな顔したらいいか……分からないの」

 

 息絶え絶えに、でも私はやっと言葉を紡げた。

 三波君は私のスマホを取ってくると、優しく微笑みながら、

 

「笑えばいいと思うよ」

 と、スマホを渡した。

 

 その言葉は、動揺した私の目を覚ましてくれた。

 ばきばきのスマホを握りしめて、私は目に涙をためたまま、彼を見上げた。

 

「笑えないよぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーー‼‼‼‼‼」

 

 今夜21時、キャスパーとコラボします。眷属のみんな、見に来てね

 

                  19時23分 宵月レヴィアのつぶやきより

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 もうヤダ助けてパパぁ!(コラボ配信、始まります)

「こ、こんレビ! 待たせたな眷属達よ。ヘブンズライブ所属の堕天使:宵月レヴィアである! そして! 今宵、宵月家に訪れたのは、この猫!」

「大きいち〇こには棘がある。どうもはじめましてこんキャスです。個人勢Vtuberキャスパーです」

 

 かひゅ、って声、初めて喉から出した。

 初手の挨拶からくじけそうになった私は必死に立て直そうと、笑顔を浮かべる。

 笑えばいいと思うよ。

 そう残してくれた三波君のアドバイスの通りに。

 

「ふ、ふはは、ふはははは! それにしても今日はVとして先輩であるキャスパーさんに来てもらって本当にありがた」

「えー今日は天使の聖水が飲めると聞いたので来ましたにゃん。という訳で天使、コップ持ってきたから駆けつけ一杯」

 

 ことん、とコップを置く音がヘッドフォンの向こうから聞こえてきた。

 スゥーッと、息を吸えば吸う程、顔が青ざめていく。

 

 

「ア、アハハタスケテアハハ! アハハハハハハハハタスケテタスケテタスケテ」

 

 

 三波君、あなたの言う通り笑ってみたけどやっぱり無理だよ。

 

 私の引きつった頬をアバターのレヴィアが反映したまま、キャスパーさんとのコラボ配信が始まった。

 

「え、と、えあ……そ、それでは企画の説明を……」

 

 いや、ていうか――――本気でコレやるの⁉

 信じられなくて、信じたくなくて、このコラボを企画した伽夜ちゃんを見るけど……読むべきカンペの内容は変わらない。

 

「き、企画の説明を……ぁ、ぅあ」

 

 はくはくと空気を求めて喘ぐ。声が出ない頬が熱い恥ずかしすぎて涙出てきた。

 

 配信に禁物の無言が続いて、でもぜったい口にしたくなくてわたしは!

 

「~~~~~っ! キャスパーさんお願いしますぅ‼」

「えぇ? 僕がいうのぉ? 枠主、君なのにぃ? えぇそれってどうなのかなぁ? 僕、招かれた側よぉ? 頼むにしても言い方ってあるよぉねぇ?」

 

 こ、この下種ネコォ‼ 

 こんな奴に頼まなきゃいけないだなんて……悔しくて、くぅっと歯を噛みしめる。

 

「お、おねがいします……妾じゃ、は、はず、恥ずかしくて……言えないからぁぁあ。こ今回のルール説明をおまかせし」

 

「負けたらがぶ飲みぃ! ぅおしっこぉ我慢スマブラぁぁぁあああ‼ 負けたら朝チュンASMR配信決てぇぇぇえええええい‼‼」

 

「聖水ぃ! せめて聖水って言ってよぉ! バカァ! えっち! 変態! もうヤダたすけてパパぁああああああああああああああああぁああああああああああああ‼」

 

 今朝やめたばっかりの、元バイト先の店長に私はみっともなく助けを求めた。

 

[ コメント ]

・どけ! 俺はパパだぞ!

・なにやってんだよ店長ぉ!

・パパ(店長)の大群が押し寄せている⁉

・くっっっっっっっそwwwww

・ASMR⁉(ガタッ)

・朝チュン⁉(ヌギッ)

 

 コメント欄は、『自称パパ(店長)を名乗る眷属』と『朝チュンASMRを求める眷属』の二つに分かれて混沌を極めていた。

 その混沌を前に、私は顔を手で覆って呻くことしかできなかった。

 その間にノリノリのキャスパーさんがルール説明に入っていた。

 

配信ルール  

①5本勝負

②勝負に負けたら一杯分のお茶を飲む

③負けた方が罰ゲームをやらせる。罰ゲームの内容は勝者の自由。

 

「あれ?」

「ぅん? どうしたんだい、レ・ヴィ・ア」

 

 区切って呼ばないで、怖気が止まらない。……って言いたいのを我慢して、私はおそるおそる尋ねた。

 

「あの、妾が勝った場合の罰ゲーム決めてないような……?」

 

 キャスパーさんが勝ったら、私の次回の配信は朝チュンASMRになる。

 じゃあ、私が勝ったら、キャスパーさんは何をするんだろう?

 

 ふとそこが気になって聞いてみたら、キャスパーさんが――――可愛いもふもふ猫のアバターがパチクリと目を丸めた。

 

「え? 決めなくて良いでしょ。だって僕に勝てるわけないんだから」 

 

 ――パチン、と視界が瞬いた。

 くらりと眩暈を覚えるほどの、怒り。

 

 (リアル)レヴィア(アバター)も、どんどん目が細くなっていく。

 

「では、こうしよう。もし妾が勝てば」

 

 手を掲げると、私の意図を察した伽夜ちゃんが電動カミソリを手渡してくれた。

 かちっとスイッチを入れ、刃が回転するカミソリを、マイクに近づけた。

 

「 その毛、ぜんぶ刈り堕とす 」

 

 泡と見間違えるほど白くてモフモフの『ガワ』の毛も!

 変態なことばっかり言う、『魂』の方の毛も!

 一本残らず!

 

「カミソリの準備をしておいて貰おう。

 配信で眉毛も頭髪も刈らせるぞ。

 丸刈り差分のガワも用意してもらうぞ。諸々の依頼料の準備もしておくのだ。

 ガワも魂も! 

 もろとも丸ハゲにされるのを楽しみにしておけぇ‼」

 

 自分の口と思えないくらい、つらつらと飛び出た言葉。

 そんな私への返答に、キャスパーは首を傾けて「ハハッ」と笑って一言。

 

「死体(敗北済み)がしゃべってる」

 

 これより、聖水我慢スマブラ配信の幕が切って降ろされた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 ほぉーら♡一気♡一気♡(病みロリと猫の一気飲みハラスメント)

「あっやめっ、あっあっアッ⁉ だめっ、ぐりぐりだめぇ! いやぁあああああああああああああああああああ‼」

 

 プ〇ンの下投げで、地面にぐりぐりされたル〇レが宙にぶん投げられる。

そのままプ〇ンの横スマがぶち込まれた瞬間、試合終了(タイムアップ)が来た。

 

[ コメント ]

・決まったぁあーーー!

・一戦目、敗北

・キャス猫うっま

 

「はい、じゃあ一杯目飲んでもらいましょぉ~~か。ほら、早く飲んで。待ってるから。ほらほらほらほら」

「うるさぃぃ! 言われなくてもちゃんと飲むよぉ‼」

 

 ぅぅぅぅ、可愛いのに! 声はすっごい可愛いのにっ‼

 プ〇ンの勝利演出とキャスパーの煽りが、私の悔しさを煽ってくる。

 

 でもどれだけ悔しくても、早くお茶飲まないと……まだかな伽夜ちゃん。

お茶を汲みに行ってくれた妹のことを考えた瞬間――――ゴトンと一杯分のお茶が置かれた。

 

「……え?」

 

 正しくそれは【一杯分】だった。

 たとえ――――ペットボトル一本分のお茶が入っていようと、そのコップを使えば確かに【一杯分】だった。

 

「え……? ま、え? え?」

 

[ コメント ]

・なに?

・状況が分からない

・ゴトン言うたぞ今

 

 コメント欄は困惑してる。

 そりゃそうだよ……このコップのサイズ見れないんだもん。そしたらキャスパーがフォローを入れてくれた。

 

「はいちなみに~、今回僕らが使ってるコップこれね!」

 

 配信画面に映る、銀色のコップの画像。

 それは私の前にあるコップと同じものだった。

 

「保温性抜群、500ミリリットル入る優れもの!」

「飲めないよこんなのぉ‼」

 

 私の絶叫にコメントが高速で流れる。

 

[ コメント ]

・それはやめとけ

・おいクソ猫ぉ‼

・2.5リットル以上は命の危険が

 

「ヤダヤダヤダヤダヤダ‼ やだぁーーーーー‼」

 

 レヴィアが激しく首を横に振る。

 こんなのって無いじゃん! もうお〇っこどころの話じゃないじゃん⁉ お茶の飲み過ぎで命の危険迎えたくないヨォ‼ 

 

 そしたらキャスパーが衝撃の事実を告げた。

 

「いや――――このコップで飲もうって提案したの、レヴィアたんだからね?」

 

 ………………え? 

 頭の中が真っ白になる。

 いや、私、そんなこと言ってな。

 

 ハッと気づいて、私はゆっくりと後ろを振り返る。そしたら、私の視線に気づいた伽夜ちゃんが……ぺろっと笑顔でベロを出した。

 

「お前かぁぁぁぁぁぁああああああああああああーーーーーーーーっっっっ‼‼‼」

「だから僕じゃないヨォ⁉」

「あっ! ちがう! ちがくて!」

 

 や・や・こ・し・い!

 慌てて勘違いを訂正してから、私は机の上のコップを見つめる。

 

 ――やばい、ぜったいやばい。

 ハッハッと呼吸が浅くなる。

 震えながら手に持ったコップは、ずっしりと重たくて。

 飲まないと配信が続かない。

 けど飲んだら絶対…………ッ!

 

「では、一気飲みしていただきましょお!」

「わぁぁーーーー‼ 南無三――――――‼」

「南無三は堕天使的に色々違うのでは⁉」

 

 キャスパーのツッコミを無視して、私はコップを傾けた!

 こくこくこくと自分の喉が鳴ってる。

 冷たいお茶が喉を通って、お腹に溜まっていく。

 

「あそーれ、一気! 一気! 一気! いいよぉレヴィアたん! 輝いてるヨォ⁉ んくんく飲んでる声色っぽいヨォ‼」

 

 この、クソ猫ぉ‼

 キャスパーのコールのせいで離すに離せなくなる。

 一気飲みなんてしたことないのに…………あれ、でも意外といけ

 

「んむっ⁉」

 

 それは一瞬だった。

 ほっぺたが膨らんだと思った途端、ツゥッと口の端からお茶が溢れる。

 垂れたお茶が首筋を伝って、服を濡らしていく。

 

「っ~~~~~~ぷぁっ!」

 

 空のコップを叩きつけた時には、私の服はびしょびしょになっていた。

 んはぁはぁはぁ、と荒れた息がマイクに入る。

 

[ コメント ]

・ひぃ!

・初台パン!

・いやこれ台パン⁉

・だいじょうぶ⁉ ねぇ、だいじょうぶ⁉

 

 あー……なんかいっぱいながれてるぅ。

 

 心配と不安が高速で通り過ぎるコメント欄を、ぼーーーっと見つめる。

 

 あたまふわふわするぅ、なんだかぜんぶ他人事みたいにかんじるぅ。

 

 ほうけたまま配信画面を見つめていたら、レヴィアの目から光が消えていった。

あーわたしもこんなかおしてるのかなぁ。

 不思議なことに楽し気に煽ってたキャスパーが一番心配そうにしていた。 

 

「あ、あの、だ、だいじょうぶ? ねぇ?」

 

 わぁ~~かわいいこえ。

 わたしは何も言わず、にっこりとほほ笑んだ。

 そしたらハイライトの無いレヴィアもにっこりほほ笑む。

 

「れ、レヴィアさん? ちょっ……どういう感情? 今それどういう感情の顔⁉」

 

「――クルシイってカオだよォ?」

 

 わたしはゆっっっっくりと、一気飲みの感想を語った。

 

「あのねぇ? いまわかったんだけどねぇ? ヒトってねぇ? のみもの飲んでるとき息止まるんだよぉ? しってたぁ?」

「ぞ、存じ上げませんでした……」

 

「それでねぇ? くちのなかお茶でいぃ~っぱいになってねぇ? ごぽってあふれてね? わたし今ぐしょぐしょでねぇ? 寒くてねぇ?」

「あ、あの、ごめんなさい。申し訳ありません。僕が悪かったです」

 

「んぅ? どぉしてあやまるのぉ? おかしぃんだぁ。さっきまであんなによろこんでたのにぃ。おかしな猫ちゃん」

「止めてぇぇぇ‼ 若干ロリボイスなのやめてェ! ホラー味増すから! めっちゃ怖いからぁ!」  

 

 2回戦は、キャスパーさんがダメージ100%の状態から始めてくれた。

 わたしはじっくりじっくり攻撃して、300%になってからていねいにてぇねぇに吹っ飛ばした。

 キャスパーさんの一気飲みの時は、応援してあげた。

 がーんばれ♡がーんばれ♡……って。

 

[ コメント ]

・スマブラってホラゲーだったっけ

・こわいよぉ‼

・こんな『がーんばれがーんばれ』は聞きたくなかった……

・草

・www

・闇落ちVtuber

・病み堕ち天使

・あれ・・・なんか・・・えっちぃ

・どきどきします

・ぞくぞくします

・えちちちちッ、ボッ

・透き通った声しやがって

・初配信より清楚なの草

・あっ

・うっ

・ふぅ

・お世話になりました

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 お〇っこ我慢ス〇ブラ決着!(もぅ……むりッ!)

リスナーさんから一気飲み禁止が出た。

 『やめなさい』の一言がぶわぁぁぁと流れる様子は圧巻だった。

 

 でも一気飲みはやめるけど、飲む量(500ミリリットル)は変えなかった。

 そうしてスマブラ5本勝負再開。 

 キャスパーは強かったけど、なんとか最終戦にもつれこませた――――ンダケド

 

「キャスパー⁉ ちょっとこれ何の音⁉ 何の音流してるのコレェ‼」

「コップにお茶注いでる音だが?」

「まだ勝負終わってないでしょおがぁあーーー⁉ 喰らえぇえぇええ‼」

 

 棒立ちしてるプ〇ン目掛けて思いっきりスマッシュをかます。試合はタイム制だからいくら倒してもプ〇ンは復活してくる。

 

 キャスパーの可愛い猫顔がニヤニヤ不細工になっていく。

 

「いやいやいや~レヴィアたん強いからさ。僕は負けを悟って、お茶の準備をしてるだけだよ? 何も怪しいことはしてないサ」

「うそ! ぜっったいうそだぁ! だってさっきから何ッ回もゴポゴポ音してるもん! ねぇ! コップ二つ用意してるでしょ⁉」

 

 こぽこぽとお茶がコップに溜まる音に、背筋がぞくぞく震える。

 音が止んだと思ったらまたこぽこぽとお茶が注がれる音がするんだけど……その時ね聞こえるんだよ。

 

 キンッ、てコップとコップがぶつかる音が!

 

「なんのことかわかんないなぁ~~~~?」

「わぁあああーーーーー‼ しらじらしい! 白々しすぎるよぉ‼」

「キャスメロ、猫だからよくわぁかんなぁい♡」

「んにゃぁあああああああああああああああああああああああああ‼‼‼‼」

 

 叫んでもキャスメロディへの怒りは少しも減らなくて、私は配信の机をダララララッ‼と叩きまくった。

 

 ――――それが、いけなかった。

 

 ブルッと自分の意志関係なく、肩が震える。

 それは下腹部からやってきて……次の瞬間、私の意識は一気にお股に持っていかれた。

 

「あ」

 

 コンマ何秒で私はコントローラーを離し、両手で抑える。

 ゴトンと落ちるコントローラー、制止するル〇レ。

 

「ぃや」

 

 きゅっと爪先を丸めて、尿意を抑え込む。

 けれど、この時には、もう。

 

「――さて、取り返しますか」

 

 キャスパーが動いていた。

 今やってるスマブラの設定はタイム制。制限時間以内なら何度でも復活するけど、勝敗を握るのは【相手を倒した数】。

 

 キャスパーがお茶を注いでる間、私はプ〇ンを5回倒した。圧倒的に私の方がリードしてるのに。

 

「ほい」

 

 バシン! と、プ〇ンの小っちゃい拳で華奢なル〇レが空中へ浮き上がる。

 そこに叩き込まれる、必殺技。

 

 プ〇ンの目蓋が落ちた瞬間――――カキ―ン‼ と甲高い雷鳴がル〇レが粉々に消し飛んだ。

「あと5回かぁ、ちょっと急ぎ目に殺《や》ろうか」

「ぅ、ぅうううう……させるもんかぁ!」

 

 コントローラーを手にして言ってみるけど全然だめだった。

 こっちの攻撃は全部ガードされるか躱されて、向こうは次々と当ててきて。

ピンチが迫り寄ってくる。

 ゲームも――――私の膀胱も!

 

「ああーーー! うぁん! やっ、ちょっ、ムリィ‼ もうムリィ……む、り」

 

 フーフーと荒く息をする。

 もじもじ足を組み直すけど、どんどん内股になっていく。

 

「あっれぇ? ちょっとプレイが、お粗末になってきたなぁ~~~?」

「もうっ、あたっ、当たってよぉ‼ なんで当たんな……あっ、もぉおおおお!」

 

 途切れることのない攻撃の果てにスマッシュを決められて絶叫する。

 

[ コメント ] 

・追いつかれたぁーーー!

・せっかくのリードが

・こっからこっからぁ!

 

「みんなぁ……っ‼」

 

 応援のコメントに涙がにじむ。

 そうだ、私はまだ負けてない! お腹はタプタプだし、今にも決壊しそうで、操作もおぼつかないけど! 

 

「ありがとぉ、眷属ぅ! 見てて! 私ここから勝ってみせるから」

「――なぁ、ちょっと。良いのか眷属」

 

 え? パチクリと瞬きする。

 キャスパーはあろうことか、唐突に私の眷属《リスナー》に声を掛け始めた。

 

「僕が勝ったら、レヴィアたんのシチュボ聞けるんだよ? しかも朝チュンだよ? 決してR18ではない、しかし想像搔き立てるには充分なボイスだ。それに――――あと一押しでコイツ漏らすぞ」

「キリッとした顔で何言ってんの、この汚物猫⁉」

 

「あらゆる女性Vにおもらし企画を仕掛けてきた僕だから分かる。さっきの吐息の感じからして……あと一杯でレヴィアたんの聖水が聞けるんだぞ」

「今すぐ辞めろぉ! 全ての女の子のために引退しろぉ‼」

 

 このゲスマスコットめ‼ 

 全然可愛くないゲスマスコットは熱烈に私の眷属に言葉を語り続ける。

 

「僕が勝てば朝チュンと聖水だぞ⁉ いいか眷属! 

 僕がお前らの希望なんだぞぉ⁉」

 

 私はため息をついた。

 ホント何言ってるんだろう、このゲスコットは。そんな言葉にみんなが乗せられるわけないのに……。

 

[ コメント ] 

・キャスパーがんばれぇぇーーー‼

・がんばれキャスパー

・勝て、クソ猫ぉ!

・罰ゲームひっどいww

・そこだぁ、飲ませろぉーーーー‼

 

「みんなぁ?」

 

 応援のコメントに涙が枯れる。

 味方だった筈なのに……コメント欄のキャスパーコールがすごく辛い。

 

「ぃよぉお~~~~~しぃ! 絶対勝つぞォ‼ 強くなれる理由を知ったぁああああああああああああああああああああああ‼‼」

「そんなもんで強くなるなぁぁぁぁああーーーーーーーーーー‼」

 

 飛び掛かってくるプリンの圧に、私は絶叫して逃げる。

 どうしようどうしようどうしよう⁉ 倒した数(スコア)のリードは潰されてるし、私のPSじゃキャスパーから一本は取れないし、それに……。

 

 キュゥゥゥッ、と爪先を丸める。

 

「あぅ、ふっ……はぅ」

「ヘイヘーイ! 我慢してるぜェ~⁉ その吐息最高にセンシティブぅぅううううン‼」

 

「うるっさい‼ 黙れ、クソ猫ォ‼」

「おほいおほい、乱暴な物言いだなぁ⁉ 初配信の清楚さはどうしたんだぁあい! 余裕の無い証だねぇ、エッチだねぇ‼」

 

「もぉおおおおやだぁあああああ‼ だいたい何なの⁉ あんたもみんなもぉ‼ 私がも……漏らして何が嬉しいの⁉ 汚いだけじゃん⁉ ていうか音しか聞けなくない⁉」

「え、なにその言い方? 音じゃ満足できないでしょって? 出すとこ見せてくれるってこと? 直飲み許可ってこと?」

「あんたぜっったい許さないかんな‼ ぜっっったいボコボコにしてやるからぁああ‼」

 

 逃げても、勝ちは拾えない! 

 私の膀胱も羞恥心も守れない!

 ル〇レを反転させて、プリンに立ち向かっていく。

 

一撃離脱を意識した立ち回りに徹する。確実に入れられる瞬間に一発だけ入れて、即逃げる。

 これを繰り返す。

 

 それでもダメージは入れられるけど……落とされることはない。お互いにジワジワとダメージが蓄積され、だんだん勝負が分からなくなってきた。

 

「フー! ウー! グルルルフシャーーーー‼」

「レヴィアたん⁉ せめて人の言葉喋って⁉ 猫《ぼく》の立つ瀬が無いよ!」

「うるしぇーーーーーっ!」

 

 こっちはもう限界なの‼ 爪先の丸み具合も内股の絞めつけ具合も最高潮。

 別に好きで唸ってる訳じゃないの普通にもうヤバいの!

 

 一発……お互いにあと一発入れたら、飛ばせる。

 前のめりになって配信画面に映るゲーム画面を見つめる。

 目をギラギラさせて息を浅く繰り返す。

 

 一挙手一投足を見逃さない……ぽよぽよと煽りスクワットされても気にしない。

 露骨な誘いだ。

 向こうも焦ってるんだ、時間がもう無いから。

 

 試合時間《タイムリミット》が迫る。

 すると――向こうのプ〇ンがじりじりと歩いてきた。誘いかと思ったけど……皮肉かな、プレイを通してキャスパーのこと分かってきた。

 

 私もル〇レをじりじりと歩かせる。

 操作キャラが一秒二秒と時間を踏み潰すにつれて、プレイヤーの緊迫が高まる。

 配信にあるまじき沈黙が降りるけど、コメントは変わらず流れている。

 

 ………………ル〇レの間合いに入った。

 

 画面右上を一瞥してから、私はカッと鋭くスティックを倒す。

 細い腕の先に伸びた雷光纏う剣閃が大気を焼く!

 完全にこっちの間合い、向こうは手足が短いから攻撃は届かない。

 

「やっ……ッ!」

 

 ひらりと、跳躍する桃色の球体。

『ぷいっ』と可愛い声で放たれた絶死の一撃が……ル〇レの体躯をくの字にへし折った。

 

 カキィンと甲高いエフェクトが鳴って、野球ボールみたいに私のル〇レが場外に吹き飛ばされる。

 

「いよっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーー‼‼‼‼」

 

『 SUDDEN DEATH GO! 』

 

「えぇええええええええええええええーーーーーーーーーー⁉⁉⁉」

 

「うらぁあああああああああああああーーーーーーーーーー‼‼‼」

 

 この時、プ〇ンを吹き飛ばした私のドスが利いた声は、以後『堕天使の断罪咆哮(ギルティロア)』として定着することになるのだった。

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 勝者の特権じゃあ!(カミソリ用意)

スマブラで吹っ飛ばされる時のパターンは三つ。

 

1.ゲーム画面にへばりつくように吹き飛ぶ

2.その場で消し飛ぶ

3.すごい勢いで画面外へ飛んでいく

 

 その中で3だけが、試合時間を過ぎたらスローモーションになって、吹っ飛びが無効にされる時がある。

 無効になれば、私とキャスパーのスコアはイーブン。

 サドンデスに持ち込める。

 

 だから私は試合時間を確認してから、わざと先に攻撃した。

 全てはキャスパーに『勝った』と油断させるため。

 でも、吹っ飛び方がどれになるかは完全に運……完全に賭けだった。

 

「ノーカンです」

「えぇ……」

「ノーカン! ノーカン! ノーカン‼」

 

 子猫V、ご立腹だった。

 せっかくトイレから戻ってきたのに、うんざりだった。

 私の表情を読み込んで、レヴィアもうんざり顔になっている。

 

[ コメント ]

・ジト目助かる

・ガチで見下げ果ててるやん

・興奮します

・ノーカン! ノーカン!

 

「頼むよォ……先に僕の毛刈るからぁ。差分も用意するし、もれなく剃った毛は郵送するからぁ」

「もれなく要らない。普通に、もう、キモい」

「アッ! 軽蔑の眼差しも良いね!」

「無敵か、この猫」

 

 はぁーーー、なんだろうね。

 私の中で、この人への遠慮ってものが全然無くなってる。

 自分がこんな刺々しい声出せるなんて知らなかったよ……それで喜ぶ人達がいることも。

 

「あの、一応聞きますけど……なんでもう一回したいんですか?」

「朝チュンASMRと放尿プレ」

「それ見たことかぁ! やりますと言うとでも⁉」

「そこをなんとか‼ ワンチャンス! ワンモア!」

 

[ コメント ]

・ASMR咀嚼音をおくれーーー!

・わいのみたらし団子を食べておくれーーーー!

・しまえよ、その二玉しか付いてない団子串

 

 頼み込むキャスパーとコメント欄を交互に見やる。

 ぐぬぬぬ、と私は唇を噛んだ。

 

 どうしよう……水飲まずにだったら別にいいかな? でも勝ったの私だし。なんでお願い聞いてあげなきゃいけないの…………。

 

【って思いきれないのが、お姉ちゃんだよね】

 

 そう書かれたカンペが、横からスッと目に入った。

 伽夜ちゃんの字だ。

 振り返ると、私以上に私のこと分かってる妹が、にこっと笑ってマジックペンを走らせた。

 次に書かれたカンペを見て、私もこの線が妥当だなと納得できた。

 

【あと、さっきから素に戻ってるから。直して】

 

 はい、すみません。

 私は咳ばらいを挟んでから、

 

「本来なら貴様らの頼み事なぞ聞いてやる義理は無いが……堕ちたと云えど、妾も天使の一柱。堕天使の慈悲を貴様らにくれてやろう!」

「おぉお⁉ 60字くらい喋って何一つ新情報が無い! あの~、もっと端的に仰ってくれません? トーク下手?」

「断罪《ギルティ》すんぞあんたぁ‼」

 

 んんぅ、もうっ! 

 もう一回咳払いして、調子を合わせる。

 

「良いか、先に言うがもう一試合はせん! 一気飲み苦しいし、我慢するのキュウッてなるし、お茶で服びちゃびちゃだし、もうィヤッ! ヤなの!」 

「えぇえええ濡れてんのぉ⁉ そのうっすい布濡れたら、もうドスケベ」

 

「もぉーーー黙っててよぉおおおーーーーーー‼」

「だって! 言葉遣いがそこはかとなくエッッなんだもん! お股がキュウッとか服で透け透けとかぁ!」

「あんたの頭がピンクなだけだよぉ! そんなこと私言ってないよぉ!」 

 

[ コメント ]

・ぐっだぐだやないかww

・猫の誤変換が過ぎる

・そこはかとなくセンシティブなのは分かる

・天然でそれやってるんだよ、この子

・そこがマジでエチエチなんだよなぁ

 

「それ見たことかぁ!」

「うそぉーーーー⁉ え、私そんな変な言い方してt」

 

 言いかけたところで、ガツンと後ろから妹に蹴られた。

 すみません! また一人称、素に戻ってました! ちがうもん……私エッチじゃないもん……エッチなのはみんなだもん……っ!

 

 しょぼくれながらも、私は話を元に戻す。

 

「うぅぅ……えっとな? だからな? 勝ったのは紛れもなく妾だけどな? それだとみんなが楽しんでくれないのも、妾ちょっとは分かるんだ。だから……再戦はしないけど、代わりに――――次回はASMR配信しようと思う」

 

[ コメント ]

・キチャーーーーーーー‼

・猫ォ! お前の戦いは無駄じゃなかったぞぉ!

 

「言っとくけど、朝チュンじゃないからな⁉ 普通のASMRだからな⁉ そんなえ……エッチなことはしないから‼」

「ん? エッチなことはしない? じゃあ具体的にどんな行為までが、レヴィアたんから見てエッチなの?」

「ど、どこまで……?」

 

 何を言ってるの、このゲス猫は?

 いまいち質問の意味がピンと来てない私に、キャスパーが畳みかける。

 

「キッスはエッチですか?」

「そんなの……す、好きな人となら、そのっ~~~!」

「じゃあ深い方は?」

「それは駄目だよぉ‼」

「お? 深いチューの意味は理解できるんですねぇ! なるほどですねぇ!」

「こいつぅうううううーーーーーー‼‼」

 

[コメント]

・何の質問してんだよwww

・深い方って聞き方えぐっ

・おいら分かったぞ! これAVのインタビューだ!

・好きな人とならエッチじゃないって発言自体がエッチだ

・逆に好きな人とでもディープは駄目なのか……この堕天使、乙女か?

