リゼットの肉体で生き返ってしまった少年の話 (もちょ)
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プロローグ 最期に見た記憶

その「何か」は、小さな子どもの僕の体を一瞬で覆いこんだ。

これが僕が「この体」で見た最期に見た光景だ。

一瞬のことでその時の僕は自分が何をされたのか全く分からなかったが、

一体何があの日の夜起こっていたかは分かる。

 

あの日の夜、何やら外で騒ぎがすると思い、僕の両親は飛び起きた。

起きるや否や、なにやら外から悲鳴や叫び声が聞こえてくる。

その声を聴き、すぐさま異常事態だと気付いた両親は、僕を連れ家から逃げ出した。

 

家の扉を開けると、そこは地獄絵図だった。

首のない死体。胴体の欠けた死体。縦に真っ二つになっている死体。それが至る所に転がっていたのだ。

昨日まで普通に話していた近所のおじさんが、

お父さんとお母さんの足元で物言わぬ死体になって転がっている。

よく見ると、おじさんは下半身から下が無くなっていた。

目も背けたくなるような光景が僕らの視界に無理やり入ってくる。

 

「ああ…なんで…どうして…うぷっ」

 

僕のお母さんが、近所のおじさんの死体を見て吐きそうになっている。

その時の僕は、思わず目をそらしてしまっていた。

おじさんの死を、受け入れたくなかったからだ。

 

「見るな母さん!!…今は、今は俺達だけでも逃げることだけを考えよう…!!」

 

 

お父さんは僕を抱きかかえて、お母さんと一緒に走り出す。

お父さんは、ここから一番近い西の関所の方まで走っていこうとしていた。

 

「関所なら武器がある、そこで護身用の武器を取って外に逃げよう」

 

僕らは逃げた。ひたすら逃げた。

決して死なぬまいと、ただひたすら逃げたんだ。

 

「何があったんだ…?魔物か…?魔物がせめて来たのか…?いや、関所にはちゃんと見張りがいるはず…」

 

僕のお父さんは町の関所で働いていた。人一倍耳も目も良かった僕のお父さんは関所に勤めている傭兵の中でもトップの成績を誇っていた。

父さんは関所の傭兵として培ってきた経験で現状の分析を始めていた。

 

「けど…魔物だったらもっと独特の匂いと獣臭さがあるはずだ。なのにその痕跡は全く見当たらない…。」

 

「まさか、これは人為的なものなのか…?…!!」

 

何かに気付いたのか、お父さんの顔色が突然変わった。

そしてお父さんは僕とお母さんに提案を投げかけた。

 

「大通りは危ない、路地裏を使って町の外まで逃げよう。」

 

そして、僕らは路地裏を使って逃げることになった。

三丁目を過ぎて、あともう少しで関所に着きそうになっていた。その時だった。

 

 

「・・・・・ア…・・・ア」

 

僕らの目の前に、その何かは現れた。

ヒトの姿をしているが、ソレからあふれ出る殺気や瘴気はヒトのそれではなかった。

 

「だ、だれ…だれなの…?」

 

「違う母さん!!こいつだ!!こいつが全部やったんだ!!!」

 

お父さんは僕をお母さんに預け、近くに落ちていたレンガを拾い「何か」に投げつけた。

「何か」がつけていたフードが外れ、「何か」の額からポタポタと血が滴り落ちる。

しばらくすると、「何か」から出ていた血が止まった。

 

「う、嘘だろ…?回復してる…?」

 

すると「何か」は、体を広げお父さんとお母さんに覆いかぶさった。

 

お母さんが、僕を守る為にとっさに僕を投げ捨てる。

 

「…逃げろ―――!!!お前だけでも逃げてくれ!!!」

 

「―――ちゃん!!早く!!!」

 

 

そして、僕の両親はその『何か』に食われて死んだ。

 

 

「逃げろ」

 

確かにそう言われた。お父さんとお母さんの最期の言葉。

 

そして僕は、関所に向かって一目散に走り出した。

 

しかし僕の子どもの足の速さがその「何か」から逃げられるはずもなく

「何か」は僕の方へ一瞬で追いついた。

 

そして「何か」は、お父さんとお母さんのように僕の体を飲み込んだ。

僕は必死でもがいた。しかしもがけばもがくほど、僕の体は「何か」に飲み込まれていく。

 

飲み込まれるまでの一瞬、僕はその「何か」と目が合った。

 

「何か」を覆っていた瘴気や黒い靄が晴れる。そして、僕はその何かの顔を間近で見てしまった。

 

「えっ…」

 

 

僕はその「何か」の正体が分かる。分かってしまったんだ。

 

だって、あの「何か」、あれの正体は…

 

リ、リゼ…ット…おねえちゃ…なん…で?

 

 

 

 

 



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