帰ってきたらD×Dだった件 (はんたー)
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第一章 旧校舎のディアボロス
駒王町への帰還


イッセーの究極少し修正しました。
究極にしては少し弱いかな?と思い…。


6.27 修正


sideイッセー

 

「つ、ついに完成したんですか?」

 

「ああ、マイ達の研究の成果だな」

 

俺の名前は兵藤一誠。

見た目は中~高校生くらいのままだが、実年齢は28歳だ。

元々は普通の中学生だったんだが、なんの因果か地球とは違う異世界に迷い込んでしまったここでいう”異世界人“と称される存在である。

エロ本を買いにいっただけの筈がいきなり森の中に迷い込んでいたときはほんと途方にくれたもんだぜ。

2日もの間訳もわからず魔物から逃げ回っていたところをリムルに助けられたのは運が良かったと言わざるを得ない。以来13年ここで暮らしている。

 

『あの時の相棒は混乱しっぱなしだったからな』

 

「それはドライグも同じだろ」

 

そうそう。俺たちを語る上ではドライグも忘れちゃいけねえ。

ドライグは俺の中に眠っていた“神器(セイクリッド・ギア)”と呼ばれる存在の中でも上位に当たる“神滅具(ロンギヌス)”の一つ“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”に封印されてるドラゴンだ。

ドライグは俺が魔物に襲われている最中に目覚め以来俺の相棒として一緒にいる。

ドライグも最初は見たこともない魔物に対し混乱していたが今では慣れたもんだ。

現在、俺たちはジュラの大森林と呼ばれる地域の国、”魔国連邦(テンペスト)“にて客人という立場でずっと在籍していた。

今回、俺は帝国の“NNU魔法科学究明学園”に所属している古城舞衣(マイ・フルキ)が研究・開発をした異世界の門(ディファレントゲート)の術式を使い、ついに元の世界……地球へと帰還しようとしていた。

ただ地球に戻るだけじゃ13年もの月日が流れているので今回はリムルに特別に作ってもらった時間をも越える特別な異世界の門(ディファレントゲート)を使う。

これはリムルのオリジナルでクロエとも協力して作ったらしい。

 

「本当にありがとな。なんかオレだけ特別扱いみたいで悪いけど……」

 

「気にするなよ。お前はそれだけの活躍をしてくれたじゃないか。

これくらい特別扱いしてもバチは当たらねえよ」

 

「……ぶっちゃけそこまで活躍したつもりはないんだけどな……。

帝国との戦争でも天魔大戦でもそこそこしか活躍できなかったし」

 

少なくとも守護王とか他の魔王勢とかと比べるとおこがましいくらいの活躍しかしてない気がする。

 

「何言ってんだよ。天魔大戦では洋服崩壊(ドレスブレイク)で相手の武器防具を破壊し相手に打撃を与えてたし帝国との戦争でもクロエと一緒にジウを倒したじゃないか。

お前のスケベな心から来た技がまさかあれだけの活躍するとかおもってなかったし……」

 

呆れたようにジト目で俺を眺めるリムルに少し苦笑をする。

確かに、俺の洋服崩壊(ドレスブレイク)伝説級(レジェンド)なら確実に破壊できるし使い手が弱かったり武器が成り立てとかなら神話級(ゴッズ)の武具すらも破壊できる。

その力で俺は帝国との戦いで皇帝近衛のジウの防具と服を破壊したり、天魔大戦でも究極能力(アルティメットスキル)武創之王(マルチプルウェポン)“にて作られた防具をも無効化してみせた。

まあ、その後帝国のジウからは会うたびに滅茶苦茶嫌な顔されるようになったけど……。

 

閑話休題

 

「お待たせしたっすイッセー。こっちも準備はできたっスよ」

 

そう言ってトコトコと堕天使のミッテルトが親友のエスプリと共に俺のもとにやって来た。

彼女はえーと……俺の恋人であり、元々はファルムス王国の異世界人だった少女だ。

異世界人唯一の人外であり、ファルムス王国からの立場も最悪そのもの。しかし、魂にかけられた呪いのせいで逆らうこともできず、ファルムスとの戦争時は俺と戦った戦士でもある。

その時俺の洋服崩壊(ドレスブレイク)を自らの権能で高めた呪縛崩壊(カースブレイク)で魂にかけられた枷を外し解放してあげ、その後は俺たちの仲間として魔国連邦(テンペスト)の研究所に所属。

しばらくあって恋人同士の関係になった。

 

「エスプリ。見送りに来てくれて感謝するすよ」

 

「いやいや、私とアンタの仲じゃないですか。向こうでも元気にねミッテルト」

 

挨拶もほどほどにミッテルトは魔方陣の上に乗る。

 

「ミッテルトも大変だよな……。こんな変態とお付き合いするだなんて……」

 

リムルの言葉にうんうんと相槌をうつエスプリ。

それに苦笑をしながらミッテルトは答える。

 

「いえいえ、もう慣れたもんすよ。向こうの世界でも悪魔や堕天使は一夫多妻もあったし気にしてないす」

 

「やだこの子健気!」

 

少し耳の痛い話である。

ミッテルトとお付き合いを始めた後も気を付けてはいる。いるのだが、他の子に目を奪われたり煩悩まみれになったりすることがよくある。

最初の頃は目くじらたててたがいまではこの悟り具合である。

本当にごめんなさい。

 

「でも、寂しくはなるすね……」

 

ミッテルトの一言で辺りがシンとする。

しかし、リムルが一つ爆弾を投下した。

 

「大丈夫大丈夫。この門は指定した場所で固定されるからいつでもこっちに戻れるぞ」

 

「「はぁ!?」」

 

まさかの発言である。

終生の別れを覚悟してたってのによ……。

 

「あれ?言ってなかったっけ?」

 

「「初耳だ(す)よ!!!」」

 

この人はこういう……、何て言うか抜けているところがある。

そういうのは早く言ってほしかったぜ。

 

「スマンスマン。まあでもそういうわけだからさ、こっちに来たい時はいつでも来てくれて構わないぞ」

 

「わかったっす。リムル様。そういうことならまた遊びに来るすよ」

 

「おう」

 

さて、準備はできた。

俺は魔方陣の上にたち、魔力を込める。

すると魔方陣は光輝き、俺たちを包み込む。

そして俺は再びリムルに向かい合う。

 

「「今までお世話になりました。ありがとうございます」」

 

リムルの軽い会釈と同時に俺たちの視界が光でおおわれる。

しばらくたつと、そこはかつての俺の部屋だった。

少し片付いている気もするが多分気のせいだろ。

カーテンを開けると13年ぶりに見る故郷。駒王町の町並みが眼下に広がっていた。

 

「帰ってきたのか……。本当に……」

 

俺たちが感慨にふけてるとドタドタと誰かの足音が聞こえる。

バタンと大きな音と共にドアが開き、そこには少しやつれた両親の姿があった。

こちらからすれば13年ぶりだが、向こうからするとそんなにたってないのにどうしたんだろうと思っていると二人は俺を泣きながら抱きしめ……

 

「一誠お前、1ヶ月もどこへ行ってたんだ?」

 

と爆弾を落とした。

おいリムル。時間間違ってるじゃねえか。

 

「えーと、このお二人がイッセーのご両親すか?」

 

すると二人もミッテルトに気づいたのか少し面食らっている。まあ、いきなり部屋にゴスロリ姿のロリっ子美少女がいたんじゃ困惑するか。

 

「え~と、君は?」

 

恐る恐る父さんがミッテルトに訪ねる。

するとミッテルトは笑顔で

 

「はじめましてイッセーとお付き合いさせてもらってるミッテルトと言います。よろしくっす」

 

その言葉を聞いて二人は一瞬呆け……

 

 

「「ええええええ────!!??」」

 

 

近所迷惑になりそうな絶叫をした。

 

 

*******

 

俺は今まで魔国連邦にいた時のことを詳細に説明した。

俺がある日魔素溜まりから異世界に迷い込んでしまったこと。

自分の時間軸では13年もたっていること。

今の自分が人間ではなく聖人であるということ。

驚いてはいたが、魔法などを実演して見せることで二人ともすんなり信じてくれた。

母さんに至っては老化しない聖人の特性を聞いて羨ましがっているし。

 

「……とまあ、ここまでがおれが魔国連邦で過ごした軌跡だ」

 

「……そうか、大変だったんだな一誠」

 

すると父さんと母さんは互いに頷きながら俺たちに向き合う。

 

「改めて言いましょう。おかえりなさい一誠」

 

母さんと父さんのその言葉を聞いて思わず涙がこぼれる。

魔国連邦での13年も楽しかった。

けど、やっぱり俺のいるべき場所はここなんだな……。

俺は涙を拭き、とびきりの笑顔で二人に答えた。

 

「ただいま!」




兵藤一誠
EP .134万1268(赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)+50万(禁手“赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)”+200万))
種族 聖人
称号 赤龍帝
魔法 炎魔法 気闘法
究極能力(アルティメットスキル) 国津之王(オオクニヌシ)
思考加速、万能感知、森羅万象、英雄覇気、空間支配、時空間操作、洋服崩壊、身魂計測、多重倍加


魔国連邦所属。スケベながらも熱い心をもつ赤龍帝。
究極能力は“国津之王”モチーフは妻の数も多く、ラブコメと思うほどに女運の強い日本神話の神様・大国主。
身魂計測は相手のEPとスリーサイズを正確に図ることができる鑑定解析のような権能。多重倍加はドライグに頼らず自分の力で身体能力、魔力を倍加させる権能。他者の力も倍加でき、その気になれば相手自身の重量を倍加させ圧殺するといったこともできるらしい。ただし、制御が難しく、現状では自分にしかかけることができない。赤龍帝の籠手のように身体に負担がかからないというメリットがあり現在はドライグの倍加をギリギリまで行い、最後の倍加に使用するというスタイルに落ち着いている。(リムル曰く極めればさらに自力倍加もできるらしい)。洋服崩壊は他者の纏っているものを崩壊させる権能で、“洋服、鎧、結界、呪縛”などを破壊できる。(結界はシールドのようなタイプではなく、身体に纏うタイプのみ破壊可能。また、鎧は下位や生まれたてなどなら神話級の鎧も破壊可能)
魔国では研究員として働き、セクハラを繰り返すため悪い意味で有名となっている。
職員曰く「いいやつだけどあの変態ぶりどうにかならないかな」とのこと。
帝国との戦争時、ジウと戦い聖人へと進化し、天魔大戦の最中、ユニークスキル熱血者(アツキモノ)欲情者(ヨクヲモツモノ)が統合され究極能力に進化する。


ミッテルト
EP 47万6843(堕天刀(フォールン)+35万)
種族 堕天使
称号 思慕の堕天使
魔法 神聖魔法
ユニークスキル 思慕者(オモウモノ)
思考加速、魔力感知、思慕の力
ユニークスキル 見栄者(カザルモノ)
身体装甲、気闘法、虚栄の心

魔国連邦所属。イッセーの恋人で元々はファルムスの召還者。
ファルムスでは異世界人唯一の人外ということもあり虐げられ、いいようにされていた。
見栄者は自分の心を殺し、見栄をはることで自らの戦闘力をあげるスキルでミッテルトが最初に手に入れたユニークスキル。
その後イッセーに救われ恋をすることで二つ目のユニークスキル思慕者を手に入れる。こちらは思い人を思うほどに強くなるスキル。上げた力を思い人に付与することもできる支援型でもある。
見栄者も現在は完璧に支配下に置いてあり、自分の心を殺さずとも戦闘力をあげられるようになる。
魔国ではディーノの助手としてサポートしていた。
エスプリとは何かと馬が合い、よく一緒に訓練なんかもしていた。武器はクロベエ作の伝説級(レジェンド)の刀“堕天刀”
なお、今作では幼い内に召還された影響でレイナーレとの面識はない。



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命狙われます

連載することにしました。


sideイッセー

 

「ゼエ、ゼエ、ま、待ってくれよ……イッセー」

 

「ハア、ハア、お、置いて……いかないで……」

 

駒王町に帰ってきてからおよそ2年の月日が流れた。

つまり外見はともかく精神年齢は……いや、考えるのはよそう。

それはともかく俺はこの2年で中学を卒業し、今は駒王学園の2年生として平和な学園生活を満喫していた。

 

「こらー!!待ちなさい!!」

 

「ま、待つわけないだろ!」

 

「こっちだ!元浜、松田!」

 

ちなみに現在逃走中。

友達の元浜、松田と共に朝練中の剣道部の女子更衣室の覗きを行っていたのだが、それがバレてしまいこうやって追いかけられている。

ぶっちゃけ俺だけなら逃げ切るのは容易いが友達である二人のためにもペースを落としながらはしらなければならない。

まあそれでも最終的に生き残るのはほとんど俺だけなんだが。

 

「ゼェ……ハア……、こら兵藤!彼女持ちの癖に恥ずかしくないの!?」

 

「ハア、ハア……。くそ!兵藤の奴本当に速いわね!」

 

「ゼェ……。全然追い付ける気がしない」

 

とうとう元浜と松田は捕まってしまい後は俺だけという状況になっても俺は捕まらない。

聖人に進化している俺はこの程度じゃ息切れなどしないし疲れもしないのだ。

 

だが、なんだろう……。罵倒をしながらも疲れている筈なのに追いかけてくる運動部の女子達からはどこか余裕めいた何かを感じる。

なにかたくらんでいぶ!??

 

「おりゃ──!!」

 

「ぐぇ!?」

 

曲がり角を曲がろうとした刹那、俺の脇腹に鋭い蹴りが入る。

痛え!!

この学園にて俺にダメージを与えられるような存在なんて一人しかいない。

そう、俺の脇腹を蹴飛ばしたのは俺の彼女であり堕天使……。進化する前の旧魔王に匹敵する強さを持ち、現在駒王学園1年生のミッテルトだった。

 

「今だー!!やれ────!!」

 

倒れ伏す俺に向かって竹刀を叩きつける女子達。痛みやダメージはぶっちゃけほとんどないけど、ちょっ、精神的に……。

 

『自業自得だ相棒』

 

そんなドライグの無慈悲な言葉が俺の脳内に響き渡った。

 

 

 

 

*******

 

ミッテルトside

 

全く、この人は……。うちという可愛い彼女がいるというのになぜこうも残念な行動をするのやら……。

まあ、こういう人だってわかっていながら付き合っているうちも相当な変わり者っすけど……。

 

「ありがとうミッテルトちゃん」

 

「いえいえ。彼氏の暴走を止めるのも彼女の勤めっすから」

 

「……本当に信じられないわよね。ミッテルトちゃんが兵藤なんかと付き合ってるだなんて……」

 

軽蔑したような目でイッセーを見下ろす先輩方。

まあ、自業自得っちゃそうなんすけど……。

 

「ねえ。ミッテルトちゃん、何か兵藤に弱みを握られてるなんてことない?」

 

「もしそうなら相談乗るよ」

 

これも本心から心配してくれている言葉だってのもわかる。でも、流石に聞き逃せないすね。

 

「うちはイッセーのことが大好きっす。そりゃ、スケベだしだらしないしで駄目なところなんていっぱいあるっすけど、それと同じくらいカッコいいところもあるんっす!

だから、そういう風にいうのはやめてもらえますか?」

 

「…………そう、ごめんね。ミッテルトちゃん」

 

すると先輩方は少し釈然としないながらも一応納得はしてくれたようだ。

まあ、普段がこれだからイッセーのカッコよさに気づけないのも無理はないっすけど……。

 

 

「大丈夫すか?イッセー?」

 

「…………」

 

返事がないただの屍のようだ。

うちは少し赤くなっているイッセーを引きずってその場を後にした。

 

 

*******

イッセーside

 

 

あれは反則だろ……。なんか急にカッコいいだの言われると結構グッとくるな……。

 

「ん?」

 

取り敢えず早く教室に向かおうとすると、校庭からなにやら騒がしい声が響いてきた。

 

「キャー!オカルト研究部のお姉さま方よ!」

 

「グレモリー先輩相変わらず凛々しい」

 

「姫島先輩も大和撫子って感じがしてステキ♡」

 

「木場くんカッコいいー!」

 

「塔城さんも小さくて可愛い!」

 

「お近づきになりたいわー♡」

 

あ、オカルト研究部の人達だ。

相変わらず美人揃いだよな~。

ドライグ曰く彼女達は人間ではなく悪魔と呼ばれる種族らしい。

悪魔といっても悪魔族(デーモン)とは違い、精神生命体というわけではなく人間と同じように物質体(マテリアルボディ)にとらわれているらしい。

上手く誤魔化してるつもりだろうが、俺からすれば妖気の制御が甘い。ミッテルトは完璧に妖気(オーラ)を支配下に置いてるからほぼ人間にしか見えないけど、この人達は一目で人間じゃないとわかる。

まあ、向こうからは俺が悪魔だと気づいてることに気付いてないだろうけど……。

 

「確かにお近づきになりたいな……」

 

『やめとけ。ドラゴンは力を引き寄せる……。面倒事が避けられなくなるぞ』

 

おっと、いかんいかん。

確かに美人美女の集まりであるオカルト研究部には一度行ってみたくはあるが、俺の力はこの世界基準じゃかなり強い部類にあるらしい。

面倒事は勘弁だし、ドライグやミッテルトにも相談したが、向こうから近づいてこない限りはこっちも干渉しない方がいいということに落ち着いている。

 

『一応聞くが気付いているか?相棒』

 

「気付いているよ」

 

実は俺たちは朝から誰かに監視されている。

悪魔ではなさそうだ。グレモリー先輩達とは気配が異なる。感覚としてはミッテルトに近い。

俺の力は一般人並みに押さえている筈。感知されるとしたら多分ドライグだな。

なんかミッテルトに聞いたことあるけど、堕天使には神器(セイクリッド・ギア)を感知できる方法があるらしい。

この世界には三大勢力と呼ばれる三つの強力な勢力があるらしいが、その中でも神器(セイクリッド・ギア)についてもっとも研究が進んでいるのが堕天使アザゼルの率いる“神の子を見張る者(グリゴリ)”なんだと。

多分何らかのアプローチがある。

警戒しないとな。

 

 

 

 

*******

 

「私、天野夕麻って言います!突然ですけど、貴方が好きです!!私と、付き合って下さい!」

 

あ、ありのままに起こったことを話すぜ。

今から下校しようとしていたら見知らぬ女の子に公園に呼ばれて告白された。

な、なにを言ってるか(以下略)

いや~、まさか告白をされるとはな……。

いや、でも俺にはミッテルトが……、待てよ、以前あいつ悪魔や堕天使とかの種族はハーレム作ったり一夫多妻やったりしてるとか言ってたよな。じゃあ大丈夫なのか……?

魔国連邦(テンペスト)“でもベニマルさんがアルビスさんとモミジちゃんを嫁にしてたし大丈夫かもしれない。

 

『大丈夫な訳ないだろ。この女相棒を殺そうとしてるぞ』

 

わかっとるわんなこと!!

そう、この女の子堕天使だ。しかも多分俺を殺すつもりなんだろうな。

演技は上手だが、殺気や嫌悪が隠れてないし妖気(オーラ)の制御も甘い。

……でもな、かなりの美人さんなんだよな……。おっぱいもでかいし、可愛いし……。

もしかしたら本気で俺に告白したのかもという考えも頭から外れない……。絶対違うけど。

ハアー、残念だけど断るしかないよな~。

 

「本当に……、ほんと──うに嬉しいお誘いなんだけど、今回は遠慮するよ」

 

「え?ど、どうしてですか?」

 

どうやら断られるとは思ってなかったらしく狼狽している。

 

「だって……、そんな殺気だちながら告白されても素直に頷ける訳ないだろ……」

 

いくらなんやかんやでお人好しと定評のある俺でもここまであからさまな殺気を放たれたりすりゃ引っ掛からねえ。

まあ、出きれば引っ掛かりたいんだけど……。

その言葉を聞くと同時に夕麻ちゃんから表情がスンと抜け落ちる。

 

「そう……、気付いていたの?」

 

「ああ、監視されている段階からな。堕天使さん」

 

「あら、私たちのこと知っているのね。そう、私は堕天使のレイナーレ。貴方達人間よりもはるかに高次の存在よ」

 

高次とか言われても知らんがな。ぶっちゃけ堕天使よりも高次元の存在とか腐るほど見てきたし、なんなら恋人もれなく堕天使だし。

夕麻ちゃん改めレイナーレは光の槍を手に握り、俺に向けて構える。

 

「貴方には悪いけど、上の方々が貴方の持つ神器が危険と判断したの。ここで死んでもらうわ」

 

そう宣言するや否や、レイナーレは俺に向かって光の槍を投げた。

俺は自分に向かって飛んでくる槍を取り敢えずキャッチする。

俺の思考加速はおよそ100万倍、正直言ってスローモーション映像にしか見えないため容易く掴むことができるわけだ。

すると、レイナーレはそれが予想外だったのかひどく動揺し始める。

 

「ば、バカな!?どうやって私の槍を見切った!?」

 

「どうやって……って言われても普通にとしか答えられねえよ。

正直言ってそこまで速くもなかったしな……」

 

「あ、ありえん!?人間ごときが!?」

 

どうも納得ができないようで俺の事を罵るレイナーレ。

別にできる人たくさんいると思うぞ。ヒナタさんや、今は亡きグランベルやらルドラとかにとっては欠伸がでるくらい簡単なことだろう。

まあ、この世界では聖人にまで至った人間はドライグ曰くいないらしいし強い人間とあったことがないんじゃ仕方ないかもしれない。

 

「人間も案外バカにできたもんじゃないってことだよ」

 

そう言いながら俺は掴んだ槍を握りつぶす。

すると怒ったレイナーレが光の槍を2本出し、俺に向かって投げようとする。

俺から見れば隙だらけなので、このまま間合いを詰めて気絶させようとすると、空から覚えのある妖気(オーラ)が降ってきた。

 

「なーに、やってるんすかぁ──!!!」

 

コンクリートの地面を粉々に粉砕しながら降ってきたのは一対の黒い羽を靡かせ、レイナーレを睨むミッテルトだった。

 

 

 

*******

ミッテルトside

 

イッセーの帰りがいつもより遅いことに少し不思議に思ったうちはご両親に断りをいれてイッセーを探しに行った。

すると、イッセーの気配とうちとは違う別の堕天使の気配を感じ、うちは急いで急行することにした。

イッセーならまあ大丈夫だろうすけど、それでも心配なものは心配なんすよ。

 

「あんた……。一体なんなんすか?」

 

うちは少しドスの利いた声で目の前の堕天使に訪ねる。

 

「堕天使……?あなた、一体何者!?」

 

「ども、うちはミッテルト。そこにいるイッセーの恋人っすよ」

 

その言葉を聞いた堕天使のおばさんは信じられないといった表情を浮かべるもすぐに気を取り直してうちに手をさしのべ笑みを浮かべる。

 

「まさか神の子を見張る者(グリゴリ)に所属していないはぐれの堕天使が現れるなんてね。

でも、ちょうどいいわ。ミッテルトとか言ったかしら、貴女もそこの貧相な人間なんてほっといて私と共に来ない?

人間ごときが至高の存在たる堕天使と肩を並べるなんて不遜だと思うでしょ?どうかしら?」

 

至高?いやいや、堕天使も確かにこの世界では上位の存在ではあるでしょう。でも、本物には通用しない。

貧相?イッセーはむしろたくましい方だと思うっすけどね……。見る目の無い女だこと。

 

「お断りっすよ。うちはイッセーを心から愛してるっす。あんたみたいなアバズレのところなんかこっちから願い下げっすよ」

 

ピキリと青筋を立てながら固まる堕天使のおばさん。

どうやら断られるとは思ってなかったようっすね。

自意識過剰というか何て言うか、お粗末な人っすね。

 

「……そう。ならば貴女も死になさい」

 

槍を携えたお姉さんを見てうちとイッセーは再び構える。

すると、何者かの気配がこちらに近づいてきた。

それに気付いたのかおばさんは舌打ちをしながら肩を震わせる。

 

「ッチ、どうやら気付かれたようね。仕方がない、今日は見逃して上げる。でも、貴方達二人は必ずこのレイナーレ様が殺してあげるわ。至高の存在である堕天使に歯向かったこと、骨の髄まで後悔させてあげる」

 

堕天使……レイナーレはそう捨て台詞を残して何処かへ消えてしまった。

 

「私たちもここから離れた方がいいっすね」

 

「そうだな……」

 

そう言い私たちはその場を後にする。

落とし物にも気付かないまま。

 

 

 

*******

 

リアスside

 

私の名前はリアス・グレモリー。

この駒王町を治める上級悪魔、元72柱グレモリー家の次期当主よ。

私は堕天使の気配を感じたため女王である朱乃を連れて反応があった場所へとやってきた。

堕天使は私たち悪魔と対立関係にあるため、その堕天使に私の領域で好き勝手にさせるわけにはいかない。

そこで次期当主として私自らがこの場に出向くことにしたわけ。

気配を感じた駒王学園からそれほど遠くない公園にて私たちは砕けたコンクリートの地面と明らかに戦闘のあとと思われる跡地を見る。

 

「凄まじいですわね」

 

どれほどの衝撃があればこんな風に砕け散るのやら……。

もしかしたら小猫にも匹敵するほどのパワーかもしれないわね。

 

「あら?」

 

そこで私はふと地面に落ちているカバンと生徒手帳に目を向ける。

 

「兵藤一誠……、ミッテルト……」

 

カバンは駒王学園2年生の兵藤一誠のもの……。生徒手帳は1年生のミッテルトの物だった。

 

「なにか関係あるのかもしれないわね……」

 

もしかしたらその二人が堕天使と戦った?

さすがに考えすぎかしら?

それほどの力を持っているのなら是非とも我が眷属に誘いたいわね。

とにかく、明日にでも部室に来てもらったほうがいいわ。

そう思考をしながら取り敢えず私達はカバンを背負って部室に戻ることにした。




ミッテルトの翼の数は現在12枚です。
しかし、実力を隠す意味合いで一対、つまり2枚しか出していません。
なお、この作品では

グレートレッド、オーフィス=EP二千万越え
サーゼクス(真の姿)=EP250~300万程
サーゼクス=EP100万以上、覚醒魔王級
アザゼル、ミカエル、セラフォルー=EP50万以上、魔王種級

くらいの感覚にしています。
批判は認めます。
多分e×eの邪神くらいで竜種級じゃないかな…。


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悪魔と邂逅します

イッセーside

 

うう、どうしよう。カバンを落とした。

多分昨日レイナーレと戦ったときだ。そういえばあの時邪魔にならないようカバンを置いた記憶がある。

今日一で公園見に行ったけどなにもなかった。

強いて言うなら立ち入り禁止のテープが貼ってあったくらいか。ミッテルトが派手にぶち壊したからな~。

交番は開いてる時間ではなかったので今日はカバンを持たずに学校に行った。放課後聞いてみるか……。

 

ガラガラ

ん?なんだ?

カバンについて考えていると教室のドアが開く。

 

「お取り込み中失礼。兵藤一誠くんはいるかな?」

 

出たなイケメン悪魔。

学校内でもモテにモテまくっている金髪イケメン・木場祐斗が俺の前に現れた。

 

「俺がイッセーだ。何の用だ木場」

 

元浜と松田が敵意剥き出しの目で木場を睨むなか、俺は努めて冷静に対処することにした。

まあ、見た目はともかく精神年齢は大人だしこの程度のことじゃ怒らないのである。ベニマルさんやソウエイさんはそれ以上にモテてたし……。

まあ、それはそれとしてめっちゃムカつくが。

 

「リアス先輩が君に用があるらしいんだ。なんでもカバンを拾ったとか」

 

おうマジか。

そういえばレイナーレが逃げたあと、誰かが近づいてくる気配がしたから俺たちも逃げたんだがもしかしてそれがグレモリー先輩だったのかも。

俺はカバンを返してもらうため、オカルト研究部に行くことにした。

 

なお、オカルト研究部に向かう道中木場×兵藤だのなんだの不吉な言葉が聞こえたことは割愛しておこう。

考えるだけで寒気がするわ!

 

しばらく歩くと俺たちは駒王学園の旧校舎にやってきた。

 

「へー。オカルト研究部って旧校舎にあるんだ」

 

「うん、そうだよ。こっちに着いてきて」

 

老朽化の進んでいるのか歩くとギシギシと音がする廊下を進み、俺たちはオカルト研究部と書いてある部屋の前まで来た。

 

「部長連れてきました」

 

「入ってちょうだい」

 

お、グレモリー先輩の声だ。

なんやかんやでここに来るのは楽しみにしてたんだよな……。

グレモリー先輩に姫島先輩、一年生の小猫ちゃんなど綺麗所の集まっている部活として有名だからなオカルト研究部は……。

よし、ここはキリッと気を引き締めて中に入ろう。

そう思い戸を開けると……

 

「あ、イッセーも呼ばれたんすね」

 

何故かミッテルトが中に入っていた……ってはぁ!?

 

 

*******

 

「で、なんでミッテルトまでここにいるんだ?」

 

「いや──、どうやらあの場でうちも生徒手帳を落としてたみたいで……」

 

少し動転したが気を取り直して質問するとミッテルトもあの場で落とし物をしたらしい。まあ、あんだけ派手に着地してれば何かしら落としても不思議ではないか。

 

「しかし改めて見ると……」

 

結構陰湿な部屋だな。床や黒板になぞの魔法陣、至るところに飾られたろうそく。

なるほどオカルト研究部なだけのことはある。

見た感じ転移型の魔法陣が多そうだけど、見たことない術式なんかもあるな。

ん、あれは……駒王学園のマスコット、塔城小猫ちゃんか。

ちっこくて可愛いな。

 

「ども、こんにちは」

 

こういうのは最初が肝心。俺は明るく挨拶をする。

 

「どうも……」

 

すると小猫ちゃんは取られるとでも思ったのか食べていた羊羮を隠すような動作を取る。

取らないよ……。

 

シャワ────

 

ん?シャワーの音?

音の方を除くとそこには何故かバスタブが置いてある。

部室に何故バスタブが……って!!??

あのシルエット……間違いない!

どうやら二大お姉さまの一人であるグレモリー先輩が入浴中のようだ。

つまり、あの布の向こう側にはグレモリー先輩の美しいであろうおっぱいが……。

 

「イッセー?」

 

うっ!?

いえ、なんでもありません。ミッテルトの一睨みで俺は邪な考えを捨てる。

何でだろう。強さは俺のが上なのに全然勝てる気がしねえ……。

 

「……いやらしい顔」

 

ぐふっ!?

小猫ちゃんの何気ない一言で俺の心が折れかける。

聖人に覚醒し、精神生命体に至った俺の心に傷を付けるとは流石は悪魔だ。やるじゃないか。

 

『相棒の自業自得に見えたがな……』

 

言うなドライグよ。

それにしても……。

 

「?なんですか?」

 

「いや、なんでも……」

 

小猫ちゃんって誰かに似てるんだよな……。

まあ、多分気のせいだろう。

知り合いにロリっ子体型の人もいたからそう思ったのかな?

そうこうしているうちに風呂から上がり、着替えも終えたグレモリー先輩が俺に向かい合う形で椅子に座る。

 

「待たせたわね」

 

「いえいえ、お構い無く」

 

こういう時は向こうの事情を尊重する方がいい。

姫島先輩の淹れてくれたお茶を飲みながら俺はそう答えた。

 

「さて、全員揃ったわね。

オカルト研究部はあなた達を歓迎するわ」

 

そう言いながらグレモリー先輩もまた席に着く。

そして俺のカバンとミッテルトの生徒手帳をテーブルの上に置いた。

よかった。本当にあった。

 

「これ、あなた達のものでしょ?」

 

「そうです。ありがとうございます」

 

「あっざーす。先輩方」

 

俺は早速カバンを手にかけようとするとグレモリー先輩に遮られる。

何やら疑念のこもった目で俺たちを見ている。

 

「返す前に、一つ聞きたいの……。

昨日公園で堕天使と戦ったのはあなた達で間違いないかしら?」

 

やっぱりそれが目的か……。

そもそもミッテルトが派手に落下したせいであれだけ大きな破壊跡が残っちまったわけだしそこに俺たちの持ち物があるとなれば行き着くのは簡単だろう。

すなわち俺たちが堕天使を撃退したという事実に……。

ミッテルトのことをジト目で見つめると彼女もまた気まずそうに視線を反らした。

まあ、ここは角がたたないように正直に言うか。

 

「ええ、確かに昨日の堕天使は俺とミッテルトが撃退しました。でも、それとグレモリー先輩にどんな関係があるんですか?」

 

するとグレモリー先輩は誇らしげに漆黒の羽を背から出す。

 

「まずは私達のことを言っておく必要があるわね。実は私達は全員悪魔なのよ」

 

「あ、はい」

 

「あら?驚くと思っていたのに……」

 

「まあ、最初から知ってましたし……」

 

俺からすれば既に知っていることだし軽く流す。

驚くと思っていたのかグレモリー先輩は少し不満げだ。

 

「私たちのことを知ってるってことは、裏と関わりがあるのかしら?」

 

「関わりとかはあまりないですけど、俺の神器(セイクリッド・ギア)に封じられてるドラゴンとミッテルトがある程度なら教えてくれたので……」

 

「!あなた、神器(セイクリッド・ギア)を持っているの?それに、封じられたドラゴンってどういうこと!?」

 

俺の言葉に対し、訝しげな表情で訪ねる。

別にいいかな?ドライグ?

 

『俺に聞くな。お前が決めろ』

 

ドライグからすればどちらでもいいっぽいな……。ドライグの許可ももらったことだしまあいいか。

俺は腕に“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”を出す。

 

「これが俺の神器(セイクリッド・ギア)、“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”です」

 

「“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”!?神をも滅する“神滅具(ロンギヌス)”の一つ……。

こんな近くに所有者がいたなんて……」

 

なんか思った以上に驚いているな。

神器(セイクリッド・ギア)を持っていることがそこまで驚くことなのか?

 

『相棒は俺以外の神器(セイクリッド・ギア)を見たことないからわからないかもしれないが、“神滅具(ロンギヌス)”というのは本来この世界に13しか存在しない、極めれば神や魔王すらも倒せるといわれる最上位の神器(セイクリッド・ギア)なんだぞ』

 

神や魔王すらも倒せる?

いや、それは……どうだろう……?この世界の神や魔王は知らないけど、あっちの世界では八星魔王(オクタグラム)には及ばないだろう。ドライグも確かに他の神話級(ゴッズ)の武器と比べても遜色ないどころか大抵の武器を上回ってさえいる。

力を倍加する力に譲渡する力、“赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)”やリムルやヴェルドラ師匠の助けと俺自身究極に目覚め、精神的に強くなり、歴代の赤龍帝とも和解したことでなんとか使えるようになった新たなる覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の形態だってある。

鎧となったり譲渡したりやらは他の神話級(ゴッズ)の武器にもない性能だし、事実ギィさんもドライグのことを認め、わざわざ覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の新たな形態にギィさん自らが()()してくれたくらいだもの。

でも、存在値という点でいえばギィさんの“世界(ワルド)やミリムさんの“天魔(アスラ)”。マサユキ……ていうかルドラの“地神(デーヴァ)”なんかの方がドライグよりもでかかったし……。“ヴェルドラソード”なんか絶対に勝てないと思う。

ましてや、魔王勢に勝てるかといわれると微妙といわざるを得ない。

進化した覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使えばルミナスさんやレオンさんならばそこそこはいい勝負できるとは思うけど、天魔大戦を経てあの二人もパワーアップしてるようだったし、勝てるとは言い切れない。そもそもあの形態負担がでかすぎて今の俺じゃもって数分しか持続できないし。

それじゃあ魔王……ましてや、リムル、ミリムさん、ギィさんには絶対に勝てないと断言しよう。

武器性能だけで勝てるほど魔王は甘くないのである。

 

『いや、事実だが言い方というのがあるだろう……。結構傷つくぞ……』

 

悪い悪い。まあでも、あくまで数値の上の比較をしただけでドライグは俺にとって最高の相棒なんだから、あんま気にするなって。

 

「?どうしたの?」

 

「あ、なんでもありません」

 

おっといけない話がそれた。

 

「まあいいわ。それで次はミッテルトさんね。あなたも神器(セイクリッド・ギア)を持っているのかしら」

 

グレモリー先輩の言葉にオカルト研究部の視線がミッテルトの方へ向く。

ミッテルトは少し気まずそうな表情をしながら頬をかく。

 

「あー、えーと、この状況のなかひじょーに言いにくいんすけど……」

 

俺が話したのを見てミッテルトも正直に話した方がいいと思ったのか、黒い鳥のような羽を二枚出し、気まずそうに呟く。

 

「実は……うち堕天使なんすよね……」

 

「な!!?」

 

そのミッテルトの言葉を聞いたグレモリー先輩達は全員臨戦態勢に入り、ミッテルトに向かい合う。

正直言ってミッテルトからすれば物の数ではないのだが、念のため俺も彼女を守るように立ちふさがる。

 

「あ、いやまあ警戒するのも仕方ないっすけど、うちは昨日の堕天使とは本当に無関係っす。そもそもうちは神の子を見張る者(グリゴリ)に所属してない、言うなればはぐれの堕天使なんで……」

 

「はぐれの堕天使……?それを信じろっていうの?そもそも、貴女は何が目的でこの学園に入学したの?」

 

グレモリー先輩はミッテルトのことを訝しげに見つめる。相当警戒しているようだ。

堕天使と悪魔は敵同士らしいし警戒するのは当然かもしれないけど。

 

「はい。うちはイッセーの恋人としてこの学校に入学したんす。

強いて言うならばイッセーと一緒にいることが目的すかね。

もしイッセーを傷つけるというのなら、悪魔だろうが同族だろうが、うちは容赦しないっすよ」

 

ミッテルトはあくまで自分は俺の味方であるということをつげ、堕天使陣営とは関係ないことをアピールする。

しばらく視線が交錯するが、それを聞いてグレモリー先輩も信じたのか警戒を解く。

 

「そう。わかったわ。信じてあげる」

 

「あっざーす」

 

グレモリー先輩の言葉にミッテルトは笑顔で答える。

なるほど、この人たち結構信用できそうだな……。

 

「さてと、では本題といきましょう」

 

本題?堕天使の件だけじゃないのか?

 

「あなた良かったら私の眷属になってみないかしら?」

 

眷属?

俺とミッテルトは顔を見合わせる。

ドライグからもそんな話しは聞いたことないんだが……。

 

「?貴女堕天使なのに眷属悪魔を知らないの?」

 

「アハハ……。お恥ずかしながら……」

 

まあ、ミッテルトがファルムスに召喚されたのは本当に小さいときだったらしいしこの世界の事情に詳しくないのは仕方ないかもしれない。

グレモリー先輩はため息をつきつつも説明をしてくれた。

 

 

「眷属になるというのはこのチェスの駒……、“悪魔の駒(イーヴィルピース)”を使って悪魔に転生することよ。私の下僕としてね」

 

曰く、悪魔は出生率が低く純粋な悪魔は絶滅寸前なのだそう。そんな問題を解決するために作られたのが他種族を悪魔に転生させる“悪魔の駒(イーヴィルピース)”なのだと……。

この中で純粋な悪魔はグレモリー先輩だけで他の皆は転生悪魔に分類されるらしい。

 

「どうかしら?」

 

「うーん……」

 

正直言ってメリットが少ないように思える……。

悪魔になれば一万年の寿命を持ち、全世界の言語を理解できるようになると言われたけど、聖人に覚醒している俺は殺されなければほぼ不死みたいなものだし、言語も魔法で普通に理解できる。

デメリットの方がでかい気がするぞ……。日光を含む光、聖書、聖水、十字架などの聖なるモノが弱点となり、神社や教会に行くだけで頭痛がするようになるらしい。

弱点が増えるとそれだけ戦闘面が不利になる。

それを知ってるがゆえにこの誘いにはあまりそそられない。

 

「……ごめんなさい。今はまだ人間のままでいることにします」

 

「……貴女は?ミッテルトさん?」

 

「イッセーがなるって言うならなってもいいすけど……、ならないって言ってることですし、うちも遠慮しておくっす」

 

「……そう、わかった。残念だけど諦めるわ」

 

すんなり引いてくれたな……。もう少し粘るかな?と思ったんだけど……。

 

「あまり守られてはないけど一応悪魔内では無理矢理転生させたりするのは禁じられているし、人生がかかった決断だもの。断られても仕方ないと思うわ」

 

その言葉を聞いて俺はグレモリー先輩への信用を強めた。

無理矢理迫るのではなくこちらの都合もきちんと考えてくれるし話も通じる。

なんていうか、同じ悪魔でもディアブロさんとは大違いだな……。

気付くと現在時刻は7時を過ぎている。

さて、そろそろ時間も遅いし帰るかな……。

 

「ありがとうございます。じゃあ、俺達はこれで……」

 

「あ、ちょっと待って兵藤くん、ミッテルトさんも……」

 

ん?立ち上がろうとする俺とミッテルトをグレモリー先輩が制す。まだ何か話があるんだろうか……?

 

「あなた達、よかったらオカルト研究部に入部してみない?悪魔とかそういう事情抜きにして……」

 

な、なんだって!?

それはぶっちゃけそそられるな……!

二大お姉さまと呼ばれ、豊満なおっぱいを持つグレモリー先輩と姫島先輩、小さくて可愛い学園のマスコット、小猫ちゃん。美人美女の集まりであるオカルト研究部はお近づきになりたかったぐらいだし、入れるとなるとめちゃくちゃ嬉しいな……。

 

「イッセー……。いやらしいこと考えてるでしょ……」

 

くっ、相変わらず鋭いなミッテルト。

だが、止められようとこの誘いは断るわけにはいかない!

 

「別に止めないっすよ……。イッセーがそういう男だってうちは知ってるし……」

 

な!?心を読まれた!?

ミッテルトのやつ、思考読破系のスキル持ってたっけ?

 

「イッセーはどうやら入りたいようっすし、うちも入らせてもらうっす」

 

「あら、ほんとう?」

 

ミッテルトに先に言われてしまったが、ここはやっぱり俺自身の口で言わないと……。

 

「はい。よろしくお願いします。グレモリー先輩!」

 

「リアスでいいわよ。部内では部長と呼んでね。

あ、そうそう。私も貴方のこと、イッセーって呼んでいいかしら?」

 

「はい!もちろん!」

 

「フフ、よろしくね。イッセー」

 

こうして俺はオカルト研究部に入部することになった。

余談だが、オカルト研究部に入部してウキウキ気分で帰ると連絡もせず遅くなったことを親に怒られ、俺は一日を終えたのだった……。




ドライグの存在値は封印される前の全盛期で約300~500万くらいの感覚にしてます。


神祖の使っていた神祖の血槍(オリジンブラッド)が存在値1000万だからヴェルダナーヴァにもらった“天魔(アスラ)”、“地神(デーヴァ)”、“虚空(アーク)”は1000万超えてそう。“世界(ワルド)も多分ヴェルダナーヴァ産でしょう。


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聖女と出会います

イッセーside

 

オカルト研究部に入部してから早一週間が経過した。

悪魔の仕事である契約などはできないが、それ以外の普通にオカルト研究部らしい活動をしているのだが、それが案外楽しいんだよな。

この世界にも向こうみたいな魔物てき存在がいて、そういうのを調べたりするんだが、元々魔国連邦(テンペスト)でも研究者として働いてたわけで苦にもならない。

……向こうでは時折ラミリスさんやヴェルドラ師匠の無茶苦茶な思い付きに巻き込まれたりで大変だったしなぁ。

 

「イッセー、ミッテルト。少しお願いがあるんだけどいいかしら?」

 

「「はい?」」

 

部長からのお願い?なんだろう?

 

「悪いんだけど、このチラシ配るの手伝ってもらえないかしら?ちょっと多めに作りすぎちゃって……」

 

そういって渡されたのは大量のチラシだった。

内容は悪魔の契約に関するもので、転移型の魔法陣が書いてある。

なんでも、昔ならともかく魔術などの廃れた現在では悪魔召喚のための魔法陣を書くことができる人がほぼいないため、この簡易型の魔法陣を配っているんだとか。

 

「もちろん。お安いご用ですよ」

 

「まあ、別にいいっすよ」

 

「ありがとう。今日は日照りが強くてあまり外に出たくなかったから」

 

引きこもりみたいなこと言ってらぁ。

まあ、悪魔は陽光苦手らしいし最近確かに日照り続き……。

仕方ないっちゃ仕方ないか……。

 

 

*******

 

「ふう、だいぶ配ったかな?」

 

山盛りあったチラシの山もかなり少なくなってきた。

ミッテルトが頑張ってくれたお陰だな……。

なんか、俺が配ってるよりもミッテルトが配る方がチラシの方がすごい勢いで減っていくのが悲しくなるけど……。

 

「さてと、少し休憩しないすか?」

 

「そうだな……。小腹も空いたしなんか買うか……」

 

そうと決まれば何を食べるか……。ここはマクドにでもしとくか……。

 

「はわ!?」

 

ドシャっとすごい勢いで倒れる音と、すっとんきょうな声が聞こえてきた。

俺とミッテルトは振り返り、声の聞こえてきた方を見る。

そこにはシスターらしき人が盛大に転んでいた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「怪我してないっすか?」

 

顔から盛大にこけてたけど大丈夫かな?

そう思いながら俺は転んだシスターに手を差しのべる。

 

「あ、ありがとうございます」

 

か、可愛い!!

顔を上げたシスターの容姿に俺は素直にそう思った。綺麗な金髪に透き通るようなエメラルドグリーンの瞳、何よりこの弱々しくて守ってあげたくなるような感じ……。

今までにないタイプの女の子だ。

 

「イッセー?」

 

はい、スミマセン。

ミッテルトはこういう時勘が鋭いんだよな……。

 

「あ、あの……、どうかしたんですか?」

 

「いやいや、なんでもないっすよ。あ、大変そうっすし手伝うっすよ」

 

ミッテルトが彼女がばら蒔いたであろう荷物をトランクケースに入れながら答える。

俺も手伝おうかな……って!?

手伝うつもりで俺は近くにあった布切れを拾う。最初はハンカチか何かと思ったが、その純白のフォルムを見てなんなのかを悟る。

こ、これはぱ、パンツ?

 

「はわ!?」

 

彼女は俺がパンツを拾ってしまったのを見るが否や凄まじい勢いで俺からパンツをひったくり、それをトランクケースに入れた。

 

「お、お見苦しいものをお見せしました……」

 

いえ、とんでもない。しっかり網膜に焼き付けました。

しかも彼女がしまうとき、彼女が履いているものもチラッと見えたし……眼福です。

魔国連邦(テンペスト)の女性達は絶対領域というかなんというか、目茶苦茶ガードが固いからな……。13年一緒にいて一度も見たことないや。

 

「また変態的なこと考えてるっすね……」

 

そしてそれをまたもミッテルトに諫められる。

なんか最近こういうの多い気がする。

ミッテルトは俺のことをジトーとした目で見つめてくる。

 

「い、いや別に……。そ、それよりもけ、結構な荷物だけど……旅行?」

 

俺は慌ててごまかすため荷物をトランクケースに積めながら、シスターさんに話しかける。

 

「いえ、私、この町の教会に今日赴任することになりまして……」

 

教会?そんなのこの街にあったっけ……。何分13年向こうで生活しててこの2年も通学路やよく行くDVDショップとか、ゲーセンとか娯楽施設くらいしか行ってないからな……。

そういえばあったようななかったような……。

 

「教会ならうちが知ってるんで案内するっすよ」

 

「本当ですか!ありがとうございます。

実は……私、この町に来てから困ってたんです。道に迷ったんですけど、言葉が通じなくて……。やっと、言葉が通じる方が見つかって本当に助かりました」

 

あ、そうか。俺達には魔法があるから普通に彼女の言っている言葉が理解できるけど、見るからに外国人だしな……。

日本語話せなくても無理はないか……。

 

「うわぁぁぁん」

 

ミッテルト主導のもと教会に向かおうとすると子供の泣き声が聞こえた。

鳴き声のした方を見ると見ると、転んで擦りむいてしまったのか一人の男の子が膝から血を流して、泣いていた。

すると、それに気づいたシスターさんはその子供の傍へ駆け寄った。

 

「大丈夫? 男の子ならこのくらいで泣いてはダメですよ」

 

そう言いながらシスターさんは自分の掌を子供の擦りむいた膝に当てる。

すると、彼女の掌から淡い緑色の光が発せられ、光に照らされた膝の傷があっという間に消えていった。

何だ今の?回復魔法か?

 

「いまのって……、回復魔法すかね?」

 

『いや、今のは神器(セイクリッド・ギア)だ』

 

神器(セイクリッド・ギア)だったのか……。そういえば前にドライグから聞いたな。

俺の持つ“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”みたいに戦闘系の神器(セイクリッド・ギア)もあれば、回復のようなサポート系の神器(セイクリッド・ギア)も存在すると。

彼女のもそういった回復型の神器(セイクリッド・ギア)なんだろう。

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)以外の神器(セイクリッド・ギア)って初めてみたけど、やっぱり神器(セイクリッド・ギア)って凄いんだな。

向こうの武器にも魔法の籠った武器はあるけど、あんな風に回復する武器なんかは少なくとも俺のしる限りでは存在しない。回復薬(ポーション)みたいなのはあるけど……。

 

「ありがとう! お姉ちゃん!」

 

ケガが治った子供は彼女にお礼を行って走っていった。

 

「ありがとう、だってさ……」

 

俺が通訳すると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

俺は彼女の手に視線を移して訊ねた。

 

「その力って……神器(セイクリッド・ギア)?」

 

「!?知ってるんですか?」

 

「まあ、多少は……」

 

「はい。治癒の力です。神様からいただいた素敵なものなんです」

 

?なんだろう?

口では素敵とか言ってるけどそれにしては何だか寂しそうな表情だな……。

神器(セイクリッド・ギア)を持つものは差別されたりすることもあるって言うけど、もしかしたら神器(セイクリッド・ギア)の影響で何かがあったのかもしれない。

 

「そっか……、優しい力なんだな」

 

「……ありがとうございます」

 

そんな彼女の表情にこれ以上は聞くことができなかった。

 

「……と、とりあえず案内するっすよ」

 

この少し重い空気に参ったミッテルトが案内のため立ち上がろうとする。

俺とシスターさんもそれに続く形で立ち上がる……。

 

グゥ~

 

ん?すると何処からともなく腹の音が聞こえてくる。

視線を向けるとそこにはとても恥ずかしそうにしているシスターさんの姿があった。

 

「……案内の前にまずは腹ごしらえをするっすかね……」

 

 

*******

 

というわけで俺達はシスターさん……、アーシアと一緒にマクドにやって来た。

だが、アーシアはなかなか口にしようとしない……。

どうしたんだろう?

 

「……あの、ナイフとフォークがありませんが……?」

 

「あ、こうやって手で掴んで食べるんすよ」

 

なるほど、食べ方がわからなかったのか……。

外国との文化の違いだなぁ……。

 

「では、手を清めないと……」

 

そういってアーシアは懐から聖水を取り出す。

……これも文化の違い……なのか?

 

「さすがにそれは大袈裟っすよ。このウェットティッシュで十分っす」

 

「あ、スミマセン」

 

ああ、やっぱりこれはちょっとおかしいよな……。

ルベリオスの聖騎士もしねえよこんなこと……。

アーシアはウェットティッシュで手を一生懸命拭きはじめ、暫くすると綺麗になった手を自慢するかのように見せつけた。

行動が可愛いなこの子。

 

「美味しいすか?」

 

「はい!とても!」

 

どうやらミッテルトはアーシアと打ち解けたみたいだな。

ミッテルトも楽しそうだ。

暫く黙々とハンバーガーを食べていたアーシアは何かを見つけたのかふとそとを見つめ出す。

 

「?イッセーさん、ミッテルトさん。あれはなんですか?」

 

「ああ、あれはゲーセンだよ」

 

「げーせん?」

 

ゲーセンも知らないのか……。

一体どんなところで育ったんだか……。

 

「ゲーセンってのはゲームセンター……。友達と一緒にゲームして遊んだりするところだよ」

 

「友達と一緒に……ですか」

 

まただ。アーシアはふと寂しげな表情となり、ゲーセンを見つめる。

友達と遊んでいる子供を見つめる目もそんな感じだった。

もしかしたらこの子今まで友達と呼べる存在がいなかったんじゃないか?

……かつてのミッテルトみたいに……。

よし、決めた!

 

「よかったら、一緒に行ってみる?」

 

「え、で、でも……。早く教会に行かないと……」

 

「大丈夫!少しくらい遅れても神様は怒んないって」

 

実際、ルミナスさんは懐が大きいし多少の愚痴は言うかもしれないけど、本気で怒ったりはしないと思う……。

ここの神様は知らないけどそこまで狭量じゃないだろ。

 

 

 

*******

 

「ありがとうございます!このラッチューくん一生大事にしますね!」

 

「あざーす。うちも大事に持っとくっすね」

 

ゲーセンにて俺は有り金の大半を使いきってしまった……。

クレーンゲームのラッチューくんをアーシアが欲しそうにしてたからとってあげたのだが、それを不満に思ったのかミッテルトも欲しいと言い出して財布のなかはすっからかんである。

トホホ……。

まあ、でもプリクラの写真で二人ともいい笑顔撮らせてくれたしチャラにしてやるか……。

 

「あ、ここっすよ」

 

そうこうしているうちにミッテルトの案内のもと、俺達は教会にやってきた。

……ボロボロだな、本当にここなのか?

 

「間違いありません。ここです。よかったぁ」

 

「……しかし、ボロボロっすね。人が寄り付くとは思えないっす」

 

まあ、そうだな。

今までに来た教会が全部綺麗だったから余計にそう思える。

ルミナス教の教会や、リムルは決して近寄ろうとしないリムル教の教会とか……。

 

「さてと、じゃあ俺達はこれで……」

 

そろそろ夜も遅いし早く部室に戻らないと……。

 

「ま、待ってください!ここまで連れてきてもらったお礼をしたいんですが……」

 

う、それはそそられるな。

アーシアが淹れるお茶とか絶対美味しいやつやん……。

ぶっちゃけ飲みたいけど、なんか部長今日の夜は必ず来いって言ってたしなぁ。

仕方ない、今回は諦めるか……。

 

「ごめんなアーシア……。今日は予定があるんだ。でも、また必ず遊びに来るからそのときにな……」

 

「は、はい!今日はありがとうございます!」

 

俺の言葉に少し寂しそうにしてたが、あとに続いた言葉を聞いてアーシアは花のような笑顔で礼を言った。

これが俺達とアーシアのファーストコンタクトだった。

 

 

*******

 

「もう教会には近づいちゃ駄目よ!」

 

部室に戻って部長に今回のことを報告すると厳しいお叱りを受けた。

なんでも、教会は三大勢力の一つである聖書の神の陣営の拠点で悪魔や悪魔に関わりを持つ存在が入るとどうなるかわからない……。下手したら両勢力の国際問題にも発展しかねないのだと……。

思った以上に三大勢力の溝は深いのかもしれないな……。

気を付けないと……。

 

『まあ、安心しろ相棒。例え敵対することになっても魔王も神も向こうに比べれば可愛いものだ』

 

いや、それでも十分強そうだけどな……。

だって全盛期のドライグやそれと同格の白い龍も封印したって言うし、中々に手強そうである。

できれば戦いは避けたいものだ……。

 

「……まあ、貴方達は悪魔ではないから大丈夫かもしれないけど、私達と一緒に活動する以上警戒はして欲しいの。わかったかしら?」

 

「はい!気を付けます!」

 

「よろしい。じゃあ早速行くわよ」

 

行く?何処に行くんだろう?

 

「はぐれ悪魔の討伐よ。ちょうどいいから貴方達に悪魔の戦闘を見せて上げる」

 

そう言って部長達は外に出るのだった。

そういえばみんなどんな戦い方するのか知らないし、楽しみだな。

俺とミッテルトも彼女達の後を追った。



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はぐれ悪魔と悪魔講義です

イッセーside

 

 

はぐれ悪魔……。

下僕であった悪魔が主を裏切り、単独で行動するようになったいわゆる野良犬のような存在。

はぐれ悪魔は見つけ次第消滅させるのが悪魔のルールらしい。

今回来たのは町外れの廃屋、ここで毎晩はぐれ悪魔が人間をおびき寄せて人を食べているらしい。

人間を食べる悪魔か……。そんなのもいるんだな……。邪悪な悪魔もいるもんだと思ったけど、冷静に考えるとディアブロさんとか、悪魔三人娘たちも十分邪悪か……。

普段はまだしも、戦闘する際のあの人たちの戦いぶりは鬼畜としか思えないし……。

 

「血の匂い……」

 

ふと小猫ちゃんがぼそりと呟く。

確かに微妙にするな……。とはいえ、そこまで感じとることのできない匂いに気付くということは、小猫ちゃんは嗅覚がすごいのかもしれない。

小猫ちゃんからは悪魔以外のなにかの力も感じる。転生悪魔だっていうし、多分元々は獣人族(ライカンスロープ)かクマラみたいな幻獣族(クリプテッド)に近い種族なんじゃないかな?そう考えると嗅覚の凄さは折紙付きか……。

 

「それじゃあイッセー、ミッテルトもよく見ていなさい……。悪魔の戦闘をね……」

 

部長が呟くと同時にこの廃墟に立ち込めていた殺気が濃くなる。

ゆっくりと姿を表したのは上半身は女、だけど下半身は巨大な獣の体をした化物だった。

両手には槍みたいな獲物を持ち、全ての足が太い、尻尾は蛇みたいで独立して動いてるっぽいな……。

なんだか、帝国との戦で現れた“人造合成獣(バトルキマイラ)”みたいだな……。正確に言うと『魔獣合身(ザ・ビースト)』という劇薬使って暴走してた帝国兵だ。

あれの暴走体も魔獣と人の外見を併せ持ってたんだっけ……。

 

「不味そうな匂いがするぞ? でも、うまそうな匂いもするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」

 

低い声で何やら呟くはぐれ悪魔。うわぁ、気持ち悪!?

今まで見た悪魔や悪魔族(デーモン)とは似ても似つかない姿である。

上位悪魔(グレーターデーモン)だってまだ人間よりの形態してたぞ!?

上半身は裸の女性なのに全然そそられない!

 

「はぐれ悪魔バイサー。あなたを消滅しに来たわ」

 

「小娘ごときがぁ!!その紅の髪と同じようにお前の身体を鮮血で染めて上げてやるわぁぁぁ!!」

 

「祐斗!」

 

「ハイ!」

 

木場が部長の命令を受けて駆け出す。

おお、そこそこ速いな……。

 

「悪魔の駒はチェスに倣って作られているわ。『(キング)』である私のほかに『女王(クイーン)』、『戦車(ルーク)』、『騎士(ナイト)』、『僧侶(ビショップ)』、『兵士(ポーン)』の五つの種類があり、それぞれに特性があるの。祐斗の役割は『騎士(ナイト)』!特性はスピード。『騎士(ナイト)』になった者は速度が増すの」

 

部長の言う通り木場はどんどんスピードを上げていく。正直俺から見れば止まって見えるけど、それでもあの魔素量(エネルギー)であのスピードは大したものである。

 

「そして祐斗の最大の武器は剣!」

 

木場は手をかざし、剣を召喚する。……いや、元々あった剣じゃなくて生み出したのかな?オルリアやヴェガの奴が使っていた武創之王(マルチプルウェポン)と似たような権能……いや、神器(セイクリッド・ギア)か。

おそらくは特質級(ユニーク)に近い希少級(レア)。精々がCランク程度の強さしかないバイサーにその刃を防ぐことはできなかった。

 

「ギャアアアアアア!」

 

両腕を切り落とされたバイサーは凄まじい悲鳴を上げる。

 

「目では捉えきれない速力と達人級の剣さばき、この二つが合わさることで、あの子は最速のナイトとなるの」

 

達人級?

まあ、確かにたいした剣さばきだけど、そこまでかと言われると少し微妙だな……。

俺が知るどの剣士に比べても多分純粋な剣比べは勝てないと思うぞ。ハクロウ師匠やアゲーラさん、アルベルトさんどころか剣也よりも弱いと思う。

速度も木場より速い人全然いるし……。まあでも、確かに素質はある。

修行次第では延びるかもしれない。

絶叫の途中のバイサーの足元に小猫ちゃんが立っていた。

それに気付いたバイサーが小猫ちゃんを思い切り踏み潰す。

 

「小猫の特性は『戦車(ルーク)』。その力はバカげたパワーと屈強な防御力」

 

小猫ちゃんはそれを軽く受け止め、巨大な足をどかせる。

 

「…………ぶっ飛べ」

 

そして思い切りぶん殴った。なかなかのパワーだな。

あの小さい身体で大したものだ。

こちらも修行をすればさらに延びるかもしれない。

 

「最後に朱乃ね」

 

「あらあら、うふふ……分かりました、部長」

 

朱乃さんはバイサーの方へと向かっていく。

すると、朱乃さんの手からビリビリと電気が発生する。

 

「朱乃の駒は『女王(クイーン)』。『(キング)』を除いた全ての特性を持つ、最強の駒。最強の副部長よ」

 

バイサーの上空で雷雲のようなものが発生し、次の瞬間、そこから激しい落雷がはぐれ悪魔を襲った。

電撃がバイサーが覆い、その巨体を焦がしていく!

電撃が止み、その場にいたのは黒焦げとなったバイサーだった。

 

「ぐぅぅぅぅ…………」

 

ボロボロになりながらも朱乃さんを睨み付けるバイサー。

 

「あらあら、まだ元気みたいですわねぇ。ならドンドンいきましょう」

 

あれ?まだやるの?

もうすでに虫の息に見えるけど……。

よく見ると朱乃さんは嗜虐的な笑みを浮かべてる。

もしかしてあの人……

 

「リアス部長。朱乃先輩ってもしかしてドSっすか?」

 

あ、ミッテルトも気付いたか……。

 

「あら、よくわかったわね。そう、朱乃は究極のSなのよ!」

 

究極のS……。

これについては少し納得しかけてしまう。

いや、ウルティマと比べるとあっちの方がとんでもないか……。

あっちは配下も似たような趣味嗜好してるしな……。

ふと俺は毒姫の凄惨な拷問シーンを目撃したときのことを思い出してしまった。うっ、気分悪くなってきた……。

あの時拷問を受けていたマルコとやらの悲痛な顔は稀に夢に出るほどトラウマになってるしな……。

それに比べたら可愛いものか……

そんなこと考えているうちにいつの間にか決着が付きそうになっていた。

 

「さてと、最後に言い残すことはあるかしら……」

 

「……もはやここまでか」

 

まだ体力に余裕はありそうだが、バイサーはどうやら勝てないと悟り抵抗を諦め……、いやまだだな。

あれは自暴自棄になったやつのする目だ。

こいつ部長たちに一泡ふかせるために何かをやるつもりだ。

それを証明するようにバイサーはニヤリと笑みを浮かべ、ゆっくりと視線を俺に向ける。

 

「だが、ただでは死なん!そこにいる人間を道連れにしてやる!!」

 

「!?」

 

するとバイサーは俺に向かって突進をして来た。

皆突然のことに反応しきれていない。

どうもこいつは俺を普通の人間と思い、簡単に殺せると思ってるみたいだ。

まあ、確かに今の俺は力をかなり抑えているしな……。

しょうがない……。やるか……。

俺は突進するバイサーを見据える。

バイサーが俺にぶつかる刹那、俺は力の流れを見極めバイサーを投げ飛ばした。

 

*******

 

リアスside

 

信じられない。それが今の光景を見た私の素直な感想だ。

バイサーが最後の悪あがきにイッセーに向かって突進した。突然のことであり、皆が勝利を確信していたこともあって誰も反応をすることができず、“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”を出す暇もないためやられると感じた。

でも、イッセーはあろうことか、5メートルはあるであろう巨体を持つバイサーを片手で容易く投げ飛ばしたのだ。

見れば小猫も驚いている。人間なのにもしかしたら『戦車』である小猫の力を上回っているかもしれない。

 

「く、くそ!人間ごときが……」

 

「動きが直線的すぎる。受け流すのは簡単だぜ」

 

受け流すって、それにしたってあれほどの重量を人間が投げ飛ばせるものなの?

イッセーはそのまま倒れ伏せたバイサーに近づいていく。

それをミッテルトが手で制した。

 

「ここはうちがやるっすよ」

 

するとこんどはそこらに落ちていた木刀を持ったミッテルトがバイサーに近づく。

 

「リアス部長たちの力もなかなかすごいっすね。

じゃあこんどはうちらの力を見せて上げるっすよ」

 

「なめるな!!」

 

バイサーは尻尾の蛇を使い攻撃をする。しかし、ミッテルトはなんの力も宿っていない筈の木刀で攻撃の全てを防いでいる。

バイサーの攻撃を受け流すその所作は剣に詳しくない私から見ても美しいと感じてしまうほどだった。

 

「ば、バカな!?そんな獲物で!?」

 

「うちの師匠がいってたっすよ。剣の極意は“流れ”。剣の声に耳を傾け、剣と一体になることでその流れを読むことにあると……。

うちはまだまだそこまでの領域にはないっすけど、それでもあんたくらいの攻撃なら余裕でさばけるっす。こんなありふれた獲物でもね」

 

そこにはまるで大人と子供ほどの差があるように感じた。

祐斗と同等……下手したら、彼女の剣の腕は祐斗を越えているかもしれない。

そしてミッテルトは一気に間合いを詰め、止めの一撃を放つ。

 

「朧・流水斬」

 

一閃。ただの木刀から放たれたそれはバイサーの胴体を泣き別れにさせた。

バイサーは自分が斬られたことを受け入れられないのか放心した表情である。

しかし、やがてバイサーの意識は消失し、二つの身体はゆっくりと倒れ付した。

 

「悪いっすね。貴女もなにか事情があったのかもしれないっすけど……、ここに住む者として、人を殺す快楽に溺れた貴女を見逃すわけにはいかないっす。だから、謝罪はしない……安らかに眠るっす」

 

ミッテルトはそう言いながらイッセーと共にバイサーの亡骸を見て黙祷する。

その間に私は祐斗に今の一撃について訪ねる。

 

「どう思う?」

 

「あの剣の腕、間違いなく僕を上回っています……」

 

私の眷属の中でも最も高い技術を持っているであろう祐斗もミッテルトの剣には及ばないらしい……。

……どうやら私たちは見誤っていたようね。

イッセーもミッテルトも私なんかでは想像できないほどの凄まじい力を秘めている。

もしかしたら、私たちが全員で挑んでも返り討ちにあうかもしれない……。流石にそれはない、とは思うけど、言いきれないのが怖いところね。

 

(彼らと友誼を結べたのは幸運だったわね)

 

もしあの時無理矢理眷属になるよう迫っていたら……。

考えると少し寒気がするわね。

彼らと縁を結べた幸運を噛み締めながら私たちは部室へと戻ったのだった。

 

 

 

 

 




なんでもかんでも魔国勢と比べるイッセーさん。

ミッテルトは朧流です。
免許皆伝は流石にいってません。
純粋な剣技勝負ならまだハクロウに負けますが、それでも魔国全体で見れば結構上位に入ります。(だいたい15位圏内には入るくらい。)
なお、イッセーは朧流を習ってはいますが剣はそこそこの腕しかありません。(あくまでテンペスト基準)
ただし、朧流とは別の()()()()を習っています。


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悪魔祓いと相対します

少し雑だったかな?


イッセーside

 

「今日は結構遅くなったな……」

 

「まあでもよかったんじゃないすか?部活に入ったお陰でどんだけ遅くても帰る時間一緒なんすし」

 

俺はミッテルトと共に自転車二人乗りで帰宅していた。

現在夜の十時頃、かなり遅くなっちまったな……。

今日は普通にオカルト研究部らしいUMAやらの講義を行ったのだが、その調べ事でかなり時間が長くなってしまったのである。

研究員時代に魔国連邦(テンペスト)でもたまにあったけど、やっぱ面白いこととか興味あることとか調べてると時間の流れがかなり遅く感じてしまうな。

 

「今母さんいねえしな……晩飯どうする?」

 

「そうっすね。冷蔵庫を見て有り合わせの……ん?」

 

ふと俺達はドアの空きっぱなしになっている一軒家が目に入った。

それだけならまあ気にはなるけど無視してたと思う。

 

「……なんすかね?この殺気」

 

「…………」

 

でも、その家からは強烈な殺気となにやら妙なオーラを感じる。

なにかあるな。

そう確信した俺はミッテルトと顔を見合わせ家の中に入った。

 

「お邪魔するっす」

 

「スミマセーン。誰かいませんかー?」

 

…………

どれだけ待っても返事はない……。

やはりこれは何かあるな……。

俺達は強いオーラを感じる部屋へと向かう。

そこはリビング。ソファー、テーブル、テレビ、どこにでもあるありふれたリビングだ。

ただ、一点……。

醜悪なオブジェがあることを除けば……。

恐らくはこの家の主だろう。切り刻まれ、傷口からは臓物もこぼれており、上下逆さまで壁に貼り付けられている。

死体の打ち付けられている壁には血で書かれた文字がある……。

ひでえ。一体誰がこんなことを……?

 

「趣味悪いすね……」

 

「……何て書いてあるんだ?」

 

言語は魔法でどうにかなっても文字がわかる訳じゃないからな……。

 

「『悪い事をする人はおしおきよ!』って聖なる言葉を借りたものさ……」

 

背後から声が聞こえ俺は振り返る。

そこには白髪の男がいた。年は俺よりちょっと上くらいか?神父の格好をしているが服のあちこちに血が付着している。

 

「んーんー?なんだいなんだい?結界張ってる筈なのに、どーして一般ぴーぽーがいる訳?」

 

何だコイツ……。

妙にハイテンションなやつだな……。

快楽殺人犯かなにかか?

 

「俺は神父♪少年神父~♪デビルな輩を切り殺し~♪ニヒルな俺が嘲笑う~♪

っと言うわけで自己紹介!

俺はフリード・セルゼン!趣味は悪魔殺し!とある悪魔祓い組織に所属してる末端でございますよ!以後宜しく~♪まあキミたちとはもうすぐイナイイナイばいちゃ!だけどね~♪」

 

言動が無茶苦茶、情緒不安定かよ……。

しかし、悪魔祓い……ってことは天界陣営のやつなのか?

何て言うか、全然そうは見えないな……。

まあいいや、そんなことより言いたいのは……。

 

「おい、お前か?この人殺したの?」

 

「イエスイエス!!だって悪魔を呼び出す常習犯だったらしいし~、殺すしかないでしょ!

というわけで、俺が正義の制裁を加えてやったのさ!」

 

「正義?こんなイカれた殺しが?笑わせるんじゃないっすよ」

 

怒りで顔を歪ませるミッテルト。

そうか……、ミッテルトは思い出してしまったのか……。

ファルムス王国の奴らを……。

 

……正義を振りかざし、非道な真似をしてきた連中を。

 

「はあ?なんなのお前ら?そのカスもしかしてお知り合いでしたか~?そりゃ悪い事しちゃいましたね~。

でもね、悪魔に魅入られたほうが悪いんですよ

悪魔に頼るのは人間として終わった証拠。だから俺殺して上げたわけ……。

むしろ感謝してほしいくらいなんですけど」

 

何が感謝だ……。ふざけてやがる。

話にならない。

 

「別に知り合いじゃないけど……、俺たちはお前みたいなイカれ野郎が大嫌いなだけだ。悪魔だってここまでのことはしないぞ……」

 

いや、悪魔族(デーモン)の特定の方々ならするかもだけど……。

 

「はぁ~?何いってんの?悪魔はクソですよ。これ常識。知らないんですか~?

というかその言い方だとあんたらも悪魔と関わりがあるってことかな?なら、あんたらもお仕置きしないとね~♪」

 

そう言うや否やフリードは刀身のない剣の柄と拳銃を取り出す。

柄だけの剣に気をこめることでビームサーベルのような光の刀身が輝きだす。

ならばこっちも“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”を……。

 

「な、何をしてるんですか!?」

 

 突然誰かの声が響き、神父はそちらに視線を移す、俺も一緒に視線を移す……っておいおい、何でここにいるんだ?

 

「ア、アーシアちゃん!?」

 

ミッテルトの驚いたような声が響く。

そう。そこにいたのはついこの前、町で道に迷っていたシスターの女の子、アーシアだった。

アーシアがどうしてこんなところにいるんだ!?

 

「おんや、助手のアーシアちゃんじゃあーりませんか。どうしたの?結界は張り終えたのかな?」

 

「!!い、いやァァァァァッ!?」

 

アーシアは壁に貼り付けられた死体を見て悲鳴を上げる。

ってちょっと待て?今あの神父なんて言った?助手!?アーシアはコイツの仲間なのか……!?

俺とミッテルトはその事が信じられずアーシアのほうを見る。

 

「可愛い悲鳴ありがとうございます!そっか、アーシアちゃんは初めて見るんだね、コイツは糞悪魔に魅入られた哀れな人間の末路だよ。よ~く見て覚えてね」

 

「そ、そんな……」

 

アーシアは震える声で呟く。

どうやら同じ一味ではあるみたいだけど何をしてるかは知らなかったってところかな?

するとふとアーシアと視線が合う。アーシアも俺達に気付いたようだ。

 

「あ、あなたはイッセーさん……?ミッテルトさんも……」

 

「あれあれ?もしかして知り合いだったんですか~?

それとも彼氏かな~?うわッ、アーシアちゃん清純ビッチ!!でもごめんちアーシアちゃん、コイツこれを見ちまったから死んでもらうんだ。

それにほら、こいつも二股?してるっぽいしさ~。そんな最低男死んだほうが人のためっしょ?

アーシアちゃんもコイツが天国に行けるようにお祈りしてあげなよ!」

 

「そ、そんな……フリード神父、止めて下さい!この人たちは私を助けてくれた方なんです!」

 

「ムリムリ。それにこの二人も悪魔に魅入られた存在っぽいのよ~。悪魔のことを知ってる風な感じで話してるし~。ならば、それ抜きでも殺す対象なんでございますよ~♪わかるでしょ?」

 

「でも……」

 

「ひゃはははは! 残念だけどアーシアちゃん、悪魔と人間は相容れません!悪魔と取引なんてするクソ人間も同様です!

それに、僕達、堕天使様のご加護なしでは生きてはいけないハンパ者ですよぉ?」

 

堕天使?

フリードはともかく、アーシアが?

というかそもそも神父やシスターって聖書の神率いる天界陣営じゃなかったの?

ふと俺の脳裏には先日戦った女堕天使の姿が写る。

もしやあいつか?

 

 

バッ

 

 

俺が考え事をしているといつの間にやらアーシアは俺を庇うように神父に立ち塞がっていた。

 

「おいおいアーシアちゃん、キミ、何してるか分かってるの?」

 

「もう嫌です、悪魔に関わったというだけで何の罪もない人達をが殺されるのを見てるだけなんて……そんなのおかしいです!」

 

「はぁァァァァ!?バカこいてんじゃねえよ!悪魔は糞だって教会で習わなかったのか?お前頭にウジ虫でもわいてんじゃねえのか!?」

 

憤怒の表情につつまれるフリード。しかしそれを見てもアーシアは怯まず、下がる気配が微塵もない。

強い子だな……。

そしてそれを見たフリードはゆっくりとアーシアに近づき……。

 

バキッ!

 

 

「キャッ!」

 

持っていた拳銃でアーシアを殴った。

ってマジでやりやがったコイツ!

 

「アーシア!」

 

床に倒れたアーシアに駆け寄る。

よほど強く殴られたのか顔面に痣ができている。

コイツ、マジでアーシアを殴ったのか……!

 

「……堕天使の姉さんからキミを殺さないように念を押されてるんですけどねぇ……ちょっとむかつきマックスざんすよ。殺さなきゃいいわけだから、ちょっくらレ○プまがいのことでもさせてもらいましょうかね……ッとその前にそこのゴミからおかた付けしましょうかね」

 

そう言いながらフリードはビームサーベルで俺達に斬りかかる。

そこへ羽を生やしたミッテルトがバイサー戦から携帯している木刀でそれをいなした。

 

「ってはぁ!?堕天使!?あんた堕天使だったの!?」

 

「そうっすよ……。といってもあんたらの親玉とは何の関係もない、いわゆる“はぐれ”っすけどね……」

 

どうやらフリードはミッテルトが堕天使だったことに驚いている様子。見ればアーシアも驚いている。

 

「はぐれね……。堕天使が悪魔と一緒とか恥ずかしくないわけ?」

 

「別に恥ずかしくないっすよ。確かにうちは悪魔の友人と一緒にいるっすけど皆いい人たちっすから」

 

フリードの攻撃をいなすミッテルト。

傍目から見れば一方的にフリードが攻めてるように見えるがミッテルトは木刀に妖気(オーラ)を纏わせ、フリードの猛攻を全てさばいている。

フリードは自分の攻撃が当たらないことに苛立ってるようである。

 

「ちっ!調子に乗らないでもらえますかね!?」

 

フリードがビームサーベルにさらに力を込める。

どうやら全力っぽいな……。

しかし、それでもミッテルトの敵ではない。ミッテルトは余裕そうにフリードを見据える……ん?

なんだ?

フリードが飛び出そうとしたその時、床が青白く発光した。

 

「何事さ?」

 

疑問を口にだすフリードの足元が光り徐々に形を作っていく。

……あ、これグレモリー眷属の魔法陣だ。

ってことは……。

 

「あ、イッセーくん。ミッテルトさんもこんなところで何してるの?」

 

「あらあら、大変ですわね」

 

「……神父」

 

木場に朱乃さんに小猫ちゃん。

なんでここに……と思ったが考えてみれば、ここは彼女たちの契約主の家なんだ。

そこで異常があれば察知することもできるのかもしれない。

 

「おーおー!悪魔の団体さんですか?何?仲間意識バリバリで助けに来たとかそんな感じ?悪魔と堕天使の友情?いいですねえ反吐が出そうだ」

 

そう言いながらフリードは朱乃さんたちに斬りかかる。

すかさず木場が剣をだし、フリードの一撃を受け止めた。

 

「……とても神父とは思えないな……。だからこそ、『はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)』をやってるわけか」

 

“はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)”?はぐれ悪魔の悪魔祓い(エクソシスト)版ってことか?

 

「あいあい!そうでござーすよ!俺的には快楽悪魔狩りさえできりゃ大満足なんですよ!これがな!」

 

剣と剣でつばぜり合う両者。

見た感じ二人の技量(レベル)にそこまで差はなさそうだな……。

木場の眼光はフリードを見据え、フリードはそれをケタケタ笑っている。

 

「厄介なタイプだね。悪魔を狩ることだけが生き甲斐……僕たちにとって一番有害なタイプだ」

 

「はあああ!?悪魔さまに言われたかないのよぉ?てめえら蛆虫連中にどうこう言われる筋合いはねえザンス!」

 

「悪魔にだって、ルールはあります」

 

微笑みながら言う朱乃さん。目は笑ってないけど。

 

「消し飛びなさい」

 

木場が離れたのを見計らって部長が大きな一撃を放つ。

その結果、フリードの後方、リビングの壁が消し飛んだ。

 

「私は友人を傷つけようとする輩は許さないことにしてるの。覚悟しなさい」

 

部長は魔力を漲らせ、鋭い視線でフリードを見抜く。

しかし、フリードは余裕の表情だ。

 

「!部長、この家に堕天使らしき者が複数近づいていますわ。このままではこちらが不利になります」

 

あ、ほんとうだ。なにやら複数の気配が近づいてくる。

これがフリードの自信の源か。

 

「くっ……、皆!撤退するわよ!」

 

「させると思ってるんですかね!?」

 

撤退をしようとする部長に襲い掛かるフリード。

木場も対応しようとしてるが間に合いそうもない。

しかたがないな。

 

「ふん!!」

 

ドゴ!!

 

「な!?ぐえ!?」

 

俺はすぐさま部長の前に立ち、部長に斬りかかろうとしていたフリードの横っ腹を蹴り飛ばす。

その威力でフリードは呻き声をあげながら壁にめり込んだ。

 

「大丈夫ですか?部長?」

 

「……え、ええ。ありがとう」

 

少し戸惑っているものの無事みたいだ。

部長は朱乃さんと共に魔法陣の準備を着々と進める。

 

「……イッセー、ミッテルト。貴方達は大丈夫?」

 

「はい、問題はないっす」

 

それを聞いた部長は頷きながら魔法陣の上に乗る。

あの魔方陣で移動できるのは悪魔だけらしい。

堕天使のミッテルトや人間の俺は使えないとのことだ。

 

「アーシアも一緒に……」

 

俺とミッテルトなら魔法陣を使わずともアーシアをこの場からつれていくことができる。

それを提案するもなんと部長のほうから却下されてしまう。

 

「ダメよイッセー。彼女は堕天使に関与している者。背後関係が分からない今、ここで堕天使と争えば悪魔と堕天使の間で大きな問題になりかねないわ」

 

「でも……」

 

部長の言っている意味は理解できる。

何が原因で悪魔と堕天使の争いが大きくなるか分からない今、下手に堕天使とその関係者に関わるわけにはいかい。

ここでアーシアを連れて行けば、それが原因で悪魔と堕天使間で大事になる可能性もあるということだ。

俺たちは戦争がどういうものかを知っている。

それの引き金になりかねないとなると躊躇いも少し生まれる。

それでも……。

 

「……いえ、行ってください。皆さんに迷惑はかけられません」

 

「アーシア!?」

 

アーシアが悩んでいる俺たちの背を押す。

その目には涙も浮かんでいるようだ。

糞、情けねえ……。

だけど、リアス部長のいる今この場では何もできない。

だから俺は決意する。

 

「必ず助けに行く。だからそれまで待っててくれ」

 

アーシアの手を握りしめ、俺はアーシアと約束をする。

アーシアは少し驚いたような顔をしたが、その後すぐに笑顔になる。

 

「ありがとうございます。イッセーさん」

 

俺の立場は一般人。あくまでどの勢力にも所属してないただの人間だ。

部長がいる今はまだしも、俺一人ならば言い訳もたつしどうにでもなるはず。

そう決意した俺はミッテルトと共にこの場を後にする。

 

待ってろよアーシア。必ず助けてやるからな!!




木刀
バイサーのいた廃墟でたまたま落ちてた普通の木刀。
当然特別な力なんてないが、ミッテルトの妖気を纏わせることで強化している。


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突入します

展開早い


イッセーside

 

 

アーシアを助けると約束した次の日、俺は普段通りオカルト研究部の活動をしていた。

 

「部長……」

 

「……」

 

途中、朱乃さんに呼ばれ部長が先にどこかへ行ってしまったものの、それ以外は平常運転だ。

 

「……失礼します」

 

「じゃあね。イッセーくん、ミッテルトさん」

 

「おう、またな」

 

二人は悪魔の契約のため、部屋を出ていく。

 

…………よし、今なら誰の気配もしない。

 

皆が帰ったことを見計らって俺とミッテルトは部長の机の上に用意していた退部届けをおき、退出をする。

これは俺の独自の判断だ。迷惑はかけられない。

というわけで、悪魔であるリアス部長と自分は無関係だと言うことを示すため、オカルト研究部をやめることにしたのである。

 

「これでよし」

 

「それじゃあ、早速行くすかね……」

 

ミッテルトが退部届けを出したことを確認して俺はアーシアのいると思われる廃教会へと向かおうとする。

レイナーレは傲慢な感じがしたしフリードは間違いなく異常者だ。

あんなところにいてはアーシアがどうなるかわかったもんじゃねえ。

急がないと……。

そう考えながら俺たちは曲がり角を曲がり……。

 

「そっちは帰り道じゃないよ。二人とも」

 

「……」

 

ってうお!?

木場に小猫ちゃん!?

廃教会への道のりで俺たちに立ちふさがったのは契約をとりにいったはずの小猫ちゃんと木場だった。

 

「短い付き合いだけど、イッセーくんたちの考えは読める。あのシスターを助けに行くつもりなんでしょ?」

 

しまった。二人の気配が旧校舎を離れたことで安心していた。

まさか待ち伏せを食らっていたとは……。

 

「……引き留めるつもりか?」

 

「悪いっすけど、邪魔するなら少しだけ眠ってもらうっすよ」

 

できれば戦いたくはないが、最悪の場合は眠ってもらうしかない……。

ところが木場の反応は俺が思っていたものとは違っていた。

 

「いや、僕たちも手伝おうと思ってね」

 

「「え!?」」

 

予想外の木場の一言で俺たちは言葉を失う。

 

「僕はあのアーシアさんをよく知らない。でも、君は僕の仲間だ。堕天使は嫌いだけどミッテルトさんのことも仲間だと思っている。

そんな二人が危険な場所に行くって言うなら、僕も一緒に行くよ。それに、個人的に神父は好きじゃなくてね」

 

木場、お前……。

 

「“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”があるとはいえ、人間であるイッセー先輩じゃ少し不安なので……」

 

小猫ちゃん……。

いや~、小猫ちゃんに心配してもらえると俺としては嬉しいかな~。こんな可愛い子に心配してもらえるとは俺も捨てたもんじゃないな~。

 

「木場っちと小猫ちゃんでテンションの上がり具合が全然違うっすね」

 

…………だからなんでミッテルトは俺の考えが読めるの?

思考読破でも使ってるの?

 

 

 

*******

 

俺たち四人は教会の見える位置で様子を伺う。

魔力感知を使ってみると複数の気配がする。

 

「……たぶん、フリードと同じ悪魔祓いが30人ほどいる。油断するなよ皆」

 

その言葉を聞いて木場と小猫ちゃんは驚いたような顔をする。

?なんか変なこと言ったか?

 

「……どうしてそう思うんだい?」

 

あ、そうか。

二人は魔力感知を使えない。

いや、使えはするんだろうけどそこまで正確に計れないのか……。

 

「気配っすよ。お二人も堕天使の気配は感じるでしょ?」

 

「うん」

 

「はい」

 

「イッセーは気配察知能力が二人よりも凄いってことっすよ」

 

小猫ちゃんは少し信じられないと言った目で俺を見る。

まあ、普段はそんなことしないからな……。

 

「で、どうするんすか?イッセー?」

 

ミッテルトが訪ねてくる。こういうときは裏からチマチマ入るよりも……。

 

「正面突破だ!」

 

俺は勢いよく扉をぶん殴り、聖堂の中に踏み込む。

ふむ、見た感じは普通の聖堂だな。

……いや、普通じゃないところもある。聖人の彫刻の頭部が破壊されてて、不気味さを演出している。

 

「やあやあ、感動的な再開だねえ!」

 

フリード。あいつ昨日の今日でもう復活したのか?

ふざけた笑みを浮かべながら奴は俺たちに近づいてきた。

 

「いやぁ、イッセー君って言ったっけ?蹴られたところが大変でさぁ~。ぶっちゃけ今も痛いんだわ~。蹴られるなんて初めて。イッセーくんに初めてもらっちゃったな~」

 

相変わらず飄々としている。

ふざけた野郎だ。

 

「まあ、そんなわけで、イッセー君は俺の頭のなかでぶち殺したいランキングトップに入っちゃったんだコレガ!というわけで死にさらせや」

 

フリードの言葉と同時に今まで隠れていたはぐれ悪魔祓いがワラワラと出てくる。

全員が気色の悪い笑みを浮かべている。

 

「ふむ……。貴様か?堕天使でありながら悪魔とつるむ愚か者は……」

 

さらに現れたのは男堕天使。

紺色のスーツに身を包み、俺たちを空から見下ろしている。

 

「我が名はドーナシーク。レイナーレ様の部下にして貴様に滅びを与えるものだ」

 

やっぱ、レイナーレが黒幕なのか……。

まあ、確かに目の前の堕天使よりもあいつのほうが強そうだしな……。

 

「この数の悪魔祓いに堕天使……。少し不味いかもね……」

 

「……」

 

木場は少し不安そうにしながらも剣を構え、小猫ちゃんもまた拳を構える。

 

「……悪魔にとって堕天使の光は相性が悪い。あの堕天使はうちがやるっす」

 

そこでミッテルトは木刀をドーナシークに向け、高らかに宣言する。

 

「!?一人では危険だ」

 

「私も……」

 

「いや、木場っちと小猫ちゃんは悪魔祓いを頼むっす。あれを片付けたら手伝うっすから」

 

「嘗められたものだな。もう勝った気でいるのか?」

 

「当然。だってあんた弱いっしょ?」

 

ミッテルトの言葉に青筋をたてるドーナシーク。まあでも確かにドーナシークの存在値はどう控えめに見てもBランクそこそこ。

今の木場より少し弱いくらい。

もっとも戦闘になれば相性で木場と互角程度には戦えるだろうが……。

それじゃあミッテルトは殺れない。

 

「あ、そうだ。戦う前に聞いときたいんすけど……」

 

「……なんだ?」

 

「あんたらはアーシアちゃんをどうして仲間に引き入れたんすか?あそこのイカれ神父にも殺さないように言ってたらしいっすけどなんか目的でもあるんすか?」

 

それは気になっていた。

フリードにも殺しはしないよう厳命してたっぽいし、なにか目的があるのかもしれない。

 

「フッ、簡単だ。あの小娘の神器(セイクリッド・ギア)……“聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)”は素晴らしき力。人間ごときにはもったいないと思わないか?」

 

……何が言いたいんだこいつ?

 

「だからこそ、あの神器(セイクリッド・ギア)を奪うためにあの小娘を引き入れたのだよ」

 

神器(セイクリッド・ギア)を奪う!?

そんなことできるのか!?

 

『不味いぞ!相棒!ミッテルト!』

 

『?なんすかドライグ?』

 

そこでドライグが俺とミッテルトに語りかけてきた。

ドライグは向こうに長くいた影響か思念伝達ができるようになっており、ミッテルトにも直接繋げることができるのだ。

 

『いいか、神器(セイクリッド・ギア)を奪うとは、神器(セイクリッド・ギア)を抜き取る儀式を行うということだ。神器(セイクリッド・ギア)が抜き取られれば……その者は必ず死ぬ』

 

!?

 

マジか、ならば急がねえと……。

 

「もう手遅れだ。儀式はすでに始まっているのだからな。間に合わん。仮に間に合うとしても……。私がさせんよ!!」

 

そう言いながらドーナシークは槍を携えミッテルト目掛けて急降下する。

 

「まずは貴様からだ!堕天使の恥さら……」

 

「うるさいっすよ!!」「しぃ!?」

 

激怒したミッテルトの無造作な一撃でドーナシークは教会を突き抜け何処かへ吹き飛んだ。

その光景を見て悪魔祓い達は唖然としている。

よく見たら木場と小猫ちゃんもか……。信じられないといった目でミッテルトを見ている。

 

「イッセー!多分アーシアちゃん地下にいるっす!今のうちに扉を探して……」

 

「いや、こっちの方が速い……」

 

俺は“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”を呼び出し、拳に力を貯める。

 

『Boost!』

 

俺の力がドライグの力により倍加する。

 

「おらぁ!!」

 

そして俺は思い切り床をぶん殴った。その結果床は崩壊し、地下にあった部屋に意図も容易くたどり着くことができた。

 

 

 

*******

 

アーシアside

 

 

「悪魔に見つかってしまった以上、あまり時間はかけられない……。

すぐに儀式に取りかかりましょうか……」

 

イッセーさんやミッテルトちゃんと別れた後、私は十字架に磔にされてしまいました。

なんでも私の中の神器(セイクリッド・ギア)、“聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)”を抜き取るための儀式を行うらしいです。

そして、たった今準備が終わり、私から神器(セイクリッド・ギア)を抜き取るようです。

 

どうしてこんなことになってしまったんでしょう……。

 

思い出すのは教会にいたころ……。

 

この世に生を受けた私は直に実の両親から捨てられてしまいました。

捨てられた私は教会兼孤児院を運営していたシスターに拾われて育ててもらいました。貧しくも私を愛し育ててくれたシスターに出会わせてくれた主に感謝しながら幸せに生きていました。

でも私が8歳の時運命は大きく変わりました。

ある日町で事故にあって腕に大きな怪我をした子供を見かけた私は癒しの力でその子の怪我を治しました。人々は神の奇跡と驚き私を称えました。そして噂を聞いたカトリック教会の本部に連れて行かれ私は『聖女』と呼ばれるようになりました。

最初は驚きましたが私の力で誰かの助けになれることが、何より必要とされることが嬉しかったんです。

そんなある日でした。

私は怪我をしていた悪魔を見かけました。悪魔は敵だと教わっていましたが怪我をしている人を見捨てたくないと思いその方の怪我を治してあげました。ですがそれを教会の関係者に見られてしまいました。

私は「魔女」として人々から恐れられ教会から追放されてしまいました。

そして、レイナーレ様に拾われ、今殺されかけている……。

 

(これは主の与えた試練なのでしょうか?そうですよね、私がバカだからこんなことになっちゃったんですよね……)

 

もしかしたら、友達が欲しいなんて願いを持ってしまったことがいけなかったのでしょうか?

私には今まで友達が一人もいませんでした。

よく、教会の窓から楽しそうに遊ぶ子供たちを羨ましがっていたな……。そんな思いを持ったからバチが当たってしまったのかもしれません。

 

「最後に言い残すことはあるかしら?」

 

(……イッセーさん、ミッテルトちゃん……)

 

思い出すのは教会の場所がわからず途方にくれていた私に親切にしてくれたお二人のこと……。

あの二人なら、もしかしたら、友達になってくれたのかな……。

 

 

「……イッセーさんやミッテルトちゃんと、もっとお話したかった……。お友達になりたかったな……」

 

 

バゴン

 

 

大きな音と共に天井が崩れ落ちる。

瓦礫が大量に落ちてきて、私を磔にしていた十字架が崩れ落ちた。でも、不思議なことに私に痛みはなかった。

誰かが私に被害が出る前に庇ってくれたということを悟り、私は目を見開く。

そこには泣いてしまった私に対し、必ず助けにいくと言ってくれたイッセーさんの姿があった。

 

「イッセーさん……。本当に来てくれたんですか……?」

 

「当たり前だろ。俺たちは友達なんだから」

 

そう言いながらイッセーさんは私に微笑みかけた。

その笑顔はとても眩しく感じた。

 

 

 



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堕天使対決します

木場side

 

 

「イッセーのやつ……。派手にやったっすね……」

 

信じられない気持ちでいっぱいのなか、ミッテルトさんの言葉が耳に入ることで現実に引き戻される。

 

「……信じられない。なんてパワー……」

 

みると小猫ちゃんも動揺をしているようだ。

無理もない。イッセーくんが何をしたかと言われると床を殴ったの一言で片付けられる。しかし、それだけで教会のおよそ半分以上が崩れ落ちたのだ。

僕たちもはぐれ悪魔祓いたちも目の前の光景が現実だと受け入れられない。

いくらイッセーくんが“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”を持っているとはいえ、これほどの力を片手間で発揮するだなんて……。

これがイッセーくんの力なのか……。

どうやら僕たちは見誤っていたようだ……。

イッセーくんの強さを……。

 

「さてと、そろそろ始めちゃっていいっすか?」

 

ミッテルトさんのその言葉ではぐれ悪魔祓いたちも現実に引き戻されたのか、剣を構え始める。

対してミッテルトさんの使うのは以前拾っていたなんの変哲もないただの木刀だ。

しかし、その構えからは微塵の隙も感じられない。

一体どれほどの鍛練を積めばここまでの境地に辿り着けるのか……。

……こんな状況だけど、騎士として一度手合わせ願いたいな……。

そんな思考を頭の片隅に封じつつ、僕と小猫ちゃんもまた目の前の敵を前に構えるのだった。

 

 

 

*******

 

イッセーside

 

ふう、なんとか間に合ったか……。

アーシアは安心したのか俺にもたれ掛かる。

よく見れば少し震えているし頬も紅く染まっている……。よほど怖かったんだろう。

 

「き、貴様!どうやってここに!?」

 

何が起きたのか理解できていないのか取り乱すレイナーレ。

見ればわかるような気もするんだけど……。

 

「見てわかるだろ。ぶん殴ってここまで来た。以上!」

 

その言葉にレイナーレは警戒を強める。

レイナーレは両手に光の槍を携えながらジリジリとこちらに近づく。

……魔力感知をしてみるとこの部屋にも何人かはぐれ悪魔祓いがいるみたいだな。

ジリジリと近づくことにより、俺に不意打ちをするのに最適な位置へ誘導しようとしているようだ。

 

「今よ!その餓鬼を殺しなさい!」

 

その言葉と共に背後の瓦礫からはぐれ悪魔祓いがアーシアを抱える俺に飛びかかり、光の剣を振り下ろす。

だが、魔力感知でどこにいるかモロバレだったため不意打ちにならない。

俺はアーシアに負担がかからないよう最小限の動作で回避する。

 

「な!?」

 

不意打ちが決まったと思ってたはぐれ悪魔祓いは動揺するが、その隙を見逃すわけもない。

俺は軽く蹴り飛ばしてはぐれ悪魔祓いを気絶させる。

 

「くっ……!」

 

今のに動揺したのか、はぐれ悪魔祓いたちは冷や汗をかきながら姿を表す。

残りは10人程度……。アーシアを抱えている以上この数はめんどくさいな……。

 

『ならば“英雄覇気”で気絶でもさせればいい』

 

あ、その手があった。さっすがドライグ頭いいな!

そうと決まれば話は速い。俺はアーシアへの負担を配慮しつつ軽く英雄覇気を醸し出す。

 

 

「「「!!!???」」」

 

それだけでもせいぜいDランク程度の強さしかないはぐれ悪魔祓いには効果覿面だ。

はぐれ悪魔祓いたちは英雄覇気に当てられ戦意喪失がほとんど、中には気絶している奴もいた。

 

「な、なんなの今のは……?あ、貴方たち何をやっているの!?さっさと立ち上がりなさい!!」

 

焦るレイナーレの言葉に反応しないはぐれ悪魔祓い……、いや、この場合反応できないが正しいか……。

英雄覇気に抵抗(レジスト)できなかったため、完全に正気を失っているのだから……。

英雄覇気も魔王覇気も覇気を飛ばす点では同じ技だ。違うのはそれが魔のオーラなのか聖なるオーラなのかというものだけ。

故にこうした魔王覇気のような使い方もできると言うわけだ。

最も、こんな使い方はよほどの格下相手でないと成立しないのだが……。

レイナーレは向こうの世界で言えばBランク上位相当の強さを持っている。ゆえになんとか俺の英雄覇気にも抵抗(レジスト)できたのだろう。

 

「ど、どんな手品を使ったのかしら?この至高の存在たる私が人間ごときに気圧されるなどあり得るはずがないわ!」

 

まるで恐怖を圧し殺すかのように高らかに宣言するレイナーレ。

レイナーレは俺に向かって光の槍を投げつけた。

 

「ちょっと待ってろ」

 

「なっ!?」

 

俺はそれを軽く躱し、瞬動法を使いレイナーレの後ろに回り込み、そこらにあったソファーにアーシアを寝かせる。

 

「少しだけ待っててくれ。アーシア」

 

「ハイ!」

 

アーシアを背に俺は改めてレイナーレと向かい合う。

レイナーレは俺がいつの間に自分の後ろにいたのかが分かってないようだ。

 

「き、貴様!どうやって私の背後に!?」

 

「別に……普通に回り込んだだけだよ。そんな遅い槍じゃ俺には当たらねえよ」

 

「くっ……、ならば直接!!」

 

そういってレイナーレは再び光の槍を作り出し、直接俺に攻撃をしてきた。

しかし、技量(レベル)が低すぎる……。

さっきっから思ってたけど、こいつそこまで戦闘経験が豊富な訳じゃない。槍は投げるだけ、槍術も拙い。

相性や魔素(エネルギー)量で上回ってるから戦えば木場や小猫ちゃんにもタイマンでなら多分だけど勝てると思う。けれど同レベル以上の魔素(エネルギー)量を持つ……例えばリアス部長とか朱乃先輩には勝てないと思う。

その程度の技量(レベル)では師匠に学んだ“ヴェルドラ流闘殺法”の敵ではない。

いくらやっても俺に当たらないのを見てレイナーレはかなり苛立っているようだ。

 

「認めない!こんなの認めないわ!私は堕天使レイナーレ!貴方たち人間よりも至高の存在なのよ!!!」

 

レイナーレはさらに力を込めて光の槍を振り下ろす。俺はそれを片手で受け止める。

 

「は、放しなさい!!」

 

「放さねえよ」

 

何が目的だったのかは知らないけど、本来なんの関係もなかった筈のアーシアを殺そうとしたり、危険だとかいう理由で俺を殺そうとしたり……。こいつは色々やってきたからな……。

俺はドライグを出し、力を増幅させる。

 

『Boost!』

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”の音声が鳴り響き、俺の力は増大される。

右手に持っていた槍を容易く握りつぶし、左手の籠手を構える。

 

「!?あり得ない、この力……魔王級?それにその籠手はまさか貴様!!?」

 

レイナーレが何か言ってるがまあいいか……。

俺はともかくアーシアも生きているしぶっちゃけ殺す理由はないんだが、それはそれ。これはこれ。

美人だが俺もかなりムカついたわけだし……。

 

「これでも喰らえ!」

 

「ぐぼっ!?」

 

一発で勘弁してやるか。

俺はレイナーレの腹に軽い一発を食らわせる。

その衝撃でレイナーレは吹き飛び壁に激突した。

 

 

*******

 

「アーシア大丈夫か?」

 

「ハイ」

 

レイナーレを倒した俺は真っ先にアーシアの元へと駆け寄る。

見た限りでは大きな怪我もなさそうだし無事と言っていいだろう。よかった~。

 

「あの、レイナーレ様はどうなったのでしょうか?」

 

アーシアは少し遠慮がちになりながらも俺に訪ねる。

例え殺すためだったとしてもレイナーレに助けられたアーシアとしては気になるようだ。

本当に優しい子だなこの子。つくづく魔国にはいないタイプだな~。

 

「安心しな。気絶してるだけだよ」

 

「そうですか」

 

アーシアはホッとしたように胸を撫で下ろす。

それを見ると少しだけレイナーレへの怒りが再燃する。

こんな可愛くて優しい子を殺そうとするだなんて。

 

「イッセーくん大丈夫かい?」

 

そうこうしてるうちに上からミッテルトたちが舞い降りてきた。

 

「おお、皆。上はどうなった?」

 

「当然!うちが軽くのしてやったっすよ!」

 

「というか、ミッテルトさんが無双してて僕たちほとんど出番なかったんだよね……」

 

「私たちも頑張らないと……」

 

小猫ちゃんはミッテルトに少し対抗心を燃やしているようだ。いや、よく見れば木場もか……。

傍目ではわからないが、その眼には憧憬のようなものが映っている。

ミッテルトはハクロウさんには及ばないものの悪魔公(デーモンロード)であり一流の剣士でもあるエスプリとほぼ互角の腕を持っている、魔国連邦(テンペスト)の中でもわりと上位の剣士だしな……。

同じ剣士としてなにか感じるものでもあるのかもしれない。

 

「それじゃあ、部室に戻ろうか……」

 

そうだな。

戻ろうとする木場に続き、捕縛したレイナーレを引き擦り俺たちも部室へともど……。

 

 

 

 

 

あ。

 

 

 

 

「……そういえば、俺たち退部届とか出しちゃってるんだけど!?」

 

「というか、流れにのっちゃって木場っちも一緒に付いてきてるけど大丈夫すかこれ!?堕天使と悪魔の戦争の引き金とかになっちゃわないっすか!?」

 

そうだよ!思えば悪魔である皆の介入阻止するためにわざわざ退部届までだしたんじゃねえか!!

木場と小猫ちゃんが付いてくるって言ってくれたときは感動のあまり頭から抜け落ちていたが、よくよく考えるとこれって不味いんじゃあ……。

 

「それについては問題ないわ」

 

突如として聞き覚えのある声が響く。

声がした方向を振り向くとそこにはレイナーレやドーナシークとはまた別の女堕天使を捕縛したリアス部長と朱乃先輩がいた。

 

「お兄様が堕天使たちに確認を取ったの。今回の件は全てこの女堕天使の計画した独断だったことが判明したの」

 

「え!?そうだったんですか!?」

 

なんでもレイナーレたちがアーシアの神器を奪おうとしたのは上からの命令ではなく独断だったのだという……。

そしたらそれはそれで疑問が残るな……。

 

「じゃあ、このレイナーレって人たちは何でアーシアちゃんの神器を狙ったんすかね?」

 

「さあね。それは直接問いただせばいいわ」

 

そういいながら部長は気を失っているレイナーレを叩き起こす。

 

「ん?」

 

そのとき俺は違和感を覚えた。先ほどまであった傲慢な感じが薄まっている?

何て言うか、目から先ほどまであった狂気がなくなっているように感じるのだ。

 

「さてと、堕天使レイナーレさんでいいわよね?」

 

それに気付かず部長がレイナーレに問いただす。

しかし、それに対しレイナーレは困惑したかのように聞き返したのだった。

 

「そ、そうですが……、貴女たちは一体誰なんですか?」

 

どうやらこの事件はまだ解決とはいかないようだ。




今日より3日間連続投稿。
続きは明日公開予定。


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話を聞いてみます

今回オリ敵がでます。
賛否両論あるかも…。


イッセーside

 

 

レイナーレは困惑した様子だった。なぜ自分がここにいるかわからない。そんな感じの焦燥だ。

 

「あら?シラを切る気かしら?」

 

「い、いえ。そもそもここは一体どこなんですか!?」

 

「この期に及んで往生際が悪いですわよ」

 

部長と朱乃先輩は気付いていない。

レイナーレの困惑は本物だということに……。

 

「部長、朱乃先輩。どうやらこの人の言ってることマジっぽいすよ」

 

「……なぜそう思うのかしら?」

 

部長はミッテルトの言葉に怪訝そうに聞き返す。

ミッテルトのことを信用はしてるんだろうけどなぜそう思ったのかが気になるようだ。

 

「ちょっとした特技みたいなものなんすけど、うちは声音や表情を見れば相手がなに考えてるかわかるんす」

 

少し得意げにミッテルトはそう答えた。

本人曰く、ファルムスでずっと顔色うかがって生きてきたからこそ得られた特技らしい。

困惑するレイナーレにリアス部長が自分達のしたことを告げるとレイナーレは自分のしたことの重大さに青ざめ、部長たちに謝罪をする。

 

「も、申し訳ありませんでした!」

 

レイナーレの焦燥もわかる。

何しろ自分達に身に覚えのない行いがきっかけで停戦中の戦争が再開する危険性すらあるのだ。

レイナーレとしては何としても避けたいところだろう。

 

「……いいわ。許してあげる……」

 

どうやら部長はレイナーレの謝罪を受け入れる気のようだ。

まあ、アーシアももうレイナーレに怒りを向けてはいないみたいなので、俺としては許すのもやぶさかではない。

ただ、そうなると気になることがある。

それはどうやら部長も同じなようだ。

 

「その代わり、貴女達の身に何があったのか、洗いざらいはいてもらうわよ」

 

 

 

*******

 

レイナーレは堕天使アザゼルの率いる組織“神の子を見張る者(グリゴリ)”に所属する中級堕天使だった。

気の合う部下と共に神器(セイクリッド・ギア)の研究にも少し携わっており、そこそこ幸せな日々だったという。

そんなある日、彼女は風の噂で癒しの力を持つ神器(セイクリッド・ギア)聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)”についてを知った。

人間だけでなく、悪魔すらも癒すことができる奇跡のような神器(セイクリッド・ギア)。これがあれば神器(セイクリッド・ギア)の研究がさらに捗るかもしれないと考えた彼女は異端として教会を追放されたアーシアを協力者として招き入れようとしたのだという。

駒王町には正体不明の強力な神器(セイクリッド・ギア)の反応……俺の“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”のこともあり、元々行くつもりだったのでアーシアをここの廃教会の配属にしたり、堕天使上層部や悪魔側にも一時滞在を報告しようとしたりと早速しかるべき手続きを済ませてしまおうと考えた。

 

「その矢先のことだったわ……。あの女が現れたのは……」

 

レイナーレ達の前に現れたのは漆黒のローブを被った謎の人物だったという。声色から女だということはわかったが、それ以外のことはなにもわかっていない。

その女は突如として自分達に襲いかかったのだという。

正体は不明だがその女はレイナーレ達とは比べ物にならないほどの強者であり、瞬きの内に自分達を無力化して見せたのだという。

そしてその女がレイナーレ達に何やら歌を歌いながら手を翳すと彼女達は徐々に思考が塗り替えられていったのだという。

自分の中に僅かながらも存在していた他種族を見下す感情、他の堕天使への劣等感、自尊心、そういったものがどんどん大きくなるのを感じながら意識が消失した。

そして気が付いたらこの場で俺たちに制圧されていたって訳だ。

 

「私はどんな罰でも受けます。ですからどうか、部下達には寛大な処置を……」

 

「レイナーレ様……」

 

彼女の話の合間にドーナシークとカワラーナとかいう堕天使達も目覚めていた。二人とも正気に戻っているようで、自分達の行いを悔いているようだ。

 

「……アーシアはどうしたい?」

 

「え?」

 

今回の件で一番の被害者はアーシアだ。

故にここは、アーシアの望むがままにした方がいいと思う。

少し戸惑ったような動作をするものの、アーシアはレイナーレ達に近づいていく。

 

「私はレイナーレ様を許したいと思います。確かに酷い目に遭いましたけど、私はこうして生きていますし……」

 

そう言いながらアーシアは俺とミッテルトに視線を向ける。

 

「この町に来れたおかげで素敵な出会いをすることができました。ありがとうございます」

 

この街に行く切っ掛けを作ったのはレイナーレなのだ。

だからこそ、彼女は感謝をしたのだろう。

 

「アーシア……本当に、ごめんなさい」

 

涙を流しながら謝罪をするレイナーレを見てあたふたと慌てるアーシア。

部長たちも少し呆れたようにしながらも、これ以上とやかく言うつもりはないようだ。

これにて一件落着だ………………

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!??」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として濃密な殺気が俺たちに降り注ぐ。

殺気の方向に目を向けるとそこには黒いローブを纏った謎の女が木の上で寛いでいた。

 

「あ、あの女です!私を襲ったのは……」

 

あいつが……。おいおい、冗談だろ!?

凄まじく濃密な威圧感を醸し出してやがる……。

レイナーレの話ではそこまで気にしなかったがとんでもない化け物じゃねえか!?

 

「…………」

 

その殺気の主はまるで指揮者のように指を上下させる。すると何処からともなく美しい音楽の音色が鳴り響き、その音色が集まり魔力の塊を形作る。

ローブの女はその魔力の塊をアーシアに向かって解き放った。

 

「アーシア!危ない!」

 

濃密な殺気の中、動くことすら困難であろうにレイナーレはアーシアを突き飛ばした。

アーシアも咄嗟のことで何が何やらわかっていない……ってそれは俺らもだけど……。

不味い間に合わない。思考加速があるからこそ状況は分かっているけどギリギリで間に合わない距離だ。ドライグの倍加を使えばいけるだろうが、“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”を出して倍加するんじゃ遅すぎる。かと言って本気で走ればその衝撃で近くにいる皆の負担になってしまう。

死を覚悟したのか目を瞑るレイナーレ。

しかし、その光がレイナーレを射つことはなかった。

いつまでも予想していた衝撃がこないため、レイナーレは恐る恐る目を開ける。

するとそこにはボロボロになった配下の姿があった。

 

「!?カラワーナ、ドーナシーク!!」

 

「れ、レイナーレ様……」

 

「ご無事でよか……」

 

カワラーナとドーナシークは事切れるように崩れ落ちる。

それを見たアーシアが直ぐに“聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)”での治療を試みる。その力で二人の堕天使の傷はみるみる回復していくが……。

 

「そんな!?なんで……」

 

呼吸も脈もある……。それなのに二人はまるで目覚める気配を見せなかった。

 

「無駄よ……。傷を塞いだところで、私の“永眠の鎮魂歌(ヒュプノレクイエム)”を受けた以上目覚めることはないわ……」

 

俺の究極能力(アルティメットスキル)国津之王(オオクニヌシ)の権能“身魂測定”で二人の魂を計測する。

すると二人の星幽体(アストラルボディー)が高密度の魔力によって束縛されているのが見て取れた。

 

「貴女!一体何者なの!?」

 

部長がローブの女に向かって滅びの魔力を放つ。本人曰く、全てを消し飛ばす消滅の力を持つという。

朱乃先輩も雷を同時に繰り出し、二つの魔力は挟み撃ちの形でローブの女に向かっていく。

しかし、ローブの女は興味なさげに指を振るう。

するとまたも音楽が鳴り響き、その音色に反応し、二つの魔力は容易く消失した。

あれは……カリュプディスと同じ魔力妨害だ。

 

「そんな!?」

 

「部長、下がってください!こいつは部長たちが敵う相手じゃない……」

 

あまりにも強さがかけ離れているため、部長たちは奴の危険度に気が付くことができないでいる様子だ。

だが、一定以上の強さを持っていれば、目の前の存在の危険度も押して図れる。

ミッテルトも翼こそ出していないものの木刀ではなく、愛刀である堕天刀(フォールン)伝説級(レジェンド)のゴスロリを着ている。完全な臨戦態勢だ。

こいつ……強い……。

身魂測定で測ってみるとスリーサイズは64、56、72と小猫ちゃんに近い小さい体型なのだが(重要)、その体型とは裏腹にとんでもない存在値だ。

存在値にして402万1861……。

……って超級覚醒者(ミリオンクラス)だと!?しかも並みの覚醒魔王を上回るとんでもない化け物である。んで、チラッと見えた指揮棒のような杖は間違いなく神話級(ゴッズ)……。マジで何なんだこいつ!?

本当にこの世界の存在か!?

 

『ドライグ……なにか知ってるか?』

 

こっちは向こうとは違う世界。こっちの世界の住人ならばドライグなら知ってるかもしれないと思い、俺はドライグに目の前の存在について訪ねる。しかし、どうやらドライグにも心当たりはないようである。

 

『知らん!俺としても心当たりはないが、気を付けろ相棒。あれほどの手練れだ……。究極能力(アルティメットスキル)を持っている可能性もあるぞ……』

 

可能性とドライグは言っているが、俺もドライグも本心では確定事項だと思っている。星幽体(アストラルボディー)を直接束縛するなんてかなり難しいはず。悪魔族(デーモン)とか、魂の専門家みたいな種族ならまだしも、そういう手合いではなさそうだ。

そもそも俺たちはレイナーレたちが操られてることに気付くことができなかった。究極保有者の眼を欺けるのなら奴も究極保有者である可能性が高い。

奴はじっとアーシアのことを見つめていたが、まるで期待はずれだったとでも言わんばかりの失望した声音で呟く。

 

「治すことができるのは身体のダメージのみで精神的なダメージは癒せない……。この程度で世界最高峰の回復系神器とは笑わせるわね。どんなものかと少しは期待してたけどこの程度か……。ならば私には必要ないわね……。そんな紛い物があの御方と同じ名を冠するだなんて、許せないわね……。

 

?何て言ったんだ?最後の方は聞き取れなかったな……。

すると今度は視線を俺に移す。その視線からは警戒の色が滲み出ている。

どうやら奴もまた俺を脅威と認識しているようだ。

 

「まさかこんなところにこれ程の使い手がいるとはね……。まあいい、今回は退いてあげる。今はまだ目立つことは避けたいのでね……」

 

そう言ってローブの女は空間転移を使い何処かへ飛んでいった。

俺たちに言い知れぬ不穏な空気を残して…………。

 

 

 

*******

 

 

カラワーナとドーナシークという堕天使は冥界の堕天使領にある病院に搬送したらしい。

レイナーレも一先ずそちらについて行くようだ。

ちなみにアーシアはしばらく俺が面倒を見ることになった。

しかも、予想外というかなんというか、なんと彼女は悪魔に転生を果たしたようである。

 

「アーシアなんで悪魔に転生したんだ?」

 

「実は……」

 

曰く、レイナーレ達堕天使の庇護を失ったアーシアには行く場所がなかったのだと……。

そこで部長がアーシアに悪魔に転生することを提案したそうだ。

神様に使えるシスターであるアーシアは当然かなり迷ったらしい。

だが悩んだ末に悪魔になることを選んだ。

これでアーシアは部長の庇護下に入ることとなり、生活費なんかも貰えるそうだ。

なお、悪魔になればずっと駒王町にいることができると言われたことが決め手らしいけど……。

 

「別に駒王町以外にもアーシアにとって住みやすい場所とかあったんじゃないの?」

 

そもそもこの家にホームステイする意味もないように思えるしな……。

 

「いえ、私はお二人と一緒の場所がいいんです。ダメでしょうか?」

 

しょんぼりとするアーシア。目茶苦茶可愛い!!

思わず二つ返事で了承してしまった。

だが、まあ両親は納得してくれたし別にいいか……。

 

「では、行ってきますね!」

 

アーシアは父さん母さんと共にちょっと遠くのスーパーに買い物に向かった。

今日はアーシアのホームステイ記念ということでかなり豪勢にすると張り切っている。

ちなみに俺とミッテルトは用事があるため買い物には参加しない。

アーシアがいなくなったのを見計らって俺たちは自分の部屋のクローゼットを開ける。

服が大量に入っており、一見では普通のクローゼットと代わりはないだろう。しかし、服を避けると隠し部屋へと繋がる扉があるのだ。

この扉はかつて遊びに来た師匠が遊び心でつけた扉で空間操作で作り上げた隠し部屋に繋がっている。

扉のなかは少し殺風景な部屋だ。

その中心には転移用の魔法陣がある。

……そう、向こうの世界……基軸世界に繋がる“異世界の門(ディファレントゲート)”である。

今回の事件で現れた謎の存在。

可能性は低いと思うが、もしもあいつがこちらの世界ではなく、基軸世界から来た存在だとしたらそれはこちらの世界だけの問題ではない。

そう考えた俺たちは今回の事件をリムルに報告するべきだという結論に至ったのだ。

 

「……そういえば、魔国連邦(テンペスト)に行くのは久しぶりだな……」

 

「少し緊張してきたっすね……」

 

まあ、でも楽しみではあるな……。

久々に皆に会える。そう考えるとワクワクしてきた。

魔法陣の上に乗った俺達は早速魔法陣に魔力を通す。

すると魔法陣から光が溢れ、俺たちの視界を白一色に塗り染めたのだった。



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報告します

7/24
黒歌のスキル調整


イッセーside

 

 

まばゆい光が消えていき、俺たちの視界が開かれていく。そこは魔国連邦の大迷宮にある一室だ。

戻ってきたんだな……。魔国連邦(テンペスト)に……。

 

「じゃあ、早速リムル様に今回の件報告しにいきましょう」

 

「あ~、その前に研究所寄っていい?」

 

折角来たんだし、久々に皆に会いたいな……。

俺たちは部屋を出てすぐさま研究所直通の“転移用魔法陣”を使い、魔国連邦(テンペスト)の迷宮研究所へと降り立った。

 

「よう皆!久しぶり!」

 

「「「イッセー!?」」」

 

久しぶりに来た研究所はいつも通りだな。各々がいろいろな研究を気ままに行っている。

研究員の皆が俺に気づいたらしく、俺のもとへとやってくる。

 

「久しぶり。イッセーさん元気にしてましたか?」

 

「おお、シンジ!久しぶり!」

 

研究員の一人にして俺と同じく日本人である谷村真治が俺に話しかけてくる。

シンジとは同じ日本人ということもあり、研究員の中でもかなり仲良くなった男なのだ。

ちなみにリア充……。

爆発すればいいのに……。

 

「いや、イッセーさんも同じでしょ!?」

 

あ、そういえばそうだ。

というか、俺声に出したっけ?まあ、いいか……。んなもんミッテルトにしょっちゅうやられてるし……。

 

「ヘイイッセー!久しぶりネー!」

 

「おお、皆!久しぶり」

 

次にやってきたのは魔王であるルミナスさんの配下、超克者の研究員たちだ。

この人はしゃべり方にかなり癖があるけどかなりの実力者でもあるのだ。

 

「クワーッハッハッハ!久しぶりだなイッセーよ!」

 

「お久し振りです。イッセー殿」

 

「!ヴェルドラ師匠!!カリスさんも!!」

 

そして奥の部屋から最強の竜種の一角であり、俺の師でもあるヴェルドラ師匠がやってきた。

隣にいるのは俺と同じく“ヴェルドラ流闘殺法”の達人である炎の聖魔霊王(フレイムロード)のカリスさんだ。相変わらず物静かな人だ。

どうも俺たちが転移したときから察知していたらしい。

 

「最近はどうです?」

 

「クワーッハッハッハ!近頃またも面白いものを手に入れてな!それの研究で大忙しよ!」

 

暴れっぷりから意外に見えるがヴェルドラ師匠は未知を探求するのが好きなため、案外研究職があっているのだ。

他には鉄板焼きが趣味なんだがこれがかなり旨い。

あとで作ってくれるか聞いてみよ。

ん?

 

「あれ?ラミリスさんは?」

 

よくよく研究所内を観察してみると普段はここにいるはずの魔王ラミリスさんがどこにも見当たらない。

どこ行ったんだろう?

 

「ウム、ラミリスは今執務室に行っておる。何かと忙しいみたいでな……」

 

?何かあったのか?

いや、また問題行動おこしてリムルに呼び出されたとかありそうだな。

それにしてはヴェルドラ師匠が行かないのが気になるが……。

それを察したのかヴェルドラ師匠は青い顔して視線をそらす。

 

「う、ウム……。まあ、我は何かと忙しくてな……。こうして真理の探求がゴニョゴニョ……」

 

マジで何があった!?

ヴェルドラ師匠がここまで情けなくなるなんてめったにないぞ!?

……まあ、いいや。どの道これから執務室に向かうわけだしそのときに聞いて……。

 

「久しぶりにゃん!!イッセー!!」

 

「うわっ!?」

 

突如として後ろから聞き覚えのある声とともに、豊満なおっぱいを押し付けながら抱きついてくる何者かが現れる。

この声とこのおっぱい……。間違いない……。

 

「久しぶりだな黒歌!!」

 

抱きついてきたのはルミナスさん配下の現“三公”の一人。

ルベリオスではヒナタさんに次ぐ戦力を持つ猫悪魔“黒歌”だった。

黒歌は悪戯っ子のような笑みを浮かべながらそのおっぱいを押し付ける。

はっきりいって至福。今なら死んでもいいかも……。

 

「ちょっと!!黒歌っち何してるんすか!?」

 

「あらら、取られちゃった……」

 

それを見て慌てたミッテルトが凄い勢いで黒歌と俺を引き離す。

黒歌は悪戯好きでよく俺に今みたいな悪戯をよくしてくる。

なんでも俺は反応が面白いのだと……。

 

「言っておくっすけど、黒歌っちにイッセーは渡さないすからね」

 

「にゃはは。安心しな、取る気はないよ。私は愛人ポジでも満足だから」

 

ふぁ!?

まじで!?

 

「そんなこと言って奪い取る気満々の癖に……」

 

「なんのことやら……」

 

黒歌とミッテルトの視線が交錯すると共に当たりにかなりの圧力が生じる。

触らぬ神に祟りなしというかシンジや超克者、ヴェルドラ師匠すらも自らの研究に戻っている。

……いや部下だろ?止めろよ超克者。

 

「それはそうと何で黒歌がいるんだ?ひょっとしてルミナスさん来てるの?」

 

「え!?る、ルミナス様来てるんすか!?」

 

俺の言葉にミッテルトは顔を赤くしワタワタと挙動不審に陥る。

黒歌はたまに旅行やら修行やら何やらで単独で来ることもあるが普段はルミナスさんのメイドをやっているため基本的にはルベリオスからは出てこない。

黒歌が来てるときは結構な確率でルミナスさんかヒナタさんの二人、もしくはどちらかがいるのだ。

ちなみにミッテルトはルミナスさんのファンであり、何を隠そう彼女の戦闘服(シュナさんとクロベエさんの合作)はルミナスさんの衣装をイメージしたものらしい。

 

「うん、そうそう。リムル様に頼み事があってきたんだって……」

 

「頼み事?」

 

なんだろう?

ルミナスさんがわざわざリムルに頼み事するだなんて……。

 

「さあ、でもそこまで大したことじゃないと思うよ」

 

「少し気になるな……。会えたら聞いてみるか……」

 

そんな会話をしていると再び誰かが研究所の中へとやって来た。

 

「あら、久しぶりね……変態ドラゴン」

 

「あ、ジウ!?」

 

俺たちの会話に割って入ってきたのは皇帝、マサユキの護衛であり元皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)序列9位のジウだった。

 

「やあイッセーくん。久しぶりだな」

 

遅れて入ってきたのは元皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)序列7位のバーニィ。二人とも皇帝近衛騎士団(インペリアルガーディアン)ひとけた数字(ダブルオーナンバー)唯一の生き残りであり、今はマサユキの護衛として活躍をしている。

究極付与(アルティメットエンチャント)の力こそ戦争で失ったものの、ここ数年での迷宮での修行などで聖人としての力を取り戻したという人類屈指の実力者だ。

 

「いつの間に帰ってきてたのね変態ドラゴン。このまま二度と戻らなくてよかったのに……」

 

ウッ!

ゴミを見るような眼で俺を蔑むジウに俺はかなりショックを受ける。

ジウは正直言って苦手なんだよな。

ジウは以前の戦にてリムル暗殺をしようとしており、クロエが自爆した後に選手交代した俺が戦ったわけだが……。

聖人に進化を果たし、強化された洋服崩壊(ドレスブレイク)伝説級(レジェンド)の鎧もろとも服を破壊し全裸にされたことを今でも根に持っているのだ。

そのため会うたびこうして罵倒される。

 

「そんなこと言って、イッセーくんがいなくなったとき一番落ち込ん……」

 

シュンと音が鳴り響く。

ジウは手に伝説級(レジェンド)の剣を携えバーニィの首に当てていた。

 

「ふざけたこと言わないでバーニィ」

 

「あ、はい。ごめんなさい」

 

実力的には互角の筈だがあまりの迫力から逆らうことができない様子。

正直鬼の形相というかなんというか、目茶苦茶怖いです。

 

「ていうかなんで研究所に?」

 

「たまたまよ」

 

詳しく話を聞くと今日はリムルとマサユキが会談(といっても愚痴を言い合うだけらしいけど)をするため護衛としてヴェルグリンドさんと共に来たそうだ。

最初は二人とも部屋の前で護衛をしていたらしいが、魔国連邦側の警備兵に少し休憩するように言われ、マサユキが許したこともあり、警備兵と交代して休息をとることにしたのはいいが、予定もなく暇だったため適当に迷宮でも見て回ることにして研究所に入ってみたらたまたま俺たちがいたということらしい。

 

「いや、ここに来たのはジウがアダルマン様にイッセーくんがここに向かっているのを見たと言うのを聞いたか……」

 

シュンと音が再び鳴り響く。

ジウはまたも手に伝説級(レジェンド)の剣を携えバーニィの首に当てていた。

 

「殺されたいの?バーニィ」

 

「あ、はい。ごめんなさい」

 

てか俺がいるからここに来たって、ジウはそんなに俺の事を貶したいのかよ……。

それはともかくさっきの師匠の反応に納得した。ヴェルグリンドさんいるんじゃああなるか。

師匠は二人の姉にかなり苦手意識持ってるからな……。

 

「しかし、そうなるとぶっちゃけ執務室に行きづらいっすね」

 

「確かに……」

 

「ム?リムルに何か用事があるのか?」

 

「ハイ」

 

ただ、ヴェルグリンドさんの会談に割ってはいるかのはさすがにためらわれるな……。

あの人優しいんだけどなんか怖いんだよな……。

日を改めて報告に来た方がいいのか?

 

「クワーッハッハ!大丈夫だろう!ちょっとした話だと言っておったし会談と言うほど仰々しいものではないと思うからな!」

 

師匠の自信満々な言葉を発するがかなり胡散臭い。

そんなこと言って突撃して怒られたらやだよ俺。

 

「実際大丈夫なんじゃにゃい?」

 

「そこの黒猫の言う通り、大丈夫だと思う。陛下もそれくらいじゃ怒らないと思うし……」

 

「う~ん、なら大丈夫かな?」

 

黒歌とジウの後押しを受けて俺たちは執務室へ行くことにした。

まあ、リムルやマサユキがそれくらいで怒るとも思えないし、ヴェルグリンドさんもマサユキが許せば許してくれるだろう。

 

「おや、一誠殿、ミッテルト嬢も久しいですな」

 

「元気にしておりましたかの?」

 

「あ、ミッテルト!帰ってきてたんですか?」

 

「あ、師匠、アゲーラさん、エスプリ!久しぶりっすね!元気にしてたっすか?」

 

「……何してんの?ゴブタ?」

 

「あ、イッセーいいところにいたっす!あの鬼ジジイどもから匿ってほしいっす!」

 

「……聞こえておるぞゴブタ」

 

「ヒィ!!?」

 

とはいえ、執務室までの道中は長いため、時間がかかりそうである。

 

 

 

 

 

*******

 

リムルside

 

 

 

今日は魔国連邦と帝国の両学園の合同演習のための確認をするため、マサユキを招いて軽い会議をしようと考えていた。

まあ、会議といっても建前で、日頃の大変さを愚痴るだけなんだけど……。

その愚痴る会の直前にルミナスがやってきたのである。

何でも“異世界の門(ディファレントゲート)”を貸してほしいとのことだ。

自分の配下の中でも特に大切な存在であるヒナタや黒歌の生まれ故郷を一度見てみたいなのだと……。

全く、ルミナスにも困ったものだ……。

突然現れて妙な頼み事をしてくるしさ……。

まあ、でも気持ちはわかるかもしれない。自分の仲間の故郷が気になると言うのは少しは理解できるしな……。

 

「感謝するぞ。リムルよ」

 

「おう、ちゃんと日付は守れよ。魔王が世界そのものから不在になるって結構問題だと思うしさ……」

 

「わかってるわリムル。でも、敵対勢力がいるわけでもないし、私も付いてることだし問題はないわ」

 

そう言いながらルミナスはヒナタを連れてラミリスの案内のもと行ってしまった。

まあ、ほんの三日間くらいだし、それくらいならば問題はない言わないだろう。

 

「ハア、いいな日本……。僕も一度でいいから戻りたいや……」

 

「あら、マサユキがそうしたいなら私は構わないわよ」

 

羨ましそうに部屋を出ていったルミナスを眺めるマサユキ。

俺としても構わないんだけど、マサユキには皇帝の仕事が結構な量あるからな……。

まあ、でもたまの休みぐらいはそういうのもありかもな……。

俺はマサユキに次の休みの日に一緒に行くよう伝える。

え?王様や皇帝に休みの日なんてあるのかだって?

知らん知らん。我が国と帝国ではそんな感じだと納得しとけ。

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

 

ん?なんだろう?

落ち着いて紅茶を飲んでいると誰かの戸を叩く音が響いてきた。

 

「よおリムル!マサユキ!久しぶり!」

 

「お久し振りっす!リムル様!マサユキさん!」

 

「あ、イッセー君。ミッテルトさんも……」

 

「おお、イッセー!ミッテルトも久しぶりじゃん!」

 

現れたのはなんとビックリ。

異世界の門(ディファレントゲート)”を使って元の世界……地球へと帰還し現在学生として過ごしているはずのイッセーとミッテルトだったのだ。

最後に会ったのは去年の夏休みだっけ?久々に見たが変わった様子はなさそうだ、強いて言えば以前に比べると魔素量が少し落ちたかな?まあ、数年間ただの学生として過ごし、大きな戦いもなく、訓練もしていなければそうなるか。

 

「お前達がこっちの世界に来るなんて珍しいな?何かあったのか?」

 

「そうなんだよリムル。お前に報告しておきたいことがあってな……」

 

イッセーとミッテルトの表情からは気楽さがあまり感じられない。

どうやら面倒事の予感がしそうだな……。

 

 

 

 

*******

 

 

「ということがあったんだ……」

 

「……」

 

イッセーの報告は驚くべきものだった。

突如地球に現れた正体不明の謎の究極保有者か……。

向こうの世界で究極能力(アルティメットスキル)を持つ者が生まれるなんてことあり得るのか?

 

『可能性はありますが、非常に低いでしょう』

 

シエルの言葉によると、あり得はするだろうが非常に低いとのことだった。

何故なら向こうの世界には魔素が薄いからだ。以前ヴェルグリンドも言っていたが魔素が薄い世界では身体能力の強化度合いも低く、スキルが発現することもないそうだ。

魔法を使うものもいるがそういった場合は周辺の魔素ではなく、自分の魔力を使用しているらしい。

そういった存在であってもスキルを発現するのは稀。ましてや究極能力(アルティメットスキル)を手にするなんて考えづらい話だ。

つまり、その存在とやらはこっち出身の可能性が高そうだな……。

 

「わかった!その件についてはこっちも調べておくよ」

 

「おう、ありがとな!」

 

そう言って退室する二人を見送って俺は頭を抱える。

何が起きてるのかはしらんが、勘が告げている。

絶対面倒なことが起こると……。

 

『問題ありません。何が起きてもマスターならば対処できるでしょう』

 

俺の事を過大評価しているシエルは置いといて俺も少し気楽に考えるか……。

そう思いながら俺はマサユキとの愚痴り会を再開したのだった。




黒歌
EP 225万9625
種族 猫魔=上位聖魔霊ー悪魔猫魈
加護 ルミナスの加護
称号 悪夢の黒猫(ナイトメアキャット)
究極能力(アルティメットスキル) 護猫之王(バステト)
魔王覇気、仙術、詠唱破棄、思考加速、万能結界、災禍蓄積、庇護世界

ルミナス配下、三公の一人(ロイの後釜)にしてルミナス、ヒナタに次ぐルベリオスにおける三指の実力者。
元の世界にて転生悪魔としてとある悪魔に仕えていたが、その悪魔が自分の妹をも実験に捲き込もうとしていたことを知り、主を殺害。
その後、禍の団というテロ組織に身を潜めようと考えた矢先に魔素溜に捲き込まれ転移。
転移した旧ルミナス領跡地にてルミナスと出会い、最初は警戒していたが自分に優しくしてくれたルミナスやその配下たちに恩を感じ、ルミナスの配下となる。
ロイが死んだ後は彼の後釜として三公に就任。
ルベリオスとの交流のなかでイッセーと出会い、当初は同じ世界出身ということで世間話する程度の仲だったが、普段のスケベな姿とは裏腹に何気なく優しく出きるところや諦めずに戦おうとするところにギャップを感じ、惹かれていったという。
テンペストでは一時期客分として滞在。ルミナスを姉のように慕っており、帝国との祝賀会の際、天魔大戦でルミナスの役にたちたいという申し出をし、リムルに魂を授けられ覚醒魔王と化する。
本人は第二、第三婦人でも全然OKでよくアプローチするが、度が過ぎるとミッテルトに止められる。
ミッテルトとは仲良く喧嘩する間柄。今は自分の方が圧倒的に強いが、ミッテルトもいずれ必ず覚醒すると彼女は確信している。
究極能力護猫之王(バステト)は大切な人を守りたいという黒歌の思いから生まれた権能であり、創られる結界はゲルドと同等以上の防御力を誇る。また、仙術もこの究極能力に組み込まれており、以前よりもはるかに強化されているという。
駒王町に妹がいることは知っているが、嫌われているだろうと考え、会うことを少し恐れており、踏み込めないでいる。





ジウ
EP 107万8632
種族 聖人
加護 皇帝の加護、灼熱竜の加護
称号 元帝国近衛騎士団9位
ユニークスキル 代行者(リプレスメント)
思考加速、気配隠蔽、姿隠蔽

元帝国近衛騎士団序列9位の暗殺者にして現在は皇帝マサユキの護衛としてバーニィと共に仕えている。
元々はマサユキのチーム閃光にスパイとして潜入しており、帝国との戦争時リムルを暗殺を企て、クロエ、イッセーと激突。クロエが自分の権能の発動に失敗したことで、イッセーと戦い、イッセーの洋服崩壊で伝説級の鎧もろとも服を破壊され全裸になってしまい、それを慌てて隠そうとしたところで時間停止したクロエに容赦なくぶった斬られるという可哀相な過去を持つ。
その事もあって当初はイッセーを快く思ってなかったが、天魔大戦で危ないところをイッセーに助けられ、そこから徐々に好意を抱く……が、今までの態度が態度なため全く素直になれない。
それゆえにイッセーからは非常に恐れられている。
彼女が素直になる日は来るかどうかはわからない。
生き返った際にバーニィ共々聖人としての力と究極の権能を失ったが、天魔大戦や迷宮での修行などによって無事聖人としての力を取り戻している。
なお、失った究極付与の力を自分なりに再現しようとした結果、ユニークスキル 代行者(リプレスメント)を獲得。姿や気配を消すことに特化しており、代行権利(オルタナティブ)には及ばないものの結構強力なユニークスキルとなっている。バーニィも同名のユニークスキルを保有しているが、微妙に性能が違う。


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使い魔ゲットします

イッセーside

 

 

 

アーシアが悪魔になって、一週間くらいが経った。

最初の頃はアーシアに悪魔の仕事とか出来るのかなとハラハラしていたが、案外うまくやってるみたいで少し安心した。

契約してくれた人も優しくしてくれているみたいだ。

そんなある日のこと。

 

「アーシアもそろそろ使い魔を持ってみない?」

 

「使い魔……ですか?」

 

「そう、使い魔よ。アーシアはまだ持っていないでしょう?」

 

「すみません。使い魔ってなんすか?」

 

俺も気になるな……。召喚獣みたいなものか?

ミッテルトの質問に部長は丁寧にこたえてくれた。

曰く、使い魔は悪魔にとって、手足となる使役すべき存在であり、情報伝達、偵察から追跡、他にも悪魔の仕事で役に立つとのことだ。

突如としてポンっと手品みたいな音がする。

すると、部長の手元に赤いコウモリが現れた。

 

「これが私の使い魔よ」

 

部長の髪と同じ色なんだな……。なんていうか、気品がある。

次に朱乃さんの手に小さな鬼が現れる。

 

「私のはこの子ですわ」

 

小鬼か……。

あんなのも使い魔にすることが出来るのか。なんていうか、向こうの鬼とじゃまるで違うな……。

手乗りサイズで愛嬌がある。

小猫ちゃんが呼び出したのは白い子猫だ。

 

「……シロです」

 

小猫ちゃんだけに子猫が使い魔。

イメージにあってるし、なにより可愛い。猫を見ると黒歌を思い出すな……。そう思って触ろうとすると威嚇された。ショック……。

ちなみに木場の使い魔は小鳥だった。

 

「イッセー君、僕の解説が適当すぎるよ……」

 

「……もう突っ込まねえぞ……」

 

なぜか心を読まれるのはもういつものことだ。

まぁ、とにかくアーシア以外の部長の眷属はみんな自分の使い魔を持っているのはみたいだな。

確かに今後の悪魔活動を行う上でも使い魔を持っておくと助かることがあるのかもしれない。

アーシアもうらやましそうに見てるし、ペットみたいなものだ。特に問題もないだろう。

 

「部長?使い魔って人間や堕天使でも捕まえられるんすか?」

 

「う~ん、事例は少ないけど、人間が使い魔を持つことも何度かあったらしいわ。たぶん大丈夫……だと思う」

 

なるほど。さっきまでは悪魔だけのものだと思ってそこまで興味はなかったが、俺も手に入るかもとなると話は別だな。

 

「部長、使い魔ってどこで手にいれるんですか?」

 

「冥界に使い魔の森と呼ばれる場所があるの。そこで使い魔を手に入れるのよ」

 

使い魔の森。

そんないかにもな場所もあるのか……。なんかRPGとかでありそうな名前だな。

そんなこと考えていると、朱乃さんが床にあった魔法陣に魔力を込める。すると、魔法陣は淡い光を放ち始めた。なるほど、ここから行くわけだ。

 

「部長、準備整いましたわ」

 

こうして俺は使い魔を手に入れるために使い魔の森に向かうことになった。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

使い魔の森。ずいぶん薄暗い森だな……。

やたらと背の高い巨木がそこらじゅうに生えていて、日の光のほとんどを遮ってしまっている。

雰囲気からして、何が出てきてもおかしくない。

森の中を見渡していると、

 

「ゲットだぜぃ!!」

 

「ひゃ!」

 

「え、なんすか、今のどこかで聞いたことあるフレーズは⁉」

 

突然の大声にアーシアは可愛い悲鳴を出して俺の後ろへと逃げ込んだ。

声がした方を見ると帽子を深くかぶり、ラフな格好をしたおっさんがいた。

 

「俺はマダラタウンのザトゥージ! 使い魔マスター目指して修行している悪魔だぜ!」

 

「「アウト────────‼」」

 

いや、まてまてまて……。完全にアウトだろ!?

明らかにポケ○ンのサ○シじゃねえか!?なんだマダラタウンて!?マ○ラタウンの間違いだろ!?

 

「ザトゥージさん、連絡しておいた子達を連れてきたわ。イッセー、アーシア、ミッテルトよ。

この人は使い魔のプロフェッショナル、ザトゥージさんよ。今日は彼のアドバイスを参考にして、使い魔を手に入れなさい。いいわね?」

 

いや、さりげなくスルーしないでください部長!

え?こんなおっさんに習うの俺? 

 

「よろしくな‼」

 

「「…………」」

 

こうして俺は微妙な空気のまま使い魔を手に入れることになったのだった。

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

「それで、ザトゥージさん?使い魔ってどんなやつがオススメなんすか?」

 

「そうだな。人によって好みは変わってくるんだが、俺のオススメはこれだぜぃ!」

 

ミッテルトの言葉にザトゥージさんは懐から図鑑をとりだし、俺達に見せてくる。よかった。さすがに図鑑まではパクリじゃない。普通に紙だ。

ザトゥージさんは図鑑の写真を指差して言った。

図鑑には見開きいっぱいに迫力の絵で描かれた一匹のドラゴン。

 

「あの…………これは?」

 

「おう! そいつは五大龍王の一角、天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)ティアマット! 龍王唯一のメスでもある!まぁ、魔王並みに強いんで、使い魔にしようとした悪魔などはいないけどな!」

 

「…………」

 

えーと、魔王並み?いやいや、とんでもない化け物じゃないか⁉なんでそんな奴がこんなところにいるわけ⁉

 

『魔王級といっても覚醒魔王ではない。向こうで言うところの魔王種といったところだ。まあ、ティアマットはその中でも最強の強さを誇っていてな、ぶっちゃけ並みの覚醒魔王より強いぞ……』

 

あ、覚醒してるわけじゃないのか。あー、びっくりしたー……ってそれでも十分危険だろ!?

しかも五大竜王最強?その五大竜王が全員魔王種級と仮定すると相当やばそうだぞ!?

並みの覚醒魔王より強いって言葉も聞き流してねえからな!!

なんでそんな奴がこんな辺鄙なところに?明らかに使い魔のレベル越えてるよな?

 

『アダルマンだって竜王のウェンティをペットにしてただろう。まあ、相棒ならいけると思うがおすすめはしない』

 

いや、確かにそうだけどさ……。ん?おすすめはしないってどういうこと?

 

『…………相棒は以前俺と飲みに行った時のこと覚えているか?』

 

ああ、覚えている。あれは確か、リムルに疑似魂(ギジコン)に憑依してもらって仮の肉体をもらった時だっけ?

あの時は久々の体にはしゃいでいたドライグがめっちゃ飲み食いしてたの覚えている。

あれ?そういえば、酔った勢いでとある竜王に貸していたアイテムを封印されたせいで返せず、今もその竜王に追われている的な話を聞いたような……。

 

『その竜王がティアマットだ』

 

ああ、なるほど。それでできれば会いたくないと……。 

……いや、それはドライグの自業自得だろ。ぶっちゃけ喧嘩するほうが悪いと思う。そもそも白い龍との喧嘩が原因で封印されたんだろ?

ほんと、しょうがないやつである。

 

「まあ、今のお前の宿主は俺なわけだし、使い魔云々はともかく謝りに行ったほうがいいな」

 

『……すまん』

 

いいって俺とドライグの仲じゃないか。

なんやかんやで十年以上一緒にいるのだ。ドライグは俺にとっても親友みたいなものだしな。

 

「いいわね! イッセー、龍王を使い魔にしなさい!」

 

「……さりげなく無茶言いますね部長」

 

まあ、もともと会いに行くつもりだし、一応聞いてみるけどさ。そもそもこっちが悪いことした立場だし、たぶん無理なんじゃないかな……。 

 

「イッセーならなんとか出来るんじゃないの? 伝説のドラゴン同士で意気投合できそうじゃない」

 

「……まあ、期待しないでくださいね」

 

とりあえず場所を知らないことには始まらないな……。

 

「すみませんザトゥージさん。そのティアマットがどこにいるかわかりますか?」

 

「おいおい、本当にやるのかい?

確か、昨日はあの辺りにいたぜぃ。もしかしたら今日もいるかもしれないぜぃ」

 

そう言いながらザトゥージさんは俺の肩に手を置いて遥か向こうにある山を指差した。

 

「あのあたり……」

 

それにしては妖気(オーラ)を一切感じない。

もしも妖気(オーラ)を完全に遮断しているとしたらとんでもないな。

もしかしたら、ミッテルトと同等かそれ以上かもしれない。

俺は部長に断りをいれてティアマットのいるという場所に向かっていった。

 

 

 

*******

 

 

 

山の中にて鎮座している恐るべき巨体。体長10メートルはありそうな青いドラゴンが山の上にて眠っていた。

そして妖気こそ感じないものの、その威圧感は隠すことが出来ていない。

なるほど、これが五大竜王ティアマットか……。

感じる力は覚醒する前のカリオンさんと同等……下手したらそれ以上かもしれない。

そうこうしてると、ティアマットも俺に気づいたようだ。

 

「……人間?いや、ただ者ではなさそうね……。それに何やら懐かしい気配もする……。貴方、何者なのかしら?」

 

「はじめまして。俺今代の赤龍帝、兵藤一誠と申します」

 

「赤龍帝……ですって!?」

 

目を見開くティアマットさん。ドラゴンの姿だからわかりにくいけど、その目からは探し求めていたものをついに見つけたとでも言わんばかりの思いが込められている。

 

『ひ、久しぶりだなティアマット。げ、元気にしてたか?』

 

努めて明るい口調で話しかけるドライグ。

しかしそれとは裏腹にティアマットからは苛立ちが感じられる。

 

「今まで私から逃げていたあなたがどういう風の吹きまわしかしら?」

 

『……その節は本当に済まないと思っている』

 

誠心誠意謝罪するドライグ。しかし、どうやらティアマットは許すつもりはないようだ。

 

「謝罪とかいいの。とっとと貸したものを返しなさい」

 

『い、今の状態では返したくとも返せんのだ!』

 

まあ、確かに今のドライグは籠手に封じられている状態だし返せんわな。仮に疑似魂(ギジコン)魔魂核(アバターコア)を使って作った体に入ったとしても、各地に散らばった以上、手元にないんだから返すことはできない。

ゆえにドライグにできることは謝ることくらいしかできないわけだ。

 

「まあ、確かに今のドライグに言ったところでね……。そこで私は考えたの」 

 

ん?何だろう……。

 

「ドライグがだめなら宿主に連帯保証人として肩代わりしてもらおうってね……」

 

 

・・・・・・・・・・・・・は?

 

 

「ええええええええええええええええええええええ!?」

 

ちょっと待てよ!なんで俺!?

そんな俺が生まれる前からの借金を肩代わりするなんて嫌だぞ!?

 

『すまない、相棒!』

 

「いや、すまないじゃねえよ!なんで俺までそんな太古の借金の保証人にならねえといけねえんだよ!?」

 

『そ、そんなこというなよ……、親友だろ俺たち……』

 

「たとえ親友でも嫌なもんは嫌なんだよ!!」

 

ギャーギャー言い合う俺たちをあきれたような目で見つめるティアマット。

 

「……それにしても、かなり変わったわねドライグ。籠手になってから何かあったのかしら?」

 

『まあな、正確に言えば、今の相棒に出会ってからだな……』

 

確かに昔に比べるとドライグも変わったよな……。

初めて会った頃は傲慢な感じがしたけど、今は以前に比べると謙虚というか、棘がなくなった感じがする。

まあ、自分とは比べ物にならないほどの強者を数年の間で何人も目にしてきたからその影響なのかもしれないな……。

 

「……で、赤龍帝の宿主は結局何しに来たのかしら?ただ謝罪しに来ただけってわけでもなさそうだし……」

 

そうだ。忘れてた。

部長に言われたもう一つの要件も伝えないと……。

 

「えっと……、誠に申し上げにくいんですけど、ティアマットさん俺の使い魔になる気とかあります?」

 

「は?」

 

俺の言葉に気の抜けた声を出すティアマット。

そりゃそうだ、初対面の相手からいきなり使い魔になれ、なんて言われたら驚くに決まっている。

そもそも竜王は誇り高い生き物だ。上位龍族(アークドラゴン)ならともかく、すでに竜王(ドラゴンロード)に至っているドラゴンはミリムさんでも手懐けられないと聞く。

世界が違うとはいえ、ティアマットさんも誇り高き竜王だ。聞き入れてはくれないだろうな。

 

「プッ、アハハハハ」

 

そんなことを考えているとティアマットさんは突然笑いだす。

まあ、こんなこと言うやつふつういないしティアマットさんからすると可笑しいことなんだろう。

 

「久々に笑ったわね……。過去にも何人か私を使い魔にしようとたくらんだ悪魔はいたけど、まさか人間にそんなこと言われるなんて夢にも思わなかったわ」

 

そりゃそうだろ。

というか、悪魔にそんな馬鹿がいたことに驚きだわ。 

 

「いいわ。チャンスをあげましょう」

 

「チャンス?」

 

「私を使い魔にしようとする者にいつも与えている試練の様なものよ。私は自分より弱い者に従う気はないの……。だから……」

 

ティアマットさんはその強靭な翼をはためかせ、飛翔をする。

改めてみるとやはりでかいな……。

抑えていた膨大な妖気(オーラ)も開放しているし、これはもしや……。

 

「私に勝つことができたら、使い魔になってあげてもいいわよ」

 

やっぱそういうことだよな……。

 

「よし!やってやらあ!」 

 

空を飛ぶティアマットさんを見据えて俺は()()()()()()()構えをとる。

ここ久しく実戦なんてしてなかったし、別に戦闘狂ってわけでもないんだが、少しワクワクする自分がいる。

敵は竜王。相手にとって不足なしだぜ!!

 



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竜王ゲットします

ミッテルトside

 

 

「しかし、すごいわねミッテルトは……。水の精霊ウンディーネを倒しちゃうだなんて……」

 

「ははは、あざーす」

 

イッセーが竜王のいるという山に行っちゃったんで、うちはうちで使い魔になってくれそうな魔物がいないか探すことにした。

面白いと思ったのが今倒したウンディーネっすかね……。見た目はごつくてリティスさんが使役していた水の乙女(ウンディーネ)とは似ても似つかなかったけど、よく見てみると、なんと変質して物質体(マテリアルボディー)を手に入れた向こうと同じタイプの精霊だったんす。

思念をぶつけて念話で会話してみるとうちとは真逆で数千年前の魔素だまりからこっちに来ちゃった下位の精霊が修練を積み進化した存在だったそうっす。

そんなことあんの!?と思ったっすけど、数千年前は始原の七天使が異界に旅立った時期と合致してるし、それの巻き添えをくっちゃったと思うと納得できるっすね。

ちなみに肉弾戦を好むのは変な進化しちゃったせいで変質しちゃって精霊魔法の使用が困難になったからだそうっす。

魔素量も上位精霊に比べると少なく、中位精霊にも見劣りしている。

その代わり肉体の強度が高いから、B+ランクくらいはありそうっすね……。

今のグレモリー眷属と戦っても一対一なら勝てそうだ。

 

「ところでミッテルトはこの精霊たちを使い魔にするつもりなの?」

 

「いや、もうちょっと考えさせてもらうっす」

 

ただ、使い魔にするかといわれると悩まざるを得ない。

面白いけど……、なんていうか……、その……、見た目が趣味じゃない。

うちもこう、可愛い系の魔物を使い魔にしたいっす。

見るとウンディーネは少しショックを受けている。

使い魔になる気満々だった様子……。

まあ、会話ができるうえ、向こうの世界のことを話せる唯一の存在だから、仕方ないかもしれないっすけど勘弁してほしいっす。

ごめんっす!

いつかラミリス様に合わせてあげるから許してほしいっす!

そう思考をぶつけると、素直に引き下がってくれた。

その感情からは喜びが感じられる。

ラミリス様に会えるかもというのがそんなにうれしいようだ。

 

「ん?」

 

空気が変わった。

見ると部長達も変化に気づいたのか辺りを見回している。

すると次の瞬間……、

 

 

 

ド──ン

 

 

 

凄まじい衝撃音が森に響いた。

どうも、イッセーの向かった山から出てる様子。

 

「な、なんて衝撃なんだ!?」

 

「これほど離れているのに吹き飛ばされてしまいそうですわ!」

 

「う……」

 

「キャア!?」

 

「……凄まじいわね」

 

「こいつはとんでもないぜぃ!」

 

見ると部長達はなんとか耐えてるけどしんどい様子。

ザトゥージさんも少し冷や汗かいている。

……仕方がないな……。

うちは衝撃から身を守るための結界を展開する。

 

「こ、これは!?」

 

「うちが張った結界っすよ。危ないんででないでくださいね」

 

多分件の竜王とイッセーが戦ってるんだろう。

籠手を使ってないっぽいけどイッセーのことだからなんやかんや勝つと思うし気楽に待とう。

そう考え、うちは持ってきた煎餅を貪った。

 

 

 

 

 

 

*******

 

イッセーside

 

 

「ハア、ハア……。流石竜王。やるな……」

 

「それはこっちのセリフよ。貴方、本当に人間?ドライグの力も借りずにこれは流石に予想外よ」

 

今俺は“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”を使わずにティアマットさんと戦闘を繰り広げている。

理由は俺の力が鈍っていることを実感したからだ。

レイナーレに放った奴の攻撃、多分以前の……天魔大戦あたりの俺なら普通に間に合っていたんじゃないかな?

あの時は生き残るために必死で鍛練してたからな……。

ところが今は平和な学生生活に魔国連邦(テンペスト)から離れたこともあり、修行をする機会がめっぽう減った。

たまにミッテルトと訓練することもあるが、迷宮とは違って全力戦闘なんかは出来ないでいる。

次奴と対峙したときそんな状況では殺される。

そう考えた俺は戦闘の勘を取り戻すため、あえてドライグに頼らず戦っているわけだ。

自慢の翼で飛翔するティアマットさん。対して俺は 国津之王(オオクニヌシ)の権能、空間支配と時空間操作を駆使して空中に足場を作り、食らいついている。

ランガの空駆法(そらかげ)をモデルに考案した技術(アーツ)“天盤”だ。

空駆法(そらかけ)と違って長くとどめることが出来るため、足場として最適なのだ。

 

「すごいわね。どうやって空中に足場なんか作ってるのかしら?」

 

ティアマットさんは何らかの力で空中に足場を作ってることに驚いている。が、話ながらも躊躇いなくブレスを吐き出す。

当たったら只じゃすまなそうだ。

ティアマットさんの存在値は71 万2862と覚醒魔王に限りなく近い力を持っている。迷宮を守護している四人の竜王と大体同じくらいと言えばその驚異度がわかるだろう。

竜王最強は伊達じゃないってことか……。

駆け引きもかなり上手いし技量(レベル)も高い。

基本的には爪と牙、それからブレスで攻撃してくるわけだが、絶妙なタイミングでフェイント入れたりかと思えば苛烈と表現するほどの激しい攻撃繰り出したりと……。

想像以上に骨がおれる相手だ。多分四人の竜王より強い。正直ここまでとは思わなかったな……。

だからこそ、修行相手にちょうどいい!

俺は力一杯ティアマットさんの顔をぶん殴る。

 

「ぐっ!」

 

かなり効いたのか、苦悶の声をあげるティアマットさん。

しかし、苦悶の声をあげつつも攻撃するのは流石としか言いようがない。

後ろから迫る巨大な爪を俺は受け止める。

 

「ぐぎぎ……」

 

すげえ力だ!ティアマットさんは自らの力を完璧に制してやがる。

存在値では俺が上でも巨大さも相まってかなり堪える。

なんとか爪を弾くと今度は死角から放たれた尾の一撃が俺を弾く。

天盤を作成しに着地するとティアマットさんはその瞬間を狙って魔方陣から炎の魔法を放つ。

 

「くっ……」

 

すかさず気闘法を発動し、腕を強化。

炎の攻撃を受け流し、後方へと逃がしてやった。

チラッと後ろを見るとかなり轟々と燃えている。

危ない危ない。

 

「まさか炎を受け流すなんて……、長き時を生きているけどこんなの見たことないわね」

 

「お褒めに与りどうもありがとうございます。ついでにもうひとつとっておきを見せてあげますよ!」

 

その言葉にティアマットは警戒するように攻撃の密度を上げる。

それを俺はギリギリで回避し、眼前にたつ。

魔力を拳に集中させ、その拳を解き放つ。

 

「くらえ!“結界崩壊(プリズンブレイク)”!」

 

その攻撃はティアマットさん本人には無害。

しかし、ティアマットさんの体を覆っていた魔力の防御結界は粉微塵に弾けとんだ。

 

「なっ……!?」

 

これが俺の権能、洋服崩壊(ドレスブレイク)の発展版、結界崩壊(プリズンブレイク)だ。

俺の洋服崩壊(ドレスブレイク)は相手の身を覆っているものを崩壊させると言う権能。

それは服だったり、鎧だったり、結界だったり、魂を覆っている呪いでさえも解除することが出来る。

まあ、あの二人の堕天使を覆った呪いは究極の権能によるもので、なおかつかなりの熟練度なため、今の俺では解除できなかったんだが……。

だが魂を束縛するほどの呪いならばともかく、身を覆う結界を破壊する程度なら訳はない。

この力は究極保持者にも届くため、結構重宝するんだよな……。

なにせ、身を守る結界がなくなれば、防御力は極端に下がるのだから。

 

「ヴェルドラ流闘殺法“魔竜崩拳”!」

 

結界を失い、無防備となったティアマットさんに俺は渾身の一撃を叩き込む。

この技はウルティマの聖覇崩拳を師匠がアレンジした技でかなりの破壊力を持っている。

 

「なめるな!!」

 

決まったと思ったら、ティアマットさんは自らの翼を盾にしながら後方へと飛んだ。結界が破られ、動揺したにもかかわらず、魔力を一点に集中させ、自らの肉体そのものの防御力を上げているようだ……。

すげえ!土壇場でこんな対応してくるなんて……。

後方へ飛び、威力を逃がしたためか、翼はボロボロになっているものの、他の部分は無傷だ。

 

「すごいな……」

 

『これがティアマットだ。昔から二天龍と吟われた俺でさえ、苦戦するほどのドラゴンだったからな……』

 

封印される前のドライグが苦戦するとは相当だ。

そんなことを考えていると、ティアマットさんは愉快そうに笑っていた。

 

「本当にすごいわね……。正直なめてたわ。まさか、ドライグの力も借りずにここまでやるだなんて……。数万年前のあの人たちを思い出すわ……」

 

ん?あの人たち?

誰のことだ?ドライグわかる?

 

『知らん!』

 

不思議そうにしていると、ティアマットさんは愉快そうに話してくれた。

 

「あれは、三大勢力の戦争が始まる遥か前のことよ……。

まだ、今の魔王達が生まれておらず、ミカエルやアザゼルすらまだ子供だったほどの大昔、一人の人間が私に挑んできたの……」

 

その男は自分が貯めこんでいると噂のお宝を求めてやって来た人間だったらしい。

それまでもにたような奴は何人もいたらしいが、皆ティアマットさんが燃やし尽くしたという。

その時も深く考えず、いつもの調子で愚か者を焼き付くそうとティアマットさんは考えたそうだ。

ところが、その人間はとんでもない力で自分と互角に闘い、三日三晩の死闘の末、とうとう自分を打ち倒したらしい。

彼女はその男が使っていた技に興味を持ち、男と男と共にいた青髪の女性に弟子入りしたらしい。

……青髪の女性?

話によると、その青髪の女性はこことは異なる世界から来た異世界のドラゴンらしく、この世界最強の存在であるオーフィスやグレートレッドというドラゴンよりも遥かに上の力を感じたという。

その人たちと共に過ごしたのは数十年くらいだったらしいが、とても濃密で楽しい時間だったらしい。

……それって。

 

「あの?ひょっとしてその青髪の女性ってヴェルグリンドって名前だったりしない?」

 

「あら、貴方、ヴェルグリンド様を知っているの!?あの御方はあの人が寿命で死んでから、別の世界に行ってしまった筈なんだけど……」

 

間違いない!その男ってのは多分ルドラの転生体の一人だ。

そりゃ強いに決まってるわな。

 

「俺も異世界に行ったことがあってな、ヴェルグリンドさんの実の弟、ヴェルドラ師匠に技を教わったんだ」

 

「え!?」

 

その言葉を聞いてティアマットさんは目を見開く。

するとワナワナと震えだし、大きな声で笑いだした。

 

「アッハハハ!まさか、そんな偶然があるだなんてね……。そう、あの御方の弟君のお弟子さんだったの……。強いわけね……」

 

一通り笑うとティアマットは再び俺と向き合い、妖気を高める。

 

「いいわ。ヴェルグリンド様の弟子である私と、弟君の弟子である貴方、どちらの力が上か真向勝負で決着つけましょう」

 

「望むところだ!」

 

俺も闘気を全開にしてその力を拳に込める。

ティアマットさんも全ての妖気をブレスに込めているようだ。

……あれ?これって俺たちはともかく、森や山とかに被害が出たりしないか?

そうなったら、部長たちでは危ない気がするぞ……、大丈夫かコレ!?

そんなことを考えると、ティアマットさんは察してくれたのか答えてくれる。

 

「安心しなさい。この辺りは私が作った結界で覆われているわ。すくなくとも、貴方のお友達たちに被害はでないでしょう」

 

「あ、そうなんですね……」

 

よかった。それなら安心だ。

俺たちは改めて向かい合い、闘気を高める。

しばらく向かい合っていたが、ついにその時がやってくる。

 

「喰らいなさい!“天魔灼熱業炎(カーディナルカルマフレイム)”!!」

 

「ヴェルドラ流闘殺法“暴風貫手(テンペストバイト)”!!」

 

互いの技が激突する。その威力から嵐が吹き荒れ、業火が舞う。

凄まじい炎が俺を焼く。しかし、俺は構わず貫手を繰り出す。二つの攻撃は拮抗していたが、ついに俺が炎を掻き分け、ティアマットさんに貫手をぶつける。

 

「ぐっ……」

 

しかし、ティアマットさんは負けじと炎を強くする。

炎に耐性をもつティアマットさんは自分の炎で自分を焼くなんてミスはしない。

凄まじい炎が俺を襲い、鋭い貫手がティアマットを貫く。

こうなると我慢比べだ。

やがて二つの極大なエネルギーは爆散し、激しい爆発が巻き起こった。

 

「ぐっ!!」

 

「うわぁ!!」

 

吹き飛ばされた俺はボロボロな体に鞭打ちながらも立ち上がろうとする。

砂埃が落ち着き、視界が開く。

目の前には倒れ伏すティアマットさんの姿があり、ボロボロになりながらも俺はなんとか立ち上がることが出来たのだった。

 

「ゲホ、流石ね……。本当にあの人みたいだわ……。ボロボロになりながらも私に打ち勝って見せたあの人みたい……」

 

「いや……、かなりギリギリですけどね……」

 

ここまでのダメージ食うとは思わなかった。いつ倒れてもおかしくない大怪我である。

まあ、それはティアマットさんも同じか……。

倒れ、血を吐きながらも心の底から嬉しそうなティアマットさん。

すると、ティアマットさんはボロボロの体に鞭打つように立ち上がり、宣言する。

 

「この勝負、私の負けよ。約束通り、貴方の使い魔になってあげるわ」

 

ティアマットさんは人間の形態へと変化する。

その姿はヴェルグリンドさんみたいな青い長髪にこちらも青いチャイナドレスを着ている。そのスリットから覗く生足がめちゃくちゃエロい。

 

「……何を見てるの?」

 

「あ、いえなにも……」

 

勘も鋭いな……。ヴェルグリンドさんににて凄まじい美女だ。どことなく似てるし正直ヴェルザードさんよりも姉妹っぽい。というか……。

 

「人型になれるんですね」

 

「まあね。ヴェルグリンド様に授かった青龍刀もあるし、こっちの姿での戦闘も自信あるわよ」

 

なるほど、ヴェルグリンドさんの弟子である以上人型での戦闘も得意としてると……。

さっきの龍形態より強そうだな……。

ヴェルドラ流闘殺法はどちらかというと対人格闘技だし、人型相手の方が得意なんだが、それでも人型のほうが苦戦しそうである。下手したら負けるかも……。

なんで人型にならなかったんだろう?

 

「先程の戦闘はあくまで試練だからね。正直人型にならなくても楽勝と思っていたし……」

 

曰く、先程の戦闘では人型になる暇がなかったんだと……。

まあ、かなりの激戦だったしな……。

取り敢えず休憩できたことでお互いに歩けるレベルには回復したため、部長のもとに戻ることにした。

ちなみにティアマットさんに肩を貸してもらったんだが、胸が当たってめっちゃ至福でした。

 

「少しスケベなところもあの人そっくり……」

 

ティアマットさんは呆れたようにそう呟いたのだった。

 

 

 

*******

 

「……まさか本当に竜王を連れてくるだなんてね……」

 

「俺も驚いたぜぃ!」

 

部長たちのもとに戻り、ティアマットさんを紹介すると皆驚いたような表情を浮かべている。

というか、若干引いているようだ。

 

「貴女がサーゼクスの妹さんね。話は聞いているわ。よろしく」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

少し冷や汗かきながらもティアマットさんと握手をする部長。

次にティアマットさんはミッテルトと視線を合わせる。

どうやら一目見ただけでミッテルトの強さに気づいたようだ。

 

「貴女がミッテルトさんね。イッセー君から聞いたわ。後で話したいことがあるんだけど、いいかしら?」

 

「あ、ハイ。いいっすよ」

 

ミッテルトにはまだティアマットさんがヴェルグリンドさんの弟子であると伝えていないので、どんな反応するか楽しみである。

ちなみにアーシアも使い魔を獲得していた。

小さくて可愛いドラゴンである。

 

「まさか蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)を手懐けるなんて……。そのドラゴンは心が清い者にしか懐かないから本来悪魔では契約できない筈なのよ」

 

心が清い者にしか懐かない……か。

流石はアーシアだ。心が綺麗なんだな……。

……で、ミッテルトは……。

 

「あれ?お前使い魔は?」

 

「いや……、いいのがあんまいなくて……」

 

その言葉と同時に泉から異様に筋肉ムキムキの謎精霊が現れた……ってなにこれ!?

 

「ウンディーネ……らしいっす」

 

いや、嘘だろ!?

明らかに違うじゃん!?

しかもよく見ると向こうの世界の精霊に非常によくにてる。

どゆこと!?

 

「まあ、使い魔云々はともかく友達ということで……」

 

なるほど、これを使い魔にするのは気が引けるってことか……。

まあ、俺も嫌だ。

ミッテルトの使い魔探しは後日ということでひとまず俺は使い魔契約を行うことにする。

使い魔契約をするための紅い魔法陣が展開され、ティアマットさんがそのなかに入る。

 

「兵藤一誠の名において命ず。汝、我が使い魔として契約に応じよ!」

 

ティアマットさんがそれに応じると魔法陣の光が一瞬強くなり、消えていく。

 

「これでいいのか?」

 

「ええ、これからよろしくね。イッセー君」

 

こうしてティアマットさんが俺の使い魔になったのだった。




ティアマット
EP 71万2862(青龍刀+100万)
種族 竜王
加護 灼熱竜の加護
称号 天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)
ユニークスキル 業炎者(モエサカルモノ)
思考加速、魔王覇気、空間操作、業炎

数万年の時を生きる五大竜王最強の存在。
数万年前、ルドラの転生体と闘い、敗れ、彼の技に興味を持ち、彼の弟子となる。
ヴェルグリンドにも師事してもらい、竜形態と人型形態両方の戦闘技術が極めて高い水準となっている。(竜形態と人型形態では、人型形態の方が強いらしい。)
竜形態では炎のブレスを得意としており、人型ではヴェルグリンドより授かった神話級(ゴッズ)の青龍刀で戦う。
その鍛え抜かれた技量(レベル)と究極級の力を持つ武器ゆえ、人型形態では彼女の数倍のエネルギーをもつ二天龍ともほぼ互角に戦えたという。
この青龍刀は彼女の宝物であり、使わずとも大抵の相手には勝てるため滅多に出さず、知っているものはほとんど存在しない。(同胞の五大竜王も知らない。)
覚醒こそしてないものの、その技量(レベル)から覚醒魔王にも引けをとらないほどの実力者である。
ルドラ(転生体)とヴェルグリンドと共に過ごした時間は数十年。彼女にとっては短く、しかし今なお鮮明に思い出せるほど楽しい時間だったらしい。
また、数十年もの間ヴェルグリンドの妖気に当てられた影響からかユニークスキルも持っている。
業炎者(モエサカルモノ)の業炎はその魔力であらゆるモノを焼き尽くすという恐るべき炎である。




あれ?究極使ってこんなもの?と思った読者もいるでしょうが、今回イッセーは究極の権能を攻撃に上乗せをしていません。
使ったのは空飛んでるティアマットに近づくための足場を作るため空間操作したことと洋服崩壊くらいです。(洋服崩壊はともかく、足場作るのは別にユニーククラスでも出きる芸当です。)
それが原因で今回苦戦したって感じです。
まあ、それ抜きにしてもティアマットの戦闘技術が異常なまでに高かったというのも原因の一つですが…。
なお、素でも聖人に進化しているイッセーは普通に覚醒魔王級の力を持っています。ぶっちゃけ覚醒前のカリオンや、迷宮の竜王よりこの強化ティアマットさんのほうが強いです


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第二章 戦闘校舎のフェニックス
日常謳歌します


今回は箸休め回
短いです。


イッセーside

 

 

 

ティアマットさんを使い魔にしてから早二週間近くが経った。

最近の日課は早起き。

早起きして秘密の特訓をするのが日課となってきてる。

これも謎の究極保有者が襲ってきても対抗できるようになまった戦闘勘を取り戻すためだ。

場所は以前ティアマットさんと戦った使い魔の森近くの山。

俺はここでミッテルト相手に向かい合っていた。

 

「行くっすよ!イッセー!」

 

「来い!ミッテルト!」

 

俺たち二人が構えたのを見て人型となっているティアマットさんが合図をする。

 

「それでは、始め!」

 

ミッテルトが使ってるのは最早手に馴染んできてる木刀だ。ミッテルトの妖気に当てられてかかなり頑丈になっている。

ミッテルトは先手必勝とでも言わんばかりに瞬動法で距離を詰める。

 

「朧・流水斬!」

 

初手から高威力を誇る流水斬を繰り出すミッテルト。

俺はすかさず避けるがその隙をついてミッテルトは足を引っ掻ける。

転びはしなかったものの、体制を崩した俺にミッテルトは追撃を放つ。

 

「朧・地天轟雷!」

 

すかさず俺は白羽取りをする。

その衝撃で地面が割れ、凄まじい轟音が山に響く。

俺はミッテルトを蹴り飛ばし、体勢を建て直す。

 

「いくぜミッテルト!」

 

今度は俺の番だ。

俺は怒涛の拳打をミッテルトに叩き込む。

ミッテルトはなんとか剣でさばこうとするが、受けきれず、一撃を腹にもらった。

 

「がはっ!」

 

肺が空気を取り込もうと一瞬咳き込むミッテルト。

いつもなら止めるところだが、今回は実践形式での模擬戦だ。

もっとも、迷宮ではないため、本当に危なくなったらヤバイのでティアマットさんに審判頼んでいる。逆に言えば彼女からの合図がなければ模擬戦を続けるということだ。

まだ、ティアさんからの合図ないし、ミッテルトも目が死んでない。まだ、勝負は続行ってことか……。

俺はミッテルトに渾身の一撃を叩き込もうとする。

 

「甘いっすよ!楊柳(やなぎ)七華凪(なななぎ)!」

 

「げ!?」

 

決まったと思った渾身の一撃は見事に受け流され、逆に六発も重いのを貰ってしまった。

楊柳・七華凪は朧流守りの秘奥義であり、柔らかく相手の攻撃を受け流しつつ、こちらからも攻撃を与えるという結構えぐい技だ。

これがミッテルト愛刀の堕天刀(フォールン)だったらちょっとどうなっていたかわからないな……。やっぱりなまっているかも……。

だがこっちだって負けてはいられない。

俺はミッテルトに向かって一直線に突進をする。

 

「勝負を捨てたんすかね?」

 

口ではそういいながらも微塵も油断はしていないミッテルト。

俺はミッテルトのカウンターが当たる直前に急停止をしつつ隠形法を発動する。

 

「げっ!?」

 

恐らく直前に瞬動法で加速し距離を詰めるとでも考えてたのだろうが、姿と気配を消す隠形法は予想してなかったみたいだ。

動揺したミッテルトを尻目にしながら俺は瞬時にミッテルトの後ろに回り込み、抱き締め……。

 

「ちょ、ちょっと──!?」

 

思い切りバックドロップを決めてやった。

 

「がは……」

 

ミッテルトはどさりと音を立てながら倒れ伏す。

かなり堪えたのかミッテルトは目を回して気を失っている。

……少しやり過ぎたかな?

 

「勝者、イッセー!」

 

そんなミッテルトを尻目にティアマットさんの全く動じない声が山に響いた。

 

 

********

 

朝、教室にて……。

 

「おはよう。松田、元浜」

 

「おはようございます、松田さん、元浜さん」

 

「「おはよう、アーシアちゃん!」」

 

教室についた俺とアーシアは友達である二人に挨拶をする。

ところが挨拶を返されたのはアーシアだけで俺は見事にスルーされたのだった。

さすがに温厚な俺でも怒るぞ……。

 

「なぁ、俺もいるんだけど……」

 

俺がそう言うと二人は鬼……いや、般若の形相で俺を睨んできやがった。

 

「うるさいわ! この裏切り者め!」

 

「そうだ!ミッテルトちゃんだけでも羨ましいのに、アーシアちゃんがホームステイだと!?ふざけるなよ兵藤!」

 

「おまけにオカルト研究部にまで入部だと!?おまえがあの美女美少女軍団と同じ部活に入るなど言語道断!今すぐ退部するか、俺達を紹介しろ!」

 

「そうだ!あるいは誰か可愛い娘を紹介しろ!」

 

「「お願いします!!!」」 

 

そう言って俺にしがみついてくる二人。

しかも、目にはうっすら涙。正直修行で疲れている今、かなりうざったい。

 

「おまえら怒るか泣き付くのか、どっちかにしろよ!つーか、離れろ!」

 

何で朝から男にしがみつかれなきゃいけないんだよ。むさ苦しいな。そもそも今疲れてんだよ!

 

「俺達と同じエロ三人組であるおまえだけが女の子に囲まれる生活なんて間違っている!」

 

そんなこと言われても……。

ほとんど、成り行きみたいなところもあるし……、二人に紹介できるような女子などいやしない。

オカルト研究部の面々は全員悪魔だし、ティアマットさんは竜だし……。

こうしてみると、女子の交友関係ほぼ人外なんだな俺……。

さすがに人外を紹介されても困るだろうし……、だれか人間の女の子で知り合いは……。

あ、そういえば、一人いるな……。

魔法少女を目指している漢女(おとめ)であり、人間のはずなのになぜか仙人超えて聖人級の力を手にしている謎人物。たぶん向こうの世界にいったら確実に聖人になるんだろうな。あの人……。

さかのぼること二年前、ミッテルトを連れてレンタルビデオ屋にいったら異様なオーラを感じたんだ。

そこで魔法少女物のアニメを借りようとしていた彼女(?)と知り合い、そのビデオに興味を持ったミッテルトが話しかけて意気投合して、そのあと俺ともそこそこ話すようになったんだっけ……。

 

「知り合いに漢女(おとめ)ならいるんだが…………」

 

「マジか! その娘で良い! 頼むから紹介してくれ!」

 

「乙女だって!?最高じゃないか!!イッセーよ、俺も頼む!」

 

 

 

たぶん二人が考えている漢女(おとめ)とは字が違うんだろうな……。まあ、そこまで言うなら仕方がない……。

俺は携帯を取りだし、その人物に電話をかけた。

 

「あ、もしもし。イッセーです。えっと、俺の友人が会ってみたいそうなんですが……。あ、良いですか? ……分かりました。ありがとうございます。では、また……」

 

俺は電話を切り、話した内容を軽くメモをして、松田と元浜の方を見る。

二人とも目が真剣だな……。

今からすでに罪悪感がパない。

 

「で?どうだったんだよ、イッセー!」

 

「あぁ、まぁ、会ってくれるそうだ。このメモの場所にこの時間に待ち合わせだそうだ。友達も連れてくるってよ……」

 

友達も漢女(おとめ)なんだろうか……。そんなことをかんがえながら俺はメモを二人に手渡す。 

メモを受けとると、二人はまるで神様でも崇めるかのように俺を見てきてすげえ大きな声で礼を言ってきた。

 

「ありがとうございます! イッセー殿!」

 

「この恩、一生忘れません!」

 

ここまで喜ばれると罪悪感がパナイ……。

いや、嘘は言ってないんだよ。

女の子紹介してくれという要望に応え、俺はちゃんと漢女(おとめ)を紹介した。

それで良いって言ったのはこいつらだ。

俺は悪くない……はず……たぶん……?

 

「で、その乙女の名前は?」

 

「……ミルたん」

 

すまん……、二人とも……。

 

 

 

 

********

 

 

「あ~、気持ちいい~。あ、そこもうちょっと左のほうっすね」

 

「はいはい……」

 

「……何してるんですか?」

 

「マッサージ」

 

小猫ちゃんの疑問に答えながら俺はミッテルトにマッサージを施していた。

今日の朝の修行でのバックドロップはかなり効いたらしく、朝はずっと頭痛が止まらなかったそうだ……。おかげで授業も身に入らず、今日行われたという小テストも散々だったらしい。そのせいで明日の放課後は補習になってしまったのだと……。

さっきアーシアに回復してもらったもののそれでも腹の虫がおさまらず、日ごろの疲れをとるためのマッサージでもしろと言われ、今こうしてマッサージしてやっているのだ。

 

「あらあら、相変わらず仲がよろしいですわね」

 

「ミッテルトさん、うらやましいです……」

 

アーシアがなんかうらやましそうにミッテルトを見つめている。

やってほしいのかな……?

 

「アーシアにも後でやってあげようか?」

 

「!?本当ですか?ぜひお願いします!」

 

おお、すげえ喜んでいる。

そんなに疲れがたまっていたのか……。

ミッテルトのマッサージが終わったのでアーシアのマッサージに移行する。

正直ミッテルトとはまた違った柔らかさがあって最高です。

てか、今なら合法的におっぱい揉めたり……、いや、ダメだ!何て言うか、アーシアには穢れてほしくない……。

自重しろ俺……。

 

「……なに考えてるんすか?」

 

「いや、なにも……」

 

そんな俺の葛藤を察してるのか、呆れたように俺を見つめるミッテルト。

それにしても、平和だな……。

思えば最近はレイナーレに襲われたり、例の謎のローブ少女を警戒したり、ティアマットさんと戦ったりで少しピリピリしてたからな……。

面倒ごとは正直ごめんだし、こんな平和な日常がいつまでも続いてほしいものである……。

 

「はあ……」

 

「?部長?」

 

そんな中、部長は急にため息をつけ始めた。

その表情も何やら憂鬱そうだし、何かあったのかな……。

 

「何でもないわよ……。気にしないで……」

 

そういいながら笑顔を作るも、何処か影があるというか、暗い雰囲気がする。

明らかにいつもと様子が違う。なにやら厄介ごとの予感がする。

どうやらこの平和はあんまり長続きしないみたいだな……。

少し憂鬱になりながらも俺はアーシアのマッサージを続けるのだった。




次回からライザー編始まります。


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部長の婚約者がきます

イッセーside

 

 

「ふわぁ……」

 

「眠そうっすね……」

 

眠いな……。昨日はかなり夜更かししたからな……。

今日はティアマットさんが用事があるらしく、トレーニングは休みだ。

ミッテルトと二人だけでやるのもありっちゃありなんだが、昨日のバックドロップの件でかなり怒ってたからな……。

マッサージで機嫌直しては貰ったが、蒸し返すのもあれなんで、休みにしたって訳だ……。

ミッテルトと別れた俺はアーシアと共に教室に向かう。

すると突如として何かが俺のもとへ近づこうとしているのを察知した。

 

「イッセェェェェェェ!!」

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

駆け寄ってきたのは松田と元浜だ。どちらも憤怒の形相でラリアットの体勢にはいる。

俺はすかさずしゃがんで回避。二人が俺に当てようとしたラリアットは見事に不発。松田と元浜がそれぞれ喰らうこととなった。

 

「「うご!?」」

 

かなりの力を込めてたのか、互いのラリアットの痛みに耐えるように二人は首もとを押さえる。

 

「だ、大丈夫か?」

 

そんな俺の言葉に二人はギロリと俺を睨み付け、慟哭する。

 

「ふざけんなぁぁ!!!」

 

「ぶち殺すぞイッセェェ!!」

 

二人とも殺意マシマシだ。

まあ、心当たりはある……ていうか一つしかないな……。

 

「なんなんだよあれは!?格闘漫画とかにでてくる漢じゃねえか!?ふざけんな!?」

 

「……だから最初に漢女だって言ったじゃないか」

 

「字が違えんだよ!?なんだ漢女って!?ただの世紀末覇者じゃねえか!?」

 

まあ、ミルたんは俺自身よくわかってないからな……。

北○の拳にでも出てきそうな筋骨隆々の肉体をもち、それでいて魔法少女を目指しており、この世界の存在の筈なのに何故か聖人級にまでエネルギーを高めている漢女。それがミルたんなのだ。

魔素の薄いこの世界では進化することはないが、向こうに行ったらその瞬間覚醒を果たすことだろう。

……想像したくねえけど。

 

「しかも、おま、お友達とか言ってミルたんと同じような化け物が複数集まってきたんだぞ!?あの時は死を覚悟したね!!」

 

なんと……。あんなのがまだいたのか……。

流石にミルたん級ではないとは思われるけど……、言いきれないのが怖いんだよな……。

ほんと、どこであんなのが生まれたのか……。

 

「俺は魔法世界とやらについて延々と語られたんだぞ!?そんなの知らねえって言ってんだよぉ!!」

 

「俺はダーククリーチャーとやらと遭遇したときの対処法を習ったんだ……。特殊なアイテムがどうのこうのって、明らかにミルたんの正拳突きのほうが効くだろ……」

 

そうか、大変な目にあったんだな……。

 

「よ、よかったじゃないか……。これからはダーククリーチャーと出くわしても勝てるぞ」

 

そう言った瞬間、松田と元浜はドロップキックを仕掛けてきた。

罪悪感の凄い俺はあえて二人の攻撃を喰らってやったのだった……。

 

 

 

*******

 

 

「ふい~、疲れたっす~」

 

「お疲れさま」

 

放課後。

補習を終えたミッテルトが一年の教室から出てくる。

今回の件は俺に責任があるため、彼女の補習が終わるまで、教室の前で待っていたわけだ。

これはミッテルトが昨日出した昨日の件を許すためのもう一つの条件でもある。

 

「こんな時くらいでないと、なかなか二人っきりっていうのはないっすからね……」

 

なんでも最近はアーシアも一緒に帰ることが多くなり、それももちろん楽しいのだが、二人きりになれないことが少しだけ寂しく感じたんだと。こういうところがあるから本当に可愛い奴である。

 

「そうだ、オカルト研究部行く前になんか買ってく?」

 

「あ、いいっすね」

 

早速購買にでも行こうと思った矢先、俺とミッテルトは旧校舎から何やら大きな妖気(オーラ)を感じた。

これは……、部長と同じ悪魔だな。

 

「なんスカね……?」

 

「さあ、でも、早くいったほうがよさそうだな……」

 

「……なんで今日に限って……」

 

ちょっとしたデート気分から一転して面倒ごとが起きたことを嘆くミッテルト。

気持ちはわかるけど、仕方がないよな……。

俺たちは急いでオカルト研究部の部室へと向かった。

 

 

 

**********

 

 

木場side

 

 

「そう、ミッテルトさんは補習で……」

 

「はい、それで、イッセー先輩も少し遅れるとのことです」

 

「うう、うらやましいです……」

 

クラスが同じだからかいつも小猫ちゃんと一緒に来るミッテルトさんが今日はいないことが気にかかり、聞いてみるとなんでも昨日のテストの結果がよくなかったようで、今日の放課後に補習を喰らったそうだ。

イッセー君もそれが原因で少し遅れるとのこと……。

アーシアさんは少し羨ましそうにしている。

 

「それにしても、最近部長の様子も変だし……、何かあったのかな……?」

 

「副部長なら何か知ってるかもしれませんね……」

 

そうこうしているうちに、僕たちは部室の前へと到着した。

部室を開けると何やら神妙な顔をした部長と副部長が待っていたんだ。

いったい何があったんだろう……。

そう考えながら、部室に足を踏み入れると、僕たち以外の存在がこの部室にいることに初めて気が付いたんだ。

 

「僕がここまで来て初めて気配に気づくなんて……」

 

そこにいたのは、グレモリー家のメイドにして部長の義姉君、魔王サーゼクス・ルシファー様の奥方、グレイフィア・ルキフグス様だった。

なんでこの人がここに……?

 

「イッセーとミッテルトは?」

 

「少し遅れるとのことです」

 

「そう……」

 

小猫ちゃんの言葉を聞いて部長は少し悩むそぶりを見せる。

 

「時間がないからもう話すわね。実はあなたたちに話があって……」

 

瞬間、突如として部室の隅に描かれた魔法陣が光りだした。

これは転移現象……?でも部室にはイッセー君とミッテルトさんを除けば全員いるし、グレイフィア様もここにいる。

あれは……フェニックスの紋章?

 

「フェニックス……?」

 

そして光が晴れてその場に姿を現したのは金髪の男性だった。

 

「ふぅ、人間界は久しぶりだな……」

 

現れたのは赤いスーツを着崩したホスト風の男性だ。

その人は部長の姿を確認するや、少しいやらしい笑みを浮かべる。

 

「愛しのリアス、君に会いに来たぜ」

 

直接会ったことはないけど間違いない……。この男性がリアス部長の婚約者、ライザー・フェニックスだ。

 

 

 

**********

 

 

「いやー、リアスの『女王』がいれてくれたお茶は美味いな」

「痛み入りますわ」

 

 

副部長はニコニコしているがあれはかなり不機嫌になっていそうだ。

何度か噂で聞いたことがあるがあれが部長の婚約者……、実際に見るのは初めてだけど、すさまじい力を感じる。

もしかして最近の部長の様子と何か関係があるのかな?

 

「所でリアス、さっそくだが式場を見に行こうか、日取りも決まっているんだ、早め早めがいい」

 

「いい加減にして、ライザー!!」

 

先程から肩や髪を触られていた部長がとうとうキレたのか立ち上がってライザーを睨みつける、当の本人はヘラヘラと笑って余裕の笑みを浮かべているだけだ。

 

「以前にも言ったはずよ、私は貴方とは結婚するつもりはないと!私は自分の意志で旦那様を決めるって!」

 

「そうだったな。だがリアスよ。それを聞いて、はいそうですかとはいかないんだよ。

先の戦争で純血悪魔の大半が塵と消えた、戦争を脱したとはいえ天使、堕天使達とは拮抗状態にある。だからこそ純血の血を引く俺のフェニックス家と君のグレモリー家、二つの強い血を混ぜて更に強い新生児を生んでいく……これは俺と君の父上、そして魔王サーゼクス様の意志でもあるんだ。君は身勝手な我儘でグレモリー家を潰すつもりなのか?」

 

「家は潰さないわ!私は次期当主、婿くらい自分で決める。私が本気で好きになった人を婿にする。それくらいの権利は私にもあるわ」

 

部長が真剣な表情でそういうと流石に今まで余裕の笑みを浮かべていたライザーも不機嫌な表情になり舌打ちをする。

 

「……なあリアス、俺もフェニックス家の看板を背負っているんだ、だからこの名前に泥を塗る訳にはいかないんだよ。これ以上駄々をこねるっていうなら君の眷属を全員燃やしてでも君を連れ帰るぞ?」

 

そういうと、ライザーはすさまじいプレッシャーを放つ。

ライザーの体から炎があふれ出しチリチリと火の粉が舞う。

ぐ、なんてプレッシャーだ……。

このままでは……。そう考えたその時、後ろの扉が音を立てて開き、聞き覚えのある声が部屋の中に響き渡った。

 

「すみません遅くなりました」

 

「……ん?誰っすか?」

 

やってきたのはイッセー君とミッテルトさん。

一触即発だった空気の中、頼もしい二人がやってきたのだった。

 

 

 

**********

 

イッセーside

 

 

「なんだ貴様……、人間?なぜ人間がこんなところにいる?」

 

少し急いで部室に来た俺の前には妙なホスト風のチャラ男がいた。

何だこいつ……。悪魔なのはわかるけど、人間への嫌悪感を隠せていない……。なんていうか……、すげえ小物臭い。

 

「あなたがお嬢様の報告にあった今代の赤龍帝、兵藤一誠様にその恋人でおられる堕天使のミッテルト様ですか?」

 

そんなことを考えていた俺たちに話しかけてきたのはメイド服を着た強そうなメイドさんだ。

この人……、たぶん覚醒する前のフレイさん並に強いな……。

魔王種を獲得してるし、ただものではなさそうだ……。かつてメイドに化けていたルミナスさんという例もあるし、もしかしたら変装したこの世界の魔王様かも……?

そう思った俺はふとその疑問を口に出してしまった。

 

「ひょっとして魔王様か何かで……?」

 

その言葉を聞いて少し動揺した様子のメイドさん。

 

「……なぜ、そう思ったのですか?」

 

「だって、明らかにそこの赤い変な悪魔や部長より何十倍も強そうだったし、もしかしたら……と思いまして……」

 

少し腑に落ちたような顔をするメイドさん。反応から察するに魔王本人ではなさそうだな……、でも、近しい存在なのは間違いない。

 

「いいえ、違います。私はグレモリー家のメイドにして魔王であるサーゼクス様の女王(クイーン)……、グレイフィア・ルキフグスと申します」

 

おお、魔王様の女王(クイーン)か……。こんな人を眷属にしているとは、そのサーゼクスさんって魔王は滅茶苦茶強そうだな……。

ティアマットさんいわく、サーゼクスは悪魔の突然変異ともいわれる存在であり、神話級(ゴッズ)の武器を使っても自分では勝てるかどうかわからないとまで言わしめる存在らしい。

そういえば、サーゼクスさんは部長のお兄さんだって以前ティアマットさんが言っていたな。もしかしたらそれ経由でメイドをやっているのかもしれない……。

 

「貴様……、さっきからこの俺に対し、無礼だぞ!」

 

「あ」

 

そうだ、一瞬忘れかけてた。コイツいったい何者なんだ?

 

「そのお方はお嬢様の婚約者、ライザー・フェニックス様です」

 

部長の婚約者……。なるほど……。ふむふむ……。

・・・・・・・・・・・・

 

「……ってはあ!?」

 

「え!?部長結婚するんすか?」

 

「しないわよ!!私は認めてないわ!!」

 

ああ、なるほど。なんとなく理解した。

要するに親が結婚相手を決めたいわゆる政略結婚ってやつか……。

部長の話によると、純血の悪魔は戦争でかなりの数亡くなり、それで転生悪魔が生まれたわけだ……。

でもそれじゃあ純血の悪魔がいなくなるかもしれないから、悪魔の血を絶やさないために純血悪魔同士で結婚させようとか、そんな感じらしい。

部長が反対するわけだ……。それは部長の考えを無視している。確かに種の存続も大事なことなんだろうけど、普通に好きな人と結ばれたいという部長の気持ちもよく理解できる。

そもそも、長い寿命を持つ悪魔という種族においては、まだそこまで急ぐほどのことでもない気がする。

 

「ふん、そもそも人間ごときが立ち入っていい場所ではない!今すぐ消えるんだな……」

 

そういうとライザーは殺気とともに妖気を高める。

なるほど、部長と比べると上位の力を持っていそうだな……。魔王種とまではいかなくても普通にAランクオーバー、上位魔人程度の力がある。ライザーの殺気にあてられ、部長や木場たちは冷や汗を流す……。

でも……

 

「俺だってオカルト研究部の部員なんだ。立ち入る権利は少しくらいはあると思うんだけどな……」

 

「な、なに!?」

 

そういいながら俺も英雄覇気を放出する。予想を上回るオーラにライザーも冷や汗を流し出した。見下していた人間から異常なまでのオーラが出てることに戸惑っているようだ。

それでもそのプライドからか、ライザーは妖気とともに炎を出そうとする。

 

「おやめください、兵藤様、ライザー様」

 

そんな俺たちを見かねてかグレイフィアさんも魔力を放出しだした。

グレイフィアさんから発せられる魔力もかなり高いレベルだ。意識してか、無意識なのかは知らないけど、これは間違いなく魔王覇気だ。

さすがはこの世界最強の魔王様の配下筆頭ってところか……。ティアマットさんでも勝てるかどうかわからないという魔王さまの女王(クイーン)を務めるだけのことはあるな……。

よく見ると俺とライザー、グレイフィアさんのオーラが場を支配している影響で、部長たちにかなりの負担がかかっている。

ミッテルトはこの中で一番弱いアーシアをかばうように立ってるし、少し落ち着いたほうがいいかもな。

 

「私はサーゼクス様の命によりここにいます故、この場に置いて一切の遠慮はしません」

 

「すみません」

 

「最強の女王と称されるあなたに言われたら俺も止めざるを得ない」

 

俺たちがオーラを出すのをやめると安心したのか、部長たちはため息をつく。ライザーもかなり消耗したらしくソファーに腰掛ける。そんな中平然としているグレイフィアさんはさすがだな。

 

「大丈夫っすか?部長?」

 

「え、ええ。ありがとうミッテルト」

 

ミッテルトに支えられながら部長も腰掛ける。

なんか悪いことしたな……。後で謝っとこ……。

 

「グレモリー家もフェニックス家も当人の意見が食い違うことは分かっていました。ですので、もしこの場で話が纏まらない場合の最終手段を用意しました」

 

「最終手段? どういうことかしら、グレイフィア?」

 

部長はグレイフィアさんにそう質問すると、グレイフィアさんは話し続ける。

 

「お嬢様が自らの意思を押し通すのであれば、この縁談をレーティングゲームにて決着を着けるのはいかかでしょうか?」

 

レーティングゲーム……。

聞いたことがある。確か上級悪魔が己の眷属同士で競い合う冥界のゲームだ。

 

「お嬢様もご存じのとおり、公式のレーティングゲームは成熟した悪魔しか参加できません。しかし、非公式のゲームならば、半人前の悪魔でも参加できます。この場合、多くが──」

 

「身内同士か御家同士のいがみ合い、よね」

 

部長は嘆息しながら言葉を続ける。

 

「つまり、お父様方は私が拒否した時のことを考えて、最終的にゲームで今回の婚約を決めようってハラなのね? ……どこまで私の生き方を弄べば気が済むのかしら……!」

 

まあ確かに、ゲーム感覚でこんなこと決められたらたまったもんじゃないよな。

 

「では、お嬢様はゲームも拒否すると?」

 

「まさか。こんな好機はないわ。ゲームで決着をつけましょう、ライザー」

 

レーティングゲームへ参加する事を了承する部長の言葉を聞き、ライザーは口元をにやけさせながらこう言った。

 

「ふん、無駄なことを。俺は何度もレーティングゲームを行った経験がある。そんな少ない人数で俺自慢の眷属たちに勝てると思っているのか?」

 

ライザーが指を鳴らすと再び魔法陣が光りだして光が晴れるとそこには15人の女性が現れた、そう、15人全員が女性だ。

騎士や魔法使い、小さな女の子といった美少女達がライザーの周りに集まる。

な、なんて光景だ。

う、うらやましすぎる……。

 

「な、なんだ?さっきまでと雰囲気違いすぎないか?」

 

「ああ、すみませんね。この子かなりスケベでして、実はハーレムというものにあこがれを持ってるんすよ。ほらイッセー、正気に戻るっす」

 

その言葉を聞いてライザー眷属の女の子と小猫ちゃんは汚物を見るような目で俺を見る。

 

「最低です。いつもそんなこと考えていたんですか?」

 

「キモいですわ」

 

ぐふ!?女の子たちの軽蔑の視線と侮蔑の声が俺の心を傷つける。

ち、違うんだ小猫ちゃん。確かにハーレムにあこがれは持ってるし作りたいとか考えることもあるけど、別にそれ目当てでオカ研入ったわけじゃないんだ。

 

「まあ、いい。今すぐ始めてもいいが、十日の猶予をやろう。せいぜいこの世界の友人に別れのあいさつでもしてるんだな」

 

別れだって!?どういう……

……ってそうか、もし部長が負ければ部長はもう人間界の学校にいられなくなるんだ。

そうなればオカルト研究部もなくなる。

もしかしたら眷属のみんなともお別れになるかもしれない。

それは絶対ヤダ。

ミッテルトもそのことに行きついたらしく、顔をしかめている。

 

「……一つ聞きたいんですけど、そのレーティングゲーム、眷属以外の人間が参加しても大丈夫ですか?」

 

俺の発言にグレイフィアさんやライザー、部長たちも驚いたように俺を見る。

少し考えるそぶりを見せた後、グレイフィアさんは口を開く。

 

「……公式なら眷属以外の参加は禁じられております。ですが、今回行われるのは非公式のレーティングゲーム。ルール上は問題ないかと思われます。まあ、相手から許可を取る必要がありますが……」

 

そう言って、グレイフィアさんはライザーを見る。

 

「俺は構わん。人間ごときの分際で俺をコケにした愚かさ。後悔させてやろう」

 

「なら、俺とミッテルトも参加する」

 

「また勝手に。でも、今回はうちも全力でやるっすよ……」

 

「ふん、今のうちにほざいておくがいい」

 

こうして俺たちの参加も決まり、ライザーとグレイフィアさんも戻っていった。

あと十日か……。

今のうちに準備しないといけないな。

そう考え、俺たちも今後の方針に合わせて話し合うのだった。



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修行開始します

イッセーside

 

 

ライザーとのレーティングゲームを行うことが決まった次の日。

俺たちは修行のため、部長の所有する別荘で泊まり込むことが決まった。

山頂近くにあるというため、山道を歩いている。

これがなかなかいい景色だ。風も気持ちいいし、花のいい香りもする。

父さん母さんにも見せるため写真でも撮ろうかな?

 

「よ、余裕だねイッセーくん」

 

「ん?」

 

まあ確かに余裕ではあるが、そこまで驚くことでもないだろう。

俺もアーシアとミッテルトの分の荷物も持っているとはいえ、大きさは小猫ちゃんのとそこまで変わんないはずだ。

木場の荷物よりは重いと思うけど、そこまで驚くことでは……。

 

「私は戦車だから持てるのであって、普通の人間には無理だと思います」

 

あきれたようにつぶやく小猫ちゃんを見て俺もハッとする。

小猫ちゃんは自分の体の倍近いリュックを背負っている。重量からして60~80キロはくだらない。オレも似たようなもので確かに普通の人間にはこれ持ちながら登山とか無理か……。

 

「まあ、鍛えてるってことで納得しとけ」

 

そう言いながら俺は山頂を目指して再び歩きだすのだった。

 

 

 

*******

 

「おお、此処が部長の別荘ですか!?」

 

「かなりの豪邸っすね!」

 

ミッテルトの言うとおり、部長の別荘というのは世間一般でいえば豪邸といって差し支えのないものだった。

魔国連邦(テンペスト)の財務大臣であるミョルマイルさんの家くらいはあるんじゃないか?

さすがは魔王様の妹といったところか……。まあ、あんなに強い人をメイドにしているくらいだしな。

 

「じゃあさっそくジャージに着替えて修行しましょう。私たちは二階を使うからイッセーたちは一階の部屋を使って頂戴」

 

「分かりました」

 

どうやら遊びは入れずさっそく修行に入るつもりのようだ。

まあ、部長からすれば人生……いや、悪魔生がかかっているわけだし、当然のことか……。

……いや、待てよ……。これってのぞき見するチャンスなんじゃないか?

魔力感知……は駄目だな。ミッテルトがしっかり対策取っているだろう。

隠形法で気配と魔力を隠せばワンチャン行けるか?

 

「無駄っすよイッセー。うちの目をごまかせるとは思わないことっすね」

 

そんなこと考えてると耳元でミッテルトがささやいてきた。

チクショウ!見透かされてやがる……。

ま、まあいい……。合宿期間は長いんだ。いかにミッテルトといえど集中を持続することは困難なはず。

覗くチャンスはいくらでもあるんだ。

 

「じゃあ、僕も着替えてくるよ」

 

「おう」

 

そういいながら木場はジャージをもって浴室へと向かう。

すると何をとち狂ったのか振り向いてわけのわからんことをぬかし出した。

 

「覗かないでね」

 

「誰が野郎の着替えなんて覗くか! マジで殴るぞ、この野郎!」

 

「ははは、冗談だよ」

 

冗談に聞こえねえんだよ……。ただでさえ最近「木場×イッセー」がどうとか訳のわからん事噂されているしよ……。

修行の時覚えてろよ……。そう思いながら俺も着替えるのだった。

 

 

**********

 

 

 

 

着替えの終わった部長たちは俺、ミッテルトと向かい合うように整列していた。

今回の修業での俺たちの主な役割は皆を鍛えることだ。

理由は言わずもがな、俺たちのほうが部長たちよりも強いからだ。

魔力や身体能力のどれをとってもここにいるみんなでは俺はおろかミッテルトの足元にも至っていない。

俺たちが指南役になるのは自然なことだろう。

これは部長の頼みでもある。

 

「では、これより修業を始めるけど、その前にやっておきたいことがある」

 

「やっておきたいこと?」

 

俺の言葉を聞き、少し不思議そうな表情をして部長が訪ねる。

 

「今から部長たち眷属全員、俺と戦ってもらいます」

 

「え、どういうこと?」

 

いきなり俺と戦ってもらうといわれ、皆困惑しているようだがこれにはちゃんと訳がある。

俺たちはまだ部長の能力のすべてを知っているわけではない。

俺たちがみんなの戦闘をちゃんと見たのはバイサーとの戦いのときだけだ。

アーシア救出の時はまじまじと見る暇なんてなかったしな。

……というわけでみんなの正確な実力や技量(レベル)を知るためにも一度本気で戦ってみたほうがいいと判断したわけだ。

そのことを話すと皆顔を引き締める。

 

「じゃあ、どういう順番で……」

 

「あ、順番とか関係なく一斉にかかって大丈夫ですよ。滅びの魔力や神器を使っても構いませんから」

 

その言葉にみんなピクリと眉を動かす。そこにはかなりの怒気が感じられる。

俺のほうが強いというのはさすがにみんな分かっているけどそこまでなめた態度は許容できないってところかな?

 

「なめられたものね……。いいわ。私たちも全力でやってあげる。後悔しても知らないわよ!」

 

そういって部長を含めたグレモリー眷属全員が臨戦態勢に入る。

最初に飛び出したのは木場だ。炎の出る剣を携え、俺に突進してくる。

 

「行くよイッセー君!」

 

木場は“魔剣創造(ソード・バース)”という神器を持っているらしく、自分の考えた魔剣を創造することができるらしい。

なんていうか、男心をくすぐるかっこいい神器だな。

創ることができる魔剣も希少級(レア)の品質を誇っており、とても便利な神器だと思う。

木場が今創った剣には炎が付与されており、あたると並みの奴ならやけどじゃ済まなさそうだ。

すると木場の姿が一瞬ぶれる。

木場の駒は『騎士』、その特性はスピードだ。

そのスピードを活かし、一気に攻め落とす。

それが木場の戦いなのだろう。

だが、俺には通用しない。

剣筋はなかなかのものだがいささか素直すぎだ。

俺は木場の剣を見切り、炎の魔剣をへし折った。

 

「なっ!?」

 

すぐさま新しい魔剣を作り出そうとするが、木場が剣を作るのにかかる時間はおよそ2~3秒。

100万倍の思考加速を持つ俺にとっては遅すぎる。俺は木場の腹に掌底を食らわせ、木場を吹っ飛ばした。

 

「裕斗!?」

 

「私が……」

 

俺が木場を吹き飛ばしたと同時に小猫ちゃんが駆け出す。

すると小猫ちゃんは俺に向かってパンチの連打を放ってきた。

俺はそれを楽々かわすがなかなかのパワーを感じられる。小さいのに大したものだ。

 

「今、小さいって言いましたね?」

 

……だからさあ、なんでみんなナチュラルに俺の心を読むかなあ。ミッテルトといい絶対おかしいって……。

小猫ちゃんの怒りのパワーで先ほどよりも攻撃が鋭くなってきてる。

どうやら小さいことを気にしていたようだな……。

ここは先輩として慰めたほうがいいのかな?

 

「べ、別に小猫ちゃんは今のままでも十分可愛いと思うよ。ほら、なんていうか、ロリっ娘って感じが最高だしさ」

 

「殺す」

 

俺の言葉にぶちぎれたらしく、小猫ちゃんはさらに連打の回転数をあげてきた。

一発一発が中心線を的確に狙ってきてる。

腰も入っているし、かなり重たい一撃になりそうだな。

しかしそれゆえに狙いがわかりやすい。

俺は小猫ちゃんが放った拳を片手で受け止める。さすがに予想外だったらしく、小猫ちゃんはギョっと驚いた表情を見せる。

しかし、すぐに冷静さを取り戻し、小猫ちゃんはすかさず回し蹴りを放つ。

俺はそれを片手で受け止め、勢いに沿って小猫ちゃんをぶん投げた。

 

「くっ……。今です!」

 

おっと?ここまで計算通りだったのかな?

小猫ちゃんが俺から離れた瞬間、突如として雷が俺に落ちてきた。

いわずもがな、朱乃さんの雷だ。

 

「うふふ、油断大敵ですわ」

 

「こっちのセリフですよ」

 

「!?」

 

今の不意打ちをよけられたとは考えていなかったみたいで朱乃さんは驚いたようにこちらを見る。

俺からすれば、魔力感知で常に周囲の状況を把握できるわけだから、そもそも不意打ちが成立していないんだよな……。

動揺する朱乃さんに対し、俺は即座に近づき、朱乃さんを片手で投げ飛ばした。

 

「がは……」

 

『女王』は『戦車』の特性も持っているらしいけど朱乃さんは典型的な魔法使い型(ウィザードタイプ)の悪魔だ。近接戦闘に不慣れなため、受け身をとることすらできず倒れ伏せた。

 

「朱乃!くっ、滅びよ!」

 

焦った部長は俺に対して滅びの魔力を放ってくる。

俺はそれを片手でいなし、はるか上空に打ち上げた。気操法で腕を魔力でガードしているため、ダメージはまったくの皆無だ。

 

「嘘……。滅びの魔力を素手で……?」

 

信じられないといった風に呆然とする部長。だが、それは完全に悪手だ。

戦闘中に棒立ちなんて自殺行為以外の何物でもない。

 

「気持ちはわかりますが、戦闘中に思考を止めるのはよくないですよ」

 

「え?……ってキャア!」

 

最後に俺が部長に背負い投げ。とっさのことでこちらも受け身をとることすらなく倒れ伏せる。こうしてこの模擬戦は幕を閉じた。

 

 

 

**********

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「ええ、ありがとうアーシアちゃん」

 

「いたた……」

 

「全く手も足も出なかった……」

 

「……くやしいです」

 

アーシアの回復の元復活した部長たちを尻目に俺は今後の方針を考える。

……よし。

 

「だいたいわかったんで、方針を決めますね」

 

俺の言葉に一斉にみんなが俺のほうを向く。

少し気恥しいが進めるか。

 

「まず、部長と朱乃さん。あなたたち二人はもう少し接近戦の動き方を学んだほうがいいと思います」

 

「……それはどうしてかしら?」

 

「お二人は魔法の威力はすごいんですよ。でも、それに頼ってばかりだから近づかれると途端に脆くなる。だから、せめて近づかれても簡単にはやられないようにもう少し接近戦の動き方を覚えたほうがいいと思います」

 

正直言って魔法使いというのは総じて近づかれたら脆くなるものだ。だからこそ、それを克服するための手段を模索しなければならないと俺は考えている。

実際、ファルメナスの魔人ラーゼンも武闘を嗜んでおり、接近戦でもかなりの強さを誇っている。ウェンティさんと融合したアダルマンさんに至っては、そっちが本職なのでは?と思うような拳捌きを披露してくれたしな……。

あの人たちも近づかれたら脆いという魔法使いの弱点を克服した存在である。

他にもミュウランさんのように小技を駆使して戦うという方法もあるが、俺は魔法は専門じゃないためさすがに教えることはできないからな……。

 

「まあ、しばらくしたらティアマットさんも来てくれるらしいですし、魔法関連は彼女に教えてもらいましょう。それまでは俺と格闘の訓練をしてもらいます」

 

「わかったわ」

 

うん。いい返事だ。お次は……。

 

「次は木場だ」

 

「う、うん」

 

「木場の剣術の技量はなかなか高いけどお手本通りって感じがするんだよな……」

 

「お手本とおり?」

 

「木場の剣は剣術のお手本ともいうべき動きだけどそれゆえに読みやすいんだよ。今までは作れる魔剣の自由度が高いのと、スピードのおかげで気にならなかったんだろうけど……」

 

お手本通りの剣ではいざという時の対応力に欠ける。

例を挙げれば朧流の達人であるハクロウさんは実戦では流派を踏襲しつつも臨機応変に変幻自在の剣撃を繰り出してくる。

だから型がわかっていても防ぎにくいんだよな。

他にも剣也はよくわからん構えから鋭い一撃を放ってくる。

剣筋の読めなさでいえば剣也が一番かもしれない。

木場は“魔剣創造(ソード・バース)”があるからある程度は対応できるだろう。それでもいずれボロが出る。

なんていうか……、神器とスピードに頼りすぎている印象が強い。

 

「まあ、俺も剣の腕はそこそこしかないからなんともいえないけどな。だから……」

 

「木場っちはうちが見てあげるっすよ」

 

「ミッテルトさん……」

 

木場に関してはそれが一番だと思う。

謙遜はしているがミッテルトの腕前は魔国連邦でもトップ20くらいには入るほどの剣技を持っている。

俺がとやかく言えることでもないし木場のことはミッテルトに任せよう。

 

「んで、小猫ちゃんだね」

 

「はい」

 

「小猫ちゃんは連打の際も的確に中心線を狙ってきた。でも、それにこだわりすぎって感じかな?木場ほどのスピードもない分動きが木場以上に読みやすいんだ。攻撃が単調すぎる。君ももう少し小技学んだほうがいいかな?」

 

「……そうですか」

 

あまり自覚がなかったのだろう。少しショックを受けている。

というか、攻撃が単調というのはグレモリー眷属全員に当てはまることだ。

部長もまっすぐにしか滅びの魔力を飛ばさなかったし……。

なんていうか、戦いの駆け引きを知らなさすぎる。そのことから察するに……。

 

「たぶんだけど、部長たちは今まで自分よりも強い奴と命がけで戦ったことがなかったんじゃないですか?」

 

その言葉にみんなは思案顔になる。

 

「……そうね。確かに私たちは苦戦なんて一度もしたことがなかったわ」

 

「そう。今まで貴方たちは弱い相手としか当たらなかったからゴリ押しでも勝つことができた。でも、それで実戦経験を得たと考えるのは勘違いですよ。正直言って……、今のままでは部長たちだけでライザーたちには勝てないと思います」

 

その言葉にみんなが驚いたような顔になる。修行やる分実力差や危機感は持っているのだろうけど、それが弱い気がする。

 

「上級悪魔だから強くて当然。今まではぐれ悪魔たちを倒せたのも自分が強かったから……。そう考えていたかもしれませんけど、生来の強さに頼ってばかりじゃ、真に強くなることはできません。重要なのは技量(レベル)を高めること。

俺も最初は弱かった。普通の人間だったから当然ですけど、それでも修行して戦って強くなったんです。部長たちもそのことを肝に銘じてください」

 

「「「「はい!」」」」

 

よし。気合十分だな。

この調子ならみんな強くなれそうだ。

 

「あの、イッセーさん。私はどうすれば……」

 

「アーシアは皆の回復と結界などの防御魔法を覚えることに徹してくれ。アーシアは完全に後方支援型。正直言って戦えるタイプじゃないからな」

 

「そうですか……」

 

俺の言葉に少しアーシアは落ち込んでしまった。少し落ち込んでいるが、別に役立たずと切って捨ててるわけじゃない。

 

「いいかアーシア。別に戦えないことは悪くない。むしろ戦いなんてないほうがいいんだからな。

それにアーシアの神器は本当にすごい力だと思っている。だってアーシアが傷を治してくれると考えればそれだけで安心感が生まれるからな。だからこそ、アーシアには回復の力の強化と自分が死なないように防御の方法を学んでほしいんだ。決して役立たずなんかじゃないから安心しろよな」

 

「イッセーさん……。ありがとうございます」

 

その言葉を聞いてアーシアは安心したようだ。アーシアの性格からあまり攻撃に徹することはできなさそうだし、今はこの方針で問題ないと思う。

回復係が戦場にいるいないでは安心感が桁違いだからな。

本当は神聖魔法とか教えたいけど悪魔になったばかりのアーシアでは難しいと思う。

そもそもこの世界の神が祈る対象としてちゃんと適用されるのかわからないしな……。

ヒナタさんやシュナさん、アダルマンさんはともかく、ミッテルトは今も自力での霊子運用は難しいらしい。

ミッテルトはリムルという存在を信仰の対象にしてるからその力を借り受ければ霊子崩壊(ディスインテグレーション)といった高位の神聖魔法の行使もできるが、自力では本当に簡単な魔法しか使えないとのこと。それだけ霊子を操ることは難しいのだ。

この世界の神が“信仰と恩寵の秘奥”を使うことができるかわからない現状では神聖魔法を教えることはできないな。

 

 

 

 

**********

 

 

現在夜の12時過ぎ。

詰め込みすぎもよくないので修行を切り上げ、夜中のうちにたっぷり休息をとるよう皆に言っている。

今部屋で起きているのは俺とミッテルトの二人だけだ。

 

「書いといたぞ。みんなの今の存在値」

 

「イッセーの権能ってこういうところほんと便利っすよね。存在値丸裸にするってラミリス様の迷宮くらいでしかできないのに……」

 

まあ、存在値まで測れるのは我ながら本当にすごいと思うけど……、俺の国津之王(オオクニヌシ)の計測能力は女の子のおっぱいやらスリーサイズやら色々測りたいっていう煩悩がもとになっているから褒められると少しむず痒いんだよな……。

今では純粋に存在値のみを測れるようになっているからいいけど、昔は男のスリーサイズとか知りたくないものまで知ってしまったりとわりかし苦労したな……。

そんなどうでもいいこと考えながらみんなの現時点での存在値を紙に書きだした。

 

リアス・グレモリー

EP 10023

 

 

姫島朱乃

EP 9124

 

 

木場裕斗

EP 8953

 

 

塔城小猫

EP 8025

 

 

アーシア・アルジェント

EP 3079

 

 

現在の皆の存在値はこんな感じ。

唯一部長がAランクで朱乃さんがA-ランク。木場と小猫ちゃんがBランク上位クラスの力があって、アーシアが魔力量のみでギリCランクといったところだ。

ちなみに、存在値は身体能力と魔力のみで技量までは測れないけどそれ込みだと一番強いのは木場だろう。木場の剣術は実戦さえ積めばいい線いってると思うしな。

対してライザー眷属はほとんどがC+~Bランクであり、Aランクの手練れも何人か混じっていた。

ライザー本人に至ってはEP7万を超えており、Aランクオーバーの上位魔人級はあるのだ。

まあ、俺とミッテルトがいるからライザーはどうとでもなる。

でも、頼りすぎてもだめだと思う。

もし俺たちがライザー眷属相手に無双すればたぶん5秒かからず片付けられるけど、それでは部長が評価されることはない。

あくまで部長たちの戦いなのだから俺たちはほどほどで済ませたほうがよさそうだな。

部長たちが本当にピンチになったらさすがに別だけど。

……とはいえ。

 

「迷宮でもない場所での訓練じゃあ、やることは限られるな……」

 

「そこまで劇的に強くするのもうちらじゃあ難しいっすからね……」

 

前途は多難だな……。

そう考えながら、俺たちは今後の方針について話し合うのだった。




EP知らない人のために念のため
EP=魔素量や身体能力などを数値化したもの。目に見えない技術(レベル)などは含まれないため単純にEP=強さというわけではない。
現に数倍以上のEPの差があったとしても技量が高ければ圧倒できることもある。

EP1000未満=Eランク
EP1000~3000=Dランク
EP3000~6000=Cランク
EP6000~8000=Bランク
EP8000~9000=B+ランク
EP9000~10000=A-ランク
EP10000~100000=Aランク(災害級(ハザード)
EP100000~400000=特Aランク(災厄級(カラミティ)
EP400000~800000=Sランク(災禍級(ディザスター)
EP800000~1000000=特Sランク
EP1000000~=超級覚醒者(ミリオンクラス)


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レベルアップします

小猫side

 

 

イッセー先輩は学校では悪い意味で有名だ。

変態三人組といわれ、学校内での覗き行為や猥談など、スケベなことばかりやっている。

にもかかわらず、ミッテルトという彼女がいることでも知られており、脅迫されているのではとのうわさもよく聞いたりする。

私自身いい印象を抱いていないのだが、部活内で関わるようになり、意外と思える一面を見つけることとなる。

赤龍帝という強大な神器を持ち、人間でありながら悪魔をはるかに上回る力を持つ。

どうしてこれほどの力を持っているか疑問は尽きないし、知れば知るほど興味深い人間ですね。

まあ、好きにはなれないですけど……。

 

「今日は小猫ちゃんには俺の流派ヴェルドラ流闘殺法を教えようと思うんだけど、どうかな?」

 

「ヴェルドラ流闘殺法……ですか?」

 

修行開始から二日目。部長や副部長に近接戦闘を教えつつ、イッセー先輩がわたしに提案をしてきた。

イッセー先輩の動きは正しく達人と呼ぶにふさわしいほど洗練されていて、その動きだけでもとても参考になる。

そんな中提案された誘いは興味があるが、少し戸惑ってしまう。

私も武術の本を読むことがあるけど、そんな流派は聞いたことがない。

 

「ヴェルドラ流闘殺法は俺の師匠が開発した、漫画やアニメの技を取り入れた拳法さ」

 

「ま、漫画?アニメ?」

 

よ、予想外の言葉が出て少し困惑しました。

 

「……そんな拳法本当に役に立つんですか?」

 

「まあ、気持ちはわかるけど、俺これで強くなったしな……」

 

そう言いながら構えをとるイッセー先輩。その姿からはみじんも隙が感じられない。

少し納得いきませんが……。

 

「まずはその中でも基礎の技である気闘法を習得してもらう」

 

「気闘法……ですか?」

 

「そう。元々はミッテルトの朧流の技なんだけど、師匠が取り入れたんだ。まずはこれを習得しないとほかの技も習得できないからな……」

 

そういうとイッセー先輩は突如として消えてしまった。

 

「え?」

 

あたりを見回してみるが、先輩は影も形も見つからない。

一体どこに……。

 

「こっちだよ」

 

「っ……!?」

 

後ろから肩を叩かれたことで私は初めて先輩の姿を認識した。

気配もまるで感じられなかった……。これはいったい……。

 

「これが気闘法。体内の魔素……魔力といったエネルギーを使って身体の強化などを行う技術(アーツ)だ」

 

「あーつ?」

 

「そう。瞬間的に移動する“瞬動法”。相手の認識を遮る“隠形法”。武器や拳に魔力を流して強化する“気操法”など様々な種類があるんだ」

 

ちなみに今の技は瞬動法と隠形法の合わせ技で私の知覚を遮りつつ、高速で接近し後ろをとったらしい。

裕斗先輩のスピードに慣れている私がまるで見えないほどのスピード。

嗅覚に自信のある私がまったく察知できないほどの気配遮断。

これらは気闘法と呼ばれる技術から来てたということですか……。

 

「じゃあまずは拳に魔力を集中させてみて」

 

「はい……」

 

早速私は魔力を拳に流してみる……。

……魔力を体に流すのは意外に難しく、拳に流すだけでも時間がかかる。

それでも何とか私は拳に魔力を流すことに成功した。

 

「おお、筋がいいな。じゃあ、その状態で俺を殴ってみな」

 

言われた通り、私はイッセー先輩めがけて拳を放つ。

 

「えい」

 

ドン!

 

すさまじい轟音があたりに鳴り響く。

結果だけ見れば私の拳はいともたやすく止められた。

それでも、今までとはまるで違う威力に言葉が出なかった。

 

「これは……」

 

「どう?今までとまるで違うでしょ?」

 

「……はい」

 

「それが気闘法の技の一つ“気操法”だ。なれればもっとスムーズに魔力を流せるようになるぜ」

 

確かに……、これを使いこなせればさらに強くなれるかもしれない……。

ライザーとの戦いに備えるためにも頑張らないと……。

 

 

 

**********

 

 

木場side

 

「はあ、はあ……」

 

「もうギブっすか?」

 

「まだまだ……。はあ!」

 

ひび割れるほどの勢いで地面を踏みこみ、ミッテルトさんに剣を振り込む。

しかし、ミッテルトさんはただの木刀で僕の魔剣を容易く受け止める。

すかさずもう一撃を叩きこむが読まれていたらしく軽くかわされる。

 

妖気(オーラ)の制御がなってないっすよ」

 

そういいながら、彼女は僕を魔剣ごと弾き飛ばした。

なんてすさまじい威力なんだ……。これが気闘法……、朧流の剣術の力なのか?

 

「木場っちの魔剣には最初から魔力がこもっているっすけど、だからといって気操法で強化できないなんてことはないっす。魔剣の魔力に木場っちの魔力が上乗せされれば破壊力はさらに増すはずっすよ」

 

「わかった。やってみるよ」

 

こうして対峙してみるとわかる。

ミッテルトさんの剣がいかにすさまじいものなのかを……。

朧流……と彼女は言っていた。

なんでも古い剣の達人が開いた流派であり、あらゆる魑魅魍魎を斬ることができる秘剣であると。

基礎の技であるという気闘法一つとっても恐ろしい技術だ。

魔力を流すだけでただの木刀が魔剣にも勝る武器となるなんて……。

 

(この力を魔剣に加えれば、聖剣にも勝るかもしれない……)

 

とはいえ、魔力を体に流すだけでもかなり難しく、ましてや武器に流そうとするとそれだけでかなりの負担がかかる。

本当にこの技術を完璧に使えるようになるのか少し不安になってくる。

 

「大丈夫っすよ。地道な努力に勝るものなし。コツコツ行きましょう」

 

「ミッテルトさん……。うん、そうだね」

 

焦らず、ゆっくり。

僕は再び剣に魔力を流し、ミッテルトさんと向かい合った。

 

 

 

**********

 

リアスside

 

「滅びよ!」

 

「はあ!」

 

私と朱乃は今日から五大竜王の一角であるティアマットさんと修行をしている。

 

「もう少し魔力を込めなさい。この程度の滅びの魔力じゃあ私の薄皮一枚貫けないわよ」

 

滅びの魔力は本来あらゆるものを消滅させる力を持つ。にもかかわらず、この竜は結界一枚を隔てて完璧に私の魔力を打ち消しているのだ。

 

「ふん」

 

すかさず接近してきたティアマットさんの攻撃に対し、私も対応する。

イッセーに少しだけ習った柔術の要領で受け流そうとした。だけど、それで受け流せるほどやわな威力ではなかったらしく、私は吹き飛ばされてしまう。

 

「課題であった接近戦を克服しようとするのは悪くないわ。でもまだまだ甘いわね」

 

顔を上げると私と同じく朱乃が一撃で吹き飛ばされているのが見えた。

これが最強の竜王……。

私たちが手も足も出ないなんて。

 

「あなたたちの攻撃は少し素直すぎね……。正直言って見切るの容易いわ」

 

「……なら、どうすればいいのですか?」

 

「例えば時間差で魔力を放ったり、接近戦の動き方を学んでいるのなら、至近距離から魔力を放ったりとやりかたはいくらでもあるわ」

 

なるほど、シンプルながらもいい手かもしれない。

よけられないほどの至近距離から魔力を放てば当たる確率はぐんと上がるでしょうし……。

 

「正直言ってリアスちゃんは魔力を操作する技術面にはあまり才能がないわ。でも、威力を磨けば将来的にはサーゼクスと同等になる可能性を秘めている。だから下手なコントロールなんて考えず放ちなさい。あとはそれをどうやって充てるかを工夫することね」

 

威力を高めることとそれをどう充てるかを考えること。

今までは自由自在に魔力を操るお兄様を指標に強力な滅びの力をどうコントロールするかしか考えていなかったけど、ティアマットさんはそれ以外の戦い方もあるということを教えてくれた。

そこで私はいかにして相手に魔力を当てるかを考え始める。

するとそれを見て微笑みながらティアマットさんはさらに威圧感を高める。

 

「さあ、修行は始まったばかりよ。どんどん来なさい」

 

彼女の放つ威圧感に思わず後ずさりする。

考えてみれば、伝説の竜王に直接教えを受けるなんてめったにできることじゃないわね。

これを機に私もレベルアップして見せるわ。

私と朱乃はうなずき合い、再びティアマットさんに向かって飛び込んでいった。

 

**********

 

イッセーside

 

「よし、今日の修行はここまでにしましょう」

 

もうすぐ日が暮れそうになってきたので修行の終了を宣言。すると部長達はみんなその場で座り込んだ。見ればみんながみんな息が絶え絶えとなっている。

まあ、あんまり修行とかしてこなかったんだろし、いきなりだとこんなものか。

悪魔は夜に力が増すらしいのであえて夜を休ませることで急速な体力の回復を見込める。

魔力も限界まで消費させているのでそこから回復すれば魔力量も上昇するだろう。

それにしても、皆なかなかに筋がいいな。

木場にはミッテルトが、小猫ちゃんには俺が気闘法を教えてみたけど完全とまではいかなくても、もう少しで習得できそうな感じにはなっている。

部長と朱乃さんもひたすら組み手をさせることで接近戦の技術が向上してきた。

さらにティアマットさんが参戦してくれたことにより、魔法技術も向上することができただろう。

傷が絶えないこの環境下でアーシアもフル稼働したことで回復するスピードが上がったように感じられる。教えてあげた簡単な防御結界も張り続けているようだし、狙われてもある程度の奴ら相手なら簡単にはやられはしないだろう。

この調子ならば全員がかなりの戦力アップが期待できるんじゃないかな?

というか、明らかに俺よりも習得スピード早いし、今から将来が楽しみである。

 

「お待たせしたっす!うち特性のハンバーグ定食っすよ!たんと食べて明日に備えてくださいね」

 

というわけで俺たちはミッテルトの作った料理を食べる。

ミッテルトはプロ並みに料理がうまい。シュナさんやゴブイチさんに弟子入りし、料理の修行をしていたらしいが、納得のいくおいしさである。

 

「昨日も思ったけど……、ミッテルトは料理が上手いのね」

 

「レーティングゲームが終わったら部長達にも教えてあげるっすよ」

 

「あらあら、それは楽しみですわね」

 

こうして夜は更けていった。

 

 

**********

 

 

「いてて……」

 

『自業自得だな……』

 

そういうなよドライグ……。

先ほど俺はお風呂の時間に部長たちの裸を観賞するため、覗きを決行したのだがミッテルトに容易く気づかれ勢いの乗った回し蹴りを食らったのだ。

どうも覗こうとしたポイントを先回りされていたようである。

だが、まだだ……。まだ何日かはあるし、必ずやチャンスはある。

そう、俺はこんなところで終わる男ではないのだ!

 

『……』

 

なんかドライグが言いたそうにしているがここはスルーしたほうがよさそうだな……。

ん?あれは……。

 

「部長?何やってるんです?」

 

「あら、イッセーじゃない。どうしたのこんな時間に?」

 

リビングにて明日の方針でも決めようと思っていたらそこには部長がいた。

リビングのソファーに座った部長の手元には一冊の本。

ふと見ると部長は珍しく眼鏡をかけていた。

 

「珍しいですね、部長が眼鏡なんて……。実は目が悪かったとか?」

 

その場合はフライングで魔力感知を教えたほうがよさそうだな……。

でも、修行時はそんなそぶりは見せなかったし……。

すると部長は眼鏡を外して説明してくれた。

 

「何かに集中したい時にこれを掛けると集中できるのよ。眼鏡をかけていると何となく頭が回る気がして。……私がかけると変かしら?」

 

「いえいえ! 知的な美女って感じで俺はありだと思いますよ!」

 

いつもの部長と雰囲気が違うけど、これはこれで全然ありだと思う。

メガネ美女っていうのもまたいいものだ。

 

「それで、部長はここでレーティングゲームの勉強ですか?」

 

部長が読んでいるのは戦術の本だった。フォーメーションとかそういうのが書いてある。

おそらくは次のレーティングゲームに向けて戦術を練っていたのだろう。

部長は自嘲しながら呟く。

 

「正直、気休めにしかならないのだけどね」

 

「どうしてそう思うんですか?」

 

少し意外だな。部長ならばもう少し前向きな考えを持つていると思っていたけど……。

 

「……相手がライザー……フェニックスだからよ……」

 

「フェニックス……不死身だからってことですか?」

 

「察しがいいわね。その通りよ。攻撃してもすぐ再生し、業火の一撃は骨すら残さない……。ほとんど無敵の存在なのよ」

 

つまりは生まれついての超速再生持ちの種族ってことか……。

まあ、魂ごと滅するとかちりも残さず全身粉々に消し飛ばせばさすがに殺せるらしいけど、ゲームでそんなことする奴いるはずがない。

なるほど、実戦ならともかくゲームという場でなら敵なしかもしれない。

道理で俺のオーラにあてられたにもかかわらず俺の参加を認めたわけだ。

レーティングゲームという自分に有利な舞台なら負けることはないとでも考えたのだろう。

 

「なるほど……。ところで部長。気になっていたことがあるんすけど……」

 

「あら、なにかしら?」

 

「部長はどうして今回の縁談を拒否したんですか?ライザーを嫌ってるのはわかるけど、それだけが理由じゃないような気がして……」

 

これは俺がずっと気になっていたことだ。

そもそも悪魔にとって大切なお家騒動である縁談を責任感の強い部長なら簡単に無下にはしないだろう。

となるとほかに理由があるのでは?そう考えての質問に対し、部長は紅茶を口づけながら答える。 

 

「私は『グレモリー』なのよ」

 

「ええ。そうですけど?」

 

「どこまでいってもこの名前がつきまとうの」

 

あ、そういうことか……。この言葉で何となくだけど察したわ。

 

「つまり、『グレモリー』という家柄でなく、部長個人としてみてもらいたいってことですか?」

 

「ええ、その通りよ。別に『グレモリー』の家柄が嫌なんじゃない……。むしろこの名を誇りに思っているわ。だけど、誰しもが私のことをグレモリーのリアスとしか見てくれない」

 

部長は遠くを見ながらそう言う。

 

「私はグレモリー家とかは抜きにして、リアスとして愛してくれる人と一緒になりたい。それが私の小さな夢。ライザーは『グレモリー』のリアスとしては私を愛してくれるでしょうけど、私は私自身を愛してくれる人と添い遂げたいの」 

 

それが部長の夢なのか。

悪魔とか、貴族とかそんなものは関係なく、自分のことを見てくれる人と、自分が好きになった人と一緒になりたい。

これは普通の女の子が持つ、当たり前の心だ。

 

「俺は部長のことはちゃんと部長として好きですよ」

 

「え?」

 

突然の言葉に部長は驚いたような表情になる。

聞き返す部長に俺は自分の気持ちを伝える。

 

「俺は悪魔の家柄とかわからないけど、それ抜きにしたとしても部長個人のことをちゃんと好きだと思ってますよ。優しくて仲間思いで王にふさわしい人だとも思ってます。そんな部長ならきっとそういう人も見つかりますよ」

 

俺の言葉を聞くと部長は呆れたような目で俺を見つめてくる。

 

「あなたね……、それじゃあまるで口説き文句みたいよ」

 

部長の突っ込みに思わずハッとした。

確かにこれじゃあ口説いてるみたいじゃん!

 

「アハハ……」

 

ミッテルトに聞かれたらまずかったかもな……。

いや、案外空気読むかな?

どちらにしろ、ミッテルトいないときでよかった……。



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レーティングゲーム始まります

イッセーside

 

 

いよいよ決戦当日。

俺たちはオカルト研究部の部室にて待機していた。

それぞれ読書をしたりお茶を飲んだりしながら思い思いのやり方で緊張をほぐそうとしている。

表面上は何ともなさそうだけど、皆からすれば、このゲームで今後の人生が決まるといっても過言じゃない。

そう考えると緊張や不安を覚えるなってほうがおかしいか。

 

「もうすぐ時間っすね」

 

「そうだな」

 

時計を見ながらそうつぶやくミッテルト。

うう、やばい。みんなを見ていたらなんだか俺まで少し緊張してきたな。

帝国戦や天魔大戦とは違って命までかかってない分気が楽ではあるけどさ……。

するとアーシアがふと俺の手を握ってきた。

顔を見るとその表情は不安でいっぱいといった風な感じだ。

考えてみると、アーシアは戦う力もなければ戦闘の経験もない。

一応訓練とかはしたけどそれでも不安が勝っているんだろうな……。

 

「大丈夫だアーシア。俺たちなら勝てるさ」

 

「そうそう。みんなも大船に乗ったつもりでいてくださいね」

 

そういって俺はアーシアの髪をワシャワシャなでる。

ミッテルトも高らかに宣言し、皆の不安や緊張をとりほぐそうとする。

実際、効果があったのかわからんが、皆の雰囲気もいい感じになってきたな……。

 

そうこうしていると部室に銀色の魔法陣が展開され、光と共にグレイフィアさんが現れた。

 

「皆様。準備はお済みになりましたでしょうか?」

 

その言葉に眷属全員が立ち上がる。

どうやらみんな気合は十分みたいだな。

それを見たグレイフィアさんがゲームに関する説明を始めた。

 

「開始時間となりましたらこちらの魔法陣から戦闘フィールドへ転送されます。戦闘フィールドは人間界と冥界の間に存在する次元の狭間に構成された使い捨ての空間なので、どんな派手な攻撃をされても構いません。各々、思う存分にご自分の力を振るってください」

 

ふむふむ。

戦闘は異空間で行われるのか。

どのレベルで崩れるのか気になるな。

それ次第でどれくらい力を抑えるか決めなくちゃいけないし、転送されたらすぐ解析鑑定したほうがよさそうだな。

まあ、この人が頑丈というくらいだし、少なくとも魔王種級の攻撃なら耐えられるかな?

 

「今回のレーティングゲームは両家の皆様も他の場所から中継で戦闘をご覧になられます。さらには魔王ルシファー様も今回の一戦を拝見されておられます。それをお忘れなきように……」

 

「そう、お兄様が直接見られるのね」

 

魔王ルシファー……つまり噂のサーゼクスさんが見ているってことか。

もしかしたら後で会えるかもしれないな。ティアマットさんが褒めるくらいだし、どんな人か少し楽しみだ。

ちなみにティアマットさんも今回は無理言って見学しているらしい。

悪魔の領土である使い魔の森を寝床にしたりとあの人もたいがい自由人だよな。

 

説明が終わるとグレイフィアさんは部室の真中に魔法陣を展開させる。

 

「これより皆様を戦闘フィールドにご案内します。この魔法陣の中にお入りください」

 

指示された通り全員が魔法陣に入ると、魔法陣の光が強くなる。

いよいよレーティングゲームが始まる。

気合を入れていかないとな。

そうして、俺達は光に包まれながら転移する。

 

**********

 

転移した先は……俺たちのいた部室だった。

一瞬失敗!?と思ったが、鑑定してみると非常によくできたコピーであるということが判明した。

 

『皆様、この度、フェニックス家とグレモリー家の試合に置いて、審判役を任せられましたグレモリー家の使用人、グレイフィアと申します。よろしくお願いします。

この度のレーティングゲームの会場として、リアス・グレモリー様方の通う、駒王学園の校舎を元にしたレプリカを異空間に用意させていただきました』

 

へえ。悪魔の技術力ってすげえな。鑑定しなければほとんどわからないや。

本当に部室そのままって感じだし、小物から常備されているお菓子類。

隠してある俺のエロ本まで再現されている。

……こいつは別に再現しなくてもよかったな。

なにはともあれほとんど俺たちの学校と変わりはないようである。

強いて言えば場所が異空間だから空がおかしいことくらいか。

なんていうか、ラミリスさんがポンと研究施設を作ったのを思い出す。

すごい技術力だ。

仮にも研究者としては少し興味があるな……。あとで聞いてみよう。

 

『両陣営、転移された先が「本陣」でございます。リアス様の本陣は旧校舎オカルト研究部部室。ライザー様の本陣は新校舎生徒会室。兵士(ポーン)の方はプロモーションを行う際、相手本陣の周囲まで赴いてください』

 

俺たちの陣営に兵士はいないからこれはあんまり関係ないな。

警戒するべきは相手の兵士か……。向こうはフルメンバーそろっていたわけだから、使い方次第では警戒が必要かもしれない。 

 

『なお、使い魔の制限ですが、兵藤一誠様の使い魔であるティアマット様の使用は禁止とさせていただきます』

 

まあこれは当然だな。

ティアマットさんがでたらおそらくライザー眷属全員燃やし尽くせるだろうし、そもそも今回見学って事前に言っていたしな。

 

『ゲームの制限時間は人間界の夜明けまでとなります。それでは、ゲームスタートです』

 

グレイフィアさんがそう告げた直後、学園のチャイムが鳴った。

今、現時点をもってレーティングゲームがスタートしたのだ。

 

 

**********

 

「まずはライザーの兵士を撃破しないといけないわね」

 

「ライザーの兵士は8名。『女王(クイーン)』に昇格されたら厄介ですわね」

 

それは俺も同感だ。

元々女王である朱乃さんもその力はよく知っているし、警戒しているようだな。

 

「体育館はかなり重要な拠点になりそうね。先に陣取ったほうがいいかもしれないわ」

 

体育館か……。

広々としているし、いざという時の避難場所にもされているため、裏には結構な量の備蓄があったはず。

持久戦になると確かに重要そうな場所だな。

 

「でも、この人数じゃ守り切れないと思いますよ」

 

俺の言葉に再び考え込む部長たち。

俺かミッテルトがいれば防衛も容易いだろうけど、部長としても俺たちの様な戦力を遊ばせたくはないだろう。

悩みどころだな。

皆がいくら強くなったとはいえ、そこまで劇的ってわけでもないし、防衛戦は数の差で難しそうだ。

 

「じゃあいっそのこと、体育館壊せばいいんじゃないすか?おとりも入れて引き込めば大勢釣れて一石二鳥っすよ」

 

ああ、その手があったか。

ちょうど迷宮防衛戦に似た感じだな。

引き込めるだけ引き込んで一気に罠で殺すやつ。まあ確かに奪われるくらいなら壊したほうが都合がいいか。

 

ここで旧校舎や森にわなを仕掛けに行っていた小猫ちゃんと木場が帰ってくる。

役割分担としては俺と小猫ちゃんとミッテルトで体育館のおとり役を。木場と朱乃さんが遊撃隊として森や運動場で待機。部長とアーシアが部室で待機って感じになった。

 

「あ、今向こうも動き出しましたね。何人か外に出ていますよ」

 

俺の言葉に驚いたような目で見るみんな。

彼女たちはまだ魔力感知を会得していないからわからないみたいだな。

 

「どうしてそう思うんですか?」

 

怪訝そうに小猫ちゃんが訪ねてくる。

 

「魔力感知って言ってね、魔力を利用して周囲の情報を得ることができる技さ。もう少し気闘法の扱いに慣れたら教えてあげるよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 

**********

 

というわけで、体育館にやってきました。

どうやら部長の危惧した通り先に陣取られているな……。

まあ、おとりの手間が省けてと考えればいいか。

 

「体育館の中以外に上空に気配を消した奴が一人……、上空の奴はたぶん女王だな」

 

「そうっすね。保有している魔力も多いしたぶん間違いないっすね」

 

「え?」

 

俺たちの言葉に慌てて上を見る小猫ちゃん。するとそこには確かに気配を限りなく薄くした女性悪魔が飛んでいた。

保有してるエネルギーは間違いなくAランクオーバー。EPは大体2万ってところか……。小猫ちゃんではまだ厳しいだろう。それにしても……。

紫色の髪にモデル顔負けのプロポーション。スリットから覗く生足がかなりエロイ。

おっぱいもでかいしすごい美人だ。いいな。

 

「いででで」

 

「いい加減自重するっすよ」

 

あほなこと考えてたら頬をつねられました。

まあでも確かに、外で待ち伏せしてるわけだし、体育館破壊後も警戒する必要がありそうだな。

そう考えながら俺たちは体育館の中に入る。

どうやら待ち構えているようだな。

 

「隠れてないで出てきたらどうかしら」

 

「別に隠れてるつもりはないっすけどね……」

 

そこにいたのはチャイナドレスを来たお姉さんと棍を持った少女と双子らしき小柄な娘、あと猫耳の双子に大剣を持つ女の子と和服の女の子の計8人だった。

確か、チャイナドレスのお姉さんが戦車で、大剣の子が騎士、和服が僧侶で他の五人は兵士だった気がする。

……ていうか。

 

「多くない?」

 

うん。明らかに多い。

14人中8人がここに集結って明らかにバランスがおかしい。

 

「ライザー様は特にあなたを警戒していましてね、私たちとしては人間ごときにそこまで警戒する必要もないとは思うけど、念には念を、この人数で潰させてもらうわ」

 

チャイナドレスのお姉さんがそういうと、双子兵士×2と棍を持つ兵士、僧侶の子が襲い掛かってきた。

 

「「解体しまーす」」

 

チェーンソーとかまた面白い武器を使ってきたな。

向こうじゃ見たことないや。

小柄なだけあってなかなか素早い動きだが俺には通じない。

どれだけ大人数でも一度にかかれるのは3~4人だろう。それ以上は同士討ちの危険性があるからな。

その程度ならよほどの達人相手でもない限り余裕でさばける。

 

「よけるな~」

 

「むかつく~」

 

なかなか攻撃が当たらないことにイラついているようだが向こうからも余裕が感じられるな。

その源は……。

 

「はあ!」

 

僧侶の子か。

合間合間に魔力弾を放ってこちらの動きを制限しようとしている。

悪くない手だが、それでも正直言って俺には通じないな。

 

「これでもダメなのか……」

 

ある程度攻撃をかわし、いったん距離をとる。

 

「えい……」

 

「がはっ!?重い……」

 

尻目に見ると、小猫ちゃんも結構圧倒してるな。

気操法で強化しながらの攻撃で相手の防御を容易く貫いている。

あの様子だと問題ないな。

 

「さてと、そろそろ()()()()()を解禁するか」

 

「え?」

 

俺の言葉にライザー眷属は警戒するように構えるが、騎士と戦っていたミッテルトは俺が何をするつもりなのか悟ったようにこちらを振り向く。

 

「え、あの、イッセー。もしかしなくてもアレをやる気すか?」

 

「ああ」

 

正直に言うと、俺はあまりこの子たちを殴ったりしたくないんだよな。

そもそも男が女の子殴るってあれだし、この子たちも別段悪人ってわけじゃない。

ただ主のために頑張る健気な子たちだ。そんな子を殴って解決?それは違うだろ。

そう。それが理由なんだ。決して美女美少女より取り見取りだからとか、目の保養だとか、そんなことは一切考えてないんだよ。本当だよ。嘘じゃないよ。

 

「あの、それマジでやめたほうが……」

 

「……なんだか猛烈に嫌な予感がします」

 

「いくぜ!」

 

そうと決まれば先手必勝だ。

俺は速攻で接近してチェーンソーをもつ双子の兵士と棍を持つ兵士の子の肩に触れる。

あまりの速さに対応できず、彼女たちは俺の接触を許してしまったのだった。

 

「な、なに?」

 

「なんともない?」

 

フフフ、お楽しみはこれからだぜ。

俺は指パッチンと同時に服に流し込んだ力を一気に開放する。

 

「喰らえ!“洋服崩壊(ドレスブレイク)”!」

 

すると三人の服は完全に崩壊し、三人の兵士は一気に全裸となった。

三人は一瞬何が起こったのかわからないのか少し困惑したが、徐々に羞恥で顔が赤くなっていく。

 

「「「きゃ────!?」」」

 

三人は慌てて秘部を隠し、その場に力なくへたり込んだ。

俺はきちんと彼女たちの裸体を記憶する。いつでも鮮明に思い出すことができるのだ。

最高の光景だ。

小猫ちゃんと他のライザー眷属は何が起きたのかわからず困惑し、ミッテルトは額に手を当てて空を仰いでいる。

 

「これが俺のとっておき、“洋服崩壊(ドレスブレイク)”……。相手の洋服に俺の魔力を込めることで洋服だけをピンポイントで破壊するという俺の自慢の権能だぜ!」

 

「な、なんという恐ろしい、いやおぞましい技……」

 

見るとライザー眷属たちは俺の権能に恐怖を感じたのか後ずさりする。

 

「最低!女の敵!」

 

「けだもの!性欲の権化!」

 

服を破壊された者たちはかなり激怒している。

一人はうずくまって泣いている……。少しやりすぎだったかな?

 

「見損ないました。最低です」

 

ごばっ!?

敵からならともかく味方からも非難を受けるとは……。

小猫ちゃんの軽蔑の視線がすげえ痛い。

 

「あ~、ごめんなさいね。うちの彼氏が本当に迷惑かけたっす。はい、タオルあげるからこれで隠すっすよ」

 

「うっ……。ぐす……。ありがとう……」

 

そういってミッテルトは敵の騎士そっちのけで三人にタオルを配り始めた。

本来敵同士のはずなのだが、三人は少し泣きながらミッテルトからタオルを受け取る……。よほど余裕がないのだろう。

なんだろう。まるで俺が悪者みたいじゃないか?

ていうかミッテルトはそもそもこの技の発展版に助けられた身だろ。そんな呆れたような目で見つめるなよ……。

 

「下半身でモノを考える愚劣だニャ」

 

「けだものニャン」

 

おっと、戦闘再開か。

洋服崩壊(ドレスブレイク)”は小猫ちゃんの視線が痛いし控えるか……。非常に残念だけど……。

俺は紙一重で猫耳姉妹の攻撃をよけ、首筋をとんと叩く。

俺のオーラを流し込み、神経をマヒさせたのだ。

 

「がっ?」

 

「なっ?」

 

そのまま意識を失い倒れる二人。

早くも五人が戦闘不能になったのを見て焦る僧侶のお姉さん。

 

「おのれ!」

 

慌てて炎の魔法を放つが、俺はそれすらも容易くかわし、先ほどと同じ要領で外傷なく気絶させた。

 

『ライザー・フェニックス様の兵士二名、僧侶一名リタイア』

 

流れるように三人を撃破。

その光景を見て先ほどの三人も小猫ちゃんやミッテルトと戦っている子たちも驚いている。

 

「最初からそうしろって話っすよね……」

 

「く、さっきから貴様!こっちを一瞥した後別のほうを向きながら戦って……、なめるのもたいがいにしろ!」

 

そういいながら攻撃の手を早める騎士の子。ミッテルトは魔力感知で相手の動きを察知しつつ、小猫ちゃんのほうを見ながら戦っていたから向こうからすればなめられていると思うのも無理はない。

騎士ってだけのことはあってなかなか早い……が、ミッテルトからしたら大したことないレベルだ。

 

「残念すけど、あなた程度じゃあ本気出すまでもないすね……」

 

「なっ?」

 

ミッテルトの一閃で騎士の子は後方まで吹き飛んだ。

ミッテルトの手加減のおかげでぎりぎり踏みとどまったが武器は粉々に破壊された。

 

「ありえん。それはただの木刀ではないのか……?」

 

「うちのこれはそこらで拾った正真正銘ただの木刀っすよ。単純にうちがあんたより強いってだけっすよ」

 

そこにあるのは覆しようのない技量(レベル)の差。相手に合わせて手加減してこれなのだ。

そこには大人と子供くらいの開きがある。

 

「ふざけるなあ!!」

 

彼女はそれを認められないのか武器を失ったにもかかわらず突撃するが……。

 

「甘いっす」

 

木刀ではなく鋭い蹴りのカウンターにより倒れ伏せた。

 

「大きな大剣を振り回すのならもう少し相手の動きを見るべきっすよ。それじゃあ同レベルの速さを持つ相手に簡単に見切られるっす。ほかにも型のバリエーションを増やしたりと工夫するといいっすよ」

 

『ライザー・フェニックス様の騎士一名リタイア』

 

ちゃっかり敵さんにもアドバイスしてるし……。まあ聞いていたかはわからないけど。

 

「えい」

 

「ぐは!?」

 

小猫ちゃんも見事に相手の戦車を倒したし、戦果は上々だな。

 

「あ、待て!」

 

「逃げる気!」

 

そう。逃げる気。

端でタオル抱えてうずくまる兵士三人に目もくれず、俺たちは体育館を後にする。

唯一ミッテルトが片手で謝っているが、それでもそそくさと体育館を後にする。

それと同時に体育館に落雷が降り注いだ。

 

『ライザー・フェニックス様の兵士三名リタイア』

 

「やったな二人と……」

 

「近寄らないでください」

 

すたすたと先を急ぐ小猫ちゃんに泣きそうになってきた。

 

「……自業自得っすよ」

 

まあ確かにそうなんだけどさ……。

 

……ん?俺の魔力感知に反応が……。

これは……。

 

「危ない小猫ちゃん!」

 

「なっ、なにを……?」

 

俺はとっさに小猫ちゃんを抱き寄せ退避する。

一瞬何が起きたのかわからないといった表情だったが、突如彼女が歩こうとしたルートで大爆発が起き、それを見て彼女は顔を青ざめた。

 

「あのまま進んでたら間違いなく巻き込まれてたっすね……」

 

そういいながらミッテルトは上空に佇むライザーの女王を見上げる。

 

「なぜわかったのかしら?前触れなんてなかったはずだけど……」

 

「大気の魔力の流れが明らかにおかしかったからな……。何かしらの攻撃がくるってすぐわかるさ」

 

俺の言葉に女王は警戒を強める。

どうやら俺の言葉を嘘ではないと判断したようだ。

 

「ここは私がやりますわ。イッセー君」

 

そこに現れたのは朱乃さんだ。

相手の力は朱乃さんとほぼ互角ってとこかな?少なくとも魔法の技量(レベル)はそこそこ高そうだ。

まあ、普通にやれば単独でも勝てるとは思う……けど懸念もある。

レーティングゲームの資料……、俺も拝見したけどこのゲームには“フェニックスの涙”とかいう回復アイテムがあるらしい。

資料を見た感じたぶん上位回復薬(ハイポーション)……、あるいは完全回復薬(フルポーション)に匹敵する効能を持っている。

不死鳥……それも女王という立場なら持っている可能性は非常に高い。

それを含めると朱乃さんだけでは不安だな……。

 

「私もやります……」

 

そういうと小猫ちゃんは手足に妖気を纏わせる。

気操法の扱いにもだいぶ慣れてきたみたいだな。

 

「じゃあ、ここは朱乃さんと小猫ちゃんに任せます。一応、フェニックスの涙とやらに注意してください。女王という立場なら持ってるかもしれません」

 

「なっ!?」

 

「!?なるほど……。盲点でしたわ。確かにフェニックスの女王なら、アレを持っていてもおかしくない」

 

朱乃さんも俺の言葉に警戒の色を強める。

完全回復薬は戦場において、あるのとないのとでは大違いだからな……。

そう言って俺とミッテルトはこの戦場を後にした。




この世界のイッセーは魔国で研究員をやっていたので資料とかもくまなく目を通しています。


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ゲーム終わらせます

イッセーside

 

 

俺は木場と合流するために運動場に向かって走っていた。

運動場近くに来た俺は魔力感知を広げる……お、いたいた。

 

「よう、木場」

 

「!?イッセー君」

 

木場は運動場にある倉庫似て隠れていた。どうやら見回りを行っている敵を警戒しているようだ。

何度が挑発し、相手を一網打尽にしようとしたらしいが、なかなか誘いに乗ってくれないそうだ。

たぶん俺を警戒しているな。

ただでさえ俺が半数以上を倒してしまったから向こうも不用意な挑発には乗れないのだろう。

そうして結構な時間にらみ合いが続いているのだと。

 

「なるほど、そういう状況っすか……」

 

「うん、それにしてもやっぱりイッセー君たちはすごいね。僧侶や騎士を含めた眷属を容易く倒してしまうなんて……」

 

そういう木場の目には何やら力への渇望のようなものが見て取れる。

もしかしたら過去に何かあったのか……?そう思った俺は思い切って訪ねてみることにした。

 

「おい、きb……「聞えているか!グレモリー眷属の者たちよ!」」

 

なんだ?何やら外からバカでかい声が響いてきた。

倉庫の隙間から覗いてみると、グラウンドのど真ん中に頭にバンダナ、西洋風の鎧を纏った騎士であろう女の子が突っ立っていた。

見た目はさわやかな美少女って感じでかなり好みだ。

でも何であんな堂々と……。罠か何かか……?

 

「私はライザー様に使える騎士カーラマイン!こそこそ腹の探り合いも飽きた!見ているのはわかっているぞ!いざ尋常に勝負だ!」

 

違う。馬鹿だ間違いない。

なんていうか、シオンさんとかスフィアとかそこらへん思い出す。

卑怯な策謀を好まず正々堂々勝負したいってタイプの人だ。

ただ、これは他はともかく俺たちに関しちゃ少しうまい手かもな……。

あそこまで堂々としていると不意打ちするのもかえってためらってしまう。

何より……。

 

「名乗られてしまったからには隠れてるわけにもいかないな」

 

「はあ?ちょっ、木場っち?」

 

こっちにも阿呆がいるんだよな……。

少しの付き合いだが木場が騎士道精神にこだわっているというのはかなり理解できている。

そんな木場だからこそ、名乗られたら返さずにはいられないんだろう……。

戦場ではそんなもの役に立たないんだけど……まあ、今はゲームだし大丈夫だろうと納得しとこう。

 

「全く、仕方ないっすね……」

 

「まあ、多分勝てるだろう」

 

そういいながら俺たちは向かい合う剣馬鹿(二人)を眺める。

 

「僕はグレモリー眷属の騎士、木場裕斗だ」

 

「ふっ、グレモリー眷属にお前みたいな騎士がいるとは嬉しいぞ」

 

木場も彼女に対し名乗りを上げたのを見て相手のほうも木場を気に入ったようだ。

そして始まる騎士同士の戦い。

ここはあえて思考加速を切って観戦している。

これはなかなかの迫力だな。

二人とも生き生きしており、この勝負に横やり入れるのはさすがにためらわれるな。

しかし、そうなると……。

 

「暇だな」

 

「そうっすね……」

 

「全く、泥臭いにもほどがありますわ。カーラマインにはほとほと呆れますわ」

 

そこに現れたのはドレスを着た金髪のクルクルドリルの僧侶と顔に半分だけ仮面をつけた戦車の女の子たちだ。

後ろには兵士であるメイドさん二人と踊り子らしい格好をしてる子が控えている。

これでライザー以外の眷属全員が出てきたわけか……。

 

「悪いが赤龍帝、ここでリタイアさせてもらおうか」

 

「……ほんとイッセーって警戒されているっすね……」

 

「当然ですわ。人間でありながら上級悪魔以上の覇気を出す赤龍帝……。お兄様も不確定要素として警戒しておりますの」

 

・・・・・・・・・・・ん?

なんだこの子?今なんて言った?お兄様?

手かよくよく見るとこの子、妖気の感じがライザーとよく似てるし何より不死鳥っぽい尾羽が生えている。

ということはこの子ってもしかして……。

 

「このお方はレイヴェル・フェニックス。ライザー様の実の妹君だ」

 

な、なにいいいいいいいい!?

そんなのありなの!?

つ、つまりあれか?ライザーは自分の妹を眷属にしてるということか!?

 

 

「ライザー様曰く、『妹をハーレムに入れることは世間的にも意義がある。ほら、近親相姦に憧れたり、羨んだりする奴っているじゃん?俺は妹萌えじゃないから、形だけの眷属悪魔てことで』とのことだそうだ」

 

そ、それは確かに!妹をハーレムに入れるっていうのはハーレムマンガでもよくあるし確かにあこがれるよな。

俺も妹ほしいな……。

 

「……薄々感じてはいたっすけど、ライザーってイッセーと同じタイプの変態だったんすね……」

 

ああ、確かに……。なんか一気に親近感わいてきたわ。

そうこうしていると戦車の女性が俺にめがけて突進してきた。

 

「話は終わりだ。行くぞ!」

 

なかなか鋭い突きだな。小猫ちゃんとはまた違った感じだ。

一発の威力よりも連打に力を入れているのかな?戦車の力も相まってかなりの脅威だ。

まあ、相手が俺たちじゃなければだけど……。

 

「さてと、じゃあやるか……」

 

今なら小猫ちゃんもいないからあれが使えるのだよ。

ここにいるのが敵とミッテルトという状況がとても素敵だ。

 

「喰らえ、“洋服崩壊(ドレスブレイク)”!」

 

相手の服に魔力を流し、再び全裸にする。

引き締まったボディーに大きいおっぱい。ごちそうさまです。

 

「な、なんだこれは!?」

 

「そしてとどめ!」

 

相手が困惑し、胸を隠そうとするその一瞬のスキをついて首筋を攻撃。そのまま相手を気絶させる。

 

『ライザー様の戦車一名、リタイア』

 

「な、なんてひどい技だ……」

 

「あ、アハハ……」

 

あ、そうだ。あの二人もまだ戦っていたんだ……。

木場は若干苦笑いをしており、相手の騎士は俺の技に恐れおののいているようだ。

見た感じ木場優勢だな。

気操法を駆使して魔剣の威力をさらに高め、瞬動法を用いて翻弄している。

この調子ならばもう決着はつくだろうな……。

 

「よそ見厳禁」

 

すると今度は残った兵士三人が一斉にかかってきた。

……本当は部長たちが評価されるようにするため、俺たちはあまり手出ししたくなかったんだけどなあ……。

世の中上手くいかないな。

 

「ほい」

 

三人が俺に迫るよりも早く、ミッテルトが一凪で三人をなぎ倒す。

三人の兵士たちは声を出す間もなくその意識を刈り取られたのだった。

 

「なっ……」

 

ライザー妹の驚愕の表情とともにアナウンスが鳴り響く。

 

『ライザー様の兵士三名、騎士一名、女王一名リタイア』

 

木場と朱乃さん&小猫ちゃんのほうも決着ついたっぽいな。

明らかにグレモリー眷属よりも俺のほうが敵を撃破してるけど……まあ、そこまで力は見せたりしてないし結果オーライか……。

 

「さて、後はあんただけっすよ。フェニックス妹」

 

「……正直驚きましたわ。まさかお兄様の眷属をほぼすべて全滅させてしまうだなんて。ですが、お忘れですか?私たちフェニックスは……」

 

「不死身って言いたいんだろ」

 

「ええ、そうです。いくらあなた方が強くても不死を倒すことは不可能です」

 

不死身を倒すのは不可能……ねえ……。

 

「俺はそうは思わないな。不死だろうが何だろうが、精神(ココロ)を折ることはできるだろうし、魂ごと砕くといった手段もある。不死であるかと勝ち負けはまったくの別物だよ」

 

「……もう遅いですわ。たとえあなたがそれほどの力を持っていようが、すでにお兄様はリアス様のもとへと向かっています。あなたたちの負けですわ」

 

レイヴェルの言葉に俺は魔力感知の範囲をさらに広げる。

するとなるほど。確かに部長とアーシアがライザーと向かい合っているのを感じることができる。

 

「なるほど。俺を足止めしている間にライザーが部長を倒すって算段か……」

 

「その通りですわ。リアス様を倒してしまえばこちらの勝ちですもの」

 

なるほど、確かにそうだな。

でも、リアス部長たちも修行でだいぶ強くなってるし、簡単に負けることはないだろう。

それでもそもそも魔素量からして差はでかいし勝つこともできないだろうからできるだけ速くいかないとな……。

そう考え、俺は踵を返し、部長のもとへ向かおうとする。

 

「な、今更どこへ行こうというのですか?どうせ負けるのですから、ここで私とおしゃべりしてたほうが……」

 

「行っておくけど、部長をなめないほうがいいぜ。今のあの人は不死が相手だろうが簡単に負けてくれる人じゃねえよ」

 

 

**********

 

リアスside

 

「チェックメイトだリアス。さっさとリザインしてもらおうか……」

 

「それはこっちのセリフよ。眷属の半分を失ったあなたのほうこそリザインするのね」

 

私たちはライザーと向かい合っている。

アーシアとともに拠点に待機していたところ、突如としてライザーが強襲をかけてきたのだ。

まさかほとんどの眷属をおとりにして王であるライザー本人が仕掛けてくるだなんて。

それだけ私の眷属を……、いえ、イッセーを警戒していたってことかしら?