 

 ねぇえええナニコレぇええええ⁉

 私は涙ながらにコメント欄を睨む。

 別に変なこと言ってない(はず)なのに! なんで私がエッチなこと言ってるみたいな空気なんだよぉーーー⁉

 

「フレンチキスOKなら唇以外の場所でも構わない? 手の甲は? 頬は? 首筋は? 鎖骨はどう? いやぁ~~~~どこまでが堕天使にとってのエッチラインなのか気になりますなぁ‼」

「はいっ! もう終わり! 配信終わり! 眷属のみんな、視聴大儀であった! 貴様は約束通り、毛ぇ剃れ! 眉毛剃れ!」 

 

「なぜに眉毛⁉」

「うるさいうるさい、さっさと眉毛剃れクソ猫ぉ‼」

 

「あっー堕天使様! 困ります困ります堕天使様! PCブチ切りはおやめください堕天使様! アッー‼ 堕天使様ァー! レヴィアたんの貞操観念が明らかになるASMR、みんな絶対見てくれよな‼」

 

 ブチンと、配信は終了した。

 

 ********

 

通話アプリ『ビィスコード』のサーバーにて

 

キャスパー「はい、おつかれサマンサタバサ!」

レヴィア「おつかれさまです」

 

キャスパー「最後の世紀末ボイス良かったわー断罪咆哮《ギルティロア》www」

レヴィア「うっっっっさいですよ‼‼ もっと手を抜いてくれるって言ったじゃない

ですか! 全力で漏らそうとさせないでくださいよぉ!」

 

キャスパー「だぁいじょうぶだよ~、マジ漏らし0.1秒前で配信ブチ切るさ。後輩をBANから救い、僕だけ放尿音を聞く。先輩らしい完璧な対応だろぉう」

レヴィア「スクショしました。Bwitterでつぶやきますね?」

 

キャスパー「申し訳ございませんでした堕天使様。眷属の軍隊(ハルマゲドン)呼ばないでください。最終炎上(ラグナロク)やめてくださいお願いします」

 

レヴィア「そんなことより、剃ってください」

キャスパー「? なにを?」

 

レヴィア「 毛 」

 

キャスパー「承知、脇毛で良いかな……剃ったら郵送するね♡ 住所と郵便番号教えてもらえるかな?」

 

レヴィア「ねぇどうして猫は死なないの?」

 

キャスパー「幼児みたいな無垢な質問なのに、含みを感じずにいられない。ハッ……! チ〇毛をご所望なんだね?」

 

レヴィア「ねぇ死?」

 

キャスパー「こ。これは……っ! 殺意が昂り過ぎて、もう文字打つのも面倒になったと見た!」

 

レヴィア「なんで分かるんですか腹立つなぁ……剃るのは眉毛にしてください。それで剃った毛はBwitterで晒してください」

 

キャスパー「じゅ、住所と郵便番号……」

レヴィア「ねぇ死?」

キャスパー「受け取ってよォ! キャスパー(毛)を身近に感じてよォ!」

 

 ぽこん、とビィスコードの通知音。

 堕天使と淫乱猫のチャットに――――天使が降臨した。 

 

リエル「ASMRやるんだって? 僕、詳しいから色々教えてあげるよ!」

 

 後日、ヘブンズライブの先輩【旭日リエル】と【宵月レヴィア】のASMRコラボ枠が立てられた。

 

 そしてBwitter上でキャスパーが、剃られた眉毛を乗せたティッシュの写真を流した。

 リプ欄には「白猫じゃなかった?」「毛、黒いやん」「おまえ黒猫なんか」「身代わり立てたな」と散々なつぶやかれようだった。

 

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 眉毛ぇぇえええええ!!(まゆげぇぇぇえええ!!)

 お昼休み、教室から離れた校舎の裏で、私はハァハァと息を荒げていた。

 胸のざわつきが強すぎて、口元を抑える。

 なんでなんでなんで、って頭の中がぐるぐるする。

 

 朝に教室に入ってからずっとハラハラしていて、同じ所をうろうろ歩いている。

 やがて……彼がやってきた。

 

「あっ、姫宮さん。呼びつけてごめんね。なんとなく、この場所を語り場にした方が良いかなって思って……」

 

「三波くぅぅうううううううううううううううううううんんんん‼‼‼‼」

 

 ぐちゃぐちゃなんかどうでも良いこと言ってる三波君の言葉を遮って、私は彼の肩を掴んで揺らす。

 

「ま! まゆ、まゆっ、まゆっ、まゆゆっ!」

 

 そして……朝からずっっっと気になったのに聞けなかったことを、大声で聞けた。

 

「眉毛ぇぇぇぇぇぇえええええええーーーーーーーーーーー‼‼‼‼」

「あぁ……転んだ!」

 

 今日の朝登校したら、学校一のイケメンの眉毛が剃られていました。

 その影響は凄まじかった。

 

 女子は阿鼻叫喚、膝から崩れ落ち、涙を垂れ流し、天を恨んだ。

 男子は呵々大笑、マロ眉を描いて、笑い泣きして、肩を組んだ。

 

 私はというと、大騒ぎしてるクラスの皆から離れたところで、人知れずプルプルと衝撃に震えていた。

 

 顔のパーツというか造形自体は変わってないから、整ってて美形なのはそうなんだけど……なんか、なんか宇宙人《ミュータント》感がすっっごい!

 人間じゃない感というか違和感がバリバリ仕事してるというか。

 

 これで頭も丸刈りだったら、一周回ってイケメン僧侶に見えなくもないけども。

 

「ウソ! 絶対ウソ! お母さん言ってたもん! 男の子の『転んだ』は、情報商材のセールスくらい信じられないって‼」

「うん。俺も言ってみたけど、かなり無理のある言い分だよね。どんだけピンポイントな転び方だって話だよね」

 

「そ、そうだね……三波君」

「なに?」

「――もしかしてそんなに気にしてない?」

「うん! どうでもいいね!」

 

 目を輝かせて、臆面もなく言い切った。

 わぁ~~……すっごい悔いの無い顔。

 彼は腕を組んで、うんうんと嬉しそうで頷いた。

 

「俺は昨日とても善い行いをした。三桁は固くて、四桁の人が幸せになるようなことを成し遂げた。その代償が眉毛だよ? 軽すぎるさ」

「い、いったい何したの⁉」

 

「それは言えないけど……まぁそんなことよりさ!」

 

 彼は制服《ブレザー》のポケットからイヤホンを取り出して、片方を私に差し出した。

 春風みたいな、にこやかな笑顔で。

 

「一緒に見ようよ、お〇っこ我慢スマブラ!」

「その顔で! そんなことを! 私に言わないでくれないかなぁ⁉」

 

 私は差し出されたイヤホンを押し返した。

 ていうかもっと大事なことあるでしょおが⁉

 そうして――――ずっと手にしていたポーチを掲げて、彼の顔を見上げた。

 

「 眉毛書いたげるから、しゃがみなさい! 」 

 

 こうして私は人生で初めて、男の子の眉毛を書いてあげることになった。

 つくづく思うけど、三波君と伽夜ちゃんってホント似てる。

 目の輝きとか自分の見た目気にしない所とか。化粧ポーチ持ってきて正解だったよ……。

 

 彼には校舎裏にある、アスファルトの段々に座ってもらう。

 

「目、つむっててね」

「ん」と返事して、瞼を閉じた三波君が私を見上げる。

 

 き―――――きれいだなぁ~ホンットに! 

 伽夜ちゃんもかなりきれいな顔立ちだけれど、男の子だからかな? 

 ……妙にドギマギする。

 

 ちょっと頬が熱いまま、私はポーチからアイブロウペンシルを取り出した。

 

「は、始めるね」

「うん」

 

 ペンシルの先端を押し当てる。気分としては色鉛筆でお絵描きしてる気分。

でも書き込んでる紙は紙じゃなくて、男の子だ。

 

 昨日と打って変わって、沈黙が流れる。

 改めて、自分の置かれた状況を確認する。

 男の子と二人、校舎裏。

 相手は学校を代表するイケメン。

 

 ――下手な眉毛なんて書こうものなら……女子たちの阿鼻叫喚を思い出した。

 うぅぅ……緊張するなぁ。手先がぎこちなくなってきた。

 

 このままじゃ駄目だと思って、私は三波君に語り掛けた。

 

「あ、あのごめん、三波君。ちょっと静か過ぎるから、何かスマホで音楽掛けてくれないかな? 気晴らしというか」

「作業用BGM的な?」

「そそ、それ!」

 

 良かった、分かってくれた。

 私はホッと胸を撫で下ろしてから、またペンシルを三波君の肌に当てた。

 

『負けたらがぶ飲みぃ! ぅお〇っこぉ我慢スマブラぁぁぁあああ‼ 負けたら朝チュンASMR配信決てぇぇぇえええええい‼‼』

 

 ガリンッ‼ と手元が狂った。

 三波君の額に〇リーポッ〇―みたいな稲妻が刻まれた。

 

「痛ぁ~い」

「ちょっと⁉ な、なにしてんの、やめっ、やめてぇ! 今すぐ止めてぇ!」

「いや、これが俺の作業用BGMだから」

『カミソリの準備をしておいて貰おう。配信で眉毛も頭髪も刈らせ……』

 

 うるっっさぁい! ちょっと黙れ昨日の私ぃっ‼︎

 ペンシルが、手先が震えてまともに動かせない。

 

「ね、ねぇ三波君⁉︎ 他のBGM掛けるって選択は……?」

「やだ。俺は姫宮さんとお〇っこ我慢スマブラ見たいんだ」

 

 その曇りなき眼を見た途端、私は悟った。

 ――――あ、コイツ、変態猫(キャスパー)と同類だ。

 

 だってそうじゃなければ、どうしてこんなキラキラした目で、同級生の女子にお〇っこ我慢スマブラを勧めるだろうか?

 

 スゥゥゥっと気持ちが冷めていく。

 ……あれ、この眉毛、適当に書いても良いんじゃない?

 

 クラスの女子達の阿鼻叫喚を想像したけど――――だからナニ。

 騙されないで女子達、こいつ変態だから……今、目印つけてあげるから。

 

「いやぁ、この『あ、ぃや』って所はマジ感あって良いよね。声の震え方的に、絶対肩ブルッてして恥ずかし赤面してそうというか。この反応からすごく妄想はかどr」

 

 ゾリンッ! と書道の『跳ね』みたいに、アイブロウペンシルで肌を引っ搔いた。

 

「ぐぅああああああああああああああああああああ‼‼‼⁉」

「ほらー我慢してー。オシャレは我慢だよー?」

「そ、そうだな……オシャレは我慢」

 

 ガリン!

 

「ぎぃいいいああああああああああああ!!!!!」

 

 オシャレは我慢オシャレは我慢。

 三波くんにそう言い聞かせながら、私はごりごりとペンシルの筆圧を高めていった。

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 鼓膜は処女膜!!(好きな推しに破いてもらいたいものなんですか?)

「三波くん、ASMRってなぁに?」

 

 ごんぶと眉毛の三波くんに、私は尋ねる。

 派出所勤務の警官みたくなった三波くんはニチャアと答えた。

 

「色んなところがびくびく気持ちよくなる音だよ」

 

 ほんっっっっとにコイツさぁ~~~~~~~~~~~???

 クラスできゃーきゃー言ってる女子達に見せたい、この笑顔。

 駄目だ、もう昨日の私には戻れない。

 

 というか少しでも彼にドキドキしてた自分を無かったことにしたかった。

 

「姫宮さん? どうしたの、そんな見下げ果てた目をして。俺ドキドキするよ?」

「はぁ~~~(クソでかため息)いいからもうASMRってどんなのか教え……て」

 

 目の前にかざされた三波くんのスマホ画面。

 映っているのは、彼がお気に入りリストに入れたYUTUBEのASMR集だった。

 

『お姉ちゃんが包み込んであげる♡トクトク心音で子守歌』

『おにいさまの耳はむはむして良い? ブラコン妹がお耳舐め』

『好き好きこれ好き♡♥健康器具オンでとろけるメイド』

 

「ひぎゃぁぁああああーーーーーーっ!!」  

「姫宮さん⁉」

 

 私は飛び上がって三波くんから全力で離れる。

 ギュッと目をつむって全力で顔を逸らす。

 

「やめて、このド変態!」

「え、今更?」

「どっ! どーせまた無理矢理イヤホン突っ込むんでしょ⁉ 

 それで恥ずかしがってる私の顔見てニマニマする気なんでしょお! もうパターン分かってるんだからぁ!」

 

「その通りだとも。熟練者はいつだってビギナーの反応で愉悦するものなのだ。ほら、耳を貸してごらん?」

「やだぁあ‼‼」

 

「脳みそ溶けちゃお?」

「やめてあああああああああーーーー‼ ああああああああああーーーーー‼‼」

 

 私の両耳に、三波くんのイヤホンがずっぽしハマる。

 そうして――――強制ASMR体験が始まった。

 

「最初はじゃがりこ」

「あっ、あっ、あっ、すごい。すごいしゃぐしゃぐ食べてる」

 

「みたらし団子」

「ヘ……ッ! ちょっ、こ、こんな音……えっうそ」

 

「ブラシ」

「ふぁっ! ヤッ⁉ え? え⁉ 耳入ッ~~~~~~!」

 

「オイルマッサージ」

「ぃや、やっ、ん⁉ お、おく、ふぁっ! やだ、だめだめだッ……め」

 

「甘噛み」

「はっ……あ……ふ、ぅあ」

 

 あむあむと可愛い声が遠ざかる。

 イヤホンが外されてすぐに、私はころんと倒れた。肩をひくつかせながら。

 私の耳から抜き取ったイヤホンを手にしながら、三波くんは純粋無垢に顔を輝かせた。

 

「すごいでしょ? これがASMR。俺が現代に生まれて良かった思える理由の一つさ。技術は偉大ハッキリわかんだね」

「ぅぅぅうるさぁぁ~~~~いぃぃぃぃ……」

 

 ホントッ、コイツ! 

 マジコイツゥウウーーーーーッ!

 耳の中まだふわふわする。

 目がうるうるしてきて恥ずかしくて顔を伏せる。

 

 すくめた肩越しにジトッと睨むと、三波くんの顔がぱぁっと華やいだ。コイツっ! 私は無理矢理イヤホンを嵌められた耳を手で押さえる。直接動いてくる分キャスパーより厄介だ‼

 

 キッと睨む私だけど、三波くんは照れ臭そうに指で頬を掻いた。

 

「それにしても……俺の(お気に入りASMR)で良かったの、姫宮さん? 初めてだったんでしょ(ASMR)? やっぱり処女(はじめて)はレヴィアたんの配信まで、取っておくべきだったんじゃ」

 

「勘違いされる絶妙なラインを攻めるなぁ‼」

 

 二度と言わないで⁉

 

 彼はやたらもじもじしながら「だって!」と涙をキラキラさせて、私の肩を掴んだ。

 

「鼓膜は処女膜なんだよ⁉ 一度しか破れないんだから、それだったら大好きな相手に……推しに破られたいと思うのが乙女心じゃない‼」

「そんなもん乙女心って呼ばないよ! 

 例え好きな人でも鼓膜破られたくないよぉ‼」

 

「いやいやいや! 乙女は好きな男に処女膜を破られる。Vオタ(おれら)は推しのVtuberに鼓膜を破られる。

 そこに何の違いもありゃしねぇだろうが!」

 

 もぉ~~~~やだぁ~~~~~~~~~~~。

 私はさめざめと顔を覆った。

 なんなの? Vtuber好きな人って皆こうなの? 鼓膜破いても良いの? 

 分かんない、もう分かんないよ私。Vtuber分かんないよぉ……っ!(デビュー済み)

 

 私が途方に暮れてると、三波くんはハッと我に返った。

 

「ごめんごめん姫宮さん、ちょっと熱くなり過ぎた。姫宮さんはまだビギナー、ライトなVオタだ。【鼓膜の境地】は早すぎたね」

「境地ってなに? そんな武闘家みたいなシステムなの、Vオタって?」

 

 分からない。もうわたし何にも分かんないよ、みんなの需要が分からないよ……

 バイトに忙殺されてきたからか、お客様が求めてるものを供給する精神は育ってる姫宮であった……(遠い目)

 

 そんな風に黄昏れてる私を置いて、三波くんはウキウキと語り出す。

 

「ようし、ならまだまだライトなVオタの姫宮さんに解説してやろう! 旭日リエルの敗北伝説を!」

「ん?」

 私は首を傾げた。

 流れ的にてっきり【宵月レヴィア】について語るのかと思ってた。

 そう言うと、三波くんは「いやいやいや」と断りを入れる。

 

「推しとコラボする相手のことは知っておかなきゃ! 

 姫宮さんだって、自分の娘を学校に行かせる時、担任の先生の人となり位は調べておくだろう? それと一緒さ!」

「待って、私その例えには頷けないよ?」

 

 堕天使《わたし》は、眷属《あなた達》の娘ではない。

 でも、それはさておいて。私自身、すごく気になってはいた。

 

「旭日リエルさんって……どんな配信をするVtuberなの?」

 

「フハハハハ、ならば教えてしんぜよう。空前絶後! 超絶怒涛の天使メイド! 

勝利の女神にフラれ続け、敗北の女神に監禁されてる女! 

可哀そうは可愛いを地で行く雑魚Vの伝説を!」 

 

「そんなボロカスに言わなくても良いんじゃないの、三波くん⁉」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 リエル先輩は男の娘⁉(ASMR配信、頼りにしてます!)

【旭日リエルの敗北伝説列伝】

 

・ウシ娘のガチャ配信……推しが当たると何故か毎回データ消える

・EGOのガチャ配信……3千の石と引き換えにして、☆4どころか☆3も来ない

・バリオカート配信……高レート行くまで耐久を行って、49時間後にダウン。

・ス〇ブラ配信……視聴者に勝つまで耐久配信で、リスナーの半分と勝負し、敗北

 

・跳躍王配信……女性Vtuberとコラボ対決→罰ゲームで『初体験喪失ASMR』 

・壺姉配信……Vtuberと以下略→罰ゲームで『ベッドで愛撫ASMR』

・天界村配信……女性Vtuberと略→罰ゲームで『ビキニローション風呂ASMR』

 

 エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ……。

 

 500本の配信中、ただの一度も勝利は無く、数多の女性Vtuberから『罰ゲームASMR』でセクハラされてきた敗北の少女(♂)が――――今、私の目の前にいた。

 

「先輩ぃいいいいいひっく‼ ぅううええ強く生きてぇえ~~~わぁぁぁーーーーん‼」

 

「ねぇ初対面の後輩にさぁ! 出会い頭に号泣されて励まされる気持ち考えてみてぇ⁉」

 

 放課後直行した事務所にて。

 私は初めて【旭日リエル】もとい『天海渚』とご対面した。

 

 すごい……っ! 年上相手に見下ろすなんて初めて! 

 というか雰囲気がハムスター! こんなに小さくて儚い存在、初めて見た!

 

「……~~っ! 強ぐ! いきてぇえええ~~~~~!」

「ちょっとぉぉおおおおおおおおおっ‼‼ わたし、先輩だよ! もうちょっと尊敬してくれたって……」   

 

「ぁの、だ抱きしめても! 良いですか⁉」

「話を聞けぇ!」

 

 天海先輩は憤慨した様子で地団太を踏んでる。19歳♂が全力で地団太踏んだ音が――――――たむ、たむ、たむ、たむ。

 

「かわいいいいいいいいいいいいいいいい‼‼‼」

「うるせぇぇえええええええええええええ‼‼‼」

 

 つやつやの黒髪(なでなでしたい!)。

 丸顔だけれど滑らかなフェイスライン(指でさわさわしたい!)。

 女子より華奢な体つき(ぎゅ~って抱きしめたい!)。

 

 こんな見た目なのに……………………男子、だと?

 つーーーー、っと、視線が下に行く。

 

「あ~~~~もうほらこれよ。わたしと会った人、みんなそうなるの。股間見て全てを知った気になるんだよ、宇宙猫みたいになるんだよ‼」

 

 そう言いながら、彼は頬を赤らめ、目をキッと吊り上げて、内股になって、服の裾を引っ張って、お股を隠してた。

 

「きゃわいいいいいいいいいいい!!!!!」

「うるせぇええええええええええ!!!!!」

 

 そう、これは【旭日リエル】の御主人様《リスナー》は知らない事実。

 

 

 旭日リエルは―――――――バ美肉Vtuberである‼‼‼‼‼‼‼‼

 

 

 ただ中身の魂が、ボイチェン要らずのプリティボイスで仕草が完全に乙女でなんか髪めっっちゃ良い匂いするだけの――――――男の子である‼‼‼‼‼‼‼

 

 

「受肉の工程、要りますか?」

「それどういう意味⁉」

 

「だってそのままでもすごい美少女じゃないですかぁ!」

「マシュマロ食べる?」

 

 旭日リエルの大好物をご本人から貰って、私はもきゅもきゅ食べる。

 先輩も両手でマシュマロをちょこんと持って、もきゅもきゅ食べる。

 二人でマシュマロを無言で食べてたら……だんだんぼーっとしてきた。

 

「さてと。姫宮ちゃん、今日はありがとね。コラボ受けてくれて」

 

 もきゅもきゅ………だ~いすきなのは~ひ~まわりのマロ~。

 

「わたし、ヘブンズライブの中じゃ一番後輩だったからさ。姫宮ちゃんみたいな可愛い子が後輩になってくれて本当嬉しかったっていうかさぁー」

 

 25こ~はいるよネズ次郎~。

 

「……ねぇ聞いてる?」

「ふっふーん……ぇ?」 

「聞いてないねぇ?」

 

 瞬間、私の血の気がサァっと引いた。アッまずいまずいまずい!

 マシュマロで意識がぽわって飛んでた! 

 

「ぁぇ、あ、き! 聞いてましたよ⁉」

「嘘つけ! なにご機嫌にとっとこしてんだよ! 鼻歌ぜんぶ聞こえてんだよぉ‼」

 

「すすすみませ、へ⁉ じゃあ2番と3番まで聞かれ……」

「熱唱してんじゃん! なにもうわたしだけベラベラ喋ってめっちゃ恥ずかしいわ!」 

 

「ぁっ、いやその、まったく聞いてない訳じゃなく! こ、こちらこそコラボのお誘いありがとうございます!」

「嘘つけ、とっとこ堕天使が‼」

「ほ、ほほ本心ですよぉーーーーーーー‼」

 

 本心だった。

 三波くんに仕込まれた【リエ虐】の歴史では、旭日リエルのASMR配信(罰ゲーム)は50本以上。ヘブンズライブの中で一番の経験者だった。

 

 だからすごく頼もしくて――――ということを言ったら。

 

「えー? いやた、頼もしいって……そっ、そんなまたまた心にもないことを」

「本当ですよ! 私、その……色々事情を割愛しますけど、いつの間にかVtuberになってて。初配信もクソね……キャスパーさんにも」

 

「あっ、あいつのこと『さん付け』しなくて良いよ。あの女の敵。わたしも被害者」

「あのク・ソ・猫(声でかボイス)とのコラボしか経験してなくて……そもそもVの世界のことも配信のことも分からなくて。そんなんだから実は『ASMRやる』って言ったのに全然ASMRのこと分からなくて……」

 

 だから、嬉しかった。

『ASMRやるんだって? 僕、詳しいから色々教えてあげるよ!』

 

 ビィスコードで先輩のメッセージが来た時。

 初めて、ヘブンズライブのつながりを感じて。

 

「だから私、その……本当に……頼りにしてます。リエル先輩」

「…………ふ~ん」

 

 天海先輩はそっぽを向いたまま、くるくると毛先に指を絡ませる。

 

「ふーーん……ふーーーーん。そっか、ふーーーーん」

「? せ、先輩?」

「――じめ、だ」

 

 ? 先輩の口がもごもご動いてる。

 よく聞こえなくて、耳を澄ます。

 そしたら先輩は両手で目元を隠しながら、ぽそっと呟いた。

 

「頼られたの……はじめて」

 

 しっとりした喜びに染まった眼差しが、私に向かう。

 そうして先輩は「ふふん」と胸を張った。

 

「良いでしょう、存分にこの先輩に任せなさいな。ASMRも……女磨きも、ね」

「へ?」

 

「へ、じゃないわよ! なにその恰好は! 学生期間の制服マジックに頼りっきりじゃ、ファッションセンス腐るわよ⁉」

「せ、制服マジック⁉ いや、その……家で一番高価でしっかりした服、制服《これ》しかなくて……」

「服は高けりゃ良いってもんじゃないの! 今度、ショッピング付いてってあげるわ! 今よりもっと可愛くしてあげるから」

 

 にっこりと吹かせた先輩風が、私の目を輝かせる。

 女の子より女の子を心掛けてる先輩に、私の心はもう…………っ。

 

「はいっ! お世話になります、先輩!」




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 ぇ、ASMRはじまります(先輩っ……八つ橋って何ですか?)

『天使メイドが堕天使にASMRを伝授しちゃいエンジェル【KU100使用/スタジオ】【宵月レヴィア/旭日リエル】』

 

 配信開始から24分後。

 

[ コメント ]

・抱けえっ‼ 

・抱けっ‼ 抱け―っ‼ 

・抱けぇええええええええええっ‼

・くそっ、じれってーな。俺ちょっとやらしい雰囲気にし

・もうなってるから帰れ!

・後輩に圧されるなよ、先輩天使www 

・おっぱじめやがった!

・飛んじまうぞ⁉

・配信3回目でBANの危機

・自分のチャンネルだからって滅茶苦茶しやがる⁉

・おい止めろぉ‼ あの堕天使止めろぉ‼

 

「レヴィアちゃん‼ ねぇレヴィアちゃん⁉ まって! ねぇどうしたの⁉ こんなことする娘じゃなかったじゃない‼ ねぇってばぁああ‼⁉」

「先輩が……っ! 悪いんですよ、私、もう……もうっ‼ 我慢! しません‼」  

 

 下に組み敷いて、涙目だった先輩は、皆の鼓膜のために自分の口をふさいだ。

 

「んむぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう(声にならない悲鳴)!!!!!!!!!!」

  

 天海先輩がくぐもった悲鳴を上げる24分前にさかのぼる…………。

 

         **************

 

 人の頭を模した(ダミーヘッド)マイクの耳に、そぉっと声を吹きかける。

 

「こ、こんレビぃ~。待たせたな眷属達よ。ヘブンズライブ所属の堕天使:宵月レヴィアである。そしてぇ~~今宵、宵月家に訪れたのは、この天使ぃ~」

「海の果てよりいらっしゃいませ、ご主人様ぁ~。こんリエ~天使メイドの旭日リエルです」

 

 青髪のお団子頭に天使の輪っか、白と水色を基調としたメイド服姿の少女――――天使メイド【旭日リエル】が配信画面の上で清純な笑顔を浮かべた。

 

 でもガワの可愛さも素敵だけど、私が一番びっくりしてるのは天海先輩の仕草だ。  

 ――――完全に女の子だ。

 

 配信が始まった途端、ぴったりな清楚で可愛らしい少女となっていた。

 同じ女の子だから分かる―――――めっっちゃかわいい。

 

「……というわけでね、僕にとって初めての後輩だからうんと可愛がってあげたいんだ〜ねっ、レヴィアちゃん?」

「えっ……っ! アッはいっ! そうですね! がんばります!」

 

 どうしよ。先輩の可愛さに惚けて聞いてなかった……って⁉

 上の空だった私に「んー?」と首を傾げながらにじり寄る先輩。

 

「あれ〜〜レヴィアちゃーーーーん? ちゃんと先輩の話聞いてたのかなーー?」

 

からかい口調+怪訝なジト目が真下から迫ってきて、私は思わず唾を飲む。

 

「ち、近っ……近いです先輩……ぃ」

「アハハッ、なんで照れてるのー? みなさーん、レヴィアちゃんにそっぽ向かれちゃっいましたー。これは嫌われてるのかなー?」

 

[ コメント ]

・レヴィアたん、まともなVとコラボ初めてだから緊張してるのかな?

・良かったねレヴィア……優しそうな先輩で

・パパどっか行ってもろて

・ぇ、キャスパーとコラボしたよね?

・あのクソ猫がまともなVだとでも? 

 

「ぅあの⁉ ち、ちがくて! その……先輩がすっごく可愛くて……ぼ、ボゥっとしちゃってまし、た――――あっ今の失言! 失言ですすみません何言ってんだ私ごめんなさ」

 

「えっ……何この後輩……むっちゃ可愛い……!」

 

 手を引かれて、ぽすんと顔が先輩の胸に納まる。

 

 ??? 

 固っ、いや柔らかい? 

 あっ良い匂いあれ? 

 え?

 

 何が起こったか分かんない。

 でも頭の上から降ってくる先輩の黄色い声と胸の奥のトゥンクを理解した時――――――――――――私の頬が赤く染まりあがる!

 

「せ、せんぱ‼ だめっ! 抱きしめっ、ダメ! は、離して!」

「えー? なんでー? 先輩後輩の仲じゃ~ん。別に良いじゃ~~ん?」

「ぁぁぁぁぁ頭ポンポンしないでぇぇぇぇぇ!」

 

 しゅごい落ち着くぅうううう……っ!

 そうして先輩の包容力に包まれていたら不意に、ふにっと唇に感触。

 

「こーらレヴィアちゃん。ASMRなんだから――――おっきな声出しちゃだーめ」

 

 そう耳元でささやきながら、リエル先輩の指が……私の唇に触れていた。

 

[ コメント ]

・天使の抱擁!(おい堕天使代われ) 

・間に挟まる空気になりたい

・パパ嬉しい! 先輩と仲良くなってて……

・だからパパどっか行ってもろて

・パパを名乗る眷属、根強い

・レヴィアたんの頭ポンポン良いですねぇ

・さわさわ……

・さわさわ……

・【キャスパー】レヴィアたんの髪撫でてるのかぁ・・・食べていいですか?

・ざわざわ……

・ざわざわ……

・なんかいるぞ!

