もし継国縁壱さんのような人が無職転生の世界に居たら (ばしお)
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幼少期編
はじまり


自分の妄想を残しておきたかったので不快に思った方はブラウザバック推奨します。


私の額には生まれつき不気味な痣があったそうだ。

 周りは大層不気味がっており、妾の子という事もあったので処分せよという声も上がったが、それを聞いた普段物静かで体調を崩しがちな母が一心不乱に父に泣きわめき縋り付きながらの嘆願により、表面上いない者として扱われる事になったが生かしておく事にしたそうだった。

 

家は大変裕福で貴族といわれる部類だったが、年の離れた腹違いの兄弟と同じ様に生活する事は許されず、簡素な部屋と簡素な食事が与えられただけだった。

私はそれでも十分満足だったのだが、母はそれでも他の兄弟と平等な生活を送れていないことを気に病んでいる様子だった。

 

普段は誰もいない庭で木に寄りかかり部屋からこっそりと母から借りてきた本を読んだり、ひっそり覚えた初級の魔術を試して水をぷかぷかと浮かべてみたり、あとは兄様達が剣術の指南を受けている様子をぼーっと眺めている事が多かった。

 

母は、私が普段物静かすぎているせいで声を出せないと思っていたらしい。

その事は母が今は滅んでしまった小さな故郷の風習の一環で耳飾りを私の耳に付けてくれたことで分かった。「わたしはしゃべれます」と母に伝えたら驚いた顔をしていた。

 

申し訳ない事をしたと反省した。

 

私はヨリイチという名前らしい。

 

そのことが分かったのは齢四歳の時であった。

 

名前など本当はなかったのだが、母が名付けてくれた。

 

 

 

体調を崩しがちな母によく覚えた治癒魔術を使っていた。

最初に治癒魔術を使った時に母が「普段は詠唱を唱えないのですか?」と少し動揺した様子で聞いてきた。

私は素直に「はい」と答えると、何やら思案顔で「周りにはその事を悟られぬ様にしなさい」と言うので私はその事にも素直に「はい」と答えた。

 

それ以降私は滅多に魔術を使わなくなった。

 

無詠唱魔術というのはこの世界でいえば珍しいらしく、どうやら周りに知られてしまえば利用されかねないと思ったのだろう。と私は幼いながらも推測した。

 

普段外出は滅多に許されなかったが、母が誕生日の日には誰の目もかいくぐり、外にでては綺麗な花を見繕い母にプレゼントを必ず贈った。母は「ありがとうございます」と嬉しそうに、されどもどこか複雑そうな顔をしながら喜んでくれていた。きっと何不自由なく外出できない私の事を気遣っての事だろう。

 

母はよく私の頭をなでてくれていた。

 

少しくすぶったいが母が私の頭をなでてくれる事は大好きだった。

 

しばらくは平穏な日々は続いた。

 

私の父である人は自分の職務が忙しく、ストレスを緩和させるためかよく夜に女性たちの体を求めていたようだった。

 

それには母も例外ではなかった。しかし、夜伽の最中でさえせき込んでしまうので、相手になる数は少なかった。

 

母は美しかった。

 

父は母様の事を大層気に入っていた。

 

私は父に似ず、母様に似た。私が今の今まで生かされてきた理由はそれも関係しているのであろう。

 

「母様は父を愛しているのですか」

 

不躾だと知っていながら聞かずにはいられなかった。

 

母は「はい」と答えた。

 

「ヨリイチは父の事は好きではないのですか?」

 

自分が父の事を好きかどうかはよく分からなかった。

少し時間がたって私は素直に返事に答えるように「分かりません」と答えた。

 

「そうなのですか?」

 

「…はい、ですが心配しております。いつも私が見る父は疲れているようなので」

 

「そう…貴方はやはり優しい子ですね」

そう言い母は私の頭を慈しむように撫でる。

私は優しいのだろうか?