 

「確かにそうだ。だからこそ、ここで君を倒してゲームを終わらせよう」

 

そういいながらライザーは炎を放つ。その速度はかなり速い。

でも、ティアマットさんやイッセーの攻撃ほどではない。

私はそれを回避し、滅びの魔力を逆にライザーに思い切り放つ。

 

「なに?」

 

私がライザーの炎を躱したことに驚いたのか一瞬ライザーは動揺し、滅びの魔力がライザーの顔半分を消し飛ばす。

しかしその傷も炎に包まれるとたちまち再生してしまった。

 

「驚いたな。かなり強く放ったんだが……まさかよけられるとは……」

 

口ではそういいつつもライザーは余裕を崩さない。なぜならライザーには不死身の体があるのだから……。

ライザーは魔力を高め、複数の魔方陣を展開する。そしてそのすべてから炎の魔力を放出した。

私はとっさに滅びの力を込めていない魔力弾を地面に放ち土煙を立てる。

思わぬ行為に驚愕するライザーを尻目に私は一気にライザーとの距離を詰めた。

 

「消し飛びなさい!」

 

近距離からの滅びの一撃。私はフルパワーでライザーの上半身を根こそぎ消し飛ばして見せた。

 

「なっ!?」

 

とっさのことでライザーも予期することができなかったのか、防御することもできず、ライザーの上半身は跡形もなくなった。

でも、まだ終わっていないようね。ライザーの魔力があたり一面に漂っているのをかすかに感じられる。

悪い予感は的中し、ライザーは見事に復活を遂げてみせた。

これがフェニックスの再生能力。あんな状態からでも復活できるなんて……。

 

「ククク、なかなか成長してるじゃないかリアス。でもいいのかい?君の後ろにいた僧侶を放って攻撃するとは、今の炎であの僧侶は焼け焦げただろうな……」

 

そういいながらライザーは先ほど私がいた場所へと目を向ける。

でも残念ながらあなたの思い通りにはいかないわよ。

 

「それはどうかしら」

 

「ムっ……」

 

土煙がはれ、さえぎられていた視界があらわになる。

そこには防御結界で自らの身を守るアーシアの姿があった。

 

「な、俺の炎を防いだというのか!?」

 

「イッセーさんたちとの修行の成果です!」

 

いまのでかなりの魔力を消耗しているけど、それでもまだ余裕そうね。

アーシアは修行の際、特に防御結界を頑張っていた。

そのかいあってか今のアーシアの結界は私たちよりも強固なものになっている。

あれならライザーの攻撃だってそう簡単には通さない。だから私はアーシアを信じて攻勢に出ることができたのだ。

 

「ふん、だが所詮はその場しのぎにすぎん。赤龍帝の小僧はそう簡単には来れないように俺の残り眷属総動員して抑えている。その間に俺はリアス、君を倒せばいいだけだ」

 

イラついたようにライザーは攻撃の激しさを増した。

魔法陣からの攻撃だけでなく、肉弾戦を多用してきたのだ。

一撃一撃がとてつもなく重い。でも……。

 

(イッセーに比べたらなんてことはない)

 

イッセーのパンチはこれよりももっと重かった。速さだってイッセーのほうが上ね。

ライザーは拳に炎を纏わせ殴りかかってくる。それに対し、私は手を魔力で保護し、イッセーに少しだけ教わった柔術を使い、受け流す。

隙を見て滅びの魔力を放ち、再び距離をとる。

あくまでイッセーに比べたらであって炎の魔力も肉弾戦も驚異的だ。

これまでの戦いで分かったけど、どうやらライザーは近距離戦のほうが圧倒的に得意みたいね。

今は何とか受け流せるけどそれでも私の付け焼刃じゃあいずれ限界が来る。

 

(イッセーと比べると劣るとはいえ、今の私では及ばないなんて。これがライザー・フェニックス……なんて強さなの……)

 

正直なめていたわ。こちらもどちらかというと遠距離からの攻撃が得意だけど、そもそも魔力の量が違いすぎる。

魔力弾の多さも密度もライザーのほうが上だ。それでも何とかかわし続けることが……ってえ?

 

「炎に気を取られすぎたなリアス!!」

 

一瞬のスキをついて今度は逆にライザーが私に接近していたのだ。とっさのことで反応することができず、腹部を思いきり殴打した。

 

「あああああ!?」

 

その拳には炎が纏っており、私は軽くないダメージを追う。

アーシアが回復してくれたからまだ戦えるけど、アーシアの治癒の力は傷は治っても痛みはわずかに残る。

今まででも相当ぎりぎりだったのに……。

 

「これ以上婚約者に手を挙げるのも気が引ける。リザインするんだリアス」

 

リザイン……。そんなこと、できるわけがないでしょ。

 

「……お断りよ。私の眷属たちが……何より本来関係ないはずの友人たちが、私のために頑張っているというのに、私があきらめていいわけないじゃない!!」

 

「そうか、ならばこれで終わりにしてやる!」

 

炎を纏ったライザーの拳が私に対し迫ってくる。

アーシアも結界を張ってくれているけどおそらく破られるだろう。

何とか立ち上がりよけようとするが腹部の痛みで一瞬体が硬直してしまう……。

ここまでだというの……?

 

「さすが部長。いいこと言いますね」

 

「がはっ!?」

 

刹那、誰かがライザーを吹き飛ばし、お姫様抱っこで私を退避させた。

目を開けるとそこには光に照らされたイッセーの姿があった。

 

「イッセー……」

 

「よく頑張りましたよ部長。さすがです」

 

その笑顔はまるで月明かりのように思えた。

 

 

 

**********

 

イッセーside

 

「赤龍帝だと……。まさか、ほかの眷属たちは……」

 

「部長との戦いに夢中でアナウンスを聞いてなかったんだな……。残っているのはもうあんたと妹さんだけだよ……」

 

ふむ、部長もかなり消耗しているけどそれはライザーも同じだな。

見た目は変わっていないがやはり再生には結構なエネルギーを消費するらしく、ライザーの魔力は最初見た時と比べ、5~6割ほどしかない。

大体半分ほどエネルギーを削ったことになる。

7倍近く差のある相手とよくまあここまで戦えたものだ。やっぱり重要なのはエネルギーの使いようってことだな。

 

「レイヴェルは置いてきたということか……。だが、レイヴェルもかなり強いぞ。ほかの眷属だけで勝てると思っているのか?」

 

「まあ、半々ってところかな?皆かなり消耗しているし……」

 

あの妹ちゃんがそこそこやるのは見ればわかる。純血悪魔なだけあって多分女王のお姉さんと互角かそれ以上はあるな。

女王は予想通りフェニックスの涙を持っていたらしく、朱乃さんと小猫ちゃんも勝てはしたけど消耗していた。

互角というのは強さの面であり、フェニックスである妹ちゃんは当然再生能力持ちなため、三人がかりでも勝てるかどうかはわからない。

 

まあ……。

 

「向こうの決着がつく前にお前を倒せばいいだけの話だろ」

 

そういいながら俺は英雄覇気を醸し出す。それを見るとひるんだようにライザーは後ずさりをする。

ライザーも本能で理解しているのだろう。俺と自分の力の差を。

それでもひかないのはおそらくプライド。人間である俺に純血悪魔の自分が負けるわけないと考えているのだろう。

 

「き、貴様がいくら強かろうと、不死身の不死鳥が人間ごときに負けるはずがない!!」

 

ライザーは叫びとともにものすごい炎を放出してきた。その勢いは先刻まで部長にはなっていたものとは桁が違う。

 

「火の鳥と鳳凰そして不死鳥フェニックスと称えられた我が一族の業火!さっきまでのように手加減したものではない!正真正銘全力の一撃だ!その身で受け燃え尽きろ!」

 

確かに見た目はすさまじい威力の出てそうな炎だ。

しかしこの程度じゃあな……。

脳裏に浮かぶのは全盛期のドライグすらも上回る獄炎を操る赤髪の鬼神と師の姉である最強のドラゴン。

あの人たちの炎に比べれば、こんなのなんてことはない。

俺は気闘法を発動し、腕を強化、そしてライザーの炎をティアマットさんの時と同じように後方へと受け流した。

 

「ば、馬鹿な……」

 

「悪いな。この程度の炎じゃあ俺の薄皮一枚焼くことはできないぜ」

 

ヴェルドラ流闘殺法“柔風”

確か元ネタはワン〇ンマンの流水〇砕拳だったはず。

敵の魔力攻撃を受け流すことができる技……といっても今みたいに威力を完全に受け流すなんてことは格下相手にしかできないんだけど。

 

「ならば!」

 

それを見たライザーは上空へと飛翔し炎を滅多打ちにする。

大きな攻撃でダメなら数でゴリ押しってところか。

でもこれ部長とアーシアにもあたりそうだし速攻で止めたほうがいいな。

 

「ほい」

 

「がはっ!?」

 

俺は空を駆けライザーに接近したのちライザーを叩き落とす。

すぐに再生しているが直りが遅い様子。

それもそのはず、今の攻撃は魂にまで響かせたからな。

 

「さてと、覚悟はいいか?ライザー・フェニックス」

 

「ま、待て!分かっているのか?この縁談は、悪魔達の未来の為に必要で、大事な物なのだぞ!?それを潰す事がどれほど罪深いか、理解しているのか!!」

 

まあ言いたいことはわかる。客観的に見ればこれは部長のわがままみたいなものだ。

それでも……。

 

「部長はさ。自分のことをちゃんと見てくれる人と、家柄関係なく愛してくれる人と添い遂げるのが夢らしいんだ」

 

それはあの夜部長が言った言葉。部長にとってはささやかだけどかなえたい夢。

 

「部長は俺にとっても大切な人だ。部長がこの結婚を望むっていうなら俺だって祝福してやるよ。でも、それがあの人の望まぬものだっていうのなら、俺は何を敵に回してもそれを止めてやる。俺がお前をぶっ飛ばす理由はそれだけだ!」

 

「イッセー……」

 

俺は魔力を右手に込める。その右手は圧縮された魔力の影響で黄金色に輝きだす。そして俺はライザーに向かってその魔力を解き放った。

 

「喰らえ!

ヴェルドラ流闘殺法“覇竜絶影拳(ドラゴニックバースト)”!!」

 

「ひ、ぐわああああああ!?」

 

その一撃は直線状にあった一切合切あらゆるものを消し飛ばす。

校舎や運動場などあらゆるものが焼失したのだ。

その一撃には超速再生持ちのライザーだって耐えることはできない。

手加減したとはいえ大ダメージを受けただろう。

さすがにゲームで死者を出すわけにもいかないしな。

まあ何はともあれこの戦いは……。

 

『ライザー・フェニックス様、リタイア。よってこのゲーム、リアス・グレモリー様の勝利です』

 

俺たちの勝利だ。



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魔王と対面します

今回は本当に…
ほんとおうに賛否両論あるとおもいます。
なにせ思い切りオリ設定出してるわけですからね。


木場side

 

「すごい……」

 

僕たちとレイヴェル・フェニックスさんの戦いのさなか放たれたイッセー君の一撃を見て皆が呆然となった。

当然だ。

今までイッセー君の力を何度も見てきたけど、今の技は文字通り桁違いの威力だったのだから。

 

「お兄様……」

 

レイヴェルさんはその光景を見て思わず顔を青ざめる。

あれほどの一撃を食らってしまえばフェニックスといえどもただじゃすまないだろう。

するとそれを見たイッセー君が部長とアーシアさんを抱えて屋上から降り立ってくる。

 

「安心しろライザーは生きてるよ。ちゃんと手加減したんだから……」

 

これで手加減っていうのか?いったい本来の威力はどれほどの……。

 

「それを信じろと……?」

 

「ゲームで死人出すわけにはいかないだろ?心配なら医務室に足を運びな。フェニックスの再生力なら大きな怪我はないはずだから」

 

「……わかりました。ひとまずあなたの言うことを信じましょう。赤龍帝」

 

それを聞いたレイヴェルさんは安心したように肩の力を抜く。

イッセー君の言葉に嘘はないと判断したようだ。

 

「でしたら私はこれで。またお会いしましょう」

 

「おう、またな」

 

あくまで貴族としての態度を崩さず、一礼をしたのちレイヴェルさんは僕たちのもとを去った。

しかし、僕はそのことよりもイッセー君の一撃に目が行ってしまう。

僕たち悪魔とは違い、イッセー君は人間のはず。それなのにあれほどの魔力を容易く操るだなんて……。

今の一撃には魔王級か、下手したらそれ以上の力が感じられた。

 

(イッセー君、君はいったい……)

 

どれほどの鍛錬を経たらあれほどの力を手に入れることができるのか……。

イッセー君だけじゃない。ミッテルトさんもだ。

僕も行きたい。彼らの領域まで。

僕はそう強く思った。

 

 

 

**********

 

イッセーside

 

「イッセー先輩……。今のは?」

 

「ヴェルドラ流闘殺法“覇竜絶影拳(ドラゴニックバースト)”。ヴェルドラ流闘殺法の奥義の一つさ。いつか教えてあげるよ」

 

レイヴェルの去った後、小猫ちゃんが今の技について尋ねてきたので俺は正直に答える。

覇竜絶影拳(ドラゴニックバースト)”は魔力を拳に集め、圧縮し、パンチと同時に解き放つという非常にシンプルかつ強力な技だ。

俺も師匠とともに三日三晩技名考えただけあって気に入っており、師匠は奥義の一つとして扱うことにしたという経歴を持つ。

とはいえ魔力を拳に集中させ、それを圧縮するという工程が割と難しく、気操法を覚えたばかりの小猫ちゃんにはまだ無理かな?

それよりも……。

 

「アーシア、部長、大丈夫ですか?」

 

「ええ、平気よ。イッセーのおかげでね」

 

「ハイ。ありがとうございます。イッセーさん」

 

二人とも見た限りだと大きな負傷はなさそうだな。

部長の傷もアーシアの‟聖母の微笑”で回復しているし問題はなさそうだ。

そう思い、俺はお姫様抱っこの形で抱えていた部長と背中におぶっていたアーシアを下ろそうとすると……。

 

「イッセー、もう少しだけこのままでいいかしら?」

 

「わ、私も……。駄目でしょうか?」

 

なんとしばらくこのままがいいというのだ。

確かに二人ともかなり消耗しているし、もしかしたら立つことすら億劫になってるのかもしれないけど、なんという役得。

お姫様抱っこしている分ダイレクトに伝わる太ももの感触に押し付けられるおっぱいんの柔らかさ……。

まさに至福だ。

 

「……また増えた」

 

ミッテルトの言葉が俺の耳に届く。

増えた?何のことだ?

そう考えているとミッテルトが近づいてきた。

 

「そうやって弱みにかこつけて変なこと考えるのやめたほうがいいっすよ」

 

くっ、やはりこいつには見透かされているか。

しかたないだろ!いくら彼女の前とはいえ、この欲望にあらがえる漢などいるはずがない!

そもそもミッテルトは一夫多妻のことを肯定してる派だろ。

実際、黒歌とはライバル心燃やして口では対抗してるとはいえ、彼女がいないとき……例えば二人で飲みに行ったときとかは実は第二婦人とかなら別にいいかもとか酔った勢いで言ったりすることもあるのだ。

 

「いや、それとこれとは話が別っす。そもそも大勢の人の前でそういうことをするというのがおかしいし、実際に付き合った人とかとならまだしも、そういう関係に発展しないうちはやめたほうがいいっすよ……」

 

あ、はいごめんなさい。

確かに恋人同士ならまだしも違うのにそんなこと考えるのは失礼かもしれないしな。

現に黒歌ともまだ付き合っているわけではないのだ。

まあ今は関係ないし置いとくか。

 

「兵藤一誠様」

 

声のした方向を向くとグレイフィアさんがこちらに近づいてきていた。

その佇まいはまさに完璧メイドといった感じだな。

 

「魔王、サーゼクス・ルシファー様があなたのことをお呼びです。どうぞこちらへ……」

 

この世界の魔王様の呼び出しか。

部長のお兄さんサーゼクス・ルシファー。どんな人なのか少し楽しみだな。

そう思いながら俺は部長たちを下ろしてグレイフィアさんの後についていく。

しばらく歩くとかなり重厚そうな扉が目の前に現れた。

それを開けるとそこには複数人の悪魔の人たちがいた。

すると俺のもとに二人の悪魔が近づいてくる。一人は赤髪の渋い感じの悪魔でもう一人はライザーに少し似ている風体の悪魔だ。

 

「初めまして。私はジオティクス・グレモリー。リアスの父親だ」

 

「あ、部長のお父さんですか。初めまして。兵藤一誠と申します」

 

やっぱり部長のお父さんだったのか。まあ魔力の感じがそっくりだしな。

ということはもう片方がライザーの父親か。

ライザーの父親……フェニックス卿もまた俺に近づく。最初は恨み言でもいいに来たのかと思ったけどどうやら違うようだな。

雰囲気に悪辣な感じがしないし魔力の流れも穏やかだ。

 

「一誠君といったかな?君には感謝しなくてはならないな……」

 

はて、感謝?息子をボこして縁談をなかったことにまでしたんだから恨まれるならともかく感謝だなんて……。

そう考えているとフェニックス卿は苦笑しながら理由を述べてくれた。

 

「息子は今まで敗北をしたことがなかった。ゆえに一族の力を過信しすぎていたんだよ。縁談の件は私も残念だが、今回のことで息子もフェニックスも絶対ではないという当たり前の事柄を学ぶことができただろう」

 

なるほど。ライザーの成長のためにもどこかしらで挫折を経験したほうがいいと考えていたってことか。

確かに明らかに調子乗っていたもんなあいつ……。

次に話しかけてきたのはジオティクスさんだ。

 

「私も礼を言わせてもらおう。私は心のどこかで娘のことを都合のいい道具扱いしていたのかもしれない。娘の夢……それを聞いて目が覚めたよ。ありがとう」

 

この人もこの人で部長の幸せについては考えていたのかもしれないな……。

すると今度は奥のほうから誰かが……って?何だこの気配?

そこにいたのは赤髪の若い男性。

一見すると大したことないように見えるが違う。

EPは300万を超えているうえ精神生命体としての力を兼ね備えてやがる。

驚くべきはそれを完全に隠蔽していること。俺のように解析特化の究極能力(アルティメットスキル)がなければ気付けなかったのではあるまいか?

ひょっとしてこの人が……。

 

「初めまして兵藤一誠君。僕はサーゼクス・ルシファー。リアスの兄で魔王をやっている」

 

この人が……守護王に放り込んでも中堅どころとなら互角に戦えそうだぞ。

少なくともガビルさんとかそこらへんよりは強そうだ。

正直予想以上。もしかしたらこの人も究極を持っていたりして……。

……いや、まさかね。こっちの世界の人で究極に目覚める可能性はメチャクチャ低いというのがリムルの言だし。

 

「リアスの件について私からも礼を言わせてもらいたい。まさかかの大戦で暴威を振るった赤き龍がリアスの味方をするとは面白いこともあるものだ」

 

おい言われてるぞドライグ。

お前意外といろいろなところに迷惑かけてるのな……。

 

『う、うるさいな。俺も若かったんだよ……』

 

なんていうか、お前あれだな。意外と師匠に似てるところがあるのかもしれないな。

 

『なっ!???』

 

なんかショック受けてるけど気にしないでおくか。

するとサーゼクスさんが一つ咳払いをすることで回りを落ち着かせる。

その目は真剣そのものだ。

 

「兵藤一誠くん。君はリアスの眷属になるつもりはあるかい?」

 

部長の眷属か……。以前は断ったけど、それは悪魔のデメリットがでかいというのもあるけどそれと同時にまだ部長がどういう人なのかわかってなかったというのもあるからな……。

部長と共に過ごし、部長の人となりを把握することができた今は部長の下につくのも面白いかもしれないとも思っている。

けどな……そうなると必然的に冥界に籍を置かなくてはならなくなるわけだ。

一応俺大学卒業後は魔国連邦(テンペスト)の研究所に再就職する予定だし……。

仮にそういうもろもろを置いておくとしても無視できないこともある。

それは・・・・・・・・・

 

「……たぶんですけど、今の部長では俺を眷属にできる力はないんじゃないですかね……」

 

「まあ、確かにそうかもしれないね」

 

そう言ってサーゼクスさんは苦笑しながら肩をすくめる。

悪魔の駒は他者を悪魔に転生させる際、王とその者の力量がかけ離れていると失敗するのだという。

数値だけ比較しても今の部長と俺では百倍以上の差がある。ミッテルトも同じだ。

とても成功するとは思えないというのが俺の率直な感想だな。

 

「ならばお試しとして眷属候補になってみるというのはどうかな?」

 

眷属候補……。そういうのもあるのか。この人もこの人で俺という存在を無視できないってことかな?

なんでも眷属候補なら冥界に行く権利なんかももらえるし、今回のように向こうが許可を出せばレーティングゲームに参加することも可能らしい。こちらはあくまで向こうが許可すればの話だけど。

たとえ部長の力が俺を超えたとしても最終的な判断も俺にゆだねるというし、実際に悪魔になるわけでなく、あくまで仮の眷属ってことだしそれくらいならいいかもしれないな。

 

「わかりました。まあ、最終的にどうするかはまだ決めかねますがそれくらいなら構いませんよ」

 

「ありがとう。君みたいな子がリアスを守ってくれるというのなら心強いよ」

 

「はい。俺も絶対妹さんを守って見せますよ」

 

そうして俺とサーゼクスさんは互いに握手をする。俺としてもそのくらいならば異論はないし俺としてもこの人と友誼を結べたことはありがたい。

その後俺は一度お辞儀をしたのちみんなのところへと戻ることにした。

一応今話した内容についても報告しないとだしな。

 

 

 

**********

 

サーゼクスside

 

 

「ふう、なんとかなったか……」

 

今代の赤龍帝に選ばれた少年。最初その報告を聞いたときは警戒こそしていたが正直言って甘く見ていたように思える。

認識を変えたのはあのティアマットを使い魔にしたという報告を聞いた後だ。

そして今日、間近で見てわかったことは彼はとんでもない存在であるということだ。

恐らく赤龍帝としての力以外にもなにかを隠し持っている。

 

(彼らと親交ができたのは幸運だったな。それに……)

 

どうやらリアスも彼のことを気に入っているみたいだしそれは彼のほうもしかりだ。

彼の目からはとても誠実な気持ちが見てとれた。しかもあの戦いにおいて赤龍帝の籠手を使わなかったのもおそらくはリアスの先を案じてのことなのだろう。

彼ならばきっとリアスのことを守ってくれるだろう。

僕としては異種属間の恋愛というのも肯定しているつもりだ。

僕とグレイフィアだって元は敵同士だったけど、今は夫婦の間柄となっているわけだしね。

できれば彼も悪魔に転生してくれたほうが僕としても望ましいが最終的な判断は彼らに任せるとしよう。

 

(それにしても、彼の恋人だという堕天使……ミッテルトといったかな?彼女もなかなか油断のならない存在みたいだ)

 

あのミッテルトという堕天使の少女からも何やら強い気配を感じた。

おそらく神の子を見張る者(グリゴリ)の幹部級かそれ以上の力を持っているのだろう。それにしては二人ともその名前を一度も聞いたことがない。

一誠君にしろ彼女にしろ、あれほどの存在が今の今までどこで何をしていたのか……。

 

(少し調べてみたほうがいいかもしれないな……)

 

 

 

**********

 

イッセーside

 

 

「私、イッセーたちの家に住むわ」

 

「「へ?」」

 

とりあえずお試しの眷属候補になった旨を話してしばらくたった後突如として部長がそんなことを言ってきた。

 

「だから、私イッセーたちの家に住もうと思うの」

 

「いや、なんでそうなるんですか?」

 

急な部長の発言に俺は結構動揺している。

いきなりどうしてそんな結論に至ったんだ?

 

「眷属候補といっても、私があなたを眷属に加えることができるようになる前にあなたが心変わりしちゃったら意味ないでしょ?だから少しでも親睦を深めたほうがいいと思ったわけ」

 

「まあ、うちらは問題ないっすけど……」

 

ああなるほど。そういう思惑があるのね……。

まあ、まずは父さん母さんに聞いてみないと何とも言えないのだが。

 

「とりあえず親に聞いてみますね」

 

というわけでlineでこのことを両親に尋ねる。

ちなみに両親はオカルト研究部が悪魔たちの部活であるということも把握しているし在籍している生徒がもれなく悪魔ということもわかっている。

ちなみに話したときは『向こうの悪魔さんたちと同じ感じなら心配いらないわね』と結構軽く返されたっけ……。まあ、二人とも一度だけ向こうの世界に旅行しに行ったことあるしな。

あ、返信きた。

 

『いいわよ』

 

『また美人の同居人なんてすごいな』

 

軽いな!?

仮にも同居人増えるわけだからもう少し考えてくれよ……。

まあ、この軽さで異世界やミッテルトの件も受け入れてくれたわけだし一概に悪いとは言えないけど、それにしたってさあ……。

 

「許可ももらったわけだし、イッセー、ミッテルト。明日からよろしくね」

 

ウインクしながらそう言うと部長は荷物をとるためにいったん自分の家に戻っていった。

 

「なんか、凄い展開になったっすね」

 

「ほんとにな……」

 

アーシアに引き続き部長まで。よくまあ部屋が余っているもんだよな。まぁ、良いか。

明日から俺の日常は更に賑やかになりそうだな。

そう思いながら俺とミッテルトも帰路に就いたのだった。




眷属候補の設定は完全オリジナルです。なお、このようにした理由はこうしないとイッセーくんがレーティングゲームに今後出れなくなるからです。
サイラオーグとのバトルとか好きなんで、でも安易に悪魔に転生させるのもなあと悩んだ結果これに落ち着きました。
あくまで候補で正式な眷属ではないのでそこまで強制力はありません。ぶっちゃけ途中でやめようと思えば辞められるレベル。
なお、このお話でストックが尽きたので次回投稿まで間が空きます


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ティアマットさんの再会

イッセーside

 

 

「ふう、少し緊張してきたわね」

 

『ティアマットの緊張する姿なんぞ初めて見たな』

 

「う、うるさいわねドライグ!」

 

「ははは」

 

どうやら本当に緊張しているらしく、扉の前で何度も深呼吸をするティアマットさん。

凛とした姿からは確かにあまりイメージできない姿だな。

しばらくして意を決したようにティアマットさんは扉に手をかける。

ギィィと音を立てながら開くスペースを恐る恐るといった風にのぞき込むティアマットさん。

そして扉の向こうに座っている存在を確認するや否や彼女は感極まった様子で室内に入り、ひざまずいた。

 

「あら、久しぶりね。ティアマットちゃん」

 

「……お久しぶりです。ヴェルグリンド様」

 

 

 

**********

 

 

なぜこんな状況になっているのか説明しなくてはならないだろう。

あれは今から一週間ほど前、ライザーとの戦いでの祝勝会の時のことだ。

ティアマットさんもこの祝勝会に参加し、大いにねぎらってもらったのだ。

そんな折、運よく俺とティアマットさんが一対一で話す機会が生まれたわけだ。

 

「なかなかすさまじい威力の技だったわね。本来ならばアレにドライグの力と究極の権能が合わさるのでしょう?まともに喰らえば私でさえあらがうこともできないでしょうね……」

 

「まああれはヴェルドラ師匠との共同開発で編み出したかなりの自信作ですから」

 

「そう、ヴェルドラ様と……。ヴェルグリンド様から聞いているけどかなりやんちゃなお方なんでしょ?」

 

「まあそうですね。ただ、ヴェルグリンドさんとヴェルザードさんには昔トラウマを植え付けられたとかでお姉さん方の前ではおとなしいんですよ。この前も……」

 

「ん?この前?」

 

「ん?」

 

あれ?今何か変なこと言ったか?と思っているとティアマットさんは驚いたように俺に問いただしてきた。

 

「ちょっと待ってイッセー君、あなた、もしかしてこちらの世界と基軸世界を行ったり来たりしてるの!?」

 

「え、あ、はい。次元渡航の“異世界の門(ディファレントゲート)”の魔法陣が家にあって……」

 

それを聞いたティアマットさんの表情はかなり面白かった。

信じられないという気持ちが思い切り顔に出てるというかなんというか。

そんなことを考えているとティアマットさんは興奮したように俺の肩をわしづかみにし、しばらくした後落ち着いたのか耳元に近づき……。

 

「それって、私にも使える?」

 

他者に聞かれないように恥ずかしそうにそうつぶやいた。

 

 

**********

 

そして部長とアーシアが買い物でいなくなった隙を見計らって俺が基軸世界への入り口に案内をしたというわけだ。

部長とアーシアのことは信頼しているけど、こっちの世界の話はたぶん混乱するだろうしできるだけとどめておきたい。

だからまだ皆には基軸世界関連の事柄はしゃべっていないんだよな……。

いつかは話すつもりだがしばらくは様子を見たほうがいいというのが俺とミッテルトの共通見解なので慎重に行かないと……。

あ、ちなみに今回ミッテルトは家で留守番している。

俺が帰ってきたら魔力通話で教えるのでうまくごまかしてくれと言っておいた。

 

そんなわけで俺とティアマットさんはこの基軸世界に来たわけだがなんとちょうどマサユキとヴェルグリンドさんがまだ魔国連邦(テンペスト)に滞在しているという話を聞き、リムルを通して事情を説明してヴェルグリンドさんに時間を作ってもらったわけだ。

 

「こうしてまた会えるとは思ってなかったわ。懐かしいわね。カルラはほかのルドラの生まれ変わりと比べても格段に強かったのを覚えているわ」

 

「ええ、最初は互角だったのにいつの間にか私たちを追い抜いてしまいましたからね、あの人は……。本当に人間なのかと何度疑ったことか……」

 

カルラ……それがティアマットさんの知るルドラの生まれ変わりの名前か……。

 

「貴方たちと過ごしたのは50年くらいの短い間だけど今でもよく覚えてるわ……。あ、そうそう、ほかの子たちは元気でやってるかしら?」

 

「そうですね。昔馴染みだと、“ルネアス”は精神が老いるのがいやという理由で冬眠じみた長い眠りを繰り返しています。

貴女を倒すことを目標に据えていた邪龍の“クロウ・クルワッハ”も強さを求めて数万年に及ぶ修行と放浪の旅を繰り返していますわね」

 

「ふふ、ルネアスちゃんはともかくクロウちゃんは変わらないのね……。定期的に私に挑んでいたのを思い出すわ」

 

「なんど負けても挑んでくる様はカルラやルネアスともども少し呆れてましたけどね」

 

どちらも初めて聞く名前だな。

知ってる?ドライグ?

 

『ルネアスとやらは俺も知らないが、クロウ・クルワッハのほうは知っている。

三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)”の異名を持つ邪龍最凶とも称される存在でティアマットに勝るとも劣らない力を持つ邪龍だ。昔っから俺たち二天龍ですら勝てるかどうかわからんほど強力なドラゴンだった』

 

邪龍最凶……その肩書だけでやばい奴ってのが伝わってくるわ。

ルネアスさんとやらはわからないけど、二人の口ぶりからこの人も強者に違いなさそうだ。

 

『だが、クロウ・クルワッハは滅んだはずでは……?』

 

「いえ、クロウ・クルワッハは別に滅んでいないわよ。なんでも彼、キリスト教の介入が煩わしかったんですって。やってくる天使も人間も雑魚ばかりでそのくせ数だけは多いからきりがない。

そこで死んだふりして今は身分を隠して世界中を放浪中よ。私も昔のよしみで教えてもらっただけだから多分三大勢力上層部ですら知らないんじゃないかしら?」

 

『まじか……』

 

「まじよ」

 

なるほど。もしかしたら封印される前のドライグより強いのかもしれないな。ティアマットさんもそうだけど、強さを追求し、技量(レベル)を高めようとするやつは総じて厄介だ。

まあ、ヴェルグリンドさん相手に何度も戦いを挑んだというのはさすがにバカじゃないの?と思うけど……。普通しないだろそんなこと……。

まあ、ガッツがあってなによりだ。

 

「……さて、それじゃあそろそろ本題に入ろうかしら」

 

ん?本題?

 

「……気付いていらしたのですね」

 

「もちろんよ。ティアマットちゃん、何か私に言いたいことがあるんじゃないかしら?さっきから妙にそわそわしているわよ」

 

そうなのか?全然気づかなかった。

まあ、ヴェルグリンドさんはティアマットさんの師匠なわけだし付き合いの短い俺ではわからない癖みたいなものを知っていても不思議ではないか。

 

「ええ、さすがはヴェルグリンド様。敵いませんね。実はあなたと再会したら真っ先にやりたいと思っていたことがあるんです」

 

そう言うとティアマットさんは妖気を醸し出しながら静かに立ち上がる。

そこから感じられる妖気はかなりのものだ。

 

「……貴女がいなくなってから数万年。私も私で研鑽を積み重ねてきました。

その成果を、師である貴女にお見せしたいのです」

 

おお、つまりそれって……。

 

「ヴェルグリンド様。私とどうか手合わせ願えないでしょうか?」

 

「いいわ。久しぶりに指導してあげる」

 

五大竜王最強のドラゴンと創造主の血縁たる最恐のドラゴン。

今ここに夢のドリームマッチが決定した。

 

 

 

 

**********

 

 

「別にいいだわさ。遠慮なく戦ってくれちゃっていいのよ」

 

「ありがとうございますラミリスさん。無理言ってもらって……」

 

というわけでやってきたのは地下迷宮の研究施設……の隣にあるモニター室だ。

さすがに近くで見る度胸はないので俺たちはここから観戦させてもらうことにしたわけだ。

 

『というかお前帰る時間大丈夫か?そろそろ5時間は……』

 

「お、そろそろ始まるみたいだな」

 

結果はわかっているんだけど、ティアマットさんがどこまでヴェルグリンドさんに食らいつけるのかは興味がある。

あの人の持つ神話級(ゴッズ)の武器はヴェルグリンドさんにもらったものらしいけど100%の性能を引き出せば究極保有者とも戦えるレベルに至れるものだ。

そしてティアマットさんは神話級の100%を見事に引き出せている。

おそらく数万年という長き時をかけ、完全に性能を引き出したのだろう。もはや彼女の体の一部といっても違和感ないかもしれない。

 

『いきます!ヴェルグリンド様』

 

『かかってきなさい』

 

その言葉と同時に駆け出すティアマットさん。

やっぱり人型のほうが竜形態より強いんだな。速度が段違いだ。

ティアマットさんの片手から放たれた炎がヴェルグリンドさんを襲う。画面越しでもそのすさまじいまでの熱量が伝わってくる。少なくともライザーとは格が違う。

 

「すごい炎だね。お兄ちゃん」

 

「ん?ああそうだな」

 

「でもヴェルグリンド様に炎は効かないよ。あの異世界の竜王は何を考えているんだろう?お兄ちゃんはわかる?」

 

「う~ん、ちょっと難しいな。ティアマットさんもそれくらい熟知してるだろうし……」

 

そう呟くのは可愛らしい仕草で首をかしげる小柄な幼女。俺とともに観戦をしている俺の妹弟子の“天雷竜王”ノトスだ。それだけじゃない。

今この場には冥獄竜王ウェンティを除く俺の妹弟(きょうだい)弟子ともいえる“迷宮守護竜王”が勢ぞろいしているのだ。

彼ら彼女らは異世界の竜王たるティアマットさんに興味津々らしい。

話を聞くや否やすぐさまこのモニター室にやってきたのだ。

 

「おそらく目くらましだろうな。だが、万能感知を使えるヴェルグリンド様には効果が薄いように思える」

 

そう言うのは筋肉質な体に全身に生えたとげが印象的な“地滅竜王”ボレアス。

それについては俺も同意見だが、おそらくそう単純では……ってこれは。

 

「炎が形を成した?」

 

「なにあれ、私でもそんなことできないわよ!?」

 

そう。なんとティアマットさんの放った炎の一部が獄炎の中で人の形を成したのだ。しかも見た感じおそらく質量も持っていると思われる。

そうして作った偽物にティアマットさん自身も自らにも炎を纏わせることで視覚的にも魔力的にも擬態を(カモフラージュ)している。

炎をあそこまで精密に操作するとは……。

威力重視のベニマルさんとかからは絶対に出てこない発想だ。

炎の専門家たる“炎獄竜王”エウロスですら驚いている。

巨大な炎と煙によって視覚から見破るのは非常に困難だろう。

 

『なるほど。考えているようだけど、私の目はごまかせないわよ』

 

まあいくら炎でカモフラージュしても並みの魔力感知ならばともかく万能感知の前では通用しない。

即座に正体を見破られるがティアマットさんだがこれはまだ想定内ということなのだろう。まるで焦っていない。

青龍刀を構え、纏わせたのは……なんと水。

 

「え?ティアマットさんって炎使いじゃなかったの!?」

 

『ティアマットは炎と同じくらい水を操ることも得意としている。あの水に込められた魔力はなかなか脅威だぞ』

 

へえ、そうだったんだ。水を纏った青龍刀での斬撃はヴェルグリンドさん以外のあらゆるものを切り裂いていく。

さながらウォーターカッターだ。神話級の青龍刀に込められた力も加算されており、かなりの脅威を感じる。

 

『甘い』

 

しかしそれもヴェルグリンドさんには通用しない。ヴェルグリンドさんの放つ小さな……しかしあきらかに頭おかしいレベルの火力を持つであろう炎を前にティアマットさんの放つウォーターカッターは蒸発してしまう。

 

『いえ、まだですよ』

 

ティアマットさんは今度は自らの権能により生み出した“業炎”を纏わせる。

あの炎はうまく防御できなければたぶん“赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)”だろうと燃やし尽くせるほどの大火力を誇っているが、ヴェルグリンドさんに通じるとは思えないな。

炎の化身たるあの人は炎に対する絶対的な優位性を持っているからだ。

いったい何を……と思っているとティアマットさんはヴェルグリンドさんの周囲に水の檻を出現させ、ヴェルグリンドさんを閉じ込める。

 

『“業水竜の極流牢獄(カルマ・ドラゴニック・アクア・ジェイル)”。私の魔力を凝縮させた水の牢獄……。といっても、ヴェルグリンド様相手では一瞬で破られてしまうでしょう』

 

ヴェルグリンドさんは何かに気づいたらしく、不敵な笑みを浮かべる。

確かにこの激流はすさまじい。おそらく少しでも触れようものならば高密度の魔力がこもった激流によって流されズタボロのシェイク状態になってしまうだろう。少なくとも並みの魔王種ならばこれで詰みだ。

でもティアマットさんの言うようにこれがヴェルグリンドさんに通じるとは思えない。

いったい何を狙っ……ん?

おそらく非常に低温であろう激流の水。そして青龍刀に纏わせた業炎。

・・・・・・まさかこの人。

 

『きなさい。ティアマットちゃん』

 

『行きますよヴェルグリンド様!』

 

ティアマットさんは業炎を青龍刀に纏わせながら水の檻に向かって一直線に走っていく。

俺の考えが正しければこの人は……。

 

『“業龍爆滅噴火(カルマ・ドラゴニック・イラプション)”!!』

 

水の檻に業炎を纏わせた青龍刀を思いきり叩き込まれる。瞬間起きた大爆発。その爆発の威力たるや凄まじく、階層が違うはずのこの部屋にまで衝撃が伝わってきた。

やっぱりそうだ。これは水蒸気爆発……それも高密度の魔力を帯びた極大の大爆発だ。

あかん。これやばい……。

おそらく究極保有者をも殺しうる威力がある。カレラさんの重力崩壊(グラビティコラプス)を彷彿させる威力といえばその脅威度がわかるだろう。

神話級の青龍刀の魔力とティアマットさんの水と炎。この三つの相乗効果により天井知らずの破壊力を出している。

現にモニターからはいくつかの階層をぶち壊したらしく、階層の断面が見えている。

 

「……恐ろしいお方ですね。異世界の竜王……まさかあれほどとは」

 

冷静沈着な“氷獄竜王”ゼピュロスすらも目の前の光景に目を疑っている。

いくら神話級の武器を持っているとはいえ究極能力(アルティメットスキル)なしでこれほどの威力を出せるとは……。

ティアマットさんをもってしても消耗が激しいのか息を荒げながら膝をついているが本当とんでもない人だな。

まあ真に恐ろしいのはあの爆発をまともに受けてなお、ダメージらしいダメージを一切受けていないヴェルグリンドさんか。

やっぱり竜種は恐ろしい存在(チート)だな。

 

『すごいわティアマットちゃん。よくここまで強くなったわね。褒めてあげるわよ』

 

『……ありがとうございます。ヴェルグリンド様』

 

画面の向こうでは膝をつくティアマットさんに対し、微笑みながら手を差し伸べるヴェルグリンドさんの姿が映し出されている。

ティアマットさんも満足そうにしておりその師弟愛溢れる光景に思わず俺もほころんでしまった。

 

 

**********

 

 

「すごい技でしたね。あんな隠し玉を持っていただなんて」

 

「でもあの技は私の魔力のほとんどを持っていくから一日一回が限度なうえ、範囲も広いから味方がいる状況では使えない。結構不便な技なのよ」

 

まああの爆発だしな。ある程度の指向性は持たせられるらしいけどそれでも下手打てば自分自身が巻き込まれることもある。

ティアマットさんにとって最後の切り札というべきものらしい。

そんなことを話しながら俺は魔方陣の上に立つ。

ティアマットさんはもう少し魔国でヴェルグリンドさんの指導を受けるそうだ。

 

「じゃあまた会いましょう」

 

「おう」

 

こうして俺はわが家へと戻ったのだった。

帰ってきた俺を向かい入れたのは・・・・・・・。

 

「遅かったっすね。イッセー」

 

「げっ、ミッテルト!?」

 

「今何時だと思ってるんすか?もうすぐ朝っすよ」

 

「い、いやこれには深いわけが……」

 

「イッセーさん!どこに行っていたんですか!?」

 

「心配したのよイッセー!!」

 

ミッテルトだけでなく、アーシアと部長まで駆け寄ってきた。

特にアーシアなんか少し泣いているし……。

少し遅く帰りすぎたかな……?

 

『だから言っただろう……』

 

そういえば言ってましたねごめんなさい。

斯くして俺はみんなからありがたいお説教を受けたのだった。

 

 

*******

 

???side

 

 

兵藤家の住民が寝静まってからしばらくした後、“異世界の門(ディファレントゲート)”の魔法陣の部屋へと繋がっているタンスから何者かが現れる。

 

「……ほんとはまだここに来たくはなかったんだけど、仕方がないにゃ……」

 

そういいながら現れたのは黒髪の美女。人間ではないのだろう……特徴的な猫耳と二又の尻尾ピョコピョコと動いている。

 

「誰かに見つかる前に、早いところ調査した方がよさそうにゃん」

 

そういいながら女性はその嗅覚と聴覚で周囲の状況を把握し夜の闇へと姿を消した。




迷宮守護竜王
ラミリスの地下迷宮を守る4体の竜王たち。
全員が覚醒魔王に限りなく近い魔王種級の力を持ち、ヴェルドラ流闘殺法を学んでいる。
なお、口調などについては完全オリジナルです。(本人の会話シーンが全くないので)

ということでティアマットさんは一時離脱です。

なお、カルラの名前はルドラ・ナスカのアナグラムで仏教の迦楼羅とは関係ありません。


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第三章 月光校庭のエクスカリバー
自宅で部活します


イッセーside

 

 

「ん?」

 

ちゅんちゅんと鳥の鳴き声が聞こえる中、陽光のまぶしさで目が覚める。

学校に行く準備をしようと思い、立ち上がろうとすると何やら柔らかいものが俺の手のひらにあるのを感じた。

不思議に思った俺は布団の中をのぞくと…。

 

「うぅん」

 

「……なんでやねん」

 

そこには全裸で寝ているリアス部長の姿があった。艶めかしい声を発しながら寝ぼけているのか俺に抱き着こうとしている。

…なぜ気付かなかったんだ。

 

「どうしよう」

 

とりあえず今目の前にある光景を脳内ストレージに保存。俺が今もんでいる形になっているおっぱいと足に感じる太ももの感触も忘れないように…って違う!!

ど、どうしよう。もうすぐミッテルトがここに来る時間だ。

この光景をもしもミッテルトに見られてしまったら…。

は、早く部長を起こさないと…。

 

「ふわあ、イッセーおはようっ………す?」

 

「あ」

 

部長を起こそうとした矢先ミッテルトが俺の部屋にやってきた。

眠そうにおくびをしながらもまだ寝てると思っていた俺を起こしに来たのだろう。

そして俺と裸の部長を確認するや否やミッテルトの気だるげな眼は一気に絶対零度の呆れと灼熱の火山のような怒りという相反する二つの感情を織り交ぜたかのような鋭い目つきとなり…。

 

「なにやってるんすかあああああああ!!!」

 

大爆発を巻き起こした。

 

 

 

**********

 

「で、なんで部長はイッセーの部屋で寝ていたんすか?しかも裸で」

 

「え、え~と…、イッセーと少しでも親睦を深められたらなあと思い…」

 

「裸の理由になってないっすよそれ」

 

「わ、私はいつも寝るときは裸なのよ!」

 

起床後、俺と部長は正座をしながらミッテルトからのありがたい説教を受けていた。

俺、部長と順番に説教を受けている形だ。俺の場合はなぜ気付いた時点で起こさなかったか、というかそもそもなぜ気付かなかったのか等々。

まあごもっとも。普通寝てても気づくだろう。

 

「うう、少しうらやましいです」

 

アーシアが何かを羨ましがってる。男である俺ならともかくアーシアがうらやましがる要素とかあるか?

 

「全く、まあ今回は初犯ということで大目に見るっすけど、次からは気を付けてくださいね。何度注意しても似たようなことやっていた泥棒ネコの例もあるし…

 

「?何か言ったかしら?」

 

「いえ、何でもないっす」

 

ミッテルトの奴、黒歌のことを言ってやがるな。

確かにあいつもよく似たようなことをしていたからな。しかも何度ミッテルトに注意されようが全く直す気配を見せないのだ。俺にとっては役得だけど…。

 

「はあ、まあお説教はこれくらいにしてそろそろご飯にしましょうか」

 

そういってミッテルトは台所へと向かっていく。

部長は慣れない正座で足をしびれさせた様子を見せつつも服を着てリビングへと向かった。

 

 

 

**********

 

 

「本当、ミッテルトの料理はおいしいわね」

 

「こんなにおいしい料理を作れるなんて本当にすごいですね」

 

「ふふーん。褒めても何にも出ないっすよ」

 

今日の朝食は白米に味噌汁、焼き魚に卵焼きといったスタンダートな代物だ。だがプロ並みの調理術を持つミッテルトにかかればそれがメチャクチャおいしい料理となる。さすがミッテルトだな。

それだけじゃない。

アーシアと部長も掃除や洗濯などの家事を手伝ってくれており、母さんもとても助かっているようだ。

そうやってみんなで食事をしていると、部長が何かを思い出したように母さんに尋ねてきた。

 

「あ、そうだ。お母様、今日の放課後部員達をこちらに呼んでも良いでしょうか?」

 

ん?家に?

 

「ええ、良いわよ。イッセーも構わないでしょ?」

 

「別にいいけど、何かあったんですか?」

 

家にみんなを招くことは別にやぶさかではないけど、初耳だし何かあったのかな?

そんなことを考えていると部長が理由を話してくれた。

 

「今日は旧校舎が年に一度の大掃除で定例会議が出来ないのよ」

 

へぇ、そんなのあるんだ。まあ旧校舎って言っても使っている部屋あるし、そもそも誰かが住んでいる気配だってあるしで掃除は必須なんだろう。部長は何も言ってこないけど、感知してみると誰かがいるんだよな。ちょっと聞きづらいから聞けないままでいるけど。

まあそれは置いといて、その大掃除の影響で部室が使えないから俺の家でオカ研と悪魔の会議をしたいわけね。

家でやる部活…なんか新鮮だな。

少し楽しみだな。

 

 

**********

 

 

というわけで放課後。

部員の皆は俺の部屋に集まりオカルト研究部としての会議を行った。

オカルト研究部として調査したUMAなどの報告などから悪魔としての仕事の報告会など、まあいつも通りの業務をこなしていた…。

ところが途中から妙な方向へと話が飛んで行ってしまった。

というのも途中俺たちにお菓子やジュースを持ってきてくれた母さんがとんでもないものを持ってきたのだ。

 

「…で、これが小学生のイッセーよ」

 

「あらあら。可愛らしいですわね」

 

「や、やめてくれよ母さん」

 

そう。なぜかこの人俺のアルバムなんか持ってきやがった。

俺は即座に取り返そうとしたがミッテルトに拘束されてしまったのだ。

 

「何気にうちも見たことないんで気にはなってたんすよね。まあ大人しくするっすよ」

 

「くっ、裏切り者が…」

 

正直言って脱出しようと思えばできるんだがその場合家にも多少被害が出るかもしれない。

何せこいつかなり本気の力で俺を拘束してやがる。

どちらかといえばテクニック重視のミッテルトだが旧魔王級の強さを持つためパワーも意外とあるのだ。

実際レーティングゲームでも木刀で巨大大剣粉みじんに粉砕していたし…。

そんなこんなで俺は今なすすべがなくなっていた。

 

「イッセー先輩の赤裸々な過去」

 

「やめて小猫ちゃん見ないで」

 

「小さいイッセー、小さいイッセー。フフフ…」

 

「私、なんとなくですけど部長さんの気持ちわかります!」

 

「分かってくれるのね、アーシア!嬉しいわ!」

 

小猫ちゃんは小さい頃の俺を見てなんか小馬鹿にしたような笑みを浮かべるわ、部長とアーシアは何が面白いのか興奮してるわでカオスじみた光景となっている。

木場もなんだかニコニコ顔で見てるし…。

 

「木場。おまえは見るな。なんか腹立つ」

 

「ハハハ。いいじゃないか、イッセー君。僕も楽しませてもらっているよ」

 

くそ…、ミッテルトの拘束がなければ…。羽交い締めされているからミッテルトがアルバムを見る際は必然的に俺とみる形になる。正直恥ずかしいからやめてほしいわ。

そんななか、木場は写真を見て何かを見つけたようだ。瞬間木場の雰囲気が一変する。その表情からはかなり鬼気迫る感じがする。

ミッテルトもそれに気づいたのか俺への拘束を解除する。

 

「木場っち。どうかしたっすか…?」

 

すると木場が見せたのは一枚のアルバム。

俺と隣にいる男の子がかっこよくポーズを決めている写真だ。

この男の子、よく遊んだ記憶がある。よくヒーローごっことかしたっけな。

確か、小学校に上がる前に親の転勤で外国に行っちゃったんだよな。

それっきりで、会うこともなければ連絡もしたことがないけど。

 

「えーと、確か俺の園児時代の友達の…確か、イリナとか言ったっけ?あんまり覚えてないけど」

 

「随分やんちゃそうな女の子っすね」

 

「へ?」

 

「へ?」

 

え、女の子?いや、これは男の子じゃあ…。

 

「いや、女の子っすよこれ。確かにボーイッシュっすけど間違いないっす。気付かなかったんすか?」

 

「何分園児だったからな…。完全に男だと思ってたわ。まあいいや。それで?」

 

「これに見覚えは?」

 

いつもの木場と少し声のトーンがまるで違う。この剣に何かあるのだろうか?写真越しだと判断付かないがかなりの業物に見える。とはいえ見覚えがあるかといわれるとまるで覚えていない。

まあ、何分今の今までこの子のことも覚えてなかったくらいなんだし…。とりあえず、俺は正直に答える。

 

「いや、全く覚えが無いな。かなり昔のことだし・・・」

 

「なんなんすか?この剣?」

 

すると木場は少し驚いたような表情となる。

 

「ミッテルトさんも知らないの?」

 

「何分うちは堕天使陣営には本当に幼い時にしか所属してなくて…正直裏の事情には全然詳しくないんすよ…。だから…恥ずかしながら…」

 

ミッテルトの言葉にある程度納得したのか木場はそうなんだ…と呟き、それ以上の追及をすることなくすぐさま写真へと目を落とした。

 

「こんなことがあるんだね。思いもかけない場所で見かけるなんて・・・・」

 

そう呟きながら木場は苦笑する。

ただ、その目ははっきりとした憎悪に満ちていた。

 

「木場、その剣は?」

 

「これはね…聖剣だよ」

 

 

 

聖剣…なにやら嫌な予感がしてきたぞ。こういう時の俺の勘ってよく当たるんだよ…。また、面倒くさい騒動が起きそうだな。

 

 



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生徒会と相対します

イッセーside

 

 

カキーンという気持ちのいい音とともにボールが宙に舞い上がる。

 

「オーライオーライ」

 

俺は飛んできたボールをいともたやすくキャッチする。

 

「ナイスよ。イッセー」

 

朝、ホームルーム前の時間。現在俺たちオカルト研究部の面々は野球の練習をしていた。別に遊んでるわけでなく、これも立派な活動の一つだ。

というのももうすぐ駒王学園では球技大会が行われるのだ。

大会ではクラス対抗戦以外にも、部活対抗戦なんてものがある。部活対抗戦はなぜか当日まで種目がわからないという謎制度を持つため、こうして目ぼしい競技は全部練習しようということになったのだ。

 

「じゃあそろそろ交替しましょう。次はイッセー投げてくれないかしら?」

 

「わかりました」

 

そういいながら俺はボールをキャッチャーのミットめがけてぶん投げる。

その速度はどうやら部長でも見切るのは難しかったらしく、本日初めての空振り三振である。

 

「ちょ、ちょっとイッセー!?いくらなんでも早すぎよ!!」

 

「……イッセー、もう少し加減したほうがいいっすよ。これじゃあもし本番野球だった時、けが人が出るっすよ」

 

「お、おう」

 

「次は私ですわね。お願いしますわイッセーくん」

 

「はい」

 

キャッチャーのミッテルトにも注意された。

……やはり少し加減を間違えたらしい。

いかんいかん。楽しくてつい少し本気でやってしまった……。もう少し慎重に投げないと……。そう考えながら、今度はかなり慎重に投げつけてみる。

それでも時速160はありそうな剛速球となってしまったが、それくらいなら木場のほうが早い。

 

「はあ!」

 

カキーンと金属音が響き渡る。朱乃さんは危なげなく、俺のボールを打ち取った。

ボールのとんだ方向は……ぴたりとちょうどいい位置に木場がいる。なんでもそつなくこなす男だし、あれくらいなら簡単に……って、ん???

どういうことか、木場はボールのほうを全く見ていない、というか気づいてもいない。ただポケっと突っ立っているだけだ。このままではおそらく頭に直撃する。

何やってるんだあいつは?

俺はとっさに木場の方向へ向かい、激突する前にボールを確保した。

 

「何やってるんだ木場!」

 

「……え、ああごめん。少しぼーっとしてた」

 

俺から見れば少しどころじゃなかったがな。

あの聖剣とやらの写真を見てからの木場は少し異常だ。

ここ最近ぼーっとすることばっかりで少し心配せざるを得ない。

部長も注意しようとするが、結局、時間になってしまったのでモヤモヤを抱えたまま俺たちは教室へと戻っていった。

 

 

 

**********

 

 

そして放課後。

 

「全く、ひどい目にあったぜ」

 

俺は今、アーシアとミッテルトを連れて部室へ向かっているのだが、周囲の視線が正直痛い。

というのも原因は松田と元浜のあほどもだ。

あいつら俺に関して変な噂ばかりを広めやがった。

曰く、部長と朱乃さんと共に夜な夜なやばいプレイをしているとか。

曰く、小猫ちゃんのロリボディを好き放題しているとか。

曰く、ミッテルトとアーシアの二人を日本文化の勉強と称して堕落させるとか……。

曰く、俺は両刀使いであり、木場ともいろいろやってるとか……。

以前から薄々知ってはいたが、実際ここまで酷い噂が広まっているとは思っていなかった。

そしてこれらを流していたのが松田と元浜の二人であるということが発覚したのだ。

それを知った俺はとりあえずボコボコにしてやった。特に最後の噂は絶対許さねえからな……。

 

「まあ、安心するっすよ……。さりげなく否定して噂を書き換えてやるっすから」

 

「マジ頼むぞミッテルト……。ついでにあの二人の変な噂流してやれ」

 

ミッテルトは社交性が割と高いため、結構人脈が広い。

俺のうわさはミッテルトの手にかかってるといっても過言じゃないし、マジで頼むぞ。

 

「……アーシア?さっきから黙ってるけど、なんかあったか?」

 

「へ?い、いえ、なんでもありません」

 

どうもアーシアの様子がおかしい。何やら先ほど桐生に何か吹き込まれていたけどまた変なこと教えたのかあいつ……。

何やら顔がメチャクチャ赤くなっているし、アーシアには余り変なこと教えないでほしいな。

この間なんか、いきなり風呂に乱入なんてしてきたし……、日本の文化と称して変なこと教えるのはやめてほしいものだ……。

……あれ?噂は間違ってない……?

 

「ん?」

 

部室の前に来ると、中から何やらオカ研メンバー以外の気配がする。

一応知ってはいる気配だから誰かはわかるけど、なんでここに……?

部長と話でもあるのかな?そう思いながら俺たちは部室の中に入る。

 

「遅れてすみません」

 

「どもこんにちは」

 

「あら。彼らは……」

 

そこにいたのは駒王学園の生徒会長・支取蒼那さんだ。

この人も部長と同じ悪魔。それもたぶん上級悪魔なのだろう。その魔素量は部長とほぼ互角だし、魔力の質も転生悪魔とは微妙に違う、純粋な悪魔のそれだ。

後ろにはおそらく彼女の眷属であろうと思われる悪魔が控えているし、間違いないと思う。

 

「遅かったわねイッセー。でも、ちょうどよかったわ。彼女は蒼那。知ってると思うけどこの学園の生徒会長よ」

 

「部長と同じ悪魔ですか……。親しくしてるとこを見ると、部長と同じ上級悪魔ですかね」

 

俺の発言に驚いたような反応をする生徒会長。

初見で見抜かれるとは思ってなかったのかもな。

部長も気持ちはわかるとでもいうような視線を会長に送っているし……。

 

「イッセー。礼儀としてあいさつはしたほうがいいっすよ」

 

それもそうだな。

 

「はじめまして。リアス・グレモリーの眷属候補、兵藤一誠です」

 

「僧侶のアーシア・アルジェントといいます!よろしくお願いします!」

 

「イッセーの恋人で堕天使のミッテルトといいます。よろしくお願いします」

 

すると、支取先輩も俺達に自己紹介をする。

 

「はじめまして。学園では支取蒼那と名乗っていますが、本名はソーナ・シトリーといいます。上級悪魔、シトリー家の次期当主でもあります」

 

「次期当主ですか?」

 

なるほど、部長と同じ立場ってわけか。

シトリーといえば、レヴィアタンとかいう魔王様だ。

以前聞いた話なのだがティアマットさんいわく、現魔王の一人がシトリーという悪魔の家系の出らしい。

部長も上級悪魔グレモリー家の次期当主だしな。魔王の妹という立ち位置も含め、非常によく似た境遇であると言えるといえるだろう。

 

「それで、ソーナの用件はなにかしら?」

 

「そうですね。私も新しい眷属を得たので紹介しようと思いまして。サジ、あなたも自己紹介を……」

 

支取先輩にそう言われて男子生徒が前に出てくる。

この男の顔には見覚えがある。確か、最近生徒会に入った追加メンバーだったばずだ。

役職は書記だったかな?

 

「はじめまして。ソーナ・シトリー様の兵士となりました、二年の匙元士郎です。よろしくお願いします」

 

「おう、よろしくな」

 

兵士か……。なかなか強そうな素質があるし、俺やティアマットさんと同じく、こいつからは微弱な竜の気配も感じられる。

もしかしたら俺と同じ、ドラゴン系の神器を持っているのかもしれないな。

俺は愛想よく笑いながら、握手をしようと手を出す。

ところが、匙はその手を見ながら怪訝そうに答える。

 

「ふん、変態三人組と仲良くやる気はないね。最近だと人間のくせに複数人の悪魔の女性とよろしくやってるみたいだしな」

 

「それはあいつらが流したデマじゃい!!喧嘩売ってるのか!?」

 

「おっ?やるか?俺は駒四つ消費した兵士だぜ?最近、悪魔になったばかりだが、人間のおまえなんかに負けるかよ」

 

(多分)同じドラゴン系の神器持ちということで仲良くなれるかな?と思っていたが、しょっぱなから仲良くなれる気がしねえ。

というか、駒四つを消費したってことは、それなりの実力……というか素質があるってことか?

支取先輩の持つ“兵士”の駒を半分消費したことになるし。

 

『かもな……。まあ、相手の実力が測れないようではまだまだだが……』

 

まあ、それはこっちが力を抑えている(セーブ)してるわけだしそれは仕方がないんじゃないかな。

とここでヒートアップしていた匙に待ったが入る。

 

「いい加減にしなさい匙。ごめんなさい兵藤君。匙に代わって謝罪させていただきます」

 

「か、会長、なんでそんなやつに頭を下げるんですか!?」

 

「黙りなさい、サジ。今のはどう見てもあなたが悪いです。あなたも無礼を詫びなさい」

 

「で、ですが……」

 

「そもそも、あなたもライザーとの戦いを見ていたでしょう?あなたでは兵藤君には勝てません。今のあなたでは瞬殺されます」

 

「グっ……。すまなかった」

 

匙は少し納得いかないようだけど、それでも主の面目を保つため、素直に謝れるのは好感が持てるな。

俺への反感も……まあ、あのうわさが発端だし、根はまじめな奴なのかもしれない。

まあ、多少傲慢の気があるが、向こうはまだ悪魔になりたてだし少し力に酔っている感じなんだろう。なら仕方ないかな。

 

「まあ、あまり気にしませんよ」

 

根も葉もない噂をいじられるのは腹立つけど、これくらいならまあ別に。

向こうでは匙以上に好戦的な奴なんて腐るほどいたし……。

シオンさんにベニマルさん、守護竜王たちもなんやかんや好戦的だし他国からもジウやスフィアなどなど……。

他にも数多くいるけど正直言って切りがない……。あっちの世界は迷宮があるから死んでもOKというのも拍車をかけているのだろう。

 

話がそれたな……。

 

「では、紹介も済んだことですし、私たちはこれで失礼します。また球技大会で会いましょう」

 

「フフフ、今年はイッセーにミッテルトという秘密兵器もあるしそう簡単にはいかないわよ」

 

「まあ、頑張りますわ」

 

「うちも結構楽しみっすね……」

 

こうして本日もオカルト研究部は平和な時を過ごしたのだった。

 

「…………」

 

 

木場の纏う不穏な空気を除いて……。



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球技大会本番です

イッセーside

 

 

バーンと大きな花火の音が校庭に響き渡る。

駒王学園では球技大会に限らず、祭りごとの際は花火を使うのだがかなり派手である。

天気予報によると午後から雨だそうだが……大会終わるまで降るんじゃねえぞ。

 

「部長頑張れ!」

 

「会長おおおおお!勝って下さああああい!」

 

びっくりした。匙の奴か……。

大声に振り向くと匙が生徒会闘魂と書かれた巨大な旗をぶん回しながら応援している。何あれ手作り?

気合入っているな……。

今行われているのはクラス対抗の女子テニス。部長と生徒会長の一騎打ちだ。

 

「いくわよソーナ」

 

「よくってよリアス」

 

そうして始まった上級悪魔の真剣勝負。二人とも一切手を抜かずにラケットを振っているな。

 

「シトリ流高速スピンボール!」

 

「甘い!グレモリー流カウンター!」

 

どちらもノリノリである。なんかこう言うところ魔国の皆を思い出すな。

ヴェルドラ師匠とかミリムさんとかシオンさんとか嬉々として技名を言うだろう。

 

「負けたほうがうどんをおごる約束……忘れていないわよね?」

 

「ええ!絶対に私が勝たせてもらうわ!百八の魔球でね!」

 

「受けて立ちます!私のシトリゾーンで!」

 

なるほど。二人ともそれであんなに真剣なのか。

賭けの対象完全庶民のそれだけど貴族であるあの人たちも人間社会を楽しんでいるってことだな。

 

「うどん……最近食ってないっすね。イッセー後でうどん食べに行きましょう」

 

ここで謎の飛び火が俺に!?当然おごりはこの場合俺だな……。

だがしかし、先日が小遣い日だった俺にとってその程度の出費は何でもない。受けて立とうじゃないか。

 

「わかった。後でな……」

 

「サンキューっす」

 

「ありがとうございます。イッセーさん」

 

「あらあら。でしたら私もごちそうになりますわ」

 

「……私もいただきます」

 

……あれ?おかしいぞ?

俺ミッテルト一人のつもりだったのにいつの間にかみんなの分俺がおごることになってしまったぞ!?

俺は財布を見ながら少し憂鬱な気分になる。

ほしいゲームとか結構あるんだけど、今月もつかな……?いや、節約すれば何とか……。

 

バキッ!

 

音がしたほうを見ると部長と会長二人のラケットが力に耐えきれず粉々になってしまった。

点数は同点。

どうやら引き分けみたいだ。

 

「ぐぬぬ。悔しいわね」

 

「うどんはお預けですか……」

 

「部長。イッセー君がおうどんおごってくれるそうですわよ」

 

「アラ本当!?ありがとうイッセー」

 

……さようなら俺の小遣い。

 

 

*******

 

さて、そんなこんなでやって来たドッジボールだ。

部活対抗戦はなぜか競技を当日に発表するというよくわからん決まりだが、ドッジボールならボールが大きい分力加減も上手くできそうだ。

 

「お待たせしましたイッセーさん」

 

「おお、アーシ……あ?」

 

着替えを終えてやってきたアーシアの姿に俺は思わず二度見をしてしまった。

何故ならアーシアが来ているのは学園指定のハーフパンツではなく……

 

「き、桐生さんから聞いたんです。ドッジボールの正装はブルマだって……。ど、どうでしょうか?」

 

最高です。じゃなくて!

桐生お前……なんてことをアーシアに教えてるんだよ!?

思わず桐生のほうをにらむも桐生はどや顔でグッドサインを送るだけだった。

いや、似合ってるんだよ!白い生足……太ももがほんとエロくて可愛らしい。

でもね。アーシアはなんていうか、こう、清純なわけよ!けがれちゃダメな感じな子なのよ!

おのれ桐生め……。

 

「だめですか?」

 

そんなこと考えていると、一向に反応のない俺を見て不安になったのか恥ずかしそうに上目遣いでそう聞いてきた。

 

「駄目じゃないです。最高です。いや、本当ありがとうアーシア」

 

お礼を言ったらアーシアは頭に?を浮かべながら首を傾げていた。

いや、ほんと純朴というか、仕草が可愛すぎる。アーシアマジ天使。

 

「イッセー、とっとと例のものを渡したほうがいいっすよ」

 

おっと、ミッテルトが少し不機嫌になってきてる。

焼きもちでも焼いてるんだろう。可愛いな。

まあでも確かにこのままだと脱線するし、先配っとくか。

 

「よしみんな!このハチマキ巻いてチーム一丸となろうぜ!」

 

そう、俺が用意したのはオカルト研究部の刺繍付きハチマキだ。

さすがに本職のシュナさんと比べるとかなり劣るけど、地獄蛾(ヘルモス)の糸で作った布を使った自慢の一品。魔法耐性も高い優れものだ。

まあハチマキの時点で防御面とか意味ないけど……。

 

「……予想外の出来栄え」

 

気難しい小猫ちゃんからも評価をもらえた。苦労したかいがあったぜ。

 

「あらあら、なんだか異様になじみますわね」

 

「ええ、どんな素材を使ってるのかしら?」

 

「あ、え~と……」

 

「部長、そろそろ向かうっすよ」

 

あ、危ない危ない。うっかり地獄蛾(ヘルモス)の糸とか正直に答えるところだった。

う~ん、そろそろ魔国のこと皆に教えるべきなのか……。

 

「おい木場、置いてくぞ」

 

「あ、うん。ごめん」

 

おいおい、ほんと大丈夫かコイツ……。

 

 

**********

 

 

「狙え!兵藤を狙えええええええ!!」

 

「殺せ!」

 

「くたばれイッセ────!!」

 

舞台は完全にアウェイ。観客たちはそろいもそろって俺に罵声を浴びせ、敵チームは俺に集中して殺意の波動をぶつけてくる。

だがしかし、常日頃変態三人組としていろいろ言われて言う俺に今更こんな口撃がきくとでも……。

 

「お願い野球部の皆!兵藤を殺してリアスお姉さまと朱乃お姉さまを救うのよ!」

 

「アーシアさんを正常な世界へ!」

 

「ミッテルトちゃんのためにも今一度痛い目を……」

 

「小猫ちゃんを助けてやるんだ!」

 

す、すまん……。やっぱつれエわ……。

何か普通に泣きそう。

おそらくこいつらはなぜか美女美少女がそろうオカルト研究部に俺がいるかが納得できてないんだろう。

そのため俺ばかり狙ってくる。おまけに例のうわさを信じ込んでいるのがたちが悪い。

ほんと許さねえからな元凶二人(元浜と松田)……。

 

「死ねえええええええええええ!」

 

殺意に満ちたボールが一直線に俺のもとへ……。

いい加減頭に来たぞ……。

俺はそのボールを片手でキャッチする。

 

「あ……」

 

「そ、そういえば、兵藤って去年の球技大会で無双してたような……」

 

フフフ、どうやら思い出したようだな。

去年の球技大会では俺はかなり大活躍をしていたのだ。

そもそも基軸世界でも魔王間の催しとしてドッジボール大会が開かれたことだってあるし、今更こんな一般人に後れを取るはずもない。

何が言いたいのかというと……。

 

「ほい」

 

「ぐわあああああああ」

 

ぶっちゃけまともな相手にならないんだよな。

 

その後、野球部員全員を一人でアウトにすることでこの戦いは幕を下ろした。

それだけじゃなく、その後も似たような展開が続き、俺たちオカルト研究部はそのまま優勝を果たしたのだ。

これぞ後に言う“野獣無双事変”である。

 

 

**********

 

体育館の外に出るとかなりの土砂降りだ。

大会が終わった後ってのが幸運だな。

 

「じゃあ、さっそく準備するっすよ」

 

「わかってるよ……」

 

お金大丈夫かな……。そんなことをのんきに考えていると……

 

 

 

 

バチンッ!

 

 

 

突如として乾いた音が響いた。

部長が木場の頬をひっぱたいたんだ。

 

「どう?少しは目が覚めたかしら?」

 

部長がかなり怒っているのが見て取れた。

確かに今日の木場はかなりというかだいぶ様子がおかしかった。球技大会中ですら終始ボケっとしていたのだ。

俺も気にはしており、木場からもうどん食う際話を聞こうかなとか考えていたんだけど……。

 

「すみません。今日は調子が悪いみたいなのでこれで失礼します」

 

「ちょっと、裕斗!」

 

見るに見かねたので俺は木場に問いかけてみることにした。

 

「……おい木場、大丈夫か?」

 

「君には関係ないよ……」

 

そう言ってすたすたと立ち去ろうとする木場。これたぶん間違いないな。

 

「復讐か?」

 

「!」

 

やっぱりか……。今の木場からは狂気を感じる。

出会ったばかりのベニマルさんの憎悪。七曜へ向けたアダルマンさんの嫌悪。そして、ファルムスから皆を奪われたリムルの狂気。

木場の目はそれらと同質のものを含んでいる。

 

「そう。イッセー君の言う通りだよ。僕は復讐のために生きている。──聖剣エクスカリバー。それを破壊するために、僕は生きている」

 

聖剣エクスカリバーか……。

こちらの世界についての知識が少ない俺でも知っている有名な聖剣だ。

ゲームとかでよくお世話になるな。

それに対し、何があったのか俺にはわからない。でも……。

 

「何かあったら絶対頼れよ。友達として力になってやる」

 

木場には響かないのか無視してどこぞへ行ってしまった。

 

 

**********

 

 

 

「「聖剣計画?」」

 

木場のこともあり、今日のうどんパーティーは延期となったため、俺たちはそのまま帰宅をした。

そこで部長が木場の過去についてを語ってくれることになったのだ。

 

「ええ、祐斗はその計画の生き残りなのよ」

 

部長が教えてくれたのはのは聖剣計画という、人工的に聖剣を扱える者を育成する計画についてだった。

 

「なんですかそれは?」

 

アーシアもこの計画については初めて知ったようだ。

まぁ、聖女として崇められてきたアーシアにそんな極秘計画が伝わるわけがないか。

 

「聖剣は悪魔にとって最大の武器。斬られれば消滅させられることもあるわ。ただ、聖剣を扱える者はそう多くはない。数十年に一人でるかどうかだと聞くわ。そこで行われたのが聖剣計画よ」

 

なるほどな、教会からすればかなり重要な計画だ。

成功すれば、悪魔に対する切り札が増えるんだからな。

だが、そうやすやすと成功するとも思えない。神話級(ゴッズ)の武器には劣る伝説級(レジェンド)の武器ですらかなりの力……最低でも仙人級の力がなければ持ち主として選んでくれないんだもの。

 

「祐斗もまた聖剣、エクスカリバーに適応するために実験施設で養成を受けたものの一人なの」

 

「じゃあ、木場っちは聖剣を?」

 

ミッテルトの質問に部長は首を横に振った、

 

「いいえ。祐斗は聖剣に適応出来なかったわ。それどころか、養成を受けた者、全員が適応出来なかったそうよ。計画は失敗に終ったの」

 

あれほど剣に精通し、多くの魔剣を扱える木場でも無理だったのか。この世界の聖剣もえり好みが半端ないらしいな。

だがおそらくそれだけではないのだろう。

ミッテルトもその可能性に気付いたのか顔を険しくする。

部長はそして、と続ける。

 

「適応出来なかったと知った教会関係者は、祐斗たち被験者を不良品と決めつけて、処分に至った」

 

 

 

処分…か…。

 

 

 

予想はしていたが胸くそ悪い言葉だ。

 

「そ、そんな…主に仕える人たちがそんなことを…」

 

協会に仕えていたアーシアにとってはその情報はかなりショックなもののようだ。

目元を潤ませて手で口を押さえている。

部長も不快な思いなのか、目を細める。

 

「何とか生き残った祐斗も私が見つけたときは瀕死の重症だった。だけど、そんな状態でもあの子は強烈に復讐を誓っていたわ。聖剣に狂わされた才能だからこそ、悪魔としての生で有意義に使ってもらいたかったのよ。祐斗の持つ才能は聖剣だけにこだわるのはもったいないもの」

 

おそらく部長は木場を救いたかったのだろう。

聖剣に、復讐にとらわれず、悪魔としての生をいきることで。

だけど、木場は忘れることが出来なかったんだろうな。

自分や仲間が殺されたんだ。忘れる方が難しいだろう……。

現に俺もファルムスにお世話になった多くの人たちが殺された時は……。

 

……あの時はミッテルトを助けることで頭がいっぱいになってたけど、それと同時にファルムスの憎悪も確かにあったからな。

 

我ながらよく冷静でいられたもんだぜ……。

 

その後、俺は例の写真を部長に見せたがやはりこれは聖剣らしい。

エクスカリバーほど強力なものではないらしいが見覚えがあるとのことだ。

 

「木場っち、早まった真似をしないといいっすけど……」

 

「……今はそっとしておくしかねえだろ」

 

こうして俺たちの中にもやもやしたものを残したまま、夜は更けていったのだった。

 



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幼馴染みと出会います

イッセーside

 

 

「木場っち大丈夫すかね……」

 

「ハイ、とても心配です……」

 

球技大会から数日が立ったが未だに木場は心あらずといった様相を引きずっている。

木場と同じクラスの女子から話を聞いたところ、教師にあてられても何も聞いていないみたいにぼーっとしていてクラスのみんなも心配しているということだった。

 

「こればかりは本人の気の持ちようだしな……とはいえ、何かしら一区切りはつけてやらないとしんどそうだ」

 

「ま、気長に待つしかないってことすね…………ん?」

 

「なんだ?」

 

玄関を開けようとすると何やら妙な気配を感じる。

二人……強さの面で見ても部長達と同等の強さはありそうだな。軽く見積もってもB+からAランクはありそうだ。

しかもこれは人間の気配。こっちの世界でAランク相当の人間を見るなんて珍しいな……。

あ、ミルたんは絶対人間じゃないから除外な。

まあでも殺気や敵意は感じられないしなにより母さんと楽しげに談笑しているところを見ると緊急性はないだろう。

 

「ただいま。誰かいるの?」

 

「あらイッセーお帰りなさい。今珍しいお客さんが来てるのよ」

 

リビングに入ってみるとそこにいたのは栗毛の髪にミリムさんみたいな長いツインテールをたなびかせた少女。しかし、ミリムさんとは違いとんでもなくたわわなおっぱいを持っている。

もう一人は蒼髪に緑色のメッシュを持つ少女。こちらも栗毛少女にだって負けず劣らずのご立派なものを持っている。どちらも聖なるオーラに十字架を携えていることからおそらくエクソシストなのだろう。

 

「こんばんわ、兵藤一誠君。私のこと覚えてる?」

 

栗毛の女性が話しかけてきた。

俺のことを知ってる?

えーと、誰だっけ?

こんな美少女と知り合っていたら絶対に忘れないはずだ……。ところが記憶を探っても該当する女性はいない。

マジで誰だ?

 

「あれ? 覚えてない? 私だよ?」

 

すると母さんがアルバムを見せてきた。その写真は例の聖剣が映っている写真。

母さんはその写真に写っている……ミッテルト曰く女の子を指さす。

 

「この子よ。紫藤イリナちゃん。この頃は男の子っぽかったけど、今じゃ立派な女の子になっていたから、私もビックリしたのよ」

 

・・・・・・・・・?

えええええええええ!?

マジで!?

ミッテルトの言うとおりだったのかよ!?正直半信半疑だったわ!!

 

「だから言ったじゃないすか……」

 

「ごめん。まじで疑っていたわ」

 

「久しぶり、イッセー君。ひょっとして男の子と間違えてた?」

 

「あ、はい……」

 

俺の言葉に栗毛の少女……紫藤イリナはおかしそうに笑う。

 

「仕方ないよね、あの頃はかなりヤンチャだったからね。……お互い、しばらく会わないうちに色々あったみたいだね。本当、再会って何が起こるか分からないものだわ」

 

そういいながら彼女は悪魔となったアーシアをにらみつける。

おそらく俺が悪魔とかかわりを持っていることに気付いているのだろう。

現に蒼髪の少女のほうなんかアーシアを視認した瞬間、特質級(ユニーク)であろう剣に手をかけている。

剣からは聖なる波動が出てるしこれが聖剣なのだろう。

イリナのほうもたぶん同質の短剣か何かを隠していると思う。いや、魔力感知で見るに短剣よりも小さいな……。なんだこれ……。紐……?

 

「それじゃあね。イッセー君」

 

そう言って彼女たちは何処かへ行ってしまった。

 

 

 

**********

 

 

「三人とも!大丈夫!?」

 

「はい。ご心配をおかけしました」

 

「みんなが無事で本当に良かったわ」

 

「まあ、母さんが普通の人間なんで手が出しずらかったんだと思います」

 

俺とアーシア、ミッテルトは現在部長に抱き寄せられていた。

あの後、聖剣の気配を感じたかなり急いで帰ってきてくれたのだ。

特に悪魔であるアーシアのことを心配していたらしく、真っ先にアーシアに駆け寄っていた。現在は俺達の無事を確認して安堵しているようだ。

それにしてもこの心配具合。グレモリーは特別情愛に深い一族というドライグの言葉もあながち間違いではないのかもしれないな。

しばらくして落ち着いたらしく、部長は今起きていることをポツリと語ってくれた。

 

「部活が終わった後、ソーナから聖剣を持ったエクソシストが訪問してきたという報告を受けてね、この街を縄張りとしている私と交渉がしたいらしいのよ」

 

ほう?それはいささか予想外の展開だな。話に聞く限り、悪魔とキリスト教の溝は相当深いと思っていたんだが……。

 

「教会関係者が悪魔である部長に交渉を?部長はどうするつもりなんですか?契約ってわけでもなさそうですし……。」

 

「そこまではわからないわ……。でも、とりあえず受けておくことにしたの。こちらに手を出さないと神に誓っていたしなにより協会勢力がわざわざ交渉してくるなんて、よっぽどのことでしょうから」

 

まぁ、そうだよな。

下手に断って、好き勝手に動かれるよりは話を聞いた方が良い。どんな要件かはわからないけど敵対してるものが同じ場所で好き勝手動いたらどうなることやら……。木場の件もあるし、下手したら戦争の蒸し返しなんてこともありうるだろうし……。

それにしても、木場があの状態のこのタイミングで聖剣ときたか。

最悪だな。いや、案外いいタイミングなのか?

 

『そうだな。目的はわからないが、もしかしたらあの小僧の気持ちに区切りをつけるいい機会なのかもしれん』

 

ドライグのいう通り、向こうの目的次第だが、今回の件で木場の気持ちに区切りをつけさせることもできるかもしれない。

そう考えると案外悪くないのかもしれないな……。

まあ、リスクもかなり高いと思うけど……。

 

「それで、交渉はいつなんすか?」

 

「明日の放課後よ」

 

明日か……えらく急だな。でもそうなってくると一つ懸念が……。

 

「今の木場が聖剣を前にして冷静にいられますかね?」

 

「そうね。正直言って、今の祐斗は堪えられないと思うわ」

 

だろうな、下手したら対峙したその瞬間にイリナ達に剣を向けかねないな。普段ならともかく今の木場はそれくらい危うい。

いざという時は俺とミッテルトが何とかするしかないかもな……。

 

 

**********

 

 

 

時は過ぎ去り次の日の放課後となった。

俺たちは今イリナともう一人のエクソシストが来るのをまっている状態にある。

 

「いいか木場。くれぐれも早まった真似はするなよ……」

 

「わかっているよ。イッセー君……」

 

本当にわかっているんだか……。目が血走り、雰囲気も殺気立っているぞ……。

これじゃあ本当にエクソシストが入ってきた瞬間に斬りつけかねん。

 

ガラガラと音を立てて古い扉が開く。

 

そこから現れたのは昨日の二人、イリナともう一人のエクソシストだ。

木場は蒼髪の少女の持つ剣を見るや否やさらに剣呑な雰囲気を漂わせる。

それを確認した二人も警戒の色を強める。

おいおい、いきなりかよ……。

 

「木場……」

 

「わかってるよ……」

 

「ごめんなさいね……この子は少しあなたの持つものに思うところがあるようなの」

 

部長は木場を椅子から少し離れた場所に離し、二人に席に着くように促す。

 

「この度、会談を了承してもらって感謝する。私はゼノヴィアという者だ」

 

「紫藤イリナです」

 

「私はグレモリー家次期当主、リアス・グレモリーよ。それで、悪魔を嫌っている教会側の人達が私達悪魔に何の用かしら?会談を求めてくるぐらいだからそれなりのことがあったのでしょう?」

 

「先日カトリック教会本部ヴァチカン、プロテスタント、正教会にて管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました。そして、聖剣を盗んだ主犯格がこの街に逃げ込んだようなんです」

 

イリナの言葉に部長たちは驚く。エクスカリバー……ゲームなんかでもよく出てくる有名な聖剣だ。

でも三か所から盗まれたっていうのはどういうことだ?

エクスカリバーが三本あったってことか?

 

「聖剣エクスカリバーそのものはもう現存していないの」

 

俺の心の中の疑問に部長は答えてくれた。現存しないというのはどういうことだ?

話を聞いてみると、どうやらエクスカリバーは大昔の戦争で折れてしまい、現在完全なものは現存しておらず、今は折れた刃の破片を集め、錬金術とやらで七つの新たなるエクスカリバーを作り上げたということらしい。

一本だけが行方不明で残り六本は協会が管理しているとのことだ。

 

「ちなみにこれが七つに分かれた聖剣の一つ、“破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)”だ」

 

そういいながらゼノヴィアは布にくるまれた剣を掲げる。

やはり特質級(ユニーク)……それも上位はありそうな武器だな。

七つに分かれた一本でこれとは……再び一つになれば伝説級(レジェンド)は確実だろう。

対してイリナはなにやら懐から紐をとり出す。するとその紐がうねうねと生き物のように変形し、一本の日本刀へと姿を変えた。

 

「私が持ってるのはこの“擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)”。形を自由自在にできるから持ち運びにすごく便利なんだ」

 

いや、便利だけどさ……。仮にも敵対している奴らにそこまで教えるなよ……。

形が変わることがあらかじめわかってるかいないかでも随分違うというのに……。

木場はまさかエクスカリバーが出るとは思わなかったらしく、さらに剣呑な空気を強めている。

チラッと見てみたがその形相はまさしく鬼の形相と表現するにふさわしい。まじで今にもとびかかりそうだ……。

本当におさえてくれよ……。ここで手を出したらいろいろまずいんだから……。

 

「……で、そのエクスカリバーとやらを盗んだ奴は誰なんすか?」

 

「……君は?見た感じ悪魔ではないようだが……?」

 

「あ、そういえば自己紹介してなかっいたっすね」

 

そういうとミッテルトはカラスをほうふつとさせる漆黒の翼をはためかせる。

それを見た二人は何やら驚いたような顔となった。

 

「ども、うちはイッセーの恋人で堕天使の……」

 

「……よもやすでに手が回っていたとはな」

 

「は?」

 

そう言うとゼノヴィアは聖剣を取り出し、それをミッテルトに向ける……おいおい、いきなりなにやってるんだよ。

 

「さあ、盗んだエクスカリバーのもとへ案内してもらうぞ」

 

……どうやら何やら事情があるようだな。

 

 




次回は21日に投稿します


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幼馴染と手合わせします

イッセーside

 

 

「ちょっとあなた、いきなり何を……」

 

「少し黙ってもらおうか……こちらとしても大事な話をしているのでな」

 

ミッテルトが堕天使であるということを開示した瞬間、襲ってきたゼノヴィアという女剣士。あまりに突然のことに全員が困惑をする。

 

「ちょちょちょ……ちょっと待つっす!いきなりなんすか!?」

 

「とぼけるな!!さっさとエクスカリバーのところまで……」

 

いきなり刃を向けられたミッテルトも例外ではない。

あまりにも唐突のことで訳もわからずてんぱっているようだ。

それにしても、なんでミッテルトとエクスカリバーが関係あると思ってるんだ?ひょっとして聖剣を盗んだ奴らって……。

 

「待ってゼノヴィア。少し話を聞いてみましょう」

 

イリナの言葉にゼノヴィアは渋々ながらも剣をおさめる。

いったい何がどうなっているのやら……。

少し落ち着いたのかゼノヴィアは息を整え椅子に腰かけるがその目には猜疑の視線が宿っている。

そこでいたたまれなくなったのか、ミッテルトが口を開く。

 

「ひょっとして、聖剣とやらを盗んだのって堕天使なんすか?」

 

その言葉にうなずく二人。なるほど通りで。大方今回主犯の堕天使とミッテルトが仲間なのではと考えたのだろう。

まあ確かに窃盗犯が逃げ込んだ場所に関連ありそうなやつがいたら疑うの当然か。

 

「なるほど、でもミッテルトは二年以上前から俺の家に住んでるわけだし、その窃盗犯とは一切関係ないぜ」

 

「……それを信じろと?」

 

「ああ」

 

「……いいだろう。だが怪しい動きをしたら即座に斬る」

 

そう言うとゼノヴィアはミッテルトから視線を外す。どうやら少しは納得してくれたのかもな。

ゼノヴィアとイリナは改めてこの街に来た目的を語り出した。

 

「我々がこの地に来たのはエクスカリバーを奪った堕天使がこの町に潜伏しているという情報を掴んだからだ。我々はそれを奪取、もしくは破壊するためにここに来た」

 

「堕天使に奪われるくらいなら、壊した方がマシだもの」

 

なるほど。ひとまずこの二人がこの街に来た事情はわかった。

それにしても、奪取はともかく破壊か……。まあ確かに、そんなに強力な武器が敵に渡れば悲惨なことになるのは目に見えている。そうなるくらいならば確かに壊したほうが効率善いかも……。

 

「なるほど、事情は理解できたわ……それで、盗んだ堕天使の名は?」

 

部長はゼノヴィアにそう尋ねた。

この世界の神話にすら伝えられている聖剣エクスカリバーともなると警備だってそれなりに厳重なはずだ。そんな場所から三つも聖剣を盗むことが出来るとなるとそれなりの手練れの可能性が高い。

気になるのも仕方がない。

 

「“神の子を見張る者(グリゴリ)”の幹部、コカビエルだ」

 

その言葉にオカルト研究部の空気がしんと静まり返る。

誰もが目を見開いて驚いているのだ……俺たち二人を除いて……。

 

「あのすみません。コカビエルって誰すか?」

 

ミッテルトの発言に今度は別の意味でみんな目を見開く。教会の二人も信じられないものを見るような目をしているし……。

 

「ミッテルト……貴女本気で聞いてるの?」

 

「アハハ……。お恥ずかしい話、うちが堕天使領にいたの本当に小さい時だったんで……。なんとなく聞き覚えはあるんすけど」

 

まあミッテルトが基軸世界に召喚されたのって確か6歳くらいのときとか言っていたっけ……。ある程度物事は覚えているんだろうけど、下級の出だったらしいし、自陣営とはいえ幹部など縁もゆかりもなかったに違いない。

そこから基軸世界での数十年のほうがミッテルトからすればはるかに濃密な出来事だ。自分の事ならともかく会ったこともない奴の名前なんて覚えているはずもない。

現に俺もイリナのことを写真見るまですっかり忘れていたわけだし……。

 

「なんだかミッテルトの過去がすごく気になってきたわ……。コカビエルは古の大戦から生き残っているとされている堕天使の幹部よ。聖書にも記されている存在で、その力は最上級悪魔を越えているとされているわ」

 

最上級悪魔か……。

映像越しだから実際はどうかわからないけどレーティングゲームを見る限り、最上級悪魔の人たちは皆がみんな災厄級(カラミティ)級の強さを持っているように感じた。

ということは最低でも災厄級(カラミティ)、下手したら災禍級(ディザスター)はあるってことか。先日からエクソシストを何人か派遣しているらしいがすべて消息を絶っているのだと。

まあそれはそうだろう。ある程度のレベル以下の存在で魔王に挑もうなんて無謀もいいところだ。

最低でもAランクオーバーが複数人はいないと手も足も出ないだろう。

 

「ってことは……俺たちに協力を求めたいってことか?」

 

俺はそれが向こう側の目論見なのだと思う。二人とも協力そうな使い手だし、特にゼノヴィアなんかまだ何かを隠している感じがする。とはいえそれを解放しても魔王種級の存在相手では到底及ばない。

ひょっとしたら善戦くらいはするかもしれないだろうが結局はそれどまりだ。それがわかっているからこそ協力を求めに来たのだと……。

所が向こうの要求は俺の想像の斜め上を行っていた。

 

「いや、そうではない。私達の依頼──いや、注文は私達と堕天使のエクスカリバー争奪の戦いに悪魔が介入してこないこと。つまり、今回の事件で悪魔側は関わるなということだ」

 

・・・・・・・・・・・はぁ!?

いや、おかしいだろう。最上級悪魔を上回る。聖書にも記された伝説の堕天使。それだけの情報でもやばい相手って普通わかるだろ。

いくら伝説のエクスカリバーを持ってるとはいえその等級はあくまでも特質級(ユニーク)。それを装備した奴が二人いたところで災禍級(ディザスター)が相手では何とかなるというレベルではない。

Aランクの力を持つこの二人でもそれは同じ。レベル1でレベル50を倒そうってのと同じだ。勝負にすらならない。

 

「ずいぶんな言い方ね。私達が堕天使と組んで聖剣をどうにかするとでも?」

 

「本部はその可能性も憂慮している。悪魔にとって聖剣は忌むべき物だ。可能性がないわけではないだろう?」

 

部長の瞳に冷たいものが宿った。

かなりキレてるな。

まぁ、自分達の失態を棚にあげておいてこれだからな。自分の領土での出来事なのに介入するなとあれこれ言われる。

部長もプライドが傷ついたのだろう。

 

「上は堕天使も悪魔も信用していないということだ。もし、そちらが堕天使と手を組んでいるなら、私達はあなた達を完全に消滅させる。たとえ、魔王の妹でもね」

 

「そう。ならば、言わせてもらうわ。私は“神の子を見張る者(グリゴリ)”の堕天使と手を組んだりしない。決してね。グレモリーの名にかけて、魔王の顔に泥を塗るような真似はしないわ」

 

神の子を見張る者(グリゴリ)”の……を強調するあたり、あくまでミッテルトは別枠ということか。

部長がそう言い切るとゼノヴィアはフッと笑った。

 

「それが聞けただけで十分だ。私も魔王の妹がそこまで馬鹿だとは思っていない。今のはあくまで上の意向を伝えただけさ。まあ、協力は仰がないがね……」

 

ゼノヴィアの言葉を聞き、部長は表情を緩和させる。

はりつめていた部屋の空気も少し緩くなった。

 

「正教会からの派遣は?」

 

「正教会はこの件を保留にした。残る一本を死守するつもりなのだろう」

 

「では二人だけでコカビエルと戦うつもりなの?無謀ね。死ぬつもりなの?」

 

「そうよ」

 

言い切った。常軌を逸しているな……。

仲間のためならともかく、いるかどうかもわからない神様のためにここまで言い切るなんて俺には理解できねえや。まあ、実際にいるんだろうけど……。

会話が終わり、イリナとゼノヴィアは立ち上がる。

 

「本日は面会に応じていただき、感謝する。そろそろおいとまさせてもらうよ」

 

「そう。お茶は飲んでいかないの?お菓子もあるけど……」

 

「いらない」

 

「ごめんなさいね」

 

ゼノヴィアは部長の誘いを断り、イリナも手でゴメンをしながら謝る。

すると、二人の視線はアーシアに集まった。

 

「兵藤一誠の家で出会った時、もしやと思ったが、アーシア・アルジェントか。こんな極東の地で『魔女』に会おうとはな」

 

ゼノヴィアの言葉にアーシアはビクっと体を震わせる。

────魔女。

この言葉は信仰心を失っていないアーシアにとって辛いものだ。

イリナもそれに気づいてアーシアを見る。

 

「あなたが一時期噂になっていた元聖女さん?悪魔や堕天使を癒す力を持っていたらしいわね?追放され、どこぞへ流れたとは聞いていたけど……」

 

「あ、あの……私は……」

 

二人に言い寄られ、対応に困るアーシア。

 

「安心して、ここで見たことは上には伝えないから。聖女アーシアの周りにいた人たちもショックを受けるでしょうからね」

 

「だが、堕ちれば堕ちるものだな。まだ、我らの神を信じているのか?」

 

「ゼノヴィア。悪魔になった彼女が主を信じているわけないでしょう?」

 

呆れた様子でイリナはゼノヴィアに言う。

 

「いや、その子からは信仰のにおいがする。背信行為をする者でも罪の意識を感じながら、信仰心を忘れない者がいる。彼女からもそれと同じものが伝わってくる」

 

「そうなの? ねぇ、アーシアさんは今でも主を信じているのかしら?」

 

その問いにアーシアは悲しそうな表情で答える。

 

「……捨てきれないだけです。ずっと、信じてきましたから……」

 

それを聞いたゼノヴィアは布に包まれた聖剣を突き出す。

 

「そうか。ならば、今すぐ私達に斬られるといい。罪深くとも、我らの神ならば救いの手を差し伸べてくださるはずだ」

 

ゼノヴィアのその言葉を聞いて一気に怒りが沸き上がってきた。ふざけるんじゃねえぞ……。

俺はアーシアに突き付けられた聖剣を掴み、無理矢理下に向けさせる。

 

「随分と好き勝手言ってくれるな。……アーシアが魔女だと」

 

「そうだよ。少なくとも今の彼女は魔女だと呼ばれるだけの存在ではあると思うが?」

 

こいつ……!俺は怒りに奥歯を噛み、ギリギリ鳴らす。

 

「ふざけるなよ。聖女だと勝手に祭り上げ、悪魔を癒してしまえば今度は魔女だと勝手に追放する。何様のつもりだよ……。おまえら教会側の人間はいささか身勝手がすぎると思うぞ。アーシアを聖女とあがめるだけあがめておいて、友達になってくれる奴も一人もいなかったって話だしな」

 

「聖女に友達など必要ない。聖女と呼ばれながらも、神に見放されたのは彼女の信仰心が足りなかったからだろう?」

 

その言葉で怒りが一周回って逆に頭冷えてきた。

友達が必要ない?それが本当に神様の言葉だとしたら……

 

「……随分と器の小さい神様なんだな」

 

「……なんだと?」

 

俺の言葉にゼノヴィアは眉を吊り上げて反応する。

 

「だってそうだろ。悪魔にも優しくできるってことは、要するに誰にでも分け隔てなく癒してくれるってことだろ。そんなアーシアを認めない。アーシアみたいな優しい子が救われないなんて、そんな信仰は絶対間違っている。それに……」

 

脳裏に浮かぶは周囲から神とあがめられる女吸血鬼(ルミナスさん)最強スライム(リムル)の二人。

あの二人は絶対にそんなことは言わない。

 

「聖女だから友達が必要ないとかわけわからん戯言をほざく奴を神様と俺は認めない」

 

「……今の発言は我々、教会への挑戦か?一介の異教徒がそこまでの口を叩くか」

 

ゼノヴィアが俺に向けて殺気を放つ。

 

「イッセー、お止め──」

 

部長が俺を止めようとしたときだった。

俺とゼノヴィアの間に木場が入る。

 

「ちょうどいい。僕が相手になろう」

 

強い殺気を発して、木場は剣を携えていた。

 

「誰だ、キミは?」

 

ゼノヴィアの問いに木場は不適に笑う。

 

「キミ達の先輩だよ。──失敗作だったそうだけどね」

 

その瞬間、部室内に無数の魔剣が現れた。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

球技大会を行った芝生の上。俺たちはそこに立っていた。

周囲丸ごとには部長が用意した結界が張られており、外では部員の皆が俺たちを見守っていた。

 

「では始めようか」

 

イリナとゼノヴィアはローブを脱ぐと肌をさらしてはいないがボンテージっぽいエロい衣装……もとい戦闘服があらわになった。

……絶対誰かの趣味だろあの服。

なぜこんなことになっているか。先ほど、俺とゼノヴィアの口論に木場が飛び込んできて、一触即発の空気になった。

部長は止めようとしたのだが、木場が売った喧嘩をゼノヴィアが買い、今から殺し合いは無しの決闘が行われることになった。

俺の前にはイリナ、木場の前にはゼノヴィアがそれぞれ対峙するかのように立っている。

 

「リアス・グレモリーの眷属の力、いかなるものか見させてもらおう」

 

ゼノヴィアは布を取り払いエクスカリバーを解き放つ。

イリナの方は腕に巻いていた紐が日本刀の形になった。

 

「イッセー、ただの手合わせとはいえ、聖剣には十分気を付けて!」

 

「分かってますよ、部長」

 

腐っても特質級(ユニーク)の武器だ。本気出せばどうということもないのだが、この程度の結界じゃあ本気出すわけにもいかないし、斬られればたぶん痛いと思う。俺は痛覚無効のスキルなんかは持ってないし、怪我しないよう気を付けるか。

まあ俺は大丈夫だろうけど懸念事項もある。それは……。

 

「…………笑っているのか?」

 

ゼノヴィアが木場に聞く。

 

「倒したくて、壊したくて仕方かなかったものが目の前にあるんだからね。嬉しくてね」

 

明らかにやばい感じになっている木場の奴だ。

不気味な雰囲気を醸し出しており、いつものさわやかフェイスの面影がみじんもない。

ゼノヴィアは周囲に展開された魔剣を見る。

 

魔剣創造(ソード・バース)か。……聖剣計画の被験者で処分を免れた者がいると聞いていたが、もしやキミが?」

 

ゼノヴィアの問いに木場は答えず、ただ殺気を向けるだけだ。

あいつ、これは殺し合い禁止だってこと分かってんのか?

 

「兵藤一誠君!」

 

いきなり、イリナが話しかけてきた。

というか考えてみると口論してたのは俺とゼノヴィアなんだよな……。相手逆じゃね?

 

「な、なに?」

 

「再会したら懐かしの男の子が悪魔に魅入られた異教徒となっていたなんて、なんて運命のイタズラ!かわいそうな兵藤一誠くん。いいえ、昔のよしみでイッセー君とよばせてもらうわね。聖剣の適正を認められ、晴れて主のお役にたてると思ったのに!これも主の試練なのですね!でも、この試練を乗り越えることで私は真の信仰に近づけるんだわ!さあイッセー君!このエクスカリバーで貴方の罪を裁いてあげるわ!アーメン!」

 

目をキラキラと輝かせながら、難易度の高い言葉を飛ばしてきたよ!?関わっちゃダメな感じの女の子だこの子!!

完全に自分に酔ってるよね!実は楽しんでるとか!?

これは完全にアダルマンさんたちと同じタイプだ。狂信者という言葉が非常に似合うタイプの人だ。

俺はなんて返せばいいんだよ……。

 

「行くわよイッセー君!」

 

おいおい、本気で斬りかかってきてないか?

それが久しぶりに会った幼馴染みにすることかよ!

 

『……とはいえ、この程度の実力なら問題なさそうだろ。軽くのしてしまえ』

 

ま、ドライグの言うとおりだな。そう考え、俺はイリナと改めて向かい合った。

さっさと終わらせますか。



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幼馴染と決着します

イッセーside

 

 

 

ヒュッ!

イリナが勢いよく俺に対して斬りか斬りかかってくる。俺はそれを紙一重でよけながら、指に魔力を張りめげらせる。

──隙を見て“洋服崩壊(ドレスブレイク)”をかましてやろう。

そう考えていると、イリナは何やら本能的に察した様子。

 

「いやらしい顔つきだわ。何を考えているのかしら?」

 

「気を付けてください。イッセー先輩は女性の服を消し飛ばす技を持っています」

 

ぶっ!?

こ、小猫ちゃん!?な、なぜばらしてしまうんだ!?

抗議の視線を訴えると小猫ちゃんは極めて冷静な口調で言う。

 

「女性の敵。最低です」

 

「なんて最低な技なの!体だけでなく、心までも悪に染まっているなんて……私が浄化してあげるわ!アーメン!」

 

「ま、まあ否定はできないすね。戦闘に卑怯もくそもないすけど」

 

くそ……。しょうがねえ。ミッテルトの言うとおり、戦闘には卑怯もくそもない。でもこれはあくまで模擬戦だしな……。小猫ちゃんの目もあるし、今回は“洋服崩壊(ドレスブレイク)”はなしで行くか。

俺は改めてイリナと向かい合う。

そして……

 

「え?きゃあ!?」

 

俺は一瞬で距離を詰め、イリナの脇腹に掌底をくらわした。

イリナは吹き飛びつつも何とか体勢を立て直し、息を整える。

 

「よくもやったわね……“擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)”!」

 

イリナはエクスカリバーの形態を変化させ、鞭のような状態にする。

 

「いくわよ!」

 

イリナはそういいながらエクスカリバーを振り回す。自由自在に変形するという特性をよく生かしている。

いうなれば抜群の切れ味を兼ね備えた鞭といったところだろう。しなやかで軌道も読みづらい。

まあもっとも……。

 

「俺には通用しねえけどな」

 

俺は冷静にエクスカリバーの軌道を見切り、刃を指でつかみ取った。

 

「う、嘘……ってきゃあ!?」

 

どうやらさっきは手加減をしすぎたようだ。そこで今度は先ほどより少し強めにエクスカリバーごとイリナを地面にたたきつけた。

 

「かはっ!?」

 

「……ま、こんなもんでしょ」

 

ミッテルトの言葉通り、俺とイリナの戦いはこれで決着がついた。

たたきつけられたイリナはというと、肺から酸素のほとんどがでてしまったらしく、酸素を取り込むように息を荒げていた。

 

「そ、そんな……いったいどうやって……」

 

息を荒げながら信じられないといった風に俺を見つめるイリナ。確かにいいアイデアだったけど俺にはあんまり効果がない。

 

「俺の妹弟子に鞭みたいなものを使うやつがいてな、そういうのには慣れてるんだ」

 

俺と同じく“ヴェルドラ流闘殺法”を学んだ妹弟子であり、炎を操る迷宮守護竜王の一柱である“炎獄竜王”エウロスは自らのしっぽを炎の鞭として自由自在に操るという戦法を得意としている。

練度で言うならイリナのそれはエウロスの足元にも及ばない。そもそも思考加速がある俺にとってはあの程度の鞭の速度など止まって見える。ゆえに簡単に止められるというわけだ。

 

「ま、筋は悪くないからもう少し修行しな」

 

そう言って俺はみんなの元に戻ろうとする。すると皆もイリナと同じように信じられないような目で俺のことを見つめていた。

 

「さ、さすがイッセーね。聖剣使いをこうもあっさりと……」

 

「本当にすごいですわね」

 

「……なんというか、イッセー先輩は規格外です」

 

「いやいや、俺程度で規格外とか言わないほうがいいですよ。俺の同門には禁手(バランスブレイカー)を使った俺でも手も足も出ないようなゼギオンさん(本物の規格外)だっているんだから……」

 

「「「え?」」」

 

どうやら俺の言葉が信じられないらしく目を見開く三人。

実際ゼギオンさんは切り札を使っても勝てるかどうかわからないほどの規格外だしな……。それ以外でもカリスさんも十分厄介な存在だし、守護竜王の皆だってその技量(レベル)は侮れない。“朧流”に負けず劣らず“ヴェルドラ流闘殺法”の層もかなり厚いんだよな……。

 

「おケガはありませんか、イッセーさん」

 

「ありがとうアーシア。俺は無傷だよ」

 

そんな中アーシアは俺を心配して駆け寄ってくれた。

やっぱりアーシアは優しいよな。

何故、こんなにも優しいアーシアを追放したのか。一度教会の上層部の人間に小一時間ほど問い詰めたい。

とりあえず、俺の方は終わった。

 

「あとはあっちっすね……」

 

ミッテルトの言うとおり、あとは木場とゼノヴィアか。

 

「まさか、イリナがこうもあっさりと倒されるとは……。正直、彼を見くびっていたよ」

 

「フッ、次は君の番さ」

 

木場は二本の魔剣を握り、ゼノヴィアに迫る。

 

「燃え尽きろ!そして凍りつけ!ハアアアア!!!」

 

片方の魔剣から業火が生まれ、もう片方からは冷気が発生する。

木場は初っぱなから最高速度でゼノヴィアに斬りかかろうとする。

だが、冷静さを欠きすぎだ。あれでは俺でなくとも簡単に動きが読まれてしまう。

 

「気闘法も乱れているし、あれじゃあ当たらないっすね」

 

「そうだな……」

 

ミッテルトの言葉に俺はうなずく。

案の定、ゼノヴィアは木場の斬撃をすべて最小限の動きで交わしている。

 

「中々のスピードだ。そして、炎と氷の魔剣か。だが甘いっ!」

 

瞬間、ゼノヴィアの一振りが木場の二本の魔剣を粉々にした。

それを見た木場は絶句する。

 

「気操法で強化していたはずなのに……」

 

確かに強化はされていた。だがそれはいつもに比べたら多少は程度の事。

まだ気闘法を習得してひと月もたっていない現状では木場の気操法は完璧とはいいがたい。

おまけに冷静さを思いきり欠き、動揺しているあの状態では慣れない技術の練度はさらに下がる。

その状況では破壊力に特化しているであろうあの聖剣に押し負けるのは当然のことといえよう。

 

「我が剣は破壊の権化。君の魔剣など、私のエクスカリバーの相手ではない!」

 

ゼノヴィアは長剣を天にかざし、地面へ振り下ろした。

 

 

 

ドォォォォォォォン!

 

 

 

地面が激しく揺れて地響きが発生する。周囲に巻き起こる土煙。

煙がはれるとそこには大きなクレーターが生み出されていた。

 

「これが私のエクスカリバー、“破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)”。有象無象をすべて破壊する聖剣さ」

 

名前から予想はしていたけど、破壊力だけに特化した聖剣ってことだな。

しかし同じエクスカリバーでもイリナのものとは特性がこうも違うのか……。もとは一つというのが信じられないな。

元々がどんな剣だったのか気になるな……。

 

「七つに分かれてもこの威力。全てを破壊するのは修羅の道か……だけど!」

 

木場は新たに魔剣を作り出す。

 

「この力は同志の無念の思いで作られたものだ!この力で僕はエクスカリバーを破壊する!」

 

そう言いながら木場は新たな魔剣を作り出そうと……っておいおい。

 

「おい木場!勝負を焦るな!」

 

俺の忠告を無視し、木場は新たなる魔剣を創造した。

木場の手に現れたのはまがまがしい魔力を放つ巨大な魔剣だった。

木場の伸長をはるかに超える二メートル級の魔剣。木場はそれを構えながら真正面から特攻する。

 

「その聖剣の破壊力と僕の魔剣の破壊力!どちらが上か勝負だ!」

 

木場は大きくとびかかり、それをゼノヴィアに向けて振るおうとする。

それを見たゼノヴィアは大きく落胆したような表情を見せる。

 

「残念だ。選択を間違えたな」

 

そう、それは木場が最もやってはいけない選択だったのだ。

聖剣と魔剣がぶつかり合い、ガキンと金属音を響かせ、巨大な刀身が宙を舞った。

折れたのは木場の魔剣。このぶつかり合いを制したのはゼノヴィアだった。

 

「そんな……」

 

呆然としている木場の腹部に聖剣の柄頭が抉りこむ。

その破壊力により、木場は吐しゃ物を吐き出しながら崩れ落ちる。

 

「君の武器は多彩な魔剣と俊足だ。あれほどの巨大な剣を振り回すには筋力不足。自慢の動きを自ら封じ込むこととなる。そんなこともわからないのか?」

 

普段の木場ならあそこまでの愚は侵さなかっただろう。

そこまで冷静さを欠いていたということか。

木場は立ち上がろうとするが、ダメージが大きいせいでそれは叶わない。

木場は憎々しげにゼノヴィアをにらみつけるが、ゼノヴィアはそれを意に介さない。ゼノヴィアは木場を一瞥した後、俺の方に歩み寄ってきた。

 

「さて、兵藤一誠。イリナを一瞬で倒したキミの強さには私も驚いたよ。是非とも手合わせ願いたいところだ」

 

「まあ、また次の機会にな」

 

「分かっている。私達も忙しいのでな。リアス・グレモリー、先ほどの話、よろしく頼むよ」

 

そう言い残すとゼノヴィアは踵を返しイリナと合流する。

 

「それでは失礼するよ」

 

「イッセー君!今度は私が勝つからね!次こそ絶対裁いてやるんだから!」

 

「おう、いつでもリベンジ受け付けるぞ」

 

イリナは拗ねているのか少し泣きながらリベンジを申してる。

いいだろう。その時こそは“洋服崩壊(ドレスブレイク)”をくらわしてやる。ボンテージみたいな服だから二人とも体の線が浮き彫りになっているのだ。

身魂計測を使うまでもなく分かる健康的な肢体。

次こそ“洋服崩壊(ドレスブレイク)”を食らわせたいものだ。

 

「な、なんかいやらしい顔してる!?ま、まさかさっき言っていた技を……?」

 

「イッセー、自重するっすよ」

 

「最低です」

 

ハイ、ごめんなさい。

こうして、二人はこの場を去っていった。

 

 

 

*********

 

 

 

 

「ありがとな小猫ちゃん」

 

「……いつものお礼です。してほしい時は言ってください」

 

あの後小猫ちゃんがマッサージをしてくれることとなった。

戦車の力も相まってなかなか気持ちいいや。

基本的に突っ込みと罵倒が多い小猫ちゃんがしてくれるというだけでも感動ものだ。

……それにしても。

 

「?どうしましたか?」

 

「いや、なんでも……」

 

こうして間近でみるとやっぱり小猫ちゃんってどことなくに誰かに似てる気がするんだよな。妖気(オーラ)の質というか、何処かで見覚えがある。

まあ気のせいだとは思うけど……。

 

「でも本当に良かったです。イッセーさんの身にもしものことがあったら……」

 

アーシアも本当に心配してくれていたんだな。

笑顔もまぶしいし、本当に教会の上層部の人間になぜ彼女を追放したのか小一時間は問い詰めたい。

 

「大丈夫っすよ。イッセーがあの程度の使い手に負けるハズないすもん」

 

ま、まあミッテルトの言う通りなんだけどさ。もう少し心配したそぶり見せてもいいんじゃないかな?

一応恋人のはずなのに少し悲しくなってきたぞ。

 

「待ちなさい!祐斗!」

 

そんな中、突如部長の制止する声が聞こえてくる。

そちらを見ると、その場を立ち去ろうとしている木場と激昂している部長の姿があった。

なんだなんだ?

 

「私のもとから離れることは許さない!。あなたは私の大切な“騎士”なのよ! “はぐれ”になんて絶対にさせないわ!留まりなさい!」

 

はぐれ……木場の奴そこまで思い詰めてたのか。

 

「……部長、僕を拾っていただいたことにはとても感謝してます。だけど、僕は同志達のおかげであそこから逃げ出せた。だからこそ、僕は彼らの怨みを魔剣に込めないといけないんです…………」

 

「祐斗……どうして……」

 

部長は悲しそうな顔で木場を見つめる。

 

「木場」

 

「…………」

 

俺は木場に近づく。大方俺も木場を止めようとしていると思っているんだろう。

でも……

 

「行きたいなら行けばいい」

 

「!?」

 

「イッセー!? 何を言うの!?」

 

復讐したい。その気持ちは俺にも少しは俺だってわかるつもりだ。

ファルムスの非道に腹が立った時、俺だって確かにそう感じたのだから。

 

「部長、木場を行かせてやって下さい。今のこいつにはそれが必要です」

 

「で、でも……」

 

「もちろん条件も付けさせます。必ず帰ってこい。それが条件だ」

 

ここで木場の気持ちを無視すれば後々必ず尾を引くことになる。

ベニマルさんだってオークへの恨みを振り切れたのは……確か……ゲロミュード……だっけ?そいつにけじめをつけることができたからだ。

木場の気持ちに区切りをつけさせるためにも、何かしらけじめをつけないとだめなのだ。

 

「……ありがとう。イッセー君」

 

木場は少しやつれた笑顔でそう言い残し、その場から消えた。

さてと、俺も俺でそろそろ行動するとしますか。



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共同戦線です

イッセーside

 

 

「なあミッテルト。これどう思う」

 

「いやあ、うちとしてもなんと言ったらよいのやら」

 

あのあと、俺とミッテルトは独自の行動を始めることにした。

木場にはああいったもののエクスカリバーにコカビエルなんてヤバそうなやつも絡んでいる以上、何もしないという手はない。

こういう時眷属候補という立場は優れているよな。あくまで候補で眷属じゃないのだからある程度の自由は保障されているのだ。

部長からは嫌な顔されたけど最悪の場合関係ないと切り捨てることだってできるわけだしな。

そんなこんなでとりあえず、動きを補足するために木場、もしくは教会勢を見つけようと行動していたのだが……。

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

 

「どうか、天の父に代わって哀れな私達にお慈悲をぉぉぉぉぉ!!」

 

なんかいた。全力で見なかったことにしたいけど何かが俺たちの目の前にいるのだ。

路頭で祈りを捧げる白いローブを纏う女の子が二人。いやあ、目立つ目立つ。

通りすぎる人々も奇異の視線を向けている。

関わりたくないのか皆が視線を向けるだけで基本的に無視している。

気持ちはわかる。俺たちだって無視するだろう。知り合いじゃなければ。

 

「なんてことだ。これが超先進国、日本の現実か……。誰も救いの手を差しのべてくれないとは。これだから信仰の匂いもしない国は嫌なんだ」

 

「毒づかないでよゼノヴィア。路銀の尽きた私達はこうするしかないんだから。異教徒どもの慈悲がなければ食事も取れないのよ?ああ、パン一つさえ買えない私たち…」

 

「ふん。もとはといえば、おまえが詐欺紛いの変な絵画を購入したのが悪いんだ」

 

そう言ってゼノヴィアが指差したところには変なおっさんが描かれた一枚の絵画があった。

下手くそな絵だな。レインさんを見習え。

 

「何を言うの!この絵には聖なるお方が描かれているのよ!展示会の人もそう言ってたわ!」

 

「じゃあだれかわかるのか?」

 

「多分……ペドロ様?」

 

「ふざけるな。聖ペドロ様がこんななわけないだろう。ああ、どうしてこんなのが私のパートナーなんだ……。主よ、これも試練なのですか」

 

「頭抱えないでよ。あなたって沈むときはとことん沈むわよね」

 

「うるさい異教徒!それより、今日の食事を何とかしないとエクスカリバー奪還どころじゃない。どうすれば良いんだ……」

 

「「はぁ………」」

 

ぐぅぅぅぅぅぅ………。

 

離れて見ている俺のところまで届く腹の虫。

腹が鳴るなり二人はその場に崩れ落ちる。

……昨日、やり合った娘達と同一人物とは思えないな。

なんというか、ただただ哀れ。

 

「さて、どうする?あれに話しかけるとなると難易度高いぞ」

 

「そうすね。うちもぶっちゃけ関わりたくないすわ」

 

もう少し様子を見よう。そしたら何処かへ移動するかもしれないし。

そんなこと考えているとイリナが何やら呟きだした。

 

「いいこと思いついたんだけどさ、異教徒脅してお金貰うのはどうかしら?主も異教徒相手なら許してくれると思うの」

 

「寺を襲撃するか?それとも賽銭箱とやらを奪うか?」

 

「お前らそれは異教徒云々の前に人として駄目だろ!!!」

 

あ、しまった。つい突っ込んでしまった。

気付いた時にはもう手遅れ。二人とも俺たちのことをじっと見つめていた。

 

 

 

*********

 

 

 

「美味い!日本の食事は美味いぞ!」

 

「うんうん!これよ!これが故郷の味よ!」

 

「よく食うっすね」

 

ガツガツガツガツと二人はファミレスの料理を胃の中に送り込んでいく。

見事な食べっぷりだよ。

うどんが延期になった今、懐は無事だと思っていたが、そんなことなかったな。

何だろう、泣けてきた。

 

「安心するっすよ。ここはうちと二人で割り勘にしましょう」

 

「マジ!?ありがとう」

 

ミッテルトマジ天使……いや、堕天使か。

数分後、彼女たちは山盛りの料理を丸々間食して見せた。

 

「信仰のためとはいえ………まさか異教徒と堕天使に救ってもらうとは………世も末だ」

 

「私達は堕天使に魂を売ったのよ!」

 

「いや奢ってもらっといてその言い草はひどくないすか?」

 

「ああ、主よ! 心優しいイッセー君にご慈悲を!!」

 

イリナは胸の前で十字架を刻む。どことなく可愛らしさすら感じる。

普通にしてる分には美少女なんだけどな、この二人。

水を飲み、息をついたゼノヴィアは改めて俺たちに聞く。

 

「で、私たちに接触した理由は?」

 

「単刀直入に言わせてもらう。エクスカリバーの破壊に俺も協力させてほしい」 

 

俺の発言に二人は驚愕していた。

まあ無理もない。悪魔は関わるなと言った翌日に協力させてくれ、と言ってきたんだからな。

これでダメでも何度でも頼むまでだ。

ところがゼノヴィアの反応は俺たちの予想とは大きく異なるものだった。

 

「ふむ、そうだな…一本くらいならいいだろう。ただし正体をバレないようにしてくれ」

 

意外にもすんなりと許可が下りた。思わずミッテルトと顔を見合わせてしまう。

ミッテルトは呆気に取られて口をポカンと開けていた。たぶん俺もなんだろうな。

 

「ちょっとゼノヴィア!?いいの?相手は悪魔の協力者よ?手を組むということはすなわち悪魔と手を組むということと同じよ!」

 

思わず立ち上がるイリナ。まあ普通はこういう反応だろうな。

 

「それは分かっている──だが、この任務は私たち二人だけでは正直つらい」

 

「それはわかるわ。けれど!」

 

「最低でも私たちはエクスカリバーを破壊し逃げ帰ればいい。私たちのエクスカリバーも奪われるくらいなら自ら壊せばいい。上からはそう言われてはいるが、仮に奥の手を使ったとしても無事で帰れる確率は……まあ、三割といったところだろう」

 

実際にはそれよりもはるかに低い。

ゼノヴィアには自信の源たる奥の手があるのだろう。

確かにゼノヴィアの内に秘める()()はエネルギーだけならおそらく伝説級(レジェンド)かそれに近い力を秘めている。

だが、彼女ではその真価を引き出すことはできないだろう。真価を引き出したいのなら最低でも仙人級にまで至らないと厳しいと思う。

現時点のゼノヴィアでは出せて10パーセント程度だと思う。

せいぜいエクスカリバーより多少強力な武器として使うのが精いっぱいだろう。

それじゃあ下位の災厄級(カラミティ)級ならば可能性はあっても災禍級(ディザスター)はやれないと思う。

ま、コカビエル自体見たことないから俺の警戒しすぎという可能性もあるがね……。

 

「で、でも……」

 

「イリナ。私は任務を遂行し無事に帰ることが真の信仰だと思う。生きて、これから先も主のために戦うために……。違うか?」

 

「違わないわ……でも……」

 

「ならば、ドラゴンの手を借りていると思えばいい。俺は赤龍帝だからな」

 

「「!?」」

 

二人とも凄く驚いているな。

やっぱ、この世界では赤龍帝の名前って有名なんだな。さすが三大勢力を相手に大暴れしただけのことはあるなドライグよ。

 

『ちゃ、茶化すな相棒』

 

すまんすまん。

 

「まさか、キミが赤龍帝だったとは……」

 

「そういうことだ。それで、どうだ?悪魔の協力者云々はいったん置いといて、俺の申し出を受けてくれるか?」

 

さあどうだ。正直これでダメなら結構困るんだが。

 

「……良いだろう。最悪、上にはドラゴンの助けを借りたと報告すれば良いからな」

 

「よし、交渉成立」

 

そうと決まれば木場に報告しとくか。あいつ今電話でないけど聖剣使いと一緒にいるといえば反応するだろう。

 

「それはそうと一ついいか?」

 

ん?なんだ?

 

「そこにいる堕天使……ミッテルトとか言ったな。彼女はいったいどういう存在なんだ?」

 

あー、言われてみれば。この二人はミッテルトのことをよく知らないし、堕天使である彼女がなぜ協力してくれるのかとかいろいろ気になるんだろう。

 

「彼女は俺の恋人だよ。“神の子を見張る者(グリゴリ)”には所属してない……いうなればはぐれ堕天使といったところかな?」

 

「恋人!!??」

 

「はぐれ堕天使?“神の子を見張る者(グリゴリ)”に所属してない堕天使は珍しい。どういう事情だ?」

 

あ、そこ突っ込むか。いや、当然か。

堕天使はほかの種族と比べて数も少なく、そのほとんどが“神の子を見張る者(グリゴリ)”所属という。むしろあれは突っ込まない部長がおかしいのかもしれない。

少し考え込んだ後、ミッテルトは静かに語り出す。

 

「……うちは幼少期、とある組織にさらわれましてね。そこから十数年、まあ、それはひどい目にあって、んで、イッセーに助けてもらってからはイッセーの家に住んでるんすよ。その間一度も帰ったことはない……というか、正直攫われたのが小さいころすぎて“神の子を見張る者(グリゴリ)”の事とかほとんど覚えてないんすよね。まあこちらとしてはそんな事情っす」

 

向こうのことは一切話してはいないがほとんど事実だな。ファルムスにさらわれ下僕としてこき使われた。

ゼノヴィアもイリナもミッテルトの境遇に同情したのか少し憐みの表情が見え隠れする。

この子たちも本当は心優しい性格なのかもしれないな。狂信者だけど。

 

「そうか、すまない。少し無神経だったな」

 

「いいっすよ。今はこうして幸せなんすし」

 

どうやら二人のミッテルトに対してのわだかまりは消えたようだな。

さてと、そろそろ木場を呼び出すとしますか。

 

 

*********

 

 

 

カランカランと音が鳴り、木場と小猫ちゃん、そして匙がファミレスに入ってきた。

ん?小猫ちゃんと匙?

 

「あれ、小猫ちゃんと匙? なんで二人がここにいるんだよ?」

 

俺が疑問を漏らすと小猫ちゃんと匙は律義に事情を話してくれた。

 

「……私は祐斗先輩を探していました」

 

「俺は小猫ちゃんに事情を聞いて木場を探すのを手伝っていたんだ。そしたら木場がファミレスに向かってるところを見つけてよ……」

 

なるほど、小猫ちゃんも木場のことを心配していたわけだ。

んで、部長たちグレモリー眷属を頼るわけにはいかないのでシトリー眷属である匙を頼ったと。

小猫ちゃん本当にいい子よな。

 

「それで、イッセー先輩たちはその二人を連れて何をしようとしてたんですか?」

 

「ああ、それはこの二人にエクスカリバーを破壊させてもらえないか交渉をしてたんだ。一本くらいならばいいってよ」

 

「「「!?」」」

 

俺の発言に木場と小猫ちゃんは驚いたような表情をする。

 

「ちょっと待てよ!それってこちらは関わらないことになってんだろ!?何考えてんだ!?会長に殺されちまうぞ!?」

 

匙も一応事情は知っていたようだ。俺としては別に匙はいてもいなくてもいいんだけど……。

この際巻き込むか?いや、でもシトリー眷属を勝手に巻き込むのもどうかと思うしな……。

とりあえずこの場にいてもらって最終的な判断は個人に任せよう。

 

「エクスカリバー使いに破壊を承認されるのは、正直、遺憾だね」

 

「随分な言いようだ。そちらがはぐれなら問答無用で斬り捨てているところだ」

 

おいおい、共同作戦前なんだから、ケンカはやめようぜ。

 

「やはり“聖剣計画”のことで恨みを持っているの?エクスカリバーと教会に」

 

イリナの問いに木場は目を細めながら冷淡に肯定する。

 

「でもね、木場君。あの計画のおかげで聖剣使いの研究は飛躍的に伸びたわ。私やゼノヴィアみたいに聖剣に呼応できる使い手も誕生し「イリナ」!」

 

俺はイリナの言葉をいったん遮る。イリナの言葉で木場の怒りが徐々に増していることを感じ取ったからだ。

 

「確かにその計画で二人みたいな使い手が生まれたのも事実だけど、それとこれとはまるで話が違う。その言い方だと『研究の飛躍のためだから君の仲間を殺したことについても許してね』って言ってるように聞こえるぞ」

 

「うっ……、ごめんなさい」

 

イリナも今の発言は不謹慎だったと感じたのだろう。素直に木場に謝罪をした。

正直に言って木場やその仲間たちに教会が行った仕打ちはあまりにも残酷だと思う。

 

「その事件は私たちの間でも嫌悪されているよ。計画の責任者は異端の烙印を押されて追放、今は堕天使側の存在だしな」

 

「堕天使側に?その男の名は?」

 

「バルパー・ガリレイ。“皆殺しの大司教”と呼ばれた男だ」

 

バルパー。そいつが木場の宿敵ってことか。

 

「バルパー……その男が僕の同志を……」

 

「やったな木場。明確な敵がわかっただけでも一歩前進じゃねえか」

 

木場の瞳にも新たな決意のようなものが見て取れる。自らの刃を向けるべき存在がわかってすっきりした顔だ。

今までは目の前の二人のことも切りかかろうとするぐらいには見境なさそうだったからな。

 

「僕のほうも情報を提供するよ。先日、僕はエクスカリバーを持ったはぐれ神父に襲撃された。相手の名はフリード・セルゼン。聞き覚えは?」

 

あ、フリード。そうだすっかり忘れていた。以前のレイナーレ事件以来音沙汰ないからてっきり駒王から出ていったとばかり思っていたんだけどな。

 

「なるほど、奴か」

 

「あれ?あいつを知ってるのか?」

 

意外に有名なのかあいつ?いや、でもあの性格だしな…。ひょっとしたら教会所属時から問題児だったのかもしれない。

俺がゼノヴィアに尋ねると、ゼノヴィアの代わりにイリナが答えた。

 

「ええ、教会の中でも有名よ。フリード・セルゼン。十三才でエクソシストになった天才。数多くの悪魔や魔獣を滅するという功績を残していったわ」

 

「だが、奴はやり過ぎた。同胞すらも次々に手をかけていったのだからね。フリードには最初から信仰心などかけらもなかった。あるのは異形への対抗心と戦闘執着。最終的に奴は異端として追放された」

 

なるほど。質の悪い戦闘狂ってところか。味方にまで手をかけるだなんてな。

アーシアの時も思ったが本当に胸糞悪い奴なんだな。

……でも、これって偶然か?

堕天使側に逃げ込んだ聖剣の専門家にエクスカリバーを盗んだ堕天使幹部。そして突如現れた聖剣装備のはぐれ神父。

もしもこれらがすべてつながっているとすれば……。

 

「タイミングから考えて、もしかしたら今回の件にバルパーってやつが関係しているかもしれないっすね」

 

「……なるほど、教会から追放された者同士が結託することはそう珍しいことでもない。もしかしたら──」

 

ミッテルトも同じ考えに至ったようだな。ゼノヴィアも可能性を肯定しているし、ほぼ確定といっていいかもしれないな。

 

「じゃあ、話はついたわね」

 

これにて悪魔、堕天使、教会勢によるエクスカリバー破壊共同戦線が結成されたのだった。

イリナはペンを取り出すとメモ用紙にペンを走らせ、連絡先を渡してきた。

 

「ハイ、これ私の連絡先。何かあったらここに連絡してね」

 

「サンキュー。じゃあ、俺のも──」

 

「イッセー君のケータイ番号はおばさまからいただいてるわ」

 

イリナが微笑みながら言う。

 

「マジで!?」

 

母さん、何やってんの!?

いくら幼馴染だろうとプライバシーというものがこの世にはあってだね……。

 

「では、そういうことで。食事の礼はいつか返そう。赤龍帝の兵藤一誠」

 

ゼノヴィアはそう言うと席を返した。

 

「またねイッセー君!たとえ異教徒でもイッセー君なら主も許してくれるだろうしまた奢ってね」

 

いや、それはちょっと……。というかそれでいいのか信仰は?

イリナは手をブンブン振りながらゼノヴィアと共に去っていった。

二人がいなくなってしばらくすると木場がぽつりとつぶやいた。

 

「イッセー君。君はどうしてこんなことを?」

 

いまさらかいな。そんなの理由は一つしかない。

 

「仲間だからに決まってるだろ。お前が復讐したいなら俺は手伝うぞ。仲間がつらい思いしているのは見ててあまり気分のいいものじゃないからな」

 

「うちも同じっす。ま、正直気持ちはわからないでもないすし手伝ってあげようと思っただけすよ」

 

「……祐斗先輩。私は、先輩がいなくなるのは寂しいです」

 

寂しげな表情で小猫ちゃんがそう呟く。普段無表情な小猫ちゃんが言うと破壊力が違うな。

木場じゃないのにきゅんとしてしまった。

木場はというと、困惑しながらも苦笑いしている。

まさか、小猫ちゃんがこんな表情を浮かべるとは思わなかったのだろう。

 

「まいったね。小猫ちゃんにそんなことを言われたら、僕も無茶できないよ。本当の敵も分かったことだし、そうだね、皆の好意に甘えさせてもらうことにするよ」

 

どうやら木場もやる気になったようだ。小猫ちゃんも喜んでいる。よし、気合入ってきたぞ。

 

「よし打倒エクスカリバー!木場のためにも、絶対聖剣ぶっ壊すぞ!」

 

「「「おー!」」」

 

話はまとまった。ここにいるみんなの思いは一つだ。

 

「えーと、すまん。俺はこの話に全くついていけてないんだけど……」

 

…………匙を除いて。



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謎の敵と邂逅します

最初に忠告しておきます。
今回展開速いうえにかなりのオリジナル展開です。
賛否あるかもしれないけど大目に見てください。






イッセーside

 

 

「……以上が今日あった出来事です」

 

「あ、あなたたち一体何を考えているの?」

 

今日あった出来事を部長に報告すると部長は白眼向きながら驚いていた。まあ無理もない。

関わらない方針をとるはずの教会勢とがっつり関わりを持って戻ってきたんだから。

本当は報告しないって手もあったんだが、そこはホウレンソウを大切にしないとな。

主に師匠とラミリスさんがそれを怠ったせいでとんでもないことになるのがうちの日常だし、そこはしっかりしないと。

 

「安心してください部長。木場のことは見張るし絶対に無理はさせません。むしろ木場が暴走しないよう俺がストッパーになるつもりですし……」

 

「……わかっているの?あなた達のしようとしてることは悪魔の世界に大きな影響を与えることになるかもしれないのよ」

 

「わかってます。でもお忘れですか?俺は部長の()()()()であって眷属ではない。最悪全部俺のせいにして切り捨てれば問題はありませんよ」

 

「うちも同じっす。まあ、引き際は見極めるし無理はさせないっすよ」

 

ジト―と俺たちをにらむ部長。しかしやがて根負けしたのか不機嫌そうにため息をついた。

 

「わかったわ。その代わり、はぐれ神父に遭遇したらちゃんと連絡をよこしなさい」

 

「了解しました」

 

これで部長からの許可は下りた。よし、じゃあさっそく木場たちのところに行くか。

俺とミッテルトは家を飛び出し、木場と合流するために町へと駆け出した。

 

 

 

*********

 

 

 

それから数日の月日がたった。

現在俺達は皆で夜の街を歩き回っていた。

俺、ミッテルトはいつもの制服ではなく黒い神父服を着ている。木場、匙、小猫ちゃんの悪魔組も同じであり、偽の十字架を掲げ、魔の力を抑える服で神父のふりをしているわけだ。

木場やイリナたちの情報を統合するとフリードはエクスカリバーを使って次々に神父を殺して回っている可能性が高い。だからこうして神父のふりをしておびき寄せようというわけだ。

ちなみに匙も協力しているのは木場の過去話を聞いたからだ。

あまりにも壮絶な過去に号泣していたし、やっぱり根は熱い奴なんだな。

まあ、会長には言ってないらしいから後で痛い目見るとは思うけど……。

 

「ん?」

 

「どうしました?イッセー先輩?」

 

見つけた。フリードの気配だ。魔力の質からしても間違いないし、何よりゼノヴィアやイリナとよく似た波動を持つ聖剣を持っている。

封印のようなものを施して隠しているつもりだろうが、解析に特化した俺の能力(スキル)からなる感知は誤魔化せねえぞ。

 

「この先にフリードの気配がする。油断するなよ」

 

「おまえ、そんなことが分かるのかよ?」

 

「……イッセー先輩のやることに突っ込むだけ無駄です」

 

お、どうやら向こうも気づいたみたいだな。木場に匹敵……いや木場以上のスピードで急接近している。

 

「神父の集団にご加護あれ♪」

 

フリードは接近するや否や手に持つエクスカリバーで俺たちをまとめて両断しようとする。

木場はとっさに魔剣を作り出し、フリードの剣を受け止めた。

 

「おやおや、折角神父をチョンパしようと思ったのになんだ悪魔のコスプレですか~」

 

相変わらず、ふざけた口調だな。

 

「んん~?そこにいるのはイッセー君じゃあ、ありませんか~。会いたかったですよ~」

 

フリードも俺がいることに気づき、話しかけてくる。その目には怨恨がにじんでいるようだ。

全く、こいつ本当に執念深い奴だな。口ではふざけていてもフリードは視線を俺から離さずにいる。

どうやら俺のことを相当警戒しているようだな。まあ、お前の相手は俺じゃないけど。

 

「悪いが俺は戦うつもりはない。闘うのはそこの木場だ」

 

「ありがとう。イッセー君」

 

「はっ、雑魚悪魔ごときがエクスカリバーを持つ俺っちに勝てると……」

 

フリードの言葉は最後まで言い切ることなかった。木場は騎士の力を発揮し、高速でフリードに接近したのだ。フリードも反応は遅れたものの木場の攻撃をエクスカリバーで受け止める。

 

「お前のエクスカリバーは僕が破壊する」

 

「ちい、調子乗らないでもらえますかあ?」

 

フリードは木場を魔剣ごとはじき、距離をとるが木場もすかさず魔剣を創造する。

そこから始まる二人の剣士による剣撃の応酬。

空中に激しく火花が散る。

木場は落ち着いてはいるようだな。気闘法で自らの速度をさらに底上げしている。

スピードは互角だが武器の質はフリードが上だ。木場が作る魔剣をことごとく破壊していやがる。

しかし、本当にエクスカリバーはバリエーションが豊富だな。

姿を変える、破壊特化の次は速度特化か。

 

「お、おい兵藤。木場のやつヤバイんじゃないのか?加勢しなくて良いのかよ?」

 

まあ確かに、ピンチではあるが、木場だって負けていない。

 

「確かに武器の質で言えば木場が負けている。でも、技術(レベル)なら木場のほうが上だ。木場を信じろ」

 

何しろ木場は基礎とはいえミッテルトから朧流の技だって教えてもらっているんだ。

俺からすれば木場にだって十分勝機はある。

 

「くそ!“天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)”の力で最速となったはずの俺っちにどうしてついてこられるんだよ!?」

 

「僕はエクスカリバーを破壊するためにここにいる。負けるわけにはいかないんだ!」

 

木場の気合の入った一閃はフリードの頬をかすめる。フリードはそれを受けて顔が真っ赤になっていく。

フリードは相当切れているな。先ほどから焦って腰についている()()()()()()()()()()()()を抜こうとしているが、木場のスピードにより叶わないでいる。

対して木場は冷静だ。これならば俺たちの助けは要らなさそうだ。

 

「随分、苦戦しているじゃないか。フリード」

 

そう考えているとどこからか男性の声が聞こえてきた。

声がした方を見るとそこには神父の恰好をした初老の男性が立っていた。

 

「ほう、“魔剣創造(ソード・バース)”か。技量次第では無類の強さを発揮するという代物だ」

 

「バルパーのじいさん!」

 

そうか……こいつが木場の仇。やっぱり今回の件に絡んでいたということか。

 

「っ!? おまえがバルパー・ガリレイか!」

 

「いかにも」

 

フリードの言葉に木場がいち早く反応した。

まずい、仇敵を目の前にしてあいつ、冷静じゃいられなくなっていやがる!

 

「フリード、聖剣に因子を込めろ。さすれば聖剣の力をさらに引き出せる」

 

「へいへい。流れる因子よ、聖剣に!なんつってな!」

 

すると、フリードと聖剣の刀身にオーラが集まり、輝きを放ち始める。

瞬間、フリードは木場を上回る速度で木場に迫ってきた。

 

「さぁ、クソ悪魔君。さっさとチョンパといきましょうかぁ!」

 

「ぐっ!」

 

木場がとっさに魔剣で受け止めるもそもそも武器性能は向こうが上なんだ。いともたやすく折られてしまう。

木場も冷静さを失っているし、このままじゃ流石にまずいな。

俺も参戦するべきか……?

……ン?何やら覚えのある気配が近づいてきた。この気配は……。

 

「やぁ、遅くなったね」

 

「やっほー。連絡もらったから来たわよー」

 

瞬間、二つの影がフリードを斬りつけようとする。

ゼノヴィアとイリナの二人だ。

おそらくフリードと交戦を始めたときに小猫ちゃんあたりが連絡入れてたのだろう。

ここにきて共同戦線の助っ人が参戦か。

 

「ちい、聖剣使いか……」

 

「フリード・セルゼンとバルパー・ガリレイだな。反逆の徒め。神の名のもと、断罪してくれる!」

 

「俺の前でその憎たらしい神の名前を出すんじゃねぇよ!クソビッチが!」

 

フリードは聖剣に力を込め、三人に向かって向ける。

おっと、助けに来てくれたのは二人だけじゃなさそうだ。

 

「滅びよ!」

 

「鳴り響け!」

 

「!?今度はなんなんですか!?」

 

滅びの魔力と雷がフリードに対し迫っていく。それをエクスカリバーの力でよけるもその表情には余裕のなさが見て取れる。

そこにいたのは美しい赤髪をした女性と巫女服を着た黒髪の女性。

そこにいたのは我らがオカルト研究部の部長、リアス・グレモリーに副部長の姫島朱乃。

部長と朱乃さんも駆けつけてくれたようだ。

それだけでなくアーシアまでこの場に来ている。アーシアは傷ついた木場を見るや否や駆け寄って傷の治療を開始した。

 

「大丈夫ですか?}

 

「部長!?アーシアさんも副部長もどうして……」

 

「ミッテルトから連絡をもらったのよ。裕斗、後で貴方にはお仕置きをするからそのつもりでね」

 

「……はい!」

 

「教えてくれてありがとう。ミッテルトちゃん」

 

「これくらいどうってことないっすよ」

 

木場も部長たちがどれだけ心配していたのかを悟ったんだろう。その目には少し涙が見て取れた。

これで数の上でもこちらが有利となったわけだ。

 

「これはまずいな……フリード!!」

 

「わかってますよバルパーの旦那!仕方ねえ、ならばこちらも奥の手を使いましょうかね!」

 

そう言ってフリードは腰掛けていたもう一本のエクスカリバーを取り出してきた。

 

「なっ!?どこから……」

 

「最初からあいつの腰についてたよ。恐らくは透明化でもしてたんだろ」

 

「大正解!!これが“透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)”のちからなんですよ~」

 

透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)”……その名の通り透明になれる聖剣といったところか。もっとも、魔力感知を欺くことができないようだがな。それに今さらそれを出したところでフリードの不利は覆らないだろう。

 

「あなたの聖剣は厄介だけど、この数相手に勝てるかしら?」

 

「ふん!悪魔ごとき何人いようが俺ちゃんのエクスカリバーで皆まとめて首ちょんぱしてやるよ!!」

 

強気な部長の発言に反論するがその様子からは余裕のなさが見て取れる。

フリードも口では強がっているが不利を悟っているのだろう。表情からは焦りが見えかくれしている。

 

「結局悪魔と手を組んでるみたいになっちゃったけど、これで終わりよ!」

 

「断罪の時だ!」

 

そう言いながらイリナとゼノヴィアの二人は獲物を構え、向き直る。

 

「随分と苦戦してるようじゃないか。フリード、バルパー」

 

瞬間、声とともに上空から光の槍が降り注いできた。俺はそれをへし折りながら上空へと視線を向ける。

 

「なんだ?」

 

何だ?この気配?

何かが上空にいる。

見上げると空から黒い漆黒の翼をたなびかせた謎の男が殺気を放ちながら舞い降りてきた。

 

「初めましてかな?グレモリー家の娘。忌々しい兄君を思い出す髪をしてるな」

 

「な!?」

 

「おまえは!?」

 

その男は十枚もの黒い翼を広げ、俺を観察するような目で見ていた。

なるほど、こいつが……。

 

「てめぇがコカビエルか」

 

「いかにも。我が名はコカビエル」

 

名乗りと同時にコカビエルは抑えていた妖気(オーラ)を解放した。

確かにそこそこ強いな。EP値にして42万1329。数値の上ではミッテルトとあんまり変わらない強さだ。

向こうの世界でも災禍級(ディザスター)に分類されるだろう。

なるほど、この世界の伝説に記されるわけだ。

 

「おお、助けに来てくれたか、コカビエル」

 

「来てくれましたかボス!」

 

コカビエルの登場により、バルパーとフリードは安堵したような表情となる。

それに対し、部長はその威圧感に冷や汗をかきながらも冷静に対応しようとする。

 

「ごきげんよう落ちた堕天使コカビエル。私の名はリアス・グレモリー。あいにくだけど、グレモリーは魔王と最も近く、遠い存在。この場で政治的なやり取りを求めるなら無駄よ」

 

相手は堕天使幹部。できることなら部長も戦いは避けたいのだろう。だがコカビエルは興味なさげに返答する。

 

「魔王と交渉などバカげたことはせん。まあ、妹を犯せばサーゼクスも殺り合う気になってくれるかもしれんが…………」

 

部長はコカビエルの発言に眉を細めながらもコカビエルの言葉を待つ。

コカビエルは一人一人の顔を確認し、やがて視線を俺、そしてミッテルトに向ける。

 

「俺が今一番興味があるのはそこにいる二人だ。兵藤一誠にミッテルト」

 

は?

こいつ、俺たちのことを知っている?

どういうことだ?俺たちはこちらの世界ではほとんど無名のはず。フェニックスとの一戦だって限られた家柄の悪魔しか観戦はしてないって話だし……。

 

「俺たちのことを知っているってどう言うことだ?」

 

「言葉通りの意味さ。お前たちのことは聞いている。今までどこにいたのか。どんな戦いを経験したのか。そのすべてをな」

 

「「!?」」

 

な!?どういうことだよ!?

それってつまり……。

 

「何話してるのか知らないけど、油断大敵よ!」

 

「なっ!?ちょっと待……」

 

俺の制止を無視し、イリナはコカビエルに対し斬りかかろうとする。だがコカビエルは一瞥するだけで相手にしない。一瞬疑問に思ったがその答えはすぐに出た。

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、ザン!と斬撃音が鳴り響く。

突如光がイリナの背中を切り裂いたのだった。

 

「なっ!?イリナ────!!」

 

ゼノヴィアは真っ先にイリナに駆け込み抱きかかえる。傷は深そうだ。このままじゃ命にかかわる危険もある。

だが俺は驚きのあまり動けないでいた。

ありえねえ……。俺の魔力感知が何の反応もしなかっただと?

驚愕する俺たちの前に空気がまるで陽炎のようにゆらめき、イリナを切り裂いた光の主がその姿を見せた。

正体は黒いローブを纏った謎の男だった。謎の男はイリナから奪ったエクスカリバーを指でいじりながら気軽な感じでコカビエルに話しかける。

 

「……コカビエルさんよ、少ししゃべりすぎだぜ」

 

「おお、カグチの旦那!あんたも来てくれたんですか!?」

 

「構わんだろ。どうせ皆殺しにする予定なのだから」

 

ローブの男は気軽な感じでコカビエルに話しかける。口調は同格のように感じるが実際はまるで違う。コカビエルの比ではない程に濃密な気配を漂わせている。

この気配、ただものじゃねえ。400万を超えるEPに加え、神話級(ゴッズ)の剣を腰に携えてやがる。

何よりあのローブ、見覚えがある。

あれはレイナーレを操った女が纏っていたローブと同じだ。

俺がその男をまじまじと観察していると向こうも俺に気付いたらしく、気さくな感じに話しかけてきた。

 

「こうして対面するのは初めてだな。兵藤一誠。会えて光栄だよ」

 

「貴様、何者だ!?」

 

ゼノヴィアの問いかけに、ローブの男はフードの部分を取り去り素顔をあらわにする。

その顔は童顔と人懐っこい笑顔で幼く見えるが、瞳からは獲物を見極めるような鋭い眼光を携えている。そして何より目を引くのは鬼のような角が生えているということ。

 

「初めまして。俺は“カグチ”。よろしくな」

 

名乗りと共に男はその圧倒的なオーラで辺りを覆いつくした。魔王覇気の影響からか、部長やゼノヴィアたちは滝のような汗をかきながら膝をついた。

 

「……う~ん、魔王の妹といってもやっぱりこんなものか。ちょっと期待外れだな」

 

部長は何も言い返せない。魔力に気をやられないようにするだけでも精いっぱいなのだ。

むしろ気絶してないだけたいしたもんだ。おそらくAランク未満の奴では意識を保つことすらできず、最悪発狂死する可能性が高い。それほど濃密な魔王覇気だ。

しかも恐ろしいことに、コイツはその魔王覇気を完璧に制御してやがる。現にフリードやバルパーは魔王覇気の影響下にないようだ。

カグチ……こんな奴見覚えもなければそもそも聞いたこともないぞ。ドライグはどうだ?

 

『俺もこんな存在に心当たりはない。神話級(ゴッズ)の剣を持ってることから察するに向こうの存在だろう……』

 

やっぱりそうなのか。とはいえこれほどの存在ならば聞き覚え合ってもいい気するけど、マジで何者なんだ?

俺はふと奴の頭から伸びている角に目が行く。あの角はもしかして……。

 

「……鬼神か?」

 

頭から生える角とその魔素量(エネルギー)から、俺はベニマルさんやソウエイさんと同じ鬼神なのだと俺は考える。だがなんだろう、微妙に違う気もする。

奴は俺の質問にクックッと笑う。

 

「いい線言ってるが惜しい。俺様は火精人(エンキ)さ」

 

火精人(エンキ)……聞いたことがある。確か火の上位精霊が具現したことにより生まれた、小鬼族(ゴブリン)大鬼族(オーが)の大本となった種族だったか……。

 

「イッセーくんや、逆らわない方がいいですぜ~。カグチの旦那はボス以上にやベエ御方ですからね~」

 

フリードは調子づいたように小馬鹿な口調で俺にそう言った。

見ればわかるわそんなこと。

取り敢えず俺は英雄覇気を発動し、フリードを威圧する。

 

「うお!?」

 

「ひい!?」

 

「ほう」

 

フリードとバルパーは俺の英雄覇気に怯んだのか、尻餅つきそうになる。

コカビエルは冷や汗かいてるけどあまり効果はなさそうだな……。

もちろんカグチとやらにはまるで通じてない。

 

「おお、怖え怖え。さすがルミナスと一緒とはいえ、あのダグリュールに戦いを挑んだ男だな」

 

「……そんなことまで知ってるってことは、てめえやっぱり向こうの存在だな」

 

そう問いかけても奴は笑うだけ。だが無言は肯定ということだろう。

それを知っているということはこいつ、もしくはこいつの仲間にあの時の戦いを見られていたということか?

にもかかわらず、あの場にいた誰もコイツの存在に気付かなかったということか?だとしたら、こいつは相当の気配遮断能力を持っているということになる。

究極の力を持つ俺でも感知できなかったということは、あのカグチとやらは間違いなく究極持ちだ。

 

「っ!?」

 

俺が警戒していると唐突に空間がゆがみだす。何者かが転移しようとしているようだ。

この気配には覚えがある。こいつは……。

 

「久しぶりね」

 

「!?あいつは……」

 

空間より現れたのは、レイナーレを操っていた例の女だ。

奴も空間転移でこちらへやってきたようだな。全く同じローブを纏っていることから、おそらくこいつらは仲間なのだろう。

 

「なんだお前も来たのか?」

 

「結晶化の済んだこれをコカビエルに渡してこいと、あのお方の命令だ」

 

「ククク、感謝しよう」

 

女はコカビエルに何かを渡すと俺たちに向かい合い、尋常じゃない殺気を放ってきた。

究極能力(アルティメットスキル)保持者が二人。一気に形成が不利になったな。

 

『どうするつもりだ相棒?』

 

それを今考えてるんだよ。切り札を使ったところで、このクラスが二人相手では勝てるか微妙だ。そもそもあれは周りを巻き込んじまう。

こんなことなら、以前報告に行ったとき()()も持って帰るんだった。

正直究極保持者が相手である以上、ミッテルトでもまともな戦力にはならないだろう。他の皆は以っての他だ。

現に他の皆は、この二人が醸し出す異様なオーラにより膝をついている。言葉を発することすら厳しそうだ。

この力場の前では、Aランク程度の力しか持たないものでは立つこともままならない。

なにしろ魔王種級の力を持つミッテルトですら冷や汗かいている状況だ。いや、俺もだけど……。

そんな中カグチは興味なさげに部長たちを見つめる。

 

「この世界の魔王の妹にその眷属たちか……。個人的には興味ないけど、どうする?メロウ」

 

「あら、決まってるでしょカグチ?この場にふさわしくない塵どもは……」

 

!!?

やばい!!ローブの女──メロウとやらは指揮棒のように指を振るい、どこからともなく音楽を響かせる。

 

「皆殺しよ」

 

音楽とともに極大の魔力が放たれる。まずい、速すぎるうえに範囲が大きい!間に合わねえ!!

 

「みんな────!!」

 

瞬間、あたりは光に包まれた。

 

 

 

 

 

*********

 

小猫side

 

 

 

 

この人たちはいったい何者なの?

突如として表れたカグチと名乗る青年と対峙した瞬間、私たちは死を錯覚した。

コカビエルの放つ威圧感もすごかったですが、目の前の男とは比べることすらおこがましい。そう感じるほどの重圧(プレッシャー)が私たちに襲い掛かっていた。

怖い。文字通り次元が違う。

一歩でも動けば死んでしまう。そう本能で感じ取っているんだ。

そしてそれは部長たちも同じ。

部長も、副部長も、裕斗先輩も匙先輩もゼノヴィアさんも身じろぎ一つできないでいる。

魔力の流れだけで気が狂いそうだ。

唯一立ち上がっているイッセー先輩にミッテルトさんも、その表情からは余裕が微塵も感じられない。

この男だけではない。恐らく転移魔法を使ったのか、あの時レイナーレという堕天使を操っていたローブの女性までもが戦場に降り立った。

そこからあふれる濃密な魔力は、隣の男と同質のもののように感じられる。

 

(どうすれば……このままじゃあ……)

 

唯一立ちながら敵をにらむイッセー先輩とミッテルトさんに視線を向けるが、二人とも余裕があるというわけでもなさそうです。

イッセー先輩とミッテルトさんだけでは危険だ。そう頭ではわかっているのに、体が動こうとしてくれない。

そんな私たちをカグチと名乗る青年は興味なさげに一瞥する。

 

「この世界の魔王の妹にその眷属たちか……。個人的には興味ないけど、どうする?メロウ」

 

「あら、決まってるでしょカグチ?この場にふさわしくない塵どもは……」

 

メロウと呼ばれた女性は指揮棒のように指を振るい、音楽を響かせる。それと同時にとんでもない魔力が集まり一つの塊となる。

 

「皆殺しよ」

 

そう女性がつぶやいた瞬間。その魔力弾は私たちめがけて放たれた。

イッセー先輩が何か叫んでる。でも何を言ってるのかさっぱり聞えません。

周りがすごくスローモーションに見えます。

死の瞬間には世界がゆっくりになるとはよく聞きますが、これがそうなんでしょうか?

 

(誰か────)

 

思わずそう願ってしまう。でもイッセー先輩も間に合いそうもない。

私は死を覚悟し目を瞑り…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の妹に何してくれるんだにゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、

爆発音と衝撃が、あたり一面に鳴り響く。

でも、いつまでたっても私たちに痛みは来ない。

不思議に思っていると、何やら懐かしい香りが私の鼻をくすぐった。

 

「グっ、何が起きたんだ!?」

 

「し、死んだ父さん母さんが見えたぞ今……」

 

「……助かったの?」

 

「今のはいったい?」

 

気付けば、あれほど私たちに恐怖を与えた威圧感もなくなっている。

煙が視界を覆う中、部長たちの無事も確認できた。

 

「……久しぶりだね。白音」

 

「え?」

 

風が吹き抜け、煙が一気に霧消する。

そこにいたのは、私を捨てたはずの、私にとっては恨むべき、憎むべき存在。

 

「なんで……貴女が……?」

 

煙が晴れるとそこには、はぐれ悪魔となったはずの黒歌姉さまが、まるで私たちをかばうようにして立っていた。




速めの黒歌参戦。詰め込みすぎたと少し後悔している。
オリ敵の正体は次回判明の予定です。

次回は木曜日更新予定


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黒歌きます

イッセーside

 

 

 

 

た、助かった……けど、どういうことだ?

俺が思わずそう思うのも無理はないだろう。

なぜならそこに本来はいないはずの存在が、部長達を守るように立ちふさがっていたからだ。

 

「く、黒歌!?」

 

メロウの放った一撃は黒歌の結界に遮られ、見事に霧消した。

その事実に対し、メロウは思わず狼狽している。

皆大丈夫そうだな……。どうやら黒歌の魔王覇気でカグチの覇気を相殺してるらしく、皆も力場から解放されたようだ。

 

「貴様は確かはSSランクのはぐれ悪魔黒歌。なぜ貴様がここに?」

 

バルパーは思わずそう呟く……って

 

「はぐれ悪魔!?黒歌っちが!?」

 

ミッテルトの叫ぶ声がこだまする。俺もビックリだよ。黒歌がはぐれ悪魔!?初耳なんだけど!?

バルパーの言葉を受けて黒歌は不敵な笑みを浮かべる。

黒歌はバルパーの質問を無視し、ローブの二人と向かい合う。

 

「私の攻撃を……こいつ、何者だ」

 

「こいつは黒歌。ルミナス配下、三公の一人にして、ルミナスから“悪夢の黒猫(ナイトメアキャット)”の称号を与えられている女だ。三公の中でも最強の戦闘力を誇っている」

 

二年間こちらに住んでいた俺たちならばともかく、黒歌についての情報も当然のように把握している。

確定だな。

こいつら向こうの世界での俺たちのことを調べているんだ。

 

「ルミナス……貴殿が言っていた吸血鬼か。一度手合わせ願いたいものだな」

 

コカビエルがなにか馬鹿なこと言ってるけど気にしない方が良さそうだ。

そんなことよりも問題はこの二人。

メロウとか言う女の方はルミナスさんの名前を聞いた瞬間ピクリとも動かなくなった。

どうしたんだ?

 

「そうか……貴様あの糞女の配下か……」

 

メロウはフードを取り、素顔となったメロウは狂気的な笑みを浮かべている。青髪の短髪に耳からは魚のようなヒレが覗いている。魚人族(マーマン)かなにかか?

そして、一気に黒歌との距離を積め、黒歌に攻撃を仕掛けた。

 

「いいでしょう……。あの糞女は配下を大切にしていたからな……。貴様をグチャグチャにしてルミナスのもとに送りつけてやろう!!

安心するといいわ……その後は飼い主も仲良くあの世に送ってあげるからねぇ!!」

 

「なるほど……ルミナス様の言う通りの奴だにゃん」

 

一撃一撃が衝撃波だけでアスファルトの地面を粉々にする威力。しかし、黒歌はメロウの攻撃の全てを“闇爪”で受け止めている。

“闇爪”は黒歌の誇る神話級(ゴッズ)の鉤爪型武器で無類の切れ味と堅さを誇っているのだ。

それにしても、気になるのはあの女だ。メロウとやらの話を聞く限り、こいつはどうやらルミナスさんに恨みを持っているみたいだな。黒歌の口ぶりからしてもルミナスさんと知り合いっぽいし……。

 

「ククク、凄まじいな……これが向こうの世界の実力か」

 

「こいつらだってほんの一部にすぎねえよ」

 

カグチはコカビエルの言葉に呆れを混ぜながらそう言う。

黒歌は本来魔法使い型(ウィザードタイプ)だが、迷宮での修行により肉弾戦の技量(レベル)も極めて高い。迷宮守護竜王と比べても上回っているほどだ。

 

「その程度?これじゃあルミナス様を殺すなんて夢のまた夢にゃん」

 

「チッ……たかだが薄汚い野良猫風情が……図に乗るなよ!!」

 

もっともそれはメロウとやらも同じ。言動はなんかあれだが力は本物だ。指揮棒をフェンシングのように操り、華麗な動きを見せている。口ではああは言いつつも黒歌もそこまで余裕があるわけでもなさそうだ。

二撃三撃と何度か打ち合い、二人は距離を取る。

 

「メロウ撤退しろ」

 

「!?ふざけるな!!私はまだ……」

 

「あのお方の命令を忘れたか?ルミナスへの復讐なんざ後でもいいだろ」

 

「…………チィ。ならば今回の実験の観察は私がやろう。それでどうだ?」

 

「……まあ、それなら問題ないか。ぶっちゃけ誰が観察しても問題ないだろうしな」

 

カグチの言葉により、メロウは矛を納める。

どうやら頭に血がのぼっていてもクールダウンできるようだな……。

 

「さてと、じゃあおまえ達に一つ宣言させてもらうとしよう」

 

カグチは何が楽しいのやら嬉々として己の目的を告げようとする。

 

「これからここにいる堕天使幹部のコカビエルさんがおまえたち悪魔の根城である駒王学園を中心にこの街を破滅させる。三大勢力の戦争を引き起こすためにな……」

 

な!?正気かこいつら!?

 

「そ、そんなことして何になると言うの!?」

 

部長の言い分ももっともだ。こいつの言ってることは正直言ってワケわからん。

 

「安心しろ。あくまでそれは俺の目的にすぎん」

 

「まあ、俺個人としては戦争そのものに興味がないが……コカビエルさんは戦争で三大勢力の戦いに決着をつけたいそうだ……」

 

なるほど、戦争はあくまでコカビエルの目的と言うことか。

でもそうなるとこいつらの目的がよくわからん。

 

「俺たちの目的は便乗だな。それに乗じて見所ありそうな奴をスカウトしようってことだ。おまえたちもどうだ?八星なんか裏切って俺たちと好き勝手しないか?」

 

強い奴を勧誘したい……そのために戦争を起こそうってのか?

なんていうか、皇帝ルドラのやり口そのものって感じだな。趣味が悪い……。

 

「ふざけんな!するわけねえだろそんなこと!」

 

「そうっす!うちらがあの方を裏切るなんてこと絶対ないっすよ!」

 

「同感にゃん。ルミナス様を裏切るようなことをするつもりはないにゃん」

 

当然全員が拒否する。

まあ、奴もそれはわかってたらしく、おとなしく引き下がる。

 

「そうかい……ま、気が変わったらいつでも言ってくれ」

 

そう言うとカグチの姿は揺らめき、やがて完全に消失した。

 

『今回俺たちはコカビエルとの交渉のため来たにすぎない。それも終わったし、メロウが残りの仕事を俺の代わりにやってくれるって言うし、そろそろ帰らせてもらう。まあ、縁があったら殺り合おうや……』

 

そう言い残し、カグチは何処かへ消えていった。

残る驚異はメロウとコカビエルの二人。

そしてその二人も空間転移を使用し、恐らくは駒王学園へと姿を消した。

 

「貴様たちと戦う時を楽しみにしているぞ」

 

そう言い残して……。

 

 

 

 

***********

 

 

 

 

「ふぅ~助かったっすよ。でも、なんで貴女がここにいるんすか?黒歌っち?」

 

敵の気配が消え、一息ついたところでミッテルトが黒歌に訪ねる。

それに対し、黒歌は少し慌てながら目そらしする。

 

「え、え~と、仕事と言うかなんと言うか~。ほ、本当は来るつもりなかったんにゃけど……」

 

そして黒歌は部長……いや、小猫ちゃんに視線を向ける。

対して小猫ちゃんは座り込んだまま視線を落とし、妙な雰囲気を醸し出している。

どうしたんだ?てか知り合い?

そんなこと考えてると二人はとんでもない発言をぶちかましてきた。

 

「えとひ、久しぶり……だにゃん。げ、元気にしてた?白音?」

 

「…………なんで姉様がこんなところにいるんですか?」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・は?

ねえさま?だれが?黒歌が?

 

俺たちの混乱をよそに二人は会話を進める。

 

「し……」

 

「貴女は私を捨てたんじゃなかったんですか!?」

 

小猫ちゃんの怒鳴り声とかはじめて聞いたわ。見ると小猫ちゃんの眼には涙が浮かんでいる。

 

「私を捨てた貴女が、今さらなんで私の前の現れたんですか!?なんで私たちをかばったんですか!?あの時、あなたが去って私がどれだけ酷いことを言われたか……」

 

今まで止めてた感情が爆発したかのように小猫ちゃんは怒鳴る。次第に涙も溢れてきた……。

 

「私は、姉様を信用できません……」

 

「…………そう」

 

「ちょ、ちょっと待つっす!!どういうことすか!?白音って誰すか!?姉さまって……え!?」

 

二人の会話にいたたまれなくなったミッテルトが待ったをかける。

まあ当然だよな。俺も何が何やらさっぱりわからん。ただでさえさっきから怒涛の展開すぎて処理が追い付いてないっていうのに……。

でもわかったこともある。

 

「ひょっとして、黒歌と小猫ちゃんって……姉妹なの?」

 

「うん、そうだよ」

 

「「マジで?」」

 

「マジにゃん」

 

道理で小猫ちゃんが誰かに似てると思ったわけだ。こうしてみると一目瞭然だ。

性格も体格も何もかも違うけど、妖気(オーラ)の質が非常に似通っているのだ。

 

「じゃあ、はぐれ悪魔ってのは?何気に初耳なんだけど」

 

「それも本当にゃん。幻滅した?」

 

「いや、それはねえけど……長い付き合いだし……」

 

なんやかんやで十年以上親交が続いているわけだし、黒歌のことはよくわかってるつもりだ。何したのかは知らねえが理由もなく他者を傷つけるような奴じゃない。

 

「ちょっといいかしら?」

 

そこに部長が入ってきた。まあ今までずっと蚊帳の外だったしな。

 

「あなたがはぐれ悪魔の黒歌ね。助けてくれたことには礼を言うけど、この子には近寄らないでもらえるかしら?」

 

「……了解にゃん」

 

そう言うと素直に黒歌は小猫ちゃんから距離を置き、踵を返す。

どうやら本当に深い事情がありそうだな。

すると部長が今度は俺たちのほうに向き合ってきた。

 

「イッセー、ミッテルト。説明してもらえるかしら?あなた達はそこのはぐれ悪魔とどういう関係なの?」

 

誤魔化しは許さないといった風に部長は俺たちに問いただす。

まあ無理もない。はぐれ悪魔……それもSSランクとか言ってたし悪魔界隈じゃ相当のお尋ね者なんだろう。それと親しい様子を見せれば当たり前のことか。

 

「説明難しいですけど、黒歌は今とある吸血鬼の部下として働いているんです」

 

「吸血鬼?」

 

「ええ、といっても吸血鬼領とはまた異なる陣営なんですけど……。で、黒歌の主と俺の師匠が古い友人らしくて、その伝手で知り合って……友達になって一緒に修行したり遊んだり……まあ、そんな感じの関係です」

 

さきほどカグチが言っていた部分も統合するとこれが納得しやすいと思う。異世界云々抜きにしても事実しか言ってないわけだしな。

 

「なるほど。嘘は言ってないようね」

 

部長は一応納得したのか引き下がる。

今度はこっちが気になることがあるんだが……。

 

「ところで黒歌っちって何したんすか?うちら結構付き合い長いすけどはぐれ悪魔云々は今初めて知ったんす。できれば教えてほしいす」

 

「それは……」

 

「そこにいる黒歌はかつてナベリウス家分家の上級悪魔の眷属だったの。でも力におぼれ、主を殺し逃亡。残された小猫はその責任を追及され、深い傷を負ったの」

 

なるほど主殺しか……。確かにそれは悪魔の中でも最も大きい罪といえるかもしれない。

それではぐれ……しかもSSなんてすごそうなランクで指名手配されたわけか。

 

「……で、黒歌はなんでそんなことしたんだ?」

 

「え?そ、それは今そこにいる白音の主が言った通り……」

 

「嘘つけ。断言するがお前は絶対理由もなくそんなことはしない。長い付き合いだしそれくらいわかるさ」

 

そう言うと黒歌は少しうれしそうな顔をしたがすぐに俯いてしまった。やれやれ、ようやくわかった。元々この世界出身である黒歌が一度も帰ろうとしなかった理由が。

おそらく黒歌は恐れていたんだろう。小猫ちゃんに拒絶されること、そして俺たちに己の過去が露見することを。

変なところで臆病なんだからコイツ。

俺は小猫ちゃんのほうへと視線を向ける。

 

「なあ、小猫ちゃん」

 

「……なんですか?」

 

「一度黒歌と話さないか?」

 

「……っ!?」

 

「な、イッセーあなた話を聞いてたの?」

 

「聞いてましたよ。でも、俺は黒歌がむやみやたらに力を振るうやつじゃないと信じてます。黒歌は絶対部長が……小猫ちゃんが思ってるような奴じゃない」

 

俺の言葉で部長も何も言えなくなったようだ。何しろ部長自身、たった今助けてもらったばかりなんだしな。

俺の言葉に思うところもあるんだろう。

 

「……少し、考える時間をください」

 

「おう。まあ、コカビエルの件もある。速く学校に向かわないといけないし最悪ここで答えは出さなくていいよ」

 

二人の件についても心配だがコカビエルだって忘れてはいけない……というか最優先はこちらだ。

このままでは学園、しいてが街が未曽有の被害を被ってしまう。

しかも今、学園にはソーナ会長もいたはず。急がないと危ないかもしれない。

 

「そうだすっかり忘れてた!今学園には会長がいるんだ!早く助けに行かねえと……」

 

「いえ、ココはうちら三人で行くっす」

 

ミッテルトの発言にみんなが驚く。とはいえ俺もミッテルトの意見に賛成だ。

聖剣を破壊させてやるために個人的には木場も行かせたいがもうそういう次元の話じゃない。

 

「どういうこと?」

 

「正直、コカビエルだけだったら皆の同行もまだ許可できた。でも、あのメロウとかいう女。あれは危険です。みんなも奴の力を肌で感じたはずですよ」

 

そう言うと皆メロウの覇気を思い出したのか顔を青ざめ身震いさせる。

メロウはカグチとほぼ同等の覇気を醸し出していた。

402万という数値の上で言えばこの場の誰よりも高い数値に加え、神話級(ゴッズ)の武器まで携えている。

しかも明らかな究極能力(アルティメットスキル)持ちときた。そんな化け物と戦う可能性がある以上、部長達では危険すぎる。

たぶん、真正面からアレに対抗できるのは俺と黒歌の二人だけ。ミッテルトも足手まといにはならないだろう。

 

「と、いうことで部長たちは待機してもらいます」

 

「……イッセーの考えはよくわかったわ。でも、私にだってこの街を管理してる誇りがあるの。引き下がってばかりじゃいられないわ」

 

まあ確かに、部長はこの街を管理する責任者なわけだしこれは正論ではある。

 

「ボクも行くよ。聖剣があちらの手にある以上それを破壊するのが僕の役目だ」

 

「私も任務を放棄するわけにはいかん。もとより死は覚悟しているわけだしな」

 

「お、おう。会長が危ないっていうのに黙ってられるか!」

 

「私も、リアスの眷属として覚悟はできてますわ」

 

これはさすがに驚いたな。あれだけ死を間近に感じたというのにまだ折れないとは。

まだ少し混乱状態にある小猫ちゃんとアーシア以外が全員ついていくつもりなようだ。どうしよう。これだと説得も難しそうだな。

 

「お願いイッセー。足手まといになるだけかもしれないけど、何もしないよりかはマシよ!」

 

部長は一歩前に出て頭を下げてまで頼み込んできた。

一応仮とはいえ上司にこんなことされちゃあさすがに断れないか……。

 

「……わかりました。でも、危険と思ったらすぐに逃げてくださいよ」

 

「ええ、ありがとう」

 

ひとまず大怪我を負ったイリナはアーシアに任せて俺たちは駒王学園に向かうことにした。黙ってはいるがどうやら小猫ちゃんもついてくるようだ。

でも、その前に……。

 

「さて、黒歌。お前、あのメロウとやらの情報何か持ってるんだろ?」

 

「え?あ、うん」

 

やっぱりか。どうもあいつルミナスさんの知り合いっぽいし黒歌もおそらくルミナスさんから何かしらの情報を得ているのだろう。走りながらこの場にいる全員が黒歌のほうへと視線を向ける。

 

「私はもともと、今の主であるルミナス様の命令で駒王町の調査に来たんだにゃ」

 

「まあ、そうだろうな。ぶっちゃけお前が動く理由なんてそれくらいしかないだろうし。でも、どうしてルミナスさんはこちらの調査なんかを?」

 

「……話は少し前にさかのぼるんだけど、実はルミナス様。一度日本に遊びに来てるんだにゃん。私とヒナタの生まれた国を見たいって言ってね……」

 

「「え?」」

 

まじかいつの間に!?いや、心当たりはある。

少し前ってことはひょっとして俺たちが報告に魔国に行った時か?

そういえばあの時、ルミナスさんがリムルに頼み事しに来たって言っていたな。ついぞ姿を見なかったけどもしかして行き違いになっていたとか?

 

「その時、ルミナス様はこの街で妙な視線と気配を感じたらしいんだにゃ。そして何より、ルミナス様はその気配に覚えがあったそうだニャ」

 

妙な気配か。俺は一度もそんな気配感じたことねえけどタイミングからしてルミナスさんを狙っていたってことか?

 

「それで、その調査のためにこの国出身である私に白羽の矢が立ったわけにゃ。ヒナタは忙しくて長期の調査は難しかったというのもあるしね」

 

なるほど。確かに聖騎士長であるヒナタさんはこの時期になると新兵の訓練なんかで忙しくなるもんな。魔物から人々を守るという通常業務もあるし、確かにこちら側の世界の調査なんかはあまり向かないのだろう。

 

「……で、あいつの正体結局何なんだ?」

 

俺の言葉に黒歌はとんでもない爆弾を落としてきた。それと同時に奴らの強さにも納得もしたのだ。

 

「奴らの正体は……」

 

 

 

 

*********

 

リムルside

 

 

 

今日は魔国連邦と帝国の両学園の合同演習の確認をするため、マサユキを招いて軽い会議をしようと考えていた。

まあ、会議といっても建前で、日頃の大変さを愚痴るだけなんだけど……。

その愚痴る会の直前にルミナスがやってきたのである。

ヒナタを連れて来たルミナスは俺とラミリス、ディーノにも用があるといい、ついでということでマサユキ……って言うよりはヴェルグリンドにも来て貰っている。

そして、ある程度ルミナスの話が終わると皆が真剣な表情となっている。

 

「……で、本当なのルミナス?あいつが生きてるかもって……」

 

「まだ確定したわけではないが、十中八九間違いないと思っておる。あの時の気配は間違いなくあの外道のものじゃった……」

 

「でもさ、それってお前の失態じゃね?あいつを殺したのお前なんだからさ……。俺たち関係ねえじゃん」

 

そう言いながらディーノは紅茶とお菓子を頬張る。

自分には関係ありませんという体を装い面倒事から逃げるつもりのようだ。

それに気付いてはいるが事実だからこそルミナスは悔しそうにディーノを睨む。

 

「フンわかっておるわ!じゃが、奴が生きているとなれば、お主たちにとっても脅威となるであろう……」

 

「まあ、そうかもな……」

 

話に聞く限りでは相当厄介な奴らしい。

かつてルミナスは不意打ちに近い形で霊子崩壊(ディスインテグレーション)を叩き込むことで倒したそうだが真っ正面からの戦闘だと勝てなかっただろうという。

 

「そうね……。奴は当時私たち竜種と比べても遜色のない力を秘めていたわ。今の私ならともかく、かつての私じゃ勝てなかった可能性もあるわね……」

 

なんとビックリ。以前のヴェルグリンドでは勝てないかもしれないという発言は予想外だ。今はわからないらしいがそれでも苦戦するだろうというのがヴェルグリンドの正直な感想らしい。

できればルミナスの勘違いであることを祈りたいな……。

ちなみにマサユキは見事なまでに他人事だ。ヴェルグリンドが勝てない発言には驚いていたが、基本的には関係ないといわんばかりにボケッとしている。

まあ、気持ちはわかるし俺もできればそうしたいな……。

 

「それに、イッセーとミッテルトが故郷の町で歌を操る謎の女にあったと聞いておるぞ」

 

「?ひょっとして何か知ってるのか?」

 

「うむ。歌を操る究極保有者……。妾には心当たりがあるのじゃ……」

 

心当たりだって!?

一体どういうことなんだ!?

 

『マスター、天魔大戦でのシルビアの話を覚えていますか?』

 

え?

シエルの言葉に俺は以前のシルビアさんの話を思い出そうとする。

確か、シルビアさんの話によると目の前にいるルミナスが高弟第2位でシルビアさんが第3位……。

……っ!?

もしも、その女とやらがルミナスやシルビアさんと同じでそいつの高弟だったとすれば……。

その仮定を肯定するかのように、ルミナスは告げる。

 

「其奴の名はメロウ……。かつて神祖の高弟第6位だった水精人(セイレーン)の女じゃ……」

 

「あ、そいつ覚えてるのだわさ!確か、神祖に心酔していた狂信者でしょ?」

 

「あ~いたな~。正直苦手だったわあいつ」

 

ラミリスとディーノ曰く、メロウは音楽を操るスキルを使い、人の心を操り神祖の操り人を増やしていたのだという。

なによりも神祖に心酔していたというメロウはルミナス曰く、ルミナスが神祖を殺した辺りから姿を消したのだという。

それだけではない、神祖が死んでほぼ同時期に他にも数人いた高弟たちも一斉に姿を消し始めたのだという。

それが何故か地球、向こうの世界に現れたと……。

 

「……道理で今まで姿を完全に消してたわけじゃ、何しろ奴らはこの基軸世界から抜け出しておったんじゃからな」

 

ルミナスの言ってることが正しいとすると、不味いかもしれない……。

もしかしたら……。

 

『恐らくその考えは正しいかと』

 

シエルの言葉に憂鬱な気分になる。だってそれはつまり……。

 

「恐らく、奴らも……。神祖“トワイライト・バレンタイン”もお主と同じで異世界間の渡航する方法をもっているやもしれぬぞ」

 

どうやらまた、厄介な面倒ごとが起こりそうだな……。

 



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決戦、駒王学園!!

三人称side

 

 

 

メロウは思い出す。

神祖“トワイライト・バレンタイン”の実験の過程で産み落とされた彼女は、神祖のことを強く信奉していた。

ゆえにその一人娘であり、神祖の寵愛を一身に受けていたルミナスをひどく嫌っていたのだ。

特に気に食わなかったのがルミナスの態度である。

何しろルミナスは自らの信奉する神祖の寵愛を受けながら、神祖の成すことに嫌悪を抱いていたのだ。それを彼女は許せなかった。

 

『私のほうがルミナスよりも、あのお方の寵愛を受けるにふさわしいのだ』

 

事実メロウは神祖の実験にどの高弟よりも積極的に携わった。

その過程で彼女はユニークスキル“歌境者(ウタウモノ)”を究極能力(アルティメットスキル)麗歌之王(セイレーン)”に進化させた。

彼女こそ神祖の高弟の中で最も速く究極能力を手に入れたものなのだ。

しかし究極の力を手に入れてなお、神祖が寵愛するのは娘であるルミナス・バレンタイン。

しかしこの時点ではメロウはルミナスのことを嫌悪はしても憎んではいなかった。

彼女がルミナスを恨むようになったのは、ルミナスが神祖を弑した時である。

ルミナスは非道な実験を繰り返し、何度も人類や吸血鬼を滅亡寸前まで追い込んだ神祖に対し、とうとう我慢の限界を迎え、開発したばかりの神聖系最強魔法“霊子崩壊(ディスインテグレーション)”を叩きこむことで、はるか格上である神祖を倒したのだ。

メロウにとってそれは許しがたい大罪である。

しかし、神祖の肉体が滅んだ直後、彼女は神祖とともにこちらの世界へと旅立つこととなる。それは当時究極の力を持たなかったルミナスにとっては幸運だったといえよう。

しかし、それから数千年の年月が過ぎようと、彼女の中の怒りがなくなるわけではない。

ゆえにメロウは決めたのだ。部下も国も、ルミナスが大切にしているものをすべて壊し、絶望させてルミナスを殺そうと。今日はその第一歩である。

 

 

 

 

*********

 

イッセーside

 

 

「部長、魔王様……サーゼクスさんはここへ来るんですか?」

 

「……いいえ、今回はお兄様を呼ぶつもりは……」

 

「私がすでに打診しましたわ」

 

「っ朱乃!」

 

非難の声を上げるが今回は朱乃さんが正しい。今回は俺たちがいるからいいが、これは普通に考えて、部長個人でどうこうできるレベルを遥かに超えているのだから。それを察したのか、部長も歯ぎしりしながら黙り込む。

あまり迷惑をかけたくないのだろう。ただでさえ、前回のフェニックス騒動で迷惑かけたわけだし……。

 

「う~ん、果たして私は大丈夫なのかにゃ……」

 

はぐれ悪魔である黒歌は、自分という存在について懸念しているようだ。まあ、こちらの世界では犯罪者だしな。

 

「まあ、できる限り早めに終わらせよう。そのあとはまあ、俺ん家で隠れてれば……」

 

「ありがとにゃん。イッセー」

 

そういって黒歌は俺の手に抱き着いてきた。豊満なおっぱいが当たってとても柔らかいです。

 

「黒歌っち!何してるんすか!?」

 

シャーと黒歌に威嚇するミッテルト。魔国の日常をまさかこちらの世界でやることになるとは……。

そうこうしているうちに駒王学園へと到着した。いつもの学園とはまるで違う、濃密な魔の気配が漂っている。思わず身震いしてしまいそうだ。

まあ、相手がルミナスさんと同格だった存在と聞けば、すんなり納得できるけど……。

 

「……黒歌。頼む」

 

「了解にゃん」

 

そう言いながら黒歌は、駒王学園の周りに強力な結界を張った。

万能結界の権能で作られた“多重複合結界”だ。相手の力量があまりにもかけ離れていると破られることも多々あるのだが、それでもその強度は並みではない。事実、無類の防御力を誇るゲルドさんの結界と比べても遜色ないのだ。

これならどれだけ派手にやっても外に影響が出ることはないだろう。

 

「な、なんてすごい結界なの?」

 

「黒歌っちは結界術が特に優れてるんすよ。いつ見てもすごいっすよね……」

 

部長は結界のあまりの強度に驚き、ミッテルトは何やら羨望のこもった目で黒歌の結界を眺める。

どうしたんだ?

正門から堂々と進むと何やら人影が……ってあれは!?

 

「ソーナ!よかった無事だったのね!」

 

「か、会長────!!ご無事でしたか────!!」

 

そこにいたのは生徒会長であるソーナ・シトリーさんだ。

会長は自らに駆け寄ろうとする匙を笑顔で迎え…………

 

「駄目だ匙!!近づくな!!」

 

「え?」

 

匙めがけて殺意のこもった水流を打ち込んできた。

 

「くっ!」

 

あまりに突然のことで呆然とする匙をかばい、水流を打ち消す。

だが、この威力は今のシトリー会長ではとてもひねり出すことのできない威力だ。もしも匙がこれを食らっていたら、間違いなく致命傷になっていただろう。

 

「ほう、()()()()()がやりますね」

 

シトリー会長は背後に幾重もの水流を作り出し、いつでも打ち込めるようにしている。

それにしてもこの言い回し、普段の会長ならば絶対言わない言い方だ。

 

「な、なんの冗談ですか会長?どうしちゃったんですか?」

 

「匙、会長はおそらく操られている。あの女は他者の心を操る能力を持っているんだ」

 

レイナーレの件からも予想はしていたが、おそらくメロウの究極能力(アルティメットスキル)は精神干渉型なのだろう。

同じ究極能力(アルティメットスキル)を持ってなければ抵抗(レジスト)は困難だろう。

 

「ごめんなさいリアス。でもあの人たちの仕事を邪魔されるわけにはいかないのです」

 

洗脳された影響からか、会長の魔素量が大幅に上昇している。

前はEP1万程度だったのに、今ではライザーと同等のEP7万Aランクオーバーだ。

本来ならばもっと底上げすることもできるんだろうが、恐らくは俺たちとの戦いの前に、できる限り消費を抑えたかったのかもしれない。たとえいくら強化したところで、究極持ちには通用しないと判断しているのだろう。

 

「イッセー、あなたたちは先に行きなさい」

 

「部長?」

 

「ソーナは私の親友なの。親友が操られているのを黙ってみてるなんてできないわ」

 

「そ、そんな。ま、待ってください。会長と戦うなんて……。」

 

会長が敵に回ったということを信じたくないのか、匙は躊躇する。

そう言えば匙は会長のことが好きなんだったな。確かに惚れた女と戦いたくないという気持ちも理解できる。

でも……

 

「匙、覚悟を決めろ。ほれ……主が操られてるのを見てただ黙ってるだけなのか?誰かがやらないと、会長は一生操り人形だ。会長を倒すんじゃない。助けるんだよ!」

 

俺も同じだ。あの時俺はミッテルトを助けるためにミッテルトと戦った。

本当に惚れてるんなら根性見せろよ。

 

「兵藤……。わかった。会長が操られたままなんて絶対嫌だ!俺が貴女を助けます!会長!!」

 

部長と匙は操られた会長と戦うつもりのようだ。部長は滅びの魔力を宿し、匙もデフォルメされた竜の頭のような籠手が装着されている。あれが匙の神器(セイクリッドギア)か。

 

『あれは“黒い龍脈(アプソープション・ライン)”。五大竜王ヴリトラの力を宿した神器の一つだ』

 

五大竜王。ティアマットさんと同じか。

なるほどずいぶん強力そうな代物だな。

 

「よし、ココは任せたぜ」

 

俺たちは部長と匙に会長を任せてその場を後にする。

操られてるとはいえある程度自由意志は残してるようだし、親交の深かった二人と戦えば自我を取り戻すかもしれない。実際、レオンさんもミカエルに操られながらも自我を取り戻そうと努力した結果、体の自由はともかく自我は取り戻せたっていうし……。メチャクチャ低い可能性だが、今はそれに賭けるしかないか。

 

「……見たことない魔法陣だな」

 

校庭にたどり着くとそこには異様な光景が広がっていた。校庭の中心には四本の聖剣。それが宙に浮いており、校庭には怪しげな巨大魔方陣が全体に広がっている。

魔法陣の中央にはバルパーの姿がおり、何やら怪しげな儀式をしているようだった。

 

「……で、この魔法陣はいったい何なんすか?」

 

「この魔法陣は、四本のエクスカリバーを再び一つにするための魔法陣よ」

 

その疑問に答えたのはメロウだった。

正直言って、エクスカリバー云々はこいつに必要ないだろうと思うんだが……。何を企んでいるんだ?

 

「さて、まずは様子見だ。地獄から連れてきたペットと遊んでもらおうか」

 

コカビエルが指を鳴らす。

すると、魔法陣がいくつも展開され、十メートルはあるであろう三つ首の犬が出てきた。

数は十体は超えている。

 

「ギャオオオオオオオオォォォォォォンッッ!」

 

三つ首から発せられた咆哮が周囲を震わせる。マンガやゲームでおなじみのケルベロスか。初めて見たぜ。

 

「本来は冥界に続く門の周辺に生息している生物ですわ。それを人間界に連れてくるなんて……」

 

朱乃さんは思わず冷や汗をかきながらそう答える。一体一体が災害級(ハザード)級。それが十体以上ともなれば無理もないか。

だが、所詮は知恵なき獣だ。恐れる必要はない。

 

「朱乃さん、小猫ちゃん、木場、ゼノヴィア。みんなそれぞれ一体ずつ相手してくれ……皆なら一対一なら勝てると思う」

 

「イッセー君たちは!?」

 

「それ以外をやります」

 

言い終わると同時にケルベロスたちは一気に襲い掛かってきた。時間は描けられねえし、一気に行くか。

 

「行くぞドライグ」

 

『boost!』

 

俺は拳に魔力を込め、ケルベロスにその魔力をぶつける。

 

「ヴェルドラ流闘殺法“暴風竜爆砕拳(ドラゴニックブレイカー)!」

 

インパクトの瞬間、解放された力が一条の光となって数匹のケルベロスを一撃で粉砕した。

それを見たみんなが驚いたような顔をしている。まあ、相手は地獄の番犬ともいわれる魔獣だし、仕方ないけどさ……。

 

「みんな、とりあえずまだ来るから集中して!」

 

俺の言葉にハッとなって、皆各々のケルベロスと向かい合う。

 

「“朧・流水斬”!」

 

ミッテルトは一閃でケルベロスの三つの首を同時にはねる。首をなくしたケルベロスは力なく倒れ伏せた。

 

「ランガさんと比べるのもおこがましいにゃ。“仙樹砕牙”!」

 

黒歌は植物に仙術を使うことで幾千もの巨大な樹木の牙を作り出し、ケルベロスをすりおろしてしまう。仙術は気を流し、自然と一体となることで生命の流れを操作する技だ。それを使えばこれくらいの芸当は簡単だろう。

しかし黒歌よ。ランガさんと比べるのはさすがに酷過ぎるだろうて……。

 

「ほう、すさまじいな……」

 

見るとコカビエルの奴が目を輝かせている。

どうやら生粋の戦闘狂みたいだな。

 

「くっ……」

 

小猫ちゃんはケルベロス相手に苦戦しているようだ。いつもより精細さが欠けている。

やはり黒歌のことがどうしても気になってしまうようだな。

 

「なっ……!?」

 

小猫ちゃんにケルベロスの爪が迫り来る。流しきれなかったのだ。

このままではその爪で無惨にも切り裂かれてしまうだろう。

だがそうはならなかった。黒歌が結界でケルベロスの爪を弾いたのだ。

 

「今にゃん、白音!」

 

「っ……」

 

小猫ちゃんは複雑そうな顔をしながらもケルベロスを殴り飛ばす。その一撃には気操法により小猫ちゃんの魔力が多分に込められており、ケルベロスは苦悶の声をあげる。

 

「はあ!!」

 

いや、それだけでは終わらない。鬱屈を晴らすかのごとく怒涛の連打がケルベロスを襲う。最後の一撃でケルベロスは完全に絶命した。

 

「…………礼だけは言っておきます」

 

「……どういたしましてだにゃん」

 

小猫ちゃんはまだ複雑な顔してるけど、それでも今ので少しは歩み寄る気になってくれるといいな。まあ、そう簡単にはいかないだろうけど……。

 

「はぁ!!」

 

朱乃さんは冷静だ。ケルベロスの噛みつき攻撃を紙一重で避けながら雷の魔力を溜めている。

ケルベロスは一向に相手に攻撃が当たらないことに苛立ったのか、攻撃のギアを上げていく。

対して朱乃さんは、なんと魔力感知を用いてケルベロスの攻撃を見切ってるようだ。まだ精度は荒いが、自力でたどり着いたのなら大したものだ。

 

「フフフ、これならイッセーくんの豪速球のほうが全然早いですわ」

 

そう言いながら朱乃さんはチャージしていた雷の魔力を解き放つ。

 

「雷よ!!」

 

ピシャーンと音が鳴り響き、光がケルベロスを丸焦げにした。さすがは女王。

とはいえ相手もエネルギーで大きく朱乃さんを上回る存在だ。どうやらまだ絶命していないようだ。

だが、朱乃さん相手に一撃で絶命しなかったのはケルベロスにとっては不幸だろう。なぜなら彼女は……。

 

「あらあら。まだ立ち上がるんですの?さすがは地獄の番犬。……どこまで耐えられるか楽しみですわ」

 

彼女はドSなのだから。嗜虐的な笑みを浮かべた朱乃さんは雷を再びケルベロスに叩き込む。しかも今度は先ほどより微妙に弱い。その分、長時間の持続性が高く、ケルベロスはいまにも気を失いそうだ。

しかし、朱乃さんの雷の電流がそれを許さない。気絶と目覚めのエンドレス状態。ご愁傷さまというか、少し同情してしまう。

 

「はああああ!!」

 

木場は魔剣を携えてケルベロスに斬りかかる。

騎士のスピードで翻弄して次々と斬撃を与えていく。斬りつけられた場所が凍りつき、火傷している場所もある。多種多様様々な魔剣を使って翻弄しているのだ。

 

「“朧流・斬乱影”!」

 

木場は怒涛の連続義理でケルベロスを叩き切る。今のは間違いなく朧流の剣技だ。木場の奴、いつのまにモノにしてたのか……。ほんと、冷静な時は頼りになる男だぜ。

 

「それが君本来の力というわけか。負けてられんな!」

 

ゼノヴィアは木場同様にケルベロスに斬りかかる。

聖剣からなる破壊力抜群の一撃がケルベロスの腹を割る。

傷口からは煙が立ち込め、胴体が大きく消失していく。

 

「聖剣の一撃は魔物に無類のダメージを与える!」

 

なるほど。どうやら聖剣は魔に属するものに大ダメージを与えるとは聞いていたけど、ここまでか。

ゼノヴィアの破壊力抜群の斬撃がケルベロスに直撃する。トドメの一撃を受けたケルベロスは体が塵と化して消滅した。効果は抜群だな。

 

「──完成だ」

 

瞬間、聞こえて来たのはバルパーの嬉々とした声。バルパーのほうを見ると、聖剣が淡く発行しだした。次の瞬間、神々しい光が校庭を覆う。

あまりの眩しさに俺を含めた全員が顔を手で覆った。まあ、魔力感知で回りの状況は判断できるけどな。

わかる。四本のエクスカリバーが一本に統合される様が。

やがて光は徐々に勢いを失っていく。

そして、陣の中心に青白いオーラを放つ聖剣が現れた。

 

「エクスカリバー…………ッ!」

 

木場が憎々しく呟く。

エクスカリバーが統合されたことで笑みを浮かべるバルパー。

 

「エクスカリバーが一本になった光で下の術式も完成した。あと20分程度でこの町は崩壊するだろう。仕込んだ魔法陣を解除するにはコカビエルを倒すしかないぞ」

 

「「「!?」」」

 

バルパーの言葉にこの場にいる全員が驚いた。

急いで魔法陣を解析すると、確かにとんでもない規模の大爆発をする術式が仕込んである。

このままでは町が崩壊するというのも嘘ではなさそうだ。幸運なのはあくまでコカビエルだけで、メロウは含まれていないということか。急がねえとな。

 

「フリード。邪魔が入らないように、その聖剣で悪魔とエクソシストを始末しろ」

 

「ヘイヘイ。全く、俺のボスは人使いが荒くてさぁ。でもでも、素敵に改悪されちゃったエクスカリバーちゃんを使えるなんて、感謝感激の極み、みたいな? ウヘヘ! さーて、悪魔ちゃんでもチョッパーしますかね!」

 

そう言ってフリードは誕生した新たなるエクスカリバーを携え刃を向ける。

それだけじゃない。どうやらケルベロスはまだ控えがいたようだな……。魔法陣からさらに数匹のケルベロスが現れた。

 

「リアス・グレモリーの騎士。共同戦線はまだ生きているか?」

 

「……もちろんさ」

 

「なら、あのエクスカリバーを破壊しよう。私はあくまで核を回収できればそれでいい。何より、あれはもはや聖剣ではない。問題はあるまいよ」

 

そして二人は魔剣と聖剣をフリードに向ける。

その目からは闘志がみなぎっている。

 

「ならば、残りのケルベロスは私たちがやりますわ」

 

「もうへまはしません」

 

朱乃さんと小猫ちゃんもやる気満々だ。特に小猫ちゃんはさっきので少し吹っ切れたようだ。今なら冷静に戦えるだろう。

 

「イッセー、あの堕天使はうちがやるっす。イッセーたちはあの女を……」

 

そう言うとミッテルトは相棒とも呼べる“堕天刀(フォールン)”を異空間より呼び出した。それだけでなく、魔法換装(ドレスチェンジ)を発動させる。纏うのは制服ではなく伝説級(レジェンド)のゴスロリ衣装だ。

これがミッテルトの戦闘形態。完全なる臨戦態勢だ。

 

「ほう、12枚……堕天使の翼はそのままその者の力量を表すが……元々下級の出の分際でここまで練り上げるとはな……」

 

「うちは師に……仲間に恵まれたっすからね。その恩恵ってことで……行くっすよ!!」

 

コカビエルの光の槍とミッテルトの堕天刀(フォールン)が激突する。ミッテルトが負けるとも思わないが、あの男、何か企んでるな……。油断はしない方がいいな。

 

「さてと、じゃあ……始めるか!」

 

俺と黒歌はメロウと向かい合う。

改めて凄まじい圧力だ。守護王の皆を相手にしてるかのような威圧感を感じる。

 

「兵藤一誠、そして黒歌!貴様たちに死の鎮魂歌を奏でてやろう」

 

「やってみろよ……。行くぞドライグ!」

 

『おう!』

 

禁手化(バランスブレイク)!!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

籠手の宝玉が赤い閃光を解き放つ。

赤いオーラが激しさを増し、俺の身体を包み込む。

そして、俺は赤い龍を模した全身鎧を身に纏った。

 

「それが貴様の……」

 

禁手(バランス・ブレイカー)、“赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)。覚悟しろよ。散々やってくれたツケはきっちり払ってもらう!」

 

「やれるものならやってみろ!!」

 

そして俺たちの死闘が幕を開けた。本当の戦いはここからだ。



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聖剣と決着します

リアスside

 

 

 

「はあ!」

 

「その程度ですか?リアス」

 

私はソーナめがけて滅びの魔力を放つ。それをソーナは水を用いて相殺する。

滅びの魔力を相殺するだなんて……相当の魔力が込められている証拠だわ。

すかさずソーナは水の形状を変え、様々な獣の形へと変化させていく。

 

「行きますよ」

 

水で作られた獅子の牙が、狼の爪が、鷹の翼が一斉に襲い掛かってくる。込められている魔力も今の私より上……おそらく一撃でも当たればかなりの手傷を負ってしまうでしょう。

でも……。

 

「いくらなんでも単調すぎるわよ!」

 

私は滅びの魔力を散弾銃のように放つことで水の獣を相殺した。

ソーナは本来、とてつもないほどの戦略を組み立てて戦う。相手の何手も先を読み、詰将棋のように相手を追い詰めていく。

でも、今のソーナは水の魔力をただ放つだけ。そこには戦略も知略も感じられない。多分、操られている影響なのね。

 

「注意が散漫になりすぎよソーナ」

 

「え?」

 

瞬間、ソーナの作った水の獣の形が崩れ落ちた。ソーナが慌てて左手を見ると、そこには黒い触手が巻き付いてあった。

私とソーナの戦いの隙に、ソーナの兵士(ポーン)である匙元士郎の神器“黒い龍脈(アブソーション・ライン)”がソーナの魔力を奪い取っていたのね。

 

「……匙」

 

「ごめんなさい会長。でも、会長を助けるためなんです」

 

「わ、私を助けるため……?」

 

匙の言葉にソーナは顔をし噛ませ、頭を抱える。

もう少しの辛抱よ。ソーナ。

 

「その子の言う通り!悪いけど、これで決めるわソーナ」

 

「なっ!?」

 

私は渾身の力を込めた魔力弾をソーナめがけて放つ。“黒い龍脈(アブソーション・ライン)”により、魔力を吸われたソーナにあらがうことはできず、そのままソーナに直撃した。

 

「きゃあ!?」

 

滅びの魔力を込めなかったとはいえ、その威力によりすさまじい爆発が巻き起こる。

煙がはれるとそこには気を失い、倒れ伏すソーナがいた。

 

「か、会長────!!」

 

匙はすぐにソーナのもとへ駆け込み、私もそれに続く。

どうやら気を失ってるだけみたいね。

 

「あの時の堕天使と同じなら、これで元に戻るでしょう……」

 

「よ、よかった……」

 

そう言いながら匙は膝から崩れ落ちる。ソーナと戦うという行為に対して相当無理をしていたのね。

ここまで主のことを思うなんていい眷属ね。

 

「……匙君。ソーナのこと、任せてもいいかしら?」

 

「え?……は、はい!」

 

「そう、ありがとう」

 

この子ならばソーナのことを任せられる。そう思った私は匙君にソーナを任せて先を急ぐことにした。

 

(みんな。どうか無事で……)

 

可愛い眷属や友人の無事を祈りながら私は歩みを進めた。

 

 

 

 

 

*********

 

木場side

 

 

 

僕とゼノヴィアはいまだかつてない苦戦を強いられていた。

 

「ひゃひゃひゃ!その程度ですかい悪魔の騎士さん。あ~俺っちが強すぎただけか!ごめんなさいね~お詫びにとっとと殺してやるよおおお!!」

 

天閃の聖剣の能力でフリードはすさまじいスピードを発揮している。もしも瞬動法を習得していなかったら今頃バラバラに切り裂かれていただろう。

スピードはほぼ互角、でも残り三つの能力も総じて厄介だ。

 

「はああ!!」

 

ゼノヴィアも隙を見て後ろから切り込もうとするがなんとフリードがすり抜けた。これは……幻影を見せる夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)か。

僕たちはいったん距離をとり、何とか体勢を整える。それをバルパーが面白そうに笑いながら見つめていた。

 

「ククク、聖剣計画の被験者の一人が脱走したとは聞いていたが、卑しくも悪魔になっていたとは。それもこんな極東の国で会うとは数奇なものだ」

 

バルパーは小ばかにしたかのように僕に話しかける。それを聞きながら僕は怒りでまた我を失いそうになった。

 

「だが、君達には礼を言う。おかげで計画は完成したのだから」

 

「……完成?僕たちを失敗作と断じて処分したじゃないか!!」

 

何を言っているんだこいつは……。するとバルパーはさらに言葉をつづけた。

 

「聖剣使いになるには必要な因子があることが研究の結果判明したんだよ。そこで私は君達の因子の適性を調べた。結果、被験者には因子こそあるもののエクスカリバーを操るほどの因子はないことがわかった。そこで、私は一つの結論に至った。被験者から因子だけを抜き出せば良い、とな」

 

その言葉に僕は思わず目を見開く。そ、それじゃあ僕たちは……。

 

「なるほど、読めたぞ。聖剣使いが祝福を受けるとき、体に入れられるのは……」

 

ゼノヴィアさんの言葉にバルパーが忌々しそうに言う。

 

「そうだ聖剣使いの少女よ。持っているものから因子を抜き取り、結晶化させるのだよ。こんなふうにな」

 

そう言いながらバルパーが懐から出したのは聖なるオーラを放つ光の球体だ。

 

「これにより、聖剣使いの研究は飛躍したのだ。それなのに教会の偽善者どもめ。研究資料を奪い、私を異端として追放しておきながら、私の研究だけは利用しよって。どうせ、あのミカエルのことだ。被験者から因子を取り出しても殺すまではしてないぶん、人道的かもしれんな」

 

殺さずに取り出すこともできる。その言葉に僕は思わず涙を流す。だって、その言葉が本当ならば……。

 

「……なら、僕らを殺す必要はなかったはずだ。どうして……!?」

 

僕は怒りのままにバルパーに叫ぶ。しかし、バルパーの目は極めて冷ややかなものだった。

 

「お前らは極秘計画の実験材料にすぎん。用済みになれば、廃棄するしかなかろう」

 

「っ!?……僕たちは主の為と信じて、ずっと耐えてきた。それを、それを……実験材料……?廃棄……?」

 

「この結晶が欲しければくれてやる。既に完成度を高めた物を量産出来る段階まできているのでな。もはやこれは、使い道のないガラクタにすぎん」

 

バルパーは因子の結晶を僕に投げつけた。こんな、こんな姿にされて……。涙が止まらない。

 

「……皆……こんな姿にされて……ごめん、ごめんよ……」

 

僕は結晶を握り締め、思わず謝罪の言葉をつぶやいた。みんな本当にごめん。

そう思ったその時だった。

温かい何かが僕の体を包み込んだ。これは……。

 

「はあ?なんなんすかあれ?バルパーの旦那~?」

 

「なんだ?あれは……?」

 

バルパーとフリードもこの光が何なのかわからないようだ。でも、僕にはわかる。

淡い光はやがて人の形のようになっていく。そこには僕と同じあの施設で、死なせてしまった皆がいた。

 

「み、みんな……」

 

魂だけの状態でこの場に現れた皆は悲しそうな、懐かしそうな表情を浮かべる。それを見て僕はまるで懺悔をするかのようにつぶやく。

 

「ごめん……ずっと、ずっと思っていたんだ。僕が、僕だけが生きていいのか?って……。僕よりも夢を持った子がいた。僕よりも生きたかった子がいた。それなのに、僕だけが平和な生活をしていいのかって……」

 

するとみんなは微笑みながら語りかけた。言葉ではない。でも、何を言ってるのかが魂で理解できる。

 

『自分達のことはいい。君だけでも生きてくれ』

 

……そうか。それがみんなの願いなのならば……。

 

皆の霊魂は歌を歌う。聖なる歌“聖歌”だ。本来ならばあくまである僕には歌えないものなのだけど、今は不思議と不快な感じが全然しない。それどころかどんどん力が沸き上がっていく。

歌が終わると同時にみんなの魂が青白い輝きを放って眩しくなっていく。

そして、みんなの光が僕の体を包み込んだ。

 

『大丈夫』

 

『僕らは、独りだけでは駄目だった──』

 

『私たちでは聖剣を扱える因子は足りなかった──』

 

『けれど、皆が集まれば、きっと大丈夫だよ──―』

 

『聖剣を受け入れよう──』

 

『怖くないよ──』

 

『たとえ、神がいなくとも──』

 

『神が見ていなくたって──』

 

『僕たちの心はいつだって──』

 

 

 

 

 

「『ひとつだ』」

 

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

暖かい。

とても暖かい。

みんなの気持ちが僕に入ってくる。

ここにきてようやく分かった。

同志たちは僕に復讐なんて望んでいなかった。

 

 

 

ただ、僕に生きて────

 

 

 

──悪魔として生きる。それがある時の願いであり、僕の願いだった。それでいいと思った。けど、皆のためにも、エクスカリバーへの憎悪を忘れちゃだめだと思ったんだ。

でも違った。彼らは復讐なんて望んでいなかった。僕の幸せを願ってくれていたんだ。

 

「だけど、これで終わるわけにはいかない」

 

そう。これで終わらせてはいけないんだ。

目の前の邪悪を打倒さないとあの悲劇が再び繰り返される。

 

「バルパー・ガリレイ。あなたを滅ぼさない限り、第二、第三の僕たちが生まれてしまう。それは絶対に阻止しなくてはならない」

 

「素直に廃棄されておけばいいものを。愚か者が。研究に犠牲はつきものだ。それすらわからんのか?」

 

バルパーは嘲笑う。やはり、あなたは邪悪すぎる。

 

「木場ぁー!今のお前なら、自分が何をするべきかわかるはずだ!!あいつらの想いと魂を無駄にすんな!!」

 

イッセー君は戦いながらもそう叫ぶ。

それだけじゃない。小猫ちゃんも、朱乃さんも、この場にはいない部長も……。みんなが僕を信じてくれている。

 

「あぁ~。なに感動シーン作っちゃってんすかぁ。幽霊ちゃんたちと一緒に俺的に大嫌いな歌を堂々と歌っちゃってさ、聞くだけで玉のお肌がガサついちゃう!もういや、もう限界!とっととキミ達、刻み込んで気分爽快になりましょうかねェ!!この四本統合させた無敵のエクスカリバーちゃんで!」

 

フリード・セルゼン。その身に宿る同志の魂。これ以上悪用させるわけにはいかない!この涙は決意の涙だ!

 

「──僕は剣になる。僕と融合した同志たちよ、一緒に超えよう。あの時果たせなかった想いを、願いを今こそ!」

 

剣を天に掲げて僕は叫ぶ。

 

「部長、そして仲間たちの剣となる!今こそ僕の思いにこたえてくれ!魔剣創造(ソード・バース)ッッ!!」

 

僕の神器とみんなの魂が混ざり合う。同調し、形を成していく。聖なる力と魔なる力。相容れない二つの力が融合していく。

皆の魂が教えてくれる。これは昇華だと。

そして、僕の手元に現れたのは神々しい輝きと禍々しいオーラを放つ一本の剣。

これが僕の禁手(バランスブレイカー)

 

「“双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)”。聖と魔を有する剣の力、その身で受け止めるといい」

 

僕が創り出した剣を見てバルパーが驚愕の声を上げる。

 

「聖魔剣だと!?ありえない!相反する要素が混ざり合うなど、そんなことあるはずがないのだ!」

 

僕は狼狽えるバルパーを無視して、歩を進める。

すると、ゼノヴィアさんが僕の隣に現れた。

 

「聖魔剣か。すさまじいものだな。私も負けてられないな」

 

ゼノヴィアは聖剣を地面に突き刺すと何やら言霊を発し始める。何をする気だ。瞬間、彼女を中心に次元小間が現れ、そこからエクスカリバー以上の聖なる波動が流れ出した。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 

そこにあったのは一本の聖剣。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。──デュランダル!!」

 

デュランダルだって!?

エクスカリバーに並ぶほどの聖剣だ。

その刃は触れるもの全てを切り裂き、切れ味だけなら聖剣の中でも最強と聞いている

 

「デュランダルだとお!?馬鹿な!私の研究ではデュランダルを使える領域まで達していなかったはずだ!」

 

「それはそうだろう。私はそこのフリード・セルゼンやイリナと違って、数少ない天然物だ」

 

「完全な適性者、真の聖剣使いだと言うのか!」

 

そうか、彼女は本当に聖剣に祝福されて生まれてきた者だったのか。

 

「デュランダルは触れたものは何でも斬り刻む暴君でね。私の言うこともろくに聞かない。だから、異空間に閉じ込めておかないと危険極まりないのさ。使い手の私にすら手に余る剣だ。さあ、エクスカリバーとデュランダル。どちらが上か試してみようじゃないか」

 

デュランダルの刀身がフリードの持つエクスカリバー以上のオーラを放ち始めた。

これがデュランダルか!僕の聖魔剣と同等……いや、それ以上のオーラだ。

 

「ここにきてのそんなチョー展開! そんな設定いらねぇんだよ! クソビッチがァ!!」

 

フリードが叫び、殺気をゼノヴィアに向けた。そして、枝分かれした透明の剣を彼女に放つ。

しかし、ゼノヴィアは剣を構えるだけで慌てない。

瞬間、ガキイイイインと金属音が響いた。

たった一度の横凪ぎで枝分かれしたエクスカリバーを砕いたのだ。

 

「所詮は折れた聖剣か。このデュランダルの相手にはならない!」

 

ゼノヴィアがフリードに斬りかかる。

 

「クソッタレがぁ!!!」

 

すると、フリードは高速の動きでそれをかわした。

恐らく天閃の聖剣の能力だろう。

でもなんだろう……。すごく遅く感じる。

僕は瞬時にフリードの背後にまわる。

驚いたフリードはエクスカリバーで僕を切り殺そうとする。

しかし、もはやその剣は僕の聖魔剣の敵ではなくなっていた。僕はフリードの剣を容易く受け止めた。

 

「はあ!?」

 

「そんな剣で僕達の想いは壊せやしない!!」

 

「ふざけてんじゃねえぞ!このクソ悪魔ごときがぁ!!!」

 

フリードは聖剣の持つ力のすべてを駆使して僕に攻撃してくる。でも、魔力の流れが、周りの動きが、目で追わなくてもすべてわかる。

夢幻の力の分身も、透明の力の透過も、手に取るようにすべてがはっきりとわかるんだ。

 

(ひょっとして、これがイッセー君の言ってた魔力感知なのか?)

 

僕はすべての攻撃をかわしながら気操法で僕自身の魔力を聖魔剣に込める。すると聖魔剣自体の魔力もそれに呼応して強くなっていく。

 

「ふ、ふざけるな!たかがくそ悪魔ごときがああああああああ!!!」

 

僕は聖魔剣を鞘に納め、瞬動法と同時に解き放つ。

 

「“瞬裂斬”!」

 

ミッテルトさんから教わった朧流の居合により、儚い金属音と共に異形の聖剣、エクスカリバーは砕け散った。

フリードは倒れ込み、肩口から裂けた傷から鮮血を滴らせる。

 

「見ていてくれたかい? 僕らの力はエクスカリバーを超えたよ」

 

僕は天を仰ぎ、聖魔剣を強く握りしめた。



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堕天使対決です

文才ほしい……


ミッテルトside

 

 

 

あれが木場っちの禁手(バランスブレイカー)っすか。

見た感じ特質級(ユニーク)最上位。剣の等級で言えば四本そろったエクスカリバーもほぼ同じだったけど、木場っちはさらに気闘法を上乗せして強化した。魔力感知も使えるようになったみたいだし、さすがっすね。

 

「何と言うことだ!聖と魔の融合など理論上不可能なはず!」

 

え?理論上不可能?いや、割と似たようなことできる人たくさんいるんすけど……そんなこと考えているとコカビエルが話しかけてきた。

 

「貴様らの世界ではどうか知らんが、こちらの世界では本来なら不可能なことなのだよ。まあ、貴様にとってはどうでもいいだろうがな……」

 

なるほど。それでバルパーはあそこまでうろたえてるんすか。

そんなバルパーを気にともせず、木場っちは聖魔剣をバルパーに向けた。

 

「バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらおう!」

 

そう言いながら、ゆっくりとバルパーに近づく木場。

木場っちだけじゃない。ゼノヴィアちゃんも新たなる聖剣を携えて近づいている。

それにしてもあの剣……下手したら伝説級(レジェンド)はありそうっすね。あれがゼノヴィアちゃんの自信の源ってところすかね?まあ、今のゼノヴィアちゃんでは真価を3割も引き出せないでしょうけど、それでも聖魔剣を持つ今の木場っちとだって互角に戦えそうっすね。

すると、バルパーは突如思い至った顔をしながら喋り出した。

 

「そうか、分かったぞ!聖と魔、それらを司る存在のバランスが大きく崩れているのなら説明はつく!つまり、魔王だけでなく、神も──」

 

瞬間、コカビエルが槍をバルパーに投げつける。ズドンとその槍はバルパーの胸を貫き、一撃で絶命させた。

酷いことするっすね……。悪人だし同情はしないっすけど……。

 

「なんで殺したんすか?」

 

「用済みとなったから消しただけさ。気にするな」

 

そう言ってコカビエルは攻撃の力を強める。さすがは堕天使の幹部というべきか、一発一発が意外と重い。

でも当たらなければ問題はないのだ。うちはすべての攻撃を優しく受け流す。

剣の極意は“流れ”。流れを読めばこの程度の攻撃を受け流すことくらいどうってことない。

うちは蹴りをコカビエルみぞおちに叩き込む。

 

「ぐお!?」

 

剣を使うからといって剣以外を使わないという通りはない。うちは斬り合いながら、空中に仕込んでいた魔方陣を一気に開放する。

 

「“聖なる裁き(ホーリージャッジ)”」

 

聖なる光弾が四方八方から降り注ぐ。コカビエルはそれを翼を盾にすることでガードする。

しかしそのためにコカビエルの動きが止まった。うちはそこを見逃さず攻撃を仕掛ける。

 

「“朧・紫電突”!」

 

回避不能の朧流最速の突き技。コカビエルは見えてないながらも本能で危機を察知したのか、体をひねり、回避しようとする。

しかしこの技はそんな甘い技ではないっすよ。うちはコカビエルのわき腹をその一撃で貫いた。

 

「グハッ……」

 

血反吐と臓物をばらまきながらコカビエルは校庭へ墜落する。

コカビエルは確かに強い。でも、魔素量も技量(レベル)もうちの方が上だったのだ。

こうしてあまりにもあっけなく堕天使対決の決着はついた。

 

「勝負ありっすよ……」

 

「す、すごい……」

 

「これがミッテルトちゃんの本当の力……」

 

ケルベロスとの戦いを終えた朱乃さんと小猫ちゃんの感嘆の声が聞こえる。うちはそこまでたいした存在じゃないんすけどね……。

 

「さあ覚悟しろ!コカビエル!」

 

ゼノヴィアちゃんがデュランダルとやらを突き立てて勧告する。

だが、コカビエルの目は笑っている。何かを企んでいる?

 

「ククク、まさかここまでやるとは思ってなかったぞ小娘……。だがな……」

 

そう言いながらコカビエルは何やら先程の聖剣の因子によく似た玉を懐から……っ!?

 

「!?ミッテルトさん!?」

 

不味い!何かわからないけど嫌な予感がする。

うちはコカビエルに止めを刺すべく堕天刀を掲げる。

しかし、時既に遅く、コカビエルは握りしめていた玉を破壊する。

瞬間、凄まじい衝撃がうちらを襲った。

 

「ぐっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「何が起きたんだ!?」

 

「これは……」

 

あまりの衝撃で吹き飛びそうになるのを耐える木場っちたちを尻目に、うちは上空に佇むコカビエルを見上げる。

コカビエルの傷は回復しており、心なしか、身体が一回り大きくなったようにも感じる。

だが、何より違うのは、身に纏うエネルギー。コカビエルは先程よりも大きな圧力を醸し出している。その魔素量(エネルギー)は明らかに魔王種を上回っている。

 

「貴様ならわかるだろう小娘よ。先程の玉は、バルパーを含む俺に恨みを持つものの魂で作られた結晶だ。そしてそれを解放したことにより、俺は新たなる力を手に入れたのだ!!」

 

「……やっぱりそういうことっすか」

 

つまりは覚醒したってことっすね。進化の眠りを必要としていないところを見るに、恐らくは以前リムル様に聞いた人形傀儡師(マリオネットマスター)クレイマンと同じ“疑似覚醒”といったところっすかね?

 

「ククク、力が溢れる。素晴らしい!これが覚醒した俺の力だ!俺は魔王にも勝る新たなる力を手に入れたぞ!」

 

こいつ、これが目的だったんすね……。最初から違和感は感じていた。なぜ堕天使組織の幹部であるコカビエル本人が、わざわざ教会を襲撃したのか?

部下に任せるには荷が重いと言うのもあるっすけど、どうにもこそ泥みたいな真似を、幹部自らする理由はなんなのか?

恐らくコカビエルは、エクスカリバー奪取と同時に人間の魂を集めたかったんでしょう。恐らくはメロウとやらと接触してから、覚醒を知ってから、自ら覚醒を果たすために……。

恐らくはそれ以外にも、たくさんの人間を密かに殺しているのだろう。

パルパーが持ってきたというこの話も、本人にとっては都合がよかったに違いない。

 

「な、なんてオーラだ……」

 

「今までのコカビエルの比じゃありませんわ」

 

その威圧感に木場っちたちは思わず後ずさりする。無理もない。木場っちからすればとんでもない化け物っすからね。

 

「ククク、さあ、第2ラウンドといこうか小娘よ」

 

この妖気(オーラ)……今のうちすらも越えているだろう。いくら技量でうちが勝ってるとはいえ、そこまで決定的な差というわけでもない。これで勝てるかどうかはうちもわからなくなってしまった。

…………少なくとも、今のままでは。

 

「……ククク、アーハッハハ!」

 

「……み、ミッテルトさん?」

 

木場っちが心配したようにうちを見つめる。そりゃそうだ。敵がパワーアップしたタイミングで笑いだしたら、うちだって頭おかしいと思うだろう。

でもいまは勘弁してほしいっすね。

 

「覚醒した程度でうちに勝てるつもりっすか?あいにく、うちとあんたじゃ潜った修羅場の数が違うんすよ。御託はいいからかかってくるっす。うちは全然怖くないすからね……」

 

コカビエルは笑みを引っ込め、青筋たててうちを睨み付ける。

どうやら目の前の小娘にバカにされて相当キレているようだ。

 

「小娘ごときが……図に乗るなよ!!」

 

コカビエルは、先程までとは比べ物にならないほどの巨大な光の槍を投げつける。

その槍は校舎そのものを全壊させてしまった。

 

「……ん?」

 

だが、遅い。うちはコカビエルに接近し、頬を思いきりぶん殴った。

 

「ぐは!?」

 

予想外の攻撃で反応が遅れたのだろう。コカビエルはうちの拳により体育館へと吹き飛ばされた。

コカビエルはすぐに立ち上がり、不機嫌そうに折れた歯を捨てる。

 

「ペッ、なんだ?今までは手加減でもしていたのか?」

 

「あいにくそうじゃないんすよ。うちはあんたに見栄を張っただけっすよ」

 

これがうちの持つ力。

見栄を、虚勢を張ることで身体能力を数倍まで引きあげるユニークスキル“ 見栄者(カザルモノ)”。

上がるのは身体能力っすから、ぶっちゃけ格上には効果の薄いスキルだ。

でも、コカビエルは覚醒したとはいえ精々EP70万~80万といったところだろう。

これくらいの差ならば、このスキルで十分埋めることが出きるはずだ。

 

「さあ、ここからが勝負っすよ」

 

もちろんこれはただの見栄。実際このレベルになると勝てるかどうかは本当にわからない。

それでもうちは笑いながら高らかに宣言した。

 

 

 

 

**************

 

リアスside

 

 

「す、すごい……」

 

傷だらけになりながらもソーナを倒した私は、ソーナを彼女の兵士に任せ、戦場へと向かった。

そこで見たのは想像を遥かに越える異次元としか形容できないような戦いだった。

上空で繰り広げられている謎の女とイッセー、黒歌の戦い。

そして今体育館で行われているコカビエルとミッテルトの戦いだ。

コカビエルが放つ槍を全て刀で弾き飛ばし、ミッテルトの側も刀だけでなく、徒手空拳をも取り入れ、コカビエルにダメージを与えている。

ミッテルトは隙をついてコカビエルに強烈な蹴りを入れる。コカビエルは踏ん張りつつも後方へと吹き飛ばされ、愉しそうに笑い出した。

 

「クハハ、やるな小娘よ!いいだろう!俺の新しい力を見せてやる」

 

そういうやいなや、コカビエルは球体のような塊を自身を中心に展開した。

その球体はどれ程の速度を持っているのやら、今までコカビエルを圧倒していたミッテルトですら躱しきれず、直撃した。

 

「が!?」

 

ミッテルトは恐らく内蔵を痛めたのだろう。血を吐きながらもすぐに立ち上がり羽をだし、刀を構える。

その羽の数は12本。堕天使や悪魔は翼の数で強さがわかるって言うけど、ここまでとは……。

 

「痛つ、なんすか?今の?」

 

「これが俺の新しい力、ユニークスキルというんだったか?」

 

「……なるほど、覚醒したことによりユニークスキルを手に入れたんすか……」

 

そのゆにーくすきるが何のことかはわからないけど、あのミッテルトが冷や汗をかいているのだから厄介な代物なのだろう。コカビエルは再び球体をミッテルトに向かって放つ。

しかし、ミッテルトは一切怯まずコカビエル目掛けて突進する。今度は12枚の羽をも利用し、球体を受け流しながらコカビエルへと接近した。

 

「これで終わりっすよ!コカビエル!!“朧・流水斬”!!!」

 

接近し、渾身の居合を叩き込もうとするミッテルト。

しかし、その居合はコカビエルに当たることはなかった。

コカビエルは球体のようなものと()()()()()()()、ミッテルトの背後に回ったのだ。

 

「なっ!?しまっ……」

 

コカビエルは背後から渾身の拳をミッテルトの背に叩き込んだ。

そして倒れこんだミッテルトを追撃するかのごとく、槍を用いて怒涛の連撃を叩き込んだ。一撃一撃が衝撃波を伴うほどの威力。それでもどれだけ頑丈なのかミッテルトのドレスは破れない。ならばとコカビエルは何度も何度も槍を突き刺す。あまりの猛打にミッテルトは反撃できず、ついに限界がきたようで、とうとうミッテルトの纏うゴスロリ服を破り、槍はミッテルトの身体を貫いた。

 

「ぐはっ!?」

 

「どうした?この程度か小娘!?」

 

「っ……調子こいてんじゃねえよ!!」

 

ミッテルトはお腹を槍で貫かれたまま、コカビエルの顎をカウンターで思いきり蹴りとばす。その一撃で脳が揺れたのか、コカビエルは目の焦点が定まってないように見える。

 

「“朧・疾風雷覇”!!」

 

横なぎの一閃。ミッテルトの渾身の一撃はコカビエルを容易く吹き飛ばした。

だがそれでもなおコカビエルは立ち上がってくる。その目にはギラギラとした闘志が見える。

対してミッテルトは、血反吐を吐きながら貫かれたお腹をおさえている。

 

「ククク、覚醒した俺とここまで戦えるとは……やるな」

 

「あんたこそ……堕天使幹部ってのは伊達じゃないようっすね……」

 

ミッテルトは貫通した槍を引き抜き、淡い魔力の光を当てる。

どうやら回復魔法の一種だったらしく、ミッテルトの傷がみるみる塞がっていく。

まるでアーシアの神器みたいね……。

 

「傷は塞がったようだが、失った血までは治らないようだな。その出血では長くは持つまい……」

 

コカビエルの言葉を肯定するかのように、ミッテルトはおぼつかない足取りで立ち上がる。

だかその目からは諦めてる様子が微塵もない。

 

「楽しかったが……この後も控えてるのでな。これで終わりだ……」

 

コカビエルが再び光の槍を作り出し、ミッテルトに止めを刺そうとする。

まずい!私は思わず彼女を守るために飛び出そうとする。

その時だった。

 

「させん!!」

 

ゼノヴィアが聖剣を用いてコカビエルを攻撃したのだ。

エクスカリバーではない……あれは……デュランダル!?

ゼノヴィアのデュランダルの一撃を、コカビエルは煩わしいものでも触れるかのように槍で払った。

 

「煩わしい……雑魚が邪魔するな……」

 

「コカビエル!僕の聖魔剣の力、喰らってみろ!!」

 

聖魔剣?あれは禁手なの?

裕斗は聖なる波動と魔の波動、両方を放つ不思議な剣でコカビエルを攻撃し出した。

 

「えい!」

 

「雷よ降り注げ!」

 

それだけではなく、朱乃と小猫もコカビエルに対して攻撃を仕掛けた。それをぼんやりと見ていたそのときだった。

 

『部長!』

 

聞き覚えのある声が頭のなかで響いた。

 

 

 

 

**************

 

 

コカビエルside

 

 

忌々しい。

先程まではあの小娘との実に愉しい時間を過ごすことができ、上機嫌だった。

だが、小娘に止めを刺そうと言う瞬間に取るに足らない雑魚がわらわらと出てきたのだ。

 

「全くもってうっとうしい!!」

 

俺は造り出した星を使って白髪の女を吹き飛ばす。

 

「がは!?」

 

「!?小猫ちゃん!!」

 

ククク、素晴らしい力だ。

これが俺の新しい力……ユニークスキル“星見者(ホシヲミルモノ)”。

星と呼ばれる球体を操るスキルだ。覚醒を果たした瞬間、俺はこの力がどう言うものなのかを本能で理解し、結果的に小娘をも地に伏せることができた。

この力があれば、サーゼクスをも弑することができる。俺はそう確信しながら星を悪魔どもに向ける。

 

「させませんわ!雷よ!」

 

すると黒髪の小娘が雷を放ってきた。

……ん?あの娘、どこかで見覚えが……。

 

「ああ、貴様バラキエルの娘か。リアス・グレモリーは相当のゲテモノ好きと見えるな」

 

「……その男の名を呼ぶな!」

 

バラキエルの娘は先程よりも大きな雷を俺に打ち出してきた……。

何かおかしい……。違和感がある。そしてその答えはすぐに出た。

俺の背後から、先程始末した白髪の娘が殴りかかってきたのだ。

 

「えい!!」

 

「なっ!?馬鹿な……あの小娘ならまだしも、貴様ごときが星の一撃に耐えられるはずが……」

 

俺はその攻撃を避けながら思わず叫ぶ。

それに先程のバラキエルの娘の雷……奴の魔力ではもうあそこまでの威力は出せないはずだ……。

 

「合わせろ!グレモリーの騎士!!」

 

「ああ!!」

 

「な!?」

 

今度は聖魔剣のガキとデュランダルの娘の同時攻撃。

本来ならば容易く弾き飛ばせるはずだ……。

……にもかかわらず、奴らの攻撃は一枚とはいえ、覚醒した俺の翼を切り裂いて見せた。

 

「滅びよ!!」

 

「グレモリーっ!?チィ…………」

 

リアス・グレモリーの滅びの魔力が俺目掛けて向かってくる。その一撃は俺の翼をまたしても奪い去る。

 

「なんだ?何が起きていると言うのだ……」

 

あり得ん!あの小娘ならまだしも、コイツラにここまでの力などなかったはず!何が起こっているのだ?

 

「ミッテルトちゃんのおかげですわ」

 

「ミッテルトが私たちに力を貸してくれたのよ」

 

その言葉で俺は悟る。あの小娘の力でコイツラは強化されたのだと言うことを……。

 

「そうか、あの小娘そんなこともできたのか……」

 

俺は歯軋りしながらグレモリーどもを睨み付ける。

落ち着け、いくら強化されようと、こいつら程度では何人いようがたかが知れている。

あの白髪の小娘を見る限り、耐久力も上がっているようだが首を跳ねれば問題あるまい。

そう思い直し、槍を構え直す。

するとグレモリーどもは怯えるどころか全員が不適な笑みを浮かべている。

怪訝に思っているとその答えはすぐに出た。

俺の背後から信じられないほどの魔力が立ち上っていたのだ。

 

「決めてください……」

 

「御膳立てはしてやったのだ。ここで決めなければ許さないぞ」

 

「行って下さい」

 

「僕たちの分もぶつけるんだ」

 

「行きなさい!ミッテルト!」

 

そこには刀を構え、目を瞑る小娘の姿があった。

 

 

 

 

**************

 

 

ミッテルトside

 

 

(みんな…感謝するっすよ)

 

うちはボロボロになりながらも剣を構えながら、部長たちに感謝の意を示す。

うちは部長の姿を確認した後、思念通話で部長たちに時間稼ぎをお願いした。

うちの持つもう一つのユニークスキル、“思慕者(オモウモノ)”はうちが強化した力を他者へ譲渡するという力を持っている。

とは言え危険な賭けであったことに代わりはない。疑似とはいえ覚醒した存在相手に時間稼ぎなんて、自殺行為以外何者でもないのだ。

 

(それでも皆、うちを信じてくれたんすよね)

 

ならば答えねばならない。皆の期待に……。

血を流しすぎたからか足取りも重いしフラフラする。それでもうちはコカビエルを見据えた。コカビエルもうちを見据え笑みを浮かべている。

おそらく次の一撃で勝負が決まるだろう。

 

ふとイッセーと黒歌っちの戦いが目に入る。どちらも凄まじい力を放ちながら戦闘を続けている。それを見て思わず嫉妬の感情が溢れてくる。

相変わらず黒歌っちはすごいな……。

今のうちではどうあがいてもあそこまでの力は出せない。

うちが黒歌っちにつっかかるのは実のところ嫉妬でしかない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()黒歌っちに対する嫉妬。

正直その思いは消えない。

でも、イッセーの彼女はうちなんすよ。うちはイッセーの彼女として情けないところ見せるわけには行かないんすよ!

 

(イッセー、ちからを貸してほしいっす)

 

うちは瞠目し、脳裏にイッセーのことを思い浮かべる。

うちの“思慕者(オモウモノ)”にはもう一つの権能がある。

それは…………

 

 

 

──好きな人を思うほど強くなれる──

 

 

 

イッセーを想うだけでうちは力が沸いてくるんすよ!

 

「神へ祈りを捧げ給う。我は望み、聖霊の御力を欲する。我が願い、聞き届け給え。万物よ尽きよ!」

 

うちは神聖系最強魔法の力を堕天刀に注ぎ込む。うちはすかさず堕天刀を納刀する。

魔力を帯びた堕天刀は神々しい光を放ちながらその時を待つ。

 

「……なるほど。コイツらはあくまで時間稼ぎ。その技が本命と言うわけか。いいだろう決着をつけようじゃないか」

 

コカビエルは今までの光の槍ではなく、球体を槍のように変形させ、魔力を注ぎ込みながら構える。

どうやら迎え撃つつもりのようっすけど、この技が完成した以上、抗うことは不可能っすよ……。

 

「行くぞミッテルト!“星天墜槍突(スターブレイク)”!!」

 

コカビエルの凄まじい一撃は凄まじい速度でうち目掛けて飛んでくる。

普段のうちならば抗えないほどの威力……でも……

 

「負けるつもりはないっす!!」

 

そしてうちは堕天刀を解き放った。

 

 

「“崩魔・梅花ー五華突”!!!」

 

 

技と技がぶつかり合い、凄まじい衝撃が鳴り響く。

その余波によりうちの片腕が弾けとぶ。

だが、コカビエルがどうなったかわからない。魔力感知を行うだけの魔力すらない今の状態では油断できない。

やがて土煙は勢いをなくしていき、煙が張れるとそこには……

四肢と翼が消失し、立ち上がることのできない状態となったコカビエルがいた。

 

「……うちの……勝ちっすよ」

 

「……ああ、俺の敗けだ」

 

私はそう、静かに宣言した。

そしてコカビエルは満足そうにそう呟いた。




崩魔・梅花ー五華突
崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)”と“梅花ー五華突”を掛け合わせたミッテルトオリジナルの超絶聖剣技(オーバーブレイド)
ミッテルトが二つのユニークスキルにより、最大まで力を高めた状態でしか使用できず、それでも正直成功率は五分五分。ミッテルトの腕が弾けとんだのも技の威力の高さゆえであり彼女にとっては奥の手の諸刃の剣である。
だが決まれば究極保有者をも殺すことができる力を持ち、現にミッテルトは模擬戦の際、この技で一度黒歌の結界を貫き、黒歌を倒したこともある。
まだ技そのものを習得してないため使えないが、いずれは“八重桜ー八華閃”にこの技を掛け合わせたいと考えている。




コカビエル
EP 42万1329→疑似覚醒82万1329
種族 堕天使
称号 堕天使幹部
魔法
ユニークスキル 星見者(ホシヲミルモノ)
魔力感知、星作製、星間移動

神の子を見張る者(グリゴリ)”幹部の上級堕天使。数少ない武闘派幹部の1人であり、戦争狂でもある。先の大戦後に行動を起こそうとしないアザゼルやシェムハザに業を煮やし、天使・堕天使・悪魔による三つ巴の戦争を再度引き起こすべく暗躍していた。
その最中、カグチ、メロウと出会い、基軸世界に興味を示す。現在の目的は三大勢力の戦争を踏み台に力を高め、基軸世界に挑戦すること。
その下準備として覚醒のための魂集めをしており、バルパーに計画を持ちかけられた時も都合がいいと考え、手を組むことにしたと言う。
なお、魂の持ち主は全て裏の世界の人間であり、表の一般人には今のところ手を出していない。
星見者(ホシヲミルモノ)は星を作ると言う権能をもち、星は射程距離こそあるものの高い威力と速度を持つ。また、星と位置を入れ換える星間移動と言う権能を持つが、こちらは一度使うとしばらくインターバルが発生する。


コカビエルは旧約聖書において、人間に天体の兆しを教えた堕天使だそうで、このようなスキルを使わせてみました。モデルはまんまブラクロの星魔法。


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校庭の決戦です

ミッテルトside

 

 

 

 

「ハア、ハア……」

 

うちは堕天刀を杖のようにして身体を支える。内蔵を痛めたためか血混じりの吐瀉物が喉まででかかっているのを感じ、それを無理矢理に飲み込んだ。

……危ない危ない。本当にギリギリだったっす……。

頭がフラフラするし、どうやら血を流しすぎたようすね……。

うちは悪魔族(デーモン)のような精神生命体じゃない。物質体(マテリアルボディー)に囚われているため、このレベルの傷となるとさすがにヤバイんすよね……。

 

 

「ちょっと、ミッテルト!?貴女、腕……大丈夫なの!?」

 

「あ~、問題ないっすよ。後で治せるんで……」

 

「そ、そうなんですか……?」

 

うちらの家には“完全回復薬(フルポーション)”が隠してあるっすからね。それを使えば死んでさえなければ傷を治すことができる。それができなくてもラミリス様の迷宮で死ねば復活できるっすしね……。

 

「ククク、これが基軸世界の強者の力か……楽しい戦いだったぞ……」

 

「あいにく、うち程度じゃあせいぜい中堅どころっすけどね……」

 

こいつはどうやら基軸世界の強者と戦いたがっていたっぽいすけど、うちと互角程度じゃあ真の強者には通用しない。

 

「さあコカビエルよ。貴様を神の名のもと断罪する。覚悟してもらうぞ!」

 

ゼノヴィアちゃんはそう言いながらコカビエルにデュランダルを突きつける。もはやコカビエルには抗うすべもないだろう。しかし、コカビエルはそれすら愉快そうに笑ったのだ。

 

「何がおかしい?」

 

「いや?滑稽だと思っただけさ。もはや神などいないというのに信仰心を持ち続けるお前らにな」

 

その言葉にここにいる誰もが目を見開く。特にゼノヴィアちゃんはそれが顕著で、大きく目を見開き、震えていた。

 

「主がいない? どういうことだ! コカビエル!」

 

「おっと、口が滑ったな。まあ、もはやどうでもいいか……。先の三つ巴の戦争の時、滅んだのは魔王だけではない。四大魔王と共に神も死んだのさ!!!」

 

「「「なっ!?」」」

 

全員信じられない様子だった。確かにキリスト教の神様が死んでるとなると、こちらの世界の人たちにとっては大問題だ。

 

「神が……死んだ……?」

 

「神が死んでいた? そんなこと聞いたことないわ!」

 

「あの戦争で悪魔は魔王全員と上級悪魔の多くを失った。天使も堕天使も幹部以外の多くを失った。どこの勢力も、人間に頼らなければ種の存続が出来ないほど落ちぶれたのだ。だから、三大勢力のトップどもは、神を信じる人間を存続させるためにこの事実を隠蔽したのさ」

 

 

 

ゼノヴィアちゃんはその言葉を聞き崩れ落ちる。

その表情は見ていられないほど狼狽していた。

 

「……ウソだ。……ウソだ。」

 

両膝をつき、ウソだをずっと繰り返す。この子はここまで神様のことを信じてたんすね。だからこそここまでショックを受けているのだろう。

あれ?となると一つ疑問点が……。

 

「じゃあ、今のエクソシストが使ってる聖なる力は何なんすか?ああいう力は信仰心によって上位存在から借り受けてもらえる力だと思うんすけど?」

 

エクソシストが使う光の力は神聖魔法と非常によく似ている。

神聖魔法は信仰の対象から力を借り受けることで発動するのが主。高度な使い手だと自力発動もできるっすけど、今まで見てきたエクソシスト連中はその水準まで至っていなかった。

信仰の対象がいないのならば、あの力はどこからきているのだろうか。

 

「あれはミカエルのおかげだ。ミカエルは良くやっているよ。神の代わりに天使と人間をまとめているのだからな。“システム”さえ機能していれば、神への祈りも祝福も、悪魔祓いもある程度は機能するさ」

 

なるほど。どうやら神様とやらは自分が死んだ後のことも考えていて、それをミカエルという名の天使が引き継いだと……。ミカエルと聞くと別人だとわかっていても身震いするっすね。どうでもいいすけど。

 

「元気出すっすよゼノヴィアちゃん。今はそれについて考えてる場合じゃないっす」

 

そう言いながら見上げるのは、上空で繰り広げられている大激闘。たとえうちが万全の状態でも入り込む余地はないだろう。

 

(どうか無事で……)

 

うちはせめて勝利を祈って見届けることにした。

 

 

 

**************

 

イッセーside

 

 

 

まるでBGMのように音楽が鳴り響く中、俺と黒歌はルミナスさんの同僚だったという女と激戦を繰り広げていた。

 

「どうやらミッテルトはうまくやったみたいにゃん」

 

「当たり前だろ」

 

「ちっ、コカビエルの奴め……だがまあ実験は成功だったようだし、成果としては上々か」

 

どうやらコカビエルは倒したようだな。さすがはミッテルトだぜ。奴が覚醒を果たしたときはさすがに焦ったが、皆のおかげだな。

こちらも負けてられねえ。

ドライグ!

 

『おう!boostboostboostboostboost!!』

 

ドライグの力で俺の力は一瞬のうちに倍加する。

俺は背中のブースターで速度を上げ、メロウの懐に飛び込んでいった。

 

 

「“魔竜崩拳”!!」

 

「“音響振壁(サウンドウォール)”」

 

俺は倍加の力により魔力を高めた一撃をメロウに喰らわせようとする。

だがメロウは慌てることなく指を振るう。

すると、薄い壁のようなものが俺の拳を受け止めた。

 

「なっ!?防御結界!?」

 

いや、感触が違う。これは……空気の膜?

 

「音は空気を伝う振動だ。この技は相手の攻撃の威力そのものを振動として拡散する……。この程度の攻撃で貫けるものではないぞ……」

 

奴の言葉通り、技の衝撃は膜を中心に波紋状に広がり、威力を拡散した。

メロウは不気味に笑いながら、俺に杖での攻撃を仕掛けてくる。

神話級の杖に込められた魔力は、恐らく鎧に身を包んだ俺にも普通にダメージが通るだろう。

こういうタイプの結界は厄介だ。俺の“洋服崩壊(ドレスブレイク)”系統の技は、魂にしろ身体にしろ相手を包み、纏っているものでなければ効果が薄い。

そこへ黒歌は物理ではなく搦め手で攻撃をする。

 

「“毒霧”」

 

「“音響衝撃波(サウンドウェーブ)”」

 

空気の膜すらもすり抜ける仙術の毒は一直線にメロウへ向かう。それをメロウは衝撃波を出すことで相殺した。

永き時を生き抜いただけのことあって高い技量(レベル)を持っているな……。

だがそれは、迷宮で数多の手練れと共に技を磨いたこっちだって同じことだ。

 

「“竜魔断裂斬(ドラゴニックスラッシュ)”!!」

 

俺は手刀による斬撃で音の壁を切り裂く。それをみたメロウは一瞬目を見開くも、即座に杖で防御する。

杖と手刀がぶつかり合い、激しい衝撃がひしめく。

 

「っ!?」

 

瞬間、樹木でできた巨大な腕が複数メロウに襲い掛かる。

一つ一つに破壊の意思が込められており、執拗に奴を追いかける。

 

「あの黒猫か……」

 

黒歌が植物を仙術の力で成長させ、さらにそれを操作しているのだ。

仙術は黒歌の得意とする技で、気を操り生命を操作する力らしい。それに究極の力を加えれば、これくらいのことはなんなくやってのけるだろう。

メロウはこれを危なげなく回避する。

 

「“黒双爪撃”」

 

そのタイミングを狙って樹木の隙間から飛び出した黒歌が、闇爪でメロウの背を攻撃する。ルミナスさんから携わり、クロベエさんの元で新生させた闇爪は無類の切れ味を誇る。

その一撃はメロウの障壁を貫き、頬に傷を与える。

 

「チッ、よくも下等な黒猫ごときが……」

 

メロウは怒りに振るえながら黒歌に音の衝撃波を放つ。

それを黒歌は防御障壁で容易く弾き飛ばす。

 

「“魔仙火車”!!」

 

すかさず黒歌は黒い火車で応戦する。

黒歌の火車は仙術の力で邪な存在を浄化できる技だ。そこに魔の属性を加えることで、聖魔両方にダメージを与える恐るべき技へと昇華させた。

その火力を前に音の障壁は無意味。メロウはその炎を浴びてしまう。

 

「チィ……」

 

だがメロウは水の最上位精霊に近い存在だ。水を呼び出し、究極の権能で強化された仙術の炎をも簡単に消火してしまう。あの炎はベニマルさんの黒炎と同じで簡単には消えないはずだが、さすがはルミナスさんと同格の存在ってところか……。

 

「あのまま行けば燃やし尽くせたかにゃん?」

 

「なるほど手ごわいわね。少なくとも当時の三公筆頭……ギュンターよりもはるかに強い……」

 

メロウはそう言いながら、杖から魔力のこもった音波を放つ。黒歌はそれを結界ですべて防御しつつ、格闘戦を挑んでいる。だがメロウはそれには取り合わず、黒歌から距離をとり、音波攻撃を発する。それの繰り返しだ。

何か企んでいるな……。だが……。

 

「俺がいること忘れるなよ」

 

「……っ!」

 

俺は黒歌に集中していたメロウを背後から攻撃する。洋服崩壊(ドレスブレイク)の発展形である“結界崩壊(プリズンブレイク)”を込めた拳は、メロウの体を覆っていた防御結界を突き破り、ダイレクトでダメージを与える。

だがメロウは地面にたたきつけられることなく、空中で体制を整える。

 

「ナメるな。“音破水流刃(サウンドカッター)”」

 

そしてカウンターで魔力のこもった水流を放ってきた。

……いや、水流というよりは刃、“水刃”に近い。

どうやら音波による振動も織り交ぜており、さながらウォーターカッターだ。“赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)”をも切り裂く威力があるだろう。相殺することは難しそうだ。

 

「“覇竜絶影拳(ドラゴニックバースト)”!!」

 

俺はとっさに魔力による衝撃波を放つことで、水の刃の軌道をずらす。

その余波で校庭が真っ二つになったけどみんなは体育館にいるからそこを注意すれば大丈夫か。

 

「考え事か赤龍帝?」

 

うお?あぶねえ。メロウは杖に音波を乗せ、渾身の攻撃を俺に叩き込む。そこから伝う振動は防御していなければ危なかっただろう。それでも俺は結界の端まで吹き飛ばされてしまう。

やっぱり強い……。これがルミナスさんの兄弟弟子の力……。

そもそも無造作に放つ音波攻撃だって、一撃一撃がとてつもない威力を誇っている。

黒歌の結界じゃなければとうの昔に町も巻き込まれ、辺りは地獄絵図となっていただろう。そうなれば我が家まで……。

少し沈んだ気持ちになってくる。今この状況だってもし皆を巻き込んだら……。

 

『おいイッセー!何をぼんやり考えている!』

 

「!?」

 

気付けばメロウの攻撃がすぐそこまで迫っていたのだ。ドライグの叱責でハッとした俺は慌てて上空に飛び上がり、回避する。

何だ今の!?何考えてたんだ!?

体育館や町は黒歌の結界が守ってくれている。黒歌の結界の強度は俺も知ってるからこそこうして全力で戦えているというのに、それなのに不安な気持ちが俺の心を支配していた。

そりゃあ、結界だって万全じゃねえし、そういうこと考えてしまうのは仕方ないけど、今は戦闘中だぞ!

何かおかしいと思い、俺は俺自身に解析鑑定を施してみる。

すると、思考誘導に近い何かが俺に施されていたのだ。

おそらくBGMのようにさっきから流れているこの音楽だろう……。

 

「こざかしい真似を……」

 

「気付いたか。“誘発する不協和音(ディソナンストリガー)”。相手の抱いている不安や恐れを増幅させる素晴らしい音楽よ」

 

なるほど。それで急に不安が俺の精神を支配したのか……。恐ろしい技だぜ。そんなことされればいつも通り闘うなんて不可能になる。ドライグがいなければ危なかったな。

 

「うぅ…………」

 

うなり声のするほうを見ると、黒歌が青い顔をしながら頭を抱えていた。

すかさずメロウは笑みを浮かべ、音波攻撃を黒歌に放つ。

 

『boostboostboostboostboost!!』

 

俺は全速力で攻撃の先回りをし、音波攻撃を防御した。

 

「黒歌!気をしっかり持て!!」

 

「う、うん。ありがとにゃんイッセー」

 

まだ青い顔をしてはいるが、それでもなんとか抵抗(レジスト)はできたようだな。小猫ちゃんをチラ見していたところを見るに、おそらく小猫ちゃん関連の不安を増幅されたと言ったところかな。

実際こっちの世界に来ることすらためらっていたのだ。俺以上に効果があったことだろう。

だがそれにしてもだ。究極保持者の精神にまで影響を及ぼすとか、なかなかとんでもない権能だな……。

俺は奴に対しての警戒を強めながら魔力を拳に込める。

 

「いくぞ黒歌!」

 

「わかってるにゃ!」

 

俺と黒歌は接近戦による集中攻撃を仕掛け、メロウはそれを必死にかわそうとする。

今までの戦闘で分かってきたが、メロウは接近戦の技術(レベル)も高いが、基本的に中距離からの攻撃を得意としているようだ。少なくとも肉弾戦ならば俺や黒歌に分がある。

 

「ふん」

 

「うお、あぶねえ!」

 

メロウが距離を離し、再度音波による攻撃を仕掛ける。それを拳や結界で防ぐという攻防の繰り返し。

奴を追い詰めているのは間違いないが何か違和感がある。

どうも先ほどからこいつは防がれることを前提として攻撃を放っている節がある。何を企んでるのか。その答えはすぐに出た。

 

「そろそろ頃合いか……」

 

メロウが狂気的な笑みを浮かべながら指揮棒を掲げる。ゾクっと嫌な予感がした俺たちは防御体勢になる。

だがそれを嘲笑うかのようにメロウは魔素を高め、それを解放した。

 

 

「“鳴動震動音波(サウンドブレイク)”!」

 

 

ズゥゥン!!

 

瞬間、凄まじい高音と共に大気が震える。

その衝撃は俺の鎧と黒歌の結界をいともたやすく貫き、凄まじいダメージを俺たちに与えた!

 

「ぐわ!?」

 

『こ、これは!?』

 

「がは!?」

 

な、なんだ今の一撃は!?黒歌の万能結界と俺の“赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)”を貫きやがった!?

メロウの必殺の一撃は黒歌の身体をボロボロにし、俺の鎧を大破させたのだ。

その様を見ながらクスクスとメロウはおかしそうに笑う。

 

「お前たちに放った音の震動は消えたわけではない。それはずっと貴様たちの体に溜まっていたのよ。それを共鳴、共振させることで、内部から貴様の身体と魂を破壊したと言うわけさ……」

 

ぐっ、なるほどな。ずっと防御してたとはいえ今まで結構奴の攻撃を喰らっていたからな……。それを体内で増幅させれば、凄まじい威力になるのも道理と言うわけか……。

奴の攻撃を防御してたとしても、それはこの技の威力が上がるだけ。これからはできる限り攻撃を喰らってはならないと言うことだな。

なにしろ今の技、身体はもちろん精神体(スピリチュアルボディー)にまで響いてきやがった。えげつない技だぜ……。

俺の心を覗いてみるとドライグにまでダメージが通ってやがる。

 

(ドライグ、まだ行けるか?)

 

『当然だ!』

 

俺はドライグの返事を聞くと、再び“赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)”を発動する。赤い鎧が俺の身体を纏い、体勢を立て直す。

 

『boostboostboostboostboost!!』

 

鳴り響く機械音と共に再び俺の力は倍加されていく。

初速から音速を越える俺の速度にメロウは目を見開く。

 

「驚きね。並みの聖人や魔王なら、今の一撃で消滅するというのに……」

 

「あいにく並みじゃない人たちにさんざん鍛えられてきたからな!」

 

メロウは俺の攻撃を躱しながら音波攻撃を仕掛けてくる。

ワンパターンな奴だ。

 

「もう喰らわねえよ!」

 

俺は奴の攻撃を回避しながらメロウに殴り掛かる。

 

「どうやらそれがお前の最大速度のようだな」

 

メロウは余裕をもって俺の拳を防御しようとする。

……かかった。

俺は今までドライグの倍加の力しか使ってこなかった。だからこいつは今の俺の力が最大だと勘違いしているのだ。

 

「ブースト!」

 

「!?」

 

瞬間、さらに加速した俺の一撃にメロウは反応することができず、俺の拳は奴の腹にめり込ませた。

これが俺の切り札の一つ。 国津之王(オオクニヌシ)による“多重倍加”だ。

俺の究極能力、 国津之王(オオクニヌシ)にはドライグに頼らずに力を倍加するという権能がある。

普段ドライグの力を使い続けていたからこそ、その力が俺の魂に刻まれ、権能に取り込まれたのではないかというのがリムルの仮説だが、ドライグの力を借りない分、俺自身の魔力を消費しなければならず、今の俺には負担が大きい技だ。

だがドライグの倍加とは別枠になるというメリットがあり、ドライグの最大倍加からさらに力を上乗せすることができるのだ。

今までドライグの力だけで戦ってきたため、奴は俺の力を見誤った。その差が奴に一撃を与えたのだ。

 

「グっ、おのれ……」

 

そして今の強化された一撃で、とうとう()()()をこいつにぶちこむことができた。

俺は笑みを浮かべながら指で音を鳴らす。

 

「喰らえ!“洋服崩壊(ドレスブレイク)”!!」

 

瞬間、メロウの衣服が弾け飛び、その未熟な肢体が露となった。

 

「は?」

 

いきなり衣服が弾け飛び、困惑した様子を見せるメロウ。

さっきまではこいつの身を守っている防御結界に阻まれて使用困難だったのだが、最大出力まで倍加したことで洋服崩壊の性能も上がり、結界ごと破壊することに成功したのだ!

今のうちに脳内保存しなければ……。

 

「訳のわからん技を……」

 

メロウは羞恥で少し顔を赤くしながらも、悪魔族(デーモン)と同じ物質創造で衣服、ついでに結界を再構成する。

その間わずか一瞬にも満たないが、それだけあれば十分だ。

 

「今だ黒歌!!」

 

黒歌はその一瞬の隙をつき、メロウに気を叩き込もうとする。

だがメロウはそれに対し、カウンターの姿勢をとる。

 

「馬鹿め!気づかないとでも思ったか!!」

 

メロウは自らに迫ってくる黒歌に振動を重ねたウォーターカッターで迎え撃つ。

その威力たるや凄まじく、衝撃が大気を切り裂くほどだ。

その必殺の意志が込められた一撃は、見事に()()()()()()()()()()()()

 

「なに!?」

 

必殺の一撃がすり抜けたことに驚愕するメロウだが、そんな暇はなかった。

死角となっていた背後から本物の黒歌の一撃が叩き込まれたのだ。

黒歌は元々魔法使い型(ウィザードタイプ)。肉弾戦以上に魔法や仙術を得意としている。自らを模した幻影を作り出すなど簡単なことなのだ。

 

ザン!!

 

背後からの闇爪の一撃は見事にメロウの左腕をえぐり取った。それをメロウは信じられないといった風な表情で眺めている。

 

「ば、馬鹿な……この私が幻や分身体などに惑わされるはずが……」

 

「どうやら私の力を甘く見すぎてたみたいね」

 

普段のメロウなら、本人の言うように幻や分身体で惑わすことなどできなかっただろう。

だが黒歌は先ほどの肉弾戦による攻防のさなか、仙術により気をメロウに送り続けていたのだ。

その気はごくわずかなもので、メロウの通常攻撃の魔力を乱すほどの力はない。しかし、微弱な魔力しか必要としない魔力感知の質を乱すには十分なのだ。

メロウは自分の魔力感知の精度が落ちていることに気付かず、まんまと黒歌の罠にはまってしまったのだ。

メロウは憤怒の形相で黒歌をにらむ。それだけで射殺してしまいそうな形相だ。

 

「貴様といい、ルミナスといい、貴様らはことごとく私をイラつかせてくれるな……」

 

髪の毛をワシャワシャ掻き乱しながらメロウは鋭い眼光を放つ。

コイツとルミナスさんとの間に何があったのかは知らないが、相当ルミナスさんを憎んでいるということか。どうりでさっきから隙あらば優先して黒歌ばかりを狙うわけだ。

メロウは右手で指揮棒を振るうとあたりの音楽の曲調が変わる。すると失われた左腕がみるみると回復していった。

 

「絶対に殺す!貴様ら全員皆殺しだ!!」

 

奴はさらに魔力を高め、それを指揮棒の先端に宿す。曲調も激しく、悍ましい音だ。どうやらコイツの奥の手ってところかな。

 

「死ね“破滅と破壊の葬送曲(デストラクションレクイエム)”!!」

 

「「っ!?」」

 

神話級の指揮棒から解き放たれた究極の破壊の音は、一直線に()()()()()()()()()()()()()()()()()()

コイツ……。俺たちがかばうことを知りながらやりやがったな!いくら黒歌の結界があるとはいえ、この威力を防ぎきれる保証はない。

 

「ドライグやるぞ!黒歌、受け取れ!」

 

『Transfer!』

 

「ありがとにゃイッセー、ドライグ」

 

黒歌に『赤龍帝の贈り物』を使うことで、一気に黒歌の力を上昇させる。

俺たちは最大速度で先回りをし、結界を張りなおす。

 

 

ドオオオォォォン!!

 

 

 

究極の結界と究極の破壊音が激突する。そのすさまじい衝撃に部長たちは思わず吹き飛ばされそうになる。

 

「きゃあ!?」

 

くそ、なんて威力だよ。黒歌が直で結界に力を込めているというのに、結界がガリガリ削られていく。

いや、まるで触れた端から分解されているような感じか?

 

「無駄だ!その音の振動は文字通りすべてを塵と化す!いかに強固な結界といえど、そう簡単に防げるものではない!」

 

音の振動ですべてを分解するってか!厄介な技だな!

俺と黒歌の二重結界でも防御することは厳しそうだ。かといって今よけたら皆に当たっちまう。どうすりゃいいんだよ!?