・変態猫だぁ! 囲め囲め! 通報しろ! 

 

「あ……っ! そうですよね、ASMRですもんね。ごめんなさぃ」

「ぁ~~しょんぼりしてるレヴィアちゃんもかわいぃ~~~。気にしないで、先輩が教えてあげる。ほら、手、握って」

 

「え? え? な……なんでですか?」

「レヴィアちゃんの手……八つ橋みたいだね(イケボ)」

「????」

「はいっ、ぎゅーーーーー」

 

 ふゃあああああああ⁉

 先輩の勢いに押されて、手を握られる。先輩と私の指がしっかりと組み合わさる。

 ぴったりと重なり合う手の平の感触に、私の心臓がパクパク鳴り始めた。

 

[ コメント ]

・八つ橋???

・奴は死

・だれ⁉

・キャスパーだ

・この猫でなしぃ!

・キャスパー:なんでぇ???

・自害せよ、キャ〇ター

・宗〇郎様ぁ???

・とばっちりで鬱展開産むな!!!

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 ASMR配信しゅうりょお♡(みんなの鼓膜……破こっか??)

「さてさてコメント欄はどう……なにこの暴走。ほったらかしにしてたリスナーさんごめんねぇ。ごめんねごめんねごめんね」

「あっ! いぅ! ひぃん!」

 

「ははっ! なんでレヴィアちゃんビクビクしてんの」

「そ、それ、は」

 

「はい、ふぅ~~~~」

「んぃぃいいいいっ⁉」

 

 耳に吹きかけられたぞくぞくが、首筋から肩まで行き渡る。

 縋るように、繋いでいたリエル先輩の手をぎゅうううっと握りしめる。

 

「うわっ、うわうわ、すごい手握ってるね~。手と肩すごい震えてる、かわいい~」

 

 ハッハッと浅く息を吐く。チカチカ瞬く視界がじんわり熱く濡れる。

 

「レヴィアちゃんって耳……」

 

 イヤホン越しなのに……っ! なんで……っ⁉

 耳打ちされてるみたいに、リエル先輩の声がっ、吐息がっ、近づく。

 

「び・ん・か・ん」

「ひゃめ、あっ、やっ、あっ」

 

 ささやきに、耳、の中っ、こしょこしょされ、て

 

「な・ん・だ・ねぇ~~~~」

「~~~~~~~~~~~っ!」

 

 あったかぃ⁉ 声っ、ぬくもりが! イヤホンなのに、とどいて……っ!

 

「――――――かわぁいいね♡」

 

 ちゅっ、と響いた唇の音が、とろとろの脳に届いて、爆ぜた。

 

 

 ――――モウイイヤ。

 

 

「レヴィアちゃんもやってみ……」

 

 一緒にあったKU100ごと、私は先輩を押し倒す。

 私の下に来た先輩が、目をぱちくりさせる

 

「へ? ちょっ、あれ?? レヴィアちゃん?」

「せんぱぃ……きょとんとしてる……かわぃい♡」

 

「あっ、そ、そのささやきは100点ねレヴィアちゃん。あの……でも、どいてくれるとたすか」

「せんぱぁい……♡ 聞こえますか? 私の胸の音、とくとくとくって」

 

 私と先輩に挟まれてるKU100に、私は胸元を押し付ける。

 私の鼓動が、想いが、先輩の耳に入ってる……っ!

 

[ コメント ]

・おほーーーー! 

・レヴィアたんの心音サイコーですぞぉ

・でもその前凄い音したな? なんだろう?

・【キャスパー】いいぞぉ! そのまま! そのまま押し倒せぇ!

・なーーに言ってんだこのクソ猫

・妄想たくましいなぁ

 

「レヴィアちゃん⁉ ちょっどけ……どいてレヴィアちゃん⁉」

「あっ、せんぱいの音も聞こえるぅ♡ どっくんどっくんどっくん……緊張してるんですかぁ?」

 

「ねぇなんで若干、ロリ声になってるの⁉」

「かわぁいいなぁ♡ 今日会った時からずっと……かわいくてかわいくてかわいくてかわいくてかわいくて」

 

「瞳孔広げないでレヴィアちゃん‼ ねぇレヴィアちゃん⁉ まって! ねぇほんとにどうしたの⁉ こんなことする娘じゃなかったじゃない‼ ねぇってばぁああ‼⁉」

 

「先輩が……っ! 悪いんですよ、私、もう……もうっ‼ 我慢! しません‼」 

 

「んむぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう(声にならない悲鳴)!!!!!!!!!!」

 

[ コメント ]

・抱けえっ‼ 

・抱けっ‼ 抱け―っ‼ 

・抱けぇええええええええええっ‼

・くそっ、じれってーな。俺ちょっとやらしい雰囲気にし

・もうなってるから帰れ!

・後輩に圧されるなよ、先輩天使www

・おっぱじめやがった!

・飛んじまうぞ⁉

・配信3回目でBANの危機

・自分のチャンネルだからって滅茶苦茶しやがる⁉

・おい止めろぉ‼ あの堕天使止めろぉ‼

・レヴィアたんがぁ生きてりゅ!

・リエルンもぉ生きてりゅ!

・推しが現実に存在する……ありがたい……

・心音たすかるぅ!

・ここは・・・天国?

・ここがヘブンズライブだ!

・【キャスパー】レヴィアたんの右乳とリエルンの左乳(はむはむ!)リエルンの右乳とレヴィアたんの左乳(はむはむ!)レヴィアたんの心音とリエルンの心音ぴったりかさねてくだすわぁ~~~~~い‼

・おいなんか汚ねぇこ〇しくんいるぞ⁉

 

「レヴィアちゃん! 薙ぎ払え!」

「すぅううううううううううううう」

 

 コメント欄に湧いたクソ猫を薙ぎ払うために、私は肺がいっぱいになるまで息を吸った。堕天使の断罪咆哮(ギルティロア):ASMRバージョンまで残り3秒。

 

 

[ コメント ]

・あっ

・アッ

・パパが受け止めてみせる! 

・戻れ! パーパ! 

・このコメ欄の名が! パパ髭だぁああああ‼

・総員退避ィイイイイイイイイイイイ!

・音量下げろォオオオオオオオオオオ!

 

 コメント欄が戦場と化す。

 その阿鼻叫喚を見て……私は一度だけ、慈悲を示した。

 

「ねぇゲス猫ぉ、今すぐブラウザバックしないと―――――――ころすよ」

 

[ コメント ]

・失せろクソ猫ぉ‼

・コメ欄から消え去れぇえええ‼

・【キャスパー】ヒィィン(´;ω;`)

・ころすよ頂きましたぁ!

・ぶひぃ! 屠殺してくださぁい!

・ありがとうございますありがとうございますありがとうございます!

 

 一部感謝のコメントが流れる中、私の下にいた先輩は

「目が……ガチ……」 

 恐怖に震えていた。

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 精神世界で先輩Vと会いました(ぇまって精神世界とかある世界観なの?)

「ねぇ姫宮さん! 俺悔しいよ! 

レヴィアたんに俺の初めて捧げられると思ってたのに……どうして断罪咆哮(ギルティロア)してくれなかったんだレヴィアたぁぁぁぁぁぁんぁんぁん‼」

 

「鼓膜破いてもらいたい人なんて少数だからだよぉ‼」

 

 後日。

 いつものお昼休み、いつもの校舎裏で、三波くんの悲嘆に暮れた声が響き渡った。

 ほんとどうしようもないなと思った。

 

「やっぱり理解できないよ……鼓膜は処女膜じゃないよ……それに三波くんの鼓膜を破ることで数百人の鼓膜が犠牲になるんだよ? それはギルティだよ」

 

「ぐぅうううううぐぅの音も出ないぃぃっ! そうだよね、俺の欲望で同志の鼓膜を犠牲にする訳にはいかないよね。さすがレヴィアたん! 優しい好き!」

 

「うんうん、分かってもらって良かった」

 

 あぁ、『好き』なんて言葉じゃぜんぜん動揺しなくなっちゃってるなぁ……(遠い目)。

 

 初めて三波くんと話した日がずいぶん昔に思えた。

 この間もずっと三波くんの推し語りを聞き流してたけど、不意に彼が腕を組んでがっくりと首を落とした。

 

「どうしたの?」

「いやね? 実は昨日の配信さ。訳あって途中でコメント欄から追い出されて……リアタイ最後まで追えなかったんだぁ~」

 

「そうだったんだ……残念だったねぇ」

「そうなんだよぉ~、貴重な発情レヴィアたんを聞き逃すなんて……っ! どころか、リエルんとレヴィアたんの心音サンドイッチも最後まで聞いてないんだよぉ‼ だから姫宮さん! 今から二人で一緒に、天使と堕天使のパイに包まれないか?」

 

「キリッとしてるところ申し訳ないんだけど、誘い文句もうちょっと考えなよ」

 

 私はジトッとした目でそう言ってから、ぷいっとそっぽを向いた。

 

「ぁぁぁあああ! そんなぁ! そんなこと言わずに聞いておくれよだって素晴らしいんだよレヴィアたんのASMR! ほんと才能あるんだよ! ぜひVオタ初心者の姫宮さんにも体感してほしんだよぉおおおおお‼」

 

 その後、三波くんは涙ながらに宵月レヴィアのASMRの上手さを語り続けてくれた。

 私はそっぽを向いたまま…………ずっとそれに耳を傾けていた。

 

        *************

 

『起きなさい、我が娘……起きるのです、レヴィアちゃん』

 

「―――――ふや?」

 

 落ち着いた声に揺り起こされて初めて、私は寝ていたことに気付いた。

 

 ぁれ……学校、終わって……家に帰ろうと……ぅーーーまだ頭の中ぽやぽやする。

 

『あらあら、まだお眠なの? ……少し盛り過ぎたかしら』

 

 大人びた声を『ふふふ』と震わせて、神秘的な幼女が年相応の幼い笑顔を見せた。

 

 白金色のおかっぱ頭に、ウサギさんみたいな丸くて紅い瞳の幼女が、宙をふわふわ浮いていた。

 

 なんだか服装も相まって、星の王女さまって感じだった。

 

「ど、どなたですか?」

 

『ステラは【星の妖精】よ☆ アニメで語尾がうざい小動物いるでしょ? あれよ』

 

「こ、ここは一体……」

 

 辺りを見回すと、私は星空の中にいた。

 

 真っ黒な空間に散りばめられた星の光がラメみたいに安っぽく輝く。

 

『ここは精神世界。頭の中と言っても良いわ。気を失う前に、ステラの切り抜き見たから影響受けちゃったんでしょうね。ふふふっ、単純で可愛い♡』

 

 切り……抜き?

 ていうか……あれ……うん、やっぱりそうだ。

 

「ステラ先輩、ですか?」

【明星ステラ】。

 

 絵師系Vtuberにして、ヘブンズライブに所属するVtuberのガワを手掛けたヘブンズライブのママ。

 

 それがなんで……私の目の前に⁉




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 お絵描きオフコラボ開始ぃ!(拉致から始まる絵師Vオフコラボ⁉)

【明星ステラ】

 絵師系Vtuberにして、ヘブンズライブに所属するVtuberのガワを手掛けたヘブンズライブのママ。

 

 それがなんで……私の目の前に⁉

 

『戸惑うのも無理はないわ……二次元のキャラが目の前にいるんだもの……。

でも聞いて妖精の世界がピンチなのよ、あなたの助けが必要なのよ……』

 

 これって……っ! 

 瞬間、脳裏に駆け巡る、日曜の朝を楽しみにしていた幼少の記憶! 

 

 でも……っ、私は苦虫を嚙み潰したように顔を背ける。

 

「だ、だめですステラさん! 

世界の危機如きでそんな簡単に助けを求めちゃいけないんですよ⁉ 

弱みを見せたらだめなんですよ! 

でないとすぐエッチなバイト紹介されるんですよ! 

ずっと仲良くしてた親戚からも縁切られるんですよぉ!」

 

『言葉に宿った実感がすごぉい‼ え、魔法少女スカウトをそんな理由で断るの? 世界の危機なのよ? けっこうヤバいのよ?』 

 

「そんなの現実、どうでもいいんですよぉ‼ 皆、目の前の自分の危機で手いっぱいなんですよ! 世界の危機如きで人は動かないんですよぉ!」

 

『生々しい! すっごい生々しいわレヴィアちゃん!』

 

 うぅうううう……っ! 

 魔法……少女ぉ……かわいい……ドレスぅう(´;ω;`)

 メテオで家が潰れてから味わった辛酸が、あの頃のワクワクドキドキを否定した。

 

『まぁ、嘘なんだけども』

「嘘なのぉ⁉」

 

『めちゃショック受けるじゃないレヴィアちゃん。さては貴女ワクドキしてたな?』

「そっ……そんなこと、ないもぉん」

 

『まぁ、何はともあれ。困ってるのは本当なのよ。

ステラ、最近良い絵が描けなくて……そのためにレヴィアちゃんに手伝ってもらいたいのよ。本当、情けないことだけど』

 

 あっ、と私は息を呑む。

 遠い星空の彼方を見やるステラ先輩の横顔は……幼女の見た目からは程遠い憂いに満ちていた。

 

 その顔を見ていたら、なんだか……なんとかしたいと思ってしまう。

 だって私も、辛くなったその時――――誰かに助けてもらいたかったから。

 

「わ、私で良ければ……お、お手伝い、します」

『ほんと? ありがと! じゃあお腹吸わせて?』

 

 え?

 

 と言う間もなく、幼女が私のお腹に顔を埋めた。

 途端、吐息とかその他諸々で生暖かくなるお腹。

 

『はぁああああああああああああああああああああああああああああんお腹柔らかぃのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉおおンッぷにっぷに肉付きとしゅべしゅべお肌たまんなぁあああああああああああああああああああああああぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅっっほぉおおおおおおおおおお!!!!!!!』

 

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉⁉⁉⁉⁉」

 

 わぁ~~~~私ってほんとにこんな漫画みたいな悲鳴出るんだなぁ~~~~~?

 場違いな感慨を覚えながら、私は白金色の髪を鷲掴みして引き剝がしにかかった。

 

「ヤダァ‼ エイ〇アンヤダァアアア‼ お腹喰い破られるぅぅぅぅうううう‼‼」

『ぢゅぅううううううううううううううううううううう』

「イヤァァァァァァァァァァーーーーーーー!!!!!」

 

 私のお腹を堪能したステラ先輩は、うっとりと目を潤ませて、熱っぽい恍惚としたため息をついた。 

 

『ハァン……堪能したぁびゃ。これで堕天使の肉感が描けぁびゃ』

「あびゃあびゃ言いながらよだれ垂らさないでくださいよぉ‼‼ ぅううう……私の気持ち返せぇ……っ!」

 

『さて、時間も来たところだし、そろそろ現実《リアル》起床しておきなさい』

「時間⁉ 何の時間ですかもう!」

 

 キッと睨み上げたら、意味深に細められた眼差しとぶつかる。

 

『そんなの――――拉致《オフ》コラボの時間に決まってるじゃない』

 

 ぐにゃり、と視界が歪んだ。

 幼女も、星空も遠ざかっていく。

 そして目を開けたら…………

 

 

 

「コメットの皆さん、こんステラ~。

 明星ステラのお絵描き配信、始めて行くわよ~」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 配信画面を映したPCには、既に星の妖精と堕天使のライブ2Dが映っていた。

 PCの明かりが見覚えのない部屋…………沢山のイラストで埋め尽くされた部屋を照らす。

 

「今日描くのはぁ、【宵月レヴィア】ちゃんのエチチなイラスト♡ ご本人にデッサン人ぎょ……ポーズ取ってもらって描いていくわぁ~」

 

 思い……出した……っ‼

 体が震える。

 

 寝ぼけて忘れていた記憶がよみがえる。

 私帰り道で……ステラ先輩の切り抜き見てて……そしたら後ろから……()()()()()()()()()()

 

 今隣にいる――――裸パーカーのお姉さんに‼

 

「それじゃあレヴィアちゃん、ステラのアトリエに来た感想を一言!」 

「タスケテェえええええええええええええええーーーーーーーーーー!!!!!」

 

『堕天使ちゃんをステラのアトリエにご招待だよぉ♡/恒例のお絵描きオフコラボ【明星ステラ/宵月レヴィア】』……開始。




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 ママぁ!ママとお絵描きするぅ!(起きたら既に襲われていた件について) 

[ コメント ] 

・長い

・長いなぁ

・ミュートしてから長いなぁ

・どうしたんだろうなぁレヴィアちゃん

・なんか叫んでたねぇ

・事件性のある悲鳴だったねぇ

・どうしたんだろうねぇ

・まぁお決まりだけどねぇ

・アトリエに呼ばれたVはだいたい叫ぶからねぇ

・ステラのお絵描きオフコラボだから……

 

 コメット(ステラ先輩のリスナー)の皆さん、落ち着き過ぎじゃないですか?

 

 眷属達のコメント欄との違いに目を取られていたら――――バァンと耳元で壁ドンの音が爆ぜた。

 

「ぴぃ⁉」

「〝あ〝あ~~~、ったぁっく、こんのべらぼうめ」

 

 濁っててドスの利いた声が、私の頭上から降ってくる。

 

 PCをミュートする前の、ステラ先輩のロリロリしい声と全然違う……っ! 

 

 ビクビクと萎縮してたら、半端に閉められたファスナーで余計サイズを強調された丸見えの谷間がゆさりと視界に急接近する!

 

「なぁ、なんだってんだ? なんだって帰ろうとする? せぇっかくオレが娘のエロ……美麗イラストを供給してやるってのに、手伝いもせずにトンズラたぁなぁ?」

 

「エロって言ったぁ! 今エロって言ったぁ! あとさっき私のことデッサン人形って言いかけたぁ‼」

 

 ただでさえ、帰り道に甘い何かで気絶させられて、部屋に連れ込まれてるんだ。

 

 これで逃げない女子高生はいるだろうか⁉ いやいない!

 

 視界の下半分を埋め尽くす谷間に負けず、私はキッと気を強く保つ。

 すると裸パーカーのお姉さんは「かかっ」と笑って私を見下ろす。

 

「だいじょおぶだいじょおぶ、ヘブンズライブのお約束だから。リエルもクレアも皆この企画やったから。オレの娘なら必ず通る道だから」

 

「そ……そぅなんですか……?」

 

 Vtuberの文化でガワを描いてくれたイラストレーターさんは『ママ』と呼ぶ。

 イラストレーター【明星ステラ】……いや、『星辻綾香』は私の股下に膝を潜らせて、私との距離を更に詰めてわぷっ。

 

「んまぁ~、クレア……来栖はノリノリでポーズ取ってやがったけどねぇ。オレも筆が乗ったもんさ。リエル……天海の野郎はなぁ。表情がイイんだよなぁ……あいつのおぼこな羞恥顔は見てて昂ったよぉ。よっぽどオレがぶち込みたいくらいだったね」

 

「ふひぃこむっ(ぶち込む)⁉」

 

 ていうか柔らかくて隙間が! い、息が! すっと一歩引きさがる双丘。

 解ッ放ッ感! 私はすぅっと思い切り息を吸った。

 

「という訳だぃ。いっちょ付き合ってくれや」

 

 星辻先輩は手で軽く拝んでるけど…………あぁ、だめだ。

 私の目、今きっと三波くんを見てる時の目になってる(もしくはキャスパー)。

 

 でも…………ちらっと星辻先輩のPCを見る。

 既に始まってる配信画面。

 今もおっとりと私と先輩の戻りを待ってくれてるコメント欄。

 

 さっきは思わず逃げようとしちゃったけど……もう配信は始まっちゃっている。

 恥ずかしいけど、拉致られたけど、もう楽しみにしてくれてる人達が……いる。

 

「~~~~っ! わ、分かりましたよ。やりますよぉ! やればイイんでしょお⁉」

「よぅし、そうとくりゃ話はぁ早ぇ」

 

 星辻先輩は小気味よく手を叩くや否やドカッとその場で座り込んだ……んぅ?

 首を傾げる私を見上げて、星辻先輩は初めて【幼児《ステラ》】っぽく両手を広げた。

 

「 腹肉吸わせてぇ♡ 」

「ふじゃっっっっけんなぁああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 なんでだよぉ⁉ なんで私のお腹をそんな求めるんだよぉ⁉

 お腹はおっぱいじゃないんだぞぉ⁉???

 

「オレダメなんだよ。お腹吸わないと母性が目覚めないんだよ。声のチューニングもできないし明星ステラになりきれないんだよぉ。なぁ? 良いだろぉう?」

 

「ふじゃっけんな! ふじゃっけんな! 夢の中でも吸ってこっちでも吸って」

 

「え? 夢のな……あっ」

 

 ――――なぁに? その反応?

 嫌な予感がした。

 私はスカートの中にしまったブラウスの裾を出して……めくった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「もう真っ赤なのぉおおおおお‼‼‼‼」

 

「いただきまぢゅうううううううううう!!!!」

「んぅわぁあああーーーーーーーーーーん⁉⁉⁉」

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 お絵描き配信再開!モデルは妾⁉(ぁの、M字開脚って……なんですか?)

「お待たせ〜、ねぇみんな聞いてぇ? さっきレヴィアちゃんのお腹ちゅうちゅうさせてもらったのぉ! お肌まっしろでふにふにで奥の方しっかり筋肉あって美味しかったぁ〜〜〜! あーでも脇腹の方が少しプニってた〜〜〜♡」

 

「やめてよぉーーーーー!!! ちょっと気にしてたのにぃ‼︎ ばがぁ! ママのバカぁぁぁぁ〜〜〜〜」

 

[ コメント ]

・ほんとお腹好きねぇ

・ちゅうちゅうできてよかったねぇ

・お腹の肉事情を暴露されたぞぉおおお!

・薄い本が厚くなるぞぉぉおおおお!!

・復唱せよ! レヴィアたんの脇腹はぷにってる!

・レヴィアたんの脇腹はぷにってるぅ!

・パパ的には痩せすぎじゃないかって心配してたから……良かった

 

 眷属《パパ》だ! 

 おっとりしたコメット達に紛れて眷属《パパ》しっかりいるぅ! 

 私の腹肉事情把握されてるぅぅぅぅえええええーーーーん!!!!

 

「あはぁーーーーー♡ いいよぉレヴィアちゃん良いよぉその表情ぉ!

 泣いちゃってるのぉ? 恥ずかしいのぉ? 

ぷよぷよお腹バラされて恥ずかしのぉ??」

 

「ぷっ、ぷよぷよしてない! 太ってなんか! ないもぉん!」

 

「じゃーーーーめくってみせてぇ? 

ママに、自分から、お腹見せてみなぁ〜〜? ママ描いてあげるから。

しっかり描いてあげるから……みんなに太ってないこと証明しよ?」

 

「ぅっ……ふぐっ、ふぐぐぐ……わ、わかったぁ」

 

 わかんないもぉ恥ずかしすぎて訳わかんなぃぃぃ……。

 でも、太ってるって思われるのはイヤだぁ……みんなに、眷属に嫌われるぅうう。

 

 私は膝立ちになって、スカートからはみ出たブラウスの裾を自分からめくった。

 ぬくぬく温まってたお腹が冷え込んだ外気にさらされて、寒くて震える。

 

「これで……いいの?」

「ッアーーーーーーー!!!! 良いぃぃぃぃ‼︎ その涙に潤んだ上目遣い良いよぉう‼︎止まってぇ⁉︎ 貴女も時も止まってぇ⁉︎」

 

[コメント]

・凄まじい勢いで描き込まれていく⁉︎

・ラフ画なのにもうお腹のぷに肉感が伝わってくるぅ⁉︎

・天才じゃったか

・つーかこれ実質スカートたくし上げ

・エチチチチッフワァ

・エチチ昇天していくぅ!

・テンション高いねぇ今日のステラ様

・よっぽど良いデッサン人ぎょ……モデルなんだねぇ

・ふむ、泣き顔羞恥とは……堕天使やるねぇ

・コメットの方々の歴戦感ハンパねぇwwww

・キャスパー:僕としては「これで……良いの?」って言ったレヴィアたんの、この慣れてない感というか無知ックスに通じる声音がほんとに454545

・おい歴戦の戦士に混じってシコってる猫いんぞ!

 

「おっ、キャス坊来たか! あんたが推す理由分かるよ、こいつぁ中々良いエチチが出来そうよ! オレも腕が鳴るってぇもんだぁ!」

 

「キャスパー帰れ見んなどっか行けぇ! ていうかステラ先輩! 口調! 一人称! 素に戻ってますよ⁉︎」

 

「ん? 別に平気さぁ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 てん、てん、てん、とリズミカルに頭が真っ白になって。

 

「 じゃあ私何のためにお腹吸われたんですかぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎ 」

 

コメント

・吸われた⁉︎(ガタッ)

・お腹を⁉︎(ヌギッ)

・ごめん腹は分かんねぇわ

・キャスパー:おまいら猫の腹吸うやん。それをレヴィアたんのぽんぽんでやるんやで? 勃つだろ?あ?

・猫の圧力がすごぉい

・お腹をぽんぽんと呼ぶところにこだわりを感じる

・つまり堕天使はキスマークで真っ赤なぽんぽんを、涙目恥じらいでたくし上げ……

・やめて眷属のエチチ耐久度はもう0よ!

 

「乗ってるのってるぅ‼ コメも筆も乗りに乗ってるぅ‼ よぅしこの勢いならM字開脚いやさ、V字・Y字開脚もしてもらおうかい!」

 

 …………ぅん?

 ブラウスの裾をつまみ上げたまま、私は首を傾げる。

 

「どしたぁ⁉ ママの言うこと聞けねぇってのかアァン⁉」

「あっ、いや、そうじゃなくて」

 

 首を傾げた理由は、ステラ先輩の変貌っぷりに呆れたとか、もうこの場には変態しかいないとか、そんな分かり切ったことじゃなくて。

 

 ただ単純に――――指示の意味を上手く理解できなかっただけだった。

 

「あの、M字開脚? ってなんですか? わた、妾よく分かんなくて……ぇ?」

 

 

 静寂が……訪れた。

 

 

 絵描きの筆は止まり、コメント欄は三点リーダー(…)の洪水状態が―――続いたのだった。

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 堕天使、ジャック〇ーチャレンジに挑戦だよ!(ママ、10分キープは無茶です)

「え、え……え?」

 

 地獄みたいな静寂に、どうしてか罪悪感で心がちくちくし始める。

 え、なに? なんなのこの空気⁉ 

 へっ、私……なにかいけないこと言っちゃった⁉

 

 冷や汗が出始める。なんでだろう、この冷や汗に比べたら、さっきの状況の方が何万倍もマシだって思っちゃう!

 

「―――――レヴィアちゃん」

「っ! ステラ先輩⁉ あのっ、ごめんなさっ! 私なにかやっちゃいましたか⁉」

 

「いや……違うよ……違うんだ。間違っていたのは――――俺達だった」

 

 PC上の【明星ステラ】が瞳孔ガンギマリ状態から目蓋を閉じた清らかな表情に切り替わる。

 時を同じくして、星辻先輩が私に慈愛に満ちた抱擁をしてくる。

 

「ありがとう……っ! 無知《きれい》なままでいてくれて……‼ ありがどう‼」

「ひぅええええ? な、なんで……?」

 

 耳元で感謝を告げられても、そのっ、何が何だか分からないし……ただくすぐったくてドキドキするだけなんですけれども。

 

 ていうか、ぁっ、ぁのっ、星辻先輩が抱きしめてるせいでその……アタッテル。

 

「貴女は雪原《おとめ》。何の足跡《フェチ》もない、汚されていない純白の雪景色!」

 

 お~~~~おっきぃぃいいいいい‼ 

 

「危うく欲望のままに踏み荒らすところだった! 足跡《フェチ》は! 自ら踏みしめて刻んでいくべきものなのに!」 

 

や~~~~~わらかぁ~~~~~い‼

 

「レヴィアちゃん聞いてる?」

「え? あ」

 

「聞いとらんかったねぇ。まぁいいわ――――良い? レヴィア」

 

 その時、細めた星辻先輩の眼差しは……すごく母性《バブ味》に溢れていた。

 

 これが……ステラママ。宵月レヴィアを産み出した、イラストレーター!

 

「もうエチチイラストは描きません。

 本当はぶっ〇けとか手〇キとかフランクフルトの影を顔にかざす構図とか描くつもりだったけれど……貴女の純白に免じて、辞めます」

「そっ、そん……な?」

 

 

[ コメント ]

・俺達は何を見せられてるんだろう……?

・なんて綺麗な声なんだろう

・ラインナップえっぐwww

・レヴィアたん、分かんないなら分かんないって言いな?

・キャスパー:そんなこと言わずに描いてよステラママぁぁぁぁあ‼ 貴女が描かなければ生まれなかったものがここにある‼

・クソ猫の断末魔www

 

「ただ、一枚だけ。一枚だけ描きたいポーズがあるの。それが終わったら後はもう雑談。ママといっぱいお話しよ」

 

 パァッと私の胸の中が晴れやかになる。

 もう、エッチなポーズをしなくて良い! 

 

 でも顔を輝かせた私に、星辻先輩(ママ)の眦がスッと細くなる。

 

「でもこのポーズはすごく難しいの。普段使わない筋肉を使うからとっても辛い。……それでもやってくれる?」

 

 今日で一番真面目な星辻先輩(ママ)の問いかけに……私は力強くうなずく。

 

「はい……っ! がんばります――――お母さん」

「っ! レヴィア……」

 

 涙ぐむ星辻先輩。

 けれどそれは一瞬で、涙を拭った後に見せた表情は――母親のそれではなくプロの絵師のそれ!