 

分からない、私は普段人と接する機会は無いので人に優しくすると言う事がどう言う事か、客観的に認識できないでいた。

 

分からないから先程も母様の感情を慮る事もせずに父が好きかどうか自分は聞いたのだ。

 

やはり私は自分が優しい人間だとは思えなかった。

 

 



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2話「ルーク・ノトス・グレイラット」

剣術の指南を受けている最中だった。

 

目の端っこに偶々存在を見つけ目線をやる。

 

そこには何を考えているかもわからない自分にっとて不気味でしかない腹違いの弟がいた。

 

 

額には歪ともいえる痣のようなものが生まれつきあったと聞く。

 

あまりにも不気味なその有様に、もしかしたらわが家に災いをもたらすかもしれないと考えた者までいた。

 

処分すべきではという声も上がったが産んだ母が父に泣き、嘆くように「殺さないであげてください」と縋り付きながら懇願したので表面上文字通りの存在しないものとする事を条件として、生かすことにしたらしい。息子である俺がいうのもなんだが、臆病で小物な父らしくない、と思った。

 

普段の父ならばこの事を他の誰かに悟られる前に問題を対処したはずだ。

 

神子ならば国に捧げればいい。

 

だがしなかった。

 

理由はわかりやすい。だが何処か腑に落ちなかった。

 

父は彼女の事をとても気に入っていた。どこかの出身もわからない、名家の貴族でもないただの妾に対して。

 

何故かはわからない。

 

この世界では珍しい黒色の髪の色で、顔は美しかった。体は弱いそうだが佇まいには教養を感じられた。品性は高貴で気高いものであると感じられる。それか?

 

いや、それだけではないはずだ。

 

その証拠に父は体が弱い彼女に夜の相手を無理に強要しようとはしなかった。

 

仕事にも変化の片鱗のようなものが見え、相変わらず相手にたいしてへりくだる様子はあるが、卑怯な手はなるべく使わず、手腕は鈍腕ながらも真摯に領主として仕事に向き合おうとしていた。

 

なぜそこまで変化があったのだろう。いい傾向のはずだが自分の母に対しての気持ちより妾の方が父に対しての影響力がつよいことに対して複雑な気持ちを持たずにはいられなかった。だからなぜそこまで彼女に方入りするのかの答えを見つけるよう懸命に考えた。

 

結局、納得のいく答えは見つからなかった。

稽古の休憩中、名前もないそいつに話しかけてみる。

 

「おい、そこで何している」

「......」

 

声をかけてみても反応は帰ってこない。

 

まるで私は最初から存在しませんとでも言わんばかりに

 

「...まあいい...くれぐれも稽古の邪魔だけはしないでほしい」

 

「......」

 

遅れてこくんと頷いてやっと反応を示した。

 

そいつはそそくさと俺から立ち去る。

 

分からんやつだ。

 

とても静かで、声を発した姿など見たことがない。

 

 

ルークは、とても不気味な奴だと再度認識した。

 

 

 

 

 

事件が起こったのはその数か月後だった。

 

 

 

 

 




これいけるんか?この設定大丈夫か?てかルークこんなだったか?
と一日考えていましたが結局これで行きます。
もうちょっと理解するために本編読み直して出直してきます。
感想あればうれしいです。


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3 自由に

ヨリイチの楽しみは人の気配が静かになる夜に月を窓から眺めることだった。

 

だが今宵の夜、月を眺めていたら何やら家の気配が普段とはちがった。

 

 

空気?というべきか、殺気立ったもののような冷たい気配が確かにあった。

 

どこから感じる...?

 

ヨリイチは知覚に集中し、違和感のある場所を特定する。

 

場所は...

 

「父様?」

 

父の寝床の場所だった。

 

決断は即決で部屋から出ようと扉を挙げる。

 

が、そこには鍵がかかっていた。

 

そう言えばいつも自分を部屋から勝手に出ぬよう夜は鍵がかかっているとヨリイチはこの時遅れて気づく。

どうするか一瞬悩み、扉を壊すことを決意。

 

闘気という言葉はこの時ヨリイチは知らなかったが、ヨリイチは生まれた時から感覚で闘気の纏い方を理解していた。

 

手刀を繰り出し、音が出ないように最速で壊す。

静かに扉を倒し、ついでに扉の一部分を切り、魔術で木刀に変える。

 

駆けつける。

 

あたりに明かりはついていない、現在は深夜だ。

 

普段ならば空気は澄んで静かな夜と、よく映える月という趣をささやかな楽しみにできる時間だ。

 

なのに今日は空気がおかしかった。

 

澄んでいなかった。

自分の肌の感覚が鬱陶しいほど事態の状況について警鐘を鳴らしていた。

 

焦りが先行して移動を加速させる。

 

「きゃっ!」

 

角を曲がるとすんでの所でメイドとぶつかりそうになるが紙一重で躱す。

驚かせてしまって申し訳ない...