 

「イッセー!」

 

「!?ミッテルト……」

 

後ろからミッテルトの声が聞こえてくる。振り向くとミッテルトはなけなしの魔力を手に集中させていた。あいつ、まさか……。

 

「うちの最後の魔力、受け取ってほしいっす!」

 

そう言うや否やミッテルトは振り絞った魔力を俺たち二人に譲渡した。あいつ、無茶しすぎだろ。こんなにぼろぼろの状況じゃあ、スキルを発動するのだってつらいはずなのに……。

 

「ちょ、ちょっとミッテルト!?」

 

「しっかりしてください」

 

ミッテルトは魔力を俺たちに譲渡し終わると同時に倒れこむ。

思わず駆け寄ろうとすると、ふとミッテルトと目が合う。その目は強い覚悟と信頼のこもった眼差しだった。

ほんと、俺にはもったいないくらいのいい女だよな。

 

「負けてられねえな!黒歌!!」

 

「わかっているにゃ!!“災禍天福”!!」

 

黒歌はミッテルトからもらった魔力を結界に込め、さらに自らの切り札である“災禍蓄積”を解放し、結界の強度をさらに高めた。

 

「うにゃあ!!!」

 

気合いと共に魔力が弾け飛ぶ。

黒歌の結界は見事にメロウの一撃を防ぎ切ったのだった。

それを見たメロウは目を大きく見開き、狼狽する。

 

「そ、そんな馬鹿な!?ルミナスを屠るために編み出した技なのだぞ!?奴ならまだしも配下ごときに……」

 

黒歌の“災禍蓄積”という権能は、受けたダメージを電流として翼に蓄電するというフレイさんの権能と似ている。その力は受けたダメージを蓄積するというものだ。

もちろん蓄積するだけでなく、“災禍天福”を使うことで魔力や仙術に使う“気”に変換し、自らの力に変えることもできる。

受けたダメージが消えるといったことはないものの、一撃で殺さない限り強化されるこの力は、非常に面倒で恐ろしい権能だと思う。

メロウは先ほどの技で黒歌に大ダメージを与えた。あの威力のダメージを魔力に変換し、それを結界に注いだならば、結界の強度もいかにばかげたものかわかるというものだ。

 

「今にゃん!イッセー!!」

 

「!?」

 

俺は呆けたメロウの目の前に立った。拳にはミッテルトから託された魔力がこもっている。

 

『boostboostboostboostboost!!』

 

ミッテルトから託された魔力を圧縮し、倍加する。それにより、ミッテルトの魔力が膨大なものへと跳ね上がった。危険を察知したメロウはとっさに逃げようとする。

だがそれはかなわぬ夢となった。とっさに放った黒歌の“気”がこもった魔力弾がメロウに命中したのだ。

“災禍天福”により強化された魔力弾は、魔力よりも仙術の力が込められていた。その一撃はメロウの体内の魔力や気の流れを完全に乱してしまったのだ。これで回避も防御もできないだろう。

それに気付いたメロウは顔を青ざめさせ、叫び出す。

 

「ふ、ふざけるなああああ!!私はこんなところで終わらんぞ!!ルミナスを血祭りにあげるまで私は……」

 

「悪いけど、これで終わりだぜ!!

ヴェルドラ流闘殺法“赤覇竜滅爆炎掌(ドラゴニックブレイク)”!!」

 

瞬間、爆炎が視界を覆う。究極まで高まった一撃は土壇場で作ったメロウの結界を貫き、直線に会ったすべてを焼き尽くす。

煙が晴れるとえぐり取られた校庭があり、そこには全裸で倒れ伏すメロウの姿があった。

 

 




メロウ
種族 水精人(セイレーン)
EP 402万1861(人魚姫の指揮棒(マーメイドタクト)+200万)
加護 神祖の加護
称号 神祖高弟第6位
究極能力(アルティメットスキル) 麗歌之王(セイレーン)
魔王覇気、思考加速、空間支配、思考操作、感情操作、身体操作、魅惑の美音、音響操作

神祖トワイライト・バレンタインの高弟第5位にして人魚、魚人といった種族の祖。
神祖に心酔しており、神祖の娘であるルミナスに対して激しい憎悪を抱いている。
神祖の高弟の中で最も早く究極能力を手に入れた存在でもあり、音と振動を操るその力は様々な効果を持つ。
音の振動による破壊の力以外にも、その音色で相手の精神に干渉し、他者を操ることもできるが究極能力を手に入れるまでに精神と魂を鍛えたものには効果が薄く、精々が思考や感情を誘導するのが精一杯である。そのため、今回は真っ向勝負するしかなかったが本来ならばその操作能力は並みの聖人や魔王種程度なら自由に操ることができるほど強力なものである。
名前の由来はそのままアイルランドの民話に登場する人魚「メロウ」から。


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白龍皇と出会います

イッセーside

 

 

 

「はあ、はあ……」

 

「グ……おのれ……」

 

洋服崩壊(ドレスブレイク)”の力を付与した“赤覇竜滅爆炎掌(ドラゴニックブレイク)”を受けたメロウは動くことができない。すべての防御力を無にしたうえで放ったこの一撃により、メロウは完全に倒れ伏したようだ。仮に動けたとしてもろくに闘うこともできないだろう。

現に悔しそうな顔をしてにらんでいるが立ち上がることができないでいる。ここは俺たちの勝ちでいいだろう。

コイツの敗因は俺たちを嘗めすぎたことだ。黒歌の背後にいるルミナスさんを意識するあまり、俺たちのことを警戒はしていても取るに足らない存在だと慢心していたのだろう。

そうじゃなければ、ああも堂々と能力の説明するとかバカげたことしないだろうし……。

 

「イッセー!」

 

「イッセー先輩!」

 

「イッセー君!」

 

後ろを振り返ると部長たちが心配して駆け寄ってきてくれたようだ。

皆ダメージは受けているようだが大丈夫そうでよかった。

 

「ごめんなさいイッセー。結局私たちじゃ何もできなかったわ」

 

「そんなことないですよ。部長たちがいなかったらコカビエルだって参戦してたでしょうし……」

 

実際、コカビエルも覚醒したことによりかなりの強者になっていたからな。

超級覚醒者(ミリオンクラス)にこそ至っていなかったものの、ミッテルトだけでは勝てたかどうかわからなかったと思う。

部長たちが時間稼ぎをしてくれたからこそミッテルトは奥義を使うことができたわけだしな……。

 

「全く、ミッテルトも早く覚醒したほうがいいにゃん」

 

「いや、覚醒ってそう簡単にできるものじゃないだろ……」

 

リムルいわく、ミッテルトは魔物のような魂による覚醒もできるらしいけど、こちらの世界出身であるミッテルトは時間をかければ人間のように自力での覚醒も可能であるとのことだ。ミッテルトは後者を選んだわけだが未だ兆しがない。

後は心の問題らしいけどどうすればいいのか現状ではわかってないのだ。

まあ、俺はミッテルトならば必ず覚醒すると信じているから今は何も言うまい。

 

「さてと、じゃあ後はメロウとコカビエルをどうするか……だな……」

 

俺はメロウと体育館で木場が見張りをしているコカビエルを見つめる。四肢を失っているから大丈夫だとは思うが念のためだろう。

メロウは黒歌に託そうと思うがコカビエルはこちらの存在だ。勝手にどうこうしてしまえば後々面倒になるかもしれない。

 

「コカビエルの処遇は俺に任せてもらおう」

 

ん?誰だ?

上空を見上げると空から白い鎧を纏った何者かが現れた。

その鎧は俺の“赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)”とよく似た波動を感じる。

ひょっとしてこいつが……。

 

「お前が以前ドライグの言っていた白龍皇か?」

 

「その通り。我が名はアルビオン。二天龍の一角、白龍皇だ」

 

白龍皇アルビオン。

かつてのドライグのライバルだという“白き龍(バニシングドラゴン)”。

その魂を封じ込めた神滅具(ロンギヌス)白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)”の担い手。

なるほど、強いな。少なくとも覚醒する前のコカビエルを上回っている。

素の力でEP換算で50万を超えている。そこにさらに“白龍皇(ディバイン・ディバイディング)の鎧(・スケイルメイル)”の力を上乗せすることで超級覚醒者(ミリオンクラス)にまで至っている。ジウといい勝負するかもな……。

人間の波動に交じって悪魔の妖気も感じるし、もしかしたら転生悪魔。それか悪魔と人間のハーフってところなのかもしれないな。

しかし、どうやって黒歌の結界を……ああ、戦いが終わったと同時に解除していたのね。

ふと鎧越しに白龍皇と目が合った。その目からは歓喜の表情が満ち満ちていた。

 

「────これが今代の赤龍帝か。面白い」

 

その一言で察したわ。こいつも戦闘狂(バトルマニア)なんだ。

強い奴との戦いが何よりも大好きとかそんな感じの。こういうタイプって質悪いんだよな。このタイプはたいてい数多の戦闘経験とそれに準じた技術(レベル)を持っているうえ、どれだけ大怪我追っていても平気で向かってくるんだもん。

 

「それで? 白龍皇が何の用だ?まさか、この場で二天龍の決着をつけに来たなんて言うんじゃないんだろうな?」

 

消耗した今の俺の魔素量は全快時の三分の一ってところかな?

やれないこともないとは思うけどぶっちゃけめんどくさい。今の状況だと負ける可能性すらあるしできれば帰ってほしいんだけど……。

 

「俺としては今すぐ君と戦いたいところなんだが、俺も色々と忙しくてね。今回はアザゼルに頼まれてコカビエルを回収しに来ただけさ。あと、そこのはぐれ神父と……」

 

白龍皇はそう言いながら倒れ伏したメロウに視線を移す。

 

「あの女にも事情を聴いたほうがよさそうだ。コカビエルの異常なパワーアップにも興味があるしな」

 

白龍皇はどうやらメロウもつれて帰るつもりのようだ。アザゼルって言ってたし、もしかしたらコイツ“神の子を見張る者(グリゴリ)”の手のものなのかもな。

でも、連れて行くって……実際どうなんだ?

 

『“神の子を見張る者(グリゴリ)”の堕天使がコイツを拘束できるとは思えん』

 

だよな。今のままならばともかく、回復すれば恐らく“神の子を見張る者(グリゴリ)”の幹部連中くらいならば皆殺しにしてしまうかもしれない。

そうなれば三大勢力のバランスも崩れて戦争のきっかけになりかねない。

だが止める理由がない。三大勢力ともめたくもないしどうすれば……。

 

 

 

ゾクッ!

 

 

 

瞬間、何者かの殺気が俺たちを襲った。

カグチとも違う気配だが感じられるそれは、メロウやカグチに勝るとも劣らない力だ。

ふとメロウのほうを見るといつの間にやら現れたのか、褐色肌をした初老の男性がメロウの肩をつかんでいた。その外見はどことなくガゼル王に似ているかもしれない。

 

「貴様……何しに来た……」

 

「師に命じられ、貴様の回収に来たのだよ。派手にやられたなメロウ」

 

メロウは男の言葉に悔しそうに歯ぎしりをする。口調からして同格のようだ。おそらくこいつも神祖とやらの高弟の一人ということなのだろう……。見た感じドワーフの祖ってところか?

 

「ふむ、強き者に見どころのありそうなやつも多数いるな。面白い。縁があればまた会えるだろう」

 

「……今回は負けを認めよう。だが、次に会った時が貴様たちの最後だ」

 

そう言いながら二人は地面に沈んでいく。そして二人の気配はやがて完全に消失した。

 

「フフ、あの女もそうだが、これほどの使い手が今までどこに潜んでいたのやら」

 

それは同感だな。基軸世界からこっちに移っていたとはいえ、今までこそこそとしていたわけだしな。数万年もの間何を企んでいたのやら……。

 

「まあいい。だがコカビエルはこちらで回収させてもらうぞ」

 

「ふん、好きにしろ」

 

コカビエルも四肢がもがれたこの状況では何もできない。素直に白龍皇に連れていかれるようだ。

白龍皇もそれを聞いてコカビエルとフリードを担ぎ、踵を返す。

 

『無視か、白いの』

 

瞬間、籠手からドライグの声が発せられる。どうやら久々に会ったライバルと少し話したいようだな。

 

『やはり、起きていたか、赤いの』

 

『まぁな。そちらの所有者はかなりのもののようだな』

 

『それはお互い様だろう? だが、赤いの。以前のような敵意が感じられないが?』

 

『それこそお互い様だ。俺もおまえも、今は戦い以外の興味対象があると言う事だ』

 

『そう言うことだ。こちらはしばらく独自に楽しませて貰うよ。偶には悪くないだろう? また会おう、ドライグ』

 

『それもまた一興か。じゃあな、アルビオン』

 

こうして二体の龍はそれを最後に会話を終了させたようだ。ドライグも久々に白龍皇と話せて少しうれしそうだ。

 

「では、また会おう。我がライバルよ。それ以外にも、戦ってみたい奴がたくさんいるしな」

 

白龍皇は俺と黒歌、ミッテルトを一瞥すると、そのまま飛び去って行った。

あれはまだまだ強くなるな……。現に先ほどの殺気を浴びても、怯むどころかむしろワクワクしていた。

ああいう頭のねじがいかれた奴ほど強くなるのは、向こうの世界ではよくあることだ。オレも負けてられないな。

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

「ファイトっすよイッセー」

 

とりあえず、サーゼクスさんが来る前に少しでも片づけをしたほうがいいと思い、俺は皆で瓦礫の撤去をしていた。ミッテルトも手伝おうとはしていたが、ふらついてたし片腕ないしで、さすがに安静にしたほうがいいと判断して寝かせている。

 

「よっと」

 

黒歌も途中までは手伝うようだ。するとそこに小猫ちゃんが近づいていき、黒歌の手伝いをしだした。

 

「……ありがと白音」

 

「……いえ、仕事ですから」

 

小猫ちゃんもまだ黒歌について納得してないところが多そうだ。それでも姉妹なんだしできれば寄り添ってほしいよな。

ふと、俺の視界に一人で聖魔剣を見つめる木場の姿が映った。

 

「やったな木場。決着つけれて」

 

「うん。イッセー君の、皆のおかげでとりあえずの決着を着けることが出来たよ。ありがとう」

 

そう言う木場の顔は憑き物が取れたように晴れやかなものだった。

小猫ちゃんも心配していたし、アーシアも木場が辞めるかもしれないとかなり不安がっていたからな。

木場の存在はオカルト研究部にとって大きい者なんだ。やめられたら困る。

 

「祐斗」

 

部長が木場の名前を呼ぶ。

木場は部長の方へと振り返ると部長は笑顔で木場を迎え入れた。

 

「祐斗、よく帰ってきてくれたわ。それに禁手(バランスブレイカー)だなんて、主として誇らしいわ」

 

木場はその場に膝まづく。

その姿はまさに騎士といった感じでとても様になっている。

 

「部長。僕は部員の皆を、何より命を救っていただいたあなたを裏切ってしまいました。お詫びする言葉が見つかりません……」

 

木場の言葉を聞いて部長は木場の頬を優しく撫でる。

 

「でも、あなたは帰ってきてくれた。それだけで十分よ。皆の想いを無駄にしてはダメよ」

 

「部長……。僕はここに改めて誓います。僕はリアス・グレモリーの騎士として、あなたと仲間たちを終生お守りします」

 

木場がそう言うと、部長は木場を抱き締めた。

 

「ありがとう、祐斗」

 

……すごい感動的な場面だな。

こんなときに思うのもなんだけど……。部長に抱きしめられてる木場が羨ましすぎる!

木場の奴は感動して何とも思ってないようだけど、部長のたわわなおっぱいが思い切り顔に当たってるんだよ!うらやましすぎる!

ちくしょう、イケメン王子め!俺と変われ!いや、変わってくださいお願いします!

 

「じゃあイッセーには私が抱きしめてあげるにゃん」

 

「うお!?」

 

すると後ろから迫ってきた黒歌が俺を抱きしめてきた。しかもおっぱいが顔に埋めるような形で。

お、おっぱいが柔らかいうえ汗と石鹸のいいにおいがする……。

やばい頭がくらくらしてきた。幸せすぎる。もう死んでもいいかも……。

 

「ちょっと黒歌っち!何してるんすか!?」

 

「姉さま、イッセー先輩が苦しそうですよ」

 

ミッテルトはそれを見て飛び上がり、小猫ちゃんもまた黒歌に対して軽蔑の目で注意している。

……いや、あれは俺も含まれてるな。俺が今どんな気持ちなのか正確に理解してるんだろう。

相変わらず勘の鋭い子だぜ。

 

「さてと」

 

ん?ふと部長が木場から離れて手に妖気を集中させる。

木場も怪訝そうな顔してるし、何をする気だ?

 

「あなたが帰ってきたことは嬉しいけどそれはそれ。これはこれ。皆に心配をかけた罰はきっちり受けてもらうわ」

 

「そ、それって……」

 

「そう。お尻叩き千回よ」

 

部長はいい笑顔で木場にそう告げた。木場は思わず逃げ出そうとするが、朱乃さんがそれを許さない。

 

「ふ、副部長……」

 

「ウフフ。しっかり罰は受けましょうね」

 

朱乃さんのドSが発動してやがる。それは獲物を見る捕食者の目だ。

観念したのか木場は抵抗をやめる。尻叩きとか二重の意味できついだろ……。

 

「き、木場……。大丈夫か……?」

 

思わず木場を心配してしまうが木場は答える余裕すらないようだ。気操法での強化もきっちりされてるしあれは痛いぞ……。

うん……とりあえず、頑張れ木場。

 

「うちもイッセーが馬鹿な事したら尻叩きしたほうがいいっすかね?」

 

「やめてミッテルト」

 

こうして懸念こそ残ったものの、一枚の写真から始まった聖剣をめぐる戦いは幕を下ろしたのだった。

 

 

 

*********

 

 

 

 

コカビエル襲撃事件から数日後。

 

「やあ、赤龍帝」

 

青い髪に緑のメッシュを入れた少女。ゼノヴィアが駒王学園の制服を着て堂々と部室にいた。

魔力感知で分かってはいたが、動揺を隠せない。なんでこいつが?

 

「な、なんでここに?」

 

俺が尋ねた瞬間、ゼノヴィアの背中から黒い翼が生えた。

気配で分かってたけど俺は驚きを隠せないでいた。

だってさあ、こいつ、この間まで悪魔を敵視してたじゃん。そのゼノヴィアが悪魔になったなんてぶっちゃけ信じられねぇ。

 

「ぶ、部長、これはどういう………」

 

「ゼノヴィアはね、私の騎士として悪魔になったの。これからよろしく頼むわね」

 

よろしく頼むと言われても……。

俺はまだ状況を理解できてないんですけど……。

すると、ゼノヴィアが暗い表情で笑いながら答えた。

 

「神がいないと知ってしまったのでね。破れかぶれで頼み込んだんだ。デュランダルがすごいというだけで私個人はそこまですごくなかったようだから、駒も一つで済んだしな」

 

おいおい、破れかぶれすぎるだろ!

信仰ってそれで良いのか!?

一見アダルマンさんと同じに見えるけど全然違う。あの人自分の術に失敗してアンデッドになったらしいからな。

 

「デュランダル使いが眷属に加わったのは頼もしいわ。これで祐斗とともに剣士の両翼が誕生したわね」

 

部長は楽しげだ。

細かいところにこだわらないのが部長らしいというか何というか。

まぁ、聖剣使いのゼノヴィアが眷属入りしてくれたのは頼もしいとは思う。使いこなせば伝説級(レジェンド)の武器はかなり強力になるだろうからな。

レーティングゲームの時なんか、相手は悪魔だから大活躍しそうだ。

 

「今日からこの学年の二年に編入させてもらった。よろしくね、イッセーくん♪」

 

「真顔で可愛い声を出すな」

 

「むぅ、イリナの真似をしたのだが、上手くいかないものだ」

 

はぁ、なんか出会ったときのイメージがかけ離れていくような……。いや、駅前の物乞いの時点で今更か……。

 

「でもよ、本当にいいのか? 悪魔になってしまって」

 

「そう、私は悪魔だ。もう後戻りはできない。……だが、敵だった悪魔に下るのはどうなのだろうか?神がいないと知った以上、私の人生は破綻したに等しいからな。いくら魔王の妹で邪悪ではないとはいえ……私の判断に間違いはなかったのか?ああ、お教え下さい、主よ!痛っ!」

 

何やらぶつぶつと自問自答した上、祈りを捧げて頭痛をくらってるよ。何してんだか。

こいつも結構、変なヤツだな。

アレ?待てよ?

 

「そういえばイリナは?」

 

ゼノヴィアがいるのにイリナがいないのはなぜだ?

俺の質問にゼノヴィアは嘆息しながら答える。

 

「イリナならエクスカリバーのかけらとバルパーの遺体をもって本部に帰ったよ。……私は神の不在を知ったことで異分子とされたがイリナはそれを知らない。イリナは私より信仰が深いからな、神の不在を伝えたら、心の均衡はどうなるか……」

 

イリナのことを思って伝えなかったのか。

だけど、これはゼノヴィアとイリナは味方から敵になったということだ。

ゼノヴィアはそれが分かっているのか、何処か覚悟を決めているようだ。

ゼノヴィアは続ける。

 

「私は最も知ってはならないことを知って異端の徒になってしまった。……私はキミに謝らなければならない、アーシア・アルジェント」

 

「え?」

 

急に話を振られ、アーシアは戸惑う。ちなみに神の不在についてはアーシアには伝えてある。

後から知ってショックを受けるよりも、早めに知ったほうがダメージが少ないと考えたからだ。

ショックを受け、一時は泣き通しだったが俺とミッテルト、部長が何とかケアしたことで今は吹っ切れたようだ。

 

「主がいないのならば、救いも愛も無かったわけだからね。本当にすまなかった。キミの気が済むのなら殴ってくれてもかまわない」

 

ゼノヴィアは深く頭を下げる。

突然の謝罪にアーシアは慌てるが、宥めるように言った。

 

「ゼノヴィアさん。私はこの生活に満足しています。今は悪魔ですけど、大切な方々に出会えました。私は本当に幸せなんです」

 

アーシアは聖母のような微笑みでゼノヴィアを許した。

やっぱりアーシアはいい子だよなぁ。

 

「そうか、ありがとう。……そうだ、一つお願いを聞いてもらえるかい?」

 

「お願い、ですか?」

 

首をかしげて聞き返すアーシアにゼノヴィアは笑顔で言う。

 

「今度、この学園を案内してくれないか?」

 

「はい!」

 

アーシアも笑顔で答えた。

初めの出会いは最悪なものだったけど、こうして仲良くしてくれるのは良いことだ。

ゼノヴィアも変人ではあるが悪いヤツじゃないしな。

 

「我が聖剣デュランダルの名に懸けて、そちらの聖魔剣使いと再度手合わせしたいものだね」

 

「いいよ、今度は負けないよ」

 

ゼノヴィアは木場にそう言うと今度は俺に向かい合う。その瞳からは熱いものが感じられる。

 

「君やあのミッテルトともな……。いずれ手合わせしてほしい」

 

「ああ、いつでも相手になるぜ」

 

俺と木場はゼノヴィアの挑戦に笑顔で返した。療養中で黒歌とともに家で休んでいるミッテルトも同じ反応をするだろう。

ここで部長がポンと手を鳴らす。

 

「さぁ、新入部員も入ったことだし、オカルト研究部も再開よ!」

 

「「「はい、部長!」」」

 

全員が元気良く返事をする。

この日、オカ研に久しぶりに笑顔が帰ってきた。

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

???side

 

 

 

『よく生きていた。無事で何よりだ。君がいなくなったら実験に遅れが出て大変だからね。今後ともよろしく頼むよメロウ』

 

「ハイ。身に余る光栄です」

 

メロウは恍惚とした表情で目の前の()()に跪いていた。その表情から感じ取れるのは歓喜。メロウは今、歓喜の絶頂にいたのだ。

 

「……それで、例の実験はどうなった?」

 

土精人(ハイドワーフ)にして高弟7位に位置するドォルグの発言にメロウは一気に不機嫌となった。だが信奉する主の手前、怒りを押し殺し、その質問に答える。

 

「……因子とともに結晶化した魂を使用しての疑似覚醒実験は成功よ。これで少ない魂でも安易に覚醒魔王を量産できるわ。もちろん、因子を利用すれば意志を持った武器に認められやすくなるのはわかっているし、魔素量が少ない奴でも神話級(ゴッズ)の武器を自在に扱えるようになるでしょう」

 

ドォルグはメロウの言葉を確認すると高弟5位のカグチに目を向ける。順位こそつけられているが、彼らは同格のため自由に発言できるのだ。

 

「カグチ。お前のほうは……?」

 

「ああ。()()()()相手に交渉を行ってきた。まあ、たびたび顔を合わせていた連中だからスムーズにいったぜ。実験に使う兵を何体か貸してくれるそうだ。うまく改造してくれとよ……」

 

その言葉にドォルグは大きくうなずき思案する。

 

「強き兵を量産すれば後は身体。師の力に耐えられる強い依り代か」

 

ドォルグが玉座に目を向けると、そこには一体の人形が鎮座していた。

その人形からは竜種に匹敵するほどのすさまじい波動が流れている。

 

『そうだね。こんな人形じゃあ余をとどめるのがやっとだ。余の力に耐え、強い意思を持たない身体。なかなか見つからないものだ。あの時は世界を見渡せばすぐに見つかるかもと思って、わざわざ酷使した古い肉体を捨てたというのに……』

 

「ですが、それが見つかれば行動に移せるというわけですね」

 

メロウの言葉に人形は笑う。やがて人形の身体は力に耐えきれないかのように崩壊していき、残骸から人形の魂のような光が漏れ出してきた。

 

「ああ。ヴェルダナーヴァ様亡き今、余を縛るものはない。基軸世界も、この世界も、総ての世界を余の実験場にする」

 

光は笑う。楽しそうに。

 

「数多の欠陥種族を滅ぼし、今度こそ完璧な生命を生み出そう。それがあのヴェルダナーヴァ様の望みなのだから」

 

光は笑う。嬉しそうに。

神祖は笑う。自らの欲を満たすため。

完璧な種族を作りたいという強い探求欲を満たすための実験場(遊び場)を求めて……。

彼らの野望はひそかに、だが確かに進んでいたのだ。




カグチたちの順位を変更しました。
番外編で新たな神祖の弟子が出るとはな……


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ミッテルトの過去です

今回はミッテルトの過去編です。
少し胸糞描写もあります。
それでもよろしければどうぞ。


ミッテルトside

 

 

 

「近頃、魔物の国とやらがものすごい勢いで発展している。その国の調査を貴様に命じる。魔物である貴様ならば警戒もされないだろう。命をもって遂行しろ」

 

「ハイ、お任せください」

 

命を持って……。おそらくうちは捨て駒に等しいんでしょう。危険かどうかもわからない魔物の国、そこの情報をつかむのがうちの仕事。それがわかっていてなお、うちはそれを引き受けた。

逆らうことなどできないのだから……。

 

**********

 

 

「え? ここはどこ……?」

 

これは今から二十年以上も昔のこと……。

うちがこの世界に召喚されたのは、まだ6歳くらいの時だったっす。

うちを召喚したのはファルムス王国という、当時の基軸世界でも有数の大国とされる国だった。

ファルムスの大国たる所以は数多くの異世界人を保有するという軍事力。

人間は異世界からこの世界に召喚される際、ユニークスキルという強力な力を身に宿す。

その力こそファルムスが大国たる理由だったのだ。

そんな中召喚された者の一人がうちだった。

 

「な、なんだこれは……。黒い……翼……?」

 

「ま、魔物……? まさか異世界の魔物だというのか?」

 

周りのざわざわと騒ぐ声が聞こえてくる。

妙な光に包まれ、気付いたらまるで見知らぬ土地にいた。この時のうちは本当に混乱していた。状況がまるで理解できなかった。

すると人間でありながらすさまじい……かつて遠目からみた堕天使幹部級の魔力を纏う老人が近づいていき……。

 

「ふむ、まさか異世界にも魔物がいるとはな。じゃが利用価値はあるじゃろう。せいぜい死ぬまでわしらファルムスの役に立つがいい」

 

「え?」

 

そういうや否や、老人──魔人ラーゼンはうちの胸に杖を突きだしてきた。その瞬間、すさまじい激痛、魂そのものが侵されたかのような嫌な感覚がうちの体を包み込んだ。

 

「きゃああああああ!?」

 

その時うちはラーゼンによりとある呪いを受けた。

それはかつてミュウランさんという人が、魔王クレイマンにかけられた呪いと近いもの。

すなわち、生殺与奪の権を完全に握られる呪いだった。

その呪いの激痛から、うちはすぐに意識を手放した。

 

 

 

**********

 

そこから先のファルムスでの生活は……一言で言えば壊滅的。当時の教義で、魔物の存在を認めないとしていたルミナス教の過激派の多かったファルムスでの、うちへの対応は最悪そのものだったのだ。

目が気にくわないだの態度がむかつくだのなんだの下らない理由で鞭に打たれるなんざ当たり前。食事も残飯のようなものしか与えられない。

他国との戦争などの際は必ず最前線に送られ、死にかけることなんざ腐るほどあった。

しかもある程度成長し、大きくなるにつれ、うちへの対応はさらにひどいものになていった。

 

「全く、下等な魔物を使ってやるだなんて俺たち優しいな」

 

「本当だな、感謝しろよ……」

 

「あ……、ありがとう……ございます……」

 

うちは下卑た欲望のはけ口としてファルムスの兵士たちにいいように使われるようになっていた。

兵士以外にも、うちと同じ境遇のはずのほかの異世界人なんかにも好きなようにいじられて、でも魂にかけられた呪いのせいでどうすることもできなくて……。

 

「う、ううああ……」

 

ただただ泣き寝入りをすることしかできなかった。

そんな中覚えたことが、心の均衡を保つため、虚構を、見栄を飾ること。

 

「次の戦線ではお前を送り込むが、かまわんな……?」

 

「ハイ、もちろんです。この程度、私にとっては造作もありません」

 

反抗することはできない。それでも生きてさえいれば、いつかきっと解放されるはず。だから最期まで頑張ろう。

そんなことなんて現実的に考えてあるはずもないのに、自分自身に見栄を張って自分自身を励まし続けた。

 

その結果手に入れたのがユニークスキル“ 見栄者(カザルモノ)”。

見栄を張り、自分の押し殺すことで自らを強化するというスキルだ。

なんともうちらしいスキルだ。うちはそう思った。

 

 

**********

 

 

「何……ここ……」

 

初めてやってきた魔国は……一言で言うと圧巻された。街にやってくるなんてことは一度もなかったんすから……。

今まで奴隷も同然の扱いを受けていたうちにとって、ここまで活気づいていた街は見たことがなかった。

あたりから漂ういい匂いは、どことなく、ぼんやりとした記憶にある故郷の様で懐かしい気持ちななり、あまりの人の多さでふらついてしまいそうになっていた。

 

(こ、これじゃあ任務どころじゃないっす……)

 

ま、まずは何処か拠点となりうる場所を作らねば……。

そう考えていた矢先……。

 

「おっと、大丈夫?」

 

「あ、すみません」

 

うちはとある警備員にぶつかった。その顔立ち日本から来た異世界人とどことなく似ている。

その警備員はぶつかり倒れたうちに、迷わずに手を差し伸べてくれた。

 

「だ、大丈夫?立てる?」

 

「は、はい……」

 

手を差し伸べられる。そんな経験久しくなく、一瞬あっけにとられたがうちは取り合えずその手をつかんだ。

その次の瞬間だった。

 

 

ぐうううううう

 

 

大きな腹の音が鳴った。思えばもう三日は食事をしていない。

 

「腹減ってるの?」

 

「……は、はい」

 

「そっか。じゃあさ、俺もこれから飯にするところだし、一緒に食べてく?」

 

「……いいん……ですか?」

 

「もちろん。そこにうまい飯屋があってさ。あ、自己紹介がまだだったっけ。俺は兵藤一誠。君は?」

 

「……ミッテルト……です」

 

「ミッテルトか。よろしくな」

 

これが、うちとイッセーの初対面だった。

 

 

 

*********

 

 

「たくさん食べるんだよ」

 

「ありがとうございますゴブイチさん」

 

イッセーとともに行ったのは、町でも大人気だという定食屋。この街の盟主も頻繁に通っているという。

だが、うちはその情報よりも目の前の料理にこそ驚愕した。

そこにあったのは前の世界でメジャーな大人気料理だったのだ。

 

「カレー?」

 

「アレ?知ってるの?」

 

イッセーの言葉にうなずくと、イッセーは嬉しそうな顔になった。

 

「ひょっとして、ミッテルトって地球出身だったりする?」

 

「はい」

 

「マジか!同郷に会えるなんてめっちゃうれしいぜ!ここのカレーおいしいから食べてみなよ」

 

おずおずとうちはスプーンを手に持ち、カレーを掬う。

見た目、におい、何もかもが懐かしい。うちはそれを恐る恐ると口に含んだ。

その瞬間。

 

 

 

 

 

「う、ううう…………」

 

 

 

思わず涙があふれてきた。温かい。こんな食事するのいつ以来だったかな?

 

「?ど、どうしたミッテルトちゃん?ま、まずかった?」

 

「……ごめんなさい。ごめんなさい」

 

どうしよう。涙が止まらない。

カレーが美味しい。美味しいよ……。

うちは泣きながら、嗚咽しながら目の前のカレーをすべて平らげたのだった。

 

 

 

*********

 

 

「お恥ずかしいところをお見せしました」

 

「いやいや、突然泣いたときは驚いちゃったけど、泣くほどおいしかったといわれたら料理人冥利に尽きるってもんさ」

 

ゴブイチさんはそういいながらうちのことを慰めてくれた。

イッセーもなぜか誇らしげだ。

 

「どう?メチャクチャおいしかったでしょ?」

 

「はい。ありがとうっす。兵藤さん」

 

「どういたし……ん?す?」

 

「あ」

 

(しまった。やっちまった)

 

この時うちはファルムスの人たちにしゃべり方まで制限されていた。

故に本来の口調を隠していたのだが、故郷の料理を食べたことで気が緩んだのか、うっかり素の言葉で話してしまったのだ。

 

「……実は、これがうち本来のしゃべり方なんす。変っすよね」

 

「いやいや、全然そんなことないよ。俺の友達にもそんな口調の奴いるし」

 

イッセーのその言葉の直後、食堂のドアが勢いよく開き、大きな鼻が特徴的なゴブリンが入ってきた。

 

「いや~疲れたっす。ゴブイチさ~ん何かないすか?」

 

「……ほらな」

 

「……プっ、本当っすね」

 

この日うちは、久しぶりに心の底から笑うことができたんす。

 

 

*********

 

 

それからうちはイッセーの家で世話になりながら魔国連邦になじんでいった。

リムル様は同郷で、なおかつ年が近いからこそ励まし合えるものもあると思う。そんな理由でうちはイッセーの家に住むことになった。

 

「イッセー、あんたなにやってるんすか!?」

 

「うげ、見つかった……」

 

「逃げるっすよ!イッセー!」

 

暮らしていてわかったことはイッセーは無類の女好きであるということ。

特に巨乳が好きなようで、よくおっぱいの大きい人相手にゴブタと共にナンパしたりしていた。

でも、ただの女好きって訳でもなく、優しい人であると言うことも暮らしていてわかった。

それを特に感じたのがうちが魔獣に襲われたときだった。

もちろんうちならばなんなく追い払うことができたんすが、イッセーはうちを庇って代わりに戦ったのだ。

当時はまだドライグの力をうまく扱うこともできなかったため、イッセーは魔獣相手に割と酷い目に遭っていた。

それでも後ろにいるうちをかばって戦い抜いたのだ。

当時のうちはそれが本当に不思議だった。

ファルムスの兵士ならばむしろうちを盾にして逃げようとするだろう。なのになぜそうしなかったのか……。

うちは思いきってその日の夜に聞いてみた。

 

「……なんで逃げなかったんすか?」

 

その言葉にイッセーは少し悩んだ後、照れ臭そうに答えてくれた。

 

「あのな、女の子置いて逃げるなんてカッコ悪いことするわけねえだろ。特にミッテルトは友達なんだから……」

 

友達……。

うちには縁遠い言葉だと思っていた。

でもイッセーは何てことないようにそういってくれた。

この時うちは心の底から幸せだった。

シュナ様からは織物を教わった。ハクロウ師匠からは剣術を、ゴブイチさんからは料理を……そして何より、イッセーのおかげでうちは心を取り戻していくことができたんだと思う。

 

でも、それは長く続くものではなかった。

 

 

『ミッテルトよ、首尾はどうだ?』

 

『っ!ら、ラーゼン様……』

 

『時期が来た……これよりファルムスは行動を起こす。お前も役割を果たすがよいぞ……』

 

『……了解しました』

 

うちは魔物の力を抑制する結界をはるために行動に移そうとした。

堕天使であるうちは聖なる力にも適正がある。

ゆえに任されたことだった。

だが……

 

「どこ行くつもりだよ!?ミッテルト……」

 

「……イッセー。そこをどくっすよ」

 

「今町は大変なことになってる。お前も早く避難した方が……」

 

ああ、うちはこれからこの人を……魔国の皆を裏切らなくてはならない。

辛いな……苦しいな……でも……仕方がないんすよ……うちの魂の呪いが、逆らうことを許さないのだから。

 

「え?」

 

突如斬りつけられたイッセーは何が起こったのかわからないようだった。

後ろから近づいていたファルムスの兵士に気づかなかったのだ。

 

「いつまで油を売っているミッテルト。とっとと結界を張りに行くぞ」

 

「……はい」

 

「ま、待てよ……。どういうことだよミッテルト……」

 

「……うちは……私はファルムス王国のミッテルト。この国を滅ぼすため、この街に来たのです」

 

イッセーは信じられないといったふうにうちを見つめる。

心が苦しい……でも、涙を堪える。

 

「今までご苦労でしたね。貴方のおかげで諜報が捗りました」

 

「……今まで、騙していたのかよ?」

 

「ええ、貴方はお人好しでしたし、見てて滑稽でしたよ」

 

「フフフ、魔物に近しい人間にはお似合いの最期だな」

 

イッセーを見て可笑しそうに嗤うファルムスの兵士に殺意がわく。でも、非難する資格なんてうちにはない。

だってうちは、これからこの国を滅ぼすための結界を貼るのだから……。

 

「貴方と過ごした日々、悪くありませんでしたよ」

 

「……………っ」

 

そう言いながらうちはその場をあとにした。

その時うちは自分の頬に流れる涙に気づかなかった。

 

 

 

 

**************

 

 

「き、きいてないぞ!?こんな化けも……」

 

目の前で兵士が燃え尽きるのが見える。

ベニマル様の黒炎だ。初めて見たけどすごい威力。

 

「よお、ミッテルト」

 

「……ベニマル様。私が相手です」

 

「あいにくお前の相手をするつもりはない。お前の相手はこいつに任せる」

 

「……っ!?」

 

そう言ってベニマル様の背後から現れたのはイッセーだった。イッセーは強い決意を秘めた目でうちを見据えた。

 

「……う……私を殺しに来ましたか」

 

「違う」

 

てっきり騙された恨みをはらすために来たと思ったうちは、思わず首をかしげた。そして、その後に続く言葉はうちの予想だにしなかったものだった。

 

「お前を助けに来た……ミッテルト」

 

耳を疑った。助けに来た?

うちは今までイッセーを騙し、この国を滅亡直前まで追いやった大罪人だ。助けられる道理なんて……。

 

「話を聞いていなかったんですか!?私は……うちは今までイッセーを騙してたんすよ!!」

 

「じゃあなんであの時泣いたんだよ!!」

 

イッセーの叫びにうちは思わず黙り込んでしまう。

イッセーはうちと打ち合いながらも叫び続けた。

 

「騙してたって言うんなら泣く必要なんてないだろ!!あの時カレー食ったときの涙も嘘だったのかよ!!一緒に遊んだときの笑った顔も嘘だって言うのかよ!!全部嘘だったなんて絶対言わせねえぞ!!」

 

イッセーはうちと打ち合いながら叫ぶ。この時はまだうちの方が強かったけど、イッセーの気迫に思わず後ずさりしてしまう。

 

「うちだって……うちだってこんなことしたくないんすよ!!」

 

「でも駄目なんすよ!!逆らえないんすよ!!うちには、召喚されたときにかけられた魂の呪いで命令には逆らえない!!」

 

「ずっとずっと心が苦しかった!!最初から裏切るってわかってたのに仲良くなりたいと思ってしまった!!」

 

「苦しかった!!辛かった!!」

 

うちも我慢ができずに堰が途絶えたかのように叫ぶ。

叫べば叫ぶほどうちはうち自身の弱さにうんざりする。

 

「もう嫌っすよ……。始めてできた友達を裏切るだなんて……。もう、消えてなくなりたいっす……」

 

うちはその場で座り込んで泣いてしまった。

 

「お願いっすイッセー。うちを……殺してください」

 

ベニマル様とイッセーはなにも言わずに黙り込む。

ベニマル様の瞳には憐憫の情が込められている。

 

「……いやだ!」

 

「え?」

 

イッセーは涙も流しながらそう言った。

 

「言ったろ。俺はお前を助けに来たってよ……」

 

そう言いながらイッセーは拳に魔力を籠める。訓練のときに相手が女性だった際よく使う“洋服崩壊(ドレスブレイク)”だと一目で気づいた。

 

「イッセー!?なにを!?」

 

「俺の“洋服崩壊(ドレスブレイク)”でお前の魂に纏わりついているの呪いとやらを破壊する」

 

「はあ!?そんなことできるわけ……」

 

「やってみねえとわかんねえだろ!!ドライグ!!」

 

『boost!』

 

イッセーは魔力をドライグの力で倍加する。

 

「ユニークスキルが俺の願望からなるってんなら、洋服以外だって破壊できるはずだ……。お前が俺の欲望から生まれたって言うのなら……俺の友達を助けるためにも、俺に力を貸しやがれ欲情者(ヨクヲモツモノ)!!」

 

そしてイッセーは魔力を解き放った。

そしてドライグの倍加の作用がイッセーの魔力だけでなく、ユニークスキルの力までも引き上げたのだ。

その結果………

 

 

 

 

パリン!!

 

 

 

「あ……」

 

 

 

 

うちの服と共に魂の枷が外れる音がした。

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

「…………どうして……」

 

「ん?」

 

「どうして呪いが、“洋服崩壊(ドレスブレイク)”で壊せると思ったんすか?」

 

「あ~、実はリムルの案なんだよ。リムルが、女性の裸を覗きたいと言う理由で服が破れる権能を作れたんだから、助けたいと強く思えばきっとスキルは応えてくれるってさ……」

 

曰く、リムル様はうちの魂の呪いに気付いたらしい。魂の呪いは普段は奥底に潜んでいるため、日常生活では気付くことはできなかったが、ファルムス侵攻時に強制力を持たせるため、呪いの力が表面に出た。それを遠視で確認できたから気付いたそうだ。

その後、うちがイッセーを殺さずにいたことと、何よりミュウランさんという仕方なく従っていた前例があったからこそ、うちの行動も本心ではないと考えたらしい。

 

「……それでも、助けてもらえる道理なんてなかったのに、なんで……」

 

「友達だからに決まってるだろ。理由なんか他にねえよ」

 

「ま、住民は必ず生き返る。だがらリムル様が許すと言うのなら、俺としても異論はない。お前にも同情する点はあるしな……」

 

うちはその言葉を反芻する。

こんな裏切り者のうちを受け入れてくれる。

そんなこともうないのだろうと考えていたからこそ、その暖かさに涙が出てくる。

 

「……あ、あと純粋にミッテルトのおっぱい見たかったって気持ちもある」

 

「…………はあ!?」

 

イッセーの爆弾発言に思わず目を白黒させる。あの土壇場でなに考えてるんすかこの人!?

 

「い、いやさ……俺ってどちらかというと大きいおっぱいの方が好きなんだけど、最近小さいおっぱいには小さいなりのよさがあるということに……」

 

「いや、聞いてないっす」

 

全くこの男は、変なところでしまらないすね。見ればベニマルさんも頭を抱えてうつむいているし……。

裸なんざファルムスの兵士にだってさんざん見られてきた。でも、イッセーに見られたと思うと何故か猛烈に恥ずかしい。

顔を赤くしながらむくれるうちを見て、イッセーは思わず吹き出してしまう。

それにつられてうちもまた笑った。

 

「じゃあ、早速帰ろうぜ。俺たちの家によ……」

 

イッセーはうちに自分の上着をかけ、うちを背におぶる。

少し気恥ずかしさもあったけど、その背はとても温かく、うちを安心させる。

何よりも、一緒に帰ろうと言ってくれたその言葉がうちはとても嬉しかった。

 

 

 

(ああ、そうか。うちってイッセーの事好きなんすね……)

 

 

うちはこのとき、始めてイッセーへの恋心を自覚したのだった。

 

 

 

 

**************

 

 

「ふあ~……」

 

部屋から覗く朝日の眩しさでうちは目を覚ます。

 

懐かしい夢を見たな……。

 

そう思いながらうちは辺りを見渡す。

部屋には部長やアーシアちゃん、そしてしばらく家に泊まることとなった黒歌っちがまだ寝息をたてている。

うちは起こさないようにそっと部屋を出る。

先日の戦いの傷が響いてるのかまだ不調だが、それでもうちはイッセーの部屋に向かう。

 

「スゥー、スゥー」

 

「……」

 

うちはイッセーの寝顔をじっと見つめる。

同居人が増えた今、なかなかこんなことできなくなったけど、しばらくはうちに独占させてほしいっすね。

 

「…………」

 

うちは寝ている隙きにイッセーに軽く口づけをする。

イッセーは気付いてないのか軽く寝返りを打つ。そんな何気ないことでうちは思わず笑ってしまう。

 

「大好きっすよ、イッセー」

 

そう告げてうちはお弁当を作るため台所へと向かったのだった。

 




ストックがつきたのでしばらくは休みます。
またストックが貯まったら再開しますが、就活とかもあるので多分早くても二~三ヶ月とかかかると思います。
ただし、エタりはしないのでお許しください。


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第四章 停止教室のヴァンパイア
堕天使総督です


イッセーside

 

 

 

「ふあ~ねむ……」

 

「最近平和っすからね~」

 

ゼノヴィアがオカルト研究部に入ってから早一週間がたった。あれほどの激闘を繰り広げたためか、今だに疲れもたまっているようだ。別に闘いが嫌いってわけでもないが、俺としてはやっぱり平和が一番だな。

 

「黒歌っちはしばらく家に泊まるようっすし、これを機に小猫ちゃんと仲直りできるといいっすね」

 

「そうだな……」

 

黒歌はしばらく身分を隠して我が家に滞在するようだ。今はクロネコ姿で布団にくるまっていることだろう。

部長はまだ少し警戒しているし、小猫ちゃんとの和解話もまだ聞いてはいない。

でも少しずつ歩み寄っていければそれでいいだろう。

 

「あ~、そこの君。ちょっと道訪ねたいんだが、いいかい?」

 

「ん?」

 

すると誰かが俺たちに対して話しかけてきた。

その男は黒髪の悪そうな風貌の男。相当のイケメンだが木場とはタイプが違う。ワル系好きの女子なら一発で落ちそうだ。

 

「はい。どこに行きたいんですか?」

 

「すまないね……。引っ越したばかりで迷ってしまったんだ。このマンションに行きたいんだが……」

 

「あ~、それならここを曲がってこっちっすね」

 

「なるほど助かった。お礼に俺ん家こないか?」

 

そう言って俺たちは男をマンションへと案内する。

部屋の中には最新のゲーム機から懐かしのゲームカセットまでため込んであった。

あ、これは今日発売の新作レースゲーム。買おうとは思ってたんだよな。

 

「せっかくだしやってくか?」

 

「あ、いいんですか?じゃあ一緒にやりますか」

 

「負けないすよ」

 

こうして俺たちはレースゲームで遊び始めた。

フフフ、こう見えて俺はレースゲームでは最速とまで言われた男だ。そう簡単には負けないぜ。

 

『GO』

 

スタートと同時にそれぞれの車が画面で駆け出す。初心者であるらしいこの人やミッテルトともども最初は圧倒してたんだが……。

 

「一通り覚えた。そろそろ追い抜くか」

 

「うお!?」

 

すると先ほどとは状況が一転。俺がおじさんに抜かれ始めたのだ。むろんそれだけではない。運がいいのか強アイテムばかりを引いてミッテルトまで俺を抜かし始めた。

 

「よし、イカ墨っすよ」

 

「くそ俺は……緑甲羅かよ!?」

 

決着はついた。優勝はおじさん。次点でミッテルトだ。くそ、俺の最速伝説が……。

おじさんはゲラゲラ笑ってるし……。悔しい。

 

「ぐぬぬ、もう一回!」

 

「お、気合いはいってるねぇ。じゃあ、もう一戦しようか。──赤龍帝、兵藤一誠君」

 

そう言いながら男性は黒い翼を出しながら立ち上がる。

その数はミッテルトと同じ十二枚。

やっぱり堕天使だったか。強さも覚醒前のコカビエルを上回っているようだし、おそらくこの人が……。

 

「あなたがアザゼルさんですか……」

 

「お?ひょっとして気づいていたか?」

 

「まあ、堕天使ってのは一目見て気づいてましたけど……」

 

「隠してたつもりだったが見破られてたか……。すごいな」

 

確かに大した隠蔽力だ。妖気の制御も完璧だしパッと見では人間にしか見えなかっただろう。

だが、俺みたいに解析特化の究極能力(アルティメットスキル)を持つものを欺くことはできない。それをしたいならそれこそ究極能力を手に入れなければ不可能だろう。

 

「取り敢えず、飲み物でも飲むか?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

俺達はアザゼルから受け取ったジュースを飲む。

…………旨いな。なんのジュースだコレ?

 

「ところで、アザゼル……様?はどうしてこの街に来たんすか?」

 

「それは俺も気になる。何で堕天使の王であるあんたがワザワザこんな場所に?」

 

「別に王ってわけじゃないけどな……。

まあ、コカビエルが妙なことをしてるって話を聞いたから、その監視ってところだな」

 

なるほど。確かに堕天使の幹部が独断で行動してればこの人の目にもつく。

コカビエルは堕天使の中でも屈指の武闘派って話だし、生半可な奴じゃあ監視することすら不可能だろう。

そこでワザワザこの人が出向いたわけか……。

あれ?待てよ……?

 

「じゃあ、あの白龍皇は?」

 

「ああ、ヴァーリのことか。さすがに俺が直々に手を下すのは体面上まずいから、アイツにコカビエルを倒すことを頼んだって訳だ。まあ、そこの嬢ちゃんが倒しちまったみたいだがな……」

 

アザゼルはそう呟きながらミッテルトを見る。

 

「まさか、はぐれの堕天使にこれほどの使い手がいたとはな……。俺が本気でやっても危ないかも知れねえ。赤龍帝にしろお前にしろ、一体どんな手品を使ってそこまで強くなったんだ?」

 

「とても恵まれた環境っすね。ウチは仲間たちに恵まれたんで」

 

それを聞いて頷くアザゼル。その瞳には好奇心が見てとれる。なんかラミリスさんとか師匠とかそこら辺に近い感じがする。

多分他意とかかはなく、純粋な興味で聞いてるんだろう。

アザゼルは深く追求することもなく、納得したように頷いた。

 

「正直、まだ興味はつきないがこれ以上聞いても無駄っぽいな……。なら、話を変えるが、この間は部下が悪かったな」

 

「ああ……」

 

アザゼルが言っているのはおそらくレイナーレの事だろう。

でもあの事件はメロウの悪だくみが原因だ。別にこの人が謝ることでもない気がするんだが……。

 

「いや、そういうわけにはいかない。あの時はあくまで勧誘するだけのつもりだったし、たとえ操られていたにしても、うちの部下がお前たちに迷惑をかけた事実はなくならないからな。この場を借りて謝罪したい」

 

「まあ、そこまでいうなら……」

 

こうして話してみると、アザゼル……いや、アザゼルさんはかなり信頼のおけそうな感じだ。

オチャラケているが、少なくとも悪い人ではなさそうだな。

こうして俺と堕天使陣営の本格的なファーストコンタクトは幕を閉じたのだった。

 

 

 

******************

 

 

 

「アザゼルと会った!?」

 

「ハイ」

 

次の日。俺はアザゼルさんとの邂逅を部長へと報告した。

それを聞いた部長は眉を吊り上げ、怒りをあらわにしている。どうやら、アザゼルさんが俺たちと接触したことが気に食わないご様子のようだ。

 

「そんなに怒らなくてもいいんじゃないっすか?三すくみのトップ会談がここで行われる以上、下見くらいはするでしょうし……」

 

そう。アザゼルさんに聞いたのだが、近々この駒王町で三大勢力によるトップ会談が行われるらしいんだ。アザゼルさんも元々はその下見に来たらしい。

だからそこまで怒らなくても…………。

 

「それでもよ……アザゼルは神器に強い興味を持つと聞くわ。イッセーに接触したのはおそらく“赤龍帝の籠手”を持ってるからでしょう……。何を企んでるかわからない以上、油断はできないわ!」

 

全然信用してねえな……。まあ、敵のボスみたいなものだし当然といえば当然か……。

だが、話してみた感じあの人は信用できそうな気がする。確かに、ドライグに興味があるのも事実なんだろうけど、謝罪に関しても嘘は言っていないと思う。あの人の言葉にはちゃんと誠意があった。

 

「大丈夫だよイッセー君。君のことは僕が守るから」

 

木場の一言に俺の背筋が一気に凍る。それは普通、女子に言う言葉だろ!?なんで真顔で男である俺にそんな言葉を吐くんだよ!?最近ただでさえ、妙な噂が立っているというのに……。

そんな俺に気にせず、木場はさらに言葉をつづける。

 

「君は僕の恩人で大切な仲間なんだから当然さ。確かに今の僕では君の力には遠く及ばないかもしれない。だけど、禁手に至った僕なら少しはイッセー君の役に立てると思えるんだ。……ふふ、少し前まではこんなことを言うキャラじゃなかったんだけどね。君と付き合っているとそれも悪くないと思ってしまったよ。それに……なぜだか、胸の辺りが熱いんだ」

 

それを聞いた俺はさりげなく木場から距離をとることにした。

さすがにキモい……。俺にBL趣味はこれっぽっちもねえんだよ……。

それを見た部長は呆れた様子を見せる。

 

「しかし、どうしたものかしら……。会談前でピリピリしている状況だというのに、アザゼルは一体何を考えているの?」

 

「アザゼルは昔から、ああいう男だよ。リアス」

 

突如、俺たちの誰でもない声が聞こえてきた。視線を移すとそこには見覚えのある紅髪の男性が微笑みながら立ちすくんでいた。

それを見た朱乃さんたちは即座に跪いた。アーシアとゼノヴィアはそれを見て疑問符を出している。

 

「お、おおお、お兄様!?」

 

その言葉を聞いて、アーシアとゼノヴィアも目の前の男性が誰なのかわかったようだ。

目の前にいるこの男性こそ部長のお兄さんにして、現魔王の一人、『サーゼクス・ルシファー』さんその人だった。

 

「アザゼルはいたずら好きではあるが、コカビエルの様な真似をする男じゃない」

 

目の前の人が魔王様だとわかったからか、アーシアもぎこちないながらも跪こうとする。

 

「くつろいでくれたまえ。今日はプライベートできてるんだ」

 

それを手で制し、かしこまらないよう俺たちに促す。みんなもそれに従い、立ち上がった。

 

「お兄様はなぜここに?」

 

怪訝そうに部長はサーゼクス様に目的を尋ねる。三大勢力の会談はまだ一週間くらい先のはず。こんなに早く来たのにはなにか目的があるのだろう。

すると、サーゼクスさんは一枚のプリントを出した。

 

「なっ!?」

 

部長が目を見開く。

あれには見覚えがある……というか、昨日貰ったばかりだ。あれはもしかして―――

 

「もうすぐ授業参観だろう。私も参加しようと思ってね。是非とも勉学に励む妹の姿を見たいものだ」

 

やっぱりか。父さんたちも有給とって乗り込んでくるとか言ってたし、魔王様もそんな感じなんだろう。

 

「そ、それを伝えたのはグレイフィアね!? 黙っていたのに!!」

 

「ハイ。学園からの報告はグレモリー眷属のスケジュール管理を任されている私のもとへ届いております。ですので主へ報告いたしました」

 

「私はこれに参加する為だけに、魔王の仕事は全て片付けてきたんだ!安心しなさい。父上もちゃんとお越しになられるそうだ」

 

それを聞いて部長は嘆息する。もしかして学校生活を家族に見られるのが嫌なのか?

 

「お兄様は魔王なのですよ? 一悪魔を特別視するのは……」

 

なるほど。いくら肉親といえど、魔王であるサーゼクスさんに特別扱いしてほしくないってところか。

しかし、部長のその言葉を聞いてもサーゼクスさんは首を横に振った。

 

「いやいや、実はこれは仕事の内でもあってね。三大勢力の会談を学園で行おうと思っている。授業参観に来たのはその視察も兼ねているんだよ」

 

「「「!?」」」

 

え?ここでやるの?そんな重要な会議を学校でやっちゃうの?

 

「え?ここで?ほ、本当に?」

 

まあ、驚くわ。でも、選ばれたからには何かしらの理由があるはず。

聞いてみると案の定、ちゃんとした理由があるみたい。

何でもこの学園には“赤龍帝()”や“聖魔剣使い(木場)”、“デュランダル使い(ゼノヴィア)”に“魔王の妹”が二人、おまけに“力ある堕天使(ミッテルト)”などが在籍し、コカビエルに白龍皇までもが襲来してきている。

 

「これを偶然と片付けるのは難しい。様々な力が入り混じり大きなうねりとなっている。ゆえにうねりの中心点たるこの学園こそ、会場にふさわしいということになったんだ」

 

なるほど。確かに言えていることだ。すると突如ゼノヴィアが会話に介入してきた。

 

「あなたが魔王か。私はゼノヴィアというものだ」

 

「ごきげんよう、ゼノヴィア。私はサーゼクス・ルシファー。デュランダル使いが妹の眷属になったと聞いたときは耳を疑ったよ」

 

「ああ。私も自分が悪魔になるとは思わなかったよ。今まで葬ってきた悪魔に転生するなんてと、たまに後悔している。破れかぶれでなったとはいえ、本当にこれで良かったのかと思う時があるよ。……うん、そもそも、私はなぜ悪魔になろうと考えたのだ?やけくそ?確かあの時は、総てがどうでもよくなって……でも、本当に悪魔でよかったのか?」

 

何やらゼノヴィアが自問自答しだしたぞ。

それを見てサーゼクスさんは愉快そうに笑う。

 

「いや、リアスの眷属は愉快な者が多い。ゼノヴィア、君の力を是非ともリアスの眷属としてグレモリーを支えてほしい」

 

「聖書に記されている伝説の魔王ルシファーに言われては、私も後には引けないな。やれるだけやってみよう」

 

「ありがとう、ゼノヴィア」

 

魔王様のお礼を聞いてゼノヴィアは少し照れたようにしている。それを見て魔王様は時計のほうに視線を移す。

 

「まあ、そういうわけで、私は前乗りしてきたわけだが……、今は夜中だ。この時間帯で宿泊施設は空いているのかな?」

 

確かに、時計をみると結構遅い時間だった。

流石にこの時間に宿をとるのは難しいだろうな。

あ、そうだ。

そこで、俺は思いついたことを一つ提案をした。

 

「それなら、俺に良い考えがあります」

 

それを聞いて部長は頭を抱え、サーゼクスさんは不敵な笑みでほほ笑むのだった。




お久しぶりです。
はんたーです。
今だ就活中ですが、息抜きがてら再開しようかなと思います。


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魔王様来訪します

イッセーside

 

 

 

 

「妹がご迷惑をおかけしてなくて安心しました」

 

「そんなお兄さん!リアスさんはとっても良い子ですよ」

 

「ええ、イッセーなんかにはもったいないくらい素敵なお嬢さんですよ」

 

現在、リビングではサーゼクスさんと俺の両親が和気あいあいとしていた。

察しているとは思うが、俺の提案とはサーゼクスさんとグレイフィアさんを我が家に泊めることだった。

最初はサーゼクスさんも目を丸くしていたが、部長が俺の家に下宿しているということを思い出してか、俺の両親に挨拶しようとこの意見を快諾したのだ。

ちなみに両親にはサーゼクスさんが魔王であることはきちんと伝えている。にもかかわらず、二人とも軽く受け入れてくれた。

 

『魔王となるとリムルさんと同じか……なら、大丈夫かな?』

 

『ラミリスちゃんやルミナスさんも気さくな人だったし、たぶん大丈夫よ』

 

我が親ながら軽すぎやしないか?とも感じたが、判断基準があの人たちだからな……。

というか、ルミナスさんと会う機会あったっけ?とも一瞬感じたが、そういえばあの人ヒナタさんと一緒にこっちの世界に旅行に来たとか言っていたな。

それに、サーゼクスさんは物腰も柔らかだし、ぱっと見はただの好青年にしか見えないというのも大きい。

反対に部長は猛反対していたが、二人を止められるわけもなく、結局強引に押し切られてしまったわけだ。

 

「それにしても、君にも感謝しないといけないね。黒歌さん」

 

「……ありがとうにゃん」

 

「そう警戒しなくても、僕たち以外の悪魔上層部に君のことは伝えていない。そこは安心してほしい」

 

警戒してるな黒歌は……。まあ、あいつは指名手配されてるらしいし、そう簡単に信用はできないか。

ちなみに、黒歌が居候をしているというのは既に知られていた。

なんでも、あの場に残っていた魔力から、黒歌の存在を感じ取ったらしい。

あんな微弱な残留魔力から、そこまで知ることができるとは……相当魔力の操作能力が優れてないとできない芸当だろう。

やはりサーゼクスさんは凄まじい使い手だな。

おそらく黒歌も感じ取ってるのだろう。サーゼクスさんの実力を。

ちなみに先程聞いてみたのだが、黒歌の指名手配の件を解除することは魔王であるサーゼクスさんでも難しいらしい。

この世界の悪魔は議会制であり、上層部による許可等が必要なため、こっちとは違って上の命令に絶対遵守というわけにはいかない。

上級悪魔……貴族を弑した黒歌をどうこうするのは魔王といえど一筋縄ではいかないらしい。

ゆえに、現在はサーゼクスさん始め一部の悪魔のみでこの話を留めてくれている。

マジでこの人には感謝しないとだな……。

 

「いや~、そんなに若いのに魔王様を務めているなんて凄いですな」

 

「いえいえ、悪魔ですからこれでもまあ、年は取っていますしね」

 

すっかり意気投合してる。母さんも父さんも楽しそうだ。母さんなんかサーゼクスさん見て少し顔を赤らめているし……。まあ、部長の男版だしめっちゃイケメンだから無理もないか。

 

「ところでサーゼクスさんも授業参観を?」

 

「ええ、こちらの仕事もひと段落しているのでこの機会に妹の学び舎や授業風景を拝見できたらと思いまして。当日は父も顔を出す予定です」

 

ジオティクスさんも来るのか。なんでもあの人駒王学園の建設にも携わっているらしい。だからこそ、リアス部長やシトリー会長も通えているわけか。

 

すると突如として父さんがキッチンから酒を持ってきた…………ってぶっ!?

 

「サーゼクスさん!お酒はいけますかね? この間、良い日本酒が手に入ったんですよ!」

 

「それは素晴らしい! 是非ともいただきましょう!」

 

それを見て俺は一瞬吹き出してしまった。父さんが持っているのは魔国米からつくった魔国酒だ。

ナチュラルに何出してるんだよ!?というか、いつ手に入れた!?

俺は美味しそうに酒を飲む二人を何とも言えない表情で眺めていた。

 

 

 

…………一言言わせてもらおう。俺にも飲ませろ!

向こうならば俺も酒を飲むことができる。

だが、ここは日本。実年齢はすでに20過ぎてても、法的にはまだ高校生。

故にここでは酒を飲むことはかなわないのだ……。

うう、普段は何とも思わないけど、ああやってどんちゃん騒ぎしてるの見ると俺も飲みたくなってくる。

……次、基軸世界行ったときは飲もう。ひそかにそんな決意をしながら、俺はサーゼクスさんと両親を眺めていた。

 

 

 

******************

 

 

 

「そ、そんな………イッセーと寝てはダメなのですか?」

 

宴の時間も終わり、今はもう就寝時間となっていた。

今、俺の部屋の前では部長、アーシアが目を潤ませている。

 

「今夜は彼と話ながら床につきたいんだ。今夜だけは彼を貸してくれないか?」

 

「というか、なんで人の彼氏と堂々と一緒に寝る発言かましてるんすか?」

 

ミッテルトの言葉にいたたまれない気持ちになったのか、部長は視線を外した。

そう、サーゼクスさんが俺と話がしたいらしく、今日は俺の部屋で眠ると言ってきたんだ。

ちなみに部長とアーシアは何故かよく俺の布団に忍び込んできており、ミッテルトももはや言っても無駄といった感じで半ばあきらめているようだ。

折衷案として現在では日にちごとにローテーションして一緒に寝るようになっている。

ちなみにミッテルトは前までは自分の部屋で寝ていた。一緒に寝る日もあったが、基本的には別々だ。

別にそれは不仲になったとかそういうわけじゃなく、俺の両親がわざわざミッテルトのための買ってくれたベッドを無駄にしたくないという彼女の配慮によるものだったわけだが、俺的には少しさびしさもあった。それはミッテルトのほうも同じだろう。

だが、その決まりが女子たちの会議により制定されて以来、ともに寝る機会も増えた。

基軸世界では一緒に寝てた仲なので懐かしさを感じるし、安心もできる。さらに、部長やアーシアのような超絶美少女と一緒に寝れる機会もあるという、まさに俺得のルールだが、ミッテルトは会議時かなり渋っており、今でも納得してない部分があるようだ。

 

『だって、これ絶対増える奴じゃないすか……』

 

そう言いながらぶつくさつぶやいていた。

何が増えるのかはよくわからないが、そんなわけで本来、今日は部長とともに寝る予定だったのだが、まあ、サーゼクスさんに言われたのならば仕方ない。

 

「お嬢様。さあ、ご自分の部屋に戻りましょう。私もお嬢様のお部屋で厄介になるので。それではサーゼクス様、おやすみなさいませ」

 

「ああ、お休みグレイフィア」

 

「うう、おやすみなさい……」

 

「あ、あの、おやすみなさいイッセーさん」

 

「そんじゃ、また明日~」

 

部長とアーシアは名残惜しそうにしながらもグレイフィアさんやミッテルトとともに部屋から出ていく。

今部屋には俺とサーゼクスさんの二人しかいない。なんだか少し新鮮な感じがするな。

しかし、改めて見てみると……。

 

(やっぱとんでもないよなこの人)

 

濃密な魔の気配とそれを完璧に隠している擬態能力。どうやら精神生命体の力も獲得しているようだ。

数値だけで見てもEP換算で325万6481、超級覚醒者級(ミリオンクラス)に至っている。

少なくとも禁手(バランスブレイカー)を使わない素の俺じゃあ勝てないだろう。

正直言って十二守護王の面々でも危ないかもしれない。

究極能力の有無に関してはわからないが、この人ならば持っていても不思議ではないかもしれない。

そんな超越者が今同じ布団の中に入っているのだからなかなか面白い状況だと思う。

 

「君はアザゼルと会ったそうだね」

 

「あ、はい」

 

「君から見て、彼はどんな存在だと感じた?」

 

「う~ん、表面上はへらへらしてるけど、少なくとも悪人って感じはしませんでしたね。信用できるかはまあ置いといて、信頼はできそうっていう印象ですかね?」

 

「ふふ、確かにそうかもしれないね。何せ、彼は過去の大戦でも真っ先に手を引いてたくらいだしね」

 

実際、コカビエルもアザゼルに対してあまりいい思いは抱いてなかったって言うし、戦闘狂のコカビエルからすると、争いを好まないアザゼルさんは目障りな存在だったのかもな。

 

「ところで、話は変わるけど、僕は前々から君にお礼がしたかったんだ」

 

「お礼?」

 

はて、別にサーゼクスさんに何かした覚えはないんだがな。

 

「君と接するようになってから、リアスはとても楽しそうにしているんだ。あんな楽しそうなリアスは冥界でも見たことない」

 

そうか。この人は本当に部長のことを大切に思っているんだな。今のたった一言には親愛の情が多分に含まれているのを感じた。

 

「それだけじゃない。コカビエルとの戦闘ではかなり危なかったと報告も受けている。セラフォルーなんかソーナちゃんが操られたと聞いて卒倒しかけていたし、君たちがいなかったらどうなっていたことか……。君たちには感謝してもしきれないよ」

 

セラフォルーか……確か、会長のお姉さんでサーゼクスさんと同じく魔王をやっている、ティアマットさん曰く()()最強の女性悪魔とのことらしい。

ついでに相当のシスコンだとも聞いている。まあ、確かにそんな人が妹操られたなんて話を聞いたら無理もないか……。

そんなことを考えていると、サーゼクスさんは俺と目線を合わせる。その目つきからは何やら強い意志が感じられる。

 

「兵藤一誠くん。これからもリアスのことを頼むよ」

 

「……はい。部長は俺にとっても大切な友人ですから」

 

サーゼクスさんの頼みを俺は真摯に受け止めた。今や部長も俺にとって大切な人になっている。

これからも彼女に危機が迫ったときは命がけで守るつもりだ。

それを悟ったのか、サーゼクスさんも安心したかのような表情を見せる。

 

「ありがとう。そうだ、兵藤一誠くん。君のこと、妹同様イッセー君と呼んでもいいかな?」

 

「あ、もちろんです」

 

こうして俺はこの世界の魔王とも親交を深めることができたのだった。

 

「ところで話は変わるんだが」

 

ん?なんだろう。

 

「イッセー君。君は女性のお乳が好きだとリアスから聞いている」

 

ドキッ!?

い、今の流れからいきなりその話になりますか?部長も実のお兄さんに対して何を言っているんだ?

 

「ま、まあ、そうですね……」

 

事実、俺はおっぱいが大好きだ。それこそ、女性の部位でどこが好きと聞かれれば即答するぐらいに。

俺の返答に対し、何やらいたずらっぽい笑みを浮かべる。

 

「これは可能性の話なんだが、君の“赤龍帝の籠手”(ブーステッド・ギア)は力を他者に譲渡できると聞く。これをリアスの乳に譲渡したらどうなるんだろうね……」

 

ッッ・・・・・・・・・・!?

そ、その発想は今まで考えもしてなかった。さすが魔王様だ。なんて発想力なんだ。

ただでさえ豊満な部長のお胸に譲渡なんかしたら……いったいどうなるっていうんだ?

可能性は限りなく低いがゼロではない。

何より、もしかしたら、ミッテルトのおっぱいを大きくすることだってできるかもしれない。

早速明日試して見ようかな?

 

『ヤメロ馬鹿。そんな使い方したら泣くぞ。俺が』

 

(じょ、冗談だってドライグ)

 

どうやらドライグにとってはこの案は不評のようだな。何やらマジでやばい感じがするので、いったんこの件は置いておいたほうがよさそうだな。

だがこの案はドライグにすら読み取れない俺の深層心理の深い部分に刻んでおくことにした。

いずれ必ず実現するその日まで、俺はあきらめんぞ。

 



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プールで遊びます

イッセーside

 

 

サーゼクスさんが来訪してから数日が経った。

あの後、サーゼクスさんは下見という名の観光をして人間界を楽しんでいたように見える。

八星魔王(オクタグラム)の方々しかり、魔王様っていうのは案外親しみやすい存在なのだと改めて認識できたよ。

それはともかく、今日は本来休日で休みなのだが、とある目的のため、俺たちオカルト研究部は学園に来ていた。その目的とは……。

 

「さて、あなた達。今日は私たち限定のプール開きよ!」

 

そう、プールである。

目の前にあるのは水が抜かれ、コケだらけになっていたプール。

もうすぐプール開きというこの時期、ここを掃除することを条件に俺たちオカルト研究部が真っ先に使っていいということになっているのだ。

楽しみだ。何しろ今日は水着姿の皆の姿が拝めるのだから。

特に部長なんてそれはもうきわどい感じの水着を購入していた。アレを着ている部長を見れるというだけで感無量なのだ。

 

「ボケっとしてないで掃除するっすよ」

 

「あ痛っ」

 

そんなこと考えているとミッテルトが小突いてきた。しかも割と強めに。

悪かったって……。

 

 

 

******************

 

 

それから一時間経過した。

俺達の目の前には苔ひとつないピカピカのプールがあった。

だが、そんなことはぶっちゃけどうでもいい。今、俺にとって重要なのは……。

 

「お待たせイッセー。私の水着、どうかしら?」

 

ブハッ!

部長の姿を目にした瞬間、俺の鼻から勢いよく鼻血が飛び出た。

部長の水着姿!

まぶしい!

なんてまぶしいんだ!

布面積の小さい黒のビキニ!白い肌がこれでもかってほど抜き身になっている。おっぱいがこぼれ落ちそうなんですけど!下乳なんて見えるなんてレベルを越えている!艶めかしい脚線美も素敵だ!控えめに言って……

 

「最高です!」

 

「あらあら。部長ったら張り切ってますわ。よほど、イッセー君に見せたかったのですわね。ところで、イッセー君、私の水着姿も見ていただけますか?」

 

次に出てきたのは朱乃さんだ。

部長とは対極の真っ白の純白の水着!布面積が小さくとてもエロイ!

ああ、眼福だあ……。

魔国の皆はこんなきわどいエロ水着は基本着ないからな……。

いや、リムルは着るか。主にシュナさんやシオンさんの着せ替え人形として……。

それに、シオンさんやテスタロッサさんのビキニ姿は破壊力抜群だったっけな。あの人たちはスタイルがめっちゃいいから普通のビキニでもメチャクチャやばいんだよな……。

 

「イッセーさん!わ、私も着替えてきました!」

 

振り返るとそこにはアーシアと小猫ちゃん。

二人は学校指定のスクール水着だ。金髪美少女とスク水という組み合わせがとてもいい!

小猫ちゃんも小さくてマスコットといった感じの愛らしさが全開だ!

胸の「あーしあ」、「こねこ」と書かれた名前が素晴らしい!

 

「ああ、可愛いぞ!お兄さん感動だよ!よく似合っている!小猫ちゃんもいかにもマスコットって感じで良いな!」

 

「卑猥な目つきで見られないのも、それはそれって感じで少し複雑です」

 

ん?何やらぶつぶつと残念そうにしてるけど……?はて?

 

「待たせたっすね。イッセー……」

 

最後に出てきたミッテルトは……、なんていうか、綺麗だと感じた。

ミッテルトが着ているのは、可愛らしいフリルの付いたエメラルドグリーンのビキニだ。

それがミッテルトの未成熟な体系に見事にフィットしており、とても可愛らしく見える。右手首に着けている花をあしらったアクセサリーも相まって、なんていうか、すごくいい。

 

「……どうっすか?イッセー?」

 

「……あ、ああ。とても似合ってるよ!すげえいい!」

 

「……ありがとうっす」

 

「……なんだろう。私たちと反応が違うと感じたのは気のせいかしら?」

 

「あらあら、やっぱりイッセー君にとってはミッテルトちゃんが一番なのね」

 

ま、まあ、それはいったん置いておくとして、あたりを見渡してみると一人足りないことに気が付いた。

 

「あれ?ゼノヴィアは?」

 

「ああ、ゼノヴィアちゃんは水着を着るのに手間取ってるみたいっすね」

 

手間取る?高々水着に着替えるのに?

とも一瞬思ったが、そういえばあいつの教会って規則が厳しいとも聞くし、もしかしたら水着を着るのが初めてなのかもしれないな。

ちなみに黒歌と木場は不参加。黒歌はオカルト研究部の部員でもないし、何より学生ですらないため、許可をとるのが難しかったのだそうだ。木場は何でも悪魔の契約関係で今日は来れないらしい。もったいないなこんな一大イベントを逃すだなんて。

すると、部長は俺に背を向けている小猫ちゃんの肩に手を置き、ニッコリ微笑みながら言う。

 

「それでね、イッセーに頼みがあるんだけど、いいかしら?」

 

「はい?」

 

 

******************

 

 

 

 

 

「はい、いち、に、いち、に」

 

俺は小猫ちゃんの手を持って、バタ足の練習に付き合っていた。

部長に頼まれたこととは小猫ちゃんの泳ぎの練習に付き合うことだ。というのも小猫ちゃんは泳ぎが大の苦手なのだそうだ。黒歌も昔はそうだったらしいし、猫又はやっぱり猫なだけあって水が苦手なのかもしれないな。

当の小猫ちゃんは、「ぷはー」と時折息継ぎをしながら一生懸命にバタバタと足を動かしている。

うん、可愛いわ。

 

「小猫ちゃん、頑張って!」

 

横でアーシアが小猫ちゃんを応援している。

ちなみにアーシアも泳げないらしく、アーシアの練習も俺が付き合うことになっている。

 

「……イッセー先輩、付き合わせてしまってゴメンなさい」

 

「いやいや、小猫ちゃんの泳ぎの練習に付き合えて俺も嬉しいよ。黒歌だって昔は苦手だったけど、今は問題なく泳げるらしいし、小猫ちゃんもきっと泳げるようになるよ」

 

俺はあえて黒歌の話を持ってきて、小猫ちゃんの反応を見る。案の定、小猫ちゃんは顔をしかめた。

やっぱりまだまだ黒歌には思うところがあるのだろう。

こういう反応になるのは予感していたが、それでも俺は二人に仲良くしてほしいため、黒歌の話題を持ってきたのだ。

 

「……先輩は、黒歌お姉さまのことを信用できると思ってるんですか?」

 

「もちろん!」

 

即答だ。黒歌は陣営こそ違えどたくさんの時を過ごしてきた大切な仲間だからな。

黒歌のことは魔国の皆並みに信用できる。

 

「小猫ちゃんの気持ちもわかるよ。親しい奴に裏切られるのはつらいよな」

 

「…………」

 

やれやれ、だんまりしちゃったか。仕方がない。

こうなったら、あの話をするか……。

 

「実はな、俺、ミッテルトに裏切られたことがあるんだよ」

 

「え?」

 

「いや、違うな……。裏切らざるを得なかったというのが正解だな。以前、ミッテルトが話してただろ。幼少期、とある組織にさらわれたって……」

 

俺はバタ足練習を手伝いながら小声で小猫ちゃんに話した。

ミッテルトに掛けられた呪いのこと、スパイとしてミッテルトが俺と接触したこと。

魔国の事情についてはある程度ぼかしながらも、俺はミッテルトとの出会いと戦いの顛末についてを包み隠さずに話したのだ。

 

「そんなことが……」

 

「ああ。仮に、もしあの朦朧とした意識の中で、ミッテルトの涙を見逃していたら……もしかしたら俺はミッテルトを恨んだりしていたかもしれないな」

 

今となってもあの時のミッテルトの顔はありありと思いだせる。

朦朧としていたけど確かに見た、悲しそうな、苦しそうな、そんな表情と涙を……。

 

「今までの楽しかった思い出を、何より、あの涙を信じたからこそ今の俺たちがあるんだ」

 

話しているうちに俺たちはプールの端にたどり着いていた。

そこからは皆と遊んでいるミッテルトの姿がよく見える。

 

「だからさ。小猫ちゃんもお姉さんを……黒歌のことを信じてあげなよ。確かに黒歌は小猫ちゃんに怖い思いをさせてしまったかもしれない。でもそれ以前の、やさしかった思い出だって絶対嘘じゃないんだからさ」

 

「……ありがとうございます、イッセー先輩。……やっぱり、イッセー先輩は優しいです。……スケベですけど」

 

「……それ、ほめてるの?」

 

「はい。もちろんです」

 

小猫ちゃんは満面の笑みを浮かべながらそう呟いた。小猫ちゃんの微笑は何度も見てきたけど、笑顔なんて見るのは初めてかもしれない。

可愛い。小猫ちゃんが笑うといつも以上に保護欲が沸き立てられる。黒歌はよく向こうで妹が可愛いという話をしていたが、それも納得の可愛さだ。

 

「……わかりました。私、今度、姉さまと話をしてみます。その時は、先輩も一緒にいてくれませんか?」

 

「ああ、もちろん!」

 

よかった。これで二人の確執も解決が見えてきたな。姉妹同士、やっぱり仲よくしたほうがいいに決まってる。

 

 

 

 

 

 

ザバァン!!

 

 

 

 

 

瞬間、誰かがプールに飛び込む音が聞こえてきた。

見ると部長、朱乃さん、ミッテルトの三人が競争をしていた。

 

「負けないわよ!ミッテルト!」

 

「フフフ、師匠のもと、釣りで鍛えたうちに勝てると思ってるんすかすか?」

 

いや、釣りと泳ぎはまるで関係ないような気が……ってそんなこと考えている場合ではない!

こ、これはチャンスだ!

俺は急いで水中に潜り、籠手を展開。

即座に倍加して両目に力を譲渡した。

 

『Transfer!』

 

これで俺の視力は一気に上がった!すぐさま泳ぐミッテルト達の姿を捉える!

部長達のおっぱいが水の抵抗で揺れてる。部長と朱乃さん、二人のおっぱいが縦横無尽に独特の揺れ方をしている!ミッテルトも胸こそないものの、水滴が太陽光に反射して美しく見える!艶めかしい美脚が濡れることでとてもきれいだ!楽しそうに笑う笑顔も最高!

やっぱり、俺の神器はこういうことのためにあるよな!

魔力感知では気付かれる可能性があるが、これはあくまで俺の視力を上げているだけだから、ミッテルトにすら気付かれることはない。

 

『なあ、泣いていいか?いや、もう泣くぞ』

 

ドライグが若干涙を流し始めた。これをするたびにドライグが泣くんだよな……。別にいいだろ少しくらい。

とりあえず、脳内保存だ!

 

 

 

 

 

ゴスッ!

 

 

 

 

 

俺の頭部に容赦のない一撃が加えられる。気闘法により強化されており、なかなかの威力を発揮している。

痛い!

まるで警戒していなかったうえ、魔力感知もオフに(ミッテルトの命令により)しているため、反応が完全に遅れた!

水中からザバッと上がってみると、小猫ちゃんが拳を握っていた。どうやら俺が教えた気闘法はかなりの熟練度に達しているようだ。おそらくこれに限れば木場よりも上だ。成長したな、小猫ちゃん。

 

「次はアーシア先輩の泳ぎを見るんじゃなかったんですか?」

 

なんて現実逃避していると、不機嫌な様子の小猫ちゃんに言われ、横のアーシアを見ると涙目だった。

 

「うぅ、私だって私だって……」

 

あー、頬を膨らませてるよ。

もしかして、拗ねてる?ごめんよ。俺は咳ばらいをしつつ、改めてアーシアに言う。

 

「すまんすまん、次はアーシアな」

 

「よろしくお願いします」

 

こうして、次はアーシアの練習に移った。

 

「……本当に、ありがとうございます。先輩」

 

 

 

 

 

 

******************

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

「つ、疲れました……」

 

「お疲れアーシア、小猫ちゃんも」

 

泳ぎが苦手な二人は大分疲れたようだ。

プールサイドの上に敷いたビニールシートに似て、アーシアは倒れこんでしまった。

小猫ちゃんも相当疲れたらしく、今はプールサイドの日陰で読書にふけっている。

 

「うち、飲み物買ってくるっすね」

 

「おお、よろしく。あ、お金出すからアーシアと小猫ちゃんのぶんも頼める?」

 

「もちろんいいっすよ」

 

お代を受け取るとミッテルトは飲み物を買いに行った。

 

「……スースー」

 

ん?寝息?

見るとよほど疲れていたのか、アーシアはビニールシートの上で寝息をたてていた。

見れば見るほどかわいい寝顔である。

ただ、冷えてはいけないから、タオルだけかけておこう。

 

「ん?蝙蝠?」

 

そんなことを考えていると現れたのは赤い蝙蝠。確か、部長の使い魔だっけ?

振り向くと、部長が手招きをしているのが見えた。

反対の手には小瓶らしきもの。

あれは、オイル?クリーム?

そんな中、部長の口元がわずかに動いたのを見た。

 

────いらっしゃい

 

 

唇の動きを読み取り、その意味を即座に察す。ま……まさか、この展開は!

俺は神速で部長のところに向かう!

予想が正しければ、アレしかない!アレしかありませんよね!?男子なら誰でも憧れるあのイベント!

 

 

────真夏の肢体、オイル塗りだ! 

 

 

 

「兵藤一誠、ただいま到着しました!」

 

「全く、私は手招きしただけだというのに。ねぇ、イッセー」

 

「はい!」

 

「悪魔は日焼けしない。でも、太陽の光は外敵なの」

 

そう言いながら、部長は俺に手に持っていたオイルを手渡してきた。

 

「オイル塗ってくれないかしら?」

 

「はい、喜んで」

 

即答。豊満でわがままなボディを持つ部長の体に障れるなんて、なんて夢のような体験なんだ。

 

「じゃあ、さっそくお願いするわ」

 

ハラリ、と何のためらいもなく部長はブラを外してしまった。

ブルン、と豪快に揺れる部長の胸。勢いよく飛び出た生乳はとても柔らかそうである。

いや、それ以前に……。

 

「ぶ、部長!そ、そんな躊躇いもなく、男の目の前で脱いじゃって良いんですか!?」

 

「ええ、あなたになら私は構わないわ」

 

笑顔で答える部長!マジですか!?俺なら良いんですか!?

マジかめっちゃうれしい!ああ、生きてて良かった!

部長が良いと言ってるんだ!

ミッテルトが帰ってくるまでおそらく十分はかかる。その十分のうちに終わらせてしまえば問題はない!

俺は急いで部長に渡されたオイルを手に落とし、馴染ませる。

そして、部長のお背中へ!

ぴと、にゅるぅぅぅ。

触れた後、オイルを伸ばし、肌に塗りこましていく。手に伝わる部長の感触。

あぁ、スベスベしてて気持ち良い。

ミッテルトの背中とはまた違った良さがある。

 

「ねぇ、イッセー……。背中が終わったら前もお願いできるかしら?」

 

な、なんと!

前──それはつまり、部長のむ、胸を触るということ。

い、いや、まて!それはさすがにまずいだろ!背中だけならまだしも、もしばれたらさすがにミッテルトに殺されるかもしれない。

確かに俺はおっぱいが大好きだ。ミッテルトのような貧乳も好きだが、どちらかというと部長や黒歌みたいな大きいおっぱいのほうが大好きなのである。

ああ、悩む。正直塗りたい。揉み解したい。だが、さすがにそれを恋人の許可もなくやるのはだめだろう。超絶名残惜しいがここは断るしかないか……。

それにしても、最近、部長が俺に対して積極的な気がするのだが、気のせいか……?

 

「イッセー君♪私にもオイル塗ってくださらない?部長だけずるいですわ」

 

瞬間、背中に柔らかく、弾力のある何かが背中に押しつけられる!

こ、この声と感触わ!

振り返ろうとすると俺の肩から朱乃さんがいひょっこりと顔を出してきた。

しかも、感触から察するにブラを外した状態だ。わざとだ。わざと押しつけているんだ!

朱乃さんはそのまま俺の体に腕を回して抱きついてきた!

 

「あ、朱乃さん?」

 

「ねぇ、良いでしょう?」

 

マジですか!

俺、学園の二大お姉様の両方からオイル塗りを頼まれちまった!どうしよう!ここは部長だけ特別扱いするわけにもいかないし、塗るしかねえか!

 

「ちょっと朱乃! 私のオイル塗りはまだ終わってないのよ?」

 

部長が上半身を起こして、朱乃さんに言う。見ただけで明らかに不機嫌だということがわかる。

というか、部長!ブラ外した状態で立ち上がったりしたら……もろに見えてますよ!

おっぱいが宙で揺れてるんですけど!

 

「ねえ、イッセー君。部長が怖いですわ。私は日頃からお世話になってるお礼に、イッセー君に溜まってるものを吐き出させてあげたいだけですわ」

 

あ、朱乃さん!?あなた一体何を!?

 

「だめよ!イッセーは私のよ!あなたには絶対にあげたりするものですか!」

 

「別に部長のものではないでしょう?彼はあくまで眷属候補。正式な眷属でない以上、私が誘っても問題はないはずですわ」

 

そう言いながら、朱乃さんは俺の耳を甘噛みしながら悪魔の誘惑をささやき続ける。

 

「今、イッセー君の背中をすりすりしてるものを口に含ませてあげてもいいですわよ。ミッテルトちゃんが帰ってくるまでまだ時間もありますし、舌を這わせたり、先端を転がしてみたり、欲望のままに吸い付いても……」

 

「さすがにそれは許可できないっすね……」

 

部長と朱乃さんがぎょっとした様子で声のした方向を見る。

そこには、数本の飲み物の入ったビニール袋を片手に、鋭い目つきでこちらをにらむミッテルトがいた。

 

「あ、あらミッテルト……。早かったわね」

 

「まだ五分もたっていないはずですのに……」

 

「あまりうちの力舐めないほうがいいっすよ。転移魔法を使えば距離なんて関係ねえんすよ……」

 

「ま、魔法陣なしで転移を!?」

 

そ、そうか空間転移か!完全に盲点だった。

ここから学園の自販機まで片道五分はかかる。だが、今現在人の少ない日曜日という状況。気を付けてさえいれば転移しても誰にもばれないのは間違いないだろう。

 

「さてと、イッセーは後でボコボコにするとして……」

 

あ、それはやはり確定なのね。

 

「当然す。それ以外の……お二方も覚悟はしてもらうっすよ」

 

そういいながら二対四枚の翼をはためかせるミッテルト。どうやら相当ご立腹のようだ。

この状態のミッテルトは今の部長達よりも若干強いくらいの力だが、それはあくまで魔素量(エネルギー)での事。

今の二人が同時にかかっても勝機は薄いだろう。

 

「せめて、黒歌っちみたく、うちのいる目の前でならまだ酌量の余地もあったんすけどね。イッセーの性格はよく知ってるし……。ただ、それでもむかつくことに変わりはないんすし、ましてやそれを隠れてこそこそされると、イッセーにその気がなくても浮気とかされてるみたいで本気でむかつくんすよね……」

 

目の前でされる分にはいいの?まあ、でも確かに黒歌で慣れてるからなのかもな。

そんな最大級の脅威(ミッテルト)を前にして部長も覚悟を決めたみたいだ。

 

「くっ、上等じゃない!もし、あなたを倒せたらイッセーはしばらく貸してもらうわよ!」

 

「ククク、いいっすよ。勝てたらの話っすけどね……」

 

「いいでしょう。私も全力で挑ませてもらいますわ」

 

部長は滅びの魔力を出しながら叫び、朱乃さんもパチパチと電気を走らせながら構えている。

おっぱい丸出しの美女二人が水着姿の美少女と相まみえている。はたから見るととてもシュールな光景だ。

こうして仁義なき女の戦いが幕を開けた。

 

「大体ミッテルトはずるいのよ!いいじゃない!少しくらい貸してくれたって!」

 

「そうですわ!かわいがる権利くらい誰でもあるはずですわ!」

 

「駄目っす!これ以上増えたらどうなるかわからないんすよ!せめてうちの見えるところでやれって話っすよ!」

 

「束縛する女は嫌われるわよミッテルト!」

 

「なにを!?」

 

三人の放つ魔力弾の流れ弾がプールサイドに直撃し、見事に粉砕する。

ああ、せっかく掃除したのに……なんて現実逃避している場合じゃない。どうやら完全なる三つ巴。部長も朱乃さんも協力する気はさらさらなく、互いに互いを攻撃しあっている。

 

「あなたにも、イッセーはあげないわ。卑しい雷の巫女さん」

 

「あらあら。可愛がるぐらいいいじゃない。紅髪の処女姫さま」

 

「あなただって処女じゃない!」

 

「ええ。だから今すぐにイッセー君に貰ってもらうわ」

 

「おいこら朱乃さん。ふざけたこと抜かしてるんじゃねえっすよ!」

 

ミッテルトの鋭い蹴りを何とかガードする朱乃さん。カウンターで二人に雷を放つ。これはさすがに止めたほうがいいかもな……。

そう考えていると、それに対処しながら部長も負けじと叫ぶ。

 

「ダメよ!私があげるのよ!」

 

「あんたも何言ってんすか!?」

 

「だいたい、朱乃は男が嫌いだったはずでしょう!どうしてイッセーにだけ興味持っちゃうのよ!」

 

「そう言うリアスだって男なんて興味ない、全部一緒に見えるって言ってたわ!」

 

「イッセーは特別なの!」

 

「私だってそうよ!イッセー君は可愛いのよ!やっとそう思える男性に出会えたのだから、ちょっとぐらいイッセー君を通じて男を知ってもいいじゃない!」

 

「二人とも、何恋人の前で堂々と寝取る発言かましてるんすか?マジいい加減にするっすよ……」

 

そう言いさらにギアを上げていくミッテルト。

それを見ながら俺は悟る。

────これ無理な奴だと。

なぜだか知らんが手加減してるとはいえミッテルトと互角に戦うお二方。今の二人にそこまでの力はまだないはずなのにどういうことだ!?

よくわからんがわかったことが一つだけある。

俺には三人のケンカは止められない!ということだ。

 

「すいません、部長、朱乃さん!ごめん、ミッテルト!」

 

俺は謝りながら、その場を離脱し、用具室へ逃げ込むのだった。だが、この時は思ってもみなかったのだ。

女難はまだ続いているということを……。



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プールと白龍皇です

映画見ました。
僕の最推しのキャラが先行登場して、しかもがっつり戦闘しててビビりました



イッセーside

 

 

 

「はー、危ない危ない……」

 

部長も朱乃さんもマジになりすぎだって……。力とかそういうのならば俺のほうが上のはずなのに、なぜか命の危機を感じたぞ。いや、本当に。

鈍い俺でもあそこまでされると何となくだけど察することができる。確かにさ、ハーレム好きの俺からすれば、美少女達の取り合いの的になるのは嬉しいんだけどさ、流石に激しすぎるよ。

そういえば、リムルも正妻戦争(ジハード)が起こるたび疲れたようにげんなりとしてたっけ……。

今ならば気持ちがよくわかる……。

つーか、なんで俺?

俺、これといって何かをした記憶がないんだけど……。

今出て行ってもあの三人の戦いに割って入れる自信がないし、現状何もできそうにない。

とにかく、ここにいて闘いが治まるのを待つとしよう。

そんなことを考えながら深いため息をつくと、不意に奥から人の気配を感じた。

そして向こうも俺に気付いたのか、奥からゼノヴィアが姿を現した。

 

「おや、兵藤一誠か。何をしてるんだ、こんなところで?何やら外が騒がしいようだけど……」

 

「……お前、まだ水着に苦戦してたのかよ」

 

「恥ずかしながらそうだ。似合ってるか?」

 

いくらなんでも手間取りすぎだろう。

そんなゼノヴィアの水着は標準的なビキニだった。

部長や朱乃さんのようにエロい水着というわけではないが、体の凹凸が強調されている。

あー、やっぱり、ゼノヴィアもいい体してるよな。キュッと引き締まった身体に割と大きなおっぱい。体型的にはソーカさんが一番近いかな?

そんな美女が谷間の強調されるビキニを着ている。

正直最高です。

 

「ああ、凄く似合ってるよ。そういえば、ミッテルトに聞いたけど、水着初めてなんだって?やっぱ教会って規則厳しいの?」

 

「そう……というより、私自身この手のものに興味なかったというのが正しいか」

 

ああ、確かに最初会った時、天真爛漫なイリナと違ってお堅い印象あったもんな。

いかにも委員長というか、規則に厳しいイメージがある。

もっとも、任務に対する柔軟さはイリナよりもゼノヴィアのほうが優れていたけどな。俺の協力に最初に賛成したのもこいつだし。

 

「だが、私も身の上が変わった以上、女らしい娯楽にも触れてみたいと思うんだ。そういうわけで、兵藤一誠。折り入って頼みがある」

 

「イッセーでいいよ。仲間なんだし。それで頼みって?」

 

おおかた女子らしいアクセサリーとかお店とか教えてほしいってところかな?ミッテルトとのデートでそういう店を訪れたこともあるし、お安い御用だろう。

この時まで、俺はそう考えていた。

 

「ではイッセー。私と子供を作ってくれ」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・?

何だ聞き間違いか?

よし、深呼吸しよう。俺は冷静だ。

 

「えっと、聞き取れなかったんでもう一回言ってくれない?」

 

「イッセー、子作りをしよう」

 

「はあ!?ななななな何言ってるんだお前!?」

 

「しー、大声を出しては外の者たちに気付かれる」

 

いや、大声を出すなって無理だろ!何考えてるんだこいつ!?

この子、頭大丈夫か?と思わず考えてしまった俺は悪くないと思う。あまりにも突拍子がなさすぎる。

 

「そうだな。順を追って話そう」

 

ゼノヴィアは語りだす。

彼女は元々キリスト教の本部、ローマで生まれ、幼少のころから神や宗教のために修行と勉学に励んでいたのだという。

 

「私は今までずっと信仰のために生きていた。主に仕え、主のために戦う。これが私の全てであり、夢や目標ともいうべきものだった。だが、悪魔となった今、私には夢や目標がなくなってしまったんだよ」

 

ふむふむ、なるほど。まあ、確かに価値観が完全に裏返ってしまったわけだから、そう思うのも無理はないか。だからなんで今の発言につながるのかは謎だが。

 

「神に仕えている間は女の喜びを捨てることにしていた。だが、現在私は悪魔。何をすればいいのかまるで分らなかったから、今の主であるそこでリアス部長に尋ねたんだ。そしたら……」

 

────悪魔は欲を持ち、欲を叶え、欲を望む者。好きに生きてみなさい。

 

「……と言われてね。そこで、私は封印してたものを解き放ち、それを堪能することにした。そして思い浮かんだのが女としての喜び、子供を産むことだったんだ」

 

原因は部長か。なんてことを言ってるんだあの人は……。いや、言葉自体は普通だし、真におかしいのはやはりゼノヴィアの発想か……。

 

「で、話は分かったけど、なんで俺なんだ?」

 

「不服か?私も女性としての体には自信があるのだがね……。この胸にしても、アーシアやミッテルトのそれよりも揉みごたえがあると思うぞ」

 

そういいながらゼノヴィアは胸を撫でる。そりゃ触りたいけどさ……。

 

「そういうことじゃなくて、なんで俺って話だよ!?俺、別にお前の彼氏じゃないし、そもそも彼女が別にいるしさ!?」

 

「君は素の状態でも十分すぎると言えるくらいに強いうえ、ドラゴンの力まで有している。私は子供を作る以上、強い子供になってほしいと願っているんだ。そこでイッセーが適任と思ったんだ。君が父親なら赤龍帝のオーラが子供に受け継がれ強くなるだろう。私はそう考えたんだ。そもそも、君は複数の女性を囲っているように見えるし、今更だと思うがね……」

 

べ、別に囲っているわけでは……。

そういいながらビキニを脱ぎ捨てるゼノヴィア。きれいなおっぱいがぶるぶる揺れている。

そして、ゼノヴィアはそのまま俺に抱きついてきた。

ヤバい!すごいいい匂いがする!

ゼノヴィアのおっぱいが俺の体に直に当たる!やばい、理性が持たない。

 

「私には男性経験がない。これから覚えていくつもりだが、今は性知識が豊富そうなイッセーに任せよう。君も初めてというわけではないだろう?」

 

た、確かにミッテルトと何度かこういうことしたことあるから、初めてというわけではないけどさ!?心の準備というものが!?

 

「さあ、私を抱いてくれ。子作りの過程さえちゃんとしてくれれば、後は好きなようにしてくれて構わない」

 

や、やわらかい!これだけで理性がはじけ飛びそうだ!駄目だ!耐えろ!耐えるんだ!

ここで押し倒すのは簡単だし、俺もゼノヴィアほどの美女とそういうことをしたいかといわれるとイエスと即答できる。だが、今はだめだ!

ただでさえボコボコにされることが確定してるんだから、今ここでこんなことすれば確実に殺される!

あ。魔力感知に反応アリ。どうやら気付かれたみたいだ。

 

ガチャリ

 

用務室の扉が開く。そこから現れたのは今、この場に来ていたミッテルトを除くオカルト研究部全員だった。

 

「これはどういうことかしら、イッセー?」

 

部長は笑みを引きつらせ、紅い魔力を薄く纏っていた。

 

「あらあら。ゼノヴィアちゃんずるいわ。私だってイッセー君とそういうことしたいのに、抜け駆けなんて……」

 

朱乃さんはいつものニコニコ顔だけど、バチバチと危険なオーラを発している。

正直怖い!

 

「イッセーさん、酷いです! 私だって言ってくれたら…………」

 

涙目でそう言うアーシア。怒ってるようだけど、一言いいたい。言ったらOKなんですか!?

 

「……油断も隙もない。やっぱり、イッセー先輩はドスケベです」

 

小猫ちゃんが半目で睨んでくる!まるで塵を見るかのような目だ。

ダメだ。言い訳が思いつかねえ。

ブラを外したゼノヴィアとそのゼノヴィアの両肩を掴む俺。

誰がどう見ても、そういうことをしようとしていたように映るだろう。

 

「どうした、イッセー。手が止まっているぞ。早く子作りをしよう」

 

おーい!ゼノヴィアお前は何を言ってるんだ?

その言葉をこのタイミングで言うんじゃない!

空気を読め空気を!

 

「「「子作り!?」」」

 

その言葉を聞いた瞬間、部長たちの目が変わる。

部長と朱乃さんはツカツカと俺に近づくと俺の腕を掴む。

 

「ぶ、部長?」

 

「わかってるわイッセー」

 

よかったどうやら悲しい誤解ということを悟ってくれたみたい……。

 

「私が悪かったのよ。只でさえ性欲の強いあなたを放置していたのだから。……でもね、子作りってどういうことかしら?」

 

だ、違う!

まずい。微笑んでるけど、目が笑ってない!

マジだ、マジでキレてる!

 

「そうですわね。どういう経緯で子作りをすることになったのか、詳しく教えていただきたいですわ。ねぇ、アーシアちゃん」

 

アーシアの涙目がさらにひどいことになっている。まじで今にも泣きそうだ。

 

 

 

グンッ!

 

 

 

 

 

突然の浮遊感が襲う。

見れば小猫ちゃんが俺の両足を持ち上げていた!

 

「……連行です」

 

どこに!?

一体俺をどうするつもりなんだ!

そうこうしているうちに俺は木刀を構えたミッテルトの目の前に連行された。

 

「みっ、ミッテルト!これには訳が……」

 

「わかってるっすよイッセー。魔力感知で何してたか、どういう会話があったのか、すべて聞いてたんで……」

 

それを聞いて首をかしげる部長たち。

そ、そうか!まだ部長たちの感知力では無理でも、ミッテルト級の魔力感知ならば音声まで拾える。これで誤解も解け……。

 

「イッセーが耐えてくれてたのはわかるっすけど、それはそれ。これはこれ。どっちみち()()()()()()()()()()時点で有罪(ギルティ)っすよ……」

 

・・・・・・・何も反論できない。

確かに普通にNoと断ればそれで済んだ話なのに、俺はただ我慢しようと身体を固くしていただけ。しかも、あのまま行けば、多分普通に押し切られてたかもしれない。俺のことだし、あの状況が続けばもしかしたら欲望に負け、俺のほうから襲う可能性だって否定できん。

それがわかってるからこその有罪判決。

救いはないのか……?

 

「なるほど、イッセーと子作りをするには彼女達に勝たねばならないのか。これは難易度が高いな。だが、それはそれで燃えるものがある。イッセー。隙あらば君に子づくりしてもらうから覚悟を決めておくように」

 

「見てないで助けろよ! ゼノヴィアァァァァァァ!!」

 

「成敗!!」

 

絶叫の直後、俺はミッテルトの“朧・地天轟雷”を脳天に受け、意識を暗転させてしまった。

 

 

 

 

 

 

******************

 

 

 

 

 

 

 

「いてて、少しは加減してくれよミッテルト……」

 

「駄目っす。こういうところきっちりしとかないと、イッセーは何度でもやるっす」

 

だからといって、朧流の技を脳天にぶち込むのはやりすぎだろ……。

正直言ってまだジンジンするし……。

 

「行っとくけどまだ許したわけじゃないっすからね。お詫びとしてクレープをうちは所望するっす」

 

「はいはい。買ってやるから待ってろ……」

 

今俺たちはプールを離れ、校門に向かっていた。

なんだか今日はとても疲れた。まあ、部長や朱乃さん、ゼノヴィアの生乳を見ることができたのは、大きな収穫といっていいだろう。

俺の権能でいつでも脳内再生が可能だし、成果としては上々っだ。

まあ、個人的にゼノヴィアがあそこまで天然だったというのは予想だにしてなかったけど……。

でも可愛いし、おっぱいの感触も最高だったな……。

 

「あで!?」

 

「全然反省してないじゃないっすか!バツとして今日買うのは一番高いやつっすよ!」

 

どうやらミッテルトは俺が何考えてるのか悟ったらしく、強烈な一撃に加え、さらなる追加要求をしてきやがった。

全く仕方がないな。

そうこうしているうちに校門が見えてきた。そこには見覚えのない銀髪のイケメンが校舎を見上げるように立っていた。

 

「やあ。会うのは二回目だね。赤龍帝、兵藤一誠」

 

「え~と、白龍皇のヴァーリだっけ?なんか用?」

 

そう。そこにいたのはコカビエルとの戦いで姿を現した白龍皇アルビオンことヴァーリだった。

 

「ああ、そういえばアザゼルには会ってたんだったね。なら、俺のことも聞いていたというわけか」

 

「まあね」

 

どうやら今戦る気はないみたいだが、何しに来たんだこいつ?

ぶっちゃけ俺は宿命のライバル対決とやらにはマジで興味がない。闘うのが嫌いというわけではない。どちらかといえば、強い人との戦いは好きな部類だが、それでも俺は平和のほうが好みだ。

いくらドライグとの因縁があるとはいえ、無意味な戦いは避けたいものだが……。

 

「兵藤一誠。君は世界で何番目に強いと思う?」 

 

突然の問いかけに俺は訝しむ。何番目に強いか?向こうの世界ならともかく、俺はこの世界の強者にあまりあったことがないからな。

聖書の三大勢力以外にも、ギリシャとか北欧神話とか様々な勢力が存在するって話だし、何とも言えないな。

 

「……わからん。俺はこの世界の強者をそこまで見たことがないから、何とも言えん」

 

「そうか。俺から言わせてもらうと、君は世界でも上位の強者の部類に入るだろう」

 

へぇ、そうなのか。

そう評価されるとそれはそれでうれしいものがあるな。

 

「……で?それがどうしたんだよ?」

 

「この世界には強者が多い。“紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)”と称されるサーゼクス・ルシファーも、トップ10には入るだろうが一番ではない。一番は決まってるがね……」

 

「……オーフィスとか言ったっけ?ドライグから聞いてるよ」

 

その言葉にヴァーリは軽くうなずいた。

オーフィス……ドライグ曰く、この世界最強の存在であり、その力は強大で、ドライグの見立てでは単純なエネルギーだけで見ても凄まじい。

竜種には届かないまでも、“始原の七天使”と同等以上……下手をすればあのダグリュールさんにすら匹敵するかもしれないのだという。

あくまでエネルギーだけだから、実際戦えば“始原”の方が強いかもしれないとドライグも言ってたけど、それにしたって目茶苦茶強いことに変わりはないだろう。

まあ、ドライグからすると、この世界最強であるオーフィスに匹敵するか、それ以上の強者が乱立するあの世界が頭おかしいと称していたが……。

 

「俺は君と出会った時、歓喜したよ。今代の赤龍帝が想像以上の強さだったのだからね」

 

そういいながらヴァーリは殺気を放つ。わずかながら魔王覇気まではなっているし……。

 

「……つまり、俺と闘いたいのか?」

 

「ああ、そうさ。出来ることなら俺は今すぐ君と闘いたい……!」

 

ヴァーリが好戦的な目つきで俺にそう言ってきた瞬間。

ヴァーリの首元に二つの剣が向けられていた。瞬時に現れた木場とゼノヴィアが聖魔剣とデュランダルを向けている。

いや待て。木場はどこから現れた?こいつ今校門の向こう側から現れたし、よく見ると水着の入った手提げを持っている。

もしかしたら、皆と泳ぐため急いできたのかもしれないな……。なんかごめんな。この埋め合わせはいつか必ずするから……。

 

「何をするつもりかわからないけど、そういう冗談は止めてくれないかな」

 

「ここで赤龍帝と決戦を始めさせるわけにはいかないな、白龍皇」

 

聖魔剣を向ける木場とデュランダルを向けるゼノヴィアがそう告げる。

しかし、二つの剣を首元に向けられているにも関わらず、ヴァーリは依然として平然としている。

ヴァーリは強い。

覚醒前どころか、覚醒した後のコカビエルと比べても遜色ないどころか上回る可能性すらある。

そんなコイツにとってこの程度は脅威でも何でもないのだろう。

 

「やめておけよ二人とも。一般の人に見られたら大変だし、そもそも今の二人じゃあまだそいつに勝つのは難しい」

 

「な!?やってみないとわからないじゃないか!」

 

「……ゼノヴィアちゃん。切っ先が震えてるっすよ」

 

ミッテルトの指摘に歯ぎしりするゼノヴィア。ミッテルトの言うとおり、彼女と木場の剣先はかすかにふるえていた。本能で実力差を理解しているのだろう。

 

「誇っていい。実力差がわかるのは強い証拠だ。俺と君たち二人では埋めがたいほどの差が存在する」

 

もっとも、と付け足しながらヴァーリは俺とミッテルトを見つめる。その目からは戦闘狂らしく高揚してるのが見て取れる。

 

「君たちならばわからないがね。兵藤一誠にはぐれ堕天使ミッテルト」

 

「行っとくけど、今ここで戦う気はねえぞ。さすがに街に被害が出そうだし……」

 

「ああ、わかってる。ここでやり合う気はない。今日は挨拶をしに来ただけだからな。それに、俺も色々と忙しくてね。やることが多いんだ」

 

ヴァーリが俺の後ろに視線を向ける。

そこには部長を先頭にオカ研のメンバーが揃っていた。

非戦闘要員であるアーシア以外は皆が臨戦態勢に入っている。

 

「兵藤一誠は貴重な存在だ。大切にすると良い、リアス・グレモリー」

 

「言われなくても、そのつもりよ」

 

不機嫌そうに答える部長にヴァーリはフッと軽く笑うと部長の方へと歩を進める。

 

「二天龍に関わった者はろくな人生を送らないらしい。君達はどうなんだろうね?」

 

「……っ。」

 

ヴァーリの言葉に部長は言葉を詰まらせる。

二天龍は争いを引き寄せるというし、そういうジンクスもあるのか。

 

「別にそんなジンクス関係ないっすよ。うちはイッセーと一緒にいたいからいるだけっすしね」

 

「……ミッテルトの言うとおり、私もイッセーとともに歩むつもりよ」

 

うれしいこと言ってくれるな二人とも。

ヴァーリはそれを確認すると、俺達の前から去って行った。

 

まあ何はともあれ、面倒そうなのに目を付けられたな……。

俺はヴァーリの件と財布の心配をしながら重い足取りを上げるのだった。



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幼女を釣り上げます

オリジナル展開です


イッセーside

 

 

 

「会談まであとニ週間か……」

 

「部長たちも大変っすよね……」

 

三大勢力の会談まであと一週間を切った。

俺とミッテルトは正直できることがないので現在は暇してる。

授業参観ももうすぐだし、色々準備が大変なんだろう。

そこで、今はミッテルトと共に釣りをすることにした。

 

「よし、釣れたっす!」

 

「ぐぬぬ……」

 

ブランクがあるからか、なかなか釣れない。

対してミッテルトはハクロウさんの釣りに付き合うこともあり、ポンポン釣っている。

 

「ほれ、また釣れた!」

 

そう言ってミッテルトが釣り上げたのは……でっかいマグロだった。

そう。マグロ。

一応場所も言っておこう。ここは堤防で、間違ってもマグロが釣れるような場所ではない。

 

「……いや、なんで浅瀬でマグロが釣れるんだよ!?」

 

「ま、うちの釣りテクがすごいってことっすね」

 

すごいとかそういう次元じゃないだろ……。

基軸世界ならまだ納得できるけど、ここは地球なんだぞ?

 

「ほれ、イッセーもなんか釣り上げるっすよ~」

 

「見てろよ……」

 

そう言って俺は再び釣りざおを振るう。

集中……集中しろ……。

しばらくすると、浮きが反応する。よし、なにか釣れたようだな!

 

「お、これは大物だぞ……。俺もマグロか?」

 

「いや、うちの場合、マグロは流石に奇跡っすし、ないんじゃないっすか?」

 

うるせえ!一度あることは二度あるかもしれないだろ!

それに、反応からしてかなり重い。手応えからして数十キロはあるだろう。

これは相当な大物だぞ……。

 

「おりゃあ!どうだ!」

 

「おお…………って、ん!?」

 

「え!?」

 

気合いをいれ、俺は釣りざおを思いきり引き上げる。

釣り針が刺さっていたのは……裸の幼女だった。

刺さっているというよりは、釣糸が髪の毛にからまっているようだ。

 

「って、危ねえ!?」

 

俺は釣り上げた幼女を大急ぎで空中キャッチする。

幼女はケホっと水を吐き出しながら、衰弱した様子を見せていた。

 

「ちょ、ちょっと、大丈夫っすか!?」

 

「あ、ああ。どうやら無事っぽい」

 

裸の幼女が流されてきた。しかもよく見ると、体中傷だらけだ。

どう考えても普通じゃない状況のなか、俺は取り敢えず、彼女を家に釣れていくことにした。

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

「……で、連れてきたのがこの子って訳ね」

 

「はい」

 

部長に事情を話し、俺は少女をベッドに寝かしこむ。

服は部長の古着だ。ブカブカだが、ないよりはましだろう。

 

「この子、一体どこの子なんでしょうか?」

 

アーシアは神器により、彼女の治療にいそしみながらつぶやく。それに対し、部長は何やら手帳を見ながら答える。

 

「少なくとも、駒王の人間ではないわ。調べてみたけど、この子の情報はどこにもなかった」

 

駒王の人間じゃないか……。いや、そもそもこの子、種族も人間じゃなさそうだ。

 

「ちょっと失礼……」

 

俺は幼女の身体に触ってみる。

すると、肌っぽい触感と同時に、なにやら金属みたいな触感もしている。

 

「この子……機械なのか?」

 

「え?」

 

「き、機械!?」

 

傷を負ってる部分をよく見ると、血ではないなにか別の液体が漏れ出てる。そのうえ、傷口から覗いてみえるのは肉ではなく、まるでSFにでもでてきそうな機械質の装置だ。

 

「でも、この子息もしてるし生命力すら感じ取れるっすよ」

 

「そう。ソコが俺も気になってるんだ」

 

確かに身体は機械みたいだが、生命力を感じるし、魔力も自分で産み出している。

生き物と機械の性質を持つ存在……機械生命体とでも言うべきか……。

オーラの質も人間とは異なっている。

そのうえ、EP値がまるで安定していない。減ったり、増えたりしてる。

部長とアーシアは気付いてないみたいだが、俺の目から見ると異常さがわかる。最低値ならば、数百程度だが、一瞬とはいえ、100万を超える瞬間もあった。

そもそもEPは誤魔化せるものじゃない。俺の“身魂計測”は対峙すれば正確な数字を計ることができるのだ。

それを誤魔化すには、神話級の武器を隠すとか、予め力をどこかに封じ込めるかをしなければ不可能。

単純な隠蔽で誤魔化したいのならば、リムルやギィさん級の隠蔽力がないと誤魔化せないのだ。

現に、力を隠蔽したサーゼクスさんやミッドレイさんの本来の存在値なんかもすぐにわかるわけだしな。

 

(ドライグ、一応聞くが、心当たりは?)

 

『ない!もしかしたら、神祖の手下かもしれんぞ……』

 

だよな。

その可能性も心に留めとかないと。

 

「あ、目が覚めたっすよ」

 

そうこうしてるうちに、少女は目を覚ます。

どうやら混乱してるようで、辺りを見渡している。

 

「大丈夫っすか?どこか悪いところはないっすか?」

 

「……ここは?」

 

少女はどうやらここがどこだかわからず混乱しているようだ。

 

「君、海で溺れてたんすよ!覚えてないっすか?」

 

「う……み……?なに……それ?」

 

海を知らない!?そんなことあるの!?

いや、もしかしてこの子……。

 

「うちはミッテルト。……君、名前は?どこからきたの……?」

 

ミッテルトは少女に名前を訪ねる。すると少女は少し考え出す。

しばらくすると、彼女はミッテルトの質問に対し、返答をする。

 

「ま……かみ……セラ……多分だけど……」

 

「真神……セラちゃんか……。よろしくね」

 

「どこからきたかは……わかんない……」

 

「そっか。わかんないなら、仕方ないっすね」

 

少女……セラちゃんは申し訳なさそうにうつむく。

やっぱりそうだ。恐らく、この子は……。

 

「ひょっとして、記憶がないのか?」

 

俺の言葉にセラちゃんはコクりと頷く。これは結構面倒かもしれないぞ……。

記憶喪失の機械幼女か……。

 

「なにか、覚えてることとかないっすか?」

 

ミッテルトが訪ねてみるが、セラちゃんは首を横にふるのみだ。

傷だらけなのを察するに、なにかに襲われて、そのショックで記憶を失ったのかもしれないな。

 

「助けてくれてありがとう」

 

「まあ、驚きはしたけど、無事でよかったよ」

 

話してみた感じ、悪い子じゃないのかもしれない。

少し、邪悪な気配を醸し出したりもしてるが、まあ、それくらいなら魔国の人たちの方がよっぽどだしな。

 

 

カサ……

 

 

ん?

なんだ?今の?

俺は不意に妙な気配を感じとる。

どうやら皆も感じ取ったようだ。部長やアーシアたちも含め、全員が気配のした方向へと視線を向ける。

……うげえ!?

 

「きゃ!」

 

「うわぁ、いる……」

 

「きちんと掃除してるのに……」

 

そこにいたのは人類共通の天敵にして悪魔を超越した忌むべき黒い悪魔。

名をゴキブリという。ゴキブリはその複眼でじっとこちらを見ている。

うわあ……面倒臭いな……。殺虫剤あったっけ……。

 

「ん?どうしたっすか、セラちゃん?」

 

ミッテルトの言葉に振り替えると、セラちゃんか涙目になって身体を押さえてる。

セラちゃんはゴキブリを恐怖の目で見つめ、歯をカチカチと鳴らし、魔力を高ぶらせる。

 

「いや、いやあああああああああ!!」

 

「なっ!?」

 

瞬間、暴力的な魔力の奔流が巻き起こる。

俺は慌てて魔力を抑え込もうとするが、それでも漏れ出る魔力で窓ガラスが割れ。ベッドが軋んでいる。

もし、俺が抑え込まなければ、それだけで家が倒壊していたかもしれない。

 

「な、なに、なんなの?」

 

部長もどうやら事態を飲み込めたようだ。

アーシアは魔力に一瞬充てられたのか、冷や汗をかいて、涙を流しながらへたれてしまった。

 

「大丈夫か!?アーシア?」

 

「は、はい。ありがとうございます。イッセーさん」

 

俺は急いでアーシアに駆け寄る。俺が肩を抑えると、アーシアは落ち着いたのか、震えを止める。

だが、気になるのセラちゃんの反応だ。

 

「ごめんなさい。ごめんなさい……」

 

セラちゃんは何かに謝りながら涙を流している。

なんだ?何が起きてるんだ?

 

「……どうしたんすか?セラちゃん?」

 

「……わからない。だけど、虫が怖いの」

 

そういいながら、セラちゃんは魔力の奔流に巻き込まれ、躯と化したゴキブリを見つめる。

そんな彼女の目からは、恐怖と罪悪感、そしてわずかな怒り。様々な感情が入り混じったかのような、複雑な思いが見て取れた。

 

「もしかしたら、記憶を失う前に蟲に対して何かあったのかもしれないわね」

 

「そうっすね……」

 

ひとまず、彼女のメンタルが安定するまで、虫は見せないほうがいいな。

 

「ところで、これからセラちゃんはどうする予定なんですか?」

 

俺は部長に気になったことを聞く。すると、部長は難しそうな顔で頭を抱える。

 

「そうね……。最初は孤児院にでも入れてあげようかと思ったけど、これじゃあね……」

 

部長は荒れ果ててしまった部屋を見渡しながらつぶやく。割れた窓ガラス、倒れた本棚、ひび割れた木製の机。

そうだよな……。少しゴキブリを見ただけでここまでの被害を出すんだ。

今回は俺が抑え込んだからこの程度で済んでるけど、もしこれが強者のいない普通の孤児院とかだったら……ちょっとシャレにならないかもしれない。

 

「じゃあ、いっそのこと、この家に住むのはどうにゃん?」

 

「「はあ!?」」

 

そう言ったのは先ほどから隣の部屋でゲームをしていた黒歌だ。

何を隠そう、彼女の仙術もセラちゃんを回復させるのに一役買っており、彼女の言からセラちゃんが機械生命体であることに気付いたのだ。

約束があったらしく、今は部屋でオンライン通信をしていたのだが、どうやら話を聞いていたようだな。

俺は黒歌を部屋の外につれ、部長に聞えないよう小声で話す。

 

「いや、いくらなんでも駄目だろ。低いとは思うけど、神祖の回し者という可能性もあるんだから」

 

「それは私も考えたけど、記憶喪失はマジっぽいし、少なくとも監視の目は必要でしょ?この家に置いとけば、イッセーや私がいるし、少なくとも安易に外部に任せるよりかはいいと思うにゃん」

 

むむ、確かにそこは黒歌の言うとおりだな。

俺はセラちゃんみたいな存在を軽々しく預けられるような場所なんて知らないし、俺と黒歌ならば抑えられる……とは思う。

そう考えるとうちで引き取るほうが安全なのか?

 

「もし異常があれば、応援もすぐに呼ぶことができるし、そのほうがいいと思うにゃん」

 

『確かに……“門”のあるここならば、他の奴らの救援も期待できそうだ』

 

そうだな。まあ、父さん母さん次第ではあるけど、それが現状最善策か。

 

「どうしたの?イッセー?」

 

「あ、はい。ちょっと黒歌と方針決めたんですけど、セラちゃんはしばらくの間家で預かったほうがいいんじゃないかなって……」

 

部長はそれを聞くと、再びセラちゃんのほうを見る。

そこにはミッテルトと話してる姿が映った。アーシアも、積極的に話してるっぽいな。

ついさっき、あんなことがあったのに、すごいガッツだな。

 

「……わかったわ。ただし、この件はお兄様に報告させてもらうわよ」

 

まあ、それは当然だろう。

 

「どうなったんすか?イッセー」

 

「ああ、とりあえずしばらくはうちにいさせたほうがいいって話でまとまりそう」

 

「了解っす。まあ、そのほうがいいでしょうね。個人的に、あのケガの理由とかも知りたいし……」

 

そうだな。

ま、まずは自己紹介から行くか。

 

「俺は兵藤一誠。よろしくな!」

 

「私はリアス・グレモリー、よろしくお願いするわ」

 

「私は黒歌。仲良くするにゃん」

 

アーシアとミッテルトは自己紹介したっぽいので、各々が自己紹介をする。

セラちゃんはしばらく考え込むと……。

 

「……イッセーお兄ちゃん?」

 

「ぐはっ!?」

 

「?どうしたの?イッセー?」

 

「い、いえ、なんでも……」

 

びっくりした!?ノトスと同じ呼び名で読んでくるとは……。

ノトスの時もそうだったけど、幼女姿のお兄ちゃん呼びは破壊力がエゴすぎる。

 

「リアスお姉ちゃんに、黒歌お姉ちゃん?」

 

「ぐふっ!?」

 

「おお、子どもの頃の白音を思い出すにゃん」

 

お、どうやら部長にも刺さったようだな。

黒歌は何やら懐かしそうにしている。というか、小猫ちゃんも昔はお姉ちゃん呼びだったんか。

小猫ちゃんがお兄ちゃん呼びしたら・・・・・・普段のギャップと相まって軽く死ねるかもしれん。

 

「まずは、部屋の確保とかからっすかね?」

 

「そうだな」

 

釣りをしていただけだというのに、どうやら会談前に思いもがけない仕事ができたようだな。

そう思いながら、俺はアーシアとともに本を読むセラちゃんを眺めてるのだった。




真神セラ
EP ???(不安定なため、解析不可)
種族 最高位機械生命体(エヴィーズ)=最上位聖魔霊ー機械魔神
称号 ???
魔法 ???
スキル なし
一誠が釣り上げた記憶喪失の謎の機械生命体。高い解析能力を誇る一誠の究極能力でもそのすべてをはかることができず、EPも安定していない。
最低値は数百程度だが、現状感情が高ぶると百万を軽く超すほどのエネルギーを発揮する。
虫が苦手であり、虫を見るとたちまち発狂。特に、複眼に嫌な感じがするのだという。
真神セラというのも、彼女の記憶から断片的に思い出せたワードを並べたもののため、おそらく本名ではなく、正式な名前は不明。随時調査中である。


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授業参観と魔王の襲来です

イッセーside

 

 

 

「はあ……」

 

「どうしたの?リアスお姉ちゃん?」

 

「なんでもないわ、セラちゃん。ちょっと憂鬱なだけ……」

 

「?」

 

セラが家に来てから一週間がたち、彼女もすっかりこの家になじんでしまった。

父さん母さんに彼女のことをを説明すると、二人ともいつもの軽いノリでOKサインを出してくれた。

軽すぎだろ……とも思うんだが、その軽さ故ミッテルトたちのことも受け入れてくれたわけだし、本当、父さん母さんには頭が下がる思いだ。

ちなみにオカルト研究部の皆にも当然合わせており、皆と可なり仲良くなっているようだ。

 

「うう、私も白音を見に……」

 

「我慢しろ。一応、お前の指名手配は解除されてないんだから」

 

「黒歌お姉ちゃんも変な感じなの?今日、学校ってところに何かあるの?」

 

首をかしげるセラの頭をなでながら、俺は答える。

 

「今日は授業参観があるんだ」

 

 

 

 

 

******************

 

 

 

 

 

今日は授業参観当日だ。

朝から部長は憂鬱そうにしていたが、今回両親はアーシアとミッテルトを中心に撮影するらしいので俺のほうは割と気分が軽い。

父さんもこの日のために有給とったらしいし、張り切ってるよな。

俺とアーシアは教室に入り、席に着く。すると松田と元浜の二人が近づいてきた。

 

「おはよう。イッセーんところは両親くるの?」

 

「ああ、二人そろってアーシア見に行くんだと」

 

「私、こういうの初めてなので楽しみです」

 

アーシアは心底楽しそうだ。

アーシアは家族が自分を見に来てくれるというのがうれしいらしく、今日という日をずっと心待ちにしてたからな……。

 

「イッセー」

 

突如としてゼノヴィアが俺に話しかけてきた。

なんだろう。猛烈に嫌な予感がする。こういう時の俺の勘は当たるんだよな。

 

「先日はすまなかったね。少し突っ走りすぎたようだ。まずはこれを用いて練習しよう」

 

そう言ってポケットから出したのは小さい袋。どう見ても避妊具の類である。

 

「お、お前はあほかああああああああああああああ!!」

 

なんでよりによってみんなの前で出してるの?馬鹿じゃないの?ああ、皆が塵を見るかのような目でひそひそしているし……。

その背後には猛烈な殺気を叩きこむ元浜と松田。それが何なのかを面白がって教える桐生とそれを聞いて顔を赤くするアーシアと完全にカオスな状態となっている。

 

「どうしたのだ?さあ早く……」

 

駄目だこの子。早く何とかしないと……。

 

「ゼノヴィアよ。まずはお前は常識を学べ」

 

「?」

 

こうして俺のクラスのホームルーム前の時間は混沌を極めるのだった。

 

 

 

 

 

******************

 

 

 

 

「では授業を始めましょう!」

 

 

何とか授業が始まり、開け放たれた扉から親御さんたちが入ってくる。

一時間目は英語。筆記はともかくリスニングは得意なんだよな。

魔法であらゆる言語を話せる俺にとっては楽な授業といえよう。

そんなことを考えていると、先生は紙袋の中から何かを取り出し、生徒に教材として何かを配り始めた。

これは……粘土?

今の授業は英語のはずだけど……。

 

「いいですか。今日は紙粘土で好きなものを作ってみましょう。そういう英会話もあるのです」

 

「はあ!?」

 

なに言ってるんだこの人!?

思わず大きい声出しちまったじゃねえか!

そんな英会話ねーよ!!まるで意味が分からんぞ!?

なに考えてんだ、この人!?ここは英語なんだからさ、普通に英語やりましょうよ……。

 

「さあ、レッツトライ」

 

レッツトライじゃねえよ!英語と粘土にどんな関係があるというんですか!

 

「ム、難しいです」

 

アーシアはすでに製作中……ああ、もうめちゃくちゃだよ。

よく見ると、皆黙々と取り組んでいるし、俺か?俺がおかしいのかコレ?

こうしてカオスな授業参観が始まった。しょうがない……やるか。

こうして俺も粘土細工に取り組むことにしたわけだが……好きなものか。

何を作るかな?

うーん、悩むところだ。

 

 

…………よし、決めた。

 

 

 

俺の脳内保存データを駆使すればできないことはないだろう。俺は思考加速を駆使しながら早速作成に取り掛かる。

まず作るのはミッテルト。目元からゴスロリまで完璧に再現してみる。

……なんか足りないな。

目の前にあるのは再現度の高い刀を構えたミッテルトだ。だがこれだけでは何か足りない……あ、そうか。これはエスプリと斬り合ってる映像だからエスプリも作ってみるか。

いや待てよ。確かこの時、カレラさんと師匠、ラミリスさんもいたな。

早速製作してみるか……。

 

 

 

それから数分後。

 

 

 

 

 

「「「おおっ!」」」

 

 

 

 

 

クラス中からいきなり歓声が上がる。

見ると俺の机には多種多様、様々な小型フィギュアが出来上がっていた。

ミッテルトと斬り合うエスプリにそれを応援する師匠、カレラさん、ラミリスさん。

それだけじゃなく、リムルを筆頭に魔国の女子勢やオカルト研究部の皆まで作っていたのだ。

どれもこれも我ながら中々の出来だと自負している。

自慢じゃないが、俺はフィギュアつくりや絵を描くことがかなり得意だ。

一時期かなり凝ってしまい、わざわざレインさんに弟子入り(月謝金貨5枚)してまで作っていたからな。

さすがに絵画や具象画なんかはレインさんに劣るがフィギュア作成に関していえばレインさんと同等以上という自負がある。

フィギュアづくりだけならば俺は免許皆伝の腕前なのだ。

そんな俺にかかれば紙粘土からでも高い完成度を誇るフィギュアを作成できるのだよ。

 

「す、すげえゴスロリに刀持ってるミッテルトちゃんとか美しすぎるだろ!」

 

「もう一人のパーカー着てるの誰だ?」

 

「なにこの軍服着てる三人、めっちゃ可愛いんですけど」

 

「なんかお姫様みたいな鬼娘がいる!」

 

「こっちのスーツ着た鬼の美女めっちゃ綺麗!」

 

「あ、これオカルト研究部のお姉さま方だ!」

 

「木場きゅんもいる~。かっこいい~」

 

「これって妖精?兵藤って意外とメルヘンチックなの?」

 

「この蒼髪の娘だれ!?めっちゃ可愛いんですけど!?」

 

どうやら皆にも好評のようだ。しかし、これは捨てるのが惜しいな。

 

「兵藤君!君にはこんな才能があったのか!また一人、生徒の隠された能力を引き出してしまったか……」

 

別に隠してるわけでもないんだがな……。

 

「イッセー、五千円で買おう!売ってくれ!」

 

そう言ったのは元浜だ。手には財布を握っている。

それを皮切りにクラス中から声が上がる。

 

「私は七千円だすわ!グレモリー先輩のお身体を堪能するの!」

 

「なにを!なら俺は八千円だ!」

 

「木場きゅんフィギュアを一万で買うわ!」

 

次々と手を挙げていくクラスメイト達。

おいおい、マジかよ!

いつの間にか英語の授業?が一転して俺の作ったフィギュアのオークションが始まったのだった。

 

 

 

 

******************

 

 

 

 

 

 

授業は終わり、昼休み。

 

「へぇ、良くできてるじゃない」

 

「本当、イッセー君って何でもできますのね」

 

「……すごい」

 

「本当、そっくりだね」

 

「イッセーが作ったフィギュア久々に見たっすけど、相変わらずすごいできっすね」

 

オカルト研究部の皆が紙粘土の像を見ながら談笑していた。

今回はさすがにクラスメートに売ったりはしなかった。万が一、リムルたちの姿とか流出したら手が付けられないし、そもそもミッテルトや部長たちのフィギュアを簡単に売り飛ばせるかって話だ。

俺はフィギュアの売買にはすっかり懲りているんだ。

リムル相手にヒナタさんのフィギュアを売買したとバレたあの日、俺がどんな目にあったことか……。

 

「それにしても精巧に作られていますわね。部長にそっくりですわ」

 

「そうね。朱乃の方も本当に良くできてるわ」

 

「僕まである。ありがとう。大事にするね」

 

皆のお褒めの言葉で俺も鼻が高い。

皆の情景は俺の脳内に常にインプットしてあるからな。これくらいは余裕だぜ!

あと木場、そんな頬を赤らめるな。普通にキモい。

 

「ところで私たちはわかるのだけど、他の人たちは一体誰なの?」

 

「あ、それは、え~と……」

 

「ま、まあ、今は置いときましょ!それよか、これどこに飾るか考えとくっすよ!」

 

危ねえ……。

魔国関連についてはまだ皆に話してないし、ひとまず誤魔化した方が無難だろう。

皆は腑に落ちないながらもひとまず納得してくれたようだ。

 

「おお、これは我のフィギュアだな!なかなかの出来ではないか!」

 

「相変わらずこういうの作るのうまいよな、お前……」

 

「まあな。何しろ俺からしても自信……作……だから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだ今の声?聞き間違いか?何やら猛烈に聞いたことのある声がしたぞ……?

俺はネジの切れた人形のように恐る恐る後ろを向く。そこにいたのは…………。

 

「よっ、久しぶりだな!イッセー!ミッテルト!」

 

「クァーハッハッハ!息災そうで何よりだな!」

 

「「ブッ────!!!???」」

 

俺とミッテルトは青い長髪を束ね、スーツ姿でビッシリ決めてる中性的な美青年と同じくスーツを決めている金髪に褐色肌の男性を確認した瞬間、勢いよく口に含んでいたジュースを吹き出してしまった。

そう、そこにいたのは“八星魔王(オクタグラム)”の一柱にして、“聖魔混成皇(カオスクリエイト)”の称号を持つ最強のスライム“リムル・テンペスト”と全世界に五種しか存在しない、あらゆる世界における最強のドラゴンの一角、“暴風竜ヴェルドラ・テンペスト”その人であった。

なんで二人がここにいるんだよ!?

 

「り、リムルに師匠──!?」

 

「な、なんでお二方がここにいるんすか!?」

 

ビックリした!?なんで二人がいるの!?

驚きのあまりあたふたしている俺たちを部長は訝しげに眺めている。

 

「……イッセー、知り合いなの?」

 

「お、イッセーの友達かな?初めまして。俺はリムル・テンペスト。イッセーの遠い親戚みたいなものかな?まあ、よろしくな」

 

「クァーハッハッハ!我が名はヴェルドラ・テンペスト!暴風……」

 

バシン!っと鋭い音が鳴り響く。

リムルがいつの間にもっていたハリセンで師匠を叩いたようだ。

 

「痛いではないか!?何をするんだリムル!?」

 

「俺たちの世界の話は出さない約束忘れたのか?暴風竜とか言っちゃダメだろう……」

 

憤慨する師匠にリムルが小声で宥めている。

部長達はますます困惑しながらそれを眺めていた。

 

「あ~、改めて、コイツはヴェルドラ。俺の従兄弟でイッセーの師匠なんだ」

 

「イッセーの!?」

 

「貴方が“ヴェルドラ流闘殺法”の開祖……!?」

 

「ムム、そこの白髪の娘は我が流派を知っておるのか?」

 

「はい。イッセー先輩に教わっています……」

 

「ほう、やるではないか!イッセーよ!この調子で我が流派をどんどん布教していくとよいぞ!!」

 

バシバシと背中を叩く師匠。

正直目茶苦茶痛い……。魔素量(エネルギー)は完全にコントロールしてるため、完全に人間にしか見えないのだが、それでも化け物染みた身体能力を持つ師匠だ。

恐らく俺たちに会う前の部長とか弾き飛ばされてると思う。

 

「それでさ、君たちには悪いんだけど、ちょっとこの二人借りてもいい?」

 

 

 

 

 

 

*********************

 

 

 

「……で、なんでリムルと師匠がここにいるんだ?」

 

そもそもなんでこいつら授業参観について知ってるんだ?

 

「ああ、実は家で待っていようとも思ってたんだけど、たまたまイッセーの両親と鉢合わせてな、折角だから一緒に行こうってことになったんだ」

 

「はあ!?それって最初からいたってこと!?」

 

「まあな」

 

マジかよ……と俺は天を仰ぐ。

ミッテルトも頭を抱えて冗談でしょ?とでも言いたそうな顔をしている。

二人して完全に気配を絶っていたのだろう。俺やミッテルトの感知能力もこの二人ならば普通に掻い潜れるだろう。

 

「あのカオス英会話も最初から見てたわけか……」

 

「まあな。言っとくけどさ、粘土細工作るにしても、わざわざ俺たちを作るんじゃねえよ……。基軸世界については、一応は秘密って方針なんだからさ……」

 

グウの音も出ない。たかたがフィギュアなんかで基軸世界のことが知られる可能性は限りなく低いんだろうが、それでも可能性は潰しとかないと行けないからな……。

 

「まあ、それ言うんならなんでわざわざ授業参観なんかに来たんだって話なんだが?」

 

「ああ、それは……」

 

「クァーハッハッハ!我が授業参観なる面白そうなイベントを逃すはずあるまいて!何しろ授業参観は学園物の聖典(マンガ)にも出ることがある重大イベントなのだからな!」

 

そういいながら高笑いする師匠にめまいがしてきた……。

あんたか!あんたが元凶か!

 

「……というわけで、俺はヴェルドラの監視役として同行することにしたってわけ。安心しろよ。見学するのは午前中だけで、用件をすましたらもう帰るからさ……」

 

「……で、その用件ってのは?」

 

「まあ、本来は一つだったんだけどさ、ついさっきもう一つできた。お前、あの子なんだ?」

 

「ん?ああ、セラちゃんのこと?この間釣りあげたんだ」

 

「釣り上げた?まあ、いいけど、あれとんでもない存在だぞ。多分、お前が思ってる以上に……」

 

冷や汗を流しながら、リムルは父さん母さんと一緒にいるセラちゃんを遠目から眺める。

コイツの鑑定は俺をはるかに上回るし、俺が見通せなかった情報を見れても不思議ではない。こいつがそう言うからには、実際、セラちゃんはとんでもない存在なんだろう。

……でも。

 

「それでも、あの子はいい子だよ。時折、邪悪な波動が出ることもあるけど、どうにもそれを抑えてる感じがするんだ」

 

もしかしたら、記憶を失う前の彼女は極悪人だったのかもしれない。実際、彼女からは極めて邪悪なオーラが感じとれるからだ。

だが、昔はどうあれ、今の彼女はたぶん善良だ。ほんの一週間程度の付き合いだけど、俺はあの子を信用してもいいと思ってる。

 

「ま、お前の人を見る目は確かだ。お前がそう言うのなら、俺は何も言わないよ。じゃあ、本題に入ろう……」

 

リムルが真面目な雰囲気になったのを悟り、俺も思考を切り替える。

今回二人が授業参観に来ることになったのは完全なる偶然。つまり、本来の目的があるということだ。

しかも、リムル本人が直々に来るほどの重大な何かが……。

 

「……“異世界の門(ディファレントゲート)”はお前も知ってるだろ?」

 

「馬鹿にしてるのかよ?この地球と基軸世界を繋ぐための門だろ?」

 

異世界の門(ディファレントゲート)はマイの作った理論により完成した異世界間を繋ぐ門だ。

この世界の場合、俺の家と迷宮内の一室が繋がっている。

 

「お前も知ってるとは思うけど、あの“異世界の門(ディファレントゲート)”は特別製でな、13年の時間のズレをワザワザ繋げているんだ」

 

それも知ってる。

俺の事情も配慮してくれて、特別にそういう処置をしてくれたんだったな。

 

「ところがだ、どうやらその“異世界の門(ディファレントゲート)”に関して面倒なことになってしまったらしくてな……」

 

「……どういうことだ?」

 

まさか、あれが今後使用できなくなるとかそんな感じか?

そんな不安を見抜いたようにリムルは手を振り否定する。

 

「そうじゃない……というか、それだけだったらどんなによかったことか……」

 

リムルは息を吐き、再び俺たちを見据える。

 

「結論から言おう。今後、使用することができる“異世界の門(ディファレントゲート)”はお前の家にある門ただひとつとなった。それを死守してほしい」

 

いや、え?

 

「「はあ!!??」」

 

リムルの爆弾発言に俺たちは絶叫する他なかったのだった。




オマケ

「黒歌はいかないの?」

「行きたいにゃ!けど、仲直りしてない以上白音も迷惑だろうし……他の悪魔に見つかってもめんどくさいし……」

黒歌はそうぶつくさ言いながら考え込むとハッとしたようにリムルに駆け寄りカメラを渡す。

「リムル様。頼みがあるんですけど、私の代わりに白音の授業風景撮ってもらってもいいかにゃ?」

「まあいいけどさ……」

こうして黒歌は小猫の授業動画を入手したとさ……


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異世界の門と魔王少女です

リムルside

 

 

 

「ど、どういうことだよ!?あの門しか使えないって……」

 

「落ち着け、順を追って説明するから」

 

二人の気持ちも理解できる。さすがに唐突すぎるしな……。

イッセーとミッテルトの驚きの声を流しながら、俺はその理由を説明することにした。

 

「まず、前提として“異世界の門(ディファレントゲート)”はまだ()()()()()()()()()()()()()()()。俺の力でまずは先行ということでお前に作ってやったけど、絶対数は少ないんだよ」

 

マイが完成させた理論を俺……というか、シエルさんが構築してくれたおかげでモノは存在しているが、今現在存在してる“異世界の門(ディファレントゲート)”の魔方陣はヴェルドラとラミリスに管理を任せているものとイッセーに託した基軸世界と地球とを繋ぐものを含め、数える程度しかない。

 

「それが、どう関係があるんだ?」

 

「実はな、この間、マイの力を借りて基軸世界とそれと平行して存在する現在の地球を繋ぐという実験をしたんだ。」

 

帝国で行われたそれは、公式的には世界初の“異世界の門(ディファレントゲート)”となるはずで、世界的に見ても注目度の高い実験だった。

 

「既に独自に異世界の門(ディファレントゲート)を完成させていた俺の監修もあったわけで、その実験は本来、失敗なんてする筈なかったものだった。……だが」

 

結果は失敗に終わった。

この実験には俺も立ち会ってて、その魔方陣はシエルから見ても完璧なものだった。

失敗する要素などどこにもないはず……にもかかわらず実験は失敗した。

シエルの解析で理由はすぐに判明した。

“門”そのものの不備ではない。何者かの手によって、基軸世界と地球。二つの世界の()()()()()を超えた繋がりさえもが途絶え、地球という惑星そのものが、平行多次元から隔離されてしまったというものだった。

 

「はあ!?そんなこと、できるものなのか?」

 

「一体、誰がそんなことを……?」

 

「それも判明してる。ルミナスとシルビアさんのお陰でな」

 

「ルミナスさんにシルビアさん……そういうことか……」

 

「それってつまり……」

 

イッセーとミッテルトも二人の共通点から察しが付いた様子だ。

 

「ああ、それを行った者の魔力の残滓を解析した結果、それが神祖の手によるものだということがわかったんだ!」

 

神祖トワイライト・バレンタイン。

ヴェルダナーヴァにより創造された神話の存在。

今なお何かしらの目的のため、ルミナスにちょっかいをかけ、イッセーに牙を剥いた存在だ。

神祖から生み出された二人は結界の残滓から、神祖の強いエネルギーを感じ取ることができたのだという。ギィも覚えのある魔力が混じってるといっていたし、間違いはないだろう。

 

「いや、ちょっと待てよ!?なんで神祖はワザワザそんなことしてんだよ!?」

 

「理由があるんすか?」

 

「何かを企んでいるのは間違いないと思う。ま、なにか……までは現時点では情報が少なすぎてわかっていないんだけど」

 

神祖が何をたくらんでいるかはさすがに情報が足りな過ぎてわからんが、少なくとも、シエルの話によるとその計画とやらは現時点ではまだ成就はしていないと思われる。

 

『隔離の目的はこの星で何かを企んでおり、それを我々に邪魔されることを恐れたのかと思われます。神祖の計画がいかなものかはわかりませんが、既に計画が完了しているのならば隔離なんて真似はしないでしょう。

結界の起点となっているのがこの時代であることから察するに、恐らく、この時代で何かしらの計画を実行中であり、私たちの介入を防ぐため、地球と基軸世界の繋がりを完全に途絶えさせようとしたのでしょう』

 

恐らくは神祖の力を持ってしてもヴェルダナーヴァの加護を受けた基軸世界そのものを隔離することはできなかった。

故に、現在の活動拠点である地球を隔離したというのがシエルさんの考えだ。

そして隔離結界の基点となっているのはこの世界のこの時代から見て僅か数ヶ月の間。

そこから俺たちの世界から見て現在まで、その結界が解けた様子はない。

イッセーからの報告で聞いた向こう側(メロウとやら)の言動から察するに天魔大戦についての情報は把握していると思われる。

この時代から見ると、まだ起きていないはずの大戦の様子も把握していることから、おそらく神祖も俺たちと同じで時間に干渉する術をもっているということが予想される。

おまけにもう一つ、結界について懸念事項がある。

それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()という点だ。

 

「神祖だけではない?どういうことだ?」

 

「わからない。けど、神祖以外にもこの結界にかかわっている存在がいるみたいなんだ。俺の解析によると、時空にまで干渉して結界が広がっているのはその存在の影響みたいなんだけど、今まで見たこともない術式だから、解析にも時間がかかりそうだ……」

 

シエルさんの言では神祖以外の何者かが未知の術式を使い、その結界をさらに強化してるという。何しろこの結界、時空を超えて過去にまで影響を及ぼしているくらいだ。歴史に干渉する類いのものではないが、少なくとも、ここ数万年の間の時間軸を結界にて覆っている。神祖がいかに竜種級の力を持ってるとはいえ、これ程の次元結界を独力で作れるとは考えづらい。

恐らく神祖の結界に携わっている存在も竜種級の存在であることが予想されている。

なにしろ、結界の力は非常に強力で、信じられないことにシエルさんでも解呪は現時点では不可能とのことだ。

 

『あくまで現時点は!です。これから解析を進めていけばいずれは……』

 

そうだったな……。

一応、数千年先の地球……なんかには行くことができたのだが、そこに神祖の姿はなく、あったのは……いや、今はよそう。

まあようするに、向こうは何かしらの手段でこちらの情報を確保してるらしいが、こちらから地球に行く術が無くなってしまったというわけだ。

何しろ俺やヴェルドラの持つ異世界の門(ディファレントゲート)を繋げようとしてもうまく行かなかったのだから。

そこまで聞いて、イッセーとミッテルトは釈然としないのか、俺に疑問をぶつけてくる。

 

「ん?ちょっと待てよ、その話が真実なら、どうしてリムルや師匠がここにいるんだよ!?」

 

「そうっすよ!矛盾してるっす!」

 

イッセー達の疑問ももっともだ。

隔離されているなら、何で俺とヴェルドラがここに?って話になるからな。

確かに二つの世界が隔離された今、新たに門を繋げることは不可能となった。

 

「だが、その隔離にも穴があったんだ。それは、()()()()()()()()門は隔離の穴を抜け、今なお自由に行き来できるというものだ」

 

それはまさに僥倖だった。

いつでも行き来できるようにと、絶えることなく常に基軸世界と繋がりを持つ門は、()()()()()()()()()()に結界に阻まれることはないのだというのだから。

 

「つまり……」

 

どうやらイッセーも気づいたようだ。

 

「そう。それが、お前の家にある()()基軸世界との繋がりを持っている門なんだ!」

 

「……で、それを死守しろってことか……。責任重大だな」

 

イッセーもことの重大さを理解しているからこそ、冷や汗を流す。

でも、現状はイッセー達を頼る他ないんだ。

 

「ああ。でも、お前の家にある門が無事ならばこちらからも援軍を送れる。連絡係はミッテルトに任せようと思うから、必要とあれば呼んでほしい」

 

「了解っす!」

 

ミッテルトならばエスプリとの繋がりがある。

エスプリにはユニークスキル“見識者(ミヌクモノ)”は繋がりがあるものと時間と空間を超えて情報を共有することができる。

現状連絡要員としてこれ以上はないだろう。

 

「ただ、応援を呼ぶのは神祖の介入があったと確証があったときにしてほしい。この世界の神話絡みでは、控えるように」

 

「え?なんで?」

 

これはシエルからの提案だ。しかし、イッセー達も困惑してるように確かに謎だ。

俺としてはピンチになれば呼んだほうがいい気もするんだが……。

 

『神祖も恐らく、この結界により完全に隔離できたとは考えないでしょう……が、出入り口まで分かってるわけではありません。もしも気付かれるのであれば結界を張った時点で気付かれ、兵藤一誠宅は攻撃を受けている筈です。

恐らく、門がこの国のどこかにあることは分かっていても、それがどこなのかまでは分かっていないと思われます。もちろん、これが罠という可能性も否定はできませんが、そうでない場合、ワザワザ見つかる危険性をあげてまでこちらの存在を知らせる必要もありません。

よって、今しばらくはこの世界の勢力にも我らの存在は秘匿させるのが懸命かと……』

 

なるほどそうか。

言わば俺たちの存在は完全に切り札(ジョーカー)

ルミナスも神祖の気配に気づいたのは京都帰りだといっていた。神祖の存在に気付いた後は自らの権能とヒナタの“世界系”権能を駆使して何とか神祖の監視から逃れたとも……。究極能力による二重の隠蔽を行った以上、いかに神祖といえど、簡単には追跡できないだろう。

シエル先生からの調べで監視の目は現時点では確認できないと判断を受けたため、この駒王学園に足を運んだが、今後はそれも控えたほうが良さそうだな。

それに、コカビエルとかいうやつがメロウと繋がっていたことを考えると、何処に神祖の手の者がいるかわかったものでもないし……。

そう考えると、しばらくはこの世界の勢力にも俺たちの事を秘密にするのがいいかもしれない。

 

「……となると、三大勢力での会議でもリムル達のことは言えないってことか……。メロウの件、どうやって誤魔化そう」

 

「それに、もし門の存在がバレた場合、うちらだけで守りきれるかも不安っすね」

 

「安心しろよ。門の破壊を企てようってんなら、すぐに救援が駆けつける手筈になっている。それに、二人だけじゃなく、黒歌だっているだろ?一応、“藍闇衆(クラヤミ)”の上位陣も幾人かここからほど近いところから警護もしてるしな」

 

「マジかよ。用意周到だな……」

 

実際、ソウエイのところの“藍闇衆(クラヤミ)”は諜報部隊として生き残る術に長けている。

一人一人もなかなか強く、最低でもEP20万は超えているレベルだ。

覚醒魔王級の奴が相手でも、時間稼ぎくらいならまあ可能だろう。何しろソウエイの地獄の鬼も裸足で逃げ出す鬼畜訓練に耐えてるんだから。

潜入活動もお手のもので此方に来てすぐに戸籍を用意して拠点を築いたくらいだったからな……。

ちなみにこの件について真っ先に立候補したのはトーカだ。

 

『あの変態がどうなろうと知ったことではないですが、まあ、皆やりたがらないでしょうし、私がやります!』

 

口ではつんけん言いつつも、頬を赤らめてたし多分本音は違うんだろうな……。

なんでイッセーってこんなにモテるわけ?

ミッテルトや黒歌、確かジウも怪しい感じがするし先程見た感じ、この世界の女友達もなにやら熱い視線を向けてたように見える。

対して俺は……まあ、モテてると言えなくもないんだろうが、今無性だしな……。

おまけに前世では……なんだろう。悲しくなってきた。

まあ、それはひとまず置いといて……。

 

「……というわけで、イッセー、ミッテルト。ようやく平和になったというのに、こんなことを頼むのは心苦しいけど、頼まれてくれるか?」

 

実際、イッセーは13年の月日を経てようやくもとの生活に戻れたわけだし、奴隷同然の扱いを受けていたというミッテルトに至っては言うまでもない。

それなのにこんなことに巻き込んで申し訳ないとも思う。

イッセーは髪を少し掻き毟りながら……。

 

「わかった。正直荷が重いけど、頑張ってみるよ。俺も向こうに行けなくなるのは嫌だしな……」

 

「うちの恩人であるリムル様直々の勅命。断るわけがありません。命を懸けて遂行します」

 

ミッテルトも普段の喋りのなりを潜め、覚悟を決めた眼で言う。

これならば任せられるだろう。

ふと気付いたのだが、ミッテルトのほうも何やら以前と見違えた感じがする。

恐らくはこの間あったという戦いで何かが吹っ切れたのだろう。

 

『恐らくはその通りでしょう。エネルギーも以前より上がっていますし、この状態でしたら恐らく……』

 

わかってる。今のミッテルトならあとしばらくもすれば……。

俺はそれを楽しみにしながらイッセー達を見据える。

 

「ありがとうな。じゃあ、頼んだぞ!」

 

「ハイ!!」 「応!!」

 

任せたぞ。二人とも……。

 

「リムルよ。難しい話は終わったか?」

 

「「「…………」」」

 

そんな俺たちの横で壁に寄り掛かりながら漫画を読んでいるヴェルドラが話しかけてきた。

見るとイッセーは溜め息付いてるしミッテルトも苦笑いだ。

 

「ふん!!」

 

「あだっ!?」

 

取り敢えずイラッとしたので俺はハリセンでヴェルドラを引っ叩くのだった。

 

 

 

 

 

 

*********************

 

イッセーside

 

 

 

「大変なことになったっすね……」

 

帰路につくリムルと師匠を眺めながらミッテルトは呟く。

 

「リムル曰く、しばらくは大丈夫らしいけど、確証もないからな……」

 

メロウという敵の中でも最高幹部である存在を撃退した今、しばらくは神祖の軍勢が手を出すことはないだろうというのがリムルの言だが、それを鵜呑みにしすぎてもいけない。

恐らくはこれからも神祖の軍勢と戦うことになる。これはもう確信だ。

神祖達は長命種だからそれがいつになるかはわからない。数日後か数カ月後か、数年後や数十年後なんて可能性もあるだろう。

 

「ま、心配しすぎても仕方ないだろ。今は平和を楽しもうぜ」

 

「……それもそうっすね」

 

戦うときになったらその時覚悟を決めればいいだけだ。

異世界の門(ディファレントゲート)にしたって、簡単にバレることはない。

あれはリムルと師匠による二重の隠蔽が施されており、知ってるものでなければ気付くこともないのだ。

だから今は心配しても仕方がない。今はこの日常を楽しもう。

 

「それはそうと、何か向こうが騒がしくないっすか?」

 

「確かに……」

 

ミッテルトに言われて気付いたのだが、確かに何やら騒がしい。

階段の前に人だかりが集まっている。

ちょうど木場が通りかかったので俺は何があったのか訪ねることにした。

 

「なあ、木場何かあったのか?」

 

「あ、イッセー君。用事は終わったの?」

 

「ああ」

 

「実は、魔女っ子が撮影会を開いてるらしいんだ」

 

「魔女っ子?」

 

「うん。少し気になったから様子を見ようと思って……」

 

魔女っ子……そのフレーズを聞くと俺の知り合いの“漢女”が思い浮かぶんだが……まあ、気配が違うから別人なんだろうけど……。

 

「どれどれ」

 

おお!

そこにいたのはアニメキャラのコスプレをした可愛らしい美少女だ。

あの衣装は確か『魔法少女ミルキースパイラル』だったっけ?知り合いの“漢女”から見せられたこのがあるぞ。しかもスカートが短い!“漢女”とは違って非常に似合っており、チラチラと純白の下着が見えてとてもいい!

 

「なっ!?」

 

騒ぎを聞いて駆けつけたらしい部長が何やら驚いてる。見ると木場も固まっている。

気配と部長たちの驚きようから見るに、つまりそういうことなのだろう……。

するとここで生徒会の登場である。

 

「おらおら!こんなところで撮影会なんてするんじゃえね!」

 

匙と数人の生徒会が人だかりに飛び込み撮影してた人たちを散らしていく。

 

「解散解散!あなたもそんな格好は困りますよ!親御さんなんでしょうが、この場似合う衣装があるでしょう」

 

「えー、でもこれが私の正装だもん☆」

 

何か歯軋りしてるが見てられないので俺も手伝うことにするか……。

 

「やめとけ匙。えーと、会長のお姉さんの……セラフォルーさん……で合ってますか?」

 

「はあ!?なに言ってるんだ兵藤!?こんなコスプレイヤーがレヴィアタン様なわけ……」

 

「匙!何事ですか……」

 

会長はセラフォルーさんの姿を見かけるなり固まってしまった。

 

「お、お姉……様……?」

 

「ソーナちゃん見っけー☆」

 

セラフォルーさんは会長を見つけるやいなや即座に抱きついた。会長は何とか引き離そうとしているが、力の差がありすぎるためびくともしていない。

匙はその光景を見て彼女が本当に魔王ということを悟ったのだろう。石化してしまってる。まあ、王様にあんな暴言吐いたわけだし無理もないか……。

そこに部長とサーゼクスさんの二人が前に出る。

 

「やあセラフォルー。君もここに来てたんだな」

 

「セラフォルー様、お久しぶりです」

 

「リアスちゃんお久~☆元気にしてた?」

 

ずいぶん軽いノリだな。まあ、このノリじゃあ匙が魔王だとは思わなかったのもわかる。

俺は“八星魔王(オクタグラム)”の方々を知ってるからスムーズに受け入れられるが、一般的に想い描く魔王像というやつからは確かにかけ離れてるだろう……。

 

「君が噂のドライグくんだね。よく私が魔王ってわかったね?」

 

「確かに、何で分かったの?イッセー?」

 

部長とセラフォルーさんが不思議そうに尋ねる。

別に簡単なことなんだけどな……。

 

「簡単だよ。この人が悪魔ってのは一目見た時に気付いたし、魔素量(エネルギー)もそこにいるグレイフィアさんに匹敵するかそれ以上に強い。それでいて、魔力の質は会長のそれと非常に酷似している。

会長のお姉さんが魔王というのはティアマットさんから聞いていたから必然的にそうなんだろうなと思っただけだよ……」

 

「すごい!名探偵みたいな推理だね!じゃあ改めて初めまして☆私は魔王“セラフォルー・レヴィアタン”です☆『レヴィアたん』って呼んでね☆」

 

「リアス・グレモリーの眷属候補、兵藤一誠です。よろしくお願いします」

 

「イッセーの恋人で堕天使のミッテルトっす。よろしくお願いするっすねレヴィアたんさん」

 

「おお、私のこと、本当にそう呼んでくれるなんて感激だよ☆」

 

セラフォルーさんはそういいながら横向きのピースサインを決めている。

それに俺とミッテルトは普通に返した。ミッテルトは言われた通りの愛称でセラフォルーさんを読んだことでセラフォルーさんは感極まったようにしている。

実際に読んでくれる人はいなかったのかもな……まあ、立場が立場だし仕方ないか。

 

「お、お前らよくそんなふうに受け入れられるな……」

 

なんか匙が驚いている。お前も受け入れろよ。

お前が思い描く魔王像がどうなのかは知らないけど、現実はこんなものだぞ……。

 

「あ、もしかして君が匙君?」

 

「あ、はい!」

 

突如セラフォルーさんから名指しで呼ばれ、匙は硬直した。

 

「ありがとうね☆ソーたんとリアスちゃんの報告から聞いてるけど、君が操られてたソーたんを助けてくれたんでしょ……」

 

そう言葉にしながらもどんどんどんどん圧力が強くなっている。

微弱ながら魔王覇気まで出てるし、俺とミッテルトはほかの一般人に被害を出さないためにも相殺する。

 

「ほんと、許せないよね……可愛い可愛いソーたんを洗脳するなんてさ☆もし次そんな輩が現れたら遠慮なく報告してほしいな~。魔王パワーで粉砕してやるんだから☆」

 

「ひえ……」

 

笑顔だが目がマジだ。全然笑ってない。

サーゼクスさんと同等……下手したら上回るシスコン具合だ。

見た感じ魔王種最上位……進化前のカリオンさんとどっこいどっこいのエネルギー量だ。これでも抑えてるんだろうが、魔力が解放されればこの校舎の一角ぐらいは消し飛びそうだな。

 

「セラフォルー。抑えるんだ。さすがにこんなところで暴走させるわけにはいかない……」

 

「あ、ごめんごめん☆つい……」

 

我に返ったのかセラフォルーさん恥ずかしそうに頬を掻いた。

その後、すぐに振り返り、再び会長に抱き着き始めた。

 

「ソーたんも大丈夫だった!?変なところとか違和感とかない!?よしよし怖かったね?私今ソーたんがとても心配だよ~」

 

どんどんどんどん会長の顔が赤くなっている。

セラフォルーさんの言動に恥ずかしさを感じているようだ。まあ、気持ちはわかる。つい最近おきた黒歴史的出来事の傷跡に塩塗ってるようなものだ。

だが、心配してるのも伝わってるし、何より操られたのも事実。だからこそ、反論できないようだ。

とはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

「も、もう耐えられません!お姉さまも自重してください──!」

 

一瞬のスキを突き、会長が顔を真っ赤にして走って行った。

 

「あ、待って──!お姉ちゃんを見捨てないで──!ソーたぁぁぁぁぁぁあん!!!」

 

「『たん』を付けるのはやめてとあれほど!」

 

こうして二人はすぐに豆粒となって消えてしまった。

 

「パワフルな人だったっすね」

 

「魔法少女……というよりは魔王少女って感じだな」

 

俺の魔王少女というワードを聞いてサーゼクスさんもクスリと笑っている。

 

「うむ、シトリー家は今日も平和だ。リーアたんもそう思わないかい?」

 

「私の愛称に『たん』を着けて呼ばないでください」

 

「うう、昔はお兄様お兄様と後ろをついてきていたというのに……これも反抗期か」

 

「お、お兄様はどうして昔の事ばかり……」

 

パシャっとカメラの音が廊下に鳴り響いた。

見るといつの間にか部長のお父さんであるジオティクスさんがカメラを構えて撮影をしていた。

 

「いい顔だリアス。立派に育って……妻の分まで私も張り切らせてもらうぞ」

 

とうとう部長は恥ずかしさのあまり顔を隠して俯いてしまった。

魔王様の家族関係か……なんていうか、平和なんだな。

 

 

 

 

******************

 

 

 

 

 

「君がリアスの報告に会った少女か」

 

「セラっていうの」

 

「そうか。とてもいい名前だね。何やらすごい力を秘めてるみたいだし、面白そうな子だ」

 

「娘から聞いてはいたが、本当に機械なのか?まるで普通の人間のようにしか見えんな……」

 

その後、父さんと母さんが合流し、今日は俺の家で夕食を食べていくこととなった。

セラのことは部長の報告で聞いていたらしく、サーゼクスさんは人のよさそうな笑みで対応している。

ちなみに不安定だったセラの力は黒歌が究極の力と仙術を組み合わせた封印で、今は一般人並みに抑えている。

ゆえにジオティクスさんはセラが機械生命体であることが信じられないのかまじまじと見ている。

対してサーゼクスさんはセラの力の異常さについても何となく察せるんだろうと思う。だが、それでも謎の機械幼女が相手に態度を崩さないあたり、さすがは魔王といったところか……。

 

「あ、リアスお姉ちゃんと朱乃お姉ちゃんが映ってるの!」

 

「ハハハ!いいものですな!娘の晴れ姿というのは!」

 

「わかります。アーシアちゃんもミッテルトちゃんもよく撮れてるわ」

 

夕食時、お互いの授業風景を録画したビデオの鑑賞会が始まり、部長が恥ずかしさのあまり俯いてしまった。

俺?俺は少し恥ずかしいけど、すでに魔国の職場での仕事風景なんかを見られてるため今更といえよう。

 

「見てください!リーアたんが先生に指され答えるところを!」

 

「もう耐えられない!お兄様のバカ!」

 

酒が入ってるからかかなりハイテンションなサーゼクスさんに家を出て走り去っていった部長。

サーゼクスさんはグレイフィアさんにハリセンで張り飛ばされている。

今日はこの光景をよく見るな……。

こうして、俺たちの授業参観は幕を閉じたのだった。




オマケ
セラフォルー・レヴィアタン
EP 75万8580
種族 純血悪魔
称号 四大魔王・レヴィアタン
魔法 氷結魔法
スキル なし
「元72柱」シトリー家の出身。現在の四大魔王の1人・「レヴィアタン」の称号を襲名しており、グレイフィアと最強の女性悪魔の座を争った過去がある現代における最強の女性悪魔。旧名「セラフォルー・シトリー」。
魔法少女のコスプレを愛好しており、公務から外れたときのプライベートでは、映画などの娯楽作品のプロデュースも手掛けている。
超ド級のシスコンであり、妹のソーナを「これ以上ない」っていうくらい溺愛している。
こんな性格だが、魔王としての仕事はきちんとやっており、主に冥界の外交を取り仕切っている。
魔界外交の重要な場では言動こそ変わらないものの正装であるなど区別はしている。
噂だが一時期やさぐれていた時期もあるとかないとか……。



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後輩登場です

イッセーside

 

 

 

授業参観の翌日の放課後。

今俺達は部長に連れられて、旧校舎の一角にある“開かずの教室”と言われている扉の前にいる。

外からは厳重に閉められており、『KEEP OUT』のテープが幾重にも貼られている。どうやら結界も張ってあるようだ。

 

「いるのは知ってたけど、実際に会うのは初めてだな……どんな人なんですか?もう一人の“僧侶(ビショップ)”は」

 

そう、ココには部長の眷属である最後の一人が住んでいるというのだ。厳重に封印されているのはそいつの神器が関係しているそうだ。

認識を遮る術式に魔力を遮断する結界なども張られているが、俺の感知はごまかせない。

故に、存在自体は前から知ってはいたが、実際会うのは初めてで、少しドキドキしている。

 

「もう一人の僧侶は能力が強すぎるため私では扱いきれないと考えたお兄様の指示で、ここに封印しているの。一応深夜には術が解けて旧校舎の中ならば部屋から出てもいいのだけど、中にいる子自身がそれを拒否してるの」

 

一応出れるのに出てきたところは見たことがない。そこから察するに……。

 

「要は引きこもりってことすね」

 

ミッテルトの言葉に部長はため息をつけながらうなずく。

それにしても、気になるのは部長の手に余るほどの能力である。

仮にも上級悪魔である部長の手に余るのならば相当強力なのだろう。どんな能力なのか凄く気になる。

 

「さて、扉を開けるわよ」

 

木場と朱乃さんが封印を解除したことで扉の鍵が開く。

警戒させないように部長と朱乃さんが先に入るらしい。そして部長達が部屋に入った瞬間……。

 

「イヤァァァァァアアアアアアッ!!」

 

うるさ!!

なんだ!?とんでもない絶叫が中から聞こえてきたぞ!

 

「な、なんすか!?」

 

「み、耳が……」

 

これには俺だけでなく、ミッテルトとアーシア、そしてゼノヴィアも驚いている。

対してこの反応を予想していたのか、小猫ちゃんと木場はため息をついたり苦笑いしたりで比較的落ち着いている。

 

『ごきげんよう。元気そうで良かったわ』

 

『な、な、何事なんですかぁぁぁ!?』

 

中から部長達のやり取りが聞こえてくる。中世的な声で、これだけじゃあ男か女かもわからない。

あと何事ですか、って言うのは俺達のセリフだと思う。どんだけテンパってるんだよ……。

 

『あらあら。封印が解けたのですよ?もうお外に出られるのです。さぁ、私達と一緒にここを出ましょう?』

 

いたわりを感じられる朱乃さんの声。優しく接しようって感じの声音だ。ところが……。

 

『いやですぅぅぅ! ここがいいですぅぅぅ! お外怖いぃぃぃぃ!!』

 

こ、これは重症レベルの引きこもりだ。朱乃さんの優しそうな言葉すら拒否するだなんて。

いったいどんなやつだよ?

気になったので俺は部屋に入り、中を見渡してみる。

カーテンで閉め切られており中は薄暗いが、ぬいぐるみなんかもあり可愛らしく装飾されている。

そして、部屋の隅にある棺桶が異様な雰囲気を醸し出している。

僧侶の子の気配から察するに、あれが()()()なのかな?

次に俺は部長達の方に視線を移す。

そこにいたのは金髪と赤い相貌をした人形みたいな美少女だった。

そう、美少女。

()()()()()()

 

「女装した……吸血鬼族(ヴァンパイア)ですか?」

 

「あら、良く分かったわね」

 

部長が感心するように答える。

それを聞いてアーシアとゼノヴィアが驚いている。

信じられないだろうな。正直俺も間違いであってほしかった。

確かに見た目は凄い美少女だ。人形みたいに端正な顔立ちに、気弱そうな表情も相まって、儚げな雰囲気を醸し出している。

でも男……。

 

そんな奴リムルだけで十分なんだよ!

 

「しかもなんで、引きこもりが女装してるんだよ!?誰に見せるための女装!?」

 

「だ、だって女の子の服の方が可愛いんだもん」

 

「可愛いんだもん、じゃねえよ!似合ってんのが腹立つわ!そんな奴一人で十分なんだよ!」

 

クソ!マジでリムル以来の衝撃だ!

初めての出会いで助けてもらった時、俺は一瞬女神かなんかと勘違いしたもんだ!その直後の男だというカミングアウトで、俺は地の底に叩き落されたんだからな!

しかも、この姿を見て一瞬ダブル金髪美少女僧侶を想像しちまったんだぞ!夢返せ馬鹿野郎!

 

「人の夢と書いて、儚い」

 

「うまい!けど、止めてくれ小猫ちゃん!シャレにならんから!」

 

これはひどい。鬼畜か何かの所業だ。俺は涙を流しながらうつむいてしまう。

 

「と、ところでこの方誰ですか?」

 

あ、そういえば自己紹介まだだったっけ。

 

「俺は兵藤一誠だ。部長の眷属候補。よろしくな」

 

「うちはミッテルト。イッセーの恋人で堕天使っす。仲良くするっすよ」

 

「僧侶のアーシア・アルジェントです。よろしくお願いします」

 

「騎士のゼノヴィアだ」

 

「ひいいいい、人が増えてるううう!」

 

ただ自己紹介しただけでこの怯えよう……。これは重傷だ。対人恐怖症かなんかか?

 

「ギャスパー。お願いだから、私達と一緒に外へ出ましょう。あなたはもう封印なんかされなくていいのよ。ね?」

 

部長が小さな子供をなだめるようにしゃがんで言うが、ギャスパーは激しく首を横に振る。

 

「いやですぅぅぅ!僕に外の世界なんて無理ですぅぅぅ!お外は怖いですぅぅぅ!」

 

そこまで嫌か!?

朱乃さんに続き、部長まで拒否するなんて……。

なんか腹立ってきたぞ。ここまで根性がないとどうにも許せん。

多分ミリムさんとか見たらぶちぎれているぞ。

 

「とりあえず、外出ようぜ。俺達も一緒にいるし、心配ないって」

 

ひとまず連れ出してみないと始まらない。少なくとも部屋からは出さないと……。

そう考え、引っ張ろうとする。

 

 

 

 

────瞬間、この部屋の時間が止まった。

 

 

 

 

 

 

「ん」

 

「あれ?なんすか?」

 

「あらあら、()()()()()()()()初めてですわ」

 

「こんな感じになるんだね……」

 

周囲は時間が止まったようにモノクロの風景となり、俺とミッテルト、部長、朱乃さん、木場以外の動きが完全に停止している。

部屋にあった時計の針も止まっている。

俺とミッテルトが動いているのを見て驚いた様子を見せてはいるが、俺たちが周りを見渡しているうちに女装君は部屋の片隅に移動してしまった。

 

「ひいいいいいいい」

 

これがこの女装吸血鬼っ子の力なんだろう。

だけど、俺たち四人だけが動けるのはなんでだ?

 

「やっぱり、イッセー達には効かないようね。あと、朱乃も動けるようになってるのね」

 

「ええ、どうやらそのようですわ」

 

「部長、何なんすかこれ?」

 

ミッテルトの疑問に、部長は女装君を眺めながら説明する。

 

「この子はイッセーと同じ神器持ちよ。

停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)”。視界に映した全ての物の時間を停止させることができる強力な神器なの。まぁ、停止の対象が強い場合は効果が薄いようだけど」

 

「時間停止?これが?」

 

「?そうよ。それがどうかしたの?」

 

見た感じ、実際に時が止まった感じはしない。

俺は自分から時を止めることはできないけど、“進化した覇龍(ジャガーノート・ドライブ)”を使った時限定で停止世界を動くことができる。

“進化した覇龍”は()()()の“名づけ”によって偶発的に生まれたもので、()()()の力により、一時的に情報生命体(デジタルネイチャー)になっているから、あの状態ならば停止世界での活動も可能らしい。

だが、これは見た感じ、そういうのじゃない。今の状態で情報子が固定されてるのならば、思考こそできるが俺は一歩も動けないはずだからだ。

見た感じ、原子が固まっているのか……?

解析してみると、原子が固定されたことで脳の働きなんかも停止している。だから時間が止まったように見えるのか。

確かにこれならば、相手の力が自分より強ければ止められないというのにも合点がいく。

魔力によって固定されてるから、おそらく相手より魔力で上回らなければ止めることはできないのだろう。

あの女装君は吸血鬼だけあって魔力量が豊富だ。

現状小猫ちゃんや木場よりも魔力量は高い。

多分、朱乃さんも修行前ならば止まっていたかもな。木場が止まってないのはおそらく、内に秘めてる神器の影響だろう。

すると、停止の効果がきれたのか部屋の様子が元に戻った。

 

「おかしいです。何か今……」

 

「ああ、何かされたのは確かだね」

 

停止が解けたアーシアとゼノヴィアは驚いているが、小猫ちゃんはため息をつくだけだった。

ここら辺も“真なる時間停止”とは違うな。“真なる時間停止”の場合、存在を知らなければ違和感すら感じない筈だから。

 

「怒こらないで!怒らないで!ぶたないでくださいぃぃ!!」

 

見ると女装君は頭を抱えて泣きながら叫んでいる。

……これはもしかして。

 

「部長、こいつはその力を……」

 

「ええ、察しの通りよ。彼は神器を制御できないため、大公及びお兄様の命令でここに封じられてるの」

 

やっぱりか。

確かにこれは危険かもしれないな。

制御できない力ほど怖いものはない。敵味方関係なく停止させてしまえば場は混乱必須だろう。

かなり凶悪な力だ。

 

「この子はギャスパー・ヴラディ。私の僧侶で一応、駒王学園の一年生。イッセーの察しの通り、人間と吸血鬼のハーフよ」

 

 

 

 

******************

 

 

 

「しかし、こんなにすごい力を持つ奴、よく下僕にできましたね」

 

一息ついた後、俺は改めてギャスパーのほうを眺め呟いた。

実際、こいつの力は相当すごい。

格下にしか通じないとはいえ、視界に入れただけで相手を停止させてしまうだなんて、相当やばい力だ。

“ユニークスキル”に置き換えてみてもかなり上位だろう。

存在値にしても3万を超えている。以前から部長には通じてなかったって話だけど、おそらく主従が関係してるんじゃないかな?

正直、どうやって眷属にしたのかが気になる。

 

「それは“変異の駒(ミューテーション・ピース)”を使ったのよ」

 

「ああ、そういえばそんなのありましたね。部長もそれを持ってたってことですか」

 

変異の駒(ミューテーション・ピース)”。

以前本で読んだが“悪魔の駒(イーヴィル・ピース)”の中に稀に紛れ込んでいるバグみたいな駒で、明らかに複数の駒が必要な点生態も一つで済むんだそうだ。

 

「問題はギャスパーの才能よ。彼は才能が有りすぎて、無意識のうちに日々力を増していってるの。このままいけば将来的に“禁手(バランスブレイカー)”へ至る可能性もあるという話よ。私が裕斗を“禁手”に至らせた今ならコントロールできるかもと、上が評価したらしいんだけど……正直怪しいところね」

 

「それは、確かに危ういっすね」

 

ミッテルトの言葉に部長も困り顔で額に手を当てる。

確かに危うい状態だ。今の状態でも強力なのに、もし“禁手”に至ればどんな代物になるか想像もつかない。

さすがに“真なる時間停止”は不可能だろうが、それでも相当やばいものになるのは想像に難くない。

問題は、それをあいつがコントロールできる可能性が、現時点では極端に低いという点だろう。

なにしろ、通常状態のものでさえコントロールできてないんだから……。

 

「……うう、僕の話なんてしてほしくないのに……」

 

そううめくのは段ボールにすっぽりと入っているギャスパーだ。

 

「能力的には朱乃に次ぐんじゃないかしら?ハーフとはいえ、吸血鬼の名家の出で魔術の才能にも秀でている。正直、“僧侶”の駒一つで済む子じゃないのよ」

 

そうだろうな……。修行してない状態でこれだもん。潜在能力ならばダントツじゃなかろうか……。

しかもこいつ、よく見ると……。

 

「こいつ、“デイヴォーカー”ですか?」

 

「あら、よくわかったわね……」

 

“デイヴォーカー”は向こうにもいたから知っている。

吸血鬼に稀に生まれるという、生まれついての“超克者”。

吸血鬼にはエルフをも上回る寿命と高い不死性があり、生物として完成度が高い存在だが、日の光を浴びると消滅する、招かれなければ建物に入れない、流水を渡れない、自分の棺で眠らなければ回復できないなど多くの弱点を持っている。

“超克者”はそんな吸血鬼の弱点を克服した存在であり、その脅威度は俺もよく知っている。

本来、“超克者”は人間が仙人に進化するのと同じように吸血鬼が研鑽を重ね、進化することによって誕生する存在だ。

王侯貴族に多いが中には下級吸血鬼の出のものいるわけだし、その考えで間違いないと思う。

そんな“超克者”の特性を生まれつき持っているのが“デイヴォーカー”なのだ。

このまま魔素量(エネルギー)を高めれば最低でも“災厄級(カラミティ)”には至るだろう。

 

「日の光嫌いですぅぅぅ!太陽なんてなくなっちゃえばいいんだぁぁぁぁ!」

 

「いや、太陽なくなったらいろいろ困るっすよ!?」

 

「いいんですよ!僕にはこの段ボールがあれば十分です!外界の空気と光は僕にとって外敵なんですぅぅぅ!箱入り息子ってことで許してくださぁぁぁい!」

 

これはひどい。まじで筋金入りだ。とりあえず俺は指を軽く切って血を滴らせてみる。

 

「ほれ、血だぞ。なめてもいいからとりあえず顔出せよ……」

 

上位吸血鬼や一部の下級吸血鬼は、人間の血を摂取しなければ飢えてしまう。

本来吸血鬼は味覚が人間と離れており、血液以外の食事を受け付けないんだそうだ。

人から吸血鬼に転化した存在やそれすらも克服してる“超克者”にはあまり必要ないんだが、それでも血液や生命生気(ライフエナジー)を好むやつは多い。

だから血を滴らせれば顔を出すと思っていたんだが、こいつはそれすらも拒否。それどころか……。

 

「血嫌いですぅぅぅ!生臭いのだめぇぇぇぇ!」

 

嘘だろ!?血が嫌いな吸血鬼とか初めて見たぞ!?

ミッテルトも驚いてるし……。

 

「へたれヴァンパイア」

 

「うわぁぁぁん!小猫ちゃんがいじめるぅぅぅ!」

 

しかも打たれ弱い!マジで重症だ。どうすればいいんだこいつ。

その光景を見ながらため息をつき、部長は席から立ち上がる。

 

「とりあえず、私と朱乃はこれから会談の打ち合わせに行かないといけないの。それから祐斗も一緒に来てちょうだい。お兄様があなたの“禁手”について知りたいらしいのよ。だから、私が戻ってくるまでギャスパーの教育を頼めないかしら?」

 

「あ、はい」

 

「イッセー君、ギャスパー君のこと任せたよ」

 

「ああ、任せろ」

 

そう言うと、部長、朱乃さん、木場の三人は魔法陣で転移していった。

……さて、任せろとは言ったもののどうしたものか。

ぶっちゃけ引きこもりとの付き合い方なんてわからないし、とりあえず刺激しないようゆっくり歩み寄るのが一番かな……?

 

「では、イッセー、こいつを鍛えよう。軟弱な男はダメだ。なに、私に任せてくれ。私は幼いころから吸血鬼と相対してきたからな。扱いには慣れている」

 

そんなこと考えてると、安定のゼノヴィアさんが剣持ってなんか言ってきた。

ゼノヴィアは段ボールを無理やり引っ張り奪い取ってしまう。

まるで空気を読まないあたり、さすがゼノヴィアさんだ。

 

「ヒィィィィッ!せ、せ、聖剣デュランダルの使い手だなんて嫌ですぅぅぅぅ!滅ぼされるぅぅぅぅぅ!」

 

「悲鳴をあげるな、ヴァンパイア。なんなら十字架と聖水を用いて、さらにニンニクもぶつけてあげようか?」

 

「ヒィィィィッ!ニンニクはらめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

悪魔が悪魔祓い行為したら、おまえもダメージを受けるからね、ゼノヴィア?

君、悪魔になってるからね?そのこと忘れてない?

部屋の中でデュランダルをぶん回すゼノヴィアと、それを必死になって避けるギャスパー。

 

「ヒィィィィィィィ!」

 

とうとうたまらずにギャスパーは部屋から出て行った。

ひとまず第一関門はクリアだが……。

 

「……不安しかねえ」

 

「……そうっすね」

 

俺たちはこれからの先行きに憂鬱になり、深いため息をつくのだった。



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堕天使総督の神器説明です

今回は少し短めです


イッセーside

 

 

 

「ほら、走れ!デイヴォーカーならば日中でも走れるはずだ!逃げなければデュランダルの餌食になるぞ!」

 

「ひぃぃぃぃぃぃ!デュランダルを振り回しながら追いかけてこないでぇぇぇぇ!!」

 

 

夕方に差しかかった時間帯、旧校舎の前でギャスパーがデュランダルを振り回すゼノヴィアに追い回されていた。

はた目から見るとただのいじめだ。なんていうか、ゴブタを思い出す。

あいつもハクロウさんやリグルさんから逃げ出してはああやって追いかけられてたもんだ。

ギャスパーも追いつかれたら死にかねんから必至だ。何しろゼノヴィアが持つのは聖剣デュランダル。その聖なる力は災害級(ハザード)級の魔物をも屠る威力だ。

いかに才能が有れど、今のギャスパーが一撃でも受けたら即座に塵と化するだろう。

 

「……ギャーくん、ニンニク食べれば健康になれる」

 

ギャスパーが逃げようとしたその先で小猫ちゃんがニンニクを携えながら歩いてきた。

 

「いやああああ!小猫ちゃんが僕をいじめるぅぅぅぅ!」

 

前門のニンニク、後門のデュランダル。

正直ニンニクの格落ち感半端ないがギャスパーにとってはどちらも脅威なのだろう……たぶん。

 

「正直、“超克者(デイヴォーカー)”なら我慢しろって話っすけどね……」

 

それは言えてる。

現に俺の同僚の皆なんかラーメンににんにくゴリゴリ入れて普通に食べてるぞ。

今では病みつきなんだといっていたっけ……。

……と、ここへ一人の気配が近づいてきた。

 

「おー、やってるやってる」

 

「おっ、匙じゃん」

 

現れたのは生徒会メンバーの匙だ。

 

「よー、兵藤。解禁された引きこもりの眷属がいるってんでを見に来たぜ」

 

「ずいぶん耳が早いな」

 

「会長から聞いたんだよ。それで、その眷属は?」

 

「あぁ、それなら今、ゼノヴィアと小猫ちゃんに追い回されてるぜ」

 

指さすとじりじりと壁際に追い詰められているギャスパーとそれを狙う二人の姿があった。

 

「おいおい、デュランダルってあんな風に振り回していいのか?……ってか、金髪美少女じゃん!」

 

まあ、そう思うのも無理はない。俺も感知してなきゃ気付かなかっただろう。

だが、現実は残酷なのだ。

 

「いっとくけど、あそこにいるギャスパー君は男の子なんすよ」

 

「……は?」

 

「要は女装野郎ってことだ」

 

「はああ!?詐欺じゃねえか!?つーか、引きこもりが女装って、誰に見せるんだよ!」

 

気持ちはわかるぞ匙よ。俺も意味がわからん。

リムルは主にシュナさんシオンさん(あの二人)の手で強制的に着せ替え人形にされてるからまあわかるが、あいつの場合はマジで意味の分からん女装癖だ。

 

「俺もそう思う。しかも似合ってるのが何とも言えん。まあ、格好については匙も何とも言えんけど……」

 

そんな匙の恰好はジャージに軍手、シャベルを肩に担いでいる。土木作業でもしてるのか?

 

「ああ、俺は花壇の手入れをしてるんだよ。会長の命令で会談前に少しでも学園をきれいに見てもらおうってな……」

 

それは体のいい雑用では?まあ、本人が胸張ってるっし、放っておくか……。

 

「それはそうと、堕天使の総督さんは何しにきたんですか?」

 

「「「えっ!?」」」

 

俺の言葉に全員が驚き、動きを止め、俺の見ていた方向を見つめる。

そこには浴衣姿のアザゼルさんが気配を消して佇んでいた。

 

「流石は赤龍帝ってところか。よく気づいたな」

 

「俺の察知能力舐めないほうがいいですよ。アザゼルさん」

 

俺の“ 国津之王(オオクニヌシ)”は解析特化の権能だ。同じ究極保有者でもない限り、たいていのことは察知できる。

アザゼルさんの姿を確認するや否や、ゼノヴィアは剣を構える。小猫ちゃんも魔力を身体に張り巡らせ、アーシアは俺の後ろに下がった。

匙も驚愕しながら神器を展開している。

皆警戒しすぎだろ……。 

 

「ひょ、兵藤、アザゼルってまさか!」

 

「あぁ、堕天使の総督のアザゼルさんだよ」

 

「なんでここに……って、なんでお前ら構えないんだよ!?」

 

匙はどうやら俺とミッテルトが臨戦態勢に入らないことに不信がってる様子。

いや、なんでって言われても……。

 

「あのな、ここで会談する以上、下見ぐらい普通にするだろ。殺気も全く感じないし、魔力も凪いでいる。この人に戦闘の意志があったなら、いくらでもチャンスがあっただろ」

 

「現にうちら以外は誰も気付いてなかったみたいっすしね……。不意打ちするつもりならばいつでもできたでしょ」

 

アザゼルさんも匙達の反応を見て苦笑いしてる。どう見ても戦う気配ではない。

 

「赤龍帝の言う通りだ。やる気はねえよ。ほら、構えを解けって。赤龍帝とそこの嬢ちゃんを除いて俺に勝てる奴がいないのは何となくでもわかるだろう?俺も下級悪魔いじめるつもりはないしな。まぁ、ちょっと散歩がてらに聖魔剣使いを見に来ただけだから、警戒すんな」

 

「木場っちならいないっすよ。今、サーゼクスさんに呼ばれちゃったんで」

 

「なんだいねえのかよ。つまらねえな」

 

頭をポリポリ書きながら残念そうにするアザゼルさん。

どうやら、木場の聖魔剣が見たかったようだ。 

確かに神器コレクターとまで称されるこの人ならば、未知の神器に心躍らせるだろう。

ふと、アザゼルさんは小猫ちゃんの後ろに隠れていたギャスパーに指さす。

 

「そこの吸血鬼、“停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)”の持ち主か。そいつは使いこなせないと害悪になる代物だ。神器の補助具で不足している要素を補えばいいと思うが……そういや、悪魔は神器の研究が進んでいなかったな。五感から発動する神器は、持ち主のキャパシティが足りないと自然に動きだして危険極まりない」

 

「ひい!?」

 

「……いつの間に!?」

 

ギャスパーの両眼を覗き込みながら説明しているアザゼルさん。小猫ちゃんはアザゼルさんのスピードに気付けなかったのか、動揺している。

見た目的には不審者にしか見えないが、俺としては気になる単語が出てきたぞ。

 

「神器の補助具なんてあるんですか?」

 

「おん?まあな。俺たちの陣営は神器の研究が進んでるんだよ」

 

へえ、面白いな。

実際の会談でどう転ぶかはわからないが、もしも()()()()()()()()()()()()()()()になったら見る機会もあるのかな?

研究職としてはかなり楽しみだ。

 

「そっちのお前は“黒い龍脈(アプソープション・ライン)”の所有者か?」

 

次にアザゼルさんが目を付けたのは匙だ。指をさされた匙は神器を呼び出し、身構える。

だが、体が震えている。実力差はわかってるようだな。

もしアザゼルさんがその気なら、俺とミッテルト以外の奴らなら10秒あれば片が付くだろう。

だが、この人も戦う気ないって言ってるのにいくらなんでも警戒しすぎじゃねえか皆?

まあ、悪魔の敵対組織の長が目の前にいるってみんなからしたら恐怖でしかないし、その辺りはしょうがないのかな?

 

「そのヴァンパイアの神器を練習させるならおまえさんの神器を使ってみろ。このヴァンパイアにラインを接続し、神器の余分なパワーを吸い取りつつ発動させれば、暴走も少なく済むだろうさ」

 

・・・・・・・っ!?

それは盲点だった!

匙の“黒い龍脈”はラインを刺した相手の力を吸い取ることができる。それを応用すれば……確かに、不可能ではないかもしれない。

 

「お、俺の神器ってそんなこともできるのか?」

 

匙はそんな使い方できるのかと半信半疑みたいだ。それを見てアザゼルさんも呆れてるようだ。

 

「ったく、これだから最近の神器所有者は自分の力をろくに知ろうとしない。そいつは短時間ならどんな物体にもラインを接続してその力を散らせるんだよ。成長すればラインの本数も増えるそうすれば出力も倍々だ」

 

「おお、さすがにティアマットさんと同じ“五大龍王”の力宿してるだけあって、匙の神器もすごいんだな」

 

実際、アザゼルさんの話が確かならば色々と汎用性が高い。

多数の存在から魔力を同時に吸収したり、物体の持つエネルギーそのものを奪ったりと幅広く応用できそうな感じだ。

 

「すごいっすね匙君」

 

「お、俺の神器にそんな力が……」

 

匙はそれだけ言うと何やら考え込むようにだんまりしてしまった。

何か考えてるなコイツ。

 

「神器上達の一番手っ取り早いのは赤龍帝を宿した者の血を飲む事だ。ヴァンパイアなんだし、血を飲ませれば力もつくさ。一度やってみるといい」

 

おおなるほど、面白い発想だ。

さすがは神器コレクター。神器への理解度が半端ではない。

勉強になるな。

アザゼルさんはそれだけ言うとこの場を後にしようとする。そこで何かを思い出したように立ち止まり、俺のほうへ目を向けた。

 

「そうだ赤龍帝。うちの白龍皇が勝手に接触して悪かったな。どうやら、おまえさんに興味を持ったらしくてな」

 

「ああ、全然いいですよ。まあ、がっかりはしましたが……」

 

「ん?がっかり?」

 

怪訝そうに俺を見つめるアザゼルさん。無理もないだろうが、あいつは俺の夢を一つ奪ったんだ。それは……。

 

「白龍皇は女性がよかった!ドライグから宿命のライバルという話を聞いた時、俺はライバルからやがて……的なムフフ展開をずっと妄想してたんですよ!過去には女性の赤龍帝とかもいたみたいだから、もしかしたら白龍皇もって少し期待してたのに!それなのに、それなのに男だなんて……って、痛!?」

 

「イッセー。あんまりふざけたこと抜かすと海に沈めるっすよ」

 

「最低です」

 

「お、お前、そんなこと考えてたの?」

 

見ると皆ドン引きしてる。

でもさ、そういうお約束展開的なのあこがれるだろ!?

見るとアザゼルさんはツボに入ってしまったのかめちゃくちゃ笑いをこらえている。

 

「こ、今代の赤龍帝は予想以上に面白い奴だな。お、お前、相当女好きだろ?」

 

「はい!大好きです」

 

「ぶはっ!即答かよ。赤は女を、白は力を。どちらも驚くほど純粋で単純なものだな」

 

「まあ、言えてるっすね。見た感じ、白龍皇は戦闘狂の気がありそうっすし、この馬鹿もハーレムを夢見てる大バカ者っすし」

 

「最低です」

 

辛らつだな小猫ちゃん。別にいいだろ夢見るくらい!現実では無理なんだろうからさ……。

 

「そうとも言い切れないと思うっすけどね」

 

「ん?それどういうこと?」

 

ミッテルトの言葉が引っ掛かったがそれ以上言う気はないようだ。

ある程度愉快そうに笑って満足したのか、アザゼルさんは今度こそ帰ろうとする。

 

「じゃ、俺は帰るわ。あまり長居するのもなんだしな」

 

「わかりました。じゃあ、次に会うのは会談の時ですかね」

 

「そういうこった。じゃあな、赤龍帝」

 

そう言うとアザゼルさんはこの場を去っていった。

 

「とりあえず、アザゼルさんが言ってた通りにやるぞ。多分それが制御までの一番の近道だと思う。頼むぞ匙」

 

「わかった。その代わり、お前らも俺の花壇手伝えよ」

 

 

 

******************

 

 

 

 

「そう、そんなことが……知識を他者に助言するほど余裕があるということかしら?」

 

その後、帰ってきた部長にアザゼルさんの件を伝えたら、何やら考え込んでしまった。

多分、牽制とかそういうことは考えていないと思うんだがな。

会談が俺の想像通りの展開になるのならば、おそらく今後もちょくちょくくらいは関わるだろうし、あの人も同じ考えなんじゃないかな?

恐らく今後の関係も考えたうえでの行動なのだろう。

 

「じゃあ、リアス先輩も帰ってきたし、俺も作業に戻らせてもらうわ」

 

「匙君、私の下僕にわざわざ付き合ってくれてありがとう。お礼を言うわ」

 

「い、いいんですよ。俺としても収穫ありってことで……」

 

匙はそいう言ってこの場を後にした。

あいつ、やっぱいい奴ではあるよな。

 

「さて、ギャスパー。まだまだいけるわね。残りの時間、私も練習に付き合うわ」

 

「が、がんばりますぅぅぅぅ」

 

泣きながらもギャスパーは部長相手にやる気を表明した。

ギャスパーも情けないように見えつつ、一度やり始めるとなかなか根性を発揮するな。涙目ながらも匙と共に頑張ってたわけだし、このままいけば化けるかもしれない。

ギャスパーの今後が楽しみになってきたぞ。

こうして今日は夜になるまで訓練が続いた。

 

 



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後輩、何とかします

イッセーside

 

 

 

 

 

「ギャスパー、出てきてちょうだい。無理して小猫に連れて行かせた私が悪かったわ」

 

次の日、ギャスパーの部屋の前にて俺たちは謝る部長を見つめていた。

ギャスパーはまた引きこもってしまったらしいのだ。

なんでも、小猫ちゃんとお得意様の所に一緒に行ったのだが、そこでとても恐ろしい体験をし、神器を無意識に使ってしまったらしい。

その際に心に傷を負ってしまったとのこと。

一体何があったんだろう……?

 

「眷属の誰かと一緒に行けば、もしかしたらあなたの為になると思って……」

 

『ふぇええええええぇぇぇぇぇえええんっっ!』

 

部長が謝るけど、一向に泣き止む気配がない。

人嫌いなこと、自分が神器を使いこなせずに迷惑をかけていること、ギャスパーが抱える問題は中々にややこしい。

聞いた話によると、ギャスパーは名門の吸血鬼を父親に持つが、人間の妾との間に生まれたハーフ。

この世界の吸血鬼は悪魔以上に純血か、そうでないかを意識するらしく、少し信じられないが、実の親兄弟ですら扱いは差別的だと聞く。情に熱い基軸世界の吸血鬼とは大違いだ。

ギャスパー自身、腹違いの兄弟たちに子供のころからいじめられ、人間界でも化け物扱いで居場所がなかったというのだ。

更には、類稀なる吸血鬼の才能を持ちながら特殊な神器を宿してしまっていたため望まなくとも力は大きくなり、友達もできなかったらしい

仲良くしようとしても、ちょっとした拍子に神器が発動し、相手を停めてしまうのだそうだ。

 

「ねえ、イッセー。貴方、もし時を止められたらどんな気分?」

 

「……怖いですね」

 

時を止める。ダグリュールさんがそれを目の前でしたときは……ゾッとしたものだ。

あの時はレオンさんの居城の模擬戦でドライグと意気投合したあの人の戯れにより、実現してしまった“進化した覇龍”になった経験からか、停止世界でも意識だけははっきりと存在していた。あの時はまだ“進化した覇龍”を使えば停止世界でも動けるということを知らなかったから、どうすればいいのかもわからずに死を覚悟したものだ。

混乱しつつも停止世界を初めて見た身としては恐怖以外の何物でもなかった。文字通り、生殺与奪の権が相手に握られている感覚。それが時を止められているという感覚だ。

ギャスパーに止められた者も感覚的にはそう思うだろう。

神器というのは強力な武器だ。

でも、それは両刃の剣。誤った使い方をすれば持ち主を不幸にしてしまう。

しかも、人間の血をひくものにランダムというのが質悪い。

例えば、一般家庭の人間が突如として神器に目覚め、家族を傷つける。なんて不幸はたぶん珍しくもないのだろう。

力も強力だが、所有者を不幸にする力も強力。それが神器という代物なのだろう。

 

『まあ、間違ってはいないな。実際、俺の歴代の宿主たちも、お世辞にも良い人生を送ったというやつは少なかった……』

 

そうか。まあ、俺はドライグと出会えて幸せだと思ってるけどな。

お前には何度も助けられたわけだし……。

 

『……そうか』

 

まあ、それはともかくとして、問題はギャスパーだな。

 

『ぼ、僕はこんな神器いらないっ!だ、だってみんな停まっちゃうんだもん!怖がる!嫌がる!僕だって、大切な人の停まった顔を見るのは……もう嫌だ……』

 

部屋の中で啜り泣くギャスパー。

ギャスパーはヴァンパイアハンターに殺され、そこを部長に拾われて悪魔に転生したらしい。

“悪魔の駒”は死後間もない時間……魂が残留してる間ならば死んだ存在をも転生させることができるらしい。

そうやって命は助かったわけだが強力な力を使いこなせるようになったわけではなかった。

そして封印。解禁されて今に至ると……。

 

「困ったわ。この子をまた引きこもらせてしまうだなんて、“王”失格ね……」

 

部長も落ち込んでるし……。

 

「部長はこれからサーゼクスさんとの打ち合わせでしたっけ?」

 

「ええ、でももう少しだけ延ばしてもらうわ。先にギャスパー……」

 

「ここは俺に任せてください。せっかくできた男の後輩ですし、俺が何とかしますよ」

 

三大勢力の会談のセッティングは大切だ。

何せ、三つの組織のボス達が一堂に会するわけだし、不都合があったら大変だろう。

部長にはそっちを優先してもらった方がいい。

 

「……わかったわ。お願いね」

 

「ハイ!」

 

部長を見送ったあと、俺は扉の前に座り込む。

 

「お前が出てくるまで、俺は一歩も動かないからな」

 

まずは相手の警戒心をなくすのが一番だろう。

まずは扉越しでもいいから腹を割って話すのがいいと想う。

 

「怖いか?神器や……俺たちが……」

 

『…………』

 

「俺は“赤龍帝の籠手”を持ってる。目覚めたのは中二くらいの時だけど、元々は普通の人間だ。ヴァンパイアでもなければ悪魔でもない。力に目覚める前まで俺はどこにでもいる普通の中学生だったんだぜ。だから俺も、最初はこの力が怖かった……」

 

普通の中学生だった俺が、わけもわからず異世界に迷い込み、わけもわからず逃げ惑い、ドラゴンの力なんてよくわからないものに目覚めて当時は本当に混乱と恐怖しかなかった。

正直、昔はドライグのことも恐れていた部分がある。

今でこそ親友と呼べるほどの関係になることはできたが昔は白との決着とやらにこだわっており、ことあるごとに脅してきたものだ。

 

「使い始めのころはさ、本当に怖かった。当時はドラゴンのこともよくわかってなかったし、力を使うたび、その強大さを恐れたよ。でも、それでも俺は前に進めた」

 

『……どうしてですか?もしかしたら、大切な何かを失うかもしれないのに、なんでそこまでまっすぐ生きていられるんですか?』

 

「仲間がいたからだよ。みんながいたから、俺は前に進むことができたんだ」

 

もしもリムルがいなかったら俺は死んでいたかもしれない。ゴブタがいなかったら馬鹿な話して笑いあう機会はなかったかもしれない。ベニマルさんたちがいなければ強くなれなかったかもしれない。師匠やラミリスさんがいなければ研究とかに興味を持つこともなかったかもしれない。

ミッテルトがいなければ、俺は誰かを守ろうとする気持ちを知ることはなかったかもしれない。

皆がいたから俺は恐れず力に向き合えた。前を向いて進むことができた。

 

「お前も同じだ。昔はどうか知らないけど、今のお前にはお前の力を受け入れてくれる仲間がいるだろ?それともお前は、皆のことが信じられないのか?」

 

「い、いえ。そんなことはないです。みんな優しい……。でも、僕じゃ迷惑かけるだけです。引きこもり出し、人見知り激しいし、神器もまともに使えないし……」

 

「かければいいんだよ!多少の迷惑が何だ。そんなもので見捨てるような奴が部長の眷属にいるとは思えない。俺の友達にもそんな奴はいない。そもそも、最初から何事もこなせる奴なんかいねーんだよ。これからゆっくり神器の扱いを覚えていけばいいじゃねえか。不安だってのなら、俺が先輩としてずっと面倒見てやるよ」

 

ギイ……と鈍い音を立てながら扉が開く。

扉の奥から現れたギャスパーは不安そうにしながらも目をぱちくりさせている。

 

「ぼ、僕にも出来るでしょうか………この力を使いこなすことが」

 

「できるに決まってる。俺だって使いこなせたんだ。ギャスパーだって頑張れば絶対できる」

 

実際、才能なんてない俺でも努力と根性でここまでやれるようになったんだ。

才能の塊のようなギャスパーならばきっと強くなれるだろう。

 

「あ、そうだ。何なら俺の血飲む?アザゼルさんも言ってたし、もしかしたら進展するかも」

 

龍の血は強力だと聞くし、血を与えるだけで即コントロール……とはいかないだろうけど、それでも何かしらの切っ掛けになれるならば安いものだ。

ところがギャスパーは首を横に降った。

 

「……怖いんです。生きたものから直接血を吸うのが。ただでさえ、自分の力が怖いのに、これ以上何かが高まりでもしたら……」

 

なるほど。

それがギャスパーが吸血鬼でありながら血を苦手とする理由か。

吸血鬼は新鮮な血を吸うと力が高まるらしいし、輸血パックならまだしも直接吸うと自分の力がどこまで高まるかわからないのが怖いのかもな。

 

「自分の力に翻弄されるのが嫌か……。時を停める能力。俺からしたら羨ましい限りなんだけどなぁ」

 

「────っ」

 

俺の一言に心底驚いた表情をギャスパーは浮かべる。

あれ?

俺、なんか変なこと言ったか?

 

「だって時間を止められるって最高じゃん。戦闘で使えるって点もそうだし、何より時を止めることができれば学園中の女子たちにいかがわしいことやりたい放題じゃないか!廊下を匍匐前進しながらスカートの中を覗き見し放題だろうし……。いや、それよりも部長や朱乃さんのおっぱいを揉むのも最高だな!パンツを除いたっていいし、妄想が止まらん!」

 

俺はギャスパーの神器を使う自分の姿を想像し、よだれを垂らしながら言う。

断言する。俺なら戦闘よりもこういう使い方を重視する。

……と、ここで俺は我に返った。

やってしまった。これはさすがにギャスパーも呆れただろう。

そう思っていたが、ギャスパーは嬉しそうに微笑んでいた。

 

「イッセー先輩は優しいですね。そんなふうに言われたの初めてです。しかも、具体的な例まで……。イッセー先輩は楽しい方ですね」

 

そりゃそうだ。こんな話する奴部長眷属にはいないんだから。

それにしても、やはりこいつも男だからこういう話に食いつくのか?

よし、ココはとっておきの計画を教えてやるか……。

 

「いいか、よく聞けギャスパー。俺は赤龍帝の力をみんなのおっぱいに譲渡するという計画を持っているんだ」

 

『イッセー……お前、諦めてなかったのか?』

 

それを聞いたギャスパーは驚くような表情をしながら目をじんわりにじませている。

 

「す、すごいです、イッセー先輩!神器の能力をそこまで卑猥な方向に考えることができるなんて、僕では到底及ばない思考回路ですが、なぜだか少しだけ夢と希望を感じました。イッセー先輩の煩悩って勇気にあふれてますね!」

 

「そうだ!神器みたいな強大な力も使いよう次第なんだ!例えばだ、俺が赤龍帝の力をギャスパーに譲渡する。そして、ギャスパーが周囲の時を停める。その間、俺は停止した女子を触り放題だ」

 

「!?そ、そんな発想が……」

 

「いっただろ!結局は使い方次第だとな。俺たちが組めば無敵になれるぜ!」

 

「その話、詳しく聞きたいっすね……」

 

突如として聞き覚えのある声が非常に圧のある声音で俺に語り掛けてきた。

恐る恐る振り返るとそこにはミッテルトと小猫ちゃん、木場の三人が佇んでいた。

 

「……ギャー君に変なこと教えないでください」

 

「イッセー、後でこっちくるっす」

 

「あ、はい」

 

「ドライグも大変だね……」

 

『木場はいい奴だな……グスン』

 

何泣いてるんだよドライグは!?二天龍の二つ名が泣くぞ!?

 

「まあでも、イッセーの言うとおり、ギャスパー君の力だって使い方次第なんすよ。その使い方がわからないっていうんなら、これからうちらと一緒に模索しましょう。イッセーの言ったとおり、うちらは君を見捨てたりしないっすから」

 

そう言いながら、ミッテルトはギャスパーと目線を合わせる。

これは暗に自分たちはギャスパーの目を恐れてないという証明になる。

ギャスパーもそれを察したのかうれしそうな表情になったがすぐに影が差してしまった。やっぱりまだ怖いか。まあ、これは仕方ない。少しずつ、慣らしていくしかないな。

ギャスパーは段ボールの中に入りながら、

 

「すみません、人と話すとき、段ボールの中にいると落ち着くんです。それでもいいですか?」

 

「全然かまわないっすよ」

 

と、ギャスパーは申し訳なさそうに言う。

まぁ、始まりは仕方ない。無理強いするのもなんだし、そこが落ち着くなら、別に良いだろう。

徐々に段ボールから外に出していこう。

 

「あー、やっぱり段ボールの中は落ち着きますぅ。ここだけが僕の心のオアシスですぅ」

 

そこまでか!?

段ボールの中が癒しの空間って………。

それにしても、何故か段ボールが似合うギャスパー。入り慣れてるというか、段ボール吸血鬼か……新しいな。

吸血鬼の友達は結構いるけど、今までにないタイプの吸血鬼だぞ。

 

「そんなに人と目線を合わすのが嫌なら、こんなのどうだ?」

 

そう言って俺がギャスパーに渡したのは穴の二つ空いた紙袋だ。

これなら目線を合わせずとも面を合わせて向かい合うことができる。

そう考え渡したのだが……。

 

「どうですか?似合いますか?」

 

「い、イッセー。これはいくらなんでも……」

 

ミッテルトがひそひそした声で俺に話しかける。

完成したのは薄暗い部屋に紙袋をかぶった女装男子という、どう見ても変態としか思えないいで立ちのギャスパーだった。穴の開いた部分から赤い眼光がギラリとしてて、目が見えないため、ゾンビみたいにのろのろ歩いてきて軽いホラーに見える。

見ると木場や小猫ちゃんも若干引いている。

 

「……あ、これ良いかも」

 

マジで?どういうこと?

ぎゃ、ギャスパーのセンスがようわからん。

 

「僕、これ気に入りましたぁ。ありがとうございますぅ」

 

「ギャスパー、俺は初めておまえを凄いと思ったよ」

 

「本当ですかぁ?これをかぶれば僕も吸血鬼としてハクがつくかも」

 

それはどうだろう。

吸血鬼というよりは新手の変態。もしくは怪談の類だが……。

まあ、こいつがいいならそれでいいか。

こうしてギャスパーは俺たちに心を開いてくれたのだった。

 

「あ、イッセー。家帰ったら覚悟するっすよ……」

 

そういいながら木刀を構えるミッテルト。

どうやら俺の受難は避けられないようだ……。



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天使と堕天使です

イッセーside

 

 

「神社なんて久々っすね……」

 

「実際、初詣とかそこらへんくらいしか来る機会ないしな……」

 

「私は神社、初めてなの」

 

ギャスパーと打ち解けた次の日、俺は部長に言われて、とある神社を訪れていた。

セラは初めて見る神社に目を輝かせているようだ。

この子、機械だからか知らないけど、凄く物覚えがいい。知らないことの方が多いけど、一度やり方を教えると、それを完璧に覚えてしまうのだ。

 

「きゃあ!?」

 

「あ、カマキリっすね。しっしっ!」

 

だが、そんなセラでも虫嫌いは治らないようだ。カマキリを見るだけで涙目になってしまった。

……それにしても、なんで神社なんだろ?

本来神社は悪魔の入ってはいけない場所の一つだと部長から聞いている。

俺は人間だから普通に入れるけど、部長はいったい何用で俺をここへ呼んだんだ?

 

「いらっしゃい。イッセー君。ミッテルトちゃん。セラちゃんも」

 

「あ、朱乃お姉ちゃん」

 

「あれ、朱乃さん!」

 

「どうしてここに?」

 

そこにいたのは巫女衣装を身にまとった朱乃さんだ。黒髪長髪といういでたちの朱乃さんが巫女服を着ると大和撫子って感じがしてとてもいいな。そういえば朱乃さんの異名は“雷の巫女”だったな。

ひょっとしてその二つ名はここからきているのかもな……。

……ていうかアレ?

 

「朱乃さん大丈夫なんですか?神社なんかに入って……」

 

朱乃さんたち悪魔は聖なるものを苦手としている。神社や寺院は聖なる力が充満した場所の一つだ。

アーシアもゼノヴィアもお祈りをするたびダメージを食らっている。

さびれた廃教会ならばまだしも、こんな立派な神社は悪魔にとって危ないのでは?と思っていたが、どうやらそうでもないようだ。

 

「ここは裏で特別な約定が執り行われているので、悪魔でも入ることはできます」

 

なるほどね。そんなことができるのか。

何事もなく鳥居を潜り抜ける朱乃さんを見て俺は観察する。

もしかしたら、アーシアやゼノヴィアがお祈りしても大丈夫なようにするヒントが得られるかもしれないな。

眼前に立派な神社の本殿が建っている。

少し古さを感じるけど、手入れされてるのか壊れている様子はない。

 

「ひょっとして、朱乃さんはここに住んでいるんですか?」

 

「ええ。先代の神主が亡くなった後、無人になったこの神社をリアスが私のために確保してくれたです」

 

「なるほど」

 

俺が朱乃さんの解説を聞いて納得していると、気配を感じた。

 

「あなたが赤龍帝ですか?」

 

振り向くと、そこには端正な顔立ちをした青年がいた。

ただ、その青年は豪華な白いローブを身に纏い、頭部に天輪を浮かばしていた。

そして、背には十二枚の黄金の翼。

天使……それも幹部級か。殺気はないし、敵意もない。朱乃さんも驚いた様子はないから多分知ってたんだろう。

青年は優しげな笑顔で俺に握手を求めてくる。

 

「はじめまして赤龍帝、兵藤一誠君。私はミカエル。天使の長をしている者です」

 

「「ミカエル!?」」

 

その名を聞いた瞬間、俺たちの中の警戒心はマックスにまで高まった。

 

 

 

 

******************

 

 

俺と朱乃さん、そしてミカエルさんは今、本殿にいる。

神がいない現在、天界側を仕切っているのがこのミカエルさんらしい。会談前に粗相をしてはいけないとは思うのだが……いかんな。別人とわかっていてもなんか警戒してしまうぞ。

それはミッテルトも同じだろう……が、何とかそれを表に出さずにしている。

俺たちは本殿にある布にまかれた物体を中心に向かい合う。これは聖剣か?

 

「今日、あなたを呼び出したのはこれを授けるためです。お受け取りください」

 

ミカエルさんの掌から光が発せられる。

すると、本殿の中央にて封じられていた剣が姿を現した。

聖なる波動を宿しており、等級は“特質級(ユニーク)”だが、おそらく限りなく“伝説級(レジェンド)”に近い性能を持っている。

相応の使い手が使い続ければすぐに“伝説級”に至るだろう。

面白いのが刻まれている特性だ。龍に対する特攻といったところかな?相手が竜の因子を持っているものならば、格上にも通じるだろう。

 

「これはゲオルギウス……聖ジョージといえばわかるでしょうか?彼が龍を退治するときに使った龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の剣、聖剣“アスカロン”です」

 

ゲオルギウスやら聖ジョージとか言われてもさっぱり分からん。

だが、ドラゴンスレイヤーという言葉から察するに、龍を殺すための武器ってことかな?

 

『まあその認識で会っている。より正確に言うならドラゴンを始末する人間や武器の総称といったところか』

 

なるほど。

向こうにも悪魔の専門家とかいたし、要するに龍の専門家および、その人たちが使う武器ってことね。

 

「これを貴方に授けましょう。貴方には剣の心得もあると聞いていますし、きっとうまく扱えるでしょう」

 

「でも、どうして俺に?」

 

これってかなり貴重なものなんじゃないのか?

俺は人間だが天使にとって敵である悪魔の眷属の候補だ。しかも、大昔に迷惑をかけたドライグを宿している。

敵にこんなものを渡してしまっても良いのだろうか?

そう考えていると、ミカエル……さんは微笑みながら答える。

 

「私は今度の会談が三大勢力が手を取り合う大きな機会と考えているのですよ。大戦後、大きな争いは無くなりましたが、ご存じのように三大勢力の間で小規模な鍔迫り合いがいまだに続いています。この状態が続けばいずれ三大勢力は滅ぶ。いえ、その前に横合いから他の勢力が攻め込んで来るかもしれません。その聖剣は、私から悪魔サイドへのプレゼントの一つです。ほかの方にも似た品を渡しておりますし、堕天使側にも贈り物をしました。こちらとしても、噂の聖魔剣を数本譲り受けましたしね……」

 

他の勢力っていうと、ギリシャ神話とか日本神話とかか……。

確かに全神話の中でもトップの勢力を誇る聖書の三大勢力がふたを開けてみると王が死んで小競り合いが多いなんて状態を知られれば攻め入ってくる可能性もあるってことだ。

それを防ぐため、三大勢力の和平が必要不可欠であると……。

ミカエルさんから聖剣を受け取ると、ミカエルさんはそれを見て微笑みながら話を続ける。

 

「過去に一度だけ、三大勢力が手を取り合ったことがありました。赤と白の龍を倒したときです。赤と白の龍は我々の戦争に乱入し、戦場を乱しに乱してくれましたからね」

 

おい、言われてるぞドライグ。

 

『さて、なんのことやら……』

 

ドライグは俺の意識の中でとぼけたようにそう言う。ミカエルさんからは見えないし聞えないだろうが、俺には目線をそらし、冷や汗を流してる姿も見えているからドライグ自身もいたたまれない様子だ。

 

「あの時のように再び手を取り合うことを願って、あなたに────赤龍帝に言わば願をかけたのですよ。日本的でしょう?」

 

なるほど。

そういうことなら喜んで受け取ろう。基本的に俺が使うのは拳法だが、朧流もちょこっとだけ納めてはいる。

俺も自分の剣は欲しかったし、ちょうどいいや。

 

「分かりました。ありがたく頂くことにします」

 

「では、赤龍帝の籠手を出して同化させてみてください」

 

同化?

そんなことが出来るのか?

 

『相棒も知っての通り、神器は想いに答える。お前がそれを望めば不可能ではないさ』

 

なるほど。まあ、確かに()()()()()をも取り込めたくらいだし、聖剣くらいならば余裕ということだろう。

俺は籠手を展開して宙に漂う聖剣を左手に取る。

 

『相棒、赤龍帝の籠手に意識を集中させ、アスカロンを神器の波動に合わせてみろ』

 

了解。

俺は“赤龍帝の籠手”に意識を集中させ、神器と聖剣の波動を合わせる。

聖なるオーラが神器に流れ込んでくる。聖なる力が徐々に籠手に馴染んでいく。ドライグが聖剣の力を取り込んでいってる感じだな。

そして、カッ!と赤い閃光を走らせると、籠手の先端からアスカロンの刃が生えていた。

なんかかっこいいな。

神器と聖剣の融合。何やらロマンがあふれてやがる。

 

「上手くいって良かったです。そろそろ時間ですし、私は行かねばならないのでここで失礼します」

 

そう言いながらミカエルさんはこの場を立ち去ろうとする。

……ってあ!そうだ!うっかりしていた。

天使側の重鎮とあったら一言申したいことがあったんだ!

 

「あの、ミカエルさんに聞きたいことがあるんですけど!」

 

「会談の席か、会談後に聞きましょう。必ず答えますので安心を……」

 

そう言うとミカエルさんの全身を光が包み込み、一瞬の閃光の後、ミカエルさんの姿は消えていた。

 

 

 

 

 

******************

 

 

 

「お茶ですわ」

 

「ありがとうございます、朱乃さん」

 

ミカエルさんが去った後、俺は朱乃さんが生活しているという境内の家で一息ついていた。和室に通され、茶道的なおもてなしを受けている。

ミッテルトは今セラと共に神社のなかを見物している。

お社の中に入るなんて滅多にないからか、とても楽しそうだ。

朱乃さんが入れてくれたお茶を、俺は器を回したのち飲んでみる。茶の類は以前練習したことがあるからある程度の作法はわかるのだ。

うん、苦みがいい味出しててかなり美味しい。茶に関してはシュナさんと比べても引けを取らないと思う。

 

「朱乃さんはミカエルさんとアスカロンを?」

 

「はい、この神社でアスカロンの仕様変更術式を行っていたのです」

 

まあ、龍殺しの聖剣をドラゴンが使えるようにするって大変そうだしな……。死霊が聖なる技を使うのに特殊な工程が必要なのと同じで相応の準備が必要なのだろう。

なんか、部長も朱乃さんも大変だな。

三大勢力の会談の打ち合わせやセッティング。それに加えてこのアスカロンと、あっちこっちで仕事をこなしてる。

俺も手伝いたいけど、正直三大勢力の実情がわからない以上、下手に手を出すとかえって足を引っ張りかねない。

こんなことなら、地球の裏事情の話、もう少し詳しく聞いとくんだった。

異世界人の中には地球の裏にかかわっていた人なんかも稀にいるし、ミリムさんのところに住んでいる八重垣さん夫婦なんか、元エクソシストに元上級悪魔だって話だし、もしかしたらこういう事情に詳しかったのかもしれない。

まあ、あの人は元の世界の話をあんまりしたがらないけど、それでも情報収集くらいはちゃんとしとくべきだったな。

 

『もともと裏にかかわる気は毛頭なかったわけだし、仕方ないんじゃないか?』

 

それはそうだけどさ……。ま、過去を悔やんでも仕方ない。これから学んでいけばいいんだから。

ここで俺はあることを思い出す。ミッテルトが言っていたんだが、コカビエルの発言で気になってたことがあるんだ。

 

「あの、ひとつ聞いても良いですか?」

 

「なんでしょう?」

 

「……以前から、朱乃さんからは悪魔以外の、ミッテルトに似たオーラを感じてたんです。コカビエルも言ってたし、もしかして、朱乃さんって堕天使の幹部の……」

 

俺の問いに朱乃さんは表情を曇らせる。

 

「……そうよ。もともと私は堕天使幹部のバラキエルと人間の間に生まれた者です」

 

やっぱり、そうなんだ。

初めて会った時から堕天使の気配は感じていたし、うすうすそうなんじゃないかとは思っていた。

だが、その力を全くと言っていいほど使わなかったことから、何やら訳があるんじゃないかとは思っていたんだが、朱乃さんの表情を見るに思った以上に根深そうな問題なようだ。

 

「母はとある神社の娘でした。ある日、傷つき倒れていた堕天使幹部のバラキエルを助け、その時の縁で私を身に宿したと聞いています」

 

なるほど。朱乃さんも複雑な家庭事情があるんだな。

父親のことを言われて激昂したとも聞いたし、親子仲は悪いのかもしれない。

そんなこと考えていると、朱乃さんは巫女服の上を脱いだ。

そして、朱乃さんの背中から現れたのはいつもの悪魔の翼ではなく、片方が悪魔の翼ともう片方が堕天使の黒い翼というものだった。

 

「汚れた歪な翼、私は悪魔の翼と堕天使の翼、その両方を持っています。堕天使の翼が嫌で私はリアスと出会い、悪魔となったの。でも、その結果、生まれたのは堕天使と悪魔の翼を持ったおぞましい生き物。ふふ、この身に汚れた血を持つ私にはお似合いかもしれません」

 

そう言って自嘲する朱乃さん。

その姿はとても痛々しく思えた。

 

「俺はそうは思いません。少なくとも、俺は朱乃さんの翼、カッコいいと思いますよ」

 

俺は素直に思ったことを口にする。

すると朱乃さんは驚いたような表情をする。

 

「朱乃さんはミッテルトのこと、どう思ってます?」

 

思えばミッテルトの初カミングアウトの時、一番警戒していたのは朱乃さんだった。

恐らく、最初はいいイメージを持ってなかったんじゃなかろうか……。

でも今は……。

 

「……最初は堕天使、ということでいい思いは抱かなかった……けど、今はとても素敵な子だと思っているわ」

 

「でしょ。俺は堕天使だろうが、悪魔だろうが、人間だろうが大事なのはその人がどういう人なのかだと思ってます」

 

朱乃さんは自らの非対称な翼を歪な汚れた翼と称していたが、俺は別に朱乃さんが汚れてるとも歪だとも思えない。

 

「誰の血を引こうが、朱乃さんは朱乃さんだ。他の誰でもない。俺にとって朱乃さんはオカルト研究部の副部長で、とても優しい人で、大好きな先輩です。それでいいんじゃないですか?」

 

俺の言葉を聞いて、朱乃さんの目からは一筋の涙がこぼれた。

マ、マズイ。泣かせてしまった。どうしよう!?

 

「す、すみません!泣かせるつもりは……」

 

俺は地に伏せて朱乃さんに謝罪する。

それを見た朱乃さんは泣きながら笑っていた。

 

「殺し文句、言われちゃいましたわね。……そんなこと言われたら本気になっちゃうじゃない……」

 

「あ、朱乃さん?」

 

朱乃さんは立ち上がると俺に抱きついてきた。

豊満な胸が当たってこんな状況だがとても心地よい。

 

「ねえイッセーくん」

 

「は、はい!」

 

「これから二人きりの時は『朱乃』って呼んでくれる?」

 

「え?せ、先輩をそんな風になれなれしく呼ぶのは…………」

 

「……お願い」

 

そ、そんな潤んだ瞳で懇願されたら……。

いや、まあでも、確かに年上だけど呼び捨てで読んでる奴なんて結構いるし、今更かもしれない。

それでもこれほど美人のお姉さんに呼び捨てってのはかなりハードルが高い。

俺は少し悩んだ後、意を決してつぶやく。

 

「あ、朱乃……?」

 

「うれしい、イッセー!」

 

朱乃さんがさらに俺を抱き締めてくる。

やばい!朱乃さんが超かわいい!

そこにいつもの凛とした副部長の姿はなく、一人の女の子という感じだ!

もしかしたらこちらが朱乃さんの素なのかもしれない……。

やばい!朱乃さんの胸がさっきから押し付けられてる!たわわなおっぱいが超絶やわらかい!

しかも今の朱乃さんは上は裸みたいな状態だから、直で当たってるよ!

 

「あ、朱乃……?何を!?」

 

「いいから」

 

朱乃はそのまま俺を膝へと誘導し、膝枕の体制にした!感無量だぜ!

袴腰でもわかる太ももの柔らかさ。たまらねえ!

 

「うふふ。なんだかいけないことをしてる気分。イッセー君、気持ちいい?」

 

ああ、至福だ。

だが、これってミッテルトに見られたらまずいんじゃ……。

 

「そうと自覚してるなら自重してほしいっす」

 

「ほしいの!」

 

言ったそばから……。

勢いよく扉を開けたのはお怒りの様子のミッテルトだ。

何やら仁王立ちして異様なオーラを放っている。

ちなみにセラはよくわかってないようだが、ミッテルトの真似をしてる。可愛い……じゃなくて!?

 

「み、ミッテルト!こ、これはその!」

 

ミッテルトはオーラを霧散させてあきれた様子を見せてため息をついた。な、なんだ?

そしてそのまま、朱乃の前に向かい合うように座った。

 

「まあ、イッセーは後で処すとして……」

 

あ、処されるのは確定なのね。

 

「朱乃さん。ありがとうっす。うちを受け入れてくれて……堕天使のうちを……」

 

その言葉を聞いて、朱乃は驚いたように目を見開く。

 

「き、聞いてたの?」

 

「ごめんなさい。少しタイミング見計らっちゃって……。堕天使のうちが言っても嫌かもしれないっすけど、うちも朱乃さんのこと好きっすよ」

 

「……私も、堕天使は嫌いだけど、ミッテルトちゃんのことは大好きよ」

 

「ありがとうっす」

 

朱乃の言葉にミッテルトも笑顔で返す。

そこからは朱乃とミッテルトの女子トークが始まった。

俺は膝枕からは解放されていたので、取り敢えず手持ち無沙汰となったセラと遊びながらそれを隅から眺めていた。

朱乃も付き物が落ちたように楽しそうにしてるし、ミッテルトも同様だ。

かくして、俺たち三人は今まで以上に親睦を深めることができたのだった。

 

 

 

 

・・・・・・・なお、帰宅時、ミッテルトにぶっ飛ばされたことをここに追記しておくことにする。

 



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隠密と黒猫とドラゴンです

今作連載して一周年。
なんだか感慨深いものを感じますね。
これからも、今作をよろしくお願いします。


???side

 

 

 

腹立たしい。

そう思いながら私は兵藤一誠とその仲間たちを観察する。

視線の先の学び舎にて、兵藤一誠は恐らくこの世界で知り合ったのであろう女性たちとイチャイチャイチャイチャしている。

相変わらずの女誑しっぶりだ。

 

(私だって……い、いや、何を馬鹿なこと!?任務中よ!?)

 

そう、これは任務。

私の任務は彼処にいる兵藤一誠及び、その友人の監視と最近やってきたヴェルグリンド様の弟子、ティアマット殿に頼まれたお願いの二点。

私情を挟んでは行けない。

それが私に課せられた役目なのだから……。

 

「なにしてるにゃん?」

 

「ひゃ!?」

 

突如、建物の影に潜伏していた私を何者かが強引に引き上げてきた。

この声は……。

 

「黒歌殿!?」

 

「お、やっぱりトーカかにゃ」

 

「ど、どうやって私のことを……」

 

私を引っ張り上げたのはルベリオスの幹部である黒歌殿だった。

私の影移動の技術はソウエイ様のもと、相応の熟練度まで仕上がっている。

それこそ、高い感知能力を持つものが相手でも、注視しなければ見つかることはないレベルまで……。

いかに黒歌殿が究極能力の発現者といえど、簡単に見抜けるはずが……。

 

「いや、だってあきらかに影が不審な動きしてたし……」

 

・・・・・・・・・嘘でしょ?

聞いた話によると、黒歌殿も妹の学校での様子を見るため、黒猫に化けて護衛をしており、そんな中で不審なものを見つけて気配を消して近寄ったらしい。

最初は敵かと思ったそうだが、強化した仙術で感知をしたことで陰の中身に気付いたのだという。

 

「うう、隠密として恥ずかしい……」

 

「トーカは相変わらずイッセーのこととなると動揺するにゃん」

 

「はあ!?別にあんな変態何とも思って……」

 

「別にそこまで言ってないニャ」

 

ぐっ、駄目だ落ち着け。落ち着くのよトーカ。

私は深呼吸をし、冷静になったことで改めて気配を遮断する。

少し騒ぎすぎたし、人が集まっても面倒ね。

ひとまずこの場所は離れたほうがいいでしょう。見ると黒歌殿は感心したようにこちらを眺めている。

 

「さすがにゃ。こんなに近くにいるのに気配が全く感じられない。少なくとも、ユニーク級のスキルや並みの仙術使いなら簡単に欺けそうにゃん」

 

「当然です。私はリムル様に使える隠密……“藍闇衆(クラヤミ)”の構成員なのですから」

 

そう。私はソウエイ様に選ばれた“藍闇衆(クラヤミ)”の隠密。

この程度ならば造作もないのだ。

 

「でも、イッセーには弱い」

 

「だからあ!あいつは関係ありませんって!?」

 

全く、本当にこの人は……。

私はおちょくるような視線でこちらを眺めている黒歌殿に対し、疲れたような表情で返すのだった。

 

 

 

 

 

******************

 

 

 

「はあ~」

 

ファルムスの件以来、ソウエイ様の訓練は激しさをました。

そんなソウエイ様も素敵だけど、時折大変だと思うこともある。

それに……。

 

「ソウエイ様を狙うとなると、あのソーカに勝つ必要があるのよね……」

 

ソーカは正直すごいと思う。あのソウエイ様の訓練に対しても嫌な顔ひとつせずにこなしてしまうのだから。

 

「私もそれくらいできたらな……」

 

最近、私はかなりスランプ気味だ。

訓練には付いていくのがやっとなうえ、失敗したり課題をこなせないことも多々あるのだ。

現状、ソウエイ様の課題を全てこなせているのはソーカくらいだろう。

このような体たらくでリムル様の……引いてはテンペストの隠密を名乗ることなどできないだろう。

もっとしっかりしなければ……。

 

ガサガサ・・・・・・・

 

ん?何だろう?

茂みから何者かの気配がする……。この気配、魔獣じゃあなさそうね……。

 

「ふう、ここまで来れば追ってこまい……」

 

「ん?お前は……」

 

「あれ?」

 

茂みから現れたのはリムル様と同郷の異世界人にして、魔国の客分である超弩級の変態“兵藤一誠”だった。

 

「確か、ソウエイさんとこのトーカさん……だったっけ?何してるの?」

 

「それはこっちのセリフよ。相も変わらずセクハラでもして追われているの?」

 

「は、はあ!?な、な、何言ってるんですか?嫌だな~」

 

兵藤一誠は目を泳がせながら慌てふためいている。どうやら図星の様ね。

全く。リムル様も呆れていたし、この男はどうしてこうも残念なのだろう……。

 

「そういうトーカさんこそ何してるんだよ!」

 

「私は少し休憩してるの。最近上手く行かなくてね……」

 

「へ?トーカさんでも上手くいかない事ってあるの?」

 

「そりゃあるわよ」

 

私は現在、絶賛スランプ中であり、訓練でもなかなかうまく行かなくなってしまったことを話した。

今思うと何でコイツに話したんだっけ……?

誰でもいいから聞いて欲しかったと言う気持ちがあったのかもしれない。

しばらく話し込んでいると、一誠は同情したかのような視線を私に向けていた。

 

「そりゃ付いていけなくても仕方ねえよ……。ハクロウさん以上に鬼畜じゃねえか……。ソウエイさんやりすぎじゃね?」

 

「そう?ソーカとか普通に付いていってるけど……」

 

ちなみに訓練の内容は魔獣狩り(Aランク以上)や戦闘訓練、本気のソウエイ様から全力で逃げ切るというものだったりと、当時の私の実力的には非常に難しい代物だった。

オマケに休憩は寝る時とご飯を食べるときくらいだ。ハクロウ様も厳しいけど、休憩などのメリハリはしっかりしてるし、それを考えると確かに酷いのかもしれない……。

もっとも、ソウエイ様の気持ちもわかる。

ソウエイ様としても、ファルムスという例があったからこそ、次同じことが起きても対処できるように、早急に戦力となり得るものを確保するという意味合いもあったのだろう。

だからこそ、此方としても妥協は許されない。全力でこなすのみなのだ。

 

「ハクロウさんも休憩はちゃんとくれるし、師匠もそこは同じだからな……。もっとも、師匠は本人がサボることの方が多いけど……」

 

「ヴェルドラ様ですか……」

 

ヴェルドラ様は現在、目の前の変態の師匠として独自の拳法を教えてるのだそうだ。

リムル様の体内にいた時から龍の力を宿すものとして目を付けていたらしく、兵藤一誠自身も短い付き合いでヴェルドラ様を慕うようになってるみたい。

 

「まあ、お互い変な上司を持つと大変だよな……」

 

「……ソウエイ様は変ではありません」

 

「そ、そう?あの人のストイックさは普通に変人の領域だと思うけど……」

 

「そのストイックさがソウエイ様の魅力なの!ソウエイ様も超弩級ド変態の貴方にだけは言われたくないでしょう」

 

「ひでえ!そこまで言う!?」

 

「貴方ねぇ……。今までの言動を省みた方がいいわよ……」

 

訓練でも相手が女子であるのならば、“洋服崩壊”なる力を用いて全裸にしようとする。

ハクロウ様が何度注意してもやめないし、ミュウランさんにそれをやってヨウム殿やグルーシス殿にコテンパンにされたあとも、まるで懲りた様子がない。

お陰で訓練の際、この男は女子と戦り合うことを禁止されているくらいだ……。

 

「それでも、大変じゃない?」

 

「大変ではあるけど、だからといって訓練の方針が変わるわけでもないし……」

 

「それならさ、いっそのこと訓練を少し休んだ方がいいですよ」

 

「はあ!?なにいってるのアンタ!?」

 

休む……。ファルムス事変の前は確かにそういう機会もあるにはあったけど、それでも二度とあのような悲劇を起こさないためにも、少しでも鍛練した方がいいように思う。

ただでさえ、魔王クレイマンを倒し、リムル様が正式な魔王となったことで、様々な勢力から一目置かれるようになっているのに、ここでその流れを潰すわけには……。

 

「だって、スランプ中にさらに訓練激しくしても身に付かないだろうし、ソウエイさんの訓練って命の危機すらあるから危険じゃん。それなら、少しくらい休んで備えた方がいいんじゃないかなって……」

 

「う、まあ、確かにそうかもしれないけど……」

 

確かに兵藤一誠の言うことにも一理はあるかもしれない。

 

「でもさ、そう思うのなら、ソウエイさんにちゃんと伝えた方がいいと思うぜ。やっぱさ、思いをちゃんと伝えることが一番大事なことだと思うし……」

 

「でも……」

 

「俺もさ、ミッテルトと真っ正面からぶつかり合ったからわかりあえたわけだしさ、思ったことは真っ正面から伝えたほうがいいぜ。大変なんだったら、たまには休みをください……とかさ」

 

「兵藤一誠……」

 

その言葉からはどことなく重みが感じられる。

確かに、そういうのを伝えるのも大切なことなのかもしれないわね。

思えば、最後に休暇を貰ったのっていつだったっけ……?

 

「休息の時間は終わりだ。訓練に戻るぞトーカ」

 

突如、聞き覚えのある声が後方から聞こえてきた。

バッと声のした方向に顔を向けると、そこにはソウエイ様が佇んでいた。

 

「ソウエイ様……」

 

油断なく私を見つめるその瞳につい萎縮してしまう。

 

「……言いたいことがあるのならば聞くぞ。ハッキリ言ったらどうだ?」

 

……もしや、この人最初から私たちの会話を聞いてたの!?

うう、やはり言うべきなのだろうか?

なかなか勇気がでない……。

まあ、休暇なんてワザワザ取るものでもないし、私もまだまだ頑張れるつもりだ。またの機会に……。

 

「あの、ソウエイさん。トーカさん、最近訓練に付いていけないこと気にしてるらしくて、少しくらい休ませた方が……」

 

「なっ!?」

 

「ほう。そうなのか?トーカ」

 

この、変態は……、引くに引けなくなっちゃったじゃないの!

……でも、私の事純粋に心配してるからこその発言なのはわかってる。

正直怖いし、ソウエイ様にどう思われるかわかったものじゃない……。訓練激化ならまだいいが、下手したら隠密を辞めさせらるかもしれない。

 

「……申し訳ございません。しかし、現状皆疲労が貯まっており、私も含め訓練が身に入ってない者がでるやもしれません。このような状況下、身勝手この上ないと自覚はありますが、一考していただければ……」

 

沈黙の時間が続く。

ソウエイ様は私の事をじっと見据えている。しばらくした後、ソウエイ様は背を向けて歩き出す。

やはり認められなかったか……。

 

「確かにお前の言う通りだ。お前を含め、サイカ、ナンソウ、ホクソウもかなり消耗している。しばしの休暇をやろう。身体を休めておけ……」

 

「え!?」

 

思っても見なかったソウエイ様の言葉に目をぱちくりさせる。

 

「ただし、休暇を終えたら今以上に厳しく行くぞ。しっかり英気を養うがいい」

 

「は、はい!」

 

そう言ってソウエイ様は去っていった。

まさか、本当に貰えるとは思わなかった私はただそれをぼんやりと眺めていた。

 

「な、やっぱり思ったことは伝えるのが一番なんだよ」

 

「……そうね。貴方の言う通りだったみたい」

 

「で、これからどうするつもりっすか?」

 

「いや、そんなの考えてるわけないじゃない……」

 

あまりにも唐突すぎて、正直何すればいいかなんてわからない。以前の休暇はどうしたんだっけ……?

確かサイカと甘味巡りをした記憶がある。

だが、サイカも急に言われては困るだろうし、どうしよう。

 

「あ、じゃあさ、俺と一緒に出掛けない?これからミッテルトの買い物付き合う予定があるし……」

 

「……そうね。お願いするわ」

 

思えば、コイツとはあまり関わったことがなかったな……。

ミッテルト殿もそこまで関わりがあるわけでもないし、交友関係を広げるのも隠密として大事なことだろう。

そう考えて私は兵藤一誠の後を付いていく。

これが兵藤一誠と話すようになったキッカケとなる出来事だった……。

 

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

 

 

それから十数年たった。

今思えば、この時の出来事がなければ一誠と関わることもなかったのだろう。

私は隠密として、影で魔国の者たちを支えてるだけなのだから。

 

「まあ、そのときはなんとも思ってなかったけどね……そこから徐々に話す機会が増えて、まあ、腐れ縁ぐらいにはなったんじゃないの?」

 

「腐れ縁?よくミッテルトと張り合って喧嘩してたじゃん?」

 

「あ、あれは、そう!あの変態はミッテルトの負担になると思って何とか押し止めようと……」

 

「で、あわよくば自分が付き合おうと?」

 

「そうそう……って何言わすのよ!?」

 

私は黒歌殿と共におでん屋台で飲み交わしていた。

いけないいけない……酔いが大分回ってきてる。

無毒化したほうがいいかもしれない。

 

(いつからこうなったんだっけ……?)

 

実際、この時はまだ一誠のことをそういう目では見てなかった。

この頃はソウエイ様一筋と考えてたのもそうだし、変態行為を繰り返す一誠をそういう対象と見れなかったのが大きいと思う。

ソウエイ様にはソーカこそ相応しいと考え、身を引いて……その後アイツと一緒に任務に行く機会があって……最初はただの変態と思ってたけど、いいところもあるよなコイツと思うようになって、徐々に……って感じだっけ?

 

(……って違う違う!何考えてるんだ私!?)

 

まだ無毒化できてないの?頭がふわふわする。

……まあ、たまにはいいかもしれないわね。

普段は羽目を外すなんてなかなかできないわけだしね……。

 

「……ところで、地球(ここ)にいる隠密ってトーカだけなの?」

 

「いえ、他にも数名が来ているけど、神祖の介入が来る前に成し遂げるべきもう一つの任務があって、他の者たちは現在そちらを優先してるわ」

 

「任務?他にも何かあるにゃん?」

 

……同盟相手といえど、他国の存在である黒歌殿に情報を開示するのは気が引けるわね。

まあ、リムル様にも事前に許可はもらっているから問題はないけど。

 

「ティアマット殿の持つ宝具の回収。それが私たち“藍闇衆(クラヤミ)”に与えられたもう一つの任務よ」

 

「ティアマットというと、この世界の“五大龍王”の一角にして、ヴェルグリンド様の弟子だというあのティアマットかにゃ?」

 

「ええ。なんでもあの方は一誠に宿る龍……“赤龍帝”ドライグに自らの力を封じ込めた秘宝を貸していたらしいのよ。あの方も神祖の件の話を聞き、リムル様及びヴェルグリンド様に協力を申し込んでね……」

 

曰く、ティアマット殿がドライグに貸したという秘宝には、自らの魔素(エネルギー)の半分以上が込められているのだという。

それがなくても、ヴェルグリンド様に与えられた武器と鍛え上げられた技量(レベル)がある以上、必要性がないと判断して気前よく貸し出したそうだ。

ヴェルグリンド様曰く、当時のティアマットは覚醒魔王に匹敵するか上回るほどのエネルギーを秘めていたのだという。それでも技量を込みすると現在のほうが強いといっていたが、神祖やその兵たちが強大である以上、自分も真の力を取り戻したほうがいいと判断し、事を急ぐことにしたのだという。

リムル様も短い付き合いだがティアマット殿のことを信用したらしく、一誠の護衛とともにティアマット殿の“龍の秘宝”の捜索を命じたのだ。

 

「究極を使ってないとはいえ、技量(レベル)だけでイッセーと渡り合ったっていう話だし、確かに力を取り戻したらすごい戦力になりそうだにゃ」

 

実際、ティアマット殿の戦闘技術は驚異的だ。

究極能力(アルティメットスキル)を使わないというハンデがあったとはいえ、()()()()()()()()()()殿()()()()()()()()()()()()。流石にゼギオン様には手も足も出ず敗北していたが、それでも驚異的と言わざるを得ないだろう。

魔王種程度の力で覚醒魔王を下すなど、相当の技量がなければ到底不可能だ。

この星の龍王の中でも最強の力を誇ると言っていたが、それもうなずける戦力だ。

もし、それほどの力を持つ存在が真の力を発揮すれば……。

 

「とはいえ、どこにあるかが何もわからない状況なのよね。現状、私たち隠密が各神話勢力に諜報して探っているおかげで一部は発見できたけど、複数あったって話だし、全部集めるのは難航してるわ」

 

「へえ…………ちょっと待つにゃ。各神話勢力?」

 

「?ええ。現時点で北欧神話、日本神話、吸血鬼領を調べ終えているわ」

 

吸血鬼領は影を操る者が多かったから苦労したけどねと付け足すと、黒歌殿は呆れたような視線で私を見つめていた。

 

「……ほんと、魔国の隠密は恐ろしいにゃん」

 

「それくらいできなきゃ隠密は務まらないわよ」

 

これくらいは当然だ。私たちはソウエイ様に鍛えられた諜報の専門家。

神話の勢力たちは確かに恐ろしい力を感じたし、ひやひやした場面があったことも否定はしない。それでも、これくらいはできないと専門家など名乗れやしない。

 

「まあ、トーカの気配遮断も注視してなきゃ究極保持者すらもわからないレベルだしね。神話の神々も常に気を張ってる奴なんていないだろうし、確かにそれくらいはできるか……」

 

「当然よ」

 

そう言いながら、私は酒に口をつける。

 

「まあ、トーカはさっきみたいにイッセーがらみだと隙だらけになるけどね」

 

「さっきのは忘れなさい!!!」

 

くう、今思い出しても恥ずかしい。自分の世界に入り込んで他者に見つかるなど隠密の名折れだ。

ソウエイ様にばれたらどのような目にあわされるか……考えただけでも恐ろしい。

そう考えていると、黒歌殿はクックッと笑う。

 

「黒歌殿?」

 

「前から思ってたけど、そんな他人行儀じゃなくて普通に呼び捨てで言いにゃん♪私はトーカの事気に入ってるし、同じ男を求める者同士、普通に接してほしいにゃん」

 

「だからっ……もういいわ。わかったわ黒歌」

 

もういい。今日は羽目を外して飲もう。私は体内の毒耐性を0にする。

本来は危険だけど、黒歌もいるし、一日くらい、きっと大丈夫だろう。

私は再び酒に口をつけるのだった。

 

 

 

 

 

******************

 

イッセーside

 

 

 

「遅いっすね黒歌っち」

 

「そうだな」

 

父さん母さん曰く、朝方フラッと何処かへ行ってしまったらしいが、時間的に考えてもかなり遅い。

何かあったのかな?

 

 

ピンポーン

 

 

「お、帰ってきた」

 

俺はインターホンの音を聞くやカギを開けるため扉に立つ。

ん?黒歌だけじゃないな。覚えのある気配だ。

 

「いっせい~。ひさしぶり~」

 

「トーカ!?」

 

ドアを開けたのは黒歌ではなく、魔国の誇る隠密の一人。トーカだった。

トーカは扉を開けるや否や俺の胸に飛び込んできた。儚げな吐息が何とも艶めかしい。

酒に酔ってるのか、赤く染まった頬とうるんだ瞳がとてもかわいく見える。

 

「えへへ、いっせーのかほりだぁ~」

 

「お、おいトーカ?いくらなんでも飲みすぎじゃない!?」

 

「らいじょうぶよ~」

 

「いや~、トーカって完全に酔っぱらうとこんな感じになるにゃんね」

 

なんだこれ!?こんなトーカ見たことねえぞ!?

トーカは隠密だけあって、かなり自制心が高いからここまで羽目を外すことはない。まじで何があった!?

よくみると人型“龍人族(ドラゴニュート)”特有の角も隠せてねえし、これはマジでやばい状況かもしれん!

と、とりあえずベッドに寝かさな……い……と……?

 

「……イッセー。その女性はどちら様かしら?」

 

「い、イッセーさん。その人はいったい?」

 

後ろを振り向くとそこにいたのは部長とアーシアの二人だ。

部長は怒ってるし、アーシアは涙目だ。色々まずいかもしれないぞこれ……。

 

「騒がしいっすね。いったい……って、トーカちゃん!?」

 

リビングからひょっこり顔を出したミッテルトは見たことない様子のトーカに驚いてるようだ。まあ、無理もあるまい。

 

「ミッテルト?知り合いなの?」

 

「え、ええまあ……てか、どういう状況すかこれ!?」

 

「と、とりあえず運んで……」

 

「いっしぇーがべっとにはこんで~」

 

「何言ってんだお前!?どんだけ飲んだんだよ!」

 

このままじゃあ埒が明かない!

本来アーシアと寝る予定だった俺は急いでトーカをベッドに運んで寝かしこむのだった。

 

「うう、イッセーさんと寝たかった……」

 

「明日、説明しなさいよ」

 

「わかってますよ」

 

ベッドに入れても俺から離れようとしないトーカに対し、仕方がないので俺も一緒に寝る。

俺は後日、部長にトーカのことを話すと約束してベッドに入るのだった。

 

 

 

……次の日、火のように赤くなって縮こまるトーカの姿が目撃されるのだった。




トーカ
EP 21万0303
種族 龍人族(ドラゴニュート)
加護 闇の盟主(ダークネス)の加護
称号 藍闇衆(クラヤミ)の隠密
スキル 気闘法、影移動、土操作、炎吐息、魔力感知、熱源感知
魔国連邦所属。緑の髪が特徴の龍人族。ソウエイに仕える隠密にして、ソーカ直属の部下。
元々はソウエイのファンだったが、親友であり、上司でもあるソーカに免じて身を引いた。
その後、イッセーと一緒に他国に行く機会があり、その時からだんだんと気にし始め、結果、こうなったという。
隠密としては非常に優秀であり、努力も欠かさないため、周囲からの評価は非常に高い。が、イッセーがらみだと隙だらけになる弱点だあり、たびたび呆れられることも増えてきたという。
現在はイッセー宅より、少し離れたアパートを拠点としており、近場でアルバイトをしながら同僚とともに三大勢力や他の神話勢力の動向調査、神祖の警戒、ティアマットの宝具集めを並行して行っている。
本来、毒耐性があるうえ、自制をすべき隠密という立ち位置のこともあり、酔ったことが一度もなかったのだが、初めて毒耐性を切り、酔うまで飲んだ結果黒歴史を増やすこととなった。
また、同僚のソーカ、サイカに比べ、胸が小さいことをコンプレックスとしてる一面も……


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トップ会談はじまります

イッセーside

 

 

俺は目の前でうずくまっている存在にどう声をかけようか悩んでいた。

 

「え、え~と、トーカ。大丈夫か?」

 

「……今は話しかけないで」

 

トーカは近くにあった紙袋をギャスパーよろしく頭にかぶり、さらに深いため息をついた。

まあ、気持ちはわかる。酒に酔ってあんな妙なことしたと知ればこんな反応にもなろう。

酔ってる間に何したのかは全部覚えているようで、とことん沈んでしまってるようだ。

 

「いっそ殺せ……」

 

これは重傷だ。このままではトーカまで“段ボール龍人族(ドラゴニュート)”と化してしまう。

だが、どうやって慰めたものか……。

 

「まあ、こういうミスもあるっすよ。気にすることないっすよ」

 

「……そう?」

 

「そうっすよ!うちなんか、ここに来たばかりの時、エロゲーの存在を知らずにイッセーに届けに行って大恥かいたことあるんすから!」

 

「それは……地獄ね……」

 

うわあ、その話もってくるか……。

あれはまだミッテルトがここに来たばかりのころ、ミッテルトがエロゲーをもって教室に届けに来たことがある。

パッケージを親にばれないように裏返しにしてて、ミッテルトがそれを学校でひっくり返して大恥をかいた話だ。あの時は皆から凝視されて恥ずかしがってたミッテルトに思いきりぶん殴られたっけ。

 

「こんなのトーカちゃんらしくないっすよ!元気出すっす!」

 

「……私らしくない、か。確かにそうね。失敗は挽回するものだと、リムル様も言っていたものね」

 

どうやらなんとか立ち直ったようだ。トーカは紙袋を投げ捨て、立ち上がる。

よかったよかった。

 

「……で、イッセー。この人は結局どちらさまなの?」

 

おっとそうだった。そういえば部長たちにまだ紹介していなかったな。

 

「紹介します。こいつは“トーカ”。俺の友人ですよ」

 

「はじめまして。トーカと申します。先日はお見苦しいところを見せてしまい、申し訳ございません」

 

「アーシア・アルジェントといいます。よろしくお願いします」

 

「リアス・グレモリーよ。まあ、酔っていたのなら仕方ないわ。父や兄も似たようなものだし」

 

確かに、酔った奴らは普段とは逸脱した行動をすることもあるからな。

まあ、仕方ないと言えば仕方がない。

 

「それはいいんだけど、トーカさんは何者なの?昨日角が生えているのが見えたし……人間……じゃあないわよね?」

 

「はい。私は“龍人族(ドラゴニュート)”です」

 

「どらごにゅーと?」

 

「簡単に言うと、人化した(ドラゴン)と人間が交わったことで生まれた、龍と人間のハーフともいえる存在ですよ」

 

「龍と人間のハーフ!?」

 

まあ、トーカは“蜥蜴人族(リザードマン)”から進化した存在だけど、ミッドレイさんを筆頭とした“竜を祀る民”の起源はそうらしい。

進化経路が同じなことから察するに、人間の血が色濃く出たのが“竜を祀る民”であり、龍の血が色濃く出たのが“蜥蜴人族”なんだと思う。憶測の域をでないが、あながち間違いでもないと思う。

 

「イッセーさんの周りにはいろんな人がいるんですね」

 

「はぐれ堕天使にSS級はぐれ悪魔の次は龍と人間のハーフ……。本当にイッセーの過去が気になってくるわ」

 

部長が頭を抱え込んでいる。何やら悩んでる様子だ。

まあ、無理もないだろうけど……。

 

「まあ、その話はおいおい……今は会談のほうですよ」

 

そう。今日は三大勢力の会談を行う日なのだ。まずは神器が制御できないから危険と判断され、留守番が決定してしまったギャスパーのためにお菓子を買ったりしなきゃならない。

他にもいろいろやることがあり、今日は早めに出ないとな……。

 

「黒歌は悪いけどセラと一緒に留守番しといてくれ。一応、お前のことは上層部は把握してるっぽいけど、念のためにな」

 

「了解にゃん」

 

「セラも留守番しっかりしろよ」

 

「はいなの!」

 

ビシッと敬礼するセラに思わずほっこりする。

まあ、会談の場で一応の報告をする予定はあるが、現状見られてもいいことはない。魔王やその眷属ならまだしも、末端の護衛の悪魔にまではさすがに伝わってないだろうし、黒歌は連れてくわけにはいかない。

トーカは……どうしよう。ぶっちゃけこんなところで遭遇するとか思ってなかったから、考えてないんだよな……。

まあ、トーカは普通に自分の家があるだろうし、そのまま帰る選択肢もあるけど……。

 

『一応、あなた達についていくわ。三大勢力の会談の顛末は知っておいて損ではないもの』

 

『あー、まあ隠密として情報収集は大事だからな』

 

『了解っす』

 

部長たちをまだ警戒してるのか、他のものに聞かれぬよう、俺とミッテルトに思念伝達でトーカは告げる。どうやら俺たちについていくようだ。ただ、普通に行くのも警戒されるだけなので、しばらくしたら俺の影と接続して“影移動”で俺の影に移動するみたい。

さてと、さっそく出発するか。

今日の会談はこの世界の歴史を大きく変えるものとなる。俺には確信に近いものがあった。

会談に思いを馳せつつ、俺たちは勢いよく家を飛び出した。

 

 

 

 

******************

 

 

 

 

コンコン、部長が会議室の扉をノックする。

 

「失礼します」

 

部長が扉を開けて中に入るとそこには……

特別に用意されたという豪華絢爛なテーブルを囲むように各陣営のトップが真剣な表情で座っている。

悪魔側はサーゼクスさんとセラフォルーさん。それから給仕係のグレイフィアさん。

セラフォルーさんも以前の魔女っ子の姿ではなく、装飾の施された衣装に身を包んでおり、威厳を醸し出している。

天使側はミカエルさんと知らない天使の女の子。メチャクチャ美人だな。

まるで、天使のようだ!あ、天使か。

堕天使側はアザゼルさんと白龍皇ヴァーリ、それにレイナーレ……レイナーレ!?

レイナーレは俺たちのほう……特にアーシアを見ると青ざめたようにお辞儀をする。

ついでにアザゼルさんはいつものラフな格好ではなく、装飾の凝った黒いローブを付けている。

 

「私の妹と、その眷属及び眷属候補の協力者たちだ。先日のコカビエル襲撃では彼女達が活躍してくれた」

 

サーゼクスさんが他の陣営のトップに部長を紹介する。それに対し、部長も軽い会釈をする。少し緊張してるみたいだな。

 

「報告は受けています。改めてお礼を申し上げます」

 

「悪かったな。俺のとこのコカビエルが迷惑かけた」

 

ミカエルさんは部長へ厳かな感じでお礼を言う。それに対し、あまり悪びれた様子もなく軽い謝罪で済ますアザゼルさん。

そんな態度に部長は目元を引き攣らせていた。まあ、多分これはこの人の性分みたいなものだから、あまり目くじら立てるのもどうかと思うけどね。

 

「みんな、そこの席に座りなさい」

 

サーゼクスさんに促され、俺たちは壁に設置された椅子へと移動する。そこにはソーナ会長が座っていた。

俺たち全員が座るとそれを確認したサーゼクスさんが言う。

 

「全員がそろったところで、この会談の前提条件だ。この場にいる者達は『神の不在』を認知している」

 

サーゼクスさんはそう言うと皆を見渡す。

まあ、全員が知ってることだろう。ソーナ会長が知っていたのは少し意外だが、もしかしたらセラフォルーさんに聞いたのかもしれない。

 

「では、それを認知しているものとして、話を進める」

 

こうして、サーゼクスさんの宣言のもと、会談がスタートした。

 

「と言う様に我々天使は……」

 

「そうだな、その方が良いかもしれない。このままでは確実に三勢力とも滅びの道を……」

 

「ま、俺らには特に拘る理由もないけどな」

 

悪魔、天使、堕天使のトップたちが貴重な話をしている。たまにアザゼルさんの発現で空気が凍るが、基本的には順調だ。

各々の現状での戦力、現状の暮らしなどを加味して戦争になればどうなるかというものから最近起こった小競り合いの被害について、様々な内容を話しあっている。

まあ、俺としてはあまり関係ない話だし、知ったからどうこうなるというものでもない。

俺はあくまでただの人間。何の権力もない俺が口出ししても意味はないだろう。

 

「さてリアス。そろそろ事件についてを」

 

「はい。ルシファー様」

 

サーゼクスさんに促され、部長、会長、朱乃さんの三人で事件の顛末についてを話し始めた。

コカビエルのこと、メロウのこと、黒歌のことまで部長は詳しく報告をする。

一応、筋書きは決まっているのだろうが、部長はかなり緊張している。

まあ、お偉いさん相手に注目されるのってなかなか落ち着かないからな。

 

「────以上が私、リアス・グレモリーと、その眷属悪魔が関与した事件です」

 

「ご苦労。リアス」

 

「ありがとう。リアスちゃん☆」

 

サーゼクスさんとセラフォルーさんの言葉で部長は息を吐きながら着席する。よほど緊張したんだろうな。

 

「さてアザゼル。この報告を受けて、堕天使総督の意見を聞きたい」

 

その言葉に皆が注目すると、アザゼルさんは不敵な笑みを浮かべて話始めた。

 

「先日の事件は我が堕天使中枢組織“神の子を見張る者(グリゴリ)”の幹部コカビエルがそのメロウとやらと組んで勝手に起こしたものだ。奴の処理はそこのはぐれ堕天使と後から来た“白龍皇”がおこなった。その後、組織の軍法会議でコカビエルの刑は執行された。“地獄の最下層(コキュートス)”で永久冷凍の刑だ。やつはもう二度と出てこられねえよ。妙なパワーアップを遂げてはいたが、それでも簡単に脱出できるような場所じゃねえからな。その辺りの説明はこの間転送した資料にすべて書いてあったろう?それで全部だ」

 

ミカエルさんが嘆息しながら言う。

 

「説明としては最低の部類ですね。しかし、あなた個人が我々と大きな事を構えたくないという話は知っています。それは本当なのでしょう?」

 

「ああ、俺は戦争になんて興味ない。お前らも同じだろ?」

 

アザゼルさんの言葉にサーゼクスさんとミカエルさんが頷く。

まあ、誰だって戦争なんて嫌だろうしな。

 

「……ですが、あなたは神器の所有者を数十年にわたり、かき集めてるそうじゃないか?てっきり、我々や天界に戦争をけしかけるための戦力増強を図ってるのかと思ってたが……」

 

「あなたはいつまでたっても戦争を仕掛けてこなかった。“白龍皇(バニシング・ドラゴン)”を手に入れたと聞いたときは強い警戒心を抱いたものですが……」

 

ああ、なるほど。なんとなく、アザゼルさんが警戒されてる理由が分かった。

確かに、強力な力を持つ存在を外部から大量に招き入れてるとすれば、はたから見れば恐ろしいことだろう。

だが、俺から見たアザゼルさんの印象は、為政者というよりは研究者。迷宮の研究チームと同じ雰囲気を感じてる。だから、この場合の理由は……。

 

「神器の研究のためさ。何なら、研究データの一部をお前たちに送ろうか?俺は今の世界に満足してるし、戦に興味なんてねえよ。宗教に介入する気もなければ、悪魔業界に影響を及ぼさせるつもりもねえ」

 

ま、そういうことだろうな。

やっぱりこの人は根っからの研究好きなんだろう。いつか、語り合ってみたいものだぜ。

 

「……で、メロウなる者の正体は?」

 

「さあな。俺も知らねえよ。だが、お前らも知っているだろうが、こいつはたびたび色々な勢力で目撃情報があった。三大勢力の戦争時にも見かけたし、ただものじゃないのは確かだろうな」

 

へえ。メロウの存在自体は案外知れていたんだな。

まあ、仲間を増やすのが目的っぽいし、それを考えると当然と言えるのかもしれないな。

 

「で、この件について、俺からも聞きたいことがある」

 

!?来た。

アザゼルさんの視線は俺たち二人に注がれているから予想はしていた。

 

「兵藤一誠、ミッテルト。おまえらは何者だ?」

 

「「・・・・・・・・」」

 

「悪いが、会談にあたり、おまえさんのことは少し調べさせてもらった。だが、調査の結果判明したのは、おまえは普通の高校生だってことだけだ。親も普通の人間。先祖に魔術や超常の存在と接触した者はいない。それなのに、おまえは既に禁手に至っている。そいつは一朝一夕で使えるようになる代物じゃねえぞ?」

 

やはり調べはついてるか。この世界ではどう頑張ろうが絶対に俺の情報は出てこない。

だからこそ、怪しまれるんだ。

俺たちの力は一般人という枠組みからは大きく外れているからこそ……。

 

「ミッテルト。お前もだ。この名前を調べると、一つ心当たりが出てくるんだ。とある堕天使夫妻の一人娘がある日突然消えてしまうという事件があった。それから十数年という時が流れ、生存は絶望的と思われていたが……」

 

アザゼルさんは俺から視線を外し、ミッテルトを見据える。

 

「こんなところで学生をやって生きていた。しかも、下級堕天使の出のはずなのに、最上級の堕天使であるコカビエルを倒すレベルにまで成長してな……」

 

アザゼルさんは改めて問う。

 

「お前達はどうやって、そこまでの力を手にいれた?」

 

この場の全員の視線が俺たち二人に集中する。

部長たちも、俺たちについて気になっているようだ。だが、俺の答えは決まってる。

 

「……申し訳ございませんが、言えません!」

 

俺の言葉に部長たちは驚いたように見つめる。

まあ、この場で断るなんて普通に考えてどうかしてるしな。

 

「……どうしてもか?」

 

「はい。とある人と約束してましてね。少なくとも、今は言うわけにはいかないんです」

 

アザゼルさんの鋭い目線に対し、俺は真摯に答える。

暫くの間睨み合いが続く。が、アザゼルさんはフッと笑うと脱力して椅子に背をもたれさせた。

 

「ならば仕方ない。無理言って悪かったな」

 

「え?良いんですか?」

 

正直驚いたな。もう少し追及してくると思ってたんだが……。

不思議そうに思う俺にアザゼルさんは苦笑しながら答える。

 

「個人的には興味が尽きないが、言いたくないんだろ?ならば仕方ない。俺としても、あって間もない奴を信用して話せ──なんてできないだろうし、お前が言いたくなったらでいいさ」

 

「「ありがとうございます!」」

 

俺とミッテルトはアザゼルさんのことを改めて礼を言う。

本当にいい人だなこの人。言動はあれだがギャスパーや匙にアドバイスを送ったりもしてたし、本質的にはお人好しなんだろう。

人望が厚そうなのもうなずけるし、戦闘狂のコカビエルとウマが合わないというのもわかる。

 

「……そろそろ話を戻そうか。と言っても俺はこれ以上めんどくさい話し合いをするつもりはない。とっとと和平を結ぼうぜ。おまえらもその腹積もりだったんだろう?」

 

「「「っ!!」」」

 

アザゼルさんの言葉に俺とミッテルトなど、一部の存在を除く全員が驚いていた。

ん?もともとこれって和平をするための会談だろ?俺は最初からその認識だったから別段驚くほどの事でもないと思うんだが、部長はともかくトップの人たちまで驚いてるのはどういうワケだ?