 

「それじゃあ行くわよぉ! 言う通りにポーズを取りなっさぁぁい‼」

「はい!」

 私はお母さんの言われた通りのポーズを取った!

 

 まず四つん這いになる! 

 

 次に大きく足を開きながら、腰を反らしてお尻を突き出す!

 

 それでいて胸は地面すれすれに近づけて、顎の近くで両手を組んだ‼

 

 ……………………はれ?

 

「ちょいと待ってなコメット・眷属共ぉ‼ 

 宵月レヴィアのジャック・〇ー・チャレンジ360度アングル‼ 

 すぐにこしらえてやらぁなぁああああ‼‼‼」

 

「お母さん⁉ ねぇお母さん‼ 思ったよりキッツイし恥ずかしいんだけどぉ‼⁉ ぅ、くっ、ふぐぅ……ぁ、足とお尻プルプルして――――――お母さん? 

なんで背後に回りこむの? えまって何してんの⁉ やだぁ‼ 見ないで‼ イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

「あっ、ちょっとレヴィアちゃん動かないでくれる? 

 ほら10分キープ10分キープ」




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 太ってる魂は……きらい?(眷属のみんな……ごめんなさいぃ)

「姫宮さぁ~~ん! 

 昨夜、ステラ様がピクシプに上げた【レヴィアたん疑似スカートたくし上げ】と【ジャック・〇ー・チャレンジ堕天使(股間アングル)】のエチチイラスト見ようぜぇ~~~~~?」

 

「氏ねぇぇぇええええええええ‼‼‼」

 

「あふぅんっ‼⁉」

 

 後日、いつものお昼休み、いつもの校舎裏で、私はついに三波くんの脇を抉った。

 

 伽夜ちゃんを泣かす時のように、どれだけ体をくねらせても逃げられない態勢で、私は脇を抉りくすぐる‼

 

「女子にぃ! エッチなイラストをぉ! 笑顔でぇ! 見せないでよもぉおおおお‼‼」

 

「あひっ! いやっやめっすっご! 指すごっッアーーーーーーーーーーーー‼‼‼」

 

 汚ねぇ嬌声が八つ当たりの矛先を収めさせた。

 

 私の足元でひくひく痙攣してぶっ倒れてる三波くんが、驚愕して尋ねる。

 

「なっ、なぜ……ステラ様のイラストだよ⁉ 見てよ、この並々ならぬ肌の質感と肉感‼ 脇腹のぷにっと感! 内太ももの艶とちょいムチッとしたライン! まるで本物の……」

 

「指突‼」

「あひぃん!」

 

 指先一突きでくすぐり、地べたの三波くんが跳ねる。

 

 ぅうううう三波くんのっ、バカ!

 眷属も星辻先輩もみんなバカバカバカバカバカ‼

 イラストなら見たよ! 

 ビィスコードで送りつけられてきたもん!

 

 ――――すっごい私の体型にそっくりだったよもぉおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーっ‼‼

 

 そもそもステラ先輩もなんであんなにそっくりに描くの⁉ もうちょっと脚色してくれても罰当たらないよ⁉(主に足の太さ)

 

「もぉ……やだぁ」

 

 恥ずかし過ぎて手の平で顔を覆う。 

 キュッと内股になって、今更遅いけど身を小さくする。

 

 ごめんなさい皆様、ぷよ肉で限りある世界の面積を占領してしまって本当にごめんなさいぃいい……っ!

 

 もう何回目かも分からない後悔を、手の平の内でぽそっとつぶやく。

 

「こんなことになるなら……もっとおやつ減らせば良かったぁ」

「ん? なに姫宮さん、ダイエットでもすんの?」

 

 ――聞こえてるんか~~い。

 ちょっと目を離した瞬間に地べたから私の隣に移動していた三波くん。

 瞬間移動かな!?? 私は慌てて取り繕う。

 

「ぃやっ、ちがうよ⁉ 決してレヴィアたんのお腹がぷにってるからって、私も気を付けようと思ったとかそんなんじゃなくてね⁉」

 

「え? なんで? 気にする必要なくない?」

 

「おっ、仰る通りです!」

 ああああああああ何言ってるの私ィ! 

 

 確かに気にする必要ないじゃん、宵月レヴィアがぷにってようが、姫宮紗夜の腹肉には何も関係してない訳で……え? でも私は宵月レヴィアだよ? 堕天使のぷよ肉は私の腹肉であれあれはれ? ぁ頭こんがらがってきた。

 

「姫宮さん? 目が回ってるよ姫宮さん。そうなってる人初めて見たよ姫宮さん」

 

「そそそうだよね⁉ 太い娘は嫌いだよね⁉ ごめんなさい今度こそ我慢するから」

 

「いや俺が言ったのはそういう意味じゃなくて」

 

 目を丸め、首を傾げて、当然のことを話すように。

 

「お腹がぷよってようが、レヴィアたんは推す。これは、確定事項だ」

 

 三波くんはさらりと言ってのけた。 

 私はその表情に、言葉に、息を呑んだ。

 

「な、なんで? だ、だって」

 

「そんなん宵月レヴィアだからに決まってんじゃん。それよりここ聞いてよ! 

クレア様に寄せ乳レクチャーされて、レヴィアたんめっちゃ困惑しててさぁ!」

 

「ぅ……うん」

 

 真っ白になった頭を、こくんと縦に振る。

 またいつもの、三波くんの推し語りが始まった。

 私は呆然と、それに耳を傾けていた。

 

「ていうかレヴィアたん、もうちょい太ってくれないかな。

そしたら限りある世界の面積の中で宵月レヴィアの質量が増加する。そうすれば眷属達の幸福度指数が増加し……」

 

 速攻で後悔した。もっかい痙攣させた。

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 オフの日デート、緊張します(相手は……だれだと思いますか?)

姿見の前で、くるりと回ってみせた。

 

 ふわっと浮かび上がる赤チェックのミニスカート。

 ちらりと見えちゃうダメージストッキング。

 そして右肩だけ露出した、黒の長袖Tシャツ……。

 

「伽夜ちゃん……本当にこれで大丈夫かなぁ︎? へ、変じゃないかなぁ?」

 

「ん〜良いんじゃない? 厨二心忘れてない乙女みたいな感じで」

「それは遠回しに変って言ってない⁉︎」

 

 スティック野菜をぽりぽり食べながら「だいじょぶだいじょぶ」と棒読みする妹。

 こ、この妹め……っ! 姉がオシャレに真剣に悩んでるってのにぃ……。

 

 私の恨みがましい視線に気づいたのか、伽夜ちゃんは問うた。

 

「何がそんなに不安なの? 普通に可愛いと思うよ?」

「〜〜〜っ、それが問題なの」

 

 このコーデはリエル先輩に選んでもらったものだ。

 夜中にビィスコードで通話しながらネットショッピングで買ったコーデ。

 可愛くない筈が無い。

 ただ……。

 

「自分とその服が釣り合わないとでも思ってるの?」

 

 呆れ気味の伽夜ちゃんの言葉に私はゆっくりと頷いた。

 すると伽夜ちゃんは腰に手を当てて、これ見よがしにため息をついた。

 

 うぐぐ……中々辛いなぁ、妹のため息。

 

「お姉ちゃんさ、先輩に勧められたから無理に着てる訳じゃないんだよね?」

「そ! それは違うよ! 私、ちゃんと」

「なら大丈夫」

 

 私の声を遮って、伽夜ちゃんが私の手を取る。

 姉の手を包みながら、妹はまっすぐにはにかんだ。

 

「お姉ちゃんは可愛いよ。自信持って」 

「――伽夜ちゃん」

 

「デート、楽しんできてね」

「……ぅん」

 

 私は妹のおでこに自分のおでこをくっつける。口に出すには気恥ずかしい言葉を伝えるために。

 

         ****************

 

 学校もバイトもない休日なんて、何年ぶりだろう。

 

 電車の揺れにもたれながら、隣町の駅へ向かう。

 改札をくぐると、少しだけざわざわしてる人だかりを見つけたから、小走りで手を振った。

 

「お待たせしてすみません! ―――クレア先輩!」

「こ〜〜ら、姫宮さん。そっちの名前で呼んじゃダメでしょ?」

 

 人だかりができる程の美形を少しだけしかめっ面に変えて、ヘブンズライブの歌い手V――――【鳴神クレア】先輩が私を嗜めた。

 

 そ、そうだった。バカだ私……。

 

「ご、ごめんなさい。来栖先輩」

「……ふふふっ、そんなシュンとしないで。『奏先輩』で良いわよ。久しぶりねぇ、オーディション以来?」

「はいっ! そうです!」

 

 『来栖(くるす)奏』先輩はオーディションの時、私が看護師さんだと勘違いしていた人だ。

 

 白いワンピースと黒のカーディガンにハイヒール。

 そんなシンプルなコーデなのに……ちょっと一度見たら忘れられないくらい綺麗。

 

 たまらず「ほわぁ」とため息が出る。

 それに相まって、オフ特有の緩さが妙に私の胸をドキドキさせた。

 

「まさか予防接種と勘違いしてたとはねぇ〜。わたしが女医って……アハハッ」

「そ、そのお話は、その、触れないでほしいです……っ」

 

 どうかしてた、あの時は本当にどうかしてた! 

 でもしょうがないんですよ! だって、家計のピンチだったし……恥ずかしくて俯いていたら、

 

「え~~~駄目なのぉ?」

 

 奏先輩がニヤニヤした顔で、私の顔を覗き込んできた。

 先輩のプラチナブロンドの髪が、目の前に垂れる。

 

「みっ、見ないで……ほしいです」

「え~~~? 我が儘な後輩だなぁ……じゃあ何なら見ていいの?」

 

 ――――ぃ、言って、良いのかな?

 

 奏先輩の袖をおそるおそるつまんで、少しだけ顔を上げて、言ってみる。

 

「ふ、服……リエ、あ、天海先輩に……相談して、その」

 

 鼓動が激し過ぎて、顔が熱くなっていく。

 耳の奥、ばくんばくんうるさい。

 それでも……っ! 

 

 ぐっと溜めてから、口を開いた。

 

「――へ、変じゃ……ないですか?」

 震える声を喉から絞り出した。

 

 

「(*´Д`)ハァハァ あぁん……すこ。すこすこのすこぉ(*´Д`)ハァハァ」

 

 

 うん? 

 思わず瞬きする。

 

 なんか今、奏先輩から変態《キャスパー》の波動を感じたような……。

 

「あの、奏先輩。今なんて」

「可愛い服ねって言ったのよ。もぉ~~そのぼんやりした感じ、オーディションの頃から大好き」

 

 先輩は口元を隠したまま、にっこりと微笑んだ。

 き、気のせいかな? 

 

 奏先輩は袖をつまんだ私の手を取って、駅前のショッピングモールへ歩き始めた。

 

「我が儘な後輩は可愛がりたい性分なの。おいで、姫宮さん」

 

 ヒールの音をかっこよく鳴らして、颯爽とエスコートする奏先輩。

 ――やっぱり、すごいなぁ。

 

 尊敬に胸を膨らませてから、密かにホッと撫で下ろす。

 可愛い……だって。

 

 キュッと、少しだけ先輩の手を強く握った。

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 先輩Vとお泊り歌コラボ!(エレキ〇リカルな歌声らしいですよ)

「ふぁーはっはっは! 待たせたな眷属達! さぁ、邂逅を告げし鬨の声を上げようぞ! こんレビぃ!」

 

「きゃーーーー初配信以来の高笑いかわわ~~~~~~~~‼」

 

「せ、先輩先輩、挨拶を! 挨拶をお願いします!」

 

「あっそうね。いやぁしっかり者だわぁ……という訳でこんクレアぁ♡ 

雷鳴の如く轟く歌姫V♡ 雷神【鳴神クレア】でーす♡ 今日はぁ、かわいいかわいい後輩ちゃんのお家で歌声轟かせていくぞぉ♡」

 

[ コメント ]

・キッッツ

・きつっ

・近所迷惑なので辞めてもらえませんか?

・キツイわぁ……

・チェンジで

 

「おいあたしのなにがキツイんだ眷属共へそ取るぞゴラァアアアーーーーーーーーーーアアアアアアアン⁉‼」

 

「クレア先輩落ち着いてぇええええええええーーーーーーーー‼」

 

 お昼のあの落ち着きっぷりはどこへやら⁉ 

 白ワンピ美女の昂りをキャプチャして、配信画面のアバターが左右に荒ぶる。

 

『宵月家に雷神様をご招待である!/お泊り歌コラボ【宵月レヴィア/鳴神クレア】』はこうして始まった。

 

【鳴神クレア】は黄色のギザギザメッシュに黒髪ロングの、モデルとロックスターを合わせたようなVだった。

 

 最初見た時は意外だなぁって思ったけど……この荒ぶり方を見たらピッタリ。

 

[ コメント ]

・堕天使が遠い目をしておられる……

・立て続けに先輩(ゲテモノ)達とコラボしとるからなぁ

・こんな目になった娘、見たくなかった

・だからパパ帰ってもろて

・いやレヴィアたん、先輩一人喰ったけどね? (*´Д`)ハァハァしてたからね?

・リエルはしょうがない。クソ雑魚だもの。

・リエルんは犠牲になったのだ……犠牲の犠牲にな

 

「こらこらこら殺すな殺すな、リエル生きてっから。今日だってレヴィアちゃん、リエルが選んだ服でおしゃれしてきたんだから。ね~レヴィアちゃんっ♡」

「くっクレアせんぱっ‼ んなっ、ななにを言って」

 

「聞いてよ眷属さん達ぃ~。今日のお昼ね? あたし達、駅前で待ち合わせしたんだけどね? レヴィアちゃんってばあたしの袖をつまんでね? こう、上目遣いで……」

 

 アッアッアッアッ! や、やめ……っ。

 止めるのも間に合わず、クレア先輩はうきうきで私の声真似を始めた。

 

「ふ、服……リエ、あ、天海先輩に……相談して、その。すぅ――――へ、変じゃ……ないですか? って! 言ったんだよぉ~~~~~‼‼」

 

 

[ コメント ]

・かっっっっっっっっっっっっわ

・おほーたまらん

・初々しいですぞォ

・そのポジション代われください雷神BBA様

 

「い・い・で・しょお~~? おらっ、羨ましいと言わんかい眷属共ぉ‼」 

 

「なんっ、なっ! なんで言っちゃうんですかぁあーーーー‼ 思い出! 二人だけの! もぉお先輩のバカァァァァァ‼」

 

「いたた♡ いたたい♡ レヴィアちゃ、やめっ、ハァン、ぽかぽか幸せ」

 

[ コメント ]

・先輩後輩てぇてぇーーー!

・レヴィアちゃんの反応すこすこのすこ

・二人だけの思い出……やだこの堕天使、ピュア

・キャスパー:僕のだぞっ‼ ぽかぽかは! 僕のだぁん‼

・淫猫が撲殺を希望のようです

 

「気持ち悪りぃ野良猫が迷い込んできたねぇ、レヴィアちゃん」

「アハハ! ――ぽかぽかで済むとでも?」

 

 私は笑顔のまま、バキンと骨を鳴らした。

 

[ コメント ]

・音エッッグ!

・ぽかぽかっ! 殴り殺しちゃう、ぞ!

・撲殺堕天使レヴィアちゃん

・キャスパー:ぶひひぃいいん‼ 天上の恵み(拳)ありがとうございますニャアン!  

・猫か豚かはっきりさせてくださいます?

 

「はい! じゃあそろそろ歌っていこうかしらぁん⁉ 歌っちゃっちゃっちゃっいましょうかぁあーーー‼⁉」

「け、眷属達よ! 今宵は主らが太鼓持ち(クレア先輩のリスナー)であるからな! 妾と共に! 大いに盛り上げるのだぁ~~~~‼」

 

 背後でずっとスタンバってた伽夜ちゃんが、百均のでんでん太鼓を鳴らす。

 

 クレア先輩のマイミニ太鼓をお借りして、私もとことこ叩いた。コメント欄では太鼓のスタンプが高速で流れ始めた。

 

「じゃあ~いくわよぉ! 最初の曲はやっぱりコレ! だって雷神だもん! 歌います! ――エレ〇トリカルコミュニ〇ーション‼」

 

[ コメント ]

・おいおいおいおいおい!

・品性の無い雷神だヨ

・ぶんぶんぶんぶんぶんぶん

・ぶんぶんぶんぶんぶんぶん

 

「? 何を振り回してるの? 眷属?」

 

「おっい、ざっけんじゃねーぞレヴィアちゃんに余計なもん見せんなぁ‼ つーかロッ〇マンきゅんクソかっこいいかんなぁ⁉」

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話 お泊り振り返り配信……♡(先輩、どうして謝罪配信してるんですか?ぇなにした?)

「――と、いう訳でな? 妾にとってクレア先輩は、その……頼りがいのある……ぉ、お姉ちゃんって言うか……そんな、存在……んぬぅにゃあああああ~~~~~!!!!」

 

[ コメント ]

・照れ声カワイイ

・え、その雷神どなた?

・あのお泊り歌枠の後、そんなことがあったとは……

・お姉ちゃん宣言キチャーーーーーーーーーー‼

・一緒のおふとぅんてぇてぇーーーーーーーー‼

・かぁ~やらしか女ばい

 

「やらし……っ⁉ やらしくないよぉ! なんで眷属達ってすぐエッチなこと考えるの⁉ わかんないっ、妾分かんないよ‼」

 

[ コメント ]

・は?

・ん?

・んん?

・先輩の天使押し倒したよなぁ?

・雷神の先輩には抱き着いて

・星の妖精には……うん、まぁ……どんまい

 

「励まされた⁉ 最後、励まされたぞぉ⁉ ぅぬぬぬ、でもぉ! それは先輩達がとってもとっても魅力的でぇ! つい気持ちが溢れちゃうの! 好き好きってなっちゃうの!」

 

[ コメント ]

・自白

・なんも違くない

・誤魔化すな、己の宿業を

 

 ぅううう、眷属達の分からず屋ぁ……っ! 涙目で配信画面を睨む。

 

 伽夜ちゃんに言われてお泊り歌コラボの振り返り配信してみたけど……みんな全然分かってない、クレア先輩のすごいところを!

 

「あーもう分かったもんね、もう覚悟したもんね。みんなにクレア先輩のこと『布教』するんだから! 分かるまで聞いてもらうんだからね!」

 

 そうやってぷんぷんと腕を振っていたら、コメント欄にいつもの猫がやってきた。

 

[ コメント ]

・キャスパー:ぽっぽぅ! 荒ぶってると聞いて飛んできたよぽっぽぅ! 君の言うクレア先輩だけど、今とある罪を懺悔しているよ! 君の話とまるで違うね、ぽぽぅぽう!

・鳩にもなるのか、あのクソ猫

・豚にもなるよ

・そんな猫ヤダァ……

・囲え囲えぇ! 仕留めるぞォ!

・おい猫ぉ逃げんじゃねぇ!

 

「? ざ、懺悔? クレア先輩が?」

 

 何のこと……あ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ちょっとお邪魔してみようかな。

 で、でも前もって確認とらないと失礼だよね……? 

 

 キーボードの上で指をさまよわせていたら、後ろから肩を叩かれた。

 見ると、伽夜ちゃんのフリップにデカデカと「構わん、やれ」と書かれていた。

 

「よ、よし。マネージャー(のような者)さんから許可貰ったから、クレア先輩の振り返り配信見に行くぞ。……あれ? 先輩、マ〇クラしてる? なんで?」

 

 首を傾げながら、ライブ配信をクリックしたら。

 

 

 

 

 

『あたくし鳴神クレアはぁあああああ! レヴィアちゃんに添い寝してもらった時にぃ‼ 大! 変! ムラムラ‼ して・しまいましたぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!! あっっちぃいいいいいいいいいいいいいいいい‼‼‼‼‼』

 

[ 鳴神クレアのコメント ]

・焼き土下座だぁああああ‼

・YEAHHHHHHHHHHHHH‼‼‼

・どんどこどんどこどんどこ

・ド淫乱雷神のスメルがスパイシィだぜぇ‼

・わざわざ会見場(焼き)を建設してからの謝罪バーニング燃えるぜぇ‼

・どんどこどんどこどんどこ 

 

 そこには、自ら何度も焼かれに行く雷神様を、太鼓でヒャッハー大盛り上がりするコメントで溢れていた。

 

[ コメント ]

・温度差の極みwww

・盛り上がり方が世紀末なんよ

・堕天使探検隊はアマゾンの奥地へと向かった……っ!

・グ〇マでは一般的な光景ですね

・レヴィアたんフリーズしてるぅうううwwww

・なんて目をしてやがる……ハイライトがない

・レヴィアにはちょっと早かったね

・しっ! 見ちゃいけません。パパと一緒にお菓子食べに行こう?

 

『だってさ! あんた達、聞きなさいよ! 同じ布団で、お互いに浴衣がはだけた状態であの子スベスベの足絡めてきたのよ⁉ 背中にマシュマロおっぱい押し付けてきたのよ⁉ ムラムラが止まんないわよぉ‼ 胸も子宮もキュンキュンよぉお‼ あーーー寝たふりして良かった!』

 

[ 鳴神クレアのコメント ]

・エチチ太鼓用意!

・それは仕方ない

・あの堕天使、さてはむっつりだな?

・キャスパー:その時レヴィアたん、なんか言ってたらしんだけど聞いてた?

 

『え? 

 …………あぁ~~なんかブツブツ言ってた気がするけど……聞いてなかったわ。

それよりあたしはもう添い寝でスイッチ入っちゃってたから。

「やろう、やっちまおう」って思って起き上がったから。

でもその頃には、あの子すやすや眠っちゃってて――――その顔が可愛くて、性欲なんて無くなっちゃったわ」

 

「く、クレア先輩ぃ~~~っ!」 

 じんわりと涙が盛り上がる。

 

 そうだよね……クレア先輩は尊敬できる、私の理想の女性だもんね!

 

『鎖骨ぺろぺろで我慢したわっ♡』

 

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 マイ〇ラ、ログイン! 

 つるはし装備! 

 

 私は焼き土下座会場へ直行して、雷神へと殴り掛かった。

 




カクヨムコンテストに参加しています! 
応援よろしくお願いします!!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話 堕天使の今後の課題!(妹マネちゃんからお叱り受けました…)

「お姉ちゃん。メスガキになってぇ?」

 

 妹が人生で初めて私におねだりした。

 

 ……しわを刻んだ眉間を揉み揉みする。

 先輩達との3連続コラボを乗り越えた日の朝のことだった。

 

「ま、待って伽夜ちゃん? も、もう一回行ってもらえる?」

「おねぇたぁん♡! あたち、おねぇたんにメスガキムーブしてほちぃのぉ♡! 散々調子こいた挙げ句にぃいいい! 無様に屈服させられてほしいのぉーーーっ!!!!」

 

「わかった! わかったから朝の通学路で萌え咆哮(ごえ)轟かせないで!」

 

 私と伽夜ちゃんは、中高一貫の同じ学校に通っている。

 何が言いたいかと言うと妹よ、人の目あるからティガ〇ックスにならないで。

 

「分かった。やめる」

「素直で良い子っ♡」

 

 頭を撫でてあげよう。

 伽夜ちゃんの頬がどんどん吊り上がってく。

 カワイイ。

 

「でも割と本気でお姉ちゃんがメスガキムーブかましたらおもろ……受けると思うの!」

「ちょっと伽夜ちゃん? 朝から痙攣する?」

 

 指の骨を順繰りに鳴らす。

 伽夜ちゃんはハッと顔を青くして、びくびくと縮こまった。

 

「やめて……やめてほしいのだぁ……抉るなら見えないところでして欲しいのだ……もぉ苦しいのは嫌なのだぁ……」

「ちょっ伽夜ちゃん⁉ 言い方に悪意あるよそれは! ただのこちょこちょじゃない⁉」  

 

「おねいぢゃ……おねいぢゃ、もぉやめてほしいのだ。昔のやさしいおねいぢゃに戻って 欲しいのだ」

「朝陽を浴びながら闇深いこと言わないで⁉ それに私は今も昔も、伽夜ちゃんに優しいお姉ちゃんでしょ? ……でしょお⁉」

 

 ……あれ? 

 自分で言ってて、全然そうじゃない気がしてきたよ? 

 なんかむしろ闇の深さを肯定しちゃった感があるんだけど。

 

「うぅ……そ、そうなのだ。おねいぢゃはいつだって優しいおねいぢゃなのだ……屈し屈し(くしくし)

「屈してるんじゃん! やめてよ言わされた感出さないでよぉ‼」

 

「――――はいこれ。こういうことやってほしいの」

 

 目元を擦って怯えていた伽夜ちゃんが、急に元のクールな表情に戻った。

 な、なに? どういうことなの? 

 

 目を白黒させる私に、伽夜ちゃんがキランと解説し始めた。

 

「今わたしのことをこちょこちょで脅したように。眷属――リスナーともこんな感じで脅したり突っ込んだり、言い合いしてほしいの」

「おどっ⁉ そ、そんなの無理だし駄目だよ! だって眷属さんは、私の配信見に来てくれる、云わばお客さんなんだよ⁉ そんな乱暴にできないよ……嫌われちゃう」

 

「……お客さん、ねぇ」

 

 伽夜ちゃんはがっくりと肩を落として、深くため息をついた。

 

 そして頭を抱えながら、

「でもさ? 鳴神クレアの太鼓達はどう? けっこう配信者とリスナー同士でバチボコに言い合ってなかった?」

 

 あっ、と息を呑む。

 たしかにクレア先輩、けっこうリスナーのこと煽ってたけど……むしろ太鼓さん達がその倍ひどいこと言って煽り返してた気がする。

 

 それはステラ先輩のコメットさん達にも、リエル先輩のご主人様達にも言えることだった。

 

「そりゃ、根っこはエンターテイナーだからサービス精神は大事よ? でもみんながVtuberに求めてるのってね、『友達感覚』なのよ」

「――――とも、だち?」

 

「そう。バカなこと言い合ってどつきあう気軽さっていうか……フレンドリーさ。煽って煽り返して、リアルタイムで時間を共有する楽しさ」

 

 将来の進路とか、クラスでの立ち位置とか、学校でのキャラとか。

 そーいうのぜーんぶ放ったらかして、マク〇ナルドとかでだらだらお喋りする。

 

 そういう感じなの、って伽夜ちゃんは言っていた。

 

「お姉ちゃんも分かるでしょ? こういう感じ。お姉ちゃんは優しいから、そういうこと言えないかもだけど。別に眷属の人達は今更」

「…………分かんないなぁ」

 

 放課後にそんな、ゆったり話せる時間なんて。

 いや、そもそも―――――

 

 ……目を細めて、私はアドバイスをくれた妹の頭を撫でる。

 

「ごめんね伽夜ちゃん。でも大丈夫! 友達感覚だね? これからはそこを意識して配信してみるよ。アドバイスしてくれてありがとっ」

 

 にこっと微笑みかける。

 伽夜ちゃんはうつむいて唇を尖らせていた。

 

「……そうじゃ、ないのに」

 

 聞かなかったことにした。

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話 クラスの端っこと中心(ねぇよく見たらうちのクラス変な人ばっかじゃない?)

教室に入る前、私は度が入ってないメガネを掛けた。

 

 これがいつもの私の習慣。別に視力に問題はないけれど。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぉ、おはよ」

「ん? あぁ……はよ~」

 

 教室の入り口で話してた女子に挨拶する。

 私の席は、廊下側の列の三番目。

 迷わずに、足早に席に向かう。 

 

「ねぇ、さっきの誰?」

「んー……覚えてなぁーい。挨拶されたからとりあえず返した」

 

 席に着いて、教科書を机の中にしまったら、本を取り出す。

 

 図書室で借りた古典小説。あんまり内容が入ってこない。

 それでも、本を眺めてるだけでも――()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あぁ、姫宮さんだよ。ほら、図書委員の」

「……あっ! ほんとだ! 『らしい』わぁ~w」

「あっ、うちも思い出した! 掃除やってくれたり課題写さしてくれたり、すごく良い子なんだよ~」 

 

 こっちに一人、近寄ってきた。

 内心ビクビクしながら、顔を上げると、その子は手を合わせて拝んだ。

 

「姫宮さん、今日の英語の課題写さしてくれない? おねがい!」

「いい……よ」

 

 こういう頼みはすぐに聞く。

 その方が、私らしいから。 

 

 私の名前を忘れてたその子は満面の笑みで「ありがとう」と言った。

 そしてすぐお喋り仲間の所へ戻っていくその子の背中を遠い目で眺めた。

 

 小さく縮こまって本を読んでて、おとなしくて、便利な『図書委員』。

 それが、親睦会のカラオケで総スカン喰らった後、なんとか築き上げた私の立ち位置(キャラ)だった。

 

 だから。

 

「友達感覚……かぁ~~~~」

 今朝の伽夜ちゃんの指摘には、けっこう頭が痛くなった。

 

 バレないように教室の中を見回す。

 そこには、全てが出来上がった空気に満ちていた。

 

 わいわい騒ぐ男女入り混じったグループ、足並みを揃えて牽制し合う女子のグループ、同じ趣味で仲良くなった男子のグループと女子のグループ。

 

 組み終わったジグソーパズルみたいな景色に、私は

「……むりだょぉおおおおおお~~~~」

 机に突っ伏して悶えた。

 

 伽夜ちゃん無理だって。分かんないって友達感覚なんて。だって友達いないもん、いたけどいなくなったもん。カラオケでハジケたからいなくなったもん!

 

 その上、更に言い合う? 

 煽って煽り返す? 