 

私は後でどうなるのだろうかと一瞬今の出来事で考えたが今は事態の確認が最優先と考え即座に思考を打ち切った。

 

もう一つ角を曲がり、すぐそこに父の寝床がある。

目的の場所についたと当時に扉を開けようとドアノブに手を掛け回す。

鍵がかかっている。

扉を木刀で切り倒す。

「...」

 

杞憂で終わってほしい自分の考えとは裏腹に目の前の現実が非常にも事実を突きつける。

 

 

 

 

 

母様が父を庇い、顔が見えぬように深くフードを被った謎の黒い外套の男の三人の内の一人に切り伏せらせていた。

 

 

扉が壊される音で振り向いた者が二人いた。

 

もう一人は即座に父様を切りつけようとしている。

 

真っ先に、父に襲い掛かり切ろうとしている輩に対して一瞬で間合いを詰め木刀で首を打ち壁に叩き付けた

 

 

人を初めて打ち付ける感触はひどく不快だった。

 

 

 

残りの二人は狼狽し、後ろに後ずさるがすぐさまに武器を持ち直し構えを取った。

 

一人はカウンターを狙うように。

 

もう一人は相手に攻撃の隙を与えないように。

 

だが、他の物が()()()()()()()()()()ヨリイチにとっては何も関係のない事だった。

闘気を纏っているにも関わらず、闘気を感じさせない。

この道理を矛盾したものを体現している事がヨリイチの歪とされている事の一つだった。

故にヨリイチには殺気が一切ない。

 

一人、相手は一つ瞬きをする。

 

その隙に間を詰めて相手の首、手首、腹、足に叩き込んだ。

 

 

 

 

手元に残る感触は不快だった。

 

 

 

 

隣からは明らかにうろたえている一人の姿があった。

が、慌てて剣を自分に向けては振り下ろそうとしていた。

 

相手の剣が上へ構えて一瞬浮いた隙に木刀で顎を、その後に腹、腰、足を順に打ち付けた。

足を払ったことで体を浮かせ、最後に首を打った。

 

 

 

「お…お前…」

 

父が怯えるように声をかけてくる。

父に目線をやり、容態を確認する。

父には怪我は無いようだ。

 

そう即座に判断して、すぐに母の近くの元に寄り、治癒魔術を掛けようとする。

 

すると、母様がそれを拒んだ。

何故?

 

「わたしは…もう…長くは、ありません」

か弱い声でそう言う。

 

そんな事を言わないでほしい

 

「それに…約束…覚えていますか?」

 

家の者の目に触れるところででは無詠唱の魔術は使わない。

きっとその事を言っているのだろう。

こくんと頷く。

 

「そう…いい子ですね…」

 

そう言い、薄く笑いながら頬に触れようとする。

弱々しくなったその手を近づけようと手を取り自分の頬に触れさせる。

その手は冷たかった。

 

「かあさま…守れなくて…ごめんなさい…」

 

自分は無力だった。

 

「ヨリイチ...私のことを母上と...呼んでくださいませんか?」

唐突にそう言った。

 

「...母上...」

 

「はい...」

母は嬉しそうだった。

気に入っている呼び名があったのなら、早く前から呼んであげればよかった。

 

母はそっと手を自分の顔に近づけ私の頬に触れる。

 

母の自分の頬に触れる手が冷たい。

 

母はそっとか細い声で私の名前をよんだ。

 

「ヨリイチ……」

「はい……」

 

「自由に...生きてください」

 

「...はい...」

 

「ヨリイチ...あなたを、いつまでも...愛しています...どうか...元気に...」

 

母はゆっくりと目を閉じた。

満足したように。

 

手が自分の頬から落ちていく。

手はとても冷たかった。

 

「...」

 

この時、ヨリイチの写輪眼の目の紋様は三つ巴から六芒星の形へと変化していた。

 

 

「お、あ?よ、ヨミナ...な、なぜ...私を...」

 

ぼんやりとしていたら父が母上の名前を読んで戸惑いの声を上げる。

 

 

しばらくすると護衛方たちがやってきた。

 

「父様!」

 

「ル、ルーク!」

 

「一体なにが...な!?お前..これは一体どういう事だ!説明しろ!」

 

後ろを振り向くと腹違いの兄がいた。

 

私はその問いには答えず、激高する兄の様子をじっとみていた。

 