 

『先ほどの話でもそうだったが、基本的に信用されてないんだろうな』

 

ああ。まあ、この人性根はともかく言動は胡散臭いことこの上ないからな。

そもそも堕天使は欲に負けて堕落した天使の慣れの果て……。種族の成り立ち的にも信用度はあれなのかもしれないな。

ミカエルさんはアザゼルさんの一言に驚いたが、すぐに微笑み、それに続く。

 

「ええ。私も今回の会談で三勢力の和平を持ちかける予定でした。これ以上三すくみの関係を続けても、今の世界の害となる。戦争の大元である神と魔王はもういないのですから」

 

神はもういない

この言葉を聞いて、アーシアとゼノヴィアが暗い顔をする。

無理もない。この二人はずっと神のことを信じて生きてきたからな。

分かっているとはいえ、それでも辛いものは辛いんだろう。

俺はそっと、となりにいたアーシアの手をにぎる。ミッテルトもゼノヴィアの手を握ってるようだ。

アーシアは少し驚いた表情となったが、気がまぎれたのか微笑みながら俺にうなずいた。

 

「我らも同じだ。魔王がいなくとも種を存続するためにも、戦争は我らも望むべきではない。次、戦争すれば、悪魔は確実に滅ぶ」

 

「ああ。次に戦争すれば、三竦みは今度こそ共倒れだ。そして、そうなれば各神話間のバランスも崩れ、世界は終わる。俺たちはもう戦争を起こせない」

 

アザゼルさんはふざけた口調をやめ、真剣な面持ちとなる。

 

「神がいない世界が間違いだと思うか?神がいない世界は衰退すると思うか?残念ながらそうじゃない。俺もお前たちも元気に生きている。神がいなくても世界は回るのさ」

 

アザゼルさんの言葉に俺も共感する。

全ての世界を造り上げた、創造神たるヴェルダナーヴァだって滅んでいるんだ。

でも、彼の意思を受け継いだギィさんたち“調停者”や、後に生まれていった種族、魔王がバランスを取っている。

神も一個の生命である以上、神がいようがいなかろうが、関係ない。

滅んだ当初はみんな困惑し、失意の中にいたのかもしれないが、今は元気に生きている。

アザゼルさんの言う通り、神がいなくても世界は回るのだろう。

その後も会談は続くが、緊張はかなりほぐれてるようだ。

和平が確定した以上、懸念する事項もないだろうしな。

 

「さて、話し合いも言い方向に落ち着いてきましたし、そろそろ赤龍帝殿のお話を聞いてもよろしいかな」

 

ミカエルさんの言葉に全員が俺に視線を向ける。

 

「天使の長たるミカエルさんに聞きたい。なんでアーシアを追放したんですか?」

 

これはずっと聞いておきたかったことだ。アーシアにも事前に確認はしてある。

他の者はなんで今その話を?という感じの顔だ。まあ、無理もないけど……。

 

「皆さんのお気持ちもわかりますけど、俺にとっては重要なことです。これをきちんと聞いておかないと、俺は天使陣営を信用できない」

 

「ちょっ、イッセー貴方何を!?」

 

部長は慌てたように問いただす。確かに、和平の場にて信用できない発言はダメだろうと俺も思う。でも、これだけは譲れない。

その言葉に誰もが驚くなか、ミカエルさんは真摯な態度で答えだした。

 

「それに関しては申し訳ないとしか言えません。神が消滅した後、加護と慈悲、奇跡を司る“システム”だけが残りました。この“システム”は悪魔祓いや十字架などの聖具に効果を付与し、奇跡を起こす」

 

なるほど。まあ、確かにおかしいとは思っていた。

たかだか町の教会の十字架にまで聖なる力が多分に含まれてることを……。

それは全てシステムとやらの力というわけか。

 

「神が死んで、そのシステムに不都合が起きたということですか?」

 

俺の言葉にミカエルさんは静かに頷く。

 

「現在は私を中心に熾天使(セラフ)全員でどうにか動かしている状態です。しかし、神がご健在だった頃と比べると、その効果は弱まっています。残念なことですが救済できる者は限られてしまいました。よって、システムに影響を及ぼす可能性のある物は教会に関するところから遠ざける必要があったのです」

 

「じゃあ、アーシアを追放したのは、アーシアが悪魔や堕天使すらも治癒する力を持っていたから……ですか?」

 

「ええ、あなたが察した通りです。アーシア・アルジェントのもつ“聖母の微笑”は悪魔をも癒します。信徒の中に悪魔や堕天使を回復できる者がいると周囲に知られれば、信仰に影響を与えます。信仰は我ら天界に住まう者の源。信仰に悪影響を与える要素は極力排除するしかありませんでした。それと、信仰に影響を及ぼす例は……」

 

「神の不在を知る者ですか……」

 

「ええ。デュランダル使い(ゼノヴィア)を失うことはこちらとしても痛手ですが、神の不在を知ってしまった彼女も異端とするしかなかったのです。私の力不足で彼女達には辛い目にあわせてしまいまい、申し訳ございません」

 

そう言いながら、ミカエルさんはアーシアとゼノヴィアに頭を下げる。

その行動に全員が驚愕していた。天使のトップが下級悪魔に頭を下げているんだから、当然か。

塔の二人も、目を丸くしており、反応に困っているようだ。

しかし、ゼノヴィアは首を横に振って微笑む。

 

「頭をお上げください、ミカエル様。長年、教会に育てられた身。理不尽も感じましたが、理由を知ってしまえばどうということはありません。多少の後悔もありましたが、教会に使えていたころにはできなかったことが、私の日常を彩ってくれたのです。他の信徒には申し訳ないですが、私は悪魔としての生活に満足しています」

 

ゼノヴィアはそんなふうに感じてくれたのか。やっぱこの子イイ子だな。

普段は天然というか、世間知らずというか、かなり浮世離れしてるけど、それはこれから覚えていけばいいか。

ゼノヴィアに続き、アーシアも手を組みながら言う。

 

「私も今、幸せだと感じています。大切な方達とたくさん出会えました。あこがれのミカエル様とこうしてお話しできたこともとても光栄です」

 

ミカエルさんはアーシアとゼノヴィアの言葉に安堵の表情を見せていた。

 

「あなた達の寛大な心に感謝します。デュランダルもゼノヴィアにお任せしましょう」

 

なかなか寛大な対応だな。今や別陣営となったゼノヴィアにデュランダルを預けるだなんて……。

あっちのミカエルとはやっぱり違うんだな。

 

「さてと、そろそろ俺たち以外の世界に影響を及ぼしうる存在の意見を聞こうか」

 

ん?三大勢力以外に世界に影響を及ぼしうる存在?何のことだ?

別の神話勢力ってわけでもなさそうだし……。そう思ってると、アザゼルさんは言葉を続けた。

 

「無敵のドラゴン様……お前達二天龍の意見を聞きたい。まずはヴァーリ、おまえの考えは?」

 

俺たちかよ!?そこまでの影響力あるの二天龍!?

 

「俺は強いやつと戦えればそれでいいさ」

 

アザゼルさんの問いに、ヴァーリはにべも無く答える。

本当にそれ以外には望んでいないといった様子だ。

こういう頭のねじが外れた戦闘狂って厄介だよな。平和になったら問題起こしそうな気がする。

次に俺に視線が移り、問われた。

 

「兵藤一誠。この質問には答えてもらうぜ。おまえさんは世界をどうしたい?」

 

「……俺は平和を望みます。ヴァ―リの言う強い人との戦いも……まあ、どちらかと言われれば好きだけど、ヴァ―リみたいに戦えればそれでいいという考えも違う気がしますし、それより俺は友達や仲間と楽しく平和に過ごすことが一番だと思ってますから」

 

闘い自体は好きだ。実際、迷宮でも研究の息抜きとかで攻略してみたこともあるし、守護王や十傑相手の手合わせなんかも定期的に行っている。

けど、それらは迷宮という、絶対に死なない環境が前提となっている。

本当に死んでまで戦いたいかといわれると、全力で拒否するだろう。無論、メロウの時みたいに仕方ない時は話は別だが、基本的には平和でありたいものだ。

そこにエッチなこともあれば最高だ!ミッテルトとイチャイチャとか、部長のオイル塗とか、そういうイベントが盛りだくさんだとなおいいな!

 

「また妙なこと考えてるっすね……」

 

ぐっ、ばれてる。本当勘が鋭いな。

見れば、オカルト研究部のほかの皆も俺が何考えてるのか察したらしく、苦笑いだ。

まあ、仕方ないか……そう思い、俺は言い訳の言葉を発そうとした。

 

 

────瞬間、部屋の時が停止した。



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禍の団きます

新年明けましておめでとうございます。
拙い駄文ですが、これからも今作をよろしくお願いいたします。


イッセーside

 

 

 

 

会談のさなか、突如として“時間停止”の感覚が俺たちを襲った。

部屋を見渡すと、動いている者と止まっている者に分かれていた。

三大勢力で言うと、サーゼクスさん、セラフォルーさん、グレイフィアさん、アザゼルさん、ミカエルさん、そしてヴァーリは動けている。この辺りは安定してるな。

他の護衛の方々は皆止まってしまっているけど。

部員はというと……

 

「眷属で動けるのは私と朱乃、祐斗にゼノヴィアだけね」

 

「あれ、ゼノヴィアちゃん前回は止まってたっすよね?」

 

ミッテルトと部長の言うとおり、ゼノヴィアはなぜか止まっていなかった。

初めてギャスパーとあってから、まだ一週間そこら。ゼノヴィア自身、これに抗いうるレベルまで達してなかったように思えるんだが……。

 

「時間停止の感覚は何となく覚えた。停止させられる寸前にデュランダルを盾にすれば防げると思ったのだが、正解だったようだね」

 

「あらあら。さすがは聖剣使いですわね」

 

朱乃さんの言うとおり、言うだけならば簡単だが感覚でそれをつかむのはかなりすごい。

“真なる時間停止”と違うとはいえ、こういった攻撃を防げるあたり、デュランダルもさすがは“伝説級(レジェンド)”といったところか。

 

「外を見てみろ」

 

アザゼルさんの言葉に俺は外を見る。校庭、空中に黒いローブを着た魔法使いがいたるところに陣取っていた。

よく見ると、倒れてる悪魔、天使、堕天使の姿もある。時間停止に抗えず、停止状態を攻撃された……といったところだろう。

 

「魔法使い連中か。一人一人が中級悪魔級ってところかな?」

 

ふむ。確かに、一人一人がC+ランクからBランクはある。ライザーの眷属級といったところだろう。それが校庭にいる範囲だけを数えても80人前後。多分まだいるだろうな。

 

「あいつら、ギャスパーに何かしたのか?」

 

「おそらく、力を譲渡できるタイプの神器や魔術で強制的に禁手(バランスブレイカー)状態にしたんだろう。視界に移したものの内部まで停止させるとは……」

 

うわ、えげつない手を考えるな。流石に、魔王種級の力を持つトップ陣を停止させることは期待してないだろうが、それでも護衛程度なら停止させられる。

もしもトップ達を停止させることに成功すれば万々歳といったところだろう。

 

「ギャスパーはテロリストの武器にされている……何処で私の下僕の情報を得たのかしら……しかも、大事な会談をつけ狙う戦力にされるなんて……!これ程侮辱される行為も無いわっ!」

 

部長から紅色のオーラがみなぎっている。かなり怒ってるようだ。

当然だろう。俺もかなり怒ってるんだからよ。

 

「まったく、リアス・グレモリーの眷属は末恐ろしいね」

 

アザゼルさんは手を窓に向ける。すると、無数の光の槍が生み出され、雨となって降り注ぐ。

魔術師たちは障壁を展開するが、紙屑のようになんなく貫き、蹂躙してる。

まあ、当然か。アザゼルさんは強い。存在値にして覚醒前のコカビエルをはるかに上回る“74万2867”。

超級覚醒者(ミリオンクラス)”には及ばずとも、力が馴染んでない覚醒魔王程度ならば互角に戦えるレベルだ。

素の力ならばヴァ―リにだって負けないだろうな。

 

「ん?なんすかこの魔力?」

 

ミッテルトの言葉に目を向けると、校庭から妙な魔力が……これは、転移魔法陣か?

そう思った次の瞬間、先ほどと同じ数の魔術師が再び投入されてきた。魔術師たちは転移してくるや否や、再び魔術攻撃を仕掛けてきた。

 

「なるほど、俺たちを出さないつもりか。これは面倒だな。このまま消耗を続けていけば、いずれは俺たちまで止まってしまうかもしれん」

 

確かに、感じられるギャスパーの力は徐々に強まってる感じがする。向こうの人数に終わりが見えない以上、消耗していけばいずれトップ陣の誰かが止まってしまうかもしれない。

例外はサーゼクスさんくらいだろうな。この人の魔力はこの程度じゃあ全然余裕だろうし。

 

「うちも手伝うっすよ」

 

そう言うと、ミッテルトは聖なる力を集め出す。魔法陣を展開し、霊子を極小の塊に圧縮し……。

 

「“聖なる裁き(ホーリージャッジ)”」

 

一気にそれを解放した。四方八方から降り注ぐ聖なる光弾はミッテルトの魔力と霊子を混ぜこぜに使ってできている。霊子単体の場合、威力はすさまじいのだが、制御がかなり難しい。これは自分の魔力を混ぜることで制御を比較的簡単にした高威力の魔法なのだ。

低コストで高威力。“霊子崩壊(ディスインテグレーション)”のようにすべてを消滅とまではいかないが、それでもその威力はすさまじい。

魔術師の障壁など意にも介さず、足を、腕を、急所を狙わずにミッテルトは魔術師の四肢を粉砕する。

死にはしないが、霊子で傷口を焼かれているから地獄の苦しみだろう。

 

「ま、こんなもんすかね?」

 

「ほう。すげーな!なんだ今の魔法?俺たちの使うどれとも違う、未知の法則があるように見えたぞ!?」

 

「うちのオリジナルっす」

 

アザゼルさんは未知の術式に目を輝かせ、ミッテルトはすげなく答える。

やっぱこの人は根っからの研究者堅気なんだろうな。だが、今はそれどころではない。

 

「今はそれより、この状況をどうするかですよ」

 

逃げる……という選択肢は存在しない。

ギャスパーが拐われてるってのもあるし、もしも逃げたらここを守ってる結界が解けてしまい、外にまで被害が及ぶ可能性があるからだ。

 

「ま、しばらく籠城していれば黒幕も痺れを切らせて出てくるだろ」

 

まあ、それしかないか。

外の迎撃はローテーションを組めば消耗も少なくなんとかなりそうだし、消耗が少なくなれば、少なくともトップ陣が停止することはないだろう。

外へ出て大暴れするという案もあるが、それが罠という可能性もあるしな。

 

「となると、どっちにしろギャスパーはすぐに奪い返さないと」

 

「お兄様、私が行きますわ!ギャスパーは私の下僕。

私が責任もって奪い返してきます!」

 

強い意思を秘めた瞳で部長が進言する。

 

「言うと思ったよ。しかし、旧校舎までどうやって行く?校舎の外は魔術師だらけ。通常の転移も阻まれるだろう」

 

サーゼクスさんの言う通り、転移を阻害する術式くらいは用意してるだろうな。

それでも無理矢理魔力を通せば使えないことはないだろうが、消耗も通常より大きくなるだろう。

だが、部長はそれを想定してたのか、フッと笑う。

 

「旧校舎には未使用の戦車の駒が保管していますわ。キャスリングを使えば虚をつけるかと……」

 

ああ。聞いたことある。

王と戦車の位置を入れ換えるレーティングゲームの特殊技。それを使えば瞬時に部室に転移可能だろう。

 

「俺もついて行きますよ。黒幕がいる可能性もあるし、部長一人じゃ危険ですからね」

 

ギャスパーは俺にとっても大事な後輩だし、部長にとってもそのほうが安全だろう。

 

「ありがとう。心強いわ」

 

本来キャスリングは王としか入れ換えることができないが、今回はグレイフィアさんが俺も一緒に行けるように転移術式を調整してくれるらしい。グレイフィアさんの術式調整が終わり次第すぐに行かなくては……。

 

「おい、兵藤一誠」

 

「ん?なんですか?」

 

俺を呼んだアザゼルさんの方に振り返ると、アザゼルさんは俺に何かを投げてくる。

リング?何やら見知らぬ術式が刻んであるな。

刻印魔法を宿した“魔法道具(マジックアイテム)”か……。

 

「そいつは神器の力をある程度押さえる腕輪だ。ハーフヴァンパイアに付けてやれ。少しは押さえられるだろう」

 

「なるほど。ありがとうございます!」

 

マジで堕天使すげーな!神器の研究ってここまで進んでるのか!

どうやらそう考えたのは俺だけではなかったようだ。ミカエルさんも嘆息しながら腕輪を見つめてる。

 

「アザゼル、神器の研究はどこまでいってるというのですか?」

 

「いいじゃねえか。神器を作り出した神はいないんだからよ。お前だって、知らないことだらけだと聞いてるぜ。それより……」

 

アザゼルさんはミカエルさんから視線を外し、ヴァーリの方に向き合う。

 

「ヴァーリ。お前は外で敵の目を引け。白龍皇が出てくれば、相手を乱すこともできるだろう」

 

「……旧校舎のテロリストごと、ハーフヴァンパイアを吹き飛ばした方が早いのでは?」

 

……コイツ、今なんつった?

ギャスパーごと吹き飛ばすだと?口調からしてコイツはマジでやりかねない……。

 

「させないっすよ?もし、本当にやる気なら、うちが相手になってやるっすよ」

 

「おいヴァーリ。今言ったこと実行してみろ。その時はこの場でお前を叩き潰すぞ」

 

俺とミッテルトの言葉を聞いてヴァーリは笑みを深める。

これだから戦闘狂は厄介なんだ。マジで質が悪い。

 

「自重しろヴァーリ。和平を結ぼうって時にそれはダメだろ。まあ、それしか手がないってのなら仕方ないが、今は助けるべきだろ」

 

「……了解」

 

不満気ながらヴァーリは背中から翼を展開する。

白く、青白いオーラが美しい。アレがドライグと対をなす白き龍か……。

 

禁手化(バランスブレイク)

 

Vanishing(バニシング) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!』

 

ヴァーリは禁手化するやいなや即座に魔術師の方に向かっていった。

禁手化したことで存在値も上乗せされ、EPが100万ほど増加してる。俺の増加率よりも半分ほど劣ってるのは、多分素の力量不足が原因。俺みたいに白き龍の力を完全には発揮できてないみたいだが、まあ、あいつのレベルならぶっちゃけ時間の問題だろう。

精々がBランク程度しかない魔術師など、歯牙にもかけず、蹂躙してる。

だが、魔術師が死ぬと魔方陣からまた別の魔術師が出てくる。マジできりがないなこれ。

 

「アザゼル。先程の話の続きだ」

 

「あー?何だ?」

 

「神器使いを集めて何をしようとしていた?“神滅具(ロンギヌス)”の使い手も何名か集めてたそうだが、何が目的だったのかな?」

 

「備えてたのさ……と言っても、お前らの攻撃にじゃない。もっと別のもの……」

 

「……それは一体?」

 

「“禍の団(カオス・ブリゲード)”だ」

 

カオス・ブリゲード?何だそれ?サーゼクスさん達もどうやら知らないようで、眉根を寄せている。

聞き慣れない単語に疑問符を浮かべる俺たちを他所にアザゼルさんは更に続ける。

 

「組織名と背景が判明したのはつい最近だが、それ以前からもうちの副総督シェムハザが不審な行為をする集団に目をつけていたのさ。そいつらは三大勢力の危険分子を集めているそうだ。中には禁手に至った神器持ちの人間も含まれている。“神滅具”持ちも数人確認してるぜ」

 

「その者達の目的は?」

 

「破壊と混乱。単純だろう?この世界の平和が気に入らないテロリストだ。しかも最大級に性質が悪い。組織の頭は“赤い龍”と“白い龍”の他に強大で凶悪なドラゴンだよ」

 

アザゼルの話に全員が絶句した。ドライグ、アルビオン以外に強大なドラゴン……。

というと、噂に聞いていたあのドラゴンか。

 

「そうか、彼が動いたのか。“無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)”オーフィス。神が恐れたドラゴン……この世界が出来上がった時から最強の座に君臨し続けている者」

 

『そう、オーフィスが「禍の団」のトップです』

 

声と同時に会議室の床に魔方陣が展開される。

その魔方陣を見たサーゼクスは舌打ちをする。この気配、悪魔のオーラだな。

 

「そうか。そう来るわけか!今回の黒幕は!グレイフィア、リアスとイッセーくんを早く飛ばせ!」

 

「はっ!」

 

ちょうど魔方陣の構築も終わったらしく、光が大きくなっていく。

それに困惑してるのは部長だ。色々と妙な事実が判明して少し混乱してるのだろう。

 

「お嬢様、ご武運を」

 

「ちょ、ちょっとグレイフィア!?お兄様!?」

 

瞬間、転移の光が俺たちを包み込んだ。

 

 

 

 

*********************

 

 

 

光が消えるとそこは部室だった。予想通りというか、なんというか、案の定部室は魔術師の手で占拠されていた。

 

「!?まさか、ここに転移してくるとは!」

 

「悪魔め!」

 

声からして女性か?てか、ここにいる魔術師は全員女性のようだな。

女魔術師たちは俺たちを視認するや否や襲いかかってきた。

だが、この距離は近接戦()の間合いだ。

 

「ぐは!?」

 

「ぐえ!?」

 

魔法を放とうとした魔術師二人を俺は一瞬で片付ける。俺の手刀を受けた女魔術師はその場で意識を消失させる。

もちろん……

 

バリバリィ!!

 

洋服崩壊(ドレスブレイク)”も忘れずにかけておく。今はギャスパー優先だからじっくり見れないのが惜しいな……。

 

「……こんなときにまで貴方は」

 

部長も流石に呆れてるようだな。まあ、無理もないけど。

しかし、さっきの魔術師見ても思ったけど、こいつら接近戦の技術がないに等しい。魔術師は近づかれたら終わりなんだから、もう少し対策考えようぜ。

 

「部長!イッセー先輩!」

 

声のした方向へ視線を向けると、そこには椅子に縄でくくりつけられ、拘束されているギャスパーがいた。

すぐ真横には女魔術師がいるが、どうやら無事みたいだ。

 

「良かった。無事だったのねギャスパー」

 

ギャスパーの無事を確認し、部長はホッとした。

だが、ギャスパーはそれを見て泣き出してしまった。

 

「部長……。もう嫌です。僕は死んだ方がいいんです。お願いです部長、先輩。僕を殺してください。この眼のせいで、僕は誰とも仲良くできないんです。迷惑ばかりで……臆病者で……」

 

ギャスパーはボロボロ涙を溢していた。敵に利用され、相当参っていたんだろう。

だが、部長はそんなギャスパーに優しく微笑む

 

「馬鹿なこと言わないで。私は貴方を見捨てないわよ。貴方を眷属に転生させた時、言ったわよね?生まれ変わった以上、私のために生きて、自分が満足できる生き方を見つけなさい……と」

 

「……見つけられなかっただけです。迷惑かけてまで僕は……生きる価値なんて……」

 

「ギャスパー!俺の言ったこと、覚えてるか?」

 

俺の言葉に俯いていたギャスパーはハッとする。

俺があの時、言った言葉を思い出したようだ。俺は改めて、あの時の言葉を綴る。

 

「迷惑かければいいんだよ!多少の迷惑が何だ。そんなもので見捨てるような奴が部長の眷属にいるとは思えない。俺の友達にもそんな奴はいない。そもそも、最初から何事もこなせる奴なんかいねーんだよ。これからゆっくり神器の扱いを覚えていけばいいじゃねえか。不安だってのなら、俺が先輩としてずっと面倒見てやるよ」

 

「イッセー先輩……」

 

「イッセーの言う通りよ。貴方は私の下僕で眷属なの。そう簡単には見捨てないわ」

 

「部長……僕は……」

 

瞬間、ギャスパーを捕らえていた女魔術師がギャスパーを殴り付ける。魔術師はギャスパーの髪の毛を掴み、冷笑を浮かべている。

 

「愚かね。こんな危険なハーフヴァンパイアを普通に使うなんて馬鹿げているわ。グレモリーは情愛が深くて高い戦力を持つくせに頭が悪い。さっさと洗脳でもして、道具として有効活用していればもっと評価を得ていたのではなくて?もしかして、仲良しこよしで下僕を扱う気なの?」

 

「・・・・・・」

 

コイツ、むかつくな……。何たる言い草だよ。

落ち着け、冷静になれ……。

 

「私は下僕を大切にするわ」

 

部長も一見冷静だけど、腸は煮えくり返ってるな。

そんな部長の態度にいら立ったのか、小さな魔力の弾を部長に放つ。俺はそれを手ではじく。

それに驚きつつも、女魔術師は悪態をついた。

 

「生意気ね。悪魔のくせに美しいのも気に食わないわ。グレモリーの娘」

 

女魔術師の嫉妬にまみれた言葉を聞いても部長は一切表情を崩さない。

 

「動くとこの子が死ぬわよ。ちょっと遊びましょう?」

 

魔術師はギャスパーの首に刃を突き立て、もう片方の手で魔術を放つ。部長は一切避ける気がない。

部長は俺を一瞥し、再び魔術師に目を向ける。俺を信頼してるのが見て取れた。だから俺もそれにこたえ、魔術弾を拳で打ち消す。

てか、こいつ、さっきから部長の顔ばっかり狙ってやがる。まじで許せねえな。

部長はギャスパーにやさしく語り掛ける。

 

「さっき、イッセーも言ってたでしょう?あなたが何度迷惑かけても私は見捨てない。何度でも叱ってあげるし、何度でも慰めてあげる。決してあなたを離さないわ!」

 

「部長……」

 

部長の言葉にギャスパーは涙を流す。俺もギャスパーに思いをぶつける。

 

「ギャスパー!部長がここまで言ってるんだ!逃げるな!恐れるな!俺たちはみんな、お前のことを見捨てない!仲間外れになんかしないぞ!」

 

俺は“赤龍帝の籠手”を呼び出し、新しい機能を発動する。

 

Blade(ブレイド)!』

 

新たなる機能。アスカロン。龍殺しの聖剣を取り出し、俺は自分の右掌を斬る。手のひらから血が流れていく。

部長も俺の行動を怪訝そうに見ている。

 

「飲めよ。赤龍帝の血。飲んでお前の本当の力を見せてみろ!」

 

アスカロンは魔力を込めることで伸び縮みすることができる。俺は血の付着したアスカロンをギャスパーの口元まで伸ばす。

ギャスパーは俺の言葉にうなずき、俺の血をなめとる。瞬間、空気が一変する。

俺の血を舐めた瞬間にギャスパーの存在値が一気に倍近くまで跳ね上がったのだ。ギャスパーは蝙蝠の群れに変身し、女魔術師に襲い掛かる。

 

「く、変化したか!」

 

「おのれ吸血鬼め!」

 

毒づく彼女たちだが、影から伸びた無数の手に引っ張られ、体勢を崩す。

影から伸びる手は吸血鬼としてのギャスパーの力だな。超克者や三公の方々が使ってたからよく知っている。

あの影の手は殺傷能力こそないが、相手の足止め程度ならば十分だろう。蝙蝠と化したギャスパーは魔術師たちの体を包み込み、各部位へ嚙みつく。

しかも、神器を使いこなし始めている。先ほどから打ち出された魔術弾を停止させている。

 

「僕があなた達を止めます!」

 

無数の蝙蝠が赤い瞳で魔術師たちを見据える。すると、魔術師たちはなすすべなく停止した。

 

「イッセー先輩!とどめです!」

 

「ああ、任せろ」

 

俺は籠手に魔力を集中させ、権能を解き放つ。

 

「“洋服崩壊(ドレスブレイク)”!」

 

解き放たれた魔力により、時間が停止した女魔術師たちの洋服がすべて吹き飛んだ!眼前に展開するは裸の女性の見本市!見放題、触り放題!

やはり、俺の見立ては間違ってなかったようだ!これこそギャスパーの力の真価なのだろう!

 

「やったぜギャスパー!俺たちが組めば無敵だ!」

 

「はい!」

 

「そうじゃないでしょ?」

 

興奮する俺たちに対し、部長は呆れながら、俺の頭を小突くのだった。

すると、同時に影から何者かが現れる。

部長はそれを見て警戒するが、俺は誰だかすぐにわかったので部長たちを手で制す。

 

「どうした?トーカ?」

 

「え?トーカって、朝の?」

 

影から現れたのはトーカだった。どうやら“影移動”で俺のもとにやってきたようだ。

何かあったのか?

 

「イッセー。一応報告しておくわ。会場で大変なことが起こってるの」

 

「大変なこと?」

 

なんだろう?考えられる可能性としては、俺たちが転移する直前に現れた別の転移魔方陣だ。

あの魔方陣からは魔王種級の力を持つ悪魔がやってくるってのは直前の感知で気付いていた。だが、ぶっちゃけ三大勢力トップの方々に比べると確実に劣っていたので大丈夫だろうと思っていたんだが……厄介な力でも持っていたのだろうか。

そんなこと考えてると、トーカから予想だにしないことが告げられる。

 

「あなたの“自称”ライバル……白龍皇が寝返ったわ。今、アザゼルたちと交戦状態にあるみたい」

 

・・・・・・・まじ?

感知で外の様子を探ると、それが事実であると気づき、俺は思わず頭を抱えるのだった。



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二天龍激突です

イッセーside

 

 

 

 

 

旧校舎の扉を開き、校庭に出る。

敵の魔法使いは木場や朱乃さん達によってほぼ全滅させられていた。

だが……

 

 

ドッガァァァアアアアアン!!!

 

 

俺達の前に何かが落ちてきた!

立ち込める土煙が消え、そこにいたのは……。

 

「……チッ。俺もやきがまわったもんだ。この状況下で反旗かよ、ヴァーリ」

 

ダメージを負ったアザゼルさんだった。万能感知で把握はしてたけど、マジで裏切ったようだな。

アザゼルさんもどうやらかなり動揺してるみたい。まあ、腹心の裏切りとなると無理もないけど……。

 

「そうだよ、アザゼル」

 

白い光を放ちながら、俺達の前に白龍皇ヴァーリが舞い降りる。

その隣には知らないお姉さんがいた。

 

「和平が決まった瞬間、拉致したハーフヴァンパイアの神器でテロを開始させる手筈でした。頃合いを見て私と共に白龍皇が暴れる。三大勢力のトップを一人でも葬れればそれでよし。会談を壊せればそれで良かったのです」

 

おお!褐色美女!しかも、なんてエッチな服なんだ!

胸元なんておっぱいがあんなに見える!スリットも深く入っていて、太ももがヤバイことこの上ない!

いい脚してるな!めちゃくちゃエロい!

 

「いやらしい視線を感じるわ。……その子が赤龍帝なのですか、ヴァーリ?」

 

「ああ、そうだよ」

 

「あなたが言うほどの強者とは思えませんが……」

 

「いや、戦闘の時はまるで別人だよ」

 

怪訝そうな表情で俺を見つめる女性とは対照的に、ヴァーリは好戦的な眼で俺を睨み付ける。

そんな中、アザゼルさんが服についた土を払いながらヴァーリに問う。

 

「いつからだ、ヴァーリ?」

 

「コカビエルを本部に連れ帰る途中で彼女達にオファーを受けたのさ。悪いなアザゼル。“アースガルズと戦ってみないか?”こんなことを言われたら自分の力を試してみたい俺には断れないさ。アザゼルはヴァルハラ……アース神族と戦うことを嫌がるだろう?」

 

「それで禍の団(カオス・ブリゲード)に入ったというわけか……。お前には強くなれとは言ったが、世界を滅ぼす要因だけは作るなとも言ったはずだぞ?」

 

「関係ない。俺は永遠に戦えればそれでいいんだからな」

 

うわあ。ある意味で俺の知る“悪魔族(デーモン)”らしい思考だ。

ようするに、他の神話の神様と戦いたいから入った……という解釈でいいのかな?戦闘狂ここに極まれりだな。それで、三大勢力との戦争とかになったらどうするんだよ?

……いや、こいつはそれすらも望むところなのかもしれないな。

こういうところの分別ができてない分、あの人たちより質が悪い……。これだから戦闘狂は厄介なんだよ……。

 

「ったく、神と戦いたいねぇ。まぁ、おまえらしいと言えばお前らしいか」

 

すると、女性がアザゼルさんを嘲笑した

 

「今回の件は、白龍皇は情報提供と下準備をしてくれました。彼の本質を理解しておきながら放置しておくなど、あなたらしくありませんね、アザゼル。……自分の首を自分で絞めたようなものです」

 

苦笑するアザゼルを尻目にヴァ―リは自身の手を胸に当て、宣言する。

 

「我が名はヴァ―リ。ヴァーリ・ルシファー」

 

ヴァ―リの言葉にこの場にいる全員が驚愕する。

ルシファー?それってサーゼクスさんの事じゃ……、いや、そういえば、悪魔の文献で読んだことがある。

もしかして…………

 

「俺は死んだ先代の魔王ルシファーの孫である父と人間の母の間に生まれた混血児。ハーフなんだ。“白龍皇”の力も半分人間だから手に入れたもの。運命、奇跡というものがあるのなら俺の事かもしれない……なんてな?」

 

今代の白龍皇が魔王の血族……。旧魔王の血族か。

 

「……嘘よ……そんな……」

 

部長が驚愕の声を漏らす。まあ、確かにあり得ないよな。

ルシファーの子孫が白龍皇とかどういう確率だよ?

しかし、アザゼルさんは肯定した。

 

「事実だ。こいつは魔王の血を引きながら、人間の血をも引いているが故に白龍皇を宿すことが出来た冗談のような存在だ。こいつは過去現在未来において最強の白龍皇になるだろう」

 

最強の白龍皇……。その触れ込みは真実だろうな。今までの白龍皇は皆人間だって話だし、魔素のうすいこの世界では仙人や聖人に進化することはまずない。

しかも旧魔王となると、才能も相当だろう。

屈強な悪魔の肉体に白龍皇の力。なるほど歴代最強もうなずける。

 

「さあ、覚悟してもらいましょうか、アザゼル」

 

女性からとんでもないオーラが噴き出す。どうやら先ほどよりもEPが上がってるようだ。

 

「なるほど、オーフィスの“蛇”か。おまえら旧魔王派の連中はあいつにそれをもらったのか?」

 

「ええ。そうです、アザゼル。彼は無限の力を有するドラゴン。世界変革のため、少々力を借りました。おかげで私はあなた達、愚かな統率者を滅ぼすことができる。さらに……」

 

女性は懐から何かを…………ってそれは!?

 

「お前、それ!?」

 

「これは我々とは別の裏組織より買い取った結晶。これを壊すことで、私はさらなる力を得るのよ!」

 

結晶を壊したことで、中に入っていた魂が女性の体に移っていく。

瞬間、彼女は覚醒する。疑似的な“真なる魔王”へと至ったのだ。やっぱりあれはコカビエルが使っていた魂の結晶かよ!しかも商売やってるの!?

 

「なんだこの力?さらにエネルギーが跳ね上がっただと?」

 

「商人は“覚醒”と言っていたけど、まさにそう呼ぶにふさわしいわ。今ならばだれにも負ける気がしないわ!」

 

“蛇”とやらを取り入れたことで跳ね上がったEPが覚醒したことでさらに上昇した。

今のこいつは“超級覚醒者(ミリオンクラス)”にまで至っている。

存在値にして約160万。素の俺よりも数値の上では上回っている。

“超級覚醒者”が二人か。これは相当めんどくさいぞ。女性はアザゼルさんに向かって魔力を込める。それを見たアザゼルさんはため息をつけながら、懐から何かを取り出した。

 

「……愚かな統率者か。まぁ、俺はそうかもな。いつもシェムハザの世話になりっぱなしの神器オタクだからな。だがよ、サーゼクスやミカエルは違うと思うぜ? 少なくともおまえらよりは遥かにマシさ」

 

「世迷い言を!」

 

そういいながら、女性は魔力弾を放つ。それを回避しながら、アザゼルさんは取り出した何かの切っ先を自分に向けた。

あれは……短剣か?何やらすごい力を感じるな……。

 

「俺は神器マニアすぎてな。自作神器を創ったりしちまった。まぁ、そのほとんどがガラクタ、機能しないようなゴミだ。神器を作った『聖書の神』はすごい。俺が唯一、奴を尊敬するところだ。まぁ、禁手なんて神を滅ぼす力を残して死んでいったことに関しては詰めが甘いと思うが、それがあるから神器は面白い」

 

は?自作の神器を作った?いやいや、どんだけだよこの人!?

じゃあ、あれはアザゼルさんオリジナルの神器だっていうのか!?

 

「安心なさい。新世界では神器なんてものは残さない。そんなものがなくとも世界は動きます。いずれはオーディンにも動いてもらい、世界を変動させなくてはなりません」

 

「ハッ!ヴァルハラ!?アース神族!?横合いからオーディンに全部持ってかれるつもりかよ。まぁ、どのみちおまえはここでお仕舞いだ。俺から楽しみを奪うやつは────消えてなくなれ」

 

アザゼルさんが短剣を逆手に構える。

瞬間、アザゼルさんの短剣が形を変え、パーツに分かれ、強い閃光を放った。

 

禁手化(バランス・ブレイク)……ッ!」

 

一瞬の閃光が辺りを包み込む。

光が止み、そこにいたのは黄金の全身鎧を身につけた者。

バッ!背中から十二枚もの漆黒の翼を展開し、手に巨大な槍を作り出す。

 

「こいつは俺が作った人工神器の傑作“堕天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)”そしてこいつが“堕天龍の閃光槍”の疑似的な禁手(バランスブレイカー)……“堕天龍(ダウン・フォール・ドラゴン)の鎧(アナザー・アーマー)”だ」

 

鎧を纏ったことで、アザゼルさんの存在値が50万近く上昇してる。

鎧越しに感じるのは強い龍の波動だ。これをあの人は作ったというのか……。

神器オタクここに極まれり。いや、アザゼルさんの神器研究もここまでくるとオタクを通り越してる気がするぞ……。

 

「ハハハ!流石だな、アザゼル!やっぱりすごい!」

 

そう言いながら、ヴァーリが笑う。こいつにとってはアザゼルさんも戦ってみたい対象の一人にすぎないのかもしれないな。

狂ったように笑うヴァ―リに対し、アザゼルさんは顔を向ける。

 

「おまえの相手をしてやりたいところだが……。今日は赤龍帝と仲良くしてな」

 

「フッ、今日は最初からそのつもりさ」

 

不敵に笑いながらヴァーリは俺を見てきやがった!

いやいや、こんなやつとなんて仲良くしたくないわ!

俺はライバル対決なんて興味ねえんだよ!可愛い女の子ならまだやる気出るけど、こんな面倒くさそうなのと戦うのはまっぴらごめんだ!

 

「……力を有したドラゴンをベースにしましたわね?」

 

女性の問いかけにアザゼルさんは肯定する。

 

「五大龍王の一角“黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)”ファーブニルを封じ込め、二天龍の神器を模したのさ」

 

ティアマットさんと同じ五大龍王か。通りで強力そうな訳だ。

 

「アザゼル!それだけの力を持ちながら、あなたは!」

 

「オーフィスをバッグにしておいてよく言うぜ」

 

「……神器の研究はそこまでは進んでなかったはず」

 

「残念だが、真理に近い部分は俺とシェムハザしか知らない。てか、御託はいいからさっさと来いよ」

 

アザゼルさんが女性に手招きをする。それを見た女性は侮辱されたと感じたのか、一瞬でぶちギレた。

 

「なめるなッ!私は偉大なる真のレヴィアタンの血を引くもの!カテレア・レヴィアタン!堕天使ごときに負けるはずがない!」

 

女性──カテレアは特大のオーラを纏ってアザゼルさんに突っ込む。あの人も旧魔王だったのか。

カテレアはアザゼルさんの攻撃を躱し、カウンターの蹴りを叩き込もうとする。

しかし、アザゼルさんはそれを片手で受け止めた。

 

「馬鹿な!?私は以前とは比べ物にならない力を手に入れたはず……」

 

「確かに、今の一撃で決めるつもりだったのに見切ったとは大したものだ。だが……」

 

アザゼルさんは再びカテレアに攻撃する。その鋭い攻撃に今度は反応できず、カテレアは吹き飛ばされてしまった。

 

「バ、馬鹿な……」

 

「以前とは比べ物にならないその力に、お前自身が付いてこれてない。短期間での強化の弊害だな。その力を使いこなすにはお前が力不足だってことだよ」

 

確かに、コカビエルなんかと違って、あのカテレアの動きは戦い慣れた者の動きじゃない。

プライドも異様に高いし、もしかして鍛練とかそういうのしたことないんじゃないのか?

コカビエルは戦闘狂だけあって、強くなった自分の力にもすぐに順応してたけど、経験の少ないカテレアは自分の力をまるで使いこなせてない。

多分だけど、数値的に三倍は差があるミッテルトでも余裕で勝てると思う。

それほどまでに、カテレアの動きはお粗末なものだった。

こういうの見ると、やっぱり大事なのはエネルギーよりも技量(レベル)なのだと再認識するな。

 

「ふざけるなあ!!」

 

それを認められないのか、カテレアは再びアザゼルさんに攻撃する。しばらくは打ち合いが続くが…………。

 

 

ブシュ!!

 

 

勝負あり。カテレアの体から鮮血が噴き出す。

一瞬の交錯の間にアザゼルさんが槍で斬ったんだ。

 

「ただではやられません!」

 

そう言いながら、カテレアは自分の腕を触手のように変化させ、アザゼルさんの左腕に巻き付ける。

すると、カテレアの体に怪しげな紋様が……あれは、自爆術式か!?

 

「その触手は私の命を吸った特別製!切ることは不可能……」

 

そこまで言って、カテレアは眼を見開く。アザゼルさんは切ることは不可能と見るや、自分の左腕を切断したのだ。

驚く女性の腹部をアザゼルさんが放った光の槍が貫いた。

すると、女性の体は爆破することはなく、塵と化して空へと消えた。

消滅したのは悪魔にとって光が猛毒だからだろう。覚醒しても、各種の耐性はそこまで上がらなかったようだな。

 

「ま、せいぜい左腕一本がいいところだ」

 

アザゼルさんの鎧が解除され、その手元には紫色の宝玉がある。

 

「まだまだ、改良の余地があるな。もう少し俺に付き合ってもらうぜ、龍王ファーブニル」

 

と、言って宝玉に軽くキスをした。

強いな。これが堕天使総督の実力か……。この世界の強者もなかなかどうして侮れないな。

 

「さて、アザゼルの方は終わったようだ。俺達も戦おうか、兵藤一誠」

 

「えー?」

 

ヴァーリは俺に向かって指差しながら言う。どうやらあの戦いに見入っていたようで、戦いが終わるまでずっと待ってたようだ。

このままあやふやにしたいところだったが、そうは問屋が卸さないということか?

 

「ぶっちゃけ、お前と戦いたくないんだけど……」

 

「ほう?可笑しなことを言うな?君も戦いが好きだと言っていたではないか?」

 

「だって、戦う理由もなければ意味もないだろ。それに、俺は戦いも好きだけど、どちらかと言うと平和が好みなんだよ」

 

「理由?二天龍の宿命……それで十分じゃないか?」

 

「いや、俺それ興味ないし……」

 

それを聞くと、ヴァーリは考え込み、何かを思い付いたのか、笑みを浮かべる。

 

「ならば、動機をくれてやろう。もし断れば、俺はお前の両親を殺す。そこにいるはぐれ堕天使もな……」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の中で殺意が生まれる。

今なんて言ったコイツ……?

 

「殺すぞ、この野郎」

 

コイツは本気でやる。

ミッテルトは百歩……いや、千歩譲ってだけどまだいいさ。あいつは強いし、身を守る手段を持っている。コイツぐらいならばなんとかなるだろう。少なくとも、俺はそう信じてる。

だが、両親はどうだ?黒歌が守ってる時ならば、ヴァーリ程度に襲われても万が一はないと思う。

だが、黒歌がいないときはどうだ?黒歌も身一つで常に両親と一緒にいられるわけじゃない。もしもそうなった場合、コイツは躊躇いなく二人を殺す。

 

「分かった。戦ってやる」

 

それを聞いたヴァーリは歓喜の表情を浮かべる。

鎧姿のヴァーリに対し、俺は“赤龍帝の籠手”を呼び出した。

 

「禁手にならないのかい?」

 

「ああ。お前程度にはこれで十分だ」

 

その言葉に全員が驚く。まあ、無理もない。何せ、禁手相手に通常状態の神器で戦うなんて、いくらなんでも頭おかしいだろう。

それが同格の神器ならばなおさら禁手を使った方がいいに決まってるからな。

 

「おい、兵藤一誠!ヴァーリの強さは俺もよく知ってる。こいつは他の堕天使幹部をも上回る強さを持ってやがるぞ!」

 

「そうよ!しかも、旧ルシファーの血族……舐めていい相手じゃ……」

 

「大丈夫ですよ。部長」

 

部長の制止の言葉に対し、俺は安心させるように答える。

それを見たヴァーリは若干不機嫌そうだ。

 

「舐められたものだな……」

 

『それはどうかな?』

 

それに対し、答えるのはドライグだった。珍しいな。

 

『アザゼルよ。お前の言う通り、そこにいるヴァーリは過去、未来、現在において最強の白龍皇となるだろう。だが……』

 

そこまで言って、ドライグは不敵な笑みを浮かべる。

 

『ここにいるイッセーは生まれは平凡。だが、断言しよう。その力は間違いなく、過去、未来、現在における歴代最強の赤龍帝だ』

 

その言葉にヴァーリは嬉しそうに眼を見開く。

……全く、持ち上げてくれちゃって。まあ、そこまで言われれば、期待に応えないわけにはいかないか。

俺は先程のアザゼルさんと同様に、手招きする。

 

「こいよ。ヴァーリ」

 

「面白い!歴代最強の赤龍帝の力、見せてみろ!」

 

ヴァーリの鋭い拳が俺の顔目掛けて放たれる。

それを俺は上体を反らし、危なげなく回避し……。

 

『Boost!!』

 

そのまま倍加した脚力を用いてヴァーリを空高くまで蹴り上げた。

 

「くっ!」

 

宙で体勢を立て直したヴァーリは魔力弾を俺目掛けて無数の放射する。

それを俺は一発一発を拳で粉砕した。

 

「やるな!だが!」

 

ヴァーリは魔力弾を放射しながら一気に急降下して接近する。

ヴァーリから放たれる拳を受け流しながら、カウンターを繰り出す。だが、吹き飛ばすつもりではなった攻撃に、ヴァーリは耐え、逆に俺の腹に強烈な一撃を喰らわす。

 

「がはっ!?」

 

吹き飛ばすつもりだったのに耐えてくるとはな……。

拳も思ったより重い……。まあ、ヴァーリの現在の存在値は素の俺を上回ってるわけだし、ちょっと、余裕こきすぎたかな?しかも……。

 

『Divide!』

 

俺を殴った刹那のタイミングで、ヴァーリからその音声が流れた。それと同時に俺の力が弱まる。

なるほど、これが半減か……。

 

『そうだ。やつに触れられれば、こちらの力は即座に半減される』

 

ふむ、厄介だな。触れられればどんどんこちらが不利になるということか?

まあ、問題はないだろう。

 

『Boost!』

 

今の一撃で解析はできた。半減といっても、こちらが気張れば奪われる力を減らすことはできそうだ。

そもそも倍加させれば元通りだしな。

 

「禁手を使った方がいいんじゃないか?」

 

笑みを浮かべながらヴァーリは言う。だが、その笑みはすぐに消えることとなる。

殴られると同時に俺がヴァーリの腕と頭に手を置いていたことに気付いたのだ。

 

「ふん!」

 

「なっ!?」

 

俺はヴァーリの腕と頭を鷲掴みにし、その勢いのままヴァーリの身体を地面へと叩きつける。

その衝撃で地面が陥没し、大きなクレーターを生み出した。

頭から突っ込んだため、ヴァーリの鎧の顔部分にひび割れが起き、素顔が少し覗いている。

 

「じゃあ、使わせてみろよ。この程度じゃあ、禁手は使わねえぞ?」

 

「舐めるな!」

 

ヴァーリは突っ込むや否や、猛烈なラッシュを仕掛けてくる。さながら拳や蹴りの弾幕。だが、大したことはない。

技量(レベル)はそこそこあるが、あくまでそこそこ。この程度ならば、今まで出会ってきた真の強者の足元にも及んでねえからな!

 

 

 

 

*********************

 

 

木場side

 

 

 

 

 

イッセー君と白龍皇ヴァーリの戦いは激戦だった。

二人の実力は全くの互角。()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。いや、それどころか押しているようにすら見える。

いかに、イッセー君が馬鹿げた力を持ってるのかがよくわかるだろうね。

 

「マジかよ……。あのヴァーリと互角だと?しかも、禁手を使わずにとは……あり得ねえだろ?」

 

堕天使総督アザゼルはイッセー君がヴァーリと互角であることに驚いていた。無理もないだろう。

イッセー君の力は素の状態ですでに魔王クラスだ。

ただ、拳が衝突するだけで校庭に大きなクレーターを作り、周囲に被害を及ぼす。

 

「ねぇ、サーゼクスちゃん。あの赤龍帝君は本当に人間なの?」

 

「セラフォルー、君の言いたいことは分かる。僕も、彼が本当に人間なのかどうか疑わしい」

 

サーゼクス様とセラフォルー様の言葉を聞きながら、僕も疑問が頭に浮かぶ。

 

(イッセー君。君は一体……)

 

彼は何者なのだろう。僕はその疑問で頭が一杯になっていた。そんな僕の考えを察したのか、ミッテルトさんが僕に話しかけてきた。

 

「いつかは話すっすよ木場っち。だから、もう少し待っててほしいっす」

 

「うん」

 

申し訳なさそうにするミッテルトさんの言葉にうなずき、僕は再び戦いに視線を向けた。

 

「あん?ヴァーリが息切れをしてるのか?」

 

アザゼルの言葉に僕はヴァーリに意識を向ける。

そこには、余裕そうにするイッセー君に対し、明らかに消耗してるヴァーリの姿があった。

 

 

 

 

*********************

 

 

イッセーside

 

 

 

 

「はあ、はあ……」

 

「息切れか?ヴァーリ?」

 

「まるで触らせてくれないな……お陰でこちらが消耗するばかりだ」

 

「まあね。それに、お前の半減は奪った力を自分の物にできるけど、疲労までは回復しない。だから、少しずつ無理をさせてるって訳だ」

 

実際、ヴァーリはかなり消耗してるのが見てとれる。

こいつは俺と違って覚醒していない。つまり、“物質体(マテリアルボディー)”に囚われている。

対して、聖人に覚醒した俺は“精神生命体”の特性を獲得している。つまり、呼吸をする必要がないのだ。

それに加えて、俺はヴァーリを消耗させるような戦いを先程から繰り広げている。

無理をすれば当たる、と相手に思わせるのが肝で、結果、こいつは大振りの攻撃を繰り返し、どんどん消耗していったというわけだ。

 

「いいこと教えてやる。同格との戦いではいかに相手を消耗させ、自分の消耗を押さえられるかが重要だ。そうやって大技ばかり使ってたら、こういう結果になるからな」

 

俺はヴァーリに急接近し、拳にオーラを込める。

 

『Boost!』

 

「“魔竜崩拳”!!」

 

「ぐは!?」

 

俺はヴァーリの腹目掛けて力一杯拳を叩き込む。その一撃に耐えきれず、ヴァーリの鎧の腹部分は破片をばら撒きながら砕け散った。

ヴァーリも鎧越しから吐血しているようだが、戦意はまるで衰えていない。

 

「なめるな!!」

 

ヴァーリはそのまま俺の顔面目掛けて拳を振り上げる。

その一撃は俺の顔面を捕らえ、一撃を叩き込んだ。

 

『Divide!』

 

半減の音声が鳴り響くなか、ヴァーリは勝ちを確信したかのように笑みを深める。

だが、俺はその勢いを利用し、回転を始め、飛び上がった。

 

「なに!?」

 

予想外であろう俺の行動にヴァーリは驚きの声を上げる。

俺はヴァーリの拳の勢いを取り込み、“天板”にて作り上げた足場を思いきり踏み込んだ。

 

「食らえ!“暴風山靠”!!」

 

ヴァーリの拳の威力をも取り込んだ渾身の鉄山靠。鎧が既に半壊していたヴァーリはそれをモロにくらい、吹き飛んでいった。

 

「ぐはっ!」

 

地面に叩きつけられ、血混じりの吐瀉物を口からは吐き出すヴァーリ。

それでも、あいつは嬉々とした笑みを浮かべてやがる。

マジで戦闘狂って厄介だよな。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……フフフフ、ハハハハ!禁手を使わずにこの強さ!これが君の……歴代最強の赤龍帝の力!面白い!アルビオン、“覇龍(ジャガーノート・ドライブ)”を使うぞ」

 

は!?マジかよ、こんなところで!?

流石に覇龍を使われたらヤバイかもしれない。

いや、こちらも禁手なり究極なり使えば勝てるとは思うけど、周りが危なくなる可能性が高い。

そもそもあいつ、覇龍をコントロールできるのか?

 

『待て、ヴァーリ。流石にダメージを受けすぎだ。いくらなんでも、今の状態で使うのは危険すぎる』

 

「俺はこの戦いをもっと楽しみたいんだ、アルビオン。『我、目覚めるは、覇の理に────』」

 

おいおい!

あいつ、マジで呪文を唱え始めたぞ!

 

『自重しろ、ヴァーリッ!我が力に翻弄されるのがお前の本懐か!?』

 

どうやらアルビオンはヴァーリが覇龍を使うのに反対のようだな。がんばれアルビオン!

……というか、あそこまで止めようとするってことは、やっぱりヴァーリは覇龍制御できないんだろうか?

 

『そうだな。仮に制御できるとしても、あの状態で覇龍を使えば高い確率で暴走するぞ。早く止めた方が良い』

 

ドライグの言う通り、早く止めないとな……。

その考えた時、ヴァ―リの近くに一人の男が舞い降りた。

三國志の武将が着ているような鎧を身に纏っている。

 

「おいおい、随分とボロボロだなヴァーリ」

 

「美猴か……何をしに来たんだ?」

 

ヴァ―リは口元の血をぬぐいながらそう言う。誰だあいつ?

 

「その言い方は酷いんだぜぃ?相方がピンチだっつーから助けに来たのによぅ。北の田舎(アース)神族と戦うからさっさと来いとよ。それにしても、おまえがそこまでやられる相手がいたなんて想像できなかったぜぃ」

 

「ああ。彼、赤龍帝が俺の予想を遥かに越えていてな。しかし、そうか。時間切れか……しかたない。今回は俺の敗けだな」

 

「負けたわりには清々しい顔をしてるな」

 

「ああ。最高の戦いだったよ」

 

おいおい、なんか良く分からん奴が乱入してきたと思ったら、勝手に話し込み始めたぞ。

見た感じ、魔王種を獲得してるようだが、悪魔や堕天使じゃなさそうだ。

黒歌とは違う種族の妖怪かなんかか?

 

「誰だ、おまえは?」

 

「そいつは闘戦勝仏の末裔だよ」

 

俺の質問に答えたのはアザゼルさんだった。

とう……せん?うーん。全く知らん単語が出てきたぞ。

何の末裔だって?

 

「分かりやすく言えば、西遊記で有名なクソ猿、孫悟空の子孫だ」

 

……は?

ええええええええええええええ!?

 

「ま、マジで!?」

 

ウソッ!

超有名じゃん!てか、西遊記って実在したの!?いや、冷静に考えると、神話の神々が実在するんだから、確かに西遊記が実話というのもおかしい話じゃないのか。

あの斉天大聖孫悟空の子孫、なるほど、魔王種を得てるのもうなずけるな。

 

「なるほどな。おまえまで“禍の団”入りしていたとは世も末だ。いや、白い龍に孫悟空。お似合いでもあるかな」

 

アザゼルの言葉に美猴と呼ばれた男がケタケタと笑う。

 

「俺っちは初代と違って自由気ままに生きるんだぜぃ。よろしくな、赤龍帝」

 

「お、おう」

 

なんか気軽な挨拶をくれたな……。思わず返しちゃったけど、よかったのだろうか?

美猴はヴァーリに肩を貸すと棍を手元に出現させ、地面に突き立てた。

刹那、あいつらの足元に黒い闇が広がった。そして、そのままずぶすぶと沈んでいく。

逃げるつもりか。

まあ、別にいいけどさ

 

「今日の戦い、楽しかった。次に会うときは君に勝つよ、兵藤一誠」

 

「わかったわかった。父さん母さんを巻き込まないと約束してくれるなら、また戦ってやるよ。ただし、二人を巻き込もうと言うのならもう戦ってやらん!」

 

戦闘狂のコイツにはそれが一番効くだろう。

もちろん、本当に実行すれば戦わないなんて選択肢はない。そのときは俺はコイツを殺すと思う。

その考えも及んでいるんだろうが、それでもヴァーリは俺の提案を了承してくれた。

 

「いいだろう。約束しよう」

 

それだけ言い残すとヴァーリと美候は完全に姿を消した。

あいつのことだから次会うときは更に強くなってるんだろうな。ああいうタイプはマジでどん欲だから、どんな強化をされてるのか楽しみでもあるな。

こうして、二天龍の初戦闘は幕を閉じたのだった。




カテレア・レヴィアタン
EP 39万1267→69万1267(蛇)→159万1267(疑似覚醒)
種族 純血悪魔
称号 旧魔王・レヴィアタン
魔法 触手化
スキル なし
初代魔王レヴィアタンの血統であり、“禍の団”に所属する眼鏡をかけた女性悪魔
悪魔の中でも名門であるレヴィアタン家の血族だったが、過去の大戦争で悪魔陣営が破滅的疲弊に陥った際、最後まで強硬に継戦を訴えたため、穏健派のセラフォルー・レヴィアタンに家督を奪われ冥界へ追放された。
レヴィアタンの座を奪ったセラフォルーを怨んでおり、彼女を殺害して新世界では自分が魔王レヴィアタンになろうと企んでいた。
オーフィスの蛇と商人より購入したという“魂の結晶”を用いることで“超級覚醒者”に覚醒するが、長年の驕りから使いこなすことができず、数値上では劣っているアザゼル相手に敗北した。




暴風山靠
回転しながら飛び上がり、遠心力をプラスすることで威力を高めた鉄山靠。
イッセーはそこにヴァーリの拳の威力も取り込んだ。
モデルはアンデラの捌廻山靠。


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和平と今後です

イッセーside

 

 

 

 

ヴァーリたちが撤退してからしばらくした後、到着した三大勢力の軍勢が戦闘の後始末を行っていた。

倒した魔法使いの死体を運んだり、建物の修復作業をしたりと忙しそうだ。

しかも、俺とヴァーリ、アザゼルさんとカテレアの戦いは余波もすごかったため、修復するのがかなり大変そうだ。

校庭の中央ではサーゼクスさん、セラフォルーさん、ミカエルさん、アザゼルさんが部下の人に指示を出しながら話し合っていた。

アザゼルさんとか、片腕を失ったばかりだというのによくやるな。堕天使に再生能力はないのに涼しい顔して復興を手伝うアザゼルさん見てると、見てるだけの俺が何だか申し訳ない気持ちになる。

 

「彼女、カテレアの件は我々、悪魔側にあった。本当にすまない。その傷に関しては……」

 

サーゼクスさんがそう言うとアザゼルさんは手を振る。

 

「俺もヴァーリが迷惑をかけた。元々力にのみ、興味を注いでいた奴だ。結果だけ見るとあいつらしいと納得できる。未然に防げなかったのは俺の過失だ」

 

 

そう言うアザゼルさんの瞳はどこか寂しげだ。

ヴァーリとの間に何かあるのだろうか?コカビエルとの戦いでもあいつを派遣するくらいだし、もしかすると、この人は相当ヴァーリを信頼してたのかもしれないな。

そんな中、ミカエルさんがサーゼクスさんとアザゼルさんの間に入る。

 

「さて、私は一度天界に戻り、和平の件を伝えてきます。“禍の団”についての対策も講じなければなりませんしね」

 

「すまないなミカエル殿。今回のようなことが起きて、会談をセッティングした我々としては、ふがいなさを感じている」

 

「サーゼクス、気になさらないで下さい。私としては三大勢力の和平が結ばれることに満足しているのですよ」

 

「ま、納得出来ない奴も出てくるだろうがな」

 

と、アザゼルさんが皮肉を言う。

だが、真理でもある。それこそ、万年単位で憎み合い、いがみ合っていた奴らとこれから仲良くしましょう、なんていっても納得できない奴はさぞ多かろう。

現に、あのカテレアがそうだったんだから。

 

「長年憎みあってきたのですから、仕方がありません。しかし、これからは少しずつ互いを認め合えば良いでしょう。……問題はそれを否定する“禍の団”ですが」

 

「それについては今後連携をとって話し合うことにしよう」

 

サーゼクスさんの言葉に二人とも頷く。

そうだよな。ベニマルさんたちだって、オークたちを受け入れた。

これから長い時間をかけていけば、この世界だって、向こうと同じくらい良くなるはずだ。

 

「では、私は一度天界に戻ります。すぐに戻ってきますので、その時に正式な和平協定を結びましょう」

 

と、ミカエルさんがこの場をあとにしようとする。

……って、危ない!この人には頼みたいことがあるんだった!

 

「ちょ、ちょっと、待って下さいミカエルさん!」

 

俺は魔法陣を展開しようとするミカエルさんを制止する。

 

「なんでしょうか?兵藤一誠君」

 

「ひとつだけお願いが」

 

ミカエルさんは少し考えるそぶりを見せるが、すぐに微笑み、指を立てる。

 

「いいでしょう。今回の戦い、君がいなければどうなっていたかわかりませんからね。ただ、時間もないのでひとつだけですよ」

 

ああ、よかった。一つで十分だ。

 

「アーシアとゼノヴィアが祈りを捧げてもダメージを受けないようにしてもらえませんか?」

 

これが俺の願い。

アーシアとゼノヴィアは悪魔になっても、神がいないと知っても毎日祈りを捧げていた。

もちろん悪魔だからダメージを受ける。

そんな二人を見ていていつも不憫に思っていたんだ。

この世界の祈りは、聖書の神のシステムが悪魔を嫌っているがゆえ、祈りを許さない。でも、向こうの悪魔たちはリムルという神を信仰し、いつも祈りをささげている。

ルミナス教徒を見ても思うんだけど、信仰は自由が一番だと思うんだ。

 

「──っ」

 

俺の願いを聞き、ミカエルさんが驚きの表情を見せる。

俺の傍にいたアーシアとゼノヴィアも驚いている。

しかし、ミカエルさんは小さく笑うと俺の願いにうなずいてくれた。

 

「わかりました。二人分ならなんとかできるかもしれません。二人は既に悪魔ですから教会に近付くのも苦労するでしょうが。二人に問います。今の神は不在ですがそれでも祈りを捧げますか?」

 

その問いにアーシアとゼノヴィアはかしこまって姿勢を正す。

 

「はい。主がいなくてもお祈りは捧げたいです」

 

「同じく、主への感謝とミカエルさまへの感謝を込めて」

 

二人の言葉にミカエルさんは微笑んだ。

 

「わかりました。本部に帰ったらさっそく調整しましょう。神を信仰する悪魔が二人くらいいても面白いですしね」

 

ミカエルさんがニッコリしながらそう言ってくれた。

やった!言ってみるもんだな!

 

「ありがとうございます、ミカエルさん」

 

「あなたは此度の功労者です。これくらいのお願いでよければ喜んで引き受けますよ」

 

功労者ってほど働いたつもりもないけど、何はともあれこれで二人の問題も解決だぜ!

 

「良かったな、アーシア、ゼノヴィア。これからは遠慮することなく祈れるぞ」

 

アーシアはうるうると目元を潤ませ、俺に抱きついてくる。

 

「ありがとうございます、イッセーさん!」

 

よしよし。俺はアーシアの頭を撫でながら、彼女を抱き返す。

 

「イッセー、ありがとう」

 

ゼノヴィアもお礼を言ってきた。

ほんのり頬が赤いのは照れてるのか?ゼノヴィアが照れるなんて新鮮だな!いつもよりもかわいく見えるぜ!

 

「ミカエルさま。例の件、よろしくお願いします」

 

木場が何やらミカエルさんにお願いしていた。

 

「ええ。あなたからいただいた聖魔剣に誓って、聖剣研究で今後犠牲者が出ないようにします。大切な信徒をこれ以上無下には出来ませんからね」

 

おお!この人そっちもやってくれるのか!

マジであっちのミカエルとは大違いだ!

 

「やったな!木場!」

 

「ありがとう、イッセー君」

 

俺たちのやり取りを見ていたミカエルさんに対し、アザゼルさんが近づく。

 

「ミカエル。ヴァルハラ連中への説明はお前がしとけ。下手にオーディンに動かれても困るからな。あと、須弥山にも今回のこと伝えといてくれ」

 

「ええ。私が伝えておきましょう。『神』への報告は慣れてますから」

 

それだけ言うと、ミカエルさんは部下を引き連れ転移していった。

確かに、今回の“禍の団”は三大勢力に留まらず、他の神話にも手を伸ばすだろうし、予め注意喚起しといたほうがいいだろう。

それを見送ると、次にアザゼルさんは堕天使軍勢の前に立った。

 

「俺は和平を選ぶ。堕天使は今後、天使と悪魔と争わない。不服なものは去れ!付いてきたい者だけついてこい!」

 

『我らの命、滅ぶときまで総督のために!!』

 

怒号と共に鳴り響く歓声。アザゼルさんはやはり、スゴいカリスマだな。

根はお人好しだし、リムルと似てる部分があるのかもしれないな。

その後、堕天使達もどんどん転移していき、残ったのはアザゼルさんだけとなった。

 

「さて、そろそろ俺も帰るわ。疲れた」

 

そう言って帰ろうとするアザゼルさん。

すると、一度だけ立ち止まり、俺の方を見た。

 

「あー、そうそう。俺は当分この町に滞在するつもりだから」

 

「え?」

 

「本当ですか?」

 

「ああ。制御できてない神器見ると、ムカつくし、あの吸血鬼君の世話もしてやるよ。じゃあな!」

 

アザゼルさんの神器の知識はマジでスゴいからな。

これはギャスパーが神器を完璧にコントロールできる日も遠くないかもしれない。

すると、今度はレイナーレが近づいてきた。

 

「兵藤一誠さん、アーシア・アルジェントさん。先日は本当に申し訳ありませんでした。改めて、謝罪をしたいと思います。どのようにお詫びをすればいいか……」

 

「いや、別にいいって。俺たちが保護して無事なわけだからさ」

 

「そうですよ!あの時も言いましたが、レイナーレ様のおかげで私は皆さんに……大切な人たちに会うことができたんですから」

 

「……ありがとうございます」

 

「おい、レイナーレ。終わったんなら早く来い!」

 

「はっ」

 

レイナーレは立ち上がり、アザゼルさんの後についていく。操られていたとはいえ、ずっと気にしてたんだろうな。

聞いた話だと、彼女の部下たちもメロウの力が弱まった影響で無事目を覚ますことができたと聞く。あの時、俺の“呪詛崩壊(カースブレイク)”である程度解呪できていたのも大きいらしい。よかったよかった。

そう思いながら、俺はこれからに想いを馳せるのだった。

 

 

『これは我々とは別の裏組織より買い取った結晶。これを壊すことで、私はさらなる力を得るのよ!』

 

 

────ある程度の懸念も残して……

 

 

 

 

*********************

 

???side

 

 

 

 

「蛇と結晶、重ね合わせるとあの程度の存在でもそこそこの力を手にできるんだな……。まあ、使いこせなければ、宝の持ち腐れだけどな」

 

神祖の高弟第5位、カグチは映像を見て大笑いしていた。

彼からすれば、自分の力を使いこなせず敗北するなど愚かこの上ない。

 

「“禍の団”。力を求めるテロリスト集団か……。確かに、我らの実験の材料にするのにこれ以上ない存在だが、ずいぶん勝手な真似をしたなカグチ!」

 

「おいおい、別にいいだろ?俺たちは基軸世界に戦争を仕掛けるには力不足だ。仮に、同盟を結んでる()()()()と共に戦っても、勝率は三割にも満たない。ならば、どんな手段を使っても、力ある者を増やし、仲間にするのが合理的だろう?」

 

カグチの言葉にメロウも口を紡ぐ。カグチの言う通り、基軸世界と自分達の陣営では戦力に大きな隔たりがある。

何しろ基軸世界には、ギィ・クリムゾンとリムル・テンペストを筆頭とする“八星魔王(オクタグラム)”がいるのだ。

メロウ自身、黒歌とイッセーの強さは身をもって知っている。

特に黒歌は二人がかりとはいえ、相性的には自分が遥かに優位だったにも関わらず、仕留めきれなかったのだ。

メロウの究極能力(アルティメットスキル)麗歌之王(セイレーン)”は音の振動であらゆる結界を()()()()()()()()“音響操作”という権能を持っている。

これに耐えうる結界など、ヴェルザードの持つ忍耐之王(ガブリエル)の“雪結晶盾(スノークリスタル)”、あるいは正義之王(ミカエル)の誇る最強の絶対防御“王宮城塞(キャッスルガード)”くらいなのだ。

空間歪曲防御領域(ディストーションフィールド)すら突破するその権能を最大限に高めた彼女の究極の奥義こそ、“破滅と破壊の葬送曲(デストラクションレクイエム)”だった。

しかし、絶対の自信を持って放たれたその奥義は黒歌の結界に阻まれた。これはメロウにとっても想定外すぎる出来事だった。

その黒歌ですら、“ハ星魔王(オクタグラム)”の幹部でしかない。自信過剰の気のあるメロウをしても、現状こちらと基軸世界の戦力には差があると認めざるを得ないのだ。

 

「だが、それでもあの程度ではないか!力が膨れ上がっただけで、ユニークスキルすら習得できてない!あんな雑魚何人いようが、真の強者には敵わんぞ!」

 

「メロウの言い分もごもっとも。だが、“魂の結晶(ソウル・ジェム)”を使ったコカビエルがユニークスキルを手に入れたように、強い意志を持つものが使えば話しは変わってくる。あの女がユニークすら手に入れられなかったのは、『魔王の血を引く自分達が世界を支配する』という周囲に作られた空っぽの夢だけで、自分というものをまるで持ってなかったからだ」

 

カグチの言葉にメロウはなるほどと考える。

確かに、カテレアの言い分はぶっちゃけてしまえばただの思い込みだ。他の旧魔王の連中も見てきたが、あいつらは祖先の偉業を自分達のものだと勘違いしてる愚物。自分の確固たる意思など持っていないであろう。

対して、コカビエルには戦争の決着をつけたいという純粋な思いと、基軸世界に挑戦したいという向上心があった。

だからこそ、鍛練を欠かさなかったし、疑似覚醒した時にユニークスキルを手に入れて見せたのだ。

 

「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。俺は野心を持つものにコイツを売り付け、覚醒者を増やすつもりだ」

 

「それで足が付いたらどうするつもりだ?」

 

「俺がそんなヘマするとでも?」

 

歯軋りしながらも、カグチの言葉にメロウはなにも言うことができない。

なにしろ、カグチは戦闘と諜報、両方に長けている存在だ。

制約こそあるものの、基軸世界にて、天魔大戦の情報を誰にも気付かれずに収集できたのも彼の権能あってのものだ。

そんな彼が誰かに気付かれるなどというミスを犯す等考えられないことだった。

 

「それに、見つかるならそれはそれで面白いんだ。どっちにしろ兵藤一誠と黒歌は消した方がいいしな。今回は見物だけにしたが、次は俺も戦ってみたいもんだぜ」

 

そう言いながらカグチは笑う。実は彼も重度の戦闘狂なのだ。

かつて自分の国を納めていた時期は領土が隣接していた“黄の王”と自国の被害などお構いなしに幾度となく殺し合いをしたものだ。

余談だが、それが当然だと思い込んでいた“黄の王”は彼の領土跡地に国を作ったとある魔王に、かつてと同じノリで戦争をしかけ、頭を悩ませる原因となっているのだが、それはカグチの知ったことではない。

 

「神祖様の許可が降りると思ってるのか?」

 

「あのな、神祖様もそんなケチな人じゃないんだから、それくらい許してくれるだろ?俺が負けたらそれまでだったってだけだし……」

 

自分の死すらまるで厭わないカグチの発言に薄ら寒いものを感じるが、それがカグチの本音と理解してるがゆえ、メロウはなにも言わなかった。

それに、カグチの言い分はメロウにとっても重要なものだ。

 

「……許可が下りたのならば私も連れてけ。あの忌々しい赤龍帝と黒猫は私の手で始末する」

 

彼女にとって、もっとも憎むべき存在であるルミナスの配下たる黒歌は当然として、自らの邪魔をした一誠も今やメロウにとっての粛清対象となっていた。

ゆえに、二人は自分の手で始末したいと常々考えていたのだ。

それを察してか、カグチも笑みを浮かべながら頷いた。

 

「兵藤一誠、黒歌。テメーらと合間見える日が楽しみだな……」

 

究極の権能を持つ者との戦いなど、ここ数千年は行っていない。

天魔大戦という激闘を見ていた身としては、ずっとこの時を待っていたのだ。

神祖の命令だからこそ、彼は監視に徹していたが、本当ならば彼もあの戦いを体験してみたかった。

その悲願が叶いそうだ。

カグチは想いを馳せながら眼を閉じた。

 

 

 

 

*********************

 

イッセーside

 

 

 

 

 

「てなわけで、今日からこのオカルト研究部の顧問になることになった。アザゼル先生と呼べ」

 

「私もこの学園に入学することになりました。ここでは“天野夕麻”とお呼びください」

 

あの会談から数日。扉を開けると、着崩したスーツ姿のアザゼルさんと制服姿のレイナーレがオカ研の部室にいた。

 

「……どうして、あなた達がここに?」

 

額に手を当て、困惑している部長。どうやら、先日のアザゼルさんの発言を冗談だと思っていたようだ。

 

「なに、セラフォルーの妹に頼んだらこの役職になったのさ。まあ、俺は知的で超イケメンだからな。女生徒を食いまくってやるさ!」

 

「それはだめよ……って、なんでソーナがそんなことを?」

 

部員全員の視線が会長に集まる。

 

「ち、知識は確かですし、顧問にうってつけとサーゼクス様が……」

 

そう言いながらも会長の目はメチャクチャ泳いでいる。冷や汗もだらだら出し、何か隠してるなこの人。

部長はごまかしは許さないとばかりにじーっとソーナ会長を見つめる。そんな部長にとうとう観念したのか、ソーナ会長は語り始める。

 

「……拒めば、姉を代わりに連れてくると脅され……いえ、せがまれまして……」

 

今、脅されたって言ったか?そんなに嫌か!セラフォルーさんが来るの!

俺的には愉快で好感度高い人なんでけど、確かに、ソーナ会長がらみだと暴走しそうだし、まじめな会長はそもそも姉の妙な格好を見るのが嫌なのだろう。

 

「私たちオカ研を売ったわけね」

 

部長が苦笑いしながら言う。

 

「私は総督のサポートとしてやってきました。至らないところもあると思いますが、よろしくお願いします」

 

「よろしくっす!」

 

レイナーレはそういいながら会釈をする。これからはアザゼルさん……いや、先生のサポートとして生徒側から補佐する予定のようだ。

ふと俺は斬り落とされたはずの左腕がなぜか生えていることに気付いた。

完全回復薬(フルポーション)”か?……いや、よく見るとこれ、精巧に作られた機械仕掛けの義手か?

 

「アザゼルさん、その左腕は?義手ですか?」

 

「お?よくわかったな。これは神器研究のついでに作った万能アームさ。ビームやら小型ミサイルやら、いろいろ搭載してるぜ」

 

「うお!すげえ!ロマンがあふれてますね!」

 

「お?わかるか?」

 

アザゼルさんが袖を捲ると左腕が飛び出してきた。まじでいろいろな機能が搭載されてるっぽいな!魔素由来じゃないから等級は測れないが、最低でも“特質級(ユニーク)” はありそうだな!

 

「まぁ、そう言うことだ。こいつ共々よろしく頼むわ。リアス・グレモリー」

 

部長は胡散臭そうな目でアザゼル先生をにらむ。まあ、つい先日まで敵対してた人が自分の上司になったんだし、仕方ないと言えばそうなのかもしれないな。

 

「で、では、生徒会の業務もあるので、私は失礼します」

 

会長はそういいながらそそくさとその場を後した。完全に丸投げしたな。そんなに嫌か。

まあ、まじめな生徒会長と不真面目な教師じゃあ確かに相性は悪いわな。

 

「そう嫌そうにするなよ、リアス・グレモリー。この俺がおまえらを鍛えてやろうってんだからさ」

 

アザゼル先生の言葉にみんなが驚く。そんな皆をよそに、アザゼル先生は話を続けた。

 

「お前らも知っての通り、“禍の団”というテロ集団には白龍皇がいる。ヴァーリはすでに組織内で自分のチームを持ってるって話だ。仮に“白龍皇眷属”とでも呼んどくか。今のところ、ヴァーリと孫悟空以外にも、“聖王剣”に選ばれた担い手や“黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)”に所属してた凄腕の魔術師が確認されている。そいつらへの抑止力として、赤龍帝が身内にいるお前らが挙げられたってわけだ」

 

なるほど。確かに、ヴァーリはまた俺たちと相まみえることもあるだろう。その抑止力として、ヴァーリに勝っている俺が挙げられるのは理解できる。

だが、ほかの皆は魔王種級と戦うには力不足。それをアザゼル先生が底上げしようって話か。

 

「……イッセーとミッテルトの二人で十分よ」

 

「いや、俺はアザゼルさんの教えも受けたほうがいいと思いますよ」

 

俺の言葉にオカルト御研究部の視線が俺に向く。部長は余計なことを言うなといった感じの表情だが、この人の指導はこれから先絶対必要になるだろう。

 

「どういうことかしら?」

 

「簡単ですよ。俺は神器についての知識がないに等しい。この場には神器の制御が難しいギャスパーもいるし、専門家の意見は聞くべきだと思います」

 

「兵藤一誠の言うとおり、俺の知識は必須だと思うぜ。サーゼクスにも、未成熟の神器使いを成長させろと言われてるし、お前らには俺の研究成果を叩き込んでやるよ。そうしたら、おまえ達はもっと強くなれるぜ」

 

現状、俺やミッテルトができるのは身体的、技術的な修行のアドバイスくらいだ。

だが、技術も身体能力も劇的に上がるものじゃない。長い反復練習が必要だし、迷宮みたいに死んでも生き返る環境なんてないから加減も必要だ。

それにアザゼル先生の言うとおり、俺は神器について知らないことのほうが多い。木場の聖魔剣やギャスパーの邪眼、アーシアの癒しの力に関しては俺ではこれ以上どうにもならないのだ。

だからみんなが強くなるためにも、神器についての知識があるアザゼルさんが指導してくれるのはありがたい。

そんな中、誰かがオカルト研究部の扉をノックした。

 

「お邪魔するにゃん♪……アレ?知らない人がいる」

 

「おじさん誰?」

 

「お?もしかして、お前が噂の機械っ子か!?」

 

やってきたのはセラと黒歌だった。

アザゼルさんはセラを見た瞬間、目の色を変えて、飛びついてきた。セラは最近、たまにオカルト研究部に姿を現すようになっている。

その時は念のためということで、黒歌もついてきてるようだ。

 

「堕天使総督のアザゼル。話には聞いてるにゃん」

 

「SS級はぐれ悪魔黒歌か。手配犯がうろちょろしてていいのかよ?」

 

どちらも微妙に警戒してるな。まあ、初対面だし、当然と言えば当然だけど。

ところが意外なことに、時間経過とともに、二人の会話はどんどん弾んでいった。

 

「あー、あの局面そうすりゃクリアできるのか!」

 

「なるほど、このアイテムが必要だったんだ。教えてくれてありがとにゃん」

 

互いに敵意がないということを悟ったようで、しばらくすると、ゲーマーらしく、ゲーム談話を二人でし始めた。

まあ、楽しそうで何よりだよ。そんなアザゼルさんたちをあきれながら見ていると、部長が何やら思い出したかのようにつぶやく。

 

「そうそうイッセー。貴方に伝えたいことがあるのよ」

 

「俺に?何ですか?」

 

俺の言葉に部長は少し、言いづらそうな雰囲気を出す。

 

「じ、実は、私の眷属の女性が全員、イッセーの家にて同居することになったの。お兄様の提案でね」

 

・・・・・・え?

 

「「ええええええええええええええええええ!?」」

 

思わず俺もミッテルトも叫んでしまった。

いやいや、なんで!?

いや、うれしいんだけどさ、いくらなんでも唐突すぎるだろ!?

 

「ま、まあ、うちは構わないっすけど、なんでまた急に?」

 

「以前、貴方の家に泊まった時に眷属のスキンシップの重要性を感じたらしくて……。一応止めたのだけど……」

 

いやいや、それでも色々おかしいような……。

 

「あらあら、よろしくお願いしますわ、イッセー君♪」

 

困惑している俺に朱乃さんが抱き着いてきた。

お、おっぱいが!おっぱいが当たってるよ!素晴らしい!最高の感触だ!

うれしい!……けど、そんな俺を白けた目でミッテルトが見つめている。その視線が少し辛い。

 

「でも、もう家にそんなスペースないっすよ?どうするんすか?」

 

ミッテルトの言葉は正論だ。俺の家も一軒家だし、広い部類ではある。

だが、ここ数ヶ月で部長、アーシア、黒歌、セラと四人も居候が増えている。

いくらなんでももう家にそんなスペースは無いぞ。

 

「問題ないわよ。夏休み中に家を改築することになっているから。イッセーのご両親にも許可はもらってるし……」

 

はい?改築?

気になったので詳しく聞いてみると、かなり大掛かりなものらしい。

個別の部屋に、地下にはプールもできるのだとか……。

さ、さすがにまずいぞそれは!?もし、その過程で俺の部屋のクローゼットがどうこうなってしまったら……。

下手して捨てられでもしたら、冗談抜きでやばい!一応釘さしとくか。

 

「あの、できれば、俺の部屋の家具は捨てないでもらえますかね?特にクローゼットは師匠にもらった思い出の品なんで……」

 

「そ、そうなんすよ。うちのお気にの家具とかもあるし、ある程度は残してほしいっすね」

 

「?そうなの?なら、お兄様にも言っておくわね」

 

俺とミッテルトは部長の言葉に安どのため息を付ける。ほっ、よかった。割とマジで。

見ると黒歌も冷や汗をかいてるし、心配してたようだ。

基軸世界の扉がなくなる危険性がないのなら、家のリフォームとやらは俺も面白いと思う。

ミッテルトも同じ考えのようだ。皆と賑やかに暮らせるなら、それも悪くないしな。

俺はそう思いながら、楽しそうに談笑する皆に目を向けた。



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遊園地での一日です

イッセーside

 

 

 

 

「ふわああ……。おはよう。お兄ちゃん」

 

「あ、おはよう。セラ」

 

セラがわが家で暮らすようになって早2週間が過ぎようとしていた。

最初は俺も警戒していたが、今ではセラも家族同然の扱いになっていた。

 

「あ、セラ。おはようにゃん」

 

「おはようございます。セラちゃん」

 

「黒歌お姉ちゃん、アーシアお姉ちゃんもおはよう」

 

セラはそう言うとアーシアと黒歌のほうに寄っていった。

セラは黒歌とアーシアに特になついてるみたいなんだよな。まあ、常に家にいる黒歌と孤児院にいた経験からか、子供との触れ合いに慣れてていつも優しいアーシアになつくのはあるいい必然ともいえよう。

セラは実年齢はぶっちゃけわかんないけど、記憶喪失の影響からか、精神は子どもそのものだしな。

 

「美味しいですか?」

 

「うん!とっても美味しいの!」

 

セラは皆とともに仲良さそうに食事をしている。こうして一緒のご飯を食べてる光景を見るとなかなか和むな。

そんな中、黒歌が何かを懐から取り出した。

 

「そういえばさ、今日ってなんか用事ある?」

 

「いや、部長は悪魔の仕事があるからいないけど、俺たちは基本的に暇だな」

 

今日は用事があるらしく、部長たちは朝早くから何処かへ行ってしまったのだ。

アザゼル先生加入の手続きのほかにも、会談のまとめ、ゼノヴィアのデュランダル手続きなどもろもろ業務があるらしく、古くからの部長眷属は皆出動してしまい、今残っているのは新入りのアーシアくらいなものだ。

俺たちも悪魔業界については何もわからないため、待機を命じられている。だから基本的に今日は何もすることがない。

ゲームの続きでも進めるかな……と考えていると、黒歌がたわわな谷間に手を突っ込み、何かを取り出した!

 

「イッセー、見すぎっすよ。それってなんすか黒歌っち?」

 

「実はこの間、福引きをやったら見事当たって……折角だし、皆で遊園地、行く?」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべ、取り出したのは遊園地のチケットだった。対象は五人。ちょうどこの場にいるものと同じ数だ。

俺たちは目を見合わせながら、笑みを浮かべた。

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

「ここが遊園地……なんかすごいの!」

 

「私も初めて来ました」

 

俺たちは黒歌の貰ったというチケットを握りながら、この国有数の遊園地と称される“ネズミ―ランド”へとやってきた。

着くやそうそう、目を輝かせながらセラはアトラクションを眺めていた。その目はとても楽しそうだ。

 

「うちも遊園地は久しぶりっすね」

 

「そうだな。数年ぶりくらいか?」

 

最後に行ったのが三年前くらいか?

俺がバイトで『テンペスト人材育成学園』の初等部“Sクラス(問題児)”相手に教師やってた時以来か?

ところどころ変なアトラクションもあったけど、かなり楽しかったよな。

……アイツら元気でやってるかね?

 

「ねえお姉ちゃん!あれ入ってみたいの!」

 

「あ、あれですか?なんか怖そうです」

 

そう言いながらセラが指差したのは……かなり本格趣向のお化け屋敷だった。

……いや、何で!?いきなりお化け屋敷!?いや、別にいいんだけどさ、普通もっとよさげなの選ばない!?

いや、まあセラが行きたいならば行くべきか。そう思い、俺たちはお化け屋敷に入ることにした。

 

「きゃあ!」

 

「おお」

 

入って早々現れたのは、血まみれのゾンビだった。

かなりスプラッタな見た目でアーシアには刺激が強いだろう。対照的にセラは目を輝かせている。

血を見て浮かべる笑みはなんだかとても嗜虐的に見えるのはたぶん気のせいだろう。

俺?俺は今更だ。……というか、ミッテルトも黒歌もこんなものじゃあ驚きはないな。

俺たちは不死の王たるアダルマンさんと何度も戦ったこともあるし、そもそも恐怖度でいえば、迷宮の不死系魔物(アンデッド)徘徊層のほうが怖い。あっちはマジで襲ってくるしな。

それと比べたら、襲ってこないことがわかってるお化け屋敷にビビることはないのだ。

だが、慣れてる俺たちはともかく、アーシアはかなり消耗してしまったようだ。びくつきながら、涙目で俺につかまり、ずっと隠れてるくらいだし、相当つらかったのだろう。

 

「大丈夫?アーシアお姉ちゃん?」

 

「うう、情けないです」

 

「ま、まあ仕方ねえよ。切り替えていこう」

 

「じゃあ、次はあそこに乗るにゃん」

 

そう言いながら黒歌が指さしたのは、緩やかに回るメリーゴーランドだ。

黒歌の目はかなりワクワクしてるように見える。

もしや、こいつも遊園地初めてなのか?

 

「テンペストのには行ったことあるけど、地球(こっち)のは何気に初めてにゃん。リムル様も参考にしたっていうし、結構楽しみでもあるにゃん」

 

だからか。道理でさっきから、無言であたりをキョロキョロしてるわけだ。

福引で当たったときは相当うれしかったんだろうな……。

アーシアも初めてだって言ってたし、今日はみんなが楽しめるようにしないとな。

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

「とても楽しかったの!」

 

「はい。そうですね」

 

数時間後。俺たちは遊園地を楽しんでいた。

最初のお化け屋敷こそ、アーシアに負担をかけてたが、それ以降のアトラクションは中々どうして楽しんでいるみたいだ。

 

「イッセーさん。もう一度乗りませんか?」

 

「あ、ああ……」

 

あと意外にも、アーシアはかなり絶叫マシンが気に入ったご様子だ。

いや、最初の方は怖がってたんだけど、徐々に楽しくなってきたらしく、最終的に手を上げながら喜んでいた。

考えてみれば、アーシアにはかなりの度胸と根性がある。

修行では魔力切れギリギリまで回復と防御を両立していたし、ライザー戦でだって怖がりはしつつも逃げずに真っ向から対峙して見せた。

ジェットコースターくらいは最早なんともないのかもしれないな……。

 

「イッセーはかなり怖がってたようっすけどね」

 

「は、はあ!?き、気のせいだろ?」

 

別に怖がってはない!ただ単純に久々だから驚いただけだ!

そもそも俺は飛べるんだぞ!?そんな俺が今さらジェットコースター程度にビビるワケがない!

普段自分で飛ぶのとは違って自分で操れないから少し驚いただけだ!断じて怖がってはいない!

 

「ねえ、お兄ちゃん。あれはなに?」

 

「ん?」

 

そう言いながら、セラが指差したのは……メイド喫茶だ。

そういえば、この遊園地は何故か園内にメイド喫茶があることで有名なんだよな。

俺も昔行ったことあるけど、かなりクオリティが高い。

時間的にも昼飯時だし、折角だから入ってみるか。

 

「こんにちは」

 

「いらっしゃいませご主人……様……?」

 

「あれ?トーカ!?」

 

「え!?トーカちゃん!?」

 

俺たちを出迎えたのは先日“ダンボール龍人族(ドラゴニュート)”に成りかけた隠密の女性、トーカだった。

いや、何でここに!?

 

「……なんで貴方たちがここにいるのよ……」

 

「それはこっちのセリフにゃん。何でトーカがここに?」

 

「バイトよバイト。隠密といえど、0からお金が手に入るわけないでしょ?ここに来た隠密は暇な時間見つけてバイトでお金を稼ぐことになってるのよ」

 

ああ、なるほど。

向こうの世界とこの世界では通貨の価値も違うからな。

だから生活費を稼ぐためにもアルバイトはしなくちゃいけないワケか。

 

「コラコラトーカさん。いくら知り合いといえど、まだ勤務中ですよ」

 

そう言いながら、奥から別のメイドがやってきた。

メイドさんはスカートを摘まみ、とても綺麗なお辞儀をして見せた。

 

「いらっしゃいませご主人様。

当店メイドの“青原(あおはら)雨葵(あお)”と申します。本日はよろしくお願いします」

 

そう言いながら、雨葵さんは笑顔で微笑みかけた。

黒縁のメガネを掛けており、青い髪の毛にメイド服がよく似合っているな……。

…………ん?

 

「あれ?何処かでお会いしました?」

 

「イエソンナマサカ。さあ、お席に案内しましょう」

 

なんか釈然としないな。絶対に何処かで会ったことある。

……というか、青髪のメイド?気になった俺は少し調べてみることにした…………?

 

「あ!?」

 

「ん?どうしましたか?」

 

いや、何で!?何でこの人がいるの!?

今解析鑑定したけどまず間違いない!

 

「おい、トーカ。あの人って……」

 

「私たちの転移にいつの間にか紛れて付いてきたのよ。ソウエイ様がいない今、どう対応すればいいのかわからなくて……」

 

隠密であるこいつらに気付かれずに紛れるとは……。まあ、この人も主の影に隠れてはいるけど十分化け物だしな。

気になるのは何故地球(ここ)にいるのかだが……。まあ、答えは多分サボりだろうな……。おそらく主や同僚に見つかる危険性が0に近いであろう場所を模索し、結果的にこの場所に行き着いたのだろう。

見ると、トーカもかなり疲れたような表情を見せている。苦労してるんだろうな……。

……後々問題になっても面倒だし、後で門に放り投げとくか。

普通ならば、躊躇うかもしれないが、俺はこの人の事をよく知ってる。今さら遠慮なんかするつもりもないしな。

ミッテルトも同じ思いなのか、……雨葵さんに近づき、こっそり耳打ちをする。

 

「……後であの人に怒られる覚悟はしたほうがいいっすよ?」

 

「フッ、お土産を持ってけばきっと許してくれるでしょう」

 

どうだか……。俺はこの“青い悪魔”の楽観的な思考を冷めた眼で見つめるのだった。

 

 

 

 

*********************

 

セラside

 

 

 

 

「美味しいですか?セラちゃん?」

 

「うん!とっても美味しいの!」

 

私はアーシアお姉ちゃんに貰ったサンドイッチを食べながら返事をする。

この家に来てとってもよかった。私はそう思う。

お兄ちゃんたち曰く、私は機械でできた存在らしい。

テレビや図書館なんかで調べた情報を統合すると、もしも、この人以外の人たちに拾われていたら、どうなっていたかわからないの。

 

「あ、ちょっとじっとしてくださいね」

 

「?」

 

「顔に汚れが付いてるにゃん」

 

そう言いながら、アーシアお姉ちゃんと黒歌お姉ちゃんは私の汚れを拭いてくれた。

二人だけじゃない。ここにいる人たちは皆優しい。

私がお手伝いをすると褒めてくれるし、悪いことをするとしかってくれる。

 

(なんか、昔、こういうお兄ちゃんやお姉ちゃんがほしいと思ったことがある気がするの……)

 

最近、少しだけ思い出したことがある。私には、二人かな?お兄ちゃんがいたと思うの。

……でも、その人たちは私に対して冷たい印象を持ってるの。いつも喧嘩ばかりで、私が何をしても無反応。

だから私は別の人に……あれ?何をしたんだっけ?確か……

 

「大丈夫っすか?セラちゃん?」

 

「え?」

 

「顔色悪いぞ。具合が悪いのか?」

 

「な、なんでもないの……」

 

なんだろう。罪悪感が私の心を覆ってるの。

本当に私なんかがこんな幸せでいいのだろうかって気持ちが頭からはなれないの。

 

(昔の私は……どんな存在だったんだろう?)

 

私は一体、なんなのだろう?私は何で記憶をなくしてるのだろう?

ふと、髪の毛に違和感を感じた。

私は髪の毛にくっついてる何かをパッと払った。それを見て思わず絶句してしまった……。

 

「ひぃ!?」

 

「大丈夫か!?……って、兜虫?」

 

お兄ちゃんは私の髪から跳ね返った黒い虫を見て呟いた。

 

「もう夏っすからね……いや、それにしても珍しいか」

 

お兄ちゃんは私を庇うように抱えながら、珍しそうにそれを見る。多分、私の蟲嫌いを思っての事だと思うの。

私は何故か知らないけど、蟲が怖い。

さっきのお化け屋敷やジェットコースターでも感じなかった、恐怖が心を支配する。

ふと、私は兜虫を見つめる。すると、眼と複眼が合った気がした。

瞬間、私の鼓動が早くなるのを感じた!

 

「お、おい、大丈夫か!?セラ!?」

 

「せ、セラちゃん!?」

 

「しっかりするにゃん!」

 

皆の声が耳をすり抜ける!

鼓動が早いの!ワケも分からず涙が流れてくるの!すごく、怖いの!

 

 

『貴様ヲ喰えバ、我はまた一歩、創造神に近ヅくダロう。安心しテ眠るガヨイ』

 

 

誰かの声が聞こえた気がした。

その声を聞いたとき、我慢してた恐怖が一気に解き放たれた。

 

「いや、いやああああああ!!」

 

悲鳴と共に、私の意識は途絶えた。

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

「……ん?」

 

「あ、起きたっすか?」

 

「ミッテルトお姉ちゃん?私……」

 

「セラちゃん、兜虫を見て気絶したんすよ。覚えてないんすか?」

 

「……ごめんなさい。折角の遊園地なのに」

 

あたりを見渡すと、もうすっかり暗くなってるの……。

とても申し訳ないの。皆で楽しく過ごすつもりだったのに、こんなことになるなんて……。

それを聞くと、皆が笑った。

 

「大丈夫ですよ。セラちゃんは優しいですね」

 

「……そんなことないの」

 

「?セラちゃん?」

 

思い出せない。思い出せないけど、昔の私はとてもひどい人だったように思えるの。

そんな私がこんなことしてていいのかな?

すると、お兄ちゃんが私の頭をワシャワシャと撫でてきたの。

 

「な、なにするの?」

 

「人の好意は素直にとっとけって。昔のセラがどうあれ、今のセラはアーシアの言うとおり、優しい子なんだからさ」

 

お兄ちゃんの言葉がしみいる。なんだか少しだけ涙が出てきた。

でも、さっきの涙とは違うの。怖いから出る涙じゃない。

 

「あ、パレード始まったっすよ!」

 

ミッテルトお姉ちゃんの言葉に私は目を向ける。

 

「わあ」

 

そこにはすごくキラキラしたものがあった。

今まで乗ってきたアトラクションのキャラたちが、音楽の合わせて踊り出し、煌びやかな装飾が綺麗な車の上で手を振っている。

今まで見たこともないような、楽しそうな雰囲気なの。

 

「また、見てみたいの……」

 

「ああ。そうだな」

 

「今度は虫のいない冬がいいっすね。その時は、部長たちも誘いましょう」

 

「ハイ。とても楽しみです」

 

「もうすぐ花火もやるみたいだし、それ見たら帰ろうか」

 

私たちはそのあともパレードを楽しんだ。

 

 

 

 

*********************

 

???side

 

 

 

 

「以上がミカエル殿からの報告です。オーディンさま」

 

ここは北欧神話の領域。オーディンの居城である。

ミカエルより伝えられた聖書勢力の実情が書かれた書類をみながら北欧神話の主神・オーディンは嘆息していた。

 

「若造どもが、神の見まねとは大胆なことをする」

 

「聖書に記されし神が崩御されてたとは予想外でしたが……」

 

「若造ミカエルにルシファーの偽者、悪戯小僧アザゼル。まったく、小童どものお遊戯会じゃな……」

 

「では、その小童どもに、本当の神々を知らしめますか?」

 

北欧の神の一柱であるフレイ神の好戦的な言葉を聞きながら、オーディンは呆れながら溜め息をつける。

 

「そんなことせんよ。今さら世界を巻き込んだ戦争なぞ、この年老いた身には堪える。若造のひたむきさには好感も感じるし、招待に応じ、レーティングゲームを観戦することにしよう」

 

「御意」

 

そう言いながら、フレイ神はこの場をあとにする。

オーディンは一人になったことを確認すると、懐かしそうに虚空を見つめる。

 

「予想はしとったが、やはり死んでたか……。三大勢力の戦争で死ぬとは考えづらいが、まあお前のことだ。おおかた強大な何かと戦いでもしたか……」

 

そう呟きながら、オーディンは手にした杯を天に掲げる。

オーディンが思い返すのは遠い過去の記憶。

ゼウスやシヴァ、帝釈天などを中心とした、各神話の主神とともにとある存在に仕えていた時代のことだ。

彼の存在が世界を去り、己たちが世界を管理することになってからというもの、かつての同僚とも幾度となく争いを繰り広げてきた。

それでもオーディンは聖書の神を友だと今でも思っていたのだ。

 

「あの方の死が妹様より伝えられて以降、嘆き悲しんだのも事実だが、妹様も言ってたよう、神がいなくとも世界は回る。これも、摂理なのかもしれんのぅ……」

 

思えばあの方の死をもっとも嘆いていたのも聖書の神だったな……。

そんなことを考えながら、オーディンはかつての友の死を悼んだのだった。




自分で作ったキャラだというのに、セラちゃん難しいな(笑)
セラちゃんは見た目は子どもですが、スペックが高いので幼児らしくない言葉回しもします。でも、基本的にはやっぱり子供。

ストックが尽きたので、次回はまた一、二か月後とかになります。(就活あるのでもっとかかるかも・・・)
まあ、失踪はしないので気長に待っててもらえると幸いです。


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第五章 冥界合宿のヘルキャット
猫の和解と夏休みの始まりです


イッセーside

 

 

 

俺は今、小猫ちゃんと一緒にとある喫茶店に向かっていた。

チラッと小猫ちゃんのほうを見ると、少し震えているのが見て取れた。

 

「小猫ちゃん、大丈夫か?」

 

「はい。問題ありません」

 

そう言いながらもやはり緊張してる様子だ。まあ、無理もない。

そうこうしている間に俺たちは目的の店にたどり着いた。かなり繁盛してるようだな。

俺たちは目的の人物を見つけるや否や、彼女の座っている席に移動をした。

 

「来たね。白音」

 

「はい。姉さま」

 

そう。今日は小猫ちゃんとの約束の日。

黒歌と話す、姉妹にとって何よりも重要な日だった。

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

 

現在、黒歌と小猫ちゃんが向かい合って座っていた。

今までは三大勢力の会談など、いろいろごちゃごちゃしていたため後回しとなっていたが、とうとう黒歌から話を聞く時が来たのだ。

この場は黒歌によって、“空間断裂”が施されてるため、周りに聞かれることはない。詳しい話を誰にも聞かれずに行うことができるわけだ。

小猫ちゃんも緊張してるのだろう。隣に座る俺の手をぎゅっと握っている。俺は彼女を安心させるため、その手を優しく握り返した。

 

「姉さま。私は覚悟を決めてきました。お願いです。あの日、姉さまに何があったのか、教えてください」

 

「……うん。話すよ。全部」

 

そういいながら、黒歌は飲んでいた抹茶ラテをテーブルに置き、一息ついてから、黒歌ぽつりと話し始めた。

 

「私は母親が死んでから、白音を連れて、いろいろな場所を放浪した。当時は力もなく、食べるものすら困るような状況だったにゃん」

 

「はい。覚えています」

 

俺は初耳だったけど、よほど切羽詰まっていたんだな。黒歌も小猫ちゃんも早くに親を亡くし、頼れる人もおらず、自分たちだけで生きていくしかなかった。

俺はその表情から、二人がどれだけつらい思いをしたのか何となく察した。

 

「そんな時にゃん。ナベリウス家の上級悪魔の眷属になったのは。なんでも、早くに死んだ父親がそこの関係者だったみたいで、私には断る選択肢がなかったにゃん。……でも、最初は私も喜んだ。上級悪魔の庇護下には入ればひもじい思いもしなくて済む。これで白音にも美味しいものを食べさせられるって……」

 

そこで黒歌は言葉を区切る。その目には、強い怒りが浮かんでいる。

 

「でも、私の元バカ主ね。猫魈の……私達の力に興味を持ちすぎたのよ。眷属になった私だけならともかく、白音にまでその力を使わせようとしたの」

 

黒歌の言葉に、小猫ちゃんは目を見開く。どうやらこのことは小猫ちゃんも知らなかったようだ。

 

「眷属じゃないのにか?」

 

「そ。あいつは眷属の能力を上げるために無理矢理なことをしまくってたわ。眷属ならまだしも、その身内にまで無茶な強化を強要するのは当たり前。当時の白音じゃ、命令されるまま力を使用して暴走しちゃってたかもしれないの」

 

「……それで、主を殺して逃亡したのか」

 

黒歌が指名手配のはぐれ悪魔になったのは主を殺したから。しかし、その理由は小猫ちゃんを守っるためのものだったわけだ。

本当に不器用なんだから。でも、そこがコイツのいいところでもあるんだよな。

 

「うん。でも、その現場を白音に見られちゃってね。私を怖がるその目を見て、私も怖くなっちゃって、私は白音を置いて逃げた。あとは、イッセーの知っての通りにゃん」

 

なるほど。それでルミナスさんに拾われて今に至るってわけか。

こいつも波乱万丈の人生を送ってきたんだな。

 

「白音、本当に、本当にごめんね。私がもっとしっかりしていれば、白音に辛い思いをさせてしまうなんてことなかったにゃ……」

 

黒歌は小猫ちゃんに向かって頭を下げた。それからしばらく、沈黙の時間が続く。

 

「……姉さま、顔をあげてください」

 

黒歌に頭を上げるよう、小猫ちゃんは促す。

 

「……姉さま。私は黒歌姉さまのことを嫌っていました。姉様は仙術の力に飲まれて暴走して、勝手に置いていったのだとずっと思っていました」

 

「白音……」

 

「あれから私はずっとつらい目にあいました。何度姉さまを憎んだかわかりません」

 

その言葉を聞いた黒歌は思わず目を背ける。だが、小猫ちゃんは言葉をつづけた。

 

「でも、今は後悔しています。なんであの時、姉さまを信じなかったのかと……」

 

黒歌は小猫ちゃんの言葉に目を見開き、顔を上げる。

小猫ちゃんの顔を見た黒歌は驚愕する。小猫ちゃんの瞳には、一筋の涙が浮かんでいたのだ。

 

「……謝るのはこちらのほうです。私、今までずっと姉さまを憎むだけで、何故あんなことをしたのかなんて、考えもしてませんでした」

 

小猫ちゃんは涙をぬぐうと改めて黒歌と顔を合わせた。

 

「……正直、まだ少し混乱してます。でも、イッセー先輩も姉様を信じているようですので、私は姉様のことを信じたいと思います」

 

その言葉に今度は黒歌のほうが涙を流した。

 

「ありがとう……白音」

 

こうして、猫姉妹は無事和解したのだった。

その姿はとても仲がよさそうに見える。多分、これが本来の二人の在り方なんだろうな。俺はそう思いながら、頼んだお茶を啜るのだった。

 

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

 

そんな猫姉妹の和解から数日が経ち、俺たちは夏休みに突入していた。

そんな夏休みの記念すべき初日の朝。俺は起床して早々困惑していた。

なぜなら、今俺の両隣にアーシアと部長が寝息を立てながらすやすやと寝ていたからだ。

……ミッテルトに見つかったら殺されるな。そう思いながらも、俺はもぞもぞとうごめくタオルケットに注視していた。

タオルケットの中で動く何かは、俺に独特の弾力と極上の柔らかさを与えてきた。いや、何かが何なのかは理解してるんだけどさ、いくら何でも突拍子もなさすぎるんだよ。

メチャクチャうれしいしんだけど、どちらかというと困惑のほうが勝ってる感じ?

タオルケットの中で動く何かは徐々に胸のところまで上がって来て……

 

「とーちゃく♪」

 

俺にぴったりと抱き着きながら、顔を出してきた。

 

「い、いや、なにやってるんですか朱乃さん!?」

 

「うふふ。ちょっとした悪戯ですわ。迷惑でしたか?」

 

ちょっと瞳をウルウルさせながら朱乃さんは俺につぶやく。

迷惑なんてとんでもない。むしろ最高です!朱乃さんの黒髪からメチャクチャいい匂いがして俺の花を刺激してくる!

ちゅっ。

!?不意打ちに朱乃さんは俺の首元にキスをしてきた!あまりの衝撃に眠気が吹っ飛び、脳みそがはじけ飛びそうになったんですけど!

 

「イッセー君の体って、やっぱりたくましいわ。それに男性の肌って思っていたより気持ちが良いのね。イッセー君だからかしら? イッセー君、私の体はどうかしら?」

 

「は、はい!最高です!」

 

というか、それ以外に言葉が出てこない!絡みついてくるスベスベな脚!柔らかすぎて癖になりそうなおっぱい!そのすべてが最高です!

 

「うふふ、うれしい。私の体、もっと楽しんでくれても良いのですよ?私もイッセー君の体、もっと深く知りたいわ。隣に人がいるけど、気づかれないようにこっそりするのもいいのかしらね」

 

ブッ!思わず鼻血が出てきた。

朱乃さんのSの面が前面に出てきてる!朱乃さん、エロ過ぎる!

この人、エロ魔人とまで謳われている俺よりもエロいんじゃないのかと時折思えてくるよ!

朱乃さんが少しだけ身を起こして俺に覆い被さると、まっすぐ俺を見下ろしてきた。そして、そのまま俺の顔に朱乃さんの顔がどんどん近づいていく。こ、これって……

 

「このまま時間が止まってしまえばいいのに……なんて、ロマンチックなのもいいけれど、やっぱり……」

 

俺の唇と朱乃さんの唇が重なりそうになる。ど、どうしよう!ミッテルトに見られたらなんて言い訳すれば……。

 

「いや、この時点で言い訳もくそもないっしょ」

 

「朱乃。いつこの部屋に入ってきたの?」

 

声が聞こえ、恐る恐る視線を扉に向けてみる。

そこにいたのは、寝間着を着ながら呆れの視線を俺に向けるミッテルトだ。

次に俺は油が切れた人形のようにゆっくりと隣に視線を移す。そこには怒りのオーラを纏った部長がいた。

こ、怖い!リアスお姉さま、怖いっす!

ミッテルトも何かいってくれよ!無言……というか、ただただ呆れただけって感じの視線が一番つらいんだよ!

そんな部長とミッテルトを見て、朱乃さんが部長に見せつけるように俺に抱きついてくる。

 

「スキンシップですわ。私のかわいいイッセー君と素敵な朝を始めるつもりですの」

 

朱乃さんの一言に部長の機嫌が一気に悪くなる。これにはさすがのミッテルトも眉を顰めた。

全身を震わせながら部長は言う。

 

「『私』の?あなた、いつの間にイッセーの主になったのかしら?」

 

「主でなくても先輩ですわ。後輩を可愛がるのも先輩のつとめですわ」

 

「先輩……そう、そうくるわけね。……ここは私にとって聖域なの。ミッテルトやアーシアならともかく、他の者まで入れるわけにはいかないわ!ここは私とイッセーの部屋よ」

 

「いや、いつからこの部屋部長のになったんすか?部長の部屋、別にあるっすよね?」

 

ミッテルトが困惑の表情で尋ねる。俺の部屋、いつの間に部長と兼用になったんですか!?俺も初耳だよ!

 

「あらあら。リアスお嬢様は独占欲が強いですわね。……私に取られるのが怖いのかしら?」

 

「……あなたとは話し合う必要があるようね」

 

「いや、イッセーって一応うちの彼氏っすよ?なんでうちそっちのけで話し進めてるんすか?」

 

部長のオーラが膨れ上がる。朱乃さんも雷のオーラを纏い始めた。

二人のオーラが火花となってぶつかりあい、バチバチと音をたてる。

……っていやいや、朝から何してるんですかお二方!?

原因は俺ですか!?俺にあるんですか!?

うれしい反面、シンプルに怖い!普段優しげだからこそ、ギャップがあって縮こまっちまう!

つーか、アーシア起きようよ!よくこの状況で眠れるな!起こすか!?

 

「うにゅぅ。むにゃむにゃ……もう朝ですかぁ?」

 

「いや、何でもないよ。アーシアはまだ眠ってていいからな」

 

駄目だ可愛い!可愛すぎて起こせねぇ!まじで癒しだぜ!

ぼふっ! ぼふっ! 

音がする方へ振り向けば、二人のお姉さまが枕投げて合戦が始まっている!

いや、本当に朝から何してるんですか!?見ると二人とも少し涙目だし。

 

「だいたい、朱乃は私の大事なものに触れようとするから嫌なのよ!」

 

「いや、だから、イッセーはどちらかというとうちのなんすよ?」

 

「ちょっとぐらい良いじゃない!リアスは本当にケチだわ!」

 

「聞いてるっすか?お二方?」

 

「この家だって、改築したばかりなのに、朱乃の好き勝手にはさせないんだから!」

 

「サーゼクス様だって仲良く暮らしなさいとおっしゃってたじゃない!」

 

「お兄様も朱乃も私の邪魔ばかりするんだもの!もういや!」

 

「サーゼクス様のご意向を無視する気なの!?魔王様よりイッセー君なのね!私にもイッセー君を貸しなさいよ!」

 

「いや、だから何度も言ってるっすけど、イッセーはうちの……」

 

「絶対に嫌よ!」

 

「・・・・・・・・」

 

ミッテルトも呆れたのか、何も言わずに枕投げ合戦を眺めている。二人ともいつものお姉さま口調が無くなって、年頃の女の子みたいなケンカになってますよ!?

うーん。

こうしてみると、二人とも普段はお姉さまとして高貴な雰囲気を出してるけど、素は年頃の女の子なんだな。高貴な二人もいいけれど、普通の女の子って感じの二人も可愛くていいな。

 

「……ん?」

 

ちょっと待て。俺は部長達の口ゲンカの内容を思い出し、一つの疑問を感じた。

家を改築したばかり……?

そういえば、ベッドがやたらと大きい……。ベッドの上で普通に枕投げが行われてるくらいだしな。

今、俺を含めて5人がいるけど、まだまだ余裕がある。上を見上げると……天蓋まで着いてる!?

あれれ?部屋もかなり広くなってるぞ!?

以前の何倍だこれ!?テレビも最新の薄型に変わってるし、ゲーム機も最新のものに!?

 

「お、おい……これって?」

 

「あれ?イッセー気付いてなかったんすか?」

 

ミッテルトの言葉に俺は急いで部屋を出た!そして絶句してしまった!

家の中が昨日とは別物だ!廊下も倍くらいの幅になってる!

ここどこ!?

階段を駆け下りながら、俺は昨日のことを思い出す。

えーと、昨日は小猫ちゃんや朱乃さんといったオカ研女子部員が正式に引っ越してきたんだ。

それで、やっぱり家が狭いから改築するとか言ってたのを覚えている。

……まさか、俺が寝てる間に?

え?この俺が気づけなかったなんてことある?

玄関を飛び出て、外から家の全容を見た。

 

「こ、これは……!」

 

俺の家は倍以上敷地に加えて、六階建てになっていた。

 

「なんじゃこりゃぁああああああああっ!?」

 

匠もびっくりのリフォームぶりに俺は驚きを隠せず、絶叫してしまった。

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

「いやー、悪魔の力って凄いんだな。寝てる間にリフォームされるとは」

 

「本当ね。私も気づかなくてびっくりしちゃった」

 

朝食の席。以前の五倍は広くなった食卓で、父さんが満面の笑みを浮かべながらそう言う。

食卓の席には俺、俺の両親、ミッテルト、黒歌、セラ、部長、アーシア、朱乃さん、ゼノヴィア、小猫ちゃん、と新しい家族たちが全員集合していた。

俺も父さんに同意するよ。悪魔の力って凄いんだな……。

 

「というか、マジで気付いてなかったんすか?」

 

「お恥ずかしながら……」

 

どうもミッテルトは気付いてたみたいだな。

俺がぐっすり寝てる間に悪魔の業者が来たのを察知して、ミッテルトは出迎えと監視をしていたのだそうだ。

それなのに全く気付かずに寝てるとか……俺ってかなり疲れてるのかもしれない。そう言えば、最近イベントが目白押しだったからなあ……。

 

「というか、ただのゲームのやりすぎっすよね。それもエ……」

 

「そう言えば!お隣さんたちは?家がなくなってたけど?」

 

「露骨に話題反らしたっすね。まあ、いいっすけど……。お隣さんたちは引っ越したみたいっすよ。部長たちが好条件の土地を用意したみたいっす」

 

「平和的解決だったわ。みんな、幸せになれたのよ」

 

まあ、部長がそう言うのならそうなんだろう。それにしても、俺が寝てる間にここまで進んでいたとは、グレモリー家恐るべし!

一息つくと、部長は改めて父さんに頭を下げる。

 

「お父様、お母様。改築の受け入れだけでなく、部員の皆を受け入れて下さり、本当にありがとうございます」

 

その言葉に父さんも母さんもうれしそうに笑う。

 

「いいのよ、リアスちゃん。私達も家庭が賑やかになって嬉しいもの。部員の皆さんも私達のことを本当の家族だと思って接してくださいね?」

 

母さんの言葉に部員全員が頷いた。

本当におおらかというか、器のでかい人たちだよな。なんだか少し誇らしい感じがするな。

食事が終わると母さんはどこからともなく何かの図面を持ってくる。それは部屋の割り振りらしきものだった。

 

「一階は客間とリビング、キッチン、和室。二階はイッセーにミッテルトちゃん、リアスちゃんとアーシアちゃんの部屋よ。ミッテルトちゃんの希望で二人は相部屋。お隣同士で部屋内の行き来もできるのよ」

 

母さんの言葉に俺は思わずミッテルトのほうへと視線を向ける。

すると、ミッテルトは少し照れ臭そうにそっぽを向いた。

 

「き、聞いてないわよミッテルト。貴女、だからさっき何処か余裕ぶってたのね?」

 

「いや、そういうわけじゃないんすけど……これくらいいいじゃないすか。うちはイッセーの彼女なんだし……」

 

赤くなりながらそう言うミッテルトに思わず萌えてしまった!

こういういじらしいところがマジで可愛いんだよなコイツ!

 

「三階は私と父さんの部屋。後、書斎に物置ね」

 

「クローゼットとか、前の家の家具はそこにおいてあるっすよ」

 

「やけにクローゼットにこだわるわね。そんなに気に入ってるの?」

 

よかった!部長は怪訝そうな顔してるけど、あれがないと今後がマジでやばいからな!

神祖は当然として、“始原”級の龍であるオーフィスが率いているという禍の団だって、十分脅威に思える存在だ。

孤立無援の中、神祖や禍の団と俺たちだけで戦えとか、流石にムリゲー過ぎるにもほどがあるからな。

その後も部屋割りの説明が続いた。

朱乃さん、ゼノヴィア、小猫ちゃんが四階。黒歌とセラ相部屋で五階。これは万が一、セラが暴走した時のことを考慮してのことだ。

 

「大丈夫?黒歌お姉ちゃん?白音お姉ちゃんと一緒のほうが……」

 

「大丈夫にゃん。どっちみち同じ家だし、セラだって私にとっても大事な存在なんだから」

 

そういいながら、黒歌はセラの頭をなでる。

基本的に二人はずっと家にいることが多いし、一緒にゲームをやる姿なんかもよく見かける。多分、黒歌にとっても妹分みたいな存在になってるのかもな。

それを見て少しだけむくれている小猫ちゃんが何ともかわいい。

 

「屋上には空中庭園もあるんだって。父さんも野菜作ってみようかな?」

 

「地下一階は広いスペースのお部屋。トレーニングルームとしても活用できる、映画鑑賞会もできます。地下二階は丸々室内プールです地下三階は書庫と倉庫よ」

 

マジで豪邸だな。なんやかんやで魔国幹部勢よりも豪華かもしれない。まあ、あの人たちは物欲がないから、必要最低限なものしか置いてなかったからな……。

こうして、俺の夏休み一日目はわが家の豪邸化から始まったのだった。

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

「冥界に帰る?」

 

朝食を終えて部屋でまったりしていた俺に部長はうなずいた。

ちなみに今までの数倍にまで大きくなった俺の部屋には木場やギャスパーも来ているので、オカ研のメンバー全員が集まっている状況だ。

同居メンバーは皆ラフな格好をしており、木場、ギャスパーも私服姿だ。まあ、ギャスパーはいつも通り、女装に紙袋というちょっとアレな姿だけど。

 

「ええ、そうなの。毎年、夏には冥界に帰っているのよ」

 

なるほど。帰省か。

部長がいないとなると、オカルト研究部の活動も休止だろうな。

今年の夏休みはどうしようか。今のところ何の予定も入ってないんだよな……。

あ、そういえば……。

 

「なあ、ミッテルト。松田と元浜に海に誘われてるんだけどさ、お前も一緒に行く?」

 

「海すか。いいっすね」

 

というか、二人に念押しで連れて来いって言われてるんだよな。

 

「悪いけど、イッセーにはついてきてもらうわ。冥界に帰るときは眷属の皆にはついてきてもらうことになっているのよ。人間とはいえ、眷属候補であるイッセーにもいく権利はあるの」

 

「あれ?どれくらいの期間なんですか?」

 

「八月の二十までよ」

 

あ、マジですか……。

と、なるとあいつらと遊ぶのはかなりギリギリになるか。とりあえず、海行きの誘いは断らないといけないな……。

後でメールでも送っとくか。

もっとも、あいつらと海行くよりもオカルト研究部の美女美少女たちに囲まれながらの冥界旅行のほうが俺的には嬉しいし、まあいいか。

それに、冥界に行くのならば、ミッテルトとともに行くべきところがある。絶対に行かなければならない場所が……。

そう考えると、少しドキドキしてきたな。

ミッテルトも正確な場所を覚えてるかどうかわからないし、とりあえず聞いておくか。

 

「アザゼル先生。あとで教えてほしいところがあるんですけどいいですか?」

 

「ああ、別にいいぜ」

 

「「「えっ?」」」

 

俺の一言に全員が振り向く。

ん?何驚いてるんだ?

……ああ、気配を断ちながら入ってきたからみんな気付いていなかったのか。

 

「ど、どこから、入ってきたの?」

 

部長が目をパチクリさせながらアザゼル先生に訊く

 

「うん? 普通に玄関からだが?」

 

「……気配すら感じませんでした」

 

木場がそう言葉を漏らす。

まぁでも、アザゼル先生が気配を消したら、今の木場達じゃあ気配を捉えるのは難しいか。

 

「そりゃ修行不足だ。俺は普通に来ただけだからな」

 

ここでインターホンが鳴り響く。どうやらもう一人の来訪者が来たようだな。

 

「失礼します……もう来てたのですね。アザゼル様」

 

「遅いぞレイナーレ」

 

「……ここでは夕麻とお呼びください」

 

やってきたのはレイナーレ改め夕麻ちゃんだった。

彼女は現在、アザゼルさんの補佐役として駒王学園に通っている。

中級堕天使の彼女がなぜそんな大役を任されてるかというと、アザゼルさん曰く、贖罪としてこの街に来たいという願いを補佐役という役割を与えることでかなえてやったらしい。

動機もそうだが、操られていたころに比べてかなり固い。本当はまじめな性格なんだろうな。

 

「何かお飲み物をお持ちしましょうか?」

 

「いやさ、ちょっと固すぎない?使用人じゃないんだし、もう少し柔軟になったほうがいいぜ。操られてたのは仕方ないんだしさ……」

 

「ですが……私にはこれくらいしか償いが……」

 

「俺もアーシアも気にしてないって言っただろう。俺はお前に、もう少し素を出してほしいんだよ」

 

「うちもっすよ。というか、謝るといえばうちも同じなんすから。あの時、あんなこと言ってマジでごめんっす」

 

どうやらミッテルトは初対面に暴言はいたことを気にしてるようだ。それを察したのか、夕麻ちゃんはクスリと笑った。

 

「わかったわ。改めてよろしくね」

 

「うん。やっぱりそのほうがいいよ」

 

「……話は終わったようだな。じゃあ、本題に入ろう。冥界に帰るんだってな。なら俺も行くぜ。なにせ、俺はお前らの“先生”だからな」

 

アザゼル先生はそう言うと、懐から手帳を取り出してパラパラとページを捲っていく。

 

「冥界でのスケジュールは……リアスの里帰りと、現当主に眷属悪魔の紹介。例の若手悪魔達の会合、それとあっちでお前らの修業だ。俺は主に修業に付き合う訳だがな。お前らがグレモリー家にいる間、俺はサーゼクス達と会合か。ったく、面倒くさいもんだ」

 

そう言いながら嘆息する先生を見るに、本気で面倒くさそうだな。

まあ、お堅い会議とかって疲れるし、無理もないか。

 

「ではアザゼル……先生はあちらまで同行するのね?行きの予約をこちらでしておいていいのかしら?」

 

「ああ、よろしく頼む。悪魔のルートで冥界入りするのは初めてだ。楽しみだぜ。いつもは堕天使側のルートだからな」

 

冥界かー。使い魔の森に入ったことあるけど、町とかに入ったことないんだよな。

悪魔の領土と堕天使の領土で別れてると聞くけど、今は和解して交流も始まっている。

特に堕天使領には前々から行かないといけないと考えてたし、それも踏まえて楽しみだな。

そう考えながら、俺は元浜と松田にメールを打つのだった。




お待たせしました。
ぼちぼち再開したいと思います。

あと、実は当作品に関しましてちょっとしたアイデア募集をしています。
詳しくは活動報告に詳細がありますので、よろしければ是非アイデアお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


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冥界旅行です

イッセーside

 

 

 

 

旅立ちの日。

最初に向かったのは、俺の家から歩いて十五分くらいのところにある最寄りの駅だった。

ちなみに服装は駒王学園の夏服。冥界入りするならこの服装が一番の正装らしい。

制服が?という疑問も持ったが、まあ、部長が言うのならそうなのだろう。

それにしても、なんで駅なんだ?

そんな疑問を抱きながら部長に着いていくと、駅のエレベーターに着いた。

 

「じゃあ、まずはイッセーとミッテルト、アーシアとゼノヴィアが乗ってちょうだい。私と先に降りるわ」

 

「降りる?」

 

部長の言葉を怪訝に思う俺。

なぜなら、この駅は上の階にしか行けないはずだからだ。いや、隠し通路……魔法陣の類なんかもありうるか。

苦笑をしながら部長が手招きしてくる。まぁ、ここは部長の言うことに従おう。

 

「朱乃、後のメンバーについては任せたわよ」

 

「了解ですわ」

 

と、そこでエレベーターの扉が閉まる。

すると、部長がスカートのポケットからカードらしきものを取り出すと電子パネルに当てた。

ピッと電子音がなる。すると……。

 

ガクン。

 

エレベーターが下がり始めた。マジで下があったのか……。

まだこっちに来て日の浅いゼノヴィアは首を少し傾げているだけだが、アーシアは驚いた様子を見せている。

 

「こんなのあったんすね。数年この町で暮らしてたけど、全然知らんかったっす」

 

「それはそうよ。悪魔専用のルートだもん」

 

部長曰く、この街にはこんな悪魔専用の道がいくつか隠れているらしい。悪魔業界は思った以上に人間世界に溶け込んでいるんだな……。

こういうの、探してみるのも面白いかもしれない。

そうこうしてるうちにエレベーターが停止して扉が開いた。

外にあったのはだだっ広い人工的な空間だった。地下の大空洞に作られた駅といったところか。

なんかあれだ。ハリー〇ッターの駅みたいな感じだ。

しばらく待っていると、朱乃さんや木場たちもエレベーターから降りてきた。これで全員集合か。

 

「全員が揃ったところで、三番ホームまで行くわよ」

 

俺たちは部長の案内に従いホームまで歩きだした。

しかし、面白い駅だな。天井は通常の駅の何倍もあるし、空間を照らす明かりは電気じゃないな。

あれだな。魔国の街道に使われてるのみたいな魔法道具を使ってるっぽいな。

そうこうしてるうちに、俺たちは列車の目の前にまでやってきた。

独特のフォルムだな。地球の列車というよりは基軸世界の“魔導列車”に近い見た目をしてる。

なかなかどうしてかっこいい列車でな。

 

「これってグレモリー所有のものですか?」

 

「ええ。これはわが家所有の列車よ」

 

やっぱりそうか。文様が見覚えあるもん。しかし、列車を個人所有か……。

魔王を輩出した上級貴族なだけのことはあるな。

 

 

リィィィィィィン。

 

 

 

汽笛が鳴らされ、列車は動き出す。

部長は列車の一番前の車両に座っていて、眷属である俺たちは中央の車両にいる。そのあたりは色々と仕来たりがあるらしい。

走り出して数分。列車は暗がりの道を進む。燃料は魔力ではなく、冥界の特殊燃料らしい。

 

「どのくらいで着くんですか?」

 

俺が朱乃さんに聞く。

 

「だいたい一時間ほどで着きますわ。この列車は次元の壁を正式な方法で通過して、冥界に到着するようになってますから」

 

「へぇ。てっきり魔法陣で行くのかと思ってました」

 

「通常はそれでもいいのですけど、新眷属の悪魔は正式なルートで一度入国しないと違法入国として罰せられるのです。眷属候補もそれは同じ。だから、一度正式な入国手続きを済ませないといけませんわ」

 

ふーん。まあ、入国管理はマジで徹底してやんないとだめだからな。魔国でもあの事件以来、来訪者のチェックは欠かさないようにしてるし、仕方ないか……。

 

「あれ?黒歌は?」

 

「黒歌姉さまは堕天使のルートで後から合流するとのことです。あの人は今も、はぐれ認定が解けてませんから……」

 

ちなみにセラもそのルートから行くらしい。曰く、眷属候補でもない存在を連れて行くのには検査やら調査やらでさらに面倒くさい手続きがあるらしく、それを避けるため、堕天使ルートから行ったほうが都合よしということになったらしい。

まあ、セラは黒歌になついているし、問題はないだろう。そこで俺はもう一つの疑問に頭をかしげた。

 

「あれ?じゃあ、ミッテルトは?」

 

「ああ。うちは表向きはアザゼルさんの付き添いという立ち位置で乗ってるんすよ。そうすりゃあ、面倒くさい手続きもスルー出来るっぽいし……」

 

なるほど。こっちは堕天使ならではの手ということだな。これも今だけらしく、向こうに着いたら任を解除して自由行動になるのだと。

 

「あとは、まあ、イッセーと列車の旅とかもたまにはいいと思ったし……」

 

そう言いながら、ミッテルトはそっぽを向く。

ホントいじらしいなコイツ。こういうところが可愛いんだよな……。

 

「……ただ、イッセー君には一つ問題がありますの」

 

ん?問題?俺なんかしたっけ?

そんなこと考えていると、朱乃さんは何やらSの嗜虐的な笑みを浮かべながら、楽しそうに告げた。

 

「イッセー君の場合、もしかしたら、主への性的接触で罰せられるかもしれませんわね」

 

「「なぬ!?」」

 

え!?マジすか!?

それが本当ならアウトじゃないのか!?

俺、部長の体を何回も触ってるぞ!おっぱいや太ももを何回も触ったし、プールではオイルも塗りこんだ!

メッチャクチャ柔らかくて気持ちよかったな……って、そうじゃなくて!?

おいおい、マジかよ!向こうに着いた瞬間に逮捕とか、勘弁してくれ!

俺が焦っていると、俺の膝に朱乃さんが乗った。

ちょ、朱乃さん!?

 

「主に手を出すのはあれですけど、眷属同士のスキンシップなら問題はありませんわ。こんな風に……」

 

朱乃さんが俺の手を取り、自分の太ももに誘導していくぅぅぅっ!朱乃さんの太ももの感触が!

おみ足の柔らかさがマジで最高!手を通じて脳にまで響いてくるような感覚だ!

更に朱乃さんは俺の手を握り……スカートの中へと誘導していく!

そ、そこは禁断の領域!ゴクリと思わずつばを飲み込んでしまう!このままいくと、俺の手が朱乃さんのスカートの中に!

俺の手がスカートの中に入りそうな瞬間!

 

「あだ!?」

 

「なにやってんすか!?」

 

目の前にいたミッテルトのデコピンが俺を襲った。

デコピンといっても、指にかなりの魔力が圧縮されてるため、かなり痛い!

しかも見ると、ミッテルトの後ろの座席に座っていたアーシアが涙目でこちらを見ているし……。

 

「呆れた。朱乃さん何考えてるんすか?こんな至近距離で堂々とイッセーを誘惑して……。イッセーも流されない!」

 

「イッセーさんが変態さんになってしまいます……」

 

「あらあら。男性は変態なぐらいな方が健康ですわよ?」

 

あれ?今の話すると俺は変態確定ですか?

 

「当たり前っしょ」

 

「最低です」

 

ミッテルトが白けた目でそう告げる。う、視線が痛い!ごめんて。

 

「よく言ったわアーシア、ミッテルト。大体、主と下僕のスキンシップは自然なことよ」

 

!?この声は!?

視線を向けると紅のオーラを全身から放つ部長が仁王立ちしていた。

あれ!?何でここに!?一番前の車両にいるはずでは!?

 

「主から奪うっていうのも燃えますわね」

 

そう言いながら、朱乃さんは俺の中指を口にいれる。温かくてぬるっとしてて、しかも舌先で指をからめとられて吸引されてる!

やばい!マジで気持ちいい!

 

「朱乃さん?いい加減にしないとうちも本気で怒るっすよ?そもそもイッセーは部長の物じゃなくて、うちのものなんすけど?」

 

うわあ……。ミッテルトもかなり怒ってる。

ミッテルトと朱乃さん、部長の視線が交錯し、火花が舞い散る。

そこで何者かが三人の間に割ってはいってきた。

 

「リアス姫。下僕とのコミュニケーションもよろしいですが、例の手続きはよろしいですかな?」

 

車掌さんかな?どうやら部長の知り合いらしく、部長もバツが悪そうな顔をしてる。

 

「ご、ゴメンなさい……」

 

「ホッホッホッ。あの小さかった姫が男女の話とは。長生きはするものですな」

 

男性は笑いながら帽子を取ると俺達に頭を下げてくる。

 

「はじめまして。姫の新たな眷属の皆さん。私はこのグレモリー専用列車の車掌をしているレイナルドと申します。以後、お見知りおきを」

 

「部長……リアス・グレモリー様の眷属候補の兵藤一誠です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「アーシア・アルジェントです!僧侶です!よろしくお願いします!」

 

「騎士のゼノヴィアです。今後もどうぞよろしく」

 

「堕天使のミッテルトと申します。本日はよろしくお願いします」

 

この場にいる全員が挨拶した。

朱乃さんもいつの間にか元の席に戻っていて、少々名残惜しそうだった。

朱乃さんのエロ攻撃は凄まじいな。聖人である俺でも動けなくなるしな。しかも、時折見せる乙女な一面がギャップ萌えしてすごくいい!

そんなこと考えていると、レイナルドさんは何やら特殊な機器を取りだし、モニターらしきものでアーシア達を捉える。

 

「あ、あの……それは……?」

 

困惑するアーシアとゼノヴィア。部長と朱乃さんはこれが何か知っている様子だな。

 

「これはあなた方、新人悪魔を確認するための機械です。この列車は正式に冥界に入国するための重要かつ厳重な移動手段です。もし偽りがあれば大変ですので、駒のデータと照合し、確認するのです」

 

あー、なるほどな。駒は一つ一つ違うっていうし、体内の駒を照合すればそのまま本人確認になるってことか。

俺とミッテルトの場合、どうするんだろう?

 

「お二人方はこちらの機械で照合をさせていただきます。こちらは堕天使や魔法使いなどが使者として訪れる際に使われる代物ですよ」

 

そういいながら、レイナルドさんは機械を掲げ、本人確認を行う。彼の持つ機械はアーシア達を捉えると「ピコーン」という軽快な音を鳴らした。

どうやらOKだったらしい。

アーシアとゼノヴィアのチェックが終わり、俺とミッテルトの確認も無事終了した。あと残っているアザゼル先生に視線を向けると……。

 

「……よくもまぁ、この間まで敵対していた種族の移動列車の中で眠れるものね」

 

部長が呆れながらも笑っていた。

 

「ホッホッホッ。堕天使の総督殿は平和ですな」

 

「申し訳ございません」

 

レイナルドさんも愉快そうに笑っていた。レイナーレは少し恥ずかしそうだ。

レイナルドさんは寝ている隙にアザゼル先生の照合を終わらすと、にっこりとほほ笑んだ。

 

「これで皆さんの入国手続きも済みました。到着予定の駅までゆるりとお休みください」

 

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

列車が発車してから四十分ほどが過ぎた頃。俺たちはトランプしながら時間をつぶしていた。

 

『まもなく次元の壁を突破し、グレモリー領に到着します。グレモリー領に到着します』

 

するとレイナルドさんのアナウンスが車内に流れた。もう着いたのか。

 

「外を見てごらんなさい。あ、もう窓を開けてもいいわよ」

 

部長の言葉に俺たちは窓を開ける。すると、暗がりの景色から一転。紫色の空に広大な山が広がってきた。

空気も人間界とは違って魔のオーラから成る魔素が濃いからか、ぬるりとした独特の感触だ。気温は寒くもなく、暑くもない。

あ、町だ。家もある。あれが悪魔の家か。やっぱり文化によって変わるもんなんだな。聞いた話によると、グレモリーの領土は本州と同じぐらいあるらしいし、ココもおそらくグレモリー領なのだろう。

 

「懐かしいっすね……」

 

「ミッテルトの故郷もこんな感じだったの?」

 

「ハイ……といっても、もはやかなり朧げっすけどね」

 

ミッテルトの目からはかすかな望郷の念が感じられた。そうか。場所は違うけど、ココは紛れもないミッテルトの故郷なのか。

そう考えると、なんだか感慨深いものを感じるな。

 

『まもなくグレモリー本邸前。まもなくグレモリー本邸前。皆様、ご乗車ありがとうございました』

 

「さぁ、もうすぐ着くわよ。皆、降りる準備をしておきなさい」

 

十分ほどたったころ、アナウンスとともに、部長に促され、俺達は降りる準備をしだす。

しだいに列車の速度は緩やかになり、駅に停止した。

そして、部長先導のもと、俺達は開いたドアから降車していく。けど、アザゼル先生だけは乗ったままだった。

 

「あれ?先生は降りないんですか?」

 

「ああ。俺はこのまま、魔王領に向かう予定だ。サーゼクス達と会談があるからな。いわゆる『お呼ばれ』だ。終わったらグレモリーの本邸に行くから、先に行って挨拶を済ませてこい」

 

流石は堕天使総督。アザゼル先生も何だかんだで忙しいんだな。

レイナーレも付き人としてアザゼル先生と一緒に行くようだ。

 

「じゃあ、また後で」

 

「アザゼル、お兄様によろしく言っておいて」

 

俺と部長が手を振ると先生も手を振って応えてくれた。

改めて先生とレイナーレを抜かしたメンバーで駅のホームに降りた瞬間────

 

『お帰りなさいませ、リアスお嬢様!』

 

怒号のような声!

それと同時にあちこちで花火が上がり、並んだ兵隊達が空に銃を放ってる!空には騎獣にまたがった兵士が旗を振ってる!極めつけには、楽隊らしき人達が一斉に音楽を奏で始める!

木場たちは慣れてるのかなんともないが、アーシアやゼノヴィアは目をぱちくりしている。ギャスパーはギャスパーで、ビビッて俺の背中に隠れてるし……。

なんかすげえな!向こうの城でもここまでの出迎えしてもらったことねえぞ!?

 

「ありがとう、みんな。ただいま。帰ってきたわ」

 

部長が満面の笑みでそう言うと執事やメイドさんたちも笑みを浮かべる。そこに一人のメイドさんが一歩出てきた。

銀髪のメイドさん、グレイフィアさんだ。

 

「お帰りなさいませ、リアスお嬢さま。道中、無事で何よりです。さあ、眷属の皆様も馬車をご用意したのでお乗りください。グレモリー家の本邸までこれで移動します」

 

グレイフィアさんに誘導され、馬車のもとへ。

あ、これは普通に馬なんだな。でも、力はかなりありそうだな。冥界の原生生物か?

 

「私はイッセー、ミッテルト、アーシア、ゼノヴィアと乗るわ。この四人は不馴れでしょうから」

 

「わかりました。何台か用意しましたので、ご自由にお乗りください」

 

俺達が乗り込むと馬車は動き出した。馬車の旅ってやっぱりいいよな。パカラパカラと蹄の音が心地いい。

流れる景色を見ていると、俺の視界に巨大な建造物が映った。もしかしてあれかな?

 

「部長、あのお城は?」

 

「あれが本邸よ。今から向かう場所よ」

 

やっぱり。あれが部長の実家か。

綺麗な建物だな。周りにはお花畑や見事な造形の噴水がある。色彩様々な鳥が飛びまわり、なかなか和やかだ。

 

「着いたようね」

 

部長がそう呟くと馬車の扉が開かれる。

部長が先に降りてその後に俺達も続く。木場達が乗った馬車も到着して、全員が揃った。

道の両脇にはびっしりとメイドと執事が整列していて、足元にはレッドカーペットが城のほうまで敷かれていてる。

そしてでかい城門が音を立てながら開けてきた。

 

 

「皆様、どうぞ、お入りください」

 

グレイフィアさんに促され、俺達がカーペットの上を歩き、屋敷に入った時だった。

小さな人影が現れ、部長のほうへと駆け込んでいく。

 

「リアスお姉さま!おかえりなさい!」

 

紅髪のかわいらしい少年が部長に抱きついていた。

 

「ミリキャス!ただいま。大きくなったわね」

 

部長もその少年を抱き締めていた。

姉弟か?とも一瞬思ったが、感じられるオーラは部長と同時にグレイフィアさんのものとも酷似してるように思える。

 

「部長、その子は?」

 

俺が聞くと、部長はその少年を紹介してくれた。

 

「この子はミリキャス・グレモリー。お兄さま、サーゼクス・ルシファー様の子供なの。私の甥ということになるわね」

 

へぇ、サーゼクスさんの息子さんか!

 

「ほら、ミリキャス。あいさつをして」

 

「はい。ミリキャス・グレモリーです。よろしくお願いします」

 

グレモリー?あ、そうか。この世界の魔王制度は襲名制度だったな。

だから、ルシファーじゃなくて、グレモリーを名乗ってるわけか。

 

「俺は兵藤一誠。リアス様の眷属候補だ。よろしくなミリキャス君」

 

「ハイ!お会いできてとても光栄です!」

 

そう言いながら、ミリキャス君は俺の手を握り、興奮したような様子を見せている。

眼を煌めかせてるし、とても嬉しそうだ。

だが、俺としては困惑を隠せないでいる。部長も少し動揺してるみたいだし、これがデフォルトというワケじゃなさそうだ。

そんなミリキャス君の様子を怪訝そうにしていると、グレイフィアさんが説明してくれた。

 

「実は、ミリキャス様は貴方様のライザーとの戦いを見て以来、貴方に憧れを抱いているようなのです」

 

「え?そうなの?」

 

「ハイ!」

 

なるほど。そういうことなら悪い気はしないな。

考えてみれば、ミリキャス君も部長の親族だし、あの場を観戦しててもなにもおかしくないからな。

 

「……というか、グレイフィアさんのお子さんですよね?何で様付け?」

 

ミリキャス君から感じられるオーラの質から間違いはないだろうと思うけど。

グレイフィアさんは少し眼を見開くが、すぐに冷静さを取り戻す。

 

「今の私はメイドですので……」

 

なるほど。仕事人だな。

公私混同はしたくないということか。ミリキャス君はちょっと膨れてる様子から察するに、普段はこんな感じじゃないんだろうな……。

 

「では、本邸をご案内しましょう」

 

部長はミリキャス君と手を繋いで歩きだす。

俺たちもそれに付いていく。それにしても凄いな。

マジで豪邸って感じ。城のなかにも幾つか門があるし、それを進むと運動会ができそうなレベルのでかい玄関。

流石はお嬢様だ。ぶっちゃけルミナスさんとかレオンさんとか、魔王の居城と比べても遜色はないだろう。

 

「あら、リアス。帰ってきてたのね」

 

ん?上から何やら女性の声が聞こえてきた。

階段から降りてきたのはドレスを着た美少女。おっぱいもでかいし、凄く綺麗だ。

髪の色が亜麻色で、部長と瓜二つ。オーラの質も似てるけど、赤い髪がグレモリーの証って話だし、多分、母親かな?

 

「お母様。ただいま帰りましたわ」

 

「おかえりなさい。久しぶりねリアス」

 

部長のお母さんはリアスと挨拶すると、俺の方を振り向く。

おっぱいがプルンと揺れてとてもエロい!部長のおっぱいはお母さん譲りなんだな!正直目茶苦茶見てしまう!

 

「私のお母様に熱い視線を送ってもなにもでないわよ?」

 

「イッセー。相手は人妻っすよ?自重するっす」

 

いや、仕方ないだろ!ぶっちゃけ年齢と美しさは比例しない!

俺はそれを基軸世界で思い知ってる!原初の方々なんか、下手したら数億歳以上なのにあの美しさ、可愛さだしな!

いいものはいい!人妻だろうがドキドキするものはドキドキしてしまうんだよ!

部長のお母さんはそんな俺たちのやり取りを可笑しそうに笑うと、俺の方へ近づいてきた。

 

「あなたが兵藤一誠君ね?」

 

「あ、はい。俺のことをご存じなんですか?」

 

俺の問いにお母さんは頷く。

 

「ええ、ライザーとのレーティングゲームを拝見しましたから」

 

そう言いながら、部長のお母さんは改めて俺たちと向かい合う。

 

「はじめまして。リアスの新しい眷属の皆さん。リアスの母のヴェネラナ・グレモリーです」

 

部長のお母さん、ヴェネラナさんは自己紹介をしてくれた。

冥界旅行はまだまだ始まったばかりである。



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若手悪魔の会合です

イッセーside

 

 

 

 

「さあ、遠慮なく楽しんでくれたまえ!」

 

夕食の席。俺たちの目の前には絶対に食いきれないであろく豪華な食事が立ち並ぶ。

どれもこれも美味しいんだけど、やっぱり量が多すぎるだろ!?

それだけじゃない。テーブルに椅子、シャンデリアまでもどれもこれもが一級品だ。

案内された部屋も馬鹿みたいにでかかったしな。

魔国の幹部勢の家よりも大きいだろう。

……というか、あの人たちは物欲がないから基本的に必需品以外あまりないし、あまり比較にならんか。

何しろ一部屋だけで、向こうの俺の持ち家と同じくらいあるんだもん。

何しろ広すぎて落ち着かないという理由で、アーシアとゼノヴィアが俺達の部屋に引っ越してきたぐらいだもん。

そんなアーシアとゼノヴィアは食事にかなり苦戦してる様子。

俺は向こうだと会食の機会もわりとあったからテーブルマナーはバッチリだが、特にゼノヴィアは戦いに明け暮れてた影響からかアーシア以上に苦戦してるように見える。

 

「うむ。リアスの眷属諸君、ここを我が家だと思ってくれると良い。もちろん、ミッテルトさんもだ。冥界に来たばかりで勝手が分からないだろう。欲しいものがあったら、遠慮なく言ってくれたまえ」

 

朗らかに言うジオティクスさん。これ以上欲しいものなんてないかな。

いや、待てよ……頼んだらメイドのお姉さんもくれるのかな!?

……なんてな。それは流石にダメだ。彼女持ちとして一番やってはいけないことだしな。

 

「ところで兵藤一誠君」

 

ジオティクスさんが俺に顔を向ける。

 

「あ、はい」

 

「ご両親はお変わりないかな?」

 

「いやー、二人とも元気ですよ。冥界に行くって言ったら、二人とも行きたがっていましたからね。残念ながら仕事の都合で来ることは出来ませんでしたけど……。その代わり、お土産を期待するなんて言ってましたね。リフォームしてもらったうえそれって少し図々しい気もしますけど……」

 

笑いながら冗談交じりで言うと、何やらジオティクスさんは考え込んでしまった。

しばらくして手元の鈴を鳴らすとすぐに執事のおじいさんがやってきた。

 

「旦那さま。御用でしょうか?」

 

「うむ。兵藤一誠君のご両親宛てに城を用意しろ」

 

ぶっ!?びっくりした!城!?雰囲気からして冗談じゃねえぞこれ!?

 

「ちょっと待ってくださいよ!さすがに城はいいですよ!普通にココの特産品とかでも……」

 

「そんなものでいいのかい?」

 

「はい!そもそも、城をもらっても置き場所ありませんし、父さん母さんもそっちのほうが喜ぶかと!」

 

なるほどと納得したのかジオティクスさんは深くうなずいた。

流石に城なんてもらったらニュースになりかねん!この人、かなり天然……というか、人間の常識に疎いのかもしれないな。

これは慎重に言葉を選ばなくては……。

 

「兵藤一誠くん」

 

「はい?」

 

ジオティクスさんはまじめな表情になって、俺のほうを見つめる。

 

「君は、今もリアスの眷属になるつもりはあるかい?」

 

誤魔化しは許さないといった雰囲気だな。じゃあ、俺も真摯に答えるか。

 

「はい。正直に言いますと、まだまだ部長が俺を眷属にするだけの力がないので今は眷属候補という形です。でも、仮にずっとそのような形であったとしても、俺は部長を支えていくつもりです」

 

「……君の力はすでに魔王をも上回るほどに強大だ。正直な話、私はリアスが君を正式な眷属悪魔にするほどの力を得る前に、君自身が寿命で死ぬ可能性もあると思ってる。そうなったとしても、支えてくれるかい?」

 

「もちろんです。部長は俺の大切な仲間で、友達ですから」

 

これは嘘偽りない本音だ。

まあ、“聖人”ならば寿命で死ぬこともないしな。

その言葉を聞いて、ジオティクスさんは笑みを浮かべた。

 

「君の気持ちはよくわかった。これからも、娘をよろしく頼む」

 

「はい」

 

正直な話、俺はさっきジオティクスさんが言ってたように、部長の強さが俺を上回るほどの力を得るにはかなり時間がかかると思う。

でも、聖人となり、寿命のない俺ならば十分待てる年月だろう。

 

「ところで一誠君。今日から私のこと、お義父さんと呼んでも構わないよ」

 

「へ?」

 

急に雰囲気変わったな!しかもお父さん?どういうことだ?

 

「あなた。性急ですわ。物事には順序があります。一誠さんはしばらく冥界に滞在するのでしょう?」

 

「はい。ただ、どうしても行きたい場所があるので一度だけ堕天使領へ行く予定です」

 

「……なるほど。あなたの正室はそこの堕天使のお嬢ちゃんでしたわね。いえ、リアスが頑張ればこれから変わることも十分あり得るのかしら?

 

「「正室?」」

 

「失礼。なんでもありませんわ。しかし、いい機会です。幸い、貴方はマナーはばっちりの様ですし、それ以外の……この世界の情勢などについても勉強してもらいます」

 

え?俺は別に構わないけど、なんで俺だけ?

すると、バンとテーブルをたたく音がした。見ると部長が立ち上がっている。

 

「お父様!お母さま!先ほどから黙って聞いてれば、私を置いて話を進めるとはどういうことですか!?」

 

「お黙りなさい。貴女は一度、ライザーとの婚約を解消してるのよ?それを私たちが許し、なおかつ()()()()()()()()()という貴女のお願いをも許しました。これは普通ならばあり得ないほどの破格の待遇なのだということが、わからないわけではないでしょう?」

 

迎え入れたい?なんのこっちゃ?見るとミッテルトは何かを察した様子で頭を抱えてる。

はて?何の話なんだ?

 

「三大勢力の和平により、貴女の立場は他勢力の下々にも知られたでしょう。もはや、勝手な振る舞いはできない立ち位置にたってるのです。二度目のわがままはありません。甘えた考えも大概にしなさい」

 

納得はできてないようだが、理屈は分かってるのだろう。

悔しそうにしながらも、ヴェネラナさんの言葉に部長は椅子に腰を下ろした。

 

「お見苦しいところをお見せしてしまいました。話を戻しますが、一誠さんはここで少しお勉強をしてもらいます。上級悪魔、貴族の世界に触れて貰わないと行けませんからね」

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

「つまり、上級悪魔にとって社交界とは──―」

 

次の日。俺は朝から悪魔社会、貴族が何たるかについて勉強させられていた。

部長のご両親が用意してくれた俺専用の教育係主導のもと、学んでいるんだが……何で俺だけ?

まぁ、冥界について知らないことだらけだし、いい機会なんだけどね。

前々からそういうのも学ばないとと思ってたわけだし、教え方も上手いから結構ためになる。

教育係の人も人間だからと差別せず、俺の質問に快く答えてくれるし。

隣の席にはミリキャス君もいて、一緒に勉強している。小さいのに真面目に授業を受けてるな。勤勉だね。

俺の受け持ってたクラスの奴らとは大違いだ。あいつら言えばちゃんと勉強するけど、基本的には課外授業や迷宮攻略のほうがやる気だしてたしな。

ちなみに他のメンバーはグレモリー領の観光に行ってる。

くそ!俺だって行きたかったよ!

 

「若様、悪魔の文字はご存じでしょうか?」

 

「まぁ、少しなら。リアス様が教えてくれたので」

 

「なるほど。では、現状を確認しながら学んでいきましょう」

 

こんな風に丁寧に教えてくれるのはありがたい。けど、一つ気になることがある。思いきって聞いてみるか。

 

「……あの、その前に一つ質問が」

 

「なんでしょう?」

 

「その『若様』ってのはいったい・・・・・?」

 

昨夜からグレモリーのメイドさんや執事さん、それにこの教育係の人まで俺のことを『若様』って呼ぶんだ。

一体どういうことなんだ?

 

「……さあ、さっそく書き取りの練習をしてみましょう」

 

あ、はぐらかされた。気になるな。

そもそも教育を受けるのが俺だけというのもかなり謎だ。

木場たちはともかく、悪魔社会の勉強なら同じ新人悪魔のアーシアとゼノヴィアも受ける必要があるんじゃないのか……?

ダメだ!わからん!

 

ガチャ。

 

ドアが開き、入ってきたのはヴェネラナさんだった。やっぱ綺麗だな。

 

「おばあさま!」

 

あー、そっか。ミリキャス君にとってはヴェネラナさんは祖母に当たるのか。

外見的には姉弟に見えるから少し困惑するけど……。

エルメシアさんとシルビアさんもだけど、長命種ってこういうところが面白いよな。

 

「二人ともお勉強ははかどっているかしら?」

 

やさしい笑みを浮かべながらそう聞いてくる。

そして、ノートに書かれた俺の拙い悪魔文字を見、微笑んだ。

 

「サーゼクス達の報告通りね。何事も一生懸命だわ。確かに文字は上手とは言えませんが、懸命に覚えようとする姿勢が見てとれます」

 

そう言うと、ヴェネラナさんはメイドさんを招き、お茶を入れてくれた。

 

「もうすぐリアス様が帰ってきます。今日は若手悪魔の交流会の日ですから」

 

そういえば、今日だったな。

部長と同世代の若手悪魔が一堂に会するらしい。

皆正式なレーティングゲームデビュー前の悪魔たち。

名門、旧家といった由緒ある貴族の跡取りがお偉いさんのもとに集まって挨拶をすると聞いている。

グレモリーの部長やシトリーの会長だけでなく、眷属の俺達も参加しなければならないのだそうだ。

冥界に来てから色々忙しいな……。でも、堕天使領に行く時間は確保できたし、スケジュール通りなんだから問題はないか。

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

部長達が観光ツアーから帰ってきてから直ぐに俺達は列車で魔王領へと移動した。

何度か転移魔方陣を通過し、列車に揺られること三時間。

到着したのは近代的な都市部だった。

自販機もあるし、人間界のものとは多少デザインが違うけど、建物も最先端の様相を見せていた。

グレモリー領を見ると、中世的なイメージが強かったけど、こういう場所もあるんだな。

 

「ここは魔王領の都市ルシファード。旧魔王ルシファー様がおられたと言われる冥界の旧首都なんだ」

 

と、木場が説明してくれる。

旧魔王ルシファーってことはヴァーリの家族がここにいたってことか……。どんな人だったんだろうな……。

 

「このまま地下鉄に乗り換えるよ。表から行くと騒ぎになるからね」

 

木場がそう言う。へぇ、地下鉄もあるのか。何て言うか、人間界と変わらないんだな。

まあ、人間と悪魔は密接な関係にあるというし、お互いに向こうの文化を取り入れた結果なのかもしれないな。

 

「きゃ────!!リアス姫様ぁぁぁぁ!!!」

 

突然の黄色い歓声が聞こえてきた。

歓声が聞こえた方を見るとホームにはたくさんの悪魔の人達。

全員が俺達……いや、部長を憧れの眼差しで見ている。

なんかアイドルがファンに浴びせられる声援みたいだな。

やっぱりお姫様だけあって部長は人気者なんだな。

 

「リアスは魔王の妹。しかも美しいものですから、下級、中級悪魔から憧れの的なのです」

 

朱乃さんが説明してくれた。

人間界でもお嬢様として人気だったし、やっぱり、部長はどこでも人気者なんだな。

 

「ヒィィィィ。悪魔がいっぱい……」

 

ギャスパーは俺の背に隠れてる。引きこもりには厳しいかな?

 

「困ったわね。急いで地下に行きましょう。専用の電車も用意してあるのよね?」

 

「はい、ついて来てください」

 

部長は付き添いの黒服男性に訪ねる。

この人達はどうやら俺達のボディーガードらしい。

流石お姫様。見たところ、それなりの実力はあるみたいだな……。

一人一人がB+ランクはあるな……。

こうして、俺達はボディーガードさんの後に続いて、地下鉄の列車へと移動した。

 

「リアスさまぁぁぁ!!」

 

本当に人気だな。部長は苦笑しながらもファンの皆に手を振っていた。

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

地下鉄に乗り換えてからさらに揺れること数分後。俺達は都市で一番大きい建物の地下にあるホールに到着した。

ボディーガードの人達はエレベーター前までしか随行できないらしく、ここで別れることになった。

 

「うちもここまでっすね。うちは候補でも何でもない一堕天使っすから」

 

「え!?マジで!?」

 

「後のパーティーとかには参加できるし、取りあえずは町の観光でもしてるっすよ」

 

それでもわりと残念だな。まあ、後で会えるし別にいいか。

 

「皆、何が起こっても平常心を保ってちょうだい。これから会うのは将来の私達のライバルよ。無様な姿は見せられないわ」

 

部長はいつも以上に気合いが入ってるな。声音も臨戦態勢の時のそれだ。

隣を見るとアーシアが生唾を飲んで落ち着こうとしていた。

緊張しているのかな?

 

「リラックスっすよ!アーシアちゃん」

 

「はい!ありがとうございます」

 

「こんなのお祭りみたいなもんなんすから、気楽にしたほうがいいっすよ」

 

ミッテルトの言葉で少しは緊張が和らいだかな?

そんなことを考えながら、俺たちはミッテルトと別れつつエレベーターに乗り込む。

暫くすると、エレベーターが停まり、扉が開く。

外に出ると、そこは広いホールだった。

エレベーターの前には使用人らしき人がいて、俺達に会釈してきた。

 

「ようこそ、グレモリー様。こちらへどうぞ」

 

使用人の後に続く俺達。すると、通路の先の一角に複数の人影が見える。

 

「サイラオーグ!」

 

部長がその内の一人に声をかけた。あちらも部長を確認すると近づいてくる。

俺達と歳もそう変わらないか。黒髪の短髪で野性的なイケメンだ。瞳は紫色。

だが、何より眼を引くのは鍛え上げられた肉体だ。その体はプロレスラーのような良い体格をしている。

しかも、この人の魔力は今まで見てきたこの世界の強者と比べると低い。大体小猫ちゃんと同じくらいかな?

それにもかかわらず、この人のEPは30万を超えている。

ここで注視すべき点はEPは魔力、身体能力の統合値であると言う点だ。つまり、ほぼ身体能力だけでこれだけの数値を記録しているってことか。

凄いな!

 

「久しぶりだな、リアス」

 

男性は部長とにこやかに握手を交わす。

 

「ええ、懐かしいわ。変わりないようで何よりよ。初めての者もいるわね。彼はサイラオーグ・バアル。私の母方の従兄弟よ」

 

へぇ、従兄弟なのか。

そういえば、何処となくサーゼクスさんに似ているような気がしなくもない。

 

「サイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主だ」

 

バアルってことは魔王の次に偉い『大王』だ。

ということはヴェネラナさんはバアル家の出身だったのか。

グレモリーは大王と魔王。なかなか凄い家系なんだな。

すると、サイラオーグさんの視線が俺に移ったので自己紹介をする。

 

「はじめまして。リアス様の眷属候補の兵藤一誠です」

 

「なるほど、貴殿が歴代最強の赤龍帝か。話には聞いている。よろしく頼むよ」

 

「ええ、こちらこそ」

 

俺とサイラオーグさんはガッチリと握手をした。それだけでどれだけ鍛え上げられてるのかがわかる。

恐らく身体能力だけならばヴァーリをも上回ってるな。部長と同世代にこんな人がいるとは少し驚いたね。

すると、部長がサイラオーグさんに尋ねた。

 

「それで、貴方ははこんな通路で何をしていたの?」

 

「ああ、くだらんから出てきただけだ」

 

「……くだらない? 他のメンバーも来ているの?」

 

「アガレスとアスタロトもすでに来ている。あげく、ゼファードルだ。着いて早々やり合い初めてな」

 

なるほど。なんとなく理解した。部屋から感じられる気配を察するに……。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

通路の奥から巨大な破砕音が聞こえてきた。

やっぱり若手同士の喧嘩が勃発したってことか。

サイラオーグさんは嘆息しながら破眷属とともに砕音が聞こえた部屋に入り、俺達もそれに続く。

部屋の中は破壊し尽くされており、テーブルも椅子も全てが原型を留めてない。

部屋の中央には会場をそうしたと思われる人物が二人。

それに二人の後ろにはそれぞれの陣営に別れた悪魔達が強いオーラを発しながらにらみ合いをしていた。

一方はいかにもな雰囲気の邪悪そうな魔物と悪魔の集団。もう一方は部長や会長に近い、普通そうな悪魔たちだ。

武器も取り出していて、一触即発の様相だ。

 

「ゼファードル、こんなところで戦いを始めても仕方なくては?死ぬの?死にたいの?殺しても上に咎められないかしら?」

 

片方は眼鏡美女の悪魔。肌の露出が少ないのが残念だ。

 

「ハッ!言ってろよ、クソアマッ!俺がせっかくそっちの個室で女にしてやろうって言うのによ!アガレスのお姉さんはガードが堅くて嫌だね!そんなんだから未だに処女やってんだろう!?だからこそ俺が開通式をしてやろうって言ってんのによ!」

 

顔に魔術的なタトゥーを入れたヤンキーみたいな男性が言い争っている。

悪魔でヤンキーってのはヴェノムを思い出す。まあ、あいつは同じヤンキーでもあんなこと言わないか……。

うん。比べるのも失礼だな。ヴェノムが可哀想になる。

取りあえず、悪いのはアッチってことは理解したわ。

 

「…………」

 

だが、俺はぶっちゃけアッチのほうが気になるな。

部屋の端には優雅にお茶をしている少年悪魔とその後ろには眷属悪魔がいる。

一見優しそうな雰囲気だけど……なんだろう?嫌な感じがする。

しかも、さっきから値踏みでもするような粘着く視線でアーシアを見てるし……。不気味なやつだな。

ああいうタイプは何か企んでる。何かまではわからないけど警戒はしといたほうがよさそうだ。

 

「ここは時間が来るまで待機する場。もっというなら、若手悪魔が軽く挨拶をする場だったんだが、血気盛んな連中を一緒にしたとたんこの様だ。それをよしとする旧家や上級の古き悪魔たちはどうしようもない」

 

サイラオーグさんが俺の隣に立ち、説明してくれた。

こんなのが日常的に起きたらガチで死者が出るぞ?古い悪魔とやらは何を考えているんだろう?

さすがに“七曜の老師”みたいな自分本位の人たちではないと思うけど、長命種だと思考ががちがちに固まるから言い切れないんだよな。

まあ、とりあえずはあの二人のケンカは止めることが先決だな。

ここは俺がいくか。

俺が仲裁に入ろうとすると、それを察したのかサイラオーグさんに肩を掴まれた。

 

「ここは俺がいこう」

 

首をコキコキ鳴らしながら、サイラオーグさんは喧嘩する二チームに歩み寄る。そこから発せられる覇気は尋常じゃない。

 

「アガレス家の姫シーグヴァイラ、グラシャラボラス家の凶児ゼファードル。これ以上やるなら、俺が相手をする。これは最後通告だ。次の言動次第で俺は拳を放つ」

 

その一言に、プライドを傷つけられたのか、ヤンキー悪魔は怒りの声を出す。

 

「しゃしゃりでるな!バアル家の無能が!」

 

そう言いながらヤンキーはサイラオーグさんに攻撃しようとする。

 

ドゴンッ!

 

激しい打撃音と共にヤンキーは広間の壁に叩きつけられた。

まぁ、当然の結果か……。あのヤンキー、せいぜいがギリAランクってとこだし……。

というか、彼我の差すら把握できないようじゃ話にならない。あのヤンキー、本当にサイラオーグさんの強さに気付かなかったのか?だとしたら、相当あほだぞ。

 

「言ったはずだ。最後通告だと」

 

「おのれ!」

 

「バアル家め!」

 

迫力のあるサイラオーグさんの言葉にヤンキーの眷属悪魔が飛び出しそうになる。

 

「これから大事な行事が始まるんだ。まずは主を回復させろ」

 

『────ッ!』

 

その一言にヤンキーの眷属たちは動きを止めて、倒れる主の元へと駆け寄っていった。

次にサイラオーグさんはメガネ美女のほうに視線を送る。

 

「まだ時間はある。化粧し直してこい」

 

「わ、わかっています」

 

メガネの姉ちゃんもサイラオーグさんの覇気にあてられたのか、慌てて踵を返し、この場を後にした。

 

「あれが、若手悪魔のナンバー1“サイラオーグ・バアル”よ」

 

ぶっちゃけ驚いた。今まで若手だと、何となく部長が一番なのかな程度に思っていたが、こんな悪魔がいたのか。

あれはゼギオンさんなんかと同じ、己の肉体を極限まで鍛えたタイプ。技量(レベル)もヴァ―リと同等かそれ以上と見た。とんでもない人と同世代なんだな。

 

「あ、兵藤……って、何だこりゃ!?」

 

「あ、匙に会長」

 

「ごきげんよう、リアス、兵藤君」

 

匙とソーナ会長たちも到着したっぽいな。

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

 

現在、ヤンキーを抜いた若手悪魔が修復された広間で顔合わせをしている。わずか数分で戻るあたり、悪魔の技術もなかなかすごいよな。

 

「私はシーグヴァイラ・アガレス。大公アガレス家の次期当主です。先程はお見苦しいところをお見せして申し訳ありません」

 

先程のメガネのお姉さん、シーグヴァイラさんがあいさつをくれた。

アガレス家となると、大公の家系だったな。この人が大公の次期当主なのか。

俺は大公と聞くとモスが真っ先に思い浮かぶけど、この世界の大公は魔王の代わりに俺達に命を下すのが仕事らしい。

 

「ごきげんよう。私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主です」

 

「私はソーナ・シトリー。シトリー家の次期当主です」

 

「俺はサイラオーグ・バアル。大王、バアル家の次期当主だ」

 

主達があいさつをし、席に着く。俺達、眷属悪魔は主の後ろで待機している感じだ。どこも同じ。

 

「僕はディオドラ・アスタロト。アスタロト家の次期当主です。皆さん、よろしく」

 

アスタロト。確か、現魔王の一人を輩出した名家。でもなんだろう?少し胡散臭い感じがする。

さっきの粘着く視線も気になるし、警戒しといたほうがよさそうだ。

ちなみにさっきのヤンキーは現魔王の一人を輩出したグラシャラボラス家の次期当主らしい。

あんなのが次期当主で良いのか?言っちゃあ悪いが、あれ程わかりやすい覇気を感じ取れない時点でダメだと思うんだけど……。

 

「グラシャラボラス家は先日、お家騒動があってな。次期当主とされていた者が不慮の事故で亡くなったそうだ。先程のゼファードルは新たな次期当主候補となる」

 

サイラオーグさんが説明してくれた。

マジか。グラシャラボラス家は今、大変なことになっているんだな。

それでもあんなのを次期当主候補に選ぶほどなのか?あの家は真面目な方が多いと聞いたことがあるし、他にもよさげな候補がいると思うんだが……。

まあ、考えても仕方がないか。

それにしても、すごい面子が揃ったな。

グレモリーがルシファー、シトリーがレヴィアタン、アスタロトがベルゼブブ、グラシャラボラスがアスモデウス、そして大王と大公。

なるほど。悪魔の将来を背負うにふさわしい家柄がそろってると言えよう。

 

「兵藤。おまえ、緊張してないのか?」

 

匙が聞いてきた。

 

「いや、全く。そういうお前は緊張しすぎじゃね?」

 

「そ、そんなわけねえだろ」

 

見た感じは平静を装ってるが、よくよく見ると少し震えてる。これは相当緊張してるな。

まあ、仕方ない。なにせ、目の前にいるのは王族貴族ばかりだ。こういう場にある程度慣れてなければ緊張するだろう。

 

「さすがは先輩自慢の赤龍帝だな。……俺も会長の自慢になってみたいさ」

 

ん?どうした匙の奴?ここで扉が開かれ、使用人が入ってきた。

 

「皆様、大変長らくお待ちいただきました。皆様がお待ちです」

 

どうやら行事の準備が整ったようだ。

ついに、行事は始まりだな。俺は先を歩く部長に続き、扉をくぐるのだった。




日刊ランキング42位にランクインしました!
正直ランキング入りなんて縁がないと思ってたので目茶苦茶嬉しいです!
ありがとうございます!


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ソーナ会長の夢です

イッセーside

 

 

 

 

 

俺たちが案内されたところは異様な雰囲気の会場だった。

俺たちが立っている場所よりもさらに高いところに席がいくつも並んでおり、そこには上級悪魔と思われる初老の男性が座っており、その上にもさらに偉そうな老人が座っている。

もう一つ上の段にある一番上の席にはサーゼクスさん、セラフォルーさんがいる。セラフォルーさんは今日は魔王少女姿じゃないようだな。

そして、目を引くのはその隣に座る二人の魔王。特に、サーゼクスさんの隣に座る魔王はすさまじい強さだ。

存在値にして約300万前後といったところか。サーゼクスさんと比べても甲乙つけがたい。

恐らく、あの人がサーゼクスさんに並び、超越者とされている“アジュカ・ベルゼブブ”なのだろう。

……と、なるとあのアクビしてる人がアスモデウスさんか。

そうして観察していると、お偉いさんと目が合う。すると、舌打ちをされた。

気付いてはいたけど、俺は歓迎されてないっぽいな。まあ、人間だし仕方ないか。

うん。仕方がないから他の眷属の女性を観察していよう。獣人娘に可愛い女の子もたくさんいる。後で仲良くなれないかな?

すると、部長たち若手六人が一歩前へ出る。あのヤンキーも復活してるのか。

それを見たお偉いさんの一人が威圧的な声音で話し始めた。

 

「よくぞ集まってくれた、次世代を若き悪魔たちよ。この場を設けたのは一度、この顔合わせで互いの存在の確認、更には将来を競う者の存在を認知するためだ」

 

「まぁ、早速やってくれたようだがな」

 

老人風の悪魔がそう言った後、その隣の年老いた悪魔が皮肉を言う。

まぁ、これは言われても仕方がないね。

顔合わせした直後に広間を破壊とか、流石にどうかしてるし……。

少し重たい空気がはびこる中、サーゼクスさんが口を開く。

 

「君たち六名は家柄も実力も共に申し分ない次世代の悪魔だ。だからこそ、デビュー前に互いに競い合い、力を高めてもらいたいと考えている」

 

要するに、ここにいる悪魔でレーティングゲームでもやれってことかな?アザゼル先生も合宿中にレーティングゲームをセッティングするとか言ってたし、たぶんそういうことなのだろう。

するとその時、サイラオーグさんが挙手をした。

 

「我々、若手悪魔もいずれは『禍の団(カオスブリゲード)』との戦に投入されるのでしょうか?」

 

これまた直球な質問だな。すごいことを聞くもんだ。

 

「それはまだわからない。私達としては、できるだけ君たちを戦に巻き込みたくはないと思っているしね」

 

サーゼクスさんはそう答える。

だけど、サイラオーグさんはその答えに納得できないのか顔をしかめる。

 

「なぜです?若いとはいえ、我らとて悪魔の一端を担うもの。この年になるまで先人からご厚意を受けたからこそ、冥界のため、尽力を尽くしたいと────」

 

「サイラオーグ。君のその勇気は認めよう。しかし、無謀だ。なにより、君達ほどの有望な若手を失うのは冥界にとって大きな損失となるだろう。理解してほしい。君達は君達が思う以上に我々にとって宝なのだ。だからこそ、じっくりと段階を踏んで成長してほしいと思っている」

 

不満はありそうだが、この言葉にサイラオーグさんは「分かりました」と渋々ながら一応の納得はしたようだ。

実際に戦になればどうなるかはわからない。けど、子どもを投入したくない気持ちは俺もわかる。天魔大戦でも剣也たちが密かに戦おうとしてたけど、俺からすれば戦ってほしくない気持ちが大きかったしな。

と、ここで一人の悪魔老人が俺に侮蔑の視線をぶつけながら話し出す。

 

「まあ、幸いにもかの伝説の赤龍帝が我らに与するというのだ。禍の団が攻め入っても問題はないだろう」

 

うわあ……。まじかよ……。流石にイラっと来た。

純血悪魔を失うのは痛いからしたくない。だから人間である俺を利用しようって魂胆かよ。

サーゼクスさんたちも目を見開いてかなり怒ってる様子。

 

「それは禍の団との戦いでイッセーを戦わせるという意味ですか?」

 

「いや、そうはいっておらんよ。ただ、赤き龍が貴殿に入れ込んだことが悪魔の世界において幸運であると思っただけじゃよ」

 

なんて白々しい。だが、この程度ならばまだ我慢の許容範囲内だ。

貴族連中が面倒くさいなんて、ミョルマイルさんとリグルドさん見てたらいやというほどわかってる。

俺にはユウキやテスタロッサさんみたいにこういう人たちを丸め込む話術なんてないが、我慢くらいはできる。

 

「そこまでだよ。誤解を招くような発言はやめてもらおうか」

 

サーゼクスさんが怒気をはらんだ視線で先ほどの議員をいさめる。

それを察したのか、議員も面白くなさそうに黙り込む。

 

「すまないね一誠君」

 

「全然大丈夫ですよ。気にしてませんから」

 

「そう言ってもらえるとありがたい。眷属候補である君も、冥界にとって有望な存在だからね」

 

この人は俺のことも守るべき対象として見てるのだろう。本当にいい人だな。

その後、お偉いさん達の難しい話や魔王様からの今後のゲームについての話が続いた。

正直、悪魔関連について勉強途中の俺にとってはちんぷんかんぷんな話ばかりだった。レーティングゲーム関連も本当に基礎的なことしか知らねえからな。

特にお偉いさんの話はよく分からないことばかりだ。早く終わらないかな。まあ、終わったら終わったで勉強会があるんだけど。

 

「さて、長話に付き合わせてしまって申し訳なかった。なに、それだけ若い君達に夢を見ているのだよ。君たちは冥界の宝だからね」

 

サーゼクスさんの言葉にみんな聞き入っていた。それが本心なのだと感じ取れる。

流石は部長のお兄さん。魔王なだけあって、基本は優しいんだな。

 

「最後に君たちの目標を聞かせてくれないだろうか?」

 

サーゼクスさんの問いかけに最初に答えたのはサイラオーグさん。

 

「俺は魔王になることが夢です」

 

いきなり、言い切ったな!やっぱり凄いよ、この人!こんなに堂々と言い切るなんて!

でも、この人ならばなったとしても不思議ではない。それだけの資質とカリスマを併せ持っている。

お偉いさん達も今の目標に感嘆の声を漏らしている。

 

「大王家から魔王が出るとしたら前代未聞だな」

 

お偉いさんの一人がそう言う。

 

「俺が魔王になるに相応しいと冥界の民が感じれば、そうなるでしょう」

 

また言い切ったな!凄い自信だ!それがどれ程困難な道のりかわかってるだろうに、それでも言いきるあたり、尊敬できるな!

次に部長が答える。

 

「私はグレモリーの次期当主として生き、レーティングゲームの覇者となる。それが現在の、近い未来の目標ですわ」

 

部長の悪魔としての夢。初めて耳にしたけど、部長らしい答えだ。

一筋縄ではいかないだろうけど、眷属候補として、出きる限りは支えられるように頑張りたいな。

その後もアガレス、アスタロト、グラシャラボラスと若手の人が次々と目標を口にし、最後にソーナ会長の番が回ってきた。

 

「私の目標は冥界にレーティングゲームの学校を建てることです」

 

へぇ、ソーナ会長は学校を建てたいのか。いい夢じゃないか。

と、俺は感心していたのだが、お偉いさんたちは眉をひそめていた。

 

「レーティングゲームを学ぶ学校ならば、すでにあるはずだが?」

 

「それは上級悪魔や特例の悪魔のための学校です。私が建てたいのは平民、下級悪魔、転生悪魔、全ての悪魔が平等に学ぶことのできる学校です」

 

おお!流石は会長だ!

差別のない学校。実現は難しいだろうが、もしも実現すれば、これからの冥界にとっていい場所になるだろう。

匙も誇らしげに会長の夢を聞き入っている。

しかし────

 

『ハハハハハハハハハハッ!!』

 

お偉いさん達はまるで可笑しなものを聞いたかのように笑う。

やっぱりか。まあ、予想はしてた反応だ。頭の固い老人どもめ……。

 

「それは無理だ!」

 

「傑作だ!」

 

「なるほど!夢見る乙女と言うわけですな!」

 

「若いというのは実に良い! しかし、シトリー家の次期当主よ、ここがデビュー前の顔合わせの場で良かったというものだ」

 

匙は訳のわからなそうに狼狽えている。まあ、気持ちはわかる。

 

「ど、どういうことだよ……?」

 

「匙君。いまの冥界が変革の時であっても、上級や下級といった差別は存在する。それが当たり前だと思っている者も多いんだ」

 

狼狽える匙に対し、こちら側にいた木場が答える。

流石にないかなとも期待してたが、やはりこの人たちは“七曜の老師”と同じなんだ。

自分の地位を守ることに固執し、保身に走ってる。

故に、会長の夢は許容できないということだ。

 

「私は本気です」

 

会長が正面からそう言う。セラフォルーさんも誇らしげに頷いている。

だが、お偉いさんは冷徹な言葉を口にする。

 

「ソーナ・シトリー殿。そのような施設を作っては伝統と誇りを重んじる旧家の顔を潰すことになりますぞ?

いくら悪魔の世界が変革期に入っているとは言え、変えていいものと悪いものがある。たかだか下級悪魔に教えるなどと……」

 

その一言に黙っていられなくなったのは匙は叫び出す。

 

「なんで……なんで会長の……ソーナ様の夢をバカにするんですか!?こんなのおかしいっすよ!叶えられないなんて決まった訳じゃないじゃないですか!」

 

「口を慎め、転生悪魔の若者よ。ソーナ・シトリー殿、躾がなっておりませんぞ」

 

夢を語れといったのはそっちだろう。オカシイのはあんたらの方だ。

 

「……申し訳ございません。後で言い聞かせます」

 

会長は表情を一切変えずに言うが、匙は納得出来ていない。

 

「会長!どうしてですか!?この人達は会長の、俺たちの夢をバカにしたんすよ!どうして黙ってるんですか!?」

 

「サジ、お黙りなさい。この場はそういう態度をとる場ではないのです」

 

匙のその叫びを聞いてお偉いさんはフンと鼻を鳴らす。

 

「全く、主も主なら下僕も下僕か……。聞けば、ソーナ殿は一度敵対勢力に洗脳されてたというじゃないか?本当に似た者主従ですな」

 

その言葉を聞いてもソーナ会長は黙っている。だが、内心穏やかではないだろう。

俺は見た。唇を僅かに、だが悔しそうに噛み締めている会長を。

これが悪魔の上層部。なるほど、とことん腐ってる連中だな……。

 

「匙。ここは抑えろよ」

 

「兵藤……でも!!」

 

「あの人たちは怖がりの臆病者なんだよ。そんな連中の言うことなんか、真に受けないほうがいいぜ」

 

その言葉にシンとあたりが静まる。

悪魔の上層部の老人たちは、俺を気に入らなさそうに睨んでいる。

 

「我らが臆病者だと?どういうことだ?」

 

「違うんですか?だって、会長の夢を否定してるのって、ようするに平民が知恵や力を持つのが怖いからでしょう?自分達の権威が奪われるのではないかを懸念してるからこそ、芽が出ないうちに摘んでおこうって魂胆。何か違いますか?」

 

“七曜の老師”も同じだ。あの人たちはルミナスさんがお気に入りを作ることをよしとせず、アダルマンさんたちを殺し、ヒナタさんをも暗殺しようとした。

この人たちに己の地位を奪われることを恐れて……。

この人たちの場合、そもそもそんな機会すら与えたくないのだ。

だから、平民が学べる学校を否定する。これが怖がりでなくてなんだというのか……。

 

「人間ごときが……立場をわきまえろ!我らに逆らうとどうなるのかわかってるのか!?」

 

そう言いながら、悪魔の老人たちはオーラを解放する。

なんだ。この程度かよ?

 

「そちらこそ、その程度でどうこうできるとでも?」

 

俺は英雄覇気を解放する。その圧力で、場が一気に支配された。

 

「なっ!?」

 

悪魔の老人たちは俺のオーラを感じ取り、激しく狼狽える。

それだけじゃない。シーグヴァイラさんにグラシャラボラスのヤンキー、アスタロトなども予想以上のオーラに冷や汗を流してる。

唯一、サイラオーグさんは少し眼を見開いただけでそこまで動揺してる感じはないな。

 

「そうよそうよ!赤龍帝君の言う通りよ!おじ様たちはよってたかってソーナちゃんを苛めるんだもの!!私だって我慢の限界があるのよ!これ以上言うなら、私も赤龍帝君と一緒に()()()()おじさま達を苛めちゃうんだから!」

 

セラフォルーさんが涙目で俺に続く。

しかも、その身からは凄まじい魔王覇気を発している。

お偉いさん方は魔王であるセラフォルーさんが物申すとは思ってなかったらしく、顔を青ざめている。

ソーナ会長を溺愛してるセラフォルーさんからしてみれば、最愛の妹を馬鹿にされたわけだしブチ切れるのは当然か。

ソーナ会長は恥ずかしそうに顔を覆っている。

あとはセラフォルーさんに任せれば問題なさそうかな?

そこで、セラフォルーさんは何かを思い付いたようだな。

 

「そうだ!ソーナちゃんがレーティングゲームに勝てばいいのよ!ゲームで好成績を残せば叶えられることも多いんだから!!」

 

「それはいい考えだ」

 

セラフォルーさんの提案にサーゼクスさんは感心したような表情を浮かべる。

確かに、レーティングゲームは地位に直結する。そこで、成果を残した下級、中級悪魔が昇給することもあるらしいし、上級悪魔ならば特権も多そうだ。

 

「では、ゲームをしよう。若手同士で……」

 

そう言いながら、サーゼクスさんは部長と会長に視線を向ける。

 

「リアス、ソーナ。二人でゲームをしてみないか?」

 

そうきたか!レーティングゲームに関しては予想してたけど、これは予想外だ!

部長も会長も顔を見合せ、目をパチクリさせている。

 

「もともと、近日中に君達、若手悪魔のゲームをする予定だったのだよ。アザゼルが各勢力のレーティングゲームのファンを集めてデビュー前の若手の試合を観戦させる名目もあったからね。丁度いい。リアスとソーナで1ゲーム執り行おうではないか」

 

相手は会長と生徒会!マジか!

いきなり駒王学園に通う悪魔同士の対決じゃねえか!

事態を飲み込んだ部長は挑戦的な笑みを浮かべ、会長も冷笑を浮かべる。

やる気全快だな!

 

「公式ではないとはいえ、はじめてのレーティングゲームがあなただなんて運命を感じますね、リアス」

 

「そうね。私もあれで貴女に勝ったなんて思ってない。絶対に負けないわよ、ソーナ」

 

さっそく火花を散らせてるよ!二人ともやる気満々だな!

 

「リアスちゃんとソーナちゃんの試合!うーん☆燃えてきた!」

 

セラフォルーさんも楽しそうだ。俺も少し楽しみだな。

ここで、サーゼクスさんがニコニコしながら俺に告げる。

 

「あ、そうそう。いい忘れてたが、イッセー君。この場にそぐわない言動を行った君には立場上罰を与えねばならない」

 

「なっ!?お兄様、それは!?」

 

「それはいい!我らをなめ腐った罰!存分に受けるがよい!」

 

サーゼクスさんの言葉に勢いづいたように叫ぶ老人たち。

だが、サーゼクスさんの雰囲気は軽いものだ。なんだろう?

 

「兵藤一誠君。君に今試合に出場することを禁ずる、悪いが君は観戦に務めてもらおう」

 

『なっ!?』

 

「お兄様!それは……」

 

老人たちの驚きの声が響く。

まあ、当然かも……。言っちゃあなんだが、俺かなり強いからな……。

俺が出たら、普通に無双する可能性が高い。実際、ライザー戦がそんな感じだったんだから。

 

「リアス。君の今までの功績は赤龍帝がいたからこそ……という意見もある。そうではないことを証明してみせなさい」

 

サーゼクスさんの強い言葉に部長は押し黙る。

だが、暫くすると、覚悟を決めたかのように頷いた。

 

「わかりました。イッセーに頼らずとも私達は強いということ、証明して見せますわ」

 

それを聞いたサーゼクスさんは満足げに頷いた。

 

「対戦の日取りは人間界の時間で八月二十日。それまでは各自好きなように過ごしてくれてかまわない。詳しいことは後日送信しよう」

 

サーゼクスさんの決定により、ここに部長と会長のレーティングゲームの開催が決まった!

 

 

 



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修行と温泉です

イッセーside

 

 

 

 

「そうか、初戦はシトリー家か」

 

グレモリー家の本邸に帰ると、アザゼル先生が待っていた。

広いリビングに集合し、先生に先程の会合の顛末を話したんだ。

 

「人間界時間で現在七月二十八日だから、対戦まで約二十日間か……」

 

先生が何やら計算を始める。

 

「どうするんです?修業でもするんですか?」

 

俺が尋ねると先生は頷く。

 

「ああ、当然だ。修業は明日から始めるぞ。すでに各自のトレーニングメニューは考えてある」

 

ここでふと思った。俺はその疑問を遠慮なくぶつけることにした。

 

「質問なんですけど、アザゼル先生の指導ってアリなんですか?何て言うか、これって対等な条件になってないんじゃないかなって……」

 

アザゼル先生は堕天使の総督。戦闘経験が豊富な上に指導力にも優れている。

そんな先生の指導を直々に受けるって、正直他の若手から文句があってもおかしくないと思うんだ。

だけど、先生は嘆息するだけだ。

 

「別に大丈夫だよ。俺は悪魔側に研究のデータも渡したし、天使側もバックアップ体制をしているって話だ。あとは若手悪魔連中のプライドしだい。若手悪魔たちが強くなりたいと思ってるなら脇目も振らずだろうよ」

 

まぁ、それもそうか。

本当に強くなりたかったら必死で自分を鍛えるもんな。

 

「それに、うちの副総督のシェムハザも各家にアドバイスを与えているしな。ハハハ!俺よりもシェムハザのアドバイスの方が役に立つかもな!」

 

……いきなり、不安になるようなこと言わないで下さいよ。

まあ、こういうところが親しみやすいんだけどね。この人。

 

「まぁいい。修行は明日の朝、庭に集合。そこで各自の修行法を教える」

 

先生のこの言葉で今日のミーティングはお開きとなった。

だが、俺は?

ぶっちゃけた話、今ゲームは参加できないことになってる俺はどういう立ち位置になるんだろう?

気になった俺は自信の方針を先生に訪ねようとする。

そこへグレイフィアさんが現れた。

 

「皆様。温泉のご用意が出来ました」

 

それは最高の知らせだった!

 

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

グレモリーの庭の一角。ポツリと存在してる和風の温泉。俺はそこに浸かっていた。

 

「いい湯だな……」

 

「ハハハ、やっぱり冥界といえば温泉だな。しかも、名家グレモリーの私有温泉と来れば名泉も名泉だろ」

 

そう言いながら、アザゼル先生は十二枚の翼を全開にしながら湯船に浸かってる。

マジでいい湯だ。和風の情景も相まってテンペストの温泉を思い出す。

俺と木場はタオルを頭にのせて湯に浸かっていた。ちなみにさり気なく俺は木場から距離をとっている。

仕方ない。さっきの木場は最高にキモかったんだから。

だって、突然────。

 

「イッセーくん。背中を流してあげるよ」

 

なんてことを頬を染めながら言ってきたんだぜ?

確かに裸のお付き合いなんてものもあるけどさ……頬を染めながら言うな。

今思い出してもゾクゾクする……。

あれ?そう言えばギャー助は?

アイツは女装趣味はあるけど、普通に男だからこっちに来てるはずなんだが……。

万能感知で見渡してみると入口のところでウロウロしてるギャスパーの姿を確認した。

仕方ない。俺は一旦上がり、ギャスパーのもとへ向かう。

 

「ギャスパー。折角の温泉なんだから入れよ」

 

「キャッ!」

 

可愛らしい悲鳴を上げるギャスパー。なんだキャッって……?

しかもコイツ、タオルを胸の位置で巻いてる。ここでまで女装みたいなことする必要ないだろ?

 

「あ、あの、こっち見ないでください……」

 

怪訝そうに見てるとギャスパーは頬を赤らめてそう言う。

女の子らしい仕草だが、女装ということがわかってる俺は無性にイラっときた。

俺は取り敢えずギャスパーを温泉に投げ入れた。

 

ドボ────ン!!

 

「いやぁぁぁぁぁん!熱いよぉぉぉ!溶けちゃうよぉぉぉぉ!」

 

絶叫を上げるギャスパー。

そんな溶けるほど熱くないだろ。そもそも流水じゃないんだし、何をビビってるんだか……。

まぁ、これでギャスパーも温泉に浸かれるだろ。

俺は再び温泉に入る。

すると、先生が俺に尋ねてきた。

 

「ところでイッセー。おまえ、女の胸が好きなんだろ?」

 

「ええ、もちろん!大好きです!」

 

俺は即答した!

ああ、おっぱいは俺の大好きだ!見てよし!揉んでよし!つついてよし!俺の……漢の夢がそこにはある!

しかし、なんでそんな当たり前なことを聞くんだ?

 

「いやさ、ミッテルトってぶっちゃけると胸ねえじゃん」

 

「……殺されますよ?アザゼル先生」

 

「いや、お前の普段の言動見てると少しお前の好みとは違うんじゃねえかと思ってな?」

 

まあ、確かに俺は巨乳が大好きだし、ミッテルトはどちらかというと貧乳だろう。

小猫ちゃんよりかはあるが、それでも部長とかに比べるとはるかに劣る。

 

「ですが、貧乳には貧乳のよさがあるんですよ。俺は女の子をおっぱいで区別したりしません!」

 

そもそもミッテルトの胸だって小さいながらも弾力があって揉みごたえがある!

アレはアレでいいものなのだ!

 

「なるほど……。ちなみに他は?」

 

「他?」

 

「他の奴の胸を揉んだことあるのか?」

 

「ええ!もちろん!」

 

俺は右手で揉む仕草をする。時には迷宮の模擬戦でさりげなく。時には向こうから揉ませていただいたり。

思えば数多の女性のおっぱいを揉んできた気がするな……。

 

「そうか、じゃあ、こう────」

 

頷く先生は、人差し指を横に突き立てて言う。 

 

「女の乳首をつついたことはあるか?」

 

先生が指で宙を押すようにする。

 

「もちろんです!何しろ俺は、ミッテルトの乳をつついた結果、禁手に至ったんですから!」

 

「はあ!?」

 

ふふふ。あれは魔国祭の闘技大会にでるための特訓のさなかだった。

俺はクレイマンの兵との戦が終わってからというもの、神器に不調をきたしている時期があったんだ。それは神器の分岐点に至ったがゆえに起こる現象だ。

ドライグに聞かされ、禁手化についての知識は存在してたから、俺はそれに至る方法を模索していた。

だが、最後の一押しがどうしてもわからなかった。禁手に至るには、俺の中の何かが変わらないといけないとのことで、悩んだ結果、俺はミッテルトにそれを頼み、実行した結果。俺は至った。

 

「ハハハ。マジかよ!そんなふざけた方法で……」

 

「そ、そんなことで禁手に至るなんて……僕なんか、皆の思いを受け入れてやっと至ったというのに……」

 

アザゼル先生はツボに入ったらしく、腹を抱えて爆笑し、対して木場は遠い目で虚空を眺めている。

そ、そんなふうに見るなよ。いいだろ別に。至り方は人それぞれで。

 

『……今思い出しても酷い至り方だった。俺は泣きそうになったんだぞ』

 

「そ、そんなこと言うなよドライグ」

 

俺の左手から赤龍帝の籠手が飛び出し、ドライグが苦言を言ってきた。

 

「……ドライグも本当に大変だね」

 

『わかってくれるか。うう……』

 

ごめんて。悪かったよドライグ。

ドライグに謝ってると、隣の女湯の方から魅惑的な声が聞こえてくる。

 

『あらリアス、またバストが大きくなったのかしら?ちょっと触ってもいい?』

 

『そ、そう?ぅん……。ちょっと、触り方が卑猥よ。そういうあなたこそ、ブラジャーのカップが前よりも変わったんじゃないの?』

 

『前のは多少キツいのをそのままにしてましたから。でも、最近大きく見せてもいいかなと思えてきたのよ』

 

『はうぅ、私はお二人ほどないから羨ましいです・・・』

 

『どの口が……』

 

『本当っすよ。アーシアちゃんもそれなりに大きいというのに……』

 

『アーシア。聞いた話では揉むと大きくなるらしいぞ』

 

『はぁん!ゼノヴィアさん!んっ!だ、ダメですぅ!あっ……そんな、まだイッセーさんにもこんなことされて……』

 

『ふむ。アーシアのは触り心地が良いな。なるほど、これなら男も喜ぶのかもしれないね』

 

『……私も』

 

『……うちも試したほうがいいっすかね?』

 

・・・・・・・・・・・。

ああ、やばい。

俺は女湯から聞こえてくる女子たちの会話に興奮していた。壁が薄いからか、魔力感知を使わなくとも、聴覚を倍加するだけではっきりと聞こえてきやがる。

しかも、会話の内容がやばい!うちの女子部員はエロすぎるぜ!

うーん、覗きたい!覗いてみたい!男湯と女湯を隔てる壁!これを登ってあちらの世界へと舞い降りたい!

だが、それはかなり危険な行為だ!聴覚強化などは俺個人に作用してるものだから気付かれないが、向こうに潜入しようとすれば、ミッテルトに確実に気づかれてしまう。気配を完璧に隠蔽しても、あいつは何故か気づくんだよな……。

クソ!どこか、どこかに覗き穴はないのか!?

 

「なんだ、覗きたいのか?」

 

アザゼル先生がいやらしい笑みで聞いてきた。

 

「あ、先生、これは……」

 

仮にもアザゼル先生は教育者だ。流石に咎められるかな……。

 

「別にいいじゃねえか。温泉で女湯を覗くのはお約束だ」

 

おお、さすがはアザゼル先生。やはり先生もわかってくれるか。

 

「けどよ、覗きだけじゃあ、スケベとして二流以下だぜ」

 

なぬ?じゃあどうすれば一流なんだ?

そんなことを考えていると、先生は俺の腕を掴んで、いきなり空へ放り投げた!

 

「ええっ!?先生!?」

 

「どうせなら、混浴だろ!」

 

うわああああああっ!

いくら何でもいきなりすぎるだろう!?

やばい!あまりにも突然すぎて、なんの対処もできねえ!目が回る!

そのままの勢いで俺の視界は男湯から女湯に移り────

 

 

ドッボォォォォォォン!!

 

 

俺はすごい勢いで温泉の底にたたきつけられた。

サバッ!俺は底に手を着き、顔をお湯から飛び出る。

瞬間、俺の目に映ったのは美しい桃源郷だった!

 

「なっ、イッセー君!?なんでここに!?」

 

レイナーレは俺の姿を確認すると、恥ずかしそうにその裸体を隠そうとする。

だが、その他の女性たちは裸体を隠そうとすらしなかった!いや、そこは隠そうよ!女子なんだから!

 

「あらイッセー。アザゼルに飛ばされてきたのね」

 

「うふふ、イッセーくんったら、大胆ですわ」

 

そう言いながら、部長と朱乃さんは俺に近づいてくる!やばい、おっぱいがすごい揺れてる!

迫り来るおっぱいに為す術はなく、俺はあっさりと捕獲されてしまった。

 

「イッセーくん♪捕まえましたわ」

 

むにゅうと柔らかい感触が俺の身体にダイレクトに伝わってくる!張り、弾力共に凄い!

 

「朱乃!イッセーから離れなさい!」

 

部長もまた俺のことを引っ張ろうとする。おっぱいの感触がヤバイ!桃源郷はここにあったのか……?

そんなことを考えながら、思わず鼻を抑える俺をミッテルトと小猫ちゃんが絶対零度の視線で見つめていた。

 

「最低です。変質者先輩」

 

小猫ちゃんの軽蔑したかのような視線が痛い!やめて!そんな目で見ないで!悪いの全部アザゼル先生だから!

 

「全く、本当に仕方がないっすね……」

 

そういいながら、ミッテルトは置いてあったタオルを伸ばし、オーラで固定する。即席の剣の完成である。

 

「アザゼル先生共々、反省してるっすよ!」

 

「ぐはっ!?」

 

「「イッセー(君)!?」」

 

俺と密着していた部長と朱乃さんを器用に避けて、ミッテルトはタオルを俺の顎に思い切り振り上げた!痛え!

バシーン!という音と共に景気よく吹き飛ばされる俺。

眼下に見えるのはいい仕事をしたといわんばかりに気分が良さそうに湯船に浸かってるアザゼル先生だ。

 

「先生避けろ!」

 

「ん?ってうおっ!?」

 

アザゼル先生も迫り来る俺に気付いたようだが時すでに遅し。

俺とアザゼル先生の後頭部が見事に激突し、そこで俺の意識は遠のいていった。

……それにしても、部長と朱乃さんのおっぱいサンドイッチは凄かったな。

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

次の日。俺たちはグレモリー家の庭に集まっていた。

服装はアザゼル先生も含めて皆ジャージ。アザゼル先生は後頭部を擦りながら不機嫌そうに椅子に座っている。

 

「たく、洒落の通じない奴だな。そもそも、お前とイッセーは恋人同士なんだし別にいいだろ?」

 

「それとこれとは話がまるで違うっすよ。イッセーもイッセーであの状況を完全に楽しんでたし、アザゼル先生に至っては確信犯っすから」

 

「チッ」

 

ミッテルトの言葉にアザゼル先生も反論できず、そっぽを向く。

まあ、俺的には最後以外はかなりよかったけどな!アーシアや小猫ちゃんたちの裸体や部長と朱乃さんの最高の感触!今でも鮮明に思い出せる!本当に最高でした!ありがとうございました!

 

「イッセー?」

 

────っと、そろそろ気持ちを切り替えんとな。

先生は懐から資料らしきデータを取り出す。

 

「先に言っておくが、今から渡すメニューは将来的なものを見据えたものだ。中には長期的に見なければならない者もいるまずはリアス、おまえだ」

 

最初に先生が呼んだのは部長だった。

 

「お前は最初から才能、魔力、身体能力のすべてが高スペックの一級品だ。このまま普通に暮らしていてもそれらは高まるし、大人になる頃には最上級悪魔の候補にも挙げられるだろう。が、将来ではなく、今すぐにでも強くなりたい。それがお前の望みだな?」

 

先生の問いに部長は力強く頷く。

 

「ええ。私はコカビエルたちとの戦いでは、ほとんど何もできなかったわ。このままではいられない。私は皆の王として恥じない者になりたいの」

 

部長は凛とした表情でそう告げた。

確かに部長は才能にあふれてるし、このままでも百年もすれば旧魔王の幹部級程度にはなれるかもしれない。

でも部長はそれでは足りないというのだ。それでこそ俺の見込んだ人だぜ。

 

「なら、この紙に記してあるメニューをこなしていけ」

 

先生から手渡された紙を見て部長は首をかしげる。

 

「……これって、特別すごいトレーニングには見えないのだけど?」

 

アザゼル先生が渡した紙に書かれたのは基本的な修行メニューが書かれていた。強いて言えばレーティングゲームの試合記録の研究の時間がかなり多いかな?

 

「お前はそれでいいんだ。おまえは全てが総合的にまとまっている。だからこそ基本的な修行で力が高められる。問題は“王”としての資質だ。“王”は時として力よりもその頭の良さ、機転の良さが求められる。魔力が低くても、それらで上に上り詰めた悪魔だっている。お前は期限まで今までのゲームのデータを叩きこめ。眷属が最大限に力を発揮できるようにしてやるのが王の役割。これでどんな状況も打破できる思考、機転、判断力を磨くこった」

 

なるほど。先生の言うことは最もだな。無論、現実には何が起こるかわからないけど、達人の戦いは見るだけでも経験値になるからな。

流石は堕天使の総督。先生もしっかり考えてたんだなぁ。

 

「次に朱乃」

 

「……はい」

 

先生に呼ばれるものの朱乃さんはかなり不機嫌そうな表情をしている。

朱乃さんはどうにもアザゼル先生が苦手らしい。嫌いとも言っていた。

やっぱりお父さん絡みかな?どうも朱乃さんはミッテルトを除く堕天使に対してまだ猜疑心がぬぐえないようだし。

そう思っていたら、先生はそのことを真っ正面から言う。

 

「おまえは自分の中に流れる血を受け入れろ」

 

「ッ!」

 

ストレートに言われたせいか、朱乃さんは顔をしかめる。

 

「フェニックス家とのレーティング・ゲームは見させて貰った。確かに以前に比べると動きは格段に良くなっていたが、お前本来の力なら小猫とタッグなんざ組まなくとも、フェニックスの女王くらい苦も無く倒せたはずだぜ。なぜ堕天使の力を使わなかった?」

 

確かに。堕天使の光の力は悪魔には効果抜群。堕天したとはいえ、天使の聖なる力は堕天使の光にもしっかり受け継がれているからだ。

それを使えば確かにライザーの女王のお姉さんも一撃で仕留められたことだろう。

 

「私はあのような力に頼らなくても……」

 

「否定するな。自分を認めないでどうする?確かにおまえは強くなった。だがな、本来のお前の力はこんなものじゃない。否定がお前を弱くしている。辛くても苦しくてもそれを乗り越えろ。じゃなければ、お前はいつか必ず眷属たちの足手まといとなる。自分を乗り越え、“雷の巫女”から“雷光の巫女”になってみせろ」

 

先生の言葉に朱乃さんは応えなかった。けど、やらなきゃいけないってことは朱乃さんもわかっているのだろう。

俺もアザゼル先生と同意見だ。アザゼル先生の言い分は厳しいけど、正しくもある。今の俺にできることは、朱乃さんを信じることだけだろう。

 

「次は木場だ」

 

「はい」

 

「まずは禁手を解放している状態で一日保たせろ。それが出来れば次は実戦の中で一日保たせる。それを続けていき、状態維持を一日でも長くできるようにしていくのがお前の目的だ。剣技系神器については俺がマンツーマンで教えてやる。剣術のほうは……師匠にもう一度習うんだったな?」

 

「ええ、一から鍛え直してもらう予定です」

 

へぇ、木場の師匠か。木場の剣技は我流にしては洗練されているからいるんだろうとは思ってたけど、どんな人なのかな?

……ハクロウさんみたいな鬼畜剣士じゃないといいけど。

 

「次、ゼノヴィア。おまえはデュランダルを今以上に使いこなせるようにしろ。それと、もう一本の聖剣にも慣れてもらう」

 

「もう一本の聖剣?」

 

「ああ。特別な剣だ」

 

「……分かった。やってみよう」

 

もう一本の聖剣というのはあの剣の事か。確かに、聖剣の扱いに慣れてるゼノヴィアならば使いこなせるだろう。

それから先生の視線はギャスパーに移る。

 

「次、ギャスパー」

 

「は、はいぃぃぃぃぃ!!」

 

チョービビってるよ。

本当にこの引きこもり君は。まあ、段ボールに逃げ込まないだけ進歩してるとは思うけどさ。

 

「そうビビるな。お前の最大の問題点はその恐怖心だ。おまえはスペックだけなら相当のものだ。“僧侶”の特性、魔力の技術向上もそれを支えている。その引きこもりを克服出来ればゲームでも実戦でも活躍出来るはずだ。とりあえず、『引きこもり脱出作戦!』なるプログラムを組んだから、それをこなしてい人前でも動きが鈍らないようにしろ」

 

「はいぃぃぃぃぃ!当たって砕けろの精神でやってみますぅぅぅ!!」

 

……こいつがその言葉を言うと本当に砕けそうで不安だ。

まあ、俺からは頑張れとしか言えないんだけどな。

すると、先生の視線はアーシアに移った。

 

「同じく、“僧侶(ビショップ)”のアーシア」

 

「は、はい!」

 

アーシアも気合い入ってるな。

 

「おまえも基本トレーニングで身体と魔力の向上を目指せ。それから、メインの神器(セイクリッド・ギア)の強化だ」

 

ほう?神器の強化とな?

アーシアの回復は魔法と違って魔力消費も少なく済むし、回復スピードも速い。今でも十分だが、何を強化するんだろう?

 

「お前の回復速度は大したものだが、触れるという過程を踏まなければならない。その範囲を拡大するんだよ。俺たちの組織のデータの理論上は神器のオーラを全身から発し、周囲の仲間をまとめて回復や回復のオーラを飛ばす……なんて芸当もできるはずだからな」

 

なるほど。遠距離での回復を可能にしろってことか。俺たちの場合、“完全回復薬(フルポーション)”があるからあまり気にしてなかったけど、確かに広範囲の回復ができれば戦術の幅がかなり広がるからな。

範囲回復の場合、敵も回復するかもという懸念点はあるけど、後方支援としても心強いことこの上ないな。

 

「次に小猫」

 

「……はい」

 

小猫ちゃんも相当気合いが入ってる様子だ

 

「おまえは申し分無いほど“戦車(ルーク)”としての才能をもっている。おまけにイッセーとの修行を経て、現状でも中々のものになっている……が、リアスの眷属には戦車のおまえよりもオフェンスが上のやつが多い」

 

「……分かっています」

 

まあそうだな。俺を除いても木場にゼノヴィアといった風に、攻撃力が小猫ちゃん以上の奴が部長の眷属には多い。

それを自覚してるからか、小猫ちゃんも悔しそうだ。

 

「まあ、お前に関していえば、俺よりも適任者がいるからそいつに任す」

 

「適任者?」

 

「白音の修行については私が見るにゃん」

 

そう言いながらやってきたのは黒歌だ。セラとともにポーズをとりつつ登場してきた。

この二人は今朝こっちにやってきたらしい。やはり手配犯ということもあり、手続きがいろいろ難航したんだとか。

 

「……お姉さま」

 

「白音には私が“猫魈”としての力の使い方を教えてやるにゃん♪しっかりついてきてね」

 

「……はい。よろしくお願いします」

 

姉妹同士、修行の相性は抜群だろう。もしかしたら、グレモリー眷属で一番成長するのは小猫ちゃんかもな。

……ところで。

 

「俺とミッテルトは何すればいいんですか?」

 

ぶっちゃけ俺たちはレーティングゲームに出ないから修行する必要とかはないけど、手持無沙汰になるのも悪い気がするしな。

修行の手伝いでもするか?

 

「ああ、イッセーには客がいるんだ。そろそろかな?」

 

アザゼル先生が空を見上げて何やら呟く。

客?誰か来るのか?

すると、空からかなり強い“妖気(オーラ)”が近づいてきた。

空を見上げると、俺の視界にデカい影が……って、こっちに猛スピードで向かって来てるぞ!?

 

 

ドオオオオオオオオンッ!

 

 

それは地響きを鳴らしながら俺の目の前に着地した。

土煙が舞い、それが収まった後現れたのはデカい龍だった。十五メートルはあるな。

存在値にして65万ってところか。かなり強そうだな。

 

「アザゼル、よくもまぁ悪魔の領土に堂々と入れたものだ」

 

「ハッ!サーゼクスからの許可は貰ってるぜ?文句あるのかよ?」

 

「ふん。まあいい。それで、そこにいるのが歴代最強の赤龍帝か?」

 

「そうだ。イッセー、紹介するぜ。このドラゴンは“魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)”タンニーン。元龍王の一角で今は転生して悪魔になっている。こいつがおまえの修行相手だ」

 

タンニーンって聞いたことある名前だ。確か、元六大龍王の一角だったドラゴン。

以前、ドライグに教えてもらったことがある。元々龍王は六体だったが、一人が悪魔に転生したことで“五大龍王”になったという話を。

その悪魔に転生した龍王こそ、目の前にいるタンニーンさんということか。まさか、こういう形で会うことになるなんてな。

とりあえず挨拶しとくか。

 

「兵藤一誠です。よろしくお願いします」

 

「ミッテルトといいます。よろしくっす」

 

「うむ。なるほど。人間とは思えない力を感じるぞ。こうして見てても隙が全く見当たらん。歴代最強というのも誇張じゃなさそうだな。そちらの堕天使も大したものだ」

 

タンニーンさんは俺たちを見て面白そうにしている。サイラオーグさんもそうだけど、歴代最強の赤龍帝とか呼ばれてるの、割と広まってるんだな。

なんかむず痒いな。ドライグも余計なことを言いやがって……。

 

「こいつは前々から歴代最強の赤龍帝であるお前に興味があったらしくてな。俺としても、お前の力に興味があったし、せっかくなんで呼んできたんだ」

 

「うむ。あのティアマットを破ったという話を聞いたときは何かの間違いかと思ったが、この様子だと真実なのだろう。大したものだ」

 

そうか、同じ龍王であるティアマットさんとは知り合いなのか。

なんでもタンニーンさんはティアマットさんと何度か戦ったことはあるらしいが、勝てた試しがないのだという。

まあ、あの人俺と戦ってた時もぶっちゃけ全然本気出してなかったしな。仮にあの人が本気で戦っていたのならば、俺も取り繕う暇はなかったと思う。少なくとも、“禁手”なしでは勝てなかっただろう。

考えれば考えるほど、あの人も規格外だよな……。流石はヴェルグリンドさんの弟子といったところか。

 

「お前らは他の奴らの修行期間中はタンニーンと特訓でもしててくれ。今ゲームには参加しないこともあるし、正直な話、俺からお前らには教えることなんざ現時点ではほとんどないからな。俺もお前らの力を把握しときたいし、するなら実戦形式がいいと思うしな……」

 

「「ええ……」」

 

そんな適当な……。でも確かに仕方ないところはあるのかな?

まあ、いいか。俺も俺で強くならないとだしな。俺とミッテルトは好戦的な瞳でタンニーンさんを見据えた。



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山籠りとダンスです

イッセーside

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオン!!!

 

木々が吹き飛び、山が崩れ、辺りにはたくさんのクレーターが現在進行形で生まれている。

 

「おらぁ!」

 

俺はタンニーンさんが放った炎の息(ブレス)を拳で打ち消す。

その余波で炎が飛び散り、この場は火の海と化している。

 

「流石だな赤龍帝の小僧。だが、これならばどうだ!」

 

その一瞬の隙をつき、タンニーンさんが巨大な拳で俺をぶん殴ろうとする。

 

「ふん!」

 

俺も闘気を拳に集め、タンニーンさんの拳を相殺する。

二つの拳の衝撃波が波紋上に飛び交い、クレーターが生まれ、近くにあった岩山が崩壊する。

流石に龍王と呼ばれるだけあってタンニーンさんは強い。

ティアマットさん程じゃないにしても、技量もたいしたものだ。少なくともヴァーリよりは上。

俺の弟妹弟子たる竜王たちと比べても遜色はないどころか、上回ってる可能性だってある。

だが……

 

「ぐお!?」

 

俺は一瞬の隙をつき、タンニーンさんの顎を蹴り上げる。

タンニーンさんがその威力に仰け反ると同時に俺はタンニーンさんを地面に叩きつけた。

 

「ぐむ、人間とは思えん威力だな……」

 

「鍛えてますからね」

 

タンニーンさんは確かにすごいドラゴンだ。特にブレスの威力は凄まじい。

存在値以上の威力を発揮しているように思える。

だが、俺だって今まで数多の強敵たちと戦ってきたんだ。

この程度ならば造作もないのだ。

 

「まだまだ行きますよ!」

 

「いいだろう。来い!小僧!」

 

俺たちはさらにオーラを高める。大気が震え、辺りに亀裂が入る。

俺たちはそのまま激突しようとし……

 

「おお、やってるな」

 

「イッセー!ご飯すよ──!」

 

ミッテルトとアザゼル先生の声で気が抜けてしまった。

 

 

 

 

****************************

 

 

 

 

 

「うまい!」

 

俺はアザゼル先生の差し入れのおにぎりとお弁当、ミッテルトの作った手料理を食べていた。

うまい!おにぎりは部長が作ったらしく、最高の味付けだ!アーシアが作った弁当もあるのだがら優しい味がしてこれまた最高だぜ!

 

「朱乃が作った弁当もある。リアスと火花散らして作ってたんだぜ」

 

ハハハと笑いながら先生は言う。

なるほど。その光景が目に浮かぶぜ。

 

「うちが作った食事もちゃんと味わって食べるんすよ」

 

「わかってるって」

 

ミッテルトが作ったのは山の食材をふんだんに利用した魚と山菜の唐揚げだ。

ミッテルトもこの山で俺と一緒に修行してるわけだが、流石はシュナさんゴブイチさんの弟子と言うべきか、山の食材だけで恐ろしいクオリティーの品々が出てくるんだ。

山菜、魚はともかく油とかどこで手に入れたんだ?

 

「そこらにオリーブによく似た実があったんで、そこから抽出したんすよ」

 

ほんとすげえな!サバイバル慣れしてるだけあって大したものだ。

 

「途中から見てたが、よく禁手なしでタンニーン相手にあそこまで戦えるな。正直引いたぞ」

 

「ひでえ!?」

 

先生が半目で呆れながらそう言った。流石にひどくない!?

 

「いや、アザゼルの言う通りだぞ。ハッキリ言って人間とは思えん」

 

ミッテルトが用意したドラゴンサイズの素揚げを食べながら呟くのはタンニーンさんだ。

別にあれくらい、“聖人”級ならばできると思うんだけどな……。

 

『相棒。お前は少し常識を学び直した方がいいぞ。この世界では“聖人”どころか“仙人”級すら滅多に現れないんだからな?』

 

あ、それもそうか。

ついつい向こう基準で考えてしまうな。

いや、冷静になれば向こうでも聖人級まで至れるのは割りと稀か。

と、ここで俺はあることを思い出した。

 

「そういえば、ヴァーリの奴って“覇龍(ジャガーノート・ドライブ)”を使えるんですか?」

 

“覇龍”。

神器に封じられ、制御されている二天龍の力を強制的に解放する状態。

一時的に神に匹敵する力を得られる代わりに暴走状態となり、寿命を大きく削り、理性を無くす危険な力だ。

ヴァーリは俺との戦いの時、“覇龍”を使おうとしていた。故に気になったのだ。

アイツの育ての親であるアザゼル先生ならば知ってると思うけど……

俺の言葉を聞いたアザゼル先生は箸を置き、考えるような素振りを見せた。

 

「ああ、あいつは自身が持つ膨大な魔力を消費することで数分間覇龍を使えうことができる──はずだが、あの時のアルビオンの焦り具合から察するに、まだまだ危険が伴うんだろう。……おまえは使ったことがあるのか?」

 

「あ、はい。というか、俺の場合、覇龍を制御できるんで」

 

俺の言葉にアザゼル先生とタンニーンさんは目を丸くして凝視してくる。

二人とも面白い顔だな。

 

「覇龍を制御しただあ!?どういうことだ!?」

 

衝撃から覚めたアザゼル先生が俺の肩を掴み、ブンブン揺らしてくる。

その目は少し血走っているし、少し怖えよ……。

 

「アザゼル先生。イッセーが苦しそうっすよ」

 

「おっと、スマンスマン」

 

あー、びっくりした……。

俺は少し息を整えると咳払いをし、説明することにした。

 

「覇龍は歴代の亡霊……残留思念が力を求め、暴走を引き起こすことで成るものじゃないですか」

 

覇龍は過去の赤龍帝の力を求める怨念から発動する。

怨念が呪いと化し、神器の暗黒面として所有者に何か起きるたびに力を暴走させようとしてくる。

 

「ならば、その怨念を……憎悪を解消してやればいい。そう考えた俺の恩人と師匠が協力してくれて、お陰さまで無事、歴代の亡霊と和解して覇龍をコントロールできるようになったんです。今では覇龍を超え、“進化した覇龍”なんて物にも至れるようになったんですよ」

 

そこまで言って俺は我に返る。

流石に“進化した覇龍”の話しはしない方がよかったかな?と……

 

「……マジかよ。そんなこと……可能なのか?」

 

実際、リムルと師匠がいなければ俺は歴代と和解することは難しかっただろう。

当時は究極能力もなく、苦戦もしたが、二人のサポートとエルシャさん、ベルザードさんの力がなければ不可能だったと思う。

……まあ、歴代があんな感じになるのは流石に予想外だったけど。

師匠は爆笑してたし、リムルは寒い目で見てたしで本当にいたたまれない気持ちになったわ。

まあ、それはともかくとして、そのお陰で俺は覇龍の先に行き着き、今では()()()の名付けでさらに進化を遂げ、今は覇龍とは全く別物の超常状態に至っている。

 

「おい!じゃあその“進化した覇龍”とやらを見せてくれ!すげえ気になる!」

 

やっぱりか。こうなると思ったからさっき後悔したんだよな。

 

「いや、アレは制御はできるんですけど細かいコントロールが難しくて……少なくともこんなことで一々発動するものじゃないので……」

 

「イッセーのアレはオーラだけでもヤバいすからね。うちらレベルでも多分大ダメージ負うっすよ」

 

「そこまでなのか……クソッ!目茶苦茶気になるぞ!」

 

アザゼル先生も納得はしてくれたがかなり悔しそう。

“進化した覇龍”は()()()()()だ。

実際、あの形態には覚醒魔王級じゃないと至近距離の妖気と()()覇気に耐えられないだろう。

魔国時代は迷宮に籠り、膨大な妖気の濁流に慣れているミッテルトはともかく、力はあっても慣れてはいないだろう二人には少々キツイと思う。

 

「あの力を完全に扱える上、新たな形態まであるとは凄まじいな。聞くに白も覇龍をある程度は扱えるのだろう。全く、今代の赤と白はとことん規格外だな」

 

タンニーンさんは苦笑しながら呟いた。

 

 

 

 

 

****************************

 

 

 

 

 

「話は変わるんだが……」

 

「はい?」

 

食事も進み、あと僅かになったところでアザゼル先生はなにやら切り出してきた。

 

「おまえ、朱乃のことはどう思う?」

 

随分唐突だな。何事だ?

 

「良い先輩だと思います」

 

俺は素直にそう言った。Sモードの時が少し怖いけど、普段の朱乃さんはやさしいし、時折見せる年頃の女の子なところが目茶苦茶可愛いんだよな!

 

「そうじゃない。女としてだ」

 

「魅力的な女性です!」

 

俺の答えに先生は「うんうん」とどこか安堵しているようだった。

 

「そうか。俺はダチの代わりにあいつを見守らなければならないんだ」

 

「バラキエルさんのことですか?」

 

ダチ……というと心当たりはまだ見ぬバラキエルさんだろう。

朱乃さんの父親であり、堕天使の幹部。先生にとっては部下に当たる人物だ。

 

「そうだ。バラキエルのやつはシェムハザと同じ大昔からの仲間でな。若い頃は一緒にバカをやったもんだ。……気づけば、俺の周りは妻子持ちになってたけどな。シェムハザは悪魔の嫁がいるし、バラキエルは朱乃がいるし……」

 

深くため息をつく先生。

もしかして、独身なのを気にしてる?

 

「先、越されたんすか?」

 

ミッテルトの言葉にアザゼル先生は苦笑いだ。

 

「……俺は女なんていくらでもいるからいいんだよ」

 

遠くを見て答える先生。

どうやら婚期についてはタブーらしい。

 

「そういうわけで、俺は朱乃のことが気になるのさ。あの親子にとっては余計なお世話だろうがな」

 

「先生って世話焼きですね」

 

「ただ暇なだけだ。おかげで白龍皇も育てちまったがな」

 

そんなことはないな。この人はリムルと同じくお節介焼きなんだろう。

俺のことも朱乃さんのこともヴァーリのことも、全部世話を焼いてしまうんだろうな。

 

「とにかく、朱乃のこと、おまえにも任せる」

 

「任せる?」

 

どう任せるんだよ?戦闘の時に身を守れってことか?

まぁ、その時は体張って守るけどさ。

 

「おまえはバカだが、悪い男じゃない。分け隔てなく接してくれそうだ」

 

「……先生、話が見えてこないんですけど」

 

「ハハハハ、それでいいのさ。お前が本当のたらしならば修羅場だろうが、お前は周囲の信頼を得てから形成するタイプだ。お前ならなんとかできる、俺はそう思ってる」

 

「?????」

 

「同感っすね。うちも正妻()の立場を譲る気は毛頭ないっすけど、筋さえ通すのなら問題はないっす」

 

「????????」

 

筋を通さないうちは断固拒否するっすけどね……となにやら呟きながらミッテルトは飲み物をのむ。

言いたいことがいまいちわからん。

ミッテルトは呆れたようにため息をはいてるし、マジでこれなんの話だ?

 

「よく分からないけど、まぁ、朱乃さんのことは俺が守りますよ!もちろん朱乃さんだけじゃない!他の皆のことも!」

 

「よし、お前がそう言ってくれるなら俺も安心できるものさ。朱乃のことはお前に任せたぞ」

 

「はい!」

 

アザゼル先生は俺の言葉に安堵し、一杯の酒を口にする。

俺も飲みたいな……。

 

「さて、行くか。イッセー、お前を一度連れ出せと言われててね。一度グレモリー邸に戻るぞ。タンニーン、少し借りるぞ。明日返すからよ」

 

「ああ。どのみち午後はミッテルトの時間だしな」

 

「うちは夜あまり食べるから大丈夫っすよ」

 

午前俺がタンニーンさんと戦っている間、ミッテルトは昼飯の準備をしていたわけだが、実は午後は俺が食事の準備をしてミッテルトが修行をする時間だったりする。

ミッテルトとタンニーンさんの力はほぼ互角といった感じで中々どうして見ごたえのある戦いをするんだよな……。

タンニーンさんに負担がでかいとも思うのだが、流石に巨体なだけあって中々どうして体力もあるらしく、少なくともここ三日くらいはずっとそんな感じの生活を送っている。

それはそうと……

 

「連れ戻す? 誰に言われたんですか? 部長?」

 

いきなり俺だけ帰還命令。別にいいけど少し気になるな。

てっきり部長が呼び出したのかと思ったが、アザゼル先生の口からでたのは意外な人物だった。

 

「いや、その母上殿だ」

 

まさかの部長のお母さん────ヴェネラナさんからの呼び出しだった。

 

 

 

 

 

****************************

 

 

 

「はい、そこでターン。ダメね。ほら、一誠さん、ボケッとしてないで最初からよ」

 

グレモリー本邸から少し離れた位置にある別館。そこで俺はヴェネラナさんと社交ダンスの練習をしていた。

……なぜに?

しかも結構難しい……。まあ、貴族の会合とかそういう場に行く機会は幾度かあったけど、こういうダンスの経験はまるでなかったからな。

現在、俺はヴェネラナさんと密着状態でダンスレッスンをしてる!ヴェネラナさんのおっぱいが当たってすごく柔らかい!流石はあの部長のお母さんだぜ!遺伝子って素晴らしい!しかも、人妻だからか!?弾力と感触に熟れた感じがしてすごく気持ちいい!本当に本当にありがとございます!!

 

「少し休憩かしら?」

 

「あ、はい」

 

お許しが出たので俺は近くの椅子に座り込み、置いてあった飲み物を口にする。

疲れた。正直戦闘とは別種の疲れだ。ある意味でタンニーンさんとの修行よりも疲れたかもしれない。

……と、ここで俺は疑問に思ったことを思いきって聞いてみることにした。

 

「あの」

 

「何かしら?」

 

「どうして俺だけなんですか?木場とかギャスパーは?」

 

そう、聞いておきたかったのは、なんで俺だけ?という点である。

グレモリーの教育はまだ納得できる。だって悪魔歴の長い木場とギャスパーはとっくに学び終えてるだろうと予想できるからだ。

だが、ダンスは別だろ?

下僕は余程のことがない限り、社交の場には顔出しできないという話も聞いてるし、ましてや人間である俺が個別でやる意味がわからん。

紳士を教え込むならあの二人もいるじゃないか。

その問いにヴェネラナさんは答える。

 

「木場祐斗さんは“騎士(ナイト)”として既にこの手の技術は身に付けています。ギャスパーさんも頼りない振る舞いが目立ちますが、吸血鬼の名家の出身だけあって、一応の作法は知っています。問題は人間界の平民出である一誠さんです。……ですが、夕食の時の作法を見るに、ある程度のことを身に付けているようですね。ダンスの上達も早いし、正直言うと驚きました。これならばリアスと共に社交界に出ても問題はなさそうね」

 

ヴェネラナさんは感心したように言う。

まぁ、基軸世界での経験が活きたってところか。

……ん?社交界?

 

「え?俺がリアス様と社交界に?」

 

「おっと、口が滑りましたわね。そういうこともあるかもしれないということです」

 

ヴェネラナさんは微笑みながらそう言う。

まあ、確かに、先ほど余程のことがない限りと言ったが、数万年も生きればその余程のことに遭遇する機会だってあるかもしれない。その時のために今のうちに練習した方がいいだろう。

そういえば肝心の部長は何してるんだろう?

皆の修行も気になるな。

 

 

 

 

 

****************************

 

 

 

 

 

「あ、部長。小猫ちゃんにセラも」

 

「イッセー!」

 

「あ、イッセーお兄ちゃんなの!」

 

「……お久しぶりです。先輩」

 

ダンスレッスンも終わり、一旦本邸に移動した俺を迎え入れてくれたのは部長とセラ、小猫ちゃんだった。

こうして会うのは数日ぶりか。

なんてことを考えていると部長がいきなり抱き着いてきた!

あ、この感じ、久々かも……。部長からおっぱいの感触と超絶いい匂いが……。

 

「ああ、イッセーの匂い……」

 

「えっと、汗臭くないですかね?」

 

「いいのよ。貴方のにおいに違いはないわ。寂しかったのよ?こちらに来てからというものの貴方とともに寝ることもできないし、貴方を感じることもできないのだから……」

 

そこまで思ってもらえるとかなりむず痒い感じがするな。正直言って滅茶苦茶嬉しいっす!

向こうでの修行生活も中々楽しいけど、皆がいないとやっぱり物足りないと感じることもあるからな。

 

「セラも小猫お姉ちゃんと頑張ってるの!」

 

そう言いながら胸を張るセラにほっこりする。

セラは現在、小猫ちゃんと黒歌と共に修行しているらしい。

記憶喪失であるセラがどういう存在なのかはまだ正確にはわかってない。アザゼル先生もちょっとした検査をしたらしいのだが、皮膚や内臓機関、そのすべてが未知の金属で形作られているらしい。

もう少し詳しい検査もしたいらしいが、問題はセラ自身が己の力をまるで制御できてないということだ。

その時によって存在値が変動し、時に“超級覚醒者(ミリオンクラス)”にまで達するセラを目の届かないところにやると、もしかしたら大変なことが起きるかもしれない。

そこで何が起きても即対処可能であろう黒歌に任せているわけだ。

まあ、黒歌は今でも一応は指名手配中の身。流石にグレモリー本邸には上がれないらしいけど、気配から察するにほど近い場所に隠れているのだろう。

 

「それにしても、二人とも見違えましたね。特に小猫ちゃんはすごく強くなってるな」

 

「……ありがとうございます」

 

少し照れながらそっぽを向く小猫ちゃん。

実際、黒歌の修行についていってるだけあって、数日前と比べるとかなり強くなっている。EPも数日前は2万前後といった感じだったのに、現在では4万近くまで上昇している。

妖気の流れから察するに、仙術に関する指導も受けているようだ。実際は数値以上に強くなっているのかもしれないな。

部長も5万程度には上がっているし、さすがは堕天使の総督の組んだ育成プログラムといったところか。

 

「……正直、私はまだ猫又の力が少し怖いです」

 

小猫ちゃんはぽつりと呟いた。まあ、それは仕方がないかもしれない。

真実を知り、和解できたとはいえ、それとこれとは別問題だ。

再会したばかりの時の拒絶ぶりから察するに、黒歌の行いは相当なトラウマになったんだと思う。

俺も話でしか聞いてないが、当時の現場は相当凄惨なものだったらしい。それを幼いころに見てしまえばトラウマの一つや二つ生まれるだろう。

 

「……でも」

 

一拍置いて小猫ちゃんは告げる。

 

「だからこそ、私は猫又の力を使いこなせるようになりたい。あの時の恐怖を……乗り越えたいんです……」

 

小猫ちゃんは強い瞳でそう告げた。

 

「……だから先輩、私のこと、見守っててください」

 

「……ああ。もちろん!小猫ちゃんなら猫又の力も使いこなせるはずさ。そうすれば、“ヘルキャット”なんて呼ばれるようになるかもしれないぞ」

 

「……ヘルキャット?」

 

「うん。“冥界猫”って描いてヘルキャット。黒歌は今の主のもとで悪夢の黒猫────“ナイトメア・キャット”って呼ばれてるからさ、小猫ちゃんにもそう言う二つ名的なのあればお揃いでいいかなと思って考えたんだ。どうかな?」

 

「……“冥界猫(ヘルキャット)”。先輩にしてはいい名前です」

 

俺にして張って……苦笑する俺を小猫ちゃんは少しおかしそうにクスリと笑う。

 

「ありがとうございます先輩。やっぱり先輩は優しい赤龍帝です」

 

小猫ちゃんは礼を言いながらそんなことをつぶやいた。そんな小猫ちゃんの表情はとてもうれしそうに思えた。こうして俺たちの夜は更けていったのだった。



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魔王主催のパーティーです

イッセーside

 

 

 

 

 

「おらぁ!!」

 

「ぐおっ!?」

 

ドン!と大きい衝撃音と共にタンニーンのおっさんが吹き飛んでいく。

タンニーンのおっさんは翼をはためかせ、中空で体勢を立て直し、再び俺に構えなおす。

しばらくの間、緊張した状態が続く……が、その均衡はすぐに崩れ出した。

 

「油断大敵っすよ。イッセー!タンニーンさん!」

 

「げっ!」

 

「うおっ!?」

 

そう言いながらミッテルトが俺とタンニーンのおっさんに“霊子閃光波(ホーリーレイ)”を放つ。

俺とおっさんはそれを迎撃しながらもミッテルト相手に気弾と息吹(ブレス)を放つ。

 

「流石っすね……。でも、これで終わりじゃないっすよね!」

 

「当たり前だろ!まだまだ行くぜ!」

 

「なかなかやるな!だが、俺も負けんぞ!」

 

俺たち三人の三つ巴からなる戦闘はますますヒートアップしていく。

魔王種級のエネルギー三つのぶつかり合い。すでに当たりの山は原形をとどめてはいないが、今日はできる範囲までとことんやるつもりだ。

何しろこれが修行の最終日だからな。

 

 

 

 

 

****************************

 

 

 

 

 

「では、俺はこれで帰る。魔王主催のパーティーには俺も参加する予定だ。また会おう、兵藤一誠にミッテルト。それとドライグ」

 

おっさんの背に乗って帰ってきた俺はグレモリー本邸でタンニーンのおっさんと別れることになった。

 

「おっさんありがとう!パーティーでまた!」

 

「色々ありがとうございました」

 

『すまんな、タンニーン。また会おう』

 

「ああ、俺も楽しかったぞ。まさかドライグの宿主と修行する日が来るとは思わなかったからな。長生きはするものだ。そうだ、パーティー入りの時は俺の背に乗るか?」

 

「え?いいの?」

 

「ああ、問題ない。俺の眷属を連れて、当日にここへ来よう。詳しくは後で連絡する」

 

「何から何まで、本当にありがとうございます」

 

ミッテルトが礼を言うと満足そうにおっさんは翼をはためかせる。

 

「では明日此処に来よう。さらばだ!」

 

そう言うとおっさんは羽ばたいて空へ消えていく。

俺たちは手を振ってそれを見送った。

 

「いや~、なかなかいい人だったっすね。いい修行になったな~」

 

「本当にな。明日のパーティーが楽しみだぜ」

 

現在八月十五日。会長眷属とのゲームまで五日を切っていた。みんなの修行もそこそこ大詰めを迎えているころだろう。

参加しない俺は本来続けててもいいのだが、ゲーム前にサーゼクスさん主催のパーティーが開かれるらしいのだ。

グレモリー眷属の候補である俺、さらに今回のパーティーにはミッテルトも招待されているため、俺たちも修行を急遽切り上げたというわけだ。

 

「やあ、イッセー君」

 

聞き覚えのある声に振り替えると、そこにはジャージ姿の木場がいた。

なかなかいい面構えになったな。強さも以前よりかなり増している。

恐らくは並みの“上位悪魔(グレーターデーモン)”くらいならば一蹴できるだろう。

もしかしたら“上位悪魔騎士(ディアブルシュバリエ)”が相手でも互角ぐらいには戦えるかもしれないな。

…………まあ、それはともかくとして、何で木場は俺の体を凝視してるんだ?

今の俺は先ほどの三つ巴の修行で服がボロボロになっているんだが……。そんな困惑してる俺に木場はとんでもない爆弾発言をかましやがった。

 

「逞しい身体だね」

 

ゾクッ!と背筋が凍るほどの恐怖を感じた俺は思わず身を隠すようにする!

 

「や、やめろ!そういう目で俺を見るな!」

 

「ひ、酷いな。ただ、僕は筋肉が付きにくいから羨ましいと思っただけだよ」

 

だからって変な言い方するんじゃねえよ!?正直言ってここ最近で一番身の危険を感じたぞ!

するとどこからともなく謎のミイラがぬっと俺たちの前に現れた。

 

「おー、イッセーと木場、ミッテルトか」

 

そのミイラは────ゼノヴィアだった。ゼノヴィアは全身余すことなく包帯ぐるぐる巻きになっており、その姿はどっからどう見てもミイラにしか見えない。

 

「え~と、久しぶりっすねゼノヴィアちゃん……?」

 

「ああ。久しぶり」

 

「……なんだその恰好?」

 

「うん。修行してケガして包帯巻いて、修行してケガして包帯を巻いてたらこうなった」

 

ちょっと何言ってるかわからない。馬鹿なの?

 

「ほとんどミイラ女じゃねぇか!」

 

「失敬な。永久保存されるつもりはないぞ?」

 

「そういう意味じゃねぇよ!」

 

相変わらず訳の分からんことする子だな。なんていうか、流石は安定のゼノヴィアさんと言ったところか。

まあ、修行の成果というか、木場ほどじゃないにしてもゼノヴィアもパワーアップしてるのが見て取れる。

いや、外見はむしろ劣化してるんだけど……。

 

「イッセーさん!ミッテルトさんに木場さん、ゼノヴィアさんも!」

 

城門から出てきたのはアーシアだった。服は制服じゃなくてシスター服。

やっぱりアーシアといえばこの服だよな。メチャクチャ似合ってるや。

 

「皆お帰りなの!」

 

「あら。外出組はみんな帰ってきたみたいね」

 

次に出てきたのはセラと部長の二人だ。

部長は俺に近づくとぴったりと俺に抱き着いてきた!懐かしいおっぱいの感触が俺を至上の悦びへといざなっていく!しかもメチャクチャいい匂いするし!

 

「久しぶりのイッセーの感触……相変わらず逞しいわね」

 

「そ、そう言ってもらえると光栄です!」

 

ああ、やばい。これだけで疲労とか吹き飛んでいく気がする。

 

「部長。気持ちはわからんでもないっすけど、まずは着替えとかが先じゃないっすか?」

 

ミッテルトはそんな俺と部長をジト目で見つめる。

ミッテルトの言葉にハッとした部長は俺から離れて告げる。

 

「さて、皆。入ってちょうだい。シャワーを浴びて着替えたら修行の報告会をしましょう」

 

どうやら今日は久々にベッドでぐっすり眠れそうだ。

そう考えながら、俺はグレモリーの城門を潜り抜けた。

 

 

 

 

 

****************************

 

 

 

 

 

俺たちが全員集合するのは実に二週間ぶりとなる。

外で修行していた俺、木場、ゼノヴィアはシャワーを浴びて着替えた後、俺の部屋に全員が集まることになった。

なんで俺の部屋なんだろう?一番集まりやすいからという理由らしい。

正直、部長の部屋でいいのでは?とも思ったけど部長が強く嫌がったのでこの部屋となったのだ。

……なにか見せられないものでもあるのだろうか?

まぁ、そんなわけで集まった俺たちは各自の修行を報告していた。

木場は師匠との修行顛末。ゼノヴィアの修行内容。

どちらも今の二人の実力から見るとハードと思えるもので、その甲斐あってかとてもパワーアップができたらしい。俺たち二人も龍王との修行について話した。いくつか山が消し飛んだことか。

それを聞いた皆は……完全に引いていた。

 

「部長、ごめんなさい。結構地形とか変わっちゃって……」

 

「本当に申し訳ねえっす」

 

「い、いえ別にいいわよ。二人が無事ならそれで」

 

「いつも思うんですが……イッセー先輩って本当に人間ですか?」

 

まあ、正確には人間じゃなくて“聖人”なんだけど、それを馬鹿正直にいうわけにもいかない俺は苦笑いをするしかなかった。

それを見て呆れたアザゼル先生が手を叩く。

 

「ま、今日はこんなところだろ。これで報告会は終了だ。明日はパーティーだし、今日は解散としよう」

 

こうして俺たちは明日のパーティーに備えることになった。

 

 

 

 

 

****************************

 

 

 

 

 

パーティー当日。

俺たちは駒王学園の制服に身を包んで待機していた。

パーティーの服装としてはどうなの?とも思ったが、腕章についてるグレモリーの紋章があれば大丈夫なのだと。

まあ、そもそもパーティーに参加するとか思ってなかったから、パーティー用のタキシードなんて持ってきてなかったから、そういう意味では助かったかな。

ちなみに女子勢はメイドさんとともに何処かへ行ってしまった。

木場とギャスパーも用事があるとか言って何処かへ行ったけど、何してるんだろう。

 

「よう兵藤」

 

聞き覚えのある声に振り返ると匙がいた。

 

「おう、匙。久しぶりだな。……なんでここに?」

 

「ああ。会長がリアス先輩と一緒に会場入りするってんで、俺達シトリー眷属もついてきたんだ。で、会長は先輩に会いに行ったし、仕方がないから屋敷をうろうろしてたんだよ。そしたら、ここに出た」

 

なるほど。つまりは迷子か。

まあ、この本邸、かなり広いから迷うのも分かるけどね。

そんなこと考えていると、匙は近くにあった椅子に座る。何やら真剣な面立ちだ。

 

「俺もかなり修行してきたぜ。お前に負けないようにな」

 

「……俺、ゲームでないんだけど?」

 

「わかってるよ。でもよ、いつかはお前と戦うこともあるかもしれないだろ?」

 

まあ、これから先、そういう機会も確かにあるかもしれない。匙はそう言う先のことも見据えているのか。

その目からは強い覚悟を感じる。

現時点の単純な戦力でいえば木場には劣ってるだろうが、これは相当手ごわそうだな。

気合も部長たち以上に入ってるように感じられる。これは勝敗はわからないぞ。

ゲームが楽しみになってきた俺をよそに、匙は頬を掻く。

 

「兵藤、ありがとな。この間、若手悪魔が集まった時、会長の夢が上の連中に笑われた時、怒ってくれて……」

 

「別に礼なんていいよ。俺は思ったことを言っただけだし」

 

その結果、レーティングゲームには出られなくなったが、結果的にはこれでよかったとも思っている。

俺たちが出たらそれこそ“バランスブレイカー”もいいところだしな。

 

「……俺さ、先生になるのが夢なんだ」

 

匙の言葉に俺は無言で頷く。そんな俺を見た匙は自らの夢を語り出した。

 

「あの時も言ったように、会長はレーティングゲーム専門の学校を建てようとしている。悪魔なら、上級下級貴族平民関係なしに入れる学校を。悪魔ではまだまだ差別意識が根強くて、レーティングゲームの学校も貴族にしか受け入れられてない。貴族以外の悪魔でも、ゲームの結果次第で上級悪魔に昇格できるのに……会長はそれを何とかしたいって言ってた」

 

悪魔の世界でも階級による差別は根強い。

それを何とかしたいと思う気持ちはわかる。向こうの世界でも、緩和されてきたとはいえ、魔物に対しては根強い差別意識があるしな。

俺からすれば、魔物も人も変わらない存在に思えるけど、他の人からすればそうじゃない。

悪魔も同じでいかに改革を推し進めても、納得しない人や古い思想に囚われる者も多いのだろう。

 

「だから、俺はそこで先生をしたいんだ。いっぱい勉強して、蓄えて、“兵士(ポーン)”のことを教える先生になりたいんだ。そうやって、会長のお側で、会長の手助けするのが俺の夢なんだ!」

 

匙は照れながらそう言った。

いい夢だな。正直、かなり尊敬する。きっとコイツならいい先生になるだろう。不思議とそんな確信が俺にはあった。

 

「立派な目標だな。いい先生になれよ」

 

「ああ。そのためにも、今回のゲームは必ず勝つ!」

 

「言っとくけど、一筋縄じゃいかないぜ。木場もかなり強くなってるからな」

 

「それでも勝つのは俺たちだ。上にバカにされた以上、結果を出さないといけないしな」

 

匙の瞳は真剣そのもの。こういう奴は本当に油断できない。

ゲームがどうなるのか、とても楽しみだぜ。

 

「それはそうとだ……」

 

「ん?なんだ?」

 

「先生になりたいんだったら、勉強も大事だが、早めに子どもと触れ合う機会とかもうけた方がいいぜ。子どもは生意気は奴が多いからな。早い段階から慣れておいた方がいい」

 

本当に子どもというのは油断ならない存在だからな。

早い段階からそういうのに慣れた方がいいだろうという俺からのアドバイスだ。

そんな俺の言葉に匙は怪訝そうな顔で首を傾げる。

 

「……なんか、含みのある感じだな?そういう経験とかあるの?」

 

「ああ、俺、少しの間だけど、講師のアルバイトしたことあるからな。その経験則みたいなもんだよ」

 

「え!?マジで!?」

 

そう。僅か一年の間だが、俺は『テンペスト人材育成学園』にて担任教師を勤めていた時期があったのだ。

生意気な奴らが多くて大変だったけど、それでも上手くやっていけたのは偏に子ども達と触れ合う経験があったからだと思う。

10年前に剣也たちと一緒に過ごしたことで、子どもの扱いに慣れてたから、そこそこ上手くやれたんだよな。

……まあ、座学を教える……なんてことは流石に剣也たち相手にすらやったことなかったし、慣れるまで時間を要したけどな……。

そういうのも踏まえて、できる限りの経験は今のうちに積んだ方がいいだろう。

 

「あ、じゃあさ、兵藤がアルバイトしてた場所教えてくれよ」

 

「……え?」

 

「いや、一から探すのも大変だし、お前が塾講師のアルバイトしていたなんてかなり意外だけど、バイトしてたんならお前の方から紹介とかも出きるだろ?」

 

「あ~、それは……」

 

やべえ!?予想だにしてない展開になってきたぞ!?

どうしよう!?流石に異世界関連のことを話すわけにはいかないし、適当にごまかすか?

 

「匙くんは今は悪魔関連の業務で忙しいっしょ?取り合えず、レーティングゲームやらなんやらのゴタゴタが終わったあとでもいいんじゃないっすか?」

 

「あ、ミッテ…………」

 

「ちょっとイッセー。あまり迂闊なことは……って、どうしたんすか?」

 

ミッテルトの声に振り向くと、そこにはドレスアップした皆の姿があった。

ミッテルトはウエディングドレスを彷彿とさせる純白のドレスを着ており、胸元にある一輪の花がその美しさをさらに引き立てていた。

その姿に見惚れてしまい、俺は言葉を発することができずにいた。

ミッテルト以外の皆も西洋ドレスを着込んでおり、とても美しい。

ああ、もう死んでも……………ん?

 

「……いや、なんでお前までドレス着てんだよギャスパー!」

 

「だ、だって、ドレス着たかったんだもん」

 

そう、一瞬気付かなかったが、よくよくみるとギャスパーもドレスを着て佇んでいたのだ!似合ってるのが非常に腹立つ!

パーティーの場にまで趣味を持ち込むとは、コイツの女装癖も大したもんだな。

 

「サジ?どうしました?」

 

見ると匙はミッテルトを見た時の俺のように固まっていた。

わかるぞ!その気持ち!惚れた女のドレス姿はマジでいいよな!

そんな状況の中、軽い地響きと共に何かが庭に飛来する思い音がしてきた。

一瞬ミリムさんか!?とも思ったが、この世界にそんなことあるわけがなく、そもそもつい昨日約束したばかりだろうと思い直した。

 

「タンニーンのおっさん。もう来てくれたのか」

 

庭をみると中々に圧巻な光景が広がっていた。

何しろ、タンニーンのおっさんと同じくらいの大きさのドラゴンが十体も佇んでいたのだ。

これがおっさんの眷属の方たちなのかな?全員ドラゴンなのか。

 

「約束通り来たぞ!兵藤一誠!」

 

「うん!ありがとう、おっさん!」

 

「お前たちが背に乗ってる間、特殊な結界を発生させる。それで空中でも髪や衣装は乱れないだろう」

 

女はその辺大事だからな。とおっさんは豪快に笑う。

流石は龍王!こんな細やかな気遣いまでできるとは……。

 

「ありがとう、タンニーン。会場まで頼むわ。シトリーの者もいるのだけど、だいじょうぶかしら?」

 

「おお、リアス嬢。美しい限りだな。もちろん構わんよ。任せてくれ」

 

そういいながら、タンニーンのおっさんとその眷属龍達は俺たちが乗りやすいように体をかがめてくれた。

皆はおっさんやその眷属の背に乗り、鱗や角をしっかりとつかむ。俺もおっさんの頭に乗り、その立派な角をつかんだ。

 

「私も行きたかったの……」

 

「ごめんな。代わりと言っちゃなんだけど、何かしらのお土産持ってくるからさ」

 

「……わかったの」

 

下ではセラがしょんぼりしていた。流石にセラがパーティーに行くのは無理だったみたいだ。

元来、悪魔のパーティーだし、そもそも眷属候補という形とはいえ、人間である俺や堕天使であるミッテルトが行くこと自体、サーゼクスさんも相当無理してくれたらしいしな。

こればかりは仕方ないといえる。

 

「では行くぞ。しっかりつかまっていろよ」

 

おっさん達はグレモリー、シトリーの両眷属が乗りこんだのを確認するとその翼をはためかせ、大空へと舞い上がった。



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不死鳥の妹と再会です

イッセーside

 

 

 

 

「うおお!絶景だな!」

 

『ドラゴンの上からこの風景を見るとは……何とも言えん体験だな……』

 

俺たちはタンニーンのおっさんとともに、サーゼクスさん主催のパーティー会場に向かっている。

うは!自分で飛ぶのもいいけど、やっぱりドラゴンの上から見る風景もなかなかいいものだな!

ドライグの苦笑交じりの言葉におっさんは笑いながら答える。

 

「ハハハ、それは面白い体験だろうな」

 

しばらくおっさんは笑っていたが、やがて少し寂しそうに呟いた。

 

「しかし、力ある強大なドラゴンで現役なのは俺を含めてわずか三匹のみか。いや、俺は悪魔に転生してるから正確には二匹。オーフィスとティアマットくらいだな。隠居した玉龍(ウーロン)とミドガルズオルムはもう表には出ないだろうし、お前たち二天龍とヴリドラは神器に封印。いつの時代も強力なドラゴンは退治される。強いドラゴンは怖い存在だものな」

 

なるほど。この時代のこの世界では、強力なドラゴンは本当に数少ないんだな。

ティアマットさんが言ってた“クロウ・クルワッハ”とかいうドラゴンや、次元の狭間を守護する“グレートレッド”は例外としてもわずかこれだけ。

ドライグ曰く、昔はさらに強力なドラゴンや邪龍なんかもいたらしいが、そのほとんどが討伐されるか封印されたらしい。

思えば向こうの世界でもヤンチャしてたらしい師匠は封印されてたし、ヴェルダナーヴァも人間の手で倒されてる。強大な力が恐れられるのはどこの世界も同じなんだな。

そういえば……

 

「なんでおっさんって悪魔に転生したんだ?」

 

「ああ。理由は二つ。大きな戦をできなくなったこの時代、レーティングゲームならば色々な連中と戦えると思ったのが一つだな」

 

なるほど。強さを求めるドラゴンらしい理由だな。もう一つななんだろう。

 

「そして、もう一つの理由はドラゴンアップルだな」

 

「ドラゴンアップル?なにそれ?」

 

「龍が食べるリンゴのことだ」

 

そのまんまな名前だな。

 

「とあるドラゴンの種族にはそれでしか生きられないものもいてな。人間界にも実っていたのだが、環境の変化により絶滅してしまったのだ。それによりドラゴンアップルが実る場所は冥界にしかなくなってしまった。だが、冥界で得ようにもドラゴンは嫌われ者だ。悪魔にも堕天使にも忌み嫌われている。────だから、俺は悪魔となり、実の生っている地区を丸ごと領土にしたのだよ。上級悪魔以上になれば、魔王から冥界の一部を領土として頂戴できる。俺はそこに目をつけたのだ」

 

「ということは、食べ物に困っていたそのドラゴンの種族はおっさんの領土に住んでいるのか?」

 

「ああ。おかげさまでな。今ではドラゴンアップルを人工的に実らせる研究も行っている。特別な果実だから時間はかかるだろう。それでもその種族に未来があるのなら試す価値は大いにある」

 

すごいな。一つの種族を助けるためにそこまで出来るのか。

タンニーンのおっさんは強さだけじゃない。その在り方もまた龍王にふさわしいと思う。

 

「やっぱり、おっさんは良いドラゴンだよ」

 

「ハハハハハハッ! そんな風に言われたのは初めてだ! しかも赤龍帝からの賛辞とは痛み入る!だがな、俺は大したことはしていない。種を存属させたいのはどの生き物も同じだ。俺は種を、仲間を救おうとしただけにすぎん。それが、力あるドラゴンにできることだからな」

 

「とはいえ相当苦労しただろ。俺も今までいろいろなドラゴン見てきたけど、おっさんほど“王”に相応しいドラゴンは見たことねえよ。ホント、すげえドラゴンだよ」

 

「そうか。ありがとうな」

 

実際、気分屋で面倒くさがり屋な師匠に恋に盲目なヴェルグリンドさん。ヤンデレ気質のあるヴェルザードさん。

“竜種”以外のドラゴンも、不憫なドライグに狂信者の気があるウェンティに、少し未熟なところがある弟妹弟子の守護竜王たち。

そんな人たちに比べると、タンニーンのおっさんは遥かに王たる在り方をしているといえるだろう。

 

俺たちはそんな偉大なる龍王の背に乗りながら、しばらく談笑をしていた。

 

 

 

 

 

****************************

 

 

 

 

 

「じゃあ、俺たちは大型悪魔専用の待機スペースに行く」

 

「ありがとう。タンニーン」

 

「ありがとな!おっさん!」

 

パーティー会場に到着した俺たちはおっさんに礼を言う。おっさん達はそれを聞き届けると少し笑いながら再び羽ばたき、この敷地のどこかに移動した。

その後やってきたのは高級そうなリムジンだ。こういうのは向こうにもないから少し新鮮な感じがするな。

俺の隣にはドレス姿のミッテルトと部長が座っている。ちなみにやってきたリムジンは二両あって、後方を運転しているリムジンにはシトリー眷属が乗っているらしい。

 

「ホテル周囲に各施設も存在してて、軍も待機しているわ。下手な都市部よりもよっぽど厳重なのよ」

 

「さすがは魔王様主催のパーティーってとこっすね」

 

途中、駐在している軍人なんかも見かけるのだが、全員がB+ランクに達している精鋭ぞろいだ。

ちなみに俺は部長に髪を、ミッテルトに襟を正してもらっている。どうやらタンニーンのおっさんの頭に乗っていたおかげで髪の毛や襟元が乱れていたらしい。

まあ、そのおかげで二人に身だしなみを整えてもらえるからラッキーだけどな!部長のおっぱいが当たって気持ちいいし、ミッテルトも滅茶苦茶いい匂いがして心地いい!

 

「あれ?部長?アザゼル先生は?」

 

「あの人はほかのルートからお兄様と向かうそうよ」

 

部長はため息交じりに言うと俺も苦笑いだ。元々敵対勢力のトップなのにな。

まあ、トップ同士案外気が合うのだろう。

 

「……さっき、ソーナに宣戦布告を受けたわ。私達の夢のために、貴方たちを倒します……とね。ソーナはレーティングゲームの学び舎を建てるために人間界の学校システムを学んでいた。誰でも入れる土壌のある人間界の学校は、ソーナにとっても重要なものだったのよ」

 

「匙も先生になることが目標なんだそうです。ソーナ会長の学校で……」

 

会長も匙も目標のためにずっと備えていたんだな。本当、尊敬するぜ。

 

「それでも、負けるつもりはないわ。私達にも、夢と目標があるのですもの」

 

部長の決意も堅い。親友が相手だろうと譲らないという気迫がある。

俺は正直、どちらを応援すべきか迷うところだ。オカルト研究部の部員として部長を応援したい気持ちもあるが、匙の覚悟もよく知っている。

勝負は時の運だ。互いの実力が拮抗してるからこそ、どうなるかはわからない。

まあ、どちらも応援すればそれでいいか。

そうこうしているうちにホテルに到着した。出ていくと大勢の従業員に迎え入れられた。朱乃さんがフロントでチェックイン。そのまま最上階に向かうこととなった。

 

「イッセー。各御家に声をかけられたらあいさつするのよ」

 

「はい。まあ、俺に声かける悪魔がいるかどうか……ですけどね」

 

俺の言葉に部長は怪訝そうな表情になる。実際、長き時を生きる悪魔も大勢出る以上、なかなか難しいと思うんだよな。

エレベーターも到着し、一歩出ると会場入り口も開かれる。

そこには煌びやかな空間があった。フロアいっぱいに大勢の悪魔と高級そうな料理の数々。こういう点も向こうとは違うな。向こうの会食普通にラーメンとか焼きそばとかカレーとか出るし……。

 

「おお、リアス姫。ますます美しくなられて」

 

「サーゼクス様もご自慢でしょうな」

 

貴族悪魔の皆々様たちは部長に見とれているようだ。まあ、気持ちはわかる。実際、メチャクチャきれいだもんな。

 

「うう、人がいっぱい……」

 

ギャスパーは俺の背中にぴったりとくっついている。ますます何のための女装だよ!?