 バカなこと言ってど付き合う気軽さ⁉

 

「むりにきまっってんじゃんむぅ~~~~~~」

「あっ、姫宮さんが悶え苦しんでる」

「感動してんじゃない? 本に」

「えぇ、あんな体捻じれるほど……」

 

 はっ、まずいまずい。

 

 クラスの女子のひそひそを察知して慌てて居住まいを正す。落ち着いて私。

 よくよく思い返したら、別にクラスメイトとそうしろって言われてないじゃない。  

 ただ眷属さん達とそうしろって言われてるだけで……出来る気がしないなぁ?

 

 リアルでも無理なのに配信で出来る訳ないなぁ?

 どうしよっかなぁ?

 

 ふぅ、と深く息を吐いた途端――――教室の扉が勢いよく開いた。

 びっくりして見てみたら、三波くんが切迫した顔で男子達に呼びかけた。

 

「大変だお前らぁ!」

「どしたー? ついに自分の眉毛がM字開脚に見えてきたかー?」

「ちがう、それはもうやった! これを見ろ!」

 

 気怠げな返しをする男子達に、三波君は手に持ったそれを掲げた。

 まるで王者の証か何かのように、それは光り輝き、男子達の視線を引き上げた。

 

 

「――――さっきそこで女子の上履き拾った」

 

 

 見ると、それは確かにサイズ的に女子の上履きだった。

 シューズの先が赤色だから3年生かな? 

 名前も油性ペンで書いてあるし、それなら届けに行けば良いんじゃ……。

 

 

 ガタタァン‼︎ と轟音。

 

 

 男子達の群れが、机を押しのけ、椅子を弾き飛ばし、三波くんの掲げる王者の証(上履き)目掛けて殺到する。

 

「寄越せや三波ぃ!」「出会いのきっかけ出会いのきっかけ!」「先輩女子との交際の決め手ぇ!」「学園ラブコメの冒頭ぉ!」「歳の差カップルに! 俺は! 成る!」「僕、受験頑張って彼女と同じ大学に入るんだぁ!」

 

「黙れ出逢いに飢えたカス共ぉ!︎ この良い匂いがする上履き(シンデレラ)の王子様になるのは、この三波ブラ○ドー様だぁ!!」

 

 言い合って。

 

「俺はDTを辞めるぞ、野郎どもぉおおーーーーーーーっっ‼‼‼」

「うわぁぁぁぁ上履き被りやがったああああ‼ きっっっ色悪りっ‼」

 

 煽って煽り返して。

 

「ぐああああああああ!!!!」

「口ほどにもねぇなぁ王子様ぁ!」

「不甲斐ねぇな王子様ぁ!」

「あばよ王子様ぁ!」

「おのれぇぇぇ、これが……NTRっ!」

 

 バカなこと言ってド突き合う。

 

 

 ――――全部できてるぅ‼︎

 

 

 私ができないと思っていたことを、三波くんは息をするかの如く自然とできてた。

 女子の反応はというと……。

 

「明るいねー」「傷だらけ……かっこいい」「絆創膏いるかな?」「男子(三波く)んのあーいうバカノリ好きだわぁ」

 

 私は遠く離れた職員室に目線を送る。

 先生このクラス、もう一回視力検査すべきです(主に女子)。

 

 ……それにしても。

 私は本を閉じて、頬杖を突き、三波くんを見つめる。

 

 ――――今思い出したけど、私、三波くんのことド突いてたなぁ。

 

 宵月レヴィアのエチチイラスト見せにきた時、伽夜ちゃんと同じようにくすぐって屈し屈しさせた。彼と話すようになって、まだ数日しか経ってないのに。

 

「これが……プロレスかぁ」

 

 そうだよ。

 思い返せば、私、Vtuberになってから色んな人にエッチなことされて困らされてきたけど――――本気で嫌だと思ったこと全然ない。

 それは三波くんとの、いつものお昼休みのお喋りの時だって。

 

「…………すごいな」

 ぽそっと独り言をつぶやいて、目を細めていたら、

 

「 なに見てるの? 」

 

 横合いから飛んできた声に、スンッと凍り付いた。

 ふるふると、強くて冷たい語気が流れてくる方へ振り返る。

 

 そこにはクラスメイトの――――早乙女咲良《さおとめさくら》さんが立っていた。

 

 早乙女さんは私の視線を追うと、すぐ三波くんに気付いた。

 そして、鼻で笑って一言。

 

「姫宮さん……もう少し相手考えたら?」

「アッ、ハイ、ソウデスネ」

 

 それだけ聞くと早乙女さんは「フンッ」と鼻を鳴らして、自分の席に座った。

 

 え? なに今の反応。

 もしかして早乙女さんって……三波くんのこと、好き?

 だったら。

 

 私は左斜めに座った彼女の背中に、念を送った。

 違いますよぉ~~~私もうそういう感情無いですよ~~~勘違いしないでねぇ~~

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
現代ドラマの週間ランキング5位になりました!
ありがとうございます!
引き続き応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話 妾って……トーク下手?(推されるってこういうこと)

「いやぁ~土日のレヴィクレコラボ凄かったなぁ~。

燃え盛る謝罪会見場に相対する堕天使と雷神。

二人の一騎打ちは『ほんとにマイ〇ラか?』『SEK〇ROじゃね?』とのコメントで大いに盛り上が……」

 

「………………」

 

「……姫宮さん、今日なんか調子悪い? むっっっちゃ見てくるやん」

 

「へ? あ、気にしないで。

 ただ三波くんがいつもどういう風に考えて喋ってるのか見てるだけだから」

 

 いつものお昼休み、いつもの校舎裏で、今日も今日とて三波くんは宵月レヴィアの推し語りをする。

 

 でも気付いた。

 

 お昼休みって50分くらいあるけど……その間、三波くんってずっと喋ってる。

 それも時間を感じさせず、それでいて飽きも来ないように。

 

 いつもは変態さんだなぁって思ってたけど――――実は三波くんって結構トークスキル上手い? 

 

 そう思ってから私はまじまじと三波くんの表情を、語り口をしかと観察していた。参考になるところがあったら吸収しないと!

 

 でも三波くん、なんだか唇をもにょもにょさせて黙りこくってる。

 

「どうしたの三波くん? 早く喋って? いつもはレヴィアちゃんのこといっぱい話してくれるじゃない?」

 

「ぃゃ……そ、そんなガン見されたら話し辛いっつーか……ねぇ本当に今日どうしたの⁉ 変だよ、姫宮さん⁉ なんかあった⁉」

 

 図星を突かれて、ぎくりと肩を揺らす。

 

「ゎ、わかる……の?」

「さすがにね⁉ もうなに? 

俺で良ければ話聞くからさ……その鬼気迫る目やめて?」

 

 うむむむぅ、なんだろう。

 三波くんに気付かれたの、なんか――――なんか、悔しい。

 

 むしゃくしゃが顔に伝わって、眉間にしわが寄っていく。

 三波くんはそんな私を困惑しながら待っている。この流れは……言わないといけないよね。

 

「その、私の妹が言ってたんだけど」

 

 今朝、伽夜ちゃんに言われたことをそのまま話した。

 ちょっとVtuberにうるさい妹でね、って一言を付け加えて。

 

 そしたら三波くんは

 

「wwwwwwッ、ふひっ、ぅふひひひひひはははははははwwwwwww」

 

 膝を叩いて、聞いたことない笑い方をしていた。

 

 わぁ……晒したい、この笑顔。

 クラスの女子達に。至近距離で見せてあげたい。

 

「な、なるほどねww 妹さんの言い分もちょっと分かるよ、ふひはww。要はプロレスでしょ? 確かにそれ出来たら面白いけどさ……でもさぁ~」

 

 ひぃひぃ、と目に浮かんだ涙を拭って。

 三波くんは晴れやかに断言した。

 

 

「レヴィアたんって別にトーク上手いわけじゃないからねぇ~~~⁉ むしろ下っ手くそだとおも」

 

 

「指突!」

「あべしっ!」

 

 反射で飛び出した私の抉りくすぐりに、三波くんはぶっ倒れた。

 

「な……なぜ」

「知らない。手が滑った」

 

 バカ。三波くんのヴァカ! 

 口の中だけでもごもごと罵倒する。

 なんなのこの気持ち。 三波くんは未だに笑いながら、体を起こした。

 

「だってそう思わない? 振られた言葉とかにリアクションとかはできるけど、堕天使から何かアクションしたことってあんまり無いじゃん。だから妹さんの意見は分かるなぁ」

 

 しかめっ面を見られたくなくて、俯く。

 口の中に広がる苦い感情を奥歯で噛みしめて、拳を握りしめる。

 

 わかってる、わかってるよ。

 だって三波くんが今言ったことは、自分でも思っていたことだから。それをあなたの口から言われるのが――――くやし

 

「ま、だからってレヴィアたんにトーク上手くなって欲しいとか思わないけどな?」

「……え?」

 

 あっけらかんとした声音に、思わず顔を上げる。

 丸めた目で疑問を投げかける。

 

 なんで? 

 トークが下手なら上手くならなきゃ。

 

 苦手なところはすぐに直して、弱点を見つけたら無くさなきゃ……! 

 学校でも習い事でもバイトでも、そしてきっと会社でも失敗は返さないようにちゃんと克服しなきゃ。

 

 そうしなきゃ、こいつはもう駄目なんだって見切られる――捨てられるんだから。

 

 頭から言葉が溢れて、喉に詰まる私の横で。

 

「だって俺、そーいうトーク下っ手くそで、一々リアクションがおもしろかわいいレヴィアたんが大好きなんだわ」

 

 三波くんは、とろけそうな笑顔で、推しへの愛を口にした。

 

 いつものお昼休み、いつもの校舎裏で――――いつもの愛を、語る。

 

「素直なんだよなぁ、レヴィアたんって。純情っていうかさ。たまに眷属のコメントで面白いのあったら『すごいすごい』って拍手するんだよ⁉ 幼女かっての! そのくせ本人むっつりさんなのが透けて見えるんだよなぁ、リエルのコラボとかクレアとのベッドの話からして。それでいて無知! まさかM字開脚知らないだなんてなぁ、自分の眉毛がM字だからって興奮してた俺の立場よ。懺悔室に直行したくなるわ。あのピュアっぷりはステラママも抱きしめたくなるわ。まぁー何が言いたいか一言で言ったらね」

 

 ここまで10秒という、恐ろしいまでの早口。

 

 まるで、そのくらい口が回らないと、推しの魅力が語れないかのような。

 そんな彼はいつも、いつだって、大雑把に一言でまとめようとして。

 

「 俺はありのままの宵月レヴィアが大好きだ! だからレヴィアたんには、自分のやりたいことをやりまくって欲しい! 」

 

 全然一言じゃない、推し(わたし)への想いを、告げるんだ。

 

 いつも聞いている、聞いていた三波くんの変態語りが――――頭の中に溢れていた言葉をまとめて吹き消した。

 

 目をぱちぱちと瞬きしてると、彼はうんうんとしたり顔で頷いた。

 

「だから別に、取って付けたみたいにプロレストークなんかしなくて良いんだよね。妹さんにはそう伝えといて。ていうかプロレスとか煽りなんて、Vの先輩達に揉まれていけば勝手に出来るようになるしねぇ~。

 紳士はいるけど清楚はいねぇから、この業界」

 

 そう朗らかに言って、彼は私の肩を叩いた。

 遠慮がちに、ちょんちょんと。

 

「でもレヴィアたんのメスガキムーブね。一ファンの願望としては良いんじゃね?

面白そう。ナイスアイデアだねぇ妹さん」

 

 親指を立てて、伽夜ちゃんのアイデアを褒めたたえる三波くん。

 やっぱり変態さんだ。

 

 でも――――信じても良い変態さんだ。

 

 そう、思えた。

 

「……三波くん。今更なんだけどね?」

「うん? なに?」

 

「――メスガキって、何?」

「知らんと話してたんかぁあああああああああああああああああああああい‼‼‼」

 

 教えてくれた。

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
カクヨムコン:ラブコメ部門の週間ランキング101位でした。
956分の101? ……あれ、けっこういけてる???
引き続き応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話 妾っ、立派なメスガキになってみせる!(なんか不穏な視線を感じたけど気のせいだよね)

三波くんが保存してた画像(ピクシプ)とか動画(YUTUBE)で一通りメスガキを見せてもらった。

 

「ねぇ三波くん? なんでこの娘、こんなに大人を下に見てるの? この年じゃ水道代も払えないのになんで大の大人に『ざぁこざぁこ』なんて言えるの? 『わからせたい』ってあるけど、これ因果応報じゃない? 屈服されて当然だよ」

 

「やめろぉおおおーーーーーっ‼ そんな純粋な目で一性癖をマジレスすんなぁあっ‼ つーか姫宮さんの意見が意外すぎる⁉ お主さてはSじゃな?」

 

「えっ、えええSじゃないよ‼ 何言ってんの、三波くん‼ このっ、変態っ‼」

「ほらSじゃん! もぉSじゃん、語るに落ちてんじゃん!」

 

 そんな……ち、ちがうよ。私はいたって普通、SもMも無いよ。

 

 確かにクレア先輩のお尻たくさん叩いたし、伽夜ちゃんにも痙攣するまで抉りくすぐるけどSなんかじゃ……あれ? 

 自分で言ってて、全然そうじゃない気がしてきたよ? 

 

「私は――――S、だった?」

 

「ごめん姫宮さん、俺からは何も言えないよ。クラスメイトの女子の属性なんて断言したくねぇよ。責任なんか持ちたくない」

 

 なっ、なんだろう……いつもと逆な気がする。どうして三波くんが引いてるの? おかしい、おかしいよ……とっ、とにかく! 

 

 メスガキについては分かった‼(現実逃避)。 

 つまりあれだね? 眷属(みんな)に『ざぁこざぁこド変態』って煽りまくれば良いんだね⁉ 

 

 ふんすと私は鼻を鳴らす。

 

『だからレヴィアたんには、自分のやりたいことをやりまくって欲しい!』

 

 三波くん。あなたはそう言ってくれたけれど。

 だからってその気持ちに甘えたくないんだ、私。

 

 ―――――――やるよ、メスガキ。やってみせるよ。

 

 だからこそ……三波くんの耳に狙いを定める。

 手を筒みたいに丸めて、口元に添える。

 そぅっと、バレないように、彼の耳元まで寄って行って……ささやく。

 

「ざぁこざぁこ……ド・変・態♡」

 

 彼がバッと勢いよく振り返る、より前に私はパッと離れる。

 そしてメスガキらしく、口の端を持ち上げて、

 

「こぅいぅ……感じ?」

 

 首を傾げて魅せた。

 

 三波くんは耳を抑えていた。顔が、真っ赤だった。

 

 

[ 早乙女咲良の視点(コメント) ]

 

「は?」

 

 たまたまだった。

 たまたま弁当を作れなくて、たまたま購買に行ったけど売り切れてて、たまたま学外のコンビニに行って、たまたま普段じゃ寄らない場所で食べようと思った。

 

 それだけだった。

 

「は?」

 

 教室のある校舎とは、反対の校舎の裏。

 うちと同じクラスの男女がいた。

 

 三波君と姫宮さんが、二人きりで、肩を並べてご飯を食べてた。

 

「は?」

 

 姫宮さんが三波君に身を寄せた。

 

 すぐにパッと離れたけど……三波君の顔は教室じゃ見たことない、驚いた顔をしていて―――――それ見た瞬間。

 

 

「はぁぁああああああああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~?」 

 ぶぢゅううううう‼ と、ストローから牛乳が吹き出す。

 

 

そうして、うち……早乙女咲良(さおとめさくら)は苦労して買ったやきそばパンと牛乳パックを握りつぶした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話 悪役令嬢:早乙女さん⁉(まってちがうの、誤解なの!)

「こぅいぅ……感じ?」

 練習をしたかった。

 

 配信前にメスガキムーブって言うのを。

 だって配信でいきなりやってスベるの嫌だし。

 

 そういう、至極マジメな想い――――だったんですよ。

 

「あんた達、ここで何してんの?」 

 

 私達を見下ろす瞳孔ガンギマリの早乙女さんに、私はそう心の中で語り掛ける。

 

 手からなんかポタポタ垂らしてる……え何なのそれ返り血? の割には白いし。

 え、ほんとに何⁉

 

「あんた達、ここで何してんの?」

「お? どうしたんだ早乙女。昼飯買えたのか?」

 

「あんた達、ここで何してんの?」

「早乙女さ……ち、ちがうの! これはその、普通に一緒にご飯食べてただけで」

 

「き・さ・ま・ら・こ・こ・で・ナ・ニ・ヲ・シ・テ・オ・ル・?」

 

 語るにつれて人間辞めていってる声してるぅ!

 なんか言い方も尊大になってる気がするぅ!

 ていうか駄目だ、私の話も三波くんの話も聞いてない!

 

「あたしさぁ、見てたんよ。なんかぁ? 姫宮さんがさぁ? 三波に近づいてさぁ。もぅすっげぇ近づいてさぁ。まぁすぐ離れたから良いけど……三波の面がさぁ、明らか何かあった顔っつーかさぁ」

 

 天界から脳天へピキューンと危険信号が走る。

 堕天使六感(センス)が言っている。

 あ、これ――――最大最悪の勘違いされている! 

 私は勢いよく立ち上がって、早乙女さんに詰め寄る。

 

「ちがうのちがうのちがうのぉ‼ 早乙女さんが考えてることなんかしてないよ‼⁉ だって私と三波くんだよ⁉ なにかある訳ないじゃない!」

「……うちが考えてることってなに?」

 

 怪訝な目に見下ろされて、私はぴしっと固まった。

 あっれ~~~~~? 墓穴掘った気がする~~~~?

 

 早乙女さんはドンッと胸で私を押し出して、問い返してきた。

 

「ねぇ? 何がないの? 姫宮さんと三波との間に、何かあるの?」

「あっ、それ俺も気になる。どういうことなの、姫宮さん。そんなことって何?」

 

 あーんたは何でそっちに加勢してんだぁあぁあああーーーーー‼

 やめてよ! 二人して私の墓穴ほじくり返さないでよ⁉ 

 

 そうして二人からの追求にあわあわしてたら……学校のチャイムが鳴った。

 

「仕切り直しね」

 仕切り直すんですか。

 

 早乙女さんはフンっと鼻白んで、大人っぽい巻き髪をなびかせた。

 ずだんずだんと足を踏み鳴らしていって、途中で振り返った。

 火矢かと見間違える程の眼光に、私は怖くて肩が跳ねた。

 

「いやぁ~~えらく睨まれたなぁ」

「……どぅしよう」

「?」と横で三波くんが不思議そうな顔をする。

 

 地味で暗いのが私らしさ、おとなしくて便利なのが私の役割。

 そんな私が、クラスの中心の三波くんとこっそり会ってた。

 

『なんか姫宮さんらしくないね』

 きっとまたそう言われる――――あの時の、親睦会《カラオケ》の時みたいに。

 

「終わった……私の学校生活……終わった」

「んー、別にそこまでの事態じゃないと思うけどなぁ」

 

 能天気な三波くんの言葉を無視して、私達はタイミングをずらして教室に戻った。

 

 席に着くと……斜め前から火矢の視線を放たれた。

 

 早乙女咲良さん。

 テニス部のエースで学校の成績も優秀。街に遊びに言ったら読モの勧誘受けた、だなんて話しょっちゅう聞くくらいスタイル良い美人。

 廃部寸前のテニス部を都大会常連まで押し上げた才女。

 

 ――――もし、三波くんとこっそり会ってたのが彼女だったら。

 

「なんにも問題ないのになぁ」

 

 けど、問題は私だから。

 姫宮紗夜だから。

 私がらしくないことをしたから――――今、早乙女さんにめちゃくちゃ睨まれてるんだ。

 

 …………こわいこわいこわい! じわわっと涙出てきた。

 

 この後、私に何をする気なの? 

 私、何されるの⁉

 増すばかりの不安で視界はぼやけて、その間も早乙女さんの視線が突き刺さっていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話 ボルケーノ・早乙女(テニス勝負ってドユコト?)

 六時間目の授業が終わった。

 結局、早乙女さんの噴気は止まることなく、チャイムが鳴る。

 たった今、放課後を迎えて、私はごくりと喉を鳴らす。

 

 クラスのみんなが思い思いに動いて談笑する中、私は未だ動かぬ早乙女さんの動向を見つめ続けて。

 

 ――――がたり、と立ち上がった。

 

 来る。

 端がぐしゃぐしゃになってる教科書を置いて、早乙女さんはくるりと踵を反転。

 大人っぽくて綺麗な巻き髪が翻って…………アレ?

 

 てっきり私の所に来ると思っていた早乙女さんは、ずんずんと反対方向の、三波くんの席へ向かっていく……ってアレ? 

 

 思わぬ動きに訳分かんないけど、とりあえず私も席を立って早乙女さんを追う。

追いついて早乙女さんの肩にそろそろと手を伸ばす。

 

「ぁ、ぁの、早乙女さ」

「三波・来い」

 

 え?

 手が止まる。

 

 早乙女さんの声色があんまりにも怒っていて、更にその矛先が……三波くん? 

 アレ? 

 後ろで困惑する私をチラッと見てから、三波くんは早乙女さんに問い返す。

 

「なんで俺だ? 姫宮さんなら……」 

 

「いいから来いッつってんだろぉおおおおおおおおおおおクソ男があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼‼‼」

 

 足が地面から浮いた。

 早乙女さんの大噴火に、ただ圧倒されて、呆然とする。

 クラスのみんなも同じで、もうドン引きとかそういう次元を飛び越えた何かの状態に、精神がぶち込まれる。

 

「ごるらああああああああああああああぁぁああああっ‼ 来い、こらクソボットが‼ ボケ面ぎゅああぁあああああああああああああああああああああ‼」

「んぱぁあああーーーー?」

 

 ごぎゅん‼‼ と掴んだ襟首が1080度捻じり込まれ、早乙女さんは三波くんを持ち上げた。

 椅子から。座った状態から。

 

 早乙女活火山は「んぱー」と謎の悲鳴を上げる三波くんを引きずり倒して、教室を出ていった。

 

 ――――って! 見てる場合じゃないよ⁉

 

 私はダッシュで追いかけ……早乙女さんはッッッや⁉

 

 人ひとり引きずって走ってるのに、全然追いつけない。ていうか……階段でも三波くん引きずってる⁉ 

 

「さ、早乙女サァ――――――ン‼ まって、死ぬ! 割とマジで三波くん死ぬぅうううううううううううううううううううう‼⁉」

 

 雑に運ばれたキャリーバッグ状態の三波くんは最後、早乙女さんにテニスコートにぶん投げられた。

 

 ごろごろごろと転がり続けてから、すっくと立ち上がる三波くん――――に早乙女さんはテニスラケットを投擲した。

 

 投げ槍の如きラケットを、三波くんは難なくキャッチして、(ガット)の隙間をいじいじ調整する。

 

「勝負だ、三波ィイイィィィィ‼ 姫宮さんとランチした挙句、泣かせた報いを受けやがれぁぁぁぁああああああああああああああああああ‼‼‼‼」

 

 火山弾。

 いや、それはテニスボールだった。

 

 噴火と共に火山弾と見間違える程のサーブを放った、早乙女活火山。その球威に追いつこうとラケットを伸ばす三波くん。

 

 だけど……三波くん側のコートに深い弾痕が穿たれる。

 

15(フィフティ)(ラヴ)。先制点:早乙女」

「伽夜ちゃん⁉」

 

 いつの間にかテニスコートのネット付近にいた妹を呼ぶ。すると伽夜ちゃんはちょいちょいと私を手招きした。

 

 三波くんがぽーんとサーブを打ち返してる間に、私はひそひそ伽夜ちゃんと話す。

 

「どぅいう状況なのコレ⁉」

「なんで当事者が知らないの」

「知る訳ないでしょぉ⁉」

 

 てっきり早乙女さんは私に不満持ってるのかと思ったら、いきなり三波くんを引きずり出して。

 そしてどっから持って来たか分からないテニスラケットとボールで試合始めて。

 

 ……ていうか、なんで三波くん、秒で適応して試合やってんの?

 そして、なんで伽夜ちゃんここにいるの⁉

 

「お姉ちゃんの教室にある盗聴器に反応あって、ドローンで見てみたらなんか面白いこと起きてたからスタンバりました。で、これ何の試合?」

 

「もーやめて。これ以上、私に新情報ぶち込まないで」

 

 盗聴器? ドローン? ねぇちょっと妹何ヤッテンノ? ていうか何の試合か知らないで審判やってるの⁉

 

40(フォーティー)(ラブ)。第1セット終了。トュー早乙女」

 

 テニスは第5セットまでやって、1試合。

 一区切りついたおかげか、早乙女さんはさっきより落ち着いた様子で語り始めた。

 

「あんたは……分かってんの? 姫宮さんだよ? 居るだけで空気が和み、見てるだけで優しい気持ちになれる、あたしの推しクラスメイトと! 二人っきりで! ランチだぞ、ランチィ⁉ あんた、その希少さを分かってんのぉお⁉」

 

 What are you saying?

 ナァニイッテンダッ、コノヒトォ?

 

 新情報をぶち込まれて、処理落ちする私の脳。

 でも早乙女さんの力説は止まらない。

 

「それほどの幸福を教授しておきながらぁ‼ なんだあんた、そのシケた面ァ‼ もっと喜べよ‼ あた、あたしだったら! カレンダーに丸つけるのに! 記念日にするのにぃいいいいいいい!」

 

「待て早乙女、俺だって初めて声掛けられた時は嬉しかったさ。だって姫宮さんに限らずクラスメイトの女子と話すことって早々無くね?」

 

「だまれ童貞がぁ‼ あたしの推しメイトを‼ 汚すんじゃねぇええええーーー‼‼‼」

「いやまず推しメイトってなぁーにぃー⁉」 

 

 私、そんな扱いだったのぉ⁉

 思わず口を挟んだけど、私の声は早乙女さんのサーブの風切り音で掻き消された。

 

 初めほどじゃないけど、凄まじい球威を誇る早乙女さんのサーブ。今

 度はそれをしっかり返した三波くん。

 テニスボールが互いのコートで跳ねて打たれて跳ねて打たれて……ラリーと会話が続いていく。

 

「思えば今朝から嫌な予感はしてたよ! 姫宮さん、あんたのこと見てすごく嬉しそうだったし!」

「えっ、そうなん」

 

 ちがぁああああああああああああうっ‼⁉

 違うから! そういう目で見てた訳じゃないから早乙女サァン⁉

 ラリーは続く。

 

「そんな訳ないって思ったよ。だからあたし、姫宮さんに『もう少し相手考えたら』って言ったよ! 三波なんかより、姫宮さんに相応しい相手はいっぱいいるから!」

 

 あれ、そういう意味だったの⁉

 

「そしたらお昼、二人がいるとこ見て! ひめっ、姫宮さんがあんたにあんな近寄って! マジあんたのこと睨み殺してやろうかと思ったワ‼」

 

 あれ、三波くんを睨んでたの⁉ 

 

「昼休み終わって、心配で見守ってたら――――姫宮さん授業中に泣き出して‼ あんたへの怒りで一杯になったよ‼ あんたが姫宮さんに何か言ったんでしょお‼」

 

 あれ、私に怒ってたんじゃなくて、三波くんに怒ってたのぉ⁉

 

 早乙女さんの打球が三波くんの逆サイドを突く。三波くんは腕を伸ばすけど、ボールは届かなかった。

 

15(フィフティ)(ラヴ)。先制点:早乙女」

 

 猛る感情の昂りか、早乙女さんは肩で息をしている。

 紅潮した頬を伝う汗を拭い去って早乙女さんが三波くんに告げる。

 

「三波! あんたがどれだけ姫宮さんを想ってるか確かめてやる! あたしが勝ったら、金輪際、姫宮さんとはお喋り禁止よ‼」

「ほぉ……どうやって確かめるんだ?」

 

 ニッと笑って、三波くんは早乙女さんにボールを放り渡す。

 あ、三波くん悪ノリしてる……すっごい笑顔浮かべてる⁉ 

 

 伽夜ちゃんもなんか腕振ってワクワクしてる!

 三波くんの問を受けて、早乙女さんの眼光がきらりと煌めく。

 そうしてラケットでとんとんとんとボールをバウンドさせながら、

 

「ボールを打つ度に、姫宮さんの好きなところを言いなさい。ラリーが続いたとしても、好きなところを言えなくなった時点で……あなたの負けよ」

 

「面白れぇ……乗ったぜ、その勝負」

 

 

「――――乗るんじゃないよぉぉおおおおお‼」

 切って落とされた勝負の火蓋に、私の叫びは届かなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話 おのれぇぇえくっ殺!(私、2センチ大きくなったんだ?)

「常にオドオドしてるところが可愛い‼」

 バゥンッ!

 早乙女さんの強烈なカーブショット……に。

 

「レヴィアたんみたいな笑顔!」

 スパン。

 軽いフットワークで三波くんは追いつき、返球。

 

「守りたい抱きしめたい撫でたぃぃぃいいいぃいい‼」

 ガォンッ!

 空気を噛み砕くが如き、早乙女さんの絶殺スマッシュ。

 

「レヴィアたんみたいな清楚さ!」

 ポーン。

 その勢いを完全に殺し、コートの奥深くへ返す三波くん。

 

「課題忘れたバカメス生徒にも微笑んで写さしてあげてるの優しい素敵すっっきぃい‼」

 ギュボンッ!