兄上の所に刺客は来なかったらしく、怪我という怪我は見当たらなかった。

よかった。

 

何人かのものが父の元へより、様態を確認している。

 

母の亡骸を渡し、自分は元居た場所に戻され、扉を固く閉ざされ、扉越しには見張りがついていた。

 

 

 

その晩、部屋には手紙が残されていた。

父には身体を大切にしてほしい。兄には稽古中に邪魔をしてしまった謝罪。あとは自分の世話をしてくれたメイドへの感謝の言葉と、道中迷惑をかけてしまったことへの謝罪。自分は最初からいない者として扱ってくださいと最後には書かれていた。

 

 

 

その晩、ヨリイチは部屋から忽然と姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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おばあさん

文章力がない自分に挫折して気力を失ってたところ、二期0話を見て少しだけ再燃しました。


家を飛び出した後は、思うままに大地を走り抜けた。

 

このまま星空を追って、どこまで続いているのかが純粋に気になった。

 

 

やがて朝日が昇り、また日が沈み、朝日が三回ほど登ったところで、道端で座っていたような婆さんを見かけた。

 

「どうされましたか?」

 

私はその婆さんに声を掛けた。

 

婆さんは私を一瞥した後に視線を正面に戻し、返事を返した。

 

「なんだい坊や、私が何か困っている様に見えたかい?」

 

顔を縦に振ってこくりと頷く。

 

「はんっ。私も年だねぇ…こんな坊やに心配されるなんてさ。」

 

「気に障ったのなら、申し訳ないことをした。」

 

「いや、別に気分を害しちゃいないさ、安心しな坊や。所でアンタはどこから来たのかい?」

 

来た道を指さしてから正直に答える。

 

 

「ここの道を半日ほど渡り、後は二つ程山を越えました。」

 

 

婆さんは無言で私の顔をじっとみた。

 

 

それから私の身体を触り始めた。

 

 

「あんた……ただものじゃないねぇ……」

 

 

手を離し数秒間の沈黙の後、婆さんはそう答えた。

 

 

 

「いえ、私なんてそう大層な人間ではありません。」

 

 

「アホ言っちゃいけないよ。普通の坊やが山を一つも越えられるかい。最近活発になってきて、魔獣もたくさん居たろうに。」

 

 

確かに、道を行く最中、獣のようなものをたくさん見かけた。

 

 

襲われるようなことがなければ素通りしていたが、いくつかの魔物は攻撃してきたので、仕方なく撃退していた。

 

 

「坊やあんた、剣は握ったことあるかい?」

 

 

「一度だけ握ったことがあります。」

 

 

「剣を握ってどう思った?」

 

 

「剣を握る事にはあまり何も思いません、ですが人を打ち付ける感触は不快でした。」

 

 

「なるほどねぇ……」

 

 

婆さんは再び目を瞑り息を深く吐いた。

 

 

そして、婆さんの全身を覆うローブからちらりと一本の剣が見えた。婆さんはそれに両手で寄りかかっていたのが分かった。

 

 

「あんた、私と少し手合わせするかい?」

 

 

いきなり婆さんはそういい、私に闘気を飛ばして来た。

凄腕の剣士なのだろう。

その闘気は清流のように研ぎ澄まされており、生まれて初めて私は背筋がひやりとした。

しかしその他にも私の目には婆さんの心は穏やかで誠実なのが透き通って見えていた。

だから私は気を取り直して婆さんにこう述べた。

 

「私は剣を握りたくありません。それよりも私は花を摘んだり、凧揚げがしたいです。」

 

私が戦う気がないと意思を伝えると、あきれたような顔をし、再び疲れたような顔に戻った。

 

「ほんとに剣の腕を磨くことに興味がないんだねぇ。残酷な事だ、神様っちゅう奴はこんな坊主に才能を与えちまうとはね。」

 

「私は貴方に言われるような大層な人間ではありません。」

 

婆さんはさらに呆れかえった表情をみせた。

 

「私も長い事生きて色んな人間をみてきたが、あんたみたいな闘気が全く感じられない化物は初めて見たよ」

 

婆さんは結果的に私をそう評していた。

 

ふと、私は婆さんの名前を知らない事に気が付いた。

 

 

婆さんの名前を聴こうと口を開けようとしたが、その前に他方から別の声が聞こえてきた。

 

「お待たせしました、お師匠様……そちらの子供は?」

 

 