相変わらず理解できないな……。

だが、ぶっちゃけ俺のそばにはあまり近寄らないほうがいいと思うんだがな。

そして、俺の懸念通り、どこからともなく声が聞こえてきた。

 

『なぜ人間がここに?』

 

『リアス嬢の眷属候補とかいう赤龍帝か』

 

『ここは悪魔の会合だというのに、人間が来るとはな』

 

『全く……眷属悪魔になったというならいざ知らず、候補という立場では本当にわれらの味方かも疑わしいですな』、

 

ほれ見たことか。予想通りの反応だ。

部長も俺に対する陰口が聞こえてきたのか少し呆然としている。

 

「悪魔は差別意識が強い。階級による差別意識ですらあの有様なんですから、眷属候補といえど、人間である俺が来ればこういう反応なんだろうなとは思ってましたよ」

 

「私の可愛いイッセーになんてひどい……。ちょっと言ってくるわ」

 

「私も付き合いますわ。リアス様」

 

「待ってください。別に気にしませんから、俺」

 

憤慨しながら部長と朱乃さんが何処かへ行こうとしたので俺はすかさず止める。

大丈夫とは思うけど、何かトラブルでも起きたらたまったもんじゃない。部長たちの経歴に傷がつくほうが俺は嫌だ。

 

「でも……」

 

「大丈夫ですよ。それに、思ったよりこういう声も少ないというか……好意的な人も多数いるということはわかりましたしね」

 

「その通りだとも。兵藤一誠君」

 

そう言いながら、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「フェニックス卿。お久しぶりですね」

 

現れたのはライザーとの戦いの際、少し話したフェニックス卿だった。

 

「久しぶりだね。ライザーとのゲームでは世話になった」

 

「その節は本当に申し訳ありません」

 

「いや、あのゲームは私も了承したのだから、君のせいではない。気にする必要はないよ。私()君をとても気に入ってるのだからね」

 

「ありがとうございます」

 

「正式にリアス嬢の眷属になったら是非、遊びに来てくれたまえ。君の来訪を楽しみにしているものもいるのだからね」

 

え?来訪を楽しみにしてる者?フェニックス卿は少し意味深なことを言うと、何処かへといってしまわれた。

まあ、よくはわからんが、そういうことならいつかは遊びに行きたいものだな。

その後もパーティーは続き、いろいろな家の当主、次期当主様たちとの顔合わせも済んでいく。

実際のところ、俺にいい感情を向けない悪魔ももちろんいるのだが、人間である俺にも普通に接してくれる当主様も割と大勢いたのだ。

正直言っていい意味で予想外だったな。

まだまだ悪魔界隈には根強い差別意識がある。でも、サーゼクスさん達現魔王や穏健派の悪魔たちのおかげで緩和されている部分もあるんだな。

 

その後も挨拶はしばらくの間続いた。

 

俺を嫌っているのが目に見える悪魔もいたが、好意的な悪魔もいた。

おかげで挨拶回りはスムーズに進んだが、それでも終わるころには疲れてきたな。

 

「あー、疲れた」

 

「お疲れ様っす」

 

俺はミッテルトからもらった飲み物を飲み干しながら嘆息する。

こういうのは久々だから疲れたな。俺とミッテルト、ギャスパーにアーシア、小猫ちゃんといった面々が隅で座っていると、部長と朱乃さんが女性悪魔の方々と楽しそうに談笑しているのが見えてきた。

木場は────複数の女性悪魔に囲まれている。クソ!羨ましいぜ!

他にもアーシアや小猫ちゃんの可愛さに声をかけてくる男性悪魔や堕天使であるミッテルトに声をかける悪魔もいた。

気持ちはメチャクチャわかる!どこの種族でも可愛いは正義なんだなと俺は再認識したのだった。

ところで……。

 

「小猫ちゃんはいかなくていいのか?」

 

初参加のアーシアに引きこもりのギャスパーはともかく、眷属古参でパーティーにも慣れてるであろう小猫ちゃんまでここにいるのは少し意外に感じた。

 

「……はい。イッセー先輩の側は……少し落ち着きますので……」

 

どうやら小猫ちゃんもお疲れのようだな。まあ、黒歌との修行の疲労もあるし、仕方ないと言えば仕方ないか。

 

「イッセー、皆、料理をたくさんゲットしてきたぞ」

 

「ゼノヴィア。悪いな」

 

「……ありがとうございます」

 

ゼノヴィアが大量の皿を持ってきた。そこにあるのはたくさんの豪華な料理の数々だ。器用なものだな。

それにしても、皆が談笑したり、挨拶をしたりする社交の場で躊躇なく食べ物だけを山盛りよそって持ってくるあたり、空気読まないというか……安定のゼノヴィアさんというか……。

まあ、緊張してるアーシアや疲れてる俺たちのためというのはわかるけどね。

 

「このぐらい安いものさ。アーシアも飲み物くらい口に着けたほうがいい」

 

「ありがとうございます、ゼノヴィアさん……。私、こういうの初めてで、緊張してのどがカラカラです……」

 

「お疲れ、アーシア」

 

アーシアはゼノヴィアからグラスを受けとると口につける。やっぱり初めては緊張するよな。

俺も料理を受け取り、口に運ぶ。うーん、美味い。腕のいい料理人がいるんだな。

……というか、箸も完備なんだな。まあ、転生悪魔もこの中にいるだろうし、当然と言えば当然か。

もしかしたら転生悪魔の増加なんかも悪魔の差別意識を緩和に関わっているのかもな。

そんなことを考えながら、俺が料理に舌鼓を打っていると、人が近づいてきた。

ドレスを着た女の子だった。どこかで見覚えが……って、この娘は。

 

「お、お久しぶりですわね、赤龍帝」

 

「えーと、レイヴェルだっけ?久しぶり」

 

「そうですわ。覚えてくれたのですね」

 

そう、俺に近づいてきたのは部長の元婚約相手、ライザー・フェニックスの妹の“レイヴェル・フェニックス”だった。

いやー、懐かしいな。数ヶ月ぶりか?

レイヴェルは俺に名前を呼ばれると、少し照れたような仕草をしている。

そんなレイヴェルに少し困惑しながらも、一応は話しかけてみる。

 

「元気そうだな。そういえば兄貴は元気か?」

 

ライザーのことを聞いたら、レイヴェルは表情を一転させて盛大にため息をついた。

 

「……貴方に敗北してから塞ぎ込んでしまいましたわ。よほど負けたことと、リアス様を貴方に取られたことがショックだったようです。というか、貴方の最後の一撃がよほどトラウマになってしまったらしくて……お父様も呆れておりましたわ。まあ、才能に頼って調子に乗っていたところもありますから、いい勉強になったとは思いたいですわ」

 

あらら……かなり辛辣だな。

というか、そこまでトラウマになってたのか。部長から引きこもってるって話は聞いてたけど、本当だったんだな。

これはいつか謝りに行ったほうがいいのかな? 

 

「……容赦ないね。一応、兄貴の眷属なんだろう?」

 

「ああ、それなら問題ありませんわ。お母さまが未使用の駒と交換してくださったの。おかげさまで今はお母様の眷属ということになってますの。お母様はゲームをしませんから実質フリーの“僧侶(ビショップ)”ですわ」

 

へぇ、今はライザーの眷属じゃないのか。

 

「と、ところで赤龍帝……」

 

「その赤龍帝っていうのはやめてくれよ。正直俺とドライグは別なんだし、普通に名前で呼んでくれ。レイヴェルって俺と歳そんな違わないだろう?皆からは“イッセー”って呼ばれてるしさ」

 

悪魔は年齢をいじれるらしいけど、魔力の微妙な質を見れば年齢も何となくわかるようになってきた。

実際、レイヴェルは高校生ぐらいの年齢だと思うんだよな。

俺?俺はこちらでは17歳だから問題ないの。

 

「お、お名前で呼んでもよろしいのですか!?」

 

……ん?何だこの反応?なんで、そんなに嬉しそうにしてるんだ?レイヴェルって俺のこと見下してた印象が強いんだけど……。

 

「コ、コホン。で、では遠慮なく、イッセー様と呼んで差し上げてよ」

 

「え?いやいや、“様”なんて付けなくて良いって」

 

「いいえ!これは大事なことなのです!」

 

……そ、そうなのか?悪魔の作法にそんなこと書いてなかったけどな……?

そこへ更に見知ったお姉さんが登場した。

 

「レイヴェル。旦那様のご友人がお呼びだ」

 

そこに現れたのはライザーの“戦車”、イザベラさんだ。

俺の“洋服崩壊(ドレスブレイク)”で裸体を脳内保存したからよく覚えている。

 

「分かりましたわ。では、イッセー様、これで失礼します。こ、今度お会いできたら、お茶でもいかがかしら?わ、わわ、私でよろしければ手製のケーキをご用意してあげてもよろしくてよ?」

 

「あ、ああ。じゃあ、よろしく頼むよ……?」

 

俺の返事を聞いたレイヴェルは嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら、ドレスの裾をひょいと上げ、一礼して去っていった。

う~ん、正直良くわからん娘だなぁ。

そんな俺をミッテルトは呆れたような目で見ている。

 

「イッセー。いつあの娘とフラグ建てたんっすか?」

 

「フラグ?なんのこっちゃ?」

 

「ああ。わかんないならそれでいいっす」

 

ため息をつくミッテルトに、俺は言葉の意味が分からずにいた。

そんな俺たちをイザベラさんはクスリと笑いながら見ていた。

 

「久しぶりだな兵藤一誠。こうして会うのはゲーム以来か」

 

「ああ、久しぶりだ、イザベラさん」

 

「ほう、私の名前を覚えていてくれたとは、嬉しいね。話は聞いているぞ“歴代最強の赤龍帝”。そんな君と戦えたのは今にして思えばとても光栄だ」

 

「その呼び名、ドライグが勝手に言っただけなんだけど……まあ、そう言ってもらえるとこちらもうれしいよ。イザベラさんはレイヴェルの付き添いなんだよね?」

 

「まあ、そんなところだが、それが何か?」

 

「俺、レイヴェルに何かしたかな?」

 

俺と話している時、レイヴェルは滅茶苦茶緊張してるように思えた。何か失礼なことでもしたんじゃないかと思い、聞いてみることにした。

それを聞いたイザベラさんは苦笑する。

 

「別にそう言うことじゃないよ。むしろ、婚約パーティーでの一戦以来、レイヴェルは君の話ばかりするようになってるからね。では、私もこれにて失礼する。兵藤一誠、また会おう」

 

イザベラさんはこちらに手を振って去っていった。

 

「……イッセー先輩って、悪魔の人と交友が多いんですね」

 

ギャスパーが尊敬の眼差しでそう言うんだけど……。そんなに多いかな?

いや、向こうの悪魔の交友関係は広いという自負もあるけど、こちらの世界の悪魔関連はまだまだ狭いと思うんだよな。 

こうして悪魔たちのパーティーの夜は更けていったのだった。




黒歌はヴァーリチームではないため、今回は襲撃はなく平和に終わりました。


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ゲーム開始です

アザゼルside

 

 

 

 

いよいよレーティングゲームが間近に迫ってきた。

遠くではちびドラゴンと化したタンニーンと上役どもがリアスとソーナ・シトリーの戦いを予想していた。

どいつもこいつも緊張感がねえな。

そんな時、部屋の扉が開かれる。そこから現れた人物に誰もが度肝を抜かすのだった。

 

「ふん。若造どもは老体の出迎えもできんのか」

 

古ぼけた帽子をかぶった隻眼の爺さん。白く長い髭を生やしており、それは床につきそうなぐらい長い。

服装は質素なローブ。杖をしているが、腰を痛めてるわけでもないだろう。

 

「────オーディン」

 

そう、現れたのは北欧の神々の主神、オーディン。

鎧を着た戦乙女のヴァルキリーを引き連れてのご来場だ。

 

「おーおー、久しぶりじゃねぇか、北の田舎クソジジイ」

 

俺が悪態をつくと、オーディンは髭をさすった。

 

「久しいの、悪ガキ堕天使。長年敵対していた者と仲睦まじいようじゃが……また小賢しいことでも考えているのかの?」

 

「ハッ!しきたりやら何やらで古臭い縛りを重んじる田舎神族と違って、俺ら若輩者は思考が柔軟でね。わずらわしい敵対意識よりも己らの発展向上だ」

 

「弱者どもらしい負け犬の精神じゃて。所詮は親となる神と魔王を失った小童の集まり」

 

チッ。口数だけは相変わらず減らねぇクソジジィだな。

 

「独り立ち、とは言えないものかね、クソジジィ」

 

「悪ガキどものお遊戯会にしか見えなくての、笑いしか出ぬわ」

 

……ダメだこりゃ。埒が明かねぇ。

そこへサーゼクスが席を立ち、オーディンに挨拶をする。

 

「お久しゅうございます、北の主神オーディン殿」

 

「……サーゼクスか。ゲーム観戦の招待来てやったぞい。しかし、おぬしも難儀よな。本来の血筋であるルシファーが白龍皇とは。しかもテロリストとなっている。悪魔の未来は容易ではないのぉ」

 

オーディンが皮肉を言うが、サーゼクスは笑みを浮かべたままだ。

ジジイの視線がサーゼクスの隣のセラフォルーに移る。

 

「時にセラフォルー。その格好はなんじゃな?」

 

セラフォルーの格好は日本のテレビアニメの魔女っ子だ。こいつもコスプレ好きだね。

まあ、そのおかげで、妹が苦労しているみたいだが……。

 

「あら、オーディンさま!ご存知ないのですか?これは魔法少女ですわよ☆」

 

ピースサインを横向きにチェキしやがったよ。相手は北の神だというのに、すげえ度胸だな。

 

「ふむぅ。最近の若い者にはこういうのが流行っておるのかいの。なかなか、悪くないのぅ。ふむふむ、これはこれは」

 

スケベジジイめ。

顎に手をやりながらセラフォルーのパンツやら脚やらをマジマジと眺めてやがる。

そこにお付きのヴァルキリーが介入する。

 

「オーディンさま、卑猥なことはいけません!ヴァルハラの名が泣きます!」

 

「まったく、おまえは堅いのぉ。そんなんだから勇者(エインヘリヤル)の一人や二人、ものにできんのじゃ」

 

「ど、どうせ、私は彼氏いない歴=年齢の戦乙女ですよ!私だって、か、彼氏ほしいのにぃ!うぅぅ!」

 

オーディンのその一言にヴァルキリーは泣きだす。おいおい、なんだよ、こいつは。

そんなヴァルキリーを見て、オーディンは嘆息する。

 

「すまんの。こやつはわしの現お付きじゃ。器量は良いんじゃが、いかんせん堅くての……男の一つもできん」

 

ジジイの人選が分からん。

それであんたを守れるのかね?まぁ、他の業界へのツッコミはいいか。

 

「聞いとるぞ。サーゼクス、セラフォルー、おぬしらの身内が戦うそうじゃな?まったく大事な妹たちが親友同士というのにぶつけおってからに。タチが悪いのぉ。さすがは悪魔じゃて」

 

「これぐらいは突破してもらわねば、悪魔の未来に希望が生まれません」

 

「うちのソーナちゃんが勝つに決まっているわ☆」

 

魔王様は互いに自分の妹が勝つと信じているようで。まぁ、この二人はそれぞれが究極のシスコンだしな。

それを見たオーディンは愉快そうに笑いながら空いてる席に座る。

 

「さてと。“禍の団(カオスブリゲード)”もいいんじゃがの。わしはレーティングゲームを観に来たんじゃよ。日取りはいつかな?」

 

オーディンのその言葉に場は今度開かれるゲームの話題へと移った。

各勢力の要人をしこたまゲーム観戦に招待したからな。オーディン以外にも色々な神話勢力を招いているからな。

来るかどうかは別にしても……。

それから、俺は休憩といって席を立ち、廊下の長椅子で休んでいた。お偉方でやる会談やら会議は肩が凝るぜ。

そこにサーゼクスがやって来た。なんだ、こいつも抜け出してきたのか?

サーゼクスは俺の隣に座ると尋ねてきた。

 

「アザゼル、今回のゲームをどう見てる?今回のゲーム、イッセー君は参加できないことにしている。僕は、彼女達の成長を知るいい機会だと考えているんだ」

 

「そうだな。イッセーはリアス達の精神的支柱だ。本来、主であるリアスですら、イッセーに依存しているところがある。少なくとも、ソーナはそこを狙うだろうな」

 

俺がそう言うとサーゼクスは頷く。

 

「まぁ、あいつらもそこらへん自覚してるだろうし、無様なところは見せられないって気合い入れてたからな。イッセーを欠いたあいつらがどこまでやれるか見ものだな」

 

俺はレーティングゲームの内容に思いをはせながら、凝った肩を回すのだった。

 

 

 

 

 

****************************

 

イッセーside

 

 

 

 

 

シトリー眷属とのゲーム決戦前夜。

俺達は先生の部屋に集まり、最後のミーティングをしていた。

 

「リアス、ソーナ・シトリーはグレモリー眷属のことをある程度は知っているんだろう?」

 

先生の問いに部長は頷く。

 

「ええ、おおまかなところは把握されているわね。たとえば、祐斗や朱乃、アーシア、ゼノヴィアの主力武器は認識されているわ。フェニックス家との一戦を録画したものは一部に公開されているもの。更に言うならギャスパーの神器や小猫の素性も知られているわ」

 

「なるほど。ほぼ知られてるわけか。で、お前の方はどのくらいあちらを把握してる?」

 

「ソーナのこと、副会長である“女王”のこと、他数名の能力は知っているわ。一部判明していない能力の者もいるけれど」

 

「不利な面もあると。まあ、その辺はゲームでも実際の戦闘でもよくあることだ。戦闘中に神器が進化、変化する例もある。細心の注意をはらえばいい。相手の数は八名か」

 

「ええ。

(キング)”一、“女王(クイーン)”一、“戦車(ルーク)”一、“騎士(ナイト)”一、“僧侶(ビショップ)”二、“兵士(ポーン)”二で八名。まだ全部の駒はそろっていないみたいだけれど数ではこちらより一人多いわ」

 

アザゼル先生が用意したホワイトボードに書き込んでいく。先生がいると話が速く進むな。

相手は八人。しかも、一人一人がB+ランクから会長を含め、Aランクの奴も何人かいたな。一人一人の質ならば部長たちが勝っているけど、向こうは部長達の情報を正確に把握している。

これは勝負がわからんな。

 

「レーティングゲームは、プレイヤーに細かなタイプをつけて分けている。パワー、テクニック、ウィザード、サポート。このなかでなら、リアスはウィザードタイプ。いわゆる魔力全般に秀でたタイプだ。朱乃も同様。木場はテクニックタイプ。スピードや技で戦う者。ゼノヴィアはスピード方面に秀でたパワータイプ。一撃必殺を狙うプレイヤーだ。アーシアとギャスパーはサポートタイプ。さらに細かく分けるなら、アーシアはウィザードタイプのほうに近く、ギャスパーはテクニックタイプのほうに近い。小猫はパワータイプだ」

 

「私は眷属の時はウィザードタイプに分類されてたにゃん」

 

「へ~面白い分け方っすね。さしずめうちはヴィザード寄りのテクニックタイプってとこすかね?」

 

ミッテルトの言うとおり、なかなか面白い分け方だよな。この中でいうなら、俺はパワータイプってところかな?

贈り物(ギフト)”によるサポートや魔法もそこそこできるから、案外どの区分でも行けるかもな。

その点でいえば、強化もサポートもできる便利なユニークスキルを持つミッテルトも同じかな?

昔はウィザードタイプだったという黒歌も、今は万能だしどのタイプでもいけるのだろう。

木場達がどの位置のタイプなのか、十字線を引いてグラフに名前を書いていく。

こうしてみると、なかなか的を得てるように見えるしとても分かりやすいな。

 

「パワータイプが一番気をつけなくてはいけないのはカウンターだ。テクニックタイプのなかでも厄介な部類。それがカウンター系能力。神器でもカウンター系があるわけだが、これを身につけている相手と戦う場合、小猫やゼノヴィアのようなパワータイプはカウンター一発で形勢が逆転されることもある。カウンターってのはこちらの力をプラス相手の力で自分に返ってくるからな。自分が強ければ強いだけダメージも尋常ではなくなる」

 

まあ、受け流しとかはやられると厄介だからな。朧流の剣技も受け流しからのカウンター技とかあるし、ウルティマさんと模擬戦した時なんか、普段自分がやっていた返し技をされて、かなりイラついたし……。

聞いた話によると、“蟲魔族(インセクター)”の蟲后妃、“ピリオド”はカレラさんの最強魔法をそっくりそのまま跳ね返すとかいう頭おかしいことをしたそうだ。

このように、カウンター技はかなり厄介なんだよな。そういうスキルや神器を持つ相手がいたら面倒なことこの上なしだろう。

 

「カウンターならば、力で押し切ってみせる」

 

おいおい、ゼノヴィア。それは根本的な解決にはならないだろ。

確かに、パワーで押し切るという攻略法もあるにはあるけどさ、それは相手と自分によっぽどの力量差がなければ不可能だ。

 

「それで乗り切ることもできるが……相手がその道の天才なら、おまえは確実にやられる。カウンター使いは術の朱乃や技の木場、もしくはヴァンパイアの特殊能力を有するギャスパーで受けたほうがいい。何事も相性だ。パワータイプは単純に強い。だが、テクニックタイプと戦うにはリスクが大きい」

 

なんやかんやで戦闘経験豊富なゼノヴィアは思い当たる節があるのか黙ってしまった。

まあ、パワーも大事だけど、この場合は相手を翻弄するテクニックとかを身に着けるほうがよっぽど堅実で現実的だろう。

 

「世間はお前たちの勝利する確率が高いと見ている……が、何事にも絶対はない。実際のチェス同様、局面によって価値は変動する」

 

先生の言葉にみんな真剣に聞き入っていた。

 

「俺は長く生きてきたからわかる。勝てる可能性が一割以下でも勝利してきた連中が大勢いた。1パーセントの可能性を甘く見るな。絶対に勝てるとは思うな。だが、絶対に()()()()と思え。これが俺からの最後のアドバイスだ」

 

それが今回の話し合いでした先生のアドバイスだった。

俺もそう思う。帝国との戦いも天魔大戦も苦しいものだった。でも、勝つために努力し、戦い抜こうとしたからこそ勝利できたのだ。

その後、先生が抜けたメンバーで決戦の日まで戦術を話し合った。

 

 

 

 

****************************

 

 

 

 

そしていよいよ決戦の日を迎えた。

グレモリー本邸の地下にゲーム場へ移動する専用の魔法陣が存在する。

俺以外の眷属がその魔法陣の上に集まり、もうすぐ始まるゲーム場への移動に備えていた。

アーシアとゼノヴィア以外は駒王学園の夏の制服姿だ。

アーシアはシスター服、ゼノヴィアは出会った頃に着ていたあのボンテージっぽい戦闘服だ。

二人ともそちらの方が気合いが入るらしい。

ちなみに聞いた話によると、シトリー側も駒王の制服らしい。

ジオティクスさん、ヴェネラナさん、ミリキャス、アザゼル先生が魔法陣の外から声をかける。

 

「リアス、頑張りなさい」

 

「次期当主として恥じぬ戦いをしなさい。眷属の皆さんもですよ?」

 

「がんばって、リアス姉さま!」

 

「まぁ、俺が教えられることは教えた。あとは気張れや」

 

この場にいないのはサーゼクスさんとグレイフィアさんのみだ。あの人たちは要人用の会場にいるらしい。

アザゼル先生もこの後そちらの会場に移動するんだと。

他勢力のVIPまで来てるらしいし、この試合の注目度がよくわかる。

魔王の妹同士の戦い。俺もどうなるか滅茶苦茶気になるしな。

しばらくすると、魔法陣が輝きだした。移動する準備が出来たみたいだ。

 

「皆、頑張れよ!」

 

「応援してるっすよ」

 

俺たちは最後にエールを送る。

この場にいない黒歌もセラと一緒にゲームの中継を見ているらしいし、きっと小猫ちゃんのことを応援してるだろう。

部長は緊張がほぐれたかのように微笑むと、光が皆を完全に包み込む。それと同時に皆は転移していった。

……ついにゲームが始まる!!

後は皆の健闘を祈るだけだ。

頑張れよ。皆!

 

 

 

 

 

****************************

 

ソーナside

 

 

 

 

もうすぐレーティングゲームが始まる。私は確認のため、気合を入れていたサジに話しかける。

 

「……サジ、首尾はどうですか?」

 

「いいですよ。この日のために猛特訓しましたからね」

 

サジの言葉に私は少し申し訳なく思ってしまう。

私があのメロウなる存在に洗脳された際、リアスだけでなく、下僕であるサジをも傷つけてしまった。

それでもサジは私の夢のために頑張ってくれる。それこそ()()()()()()……。

 

「……ありがとうサジ。こんなふがいない主についてきてくれて」

 

ふと漏れ出た言葉にサジは複雑そうな顔をしながらも強い言葉で答えた。

 

「らしくないですよ会長。会長はふがいなくなんかない。会長ほど素晴らしい王はいないんですから」

 

サジの言葉に後ろに控えている眷属達もそろって頷いてくれた。

……こんなふがいない私をまだ皆は支えてくれようとしている。

ならば、私も、主として応えなければならない。

 

「……期待していますよ。皆」

 

私は……私たちは必ず勝つ。

助けてもらった身ではあるけど、容赦はしませんよ。リアス。

私の夢をかなえるためにも、今なお私を主と仰いでくれる皆のためにも、絶対に負けるわけにはいかない!



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激闘、グレモリー対シトリーです

リアスside

 

 

 

 

魔方陣で転移すると、テーブルだらけの場所にいた。

この場所には見覚えがあるわ。何度も皆と来たことがあるもの。

 

「駒王学園近くのデパートが舞台とは、流石に予想してなかったわね」

 

そう。ここは駒王学園の近くにあるデパートだった。

どうやら私達は飲食フロアに転移したようね。

 

『皆さま、このたびはグレモリー家、シトリー家の“レーティングゲーム”の審判役を担うことになりました、ルシファー眷属“女王”のグレイフィアでございます』

 

アナウンスはフェニックス戦のときと同じでグレイフィアが担当するみたいね。

 

『我が主、サーゼクス・ルシファーの名のもと、ご両家の戦いを見守らせていただきます。どうぞ、よろしくお願い致します。さっそくですが、今回のバトルフィールドはリアスさまとソーナさまの通われる学舎“駒王学園”の近隣に存在するデパートをゲームフィールドとして異空間にご用意しました』

 

ゲーム会場が見知った場所だから、やりやすいとは思う。けれど、それはソーナも同じ。

地理的アドバンテージは互いに五分といったところね。

このデパートは二階建て。一階と二階は吹き抜けの長いショッピングセンターになっていて、横面積が長い。

屋上と立体駐車場もあるため、全体でみるとかなりの広さね。

 

『両陣営、転移された先が“本陣”でございます。リアスさまの本陣が二階の東側、ソーナさまの“本陣”は一階西側でございます。“兵士”の方は“プロモーション”をする際、相手の“本陣”まで赴いてください』

 

私達の陣地とソーナの陣地は端と端。私達の陣地の周りにペットショップ、ゲームセンター、飲食フロアなどが立ち並んでいる。

本陣の下の一回には大手本屋の支店とスポーツ用品店があったはず。

ソーナの陣地には食品売り場と電気屋、ジャンクフードのお店に雑貨品売り場があったはず。

これらをいかに活用するかが重要でしょうね。

グレモリー眷属には“兵士”がいない。

でも、向こうには二人の“兵士”がいる。こちらの数が不利な分、プロモーションされたら非常に厄介ね。

 

『今回のゲームでは特別ルールがございます。各陣営に資料が送られていますので、ご確認ください。回復品である“フェニックスの涙”は各陣営に一つずつ支給されます。なお、作戦を練る時間は30分。この時間内での両チームも接触は禁止となります。それでは、作戦時間です』

 

時間は僅か三十分。一分たりとも無駄に出来ないわね。

私は皆を集め、すぐに作戦会議に移った。

 

「今回の特別ルールは『バトルフィールドとなるデパートを破壊しつくさないこと』。……つまり、派手な戦闘は行うなって意味ね」

 

「なるほど、私や副部長にとっては不利な戦場だな。効果範囲の広い攻撃ができない」

 

ゼノヴィアの言うとおりね。

朱乃の広範囲に及ぶ雷やゼノヴィアのデュランダルによる聖なる斬戟波動も使えない。屋上でならば使えるかもだけど、それは相手もわかってるはず。

誘い込むことは容易ではなさそうね。

二人の攻撃は強力な分、周囲への影響も大きい。今回のゲームでは二人の持ち味を活かすことは難しいかもしれないわね。

 

「困りましたわね。大質量による攻撃戦をほぼ封じられたようなものですわ」

 

朱乃もそれをわかってるらしく、困り顔で頬に手を当てていた。

裕斗も息を吐きながら意見を言う。

 

「ギャスパーくんの眼も効果を望めませんね。店内では隠れられる場所が多すぎる。商品もそのまま模されるでしょうし、視線を遮る物が溢れています。闇討ちされる可能性もあります。……困りましたね。これは僕らの特性上、不利な戦場です。派手な戦いができるのがリアス・グレモリー眷属の強みですから、丸々封じられる」

 

裕斗の言葉にギャスパーの件についてを言い忘れていたことに気付いた。いけないいけない。

私はギャスパーに視線を向けながら、ギャスパーに着いた制限についてを話始める。

 

「いえ、ギャスパーの眼は最初から使えないわ。こちらに規制が入ったの。『ギャスパー・ヴラディの神器使用を禁ずる』だそうよ。理由は単純明快。まだ完全に使いこなせないからね。眼による暴走でゲームの全てが台無しになったら困るという判断でしょう。しかもアザゼルが開発した神器封印メガネを装着とのことよ。────本当、用意がいいわね」

 

ギャスパーも色々と頑張ってくれたんだけど、それでもこの合宿中に神器を制御できるようにはならなかった。

イッセーが抜け、更にギャスパーまで規制が入る。なかなか難しい状況ね。ここまでのハンデを負いながら、ソーナに勝つのは難しいかもしれない。

……いえ、弱気になっては駄目ね。イッセーがいなくても私たちはやれるのだということを証明することが今回の戦いの目的なのだから。

 

「では、ギャスパー君には魔力とヴァンパイアの能力だけで戦うことになりますね」

 

「そういうことね。元々時間停止はリスクが大きいわ。能力を吸収する神器を持つ匙君が相手側にいるのだもの。例のカウンタータイプの存在もあるし、返し技をされると危険だわ」

 

今回のゲームは私たちにとっては不利なルールかもしれないわね。でも、これを乗り越えないでゲームに勝ち残ることなんてできない。

レーティングゲームはやり方次第でだれでも勝てる可能性がある。

 

「今回のゲームは私たちに不利な要素が多いわ。でも、これを乗り越えて、画面の向こうで見守っているイッセーに私たちの成長を見せつけましょう」

 

「そうですわね。不利なルールもいい機会かもしれませんわね。チームバトルの屋内戦に慣れておくのに今回の戦闘は最適ですわ」

 

朱乃の言葉に私も頷く。これから先、似たような状況なんていくらでもあるでしょうし、その為の予行演習に今ゲームは最適ね。

 

「作戦会議を始めましょう。まずは戦場の把握からね。向こうから本陣までのルートを確認しましょう」

 

「見た感じ、商品や商品棚まで再現されていますわね。ここが、デパートをそのまま再現しているとしたら、もしかしたら駐車されている車も再現されている可能性もありますわ」

 

「だとしたら、厄介ね」

 

もし車が再現されてるのなら車に隠れたりすることはもちろん、車を突っ込ませたり、爆弾にしたりと色々利用されてしまうかもしれない。

流石にあのソーナが暴走運転なんて策をするとも思えないけど、確認するに越したことはないのだから。

 

「部長、屋上と立体駐車場を見てきます。近くに階段がありますから、確認してきます」

 

「そうね。お願い、祐斗」

 

裕斗が足早に立体駐車場に向かうのを見送り、私はギャスパーに目を向ける。

 

「ギャスパーはコウモリに変化して、デパートの各所を飛んでちょうだい。序盤、あなたにはデパート内の様子を逐一知らせてもらうわよ」

 

「りょ、了解です!」

 

ギャスパーも気合が入ってるようね。思えばギャスパーはこれが初ゲームだったわね。

その分気合も入ってるのかもしれないわね。

その後も作戦会議は続き、一先ずのプランは決まった。

私は再度、頼りになる皆を見渡した。大丈夫。このメンバーでならば、ソーナが相手でも必ず勝てる!

 

「ゲーム開始は十五分後ね。十分後に此処に集合。各自、それまでリラックスして待機してちょうだい」

 

根のつめすぎもよくない。私はソーナとの戦いに備えるのだった。

 

 

 

 

 

****************************

 

木場side

 

 

 

 

 

────定刻だ。

僕たちはフロアに集まり、開始の時間を待っていた。

そして、いよいよゲームの開始を告げる店内アナウンスが流れる。

 

『開始のお時間となりました。なお、このゲームは制限時間三時間の短期決戦(ブリッツ)形式を採用しております。それでは、ゲームスタートです』

 

今回のルールはブリッツか。……ということは短時間で決着をつけることになる。

 

「指示はさっきの通りよ。祐斗と小猫、ゼノヴィアと朱乃で二手に分かれるわ。祐斗と小猫は店内からの進攻。朱乃とゼノヴィアは立体駐車場からの進攻よ。ギャスパーは序盤、複数のコウモリに変化しての店内の監視と報告。進攻具合によって、私とアーシアも裕斗側のルートを進むわ。いいわね?」

 

部長の指示を聞き、全員耳に通信用のイヤホンマイクを取り付ける。

 

「さて、可愛い私の下僕悪魔たちっ!相手はソーナ!ある程度の情報は向こうも持ってるでしょう。それでも勝つのは私達よ!私達グレモリーの力を見せつけてやりましょう!」

 

『はいッ!』

 

全員、気合が入っていた。当然だ。

部長のためにも、イッセー君に強くなった僕たちを見てもらうためにも、このゲームは絶対に負けられない。

 

「それじゃ、ゼノヴィアちゃん、行きましょうか」

 

「ああ、よろしく頼むよ。副部長」

 

朱乃さんとゼノヴィアはフロアを飛びだし、立体駐車場へと向かっていく。

立体駐車場には車もあったけど、張りぼての作り物だったから、車を使っての突貫はない。

パワーのある前衛のゼノヴィアと後方から高威力の魔法を放てる朱乃さんの二人ならば早々遅れは取らないはずだ。

 

「小猫ちゃん、僕達も行こう」

 

「はい」

 

僕と小猫ちゃんも本陣を離れて店内を進む。

小猫ちゃんが本来の力、猫又の力を使うことは眷属の皆が知っている。

小猫ちゃんはお姉さんである黒歌さんとともに修行をしたことで、仙術の力がだいぶ強化されているらしい。頼もしい限りだね。

そんな小猫ちゃんはさっそく猫耳を出して、周囲を警戒しながら進んでいる。

僕と小猫ちゃんは店内に足音が響かないように細心の注意を払いながら、歩を進める。

ここは横に長い一直線のショッピングモール。気付かれないためにも物陰に隠れながら進むしかない。

とはいえ、それは向こうも同じはず。僕たち二人は陽動だ。

仙術で相手の位置や場所をつかめる小猫ちゃんの力で正面から距離を詰めていく。その隙に朱乃さん達が会長の喉元まで進んでいく手はずになっている。

 

「どうだい、小猫ちゃん?」

 

「……動いてます。真っ直ぐこちらに向かってきている者が二人」

 

流石だ。仙術の一部を解放している小猫ちゃんは気の流れである程度は把握できるみたいだ。

気の流れを見る仙術による感知は僕の“魔力感知”よりも広い範囲を探ることができる。

僕の“魔力感知”は精々が十メートルが限界なうえ、相手にも気づかれてしまうから小猫ちゃんの力が頼りとなるんだ。

 

「……あとどのくらいで接触するかな?」

 

「……このままのペースなら、おそらく十分以内です」

 

……十分か。

近くに隠れるか、真正面から迎え撃つか。

どちらにせよ、覚悟を決めるしかない。

僕はいつでも神器を出せるように準備をする。

その瞬間、僕の“魔力感知”が反応する。上空だ!

 

「────ッ!」

 

「……上っ!」

 

僕と小猫ちゃんは咄嗟にその場から飛び退いた。

瞬間、天井へ一直線に伸びるラインが降ってきた。

 

「────木場か!まずは一撃ッ!」

 

匙君が自身の神器のラインを使いターザンみたいに降りてきて攻撃を仕掛けてきた!

匙君の背中に誰かが乗ってる!

僕はすぐに魔剣を出し、匙君の蹴りを受け止める!

ドン!という音とともに、僕は背後のお店にまで吹き飛ばされる。

落下の勢いに加え、二人分の体重が乗った一撃だ。しかも、“気闘法”の要領で魔力を乗せている!

とっさに出した魔剣ではその衝撃を殺しきれず、魔剣は粉々に砕け散っている。

それでも僕後ろがお店だった分、威力が逃げたのか、僕自身にそこまでダメージはない。

僕はすぐに立ち上がり、体勢を整えて、剣を構える。

 

「よー、木場」

 

現れたのは匙君。その隣には背中に乗っていた少女が佇んでいた。あの娘は確か、生徒会のメンバーで、一年生の仁村留流子さんだ。

匙君の右腕には黒い蛇が何匹もとぐろを巻いているかのような状態だった。

以前見た時と形状がまるで違う。

恐らく、修行を通して神器が進化したのだろう。匙君の複数のラインのうち、一つは僕の手首につながっていた。

僕は小さい魔剣を作り、ラインを切り裂いた。

 

「さすがだね匙君。あの一瞬でラインをつなげるだなんて」

 

「俺も修行したってことさ。おかげでこれだ。たまたま上から見てお前らがいてな。奇襲は成功ってところかな?」

 

僕は耳に取り付けたイヤホンマイクを通じて匙君達に聞こえない声で部長に連絡を入れる。

 

「……部長。相手と接触しました。匙君と仁村さんです」

 

『わかったわ。二人で行けそうかしら?』

 

部長の問いかけに僕は改めて匙君を見る。

相当修業したのだろう。以前とはまるで別人のように見える。

 

「……正直、わかりません。ですが、負けるつもりはありません」

 

「……相手は二人。私達もそれは同じです」

 

小猫ちゃんも通信にこたえ、相手を見つめる。数の上では二対二だ。やれる可能性は十分にあるだろう。

 

『わかったわ。二人の相手はあなた達に任せたわ』

 

「……了解です」

 

そこで通信を切る。

小猫ちゃんは一歩前に出て、オーラを纏わせた拳を構える。僕も魔剣を創造し、匙君たちに向ける。

────その時だった。

 

『リアス・グレモリー様の“僧侶”一名。リタイヤ』

 

────っ!こんなに早く!?

部長とはさっきまで通信で話していたわけだし、部長と一緒にいたアーシアさんがやられたとは考えにくい。

となると、ギャスパー君がやられたのか!?

……落ち着け。冷静になれ。頭に血が上っては勝てる戦いも勝てなくなってしまう。

出し惜しみをしている場合ではないと判断した僕は“聖魔剣”を作り、匙君に構えた。

 

「冷静だな。仲間がやられたってのによ……」

 

「こういうのには慣れておかないと身が持たないからね」

 

心中でははらわたが煮えくり返ってるけどねと付け足しながら、僕は二人の挙動を警戒する。

 

「私は仁村さんと戦います。祐斗先輩は匙先輩をお願いします」

 

「わかった。匙君は任せてくれ」

 

 

 

 

****************************

 

イッセーside

 

 

 

 

「ギャスパーの奴……ニンニクくらい我慢しろよな……」

 

「まあ、実際予想外だったでしょうし、ある程度は仕方ないんじゃないっすか?ギャスパー君もまさかニンニクを使ってくるとは思わなかったでしょうし……」

 

俺達はアザゼル先生と同じ部屋に向かいながらタブレット端末の映像を見ていた。

まあ、確かに仕方ない部分はあるかもな。なにしろ、相手がニンニクを使ってくるなんて想定をしてるはずないし……。

これはソーナ会長が一枚上手と認めざるを得ないかもしれない。

今回、ソーナ会長の本陣が食品エリアだったというのが大きい。ニンニクなんざ大量にあるんだから。

誘い込むやり方も上手かったな。あえて不審な動きをしてギャスパーの興味を引いて、そこからニンニクで包囲網を囲む。

いくらギャスパーが大量の蝙蝠に化けているとはいえ、隠れる場所の多い食品エリアだ。誘い込むことは容易だろう。

地の利を生かしたいい戦法だ。

 

「これは一筋縄じゃ行かないな」

 

「そうっすね。なんていうか、ソーナ会長も眷属の人たちも気迫がいつもとまるで違う……」

 

俺はミッテルトの言葉に軽く頷きながら、カメラに映る会長の姿を見つめるのだった。

 

 

 

 

****************************

 

朱乃side

 

 

 

 

 

 

「全く、あいつは体の鍛えが足りないからな」

 

ゼノヴィアちゃんはアナウンスを聞きながら嘆息してそう言った。

 

「だが、可愛い後輩をやられたのでね。敵を討たせてもらうよ」

 

そう言いながら、ゼノヴィアちゃんはすさまじいプレッシャーを放った。

それを見ながら、相対している女性は怯まずにこちらを見据えている。

私とゼノヴィアちゃんは立体駐車場にてメガネをかけた黒髪長髪の女性と相対していた。

駒王学園生徒会副会長にして会長の“女王”真羅椿姫。

手には薙刀。彼女は長刀の使い手であり、かなりの有段者でもある。

何度か見ていますが、その実力は確かなものですわ。

 

「ごきげんよう、姫島朱乃さん、ゼノヴィアさん。二人がこちらから来ることは分かっていました」

 

淡々と話す椿姫さん。その横から二名。

長身の女性と日本刀を携えた細身の女性が現れた。

長身の女性が“戦車”の由良翼紗さん。

日本刀を持つ女性が“騎士”の巡巴柄さんですわ。

由良さんは体術に秀でており、巡さんはもともと悪霊退治を生業とする家の出。

どうやら私たちがここに来ることは読まれていたようですわね。

 

「ゼノヴィアちゃん。デュランダルは抑えてください。フィールドを破壊すると失格になってしまいますわ」

 

「ああ、分かっているさ」

 

今回、デュランダルは使えない。

ルールの特性上、デュランダルでは上手く立ち回れないでしょう。

私の攻撃はある程度、的を絞れば周囲へ影響を出さずに出来るでしょうが、破壊力に特化しすぎているデュランダルではそれも難しい。

こういった状況を想定していたわけではありませんが、イッセー君からあれを預かっておいててよかったですわ。

 

「私が後方から援護します。ゼノヴィアちゃんは前衛をお願いできますか?」

 

「ああ、心得た。使わせてもらうぞ、イッセー」

 

そう言いながら、ゼノヴィアちゃんは空間に穴をあけ、イッセー君から託されたもう一つの聖剣を取り出した。

 

「あれは、別の聖剣!?」

 

「ああ、これはアスカロン。イッセーから借りた龍殺しの聖剣だ」

 

『!?』

 

その告白に相手全員が驚いていた。

イッセー君とアザゼル先生は修行の最中、籠手と融合したアスカロンが取り外せることに気づきましたの。

そこで急遽、ゼノヴィアと裕斗君にもアスカロンに慣れるための訓練を施した。

今のアスカロンには龍殺しの力だけではなく、赤龍帝の力もある程度は宿っており、デュランダルよりも使える幅の大きい剣へと昇華していた。

今回はルールを確認しリアスはその剣を、あらゆる聖魔剣を作ることで臨機応変に対応できる裕斗君ではなく、ゼノヴィアちゃんに託したのですわ。 

 

「はあ!」

 

「くっ」

 

ギィィィィィンッ!!

 

ゼノヴィアちゃんと椿姫さん、巡さんの剣が衝突する。

その勢いに剣から火花が散り、激しい金属音を奏でた。

剣の鍔迫り合いはしばらく拮抗するが、ゼノヴィアちゃんが再び空間に穴をあけると、空間の裂け目から聖なるオーラが漂い、アスカロンをさらに強化した。

 

「なんなの!?今のオーラはまるで……」

 

「ああ。お察しの通り、デュランダルのオーラさ。面白い使い方だろう」

 

リアスとアザゼルはデュランダルの力にも注視していた。デュランダルは破壊力に特化しすぎていて、ゼノヴィアちゃんでも完全には使いこなせなかった。

だから、そのオーラを別の剣に纏わせるという方法を見出したのですわ。

それだあけじゃありません。ここまではゼノヴィアちゃんの修行のせいか。

私も修行の成果、今ここで見せますわ!

 

「“雷光”よ!」

 

ドオオオオオオオオオン!

 

今までの雷だけじゃない。これまで封じてきた堕天使の力が私の掌から放たれる。

これを見て、椿姫さんは目を見開く。

 

「これは……姫島さん、あなたは堕天使の力を受け入れたのですか!?」

 

その問いに私は静かに頷く。

 

「ええ……。この戦いはイッセー君も見てくれている。イッセー君に私の決意を見てもらうためにも、強くなった自分を見てもらうためにも、この忌まわしい力を使いこなしてあなた達に勝ってみせますわ」

 

私は改めて雷光を椿姫さん達向けて放つ。彼女たちはそれを躱すも余波によるダメージを受けているようだ。

 

「きゃあ!?」

 

私の放った雷光の衝撃により、“騎士”である巡さんが刀を離して倒れこんだ。

この絶好の好機に私はゼノヴィアちゃんと目配せをする。ゼノヴィアちゃんもアスカロンを構え、一気に距離を詰めた。

他の者たちもそれを見て助太刀に行こうとするが、私の雷光に阻まれ、手出しできずにいる。

これで一人目……私たちの確信していた。

だが、巡さんは不敵な笑みを浮かべながら、両手をゼノヴィアちゃんに翳した。

 

「“反転(リバース)”!!」

 

瞬間、ゼノヴィアちゃんの剣は聖なるオーラから魔のオーラに変質した。

アスカロンはそのまま巡さんの肩もとに深々と突き刺さる。ですが、聖なるオーラではなくなっている影響で大ダメージには至っていない。

戸惑うゼノヴィアちゃんのスキを突き、巡さんはゼノヴィアちゃんのお腹を蹴り飛ばした。

 

「がはっ!?」

 

ゼノヴィアちゃんはその拍子にアスカロンから手を放してしまった。巡さんは肩に刺さったアスカロンを抜き取ると、ゼノヴィアちゃんに向けて構えだした。

 

「安心してください。ゲームが終わったらちゃんと返却しますので……」

 

私は目の前の現象に絶句する。

巡さんは“反転(リバース)”と叫んでいた。つまり、聖なるオーラを魔のオーラに変質させたということでしょうか?

巡さんの能力?わかりませんが、これは厄介ですわね。

本来、ゼノヴィアちゃんや裕斗君のような例外でもない限り、悪魔では握ることのできない聖剣が巡さんの手にしっかりと握られている。

 

「ゲーム終了を待つつもりはない。それはイッセーのものだ。返してもらおうか!」

 

ならばとゼノヴィアちゃんは念のためにと裕斗君から譲り受けた聖剣を取り出し、剣戟を繰り出す。

巡さんは肩を貫かれた影響で片手を使えない。両手で互角だった以上、手はないはず。

ゼノヴィアちゃんも先ほどの“反転”を警戒している。二度目はないでしょう。

それなのに、私は嫌な予感をぬぐえずにいた。

そんな私の隙をついて、今度は“戦車”である由良さんが近づいてきた。

 

「油断大敵ですよ。姫島先輩」

 

「くっ……」

 

しまった。私は由良さんの拳をとっさに受け流し、距離を取る。

ダメージはないけど、放っていた雷光が途切れてしまった。もう一度発動させようとすると、その都度由良さんは距離を詰めてくる。

雷光を使わせない気なのね。ならば……。

 

「私はイッセー君の修行メニューも欠かさず続けています。体術だって負ける気はありませんわ」

 

私は由良さんの拳を紙一重で交わし、柔術の要領で由良さんを投げ飛ばした。

 

「巡!避けて!」

 

「えっ……きゃあ!?」

 

投げ飛ばした方向にはゼノヴィアちゃんと戦っていた巡さんがいた。狙い通りですわ。

偶然ですが、拳を受け流せるちょうどいい方向に巡さんがいたので利用させてもらいましたわ。

ゼノヴィアちゃんも先ほどの“反転”から学び、刺突ではなく、上段から二人を切り裂こうとする。

────瞬間、三人の間に“女王”である椿姫さんが滑り込んだ。

 

「神器“追憶の鏡(ミラー・アリス)”」

 

椿姫さんの前に装飾のされた鏡が出現する。ゼノヴィアちゃんの剣戟はその鏡を構わず破壊するが……

 

「!?」

 

割れた鏡から放たれた波動がゼノヴィアちゃんを襲った!ゼノヴィアちゃんは鮮血を出しながら吹き飛ばされてしまう。

 

「この鏡は破壊された時、衝撃を倍にして跳ね返します。パワータイプのゼノヴィアちゃんをぶつけたのは失敗でしたね」

 

以前の能力とは違う。あれは本来、“魔物を鏡から呼び寄せる”というものだったはず。

椿姫さんの神器も変化と成長を遂げている……というわけですか。

 

「ゼノヴィアちゃん、大丈夫ですか?」

 

「ああ、なんとかな……」

 

もしもあれがデュランダルの力を有するアスカロンだったら、今の一撃で戦闘不能になっていたかもしれますんわね。

裕斗君の聖剣も強力ですが、アスカロンに比べると威力は低い。それが功を期しましたわね。

 

「これで終わりです!」

 

「くっ、タダでは死なん!」

 

倒れこんだゼノヴィアちゃんを巡さんは手に持つアスカロンで切り裂こうとする。ゼノヴィアちゃんも聖剣を強く握り、巡さんに鋭い刺突を放った。

アスカロンはゼノヴィアちゃんを深々と切り裂き、聖剣は巡さんの腹に深々と突き刺さった。

 

「仕事は果たしました……」

 

巡さんはそう言い残し、輝きとともにこの場から消えていった。

 

「……ゼノヴィアちゃん」

 

私はゼノヴィアちゃんに駆け寄っていく。ゼノヴィアちゃんは息も絶え絶えになりつつも、立ち上がろうとする。

しかし、それはかなわず、その場に倒れ伏せてしまう。

 

「アスカロンは……返してもらうぞ……」

 

ゼノヴィアちゃんはその場に残ったアスカロンを握り締め、消えていった。

 

『ソーナ・シトリー様の“騎士”一名、リアス・グレモリー様の“騎士”一名、リタイア』

 

……ゼノヴィアちゃん。貴方の思いは無駄にはしませんわ。

私は改めて二人と向き合い、雷光をかざしながら構える。

 

「これで貴方一人。雷光の力は厄介ですが、これで終わりですね」

 

「……それはどうでしょうね?」

 

そう言いながら、私は懐から()使()()()()()()()()()()()()()()()

瞬間、駒は魔力を放ちながら光り出す。

驚愕した二人の虚を突き、光から“滅びの魔力”が放たれた。

 

「まずい!」

 

「きゃああああああああ!」

 

椿姫さんと由良さんはその魔力を受け、吹き飛ばされてしまった。

威力を弱めたとはいえ、滅びの魔力をその身に受け、大ダメージを受けたのでしょう。二人とも立つことができずにいた。

 

「まさか……“キャスリング”?未使用の駒でそれを使うだなんて」

 

「さすがのソーナもこれは予期してなかったようね。まさか、“王”である私がこんな前線に、しかも直接転移してくるだなんて予想外だったでしょう?」

 

転移魔法時により現れたリアスが不敵な笑みでそう告げる。

これは戦況が不利になったときの第二案。キャスリングが未使用の駒でもできることは、和平会談の件で知れている。

その仕様をゲームに利用したというわけですわ。

本陣のアーシアちゃんはこの間無防備になってしまう諸刃の剣でもありますが、この距離ならば、数分もあれば合流できるでしょう。

椿姫さんと由良さんの体が淡い輝きを放つ。これで終わりですわね。

そう考えていると、椿姫さんがクックッと笑い出す。

 

「何がおかしいの?」

 

「確かに、こんな方法で、とは予想外でしたが、貴方が前線に出ること自体は予想していました。まさかそれが、貴方だけだとでも?」

 

「手の内は引き出せるだけ引き出せた。これで、私達の仕事はある程度は完了だ」

 

『ソーナ・シトリー様の“女王”一名、“戦車”一名、リタイア』

 

そう言いながら、二人の姿は消えていった。

言い知れない不安を搔き立てながら……。

 

 

 

 

 

****************************

 

木場side

 

 

 

 

 

「はあ、はあ……」

 

完全に想定外の展開だ。まさか、あの会長がこんな大胆な手を使うだなんて……。

 

「ぐう……ごめんなさい、匙先輩。会長」

 

『ソーナ・シトリー様の“兵士”一名、リタイア』

 

視界の端では仁村さんが小猫ちゃんに打ち込まれた拳により、リタイアしていく光景が見えた。

だが、僕はその光景よりも、目の前に佇む二人に目が離せないでいた。

小猫ちゃんも同様の様で、仁村さんが消えたのを確認するや否や、すぐさま構えだす。

 

「ご苦労様です。よくやりました。匙、留流子」

 

「ありがとうございます。────会長」

 

今、僕達の目の前には、目標であるはずの“王”ソーナ・シトリーが濃密な魔力を出しながら立ちふさがっていた。



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決着、グレモリー対シトリーです

最初に忠告しておきます。
今回メチャクチャ賛否あるかもしれないけど大目に見てください。



イッセーside

 

 

 

 

まさか、こんな展開になるとはな。

 

「あの冷静沈着な理論派の会長がこんな大胆な手を使うだなんて……」

 

「ああ。俺も驚いている」

 

画面にあるのは木場と小猫ちゃんの前に立ちふさがっているソーナ会長の姿だった。

部長が前線に出るのはまだわかる。部長は理論というよりは割と正面突破を狙う傾向があるからだ。

もちろん、そこにはちゃんとした理論を組み込んでいるのだが、それでも、取られたら負けのこの場面で出てくる胆力は相当といわざるを得ない。

────だからこそ、驚いたのだ。

部長以上に理論や理屈を重んじるソーナ会長が堂々と前線に出たことに。

 

「ソーナ会長にとってはよほど負けられない戦いなんすね」

 

「ああ。そうだな」

 

数でいえば、ソーナ会長の眷属は会長を含め、残り四人。部長たちは五人と数の上では逆転している。

だが、勝負はまだまだ分からなそうだな。俺はタブレット端末から目を離さずにそう思った。

 

 

 

 

****************************

 

木場side

 

 

 

 

 

「まさか、ソーナ会長。貴方がこんな大胆な手を使ってくるだなんて夢にも思いませんでしたよ」

 

僕は水により貫かれた脇腹をさすりながらそう言った。

先ほどまで。僕と小猫ちゃんは仁村さん、そして匙君と戦っていた。

仙術を使えるようになった小猫ちゃんは特に苦戦することもなかったけど、仁村さんは粘り続けた。

匙君もそうだ。匙君は自分にラインをつなぎ、命を魔力に変換しながら攻撃してきたのだ。

まさに命がけの行動。僕はその気迫の影で気付かずにいたんだ。

思いもよらぬ伏兵……ソーナ会長のことを。

 

「“魔力感知”に加え、聖魔剣を持つあなたは厄介ですからね。どんな状況も臨機応変に対応してしまう。ゆえに、不意打ちを食らわすしかないと判断したのです。もちろん、貴方のことも忘れてませんよ……」

 

会長はそう言いながら、小猫ちゃんのほうに視線を向ける。

 

「あの女性がいる以上、貴女が“仙術”を扱えるようになっているというのは想定していました。ゆえに、留流子には時間稼ぎをしてもらったのです。仙術による感知の範囲は広い。ですが、戦闘中はどうしても視野が狭まってしまいますからね」

 

そういえば、仁村さんは小猫ちゃんの攻撃に当たらないように回避に専念していた。

今思えば、あれは小猫ちゃんの仙術の力を知っていたんだ。

仙術による拳を食らえば、オーラを根元から折られ、戦闘不能になると……。

 

「……まあ、それでも直前で気付かれてしましましたがね」

 

会長は小猫ちゃんの後ろにある抉れた床と水たまりを見つめていた。

小猫ちゃんは直前に会長の攻撃に気付き、身をひるがえして、その勢いのまま仁村さんを攻撃したのだ。

会長からすれば、自分の攻撃を利用されたようで少し複雑なのだろう。

それにしても、この人はいったい何手先まで考えているんだ?

 

「サジ、任せましたよ」

 

「ハイ!会長!」

 

来る!

匙君はラインを伸ばし、それを巻き取ることで一気に近づいてくる。

僕は匙君の蹴りを紙一重で回避し、聖魔剣を斬り裂こうとした。

ところが……。

 

バシャァァァ!!

 

「甘えよ」

 

「なっ!?水!?」

 

だが、会長の水の魔力が匙君の盾となり、攻撃が弾かれてしまう。

 

「っ!?」

 

一瞬呆気にとられた僕を匙君は見逃さなかった。匙君は貫かれた僕の脇腹目掛けて渾身の蹴りをいれたんだ。

僕はその衝撃で吹き飛ばされてしまう。

 

「えい!」

 

小猫ちゃんは匙君と離れ、孤立した会長と距離を詰め、仙術を纏わせた拳を叩き込もうとする。

だが、会長は慌てずに手を翳す。

すると、水でできた鷹や蛇が現れ、小猫ちゃんに襲い掛かってくる。

 

「こんなもの……」

 

小猫ちゃんはそれを見ても慌てず、拳を的確に放ち、水を操る核となっている魔力を仙術で乱していく。

魔力の乱された水の猛獣達はたちまち勢いをなくし、音を立てて崩れ去った。

 

「……なるほど。仙術の達人である、あの女性の指導を受けたというだけはありますね」

 

あの女性……黒歌さんのことだろう。あの人は今も指名手配中の身。言葉を濁すのはこの試合を見ている者達を混乱させないためだと思う。

会長は再び水の獣達を放つが、小猫ちゃんはそれを一撃のもとに叩きのめしている。

その動きは今までの小猫ちゃんとはまるで違う。これが小猫ちゃんの修行の成果なのか!

 

「はあ!」

 

「ぐはっ!」

 

水の獣を粉砕した小猫ちゃんは本丸である会長にその拳を撃ち込んだ!

 

「会長!?」

 

匙君は僕の相手をしながら複数あるラインを伸ばし、会長を引き上げた。

会長は仙術による攻撃を受けたにも関わらず、少しのダメージで済んでいるようだ。

 

「会長!大丈夫ですか!?」

 

「ええ。服の下に水のクッションを仕込んでましたからね」

 

見ると会長の衣服はずぶ濡れになっていた。水の魔力を防具にしていたのか?

会長は水の魔力を自在に操れるとは聞いてたけど、ここまで繊細なことができるのか!?

 

「……見誤りましたね。木場くんよりも警戒すべきは塔城さんでしたか……」

 

「私は“冥界猫(ヘルキャット)”になるんです。会長が相手でも負けません」

 

「……そうですか。貴女にも貴女なりの思いがあるのですね」

 

ですが……そう付け加えながら、会長はさらに魔力を高める。瞬間、水のよって形作られた獣がさらに複数体出現した。

会長は水の蛇に乗りながら強い瞳で僕たちを見据えている。

 

「私にも絶対に負けられない理由があります。勝ちを譲るつもりはありません」

 

水の獣達は再び僕たちに襲い掛かってきた。

僕は水を吸い取る性質を持つ“聖魔剣”を作り出し、水の獣達をすいとろうとする。

 

「こんなもの……」

 

小猫ちゃんはそう言いながら、仙術の拳を水の獣達に叩き込む。先ほどと同じで小猫ちゃんの拳を受けた瞬間、獣はただの水に戻ってしまう。

 

「俺を忘れるんじゃねえ!」

 

もちろん忘れてないよ。匙君は水の獣達に紛れ、ラインを使って僕たちに攻撃を仕掛けてくる。

僕はそれを躱し、匙君に接近する。いかに鍛練したとはいえ、“騎士”のスピードを用いれば、匙君も対処は難しいはずだ。

……ん?あれは……サングラス……?

待てよ?匙君は本当に今、僕に向かってラインを繋げようとしたのか?

匙君はラインを巻き取り、猛スピードで僕の後方に移動しようとする。僕はすれ違いざまの匙君の攻撃を躱しながら、予感が的中したことを悟る。

 

「くらえ!」

 

カッ!と一瞬光が眩しくなったのを、()()()()()()()に感じとる。

やはり、閃光か。危ないところだった。“魔力感知”があるとはいえ、五感の一つである視覚を奪われれば行動を大きく制限されてしまう。

とっさに目を閉じたのは正解だったね。

 

「チッ!勘の鋭い奴だな」

 

「僕もそれなりの修羅場は潜ってきたつもりだからね」

 

聖魔剣を構えながら、僕はまずいと冷や汗をかく。

まさか、ここまでとは思わなかった。

二対二のこの状況。一見すると五分五分に見えるかもしれないけど、僕たちは先ほどから後手に回ってばかりで中々攻勢に出ることができない。

会長が直々に来るという予想外の展開から始まり、水の魔力の圧倒的な手数の多さ。

それに加え、前衛の匙君とそれに対する的確なサポートも加わり、手がつけられなくなっている。

水の獣達と戦う小猫ちゃんも疲労が目に見えてきた。このままじゃあ、じり貧だ。

 

「待たせたわね!小猫!佑斗!」

 

そんな中、僕の耳には頼もしい主の声が届いてきた。

後ろを振り向くと、そこには美しい赤い長髪をたなびかせた部長の姿があった。

 

「部長!」

 

「アーシア!回復を……」

 

「は、ハイ」

 

部長は僕の脇腹の傷を見るや否や、すぐさまアーシアさんに傷を直すよう促す。

アーシアさんも僕の傷を直すため、神器の光を放ち出す。

アーシアさんの力があれば、勝機を見出だすことができそうだ。

そう考えていると、会長は深い笑みを浮かべていた。

何だ?僕は言い様の知れない悪寒を感じながら、会長の狙いを看破しようと……

 

「!?いけない!リアス、祐斗君も領域から離れて!」

 

「え?」

 

朱乃さんのとっさの叫びに僕は一瞬呆気にとられてしまう。

瞬間、物陰から一人の少女が飛び出してきた!

 

「これを待ってました!“反転(リバース)”!」

 

「っ!?きゃあ!?」

 

「なっ!?」

 

アーシアさんの緑色の光は変質し、危険な赤色へと変化する。

瞬間、とてつもない負担が僕の全身を襲い、僕はその場に倒れ込んでしまった。

 

 

 

 

 

***********************************

 

ソーナside

 

 

 

 

『リアス・グレモリー様の“騎士”一名、“僧侶”一名、ソーナ・シトリー様の“僧侶”一名リタイア』

 

「回復用員は倒しました……会長……」

 

「ええ。よくやりました桃。あとは任せてください」

 

そう言いながら、桃はこの場から消えていく。

桃はこの作戦を話したとき、真っ先に挙手をしてくれた。自分では戦闘では役に立てないと判断したのでしょう。

……ありがとう桃。貴女の思いは無駄にはしません。

 

「……まさか、自滅覚悟で“反転”を使うだなんて」

 

「……貴女の眷属で最も厄介なのは回復用員であるアーシアさんです。アーシアさんがいるだけで、いくらダメージを与えても撃破しない限りは何度でも復活できる。故に、アーシアさんを真っ先に落とす必要があったのです」

 

「……まるで気づかなかった」

 

「先程も言いました。仙術による感知も戦闘中は狭まってしまうと。ましてやあの乱戦の中、密かに隠れていた桃達の存在に気づかなくても無理はありません」

 

塔城さんの疑問に答える同時に私のもう一人の“僧侶”である憐耶が私の側に控える。

もう不意打ちは通用しないでしょうし、隠れている意味もありませんからね。

 

「ソーナ、貴女は何処まで……」

 

「リアス、貴女はこの戦い、何をかけるつもりでしたか?」

 

私の問いかけにリアスは黙り込む。リアスの勝利にかける思いは本物でしょう。

ですが、それは()()()()()()()()()()()。私にとって、この戦いはただのゲームではない。

私にとって、この戦いはすべてを賭けるに足る戦いなのです。

 

「私は命を懸けるつもりでした。命に代えても、貴女の評価とプライドは崩させてもらいます」

 

私は目の前の敵を見据え、そう宣言した。

 

 

 

 

 

****************************

 

リアスside

 

 

 

 

 

「命に代えても、貴女の評価とプライドは崩させてもらいます」

 

ソーナの言葉に私は苦虫を嚙み潰す。

ソーナの放つ執念にも似た思いに飲み込まれてしまっている。

甘かった……。ソーナは本気だ。本気で命を懸けてこの戦いに臨んでいるのだ。

ソーナはいったいどこまで計算して……いや、それ以前に、どれほどの覚悟をもってこの場にいるというの?

 

「部長。落ち着いてください。まだ勝負は終わっていません」

 

小猫の言葉に貼ったした私は即座に魔力を構える。今、この場には生き残った両眷属の全てが出そろっている。

どちらにせよ、この場で終盤(エンディング)となるでしょうね。

認めるしかない。戦略比べでは完全に私の負けだ。でも、勝負の勝ちまで譲るつもりはないわ。

 

「さて、リアス。私の水芸、とくと披露しましょう」

 

ソーナは大量の水を魔力で変化させ、宙を飛ぶ鷹、地を這う大蛇、勇ましい獅子、群れをなす狼、そして、巨大なドラゴンを幾重にも作り出していた。

流石ね。純粋な魔力の技術は私よりも上でしょうね。けど……。

 

「望むところよ!ソーナ!」

 

魔力の量と破壊力ならば私のほうが上なのよ。

私は滅びの魔力を圧縮し、無数の魔力弾を形成する。魔力弾と水の獣がぶつかり合う。

結果、水の獣は消滅し、なおも勢いの止まらない魔力弾がソーナめがけて飛んでいく。

その魔力弾を匙君のラインが受け止めた!

ラインとつながった魔力弾は消滅の力を発揮し、ラインを消し飛ばすと同時に、匙君に吸収されていく。

 

「消し飛ぶ前に吸収しきるつもりでしたけど、リアス様も流石ですね!」

 

「雷光よ!」

 

朱乃の“雷光”がソーナ達に向かって放たれる。

悪魔にとっては一撃受ければ致命傷になる光の力。受ければひとたまりもないでしょうね。

だけど、ソーナは水でそれすらも回避してしまう。

 

「雷光の力……予想以上に厄介ですね。一撃でも喰らえば終わりでしょうね」

 

「はあ!」

 

そこで残ったソーナの“僧侶”草下憐耶さんが攻撃を仕掛けてくる。

でも、どうやら彼女は攻撃は不得意の様ね。彼女の魔法による一撃は朱乃の結界により、容易く防がれる。

 

「それでも!」

 

せめて一撃でも浴びせようと、彼女は私達に魔法による攻撃を放ち続ける。

そんな彼女に朱乃は雷光を放った。その強力な一撃を彼女は“反転”で防ごうとするが、“雷光”は“光”と“雷”の二属性攻撃。雷光は防がれることなく、草下さんの体を貫いた。

“反転”は強力だけど、どちらかの属性しか逆転できないのかもしれないわね。もしかしたら、そういったこともできるのかもしれないけど、使いこなすには修行が足りなかったのかもしれない。

 

『ソーナ・シトリー様の“僧侶”一名リタイア』

 

「なるほど、雷光には“反転”は効果がないようですね。少なくとも現段階では……」

 

「はあ!」

 

小猫の攻撃を水でいなしながら、ソーナは冷や汗をかく。

互いの手札はほとんど割れている。ソーナの水は強力で、しかも、デパートという水を大量に確保できる場所だから、正直キリがない。けど、それを操るソーナの魔力は無尽蔵じゃない。

時間をかけるにつれ、どんどんソーナの魔力量は少なくなっていってる。

これなら……そう思った瞬間、ソーナの魔力が跳ね上がった!

一体何が……見ると、ソーナの腕にはラインがつながっていた!

なるほど、そのラインから、魔力を供給してるのね。でも、魔力を渡している匙君はかなりつらそうだ。

見ると、自分自身にもラインをつなげている。自らの命……生命力そのものを魔力に変換してるのね。

 

「魔力の低い俺でも、こうすれば、高い魔力をひねり出せる。寿命が縮むかもしれない賭けだけど、長い悪魔の寿命なら百年くらい問題ないでしょう」

 

獰猛な笑みで匙君は笑って見せた。彼だけじゃない。

ソーナの眷属全員が凄まじい覚悟をもってこの戦いに挑んでいる。

 

「……私は先日の戦い。敵にいともたやすく敗れ、あまつさえ操られ、結果眷属に牙をむいてしまった」

 

ソーナは悲しげな瞳でそう呟く。

でも、それも一瞬。ソーナはすぐに強い瞳で私たち全員を見据えた。

 

「ですが、彼らはそんな情けない私に今もなお付いてきてくれる。私の夢を支えようとしてくれるのです……」

 

「会長の言う通り。俺達は皆、会長の夢を信じてる。この戦いは冥界全土に放送されている。俺達を……会長を馬鹿にしたやつらに、俺達シトリー眷属の本気を見せつけるためにも、負けるわけにはいかないんですよ!」

 

……なるほど。だからソーナは似合わない大胆な手を取ってまでこの戦いを勝とうとしてるわけね。

全ては、自分たちの真の強さを見せつけるために……。

ソーナ達の覚悟はよくわかったわ。

 

「……それでも、私達だって負けるわけにはいかない!イッセーがいなくても、私達は強いと見せつけるためにね!」

 

「いいでしょう!決着をつけましょう、リアス!」

 

「行くわよソーナ!」

 

私達は朱乃と小猫の計三人。朱乃と小猫は無傷だけど、体力を大きく消耗している。

ソーナ達の方は……ソーナの魔力が全快してしまったようだけど、その分匙君が大きく消耗している。

匙君は朱乃達に任せて、私はソーナに集中した方が良さそうね。

どちらにせよ、これが最後の戦いになる。私達は互いに魔力を全開にして飛び出した!

 

 

 

 

 

*********************************

 

イッセーside

 

 

 

 

 

「……すごい戦いっすね」

 

「……そうだな」

 

俺たち二人は部屋の前で棒立ちとなり、タブレットに集中していた。

どちらも譲れない思いがある。魂がぶつかり合っている凄まじい一戦だ。

瞬間、アザゼル先生達のいるというVIP専用の部屋の扉が突如として開いた。

 

「ほっほっほ。面白い一戦じゃな。お主らもそう思うじゃろう?」

 

そこに座ってたのは長い髭が特徴的な老人だった。

EPは200万を超えており、“神性”を帯びているようだ。

恐らくは別の神話系統の神様ってところかな?

 

「遅かったじゃないかイッセー、ミッテルト。お前らもこっちで見とけ」

 

そう言いながら、部屋からアザゼル先生が俺たちを招く。

俺はそれに従い、VIP室へと入室した。中にはお爺さんにアザゼル先生だけでなく、サーゼクスさんとセラフォルーさんまで座っていた。

その場にいる全員が、視線を集中させている。

そこにはまるで映画のように大きなモニターがあった。

もちろん映し出されているのはこの一戦だ。

 

「しかし、シトリーの小娘もそうじゃが、あのドラゴンの神器を持つ小僧も中々に面白いの。主のためとはいえ、あそこまで身体を張るとは……。あれは強くなるぞ」

 

「そうでしょうそうでしょう!オーディンのおじいちゃんったら話が分かるんだから☆」

 

お爺さん────北欧神話の神“オーディン”さんはそう言いながら、愉快そうに笑う。

サーゼクスさんは複雑そうな表情だが、反面セラフォルーさんはとても嬉しそうだ。

俺も同感。匙はこれからどんどん強くなるだろう。

 

「……ちなみにイッセーはどう見るっすか?」

 

ミッテルトの問いに、全員が耳を傾ける。

……こんなところで俺に振るなよな。

 

「……タイマンならば部長が有利だ。会長の技術もすごいけど、部長の技術と決定的な差があるわけでもない。それなら、魔力量も攻撃力も会長を上回っている部長が勝つと思うぜ」

 

「匙君もすでに満身創痍。対して小猫ちゃんと朱乃さんにもまだ余裕がある。確かに有利なのは部長達っすね」

 

俺たちの見解に対し、先ほどとは逆でセラフォルーさんはむくれてしまい、サーゼクスさんは嬉しそうにしている。

実際、EP値だけで見るのならば、部長の

……とはいえ、勝負は最後までわからない。

戦いとは些細な切っ掛け一つで大きく変わってしまうものなのだから。

 

 

 

 

****************************

 

ソーナside

 

 

 

 

 

……我ながら、らしくない戦い方でしたね。

 

「はあ!」

 

「滅びよ!」

 

私の水と、リアスの滅びがぶつかり合う。

私は何とか水を手繰り寄せ、リアスの滅びの力に拮抗していますが、それでも限界が近づいているのがわかる。

サジから贈られる魔力も弱くなってきてる。当然でしょうね。このような無茶が続けられるはずがないのですから。

私はらしくないと苦笑しながら、この日の戦いのこと、今日にいたるまでのことを思い起こしていた。

サジは今もなお私に魔力を供給し続けている。これはサジが自ら提案してきたこと。

当然、当初はこの無茶を何度も止めようとした。

でも、サジはこの戦いに勝つために必要だと頑なにそれを拒んだ。

魔力さえ尽きなければ、私はリアスにだって絶対に負けないのだと……。

数日前、ゲーム運営委員会が出した戦力のランキングでは私達シトリーが最下位だった。

先日の戦いで無様な姿をさらしてしまった私への評価としては妥当。でも、サジたちはそれを認めなかった。

サジたちはその評価を覆すため、命を懸けてまで私に勝たせようとしてくれている。

……本来ならば、ここで“投了(リザイン)”をすべきなのでしょうね。

 

(でも、この戦いだけは、そんな無様な真似をするわけにはいきません)

 

いつもの私ならばおそらくそうしていたのでしょう。サジの身を顧みれば当然の判断……ですが……。

サジの眼はそんな結末を認めないのでしょう。敗退していった眷属達もそれは同じ。

 

(だから私は勝たなければならないのです!私を信じてくれた眷属達のためにも!)

 

私は歯を食いしばりながら歩を進める。次の瞬間、聞いたこともない声が私の頭に響いてきたような気がした。

きっと、この乱戦の中に感じた気の迷いなのでしょう。私はそう判断しながらも、今までにない感覚を感じていた。

 

『────個体名ソーナ・シトリーがユニークスキル“水芸者(ミセルモノ)”を獲得しました』

 

 

 

 

 

****************************

 

リアスside

 

 

 

 

「なっ!?」

 

私はソーナの水の力が増したのを感じ、即座に場を離れる。

ソーナが出している獣たちの動きが急激に速くなった!それだけじゃない。今までとは違ってまるで水獣そのものが思考してるかのような動きを見せている。

実際にはそんなことないのでしょうけど、それでも今までとはまるで違うのを肌で感じる。

 

「雷光よ!」

 

朱乃が匙君に向けて雷光を放つ。だが、水の蛇が匙君を守るように動き、雷光を受けたのだ。

いえ、それだけじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「きゃああ!?」

 

「朱乃先輩!」

 

『リアス・グレモリーの“女王”一名リタイア』

 

雷光の力を纏った水蛇の猛進により、朱乃は耐える間もなくリタイアしていく。

雷光は悪魔に対して効果抜群。いかに堕天使の血を引いているとはいえ、朱乃自身もそれは例外ではないということね。

 

「くっ、今まで力を隠していた……なんてわけじゃないでしょ?」

 

もしそうなら今、この瞬間まで出し惜しみするわけがないしね。

そんな私の疑問にソーナは答える。

 

「ええ。もしかしたら、私の魔力が実戦の中で成長したのかもしれませんね。私自身、今まで以上に水が操れている実感がありますから!」

 

そういいながら水の蛇が私に迫る。蛇は私の魔力弾を躱しつつ、確実に距離を詰めていく。

なんて速さ!裕斗のスピードと同等……下手したら上回ってるかもしれない!

 

「はあ!」

 

それを見た小猫が即座に私を抱え、退避する。だが、蛇はそれすらも追尾し、どこまでも追いかけようとしてくる。

小猫はその蛇を仙術を纏った拳で叩き落し、蛇をもとの水へ帰す。

 

「させねえ!」

 

「くっ、匙さん……」

 

匙君は気の緩んだ一瞬のスキを突き、小猫の腕にラインを巻き付ける。

小猫はラインを引っ張るがなかなか千切れない。やっぱり、龍の力を宿したラインは裕斗の魔剣のような鋭さがないと斬ることができないのね。

 

「会長!今のうちに!」

 

「わかってますサジ。これで終わりにしましょう。リアス」

 

そう言いながら、ソーナは濃密な魔力を放出する。どうやら、残りの魔力のほぼすべてを次の一撃に込めるつもりみたいね。

 

「……ええそうね。これで最後よ」

 

それを見て、私は覚悟を決め、残った魔力の全てを注ぎ込む。ソーナも巨大な龍の頭を作り出し、構える。

 

「滅びよ!」

 

「はあ!」

 

私の滅びとソーナの水が真正面からぶつかり合う。

瞬間、すさまじい衝撃波があたりを襲う。

先ほどまで避けられていたお店の商品もひっくり返り、衝突地点の真下にある床は塗装が剥がれ落ちていく。

そしてあたりが激しい閃光に包まれた。

 

「────っ!」

 

────その時、確かに私は見た。

────かき消される滅びの魔力を。

その光景を見て、私は悟った。この勝負の結果を……。

 

「……完敗ね。でも、次は負けないからね、ソーナ」

 

滅びの魔力を真正面から弾き、私の胸を小さくなった水の龍が貫いた。

胸を貫かれ、鮮血をまき散らしながら私は倒れこむ。

遠のく意識の中、ソーナは笑みを浮かべ、そう告げた。

 

「ええ。これで一勝一敗。また戦いましょう、リアス」

 

『“王”リアス・グレモリー様、リタイヤ。ソーナ・シトリー様の勝利です』

 

アナウンスとともに、私は光に包まれ、その場で意識を手放すのだった。




ソーナのユニークは実は結構前から考えてました。
まず、ソーナがなぜユニークスキルを手に入れることができたのかを先に教えときます。
ソーナはメロウの究極能力(アルティメットスキル)麗歌之王(セイレーン)”による洗脳を受けた。その影響がまだ体に残っていました。
つまり、究極能力の残滓ともいえるものが残っており、それがソーナの勝ちへの姿勢と匙の魔力も合わさり、今回ユニークスキルとして覚醒したというわけです。
この作品には仮にそういう理由がなくてもスキルを持つものもいますが、(例:ティアマット)魔素の少ない地球でスキルを手にするには最低でも魔王級の力と強い意志が必要という設定です。それでも手に入るかはわからないので、まだ力の足りないソーナがいきなりユニークスキルを手に入れたのはちょっとした異常事態なのだと認識しといてください。

ついでにソーナの現在のステータスも書いときます

ソーナ・シトリー
種族 純血悪魔
EP 5万4106
加護 レヴィアタンの加護
称号 シトリー家次期当主
ユニークスキル
水芸者(ミセルモノ)
魔力感知、魔力操作、水操作
水芸者の特徴である水操作は魔力を用いずとも水を直接操作することができる。魔力を流す行程がないため、ラグがほぼなく、少ない力で最大限の力が発揮できるため、ソーナの意思に合わせ、自由自在に水を操れる権能である。


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お見舞いです

イッセーside

 

 

 

 

「……大丈夫か?匙?」

 

「い、いや……全身がだるい……正直こうして話すのも億劫なくらいだ……」

 

「……お疲れ」

 

レーティングゲームから数日後。

俺は今、匙の病室にて見舞いをしていた。

冥界の医療班はとても優秀らしく、木場や部長達は既に完治しつつあるらしい。

だが、匙は自らの生命力を魔力に変換しながら戦うなんて荒業をし続けていた。

しかも、それを会長に送るだなんて無茶苦茶やったツケからか、冥界の医療でも完治に手間取っているらしい。

何しろコイツ、ゲーム終了とほぼ同時に力尽きて倒れちまったぐらいだからな。

仙術を使える小猫ちゃんが近くにいたからよかったものの、下手すればマジで命を落としていたかもしれない。

 

「ホント、すげえなお前」

 

「な、なんだよ急に……」

 

「純粋な賛辞だよ。正直、お前と木場なら木場の方が遥か格上。命を削ってやっと勝負が成立するレベルだ。そんなやつ相手によく戦い抜いたよな……。木場だけじゃない。他の皆もそう……お前、本当にすげえよ……」

 

コイツはコイツで気闘法みたく、魔力を身体能力向上にも使っていた。

文字通り、命を懸けて全ての能力を限界まで引き上げたからこそ、木場とも遣り合えたし部長の魔力や朱乃さんの雷光にも対抗しうることができた。

本当、大した奴だよ……。

 

「なんか、お前に褒められると悪い気しねえな。ありがとよ」

 

コンコン

 

俺達はしばらく談笑していると、誰かが戸を叩き、扉を開けた。

そこにいたのは会長とサーゼクスさんだった。

 

「やあ、匙君。目が覚めたようだね。イッセー君も久しぶりだね」

 

「ま、魔王様!?会長も……」

 

匙が目茶苦茶驚きながら二人を凝視する。

別にそこまで驚くことじゃないだろ……。会長や他の眷属の皆様なんて匙のこと心配して誰かしらは必ず病室にいたくらいなんだから……。

 

「こんにちは兵藤君。兵藤君はお見舞いですか?いつもわざわざありがとうございます」

 

「気にしないでください。部長達のついでみたいな物なんで……」

 

会長とその眷属達とは匙の見舞いついでに最近そこそこ話すようになり、良好な関係を築けているのだ。

会長眷属も美人揃いで目茶苦茶いいんだよな!正直、匙の見舞いはシトリー眷属と仲良くするのも目的のひとつだったりするのだ!

まあ、それは置いといて、サーゼクスさんは何をしに来たんだろう?

見た感じ、匙に用があったらしいけど……。

 

「君には是非とも渡したいものがあるんだ。受けとりなさい」

 

そう言うと、サーゼクスさんは懐から何やら小箱を取り出した。

 

「あ、あの……これは……?」

 

「これはレーティングゲームにおいて、優れた戦いをした眷属悪魔に贈られるものさ。君の活躍、見させてもらったよ」

 

なるほど。確かに、あの戦いで最も活躍した眷属悪魔は誰かと問われると、匙かもしれない。

仙術を駆使した小猫ちゃんに雷光で大活躍を果たした朱乃さんも凄かったが、それ以上に匙の気迫は凄かったのだから……。

 

「お、俺なんかが、そんな大層なものを受けとるわけには……結局、俺は一人も撃破することができなかったわけですし……」

 

「いいえ。サジ、貴方が受け取るべきです。貴方の活躍は間違いなく評価されてしかるべきものでした」

 

そう言うのは会長だ。

それにクスリと笑いながらサーゼクスさんも続ける。

 

「ソーナ君のいう通りだ。自分を卑下してはいけない。君だって、上を目指せる悪魔なんだ。あの北欧のオーディンも君に賛辞を送っていたほどなんだからね。私も君に期待しているよ」

 

そう言いながら、サーゼクスさんは匙の頭を軽く撫でる。

 

「何年、何十年先になってもいい。レーティングゲームの先生を目指しなさい。君なら必ずなれるさ」

 

サーゼクスさんのその一言にサジは感極まったように涙を流した。

その瞳からと目止めなく涙があふれ、顔はくしゃくしゃになっている。

 

「サジ。貴方はたくさんの人に勇姿を見せたのですよ。貴方は立派に戦い抜いたのですから……」

 

ソーナ会長も目から涙を溢れさせている。

当然だ。あれだけの戦いの果てに、会長は自らの夢に近づいたのだ。

会長もうれしかったんだろうな。夢に近づけたこと、何より自分の眷属が大きく評価されたことが。

 

「……はい。ありがとうございます」

 

……これ以上は部外者の俺が効くのは失礼だな。

俺は気配を消し、こっそりと病室を後にする。

あいつはもっと強くなる。

あいつはきっと夢をかなえる。

俺もあいつの行く末が気になる。お前がどんな先生になるのか今から楽しみだぜ。

 

 

 

 

 

****************************

 

 

 

 

 

俺は病室に入る直前の部長を見つける。

部長は匙と違い、もう完治してるので後日退院する予定だ。多分、手続きの帰りなのだろう。

部長は俺に気付くと微笑みを浮かべる。俺はそのまま病室に入り、談笑に浸るのだった。

 

「お疲れ様です、部長。今回は惜しかったですね」

 

「……いいえ、惜しくなんてない。今回は完敗だったわ。勝つ確率が高くても、負けるときは負けてしまう。身をもって痛感できたわ」

 

今回、部長の勝てる確率が圧倒的に高いというのが上級悪魔たちの評価だった。だが、ふたを開けてみればこのありさまだ。

EPだって、数値で強さがわかると聞くと聞こえはいいけど、実際はあてにならないことのほうが多い。

データはあくまで目安に過ぎない。勝負はやってみるまで分からないものだということだな。

……まあ、今回はソーナ会長の成長が一番の要因なんだけど。

まさか会長がユニークスキルを獲得するとはね。世の中何が起きるか本当にわからないものだな。

 

「でもね、イッセー。今回の戦いは私たちも得るものが大きかった。朱乃と小猫、二人が試合で自分の壁を越えてくれたのですもの。こんなに喜ばしいことはないわ」

 

「俺もそう思います。朱乃さんと小猫ちゃんが先に進めて俺も嬉しいです」

 

確かに負けこそしたが、朱乃さんも小猫ちゃんも前へと踏み出すことができた。

特に小猫ちゃんは黒歌との確執も解消できたし、部長の言うとおり、今回のゲームは得るものも大きかったな。

 

「これもイッセーのおかげね。あなたのおかげで、私の眷属は皆、抱えてたものを突破していくわ。私が思い悩んでいたものをイッセーは全部打ち破ってくれた。とても感謝しているのよ」

 

部長の言葉に俺は首を横に振った。

 

「そんな大層なものじゃないですよ。俺はただ、皆で楽しくやっていきたい。それだけを考えているだけですから」

 

実際、俺は大したことなんてしたつもりはない。

俺は皆とただ楽しく過ごしたいだけなんだから。だから、皆が壁を打ち破るとしたら、それは俺じゃなくて他ならぬ自身の力なんだと思う。

そんなふうに考えていると、部長はクスリと笑い出した。

 

「あなたが私の眷属で良かった。……これからもよろしく頼むわね」

 

「もちろんですよ、部長」

 

部長と俺は互いに微笑む。

 

コンコン

 

ふいに病室のドアがノックされる。

 

「どうぞ」

 

「失礼するっす。部長にお客様が来てるっすよ」

 

部長が返事をすると、現れたのはミッテルトだ。

……いや、彼女だけじゃない。彼女とともにいるのは超長い白髭と眼帯が特徴的な老人。

そう。北欧神話の主神“オーディン”さんだった。

 

「オーディン様ですね?初めてお目にかかります。私はリアス・グレモリーですわ。このような姿での挨拶、申し訳ありません」

 

「よいよい。セラフォルーの妹との一騎討ち、見事じゃったぞ。こういうこともある。おぬしも精進じゃな。しかし、ううむ。デカイのぉ。観戦中、こればっかり見とったぞい」

 

じいさんは部長のおっぱいをやらしい目つきで見ている!

なんだよこのじいさん!クソジジイじゃねえか!

初対面でいきなりセクハラにもほどがあるだろ!

 

「いや、イッセーが言えた義理じゃないっすけどね?」

 

ミッテルトが何か言ってるが、俺はあえてスルーする。

取り合えず、猛抗議しようとしたら側にいた鎧を着たキレイなお姉さんがじいさんの頭をハリセンで叩いた。

いいぞもっとやれ。

 

「もう!ですから卑猥な目は禁止だと、あれほど申したではありませんか!これから大切な会議なのですから、北欧の主神としてしっかりしてください!」

 

本当だよ。仮にも神話の頂点がこんなんでいいのか?

 

「……まったく隙のないヴァルキリーじゃて。わーっとるよ。これから三大勢力とギリシャのゼウス、須弥山の帝釈天とテロリスト対策の話し合いじゃったな」

 

じいさんはあたまを擦りながら、半目で呟いた。

……というか、そんなに集まってるのか。神様。

まあ、神祖の情報が秘匿されてる以上、オーフィスを頂点とする“禍の団(カオスブリケード)”のほうがこっちではメロウ以上の脅威と取れられるだろうし、仕方ないか。

 

「まぁよいわ。サーゼクスの妹と赤龍帝。わしはこれにて失礼するぞい。世の中試練だらけだが、楽しいこともたくさんある。また、どこかであることもあるじゃろう。存分に苦しみ、楽しみながら前へ進むんじゃよ。ほっほっほっ」

 

それだけ言い残すと、じいさんと鎧着たお姉さんは病室を後にした。

……というか、何しに来たんだあの人?言いたいことだけ言ってとっとと去ってしまったぞ。

なんていうか、豪快な爺さんだったな。

 

「……ところで、部長はこのあとどうするんですか?」

 

「そうね……。いったん家に戻って待機かしら?アザゼル先生からも、今は休んでろと言われてるし」

 

まあ、同感。あれほどの激闘の後じゃあ部長もまだ完全とは言えないだろうしな。

 

「失礼します」

 

「あらあら、イッセー君もいたのね」

 

すると、部長の病室に木場たちも続々と入ってきた。

皆も完全ではないにしても、傷はいえているようだし、思った以上には元気そうだな。

 

「……皆はどうだった?今回、ゲームをやってみて……」

 

俺の言葉にみんなは悔しそうに唇をかむ。

特に顕著なのが木場だ。木場は今回、匙と会長に翻弄されて何もできなかったことを悔やんでいるのだろう。

 

「今回のゲームでは、僕は何もできなかった。凄く悔しいや……」

 

「ボ、ボクも同じですぅ……。というかボクなんか、開始してすぐにやられちゃいましたし……うぅ……」

 

ギャスパーもかなり落ち込んでいるな。まあ、気持ちはわからんでもない。

この二人だけじゃない。

アーシアは木場に対して申し訳なさそうにうつむいてる。

自分の力が利用され、それが原因で木場を戦闘不能にさせてしまったことを気に病んでるのだろう。

俺はアーシアの肩に手を置き、皆と向かい合う。それに気づいた皆は俺に視線を向けた。

 

「悔しい……って皆思ってるんだと思う。でも、さっき部長が言っていた。今回のゲームは負けたけど、得るものも大きかった。悔しいなら、皆で強くなればいい!もっともっと頑張ろうぜ!」

 

「……そうね。ありがとうイッセー」

 

「……僕ももっと強くなるよ。いつか、君に追い付けるように」

 

「ぼ、ボクも頑張りますぅぅ!!」

 

俺の言葉にみんなが頷いた。気合は十分のようだな。

これから先、部長たちはどんどん強くなっていくだろう。

匙もそうだけど、部長たちの今後も楽しみだな……。

 

「全く、イッセーにほとんど言われちまったな……」

 

「あ、アザゼル先生……黒歌たちも」

 

ガラガラと扉をあけながら、先生は少し苦笑いを浮かべながら病室に入る。その後ろには、黒歌とセラもいる。

……って、おい。黒歌はまだ手配犯だろ。こんなところにいていいの?

 

「ね、姉さま……ここに来てよかったんですか?」

 

「問題ないにゃん。仙術と空間操作で意識をずらしたから、誰にも見られてないしね♪」

 

「センサーを見ても、気付かれた確率は0に近いから安心するの!」

 

そう言いながら、黒歌とセラは胸を張る。

まあ、確かに究極の力を持つ黒歌が本気を出せば、見つかることなく真正面から侵入できるだろう。

というか、センサー?聞いた話によると、セラは今、視線を感じるセンサー機能を搭載しているらしい。これは先日創ったものだそうだ。

 

「作った?」

 

「うん。隠れていくのなら、こういう機能があったほうがいいかなって思ったの」

 

ちょっと確かめてみたけど、かなり正確なセンサーだ。相当の使い手でなければ欺くことは難しいだろう。

……これほどの性能のシステムを即座に構築するとか。

ますますセラに関する謎が深まっていくな。まあ、今はいいか。

アザゼル先生は頭をかきながら気まずそうに告げる。

 

「あ~、わるかったなお前ら。今回は勝たせてやれなくてよ」

 

「いや、あれは会長が上手だったってだけですし、先生が気にする事じゃないと思いますよ」

 

「まあ、そうかもしれねえけど、俺の方針に従って負けたんだ。不満の一つや二つ出るだろうと思ってよ……」

 

アザゼル先生も修行方針を提案した立場、結構後ろめたいのだろう。

だけど、正直気にするほどでもないだろう。

 

「私たちは気にしないわ。あの戦いの中で、私達の成長も実感することができたのだから。アザゼル先生のおかげよ」

 

「……そうか。そう言ってもらえると助かる」

 

部長の言葉に先生は少し安心したように息を吐く。

元々敵陣営だってのに、ここまで気にしてるとか、本当にお人好しだな。

 

「……今回は惜しかったね。どうだった、猫又の力で戦った感想は?」

 

「……正直、よくわかりません。でも、この力がなかったら、あそこまで戦い抜くことはできなかったと思います」

 

確かに、今回小猫ちゃんは大活躍だったな。

仙術の気を利用して、会長の水の魔力の流れを乱したりと、面白い戦いを披露していたな。

身のこなしもかなり向上していたし、今回一番伸びたのは小猫ちゃんだったのかもしれないな。

 

「私も、姉さまの修行のおかげで戦えました。ありがとうございます」

 

「別にこれくらいどうってことないにゃん」

 

ちょっと照れたようにいう黒歌をほほえましく思いながら、俺は二人を見ていた。

やっぱり、姉妹は仲良くしたほうがいいよな。

 

「アーシアお姉ちゃんも元気出すの。お姉ちゃんにとっては初見だし、仕方ないの。ギャスパーお兄ちゃんも……ニンニク克服頑張るの」

 

「ありがとう。セラちゃん」

 

「は、はいぃぃぃぃ。頑張りますぅぅぅ」

 

セラはアーシアを慰めているみたいだ。開始早々やられたギャスパーについてもフォローしてあげている。

優しい子に育ってくれてるようで何よりだな。

 

「おっと、そうだ。忘れるところだった。イッセー、ミッテルト。準備が終わったからいつでも出発できるぞ」

 

「あ、本当っすか?ありがとうございます」

 

思い出したように先生は俺たちに告げる。

レーティングゲームのごたごたで時間を食ってしまったからな……。滞在期間も残りわずかだし、速めに行ったほうがよさそうだ。

……それにしても緊張してきたな。

見るとミッテルトも深呼吸で心を落ち着かせようとしている。

まあ、当然と言えば当然か……。そんな俺たちを部長たちは怪訝そうに見つめている。

 

「準備?あなた達、どこへ行くの?」

 

部長の問いに俺たちは顔を見合わせ、同時に答えた。

 

「「……挨拶(っすよ)です」」



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親子の再会と夏休みの終わりです

イッセーside

 

 

 

 

「ここが堕天使領ですか」

 

「ああ。時間があれば後で観光してみるといい」

 

俺達はアザゼル先生の案内のもと、堕天使領のとある町へと降り立った。

向こうの世界にもあった中世の町といった感じだ。レンガの建物が多く、いろいろな市場でにぎわっている。

そんな光景をミッテルトは凝視していた。その瞳には少しの涙がにじんでいる。

 

「ミッテルト?」

 

「……へ?あ、はい。なんかぼーっとしちゃって……本当、すみませんね……」

 

そう言いながら、ミッテルトは感慨深そうに町を見渡していた。

……まあ、無理もないだろう。

なんたってここは、ミッテルトが育った町なんだから。

 

「こっちだ。二人とも」

 

「はい」

 

アザゼル先生の後についていきながら、俺達は町の様子を見渡す。

……ここがミッテルトの育った町なんだな。

そんなふうに考えていると、ミッテルトは急に走り出した。ミッテルトの走った先には十字路がある。

 

「……こっちっす」

 

その十字路を迷わずミッテルトは進んでいく。次第に走るスピードも速くなっている。

自分を抑えきれてないんだろう。ある程度進むと、少し大きな一軒家の前に立ち尽くした。

……ここがそうなのか。チラッと見ると、ミッテルトは期待と不安が入り混じった目で家屋を見つめていた。

 

「ミッテルト」

 

「……わかってるっす」

 

リンゴーン!

 

ミッテルトは指を振るわせながらインターホンを鳴らす。

すると、どたどたと大きな音が響き、すさまじい勢いで扉が開かれた。

扉から出てきたのは二人の堕天使の男女だった。

一人はミッテルトそっくりの金髪が印象的な美少女。質素な服装だが、それが逆に美しさを際立たせている。堕天使であるため、見た目通りの年齢ではないことが伺える。

もう一人は少し老けた男性だ。吊り上がった青い瞳が何処となくミッテルトに似ているように見える。

二人は瞳をにじませ、震えながらミッテルトを見つめる。

 

「……ミッテルト?」

 

「……本当に……ミッテルトなのか?」

 

ミッテルトは少し呆然としていたが、二人の声を聴き、抑えきれなくなったのだろう。

ぼろぼろと大粒の涙を流し、二人に告げた。

 

「た、ただいまっす。パパ、ママ……」

 

その言葉に二人も抑えきれなくなったのだろう。二人もまた、涙を流し、ミッテルトを包み込むように抱き寄せた。

 

「うう、おかえり、ミッテルト。大きくなったわね」

 

「ずっと……ずっと心配してたんだぞ。よく、生きて……」

 

「うちも、うちも会いたかったっすよ~」

 

三人は泣きながら互いを抱き寄せる。俺はその光景を涙ぐみながら眺めるのだった。

 

 

 

 

 

****************************

 

 

 

 

「じゃあ、俺は適当に時間をつぶしてるから、水入らずで話してやんな」

 

「あ、ありがとうございます。アザゼル先生」

 

「感謝します。総督」

 

アザゼル先生はそう言いながら、何処かへと去っていった。

俺は、久しく感じなかった緊張をしながら案内された椅子へと座った。

 

「は、初めまして。兵藤一誠と申します」

 

「初めまして。ミッテルトの母の“ミイエル”と申します」

 

「“ティレル”です。貴殿の話は総督より聞いています。娘を助けていただき、ありがとうございます」

 

俺はミッテルトの実家の一室にて、ミッテルトの両親と向かい合っていた。

二人はミッテルトのことを以前からアザゼル先生に相談しており、ずっとミッテルトを探し続けていたのだという。俺のことも、先生から直接聞いたようだ。

うう、緊張してきたな……。でも、これは最初からしなければならないと覚悟してきたことだ。

俺は覚悟を決め、二人に告げる。

 

「あの……初対面でこんなこと言うのは申し訳ないと思います。でも、お願いします!俺は必ずこいつを幸せにします!だから、ミッテルトを俺にください!」

 

俺はそう叫びながら頭を下げた。

俺はミッテルトと恋人として10年以上の時を過ごしてきた。でも、それをミッテルトの両親に伝えていない……。

それがずっと気にかかっていたんだ。だから、冥界に行くと決まった時点で俺は二人に会いに行くことを決意した。

二人にしてみれば、10年以上探し求めていた愛娘がどこの馬の骨ともしれない人間に盗られるのだ。拒絶されるに決まっている。

そう思いながらの言葉だったが、それはあっけなく覆された。

 

「はい。どうか、よろしくお願いします」

 

「……へ?」

 

ミッテルトのお母さん……ミイエルさんの言葉に俺は呆気にとられてしまう。

ミイエルさんは俺とミッテルトを交互に見ながらポツリと語りだした。

 

「この子は、まだ小さかった時に私たちの前から姿を消した。いくら探しても見つからず、アザゼル様に助力してもらいながらも手掛かりすらつかめなかった……」

 

ある日、ふと目を離した隙に娘が消えてしまい、どれだけこの人たちは心配してきたか。

二人はずっと、娘の無事を祈り続けていたのだろう。

 

「あれから10数年の月日が経ち、この子は私たちの前に現れてくれた。一目見てわかったわ。この子は本物の私たちの娘なのだと……」

 

「ママ……」

 

「……ミッテルトのことはアザゼル様から聞きました。裏組織にて、ひどい扱いを受けていたらしいということも……そんな中、私たちはただ祈ることしかできませんでした。この子が辛い時、側にいることができなかった」

 

ミイエルさんのその言葉に、お父さんも目を伏せる。

その目に浮かぶのは後悔。仕方がないことだ。

アザゼル先生すら知らないことだけど、文字通り世界が違うのだから。

いくら調べても情報一つ出ることもない。何もできないという無力感が、この二人にはあったに違いない。

 

「アザゼル様からあなたのことを聞き、最初は文句の一つでもいおうと思ったのですけど……」

 

そう言いながら、ミイエルさんは慈しみを込めてミッテルトの頭を撫でた。

 

「この子の幸せそうな顔を見て、そんな気持ちは吹き飛びました。きっと、この子が辛い時、支えてくれたのはあなたなのでしょう……」

 

「私も同意見だ。どのみち、娘が辛い時、側にいてやれなかった私たちにとやかく言う権利はないでしょう」

 

ティレルさんもまた、ミッテルトを見ながらつぶやく。

 

「こうして話してみても思いました。貴方になら、娘を任せることができるって……」

 

「君には、娘をこれからも支えてほしいと思っている」

 

二人は改めて、俺と向かい合い、頭を下げた。

 

「「どうか、娘をよろしくおねがいします」」

 

「パパ……ママ……」

 

ミッテルトは二人の姿を見て、瞳を滲ませた。

 

「……約束します。必ずこいつを幸せにするって……だから、安心してください」

 

「……うちも、必ず幸せになるっす。だから、二人にも見守っててほしいっす」

 

俺は心からの決意表明を二人にした。

ミッテルトもまた、ぽろぽろと涙を流しながら宣言した。

そんな俺たちを見て、二人は安心したように頷いてくれた。

 

 

 

 

 

****************************

 

 

 

 

 

ミッテルトの実家に挨拶に行ってさらに数日が経った。

あの後、一晩俺はミッテルトの実家に泊まることになり、かなりお世話になった。

ミッテルトの部屋は当時から全く配置を変えずにいたらしい。

ミッテルトがいつか帰ってくることを祈って毎日の掃除を欠かさなかったそうだ。

それを聞いてミッテルトはまた、涙を流して喜んでいた。

人間である俺にもよくしてくれたし、本当に、いい人たちだったな……。

その後、俺達はグレモリーの本宅で部長たちと過ごし、本日をもって冥界に別れを告げることとなった。

 

「それでは、一誠君。また、会える日を楽しみにしているよ。いつでも気兼ねなく来てくれ」

 

大勢の使用人を後ろに待機させて、ジオティクスさんがそう言ってくれる。

 

「はい。ありがとうございます」

 

「一誠さん、人間界ではリアスのことよろしくお願いしますわね。娘はちょっとわがままなところがあるものだから、心配で」

 

「お、お母さま!?な、何を仰るのですか!」

 

部長は顔を真っ赤にしていた。うーん、かわいいな部長!

 

「もちろんです」

 

俺は頷いた。

部長も俺の中では大切な仲間なんだ。部長のことも、絶対に守りますよ。

 

「一誠さん。娘のことをお願いしますね」

 

「はい。任せてください」

 

駅に来てるのはグレモリーだけじゃない。ミッテルトのご両親もまた、この駅まで見送りに来てくれたのだ。

悪魔と堕天使の交流が始まったばかりとはいえ、ここまで来れたのは主にアザゼル先生が連れてきてくれたからだ。

本当、この先生には頭が上がらないな……。

 

「リアス、残りの夏休み、手紙くらいは送りなさい」

 

サーゼクスさんがミリキャスを抱えながら言う。

そのすぐ後ろにはグレイフィアさんが待機していた。

 

「はい、お兄様。ミリキャスも元気にね」

 

「うん、リアス姉さま!」

 

こうして、俺達は冥界に別れを告げるのだった。

そして乗りこんだ帰りの電車。

 

「完全に忘れてた……」

 

「うちもっす……」

 

俺とミッテルトは手つかずだった宿題に追われていた。

冥界に来てから忙しかったから、完全に忘れてました!

思い返してみれば、俺、大切な高校二年生の夏休みの大半をドラゴンと山で過ごしただけじゃねぇか!

いや、久々にミッテルトと二人きりの機会をもらったり、ミッテルトの両親に挨拶したりといろいろしたけどさ……。

とにかく、俺達は号泣しながら、現国の宿題に手をつけていた。

ちなみに俺以外の奴らは皆修業期間中に宿題の時間を設け、終わらせていたらしい。

俺達もそうしておけば……とりあえず、誰か助けて!

ヘルプミー!

 

「はぁ……」

 

ため息をつく俺。

すると、そこへ小猫ちゃんが現れて……俺の膝にお座りぃぃぃっ!?

俺は何が起きたのか分からなかったが、小猫ちゃんが俺の膝の上にお座りして、猫耳をピコピコ動かしていた。

 

「こ、小猫ちゃん……?」

 

恐る恐る顔を覗いて見ると

 

「にゃん♪」

 

満面の笑みでほほ笑まれた。瞬間、俺の脳波がはじけ飛んだ。

くそっ!破壊力が高すぎる!可愛いは正義だな!

可愛すぎるぜ、小猫ちゃん!

 

はっ!

 

ここで俺は皆からの視線を感じた。

アーシアが涙目だったり、部長が半目で睨んでいたり、朱乃さんが無言のニコニコフェイスプレッシャーを放っている。

そして、ミッテルトは殺気を放ち……。

 

「なにやってんすか!」

 

「ぐふっ!?」

 

小猫ちゃんの隙間を突き、俺の脇腹に割と重めの一撃を叩きこんだ!

痛え!ごめんて!

あまりの可愛さに我慢できなかったんだ、許してくれよ!

 

「全く、ほんと、そう言うところは変わらないっすね……。まあ、それがイッセーっすけどね」

 

そう言いながら、ミッテルトも小猫ちゃんに負けない笑顔を見せた。

こうして、列車は俺達の住む人間界へと進んでいくのだった。

この夏休みを、俺は生涯忘れることはないのだろうな……。

 

 

 

 

 

 

 

****************************

 

 

 

 

 

 

 

人間界側の地下ホームに列車は到着し、俺は大きく背伸びした。

 

「うーん、着いた着いた。さてさて、我が家に帰るとしますか」

 

そんなことを言いつつ、各自で自分の荷物を持って列車から降りる。

────瞬間、何者かがアーシアに近寄ろうとする気配を感じた。

 

「アーシア!」

 

「誰っすか!」

 

気配に気づいた俺とミッテルトが振り向くと、アーシアのすぐそばには謎の優男が佇んでいた。

その顔には見覚えがあった。

 

「貴方は……ディオドラ……?」

 

若手悪魔の会合の時にアーシアに妙な目線を送っていたやつだ。

名前は確か────ディオドラ・アスタロトだっけ?

現魔王……ベルゼブブの血筋だったはずだ。

粘着く視線でずっとアーシアのことを見つめていたからよく覚えている。

そいつは馴れ馴れしくアーシアの側に佇むだけでなく、いきなりアーシアに詰め寄ってきた。

 

「アーシア・アルジェント……。やっと会えた」

 

「あ、あの……」

 

いきなりのことで困惑するアーシア。おいおい、なんだよこいつ?新手の変質者か何かか?

 

「おい、あんた。アーシアに何の用だよ?」

 

「ちょっと、アーシアちゃんに変なことしようとかしてないっすよね?」

 

ミッテルトもこいつの異様な雰囲気を感じ取っているのか警戒している。

人の気持を察知することに長けているミッテルトがここまで警戒するってことは、やっぱりコイツ何かあるな……。

困惑する部長をよそに、俺達は二人の間に入り、目的を尋ねた。

しかし、ディオドラはそんな俺を無視してアーシアに真摯な表情で訊いてきた。

 

「邪魔だよ君たち。……僕を忘れてしまったのかな? 僕たちはあの時出会ったはずだよ」

 

ディオドラは突然胸元を開き、大きな傷跡を見せてきた。

深い傷跡だな。アーシアはそれを見て目を見開く。

 

「────っ!その傷は、もしかして……」

 

アーシア?見覚えがあるのか?

こいつはどういうことだ?上級悪魔であるディオドラと元シスターのアーシアに何らかの接点があるってことか?

 

「そう。あの時は顔を見せることが出来なかったけど、僕は君に命を救われた悪魔だよ」

 

「────っ」

 

その一言にアーシアは言葉を失う。

 

「改めて自己紹介しよう。僕の名前はディオドラ・アスタロト。傷跡が残らないほど治療してもらえる時間はなかったけど、僕は君の神器によって命を救われたんだ」

 

その言葉に俺は思い出す。アーシアは偶然、一人の悪魔を助けたことで魔女の烙印を押され、教会を追放されたということを。

その悪魔が上級悪魔?そんな偶然あるのか?

そんなことを考えていると、ディオドラはアーシアのもとに跪き、あろうことかその手にキスをする。

 

「なっ!?てめぇ、アーシアに何しやがる!」

 

怒鳴る俺を再び無視して、ディオドラはアーシアに言った。

 

「アーシア、君を迎えにきた。会合の時、挨拶できなくてゴメン。でも、こうして再び出会えたことは運命と思っている。────僕は君を愛している。僕の妻になってくれ」

 

────ディオドラは俺達の目の前でアーシアに求婚したのだった。

その目に澱んだ欲望を滲ませながら……。

夏休みが終わり、新学期が始まろうとしていた。

 

 




ミッテルトの両親の名前は天使風名前メーカーで作りました。
目茶苦茶便利やなアレ……。

ティレル
種族 堕天使
称号 下級堕天使
ミッテルトの父親。下級堕天使として“神の子を見張る者(グリゴリ)”に所属している。

ミイエル
種族 堕天使
称号 下級堕天使
ミッテルトの母親。専業主婦で一人娘であるミッテルトを大事にしていた。



再来週から次章に入ります。


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第六章 体育館裏のホーリー
二学期の始まりです


 イッセーside

 

 

 

 

 夏休みも無事に終わり、学校の方も二学期へと突入していた。

 俺は下腹部あたりに違和感を感じ、目を覚ました。

 

「……うにゃ」

 

 俺の股座で起き上がるのは小猫ちゃんだ! 

 小猫ちゃんは寝ぼけ目をさすりながら、俺の胸元に抱き着いた! 小さい身体がメチャクチャ柔らかい! 

 しかも、寝間着がYシャツだ! しかも、感触からして肌に直! 最高です! 

 

「にゃん」

 

 猫耳がピコピコ動き、尻尾もフリフリと揺れている! 尻尾ってことは、下履いていないってこと!? 

 夏休みとなり、小猫ちゃんも俺の家に住むことになったのだが……ことあるたびに俺の膝の上に乗ったりするようになったのだ。

 こうして俺の部屋……もしくは黒歌の部屋に入り込んで一緒に寝てしまうことも一度や二度ではない。

 毒舌は相変わらずだけど、もしかして懐かれてるのか? 

 俺としても、普段が普段だからどうすればいいのかわかんねえ。

 

「全く、小猫ちゃんにも困ったもんすね」

 

 そういうのは俺と同室にてもう一つのベッドで寝ていたミッテルトだ。

 ミッテルトは呆れた目で俺たちを見つつも起き上がって俺に近づいてくる。

 

「何度注意しても……こういうところは姉妹っすね」

 

「はは……」

 

 ミッテルトのいいように思わず苦笑する。確かに黒歌もこういうところあるもんな……。

 

「おはようございます。イッセーさん」

 

「おはよう。イッセー」

 

 そこにアーシアと部長が俺の部屋に入ってくる。

 アーシアは少し申し訳なさそうにしており、部長はうんざりした様子でため息をついていた。

 ……またか。

 

「またっすか?」

 

 ミッテルトもそれを見てうんざりした様子だ。

 

「ええ。またディオドラからのラブレターよ。これで何度目かしら?」

 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 冥界から帰ってきてから二週間。

 俺は大量に積まれた豪華な箱の数々を見てどうしたものかと考えていた。 

 これは全てアーシア宛に送られた物だ。

 送り主はディオドラ・アスタロト。

 若手悪魔の一人で現魔王ベルゼブブを輩出したアスタロト家の次期当主。

 今思い出しても腹が立つ。アーシアにプロポーズしてきたこと。

 あの時は部長が間に入ってくれたお陰で追い返すことが出来たんだけど……。

 ミッテルトとの共通意見として、あいつは信用できない。

 この行動も完全なるストーカーだし、それ以前にあいつの眼が気になるのだ。

 何を企んでるかわからない以上、注意をしなければならないな。

 

「おおい! 元浜! 情報を得てきたぞ!」

 

 そんなことを考えてると、松田が教室に入り込んでくる。

 どうしたんだ? 

 

「やっぱり、吉田のやつ夏に決めやがった! しかもお相手は三年のお姉様らしいぜ!」

 

「くそったれ!」

 

 松田からの情報を聞き、元浜は吐き捨てるように毒をはいた。

 ああ。やっぱりか……。まあ、二学期に入ってから急にチャラくなったし態度も随分大きくなってたからな……。

 そういうことだろうと思ってたよ……。

 

「それだけじゃない! 同じクラスの大場も一年生の子がお相手だったって話だ!」

 

「マジか! 大場が!?」

 

 後ろを振り向くと、爽やかな笑顔で大場が手を振っていた。

 この時期になると、クラスメイトにあか抜けた連中が増える。

 いわゆる夏デビューというやつだ。

 夏休みを境に今までの自分を変え、イメチェンを果たし、非常にチャラくなるやつらが出てくるようになる。

 男子なら髪を染めたり、女子なら今時のギャル風スタイルになったりと、夏前までさえなかった奴らが新たなイメージを兼ね備え、二学期を迎えるわけだ。

 この時期は童貞を捨てる奴も増えるため、こいつらは気が気じゃないんだろうな……。

 

「「黙れ! 裏切り者!」」

 

 おっと? ここで俺にも飛び火がきやがった……。まあ、去年もそうだったわけだし別にいいけど……。

 

「くそったれ! てめえマジでふざけるなよ!」

 

「爆発しやがれ!」

 

「童貞臭いわねぇーあんた達」

 

 くくくと二人を嘲笑いながら登場したのは桐生だった。

 口元をにやけさせて、鼻をつまんでいた。

 

「桐生! 俺達を笑いにきたのか?」

 

 元浜の問いに桐生は頷く。

 

「どうせ、あんた達のことだから、意味のない夏を過ごしたんじゃないの?」

 

「うっせー!!」

 

「ところで兵藤。最近、アーシアがたまに遠い目になるんだけど、何か理由知ってる?」

 

 と、桐生が尋ねてきた。

 まぁ、理由は間違いなくディオドラのやつだな。

 最近のアーシアはボーッとしていることが多い。

 授業でさされたアーシアが珍しく慌てていて、教科書を逆さまにしていたこともあった。

 とうのアーシアはクラスの女子と談笑をしているが……。

 ……なんとかしてやりたいよな。

 相手は上級貴族。しかも、これはただの勘だけど、油断ならない奴だからな。

 そう簡単にはいきそうもない。一応、部長も対策は考えてくれてるけど、なかなか難しいそうだ。

 

「まぁ、私も出来る範囲でアーシアを助けてあげるから、あんたもしっかり支えてやりなさいよ」

 

「ああ。助かるよ」

 

 桐生はアーシアとも仲がいいからな。

 プライベートで支えてくれる友人がいるというだけでも気が楽になるだろう。

 

「お、おい! 大変だ!」

 

 そんなことを話していると、クラス男子の一人が急いで教室に駆け込んでくる。

 何かあったのか? 

 そいつは水を飲み、呼吸を整えて、気持ちを落ち着かせると、クラス全員に聞こえるように告げる。

 

「このクラスに転校生が来る! しかも女子だ!」

 

 一拍あけて────。

 

『ええええええええええええええええええええっ!!!』

 

 クラス全員が驚きの声をあげたのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「えー、このような時期に珍しいですが、今日からこのクラスに新たな仲間が増えます」

 

 先生の言葉にみんながワクワクしていた。

 そりゃあそうだ! 転校生……しかも女子だもん! テンション上がるに決まってらぁ! 

 女子も男子の反応に呆れつつも興味津々なようだ。

 

「それじゃ、入ってきて」

 

 先生の声に促され、転校生が入室してくる。

 その瞬間、俺は驚いた。気配が天使だから、教会関連の人だろうとあたりはつけていた。

 

『おおおおおおおおおおおっ!』

 

 歓喜の声が男子から沸き上がる。

 登場したのが栗毛ツインテールの相当な美少女だったからだ。

 しかし、俺は喜びよりも驚きの方が大きかった。

 見れば、アーシアも同様でゼノヴィアに至っては目を丸くしてポカンとなるほどだった。

 当たり前だ。彼女が突然転入生として表れれば、彼女を知る人からすれば驚くだろう。

 栗毛のツインテ少女はぺこりと頭を下げた後、にこやかな表情で自己紹介をした。

 

「紫藤イリナです。皆さん、どうぞよろしくお願いします!」

 

 そう! 転校してきたのは、夏前にゼノヴィアと共にエクスカリバー強奪事件で来日した紫藤イリナその人なのだったのだ! 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「紫藤イリナさん、あなたの来校を歓迎するわ」

 

 放課後の部室。

 オカ研メンバー全員、アザゼル先生、ソーナ会長が集まり、イリナを迎え入れていた。

 ちなみに俺の膝の上には小猫ちゃん。最近、ここが小猫ちゃんの定位置になりつつある。

 うーん、お尻の感触が素晴らしい! 髪の毛からいい匂いがするし、本当に最高です! 

 

「はい! 皆さん! 初めましての方もいらっしゃれば、再びお会いした方のほうが多いですね。紫藤イリナと申します! 教会……いえ、天使さまの使者として駒王学園にはせ参じました!」

 

 ドン! と擬音でも付きそうな勢いで自己紹介をしたイリナに対し、パチパチパチと部員の皆が拍手を送る。

 話によると、イリナは天界側の支援メンバーとして派遣されたらしい。

 確かに考えてみると、この駒王学園には悪魔や堕天使履いても天使はいなかったからな。

 一応バックアップは受けているらしいが、協定を結んでいる立場上、それでは体裁が悪いだろう。

 そんなイリナだが、いきなり「主への感謝~」とか「ミカエルさまは偉大で~」とか語り始めてしまった。

 皆は苦笑しながらも聞いていた。

 相変わらず、信仰心が強い娘だなぁ……。もしかしたらアダルマンさんといい勝負かも? 

 それから少ししてアザゼル先生が口を開く。

 

「おまえさん、“聖書に記されし神”の死は知っているんだろう?」

 

 まぁ、ここに派遣されるってことはそうなんだろうな。

 この駒王町は今や三大勢力の協力圏内の中でも最大級に重要視されている場所の一つ。

 ここに関係者が来るってことは、ある程度の知識を持っているということになる。

 ならば当然“聖書の神”の死についても知っているに違いない。

 

「もちろんです、堕天使の総督さま。私は主の消滅をすでに認識しています」

 

 そんなイリナを見て意外そうな表情をするゼノヴィア。

 

「意外にタフだね。信仰心の厚いイリナが何のショックも受けずにここへ来ているとは」

 

 そんなゼノヴィアの言葉のあと、一泊開けて、イリナの両目から大量の涙が流れ出る! 

 彼女はゼノヴィアに詰め寄りながら叫び出した。

 

 

「ショックに決まっているじゃなぁぁぁぁい! 心の支え! 世界の中心! あらゆるものの父が死んでいたのよぉぉぉぉっ!? 全てを信じて今まで歩いてきた私なものだから、それはそれは大ショックでミカエル様から真実を知らされた時あまりの衝撃で七日七晩寝込んでしまったわぁぁぁっ! ああああああ、主よぉぉぉぉぉ!!」

 

 イリナはテーブルに突っ伏しながら大号泣してしまった。

 そ、そこまでの事なのか? 実際に会ったこともない人なのに? 

 ……ああ、でも、そんなものなのかもしれないな。

 アーシアとゼノヴィアがその事実を知ったときは相当ショック受けて他っぽいし……。

 俺の家は基本的に無宗教だし、そういうのは正直分からないんだけど。

 

「わかります」

 

「わかるよ」

 

 アーシアとゼノヴィアがうんうんとうなずきながらイリナに話しかける。

 そして、三人はガシッと抱き合う。

 

「アーシアさん! この間は魔女だなんて言ってゴメンなさい! ゼノヴィア! 前に別れ際に酷いこと言ったわ! ゴメンなさい!」

 

 イリナの謝罪に二人とも微笑んでいた。

 

「気にしてません。これからは同じ主を敬愛する同志、仲良くしていきたいです」

 

「私もだ。あれは破れかぶれだった私が悪かった。いきなり、悪魔に転生だものな。でも、こうして再会できてうれしいよ」

 

『ああ、主よ!』

 

 三人でお祈りしだしたよ……。

 とりあえず、和解ってことで良いのかな? 

 色々あったけど、わだかまりが消えたのであれば俺もうれしい。平和が一番だからな。

()使()()()に悪魔二人という変な形だけど、神を信仰する“教会三人娘(トリオ)”の誕生だな。

 

「ミカエルの使いってことでいいんだな?」

 

 アザゼル先生の確認にイリナも頷く。

 

「はい、アザゼルさま。ミカエルさまはここに天使側の使いが一人もいないことに悩んでおられました。現地にスタッフがいないのは問題だ、と」

 

「ああ、そんなことをミカエルが言っていたな。ここは天界、冥界の力が働いているわけだが、実際の現地で動いているのはリアスとソーナ・シトリーの眷属と、俺とレイナーレを含めた少数の人員だ。まあ、それだけでも十分機能しているんだが、ミカエルの野郎、律義なことに天界側からも現地で働くスタッフがいたほうがいいってんでわざわざ送ってくると言ってきてたのさ。ただでさえ、天界はお人好しを超えたレベルのバックアップ体制だっつーのに。俺はいらないと言ったんだが、それではダメだと強引に送ってきたのがこいつなんだろう」

 

 アザゼル先生はため息を吐きながらそう言った。

 イリナが派遣されたのにはそういう背景があったのか。

 部長の根城も随分と大所帯になったものだ。最初のころは堕天使が縄張りに入っただけで大騒ぎだったのに、今では天使も堕天使も普通に談笑している。これも和平のおかげだな。

 ある程度の話が分かったところで俺はイリナに質問することにした。

 

「なぁ、イリナ。お前、どうやって天使になったんだ?」

 

「あれ? 分かるの、イッセー君?」

 

「そりゃあ、気配が人間と異なるからな」

 

「聖なるオーラも感じるし、悪魔と同じように転生したと考えるのが妥当っすよ」

 

「へえ~、流石イッセー君ね! じゃあ、見せてあげるわ! 生まれ変わった私の姿を!」

 

 イリナは立ち上がると、祈りのポーズをとる。

 すると、彼女の体が輝き、背中から白い翼が生えてきた。

 それだけでなく、頭上には金色に輝く天使のわっかがふよふよと浮いている。

 部長たちは気付いていなかったのか、驚きを隠せないでいる。

 アザゼル先生だけが顎に手をやりながら、感心するようにイリナを見ていた。

 

「……紫藤イリナといったか。おまえ、天使化したのか?」

 

「天使化? そのような現象があるのですか?」

 

 木場が先生に訊くと、先生は肩をすくめた。

 

「いや、実際にはいままでなかった。理論的なものは天界と冥界の科学者の間で話し合われてはいたが……」

 

 考え込むように目を細める先生にイリナが頷く。

 

「はい。ミカエルさまの祝福を受けて、私は転生天使となりました。なんでもセラフの方々が悪魔や堕天使の用いていた技術を転用してそれを可能にしたと聞きました」

 

 なるほど。“悪魔の駒(イーヴィル・ピース)”の応用か。

 天使は昔は聖書の神によって生み出されていたらしいが、神が消滅し、新たな天使は誕生できなくなったと聞く。

 だから、悪魔と同じように転生で天使の数を増やそうとしているのだろう。

 

「四大セラフ、他のセラフメンバーを合わせた十名の方々は、それぞれ、Aからクイーン、トランプに倣った配置で“御使い(ブレイブ・セイント)”と称した配下を十二名作ることにしたのです。カードでいうキングの役目に主となる天使さまとなります」

 

 先生がイリナの話に興味を示していた。

 この人は技術とか、その手の話が大好きだからな。

 

「なるほど“悪魔の駒”の技術に堕天使の人工神器の技術を応用しやがったんだな。ったく、伝えた直後に面白いもん開発するじゃねぇか、天界も。悪魔がチェスなら、天使はトランプとはな。まあ、もともとトランプは“切り札”という意味も含んでいる。神が死んだあと、純粋な天使は二度と増えることができなくなったからな。そうやって、転生天使を増やすのは自軍の強化に繋がるか。そのシステムだと、裏で“ジョーカー”なんて呼ばれる強者もいそうだな。十二名も十二使徒に倣った形だ。まったく、楽しませてくれるぜ、天使長様もよ」

 

 くくくと先生は楽しげに笑いを漏らしていた。

 トランプを模してるのならば、確かに“ジョーカー”の札もありそうだし、もしあれば相当強いことが伺える。

 悪魔と堕天使。二つの勢力の協力により、天使陣営も以前以上に強化されたということだな。

 

「それで、イリナはどの札なんだ?」

 

 俺は気になったのでイリナに尋ねた。すると、彼女は胸を張り、自慢げに言う。

 

「私はAよ! ふふふ、ミカエルさまのエース天使として栄光な配置をいただいたのよ! もう死んでもいい! 主はいないけれど、私はミカエルさまのエースとして生きていけるだけでも十分なのよぉぉぉぉっ」

 

 目を爛々と輝いているイリナ。

 掲げている左手の甲に“A”の文字が浮かび上がっている。

 手の甲に階級が浮かび上がるって、なんか“鬼○の刃”みたいだな。

 それに、この言い分から察するに……。

 

「なるほどな。イリナの新しい人生の糧はミカエルさんか」

 

 恐らくイリナは信仰の対象を神の副官だったミカエルさんに移し、心を保ったのだろう。

 俺が嘆息しながら呟くと、隣でゼノヴィアも応じる。

 

「自分を見失うよりはマシさ」

 

 ま、そりゃそうだ。

 神様の消失で自分を見失うよりは新しい主のもとで仕事に励んだ方が前に進めるってもんだ。

 イリナは俺達に楽しげに告げる。

 

「さらにミカエルさまは悪魔のレーティングゲームに異種戦として、“悪魔の駒”と“御使い”のゲームも将来的に見据えているとおっしゃっていました! いまはまだセラフのみの力ですが、いずれはセラフ以外の上位天使さまたちにもこのシステムを与え、悪魔のレーティングゲーム同様競い合って高めていきたいとおっしゃられていましたよ!」

 

 その言葉を聞いた部長たちは再び驚愕の表情を見せた。

 おお、そりゃあ面白い。

 

「ま、天使や悪魔のなかには上の決定に異を唱える者も少なくない。長年争い合ってきた中だ、突然手を取り合えと言えば不満も出るさ。しかし、考えたな、ミカエル。そうやって、代理戦争を用意することでお互いの鬱憤を競技として発散させる。人間界のワールドカップやオリンピックみたいなもんだ」

 

 不満を持った人達のうっぷん晴らしみたいなもんかな? 

 どちらにしても面白そうだ。

 俺も参加してみたいものだぜ。

 まあ、候補という立場上、相手が参加を了承しないと出れないんだけど……。

 

「楽しめそうね」

 

「面白そうだね」

 

「きょ、教会は怖いですぅ……」

 

 ソーナ会長と木場もかなり楽しげだ。たいしてギャスパーは複雑そうにしている。

 まあ、教会は吸血鬼狩りは今だ続けてるっぽいし、ギャスパーからすれば恐怖の対象なのだろう。

 まだ、吸血鬼と和平は結べてないらしいしな……。

 こっちの世界の吸血鬼は傲慢な奴らが多いっていうし、そのあたりは難航しそうだな。

 平和が一番だし、仲良くできないものかね……。

 

「まぁ、その辺りの話はここまでにして、今日は紫藤イリナさんの歓迎会としましょう」

 

 ソーナ会長が笑顔でそう言う。

 イリナも改めて皆を見渡して言った。

 

「悪魔の皆さん! 私、いままで敵視していきましたし、滅してもきました! けれど、ミカエルさまが『これからは仲良くですよ?』とおっしゃられたので、私も皆さんと仲良くしていきたいと思います! というか、本当は個人的にも仲良くしたかったのよ! 教会代表として頑張りたいです! よろしくお願いします」

 

 複雑な経緯もあるけど、これでイリナも駒王学園に仲間入りってことだ。

 その後、生徒会の仕事を終えたシトリー眷属も加わり、イリナの歓迎会がおこなわれたのだった。

 

 



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体育祭の練習です

 イッセーside

 

 

 

 

 イリナが転校してきてから数日が経った。

 

「はいはい! 私、借り物レースに出ます!」

 

 イリナは持ち前の明るさですぐにクラスに溶け込んだ。現在では、男女問わずに大人気だ。

 そんなイリナだが、体育祭では借り物レースをやるみたいだな。

 まあ、俺は競技は余りものでいいと思ってるからあまり関係ないけど。

 ……はぁ。

 なんか疲れたな……。

 イリナも俺の家に住むことになったんだ。

 夏休みに地上六階、地下三階という豪邸と化した兵藤家。

 元々、オカルト研究部+aの面々が移り住んでいたわけだし、部屋もたくさん余ってるから、一人や二人増えたところで問題はない……そう思ってた時期が、俺にもありました。

 両親以外は全員美少女! 男子としてまさに理想的な住まい! 

 最初はそう思ってたけど、実際は俺の入り込む余地がない状況が多いんだよな……。

 例えば、アーシア、ゼノヴィア、イリナの教会三人娘が集まって女子トークをし始めたとしよう。

 恐ろしく会話に入りづらい! 

 ここに小猫ちゃんやミッテルトまで入り込むと俺の接触できるスペースはない! 

 寂しくなって、お姉様のもとへ行くと、部長と朱乃さんもやっぱり女子トークお姉様バージョンをしているんだ。

 そこへ俺が「部長~」「朱乃さ~ん」と甘える感じで入り込んでも空しいだけだ。

 黒歌は基本的にセラと一緒だし、いなくなることも多々あるのだ。どうやら、たまに出掛けてはトーカと飲みに行ってるらしい。俺も飲みたいけど、俺はココでは未成年! 飲むことができないんだよな……。

 女子が多くなると、風呂とかでばったり出会っちゃって気まずくなることもあるし、なんていうか、俺の甲斐性のなさを改めて実感してしまった。

 いつかはハーレムを夢見る俺がここまで苦戦するとは……。

 まぁ、だからと言って皆と仲が悪いとかではない。

 普段は仲良く過ごしているし、女の子には女の子の生活があるってことで納得はしてる。まあ、深く考えないほうがいいか。

 

「兵藤」

 

 ふいに桐生に呼ばれた。

 奴は現在、黒板の前に立ち、体育祭の競技について書き込んでいるところだ。

 

「脇のところ、破れてる」

 

「え? マジか」

 

 と、桐生の言うように自身のワイシャツの脇を見るが、とくに破れてるところは無い。

 ここで、俺は現在の状況を思い出した。だが、気付いた時にはもう遅い。俺はわきの確認のため、手を上げている状態になっていたからだ! 

 

「はい! 決まり!」

 

 俺の名前がチョークで黒板に書き込まれていく! 

 

「騙しやがったな、桐生!」

 

 完全にやられた! 

 考え込んでた製で油断と隙が生じていた! 文句を言っても、奴はいやらしく笑うだけだった! 

 

「あんたは二人三脚よ。相方は────」

 

 桐生がチョークで指をさす。そこには────

 

「あんたとアーシアには二人三脚で走ってもらうわ」

 

 そう。そこには恥ずかしそうに手を挙げるアーシアの姿があったのだ。

 それを見ながら楽しげな桐生。こうして、俺とアーシアは桐生の策略により、二人三脚をすることになったのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 次の日。

 今日から学園全体で体育祭の練習が始まっていた。

 俺のクラスも体操着に着替えて、男女合同で各自が出場するの競技の練習をしていた。

 

「勝負よ、ゼノヴィア!」

 

「望むところだ、イリナ!」

 

 イリナとゼノヴィアはグラウンドで駆けっこをしていた。

 クラスメイトも両者に声援を送っている。

 あいつら、互いに負けたくない競争心からか、グラウンドを爆走してるよ。

 “騎士”のスピードを持つゼノヴィアとそれに追随するイリナ。どちらも一歩も引いておらず、いい勝負している。

 流石は悪魔と天使。生徒会を除けば優勝できるかもな。ミッテルトは学年違うし……。

 

「……しかし、高速で動かれると、おっぱいの動きが把握しづらいな」

 

「そうだな」

 

「やはり、運動のときは適度な速さが一番だ」

 

 と、俺と松田、元浜の三人は走る女子のおっぱいの動きを観察していた。

 大きいのも、小さいのも、女子が動くたびに揺れるから目が離せないぜ! 体操着最高! 

 ちなみに俺は動きが把握しづらいと口では言いながらも、俺は思考加速でスローモーションに揺れる乳を堪能している。イリナもゼノヴィアも豊満だし、マジで最高だな! 

 

「お、兵藤」

 

「おう、匙じゃん」

 

 匙が俺に話しかけてきた。

 メジャーやら計測するものを持っている。

 

「何やってんだ?」

 

「揺れるおっぱいを観察だ」

 

「あ、相変わらずだな」

 

 そう言いながら嘆息する匙。匙は俺の横に立ちながら、改めて聞いてくる。

 

「それで、兵藤は何の競技に出るんだ?」

 

「俺はアーシアと一緒に二人三脚だ」

 

「くっ! 相変わらずうらやましい野郎だ! 俺はパン食い競争だよ」

 

 へー、匙はパン食いに出るのか。

 それもそれで楽しそうだな。まあ、俺はアーシアちゃんとの二人三脚の方が良いな。

 仲良し小良しで走り抜きますよ。

 羨ましがる匙のもとへメガネの女子が二人登場。

 

「サジ、何をしているのです。テント設置箇所のチェックをするのですから、早く来なさい」

 

「我が生徒会はただでさえ男子が少ないのですから、働いてくださいな」

 

 ソーナ会長と副会長の真羅先輩だ。

 二人が匙を呼んでいる。

 おおっ、二人ともメガネがキラリと光ってるぜ。

 

「は、はい! 会長! 副会長!」

 

 匙はあわてて二人のもとへと走っていく。

 うーん、生徒会は厳しそうだな。メガネといえば、アガレス家のシーグヴァイラさんもメガネ美女だったな。

 クールな印象があったし、眼鏡キャラって冷静で淡々としたイメージがあるよな。

 

『……ヴリトラか』

 

 ん? 

 どうしたよ、ドライグ。

 

『いや、あの小僧から感じられるヴリトラの気配が高まったように思えてな』

 

 ああ。そういえば、あのレーティングゲーム以降、匙の龍の気配が強まったように思える。

 曰く、ヴリドラの魂は幾重にも分けられており、それぞれが別々の神器に封じられているらしい。

 だから、ドライグのようにヴリドラはしゃべることもできないし、意識もかなり希薄になっているらしい。

 ”五大龍王“という魔王級以上の存在を宿しておきながら”神滅具(ロンギヌス)“のような力がないのもそこらへんが関係してるのだろう。

 

『だが、神器は宿主の強い思いによって形を変える。もしかしたら、今後ヴリドラの意識が目覚める……なんてこともあるかもしれないな……』

 

 ほう。それは面白そうだ。

 もしそうなれば、匙は超絶なパワーアップを遂げるだろう。

 

『ティアマットにファーブニルとヴリトラ。そしてタンニーンにも出会った。相棒は向こうだけでなく、この世界の龍王にも縁があるのかもしれんな』

 

 ドライグは笑いながらそう告げた。龍王に縁がある……か。

 確かにそうかもしれない。

 ティアマットさんにタンニーンのおっさん、神器に封じられているヴリドラにファーブニル。

 裏にかかわってから短期間で六大龍王のうち、すでに四柱に出会ってることになる。

 これからも、龍王にかかわっていく機会はあるかもしれないな。

 

「アーシア! 夏休みの間におっぱい成長したぁ?」

 

「キャッ! 桐生さん! も、もまないでくださいぃ」

 

 ……あ! 

 エロメガネ娘がアーシアにセクハラしてやがる! 

 目を離すとすぐセクハラだ。あのエロメガネめ。

 アーシアがエロくなっちゃう! ただでさえ、最近は部長と朱乃さんの影響で、そういうことに興味持っちゃってるんだから……。

 ……さて、そろそろ俺達も練習を始めるとするか。

 俺はクラスごとに用意された競技用道具から二人三脚用のひもを取り出した。

 

「アーシア、俺達も練習しようぜ!」

 

「は、はい!」

 

 じゃれついていた桐生にペコリと頭を下げたアーシアは、俺のもとへと駆け寄ってきた。

 すでに、他の奴らは練習始めてるし、俺達もうかうかしてはいられないな。

 俺とアーシアはぴったりくっつき、足首にひもを結ぶ。

 

「よし、さっそく行くぞ、アーシア!」

 

「は、はい!」

 

 アーシアは恥ずかしそうにしながらも俺の腰に手を回す。

 うーん、アーシアの髪からいい匂いがしてくる……。

 しかも、ぴったりとくっついているから、アーシアの柔らかい体が……。

 おっと、いかんいかん! 

 雑念を振り払わないと! 

 相手はアーシア! 穢れを知っちゃダメな子だ! 自制心、自制心! 

 息を整えて、俺達は互いに頷き合った後、足を一歩前へ踏み出した。

 

「せーの、いち、に────」

 

 声を出して、動き出すが────

 

 ガクン! 

 

 俺達は互いに足を取られて、バランスを崩してしまった! 

 

「きゃっ」

 

「アーシア! 危ない!」

 

 倒れそうになるアーシアを急いで掴まえて体勢を立て直す。

 

「……やっぱり、俺がアーシアに合わせるしかないよなぁ」

 

 と、俺が考えていると、アーシアが何やら恥ずかしそうに顔を紅潮させていた。

 何かに耐えている様子だ。どうしたんだ、アーシア? 

 そこで俺は不思議な感触に気づいた。

 なんだろう? 右手が何か柔らかいものを…………。

 って、俺、アーシアのおっぱい揉んでるぅぅぅぅぅっ!! 

 そ、そうか! さっき、とっさに掴んだところはおっぱいだったのか! 

 た、確かに桐生のいう通り、質量が増している…………って、違う!! 

 いくら極上とはいえ、これ以上この感触を味わっちゃダメだ!! 

 俺は慌ててアーシアのおっぱいから手を離した! 

 

「ゴ、ゴメン! わざとじゃないんだ!」

 

「だ、大丈夫です。平気です。で、でも、触るときは一言言ってからにしてください……。私も心の準備が必要ですから……」

 

 一言いえばOKなんですか!? 

 そんな馬鹿なこと考えながらも俺は取りあえず息を整える。

 落ち着け……深呼吸だ……。

 

「と、とりあえず、再開しよう」

 

「は、はい。でも、すみません。私、運動はそこまで得意じゃないので」

 

 気落ちするアーシア。

 

「いいって。要は息を合わせること。コンビネーションだ」

 

「コンビネーション?」

 

 可愛らしく首をかしげながらアーシアは問う。うん、可愛い。

 

「そう、コンビネーション。まずはゆっくりでいいから一緒に声を出して、一歩一歩動いてみよう」

 

「分かりました! よろしくお願いします!」

 

 こうして俺達はまず息を合わせて歩くことから始めたのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

「結構形になってきたな……」

 

「イッセーは二人三脚っすか。……どさくさに紛れてアーシアちゃんに変なことしないほうがいいっすよ」

 

「し、しねえよ……」

 

 俺はミッテルトと合流し、部室に顔を出す。

 すると、先に来ていた部長を含めた他のメンバーは皆顔をしかめていた。

 何かあったのか? 

 

「どうしたんですか?」

 

 俺が尋ねると、部長が言う。

 

「若手悪魔のレーティングゲーム。私達の次の相手が決まったの」

 

 へぇ。もう決まったのか。

 実は現在、グレモリー対シトリーの一戦を皮切りに例の六家でゲームが行われているのだ。

 部長達もシトリー以外の家と戦うことになっていた。

 眷属候補という微妙な立場の俺は、相手が許可を出せば参加できるんだけど……まあ、流石に難しいか。

 それはさておき、相手は誰なんだろう? 

 

「次の対戦相手は────ディオドラ・アスタロトよ」

 

「────っ!!」

 

 部長の言葉に俺は部員の様子を理解する。

 このタイミングであいつが相手か……。

 悪い冗談としか思えない対戦相手に俺は思わず言葉を失った。

 

 

 

 

 



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練習と研究です

 イッセーside

 

 

 

 

「おいっちにーさんしー、おいっちにーさんしー」

 

 俺とアーシアは早朝から体操着で二人三脚の練習をしていた。

 ゼノヴィアも付き添いで来てくれていて、最近ずっと朝練していた。

 レーティングゲームも気になるけど、だからといって体育祭で手を抜いていい理由にはならない。故に、こうして毎朝欠かさず練習してるわけだ。

 練習を始めた頃はアーシアがバランスを崩して何度も転びそうになっていたけど、今では競歩くらいの走りは出来るようになっていた。

 

「あぅ! いち、に! はぅぅ! さん、し!」

 

 アーシアは俺に遅れないようにするため、必死でついてきている。

 こういう日々の練習って大事だよな。俺もアーシアに合わせられるようになってきたし、これなら本番でもうまくいきそうだ。

 

「うん。だいぶいい感じだね。じゃあ、一度本番のように走ってみようか」

 

 ゼノヴィアが俺達のヒモを直しながら言う。

 ふと、アーシアを見ると、少し表情を陰らせていた。

 

「・・・・・・・・」

 

 ……これはかなり思い詰めているな。まあ、無理もない。次のゲームの相手が相手だからな。

 

「アーシア。思ってること、一回全部言ってみな」

 

 俺の言葉にアーシアは少し驚いたような表情をする。

 アーシアは少し考えた後、語り始めた。

 

「……あの時、彼を救ったこと、後悔していません」

 

 ディオドラはアーシアが教会を追放される原因となった悪魔だ。

 アーシアは境界にいたころ、傷ついたディオドラを救い、それが原因で異端者扱いされ、居場所を失った。

 今はこうして幸せそうにしてるけど、その出来事がアーシアの人生を大きく変えてしまったことは確かだ。

 ……それでも、アーシアは後悔をしないのだという。本当に、強い子だな。

 アーシアはそんな俺の顔を見てクスリと笑った。

 

「私、ここが好きです。この駒王学園も、オカルト研究部も好きです。部長さんも朱乃さんもミッテルトさんも木場さんも小猫ちゃんもギャスパー君もイリナさんもゼノヴィアさんも先生も黒歌さんもセラちゃんも桐生さんも、好きです。そして何より、イッセーさんも、ご両親も大好きなんです。ここでの生活は本当に大切で大事で、大好きなことばかりでとっても素敵なんです。だから、私は今の生活にとても満足しています。毎日楽しくて、皆と暮らせて幸せなんです」

 

 アーシアは眩しいくらいの笑顔で言い切った。その顔からは迷いが一切感じられない。

 きっと、アーシアは本当に今の生活が好きなのだろう。

 だったら、俺のやるべきことはアーシアが楽しく過ごせるこの生活を守ることだ。

 俺はアーシアの肩を抱いて言う。

 

「そうだな、俺達はずっと一緒だ! 嫁にも出しません! アーシア、ディオドラのことは深く考えるな。経緯はどうであれ、嫌なら嫌とハッキリ言えばいいんだぞ?」

 

 俺の言葉にアーシアは少しきょとんとするが、すぐに笑みを見せてくれる。

 

「はい」

 

 すると、今度はゼノヴィアが思い詰めた表情で言う。

 

「……アーシア、改めてだけど、もう一度君に謝りたい。初めて出会った時に暴言を吐き、刃を向けたこと。今でも後悔しているんだ。……アーシアは私と仲良くしてくれる……と、と、友達だと……」

 

 おおっ、ゼノヴィアが珍しく顔を紅潮させてるな。

 アーシアはそんなゼノヴィアの手を取り、満面の笑みで言う。

 

「はい。私とゼノヴィアさんはお友達です」

 

 真正面からの屈託のない一言。ゼノヴィアは少し涙ぐんでいた。 

 

「ありがとう……。ありがとう、アーシア」

 

 うんうん。なんだか俺まで泣きそうになったよ。

 本当、アーシアちゃんは優しい子ですよ。

 

「うぅぅぅっ! 良い話よねぇ……」

 

 突然聞こえてきた嗚咽。

 声の方向を見れば、イリナが号泣していた。

 

「イリナか。なんでここに?」

 

「うぅ、えぇ、ゼノヴィアに誘われてね……。早朝の駒王学園も良いものだぞーって。で、来てみたら、美しい友情が見られるんだもの。これも主とミカエル様のお導きだわ……」

 

 涙を拭いながら、天に祈りを捧げるイリナ。よっぽど感動したのだろう。

 ここで俺はふと気になったことを聞いてみる。

 

「そういや、おまえ、オカ研じゃないよな?」

 

 俺が尋ねるとイリナは気持ちを切り替え、満面の笑みで親指を立てる。

 

「ええ、実は私、クラブを作ることにしたのよ!」

 

「へぇ、自分でクラブを立ち上げるのか。どんな内容なの?」

 

「うふふ、聞いて驚きなさい! その名も“紫藤イリナの愛の救済クラブ”! 内容は簡単! 学園で困っている人たちを無償で助けるの! ああ、信仰心の厚い私は主のため、ミカエルさまのため、罪深い異教徒どものために愛を振りまくのよ!」

 

 妙なポーズで天に祈りを捧げながら、目を爛々と輝かせるイリナ。

 ていうか、どんなネーミングだよ……。少なくとも俺は絶対に依頼したくない。

 

「……いや、うん。まぁ、がんばれ」

 

 俺は適当に相づちを打つと、イリナは胸をどんと叩いて言う。

 

「任せて! もちろん、オカルト研究部がピンチのときはお助けするわ! 今回はリアスさんのお願いでオカルト研究部の部活対抗レースの練習を助けるの!」

 

 はあ、体育祭は俺達のところに参加するのね。

 

「一応聞くけど、部員は他にいるのか?」

 

「まだ私だけよ! おかげで同好会レベルに留まっていて、正式な活動と運営資金は規制されているわ。まずはソーナ会長を説得するところからスタートね」

 

 まあ、オカルト研究部として参加すると聞いた時から察してはいたよ……。

 あの厳しいソーナ会長が、こんなわけわからん名称の部活認めるとは思えないけど……。

 そもそも、部員が集まるのかどうかが謎だ。

 正式に発足するには時間がかかりそうだな……。

 

「とりあえずはオカルト研究部に籍を置くことになっているの」

 

 それってほぼオカルト研究部の部員じゃねぇか! 

 いや、あえて突っ込むまい。本人のためにもそれがいいだろう。

 

「それはともかく、練習再開しようぜ」

 

 俺は気分を取り直して、アーシアとの練習を再開した。

 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 

「ふぅー。ちょっと、つ、疲れましたねぇ」

 

 アーシアが体操服をバタバタさせながら息を吐いていた。まぁ、早朝から結構な量走っていたからな。

 悪魔とはいえど、体力の少ないアーシアは疲れるだろう。

 俺の場合、アーシアを気遣いながらだったから、精神的に気疲れしているところもある。

 まだ、登校時間内だから、一息ついてから教室に向かうか。

 そんなことを考えながらライン引きを倉庫の奥に片付けていると……。

 

 ガラガラガラ、ピシャッ

 

 突如、扉がしまる音がした。

 見ればゼノヴィアが後ろ手に倉庫の扉を閉めていた。

 一体どうしたんだ? 

 アーシアもゼノヴィアの行動に可愛く首を傾げていた。

 俺はこの時点で嫌な予感がしていた。ゼノヴィアさんのことだ。何かをやらかすつもりだと……。

 

「どうしたんですか? ゼノヴィアさん」

 

 尋ねるアーシア。

 すると、ゼノヴィアは真剣な表情で語り出す。

 

「アーシア、私は聞いたんだ。私たちと同い年の女子はだいたい今ぐらいの時期に乳繰りあうらしいぞ」

 

 ………………。

 …………え? 今なんと? 

 

「ち、ちちくりあう?」

 

 アーシアが怪訝そうに聞き返す。ゼノヴィアはハッキリとした口調で言う。

 

「男に胸を弄ばれることだ」

 

 ────こ、この娘は……突然なにを言い出しているんだ!? 

 こんなところでこんな話を!? 扉を閉めてまで!? 

 しかも、乳繰り合うの意味、違うし……。

 

「む、む、む、胸を……っ!」

 

 アーシアは顔を真っ赤に染め上げ、声も上ずっている! 

 

「ゼノヴィア! こんなところでそんな話をいきなりするな!」

 

 駄目だ。こんな場所であほの子(ゼノヴィアさん)を暴走させるわけにはいかない。

 俺は何とか穏便に場を収めようと、ゼノヴィアを嗜める。

 

「イッセーは少し黙っていてくれ。まずはアーシアと話す。イッセーの出番はそれからだ。すまないが、倉庫の隅でウォーミングアップでもしておいてくれ。これから激闘になる」

 

 だが、現実は無常だ。どうやら俺の言葉で止まるつもりはない……というか、俺が今の言葉を聞いて注意する気が失せてしまった! 

 出番!? 激闘!? ウォーミングアップ!? なんの!? 

 俺が混乱しているさなか、ゼノヴィアがアーシアに話を続ける。

 

「クラスの女子のなかには彼氏に毎日のようにバストを揉まれている者もいる。私はいろいろと調べたんだ」

 

 どうしておまえはそういう訳わからんことを真摯に調べてくるんだよぉぉぉっ! 

 

「アーシア。私たちもそろそろ体験してもいいのではないか?」

 

 ゼノヴィアはアーシアの肩に手を置き、真剣な面持ちで言う。

 ナニコレ!? なんで、ちょっと深刻な話し風になってるんだ!? 

 

「あ、あぅぅぅっ! そ、そんな、きゅ、急に言われても……」

 

 アーシアも困惑していた! それが当然のリアクションだ! 

 

「だいじょうぶだ。初めては多少くすぐったいらしいが、慣れてくればとても良いものらしいぞ。きっと乳繰りあえば、自然と二人三脚も上手にこなせる」

 

 ええええええええええええっ!? 

 そこに持ってくるの!? 

 

「……コ、コンビネーションはそこから生まれるのでしょうか……」

 

 アーシアちゃんが説得されかけてるぅぅぅっ!? 

 ウソだろ!? それで良いのか、アーシア! 

 迷うアーシアにゼノヴィアは笑みで応える。

 

「アーシア、私達は友達だ」

 

「はい」

 

「乳繰り合いも一緒にしよう。二人なら大丈夫だ」

 

「……は、はい? え、えっと、そ、そうなのですか?」

 

 不味い! 話が纏まりつつあるよ! 

 頼むから純真なアーシアをそんな話で懐柔しないでくれぇぇぇっ! 

 そんな俺の戸惑いを他所にゼノヴィアがこちらに顔を向ける。

 

「では、しようか。私は子作り練習も兼ねるよ。前回は邪魔されてしまったが、今回は部長たちもミッテルトもいないわけだしね……」

 

「ちょっと待て! いきなり、こんな場所で──―いや、雰囲気的に体育倉庫とか憧れるけどさ!」

 

 狼狽する俺の気持ちなど知ったことかといわんばかりに服を脱ぎ捨てるゼノヴィア。

 ぷるん……とブラに包まれても確かな弾力を予想させるおっぱいが露になった! 

 ブッ! 

 見事な脱ぎっぷりに俺の鼻血も噴き出た! 

 ゼノヴィアもおっぱいデカいよな! 良い形してるぜ! 

 そんなふうに思っていると、ゼノヴィアはブラのホックを外した。

 

 ぶるっ! 

 

 抑えるものが無くなったためか、見事な乳房が俺の眼前に! 

 うん! 相変わらず綺麗なピンク色の乳首だこと! 

 

「イッセー以外の男に障らせたことのない胸だ。感触は覚えてるか?」

 

 もちろん! 手でもんだわけではないけど、メチャクチャ柔らかかったの覚えてるよ! 

 肌もスベスベだし、体も引き締まってて正直最高です! 

 

「ほら、アーシアも」

 

 ゼノヴィアがアーシアへ迫る! おおおーい! 

 何アーシアの体操着を掴んで脱がそうとしてるの!? 

 

「で、でも、やっぱり、心の準備がまだ……」

 

 ゼノヴィアはもじもじするアーシアから強引に体操着の上を取り払った! 

 そして、現れるアーシアのブラジャー姿! 可愛らしいデザインのブラジャーじゃないか! お兄さん感動だよ! 

 

「大丈夫だよ、アーシア。不安なら私が先にイッセーとしても良い。私とイッセーの行為を見ていればどういうものか理解できて、勇気と準備が整うはずだ」

 

「え! ……え、えっと」

 

「ふふふ、冗談だよ。やっぱり後から来た者に先を越されるのは嫌だと思っていた」

 

「い、いえ……そういうことじゃなくて」

 

「今日がチャンスだよ。さっきも言ったとおり、今はミッテルトも部長達もいない。誰にも邪魔されず、イッセーと乳繰り合えるチャンスは今しかないかもしれないんだ」

 

「────っ!」

 

 その一言にアーシアが黙り込んでしまった! 

 た、確かにここにはミッテルトも部長達もいないから、プールの時みたいに誰かが止めに入ることもないだろうけど……。

 

 パチン

 

 ゼノヴィアの手が静かに伸びて……アーシアのブラのホックをはずしたぁぁぁっ! 

 

「────あっ」

 

 露になった胸元をアーシアは顔を真っ赤にして手で隠す! 

 そう! それが女の子の普通の反応だよね! 

 ゼノヴィアさん、君、堂々とぶるんぶるんさせすぎ! いえ、ありがとうございます! 最高です! 

 そのゼノヴィアが俺の手を引き────トンと体を押した。

 

「おわっ!」

 

 突然の状況に対応できず、倒される俺。

 舞うホコリの中、上半身だけ起こした俺は体育用マットの上に押し倒されたことに気付く。

 

 がばっ! 

 

 何か覆いかぶさる! 

 

 ぶるぶるっ! 

 

 眼前で揺れるゼノヴィアのおっぱい! ゼノヴィアが俺の上に覆いかぶさってきた! 

 ゼノヴィアはそのまま俺の左手を取り、自身の胸に当てる! 

 

 ブハッ! 

 

 鼻血が止まらねェ! 

 殺傷能力の高いやわらかさが俺の手に伝わる! 

 埋没していく俺の五指! 掌に乳首の感触がぁぁぁぁ! 

 ま、まずい! このままでは本当に理性が崩壊してしまうぅぅぅ! 

 

「イッセーさん……私も……み、ミッテルトさんにも部長にも、負けたくないから……」

 

 隣に座ったアーシアが俺の右手を取って、自分の胸へ────

 

 ふにゅんっ! 

 

 ゼノヴィアほどではない。

 しかし、確かな存在感のアーシアのおっぱいに俺の五指がぁぁぁ! 

 よくここまで育ってくれた! 俺は猛烈に感動しているよ、アーシア! 

 ……って、いや、そうじゃねえよっ!! 

 

「……ぅん……」

 

 甘い吐息がゼノヴィアの口から漏れる。

 

「やはり、自分で触るのと、男が触ってくるのとでは違うね。さて、イッセー。私とアーシア、どちらも準備はOKだ。好きなだけ揉みしだくと良い」

 

「も、もみしだくって……」

 

「ああ、存分にな。イッセーは女の胸が好きなのだろう?」

 

 そりゃあもう! 大好きです! 

 でも、ゼノヴィアはともかく、アーシアは守るべき存在、汚しちゃダメな子なんだよ! 

 そう思いつつも、俺は無意識にアーシアのおっぱいを揉んでしまう! 男の性には逆らえないのか!? 

 まずい、このままじゃあ本当にいぃぃぃぃ!! 

 

 ガラララ

 

 突然開かれる扉。

 

「……中々出てこないから心配してきてみれば、な、な、な、なんてことを!」

 

 入ってきたのはイリナだった! 

 まずい! 完全に存在を忘れてた! 

 言い訳できない状況だ! 

 だって、上半身裸の女の子二人と男が一人だぞ!? 

 イリナのことだ、「不潔!」とかクリスチャン的な発言をしそうだが────。

 

「ベッドでしなさい! ここは不潔で衛生的によくないわ!」

 

 ……不潔の基準が違った。

 この娘もたいがい変な子だよなと俺は他人事みたいに考えるのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 放課後。部活の時間。

 俺はミッテルトにぶん殴られた頬をさすりながら、ソファーに座っていた。

 あの後、ちょうど登校してきたミッテルトに見つかり、思いきりぶん殴られたんだよな。

 

「いや、あの現場見たらそうなるっしょ」

 

 ジト目で俺をにらみながら、ミッテルトはつぶやく。

 まあ、言い訳のしようもないから仕方ないけど……。

 ……それはそうとて、すごかったな……二人のオッパイ……。

 数時間たったけど、感触がまだこの手に残ってぇぇぇぇぇ……。

 

「いたぎ、いたひよ。こねこちゃん」

 

「……いやらしい顔ですね」

 

 半目無表情で小猫ちゃんに頬を引っ張られた。

 ミッテルトも氷の笑顔を張り付けながら、オーラを高めている。

 ハイ。ごめんなさい。反省しました。

 

「全員集まってくれたわね」

 

 部員全員が集まったことを確認すると、部長は記録メディアらしきものを取り出した。

 

「これは若手悪魔の試合を記録したものよ。私達とソーナの戦いもあるわ」

 

 戦いの記録。

 そう、今日は皆で試合のチェックをすることになったんだ。

 部室には巨大なモニターが用意される。アザゼル先生が用意したらしく、先生はモニターの前に立って言う。

 

「おまえら以外にも若手悪魔たちはゲームをした。大王バアル家と魔王アスモデウスのグラシャラボラス家、大公アガレス家と魔王ベルゼブブのアスタロト家、それぞれがおまえらの対決後に試合をした。それを記録した映像だ。ライバルの試合だから、よーく見ておくようにな」

 

『はい』

 

 先生の言葉に全員が真剣にうなずいていた。

 皆、他の家がどんなゲームをしたのかすごく気になるようだ。

 実際、俺も気になる。参加している若手悪魔はほとんどが部長たちの同期だ。

 若手の悪魔たちはどのような力を持っているのか非常に興味がある。

 特にあの人……“サイラオーグ・バアル”。

 部長の従兄弟にして、若手のナンバーワンの悪魔。

 部長を含めた若手で見ても、明らかに別格の存在だ。

 

「まずはサイラオーグ────バアル家とグラシャラボラス家の試合よ」

 

 さっそく、サイラオーグさんか。相手はあのヤンキー。

 記録映像が開始され、数時間が経過する。

 そこに映っていたのは────圧倒的なまでの『力』だ。

 眷属同士の戦いは五分五分……表面上は、だけど。サイラオーグさんの眷属達にはまだ余裕がありそうだ。

 結局、ヤンキーの眷属は全滅し、サイラオーグさんを挑発し、一騎打ちに持ち込もうとしている。

 サシで勝負しろ、と。

 俺はそれを聞いて馬鹿だろと思った。まさかとは思うけど、彼我の差を見抜けていないなんてこと、ないよな? 

 サイラオーグさんはそれに躊躇うことなく乗った。

 そして始まるヤンキー悪魔とサイラオーグの一騎打ち。

 ヤンキーが自信満々に攻撃を繰り出すが、それはあっけなくサイラオーグにはじき返される。

 それに驚きつつも、ヤンキーはサイラオーグさんに魔力弾やらを放ち続ける。

 だが、サイラオーグさんにはまるで通じてない。まともにヒットしても何事もなかったようにサイラオーグさんはヤンキーに反撃していた。

 自分の攻撃が通じないことで、ヤンキーはしだいに焦り、冷静さを欠いていた。

 そこへサイラオーグさんの拳が放り込まれる。

 幾重にも張り巡らされた防御術式を紙のごとく打ち破り、サイラオーグさんの一撃がヤンキーの腹部に打ちこまれていく。

 その一撃は映像越しでも辺り一帯の空気を震わせるほどだった。

 曲がりなりにも上級悪魔(Aランク)であるヤンキーだからこそ耐えられたわけで、恐らくAランクに満たない奴なら今ので致命傷だろうな。

 

「……凶児と呼ばれ、忌み嫌われたグラシャラボラスの新しい次期当主候補がまるで相手になっていない。ここまでのものか、サイラオーグ・バアル」

 

 木場は目を細め、厳しい表情でそう言った。

 サイラオーグさんのスピードは相当なものだった。多分、普通に木場より速い。スピードが持ち味の木場にとっては思うところがあるのだろう。

 見ればギャスパーがブルブル震えながら俺の腕につかまっていた。

 ビビりすぎだろ、ギャスパー……。

 まあ、気持ちはわからんでもない。

 サイラオーグさんの強さは既に一級品だ。恐らく、進化前のカリオンさんとだって正面から殴り合うことができるだろう。もちろん、“百獣化”を考慮しなければだけど、それでも若手でこの力は異常といえよう。

 魔王種並の格闘能力を持つ若手……ナンバーワンと呼ばれるのも頷けるな。

 

「リアスとサイラオーグ、おまえらは“王”なのにタイマン張りすぎだ。基本、“王”ってのは動かなくても駒を進軍させて敵を撃破していきゃいいんだからよ。ゲームでは“王”が取られたら終わりなんだぞ。バアル家の血筋は血気盛んなのかね」

 

 先生が嘆息しながらそう言う。

 部長は恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

 

「あのグラシャラボラスの悪魔はどのくらい強いんだ?」

 

 ゼノヴィアの問いに部長が答える。

 

「今回の六家限定にしなければ決して弱くはないわ。といっても、前次期当主が事故で亡くなっているから、彼は代理ということで参加しているわけだけれど……」

 

 まあ、実際、あのヤンキーも弱いわけではない。

 Aランクは超えてるし、“豚頭魔王(オーク・ディザスター)”の名づけ主、魔人“ゲロミュード”……だったっけ? あいつと互角くらいはあるだろう。

 だが、サイラオーグさんと比べるにも及ばない。

 部長の言葉に朱乃さんも続く。

 

「若手同士の対決前にゲーム運営委員会がだしたランキング内では一位はバアル、二位がアガレス、三位がグレモリー、四位がアスタロト、五位がグラシャラボラス、六位がシトリーでしたわ。『王』と眷属を含みで平均で比べた強さランクです。それぞれ、一度手合わせして、一部結果が覆ってしまいましたけれど」

 

「しかし、このサイラオーグ・バアルだけは抜きんでている────というわけだな。部長」

 

 ゼノヴィアの言葉に部長は頷く。

 

「ええ、彼は怪物よ。『ゲームに本格参戦すれば短期間で上がってくるのでは?』と言われているわ。逆を言えば彼を倒せば、私たちの名は一気に上がる」

 

 と、部長は言う……。

 まあ、皆の今の実力ではサイラオーグさんには勝てないだろう。

 その辺りは皆も理解してると思うし、やるのは殺し合いではなく“ゲーム”。

 そこらへんの工夫を考えないとな。

 

「とりあえず、グラフを見せてやるよ。各勢力に配られているものだ」

 

 先生が術を発動して、宙に立体映像的なグラフを展開させる。

 そこには部長や会長、サイラオーグさんなど、六名の若手悪魔の顔が出現し、その下に各パラメータみたいなものが動き出して、上へ伸びていく。

 ご丁寧にグラフは日本語だった。

 グラフはパワー、テクニック、サポート、ウィザード。ゲームのタイプ別になっている。

 最後の一か所に『キング』と表示されている。たぶん“王”としての資質だろう。

 部長、会長、シーグヴァイラがそこそこ高めで、サイラオーグさんはかなり高い。ヤンキー悪魔が一番低い。

 まぁ、あいつは王って感じはしないしな……。

 部長のパラメータはウィザード────魔力が一番伸びて、パワーもそこそこ伸びた。

 あとのテクニック、サポートは真ん中よりもちょい上の平均的な位置だ。

 そして────サイラオーグさん。

 サポートとウィザードは若手の中で一番低い。だけど、そのぶんパワーが桁外れだ。

 ぐんぐんとグラフは伸びていき、部室の天井まで達した。

 まあ、部長がこれくらいだとすると、あの人はこうなるよなって感じだ。

 サイラオーグさんを抜かしても、パワーだけなら部長と同等と表されてるヤンキー悪魔の数倍はある。

 

「ゼファードルとのタイマンでもサイラオーグは本気を出しやしなかった」

 

 だろうな。

 ヤンキーと戦ってる時のサイラオーグさんは映像からも分かるほどに余裕があったしな。

 サイラオーグさんだけでなく、眷属の方々もそうだ。

 

「やはり、サイラオーグ・バアルもすさまじい才能を有しているということか?」

 

 ゼノヴィアが尋ねると、先生は首を横に振って否定する。

 まあ、俺もそれは映像を見てて感じた。あの強さは才能というよりは……。

 

「いいや、サイラオーグはバアル家始まって以来才能が無かった純血悪魔だ。バアル家に伝わる特色のひとつ、滅びの力を得られなかった。滅びの力を強く手に入れたのは従兄弟のグレモリー兄妹だったのさ。だからこそ、アイツは凄まじいまでの修行を行い、天才たちを追い抜いた。サイラオーグは、尋常じゃない修練の果てに力を得た稀有な純血悪魔だ。あいつには己の体しかなかった。それを愚直までに鍛え上げたのさ」

 

 やっぱり、サイラオーグさんも修行したんだな。

 ただ、才能にかまけているだけではあの動きは得られない。

 あそこまでの強さになるには相当、厳しいものだったのだろう。

 努力の果てに得た強さ。

 だから、あの人は自信に満ち溢れているんだ。己の強さと努力に確固たる誇りを持っているから。

 先生は続ける、語りかけるように。

 

「奴は生まれたときから何度も何度も勝負の度に打倒され、敗北し続けた。華やかに彩られた上級悪魔、純血種のなかで、泥臭いまでに血まみれの世界を歩んでいる野郎なんだよ。才能の無い者が次期当主に選出される。それがどれほどの偉業か。────敗北の屈辱と勝利の喜び、地の底と天上の差を知っている者は例外なく本物だ。ま、サイラオーグの場合、それ以外にも強さの秘密はあるんだがな」

 

 試合の映像が終わる。

 結果は当然バアル家の勝利だ。

 最終的にグラシャラボラスのヤンキーは物陰に隠れ、怯えた様子で敗北宣言をする。

 サイラオーグさんは縮こまり怯え泣き崩れるヤンキーに何かを感じる様子もなくその場をあとにしていく。

 映像が終わり、しんと静まりかえる室内で先生は言う。

 

「先に言っておくがおまえら、ディオドラと戦ったら、その次はサイラオーグだぞ」

 

「────っ!?」

 

 部長は怪訝そうにアザゼルに訊く

 

「少し早いのではなくて? グラシャラボラスのゼファードルと先にやるものだと思っていたわ」

 

「奴はもうダメだ」

 

 先生の言葉に皆が訝しげな表情になる。

 

「ゼファードルはサイラオーグとの試合で潰れた。サイラオーグとの戦いで心身に恐怖を刻み込まれたんだよ。もう、奴は戦えん。サイラオーグはゼファードルの心────精神まで断ってしまったのさ。だから、残りのメンバーで戦うことになる。若手同士のゲーム、グラシャラボラス家はここまでだ」

 

 心を完全に折られちゃったのか……いくらなんでも脆すぎない? 

 ……いや、考えてみるとライザーも今は引きこもってるっていうし、本物の戦いを知らない上級悪魔は案外メンタルが弱いのかもな。

 

「おまえらも十分に気をつけておけ。あいつは対戦者の精神も断つほどの気迫で向かってくるぞ。あいつは本気で魔王になろうとしているからな。そこに一切の妥協も躊躇もない」

 

 アザゼル先生のその言葉を皆が頷く。

 だが、部長たちならそこら辺は問題ないだろう。部長の心の強さは俺もよく知ってるしな。

 部長は深呼吸をひとつした後、改めて言う。

 

「まずは目先の試合ね。今度戦うアスタロトの映像も研究のためにこのあと見るわよ。────対戦相手の大公家の次期当主シーグヴァイラ・アガレスを倒したって話しだもの」

 

「え? シーグヴァイラさんが負けた? マジですか?」

 

 俺は思わず、部長に尋ねてしまう。

 俺はてっきりシーグヴァイラさんが勝つと思っていたからだ。

 なんとなくだけど、あの人はライザーやヤンキーとは違い、それなりの強い精神力を持ってるように思えてた。

 慢心とかも一切感じられなかったし、純粋なEPでいっても間違いなくディオドラを上回ってたように思える。

 いや、レーティングゲームは王だけで勝てるもじゃない。

 ゲームの内容しだいじゃ格上をも降せるだろう。

 アイツは腹黒そうだし、何か策を練っていたのかもしれないな……。

 

「レーティングゲームは何が起こるかわからない。ソーナだって、私達を打ち倒してるのだもの。ソーナとアスタロトは大金星という結果ね。悔しいけど、ソーナに関しては私も納得してる。けれど、あのアガレスが負けるだなんてね……」

 

 そう言いながら、部長が次の映像を再生させようとしたときだった────

 

 パァァァァァ

 

 部屋の片隅で一人分の転移魔法陣が展開した。

 この紋様は見覚えがあるぞ。

 グレモリー家の勉強会で習ったことがある。

 確か……

 

「────アスタロト」

 

 朱乃さんがぼそりと呟いた。

 そして、一瞬の閃光のあと、部室の片隅に現れたのは爽やかな笑顔を浮かべる優男だった。

 そいつは開口一番に言う。

 

「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。アーシアに会いに来ました」

 

 ディオドラは腹黒そうな笑みを浮かべ、俺たちに告げた。



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アーシアは渡しません

 イッセーside

 

 

 

 

 部室のテーブルには部長とディオドラ、顧問であるアザゼル先生が座っていた。

 朱乃さんがお茶を淹れ、部長の傍らに待機する。

 俺たちもまた、部室の片隅で状況を見守っていた。

 にこやかなディオドラに対し、剣呑な雰囲気を醸し出す部長たち。空気が張り詰めている。

 婚約関連の騒動という意味では、ライザーの時と状況は似てるかもな。

 違うのは、今回の対象はアーシアという点だ。アーシアは不安そうに俺の手を握っている。

 心配するな、アーシア。

 ……いざとなったらコイツをブッ飛ばしてでも守ってやるよ。

 部長には迷惑かかるかもだけど、きっと部長も許してくれるとは思う。

 そんな俺の覚悟を余所にディオドラは部長と交渉する。

 

「リアスさん。単刀直入に言います。“僧侶”のトレードをお願いしたいのです」

 

「いやん! 僕のことですか!?」

 

 それを聞いたギャスパーが身を守るような仕草をする。

 そんなわけないだろ……。

 ……いや、コイツなりにこの張り詰めた空気を解したかったのかもしれないな。

 当の本人はそんなギャスパーをスルーしてアーシアへと視線を向けた。

 

「いや、悪いけど君には興味ないんだ。僕が望む眷属はアーシア・アルジェントだ」

 

 やっぱりアーシア狙いか。

 悪いが今ので俺のコイツへの印象はさらに最悪なものへとなった。

 曲がりなりにも求婚した相手を? トレード? 物扱いでもしてるつもりか? 

 

「こちらが用意するのは────」

 

「ごめんなさい

 先に言っておいた方がいいと思ったからいうけど、私はアーシアを手放すつもりはないの。大事な眷属悪魔だもの」

 

 部長も俺と同じ気持ちなのだろう。

 部長はディオドラの出したカタログらしきものを一瞥もせずに言い切った。

 

「それは能力? それとも彼女自身が魅力だから?」

 

 ディオドラは淡々と部長に訊いてくる。

 嫌な意味で諦め悪いな、こいつ。

 部長が断った時点でこの話は終わりだろ? 大人しく帰れよ! 

 

「両方よ。私は、彼女を妹のように思っているわ」

 

「────部長さんっ!」

 

 アーシアは手を口元にやり、美しい緑の瞳を潤ませていた。

 部長が『妹』と言ってくれたのが心底嬉しかったのだろう。

 

「一緒に生活している仲だもの。情が深くなって、手放したくないって理由はダメなのかしら? 私は十分だと思うのだけれど。それに求婚したい女性をトレードで手に入れようというのもどうなのかしらね。そういう風に私を介してアーシアを手に入れようとするのは解せないわ、ディオドラ。あなた、求婚の意味を理解しているのかしら?」

 

 部長は迫力のある笑顔で言いかえす。

 やっぱり部長も俺と同じ考えのようだ。

 最大限配慮しての言動だったが、キレているのは傍から見ても一目了然。

 しかし、ディオドラは笑みを浮かべたままだ。それが逆に不気味だ。

 何を企んでやがる? 

 

「────わかりました。今日はこれで帰ります。けれど、僕は諦めません」

 

 ディオドラは立ち上がり当惑しているアーシアに近づく。

 そして、アーシアの前へ立つと、その場で跪き、手を取ろうとした。

 

「アーシア。僕はキミを愛しているよ。だいじょうぶ、運命は僕たちを裏切らない。この世のすべてが僕たちの間を否定しても僕はそれを乗り越えてみせるよ」

 

 訳のわからない戯れ事を抜かしながら、ディオドラはアーシアの手の甲にキスをしようとする。

 

 ガシ! 

 

 俺はディオドラの肩を掴み、キスを制止させる。

 

「見てわからねえのか? アーシアは嫌がってるんだろ」

 

 俺が肩を掴みながらそう言う。

 そもそもいきなりキスしようとするとかどういう了見だよ。

 すると、ディオドラは爽やかな笑みを浮かべながら言った。

 

「離してくれないか? 薄汚いドラゴンに触れられるのはちょっとね……いや人間だからそれ以下の蛆虫かな?」

 

 とうとう本性を出しやがったな、こいつ……。

 マジでぶん殴るぞ? 

 ミッテルトもかなりキレてる。アーシアを物扱いするかのような言動に怒りを感じてるのだろう。

 

 バチィ! 

 

 瞬間、アーシアのビンタがディオドラの頬に炸裂した。

 アーシアはそのまま俺に抱きつき、叫ぶように言った。

 

「そんなことを言わないでください!」

 

 これにはこの場の全員が驚いていた。

 あのアーシアが誰かを叩くなんて思ってもみなかったからだ。

 ミッテルトもこれには驚いている。

 対してディオドラは頬が赤くなっているが、笑みを止めずにいた。

 このまで笑みを続けるとマジで不気味だぜ……。

 

「なるほど。わかったよ。────では、こうしようかな。次のゲーム、僕は歴代最強の赤龍帝“兵藤一誠”を倒そう。そしたら、アーシアは僕の愛に答えてほしい……」

 

 薄ら寒い笑いをしながらディオドラは告げた。

 ディオドラが認めれば、眷属候補である俺もゲームに参加できる……とはいえ、すごい自信だな。

 俺はチラリとアーシアを見る。その眼からは信頼が感じ取れた。

 アーシアは俺が勝つことを信じてるのだろう。ならば、俺も答えるべきだな。

 

「……お前ごときに負けるわけねえだろ」

 

「それはどうかな?」

 

 これほどの自信……。

 コイツは何やら俺を倒す秘策かなにかを用意してるのだろう。

 上等だ。真っ正面からぶっ壊してやるよ。

 

「赤龍帝、兵藤一誠。次のゲームで僕は君を倒すよ」

 

「ディオドラ・アスタロト。悪いがアーシアは絶対にお前には渡さない! お前の言う薄汚い蛆虫の力を見せてやるよ!」

 

 睨み合う俺とディオドラ。

 瞬間、先生のケータイが鳴り響く。メールを見た先生は俺たちに告げる。

 

「リアス、ディオドラ、ちょうどいい。ゲームの日程が決まったぞ。────五日後だ」

 

「五日後。その日にアーシアは僕の物になるのか。楽しみだね」

 

 最後にそう呟きながら、ディオドラは帰っていった。二度と来るな。

 魔王からの正式な通達が来たのは、後日のことだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「上級悪魔……か……」

 

「ごめんなさいね、イッセー。でも、上級悪魔だって、あんな人ばかりじゃないのよ」

 

「それはわかってるっすよ。部長も会長もイイ人っすからね」

 

 深夜。俺たちは今、部長達と共に依頼のあったという邸宅に向かっていた。

 何でも、()()()()()()()()()()()()()()()()という依頼があったそうだ。

 俺とミッテルトもたま~に手伝いをしてるから、多分そこで知られたんだろうな。

 時間に余裕があるらしく、歩きでも構わないと言われたため、全員で向かっているのだ。

 そこで俺は物思いに耽っていた。ライザーといい、ディオドラといい、上級悪魔は他種族を見下す傾向が強い。

 あのパーティーでそんな人ばかりじゃないこともわかってはいるが、全体から見るとそれは少数派だろう。

 部長に会長、あの会合の後、共通の趣味で少しだけ話す機会のあったシーグヴァイラさんに努力家のサイラオーグさんみたいに、偏見を持たず接してくれる人もいるけど、あのヤンキーやディオドラみたいに古い価値観にとらわれた若手もいる。

 歴史が長いから、古い悪魔たちが凝り固まった価値観を持つのは仕方ないにしても、若い世代までそれが継承されてるのは何となくいただけないな……。

 

「ごめんなさい……」

 

「アーシアが謝ることじゃないっすよ。まあ、イッセーがあの程度の負けるわけないし、どっしりと構えてるっすよ」

 

 申し訳なさそうなアーシアをミッテルトが励まそうとする。

 瞬間、俺の感知に反応が出た。

 

「……っ!?」

 

「……小猫?」

 

 仙術を学んでいる小猫ちゃんも気配を感じ取ったのだろう。

 構えをとり、警戒している。

 

「何しに来たんだ? ヴァーリに……えっと美猴……だっけ?」

 

「覚えていてくれたのかい? 光栄だねぃ」

 

 俺の言葉に反応して、闇夜からラフな格好の男が姿を現した。

 斉天大聖孫悟空の子孫、美猴だ。

 

「やっぱりバレてるみたいだぜぃ、ヴァーリ。おひさ、赤龍帝」

 

 美猴のその声を聞き、もう一人の青年が暗闇から現れる。

 

「二ヶ月ぶりだな、兵藤一誠」

 

 そこから出てきたのは、白いシャツ姿のヴァーリだった。

 部長たちはそれを見て警戒している。今にも襲い掛かりそうだ。

 俺はそれを手で制しながら、とりあえず目的を聞いてみる。

 

「で? 結局、何のようだよ?」

 

 殺気は感じないし、どうやら戦いに来たわけじゃあなさそうだけど……。

 

「レーティングゲームをするそうだな? 相手はアスタロト家の次期当主だと聞いた」

 

 何処で聞いたんだよ……。決まったの先日だぞ? 

 まあ、聞いた話によると、こいつは“禍の団”でも上位のチームに位置するらしい。どうせ三大勢力の中にもお仲間はいるだろうし、知っててもおかしくはないか。

 

「ああ。それがどうした?」

 

「記録映像は見たか? アスタロト家と大公の姫君の一戦だ」

 

「……見た」

 

 ディオドラが帰ったあと、俺は部長達と共にディオドラ対シーグヴァイラさんの記録映像を確かに見た。

 試合はディオドラの勝ちだったけど……違和感のある試合だった。

 ディオドラの実力は圧倒的。奴だけがゲームの途中から異常なほどの力を見せ、シーグヴァイラさんとその眷属を撃破したんだ。

 ディオドラの眷属は奴をサポートするぐらいで、“王”自ら、孤軍奮闘、一騎当千の様相を見せた。

 ディオドラは魔力に秀でたウィザードタイプだ。しかし、試合では部長を超えるほどの魔力のパワーでアガレス眷属達を追い詰めていた。

 これを見て訝しげに思ったのはほぼ全員。ゲーム自体ではなく、ディオドラのみに注目していた。

 あいつは急にパワーアップしたんだ。

 それまではシーグヴァイラさん率いるアガレス眷属があと一歩のところまで追いつめていたのに途中から急に力強くなったディオドラに敗北した。

 二人のEP値から見ても、これはありえないことだ。

 二人ともAランクだけど、魔力面でも身体面でもシーグヴァイラさんがディオドラを上回っていたのは間違いない。

 現に先生もディオドラの力に疑問を抱いていた。

 先生は生でこの試合を観戦していたらしいけど、事前に得ていたディオドラの実力から察してもあまりに急激なパワーアップに疑問を感じたようだ。

 部長も同じ意見だった。

 ディオドラはあそこまで強い悪魔ではなかった────と、部長と先生の意見は一致した。

 正直、修行前ならともかく、今の部長や会長と比べるとディオドラは大きく劣っていた。実際、ゲーム序盤は俺の予想の範疇を出ていなかった。

 試合途中からディオドラは皆が驚くほどの力を発揮していた。

 短時間でそこまで強くなれるハズがない。

 俺の予想が正しければディオドラは……

 

「まあ、俺の言い分だけでは、上級悪魔の者たちには通じないだろう。だが、君自身が知っておけばどうとでもなると思ってね」

 

 ……ここは礼でも言っとくべきなのかね? 

 俺がそう思ったときだった。

 とてつもない気配とともに、ふいに人影が────。

 この場にいる全員が予想外だったようで、そちらへ視線を向けていた。

 ぬぅ……。

 闇夜から姿を現したのは────ものすごい質量の筋肉に包まれた巨躯のゴスロリ漢の娘だった。その頭部には猫耳がついている。

 

「────ミルたん?」

 

 その圧倒的存在感に、現れた瞬間、ヴァーリたちも部長たちもが二度見していた。

 わが目を疑ったのだろう。当然だ。この人? はこの世のものとは思えない姿をしてるからな。

 

「にょ」

 

「ど、どうも……」

 

「お久しぶりっすね……」

 

 手をあげ、俺にあいさつし、横を通り過ぎていく。

 俺も手をあげて引き攣る笑顔で挨拶を返したが……。

 

「……なんですか、今の? 全く気付けませんでした……」

 

「うちもっす。修行が足りないんすかね?」

 

「頭部から察するに猫又か? 近くに寄るまで俺でも気配が読めなかった。仙術か?」

 

「いんや、あれは……トロルか何かの類じゃね? ……猫トロル?」

 

「いや、信じがたいけど、人間だよ」

 

『え?』

 

 俺の答えが信じられないのか、しばし無言の状態が続く……。

 

「……まぁ、いいか。帰るぞ、美猴」」

 

「お、おう」

 

 いち早く我に返ったヴァーリはそれだけ言うと、美猴と共にこの場を後にしようとする。

 

「待てよ。それだけ言いに来たのか?」

 

 俺がそう訊くとヴァーリは笑って見せる。

 

「近くに寄ったから、忠言に来ただけさ」

 

「じゃあな、赤龍帝。なぁ、ヴァーリ。帰りに噂のラーメン屋寄って行こうや~」

 

 ヴァーリはそう言うと歩みを進める。

 そのまま二人は暗闇の中に溶け込んでいった。

 

「何を企んでるのかしら?」

 

 部長は訝しむが、俺はヴァ―リへの印象を少し改めていた。

 戦闘狂という一面を除けば、やっぱりヴァ―リも先生の教え子なんだな……と。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「ここよ」

 

 気を取り直して俺たちは依頼主の家へと向かっていた。

 なかなかの豪邸だ。相当のお金持ちなんだろうな。

 そんなことを考えていると、扉が開き、使用人らしき人が────っ!? 

 

「お待ちしておりました。悪魔の皆々様方。私、当屋敷の使用人“美空”と申します。どうぞよろしくお願いします」

 

 現れたのは空色の髪色が特徴的なメイドさん。

 何処かで見たことある。厳密には俺が通ってたフィギュア教室で。

 見るとミッテルトも絶句してる。

 この人が使用人ということは、この屋敷の主はもしかしなくても……。

 

「フフフ、きましたね。待っていましたわ。悪魔の方々!」

 

 そう言いながら、邸宅の扉より屋敷の主であろう“悪魔(デーモン)”が現れた。

 青い髪に紅い私服を纏いながら、腹の立つどや顔を見せている。

 

「私は“青原(あおはら)雨葵(あお)”。芸術家兼メイドをしていますわ。どうかよろしくお願いします」

 

 隠す気0の偽名を名乗りながら、目の前のサボり魔(青い悪魔)はスカートをつまみ、優雅なお辞儀をするのだった。



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青い悪魔と交流です

 イッセーside

 

 

 

 

「な、なんで?」

 

「アラ、私がいては何かおかしいですか?」

 

 そう言いながら目の前の青いサボり魔は不思議そうに首をかしげた。

 いや、おかしいわ! 俺確かにこの人を“門”に突き飛ばしたよ! 

 この世界に残してたら絶対厄介ごとにしかならないもん! 

 

「フフフ、イッセーさん。どうやらあなたは私の権能をお忘れの様ですね」

 

 そこで俺は思い出す。

 そうか、あの時突き飛ばしたのはこの人の“偏在(ミスト)”か。

 この人は事前に肉体を分割するという権能を持っているのだ。“並列存在”に近しい権能で、分割した肉体はどれもが本体となりえる。

 恐らく、突き飛ばされる直前に本体を切り替えたのだろう。だから俺も気づくことができなかった。

 この権能はかなり厄介で、模擬戦でも相当辛酸をなめたものだが、こんなくだらないことに使うとは……。

 そんなに帰りたくないか!? 

 

「イッセー? 知り合いなの?」

 

「あ、え~と……」

 

 訝しげに尋ねる部長に返答に困ってしまう。

 この人のこと、なんて説明すれば……。

 

「この人はイッセーのフィギュア製作の師匠なんすよ」

 

「イッセーの?」

 

「イッセー君のフィギュア作りはこの人に教えて貰ったんだね……」

 

 そんな俺をミッテルトが庇うように説明する。

 それを聞いた部長と木場は驚きつつも、飾られてるフィギュアを見て納得したように頷いた。

 

「あらあら、確かにすごい数ですわね」

 

 朱乃さんが部屋の中を見渡しながらつぶやく。

 そこにあったのは途方もない数のフィギュアにプラモだ。

 恐らく、この人が趣味で作り上げたのだろう。それにしてもこの数……いったいどれだけの間此処にいたんだ? 

 

「まあ、それほどでもありますけどね」

 

「流石です! レ……雨葵様! 短期間でこれだけの量を作るだなんて、大変感服しました!」

 

 そう言いながら、()()()さんは拍手をしながらこの人を煽て始める。

 これだよ! これがこの人をだめにする要因なんだよ! 何でもかんでもすぐに煽ててさあ! 

 俺は調子に乗ってる悪魔を冷めた目で見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「……で、本日はどのような依頼で?」

 

 気を取り直して部長が……雨葵さんに問いかける。

 雨葵さんは芝居がかった感じで悲しそうに涙を流す。

 

「実は、私の家には数多の財産があったのですが、それが急に尽きてしまったのです。原因もわからず、このままでは明日食べるものにも困ってしまう状況なのです……」

 

 この人はおいおいと泣きながら告げた。

 うん。原因はこのプラモとフィギュア、そして別室にあった漫画にゲームの山だね。

 すごい労力がかかっていて、繊細なつくりだけど、この量を作っちゃえばこうなるよ。ゲームや漫画などもってのほかだ。

 趣味にお金をかけすぎてるだけなんだよ。

 

「私もアルバイトをしながらお金をためてますが、何故かお金は減るばかり……一体どうすれば……」

 

 そう言うのはミソラさんだ。

 うん。この人に馬鹿な真似をやめさせたらすぐに貯まると思うよ。

 ミソラさんはこの人関連以外では真面目だし、要領もいいから短期バイトでもすればすぐに貯まると思う。

 

「まあ、それはそうなんですけど……」

 

 ミソラさんはチラッと泣き真似をする雨葵さんを見つめる。

 目が合ったらしく、少し疲れた様子を見せながらも、俺たちに振り向き告げる。

 

「私もこの家の使用人という立場がある以上、長く家を空けることは避けたいんですよね。ですので、悪魔の皆様、何かいい儲け話はありませんか?」

 

 いや、あんたも悪魔だろ。そもそもミソラさんがやらなくとも、この人だって自炊できる……というか、職業柄家事とかは完璧なんだからこの人にもやらせなさいよ。

 そんなこと考えながらも俺はどうしたものかと考える。

 こうして依頼を出した理由はなんとなくわかる。俺への牽制だ。

 正直、お金だけならばいくらでも稼ぐ手段があるだろう。だから、お金が目的というのはただの方便だ。

 この人はろくでもないというか……戦力にはなるけど、正直扱いに困るのだ。

 (ギィさん)同僚(ミザリーさん)というストッパーがいない以上、タガが外れたこの人が何をしでかすのか想像もつかん。

 もしこの人が問題を起こしたら、正直俺は上手く止められる自信がない。

 だからこそ、俺がこの人がまだこの街にいることを知ったら再び元の世界へ戻すように動いていただろう。

 この人は部長たちと関わることでこの街にとどまろうとしているのだ。

 恐らく、今後も依頼を続け、部長とコミュニケーションを計ることで、簡単には出ていかせることができないように外堀を埋めるつもりだ。

 ここで俺が動けば部長が不振がってしまう。かといって、部長がいないうちに行動することはもう難しい。

 部長たちは今我が家在住だし、何よりこの人の顔を知ってしまった。

 知らないうちは、仮に見られてもミッテルトにも協力してもらい、軽い知り合い程度の説明で納得してもらえるし、それで話を終わらせることもできるだろう。

 だが、今この人が急に街から消えれば部長たちは疑問に思うことだろう。

 考えたな……。

 

「……これらのフィギュアは市販の物なんでしょうか?」

 

「いえ、すべて私が制作したものですよ」

 

 雨葵さんの言葉を聞きながら、部長は改めてフィギュアの山を見渡す。

 できはどれも素晴らしいんだよな。

 

「これ全部作るなんてすごいですね」

 

「ああ。正直、フィギュアのことはわからないが、とても精巧に思える」

 

「こんなのを作れるなんてすごいですぅ……」

 

 アーシアもゼノヴィアもギャスパーもその出来に圧巻されているようだ。

 小猫ちゃんも木場も黙ってはいるが、素直に感嘆してるようだ。

 

「う~ん、思い切ってこのフィギュアを売るというのはどうですか? これほどの物なら高く買い取りますわよ」

 

 え? 買いとるの? 

 まあ、でも確かに、どれも再現度が高く、ぶっちゃけ市販品と比べても遜色ないどころか、上回るほどの精巧さだからな。

 マニアには高く売れるだろう。あのガ○ダムとか、冥界のメガネのお姉さんが喜んで買いそうだ。

 

「ほう。それはいくらぐらいでしょうか?」

 

 部長の提案に雨葵さんは目を輝かせる。

 部長はギャスパーに計算させ、明細を雨葵さんに提示した。

 

「ふむ、この値段なら問題ありませんね。交渉成立です」

 

 そういいながら、雨葵さんは部長とがっしり握手する。

 これ、眷属全員なんていらないじゃん。部長と俺だけでいいじゃん。

 

「いえいえ、あくまで全員にわれらを認識してもらうのが目的ですからね」

 

 ミソラさんの言葉に思わずため息が出る。

 なんていうか、時間の無駄だったな……。

 

「では、一つ目の依頼も済んだことですし、二つ目の依頼です。皆でこれやりませんか?」

 

 そういいながら雨葵さんが出したのは……様々なキャラクターが大乱闘してスマッシュするゲームだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

「このゲーム、なかなか面白かったわね」

 

「うふふ、あまりやる機会はなかったのですけど、とても楽しめましたわ」

 

 そう言いながら、部長と朱乃さんは満足げな様子だ。

 確かに、家庭用ゲームはたいてい黒歌の専用になってたし、何より悪魔家業にレーティングゲームの研究、禍の団の対策などで忙しかった皆にとってはいい息抜きになったのかもしれないな。

 

「では、私たちは帰りますね」

 

「また、何か御用があれば、是非呼んでください」

 

 アーシアと木場はそう言いながら、礼儀正しく挨拶をする。

 特にアーシアはさっきまでとは違い、とてもいい表情になっている。

 ……こういうところは感謝しないとだな。

 

「じゃあ、行くわよイッセー……」

 

「ああ、俺は後でミッテルトと一緒に戻りますから、皆は先に帰っててください」

 

「そう? じゃあ、またあとでね……」

 

 少し名残惜しそうにしながらも部長たちは帰路につくのだった。

 ……さてと。

 

「……あの、いい加減にしないと本当にギィさんに怒られますよ────“レイン”さん」

 

 俺は雨葵さん改めレインさんに一応の忠告をしておく。

 レインさんは数万年以上────下手すると、数億年以上の長き時を生き抜く“原初の悪魔”。

 “原初の青(ブルー)”の名を冠する最強の悪魔王(デヴィルロード)の一柱なのだ。

 まあ、その実態はただの残念美人なんだけど。

 

「フッ、問題ありません。ギィ様へのお土産に聖典(漫画)やゲーム、珍しい世界の菓子などを用意してますからね」

 

「はい。これならばギィ様もきっと許してくださるでしょう」

 

「……それで許してくれるっすかね?」

 

 そう言いながら、拍手をするミソラさんに半目となる俺とミッテルト。

 ミソラさんは相変わらずレインさんに追従するだけだ。

 ミソラさんは数万年間レインさんに仕えている“公爵級”の“悪魔公(デーモンロード)”でEPも70万を超え、ギィさん配下の悪魔の中でも原初の二人を除けば最強の強さを誇ってる。

 そんなミソラさんは基本的には苦労人なのだが、レインさんに対して甘やかしすぎる傾向があるのだ。

 レインさんが間違ってると頭ではわかっていても、甘やかして煽てたり追従したりしてしまい、仮にそのしわ寄せで苦労することになってもレインさんには絶対に逆らわない。

 その姿はラミリスさんを甘やかすトレイニーさんを彷彿とさせるほどだ。

 だからレインさんがつけあがるんだよな……。

 

「まあ、今はいいでしょう。それよりも、ひどいじゃないですかイッセーさん。この私を無理やり送り返そうとするなんて」

 

「いや、当然でしょ。正直、この世界の悪魔とは違う悪魔がこの世界にいると何が起こるかわかりませんもの。同じ悪魔といえど、全然違う種族なんですから」

 

 この世界の悪魔と向こうの世界の“悪魔(デーモン)”は似て非なる存在だ。

 魔素の質は似通ってるのだが、決定的に違う点としては向こうと違い、こちらの悪魔は物質生命体である点だろう。

 だからこの二つの種族はまるで異なる種族であるといえる。

 ただでさえ、多種族に対し排他的な悪魔が向こうの世界の悪魔の存在が知れば、何が起こるか想像もつかん。

 

「……本当に、まるで違う種族なんですかね?」

 

「? どういうことですか?」

 

 レインさんのつぶやきに俺は思わず聞き返す。

 

「今、イッセーさんも言いましたが、魔力の質が似てるんですよ。私達とあの悪魔たち。読み方が違うとはいえ、同じ“悪魔”の名を冠し、同質の魔力を持つ。そんなものたちが、本当に私たちと関係がないといえるのでしょうかね……」

 

「……言われてみれば」

 

 世界が違うのだから、そういう偶然もあるだろう。

 俺は今までそう考えていたけど、本当にそうなのか? 

 確かに不思議だ。

 この世界の悪魔の起源は“聖書の神”だ。

 聖書の神が生み出した“ルシファー”と呼ばれる存在と原初の人間である“リリス”により、悪魔という概念が生まれたという。

 ……そもそも、聖書の神は何故新たに生まれた種族に悪魔と名付けたのだ? 

 それだけじゃない。なぜ、純白の翼を持つ使徒たちに天使という名を与えたんだ? 

 これって偶然なのか? 

 

「確かに、考えたこともなかったっすけど、ミカエルさんたちの名前って、何が由来なんすかね?」

 

 かの星王竜の生み出した究極の権能と同じ名を冠するミカエルさん。

 あの人は何故、聖書の神にその名を与えられたのか……。

 

「もしかしたら、この世界と私たちの世界は割と強いつながりがあるのかもしれませんね」

 

 レインさんの言葉に俺はその可能性を考える。

 ここまでくると偶然……という言葉では片付かないだろう。

 ここでレインさんは何やらハッ! と何かに気付いた様子を見せ、咳払いをして告げた。

 

「……何を隠そう、私はそれを調査するために来たのですよ」

 

 レインさんが最後に付け足した言葉に一瞬感心してしまう。

 だが、その気持ちは一瞬で冷めた。

 なぜなら、レインさん一の従者であるミソラさんが『え?』と初耳そうな感じでレインさんを凝視していたからだ。

 

「……それってたった今考えた方便でしょ」

 

「あ、ばれましたか」

 

 可愛らしい仕草でてへぺろと誤魔化すレインさん。

 こうしてみると滅茶苦茶可愛くて、思わず絆されそうになってしまう。

 

「全く、言っときますけど、変な事したらギィさんに言いますよ」

 

「まあまあ、慌てないでくださいイッセーさん。さっきの恩を忘れたんですか?」

 

「それは……」

 

 先ほどの恩とはアーシア達のことだろう。

 実はレインさん、ゲームに合わせて皆の不安と言った悪感情を喰らってくれたのだ。

 感情をエネルギーとして食べることができる特性をもつ“悪魔(デーモン)”ならではの療法だ。

 お陰でゲームが終る頃にはアーシア達の不安は完全に取り除かれていた。

 確かに、こういう部分は感謝すべきだろう。

 

「……というか、むしろ、ギィ様に見つかったら、イッセーさんが私のこと庇ってくれませんか?」

 

「いやですよ!? 無茶言わないでください!」

 

 そんなことしたら俺が死ぬわ! 怒れるギィさんをなだめるなんて命がいくつあっても足りねえよ! 

 

「まあまあ、そんなこと言わず、もし、庇ってくれるのであれば、私の乳を揉んでもいいんですよぉ」

 

 ・・・・・・え? まじで? 

 

「はい。これは()()です。私がギィ様に怒られた時、無事助けることに成功したら、一揉みくらいは構いません。し・か・も、布越しではなく直に……です。何なら今ならミソラもつけますし、悪い取引ではないと思いますよ」

 

「はい! わかりました!」

 

 ミソラさんは『え? 私も?』とでも言いたげな表情だが、レインさんの望みならばこの人もおっぱいをさらけ出すくらいはするだろう。

 その魅力的すぎる“契約”につい、二つ返事で飛び込んでしまった。気付いた時にはもう手遅れ。レインさんの手により、“魂”が縛られる感覚が俺を襲った。

 

「フフフ、たかが一回揉まれる程度でギィ様の怒りから逃れられるのであれば安いものです」

 

 クソ! やられた! 

 これで俺はレインさんのスケープゴートとしてギィさんに対抗しなければならなくなってしまった! 

 正直命がいくつあっても足りねえ! 

 

「大丈夫ですよ。イッセーさんはギィ様にとってもお気に入りですし、少なくとも殺されることはありませんよ……多分……」

 

「たぶんじゃ困るんですよ!」

 

 やべえ、どうしよう! 俺の魂の枷は、少なくとも簡単に解除出きる代物ではない! 

 流石に腐っても“原初の悪魔”の力だ! 俺の“呪縛崩壊(カースブレイク)”は自分には使えないし、マジでどうしよう! 

 ゾクッ! と俺はかなり冷たい気配を感じ、慌てて振り向く。そこには冷徹な表情のミッテルトが静かにこちらを見ていた。

 

「……イッセー」

 

「いや、そんな冷めた目で見ないでミッテルト!」

 

 呆れ……というか、心底軽蔑した感じのミッテルトの冷たい視線がメチャクチャ痛い! 

 だ、だけどさ、仕方ないじゃん! 数億年間揉まれることのなかったであろう、原初の青のおっぱい! 揉めると聞けば、誰だって飛びついちゃうだろ! 

 ミッテルトの視線にいたたまれない気持ちになりつつも、俺達は帰路についた。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「勝負は五日後か。すぐだね……」

 

「そうだな……」

 

 人生ゲームの駒を進めながらゼノヴィアはいう。

 家に帰ったら部長達は何故かコスプレ大会を開いていた。

 呆気にとられる俺を余所に、部長と朱乃さん、アーシア、ゼノヴィア、小猫ちゃんがそれはそれは可愛らしい姿で俺たちを出迎えてくれたのだ。

 部長に見とれてると、朱乃さんが負けじと対抗して、気付けばいつもの大喧嘩が勃発してしまい、俺たちは隣の部屋へと避難している所だった。

 ちなみに、小猫ちゃんは俺の膝の上に座っており、柔らかいお尻の感触に脳みそがとろけそうになる。

 

「────っ!!」

 

「────っ!!」

 

 どうやら部長と朱乃さんはまだ喧嘩してるみたいだな。

 まあ、いつものことだし大事には至らないと思うけど……。

 

 くすっ。

 

 そんな俺たちを見て、アーシアは小さく笑う。

 

「ん? どうした、アーシア?」

 

「はい。楽しいなって思いまして」

 

 そう言いながら、アーシアはサイコロを振り、駒を進める。

 

「イッセーさん、私、今の生活が大好きです。みんなのことも大好きです」

 

「わかってるよ。今度のレーティングゲームは心配するな。俺が必ず何とかする。チャッチャッと終わらせて、体育祭の二人三脚で一位とろうぜ!」

 

「はい!」

 

 満面の笑みでアーシアは答えた。アーシアはディオドラなんかには絶対に渡さない! 

 俺が覚悟を改めて決めていると、部長が部屋に入室してきた。

 その姿はバニーガール! しかも、かなりエロい感じの! 

 やべえ、鼻血が出そう……。

 

「突然で悪いんだけど……」

 

『?』

 

 皆を見渡す部長に俺たちは怪訝な面持ちとなる。

 何かあったのか? 

 

「取材が入ったわ。冥界のテレビ番組に私達が出るの。若手悪魔と眷属達の特集よ。もちろん、眷属候補のイッセーにも出て貰うわ」

 

『…………』

 

 俺を含め、全員がまの抜けた表情になり……。

 

「「「「テレビ番組ィィィィィッッ!!!?」」」」

 

 絶叫が兵藤家に響き渡った。




おまけ




「……よかったんですか?レイン様、あのような下賤な奴にあんな契約して!」

ミソラはイッセーがいなくなったことを確認し、毒を吐く。
イッセーに対し、別段悪感情を持ってるわけではない。むしろ、欲望に忠実で人間らしいとある種の好感を抱いていたほどだ。
だが、今回の契約に関しては別。レインを主と仰ぐ彼女にとって、レインの身体は至高のものだ。
そんなレインの胸をいじられるなど、彼女からすればすさまじい大罪なのである。
だが、レインは意に返さない。

「フッ、問題ありません。ギィ様に怒られるほうがよっぽど危険ですからね」

そういいながら、レインは屋敷へと踵を返す。
それと同時に自らの肉片を分割させ、“偏在(ミスト)”を作り出す。
ただし、それは丸い球体だ。触るととても柔らかそうな弾力をしている。レインは肉片との繋がりを完全に遮断するとともに、その肉片を玄関に置いた。

「え~と、レイン様、それは?」

ミソラの疑問にレインは立ち止まり、悪い笑みで答える。

「……()()()……とは言いましたが、だれも()を揉ませるとは言ってません。これは乳の弾力を再現した肉片ですよ。これも立派に私の乳です。そう言い張れば問題ありません。ちゃんと直に揉ませるし、なんの不備もないでしょう」

「なるほど、さすがレイン様!」

ミソラはレインの言葉に合わせ、褒めたたえる。
確かに彼女がこの肉片を乳と言い張れば、レインの胸をいじられる(最悪の)事態は阻止できる。
ミソラは融通の利く性格であり、切り替えも速い。肉片はあくまで肉片。レインから離れ、繋がりも断った以上、これはレイン自身とは一切関係はないのだ。
つまり、イッセーはこの18禁グッズ(肌色のボール)と引き換えにギィの怒りを引き受けることになるのだ。
これは面白い……と、ミソラは邪悪な笑みで笑うのだった。

「……まあ、可哀そうですし、ミソラの乳はマジで揉ませてやりますか……」

邪悪に笑うミソラはレインのつぶやきに気付くことはなかった。


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テレビ出演です

 イッセーside

 

 

 

「あー、俺は……いや、私はグレモリー眷属候補の……」

 

 俺は鏡の前で発声練習に勤しんでいた。

 だってさ、テレビ出演だぜ? 論文の発表とかは、研究員時代に何度かあったけど、テレビは不特定多数に発信するんだ。そりゃ緊張もするわ。

 部長たちは元々魔王の家族として有名人。前回のレーティングゲームでさらに知名度をあげたのだ。

 負けたとしても、あの戦いは間違いなく名勝負。どちらの陣営も凄まじい人気が出たそうだ。

 ソーナ会長達もそこは同じで、あの人達も既にテレビ取材を何度か受けてるらしい。

 

「イッセー、そろそろ時間っすよ?」

 

「おう、今行く」

 

 ミッテルトに促され、俺は転移用の魔方陣へと向かう。

 到着した場所は都市部にある大きなビルの地下だ。

 転移用魔法陣のスペースが設けられた場所で、そこに着くなり、待機していたスタッフの皆さんに迎えてもらった。

 

「お待ちしておりました。リアス・グレモリー様。そして、眷属の皆様。さぁ、こちらへどうぞ」

 

 スタッフの人に連れられて、エレベーターを使って上層階へ。

 ビル内は人間界とあまり変わらない作りだが細かい点で差異があったりする。

 魔力で動く装置と小道具が建物のあちこちに使われていたりする。

 こういうのを見ると、“魔国連邦(テンペスト)”を思い出す。

 廊下にでるとそこにはポスターがあった。

 そこに写っていたのは部長。紅髪の美少女がこちらを見て微笑んでいる。こうやって見るとアイドルみたいだな。

 その隣にはソーナ会長にシーグヴァイラさんのポスターもある。こちらは……なんというか、選挙の広告ポスターみたい。

 と、ここで廊下の先から見知った人が十人ぐらいを引き連れて歩いてくる。

 

「サイラオーグ。あなたも来ていたのね」

 

 部長が声をかけたのはバアル家次期当主のサイラオーグさんだった。

 貴族服を肩へ大胆に羽織り、風格を漂わせている。

 隙もほとんどない。常に臨戦態勢って感じだ。

 そのすぐ後ろに金髪ポニーテールの女性、サイラオーグさんの“女王”が控えている。

 ……美人だよなぁ。この人。

 

「リアスか。そっちもインタビュー収録か?」

 

「ええ。サイラオーグはもう終わったの?」

 

「これからだ。おそらくリアスたちとは別のスタジオだろう。────試合、見たぞ。今回は残念だったな」

 

「ええ。でも、次は負けないわ。……貴方にもね」

 

 サイラオーグさんの言葉に部長は答えた。

 その言葉からは並々ならぬ情念が感じられる。相当悔しかったんだろうな……。

 サイラオーグさんもそれを見て笑みを深めている。どうやら相当燃えてるみたいだな。

 その視線は部長から俺へと移る。

 

「兵藤一誠。俺は“歴代最強の赤龍帝”と称される貴殿と是非とも戦ってみたいと思っている」

 

 サイラオーグさんは闘志を燃やしながらそう告げた。

 

「……わかりました。受けて立ちましょう」

 

「ああ。楽しみにしているよ」

 

 サイラオーグさんはそれだけ言うと、去っていった。

 ……正直な話、俺は今回のゲームに関わる気はあまりなかった。というのも、俺が出てしまえば、ほとんどのゲームはワンサイドゲームになってしまうからだ。

 今回のディオドラは例外中の例外……のつもりだったんだけどな……。

 あの人の眼を見ると、俺もあの人と戦ってみたいという気になってしまったんだ。

 俺とサイラオーグさんがまともに戦えば、正直な話、俺が勝つだろう。

 だけど、あの人はそれを承知の上で、俺と戦いたいと言っているのだ。ならば、受けて立つのが筋というものだろう。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 その後、俺達はスタジオらしき場所に案内され、中へ通される。

 まだ準備中で、局のスタッフがいろいろと作業していた。

 先に来ていたであろうインタビュアーのお姉さんが部長にあいさつする。

 

「お初にお目にかかります。冥界第一放送局の局アナをしているものです」

 

「こちらこそ、よろしくお願いしますわ」

 

 部長も笑顔で握手に応じた。

 

「さっそくですが、打ち合わせを────」

 

 と、部長とスタッフ、局アナのお姉さんを交えて番組の打ち合わせを始めた。

 スタジオには観客用の椅子も大量に用意されている。

 つまり、お客さんもたくさん来るわけだ。これは練習しといてよかったな。向こうでの論文発表とかを思いだすぜ。

 

「……ぼ、ぼ、ぼ、ぼぼぼぼぼぼ、僕、帰りたいですぅぅぅぅぅ……」

 

 俺の背中でぶるぶる震えているギャスパー。

 引きこもりにテレビ出演は酷かもしれないな。

 安心しろ。俺だってそれなりに緊張してるんだ。だから、お前も我慢しろ。

 

「眷属悪魔の皆さんにもいくつかインタビューがいくと思いますが、あまり緊張せずに」

 

 スタッフがそう声をかける。その視線にはギャスパーがいる。

 まあ、ここまで震えてると、向こうも困っちゃうよね。

 

「えーと、木場祐斗さんと姫島朱乃さんはいらっしゃいますか?」

 

「あ、僕です。僕が木場祐斗です」

 

「私が姫島朱乃ですわ」

 

 木場と朱乃さんが呼ばれ、二人とも手をあげる。

 

「お二人には質問がそこそこいくと思います。お二人とも、人気上昇中ですから」

 

「マジですか?」

 

 俺が思わず聞き返すとスタッフは頷く

 

「ええ。木場さんは女性ファンが、姫島さんには男性ファンが増えてきているのですよ」

 

 あー、イケメンと美女だもんな。そりゃ、人気でてもおかしくない。

 前回のシトリー戦は冥界全土に放送されたらしいし、それで二人が人気出たわけか……。

 クソッ、木場め! 羨ましすぎる! 

 朱乃さんは……少し複雑だな。でも、ココは素直に喜んだほうがいいか。

 

「ちなみに、兵藤一誠さんは?」

 

「あ、俺です」

 

 名前を呼ばれたので自分を指差しながら答える俺。

 

「あ、あなたがですか! リアス様の眷属候補にして、“歴代最強の赤龍帝”として、とても有名ですよ」

 

 前々から思ってたけど、その異名は本当に広まってるんだな。

 なんでもサーゼクスさんやセラフォルーさんといった魔王様たちが俺の活躍を結構広く伝えているらしい。

 メロウ、コカビエルとの戦いや和平会談での活躍などで、悪魔の味方として戦ったおかげで一般悪魔からは割と受け入れられてるんだそうだ。

 

「兵藤さんには別スタジオでの撮影もあります。“歴代最強の赤龍帝”として、是非とも参加してもらいたい企画があるのです」

 

「あ、はい。わかりました」

 

「では、さっそく別スタジオにご案内します。あ、そちらの堕天使のお嬢さんもどうぞ」

 

「あ、はい」

 

 スタッフに何やら台本らしきものを渡された俺は、ミッテルトとともに別のスタジオへと移動する。

 はてさて、何が待ち受けているのやら。

 

「失礼します」

 

 部屋の中にいたのは……何やら胡散臭いサングラスと真っ黒なスーツに身を包むサーゼクスさんだった。

 その横にはアザゼル先生、セラフォルーさんが座っている。どちらもサーゼクスさんと同じ……少し胡散臭い格好だ。

 なんだなんだ? 

 

「急に呼び出してしまい、すまないね、イッセー君」

 

「あ、いえ別に……それよりこの集まりは?」

 

 魔王が二人に堕天使の総督……格好に眼を瞑ればそうそうたる面子だ。一体何が始まるというのか……。

 俺がそう尋ねると、サーゼクスさんは立ち上がり、カーテンのシャッターを少し開ける。

 冥界特有の光がサーゼクスさんを照らしている。

 

「僕たちは冥界の現状を憂いている。知っての通り、今の冥界は他種族や転生悪魔を見下したりする悪魔が数多くいる。しかも、その考えがこれからの冥界の未来を担う次世代にまで浸透している。もはや、それに頼らずには種の存続すら危うい状況だというのに、嘆かわしい限りだよ……」

 

 それはそう。現状、悪魔には人間やら下級悪魔やらを見下す者たちが数多くいる。

 古い悪魔の考えが、ディオドラやライザーみたいに若い悪魔にまで影響を及ぼしてしまっている状況だ。

 だからこそ、サーゼクスさんたちはそれを変えようと努力しているのだろう。

 

「……そこで、差別意識を緩和させるために、イッセー君にお願いしたいことがあるんだ。人間でありながら、悪魔を守るために戦い、なおかつ、魔王以上の力を修練によりつかみ取った君にね」

 

「お前にもだ、ミッテルト。人間や下級の堕天使でもここまで強くなれる……それは、力のない民たちにとっては希望になりうるだろう。なにより、悪魔の友達を守るために戦ったお前は、和平を結んだ悪魔と堕天使(俺達)の架け橋にもなりうる存在だ」

 

 なるほど。確かに、人間である俺がここまで強くなったことをアピールすれば、下級の子どもたちにとっては希望になりうるかもしれない。

 元々は普通の中学生だった俺でもここまで強くなれたんだ。何より、子どもたちが向上心を持てば、ソーナ会長達の夢の一助にもなるだろう。

 そこまで考えた俺たちは、サーゼクスさんの話とやらを受けることにした。

 

「何をするのかはわからないっすけど、力になれるならなるっすよ」

 

「俺も協力させてもらいます。で、俺達は何をすれば?」

 

 俺達の言葉に満足げにうなずいた三人は、俺が先ほどスタッフさんに手渡された台本を指さし、笑みを深める。

 

「フフフ、それはその台本に書いてあるよ☆刮目するといいわ☆」

 

 セラフォルーさんの言葉に促され、俺達は台本のページを開き…………

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

『う、うおおおおおおん……』

 

「ど、どうしたんだい、ドライグ?」

 

『二天龍と称された俺が……赤龍帝と呼ばれ、多くのものに畏怖されたこの俺が……』

 

 他の皆にも聞こえるほど悲しんでいるドライグ。木場もそんなドライグを見て心配している。

 な、泣くなよ……。ほ、ほらあれだ。畏怖されてるばかりだと、お前も嫌だろ? 

 た、確かにあのタイトルはあれだと思うけど、子どもたちも親しみやすくなると思うと楽なものだろ? 

 

「……まあ、ドライグの気持ちもわからなくはないっすけどね……」

 

 俺達は今、楽屋でぐったりしていた。

 あの後、企画がどういうものかを聞いて、俺達は再び部長の元へ戻った。

 始まった番組は終止部長への質問。シトリー戦での感想や、これからどうするのか、これから戦う予定の若手で一番注目してるのは誰かといった内容だった。

 部長は笑顔で答えていたが、ソーナ会長との戦いを語るときは、少し闘志を滲みだしていたように思う。

 その後、インタビューが木場へと移ると黄色い歓声が飛び交った。朱乃さんも同様で、二人の人気が伺えた。

 それだけじゃない。小猫ちゃんもかなり人気になってたらしく、その声援で本人もかなり戸惑っていたように思える。

 ちなみに俺は一部の子どもとか、転生悪魔であろう人たちに声援をもらった。

 別スタジオで企画したあれはそういう人達のこれからの希望になってくれたらうれしいな。

 

『うぅぅ……』

 

 いや、だから泣くなって。

 

「ねえ、イッセー。別のスタジオで何をしてきたの? 何やらドライグには辛いことだったみたいだけど……」

 

「ああ、それはまだ言えないんですよ。サーゼクスさんにも、あまり広めないでくれって言われてますし……」

 

「……お兄様が関わってるの? 何やら少し不安だけど、貴方が言うなら楽しみにしてましょう」

 

 部長は不安と期待を織り交ぜたような表情で言った。

 と、ここで誰かが楽屋の扉をノックした音が響いた。

 そこから入ってきたのは金髪の縦ロールが特徴的な美少女だった。

 

「失礼いたします。い、イッセー様はいらっしゃいますか?」

 

 そこにいたのはライザーの妹、レイヴェルだった。

 

「久しぶりだな、レイヴェル。何か用?」

 

 俺と視線が合うと、レイヴェルは何やら嬉しそうな顔をしたが、すぐに不機嫌そうな表情になり、手に持っていたバスケットを突き出してきた。

 

「こ、これ! ケーキですわ! この局に次兄の番組があるものですから、つ、ついでです!」

 

 そ、そうなんだ? なら、そのお兄さんに渡せばいいような……。

 そう思いながらも、取りあえず俺はレイヴェルからバスケットを受け取った。

 中身はとても旨そうなケーキが入っていた。

 

「これ、レイヴェルが作ったの?」

 

「え、ええ! 当然ですわ! ケーキだけは自信がありますの! そ、それに、ケーキを御馳走すると約束しましたし!」

 

 ああ、確かにパーティーの時、そんな約束したっけ。

 覚えていてくれたのか。律儀な子だな。

 

「ありがとな、レイヴェル。とても嬉しいよ」

 

 俺がそういうと、レイヴェルは顔を赤くしながらくるりと背を向け、扉へ向かう。

 

「で、では、私はこれで────」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

 俺はレイヴェルを引き留め、木場からケーキナイフを作って貰う。

 それを使い、レイヴェルのケーキを切り取り、口に運ぶ。

 ……うま! チョコの甘味が口一杯に広がるし、仄かな苦味が最高だ。

 以前、審査員として参加した“スイーツコロシアム”に出されても可笑しくないかもしれない。

 

「目茶苦茶旨いよ! ありがとな! 残りは家で食べさせて貰うから。ほら、次、何時会えるかわからないし、感想とかお礼とか今言った方がいいかなって。お茶も今度別にしような。まあ、俺でよければだけど……」

 

 そう言うと、レイヴェルは眼を潤ませ、顔を最大限に紅潮させていた。

 あれ? この娘のことだから、てっきり「当然ですわ!」とでも返されると思ってたんだけど……。

 

「い、イッセー様、次の試合は参加されるのですよね?」

 

「あ、ああ」

 

「で、でしたら、次の試合、応援しますわ!」

 

 レイヴェルら俺たちに一礼し、早足にその場を去っていく。

 な、なんだったんだ? 

 そんなことを考えながら、振り向くと────眉をしかめる部長と雰囲気の怖い女子達が俺を睨んでいた。

 

「イッセー、あなたいつの間にレイヴェルを……?」

 

 な、なんの話ですか!? 

 そこで、ガサガサとバスケットの方から布切れの音が聞こえてきた。

 

「……うん。割りとマジで美味しいにゃん。これは案外強力な伏兵かもだにゃん」

 

 振り向くと、そこには可愛らしい猫耳をピョコピョコと動かしながらケーキを切り分ける美女と、薄い緑色の髪の毛と、少し無機質な肌を持つ可愛らしい女の子が座っていた。

 

「く、黒歌!?」

 

「姉様!? セラちゃんも……」

 

 そこにいたのは黒歌だ。何やらレイヴェルのケーキを勝手に食べている。

 

「とっても美味しいの!」

 

 そう言いながら、ケーキを食べるセラ。……ていうか、二人ともいつの間に!? 

 いや、黒歌はわかる。黒歌の究極級にまで高められた仙術なら、これくらいの隠密行動は容易いだろうからだ。

 だけど、俺は黒歌だけでなく、セラがいることにもまるで気付かなかった。

 セラはどうやって……? 黒歌に気配を消してもらったのか? 

 そう考えていると、黒歌は割ととんでもない発言をぶつけてきた。

 

「いや~、すごいにゃん。この娘、私の気配の消し方を完璧に模倣しちゃって」

 

 黒歌の技術を模倣した!? 

 マジで!? そんなことできるの!? 

 見ると、確かにセラは独自に仙術らしきものを使っていた。

 曰く、黒歌と小猫ちゃんの修行風景を見ているうちに解析して覚えたのだそうだ。

 

「すごいでしょ! お兄ちゃん、お姉ちゃん!」

 

「すごいですね。セラちゃん」

 

 そう言いながら、アーシアは無邪気にセラを褒めるが、俺は何やら恐ろしいものを感じていた。

 こうして見ると、セラの気配遮断能力は凄まじいものだ。

 トーカたち“藍闇衆(クラヤミ)”と同等か、それ以上かもしれない。

 これを見て覚えた? だとしたら、とんでもない学習能力だぞ? 

 

『あれとんでもない存在だぞ。多分、お前が思ってる以上に……』

 

 リムルの言葉がふと俺の脳裏に浮かぶ。

 

「? どうしたの? お兄ちゃん?」

 

「あ……ごめん、何でもないよ。すごいな、セラ」

 

 そう言いながら、俺はセラの頭を撫でた。

 すると、セラは気持ち良さそうに眼を細めた。

 ……まあ、別にそこまで気にしなくてもいいか。セラが何者かはこの際どうでもいい。

 あの時リムルに言ったとおり、この娘はいい娘なんだから。

 セラはセラ……ということでいいだろう。

 俺は気持ちよさそうにするセラにほっこりしながら、セラの頭を撫で続けるのだった。

 



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波乱のゲームの幕開けです

 イッセーside

 

 

 

 

 

「ぷはー」

 

 俺は家の地下一階にある一室にてフルーツ牛乳を飲んでいた。

 あー、うまい! やっぱり風呂上がりの牛乳は格別だぜ! 

 夏休みの改築により、地下に大浴場が設置された兵藤家には入浴後の飲料として各種牛乳が完備されてるのだ。

 部長のこだわりらしいが、俺も向こうではずっと牛乳をあおっていたから、なんだか懐かしい気分になる。

 

「ふ~、いい湯だったの~」

 

「セラちゃん、きちんと身体は洗わないと駄目ですよ」

 

「はいなの~」

 

 そう言いながら、風呂から出たのはアーシアとセラだ。

 この二人は遊園地以来、二人でいることが多くなっており、セラもアーシアにはかなり懐いている。

 

「あ、イッセーお兄ちゃんなの」

 

「おう、セラ。なに飲む?」

 

「う~ん……今日はフルーツ牛乳で!」

 

「はいよ」

 

 セラは日替わりで飲むものを変えている。時折、牛乳以外にもお茶だったりジュースだったり、色々なものを飲むみたいだ。

 ちなみに俺は牛乳オンリーだが、味は日替わりで変えている。

 部長はフルーツ牛乳派で朱乃さんとアーシア、小猫ちゃんがノーマル牛乳、ゼノヴィアと黒歌はコーヒー牛乳派らしい。

 

「……いよいよ、明日ですね」

 

 アーシアは少し不安そうに呟く。

 まあ、無理もない。俺は負ける気さらさらないが、億が一でも負ければアーシアはあのクソ野郎の……。

 

「……大丈夫なの」

 

 俺がなんとか安心させようと考えていると、セラがポツリと呟いた。

 その瞳は真剣そのものだ。

 

「お兄ちゃんもお姉ちゃんたちもあんな奴に負けることはないの。あの眼鏡のお姉ちゃんと戦ってた映像……パワーアップしてたのを見ても、お兄ちゃんが負ける確率は0.000012%なの。それも、戦闘じゃなくてゲームのルールで負ける確率なの。だから、お兄ちゃんと戦わせれば確実に勝てるの」

 

 お、おう。

 こうして可愛いところを見るとつい忘れがちになってしまうがセラは機械生命体だ。

 根性論ではなく、データでアーシアを安心させようとしている。

 アーシアはそんなセラの言葉を聞いて少し困惑してる様子だ。

 

「まあ、セラの言う通りだ。確かに、ディオドラは不気味な奴だけど、俺が負けることは絶対にないよ。だから、安心してほしい」

 

「イッセーさん……」

 

「……それに、アーシアのためを思ってるのは俺とセラだけじゃないぜ」

 

 俺はアーシアを連れて、先程から感じていたとある気配のある部屋に向かうことにした。

 そこは大浴場の横に広がる大広間。

 映画観賞もできるし、各種トレーニングもできるという、かなり広い部屋だ。

 そこを覗いてみると、練習用の剣を振るうゼノヴィアの姿があった。

 

「よ、ゼノヴィア」

 

「……イッセーにアーシアか。セラも一緒のようだね」

 

「ゼノヴィアお姉ちゃんは特訓してるの?」

 

 セラの言葉にゼノヴィアは頷いた。

 

「ああ。ゲームも近いからね」

 

「でも、ゼノヴィアさん、先程もずっと練習をしてませんでしたか?」

 

 アーシアの言葉通り、ゼノヴィアは日に日に練習量を増やしていた。まあ、オーバーワークになると逆によくないので、要所要所で俺が止めてるんだが……。

 

「……私は木場より弱い。イッセーとは比べるまでもない」

 

 ゼノヴィアは真っ直ぐな瞳で言う。

 出会った当初は正直五分五分って感じだった。

 あの時木場が負けたのは、復讐に囚われ、焦りと視野が狭まっていたことが大きい。

 だが、木場はそこからさらに強くなった。“禁手”に至ったこともあり、より才能を開花させたと言えるだろう。

 

「前回の試合では、私はほとんどなにもできなかった。イッセーに託されたアスカロンを奪われ、呆気なく終わってしまった。今のままでは、次のゲームで足手まといになってしまう」

 

 ゼノヴィアは少しの間瞠目し、やがてアーシアを見据えた。

 

「イッセーがいるとはいえ、頼りすぎるのもよくないと思うんだ。私も、友達であるアーシアを守りたいからね」

 

「……ゼノヴィアさん」

 

 ゼノヴィアの言葉にアーシアは眼を見開く。

 そう。俺や部長たちだけじゃない。ゼノヴィアだってアーシアのことを心配していたんだ。

 

「アーシアは、私にとっても大切な友達だ。そんなアーシアを、あのような得体のしれない輩に渡したくはない」

 

 ゼノヴィアは元々悪魔祓い。相手がどのような悪魔かを見抜く眼をきちんと持ってはいるのだ。

 実際、ゼノヴィアは初対面でアーシアが神への信仰心を持ってることを即座に見抜いていたし、本質的に見抜く力を持っているのだろう。

 ゼノヴィアの言葉を聞いたアーシアはその美しい瞳から一筋の涙を流していた。

 

「お、おい、アーシア、大丈夫か?」

 

 突然の涙にゼノヴィアは少し慌てるが、アーシアは涙を拭き取り、俺たちを見据える。

 

「……ありがとうございます。ゼノヴィアさん、セラちゃん、イッセーさん。皆さんにここまで思ってもらえて、私、幸せ者ですね」

 

 そう言いながら、アーシアは花のような笑顔を見せた。

 ああ。アーシアは今まで辛い目に遭ってきた。

 だからその分、名一杯幸せにしてやるよ……。

 俺たちは決意を改め、明日のゲームに控えるのだった。

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「そろそろ時間ね」

 

 部長がそう言いながら、立ち上がる。

 決戦の日。俺たちはオカルト研究部の部室に集まっていた。

 ゼノヴィアはキョロキョロと辺りを見渡す。

 

「ミッテルトはいないのか?」

 

「ええ。ミッテルトは眷属候補ではないからね。今はアザゼル先生と共に別室で観戦してるはずよ」

 

 そう言いながら、部長は中央の魔方陣に集まり、転送を待つ。

 そこで、アーシアは不安げに俺の手を握ってきた。

 俺は無言でほほ笑み、アーシアの手を握り返す。すると、緊張がほぐれたのか、アーシアは俺に微笑み返してくれた。

 ディオドラ・アスタロト……何を企んでいるのか知らないが、絶対にアーシアを渡してたまるかよ! 

 覚悟を新たに、魔法陣が光り出す。転送の時を迎えたのだ。

 

「……ここが会場か」

 

 転移した先にあったのは、だだっ広い空間だった。

 一定間隔で柱が立って並んでおり、後方には巨大な神殿の入口がある。

 ギリシャの神殿をモチーフにしたステージか。空が紫で、どことなくアダルマンさんの居城を思い出す雰囲気だ。

 ……だが、妙だな。いつまでたってもアナウンスが来ない。

 

「……おかしいわね?」

 

 部長も違和感に気付いたようだ。

 他のメンバーも訝しげにあたりを見回している。

 ────瞬間、真後ろから数多の魔方陣が出現する。

 

「……アスタロトの紋様じゃない!」

 

 悪魔は転移の際、魔法陣の紋様が家系で異なっている。

 だから、紋様を見れば、どの家系はすぐにわかるのだ。

 

「……魔法陣全て共通性はありませんわ。ただ────」

 

「全部、悪魔。しかも記憶が確かなら────」

 

 部長が紅いオーラをまといながら、厳しい目線を辺りに配らせていた。

 魔法陣から現れたのは大勢の悪魔たち。全員、敵意、殺意を漂わせながらのご登場だ。

 その悪魔たちは俺達を囲んで激しく睨んでくる! 

 数にして千人ぐらいか、さすがに数えるのが面倒くさいから、正確な数は判らないけど、そこそこの数に囲まれている。

 

「魔法陣から察するに“禍の団(カオス・ブリゲード)”の旧魔王派に傾倒した者たちよ」

 

「やっぱりか……」

 

 俺は呟きながら、冷めた目で悪魔たちを眺めていた。

 

「忌々しき偽りの魔王の血縁者、グレモリー。ここで散ってもらおう」

 

 囲む悪魔の一人が部長に挑戦的な物言いをする。

 やはり、旧魔王を支持する悪魔にとってみれば、現魔王とそれに関与する者たちが目障りなのだろう。

 そして、それだけじゃない。隠れてこそこそとアーシアを狙う影が一つ……。

 

「させねえよ!」

 

「!?」

 

 俺はとっさにアーシアを引っ張り、距離を開ける。

 先ほどまでアーシアがいた場所にはくそ野郎────ディオドラ・アスタロトの姿があった。

 

「くっ、気付かれていたとはね」

 

「バレバレだ。俺達が目を奪われてる隙にアーシアを奪おうって魂胆だったんだろうが、当てが外れたな」

 

「ディオドラ!? い、イッセー! どういうこと!?」

 

 部長は状況の移り変わりについていけないのか、俺とディオドラ、そして悪魔たちを交互に見ながら訪ねる。

 

「こいつは“禍の団”と繋がってたんですよ。多分、若手の交流会が始まるずっと前からね」

 

 それを聞いた部長は憤怒の形相でディオドラを睨む。

 周りのメンバーも同様だ。

 当然だろう。悪魔にとって、大事なものであるはずのレーティングゲームで不正どころじゃない……テロの手引きをしたうえ、アーシアを奪い去ろうとしたんだ。

 

「あなた、“禍の団”と通じてたというの? 最低だわ。しかもゲームまで汚すなんて万死に値する! 何よりも私のかわいいアーシアを奪い去ろうとするなんて……ッ!」

 

 部長のオーラがいっそう盛り上がる。

 俺もブチギレてる。アーシアが危険だから抑えてるけど、今すぐコイツの面をぶちのめしたいくらいにはな。

 

「彼らと行動したほうが、僕の好きなことを好きなだけできそうだと思ったものだからね。まあ、気付かれてるとは思わなかったけど……」

 

「真面目に言ってるなら、頭見てもらったほうがいいぜ。不自然すぎるんだよ。シーグヴァイラさんとの戦い。……“蛇”だっけ? あれを使ったんだろ?」

 

 何度も言うが、シーグヴァイラさんとディオドラならば、圧倒的にシーグヴァイラさんのほうが上だ。

 にもかかわらず、あれ程のパワーアップを急激にしたのは、カテレアと同じく“蛇”と呼ばれる強化アイテムを使ったからだろう。“魔王種”を得ていないコイツでは、魂の結晶を使うことはできないしな。

 アーシアはぎゅっと俺の服をつかむ。俺は安心させるため、アーシアの髪を撫でた。

 

「アーシアはお前には渡さねえよ!」

 

「アーシアは私の友達だ! おまえの好きにはさせん!」

 

 ゼノヴィアは俺が貸したアスカロンを取り出し、ディオドラに向ける。

 その瞳は怒りで燃え上がっていた。

 

 ────その時だった。

 

「よう♪ また会ったな」

 

「────っ!?」

 

 ドゴッ!! 

 

 俺は何者かに鳩尾に叩き込まれた強烈な一撃で後方まで吹き飛ばされた! 内臓を痛めたらしく、口の中が血の味で苦い! 

 

「なっ、イッセー!?」

 

 部長の声が響く。

 ……問題はなさそうだ。痛えけど、“聖人”の回復力なら数分で完治する程度の傷だ。

 

「も、問題ないです……っ!?」

 

 俺はすぐに立ち上がり、そして気付く。先ほどまで、確かに手の中にいた、大事な存在がいないことに……。

 

「イッセーさん!!」

 

「────っ、アーシア!!」

 

 俺は先ほどまで立っていた場所を見ると、黒いローブを羽織った男がアーシアを抱えていた。

 男は俺を興味深そうに一瞥すると、宙へと浮かび上がっていった。

 それを見て、ディオドラも悪魔の翼を羽ばたかせ、男のほうへと飛んでいった。

 

「ほれ、お坊ちゃん。大事な花嫁は離しちゃだめですよ」

 

 男は気だるそうにアーシアをディオドラへと渡す。すると、ディオドラは醜悪な笑みを浮かべながら高笑いをしだした。

 

「ハハハ! ついにアーシアを手に入れたぞ! ありがとう。君にはぜひとも礼を言いたい」

 

「……いえいえ、仕事ですからね」

 

 興味なさそうにつぶやく男に怪訝そうな顔をしながらも、アーシアを抱え、宙へと浮かぶディオドラ。

 ……ローブの男は濃密ながらも鋭い気配とオーラをその身体から醸し出している。そのオーラに、俺は見覚えがあった! 

 

「てめえ……カグチ!!」

 

「よう、久しぶりだな。兵藤一誠」

 

 男はローブを取り、その姿をあらわにする。

 瞳からは獲物を見極めるような鋭い眼光。特徴的な鬼のような角。

 神祖の高弟の一人、“カグチ”の姿がそこにあった。

 

 



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奪われたアーシアです

 イッセーside

 

 

 

 

 

「なんでてめえが……」

 

 俺は驚愕とともにカグチを睨む。

 俺の問いかけにカグチは気だるそうに答えた。

 

「ああ。実は俺たち、少しの間“禍の団”に支援をしてやることになってね、その一環さ。正直、雑魚シスターの捕縛なんざどうでもいいんだけど、こいつらの計画は利用するのにちょうど良さそうだったからな……」

 

 ……最悪だ。“禍の団”はまだいい。

 あの悪魔たちも、俺が戦えば三分で片が付く程度だしな。だが、こいつは話が別だ。

 今の一撃もメロウ以上の鋭さだった。そのうえ、前回同様まるで気配が感じ取れなかったのだ! 

 咄嗟にガードしたが、正直かなりのダメージだ。

 

「悪いな。なんか不意打ちしちまって……。まあ、お前なら数分もすれば回復するだろう? 個人的にはお前とは普通に戦いたいんだが、今回俺はお坊ちゃんの補佐ともう一つやることがあるからな……」

 

 そう言いながら、カグチはディオドラの後ろに移動する。

 ディオドラはいびつで醜悪な表情を見せながら、俺達を嘲笑う。

 

「ははは! 一撃でダウンとは、“歴代最強の赤龍帝”が聞いてあきれるね! 所詮人間、魔王の血族たる僕が出るまでもないということかな? ハハハハッ」

 

 クソッ! 好き放題言いやがって! 

 だが、今飛び掛かればディオドラに抱えられているアーシアの負担になっちまうし、そもそもカグチがそれを許さないだろう! 

 

「アーシアを返せ!」

 

「ゼノヴィア!?」

 

 ゼノヴィアは翼を広げ、ディオドラに斬りかかる。

 カグチは興味がないのか、ゼノヴィアを素通りさせるが、ディオドラはゼノヴィアに魔力弾をぶつけようとした。

 躱すことはできたものの、翼に慣れていないゼノヴィアは体勢を崩し、そのまま落下してしまった。

 ディオドラは笑いながら、高らかに宣言する。

 

「ま、最後のあがきをしていてくれ。僕はその間にアーシアと契る。意味はわかるかな? 僕はアーシアを自分のものにするよ。追ってきたかったら、神殿の奥まで来てごらん。素敵なものが────」

 

「ふざけんな! アーシアを返せ!」

 

 ディオドラの言葉に俺は即、鎧を纏い、ディオドラをぶん殴ろうとする! 

 瞠目するディオドラはそれに反応できないでいる! 入った! 

 だが、横から伸びた腕がそれを阻止する! 俺の拳をカグチが片手で受け止めたのだ! 

 

「ふむ、すごい拳だな。腕がしびれるのはいつぶりだ……よっ!」

 

 ギリギリとしばらく交錯したが、やがて、カグチの高まった魔力により、吹き飛ばされてしまう! 

 ゼノヴィア無視するなら、俺のことも無視しろよ! 

 

「そいつは無理な相談だ。聖剣使いはともかく、お前は危険だからな。お坊ちゃん達の計画自体にそこまで興味はないけど、契約は契約。少なくとも今この場では邪魔させてもらうぜ」

 

「か、感謝するよカグチ! では、また会おうか! 赤龍帝!」

 

「い、イッセーさん! ゼノヴィアさん! いっ────」

 

 助けを求めるアーシア! 俺はとっさに飛び出そうとするが、「ぶぅぅん」と空気が打ち震え、空間が歪んでいく。ディオドラとアーシアさんの体がぶれていき、次第に消えていった。

 

「アーシアァァァァァァァ!」

 

 クソ! 何が心配するなだ! 何がアーシアを守るだ! 俺は自分への怒りと目の前の存在への怒りを感じながら、敵を見据える! 

 

「おお、怖い。やっぱりお前は極上だ。是非とも戦ってみたいぜ」

 

「なら、今すぐに味合わせてやろうか?」

 

 コイツは許せねえ! 俺はカグチに拳を構えるが、カグチは面倒くさそうに髪を搔きむしった。

 

「俺は今戦ってもいいけど、お坊ちゃんの言ってたこと忘れたのか? 速くいかねえと手遅れになるぞ?」

 

 いけしゃあしゃあと……誰のせいだと思ってやがる! だが、カグチは一向に構える気配を見せないでいる。

 

「俺の仕事は顧客であるお坊ちゃんの作戦の手伝い、及び()()()の力を測ることだ。お坊ちゃんの手伝いはあくまでシスターを攫うまでだから、ここらでお暇させてもらうわ。個人的には戦いたいんだが、任務優先。悪いな兵藤一誠。また会おう」

 

 そう言うと、カグチはその場にいたことが嘘みたいに消えていった。

 ……どういう権能だよ!? 俺は“国津之王(オオクニヌシ)”の“万能感知”を最大限に高め、“空間支配”で空間のゆらぎを逐一完璧に把握していた! 

 それにも関わらず、あいつは一瞬で姿を消した……。

 いや、いまはいい! 考えるだけ時間の無駄だ! 今優先すべきはアーシアだ!

 

「イッセー! 危ない!」

 

 部長の声が聞こえる。

 俺のすぐ後ろには武器を構え、斬りかかろうとする複数の悪魔たちがいる。

 …………だからなんだよ? 

 

 ガキン! 

 

「……は?」

 

 俺の身体を切り裂こうとし、逆に砕けた刃を見て放心する悪魔。

 俺はその悪魔の顔面に容赦なく拳を入れてやった。

 

「今、それどころじゃねえんだよ……。闘うってんなら……容赦はしねえぞ?」

 

 ドン! と大地が鳴動する。

 “英雄覇気”を全開に放ち、そのオーラをもって、悪魔たちを吹き飛ばしたのだ。

 

「な、なんだ!?」

 

「ひ、ひい!」

 

「う、うろたえるな! 所詮は人間、我らの敵でぐばっ!?」

 

 指揮官らしき上級悪魔を殴り飛ばし、はるか上空へと吹き飛ばす。

 うろたえる悪魔たちを尻目に俺はう鬱憤を晴らすかのように拳を握る。

 簡単なことだ……。こいつら全員ぶちのめしてとっととディオドラのところへ行き、奴をぶん殴ってアーシアを取り戻せばいいだけの話だ。

 ディオドラァァァッ! てめぇは許さねえ! 

 悪魔達が魔力の弾を一斉に放つ! だが、俺はそれを全て拳でねじ伏せる! 

 驚く悪魔を見ながら俺は気弾を放ち、薙ぎ倒す。

 時間はかけられねえ……とっとと終わらせて……。

 

「キャッ!」

 

 そんな中、朱乃さんの悲鳴が上がる。

 とっさに視線を移すと……そこには北欧神話の神“オーディン”が朱乃さんのスカートを捲り、パンツを覗いていた! 

 

「オイ! クソジジイ! 何しやがる!!」

 

 俺はとっさに朱乃さんを抱え、距離をおいた。

 

「全くっすよ……イッセーと同等のスケベっすね……」

 

「なの!」

 

 見ると、オーディンさんの後ろにはミッテルトに黒歌、セラも控えていた。

 

「オーディン様! 黒歌にセラも! どうしてここへ?」

 

 オーディンさんは顎の長い白髭を擦りながら言う。

 

「うむ。話すと長くなるがのぅ。簡潔に言うと、“禍の団”にゲームをのっとられたんじゃよ」

 

 やはり、ゲーム自体が乗っ取られていたのか! 

 ディオドラめ、面倒くさいことしやがって……。

 

「いま、運営側と各勢力の面々が協力体制で迎え撃っとる。ま、ディオドラ・アスタロトが裏で旧魔王派の手を引いていたのまでは判明しとる。先日の試合での急激なパワー向上も赤龍帝の小僧の言うように、オーフィスの“蛇”でももらいうけていたのじゃろう。だがの、赤龍帝の小僧はともかく、お主らはこのままじゃと危険じゃろ? 救援が必要だったわけじゃ。しかしの、このゲームフィールドごと、強力な結界に覆われててのぅ、そんじょそこらの力の持ち主では突破も破壊も難しい。特に破壊は厳しいのぅ。内部で結界を張っているものを停止させんとどうにもならんのじゃよ」

 

「なるほど、アザゼル先生の用意した助っ人がアンタってわけか……。で、どうやって入ったんだ?」

 

「ミーミルの泉に片目を差し出したとき、わしはあらゆる魔術、魔力、その他の術式に関して詳しくなったんじゃよ。結界に関しても同様」

 

 オーディンさんはそう言いながら、左の隻眼の方を俺達に見せる。

 そこには水晶らしきものが埋め込まれ、眼の奧に輝く魔術文字を浮かび上がらせていた。

 ……なるほど、“神話級(ゴッズ)”の水晶を義眼として眼に移植してるのか……。面白いこと考えるな……。

 

「うちもアザゼル先生に言われてオーディンさんと行動することになったんすよ。まあ、カグチが出てくるのは予想外っしたけどね」

 

「私達はミッテルトに付いて行ってたまたまこの事を知ってね……本当は止めようとも思ったんだけど……」

 

「アーシアお姉ちゃんが拐われて、私も放っておけないの!」

 

 曰く、セラはオーディンさんの転移術式に強引に着いていったそうだ。

 黒歌も咄嗟のことで止める間もなかったらしい。……いや、違うな。

 黒歌も仲間思いだし、なんのかんのでコイツもアーシアを助けたいと思ったわけだ。

 ちなみに、ゲームが乗っ取られた時点で中継は切れているため、黒歌のことが知られることはないという。……徹底してるな。

 

「相手は北欧の主神だ! 討ち取れば名が揚がるぞ!」

 

 オーディンさんの登場で少し落ち着いた俺たちを尻目に、旧魔王派の悪魔はオーディンさんにターゲットを移した。

 悪魔たちはそのままオーディンさん目掛けて一斉に魔力の弾を撃ってきた。

 バカだろ……力の差すらわからないのかよ……。

 案の定、オーディンさんは杖をトンと地に突くだけで、魔力弾は弾け飛び、消滅した。

 

「本来ならば、わしの力があれば結界も打ち破れるはずなんじゃがここに入るだけで精一杯とは……。はてさて、相手はどれほどの使い手か。ま、これをとりあえず渡すようにアザゼルの小僧から言われてのぅ。まったく年寄りを使いにだすとはあの若造どうしてくれるものか……」

 

 そうぶつぶつと言いながらもオーディンさんはグレモリー眷属の人数分の小型通信機を渡してくれた。

 

「ほれ、ここはこのジジイに任せて神殿のほうまで走れ。ジジイが戦場に立ってお主らを援護すると言っておるのじゃ。めっけもんだと思え」

 

 そういって杖を俺たちに向けると、俺たちの体を薄く輝くオーラが覆う。

 

「それが神殿までお主らを守ってくれる。ほれほれ、走れ」

 

「おお、ありがとうございます。オーディンさん」

 

 確かに、このオーラがあれば、無駄な戦闘など一切せず、アーシアのもとに行くことができそうだ。

 時間もどれ程残されてるかわかったものじゃないし、ここはオーディンさんに任せた方が良さそうだな。

 

「────グングニル」

 

 オーディンさんは槍を携え、それを悪魔たちに一撃繰り出す! 刹那────。

 

 ブゥゥゥゥウウウウンッ! 

 

 槍から極大のオーラが放出され、空気を貫くような鋭い音が辺り一面に響き渡る。

 悪魔たちはその一撃で消し飛び、数十人にまで数を減らしている。

 俺の“覇竜絶影拳(ドラゴニックバースト)”と変わらない威力ありそうだな。流石は神様ってところか! 

 

「なーに、ジジイもたまには運動しないと体が鈍るんでな。赤龍帝の小僧はそやつらを守ってやれい。それがおまえさんの役割じゃて。さーて、テロリストの悪魔ども。全力でかかってくるんじゃな。この老いぼれは想像を絶するほど強いぞい」

 

 そう言いながら、オーディンさんは“神霊覇気”を放出し、悪魔達を威圧した。

 流石神様、大したものだぜ。EP200万越えは伊達じゃないってことか。

 

「ありがとな、オーディンさん! 皆、行こう!」

 

「すみません! ここをお願いします!」

 

 部長とともに、オーディンさんに一礼すると、

 

 

 

 

 

 *****************************************

 

 

 

 

 

 神殿の入り口に入るなり、俺達はオーディン様から受け取った通信機器を取り付ける。

 すると、聞き覚えのある声が響いてきた。

 

『無事か? こちらアザゼルだ。オーディンの爺さんから渡されたみたいだな』

 

 ────先生だ。

 

『言いたいこともあるだろうが、まずは聞いてくれ。このレーティングゲームは“禍の団”旧魔王派の襲撃を受けている。そのフィールドも、近くの空間領域にあるVIPルーム付近も旧魔王派の悪魔どもがうじゃうじゃしている。だが、これは事前にこちらも予想していたことだ。現在、各勢力が協力して旧魔王派の連中を撃退している』

 

 まあ、予想はされてただろう。

 何せ、あのディオドラのパワーアップは明らかに不自然だったし……しかも、実は意外なところにも“禍の団”の関与があったみたいだ。

 

『リアスの耳には入っているだろうが、最近、現魔王に関与する者たちが不審死するのが多発していた。裏で動いていたのは“禍の団”旧魔王派。グラシャラボラス家の次期当主が不慮の事故死をしたのも実際は旧魔王派の連中が手にかけてたってわけだ』

 

 あのヤンキー悪魔の前の次期当主候補は“禍の団”に殺害されたのか……。

 グラシャラボラスは現アスモデウスが排出された家柄だ。現魔王の血筋だから、旧魔王の派閥により、狙われたのだろう。

 

『首謀者として挙がっているのは旧ベルゼブブと旧アスモデウスの子孫。俺が倒したカテレア・レヴィアタンといい、旧魔王派の連中が抱く現魔王政府への憎悪は大きい。このゲームにテロを仕掛けることで世界転覆の前哨戦として、現魔王の関係者を血祭りにあげるつもりだったんだろう。ここにはちょうど、現魔王や各勢力の幹部クラスも来ている。テロリストどもにとって襲撃するのにこれほど好都合なものもない』

 

 つまり、俺達の試合は最初から旧魔王派に狙われていたということだ。

 敵のターゲットは現魔王と現魔王の血縁者────部長。そして、観戦しに来ていた各勢力の頭であるオーディンさんもターゲットの一人だったのだろう。

 あの悪魔たちもそんなこと言ってた気がする。ここまでは俺も想定していた。

 ……だが、カグチが関与してくるのは正直予想外だったな。

 先生曰く、確認されているメロウの仲間────神祖の高弟の数は3名。そのうちの一人であるメロウを倒した今、少なくとも直接的な関与はしばらくはしてこないと予想してたんだが……。

 

『あのカグチとかいうやつの所属する集団は謎が多い。数万年前から活動してるのは確かだが、詳しいことは何もわかってないからな。もしかしたら、他にも同格の仲間がいる可能性だってある』

 

 そりゃそうだ。今回は前情報をうのみにしてしまった俺の失敗だ。

 挽回するためにも、絶対にアーシアは助けないとな……。

 

『あっちにしてみればこちらを始末できればどちらでもいいんだろうが、俺たちとしてもまたとない機会だ。今後の世界に悪影響を出しそうな旧魔王派を潰すにはちょうどいい。現魔王、天界のセラフたち、オーディンのジジイ、ギリシャの神、帝釈天とこの仏どもも出張ってテロリストどもを一網打尽にする寸法だ。事前にテロの可能性を各勢力のボスに極秘裏に示唆して、この作戦に参加するかどうか聞いたんだがな。どいつもこいつも応じやがった。どこの勢力も勝ち気だよ。いま全員、旧魔王の悪魔相手に暴れているぜ』

 

 どの勢力もテロには屈しない姿勢というわけだ。まあ、言っちゃ悪いが大勢の覚醒魔王級(神様)相手じゃあの程度物の数ではないだろう。

 

「……このゲームはご破算ってわけね」

 

『悪かったな、リアス。戦争なんてそう起こらないと言っておいて、こんなことになっちまっている。今回、お前たちを危険な目に遭わせた。いちおう、ゲームが開始する寸前までは事を進めておきたかったんだ。奴らもそこで仕掛けるだろうと踏んだからな。お前たちを危ないところに転移させたのも確かだ。本当に済まないと思ってるよ』

 

「もし、私たちが万が一にも死んでしまったらどうするつもりだったんだ?」

 

 ゼノヴィアが何気なく聞くと先生は真剣な声音で言った

 

『もしそうなった場合は俺もそれ相応の責任を取るつもりだった。俺の首でことが済むならそうした』

 

 ────先生は死ぬつもりだったんだ。

 そこまで覚悟して、旧魔王派の連中をおびき寄せたのだろう。

 全ては今後の勢力の平和のために……。

 だが、それはそれ、これはこれだ。俺は先ほど起きた出来事を先生に伝える。

 

「先生。アーシアがディオドラの野郎に連れ去られました。俺達はアーシアを助けに行きます!」

 

『────っ、そうか。分かった。イッセーたちはともかく、リアスたちを危険なところに置けないんだが……一応聞く。退くきはあるか?』

 

「ないわ。悪いけど、私達はこのまま神殿に入ってアーシアを救うつもりよ。ゲームはだめになったけど、ディオドラとは決着つけないと気が済まないわ。私の眷属を奪うことがどれほど愚かか教えこまないといけないの!」

 

 部長の言葉を聞き、先生はしばし考えたのち、告げる。

 

『────わかった。イッセー、ミッテルト、黒歌。しっかりこいつらを見ててほしい。お前達がいるなら、俺も少しは安心できる。そいつらのことは任せる。……だが、くれぐれも油断はするなよ。このフィールドは“禍の団”所属の神滅具所有者が作った結界に覆われているために、入るのはなんとかできるが、出るのは不可能に近いんだよ。────神滅具“絶霧(ディメンション・ロスト)”。結界、空間に関する神器のなかでも抜きんでているためか、術に長けたオーディンのクソジジイでも破壊できない代物だ』

 

「了解です!」

 

 俺は気合を入れ、アザゼル先生の言葉にこたえる。

 

『最後にこれだけは聞いていけ。奴等はこちらに予見されている可能性も視野に入れておきながら事を起こした。つまり、多少敵に勘づかれても問題ない作戦があると言うことだ』

 

「つまり、相手は隠し玉を持っている可能性があると?」

 

『そういうことだ。それが何なのかはまだ分からないが、このフィールドが危険なことには変わりはない。ゲームは停止しているため、リタイア転送は無い。そちらにはイッセー達がいるから一応は大丈夫だとは思うが、絶対ではない。そのことを肝に銘じ、十分に気をつけてくれ』

 

 そこで先生との通信は終わった。

 隠し玉……一瞬、カグチの事かとも思ったが、違う。もしそうなら、ディオドラは最後までカグチを自分に控えさせていたはずだ。

 そもそも気になるのはアーシアが拐われた理由だ。ディオドラの妄執……だけではないだろう。そんなくだらないことなら、そもそも“禍の団”は協力しようともしないだろう。

 奴らがなにかを企んでいて、それにアーシアが必要ということか? 

 だとしたら、早くアーシアを助けないと。

 

「早いところ、アーシアちゃんを奪還した方がよさそうだにゃん」

 

 黒歌も俺と同じ結論に至ったのだろう。部長はそれに頷いた。

 

「分かったわ。それで、アーシアの位置は分かるかしら?」

 

「もちろんにゃん。あの神殿の奥、そこにアーシアちゃんとあのクソ悪魔がいるにゃん」

 

 吐き捨てるように言う黒歌。黒歌的にもディオドラは以前の主を思い出してしまい、かなり不愉快らしい。

 黒歌の言葉に小猫ちゃんも肯定する。

 

「はい。姉様の言うとおり、神殿の奧からアーシアさんとディオドラの気を感じます。このまま突っ切りましょう」

 

 俺達は無言で頷き合うと神殿の奧へ向かって走り出した。

 

 



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グレモリー眷属対アスタロト眷属です

 イッセーside

 

 

 

 

 

 神殿のなかは広大な空間だ。大きな広間が続いており、巨大な柱が並ぶ以外には目立つものがない。

 神殿を抜けると、さらに前方に新たな神殿が現れる。

 ……聖闘士○矢かよ、と思いつつも俺達はそれを何度も繰り返す。

 しばらくすると、気配を感じ、俺達は足を止めた。

 前方から現れたのはフードを深くかぶったローブ姿の小柄な女性が十名ほど。

 

『やー、リアス・グレモリーにその眷属の皆さん。なにやら見慣れぬ者たちもいるけど……まあいいか』

 

 神殿の中にディオドラの声が響く。監視してるのか? 胸くそ悪いな。

 

『軽い余興だ。遊ぼう。中止になったレーティングゲームの代わりにさ』

 

 中止にしたのはお前らだろ。ふざけたこと抜かしやがって……。

 

『お互いの駒を出し合って、試合をしていくんだ。一度使った駒は僕のところへ来るまで二度と使えないのがルール。あとは好きにしていいんじゃないかな。第一試合、僕は“兵士”八名と“戦車”二名を出す。ちなみにその“兵士”たちは皆すでに“女王”に昇格しているよ。ハハハ、いきなり“女王”八名だけれど、それでもいいよね? 何せ、リアス・グレモリーは強力な眷属を持っていることで有名な若手なのだから』

 

 ……面倒くさいな。わざわざ相手にする必要もない……んだけど、今は従うしかない。

 アーシアが人質にとられてる以上、刺激すると何しでかすかわからないからな。

 部長も俺と同じ結論に至ったようだ。

 

「いいわ。あなたの戯言に付き合ってあげる。私の眷属がどれほどのものか、刻み込んであげるわ」

 

 部長がディオドラの提案を快諾した。

 

「小猫、ギャスパー、ゼノヴィア。出てちょうだい」

 

 小猫ちゃん、ギャスパー、ゼノヴィアは部長のもとに集まる。

 俺や黒歌、ミッテルトが出れば手っ取り早いけど、ディオドラを警戒させてしまう恐れがある。

 ディオドラはカグチに吹き飛ばされた俺を甘く見てたからな。わざわざ再度警戒させる必要はない。

 

「ゼノヴィア。あなたには“戦車”の殲滅を頼むわ。思いっきりやっていいから。全部ぶつけてちょうだい」

 

「了解だ。いいね、そういうのは得意だ」

 

 部長がそう言うと、ゼノヴィアは不敵な笑みを浮かべる。

 まぁ、制限なしのこいつなら“戦車”の二人くらい余裕だろ。

 

「“兵士”は小猫とギャスパーに任せるわ。オフェンスは小猫。仙術で練り込んだ気を相手に叩き込んで根本から断つ。ギャスパーはイッセーの血を飲んでサポートに回ってちょうだい」

 

「……了解」

 

「了解ですぅ!」

 

 二人はそれぞれ頷いた。

 ……そこに、ディオドラ眷属を観察していたミッテルトがゼノヴィア達に近づいてくる。

 どうしたんだ? 

 

「……あの、ゼノヴィアちゃん。小猫ちゃんも、できれば……でいいんすけど、あの眷属達を殺さずに無力化する事ってできないっすかね?」

 

 ミッテルトの言葉に俺達は驚く。

 正直、女には甘い俺だけど、戦ってたらもしかしたら殺すまで行ってたかもしれない。

 当然だ。あいつらはアーシアを拐った敵なのだから。ファルムスとの戦争や天魔大戦といった大きな戦争を経験してきた俺としては……まあ、多少の躊躇いはするけど容赦はするつもりもない。

 ……でも、ミッテルトが意味もなくそんなことを言うわけがない。何かあるのかもしれない。

 

「……上手くは言えないんすけど、あの人達の眼、昔のうちにそっくりなんす。こんなこと本当はしたくない。でも、逆らえない。なんとなく、そんな感じがするんす。だから、お願いします」

 

 ファルムス(奴隷)時代と同じ眼……。言われてみれば、この人達からは生気を感じない。

 しかも、少し違和感があるのだ。皆が皆、悪魔でありながら、聖なる力を多少持っている。

 ……もしかして、元は教会関係者だったんじゃないか? 

 ……とすると、アーシアを狙った理由も関係ありそうだな。

 ミッテルトの紳士な言葉にゼノヴィアは頷いた。

 

「……善処はする……が、確約はできないよ」

 

「わかってるっす」

 

 ゼノヴィアはそう言いながら、デュランダルを取り出した。アスカロンとの二刀流スタイルだ。

 小猫ちゃんも猫耳を出し、グローブを構える。

 

『じゃあ、始めようか』

 

 ディオドラの言葉と共に、眷属のお姉さんたちが一斉に構え出す。

 俺は木場の魔剣で指先を軽く切り、ギャスパーに血を与えた。

 

 ドクンッ! 

 

 ギャスパーの胸が脈打ったのが分かった。

 次の瞬間、ギャスパーの体を異様なオーラが包んでいた。

 赤い相貌も怪しく輝きを発している。

 これでギャスパーも全力を出すことができそうだ。

 ゼノヴィアはまず、“戦車”二名のほうへ歩み出す。

 

「アーシアは返してもらう」

 

 ゼノヴィアの全身からかつてないほどのプレッシャーが放たれていた。

 その眼光は鋭い。

 

「……私は友と呼べる者を持っていなかった。そんなものがなくとも、神の愛さえあれば生きていける、と」

 

 ゼノヴィアの語りを無視し、“戦車”二名がゼノヴィア目掛けて走り出す。

 並みの“騎士”と同等のスピードはあるな。しかし、ゼノヴィアは動じずに独白を続ける。

 

「そんな私にも分け隔てなく接してくれる者達ができた。特にアーシアはいつも私に微笑んでくれた。この私を『友達』だと言ってくれたんだ。私は最初、アーシアに出会った時に酷いことを言った。でも、アーシアは何事もなかったかのように話しかけてくれた。それでも『友達』だと言ってくれたんだ!」

 

 ゼノヴィアは出会った時のこと、ずっと気にしていたんだな。

 律儀なアイツのことだ。アーシアに許してもらったあとも、己を責めていたことは眼に見える。

 

「だから、助ける! 私の親友を! アーシアを! 私は助けるんだ!!」

 

 ドンッ! 

 

 デュランダルから絶大なオーラが発せられる! 