 地響きを起こしかねない踏み込みで、ボールへ追いつき返球する早乙女さん……を。

 

「レヴィアたんみたいな声」

 コン――ッ。

 嘲笑うかのように、ネットぎりぎりにボールを落とし返した三波くん。

 

 三波くんはテニスラケットをくるくると手で回転させ、ビシッとコートに這いつくばる早乙女さんにラケットを向けた。

 

「良いな、早乙女。めば〇こ良い。お前の推し語り――――おかわりだ」

「やかましぃわぁぁあああああああああああああああああ‼」

 

 すぐに立ち上がって、ボルケーノ早乙女は噴火する。

 そんな火花散る戦いの横で……私は悶え倒れていた。

 

「バレてないと思ってましたぁぁぁうわぁーーーーん」

「お姉ちゃんさぁ、そんな悶えるならボイチェン使いなよ最初から」

「合格即デビューさせた口がなにほざいてんのぉ⁉」

 

 そりゃ薄々思ってたよ、三波くんに声で気付かれてないかなって! 

 でも何も言ってこないから大丈夫なのかなって思ってたんだよ! 

 バッチシ大丈夫じゃなかったよ! 

 

15―15(フィフティーンオール)

 

 粛々と試合は続行される。

 三波くんがボールを高く投げて、ぐっと力を溜める。そうして手足のバネを解放してサーブを放つ寸前。

 

「レヴィアたんより、ちょい小さめのバスト」

 

 きらんと目を輝かせた。

 対する早乙女さんは的確なフットワークで着弾点を見極め、バットみたいに豪快に振りかぶった。

 

「Dカップの、美乳ぅぅぅうううううう‼」

 ボゴォン! とサーブをスマッシュで返す、強烈無比な一撃を放った。

 

 

 ――――お前らぁぁぁあああああああ‼‼‼

 さすがに、私も怒った(心の中で)

 

 

 三波くんが返球し、再びラリーが始まる……けど、伽夜ちゃんは「ふんっ」と鼻を鳴らした。

 

「にわかが。お姉ちゃんのバストは一昨日、2センチアップしたわ」

「え、そうなの⁉」

 

 バッと私は自分の胸を見下ろす。

 か、変わってないように見えるけど……?

 

 というか伽夜ちゃん。

 なんで本人も知らない変化をあなたは知ってるの?

 

 もう家に帰って寝たい気分だったけど、やっぱり見届けなきゃいけない義務感で試合を観戦する。今は早乙女さんが優勢で、三波くんは返すので精一杯だ。

 

「おにぎり食べる時、両手ではむはむしてるの可愛い!」

「レヴィアたんより、ちょっと垂れた目」

 

「話しかけられたら、びくって肩すくめちゃうとこ可愛い!」

「レヴィアたんみたいに、通った鼻筋」

 

「どんな用事も笑顔で引き受けてるの偉い1京点!」

「レヴィアたんより、もちもちしてそうなほっぺた」

 

「家がメテオで大変なのに! 毎日バイトと学校頑張ってるの尊いぃぃぃぃいぃ!」

 早乙女サァーーーーーーン!

 早乙女さんの想いに涙こぼれる私。

 

 そんな彼女の想いが乗ったショットは、今までで一番の球威を秘めていた。

 あと三波くん。

 今度会う時、私お面被って会ってみるね?

 若干冷めた目で、早乙女さんのショットを返そうとしてる三波くんを見ていた。

 

「――レヴィアたんみたいな、ささやき声」

 

 どきり、と鼓動が一つ跳ねる。

 小気味の良い、ラケットがボールの芯を捉える音が響き渡った。

 

 滑らかな軌道で返されたテニスボールが、早乙女さんに迫る。早乙女さんがぎりっと奥歯を噛みしめた。

 

「……さっきっから」

 早乙女さんは緩慢に、力強く、居合切りのような態勢を取って――――抜き放った一閃がボールを光に変えた。

 

「レヴィアたんって誰よぉぉぉぉぉぉぉおぉぉおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーー‼‼⁉⁉」

 

 あっ、ごもっともな疑問だと思います!

 

 光線の如きショットを返されて、三波くんは目を見張った。

 その時、私は確かに見た。三波くんがラケットを手放した瞬間を。

 

 直後――――三波くんの掌には、煙を上げたテニスボールが握られていた。

 

 って、え? 私も伽夜ちゃんも早乙女さんも、ここにいるみんな全員目を疑った。

 ぽろりとボールが手の平からこぼれて、コートに転がる。

 

 三波くんはヌゥッと腕を持ち上げ、早乙女さんを指さす。

 

「今、聞いたな?」

「な……に?」

 

「レヴィアたんって誰だ。それは――――姫宮さんの好きなところを言った、とはカウントされないだろぉう?」

 

 戦慄、走る。

 

 ボルケーノ早乙女は膝から崩れて、休火山となる。

 肩を震わせ、「くっ!」と後悔をにじませながら、彼女は叫んだ。

 

「殺せぇぇぇええええええーーーーーーーーーー‼‼‼」

 

「テニスでくっ殺すなぁぁあああーーーーーーー‼」

 私、もう我慢できませんでした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話 堕天使、初布教です(初めてのリア友……できました)

『温かい……みんな温かいなぁ……ぅぅぅごめん、ほんとうにごめん……優しい、ほんとやさしいぃなぁみんなぁ――――おわり、たく、ないなぁ』

 初配信。

 

『あのねぇ? いまわかったんだけどねぇ? ヒトってねぇ? のみもの飲んでるとき息止まるんだよぉ? しってたぁ?』

 お〇っこ我慢スマブラ。

 

『先輩が……っ! 悪いんですよ、私、もう……もうっ‼ 我慢! しません‼』

ASMRコラボ。

 

『お母さん⁉ ねぇお母さん‼ 思ったよりキッツイし恥ずかしいんだけどぉ‼⁉ ぅ、くっ、ふぐぅ……ぁ、足とお尻プルプルして』

 お絵描きセクハラコラボ。

 

『と、いう訳でな? 妾にとってクレア先輩は、その……頼りがいのある……ぉ、お姉ちゃんって言うか……そんな、存在……んぬぅにゃあああああ~~~~~!!!!』

 お泊り振り返りコラボ。

 

 それらの切り抜きを見せられた早乙女さんは、

「ばぶーーーーーーーーーーーーーー‼」

 エビ反りブリッジで赤ちゃんになった。

 

 ……なんでぇ?

 トリップしていた早乙女さんは我に返って、悔しそうに三波くんにスマホを返す。

 

「くっ……Vtuber初めて見たけど……良いじゃない」

「だろう?」

 

「というか本当に姫宮さんそっくりね。もはや疑似姫宮さんだわ。実質あたしは今、姫宮さんのお〇っことASMRを聞いたのと同義」

「だろうだろう。意外と似てるよな」

 

「特に心音最高。子宮の中で聞きたい」

「ごめん、流石にそれは分かんない」

 

 ごめん、逃げて良いですか。

『あなたの子宮に入りたい』と言われて、膝が恐怖で笑わない女子高生いるでしょうか? いやいない。

 

「ふふっ……同じ産道通った」

 ちょっと妹? どや顔でぽつり呟いても聞こえてるからね?

 なんのマウンティングなの、それは。

 

「あの……それで早乙女さん。分かってくれた? 私と三波くんは、その」

「えぇ理解したわ。二人は【宵月レヴィア】の推し語りをしてただけで特に深い仲でも何でもないのよね」

 

「そ! そうなの! だから三波くんとは何ともないの! ただのお、推し被り!」

「そーそー、共にレヴィアたんを崇拝する堕天使の眷属さ」

「――――そぅ。なら良いのよ」

 

 早乙女さんはスカートの汚れをはたくと、すらりと立ち上がった。

 その立ち姿はクラスのみんながよく見知ってるテニス部のエースだった。

 

「三波、悪かったわね……それじゃ、あたし部活だから」

 

 大人っぽい巻き髪を翻して、早乙女さんが遠ざかっていく。

 さっきまで火山憤怒(ボルケーノ)してたのに、びっくりするくらいあっさりと去っていく。

 ひ、ひとまず誤解は解けて良かった……私はホッと胸を撫で下ろした。

 

『姫宮さん授業中に泣き出して‼ あんたへの怒りで一杯になったよ‼ あんたが姫宮さんに何か言ったんでしょお‼』

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 え……? 一歩一歩小さくなっていく早乙女さんの背中を見てて、どんどん息がしづらくなる。

 

「なんで…………ぁ」 

 

 頭の中に浮かんだ早乙女さんの言葉の意味に気付く。

 するり、と締め付けが弱くなる。

 そっか、早乙女さん――――――()()()()()()()()()()()()()

 私が、泣いたから。だからあんなに怒って。

 

『課題忘れたバカメス生徒にも微笑んで写さしてあげてるの優しい素敵すっっきぃい‼』

 

 ラリーと一緒に口走っていた、早乙女さんの言葉の数々が……頭の中でバウンドする。

 

『おにぎり食べる時、両手ではむはむしてるの可愛い!』

『話しかけられたら、びくって肩すくめちゃうとこ可愛い!』

『どんな用事も笑顔で引き受けてるの偉い1京点!』

『家がメテオで大変なのに! 毎日バイトと学校頑張ってるの尊いぃぃぃぃいぃ!』

 

 見て、くれてたんだ。

 おとなしくて、便利な『図書委員』の私じゃなくて。

 

 早乙女さんはずっと、ずっと――――私自身を見てくれてた。

 

 そんな人が、今、遠ざかろうとしている。

 

「ま……」

 呼び止めようと、声を出そうとした瞬間。

 

『なんか姫宮さんらしくないね』

 

 不安が喉に張り付いた。 

  

『なんか姫宮さんらしくないね』

 

 地味で暗いけど、おとなしくて便利な図書委員が。

 クラスの才女に話しかけるだなんて。

 

 そんなの――――らしくない。

 

「あ……」

 伸ばした手が空を切って、踏み出した足が地面に縫い付けられる。

 立ちすくんでる間に、早乙女さんはどんどん遠ざかって行ってしまう。

 

 あぁ――――こわい。

 ただ、ここから、おういって……声を掛けるだけで良いのに。

 私は、どうして

 

「おーーーうい、早乙女ぇ! なんか姫宮さんが話したいってぇーーーー‼︎」

 

 私の耳を横切った三波くんの声が、届く。

 早乙女さんが大人っぽい巻き髪を翻して、こっちに向かってくる。

 

「……三波く、ん? なんで」

「へ? だって姫宮さん、レヴィアたんを布教したかったんでしょ? だからあんなもじもじしてたんじゃないの?」

 

 ――いや、違うねぇ⁉

 なんで自分で自分を布教しなきゃいけないのかなぁ⁉︎  

 そんな当然みたいな目されても困るよぉ‼ 

 そんな気も知らずに、三波くんはフッと目を細め親指を立てる。

 

「安心しろ……早乙女はもう堕ちかけ寸前。あと一押しですぐ【眷属】になる。奴をきっかけに、姫宮さんは布教の喜びを知るべきさ」

「ふ、布教って! ……そんなの何話したら良いか分かんな」

 

「普通に姫宮さんが感じた、宵月レヴィアの好きな所を言えば良いんだよ」

「む、むむ無理だよ! そんな、三波くんみたいにできないよ! それに私みたいな地味なのが、早乙女さんと話すだなんて……吊り合わないよ」

 

「吊り合わない、かぁ」

 三波くんは顎を触って、考え込む。

 

 私は自分で口にした言葉の苦みに、俯いた。

 

 早乙女さんは美人でテニスも勉強もすごくて。私みたいなハブられ気味の図書委員とはキャラというか、立ち位置がそもそも違くて。

 

「それを決めてるのって、姫宮さん自身じゃない?」

 

 爪先と地面だけの視界に、三波くんの眼差しが割り込んできた。

 

 見開いた目がひやりと乾く。

 しゃがみ込んだ三波くんは、私を見上げる目を細めて……口の端を持ち上げた。

 

「話の合う合わないで遠慮するのは分かるけどさ、そうじゃないならお話しなよ。俺にはそうしてくれたじゃん?」

「そ、れは……」

 

「姫宮さん。話って何かしら?」

「ぅひゃあんっ⁉︎」

 

 飛び上がって顔を上げたら、もう早乙女さんが目の前にいた。

 切れ長の瞳に、口をパクパクさせた私が映る。

 心臓がばくばくと不安を刻む。

 どうにか……どうにかこの静かな空気を! 破る一言を……!

 

「ぁ、ぁぁぁあのっ、早乙女さ」

「時間、大丈夫なの?」

 

 ……え? 何のことだか分からなくて頭が真っ白になる。

 どういう、意味だろう? 

 目をぱちくりさせて、早乙女さんを見上げていたら、

 

「一度だけ」

 

 ぽたり、と。

 雨垂れみたいなか細い声が、私の目に落ちてきた。

 

「一度だけ、カラオケに誘った時、姫宮さん、すごく申し訳なさそうにバイトだからって断って……あたし後からメテオのこと知って……」

 

 雨粒が振り注いで、私の耳に沁み込む。

 沁み込んで――――あっ、と声を上げた。

 

 2年になった春、クラスの親睦会《カラオケ》で、ハジけたら総スカン喰らって。 バイトで放課後空いてないから、どんどんクラスに居辛くなって。

 

 でも早乙女さんは……声を、掛けてくれていた。

 

「家のこと大変そうで、バイト忙しそうで……無理に誘うの、迷惑かなって思って」

 

 胸を抑えて、早乙女さんは途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

 切れ長の瞳が、憂いで潤んで、揺れた。

 

「もう……大丈夫なの?」

 

 私はバカだ。バイトに忙殺されて、こんな大切なことを、忘れていた。

 早乙女さんはずっと――――私のこと思いやってくれてたのに。

 

 すぅっと息を吸った。

 ちょっぴり滲んだ涙を、引っ込めて。

 

「もう、大丈夫だよ」

 

 私は早乙女さんの手を取った。

 

 一瞬、強張りを感じたけど見上げれば、それ以上に緩んだ笑顔が咲いていた。

 

「よかったぁ……っ!」

 

 私も嬉しくて顔がほころぶ。

 ――ほころんだその表情のまま。

 

「じゃ、じゃあ早乙女さん」

 

 早乙女さんに「なんだろう」と見られながら、私はスカートのポケットからスマホを取り出して…………イヤホンの片方を、早乙女さんに差し出した。

 

「レヴィアたんのは、鼻歌聞きませんか?」

 

「は?」と早乙女さんが眉間にしわを寄せた。

 

 うぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~っ‼ 

 はずかしはずかしはずかっっし!!!! 耳と頬とリンゴみたいに発火する。

三波くんの真似をしたのが間違いだった! 『寝言聞く?』を真似したのがミステイクだったぁぁ~~~~~~!!!!

 

 後悔先に立たず……あぅぅぅ、きっと早乙女さんもドン引ki――――。

 

「kwsk」

「……え? あ! そ、そのココ〇〇ドルの鼻歌らしくて。か、可愛いって評判で。……どう、思う?」

 

「――うん、声が可愛くて透き通ってる。姫宮さんの歌声と似てる気がするけど……」

「そ、そそそそんな訳ないじゃん! ――――っ、あはははっ!」

 

 早乙女さんの耳と私の耳をイヤホンコードが繋ぐ。

 一つのスマホの画面に肩を並べて、ちょっとずつお話する。

 

 家にメテオが落ちてから初めて、私はリア友(けんぞく)が一人出来た。

 そうして夕陽で私たちの影が長くなるまで話し込んで。

 

「……あれ? 三波くんは?」

 ふと周りを見回したら、三波くんはどこにもいなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35話 メスガキD〇D配信なんだけどぉ♡(眷属の雑魚、みってるー!?)

「はぁーい、ということで……ぜ、全国のざこ眷属見ってるー⁉︎ ヘブンズライブ所属の堕天使、宵月レヴィアちゃんでぇーす♡ 今日はぁ、最近妾のこと舐めてる貴様らにぃ!身の程を分からせていっちゃうんだからねーーーっ!」

 

[ コメント ]

・は?

・は? 

・なんだぁてめぇ?

・わからせなきゃ……わからせなきゃ

・おぅおぅガキがなんかほざいちょるわ

 

「こ、こわ……っくないもんね! ふ、ふん! 勘違いしないでよね! 貴様らは妾の眷属なんだから! ぃ、いくら怖がらせても妾の方が主人なんだからねっ!」 

 

[ コメント ]

・そこかしこに滲み出る良い子感

・ヤケクソ感、草

・勘違いしないでよねって

・なんでツンデレみたいになってんの

・微妙にキャラ古っ

 

「そんなことないもぉん‼︎ 古くないもぉん‼︎ アーもう怒った怒っちゃったもんね妾。そんなざこ眷属達には――――D〇Dで罰を下してやろうぞぉ‼」

 

 デッドバ〇イデ〇ライト、略してDb〇。

 

 人間役のプレイヤー4人と、殺人鬼役のプレイヤー1人がステージ内で鬼ごっこするホラーゲーム。人間役側は脱出すれば勝ち、殺人鬼側は皆殺しすれば勝ち。

 

 そしてこのゲームはぁ! 殺人鬼は絶対に倒されないのだぁ!

 

「ふぁーはっはっは! 覚悟してねぇ~? ざこ眷属おじさん達ぃ! さぁ、救済を求めし慟哭の声を上げてみせよぉ‼‼‼」

 

『【D〇D】メスガキになって眷属おじさんをわからせてあ・げ・る♡ ざぁーこぉ!』――――開始!

 

「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇだめだめだめだめだめ‼‼ 行かないで、ねぇ、みんな行かないで一緒にいてよレヴィアと一緒にあああああああああああ‼‼‼」

 

[ コメント ]

・Excellent‼

・眷属おじさん達、ナイスゥ!

・その修理の腕前に痺れる憧れるぅ!

・あれ……レヴィアたん、いた?

・さっきのステージ、バグですね。殺人鬼(キラー)いなかったもん

・えぇ~~そんな訳……ほんとだぁ、堕天使いないやぁ

 

「い・た・よ‼‼‼ 妾いたよ‼ ほんとだもん! 殺人鬼いたもぉおおおん‼」

 

 くやしいくやしいくやしいくやしい!

 バンバンバンバン!

 

[ コメント ]

・どこからか台パンの音が⁉

・おかしいなぁ? 誰もいない筈なのになぁあああ???

・いつも右下に可愛い堕天使いるのに、今日はいねぇなぁ⁉

・huuuu! こーわいよぉ!

・リアル怪奇現象だよぉ!

・初見です。誰もいない筈の配信画面から台パン聞こえるって本当ですか? それは幽霊の仕業かもしれません! 幽霊のお悩み相談はこちら(サイトリンク添付)

 

「い・る・よぉ! 私はここにいるよぉ! いないことにしないでお願いだよぉお‼‼」

 

[ コメント ]

・聞こえない聞こえない

・おい堕天使ミュートになってんぞ

・一人称が『私』の堕天使なんざ知らねぇなぁ⁉⁉⁉

 

「くっっっそぉおおおおおお‼ 貴方達の血と悲鳴で存在証明(レゾンデートル)だぁ‼あ、プレイ終わった眷属はすぐ出てくださいね。ご了承ください」

 

 あれ…………なんだろう?

 

 逃げる眷属(みんな)の背中を斬りつけたら、達成感で胸がすく。

 

 吊るした眷属(みんな)がもがいてると、「がんばれ♡ がんばれ♡」って声を掛けてずっと見守りたくなる。

  

 投げナイフでちょっとずつちょっとずつ傷つけながら「ざーこ♡ ざーこ♡」って罵倒して追いかけるの、すっっごく解放感。

 

 結果的に逃げられても良いの、負けても良いの。

 私がKILLする度に、コメント欄では「ナイス」って言ってくれたり、「くそぅ」って言ってくれる。

 

 私が試合に勝ったり負けたりする度に、眷属は褒めたり煽ったりして。

 そうして私は学校じゃ、クラスじゃ絶対言えないようなことを口にしまくる。

 

 ――――たのしぃいい……っ!

 ぞくぞくお腹の奥が震えてきて、煽ってくる眷属おじさんがかわぁいく思えてきて。

 

「ごめんねっ! ごめんねっ! ざこなんて言ってごめんねっ! おじさんだなんて言ってごめんねっ! 眷属(パパ)あっ! 妾、良い娘にするから⁉ だから逃げないで? 置いてかないで? ――――殺人鬼(レヴィア)といっしょにいてぇ???」

 

[ コメント ]  

・どけ! 俺はパパだぞ!

・なにやってんだよ店長ぉ!

・パパ(店長)の大群が押し寄せている⁉

・お〇っこスマブラ以来、行方をくらませていた眷属《パパ》達が!

・集まっていく!

・ねぇ~もうこれメスガキじゃないよぉ

 

「あっ! そうそう聞いて眷属(パパ)ぁ! 妾ね! 今日友達できたよぉ! リア友が一人ぃ! 後ね! チェンソーも振り回せるようになったのぉ――――ほらぁ‼‼‼」

 唸るエンジン音が眷属(パパ)の背中に突き立って、お腹を掻き混ぜる効果音が鳴る。

 

[ コメント ] 

・そっかぁ、すごいなぁ

・友達できて、よかったねぇ

・笑顔で切り裂かれていく眷属(パパ)達ぃいいいい!!!

・つーか段々上手くなっていってるの草

・クソ強キャラの殺人鬼使ってるしwww

・くくく、まだまだアドオンを使いこなせていないよ。がんばって

・くくく、リア友できたんだね。おめでとう

・くくく、今までボッチだったんだね。良かったね

 

「ありがとぉ! 含みのある笑い方する眷属(パパ)達ぃ! さて、次の試合は……」

 

 と、言いかけたところで配信PCから着信音が鳴る。ビィスコードの着信音だった……って、え? 誰だろう?

 

 眷属達に断りを入れてから、ティロンと通話に出た。

 

「こんばんはぁ。旭日騎士団(ガーディアンズ)です。ヤンデレメンヘラ堕天使がチェンソーを振り回していると通報が来たので、僕が降臨してきました――――いやあんた何やっとんねん」

 

[ コメント ]

・リエルんが来てくれたぞぉーーー!

・旭日騎士団だぁ!

・たすけてぇ

・たすたすけてぇ!

・お助けぉ!

 

 リエル先輩の凸で、コメント欄の流れが加速した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話 ヘブメン勢ぞろいで殺し合いー♡(ぉいなんか猫いんぞ?)

「あぁ~~~リエル先輩~~~~。お久しぶりですぅ」

 

「なんでロリボイスになってるのよ、貴女はぁ⁉︎ コメント欄見えてます? 助けて、で溢れてるんですよ⁉︎」

 

「え? ちがうよ? 眷属(パパ)に遊んでもらってたんだよ? ね、眷属(パパ)? 助けてなんてそんなこと」

 

 ダァンッ‼︎

 強く台を叩いて、フフフっと笑みがこぼれる。

 

「言ってないよねぇ?」

 

「……うん。そうだね。無かった。助けてなんてコメントはなかった。はい、それではお邪魔しました。失礼しま〜す」

 

コメント

・帰るんかいwww

・おぃぃぃ、日和んじゃねぇ!

・仕事しろ、クソ雑魚天使ぃ!

・騎士団の名折れだぞぉ!

・連行しろよぉ!

 

「はぁぁぁぁぁ⁉︎ 雑魚じゃないし! 僕、雑魚じゃないし! 戦略的撤退だし! 決してこの堕天使手に負えねぇって思ったわけじゃ」

 

「リエルせんぱぁい、そんなこと言うなら妾とも一緒に遊びませんかぁああ?? あは、あははは♪」

 

「――――はっはっはっはっはっ、クレアぁっ‼︎ ステラママぁ‼︎ たすけて! 喰われる僕喰われちゃうよぉやだよやだよぉーーーー!!!!」

 

 かくて天使の過呼吸(祈り)は天に通じた。

 ティロンティロンとサーバーに雷神と妖精が乗り込んできた。

 

「いねがぁ⁉︎ 生意気なメスガキはいねがぁ⁉︎ おへそ取っちゃうゾォォ♡」

「電鋸振り回す堕天使! カーーーーーっ! 絵になるねぇ!」

 

「わぁい! 先輩達が来てくれたぁ!」

 

 私は無邪気に喜ぶ。これで人間側が3人。

 あと一人来てくれたら、ゲームが成立するんだけどなぁ?

 ――――ティロン。

 

「大きいち〇こには棘がある。どうもはじめましてこんキャスです。個人勢Vtuberキャスパーです」

 

「三味線にするね」

 

「ぅはぁんっ、だめだよレヴィアたん! それはえちちだよぉ! 花魁堕天使に三味線になったキャスパーのキャスパーをべべんべんされるなんてぇ!」

 

「今の一言でなんでそんな気色悪い未来を描けるの?」

 

 ともかく、これで人数が揃った。

 私は意気揚々とチェンソーを担いで、先輩達の背中を狙った!

 

「せなかーーーにぴったりららんらん! ててん、てん、天使の! はーねぇ!」

 

「イヤァァァァ! みんなぁ! 助けてみんなぁ! 後輩に吊るされるぅ!」

 

(チャフ)やられたわね」

「まっったく使えねぇ(チャフ)だなぁ」

 

「とりまクレアさんとステラちゃんは修理を。ほほぉーいほいっ! おい宵月ぃ⁉︎ あっ間違えた、ぷよ月レヴィアぁ? どしたのかなぁ⁉︎ こっちこいヨォ、脇腹ぶにぷにレーヴィアちゅああああああん⁉︎⁉︎⁉︎」

 

「キャスパぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 倒れてるリエル先輩を放置して、私はチェンソーを振りかぶったぁ!

 ちょこまかとカーブを繰り返す淫乱猫ぉ!

 

「あれ見えてるぅ⁉︎ 僕ちんのこと見えてるぅ⁉︎ あっ見えねえかぁ! ぷよぷよの腹で隠れて見えねぇかぁあ⁉︎⁉︎」

「太ってないもん‼︎ そんなに太ってないもぉぉぉん‼︎」

 

 ぶぅんぶぅんとチェンソーの駆動音が虚しく響く。どこ⁉︎ どこにいったの⁉︎

 狭い視界をキョロキョロ振り回してたら。

 

「よっしゃ行った行ったバカだバカだ」

 

「ぁ、ありがとキャスパー……きゅんきゅんしちゃった」

 

「はぅあっ……! 今夜――――空いてるゼ」

 

「リエル先輩⁉︎ だめですよ、騙されちゃだめてすよぉ!!! 眷属ぅーっ! 燃やしてあの不祥事猫燃やして!」

 

「おいやめろバカ! シャレにならんからやめろバカ! バカ月レヴィア!」

 

「あっ、クレア先輩みーつけた」

 

 ザシュ!

 

「アハァァァァァァンッ、入ってりゅう! レヴィアちゃんがあたしの奥まで入ってくりゅぅううう!!」

 

 血を流して倒れるクレア先輩を担ぐ。

 間近にクレア先輩の喘ぎ声を聞きながら、私は初めて顔をしかめた。

 

「ぁ……ぇえ? キッツぃい」

「え、レヴィアちゃん? 嘘でしょ? え?」

 

コメント

・草草草

・キッツ

・きっつ

・ついにレヴィアたんが言ったぁあ!

・うんまぁキツイよなぁ……

・クレア先輩ガチショック受けとるwwww

・キャスパーの煽るねぇ‼ 燃やそう(炎)

・堕天使への切れ味キレッキレ(炎刀)

・何気にお○っこス○ブラ以来の対決

 

 言い合って。

 煽って煽り返して。

 バカなこと言ってド突き合う。

 リスナーとも、Vの先輩達とも。

 

 私は今日、はじめてちゃんと――――配信が楽しいと、そう感じた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38話 堕天使の裏側生活音(オフの姫宮家のことですよ)

「それでは眷属達よ、今宵はここまで。グッバイ堕天(フォールン)〜〜〜」

 

 配信終了の挨拶を言って、しばらくオフで先輩達と話した後、ふすまを開ける。四つん這いで押し入れから出てきたら、伽夜ちゃんが目を細めて微笑んだ。

 

「おつかれさま――――お姉ちゃん」

 

 加湿器のついた部屋で伽夜ちゃんが作ってくれてた葛湯を飲む。喉にとろりと流れて、ホゥっと暖かな息を吐く。

 

「いつもありがとう、伽夜ちゃん。……おいしい」

「どぉいたしまして〜。飲み終わったらすぐ布団入ってね。喉と体冷えないうちに」

「ぁ、はは……配信するようになってから、至れり尽くせりだねぇ」

 

 申し訳ないけどいつも甘えてしまう。

 はぁぁぁぁ配信終わりのお布団さいこぉ〜〜♡

 溶・け・て・しまいそう〜〜。

 

「気にしないでよ……今まではあたしの方がそうだったから」

「……伽夜ちゃん?」

「電気消すよ」

 

 伽夜ちゃんはすぐに家の電気を消す。私の配信が終わったらすぐに就寝。

 これが最近の姫宮家の習慣になっていた。電気代節約節約…………ぅん?

 

 暗闇の中でもぞもぞと布団がうごめく。

 布団に潜り込んできた伽夜ちゃんがぱぁと顔を出した。

 間近に迫った妹に思わず笑みがこぼれる。

 

「またぁ?」

「またですっ」

 

 ひしっとくっついてくる伽夜ちゃん。

 寝返りを打って、私も伽夜ちゃんと向き合う。

 おでおことおでおこをくっつけて。

 目を閉じて……心に浮かんだことを、そのまま口にする。

 

 

「――――メスガキできてたかなぁ~~~~~~~~~~~????」

 

 

「できてたできてた! 行かないでって泣きつくところゾクゾクしたもん!」

「大丈夫? それ伽夜ちゃんの癖にだけ刺さってない?」

 

 今日の配信の内容が頭の中をよぎって、私はたまらず唸る。

 目蓋をきつく閉じながら、もわもわと浮かぶ不安を吐き出す。

 

「ぅぅぅ、大丈夫だったかなぁ? 