綺麗な同い年くらいの少女が横から現れ、私の方を見てそういった。

 

 

「やれやれ、そいつを見て何も感じとれないなら、お前もまだまだだね……」

 

 

「……?」

 

 

「あの…」

 

 

「なんだい坊主」

 

 

「お聞きするのを遅れてしまい申し訳ないですが、貴方の名前を聞いても?」

 

 

「ん?ああ、私はレイダだ。レイダ・リィアさね」

 

 

「私はヨリイチと言います。」

 

 

「ヨリイチか…私の名前を聞いても特段驚かなんだねぇ……あんた、この後の行先は決まっているのかい?」

 

 

「いえ、決まっておりません」

 

 

「なら、私たちと一緒に来るかい?」

 

 

「なっ!?おばあちゃん!急に何を言われるのですか!?」

 

少女の方は驚いて呆気に取られていた。

 

「やれやれ……そうだ、坊やあんた、私に困っている事がないか聞いてきてたね。」

 

「はい。」

 

「丁度この娘も剣を習っていてね。才能のある子だ。」

 

婆さんは横にいる少女を細目で見ながら語る。

 

「お、お婆ちゃん…えへへ……。」

 

女の子は照れている様に笑った。

 

 

「だけど才能があるばかりで、同じくらい強い剣士がいなくて少々天狗になっちまっている所があるんさね。そこでだ坊や、どうかこの子と手合わせしてくれはしないかね」

 

「急になにを言われるのですかお師匠様。相手は手ぶらでただの子供です。まるで闘気も感じられませんし……剣士の様には見えません。」

 

少女は私の方をみてそう言った。

 

私の相手になどまるでなるはずがない、と。

 

「まったくだめさね。さて坊やどうだい。私の願い聞き入れてくれやしないか?」

ヨリイチは少しだけ熟考した後に答えた。

 

 

「……素手でいいのなら。」

 

 

「なッ!?」

 

 

素手で、と聞いた少女は顔を真っ赤になるぐらいに怒った。

 

 

「よし決まりだね。イゾルテ、剣を構えな」

 

 

婆さんは少女に向かってそう言った。

 

 

「お師匠様……くッ!。貴方、怪我しても知りませんよ。」

 

 

睨みつけるように言う。

 

 

少女は剣を構え、私と正面に向かった。

 

 

「それじゃあ、私の投げるコインが地面に落ちたら合図としようかね。」

 

そういって婆さんはコインを弾く準備をして、少女の呼吸が整うまで待った。

 

タイミングを見て、婆さんはコインを弾いた。

 

少女はより精密に構える。

構えからみると、カウンターが得意なのだろうか。

 

コインが地面に落ちた。

 

そう考え、ヨリイチは自ら仕掛けるようにダッシュした。

 

 



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イゾルテ・クルーエル

私の相手になるはずがない。

 

お婆ちゃんに目の前の少年と勝負をしなさいと言われた時、まず第一にそう考えた。

少年には闘気が感じられず、顔を見れば何を考えているかも分からない無表情でどうみても剣士の面構えには見えない。

腑抜けている、と言ったほうがいいだろうか。

 

 

なのに、あの水神であるお婆ちゃんは少年と手合わせしろと言った。

なので目の前にいる少年は只ものではないと考え、もう一度じっくりと観察してみるが結果は第一印象と変わらない。

むしろ、最初よりも戦いなど知らずに育ったひ弱な少年と評価を下に変えた。

 

相手は素手で、こちらは真剣。

 

向こうは戦いなど知らず、相手が女だからと高を括って舐めているのだろう。

馬鹿な考えだ。

 

私はあの水神レイダの孫で、才能を認められた弟子なのだ。

 

血のにじむような稽古を日々毎日して、最近では兄であるタントリスも剣の腕では抜いてしまった。

 

恐らく、私と同い年くらいの子供程度ではもう相手にすらならないだろう。

それぐらいの才能が、私にはある。

 

「さあ始めるよ、構えな。」

 

お婆ちゃんが私に向かってそう言い放ち、コインを用意した。

 

「後で怪我でもして、泣いて喚いても知りませんからね。辞めるなら今のうちですよ。」

 

「…………」

 

少年にそう言うが、これといった反応はない。

 

私はこのコインが落ちた後に、相手をどう負かすかを考える。

 

いくら何でも、もしかしたら剣すら握ったこともないかもしれない少年に本当に大けがをさせる訳にはいかない。

 