 その波動はゼノヴィアに攻撃を仕掛けようとした『戦車』の二人を弾き飛ばした。

 ゼノヴィアはデュランダルを振り上げると涙まじりに叫んだ! 

 

「だから! だから頼む! デュランダル! 私に応えてくれ! アーシアがいなくなるなんて私は嫌だ! 私の親友を助けるために! 私に力を貸してくれ! 私に! 友達を救う力を貸してくれぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 ドゥォォォォォォォォォォォォンッ!! 

 

 ゼノヴィアの声に! 覚悟に! デュランダルの意思が応えた! 

 デュランダルは“伝説級(レジェンド)”の剣としての真価を発揮したのだ! 

 流石だな! 今のデュランダルは振るえば魔王種すらも切り裂いちまうだろう! 

 見ると、強大な“伝説級”の聖なるオーラに耐えきれず、床や壁がひび割れている。

 ……だが、これはこれで問題がある。ゼノヴィアの今の力では、“伝説級”の力を扱いきることはできない。

 けど、それはゼノヴィアも自覚していることだった。

 

「私はデュランダルを押さえることはできない。それならば、今は構わず突き進めばいい。私はデュランダルの切れ味と破壊力を増大させる」

 

 ゼノヴィアは宙でデュランダルとアスカロンをクロスさせ、聖なるオーラをさらに増大させた。

 オイオイ、これ、制御できてないだろ。制御できないならいっその事暴走させるって、脳筋にも程があるぞ? 

 

「さあ行くぞ! デュランダル! アスカロン! 私の想いに応えてくれぇぇぇぇっ!」

 

 デュランダルとアスカロンの絶大な光が天高く迸る。

 “伝説級”の剣と、その力を帯びた“特質級(ユニーク)”の剣の相乗効果! 

 ゼノヴィアはそれを思い切り振り下ろした! 

 

 ザバァァァアアアアアアアアアアアッッ!! 

 

 二つの大浪とも言える聖なる波動は、容易く二名を飲み込んでいった! 

 

 ドオオオオオオンッ!! 

 

 神殿が大きく揺れ、砂誇りが舞う。

 揺れが収まったとき、俺の視界に映ったのは────。

 ゼノヴィアの前方に伸びる二本の大きな波動の爪痕。

 その先にあった柱や壁は全て消失している。天井もゼノヴィアの真上から前方が消滅してる。

 上級悪魔はおろか、魔王種ですら抗うことはできないだろう一撃だった。

 ただ、ゼノヴィアは肩で息をしている。流石に連発は無理か。

 

「う、う……」

 

 見ると、“戦車”の二人は気を失っている。

 ゼノヴィアは今の一撃を当てずに余波だけで吹き飛びしたのだ。

 まあ、その余波でも彼女達には致命傷なのだが……。

 

「……これで満足かい? ミッテルト?」

 

「まあ、はい。ありがとっす」

 

 ゼノヴィアはそう言いながら、二振りの剣を納刀する。

 今のでゼノヴィアの魔力のほとんどを消費したし、もう戦闘はできないだろう。

 あとは小猫ちゃんとギャスパーに任せな! 

 

「白音! ゼノヴィアちゃんが根性見せたんだから、アンタも見せてみなさい!」

 

「……はい。姉様」

 

 小猫ちゃんは仙術を使い、相手の動きを読みながら、容易く攻撃を躱す。

 ギャスパーは複数のコウモリに分身し、羽ばたきながら小猫ちゃんを守るようにしている。

 

「……ギャーくん。後ろに隠れて様子を見てる人がいます。動きを止めてください」

 

「は、はぃぃぃぃ!」

 

 小猫ちゃんは仙術と魔力感知を組み合わせ、広大な範囲を感知できるようになっている。

 仮に魔力を隠蔽したところで、仙術は気を感知するから誤魔化すことは難しい。

 小猫ちゃんの指示のもと、ギャスパーは“兵士”達を次々と停止させる。

 “女王”にプロモーションしていても、あの娘達の存在値は平均して1万そこそこ。

 対して、高い魔力に加え、“赤龍帝()”の血でパワーアップしてるギャスパーの存在値は10万を超えている。

 元々部長をも上回りかねない魔力量がさらに倍以上になってるんだ。あの程度の使い手じゃあ抗うこともできないだろう。

 そうして停止した“兵士”達を小猫ちゃんは容赦なく殴る! 

 まるで作業のように淡々とした様子は相手からすると恐怖を感じるだろう。

 現に、気弱そうな“兵士”二人はぶるぶる振るえていた。

 

「……終わりです」

 

「お疲れ様、白音♪」

 

 戦いを終わらせた小猫ちゃんの頭を撫でる黒歌。

 小猫ちゃんをのほうも照れてはいるけど、満更でもなさそうだな。

 

「まずは一勝だな」

 

 相手の“兵士”と“戦車”を倒したことにより、敵は“女王”、“騎士”二名、“僧侶”二名、そしてディオドラのみだ。

 流石に“蛇”でパワーアップしてるディオドラの相手は俺がするとして、他は部長と朱乃さん、木場で何とかなるだろう。

 ディオドラがパワーアップした影響を眷属達が受けてなくてよかったな。

 眷属悪魔といえど、“魂の回廊”が繋がる訳じゃないのが幸いだ。もし、繋がっていたら、眷属悪魔も皆パワーアップして皆も苦戦してただろう。

 

「行きましょう」

 

 部長の言葉に俺たちは次の神殿に足を進める。

 次に俺達を待っていたのは三名の悪魔たちだ。全員、ローブを纏っている。

 

「待っていました、リアス・グレモリー様」

 

 三名のうちの一人がローブを取り払う。

 あの人は確か、ディオドラの“女王”だったはずだ。

 うん、美人だ。ブロンドのお姉さん。碧眼がキレイだです。

 “僧侶”の二人は片方が女性で、もう片方が男性だな。

 映像では魔力とサポートは中々に優秀だった。流石にギャスパーほどはないだろうが、アーシアと同等かそれ以上はあったように思える。

 “女王”はアガレス戦では“女王”の直接対決で勝利を修めていたから印象に残ってる。

 炎の魔力を用いていたな。

 まあ、正直誰が出ても勝てるとは思うけど……。

 

「あらあら、では、私が出ましょうか」

 

 そう言って一歩前に出たのは朱乃さん。

 

「あとの“騎士”二人は祐斗がいれば十分ね。私も出るわ」

 

 と、部長も前に出た。

 二大お姉さまのコンビか。これはすぐに終わりそうだな。

 

「あら、部長。私だけでも十分ですわ」

 

「何言っているの。いくら雷光を覚えても、無茶は禁物よ? ここでダメージをもらうより、堅実にいくのが一番だわ」

 

 雷光と滅びの力。

 どちらも強力な性質を持つ武器だ。特に雷光は悪魔に効果抜群だしな。

 更にはそれを扱う二人も日々の修行でどんどん強くなっている。

 まあ、一人なら苦戦もするだろうが、それが共闘するなら問題ない。この勝負もすぐに終わりそうだ。

 すると、小猫ちゃんが俺をちょんちょんと小突く。ん? どうした小猫ちゃん? 

 小猫ちゃんは俺にしゃがむように促し、耳元に小さな声で耳打ちしていく。

 ふむふむ、なるほど……って、いや、それは……。

 俺は小猫ちゃんに言われたことを考えながら、ちらりとミッテルトを見る。ミッテルトは何やらあきれた様子だが、しばし考えた後……。

 

「……まあ、確かにそれなら朱乃さんも無傷で勝つでしょうし、いいっすよ。一度くらいなら許可しましょう」

 

 懐の深い彼女に感謝するんすよ、と付け足しながら、ミッテルトはため息をつく。

 ……いいってことか? 

 

「それでいいの?」

 

「……はい。それで朱乃さんはパワーアップします」

 

 正直半信半疑なんだが、まぁ、小猫ちゃんの頼みとあらば言ってみようか。

 

「朱乃さーん」

 

 俺が呼ぶと朱乃さんが振り向く。

 

「えっと、その人達に完勝したら、今度の日曜デートしましょう! ────って、これでいいの小猫ちゃん?」

 

 俺が小猫ちゃんに尋ねるとコクコクと頷く。

 うーむ、俺とデートする権利なんかで朱乃さんがパワーアップするとは思えないけど……。

 

 カッ! バチッ! バチチチチッ! 

 

 突然、稲妻が辺り一面に散らばり出した。

 何事かと思い、朱乃さんの方へ顔を向けると────雷光のオーラに包まれた朱乃さんがいた! 

 

「……うふふ。うふふふふふふふ! イッセー君とデートできる!」

 

 お、おう? 朱乃さんは迫力のある笑みを浮かべながら、周囲に雷を走らせてる。

 え? なんでそれでパワーアップするの!? 存在値も心なしか少しだけ上昇してるし、どういう原理!? 

 

「ひ、酷いわ、イッセー! 朱乃だけにそんなこと言うなんて!」

 

 えええええええええ!? 

 ちょ、今度は部長が涙目で俺に訴えてきた! 何が起きてるのコレ!? 

 

「うふふ、リアス。これは私の愛がイッセー君に通じた証拠よ。もう諦めるしかないわね?」

 

「な、な、なななな、何を言っているの! デ、デート一回くらいの権利で雷を迸らせる卑しい朱乃になんか言われたくないわ!」

 

 な、なんだ!? 

 なんか、部長と朱乃さんが口論し出したんだけど!? 

 小猫ちゃん、これ本当に大丈夫なの!? 

 

「なんですって? いまだ抱かれる様子もないあなたに言われたくないわ。その体、魅力がないのではなくて?」

 

「そ、そんなことはないわ! こ、この間だって……」

 

「あら? この間? 何をしたというのかしら?」

 

「……ベッドの上で胸を触ってくれたわ」

 

「……それ、イッセー君の寝相が悪くて結果的にそうなっただけではなくて?」

 

 なんていうか、いつもの喧嘩だ。

 俺をめぐっての口論? なんだか嬉しいような、恥ずかしいような……。

 

「イッセーは私の物よ! 百歩譲ってもミッテルトとアーシアよ!」

 

「ミッテルトちゃんも筋を通すならいいって言ってるんだから、私もいいでしょ!」

 

「駄目よ! 朱乃には渡さないわ!」

 

「な、なんだか怖いの……」

 

 セラは二人の大げんかに恐れおののいている。

 小猫ちゃんやミッテルトはやれやれといった感じだし、予想してたの? こうなること? 

 

「ぐぬぬ、そんな特典が出るのなら、私が出ればよかったにゃん」

 

 黒歌も何言ってるの!? 

 相手の“女王”と“僧侶”達もどう出ていいのか分からず、困惑している様子だった。

 しかし、この空気に耐えられなくなったのか、“女王”が全身に炎のオーラを纏いながら激昂する。

 

「あなた方! いい加減になさい! 私達を無視して男の取り合いなどと────」

 

「「うるさいっ!」」

 

 ドッゴォォォォォォォォォォォォン!!! 

 

 部長と朱乃さんが特大の一撃を相手目掛けて撃ち放つ! 

 その威力は見ているだけで寒気がするほどだった! 

 なんだろう、アレを食らったら俺でもまずい気がする。そのレベルの一撃だ。

 滅びの魔力と雷光が同時に巻き起こり、うねりとなり、敵を包み込む! やがて、臨界点に達したうねりは周囲の風景もろとも消し飛ばしていった! 

 ……プスプス……。

 相手は今ので完全に戦闘不能。というか、よく身体の原型保っていられるな! 

 ……うん。酷い一戦だった。

 あの二人は怒らせたらマジで怖いね。

 しかし、二人は自分たちが勝ったことにすら気付いてないのか、口論を続けている。

 

「だいたい朱乃はイッセーのことを知っているの!? 私は細部まで知っているわ!」

 

 え? 部長、いつ俺の細部を見ましたか!? 

 そんな機会ありましたっけ!? 

 

「そんなの私だって知ってるわ! 魔力感知でいつもお風呂場とか覗いてるもの!」

 

 いつも!? いや、時たま風呂場の隣の広間で訓練してるのは知ってたけど、お二人ともそんなことしてたの!? 

 

「知っているだけで、触れたことや受け入れたことはないのでしょう? 私なら今すぐにでも受け入れる準備は整ってますわ!」

 

 え? マジですか!? 

 

「うぬぬぬぬ! ……まぁ、いいわ。それはアーシアを救ってからゆっくりと話し合いましょう。まずはアーシアの救出よ」

 

「ええ、わかっていますわ。私にとってもアーシアちゃんは妹のような存在ですもの」

 

 おおっ、二人ともやっと意見が一致したか! 

 何はともあれ、これで奥に進めそうだ。俺達はさらに奥の神殿に進んでいくのだった。



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妹分の怒りです

 イッセーside

 

 

 

 

 俺達はディオドラの“騎士”が待っているだろう神殿に足を踏入れたとき、俺達の視界に見覚えのある者が映り込む。

 

「や、おひさ~」

 

 現れたのは白髪の神父。

 

「なんだ。生きてたのか、フリード」

 

 そう、俺達の目の前に現れたのはフリード・セルゼン。

 あのいかれたクソ神父だった。

 エクスカリバー事件の時以来か。正直、まだ生きてるとは思わなかった。

 

「ひどい言いぐさだな~イッセー君? イエスイエス。僕ちんキッチリキッカリ生きてござんすよ?」

 

 相変わらずふざけた野郎だな……。

 というか、“騎士”二人はどこ行った? 

 

「フリード。ディオドラの“騎士”はどうした?」

 

 俺の問いに嫌な笑みを浮かべるフリード。

 フリードは口をモゴモゴさせると、ペッと何かを吐き出した。

 見てみると、それは人の指だった。

 

「俺様が食ったよ」

 

 フリードの言葉に俺は天魔大戦で一度だけ戦ったあの男を思い出す。

 ……何てことしやがるんだよ! 

 小猫ちゃんが鼻を押さえながら目元を細めた。

 

「……その人、人間止めてます」

 

 小猫ちゃんが忌むように呟く。

 奴はニンマリと口の端をつりあげると、人間とは思えない形相で哄笑をあげる。

 

「ヒャハハハハハハハハハハッハハハハハッ! てめえらに切り刻まれたあと、ヴァーリのクソ野郎に回収されてなぁぁぁぁぁぁっ! 腐れアザゼルにリストラ食らってよぉぉぉぉぉおおっ!」

 

 ボコッ! ぐにゅりっ! 

 

 異様な音を立てながらフリードの体の各所が不気味に盛り上がる。

 神父服は破れ、四肢は何倍にも膨れ上がった。

 

「行き場無くした俺を拾ったのが“禍の団”の連中さ! 奴ら! 俺に力をくれるっていうから何事かと思えばよォォォォオオっ! ぎゃははははは! 合成獣だとよっ! ふははははははっははははっ!」

 

 ドラゴンやコウモリ、そのほかにもいろんなものを混ぜたような、異形の形になるフリード。

 

「……歪だにゃん」

 

 黒歌の言葉が全てを表している。

 歪すぎる! 腕も足も全身の全てが目茶苦茶で統合性がまるでない! 

 これを作った奴はどういう頭の構造してるんだよ! 

 これじゃあ、正直言って短期間しか持たないだろ……。

 

「……気持ち悪いの」

 

 セラは半眼で睨みながら呟く。

 実際、変化したフリードは醜悪な見た目をしている。

 他の部員も思わず顔をしかめている程だ。あまりにも酷すぎる! 

 

「ヒャハハハハハハッ! ところで知っていたかい? ディオドラ・アスタロトの趣味をさ。これが素敵にイカレてて聞くだけで胸がドキドキだぜ!」

 

 フリードが突然ディオドラの話しを始める。

 

「ディオドラの女の趣味さ。あのお坊ちゃん、大した好みでさー、教会に通じた女が好みなんだって! そ、シスターとかそういうのさ!」

 

 女の趣味? シスター……? 

 俺の中で直ぐにアーシアと直結した。

 フリードは大きな口の端を上げながら続ける。

 

「しかも、狙う相手は熱心な信者や教会の本部に馴染みが深い女ばかりだ。俺様の言ってることわかる? さっきイッセー君達がぶっ飛ばした眷属悪魔の女達は皆元信者なんだよ! ぜーんぶ、元は有名なシスターや聖女様なんだぜ! ヒャハハ! マジで趣味いいよなぁぁ! 悪魔のお坊っちゃんが聖女達を誘惑して手篭めにしてんだからよ! 熱心な聖女を言葉巧みに騙して墜とすんだと! まさに悪魔の囁きって奴だ!」

 

 ……それでか! 

 ミッテルトの言葉の意味がわかった! 

 そのままフリードは嘲笑しながら話を続ける。

 

「ある日。シスターを犯すのが大好きな悪魔のお坊っちゃんはチョー好みの美少女聖女様を見つけました。会ったその日からエッチな事をしたくてたまりません。でも、聖女様は教会にとても大切にされていて、連れ出すにはちょいと骨が折れると判断しました。そこで『ケガした自分を治療するところを他の聖職者に見つかれば、聖女様は教会から追放されるかも☆』と考えたのでしたぁ! 傷跡が残ってても、エッチなことができれば問題ない! というわけでさぁ!」

 

 ……最初に話を聞いたときから、おかしいと思ってた。

 現魔王の血縁者で上級悪魔であるディオドラが教会の近くでたまたま怪我をし、たまたま悪魔も治せるアーシアに助けられる。

 そんな偶然があるのか? あまりにも話しができすぎている。

 恐らく、今まで戦った眷属達もそうやってディオドラに逆らえなくなっていたのだろう。

 

 ────あの時、彼を救ったこと、後悔してません。

 

 俺の脳内で、笑顔でそう言いきったアーシアの言葉が思い出される。

 

「信じていた教会から追放され、神を信じられなくなって人生狂わされたら簡単に僕のところに来るだろう……ってな! ヒャハハ! 聖女様の苦しみはお坊っちゃんにとっては最高のスパイス! 最底辺まで堕ちたところを救い上げて犯す! 心身共に犯す! それが坊っちゃんの最高最大のお楽しみであります! ヒャハハ! マジで笑えるわあぁっ!!」

 

「ッ!!」

 

 駄目だ。もう我慢できそうにない。

 俺は一歩前へ飛び出そうとしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前、もう喋るな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっ? ────って、ギャアア!?」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、セラが俺よりも早く飛び出し、フリードを殴り飛ばしたのだ! 

 フリードはその一撃に耐えきれず、後方の壁まで吹き飛ばされる! 

 見ると、セラの予想外の行動に、皆あっけにとられている。

 

「ま、待つんだセラちゃん! 危険すぎる! ここは……」

 

「ストップだ。木場」

 

「イッセー君!?」

 

 俺は飛び出そうとした木場を制止する。

 今のセラからは濃密な怒気と、すさまじいオーラが感じ取れるのだ。

 木場たちは感じ取れてないみたいだけど、今のセラは存在値を50万にまで高めている! 

 

「……ここは、セラに任せたほうがよさそうにゃん」

 

 黒歌もそれを感じ取ったようだ。

 木場や部長も、俺達の言葉に多少の戸惑いを覚えながらも引き下がる。

 俺達は改めて吹き飛ばされたフリードを見据えた。

 

「がはっ!? な、なんだこのガキ!?」

 

 フリードは殴られた頬をさすりながらも異形となった口からブレスを吐き出した! 

 その熱量は大したものだが、セラはまるで動じなかった。

 セラは片手を付きだし……。

 

「“多重障壁展開(カーテン)”」

 

 瞬間、おびただしい数の障壁がその一撃を防ぐ! 

 なんだアレ!? この世界に来て色々な術式見たけど、見たことがない術式だぞ!? 

 見ると、部長も驚いている。この世界の魔法なら、部長のほうが詳しいと思うが、そんな部長でも見たことないようだ。

 

「はあ!? 嘘だろ!? 僕ちん最大の攻撃なんだけ……アバッ!?」

 

 セラは片腕を変形させ、鈍器のような形状にしてフリードを殴る! 

 よろつくフリードに対し、更に変形! あれは……鉈か? 

 

 ダン!! 

 

「ギャアア!?」

 

 セラは鉈で容赦なくフリードの腕をぶった斬る! 

 痛みに悶絶するフリードにセラは無表情で呟く。

 

「そんなくだらない理由でアーシアお姉ちゃんを困らせるなんて、許せないの。あの男も、それを笑うお前も……」

 

「ぐっ! 調子こいてんじゃねえぞガキがぁぁっ!!」

 

 フリードはそう言うと、凄まじいスピードで縦横無尽に走り出した。

 恐らくは先程食べたという“騎士”の力を取り込んだのだろう。

 

「ヒャハハハハ! どうですかこの速さ! ディオドラの“騎士”二人をぺろりと平らげて、そいつらの特性も獲得したんですよぉぉぉ! 無敵! 超絶モンスターと化したフリードくんをぉぉぉ!?」

 

 メゴッ! 

 

 鈍い音とともに、フリードは再び吹き飛ばされる。

 フリードの速度に合わせ、セラがカウンターを顔面に炸裂させたのだ! 

 

「無敵? この程度で? 笑わせるの」

 

 セラは嗜虐的な笑みを浮かべながら、ゆっくりとフリードへ近づく。

 頬についた血を舌なめずりする様は、見てて少し恐怖を覚えるくらいだ。

 

「せ、セラちゃんってこんなに強かったんですね」

 

 ギャスパーもそんなセラに少しビビってるのだろう。

 その眼からはわずかな怯えが見て取れる。

 気持ちはわかる。正直、この俺ですら本能に訴える恐怖を感じたのだから。

 

「つ、強すぎるだろ……なんなんですかお前はぁ!」

 

 セラはそのままフリードを吹き飛ばした! 

 気を失ったフリードを見据え、セラは告げる。

 

「私は真神セラ。皆の……アーシアお姉ちゃんの妹なの!」

 

 セラの一撃でフリードは完全に動きを停止させている。

 これがセラの力か。見ると、部長たちも信じられない様子で驚いている。

 ────強い。少しとはいえ、戦い慣れている感じもする。

 セラの正体はいまだ謎に包まれているけど、今の未知の術式を見て、少しわかったような気がした。

 

「黒歌、一応聞くけど、今の術式わかる?」

 

「ううん。初めて見るものだったにゃん。以前から思ってたけど、セラは多分……」

 

 ────セラはおそらくこの世界の存在ではない。

 以前聞いたヴェルグリンドさんの話によると、世界は二つだけじゃない。この世界や基軸世界以外にも、数多の次元世界が存在するらしい。

 どちらの世界でも、見たことないような金属で形作られていたことから、予想はしていたけど、セラはこの世界の存在ではないのだろう。

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん! 早くアーシアお姉ちゃんを助けに行くの!」

 

 おっと、そうだった。セラの考察は正直後でもできることだ。

 今はアーシアを救うことが何よりの最優先事項。

 

「……そうね。今はアーシアが先決よ。ありがとうセラちゃん」

 

 部長たちも同じ結論に至ったようだ。

 気合を入れなおし、俺達はディオドラが待つであろう最後の神殿へと駆け出すのだった。

 ディオドラ────。

 てめえは俺がぶん殴ってやるから覚悟していろよ! 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 アザゼルside

 

 

 

 

 

 俺はレーティングゲームのバトルフィールドで旧魔王派の悪魔どもを片付けていた。

 俺は残りを部下に任せ、フィールドの隅へと向かう。

 そこにいたのは小柄な少女。黒いワンピースを身に着け、細い四肢をのぞかせている。

 

「────お前自身が出張ってくるとはな」

 

「アザゼル。久しい」

 

「以前は老人の姿だったか? 今度は美少女とは恐れ入る。何考えてやがる────オーフィス」

 

 俺は目の前の少女────“無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)”オーフィスに訪ねる。

 こいつは“禍の団”のトップにして最強のドラゴンだ。こいつが自らでバルトは、今回の作戦はそれほど重要ででかいのか? 

 

「見学。ただ、それだけ」

 

「高みの見物ね……。ここでおまえを倒せば世界は平和か?」

 

「無理。アザゼルでは我を倒せない」

 

 はっきり言ってくれる。まあ、そうだろうな。俺だけじゃあコイツを倒せない。

 仮にここに集まってもらった各神話の神々たちを総動員しても無理だろう。

 だが、お前をここで倒せば“禍の団”に深刻な打撃を与えられるのは確実なんだ。

 

「久しぶりだな、オーフィス!」

 

「タンニーン!」

 

 そこに現れたのは元龍王のタンニーンだ。

 タンニーンは大きな目でオーフィスを激しくにらみつける。

 

「せっかく若手悪魔が未来をかけて戦場に赴いているというのに、貴様が茶々を入れるのが気に食わん! あれほど、世界に興味を示さなかった貴様が今頃テロリストの親玉だと!? 何が貴様をそうさせた!」

 

「暇潰し、なんて冗談は止めてくれよ? おまえの行為はすでに世界各地で被害を出しているんだからな」

 

 

 

 俺もタンニーンに続き、オーフィスに問う。

 こいつがトップに立ち、その力を様々な危険分子に貸し与えた結果、各勢力に被害をもたらしている。

 死傷者も日に日に増えている。もう無視できないレベルだ。

 だが、何がこいつを動かしているのか、俺には分からなかった。

 いままで、世界の動きを静観していた最強の存在が何故今になって動き出したのか。

 返ってきた答えは予想外のものだった。

 

「────静寂な世界」

 

 …………。

 

「は?」

 

 一瞬、何を言ったのか理解できなかった。

 すると、オーフィスは紫色の空を見上げながら言った。

 

「故郷である次元の狭間に帰り、静寂を得たい。ただそれだけ」

 

 ────っ! 

 おいおい、マジかよ。

 普通ならホームシックかよと笑ってやるところだが、次元の狭間ときたか。

 あそこには確か────。

 

「そこにはグレートレッドがいる。我はグレートレッドを倒し、次元の狭間に戻りたい」

 

 確かに今、次元の狭間を支配しているのは奴だ。

 なるほど、こいつは奴をどうにかして次元のはざまに戻りたいのか。

 まさか、それを条件に旧魔王派共や他の勢力の異端児に懐柔されたのか? 

 ────そうかヴァーリ。おまえの目的が分かったぜ。

 俺の思考が答えを出そうとしたとき、何者かがこの場に転移し来る。

 

「お初にお目にかかる、俺は真の魔王アスモデウスの正当なる後継者、クルゼレイ・アスモデウスだ。貴殿に決闘を申し込もう」

 

 ……ハハハ、首謀者の一人がご登場か。

 

「旧魔王派のアスモデウスか」

 

 ドン! 

 俺の言葉を聞くや、クルゼレイは全身から魔力をほとばしらせる。あの時のカテレアに匹敵するエネルギー……こいつもドーピング済みってわけか。

 

「旧ではない! 真なる魔王の血族だ! カテレアの敵討ちをさせてもらうぞ!」

 

 俺は人工神器を構え、疑似禁手を発動しようとする。

 ────瞬間、何者かが転移魔法陣で乱入をしてきた。

 赤く輝く魔方陣から現れたのは、紅髪の魔王────サーゼクスだ。

 

「サーゼクス? お前、何で?」

 

「いつもアザゼルばかりに任せては悪いからね。それに、クルゼレイを説得したい。現悪魔の王として、直接話を聞きたいんだ」

 

 全く、お人好しめ。

 だが、サーゼクスの思いは無駄になりそうだ。

 サーゼクスを視認した途端、クルゼレイの表情は憤怒と化したのだ。

 

「忌々しい偽りの存在! 直接現れるとはなっ! 貴様らさえいなければ、我々は……ッ!」

 

「クルゼレイ。矛を収めてくれないか? 今ならまだ話し合いの道も用意できる。前魔王の子孫や幹部たちと会談の席を設けたいんだ」

 

「ふざけるな! 堕天使どころか天使とも通じ、汚れ切った貴様に悪魔を語る資格はない! 悪魔以外の種族はすべて滅ぼすべきというのがなぜわからん! それに俺に偽物と話せというのか! 大概にしろ! 我らこそが世界を支配すべき存在なのだ! オーフィスの力を利用し、新たな世界を作り出す! そのためには、貴様ら偽りの悪魔は邪魔なのだ!」

 

 そういいながら、クルゼレイは攻撃を仕掛ける。

 それを見たサーゼクスは一瞬、悲しそうな眼をしながらも、次の瞬間には背筋が凍るほど冷たい目になっていた。

 

「……残念だ。クルゼレイ、私は魔王として、今の冥界に敵対するものを排除する」

 

「貴様が魔王を語るな! 我こそが真なる魔王……」

 

 ギュバ! 

 

 サーゼクスの放つ魔力がクルゼレイの全ての攻撃を消滅させる。

 “蛇”と謎の結晶を合わせ、さらなる力を手に入れたつもりのクルゼレイは、それでもあきらめずに魔弾を放ち続ける。

 だが、その攻撃の全てはサーゼクスには届かない。

 サーゼクスの滅びはすべてを打ち消してしまうのだ。

 これがサーゼクスの力。悪魔の突然変異とも称されるこいつは全勢力の中でもトップ10入りするとすら言われている。

 触れたものをすべて消し、塵芥すら残さない絶対的な滅び────。

 これが歴代最強とも称される魔王サーゼクス・ルシファーの力というわけか。

 

「おのれ! 貴様といい、ヴァ―リといい、何故“ルシファー”を名乗る者は恵まれた力を持ちながら、我らと相いれないっ!!」

 

 クルゼレイは絶大な魔力を両手に宿し、放出しようとする。

 

 ギュバン! 

 

 ────が、極小サイズの滅びの球体がそれよりも早く、クルゼレイの腹を削り取った。

 

「“滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクステインクト)”。残念だよクルゼレイ……」

 

 クルゼレイは信じられないものを見たかのように、腹部を凝視し、血を吐きながら呪詛を放つ。

 

「……な、なぜ……本物の魔王が偽物に負けねばならんのだ……?」

 

 クルゼレイは血涙を流しながらそう言い────。

 

「それはお前が偽物で、あいつが“真なる魔王”だからだよ。クルゼレイさん♪」

 

 何者かに首をはねられた! 

 

「なっ!?」

 

「……?」

 

 咄嗟のことに、サーゼクスは驚きながらも距離をとる。

 無表情だからわからんが、オーフィスすらも少し驚いてるように見える。

 何者だ? 

 

「よう、初めまして。この世界の“真なる魔王”の一柱、サーゼクス・ルシファー。あえて光栄だね」

 

「……君がカグチか。君も“禍の団”のメンバーというわけかい?」

 

 コイツがカグチか。見るのは初めてだな。

 凄まじく濃密なオーラを放ってやがる! これほどのオーラは神々にすらめったにいねえぞ!? 

 ……イッセーはこんな奴と戦ったのかよ! 

 サーゼクスはこいつも“禍の団”の構成員だと思ったようだが、カグチは首を振り、否定する。

 

「いや、俺はあくまで一時的な協力関係ってだけで、“禍の団”のメンバーじゃねえよ。今回はとある目的を果たすために来たんだ」

 

「目的?」

 

 サーゼクスの言葉にカグチはオーラを高め、好戦的な笑みを浮かべる。

 ────次の瞬間。

 

 ドン! 

 

「うおっ!」

 

「ムっ!」

 

 凄まじい爆発が俺とタンニーンを襲う! 

 魔力を感じた方向を見ると、そこには滅びの魔力を携えるサーゼクスと、()()()()()()()()()()()()()カグチの姿があった! 

 

「この世界で()()しかいない“真なる魔王”。あんたの力……どんなものか、試させてもらうぜ!」

 

 カグチはそう言いながら、サーゼクスの滅びの魔力をすべて吹き飛ばしやがった! 

 

「なっ、サーゼクスの滅びをかき消しただと!?」

 

 タンニーンも信じられない様子だ。

 当然だ。アレをかき消すにはどれほどの力がいるってんだよ! 舐めてたつもりはなかったが、こいつら、想定をはるかに上回る化け物だ! 

 

「仕方ない。闘うしかないようだね」

 

 サーゼクスはそう言いながら、魔力をさらに高めた。

 今、この場でとんでもない戦いが巻き起ころうとしていた────。

 



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ディオドラ殴ります

 イッセーside

 

 

 

 

 最深部の神殿。俺たちが内部に入っていくと、前方に巨大な装置らしきものが姿を現した。

 壁に埋め込まれた巨大な円形の装置で、あちこちに宝玉が埋め込まれている。

 これ自体が何らかの魔方陣を形作る巨大術式のようだ。

 ────っ! 

 俺は装置の中央を見て、叫んだ。

 

「アーシアァァァァッ!」

 

 装置の中心にはアーシアが張り付けにされていた。

 見た感じ、外傷は無いし服も破れている様子はない。良かった! どうやら間に合ったようだな! 

 

「やっと来たんだね」

 

 装置の横から姿を現したのはディオドラ・アスタロトだった。

 やさしげな笑みが俺の怒りを更に高める! こいつは俺がぶん殴る! 

 

「……イッセーさん?」

 

 アーシアが顔を上げる。

 目元が真っ赤に腫れ上がり、涙の跡が見えた。

 腫れ上がり方からして、尋常じゃない量の涙を流したのだろう。

 俺はそれを見て、嫌な結論にたどり着いた。

 

「……ディオドラ。おまえ、アーシアに話したのか?」

 

 先程、フリードから聞かされたこと。

 あれは絶対にアーシアに聞かせてはならないものだ。

 だが、ディオドラはニンマリと微笑む。

 

「うん。全部、アーシアに話したよ。ふふふ、キミたちにも見せたかったな。彼女が最高の表情になった瞬間を。全部、僕の手のひらで動いていたと知ったときのアーシアの顔は本当に最高だった。ほら、記録映像にも残したんだ。再生しようか? 本当に素敵な顔なんだ。教会の女が堕ちる瞬間の表情は、何度見てもたまらない」

 

 アーシアがすすり泣き始めている。

 

「……最低だにゃん」

 

「こいつ……許せないの……」

 

 黒歌とセラはそれを見て、静かに魔力を高める。

 他の皆も同様だ。目に見えるほどに激怒していた! 

 ところが、ディオドラはそれに気付かず話を続ける。

 

「でも、足りないと思うんだ。アーシアにはまだ希望がある。そう、君たちだ。特にそこの薄汚れた赤龍帝。君がアーシアを救ってしまったせいでら僕の計画は台無しだよ。全く、偶然その場にいた人間がまさか赤龍帝とは思わなかった。まあ、人間ごときに倒されたあの堕天使も情けないったらありゃしないけどね。おかげで計画は遅れてしまったけど、アーシアはついに僕の手元に帰ってきた。これで思う存分アーシアを楽しめるよ」

 

「黙れ」

 

 こいつは最初に見たときから小悪党だと感じていた。

 だが、その実態はそれを遥かに超越した外道だ。

 こんなクソ野郎がアーシアに愛を語ったというだけで虫酸が走る! 

 

「アーシアは処女だよね? 僕は処女を調教するのが大好きなんだ。眷属たちも最初は嫌がってたけど、やがては従順になっていくんだ。アーシアも同じさ。でも、その前にまずは君を倒させてもらおうかな? ボロボロになった君の目の前で無理矢理抱くのも面白そうだ」

 

「殺す!」

 

 その言葉に俺の怒りは頂点に達した。セラに至っては、既に飛び出そうとしてる────いや、それは他の皆も同じだ。

 だが、俺は飛び出そうとするセラを手で制した。

 

「お兄ちゃん!? 何を……」

 

「部長。セラ。皆、ここは俺に任せてくれ」

 

 俺の言葉と怒気を感じ取ったのだろう。皆は一瞬眼を瞑り…………。

 

「────手加減をしては駄目よ」

 

「わかったの。その代わり、あの生ゴミはしっかり処理するの!」

 

 部長とセラのお許しが出た。

 コイツには地獄を見せてやる。

 俺は凄まじい殺気とオーラを放ち、ディオドラに拳を構える。

 

「……ディオドラ。てめえには真の恐怖と絶望を味あわせてやるよ」

 

「アハハハ、凄い殺気だね! これが赤龍帝! でも、無駄さ! 僕もパワーアップしているんだ! オーフィスからもらった“蛇”でね! キミなんて瞬殺────」

 

 ドゴオオオオオオオオオオオンッ!!! 

 

 俺は奴が言いきる前に拳を鋭く打ち込んだ。

 

「……がっ」

 

 ディオドラの身体が壁にめり込み、巨大なクレーターを作り出す。

 ディオドラは内容物と血を吐き出し、その場に突っ伏した。

 

「瞬殺……とか言ってたな? してみろよ」

 

 ディオドラは腹部を押さえながら、後ずさりをする。

 その表情からはあの胡散臭い笑みが消えていた。

 

「ば、馬鹿な! 鎧すら纏ってないのにどうして!?」

 

 そう。今の俺は鎧を纏ってない。素の一撃だ。

 理由は簡単だ。誇り高き“赤龍帝”の力はコイツごときには勿体ない。

 こんな奴に使うだけでドライグまで汚れそうだ。

 

「お前ごときには使うまでもないんだよ。以前、人間である俺のことを蛆虫とか言ってたよな? どうした? 蛆虫の一撃でもうダウンか?」

 

 ディオドラは手を突き出すと、無数の魔力弾を展開した。

 

「ぐっ……ふざけるなよ! 僕は上級悪魔だ! 現魔王ベルゼブブの血筋なんだぞ!」

 

 ディオドラは無数の魔力弾を雨のように俺にぶつける。

 だが、俺はそれを避けない。避けるまでもない。

 この程度、鎧を纏わずともオーラで身を包めばダメージにすらならないんだ。

 

「そ、そんな馬鹿な! なんで生身の人間がこれをくらって生きていける!?」

 

 ディオドラはその光景に信じられないように叫ぶ。

 俺はゆっくり歩いていき、奴の眼前まで迫った。

 

「ひ、ヒィ!?」

 

 ディオドラは攻撃を止め、距離を取ろうとする。

 だが、俺はそれを先回りして、ディオドラの目の前に立ちふさがった。

 

「なっ!?」

 

 それを見たディオドラは悲鳴をあげながら幾重にも防御障壁を展開する。

 …………で? 

 

 バリンッ!! 

 

 俺の拳は防御障壁を全て壊し、ディオドラの顔面に突き刺さる。

 

 ゴン! 

 

 あの程度の障壁、スキルを使うまでもない! 俺にとってはあってないようなものだ! 

 それにしても、気持ちいい! これほど気分が爽やかになる一撃も珍しい! 

 ディオドラは顔から血を噴出させ、涙を溢れさせていた。

 

「……痛い、痛いよ! どうして! 僕の魔力は当たったのに! オーフィスの力で最強になったはずなのに!」

 

 俺は喚くディオドラを無視して顎を蹴りあげる。

 そして、そのまま一撃! 二撃! と連続して拳を叩き込む! 

 

「ぐわっ! がはっ!」

 

 更にもう一発! 顔面に再び拳をめり込ませ、ディオドラを地面に叩き付ける! 

 

「ありえない……。たかが蛆虫ごときにぃぃ……ぐばっ!」

 

 ディオドラは苦し紛れに障壁を展開するが、俺の拳を防ぐにはまるで足りてない。

 俺は障壁なんて一切気にせず、ディオドラを殴り続ける。

 

「ふ、ふざけるな! この腐れドラゴンがぁぁぁぁ!!」

 

 防御は無駄と悟ったのか、ディオドラは至近距離から魔力弾を俺の顔面にたたきつける。

 すると、魔力弾は俺の顔に着弾し、大きな音とともに爆発する。

 流石に顔面だ。精神生命体といえど、肉体は生身なわけだし、ツーっと少し鼻血が垂れる感覚がしたが、正直全くダメージになってない。

 だが、ディオドラは煙から垂れた血を見て何か勘違いしたらしく、狂ったように笑い出す。

 

「ハハハハハハ! ほら見たことかっ! 上級悪魔をなめるなよっ! たかが人間がこの僕に勝てるはずないんだっ!」

 

 そう言いながらディオドラは笑うが、煙が収まるにつれて徐々に笑いも収まっていく。

 鼻血を流しただけで、まるでダメージを与えていないことに気付いたのだろう。

 

「────で?」

 

 ドガンッ! 

 

 俺はディオドラへの攻撃を再開した。

 ディオドラは俺の拳を受け、再び地面へと転がり落ちる。

 

「勝てないってことがわかったか? 言ったろ? お前には真の恐怖と絶望を味合わせてやるって……」

 

 鼻血をぬぐい、俺は吹き飛んだディオドラに近づいていく。

 床に落ちたディオドラはゴキブリみたいに地を這いながら叫ぶ。

 

「嘘だ! 何かの間違いだ! アガレスにも勝った! バアルにも勝つ予定だ! 才能のない大王家の跡取りにも、情愛深いグレモリーにも、ましてや人間ごときが相手になるはずがないんだぁ! ぼ、僕はアスタロト家のディオドラなんだぞ!」

 

 ……この程度の力でこいつはサイラオーグさんに勝つつもりだったのか? 映像から見たサイラオーグさんの一撃は、俺にダメージを与えるに足るものだった。

 だが、こいつは“蛇”を使ってもこの程度。部長もタイマンでなら苦戦するだろうが、言ってしまえばその程度だ。

 部長たちも会長戦の時に比べ、強くなってるし、仮にこれが通常のゲームでも部長たちが勝っていただろう。

 ディオドラは今度は魔力で円錐状の物を作り出し、俺にぶつけようとする。

 ミサイルみたいな感じだが、俺には通じない。俺はそれをすべて拳で相殺しながら徐々にディオドラに近づき……。

 

 メキッ……。

 

 鈍い音が神殿にこだまする。俺はディオドラの太ももを蹴り飛ばし、骨を砕いたのだ。

 

「ぐああああああっ!?」

 

 あまりの痛みに絶叫をあげるディオドラ。

 だが、俺はそれにかまわず蹴りを入れてやる。アーシアはもっと傷ついてるんだぞ? 

 

「おいおい、どうした? 上級悪魔なんだろ? 意地を見せてみろよ」

 

 部長からは手加減するなと先ほど言われたが、実は俺は手加減している。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。こいつには生き地獄を味合わせてやる。

 

「俺ん家のアーシアを泣かすんじゃねえよ!」

 

 コイツに騙され、アーシアは深い傷を負ったんだ! もう二度とコイツにアーシアを近づけたりしない! コイツにはトラウマを刻み込んで、二度と俺達に関われないようにしてやる! 

 

「アーシアを、俺の家族を傷つけるやつは例えどんなやつでもぶちのめす!」

 

 俺はディオドラの胸ぐらをつかみ、全身に蹴りと拳を放つ! 

 気絶はさせないように、体の各部を破壊し、痛みを与えながら、ディオドラの身体を壊していく。

 ディオドラは数秒もたたないうちのぼろ雑巾のようにズタボロになっていった。

 それでも気を失うことができないため、うつろに目を開けているが、その目からは怯えの色しかなかった。

 

『相棒。そいつの心はもう終わりだ。────そいつの瞳はドラゴンの恐怖を刻み込まれたもののそれだ』

 

 ……そうか。ならばここまでだな。

 コイツはもう立ち直ることができないだろう。そうなるように、意識を保たせていたわけだしな。

 俺はボロボロになったディオドラを部長たちのほうに投げる。

 そんなディオドラをにらみながら、ゼノヴィアは訪ねる。

 

「殺さないのか? アーシアにまた近づくかもしれないし、今この場で首をはねたほうがいいのでは?」

 

「そうだよ。こんな生ごみ、生かしておく必要がないの!」

 

 アーシアととくに仲のいい二人は殺意がマックスだ。

 特にセラは、普段からは想像もつかないほどに凶悪で冷たい瞳をしている。

 だが、俺は首を横に振った。

 

「……こんな奴でも、一応は現魔王の血筋だ。殺したらサーゼクスさん達に迷惑をかけるかもしれないし、そのとばっちりが部長に行く恐れもある」

 

「……わかった。私はイッセーが言うなら私はやめる」

 

「……わかったの。リアスお姉ちゃんにも迷惑がかかるかもしれないし、今回は引いてあげるの」

 

 そう言いながら、ゼノヴィアとセラは矛を収めるが、心中納得はしてないだろう。

 

「まあ、生き地獄は味合わせてやったし、大丈夫だろ。不安なら、今この場で手足を叩き折るくらいはするか?」

 

「ひ、ヒィ!」

 

 俺の言葉にディオドラはうずくまり、ガタガタと震えていた。

 

「……いや、確かにこの様子なら大丈夫かもしれないな。だが、それでも再びアーシアに近づくようだったら────」

 

「……そんなことになったら、そんなの関係ないの────」

 

「あぁ、その時は仕方がない────」

 

 俺とゼノヴィア、セラはそれぞれの武器をディオドラに向けた。

 

「「「殺す」」」

 

「もう二度とアーシアに近づくな」

 

 俺達の声にディオドラは恐怖で瞳を潤ませ、何度も何度も頷いた。

 俺達はそんなディオドラを無視して急いでアーシアのもとへと駆ける。

 

「アーシア!」

 

 装置のあるところへ皆が集合していった。

 

「イッセーさん! 皆さん!」

 

 俺はアーシアの頭を優しくなでてやる。

 

「助けに来たぞ、アーシア。必ず守るって言ったのに、怖い目に合わせて本当にゴメンな」

 

 俺が言うとアーシアは首を横に振った。

 

「私は大丈夫です。イッセーさんが……皆さんが助けに来てくれると信じてましたから」

 

「そっか」

 

 安堵したのか、アーシアは嬉し泣きをしていた。

 よし、アーシアを救出したら安全な場所を確保して、俺も先生達のところに加勢しよう。

 ……まだカグチが残っているしな。

 アーシアを装置から外そうと木場達が手探りに作業をし始めていた。

 ────だが、少しして木場の顔色が変わる。

 

「……手足の枷が外れない」

 

 何!? 

 俺は急いでアーシアの枷を解析し、その術式内容を閲覧する……っ!? 

 な、なんてこと考えやがる! “禍の団”の奴ら、これが目的だったのか! 

 

「……多分、これは先生が言っていた結界系最強の神器“絶霧(ディメンション・ロスト)”の所有者が作り出した固有結界のひとつ。しかも、枷に繋いだ者、つまりはアーシアの神器能力を増幅させて反転させるという力を持っています」

 

「なんですって!?」

 

 俺の言葉に部長たちが驚く。

 会長が使っていた手と同じだ。つまり回復の能力を反転させることで俺たちを一網打尽にするつもりだ。

 

「効果範囲はわかるかい?」

 

 その恐ろしさを身をもって知っている木場はさらに問いだす。

 

「……このフィールドと、観戦室」

 

 その答えに全員が驚愕した。

 アーシアの回復の効力は凄まじい。

 もしも、それが増幅されて反転させられたら……っ! 

 

「……各勢力のトップ陣がすべて根こそぎやられるかもしれない……ッ!」

 

 そんなことになれば、人間界も天界も冥界にも、世界中に影響が出る。

 この装置が発動すれば、俺でも耐えられるかどうかはわからない。耐えれるとしたら、防御系の究極を持つ黒歌くらいだろう。

 ……だけど、驚愕する皆と違い、俺は────安堵していた。

 

「────よかった、発動される前に間に合って」

 

「本当っすね。これならイッセーの得意っすしね」

 

「にゃん♪」

 

「……どういうこと?」

 

 怪訝そうにする部長たちをよそに、俺はアーシアへと近づいていく。

 うん。アーシアにぴったりくっついてる。これならいけるな。

 

「アーシア。先に謝っとく」

 

「え?」

 

 俺の言葉に可愛らしく首をかしげるアーシア。うん、ごめんね! でも、アーシアを助けるためだから! 

 俺はイメージをする。

 アーシアの全裸! 何も纏ってない生まれたままの姿のアーシアを! 

 スベスベの肌! 柔らかい身体! きれいなピンクの乳首! 

 その高まった煩悩に呼応し、俺の“国津之王(オオクニヌシ)”の力がどんどん高まっていく! 

 ・・・・・・・いまだ!! 

 

「いくぜ! “結界洋服崩壊(プリズンドレスブレイク)”!!」

 

 バキンッ! バババッ! 

 

 金属がはじけ飛ぶ音と、衣服がはじけ飛ぶ音が同時に鳴り響く。

 アーシアの四肢を問えらえていた枷は、シスター服とともに粉みじんに消し飛ぶのだった……。

 

「いやっ!」

 

 アーシアは一瞬何が起きたのかわからずに呆けたが、すぐに自分の現状(姿)に気付き、顔を赤らめその場にかがんだ。

 ブブッ! 

 アーシアの成長中の全裸を見て、先ほど止まった鼻血がまた垂れてきた! 

 うん! いつみても美しいおっぱいです! 最高かよ! 

 

「あらあら大変」

 

「はい、タオルっすよ。アーシアちゃん」

 

 ミッテルトはすぐさまタオルをアーシアに差し出し、アーシアもそれで秘部を隠す。

 ちなみに、ライザー戦でも配っていたけど、ミッテルトはあのタオルを常に常備しているらしい。

 曰く、俺の被害者を慰めるためだそうだ……解せぬ! 

 

「……あれって、女性の身につけてるものなら、何でもいいの?」

 

「まあ、基本はそうっすね。ああいった結界だけじゃなくて、呪いの類も解呪できるし……」

 

 まあ、スキルのおかげで昔よりもパワーアップしてるしな。

 何はともあれ、アーシアは無事! 装置も破壊! 

 ディオドラもぼこした! 俺たちは元気! 任務完了だな! 

 

「イッセーさん!」

 

「アーシア!」

 

 朱乃さんが用意してくれた予備のシスター服に身を包んだアーシアが俺に抱き着いてくる。

 うんうん、アーシアが戻ってきてくれて良かったよ! 

 

「信じてました、イッセーさんが助けに来てくれるって信じてました」

 

「当然だろう。でも、本当にごめんな。辛いこと、聞いてしまったんだろう?」

 

「平気です。あの時はショックでしたが、私にはイッセーさんがいますから」

 

 うう、可愛すぎる! アーシアマジ天使! お兄さん、絶対に嫁には出しませんからね! 

 ゼノヴィアも目元を潤ませていた。

 

「アーシア! 良かった! 私はおまえがいなくなってしまったら……」

 

「私もなの。アーシアお姉ちゃん!」

 

 セラも瞳を潤ませ、アーシアに抱き着く。二人とも、本当に心配してたんだな。

 アーシアはゼノヴィアの涙を拭い、セラのことを抱きしめながら微笑む。

 

「どこにも行きません。イッセーさんとゼノヴィアさん、セラちゃんが私のことを守ってくれますから」

 

「うん! そうだな! 私はお前を守るぞ!」

 

 そう言いながら、抱き合う親友同士。

 アーシアとゼノヴィアの友情は美しいなぁ。

 

「私もなの!」

 

 セラもそれに対抗し、アーシアに抱き着く。

 微笑ましい光景だ。

 俺は木場と────うん、絶対に断る! 

 

「部長さん、皆さん、ありがとうございました。私のために……」

 

 アーシアが一礼すると美羽や皆も笑顔でそれに応える。

 すると、部長がアーシアを抱きしめ、やさしげに告げる。

 

「アーシア。そろそろ私のことを部長と呼ぶのは止めてもいいのよ? 私はあなたを妹のように思っているのだから」

 

「────っ。はい! リアスお姉さま!」

 

 部長とアーシアが抱き合っている。感動のシーンだな! 

 

「よかったですぅぅぅぅっ! アーシア先輩が帰ってきてくれて嬉しいよぉぉぉぉ!」

 

「ギャー君、よしよし」

 

 ギャスパーもわんわん泣いてやがる。

 小猫ちゃんに頭撫でられてるし……羨ましいな。

 ま、何はともあれ一件落着かな? 

 

「さて、アーシア。行こうか」

 

「はい! と、その前にお祈りを」

 

 アーシアは天になにかを祈っている様子だった。

 

「何を祈ったんだ?」

 

 尋ねるとアーシアは恥ずかしそうに言った。

 

「内緒です」

 

 笑顔で俺のもとへ走り寄るアーシア。

 ────瞬間、俺は上空より空間のゆらぎを感じた! 

 上を見上げると、一人の男が掌をアーシアに向けている! 

 このタイミングで新手かよ! 面倒くさい時に! ちったあ空気を読みやがれ! 

 

「アーシア!」

 

「キャッ」

 

 既に光は発射されている! 

 間に合わないと判断した俺は、咄嗟にアーシアを庇うように抱きつく。

 瞬間、俺達は光に飲み込まれるのだった。

 

 

 

 

 

 *********************

 

 木場side

 

 

 

 

 

 僕達は一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 いや、今でもよく分からない。

 ディオドラ・アスタロトと神滅具の装置をイッセー君が打倒し、アーシアさんの救出が無事に終わり、僕たちはこの場から退避するはずだった。

 だけど、その瞬間のイッセー君がものすごい勢いでアーシアさんのもとに向かうと同時に二人はまばゆい光の中に消えていった。

 ……何が起きた? 

 

「神滅具で作りしものが神滅具も使わない攻撃で散るとは、霧使いめ、手を抜いたな。計画の再構築が必要だ」

 

 聞き覚えのない声。

 声のしたほうに視線を送ると、そこには見知らぬ悪魔が宙に浮いていた。

 軽鎧(ライト・アーマー)を身につけ、マントも羽織っている。

 ……なんだ、この体の芯から冷え込むようなオーラの質は……。

 部長が口を開く。

 

「……誰?」

 

「お初にお目にかかる、忌々しき偽りの魔王の妹よ。私はシャルバ・ベルゼブブ。偉大なる真の魔王ベルゼブブの血を引く、正当なる後継者だ」

 

 ────旧ベルゼブブ! 

 アザゼル先生が通信で言っていた今回の首謀者がご登場とは……。

 ディオドラ・アスタロトがボロボロの体で旧ベルゼブブ────シャルバ・ベルゼブブに懇願する顔となった。

 

「シ、シャルバ! 助けておくれ! キミと一緒なら、こいつらを殺せる! 旧魔王と現魔王が力を合わせれば────」

 

 ピッ! 

 

 シャルバが手から放射した一撃がディオドラの胸を容赦なく貫いた。

 

「愚か者め。あの娘の神器の力まで教えてやったのに、モノにできずじまい。赤龍帝とはいえ人間……しかも、神器を使ってすらいない者に敗れるなど……たかが知れているというもの」

 

 嘲笑い、吐き捨てるようにシャルバは言う。

 ディオドラは床に突っ伏すことなく、チリと化して消えていった。

 ────光の力? 天使や堕天使に近い能力か? 

 僕の視界にシャルバの腕に取り付けられた見慣れない機械が映る。

 もしや、あれが光を生み出す源か? 

 まさか、イッセー君とアーシアさんは……。

 嫌な予感にこの場にいるみんなが震える。特に、ゼノヴィアさんは体をわなわなと震えさせている。

 

「さて、サーゼクスの妹君。突然で悪いが、貴公には死んでもらう。現魔王の血筋をすべて滅ぼすため」

 

 冷淡な声だ。瞳も憎悪に染まってる。よほど現魔王に恨みがあるのだろう。

 主張と家柄、魔王の座を取り上げられ、冥界の端に追われたことを深く恨んでいるようだ。

 

「グラシャラボラス、アスタロトに続き、私を殺すと言うのね」

 

 部長の問いにシャルバは目を細める。

 

「その通り。不愉快極まりないのだよ。我ら真の血統が、貴公ら現魔王の血族に『旧』などと言われるのは耐えがたいことなのだよ。故に我らは現魔王の血族を滅ぼすことにしたのだ。今回の作戦は失敗だ。クルゼレイも死んだようだが、まあ問題はない。私がいればヴァ―リがいなくとも十分動ける。真のベルゼブブは偉大なのだ。さて、去るついでだ。────サーゼクスの妹よ、死んでくれたまえ」

 

「────外道っ! イッセーとアーシアをどうしたというの!?」

 

 部長は最大までに紅いオーラを全身から迸らせ、シャルバに問い詰める。

 朱乃さんも顔を怒りにゆがめ、今までにないほどの雷光を迸らせていた。

 それに対し、シャルバは興味なさそうに答える。

 

「ああ、あの赤い汚物と堕ちた聖女か。あの者達は私が次元の彼方に消してやった。“次元の狭間”に居続ければ、“無”に当てられて消滅する。あの娘はもちろん、“赤龍帝”も例外ではない。ましてや人間だ。おそらく抗うことすらできず、今頃は死んでいるだろう」

 

 僕は怒りでどうにかなりそうだった! 

 これほどの怒りを感じたのは聖剣以来だ! 

 アーシアさんはやっと今の幸せをかみしめられるようになったんだ! イッセー君だって、これからじゃないか! 

 僕の大切な仲間を! 親友を! 消し去った罪! その命をもってしても償えるものではない! 

 このテロリストには、ここで確実に死んでもらう! 

 

「許さない……ッ! 許さない……ッ! 斬るっ! 斬り殺してやるっ!!」

 

 ゼノヴィアが涙を流しながらデュランダルとアスカロンを強く握りしめ、シャルバ達に斬りかかろうとする! 

 

 ────瞬間、シャルバの姿がぶれた。

 

「がはっ!? な、なんだ!」

 

 地に落ちるシャルバ。どうやら何かに叩き落とされたようだ。

 その場に突っ伏している。

 

「……セラ?」

 

 先ほどまでシャルバがいた場所を見ると、そこには宙に浮くセラちゃんの姿があった。

 

「────許さない。よくも……よくもお兄ちゃんとお姉ちゃんを────」

 

 セラちゃんの瞳はじっとシャルバをとらえている。

 だけど、その姿は異様に見えた。無表情のまま、じっとシャルバを見つめているのだ。

 

「ふん、噂の機械人形か。どこのだれが作ったのかは知らんが、生意気だな。偉大なるベルゼブブの力、見せてやろう」

 

 そう言いながら、シャルバはセラちゃんに魔力弾を放つ。

 凄まじい力だ! セラちゃんはその一撃に対しても見つめるだけ。避けることなく、魔力弾の直撃を浴びた。

 魔力弾は着弾と同時にセラちゃんを巻き込み、大爆発を起こす。

 ────しかし、煙がはれると、そこには無傷のセラちゃんの姿があった。

 

「────なに?」

 

 予想外の光景に驚くシャルバ。

 セラちゃんはなおもシャルバを見つめ、呪詛を口に出す。

 

「……許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない────」

 

「────タカダカ“()()()()”風情ノ分際デ────」

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!! 

 

 神殿が大きく揺れ、セラちゃんから凄まじい圧力が感じ取れる! 

 魔力じゃない! オーラを感じ取ることができないが、すさまじい力だというのが見て取れる! 

 その圧力を前に、シャルバは一歩後ずさる。

 それだけじゃない。ミッテルトさんや黒歌さんまでもが冷や汗を流していたのだ! 

 

「……せ、セラ?」

 

 その圧倒的な圧力の前に、部長は思わず問いかける。

 だけど、それを無視して、セラちゃんはシャルバに手をかざす。

 

「────────死ネ」

 

 瞬間、僕たちの視界を光が覆うのだった────



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セラの狂気です

 アザゼルside

 

 

 

 

 

 バン! ギュバン! ゴォウ! 

 

 衝撃と滅び、炎の音がこだまする。

 俺達の前ではすさまじい激闘が繰り広げられていた! 

 

「いいねいいね! 最高だ!」

 

「……セカンドの炎を上回る火力か。危険だね」

 

 俺の目の前でカグチが恐ろしい熱量の炎を繰り出す。

 あの炎……計測器の故障じゃなけりゃ十億度は軽く超えてやがる! 

 それは地球の核……どころか太陽の熱すらも軽く上回るほどの火力だ! 

 タンニーンですらそれほどの炎を扱うことはできねえ! 

 それに対し、サーゼクスは滅びの魔力を用いて対応している! 

 

「“滅殺の魔龍(ルイン・エクスティンク・ドラグーン)”!」

 

 サーゼクスは巨大な滅びの魔力を作り出し、さながらドラゴンの様に形作った! 

 ……以前のレーティングゲームで、ソーナが水のドラゴンを作っていたが、こいつは滅びの魔力でそれを作りやがるのかよ。出鱈目だな。

 ────だが、出鱈目なのはカグチも同じ。

 

「“十字閃炎嵐撃(クロスフレアストーム)”!」

 

 カグチは腕を交差させ、炎を加えた斬撃を繰り出してきた。

 計測されたその熱は二十億度以上……ここまでくると、笑えねえな。

 滅びの龍と、極滅の炎はしばらく拮抗するが、どちらも大爆発を起こし、消失した。

 

「うおっ!」

 

「なんという闘いだ!」

 

「…………」

 

 タンニーンも俺も、何とかサーゼクスの援護に回ろうとするが、熱波の影響で近づけねえ! 

 闘いには興味もないだろうオーフィスすらも魅入るくらいだ! この戦いのすさまじさがわかるだろう! 

 

「ハハハ! すげえな! 今のを相殺するってことは、やっぱりお前も究極に至ってるんだな!」

 

「……究極。この力を知ってるのかい?」

 

「ああ。よ~くな。何しろ、俺達はみんなそれに至ってるんだ────ちなみに、兵藤一誠……あと、黒歌もそれを持ってるらしいぜ」

 

 その言葉を聞いたサーゼクスは目を見開く。

 究極? 何の話だ? というか、一誠も関係あるのか? 

 

「……ところでお前、本気にならないのか? さっきから様子見ばかりで、お前が本気になれば、もっと楽しめると思うんだけどな」

 

「…………」

 

 カグチの言葉にサーゼクスは一瞬俺たちに視線を向ける。

 それを見たカグチは何かを察したように、ため息をついた。

 

「……なるほど。あいつらを気にして本気が出せないのか。“赤”の悪魔らしいといえばらしいかもな。あの化け物も自分が気に入った存在に関しては甘いところがあったしな……」

 

 あの化け物? 誰のことを言ってやがる? 

 俺の思考をよそに、カグチはうんうんうなり続けるが、やがて殺気を霧散させた。

 

「まあ、お前の力は大体わかった。不完全燃焼ぎみだが、これで任務完了にしとくか……できれば本気のお前とやりたいが、それはまたの機会にでもするかね?」

 

 その言葉にサーゼクスも臨戦態勢を解く。

 どうやら終わりみたいだな。……にしても、俺達は認識を改める必要がありそうだ。

 “禍の団”だけじゃない。こいつらの組織も危険極まりない存在だ。

 見た感じ、このカグチはまだ交渉の余地が幾分かありそうだが、イッセーが戦ったというメロウはかなり傲慢な性格だと聞いている。

 さらにこいつらを率いる正体不明の存在。

 俺達も対策を練る必要がありそうだぜ。

 

「────ん?」

 

「────おん?」

 

 俺の考えをよそに、何かを感じ取ったらしく、サーゼクスとカグチは同時に神殿のほうを見る。

 何かあったのか? 

 ────そう思った次の瞬間! 

 

 ズンッ!! 

 

 凄まじい圧力が俺たちを襲った! 

 

「な、なんだこの波動は!?」

 

「知らねえよ。だが、何かが起きてるのは間違いなさそうだな」

 

 俺とタンニーンは変化しっぱなしの状況に思わずぼやいてしまう。

 今度は何が起きたってんだ? 

 

「……この波動は……」

 

 カグチは何やら心当たりのありそうな表情になると、霞に隠れるかのように姿を消した。

 どこに行きやがった!? 

 

「アザゼル! 今は向こうが優先だ! 僕たちも行こう!」

 

 ……確かに、カグチも問題だが、今はリアス達の方がヤバそうだな。

 この圧力は只事じゃない! 

 

「ああ。レイナーレ、タンニーンと一緒にオーフィスを監視しててくれ!」

 

「は、はい。総督」

 

「任せておけ!」

 

 ずっとそこに居座るオーフィスも気になるが、現状コイツは動く気配がない。今の状況だと、あちらのほうがやばいかもしれない。

 俺はレイナーレとタンニーンにオーフィスの監視を任せ、イッセーたちのいる神殿へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 **************************

 

 木場side

 

 

 

 

 

 凄まじい閃光と轟音で、一瞬僕の視界が途切れてしまう。

 目が慣れ始め、恐る恐る開けると────そこには更地となった神殿、辺りにはおびただしい数のクレーターが広がっていた。

 

「────皆、大丈夫にゃん?」

 

 見ると、僕たちの周りだけが神殿だった名残を残している。

 咄嗟に黒歌さんが僕たちを庇ってくれたみたいだ。

 

「あ、ありがとうございます。姉さま」

 

「な、何が起きたというの!?」

 

「……それは、見ればわかるにゃん」

 

 ビュッ! 

 

 黒歌さんの言葉と同時に、何かが空を切る音がした! 

 慌てて音がした方向を見ると、そこには片腕を失ったシャルバが血走った瞳で何かを見ていた。

 

「おのれぇ……よくもぉぉぉ!」

 

 シャルバの視線の先にいたのは、大量のケーブルと、禍々しくも美しい光沢を放つ鎧を纏う存在だった。

 まるで映画で見たエイリアンじみた風貌をしており、無機質ながらも不気味な圧力を与えてくる。

 

「……あれって、セラちゃんすか?」

 

「……みたいにゃん」

 

 なっ! あれがセラちゃんだって! 

 よく見ると、触覚のように生えているケーブルには、シャルバの物であろう腕が絡まりついている。

 セラちゃんはそれを容赦なく砕き、地面に放り投げる。

 

「よくも私の腕を……死ねっ! 化け物がぁ!」

 

 シャルバは残った右腕で光をセラちゃんに放つ。だが、セラちゃんはケーブルを束ね、シャルバの光をはるかに上回る質量の光線を放った! 

 驚いたシャルバは慌てて回避するも、なんと光は方向を変え、シャルバめがけて襲い掛かってくる! 

 

「ぐわぁぁっ!」

 

 その光は悪魔にとって毒となり、シャルバの腕をむしばんでいる。

 だけど、通常の光を浴びた悪魔みたいに塵と化する様子はまるで見受けらない! 

 

「イタイ? フフ! ネエ、イマドンナキブンナノ?」

 

 セラちゃんの発したその言葉は────今までに感じたことがないほどゾッとするものだった。

 一言でいうならば、言葉そのものが悪意に満ちている感覚だ。

 

「ふざけるなっ!」

 

 両の手を失いながらもシャルバは魔力の弾を生成し、それをセラちゃんに放つ! 

 その一撃は、まさしく極大といえるほどのものだった! 

 

「ウフフ!」

 

 それに対し、セラちゃんは躱すでも構えるでもなく、息を吹きかけるかのような動作をする。

 ────すると、極大の魔力の帯は、ほどけるように消え、霧消していった! 

 

「ば、馬鹿な……」

 

 その光景に震えるシャルバ。だが、セラちゃんはそれを見てけらけらと笑い始めたのだった。

 

「アハハハハハハハハハッ! イイ! ソノ表情! 実二、実ニイイワヨ? モット、モットミセテヨッ!」

 

「────っ! がはっ!?」

 

 セラちゃんは狂ったように笑いながら、シャルバをいたぶり始める。

 触手のように蠢くケーブルで、シャルバの身体を嬲り、殴り、弄んでいる。

 あれが本当にセラちゃんなのか? まるで別人だ! 

 アーシアさんとイッセー君を殺された影響? だけど、それにしたって人格が違いすぎる。

 今のセラちゃんは、心底シャルバをいたぶることを楽しんでいるように見えるのだ。

 僕達はそれを呆然と見ているしかできなかった。

 それだけじゃない。先ほどから、本能に訴えるかのような恐怖が僕を襲ってくるのだ。

 見ると、部長も目を見開き、全身を震えさせている。朱乃さんもゼノヴィアちゃんも小猫ちゃんもギャスパー君も、皆セラちゃんに恐怖を感じているのだ。

 ────あれはいったい何なんだ? 

 

 ドンッ! 

 

 何かが墜落した音で僕はハッと我に返る。見るとそこにはぼろぼろとなり、血まみれになって倒れているシャルバの姿があった。

 

「くっ! 私はこんなところで死ぬわけには……」

 

 グチャッ! 

 

 シャルバが転移用の魔方陣を足で描こうとするが、その足が動きを────いや、足そのものが消失する。

 何が起きたのかわからず呆然とするシャルバ。

 

「サガシモノハコレカシラ?」

 

 見ると、セラちゃんはシャルバの足だったものをその手に持っていた。

 いつの間に!? 恐怖に震えながらも、僕は目を一瞬たりとも離さなかった! 

 まるで見えなかったぞ!? 

 セラちゃんはうろたえるシャルバを無視し、すさまじい波動を出し始める。

 

「き、キサ────ガハッ!?」

 

 激高したシャルバはセラちゃんに魔弾を放とうとする、 だが、それよりも早く、セラちゃんの触手がシャルバの脇腹を抉り取った!  

 

「……モウイイヤ。オ姉チャントオ兄チャン二手ヲ出シタコト……後悔シナガラ……死ネ!」

 

 そう言うと、セラちゃんは触手のようなケーブルを重ね合わせ、凄まじい大きさの砲門を作り出す。

 

 ────ゴゴゴゴゴゴゴッ! 

 

 セラちゃんの身体から、恐ろしいまでの圧力がかかり、大地が鳴動する。それを見たシャルバは、危険を感じ取り、叫び出す! 

 

「バ、バカな……! 真の魔王であるこの私が! ヴァーリに一泡も吹かせていないのだぞ!? こんなところで死ねるかぁぁぁ!」

 

 最後の抵抗といわんばかりに、シャルバは魔力弾を放とうとするが、それよりも早く、嘲笑するセラちゃんの砲門がシャルバをとらえた。

 

「“次元波動砲(ディメンション・ノヴァ)”」

 

 ズバァァアアアアアアアアアンッ! 

 

 放射された暗黒の閃光にシャルバは包み込まれていき、やがて光の中に完全に消え去った────。

 ────終わったのか? 

 

「────まだにゃん」

 

 黒歌さんの言葉とともに、セラちゃんを見る。

 セラちゃんは暫くはシャルバのいた場所を見て放心していたが、しばらくすると頭を抱え、再び狂ったように笑いだした! 

 

「ウフ! ウフフ! アハハハハハハハハハッ!」

 

 瞬間、セラちゃんのケーブルから成る砲門が、全体に向き、一斉に放射された! 

 その範囲は広く、僕たちのほうにまで向かっている! 

 それは黒歌さんの結界のおかげで防がれてるけど、先ほどまではわずかに感じた理性がもうほとんど感じ取れない! 

 何があったというんだ! 

 

「……イッセーとアーシアちゃんを目の前で失ったショックにより、セラはあの形態になった。あの塵がいる間はまだ“復讐心”からわずかばかりに理性を保っていたけど……」

 

「……あのカスが消えて、邪悪な力が行き場をなくし、暴走を引き起こしてるってことっすかね?」

 

 黒歌さんとミッテルトさんが今のセラちゃんの状態を冷静に分析している。

 今のセラちゃんは完全なる暴走状態ということなのか……。

 

「アハハハハハハハハハハハハッッ!!」

 

 セラちゃんは敵を倒した今もなお、狂ったように笑い続ける。

 ────でも、その瞳からは涙が流れているようだ。

 兄と慕っていたイッセー君も、姉と慕っていたアーシアさんも失い、悲哀と慟哭に包まれてるかのようだ。

 

「クソッ! どうすればいいんだ……」

 

 ゼノヴィアの慟哭に僕は何も答えられない。

 ゼノヴィアだけじゃない。皆も同じだ。セラちゃんの異変もそうだし、何より親友と愛する者を同時に失った悲しみから逃れられないでいる。

 僕も同じだ。でも、セラちゃんを放っておくわけにもいかない。いったいどうすれば……。

 

「……とりあえず、止めるしかなさそうっすけど、あれは確実にうちの手には余るっすね。頼るようで申しわけないんすけど、黒歌っち、行けそうすか?」

 

「……そうね。今のセラはかなりのものだし、止めるとなると相当骨が折れそうにゃん。その間、ミッテルトと()()()でみんなを守ってもらってもいい?」

 

「ええ。了解したわ」

 

 瞬間、黒歌さんの影からトーカさんが突如として表れる。

 以前イッセー君から聞いたけど、トーカさんは影に潜る不思議な術を使うらしい。

 ……いや、そんなことはどうでもいい。

 気になるのは三人の反応だ。

 三人共、イッセー君と深いつながりがあったはず。特に、ミッテルトさんはイッセー君の恋人だ。

 それなのに、イッセー君たちを失って、どうしてこんなに冷静にいられるんだ? 

 

「……そんなの簡単っすよ」

 

 僕の疑問にミッテルトさんは笑顔で答える。

 

「イッセーがあの程度で死ぬわけがない。うちたちはそう信じてるんすよ」

 

 ────っ! 

 確信が込められたその言葉に僕は瞠目する。ミッテルトさんの言葉に黒歌さん達も続く。

 

「あの変態ドラゴンをあんな簡単に殺せるならだれも苦労しないわよ」

 

「イッセーは絶対に生きてる。イッセーがいるならアーシアちゃんも生きてるはずにゃん」

 

 三人のその言葉に、皆は目に光を取り戻していく。

 そうだ。あのイッセー君が簡単に死んでしまうはずがない。

 確証もない話だけど、僕もそう思えてくるんだ。

 

「……そうね。イッセーが死ぬはずないもの。アーシアだって大丈夫。なら、へこたれてる場合じゃないわね」

 

 部長はそう言いながら、涙を拭う。

 その目は強い意志が感じ取れた。

 

「その様子なら大丈夫ね。でも、今のセラは皆とは次元が違う。くれぐれも、ミッテルトの結界から出ないようにね」

 

 そう言うと、黒歌さんは悪魔の翼をはやし、暴走を続けるセラちゃんのもとへと飛び立った。

 それを確認したセラちゃんは、先ほどシャルバに放ったものと同質の光線を黒歌さんに向けて放つ。

 だげ、黒歌さんはそれを強力な障壁でいともたやすく防いだ! 

 

「メロウみたいな権能でもない限り、私の障壁は簡単には壊せないにゃん」

 

「アハハハハハハハハハ!」

 

 ならばとセラちゃんはケーブルを使い、直接攻撃を仕掛ける。

 だが、それすらも黒歌さんの障壁を突破するには力不足のようだ。

 あのケーブル一本一本がシャルバを障壁ごと砕く、凄まじい威力だというのに、黒歌さんの障壁はそれを通す気配すらない。いったい、どんな強度をしてるんだ!? 

 黒歌さんは鉤爪のような武器を出し、セラちゃんに向かって構えた。

 

「とりあえず、イッセーが戻ってくるまでお姉ちゃんと遊んでるにゃん。掛かってきなさい♪」

 

「アハハハハハハハ!」

 

 セラちゃんと黒歌さん。凄まじい力を持つ者同士が目の前で激しくぶつかり合うのだった。

 

 

 

 

 

 



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暴走を止めます

 イッセーside

 

 

 

 

 

 俺とアーシアが光に包まれた後、目を開けるとわけの分からん場所にいた。

 周囲は様々な色が混ざり合ったようなハチャメチャな景色。

 なんていうか、万華鏡を覗いているかのような感じだ。

 何処だココ? 

 

『ここは“次元の狭間”だ』

 

 次元の狭間? 

 どっかで聞いたことあるな。

 確か、様々な世界の隙間に存在し、世界と世界を分け隔てる境界……だったっけ? 

 

『ああ。天界に冥界、人間界といった風に、()()()()“次元”を隔てる境界線だ』

 

 そうそう。あくまでこの星の境界を担う場所だから、“多次元世界”を隔てる境界とはまた別なんだよな。

 ヴェルグリンドさんやリムルがそんなこと言ってた気がする。

 まぁ、今はどうでもいいか。

 それよりアーシアだ。俺は“精神生命体”の力を獲得してるから何ともないけど、アーシアではこの環境下は数分と持たないだろう。

 

『アーシア・アルジェントには相棒のオーラを纏わせておけ。それならば、暫くの間はもつだろう』

 

 了解だ、ドライグ! 

 早速俺はオーラをアーシアに付与する。俺の究極能力の力とドライグのオーラをアーシアに纏わせる。

 とりあえずはこれでよし。

 ……さて、どうやって向こうに戻るか。

 “時空間操作”と“空間支配”でどうにか……いや、目の届く範囲ならともかく、座標もつかめないこの場所じゃあ変なところに飛ぶ可能性もあるな。

 ただでさえ、そういう繊細な操作は苦手なんだ。海の中にでも出てしまえばたまったものじゃない。

 

『いや、その心配はない。“次元の狭間”は基本的に折り重なった世界だ。すぐに転移すれば同じところに出るだろう』

 

 あ。そうなの? なら、問題ないか。

 取り敢えず、速いところ出たほうがいいかな? 

 

『そうだな。アーシア・アルジェントのためにも早いうちに脱出するべきだろう』

 

 よし! そうと決まれば、さっそく実行するか。

 オーラを集中させ、次元を突破しようとする。そこで、誰かが俺たちのほうへと近づいてきた。

 

「兵藤一誠? こんなところで何をしてる?」

 

「ヴァ―リ!?」

 

 現れたのはヴァ―リだった。

 その後ろには美猴と“神話級(ゴッズ)”の剣を携える背広の男の姿があった。多分、コイツが先生の言っていた“聖王剣”とやらの使い手なのだろう。

 それはともかく、なんでこいつ等がここにいるの? 

 

「それはこちらのセリフなんだがな。君はどうしてここに」

 

「ああ、“禍の団”……多分、旧魔王派の奴にアーシアを狙われて、それを庇って、気付いたらここにいたんだ」

 

「なるほど、シャルバか……」

 

 シャルバ……それがあの男の名前か。

 恐らく元々がそこそこの力ある悪魔なんだろうな。

 カテレアと同じように“蛇”と“結晶”の相乗効果で“超級覚醒者(ミリオンクラス)”に至ってたみたいだし。

 まあ、向こうには黒歌とミッテルトがいるし、そこまで心配はしてないんだけど……。

 

「でも、急ぐに越したことはないし、俺はもう行くわ。またあとでな」

 

 ヴァ―リにそう告げると俺は自らの権能を籠手に宿し、空間そのものに傷を付ける。

 すると、何もない空間にひび割れが起き、元の世界へと続くであろう亀裂が発生した。

 俺はヴァ―リに手を振り、そのままその場を後にした。

 

 

 

 

 ****************************

 

 木場side

 

 

 

 

「アハハハハハハハ!」

 

 セラちゃんのすさまじい一撃が黒歌さんをとらえる。

 だけど、黒歌さんはそれをすべて障壁で防ぎながら、セラちゃんに攻撃を与えていた。

 

「“黒双爪撃”」

 

 ガキンッ! 

 

 黒歌さんの鉤爪とセラちゃんの鎧と激突する。

 耳を劈くようなすさまじい金属音があたりに響き渡る。拮抗した鉤爪と鎧は火花を散らしながら中空で鍔ぜり合う。

 

「ふん!」

 

「!?」

 

 しばらく続いた拮抗は、黒歌さんの一撃で崩れる。

 黒歌さんは一瞬のスキを突き、セラちゃんに蹴りを入れ、吹き飛ばしたのだ。

 セラちゃんはそのまま地面にたたきつけられ、すさまじい土煙を上げる。その風圧は離れた場所にいる僕たちにまで影響を与えるほどのものだった。

 遠目だけど、その一撃は僕たちはおろか、おそらくシャルバでも耐えられないものに見えた。

 これで勝負はついたのか……。

 

 カッ! 

 

 僕がそう考えていると、土煙から凄まじい数の光柱が伸びてきた! 

 それを驚いた様子もなく防ぐ黒歌さんを尻目に僕たちはセラちゃんのほうへと視線を向ける

 

「ウフフフフ」

 

 そこには傷一つなく、黒歌さんに砲門を向けるセラちゃんの姿があった。

 アレを食らって無傷なのか!? 

 

「……感触で予想はしてたけど、あの鎧、“神話級(ゴッズ)”ね。硬度だけでいえばゼギオンさんの外骨格に匹敵しそうにゃん」

 

 流石に距離があるため、内容までは聞えなかったが、何やら呟きながら黒歌さんは慌てることなく中空で指を振るう。

 

 ゴゴゴゴゴ! 

 

 すると、巨大な樹木が大きな掌を形作り、セラちゃんを握りつぶす! 

 

「グゥ!?」

 

 流石にこれには驚いたのか、樹木の腕に掴まれたセラちゃんは苦悶の声を上げる。

 距離があるというのにミシミシと鎧の軋む音がここまで響いてくる。

 

「……直接触れてないのに、仙術の気を送り込んでいる。そんなことができるなんて」

 

 何やら驚いたように小猫ちゃんがつぶやく。

 確かに、黒歌さんは地面に触れることなく、樹木を操っている。

 仙術は気を送り込んで生命を操る術。直接触れもせずにどうやって気を送り込んでいるんだ? 

 

「アハハハハハハハ!」

 

 樹木の腕に囚われたセラちゃんはエネルギーを貯め、強引にそれを打ち破る。

 

「……今ので大人しくなってほしかったにゃん」

 

 セラちゃんはそのまま高速で突っ込み、黒歌さんに肉弾戦を仕掛ける。

 だけど、黒歌さんは鉤爪とすさまじいまでの体術でセラちゃんの攻撃全てに対応して見せている。その姿はイッセー君を彷彿とさせるほどだ。

 

「黒歌っちはイッセー程じゃないっすけど、十分達人級の力を持ってるっすからね。力はセラちゃんが上回っていても、“技量(レベル)”は黒歌っちのほうが圧倒的に上っすよ」

 

 ミッテルトさんのその言葉を証明するかのように、黒歌さんは再びセラちゃんを地面にたたきつけた! 

 ────だけど、セラちゃんにダメージらしきものは一切見られない。

 セラちゃんは無機質な瞳に黒歌さんの姿を映しながら、再び光線を放ちだす。黒歌さんはそれを障壁で防ごうとするが……。

 

 クンッ! 

 

 なんと光線は途中で軌道を曲げ、黒歌さんを四方から撃ち抜かんとしたのだ! 

 黒歌さんは少し驚いたように目を見開くも、全方位に障壁を展開し、光線の一つ一つを防いで見せた。

 

「お返しするにゃん♪」

 

 そういうと黒歌さんは障壁の角度を変え、幾重もの光線をすべてセラちゃんに反射する。

 

 ガガガガガガッ! 

 

 幾重もの光線が逆にセラちゃんを貫かんと暴威を振るう。だけど、シャルバを吹き飛ばした光線が直撃しているにもかかわらず、セラちゃんは立ち上がろうとする。

 見ると、触手光線はセラちゃんの表面を焼いているだけで貫くには至っていないようだ。

 

「やれやれ、手のかかる子だこと。想像以上に骨が折れるにゃん」

 

 黒歌さんは肩をすくめながらそう言う。

 セラちゃんもここにきて動きを止め、黒歌さんを見据えている。現状はどちらにも決め手がない状態だ。

 一体どうなるんだ────。

 

「────これ、どういう状況?」

 

「「「!?」」」

 

 突如、背後から聞こえてきた声に僕たちは思わず後ろを振り向いた! 

 

「────全く、待ちくたびれたっすよ。イッセー」

 

 そこには気を失っているアーシアちゃんを抱え、困惑するイッセー君の姿があった。

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 イッセーside

 

 

 

 

 

「────よし着い────っ!? 何だこのオーラ!?」

 

 俺はアーシアを抱えながら、“次元の狭間”から脱出をすると、膨大な力がぶつかり合っているのを感じた! 

 片方は黒歌だけど、もう片方は────なんだ!? すさまじいオーラだぞ!? というか、この感じ、覚えがある? 

 慌てて皆がいた方向に向かうと、そこには凄まじい激闘を行う黒歌と鎧を纏う謎の存在の姿があった。

 

「────これ、どういう状況?」

 

「────全く、待ちくたびれたっすよ。イッセー」

 

「「「イッセー(君)!!」」」

 

 俺の姿を確認するや否や、皆が俺のほうに飛びついてきた。

 

「イッセー! アーシアは……」

 

「大丈夫、生きてるよ」

 

「そうか……よかった……」

 

 ゼノヴィアは涙を流しながらアーシアを抱き寄せる。

 よほどアーシアのことを心配してたんだな。

 皆の様子を見るに、俺も随分心配かけさせてしまったみたいだ。

 

「ホントっすよ。皆かなり心配してたんすからね」

 

「まあ、貴方がそう簡単に死ぬ奴じゃないのはわかってたどね」

 

「ごめんごめん」

 

 

 取り敢えず俺は皆から今の状況を聞くことにした。

 俺とアーシアが飛ばされた後、セラが暴走してシャルバを倒した。それでも暴走を続けるセラを止めるため、黒歌が戦ってる状況らしい────って……

 

「え!? アレセラなの!?」

 

 マジで!? いっちゃ悪いがアレ相当な化け物だぞ! 

 間違いなく“天龍”級! 存在値もEP換算で600万を超えている! 

 ミッテルトとトーカですら明らかに手に余る相手だ! 

 黒歌みたいに究極能力(アルティメットスキル)と鍛え抜かれた技量を兼ね備えた存在でなければ相手にするのは難しいだろう。

 

「黒歌っちも決め手がない状況っすね。じっくり戦えば勝ち筋もあるんでしょうけど……」

 

 そうだな。黒歌の権能は基本的に守りに特化してる。

 仙術による攻撃も機械であるセラにはそこまで効果を期待することができないし、何より正気に戻す方法がわからない。

 

「……俺たちが生きていたってことを教えてやれば止まるかな?」

 

 元々キッカケは俺たちが死んだ(と思われていた)ことだ。

 ならば、それ勘違いだったと教えてやれば、止まるのではないかと俺は考えた。

 だが、俺の言葉にトーカは渋い顔をする。

 

「今のあの子にわかるのかしら? 言葉すら通じてないように見えるけど……」

 

 トーカの言葉を聞き、改めてセラを見る。

 

「アハハハハハハッ!!」

 

 狂ったように笑いながら黒歌に攻撃するセラを見て、トーカたちは難しそうだと感じたようだ。

 確かに、あれ、明らかに理性が吹き飛んでいるもんな……。

 まずは動きを止めなければ始まらない。

 そう考えた俺は即座に鎧を纏い、臨戦態勢となる。

 

「俺も参戦する! 皆はアーシアを頼む!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 “禁手”となった俺は早速背中のブースターに力をため、一気に放出する。

 ブースターで加速し、一気に接近した俺はセラを羽交い絞めにした。

 

「あ、イッセー! いいところに!」

 

「おい、セラ! 目を覚ませ!」

 

「がっ……」

 

 セラが力づくで脱出しようとするが、そううまくはいかない。

 力だけなら今のセラのほうが圧倒的に上だけど、力任せすぎて技術がまるで感じられない。

 それじゃあいくら力だけあっても抜け出すことは難しいだろう。

 ……まあ、長時間抑えられるかといわれると自信ないけど……。

 

「がぁぁぁっ!」

 

「うおっ!?」

 

 さらに力が上がりやがった! 

 今のEPは700万以上、カレラさんと比べても何ら遜色ないレベルだ! 

 正直想定以上だ! もし、これで技術があったらと思うとぞっとするな……。暴走状態故にタガが外れてる状態だけど、その点でいえば助かったかもしれない。

 力だけの存在ならば、どうとでもなる。

 

「おい! 聞こえるか!」

 

 俺は羽交い締めをしながらセラに改めて語りかける。

 だけどセラは呻くだけで一向に反応がない。

 力ずくでは振りほどけないと悟ったのか、セラは背中から伸びるケーブルで逆に俺を縛り付けようとする! 

 

「くっ! 危ねっ!?」

 

 俺は咄嗟に手を離し、ケーブルを何とか回避する。

 力では今のセラの方が圧倒的に上だ。

 もしも雁字搦めに捕まれば技術どうこうで抜け出すのは困難だろう。

 ……まあ、それは捕まればの話だけど。

 

「……グゥ!?」

 

「ん?」

 

 俺は改めてセラと向かい合う。

 すると、セラは一瞬頭を抱え、苦悶の声を上げた。

 ひょっとして、死んだ(と思っていた)俺を見て元に戻りかけてるのか? 

 ならば、できる限り正面から仕掛けたほうが良さそうだな! 

 

「イッセー! このまま押し切るにゃん」

 

「おう!」

 

 俺と黒歌はセラに向かって突撃を仕掛ける。

 

「ガァ!!」

 

 セラは負けじとケーブルと砲撃を織り交ぜた飽和攻撃を仕掛けてくる。

 俺は思念伝達を黒歌と繋ぎ、弾道の軌道を解析する。

 俺の解析で確定したルートを黒歌は的確に障壁で守っている。

 これは俺の“解析能力”と黒歌の“防御力”を最大限に生かす戦法で、ダグリュールさんとの戦いの際に編み出したものだ。

 流石に暴力の化身たるダグリュールさんには時間稼ぎくらいにしかならなかったけど、セラ相手には充分だ! 

 

 ドゴン!! 

 

「ガハッ!?」

 

 俺たち二人の一撃により、セラの装甲は大きく罅割れる。

 何せ、今の一撃は“洋服崩壊(ドレスブレイク)”の発展型────“装甲崩壊(アーマーブレイク)”の権能を帯びた一撃だからな! 

 生まれたばかりの“神話級(ゴッズ)”ならば充分破壊できる! 

 罅割れた部分が剥がれ落ち、セラの素顔が覗き始める。

 そこには目を黒く染め上げ、狂気に満ちた瞳が垣間見えた。

 

「グルルルッッ!!」

 

「……これでも駄目なのかよ……」

 

「鎧も少しずつ再生してるっぽいし、厄介だにゃん」

 

 どうすればセラを正気に戻すことが……そう考えているとき、何かがセラに近づき、抱きついた! 

 ────って、ちょ、なんで!? 

 

「止まってください! セラちゃん!」

 

「────あ、アーシア!?」

 

 そこには涙目になりながらセラを抱きかかえるアーシアの姿があった! 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 アーシアside

 

 

 

 

 

「うぅ……」

 

「────っ!? アーシア! 目が覚めたんだな!」

 

「ゼノヴィア……さん……?」

 

 目が覚めると私の目の前にゼノヴィアさんの姿がありました。

 ゼノヴィアさんはそのまま私に抱きつき、涙を流した。

 

「ぜ、ゼノヴィアさん。く、苦しいです……」

 

「アーシア! 私とお前は友達だ! ずっと、ずっと友達だ! だから、私を置いて行かないでくれ!」

 

 その言葉に私は少しだけ思い出しました。

 そうだ。私はイッセーさんと一緒に光に包まれてしまって……。

 

「はい。ずっとお友達です」

 

 私はゼノヴィアさんの頭を撫でて、気持ちを伝えました。

 すると、ゼノヴィアさんは安心したように笑顔を見せてくれました。

 

「よかったわ……アーシア……」

 

 見ると部長さん達も涙を流してるみたいです。

 こんなに心配をかけさせてしまい、少しだけ申し訳ない気持ちがあります。

 

「今はそれどころじゃないわよ! 結界貼るのもしんどいんだからね!」

 

 そう言いながら、トーカさんは叫びました。

 私は慌てて周りを見渡します。

 すると、そこには何かと戦うイッセーさんと黒歌さんの姿がありました。

 ────あれは……もしかして!? 

 

「セラちゃん……なんですか?」

 

「ハイっす。どうも、暴走してしまったみたいなんすよ。今、二人が抑えてるところっすけど……」

 

 そんな……私のせいで……。

 

「別にアーシアちゃんのせいじゃないっすよ。悪いのはあのシャルバとかいう阿呆なんすから」

 

「そうね。正直、あの場で何もせずに撤退してればよかったのに……そもそもイッセーや黒歌の力をまるで感じ取れないあたり、小物もいいところね」

 

 二人は私のせいじゃないと言ってくれました。

 ……でも、私が心配をかけさせてしまったから、セラちゃんはあんなことに……。

 

「········」

 

「ガァッ!」

 

 私はもう一度イッセーさんたちと戦うセラちゃんを見ました。

 戦うセラちゃんからはとても悲しい感じがします。

 …………それを見た私は覚悟を決めて、悪魔の翼を出しました。

 

「……なにをする気?」

 

 そんな私を不思議そうに見つめるトーカさん。

 私はトーカさんの疑問に答えながら、翼をはためかせました。

 

「……セラちゃんを止めてきます」

 

「なっ!?」

 

「ちょ、ちょっと、アーシア!? 止めなさい!」

 

 部長さんとゼノヴィアさんは私を止めようとします。

 ですが、あのセラちゃんを放ってはおけません! 

 

「……貴女一人じゃ無理ね。貴女、飛ぶことに慣れてないでしょ? その弱い翼じゃあ、今のあの娘を掻い潜るのは不可能よ」

 

「うぅ、で、でも……」

 

 確かに、私ではあの中に入ることはできないかもしれません。

 でも、今の苦しそうなセラちゃんを助けてあげたいんです。

 すると、トーカさんはため息を付きながら、龍のような翼を出しました。

 

「掴まりなさい。そこまで言うなら私が連れてってあげるわ」

 

「ちょ! トーカっち!?」

 

「このままでは、この娘一人で無茶しそうだし、さっきあの娘はイッセーを見て反応したわ。ならば、この娘も必要なんじゃないかしら?」

 

 トーカさんの言葉にミッテルトちゃんは唸るように考え出す。

 しばらくして……

 

「わかったっす! その代わり、アーシアちゃんのこと、絶対に守るんすよ!」

 

「わかってるわ。傷つけさせはしないわよ」

 

 私はトーカさんの腕に捕まり、一緒に空を飛びました。

 すると、ゼノヴィアさんが私達の側まで近づいてきました。

 

「アーシア……」

 

「ごめんなさい。ゼノヴィアさん。でも、私もセラちゃんを止めてあげたいんです」

 

 ゼノヴィアさんはとても心配そうにしていましたが、しばらくすると涙を流しながら言いました。

 

「……そうか。わかった。その代わり、絶対に帰ってきてくれ!」

 

「はい。約束です」

 

 私はゼノヴィアさんと指切りをしてセラちゃんの所へと向かいました。

 トーカさんはとても速く空を飛んで、あっという間にセラちゃんの元へとたどり着きました。

 

「覚悟は良い? いくわよ!」

 

「はい!」

 

 私はトーカさんのもとから離れ、セラちゃんへと抱きつきました。

 

 

 

 

 ****************************

 

 イッセーside

 

 

 

 

 

「────あ、アーシア!?」

 

 な、何でアーシアが!? 

 トーカと一緒ってことは、トーカが連れてきたのか!? 

 いくらなんでも無茶だ! 今のセラ相手に立ち向かうなんて無謀すぎる! 

 

「アーシア! 離れろ!」

 

「そうにゃん! 今のセラは危険だにゃん!」

 

 俺たちはアーシアを説得しようとする。

 だが、アーシアは決意を秘めた目で反論をする。

 

「危険なんてありません! セラちゃんはどんなに変わってもセラちゃんのままです!」

 

「グルルルッッ!」

 

 セラは背中のケーブルを使い、アーシアを引き剥がそうとする! 

 だが、そのケーブルがアーシアに届く前にクナイによって弾かれた! 

 

「ミッテルトとの約束なの。この娘を傷つけさせはしないわ」

 

 一撃の重さにトーカは苦しい顔をするが、それでもその猛攻からアーシアを辛うじて守り抜いている。

 

「セラちゃん。私は大丈夫です。だから、どうか元に戻って……」

 

「!?」

 

 セラはアーシアを見て動きを止める。

 すると、何やら苦しそうに頭を抱え始めた。

 もしかして、元に戻りかけているのか!? 

 

「……ここが執念場だにゃん」

 

「ああ! 俺達もアーシアを守るぞ!」

 

 俺達はトーカと共にアーシアの防衛に専念する。

 ケーブルや光線を防ぎ、アーシアの説得の邪魔をさせないようにするのだ。

 

「皆さんもセラちゃんのことを心配していますよ。お願いです。元に……元に戻ってください!」

 

 ────瞬間、アーシアの神器が光り輝く! 

 淡い……優しい光だ。その光にセラは忽ち包み込まれていく。

 これは……

 

『恐らく“禁手(バランスブレイカー)”だ。亜種かもしれんが間違いないだろう』

 

 これがアーシアの禁手か! 

 アーシアの放つ光に包み込まれたセラは徐々に動きを止めていく。

 

「ゔ、ゔぅ……お……姉ちゃん……?」

 

「────! セラちゃん!」

 

 すると、セラの目から狂気がどんどん消えていった! 

 それと同時に鎧は完全に砕け、地面にパラパラと落ちていった! 

 そのままセラは力なく、鎧とともに落ちようとする。

 

「おっと、危ない!」

 

「……黒歌お姉ちゃん?」

 

「元に戻ったようね。よかった……」

 

 黒歌に抱きかかえられ、セラは不思議そうに辺りを見回す。

 何があったのかはわかっていない様子だ。

 

「……イッセーお兄ちゃん。アーシアお姉ちゃん。ちゃんと生きてる?」

 

「当たり前だろ? あんな奴に殺されてたまるかよ。俺もアーシアも……」

 

「……そう。よかった……」

 

「アーシア! イッセー! セラも無事か!?」

 

 ここでゼノヴィア達も俺たちのもとに駆け寄ってきた。

 皆には相当心配かけさせてしまったな。

 

「いいのよ。皆が無事で、本当に良かったわ」

 

 そう言いながら、部長は俺を抱き寄せた! 

 おっぱいが顔に当たってるぅ!? 柔らかくて良い匂いがしてマジで最高です!! 

 

「無事か! お前ら!」

 

「あ、先生!」

 

「お兄様!?」

 

 ここでアザゼル先生がやってくる。サーゼクスさんも一緒のようだ。

 聞いた話によると、セラの暴走を見てはいたそうだが、状況がわからず、周りの被害も大きかったため、倒れていた悪魔達を保護し、守っていたそうだ。

 その中にはディオドラの眷属も含まれてるらしい。まあ、彼女達も被害者のようなものだし、あのまま放置は可哀想だよな。

 

「たく、マジで心配したんだぞ? 何だったんだあれ?」

 

「セラもよくわかってないみたいです。取り敢えず、後で報告まとめますよ」

 

 俺がそう話していると、空間がネジ曲がり、歪みが発生する。そして、歪みから見覚えのある奴が現れるのだった。

 

「どうやら終わったみたいだね」

 

「あっ、ヴァーリ」

 

 どうやら“次元の狭間”から戻ってきたようだ。

 “禍の団”であるヴァーリの登場に皆は警戒するが、ヴァーリはどこ吹く風だ。

 まあ、部長達ではヴァーリに太刀打ちできないから当然といえば当然か。

 ……あれ? そういえば? 

 

「なあヴァーリ。そういえばお前、何で“次元の狭間”にいたんだ?」

 

 何かを企んで……という線はないな。

 こいつは旧魔王派みたいな汚いマネはしないだろう。

 むしろ、真正面から堂々と挑んでくるタイプだ。

 だからこそ、こいつが何をしに“次元の狭間”なんて場所にいたのか全く分からんのだ。

 そんな俺の疑問に対し、ヴァーリは嬉しそうに答えた。

 

「俺がここに来たのはあるものを見に来たんだ。……そろそろか。空を見ていろ」

 

「?」

 

 俺は訝しげに思い、何もないフィールドの空を見上げる。

 すると。

 

 バチッ! バチッ! 

 

 空中に巨大な穴が開いていく。

 そして、そこから何かが姿を現した。

 

「あれは────」

 

 そこから出現したものを見て、俺はかなり驚いた。

 他の皆も同様だった。

 

「よく見ておけ、兵藤一誠。あれが俺が見たかったものだ」

 

 空中に現れたのは真紅の巨大なドラゴン。

 なんだあれ!? 

 メチャクチャデカいじゃねぇか! 

 カリュブディスと比べても大差ねえぞ! 

 だが、問題はそこじゃない! 真に注視する点はその圧倒的なエネルギーだ! 

 存在値にして二千万! “始原の七天使”と比べても遜色ないレベルの化け物だ! 

 ……ひょっとして、あれが以前ドライグの言っていた……。

 驚く俺を他所にヴァーリは続ける。

 

「“赤い龍“と呼ばれるドラゴンは二体いる。ひとつは君に宿るウェールズの古のドラゴン、ウェルシュ・ドラゴン。俺に宿るバニシング・ドラゴンも同じ伝承から出てきている。そして、もうひとつは“黙示録”に記されし、赤いドラゴンだ」

 

「じゃあ、やっぱりアレが……」

 

「なんだ? 知ってるのなら話が早い。“真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)”グレートレッド。“真龍“────“D(ドラゴン)×(オブ)D(ドラゴン)”と称される偉大なドラゴンだ。自ら次元の狭間に住み、永遠にそこを飛び続けている。今回、俺はあれを確認するためにここへ来た。シャルバ達の作戦は俺にとってはどうでもいい」

 

 ふえ〜、アレが……。

 なるほど。確かにこの世界最強のドラゴンと呼ばれるのも頷ける威圧感だ。

 もしも敵対したらと思うとゾッとするな。

 

「でもよ、どうしてそんなところを飛んでいるんだ?」

 

 自らの棲家である“次元の狭間”から出てきてこんなところを飛ぶ理由は何だ? 

 だが、それはヴァーリにもわからないものらしい。

 

「さあね。それは俺には分からない。いろいろ説はあるが……。あれがオーフィスの目的であり、俺が倒したい目標だ」

 

 ヴァーリの目標────。

 なかなか高い目標だな。でも、コイツなら数千年もすればあの領域に届きうるかもな。

 

「俺はいつか、グレートレッドを倒す。そして、“真なる白龍神皇”になりたいんだ。赤の最上位がいるのに白だけ一歩前止まりでは格好がつかないだろう?」

 

 なるほど、こいつがテロリスト集団に身を置いてるのもあのドラゴンを倒すためか。

 こいつらしいな。

 

(まあ、“赤”も“白”も最上位は別にいるんだけどな……)

 

 俺はそう考えながら、“灼熱竜”と“白氷竜”と称される二人のことを思い出していた。

 それはともかく、ヴァーリにもヴァーリの夢があるんだな。取り敢えず応援くらいはしてやるか。

 

「だけど、その前にまずは君に勝たないとな。赤龍帝、兵藤一誠。あの戦いを見て改めて思い知ったよ。君は強い。俺よりもな。だからこそ、俺は君に挑戦する。この挑戦、受けてくれるかい?」

 

 ……全く、戦闘狂っていうのは本当に厄介だよな。

 

「あー、いいぜ。父さんと母さんを巻き込まない約束を守ってくれてるうちは何度でも挑戦を受けてやるよ。いつでもかかってこい。真正面からぶつかってやる」

 

「そうか。礼を言うよ、兵藤一誠」

 

 短い返しだったけど、満足したような表情のヴァーリ。

 すると、一つの気配が現れる。 

 

「グレートレッド、久しい」

 

 振り返ると俺達のすぐ近くに黒髪黒ワンピースの少女が立っていた。

 ……この存在感。コイツが……。

 

「ひょっとして、オーフィス?」

 

「ああ。彼女がオーフィス。“無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)”さ。“禍の団”のトップでもある」

 

 やっぱりか! こんな美少女の見た目してるんだな! 

 滅茶苦茶可愛い! 小猫ちゃんと同じくマスコットみがある! 

 少女────オーフィスはグレートレッドに指鉄砲のかまえでバンッと撃ち出す格好をした。

 

「我は、いつか必ず静寂を手にいれる」

 

 バサッ

 

 今度は羽ばたきの音。それと同時に見覚えのあるドラゴンが降ってきた。

 タンニーンのおっさんだ。

 

「どうやら無事なようだな。兵藤一誠。────と、オーフィスの気配を追ってきたらとんでもないものが出てきたな」

 

 タンニーンのおっさんは空を飛ぶグレートレッドに視線を向ける。

 おっさんだけじゃない。

 サーゼクスさんもアザゼル先生も揃って視線を向けている。

 

「懐かしい、グレートレッドか」

 

「タンニーンも戦ったことあるのか?」

 

 先生の問いにおっさんは首を横に振る。

 

「いや、俺なぞ歯牙にもかけてくれなかったさ。風のうわさだとティアマットが一度だけ殺り合ったらしいが……」

 

 ……ティアマットさん、挑んだんだ。

 そういえば、あの人武者修行でかなり無茶やったって言ってたっけ? 

 まあ、あの師匠に比べれば大幅にマシな相手と判断したのだろう。

 正直な話、俺はあのドラゴンに勝てる気は全くしないけどね。

 

「久し振りだな、アザゼル」

 

 ヴァーリが先生に話しかける。

 

「おう。元気そうじゃねぇか、ヴァーリ。旧アスモデウスはサーゼクスが、シャルバ・ベルゼフブは……イッセー達が倒したみたいだな」

 

 先生は視線をヴァーリからオーフィスに変え、彼女に言う。

 

「オーフィス。各地で暴れてた旧魔王派は退却及び降伏した。末裔共を失い、旧魔王派は壊滅だ」

 

「そう。それもまた一つの結末」

 

 オーフィスは全く驚く様子もなかった。

 痛くも痒くもないって感じだな。

 まあ、オーフィス本人がここまで強いんだし、あの程度の奴らが消えたところで痛くも痒くもないんだろう。

 それを聞いて、先生は肩をすくめた。

 

 

「おまえらの中でヴァーリのチーム以外に大きな勢力は人間の英雄や勇者の末裔、神器所有者で集まった“英雄派“だけか」

 

 英雄派? 

 まだそんな勢力があるのかよ……。

 あの霧の“神滅具”の使い手もそこに所属してるのかな? 

 

「さーて、オーフィス。やるか?」

 

 先生が光の槍の矛先をオーフィスに向ける。

 えっ、戦闘開始ですか!? でしたら流石に止めますよ? 

 正直な話、先生では太刀打ちできないだろうし……。

 だが、オーフィスは興味もないのか先生を無視して体の向きを俺の方に変える。

 

「赤龍帝。そしてそこの猫又。我の仲間になってほしい」

 

「え?」

 

「にゃん?」

 

『なっ!?』

 

 この場にいる全員が驚愕の声をあげる。

 そりゃそうだ。俺も正直意味わからん。黒歌もいきなりのことで呆けている。

 だが、オーフィスはそんな俺達の混乱など知ったことかといわんばかりに言葉を続けた。

 

「我の仲間になってほしい。我と共にグレートレッド、倒す」

 

 いやいや、流石にそれは無理! 

 俺にテロリスト集団に入れってか! 嫌だよ! 

 

「悪いけど、断るよ」

 

「私も……」

 

「なぜ? ”蛇“を使えば今以上に力、手に入る」

 

「いや、そんなの興味ねえよ。俺はテロリストになるつもりはない。そんなのは絶対にゴメンだ」

 

「私には生涯仕えると決めた主がいるんだにゃん。その人以外の下に付くつもりはないにゃん」

 

 力につられてテロに入るつもりなんか毛頭ない! そもそも力というのは自分の手で掴むものだしな。

 俺がハッキリと断ると「そう、残念」と言って、俺に背中を向けてしまう。

 

「我は帰る」

 

 あら、戦闘意欲はゼロですか。

 まあ、俺としてはその方が助かるからいいけど……。

 

 ヒュッ! 

 

 一瞬、空気が振動したと思ったら、オーフィスは消え去っていた。

 先生達も嘆息してる。

 

「俺たちも退散するとしよう」

 

 ヴァーリもそう言いと、背広の男の作り出した次元の裂け目に入ろうとする。

 流石は“神話級(ゴッズ)”の聖剣だ。空間属性も持ってるようだな。

 

「またいずれ決着をつけよう」

 

「ああ。またな」

 

 それだけ聞くと、ヴァーリ達はこの場を去ろうとする。

 ここで背広の男が振り向き、木場とゼノヴィアに言う。

 

「私は聖王剣の所持者にして、アーサー・ペンドラゴンの末裔です。アーサーと呼んでください。いつか、聖剣を巡る戦いをしましょう。では」

 

 こうして今度こそヴァーリ達は次元の裂け目へと去っていくのだった。

 ……アーサーか。只者じゃない雰囲気だな。

 多分、あのシャルバとかいう奴よりかは遥かに強い。

 それはエネルギーではなく、技量の問題だろう。

 ミルたんもそうだけど、この世界の人間も案外馬鹿にならないものだな。

 

「さてと……」

 

 俺はアーシアの手を取り、笑顔で言う。

 

「帰ろうぜアーシア。俺たちの家に」

 

「はい。お父さんとお母さんが待つ家に帰ります」

 

 俺の言葉にアーシアは笑顔で頷くのだった。

 

 

 

 

 

 



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アーシアと二人三脚です

 イッセーside

 

 

 

 

 ディオドラの騒乱から数日の時が経った。

 “禍の団”の旧魔王派の悪魔たちは指導者を失い、瓦解したらしい。

 残党の悪魔たちも降伏したり、身を潜めたりしたそうだ。

 ディオドラの一件でアスタロト家も信用を失い、魔王であるアジュカさんにも影響があったらしい。

 本当、迷惑な話だよな……。あいつのせいで、新人同士のゲームも仕切り直しになってしまったし……。

 部長とサイラオーグさんやシーグヴァイラさんの戦いとかも見てみたかったな……。

 まあ、サイラオーグさんの方は熱望する声もあり、実現する可能性が僅かながらあるらしいし、それに期待するか。

 

 ばーん! ばーん! 

 

 おっと、そろそろか。

 空砲が空に鳴り響き、プログラムを告げる放送案内がグラウンドに木霊する。

 

『次は二人三脚です。参加する皆さんはスタート位置にお並びください』

 

 そう、今日は体育祭の日だ。

 そして、今から俺とアーシアが出場する二人三脚が始まろうとしていた。

 俺はしゃがみ、アーシアの足首のひもを繋ぎ、きつく縛る。

 

「これで準備は万端だ。練習の成果、見せてやろうぜ!」

 

「はい!」

 

 そして、順番は俺達の番となった。

 お互いの腰を手でおさえ、走る構えとなる。

 

 パンッ! 

 

 空砲が鳴り響き、俺達はスタートを切る! 

 

「行くぞ! アーシア!」

 

「はい!」

 

 俺たちはスタート開始から抜群のコンビネーションで快走していく。

 練習の成果がしっかりと出てるな! 

 俺はちらりと息を合わせるアーシアを見つめる。

 思えばアーシアも心が強くなったな。あの一件で“禁手”に目覚めるほどに強い心を手に入れたのだろう。

 アーシアの亜種の“禁手”は“女神の微笑(トワイライト・ヴァルキュリア)”と名付けられ、肉体的な傷だけでなく、精神的な傷をも癒す力を持つかなりすごい能力となった。

 “禁手”を習得するくらい心が強くなったアーシアだ。

 数日間で練習も今まで以上に頑張ってきたし、今の俺達なら負ける気が全然しない! 

 

「ファイトっすよ! 二人共!」

 

「イッセー! アーシア! 一番取りなさい!」

 

「いけますわよ!」

 

「イッセー君! アーシアさん! 一番狙えるよ!」

 

「イッセー! アーシア! 行けぇぇぇ!」

 

「二人共頑張って!」

 

「イッセー先輩! アーシア先輩!」

 

「頑張ってください!」

 

 ミッテルトに部長や朱乃さん、他の部員の皆が応援をくれる! ギャスパーも小猫ちゃんも大声出してくれて嬉しいぜ! 

 それだけじゃない。一般の観客席の方からも馴染み深い声が聞こえてくる。

 

「お兄ちゃん! お姉ちゃん! 頑張るの────!!」

 

「イッセー! カッコいいところ撮影してるからな!」

 

「イッセーもアーシアちゃんも頑張ってーっ! ファイトォ!」

 

「頑張るにゃん!」

 

 父さん、母さんにセラも黒歌も観客席から応援してくれている! 

 セラはサーゼクスさん達が上層部を何とか誤魔化してくれたおかげで今もなお、俺達と一緒にいることを許されてるらしい。暴走したセラを止められそうなのが俺達くらいしかいないということもあるらしいけど、サーゼクスさんには頭が上がらないな。

 俺達の晴れ舞台、しっかり見ていてくれよ! 

 俺は一生懸命走っているアーシアに言う。

 

「アーシア、ずっと俺の側にいろよ。もう離れちゃだめだからな」

 

「────っ!」

 

 アーシアは泣きそうになるけど、我慢して走るのに集中した! 

 そして────

 

 バンッ! 

 

 空砲の音が鳴り響く! 

 それと同時に俺達はゴールテープを切った! 

 

「よっしゃああああああ!」

 

 一番の旗をもらい、俺はガッツポーズを取った! 

 どうだ! 俺とアーシアの走りは最速だぜ! 

 

「やった! やったぞ! アーシア!」

 

「はい! やりました、イッセーさん!」

 

 俺とアーシアら手を取り合って喜んだ! 

 練習の成果を遺憾なく発揮できた最高の走りだったぜ! 

 やっぱり俺たちの息は最高だな! 

 

「お疲れ様っす。二人共」

 

「お、ありがとう。ミッテルト」

 

 俺達はミッテルトからスポーツドリンクを受け取り、それを飲み干した。

 うん! 旨い! やっぱり走った後はこれだよな! 

 

「アーシア。疲れたでしょう? イッセーと一緒に体育館裏で休憩してなさい」

 

「は、はい?」

 

 部長の言葉にアーシアは困惑する。

 正直俺も困惑してる。別に、休憩くらいどこでも取れるし、何でわざわざ体育館裏? 

 ────と、そこで部長がアーシアに何やら耳打ちをする。

 

「────っ」

 

 驚いたような表情でアーシアはミッテルトを見る。

 それに対し、ミッテルトは少しため息をつけながら、アーシアに告げる。

 

「……まあ、普段なら許さないっすけど、今回は特別っす。アーシアちゃんも頑張ったわけですし、これくらいのご褒美ならあげるっすよ」

 

 ? 

 ご褒美? なんのこと? 体育館裏になにか用意してるのか? 

 俺が疑問に思っているなか、俺の隣ではアーシアは頬を赤く染めていた。

 そんなこんなで、俺はアーシアと共に体育館裏へと移動した。

 そこにはオカ研の皆が用意したであろう飲み物が隠されていた。ご褒美ってのはコレのことかな? 

 俺達はありがたく、それらを口にする。

 

「ふぅ。次のプログラムまで少し時間あるし、ちょっと休憩したら皆の応援にでも行くか」

 

「は、はい! そ、そうですね……」

 

 俺の言葉に少し挙動不審気味にアーシアは頷く。

 う〜む、どうしたんだアーシア? 

 

「あ、あの、イッセーさん」

 

「ん? どうした?」

 

 アーシアに呼ばれ、振り返ると────

 アーシアが踵を上げる。

 

「·········」

 

 俺の唇に────アーシアの唇を重なった。

 

 

 ・・・・・・・・!!?? 

 俺は突然のキスで何が何やらわからなくなってしまった! 

 や、やべ! 今の滅茶苦茶気持ちよかった! アーシアの唇、滅茶苦茶柔らかかった! 

 と、突然のことで頭がパンクしそうだ! 

 

「あ、アーシア、い、いいい今のって」

 

 余りの出来事にうまく言葉が出てこない! 

 そんな混乱する俺を見て、アーシアはクスリと笑い────

 

「イッセーさん、大好きです。これからもずっとお側にいますから」

 

 最高に眩しい笑顔で言われてしまった。

 その余りの可愛らしさに感無量になってしまい、俺は仰向けに倒れ込む。

 俺────。

 俺、今最高に幸せだぁぁぁぁぁぁっ!!! 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 ??? side

 

 

 

 

 

 ここは次元の狭間に存在する空間。

 ディオドラやシャルバが企てを起こし、イッセー達がセラと戦った浮島である。

 その爆心地に一人の男が立っていた。

 

「……まさか、あのガキ……“機械生命体(エヴィーズ)”だったとはな……しかも、間違いなく最上位の存在……」

 

 カグチは戦いの終わった跡地を見て呟く。

 その言葉には歓喜と困惑の二つが入り混じっていた。

 

「何故“機械生命体(エヴィーズ)”があんなところにいる? 何が起きてるというのだ?」

 

 そう言いながら近づくのは高弟第7位のドォルグだ。

 彼もまた、突如として出現した()()()の“機械生命体”に困惑しているのだ。

 

「……考えられるとすれば、数千年前の生き残りだな……」

 

「……“魔神”と称された機械生命体の軍勢が、とある世界で滅ぼされた……という話か?」

 

「ああ。まあ、仕方ないだろ? あの魔神は他の兄弟と違って“善神”との戦いにも関与せず、ひたすらに弱い星を砕くだけ……。今まで蹂躙ばかりで本物の“戦い”をまるで経験してこなかった……それじゃあ如何にエネルギーで同等といえど、()()()には勝てねえよ」

 

 カグチが言っている戦いは彼自身目撃したわけではない。

 だが、数多の戦場を駆け抜けた彼はその跡地に赴けば、戦いがどのような様相だったのかは見て取れるのだ。

 戦いがあったという星は鼓動を停止し、多くの機械の死骸で埋め尽くされていた。

 

「一方的な蹂躙で終わったんだろうな。今までが今までだから、皮肉なものだぜ」

 

 カグチはケラケラと笑いながら答える。

 それをドォルグは訝しげに見つめていた。

 

「魔神の軍勢の生き残りとして、我らの脅威になる可能性は?」

 

「まあ、あるだろうね。だけど、それがどうした?」

 

 カグチのあんまりないいようにドォルグは口を紡ぐしかない。

 カグチは神祖への忠誠心こそ本物だが、その本質は闘争本能の塊。

 特に命令がなければ“原初”にも平気で戦いを挑む戦闘狂だ。

 しかし、それ故に戦闘能力は高弟の中でも随一であり、同じく神祖の護衛であり、失敗作と評された双子の兄とは違い、次元移動の際に神祖に着いてくることを許された存在でもあるのだ。

 

「敵が増えた。それは厄介だろう。だが、一体くらいなら正直誤差の範囲内だ。唯でさえ、俺達は難しい戦いを仕掛けようとしてるんだからな……」

 

 神祖は強い探究心の塊だ。

 ヴェルダナーヴァに認められる完璧な種族の創造……そのためには邪魔者となる存在を排除しなければならない。

 かの“八星”はそれを認めないだろう。勿論、彼らと共に付き従う“竜種”達もだ。

 神祖やカグチは狂人ではあるが、彼我の差が分からないわけではない。

 天使の軍勢を退け、“蟲魔王”や“滅界竜”すらも討ち滅ぼした相手に真正面から向かっても敗北するだけということはわかっている。

 だからこそ、彼らは戦力増強に躍起になっているのだ。

 

「まあ、旧魔王の末裔とやらは揃いも揃って期待外れだったけどな。名前だけで大した覚悟も強さもない。それじゃあ負けて当然だ」

 

 その点、現魔王達は極上の存在と言えるだろう。

 彼らは才能にかまけてるわけではない。確固たる自分と強さを持っている。

 特に、“サーゼクス・ルシファー”に“アジュカ・ベルゼブブ”……この世界に四人しか存在しない、正真正銘“真なる魔王”に至った者達……。

 

「サーゼクス・ルシファーはどうだった?」

 

「最高だ! 魔力の量も精密操作も並の奴に比べ、桁違い! 旧魔王などと比べるのも烏滸がましいくらいだったぜ! ただ、仲間に引き込むことは難しそうとも感じたけどな……」

 

「そうか……であるなら、やはり消すのが一番か……」

 

「難しいと思うけどな。そっちは誰か協力者を得られたか?」

 

「……北欧の神の一柱……それと、真なる魔王の一柱が我らに協力してくれるらしい」

 

「……へえ?」

 

 ドォルグの言葉にカグチは面白そうに笑みを深める。

 “北欧の神”に“真なる魔王”。どちらも仮初めではない、正真正銘“超級覚醒者(ミリオンクラス)”に至った者だ。

 であるならば多少の戦力にはなるだろう。

 

「異世界に送り込んだ“復讐者”の連中も覚醒を果たしたらしい。これで幾らかマシにはなるだろう」

 

「ほう? アイツらがか? 正直な話、自力で覚醒できるかは半々だと思ってたけどね?」

 

 “復讐者“はメロウが拾ってきた幾人かの人材であり、生まれながらに“魔王種”を獲得していた存在でもある。

 だが、カグチは正直期待などしてはいなかった。”魔王種”を持つといっても、彼等はそれにかまけ己を鍛えることの一切を放棄した連中でもある。

()()()()()()()においても敗れて当然の存在だと考えていたからだ。

 そんな彼等はメロウの指示に従い、異世界への侵略を担当していたのだが……。

 

「……当時、戦いもせずに立場を追われ、今なお慢心が抜けない“禍の団”の旧魔王と違い、直に戦い、座を奪われたアイツラの復讐心は本物だからな。直系なだけあり、力も元々悪くはない。それに、自力覚醒を果たした以上、神祖様に与えられた“種”も発芽する。それなりの戦力にはなるだろう」

 

「なるほど……それは面白そうだ」

 

 カグチはそう呟きながら、笑みを深める。

 

(サーゼクス・ルシファーは強かった。それにシヴァや帝釈天を筆頭とした各神話の主神達もそれなりの力がある……この世界の強者も案外やるもんだな……だからこそ、戦うのが楽しみだ……)

 

 カグチは笑う。

 世界に挑む日を楽しみにして……。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 ??? side

 

 

 

 

 とある国の執務室。

 ここでは2つの影が時空を超えて送られる映像を見ながら会話をしていた。

 

「ふむ……中々凄まじい娘だったな」

 

「まあな。何せ、潜在的なエネルギーは竜種にも届きそうなんだからな」

 

「ふむ。となると、イッセー達だけに任せるのは難しいのではないか? 今回もピンチになっていたではないか?」

 

「……いや、あの娘はイッセー達に懐いてるみたいだし、暫くは任せたほうがいいと思う。問題は……」

 

「カグチとかいう若造だな?」

 

「ああ。ミッテルトの視線越しだから何とも言えないけど、凄まじい隠蔽能力だ。多分だけど、強力な()()()()の隠蔽能力だと思う」

 

「ふむ、厄介だな……」

 

 二人が厄介と感じるのはカグチの権能だ。

 二人は────いや、()()は大方どのような権能なのか目星をつけていた。

 ゆえに、厄介さを再認識していたのだ。

 すると、扉から誰かが執務室に入ってきた。

 美しい碧の瞳に金髪が特徴的な軍服の美少女だ。

 

「カグチは昔から戦闘と同じくらいに諜報が得意だったからね。進化したことでさらに強化されてるのだろう。だけど、イッセーとの戦いで使っていないし、無敵というわけではなさそうだね」

 

「よう、来てくれたか。仕事も忙しいのに、悪いね」

 

「なに、他ならぬ我が君の頼みだ。私にとっては全てに優先されるし、何より因縁のある相手だからね。問題はないさ」

 

「ありがとな……“カレラ”」

 

 金髪の美少女────カレラは眩しい笑顔を見せながら、映像を見る。

 

「君とは何度も殺し合った仲だからね。そろそろ決着をつけよう! カグチ!」

 

 カレラは笑う。

 カグチとは名もなき時代に幾度となく殺し合ったものの、終ぞ決着が着くことはなかった相手だ。

 久しい仇敵と決着をつける機会が巡ってきた。カレラはその時を楽しみにするのだった。

 




女神の微笑(トワイライト・ヴァルキュリア)
聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)”の禁手。外傷などの物理的な傷だけでなく、呪詛や病、精神に刻まれた傷すらも癒やす力を持つ。ただし、欠損など失った肉体は変わらず治せない。

体育館裏のホーリー編はこれにて完結です。
この後、一週間挟み、番外編を入れて第七章に入りたいと思います。
相変わらずの駄文ですが、お楽しみいただければ幸いです。


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古い記憶の夢です

 ??? side

 

 

 

 

 時は遡り、数万年前のとある世界。

 この惑星は地球と比べても遜色のない大きさを誇る惑星だった。

 魔素が少ないため、生命も少なかったが、それでも一部の存在が文化を営み、形成していた。

 だが、その平穏は崩れ、現在この星は二人の超越者の戦いの場となっていた。

 

「はあ、はあ……」

 

「この我ヲ相手にヨくゾココマで持ったモノダ……」

 

 彼女の千切れた機体の一部を投げ捨てながら、目の前の存在は彼女に告げる。

 

「ふざけないでよね……この私を追い詰めたのは褒めて挙げる! 安心して死んじゃえ!」

 

 そう言いながら、彼女は必殺の波動砲を放出する。その破壊力は凄まじく、恐らく星をも砕く威力があるだろう。

 現に、この波動砲の範囲に巻き込まれた場所は跡形もなく消し去ってしまっている。

 力の奔流に飲まれる敵を見ながら彼女は不適な笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 **************************************

 

 

 

 

 彼女は最強だった。

 数多の次元世界を滅ぼし、命を蹂躙し、それを弄ぶことを愉悦としていた邪悪なる魔神だった。

 自分に勝るものなど存在しない。彼女は本気でそう信じていた。

 別の世界が見つかった時、彼女は侵攻を開始することとなった。

 兄の命令ということもあるし、自分やその配下たちの新たなる遊び場としての役割も期待できる。

 その世界には大した生命体はおらず、最も強い神性を持つものでも自分はおろか、眷属神の足元にすら及んでいない。

 この世界の侵攻はすぐ終わる。この世界もまた、魔神たる彼女の遊び場となる……筈だった。

 

『ダメだな……。コノセカイハ我らが住むにはモロスギる……。ダが、中々面白そウナ存在もいルデハないか……』

 

 突如として、罅割れた空間より現れた何者かが、自分を吟味するような視線をぶつけてきた。

 自分達とは別の“侵略種族(アグレッサー)”が偶然にも彼女が侵攻していた世界に来訪してきたのだ。

 その男は数多の世界の生命を見てきた彼女にとっても異質だった。

 虹色に輝く外骨格。刃の形状を持つ長髪。危険な力を醸し出す三対の腕に二対の羽根。

 まるで、戦闘をするためだけに生まれたかのような存在だった。

 だが、彼女は気にしない。

 兄以外に自分を害するものなど存在しないと高を括っていた彼女は自らの遊戯(しんりゃく)を邪魔した愚か者を排除しようとしたのだ。

 目の前の存在がどういうものなのかを考えもせずに……。

 

 そして現在……。

 

「あははは! どう? この“次元波動砲”は魂すらも焼却するの! 私に歯向かったこと、後悔して死んじゃえ!」

 

 彼女は笑う。自分に歯向かった愚か者が死んだと信じて……。だが、それは儚い夢だった。

 彼女は反応がまるで消失しないことに気付き、徐々に笑みを止めていく。

 そして、力の奔流は黒いなにかの手により、跡形もなくなったのだった。

 

「この程度デ死ヌと思われルノハ心外だ……」

 

「嘘……」

 

 そこにいたのは無傷の敵の姿だった。

 彼女は自分の攻撃が消える瞬間、奔流の中で何が起きたのかを視認してしまった。

 

「……食べたの? 私の攻撃を?」

 

「イカにも……あの程度ナラ喰うのハ容易イことダ」

 

 敵の表情なき顔に彼女は恐怖を感じた。

 その複眼はひたすらに無機質で、自分のことを驚異とすら感じてないのだと気付いたのだ。

 

「確カニ、貴様は強イ……。我やフェルドウェイと比ベテも、エネルギーの総量ダケで見るのナラ、ソコまで差はナイだろウ」

 

 そう言いながら、敵は掌から黒い微粒子が放出される。

 高性能のセンサーを持つ彼女は、それが敵の細胞そのものであると理解した。

 

「ダが、圧倒的に同格ヤ格上トノ戦闘経験が足りてナイ。ソレガ貴様の敗因ダ」

 

 その言葉は真理だった。

 実際、数値だけで見るのであれば二人に差などない。

 どちらも竜種に匹敵する膨大なエネルギーを持ち、その総量はほぼ互角。ならば、勝敗を決するのは技量(レベル)の差である。

 今まで苦戦などしたこともなく、己が最強と根拠なく信じていた彼女と、実力伯仲の仇敵と戦い、父である創造神を超えるべく備えてきた男。

 両者の技量には、覆せぬほどの隔たりがあったのだ。

 

「うるさいうるさい! 認めるか! たかだかナマモノごときがあ!!」

 

 そう言いながら彼女は再び波動砲を繰り出す。

 防御など不可能なほどの力を誇り、地球という惑星における最強の存在……オーフィス、グレートレッドと呼ばれる存在であれば一瞬で消滅するだろう。

 だが、目の前の敵には通じない……。

 

「喰ライ尽くせ! “暗黒増殖喰(デヴァステイターウイルス)”!」

 

 暗黒の細胞は彼女の光線を飲み込み、一気に彼女に纏わり付く。

 纏わり付く細胞を前に、彼女は焦るが、慌てるほどのものではないと考えた。死を超越している彼女にとって、本来ならばこんなものは驚異ではない……ハズだった。

 

(なに、この嫌な予感!? まるで……)

 

 これに飲まれれば二度と戻ってこれないような……。

 まるで暗闇の深淵に飲まれるかのような……。

 そんな彼女の様子に気づいたのか、敵は至極淡々と告げる。

 

「気付イタか……。我の暗黒細胞は時空ヲも超エ、貴様の魂ヲ貪り喰ラウ。例え、並列存在のヨウナ権能を有しテヨウガ無駄だ。次元ヲ超え、繋ガリを辿リ、全てノ貴様ヲ喰イ散らカスであろう」

 

「!!??」

 

 それは死刑宣告のようなもの。

 いくら力を放出しようが全て喰われるだけであり、意味がないように思えた。

 

「いや……いやああ!? お願い! やめて!?」

 

「エネルギーダケで見ルと貴様は極上ダ。貴様ヲ喰えバ、我はまた一歩、創造神に近ヅくダロう。安心しテ眠るガヨイ」

 

 彼女は知るよしもないが、この特性は彼が仇敵である大天使を仕留めるために開発した権能だ。

 結果として、彼の本体までは届かなかったが、それでも致命的ダメージを与えるに足るものだった。

 目の前の彼女には抗うことなどできない。彼はそう確信していた。

 ところがそれは打ち砕かれることとなる。

 

「む?」

 

「お嬢様! ご無事ですか!?」

 

「!? ラガムゼヴァ……」

 

 彼女を助けたのは魔神たる彼女を支える、五柱存在する彼女の眷属神の一柱であるラガムゼヴァだ。

 彼女の眷属神の中でも最強の力を誇る存在である。

 心強い援軍に彼女は頬を歪ませるが、次の瞬間驚愕する。

 

「ラガムゼヴァ!? その傷は!?」

 

 それは腹に風穴を空け、風前の灯となっていたラガムゼヴァの姿だった。

 傷口から察するに、暗黒細胞による攻撃ではない。

 傷も複数あり、凄まじい激闘を繰り広げたことがわかる。

 

「申し訳ございません。我ら五柱の力を持ってしても、将を二人撃ち取るのがやっとでございました……」

 

 彼女は腹心の言葉に目を開かせる。

 彼女の誇る五柱の眷属神は兄の眷属にも負けないほどの力を持つ勢力なのだ。

 現に、存在値換算で最低でも600万。目の前のラガムゼヴァは1500万を記録するほどの上位存在なのだ。

 それが敗北したという事実に彼女は信じられない気持ちで一杯だった。

 

「逃げらレルと思ってルノカ貴様」

 

 そう言いながらやってきたのは目の前の敵と似た容姿をする戦士だ。

 感じられる力はラガムゼヴァに勝るとも劣らないだろう。

 その背に続くのは数体の蟲たち。感じ取れる力は自分の眷属より低い者が大半だが、彼女の超性能のセンサーは一匹の蟲に激しく反応した。

 地球で言う、薄羽蜉蝣(ウスバカゲロウ)を擬人化したような女。一見ほかの将と変わらない存在のように見えるが、彼女のセンサーはその女の本当の戦力を正確に見抜いてしまったのだ。

 ラガムゼヴァよりも強く、真の力を解放されれば、おそらく自分でもてこずるレベルだろうとあたりを付けていた。

 

「父上様! コノもノ共は我ガ」

 

「イヤ、ソコの死に損ナイはとモカく、そノ女は貴様には荷が重イダロう。我に任せよ。ゼス」

 

「承知!」

 

 その男の息子……ゼスを下がらせ、男は再び暗黒細胞を放とうとする。

 

「ひっ!?」

 

 彼女はその黒い細胞を見ただけで恐怖する。

 ……いや。正確に言うのならば、男の目に恐怖したのだ。

 ひたすらに無機質なのだ。

 敵たる自分を見る目と、実の息子を見る目にまるで違いがない。

 この男にとってはどちらもとるに足らず、どうでもいい存在なのだ。

 その事に気付いた彼女は、自分を見据えるその複眼に恐怖をした。

 そんな彼女を見たラガムゼヴァは相手を見据え、決断する。

 

「お嬢様、お逃げください。私が時間を稼ぎます」

 

「!? な、なに言ってるのよラガムゼヴァ!」

 

 彼女は恐怖してる。ゆえに、一人が心細いと感じた。

 ラガムゼヴァが助けにきたとき、安堵した彼女は再び一人になることに恐怖したのだ。

 

「私はあくまで眷属。お嬢様の盾となることが最高の誉れ! どうか、私めにお嬢様を守らせてください」

 

 今までラガムゼヴァは率先して暴れだす彼女を守るということをしてこなかった。

 眷属として、初めてラガムゼヴァは本懐を遂げることができると思ったのだ。

 

「行ってください! お嬢様!」

 

「~~~~~っ!!」

 

 彼女は逃げる。

 生まれて初めて感じる感情……恐怖を圧し殺して。

 

(ひょっとして、私が今まで殺してきた者たちも、こんな気持ちだったのかな……?)

 

 この時、初めて彼女は気付いた。自分が今まで好き勝手蹂躙してきたものたちも、今の自分と同じ気持ちだったということを……。 

 

(これは罰なの? 今まで散々、色々な星を滅ぼしてきたから……)

 

 物の価値観や善悪判断はその“経験”によって成り立つ。

 彼女は善悪を判断するための経験というものを今までしたことが一度もなかった。彼女が星を滅ぼすことは、言ってしまえば当たり前のこと。それは兄達も変わらない意見であり、だからこそ彼女は今までその行為に疑問すら抱かなかった。

 だが、今回、自らが蹂躙されは側に回ったことで、彼女は初めて善悪の基準を考えたのだ。

 

(……ごめんなさい。本当にごめんなさい)

 

 彼女は今、心底今までの行いを後悔した。

 こんな気持ちを、他者に与えていたのかと自覚したのだ。

 自分の愚かさを自覚した彼女は、生への執着が次第に薄れ、罪悪感が膨れてきた。

 ひょっとしたら、今ここで死ぬことこそが一番いいのかもしれないとまで考えるようになった。

 今まで考えたこともなかった気持ちに困惑しながらも、彼女は自分の盾となってくれた者の気持ちを組み、速度を上げる。

 

「逃ガさナイわよ! “千裂次元斬(ミダレギリ)終焉の舞(オワリノマイ)”」

 

 そんな彼女に攻撃を仕掛けてきたのは蟷螂のような姿の蟲将だ。

 エネルギーでいえばまるで大したことはないが、その斬撃は自分の強靭な装甲にすら傷をつけるほどの破壊力があった。

 それはエネルギーに頼らない、鍛えぬかれた技量(レベル)によるもの。

 無論、いかに装甲を斬り裂かれようが、20倍以上の差がある彼女にとっては支障はない。だが、戦闘をするとなると仕留めるのに数分はかかるだろう。

 

(ラガムゼヴァの反応も途絶えた……。あいつの覚悟を無駄にしないためにも……)

 

 数分あれば恐らくあの男は自分に追い付くだろう。

 追い付かれれば今度こそ殺される。

 彼女は目の前の敵を無視して突破することにした……だが、それは容易いことではなかった。

 

「ダメよ……。貴女は御方様ノ大事な養分ナノですかラ」

 

 現れたのは空間を超えて転移した薄羽蜉蝣の女だ。

 確実に自分の足止めをするためか、真の姿を披露してる。

 配下最強、ラガムゼヴァの倍以上のエネルギーを秘めているだろう。

 自分の見立てが正しかったことを悟り、彼女は歯軋りする。

 これで逃げきることがますます困難になったからだ。こうなったら覚悟を決めるしかない。

 

「サア、私と少シ遊びマシょう」

 

「いいわ! 私が貴女を始末して上げる!」

 

 選択するのは次元をも滅ぼす波動砲。あの男には効果がなかったが、目の前の敵には効果のあるだろう。

 あれほどの権能を他のものが有してるとは考えづらいからだ。

 だが、目の前の薄羽蜉蝣の権能は、男に負けず劣らずとんでもない権能だった。

 

「残念。私に放出系の技は無意味。謹んでお返しシマしょう」

 

「なっ!?」

 

 なんと、目の前の敵は空間を弄くり、自分の必殺の一撃を投げ返したのだ。

 薄羽蜉蝣の女性は彼女の波動砲の法則を一目で看破し、その流れをねじ曲げた。

 結果、星をも砕く暴威により、彼女の機体は塵すら消滅した。その結果を見て、薄羽蜉蝣は笑みを不機嫌そうな表情に変えた。

 

「別の身体に跳びマシタか……。まあ、私と御方様の結界は次元を隔ててる。この惑星かラハ逃げられなイデしょうけドね……」

 

 

 

 

 

 ***********************************

 

 

 

 

「はあ、はあ……」

 

 彼女が跳んだのは次元を超える戦艦の中に待機していた別機体(バックアップボディ)だ。

 先程滅んだ機体と同じ機能を誇っているため、戦力的には損失はない。少なくとも、自分自身は……。

 

「応答がない……。そう、貴方も既に死んでるのね……」

 

 この戦艦は本来、自分の眷属神である存在の本体なのだ。

 彼女たち、機械生命体にとって、戦艦のような身体は珍しくもなんともない。

 だが、核も魂も滅ぼされているようで、既に機械としても生命体としても機能を停止していた。

 彼女はふと、かつての侵攻時、部下を大事にしていた存在の目の前で部下を虐殺したときのことを思い出す。

 

「そうか……あの時の奴らは、こんな気持ちだったのね……今さら気付くなんて……」

 

 頬を涙がつたう。

 気付く機会など、いくらでもあった筈。

 それでも気付こうとしなかったのは他でもない自分自身。彼女は今、自分が犯した罪の重みを生まれて初めて理解のだ。

 

 

 ガシャン!! 

 

 

 音に驚き、彼女は振り向く。そこにいたのは数えきれないほどの侵入者たちだった。

 

「ひっ!?」

 

 現れたのは扉をぶち破り、部屋に侵入してきた虫たち。

 

「こ、来ないで!」

 

 彼女にとって、本来は大したことはない相手だ。

 だが、彼女は恐怖した。自分を感情なく見据えるその複眼が、あの男の複眼と重なってしまったのだ。

 

「貴様ガコの機械どモの長カ……」

 

 現れたのは太刀を構えた大百足を擬人化したような将だった。

 恐らくは敵将の三番手……あの蟷螂よりも上位存在だろう。

 戦艦の中で本気で戦うわけには行かない。彼女は無慈悲にて冷酷。魔神と呼ばれるほどの残虐さを振り撒いてきたが、部下への情は本物だった。ゆえに、亡骸とはいえ部下の身体をむやみやたらに傷つけたくはなかった。

 だが、敵は悩む暇など与えてくれない。百足は太刀を構え、その力を解放する。

 

「喰らい尽くせ“喰牙(クウガ)”!」

 

 あらゆる物質を断つ斬撃は巨大な戦艦すらも両断する。

 部下の亡骸を傷つけたのは許せなかったが、今はこの場から離れるのが先だ。

 彼女はその切れ目から脱出を試みる。

 瞬間、超性能のセンサーが反応する。彼女がもっとも恐れる存在がすぐソコまで迫っていたのだ。

 

「逃がさん。貴様は我の餌なノダカらな……」

 

 片手に持つのはラガムゼヴァの骸。男は片手から発する暗黒細胞を使い、彼女の目の前でラガムゼヴァの骸を貪り喰った。

 

「い、いや……」

 

 複眼が自分を見据える。ひたすらに無機質。彼女には男が死神にみえた。

 だが、冷静な部分がこれでいいのかもしれないと囁いた。

 

(そうね……。今まで散々好き勝手してきたんだもの……)

 

 今まで蹂躙し、破壊し、弄んできた。

 それが自分が被害者になった途端に泣き叫ぶ。そんなことが許されていいのだろうか? 

 今まで散々やってきたこと。とうとう自分の番がきた。それだけのことだ……。

 彼女は終わりを受け入れるのだった。

 

(ごめんなさい。許してくれとは言わない。けど……)

 

 もし、生まれ変わるのならば、その時は二度とこのような真似はしない。

 魂を貪る権能を持つものなのだ。そんなことあるわけないのだが、それでも彼女はそう決断した。

 

 ────瞬間

 

「ん?」

 

「え?」

 

 事切れた筈の戦艦が男を砲撃したのだ。

 それは彼女を守ろうとする最後の維持だったのかもしれない。

 彼女はふと、骸となった部下と目があった気がした。

 逃げろ──と、叫んでるように聞こえた。

 

「……わかったわ。ありがとうね……」

 

 虫の言い話だ。死を受け入れた筈なのに、この場から逃げようとするなんて……。

 そう思考もするが、それが部下の最後の願いならば、主として叶えるべきだ。

 

「はあ!」

 

 彼女は最後の力を振り絞り、結界に穴を空けた。

 それは“異世界の門(ディファレントゲート)”。こことはまた別の異世界に行くための門だった。

 

「逃がスか! “暗黒増殖喰(デヴァステイターウイルス)”!」

 

「ぐはっ!?」

 

 再び放たれる暗黒細胞。門に向かうため、背を向けていた彼女はそれをまともに喰らう。

 だが、それでも……。

 歯を喰い縛り、涙を拭い、痛みに耐え、彼女は門を潜ろうとした。

 

「があああああ!!」

 

 彼女は門を潜ることができたのだった。

 

 

 

 

 *********************************

 

 

 

 

「逃げラレたか……」

 

 男……蟲魔王ゼラヌスは不機嫌そうに呟く。

 偶々とはいえ、目の前に現れた極上の餌を捕食できなかったことに苛立っていたのだ。

 この世界は偶々見つかった世界であり、“冥界門”より、竜種に近しい力を持つ存在が暴威を振るってることにフェルドウェイよりも先に気付いたのだ。

 下級の蟲を偵察に出し、暴威を振るう存在が()()()()()()()()()()であると判断したゼラヌスは好機と捉え、その力を奪うため自ら出陣することに決定したのだ。

 だが、その計画は失敗に終わってしまった。

 

「御方様。いかがナサいましょう?」

 

 薄羽蜉蝣……蟲后妃ピリオドの言葉にゼラヌスは思案する。

 あの“門”は不完全だった。

 ゆえに厄介なのだ。どこに跳んだかまるでわからない。

 下手すれば次元の海をただ漂っているだけの可能性すらある。

 そうであれば追跡は困難だろう。次元の海は蟲の王たるゼラヌスすら見通せぬほど広く、広大だ。

 ゼラヌスは女の追跡を諦め、ピリオドに命じる。

 

「雑兵も消費し、蟲将も二人を失ってシマッた。あの者たちのエネルギーを利用して補充しろ……」

 

「承知しマシた」

 

 蟲后妃ピリオドは殺した眷属神のエネルギーを“生命再構築(リストライフ)”することで雑兵と共に新たなる蟲将候補を二匹産み出した。

 

「……ほう? 甲虫型か。面白い。我の因子も加えテヤろう」

 

 卵状態の蟲将の一体にゼラヌスは自らの血と因子を戯れに込める。

 この卵から生まれ出でる蟲将は自分の直系となり、ゼスと同じく蟲の王子としての役割を担うだろう。

 ゼラヌスはそれを面白くなさそうに眺めるゼスを尻目に考える。

 

「次だ。その時こそ、貴様を喰ってやろう……」

 

 ゼラヌスは決断し、崩壊した世界をあとにする。

 蟲王子ゼスは誕生したばかりの卵状態の蟲将候補を見つめ、危険視する。

 強力だった眷属神の力から生まれた存在であるがゆえ、懸念してるのだ。しかも、一体はゼラヌスの直系であり、自分にとっても弟に当たる存在だ。さぞかし強大な力を宿しているだろう。

 ゼスは懸念する。()()()()()()()()()()()()()、こいつはいつか、“十二蟲将筆頭”の地位を脅かすかもしれない。

 ゼスは秘かにこの二匹を始末することを心に決め、父と母のあとに続く。

 こうして一つの次元世界は終焉を向かえたのだった。

 

 

 

 

 *********************************

 

 

 

 

「逃げ……きれたか……」

 

 次元の海の中、彼女……魔神セラセルベスは呟く。

 その脳裏に浮かぶのは、複眼への恐怖と今まで殺してきたものに対する罪悪感だった。

 

「もう、この機体もダメそうね……暗黒細胞とやらの除去は……なんとかできたけど、他の身体もダメそう……」

 

 ゼラヌスの暗黒細胞は彼女の今の機体と同時に、繋がりを隔てて異世界、並行世界、過去までも、全ての予備機体(バックアップ)を先に破壊してみせたのだ。

 これは先程ピリオドの報告から、万が一にも逃げ道を塞ぐため、最も強い魂の宿った機体ではなく、先に予備を破壊した。ゼラヌスの計算では彼女に門を潜るほどの力は残ってない筈だったゆえ、後回しにしたのだ……にも関わらず、彼女は門を潜った。

 だが、代償は大きい。

 

「記憶回路の損傷に、エネルギーも大半が侵食されている。いくらか部品も破棄しないとね……」

 

 この調子だと、恐らくこの次元の海から出ることはできないだろう。

 偶然、どこかの世界に放り出されるのを期待するしかない。

 おまけに記憶回路の損傷も大きい。いま、意識を飛ばせば、目覚めるときにはあらゆる記憶を失ってるだろうと予想できた。

 これも因果応報なのだろうと彼女は感じていた。

 彼女にもはや、驕りは存在しない。ゆえに、それを自覚し、敗者らしく今の運命を受け入れることにした。

 

「次目覚めた時、私はどうなってるのかしらね……」

 

 もう二度と、弱者を踏みにじるような真似はしない。

 だが、目覚めた自分は恐らく無垢となる。ゆえに、拾い主次第でどんな存在にも変わるだろう。

 せめて、今まで侮蔑していた、いわゆる善人と呼ぶべきものが拾えば、いまとは違う自分になれるだろう。

 

「ま、私の復元装置が徐々に回路を直すだろうし、万に一つの可能性もないでしょうけど……もしかしたら記憶が戻ることもあるかもしれない。その時、私がまた同じことをしてたら…………その時こそ、償いましょう…………」

 

 自分にとってはこの機体が最後だ。破壊すれば、自分は死ぬ。償いにはならないだろうが、どのみち死を受け入れた身だ。

 死を超越したと思ってた自分が、次の死で完全に消滅する。

 それが少しおかしくて、少し、愉快な気持ちになる。

 

「ま、その時にならないと……わか……ら……ない……か……」

 

 ……

 ………………

 ……………………………………

 こうして、魔神セラセルベスは意識を消失させた。

 この後、彼女はE×Eと呼ばれる世界にて行方不明扱いとなる。

 彼女がどうなったのかは、その謎は闇へと包まれ込むのだった。

 

 

 

 

 

 *********************************

 

 

 

 

「ふあ~」

 

 兵藤家。真神セラは目を覚ます。

 機械生命体である彼女には必要ないが、この世界の兄たちに習って自分も睡眠をとるようにしてるのだ。

 

「なんか、変な夢見たような……?」

 

 遠い、懐かしい夢を見たような気がするが、セラは思い出すことができず、うんうん唸る。

 

「おはようセラ」

 

「あ、イッセーお兄ちゃん。おはよう!」

 

「おはようっすセラちゃん。よく眠れたっすか?」

 

「うん!」

 

 セラは大好きな兄や姉達に挨拶をしながら食事を取る。

 彼女はこの幸せなときが大好きだった。

 それと同時に怖くもなる……自分がここまで幸せでいいのか、時折不安に思えてくるのだ。

 だが、それでも……。

 

「セラちゃん、口にクリームが突いてますよ」

 

「あ、ありがとう! アーシアお姉ちゃん!」

 

 今はこの幸せを噛み締めよう。セラはこの時間を心から大切に思うのだった。




魔神周りについては完全に捏造です。
察しのいい読者様は勘付いていたと思いますが、機械幼女セラちゃんの正体はは記憶を失い、幼児退行した魔神セラセルベスです。
セラセルベスの記憶回路が壊れ、全ての記憶を失ったあと、彼女は“多次元世界の狭間”から地球の太平洋に落っこちて、その後イッセー達に釣り上げられたという経緯です。
セラちゃんとセラセルベスは人格が完全に別なので、分けて考えてくださると幸いです。

オリキャラ紹介
ラガムゼヴァ
EP 1506万6539
セラセルベスの五柱の眷属神の一人。セラセルベス眷属の中では最強の力を誇っているが、蟲皇子ゼスに敗れる。



次回より、第七章が始まります。

七章は最初の一週のみ木日に投稿。それ以降は日曜日週一掲載となります。


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第七章 放課後のラグナロク
特撮ヒーローです


 イッセーside

 

 

 

 

 

『ふははははは! ついに貴様の最後だ! 乳龍帝おっぱいドラゴンよ!』

 

 テレビの向こうでいかにも怪人、といった格好の輩が高笑いをしている。戦隊モノや仮○ライダーとかにいそうな感じのキャラクターだ。

 

『何を! この乳龍帝がおまえ達闇の軍団に負けるわけにはいかない! いくぞ! “禁手化(バランス・ブレイク)”!!』

 

 俺そっくりの特撮ヒーローが赤い光に包まれ、見事な変身を遂げる。

 その姿は俺の“赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)”そのまんまだった。

 

「企画を聴いたときは何を馬鹿な……と思ったっすけど……」

 

「これ、結構面白いにゃん」

 

「カッコイイの!」

 

 俺達は今、兵藤家の地下一階にある大広間にはシアターにて鑑賞会をしていた。

 巨大モニターに映る作品のタイトルは────『乳龍帝おっぱいドラゴン』。

 現在冥界で絶賛放映中の子ども向け特撮ヒーロー番組……らしい。

 タイトルから分かるとおり、主役は俺。なんと、俺を主役とした子供向けのヒーロー番組なのだ。

 と、言っても、俺自身が演じているわけではなく、俺と背格好が同じ役者さんにCGで俺の顔をはめ込んで加工している感じなんだけどね。

 

「……始まってすぐに大人気みたいです。特撮ヒーロー、『乳龍帝おっぱいドラゴン』」

 

 俺の膝上に乗っかっている小猫ちゃんが尻尾をふりふりさせながら言う。

 小猫ちゃんはテレビが好きだからな。冥界の番組にやたらと詳しいのだ。

 大人気なのはこの間サーゼクスさんから聞いたので知っている。グッズは馬鹿売れ。オープニングテーマ“おっぱいドラゴンの歌”は魔王であるサーゼクスさん、セラフォルーさんが作詞と作曲を担当したということもあり、話題性抜群。更には視聴率が四十%を超えたと聞いたときには驚いた。

 人間が主役だなんて、悪魔からすれば受け入れられるのは難しいのでは? とも思ってたんだけど、主に子供たちの間で大ヒットしてるそうだ。貴族みたいな教育を受けたわけでもない、幼い子供はそういうの気にしないからな。

 物語のあらすじはこうだ。

 伝説のドラゴンと契約した人間であるイッセー・ヒョードーは人でありながら悪魔とともに歩み、悪魔に敵対する邪悪な組織と戦うヒーローである。

 おっぱいを愛し、おっぱいと平和のために戦う男。

 邪悪な闇の軍団を倒すため、伝説のおっぱいドラゴンとなるのだ! 

 ……という感じらしいです。

 正直言おう。チョー恥ずかしい! 

 いやさ、許可出したのは俺だし、仕方がないことだけどさ、ここまで大人気になるなんて思ってなかったもん! 

 しかも、俺の親まで見てるんだぜ!? 恥ずかしいにも程があるわ! 

 ちなみに著作権はグレモリー家が仕切ってるらしい。先程も言ったように、グッズもかなり売れてるらしく、財政は更に潤ってるとのことだ。

 

「この番組に出てくる鎧は本物そっくりだね。すごい再現度だよ」

 

 木場はポップコーンを食べながら興味深そうに画面を眺める。

 まあ、確かに再現度高いなとは思うけど……。

 先程グッズなんかも送られてきたけど、音声もそうだし、造形も本物そっくりで異様に再現度が高かった。

 何でも、部長がこの間契約した“お得意様”より試作品やらなんやらが提供されてくるらしい。暇なのかあの人……暇なんだろうな。

 その後、どんどん物語は進み、画面の中にはピンチに陥った主人公の姿。

 しかし、そこへヒロインが登場した。

 

『おっぱいドラゴン! 来たわよ!』

 

 登場したのドレスを着た部長だった。

 もちろん本物じゃなく、俺同様に部長と似た背格好の役者さんに部長の顔を加工している。

 

『おおっ! スイッチ姫! これで勝てる!』

 

 主人公がスイッチ姫のおっぱいにタッチ! すると、主人公の鎧が赤く輝きを放った! 

 これを見て俺は思った。スイッチ姫って何? 

 何がどうしてこんな展開になってるの!? 

 そんな俺の疑問に答えるようにアザゼル先生は呟く。

 

「以前、風呂場でイッセーは女の胸をつついて禁手に至ったと聞いてな。それでこれを閃いたんだ。おっぱいドラゴンがピンチになったとき、スイッチ姫の乳を触ることで無敵のおっぱいドラゴンへと進化するんだ!」

 

 なるほど……わからん! 

 ちなみにヒロインが部長なのは、グレモリー家のイメージアップを狙ってるかららしい。

 ……これでは寧ろ、イメージダウンにしかならないのでは? 

 だか、俺の困惑とは裏腹に、おっぱいドラゴンは力を取り戻し、見事にパワーアップを果たしてる。

 

 スパンッ! 

 

 軽快な音に振り向くと、先生の頭を部長がハリセンで叩いていた。

 

「何なのよスイッチ姫って! グレイフィアに聞いたわよ! この案をグレモリー家に送ったのはアザゼルだって! どうして私なのよ!?」

 

 部長は顔を真っ赤にして怒りに満ち満ちていた。

 まあ、気持ちはわかる。

 いくらなんでも“スイッチ姫”はないだろう。

 

「別にいいじゃねえか。コレのおかげで逆にお前の人気が高まったって聞いてるぜ?」

 

 先生は頭を擦りながら言うが、部長は泣きそうになってる。

 雑誌も『スイッチ姫特集』とか言うわけわかんないものもあったし、部長からすれば溜まったものじゃないだろう。

 

「い、イッセーが主役でヒロインが私のテレビ番組って言うから許可したのに……なんなのよこれは…………」

 

 部長が虚ろな目でブツブツと呟いている。

 余程ショックだったのだろう。

 そんな部長を他所に、”おっぱいドラゴン“のストーリーはどんどん進んでいく。

 

『フッ、だらしないっすね。おっぱいドラゴン。貴方の力はこの程度だったんすか?』

 

『なっ、お前はフォールン・レディ!』

 

『フン! 今回は見逃してやるっすけど、次はそうはいかない! 覚悟するっすよ、おっぱいドラゴン!』

 

 おっぱいドラゴンの眼の前に現れたのは“フォールン・レディ”と呼ばれる敵幹部だ。

 言うまでもなくミッテルトである。

 このおっぱいドラゴンは主人公の“おっぱいドラゴン”と“スイッチ姫”……そして、敵幹部でありながら、徐々におっぱいドラゴンに惹かれていく“フォールン・レディ”の三角関係が売りなのだそうだ。

 この案は元々ミッテルトが敵対組織(ということになっている)のスパイとして近づいてきたという話から構想を得たのだという。

 不本意な政略結婚から“おっぱいドラゴン”に救われ、彼に惹かれていく“スイッチ姫”と本当は“おっぱいドラゴン”が好きなのに、敵幹部という立場と自分の思いに板挟みになり、苦しみ続ける“フォールン・レディ”。

 この三角関係は中々評判で“おっぱいドラゴン”は最終的にどちらを選ぶのか? といった風に大人でも楽しめる作品になっているのだ。

 

「……ちなみにミッテルト的にはどうなの? これ?」

 

「……フォールン・レディが報われるなら文句ないっす」

 

 まあ、自分自身がモデルだしな。

 ミッテルトとしても、彼女には報われてほしいのだろう。

 ミッテルトも物語自体は割と気にいっているようだ。

 

「……ミッテルトの敵役(配役)の方がまだマシよ。……もう、冥界を歩けないわ」

 

 部長はため息混じりにつぶやく。

 対象的に部長はこの番組にいい印象を持っていないみたい。

 まあ、俺もなんだけど……。

 俺も正直今冥界歩くのは怖すぎる。子供に見つかったら、「あ、おっぱいドラゴンだ!」って指差されそうだし……。

 

『もう、どーでもいいじゃないか。どーせ、俺とお前は乳龍帝でおっぱいドラゴンだ……』 

 

 ここにもう一人、ため息混じりのやつがいたよ。

 ドライグも最近はヤケクソ気味だな。

 ドライグはこの放送が始まってからずっとこんな感じだ。

 どうやらかなりのストレスになっているらしい。

 

『うう、もう嫌だ! 向こうでも変態ドラゴンだのなんだの言われてるのに、こっちでもこんな扱い……何で赤龍帝と恐れられたこの俺がこんな気持ちにならなければならんのだ!』

 

 ああ、泣いちゃった……。

 俺には涙を流しながら叫ぶドライグの姿がハッキリと幻視できた。

 

「でもでも、幼馴染みがこうやって有名になるって、鼻高々でもあるわよねー」

 

 イリナがはしゃぎながら言う。

 この娘は存分に『おっぱいドラゴン』を楽しんでるみたいだな。

 

「そういえば、私もイッセー君も小さい頃は特撮ヒーロー大好きだったものね。よくヒーローごっことかしてたものよね。懐かしいわ」

 

 と、イリナが変身ポーズをしながら言う。

 あー、そのポーズ懐かしいな。俺が小さい頃に好きだったヒーローのものだ。

 

「懐かしいな。あの頃のイリナって男っぽくて、やんちゃなイメージが強かったよ。それが今では可愛い美少女なんだから、人の成長って分からないもんだ」

 

 そもそもあの頃はイリナのことを完全に男の子だと思ってたし、ミッテルトの言葉を聞いたときは本当に驚いたものだよ。

 そんな事を考えていると、俺の言葉を受けて、イリナが顔を真っ赤にしているのに気がついた。

 

「もう! イッセー君ったら、そんな風に口説くんだから! そ、そういう風にリアスさん達も口説いていったのね……? 怖い潜在能力だわ! そんなこと言われたら私、堕ちちゃう! 堕天使に堕ちちゃうぅぅぅっ!」

 

 イリナの羽が白黒に点滅し出した! もしかして、これが堕天の瞬間なのか? 

 天使が欲を持ったり、悪魔の囁きを受けたりすると堕天するとは聞いてたけど、こんな感じなんだな。

 それを見て先生が豪快に笑う。

 

「ハハハハ、安心しろ。堕天歓迎だぜ。ミカエル直属の部下だ。堕天してきたら、VIP待遇で席を用意してやる」

 

「いやぁぁぁぁぁ! 堕天使のボスが勧誘してくるぅぅぅぅ! ミカエルさま、お助けくださぁぁぁぁい!!」

 

 イリナが涙目で天へ祈りを捧げていた。

 それにしても、面白いな。

 心の持ちようでこんな簡単に種族が変わるとは……。

 ……いや、違うな。多分、厳密にこの二つの種族に差は殆どないのだろう。

 聖書の神が、自分の意に沿っているか、否かを分かりやすくするためにこんなシステムにしたのかもしれないな。

 

「でも、イッセーさんが有名になるなんて自慢です」

 

「そうだな。私達も負けてられないな」

 

 アーシアとゼノヴィアも楽しそうだ。

 まあ、俺も恥ずかしいけど、別に嫌いではない。『おっぱいドラゴン』。

 

『……俺は心の底から嫌だがな……うぅ……』

 

 ドライグはまだ泣いている。

 ごめんて……向こうに行ったら旨い酒でも奢ってやるからさ……。

 

『……向こうか。そういえば、リアス・グレモリー達に基軸世界についてはいつ言うのだ?』

 

 ドライグの言葉に俺は動きを止める。

 

『神祖の弟子達が何を企んでいるのかわからん以上、こちらの者達にも敵について話したほうがいいだろう? どの道、いつかは知られることだ』

 

 ……確かにそうなんだけど、それはまだ考え中なんだよな……。

 皆のことを信用してないわけじゃない。ただ、こちらの世界とは異なる体系の悪魔に天使。

 向こうのことを話してしまうと、こちらの世界にどれほどの影響があるのかまるでわからないんだよな。

 下手すれば、聖書の勢力間で凄まじい混乱が巻き起こる可能性もある。

 故に、不用意には話せないんだよな……。ただでさえ、“三大勢力”は纏まり始めたばかりの不安定な時期なんだから……。

 まあ、それでも近いうちには話す予定だけどさ……。

 そのためにもまずは“禍の団”だ。神祖との戦いを盤石なものにするためにも、先にこっちの問題を片付けたほうがいい。

 それが終わったら、改めて皆にも向こう────“基軸世界”についてを伝えようと思う。

 

『そうだな、それがいいだろう』

 

 そんな感じで俺がドライグと話していると、後ろから抱きついてくる人がいた! 

 

 むにゅぅぅっ! 

 

 背中の柔らかい感触! この弾力は間違いない! 

 振り返ると、俺の肩越しに朱乃さんの顔が現れる。

 

「あらあら。考え事ですか、イッセー君? でも、私としてはそろそろ約束を果たしてくれないと困りますわ」

 

 朱乃さんのほっぺが俺のほっぺと擦り合う! 

 スベスベ! 最高だ! 

 

「約束……ディオドラの時のアレですか?」

 

「ええ。デートの約束ですわ」

 

 そうそう。小猫ちゃんのアドバイスで約束した奴ですね。

 覚えてますよ。……っていうか、アレって本気だったのか……。

 

「わかりました。じゃあ、今度の休みにデートしましょう」

 

 ミッテルトをチラ見するが、ため息をつくだけで何も言ってこない。

 まあ、あの時もミッテルトは目を瞑ると言っていたしな。ミッテルトが許可を出すのならば、俺としても断る理由はない! 

 俺の返事を聞き、朱乃さんは満面の笑顔を浮かべ、俺の腕をギュッと抱き締めてきた。

 

「嬉しい! じゃあ、今度の休日、デートね。うふふ、イッセー君と初デート♪」

 

「……羨ましいにゃん」

 

 黒歌が未練がましそうに俺達を見つめている。

 まあ、俺は黒歌とのデートも大歓迎だけどね! 

 それはともかく、朱乃さんとデートか……。

 楽しそうだけど……。

 

「········」

 

 部長達がすげえ形相でこっちを見てる。

 はぁ、どうやら一波乱起こりそうだな……。俺はそう考えながら、朱乃さんのおっぱいの感触を楽しむのだった。

 

「……というか、そろそろ学校じゃないすか?」

 

『あ』

 

 ミッテルトの言う通り、今日はど平日である。

 やべえ!テレビに気を取られすぎてた!俺達は慌てて学校に行く準備に取り掛かるのだった!

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「そういえば、もうすぐ修学旅行だな。班決めないとな」

 

 元浜が昼飯を食べながら、ふとそんなことを呟いた。

 そういえば、そうだったな。俺達二年生は京都に行く予定なのだ。

 

「確か、三、四人で組むんだよな?」

 

「ああ。泊まるところが四人部屋らしいからな。ま、嫌われ者の俺達は三人で組むしかないだろうけどな」

 

 まあ、確かにな。

 基本的に俺達三人はエロエロ男子高校生として、女子からかなり嫌わてる。 

 元々女子校で、今なお女子比率の高い駒王だと、俺達と組む物好きは滅多にいないだろう。

 アーシア、ゼノヴィア、イリナは誘えば来てくれるかもだけど、女子を此方からは誘いづらいしな……。

 

「エロ三人組。修学旅行うちらの組まない? 美少女四人でウハウハよ?」

 

 おお! ここで向こうから声がかかってきた! 

 桐生がいやらしい顔つきなのが気になるが、こちらとしても願ってもない話だぜ! 

 

「イッセーさん。ご一緒してくれますか?」

 

 にっこり笑顔でアーシアが聞いてくる。聞かれなくとも答えは既に出ている。

 

「もちろんOKさ。一緒に回ろうぜ」

 

「はい!」

 

 だきっ! アーシアは弁当そっちのけで俺に抱きついてきた! 

 

「あ、あんたら、体育祭終わってからさらに仲良くなったわね……」

 

「て、てめー! ミッテルトちゃんはどうしたんだよ!」

 

 眼鏡をくいっと上げながら、感心したように言う桐生とは対象的に、元浜と松田は血涙を流しながら唸っている。

 

「まあ、色々とね。アーシアは俺にとってもかけがえのない人だからな」

 

 体育祭を終えた後、キスされたことで俺もアーシアも少し意識するようになった。

 妹よりも身近にいる女の子として見るようになったし、なんていうか、恋人とは違う、家族としての異性……とでも言うのだろうか? 

 恋人であるミッテルトが俺にとって大切な存在であるように、アーシアもまた、俺にとって大切な存在なのである。

 

「……まあ、そういうことだから、あんたらと組むわ。基本申し出を断れないアーシアを他の男子には任せられないし、ゼノヴィアっちとイリナさんもその方がいいでしょ?」

 

「ああ。私もイッセーと一緒がいいから組むぞ」

 

「私も! イッセー君と一緒だと面白いしね!」

 

「クソォォォォォッ! 何故イッセーばかりモテるんだぁぁぁぁぁっ!」

 

 イリナとゼノヴィアも参加決定。

 それを聞いた松田達は慟哭をした。おお神よ……なんて言って何やら祈りを捧げているが、生憎神様はもう死んでるんだよな……。まぁ、生きてたとしても、信者でもなんでもない松田に力を貸すかどうかは知らんけど……。

 

「てなわけで、修学旅行はこの七人で行動しましょう! 清水寺に金閣・銀閣寺が私達を待ってるわ!」

 

 眼鏡をギラつかせながら、宣言する桐生。俺自身、京都旅行はかなり楽しみなんだよな。

 こうして、京都を巡る俺達の班が決まったのだった。

 



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修学旅行と英雄派です

 イッセーside

 

 

 

 

 

「そういえば、二年生は修学旅行の時期だったわね」

 

 部長は優雅に紅茶を飲みながらそう言う。

 

「部長と朱乃さんは去年どこに行ったんですか?」

 

「私達も京都ですわよ。部長と一緒に金閣寺、銀閣寺を回りましたわ」

 

 曰く、部長達は様々な観光名所を回ったらしい。

 ただ、三泊四日では行く場所も限られるし、結局全部を回ることはできなかったとのことだ。

 

「だから、貴方達も詳細なスケジュールを決めてから行動したほうがいいわよ」

 

「部長ったら、駅のホームで悔しそうに地団駄踏んでましたわね」

 

 クスクスと笑う朱乃さんに、部長は頬を赤らめた。

 

「もうそれは言わない約束でしょう? 日本好きの私としては、憧れの京都だったから、必要以上に町並みやお土産屋さんに目が行ってしまったのよ」

 

 思い出を楽しそうに語る部長。余程楽しかったんだな。

 リムルに聞いたけど、ルミナスさんも京都をとても楽しんだらしい。

 俺も京都には行ったことないし、楽しみになってきたな。

 

「旅行もいいけど、学園祭の出し物も話し合わないと……」

 

「あー、確かにそうっすね。……てか、旅行のすぐ後なんすね」

 

 ミッテルトの言う通り、駒王では学園祭は旅行の後すぐになるのだ。 

 二年生は学校行事が多くて大変だな。

 

「確か、去年はお化け屋敷でしたっけ? 本物のお化けだったから印象に残ってます」

 

「あら、気づいていたの?」

 

 去年、俺は所属こそしてなかったけど、ミッテルトとのデートで一緒に色んな場所を回ったのだ。

 その際、オカルト研究部のお化け屋敷に行って中々楽しんだ思い出がある。

 

「ウフフ。後で生徒会に怒られましたわね。本物を使うなんてルール無視もいいところだわって……」

 

 まあ、確かにルール無視もいいとこだけどな。

 俺は気にせず楽しめたけど……。

 

「取り敢えず新しい試みを────」

 

 部長がそこまで行ったところで俺達全員の携帯が鳴り響いた。

 ────全く、懲りない連中だな。

 

「────行きましょう」

 

 部長の号令と共に俺達は部室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 町にある廃工場。

 そこに俺達オカルト研究部の面々は訪れていた。

 すでに日は落ちていて、空は暗くなりつつある。

 薄暗い工場内に多数の気配。更に言うなら、殺意と敵意が俺達に向けて発せられている。

 

「────グレモリー眷属か。嗅ぎ付けるのが早い」

 

 暗がりから現れたのは黒いコートを着た男性。

 男の周囲からは人型の黒い異形の存在が複数姿を覗かせている。

 魔力感知からこの狭い工場内に黒い人型モンスターが百近くいるのがわかる。

 部長が一歩前に出る。

 

「“禍の団(カオス・ブリゲード)”────英雄派ね? ごきげんよう、私はリアス・グレモリー。三大勢力よりこの地を任されている上級悪魔よ」

 

 部長の挨拶を聞いて、男が薄く笑みを浮かべる。

 

「ああ、存じ上げておりますとも。魔王の妹君。我々の目的は貴様たち悪魔を浄化し、町を救うことだからな」

 

「別に結構。寧ろ、街の平和を乱してるのお前らだから帰ってどうぞ」

 

 俺の言葉に英雄派の連中はギロリと睨みつけてくる。

 目の前にいる奴らは英雄派とかいう“禍の団”の構成員。

 ここのところ、この英雄派が俺達に襲撃してくる。……というか、各勢力の重要拠点も英雄派の襲撃を頻繁に受けているとのことだ。

 英雄派は英雄や勇者の末裔、神器所有者で構成されているためか、俺達の相手は人間が多い。

 

「赤龍帝。悪いことは言わない。此方に来い。貴殿も人間ならばわかるだろう? 人間と他種族は決して相容れん。さあ……」

 

 ────だからか、知らないけど、俺のことを勧誘してくる奴が結構な数いるんだよな。

 

「断る。俺はそうは思わないからな」

 

 もちろん俺は勧誘されても速攻で断ってる。

 人間と他種族が相容れない────そんなことはない。

 現に、俺とミッテルトは恋人になれたし、そもそもリムルはそれを可能にする国家を作ってみせた。

 正直な話、テロ行為をする奴らよりも部長たちの方が余程信じられるってものだ。

 俺の言葉を聞き、英雄派の男は舌打ちをしながら腕を上げた。

 

「ならば、死ね」

 

 合図とともに、男の横から人影が二つ。

 二人とも人間。一人はサングラスをした男性だ。もう一人は中国の民族衣装らしきものを着ている。

 あの三人の周囲にいる黒いやつは戦闘員。英雄派の思想から、他種族の力を借りるとは考えづらいし、恐らくは神器か何かで産み出されたものだろう。

 英雄派ではあれを兵隊として使っており、強さは大体Bランクってところだ。一般的な下級悪魔レベルでは相手にならないだろう。

 まぁ、俺とミッテルトは言わずもがな、他の皆の実力も殆ど上級悪魔レベルだから問題はないけどな。

 

「イッセー。ここは私達が行くわ」

 

「いつまでも、二人に頼ってばかりいられませんものね」

 

 そう言いながら、部長達がフォーメーションを組む。

 前衛が木場とゼノヴィア。中衛がイリナ、小猫ちゃん、ギャスパー。後衛が部長、朱乃さん、アーシアだ。

 俺がやれば、すぐに終わるけど、皆の成長をしるいい機会だし、俺とミッテルトはサポートに回るとするか。

 敵が俺達のフォーメーションを確認すると、黒いコートを着た男性が手から白い炎を発現させた。

 それを見た木場が目を細める。

 

「また、神器所有者か……」

 

「困ったものね。ここのところ、神器所有者とばかりと戦っているわ」

 

 部長も木場の発言に頷き、嘆息する。

 英雄派は構成員の殆どが神器の所有者らしい。

 神器は神が残しただけのことはあり、“ユニークスキル”に匹敵する性能のものも稀にだけどあるから結構面倒くさいんだよな。

 炎を揺らす男がこちらへ攻撃を仕掛けようとする。しかし……。

 

 ヒュッ! 

 

「なっ、は、速い!」

 

 それよりも速く、木場が炎の男に接近していた。

 男はそれを何とか躱しながら、炎を木場に放つ! 

 

「はあ!」

 

 しかし、木場は新たに聖魔剣を作り出すと、白い炎を切り裂いた! 

 

「なっ!? 炎を切り裂くだとぉ!?」

 

 木場の神器の強みは様々な特性の聖魔剣を作り出せる点にある。

 相手も木場の攻撃を躱す辺り、相当鍛えられてるけど、力も神器の格も木場が圧倒的に有利だ! 

 

「はあああ!」

 

 木場はそのまま炎の男を切り裂こうとする。

 そこに、サングラスの男が割り込んできた! 

 サングラスの男は影を操り、木場の剣を飲み込んだ。

 

 ビュッ! 

 

 次の瞬間、木場自身の影から聖魔剣の刀身が勢いよく飛び出してきた。

 木場はそれを躱し、後方へと下がる。

 

「影で飲み込んだものを任意の影に転移できる能力か……。厄介な部類の神器だね」

 

 ふむ。中々厄介な神器だな。

 恐らく、相手の攻撃を範囲内の影に自由に移動させるのだろう。

 だけど、相手が影の中に入って移動しないところを見るに、“影移動”のような使い方はできないのかな? 

 俺が相手の神器について考えていると、民族衣装の男が光でできた弓矢を放つ。

 狙いは木場────ではなく、アーシア! 

 矢は木場に斬り裂かれる直前に軌道を変え、アーシアへと向かっていく。

 矢の軌道を操作する神器か。俺は思わず飛び出そうとするが、我に返ってやめる。

 今回は手を出さないつもりだし、この程度なら問題ないしな。

 案の定、光の弓矢相手にはイリナが対応してみせた。

 

「光なら任せてちょうだいな!」

 

 イリナは光の槍を生み出し、相手の弓矢を相殺した。

 それを見た影使いは光使いの周囲に壁を作り出し、光の矢と白い炎の両方が放たれる。

 それを見たゼノヴィアはデュランダルを構え、一歩前に出る。

 

「ふん!」

 

 ドンッ! 

 

 刹那、それらの攻撃はすべてゼノヴィアのアスカロンによって容易く打ち砕かれた。

 流石ゼノヴィア。以前よりも増々パワーが上がってるな! 

 

「……ゼノヴィア先輩。後ろです」

 

「むっ!」

 

 小猫ちゃんの言葉に振り向くと、ゼノヴィアの後ろには緑の矢が迫っていた。

 

 ビュッ! 

 

「どうやら伏兵が潜んでいたようですわね」

 

 それを朱乃さんが雷光の矢によって相殺する。

 結構な気配の隠蔽だったうえ、工場の外から放たれた攻撃だったけど、言われなくとも気付くとは……小猫ちゃんの仙術の感知能力も上がってるようだな。

 ここで後方で機械をいじっていたギャスパーが叫ぶ。

 

「で、出ました! そ、そちらの方が炎攻撃系神器“白炎の双手(フレイム・シェイク)”! サングラスの方が防御系の“闇夜の大盾(ナイト・リフレクション)”! 弓矢のほうが“青光矢(スターリング・ブルー)”と“緑光矢(スターリング・グリーン)”ですぅぅ!」

 

 ギャスパーはアザゼル先生の開発した“神器スキャンマシン”を使い、相手の神器を調べていたんだ。

 神器は所有者を変え、宿主に宿る……つまり、過去に所有者が別に存在した神器も数多くあるということだ。

 それらのデータを照合すれば、どんな神器かわかるってことだ。

 ギャスパーの言葉を聞いた部長は皆に指示を送る。

 

「前衛組、指示を出すわ。祐斗は影使いと炎使いを狙って! 小猫は工場の外に隠れてる弓矢の使い手を! ゼノヴィアは雑魚の方を蹴散らしつつ、活路を開いて! 中衛、後衛は全力でサポート一気に片をつけるわよ!」

 

『了解!』

 

 全員が応じ、一気に動き出す! 

 ゼノヴィアが先行して、デュランダルで凪ぎ払い、戦闘員を蹴散らしていく! 

 小猫ちゃんは戦闘員を殴り飛ばし、弓矢を容易くかわしながら外に隠れている相手との距離を詰めていく! 

 ゼノヴィアと小猫ちゃんの手により、戦闘員が霧散し、その隙に木場が詰め寄り、木場は影使いへと斬りかかる! 

 

 ドウンッ! 

 

 再び吸い込まれる聖魔剣の刀身! 

 この後、どこかの影から聖魔剣が飛び出してくるはず! 

 ……まあ、わかってるんだけどね。

 

 ビュッ! 

 

 飛び出してきたのは俺の影からだ。

 俺達は完全に蚊帳の外だったし、影使いも油断してる今なら当たると思ってたんだろうな……。

 

「イッセー! それをかわして、影へ弾を撃ち出して!」

 

 おっと? 部長からの指示が! 

 部長もしっかりと周りを俯瞰してみる目が身についてきたな。了解です! 

 俺は聖魔剣の刀身を避ける、影へ向かって魔力の弾を放った! 

 

 ドンッ! ドウンッ! 

 

 いちおう、部長の作戦は理解してるつもりだ。

 俺は木場たちの力に合わせた気弾を撃ち込んでみる。案の定、俺の気弾は吸い込まれていく。

 

「祐斗! 影で繋がってるから、イッセーの弾がそちらに来るわ! 出現する前に影の中で弾を両断して爆散させてちょうだい!」

 

「了解です!」

 

 部長の指示に従い、木場が影の中で聖魔剣を振るった! 

 

 ドオオオオオオオオンッ! 

 

「ぐわっ!」

 

 爆発音と悲鳴が工場内に響く! 

 見れば影使いがボロボロになって吹っ飛ばされていた! 

 

「影の中で攻撃がはじければどうなるか試したけど、処理できずに爆発したようね。攻撃そのものは受け流すことは出来ても、弾けた威力までは受け流すことは出来ない……といったところかしら?」

 

 部長が不敵な笑みを浮かべる。

 流石は部長、良い着眼点だ。

 実際、影移動を使うやつ相手には、影の中を攻撃するのがセオリーだし、あれ程の能力だと演算能力も必要となってくる。

 見た感じ、スキルの類はないみたいだし、影の中で爆破させればキャパオーバーしてしまうのは当然と言えよう。

 

「おのれ、燃え尽きろ!」

 

 炎使いは激高し、木場に炎を放つが、如何せん遅すぎる。

 それじゃあ木場には当たらねえよ! 

 

「はあああ!」

 

「うぉぉぉ!」

 

 その速度のまま、木場は一閃で炎使いを、ゼノヴィアはデュランダルで青の弓矢使いをそれぞれ吹き飛ばした! 

 

 ドゴォン! 

 

 工場の壁が崩れ、もう一人の弓矢使いが倒れ伏せる。

 小猫ちゃんは廻し蹴りで緑の弓矢使いを一撃で吹き飛ばしたのだ! 

 

「さすが小猫ちゃん。仙術の精度もだいぶ上がったな」

 

「……ありがとうございます」

 

 俺の言葉に少し照れたように言う小猫ちゃん。

 見た感じ、敵の気配もないし、とりあえずは戦闘終了かな? 

 ────そう思った瞬間だった。

 

「……ぬおおおおおおおおっ!!!」

 

 先程倒した影使いがふらふらの状態で立ち上がり、絶叫した。

 途端に男の体に黒いモヤモヤが包んでいく。更に影が広がり、工場内を包み込もうとしていた。

 これは……まさか!? 

 俺は即座に影使いを捕縛しようと立ち上がる……だが……。

 

 カッ! 

 

 影使いの足元に光が走り、何かの魔法陣が展開される。

 術式的に転移魔法……だけど、見たことがない紋様だ。

 この世界の転移魔法の魔法陣は、悪魔の家系や堕天使によって紋様が異なっているという特徴がある。

 つまり、悪魔でも堕天使でもない、別の存在の転移魔法陣! 

 魔法陣の光に影使いは包まれていき、一瞬の閃光のあと、影使いはこの場から消えた。

 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「皆、お疲れさま。誰もケガしなくて良かったよ」

 

 影使いが消えた後、俺達はその場に残された神器所有者を捕縛して冥界に送った。

 倒した奴らは一応殺してはいない。

 一応、何かしらの手掛かりが見つかるかもしれないからなのだが、結構難航してるのが現状だ。

 ……というのも、敵は各勢力に神器所有者を送り込む際に記憶消去の術式プログラムを組んでいるのだ。

 この方式で消された記憶は元に戻すことがむずかしいらしい。

 

「できるだけ壊さずに戦闘しないといけないっすし、結構もどかしいものなんすね」

 

「これもレーティングゲームのルールの内と思えばいい経験よ」

 

 俺……というか、木場達が全力で戦えば、正直簡単に決着がつくだろう。

 でも、建物を壊してしまうと町の住人を誤魔化すのが大変らしく、できる限り建物を壊さないようにするという制限が俺達にはあるのだ。

 まあ、部長の言う通り、ここから先のレーティングゲームには変則的なルールもでてくるだろうし、この手の戦闘に慣れるのもいい経験だろう。

 

「でも、厄介なことになってきましたね」

 

 嘆息しながら木場が言う。

 

「どういうことだ、木場?」

 

 厄介なこと? 何のことだ? そう思いながら、俺は木場に尋ねてみる。

 

「刺客の神器所有者に特殊技を有する者が出てきたってことさ。今までは向こうも力押しで来ていたけど、テクニックタイプに秀でる者が現れてきた。最初はパワータイプやウィザードタイプばかりだったというのに……」

 

 ああ、確かに……言われてみればそうだな。木場が言いたいことが分かったぞ。

 俺は脅威をまるで感じなかったから、正直あまり気にしてなかったけど、言われてみると、相手の能力が複雑になってる気がする。

 さっきの影のやつとか顕著な例だしな。

 

「……先生も言ってました。神器には未知の部分が多いと」

 

「そう。だから、さっきみたいな特殊な力で聖魔剣に対応しようとした。直接防御できないなら、いなせばいいと考えたんだろうね」

 

 相手は手下をけしかけることで俺達の戦力を分析してるってことだな。

 どうやら英雄派とやらは、旧魔王派と違って戦闘における情報の大切さをよくわかっているらしい。

 ……それに、さっきの影使いを見るに、面倒臭いことも考えてるみたいだな。

 

「あの、疑問に思ったんだけど、意見いいかしら?」

 

 イリナの言葉に全員の視線が集まる。

 

「ええ。お願い」

 

 部長に促され、イリナは、ポツリと話し出す。

 

「私達を攻略しに来たにしては、英雄派の行動って変だと思うのよ」

 

「変?」

 

 怪訝そうに返すゼノヴィア。

 どうやら、イリナも違和感に感づいているみたいだな。

 

「だって、私達を本気で攻略するなら、二、三回くらいの戦いで戦術プランを組み立ててくると思うの。それで四度目あたりで決戦仕掛けてくるでしょうし……。でも、四度目、五度目とそれは変わらなかった。なんていうのかな……彼等のボス的存在がなにかの実験でもしてるんぞゃないかな……って」

 

「実験? 私たちの?」

 

 朱乃さんの問いにイリナは首を捻った。

 

「どちらかというと、彼ら────神器所有者の実験をしているような気がするの。……まぁ、ただの勘だから、合ってるかどうかはわからないんだけど……。この町以外にも他の勢力のところへ神器所有者を送り込んでいるのだから、強力な能力を持つ者が多いところにわざとしかけているんじゃないかしら」

 

「それは俺も思ってた。コイツラは俺達を攻略するために仕掛けてるんじゃないってな……。まあ、何を考えてるのか、その目的までは分からなかったんだけど……」

 

 これは俺もミッテルトもずっと感じていた違和感だ。

 何故、毎回特攻じみた攻撃をしてるのかという点に……。

 今までは確証がなかったけど、今日の戦いでハッキリと確信した。

 強者に兵をぶつけて、兵の力を引き上げるという戦略。

 俺は、この戦略に覚えがある。

 これはかつての“東の帝国”が行っていた戦略と全く同じことなんだ。

 神器所有者を追い込み、何を狙ってるか! そんなの一つしかない! 

 

「……劇的な変化」

 

 小猫ちゃんがぼそりと呟き、全員の顔が強ばった。

 どうやら皆も敵の作戦がわかってきたみたいだな。

 

「……英雄派の目的は、多分俺達に神器所有者をぶつけて禁手に至らせることなんだと思う」

 

「なるほど。確かに、あの影使いが魔法陣の向こうに消え去る前に見せた反応は……禁手のそれに似ているような気がするよ」

 

 俺は木場の意見に頷く。

 皇帝ルドラが帝国の強者を師匠にぶつけ、“聖人”に覚醒させようとしていたのと同じで、神器所有者を俺たちにぶつけ、一人でも多くの“禁手”の使い手を増やすことが目的なのだろう。

 あの影使いが見せた変化は“禁手化”だったってことか……。

 

「俺達は並の使い手からすれば充分脅威的と呼べる存在だ。戦うだけでも向こうからすれば、相当な試練になるだろうな……」

 

「……向こうからすれば、うちらは都合のいい経験値稼ぎのレア敵ってところっすかね? 面倒なこと思いつくっすね……」

 

「やり方としては強引で、雑とも言えるね」

 

 木場の言葉にイリナも頷く。

 

「何十人、何百人死んでも、一人が禁手に至ればいいって感じよね……。最低な発想よ……」

 

 全くだ。

 部下を駒程度にしか思ってない、“皇帝“ルドラみたいにロクなやつじゃなさそうだ。

 イリナの言葉に部長が肩をすくめる。

 

「わからないことだらけね。後日アザゼルに問いましょう。私達だけでもこれだけの意見が出るのだから、あちらも何かしらの思惑は感じ取っていると思うし」

 

 そうだな。

 アザゼル先生達上層部なら俺達よりも情報を持ってるだろうし、ここで話しても結論は出ないだろうしな。

 そういうわけで、今日は解散となった。

 俺は帰り支度をしていくなか、朱乃さんが鼻歌を歌っていた。

 すごく嬉しそうだけど、何か良いことでもあったのかな? 

 

「あら、朱乃。随分とご機嫌ね。S的な楽しみでもできたの?」

 

 部長の問いに朱乃さんは満面の笑みで答える。

 

「いえ、そうではないの。うふふ。明日ですもの。自然と笑みがこぼれてしまいますわ。デート。明日イッセー君は私の彼氏……やっとこの日がやって来ましたわ」

 

 あー、それか。

 どうやら朱乃さん、相当楽しみにしてたみたいだな……。 

 ……なんてことを考えた次の瞬間────女子部員の殺意の視線が俺に向いた! 

 怖っ!? 何かすげえ殺気立ってるんだけど!? 

 

「イッセー君、明日はよろしくお願いしますわ♪」

 

「え、ええ、俺の方こそよろしくお願いします!」

 

 皆の殺気を受けながら、俺は引き攣るような笑みを浮かべてそう答えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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朱乃さんとデートです

 イッセーside

 

 

 

 

 

 次の日。休日。

 俺は待ち合わせ場所であるコンビニの前にいた。

 一応、一緒に暮らしてるんだけど、準備に時間がかかるのと、雰囲気を出したいため、現地集合にしたらしい。

 しかし、いざデートとなると、やっぱり緊張するな。ミッテルトとのデートとはまるで違うし、チョードキドキしてきた! 

 ちなみに服はミッテルトのコーディネートだ。他者とのデートなのに、ミッテルトが色々とアドバイスしてくれた? だけど、そのお陰で結構いい感じに仕上がったと思う。

 待ち合わせ時間の午前十時になろうとした時、フリル付きの可愛らしいワンピースを着た朱乃さんが現れた。

 

「あ、朱乃さん……?」

 

「ごめんなさい、待たせちゃったかしら?」

 

「い、いえ……」

 

 俺は目をパチクリさせながら、胸を高鳴らせていた。

 朱乃さんは髪をおろして、年相応の女の子が着るようなかわいい服を着ていた! ブーツを履いた朱乃さん、初めて見たし! 

 てか、いつものようなお姉さま的な年上の女性が着てそうな落ち着いた服装を着てくるものだと思ってた。勝手なイメージだけど、そう思ってたんだ。

 実際、朱乃さんが部長と一緒に出掛けるときの私服もそんな感じだったしさ! 

 ところが! 今日の朱乃さんが着ている服は可愛い女子高生の服装といった感じのもの! 

 正直、俺と同学年か、年下に見えてもおかしくないほどだ! 

 いつもの朱乃さんは綺麗って感じだけど、今日は可愛く見える! 

 俺が朱乃さんの可愛さに見惚れていると、朱乃さんは不安そうに尋ねてくる。

 

「そ、そんなに見られると恥ずかしいわ。……今日の私、変?」

 

「すっごく可愛いです! 最高です!」

 

 不安げな朱乃さんの言葉に俺は首を大きく横に振る。

 俺の言葉を聞いて、朱乃さんは恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだった! 

 普段はあらあらうふふなお姉さまなのに、今日の朱乃さんは乙女すぎる! 

 ギャップがあって最高です! 

 

「今日イッセー君は一日私の彼氏ですわ。……イッセー、って呼んでもいい?」

 

 朱乃さんは恥ずかしそうに上目づかいでそんなことを訪ねてきた! 

 可愛すぎる! その可愛さは卑怯でしょう! 

 

「ど、どうぞ」

 

 俺も思いもよらない状況にドキドキしてしまい、そんなふうに答えることしかできなかった。

 朱乃さんもそれを聞いて顔をぱぁっと明るくさせた。

 

「やったぁ。ありがとう、イッセー」

 

 悦びに満ち満ちたその表情はとても可愛らしいものだった! 

 ヤバい! 表情一つが殺人級の破壊力だ! 

 俺は気を紛らわすため、少し周りを見渡すことにした。

 ────すると、俺の視界に紅髪が映った。

 

「ん?」

 

 既視感を感じてよく見れば、少し離れた電柱の陰に紅髪の女性がサングラスと帽子を被って、こちらをうかがっている。……あ、メガネをかけた金髪の方は涙目っぽい。それとレスラーの覆面から猫耳を出している小柄な少女。紙袋を被った怪しい奴! そして、マスクとサングラスが変質者感を出している黒髪の着物! その横で普段の格好の木場とミッテルトがこちらへ手で謝っていた。

 ……うん、部長と部員達だよね。あなた達、何やってんですか!? 変装して付いてきちゃったの!? 

 木場とミッテルト以外はどう見ても不審者なんですけど!? 

 ……も、もしかして、俺と朱乃さんのデートの盗み見するとかそんな感じ? 

 

『その通りっすよ』

 

 うおっ!? びっくりした! 

 ミッテルトが思念伝達で俺に語りかけてきやがる! 

 

『悪いっすね。部長達がどうしてもって言うんで……まあ、うちとしても、監視はしとこうと思ってたんすけど……』

 

 ど、どういうことだよ? 

 

『うちはデートは許可したっすけど、それ以上のことは許可してないっすからね。くれぐれも注意するっすよ……』

 

 は、はい。

 ミッテルトの言葉にはかなりの圧が感じられる。

 ここは逆らわない方が良さそうだ────そう考えていると、朱乃さんの方も皆にも気付いたみたいだ。

 

「あらあら、浮気調査にしては人数多すぎね」

 

 朱乃さんは部長達を見ながら小さく笑んでいた。

 そして、見せつけるかのように俺に身を寄せて腕を組んできた! 

 あー、朱乃さんの髪から良い香りがする。しかも、豊満な胸が腕に当たってる……。

 ああ、たまらん。

 

 バキッ

 

 鈍い音が後方からする。

 恐る恐る振り返ると────怒りに震えている様子の部長が電柱にヒビを入れていた! 

 ……怖い。

 しかも、どっかで既視感あるし……ああ、リムルが誰かといるときに隠れて見てるシオンさんだ。

 まあ、取り敢えず見なかったことにしよう。

 

「……取り敢えず、行きましょうか」

 

「ええ」

 

 こうして、俺と朱乃さんは街へと繰り出すのだった。

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 デートを始めて結構な時間が経った。

 その間、朱乃さんは終始年頃の女の子という感じだった。

 口調からも、いつもの「あらあら」「うふふ」が完全に消え去っているし……。

 

「美味しいわね。イッセー」

 

「はい。そうですね」

 

 朱乃さんはクレープを食べながら、俺と手を繋いでいる。

 繋ぎ方からも、俺を頼ってくれてる感じが伝わってきて、終始キュンとしてしまう! 

 ヤバイ! この人、とんでもなく可愛い! 

 普段の高貴な印象を見せる和風美人としての朱乃さんではなく、年頃の女の子といった感じの朱乃さんだ。

 こんな朱乃さんを見るのは初めてだ……。案外、こっちが素なのかもしれないな……。

 いつもの朱乃さんも十二分に男を魅了する素敵な女性だ! 

 でも、普段のお姉様な朱乃さんを知ってるからこそ、ギャップによる可愛らしさが凄まじすぎるぅぅ!! 

 

「イッセー、次はどこ行くの?」

 

「……あ、そうですね」

 

 危ない危ない! 

 余りの可愛さに意識がどっか行ってた……。

 今はデートを楽しまないと……。

 ……ん? あれは……

 

「あそこの水族館行きませんか? なんか、新オープンって書いてあるし……」

 

「うん」

 

 俺の言葉に朱乃さんは最高に可愛らしい笑顔で答える。

 駄目だ! 脳味噌が撃沈する! 可愛すぎるよ朱乃さん! 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「深海魚って変な顔の子が多いのね」

 

「でも、可愛らしくもありますね」

 

 水族館から出たばかりの朱乃さんは楽しそうに言った。

 久しぶりに町の水族館に来たけど、雰囲気があって良かったなぁ。

 “魔国”の水族館だと迫力はあるけど癒やしと呼ぶと何か違う気がするし……。

 まあ、あそこもあそこでいい所ではあるんだけどな。

 見ると朱乃さんも大満足しているようだった。

 ……それはさておき。

 

「········」

 

 いるな……。何やら凄まじいプレッシャーを放っている。

 先程から紅髪の追跡者様御一行がずっと追ってきてるんだよな……。

 ミッテルトはまだ許容してるらしいけど、紅髪の王様が特にヤバイ! もしかしたら、デート後に殺されてしまうのではないかと思うほどに……。

 朱乃さんも紅髪のご一行様を確認した。

 すると、何やら可愛いイタズラ笑顔を作り、俺の手を引っ張って走り出した! 

 おおっ! 何事ですか!? 

 振り向き様、朱乃さんは楽しそうに言った。

 

「リアスたちを撒いちゃいましょう!」

 

 なんと! そうきましたか! 

 逆らえるわけもなく、朱乃さんに引かれるがまま、俺も一緒に走り出す。

 

「あ! 待ちなさい!」

 

 部長達も俺達が逃げると知って、急いで駆け出したぞ! 

 しかも、“気闘法”で闘気を纏い、“瞬動法”の要領で駆けているからかなり速い! 

 だが、それは朱乃さんも同じだ! 

 この辺りはあまり来ないはずなのに、朱乃さんは迷うことなく街中を右に曲がり、左に曲がり、部長達を撒こうとしている! 

 数分走ったところで小路に入り、気配と魔力を遮断し、身を潜める。

 物陰から部長達が通り過ぎていくのを確認────ミッテルトは途中で目があったので気づいてるっぽいけど────した後、俺と朱乃さんは道路へ出ていく。

 

「うふふ、リアスを撒けたみたい」

 

「ミッテルトには気付かれてましたけどね」

 

 それにしても以外だ。あのミッテルトがデートを許したのもそうだし、俺達をこうして見逃すだなんて……。

 そんな事を考えていると、朱乃さんはクスクスと笑いだした。

 

「うふふ。実は、今日の服はミッテルトちゃんにオススメしてもらったのよ」

 

「そうなんですか!?」

 

「ええ。ミッテルトちゃんも正妻の座を渡すつもりはないけど、筋さえ通すならば問題ないってよく言ってますし、なんやかんやで私のことも認めてくれているのよ」

 

「········」

 

 ミッテルトは俺の夢────ハーレムを知った上で俺に付き合ってくれている。だから、俺がこうして他の女の子とデートをする時も、嫌な顔こそするけど、なんやかんやで認めてくれた。

 普通、ないだろ、そんなこと許す恋人なんて……。

 本当、俺には色々と勿体ない彼女だよな……。

 

「……ところでここはどの辺り……だ……?」

 

 俺はあたりを見渡して、現在地を確認する。

 ……すると、俺の視界には「休憩○円」「宿泊○円」の文字が書かれた看板があちらこちらにとびこんできた……。

 ……ここ、ラブホテルばっかりだぁぁぁぁぁぁっ!!!!! 

 こ、コレは大変なところに来てしまったぞ!? 

 ヤバイ! これは流石にマズすぎる! こんなところに来たなんてバレたら流石にミッテルトに殺される! 

 

「あ、朱乃さん! 流石にマズイから早く他のところに行こう!」

 

 早足に俺はその場を去ろうと朱乃さんの手を引くと、朱乃さんは立ち止まり、俺の服の端を摘んだ。

 

「あ、朱乃さん? は、早く……」

 

 振り返ると、朱乃さんは何やら緊張した様子で顔を最大限に真っ赤にしていた。朱乃さんはそのままモジモジしながら呟く。

 

「……いいよ」

 

「へ?」

 

 朱乃さんが何を言っているのか分からず、俺は聞き返してしまった。

 いいよって……え? どゆこと? 

 言葉の意味が分からず、フリーズする俺に、朱乃さんは意を決したように、真正面から潤んだ瞳で言った。

 

「……イッセーが入りたいなら、私、いいよ……。……だいじょうぶだから」

 

 ・・・・・・・。

 マ、マジかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああっ!? 

 え!? ほ、本当に!? マジで!? 良いんですか!? 

 い、いや待て! 落ち着け! 冷静になれ! 

 ま、まあ、朱乃さんだって疲れてるだろうし、休憩したくなることもあるだろう! 

 きっとそういう意味なんだろう……。

 

「……ううん、そういう意味じゃなくて……イッセーとなら、いいよ……」

 

「あ、朱乃さん……」

 

 そう言う朱乃さんはいつもの余裕ある表情ではなかった。

 おおお!? 朱乃さん! その反応、初々しいすぎるよ! 

 こ、これはもう行くしかないんじゃないのか!? 

 い、いやでも、ミッテルトにもデート以上のことは駄目って言われたし……いや、でも、さっきは見逃してくれたし……う〜ん、どうすれば!? 

 やるか、やらないか! 落ち着け俺! 冷静に考えろ! 

 思考加速をMAXにし、最大の決断を迫られる俺。すると、横から覚えのある気配の主が近づいてきた。

 

「まったく、昼間っから女を抱こうとは……中々やるのぅ、赤龍帝の小僧」

 

 聞き覚えのある声にふりむくと、そこには帽子を被ったラフな格好の爺さんがいた。

 背後にはガタイの良い男とパンツスーツを着た真面目そうなお姉さん。  

 見覚えがある────というか、あの爺さんとは何度か話したこともある! 繁華街とかにいる派手な服装の老人という感じだが、間違いない! 

 

「オーディンの爺さん!?」

 

 そう、現れたのは北欧の主神オーディンさんだ! 

 

「ほっほっほっ、久しいの赤龍帝の小僧。北の国からはるばる来たぞい」

 

「……いや、それはいいんですけど……何でここに?」

 

 別に日本に来てるのは問題ない。駒王町は今や三大勢力にとっても重要な場所だ。会談や打ち合わせの場所に選ばれても何ら問題はない。

 だが、ここはラブホテルばっかりのちょっとアレな場所だぞ! 何で来てるのこの人!? 

 

「オーディンさま! こ、このような場所をうろうろとされては困ります! か、神様なのですから、キチンとなさってください!」

 

 ほんとそれ。

 俺の思ったことを代弁するかのように、お姉さんが爺さんを叱りつける。

 この人は確か……鎧着てた側近のお姉さんだ。美人さんだけど、どこか苦労人の気配が漂っていたから覚えている。

 そんなお姉さんの言葉にオーディンさんは笑いながら答える。

 

「よいではないか、ロスヴァイセ。お主、勇者をもてなすヴァルキリーなんじゃから、こういう風景もよく見て覚えるんじゃな」

 

「どうせ、私は色気のないヴァルキリーですよ。あなたたちもお昼からこんなところにいちゃだめよ。ハイスクールの生徒でしょ? お家に戻って勉強しなさい勉強」

 

 なんだか爺さんだけでなく俺達まで叱られてしまった。

 でも、確かにおっしゃる通りで……何か、先生みたいだなこの人。

 はぁ……。すっかり朱乃さんとラブホテルに入るか決める雰囲気じゃなくなっちゃったな。

 無念っ! 

 仕方がないし、帰るか……そう想いながら、横を見ると朱乃が爺さんの付添らしいガタイの良い男性に詰め寄られていた。

 

「……あ、あなたは」

 

 朱乃さんは目を見開いて、驚いている。知り合い? 

 

「朱乃、これはどういうことだ?」

 

 男の方はキレ気味だ。声音に怒気が含まれている。

 す、すごい迫力だな。気配からするに堕天使か? 

 ……というか、この“妖気(オーラ)”の感じ、朱乃さんにそっくりだ……。……もしかしてこの人……!? 

 

「か、関係ないでしょ! そ、それよりもどうしてあなたがここにいるのよ!」

 

 朱乃さんは目つきを鋭くして、にらみ付けていた。

 そこには先ほどの乙女モードの雰囲気は微塵もない。

 

「それはいまはどうでもいい! とにかく、ここを離れろ。おまえにはまだ早い」

 

 朱乃の腕を掴み、強引に何処かへ連れて行こうとする! 

 

「いや! 離して!」

 

「お、落ち着いてください!」

 

 俺は二人の間に割って入り、堕天使の男性を制す。

 

「むっ! 何だ君は!」

 

 堕天使の男性は鋭い瞳で俺を射抜く。流石に凄い迫力だけど、朱乃さんの気持ちを考えると、ここは穏便に済ませた方がいい。

 

「俺、朱乃さんの後輩の兵藤一誠っていいます。今回、ここにいたのは……えっと、ちょっとした手違いで、少なくともそう云うことをするために来たってわけじゃないんで、とにかく落ち着いてください! 取り敢えず、今は朱乃さんも動揺してるし、俺も謝ります。申し訳ありませんでした────バラキエルさん」

 

 男────バラキエルさんはそれを聞いてひとまず朱乃さんを開放する。

 だが、その視線はずっと俺に向けられていた。



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北の主神の来日です

 イッセーside

 

 

 

 

 

 

「ほっほっほ、というわけで訪日したぞい」

 

 兵藤家の最上階にあるVIPルームでオーディンの爺さんが楽しそうに笑っている。

 なんでも日本神話の方に話があって、そのついででこの街に来たみたい。

 この部屋にはグレモリー眷属が全員集合している。アザゼル先生もいる。この人は最近忙しかったらしく、来るのは久々だ。

 この町に来た理由としては、安全面を考慮してのこと。下手なところよりも、悪魔、天使、堕天使の三大勢力の協力体制が強いこの町にいた方が安全らしい。

 取り敢えず、立ち話も何だからと俺の家に来ることになったのだが、家に帰ったら部長から頬を引張られた。後でお話があるそうです。そんな部長もすぐに状況に気付いて慌てて準備をしてたけど……。

 ミッテルトの方は、見た感じなんともないけど、朱乃さんを少し心配そうにして見つめている。

 ……そして、朱乃さんはというと、お父さんと邂逅してから不機嫌になっている。今は前に出ることもなく、いつものニコニコ笑顔さえ止めて、イライラしている感じだ。

 朱乃さんのお父さん────バラキエルさんもこの場にいるけど、朱乃さんは視線すら交わさない。ずっと無視している。

 バラキエルさんの話は以前、アザゼル先生に少しだけ聞いたことがある。

 武人気質で堅物らしい。堕天使の中でも先生と肩を並べる力を持ち、一発の攻撃力なら堕天使随一だそうだ。

 実際、かなり強い。EPも60万を超えてるし、覚醒前のコカビエルより強い。

 多分、タンニーンのおっさんとも互角に渡り合うことができるだろう。

 

「どうぞ、お茶です」

 

 動かない朱乃さんに代わり、現在は部長が応対している。

 

「かまわんでいいぞい。しかし、相変わらずデカいのぅ。そっちもデカいのぅ」

 

 ……このクソジジイは……。部長と朱乃さんのおっぱいを交互に観察してニヤけてやがる! 

 ホントに神様なんだよなこの人!? 

 

「もう! オーディンさまったら、いやらしい目線を送っちゃダメです! こちらは魔王ルシファーさまの妹君なのですよ!」

 

 ヴァルキリーの人がオーディンの爺さんの頭をハリセンで叩いていた。

 良いツッコミだ! なんていうか、師匠をツッコむリムルを彷彿とさせるツッコミぶりだ。

 ハリセン攻撃を食らったオーディンの爺さんは半目になりながら頭を擦っている。

 

「まったく、堅いのぉ。サーゼクスの妹といえばべっぴんさんでグラマーじゃからな、それりゃ、わしだって乳ぐらいまた見たくもなるわい。と、こやつはワシのお付きヴァルキリー。名は────」

 

「ロスヴァイセと申します。日本にいる間、お世話になります。以後、お見知りおきを」

 

 爺さんの紹介でロスヴァイセさんは挨拶をする。

 冥界の時のような鎧を着てないから印象が違うけど、美人だよなぁ。年同じくらいかな? 

 

『相棒よりは年下だろう。相棒は実年齢────』

 

 黙らっしゃい! そもそも聖人は精神生命体だから年取らないんだよ! 俺は精神はともかく肉体は10代なんだ! 青春できる年頃なんだ! 言葉に気をつけろよドライグ!! 

 

『……必死だな』

 

「ちなみに彼氏いない歴=年齢の生娘ヴァルキリーじゃ」

 

 爺さんがいやらしい顔つきで追加情報をくれる。

 するとロスヴァイセさんは酷く狼狽し、泣き出した。

 

「そ、そ、それは関係ないじゃないですかぁぁぁっ! わ、私だって、好きで今まで彼氏ができなかったわけじゃないんですからね! 好きで処女なわけじゃないじゃなぁぁぁぁぁいっ! うぅぅっ!」

 

 ロスヴァイセさんはその場に崩れ、床を叩きだした。

 ……なんだろう。凄え哀れに感じる。泣いてる姿からはなんか哀愁が漂っている。

 クールビューティーと思ってたけど、ギャップが激しい人みたい。

 

「まあ、戦乙女業界も厳しいんじゃよ。器量良しでも中々芽吹かないものも多いのぅ。最近では、英雄の数も減ったし、経費削減でヴァルキリー部署が縮小傾向での、此奴もわしのお付きになるまで職場の隅っこにいたのじゃよ」

 

 な、なるほど……元々は窓際だったってことか。

 北欧神話も苦労してるんだな。

 

「爺さんが日本にいる間、俺達で護衛することになっている。バラキエルは堕天使側のバックアップ要因だ」

 

「よろしく頼む」

 

 と、言葉少なめにバラキエルさんがあいさつをする。

 

「爺さん、来日するのにはちょっと早すぎたんじゃないか? 俺が聞いていた日程はもう少し先だったはずだが……。来日の目的は日本の神々と話しをつけたいからだろう? ミカエルとサーゼクスが仲介で、俺が会議に同席と言う手筈のはずだが?」

 

 アザゼル先生が茶を飲みつつ訊いた。

 

「まあの。実は我が国の内情で少々厄介事……というよりも厄介なもんにわしのやり方を非難されておってな。事を起こされる前に早めに行動しておこうと思ってのぉ。直ぐにでも日本の神々と話をしておきたいんじゃよ。主神の天照と今後のためにも早めに交流しようと思ってのぅ」

 

 爺さんは長い白ひげをさすりながら嘆息していた。

 厄介事……か。何かはわからないけど、どこの勢力も厄介事を抱えてるんだな……。

 

「厄介事って、ヴァン神族にでも狙われたクチか? 頼むから“神々の黄昏(ラグナロク)”を勝手に起こさないでくれよ、爺さん」

 

 先生が皮肉げに笑うが……専門用語ばっかりでさっぱり分からん。

 話の流れからして、爺さんの和平に反対する神もいるって感じかな? 

 

「ヴァン神族はどうでもいいんじゃがな……。ま、この話をしていても仕方ないの。話は変わるが、アザゼル坊。どうも“禍の団”は“禁手化”できる使い手を増やしているようじゃな。怖いのぉ。あれは稀有な現象と聞いていたんじゃが?」

 

 ────っ! 

 俺達眷属は皆驚いて顔を見合わせていた。

 いきなり、その話になるか! やっぱり、俺達の考えは正しかったってことか! 

 

「ああ、レアだぜ。だが、どっかのバカがてっとり早く、それでいて怖ろしくわかりやすい強引な方法でレアな現象を乱発させようとしているのさ。もういくつか報告が挙がっている。神器に詳しい者ならば一度は思いつくが、実行すると確実に批判を喰らうため、やれなかったことさ」

 

「……それって、やっぱり……」

 

 俺の言葉に先生は頷く。

 

「リアス達のでおおむね合っている。下手な鉄砲でも数打ちゃ当たる作戦だよ。まず、世界中から神器を持つ人間を無理矢理かき集める。ほとんど拉致だ。そして、洗脳。次に強者が集う場所────超常の存在が住まう重要拠点に神器を持つ者を送る。そして、禁手に至る者が出るまで続ける。至ったら、強制的に魔法陣で帰還させるってな。おまえらが対峙した影使いもおそらくは禁手に至ったか、至りかけたんだろうな」

 

 やっぱりあの影使いは禁手になろうとしていたのか……。胸糞悪いやり方だな。

 先生は話しを続ける。

 

「これらのことはどの勢力も、思いついたとしても実際にはやれはしない。仮に協定を結ぶ前の俺が悪魔と天使の拠点に向かって同じことをすれば批判を受けると共に戦争開始の秒読み段階に発展する。自分達はそれを望んでいなかった。他の勢力だって同じ考えだろうさ。だが、奴らはテロリストだからこそそれをやりやがった」

 

 東の帝国と同じ戦略だな。アイツラは侵略国家であり、誰かがやり方を批判しようものなら力で捻じ伏せるため、そもそも批判するような勢力とかがなかったけど、この世界では数多の拮抗した勢力がいるからこそ、そういった手が使われない。

 奴らはそのラインを容易く踏み越えてきたってことか……。

 厄介な奴らだな。これからもどんな手を使ってくるか分かったもんじゃない。

 恐らく、他の勢力では体面を気にしてできないであろう卑怯な手もバンバン使ってくるだろうな。

 正しく、テロリスト集団ならではの発想というわけだ。

 

「それをやっている連中はどういう者なのですか?」

 

 木場の問いかけに先生が続ける。

 

「英雄派のメンバーは伝説の勇者や英雄さまの子孫が集まっていらっしゃる。身体能力は天使や悪魔にひけを取らないだろう。さらに神器や伝説の武具を所有。その上、神器が禁手に至っている上に、神をも倒せる力を持つ神滅具だと倍プッシュなんてものじゃすまなくなるわけだ。報告では、英雄派はオーフィスの蛇に手を出さない傾向が強いようだから、底上げにかんしてはまだわからんがな」

 

 おいおい、英雄や勇者がそんな非人道的なことをしても良いのかよ? 英雄の意味分かってやってんのか? 

 英雄派というのは、グランベルやルドラみたいに、変質した存在ってことなのか? ……いや、それにしたって若すぎるか……。

 

「禁手使いを増やして何をしでかすか……それが問題じゃの」

 

 オーディンの爺さんが茶を啜りながら言う。

 言ってることは深刻だけど、顔は普段通りだ。けっこう楽天家なんだな。

 まあ、この人級になると、並みの神器の“禁手”じゃ歯が立たないだろうし、この人の余裕も当たり前かもな。

 もし、この人を倒すとなると、“神滅具(ロンギヌス)”の禁手でもなければ難しいだろうし……。

 

「まあ、まだ調査中の事柄だ。ここでどうこう言っても始まらん。取り敢えず、爺さん。どこか行きたいところはあるか?」

 

 実際、今考えても対策できるわけじゃないしな。

 英雄派の件はひとまず保留にした先生が爺さんに尋ねる。

 すると、爺さんはいやらしい顔つきで五指をわしゃわしゃさせた。

 

「おっぱいパブに行きたいのぉ!」

 

 ……なぬ!? 

 

「ハッハッハッ、流石は北欧の主神殿! 見るところが違いますなぁ! よっしゃ、いっちょそこまで行きますか! 俺んところの若い娘っこどもがこの町でVIP用の店を開いたんだよ。すぐそこだ。そこに招待しちゃうぜ!」

 

「うほほほほほほっ! さっすが、アザゼル坊じゃ! 分かっとるのぉ! デカい胸のをしこたま用意してくれ! たくさん揉むぞぃ!」

 

 な、なんですとぉぉぉぉっ! 

 

「ついてこいクソジジィ! おいでませ、和の国日本へ! 着物の帯くるくるするか? あれは日本に来たら一度はやっとくべきだぞ! 和の心を教えてやるぜ!」

 

「たまらんのー、たまらんのー!」

 

 二人の様子に部長も額に手をやって眉をしかめてる。二人は盛り上がって、そのまま部屋を退室していった。

 なんつーエロ首脳陣だ! 羨ましすぎる! 俺も行きたい!! 

 

「しばくっすよ?」

 

 ミッテルトのにこやかとした表情が怖い……どうやら俺の考えが見透かされているようだな。

 そんな俺を見て、部長達は溜息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「朱乃。話し合いをしたいのだ」

 

 取り敢えず、お茶でも持ってこようと一階のキッチンに行っていた俺は最上階に戻る途中、話し声が聞こえてきた。

 そちらへ足を運んでみると、朱乃さんとバラキエルさんが何やらもめていた。

 

「気安く名前を呼ばないで」

 

 朱乃さんが凄く不機嫌そうな表情をしながら言い放つ。

 その声音は今までにないくらい冷たく、鋭い。目線だけで射竦められるほどに……。

 バラキエルは多少は怯むものの、目線を合わせ、静かに告げる。

 

「……赤龍帝と逢い引きをしていたのはどういうことだ?」

 

 俺との問題かよ! 先程の話題を出しますか! 

 ま、まあそれはそうだよな……。弁明はしたけど、すぐ目の前でラブホテルに入る寸前といったところだったんだから、いかに言い繕うとも信じられるわけがない! 

 盗み聞きするのはどうかと思ったけど、俺が関与してるのなら、去るのも気になってしまうな……。

 

「私の勝手でしょう? なぜ、あなたにとやかく言われなければならないのかしら?」

 

「噂は聞いている。お、女のち、乳房を糧とするかなり破廉恥なドラゴンだとな。ち、乳龍帝とかいう二つ名があるというではないか」

 

 バラキエルさんが勘違いしとる────!? 

 乳を糧に……? そんな馬鹿な! 何やら俺について、とんでもない噂が流れてるみたいだな……。そんな噂どこからが流れてるんですか!? 

 ……いや、心当たりはある────というか、一つしかない! あのアホ先生だ! 

 堕天使の間で流れてるのなら、あの人しかいない! 間違いない! 

 

『……うぅぅ。相棒、勘弁してくれぇぇぇっ。俺をどこまでいびるつもりなんだ……』

 

 いや、俺のせいじゃない…………うん、そうとも言い切れないかも。

 ま、まあ、何と言うか……ごめんね。ドライグ。

 

『……う、うおおおんっ! うおおおんっ!』

 

 な、泣くなドライグ! 謝るからさ! 

 

「心配なのだ。おまえが……卑猥な目にあっているのではないかと」

 

 あー、なるほど。父親らしい心配だ。

 先程から思ってたけど、やっぱりどう見ても悪い人には見えないんだよなぁ、バラキエルさん。

 言葉からは心の底から朱乃さんの身を案じてるというのがよく伝わってくる。

 ……だけど、それが朱乃さんには伝わっていない様子だ。

 普通に反抗期……なんて可愛らしいものでもなさそうだし、二人の間に何があったんだ? 

 

「彼をそんな風に言わないで。イッセー君は……スケベだけれど、優しくて頼りがいのある人だわ。噂や風聞で人を判断するのね。……彼のことを知らないくせに噂だけで判断するなんて、最低だわ。やっぱり、貴方のことを許すなんて……」

 

「私は父として────」

 

 そこまで言いかけたバラキエルさんに朱乃さんは大声で言い放った。

 

 

 

「父親顔しないでよっ! 母さまを見殺しにしたのは、貴方じゃない! 私は貴方を絶対に許さない!」

 

 ……母さまを見殺し? どういうことだ? 

 

「・・・・・・・」

 

 バラキエルさんはその一言に黙ってしまう。

 と、ここで物陰に隠れていた俺と朱乃さんの視線がふいにあってしまう。

 

「イッセーくん……聞いていたの?」

 

「す、スミマセン。お茶を持ってこうとしてたら聞こえてきちゃって……」 

 

 バレてしまった。

 まあ、完全に立ち聞きしてた俺が悪いんだけど……。

 朱乃さんの話を聞いていたら、つい考え込んでしまった。

 まぁ、ここは素直に謝るしかないか。

 そう思いながら、俺が出ていくと、バラキエルさんは激怒した。

 

「ぬっ! 男が盗み聞きなど! 破廉恥な! やはり、娘の乳を狙うという噂は本当か! そうはさせんぞ! 娘の乳は食わせんぞ! 赤龍帝っ!!」

 

 いや、どういう噂が広まってるんだよ!? 

 マジで恨むぞ……アザゼル先生……。

 

「あ、逢い引きなど認めん!!」

 

 バチッ! バチッ! 

 

 バラキエルさんが雷光を光らせる! 

 完全に誤解されてるぅぅっ!? ヤバイ! この人の攻撃が今この場で放たれたら、どう足掻いても家や近所に被害が出るぞ! その目付きは歴戦の戦士のそれ! 激昂しながらも油断せずに俺を見据えていらっしゃる! もしかしたら、歴代最強の赤龍帝の話も聞いてるのかもしれない! 

 

 バッ

 

 俺が結界でなんとか被害を軽減できないかを思考していると、朱乃さんが俺とバラキエルさんの間に入り、俺を庇うように抱き締めた。

 

「彼に触らないで。私からこの人を取らないで。今の私には彼が必要なのよ……。だから、ここから消えて! あなたなんて私の父親じゃない!」

 

 ……朱乃さんの叫び。

 それを聞いて、バラキエルさんは雷光を止め、瞑目する。

 

「……すまん」

 

 それだけを言って、バラキエルさんはこの場を去ってしまった。

 あれほどガタイのいい人の背中がとても小さく、そして寂しそうに見えた。

 

「朱乃さん……」

 

 俺をぎゅっと抱き締める朱乃さんはなんとも言えない感情を含みながら、震える声で言った。

 

「お願い。何も言わないで。……少しの間、このままでいて。……お願い、イッセー」

 

 その姿は痛々しくて、見てられないほどだった。

 俺はそんな朱乃さんを優しく抱きしめるのだった。



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おっぱいドラゴンのお仕事です

 イッセーside

 

 

 

 

 

 オーディンの爺さんの訪問の次の日。

 俺達グレモリー眷属は グレモリー家主催のイベントに主役として参加していた。

 

「はい、ありがとう」

 

 そのイベントとは握手とサイン会だ。

 子供一人一人にサイン色紙を渡して、握手をする。子供たちは俺のサインを嬉しそうに受け取り、握手をすると満面の笑みになる。

 

「おっぱいドラゴン! 頑張ってね!」

 

 この言葉がオレの心に凄く響く! この言葉が聞けただけで、イベントに参加して良かったと思えるな! 

 

「あ! スイッチ姫だ!」

 

「きゃっ!?」

 

 俺の横で同じくサインと握手をしていた部長の小さな悲鳴があがる。

 悪戯小僧が部長の乳をつついてるみたい。

 グヌヌ……許せん! 部長のおっぱいをつつくだなんて! 

 ……だけど、ここで俺が大声で怒っても大人げないよな……おっと? 

 

「コラ! やめるっすよ。初対面でこんな事するのは失礼っすからね」

 

 ここでフォールン・レディの格好をしたミッテルトが悪戯小僧に注意をする。

 その言葉に悪戯小僧も反省したらしく、謝ってるようだ。

 ちらっと木場の方を見ると女の子がすげー並んでる。うら羨ましすぎるっ!! 

 木場も番組内では敵組織の幹部“ダークネスナイト・ファング”となっていた。凛々しい鎧姿が中々どうして様になっている。

 いや、今の現状に文句があるわけではない。子供達にヒーローとして慕われるのも嬉しいしね! 

 ……でも、あれこそが俺の本来望んでいた姿なんだよ! 俺だって女の子にキャーキャー言われたいのにぃぃっ!! 

 いいもん! 元々コンセプトから女子ウケするだなんて思ってなかったしな! どうせ俺はおっぱいドラゴンなんだよ! 

 

『……そうか。“おっぱいドラゴン”の名はここまで広がってるのか……ハァ……』

 

 ドライグが何やら涙を流し始めたが、俺はどうすることもできないため、取り敢えず別の方向を向く。

 そちらでは、小猫ちゃんも今は獸ルックの衣装を着て握手をしていた。

 獣ルックのラブリーな姿だ。大きなお友達がたくさん並んでいる。

 小猫ちゃんも“ヘルキャットちゃん”としておっぱいドラゴンの味方役となっていた。

 小猫ちゃん、かなり丁寧に応対してるな。プロみたいだ。

 

「そろそろ時間だね」

 

「お、そうだな」

 

 木場の言葉に俺は時計を見る。

 既にサイン会の時刻は過ぎてるみたいだ。

 俺は最後の子供にサインと握手をして、楽屋のテントに戻るのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

「ふぅ〜、中々疲れるものだな」

 

「いつもとは違った緊張感があるっすね」

 

 イベントも終わり、俺は鎧を解除して椅子に腰掛ける。

 別に鎧状態が疲れる訳じゃないけど、子供の夢を壊さないように気を使ったりしてたからな……戦いとはまた違う緊張感があったな。

 見ると、皆もかなり疲れてるみたい。

 そこへスタッフが近づいてきた。

 

「イッセーさま、お疲れさまですわ」

 

 タオルを持ってきてくれたのは縦ロールヘアが特徴的なお嬢様────ライザーの妹であるレイヴェル・フェニックスだ。

 

「おー、レイヴェル。ありがとな」

 

 俺はタオルを受け取り、汗を拭く。

 なんでもレイヴェルは今回のイベントのことを知ってアシスタントを自ら申し出てきたのだという。

 俺がお礼を言うと、レイヴェルは慌てたように喋りだす。

 

「こ、これも修行の一環ですわ! 冥界の子供達に夢を与えることも立派なお仕事だと思えるからこそ、お手伝いをしてるのです! べ、別にイッセー様のためというわけではありませんわ!」

 

 なんか、凄く必死だな……。

 なんの修行かはよく分からないけど、凄く真剣に取り組んでくれているのはよくわかった。

 この娘はかなり真面目なんだな。最初に出会った時は、高飛車でいけ好かないお嬢様って印象だったけど、ここ最近接することで随分と認識が変わったよ。

 真面目で努力家でいい子だし、きっと将来は大成するだろうな。

 

「しかし、子供ってやっぱりいいものだよな。子供達に夢を与える仕事も悪くないな」 

 

「はい。子供達は皆イッセー様に夢中でしたし、見ててとても素晴らしい仕事だと思いますわ」

 

 教師として接してても思ったけど、子供はどの種族も変わらない。無邪気で可愛いものだ。

 さっきも小さな手で一生懸命握手しようとする子供もいたし、この子達の夢を真剣に守らなくちゃって感じたな。

 どこまでできるかわからないけど、おっぱいドラゴンの仕事も悪くはないかもしれない。もう少し続けてみようかな……。

 

「イッセー、そろそろ人間界に帰るわよ」

 

 部長が楽屋テントへ入ってきた。

 

「確か、オーディン様の護衛でしたっけ?」

 

 もうそんな時間か。今日はこの後、オーディンの爺さんの護衛だったな。

 あの爺さん、来日してから無茶な注文ばかりで面倒くさいんだよな……。キャバクラ行くわ、おっぱいパブにも行くわ、道端のお姉さんをナンパするわでやりたい放題! 正直かなり疲れる! 

 神様ってなんだっけ? 

 

「レイヴェルもお疲れ様。今日はありがとう」

 

「これ、お土産っす。今日は本当に助かったっすよ」 

 

「い、いえ、勉強のためですから」

 

 部長とミッテルトの言葉に照れながらも、お土産を受け取る。

 

「ありがとな、レイヴェル。また今度」

 

「は、はい。イベントの時は呼んでください。わ、私でよろしければ手を貸して差し上げますから」

 

 俺はレイヴェルと握手を交わした後、部長達と共に人間界に帰っていった。

 握手イベント……縁があったらまたやろうかな。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 オーディンの爺さんの日本観光につきあわされた後、俺と木場、ギャスパーは我が家の地下の訓練室にいた。

 

「行くよ! イッセー君!」

 

 木場がそう言うやいなや、騎士の力でジグザグに踏み込み、俺に急接近した。

 なかなかの瞬発力だ。以前よりも速くなってるみたいだな。でも……

 

「甘い!」

 

 ギィィィン! 

 

 俺はアスカロンを握り締め、木場の聖魔剣を容易く受け止めた。

 

 ギィン! ギィン! ギィィィン! 

 

 木場は縦横無尽に飛び回り、俺から隙を見出そうとしている。だが、この程度ならば問題はない。

 俺は一歩も動くことなく木場の斬撃の全てを受けきってみせた! 

 

「流石だね……今の僕の剣では勝てないか……」

 

「いや、そんなことないぞ。現に純粋な剣術ならお前のほうが上だと思うし」

 

 俺は木場を吹き飛ばしながら呟く。

 実際、木場の剣術は俺を超えている。剣術は専門ではないとはいえ、一応俺も“朧流”を納めた身だ。少なくとも、並みの剣士相手なら剣一本で圧倒できる自信がある。

 今、木場を追い込んでいるのは剣術というよりは肉体スペックのゴリ押しという言葉が相応しい。木場の剣を単純に目で見切って受け止めてるだけだからな。

 純粋な剣術なら間違いなく木場の方が上だと思う。

 

「炎の聖魔剣!」

 

 ゴォォォッ!! 

 

 木場は炎を帯びた聖魔剣を創り出すと、その炎を俺に向かって放ってきた────と見せかけて、本命は……。

 

「下だな!」

 

「っ!?」

 

 俺は剣を回転させ、炎と()()()()()()()()を同時に切り裂いた。

 木場は炎の聖魔剣を出すと同時に手のひらサイズの氷の聖魔剣を創り出し、それを床に突き刺すことで俺を凍らせようとしていたのだ。

 巨大な炎で視界を遮り、本命は床下の氷……随分と嫌らしい手を使うようになったな。

 

「まだだよ!」

 

 おっと? 俺が炎と氷のを切り裂く傍ら、木場は雷を帯びた聖魔剣を創り出し、俺の懐まで接近していた。俺が氷をも防ぐことすら織り込み済みか……だが! 

 

「甘い!」

 

 俺は木場の剣を指で摘み、剣を封じる。雷を帯びていようが、この程度ならば腕にオーラを纏わせるだけで十分対処可能だ。

 まあ、多少はビリビリくるけど……。

 

「そう来ると思ったよ!」

 

「ん? ────うおっ!?」

 

 ガキィン! 

 

 剣を封じられた木場はなんと、足から聖魔剣を生やし、俺に蹴りを入れようとしてきた! 

 俺は慌てて木場の足の剣を口で止める! びっくりした! まさか、こんなところから剣が出るとは思わなかった! 

 凄い! ワール○トリガーのス○ーピオンみたい! 

 

「歯で!?」

 

 俺は木場が驚いている隙に掌打を叩き込もうとする! 

 手は塞がっており、片足を俺が剣ごと口で掴んでいる? ため、木場は反応することができない! 

 木場が俺の掌打に対応しようと柄頭を巨大化させ、盾のようにしようとする! ────瞬間

 

 ビィ────! 

 

 けたたましい音が鳴り響く。

 

「そ、そこまでですぅ! 制限時間が来ましたぁ!」

 

 ギャスパーがストップウォッチを持ってぴょんぴょん飛び跳ねる。

 俺はそれを見て苦笑しながら手を引いた。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

「今回は行けると思ったんだけどね……」

 

「実際、足から剣を生やすのはいい案だったと思うぜ。正直俺もビックリしたよ」

 

「あれはイッセー君の漫画から取り入れたんだけど、それなら編み出した甲斐があったよ」

 

 あ、本当にワールド○リガーだったのね……。

 スポーツ飲料を飲みながら、俺達はギャスパーの修行風景を眺めていた。

 先生が用意した小型ロボットを目で停める練習。中々面白いよな。

 この地下特訓施設は中々頑丈で、少なくとも素の俺の力にならば十分耐えられそうな作りになっている。魔王であるアジュカさんが設計したと聞いてるけど、これは相当なものだな。

 俺の力に耐えられるってことは、魔王級の力にも耐えられるってことだろうし……。

 

「おー、やってるな」

 

 そこへ第三者の声が。振り向くと、そこには弁当箱を持ったアザゼル先生がいた。

 

「ほれ、差し入れだ。女子部員の特製おにぎりだ」

 

「マジですか!? やった!」

 

 俺達はその言葉に喜びながら、早速おにぎりを口の中に頬張る! 旨い! これはアーシアが握ったやつだな! 優しい味だ! ん? これはミッテルトかな? 塩加減が半端なくイイ! 

 アザゼル先生は座り込むと、何やら怪しい笑みを浮かべながら、何かを取り出す。

 

「……な、なんですか? これ?」

 

 先生が出したのは小さな人形だ。

 ……何だろう。ハッ○ーセットのおもちゃみたいに少し歪な感じがする。

 

「“乳龍帝おっぱいドラゴン”と冥界のハンバーガーチェーン店とのコラボ商品。お子様セットを買うと付いてくるやつだ。こっちがスイッチ姫とフォールン・レディの人形な」

 

 いや、マジでハッピー○ットかい!! 

 部長とミッテルトの人形はともかく、俺の人形は異様な雰囲気を感じる。

 何ていうか……あれだ。サ○ケの飛び跳ねる玩具を思い出すデザインだ。部長とミッテルトの人形はとても精巧に作られてるのに……こっちも同じくらい精巧に作ってほしかったな……。

 因みに部長とミッテルトの人形は青髪の職人が作ったらしい。

 胸の部分をつつくと部長&ミッテルトがボイス付きで『イヤ~ン』と鳴り響くギミックが仕込んである。

 凄えな! 俺もほしい! 

 

「ちなみに、ミッテルトにも見せたんだが、凄え憤慨しながら何処かに行っちまってな……何か気に入らなかったのかね……?」

 

 ま、まあミッテルトは嫌がりそうだな。

 多分、これを作った人がいるであろう、あの屋敷に単身特攻しにいったのだろう。

 俺が苦笑いをしていると、アザゼル先生は一転して真剣な表情になる。

 

「朱乃のこと。お前に頼んでいいか?」

 

 ────っ!? 

 突然のことに俺は目を見開く。そんな俺の反応など意にせずアザゼル先生は続ける。

 

「わかってるとは思うが、朱乃はバラキエル────堕天使が嫌いだ。今回、バラキエルが来たことで俺の話も聞かなくなると思う。そうなると、アイツとまともに話せる男はお前しかいなくなるんだ」

 

「それはいいですけど……朱乃さんはそもそも何であんなにお父さんを嫌ってるんですか?」

 

「聞きたいか? 別に話してもいいが……俺から聞いたんじゃ、堕天使の総督としてバラキエルを擁護するような話ぶりになっちまうだろうな。聞きたきゃサーゼクスかグレイフィアだな」

 

 確かに、あの二人ならば客観的な視点から事情を話してくれるだろう。

 次会う機会があったら聞いたほうが良さそうだな。

 

「アイツと暮らしてでわかってるとは思うが、朱乃は精神的な面で弱いところがある。普段は学園生徒憧れのお嬢様だが、メッキが外れると年相応の娘だ」

 

「……はい。わかります」

 

 朱乃さんと関わる前は俺もそう思ってたけど、今の印象はまるで違う。

 朱乃さんの本質はどこにでもいる普通の女の子なんだと思う。

 

「正直、お前は隠し事が多い。いつまで経っても自分のことを話そうとしねえしな」

 

 ウグッ!? 

 ま、まあそうなんだけど、真正面から言われると結構刺さるな。

 先生は俺の反応に苦笑しながらも肩に手を置き、憂いのある目で言う。

 

「だが、俺はそういうところも引っ括めて、お前を気に入ってる。俺だけでなく、朱乃もそうさ。お前の前で年相応のツラを見せた時はお前がなんとかしてやれ」

 

「な、なんとかって……」

 

「男の甲斐性が試されるぞ。なーに、抱きしめてキスのひとつでもしてやればいいさ」

 

 い、いや……そんなことをすればミッテルトに殺されかねないのですが……。

 

「な〜に、大丈夫だろ。ミッテルトもお前の性格わかってて付き合ってるんだし、そもそも本人が言ってることだ。筋さえ通せば問題ないだろうよ」

 

 う〜む、本当か? 

 まあ、いいや。先生がそういうのならば取り敢えず信じよう。

 俺はそう想いながら、再度おにぎりを頬張るのだった。



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悪神襲来です

 イッセーside

 

 

 

 

 

「日本のヤマトナデシコはいいのぅ。ゲイシャガール最高じゃ」

 

「それはよかったっすね」

 

 オーディンの爺さんが来日して数日が経つ。

 俺達はスレイプニルという空飛ぶ馬が引く馬車に乗っていた。

 俺とミッテルトは爺さんと向かい合う形で座っており、外にはイリナ、ゼノヴィア、木場、バラキエルさんが護衛として並走している。

 はぁ、本当に面倒くさい。

 別にいいんだけどね。遊園地や高級寿司屋みたいな場所に行けたのは楽しかったしさ。

 だが、未成年に護衛任せといて未成年厳禁な場所行くのは流石にどうかと思うんだよ! しかも、俺達が怒ってもどこ吹く風で誤魔化しやがるし、本当に面倒くさい! 

 

「オーディン様! もうすぐ日本神話の神々との会談なんですから、旅行気分は収めください! このままでは、帰国したときに他の方々から怒られますよ!」

 

 ロスヴァイセさんもブチ切れてるし……どうやら我慢の限界みたいだな。

 

「大丈夫じゃよ。日本神話の天照はこの程度じゃ怒らんよ。寧ろ、国を褒められたことを喜ぶじゃろて。お主はもう少しリラックスしたらどうじゃ? そんなんだから男の一人もできんのじゃよ」

 

「か、彼氏がいないのは関係ないでしょう! 好きで独り身してるわけじゃないですからぁぁぁ!」

 

 あー、また涙目になったよ。本当に面倒くさい。

 早く帰ってくれないかな……。

 

 ガクン! 

 

 ヒヒィィィィィィィン!! 

 

「────っ!?」

 

 突然馬車が止まり、急停止する! 

 皆、不意の出来事に体制を崩していた。

 

「何事ですか!? まさか、テロ!?」

 

「わからん。だが、こういう時は大抵ろくでもないことが起こるぞ」

 

 俺は急いで外に出て、下手人の姿を確認する。

 外には既に、バラキエルさん達が臨戦態勢に入って敵を囲んでいる。

 前方には若い男性らしき者が浮遊している。目つきの悪いイケメンだ。

 こいつ……結構強いな。素で“超級覚醒者(ミリオンクラス)”に至ってる実力者だ。立ち振る舞いも“旧魔王”連中と違い、隙がない。

 気になるのはオーラの質だ。どことなく、オーディンの爺さんに近い感じがする。何より、驚いたようにしてるロスヴァイセさんの表情を見るに……

 

「……北欧の神様か何かか?」

 

 俺の言葉を聞いた男はマントをバッと広げ、高らかに喋りだした。

 

「はっじめまして、諸君! 我こそは北欧の悪神! ロキだ!」

 

 悪神……悪い神様ってことか? 

 

『その認識で問題ない。ロキは北欧の悪神と謳われる狡猾の神だ』

 

「狡猾の神様……そんな奴が何しに来たんだ?」

 

 俺の言葉にロキは腕を組みながら、口を開く。

 

「いやなに、我らが主神が我ら以外の神話体系と和平を結ぼうとしてることがどうにも苦痛でね。邪魔しに来た。滅ぼす……もしくは隷属させるのならばともかく、和平などと生ぬるいことをするなど……」

 

 悪意全開! 凄い物言いだな! 

 

「堂々と言ってくれるじゃねえか、ロキ」

 

 先生は怒気を含んだ声音で言う。だが、ロキはどこ吹く風だ。

 

「堕天使の総督殿か。貴様もオーディン共々我が粛正を受けるか? これは北欧の問題だ。邪魔しないでもらおうか」

 

 ロキはそう言いながら、オーラを開放する! 

 その圧倒的なオーラに部長達は冷や汗をかいている。

 ロキの存在値は160万といったところで鎧をまとった先生や素の俺よりも強力だ。厄介そうな相手だな。

 

「一つ聞く! お前のこの行動は“禍の団”と繋がっているか?」

 

「あのような愚者と一緒くたに考えるな……少なくとも“禍の団”との繋がりはない」

 

 禍の団じゃない……だけど、こいつの言い方は他の奴らとは手を組んでるみたいな感じだな。先生も同じことを考えたみたいだ。

 

「……カグチたちの所属する正体不明の組織か。どっちも変わらねえな」

 

「なんとでも言うがいい」

 

 ここでオーディンの爺さんとロスヴァイセさんが馬車からでてきた。

 

「ふむ。あやつらと手を組むか……そうまでして黄昏をおこないたいのかのぅ」

 

 爺さんは顎の長いひげを擦りながら呟く。

 

「ロキさま! これは越権行為です! 主神に牙を向くなんて! 許されることではありません! 然るべき公正な場で異議を唱えるべきです!」

 

 戦闘服を着たロスヴァイセがロキに言う。だが、ロキは同じ北欧の存在の言葉にも一切聞く耳を持たない。

 

「一介の戦乙女ごときが我の邪魔をしないでくれたまえ。我はオーディンに訊いているのだ。まだ北欧神話を越えたおこないを続けるつもりなのか?」

 

 返答を迫られる爺さんは至極平然と答えた。

 

「そうじゃよ、少なくとも、お主よりサーゼクスとアザゼルと話してたほうが万倍も楽しいわい。和議を果たしたらお互い大使を招き、異文化交流でもしたほうがいい」

 

 それを聞き、ロキは苦笑する。

 

「認識した。なんと愚かなことか。────ここで黄昏をおこなおうではないか」

 

「それは抗戦の宣言と受け取っていいな?」

 

「いかようにも」

 

 ドガァァァァァン!! 

 

 突如、ロキに波動が襲いかかる! 

 ゼノヴィアだ! 初手から最大攻撃を放ったみたいだな。

 ────だが

 

「……効かないか。さすがは北欧の神」

 

 ゼノヴィアの言葉通り、煙が収まると、何事もなかったかのように宙に浮くロキの姿があった。

 ゼノヴィアの攻撃など意にも介していないみたいだな。

 

「聖剣か……いい威力だが、我には通じん」

 

 ゼノヴィアが“伝説級(レジェンド)”の真価を引き出せてればまた違ったんだろうが、生憎ゼノヴィア単独でデュランダルの真価は発揮できない。

 木場とイリナも聖魔剣と光の剣を握ってロキに攻撃を仕掛ける! 

 それを見てロキは嘲笑する。

 

「ふはは! 無駄だ! これでも神なのでね、一介の悪魔や天使の攻撃など意味をなさん!」

 

 ロキは二人に向けて、左手を突き出し魔力を貯める! 

 ヤバイ! アレを放たれたら二人は一瞬で蒸発してしまう! 

 

「うちに任せるっす!」

 

 ミッテルトは翼を全開にし加速! “堕天刀(フォールン)”を構え、ロキを切り裂こうとする! 

 

「キサマは……」

 

 ロキは魔力を圧縮した波動を放つ! ミッテルトはそれを剣で迎え撃つ! 

 

 ギギギギッ! 

 

 凄まじい高音が鳴り響く中、ミッテルトは慌てずに魔力を刀に込める! 

 

「朧・流水斬っ!!」

 

 ザンッ!! 

 

 ミッテルトはそのままロキの放つ波動をぶった斬り、相殺した! 

 その爆風で木場とイリナが吹き飛ばされるが、すぐさま体制を立て直している。

 よかった! 無事みたいだな! 

 

「我の攻撃を幹部でもない堕天使が……そうか。貴様がアヤツラの言っていた“基軸”育ちの堕天使か」

 

 ロキの言葉に俺とミッテルトは目を見開く! こいつ、基軸世界のことを知ってやがるな! カグチに聞いたのか? 

 見ると、ロキの言動に驚いているのは俺達だけじゃない。

 

「……貴様、何故基軸のことを……」

 

 意外な人が動揺しながらロキを見ていた。

 オーディンの爺さんだ。

 爺さんはロキの言葉に反応し、驚いたような表情でロキを見つめる。

 

「どうした、オーディン! 何かおかしいことでも言ったか?」

 

「……いや、しかし……なるほどのぅ。お主等が人間や下級堕天使でありながら破格の力を持つのはそういうことじゃったのか」

 

 爺さんは何やら腑に落ちたように俺達にしか聞こえないくらいの小声で話し掛けてきた。

 ……この人、基軸世界のことを知ってるのか!? 何で!? 

 

「まあよい。少し話を聞きたいが……今はロキじゃな」

 

「滅びよ!」

 

「雷光よ!」

 

 爺さんのつぶやきと同時に部長と朱乃さんが馬車から飛び出し、ロキに不意打ちを仕掛ける! 

 ロキは慌てることなくそれを弾き、二人を眺める。

 

「紅色の髪……グレモリー……だったか? 現魔王の血筋だな。それに、堕天使の幹部が二人、天使が一匹、悪魔が数匹。赤龍帝に手練れの堕天使が一人。護衛にしては厳重だ」

 

 ……こいつ、さり気なく部長やイリナ達を匹呼ばわりで数えやがった。

 部長達は警戒するまでもないってことか……? 逆に、ミッテルトや俺は普通に数えてる分、警戒してるのかもしれないな。

 

「お主のような大馬鹿が来たんじゃ。結果的には正解だったわい」

 

 爺さんの言葉にロキは不敵な笑みを一層深める。

 

「よろしい! ならば呼ぼう! 出てこい! 我が愛しき息子よッ!」

 

 息子? 

 何だ? 何が出てくるんだ? 

 ロキの叫びに一拍開けて、魔法陣が出現する。魔法陣が輝き、そこから灰色の何かが現れた。

 あれは……狼か? 十メートル以上はあるな。

 ……というか、アレって明らかにロキより強くないか!? 

 存在値換算で350万を超えてるぞ!? エネルギーだけでもサーゼクスさんに匹敵する化け物だ! 何だアイツ!? 

 そんな狼が俺達のことを睨みつける。強いプレッシャーに慣れていない部長達は皆全身を強張らせて震えてる。

 無理もない。あれはとんでもない化け物だからな。牙や爪もかなり鋭い! 恐らく“神話級(ゴッズ)”に匹敵するだろう。

 

『……面倒くさいのが現れたな。アレはこの世界の魔物の中でも最強格の一体だ』

 

 だろうね。というか、ドライグはあの狼を知ってるのか。

 

「“神喰狼(フェンリル)”だと!? イッセー、距離をおけ!」

 

「フェンリル! まさか、こんなところに!」

 

「……確かに、まずいわね」

 

 先生の言葉に皆は驚愕と同時に納得したかのように警戒態勢を取る。皆もあの狼を知ってるのか。

 

「あいつはロキが生み出した最悪最大の魔物の一匹だ! 神を確実に殺せる牙を持っている!」

 

 ────神をも殺す牙! 

 なるほど。それはまた随分と強力そうだな。ドライグが警戒するのもよく分かる。

 

「気をつけ給え。こいつは我が開発した魔物の中でもトップクラスの部類だ。なにせ、こいつの牙はどの神でも殺せる代物でね。試したことはないが、他の神話体系の人物にも有効だろう。上級悪魔でも伝説のドラゴンでも余裕で致命傷を与えられる」

 

 そう言いながら、ロキは指先を部長に向ける。

 ……こいつ、まさか!? 

 

「本来、北欧の者以外に我がフェンリルの牙をつかいたくはないのだが……まあ、北欧の者以外の血を覚えさせるのもいい経験になるやもしれん。魔王の血筋。その血もフェンリルの糧となろう。────やれ」

 

 オオオオオオオオオオォォォォォォォオオオオオンッッ!!! 

 

 闇の夜空で灰色の狼が透き通るほどの遠吠えをした。

 それと同時にフェンリルの姿が視界から消える! 中々速いな……だが、俺の魔力感知なら充分追える! 

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

 俺は速度を倍加させ、即座にフェンリルの尻尾を掴む! 

 

 ガクン! 

 

「グゥ!?」

 

「────え?」

 

 眼前にフェンリルの牙が迫っていたことに気付いた部長は放心しながらフェンリルを眺めている。

 

「おらぁぁ!!」

 

 ドゴンッ! 

 

 俺はフェンリルをそのまま引っ張り上げ、鳩尾を思い切りぶん殴る! 

 ぶん殴られたフェンリルはそのまま吹き飛ぶが、宙空を回転することで勢いを殺し、静かに俺を見据えている。

 ────強い。

 最初、知能は低いかもと考えたりもしたが、どうやら喋れないだけで相当知能も高そうだ。

 今の一撃もインパクトの瞬間に身体を捻ることで威力を受け流していたし、同時に俺にカウンターを仕掛けやがった! 

 赤龍帝の鎧でも完全に防ぐことはできず、爪を受け止めた俺の右手は血を垂れ流してしまってる。

 まあ、この程度ならば戦闘に支障はないけど、厄介だな……。

 戦闘経験は低そうだし、総合的な強さで言えば圧倒的に劣るけど、単純な爪や牙の鋭さだけならば“ランガ”さんを上回ってるかもしれない。

 狼のくせに気闘法らしきものまで使ってるし、正直ロキよりも遥かに油断ならない存在だ。

 

「イッセー! 大丈夫なの!?」

 

「ええ。貫通はしてないですし、この程度なら全然問題ありません」

 

 そんな俺をロキは警戒するように見つめている。

 

「……驚異的だな、赤龍帝。フェンリルの動きに容易く追いつき、そればかりかダメージを与えた。自らのダメージを最小限にしながら……恐るべきことだ。今のうちに始末しなければならんな」

 

 ロキは再びフェンリルに指示を送り、それに応え、フェンリルは俺に向かってきた! 

 俺はフェンリルの動きを誘導しながら受け流す! 

 鎧を貫くとわかった以上、あまり攻撃を受けないほうが良さそうだ。死にはしないだろうけど相当ヤバいだろうしな! 

 フェンリルの攻撃を流しつつ、ロキの方を見ると、先生とバラキエルさんがロキ目掛けて槍と雷光を放っていた。

 だが、ロキは防御の魔法陣を展開し、容易く二人の攻撃を凌いだ! 

 

「フェンリルを使わずとも、堕天使二人程度では我を倒せんぞ」

 

「北欧の術式! 流石は魔法、魔術に秀でた神話体系だな!」

 

「だったら同じ術式で!」

 

 ブィィィィィンッ! 

 

 ロスヴァイセさんがロキと同じ魔法陣を展開し、縦横無尽の飽和攻撃を仕掛ける! 

 わかってはいたけど、ロスヴァイセさんも相当の使い手だな。少なくとも、“災害級(ハザード)”程度ならば今の一撃で消滅するだろう……。

 ────だけど、神には通じない! 

 ロキは全身に防御魔法陣を展開し、ロスヴァイセさんの攻撃を難なく防いでしまった! 

 

「所詮は半神。その程度では我の薄皮一枚焼くことすらできんよ」

 

「だったら直接叩き割るまでっすよ!」

 

 瞬間、ミッテルトがロキの防御魔法陣を刀で思い切りぶっ叩く! 

 

 ガキィィィン! 

 

「ぐっ……!」

 

 苦悶の声を上げるロキ。

 存在値ならば、ミッテルトよりロキの方が上だ! でも、ミッテルトには身体強化のユニークスキル“ 見栄者(カザルモノ)”がある。

 数倍まで上がった身体能力に達人級の剣術が加わるのだ! あれくらいの障壁なら十分割れる! 

 

「はぁぁ!!」

 

 バキィィン! 

 

 ミッテルトはそのままロキの防御を貫き、一閃を加えようとする! 

 それに対し、ロキは禍々しい剣を召喚し、ミッテルトの刀を受け止めた! 

 

「我にレーヴァテインを抜かせるとはな……!」

 

「その剣……“神話級(ゴッズ)”っすね! 本当に面倒な……!」

 

 ガキィン! という音とともに、ミッテルトは自ら飛び退いた! 

 ロキの剣は弱いけど間違いなく“神話級(ゴッズ)”だ。あのまま押し切ろうとすれば、ミッテルトの刀がへし折れていたかもしれない。

 ミッテルトの刀は最上位といえど、あくまで“伝説級(レジェンド)”だからな。

 ……これはまずい状況だな。

 ロキにフェンリル……覚醒魔王級が二人いるこの状況は俺達はともかく部長やイリナ達はかなり危ない。

 相手が“神話級”の武器を持ってるとなると、危険度も跳ね上がるし、そもそもロキに対抗できるのが先生、バラキエルさん、ミッテルトの三人しかいない。

 オーディンの爺さんの護衛という任務の都合上、むざむざオーディンの爺さんに戦場に立たせるなんてことするわけにもいかないし、俺はフェンリルを抑え込むので割りと一杯一杯だ。本気を出せば問題ないけど、ここは街の上空だから大きな力を使うわけにもいかないし……。

 せめてもう一人、魔王級以上の存在が欲しい! 

 クソッ! 今トーカと一緒に飲みに行ってるであろう黒歌の不在が悔やまれる! 黒歌がいれば結界で本気を出せるから一瞬で終わるのに! 

 

「面白そうなことをやってるな。俺達も混ぜてもらおうか」

 

「ん?」

 

 どこからともなく聞き覚えのある声が響く。

 瞬間、空間の歪みとともに見覚えのある白い鎧が現れた! 

 

『Half Dimension!』

 

 グバババンッ! 

 

「なんだ?」

 

 音声とともにロキとフェンリルの周りの空間が大きく歪む! ロキとフェンリルは慌てることなく歪みを断ち切ろうとする。

 

 取り敢えず俺はその隙を突いて、フェンリルに重たいのを一発食らわせてやった! 

 

「ギャン!?」

 

 流石に受け身を取ることもできなかったのか、フェンリルは口元から血を滴らせながら吹き飛んでいく! 

 だが、流石にこの世界最強の魔物。宙空で身体を捻り、即座に体勢を立て直した。

 それにしても今の歪みは……“半減”か? ということは────

 

「やあ、兵藤一誠」

 

「やっぱりお前か。ヴァーリ」

 

 俺達の前に現れたのは白龍皇ヴァーリ。

 助かったけど……何しに来たんだコイツ? 

 

「おいおい、フェンリルを簡単に吹き飛ばすとか……どこまで規格外だ? おっぱいドラゴン」

 

 横から金色の雲に乗って出てきたのは美猴だった。

 

「────ッ! 白龍皇か!」

 

 ロキがヴァーリの登場に嬉々として笑んだ。

 

「始めましてだな。悪神ロキ殿。俺は白龍皇ヴァーリ。────貴殿を屠りに来た」

 

 ヴァーリの宣戦布告を聞き、ロキは口の端を上げる。

 

「まさか、白龍皇が赤龍帝の味方をするとはな」

 

「そういうわけじゃないさ。ただ、赤龍帝を倒すのはこの俺だ。他の誰かに譲る訳にはいかないのさ」

 

 ヴァーリの答えにロキは興味深そうにしている。

 しばらく黙していたが、再び口の端を吊り上げると、ロキはフェンリルを自らのもとに引き寄せた。

 

「二天龍を見られて満足した。────今日は引き下がるとしよう」

 

 ロキがそう言いながらマントを翻すと、空間が歪みだし、ロキとフェンリルを包み込んだ。

 

「だが、この国の神々との会談の日! またお邪魔させてもらう! オーディンよ、次こそは我と我が息子フェンリルが! その喉笛を噛みきってみせよう!」

 

 そう言い残すと、ロキ達は姿を消した。

 ……本当に面倒くさい事になったな……。

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「ありがとう。アーシア」

 

 俺はアーシアの治療を受け、回復に専念していた。

 フェンリルを相手にしたことで、細かい傷が付いたりしてたので、念のためとのことだ。

 いや〜、やっぱりアーシアの神器は便利だな! 何ていうか、傷以外も癒やされてる感じがする! 

 

「……それにしても、フェンリルを相手に互角以上に渡り合うとは……本当に凄えな。お前」

 

「本当に先輩は規格外です……」

 

 先生と小猫ちゃんが呆れた視線で俺を見つめる。

 俺はそれに苦笑しながらも、先程のフェンリルを思い出していた。

 本当に手強い狼だった。何ていうか、ランガさんを彷彿とさせるレベルだ。

 聞いた話によると、フェンリルはこの世界の全勢力の中でも間違いなくトップ10入りするとまで謂われるほどの化け物らしい。

 封印される前のドライグをもってしても、勝てるとは言い切れないとのことだ。

 基本的には自信家のドライグがそこまで言うとは相当だな。

 

『ふん、まぁ今の俺達ならば十分勝てるだろう』

 

 まあ、そうだな。

 フェンリルは厄介な化け物だ。

 牙や爪の切れ味は間違いなくランガさんを超えている。基軸世界でも普通に通用するであろう実力を誇っている。

 ……だけど、ランガさんより強いかと言われると、首を横に振らざるを得ない。

 フェンリルの基本的な攻撃手段は爪と牙だけ。知能も高そうだけど、同格相手の戦いに慣れてる感じはしなかった。あれだけ強いと当たり前かもしれないけどな。

 だから、強さで言えば間違いなくランガさんよりは弱いと断言できる。

 他の皆だとヤバいだろうけど、ランガさんとの戦いに慣れている俺ならば十分対処可能なレベルだ。

 そんな俺に小猫ちゃんは近づき、手を握る。

 

「小猫ちゃん?」

 

「……先輩の強さは知っています。でも、心配したんですよ。本当に、無事で良かったです……」 

 

 ……小猫ちゃん達この世界の住民はフェンリルの恐ろしさを伝え聞いてるのだろう。

 まあ、たしかに肩書だけでも相当やばいしな。皆にも心配かけさせてしまったかもしれない。

 俺はそのことに少し反省しながら小猫ちゃんの頭を撫でる。

 すると、小猫ちゃんは気持ちよさそうに目を細めた。

 

「……にゃあ、先輩……」

 

「心配かけさせてごめんな。でも、大丈夫だ。心配するな」

 

「……話は済んだか?」

 

 ここでヴァーリが俺に話し掛けてきた。

 待っていてくれたのか……。意外と空気読めるんだなコイツ。

 ヴァーリの言葉を聞き、アザゼル先生は改めてヴァーリの目的を尋ねる。

 

「さてと、そろそろ話してもらおうか。ヴァーリ。お前はなぜ、ここに現れた?」

 

「ロキが妙なことを企んでいるという話を聞いてね。あわよくば戦おうと思ったのさ。そちらに害を及ぼしに来たわけではないよ」

 

 先生の言葉にヴァーリは苦笑する。

 つまるところ、神様であるロキと戦いたいから来たってことか…………いや、それも目的の一つではあるんだろうけど、どうやらそれだけでもなさそうだな。何を企んでいるのやら……。まあ、俺達に外を及ぼしに来たわけでないって部分は本当っぽいから今は気にしなくてもいいか。

 ヴァーリは俺達を見渡して、言う。

 

「そちらはオーディンの会談を成功させるために、何としてでもロキを撃退したい。そうだろう?」

 

 その問いに先生が答える。

 

「ああ、そうだ。だが、このメンバーだけではロキ、そしてフェンリルを退けるのは至難の技だ。英雄派のテロ活動のせいで、どこの勢力も大騒ぎ。とてもじゃないが、こちらにこれ以上人員を割くことは出来ん」

 

「だろうな」

 

 つまりはここにいるメンバーで対処するしかないってことか。

 ……英雄派と神祖の繋がりは見えないけど、これも予見してとなると相当面倒だな。

 ロキは恐らく神祖と手を組んでいる。場合によっては、神祖の弟子とも殺り合わないといけない状況になるだろう。

 ……そうなると、俺と黒歌、あとオーディンの爺さんくらいしか戦える奴がいない。

 それにロキやフェンリルを合わせると…………かなり憂鬱になってきたぞ……。

 

「それで? おまえがロキ達を倒すとでも言うつもりが?」

 

 先生の問いにヴァーリは肩をすくめる。

 

「そうしたいところだが、今の俺達ではロキとフェンリルを同時に相手はできないだろう」

 

 まぁ、そうだろうな。

 ヴァーリはチーム単位で戦えば、ロキは倒せる可能性がある。

 なにせ、こいつのチームメンバーはほぼ全員が旧魔王級。

 アーサーに少し似ている魔法使い風の女の子も旧魔王副官級はあるだろう。

 覚醒魔王級のロキが相手でも、何とかなりそうな布陣ではある。

 ────だが、フェンリルが加わるとそれは不可能に近くなるだろう。

 つまり、ヴァーリがこの場で話し合いを求める理由というのは……

 

「────だが、二天龍が手を組めばそれも不可能じゃない」

 

『!?』

 

 ヴァーリの提案にこの場にいる全員が驚愕した! 