 リエル先輩カモだから、ついKILLし過ぎちゃったけど怒ってないかなぁ? 

 ステラママが話題振ってくれたのに、間が空いて上手く返せなかった。

 クレア先輩のネタが分かんないよぉ、多分漫画のネタなんだろうけど」

 

「うん。うん。それで?」

「そもそも眷属はパパじゃないし! 私のお父さんは姫宮権蔵だし! 

なんで私いざって時『パパ』って単語が飛び出すの⁉ それもこれも店長のせいだ、きっとそうだ!」

 

「そっか。そっか。それで?」

「……上手く喋れてたかな? ちゃんと楽しんでもらえたかな? 嫌われて……ないかな?」

 

 ――――()()()()()()()()()()()()()()を口にしたタイミングで、伽夜ちゃんが私の頭を撫でた。

 

 ゆっくり、はっきりと伽夜ちゃんが声を出す。

 

「大丈夫。ちゃんと出来てたよ。お姉ちゃんは、ちゃんとやれてるよ」

 

 掛けられた言葉と髪の上から伝わる温もりで、不安で唸りたい気持ちがちょっとずつ収まっていく。

 そろそろと目蓋を開けると、伽夜ちゃんの柔らかな苦笑が見えた。

 

「――いつもごめんね」

「――ほんと。いつもだね」

 

 こうして眠たくなるまで妹と話してる時間は、静かで、心地よくて、好き。

 でも、姉としては少し情けないのもまた事実で……。 

 

「ぅぅ、甘えてくるのは伽夜ちゃんの方なのにぃ……最後はいっつもこうなる」

「気にしぃなんだよ、お姉ちゃんは。でも今日は出尽くすの早かったね。バイト三昧の時はもっともっと言ってたのに……配信、楽しかったんでしょ?」

 

「ん……んーーー……そう、だね。思ったより楽しかった」

 

 普段じゃ絶対言わないようなこと言いまくって。

 眷属(みんな)も先輩達も応えてきて。

 

 ――――今まで、家族以外の人とこんな風に話せたこと、あったかなぁ?

 

 応えるように伽夜ちゃんが、私の胸に顔を埋めた。

 

「良かったね、お姉ちゃん。……ほんとう、良かった」

 

 少しだけ、じんわりと、私のパジャマに暖かな染みができる。

 ハッと息を呑んだ。

 私は、私にくっついて小さくなる妹の背を擦って、頭を撫でた。

 

「大丈夫だよ。離れないよ……もぅ大丈夫だよ」

 

 暗闇に慣れた目で、時計を見る。

 帰ってくるなら、そろそろお父さんとお母さんが帰ってくる時間だった。

 私も、レヴィアになる前は、お父さん達と同じくらいの時間に帰ってきてたなぁ。

 

 しばらく妹の背中に手を当てていると、すぅすぅと手の平に寝息を感じた。

 私は目蓋を閉じた。

 

 もう伽夜ちゃんを、一人ぼっちで寝かせたくなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39話 シルバーシールド!?(記念配信枠、なにしよう)

「ふぅぉおねぇちゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉」

 

「うるっっっっさぁっ⁉」

 

 伽夜ちゃんの奇妙な鳴き声に朝を告げられて飛び起きた。

 

 胸の中にいた伽夜ちゃんはスマホをまるで神々しい何かのように掲げて、ぴょんぴょん飛び跳ねていた。

 

「ちょっ、やめっ、やめなさい‼ 下の人に迷惑‼」

 

 ――――ドンドンドンッ‼

 お隣からの壁ドンで「ひぃあっ‼」って変な声が飛び出た。

横の人にも迷惑だったようでした。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい‼」

 

 いつも配信部屋(押入れ)で大声出してたから、申し訳なさで胸がいっぱいになる。

 私は壁に口をくっつけて謝ってから、飛び跳ねてる伽夜ちゃんの後頭部を掴んで床に押し付けた。

 

「ぐはぁあああああああああ‼‼」

「おっきぃ声出しちゃ駄目ぇ‼ なに⁉ どうしたの急に⁉ なにかあっ」

 

 突きつけられたスマホの画面に、言葉を奪われる。

 それは【宵月レヴィア】のYUTUBEチャンネル。

 その登録者数が――――――6桁に、なってた。

 

「うそ」

「銀の盾……っ‼ 貰えるよぉっ‼ ――ぅっ、ぅううわぁぁぁああやった! やったぁあ~~~~~!!!!」

 

 こぼれちゃいそうなくらいおっきな伽夜ちゃんの瞳から、大粒の涙がこぼれる。

あぁ……伽夜ちゃんがこんなに大泣きしてるの久しぶりだなぁ。

 

 ぼうっとした頭でそんなことを考えながら、10万人と表示された堕天使のチャンネルを見つめる。

 

「……?」

 

 指先が勝手に震えてる。

 胸にまで伝わって、熱く震える。

 

 ぁっ、と頭に理解が追いついた時―――――じわりと世界が暖かくぼやけた。

 壁がドンドン鳴いてるけど、全然気にならなかった。

 

         *************

 

「お姉ちゃん! 今日の配信は好きなのやって良いよ!」

「ぅええ⁉ す、好きなの⁉」

 

 隣を歩く伽夜ちゃんの方へ振り向くと、朝日を浴びて更にキラキラした笑顔を浮かべていた。

 

 今までの配信の企画は、ほとんど伽夜ちゃんが決めてきた。私は色んな単語(メスガキとか)を理解するのに必死でミーティング=質問会という有り様。

 

「10万人記念だからね♪ それにそろそろお姉ちゃんも企画考えられるようになってもらわないと困るし」

「ぁい。ホントにすみません。おっしゃる通りです」

 

 妹が敏腕マネージャー過ぎる件について、私は己の不甲斐なさを謝罪しました。

 それにしても……好きなこと、かぁ。――――Roadinng…Roading…。

 

「な、なにすれば良いと思う?」

「さっきの謝罪取り消せよ、姉」

 

 うっぐぅ! 伽夜ちゃんのキツイ口調が胸に刺さる。

 見上げてるのに見下げ果てた妹の目に心折れそうになる。伽夜ちゃんは呆れたように息をついて、

 

「自分の好きなことやれば良いんだよ。無いの?」

「ぅ……な、無いわけじゃ。ただ……」

 

 ただ好きなことをやるだけじゃ、それは、私が満足するだけで終わってしまう。

記念だから、嬉しいことだからこそ……眷属(みんな)と一緒に楽しみたい。

 

 私だけが「楽しい」「好き」ってだけで――――終わらせたくない。

 そんな感じに伝えたら、伽夜ちゃんは首を傾げて、あっけらかんと言い放った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……そぅいうものなの?」

 

「そういうもんだよ。現にいるじゃん、おねえちゃんの周りに。なんだっけ、なんかほらテニスしてた……」

「三波くんと早乙女さん?」

 

「そう、それ」

「伽夜ちゃん。あの衝撃のテニスラリーをその程度にしか覚えてないの⁉」

「あたし、興味ないから。おねえちゃん以外のことに」

 

 何ら一切の躊躇なく言い切った⁉ 

 自分がそのテニスの審判もしてたのに……シスコン恐るべし。

 

「あの二人だって、自分の好きなものベラベラ長くくっちゃべってたじゃん。でもおねえちゃん、別にそれで嫌な思いしてないでしょ?」

「し……してない。したことない」

「なら、そういうことなんだよ」

 

 伽夜ちゃんはそう微笑みながら、私の背中を優しく擦った。ベッドの中で私が伽夜ちゃんにしている時のように。撫で方が私そっくりだった。

 

「好きな……もの」

 

 口の中で、誰にも聞こえないように、つぶやく。

 

 好きなものを語る。

 そう考えると真っ先に思い浮かぶのは――――三波くんだ。

 

 毎日毎日、お昼休みの、校舎裏で、宵月レヴィアについて推し語りして。

 変態だなぁって思ったけど、なんならちょっと引いてたけども…………不思議なことにこうして思い返すと「楽しかった」と感じる自分がいた。

 

『俺はありのままの宵月レヴィアが大好きだ! だからレヴィアたんには、自分のやりたいことをやりまくって欲しい!』

 

 彼はいつだって――――自分の好きなものにまっすぐだった。

 

 足を止めた。

 伽夜ちゃんに追い越された。

 胸に手を当てた。

 

 私の好きなものは…………深く深く問いかける。

 問いかけて――まっすぐ向き合った。

 

「ぅ、た」

「うん?」

 

 先を歩いていた伽夜ちゃんが首を傾げて振り返った。

 

 恥ずかしくて、居たたまれなくて顔を俯かせる。

 心細さでおぼつかなくなってる足元が見える。知ってはいたけど、好きなことを言うのって、やっぱり怖かった。

 それでも顔を引っ張り上げて、きちんと言葉にして言う。

 

「歌枠、なんて……どうかな?」

 

 頬が熱かった。

 やっぱり恥ずかしくて、視線を少し反らした。

 口に出した途端、やっぱり脳裏に掠める、親睦会のカラオケ。

 あの時の、自分だけ浮いてしまった空気を思い出して、ぞわっと鳥肌が立つ。

 

「あっ、あの! そりゃ、下手だよ⁉ 友達無くすレベルで下手! とてもじゃないけど人に聞かせるレベルじゃない。それは分かってるんだよ⁉ でも」

 

らしくないって、また言われるかもしれない。

それでも私は、私の好きなことは――――変わらないから。

 

「下手でも……好きだから」

 

 歌うのが好き。それが私の決めた『好きなこと』。

 それでもやっぱり不安で、私は伽夜ちゃんの反応をちらりと伺った。

 伽夜ちゃんはニマニマと意地悪そうに笑っていた。

 

「良いんじゃない。記念歌枠。音源探しておくから、歌いたい曲だけ後で教えて」

「あっ……うん」

 

 テキパキと段取りの相談を決めていく伽夜ちゃん。

 そうして校門に着く頃には、あらかたの段取りはまとめられていた。

 

「じゃあ、今夜は歌枠ね! あたし押入れの防音壁のチェックと改良考えるから、帰る時間ずれるかも!」

「お、遅くならないようにね」

 

 すたすたと行ってしまう妹の背中に声を掛けたけど、届いているか不安だった。

 決めるべきことは決めて、言うべきことだけは言って、行ってしまった……有能だなぁ。

 

 でも伽夜ちゃんが動いたということは、もう今夜の配信は歌枠なのは確実だった。

 

「ぅううう、やっぱり緊張するなぁ……」

 

 バクバクした心臓を抑えながら、教室へ向かう。

 でも、どうしてだろう。緊張してるのに――――胸の奥が弾んで仕方ない。

 

 頬が緩んで、鼻歌を歌ってしまう。

 スキップはだめ、廊下ではだめ、恥ずかし過ぎる。

 そうしてる内に教室の前に着いた。私はいつものように度無しメガネを掛けて、教室の扉を開けた。

 

「ねぇこれってさぁ」「あ~なにこういうの好きなの?」「ちがうってそうじゃなくて」「ちょいちょいみんなこれ聞いてみ」「なに?」「なんだよ、なんかあんの」

「あ~そういうのあんまり見なくて。ごめんね」「ちがうの、声。声聞いて」

「10万ってすごいな」「そこそこでしょ」「大したことない」「ぶってるねぇ~」「こぅいぅのに騙されるんだろうね」「伸び方変じゃね?」「登録者何人か買ってるんじゃないの」「で、これがどうかしたの」

「声よーく聞いてみろって」「何が言いたいの」「わからん」「あー確かにあんまり喋んないからね、あの子」「でもさ」

「なに」「なんなの」「なんだよ」

「てかさ」「これさ」

「え?」

「あれ」

「あっ」

「たしかに」

 

 クラスの空気がざわついていた。

 

 首筋に悪寒が走って、「おはよう」と言うのを止めた。

 いつも通り、別々のグループで喋ってるのに、今日だけはどのグループも同じことを話してるみたいで。

 

 何をどう話してるかは知らないけど、知りたくないけど。

 とにかく気付かれないように、息をひそめながら席に座って――――――頭上に人影が落ちてきた。

 

 顔を上げたら、女の子が私の席のまん前に立っていた。

 昨日、私に課題を写させてもらえるよう頼んできた子だった。

 

「ねぇ、姫宮さん。これ知ってる?」

 

 突きつけられたスマホに映る、漆黒の堕天使。

 そのYUTUBEチャンネル。

 

 私は。

 ゆっくり。

 首を。

 横に振った。

 

「し……しらな」

 声を出した、その瞬間。

 

 ――――じっ、と一斉に視線が突き刺さった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40話 身バレ事変(――心に背いた、声)

わいわいと、数人の女子達が私の周りに集まる。

 ざわざわと、数人の男子達が遠巻きに人だかりを眺める。

 

 人影に囲まれて、暗くなった視界の中……正面にあるスマホの画面だけが白く浮かび上がっていた。 

 

「この、よ……なんて読むのこれ。まぁ、レヴィア? って配信者の声、声がね? 姫宮さんと似てるなぁ~って皆で話してたんだぁ」

 

 私にスマホを見せてきた女の子が、笑顔で噂の話題を振ってきた。そしたら私を囲んでる女子達が次々と曖昧な返事で遠回しに肯定する。

 

 曖昧な返事も、この人だかりの中だと反響して、まるでクラスの総意のように聞こえてくる。

 

 でも、それを笑いながら否定する声が出てきた。

 

「いやいやいや、でもさぁ、ありえないっしょお? だって姫宮さんだよ? 配信なんて無理でしょ? ごめんねぇ~、こいつが突っ走っちゃって」

 

「えぇ~ちょっとっ、やめてよぉ。あたしが問い詰めてるみたいじゃあん」

 

 私の前で、女子二人がきゃいきゃいとはしゃいでいる。

 それに合わせて周りの女子達も盛り上がってる風を作っていく。

 私もほおを緩めて、微笑みを作る。

 

「だいたい、そしたら姫宮さんがこれ言ってることになるんだよぉ?」

 

 ――――ぇ。

 

 誰が言ったのか分からなかった。

 

 けど笑い混じりの口調のまま、囲んでる誰かがスマホをタップして。

 

『ふぁーはっはっは! 待たせたな眷属達! さぁ、邂逅を告げし鬨の声を上げようぞ! こんレビぃ!』

 

 大音量で、それは流れた。

 

「きゃあああああああああーーーー! やっっばぁーーい!」

「はっず! はっずぅ~~~!」

「これアレじゃん! 電車でイヤホン抜けた時のアレじゃんアハハハハハッ‼」

 

 女子達の黄色い笑い声が、直前の堕天使よりも大きく響き渡る。

 ――――ぎゅうっと、奥歯を噛んだ。

 

 赤くなった顔を伏せて、垂れ落ちた髪で隠す。

 椅子を前に寄せて、スカートの端を握りしめた手を机の裏側に隠す。

 

「あっ、ごめん姫宮さん。うるさかったよね?」

「………………ぅぅん、へぃき」

 

 顔を、上げなきゃ。笑わなきゃ。合わせな、きゃ。

 まぶたが熱いのを悟られないように、瞳が揺れてるのを気付かれないように。

 

「ぉ、面白ぃ、よ?」

「あぁ~~~そうなんだぁ~~~~! よかったぁ、あんた達うるさすぎって思われたらどうしよっかなぁって!」

 

 また笑顔が咲き誇る。黄色い花畑が咲き誇る。

 私も、わら、って。

 

「ぇへ……へへ」

 

「他にもさぁ、このレヴィアって子ヤバくてさぁ。なんか他の配信者とのコラボでもやらしい目に遭ってたりさぁ、はっず! むりむり、あたしあんなのできないよぉ」

「……ぁ、はは」

 

「結局さぁ、こういうのって、見た目だけイラストの配信者じゃん。イラスト越しにちやほやされて虚しくならないのかなぁ? ……それで満足する方も、持ち上げる方もちょっと気持ち悪いよね~~~。ねぇ? そう思うよねぇ姫宮さん?」

 

 視線が刺さる。

 肌が粟立つ。

 びくびく肩が震える。

 

 だ、め。なにか、いわないと。でないと、また、私だけ、浮いて…………。

 

 

    「そ、そぅだね……きもちわるい、ね」

 

 

「やーーーーーっぱりぃ。そうだよねぇ!」

「うん、なんか安心したわぁ。姫宮さんらしい」

「あっは、姫宮さんがVtuberだなんて。そんなのらしくないもんねぇ~」   

「ごめんね姫宮さん、誤解して。またはなそーねー」

 

 思い思いに女子達が私に声を掛けていって、自分の席に、グループに戻っていく。

 

 

 

 

 

 ――――――――今、私、なんて言った?

 

 いつものお昼休み、いつもの校舎裏に、私は行けなかった。 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41話 記念歌配信かい――ッ(堕天使は砕け散った)

「あっ、お姉ちゃん⁉ 何してたの、もう配信始まっちゃうよ⁉」

「…………うん」

 

「? とにかく!遅いから勝手にサムネと配信画面作って枠立てといたからね⁉ 後は開始ボタン押すだけだから。それじゃ――楽しんでね!」

 

 遅れたのに。迷惑かけたのに。

 伽夜ちゃんはニッと笑って、押入れの扉を閉めた。

 

 PC画面には、配信が始まる前の、待機画面のアニメーションがループで流れていた。

 

[ 待機コメント ]  

・きちゃ!

・きちゃ!

・きちゃ♡

・きちゃああああああああああ

・登録者10万人おめでとうございます!

・キタァァァァァァ

 

「……あははっ。きちゃ、ってなぁに? なんか響きがかわいい」

 

 どんどん流れてくる待機コメントに目を細めて、微笑む。

 コメントの一つ一つから、喜んでくれていることが伝わってきて…………。

 

『イラスト越しにちやほやされて虚しくならないのかなぁ?』

 

 ――――ぴしっ、と頭の中から変な音が鳴った。

 

「……はじめな、きゃ」

 

 うた。

 歌を、うたわなきゃ。

 下手かもしれないけど、これが私の、好きなことだから。私の好きなものを、眷属(みんな)に知って欲しいから。

 

 配信開始ボタンをクリック。

 ヘブンズライブ専用の配信ソフトとYUTUBEが接続されて――――パァッと頬を持ち上げてみせる。

 

「け、眷属のみんな……っ……ぁっ、こ、今宵、集まっていただき大儀である。こんレビ……お、音は大丈夫か?」

 

[ コメント ] 

・こんレビー!

・こんレビ~

・こんレビ!

・大丈夫!

・パーフェクトだ、堕天使

 

「そ、それは……よかった……え、と。じゅっ、10万人記念ということで。きょ今日は初めて歌枠をしていこうとお、もう」

 

[ コメント ]

・おめでとぉおおおおお!

・10万人おめでとーーー!

・いぇーーーーーい! ギィールティ‼

・ひゃあー、めでてぇてぇぞぉ

・レヴィアたんの歌声ずっと楽しみだったー!

・あまりハジケるなよ、ボッチに見えるぞ 

 

「ぁ、はは。うるさいぞぉー、妾は孤高の堕天使故に。ハジケる? 総スカン? なんのことやら……ふ、ふぁっはっはっはっ」

 

[ コメント ] 

・?

・?

・だいじょうぶ?

・大丈夫ですか?

 

 ぴくっ、とマウスに添えていた指が跳ねる。

 

「な……なにが? そ、そんな憂慮よりも鬨の声を上げよ、眷属達。ほれ、ほれっ」

 

 流れを、流れを変えなきゃ。 

 コメント欄……の流れ、を――――――――。

 

 

[ コメント ] 

・なんか 

・声が変

・沈んでる

・震えてる

・落ち込んでる?

・だいじょうぶ?

・無理してない?

・レヴィアたんのペースで良いので

・好きなことして

・一緒に楽しみたいんやから

・絶対に無理しないでほしい

 

 ――――ぁ。

 

 止まらない。

 流れが止まらない。

 

 温かい。

 初めての配信から、なんにも、変わってない。

 眷属(みんな)は―――――温かくて。

 

 なのに。

 

『そ、そぅだね……きもちわるい、ね』

 

 ぱきり、と温かな亀裂が胸の奥から拡がった。

 

「――――ごめん、なさ、ぃ」

 

 はくはくと口がわななく。

 歯がカタカタと鳴る。

 

「ごめっ、なさ…… わたっ、わた、し……なん、でぇ……っ! えっ、なっ、ごめんなさい! ちがうのに……ぃっ! そん、そんなっ、ことおもっ、てない……のに」

 

 涙が、熱くて、喉をふさぐ。掌が、冷たくて、胸を握り潰す。

 

 一人は平気だった。

 ただ、ただ……弾かれるのが怖かった。

 いないことにされるのが嫌だった。

 

 仲良くなんてなくて良い。

 カーストの低い娘でも良い。

 便利な人扱いでも良いから。

 

 ただ存在してもいいって空気が欲しかった。

 

 そのためだけに、私は、この人達を、眷属《みんな》を―――――否定した。

 

 この、声で。

 

 コメント欄がすごく流れてる。

 もう、だめだ。こんな、とこ、見せて、せっかく、みんな、おめでとうって。

 

「ご……――……――っ!」

 

 目を見開く。

 喉に手を当てて、声を絞り出す。

 

 

 ――――声ですらない、掠れ切った音がひゅうひゅう飛び出るだけだった。

 

 

 押入れの戸が勢いよく開いて、後ろから伸びた手が配信を切断した。

 

「お姉ちゃん⁉ ねぇ、お姉ちゃん‼ どうしたの⁉ ねぇってばぁ‼」

 

 伽夜ちゃんが私の背中を擦りながら、目に涙をにじませる。

 

 私は、声が出なくなった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過食気味の惰眠を貪る(――どうして誰も〇めてくれないの)

「それじゃあお姉ちゃん……行ってきます」

 

 沈んだ声がした後に、バタンと空っぽな音が部屋の空気を震わせた。

 布団の中でその震えを感じて、私は更に深く潜り込んだ。

 

 それでも薄ぼんやり明るくて、口の中に苦みが滲んだ。ぴったりと隙間を埋めて、吐息がこもった温い暗闇の中で、小さく丸まった。

 

 膝からつま先まで丸めて、胸元に両手を寄せて。

 唇を噛むのと同じくらいの強さで、目蓋をきつく閉じる。

 のしかかる温もりと眠気で、何もかもを鈍らせる。

 

 あの配信の後――――この暗闇からまともに出れていない。  

 

「っ~~~~~~~」

 

 眠気に沈む前の、この数分が、身をよじりたくなるくらい、きらいだ。

 だいきらいだ。

 

 しかも回数を重ねるごとに、時間が掛かる。

 ……当たり前か。疲れてないんだから。

 

 それでも横になってたらウトウトするこの感じに救われている。

 睡眠欲ってすごいね。

 なんだか、あれだよね、お腹が空いてなくても冷蔵庫を開けちゃう感じに似て――――()()()()()()()()()()()()

 

「~~――っ! ~~~~――――ぁっ」

 

何も出てこなかった喉から、ボロボロの音が吐き出てきた。

 

『そ、そぅだね……きもちわるい、ね』

 

 髪を掴む。歯を噛みしめて、もっともっと小さく丸まる。

 

 ―――なさいっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ! 

 

 自分が何を口にしたのかも忘れて、また頭の中でお話してる。

 眷属(みんな)雑談(はなし)している時みたいに。

 

「ふっ――ぅっ――――ぅぅぅぅぅ~~~~~~~っ!」

 

 私は、私を許せない……っ!

 唸りが、涙が、嗚咽が、温い闇の中を熱く、息苦しくした。

 鈍ってた頭の中が茹だって、眠気が完全に醒めた。 

 

「――――――」

 

 枕の下に手を潜らせてスマホを取る。

 ぎゅぅううと強く握りしめると、電源ボタンが長押しされた。ブルーライトが布団の中を明るくする。

 そうして電源が点いた途端――――連続した通知音が鳴り響いた。

 

 

[ ビィスコードサーバー ]

クレア「レヴィアちゃんおは~☆ 喉、大丈夫? 気にせず、この機会にいーっぱい休んじゃいなー! 治ったらオフで温泉いきましょうよ! また浴衣でイチャイ

チャしようねっ☆ チュッ♡」

 

ステラ「ママです。お元気ですか? しっかり療養してくださいね。具体的にはお布団でごろごろ食っちゃ寝しなさいね。娘の成長した(すがた)が楽しみです。

PS.ぽよ月レヴィアもまたオレの癖に刺さるからねぇ! 今度また吸ってやるから早く治せぇ! いや? あんたが家に来るなら話早いがね?」

 

[ Bine ]

 早乙女さん「姫宮さん大丈夫今日は学校来るのいやごめんなさい無理言いました休んで好きに休んで無理しないで自分のペースで来てくださああああああああああんの脳スカマン臭メス豚が精肉して吊るすぞってああああああ誤爆ったちがうの姫宮さんに送るつもりじゃとにかく気にしないでね、あの豚共の鳴き声なんかぁ!」

 

 ビィスコードにも、BINEにも、毎日メッセージが来ていた。

 

【宵月レヴィア】は今、配信活動を不定期で休止していた。

 表向きは喉の治療として、既にBwitterでも発表している。

 

 覗いてみると、みんな――――眷属(みんな)、一人一人、それぞれの言葉で心配してくれて、励ましてくれていて。

 

 クレア先輩達も、早乙女さんも、みんな心配してくれて、毎日メッセージを送ってくれて。

 

「ご……――……――っ!」

 

 優しくて温かい言葉が、真綿のように胸の中と喉を締め付けた。 

 スマホを胸に抱きしめる。 

 

 あの時の、私を囲んだ女子達は、友達でも何でもない。

 嫌われたって良い筈なのに。

 そんな相手のために私は……【宵月レヴィア】を否定した。

 

 堕天使になって出会えた人達も、堕天使のことを好きになってくれた人達も、がんばってきた自分でさえ、ぜんぶ否定した。

 

 ――気持ち悪いのは…………私だ。

 

 

 ティロンティロン♪ ティロンティロン♪

 

 胸の中のスマホが着信音で震えた。 

 この音……ビィスコードから。通話相手を確かめた。

 

 ――――リエル、先輩?

 

 どうしてって思った。

 だって今、私、声出ないから。

 通話に出れたとしても返事すらできないのに……着信は切れない。

 いつまでも、いつまでも鳴り続けている。

 

 布団の暗闇の中、私は通話ボタンをタップした。

 

「姫宮ちゃん、今から会える? 会えるならメッセージで送って」

 

 駆け込み乗車みたいな、急いだ声音が私の耳に駆け込んできた。

 目を丸めてる間に、リエル……天海先輩は私に呼びかけ続ける。

 

「今、姫宮ちゃん、ほとんど一人でしょ? ずっと一人は駄目だよ! 分かるの、わたし覚えがあるから! やっぱり――こういう時は直接会って話した方が良いよ!」

 

 男の人とは思えない透明で綺麗な声が、必死さに塗れてる。

 その必死さの後ろにある思いやりに、胸の奥が熱くなった。

 

「顔、見せて、会おう。会って話そ? 姫宮ちゃん」

 

 パジャマ姿のまま、家から飛び出す。

 外はいつの間にか、夕陽に暮れていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

姫宮紗夜という『魂』

 待ち合わせ場所が駅前になった時は、少し怖かった。

 今の夕方の時間帯は会社帰りのサラリーマンや学校帰りの学生と多くすれ違う。

 ――会いたくない……っ!