真剣で戦うふりをして、鞘か拳で峰内をして気絶させるのが無難か。

技を出すまでもない。

そう考え、私は真剣を抜き、水神流の構えを取った。

 

コインが地面に落ちた。

 

私は身構えて、相手の出方を伺った。

構えすら取っていない少年を視界に鮮明にとらえ、その動きの先を読むように意識を集中させる。

 

少年は私の方へ駆け出した。

動きは遅い。

やはり、私の見立て通りの素人か。

 

そう思い少年が私の間合いに立ち入るまで待ち構えていると、少年は何故かは知りながら深く息を吸った。

 

次の瞬間、少年の姿は捉えていたはずなのに、まるで残像が見える様に姿形がぶれた。

 

気がつけば私は、誰かの手に頭を支えられながら空を何故か見上げていた。

 

 

 

……………え?

 

状況を理解するのに数秒を要した。

 

よく見るとさっきまで構え持っていた剣は横で地面に突き刺さっており、私の手元からなくなっていた。

 

さらによく見ると、私の頭を支えていた者の正体は、さっきまで対峙していた少年だった。

彼は、何でかは分からないけどひどく申し訳なさそうな顔をしている。

 

「あっ……」

 

そこでようやく私は理解した。

私はこの少年にたった今負けたんだ。

 

「そこまでだね。まさか、勝負にすらならないなんてね。私の眼は間違っていなかったって事だ……。まったく、嫌になるよ。」

 

お婆ちゃんはどこか嬉しそうにそう言っていた。



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勧誘

イゾルテという少女と手合わせをしたあと、私は手持無沙汰な様子でぼーっと突っ立ている事しかできなかった。

 

母上には、女性には優しく接しろと教わった手前、試合とはいえ女性に手をだしたことになる。

 

申し訳ない気持ちが、胸の中でぐるぐると回る。

 

「……あの」

 

私に倒されて地面に尻をつけた少女は、私を見上げる形で話しかけてきた。

 

「どうした?」

 

「あなたはどこの流派なのですか?動きを見ても、剣神流ではない……もしかして、あなたは北神流ですか?」

 

先程の手合わせのことだろう。おそらく私がどこかで剣術をならっていたのかどうかを聞いているんだと思った。

 

「いや、私は剣を持ったことは数回程度で、よく兄上の剣術の稽古をみているだけだった………だから、どこかで習っていたというのはない」

 

私は正直にそう伝えた。

 

「なッ……」

 

相手は驚いたような、怒っているような、畏怖しているような、そんな表情をした。

 

「なあ坊や」

 

横から婆さんが片目を閉じて、もう片方の目で私は見ながら、言う。

 

 

「あんた、人を殺した事はあるかい?」

 

 

ほんの少し、殺気のようなものをこの婆さんから感じた。だがしかし、嘘をつくようなきにはなれず、正直に答えた。

 

「あります。」

 

「……そうかい、それで、なにか感想はあるかい?」

 

「人を打つ感触が酷く不快でした。」

 

「……そうかい。じゃあ、剣をもう一度握りたいとは?」

 

「微塵も」

 

私は婆さんが問う質問のすべてに正直に話すと、婆さんは呆れたようなため息をついて最後に聞いた。

 

「……はぁ、こりゃとんだ変人もいたもんだね。……あんた、この先に行く当てがないんだろ?うちらと一緒に来るかい?」 「お、お婆ちゃん!?」

 

婆さんは私に、自分たちと一緒に来るかどうか聞いてきた。

 

横のイゾルテはまたびっくりしたような表情を見せた。

 

表情の変化が豊かな人だなと、思った。

 

「いいのですか?」

 

私はそのまま、私のようなものが一緒についてきてもいいのかとそのまま聞いた。

 

「あぁ、わたしゃあ構わないよ」

 

「お、お婆ちゃん危ないよ、この子引き入れるなんて…」

 

「大丈夫さね。この坊主、馬鹿みたいな力もってるだけの無害みたいなもんさ」

「で、でも人を殺したことがあるって」

 

「あぁ……でも、万が一何かあっても私がいるから大丈夫さね」

 

その、おそらく相当な手練れであろう婆さんはちらと私を見ながらそういった。

 

「で、坊主。あんた結局どうするんだい?」

 

少しだけ逡巡したあと、私は答えた。

 

「行きます。」

 



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