 まあ、気持ちはわかる。でも、俺はこの提案を予想していたため、驚きはそこまでない。

 

「今回の一戦、俺は兵藤一誠と共闘しても良いと言っている」

 

 ヴァーリの不敵で好戦的な笑みに、俺は思わず苦笑で返すのだった。

 

 

 

 



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共同戦線です

 イッセーside

 

 

 

 

 

 ロキの襲撃の翌日。

 俺達は我が家の地下一階の大広間に集まっていた。

 俺、ミッテルト、グレモリー眷属にイリナ、アザゼル先生、バラキエルさん、シトリー眷属に黒歌……そして、ヴァーリチームという錚々たる面子が集っている。

 正直援軍が期待できない状況の中、ヴァーリチームが味方になってくれるのは心強い。

 ヴァーリの強さは実際に戦った身としてよく知ってる。ヴァーリならば並みの覚醒魔王が相手でも互角以上に渡り合う事ができる。

 俺の見立てではロキよりは多少劣るけど、十分戦力になってくれる筈だ。

 ちなみにヴァーリ達のことはサーゼクスさんにも伝わっているらしく、このことは了承しているらしい。

 部長は複雑そうだけど、先生とサーゼクスさんの意見を聞いて渋々承諾していた。

 まぁ今回、ヴァーリに助けられたしそこら辺も関係してるのかもな。

 今回の件は三大勢力上層部にも既に伝えられている。

 その上でここにいるメンバーで対処しなければならないらしい。

 ロキとフェンリル。特にフェンリルは厄介だ。

 フェンリルに関しては封じられる前の二天龍に匹敵するほどの力を持っているという。

 先生やタンニーンのおっさんでも単独では絶対に勝てない。

 ヴァーリもまだ二天龍の力を全て引き出せていないので、フェンリルには勝てない。

 単独で勝てるとしたら、俺か黒歌の二人だけってことになるな。

 ヴァーリは“覇龍(ジャガーノート・ドライブ)”を使えば可能性はあるというが、俺の見立てではかなり厳しい。ロキは倒せるだろうけど、フェンリルが相手では勝率二割にも満たないと思う。

 ……それに、問題はそれだけじゃない。

 カグチやメロウを筆頭とした“神祖”の弟子達。コイツラも不確定要素の一つだ。

 ロキの口ぶりから手を組んでるらしいのはほぼ確定だからな。

 正直、このメンバーでどこまで行けるか……。

 取り敢えず、状況整理のためにも作戦会議だ。

 

「まず先に……ヴァーリ。俺達に協力する理由は?」

 

 ホワイトボードの前に立った先生が疑問をヴァーリにぶつける。

 ヴァーリは不敵に笑むと口を開く。

 

「奴等と戦ってみたいだけだ。美猴達も了承済み。この理由では不服か?」

 

 流石は戦闘狂。ヴァーリらしい理由だよ。

 他にもなにか隠して入るんだろうが、今は追求しても躱されるだけだろう。 

 先生もそれをわかっているのか、呆れたように嘆息する。

 

「まぁ、不服と言えば不服だな。だが、こちらとしては戦力として欲しいのは確かだ。今は英雄派のテロで各勢力とも戦力を割けないからな。お前の性格上、英雄派と組んでる線はなさそうだし……」

 

「ああ。彼らとは基本的に不干渉だからな。俺は別にそちらと組まなくてもロキとフェンリルと戦うつもりでいるし、俺としてはどちらでも構わん」

 

 酷い脅しだ。

 ここで組むことを拒否すれば、ヴァーリはロキとフェンリルと戦うと同時に俺達にも攻撃するだろう。

 流石にそれは面倒くさい。これで実質選択肢は一つになってるわけだ。

 

「……まぁ、サーゼクスも了承しているし、俺も協力してもらいたいと思っている。お前を野放しにすると何しでかすかわからんしな」

 

「納得出来ないことが多いけれどね」

 

 部長が先生に続く。

 文句はあるようだけど、現状が現状だし、何より王たる魔王が良しとしてるんだから、部長も強く言えないのだろう。

 ソーナ会長も不満はあれど、了承してるみたいだしな。

 実際、戦力としては申し分ないほどの強者達の集まりだからな。

 

「まあ、俺的には問題ないです。何かあれば俺が説得しますよ」

 

 俺の言葉を聞き、ヴァーリは笑みを深める。

 取り敢えずヴァーリは俺が抑えておけば問題なかろう。

 先生もその提案に文句はないみたいだ。

 

「そうか。じゃあ、ヴァーリのことはお前に任せる。話をロキ対策の方に移行するぞ。ロキとフェンリルの対策はとある者に訊く予定だ」

 

「ロキとフェンリルの対策を聞く?」

 

 先生が部長の言葉に頷く。

 

「そう、あいつらに詳しいのがいてな。そいつにご教授してもらうのさ」

 

「それは誰ですか?」

 

「五大龍王の一角“終末の大龍(スリーピングドラゴン)”ミドガルズオルムだ」

 

 おお、五大龍王! 

 ロキとフェンリルの対策を聞く……ってことは、北欧神話のドラゴンかな? どういう奴なんだろう。

 

「まぁ、順当だが、ミドガルズオルムが俺達の声に応えるのだろうか?」

 

 ヴァーリの問いに先生が答える。

 この口振りからして気難しいドラゴンなのかもしれないな。龍王級のドラゴンはプライド高いやつが多いと聞くし、その辺りも関係するのかもな。

 

『いや、気難しいというわけではないんだが……まあ、すぐにわかるか』

 

 ん? 何だ? 

 ドライグの言葉が少し引っ掛かるな。まぁ、今は置いといたほうがいいか。

 

「二天龍、龍王────ファーブニルの力、ヴリトラの力、タンニーンの力で龍門(ドラゴン・ゲート)を開く。そこからやつの意識を呼び寄せるのさ。アイツは北欧の深海で眠りについているんだが、これだけのドラゴンがいれば奴も応えてくれるだろうよ」

 

 へぇ。そんな方法があるのか。

 伝説のドラゴンってそういう事もできるんだな。

 

「もしかして、俺も……? 正直、怪物だらけで気が引けるんですけど……」

 

 匙がおそるおそる手を挙げる。

 匙は自分のことを不相応だと考えてるみたいだな。こいつも五大龍王のヴリトラを宿してるんだし、もっと自身を持っててもいいと思うんだが……。

 

「まあ、要素の一つとして来てもらうだけだ。大方のことは俺達と二天龍に任せろ。取り敢えず、タンニーンと連絡がつくまで待機しててくれ。俺はシェムハザと対策について話してくる。バラキエル、付いてきてくれ」

 

「了解した」

 

 先生はそう言ってバラキエルさんと共に部屋を出る。

 残されたのは俺達オカ研と生徒会。そしてヴァーリチームの面々。

 ……少し微妙な空気が部屋に流れる。思えば、ヴァーリ達について俺なにも知らねえや。何から話せばいいんだ? 

 

「赤龍帝!」

 

 美猴が手を挙げる。

 

「なんだよ?」

 

 取り敢えず、用件を聞くと美猴は悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。

 

「この下にある屋内プールに入っていいかい?」

 

 …………よ、予想外の質問来たな。 

 俺的には構わないんだけど……俺はチラリと部長を見る。

 すると、部長は不機嫌そうにしながら美猴に指を突き立てる。

 

「ちょっと。ここは私とイッセーの家なのよ。勝手な振る舞いは許さないわ」

 

 い、いつから部長の家に……ま、まあ今更だからいいけど、一応部長ってホームステイ的な立ち位置のはずでは? 

 

「まーまー、いいじゃねえか、スイッチ姫────」

 

 スバンッ!! 

 

 部長が美猴の頭を鋭く叩いた! 凄え音したな! 部長、気闘法を使って強化してるし、それを喰らった美猴は思わず涙目だ! 

 

「いってぇぇぇぇっ! 何すんだぃ! スイッチ姫!」

 

「その名前で呼ばないで! 私がその名称でどれだけ傷ついてると思ってるのよ!」

 

 涙目なのは部長も同じだ。よほどスイッチ姫と呼ばれるのが嫌なのだろう。

 最近だと、スイッチ姫特集なる企画までやるくらい浸透してるし、本人からすれば恥ずかしいどころの騒ぎではないのだろうな。

 

「こ、これが失われた最後のエクスカリバーなんですね! すごーい!」

 

「ええ。ヴァーリが独自の情報を得まして、私の家に伝わる伝承と照らし合わせた結果、見つかったのですよ。場所は秘密です」

 

 声のする方を向けばイリナとアーサーがエクスカリバーについて話していた。

 イリナって本当に誰とでも打ち解けるな。こういう険悪な空気の中だとマジで助かるわ。

 横では木場とゼノヴィアが警戒しながらも二人の話を聞いていた。

 剣士として、やっぱり伝説の聖剣かわ気になるんだろうな。

 アーサーの持つエクスカリバーは等級こそ“伝説級”だが、他の剣と比べても明らかに別格だ。

 というか、剣に付与されてる権能を見るに、下手な“神話級”よりも強力そうだな。

 

「面白い人達だにゃん」

 

 黒歌の言うとおり、今までの“禍の団”とは全然違う。何ていうか、アットホームな連中だな。

 

「この猿! 滅するわ!」

 

「やってみろぃ! スイッチ!」

 

 俺は混沌と化しつつある場を眺めるのだった。

 

「────はぁ……」

 

 ……部屋の隅で溜息をついている朱乃さんを尻目にしながら……。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 先生が帰ってきた後、俺と匙、ヴァーリは転移魔法陣で兵藤家からとある場所へと飛んだ。

 なんでも例の龍王を呼び寄せるためには特別に用意した場所じゃないと駄目らしい。

 着いた場所は白い空間だった。

 解析すると、レーティングゲームの会場とかに使われる空間みたいだな。

 部屋自体には特にこれといって目立ったところは無い。

 強いて言うなら、大きいドラゴンが先に来て佇んでいるくらいか。

 あのドラゴンは────

 

「先日以来だな、兵藤一誠」

 

「タンニーンのおっさん! 久しぶり!」

 

 タンニーンのおっさんだ。ミドガルズオルムを呼び寄せるのに必要だって聞いてたけど、先に来てるとは思わなかった。

 事情を聞いてすぐに駆けつけたくれたのかな? 

 

 おっさんとの挨拶も程々にすると、タンニーンのおっさんは匙の方へと視線を向けた。

 

「……そちらがヴリトラを宿す者か」

 

 匙を見つめるおっさん。対して匙は────前身を震わせてすげえビビっていた。

 

「ド、ド、ドラゴン……龍王! 最上級悪魔の……!」

 

 おいおい、ビビりすぎだろ。

 緊張だけじゃなくて、どこか尊敬が混じってるような様子だな。

 このままじゃあ話が進まなそうなので、俺は匙の肩に手を置いて緊張をほぐす。

 

「緊張すんなって。おっさんは強面だけど、いいドラゴンだぞ」

 

「バ、バカ! 最上級悪魔のタンニーンさまだぞ! お、おっさんだなんて失礼だろ!」

 

「そうか?」

 

 俺に指を突きつけて匙が言う。

 

「最上級悪魔ってのはな、冥界でも選ばれた者しかなれない。冥界への貢献度、ゲームでの実績、能力、それら全てが最高ランクの評価をしてもらって初めて得られる、悪魔にとって最上級の位なんだよ」

 

 と、匙が熱弁する。へー、そこまですごいもんなのか。

 最上級悪魔……俺も試合の映像は見させてもらったけど、魔王と比べても遜色のない実力者や魔王級の魔力を持つ者、凄まじい技量を持つ者等、結構バリエーション豊かだなという印象しか持ってなかったな。

 実力者なのは間違いないんだろうけど、俺から見ると少しチグハグな印象がある。

 まあ、1位の”皇帝“ベリアルさんは凄まじいの実力者だと思うけどな。アレはセラフォルーさんとかと比べても遜色ないレベルだろ。

 匙の熱弁を聞きながら、そんな事を考えている俺を他所に、おっさんはヴァーリを睨んでいた。

 

「……白龍皇か。妙な真似をすればその時点で俺は躊躇いなく貴様を噛み砕くぞ」

 

 その言葉にヴァーリは苦笑するだけだった。

 その間にアザぜル先生が術式を展開して専用の魔法陣を地面に描いていく。

 光が走っていき、独特の紋様を形作っていた。

 

「しかし、あやつ、来るのだろうか。俺も二、三度程度しか会ったことがない」

 

「二天龍がいれば否が応でも反応はするだろう」

 

 タンニーンのおっさんの嘆息に先生が答える。

 

「それで、今から会うドラゴンってどんなのなんですか?」

 

 これから会うドラゴンがどのような存在なのかを尋ねると、意外にもドライグが応えてくれた。

 

『そうだな。相棒。お前が“スリーピング”と聞いて、連想する奴がいるだろう?』

 

「ん? ……あっ!」

 

 ドライグのその言葉に俺はピンときた! 

 俺の脳裏に映し出されるのは世界最強の剣豪でありながら、一切の労働を拒否する面倒くさがり屋。“眠る支配者(スリーピングルーラー)”と呼ばれる魔王様の姿が映し出された。

 

『そう。アイツのドラゴンバージョンとでも思ってればいいさ』

 

 な、なるほど……。

 それは応えてくれるかどうか怪しい訳だ。

 どんなグータラなドラゴンが出てくるんだ? 俺はまだ見ぬ龍王への期待が一転して冷ややかなものへと変わっていくのを感じていた。

 

「……お前達が誰のことを話してるかは知らんが、あやつは本当に怠け者でな……基本的には動かん。世界に動き出すものの一匹だからな。使命が来るその時まで眠りについているのだ。最後に会ったのは数百年前だが、世界の終わりまで深海で寝て過ごすと言って、そのまま海の底へと潜ってしまった。それ以来あやつとは会っていない」

 

 マジか……そんなドラゴンが龍王に……

 一体どんなやつなんだ? 選ばれるからには相当強いんだろうけど……。

 

「さて、魔法陣の基礎はできた。あとは各員、指定された場所に立ってくれ」

 

 先生に指示され、魔法陣の上に立った。

 各自指定ポイントに立ったことを先生が確認すると、手元の魔法陣を操作した。

 

 カッ

 

 淡い光が下の魔法陣に走り、俺のところが赤く光り、ヴァーリのところが白く光った。

 そんでもって、先生のところが金、匙のところが黒、そしておっさんのところが紫色に光り輝く。

 

『それぞれが各ドラゴンの特徴を反映した色だ』

 

 と、ドライグが説明してくれる。

 へぇー。特徴で色分けされるのか。中々面白いな。

 

『ちなみに、ティアマットが青。玉龍(ウーロン)が緑を司っている』

 

 なるほど。ティアマットさんはともかく玉龍は初めて聞く名だけど、感じからして五大龍王の一角かな? 

 そんな事を考えている間にも儀式は進み、魔法陣から何やらが投影され始めた。

 立体映像が徐々に俺達の頭上に作られ────

 

「…………でかいな」

 

 映像はどんどん広がっていき、やがて俺達の目の前にこの空間を埋め尽くす勢いの巨大な生物が写し出された! 

 よ、予想していたよりもでけぇぇぇぇぇぇぇ!!! 

 うわ、何だよこのドラゴン! 師匠やグレートレッドよりもデカいじゃねぇか! 

 師匠だって百メートルを越す巨体を持っている超巨大ドラゴンだ! 

 でも、コイツは百メートルどころかその数倍! 五、六百メートルはありそうだぞ! 

 見ると、匙は口が開きっぱなしになっている。相当驚いたんだろうな。何せ、巨大生物に慣れている俺ですらビックリするレベルなんだもん! 

 目の前のドラゴンはヴェルグリンドさんと同じく、東洋の細長いタイプのドラゴンで、その長い体でとぐろを巻いているようだった。

 驚く俺の耳にデカイ奇っ怪な音が飛び込んでくる。

 

『……ぐごごごごごごごごごごごごごぉぉぉぉおおおおおおん……』

 

 うるさ!? この巨体だと、いびきもかなり爆音だな。

 というか、おっさんが言ってた通り、本当に寝てるよ、このドラゴン……。これがスリーピングドラゴンか……。

 

「案の定、寝ているな。おい、起きろ、ミドガルズオルム」

 

 タンニーンのおっさんがミドガルズオルムの耳元で話しかける。すると、ミドガルズオルムはゆっくりと目を見開いた。

 

『…………懐かしい龍の波動だなぁ。ふああああああああっ……』

 

 ミドガルズオルムは大きなあくびを一つする。うわあ、でけえ口! 二十メートル近くあるおっさんの巨体すらも余裕で一飲みできそうだな。

 

『おぉ、タンニーンじゃないかぁ。久し振りだねぇ』

 

 なんともゆっくりな口調だな。どうやら基本的にサボりたがりなだけはあり、気性は穏やかなようだな。

 

『……ドライグとアルビオンまでいる。……それにファーブニルと……ヴリトラも……? 何だろう? もしかして、世界の終末なのかい?』

 

「いや、違う。今日はおまえに訊きたいことがあってこの場に意識のみを呼び寄せたのだ」

 

『……ぐ、ぐごごごごごごごごごごごごご……』

 

 ミドガルズオルムが再びいびきをかき始めた! 話の途中で寝るなよ! ダメだ、このドラゴン! 話すら出来ないじゃん! 正直、ディーノさんのほうがまだ幾分かマシなレベルだぞ! 

 

「寝るな! まったく、お前と玉龍だけは怠け癖がついていて敵わん!」

 

 再度、怒鳴るおっさん。というか、玉龍とかいうドラゴンも怠け癖があるのかよ……。

 おっさんの剣幕に、ミドガルズオルムも大きな目を再び開ける。

 

『……タンニーンはいつも怒ってるなぁ……。それで僕に訊きたいことって?』

 

「おまえの父と兄ついて訊きたい」

 

 おっさんがそう訊く。

 なんで、ミドガルズオルムの家族について訊いてるんだ? 

 ……いや、待てよ。そういえば、フェンリルは元々ロキが作った魔物って話だったよな? 

 と、言うことは……ひょっとしてこのミドガルズオルムも……

 そんな俺の考えを証明するように、先生が答えてくれる。

 

「お前が考えてるとおり、ミドガルズオルムは元来、ロキが作り出したドラゴンでな。強大な力を持っていながら、その巨体と怠け癖から使い道が見出だせず、北欧の神々が海の底で眠るように促したのだ。せめて、世界の終末が来たときには何かしら働けと言ってな」

 

「何かしらって……。それで良いのかよ五大龍王……」

 

 なんていうか、残念な奴なんだな。コイツ。

 確かに巨体に見合った強さはもってそうだけど、これじゃあ役に立たないと断じられるのも無理はないかもな。

 でも、父親や兄弟の弱点なんか話してくれるのか? 

 

『ダディとワンワンのことかぁ。いいよぉ。ダディにもワンワンにもこれといって思い入れはないしぃ、どうでもいいしぃ……』

 

 いいのかよ!? 仮にも親と兄弟だろ!? 

 まあ、コイツずっと深海に眠ってるだけって言うし、実際コイツが言うように、接点が特になかったのかもしれないな。

 

『あ、タンニーン、一つだけ聞かせてよぉ』

 

「なんだ?」

 

『ドライグとアルビオンの戦いはやらないのぉ?』

 

 ミドガルズオルムは俺とヴァーリを交互に見ながら言ってきた。

 

「ああ、やらん。今回は共同戦線でロキ達を打倒する予定だからな」

 

『へぇ。二人が戦いもせずに並んでいるから不思議だったよぉ。今代の赤と白はどちらも強そうだねぇ。……特に、ドライグの方は僕よりも強そうだねぇ……』

 

「ほう。ミドガルズオルムをしてそこまで言わしめるとは……やはり、君とは速く戦ってみたいな。兵藤一誠」

 

 よ、余計なことを言わないでもらえますかね!? 

 ただでさえ面倒くさい戦闘狂(ヴァーリ)が凄えなギラギラした目で俺のこと見てるんですけど! 

 ミドガルズオルムはそんな俺の反応など知ったことではないと言わんばかりにマイペースに話し出す。

 

『ワンワンはダディより厄介だよぉ。噛まれたら死んじゃうことが多いからねぇ。でも、弱点はあるんだぁ。ドワーフが作った魔法の鎖、グレイプニルで捕らえることができるよぉ。それで足は止められるねぇ』

 

 グレイプニル……“狂拳”フェンを封じ込めてた“聖魔封じの鎖(グレイヴニール)”のことか? とも思ったが、流石にないか。アレはフェンリルどころかオーフィス級でも封じられる最強の鎖だ。名前が似てるだけで別物だな。

 とはいえ、あのフェンリルを封じるとなると、相当強力な鎖みたいだな。

 

「……それは既に認識済みだ。だが。オーディンから貰った情報では、グレイプニルではフェンリルは抑えることが出来なかったそうでな。それでおまえから更なる秘策を得ようと思っているのだ」

 

 ふむ、それはモウ試していたのか。

 だが、通じなかったと……となると、ミドガルズオルムの情報が間違ってるのか、もしくは────

 

『……うーん、ダディったらワンワンを強化したのかなぁ? なら北欧に住むダークエルフに相談してみなよぅ。その人達に協力してもらって、鎖を強化してもらえばいいんじゃない? 確か長老がドワーフの加工品に宿った魔法を強化する術を知ってるはずぅ。場所はドライグかアルビオンの神器に転送するねぇ』

 

 ……エルフ。甘美な響だ。

 向こうではよくお世話になったものだが……そうか、この世界にもいるのか。エルフ。

 

「感謝する。取り敢えず、ダークエルフが住む位置情報を……白龍皇に送ってくれ」

 

『はいは~い』

 

 ヴァーリが情報を捉え、口にする。

 

「────把握した。アザゼル、立体映像で世界地図を展開してくれ」

 

 先生がケータイを開いて操作すると、画面から世界地図が宙へ映写される。

 ヴァーリがとある場所を指差し、先生がその情報を仲間に送り出した。

 

「……ほう、よくまあそんなことを知ってたな」

 

 おっさんの言葉に俺も頷く。

 実際、ずっと海で寝てたって割にはよく知ってるよな。

 

『まあねぇ。地上に上がった時、エルフやドワーフにはお世話になったからさぁ』

 

 地上に上がったことあるんだ……。コイツが地上に上がったら色々と問題じゃないか? デカすぎるし、隠しきれないだろう。

 

「────で、ロキの方はどうする?」

 

『そうだねぇ。ダディを倒すなら、ミョルニルでも撃ち込めばなんとかなるんじゃないかなぁ』

 

 ミドガルズオルムの話を聞いて、先生は考え込む。

 

「つまり、基本は普通に攻撃するしかないってわけか。ミョルニル……。確かにそれならばロキにも十分通じるだろうな。だが、雷神トールが貸してくれるかどうかわからないな。あれは神族が使用する武器の一つだからな」

 

『それなら、さっきのダークエルフに頼んでごらんよぉ。ミョルニルのレプリカをオーディンから預かってたはずぅ』

 

「物知りで助かるよ、ミドガルズオルム」

 

 先生は苦笑しながら礼を言う。

 本当に物知りだよな、このドラゴン。やっぱりディーノさんとよく似てるわ。普段は怠けっぱなしだけど、いざ働くとなると恐ろしく有能なんだよな。

 

『いやいや。たまにはこういうのも楽しいよ。さーて、そろそろいいかな? 僕も眠くなって来たから、また今度ね……。ふあああああっ!』

 

 大きなあくびをするミドガルズオルム。それと同時に少しずつ映像が途切れて行く。

 

「ああ、すまんな」

 

 おっさんの礼にミドガルズオルムは少し笑んだ。

 

『いいさ。また何かあったら起こしてよ』

 

 それだけ言い残すと、映像は完全に消えてしまった。

 ミドガルズオルム。大きくて変な龍王だったけど、いい奴だったな。変なドラゴンだけど。また会う機会もあるのかな? 

 こうして俺達はミドガルズオルムから得た情報を基に動き出すこととなった。

 

 

 



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朱乃さんの過去です

 イッセーside

 

 

 

 

 

 次の日。俺達は再び地下の大広間に集まっていた。

 ロキとの決戦が近づいている以上、学校に行く暇はないため本日は休みだ。

 ここで先生が小言をつぶやきながら現れる。不機嫌な様子で何やらハンマーのようなものを弄っている。

 

「オーディンの爺さんからのプレゼント────ミョルニルのレプリカだ。ったく、あのクソジジイマジでコレを隠してやがった」

 

 ミョルニル……凄えな。コレでレプリカなのかよ。

 最下級ながら、“神話級”の力を持っていやがる。アザゼル先生曰く、本来のミョルニルが壊れた際に使う予備のようなもので、本物に限りなく近い力があるのだと言う。

 

「はい、オーディン様はこのレプリカを赤龍帝さんにお貸しするそうです」

 

 俺はロスヴァイセさんからミョルニルのレプリカを借り受ける。見た感じは普通のハンマーだな。豪華な装飾やら文様が刻まれてるくらいか。

 

「オーラを流してください」

 

 ロスヴァイセさんに言われ、俺はハンマーに魔力を通す。

 すると、一瞬の閃光の後、ハンマーはぐんぐん大きくなっていく。

 その威容はまさしく戦鎚! 俺の身の丈を越す巨大ハンマーとなっている! 

 さらにオーラを込めれば、コレ以上大きくもできそうだな。中々面白そうな武器だぜ。

 

「その状態で無闇に振るうなよ? 高エネルギーの雷で辺り一帯が消え去るぞ」

 

「はい。気をつけます」

 

 確かに……それくらいの力はありそうだな。

 ロキ対策には十分なレベルの代物だ。

 

「ヴァーリ、お前もオーディンの爺さんにねだってみたらどうだ? 今なら特別に何かくれるかもしれないぜ」

 

「いらないさ。俺は天龍の力を極めるつもりでね。追加装備はいらない」

 

 ほう。流石はヴァーリだ。

 コイツは魔王の血縁として受け継いだ魔力に白龍皇の力を兼ね備えている。

 故にこれ以上は不要と。こいつのちょっとした拘りたいなものなのかもしれないな。

 

「美猴、ちょうどいい、お前に伝言貰ってるんだ」 

 

 先生は次に美猴に視線を向ける。

 

「あん? 俺っちに? 誰からだい?」

 

「『見つけ次第仕置』だそうだ。初代からだ。玉龍と一緒にお前の動向を探ってるみたいだぞ」

 

 先生の言葉に美猴は汗をダラダラかきながら、青褪める。

 いつもは脳天気な楽天家って印象だっただけに意外だ。初代ってことは、物語の孫悟空本人ってことかな? 

 

「あ、あのクソジジイ……。俺がテロやってるのバレたんか……」

 

 いや、バレないつもりだったのかよ!? 

 こんだけ暴れ回れば嫌でも目につくと思うぞ! 

 

「美猴、一度お前の故郷に行ってみるか? 初代孫悟空と玉龍と戦ってみたい」

 

「止めとけよぅ。初代のクソジジイは正真正銘化け物だぞ。仙術と妖術極めてるからマジで強ぇんだ……」

 

 あの美猴がここまで震え上がるほどの実力者か。俺も会ってみたいな。

 ここで先生が咳払いして俺たち全員に言う。

 

「作戦の確認に入るぞ。まず、会談の場で奴が来るのを待ち、そこからシトリー眷属の力でおまえ達をロキ達ごと違う場所に転移させる。転移先はとある採掘地。広く頑丈な場所だから存分に暴れてくれ。ロキはイッセーとヴァーリ。二天龍が相手をする。フェンリルはグレモリー眷属とミッテルト、ヴァーリチームと元龍王タンニーンで鎖を使い、捕縛。その後に撃破しろ」

 

「あれ? 私は?」

 

「黒歌はその結界術でサポートだ。誰一人欠けないように立ち回ってくれ。イッセーとヴァーリが確実にロキを仕留め次第、そちらに回るから絶対に深追いするなよ。最悪、捕縛はできなくとも、場に抑えてさえいればそれでいい」

 

 それが今回の作戦か。

 俺とヴァーリでロキの相手。俺達二人ならばすぐに片がつく計算なのだろう。

 ロキさえ仕留めれば、フェンリルを仕留めるのに邪魔はいなくなるからな。

 だが、それだけではない。

 先生はどうやら、カグチの陣営も警戒してるみたいだ。先生は実際にカグチの戦闘を見たらしいけど、下手をすればフェンリルよりも恐ろしいかもしれないと感じたらしい。

 だから、カグチを抑えられるであろう黒歌はサポートという立ち回りにしたほうがいいという判断だろう。

 この中でカグチとまともに遣り合えるのは俺か黒歌だけだろうしな。

 

「さーて、鎖の方はダークエルフの長老に任せてるし、あと……。匙」

 

 先生が匙を呼ぶ。

 匙は自分がよばれるとは思ってなかったらしく、少し狼狽している。

 

「な、なんですか、アザゼル先生」

 

「おまえも作戦で重要だ。ヴリトラの神器持ってるしな」

 

 先生の一言に、匙は目玉が飛び出るほど驚いていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! お、俺っすか!? お、俺、兵藤や白龍皇みたいなバカげた力は無いっすよ!?」

 

 かなり狼狽してるな。

 まぁ、匙も地味に強くはなってきているが、まだ神を相手に出来るレベルじゃない。

 先生もそれを理解して、嘆息した。

 

「分かってる。何もおまえに前線でロキ達とやり合えとは言わん。だか、ヴリトラの力で味方のサポートに回ってもらいたい。おまえの能力は今回の戦いで必要になると思うしな」

 

「サ、サポートって……」

 

「そのために、ちょいとばかしトレーニングが必要だな。試したいこともある。そういうわけで、ソーナ、こいつを少しの間借りるぞ」

 

 会長に訊く先生。

 匙は会長に対し、縋るような目をするが、現実は無情である。

 

「よろしいですが、どちらへ?」

 

「冥界の堕天使領────グリゴリの研究施設さ」

 

 そういう先生の顔はすごく楽しそうだった。

 あー、これは匙のやつ地獄を見るな。先生は基本的にはマッドサイエンティスト。これは相当えげつない実験につきあわされる羽目になるぞ。

 

「ひょ、兵藤!」

 

「匙……今までありがとな。俺はおまえのこと……絶対に忘れないよ」

 

「おいっ!! 不吉なことをいいうじゃねぇぇぇっ!!」

 

「はっはっはっー。行くぞ、匙! いざ、楽しい楽しい実験室へ!」

 

「マジかよ!? た、助けてくれええぇぇっ! 兵藤ぉぉぉぉっ! 会長ぉぉぉぉっ!」

 

 匙の叫びと共に、魔法陣が光だし、やがて匙の姿は消えてしまった。

 うう、いい奴だったよ。さらばだ、匙。お前のことは絶対に忘れない。

 

『あの少年の内に眠るヴリトラが少しずつ反応し始めていたからな。恐らくそれ関係だろう』

 

 なるほど。これは生きてさえいれば相当パワーアップして帰ってきそうだな。

 …………生きてさえ、いれば……。

 

「そういや、ドライグ。アルビオンとは話さないの?」

 

 折角のライバル同士の再会なんだし、もう少し会話があって良さそうなものを、アルビオンはここに来てからずっと沈黙を保ってるのだ。

 前回会った時はもう少し饒舌な方かと思ってたケド……何かあったのかね? 

 

『いや、別に話す事もないしな……なあ、白いの』

 

 ドライグは皆に聞こえるように話しかける。それに対し、アルビオンは────

 

『…………話しかけるな。私の宿敵に乳龍帝などという者は存在しない』

 

 冷ややかな反応で返す……って、ちょっと待て!? 

 

『ま、待て! ご、誤解だ! 乳龍帝は宿主の兵藤一誠であって俺ではない!』

 

 ドライグが弁明しようと慌てて俺に罪をなすりつける! ……うん、何も言えねえ! 

 

『宿敵を模した『おっぱいドラゴン』などというヒーロー番組を見た時の私の気持ちがおまえに分かるか!? どれだけの衝撃を受けたことか! あれを見た日から涙が止まらんのだ!』

 

『俺だって泣いたんだぞ! 涙が止まらんのだ! うおおおおんっ!』

 

『ぐすっ、どうしてこうなった……? 我らは誇り高き二天龍だったはずなのだ……。それが、何故こんなことに……』

 

 …………。

 泣いてるよ。二天龍と謳われた、この世界に最上位の伝説のドラゴンが……泣いてるよ。

 

「また泣いてるのか。兵藤一誠のテレビ番組を見てた時もすすり泣いていたが……済まない、兵藤一誠。こういうとき、どう慰めればいいと思う?」

 

「俺が知るか! とりあえず、俺が謝る! ドライグ、アルビオン! マジでゴメン!」

 

 こうして最後、グダグダな感じで対策会議は幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「お嬢様。頼まれていたグレイプニルに関する書物です。鎖は当日に送り届けられることになっております」

 

 俺達が準備を進めてると、グレイフィアさんが魔法陣を通じて部屋に現れた。

 グレイフィアさんはどうやらグレイプニルについてを纏めてくれたらしく、書類を部長に手渡した。

 部長は書類を受け取り、ペラペラとページを捲り、目を通す。

 ……丁度いいや。今聞こう。

 

「あの、グレイフィアさん、少し訊きたいことがあるんですが、いいですか?」

 

「なんでしょう?」

 

 俺はこの状況で聞くのもアレだと思うけど、今を逃すといつ聞けるかわからないし、意を決して尋ねることにした。

 

「朱乃さんについてです。どうして、朱乃さんはお父さんと仲が悪いんですか?」

 

 部長とグレイフィアさんは目を見合わせる。その後、部長が口を開いた。

 

「……悲しい記憶よ」

 

 部長はポツリと語りだす。

 朱乃さんのお母さんの名前は姫島朱璃といって、とある有名な神社の巫女さんをしていたという。

 ある日、朱璃さんがいる神社の近くに、敵対勢力に襲われて重症を負ったバラキエルさんが飛来してきたらしい。

 バラキエルさんを発見した朱璃さんは、傷付いたバラキエルさんを神社に匿い、手厚く看病したそうだ。

 

「その時、姫島朱乃のお母様とバラキエル殿は親しい関係になったようです。そして、その身に子を宿した」

 

 グレイフィアさんは淡々と語る。

 なるほど……そして、朱乃さんが二人の間に産まれたわけか。

 

「バラキエルさんは朱乃さんと朱璃さんを置いていくわけにはいかず、近くで居を構えて、そこから堕天使の幹部として動いていたらしいわ。三人は慎ましいながらも幸せな日常を送っていた────けど」

 

 幸せは長く続かなかった……。

 朱璃さんの親類は、堕天使に娘が洗脳され、手籠めにされたと勘違いし、襲撃をしてきたらしい。

 それ自体はバラキエルさんが撃退したらしいが、それに対し、逆恨みをした家の者は、堕天使と敵対している勢力にバラキエルさん達の住まう家を教えた。

 

「……運が悪かったんでしょうね。その日、バラキエルは家にいなかった。敵対勢力は躊躇なく家を襲撃したわ。バラキエルが駆け付けたときには────朱乃のお母様は息絶えていた」

 

 朱乃さんはその時、敵対勢力に堕天使がどれだけ他勢力から恨まれているかを聞いたらしい。そして、母親を目の前で殺され、現実を突きつけられた。

 

「その日から、姫島朱乃は堕天使に対して恨みを抱くようになった。殺された母親の無念を抱き、バラキエル殿に心を閉ざしたのです」

 

 ……そこまで壮絶な過去があったのか。

 バラキエルさんが悪い訳では無い────でも、本人はわかってても、止められないんないんだろうな。

 

「けれどね、イッセー。私の眷属として、第二の人生を送り出した朱乃は以前に比べて明るくなったわ。貴方やミッテルトに出会ってからは、堕天使のイメージも緩和してきたの。……お母様が亡くなられたのはどうすることもできない事件だったと、朱乃自身も理解してるはずなのよ。けれど、素直に受け入れられるほど、朱乃はまだ強くないわ」

 

 部長へそう言いながら、視線を俺に向ける。

 俺は部長達の話を聞き、朱乃さんについてを考えるのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

「…………俺が全部悪いのさ」

 

 朱乃さんのことを聞いた俺は、アザゼル先生にそのことを報告する。

 すると、先生も語りだした。────自分の責任だと。

 

「あの日、バラキエルを招集したのは俺だ。無理を言って呼び寄せたんだよ。その僅かな間に……。俺だ。俺が朱乃とバラキエルから、母と妻を奪ったんだ」

 

 先生の悲哀に俺はなにもいえない。多分、先生はバラキエルさんの代わりに朱乃さんを見ようと考えたんだ。

 だから、教師……なんて手段でこの学園に赴任した。朱乃さんを見守るために……。

 

「……朱乃さんも、いつかはきっとわかってくれます。朱乃さんなら、きっと乗り越えられる。家族がバラバラなんて、辛いですからね」

 

「……ああ。俺もそう信じてるよ」

 

 先生はそれだけいうと作業に戻る。

 そこに、ヴァーリが部屋に入ってきた。

 

「アザゼル。今戻った。北欧の術式をそこそこ覚えてきた。ロキの攻撃にも幾らかは対応できるだろう」

 

 ……マジかコイツ。ロキに対抗するために、ずっと魔術の本読んで、北欧魔術を覚えたのか? 

 コイツ、魔王の血筋に二天龍というだけでなく、魔法の天才でもあったわけか。

 俺は魔法を覚えるのにかなり苦労したってのに、コイツは本を読んだだけで一発習得か。これは、ウカウカしてるとマジで追い抜かれるかもしれんな。

 

「了解した。じゃあ、俺は少し休憩してくるわ」

 

 そう言い残すと先生は部屋から出ていった。

 部屋に残された俺とヴァーリ。ヴァーリはソファに座り、俺も椅子に座る。ヴァーリは相変わらず、魔術関連の本を読んでいるみたいだ。

 

「……なあ、ヴァーリ。読み終わったら俺にも貸してくれない?」

 

 北欧の魔術……俺も少し興味がある。

 魔法関連は苦手だけど、使えないわけじゃないし、北欧の魔術を覚えれば、多少はプラスになるかもしれない。

 

「ああ。構わないよ。俺は既に読み終わってるからな」

 

 そう言うと、ヴァーリは俺に本を手渡してきた。

 ふむ、なかなか難しそうだな。思考加速しながら読むか。

 俺は思考加速と並列演算を使いながら、魔術の内容を覚えていく。

 

「……なあ、ヴァーリ」

 

「なんだ?」

 

「お前さ、何で強くなりたいんだ?」

 

 俺は少し気になったので、ヴァーリが強くなりたい理由について聞いてみることにした。

 すると、ヴァーリは少し考える素振りを見せる。

 

「……さあね。考えたこともない。この世界には強い奴がわんさかいる。だから、俺はそいつらに挑戦したいんだ」

 

 ヴァーリはキラキラした瞳で夢を語る。

 強い奴と戦いたい……か。うーん、いかにもヴァーリらしい戦闘狂然とした理由だな。

 

「そういえば、君は拳法を主として使うが、それは誰から習ったんだ?」

 

 おっと、今度はヴァーリからの質問か。しかも、結構答えづらいやつ。

 ……まあ、少しくらいならいいかな? 

 

「……俺の拳法は、ヴェルドラって人から教わったんだ」

 

「ヴェルドラ……聞かない名だな」

 

「まあな。────でも、目茶苦茶強くてカッコいい、自慢の師匠だよ……」

 

 そう言いながら、俺は師匠に思いを馳せる。

 普段は頼りない感じだけど、いざとなるとすごく頼りになる最高の師匠。それがヴェルドラ師匠なんだ。

 

「……君より強いのか?」

 

「ああ。俺が百人いても勝てねえよ。他にも、兄弟子のゼギオンって人は、”禁手“を使っても手も足も出ないほど強いんだぜ」

 

「ほう、それは興味深いな。いつか手合わせしてみたいものだ」

 

「今のお前じゃ逆立ちしても勝てないけどな」

 

 少し喋り過ぎな気もするけど、まあいいか。

 コイツは別に他のやつに広めようとはしないだろうし、基軸世界について話さなければ、問題はあるまい。

 

「お主ら仲がよいのぉ」

 

 そこでオーディンの爺さんとロスヴァイセさんが現れる。何やら感心してる様子だ。

 

「今回の赤白は個性的じゃい。昔のはみーんな唯の暴れん坊で、各地で大暴れしては周囲の風景吹き飛ばしてたからのぅ。この対決のせいでいくつ山や島が吹き飛んだか……」

 

 ため息交じりに爺さんは語る。

 

「確かに……片方は卑猥で片方はテロリストですけど、二人共意外に冷静ですね。出逢ったら即殺し合いをするのが赤龍帝と白龍皇だと思ってました」

 

「ま、まあ、俺はぶっちゃけライバル対決に興味ありませんでしたからね……」

 

 卑猥で申し訳ないと思いつつ、俺はヴァーリを見据える。

 確かに珍しいのかもな、こういう関係になる赤龍帝と白龍皇って。

 実際、歴代の赤龍帝と白龍皇はすぐにドンパチやってたみたいだし、こうして他愛無い会話をしてる時点で仲がいいとは言えなくもないのかもしれない。

 

「ところで白龍皇。お主はどこが好きなのじゃ?」

 

 爺さんがいやらしい目付きでヴァーリに訊く。

 おいおい、爺さん。まさか、ヴァーリ相手にエロトークをする気か? 

 

「? なんのことだ?」

 

 首をかしげるヴァーリ。

 ヴァーリは爺さんの意図は分からないらしい。

 すると、爺さんはロスヴァイセさんのおっぱい、尻、太ももを指差していく。

 

「女の体の好きな部位じゃよ。赤龍帝は乳じゃろ? お主も何かそういうのがあるんじゃないかと思うてな」

 

「心外だ。俺はおっぱいドラゴンなどではない」

 

 心底心外そうに言うヴァーリ。ゴメンね! 全部、俺のせいだよね! 

 

「まぁまぁ、お主も男じゃ。何処かあるじゃろう?」

 

 ヴァーリは本当にわからないらしく、暫く唸るように考える。やがて────

 

「……あまり、そういうのに感心がないのだが。しいて言うならヒップか。腰からヒップにかけてのラインは女性を表す象徴的なところだと思うが」

 

 ヴァーリは多分、適当に言ったんだろう。何か、マジで考えたことなさげだし……。だが、何気にそう答えた次の瞬間────。

 

「なるほどのぉ。ケツ龍皇というわけじゃな」

 

『…………ぬ、ぬおおおおおんっ!』

 

 その言葉にとうとうアルビオンは無念の涙を流し始める。

 流石に不憫だ! 可哀そうだ! 

 

「……アルビオン、泣くな。相談ならいつでも聞いてやる」

 

 あのヴァ―リが優しい言葉をかけるレベル! 二天龍の心の傷は想像以上に深いぞ! 

 

「爺さん、やめてあげてくれ。今、二天龍はとても繊細な時期なんだよ」

 

「ほう、言うではないか。……流石はあの災厄の弟子を務めるだけのことはあるのぅ」

 

「────え?」

 

 今、この爺さんなんて言った? 聞き間違いじゃなければ、爺さんは俺の師匠を災厄といったのか? 

 

「爺さん、今のって────」

 

「ん? なんのことじゃ?」

 

 俺は今の言葉の真意を尋ねようとするも、はぐらかされてしまう。

 

「しかし、やはり若いものはいいのぅ」

 

 爺さんは突然年寄り臭いことを言い出す。どのみち、さっきの質問には答えてくれそうにないし、話を聞いてみるか。

 

「わしはのう、この年になるまで爺の知恵袋で何事も解決できると思っておった。だがのぅ、それは老人の傲慢じゃ。真に大切なのは若いころの可能性……今更それを思い出してきた。わし……いや、わしらの傲慢がロキを生んでしまったのじゃろう。そして、その傲慢で若い者たちが苦労をしとる」

 

 そういう爺さんの眼はとても悲哀に満ちるものだった。

 

「そう思うんなら、今からでも一歩一歩進めばいいと思いますよ」

 

 間違いを犯したのならば、やり直せばいい。俺は基軸世界で出逢った沢山の人達を思い浮かべながら、呟く。

 俺が何気なく口にした言葉に爺さんはぽかんと間の抜けた顔になる。しばらくすると、くっくっくっとおかしそうに笑いだした。な、なんですか、その反応は? 

 

「……若さはいい。年寄りをも刺激してくれる。ああ、そうじゃ、その通りじゃのぅ」

 

 なんだかわからないけど、爺さんはとても満足そうな顔をしていた。

 この人は、今までどのような人生を送ってきたんだろうか……。

 

「……爺さんは若いころ、どんな感じだったんですか?」

 

「……さあのぅ。とっくに忘れてしまったぃ」

 

 そういう爺さんの瞳は、何かを懐かしむような遠い瞳だった。

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「ふぅ~、今日はいろいろ情報量の多い日だったな」

 

 朱乃さんの過去にオーディン爺さんの話など、いろいろと考えることの多い一日だった。

 ……今日ははぐらかされたけど、次に機会があれば、もう一度オーディンのじいさんから話を聞かないとな。あの人は、間違いなく基軸世界についてを知っている。

 ティアマットさん……じゃあないよな。あの人が他者に基軸の話をする必要性なんてないし、ヴェルグリンドさんか? いや、あの人からオーディン爺さんの話なんて聞いたことないしな……。もしかしたら、本人にとってとるに足らないことだから伝えてないだけかもしれないけど……。

 

 ガチャ……

 

 不意に部屋のドアが開く。

 俺はミッテルトが帰ってきたのかと思い視線を向ける。

 すると、そこには白装束を纏った朱乃さんの姿があった。

 

「朱乃さん?」

 

 朱乃さんは俺の言葉など気にも留めず、後ろ手にドアを占め、鍵を閉めるとともに施錠魔法でドアを厳重にふさいだ。

 なにやら朱乃さんは髪を下ろしており、心なしか艶のある表情をしてる。

 

「イッセー君」

 

「は、はい?」

 

 朱乃さんは俺にゆっくりと近づいていき、すぐ目の前に立つと、帯をシュルシュルと解き、投げ捨てる! 

 

 ぱさっ! 

 

 床に白装束が落ちる。

 予想だにしない飛んでも展開で俺は完全にフリーズしてしまう! 朱乃さんは動くことができない俺に近づき、首に手を回し、そのまま俺に抱き着いてきた! 

 おっぱいが! 太ももが! 二の腕が! 全部が俺を包み込む! 女性特有の柔らかな感触と甘い匂いいちょり、身動きがまるでできねえ! 

 

「あ、朱乃さん、何を────」

 

 うろたえる俺に対し、朱乃さんは耳元でつぶやく。

 

「────お願い。私を抱いて」

 

 その言葉に、俺の思考は完全に停止するのだった。

 



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悲しみと日常と黄昏です

 イッセーside

 

 

 

 

 

 ────私を抱いて

 朱乃さんから言われた言葉を脳が認識すると同時に、俺の鼻から鼻血が吹き出しそうになる! 

 だ、抱いてって、マジで言ってますぅぅ!? 

 だが、そんなふうに興奮するのもつかの間、俺は朱乃さんと向かい合い、気付く。

 朱乃さんの表情は、何処か虚ろで、自暴自棄になっているように見えた。

 ……朱乃さんは素敵な女性だし、こういうことをしたくないかと言われれば嘘になる。

 ……でも、これは違う。

 俺は朱乃さんの肩に手を置き、俺の身体から離していく。

 

「……どうして? 私の身体は魅力ない……?」

 

 朱乃さんは震える声で聴いてくる。俺は偽ってもしょうがないので、正直に今の気持ちを口にする。

 

「そんなことないですよ。朱乃さんの体は大きくてやわらかくて最高ですし、正直揉みしだきたいです。あらゆるところを堪能してみたいです」

 

「……なら、そうしてもいい────」

 

「でも、今の悲しそうな朱乃さんにそんなことするわけにはいきません」

 

「────っ」

 

 俺の言葉に朱乃さんは正気を取り戻したような顔つきになる。

 

「朱乃さん、悲しみを忘れるためにこういうことをしようとしてますよね」

 

「……そうよ。そうやって、貴方に抱かれることで安心して決戦に臨もうとしているの。男の人に抱かれれば、この気持ちもきっと晴れると思って……」

 

「それで安心を得ても、一時的なものですよ」

 

 それじゃあ、朱乃さんは前に進めなくなってしまう。

 俺は朱乃さんが大人しくなったことを察して、白装束を身体にかける。そして、そのまま優しく朱乃さんを抱きしめた。

 

「……イッセー君?」

 

 怪訝そうに俺を見つめる朱乃さんに俺は答える。

 

「悲しいんだったら、不安だったら、こうやって抱きしめますよ。俺、破れかぶれな人とそういうことしたくないんです。ずっとそばにいます。朱乃さんがつらくなったら、またこうやって俺が抱きしめてあげますよ。だけら、元気になってください」

 

 俺の言葉を聞き入れると、朱乃さんはポロポロと涙を流し始めた。

 朱乃さんは誰かに身を任せることで、偽りの安心を得ようとしていた。それはだめだ。だから、そんなことしなくても、俺が……俺たちがいつでも朱乃さんを支えているってことを、教えてあげないと。

 

「本当にバカ……私も……あなたも」

 

「安心してください。馬鹿でもなんでも、朱乃さんのことを護りますから」

 

「ありがとう……イッセー……大好きよ」

 

 朱乃さんのその言葉には、確かな安堵が含まれていた。

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

「なるほど、それでさっき朱乃さんが安心したような顔してたんすね」

 

 その日の夜、俺はミッテルトに先ほどのことを報告していた。

 ミッテルトは晴れた顔をした朱乃さんをみて、俺が何かをしたのだと考えたみたいだ。

 

「……いよいよ、明日だな」

 

「ロキとフェンリル……それに、神祖の高弟たち。相当厳しい戦いになるかもっすね」

 

「ああ。────もしかしたら、()()()を使わざるを得なくなるかもしれないな」

 

「……そうっすか」

 

 俺の言葉にミッテルトは少し不安そうに俺を見つめる。

 あの力の危険性を知ってるからこそ、俺の心配をしてくれているのだろう。

 

「……うちは、黒歌っちを羨ましいと思ってるんすよ」

 

「……黒歌を?」

 

「ええ。うちは、強い覚醒魔王や、究極を持つ相手には太刀打ちできない。うちはまだ覚醒できてないっすからね……」

 

 それは事実だ。ミッテルトはいまだ覚醒を遂げていない。

 だから、相手が究極能力保持者だったり、究極に近い力を持つものが相手だと太刀打ちができないのだ。

 

「だから、いざという時、うちはイッセーの隣で戦うことができない。それが悔しいんすよね」

 

「ミッテルト……」

 

 そんなこと考えていたのか。別に気にする必要なんてないのにな。

 

「そんなこと気にすんなよ。俺はいつもミッテルトが側にいてくれてるだけで嬉しいし、お前が支えてくれるってだけで、心強いんだ。それじゃあ駄目なのか?」

 

「駄目……ってわけじゃないっすけど、やっぱり、うちもイッセーと一緒に戦いたいっすからね。守ってもらってばかりじゃ嫌っすから」

 

「……そうか。でも、俺はその気持ちでもう十分に嬉しいよ」

 

「……イッセー」

 

 それでもミッテルトは少し釈然としてない感じだな。でも、俺はぶっちゃけそこまで不安がることないと思うんだよな。

 

「大丈夫、ミッテルトなら、すぐに覚醒できるよ。ミッテルトの努力は俺が一番知ってるからな!」

 

 ミッテルトはこの世界に来てからも、毎日のように修行をしている。

 ならば、その成果は、魔素が薄いこの世界でもきっと届くはずだ。俺はミッテルトなら、いずれ覚醒して強くなると、前からずっと確信していたのだ。

 それを聞いたミッテルトは、少し嬉しそうに微笑んだ。

 

「イッセーがそう言うんなら、信じるっす。うちが覚醒したら、今度はうちがイッセーを守ってあげるっすよ」

 

「ああ。その時はよろしく頼むよ」

 

 俺がそう言うと、ミッテルトは俺に抱き着いてきた。

 最近は、部長や朱乃さんが家に住むようになって、久しくこういうやり取りはしていなかったから、なんか懐かしい感じがするな。

 

「大好きっすよ。イッセー」

 

「俺もだよ。ミッテルト」

 

 俺とミッテルトの顔は少しずつ近づいていく、静かに唇が重なった。

 舌を絡め、優しく、深くキスをする。

 こうして俺たちの夜は更けていくのだった。

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

「おっぱいメイド喫茶を希望します!」

 

「却下」

 

「巫山戯てんじゃないっすよ?」

 

 俺の意見に部長とミッテルトは嘆息しながら否定する。いい案だと思ったんだがな……。

 俺達は今、学園祭の催しを考えてるところだ。大変な時期だけど、それは決めておいたほうがいいということで、今日は部活で会議をしていた。

 

「でも、そうなると他の男子に皆の胸が見られてしまうんだよ?」

 

 ────っ! 

 それは盲点だった! 確かにそうだな。他の奴らに皆の胸を見られるなど論外だ! 木場に助けられたな。

 

「……しかし、そうなるとおっぱいお化け屋敷もムリか……」

 

「……そんな事考えていたんですか? ドスケベ先輩」

 

「そもそもそれって何するんすか?」

 

 膝の上に乗っかっていた小猫ちゃんとミッテルトが俺の言葉にツッコミを入れる。

 ちなみに出し物は去年と同じことをしたくないということで、お化け屋敷以外のものをやることになっている。

 それに、冷静に考えるとメイド喫茶は隣のクラスがやるんだよな……。

 

 うーん、難しいよなぁ。

 部長が部員一人一人に案を訊いていくが……これといって斬新なものが出るわけでもない。

 

「どうせならオカルト研究部らしさを出したものがいいっすね」

 

 オカルト研究部らしさとなると、オカルト的な内容か? でも、あまり話題にならないだろうな。

 むしろ、話題になるとすれば、部員達の方だと思う。

 ミッテルトに二大お姉様に、ロリロリで可愛い小猫ちゃん、アーシア、ゼノヴィア、イリナの教会トリオ、一部の特定の癖の方々から絶大な支持を得ているギャスパー、女子たちにとってのアイドル的存在木場。エロ学生の俺以外は全員人気者だ。

 ……自分で言ってて泣きたくなってきた。けど待てよ。俺と木場を除けば、部員全員が男子に人気の有名人だ。ギャスパーも女子として見られることもある。なにせ、ギャスパーは野郎どもに放り込まれるとなにされるかわからないという理由で女子に保護されてるくらいだからな。

 仮にギャスパーを女子と同じ括りに入れるとすると……。

 

「オカ研女の子達で人気者投票とか?」

 

 俺が何気なくそういうと女子部員が互いの顔を見合わせた。

 

「少し面白そうね」

 

 おお、意外と好反応。これは決まるかもしれいぞ。

 

「二大お姉さまのどっちが人気あるのか気になりますぅ」

 

 ここでギャスパーがポロッと言葉を漏らす。すると、部長と朱乃さんが揃って顔を見合わせた。

 

「「私が一番に決まってるわ」」

 

 部長と朱乃さんの声が重なり、にらみ合いを始めた! 

 二人とも笑顔だけど目が笑ってない! 凄えオーラを漂わせている! これはマジだ! ギャスパーも余計なことを言ったことに気付き、顔を青褪めさせている。

 

「あら、部長。何かおっしゃいました?」

 

「朱乃こそ。聞き捨てならないことを口にしなかったかしら?」

 

 あ、朱乃さんの調子が戻ってきてるのはいいことだけど……怖い! 今にも部室でバトルが勃発しそうなんですけど!? 

 

 バチッバチバチッ

 

 うおっ!? 

 朱乃さんから電気がほとばしっている! 

 

 ゴゴゴゴゴッ! 

 

 部長からは凄い魔力が! こ、これは不味いぞ……! 

 こうして、お姉さま方の口喧嘩が勃発し、会議はご破算。学園祭の催し物については後日に持ち越すことになった……。

 これって本当に修学旅行前に決めることが出来るのだろうか……。

 そんな他愛ない日常の一ページ。そこに、俺達の会議を静観していたアザゼル先生が呟いた。

 

「……黄昏か」

 

 それを聞いて、皆が真剣な面立ちになる。もう時間か。もうすぐ日が暮れる。ロキとの決戦が近づいているんだ。

 

 キーンコーンカーンコーン! 

 

 部活終了時間のチャイムが鳴り響く。それと同時に俺達は気合を入れて、立ち上がる。

 

「神々の黄昏にはまだ早い! お前ら、気張っていくぞ!」

 

『はい!』

 

 気合は十分! 俺達は決戦の刻を迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 決戦の時刻だ。

 既に日は落ちて夜となっている。俺達はオーディンの爺さんと日本の神様の会談が行われる、都内のとある高級ホテルの屋上で待機していた。

 五十階建ての建物だ。屋上ともなると、風もビュービューとはげしく吹いてる。

 周囲のビルの屋上にシトリー眷属が配置されていて、いつでも転送できるようにしている。

 匙は遅れるらしく、まだ到着していない。

 いまだグリゴリの施設で特訓を受けているみたいらしい。まだ来ないとか、一体どんな特訓を受けているのやら……。

 このままだと、すべてが終わった後登場するとかかなり恥ずかしい展開になるかもしれんぞ。

 先生は会談の仲介役として爺さんのそばにいる。故に、今回先生は参加が難しいらしい。

 この屋上には俺達オカ研メンバー以外に先生の代わりに戦闘に参加するバラキエルさん、鎧姿のロスヴァイセさん。遥か上空にタンニーンのおっさん。そしてヴァーリチームと黒歌が少し離れた位置で待機をしている。

 

「時間よ。会談が始まったわ」

 

 部長が腕時計を見ながら呟く。その言葉に皆の顔が一層引き締まる。

 会談が始まった。ホテルの一室で大事な話し合いが始まったということだ。

 ────瞬間、空間が歪み始める。

 

「小細工なしか。恐れ入る」

 

 ヴァーリが苦笑した。それと同時に俺は上空の一点を睨む。

 

 バチッ! バチッ! 

 

 ホテルの上空の空間が歪み、大きな穴が開いていく! そこから姿を表したのは────悪神ロキと巨大狼フェンリルだ! 

 ……正面から堂々と来やがった。

 

「目標確認。作戦開始」

 

 バラキエルさんの言葉と同時にホテル一帯を包むように巨大な結界魔法陣が展開された。

 会長を始めとしたシトリー眷属が俺達を戦場に転移させるための大型魔法陣を発動させたんだ。

 

「ふむ、場所を変えるか。良いだろう」

 

 ロキは特に慌てる様子もなく、不敵に笑んで大人しくしていた。

 そして、俺達は光に包まれる。

 

「────」

 

 光が止み、目を開くとそこは大きく開けた土地だった。

 岩肌ばかりで何もない。ここは使われていない古い採石跡地らしい。

 ミッテルトに黒歌、グレモリー眷属にバラキエルさん、ロスヴァイセさん、ヴァーリ達を確認。うん、全員いるな。

 

「逃げないのね」

 

 部長が皮肉気に言うと、ロキは笑う。

 

「逃げる必要などない。どうせ抵抗してくるだろうから、ここで貴殿らを始末すればいい。どのみち遅いが早いかの違いでしかないのだからな」

 

「貴殿は危険な考えにとらわれているな」

 

 バラキエルさんが言う。

 

「ふん。各神話の協力……などと夢物語を見る貴殿達に言われたくはないな。そのようなこと、不可能だ」

 

「やはり、話し合いは不毛か」

 

 バラキエルさんは雷光を纏い、背中に十枚もの黒い翼を展開した。

 それを見て俺とヴァーリが前に出る。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 赤と白、二つの閃光が戦場を覆う。

 俺の体に赤龍帝の力が赤い鎧として具現化され、ヴァーリも一切曇りのない純白の全身鎧に身を包んでいた。

 それを見てロキが歓喜する。

 

「これは素晴らしい! 二天龍が共闘しようというのか! こんなに胸が高鳴ることはないぞ!」

 

 ロキは”神話級“の剣────レーヴァテインを呼び出し、盾のように防御の魔法陣を展開する! 

 

「赤と白の競演! このような戦いができるのは我が初めてだろうな! 早速見せてもらおうではないか!」

 

 ロキはそう言いながら、俺たちに向けて幾重もの光を放つ! 

 俺はそれを見切り、上空のある場所へといなした! 

 

 ドドドドドンッ! 

 

 光の帯は何かへと激突し、ロキに突っ込もうとしていたヴァーリはそれに気付き、急停止する。

 ロキはそれを見て、愉快そうに笑っている。

 

「ほう。気付いていたのか?」

 

「ああ。お前が転移してきたと同時にな。────どうやら、気配の隠蔽はカグチの方が得意みたいだな────”メロウ“!」

 

 俺が自然を向けると、そこにはローブを纏ったメロウの姿があった。

 本当の戦いはこれからのようだ。俺は無傷で佇むメロウを見ながら覚悟を決めた。

 

 

 

 

 ****************************

 

 セラside

 

 

 

 

 

「……お兄ちゃん達、大丈夫かな……」

 

 私はお父さんとお母さんと一緒に今日のご飯を選びながら、何処かに行ってしまったお兄ちゃんやお姉ちゃん達のことを思い出す。

 お兄ちゃん達は何やら大変なことをしているらしい……。私も行こうとしたんだけど、お母さん達を守っててほしいって言われちゃったの。

 

「セラちゃん、どうしたの?」

 

「え? な、何でもないの!」

 

 心配そうにしてくれるお母さんを見て私は慌てて言う。

 

(……なんだか、嫌な予感がするの……)

 

 私は不安に思いながらも、家に帰ろうとする。家はお兄ちゃんの知り合いの人が作ってくれたという結界があるし、取り敢えず、お兄ちゃん達に言われたとおりに、お母さん達を守らないと……。

 

「……え?」

 

 そこで見た光景に、私は思わず声を出す。

 

「……あれ? まだこんなに暗くなる時間じゃないはずだよな……」

 

「変ねえ……」

 

 お父さん達の言うとおり、今はここまで暗くなる時間じゃないの。これは……“隔離結界”?

 

 ドゴォォン!!

 

 結界を解析しようとしたら、何かが私達の目の前に落ちてきた……あれは……っ!?

 

「と、トーカお姉ちゃん!?」

 

 落ちてきたのはお兄ちゃんの友達のトーカお姉ちゃんだ! 傷だらけでボロボロになりながらも何とか立ち上がろうとしている! 

 

「と、トーカちゃん!」

 

「だ、大丈夫かい?」

 

「くっ、来ちゃ駄目よ! セラ、二人を連れて逃げて!」

 

 トーカお姉ちゃんが私達に逃げるように促すと同時に、何かが天から舞い降りてくる。何やら懐かしい感じがする……なんなの? 

 

「……あれがターゲットか」

 

「……そのとおりだ。よもや本当にこんなところに居られようとは……しかも、ナマモノを父母なぞ……なんと嘆かわしい……」

 

 一人はお姉ちゃん達と同じ悪魔で、もう一人は……私と同じ? あの人達は一体……? 

 

「まあいい。とっとと連れて行くぞ」

 

「ふん、ナマモノか指図するでない!」

 

「っ!? 二人共!」

 

 私はお父さんとお母さんを守るため、武装の全てを開放しようとする。その瞬間、現れた()()に私は思わず息を呑んで────

 

 

 

 

 

 

 

 



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悪神と人魚の策謀です

 イッセーside

 

 

 

 

 

「ふん、相変わらずいけ好かん奴だ。赤龍帝」

 

 メロウはそういいながら、静かに降りていく。

 それを見て、ヴァーリは警戒するようにメロウを観察する。

 

「なるほど、これは凄まじいな」

 

 鎧越しながらも冷や汗をかいているのがわかる。どうやら、ヴァーリも本能的にメロウの脅威を感じ取ったみたいだな。

 

「ロキ。他の勢力と組む我らを批判しておきながら、自らは他勢力と手を結ぶというのか!?」

 

 バラキエルさんがロキに対して叫ぶ。だが、ロキはどこ吹く風だ。

 

「我の目的は“神々の黄昏(ラグナロク)”を執り行うこと。すべての神話体系を滅ぼすために、彼らと手を結んだわけだ」

 

「こちらにしても、神話勢力の滅亡は都合がいい。どの道我らは、この星に住まう全ての生命を消し去るつもりだからな」

 

 とんでもないこといいだしやがった! 全ての生命を消し去るだと!? 何考えていやがるんだ!? 

 

「そんなことをして何になる?」

 

「そこまで言う義理はないわ」

 

 メロウは会話を打ち切ると、指揮棒を回し、音楽を響かせる! 

 

「皆、気をつけろ! メロウは音を操る! 何をしでかすかわからねえぞ!」

 

 メロウの音楽は他者を操る効能がある! 俺は即座に英雄覇気を開放し、メロウの洗脳効果を相殺できないかを試す! 

 英雄覇気は言うなれば威圧だ! 洗脳をも打ち消すほどの威圧を皆にかければ洗脳されることはないはずだ! 

 

「ほう。対策はしていたようだな……だが」

 

「我を忘れてもらっては困るな!」

 

 嬉々とした表情のロキは全方位の魔術攻撃を仕掛けてきた! 

 俺とヴァーリはそれを躱しながら、距離を詰めていく! 

 

「俺はメロウをやる! ヴァーリはロキを頼む!」

 

「本当は逆がいいんだが……やむを得んか」

 

 何かアホなこと言ってるけど気にせず俺はメロウの元へと突っ込んでいく! 

 メロウは俺に対し、音波振動による攻撃を放つ! これは当たっちゃ不味いんだったな! 

 俺はそれを回避しながらメロウに突っ込み────

 

 ガキィンッ!! 

 

 メロウの指揮棒と俺の拳が交差する! 

 その衝撃で、辺りの岩が崩れ、大きく土埃が立ち上る! 

 俺は片手からハンマーを取り出し、魔力を流してメロウにぶつける! 

 

「!?」

 

 それを見たメロウは咄嗟に音の壁を展開し、ハンマーを止める! 

 ロキはヴァーリと戦いながらも俺が手にしているのを見て目元をひくつかせていた。

 

「……ミョルニル。レプリカか? そのような物を託すなど……! オーディンめ、それほどまでして会談を成功させたいか……!」

 

 ロキはオーディンの爺さんがこれを渡したことが許せないといった様子だな。

 だが、俺が今相対してるのはメロウだ! 俺はミョルニルを振り上げ、そのままメロウへと迫る! 

 

 ミキミキッ! 

 

「……チッ!」

 

 本来ならば、ミョルニルは神の雷を放つ至高のハンマーだそうだ! 

 だが、ミョルニルはレプリカといえど、意思を持つ“神話級”! 俺はどうやらミョルニルに完全に主だとは認めてはもらえないみたいなんだ。

 少し前にこっそり試したが、雷はいくら振るってもついぞでてこなかった。だが、ある程度は俺のことを認めてくれてるらしく、それ以外では“神話級”としての潜在能力を発揮できる! 

 

 バキィィン! 

 

 拮抗していた壁と縋はついに壁を破ることで均衡を崩した! 

 

「流石にやるな。私の音壁を破壊するとは……だが、ミョルニルの真価は発揮できないと……」

 

 メロウが気味の悪い笑みを浮かべると同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()! 

 

「なっ!?」

 

「食らうがいい! 北欧の魔術を!」

 

 ドドドドドンッ!! 

 

 余りに突然のことに反応が遅れ、俺はロキの攻撃をもろに受けてしまった! 

 痛ってぇ!? 何だこの威力! 先日見たときよりも遥かに威力があるぞ!? 少なくとも、ロキのエネルギーだけではこの威力はできないはず!? 

 ────ここで俺は気付く! ロキの攻撃にメロウの魔力が上乗せされていることに……っ! 

 

「そうか! この音楽か!」

 

 メロウの奴、操ると共に会長を強化していたように、自らの権能でロキの力を底上げしてやがるのか! 

 

 ドン! 

 

「がはっ!?」

 

「ヴァーリ!」

 

 俺がロキに気を取られていると、視界の端にヴァーリがメロウに吹き飛ばされる光景が映った! 

 メロウの蹴りが鳩尾に直撃したらしく、腹の部分に大きく罅が入っている! 

 

「ほう。後ろに跳ぶことで衝撃を逃がしたか……雑魚かと思っていたが、それなりのセンスがあるようだな」

 

「くっ、言ってくれるな!」

 

 ヴァーリはメロウに向かっていき、拳と魔術を掛け合わせた連撃を放つ! メロウは大した脅威を感じてないらしく、すべての攻撃を受け止める! 

 

『DividDividDividDividDividDivid!!』

 

 メロウが攻撃を受け止めるたび、“白龍皇の光翼(ディバイン・ディバインディング)”の効果が発揮される。だが、メロウの力は一向に下がる気配がなかった。

 

「その力、神格が相手だと上手く作用しないのだろう。私も神格を有していてな、残念だが、私には通じんよ」

 

「くっ!?」

 

 メロウがヴァーリの攻撃を弾き、カウンターで指揮棒を刃のように振るおうとする! 

 助太刀に行きたいが、メロウの力で底上げされたロキの弾幕を掻い潜りつつ、ヴァーリのもとに行くには間に合いそうもない。

 ────けど。

 

 ガギィィィンッ!! 

 

「っ! この結界は!」

 

 無類の硬度を誇る結界がメロウの斬撃を弾く! 

 今回、お前達神祖の弟子が来ることはわかっていたからな……だからこそ、何時でもサポートできるように控えさせていたんだ! 

 

「大丈夫にゃん? 白龍皇」

 

「ヴァーリだ。助かったよ」

 

 そう、黒歌だ! ルミナスさんの配下筆頭格にして、究極保持者の黒歌なら、相性が悪いメロウが相手でもうまく立ち回ることができる。

 

「黒猫ぉっ! 会いたかったぞぉ!」

 

 メロウが狂気的な笑みで黒歌を見据える。その瞳には復讐心がありありと感じ取れる。

 メロウは黒歌に向かって音波振動攻撃を放つ! メロウの攻撃はあらゆる結界を振動で内部から破壊するという力があり、結界系究極能力の黒歌とは相性の悪い相手だ。だが、黒歌はそれを結界で防ぎ、逆に“気”を纏わせた仙術の拳をメロウに放った!

 

「なに!?」

 

「お生憎様。私が何の対策もしてないと思ったかにゃ?」

 

 成る程。黒歌は自らの結界をミルフィーユみたいに幾重の層に分けることでメロウの振動攻撃を防いだのか! あれなら表面の結界が破壊されても次々と層が続くため、一撃で破壊されることはない。考えたな。

 

「こっちも負けてられないな!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

「なっ!? 速────」

 

 ドオオオオオオッン!! 

 

 俺の鋭い一撃がロキに向かって放たれる! 

 ロキはそれを防ごうとするが、その障壁を用いても全てを防ぎ切ることは叶わず、メロウと同じ場所にまで吹き飛ばされる! 

 

「ふん!」

 

 メロウは音でクッションを作り、ロキを受け止める! 

 ロキは口元から血を流しながらも、不敵な笑みを浮かべ、俺達を見据えていた。

 

「フハハハ! 凄まじいな! 赤龍帝! うーん、すごい! 基軸の強者とはここまでのものなのか! メロウの補助がなければ、今の一撃で戦闘不能になっていたかもな!」

 

 どうやら身体能力もメロウの力で底上げされているみたいだ。俺としても、今の一撃で終わらせるつもりだったから、少し残念な感じだ。

 俺はちらりとヴァーリを見る。“禁手”となった神滅具は神話級と同等の力を有する。つまり、使い方や本人の力量次第ではあるけど、究極能力相手でもなんとか闘うことはできるのだ。

 

「行けそうにゃん? ヴァーリ?」

 

「ああ。問題ない」

 

 ヴァーリはまだまだ闘志充分といった感じだな。

 ヴァーリも覚醒魔王級の戦力を持つ実力者。メロウはともかく、ロキが相手ならば勝てないまでも、戦いが成立するところまでは行くだろう。

 

「フフフ、高鳴るな……しかし……」

 

 ロキはふと視線を別の方に向ける。

 そこにはフェンリルと戦いを繰り広げる皆の姿があった。

 鎖はまだ届いていないらしく、部長がそれを受け取るための魔法陣を描き、その間は皆が時間を稼ぐという筋書きとなっている。

 相手は“天龍”級の化け物だ。皆苦戦してる様子だな。

 

「────神をも殺す牙。それが我が下僕フェンリルだ。神を上回る力を持つ貴様らが欠けたなか、あやつらだけで勝てると思うのか?」

 

 ロキは嫌らしい笑みを浮かべながら、挑発するように言う。

 どうやら俺の冷静さを欠きたいようだな。だけど────

 

「はあ!」

 

 ドゴンッ! 

 

 俺の視界にはフェンリルを殴る小猫ちゃんの姿が写った。

 尻尾が二股に増えている。黒歌との修行で得た新形態“猫又モードレベル2”だ。

 あの状態では存在値も一気に20万近くまで跳ね上がり、仙術の力も増大する。

 

「ほう。貴殿に受けた傷があるとはいえ、フェンリルに攻撃を与えるとはな……」

 

 どうやらフェンリルは俺を警戒してずっと俺のことを睨んでいたからな。

 取るに足らないと警戒していなかった相手から攻撃を受けたことで、フェンリルは相当苛立ってるみたいだ。

 フェンリルは自らの気を完全に操れてるわけではなさそうだ。ダメージは通ってないみたいだが、仙術の対処法を知らないわけだし、フェンリルをある程度弱体化させるだけの気を送り込めれば充分だろう。皆の目的は時間稼ぎなのだから。

 

「心配無用! 皆ならフェンリルだって倒すことができる! 俺はそう信じてるからな!」

 

「美猴達がそう簡単に死ぬことはないさ。アイツラの強さはよく知ってるからな」

 

「そういうことにゃん。私も白音に色々仕込んだし、フェンリル一匹くらいなら充分勝てる見込みがあるにゃん」

 

「ほぅ? それは面白い」

 

 ロキはそれを聞きながらも不敵な笑みを崩さず、俺達に剣を向ける。それを見た俺はロキとメロウを見据えながら、戦力を分析する。

 先程の入れ替わりも気になるが、原理がわからない以上、警戒することしかできない。取り敢えずは俺達でこの二人に対処し、フェンリルの相手は皆に託す! 皆なら、絶対にフェンリルに勝てるはずだ! 

 

「行くにゃん!」

 

「ああ。足を引っ張るなよ、ヴァーリ」

 

「言われるまでもない!」

 

 俺達三人は顔を見合わせ、メロウとロキに向かって突っ込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 *********************

 

 木場side

 

 

 

 

 

 ガルルルルルル! 

 

「くっ!」

 

 ガキィン!! 

 

 フェンリルの牙が僕たちを襲う! 

 僕はギリギリのところでフェンリルの攻撃を見切り、なんとか回避をする! 

 あ、危ないところだった……もしも、フェンリルが万全だったら、いまので終わっていたかもしれない。

 

「フェンリルの動きは私がある程度乱します……」

 

 そう。フェンリルの動きを小猫ちゃんが仙術である程度のところまで抑えているのだ。

 黒歌さんから教わった仙術でしかできないことだと思う。

 小猫ちゃんは黒歌さん譲りの体術と気闘法を上手く操り、気配を消しながらフェンリルに一撃を与えることに成功した! これはフェンリルがイッセー君を敵視し、視線を向けていたことやロキの指示がなかったことも関係してるだろう。

 何はともあれ、そのときに小猫ちゃんはフェンリルに気を送り込み、フェンリルを弱体化させたのだ! 

 

「凄えな。あのフェンリルを抑えるほどの仙術だなんてよぅ」

 

「……姉様との修行の成果です」

 

 同じく仙術を使えるらしい美猴も興味深そうに小猫ちゃんを見ている。

 それを煩わしく思ったのか、フェンリルは凄まじい速度で小猫ちゃんの方へと向かい、牙を突き立てようとする! 

 

「そいつはやらせん!」

 

 そこへ、タンニーンさんの炎がフェンリルを襲う! 気が乱れたことで、耐久力もある程度は下がっているのか、少しだけどダメージも通ってるみたいだ。

 

「ぬぅ、弱体化してなお、俺の炎がほとんど効かんとは……」

 

 そう。フェンリルは小猫ちゃんの仙術により、通常よりも弱体化した状態にある。

 ────それでも、イッセー君を彷彿とさせる速度に、龍王の炎をも難なく耐えるほどの耐久力を兼ね備えている! イッセー君の速度に慣れていなければ、皆とっくに終わっていたかもしれない。これで弱体化してるというんだから、恐ろしい。

 もしも小猫ちゃんによる弱体化がなければ────ゾッとするね。

 

「……私の仙術もそう長くは持ちません。部長は今のうちに準備を……」

 

「ええ。わかってるわ!」

 

 部長は直ぐ様魔法陣を描き、グレイプニルを使う準備をする。

 何かを察したのか、フェンリルは部長へと視線を向け、魔法陣を展開する部長に攻撃を仕掛けてきた! 

 

「だから、させないっすよ!」

 

 ザンッ! 

 

 だが、それよりも速く、ミッテルトさんがフェンリルの脚を切り裂いた! 

 フェンリルは脚から血を垂れ流しながら、敵意を込めてミッテルトさんを睨みつけている。

 

「ふ〜む、流石に硬いっすね。両断するつもりが薄皮しか斬れないとか……肉体はもとより、あの体毛も鎧の役割を果たしてるようっすね」

 

 ミッテルトさんはフェンリルを見つめながら、考察をする。

 確かに、先程から僕は雷や氷、炎など様々な聖魔剣を使い、多面的に攻撃をしてフェンリルの脚を止めようとしているが、フェンリルは痛痒すら感じることなく動いている。

 

「しかし、空間ごと削り取れば────」

 

 そう言いながら、アーサーは聖王剣を構え、フェンリルに斬りかかる! 

 

 ゴリュ! 

 

 聖王剣は空間を削る力がある! アーサーは聖王剣を使い、周囲の空間ごとフェンリルの肉を削り取った! 

 

「────防がれてますね。ある程度は削れても、大したダメージにはならなさそうですか」

 

 空間ごと相手を削る聖王剣ですら、フェンリルに致命傷を与えることはできないのか……。

 

「でも、ダメージはあるっすよ。相手は“超速再生”を持ってないみたいっすし、削るだけ削りましょう」

 

「フッ、貴女も凄まじい剣士のようですね。一度手合わせしてみたいものですよ」

 

 そう言いながら、アーサーとミッテルトさんはフェンリルの肉を少しずつ削り取る。

 

 グルルッ! 

 

 流石のフェンリルもこの連撃には痛みを感じてるみたいだ。

 ……でも、決定打にはなっていない。フェンリルの隙を作るには、まだ足りてないみたいだ。

 どうすれば────。

 

 ブオオオオオオオオオオオオンッ! 

 

 その時、黒い炎が突如として巻き起こり、フェンリルを飲み込んだ! 

 その炎は特殊な性質を持っているらしく、フェンリルの力が徐々に抜けていっているのを感じる! 

 

「────っ! このオーラは……黒邪の龍王(プリズンドラゴン)ヴリトラか!?」

 

 ヴリトラだって!? 瞬間、地面から巨大な魔法陣が現れ、その中心から黒いドラゴンが現れる! 

 

『皆さん、聞こえますか? 私はグリゴリ副総督シェムハザです』

 

 緊急用のイヤホンマイクから声が聞こえる。聞こえてきたのは堕天使の副総督シェムハザ様の声だった。

 

「シェムハザ様。あの黒いドラゴンはもしかして……」

 

『ええ、皆さん勘づいているとは思いますが、そのドラゴンは匙元士郎君です』

 

 やっぱりか! あのオーラは間違いなく匙君のものだ! でも、どうして……。

 

『簡単に言うと、彼にヴリトラの神器を全部くっつけました。そもそもヴリトラは幾重にも切り刻まれ、その魂を分割して封じた存在。故に、所有者は多いのですが、分別すると、『黒い龍脈』『邪龍の黒炎』『漆黒の領域』『龍の牢獄』の4つです。それらは全て、グリゴリが保管していたたま、今回その4つを匙君に埋め込み、合わせたのです。結果、神器は統合され、ヴリトラの意識は復活しました。匙君は何とか抑えてますが、長くは持たないでしょう』

 

 なるほど。結果として、匙君はあの巨大な龍の姿になったということか。

 

『匙君。あとはいけますか?』

 

 シェムハザさんがそう尋ねると黒いドラゴンから声が発せられる。

 

『はい! 何とかやってみます!』

 

 そう言いながら、匙君は再度、その黒い炎をフェンリルに向けて放つ! 

 

 ────この時、フェンリルに決定的な隙が生じた! 

 

「今よ!」

 

 ついに届いたか! 

 部長は魔法陣からグレイプニルを召喚し、僕達グレモリー眷属やバラキエルさん、ヴァーリチームの面々に託した。

 

「はあああ!」

 

 僕達はグレイプニルを一斉にフェンリルへ投げつける! 

 

 バヂヂヂヂヂヂヂッ! 

 

 ダークエルフによって強化された魔法の鎖は意思を持つかのようにフェンリルの体に巻き付いていく! 

 

 オオオオオオオオオンッ……。

 

 フェンリルは苦しそうにあたり一面に悲鳴を響かせる。

 

「────フェンリル、捕縛完了だ」

 

 バラキエルさんは身動きができなくなったフェンリルを見て、そう口にするのだった。

 

 

 

 

 

 *********************

 

 イッセーside

 

 

 

 

 

 流石! 完璧だな! 

 俺は動きを封じられたフェンリルを見て笑みを浮かべる。

 というか、匙もそうだけど、小猫ちゃん大活躍だな! 一見すると、ミッテルトとアーサー、最後に登場した匙に目が行きがちだけど、初手でフェンリルの気を断ち切り、フェンリルを弱体化させた小猫ちゃんがMVPと言えるだろうな。もし、小猫ちゃんがいなければ、結構危なかった。下手したら、死者が出てた可能性すらある。

 匙も龍王の力を見事に覚醒させている。まだ、完全に制御できてるわけじゃなさそうだけど、いずれは魔王級以上の存在になりそうだな。

 さてと、あとはロキとメロウの二人だけ。俺は改めて視線を向ける。

 ────だが、二人共全く慌ててない。少しは焦ると思ったが、ロキは感心するように見てくるだけ、か。

 まだ何かある。そう感じた俺は油断せずにロキを睨みつける。

 

「この状況でまだ余裕があるのか?」

 

 俺は思い切ってロキに問う。ロキは意外にもすぐに答えてくれる。

 

「よもや、貴殿が抜けた状態でフェンリルを封じられるとはな。グレイプニルを強化したのは……ダークエルフかな? そして、そのことを貴殿らに教授したのはあの怠け者だろう……」

 

「怠け者……噂に聞いたミドガルズオルムとやらか。面倒な真似をしてくれたな。────仕方あるまい!」

 

 そう言うと、ロキとメロウは新たに空間の歪みを出す! 

 何をする気だ!? 

 空間の歪みから現れたのは、見覚えのある紅い髪! 忘れもしない、あの野郎は……

 

「カグチ!」

 

「よう、兵藤一誠。久しぶり」

 

 現れたのはカグチだ。何やら複雑そうな表情をしながらメロウを見つめている。

 

「ご苦労カグチ」

 

「……あの方の命令だから、協力するけどさ、お前本当に嫌らしいことするよな……」

 

「なんとでもいえ。勝つためだ」

 

 カグチの言葉にメロウは笑みを深め、反論する。何だ? 仲間割れか? 

 カグチはよく見ると、何かリードのようなものを手に持っている。

 それを引っ張ると現れたのは────

 

「さてと、スペックは劣るが……紹介しよう」

 

 灰色の毛並み、鋭い爪、大きく避けた口を持つ二頭の狼が鎖に繋がれ、現れた! 

 

「スコル! ハティ!」

 

 オオオオオオオオオオオオンッ! 

 

 マジ!? フェンリル!? 

 現れたのはフェンリルそっくりの二頭の狼! 

 どちらもEP150万を超えており、凄まじい威圧感を放っている! 

 

「紹介しよう。フェンリルの子、スコルとハティだ。ヤルンヴィドに住まう巨人族の女を狼に変え、フェンリルと交わらせたことで生まれたものたち。親のフェンリルよりは劣るが牙は健在だ。十分に神を屠ることが出来るだろう」

 

 マジかよ……! フェンリルに子供なんていたのかよ! 

 ミドガルズオルムも知らなかったってことだよな……? この最悪の状況でとんでもない奴らが現れやがった! 

 

「……ん? 誰か乗っかってい────っ!?」

 

 子フェンリル二頭の頭上に誰かの影が見えた。

 それを見た黒歌は────今までにない表情で固まっていた。

 

「────な、何で……?」

 

 見ると、朱乃さんとバラキエルさん、そして黒歌が信じられないものを見たかのように動揺して言葉を失っている。

 なんだ? 二人共、見覚え……というか、面影がある! 一人は巫女服を着た黒髪の女性、もう一人は猫又らしく、白髪に大きいおっぱいが特徴的な美女。共にうつろな瞳をしている。精気をまるで感じない。まるで死体のようだ。

 ────アレは……まさか!? 

 

「……か、母……様!?」

 

「……朱璃!?」

 

 そう、フェンリルの頭上に乗っている二人は片方は朱乃さん、片方は小猫ちゃんによくにていたのだ! それを見た黒歌はワナワナと身体を震わせる。

 

「……お前……何考えてるんだにゃん! メロウッ!!」

 

 全てを察した黒歌が凄まじいまでの殺意と怒りを込めてメロウを睨みつける! 

 それに対し、メロウは嫌らしい笑みを浮かべるだけだった。



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臨まれぬ戦いです

 イッセーside

 

 

 

 

 

「……か、母……様!?」

 

「……朱璃!?」

 

「……お前……何考えてるんだにゃん! メロウッ!!」

 

 信じられないものを見たことにより、固まるバラキエルさん達。黒歌はそれを見て、メロウに怒りをぶつける! 

 コイツ……なんて手段を使ってくるんだよ……っ! 

 

「フフフッ、何だ? あの二人に見覚えでも?」

 

「見覚えも何も、あの猫又は“藤舞”! 私の……私と白音の母親だにゃん!」

 

 黒歌は凄まじい剣幕で叫ぶ! 小猫ちゃんが驚いたようにしてることから、小猫ちゃんも知らなかったみたいだな。

 それに対し、メロウは嘲るように嘲笑するだけだった。

 

「……死霊魔法“死霊蘇生(レイズデッド)”。それで生み出した“使い魔(サーヴァント)”か! 巫山戯たことしやがって!」

 

「ほう? 知っていたか……」

 

 俺の言葉にメロウは興味深そうに笑う。

 

「貴様の言う通り、あれは死体に複数の邪霊や怨念、私の魔力をブレンドしたものを打ち込み作った“使い魔”だ。その力は最上級悪魔くらいはあるか……少なくとも、下手な魔王を上回るだろうな」

 

 死霊蘇生は複数の魂と膨大な魔力を使い、死体を操り人形にするという邪法の中でも最悪の部類に入るものだ! 

 この禁忌の邪法はかつて、“勇者”グランベル・ロッゾが使っていたものであり、グランベルは死んだ妻の遺体に大勢の“異世界人”やルミナスさんの“愛の接吻(ラブエナジー)”を注ぎ込んだことで、魔王級の力を得ていたという。

 そんな邪法を朱乃さんや小猫ちゃん達のお母さんに使いやがって……っ! 

 

「……相変わらず趣味が悪いなメロウ」

 

「ふん、なんとでもいうがいいカグチ。私は勝つためならば手段は択ばん。特に、そこの黒猫には嫌がらせをしたいからな」

 

 そう言うと、メロウは指揮棒を振るう。すると、二人の使い魔は反応し、うつろな瞳のまま、朱乃さん達を見据え、構えだした。

 それと同時にロキも二匹のフェンリルに指示を出し始める。

 

「さあ、スコル、ハティよ。父を捕えたのはあの者たちだ。その牙と爪で食らい尽くすがいい!」

 

 風を切る音と共に二匹の子フェンリルが駆けだした! 

 一匹は朱璃さんを背に乗せ、もう一匹は藤舞さんを頭にのせながら、二頭のフェンリルは皆のほうへと駆けていく! 

 

「ふん、犬風情が……っ!?」

 

 そう言いながら、タンニーンのおっさんはフェンリルめがけて炎を放とうとするが、それを庇うように飛んできた影を見て攻撃を止める! 

 ────朱乃さんだ! 朱乃さんは涙を流しながら、二頭のフェンリル……いや、自分の母親を庇うかのように、おっさんの前に立ちふさがった! 

 

「な、何をしている姫島朱乃!」

 

「やめて! 攻撃しないで!」

 

 朱乃さんは涙を流しながら叫ぶ! 

 

「駄目よ朱乃! イッセーが言っていたのを聞いてたでしょう! あれは貴方の母親じゃない! 母親の身体を操ったものよ!」

 

「わかっているわ。でも、それでも……」

 

 部長が言う、だが、朱乃さんは唇を震わせるだけだ。

 だが、こうしている間にもフェンリルは迫っている! やばい! 子フェンリルの牙が朱乃さんに襲い掛かる! 俺は即座に助けに行こうとするも、メロウがそれを邪魔をしてくる! 

 

 ガキィン! 

 

「ぐっ、邪魔だ! 退きやがれ!」

 

「そうはいかんな。今、面白いショーをやってるのだ。特等席でともにみようではないか」

 

 クソっ! メロウは邪悪な笑みを浮かべながら、そのようなことを俺に言ってきた! ふざけるんじゃねえぞ! 

 俺達は何とかメロウを突破しようとするが、メロウは音による防御幕を全開にし、俺達の行く手を阻もうとする! 

 まずい! このままじゃあ、俺も黒歌も間に合わねえ! 

 そのまま子フェンリルは朱乃さんに襲い掛かろうとする! 

 やられる────そう思った瞬間だった。

 

 ザシュッ! 

 

「────え?」

 

 肉に牙が突き刺さる鈍い音が響く! 子フェンリルの牙に身を貫かれたのは────朱乃さんではなく、バラキエルさんだった! 

 バラキエルさんは朱乃さんを庇う形で子フェンリルの牙に背中を貫かれたのだ! 

 

「ごふっ!」

 

 バラキエルさんの口と傷口から大量の血が流れ出る! どう見ても致命傷だ! 

 そのまま倒れ伏すバラキエルさんを、朱乃さんは信じられない様子で眺めている。

 

「……どうして?」

 

「……お前まで失くすわけにはいかないんだ」

 

 バラキエルさんの言葉に朱乃さんは何とも言えない表情になる。

 

 ギリギリ! 

 

 音に気付いた朱乃さんが振り返ると、朱乃さんのお母さん────朱璃さんの屍人形が弓矢を携え、朱乃さんをしっかりと狙っていた! 

 

「呆けないで、朱乃!」

 

 放たれた弓矢を部長が滅びの魔力で迎撃しようとする! だが、矢は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! 

 

「なっ!?」

 

「リアス!」

 

 弓矢に貫かれた部長を見て、朱乃さんが叫ぶ! 今のは……ユニークスキルか! 

 

「この野郎っ!」

 

 龍王と化した匙はその黒い炎を纏い、子フェンリルに向かって放とうとする! 

 ……しかし。

 

 ゴォォォウ! 

 

「なっ!?」

 

 匙の黒い炎は藤舞さんが放つ白い炎によって浄化されてしまう! あれは、不浄を浄化する黒歌の“火車”か! 火車の浄化の力で匙の炎を相殺したんだ! 死体なのに、仙術を使えるのかよ……いや、それだけじゃない! 

 

「ぐおっ!?」

 

 それだけでなく、藤舞さんが匙に向かって気弾を放つと、その気弾から鎖が生成され、匙の巨体を縛られてしまう! その隙に子フェンリルは匙に向かって爪撃を食らわした! 

 

 ザシュ! 

 

「ぐはっ!?」

 

 元々龍王の力を完全に掌握したわけではない匙は、子フェンリルの攻撃に耐えきれず、人間の姿に戻りながら倒れ伏してしまった! 

 今のは捕縛系のユニークスキル! 二人共ユニーク持ちかよ! 

 

「当然だ。素材とした数多の死霊は別世界のものも含まれている。一つではない。こいつらは複数のユニークスキルを有しているのさ」

 

 複数のユニークスキルに魔王級のエネルギー……厄介すぎるだろ! 

 メロウ……神祖の新たなる種族の創造の補助を担当していたと聞いてはいたが、こんなこともできるのかよ! 

 

「シェムハザさん! 匙はもう戦えません! バラキエルさんも……急いで転移させてください!」

 

『は、はい。わかりました!』

 

 匙は元の転移魔法陣を使い、姿を消す。すぐ真下に通ってきた魔法陣があったのが幸いだな。バラキエルさんも早く……それを見たメロウは舌打ちをする。

 

「……後々逃げられるのは面倒だな」

 

 メロウはそう呟き、指揮棒を回す。すると、辺り一帯の空間が固定され、転移魔法陣も全て消え去ってしまう! 

 こいつ、逃げ道を潰しやがった……厄介な真似ばかりしやがって……っ! 

 

 オオオオオオオオンッ! 

 

 子フェンリルが動けなくなった部長たちを再び噛み殺そうとする! 

 それを木場とゼノヴィアが正面から防ごうとする! 

 

「ぐっ、すごい力だね」

 

「子どもとは言えフェンリルということか、凄まじいなっ!」

 

 ガキィン! と二人は子フェンリルの攻撃を何とかいなすことに成功する! 怯んだ子フェンリルに対し、ゼノヴィアはデュランダルとアスカロンを十字に構え、二つの光を相乗させる! 

 

「行くぞおおおおおおおおお!」

 

 ゼノヴィアの気合と同時に二本の聖なる剣の力が解き放たれる! 

 

 ザバァァァアアアアアアアアアアアッッ!! 

 

 ディオドラの眷属戦で見せた波動攻撃! “伝説級(レジェンド)”と“特質級(ユニーク)”の相乗効果により、覚醒魔王級の子フェンリルにも十分通用する一撃となっている! 

 

「まだまだ!」

 

 ズバババンッ! 

 

 大ダメージを負った子フェンリルに対し、駄目押しで木場が聖魔剣を叩きこむ! 足元に大量の聖魔剣を出現させ、その隙間に神速のスピードでどんどん切り込みを入れていく! 

 

「朧・流水斬!」

 

 そうして動きが鈍った子フェンリルに対し、ミッテルトが渾身の斬撃を叩きこむ! 

 

 オオオォォォォォン! 

 

 子フェンリルはさすがにこれらの連撃には耐えきることができなかったのか、とうとう動きを停止させる。

 

 ギリギリ! 

 

 それを見た朱璃さんはフェンリルの頭上から飛び降り、再び弓矢を携えるが、木場はそれよりも早く、巨大な聖魔剣を出現させ、朱璃さんを閉じ込めた! 

 

「これでしばらくは動けないはずです! 今のうちに回復を!」

 

「ええ、アーシア!」

 

「はい」

 

 アーシアはその隙に淡い緑色の光を発生させ、バラキエルさんと部長の治療を始める。

 

「させん!」

 

 それを見たロキは即座に魔術でアーシアを攻撃しようとするが、それをヴァ―リが同じ魔術で相殺する! 

 

「チっ、カグチ! 貴様も手伝わんか!」

 

「……了解。俺は兵藤一誠を貰うけど、いいか?」

 

「ふん、私は黒猫を先に始末するつもりだ。殺すのは私だが、それくらいならいいだろう」

 

 メロウはカグチに応援を求める。

 それに対し、カグチは先ほどのやる気なさげな態度から一転して、好戦的な笑みを浮かべ、俺に向かってくる! 

 

「くっ、仕方がないにゃん! 白音! 聞こえている!」

 

「姉さま!」

 

 黒歌はギャスパーとイリナ、ヴァ―リチームにロスヴァイセさんと共にもう一頭のフェンリル────そして、藤舞さんと戦っている小猫ちゃんに向かって叫ぶ! 

 小猫ちゃんは母親が相手ということで、やはり動揺が隠せないのか、明らかに精彩さを欠いているように見える。

 

「いい! 白音! お母様を攻撃なんてしなくていい! 私がそっちに行くまで、死なないように持ちこたえるんだにゃん!」

 

「────はい!」

 

 小猫ちゃんはそう言うと、攻撃の回避とフェンリルの動きを乱すことに専念する。

 

 

 

 

 ****************************

 

 朱乃side

 

 

 

 

 

 

「ぐぅ……」

 

「しっかりしてください、部長さん」

 

 私は傷ついたリアスやお父様の姿を見ながら狼狽をしていた。

 わかっている。あれはお母さまなんかじゃないんだってことを……。でも、私はお母さまの身体に攻撃を加えることなんてできなかった。そのせいで、父様とリアスが傷ついてしまった。

 

「……私は……私は……!」

 

 私はなんてことを……。もし、私があの時前に出てなかったら、父様もリアスも傷つくことなんてなかったのに……。

 

 バゴォォン! 

 

 壁となっていた裕斗君の聖魔剣が崩れていく。

 空洞となった穴からは、母様が昔と何も変わらない姿で歩いてきた。

 

「朱乃さんは下がっててください!」

 

「ここはうちらがやるっす!」

 

「朱乃嬢は下がっていろ!」

 

 そう言いながら、ミッテルトちゃんや裕斗君、ゼノヴィアちゃん、タンニーン様が前に出る。

 彼女たちは剣を携え、母様の元へと向かっていく。

 私は……私はどうすれば……。そんな中、優しい誰かの手が、私の頭をなでてくれた。

 

「……しっかりしろ。朱乃」

 

「……父……様」

 

 父様はそういいながら、私の頭を昔のように撫でてけれた。

 その時、私は今までの思い出が弾けるように溢れ出してきた。

 

『手入れをしてくれるのか。ありがとう。朱乃』

 

 これは、父様と一緒にお風呂に入ったときのことだ。

 

『いいよ。父さまの羽、黒くてつやつやで、朱乃の髪の毛と同じだもん! 私、父さまの羽大好きよ!』

 

 そうだ。このときの私は堕天使の羽に悪い印象なんて持ってなかった。むしろ、私や母様と同じ黒い羽が大好きだったっけ……。

 

『母様! 父様はいつ帰ってくるの?』

 

『あら、朱乃。父様と何処か行くの?』

 

『うん! 速く帰ってきたら、一緒にバスに乗ってお買い物に行くの!』

 

 あの頃の、何も知らない私は父様のことが大好きで、いつも寂しかった。

 いつも父様がいてくれたら良かったのに……ずっと、そう思っていた。

 

『ねえ、母様? 父様は朱乃のこと、好きかな?』

 

『ええ、もちろんよ』

 

 たまにしか父様に会えなかった。だから、時折父様が自分のことをどう思っているのか不安になってしまった。

 ────そんな時、あの悲劇が起きた。

 

『その子を渡してもらおうか。忌々しき邪悪な黒き天使の子だ』

 

『この子は渡しません! この子は大切な私の娘です! そして、あの人の大切な娘! 絶対に渡さない!』

 

『……貴様も黒き天使に心を穢されてしまったか。憐れだが、致し方あるまい』

 

『か、母様ぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 この時、私は父様を責めた。母様を助けてくれなかった父様を────責めてしまった。

 

『どうして! どうして、母様のところに来てくれなかったの!? ずっとずっと、父様を待っていたのに! 今日だって、早く帰ってくるって────ううん! そもそも今日はお休みだって言ってたのに! 父様がいたら、母様は死ななかったのに!』

 

 父様は悪くない。そんなこと、わかっていた。けれど────

 

『あの人達が言っていた! 父様が黒い天使だから、悪いんだって! 黒い天使は悪い人なんだって! 私も黒い翼があるから悪い子なんだって! 父様と私に黒い翼がなかったら、母様は死ななかったのに! 嫌い! 嫌い! こんな翼大嫌い! 父様も、皆大嫌いっ!』

 

 あのときの父様の悲しそうな顔は今でも覚えている。

 父様が悪い────そう思わなければ、私の精神が持たなかった。私は弱いから……。寂しくて……ただ、三人で暮らしたかっただけなのに……。

 

「……ごめん……なさい」

 

 私は涙を流しながら、父様を抱きしめる。

 

「私……はっ……、父様ともっとたくさん会いたかった! 父様にもっと頭を撫でてもらいたかった! 父様と……もっとたくさん遊びたかった! ……三人で、もっと暮らしたかった……っ!」

 

 父様は私の言葉を聞き終えると、私のことを抱きしめ返してくれた。

 

「朱璃のこと、お前のこと、1日たりとも忘れたことはなかった。……寂しい思いをさせて、済まなかった。朱乃……」

 

 ……暖かい。父様の抱擁は、昔から安心する感じがする。

 

 ドゴォォン!! 

 

「がはっ!?」

 

 弓矢が爆発を起こす。その巨体を生かし、皆の盾役としてミッテルトちゃん達を守ってくれていたタンニーン様が倒れ臥す。

 それを成し得たのは母様だ。

 その姿は────とても哀しそうに見えた。

 

「ぐっ……」

 

「父様、まだ立っちゃ……」

 

 それを見た父様は、力を振り絞り、立ち上がろうとする。

 いくら、アーシアちゃんの回復を受けたからと言って、失われた血液が戻るわけじゃない。父様はもうとても戦うことができる身体じゃないにも関わらず、立ち上がろうとしている。

 

「母さんは……朱璃は私が止める……それが、私の義務なんだ……」

 

 しかし、そういいながらも父様は立てないでいる。

 父様はもう限界だ。────私は覚悟を決めて、母様と向き合う。

 

「……いいえ。私が止めます」

 

 私の言葉に父様は驚いたような顔をする。

 

「駄目だ! お前にそのような業を背負わせるわけには行かぬ……これは私が……」

 

「いいえ。父様、それは違うわ」

 

 私は父様と視線を合わせ、言葉を紡ぐ。

 

「私は……朱乃は本当に弱い娘だった。弱いから、あの時は父様を攻めることしかできなかった。父様だけに背負わせることしかできなかったの……。でも、今は違う! 父様一人で背負うことない! 私は……母様のあんな姿を見たくない。父様やリアスを傷付ける母様なんか、見たくない。だから、私が母様を止める! もう、父様だけに背負わせたりしないわ!」

 

「朱乃……」

 

 そう。母様は絶対にこんなことしたくないはず! 

 父様やリアスの負傷を招いたのは私。ならば、私が責任を負うべきだ! 

 

「……頑固なところは……母様そっくりだな……」

 

 父様はそう言いながら、ひとつぶの涙を流し、微笑んだ。父様は再度、私の頭を撫でる。

 

「……貴女の覚悟はわかったわ。行ってきなさい。朱乃!」

 

 リアスは矢で貫かれた箇所を押さえながら言う。

 父様もそれを見て苦笑し、しばらく瞠目した後に口を開いた。

 

「……朱乃、母様を止めてやってくれ。朱璃もこんなことしたくないはずだ」

 

「……はい! 行ってきます、父様、リアス。母様を────止めてきますわ!」

 

 私は大嫌いで、大好きな黒い翼を羽撃かせ、母様の下へと向かった! 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 小猫side

 

 

 

 

「くっ、本当に死体なのですか? 凄まじい力ですね」

 

「それに、子供フェンリルもとてつもなく厄介だぜぃ」

 

 聖王剣の担い手であるアーサーがそう言いながら、母様に切っ先を向ける。

 ……朧気だけど、母様はとても優しい人だった記憶がある。私がまだ、赤ん坊のときに死んでしまったけど、泣きじゃくる私の頭をいつも撫でてくれたことを、何となくだけど覚えています。

 そんな母様が、今子フェンリルの頭の上に乗っかりながら、私達と相対している。

 

「大きくなれ! 如意棒!」

 

 孫悟空の末裔である美猴が如意棒を使い、母様に攻撃を仕掛ける。

 美猴の如意棒による攻撃を簡単に見切り、逆に美猴を地面に叩きつけている。

 

「このぉ!」

 

「やらせません!」

 

 イリナさんが即座に光の槍を投げつけ、ロスヴァイセさんが北欧の魔術で雨のような弾を展開する。

 

 グルルルッ! 

 

 子フェンリルと母様はそれを気にせず、親のフェンリルの鎖を解こうと立ち回る。

 

「えいえいえい!」

 

 そこへ、コウモリと化したいギャー君がフェンリルの目に集まり、一瞬だけど、フェンリルの視界を塞いだ。

 ────今! 

 

「はああ!」

 

 ドン! 

 

 ギャー君のお陰で、子フェンリルに仙術の一撃を食らわせることができた。

 致命傷にはならないけど、弱体化させるだけなら充分だ。

 

「……今です!」

 

「ええ! 感謝しますよ! 取り敢えず目!」

 

 そう言いながら、アーサーは聖王剣を使い、子フェンリルの左眼を大きくえぐり取った。

 

「次に爪! 危険な牙! 聖王剣の力ならば、子供のフェンリルごとき、空間ごと削り取れるはずです!」

 

 ゴリュリュリュ! 

 

 その言葉通り、聖王剣は子フェンリルの爪と牙を根こそぎ削り取る。

 親のフェンリルには通じなかったけど、子フェンリルには効果抜群のようですね。

 

 ギャオオオオオオオオンッ! 

 

 凄い……。これが聖王剣の力ですか……。

 子フェンリルが怯んだ隙に、美猴が如意棒を、イリナさんが光の槍を、ロスヴァイセさんが北欧の魔術を展開しながら、構えだす。

 

「デカくなれ、如意棒っ!」

 

「行くわよ!」

 

「喰らいなさい!」

 

 三つの力の奔流が、子フェンリルを巻き込み、吹き飛ばす。

 気を断ち切られ、弱体化し、牙と爪をも失った子フェンリルは為すすべもなくそれを喰らい、ついに倒れ伏した。

 

「あとは、小猫ちゃんのお母さんだけね」

 

 イリナさんの言葉とともに、母様が地面に降り立つ。

 その瞳はひたすらに無機質で、朧気な記憶の中にある母様の面影があるようには見えなかった。

 

「嬢ちゃんは下がってろぃ。ここは俺っち達がやっとくぜぃ」

 

「ええ。貴方には少し荷が重そうですからね」

 

 そう言いながら、アーサーと美猴は私の前に立つ。

 ……この人達、私のことを心配してくれてるんですかね? 少しの間ですが、接してて分かりましたが、この人達、あまりテロリストが似合わないのかもしれませんね。

 

「……大丈夫です」

 

 私は美猴達にそう返しながら、前に立つ。

 

「おいおい、本当に大丈夫かぃ?」

 

「……はい! 問題ありません!」

 

 私は母様相手に拳を構える。

 本音を言えば、やりたくない。

 ほとんど記憶になくても、実の母親に拳を向けたくはない。

 ────でも

 

『いい! 白音! お母様を攻撃なんてしなくていい! 私がそっちに行くまで、死なないように持ちこたえるんだにゃん!』

 

 あの姉様の言葉は、私を思っての言葉だ。

 私の気持ちがわかってるからこそ、私が母様を傷つけないように……自らが母様を解放しようとしたのだろう。

 

(私は……姉様に酷いことをしてしまいました。姉様を傷つけるようなことをしてしまいました。……全ては、私が弱かったために……)

 

 だからこそ、これ以上姉様を傷付けさせたくない! 

 姉様だけに何もかもを背負わせたくはない! 

 

(……背負うなら、私も一緒です!)

 

 私はグローブを締め直し、母様に拳を向けた。

 

 

 

 



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母を解放します

 イッセーside

 

 

 

 

 

 ドォン! ゴゥ! バゴンッ! 

 

「ハハハ、楽しいな! 兵藤一誠!」

 

「こっちは全然楽しくないんだよ!」

 

 二つの赤が空で交差する。

 俺とカグチは衝撃波を振りまきながら、激突していた。

 

『boostboostboostboostboost!!』

 

 ドライグの力で倍加した俺は背中のブースターで速度を上げ、カグチの懐に飛び込んでいった。

 

「“魔竜崩拳”!!」

 

 ドゴォォン!! 

 

 俺の“魔竜崩拳”はカグチを貫こうとするが、カグチは槍を振るい、見事に衝撃を相殺した! 

 

「いい槍だろ。数万年の付き合いになる俺の相棒なんだぜ」

 

 そう言いながら、カグチは槍を見せびらかす。等級は当然“神話級”だ。

 コイツ、接近戦の技術が半端じゃない! メロウはその権能の多彩さに目に見張るものがあったが、どちらかと言うと、黒歌と同じくサポートが得意なタイプだ。

 だが、コイツは完全に戦闘特化! ベニマルさんと比べても遜色がない炎に加え、戦闘技術はハクロウさんと大差ない……どころか超えてるかもしれないレベル! 

 正直、炎に強い耐性を持つ赤龍帝の力がなければ、とっくの昔に死んでるかもしれない。

 それほどまでに、コイツの火力は凄まじいものだ! 

 

「それにしても、しらけるマネするよな、メロウは……」

 

 そう言いながら、カグチは黒歌と互角の戦いを繰り広げるメロウに目線をやった。

 

「俺はどちらかと言うと、正々堂々が好みでね。雑魚相手はどうでもいいが、お前みたいな強者は真正面から打ち破りたいんだ。なのに、アイツはあらかじめ動揺を狙うような策を使うからな……」

 

 確かに、黒歌は少し焦っているように見える。相性の問題もあるが、やはり精神の問題が大きそうだ! 冷静に徹そうと努めているが、結界を破られ、被弾も多くなってきてる! 

 ……やはり、自分達の母親を利用されて、冷静でいられないんだな。当然だ! 簡単に冷静になれるわけがない! 

 

「アイツラも可哀想に……確か……姫島朱乃に黒歌の妹の……小猫だったか? 同情するよ。雑魚とはいえ、流石に胸糞悪い手だしな」

 

 どうやら、カグチもこの手段を用いることにいい感情を持ってないみたいだな。戦闘狂らしい思考回路だが……雑魚呼ばわりはいただけねえな! 

 

「皆は雑魚なんかじゃない! 朱乃さんも小猫ちゃんも、この戦いを乗り越えられる力がある!」

 

「……ほう。それは楽しみだな」

 

 俺は朱乃さんと小猫ちゃんの目つきが変わったことをしかと確認した! あの二人ならば、この試練だって乗り越えられる! 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 朱乃side

 

 

 

 

 

「雷光よ!」

 

 私は雷光の矢を母様に向けて放つ。

 母様は私の雷光を回避すると、弓矢を携え、私に向けて躊躇なくその矢を放った! 

 

 ドドドドドンッ!! 

 

「くっ!」

 

 母様が放つ弓は、どういう原理か魔力もないのに大きな爆発を巻き起こしている。

 

 ヒュッ! グンッ! バシュ! 

 

 それだけじゃない! 私が躱そうとすると、弓矢は軌道を変え、時折消えたり増えたりしながら私を射抜こうとする。

 

「────やらせん!」

 

 ゴバァァァァァァァンッ! 

 

 タンニーン様が火炎の玉で私達を支援してくれる。火炎の玉は凄まじい熱量で、弓矢を弾いてくれる。

 

「今ですわ!」

 

 私は雷光で矢を形作り、放つ。

 母様はそれを爆発する矢で相殺すると、凄まじい爆発が起こり、視界を塞ぐ。

 

「今がチャンスっすね!」

 

 爆煙に乗じて、ミッテルトちゃんが母様に剣で攻撃しようとする。

 それを察した母様は、掌を突き出し、張り手の要領でミッテルトちゃんを弾こうとする。

 ただの張り手じゃない。母様の掌は直前で()()()()()、回避行動を取っていたミッテルトちゃんの直ぐ目の前まで迫っていた。

 

「認識を偽装するユニークスキル……悪いっすけど、うちには通じないっすよ!」

 

 だけど、ミッテルトちゃんはそれすらも読んでいたらしく、ギリギリのところで母様の張り手を躱し、その剣で弓を破壊した。

 

「氷の聖魔剣!」

 

 バキィィン! 

 

 母様の弓が壊れたと同時に、裕斗君の聖魔剣が母様の脚を封じる。それに対し、母様は手の平サイズの玉を作り出し、それを全包囲にばら撒いた。

 

 ドンッ! ドンッ! ドォンッ! 

 

 それはどうやら爆弾だったらしく、凄まじい爆風が私達を襲う。

 その爆発の威力は、以前闘ったライザーの“女王”なぞ、足元にも及ばないほどの殺傷力を持ってるみたいね。

 しかも、投げた爆弾の一つ一つに何かしらの術式が施されているのか、私達を追尾してくる! 

 

(マズイ────)

 

 ドゴオオオオオンッ!! 

 

 爆弾の一つが私の直ぐ目の前にまで迫り、やがて閃光が私の視界を覆う。

 ……だけど、何時までたっても痛みが私を襲うことはなかった。

 

「ぐふっ!」

 

「なっ! タンニーン様!?」

 

 タンニーン様が私達を庇うように、爆発から身を守ってくれたからだ。

 

「ちょっ、大丈夫っすか!? タンニーンさん!」

 

「ああ。問題はない」

 

 そう口にしながらも、タンニーン様は今にも倒れそうになるほどの大怪我をしているのが見て取れた。

 ミッテルトちゃんが駆け寄る中、タンニーン様はフラフラになりながらも、私に強い瞳を向ける。

 

「……どうやら、覚悟は決めたみたいだな」

 

「……はい!」

 

「ならば、行け! 姫島朱乃! 貴殿が母を開放してやれ!」

 

「はい!」

 

 私は雷光の槍を携え、母様に向かって突進する。弓矢を失った母様は再び爆弾を私に向けて、投げつける。

 消えたり軌道を変えたりして、的確に爆弾は私達に迫ろうとしている。けど────

 

「させないっす!」

 

「露払いは僕たちが!」

 

「行け! 副部長!」

 

 私に寄り添いながら、並走するミッテルトちゃん達が爆弾を次々と斬っていく。

 気付けば私達は、母様の直ぐ目の前にまで迫っていた。

 

「朱乃さん! 死霊魔法の使い魔は聖なる光に弱いはずっす! 朱乃さんの雷光ならば、倒せるはずっす!」

 

「ありがとう! ミッテルトちゃん!」

 

 私は雷光の槍を作り出し、母様に向け、突き立てる! 

 

「────母様!」

 

 雷光の槍はゆっくりと母様の心臓目掛けて突き進んでいく。それを見た母様は────

 

「…………」

 

 ドスッ!! 

 

 ────笑みを浮かべながら、私の槍を受け入れた。

 

「母さ……」

 

 スッ……

 

 母様は雷光に貫かれたまま、その冷たい手で私に抱擁をする。

 意識はまるで感じられない。私を抱きしめる手も冷たいまま……それでも、私は母様の抱擁から、確かに暖かい物を感じることができた。

 

「……今まで、ありがとう。母様……」

 

 ────大きくなったわね。朱乃。

 

 声にならない声を聞いた気がした。私は涙を流しながら、母様に抱擁を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 小猫side

 

 

 

 

 

 ズゥン! 

 

 母様は何もない地面に脚をかざすと、地面が凹み、落とし穴を作り出した。

 

(魔力や仙術を使ってるわけでもない……どうやって……)

 

 先輩達がユニークスキルと言っていましたが、それが関係あるのでしょうか? 

 

 ゴォォォウ!! 

 

 私がそんな事を考えていると、母様は仙術の気が練り込まれた炎を私に向けて放ってきた。

 これは、“火車”ですか……。

 ユニークスキルとやらだけでなく、仙術も使えるんですね。

 

(でも、負けません!)

 

 私は拳に仙術の気を込めて、母様に拳を突き出した。

 母様はそれを容易く回避し、私にカウンターの蹴りを入れようとする。私は腕を交差させ、それを受け止めますが、蹴りが入ると同時に何か違和感を感じた。

 

「……なっ!?」

 

 違和感の正体はすぐにわかった。

 母様の蹴りを受け止めた場所が、突如として発火を起こしたのだ! 

 あ、熱い! これは不浄のみを焼く仙術の炎じゃない! 何もかもをを焼き尽くす、自然の炎だ! 

 

(魔法を使った様子も一切なかった……これも、ユニークスキルというやつなのでしょうか?)

 

 ユニークスキル……一体どのような力だと言うんですか。

 

 ビュッ! 

 

 私が炎に焼かれている隙に母様はフェンリルのもとへと向おうとする。

 くっ、させるわけには……。

 

「えい!」

 

「はあ!」

 

 ドオオオオッ! 

 

 道を塞ぐように、イリナさんとロスヴァイセさんが光の槍と北欧式の魔術を放つ。母様はそれを炎の壁を用いて防ぎ、落とし穴を作り出して二人を落とそうとする。

 

「無駄よ! 私にはミカエル様に授かった天使の翼があるんだから!」

 

「ここから先へは行かせません!」

 

 二人は翼を出しながら、空を飛ぶことで落とし穴を回避する。それに対し、母様は先輩のように空を駆けながら、イリナさん達に迫っていく! 

 

「えぇ!? 空を走ってる!?」

 

 あれは……魔力を用いて足が空を蹴る瞬間だけ固定してるんですね……。確か、以前イッセー先輩が教えてくれた“飛翔走”という技術ですね。

 母様はそのまま二人に蹴りを入れると、そこから魔力の鎖のようなものが現れ、二人の動きを封じてしまいました。

 

「な、なにこれ!?」

 

「これは……北欧式とも、悪魔の魔術とも違う……?」

 

 鎖に縛られた二人は思うように動くことができないでいる。多分、アレもユニークスキルという力だ。

 でも、二人共そこまで焦ってるようには見えませんね。多分、羽に紛れて隠れている彼の存在があるから……。

 

「……でも、これだけ近づいたら避けられないでしょ。ギャスパー君!」

 

「は、はいぃぃぃぃぃっ!!」

 

 イリナさんの純白の羽根に、蝙蝠となって隠れていたギャー君は、母様に視線を向ける。

 

 カッ! 

 

 ギャー君の神器を受けた母様は、そのまま地上に落下していく。

 でも、流石に魔王級の力を与えられていると言うだけは有り、すぐに態勢を整え、静かに着地をした。

 

「駄目押しだぜぃ! 伸びろ!」

 

「このタイミングなら、防ぐこともできませんよ!」

 

 ドンッ! ゴリュ! 

 

 それと同時に美猴さんとアーサーさんが攻撃を仕掛ける。停止の影響がまだ残ってる以上、母様もそれを防ぐことはできず、再び押し戻される。

 ……でも、二人の攻撃も決定打にはなっていない。フェンリルと違い、再生能力も有しているのか、母様の傷は徐々に癒えていく。

 

(────だったら!)

 

 未完成だけど、姉様に教えてもらった技を使うしかない。

 私は闘気を纏い、自然の気を集める。自然の力を自らの闘気と同調を試みる。

 

(ぐっ、やっぱり難しい)

 

 今の私ではまだ、自然の気を自分の闘気に同調させる工程が上手く行かない。

 ────でも、一撃を放つくらいなら! 

 

「……行きます」

 

 私は白い炎を纏う車輪を形成し、母様に向かって投げつける。

 

「!?」

 

 母様は私の火車を飛び跳ねて回避する。コレを避けるだなんて……。

 

「問題ありません」

 

 ……ここで、アーサーさんが避けられた火車へ近付き、剣を構える。

 

「ゴールブランドは空間を操る力を持つ。それを応用すれば────」

 

 アーサーさんの持つ聖王剣の力により、私の火車は軌道を変え、跳び上がった母様のもとへと突き進む。

 母様は飛翔走で火車を避けようとしますが、ギャー君がそれを再び停める。

 

「い、行かせません!」

 

 ギャー君の力で停止する母様。

 一直線に突き進む火車は、やがて母様に迫っていき……

 

 ゴォォォウ!! 

 

 そのまま母様の身体に燃え広がった。

 火車は死者を焼き尽くす浄化の技。それを受けた母様は、やがて糸が切れた人形のように動きを止め、やがて完全に倒れ伏した。

 

「……どうやら、やったようですね」

 

「……はい」

 

 私は母様の亡骸に近付く。

 ……正直、母様のことはあまり覚えていません。

 写真も残ってなかったし、朧気な記憶にしかありませんでした。

 

「……こんな顔だったんですね」

 

 姉様は、父様の話はあまりしませんでしたが、母様のことはよく話してました。

 とても優しい人だったと……。

 こんな形ですけど……

 

(……会えて嬉しかったです。母様)

 

 私は瞳を開けたままになっていた母様の亡骸の瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 ドゴォォン!! 

 

 

 

 

『!!!?』

 

 瞬間、上空から凄まじい波動が放たれ、母様に直撃する。

 母様はその波動を受け、ズタズタに引き裂かれてしまった────。

 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 イッセーside

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「あーあ、酷えことするな」

 

 朱乃さんと小猫ちゃんは、お母さんを無事解放した。

 二人共、辛かったはずなのに、頑張った……。そうして解放した遺体を────

 

「……メロウ……お前ぇ……っ!」

 

 メロウは音の振動波で破壊した! 

 振動波を喰らった朱璃さんと藤舞さんの遺体はズタズタになり、とても見られたものではない有り様となっている。

 黒歌はそれを為したメロウを血走った目で射竦める。だが、メロウはどこ吹く風だ。

 

「ふん、役立たずが……遺体に残留思念でも残っていたか? これではショーが台無しではないか!」

 

「お前……生きて帰れると思うにゃよ……っ!」

 

「ふん、まあいいわ。元々ただの嫌がらせだもの。黒猫。お前への溜飲も多少は下がったからね」

 

 何だよそれ……あんまりだろ……! 

 見ると、朱乃さんは呆然としながら朱璃さんの遺体を見つめ、やがて肩を震わせ、メロウを睨みつけた! 

 

「よくも、よくも母様を────!」

 

「なっ!? 駄目にゃん!」

 

 母親の遺体を目の前で壊された朱乃さんは今までにない怒りを纏いながら、メロウに雷光の攻撃を仕掛ける。

 

「ふん」

 

 だが、メロウは避ける素振りすらしない。

 メロウの周りには“魔力妨害”が施されており、メロウの支配力を上回らない限り、魔法でメロウを害することはできないのだ。

 

「うわああああっ!!」

 

 声にならない叫びを上げながら、朱乃さんはメロウに向かって突っ込んでいく! 

 だが、メロウは一瞥もせずに、指揮棒の一閃を朱乃さんに喰らわそうとする! 

 

「────間に合え!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 俺は最大まで速度を加速させ、庇うように朱乃さんを抱きかかえる! 

 メロウの攻撃は黒歌が反らしてくれたおかげで何とか躱すことができた。

 

「離して! 離してイッセー君!」

 

「朱乃さん……」

 

 ……朱乃さんは、本当に頑張った。お父さんどの確執を乗り越え、お母さんの尊厳を取り返したはずだったんだ……。

 ……それに対する仕打ちがコレかよ……っ! 

 俺は、朱乃さんを優しく抱きしめ、安心させるように言う。

 

「朱乃さん。貴女は本当に頑張りました。……今は、お父さんと一緒にいてください」

 

「イッセー……でも……」

 

「安心してください。朱乃さん。あの女は────俺が絶対にブチのめします!」

 

 俺は涙を流す朱乃さんをバラキエルさん達の元へと送り届け、黒歌に向かって言う。

 

「────黒歌。納得行かないと思うけど、ここは俺に任せてくれないか?」

 

 それを聞いた黒歌はしばし葛藤するが、俺が何をするつもりなのかはわかってるらしく、メロウを後方へ蹴り飛ばし、ロキと戦っていたヴァーリを回収しつつ、俺達の元へと向かう。

 

「……何をする気だい? 兵藤一誠」

 

 戦いを中断されたヴァーリは不機嫌になりながらも、何をするのかを問う。

 

「……ヴァーリはフェンリルに用があるんだろ。くれてやるから、ここは下がってくれ」

 

「……気付いていたのか」

 

 ヴァーリの目当ては元々フェンリルだったんだろう。先程から、フェンリルを興味深そうに見ていたし、戦う相手というよりは、自らの陣営に引き入れることが目的だったのだろう。

 

「……アーサー」

 

「ええ」

 

 ヴァーリの意図を察したアーサーは、“支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)”をフェンリルに施す。

 

「……我のフェンリルを軍門に降すというのか……」

 

 それを不機嫌そうに眺めているロキだが、黒歌の結界を警戒しているな。

 

「……ありがとな、ヴァーリ」

 

「構わんさ。君は本気で戦うつもりだろう。俺は君の本気を見てみたいんだ」

 

 いずれ超える相手としてね、そう言いながらヴァーリは笑みを浮かべる。

 ありがたい限りだ。俺の本気は、皆を巻き込みかねないからな。

 

「イッセー君、何をするつもりなんだい?」

 

「……決まってるだろ。アイツラを打ちのめすんだよ!」

 

 バラキエルさんの! 朱乃さんの! 小猫ちゃんの! 黒歌の! 皆の頑張りを踏みにじりやがって……っ! 

 アイツラは……特にメロウは絶対に許さねぇ! 

 

「皆、黒歌の結界から絶対に出ないでくれ。……そこを出たら、正直安全を保証できない」

 

 それだけ言い残すと、俺は結界の外に出て、力を貯める。

 

「……まさか、我々を一人で相手にするつもりか? 赤龍帝?」

 

「嘗められたものね」

 

「··········」

 

 ロキとメロウが蔑むように嗤うが、俺は気にせずに詠唱を始める。

 

「我、目覚めるは王の理を古の赤より授かりし二天龍なり」

 

 ────瞬間、膨大な闇の魔力が俺の身体を包み込む! 

 

「無限を謳い、夢幻を掴み、赤き闇の祝福と覇の理を我が身に宿す」

 

「……何だこの呪文は。これは……覇龍か……?」

 

「……いや、何だこのオーラは?」

 

 俺の凄まじい波動に汗を流すロキとメロウ。それを見てカグチは笑みを深めるだけだ。

 せいぜい今のうちに余裕こいてろよ……。

 朱乃さんを、小猫ちゃんを、黒歌を、皆を傷つけたお前達は、絶対に許さねぇからな! 

 

「王道を示し、覇道を往き 我、赤き魔と龍の力を以って 汝を真紅の道に導こう!」

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!! 

 

『始まったか』『ああ』『見せつけてやろう』『新たなる我らの力を』『進化した』『覇と魔の理を』『希望と絶望を担う』『古の赤の』『闇の力を』

 

『さあ! 今こそ見せる時よ! おっぱいドラゴンの本気を!』

 

 エルシャさん達を始めとした歴代の気合いの入った掛け声とともに、俺はついに全ての枷を開放する! 

 

『Crimson Juggernaut Darkness!!』

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!! 

 

 ────瞬間、凄まじい暴威が周囲を襲った。辺り一帯は塵と化し、結界以外には暴威を防いだメロウ達の姿しか残っていなかった。

 

『条件を満たしました。これより、個体名兵藤一誠にユニークスキル“傲慢者(プライド)”を一時的に解放します。次いでユニークスキル“傲慢者”と究極能力“国津之王”を連動……成功しました』

 

 世界の声が俺の頭に響く中、俺は眼の前の敵をゆっくりと見据える。

 そんな俺を前にして、ロキは僅かに震えていた。メロウも信じられないものを見たかのように呆然としている。

 

「……な、なんだ? 何なんだその姿は!?」

 

 メロウの狼狽える声に俺は答えるように言う。

 

「“真紅の赫覇魔龍帝(クリムゾン・ジャガーノート・ダークネス)”! この進化した覇龍の力で、てめえ等を打ちのめす!」

 

 俺はメロウ達に対し、静かに、しかしハッキリと宣言するのだった。




姫島朱璃(死霊蘇生(レイズデッド)
EP 76万1289
ユニークスキル
偽装者(ヨソオウモノ)
認識を偽装するユニークスキル。前回、リアスを仕留めたのはこれ。弓矢の認識を偽装したため、滅びの魔力をすり抜けたかのように見えた(実際は、滅びの魔力が放たれる前に弓矢がすでに放たれていた)
追跡者(ツケルモノ)
付与することで、攻撃が相手を追尾するようになる。
爆破者(ハゼルモノ)
攻撃に爆破属性を付与するユニークスキル。爆発の威力は本人の魔力量に左右される。タンニーンを倒した爆発する弓矢はコレ。

藤舞(死霊蘇生(レイズデッド)
EP 69万9536
ユニークスキル
埋葬者(ウメルモノ)
地面を操るユニークスキル。地面に落とした相手から少しずつ魔力を吸収することができる。
放火魔(フレイマー)
印をつけた地点に火をつける事ができるユニークスキル。相手の身体にも発火させることができるが、相手の魔力を自分の魔力が上回ってない限り、効果は薄い。
束縛者(シバルモノ)
相手を捕縛するスキル。




音改さんのスキル集から使わせてもらいました。
お願い聴いてくださりありがとうございました。


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紅き魔龍帝の力です

 木場side

 

 

 

 

 

 何が起きたんだ……。

 イッセー君が呪文を唱えた瞬間、僕達の身に今まで経験したことがないほどの暴力的な圧力が襲ってきた。

 ────震えが止まらない。

 これほどの圧力は、初めてメロウと相対した時にも、フェンリルに睨まれた時にも、グレートレッドと対面した時すら感じたことがない。

 圧倒的で禍々しすぎる脅威的な力────これ程の圧力を、イッセー君が放っているというのか!? 

 

「……なんだ、その姿は?」

 

「……このオーラは……何故……っ!?」

 

「ついに、きたか!」

 

 メロウとロキが動揺しているのに対し、カグチは嬉しそうに笑みを深めている。

 圧倒的な波動に巻き上がった砂埃が一気に霧消する。

 そこに現れたイッセー君は、いつもの鎧とは少し違う……どこか、生物的なフォルムと悪魔のような禍々しさを併せ持った鎧を纏っていた。

 何なんだ……あの姿は……?

 

「コレが俺の進化した覇龍────“真紅の赫覇魔龍帝(クリムゾン・ジャガーノート・ダークネス)”だ」

 

 イッセー君はそう言うと、静かに地面に着地する。

 その鋭い眼光は、静かに……しかし、確実にメロウ達に向いている。

 

「ふ、フハハハ! 進化した覇龍だと!? 面白い! 我が神の力と────」

 

『COUNT START!』

 

 ロキが冷や汗をかきながら、自ら恐怖を押し殺すように魔力を集中させる。

 ────瞬間、ロキの姿が消え、先程までロキがいた場所にはイッセー君の姿があった。

 

 ────ドゴォォン!! 

 

 凄まじいまでの爆風が僕達の元まで届く! ロキが消えたのよりも遅く、音が響いてきた……まさか、音よりも速く動いたっていうのか!? 

 

「チィ!? “音響衝撃波(サウンドウェーブ)”!」

 

 それに気づいたメロウが即座にイッセーくんに攻撃を仕掛けるが、イッセー君はそれを片手で受け止め、握りつぶす! 

 

「な、なに!?」

 

「……この程度の攻撃が……今の俺に通じると思うなよっ!」

 

 そう言いながら、イッセー君はメロウの鳩尾を凄まじい力で殴りつけ、怯んだメロウを投げ飛ばした! 

 

 ドゴォォン!! 

 

 どれほどの力を込めたのか、イッセー君に投げ飛ばされたメロウは凄まじいまでのクレーターを作りながら、地面にめり込んでいる。

 

「ガハッ!? こ、これは……」

 

 投げ飛ばされたメロウは内蔵を痛めたのか、血を吐きながら立ち上がり、イッセー君────ひいてはカグチをも睨みつける。

 

「……ククク、ハハハハハッ!! 最高だな! その力!」

 

「……おい、カグチ……これはどういうことだ……」

 

「ん? どういうことだも何も、赤龍帝である兵藤一誠が覇龍を使った……それ以外にあるのか?」

 

 覇龍を使った……本当にそうなのか? 今のイッセー君から、とんでもない力を感じる。こうして黒歌さんの結界の中にいなければ、戦闘の衝撃だけで吹き飛ばされてしまいそうなレベルだ。

 これが、覇龍の……赤龍帝の力だけで出せるものなのか……? 

 

「惚けるな! あれは覇龍なぞではない! あれは……あれは……」

 

 メロウは立ち上がり、僅かな畏怖を込めた目でイッセー君を眺めている。

 やがて、メロウは歯軋りをしながら叫んだ。

 

「あれは────ギィ・クリムゾンの力ではないかぁぁ────ッ!!!」

 

 ギィ? 誰のことだ……メロウの口から出たのはまるで聞いたことのない存在の名前だった。

 

「ギィ……クリムゾン……?」

 

「何者だ……それは……」

 

 タンニーン様やバラキエルさんですら聞いたことがないらしく、二人は首を傾げながら、イッセー君を見ている。

 そんな僕達をカグチは面白そうに笑いながら見ている。

 

「ギィ・クリムゾン……全ての悪魔の元となった存在……数万年なんてちっちゃな単位じゃない……天地開闢の遥か以前────数億年は生きてるであろう“原初の七悪魔”の一角! 最強の悪魔! 原初の赤! それがギィ・クリムゾンさ!」

 

 カグチの言葉に僕達は目を見開く! 

 原初の七悪魔!? 数億年の時を生きている悪魔だって!? そんな話、今まで聞いたことないぞ! 

 

「原初の七悪魔だと? 俺は悪魔になって長くなるが、そのような存在聞いたこともないぞ?」

 

「そうよ! 私も、お兄様からそのようなことは聞いた覚えはないわ!」

 

 最上級悪魔であるタンニーン様や、魔王様の妹である部長ですら聞いたことがない存在。二人の疑問に対し、カグチは嗤いながら言う。

 

「当たり前だ。このことを知ってるのは初代魔王や初代悪魔達の中でも極一部。現魔王や旧魔王を含む、大半の悪魔は存在すら知らないだろうな」

 

 そう言いながらカグチは視線を一誠君に向ける。彼はそのまま説明を続ける。

 

「聖書の神────魔王ルシファーや悪魔の母リリスを作った存在。奴は何を思ってコイツラを作ったと思う?」

 

「……初代悪魔達の母たるリリスは、元々人間であるアダムの妻として聖書の神に形作られた……そう伝えられている。でも、初代ルシファーがいかようにして生まれたのかは、記されていないわ……」

 

「なら教えてやろう。聖書の神は自らを作った生みの親の真似をしようとしたのさ……」

 

「なっ!?」

 

「……主の、生みの親ですって!?」

 

 カグチの言葉に、アーシアさんにゼノヴィア、イリナさんは動揺する。僕も同じだ。聖書の神の産みの親? そんな存在がいるだなんて……。

 

「聖書の神の産みの親……創造神と呼ばれる存在は自らの補佐を行う者として七柱の“天使族(エンジェル)”と呼ばれる種族を作った。それが聖書の神が作った天使の大元となった存在。“始原の七天使”だ」

 

「……そんな存在が?」

 

 “始原の七天使”────これも、どの文献にも記されていない事だ。聖書の神の手で天使として誕生し、今まで長き時を生きたであろうバラキエルさんですら、目を見開いている。

 

「光あるところには影も生まれる。創造神が“始原の七天使”を作ったことにより、偶発的に誕生したのが“原初の七悪魔”と呼ばれる存在。創造神の事を強く信望していた聖書の神は、それを模して自らを守護する存在として、天使……そして、その影となる悪魔を作った。それが、お前たちの始まりだよ」

 

 カグチの言葉に僕達は声を失った。

 どれもこれも初耳だ! 古き存在であるバラキエルさんやタンニーン様ですら、この事は知らなかったらしく、目を見開き、動揺している。

 敵の言葉を信じるなんて、どうかしてる。……でも、信じざるを得ない。何故ならば、カグチの言葉が本当であると、今のイッセー君の圧倒的な力が物語っているからだ。

 

「そして、今兵藤一誠が使っている力こそ、創造神の友にして、原初の中でも最強と称された存在……“暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)”ギィ・クリムゾンの力というわけさ!」

 

 ドゴォォン!!

 

 カグチの言葉と同時に轟音が鳴り響く。そこにはイッセー君の拳に吹き飛ばされ、土埃に塗れるメロウの姿があった。メロウはそれだけで人を殺せそうな視線でイッセー君を睨みつけている。

 

「くそっ! 調子に乗るなよっ!」

 

 メロウは再度、イッセー君に向かって波動を放つ! でも、イッセー君はメロウの攻撃など意にも介さず、メロウを再び殴り飛ばした! 

 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 イッセーside

 

 

 

 

 

「ぐっ、砕け散れ! “音破水流刃(サウンドカッター)”!」

 

 メロウは俺に対し、音波の乗った水刃を放つ。だが、俺はそれを片手で握りつぶしながら、メロウに迫り、再びメロウの顔面を殴りつける! 

 

「ぐはっ!?」

 

 メロウは遙か後方へ吹き飛びながらも、体勢を立て直し、再び音波振動攻撃を仕掛ける。だが、今の俺には通用しねぇ! 俺はメロウの攻撃など意にも介さずメロウを吹き飛ばした! 

 

「……振動が中まで届いていない……? それ程までの硬度があるというのか!?」

 

「まだまだ行くぞ!」

 

『Crimson Boost!』

 

 俺は魔力を高め、紅い魔法陣を地面に描く! 

 

 ブゥゥゥゥゥンッ! 

 

 魔法陣が地面に展開され、紋様からは相手を引き込む引力が発生する! その凄まじいまでの引力に、メロウは為すすべなく吸い込まれていく! 

 

「こ、これはギィの……っ!」

 

「味わってみな! “赫灼獄魔炎(デモンズブレイズ)”!」

 

 俺は魔法陣から、赤く、凄まじい極熱の炎を召還し、メロウを焼き尽くそうとする! 

 メロウは水を操り、何とか防ごうとするが、赤の炎を防ぐことは叶わず、メロウはその炎に身を焼かれ、ダメージを負っている様子だ。

 

 ゴオオオオオオオウッ! 

 

「ぐわぁぁぁぁぁあっ!? お、おのれぇぇぇぇ!」

 

 メロウは魔力を一気に集中させ、極熱の炎から脱出する。流石にEP400万超えの覚醒魔王だ。この程度じゃやられてくれねえか……。

 

「……気づいてねえとでも思ったか?」

 

「なっ!?」

 

 俺は魔力を断ち、直ぐそこまで迫っていたロキに裏拳を食らわせ、怯んだ隙に蹴りを叩き込む! 俺の感知能力嘗めるなよ? この程度の気配遮断、素の状態でも見破れるぞ。

 

 ドゴンッ!!

 

「ぐはっ!」

 

「ん?」

 

 蹴りの衝撃で辺り一帯が鳴動する。だが、蹴りを入れた感触が先程とまるで違う。よく見ると、ロキは何やら妙な鎧を着ているようだ。金属質の光沢を放ち、狼の意向が強い全身鎧(フルプレートアーマー)を装着している。

 

「……何だ? その鎧?」

 

「ふふふ、これは異世界の技術を融合させて作った新たなるフェンリル────“フェンリルUL”を鎧とした形態だ! 本来ならば、確実にオーディンを殺すためのとっておきだったのだが、やむを得まい!」

 

 そう言いながらロキは俺にカウンターの蹴りを叩き込もうとする。

 ふむ……“神話級”の鎧か。EPも上乗せされて、メロウに負けないくらい高くなってる。鎧に使われてるのは……セラと同じ材質の金属みたいだな。

 

「……まあ、だから何だって話だけどな!」

 

「な、何!? ぐおっ!」

 

 ズドンッ! 

 

 コイツの存在値が上がった所で今の俺には通じない。

 俺は蹴りを片手で受け止め、構わずロキの腹に重たいのを一撃食らわせてやる! 鎧はひび割れ、ロキは唾液を垂れ流し、悶絶しながらも俺に一撃を浴びせようとする。それと同時に、メロウは挟み撃ちの形で俺に杖を向けてくる。

 

「無駄だ!」

 

 ブゥゥンッ! 

 

「なっ!? がはっ!?」

 

 すかさず俺はロキの頭を鷲掴みにし、俺に近付いていたメロウに振り回し、ぶつける! 

 咄嗟のことにメロウは対処できず、ロキともども吹き飛んでいく。

 

「”火焔閃撃(フレイムスラッシュ)“!」

 

 そこにカグチが炎を纏った槍で鋭い槍撃を俺に叩き込む! 俺はそれを片腕で受け止め、弾き飛ばしつつ、カウンターの炎弾を御見舞する! 

 

「おっと、危ない!」

 

 カグチはそれをいなし、メロウとロキを掴み取り後退する。今の俺に対応する辺り、流石は戦闘特化の魔人といえよう。だけど……。

 

「遅えよ!」

 

 バギィッ! 

 

「うおっ!? ぐはっ!」

 

 俺はカグチの後ろに回り込み、鋭い拳を叩きつける! カグチはそれに気付き、咄嗟に槍で防御するが、俺の拳の威力を殺し切ることはできず、吹き飛び、後方の岩盤へと叩きつけられた! 

 メロウはそれを見つめながら歯軋りし、憎しみと怯えが入り混じった瞳で俺を睨みつけている。

 

「ふ、巫山戯るなぁぁ! 人間如きの分際でぇぇっ!」

 

 メロウは恐怖を圧し殺すように高く飛び上がり、上から音波を俺に放つが、今の俺には届かない。

 

「”赤死銃弾(デスクリムゾン)“!」

 

 俺は指先で魔力を圧縮し、弾丸のように固め、放つ! 放たれた紅い閃光はメロウの防御を突き抜け、心の臓を貫いた! この弾丸には強化された“結界崩壊(プリズンブレイク)”の権能が付与されており、簡単な防御は意味を成さないのだ。

 

「ガボッ! 有り得ん! 人間如きが……」

 

 メロウは腐っても精神生命体。心臓貫かれた程度じゃ死なないだろう。だが、内臓が潰れればそれなりのダメージが残るし、治癒にも魔力を使う。……そんな暇与えるかよ! 

 

 バゴンッ! 

 

「がっ……!」

 

 俺は失った部位を治癒しようとしていたメロウに高速で近づき、渾身のボディーブローをする。

 

「朱乃さんや小猫ちゃん、黒歌に辛い思いばかりさせやがって……お前は絶対に許さねえぞっ!」

 

「ぐっ! 許さないはこちらのセリフだっ! “震動音波(サウンドウェーブ)”!」

 

 メロウは俺の腕を掴み、振動を直接俺に届けようとする! 

 

「フハハハ! 如何に鎧が堅固だろうが、直接の振動は防げまい!」

 

 ブゥゥゥゥゥン!! 

 

 確かに……こうも密着した状態で振動を喰らえば、多少は俺にダメージも届く……。だが、そのダメージは微々たるもの。朱乃さんや小猫ちゃん達にお前が与えた痛みのほうが、遙かに上なんだよ! 

 

「オラァァ!!」

 

「なっ!?」

 

 俺は振動など意に介さず、メロウの顔面に思い切り拳を入れてやる! 普通なら女の子の顔を殴るなんて絶対にしないが、コイツは別だ! 朱乃さん達の痛みを少しは思い知りやがれっ! 

 

 ドガァァァン! 

 

 メロウはそのまま山を貫きながら、大地にめり込む。俺は即座に残ったカグチと満身創痍のロキに視線を向ける。

 

「ククク、本当に規格外の力だな……流石は兵藤一誠」

 

 カグチはそう言いながら、俺に鋭い槍の一撃を浴びせる。俺はそれを躱しながら、カウンターを食そうとするが、それを察知したカグチは即座に後ろに跳ぼうとする……させねえけどな。

 

「止まってろ! “傲慢なる結界(プライドプリズン)”!」

 

 キィィィィィィン! 

 

「うおっ! まじか!?」

 

 俺はカグチの動きを封じる結界を作り出し、跳ぼうとしたカグチの足を止める。少なくとも数秒間は動けねえぞ! 

 俺は目を見開くカグチに構わず、拳の弾幕を喰らわせてやる! 俺の拳をモロに受けたカグチは吐血しながらも結界を破壊し、即座に距離をおいた。

 

「ぐっ、あの赤き龍を噛み殺せ! 新たなる龍王共よ!」

 

 ロキの足元から影が広がり、そこから複数匹のドラゴンが現れる。

 あれは……あのグータラドラゴンか? そういえば、元々ミドガルズオルムはロキが作ったという話だったわけだし、さしずめ量産型のミドガルズオルムといったところか。少なくとも、一体一体が準魔王級はありそうだ。……まあ、一言でいうなら……

 

「うっとおしい!」

 

 ゴォォォォォォォッッ!!

 

「なっ、北欧の炎だと!?」

 

 俺は北欧の術式を構築し、炎を放つ。その炎は俺の力も加わっているため、量産型のミドガルズオルムでは防ぐことができない。そのまま俺は全てを焼き払う! そのままロキにも攻撃をするが、ロキは冷や汗をかきながらも生き残った量産型のミドガルズオルムと位置を入替え、それを回避する。

 どうやら、この”入れ替え“がロキのユニークスキルの権能らしいな。

 

「我が新たなる力────“狡猾者(トリックスター)”の力を存分に味わうがいい!」

 

 そう叫びながら、ロキは北欧の魔術を全方位に展開し、それを一気に解き放った。どうやら位置の入れ替えだけでなく、魔術的な攻撃に対する上乗せ効果もあるようだ。ロキの魔術は様々な属性を有し、それを無作為に放つことで、対処を遅らせようとしてるのだろう。

 

「“傲慢なる捕食者(プライドグラトニー)”!」

 

 俺はリムルの胃袋よろしく、ロキの魔術を()()する! もちろん、実際に食うわけじゃねえけど……このスキルはリムルと同じように食った魔法や魔力を解析したり、それを自分の力に還元したりすることができる! 俺は喰った魔力をエネルギーに還元し、アスカロンに凝縮し、一気に解放した! 

 

「“竜魔断裂斬(ドラゴニックスラッシュ)”!!」

 

「なぁっ!?」

 

 ロキの魔術をそのまま付与し、あらゆる属性を有した斬撃は、ロキを袈裟斬りする! あの謎鎧のお陰で両断は免れたようだが、それでもかなりのダメージを負っているのが見て取れる。

 それを見たカグチは興味深そうに今の現象を見ていた。

 

「……アスカロンの姿が変わってる……まるで“世界(ワルド)”みたいだな……しかも、今のは“傲慢者(プライド)”か……ギィのユニークスキルまで使えるとはな……素晴らしい! 極上だよ! お前は!」

 

 そう。この形態の俺はギィさんの失われしユニークスキル“傲慢者”を一時的に仕えるようになるのだ。傲慢者は捕食に結界に精神干渉など、様々なことを凄まじい水準で使うことができるぶっ壊れスキル。もともとの性能でも究極能力に届く数少ないユニークスキルの一つ。それに俺の“国津之王”と連動させて、究極級にまで性能を高めてるんだ。その力は元々の傲慢者よりも向上してるらしい。

 カグチは口から血を吐きながらも笑みを浮かべ、子供のようにはしゃぎ始める。戦闘狂らしく喜んでやがるな……。やはり、強さで言えばメロウよりカグチのほうが厄介そうだな。

 

「だけど、その強さ……長くは続かないだろ? お前は人間────である以上は、ギィの力に長くは耐えられない」

 

 カグチは鋭い視線を俺に向けながら、告げる。

 

「あぁ、勘違いしてほしくないんだが、俺は人間を舐めてはいない。かつて俺と互角に戦ったダムラダやグランベル……何より、人間でありながら、ギィと互角の力を持っていたルドラみたいな例外もいる」

 

 カグチはまるで昔を懐かしむかのように呟く。しかし、それも一瞬のこと。すぐに視線を俺に戻す。

 

「それでも、人間にとってギィの力は毒みたいなものだ。例え、ギィと同等の戦闘力を持つルドラでも、ギィの力を取り込めば、その闇の魔力に耐えきることはできないだろう」

 

『……どうやら、カグチは戦闘技術だけでなく、洞察力も高いようだな』

 

(ああ。厄介だな……)

 

 カグチの言う通り。ギィさんの名付けにより、生まれた“真紅の赫覇魔龍帝(クリムゾン・ジャガーノート・ダークネス)”は覇龍の力にギィさんの力を上乗せし、行使できる俺の切り札だが、その分負荷と負担が半端じゃない! 

 この形態は、臨んだ形に姿を変える特性を持つ“神器”の力と、それに宿ったドライグと俺の負担を分担することで成し得る……リムル曰く、無茶苦茶な形態だからな……。

 俺はチラリと視界の端を見る。視界の端にはこの形態を保てる残りの時間が記されている。先程のカウントスタートの音声から約十五分。それが、この形態でいられる時間であり、これを過ぎると俺は戦闘ができなくなる。継戦能力という観点で見れば、あまり使えない……正真正銘短期決戦型だ。

 

「ふむ、それならば……その時間が過ぎるまで耐えれば……」

 

「はあ? 何言ってるんだ?」

 

 ロキの言葉にカグチは不思議そうに言う。対してロキは、カグチの言葉の意図がわからないでいる様子だ。

 

「な、なにを……」

 

「俺が何で、メロウの胸糞悪い作戦に協力したと思ってるんだよ……俺は、この形態の兵藤一誠と戦いたいんだよ! そのために俺はここに来たんだからな!」

 

 それがコイツがメロウと共に来た理由か……。聞いた話によると、あの時はサーゼクスさんとの戦いのためにディオドラに協力したらしいし……とことんイカれた奴だな。コイツ。俺はそう考えながら、再度残り時間を確認する。

 

(……残りは八分か……)

 

 八分でカグチとロキ、メロウを確実に仕留めなければならない。

 ……上等だ! 

 

「来いよ! 魔の力と龍帝の力、思い知らせてやるぜ!」

 

 俺達は再び中空で激突する。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 木場side

 

 

 

 

「な、なんて凄まじい戦いなんだ……」

 

 僕達は例外なく、イッセー君の戦いに魅入っていた。

 カグチの槍や、ロキの魔術。それらを無に帰すほどの、圧倒的な力。これが……イッセー君の本当の力……。

 

「……正確には、ギィ様の力でもあるんすけどね」

 

「……質問だミッテルト。原初の悪魔とは、あれより強いのか?」

 

 そう言ったのは、白龍皇のヴァーリだ。

 彼は戦いが始まってから、何も喋らずただただ戦いを観戦していた。

 その瞳には、羨望と……僅かながらの憧れが含まれているように見えた。

 

「……そうっすね。ギィ様は原初の中でも別格っすからね……」

 

 そう言いながらミッテルトさんは考え込むような仕草をしている。

 そんな彼女の答えを黒歌さんが引き継いだ。

 

「……明確にイッセーのあの形態より強いのは、大本である“原初の赤”ギィ様。あとは、”原初の黒“であるディアブロさんくらいだにゃん。以前、修行で他の原初の人達と模擬戦してた時は勝ってた記憶があるにゃん」

 

「そうっすね。でも、イッセーはあの形態でも原初の方々には確実に勝てるとは言い切れないって言ってたっすよ。他の人達も、大分規格外の力を有してるっすからね」

 

「……つまり、カグチの言う原初の悪魔とやらは、今の兵藤一誠と何ら変わらない力を有してるってことかぃ?」 

 

「凄まじいですね。それほどの存在が今の今まで秘匿されてたとは……オーディン様は知っていたのでしょうか?」

 

 確かにそうだ。それほどの存在がいるというのなら、今の今まで僕達は何で存在すら知らなかったんだ? 

 

「……この戦いが終わったら、全部話すっすよ……」

 

「……いいだろう。今はそれで納得しよう」

 

 タンニーン様の言葉で話を打ち切り、僕達は再度イッセー君の方に視界を向ける。

 

「ハハハハハ! もっとだ! もっと戦おう!」

 

 カグチは凄まじい槍術でイッセー君を襲う。槍より放たれる炎は結界越しでもわかる熱量を秘めている。

 それに対し、イッセー君は爪と尻尾を駆使している。メロウやロキの時とは違い、明確に防いでるように見える。

 

「……どうやら、兵藤一誠はカグチの槍を脅威に感じてるようだな」

 

「そうにゃんね。メロウは戦闘技術こそ高かったけど、慢心も多いし、多分同格や格上との戦闘に慣れてないんだにゃん」

 

「……だが、カグチとやらは違うというわけか」

 

「卓越した戦闘技術に裏付けられた戦闘経験値。うちの見立てだと、カグチは原初の方々と比較しても遜色ないレベルっすよ」

 

 それじゃあ、今のイッセー君でも勝てるかどうかわからない相手ということか! 僕は……僕達は歯ぎしりをしながらイッセー君を見つめる。

 あの戦いは、以前のセラちゃんの比ではない! 僕達はおろか、タンニーン様やバラキエルさんですら近づくこともできない異次元のものとなっている。

 僕たちじゃあ、見てることしかできないのか……? 

 

「……大丈夫っすよ。イッセーは負けないっすからね」

 

 不安気な僕達に対し、ミッテルトさんは笑みを浮かべながらそういうのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 イッセーside

 

 

 

 ロキは様々なものと自分を入れ替えながら俺に接近する。どうやらロキのユニークスキルは自らと他者、もしくは魔力を秘めた物質を入れ替えるスキルのようだ。だが、どうやら射程距離もありそうだな。俺の入替えがないを見るに、制約もあるのだろう。……それでも、メロウやカグチと入れ替えで時間を稼がれるのも面倒だな。

 

「邪魔だ!」

 

「なっ!?」

 

 ドゴォォン!!

 

 俺はロキの肩を掴み、入れ替えの隙を潰し、思い切り踵落としを食らわせる。その一撃はロキの意識を刈り取り、地に伏せさせるには十分な威力を誇っていた。

 

「ば、馬鹿な……神たるこの我が……」

 

 ロキは何とか立ち上がろうとするが、やがて倒れ伏し、鎧も解かれる。完全に意識を失ったようだな。

 

「おのれおのれおのれおのれ……たかが人間風情の分際でぇぇぇ!!!」

 

 メロウは絶叫しながら俺に凄まじい音波攻撃を仕掛けてきた! 下手な覚醒魔王級ですら、振動による分子崩壊を引き起こすであろう攻撃だが、今の俺には通じない。

 

「“黒魔滅却砲(ヘルエクスターミネート)”!」

 

 俺が放った紅い魔力の光線は、メロウの音波を容易く貫き、同時にメロウの胸をも貫いた! 

 

「ぐわぁぁぁぁぁ!?」

 

 この光線にはギィさんの“傲慢者”によって作られた“破滅粒子”が付与されている。

 精神生命体にとって猛毒であるこの粒子はメロウの胸から全身を蝕む。

 

「……馬鹿な……この私が……人間如きに……」

 

 そう言いながら、メロウは力を失い、落下する。

 メロウはこの程度じゃあ死なないだろう。破滅粒子は俺も制御できるわけじゃないし、メロウ級の存在ならば、今の一撃を耐えきれても不思議ではない。

 だが、破滅粒子はメロウの精神を着実に蝕む。地獄の苦しみが続くだろうし、少なくともしばらく戦闘は不可能だろう。

 ざまあみろ! 少しは朱乃さんや小猫ちゃん達の苦しみを味わいやがれ! 

 さてと、コレであとはカグチだけか……。

 

「ふん!」

 

「おらぁ!」

 

 ドゴォォン!! 

 

 俺の拳とカグチの槍が交差するたびに、凄まじい衝撃が辺りを襲う。

 カグチはメロウとは比較にならない強さを持っている。権能の多彩さでいえば、メロウに軍配が上がるだろうが、戦闘能力のみならば、カグチの方が圧倒的に上だ。俺のこの形態の攻撃も上手くいなして致命傷を避けてるようだしな……。

 

『ここは強引にでも奴の守りを突破するべきだな』

 

 ドライグの言葉に俺はカグチを見据える。

 メロウとロキは正直問題ない。ロキは二人に比べ大幅に劣っているし、メロウは俺の防御を突破する手段を持ち得ていない。

 問題はカグチだ。奴だけがその超一流の槍術で俺にダメージを与える力を持っている。制限時間はあと5分……。

 

「ここが勝負だな」

 

 俺は更に魔力を高め、全身に行き届かせる。

 それを見たカグチは笑みを深め、槍を構えた。

 

「いいな。すげえ力だ。これは俺も最大火力で応えるのが礼儀だよな……」

 

 カグチは槍に炎を纏わせ、振るうことで灼熱を辺り一帯に振り撒いている。

 その火力はベニマルさんにも匹敵するほどだ。だが……。

 

「負けるつもりはねえぞ!」

 

 俺は全てのエネルギーを拳に集中させ、一気に圧縮し、高める! 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴッ! 

 

 エネルギーを限界まで高めた俺は拳を構え、敵を見据える。対するカグチも、槍に獄炎を纏わせながら、油断ならない瞳で俺を見据えていた。

 互いの凄まじい魔力により、大地が鳴動し、紫電が巻き起こる。

 先に動いたのカグチ! カグチは極大にまで高めた炎を槍に纏わせ、それを一気に放出した! 

 

「行くぜ! “極炎焔刺突(フレイムストライク)”!」

 

 そのすさまじいまでの炎の刺突は直線状にある者だけでなく、辺り一帯を焼き尽くし、溶かすほどの熱を振りまきながら、突き進んでいく! それに対し、俺は拳に収束させたエネルギーを一気に圧縮し、解放する! 

 

「喰らえ! ヴェルドラ流闘殺法“覇龍絶影拳(ドラゴニックバースト)”!!」

 

 俺が選択したのは数ある“ヴェルドラ流闘殺法”の技の中でも最も信頼すべき、師匠とともに編み出した必殺の技だ! 

 

 ドゴォォォォォォォォンン!! 

 

 二つの絶技がぶつかり合う! その破壊力はすさまじく、黒歌の究極の結界もすさまじい勢いで削られていく! それでも俺は炎の中を突き進み、ついにはカグチの胸を穿った! 

 

「……楽しいバトルだったぜ、兵藤一誠」

 

 胸元とともに、半身を引きちぎられたカグチは血をぶちまけながら、地面へと落下していく。俺はそれを見届け、“覇龍形態”を解除するのだった────

 

 

 




真紅の赫覇魔龍帝(クリムゾン・ジャガーノート・ダークネス)
EP 2534万1268
覇龍にギィの力を加えた決戦形態。王道と覇道の両方の道を指し示す力。普段のイッセーとは違い、ギィの思考回路が微妙に混じってるらしく、毒のような搦め手も使う。
負担は大きいが、原初の悪魔三人娘とも互角以上に渡り合うことができ、ゼギオンともある程度までは戦える。
なお、赤き龍の力が強化されてる分、炎に対して強い耐性があり、ベニマルの炎を持ってしてもダメージを与えることは困難。カグチは原初級の力を持ってるため、戦えるレベルではあるが、火属性のため相性が悪かった。
また、この数値はまだ途上であり、イッセーが神人に進化すれば、更に上がると予想されている。
強力な反面、ギィの闇の力に対する負担が大きく、十五分しか保つことができない諸刃の剣でもある。

赤死銃弾(デスクリムゾン)
当時空を飛べなかったイッセーが空を飛び、上から優位を取る相手に対抗するため、開発した対遠距離用の技。霊丸のように指に魔力を貯め、弾丸のように放つ。


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脅威の援軍です

デイリーランキング22位になりました
ありがとうございます
記念に今回は、二話連続投稿します
続きは21時です


 イッセーside

 

 

 

 

 

「はあ、はあ……」

 

 “覇龍形態”を解除した俺は、凄まじい疲労で突っ伏してしまう。

 ……いっ、いってえええええ! 全身の筋肉痛がやばい! “真紅の赫覇魔龍帝(クリムゾン・ジャガーノート・ダークネス)”は一時的にニ千五百万を超えるほどの凄まじいEPと力を得られるけど、その分反動が半端ねえんだよな……。

 

「……ドライグ。まだ大丈夫か?」

 

『……あ、ああ、なんとかな。だが、いまにも意識が飛びそうではあるな……』

 

 お疲れさん。この形態は負担を二人で分担するわけだが、ドライグは肉体を持たない分、精神への負担が大きいんだよな。だから、解除すると、基本的には意識が飛び、しばらく()()()()()()話せなくなってしまうんだ。今回は制限時間内に終わらせることができたから、まだ大丈夫そうだけど、それでもキツイみたいだな。

 

「イッセー!」

 

「イッセー君!」

 

 そうこうしているうちに、皆が俺に駆け寄ってきた。どうやら皆、無事みたいだな。

 

「イッセー君!」

 

「うおっ!?」

 

 俺が気合を入れて手を振ろうとすると、朱乃さんが凄い勢いで俺に抱きついてきた! 

 

「あ、朱乃さん?」

 

「……ありがとう。イッセー君……」

 

 そう言いながら、朱乃さんはギュッと俺を抱きしめる。

 お、おっぱいの柔らかい感触が俺の頭にぃぃっ! や、ヤバい! これだけで疲労がどんどん回復していく気がする! 聖域はここにあったのだ! 

 

 ぎゅぅぅぅ

 

「はい、どさくさに紛れて馬鹿なこと考えない」

 

「いででででっ……」

 

 そんな事考えていたら、ミッテルトに頬を抓られました。はい。スミマセンでした。

 

「にゃあ~、私も頑張ったにゃん!」

 

「そうだな。ありがとな。黒歌」

 

 俺はかなり疲労している黒歌を撫でる。黒歌は今回、かなり無茶をしてたからな。

 俺の“真紅の赫覇魔龍帝(クリムゾン・ジャガーノート・ダークネス)”は、ギィさんの力だけあって、本当に凄まじい力を発揮する。それこそ、黒歌の究極能力の結界でも全てを完全に防げるかはわからないレベルに……。それを、黒歌は“災禍天福”を行使することで、強度を補い、皆を無傷で守ってみせたのだ。

 “災禍蓄積”で自らにダメージを蓄積するために、実は黒歌だけ結界の外側にいたんだよな。お陰でかなり消耗しているようだ。

 ……ただでさえ、メロウの謀略のせいで動揺してたっていうのに、本当に黒歌には頭が上がらないな……。

 

「…………」

 

「…………」

 

 俺に撫でられながら、黒歌は自らの母親の遺体を見つめる。メロウの音波攻撃で、その姿はズタズタになっており、とても見れたものではない。

 それでも、黒歌は母の遺体をしっかりと見据えていた。小猫ちゃんと朱乃さん、バラキエルさんもそれは同じで、その瞳はとても哀しそうに見えた。

 

「……母様」

 

 一筋の涙を流しながら、朱乃さんは呟く。……やっぱり、このままじゃ駄目だよな。

 

「……あとで、皆で弔いましょう。今は、それくらいしか思いつかないですけど……せめて、二人が寂しくないように」

 

 正直、俺は朱乃さん達に何を言うべきなのかまるでわからない。これくらいしか思いつかないのが情けない限りだ。でも、朱乃さんは俺の言葉を聞くと、クスリと笑い、俺を抱き寄せる。

 

「……ありがとう。イッセー」

 

 その朱乃さんの姿は今までにないくらい、可愛く見えた。ヤバい! 朱乃さん可愛すぎる! 抱き寄せられたことにより、おっぱいも凄く当たってるし、今なら死んでもいいかも……。

 

『……相棒はこんなときでも平常運転だな』

 

「おい、イッセー!」

 

 聞き覚えのある声に振り向くと、そこには会議をしてたはずのアザゼル先生の姿があった。

 隣にはオーディンの爺さんとセラフォルーさん……あと、見覚えのない女性がいる。恐らく、あの人が日本神話の主神”天照大御神“なのだろう。黒髪に神々しい髪飾り! 清楚な雰囲気と和服が絶妙にマッチしてるし、なによりおっぱいもかなりのものだ! こんな人が日本の守り神だったのか! 俺は……最高の国に産まれたのかもしれないな……。

 

「……ど、何処見てるんですか!?」

 

 天照さんはそう言いながら、胸を隠す素振りを見せる。どうやら勘も鋭いようで。

 

「……会談、無事終わったんですね」

 

「まあな。……それよりイッセー。何だアレ?」

 

「そうだよ、赤龍帝君! 私、今まで何度か覇龍見てきたことあるけど、あんなのは見たことないよ!?」

 

 先生達は凄いジト目で俺のことを見つめている。どうやら、先生達もアレを見ていたみたいだ。流石に誤魔化しは効かないだろうな……。

 

「会談の場から、シェムハザの中継でずっと見ていたが……とんでもねえな。オーフィスやグレートレッドにも近しい力を感じたぞ」

 

「そりゃ、そうじゃろう。なんてったって、あのギィ・クリムゾンの力なんじゃからのぅ」

 

 オーディンの爺さんは髭を擦りながら、呆れた様子で俺のことを見ている。水晶でできた義眼が怪しい輝きを放ち、しっかりと俺のことを見据えているみたいだ。

 

「初めてお主をこの眼で見た時、奴のオーラを微弱ながら感じたんでもしやとは思っていたが……本当にギィの力を有していたとはのぅ……」

 

「お、オーディン様は知っていたのですか? その存在を?」

 

 ロスヴァイセさんは恐る恐るといった感じで爺さんに質問する。それに対し、爺さんは頷きながら話す。

 

「うむ。各神話の主神級以上でなければ知り得んこと。お主等が知らんのも無理はない」

 

「ギィ……随分と懐かしく……そして恐ろしい名ですね……」

 

 天照さんが少し顔を青ざめながら爺さんに相槌を打つ。この人もギィさんのことを知ってるのか。話しぶりからして、各神話の主神達は皆ギィさんを知ってるってことなのか? 

 

「ギィ・クリムゾンは……私やそこのオーディンの産みの親たる創造神様唯一の友。私達も数度ですが面識があるんですよ」

 

 天照さんはさり気なくとんでもない爆弾発言を落とす。

 え? 天照さんやオーディンさん達の産みの親? ……ってことは

 

「……ちょっと待つっす。てことは、聖書の神やオーディン様も“星王竜”によって生み出された存在ってことすか!?」

 

 ミッテルトが驚いたように声を上げる。実際俺も目を丸くしてる。カグチの聖書の神がヴェルダナーヴァに産み出された発言にも驚いたけど、オーディンの爺さんや天照大御神さんまでヴェルダナーヴァに創られた存在なのかよ!? ということは、他の神話も? 

 

「うむ。儂らだけじゃなく、ゼウスやシヴァ、帝釈天といった各神話の主神もまた、創造神様に産み落とされた存在。それが、後々独立して、各々の世界────神話を作り上げたんじゃよ」

 

「おいおい……初耳だぞ? 詳しく話してもらってもいいか? 爺さん」

 

 アザゼル先生の言葉にオーディンの爺さんは少し考える素振りを見せ、チラリと俺達の方を向く。

 

「それはいいが……儂らの話じゃと、かなり古い情報となってしまう。それよりは赤龍帝に聞いたほうがいいじゃろて。お主らは今もギィ・クリムゾンと親交があるのじゃろう?」

 

 爺さんの言葉に皆が一斉に俺の方へと視線を向ける。

 この人……面倒くさいから俺に振ったな。まあ、爺さん自身、基軸世界の話に興味があるのだろう。俺としても、あの姿を披露した時点で基軸世界のことを話す覚悟を決めたつもりだから別にいいけど。

 

「俺にも聞かせてもらえないだろうか? 兵藤一誠」

 

 そう言ったのはヴァーリだ。爛々と瞳を輝かせ、期待に満ちながら俺達を凝視している。

 

「俺は今までグレートレッドこそが最強の存在であると考えていた。だが、あの姿を見て思ったんだ。グレートレッドを上回る存在が他にもいるのだとね。もし、本当にそのような存在がいるのであれば、俺は興味がある」

 

 ヴァーリの言葉に俺は少し悩む。“禍の団”に基軸世界のことが知られると、どう考えても面倒事になる未来しか見えないからだ。まぁ、それは“三大勢力”も同じだし、何よりヴァーリチームの奴らは他の“禍の団”の連中と違うということはわかってるからな。別にいいか。

 

「……わかった。その代わり、他の“禍の団”の奴等には言うなよ」

 

「ああ。約束しよう」

 

 ヴァーリは義理堅いし、約束は守る質だ。そんなヴァーリならば信用できるだろう。実際、父さんと母さんを襲わないという約束を律儀にずっと守ってくれてるぐらいだからな。

 

「さてと、ではあの者達をどうするか……だな」

 

 タンニーンのおっさんは倒れ伏しているカグチ、メロウ、ロキの三人を見ながら呟く。三人共、瀕死の状態。カグチとメロウなど、精神生命体でなければとっくの昔に死んでるだろう大怪我だ。

 

「しかし、酷い有り様だな。生きてんのか?」

 

「多分。カグチとメロウは殺す気でやりましたけど、ロキは一応手加減しましたから」

 

 神祖の部下であるカグチとメロウはともかく、ロキは北欧神話の神の一柱。判断は北欧────オーディンの爺さん達に任せるべきだと判断したため、ロキだけは手加減しながら戦っていたのだ。まあ、あの謎の鎧がなければ俺の拳一発で即死してただろうけどな……。

 

「……どうやら、カグチとメロウも生きているようです」

 

 小猫ちゃんは仙術で二人の生存を確認したらしい。だが、二人共俺の見立て通り、暫く動くことすらできないだろうとのことだ。

 

「問題はアイツラをどうするか……だな……」

 

「それについては応相談だが、まあ“コキュートス”に永久封印だろうな。少なくとも、回復する前にとっととぶち込んだ方が良さそうだ」

 

 アザゼル先生は言う。コキュートスとは確か、この世界における脱出不可能の大監獄だったはずだ。どんな場所かはわからんけど、この二人をぶち込むことができるほどの物なのか? いや、アザゼル先生もこの二人の強さは知ってるはず。先生が大丈夫と判断したのなら、問題はないのかもしれないな。

 

「そうと決まれば、早速準備したほうがよさそうですね」

 

 俺は悲鳴を上げる身体に鞭打ちながら、倒れている二人の元へと向かう。

 

「……念の為、仙術で気を乱しといたほうがよさそうにゃん」

 

「……そうですね」

 

 そう言いながら、黒歌と小猫ちゃんは三人に自らの気を送り込み、生命の根源を封じる。まあ、コイツラ級の存在ならば解除は容易いのだろうけど、それでも暫くは大丈夫だろうな。ついでに黒歌はメロウに駄目押しのちょっかいをかけたりしている。まあ、母親の遺体を好き勝手されたんだ。黒歌からすれば、そうとう怒りが溜まってたんだろう。というか、殺しかねない勢いだ。

 俺はメロウにちょっかい出している黒歌を尻目にしながら皆の下へと向かう。

 

「さてと、そうと決まれば早速行くか」

 

 俺は後ろにいる小猫ちゃんへと振り向き、言う。

 小猫ちゃんも少し微笑みながら俺に続き、足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 ────ドスッ

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 小猫ちゃんの呆けた声が俺の耳に届く。

 俺は我が目を疑いながら、小猫ちゃんを見ていた。

 ────小猫ちゃんの胸から、何者かの腕が生えてる。

 いや、生えてるんじゃない。貫いているんだ。何者かの腕が、小猫ちゃんを。

 小猫ちゃんの制服の白いスクールシャツが赤に染まる。小猫ちゃんの瞳からは光が薄れていき……

 

 ドサッ

 

 完全に倒れ伏した。

 

「……なっ!? こ、小猫ちゃん!」

 

「……っ!? 白音ぇぇぇっ!?」

 

 俺は即座に小猫ちゃんを抱き寄せ、一気に下手人から距離を離す! 抱き寄せたその身体からは────生気をまるで感じられなかった。

 

「こ、小猫ちゃん! 小猫ちゃん!!」

 

「……う、嘘でしょ? 小猫? 目を開けなさい!」

 

 先程の場所へと目を見張る。そこにいたのは禍々しくも美しい蝶の羽根を持つ女。身体からは毒々しい光沢を放っており、その瞳は俺達を嘲ているように見えた。

 

「全く、情けない限りですわね。これでは師匠(マスター)もガッカリしてしまいますわ」

 

 そう言いながら、女はエネルギーを羽根に溜め込み、光を倒れ伏していた三人に照射した! 

 

「目覚めなさい。“生命再構築(リストライフ)”」

 

 瞬間、エネルギーが三人の身体を包み込む! 徐々に俺の付けた傷は癒えていき、やがて、三人は再び立ち上がった! 

 

 ザンッ!! 

 

「おっと?」

 

 女は大きく跳躍し、()()()()()()()()()()()()()()()()。カグチの瞳には、煮えたぎるような怒りが感じられていた。

 

「あらあら? いきなり何をしますの?」

 

「何するんだはコッチのセリフだ。俺とコイツの戦いは既に決着が付いてたんだよ? 何横槍入れてんだ?」

 

 カグチは目をギラつかせながら女を睨むが、女は何処吹く風で反論する。

 

「そんな事言われましてもねぇ? 私が助けなきゃ、貴方確実に死んでたわよ?」

 

「死んでもいいんだよ! 戦いの中で死ぬんなら俺は本望だね!」

 

 何か言い争ってるみたいだけど、今はそれよりも小猫ちゃん優先だ! 俺は慌てて小猫ちゃんを鑑定解析する! 心拍は停止……脈も止まってる……でも、魂はまだ昇天していない! 

 

「黒歌! アーシア!」

 

「は、はい!」

 

「わかってるにゃんっ!」

 

 アーシアは神器により、小猫ちゃんの傷を修復、黒歌は小猫ちゃんの身体と消えかけている星幽体(アストラルボディ)に結界を張り、魂の霧消を防ぐ! これで暫くは持つ筈だ! とはいえあまり時間はない! 早いところ蘇生処置をしないと! 

 

 ドゴォォン!! 

 

「ぐはっ!」

 

 瞬間、俺達の後ろで大きな爆発が起きる! 振り向くと、そこには滑り込むようにして俺たちを庇うタンニーンのおっさんと、指揮棒で音波を放ったであろうメロウの姿があった! 

 

「おっさん!」

 

「だ、大丈夫っすか!?」

 

「ああ……問題……ない……」

 

 問題ないわけないだろ! 見てわかるくらい、おっさんはボロボロになっている! クソッ! メロウのやつ、完全復活してやがるな! しつこすぎるんだよ! 少しは空気を読めよ! 

 

「クククッ、私達を殺しそこねたのが運の尽きだな赤龍帝……感謝するぞ。ラーヌ」

 

「いえいえ、お安い御用ですわ」

 

 ラーヌと呼ばれた女は俺たちの方を振り向くと、漆黒のスカートを摘み、軽く会釈をする。

 

「初めまして皆様。私、神祖様の高弟第14位にして蟲を統べる女王────ラーヌと申します。以後……があれば、お見知りおきを」

 

 神祖の高弟14位!? 情報だと、神祖の弟子は13人のはずだろ!? いや、それよりもコイツ……

 

「────“蟲魔人(インセクター)”。それも、完全体か!」

 

 間違いなく、コイツの種族は“蟲魔人(インセクター)”だ! それも、ゼギオンさんやアピトと同じ完全体に至った存在! 存在値は一千万を超えており、凄まじい威圧感を放ってやがる! 

 

「……どういうことっすか? 蟲魔王と蟲皇妃が滅んだ以上、このレベルの“蟲魔人”が誕生するなんて、もうないはずなんすけど……」

 

 ミッテルトは小猫ちゃんの蘇生に少しでも時間を稼ごうと、ラーヌと名乗った“蟲魔人”に問いかける。ラーヌはそれを聞き、可笑しなことを聞いた風に首を傾げる。

 

「確かに、私の父たる“蟲魔王”は滅びました。ですが、兵藤一誠。貴方の兄弟子たる男はもともと、父の支配から逃れるために脱走をした“蟲魔人”ではないですか? 貴方方が以前相まみえたという“ラズル”然り、父の陣営から離脱した“蟲魔人”が、よもや、他にもいないとは考えなかったのですか?」

 

「……ってことは、お前は“蟲魔王”ゼラヌスの娘ってことかよ」

 

 道理で凄まじい威圧感を放ってるわけだよ! こんなやつまで配下に加えてるのかよ! 

 

「む、蟲魔王? 何なのそれは?」

 

 部長達は俺達の会話に付いていけないらしく、思わずと言った風に疑問を投げかける。

 

「蟲魔王は、蟲を統べる王ですよ。その力はギィさんに勝るとも劣らないというとんでもない存在。少なくとも、オーフィスやグレートレッドでは、戦いが成立しない程の異次元の化け物です」

 

「……オーフィスやグレートレッドが相手にすらならない……か。そんな化け物いるのかよ?」

 

 俺の言葉にアザゼル先生は呆れたように呟く。ここまで来ると、一周回って笑えてしまうみたいだな。

 

「まあ、蟲魔王は既に滅んでるんですけどね」

 

 俺はチラリと小猫ちゃんの方を見る。魂はまだ残留しているようだが、目覚める気配は一向にない。アーシアの回復では傷は癒えても死者を蘇生できるわけではない。かといって、今この場に蘇生魔法“死者蘇生(リザレクション)”の使い手がいない。これ以上は、難しいか! 

 俺は歯を噛み締めながら、この場を切り抜けるために再び呪文を唱えようとする! 

 

「あら? ひょっとして、先程の形態をもう一度使うつもりですか?」

 

「そのまさかだよ!」

 

『なっ! よせ! 相棒!』

 

 俺は宝玉から再び魔の力を高め、解き放つための言葉を紡ぐ! 

 

「我、目覚めるは王の理を魔より授かりし二天龍なり────」

 

 バキィィィン! 

 

 瞬間、俺の視界が赤く染まる! ポタポタと何かが垂れる音が、静寂な場に響く。

 視線を落とすと、“赤龍帝の籠手”は大きくひび割れを起こしており、そのときになって俺は顔面の穴という穴から鮮血を垂れ流していることに気付いた。

 

「なっ! イッセー!?」

 

「赤龍帝君!?」

 

「しっかりするっす! イッセー!」

 

 俺は顔の血液を拭いながら、ふらつく身体をなんとか奮い立たせる。それを見たラーヌはしたり顔で俺のことを眺めていた。

 

「流石にギィ・クリムゾンの力。あの形態の戦闘力は私をも上回ってるでしょうね。あれ程の力を続けて使うことなんて不可能でしょう? 制限時間以内に留めてようが、連続しての変身はできないと思ってましたよ」

 

 俺は遠のきそうな意識を必死に繋ぎ止め、ラーヌを睨みつける。確かにコイツの言う通り、この力を続けて使うのは不可能に近い。負担が大きすぎるのだ! 

 

『その力は他でもない、俺様の力だ。今のお前では扱いきれんだろう。ま、精々使い所を見誤るなよ……』

 

 かつて、ギィさんに言われた言葉が俺の脳裏をよぎる。使い所を誤った! その結果がこれかよ! 

 

「……さてと、カグチ。貴方、兵藤一誠のこの形態を隠していたでしょう」

 

「……だったら何だ?」

 

 メロウの反応からわかっていたが、カグチはどうやら俺の“真紅の赫覇魔龍帝”を隠していたようだ。それはコイツが戦いたかったという個人的な理由なのだろう。ラーヌは呆れたようにため息をつく。

 

「全く、マスターにも黙ってるなんて悪い子ね。でも、マスターは喜んでいたのですよ。この男を解析すれば、ギィ攻略の足掛かりになる可能性がある。もしかしたら、ギィの力を持つ新種族……なんてものを作れるかもしれないとね」

 

 俺は便利な素材扱いかよ! ラーヌは意地の悪そうな笑みで俺を見つめてやがる! 

 

「あぁ、そうそう。ちなみに、この場に来たのは私だけではありませんからね」

 

 ラーヌの言葉とともに、空間が歪み、新たなる存在が三人現れる! このタイミングで新手かよ!? 三人共並の覚醒魔王を超える程の力を持ってやがる! こいつらも神祖の部下か何かか!? 一人は悪魔の女! メロウと同じフードを被っており、濃密な魔の気配は俺の後ろにいるセラフォルーさんをも遥かに上回っている! 一人はカマキリとダンゴムシを掛け合わせたかのような姿をした“蟲魔人”! ラーヌの関係者と思われ、その複眼で辺り一帯を観察してやがる! 最後の一人は機械の体を持つ男! 金属質の光沢に機械のような様々な回路が剥き出しになっている! 見ると、機械の男は何かを抱えている様子だ。アレは────

 

「────っ、セラ!?」

 

 機械の男は家にいるはずのセラを片腕に抱えていた! 俺の叫びを聞きながら、機械の男は嫌悪感を隠さない視線で俺を睨みつけていた。

 

 




前回が良かった分、今回の話でかなり批判きそう……
取り敢えず、21時までお待ちください


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脅威の援軍その2です

 セラside

 

 

 

 

 

「はあ!!」

 

 私は眼の前の敵に向かって“波動砲”を幾重にも放つ。

 でも、お姉ちゃんと同じ悪魔らしい女の人は、水を操ってそれを簡単に防いでみせた。

 

「ギシシシシ! シ、シネ!」

 

「ぐっ!?」

 

 後ろからトーカお姉ちゃんの苦しそうな声が聞こえてくる。トーカお姉ちゃんはもうボロボロなのに、お父さんとお母さんを守るために戦っているの。

 

「“電子流動波動砲(エレクトロンバースト)”」

 

 その時、私とよく似た身体をした男の人が、背中から生えているケーブルみたいなのを私達に向ける。ケーブルからは、凄い電圧の雷が放たれ、雨のように辺り一帯に降り注いだ! 

 

 ドゴゴゴゴォォォンッ! 

 

「きゃあ!?」

 

「ぐはっ!?」

 

「うわぁぁっ!」

 

 辺りに降り注いだ雷は、黒い煙を出しながら、轟音を響かせる。その破壊力に、トーカお姉ちゃんは膝をついてしまう。

 

「トーカお姉ちゃん!」

 

「だ、大丈夫。二人は無事よ」

 

 トーカお姉ちゃんの後ろには、気を失って倒れたお父さんとお母さんがいる。

 どうやら、トーカお姉ちゃんが雷を誘導してくれたみたいで、二人に怪我はないみたいなの。

 

(でも、このままじゃあ……)

 

 私は上空にいる男の人を睨みつける。雷を出した男の人は私達の前にゆっくりと降下してきた。

 

「目をお覚ましください! 貴方様はこのような者といるべきではないのです!」

 

 ……どうやら、この人は私のことを知ってるみたいなの。もしかしたら、記憶を失う前の私と関係があるのかもしれない。

 私が思考を巡らせていると、悪魔の女の人がゆっくりと近づき、私に語りかけてきた。

 

「……セラセルベス。いえ、セラだったか。大人しく投降しろ。そしたら、少なくとも後ろの三人の身柄は保証しよう」

 

「なに? 正気か?」

 

「オイ、ナニ、イッテル! オレ! コイツラト、ア、アソビ、タイ!」

 

 先程までトーカお姉ちゃんと戦っていた蟲の人が声を出し、私は思わず後ずさる。動悸が止まらないの。

 コイツのせいで、さっきから思うように戦えない。トラウマのように絡みつく恐怖が、私の身体を支配しようとしてくるの。

 

「賢い貴様ならわかるだろう? このままやってもお前たちの勝利はゼロに等しいと。今、投降すればそれでよし。……だが、投降しないというのであれば────」

 

「……え?」

 

 瞬間、凄まじい量の水が、私達に覆いかぶさり、一瞬の内にトーカお姉ちゃん達を拘束した! 

 

「なっ!?」

 

 それを見て、私は瞠目する。トーカお姉ちゃんも私も油断なんてしてなかった! 一瞬のうちに、あの悪魔の女の人はトーカお姉ちゃん達を捕まえてしまったの! 

 この人、もしかしたら、イッセーお兄ちゃんや黒歌お姉ちゃんにも匹敵するかもしれない……。

 

「さあ、選べ。投降するか、コイツラを殺すか……好きな方をな……」

 

 女の人の言葉は有無を言わさぬといった風だ。選択肢のない私は拳を握りしめ、唇を噛んだ。

 私が悩んでいる隙きに、女の人は徐々に私に近づいていき────

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 イッセーside

 

 

 

 

「────っ、セラ!?」

 

 機械の男が抱えているボロボロのセラを見て、俺は目を見開く。

 俺の叫びを聞きながら、機械の男は嫌悪感を隠さない視線で俺を睨みつけていた。

 

「……セラ? 無礼な。この御方はそのような名で呼んでいい御方ではない」

 

 機械の男は心底不愉快そうに言う。コイツ、セラと似た素材(マテリアル)で構成されてやがる……。何者だ? 

 

「我が名は“ディオ・ガーチュ”。メルヴァゾア様に仕える“羅睺七曜”が一人。“金王(ゴルト・プライム・クルアーン)”の称号を預かる者だ」

 

 メルヴァゾア? 聞いたことがない存在だ。部長もオーディンの爺さんも心当たりはなさそうに見える。察するに、この世界とも基軸世界とも違う異世界の存在か? 

 

「その通りさ。コイツはこの世界とも、基軸世界とも違う、別の世界からやってきた機械生命体。無機と有機が争う神話の神の一角さ」

 

「……その異世界の神が何でセラを」

 

「なんでも何も、この御方は元々こちら側の存在だからだ」

 

 ディオ・ガーチュとやらは気を失っているセラを抱えながら、言う。

 

「この御方の真名は“セラセルベス”様。我等が主神の妹神であり、魔神と恐れられた御方だ。崩御なされたと思われていたが……まさか、記憶を失い、こんな辺境の惑星に辿り着いていたとは……」

 

 はっ!? セラが魔神!? コイツの主の妹神だって? ……いや、確かに考えてみれば腑に落ちる。セラは時折邪悪な力を発揮する。その最たる例がシャルバの時に見せた暴走だ。今思えばあれは魔神の片鱗だったってことか……。

 

「……それにしても、魔神にしては随分あっけなかったな。人間二人を守るためとはいえ、ああもあっさり捕まるとはね……」

 

「キシシシシ、コイツ、タイシタコト……ナカッタ……」

 

「……その声!? 貴女は……」

 

 もう一人の悪魔らしき女と蟲魔人の男は嘲るように言う。悪魔の女の声にセラフォルーさんは聞き覚えがあるらしく、目を見開き、驚いたような表情となる。

 

「……久しぶりだな。セラフォルー・シトリー……いえ、今はレヴィアタンだったわね。直系の私を差し置いて……ね……」

 

 女はフードを取る。その容姿は以前、先生が倒した旧魔王、カテレアに何処となく似た印象を覚えるものだった。

 

「おいおい、まじかよ? コイツは……」

 

「……お前は、ツファーメ・テレアク・レヴィアタン!」

 

 アザゼル先生とバラキエルさんの言葉に部長は目を見開く。レヴィアタンってことは、旧魔王の血族か? 

 

「セラフォルー様。あの人は……」

 

「……あの人はツファーメ・テレアク・レヴィアタン……先代魔王レヴィアタンの娘だよ」

 

 セラフォルーさんの言葉に合点がいく。なるほど、旧魔王の娘というのなら、カテレアに似た感じがするのも納得だ。彼女は長い髪をかきあげ、セラフォルーさんを見据える。

 

「……まさか、生きていただなんてね。アジュカ君に滅ぼされたとばかり思ってたんだけど……」

 

「……ああ。あのままなら、確かに滅ぼされていたかもしれない……。だが、直前にメロウ殿に救われたのさ。お陰で、以前に増して力を得ることもできた」

 

 そう言いながら、ツファーメは水のオーラを身に纏う。成程、相当の使い手だな。恐らく、三人の中で最強はコイツだ。ロキはおろか、フェンリルよりも厄介そうなオーラを纏ってやがる。

 ……だが、俺にとって重要なのはそこではない。コイツ、今なんて言った? 人間二人を守るため……? そもそもセラは家で父さんや母さんと一緒にいたはずだ。それなのに、コイツラに攫われたってことは……っ! 

 

「……てめえ、父さんと母さんに何をした……っ?」

 

 俺は殺気を放ちながら、ツファーメ達を睨みつける。それを見たツファーメは怪訝そうにしながらも、何かに納得し、質問に答える。

 

「ああ。そういえば貴様の肉親だったのだな、赤龍帝。安心しろ。見られた以上、最初は私も殺すつもりだったが、この魔神のガキが抵抗してきてな。長引いても面倒だったから、二人を殺さない代わりに付いてくることを約束させたのだ……。今頃は私の手下共に囲まれてるだろうが……死んではないだろう」

 

 死んではない……つまり、それ以外のことはわかってないってことだ。クソッ! 巫山戯やがって! 父さんや母さんを巻き込むんじゃねえよ! 

 

「……それで、貴女の目的は? 他の旧魔王のように私達を殺しに来たってこと?」

 

 セラフォルーさんはツファーメが何を目的に来たのか測りかねているらしく、問いただす。だが、意外にもツファーメは気怠そうにセラフォルーさんを見つめるだけだった。

 

「いや? 確かに昔は私達から魔王の座を奪った敵だが……今となってはお前達のことも別に恨んでもない。……まあ、ここで新旧レヴィアタン対決をするのも面白そうではあるが……」

 

 それを聞いたセラフォルーさんは魔力を高め、臨戦態勢に入る。その眼は一切の油断を捨て去ってるのが見て取れる。

 それを見たラーヌは興味なさげに言う。

 

「マスターからの命令です。兵藤一誠を生け捕りにしろ────とね。それ以外は……別に殺してもいいらしいわ」

 

「フフフ、ならば私は今、この場でオーディンを始末させてもらおう。奴を殺せば会談も流れ、黄昏を行えるからな!」

 

「なら、私は今度こそ黒猫を貰おう。眼の前で妹を救えないという現実を見せつけ、ルミナスなんぞに組みした愚かを骨の髄まで味あわせてやろう」

 

「キシシシシ、俺、キリサク……」

 

「そんな……事……させるかよ……」

 

 俺は足に力を入れ、立ち上がり、拳を構える。巫山戯るな。皆を殺されてたまるかよ! 

 

「ガハッ!?」

 

 瞬間、俺は吐血し、ダメージに思わず突っ伏してしまう。クッ、ダメージがまだ抜けないのかよ! 

 

「……折角和平交渉が成立したんだ。そんなことさせるかよ! 禁手化(バランス・ブレイク)……ッ!」

 

 先生は“堕天龍(ダウン・フォール・ドラゴン)の鎧(アナザー・アーマー)”を発動し、先手を取ろうとする。バラキエルさんやセラフォルーさんもそれに続き、各々の攻撃を仕掛ける。────だが

 

「悪いが、貴様らでは相手にならん」

 

 バチバチバチッ! 

 

「なっ! ぐはっ!?」

 

 ディオ・ガーチュとやらはワームのように蠢くケーブルでアザゼル先生を攻撃する。アザゼル先生はなんとかそれを引きちぎろうとするが、発せられた高圧電流により、ダメージを負う。

 

「私に電気は効かんぞ!」

 

 雷光を纏ったバラキエルさんはディオ・ガーチュの電流など気にも止めず、徒手空拳による攻撃を放つ。

 

「……ふむ。電気は効かんか。ならば、力で捻じ伏せるとしよう」

 

「なっ!?」

 

 ズドンッ! 

 

 奴はケーブルを纏め、巨大な鎚を作り出し、バラキエルさんに向かって放つ。バラキエルさんはなんとか受け止めるが、先程の朱璃さんと子フェンリルとの戦いによるダメージが抜けておらず、吹き飛ばされてしまう。

 

「魔法少女を舐めないでよね☆“氷雪の魔光(アイシクル・レイ)”!」

 

 セラフォルーさんは濃密な氷の魔力が込められた光をディオ・ガーチュに放つ。それを奴は背から生えたケーブルで阻止するが、光の当たった端から徐々に凍りついていく。

 

「ほう?」

 

「余所見してんじゃねえぞ」

 

 アザゼル先生はディオ・ガーチュに拳を放つ! ディオ・ガ―チュはそれを電流ケーブルで阻止しようとするが、氷に阻まれ、電流を流すことができないでいる! あの氷は最初から電流を防ぐために放ったのだろう! 

 

 ドゴォォン! 

 

「グッ!」

 

 “堕天龍(ダウン・フォール・ドラゴン)の鎧(アナザー・アーマー)”を纏ったアザゼル先生は“超級覚醒者(ミリオンクラス)”の力を持つ! 流石に奴も無傷とは行かず、顔を歪めている。ディオ・ガーチュ自体、セラを抱えながらの戦闘だから、思うように戦えないみたいだな。

 

「────グングニル!」

 

 ブゥゥゥゥゥン!! 

 

 そこへオーディンの爺さんが槍による攻撃を放つ! 槍から放出される極大のオーラはそのままディオ・ガーチュを貫かん勢いで突き進むが…………

 

 ガキィィィンッ! 

 

 槍はロキの手によって容易く防がれる。ロキは鎧をその身に纏い、オーディンの爺さんの攻撃を相殺しやがった! 

 

「フハハハ! 今の我にはもはやグングニルすら通用せん! 終わりのときだオーディンよ!」

 

「ふん、先程まで赤龍帝にボコボコにされてボロ雑巾になってた若造が言いよるわぃ」

 

 オーディンの爺さんは槍と魔術を駆使し、鎧を纏ったロキに対抗する。対してロキは新たに量産型のミドガルズオルムを多数呼び出し、オーディンの爺さんと渡り合っている。オーディンの爺さんも多勢に無勢。中々に苦しい表情をしているようだ。

 

「陽光!」

 

 天照さんが陽の光を模したエネルギーを放つ! ディオ・ガーチュとロキはそれを容易く防ぎ、逆に天照さんにカウンターを仕掛ける。天照さんはそれを勾玉で迎撃するも、余裕はなさそうに見える。

 

「死ネ!」

 

「っ!? ────くっ!」

 

 そこにカマキリの“蟲魔人”が羽を羽ばたかせ、鋭い鎌で天照さんを斬り裂かんとする。恐らく“神話級”────フェンリルの爪にも匹敵するであろう鎌を何とか躱しながら、天照さんは勾玉の光線を放った。

 

 カァァァァァッ!! 

 

 だが、通用した様子はない。“蟲魔人”は総じて魔法攻撃に強い耐性がある。コイツもその例に漏れず、高い魔法耐性があるみたいだな! 

 

「効いてない? 貴方、何者なの?」

 

「キシシシシ、俺、マンティディーチ。シ、新生“十二蟲将”ノ……ジュ、十一位!」

 

「あらそう、自己紹介ありがとうっ!」

 

 魔法戦は不利と判断したのか、天照さんは剣を取り出し、マンティディーチの鎌と斬り結ぶ! 天照さんは凄まじい速度でマンティディーチを斬り裂くが、その硬い装甲に阻まれ、内部まで届いてない様子だ。

 

 ────ゾクッ! 

 

 嫌な悪寒が全身を走る! 見ると、ツファーメ・テレアク・レヴィアタンが魔力を高め、鋭い視線を放ちながらそれを解放しようとしていた! 

 

「……“海蛇龍の砕牙(リヴァイアバイト)”!」

 

 魔力を高めたツファーメは鋭い水の斬撃を解き放つ! 

 

 ザクザクザクザクザクッ!! 

 

「ぐはっ!?」

 

「キャア!?」

 

「ぬぅ!?」

 

「がっ!?」

 

 その鋭い攻撃に対応しきれず、アザゼル先生とセラフォルーさんが水の牙の餌食になる! 唯一応対することができたオーディンの爺さんと天照さんも、かなりのダメージを負っているのが見て取れる! 

 

「くっ、舐めないでよね!」

 

 セラフォルーさんはツファーメに向かって凄まじい威力の氷刃を放つ! アザゼル先生も堕天使の光槍を思い切りぶん投げる! だが、ツファーメは意にも介さず水の大蛇を創り出し、セラフォルーさんとアザゼル先生ごと氷刃と光槍を噛み砕いた! 

 

「う、嘘……」

 

「……まじかよ」

 

「お生憎様……こちらも以前とは違うのだ……“海蛇龍の斬爪(リヴァイアクロウ)”!」

 

 サバァァァァァァンッ!! 

 

 そのままツファーメは広範囲の水刃を放ち、セラフォルーさんや先生達を斬り裂いた! 

 

「セラフォルー様! アザゼル先生!」

 

 皆の悲鳴も虚しく、二人はその場で倒れ臥す。それを見たツファーメはなんの感慨もなさそうに二人を見ていた。

 

「悪いわねセラフォルー。正直、今の貴方にはあまり興味はない。……当時は怨みもしたが、今となっては魔王の座すらどうでもいい。アジュカとは決着を着けたいと思うけど、この場にはいないみたいだし、今はあの人からの任務を優先するつもりよ」

 

 そう言いながら、ツファーメとディオ・ガーチュは俺達の方へと歩み出す。木場やゼノヴィア達はその濃密な魔王覇気に当てられ、動くことができずに呆然としている。オーディンの爺さんと天照さんはロキとマンティディーチの相手で精一杯だ! ただでさえ、ツファーメの水刃で負傷してるんだ。現状、こちらへのフォローは厳しいだろう……。

 

「うぅ……お兄……ちゃん」

 

 セラのその言葉を聞いたディオ・ガーチュは機械にも関わらず目を血走らせ、セラの首元を締める! 

 

「ぐ、ぐぁぁ……」

 

「貴女様は何を仰ってるのですか? 貴女様の兄君はあそこにいるナマモノなどではありません! 我等が主神たるメルヴァゾア様に兄神のレガルゼーヴァ様だけです! 訂正してください!」

 

「て、てめぇ! セラを離せ!」

 

「ナマモノは黙ってろ。これは我らの問題だ」

 

 クソッ! 動け! まだ動けるだろ! 相手は全員が凄まじいまでの手練れ! このままじゃセラが危ない! 皆も殺されてしまう! 

 

 ドゥン! 

 

 何かがセラとディオ・ガーチュの間を横切る! あれは……滅びの魔力!? 

 

 ザッ! 

 

 誰かが俺の前に立つ。見ると、そこには紅い髪をたなびかせる部長と、刀を携えたミッテルトの姿があった! 

 

「? ……誰?」

 

 ツファーメは怪訝そうに部長を眺める。部長は強い口調でそれに答える。

 

「私はリアス・グレモリー。イッセーの主よ!」

 

「主? お前が?」

 

「グレモリー……サーゼクスの血縁? まあいいわ。貴方如きに用はない。見逃してあげるから消えなさい」

 

 明らかに見下した口調。それも当然だろう。コイツラと部長の間には覆しようのない絶対的な力の差があるのだから。それがわかっててなお、部長は一切引く気はない。

 

「巫山戯ないで! イッセーを貴方達に渡す気はないわ! とっととセラを離しなさい!」

 

「イッセーはうちの恋人っす! それを奪おうってんなら、覚悟するッスよ」

 

 ミッテルトが刀を向け、部長が滅びの魔力を高める。それを見た皆は覚悟を決め、部長達と隣り合うように各々の武器を構えた! 

 

「イッセー君達は渡さない!」

 

「その通りだ。お前達にイッセーもセラも、お前等は渡さん!」

 

「母様だけでなく、イッセー君にセラちゃんまで失うだなんて絶対にさせませんわ!」

 

「ぼ、僕だってぇぇ!」

 

 なっ!? だ、駄目だ皆! 皆じゃあこいつ等には……俺は何とか声を出そうとするが、血混じりの吐瀉物が込み上げ、思うように言葉が出せない! 

 

「行くわよ!」 

 

 部長は滅びの魔力を放つ! だが、この程度の滅びではこいつ等に痛痒を与えることはできない! ツファーメが水を使い、滅びの魔力を簡単に打ち消す! 打ち消された滅びは爆風を起こし、煙幕として二人の視界を遮る。

 

「ふん、無駄なことを……」

 

 機械生命体であるディオ・ガーチュは高度なセンサーを持っているらしく、ケーブルを鋭利な針にし、部長を貫かんとする! 

 

「えい!」

 

 そこでギャスパーが神器を発動させ、ディオ・ガーチュの動きを一瞬だけ停止させる! 時間にして、僅か数秒にも満たないが、木場とゼノヴィアが部長の前に滑り込むには十分な時間だ! 

 

「聖魔剣よ! 盾となれ!」

 

「デュランダルッ!」

 

 木場とゼノヴィアはそれぞれ聖魔剣とデュランダルでディオ・ガーチュの攻撃を防ごうと奮起する! 二人共、ミッテルトの“思慕者(オモウモノ)”の力でいつもより出力が上がっている────が、それでもあの攻撃を防ぐには足りていない! 

 

「「ぐわああああっ!?」」

 

 聖魔剣とデュランダルは砕けてしまい、木場とゼノヴィアは吹き飛ばされる! そこに現れたのはヴァーリとアーサー! 各々の武器で攻撃を仕掛けている! 

 

「悪いが、兵藤一誠には聴きたいことが多くある! こんなところで死なすわけには行かないんでね!」

 

「例え何者であろうと、聖王剣で切り裂くだけです!」

 

 ヴァーリは白龍皇の光弾を、アーサーはゴールブランドの空間断裂を仕掛けるが、それらはツファーメの水の魔力で打ち消されてしまう! 

 

「なっ!? コールブランドの斬撃を防ぐとは……」

 

「一筋縄ではいかないか……だが、旧魔王の娘なら、あの男を倒す予行になるかもな!」

 

 あの男? 誰のことだ? ヴァーリの言葉を聞いたツファーメは不愉快そうに顔を歪めている。

 

「あの男と一緒にするな……今の私は、あの男よりも強くなってるわよ!」

 

 ツファーメは再び全包囲の水の牙を突き立てる! ヴァーリとアーサーは何とか対応しようとするが、あまりの手数に全てを防ぎきらことはできず、押し切られてしまう! 

 

「ぐぉっ!」

 

「ぐはっ!」

 

 ヴァーリの半減も、アーサーの空間削りでも対応しきれてない! 何かのスキルか!? あの感じ……下手したら究極級はあるかもしれない! 

 

「チィッ! 伸びろ如意棒!」

 

「雷光よ!」

 

「行くわよ!」

 

 美猴と朱乃さん、イリナがそれぞれ如意棒と雷光、光の槍で攻撃するが、それすらもディオ・ガーチュのケーブルで防がれる! 奴はケーブルでで如意棒を絡め取り、逆に電流を流して美猴にぶつけやがった! 

 

 バチバチッ! 

 

「ぐおぉぉぉっ!?」

 

 凄まじい電流で悲鳴を上げる美猴。あの電流は見た目以上に電圧が高い! 多分、バラキエルさんの雷光とかと比べても遜色のないレベルだ! そんな電気をモロに浴びた美猴は為すすべなく崩れ落ちる。

 

「きゃあ!」

 

 朱乃さんは再び雷光で敵を射抜こうとするが、それよりも速く、ケーブルが朱乃さんをはたき落とす! 朱乃さんは立ち上がろうとするが、今までの戦いの疲労から立ち上がれないでいる。

 

「はぁ!」

 

 そこへイリナが光の槍を手にも持ち、ディオ・ガーチュに接近戦での攻撃を仕掛けるが、ディオ・ガーチュはいとも容易くイリナの槍を捌き、逆にケーブルでイリナを弾き飛ばした! 

 

「滅びよ!」

 

「朧・飛空剣!」

 

 その隙を付き、部長とミッテルトが伸び切ったディオ・ガーチュのケーブルを切断する! だが、ディオ・ガーチュは慌てることなく即座にケーブルを修復し、エネルギー弾を二人に向かってぶっ放した! 

 

「ぐっ! “楊柳(やなぎ)七華凪(なななぎ)”!」

 

 ミッテルトは朧流守りの秘奥義でエネルギー弾をいなそうとするが、そのすさまじい質量の光弾はミッテルトを以てしても弾けるものではなく、ミッテルトと部長はそのまま光弾に弾き飛ばされてしまった! 

 

「があっ!」

 

「ああっ!!」

 

「ぶ、部長ーっ! ミッテルトォー! 皆ぁ────!!」

 

 頼む! 動け! このままじゃ、皆が……っ! 

 ミッテルトと部長はボロボロになりながらも立ち上がる。それを見たディオ・ガーチュは怪訝そうにしている。

 

「理解不能。貴様らに勝算はないというのに、何故立ち上がる?」

 

 それを聞いたミッテルトは強い眼差しで敵を射竦める。

 

「イッセーはうちの大切な存在だからっすよ。セラちゃんもうちの大事な妹分! お前らなんかに奪われてたまるか!」

 

「そうよ! イッセーもセラも、私にとって家族も同然なの! 絶対に渡す訳にはいかないわ!」

 

 

 ディオ・ガーチュはミッテルトと部長の言葉を聞き、目を血走らせ、怒りに震えている。

 

「……セラセルベス様を愚弄するか……この御方の兄弟は我が主神と兄神のみ! それ以外には存在せん!」

 

 ケーブル同士を絡み付かせ、巨大な腕や剣、鎚を作り出し、ディオ・ガーチュは攻撃をする! その怒涛の攻撃をミッテルトはなんとか見切り、躱すが余裕があるようには見えない! 部長など付いていくだけで精一杯だ! 正直、ミッテルトのスキルがなければとっくにやられている! 

 

「きゃっ!」

 

 部長は脚を絡め取られ、その場に転倒する。ディオ・ガーチュは倒れた部長にケーブルの連撃を集中させる! 

 

「ぐっ!」

 

 ガガガガガガガガガッ! 

 

 ミッテルトはそれを“堕天刀”で防ぐが、限界が近いのが見て取れる。全てを防ぎ切ることはできず、ミッテルトは部長とともに後方に跳ぶことで何とか攻撃を回避する。

 

「ぐっ、ありがとうミッテルト」

 

「これ……くらい……どうってこと……ないっすよ……」

 

 ハァハァと息切れをしながらもミッテルトは闘志を込めた瞳をしている。獰猛に笑みを浮かべ、精一杯の見栄を張っている。

 

「ふん、理解に苦しむ。貴様の勝率は0なのだぞ? 何故そうまでして死の時間を先延ばしにする?」

 

「わかってないっすね。うちは死ぬつもりなんか毛頭ないんすよ。うちは、生きて皆で帰るために戦ってるんすよ」

 

「ミッテルトの言う通り! 私は……私達は諦めたりしない!」

 

 ディオ・ガーチュは興味をなくしたかのように無機質な目で二人を狙う! 俺は痛む身体に鞭を打ち、駆け出しそうとするが、間に合わない! 俺は最悪の光景を幻視する────

 

 

 

  

 

 

 

 

 ドン、ドンッ! 

 

 

 

 

 

 

 

 ────瞬間、銃声が鳴り響く。

 それと同時に何かが宙に舞う。それは、ディオ・ガーチュのケーブルとセラの首を掴んでいた腕。そして、セラだった。

 

「……なに?」

 

 刹那、誰かが宙を舞うセラを優しくキャッチする。

 

「中々いい事言うじゃん。そういう諦めない姿勢ってやつ? 少なくとも、僕は嫌いじゃないよ」

 

 俺はその光景に目を疑った。セラをキャッチしたのは紫の髪をサイドテールで纏めた女の子。小さい姿でありながら、軍服を纏っており、その姿はこの上なく様になっている。

 

「だ、誰……?」

 

「イッセーの知り合いさ。取り敢えず、今は君の味方だよ」

 

 朦朧としたセラの言葉に答える少女を見て、思わず俺は目を見開いた。

 

 

「あ、貴女は────ウルティマさん!?」

 

 

「やあ、イッセー。久し振り」

 

 

 そこにいたのは原初の悪魔の一柱! 毒姫の称号を持つ原初の紫! テンペスト検事総長にして、聖魔十二守護王の一柱! “残虐王(ペインロード)”のウルティマさんだ! 

 というか、それだけじゃない! さっきの高密度の魔力を宿した銃弾は、間違いなく“消滅弾(イレーザー)”だ! あの弾丸を放てるのは一人しかいない! 

 

 

「やあ! 無事みたいだね、イッセー!」

 

「────か、カレラさん!?」

 

 

 崖の上にいるのは原初の黄にして魔国の司法府最高裁判所長官! 聖魔十二守護王“破滅王(メナスロード)”のカレラさんだ! 後ろにはエスプリとアゲーラさんも控えてる。しかも、何か青い見覚えのある物体を抱えている! 

 

「あれって……青原さん?」

 

 倒れている木場がカレラさんの抱えている青い物体を見てそう呟く。マジじゃん! あれレインさんじゃん! なんでカレラさんがレインさんを抱えてこんな所にいるんだ!? 

 ……いや、それだけじゃない! 他にも誰かいる! あ、あれは……

 

「ヤッホ〜。イッセー君、元気してるぅ?」

 

「し、シルビアさん!?」

 

 あの人はシルビアさん! カグチやメロウと同じ、神祖の高弟の一人であり、魔導王朝サリオンの天帝、エルメシアさんのお母さんだ! 何であの人まで!? 

 

「リムル君との会談で私も必要かな〜って思ってねぇ。私もいい加減、神祖様とは決着つけないとって考えてたしねぇ。それに、まだいるのよぅ」

 

 苦笑しながらそう呟くシルビアさん。その後ろには、見覚えのある人達が佇んでいる。

 

「ふう、久し振りね。イッセー君。リアスちゃんも無事で良かったわ」

 

「ふん、死んでなかったのね。変態ドラゴン。ガッカリしたわ」

 

「やれやれ、相変わらず素直じゃないね。君は……」

 

 現れたのはティアマットさん! その後ろには鎧に身を包んだ男女と軍服、スーツに身を包んだ男性だ! 鎧は“伝説級(レジェンド)”の輝きを放っている! 軍服を纏う男性は隻眼で眼帯をつけているが、その一つ目で油断なく辺りを観察している! もう一人のスーツを纏うダンディな男性も、不敵な笑みを浮かべながら、敵を見据えている! あの人たちは……! 

 

「てぃ、ティアマットさんまで……それに、ジウと帝国の人達も!?」

 

 え!? ちょ、ちょっと待て!? なんでこの人達が!? そ、そういえばティアマットさんは帝国のお世話になってるって聞いてはいたけど……それにしたって可笑しくね!? 

 

「やれやれ。随分と手酷くやられたようじゃのぅ」

 

 眩い転移の光と共に、コツコツとブーツが地を蹴る音が響く。現れたのは輝く銀髪に右目が赤で左目が青の金銀妖瞳(へテロクロミア)をそなえた美しい美貌を持つ女性。まさかの大物の登場に、俺達は目を丸くする! 嘘だろ!? こ、この人は!? 

 

「「「ルミナスさん(様)!?」」」

 

 俺達の驚きの声が響く中、ルミナスさんは妖しげに妖艶な笑みを浮かべるのだった。

 




脅威の援軍(双方にとって)


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基軸の強者達です

 イッセーside

 

 

 

 

 

「なんだ……アイツラは……?」

 

「なんなの? この威圧感?」

 

「アヤツラは……まさか……!?」

 

 アザゼル先生達は眼前の集団から感じられる凄まじい力を前に、冷や汗をかき、呟く。

 信じられない……。俺の今の気持ちを率直に表すなら、そんな感想が即座に浮かぶ。俺は眼の前に現れた頼もしすぎる軍団を見て、驚愕することしかできなかった。

 

「やあイッセー! 随分ボロボロじゃないか」

 

「情けないね。戦いから離れてるうちに大分鈍ったんじゃないの?」

 

 横を見ると、カレラさんとウルティマさんが何時の間にか移動しており、そんなことを言ってくる。

 カレラさんはまだ心配してくれてるが、ウルティマさんは俺を嘲笑ってるのが見てわかる笑みを浮かべている。

 

「やあ、久し振りだね。イッセー君。無事みたいで安心したよ」

 

「あ、バーニィ!」

 

 次に俺に話しかけてきたのは帝国のバーニィ。槍を携え、人のいい笑顔で俺に話しかけてくる。

 

「ふん、無様なものね。変態ドラゴン」

 

 そこにジウが心底侮蔑したかのような瞳で俺を見つめながら言ってくる。

 

「そんなこと言って、カレラ様にイッセー君の現状を聞いた途端に僕達の首根っこ摑んで飛び……」

 

 ────シュン! 

 

 空が斬り裂かれる音が辺りに響く。見ると、ジウは手に“伝説級“の剣を携えバーニィの首に当てていた。

 

「殺すぞ? バーニィ」

 

「あ、ハイ。ゴメンナサイ」

 

 ジウは目が血走っており、目茶苦茶怖い。

 

「相変わらず君も素直じゃないね」

 

「全くだ。そんな感じでは、いつまで経っても振り向いてもらえないぞ」

 

 帝国勢はこの二人だけじゃない。帝国の宰相であるミニッツさんや軍務大臣であるカリギュリオさんまでここにいる。帝国の中でもトップクラスのお偉いさんであるこの二人までどうしてここにいるんだよ!? 

 そんな俺の困惑をよそに、カレラさんはレインさんを放り投げ、指示を出す。

 

「話は後でいいだろう。さあ、レイン。とっとと結界を張ってくれ!」

 

「やれやれ、なんて人使いの荒い……これだからカレラは粗暴なんですよ……“霧と霜の防御結界(ミストフィールド)”」

 

「なっ!? この結界は!?」

 

「す、凄く綺麗……」

 

 レインさんはブツブツ言いながらも結界を張り、安全地帯を作り出す。流石にギィさんやヴェルザードさんの戦闘に何万年も付き合ってるだけのことはあるな。黒歌の防御結界を堅固な壁とするのなら、レインさんの結界はすべてを包み込む膜のような感じだな。その結界は凄まじく、黒歌程ではないにしても、大抵の攻撃ならば簡単に弾けるだろう。

 

「ゾンダ。取り敢えずイッセー達を回復させといて」

 

「承知しました。お嬢様」

 

 ウルティマさんの号令でゾンダさんが回復魔法を俺達にかける。ゾンダさんはウルティマさんお付きの料理人であり、ユニークスキル“調理人(マゼルモノ)”は対象を“調理”することでどんな怪我も回復させるという権能を持っている。アーシアと比べると、傷の治癒率は劣るけど、疲労も回復するというメリットがあるため、俺も何とか立ち上がれるところまでは回復する。

 

「大丈夫? ミッテルト?」

 

「アハハ、結構ヤバいところでした。感謝するっすよ。エスプリ」

 

「全く、情けないわね。まだ戦れそう?」

 

「あったりまえっすよ! なんか今、凄く調子がいいんすよね!」

 

 ミッテルトはエスプリの手を借りながら何とか立ち上がる。立ち上がったミッテルトは刀を杖にしながらも、ヤル気いっぱいといった感じだ。

 

「全く、随分ボロボロね。タンニーン」

 

「てぃ、ティアマット。何故お前が?」

 

「助けに来たのよ。まあ、成り行きだけどね」

 

 その横ではボロボロのタンニーンのおっさんをティアマットさんが持ち上げている。キレイな美人さんがでっかいおっさんを片手で持ち上げている姿は中々にシュールだ。

 

「あ、貴女達は一体……?」

 

 突然現れたカレラさん達に部長は困惑を隠しきれない様子。まあ、当然か。この中ではティアマットさんしか知らないわけで、あとの人は全員初対面なんだし。

 

「ああ、私達は────」

 

「る、ルミナス様!」

 

 黒歌が小猫ちゃんを抱え、ルミナスさんを見つめる。それを見たルミナスさんは、小猫ちゃんのことを察したらしく、小猫ちゃんに近付き手を翳す。

 

「案ずるでない黒歌。“死者蘇生(リザレクション)”」

 

 ルミナスさんは小猫ちゃんに向かって神の奇跡“死者蘇生(リザレクション)”を発動する。魂は黒歌が固定していたお陰でまだ小猫ちゃんの身体に残留している。これなら問題ない! 

 

「ガハッ!」

 

「!? こ、小猫さん!?」

 

 心臓が再生され、止まっていた血流も戻ったのだろう。小猫ちゃんは吐血し、息も絶え絶えになっている────つまり、生きている! 

 

「……あれ? 姉様? ここは……」

 

「白音!!」

 

 ガバッ! 黒歌は小猫ちゃんが生き返ったことを確認し、力強い抱擁をする。目尻には涙が浮かんでいる。俺もそうだ。良かった……本当に……。

 

「ありがとうにゃん! ルミナス様!」

 

「気にするでない。お主の妹であれば、妾にとっても身内同然。当たり前のことをしただけじゃて」

 

 ルミナスさんは白銀に輝く長髪を靡かせ、笑みを浮かべる。仲間思いのルミナスさんにとっては本人の言う通り、当たり前なのかもしれない。口ではつっけんどんでも、ルミナスさんはお人好しなところがあるからな。

 

「……ルミナスっ! 貴様っ!」

 

 ルミナスさんを確認したメロウは目を血走らせ、ルミナスさんに向かって特攻を仕掛ける! ルミナスさんはそれを苦も無く紅く輝く魔爪で受け止める! 

 

「久しぶりじゃのメロウ。まだ生きてるとは恐れ入ったぞ」

 

「黙れルミナス! 裏切り者がっ! 今この場で殺してやろうっ!」 

 

 メロウは音波攻撃をルミナスさんに放つ! だが、ルミナスさんが回避するまでもなく、メロウが逆に吹き飛んでいく! 

 

「がはっ!」

 

 そこにいたのはシルビアさんだ。何時の間にか負傷者達を腕に抱え込み、ついでと言わんばかりにメロウを蹴り飛ばしたのだ! 

 

「久しぶりねメロウちゃん。短気なのは相変わらずみたいねぇ」

 

 シルビアさんは負傷者を結界の中に入れながら言う。それを見たメロウは歯をギリギリ鳴らしながら、シルビアさんを睨みつける。

 

「シルビア……貴様もいたな……」

 

「あ、貴女は……?」

 

 バラキエルさんはシルビアさんに問う。すると、シルビアさんは振り向かえり、笑顔を振りまきながら言う。

 

「初めまして、私はシルビアよ。ちょー強い助っ人だから安心していいわよぅ」

 

 こんな状況では初対面でそんな事言われても納得できないだろう。だが、意外にも助け舟はすぐに出た。

 

「シルビアか……随分久しぶりじゃのぅ……」

 

「オーディン様、お知り合いなのですか?」

 

 オーディンの爺さんがシルビアさんに向かってそんな事を言ってきた。え? なに? 知り合いなの!? それに気付いたシルビアさんは、少し驚いたふうな表情をしている。

 

「……やっぱりオー君なのねぇ! 昔、サリオンやゼーちゃんと一緒に馬鹿やってたあの! 懐かしいわぁ!」

 

「「「お、オー君!?」」」

 

 オーディンの爺さんからはあまり想像もつかないような渾名! 先生やロスヴァイセさん達は思わずと言った風にオーディンの爺さんを見つめる。それに対し、オーディンの爺さんは呆れ顔だ。

 

「もういい年の爺じゃて、その呼び方は恥ずかしいからやめい。お主、ちっとも変わらんのぅ」

 

「なぁに言ってるのよ。貴方も精神生命体なんだから、老いとはあまり関係ないでしょ? それにしてもこんなに老け込んじゃって……一瞬誰だかわからなかったわよぅ。何でこんな姿になってるのよぅ」

 

「まあいいじゃろう。年齢的にも儂はこれくらいの見た目がちょうどいいんじゃて」

 

 二人はまるで旧知の仲のように気さくに話している。……いや、実際に旧知の仲なのだろう。それを見ながら俺は考える。

 サリオンっていうと……ラプラスのことだよな!? オーディンの爺さんは昔ラプラスの友達でシルビアさんの知り合いだったと……意外な繋がりがあるんだな……。というか、世界が違うはずなのにこれは一体どういうことなんだ? 

 

「まあ、その話は後じゃ。今は……あっちじゃろて」

 

 ……確かにな。オーディンの爺さんの言う通り、今はあいつ等だ! ラーヌは興味深そうに俺達を観察しており、カグチは先程までのつまらなさそうな表情から一転して、嬉しそうに笑みを浮かべている。

 

「奴等は?」

 

「アイツラは基軸世界の強者たち。俺達が攻略すべき敵さ」

 

 ディオ・ガーチュの疑問にカグチは答えるように述べる。

 

「よう、久しぶりだな“原初の黃(ジョーヌ)”」

 

 カグチにそう呼ばれたカレラさんは露骨に不愉快そうな表情となる。

 

「その呼び方は好ましくないな。私には偉大なる我が君より賜った“カレラ”という名前があるのだぞ」

 

「……そうだったな。スマン、カレラ」

 

「分かればいいさ」

 

 ディオ・ガーチュとツファーメはカグチの呼び名を訊き、大きく目を見開いている。どうやら、こいつ等も知っているようだな。原初の悪魔の詳細を……。

 

「ジョーヌ……そうか、こいつが」

 

「ああ。あそこの金髪はカレラ。“原初の七悪魔”の一柱で、原初の黄……“ジョーヌ”の異名を持つ女さ」

 

「……では、その隣りにいる紫髪は……」

 

「ウルティマ。原初の紫“ヴィオレ”。毒姫と恐れられた存在……あそこで結界を張っているのが原初の青“ブルー”ことレイン。アイツらも“原初の七悪魔”の一角。お前達悪魔の大元となった始まりの悪魔共だよ」

 

 部長やアザゼル先生達は驚いたような表情でカレラさんとウルティマさん、そしてレインさんを見つめる。

 

「あ、青原さんが……!?」

 

「隠してて申し訳ありません。あまり知られたくなかったので」

 

 皆目茶苦茶驚いているな。まあ、今まで人間だと思ってた人がその実自らの祖先的な存在だったと知ったのだ。そりゃ驚くだろう。部長は眼の前に立っているカレラさんに対し、少し緊張した面立ちとなっている。

 

「あ、貴女様が原初の悪魔……様……?」

 

 部長は恐る恐るとカレラさんに尋ねる。原初の悪魔の存在自体は先程知ったばかりだろうが、本能的に自分より上位の存在だと悟ってるのだろう。それに対し、カレラさんは大らかに答える。

 

「そうかしこまらなくていいさ、リアス・グレモリー。私は君を買っているんだ」

 

「わ、私を……」

 

「ああ。私はミッテルトを通して、君達のことをずっと見ていたからね。あのイッセーが傅く気になっただけはある! たとえ力及ばずとも、仲間を守るために命を張ろうとする姿はとてもよかったよ。私はね、自分が認めた相手には種族や強さ問わず敬意をはらう主義なんだ」

 

 カレラさんはそう言いながら、部長に肩を貸して立ち上がらせる。カレラさんは部長を結界の中に入れ、改めてカグチたちと向き合った。

 

「後は私達に任せ給え。……さてと、久し振りだね。カグチ」

 

「ああ」

 

 カグチとカレラさんは向かい合い、お互いの武器を構えている。どうやら二人は知り合いみたいだな。

 

「アイツは僕やカレラにとって因縁の敵なのさ。それにしても、あの“焔の王”がこんなところにいるなんて思わなかったね」

 

「焔の王?」

 

 ウルティマさん曰く、カグチは一国を治めていた国王であり、苛烈な戦闘を好む戦闘狂の多いイカれた国だったらしい。ウルティマさんも何度かカグチとは戦ったことがあり、カグチに受肉を邪魔された────なんてこともあったんだとか。

 

「僕も何度かちょっかいを受けたことがあってさぁ……まあ、カレラの支配領域と被ってたから、一番因縁があるのはカレラだろうね」

 

「なる程……」

 

 それでか。何だか二人共楽しそうにしてるのは。カグチもカレラさんも戦闘狂同士、気があったのかもしれないな。

 

「……奴らが原初というのならば、他の奴らは何者だ?」

 

「どいつもこいつも厄介な化け物さ」

 

 カグチは視線をそれぞれの強者に向け、自らの陣営や俺達の方にも説明するかのように言う。

 

「あそこにいるのはシルビア。元々は俺達の同胞であり、全てのエルフの祖となった“風精人(ハイエルフ)”。神祖様の高弟第三位にして“雷帝”と呼ばれた女さ」

 

「え、エルフの祖ぉ!?」

 

 ロスヴァイセさんが驚いたようにシルビアさんを見やっている。エルフは北欧の領域にいるらしいし、そんなエルフの祖の登場に驚いているのだろう。対するシルビアさんはVサインで返していた。

 

「アイツはティアマット。“天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)”。五大龍王最強の存在。かの創造神の妹……あらゆる異世界をも含めた全世界最強の赤き竜……“灼熱竜”ヴェルグリンドの弟子の一人さ」

 

「あら? 詳しいわね?」

 

「この世界でも屈指の強者。前々からお前には興味があったからな。……というか、後ろの奴らは帝国の連中だな。お前も基軸に行く手段を得ているってことか?」

 

 これには皆もビックリだろう。ティアマットさんの強さは知ってただろうが、彼女自身秘匿してただけはあり、ヴェルグリンドさん周りのことは知らなかっただろうからな。

 

「そして……あの女こそ、俺達が最優先で攻略すべき“八星魔王(オクタグラム)”が一人にして、我等が主たる神祖様の一人娘……“夜魔の女王(クイーンオブナイトメア)”ルミナス・バレンタインだ」

 

「……なるほど、奴が“八星魔王(オクタグラム)”……」

 

「……長ったらしい説明は終わったようじゃのう」

 

 ルミナスさんはそう言いながら、戦闘態勢に入る。というか、わざわざ待っててあげたのか? 

 

「ああ、というか、なんでお前がここにいるんだ?」

 

 それは俺も気になっていた。何でルミナスさんがこんなところにいるの!? ルミナスさんだけじゃない! カレラさんもウルティマさんもティアマットさんもジウ達も、どうしてこの地球にいるんだよ!? 

 

「ふん、それは……」

 

「そんな事はどうでもいい!!」

 

 ルミナスさんが何かを言おうとすると、それを遮るようにメロウが声を荒げる。その瞳はギラついており、視線だけで人を殺せそうな感じだ。

 

「貴様の愚に罰を与える時が来たのさ! 随分と長かったがな!」

 

 メロウは指揮棒を構え、ルミナスさんに向ける。それに対し、ルミナスさんは観察するようにメロウを見つめ、やがて“夜薔薇の刀(ナイトローズ)”を携え、居合のような構えを取る。

 

「何処からでもかかってくるがよい」

 

「……嘗めているつもりかルミナス? だが、いいだろう。貴様はここで私が殺す!」

 

 メロウは指揮棒を短剣のように突き立て、凄まじい速度で猛進する! だがルミナスさんはそれを容易く見切り……

 

「は?」

 

 メロウの胴を両断した! メロウは何が起きたのか把握できないまま、徐々に光が失われていく。メロウは何が起きたのかもわからずに、その生を失ったのだ。

 

「妾がここに来た理由……じゃったな」

 

 ルミナスさんは倒れ臥すメロウを一瞥し、美しくも獰猛な笑みでラーヌ達に切っ先を向け、告げる! 

 

「知れたことを。今ここで、あの神祖(腐れ外道)との因縁を断ち切りに来たまでじゃ! 覚悟するがいい!」

 

「そうかい、相変わらずで安心したよ!」

 

 その言葉を合図に景色が暗転し、廃鉱山から朽ちた建物が浮かぶ、不思議な空間へと舞台が変わる。原初勢が特殊なフィールドを創り出し、相手をそこに誘い込んだのだ! それを見たラーヌとカグチは笑みを深め、飛び込んでくる。ルミナスさんを筆頭とした皆も笑みを浮かべ、それぞれの武器を構えて迎え撃った! 

 

 

 

 

 

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 三人称side

 

 

 

 

「さてと、やるか……」

 

「ふん、人間風情が生意気な! やれ、ミドガルズオルム」

 

 帝国のカリギュリオ、ミニッツ、バーニィは正直何故自分がここにいるのかわからないでいた。というのも、彼らは魔国との会談及び、客人であるティアマットの護衛の為にテンペストを訪れていた。仕事も終わり、寛いでいたところに血相を変えたジウがいきなり現れ、間髪を容れずにこちらの世界に連れてこられたのだ。一応、ジウの想い人(本人は隠しているつもりだが……)のイッセーがピンチに陥っているという事くらいは道中把握したが、実際わかってるのはそれくらいである。

 そんな帝国の四人はロキ率いる大量のミドガルズオルム及び、子フェンリルを自らの対戦相手として選択した。彼らはこの場に集った強者の中では一歩も二歩も劣っているという自覚があり、自らにできることとして異世界の魔獣を相手にすることを選択したのだ。

 

「……ロキ……北欧の神……か。まさか、神話の神様なんてのが本当にいたとは驚きだね」

 

 バーニィはロキを見ながら呆れたように呟く。

 彼はアメリカ出身の異世界人であり、この地球ではとある大学の学生として様々なことを学んでいた。その中には地球の神話についての知識もあったため、北欧神話や聖書の神々といった存在が本当に存在していたことに少し驚いていたのだ。

 まあ、彼自身異世界転移に基軸世界で神に等しい存在と多く遭遇してきたため、今更だとも思っているのだが。

 

「さあ、行くわよ!」

 

「フッ、いつになく気合が入ってるねジウ殿」

 

「それは当然でしょう。何しろ愛しのイッセー君が……」

 

 ────シュン! 

 

 空が斬り裂かれる音が辺りに響く。見ると、ジウは手に“伝説級“の剣を携えバーニィの首に当てていた。

 

「消すぞ?」

 

「は、ハイ。申し訳ありません」

 

 こんな時にまでしなくても……そう考えるバーニィ。なんやかんやで何度もこんなやり取りをしてる分、懲りない男である。それを見たミニッツとカリギュリオは苦笑をしながら眼の前の敵を見据える。

 

「さてと、茶番はそこまで。異界の神に我等帝国軍人の意地と誇りを見せつけようではないか!」

 

 カリギュリオの鼓舞に対し、ジウ達は戦意を持って答える。量産型のミドガルズオルムは一体一体が準魔王級の力を持っている。だが、帝国最上位に位置する四人にとってはまるで脅威には感じなかった。

 

「ワシャワシャと出てくるね。龍というよりは虫みたいだ。全く、虫はすっかりトラウマだというのに────ねっ!」

 

 べゴンッ! 

 

 ミニッツがミドガルズオルムに向けて腕を振るう。すると、ミドガルズオルムはまるでプレス機にでもかけられたかのように大地にめり込んでいく。

 

 ────グシャ! 

 

 それでも終わらない圧力に掛けられた量産型のミドガルズオルムは耐えることすらできず、そのままペッシャンコになってしまった。これにはロキも、結界内のリアス達も目を丸くする。これはミニッツのユニークスキル“圧制者(オゴルモノ)”の権能、引力操作である。ミニッツは引力干渉波を放つことで、量産型ミドガルズオルムを圧殺したのだ。

 

「流石はミニッツだ。俺も負けてられないな!」

 

 眼帯の男、カリギュリオは剣にエネルギーを高め、圧縮する。カリギュリオは元来、聖人に覚醒した存在であり、その力は失われたものの、膨大なエネルギーを込める器は残っているのだ。器にエネルギーを常時溜め込み、開放することで、カリギュリオは“疑似聖人”とでも言うべき存在に昇華される。

 

「喰らうがいい! “破軍・激震烈衝”!」

 

 カリギュリオが選択するのは帝国の英雄“軍神グラニート”の奥義である剣撃。この技はヴェルグリンドに多少の指導はしてもらったもののほぼ自力で辿り着いた帝国剣術の極致とも言うべき技である。

 

 ドゴォォォォォンッ! 

 

 その凄まじいまでの破壊の一撃は正しく“軍隊”すらも一撃のもとに破壊しきるエネルギーを秘めていた。そのエネルギーの奔流に飲み込まれた残りの量産型ミドガルズオルムは抵抗すらできず、この場から消滅するのだった。

 

 ガルルルルゥゥゥッ!! 

 

「むぅ!?」

 

 大技を放った一瞬の隙を見逃さず、子フェンリルが牙を剥く。子供であり、戦闘経験こそ未熟だが、獣ゆえの直感から最適な選択を選んだのだ。だが……

 

「おっと危ない!」

 

 バキィッ! 

 

 ギャウッ!? 

 

 寸での所でバーニィが子フェンリルの頭を槍で弾く。バーニィはマサユキの護衛として力を磨く過程でカリギュリオとは違い、完全に“聖人”としての力を取り戻しており、素で“超級覚醒者(ミリオンクラス)”の力を持つ実力者なのだ。故に、龍に混じった子フェンリルこそ魔獣の中で最も警戒すべき存在であると即座に見抜き、常に動きを警戒していたのだ。

 彼の持つユニークスキル“代行者(リプレスメント)”は自らより格下の存在に対する優位性があるのだが、自らより存在値で上回っている子フェンリル相手には効果が薄い。だが、まるっきり効果がないわけではなく、その力を用いれば、戦闘経験の低い子フェンリルを抑え込むことは容易かった。

 

「ランガ殿に比べれば大した事ない……というか、普通の犬程度にしか見えないね……“代行者の刺突(オルタナティブストライク)”!」

 

 ビュカッ! 

 

 バーニィは“伝説級”の槍に“代行者”の権能を集中させ、一気に開放する。槍は光となり、そのまま子フェンリルの脳天を貫いた。子フェンリルは何が起きたのかも理解することなく、そのまま意識を闇に落とした。

 

 ガルルルァァッ!! 

 

「おっと、そういえばもう一匹いたんだね」

 

 自らが仕留めた子フェンリルの背後より、もう一頭の子フェンリルが鋭い爪を自らに向けて放とうとしていた。子供とはいえ、フェンリルの爪は“神話級”に届く可能性がある凄まじい武器であり、貫かれれば“聖人”といえど、生命の保証はないだろう。だが、バーニィはまるで慌てていない。何故なら、この場に自分を引っ張ってきた張本人の姿が消えていることに気付いていたからだ。

 

 ガァ…………ッ!? 

 

「悪いわね。私、暗殺が得意なの」

 

 密かに子フェンリルの()()()()()()()ジウの凶刃が子フェンリルの頸を斬り裂いた。彼女のユニークスキル“代行者(リプレスメント)”は気配や姿を隠蔽することに特化したスキルであり、その力を持って密かに動向を伺っていたのだ。最も、リーチ故に両断することは叶わなかったが、傷をつければそれでいい。斬り裂かれた子フェンリルは頸だけでなく、目や鼻から血液を垂れ流す。彼女の刃には猛毒が塗ってあり、弱った子フェンリルを蝕むには十分な力を持っていたのだ。

 

「眠りなさい“代行者の凶刃(オルタナティブスラッシュ)”!」

 

 ザシュッ!! 

 

 ジウは自らの権能の全てを込めた一撃を叩き込み、子フェンリルを絶命させる。それを見たロキは歯軋りをしながら帝国の四人を睨みつける。ロキは自らの手で四人を始末することを決め、武器を構える。

 もし、ロキが四人と戦えば、帝国の四人は善戦こそすれど、敗北は免れないだろう。通常のロキであれば、帝国勢には敵わないだろうが、“フェンリルUL”の鎧を纏ったロキは存在値400万を超えており、究極能力を持たないと彼等ではその存在値の差から敗北していたであろう。故にロキは余裕を持ち、眼前の敵をどう始末しようか思考を巡らせていた。

 だが、ロキの思惑はかなわない。

 

「流石は帝国。敵だった時は厄介だったけど、味方になると凄く頼もしいわねぇ」

 

「なっ!?」

 

 ────ドゴォォン!! 

 

 突如としてすぐ眼前にまで迫っていたシルビアの手により、ロキは吹き飛ばされる! シルビアは今や数少ない昔の友を傷つけていたロキに少し怒りを抱いていたのだ。

 

「ガハッ! 何だいまのは……この我が見えなかった……だと?」

 

 ロキは怪訝にしながらもシルビアを見詰める。シルビアは右手に本来の自らの武器である“金剛杵(ヴァジュラ)”、左手には()()()()()()()が握られていた。

 

(あれは、ミョルニルのレプリカではないか!?)

 

 ミョルニルは雷を放つ大槌であり、シルビアもまた雷を操る天候系最上位の究極能力“雷霆之王(インドラ)”の所持者である。そんな彼女だからこそ、ミョルニルのレプリカを見て不思議な縁を感じ、手に取ってみたのだ。

 

「いいわね、この武器。手に馴染むわぁ」

 

 シルビアはミョルニルと金剛杵に雷を纏わせ、笑みを浮かべる。ロキにとって恐怖となる時間はまだまだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

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 ガギィィィン! ドォンっ! バジュッ! 

 

 辺り一帯に凄まじいまでの轟音が響く! カレラの黄金の刀とカグチの持つ紅い槍が交差する度に衝撃が響いていた。

 

「“炎螺旋激槍(スパイラルフレア)”!」

 

 一瞬の隙をつき、カグチの炎槍がカレラに向かって突き進む。だが、カレラはそれをたやすく回避し、逆に黄金刀をカグチに向ける。

 

「甘いな。“朧・流水斬”!」

 

「うおっ!?」

 

 紫電を纏うカレラの一閃はミッテルトの流水斬を遥かに凌ぐ破壊力を持っており、その剣圧でカグチの背後の朽ちた残骸が真っ二つに両断される。

 それを見たカグチは苦笑しながらカレラと再び槍を放った。

 

「わかってはいたが……凄え剣技だな。大魔法や核撃魔法をぶっ放すだけだった数万年前とは大違いだ!」

 

「私も成長するということさ! そういうカグチも、以前よりも槍さばきが向上してるじゃないか!」

 

 ガギィィンッ!! 

 

 槍と刀が交差し、辺り一帯の浮かぶ残骸が砕け散る。その衝撃だけで、力のない存在は跡形もなく消滅するだろう。しかし、朽ちていく周囲の光景などお構いなしに、カレラとカグチは何度も何度も互いの武器をふるった。

 

「アハハッ! 楽しいな、カグチ!」

 

「ああ! 俺もだよ! お前との戦いは数万年ぶりだからなっ!」

 

 ドゴォォン! 

 

 カグチはカレラと刃を交え、冷や汗をかきながら言う。カレラとの戦いは楽しいが、現状負けるのは自分だとカグチは考えている。それは、槍から伝う衝撃と、自らの身体の気だるさが物語っていた。

 ラーヌは蟲魔王ゼラヌスと蟲皇妃ピリオドが産み出した古き“蟲魔神”であり、その正体は蟲皇子ゼスの双子の姉なのだ。ゼスがゼラヌスの因子を強く引き継いでいたのと同じように、ラーヌはピリオドの因子を強く引き継いでいた。だが、ラーヌの“生命再構築(リストライフ)”はピリオドのように完璧なものでなく、溜め込んでいるエネルギーの少ない現状では傷の治癒と多少の回復程度しか見込めなかった。メロウが一撃のもとに倒されたのも、実は本来のエネルギーの三分の一も回復していなかったのが原因である。

 カグチはそれを正確に把握していた。今の自分の魔素量は全開時の半分にも満たない。技量(レベル)が互角だからこそ戦闘が成り立っているが、カレラはまだ黄金銃も究極能力も使用していない。カレラがその気になれば、勝負は一瞬で終わってしまうだろう。

 

(正直、兵藤一誠との戦いに満足したんだが、消耗したところを別のやつに殺されるのはまた違うしな……)

 

 イッセーとの戦いに敗れ、死ぬことはカグチにとって当然のことであるため、今、この瞬間にもイッセーにとどめを刺されるのなら問題はない。だが、横から来たカレラに殺されるのは本人としては許容しかねることなのだ。

 死ぬのなら、戦いの中であり、生殺与奪の権限は勝者にのみ与えられるというのがカグチの考えなのである。

 悪魔であるカレラはそんなカグチの複雑な心境を察しており、現状のカグチと対等に戦うため、敢えて刀のみを使用している。それでも、カレラの剣術は魔国の中でも三指に入るほどのものであり、消耗したカグチではとてもではないが捌き切れるものではない。

 だから、カグチは戦闘以外で集中を削ぐことを試みる。

 

「それにしても、お前の部下……強くはなってるようだが、蟲将相手はキツイんじゃないか?」

 

 カグチは正々堂々の勝負を好むが、それは好むだけ。現状勝ちが厳しいと見れば、精神的な攻撃も容赦なく行えるのだ。故に、不満には思っていても、メロウの策に協力したのだが、カレラには通じない。

 

「問題ないね! エスプリもアゲーラも自慢の部下だからね! ミッテルトもいるし、あんな生まれたての蟲如きに遅れは取らないさ!」

 

「チッ、気付いていたのかよ……」

 

 カグチは効果がないと判断し、カレラに槍の切っ先を向け、放つ。カレラはそれを容易くいなし、逆にカグチを斬りつけようとする。二人はまるで演舞のように刀を、槍をぶつけ合い、互いに隙を伺っていた。

 

 

 

 

 

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 二つの水がぶつかり合う。ティアマットはツファーメを相手に興じていた。ツファーメは自らの肉体を龍に転じるという力を持っており、その力を応用し、自らを“竜人化”させることで出力を上げ、ティアマットに肉薄していた。

 

「凄い水ね。下手したら私を上回りかねないほどに……貴女、こんなに強かったかしら?」

 

「かの五大龍王最強に褒められて光栄だわ。水を操る龍同士、遊びましょうか」

 

 ツファーメはかつて、傲慢なる王だった。魔王レヴィアタンの実子として教育され、自ら以外の存在など有象無象としか考えていなかった。

 しかし、その考えは数千年ほど前に打ち砕かれた。彼女は悪魔同士の内戦の際、アジュカと相対し、自身の全てを粉々に打ち砕かれたのだ。どれほどの攻撃を放っても、自らを龍化し出力を上げても、アジュカはそれらを全て読み解き、いとも容易く自らを打ち破った。その後、彼女はメロウに拾われ、命を救われた。それでも当初はアジュカに対する復讐に燃えていたが、程なくして彼女はアジュカや父たる魔王すらも上回る圧倒的強者────神祖と相対した。異次元の存在を前にツファーメはようやく自らの分を悟り、更に上を目指すようになったのだ。そういう経緯もあってか、彼女は“復讐者”とされているが、実のところもはやそこまで現魔王を恨んでいるわけではないのだ。魔王の座を奪われたかつては凄まじいまでの憎悪と嫉妬を覚えたものだが、今では寧ろ、高みに行く機会をくれたことを感謝してるくらいだ。もっとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()はまた別の話だが……。

 そんなツファーメは“真なる魔王”に自ら覚醒するために他の世界の侵攻を開始した。その世界は争いの絶えない戦乱の世界で、地球と同じく海に覆われていた惑星は自らの力を最大限にまで発揮するのに都合よく、苦戦もあったが数十年の時をかけて彼女は世界そのものの制圧を完了させた。その際、彼女はユニークスキルを取得、それをさらに練り上げることにより、ついに究極能力“海蛇之王(リヴァイアサン)”の獲得に成功したのだ。この権能は大気中にある水分、もしくは魔素から水を生成できるという権能があり、その力を使えばほぼ無限に水を生み出すことができるのである。

 この権能は彼女が生まれつき持つレヴィアタンの特性“掉尾の海蛇龍”と相性がよく、この力を用いることで神祖の高弟達と比べても遜色のない戦力を得ていた。

 そんなツファーメだが、ティアマットを相手に攻めあぐねていた。強いとは思っていたが、ティアマットの技量は彼女の想像の遥か上をいっていたのだ。

 

「ふむ、いくらなんでも水を操る練度が可笑しいと思っていたケド……もしかして貴女も究極能力を持ってるのかしら?」

 

「……も、ということは貴女も究極能力保持者……というわけね……」

 

 ティアマットは元来、覚醒魔王に匹敵するか、それを上回るほどの力を持っていた。ヴェルグリンドに直弟子と認められるほどなのだから、ある意味では当然とも言えよう。

 しかし、彼女は自らの強大な力を封じ込めていた。理由は簡単、修行にならないからだ。彼女と互角に戦える存在は同じくヴェルグリンドの直弟子として切磋琢磨した“ルネアス”と、ヴェルグリンド相手に無謀にも立ち向かっていく過程で強くなっていた“クロウ・クルワッハ”くらいだろう。それ以外だと、他神話の神や“二天龍”なども該当するが、それでも自らが本気で戦えば問題にならないと彼女は考えていた。だからこそ、彼女は自らの力を秘宝に封じ、力を制限していたのだ。そうしなければ、戦いが成立する存在が少なすぎたからこそ……。

 しかし、近年になって盟友となったアジュカやサーゼクスといった、本気の自分にすら匹敵するかもしれない存在が次々誕生し、師の弟の弟子・イッセーとの戦いが決定打となり、彼女は自らの力を取り戻す時が来たのではないかと考えるようになった。

 故に、ドライグのせい(とある事情)で行方不明となっていた“力の秘宝”を回収し、自らの制限を解き放とうとしたのだ。

 魔国の密偵“藍闇衆(クラヤミ)”の情報収集、隠密能力はティアマット自身、心底驚くほど凄まじく、彼等はこの世界で数ヶ月の時をかけ、ティアマットの秘宝をすべて回収した。結果、彼女は真の力を取り戻すと同時に究極の力にも目覚めることができたのだ

 究極能力“焔海之王(ティアマット)”。自らと同じ名を持つこの権能は、水属性の炎という矛盾したものを生み出すことができ、性能こそ劣るものの、ベニマルの“陽炎之王(アマテラス)”とゼギオンの“幻想之王(メフィスト)”を合わせたような力を持つ権能である。

 そんな彼女もまたツファーメの実力には驚いていた。内戦以前にかつて一度だけ見たことがあったのだが、その時とは完全に別人である。

 少なくとも、水の支配力ではツファーメが上手。技量や存在値ではティアマットが上回っているため、時間をかければティアマットが勝利するだろう。それでも、油断をすれば敗北するとティアマットは感じており、久しくなかった真に命を懸けた戦いの感覚に酔いしれる。ティアマットもティアマットで戦いは大好きなのだ。

 

「いいわよツファーメ。もっと楽しみましょうか!」

 

「いいでしょう! 極みに至ったレヴィアタンの真の力を見せてあげましょう!」

 

 互いに“神話級”の武器を取り出し、二人の戦いは更に激化する。

 二頭の強大な力を持つ龍の対決は暫し続くのだった。

 

 

 

 

 

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「僕の相手は……君がしてくれるかな?」

 

「舐められたものだ。原初の悪魔だかなんだかしらんが、ナマモノごときが私と戦おうナド……」

 

 可愛らしく首を傾げるウルティマは、そのまま“金王”ディオ・ガーチュと戦闘を始める。先手必勝。ディオ・ガーチュはそのケーブルでウルティマを絡め取り、蹂躙しようと考え、即座に行動に移した。

 ディオ・ガーチュのケーブルは強度で言えば“伝説級”最上位に匹敵しており、雷を纏わせることで下手な神話級とも渡り合うほどの力を持っている……しかし……。

 

「それっ!」

 

 ドゴォォン! 

 

 ウルティマの鋭い手刀が空を切り裂き、ディオ・ガーチュのケーブルを両断する。それに驚いた素振りを見せるも、ディオ・ガーチュは慌てることなく空に舞ったケーブルを繋ぎ止め、即座に再生。ウルティマ目掛けて破滅的な威力を誇る光線を放射する。だが、ウルティマはそれすらもいとも容易く回避してしまった。

 ディオ・ガーチュは機械生命が支配する異世界の“邪神”メルヴァゾアに仕える“羅睺七曜”の第六位であり、その力は地球神話の主神級と同等か、それを上回るほどのものである。そんな彼を持ってしても、ウルティマの動きはまるで捉えられないでいた。高感度のセンサーとケーブルから発する電気からなるレーダー、この二つを駆使した感知能力は凄まじく、魔力感知はおろか、万能感知にも匹敵するほどのものである。それらを持ってしても、この結果は彼にとっては想定外だった。

 

「ならば」

 

 彼は自らの頭部から背部にまで及ぶケーブルを最大限に伸ばし、捕獲網のように配置することでウルティマの動きに対応しようとする。それを見たウルティマはその鋭い紫爪で斬り裂こうとするが、先程までとは違い、千切れずに終わっている。

 

(……なるほど、機械生命体ってだけはあるね。どうやら、僕のさっきの攻撃を学習したみたいだね。見た感じ、あのケーブルを編み込むことで、先程以上の硬度を得た……といった感じかな?)

 

 面白いな。ウルティマはそう考える。ここ最近、真に命を懸けた戦いなど久しくなかった。だからこそ、ウルティマは現状を楽しんでいた。

 

「こんな感じかな?」

 

「なっ!?」

 

 ウルティマは自らの翼から鞭状のオーラを創り出し、ディオ・ガーチュのケーブルを絡め取った! ただの鞭ではなく、その見た目からは考えられないほどの質量の魔力の紐が編み込まれている。その強度はディオ・ガーチュのケーブルのそれを遥かに上回っていた! 

 

「ふん、それは悪手だな! 我が電撃で朽ち果てるがいい!」

 

 ディオ・ガーチュはケーブルから発する高圧電流をウルティマのオーラに直接流し込む! だが、ウルティマはそこまでのダメージがない。それも当然だろう。ウルティマは高い自然影響の耐性があり、魔力も込められていないただの電気など、何億Vだろうが効果が薄いのだ。

 

「ねえ、それだけなの?」

 

 ギュンッ! ドゴォォン! 

 

「ぐはっ!?」

 

 ウルティマは鞭状のオーラを巻き上げ、一気にディオ・ガーチュに接近し、そのままその鋭い拳を叩き込んだ! ちなみにそれを見たイッセーが“立体機○装置”かよ!? と思ってしまったのは余談である。

 その重い一撃を喰らったディオ・ガーチュは機械でありながら感じる“痛み”に悶絶する。

 

(な、何だこれは!? い、痛み!? この私が、ナマモノの如き痛みを感じているのか!?)

 

 ディオ・ガーチュは知る由もないが、ウルティマは殴る際に痛みを情報としてディオ・ガーチュに直接送り込んでいたのだ。この攻撃は痛覚無効を持っていようが意味はなく、たとえ機械であろうと魂を持つ生命体であれば、あらゆる存在に効果ある一撃となる。もちろん、防ごうと思えば防げる。ウルティマが送り込む情報を上回る力で抑え込めばいいのだ。少なくとも、ディオ・ガーチュのエネルギーはウルティマと比べても遜色のないものであり、それを知っていれば抑え込めただろう。だが、ウルティマは悶絶するディオ・ガーチュに対し、更に一撃二撃と拳の弾幕を叩きつけた! 

 

 グシャ! ドゴンッ! メキッ! ボギィッ! 

 

 機械部分がウルティマの拳を喰らうたびに鈍い音を響かせながら砕けていく。ウルティマは魔国でも指折りの拳法家であり、純粋な拳法だけでもイッセーとも切磋琢磨するほどの力を持つ。だが、ウルティマの本質はそこではなく、脅威となるのはその多彩さだ。ウルティマは自らの六対十二枚の翼を変形させ、拳や鈍器、剣のようにすることで、イッセーですら対応できないほどの怒涛の攻撃を叩き込むことができるのだ! ────そして、彼女の何よりも恐ろしい権能は……

 

「……どうやら、僕はハズレを引いたみたいだね。異世界の神と聞いたからどんなものかと思ってみれば、ガッカリだよ」

 

 ウルティマは心底ガッカリしたという表情でディオ・ガーチュを見つめる。彼女が対戦相手としてディオ・ガーチュを選択したのは異なる世界の神、それも機械の肉体を持つ異質の存在であるという点に興味を持っていたからなのだ。しかし、蓋を開けてみればこの様である。これならば、普通に強そうな方を選択すればよかったと後悔していた。こうなればもう作業である。だが、ディオ・ガーチュは自らが神であり、負けるはずのないというプライドから、最もしてはいけない選択をしてしまう。

 

「ふ、巫山戯るな! ナマモノごときが! コレならばどうだ! “電子粒子砲(ボルテージブレイク)”」

 

 ディオ・ガーチュは自ら最大火力の攻撃を、皆が避難した結界の方へと放つ! それを見たウルティマは数億倍の思考加速で思考する。

 

(あの人達はリムル様も気に入って入るんだよね。目の前で死なれちゃ困るんだけど……まあ、この程度なら問題ないか)

 

 ウルティマは構わずに攻撃の下準備をする。彼女が選択をした理由として、レインと黒歌の存在が挙げられる。原初たるレインは言わずもがな、黒歌もウルティマが認めるほどの強者であり、あの程度の攻撃は簡単に防ぐだろう。恐らく、庇うなりのリアクションを期待していたであろうディオ・ガーチュは目を見開きながらも、その一撃を結界へと叩き込む! 

 

 バシュゥゥゥゥゥゥッ!! 

 

 だが、ウルティマが予測したとおり、その一撃は二人の結界に容易く阻まれてしまう。それを見たディオ・ガーチュは目に見えて狼狽え、現実を否定しようとする。

 

「ば、馬鹿な! ありえん! ナマモノごときがいまのを防ぐだと!?」

 

「……いや、この程度の攻撃ならば別に私一人でも防げる程度ですよ」

 

「正直、私も一人で行けると思うにゃん。この結界を破りたいなら、もう少し威力高めて出直してきな?」

 

 ディオ・ガーチュが歯軋りしながら周囲を見渡すと、そこは濃い紫の霧で覆われていた。ウルティマがいないことに気付くも手遅れである。ウルティマは遥か上空にて、ディオ・ガーチュを仕留めるべく一撃の準備を進めていたのだ。

 

「随分とダサい手を打つね。とことん君は僕を失望させてくれる……もういいや、君は苦しませて殺してあげる────死んじゃえよ。“死叫絶毒爆(ポイゾネート・ノヴァ)”!」

 

 ウルティマは自ら生成した濃い“毒霧”を濃縮し、一条の光線として放つ! ウルティマが生み出した霧の正体は彼女の究極能力“死毒之王(サマエル)”の権能で生み出した“死毒”である。“死毒之王”はあらゆる生命体の弱点を見抜き、それに適した状態変化を生じさせる「毒」を生成する能力……言い換えるならば、相手がどのような存在であろうと効果のある毒を生み出す権能であり、機械生命体とて例外ではない。

 

「ぐっ、ぐああああああああっっ!?」

 

「どう? 僕の毒の味は? そのまま永遠に続く責め苦を受けながら、後悔するといいよ」

 

 ウルティマは普段はなりを潜めているが、その本質は残虐。嗜虐的な笑みを浮かべながら、彼女は嘲る。それを見たディオ・ガーチュはこの時になって始めて目の前の存在と自分の格の違いに気づくのだった。

 

「ぎ、ギザマ……ハ何……者なの……ダ?」

 

 それがディオ・ガーチュの最期の言葉となった。それに対し、ウルティマはディオ・ガーチュの魂を回収しながら彼に告げる。

 

「僕はウルティマ。聖魔十二守護王の一柱、“残虐王(ペインロード)”のウルティマだよ。ま、もう聞こえてないんだろうけどね」

 

 ウルティマはリムルから貰った名を名乗るのが大好きなのだ。その名はディオ・ガーチュの魂に深く刻まれるのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 イッセーside

 

 

 

 

 

「す、凄い……」

 

「まじかよ……。何だあの強さ……」

 

 結界内にて避難している皆は信じられないものを見たようにウルティマさんを眺めている。まあ、普通はそうか。俺からすれば、当然の結果にしか見えないんだけど……。あのディオ・ガーチュとかいうやつもエネルギーだけならウルティマさんにも匹敵する感じだったが、それにしてはアザゼル先生やセラフォルーさんの攻撃に一杯食わされたりしてたし、あまり戦闘はしてこなかったのかもしれないな。権能もどちらかというと、探知特化といった感じだったし、戦闘経験はそこまででもなかったのだろう……。

 

「あのエルフの祖だという方も凄まじいですね……。ロキ様を相手に完全に圧倒してる……」

 

「シルビアは昔から儂より強かったからのぅ。当然じゃろ」

 

 ロスヴァイセさんはロキさんと戦っているシルビアさんに目が行っているようだ。シルビアさんは俺と違い、ミョルニルに所有者として完全に認められてるらしく、その性能の全てを完璧に引き出していた。存在値ではロキのほうが二倍近くあるけど、究極能力も持ってないみたいだし、シルビアさんの敵ではないだろう。

 

「……私としては、あの者達に興味がありますかね。私よりも遥かに強い人間の強者がまだいたとは……」

 

 アーサーは帝国勢に興味があるようだな。アーサーも“仙人級”に匹敵する力を持った人間だ。同じ人間の強者である帝国勢にこそ惹かれるものがあるのかもしれない。

 

 ドゴォォン!

 

 俺のすぐ近くで轟音が響く。

 

「キシシシシ! お前、コノ程度!」

 

「ああ、もう! 本当蟲って面倒臭い!」

 

 俺は声のする方に目をやる。そこにいるのはエスプリとアゲーラさんの二人が新たなる蟲将であるマンティディーチと戦っている。技術の上ではアゲーラさんが勝っているが、その硬度と魔法耐性の高さから攻めあぐねているようだ。

 

「はぁ!」

 

 ガギィィィンッ!! 

 

「ギシィ!?」

 

 マンティディーチの鎌による凶刃が突如として何者かに弾かれる! 弾いたのはミッテルトだ! ミッテルトはマンティディーチの鎌の軌道を上手く見切り、側面を叩くことで斬撃を弾いたのだ! 

 

「ふん、流石ミッテルトね。私も負けてられないわね!」

 

 それに触発されたエスプリも魔力を帯びた“魔法剣”を用いてマンティディーチを斬り裂く! だが、エスプリ級の魔力を持ってしても、傷が付くだけで内部までは届いていない様子だ。

 

「俺も……」

 

「イッセー殿はまだ戦える状態ではないでしょう。暫し、そこで見ててくだされ」

 

 相性が悪いと判断した俺は飛び出そうとするが、それをアゲーラさんに制止される。アゲーラさんは余裕そうな笑みを浮かべ、俺を諭す。

 

「イッセー殿。ミッテルト嬢はお主にとって恋仲のハズ。そんなに頼りない存在ですかな? 信用できない存在ですかな?」

 

 アゲーラさんの言葉に俺はハッとする。そうだよ! ミッテルトを信じてるって言ったのは俺じゃねえか! そんな俺が、ミッテルトを信用しないでどうするんだって話だよ! 俺は暫し悩むが、覚悟を決め、ミッテルトを見据えた。

 

「……わかりました。ミッテルトのこと、任せますよ」

 

「承知!」

 

 そう言うと、アゲーラさんは再び戦線に経ち、ミッテルトやエスプリと共にマンティディーチに挑む。俺はミッテルトの勝利を信じ、それを見守るのだった。

 

 

 

 

(……仕方ないんだけど、私の名前が会話に出てこないのもひどくない? 私も頑張ってるんですけど?)

 

 




ディオ・ガーチュ
EP 362万1968
種族 機械生命体(エヴィーズ)=上位聖魔霊
称号 羅睺七曜・金王(ゴルト・プライム・クルアーン)
魔法 電気操作
スキル なし
 基軸世界とも地球とも異なる異世界“E×E(エヴィー・エトゥルデ)”の存在。邪神メルヴァゾアに仕える“眷属(プライム)”であり、第6位に位置する。地球の主神級と同等以上の力を持っており、電気を纏うケーブルを操る。ケーブルから発せられる微弱な電波で敵の挙動を正確に感知することができ、電気の最大威力は数億Vの電圧を誇る。
 主であるメルヴァゾアが神祖と手を組んでいることから、神祖の配下とともに襲来。有機生命体を下に見ており、内心では神祖やその高弟達も蔑んでいた。


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覚醒と結末です

 ミッテルトside

 

 

 

 

 

 他の助っ人の方々が優位に戦いを進めている中、うち達は苦戦を強いられていた。

 

「キシシシシ! コノ、程度、カ!」

 

「うっさい、調子に乗るな!」

 

 エスプリが核撃魔法“熱収束砲(ニュークリアカノン)”を放つ。だけど、眼の前の蟲……マンティディーチはビクともせずに逆にうちらを鎌で斬りつけようとしてきた。

 

「流石に手強いっすね」

 

 イッセーみたいに相手の存在値を測ることはできないっすけど、それでもコイツはガビル様と同じくらいのエネルギーを感じるうえ、構成は戦闘特化みたいっすからね。でも、戦闘経験はないみたいで、先程から隙が多く見受けられる。

 まあ、その隙をついてもこちらの攻撃じゃ傷一つつけられないんスけどね……。

 

(でも、なんなんすかね……さっきから、むしろ、調子がいいんすよね……)

 

 ガギギィィンッ! 

 

 うちは“堕天刀(フォールン)”でマンティディーチの鎌をはたき落とす。マンティディーチの鎌は“伝説級最上位”……下手すれば“神話級”にも届く勢いっすけど、刃ではなく、側面を叩けばうちらの力なら問題なく弾けそうっすね。

 

「朧・流水斬!」

 

「朧・紫電突!」

 

 ガギギィィンッ!! 