 

 視界に学校の制服が入る度に、胸の中が曇る。

 すれ違っても声を掛けられないように、走っていく。

 ダンッと強く一歩を踏みつけて、ブレーキをかける。

 改札前に着いたから。

 

 息が弾んで、赤くなった顔で改札を見回す。

 スーツスーツ制服スーツ制服集団、スーツと、どんどん視線を移していくと――――縦縞ハイネックの天海先輩が見えた。

 

 先輩もしきりに周りを見回していたけど、ふと私と目が合った。

 速足でとことこ駆け寄ってくる先輩の姿に、私はくしゃくしゃに顔を歪めた。

 

「姫宮ちゃん!」

 

 駆け寄った勢いのまま、天海先輩は私を抱きしめた。

 私は先輩の肩に顔を埋めて、きゅっと抱きついた。

 香水の香りが鼻先を撫でた。

 

「吐き出しちゃいな。全部聞くから。一つ、一つ」

  

 芯が通ってるのにふわふわした、天使の羽みたいな声が、私の耳元で紡がれた。

 あぁ……だめ。だめなのに――――こらえきれなかった。

 

 天海先輩の肩が雨に降られたかのように、濡れてしまった。

 

           **********

 

「ここがわたしの家。そういえば初めて人上げるわね」

 

 ここって……っ。

 到着した場所は、駅からそう遠くないワンルームマンションだった。

 

 天海先輩って最寄り駅、私と同じなんだ……⁉

 やがて目的の階について、先輩が「いらっしゃい」と鍵を開けて招いた。『おじゃまします』と言う意味も兼ねて、私は頭を下げて入らせてもらった。

 

 配信では何度も顔を合わせて話したけれど……家にお呼ばれするのは、やっぱり緊張する。

 

 先輩の三歩後ろを付いていって――――天海先輩の自室が、目の前に広がった。

 

 青や紺色がベースになったその部屋は、世間一般的に思い浮かべることが出来る普通の男性の部屋だった。

 あれ…………意外だ。

 

 女の子より女の子してる先輩のことだから、部屋もそうだと思っていた。

 きょろきょろする私の表情で分かったのか、天海先輩は返答した。

 

「あぁ親が来るから、その時のためにこうしてるんだ。姫宮ちゃんが想像してるのは……こっちの方じゃない?」

 

 そう言って、先輩はクローゼットを開け放った。

 そこには、一着一着が店頭に並べるほど、手入れの行き届いた可愛くておしゃれな服が揃えられていた。

 

 息を呑む横で、先輩は皮肉るように肩をすくめていた。

 

「親には言ってないからさぁ――――()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう言った天海先輩の横顔が……悲しそうだったから。

 私は先輩の袖をつまんだ。

 

 先輩は一瞬、目を丸めて……黙って私の手を取った。

 ――――上手く伝えられるか不安だけど。

 

 私は一つ、一つ、今までのことをビィスコードのメッセージで書いていった。

 

           ***********

 

 高校1年生の頃は、まだ普通だったんです。

 

 朝のホームルーム前、お昼休みに放課後、一人二人の友人とずっとお喋りしてて。

でも隕石が降ってから、家はめちゃくちゃで。私も必死にバイトして。

 

 気付けば1年生の頃の友達とは、疎遠になっていました。

 そのまま2年生になって、でも忙しさは変わらなくて。

 

 つながりが欲しかった。話せる相手が欲しかった。

 だからクラスデビューは成功させなきゃって、親睦会(カラオケ)を全力で歌いました。ハジけ過ぎて総スカン喰らいました。

 

 放課後バイト三昧なのも変わらなくて、気付けば―――1人でした。

 

 1人なのを悟られたくなくて、寝てるふりをするのが辛かった。

 トイレに落ち着きを感じてる自分が虚しかった。

 昼休み、ひたすら一人で学校の中をブラつくのは、嫌だった。

 

 ……せめて。

 

 クラスの中に居させて欲しかった。

 教室の中に居させて欲しかった。

 だから、『姫宮さんらしさ』を突き詰めた。

 

 度無しメガネを掛けて、読みもしない本を開いて、目立たず小さく縮こまって、頼み事を断らないことで、そういう立ち位置(カースト)に納まろうとしたんです。

 

 そうしてやっと私は――――教室に存在(いる)ことが出来たんです。

 

 ビィスコードに送った長い長い私の告白を、天海先輩はじっと静かに読んでいた。

 読んでくれていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

会いたい人は、誰ですか?

ビィスコードに送った長い私の告白を、天海先輩はじっと静かに読んでいた。

 

 膝の上に置いた両手が震える。

 人にこんなことまで話したの、初めてだったから。

 

「――――わたしね、物心ついた時から『こう』でさ」

 

 …………え?

 何のことか分からなくて瞬きしたら、天海先輩は親指で自分の背後を指差してた。指の先には、可愛い服がたくさん詰まったクローゼット。

 

「服が好き、化粧が好き、アクセサリーが好き。強そうよりも可愛い、カッコ良いよりも綺麗なものが好き。でもね、親もみんなもこう言うんだー。

『そんなの天海くんらしくないよ』って」

 

 私、びっくりした。

 だって、違うところはたくさんあるけど、その掛けられた言葉は――――私のところにもやって来た言葉だったから。

 

 天海先輩は唐突に仰け反って、天井を仰いで笑った。

 

「だからびっくりしちゃった! 

 だって学校の過ごし方が中高生のわたしなんだもん! 昼休み、教室に居づらいの分かるなー、それで学校うろついてたら自然と図書室に行っちゃうの。本読まないのに」

 

 っ!!!

 わかります!

 

 思わず声に出した、と思ってたらハクハクと無音に喘いでいただけだった。

 私はふんすふんすと息を荒くして、速攻でフリック入力していく。

 

 胸に渦巻く共感をメッセージに変えたら、天海先輩は「あはっ」と吹き出した。

 

「そうそう、そのせいで『本好き』ってレッテル貼られる時なんか否定しづらいのよ! 図書室行ってるしなー……って!」

 

『そうなんです! それに何故か【本好き】ってことにしたら、周りの理解が得やすくて……最後は図書委員任されるんですよね』

 

「本好きだからイージャンってね! ほんとあれなんなんだろうねー?」

 

 私がビィスコードにメッセージを送って。

 それを読んで天海先輩が話して。

 

 デジタルな筆談を交えても、天海先輩は嫌な顔一つせず談笑してくれた。

 

 夕陽が地平線を染め上げて、先輩の部屋と私たちの横顔を照らした。

 

「だからね。すごく分かるよ。全部は無理だけど、わかる」

 

 天海先輩が手を伸ばすのを見て、私はスマホをテーブルに置いた。テーブルの上で先輩の手がそっと私の手の甲に触れる。

 

「ハブられるのは怖いよ。怖くて周りに合わせちゃうなんて当たり前だよ。だから――――姫宮ちゃんは悪くないよ」

 

 先輩の手が、私の手を強く握りしめた。

 スマホで返信できないから……私はふるふると首を横に振る。

 

 そんな私に、先輩は柔らかな眼差しを向けてくれて。

 

「わたしもね、ずっと怖かった。女の子みたいに、綺麗に、可愛くなりたかった。でも誰もそんなの認めてくれなかった。――【旭日リエル】になるまでは」

 

 柔らかな眼差しが、懐かしそうに細まる。

 胸の奥に閉じ込めた、宝物のような嬉しさを口にする。

 

「ヘブンズライブに入れて、Vtuberになって。クレアやステラ、ご主人様達と出会えた。みんな、『女の子』のわたしを受け入れてくれた」

 

 ……受け入れて。

 私を、【宵月レヴィア】を、受け入れてくれたのは。

 

「まぁでも、姫宮ちゃんを囲んだその子達からすれば、わたしって本当は男なのに、ガワで女の子のフリをして、チヤホヤされてるだけなのかも」

 

「――――っ!」

 

 ちがう……ぜったいちがう!

 前のめりにそう言おうとしたら、私の鼻を先輩がつついた。

 

「わたしが言いたいことはね? 今、姫宮ちゃんが言おうとしてくれたことと……同じなんだよ?」

 

 私の手をそっと包んで、ゆっくりと、まっすぐに、声を掛けてくれた。

 

――――【旭日リエル】の魂は、可愛くて綺麗で……優しい女の子そのものだった。

 

「大丈夫だよ。姫宮ちゃんは、眷属のみんなを否定なんてしてないよ。むしろすごく大切に想ってる。姫宮ちゃんの想いは、ぜったい眷属のみんなに伝わってるよ」

 

 肩を震わせて鼻をすすりながら、私は声になってない不安を吐き出す。

 

 ――そぅ、かなぁ? 

 本当に……そうなの、かなぁ?

 

 そしたら、ガタリと天海先輩が椅子から立った。

 立って、テーブルの向こう側から体を伸ばして……自分のおでこを私と重ね合わせた。

 

「それでも不安な時は、会いに行きな。誰かが決めた『らしさ』じゃない、姫宮ちゃんが一番姫宮ちゃんらしくいれる人のところに」

 

 私が……私らしくいれるところ?

 そんなの家族以外に、伽夜ちゃんにいな―――――――ぁ。

 

 昼真っ盛りの日差しが蘇る。校舎の陰で少し肌寒くて。

 

 いつものお昼休み、いつもの校舎裏で話してる時の私は…………クラスの女子が言う『姫宮さんらしい』私じゃなかった。

 

 おとなしくて便利な『図書委員』でもないし。

 

 小さく縮こまって地味な『立ち位置(カースト)』にいる女子でもないし。

 

 勿論【宵月レヴィア】でも無かった。

 

 

 

 ――――三波くんと話してる時だけ、私は、【姫宮紗夜】だった。

 

 

 

 ずっとずっと、初めて話すようになってからずっと。

 私の目の中に誰かが映ったことを感じて……天海先輩はすぅっと身を引いた。

 

「そぅいうつながりを大事にすれば良いって、わたしは思ってる――――行って」

「~~~~っ!」

 

 頷いた拍子に散った涙は、夕陽色だった。

 声にならない感謝を込めて、お辞儀してから、私は天海先輩の家を飛び出た。

 

        **************

 

[ 天海渚の視点(コメント) ]

 

 あの子ずっとパジャマだったけど大丈夫かなぁ~~~~~~?

 

 背中を押した手前、そこだけがわたしの心配所だった。

 いや言える雰囲気じゃなかったから言えなかったけど、駅前でパジャマ姿は目立つわ。すごい見つけやすかったもん。

 

 まぁ、姫宮ちゃんが誰の所へ行くか知らないけど……警備員さんとかに捕まらないことを祈るわ。

 

 夕陽は沈んで、部屋の中が夕闇に染まっていく。電気をつける気にならなかった。

 

「もう少し……浸ってたいな」

 

 独り言が、紫煙みたいにくゆる。

 目蓋の裏に、あの輝かしい涙を描いて。

 

「――少しは、先輩らしくできたかな?」

 

 ティロンと、スマホが震えた。誰からだろうと思って、画面を見る。

 そのメッセージはビィスコードから…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ついさっき姫宮ちゃんに言ったことを思い出して、タイムリーさに頬が緩んだ。

 

「もしもし?」

 

『渚ぁ~! あんたのおすすめ美容オイル、めっちゃ肌になじむ~~~~!』

『おいアラサー、第一声で脱線すんな』

『はぁぁぁぁ⁉ 綾香はまだ20代だから、んな舐めたこと言えんのよ!』

 

「なに? 二人とも、外?」

 

 クレアとステラのプロレスを流して、通話越しの環境音について尋ねた。

 

『そうそう。私も綾香も今、帰り。渚もこっち来なさいよ。女子会しましょ~』

『姫宮となに話したか聞きたいしな……先輩風は吹かせられたかよ?』

 

 (クレア)の朗らかな口調が、綾香(ステラ)のからかい口調が、わたしを誘う。

 わたしらしさの詰まったクローゼットに。

 

「うん。行く。わたしも今ちょうど――――二人に会いたいって思ってたから」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パジャマ登校姫宮!(こっちです、アル〇ックー!)

 学校へ駆ける私の背に、夕陽が追い縋ってくる。

 視界の片隅に流れる景色が、じわじわと夕闇に飲み込まれていく。

 

 ――お願いお願い……まだ学校にいて。

 

 祈りが足の回転を速めていく。

 焦りで、息が乱れて詰まる。

 苦しくなって、だんだん顎が上がっていく。

 

 ……私なんで走ってるんだろう。

 三波くんと話すなら、通話で良い。BINEで連絡を取るのも良い。なのに、どうしてこんな息を切らして、走ってるんだろう?

 

 肺が痺れる、喉の奥から血の香りがする、視界が目の前しか見えないように狭く搾られていく。はぁはぁと息を吸う度、ごちゃごちゃした思考が単純(うすく)なっていく。

 

 ――会いたい。

 

 顎を引く。

 脇を締めて、膝を高く上げる。

 

 酸素以上に肺の中を駆け巡る想いが、目からこぼれて散っていく。

 

 会いたい、会いたい、会って、話したい。

 

 いっつもいっつも推しのことばっかりで、レヴィアのことばっかり早口で喋って。   

 鼓膜破いてもらいたいとか意味不明な欲求あけすけに話して。

 エッチな絵とかASMRとか普通に聞かせてきて。

 とんだ変態さんだよ、クラスの中心(イケメン)だなんて思えないくらい。

 

 ――――そういう風に、私は、私が嫌いな人達と同じ見方しかしてなかった。

 あなたはずっと私に……【姫宮紗夜】に向かって、話してくれていたのに。

 

「~~~~~っ!」

 

 三波くんっ!

 

 校門に飛び込む。

 ちらほら校舎はまだ明るいところもあって、でも漂う空気がどこか静かで。

 

 からからの喉なんか裂けちゃえば良いっ!

 そんな気持ちで彼の名前を呼ぶ。

 

「~~~~~っ!」

 

 返事も私の声自体も、何も夜の校内には響いていかない。

 

 ただ……校内の明かりが、少しずつ消えていく。

 玄関にたくさんの人の足音を感じる。

 もう、このタイミングを逃したら、三波くんとは会えない気がした。

 

 焦りが募る中……私は肌寒い校舎の影を思い出した。

 

「――――っ!」

 

 お願い……間に合って!

 

 どこからか「またね」と聞こえてくる。夕闇に染まった校内を、走る。

 入り慣れた校舎とは反対側の校舎っ、その裏側へ角を曲がって飛び込んだ。

 

 ただでさえ薄暗い校舎裏は、夕闇が付け足されて……しぃんと静寂に満たされていた。

 

 ――――あぁ。

 

 放課後の、いつもと全然違う校舎裏がうるうるとにじんで……唇を噛ん

 

「あれ? 姫宮さん?」

「――っ‼」

 きゃっ‼

 

 無音の悲鳴が飛び出て、両肩がびょこんと飛び上がった。 

 

 静寂に包まれていた暗闇を破って、三波くんは立ち上がった。

 その位置は、私たちがいつも腰を下ろしてるアスファルトの段々があるところだった。暗すぎて見えなかったんだ……なんか…………恥ずかしっ!

 

 私は慌てて袖で目元を拭った。そうしてホゥッと息をついた瞬間。

 

「姫宮さん……なんでパジャマなの?」

「……――?」

 

 へ? なにを言って……私はおそるおそる俯いた。

 きょとんと丸めた目に――――ここ数日ずっと肌に馴染んだ薄ピンクのくま柄パジャマが映りこんだ。

 

 刹那、駆け巡る。

 家を飛び出してから、学校に着くまでの、これまでの記憶。

 その間ずっとパジャマだった自分を知って。

 

「~~~~~~~~~~~~~~っ‼‼‼‼⁉」

 

 正しく声にならない悲鳴が、校舎裏に響き渡った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

肩の温かな重み(――溶けだす、声)

見ないで……みないでぇええ……っ!

 すっごい自分の顔が熱くなってるのを感じながら、私は自分の両肩を抱いた。

 片方の手はズボンの方へ伸ばして、下を隠そうとしたけど……なんかよくわかんない恰好になる。

 

「~~~~~っ」

 

 羞恥心に歯噛みする。なんでぇ? 

 

 なんでこんな時に限って、私……っ! だらしないところ見られた恥ずかしさが、耳にまで届いて――――――フワっと布生地が肩に掛かった。

 

 びっくりして顔を上げたら、三波くんがすぐ隣で目線を逸らしていた。

 

「は……春先でも……夜にパジャマは寒いでしょ」

 

 何が起こったのか分からなくて、温かくなった肩を見やったら……ブレザーを羽織っていた。もう一度顔を上げると、ワイシャツ姿の三波くんが照れくさそうに顔を逸らしていて……っ! 私はブレザーの襟を引き上げて、口元を隠す。

 

 ……すぅ、はぁ、と俯いて深呼吸を繰り返す。

 息がこもって口元が熱くなる。

 ちらりと見上げて……ひときわ大きく息を吸った。

 

 

「 あっ 」

 

 

 喉に手を当てたら――――声がとろけ出た。

 

 襟の中でこもった、小さな小さな声に潤みながら……私は声を溶かし出した。

 

「あ、りがと」

 

 ずっと堰き止められていた声が川のように、さらさらと流れ出した。

 あれ、私、変だなぁ……。

 

 眦が垂れるのに、口角が上がる。

 ずっとこもって淀んでいた胸の中が晴れ渡っていくのに……きゅうっと切なく締め付けられる。

 正反対の想いがないまぜになってる私を、三波くんは不思議そうに見つめて。

 

「どっ……どういたしまして」

 

 やっぱり照れくさそうに返事を返してくれた。

 私はまだ喉に手を当てながら、ゆっくり小さく発声する。

 

「今日、どうした、の? なんか……変だよ?」

 

 小首を傾げる私に、三波くんは困ったように眉を下げる。

 突かれたくないとこを突かれたような。

 彼は頬を指先で搔きながら、視線を泳がせた。

 

「いや、その…………最近、姫宮さんと話せなかったから……話したいなぁ~ってずっと思ってた時に――――来てくれたから」

 

「…………っ!」

 

 走ってきた時の、駆け巡ってた想いがよみがえる。私はブレザーの襟をもっと、もっと引き上げて目の下まで覆い隠した。

 ぱくぱくと脈打つ音が、吐息に熱っぽさを引き起こす。

 

 ――――ありがとう三波くん、ブレザー貸してくれて……本当にありがとう。

 

 一向に下がらない口角を襟で覆いながら、私は三波くんと目を合わせる。

 

 いつもだったら、三波くんがレヴィアについて推し語るから……お互い一向に話し出せずに見つめ合う。

 

 その、見つめ合いが、なんだか……っ、変で、変な空気で。

 ――ふいっ、と視線を逸らすタイミングが全く一緒だった。

 

「「 あ 」」

 

 そしたら、いつもお話しする時決まって二人で座る、アスファルトの小さな段々が目に入った。

 

 私たちはそろりそろりと、その段々にそろって腰を下ろした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いつもじゃない放課後、いつもの校舎裏(たわいもないつながり)

目を閉じて、耳をすませば、まだ「またね」「さよならー」と挨拶してる声が聞こえてくる。

 

 そして更に遠くからは、野球ボールが打たれたり、サッカーボールが蹴られたり、テニスボールがバウンドしたりする音が、やまびこみたいに響いてくる。

 

 夕陽はとっくに沈んでいて、照明スタンドの真白な光が夜の闇を散らしていた。

 私と三波くんはアスファルトの段々に座ってから、ずっと黙り合っていた。

 

 放課後の、部活でしか響かない音に耳を傾ける。

 この一時が……なんだか心地よくて。

 

 変だなぁ。

 

 三波くんと話したくて、ここに来たのに――――無理に話さなくても良いやって思えている。

 

「……姫宮さんはさ」

「なに?」

 

 三波くんが口を開いた。私はパッと振り向いた。

 すると、彼は遠くから響いてくる部活の音に耳を澄ませながら、訊いた。

 

「なにか部活ってしてた?」

 

 え?

 私は目を見開いた。

 

 だって、いつもの三波くんは、今までずっとレヴィアの、Vtuberのことしかお話してなくて……。

 

 私の驚きを見て取ったのか、三波くんはハハッと苦笑して応えた。

 

「レヴィアたんはおやすみ中だし。喉が良くなるよう、いつまでも待ってるから……たまには他の話したいんだ」

「……………中学の時。陸上部だったよ」

 

「おっ、なんで?」

「用意しなきゃいけないものが比較的少なかったから。スパイクとユニフォームだけ。長距離だったから、体力はついたねー」

 

 私は体育座りに座り直して、両膝の上に顎を乗せた。

 そうしてちらりと横を見やって尋ねる。

 

「三波くんは部活何やってたの?」

「カバディ」

 

「―――――え?」

「けっこうガチでやってたぞー。はちみつレモン喰い(ハニーレモンスレイヤー)の三波って異名まで轟いて……」

 

「衝撃的すぎるんだけど⁉ ていうかはちみつレモン食べてただけじゃないそれ」

「いやいやいや、しっかり凍ったポ〇リも飲んでた」

「ベンチもほっかほかだね、それ」

 

「姫宮さん休んでたんだよね? 授業のノートってどうすんの?」

「あー……どうしよ、ぜんぜん考えてなかった」

「数学けっこう進んだよ。新章入ったし、新しい公式出たし。……教えてやろうか」

「えぇ~~ww 三波くんよりはできるよぉ~~」

 

「お? 言ったな? 言ったなおい?」

「ふふふっ、言ったよぉ~。……どうする?」

「ノートを貸してやろう」

「やったぁ~。よかったぁ~」

 

 その後も、つらつらと、私と三波くんはお喋りした。

 

 体育の授業で男子の誰がバカやったこととか、窓を開けてたら布団に桜の花びらが入り込んだこととか。

 

 教室にカナブンが入り込んで授業が中断になるくらいパニックになったこととか、妹の作る葛湯が大好きなこととか。

 

 そんな、なんでもない話を語り合う。

 こんな風に誰かと話すのなんて、いつぶりだろう。

 

 三波くんと話す時はいつも、【レヴィア】がいた。

 

 

 でも、今、この一時は―――――私と三波くんの間に、誰もいなかった。

 

 

 二人きりの……たわいもない話を積み重ねていくうちに。

 部活動の音が止んで、照明スタンドの光が弱まっていった。

 

 空はとっぷりと暮れていた。見上げたら1等星の星以外、ほとんど見えないまっくらな夜空が広がっていた。

 

「――そろそろ帰ろっか」

「――ぅん」

 

 私達はその場を立った。

 じゃりじゃりと歩いていく三波くんの背中を見つめて――――羽織らせてもらったブレザーを、ギュっと握りしめる。

 

 ぃやだ。

 顔を伏せたら、爪先に影が落ちた。

 

 帰り、たくなぃ。

 足並みがだんだん、だんだん遅くなっていく。

 

 じゃりっ、じゃりっと……足音が、止む。

 

「 姫宮さん 」

 

 爪先から……先を歩く三波くんの背中へ、視線を移す。

 彼は顔だけ振り返って――――綿毛のような笑顔で、この場所を指さした。

 

「また明日な」

「――――っ!」

 

 手を伸ばす。

 くいっ、と袖を引っ張る。

 三波くんが少したたらを踏んで。

 

 ぽすん、と。

 

 彼の背中に、頭をつけた。

 三波くん。

 

「ぁりがと……ね」

 

 声が濡れる。

 彼の背中は動かないまま、静かに……私を寄りかからせてくれた。

 

 また、明日。

 私が、姫宮紗夜が居ても良い――――居場所なんだ。 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私はそうは思わない

次の日の、朝。教室の前に着いた。

 私は立ち止まって、度無しメガネを取り出し――それをバッグの奥深くに戻した。

 

 そして教室に入ると……すでに私の席は女子達に囲まれていた。

 

「あっ、姫宮さぁーーん。待ってたんだよぉ?」

「……なにー?」

 

 私はすたすたとまっすぐ歩いて、席に着いた。

 そしたら囲んでる女子の一人が「あれ?」と素っ頓狂な声を上げた。

 

「姫宮さん、メガネはぁー⁉」

「コンタクトにしたの」

 

 度無しだってことを伝えたら、かえってややこしくなりそうだったから伏せた。

それでも女子達は「えぇー」と黄色い声を上げて、嘲笑する。

 

「ぜぇったいメガネの方が似合ってたよー! だってその方がすごく姫宮さん『らしい』しさぁーー!」

 

「――――ありがとっ、でも今日はこの気分なんだぁ」

 

 にこりと、微笑んだ。

 そしたら一瞬、囲みが静かになって……口々に「そうなんだ~」と戸惑い気味につぶやいていく。私は瞬きして、首を傾げながら話題を戻した。

 

「それでさっきどうしたの? すごく盛り上がってたけど……」

「あ……そ、そうそう知ってる? 宵月レヴィア、今日、復帰するんだってねぇ!」

「またやらしい配信するのかなぁ」

「やめてほしいよねぇ、まーた勘違いしちゃうオタク君達が増えるじゃんね~」

「女子《あたしら》のことそういう目で見てるんだって透けて見えるよね~~、ほんっと気持ち悪ぅ~~い!」

「ねっ? 姫宮さんも、そぉ思うよねぇ?」

 

 喉に力を溜める。

 すぅっ、と空気が口の中に冷たく満ちて、

 

「 私は、そうは思わないよ? 」

 

 言った。

 囲み女子達が凍り付く。ぞくっと首筋が震える。

 でも、ちがうから。

 

「気持ち悪くは、ないと……思う。たっ、たしかに……ちょいちょい変なノリあるけど、でも……楽しんでるのが伝わってくるから」

 

 私は――――妾とその眷属達は、そんなんじゃない。

 そう思い切って良いって教えてくれたから……言った。

 

「私は、好きだよ。堕天使」

「…………………いこぉ」

 

 興味も何もかも失くした目で彼女が言うと、囲み女子達は散り始めた。

 ひそひそ声が四方に散っていく……ぅぅぅまだ見られてる気がする。視線が痛い。

 

 でもかまわない。そう思っていたら――――後ろから抱き着かれた。

 

「ひゃんっ⁉」

「姫宮さぁ~~~~~~ん‼ んはぁ~~~~ひめみやさんだぁ~~~~~~っ!」

「さ、早乙女さん⁉」

 

 頭のてっぺんを頬ずりされながら、私は後ろを振り向いた。

 口角がとろけてる早乙女さんが休んだ分を取り戻すかのように、ぎゅうぎゅうと押し付けてくる。

 

 私はちょっと胸がくすぐったくなってきて、少し笑ってしまう。

 

「ぁは、ちょっ。そんな引っ付かなくても……」

「だって寂しかったのよ⁉ 教室入る度に『いないなぁ』ってつぶやく気持ちになってみてよぉ!」

「ぅっ……ごめん、なさい」

 

 マフラーみたいに回された早乙女さんの腕を掴んで、口元をうずめる。

 おっきぃ声で言われる恥ずかしさと……寂しがってくれて嬉しい気持ちがミックスされて顔を伏せる。

 なにはともあれ、後頭部の柔らかな安心感のおかげでひそひそ声と視線は気にならなくな

 

 

「 ――――何見てんだよ? 」

 

 噴火の前兆(ドスの利いた声)に、ひそひそと視線が霧散した。

 早乙女さんは満足げに私の前に回り込むと、にやけてるのを隠さずに話し始めた。

 

「姫宮さん、Bwitter見た? 堕天使様、今夜復帰するんだってね! リベンジ歌枠楽しみね!」

「ぅっ、うん! 楽しみ!」

 

 私と早乙女さんはそのままイヤホンを分け合いっこして、レヴィアちゃんの切り抜きを見た。

 

 朝の、この時間はきっと大切な時間になっていく。そんな予感がした。

 

 

 

 そして――――いつものお昼休み、いつもの校舎裏に顔を出す。

 

 

 

「おまたせ。待った?」

「お~~~~~~~~姫宮サァン‼ なぁなぁレヴィアたん復帰だって! よかったぁ!よかったわぁ~~~ちゃんと喉治ってさぁ~~~~‼」

「あ、あはは」

 

 ブレザーの重みを覚えた、肩をさする。

 誰にも言えない、言う気もない秘密を、胸に閉じ込める。

 

 それは飴玉みたいに甘くて、ビー玉みたいに煌めく――――大切な秘密。

 

「ねぇ、レヴィアちゃんの声なら、どんな曲が合うと思う?」

「えぇ~~~⁉ それは難しっ、でも話が弾む話題だなぁ~。そうだなぁ……やっぱあれかな!」

 

 三波くんが口にした曲名に、私は大きく目を見張ってから、ゆっくり細めた。

 なるほどね……ぅん。

 

 それは、私も大好きな曲だった。 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リベンジ記念歌枠! 始めッ!(――〇に落ちる音がした)

「音源よし、配信画面よし、ライブ2D良し、お姉ちゃん良し」

本人(それ)チェックいる?」

 

「何言ってんの! 魂いなかったら全部おじゃんになるでしょうが!」

「それはたしかに」

 

押し入れの中で配信準備を終えた伽夜ちゃんが、怒りながら四つん這いで出てきた。

音量調節は配信中に微調整していくとして……私は伽夜ちゃんお手製の葛湯を飲む。

 

 暖かなとろみが喉にじんわり広がる。

 

「準備できてる?」

「いいよ」

 

 コツンと、妹の小さな拳と軽くぶつける。

 入れ替わって、押し入れの中に四つん這いで入っていく。

 ふすまが閉じられて暗くなった押し入れの中に、ブルーライトが浮かび上がる。

 

 配信台上の照明スタンドを付けて、配信開始ボタンを押して――頬を吊り上げる。

 

「ふぁーはっはっは! 待たせたな眷属達! さぁ、邂逅を告げし鬨の声を上げようぞ! こんレビぃ‼」

  

[ コメント ]

・は?

・は?

・は?

・ハ?

・はぁ? 

 

「ねぇ~~~~復帰早々それはひどいってぇ~~~~~~~!!!!」

 

[ コメント ]

・どうしたんだいレヴィア

・ひどいこと言われたのかいレヴィア

・パパ(眷属)きちゃああああああ

・もうファンネ、パパで良くない?

 

「良くないよぉ‼ 貴様らは妾の眷属ぞ⁉ もう少し距離感を考えて!」

 

[ コメント ]

・距離感……靴下は分けておくね

・うちの娘とおんなじこと言ってるぅ!

・もう浸食されてない?

・俺がパパだ!

・パンツも分けろ、パパ共!

 

「んっ、んんっ! それで、えーと始める前にまずは……言っておかなければならない。Bwitterでも事務所から公表されていたのだが、改めて。前回の配信で号泣してしまって、みんなをたくさん心配させてしまいました。――本当にごめんなさい」

 

[ コメント ]

・もう大丈夫なの?

・無理しないでね

・しっかり治るまで休んでね?

・気にしないでもろて

・好きにやってくれ

・ついてくから

 

 あぁ……。

 笑みがこぼれる。

 

相変わらず眷属達(みんな)のコメントは妙に辛辣で、妙に変態で――妙に優しい。

 

「ありがとう……ありがとうね、みんな―――ということで‼ しんみりしたのはもうおしまい! 祝いそびれた10万人記念‼ リベンジ歌枠‼ 始めていくのじゃあああああああああーーーーーーーーーー‼‼‼‼」

 

 コメント欄に、ペンライトのスタンプがたくさん流れる。

 カチカチとクリックして、伽夜ちゃんが用意してくれた音源を再生する。

 流れるイントロ、察した眷属達がコメントを加速させる。

 

「 それでは最初の一曲目! 歌おうと思う――――――『メ〇ト』‼ 」

 

 校舎裏、胸にしまった。

 飴玉みたいに甘くて、ビー玉みたいに煌めく秘密が……溶けてしまいそうだったから。

 歌声に、溶け込ませた(想いを込めた)

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。