 

 うちの流水斬とエスプリの紫電突が鎌攻撃ごとマンティディーチを弾く。マンティディーチは数メートルほど吹き飛びながらもうっとおしそうにうちらを見つめていた。

 

「……とはいえ、このままじゃジリ貧っすかね?」

 

 うちの“崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)”や“崩魔・梅花ー五華突”を喰らわせれば、まあ殺せるんでしょうけど、うちの“霊子崩壊(ディスインテグレーション)”ではフル詠唱しないと発動できないっすからね。この激戦だと中々そんな暇がない。折角エスプリとアゲーラ先生がいるのに上手く行かないものっすね……。

 

「キシシシシ! オマエたち、俺二、勝テナイ!」

 

 さっきからイラッとくる喋り方っすね……エスプリなんか我慢強いほうじゃないんすから、今にも爆発するっすよ。

 

「そうイライラしなさるな。そうして冷静さを欠いてしまっては勝てる戦も勝てなくなってしまいますぞ」

 

 そう言いながらアゲーラ先生は凄まじいなんて言葉では表せないほどの領域の剣戟を雨のようにマンティディーチに浴びせる。流石に先生の斬撃はマンティディーチも堪えたらしく、敵意を込めた視線で師匠を睨んでいる。

 

「……とはいえ、流石に硬すぎるか……見たところ、カマキリとダンゴムシの“蟲魔人(インセクター)”……防御力と攻撃力には自身があるのじゃろう」

 

 相対的に速度ならば自分たちが遥かに上。やつの鎌攻撃は何度も放たれてるっすけど、こちら側の被弾がゼロなのもそらを証明していると言えよう。

 

「キシシシシ! 俺、新生十二蟲将ノ中デ、一番遅クニ生マレタ! デ、デモ、前の十一位ノ奴倒シテ、入れ替ワッタ! ツ、次モソウスル、ヨ、予定!」

 

 なるほど……それがコイツの戦闘経験低そうな理由っすか……。文字通りコイツは生まれたてなんでしょうね。でも、戦闘特化型として生まれたからこそ、即戦力として扱われている。

 他の蟲将の戦力は知らないっすけど、もしかしたら強さ的にはもっと上の順位でもおかしくないのかもしれない。

 

「さてと、どうすべきか……」

 

「全く……本当蟲って面倒臭いわね」

 

 エスプリはイライラしつつも冷静に魔法剣を駆使し、相手をいなしている。この状況が続けば他の人達の援護とかも期待できそうっすケド……。

 

(ただでさえ、アゲーラ先生とエスプリがきてくれただけでもありがたいのに、流石に他の人に頼りすぎるのもアレっすよね。なら、この場の戦力でどうにか倒すしかないっすね)

 

 そもそもエスプリは何気にプライドが高いし、ここで他者が介入してちゃちゃっとやっつけちゃう……なんて展開はきっと好きじゃないでしょうしね。

 つまり、このマンティディーチはうちら三人で倒さなければならない。

 そこでうちは以前“黒豹牙”フォビオさんに聞いた話を思い出す。

 フォビオさんはエスプリとともに蟲皇妃であるピリオドと戦って生き延びた時の話を自慢気にしていた。その時、フォビオさんとエスプリが生き延びるためにとある秘術を行ったことが生き残れる要因となったとも言ってたっすね。

 

「……ねえ、エスプリ!」

 

「ん? なに?」

 

 うちはエスプリに自らが思いついた策を話すことにした。ちなみに話してる間にも攻撃は続いているが、うちらはそれをいなしている。

 

「フォビオさんとやったっていう“契約”? でしたっけ? それを今、うちらでやれば結構勝率って上がんないっすか?」

 

「え!? それは……確かに多少は上がるかもだけど、それでも焼け石に水じゃない?」

 

 うちとエスプリの存在値を合算すると百万とちょっと。イッセーじゃないっすから、コイツの正確な存在値とかはわからないっすけど、少なく見積もって二百万強といったところっすかね? 確かに、うちとエスプリだけなら焼け石に水。……二人だけなら。

 

「確かにそうっすね。でも、そこにアゲーラ先生のちからが加わればどうっすかね?」

 

 それを聞いてエスプリは考え込む素振りを見せる。暫くするとエスプリはニヤリと笑う。

 

「……うん、行けそうね! 流石ミッテルト!」

 

「じゃあ、お願いするっすよ」

 

「OK。じゃあ、私と“契約”するわよ。願いは────」

 

「コイツをぶっ倒す力っす!」

 

 うちの言葉を聞き入れると、エスプリは“悪魔契約”を発動させる。エスプリは肉体を脱ぎ捨て、精神生命体本来の姿となり、うちの“魂”と同調する。

 悪魔の持つ固有のエクストラスキル“憑依”。本来なら契約を行った相手の肉体を乗っ取るためのスキルらしいっすけど、今回はうちと同化させることで二人の力を文字通り合わせること。

 

「イッセー! 受け取るっす!」

 

『リムル様に頂いた大事な身体なんだから、丁重に扱いなさいよ!』

 

 うちはエスプリの身体を普段かけないようにイッセーに託す。イッセーはそれを抱きかかえ、グッドサインで応えた。

 

「わかった! 頑張れよ!」

 

「当然!」

 

 うちの“堕天刀”とエスプリの刀の二刀流でマンティディーチ相手に時間を稼ぐ。その間にアゲーラ先生は着々と準備を進める。

 

「我が身は刃。敵を滅ぼす不滅の刃なり! “刀身変化”!」

 

 アゲーラ先生は自らの“究極贈与(アルティメットギフト)”刀身変化を発動させる。この権能はアゲーラ先生の肉体を刀に変化させるという権能で、アゲーラ先生の意志がそのまま宿ってるから並の“神話級”を上回るほどの力を秘めてるんすよね! 

 

 ────ザンッ! 

 

「ギシィ!?」

 

 うち達の振るう刀とマンティディーチの鎌が交差する。先程までは固くて刃が立たなかった鎌も、今はまるで豆腐みたいによく斬れる。

 

「まだまだ行くっすよ!」

 

 ギィン! ガギィン! ガギギィィンッ! 

 

 マンティディーチは超速再生で鎌を即座に再生させるが、うち等の前ではもはや意味をなさない! うち等はアゲーラ先生で次々と鎌を落とし、甲殻を切り裂く! マンティディーチはそれを見て随分慌ててる様子だ! 

 

『私が“核”を探してるから、ミッテルトはそのまま押し切っちゃいな!』

 

「了解っす!」

 

 “蟲魔人”には心臓となる核が存在し、その核を破壊すれば倒すことができる。うちはエスプリに核の捜索を任せつつも、甲殻を斬り裂くことでうち自身目視で核を探す。このまま押し切れば勝てる……そう思った矢先、マンティディーチは羽を羽ばたかせ、空高く舞い上がった。

 

「チィ、マサカオ、オレガ追イ、詰メラレルトハナ。コウナッタラ奥の手ダ!」

 

 マンティディーチはそう言うと自ら核を引きずり出し、鎌で核を突き刺した! 瞬間、存在値が一気に跳ね上がり、鎌も赤く、禍々しい形態へと姿を変えた! 

 

 ガァァァァァァァァァっッ!! 

 

 マンティディーチは雄叫びを上げながら、虚空を斬り裂く! すると、その鋭すぎる刃が鎌鼬を起こし、うちにまで届かせた! 

 

『あれは……“暴走強化状態(オーバードライブ)”。気をつけなさいよ。アピト様とかは完璧に制御できるけど……あれは完全に獣に堕ちてる。でも、力も速さも数倍に跳ね上がるわよ』

 

 エスプリの言葉を証明するかのように、マンティディーチは即座に距離を詰め、うちに攻撃をする! うちは何とかそれを見切るもすぐに次が来る! 

 

 カギィン! 

 

「くっ!」

 

 何とか持ちこたえたっすけど、凄まじい衝撃で腕が痺れる。なんて馬鹿力っすか。うちはマンティディーチに攻撃を放つ。だけど、マンティディーチはそれを数倍に跳ね上がった速度で躱し、逆にうちを追い詰めるような動きを見せてきた! さっきまでとは戦法がまるで違う……本能的になってる分、直感的な動きが多くなってて凄くやりづらい! 

 

 ブゥンッ! 

 

「うおっ!?」

 

 距離を離すとマンティディーチは脱皮をし、古い甲羅を崩してぶん投げてきた! まるで流星群のようなそれは破片の一つ一つに魔力を帯びさせてるらしく、魔力感知も難しい。

 

 ドガァンッ! 

 

「がはっ!」

 

 うちが甲羅の破片を弾いていると、後ろからマンティディーチが猛烈なタックルでうちを吹き飛ばしてきた! 

 

(マズイっすね……)

 

 このまま押し切られれば敗北だ! でも、うちは絶対に負ける訳にはいかない! うちが負けても他の人がいるから大丈夫かもっすけど……。

 

(イッセーがうちを信じて見てくれている!)

 

 うちはチラリとイッセーの方を見やる。イッセーはうちのことをじっと見つめており、その瞳がうちを信頼してくれていることを雄弁と物語ってくれていた。

 

(こんな所で負けるようなやつがイッセーの隣で戦うなんてできるはずないっすからね!)

 

 決めた! こうなれば意地だと! うちは意地でもコイツに勝つために勝利の糸口を探る! エスプリのお陰でどんどんエネルギーも高まってるし、やってやれないことはないはず! うちはエネルギーを高め、気合を入れ直した……その時だった。

 

『いい心掛けです。ならば、力を授けましょう』

 

「え!?」

 

 なんか変な声が聞こえた気がする。まあ、幻聴なんでしょうけど、何故だが心地よい感じがする。うちはその幻聴に身を委ねることにした。

 

『なっ、何!? ミッテルト、凄く力が上がってるわよ!』

 

『ほう? このタイミングで覚醒するとは……随分と運のいいタイミングですな』

 

 か、覚醒!? このタイミングでっすか!? 

 確かに、うちも驚くほどの力が湧き上がってくるのを感じる。負ける気が全然しない! うちの耳に世界の言葉が響く。今なら何でもできる気がするっす! 

 

『確認しました。個体名ミッテルトのユニークスキル“思慕者(オモウモノ)”と“見栄者(カザルモノ)”を統合────成功しました。個体名ミッテルトが究極能力“月麗之王(エリミエル)”を獲得しました』

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 三人称side

 

 

 

 

 

「ギシィ!?」

 

 

 暴走状態にありながらもマンティディーチは困惑していた。突如としてミッテルトの力が跳ね上がり、本能的な脅威を感じているのだ。

 ミッテルトは元来、覚醒するだけの素地は持っていた。あと重要なのはキッカケだけ……それが命を懸けた闘争と負けたくないという対抗心だったのだ。

 コカビエルとの戦いでミッテルトは死にかけ、そこから生き延びることで徐々に力を蓄えていたミッテルトはマンティディーチという強敵との戦いと、エスプリとの統合により“超級覚醒者”の力を自ら体感したことでその力をモノにすることに成功した。

 もっとも、これにはエスプリとの融合を通じ、“大いなる意思(シエル)”と“魂の回廊”を繋げることができたことも一因している。

 だが、究極能力に関して言えば彼女が覚醒できた時点でシエルの手伝いがなくてもいずれは獲得できていたかもしれない。それほどまでに、『イッセーの隣で戦いたい』という彼女の純粋な思いは強かったのだ。

 彼女が獲得した“天使系”究極能力“月麗之王(エリミエル)”は『神霊覇気、超速思考、霊子操作、空間操作、万能感知、月の光』という権能を有している。

 “月の光”は支援系の権能であり、聖属性と魔属性の力を持つ者の力を増幅させる効果を持っていた。片方だけでも効果は絶大だが両属性を持つものへの支援力は凄まじいものとなる。ミッテルトは堕天使であり、聖魔両方の属性を持つ。さらに、ミッテルトに憑依しているエスプリや、刀となっているアゲーラもまた、この権能の対象内なのである。

 

『うわっ! すっごっ! ナニコレ!? 目茶苦茶力が上がってるんですけど!?』

 

『これがミッテルト嬢の心の形ですか……流石ですな』

 

「お褒めにお預かり光栄っすよ! さあ、とっとと敵を倒しましょう!」

 

 今のミッテルトはアゲーラ、エスプリと合算することで350万を遥かに超える絶大な存在値を獲得していた。更に、“霊子操作”による無詠唱“霊子崩壊(ディスイテグレーション)”もバッチリだった。加えてミッテルトの“堕天刀”もミッテルトの進化に呼応し、“神話級”の聖魔刀へと至っていた。

 今のミッテルトから見れば、マンティディーチなどもはや敵ではなかった。

 

「喰らうっす! “崩魔八重桜・八華閃”!」

 

「ギシィ!?」

 

 放たれた奥義は“核”ごとマンティディーチの全てを斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 

「喰らいなさい! “魔蟲虚玉崩(ホロウインセクター)”!」

 

 ラーヌは数多の蟲が一つになったかのような歪な宝玉を作り出す。星すらも砕くほどの力を込めたそれをルミナスに向かって容赦なく放った。恐らく直撃すれば、ルミナスをも殺すことができるだろう一撃だ。……直撃すれば、だが。

 

「フン、この程度で妾を倒せると思うなよ。“聖域の衝突(サンクチュアリブレイク)”」

 

 ルミナスはラーヌの創り出した宝玉を鋭い蹴りで打ち消したのだ。これにはラーヌも目を丸くする。いかにルミナスが強力な魔王といえど、蹴りで打ち消すなんてできる技ではないはずなのだ。

 

(あれは……“霊子”? まさか、“霊子崩壊(ディスインテグレーション)”の力を纏わせてるというの!?)

 

 普通に考えれば有り得ない。ルミナスが神聖魔法の超達人といえど、全てを打ち消す“霊子崩壊”を身に纏わせるなんてできるはずがない。そうは思いながらも眼の前の現実に起きてるのだから認めるしかない。

 

(……ですが、長時間の持続はできないようですね。数秒程度でしょうか?)

 

 迫りくるルミナスに対し、ラーヌは慌てて武器である短剣を構えるが、それよりも速く、ルミナスがラーヌの身体を斬り裂いた! それは間違いなく“崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)”であり、ラーヌの堅固な装甲や魔法耐性すらも打ち消すには十分な威力を誇っていた。

 

「どうした? その程度ではあるまい?」

 

「くっ、あまり調子に乗らないでもらえます?」

 

 ラーヌは羽ばたきとともに“死と破滅の鱗粉”を撒き散らし、ルミナスの動きを阻害しようとする。この鱗粉は相手を死へと誘う性質を持っており、“精神生命体”であろうが例外ではない。だが、ルミナスの究極能力“色欲之王(アスモデウス)”は生と死を操る権能であり、死へと誘う鱗粉もルミナスにとっては鬱陶しいだけの物にしかならなかった。

 

「喰らうがいい。“華麗煌嵐(イルミネートストーム)”」

 

 ルミナスの光がラーヌを一気に貫く。ラーヌは鱗粉を束ね、盾のようにするが、一撃一撃に“生死反転”の力が込められており、“死”に傾いた力を持つ鱗粉は瞬く間に無力化されていく。

 

(情報と違いすぎる……ルミナスはこれ程の力を持つ存在だったのですか?)

 

 ラーヌはルミナスの圧倒的な強さに驚いていた。ルミナスが師である神祖の最高傑作であることは知っていたが、それでもラーヌが事前に持っていた情報では、戦闘力だけで見ればルミナスと自分ならばラーヌの方が圧倒的に上だと自負していた。それは正しく、少なくとも“天魔大戦”の時点ではラーヌの方が格上だっただろう。

 だが、天魔大戦の経験はルミナスにとって大きな挫折の経験だった。自らの攻撃はダグリュールに一切通じず、忌々しき駄竜(ヴェルドラ)に助けられるという屈辱、何より自分の弱さ故に都を再び失ったことが、ルミナスはどうしても許せなかったのだ。

 だからこそ、ルミナスはこの十年で徹底的に己を鍛え直した。ヴェルドラ不在を見計らい、リムルやラミリスに頼み込んでの迷宮攻略。原初との模擬戦。ヒナタや黒歌との切磋琢磨。これらの経験がルミナスの戦力を大きく向上させ、現在のルミナスは以前とは比べ物にならない程の力を得ていたのだ。そんな今のルミナスの存在値は千五百万を記録しており、流石にダグリュールには勝てないまでも、以前のように蹂躙されることなく戦いを成立させることくらいはできるだろうというのが彼女の目算であり、それは正しい。今のルミナスは間違いなく()()()最上位の領域に片足を踏み入れている状態なのだ。

 それを認識したラーヌは考える。

 

(“暴走強化状態(オーバードライブ)”を使っても勝てるかどうかはわかりませんか……。これは不味い状況ですね)

 

 ラーヌは“暴走強化状態(オーバードライブ)”を完全に制御下に置いている。コレを使えば少なくともオーフィス、グレートレッドといった()()世界最強の存在すらも一瞬で屠れるだろうと自負している。だが、それを用いても眼の前のルミナスを倒せるかどうかはやってみるまでわからないというのがラーヌの考えである。この時点でラーヌは撤退を視野に入れていた。この慎重さは父から受け継いだ性質であり、ラーヌは死力を尽くしての勝利はごめんと考えていたのだ。

 

「がふっ!?」

 

「……あらあら、ロキ殿は難しそうですわね」

 

 その複眼で辺り一帯の戦況を把握。ロキはシルビア相手に追い込まれており、逆転の目などなさそうだ。カグチは一見カレラと互角に見えるが、ラーヌはそうでないことを見抜いている。ツファーメはティアマットの相手で手一杯。ディオ・ガーチュは既にウルティマに敗北している。メロウは……どうやら肉体は生命活動を停止させているが、魂は肉体に残留させている。精神生命体だからこそできる荒業だろう。もっとも、速く適切な処置をしなくては本当の死を迎えるだろうが……。

 

「ギシィ!?」

 

 そしてこの瞬間、我が子たるマンティディーチが敗北した。コレが決定打となった。

 

(さてと、撤退はいいですがどうやって逃げれば……)

 

 自分一人なら逃げられるだろうが、ロキはともかくカグチやメロウ、ツファーメといった戦力をこの場で失うのはあまりにも惜しい。イッセーとセラを攫うという任務も達成できてないうえ、相手側の打撃は0ときた。これは大失敗だと彼女は悟っていた。

 

(そもそも、マンティディーチは経験を積ませるためだけに連れてきたようなもの。私の中でも傑作の一つ。こんな所で失うなんて想定外も良いところ。ルミナスに原初……この者達さえ来なければ……)

 

 マンティディーチは紛れもない彼女の傑作。いずれは新生“十二蟲将“の中でも最上位に位置するだろうと考えていただけに、ここで失うのは不本意だった。だが、失ってしまったものは仕方がないと切り替えるしかない。今は戦力の被害を最小限に抑え、撤退するのが最優先である。

 カグチの権能、究極能力“火迦之王(ヒノカグツチ)”には“神気楼”という権能がある。これは、発動中自らから攻撃することはできない代わりにいかなる感知、探知をも無効にするという、“完全なる隠密能力(パーフェクトステルス)”であり、ある意味では“王宮城塞(キャッスルガード)”と似た力を持っているといえよう。この権能があるからこそ、カグチは誰にも気づかれずに天魔大戦の情報を直に収集できたのだ。だが、この権能は“王宮城塞(キャッスルガード)”のように複数人に適用することはできない。故に使わせてもカグチ一人しか逃走できないため、この場では意味がないと言える。

 

(仕方がありませんね……)

 

「ぬっ? なんじゃ?」

 

 ラーヌは自らの権能を開放する。

 究極能力“妖蟲之王(シャン)”。その権能の一つである“魔蟲創造”。この権能は自らのエネルギーを代償に“魔蟲”を生み出す創造系の権能であり、生み出される量産型の魔蟲は一体一体がBランク〜Aランク相当の強さを持っている。ラーヌはその権能を用いて数千万匹の魔蟲産み出した。

 数だけあっても真の強者の前には意味を成さないが、数千万ともなれば時間稼ぎ程度にはなるだろう。

 数千万のB〜Aランク相当の醜悪な魔蟲。これを見たルミナスは流石に嫌悪感で顔を顰めるのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 イッセーside

 

 

 

 

 

「マジかよ!?」

 

「これは……流石に不味いですね……」

 

 俺とゾンダさんはそのあんまりな光景に思わず白目を剥く。

 

 ワシャワシャワシャワシャ! 

 

 気持ち悪っ!? 何だあの蟲の大群! アピトの支配する森林フロアの蟲を遥かに上回る膨大な数の蟲が縦横無尽に辺りを蠢いている。しかも、ただの蟲ではなく、一匹一匹が凄く気持ち悪い見た目をしている! ゴキブリとかの比じゃない! そんなのが大量に這い寄ってるんだ! 流石に生理的嫌悪が半端ない! 

 

「キャア!?」

 

「ひ、ヒィ!?」

 

 見るとレインさんと黒歌の結界にも膨大な数の虫が這い寄っている。破られることはないだろうが、結界の中にいる皆からしても溜まったものじゃないだろう。

 ギャスパーなんか悲鳴あげて気絶してるし、部長も皆も吐きそうになっている。

 

「……流石に無理……」

 

「レイン樣!? 気を確かに!」

 

 レインさん!? レインさんが凄い気分悪そうにしている! 白氷宮という蟲とは無縁の場所にいたからこそ、蟲に対する耐性が鍛えられていないのかもしれない。まあ、耐性あったとしてもこれは無理か……。

 

「それでも原初の悪魔かにゃ! もうちょい気合を見せるにゃん!」

 

「いや、流石にコレは気持ち悪いですって……うぅ、吐きそう」

 

「それはこっちも同じだにゃん! にゃあああ!! 勘弁するにゃあ!」

 

 見ると黒歌も必死だし……。ここは俺もフォローすべきだな! 

 

「ありがとうございます! ゾンダさん!」

 

「ん? イッセー殿、何を?」

 

「皆を助けに行くんですよ! “禁手”っ!」

 

 俺は赤龍帝の鎧を纏い、一気に加速! レインさんと黒歌の複合結界に近づき、這い寄る蟲をドラゴンショットで弾き飛ばした! それを見たレインさんは少し驚いたように俺を見つめている。

 

「あれ? さっきギィ様形態使ってましたよね? 身体大丈夫ですか?」

 

「……正直キツイですけど、数分なら保ちそうです!」

 

 実際、完全に回復はしていない。“真紅の赫覇魔龍帝(クリムゾン・ジャガーノート・ダークネス)”はそれくらいヤバイ形態だし、ゾンダさんの回復も正直気休めだ。普段は数ヶ月くらい保つだろう赤龍帝の鎧も多分数分が限界だ。それでも、やれるところまでやるしかない! 

 

「まあ、これ、明らかに目眩ましですからね。多分、撤退するつもりなんでしょう。なら、問題なさそうですね」

 

 そう言いながら、レインさんは大気中の水分を集め、凝縮することで無駄にメカメカしい謎のライフルを創り出す。照準をゆっくりと蟲達に合わせ、躊躇いなく引き金を引く。

 

「消し飛びなさい! “崩撃粒子砲(デモリッシュカノン)”!」

 

 レインさんの極太の狙撃は放たれると同時に幾重もの光を放ち、そのまま千を超える蟲達を同時に殲滅した! 流石は“原初の青”だな。素で究極能力に匹敵する威力が出てそうだ。

 

「私も負けてられないにゃん。“魔仙火車”!」

 

 黒歌は黒い火車を放ち、縦横無尽に走らせる! あの火車は聖魔両方の属性を兼ね備えており、聖なる力で魔の力が強い蟲を容易く浄化し、浄化し損ねた蟲を魔の炎で焼き尽くしている! これは原初の悪魔でも防ぐことが困難な黒歌の奥義の一つ。究極能力持ち水属性のメロウには消化させられてしまったが、本来の威力が発揮されれば凄まじい技なのだ。

 

「……長くは保ちませんわね……撤退しますよ」

 

「ああ。わかった」

 

 ラーヌの言葉と同時に蟲達はラーヌ、カグチ、ツファーメ、メロウ、ロキの身体を包み込む。カグチ達はそれを確認すると武器を下ろした。

 

「折角面白くなってきたと言うのに、残念ね……」

 

「ふん、悔しいが今の私ではお前に勝てないということはわかった。こちらも力を蓄え、備えるとしよう」

 

「……本当に変わったわね。今の貴方、嫌いじゃないわよ」

 

「ふん、嫌味と受け取っておこう」

 

 ツファーメはメロウの半身を持ち上げ、蟲に紛れて姿をくらます。

 

「……悪いなカレラ。今回はお開きだ」

 

「……逃げるのかい?」

 

「ああ、そうさ。まあ、今回は兵藤一誠に不覚を取ったうえ、無様に生き残っちまったからな……何か代償は払わねえと……」

 

 そう言いながら、カグチは何かを思い切り投げつけてきた! な、何だ!? 

 俺は警戒しながらも飛び退き、地面へと突き刺さった何かを見つめる。それは“神話級”の剣だ。以前、イリナを斬り裂いた時に使ったものだなアレ……。

 

「俺の予備武器だ。まあ、対価には釣り合ってないと思うが、せめてもの気持ちに貰っとけ……じゃあな、兵藤一誠! 次会うときは決着つけようぜ、カレラ!」

 

 そう言い残し、カグチはスゥーっと姿をくらました。俺の感知に反応はない。カレラさんも探しても無駄と悟ったらしく、少し不機嫌そうにしている。

 

「やれやれ、やっと決着をつけられると思ってたんだけどね……まあ、切り替えるしかないか」

 

「そうだね。僕も不完全燃焼気味だし、折角だから蟲達にでもぶつけようかな?」

 

 カレラさんは腰のホルスターから“黄金銃”を取り出し、照準を蟲達に向ける。ウルティマさんも空高く舞い上がり、凄まじい魔力を込めている。

 

「滅ぶがいい! “重力崩壊(グラビティーコラプス)”!」

 

「死んじゃえよ。“破滅の炎(ニュークリアフレイム)”」

 

 カレラさんの拳銃から凄まじいまでの破壊の力が、ウルティマさんの掌から毒を帯びた死の炎がそれぞれ放たれる! その破滅的な破壊力により、蟲達は一気に死滅していく。

 残る蟲は数十万ってところかな? これなら一気に行けそうだ!

 

「イッセー! うちらもやるっすよ!」

 

「……おう!」

 

 いつの間にかエスプリ達と分離したミッテルトが俺の横にて剣を構えていた。ミッテルトは霊子を進化した刀に集め、天に翳す。俺も拳に残りのエネルギーを集中させ、圧縮させた! 

 

「“崩魔霊子突(メルトストライク)”!」

 

「“赤覇竜滅爆炎掌(ドラゴニックブレイク)”!」

 

 俺の爆炎を纏った拳とミッテルトの霊子を纏った刺突が宙で交差し、一つとなる! 

 

 “二重複合絶技(デュアルスキル) 赤龍崩魔爆霊突(ドラゴニックメルトブレイズ)

 

 俺と覚醒したミッテルトの二重複合絶技! 二つの技の相乗効果は計り知れない威力の爆炎となり、残り全ての蟲達に襲いかかる! 俺の解析能力からなる命中率補正とミッテルトの新たなるスキルの上昇効果により、俺達の技は周りに被害を出すこともかく、全ての蟲を殲滅することに成功したのだった────

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「イッセー! ミッテルト!」

 

「部長……うわ!?」

 

 蟲達の全滅を確認するやいなや、部長は即座に結界の外に出て、俺達に向かって抱きついてきた! うおっ! 流石のおっぱいだぜ! 

 

「よかった……イッセーも、セラも……本当に無事で……」

 

「うう、ごめんなさいなの……」

 

 セラも黒歌に抱き寄せられながら、申し訳無さそうにしている。セラはどうやらアイツラに関して責任を感じているようだな。別にセラのせいじゃないんだけど……。

 

「あっ、そうなの! お兄ちゃん、お父さんとお母さんが!」

 

「えっ!?」

 

 焦りを含めたセラの言葉に俺はハッとする。

 そうだ! 父さんと母さん! あのツファーメが言うからには無事みたいだけど、どこまで信用できるかわからない! 速いところなんとかしないと……

 

「そこは心配ないさ。イッセーの両親は私達が責任持って保護したからね」

 

「今はヴェイロンの奴に任せてるよ。トーカ達もいたし、取り敢えずは大丈夫じゃないの?」

 

 カレラさんとウルティマさんの言葉に俺はホッとする。ヴェイロンさんはウルティマさんの執事を長年勤めてるだけあってかなり強いし、トーカ達もいるのなら安心だ。

 

「……さてと、イッセー。改めて聞かせてもらうぜ。あんた等にもだ」

 

「……ええ、もちろんですよ」

 

 時を見計らったアザゼル先生に応えるため、俺はここでやっと肩の力を抜き────

 

「────あれ?」

 

「っ! イッセー!?」

 

 ふらつきながら倒れ伏した。全然力が入らねえ……いや、当然か。覇龍に加え、回復しきってもないのに禁手使ったもんな……。

 

『……すまん、相棒……俺も限界だ……』

 

 ドライグの言葉を聞きながら、俺はゆっくりと意識を手放すのだった。

 

 

 

 




オマケ1




黒歌side



「ねえ、ルミナス様」

「ん? 何じゃ?」

 気絶したイッセーを運ぶ中、私は先程の戦闘を思い返していた。
 そうすると、一つ違和感があった。私は思い切ってその違和感をルミナス様に尋ねることにした。

「あの時、なんでメロウを殺さなかったんだにゃん?」

 ルミナス様は確実に気づいていたはず。両断されたあの時点で、メロウは確実に生きていた。まるでゴキブリのようなしぶとさだけど、生と死を操るルミナス様ならば気付くのは容易だし、簡単に滅ぼすこともできたはず……それなのに、何故ルミナス様はメロウにとどめを刺さなかったのか……。
 すると、ルミナス様は少し悩んだような素振りを見せ、そっぽを向く。

「ふん、あの下郎……生きておったか。なら、貴様がしっかりケジメをつけるがよい」

 その一言で私は察する。ルミナス様はメロウを私が倒すべきだと考えているんだ。あの時、肉親を玩具にされ、その恨みをイッセーに託すことに私は悩んだ。できることなら自分の手でケジメをつけたいと思った。
 この人はそれをわかっている。だから、私にメロウの始末を託したんだ……。

「……やっぱりルミナス様は最高の主だにゃん」

「いきなりなんじゃ、気色悪い……とっとと行くぞ」

「はい」

 ルミナス様の後ろに控えながら、私は密かに決意する。メロウは私が必ず屠る……私の母を弄んだこと、後悔させてやるにゃん。





オマケ2
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お兄ちゃん大好き
おしゃれはよくわかってない(服は着れれば同じだと思っているの)









今回の話で「放課後のラグナロク」編は終わりです。
次章「物置部屋のテンペスト」編となります。
書き溜めがまだできてないので、取り敢えず現状出来てる数話だけ投稿する予定です。
お楽しみにどうぞ


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第八章 物置部屋のテンペスト
基軸世界の説明回です


今回はタイトル通りの内容となります。
ある程度、独自解釈も含まれてますのでご了承ください。


 イッセーside

 

 

 

 

 

「……知ってる天井だな」

 

 目を覚ますと我が家のベッドのうえにいた。近くにはスースーと可愛らしい寝息を立てるミッテルトの姿がある。看病してくれたんだな。俺はそれが嬉しくなり、ミッテルトの髪をそっとかきあげた。

 

「むにゃ……いっせー?」

 

「おう」

 

「ふわあ、おはようっす」

 

 ミッテルトは起きるやいなや、部長達に報告に行った。するとドタドタドタドタと凄まじい音が響き……

 

「イッセー!」

 

「イッセー君!」

 

「先輩!」

 

「無事か! イッセー!」

 

「イッセー君!」

 

 皆で思い切り俺に抱きついてきた! 部長と朱乃さんのおっぱいが俺に当たってる! ヤバイ! 幸せすぎて気を失うかもしれない! 

 

「本当に……よかった……」

 

「三日も起きないから心配したのよ……」

 

「だから大丈夫だって言ったじゃないっすか。……まあ、うちも心配してたんすけど」

 

 部長と朱乃さんが潤んだ瞳で言う。どうやら相当心配かけたようだな。……ていうか、三日? 何でそんなに寝てたんだ? 頭が霞がかっていて思い出せない……えっと、確か……。

 

「お? お目覚めかぃ、おっぱいドラゴン」

 

「やあ、兵藤一誠」

 

「……ヴァ―リに美猴にアーサー?」

 

 ん? なんでこいつらが家にいるの……いや、待てよ。確か、ロキと一緒に戦うにあたって共同戦線を組んだんだっけ? 寝ぼけて頭が働いてねえや。

 

「お兄ちゃんっ!」

 

「うおっ!?」

 

 考え込んでいた俺にセラが思い切り抱きついてきた。ただでさえ魔王級の戦力を持つセラが強く抱きしめてるため、かなり痛い。なんかミシミシいってるし……。

 

「ごめんなさい。お兄ちゃん……私のせいで……」

 

「え?」

 

 その言葉で俺は少し思い出してきた。そうだ。確か、覇龍を使ったあとにセラと同族の奴が現れて、セラを連れ去ろうとしたんだっけ? セラは自分のせいで俺達が余計に傷付いたと思ってるのかもしれない。

 俺はため息をつきながら、セラの頭を優しく撫でた。

 

「……お兄ちゃん?」

 

「気にするなよセラ。別に誰もお前のせいだなんて思ってないんだからよ」

 

「で、でも、私のせいで、お兄ちゃんが……お父さんとお母さんにも迷惑かけちゃって……皆気にしないでっていうけど……」

 

 セラはポツポツと呟きながら、涙を流す。アイツラ確か、父さん母さんと一緒にいたセラを襲撃したんだったな。それを気にしているんだろうな。

 

「……でも、セラが二人を守ってくれたんだろ? 二人も無事なんだったら、それでいいじゃん」

 

 二人は今、この家にいるのは感じ取れるし、傷らしい傷も負ってない。聞いた話によると、自分が目的とわかった時点で、セラがついていく代わりにトーカを含めた三人に手出ししないようにと交渉したらしい。

 

「父さんと母さんを守ってくれてありがとな、セラ」

 

「うぅ……お兄ちゃん……」

 

 俺の言葉にセラは啼泣する。相当気にしてたんだな。まあ、無理もないか。

 セラ自身、自分の正体もわかってなかったみたいだし、本人からしても相当混乱したはずだ。そんな状況の中、本当によくやってくれたよ。

 俺は抱きつきながら嗚咽するセラに微笑ましいものを感じ、抱き返した。

 

「あ、あの、赤龍帝さんですか?」

 

「ん?」

 

 頃合いを見て、ヴァ―リ達の後ろからもう一人、アーサーによく似た魔力の少女が現れた。確か、以前シャルバと戦った時にも見た子だな。魔法使いが被るとんがり帽子にマント。いかにも魔法使いといった風貌だ。女の子はニッコリ笑顔で俺に微笑むと、深々と頭を下げてきた。

 

「初めまして。私はルフェイ。ルフェイ・ペンドラゴンです。アーサーの妹で、ヴァ―リチームに属しています。以後、お見知りおきを」

 

 やっぱりアーサーの妹か。どうやら旧魔王の副官級はありそうだし、なかなか強そうではあるな。

 ルフェイは爛々と目を輝かせながら、俺に視線を送っている。それを見て、ミッテルトは少し呆れているようだ。

 

「……この娘、『おっぱいドラゴン』のファンらしいんすよ。毎週見てるんですって」

 

「あ、そうなんだ」

 

「は、はい。あの……差し支えないようでしたら、握手とサインを……」

 

「ああ、別にいいよ」

 

「やったー!」

 

 そうか。この娘も『おっぱいドラゴン』のファンなのか。()()()()()()けど、ドライグが知ったらガチ泣きしそうだな。まあ、俺個人的には嬉しいけどね。俺は用意していたらしい色紙にサインを描く。すると、誰かが扉をノックする音が部屋に響いた。

 

「イッセー兄様!」

 

「え? ミリキャス!?」

 

 次に入ってきたのは部長の甥っ子ミリキャスだ。この子は以前、冥界に行った時に俺を兄と呼ぶようになり、今もたまにメールでやり取りするくらいの交流をしている。

 え? 何でこの子がここにいるの? 

 

「君が倒れた後、リアスも消耗が激しかったらしく、気を失ってしまってね……それで、ミリキャスも心配してお見舞いにきたというわけさ。リアスはもちろん、君も無事に目覚めて何よりだよ」

 

「……その様子を見るに、体力は回復したみたいですね、兵藤君」

 

「サーゼクスさん……グレイフィアさんに会長も……」

 

 そう言いながら、入ってきたのはサーゼクスさん。後ろにはグレイフィアさんと会長が控えている。

 部長も倒れていたのか……まあ、部長相当無理してたからな。アーシアの治癒があったとはいえ、ずっと気を張り詰めてたし、無理もないか。俺自身、かなり心配かけてしまったみたいだな。

 

「それに、僕達もイッセー君には聞きたいことがあるからね」

 

 ……この人も今回の件は全て把握済みか。まあ、どの道話すつもりだし、サーゼクスさんとグレイフィアさんなら問題はないか。

 

「おっ、起きたかイッセー」

 

 アザゼル先生が入ってくる。その後ろにはロスヴァイセさんの姿が見える。……あれ? 

 

「ロスヴァイセさん、悪魔になってません?」

 

「あ、わかりますか」

 

 俺はロスヴァイセさんの魔力の質が悪魔のものに変わってるのを見て少し驚いていた。オーディンの爺さんの付き人であるこの人がなんでいきなり悪魔になってるの? 

 尋ねてみると、ロスヴァイセさんは何やら涙を流し、泣き始めた。ど、どうしたんですか!? 

 

「うぅぅぅぅっ! 酷い! オーディン樣ったら、私を置いていくなんて!」

 

 お、置いていく? もしかしてこの人……オーディンの爺さんに置いていかれたの? 聞いた話によると、オーディンの爺さんはあの後ロキのいざこざやらの対処のため、一端北欧に戻ることとなり、ロスヴァイセさんを置いてそのままスタスタと行ってしまったらしい。今頃爺さんもロスヴァイセさんが居ないことに気付いてるとは思うけど、特に何も言ってこないってことは、ここに置いても問題ないとか思ってるのかもな……。

 

「リストラ! これ、リストラよね! 私、あんなにオーディン様のために頑張ったのに、日本に置いていかれるなんて! どうせ私は仕事ができない女よ! 処女よ! 彼氏いない歴=年齢ですよ!」

 

 完全に自棄っぱちだな。まあ、気持ちはわかるけど……。まあ、そんな感じでしばらくずっと泣き叫んでたらしく、それを見かねた部長が自分の眷属にならないかと提案したのだそうだ。

 

「福利厚生もヴァルハラより充実してるし、財政面も含めて将来の安心度が高いので、思い切って悪魔に転生したんです。どうぞ、これからもよろしくお願いいたします」

 

「と、いうわけで、私────リアス・グレモリー最後の“戦車(ルーク)”は彼女、ロスヴァイセになったわけよ」

 

 へ~、俺が眠ってる間にそんな事があったんだな。

 ……そこで俺は段々記憶がハッキリしてきて、何故寝ているのかを思い出した。そうだ。俺、疲労でぶっ倒れたんだっけ。流石にあそこで“禁手”を使うのはいささか無理があったか。まあ、あの時は焦ってたし、俺が倒れてもルミナスさん含む超越者の方々が多かったから、大丈夫と判断したのもあるんだけど……。

 

「……あれ? ミッテルト、ルミナスさんとかカレラさんとかはどうしたんだ?」

 

 そういえば、基軸世界からこちらの世界に応援に駆けつけてくれた方々の姿が見られない。ジウとかはどうやらまだここにいるみたいだけど、少なくとも、俺の万能感知の範囲内にルミナスさん達は存在していない。向こうの世界に帰ったのか? 

 

「ああ、カレラ様とウルティマ様は観光に行ったっす。日本のことを前々から知りたがっていたみたいっすからね」

 

 なるほど……あの二人はリムルの故郷である日本に行ってみたいと以前から言っていたからな。今頃日本観光満喫してるのだろうな。

 聞くと、ルミナスさんは黒歌と一緒に前回行けなかった場所を案内してもらってるらしい。シルビアさんはオーディンの爺さんと少し話があるらしく、ロキの後始末がてら、北欧神話の領域に行き、帝国勢はバーニィが故郷のアメリカへ。ジウがトーカやティアマットさんと一緒にこの家の警護をしてるとのこと。ミニッツさんとカリギュリオさんは仕事が忙しいため一足先に帝国に戻ったんだと。……お疲れさまです。

 

「……でも、皆さんまだ“基軸世界”についてはあんまり話してないんっすよね。ぽっとでの自分が話すよりかは、イッセーの口から聞いたほうが信用できるだろうって……」

 

「そう。その件でお前に訊きたいんだよ、イッセー」

 

 俺の言葉とともにアザゼル先生が一転して真剣な顔となり、俺の前に座った。見ると、他の皆も俺に目線を向けている。

 

「……自慢じゃないが、俺たちはかなり長く生きた存在だ。天使としても堕天使としても、永らくこの世界を監視していたつもりだ。だが、“原初の悪魔”に“始原の天使”、神を生み出した“創造神”……あの闘いはそんな俺を持ってしても始めて聞く話ばかりだった。あの後直ぐにお前が落ちちまったから聞きそびれたが……話、聞かせてもらってもいいか?」

 

「俺も興味がある。約束通り、話してもらおうか」

 

 アザゼル先生とヴァーリの言葉に俺は頷く。

 今この場にいるのは……オカルト研究部の面々にイリナ、ソーナ会長、ヴァ―リチーム、アザゼル先生、サーゼクスさんにグレイフィアさん、そしてミリキャスか。まあ、話しても問題のない面子ではあるかな。オカルト研究部はもとより、ヴァ―リチームは数日接してみて信頼できるとは思う。少なくとも約束は守るだろう。ミリキャスもしっかりした子だし、分別もついている。他所に漏らすことはないはずだ。

 俺は、ここにいる皆に全てを話すことを決意するのだった。

 

「……わかってます。約束は守りますよ」

 

 俺はベッドに座り、皆を見据え、基軸世界のことを語りだした。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 木場side

 

 

 

 

 

「今から二年前……俺からすれば、十五年前にもなるか」

 

「じゅ、十五年?」

 

 いきなりの発言に僕は混乱する。十五年前だと、イッセー君がまだ赤子位の歳のはずだ。それに、二年前? 一体どういうことなんだ? そんな僕の混乱を察してか、イッセー君は気不味そうに頭を掻いた。

 

「……まあ、そこは取り敢えず置いといて、当時俺は裏山に行く途中で、魔素溜まりから成る世界の歪みに巻き込まれ、こことは違う異世界……全ての世界の軸となる“基軸世界”に迷い込みました」

 

 基軸世界……カグチ達やイッセー君達が度々口にしていた言葉……それは文字通り、こことは違う“異世界”の話だったってことか? 

 

「全ての世界の軸……それは、“冥界”や“天界”……ってことか?」

 

「いえ。それらの世界は層みたいに地球と重なる形で存在してる異空間。この場合の世界っていうのは、地球のような惑星に近いものですね」

 

 その言葉に僕達は目を見開く。それって、地球みたいな星が他にいくつもあるってことなのか!? 

 

「ああ、その通りだ。そして、それらの世界は全て、一匹のドラゴンが創り出したモノでもある」

 

「ドラゴン……だって?」

 

 イッセー君の言葉にヴァーリが反応する。この星をドラゴンが創り出した……正直、信じられない気持ちで一杯だ。でも、イッセー君はそんな僕達の困惑を他所に話を続ける。

 

「……地球を含む、すべての世界を創り出した“創造神”とも称される最強の竜……その名を“星王竜”ヴェルダナーヴァ。全ての世界は、このドラゴンから始まったんだ」

 

 曰く、ヴェルダナーヴァは全知全能の力を持つ存在だったのだという。全知全能とは、全にして一……言い換えれば、ヴェルダナーヴァ以外のものは存在しないという状態。

 ヴェルダナーヴァはその状態を嫌い、自ら全知全能を手放すことで、数多の“世界”を創造したのだという。

 

「静寂を嫌って世界を産み出す……オーフィスとは真逆だな」

 

「ええ。そんなヴェルダナーヴァが最初に作った世界こそ、“基軸世界”。故に、基軸世界はあらゆる世界の軸として機能してるんです」

 

 故に基軸世界に綻びができると、稀に異世界へと通じる次元の歪みが生まれるらしい。イッセー君も、その歪みに巻き込まれて、基軸世界に迷い込んでしまったのだそうだ。

 その後もヴェルダナーヴァは多様性を求め、あらゆる種族を創造したという。

 自らを補佐する存在である七柱の“天使族”。その影より派生した七柱の“悪魔族”。大地の化身たる“巨人族”の狂王。惑星の管理者たる“妖精族”の女王。文明を築き、繁栄させる“吸血鬼族”の神祖。これらの種族は皆、ヴェルダナーヴァが作り上げたのだということを……。

 

「……吸血鬼が、文明を繁栄させる種族だと?」

 

「ええ。元々吸血鬼は、今の人類みたいな役割を期待されて作られたんですよ」

 

 吸血鬼は長い寿命に高い知能を持ち、限りなく完璧に近い力を持つ。だけど、吸血鬼は夜にしか生きられない。故に、真に文明の繁栄をさせるには足らなかったのだという。

 ……そして、最後に生まれたのが人間。基軸世界で人間が生まれたことで、連動して他の世界にも同じく人類が繁栄するようになった。

 

「……とまあ、基軸世界についてはこんなもんですかね。────話を戻しますが、俺はひょんなことからその基軸世界に偶然迷い込んでしまいました。最初は本当に驚きましたよ。だって、エロ本探しに来たら、いつの間にか見知らぬ森にいて、化け物にもわんさか襲われましたからね……」

 

 イッセー君は遠い目をしながら懐かしそうに呟く。どうやら相当酷い目にあったみたいだね。

 

「……そして、俺は後にその世界の魔王となる“リムル・テンペスト”に出会いました」

 

 未知の怪物に襲われ、死にそうになった時、彼を助けたのがそのリムル・テンペストという存在なのだという。

 彼は見知らぬ人間であるイッセー君を歓迎し、自らが治める国に迎え入れてくれたらしい。

 何でもそのリムルって人も、元々は地球出身であり、同じ境遇のイッセー君を放ってはおけなかったのだという。

 

「リムル……やはり聞かない名だが、魔王というからには、そいつも悪魔なのか?」

 

「あ、いえ。向こうの世界では魔王っていうのは、“悪魔の王”じゃなくて、“魔に属する者の王”って感じですからね」

 

 曰く、基軸世界に魔王は八人おり、魔王達が世界の均衡を担う立場にあるのだという。

 原初の悪魔にして最も古き魔王であり、最凶の魔王“暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)”ギィ・クリムゾン。

 ヴェルダナーヴァと人間の間に生まれた娘にして、その力を受け継いだ最恐の魔王“破壊の暴君(デストロイ)”ミリム・ナーヴァ。

 迷宮の主にして精霊たちの頂点に立つ女王“迷宮妖精(ラビリンス)”ラミリス。

 太古の悪神にして、破壊の神とも称される巨人の狂王“大地の怒り(アースクエイク)”ダグリュール。

 堕天した始原の天使の一角にして眠りを司る双剣の剣士“眠る支配者(スリーピング・ルーラー)”ディーノ。

 神祖の娘にして誇り高き吸血鬼の女王“夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)”ルミナス・バレンタイン。

 元人間の勇者現魔王という異色の経歴を持つ剣王“白金の悪魔(プラチナムデビル)”レオン・クロムウェル。

 

「そして、俺の恩人にして実力、勢力、共に魔王随一と言われる最強の大魔王“聖魔混成皇(カオスクリエイト)”リムル・テンペスト。これらの魔王達は一人ひとりが星にも匹敵する力を持つことから八星魔王────オクタグラムと称される規格外の人達ですよ」

 

 星にも匹敵する力……にわかには信じられない。でも、イッセー君のあの力や、あの時蟲の女王みたいな存在と戦っていたルミナスさんの力を目の当たりにすれば、嫌でも信じざるを得ないな。

 

「なるほど。確かにあの強さなら納得だな。原初の悪魔だっていう二人があれ程慕ってるんだ。そのリムルとかいうのが規格外ってのはよくわかるぜ」

 

 アザゼル先生の言うとおり、原初の悪魔の強さはあの時見たからわかっているつもりだ。神クラスの怪物すら苦も無く倒すほどの悪魔……そんな人たちが仕えている人が弱いわけがない。もしかしたら、“超越者”と称されるサーゼクス様よりも強いのかもしれないね。

 

「私からも質問させていただきます。あの場にいた人間たちは何者なのですか?」

 

 次に問いかけたのは、ヴァ―リチームのアーサーだ。彼はもとより、人間でありながら、僕をも上回る力を有している。だからこそ、同じ人間でありながら、子フェンリルや量産型の龍王をいとも容易く一蹴したあの人たちに興味を持っているみたいだ。

 ────そして、それはイッセー君にも同じことが言える。あの人たちの強さはイッセー君とも関連してるかもしれない。イッセー君は本来敵であるアーサーの質問についても詳しく答えてくれた。

 

「ジウ達か。彼らは帝国の人間たちだよ。“ナスカ・ナムリウム・ウルメリア東方連合統一帝国”────人間の強者達が多く集う大国。彼らはそこの上位者であり、“仙人”や“聖人”に覚醒した存在でもある」

 

「仙人? 聖人?」

 

 イッセー君曰く、人間は“進化”する。

 基軸世界のように、大気中に魔力が多く含まれている世界では、人間はその力を取り込み、コッチの世界の悪魔にも負けない力を振るうのだと言う。

 そんな人間が一定の修練を積み、力を蓄えると、人間から“仙人”という種族に至る。仙人になると、寿命も数百年から千年くらいにまで伸び、コッチの世界で言うところの“最上級悪魔”や“魔王”にも匹敵する力を出せるらしい。

 そして、その仙人が更に強くなると“聖人”に覚醒する。聖人は“精神生命体”という存在に至った人間であり、魔王を遥かに超える力を手にすることができるうえ、寿命という概念からも解き放たれ、例外もあるものの、基本的には殺されない限り、死ぬことはないのだという。

 

「なるほど……合点がいった。それであの強さか……。じゃあ、イッセーも……」

 

「ええ。もちろん俺も“聖人”に至ってますよ」

 

 なるほど……だから、イッセー君は神器(ドライグ)を使わずとも、アレほどの力を発揮することができるのか。ずっと疑問に思っていたことが解消された気分だよ。

 

「まあ、その更に上の“神人”や、別枠で“勇者”っていうのも存在するけど、話がズレそうだから割愛するな」

 

 そう締めくくるイッセー君を見ながら、小猫ちゃんは何やら考え込むように瞠目し、やがて手を上げた。

 

「……私も気になることがあります」

 

「ん? なんだい、小猫ちゃん?」

 

「先輩やメロウが言っていた“ユニークスキル”という力……あれは、何なんですか?」

 

 ユニークスキル……小猫ちゃんと朱乃さんのお母さんが使っていた力だったね。確か、コカビエルもそのような力を持っていると言っていた気がする。あの力は堕天使の力でも、神器の力でもなかった……。あまりの情報量の多さに頭から抜け落ちていたけど、あの力は一体……。

 

「“スキル”というのは、“特殊現象発動システム”とも言うべきもので、修練や“界渡り”によって獲得する力さ」

 

 “スキル”とは、魔物や人間が所有する特殊能力のことであり、部長の滅びの魔力も広義の意味ではスキルに属するらしい。イッセー君によると、“スキル”は修練や強い意志、種族特性などにより手に入れることもでき、その性能によって“コモンスキル”や“エクストラスキル”など、様々なものに分かれているという。

 

「その中でも、一段強力なのが“ユニークスキル”。英雄と称される者のみが獲得するとされていて、自らの願望そのものが形となったものなんだ」

 

 だからこそ、その性能は千差万別。イッセー君のように、解析に特化するものもあれば、ミッテルトさんのように支援に特化するものもある。

 一度戦ったからよくわかる。“固有(ユニーク)”というだけあって、かなり強力な力だ。

 僕がそう考えていると、イッセー君は更に話を続ける。

 

「……そして、そのユニークスキルを遥かに凌駕した力を持つのが“究極能力(アルティメットスキル)”……文字通り、究極と称される力さ」

 

 イッセー君曰く、究極能力とはヴェルダナーヴァが産み出した管理者権限とも言うべき権能であり、世界の理や法則そのものに干渉することができる力なのだという。この究極能力は自らの魂を文字通り究極と呼べる領域にまで高めた者のみが習得できるらしく、ユニークスキル以下のスキルとは比べ物にならないほどの力を有しているみたいだ。

 

「故に、例外もあるものの、究極能力の持ち主には、同じ究極能力の持ち主でなければ基本的に勝てないとされているんだ。何しろ、あれはその気になれば世界そのものを改変するほどの力を持ってるからな……」

 

「それはとんでもねえな…………で、イッセーもそれを持ってるわけか?」

 

「はい。俺の究極能力は“国津之王(オオクニヌシ)”っていって、解析能力に特化した権能になります」

 

 イッセー君の究極能力“国津之王(オオクニヌシ)”は自らの思考速度を数百万から数千万倍にまで高める“超速思考”やあらゆる事象を網羅する“森羅万象”、周囲の空間を支配する“空間支配”に技術を除いた相手の総合力を数値化できる“身魂計測”といった力を宿しているらしい。どれも聞いただけで恐ろしいと思える力だ。ちなみに“洋服崩壊”もこの究極能力の権能であり、洋服だけでなく、呪いや防具など、相手の身を纏っている万物を崩壊させる力なのだという。

 イッセー君はその後も話した。

 魔王になる前のリムル・テンペスト様に拾われ、彼の街で過ごしたこと。

 敵国のスパイとして送り込まれたミッテルトさんと出会い、助けたこと。

 創造神の弟である“暴風竜”ヴェルドラ様に弟子入したこと。

 リムル・テンペスト様が魔王に至ったあとも彼と共に歩んだこと。

 

「そして、十三年の月日が流れ、ついにこの世界に戻る方法が発見されて、俺はこうしてこの世界に戻ってきたんですよ……あとは、まあ皆の知ってる通りかな?」

 

「「「「「··············」」」」」

 

 皆言葉も出ない。僕達が考えていたよりも、遥かに壮大な話だ。

 イッセー君はここまで話し終えると、僕達と向かい合い、頭を下げる。それを見たミッテルトさんも、同じく頭を下げた。

 

「ちょ、イッセー、ミッテルト。なにを……」

 

「ゴメン、皆」

 

 部長の困惑を他所にイッセー君は僕達に向かって謝罪をする。

 

「皆に隠し事をするのはよくないってわかってた。本当は何度も話そうって思ってた。でも、話すことで皆の俺を見る目が変わってしまうかもしれない。それが怖かったんだ。本当にゴメン」

 

「本当にゴメンっす!」

 

「イッセー君……ミッテルトさん……」

 

 イッセー君達の謝罪に僕は言葉を失う。

 ……確かに信じられないような話ばかりだったし、イッセー君の気持ちはわからなくもない。

 ……でも、この話で僕達のイッセー君を見る目が変わるなんて思われるのは心外だ。そう思ったのは僕だけではないみたいだ。

 

「……心配しすぎよ。確かに、信じられない話ばかりだし、聞いててすごく驚いたわ。でも、それでイッセーを見る目が変わるなんてある筈ないじゃない。イッセーもミッテルトも私にとって、大切な家族よ」

 

 部長の言葉に皆が微笑んで頷いた。

 

「ええ。私にとってイッセー君はイッセー君で、ミッテルトちゃんはミッテルトちゃんですわ。聖人がどうとか、そんなの関係ない。イッセー君は私の恩人で大切な人。ミッテルトちゃんも私にとって妹のような存在。どちらも私にとって大切な人ですわ」

 

「私はお二人にどんな過去があったとしてもお二人のことが大好きです! 私の大切なお友達で家族です!」

 

「……イッセー先輩は優しい先輩で、ミッテルトちゃんも大事な友達です。見方が変わるなんて、ありえません」

 

「僕も先輩方のことは大好きですぅ!」

 

「ああ、私にとっても二人は二人でしかない。私のかけがえのない友達だ!」

 

「私にとってもイッセー君は大切な幼馴染みだし、ミッテルトさんも大切な友達よ! 聖人がどうとか関係ないわ!」

 

 朱乃さんにアーシアちゃん。小猫ちゃんにギャスパー君にゼノヴィアさんにイリナさん。皆がイッセー君に気持ちを伝える。僕も、素直な気持ちを二人に伝えなくてはならない。

 

「イッセー君、ミッテルトさん。僕達は仲間だ。例え何があっても、それは変わらない。そんな心配しなくていいんだよ」

 

 僕達の言葉にイッセー君とミッテルトさんは目を見合わせる。やがて、二人は僕達の言葉に笑顔を持って応えた。

 

「……ありがとな。皆」

 

「ありがとっす!」

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「さてと、じゃあ次はカグチ達について話してもらうぜ」

 

 アザゼル先生の言葉に僕達は再び話を聞く姿勢に戻す。

 

「わかってます。まあ、アイツラについて知ってるのは僅かですけどね」

 

 イッセー君はそれを確認すると、自分の知ってることを話しだした。

 

「アイツラはヴェルダナーヴァが創り出した文明人の祖たる吸血鬼の神祖“トワイライト・バレンタイン”の弟子達です」

 

「トワイライト・バレンタイン……」

 

 サーゼクス様がその名を呟く。

 イッセー君によると、吸血鬼の神祖たるトワイライトはヴェルダナーヴァ様の手により、文明を繁栄させるために作られた存在だ。

 それ故に彼は、吸血鬼以外にも様々な種を作り出した。

 鬼やゴブリンの祖である“火精人(エンキ)”やエルフの祖である“風精人(ハイエルフ)”、人類の大本となった“真なる人類(ハイヒューマン)”……。そういった、その種族の祖とも言える存在をトワイライトは数多生み出し、その中でも一際目立った個体を自らの弟子として迎え入れたのだという。

 

「カグチやメロウも、トワイライトによって産み出された“祖”というべき古き存在なんですよ。その力は少なくとも、並の神を遥かに上回るものでしょうね」

 

「なるほど……となると、そのトワイライトの目的が気になるな。イッセー、お前はなにか知ってるか?」

 

「いえ、流石にそこまでは……「奴の目的なら妾が説明してやろう」」

 

 イッセー君の言葉と同時に誰かが声を上げた。

 声のする方向を見ると、そこには天照大御神様とゴシックロリィタを纏った銀髪少女。そして、その後ろに控える黒歌さんの姿があった。

 

「ルミナスさん!」

 

 この人が、“八星魔王(オクタグラム)”の一人にして吸血鬼の女王、ルミナス・バレンタイン様……。こうして間近で見ていると、途轍もない強さを持っているのがよくわかる。ただ普通にしてるだけなのに、凄まじいまでの存在感を放っている。……もしかしたら、サーゼクス様よりも……。

 

「……貴女が異世界の魔王ですか」

 

「うむ。そちはこの世界の魔王じゃな」

 

「ええ。初めまして。サーゼクス・ルシファーと申します」

 

「ルミナスじゃ。異世界とはいえ、貴様も魔王であるのなら敬称は不要じゃ。楽にするが良い」

 

 ルミナス様はそう言うと、どこからか豪華な装飾のソファーを出し、優雅に腰掛け、紅茶に口づける。

 その所作の一つ一つから気品が感じ取れる。それでいて、隙が一切見当たらない。

 

「……じゃあ、早速聞かせてもらおうか。その神祖とやらの目的を……」

 

 アザゼル先生は本題に入るように促すと、ルミナス様は紅茶を飲み干し、目を鋭くする。

 

「……奴は、ヴェルダナーヴァに文明人の祖として作られた存在じゃ。故に、完璧な種族を作ることに囚われておる」

 

 ルミナス様曰く、神祖トワイライトは神が認める完璧な種族を作ることに執心していたらしく、数多の種族を産み出したのだという。ここまではイッセー君も話していたけど、此処から先の話は想像を絶するものだった。トワイライトは自ら産み出した種族から、さらなる種族を作り出そうと、交配と実験を何度も繰り返したらしい。完璧な種族を作る。その目的のためなら、トワイライトはどんな犠牲も厭わなかったのだという。

 

「奴のせいで、人類も吸血鬼も何度も滅亡の危機を迎えた。妾達の世界に残る厄災も、元を正せば奴の行いが原因であるというものも多い」

 

 だからこそ、ルミナス様は自らの父親であるトワイライトを討とうとしたのだと語る。

 ルミナス様は不意打ちを持ってトワイライトを弑した……筈だったのだと。

 

「……じゃが、奴は生きてこの地に隠れ潜んでおったのじゃ。数人の高弟を率いてのう……」

 

 神祖はこの世界に潜み、密かに勢力を広げていた。旧魔王派やコカビエルの使っていた“結晶”も神祖が作り出したものだという。

 

「なるほど……つまり、その「完璧な種族」を作り出すという目標が変わっていない、と仮定すれば、奴らの目的は……」

 

「……この世界を滅ぼし、新たなる種族の苗床にする……といったところでしょうね。相変わらずマッドな人だ……」

 

 天照大御神様の言葉に静寂が応える。

 新たなる敵とその途方もない目標に僕達はただ、息を呑むことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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魔国に行きます

 イッセーside

 

 

 

 

 ルミナスさん達の言葉に一同は静まり返る。

 敵の途方もない計画に言葉も出ないと言った感じだ。まあ、気持ちはわからんでもないけどな。

「完璧な種族」を作るという目的のために世界そのものを滅ぼす。正直、理解できない思考回路だし、恐るべきことに相手にはそれを実行に移せるだけの力がある。

 この世界の強者であるアザゼル先生やセラフォルーさんが手も足も出ないような存在を多数抱え込み、恐らくはあの機械生命体みたいに他の世界から来たであろう“侵略種族(アグレッサー)”も多数いると思われる。正直、どれくらいの世界を掌握してるかわからないから、敵の数すらもわからない。皆が気後れするのも無理はないだろう。

 

「……私は、かつてヴェルダナーヴァ様に仕えていました。だから、神祖トワイライトの事は多少は知っています」

 

 天照さんの言葉に一同は注視する。

 曰く、天照さんやオーディンの爺さんを筆頭とした各神話の主神は星の管理を目的としてヴェルダナーヴァに作られた存在のだという。

 

「この星はかつて、魔素と生命が溢れる豊かな惑星でしてね……そんな美しい光景を気に入ったヴェルダナーヴァ様が、その美しい星を管理するために私達を連れてきた……聖書の神を含めた私達主神は元々“基軸世界”の出身なのですよ」

 

 元々天照さんやオーディンの爺さん、聖書の神といった主神達は異界を監視する役割を担うこともなった“始原の七天使”の代わりとして、ヴェルダナーヴァの補佐をする存在として作られたのだという。しかし、ギィさんやルドラ達“調停者”により世界が安定した時代にはあまり仕事もなかったらしい。そこで、生命にあふれる地球という惑星の監理者を探していたヴェルダナーヴァに命じられ、この惑星の管理者として降り立ったそうだ。

 ところが、肝心のヴェルダナーヴァが死んでしまって以降は各神話の縄張り争いが激しくなり、結果として、神話同士の関わりもなくなっていったらしい。

 

「その時から、神祖の話は幾度となく聞いていましたが、その災厄がこの世界を襲うとなると、“禍の団”を遥かに超える脅威となるでしょうね……何しろ、神祖トワイライトは、オーフィスやグレードレッドが束になっても敵う相手ではありませんから……」

 

 オーフィスやグレードレッドが束になっても勝てない……そんな天照さんの言葉を聞いて、この場にいる者たちはそのヤバさを再認識する。

 天照さんもまた、神祖の脅威を知る存在。故に、その恐ろしさをよくわかってるみたいだな。

 

「……なるほどな。となると、こちらとしても各神話との和睦を急がないといけなさそうだな……」

 

「アザゼルの言う通り、それほどの脅威が迫っているのならば、睨み合いを続けている状況でもない。目的面で言っても、“禍の団”以上の危険度だからね」

 

 先生とサーゼクスさんは互いにため息をつけながら、これからの事に思考を向ける。

 “禍の団”だけでも先生たちからすれば頭の痛い話だったろうに、此処から先はそれ以上の災厄相手にも立ち向かわなければならない。先生たちの嘆きもよく分かる。だから、できることなら“禍の団”を片付けた後にしたかったんだよな……。まあ、そうも言ってられないか。

 

「……それで、兵藤君はどうするつもりなんですか?」

 

 ソーナ会長の問いかけに俺は一瞬だけ考える。まあ、既に結論は出てるけど……。

 

「取り敢えず、俺達は一度基軸世界に戻ろうと思います」

 

「今回のこと、リムル様達にも報告しないといけないっすしね」

 

 今回得た情報はリムル達に伝えるべきだ。機械生命体やセラの正体、“蟲魔神”まで従えていることなど、報告することは盛り沢山だ。あと、護衛としてこっちの世界に常駐できる手練れがいないかも聞かなくちゃならない。父さんと母さんまでもが襲われたんだ。頑張ってくれているトーカ達には悪いけど、最低でも“超級覚醒者(ミリオンクラス)”の使い手を護衛に付けておきたい。それも踏まえてリムルに進言しないと……。

 

「…………」

 

 俺達の言葉に部長は何やら考え込むような仕草をする。

 

「……ねえ、イッセー。その基軸世界、私達も行って大丈夫かしら?」

 

 部長の言葉に皆が目を見開き、驚いたような表情をする。対してサーゼクスさんやアザゼル先生はじっと部長を見つめ、目線で続けるように促す。

 

「今回の戦いでよくわかったわ。私は……私達は弱いわ。今のままじゃあ、“神祖”どころか“禍の団”相手でもついていけるか怪しい……貴方やヴァーリの戦いを見てそう思ったの」

 

 確かに……ヴァーリはロキ相手に大立ち回りを演じていたし、アーサーや美猴も子フェンリル相手に活躍していた。小猫ちゃんは黒歌の特訓の甲斐があって、ヴァーリ達にも負けない活躍をしていたけど、他のみんなはミッテルトの“思慕者”の力でなんとか戦えてるって感じの状態だった。

 まあ、既に“魔王種”級の力があるヴァーリと比べられる時点で相当強くなってるんだけどな。現時点でも恐らく旧魔王副官級はあると思う。だが、部長はそれでは満足していない様子だ。

 ヴァーリ達が“禍の団”所属ということもあるんだろうな。だからこそ、今よりももっと強くなりたいというわけか……。

 

「無理なことを頼んでいるのはわかってるわ。それでも……」

 

「わかりました。じゃあ、部長達も行きましょう」

 

 俺の言葉に部長は呆けるように目を丸くする。どうしたんだ? 

 

「いや……こうもあっさりと了承されるとは思わなくて……」

 

「そ、そもそも異世界ってそんな簡単に行けるんですかぁ!?」

 

 どうやらギャスパーは全く異なる異世界にそんな簡単に行けるのか疑問に思ってるみたいだな。まあ、確かに……冥界や天界みたいに、繋がりがあるわけでもない未知の世界。部長達からすれば、どんな場所なのか想像もできないのかもしれない。

 

「ああ、行けるぜ。何だったら、サーゼクスさん達も一緒に行きます? ミリキャスも社会見学ってことでさ」

 

「ぼ、僕も行ってよろしいんですか?」

 

 ミリキャスは期待と不安を瞳に宿し、チラリとサーゼクスさんとグレイフィアさんを見つめる。ミリキャス自身、未知なる世界への好奇心はあるんだろうけど、流石に二人の許可がないとだめだからな。

 そんなミリキャスの様子を見たサーゼクスさんはクスリと笑い……

 

「わかった。では、お言葉に甘えよう」

 

「……よろしいのですか? サーゼクス様」

 

 グレイフィアさんは目を見開きながら問いただす。それに対し、サーゼクスさんは柔和な態度を崩さずに言う。

 

「ああ。私自身、異世界に興味があるし、何より将来の義弟(イッセー君)がそういうのなら、そこまで危険はないだろうからね」

 

「ありがとうございます! 父様!」

 

 その言葉に俺は少し嬉しくなる。サーゼクスさんはまだ数回しか会っていない俺をここまで信用してくれてるのか……。なんだか少しむず痒い感じがするな……。

 見ると、ミリキャス凄く嬉しそうだ。目茶苦茶目を輝かせている。こういうところは年相応なんだなとほっこりする。

 

「流石赤龍帝! 太っ腹だねぃ!」

 

「いや、お前達は連れてかねえぞ?」

 

 美猴の言葉に俺はきっちりと釘を刺す。すると、ヴァーリチームの面々が驚いたように俺を見つめる。

 いや、なんでお前らまで連れていけると思ってたんだよ。

 

「そもそもお前ら一応敵対組織だろ。今回は一緒に戦ったし、約束だから話したけど、流石に向こうに連れてくほどの義理はないだろ」

 

 俺の言葉を聞いて、ヴァーリチームの面々は露骨に嫌そうな顔をする。流石は戦闘狂共の集まりだな。ルミナスさんや原初の戦闘を見たおかげで向こうの世界に興味津々のようだ。

 

「そんなこと言うなよ赤龍帝。一緒に戦った仲だろぅ」

 

 美猴はそう言いながら、馴れ馴れしく肩を組もうとするが、俺は呆れながらそれを避けた。

 

「そもそもお前らの目的フェンリルを仲間にする事だろ! 俺たち利用されただけじゃねえかお互い様だ!」

 

 そう。こいつらの目的はアーサーの剣の力でフェンリルを仲間に引き入れることだ。フェンリルは存在値にして350万を超える化け物。今まで北欧という閉ざされた環境にいたからこそ、戦闘経験も低く、部長達だけでも戦うことができたが、そのスペックをフルに発揮すれば究極持ちにすら通じるほどの潜在能力を秘めている。

 ヴァーリ達もそこに目を付けたのだろう。覚醒魔王級の力を持つ神話の神々を相手取るには現状ヴァーリ達ではまだまだ力不足感が否めないからな。

 

「……ええ、確かにその通りです。私達はフェンリルを支配下に置き、神に対抗する手段を得た。そのためにあなた方を利用したことも認めましょう」

 

 そう言いながら、アーサーは立ち上がり、俺の前に歩いてくる。アーサーは俺の言ったとおりだと認め、そのうえで真摯に頭を下げた。

 

「そのうえで、お願いしたいのです。先の戦いで、私達も自らの力不足をはっきりと自覚しましたからね。さらなる高みに行くためにも、その“基軸世界”に赴いてみたい」

 

 ……これは予想外だ。まさか、プライドの高そうなアーサーが頭を下げるだなんてな……。いや、プライド高いからこそ、あの戦いで何もできなかったのが悔しかったのかもしれないな。

 

「……俺からも頼む。兵藤一誠」

 

 それを見たヴァーリは暫し瞠目し、なんとアーサーと同じように軽く頭を下げながら、俺に頼み込んできた! これにはアザゼル先生もビックリだ。正直俺も驚いてる! あのヴァーリが宿敵である俺に頭を下げるとか……これはヴァーリ自身、かなり苦悩の末の行動だろうな。

 流石にここまでされれば断るのも悪い気がしてくる。

 ……それに、神祖の軍勢と戦うにあたって、コイツラの戦力は必要かもしれない。一応、向こうから援軍を呼ぶ予定ではあるけど、強力な力を持つ手練ほど、長く国を空けておくことは難しいからな。案外、ヴァーリチームの力を底上げするのもありか? 

 いやでも、コイツラも敵であることには変わりないし、レベルアップさせるとあとが厄介そうだからな……。

 

「……責任は俺が持つ。ヴァーリ達も行かせてやってくれ」

 

 悩む俺にそう告げたのはアザゼル先生だ。この人にまで言われちゃ、流石に断れないな。

 

「……わかった。ただし、勝手な真似はするなよ」

 

「ああ。善処しよう」

 

 善処……ねえ……。コイツラの戦闘狂ぶりはよく知ってるし、ヴァーリを筆頭に皆ワクワクしたような表情をしている。正直不安しかねえんだけど……。

 ……まあ、ヴァーリ達程度にどうこうされるような国でもないし、確かにそういう意味なら問題はないか。

 俺は暫し、悩んだ挙げ句溜息をついてジト目でヴァーリ達を見つめる。

 

「……わかった。その代わり、この件は他言無用だ。お前達以外の“禍の団”には決して言うなよ?」

 

 俺は“英雄覇気”で軽く脅しをかけながら、ヴァーリ達に念押しをする。その圧倒的な覇気にヴァーリ達は冷や汗を流しつつも獰猛な笑みで頷いた。全く……これだから戦闘狂は……。俺は頭を搔きながら再度溜息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「やあ、イッセー。遅かったじゃないか」

 

「スミマセン。少し時間がかかってしまって……」

 

 数時間後、俺達はカレラさん達と合流して、三階の物置部屋の前に集まっていた。少し時間がかかってしまった理由は更に追加メンバーが加わったからだ。

 

「向こうの世界に行くのも久しぶりね」

 

「ああ。お土産に何買おうかな〜?」

 

 まずは父さんと母さんだ。二人共俺達のイザコザに巻き込まれてしまった以上、無関係とはいかない。俺達が留守の間、襲撃が起こる可能性だってあるんだ。安全面から考慮しても、一緒に向こうに行ったほうがいいだろう。

 

「いや〜、ソーたんと一緒に旅行なんて、ワクワクするね☆」

 

「その呼び方はやめてください! そもそも旅行ではなく、外交ということをお忘れなく!」

 

 次に魔王であるセラフォルーさん。この人は冥界の外交を担当しているため、基軸世界での話し合いに必要だろうと判断され、外交官として付いて行く事になった。

 故に、服装も魔王少女姿でなく、会議などで見たそれに相応しい大人しめのものになっている。

 そして、その後ろにいるのはウェーブのかかったブロンドが特徴のおっとり風の天使のお姉さん! メチャクチャ乳がでかい! スタイルも抜群! 

 

「ごきげんよう。私、“四大セラフ”のガブリエルと申します。今回、ミカエル様に言われてここに来ました。よろしくお願いします」

 

 忙しいミカエルさんの代理としてやってきたのがこのガブリエルさん! なんでも、天界一の美人さんにして、女性天使最強とすら称される存在らしい! 柔和な感じで笑みも極上! すごい人が来たものだ! 

 

「フフフ☆ よろしくね、ガブリエルちゃん」

 

「え? はい、よろしくお願いします」

 

 なんか、目をギラギラさせているセラフォルーさんに少し戸惑いながらも応じるガブリエルさん。なんでも、セラフォルーさんは密かにガブリエルさんをライバル視しているらしい。

 それにしても、豪華なメンバーが集まったものだ。

 そして、そんな豪華な追加メンバーに紛れる姿がもう一人……。

 

「な、なあ兵藤……本当に俺なんかが行っていいのかよ?」

 

「大丈夫だって。そんな緊張すんなよ匙」

 

 少し思うところがあって、匙も連れて行くことにしたのだ。

 テンペスト……というか、基軸世界には、匙達の夢の一つのカタチがある。ソーナ会長も含め、少し見学させれば結構力になると思うんだよな。

 もっとも、そんなことは露知らずの匙はかなり不満……というか、萎縮しちまってるな……。そんなに緊張することかね? 

 

「まあ、無理もないだろう。何しろ、三大勢力すら知らない未知の世界に一足早く踏み込めるんだからな……」

 

 そんなものか。アザゼル先生は匙にジト目を向けながらも、好奇心からソワソワしてるな。実際、先生たちも緊張してるのかもしれないな……。

 

「楽しみなだな。一体どんな強者がいるのやら……」

 

 対してヴァーリはワクワクを隠しきれないといった感じだ。いかにも戦闘狂らしい考え方だ。

 

『基軸世界……ヴァーリほどではないが、俺も興味がある。未知への好奇心……久しい感情だ』

 

 お。アルビオンも結構乗り気みたいだな。こういうノリの良いところはドライグと似てるかもしれないな。

 

『……ところで、先程から赤いのの気配が微弱だが……奴はまだ目覚めていないのか?』

 

 ……気付いたか。流石はドライグと同じ天龍なだけはあるな。俺は悩む。このことをアルビオンに言うべきなのか否か。もしもこれを知ったら、アルビオンもショックを受けるかもしれない。

 いや、いずれ知られるのであれば、今のうちに知らせたほうがいいか。俺はそう考え、“赤龍帝の籠手”を出す。

 

『ふん、どうやら意識はあるようだな赤い……』

 

『……おじさん、だれ?』

 

 瞬間、時が止まる。この場にいた皆が一斉に俺の籠手の宝玉に視線を向けている。

 

『……お、おい? ど、どうしたんだ、赤いの!?』

 

『赤いの? 僕はドライグだよ? ドラゴンの子供なの』

 

 カレラさんとウルティマさんは愉快そうに笑いを堪え、ルミナスさんが軽く吹き出し、黒歌とミッテルトが哀しそうに目を背ける中、部長達が驚きながら、問いかけてくる。

 

「こ、これは……」

 

 部長の問いかけに、ミッテルトは目を伏せながら、ポツリと話す。

 

「……“真紅の赫覇魔龍帝(クリムゾン・ジャガーノート・ダークネス)”は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んす。ですが、分担させてなお消耗が激しく、凄まじいまでの負担がかかる。聖人であるイッセーが三日三晩寝込むほどに……。その凄まじい力は、精神体であるドライグにはモロに負荷となるんすよ」

 

 ミッテルトの言葉を聞きながら、俺は哀愁を込めて宝玉に目を向ける。あまりにも、見てられない……。

 

「……結果として、あの姿になると、ドライグはダメージで一時的に幼児退行……“どらいぐくん”になってしまうんです……っ!」

 

 俺はそう言いながら一筋の涙を流し、ドライグ────いや、“どらいぐくん”を撫でるのだった……。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

『ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁっ! 何が“どらいぐくん”だ! 目を覚ませ、赤いの! お前は誇り高き“天龍”の筈だろ!?』

 

『うう、おじさんこわいよぅ……』

 

『泣くなあああああああっ、! 泣きたいのはコッチなんだぞおおおお!! ぬおおおおおおおおおおおんっっ!!』

 

「ぷははははっ! もう駄目だっ! 何度見ても笑えるな!」

 

「本当! あの傲慢チキなドライグが幼児退行とか、何度見ても面白すぎるよね!」

 

「なんだか、ドライグが可愛くなってるの」

 

 どらいぐくんが怯え、アルビオンが泣き叫び、カレラさんとウルティマさんが大笑いし、セラが何故か目を輝かせ、皆が可哀想な瞳で宝玉を見つめるという混沌とした状況の中、ルミナスさんが手を叩いて場を納める。

 

「ほれ、とっとと行くぞ」

 

 ルミナスさんの言葉に俺は頷き、部屋の扉を開け、クローゼットの前に立つ。

 かなり年季の入ったクローゼットだ。それを見て、部長達は首を傾げる。

 

「これって、イッセーが大切にしてるっていうクローゼットよね?」

 

「はい。これこそが、基軸世界への入口なんです」

 

 その言葉に皆が息を呑む。まあ、当然か。こんな古ぼけたクローゼットに入口があるなんて、言っても信じられるわけないよな。

 

「魔力も何も感じられないね……」

 

「それは当然ですよ。このクローゼットには、魔王リムルと暴風竜ヴェルドラによる二重隠蔽が施されてるんですから」

 

 俺はクローゼットの扉を開き、魔力を込める。すると、クローゼットに更に奥の空間が生まれ、俺達はそこに進んでいく。

 

「……なんか、ナルニア国物語みたいだね」

 

「お、流石木場。実際にそれがモデルなんだよ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「あ、あれが異世界につながる“異世界の門(ディファレントゲート)”っす」

 

 そうこうしているうちに、魔法陣のある部屋に出る。

 豪華な一室のように彩られた部屋の中、アザゼル先生やロスヴァイセさん、会長などは興味深く魔法陣を観察している。

 

「これは……凄いな……」 

 

「数多の術式と魔法陣が複雑に絡み合っていますね……」

 

「こんな複雑な魔法陣……北欧でも見たことがない……」

 

 それはそうだろう。何しろ、文字通り世界を超えるほどの術式が緻密に編み込まれてるんだ。世界広しといえど、これを再現できるのはリムルかギィさんくらいなもんだろう……いや、最近マイが再現したんだっけ? まあ、別にいいか。

 

「魔力を流しますんで、皆さんこの上に乗ってください」

 

「え、ええ。頼むわイッセー」

 

 俺は皆にこの上に乗るように促す。それに対し、皆一様に頷きながら、続々と魔法陣の上に立つ。皆が転移魔法陣に乗ったことを確認し、俺は魔力を流した。すると、魔法陣は眩い輝きを見せ、閃光を瞬かせた。

 

 

 




基軸世界行きのメンバーはオカルト研究部の面々にセラとロスヴァイセ、アザゼル、サーゼクス、グレイフィア、ミリキャス、セラフォルー、ソーナ、匙、ヴァーリチームにイッセーの両親といった感じになります。(多いな(^_^;))



取り敢えず、できてる範囲としてはここまでになります。
続きは早ければ1〜2ヶ月後くらいですかね?

あと、活動報告のほうに新キャラ募集をかけたいと思います。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=305822&uid=247442
よろしければ、是非ともお願いします。

追記:12月22日
メンバーにガブリエルを急遽追加しました。やあhり、天使陣営から一人も来ないのはおかしいと思いつつも、ミカエルは名前的しがらみから少し危ういかもと考えた末、彼女を放り込みました。


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魔国にようこそです

 木場side

 

 

 

 

 

 眩い転移光りに包まれた僕達は、今までの転移魔法とは少し違う感覚に覆われる。目を開けると、そこは石造りの建物の中だった。

 所々にある装飾品が異様な雰囲気を醸し出している。ここが、異世界なのか? 

 

「……ここが“基軸世界”……なのか?」

 

「はい。ここじゃあ実感わかないでしょうし、取り敢えず外に出ましょうか」

 

 イッセー君は僕達が転移した魔法陣とは、また異なる魔法陣を指さしながら言う。イッセー君はそのまま魔法陣の上に立ち、何やら機械を操作しながら魔力を込めている。

 

「皆も早く来いよ!」

 

「い、今行くよ……」

 

 イッセー君に促され、僕達はまた別の魔法陣の上に立つ。これは“拠点移動(ワープポータル)”といって、この世界の独自の転移魔法陣なんだそうだ。確かに、悪魔が使う転移魔法陣とは少し違う感じがするね。

 皆とともに、僕達は再び転移する。そこは、誰かの家みたいだ。

 

「ここは……?」

 

「ここは俺の持ち家だよ。こっちにいたときはこの家でミッテルトと一緒に住んでいたんだ」

 

 イッセー君の言葉に一瞬の静寂があたりを包む。部長達はワナワナと震えながら、家の中を見回している。

 

「……二人きりですって? なんて羨ましいっ!」

 

「ま、うちの方が付き合いが長いっすからね♪」

 

 部長達が涙目になってミッテルトさんを睨みつける。それを見たミッテルトさんは自慢気に胸を張っている。

 そんな皆の様子に呆れながらも、イッセー君は窓を開ける。そこには────

 

「うおっ!?」

 

「これは……」

 

「な、何よコレ!?」

 

 皆が驚愕の表情を見せる中、イッセー君達は得意げに僕たちを見つめる。

 僕達が見たのは、向こうの世界では考えられない光景だ! 

 小猫ちゃんのように、獣の耳が生えた獣人らしき種族、オークのような見た目の種族、肌が緑色の異種族、翼を用いて空を飛ぶ人達、水路の中を泳ぐ人魚のような存在、そんな中に普通の人間がごく自然に溶け込んでいる! 

 誰も、そのことに疑問を抱いていない……これが、この世界の日常の光景だというのか!? 

 驚く僕たちを尻目にイッセー君はクスリと笑い、手を広げる。

 

「ようこそ皆! 多種族共生国家────“魔国連邦テンペスト”へ!」

 

 イッセー君の言葉とその光景に、僕達はただただ圧倒されるだけだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 イッセーside

 

 

 

 

 

「じゃあ、私達はこれで失礼するよ。仕事も残ってるわけだしね」

 

「こっちは暇じゃないからね……じゃ、そういうことで」

 

 そう言いながら、カレラさんとウルティマさんはそれぞれの職場へ戻っていく。片やこの国の検事総長、片や最高裁判長。二人共仕事が忙しそうだからな……まあ、それにしては迷宮でよく見かけるけど……。

 

「……では、妾たちも一先ず本国(ルベリオス)に戻らせてもらおう」

 

 ルミナスさんはそう言いながら、指をスナップさせる。すると、部屋の中に豪華な装飾の“転移門”が現れ、中からルイさんとギュンターさんが出迎えてきた。

 

「お迎えにあがりました。ルミナス様」

 

「姫、どうぞこちらへ……君もだ黒歌。色々と報告を聞きたいのでな……」

 

 突如現れた強者二人を前に、部長達は警戒しながら後ろに下がる。アザゼル先生やセラフォルーさんも、その凄まじい魔の力に冷や汗をかいているみたいだ。

 

「うむ……行くぞ、黒歌」

 

「はいにゃん♪ あ、今回の件をヒナタ達にも伝えないとだから、また後で合流するにゃんね」

 

 そういいながら、門をくぐり抜け、ルミナスさんと黒歌さんもルベリオスへと帰還した。それを確認した部長は汗を拭い、問いかける。

 

「イッセー、今の人達は……?」

 

「ルミナスさん配下の“三公”のルイさんとギュンターさんです。黒歌の同僚でどちらもロキなんか相手にならないレベルの力を持つ吸血鬼ですよ」

 

「……なるほど、あれ程の手練れが多くいるとなると、やはりここは面白そうだ」

 

 神祖の生存が確定した今、ルミナスさん達も対策を練るのに忙しいんだろうな。ヴァーリがなんか言ってるが、俺は気にせずに、俺は自分ちの扉に目を向ける。

 

「じゃあ、俺達も行きますか……」

 

「うん。えっと、この世界の魔王様に会いに行くんだっけ?」

 

 ドアノブに手をかける俺に木場が質問してくる。

 

「ああ。この“ジュラ・テンペスト連邦国”の国主にして、魔王様でもあるリムルに会いに行くのさ」

 

 木場の質問に答えながら、俺は扉を開け、皆に視線を向ける。そこには、ソファーに顔を埋める部長や朱乃さん、クッションを大事そうに抱きしめるアーシアに小猫ちゃんの姿があった。何してるんだ皆? 

 

「……欲を言えば、もう少しイッセーの家(この家)でゆっくりしたいけど、時間も有限だし早めに行ったほうがいいかもしれないわね」

 

「……残念」

 

 部長達は何やら名残惜しそうにしつつも、切り替えて俺の意見に賛成する。今は学校も長期休みでもなんでもないし、滞在日数も限られてきそうだからな……。まあ、数日くらいなら別に休んでもいいんだけどさ。

 取り敢えず外に出て、道中を楽しみながらリムルの自宅に行くことにした。

 初めてのテンペストに皆は興味津々のようだな。特にミリキャスは目茶苦茶目を輝かせている。

 

「すごいですね、イッセー兄様! たくさんの種族の方々が一緒にいますよ!」

 

「まあな。何しろ、テンペストはあらゆる種族が集う国とすら言われてる場所だからな」

 

 少し興奮気味なミリキャス達に俺は自慢気に答える。

 今までずっと冥界で過ごしてきたミリキャスにとっては何もかもが新鮮に映るのだろう。

 冥界では、様々な種族が転生した“転生悪魔”は多くいるだろうが、種族の多さならばテンペストのほうが遥かに上だからな! せいぜい驚くがいいさ! 

 

「……それにしても、本当に色んな種族の方がいるんですね」

 

 周囲の光景を見ながら、ガブリエルさんはぽつりと呟く。

 

「多種族共生国家……凄まじいモノだな。俺達が知ってるエルフやドワーフなんかも見かけやがる」

 

「両種族とも、私達の世界では滅多に表に現れないというのに……それに、あの人達はゴブリンですかね? それにしては、凶暴性がかけらも見当たりませんが……」

 

 皆もその街並みに驚きながらもキョロキョロとあたりを見回している。

 思ったとおりだ。やはり、多種多様な種族が共に暮らしている国は、アザゼル先生達には信じられないみたいだな。まあ、向こうだとまだまだ和平交渉ができていない神話や種族が多そうだし、無理もないか。

 

「そ、そういえば、この世界の魔王様って、どんな人なんですか?」

 

「そうだな……超がつくほどのお人好しだな。それでいて、カリスマ性もあるし、俺の命の恩人でもあるし……俺が心の底から尊敬してる男の一人だよ」

 

「ほぅ、人誑しのお前がそこまで言うか。これは会うのが楽しみだな」

 

 ギャー助の言葉に答えると、アザゼル先生は笑みを浮かべてそう呟いた。誰が人誑しだ誰が。それは俺よりもリムルにこそ相応しい称号だと思うぞ。

 そんなことを考えていると、屋台の付近で何やら見覚えのある影が見えてきた。

 

「あっ! イッセー! 久しぶりっす!」

 

「おっ! ゴブタ!」

 

 そこに串カツを食べているゴブタを発見。ゴブタも俺に気づいたらしく、こちらに近付いてくる。

 

「久しぶりっすねゴブタ」

 

「……ねえ、イッセー。この……人? ……は誰なの?」

 

「ん? イッセー、誰すかこの人達?」

 

 部長は困惑しながらもゴブタが何者なのかを尋ねる。

 ゴブタもゴブタで初対面の部長達を怪訝に思ってる様子……いや、部長達のおっぱいばっか見てやがるなコイツ。まあ、ゴブタらしいといえばらしいか。

 

「コイツはゴブタ。この国の幹部の一人で、警備隊の隊長をやっています。……彼女たちは俺の向こうの世界の友達と魔王様達だよ」

 

「い、異世界の魔王すか!? あ、自分“狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)”隊長のゴブタっす! よろしくっすね!」

 

 ゴブタは驚きながらも皆に自己紹介を済ませる。部長達も軽くゴブタと挨拶を交わしている。

 

「……これが幹部なのか?」

 

「そこまで強そうには見えないぜぃ?」

 

 ヴァーリと美猴は訝しげにゴブタを値踏みしている様子だ。まあ、ゴブタは存在値で言えば2万そこそこしかないし、強そうに見えないのは仕方ない。だが、コイツの強さは数値では測れない。実際は凄まじいセンスを持つ天才なうえ、ランガさんと融合することでヤバい力を発揮するとんでもない奴なんだけどな……。

 

「……で、ゴブタは何でここに?」

 

「どうせサボりっしょ?」

 

 辛辣なミッテルトの言葉にゴブタは目に見えて慌て始めた。

 

「や、ヤダな〜、オイラがサボったりするわけないじゃないすか」

 

 そう言いながら、ゴブタは下手くそな口笛を吹いてそっぽを向く。これはサボりだな。

 

「……あとで先生に怒られても知らないっすよ……」

 

 ミッテルトは侮蔑の念を込めてゴブタをじーっと見つめている。それに対してゴブタは凄く居心地が悪そうだ。ミッテルトとゴブタは共にハクロウさんの元で修行をした仲だからな。こういうやり取りを見ると、昔から常にサボろうとするゴブタに苦労していた様子を思い出すぜ。

 

「あ、そうだ。ゴブタ、リムルどこにいるか知ってる?」

 

 リムルのいそうな場所は結構限られてるけど、今はこちらに住んでいるわけでもないし、すれ違いになられても困る。俺はリムルの居場所をゴブタから聞いてみることにした。俺の質問にゴブタは少し考え、思い出したように答える。

 

「あ、さっき執務室に行ってたっすよ。一緒に遊ばないかと誘ったんすけど、書類仕事が多いらしくてシュナさんに連れ去られてたっす」

 

「……お前やっぱりサボリじゃねえか……まあいいや。わかった、ありがとなゴブタ」

 

 俺はゴブタからリムルの居場所を聞き、取り敢えず別れる。ゴブタは気付いてなかったけど、近くに気配を消して何かを探しているリグル隊長の気配がしたし、あのまま残ってたらかなり面倒くさい事になっていただろう。触らぬ神に祟りなしだ。

 

「じゃあ、早速執務館に向かいましょうか」

 

「ええ。よろしく頼むわ」

 

 俺の一言に皆は頷く。俺はそれを確認し、執務室に向かって歩き出した。

 

「イッセー、これ凄く美味しいぞ!」

 

「本当ね! タレが凄く甘いわ!」

 

「わぁ! このトマトジュースとっても美味しいです!」

 

 道中、美味しそうな屋台があったので、皆に買ってやるととても好評だ。この国の料理は本当に美味いからな。こうして誉められるとこっちも嬉しくなってくる。

 そこで、ルフェイがアイスを食べながら、興味深そうに屋台の調理風景を観察している様子が目に止まった。暫くそうしていると、ルフェイはポツリと呟いた。

 

「……それにしても、ここは本当に魔力に溢れていますね。先程の屋台も魔法で火を起こしてるように見えましたよ」

 

 なるほど。確かに、向こうの世界の魔法使いには興味深い光景だったかもしれないな。何しろ、向こうの世界の魔法とこちらの世界の魔法は異なる部分も多々ある。先程の屋台の人が使っていた魔法なんかも、地球の魔法体系とはまるで違うしな。

 

「まあね。一応、電気も普及してるけど、この世界は簡単な魔法を学ぶくらいならハードル低いし、魔法を使える人は結構いるんだぜ」

 

「悪魔の術式とも北欧の術式とも異なっている……自らの魔力を使っているのではなく、周囲の大気に満ちた魔力を利用しているんですね。こんな画期的な術式があるだなんて……」

 

 ルフェイとロスヴァイセさんはこちらの世界の魔法技術に興味があるみたいだな。折角だし、後で教えてみるのも面白いかもしれないな。

 

「よくわからないけど、すごいってことかしらね?」

 

 父さんと母さんは俺が渡した通貨を使って結構いろいろなものを買っている。そもそもこの人達は向こうの魔法とこちらの魔法の違いも知らないだろうから、あまり大差ないと考えてるのかもしれないな。

 

「やっぱりここの料理は美味しいな。あ、セラちゃんも食べる?」

 

「あ、ありがとうなの……」

 

 父さんは串カツを買って、セラに渡す。串カツを貰うセラは少し浮かない表情だ。やはり自分のせいで巻き込んだことを気にしているのだろうな。父さんと母さんは気にしないと言っていたけど、こればかりは仕方がないことだろう。でも────

 

「そんな顔すんなよ。セラはセラなんだからさ」

 

「……でも、またあのときと同じようなことが怒るかもしれないし、もしもアーシアお姉ちゃんの時みたいに暴走しちゃったら……」

 

「大丈夫、その時はまた俺が止めてやるよ。それに、あの時みたいなことが起きても大丈夫なように強くなればいいんだよ」

 

 セラの正体が魔神だろうが関係ない。テンペストにだって、魔神みたいなのはいくらでもいるし、何かあったら俺達が止めればいい。それを聞くと、セラは何かを決意したような面立ちになり、涙を拭う。どうやら吹っ切れたみたいだな。

 

「……私、強くなるの。お父さんとお母さんを守れるように……頑張ってみるの!」

 

「おお、頑張れ!」

 

 俺はそんなセラの姿に微笑ましく思い、そっと頭を撫でてやった。

 

「ところで目的地まではあとどれくらいなのですか?」

 

「あともう少しですよ……ん?」

 

 会長の疑問に答えながら、俺達は歩み続ける。すると、執務室の目前に見覚えのある人影を見つける。

 美しい桃色の髪に純白の二本角。絹でできているであろう美しい着物を着た可愛らしい女性が笑顔でこちらを出迎えてくれている。

 

「お久しぶりです。イッセー様、ミッテルトさん。お元気そうで何よりです」

 

「あっ! シュナ様!」

 

「シュナさん、久しぶりです」

 

 そこにいたのはテンペストの“巫女姫(かんなぎ)”シュナさんだ! ミッテルトの裁縫、料理の師匠であり、リムルの“真なる秘書”として名高い妖鬼の姫様! 相変わらず上品な佇まいと清楚かつ可憐な雰囲気が醸し出されてるぜ! 

 

「まあ、シュナちゃん! 久しぶりねえ!」

 

「お二方もお久しぶりです」

 

 シュナさんは礼儀正しく俺の父さんと母さんに挨拶をしている。それが終わると、今度は部長達の前に立ち、深々とお辞儀をした。

 

「はじめまして、異世界の皆様方。私、テンペストの“巫女姫”シュナと申します。魔王リムル様がお待ちですので、皆様の案内を責任持っていたしますね」

 

「……ああ。よろしく頼むよ」

 

 少し驚きながら答えるサーゼクスさん。サーゼクスさんはどうやらシュナさんの力を見抜いてるみたいだな。シュナさんも“守護王”に匹敵する力を持つ実力者。サーゼクスさんと戦ってもいい勝負するだろう。

 そんな存在を配下にしてるってだけでも、サーゼクスさんからすれば恐ろしく感じるのかもしれないな。

 

「では、こちらへどうぞ」

 

 シュナさんの案内の下、リムルの部屋の前にやってきた。扉は質素なものでできており、素朴な雰囲気を出している。

 

「……ここに、この世界の魔王様が」

 

「……ヤバい、緊張してきた」

 

「フッ、楽しみだな……」

 

 それぞれが期待だったり緊張したりするなか、シュナさんはノックをして扉を開ける。

 

「リムル様。お客様がお見えになりました」

 

「ああ。ご苦労様、シュナ」

 

 シュナさんがこの部屋にいる主のねぎらいの言葉に嬉しそうに頬を緩める中、皆は真っ直ぐに正面を見据えていた。

 そこには回転椅子があり、窓の隙間から差し込む陽の光を浴びながら、椅子は回転し、正面を向く。

 そこには────丸く、青いぷよぷよとした物体が鎮座してあった。

 皆があっけにとられる中、青い物体は警戒を和らげるよう、優しい声で言う。

 

「はじめまして、俺はスライムのリムル。悪いスライムじゃないよ」

 

 懐かしのネタをぶっこむリムルに対し、皆は……

 

「「「「す、スライム────────!?」」」」

 

 驚愕の叫びで答えるのだった。




今年最後の投稿です。
書き溜めするまで投稿しないつもりでしたが、折角なので完成している話を投稿しようかなと思います(と言っても二話だけなんですけど……(^_^;))。
と、いうわけで年始めにもう一話だけ投稿します。お楽しみにどうぞ


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スライム魔王と対面です

あけましておめでとうございます。
今年も帰ってきたらD×Dだった件をよろしくお願いします。


 木場side

 

 

 

 

 

 

 僕達は眼の前の存在に驚きを隠せずにいた。

 綺麗な流麗線を描く透き通った空色のそれは、まるでこの場の主のように佇み、ふんぞり返っている。

 それは可愛らしい笑顔? で僕達に言う。

 

「はじめまして、俺はスライムのリムル。悪いスライムじゃないよ」

 

 警戒を解きほぐすような、柔らかな声でそう言ったスライムを前に、僕達は唖然となり、思わず叫ぶ。

 

「「「「す、スライム────────!?」」」」

 

 驚愕したのは僕だけではないらしく、部長達や美猴、アザゼル先生も驚嘆の声を上げている。驚くのは当然だ。何せ、スライムは“使い魔の森”で幾度か見た存在だ。

 服を溶かすという性質こそ持つが、基本的には最弱とされている存在……それが魔王をやっているとなると、驚くのも無理はない。

 

「お、オイ兵藤! ほ、本当にこのスライムが魔王様なのか!?」

 

「……皆驚きすぎだろ」

 

 匙君も信じられないといった風に驚いている。それを呆れつつも嗜めるようにイッセー君が抑えるが、匙君はリムル様に指差ししながら言う。

 

「驚くに決まってるだろ!? だって、スライムなんかが……」

 

 だが、その叫びは続かなかった。匙君の叫びの中、いつの間にかリムル様の後ろに控えていた執事服の男性と角が特徴的な秘書風の女性が各々の武器を携え、匙君の首元に当てていたからだ! 

 ……全く気づかなかった。イッセー君の速度に慣れ、フェンリルのスピードにも対処できた筈の僕達が、視認することすらできなかったのだ! 

 

「貴様……リムル様に対して無礼だぞ?」

 

「クフフフフ、リムル様。この愚か者は如何様に処分……」

 

「せんで宜しい! 下がってろお前ら!」

 

 リムル様の言葉に二人は残念そうにしながら、リムル様の背後に移動する。

 リムル様は呆れた様子を見せながらも、椅子から飛び上がり、徐々に姿を変えていく。

 そこに現れたのは幼気な美少女にも見える中性的な顔立ちに、蒼銀の長髪と金色の瞳を持つ青年だった。その金色の瞳は僕達をしっかりと見据えている。

 この人は見覚えがある! 確か、授業参観の日、イッセー君の親戚と名乗っていた人だ! 

 

「では改めて、はじめましての奴もいるから自己紹介しておく。俺がジュラ・テンペスト連邦国の国王にして、八星魔王(オクタグラム)の一柱、リムル・テンペストだ」

 

 リムル様はそう言いながら、思わず見惚れてしまうほどに眩しい笑顔を振りまいた。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 イッセーside

 

 

 

 

 

「大丈夫か? 匙?」

 

「こ、殺されるかと思った……」

 

 匙は首筋を抑えながら、滝のような汗をかいている。流石にディアブロさんとシオンさんの殺意を一身に受けたんじゃあそうなるのも無理はないな。

 

「取り敢えず、この街でリムルを下に見るような言動をしたら殺されると思えよ」

 

 まあ、実際にはあの程度の言動だと、殺意をぶつけられることはあっても直接攻撃してくるやつはいないだろうけどな。即殺してくるようなのは分別のつかないディアブロさんやシオンさんくらいだと思う……多分……きっと……。

 そんな俺の反応に匙は悪いイメージでもしてしまったらしく、慌ててリムルに頭を下げる。

 

「お、おう。す、スミマセンでした。リムル様……」

 

 リムルも流石に悪いとは思ってるのだろう。こちらも慌てて匙に謝罪をしている。

 

「いや、気にしてないから! こっちこそ、和ませるつもりが怖い思いをさせてしまって悪かったな。お前等も反省しろよ」

 

「「はい……」」

 

 リムルに咎められたディアブロさんとシオンさんは二人してションボリしてる。それを見て溜息をつくシュナさん……ああ、なんかこのノリ懐かしいな。こういうのを見ると、テンペストに帰ってきたと実感するわ……。

 

「……はじめまして。異世界の魔王リムル陛下。私はサーゼクス・ルシファー、地球の魔王をしております」

 

「私はセラフォルー・レヴィアタン☆ サーゼクスちゃんと同じ魔王よ☆」

 

「ミカエル様の代理で参りました。四大セラフのガブリエルと申します」

 

「堕天使総督のアザゼルだ。よろしく頼むぜ」

 

「話はイッセーやミッテルトから聞いています。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 ミカエルという名前に少し反応しつつも、一応向こうの世界のある程度の知識は有してるリムルは柔和な表情を崩さず、挨拶をする。

 リムルの言葉にサーゼクスさんは頷き、真摯な態度で頭を下げた。いや、サーゼクスさんだけじゃなく、アザゼル先生やセラフォルーさんも同じように頭を下げている。いきなりのことでリムルも流石に困惑しているな。そんなリムルに対し、三人は感謝の言葉を述べた。

 

「まずは、感謝の意を述べたい。貴殿が援軍を送ってくれなければ、妹は間違いなく殺されていたでしょう。本当にありがとうございます」

 

「私も間違いなくツファーメに殺されていたと思うし、とても感謝してるわ」

 

「ああ。あの状況だと、俺達は十中八九全滅してただろうな。神が二柱に魔王一人、堕天使総督と幹部が死ぬとなりゃ、悪魔や堕天使も大打撃だし、北欧と日本神話に至っては立て直しが効かない状態になっていたかもしれない。そうなりゃ、他の神話との協力なんざ不可能だし、最悪神話同士の戦争が起きてたかもしれない。そんな状況を回避できたんだ。礼を言わせてほしい」

 

 三人の言葉を聞いて俺は納得する。確かに、リムルがルミナスさんにウルティマさんやカレラさん達を向こうの世界に送らなければ、あのまま全滅もあり得ただろうな。俺とセラは誘拐され、ミッテルトや部長達は全員殺されてただろう。

 そうなれば、アザゼル先生の言う結末だってあり得たかもしれない。そういう意味でも、リムルは大恩人ということになるのだろう。

 

「いえいえ、こちらこそイッセーがいろいろとお世話になっているみたいですし、礼を言わせてもらいたい。……苦労してませんか?」

 

 おいこら、リムル! なに人を危険人物扱いしてんだよ!? 心外だな! 俺は他の人たちに比べたら、だいぶまともだという自負があるんだぞ! 

 ん? なんだミッテルト? その「何言ってるんだコイツ?」的な眼は? 俺は別に問題児というほど問題児でもないし、ぶっちゃけた話、かなりまともな部類だろう? 

 

「いえいえ、とんでもない。イッセー君には妹もよく助けてもらっていますし、彼のおかげで……いえ、これは言うべきではありませんね」

 

「そうそう☆ ドライグ君がいなかったら、ソーたんも危険な目に遭ってたかもしれないし、本当に感謝してるわ☆」

 

 サーゼクスさんとセラフォルーさんの言葉に少し照れ臭い感じがするな。何を言おうとしていたのか気にはなるけど、二人して感謝されると、すごく気恥しい。

 

「まあ、あのスケベっぷりには苦労することもあるがな……」

 

 うっ、アザゼル先生の一言がかなり効く! 今この場には父さんと母さんもいるというのに遠慮なく言いやがって……。

 

「本当、ごめんなさいね。うちの息子が」

 

「こんな感じに育ってしまって誠に申し訳ない」

 

 二人とも、便乗しないでくれ! さっきとは別の意味で恥ずかしいからさ! 

 

「……では本題に入りましょうか」

 

「……ええ。その前に、ミリキャスを別室にやってもよろしいでしょうか?」

 

「ええ、もちろん。ついでに、イッセーのご両親達も案内しますよ。シュナ」

 

「はい。かしこまりました」

 

 リムルの一言でシュナさんはミリキャス達を別室に案内する。流石にまだ子どもであるミリキャスやほとんど無関係の父さん母さんを会議に参加させるわけにはいかないからな。

 ミリキャスと父さん達、あとグレイフィアさんがシュナさん主導のもと別室に行ったことを確認すると、リムルは外交向けの表情に切り替える。それを見たサーゼクスさんやアザゼル先生たちも真面目な表情になっている。

 

「……さてと、早速ですが、皆様の用件を伺いましょう。ただ、お礼を言いに来ただけとは考えづらいですからね」

 

「ああ。その通りだな。俺達は何も助けられた礼を言うためだけにわざわざ異世界に来たわけじゃない。俺達は例の“神祖”についての情報を聞きに来たんだ」

 

「ある程度構成員が把握されている“禍の団”と違い、神祖の陣営はほとんど情報がない。それはそちらも同じかもしれないが、少しでも多くの情報が欲しいからね」

 

 サーゼクスさん達が欲しいのは神祖の情報と、もう一つ。だが、いきなりそこに入る前に神祖の情報を求める辺り、神祖を警戒しているのがよく分かるな。まあ、神祖の高弟たちの力を目の当たりにすれば、無理もないのかもしれないな。

 

「神祖トワイライトの情報は、こちらの魔王間でも共有しています。取り敢えず、わかってる範囲の情報を提供しましょう」

 

 リムルから齎されたのは判明している神祖の高弟達の情報だ。彼等はそれぞれが独立して国を作ったり、神祖のサポートをしたりしていた。だからこそ、かつて一国の王だったカグチみたいに表立って有名な存在と、メロウみたいにそうでないものに分かれているらしい。なかにはルミナスさんですら、面識がない存在もいるんだとか。

 

「だけど、ルミナスやシルビアさん、“最古参の三賢人(トリニティワイズマン)”にも当たってみたところ、結構有用そうな情報が齎されたからね。まずは、それらについて話しましょう」

 

 神祖の高弟────トワイライトにより産み出されたそれぞれの種族の祖とも呼ばれる存在であり、完璧な種族を作る過程で産み落とされた超越者達。

 ジャヒルや“最古参の三賢人”みたいに神祖のことを今なお信奉するものもいれば、ルミナスさんやシルビアさんみたいに神祖に対して素っ気無い態度のものたちもいる。

 彼等は各々が国を作ったり支配したりしており、各々のやり方で神祖に貢献しようとしていたらしい。

 

「現状神祖に付いていった高弟で判明してるのは第五位カグチと第六位メロウ、第七位ドォルグの三人。でも、ルミナス達の見立てだと、残る神祖の高弟達も幾人か存在する可能性が高いらしい。取りあえずは、ドォルグについて判明している情報を共有したい」

 

 カグチとメロウは今までの戦闘で基本戦法や能力など、多くのものが判明していたからいいが、今後未知の神祖の高弟と戦うことを踏まえると、他の高弟の情報は非常に重要なものとなる。

 

「ルミナス達の話によると、ドォルグは様々な武器を創造することができるらしい。それも、“伝説級(レジェンド)”や下手したら“神話級(ゴッズ)”の武器をも自由に作ることができたそうだ」

 

「“伝説級”に“神話級”……ですか? それは一体?」

 

「武器の等級だよ。“伝説級”がデュランダルやエクスカリバー級の武器……“神話級”は禁手した“神滅具(ロンギヌス)”やコールブランド級の武器と考えればいいと思うぜ」

 

 聞き馴染みのない単語に首を傾げる木場に答える。すると、この場にいる皆が目を丸くして驚愕の表情を浮かべた。

 

「オイオイ、それ程の武器作りたい放題とか……どんなチートだよ?」

 

「別に驚くことじゃないですよ。テンペストにはそれらの武器を鍛える事ができる鍛冶師がいますし、何より俺はそんな感じの究極能力の使い手と戦ったことがあります」

 

「天魔大戦で現れたって奴っすね。確か、イッセーが倒したっていう……」

 

「……オルリア……死んだ後も結構面倒臭い奴だったよ」

 

 “妖天”の一人にして、俺が究極能力に覚醒するキッカケを作った女だな。天魔大戦で戦ったオルリアは、神話級の武器を好きなだけ作ることができる究極能力“武創之王(マルチウェポン)”の使い手だった。奴の武器や防具はあいつが死んだ後もちょくちょく見かけたし、本来なら前線に出すべき奴じゃなかったように見受けられる。ぶっちゃけ、最期には同情したけど、天魔大戦の序盤の方で倒せてよかった敵筆頭かもしれないな。正直、ヴェガがあの能力を使いこなせてたらって思うとゾッとするわ。

 

「つまり、そのドォルグって奴もオルリアと同じタイプの究極能力の使い手ってことか?」

 

「確証はないけど、可能性は高そうだな。実際、“最古の三賢人”の武器とか、シルビアさんの“金剛杵(ヴァジュラ)”なんかはドォルグが作ったやつみたいだしな」

 

 ちなみにルミナスさんの武器は自らの力で“神話級”にまで高めたものであり、基本的には神祖やドォルグ作のものではないのだという。他にも、エルメシアさんの“円月輪刃(チャクラム)”にガゼル王の長剣……驚くべきことに、レオンさんの“聖炎細剣(フレイムピラー)”も元を辿ればドォルグの作品なのだという。

 

「……“聖炎細剣”とか俺の鎧を豆腐みたいにぶった斬るとんでもない武器だぞ? それもドォルグの作品なのかよ……」

 

「まあ、それはレオンの技量もあるだろうけど、とんでもない事に違いはない。なんていうか、戦闘もできるクロベエってところかな?」

 

 戦闘もできるクロベエさん……なるほど、言い得て妙だ。ドォルグも覚醒してるだろうし、以前見た存在感は途轍もないものだった。流石にカグチ程ではないにしても、メロウと同格以上と見て間違いないだろう。

 

「他の高弟に関しても、能力がわかっている者たちに関してはこの資料に記してあるので、よろしければどうぞ」

 

「感謝します」

 

 リムルの指示により配られた資料に目を通す。

 ……ふむ、どいつもこいつも厄介そうな奴ばかりだな。流石は、ルミナスさんの兄弟弟子といったところか。しかも、これは数万年前の段階の記録だ。実際には当てにならない可能性もあるし、全く未知の方向性の進化や究極能力を得ている可能性もある。だが、それでも有用なことに変わりはない。資料を受け取ったサーゼクスさん達は改めてリムルに礼を言った。

 

「何から何まで感謝します」

 

「いえいえ、これくらいなら何でもありませんよ。……では、もう一つのほうの議題に移りましょうか?」

 

「ええ」

 

 もう一つの議題。それに関してピンときてない部長達を尻目に俺は飲み物を飲みほして言葉を待つ。

 

「では、言わせてもらいます。我々“三大勢力”は、貴方方異世界の存在と正式な同盟を結びたいと考えています」

 

「ほう?」

 

 その言葉に部長達は息を呑む。部長は瞠目し、恐る恐るといった感じで口を開く。

 

「よ、よろしいのですか? いくらなんでも、ほとんど互いの事をわかっていない現状で、いきなり同盟樹立は尚早なのでは……」

 

 部長の懸念も最もだ。何せ、テンペストは部長達からすれば新たに現れた新勢力。

 

「わかってるさ。だが、現状神祖と“禍の団”の二つの陣営と同時に事を構えるには、俺達だけでは力不足感が否めないんだよ」

 

 正直、“禍の団”だけならば三大勢力と一部の神話勢力だけでも対処可能だろう。唯一脅威となるのはオーフィスくらいだろうけど、全勢力を集結させれば倒すことは難しくても、案外封印位はできるんじゃないかと思う。師匠だって封印されてたわけだしな。

 だが、神祖は別だ。正直、オーフィスとは強さの桁が違う。地球最強の存在であるオーフィスとグレートレッドも始原級の存在値はあるが、戦闘技術が高いようには見えなかったからな。竜種級の力を持ち、なおかつヴェルグリンドさんですら警戒する程の実力を持つ神祖が相手だと、仮に地球の全勢力を集結させても勝てるかわからない。それに加え、神祖には強力な高弟(配下)が複数存在している。だからこそ、リムルの協力が必要不可欠なのだ。

 

「もちろん、タダでとは言いません。こちらからは、地球の魔法技術を提供しましょう」

 

「もしかしたら、他の神話勢力ともお話することもあるかもしれないし、その時は私達が橋渡しを約束するわ☆」

 

「それは心強い。こちらもできうる限りの支援はしますよ」

 

 リムルの奴……心無しか少しワクワクしていそうだな。リムルはミッテルトの視界を通して色々と見ていたらしいし、地球の勢力に関しても以前から気になっている感じだったしな。三大勢力との協力はリムルにとっても有益なことなのかもしれないな。

 

「では、こちらも……我々テンペストは貴方方三大勢力と正式に同盟を締結したいと考えます。これからよろしくお願いします」

 

 テンペストとの同盟樹立……それはすなわち、“基軸世界”全体と同盟を組むことができたといっても過言ではない。三大勢力の和平もそうだけど、すごい時代に立ち会っているのを改めて実感するな。それは、他の皆も同じらしく、この和平の瞬間をみんなは共に瞼に焼き付けるのだった。

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「……リムル。俺からも一ついいか?」

 

「何だ? イッセー?」

 

 会議も大詰め。三大勢力とテンペストの和平条約の摺り合わせも大方片付いたタイミングを見計らい、俺はリムルに嘆願をする。

 

「聞いてるとは思うけど、父さんと母さんの件だ。今回、神祖の策謀に二人が巻き込まれちまった。トーカ達を信用してないわけじゃないけど、今後似たようなことがあれば、現状アイツラには厳しいと思うんだ」

 

「……なるほど。つまり、お前の両親を守れる護衛が欲しいと……」

 

 トーカ達の実力を疑っているわけではない。実際、トーカは格上三人を相手に大立ち回りを演じ、時間稼ぎには成功してる。

 仮にトーカがいなければ、父さん母さんは別の場所に移動させられてた可能性もある。そうなれば追跡は困難だっただろう。実際、ウルティマさん達の話によると、ツファーメ配下の悪魔達は転移魔法陣を構築し、どこかに跳ぼうとしてたという話だ。

 トーカが稼いだ時間がなければ、ウルティマさん達は間に合わなかった可能性もあったんだ。本当に感謝してもしきれねえ。

 でも、今後似たようなことがあれば、次はどうなるかわからない。だからこそ、手練れ……少なくとも、“超級覚醒者(ミリオンクラス)”の使い手を連れてきてほしいんだ。

 

「うちからもお願いするっす! うちの両親が冥界にいて、うちが一緒に入れない以上、イッセーの両親以上に危険かもなんす!」

 

 ミッテルトの言葉を聞き入れ、リムルは暫し考え、やがて……。

 

「来てくれ、モス。ソウエイ」

 

 リムルの号令とともに、モスさんとソウエイが突如として部屋に現れる。相変わらず、気配すら感じなかったぜ。皆も目茶苦茶驚いてるし、初めてだとびっくりするよな。

 

「モス。お前は堕天使領に行き、ミッテルトの両親の護衛及び諜報を命じる。アザゼル殿の元で神祖の情報を集めろ。ソウエイはトーカ達と共にイッセーのご両親の護衛と監視を命ずる。二人共、何かあれば直ぐに俺に連絡するようにしろよ」

 

「御意」

 

「仰せのままに」

 

 ソウエイさんとモスさんは一言言うと、即座に姿を消した。多分、転移門に向かったのだろう。相変わらず仕事が早い人達だ。

 あの人達なら今まで以上に安心だ。何せ、片や究極能力保持者に片や原初やベレッタさんを除けば最強の悪魔! どちらもメロウが相手でも引けを取らない実力者だ! 

 

「ありがとな、リムル。あの二人なら安心だぜ」

 

「本当にありがとうっす! リムル様!」

 

「礼ならあの二人に言えよ。後々、向こうに送れそうな奴が他にもいないか考えとくよ」

 

 取り敢えず、これで両親の安全面は大丈夫だろう。ソウエイさんとモスさん以外にも送ってくれるって言うし、安心できそうだ。

 サーゼクスさん達上層部の方々はもう少し話すらしいので、俺やオカルト研究部の面々は一足先に部屋をあとにすることとなった。此処から先は、悪魔や天使のシークレットな情報なども含まれるみたいだしな。

 

「あ、そうそう。イッセーに客が来てるから、待たせないようにな」

 

「ん? 俺に客?」

 

「ああ。別室に待たせてるから、失礼のないように……。あと、たまには学校の方にも顔を出してやれよ。()()()()達もお前に会いたがってるんだから」

 

「応、後で見に行くよ」

 

 学校か……皆元気にしてるかな? 皆も紹介したいし、あとで行くとするか……。

 それはそうと、客って? 俺指名とは珍しい。客というからにはテンペスト(身内)ではないだろう。誰だ? そう思いながら、俺はまだ会議を続けるらしいサーゼクスさん達に一礼して、隣の部屋へと移動する。

 部屋に近づいた瞬間! 放たれた微弱な気配に俺は背筋を凍らせた! こ、この気配は! 

 

「なに突っ立ってるんだよ。とっとと入って来いよ」

 

 俺は部屋から突如として放たれた声に思わず白目を剥く! 部屋から出てきた部長達も俺の異常に気づいたらしく、怪訝そうに俺の元へと集まる。

 

「どうしたの? イッセー?」

 

「……ああ、この気配は……」

 

「……俺、生きて帰れるかな?」

 

 不思議そうにしている部長に何かを察したミッテルト。俺は皆を尻目に覚悟を決めて、部屋の中に入る。

 

「よう、イッセー。久しぶりだな」

 

「ふふふ、お久しぶりですわね」

 

 そこには二人の男女が座っていた。一人は長い白髪と深海色の瞳の少女! 柔和ながらも凍てつくような冷たい気配を醸し出しながら、じっと俺を見つめている! もう一人は長身痩躯、赤い髪と真紅の瞳の妖艶な美貌を持つ男性! 笑みを浮かべながら、俺達を興味深そうに観察している! こ、この人たちは!? 

 

「ひ、久しぶりですね。ギィさんにヴェルザードさん……」

 

 “最凶”の魔王に“最強”の白竜。二人の超越者が静かに、だが確かにその豪華な長椅子に座り、じっと俺たちを見つめているのだった!

 



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赤から青への罰です

おまたせしました


イッセーside

 

 

 

 

 

「ギィだって!?」

 

「ということは、この人がイッセー君に力を与えた……」

 

「……はい。この人が、原初の赤にして、この世界で最初に魔王を名乗った最も古き魔王……“暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)”ギィ・クリムゾン。リムルと同等の力を持つ“最凶”の魔王です」

 

 俺の言葉にみんなは驚愕の視線をギィさんに向ける。自分たちの大本となった原初にして最古の魔王……皆からすれば、畏怖の対象になるのだろうな。

 

「あらあら、イッセーさん。私の紹介はしないのかしら?」

 

 そう言いながら、ヴェルザードさんは優しそうな笑みを浮かべて訪ねてきた。だが、その笑顔が逆に怖い! 俺は慌てて皆に紹介をする。

 

「で、この人はヴェルザードさん。俺の師匠のお姉さんにして、“創造神”ヴェルダナーヴァの妹さん。ありとあらゆる全世界における最強の白き竜……“白氷竜”と呼ばれる最強のドラゴンの一人です」

 

「最強の……白き竜……だって?」

 

 俺の言葉に思わずと言った感じに目を見開くヴァーリ。そんなヴァーリに対して、ヴェルザードさんは温和な態度を崩さずににこやかとしている。

 そんな二人を意に介さず、ギィさんは俺のことをしっかりと見据えている。これは……

 

「聞いたぜイッセー。お前、俺の力を使ったらしいな?」

 

 やっぱりそれですよねぇ! ギィさんから、無様さらしたら許さん的な感じのお言葉をもらったと言うのに、思い切り無様晒しましたもんねぇ! 俺、生きていけるのかな……? そんなことを考えてるのを察したのか、ギィさんは呆れながらも呟いた。

 

「別に怒ってるわけじゃねえよ。仮に俺の力を使っておいて何一つ成せずに戦闘で負けるなんて無様晒したんなら魂ごと焼却するが……感じた限りだと、そういうわけでもねえだろ」

 

 どうやらギィさんは世界や時間が違っていても、俺がこの力を発動したということをなんとなく察することができていたみたいだ。まあ、エスプリの“見識者”もユニークながら、世界や時間軸をも超越する力を持っているし、ギィさんならば不思議でもなんでもないか。

 

「……それでも、使い所を誤り、敗北を招いたのは違いないですよ」

 

 あの時に増援が来る可能性があるというのは予見できたこと。なにせ、相手の勢力の全体図もわからないのだ。あれが残存する全ての戦力なわけがないんだ。わかっていたからといって防げるものでもないけど、そんな状況下で俺は頭に血が上って何も考えずにあの力を発動させた。その点は反省すべきものだ。

 そんな俺の謝罪に対し、ギィさんは不敵な笑みを浮かべ、威圧感を霧散させる。

 

「そう警戒するな。お前のそういう潔い所、嫌いじゃあないぜ」

 

 ギィさんはどうやら俺を処罰するつもりで呼んだわけじゃあなさそうだな。少し安心したぜ。

 

「……それに比べてうちのぼんくらときたら」

 

 ん? そう言いながら、ギィさんは斜め下の方向へと目線を向ける。俺もつられると、そこには“原初の緑”のミザリーさん。なんだか少し呆れている感じの表情だな。そして、目線をさらに地面のほうに向けると……

 

「うぅ……なんでこの私がこんな目に……」

 

「あ、青原さん!?」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「……」

 

 そこにいたのは“青原雨葵”というメチャクチャわかりやすい……もはや隠す気ないだろと突っ込みたくなるような偽名を名乗っていた“原初の青”ことレインさんだった。

 レインさんは大粒の涙を流しながら、大理石の床の上を正座している。何をした罰なのかは聞くまでもない。間違いなく、メイド業をサボって異世界で遊び惚けていたことに対する罰ですね。ハイ。

 

「……なるほど、お前らが異世界の悪魔ってやつか。おい、近寄るなお前ら。それはそいつの自業自得なんだからな」

 

 ギィさんは今気づいたとでも言わんばかりに部長達に釘を刺す。それを聞いた部長達は冷や汗を流し、顔を青くしながら足を止める。

 皆成長したな。ギィさんは()()()相手を篩にかける。一見すると、今のギィさんは“魔王種”程度の力しか放っていない。今まで数多の猛者たちと出会い、生死をかけた死闘を潜り抜けてきた部長たちも今更この程度の魔素量(エネルギー)にビビったりはしないだろう。ギィさんは自らの力を隠蔽し、あえて魔王種程度の威圧感を放っているのだ。

 この程度の実力にビビるようであれば、そもそも相手にする価値がない。重要なのは、ギィさんの隠蔽をかいくぐり、この人の真の力を一端でも感じ取れるかどうかだ。そして、その観点でいえば、部長たちはギィさんの力を見抜いたことになる。

 底がまるで見えない圧倒的かつ暴力的なまでの闇の力の一端を。だが、これは驚くべきことだ。ギィさんのこの隠蔽はかなり緩いとはいえ、解析特化のユニークスキルでも持っていない限り、現時点の部長たちが見抜けるものではないと思っていたんだが……それだけ、部長たちの察知能力が高まっている証だ。感心感心。

 

「ほう? 意外にやるものだな。だが、今こいつに手出しすることは許さんぞ」

 

「……は、はい。わかりました」

 

 本能的にギィさんに逆らってはいけないとわかっているからこそ、部長は何も言えない。ただただ可哀そうな眼でレインさんを眺めているだけだ。

 そんな中、レインさんは何やら俺に目配せをしてきた。なんだ? と一瞬思ったが、冷静に考えれば俺はレインさんととある契約をしてるんだった! 今、魂になにやら束縛的なものを感じたから思い出したぞ!

 ……深呼吸して覚悟を決める。仕方がない。ぶっちゃけ滅茶苦茶怖えけど、全てはおっぱいのため! やるしかねえぇぇぇぇぇぇ! 

 

「ま、まあ落ち着いてくださいよギィさん」

 

「あん?」

 

「レインさんも反省してるみたいですし、ここいらで許してあげてもいいんじゃないですか? 見た感じ、もうかなりの時間正座させているでしょう?」

 

「流石イッセーさん! いいことを言いますね! やはり持つべきものは都合のいい身代わり(愛弟子)ですね!」

 

 レインさんは目をウルウルさせながら、感謝感激といった様相で俺を見ている。正座しながら。

 

「……これが、原初の悪魔だというのか?」

 

 ヴァーリももはや、レインさんのことをこれ呼ばわりだ。それでいいのか“原初の青”。だが、ギィさんは何やら怪訝そうな顔で俺の顔をじーっと見ている。その瞳には呆れや驚嘆、いろいろな感情が込められているようだ。

 

「……怪しいな。おい、ミッテルト」

 

「あ、はい。イッセーはレインさんのおっぱいと引き換えにギィ様に怒られたレインさんを助けるという契約を結んだんすよ」

 

「「ちょっと、ミッテルトさん!?」」

 

 まさかの裏切りに俺とレインさんは口を揃えて叫ぶ。オイオイ、やめてくれ! これがバレたらギィさん絶対にレインさんを許そうとしないし、俺としても命を懸けた甲斐がなくなってしまう!

 

「なるほどな。お前らしいといえばお前らしい」

 

 ギィさんは呆れながらも何やら思案する。すると、なにかを思いついたらしく、あっさりとレインさんを開放した。

 

「俺はお前を気に入っている。そのお前の頼みというのであれば、レインの咎を許してやろう」

 

 この発言には流石のレインさんも目が点になるくらい驚いている。しかし、やがてニヒルな笑みを浮かべ、すくっと立ち上がった。

 

「ふう、流石に十時間以上ずっと正座させられるのはキツかったですね」

 

 レインさんは本業のメイド業に戻ろうと、そそくさミザリーさんの隣に立とうとする。しかし、ギィさんはそれを許さなかった。

 

「待てよレイン。どこに行くんだ?」

 

「? 何を言うんですか、ギィ様。私は貴方様のメイドとしての責務を全う……」

 

「その前にやることあるだろ?」

 

「やること?」

 

 ギィさんはいい悪戯を思いついたといった感じの不敵な笑みでレインさんを見ている。対してレインさんは何やら嫌な悪寒を感じているらしく、冷や汗をかいているようだ。

 

「俺はな、イッセーに免じて許すと言ったんだ。ならば、悪魔として“契約”は遵守するべきじゃないのか?」

 

 ギィさんのその言葉にレインさんは顔を青くする。しかし、ハッと何かを思い出すと、やれやれと言ったふうに異空間から何かを取り出した。

 

「やれやれ、仕方がありません。ハイ、これを揉ませてやりましょう」

 

 そう言って彼女が取り出したのは、肌色のボールだった。持ってみると、何やらふにふにしててとても柔らかい。何だこれ?

 

「これは私の乳の弾力を再現したもの……私の断片を使っているため、これも立派に私の乳と言ってもいいでしょう。好きなだけ揉んでくださいな」

 

「……」

 

 こ、この人……こんなもので俺の魂を束縛しやがったのか!? た、確かに柔らかくて目茶苦茶気持ちいいけど、これがおっぱいかと言われるとなんか違う! 

 

「さあ、これで万事解決……」

 

「んなわけねえだろ」

 

 そこでギィさんが笑みを浮かべながら、丸いボールを一瞬のうちに焼却する。手のひらで蒸発したにもかかわらず、一切の熱を感じない絶技に驚きながらも、俺はギィさんへと視線をむける。

 

「こいつは“契約”なんだろう? ならば、悪魔らしく筋は通すべきだぜ」

 

「……えっと、マジで?」

 

 レインさんは冷や汗描きながら、顔を赤くする。ギィさんはそれにかまわず、指をスナップさせると、最上位拘束魔法を発動させ、レインさんの四肢を拘束した。レインさんは慌てて脱出しようとするが、ギィさんの拘束だ。簡単には抜けられそうにない。

 

「な、何をなさるのですか! ギィ様!?」

 

「よし、イッセー。今がチャンスだ。思う存分揉みしだくがいいぜ」

 

 そうか。ギィさんやはりレインさんの事を許してはいないのだ。多分、正座よりも衆人環視の中で胸を揉まれることで生まれる羞恥のほうがより罰になると判断しての事なのだろう。現にレインさんはメチャクチャ抵抗している。

 

「ギィ様。いくらなんでも、それはやりすぎなのでは?」

 

「そ、そうよ。なんだか少し可哀そうになってきたわ」

 

 流石に見てられないと感じたのか、ミザリーさんとイリナが抗議の声を出す。特にミザリーさんはレインさんのことを妹のように思っているからな。止めようとするのも無理はないな。

 あと、イリナが抗議するのは少し意外に感じた。悪魔の皆は原初の惨状にどう反応していいかわからない中、天使のイリナは怖がりながらも抗議するあたり、すごいと思う。

 だが、その程度の講義でギィさんは止まらない。

 

「駄目だ。流石に今回はやりすぎだ。少しお灸をすえてやらないと、こいつは何度でもやるぞ。それに、ミザリーはともかく部外者が口をはさむなよ」

 

 ギィさん相当苦労してそうだな。今回ばかりはさすがに看過できないってことか。まあ、無許可で異世界行の転移門を使用し、何日も遊び惚けていたわけだし、無理もないか……。

 

「ちょっと! そこで諦めないでよミザリー! もっと頑張って私を助けて! 向こうの悪魔の皆様も! 私常連なんだから、頑張ってよ!」

 

「そうは言われましても……」

 

 部長達も流石に困惑気味だ。常連かつ命の恩人ではあるものの、この状況下でどうすればいいのか悩んでる様子。なにせ、相手は異界の魔王。下手に動けば外交問題にまで発展する可能性まである。だからこそ、部長達は口出しできないのだ。

 味方がいないと悟ったレインさんは顔を真っ赤に染め上げながらもふっきったのか叫びだす。

 

「くっ、し、仕方がありませんねぇ! ええ、わかりましたよ! 私に二言はありません! さあ、揉むなら揉みなさいっ!!」

 

 ……脳が追いついてきたぞ。え? 本当に揉んでいいの? レインさんの性格をよく知ってる俺はどうせのらりくらりとはぐらかされるんだろうなと諦めていたんだが……え? マジで!? やべえ、テンション上がってきた! あの原初の悪魔、レインさんのおっぱい! その形状はもはや芸術品と呼べるほどの形に大きさを持つ至高のおっぱいだ! やべえ、鼻血が出てきた……。

 というか、ミッテルトは……予想外の展開に白眼向いてる!? し、しかし、これはチャンスだ! この機を逃せば、原初のおっぱいなんて金輪際体験できないかもしれない!

 

「で、では……」

 

「ええ! さあどうぞお構いなく!」

 

 俺は思い切ってレインさんのおっぱいに手を出した!

 

 むにゅん。むにゅむにゅぅぅぅぅ。

 

「……んっ」

 

 俺の指の動きとともに、レインさんはわずかに声を漏らす。

 弾力性! 柔らかさ! 質感! どれをとっても一級品だ! やばい、なんか涙が出そうなほど心地いい! これが原初のおっぱい! 惜しむらくは布越しであるという点だ! というか、布越しでこれって、実際に触れたらどれほどの……。

 

「そ、それ以上は駄目っす!」

 

 バシィィィィィンッ!

 

「ふげぇ!?」

 

 ミッテルトは久々に木刀を取り出すと、容赦なく俺の頬をひっぱたきやがった! 

 吹き飛ばされた俺はそのままミザリーさんの元へと飛んでいく! よ、避けてくださいと思ったのも束の間。ミザリーさんは拳に高密度な魔力を集中させ……。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 ドゴォォォォォォンッ!

 

「ぐはっ!?」

 

「イッセーさん!」

 

 思いきり俺を床に殴りつけた! 痛ってえぇぇぇぇぇっ! 今のかなりマジな奴だった! 下手したら死んでてもおかしくないレベルだった! アーシアは慌てて俺に駆け寄り、俺の傷を癒し始める。

 やばい、メチャクチャ痛い。これ、痛覚を情報として叩き込んでるな! それもすさまじい精度で! アーシアの回復で傷事態は治っているけど、痛みが全然引く気配がねえええええ! 

 

「ぐすっ、汚されちゃいましたぁ」

 

「大丈夫ですか、レイン? とりあえず報復はしましたけど……」

 

「ハハハッ!」

 

 ああ、ミザリーさんはレインさんを妹のように可愛がっているからな。いや、気付いてはいたんだよ。揉めば揉むほどミッテルトとミザリーさんの眼が凄まじいことになってるの。

 でもさ、仕方ないじゃん! あのレインさんのおっぱい! 一度揉み始めれば、止めることなんか不可能なんだよ! ギィさんは大爆笑してるし収拾つかねえよ! 

 

「あー、笑った。やっぱりお前は面白えわ。レインにもいい薬になっただろう。お前達もレインが迷惑かけたな」

 

 ギィさんは部長達にそう言いながらワインを飲み干す。その言葉に対して、部長達は慌てて言葉を返す。

 

「いえいえ、青原……じゃなくて、レイン様には色々と貴重なものを仕入れさせてもらったりと、お世話になっております」

 

 貴重なもの……主に玩具とかプラモ関連だけどな。まあ、結構な金になってるみたいだし、部長達には迷惑なことはあまりないんだよな。

 

「全く、レインちゃんにも困ったものね」

 

 ヴェルザードさんはお菓子を食べながら笑みを浮かべる。一口お菓子を口に入れ、茶を飲み干した後に、彼女は視線をヴァーリの方向に向ける。

 

「……ところで、先程から私を見ているけど、何か御用なのかしら?」

 

 ヴァーリの奴。やっぱりヴェルザードさんに興味津々みたいだな。先程から茶番劇には目もくれず、ずっとヴェルザードさんを見ながら獰猛な笑みを浮かべている。

 暫し二人の視線が交差する。やがて、ヴァーリは瞠目し、口を開いた。

 

「……なるほど。これが最強の白き竜……か。オーフィスやグレートレッドともまるで違う。そもそも戦いになるイメージがまるで沸かないな」

 

 そりゃそうだ。そもそも向こうの世界にヴェルザードさん相手と戦いが成立する存在がいるのかどうかの時点で疑問だ。ヴェルザードさんと戦える相手なんて、それこそ八星魔王か竜種くらいなものだろ。もしくは原初とゼギオンさん? 少なくとも、俺が知る限りでは向こうの世界にヴェルザードさんと戦いを成立させられる存在はいないと思うし。

 

「……だが、それでも俺は挑戦してみたい。最強の白き竜の力を肌で感じてみたい」

 

「あら? じゃあ、後で少し手合わせしてみるかしら?」

 

 その言葉にヴァーリは獰猛な笑みを浮かべながら、頷いた。

 オイオイ。何考えてんだコイツ? 

 

「ヴァーリがそういうのなら、私も付き合いましょう」

 

「最強の白き竜……どれほどのものか気になるぜぃ」

 

「フフフ、何人でもいいわ。相手になってあげましょう」

 

 アーサーと美猴もヴァーリに続き、ヴェルザードさんと手合わせ宣言を行う。対してヴェルザードさんは特に気にもせず、余裕の表情……いや、当たり前だけどさ。

 それを見て思った。馬鹿じゃないのコイツラ? いや、マジで。まあ、気にするだけ馬鹿馬鹿しいか。

 俺は好戦的な三馬鹿(ヴァーリチーム)に呆れながら、“痛み”の情報の遮断を試みるのだった。




まだ章終わりまで書けてないけど、ある程度書き溜めできたので、再開します。
取り敢えず、週1投稿


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イッセーの教え子たちです





 イッセーside

 

 

 

 

 

 ヴァーリ達がヴェルザードさんとともに(恐らく)迷宮に向かった後、俺達はギィさんと別れ、魔国の案内を行っていた。

 正直な話、よくヴェルザードさんに喧嘩売ろうとか考えたよな。アイツ。根性があるというか、馬鹿というか……。

 

「イッセー兄様。僕達はどこへ向かっているんですか?」

 

「それは、ついてからのお楽しみだな」

 

「イッセー君の以前の職場と聞いたけど、楽しみだな」

 

 というわけで俺は今、会議を終えたサーゼクスさんやミリキャス達と合流し、皆を以前働いていた職場の一つに案内しようとしていた。

 本当はヴァーリ達と一緒に迷宮に行ってもよかったんだけど、リムルにも言われたし、俺の教え子たちを紹介するのも面白そう……というのは建前で、ぶっちゃけるとヴェルザードさんと一緒に迷宮とか行きたくないだけなんだけどな……。

 

(あの人、俺がギィさんの力を持つのを快く思ってない節があるからな……)

 

 だからか知らないけど、結構な頻度でボコられるんだよな……。覇龍を使ったところで簡単に氷漬けにされて砕かれるし、本当あの人理不尽。まあ、今回はヴァーリ達が身代わりになってくれて助かったぜ。せめてアイツラの冥福を祈ろう。

 

「おっと、そろそろ見えてくるかな?」

 

 俺が指を指すと、そこは巨大な門だった。その向こう側には一際大きな建築物があり、その中には赤と青の制服に身を包んだ少年少女たちが思い思いの時間を過ごしている。丁度休み時間っぽいな。

 

「あん? なんだあれ? 学校か?」

 

「学校……ですか?」

 

 アザゼル先生の言葉にソーナ会長が反応する。やはり、ソーナ会長と匙にこの光景を見せるのは都合がよかったな。何せ、この光景は日本以上にソーナ会長の理想そのものなのだから。

 

「ええ。此処がテンペストの誇る世界三大学園の一つ……“テンペスト人材育成学園”です」

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 リアスside

 

 

 

 

 

「凄いところね」

 

「色々な種族の子ども達がたくさんいるわね☆」

 

 私は思わずそう呟きながら、周囲の光景を見回した。人間と異形のモノが外見の差など些末なことだと言わんばかりに共に遊んだり、食事を食べたりしている。向こうの世界ではあまり考えられない光景ね。

 もちろん、同じ学園の魔物使いである清芽さんのように、人外と仲の良い関係を築く存在がいないわけではない。

 それでも、それを至極当たり前のことのように周囲一帯で行っている場所があるだなんて、少し信じられないわね。セラフォルー様もこの光景を興味深そうに眺めている。

 

「イッセーはココで何をしていたのかしら?」

 

 ここで働いていたというイッセーは何をしていたのかしら? 警備員の仕事でもしていたのかもしれない。そう考えていると、予想外の答えが帰ってきた。

 

「俺はここで教師をしていたんですよ」

 

「先生ですか! 凄いですね!」

 

「お前が教師!? なんか似合わねえな」

 

 その言葉に思わず私達は歩みを止める。ミリキャスやアザゼル先生達は素直に驚いているけど、私達はそれ以上の衝撃を受けていた。

 教師……あのイッセーが……。す、凄い! じゃ、じゃあ、これからイッセー先生に個別で勉強とか色々なことを教えてもらうなんてこともできるわけで……。

 

「イッセー君が教師……とても驚きましたわ。でも、それなら丁度いいですわ。ねえ、イッセー君。今後、私に二人きりでお勉強を教えてくれないかしら?」

 

「ちょっ、あ、朱乃さん!?」

 

 なっ!? 真っ先に我に帰った朱乃は猫撫で声でイッセーに擦り寄ってきた! ず、ズルいわ! わ、私だってイッセーに勉強を教えてほしいのにぃ! 

 

「ちょっと! 抜け駆けは良くないわよ朱乃! わ、私だってイッセーと一緒に勉強がしたいんだから!」

 

 私はイッセーの片腕を引っ張り、朱乃に向かって叫ぶ! 

 しかし、朱乃は全く動じずに余裕の笑みでイッセーの片腕に抱きつく。

 

「あら? 確か、リアスは前回の期末では全教科満点……教えて貰う必要なんてないのではなくて? ねえ、イッセー君。私、前回の期末……数学で少し躓いてしまいまして、よろしければ復習がてら、一緒に勉強会を開きましょう?」

 

「たった一問、しかもただの計算間違いじゃないの! そんなの次気をつければ朱乃なら簡単に満点取れるでしょう! そもそも、その前の中間では貴女は満点で、私のほうが低かったでしょ! お互い様よ!」

 

「何よ! そんなの英文のたった一単語のスペルミスじゃない! その程度の間違い、暗記すれば事足りるでしょう! とにかく、私がイッセー君と一緒に二人きりで勉強会をするの!」

 

「いやよ! 私がするのよ!」

 

 徐々に論争はヒートアップしていき、私はイッセーから離れて滅びの魔力を……朱乃は雷光を身体から出しながら互いに互いを牽制し合う。

 そこに、小猫やアーシア、ゼノヴィア達がするりとイッセーの元に赴き、モジモジしながらイッセーに言う。

 

「実は……私も少し苦手な教科があって……先輩に教えてほしい……です」

 

「私もアーシアも国語がまだ不完全では、頼んでいいか?」

 

「是非ともイッセーさんに教えてほしいです」

 

「ちょ、ちょっと待てって……」

 

 ここで小猫にゼノヴィア、アーシアまでもがイッセーに勉強を教えてほしいと頼み込んできた! くっ! ズルいズルい! 私だってイッセーに教えてほしいんだから! 

 

「よかった〜! この間のテスト、あまり良くない点数だったからどうしようと思っていたのよ。持つべきものは幼馴染ね!」

 

 結局、暇な時間にイッセーを講師とした勉強会を開くということでこの話は落ち着いた。本当は二人きりで勉強会をしたかったのに……。

 

「……何やってるんすか?」

 

「ハハ、大人気だね。イッセー君」

 

 ミッテルトはジト目で私達に視線を向ける。裕斗はイッセーを慰めているみたいね。イッセーは何やら複雑そうだけど……。

 ふと、ソーナの方を見ると、興味深そうに周囲の景色を観察している。やがて、ソーナと匙君はイッセーの元へも近づいていく。

 

「……まさか、兵藤君が教員経験者とは思いませんでした」

 

「俺も……いや、なんか子ども達を教えていた的なことは言ってたけど、まさかマジの教師だったとは……」

 

 ソーナと匙君は驚きの声でそう言った。まあ、私もイッセーが教師やってたなんて予想もしていなかった。でも、思い返してみると、イッセーは何かを教えるのがとても上手い。

 戦闘訓練では、私達に不足しているものを的確に挙げて指導していたけど、今思えばそれはここでの経験から来ていたのかもしれないわね。

 

「まあな。匙と会長を連れてきたのはさ、此処が二人の建てる学校の何かしらのヒントになればと思ったからなんだ」

 

「……そうですね。多種族共生国家の学校……確かに、学べることもありそうです」

 

「そ、そうですね。俺も、何かしら参考にできることがないか考えます!」

 

 ソーナも匙君も気合十分といった感じで学園の見学をはじめる。

 確かに、あらゆる種族が共に学ぶこの学校は、言い換えればどのような身分でも学ぶことができる学校という、ソーナにとってはある意味夢の完成形ともいえる場所。ソーナ達も気合が入るのは無理ないわね。

 

(……そうね。私も強くなるためにわざわざ異世界に来たのだから。こっちも気合をいれないとね)

 

 でも、どうして私達まで学校に連れてきたのかしら? 学校の見学だけが目的なら、私達まで付いてくる必要はなかった気が……。

 

「あっ、ティス先生」

 

「あ、これはイッセー先生。ご無沙汰しております」

 

 私が考え事をしていると、イッセーは誰かを見つけたらしく、近づいて話しかけた。

 どうやらイッセーの友人みたいね。ティス先生と呼ばれた先生は挨拶をし、イッセーと楽しそうに談笑を始めた。

 

「お変わりなさそうで何よりです」

 

「いえいえ。ところでイッセー先生は何用で?」

 

「ちょっと、俺の生徒達を紹介しようかなって思いまして……あっ、紹介します。故郷での俺の友人です」

 

「初めまして、ティスと申します。普段は“イングラシア総合学園”で教師をしています」

 

「リアス・グレモリーです。よろしくお願いします」

 

 ティスさんは普段は別の学校で教師をしており、こちらと向こうを行ったり来たりしているとのこと。イッセーとは教員時代の前から付き合いがあったのだという。

 

「イッセーが教師になる前から……ですか?」

 

「はい。当時、私の受け持ちだった生徒達がイッセー先生のことをとても慕っていましてね……」

 

「元を辿ればそれが原因でリムルに教師やらされる羽目になったんだよな……」

 

 そう言いながらも、イッセーは感慨深く思っている様子ね。

 それにしても、気になるのはイッセーの生徒ね。いったい、どんな子達なのかしら? 

 

「……ねえ、イッセー君。イッセー君の生徒達ってどんな子なんだい?」

 

「そうだな……滅茶苦茶ヤンチャだけど、可愛い教え子たちだな。勉強以外にも戦いとかも教えてたんだぜ」

 

「へえ。じゃあ、ある意味では僕達の先輩なのかもしれないね」

 

「確かに……そうなるかもな」

 

 裕斗の言うとおり、私達は基本的にイッセーから闘いを教えてもらっているし、そういう意味では私達の先達に当たるのかもしれないわね。それにしても、イッセーったらうれしそうな顔しちゃって……。よっぽどその生徒さん達と合うのが楽しみなのね。

 ティスさんと別れた後もイッセーはとても懐かしそうにしている。すると、何処からともなく誰かの声が聞こえてきた。

 

「あーっ! イッセー先生!」

 

「え?」

 

 声のした方向を振り返る。────すると、そこにはリムル様とは異なる“桃色のスライム”がいた。

 

「とうっ!」

 

 スライムはぷよぷよとこちらに近づいてゆき、やがて飛び跳ねると徐々に人の形へと変化していく。

 そこにいたのは十歳くらいの少女。桃色の髪色と触覚のように伸びる癖っ毛が特徴的ね。というか、リムル様とどことなく似ている気がするわね。もしかしてこの娘……。

 

「お久しぶりです! イッセー先生!」

 

「おお、シンシヤ! 久しぶりじゃん! 元気にしてたか?」

 

「久しぶりっすね。シンシヤ様」

 

「ミッテルトお姉さんも久しぶりです!」

 

 ミッテルトが様付け……彼女は目上の人や身分が上の人には様付けを行うことがある。やっぱり間違いなさそうね。

 

「────? イッセー先生、この人達は?」

 

「ああ、この人達は向こうの世界の俺の友達に魔王様だ」

 

「なるほど! パパが言ってた人達ですね!」

 

 少女は私達の方に振り向くと、眩しい笑顔で挨拶をした。

 

「初めまして! 私はリムル・テンペストの娘、シンシヤです! よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 イッセーside

 

 

 

 

「初めまして、私はリアス・グレモリー。イッセーと同じ部活の部長をしているわ。よろしくね」

 

「ハイ、よろしくお願いします!」

 

 シンシヤが自己紹介をすると、オカルト研究部の面々も次々と自己紹介を始める。皆魔王の娘であるシンシヤに興味津々って感じだな……

 

「僕はサーゼクス。リアスの兄でこことは違う世界の魔王をしているんだ」

 

 サーゼクスさんはそう言いながら、シンシヤに握手を求めるように手を伸ばす。それを見たシンシヤも笑いながら、それに応じた。

 

「おお! 貴方が異世界の魔王様ですか。よろしくお願いします」

 

「よろしく頼むよ。そして、こっちが僕の息子のミリキャスだ。同じ魔王の子ども同士仲良くしてくれると助かるよ」

 

「ミリキャス君ですね。私はシンシヤって言います! 仲良くしましょうね!」

 

 サーゼクスさんはミリキャスを紹介し、シンシヤもミリキャスの方へと近づき、笑顔で挨拶をする。……って、あれ? 何だかミリキャスの様子がおかしい気が……。

 

「……? どうかしましたか?」

 

 ミリキャスは顔を赤くしながらじっとシンシヤの顔を覗き込んでいる。シンシヤが心配そうに声を掛けるが、ミリキャスは全くの無反応だ。礼儀正しいミリキャスなら、何かしらの返事をするはずだけど……。

 

「……ミリキャス?」

 

「へ? あ、はい! な、なんですか? イッセー兄様!」

 

 心配になった俺はミリキャスの肩に手を置くと、ミリキャスはやっと周囲に気づいたらしく、返事をする。だが、流石に様子がおかしい。何だかいつも以上に声を張り上げているし……一体どうしたんだ? 

 

「ミリキャス、大丈夫かい?」

 

「は、ハイ! 大丈夫です! 父様!」

 

 心配そうに話しかけるサーゼクスさんに対し、ミリキャスは大丈夫だと応えるが、どこからどう見ても大丈夫ではないな。顔が目茶苦茶赤くなってるし、髪色も相まって真っ赤っ赤って感じだな。

 

「何やら顔が赤いみたいですけど、熱があるんですか?」

 

「ひゃ!?」

 

 シンシヤはそう言いながら、ミリキャスの額にピトっと手を当てる。すると、ミリキャスは目に見えて不審な挙動になり、慌ててその場を離れた。すげえ勢いだったぞ、今。

 ミリキャスは額に手を当てながら、掌を勢いよく振っている。

 

「だ、大丈夫です! も、問題ありません……」

 

「? そうですか」

 

 ……これってもしかしなくても()()だよな? オイオイ、ミリキャスの奴、そういうことなのか? これは少し面白いことになったぞ。見ると、サーゼクスさんも少し驚いた表情になってるし、グレイフィアさんも何だか微笑ましそうな感じでミリキャスを眺めている。

 

「何だか、僕の若い頃を思い出すな……」

 

「貴方はあそこまで奥手ではありませんでしたわ」

 

 しかし、あそこまで恥ずかしがるとは、ミリキャスの意外な一面を見たな。やっぱりそういうところは年相応なのかもしれないな。

 そこに誰かがこちらに駆け寄ってくるのを感知した。皆も気づいたらしく、一斉にそちらの方を見る。そこには赤い制服に身を包んだ少年の姿があった。

 

「シンシヤ様、こんなところで何を……っと、イッセー先生?」

 

「おっ、“アカヤ”じゃん! 元気にしてたか?」

 

 シンシヤを追ってきたのはベニマルさんとモミジさんの息子の“アカヤ”だった。薄い赤の髪と真紅の角に天狗の耳が印象的な少年だ。

 

「はい。ご無沙汰しています」

 

 アカヤとシンシヤは俺の受け持っていたクラスの生徒であり、二人共俺の教えたことを直ぐに覚える優秀な奴らなんだよな。特にアカヤは凄く真面目で“ヴェルドラ流闘殺法”の技をかなりの数モノにしていたくらいだしな。

 

「ところでアカヤ。他の奴らはどこにいるんだ?」

 

「ああ、皆今は教室にいますよ。こっちに来るように伝えましょうか?」

 

「いや、こっちから行くよ」

 

 皆元気にしてるかな。目茶苦茶楽しみになってきたぜ。

 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「よう皆! 久しぶり!」

 

 俺は挨拶をしながら扉を開け、教室の中へと入る。そこには赤と青の制服に見を包んだ数人の生徒達がいた。皆は雑談を止め、俺の方に視線を向ける。やがて────

 

「イッセー先生!?」

 

「来てくれたの!?」

 

 ガタッと椅子から勢いよく立ち上がり、俺の方へと駆け寄ってきた。前に会ったのは一年くらい前だけど、皆そんなに変わった様子はなさそうだな。

 

「久しぶりね、イッセー先生。今日も元気に変態してるの?」

 

「変態してるってなんだよ“(マナ)”!」

 

 銀髪ツインテールと頭に留めている悪魔を模したヘアピンが特徴的な少女“八重樫(マナ)”が俺に向かってそんな事を言ってきた。

 

「なあ、イッセー先生! また色々必殺技教えてよ!」

 

「応、後で教えてやるよ。“フィオ”」

 

 少女にくっついてきたのは彼女の弟。銀髪ポニーテールに龍のヘアピンと十字架のネックレスをしている少年“八重樫フィオ”だ。何やら必殺技を教えてほしいと強請ってきたので軽く受け流す。

 

「お久しぶりです。イッセー先生。お元気そうで何よりです」

 

「そっちも元気そうだな。“セツナ”」

 

 次に来たのはラージャの姫“セツナ”。お淑やかな雰囲気を醸し出す黒と赤の髪の毛が特徴的な少女はとても儚げな笑顔で俺に挨拶をする。そこに付随してきたのはもう一人のお姫様。緑の髪の活発そうな少女だ。

 

「たまに遊びに来るって言ってたのに、待たせすぎですよ! イッセー先生!」

 

「ごめんごめん。わるかったって“ミーム”」

 

「……それで謝ってるつもりですの? 心配してたんですわよ」

 

「……本当にごめんな、“桜姫(おうき)”」

 

「よろしい!」

 

 真紅の髪に黒いメッシュをした長髪の少女“桜姫”はむくれながらこちらに近づいてきた。うん。スマン。確かにたまに顔を出すとか言っといて一年も来なければ心配するか。昨年までは割と普通に“異世界の門”を使っていたから月一くらいの頻度でこっちに来ていたけど、今年は本当にゴタゴタしてたからな……。

 

「……コイツラがお前の?」

 

「ええ。俺の可愛い生徒達ですよ」

 

 そこでようやく皆はオカルト研究部や異世界の重鎮たち気づいたらしく、一斉にそちらの方へと視線を向け……。

 

「「「「……誰?」」」」

 

 一斉に首を傾けた。

 




こういう次世代キャラ出せるのは本編後二次の特権よな
賛否もあるだろうけど、僕は結構好きです。そういうの
え? ヴァーリ? 結果がわかりきってるのに書く必要あるのか……?



生徒達の詳細な紹介は次回以降のお楽しみに


追記
DDの全く同じ名前のキャラがいることに気付いたので改名します。
椿姫→桜姫


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迷宮にきます

 イッセーside

 

 

 

 

 

「なるほど、つまりこの人達は……」

 

「異世界の先生の仲間……及び、重鎮の方々ということですか」

 

「そういうこと。ちゃんと挨拶しろよ」

 

 俺の言葉に皆はオカルト研究部の面々と向き合い、一人一人が自己紹介を始める。

 

「初めまして。八重樫(マナ)です。よろしくお願いします」

 

 最初に自己紹介をしたのは八重樫姉弟の姉“愛”だった。彼女達は母親が向こうの世界の上級悪魔で、特に愛は母親の力を強く受け継いでいる。その力はこのクラスの中でも上位に入る実力者だ。

 

「俺は八重樫フィオって言います。よろしくお願いします!」

 

 次に自己紹介するのは愛弟のフィオ。ヴェルドラ流闘殺法の使い手であり、向こうの世界の人間が父親だからか、俺達と同じく神器所有者でもあるのだ。

 

「初めまして。ファルメナス王国から来ました。“ミーム”です」

 

「“セツナ”と申します。出身はラージャ小亜国です」

 

「この二人はそれぞれの国のお姫様なんだぜ」

 

 俺の言葉に部長達は驚いたように二人を見つめる。ミームとセツナはそれぞれテンペスト同盟国である“ファルメナス王国”と“ラージャ小亜国”の姫であり、二人共凄腕の剣士にして魔法使いなんだよな。

 

「初めまして。桜姫(オウキ)といいますわ。よろしくお願いしますの」

 

「アカヤです。イッセー先生がお世話になっております」

 

 次に桜姫とアカヤの兄妹だ。二人共ベニマルさんの子どもであり、鬼の力を引き継いでて凄まじい潜在能力を持っている。

 

「これが俺の受け持ちだったSクラス(問題児クラス)の面々さ」

 

「「「「問題児ってどういうこと!?」」」」

 

 俺の発言に皆が一斉に突っ込みを入れた。実際、こいつらは問題行動を率先して起こすわけでもないし、他のクラスの人たちとの仲も良好だったりする。ただ、天然なところや面倒ごとに巻き込まれることも多々あるし、何より問題となっているのが、同年代に比べると明らかに突出しすぎているのだ。

 だからこそ、リムルから直々の命令で俺が面倒みることになったわけだしな。結局のところ、こいつらも先代Sクラス(剣也達)となんら変わらない問題児ってわけだ。

 

「……八重樫……それに、その銀髪は……」

 

「ん? どうかしましたか? サーゼクスさん」

 

「……いや、何でもないよ」

 

 何やらサーゼクスさんの様子がおかしい。何かあったのかな? 何やら考え事をしているサーゼクスさんを眺めていると、セツナがちょんちょんと指で俺に呼び掛けてきた。 

 

「イッセー先生、今回はどれくらいここにいられるんですか?」

 

「……そうだな。多分、三日から……長くても五日くらいかな?」

 

 別に学校が長期休みの時期でもないし、それ以上休むと誤魔化すのが面倒な気がする。

 

「じゃあ、その間に必殺技とか教えてくれよ!」

 

「……お前のその必殺技に対する情熱は何なの?」

 

 フィオは目を輝かせながら拳を振るモーションをしているが、正直何を教えろと? まあ、必殺技とまではいかなくても、色々技は教えてやるけどさ。

 

「……ところで、先生。この人たちって新しい恋人候補か何かなの?」

 

「ぶっ!?」

 

 そこで愛がとんでもない爆弾落としやがった! 何言ってるんだコイツ!? 

 

「恋人候補……ウフフ」

 

「あらあら、皆にもそう見えます?」

 

「うう、イッセーさんと恋人……」

 

「……どうなんでしょうね?」

 

「ああ。まあ、愛人とかでも構わないがね」

 

「あわわ、そ、そんなんじゃないわよ! イッセー君とはあくまで幼馴染よ!」

 

 愛の言葉を聞いたオカ研の面々は何やら顔を赤くしたり、笑みを浮かべたり、少し戸惑ったりと多種多様な反応を見せている。というか、ゼノヴィアさんは何を言っちゃってるの!? しかも、愛のその発言に便乗するように、生徒たちが口を揃えてきた。

 

「やっぱりね。そうだと思ったわ」

 

「まあ。確かに、イッセー先生ってそういう人多そうだもんね」

 

「さすがですね」

 

 お前ら何を言ってるんだよ!? 確かに思い上がりじゃなければ皆が俺を憎からず思ってくれてるのかもしれないとか思う時もあるけどさ、それがマジなのかはわかんないじゃん! 

 

「う~ん、よくわかりませんが、イッセー先生はモテモテってことですか?」

 

 本当にそうなのかはわからないけどね。皆単に俺の反応に面白がってるだけなのかもしれないし。

 

「いや、あれはマジだと思うっすよ」

 

 ミッテルトがすげえジト目でそう言ってきた。そうなのかね……? もしそうだとしたら滅茶苦茶嬉しいけど、その場合俺はどうすればいいワケ? 

 

「……まあ、筋はちゃんと通せばいいんじゃないですか? 父さんと母さんたちが正にそうなんだし」

 

 最後に口を開いたアカヤの真面目な(?)発言に俺の思考は加速する。た、確かに今や語り草ともなっているベニマルさんのように筋さえ通せばいいのかもしれないよな!? いや、もし俺の思い違いだったら!? もしかしたら断らるかもしれないし、何よりミッテルトにぶっ飛ばされるかもしれない! いや、ミッテルトも筋さえ通せばいいとか言ってるし、いいのか? そもそも筋を通すって何すればいいんだ? 

 ……堂々巡りになりそうだから、とりあえず置いておこう。そもそも、本当にそうなのかはまだわからないわけだし、これで間違ってたら滅茶苦茶恥ずかしいことになるしな。

 

「……それで、わざわざこの人たちを連れてここまで来た理由は何ですか? ただ紹介しに来ただけ……ってことはないでしょう?」

 

 流石鋭いな。アカヤのこういう面はベニマルさんそっくりだ。確かに、紹介しに来たって点も間違いじゃないけど、俺がみんなをここに連れてきた理由はもう一つある。

 

「……アカヤは部長たちのこと、どう思う? お前達とどっちが強い?」

 

「え?」

 

 俺からの突然の問いかけにアカヤは動揺しながらも部長達を見つめる。アカヤはベニマルさん同様相手の力量を測る確かな眼を持っている。解析系のスキルを持ってるわけじゃないが、それでもかなりの精度だ。

 

「……強そうとは思うけど、俺達のほうが上だと思いますね。何となくですけど、実戦経験が少ないように感じます」

 

 そう。部長は確かに数多の戦いを乗り越えてきたけど、総じてみると、やはり命がけの実戦経験は少ないように思える。だからこそ、同格か少し格上の奴らとぶつけてさらに実践経験を得ようと思ったんだ。そのための相手として、こいつらがちょうどいいかもって考えたわけだ。

 

「あら? いうじゃない」

 

 おっと。どうやら部長に聞こえていたみたいだな。部長は一回り年下の子どもにそんなこと言われて流石に少しカチンときた様子。でも、その目に油断は一切ない。アカヤ達の実力がどれほどのモノかはわからないけど、少なくとも油断ならない存在であることくらいは見抜いてるのかもしれないな。

 

「じゃあ、戦ってみます? オカルト研究部とSクラスで……」

 

 俺自身、今のこいつらの力を見てみたいしな。去年の段階でこいつらはかなりのものになっていた。少なくとも、ライザー眷属程度なら一蹴できるであろう強さを持っているのだ。あれから一年たったわけだし、多分かなり強くなってると思う。今のオカルト研究部の特訓相手にはピッタリだ。

 

「……ああ、そういうことですか。なんていうか、イッセー先生って意外にスパルタですよね」

 

 何を言うか。ハクロウさんやソウエイさんに比べればかわいいもんだと思うぜ。

 

「……イッセー君の生徒……一筋縄ではいかなそうだね」

 

「……でも、負けません」

 

「フフフ、それはこっちのセリフです」

 

 木場と小猫ちゃん、シンシヤも状況を理解したらしく、かなりやる気だ。それを見た部長は改めてアカヤと向き合うと、好戦的な笑みを浮かべた。

 

「いいでしょう。確かに、タダの子どもじゃなさそうだけど、そう簡単に負けるつもりはないわ」

 

「お手柔らかにお願いしますよ」

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「先生。俺、正直いきなり過ぎてついていけねえんだけど?」

 

「イッセー先生が唐突に変なことするのは今に始まったことじゃないでしょ」

 

「まあ、いいんじゃない? 私もイッセー先生の仲間がどれくらい強いのか興味あるし!」

 

 困惑半分ワクワク半分の生徒達とオカルト研究部の皆を連れたって、俺達は“迷宮”へとやってきた。

 皆は最初に来た迷宮に戻ってきたことに怪訝そうにしながらも、辺りをキョロキョロ見回している。

 

「ねえ、イッセー。ここって最初の場所よね? そもそも、ここはなんなの?」

 

「ここは“地下迷宮(ラビリンス)”。テンペストの目玉の一つですよ」

 

「目玉? 此処がか?」

 

 俺の言葉にアザゼル先生は目を丸くしながら訝しげにしている。まあ、信じられないのも無理はないだろう。

 

「まあ、お前が言うんならそうなんだろうが、一体どんな施設なんだ?」

 

「そうですね……一言だと難しいけど、お金稼ぎや戦闘訓練、最新鋭の研究など、様々なことをしている施設ですね。テンペストの最終防衛ラインでもあるんですよ」

 

「そのとおりよ! 何せ、この私が作った迷宮だからね!」

 

 瞬間、よく通る声が反響して響き渡る。声のした方向を見ると、淡い光を放つ小さな妖精の姿があった。

 部長達はその妖精を見て、首を傾げている。まあ、いきなりだとそうだよな。

 

「えっと、貴方は?」

 

「フフフ、よく聞いてくれたわね。我こそは偉大なるオクタグリャッ!」

 

 ……噛んだな。何だかいたたまれない空気が漂う中、妖精は恥ずかしそうにゴホンと咳払いをした後、改めて皆に宣言をした。

 

「我こそは偉大なる……」

 

「紹介するっす。この御方は魔王様の一人、ラミリス様っす」

 

「ちょっと!? ミッテルト、邪魔しないでよね!」

 

 ミッテルトの紹介に皆は驚いたようにラミリスさんを凝視する。ラミリスさんはそんな皆の反応に満足したのか、胸を張って偉そうにしている。

 

「こ、この妖精さんも魔王様なんですね」

 

「……だが、あまり強そうには見えないな」

 

「ちょっと、何よアンタ! さっき来た白いのといい失礼ね!」

 

「あん? ヴァーリのことか?」

 

「そうそう。さっきまでここで戦ってたのよ」

 

「ここで? 本当かよ?」

 

 まあ、ヴェルザードさんと戦うならそりゃ来るよな。どうやら先程まで戦ってたみたいだ。皆は感じられないようだが、俺は何となくその痕跡を確認できる。というか……。

 

(ヴァーリと美猴、アーサーの魔力の残穢はわかる。でも、ヴェルザードさんの魔力の痕跡が殆どねえんだけど!?)

 

 ヴェルザードさんの魔力の跡が殆ど感じられねえ! そもそも戦闘の痕跡が殆ど残ってない時点でおかしいんだよな……。解析特化の究極能力持ちじゃなきゃ見抜けねえぞ。どんな精度で魔力制御を行ってるんだか……。ヴェルザードさんホント底知れねえな。

 

「まあ、いいだわさ。ていうか、アンタ達何しに来たの?」

 

「あ、ああ、修行ですよ。まずは生徒達(コイツラ)と戦わせて、その後迷宮攻略させてみようかなって……」

 

「ふぅん。いいんじゃない?」

 

 ラミリスさんは特に気にした素振りも見せず、適当な感じだ。

 

「じゃあ、皆。戦う前にこの腕輪をつけてくれ」

 

「「「「はーい!」」」」

 

 既に何度も迷宮で訓練している子ども達は慣れた様子で腕輪を付ける。対して部長達は何やら怪訝そうに腕輪を見つめていた。正直、いきなりつけろと言われても反応に困るのだろう。

 

「ねえ、イッセー。この腕輪は何なの?」

 

「これは“復活の腕輪”。ラミリスさんが制作したアイテムで、その効能は────死からの復活です」

 

「……は?」

 

「死からの……復活?」

 

 皆は俺と腕輪、そしてラミリスさんを交互に見ながら呆然としている。そんなことあるわけないといいたげな感じだ。

 当然だ。死はどんな生物にも訪れる絶対の変化。一度死ねば復活することなど通常では不可能。魂と肉体を確保すれば復活することもあるかもしれないけど、そんな事できるのは限られてるだろうし、腕輪をしているだけで死を回避できるだなんて信じられるわけないもんな。

 

「まず、このアイテムを説明する前にラミリスさんの力を簡単に説明します。ラミリスさんは“迷宮創造(チイサナセカイ)”という権能を持っていて、ラミリスさんが作った迷宮内では文字通り何でもできるんですよ」

 

「ラミリス様の迷宮では、生死すら思うがまま。仮に迷宮で命を落としても直ぐに生き返ることができる。それを利用してここでは文字通り、命を懸けた実践的訓練を何度でも行うことができるんすよ。ただ、迷宮内にいる全ての生命をリアルタイムで認識できるわけじゃないんで、目印として使うのがこの腕輪。これを着用していれば、迷宮内ではラミリス様が認識していなくても、直ぐに生き返ることができるっすよ」

 

 俺とミッテルトの説明を理解した皆は驚愕の眼でラミリスさんを見つめる。それを見てラミリスさんはご満悦のようだな。

 

「……なるほど。ルミナス・バレンタインにリムル・テンペスト、ギィ・クリムゾンに比べて威圧感らしきものが殆ど感じられないと思っていたが……それほどの力を持つなら魔王にふさわしいと言えるかもな」

 

「ちょっと! どういう意味よ!?」

 

「ちなみに、この迷宮は周囲の物を内部に格納することもできて、その気になれば街を丸ごと格納なんてこともできるんすよ」

 

「マジかよ……最終防衛ラインってのはそういうことか。これは思った以上にヤバい力だな」

 

 アザゼル先生はそう言いながら、感心したようにラミリスさんを評価する。アザゼル先生は気付いているな。この力が戦争でいかに凶悪な物と化すのかを……。サーゼクスさんとグレイフィアさんもこの力のヤバさを悟っているらしく、かなり鋭い目つきになってるな。ちなみに当の本人は威圧感を感じられないという言葉に腹を立てつつも、自分の力を褒められて喜んでる様子。

 

「当然よ! 何せ、“八星魔王”最強のアタシの力なんだからね!」

 

「ただし、死からの復活はあくまで迷宮内だけです。そこを勘違いしないようにお願いしますよ」

 

 俺の言葉にオカ研の皆は神妙な顔つきで頷いた。

 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 木場side

 

 

 

 

 

 僕達はこの地下迷宮にて、イッセー君の教え子であるという子ども達と向かい合っていた。

 イッセー君からは、この迷宮では死んでも自動的に復活することができる。だから、最後まで全力で戦えと言われたけど、子どもが相手だと、そんな気分には中々なれないね。

 

(……いや、イッセー君がそこまで言うからには、何かがあるんだろうね)

 

 そう考えながら、僕は改めてイッセー君の生徒達を見つめた。

 

「よーし、頑張りますよ」

 

「ああ。イッセー先生の友達……どんな感じか楽しみだぜ」

 

「油断しないでよフィオ。前にそれでハクロウ様に痛い目見せられたんだから」

 

「じいじがそんな事するか? あの人目茶苦茶優しい人だぞ?」

 

「私、一度も怒られたことないですよ……」

 

「……アカヤと桜姫がいる場所だけでしょそれ……鬼よあの人」

 

「でも、それって愛ちゃんとフィオ君が自分から行ったんじゃ……」

 

「いつもニコニコしてるだけだし本当に強いのか試してみるとか言って、見事に玉砕してたもんね。妥当よ妥当」

 

「セツナもミームもうっさいわよ!」

 

 イッセー君の生徒たちは何やら談笑をしているようで、こうして見ると年相応の子どもにしか見えないな。

 ────でも、直ぐに僕はその考えを改めた。

 

「さあ、いきますよ。皆」

 

 シンシヤ様の鼓舞と同時に子ども達は一斉に僕達に向かいあう。そこで感じたのは紛れもなく、歴戦の戦士の風格だった。

 油断すればあっさりと負けるかもしれない。

 そんな考えが思わず頭によぎるほど、眼の前の子ども達は一切の隙を見せない洗練された構えと魔力を醸し出していた。

 部長も僕と似たような感想を持ったのか、思わずといったふうに苦笑いをしている。

 気持はよく分かる。少なくとも、“英雄派”の構成員やライザー眷属とは比べ物にならないほどの威圧感。それを僅か十歳くらいの子どもが放ってるんだから、そんな気持ちにもなるだろうね。

 でも、こっちも負けるつもりはない。僕は聖魔剣を握り、これから始まる闘いに備えるのだった。

 

 

 




桜姫(オウキ)
EP 24万0869
種族 蛇鬼
加護 リムルの加護
称号 赤蛇角(セキジャカク)
ユニークスキル 情熱者(モヤスモノ)
思考加速、空間掌握、炎操作、雷操作
エクストラスキル 天蛇眼(ヘビノメ)
ベニマルとアルビスの娘にしてアカヤの妹。父の炎と母の雷を継承しており、炎と雷を掛け合わせることで電気を帯びた炎を作り出すことも可能。
また、アルビスの眼も継承しているが、制御が難しく、暴走を引き起こしたことがあり、制御が可能となった現在も片目を隠している。
眼の暴走を引き起こしたことで、クラスから孤立し、Sクラスに入り、その際最初にフィオに話しかけられたことがきっかけでフィオを想っている。しかし、過去のトラウマと内気な性格が相まり、中々勇気が出せないでいる。
戦闘以上に周囲を見回し、策略を練ることに長けており、模擬戦では相手の強みを潰しながら相手を追い詰めていく。

【挿絵表示】




ミーム
EP 17万0023(魔人化+5万)
種族 人間
加護 なし
称号 ファルメナスの姫
エクストラスキル 魔人化
ヨウムとミュウランの娘でファルメナス王国の姫。かつて冒険者であり、王となったヨウムの英雄譚に憧れを抱いており、将来は冒険者として世界を回りたいと考えている。
ヨウムからは朧流、グルーシスからはユーラザニア流剣術、ミュウランからは様々な魔法を学んでおり、接近も遠距離も可能なオールラウンダー。ただし、本人は近接を好んでいる。
三つの穴を持つ穴開きの短剣を愛用しており、相手の相性を見て宝玉を埋め込み、属性を変化させる。武器に宝玉を嵌め込む技術が上手く、接近戦闘中でも気付かれずに嵌め込める特技を持っている。
エクストラスキルの魔人化はミュウランの魔人の血を表面に出したもので姿が変貌するが、本質的には人間のままである。

【挿絵表示】



セツナ
EP 22万9684
種族 半人半鬼
加護 毒姫の加護
称号 ラージャの姫
ユニークスキル
強靭者(チカラジマン)
金剛身体、筋力強化、狂戦士化
献身家(ササゲルモノ)
自己再生、魔力感知、治癒、異常回復
ヒイロとトワの娘でラージャ小亜国の姫。トワの王族の責任感とヒイロの鬼の力を引き継いでおり、鬼の妖術と格闘術、他者を癒やす力を持つ。
金が尽きて衰退した国の歴史から、鉄鉱石の輸出だけでは心許ないと考えており、テンペストで学問を学び、ラージャを発展させることを夢見て日々努力している。また、同じ姫であるミームとは親友同士で共に魔術や剣術を切磋琢磨することが多い。
二つのユニークスキルを持っており、“強靭者”は身体能力を底上げすることに特化。“献身家”は他者の傷や状態異常を治すことができるなど、回復に特化している。

【挿絵表示】


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教え子たちの実力です

 イッセーside

 

 

 

 

 

 俺とミッテルトはサーゼクスさん達と共に迷宮内にある一室に移動していた。そこはかつて、ティアマットさんとヴェルグリンドさんが闘いを行った際にも使ったモニタールームであり、此処から皆の戦いを鑑賞するつもりだ。

 

「お兄ちゃんの生徒……何だかとっても強そうなの」

 

 先程合流したセラも興味津々といった感じでモニターを眺めている。ちなみにセラは先程まで父さん母さんと一緒に外泊用の施設を選んでいたところだ。俺の家は基本的に二人で住むこと前提の建物だから、流石に大人数は泊まれないからな。近場の宿泊施設を選んでもらっていたわけだ。

 

「しかし、中々楽しみだな」

 

「そうっすね。皆かなり強くなってたし、どんな戦いになるか楽しみっす」

 

 俺自身、生徒達がどこまで強くなってるのか知らないし、部長達もコカビエルに“禍の団”、そしてロキ戦を経て大分強くなったし、面白い戦いになりそうだ。

 

「……それにしても、ガキの頃のヴァーリを思い出すな。アレは既にとんでもない使い手になってるだろう?」

 

「ああ。傍目で見ただけでも、各々が上級悪魔を超えるほどの力を持っているように見えた……リムル陛下の娘であるシンシヤという少女に至っては、最上級悪魔に匹敵……いや、それ以上かもしれないな」

 

「正直驚きよね。とても十歳くらいの子どもとは思えないわ☆」

 

「そうですね。ミカエル様が見たら天界にスカウトしようとするかもしれないくらいですわ」

 

 見ただけでそれに気付くとは流石はサーゼクスさん達だな。あのくらいの年代の剣也も相当だったけど、アカヤ達も負けてはいないと思うんだよな。まあ、シンシヤは流石に例外中の例外として……だけど。

 

「イッセー兄様はどっちが勝つと思うんですか?」

 

「……正直俺もわからねえ。EPの上なら生徒達の方が僅かながら勝っているけど、それイコール強さってわけでもねえからな」

 

「いーぴー? 何ですか、それ?」

 

 ミリキャスは首を傾げながら尋ねてくる。見ると、アザゼル先生達も俺の方を向いている。そういえば、まだ存在値の概念先生達に話してなかったな。

 

「EPっていうのは、“EXISTENCE・POINT”の略で、魔素や身体能力を数値化した上に、装備している武具の含有エネルギーを加味したもの……簡単に言うと、魔力と身体能力を数値化したものっすよ」

 

「ああ、そういえばお前強さを数値化できるとか言ってたな」

 

 アザゼル先生は思い出したように言う。その言葉にサーゼクスさんは少し考えた後、俺に話しかけてきた。

 

「……イッセー君。リアス達のEPとやらはどれほどのものなんだい?」

 

「……そうですね。一般的な上級悪魔で大体EPは1万から10万ほど、それを踏まえたうえでこんな感じですね」

 

 リアス・グレモリー

 EP 16万9666

 

 姫島朱乃

 EP 15万2263

 

 木場裕斗

 EP 16万3586(聖魔剣+5万(最大))

 

 塔城小猫

 EP 24万2992

 

 アーシア・アルジェント

 EP 4万6358

 

 ゼノヴィア

 EP 12万1365(デュランダル+10万)

 

 ギャスパー・ウラディ

 EP 4万8568(赤龍帝の血+15万)

 

 紫藤イリナ

 EP 11万3333

 

 ロスヴァイセ

 EP 18万1260

 

 俺は用紙に書き出したそれをこの場の者達に開示する。それをサーゼクスさん達は興味深そうに眺めている。

 

「ふむ、並の上級悪魔で10万……それを踏まえると、リアス達は相当強くなっているのがよくわかるね」

 

「武器を装備すると数値も変動するのか。こりゃ面白いな」

 

 数値の上だと一番強いのは小猫ちゃんだ。何せ、小猫ちゃんは黒歌とツーマンセルで修行してるからな。仙術の腕も上がっているし、一番伸びている印象だ。逆にアーシアとギャー助は魔力は上がっているけど、やはり身体能力の伸びが少ないためこの中では一歩劣る感じ。まあ、アーシアの結界魔法はこの中でもトップだし、ギャスパーも神器の力があるから一概にも言えない。やはり、重要なのは数値じゃなくて技術(レベル)のほうなんだよな。

 ちなみにゼノヴィアはデュランダルの真価をまだ引き出せていないので、デュランダル込みでも20万ほど。本来“伝説級”であるデュランダルの真価を発揮すれば、更に上がるんだけど、それはまだこれからの修行次第だな。

 

「まあ、さっきイッセーも言ってたっすけど、数値の上では微妙に子ども達が勝ってる感じっすね」

 

「あいつら全員EP20万超えてるからな……でも、それくらいの差なら闘い方次第でどうとでもひっくり返せるよ」

 

 まあ、シンシヤが出張らなければの話だけどな。シンシヤが本気になれば部長達では手も足もでないだろうけど、シンシヤもいきなり本気を出すようなことはしないだろう。部長達もメキメキと実力を上げている現状、どちらが勝つかはわからないだろうな。

 

「まあ、どっちに転んでもいい経験にはなるだろうな」

 

 これを機に部長達もレベルアップしてほしいもんだな。

 そう思いながらも、俺は眼の前のモニターから目を離さずに、教え子と仲間の闘い模様を見送った。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 木場side

 

 

 

 

 

「相手は子どもといえどイッセーの教え子……油断せずに行くわよ!」

 

「はい!」

 

「私にとってはこれが初陣になりますからね。子ども相手でも容赦はしませんよ」

 

 部長の鼓舞と共に僕達は気合を入れる。この場にいるのは部長と僕、朱乃さんに小猫ちゃん、アーシアさんにゼノヴィアとギャスパー君、そして天使である紫藤さんと新しくグレモリー眷属入りしたロスヴァイセさんだ。

 ロスヴァイセさんにとっては、これがグレモリー眷属としての初めての戦いとなるからか、気合が入っている様子だ。

 

「どういう作戦で行く?」

 

「取り敢えず、アカヤ君とシンシヤはまずはじっとしてて。まずは私達で様子見しましょう」

 

「確かに……お兄様とシンシヤ様が出てしまっては割と簡単に終わってしまいますの。まずは私達がやりますの」

 

「そうか……わかった。じゃあ、最初の方は皆に任せるよ」

 

「わかりました! でも、誰か一人でもピンチになったと思ったら、私達もでますからね」

 

「フフフ、大丈夫だよ。私達だって強くなってるし、あれくらいたいしたことないわ」

 

「愛ちゃん……それフラグじゃあ……」

 

 どうやら、シンシヤ様とアカヤ君は序盤は参加しない方針のようだね。見ればわかる。あの二人は別格だ。特に、シンシヤ様は途轍もない波動を放っている。正直、かなり助かるよ。

 

『じゃあ、準備はいい? それじゃあ、はじめ!』

 

 ラミリス様の言葉と同時に数人の子どもたちが一斉に飛び出す! 凄まじい速度だ! 並みの“騎士”では追いつくことができないほどの速度を、まだ十歳程度の子どもが出しているだなんて……。

 

「行くぜ!」

 

 そう言いながらフィオ君は何もないところから二丁の拳銃を召喚し、引き金を引く! 

 

 ドゴォォォンッ! 

 

 解き放たれた銃口からは、それぞれ別の属性の攻撃が解き放たれた! 片方からは水。もう片方からは雷の弾丸が放たれたのだ! 二つの属性の魔弾は交差し、一つの塊となって僕たちの元へと襲い掛かる! 

 

「ここは私が!」

 

 ロスヴァイセさんは北欧の術式からなる多属性の魔方陣を展開し、フィオ君の魔弾を迎撃する。それでも相殺はでいなかったが、減速には成功し、その隙をついてロスヴァイセさんは悪魔の羽をはばたかせて宙へと舞う。お返しとばかりにフィオ君に向けて炎、水、雷、氷といった属性の魔法を放った。

 

「うおっ? たくさんの属性の攻撃かよ!」

 

 そう言いながら、フィオ君は拳銃から発せられる水流を地へと向ける。さながらフライボードのように、水流に乗って宙へと浮かび上がり、雷を放つもう片方の拳銃をロスヴァイセさんに向けた。

 

「させませんわ!」

 

 バヂィィィィィィッ! 

 

 放たれた電撃を朱乃さんは“雷光”で迎撃する。二つの拮抗した電撃は中空で激しいスパークを起こし、やがて大きな音を立てて霧散した。

 

「……その銃。神器ですわね?」

 

「そうだよ。“雨龍の雷銃(レーゲン・シュラーク)”って言って、イッセー先生と同じでドラゴンが封じられてるんだぜ」

 

 “雨龍の雷銃”……。アザゼル先生の持っていた神器の資料で見た覚えがある。雨を司る高位の龍“印旛沼の竜”の魂が封じられたというドラゴン系の神器だ。見ての通り、二丁一対の神器であり、雨雲を自在に操った印旛沼の龍の二属性を自在に操ることができるとされている。話には聞いていたけど、朱乃さんの雷光と拮抗するほど強力なのか! ……いや、あの銃の真に恐るべき力は水と雷を融合させた一撃だと聞いている。ロスヴァイセさんの多属性の魔法でも完全には防ぎきれていなかったそれは、明らかに朱乃さんの力を上回ってるように思えた。

 

「油断大敵だよ!」

 

 そこに、ミームちゃんが二本の短剣を持ち、僕に突っ込んできた。

 

「油断しているつもりはないよ」

 

 僕はすかさず聖魔剣で対応する。短剣と聖魔剣は拮抗し、何度も何度も鍔迫り合いを繰り広げる! 

 

 キンッ! ギィンッ! ガギィンッ! 

 

 ……凄まじい剣技だ。まだ僕のほうが上だけど、ゼノヴィアと比べても、そこまで差はないかもしれない。

 

「さすが先生のお仲間だね! じゃあ、こういうのはどう!」

 

「っ!?」

 

 魔力感知に反応が! 僕はとっさに飛びのき、翼を用いて宙へと舞う。見ると、さっきまで僕がいた場所が液状になっているようだった。危なかった。もしあのまま応戦していれば、間違いなく足を取られていた。

 

「“液状化”を見切られたか……流石に一筋縄ではいかない、ね!」

 

 ミームちゃんはそう言いながら、二本の短剣をさながらブーメランのように僕に投げつける! 僕はそれをよけると、ミームちゃんは壁伝いに先回りして短剣を受け止め、その遠心力と落下の速度を力に変えて強烈な一撃を叩きこんできた! 

 

「グルーシスおじさん直伝、“獣破連弾(ビーストブレッド)”!」

 

 ドゴォンッ! 

 

 くっ、なんて強烈な一撃だ! ゼノヴィアに匹敵するパワーだぞ!? 僕は耐久力特化の聖魔剣でそれを受け止め、何とかはじき返した! 

 

「私のとっておきだったんだけどな……やっぱりイッセー先生のお仲間なだけはあるね」

 

「そっちこそ、イッセー君の教え子なだけはあるよ」

 

 一瞬とはいえ、ゼノヴィアに比肩するほどのパワーを感じるとは、末恐ろしいね。

 

「……でも、真にパワー担当は私じゃないわよ」

 

「え?」

 

 瞬間、背後から何者かが僕に武器を振りかぶっているのを感じた。

 

「危ない、木場!」

 

 そこにゼノヴィアが滑り込み、デュランダルを用いてそれを受け止めるが……。

 

 ズゥゥゥゥンッ! 

 

「くっ……」

 

 受け止めた瞬間、地面がめり込み、凄まじい衝撃があたりを襲った! ゼノヴィアも歯を食いしばり、耐えているが、その表情からは余裕が感じられない。

 

「はあっ!」

 

「っ! がはっ!?」

 

 その隙をつき、下手人はゼノヴィアの腹に蹴りを入れる! ゼノヴィアはとっさに防御しようとしたが、耐えきれずに吹き飛ばされてしまう! 

 

「大丈夫!? ゼノヴィア!」

 

 吹き飛ばされたゼノヴィアを受け止めたイリナはゼノヴィアに心配そうに問いかける。ゼノヴィアは問題ないと言うと、着地をするが、脇腹を痛めているらしく、顔を歪ませている。

 

「今回復しますね」

 

「助かるよ。アーシア」

 

 アーシアさんが防御結界を貼りながらゼノヴィアさんを回復させる。下手人────セツナちゃんは獲物の薙刀を構えながら、アーシアさんの結界を破壊せんと向かっていく! 

 

「……させません」

 

 そこに小猫ちゃんが駆けつけ、セツナちゃんに向かって拳を放つ。それに応対するかのように、セツナちゃんも拳を握りしめ、小猫ちゃんに向けて放った! 

 

 ドゴォォオオンッ! 

 

 二つの拳が克ち合い、凄まじい衝撃音が鳴り響く! 既に小猫ちゃんは既に“猫又モードレベル2”になっており、パワーもそれに呼応して上がっているはず。それなのに、結果は互角だった。なんてパワーなんだ! 

 

「……凄い力ですね。黒歌さんの妹さんというだけはあるようですね」

 

「……この感じ……ユニークスキルとかいうやつですね」

 

「はい。ユニークスキル“強靭者(チカラジマン)”。文字通り、力を底上げするユニークスキルです」

 

 チカラジマン……確かに、そう呼ばれるだけのパワーがあるね。あの状態の小猫ちゃんと張り合うだなんて……いや、それ以上におかしいのは、小猫の仙術が聞いていないことだ! 何度か拳を打ち合っているけど、小猫ちゃんはその度に気を送り込んでいるはずだ。それなのに、セツナちゃんは何ともないかのように薙刀を振るっている。

 

「……これもユニークスキルですか?」

 

「ハイ。“献身家(ササゲルモノ)”と言いまして、自分やそれ以外の人の怪我や異常を癒やす力です。貴女は私の生命力を削ろうとしてるようですけど、簡単に言いますと、削れた端から回復させているんです」

 

 つまり、彼女は二つのユニークスキルを持っていることになるのか! そういえば、ミッテルトさんも二つのユニークスキルを持っていると聞いたな。つまり、セツナちゃんはミッテルトさんと同じ手合いということになるのか! 

 

「……でも、完全に治せるわけじゃない……」

 

「っ! ぐっ!?」

 

 そう言うと、小猫ちゃんは拳に魔力を込め、強烈な一撃を叩き込んだ! セツナちゃんはそれを薙刀で防御するも、後方へと吹き飛ばされていく! 

 

「……多分、治す速度と削れる速度なら僅かにこっちが勝っている」

 

「流石に黒歌さんの妹さんですね。でも、負けませんよ!」

 

 再び拳と薙刀の激突音が響く中、紫藤さんの放つ光の槍と桜姫ちゃんの錫杖が交差する! 

 

「やるわね! でも、ここから先は行かせないわよ!」

 

 紫藤さんの後方には、回復の要であるアーシアさんの姿がある。アーシアさんは身を守る術こそあれど、実戦という面ではまだ力不足だ。だからこそ、紫藤さんとゼノヴィアがそれをカバーするつもりなのだろう。

 

「そうですか……ですが、こちらとしても押し通らせていただきますわよ。なにせ、あの回復要員であろうお姉さんがかなり厄介そうですからね!」

 

 桜姫ちゃんの言う通り、ゼノヴィアはすでに完全回復して戦線に復帰しようとしている。あの回復速度を見れば、彼女がアーシアさんを厄介だと思うのも無理はないだろう。

 桜姫ちゃんは錫杖に魔力を込め、炎と電撃の魔法を嵐のように織り交ぜながら、自らも接近戦を仕掛けてくる。

 対して紫藤さんは光を盾のように頭上に浮かべ、降り注ぐ魔力を防御しながら槍を振るい、錫杖と拮抗する。どうやら桜姫ちゃんは空を飛ぶ術を持っていないようで、天使の翼で中を舞う紫藤さんが有利そうだ。だけど、それでも倒しきれない辺り、相当高い技術を持っているね。

 

「こっちも負けてられないわね!」

 

 僕もミームちゃんを相手に剣戟を再開させる。それを弾き飛ばし、僕は上空にいる人影に声を掛ける! 

 

「今です! 部長!」

 

「滅びよ!」

 

「「「「!?」」」」

 

 そこに隠形法で姿を隠していた部長が乱戦の中、圧縮させていた“滅びの魔力”を解放する。それを見たイッセー君の教え子たちは即座に場を離れようとするが……。

 

「いかせませんっ!」

 

「なっ! コウモリ!?」

 

「あれは……邪眼の類!?」

 

 ギャスパー君が神器を用いてそれを防ぐ! イッセー君の教え子たちはギャスパー君の邪眼がどういうものか知らないながらもなんとか防ごうとするが、あれは簡単に防げる類のものではない。完全に停止させることはできなかったが、それでも一瞬の足止めには成功した! 

 

「い、今ですっ!」

 

「ええ、チェックメイトよ!」

 

 部長は即座に高密度の滅びの魔力を動けない子ども達に放った! イッセー君曰く、この迷宮という場所では死ぬことがないという話だ。正直言うとまだ少し信じられないけど、彼女達が先程から普通に殺しに来てる感じがするし、何よりイッセー君はこんな洒落にならない嘘は絶対につかない! だからこそ、部長も滅びの魔力を開放することを決断したのだ! 子ども相手に大人げないかもしれないけど、これで決まるはず! 

 ────だが、その予想は裏切られた! 

 

「“無価値の弓矢(ロストアロー)”!」

 

 解放されようとしていた滅びの魔力に一本の弓矢が当たる。瞬間────

 

 パァァァァァンッ! 

 

「なっ!?」

 

 滅びの魔力はまるで解けるように、一気に霧散した! どういうことだ!? 滅びの魔力はあらゆるものを消失させる力! 弓矢が当たったところで弾ける性質のものではない。むしろ、当たった瞬間弓矢を消滅させるだろう。それなのに、どうして……

 

「どうかしら? 私の弓矢は」

 

「……どういう絡繰かしら? 私の魔力を逆に消滅させてしまうなんて」

 

 そこに現れたのは弓矢を携えている八重樫愛ちゃんの姿だった。愛ちゃんはドヤ顔でどうやって滅びの魔力を消したのかを説明する。

 

「これぞ、私のお母さんの一族に代々伝わる固有能力“無価値”の力よ。対象の特性を一時的に消し去ることができるの。本当は生き物にしか使えないらしいけど、先生と修行したお陰で弓矢で当てた魔力弾なんかも“無価値”にできるのよ!」

 

 僕は愛ちゃんの言葉に啞然とした。“無価値”だって? 僕達はその能力をよく知っている。

 レーティングゲームの絶対王者。“皇帝(エンペラー)”ディハウザー・ベリアル様と同じ力だ! ベリアル家現当主であり、ベリアル家始まって以来の怪物。その力は魔王にすら匹敵するとも言われている怪物。そんな彼の力はあらゆるものの特性を一時的に消し去る“無価値”の魔力。ベリアル家固有の魔力であるこの力を使えるということは、彼女達の母親は……それを証明するかのように、愛ちゃんは僕たちと同じく悪魔の翼を羽ばたかせた! 

 

「……そういえば、イッセーは私達の世界の存在がこちらに迷い込むことがあると言っていたわね……つまり、そうことね」

 

「? なんの話?」

 

「なんでもないわ。こちらの話よ」

 

 部長はそう言いながら、滅びの魔力を。再び展開し、それを放つ! 対して愛ちゃんは弓を携え、魔力で矢を形作り、それを放ち部長の魔力を相殺する! 

 

「無価値の力だけじゃない……物理的に破壊力を秘めている矢を織り交ぜているのね」

 

 いくつかの矢が部長の魔力をすり抜け、部長に向かって進んでいく。それを部長が回避すると、後方の壁に深々と突き刺さる。当たれば無事じゃ済まない威力だ。

 部長の言葉に愛ちゃんは何やら意味深な笑みを浮かべ、更に弓矢を放つ! それを見た部長は通常の弓矢と考えたらしく、障壁を展開する。だが、矢が当たる直前に部長は目を見開き、回避する! 

 

「……これは、聖なる力!?」

 

 何と愛ちゃんが使ったのは聖なる力だった! 愛ちゃんは聖なる力を込めた弓矢を再び携え、自信満々に説明する。

 

「ええ、そうよ! これはお父さんに教えてもらったの! 凄いでしょ! お父さんとお母さんも驚いてたんだから!」

 

 驚くのも無理はない。悪魔の力と聖なる力を同時に行使するなんて、僕の聖魔剣を除けば聞いたことすらない! 

 

(……いや、そういえばミッテルトさんも聖なる力と魔の力を同時に使っていたっけ?)

 

 もしかしたら、こっちの世界では聖魔両方の力を使うものは他にもいるのかもしれないね。どっちにしろ、今は答えは出そうにない。わかったことは愛ちゃんは僕達悪魔にとっての天敵だということくらいだ。

 

 ドゴォォォォォォンッ!! 

 

「っ!?」

 

「がはっ!?」

 

 その時、何かが僕を横切った! 見ると、ロスヴァイセさんがボロボロになって地に伏している姿がそこにあった! ロスヴァイセさんはまだ戦えそうだが、その表情からは余裕が感じられない。

 振り向くと、そこには銃ではなく、篭手をその手に宿したフィオ君の姿があった。

 

「くっ、それは……」

 

「……バランスブレイカー」

 

「その通り! これが俺のとっておき……“雨龍の雷銃”の禁手“豪雨龍の機雷篭手(シュトルム・シュラーク・フィスト)”だぜ!」

 

 そう言いながら、フィオ君は篭手を掲げ、拳を構えた。まさか、十歳で既に禁手に至ってるだなんて……。確か、あの神器の禁手は二丁の機関銃になる“豪雨龍の機雷銃 ( レーゲル・シュトルム・シュラーク)”の筈……つまり、あの禁手は亜種ということになるんだろうね。

 

 ズンッ! 

 

「くっ!」

 

 衝撃音と共に小猫ちゃんが苦悶の表情を浮かべながら後方へと下がる。見ると、セツナちゃんは額から鬼のような角を出しており、それに伴って力も更に上がっているように見える。

 

「……鬼の類……ですか?」

 

「はい。お父様が妖鬼でして、私もその力を受け継いでいるんです。だから、こんなこともできます!」

 

 そう言うと、セツナちゃんは片手で印を結び、途轍もない炎を開放する! 

 

鬼王の妖炎(オーガフレイム)!」

 

「っ!」

 

 小猫ちゃんはそれを上手く躱し、カウンターでセツナちゃんに拳を放つ。それをセツナちゃんは薙刀で受け止め、逆に重い蹴りを小猫ちゃんに叩き込む! “戦車”の力を持つ小猫ちゃんもその強烈な一撃には思わず苦悶の表情を浮かべる。

 

「流石はセツナね。私もそろそろ本気出しますわよ! 天使のお姉さん!」

 

「えっ! うわぁ!?」

 

 バチバチィ! 

 

 紫電と共に、桜姫ちゃんの姿が変貌を遂げる。頭から伸びる二本の角に、爬虫類を彷彿とさせる鱗……なにより、隠れていた片方の眼が大きく揺れ動いている。その瞳はさながら蛇のようだった! 

 

「いきますわよ!」

 

「えっ!? 嘘! 翼が!?」

 

 紫藤さんは驚愕の声を上げる。なんと、紫藤さんの天使の翼が光を失い、みるみる石化していくのだ! あれは、神話のメデューサに近い能力なのか!? 

 

「“天蛇眼(ヘビノメ)”……お母様より譲り受けた邪眼ですの。お母様と違って片目……それも、制御ができないから普段はこうして隠してるんですけど……これで空から一方的に攻撃はできませんのよ」

 

 邪眼……ギャスパー君と同じく、かなり厄介な力だ。紫藤さんは石化した翼を収納することなく、歯軋りしている。天使であることに誇りを持っている紫藤さんにとって、証である翼を封じられるのは相当許せないことだろうからね。

 

「デュランダル!」

 

「おっと!?」

 

 治療を終え、戦線に復帰したゼノヴィアがデュランダルを構え、ミームちゃんに突撃する。

 デュランダルの危険度を察知したミームちゃんは“気操法”で短剣に魔力を込めるが、それで防げるデュランダルではない。そのまま短剣は砕け散り、ミームちゃんは慌てて間合いを取った。

 

「うわあ。私のこの武器、一応“特質級(ユニーク)”なんだけど……それって“伝説級(レジェンド)”でしょ? 凄い剣持ってますね……」

 

 ミームちゃんはそう言うと、砕けた短剣を放り投げ、異空間から別の短剣を取り出した。

 先程の短剣とあまり違いはなさそうだけど、何やら妙な穴が空いてるのが見て取れる。ミームちゃんは穴に何やら宝玉らしいものを嵌め込む。すると、短剣は自ら炎と風を纏い始め、ミームちゃんはそれを僕達に向かって構えだした! 

 

「これが私の“穴空き武器(メイン武器)”……貴方達の魔剣に聖剣とどっちが上か、勝負よ!」

 

 そう言いながら、ミームちゃんは自らの肉体を変化させる。三つ目の瞳に魔の力を漂わせる紋様が浮かび上がると同時に彼女の力が増幅する。勝負はこれからのようだねを僕とゼノヴィアはそれを悟り、改めて武器を構え直した。

 

 




八重垣(マナ)
EP 28万1056
種族 悪魔
加護 ミリムの加護
称号 ベリアルを継ぐ者
魔力 無価値
エクストラスキル 聖魔掌握
“忘れられた竜の都”出身の少女。フィオの双子の姉。性格は勝ち気で天真爛漫。両親共に地球出身の異世界人であり、愛は悪魔である母親の血を色濃く受け継いでいるらしく、母方の特性である”無価値“の魔力を弓矢や短剣などに変換して戦う。無価値の弓矢は当てた物質や魔力弾の特性を無効化できる力を持つ。また、聖魔属性を操るエクストラスキルを持っており、ミリム・ナーヴァを信仰しているため、神聖魔法を行使することも可能。シンシヤとアカヤを除けば子ども間では一番強い。ミリム・ナーヴァと竜の都の料理人であるステラに憧れを抱いており、いずれはステラと共に料理人として活躍したいと考えている。
名前の由来はマナフィから。

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八重垣フィオ
EP 20万0006
雨龍の雷銃(レーゲン・シュラーク)+5万)
(“豪雨龍の機雷篭手(シュトルム・シュラーク・フィスト)”+20万)
種族 人間
加護 ミリムの加護
称号 龍を宿す者
神器 “雨龍の雷銃”、禁手“豪雨龍の機雷篭手”
“忘れられた竜の都”出身の少年。愛の双子の弟。姉とは違い、人間としての側面が強い。姉と同じく勝ち気な性格をしており、イッセーに強いあこがれを抱き、アカヤと共に”ヴェルドラ流闘殺法“を学んでいる。神器は印旛沼の龍が封じられているニ丁拳銃のドラゴン型神器“雨龍の雷銃”であり、銃で牽制しつつ拳で殴るのが元々のスタイル。禁手は銃が篭手へと変化する“豪雨龍の機雷篭手”。雷と水を拳に纏わせることができ、篭手に仕込み銃が付与されている為、中距離の強みも失っていない。ただし、水や雷といった特性を無効化してしまう姉とは相性が悪く、模擬戦ではボコボコにされるらしい。夢はイッセーのような強い男になることらしい。
名前の由来はフィオネから。

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教え子対決決着です

イッセーside

 

 

 

 

 

「す、すごいの……」

 

「皆中々強くなってるっすね」

 

「だな。正直予想以上だ」

 

 まだアカヤとシンシヤも動いてないと言うのに、ココまでやるか……。皆目茶苦茶強くなってるよな。既に並の上級悪魔ならば余裕で倒せる感じだ。まだ十歳そこらでこの強さ。正直末恐ろしいものを感じるな……。まあ、それでもあの年代の剣也達に及ばないんだけど。

 

「無価値……やはりあの二人は……」

 

「ん? サーゼクスさん。何がありましたか?」

 

「……イッセー君。頼みたいことがあるんだ」

 

 サーゼクスさんは愛が無価値の力を使い始めた辺りから眼が険しくなっていた。何やら複雑そうな感じだが、何かあるのかな? 

 

「……あの双子。愛君にフィオ君といったね。彼等のご両親と連絡は取れるだろうか?」

 

 サーゼクスさんは俺に近づき、他者には聞こえないように耳打ちする。そのことに対して疑問を覚えながらも、俺も小さな声で返答した。

 

「え? ああ、あの二人の両親はテンペストじゃなくて魔王ミリムさんの領土の住人ですからね。一応連絡は取れますけど……」

 

「……ミリム……確か、創造神様の御息女だったね。ならば、後ほどその魔王ミリム陛下の領土にお邪魔することは可能だろうか?」

 

「はい。ミリムさんはリムルに負けず劣らず懐が深い人ですし、頼めば行けると思います」

 

「ならば、お願いしてもいいかな? あの二人の両親について、確かめたいことがあるんだ。できれば、リアス達には内密にね」

 

 内密……やはり、何かあるな。確かにあの人達は元上級悪魔に元エクソシスト。魔王であるサーゼクスさんにとって、何か深い事情があるのかもしれないな。

 

「それにしても、凄えな! “雨龍の雷銃”の亜種禁手! 水と雷を拳に纏わせてんのか!」

 

「ええ。もちろん、銃としての側面も失ってないから通常時同様弾丸を放つことも可能っす。遠近両方に対応できるのが強みっすね」

 

「フィオは元々ヴェルドラ流闘殺法の使い手だしな。禁手を使うことで、その強みを一気に活かすことができるんですよ」

 

 禁手を覚える以前のフィオは銃撃よりも接近戦を好んでいたからな。折角の神器もあまり活用しようとしなかったし、それじゃあもったいないということで、俺が銃の練習を見てやったんだよな。お陰でどんな距離でも即座に対応可能となり、ついには禁手をも習得した。あの時は驚いたな。去年の夏頃、俺と修行してたら覚醒したんだけど、まさか、僅か九歳で禁手するとは……。

 

「私としては、姉の愛ちゃんが気になります。悪魔でありながら、聖なる力を使うだなんて……」

 

「愛は“聖魔掌握”というエクストラスキルを持ってますからね。これは聖属性と魔属性の両方を使いこなせるスキルなんですよ」

 

「ほう? そいつは興味深いな」

 

「他の子たちもとっても強いわね☆ 本当に十歳なの?」

 

「はい。まあ、皆かなり鍛えてますからね」

 

 チラリとミリキャスを見ると、ミリキャスは食い入るように眼の前の光景を眺めていた。

 その瞳からは憧憬が感じられる。同年代の子ども達があんな立ち振舞を見せれば、無理もないかもな。

 

「……イッセー兄様。僕もあれくらい強くなれるでしょうか?」

 

 真摯な眼で問いかけてくるミリキャス。俺はその言葉に笑みを浮かべて頷いた。

 

「お前ならなれるだろ。なんたって、部長の甥っ子で魔王の息子なんだから」

 

 俺の言葉にミリキャスは神妙な表情で頷き、再び画面を食い入るように眺め始めた。

 見ると、アカヤとシンシヤが動き出そうとしている。さて、どうなるかね……? 

 

 

 

 

 ****************************

 

 木場side

 

 

 

 

 

 カギィン! ゴォウ! バギィン! 

 

「ぐっ……!」

 

「まだまだ行きますよ!」

 

 ミームちゃんの姿が変化してからかなりの時が経つ。僕はミームちゃんと何度も剣を交え、肩で息をする。ミームちゃんは穴の空いた武器に宝玉を嵌め込むことで、多種多様な属性の攻撃を織り交ぜてきている! 本人も閃光や地面を液状化させる魔法といった風に、時折厄介な魔法を使ってきて本当にやりづらい! 

 

「変わった武器だね。宝玉を変えることで属性も変化するのか……」

 

「はい。といっても、テンペストでは割とありふれた武器なんですけどね!」

 

 ミームちゃんはそう言いながら、宝玉を三つ、短剣に嵌め込んだ。すると、短剣からは凄まじい冷気が発せられる。

 

「ハア!」

 

 バギィィィィンッ! 

 

「くっ、聖魔剣が……」

 

 三つの宝玉を嵌め込んだ短剣は交えただけで聖魔剣を瞬時に凍てつかせるほどの冷気を発し、もう片方の短剣でいとも容易く僕の聖魔剣を破壊してみせた! 

 

「……“風”“水“”氷”の属性を付与した“氷結斬撃(アイシクルスラッシュ)”です。勝負アリですね」

 

「……それはどうかな?」

 

 僕は再び聖魔剣を取り出し、構え直す。それを見たミームちゃんは驚きながらも再び短剣を構えた。

 

「……その剣。ひょっとして即興で作ってるんですか?」

 

「その通り。これが僕の神器の力さ」

 

 どうやら彼女は僕の“魔剣創造”を知らなかったようだね。考えてみれば、この世界に神器持ちは少ないだろうから当然なのかもしれないね。

 

「……いくら剣を作っても、その度に壊せば問題ありませんよ!」

 

 ミームちゃんはそう言いながら、僕の聖魔剣を再び叩き割った! 僕は先ほどとは違う炎を纏う聖魔剣を創り、ミームちゃんに向ける。だが、ミームちゃんはそれを容易く回避し、水を纏わせた短剣で僕の炎を覆い包むことで消化、そのまま僕の喉元に短剣を突き立てようとする。僕はそれを弾きながら、冷や汗をかく。本当にハラハラするね。これで十歳だと言うんだから本当に末恐ろしい。イッセー君の修行を受けていなかったら、多分数秒も保たずに負けてるだろうね。

 

「流石だね。イッセー君の教え子というだけはある。……ところで、僕だけに構ってていいのかな?」

 

「っ!?」

 

「はああっ!!」

 

 僕の合図とともに、ゼノヴィアが一気に前線に立つ。ミームちゃんはゼノヴィアのデュランダルを警戒しているようで、彼女の攻撃を防ぐというよりかは、剣に負担をかけないように受け流している様子だ。剣技はミームちゃんが僅かに勝っている。でも、それを補って余りあるほどにゼノヴィアのパワーは凄まじいものだった。

 

「ならば、“ロックフォール”!」

 

 ミームちゃんは魔力を込め、砕けた瓦礫を浮かび上がらせ、ゼノヴィアに向けて放つ! ミームちゃんの魔力を帯びて強化されているらしく、瓦礫一つ一つが並の“戦車”を一撃で仕留めるに足るほどの威力を持っている! だけど、それを見ても、ゼノヴィアは眉一つ動かさず、デュランダルを構える! 

 

「中々筋が良い……が、デュランダルの力を簡単に受け流せると思うなよ」

 

「────っ!?」

 

 ドゴォォォォォォンッ! 

 

「ぐはっ!?」

 

 ゼノヴィアはその一言と同時にデュランダルを解放する! その凄まじいまでの破壊力は広範囲の衝撃波となり、瓦礫ごとミームちゃんを押し出した! ミームちゃんはとっさに短剣で衝撃を受け流そうとするが、こうなってしまえば短剣で逸らすことなど不可能だ! ミームちゃんはそのまま壁に激突し、苦悶の表情を浮かべた! 

 

「これで終わりだな」

 

「……そうですね。流石はイッセー先生のお仲間さんです」

 

 肩で息をしながら勝利を宣言するゼノヴィアに対し、ミームちゃんは両手を上げて降参する。正直、危なかった。純粋な剣技は僕の方に分があったけど、卓越した魔法の技術に加え、剣の属性を的確に変えての強烈な一撃。もしも一対一の状況が続いていたら、果たして僕は彼女に勝てたのだろうか……? これで十歳だというのだから、末恐ろしいね。

 

「「!?」」

 

 瞬間、凄まじい殺気が僕達を襲う! 僕達は慌てて飛び退き、眼の前を見る。そこには、淡い赤髪に犬耳、鬼の角が特徴的な少年────アカヤ君の姿があった。

 

「ここまでだな。ミーム、お前はセツナに頼んで治療してもらえ」

 

「うん。しかし、私が一番早く負けるとか……ちょっとショックかも……」

 

「お前は二対一だったから仕方ないだろう。……それに、ミームだけじゃないからな……」

 

「え?」

 

 アカヤ君の言葉にミームちゃんは周囲を見る。周囲では、それぞれの子ども達が凄まじい激闘を繰り広げている。

 

「ちょっと! さっきっからそれズルいでしょ!?」

 

 そう言いながら弓矢を放つ愛ちゃん。それに対して部長はギャスパー君を前に出し、“停止世界の邪眼”で弓矢を停止させ、逆に滅びの魔力を放っていた。

 

「くっ、ならば!」

 

 愛ちゃんは翼を羽撃かせ、魔力の針を作り、直接ギャスパー君に刺そうとする。しかも、弓矢の攻撃を混ぜて巧妙に隠している……こうして傍目からでなければ気付けないかもしれない……。

 

「ひぃぃっ!?」

 

「ちょこまかと……」

 

 直接狙われてると気付いたギャスパー君は複数のコウモリと化し、何とか回避するも、愛ちゃんはギャスパー君を執拗に狙っている。……しかし、それこそが部長の思惑だったようだ。

 

「ギャスパーばかりに目が行き過ぎよ!」

 

「ぎゃっ!?」

 

 部長が背後に回り込み、愛ちゃんに思い切り魔力を放つ! 愛ちゃんは“無価値”の力でそれを防ごうとするが、全てを防ぎ切ることは叶わず、翼にダメージを受けてしまった! 流石は部長だね。見事に気配の隠蔽だよ。

 

「嘘でしょ!? 愛ちゃんが押されてるの!? 愛ちゃん目茶苦茶強いのに!?」

 

「……少し相手を舐めすぎたな。あの邪眼……相当厄介だぞ。紅髪の女性も優れた力を持っているし、イッセー先生の仲間というだけはある」

 

 アカヤ君は一瞬だけ部長とギャスパー君の戦いを見ながら分析をすると、すぐに僕たちの方へと向かい合った。

 

「あとは俺がやる」

 

 そう言いながらアカヤ君は片手に刀を構える。その姿は隙が一切見受けられない。

 

「……なるほど、真打ち登場ということか! 面白い!」

 

 ゼノヴィアはそう言うと、デュランダルに力を込め、その破壊力を発揮する! 迫りくるデュランダルをアカヤ君は悠々と避けながら、刀にオーラを纏わせた。

 

「“気操法”で伝説級の剣を更に底上げしている。基本はできてるようですね」

 

「っ!? がはっ!」

 

 ゼノヴィアの剣撃を全て回避し、アカヤ君は逆に刀の柄でゼノヴィアにカウンターの一撃を叩き込む! 

 僕はその一瞬の隙を突き、アカヤ君に攻撃を仕掛ける! だけど、アカヤ君は僕の聖魔剣の一撃を掌で受け流し、僕に掌底を喰らわした! 

 

「ぐっ! 今のは……」

 

 今の動き……覚えがある! イッセー君の使う“ヴェルドラ流闘殺法”の動きだ! それに、先程の構えは“朧流”の流れを汲んでいるように見えた……まさか、この少年は……!? 

 

「そう。俺は“ヴェルドラ流闘殺法”と“朧流”の両方を学んでいるんですよ」

 

 それも、かなり凄まじい練度だ。僕自身、ミッテルトさんから朧流を習っているから、朧流の剣技も多少は使えるけど、アカヤ君は間違いなく僕よりも上だ。それでいて、ヴェルドラ流闘殺法の動きは小猫ちゃんよりも洗練されて見えた。

 

「そちらも朧流を齧ってるようですが、これを見切れますかな?」

 

 そう言いながらアカヤ君は剣から炎を生じさせる。その炎を刀に凝縮させ、一気に開放した! 

 

「“朧・火炎斬”!」

 

「「っ!?」」

 

 その速度は凄まじいもので、“騎士”である僕達ですらかろうじて見えるだけで反応することも困難な程。僕達は、回避することができず、その凄まじい一撃で胴を両断されてしまった! 残された自分の半身を眺めながら、僕は意識を手放し────

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 リアスside

 

 

 

 

 

「裕斗っ! ゼノヴィアッ!」

 

「裕斗先輩……ゼノヴィア先輩……っ!」

 

 裕斗とゼノヴィアが一瞬で斬られた! 二人を斬ったアカヤ君はそのまま近場にいたイリナの方へと駆け寄っている。

 

「くっ、不味いわね……」

 

 裕斗とゼノヴィアの事は心配だけど、今は「死からの復活」というイッセー達の言葉を信じるしかない。私は眼前に迫ってくる愛ちゃんの猛撃を回避しながら、滅びの魔力を叩き込む! 

 

「くっ、さっきからズルいわよそれ!」

 

「お互い様でしょう? 貴方の魔力も大概だと思うわよ」

 

「私が言ってるのは魔力のことじゃ……」

 

 叫ぶと同時にピタリと彼女の動きが停止する。ギャスパーが邪眼の力を用いて彼女の動きを停止させた。もっとも、彼女の力ならすぐに復活するのだけど、その一瞬が命取りとなる。

 

「い、今です! 部長!」

 

「滅びよっ!」

 

「────っ! ちょっと────っ!?」

 

 停止から復活すると同時に迫りくる滅びの魔力に愛ちゃんは慌てて迎撃体制に入るが間に合いそうにない。勝負アリ……そう思った矢先、魔王リムル陛下の娘であるシンシヤちゃんが割って入ってきた! 

 

「喰らい尽くせ。“貪食之王(クグサクスクルス)”!」

 

 瞬間、私の滅びが跡形もなく消し飛んだ!? いや、消し飛んだというよりはあの娘に吸収されたかのような……一体何をされたというの? 

 

「大丈夫ですか? 愛ちゃん」

 

「ええ。助かったわシンシヤ。持つべきものは友達ね!」

 

 愛ちゃんはそう言いながら、再び私達と向かい合う。これで一気に形勢が不利になったわね。

 

「シンシヤはあの蝙蝠になる人を捕まえちゃって! そしたら私がやるから!」

 

「了解です! “煉獄の握手(ジェイルシェイク)”!」

 

 愛ちゃんの指示を受けると、シンシヤちゃんは腕を大きく振るう。すると、シンシヤちゃんの前に巨大な腕が現れ、一気に蝙蝠と化したギャスパーを捕まえてしまった! 

 

「ひぃぃ!? な、なんですかぁぁぁっ!?」

 

「捕まえましたよ。大人しくしてください」

 

 巨大な腕に捕らえられたギャスパーは必死に脱出しようとしてるけど、抜け出せるような気配がまるでない。先程から邪眼を使っていると言うのに、シンシヤちゃんは止まる気配すら見せないのだ。

 

(それはつまり、イッセーの血で強化されたギャスパーの魔力を遥かに上回っているということ……)

 

 この世界の魔王の力はルミナス様の戦闘を見てわかっているつもりではあった。それでも、その子供もここまでの力を持っているとはね……。明らかに私よりも格上……もしかしたら、アザゼル先生やセラフォルー様と比較しても遜色ないのかもしれない。

 

「でも、こちらだって負けるつもりは毛頭ないわ!」

 

「いいわ! 私の“無価値”とお姉さんの“滅び”、どっちが強いか勝負よ!」

 

 私は滅びの魔力を、愛ちゃんは無価値の魔力をそれぞれ魔力弾として展開する。これまでの戦いで、私と愛ちゃんの魔力は練度で言えば同程度であるとわかっている。正直、十歳の子どもと同じ位というのは少しくるものがあるけど、今は勝負に集中すべきね! 

 

 ドンッ! バシュ! ドゴォンッ! 

 

 “滅び”と“無価値”がぶつかり合う! その余波で辺りの地面や壁がどんどん抉れていく。それを感じながら、私はさらに魔力を圧縮させていく。魔力はどんどん高密度に高まっていき、やがて一つの巨大な球体へと至った。それを見た愛ちゃんは即座に飛びのく。その瞳からは、この球体への警戒が強くにじみ出ているようね。

 

「……さっきからこそこそ何か作ってるとは思っていたけど、何よそれ」

 

 やはり、気付かれていたようね。この球体は今即興で作り上げたわけではなく、ギャスパーの力を借りながら少しずつ練り上げていたもの。まだ未完成の私の奥の手……。

 

「……最近は格上ばかりで嫌になるわ。そんな中で、小猫も朱乃も裕斗もどんどん強くなっていく。いつまでも私だけ置いて行かれるなんて嫌なのよ。だから、わたしも作ってみたの。必殺技っていうのを」

 

 そして私は極限まで高まった滅びを解放する! 

 

「消し飛びなさい! “消滅の魔星(イクスティングイッシュ・スター)”!」

 

 滅びの力は紅と黒のオーラを渦巻かせ、床を削りながら進んでいく。その魔力の渦が凄まじい吸引力を生み、あらゆるものを引き込んでいく! 引き込まれた瓦礫が接触するだけで消滅していく光景を見ながら愛ちゃんは冷や汗をかきながら焦燥する。

 

「くっ、吸い寄せられる……?」

 

 愛ちゃんは中空で翼を出し、ふんばろうとしているけど、それで抵抗できるほど柔な技じゃないわ。これが私の奥の手。まだまだ未完成だけど、破壊力はイッセーも褒めてくれたほど。これで決まるハズ……。

 

「すごい威力ですね。じゃあ、こっちも全開で行きますよ」

 

「なっ!?」

 

 そこに再びシンシヤちゃんが割り込み、私と同じように魔力を圧縮させた。圧縮した魔力は黒い球体となり、私の滅びの魔力を逆に吸い込んでしまうほどの驚異的な吸引力を発揮した! 

 

「“虐暴超重力(グラビティ・ノヴァ)”!」

 

 二つの球体はぶつかり合う。すると、私の滅びの力は抗うことすらなく、彼女の黒い魔力の渦に引き込まれ、余波すら残さず完全に消失した! それを呆然と眺めるなんてことはせず、すかさず私は魔力を手に宿し、特攻する! これが破られるのは完全に想定外。でも、それで動きを止めているようじゃあ、強くなんてなれっこない! 

 

「今の技……シンシヤ以外じゃ防ぐこともできなかったわね。でも、これで終わりよ!」

 

 愛ちゃんは無価値の魔力を槍のように凝縮し、一気に私を貫く! “無価値”の力で私の中の滅びの魔力が一次的に消失する。それでも私はなけなしの魔力を拳に込め、それを放つ! 対して愛ちゃんも槍を振るい、私を切り裂かんとする! 

 周囲がスローになる中、私は流し目であたりの現状を把握する。朱乃とロスヴァイセはフィオ君に既に敗れているようね。でも、フィオ君のほうも籠手がボロボロで満身創痍なあたり、あと一歩まで追い詰めたといったところかしら? 桜姫ちゃんと戦っていたイリナもアカヤ君が戦闘に参加したことで一気に追い込まれている。敗北するのは時間の問題でしょうね。ミームちゃんもある程度は回復しているらしく、戦線復帰しようと立ち上がり、小猫のほうへと向かっている。小猫とセツナちゃんはいまだに互角の殴り合いを続けているようだけど、すでに他の戦況が決している以上、逆転の眼はなさそうだ。

 

(……これがイッセーの教え子たち)

 

 本当に十歳なのか疑いたくなるような子達ばかりね。イッセーが修行相手にちょうどいいと選んだ理由がよくわかったわ。

 

「……悔しいわね」

 

 愛ちゃんの槍に腕を貫かれ、そのまま串刺しにされるのを私は他人事のように眺めながらつぶやく。ソーナの時とは違う悔しさ。正直、十歳の子どもに負けるなんてかなりショックよ! でも、追いつけないほどの距離はない。年下に好き勝手されるのはプライドが許さないし、次は絶対に負けない。それを心に誓いながら、私は意識を手放した────。

 

 

 

 

 

 

 




シンシヤ
EP 66万9685
種族 辰粘性精神体(サーペントスライム)
加護 リムルの加護、鏡魔の加護
称号 リムルの娘
ユニークスキル 大賢者
究極能力 貪食之王(クグサクスクルス)
捕食、胃袋、擬態、隔離、腐食、魂喰、空間支配、森羅万象、貪食領域
リムルの娘を名乗るスライム。その正体は鏡の魔女“イジス”により生み出されたリムルのコピーのようなもの。『色々なリムルを見たい』というシュナの願望が反映されて生まれた存在であり、厳密に言えばリムルの娘ではない。しかし、リムルは彼女を自らの娘と認め、現在はテンペストで共に暮らしている。(詳しくはスマホアプリ「転生したらスライムだった件 魔王と竜の建国譚 」にて)
現在の年齢は十歳程度であり、リムルに言われてテンペスト人材育成学園に入学し、イッセーの教え子となる。教え子になる前からイッセーとは知り合い。
また、天魔大戦を経験したこともあり、十年という時の中で究極能力を獲得している。“貪食之王”は“暴食之王”の上位互換とも言うべき権能であり、基本的な性能は“暴食之王”と酷似しているが、目玉である“貪食領域”は仮想世界を作り、内部の相手を捕食するという“世界系”の権能である。しかし、この権能は今のシンシヤでも使いこなせないため、リムルからは迷宮外での使用を禁止されている。

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アカヤ
EP 37万5631
種族 天鬼
加護 精霊の加護
称号 天守の精霊使い
ユニークスキル 継続者(ツヅクモノ)
存在維持 絶対意思 思考加速 効果継続 英雄覇気
ベニマルとモミジの子供でイッセーの弟子。
テンペスト人材育成学園に通う若き天才。炎の上位精霊と契約している。
優しくて寡黙な少年で曲がった行為が嫌い。イッセーをもう1人の父のように思っており関係性は良好だがイッセーのセクハラをよく思ってなくイッセーがセクハラするたびに被害者に対して謝罪して回ってイッセーに説教している。
妖鬼と天狗のハーフである天鬼族であり、天狗族の超感覚と妖鬼族の半精神生命体としての性質を受け継いでいる。
ヴェルドラ流闘殺法と朧流を習得しており、朧流と流闘殺法を駆使し、相手にカウンターを叩き込むことを得意とする。
“存在継続”は魔素などの存在に必要不可欠な物がなくとも存在を可能とする権能、“絶対意思“は精神支配を防ぐ権能であり、持続時間を引き伸ばす“効果継続“を駆使することで長時間の戦闘が可能。また、彼の炎は黒炎と妖炎の二つの性質を持っており、“効果継続”の力で基本的には彼が消さない限りは消えない。

【挿絵表示】



彼女の究極能力はオリジナルです。もし、今後出てきたらその能力を新たに付け加えることにします(というか、物語上の進行上多分獲得する)


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イッセーの同僚達です

 リアスside

 

 

 

 

 

「……うぅん、ここは……?」

 

 目が覚めると見知らぬ部屋にいた。起き上がると、すぐそこに裕斗達が眠っているのが見て取れた。ここは何処かしら? 確か、私はイッセーの教え子だといえ子ども達と戦って…………。

 

「気付きましたか、部長」

 

 声のした方へ振り返ると、そこには飲み物を運ぶイッセーの姿があった。イッセーは飲み物の乗ったお盆を机に乗せると、窓を開いて空気を入れ替えた。

 釣られて窓の外を見てみると、そこには緑豊かな森林と、古めかしい建築物が星屑と共に煌めく幻想的な風景があった。

 

「ここは……」

 

「迷宮95階層“探索者の休憩所”です」

 

「探索者の……休憩所?」

 

「はい。地下迷宮の宿屋で迷宮探索の最中でもお金を払えば休憩できるって場所です。本来は死んだら迷宮の入口にリスポーンするんですけど、今回はすぐ近くということでここで復活するように設定しておいたんですよ」

 

 確かにここでならゆっくりと休めることができそうね。未だに死んだ感覚が抜けない身としては、少し安心できそうだわ。

 

「どうでした? 俺の生徒達は?」

 

「……とても強かったわ。悔しいけど、最初から一対一なら勝てなかったと思う」

 

 本当に十歳とは思えないくらいに強かった……。もしもイッセーと出会っていなかった頃の私だったら、きっと為すすべなくやられていたに違いないわ。

 

「まあ、アイツラは俺がいない間も相当な修羅場を潜ってますからね」

 

「……そうね。彼等はこの、何度死んでも生き返れるという力を利用して、相応の鍛錬を積んでいる……。ラミリス様の力は凄いのね」

 

 実際、体験してみてこれは凄まじい力だと思う。こんな場所で訓練をすれば、否が応でも強くなれる。何せ、文字通り死闘を何度でも繰り広げる事ができるのだから。

 しかも、この迷宮は凄まじく広い。聞けば、この迷宮は100階層まで存在しており、環境が異なる階層も数多存在するのだという。そんな広大な世界を構築するだなんて、やはりこの世界の魔王様はとんでもない存在みたいね。

 

「……ところでイッセー。ずっと気になっていたんだけど……」

 

「ん? なんですか?」

 

「……何でそんなボロボロなの?」

 

 今のイッセーはいたるところが傷だらけ。数多の刀傷がイッセーの身体を侵しているのだ。一体何があったのかしら? 

 

「ああ、これはうちっすね」

 

「ミッテルト?」

 

 ミッテルトはお盆に人数分の軽食を乗せて部屋へと入ってきた。見ると、ミッテルトも身体中打撲痕だらけで痛々しい様子。でも、本人は気にしてなさそうね。

 

『相棒と俺は先程までミッテルトと闘っていたのだ。勿論、迷宮内だから本気のな』 

 

「ドライグ……正気に戻ったのね!」

 

『ん? 正気? 何の話だ?』

 

「いや、何でもねえよドライグ! 気にすんな!」

 

『お、おう?』

 

 イッセーがドライグと話していると、私の頭に声が響いた。これはミッテルトの“思念伝達”ね。こうして近場なら、思考を直接相手に送ることができるというミッテルトの特技の一つ。彼女のユニークスキルが関係しているという話らしいけど、便利な力よね。

 

『それはさておき、一体どういうことなの?』

 

『ドライグは“どらいぐくん”の事を知らないんすよ。ドライグの精神衛生上良くないってことでイッセーとリムル様が隠していて……』

 

『なるほど……』

 

 確かに、ドライグはイッセーのスケベな言動で度々憐れな感じになってるし、あの事を知ってしまえば彼の心は壊れてしまうがしれない。

 現状、黙っている方が都合がいいということね。

 

「それはそうと、戦っていたってどういうことなの?」

 

「ああ、実はミッテルト、あの新生“十二蟲将”だっていう蟲魔人と戦ったお陰で究極能力に目覚めたらしいんですよ」

 

「究極能力!? それって、貴方が以前言っていた……」

 

「はい。自らの力と魂を究極まで高めることで発現する、文字通り究極の権能です」

 

「で、その力がどれほどのものなのか知るためにも、取り敢えず誰かしらとバトっとこうと思って、ドライグも目覚めたことだし丁度いいとイッセーと戦り合ったんす」

 

 なるほど。それで二人共ボロボロになっているのね。この二人、恋人同士ではあるけど、お互いに特訓となるとかなり容赦がないし、死んでも蘇るこの迷宮でなら、尚更こうなっても仕方がないというわけね。

 

「うぅん、ここは……」

 

「私は……確か……」

 

「お? 皆目覚めてきましたね」

 

 イッセーの言う通り、気を失っていた皆も続々と意識を取り戻してきた。イッセー曰く、初めての蘇生だと“死”というショックの影響からか、意識を失う人がかなり多いらしい。でも、大概二度目三度目になってくると、慣れていくんだとか……。取り敢えず、私は眷属達に異常がないことを確認し、ほっと安堵の声を漏らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 イッセーside

 

 

 

 

「リアス。どうやら目覚めたようだね」

 

「ええ、心配をおかけしました。お兄様」

 

 部長を心配していたサーゼクスさんは部長を見つけるやすぐさま駆け寄りねぎらいの言葉を言う。俺の言葉は信じてたようだけど、それでも心配だったんだろうな。

 

「あ、起きたのね。お姉さん達」

 

 そう言いながら愛達も部長に駆け寄っていく。

 

「今日はありがとうございました。いい修行になりましたよ」

 

「こちらこそ。少し悔しいけどね……」

 

「お互い様ですよ……何せ、結局負けたの私だけですもん……」

 

 ミームは木場と握手しながらお互いを労っている。木場は口では悔しそうといいながらも、目の奥には闘志がメラメラ燃えているな。本人も言うようにいい刺激になっただろうな。対してミームはどこかどんよりしてる感じがする。まあ、ドンマイ……。

 

「流石はイッセー君の友達だね。とても白熱した戦いでしたね」

 

「ナイスファイトネー! とてもヨカタよー!」

 

「あ、シンジ! お前たちも見てたのか?」

 

 そこで入ってきたのはシンジと超克者のリーダー格“アーカート”だ。どうやら皆して部長達の戦いを見てたみたいだな。突然現れた乱入者に困惑しながらも部長達は尋ねてくる。

 

「ねえ、イッセー。彼等は?」

 

「コイツラはこの迷宮研究施設の職員たちですよ。俺の同僚ですね」

 

「イッセー君は本職研究者だからね」

 

「おん? そうなのか?」

 

「ええ。こっちでは、武具と精霊についてを絡めながら、神器を中心に研究してました」

 

 ことの切っ掛けは師匠やラミリスさんがドライグに興味を持ったこと。武具の中に強大な龍の魂をも封じ込める神器についてを、ヒナタさんを筆頭とした聖騎士(ホーリーナイト)の精霊武装を参考に研究してたんだよな。

 精霊武装は精霊の力を封じ込めた武具だし、それらを研究することで、ドライグについてもよく知ることができたし、歴代の所有者の人達の封じられてた魂の解放にも少しは貢献してた気もする。まあ、あれらは師匠とリムルのお陰が主だけどな……。

 

「なるほど……精霊の力を封じた武具がこの世界にはあるのか……俺の人工神器の参考になるかもな……。なあ、イッセー。研究データとかあったら貸してくれねえか?」

 

「いいですよ。こちらをどうぞ」

 

「なんだよ、もう持ってるのか! 恩に着るぜ、イッセー!」

 

 アザゼル先生は俺のデータを受け取ると、子どものようにはしゃぎながら食い入るようにデータを見ている。神器の少ないこの世界だと、サンプルも少ないから先生ほどの成果は挙げられてないけど、この世界の術式についての記述もあるし、満足してそうだな。

 

「それにしても、凄い力だね。みるみる回復していたし、ひょっとして、それも神器?」

 

「え? え、えっと……」

 

「ああ、ゴメン。自己紹介してなかったね。僕は谷村真治。日本出身で、イッセー君の友達だよ」

 

「あ、アーシア・アルジェントと言います」

 

 シンジはアーシアの神器を興味深そうに見つめている。シンジはここでは研究職してるけど、元々の本業は医者だからな。アーシアの神器は興味があるんだろうな。

 

「ミーはアーカート。吸血鬼ネー。ユーも見たところ同じ吸血鬼? 仲良くしよう」

 

「ひぃ!? ゔぁ、ヴァンパイア……?」

 

 ギャー助はアーカートに詰め寄られてるな。その瞳からは……少し恐怖がある? ああ、そういえば、ギャスパーは昔純血の吸血鬼に虐められてたんだっけ……。だから、少し警戒しちゃってるのか。

 

「ユーも中々面白い力がだったネー。対象を止めるユニーク……いや、神器? 中々興味深いネー」

 

「え? あ、は、はい! ど、どうも?」

 

 ギャスパーはアーカートに手を差し伸べられ、困惑しながらも手を握り返す。

 

「あ、あの……怖くないんですか……?」

 

「ん? 怖い? なにが?」

 

 心底不思議そうにアーカートは首を傾げている。その様子に呆気にとられたようだが、ギャスパーはしばらくすると、ゆっくりと警戒を解いていた。流石はコミュ力の塊だな。“超克者”の中でも真っ先にテンペストに馴染んだだけのことはあるぜ。

 

「あ、そうだ。これ食べる? ニンニクラーメン、美味しいヨー」

 

「ヒィィィ!? に、ニンニクらめぇぇぇっ!?」

 

 アーカートは親切心から好物のニンニクラーメンを食べさせようとしたが、ニンニクが駄目なギャー助は布団に籠もって全力拒否。アーカートは不思議そうに再び首を傾げている。

 そんな光景に疑問を抱いたのか、ゼノヴィアとイリナが話しかけてきた。

 

「……なあ、イッセー。彼は吸血鬼なのだろう? 何故、ニンニクを食べられるんだ?」

 

「ギャスパー君みたいなハーフなの?」

 

「いや、アーカートは“超克者”なんだよ」

 

「「ちょうこくしゃ?」」

 

 聞き馴染みのない称号に二人は首を傾げている。そこにミッテルトが口を挟んできた。

 

「簡単に言うと、修行や鍛錬で吸血鬼の弱点を克服した、後天的なデイウォーカーっす。彼等は皆鍛錬で吸血鬼の弱点を超克してるため、強さはもちろん、聖なる光以外は弱点のない超常存在なんすよ」

 

「弱点を克服した吸血鬼だと!?」

 

「そ、そんなのいるの!?」

 

 この発言には二人以外も驚いたのか、皆してアーカートの方を凝視してる。当の本人はラーメン片手に笑顔で手を降っている様子だ。

 

「オイオイ、このレベルの吸血鬼で弱点なしってのは相当やべえだろ……というか、だからあの魔王様は吸血鬼でありながら、聖なる力を行使してたわけか……」

 

「その通りっす。まあ、聖なる光すらも超克してるのはルミナス様だけっすけどね」

 

「イッセーさん、お久しぶりです」

 

「お、マークにリュウセイ。お前らもかよ」

 

 続々と俺の同僚達が部屋に入ってくる。マークにリュウセイにルキウスとレイモンド達も何やら部長達の戦いに興奮したらしく、楽しそうに話し込んでいるようだ。

 

「まあ、イッセーさんの仲間と子ども達の戦いも凄かったけど、やっぱりイッセーさんとミッテルトさんの激闘のほうがヤバかったですよ」

 

「そうそう! イッセー先生とミッテルトお姉ちゃんの戦い目茶苦茶凄かったわよ!」

 

「お兄ちゃんもミッテルトお姉ちゃんもとっても強かったの!」

 

 シンジがそんな事をいうと、愛とセラが目を輝かせながら同調する。それを見た部長は複雑そうにしている。部長からすれば、自分達の死闘が前座みたいに扱われてるんだ。無理もないだろう。

 

「むぅ、私も見たかったのに……」

 

「イッセー君の活躍……録画とかないかしら?」

 

「ミッテルトさんの本気も見てみたかったね」

 

「同感だ」

 

 ……どうやら心配なさそうだな。部長達は俺とミッテルトの戦いに興味津々らしく、シンジ達から話を聞いている。どうやら、皆打ち解けてくれたみたいで安心だぜ。

 

「クァーハッハッハ! 中々面白い勝負だったぞ、イッセーよ!」

 

「あっ、師匠!!」

 

 そして満を持してやってきたのはヴェルドラ流闘殺法開祖にして最強の竜種の一角、ヴェルドラ師匠だ。

 意外だ。正直、ヴェルザードさんがいるから今回は自室に引きこもるかと思ってたのに……。

 

「う、うむ、姉上は先程まではいたのだが、イッセーの宿命のライバル……“白龍皇”といったか? あれを連れて何処かへと行ってしまってな。いや〜実に残念なことだ」

 

 残念と言いつつ、目茶苦茶嬉しそうだな。それにしても、ヴェルザードさんがヴァーリを連れて何処かへ行ったとな? 個別で修行でもつけてもらってるの? なんていうか、御愁傷様だな……。

 

「師匠……ってことは……」

 

「貴方が創造神の弟……ヴェルドラ様ですね。お会いできて光栄です」

 

「むっ!? クククッ、クァーハッハッハ! 流石は異世界の魔王、見る目があるではないか!」

 

 サーゼクスさんの言葉に師匠は目茶苦茶嬉しそうだ。勝手知ったるテンペスト住民以外の賛辞は新鮮なのだろう。見ると、小猫ちゃんも尊敬の眼差しを浮かべている。小猫ちゃんは流闘殺法を習ってる分、開祖への尊敬が高いのかもしれないな。

 

「さてと、これで迷宮の効能についてはわかりましたね」

 

 俺の言葉にオカ研のみんなは神妙な顔つきとなり、頷いた。それを確認した俺は笑みを浮かべて今後の予定についてを皆に話す。

 

「では、明日から皆には迷宮攻略に挑んでもらう。一般用じゃなくて、訓練用コースで行くから、かなりハードだけどついてきてくださいよ」

 

 現在迷宮では冒険者が金稼ぎに使う一般用のコースと魔国の者が訓練に使う訓練用コースの二つに分かれている。訓練用コースだと、三十階層からのスタートとなる予定だ。

 

「取り敢えず、この数日で皆には五十階層のボスと戦うところまで行ってもらう」

 

「えっと、三十階層からだっけ? 最後の階層までじゃないのかい?」

 

「そりゃな。まず、お前ら……というか、失礼な言い方だけど、サーゼクスさんも含めてこの迷宮を完全攻略できる人はいないからな……もちろん、俺も含めてね」

 

 俺の言葉に一同は驚いたような表情を浮かべる。部長達は信じられないといった様子だ。そんな中、サーゼクスさん達は俺に続きを言うように視線で促してくる。それを確認した俺は迷宮を守護する者たちについてを話し始めた。

 

「この迷宮は五十階層を超えたあたりから、難易度が一気に跳ね上がる。何せ、六十階層から先は“迷宮十傑”が階層を守ってるからな」

 

「迷宮十傑? それってなんなの?」

 

「迷宮十傑は迷宮を守護する最強の魔人達っす。国の最終防衛ラインでもある迷宮を確実に守護するために鍛えられた強者で、一人ひとりが神クラスの力を持ってるっすよ。一番下の六十階層のボスですら、その力はロキと同格か、それを上回る程なんすよ」

 

 笑いながら気軽に言うミッテルトの言葉に一同は冷や汗をかきながら息を呑む。

 

「俺の見立てだと、八十階層のボスでメロウを上回る力を持ってます。────そして、九十階層のボスは、“進化した覇龍”を使った俺でも勝てない程の力を持っている」

 

「……嘘でしょ?」

 

「マジかよ……!?」

 

「クァーハッハッハ! イッセーの言葉に偽りはないぞ。何せ、九十階層の守護者であるゼギオンは我の弟子の中でも最強の力を誇っているからな!」

 

 この発言にはセラフォルーさんとアザゼル先生も眼を丸くする。九十階層の守護者であるゼギオンさんは本当に規格外だからな……。

 

「ゼギオンさんはディアブロさんとギィ様以外の原初の方々が束になっても普通に勝ったりするほどっすからね。その力は間違いなくテンペスト幹部の中でも三指に入るっす」

 

 原初が束になっても敵わない。その言葉に原初の強さを知っている部長達は顔をみるみる青くしてる。まあ、無理もないだろうな。

 

「流石にそこまでいけとはいいませんよ。皆には、表の迷宮ボスを倒すところまで行くことを目標に攻略してもらいたいってだけですよ。まあ、時間的に厳しいかもだし、行けるところまででいいです。最初の一層にはアドバイザーもつけるつもりですしね」

 

「ええ、わかったわ」

 

「うふふ。見ててくださいねイッセー君。直に攻略してみせますわ」

 

「が、頑張りますぅぅっ!!」

 

「わ、私も頑張ります!」

 

「……私も全力を尽くします」

 

「僕も精一杯やってみるよ」

 

「ああ。このデュランダルで斬り裂いてみせよう」

 

「私も天使の力を見せてあげるわよ!」

 

「初戦闘で敗北して終わりではアレなんで、次で挽回してみせます」

 

 皆気合十分だな。新入りのロスヴァイセさんも初戦闘で活躍できなかった分、次こそはと息巻いてるようだ。

 まあ、目標設定しといてあれだけど、正直五十階層まで行けるかどうかと言うところだけどな。俺の見立てだと、皆ならゴズールとメズールに勝てると思う。けど、時間的にそこまでいけるかどうか……。滞在時間が決まってないとはいえ、長く向こうを空けるわけにもいかないからな。それに、ずっと迷宮攻略も味気ないし、もっとこの国を知ってもらいたい気持ちもある。疲労度合いも見計らって、息抜きしながら攻略させるのが一番良さそうだな。

 俺はそんな事を考えながら、腕輪を身に着け、迷宮へと足を踏み入れようとする部長達を見送るのだった。




超克者の名前はオリジナルです。

ゼギオンって八十階層じゃないの? と思ったそこのあなた。
リムルが書籍にて、迷宮の順番見直すべきかも的な発言をしてたため、現在はゼギオンが九十階層の守護者ということになってます。なので、誤字ではないためあしからず。

あと、イッセー対ミッテルトはなんかテンポ悪くなりそうだから今回端折りましたがアンケート次第では閑話として出そうかなと思ってます。


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オカ研の迷宮攻略です

 木場side

 

 

 

 

 

 

 目が覚めてから数時間後。僕達はテンペスト地下迷宮の攻略のため、三十階層へとやってきた。石造りの薄暗い構造は、何処か不気味な印象を漂わせている。

 

「ここが迷宮三十階層……」

 

「何だか不気味なところですね……」

 

 ちなみに、イッセー君は何やら用事があるらしく、サーゼクス様と共に何処かへ行ってしまった。何処へ行ったのかは知らないけど、サーゼクス様が神妙そうな顔をしていたから、何か大切な話があるのかもしれない。それでも、アーシアさんなんかはイッセー君がいないことに少し寂しさを感じている様子だ。

 

「えっと、ここで待ってれば助っ人が来るって話よね?」

 

「ええ、イッセーはそう言ってたけど……」

 

 流石に初めての迷宮攻略だと、勝手もわからないということで、最初の一日だけ、イッセー君が助っ人を連れてくると言っていたんだ。一体どんな人なんだろう? 

 

「あ、いたいた! 貴方達がイッセーさんの友達ねぇ?」

 

 声の方向に振り返ると、いかにも魔法使いらしい格好をした金髪の女の子と、それに付き従う剣士らしき二人の姿が目に写った。

 

「はじめまして、私はエレン。イッセーさんの友達で冒険者よぅ。今日はよろしくねぇ!」

 

「俺はカバル。一応、このパーティのリーダーさ」

 

「あっしはギド。よろしくでやんす」

 

 イッセー君の言っていた助っ人って、この人達のことなのかな? 何ていうか……少し失礼だけど、そこまで凄い人には見えない気がする。今までに会ってきた人達は、どれもこれも凄まじい力を感じられた。研究職であるという吸血鬼の人達も、最上級悪魔に匹敵する力を持っていた。でも、この人達からは底までの力を感じることができないな。そんな事を思っていると、僕の考えを察されたのか、エレンさん達は苦笑いを浮かべる。

 

「あはは、まあ、あっしらはあくまでただの冒険者でやんすからね」

 

「そこそこは戦えるけど、魔国の人達に比べたら全然弱いしな……」

 

「でも、迷宮については結構詳しいつもりよぅ! だから大船に乗ったつもりで任せなさい」

 

 そう言いながら胸を張るエレンさんはかなりの自信があるみたいだ。確かに、言われてみればその通りだと僕は納得する。初挑戦の僕達と何度も挑戦しているというエレンさん達とでは経験値が違う。全く未知の迷宮で、経験者がいるというのはかなり頼りになりそうだ。

 

「よろしく頼むわ。エレンさん」

 

「ええ、任せてちょうだい」

 

 部長とエレンさんは固く握手を交わし、迷宮の入口へと目を向ける。こうして僕達の迷宮攻略が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「ハア、ハア……」

 

「追いつかれる……」

 

「ひぃぃぃっ! な、何なんですかぁぁぁっ!?」

 

 迷宮攻略を開始して既にかなりの時間が経過していた。僕達は疲労に耐えながらもその足を動かし、眼の前の脅威から逃れようとしていた。

 

「ちょっと! なんでいつもこうなるのよぅ!?」

 

 ドドドドドドッ!!! 

 

 後ろを振り返ると、凄まじい数の魔物の大群が押し寄せてきている! 一体一体は大した事ないけど、狭い通路の中であの大軍と戦うのはあまりにリスクが大きいと言わざるを得ない! 

 

「カバルのせいよぅ! 何であんなあからさまに怪しい扉を開けるのよぅ!」

 

「いや、もしかしたら宝物があるかなと思って……」

 

「これで死んだらカバルを恨んでやるでやんす」

 

「死んでも生き返れるし、いいだろ!」

 

「「それとこれとは話が別よ(でやんす)!!」」

 

 ほ、本当にこの人達で大丈夫だったのかい、イッセー君!? そんな事を考えながら、曲がり角を曲がる。すると、直線状を塞ぐように壁が前に立っていた! 

 

「行き止まり……やるしかないわね」

 

「くるわよ!」

 

 僕達は即座に振り返り、臨戦態勢を取る。凄まじい数だけど、やるしかない! 

 

「雷光よ!」

 

「はあぁっ!」

 

 朱乃さんが雷光を、紫藤さんが光の剣を使って眼前に迫っていた魔物を斬り裂く。だけど、それだけでは駄目だ。数が違いすぎる上にこの場所では僕達の本領が発揮できない! これは厳しい戦いになりそうだね。僕は聖魔剣を取り出し、鋒を魔物達に向けて構える。それを見た魔物達は一斉に飛びかかってきた! 

 

「風の聖魔剣!」

 

 僕は風を操る聖魔剣を作り出し、吹き荒れる風を纏った斬撃で魔物達を斬り裂く。

 

「滅びよ!」

 

 部長も滅びの魔力を用いて眼前に迫りくる魔物達を次々と消滅させていく。狭い通路を直進して進んでいく滅びの魔力はこの場所だと適しているみたいだね。僕も負けていられないな。

 

「おらぁ!」

 

「ギィ!?」

 

 そこへ、カバルさんが剣を持って魔物に斬りかかる。魔物は血を撒き散らしながら、静かに倒れていく。しかし、そのすぐ背後にいた魔物がすかさずカバルさんを噛み砕かんと牙を剥く! 

 

「げぇ!?」

 

 危ない! 僕はすかさず彼のカバーに回ろうとするが、その前にエレンさんが地面が砕けた破片に魔力を込め、弾丸のように解き放った! 

 

「行くわよぅ! “鉱結晶魔弾(クリスタルショット)”!」

 

 ドドドドドンッ! 

 

 放たれた質量弾は次々と魔物達を貫く。それに負けじとロスヴァイセさんが多種多様な魔法陣を構築し、一気に魔物達へと叩き込む! 

 

「簡易版“フルバースト”!」

 

 狭い通路のため、いつもに比べると威力は控えめだが、それでも魔物達を殲滅するには十分な物量だ! 魔物達はロスヴァイセさんの放つ強大な魔法に抗うことができず、一気に消滅していった。

 

「ふう……」

 

「凄い凄い! 今のが異世界の魔法なのねぇ!」

 

「あっ、ちょっと……」

 

 魔物達がいなくなったのを確認すると、エレンさんはロスヴァイセさんに抱きついてきた。どうやらエレンさんは僕達の世界の魔法に興味津々のようだね。対するロスヴァイセさんは少し困惑している様子だ。そんなエレンさんをやれやれといった感じで見つめるギドさんは、懐から何かを取り出して書き記している。

 

「結構走ったでやんすからね。多分、迷宮の大きさからしてここらへんが次の階層への階段だと思うでやす」

 

 その言葉に僕もギドさんの持つ用紙を覗き込む。そこにはこの迷宮の地図が描かれていた。ギドさんは空白となっている場所をどんどんと叩きながら、そこが次の階層への道のりであると教えてくれた。

 

「すごいですね。走りながらこんなことをしていただなんて」

 

「へへ。まあ、これくらいどうってことないでやす」

 

 アーシアさんの称賛にギドさんは少し鼻を高くして胸を張る。

 僕自身、逃げるのに手一杯で地形については考えていなかったから、素直に感心する。流石、迷宮に慣れているだけのことはあるね。

 

「ここね」

 

 ギドさん主導の下、辿り着いた部屋からは、何やら先ほどとは一味違う魔物の気配がする。

 扉を開けると、そこには見るからに凶暴そうな鬼が配下を率いながら階段の前を陣取っていた。

 

「あの鬼は?」

 

「“大鬼の狂王(オーガロード)”。三十階層の階層守護者(ガーディアン)にして、B+ランクの魔物ですね」

 

「ふむ、だが、あまり強そうには見えないな」

 

「同感ね。まあ、イッセー自身最初の方は迷宮に慣れるまでのチュートリアルみたいなものだと言っていたしね」

 

 そのランクがどれほどのものかはわからないけど、少なくともそこまで脅威には思えないな。多分、そこらのはぐれ悪魔より多少強いくらいかな? 

 

「ガアァッ!」

 

「っ!」

 

 大鬼の狂王は配下を一斉に僕達に襲わせる。僕は余裕を持って回避するが、どうやら誘導していたらしく、回避した方向に鬼の一体が待ち伏せしていた。僕は鬼の放つ一撃を聖魔剣で防ぐが、鬼は連携を持って防御を越えようとしてくる。その連携は意外と侮れないものだ。

 

(でも、集団戦には慣れている!)

 

 度重なる“英雄派”との戦いで、連携してくる相手の対処法は知っている。まずは、連携の要となる司令官を倒す! 

 

「グゥッ!?」

 

 騎士のスピードを用いて、大鬼の狂王のもとに一瞬で移動した僕はそのまま大鬼を斬り裂こうとする。大鬼は負けじと獲物である大剣を振り翳し、咄嗟に防御するが、僕は逆に大剣を斬り裂き、そのまま大鬼の胴を一刀両断した。

 

「行きますよ!」

 

「こっちも負けないわよぅ!」

 

 エレンさんとロスヴァイセさんが、魔法による飽和攻撃で残った鬼達を粉砕していく。複数の魔法陣から成る魔法が鬼を蹂躙する様にはある種の爽快感すら感じられるね。

 

「これで次の階層に進めますわね……あら?」

 

 朱乃さんが何かを見つけたらしく、視線を向ける。そこには先程までなかった宝箱が鎮座していた。

 

「宝箱! 何が入ってるのかしら!」

 

「フフフ、これぞ迷宮の醍醐味よねぇ」

 

 イリナさんは眼前に現れた宝箱に目を輝かせながら近づく。宝箱の中に入っていたのは魔剣だ。先程の大鬼に近しい力が宿っているらしく、荒々しい力を感じる。もう一つは金貨らしきものだ。どうやら、純金でできているらしく、美しい輝きを放っている。

 

「“オーガシリーズ”の大剣か。まだ持ってなかったからラッキーだぜ」

 

「通貨らしいものもありますね。これは……いくらぐらいになるんでしょうか?」

 

 ロスヴァイセさんは宝箱の中にあった金貨を取り出し、まじまじと眺めている。それを見たカバルさんが金貨に指差しながら言う。

 

「金貨十枚。確か、そちらの……えっと、ニホンエン? 換算で100万エンだった筈でやす」

 

「ひゃ、ヒャクマンッ!?」

 

 ロスヴァイセさんは手にしていた金貨の相場に驚き、眼を丸くしていた。十枚で百万円ということは、一枚で十万円の価値があるということが。ロスヴァイセさんがこうなるのも無理はないね。

 

「……この扉は?」

 

 小猫ちゃんは階段の前で何かを不思議そうに見ている。僕達も近づいてみると、そこには不思議な雰囲気の扉があった。扉の前にはハンドベルが置いてある。一体これは……僕達がまじまじと扉を観察していると、エレンさんが胸を張りながら説明をしてくれた。

 

「これは休憩部屋の入口よぅ。ここでお金を払えば宿屋に転移して食事や宿泊ができるのよぅ」

 

「地上に比べると割高だけど、風呂にも入れるし中々いい場所なんだよな」

 

「ちなみにこの“記録地点”を使えば冒険を続きから再開することもできるでやす」

 

 三人は各々で眼の前の扉や装置についてをわかりやすく説明してくれる。ちなみにこの“記録地点”は十階層毎に設けられてるらしく、それ以外の場所から冒険を再開する場合は受付や休憩部屋の呼出で販売している“事象の記録玉”を使う必要があるのだという。

 

「……なんていうか、ゲームみたいです」

 

「それは私も思っていたわ。もしかしたら、実際にゲームかなんかを参考にしてるのかもしれないわね」

 

 僕も部長達の言葉に頷く。ずっと思っていたけど、この場所はなんていうか、RPGの中に迷い込んだかのような錯覚に陥るくらい、ゲームみたいな構造になっているんだ。

 

「そういえば、リムル陛下は元々地球出身と言ってましたわね」

 

「そうね。イッセーも大分ゲーム好きだし、そう考えると不思議じゃないのかもしれないわね」

 

「……で、どうするんだ?」

 

 ゼノヴィアの問いかけに部長は瞠目しながら考え込み、やがて僕達一人ひとりの顔色を窺う。暫くすると、溜息をつきながらハンドベルの方へと手を伸ばした。

 

「……あの子ども達との戦いでの消耗が抜けていない現状、無理するのも良くはなさそうね。エレンさんから迷宮についても色々と教わりたいし、ここは休みましょう」

 

 確かに、僕達がイッセー君の生徒と戦ってからまだそこまで時間が経過していない。それでも、アーシアさんの神器やテンペストの回復薬のお陰で十分回復したと思うけど、エレンさん達が攻略に付き合うのは今日一日とイッセー君に言われてるわけだし、できるだけ多くの情報を集めたいからね。今は情報収集の時間も兼ねて休むべきかもしれない。そう考えながら、僕はハンドベルを鳴らす部長を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 リアスside

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 私は温泉に身を浸からせながら、軽く背伸びをする。ここ暫くはドタバタしていたせいで、のんびりお風呂に入る時間もなかったから、とても気持ちよく感じるわね。

 

「はぁ〜、温まるわぁ〜」

 

「今日は色々と教えてくれてありがとう、エレンさん」

 

 私はエレンさんにお礼をいう。エレンさん達には迷宮の罠の種類や気をつけるべき場所まで色々と教えてもらったし、明日からの攻略も捗りそうね。

 

「いいのよぅ、他でもないイッセーさんの頼みなんだからぁ」

 

 エレンさんは手を頬に当て、顔を赤くしながら少し照れくさそうにそう言った。この時、私の中のセンサーが何かを察知した。

 

「……ひょっとして、エレンさんもイッセーのことが好きなの?」

 

「ふぇ!? えっと……まぁ……そうかも……」

 

 やっぱり! こんなところにもライバルがいるだなんて! 周りを見回すと、ロスヴァイセを除く全員がエレンさんのことをじっと見つめていた。

 

「え!? えっと……」

 

「うふふ、ミッテルトちゃん以外にも伏兵がたくさんですわね」

 

「……イッセー先輩は渡しません」

 

「え? なに、もしかして、皆そうなのぅ!?」

 

 黒いオーラを出す朱乃や小猫を見て、エレンさんも察した様子。流石はイッセーといったところね。考えてみれば、イッセーはとてもカッコイイし、十年以上過ごした場所でなら、私達みたいな子がいても不思議でもなんでもない! トーカさんは勿論、あの時助けてくれたジウって子も危ない感じがしたし、本当に油断ならないわね。

 

「エレンはどうしてイッセーを好きになったんだ?」

 

 ゼノヴィアの疑問にエレンさんは少し考え、やがてぽつりと言葉を紡ぐ。

 

「う〜ん、イッセーさんって、何ていうか、ギャップが凄いのよねぇ。普段はスケベなのに、いざってときはすっごく格好良く見えちゃうの。そのギャップに惹かれたのよねぇ」

 

「……少しわかります。普段はド変態なのに……闘うときは……凄くカッコイイです」

 

「そうなのよぅ! 小猫ちゃんわかってるわねぇ!」

 

 小猫はエレンさんの言葉に共感するという旨を話すと、エレンさんは感激したように小猫ちゃんの手を握りしめる。わかるわ。私もそのギャップがとても素晴らしいものだと思っているもの。

 

「カバルもギドもそこら辺全然わかってないのよぅ。パパも何かずっと言ってくるし……パパったら、イッセーさんの事話そうとするだけで露骨に嫌そうな顔するのよぅ」

 

 エレンさんは少しうんざり気味に何かを思い出している。何でも、エレンさんは元々別の国の王族の生まれだったそうだけど、冒険者の冒険譚に憧れを抱き、国を飛び出したのだという。何だか少しだけ共感するわね。

 

「でも、イッセーは渡さないわよ」

 

「……イッセーさんはミッテルトちゃんと付き合ってるのよぅ?」

 

 エレンさんは呆れたように言うが、溜息をつきながら眼を鋭くする。

 

「まあ、私も今も諦めてないしねぇ。負けるつもりはないわよぅ」

 

 私はエレンさんと火花を散らしながら握手をする。新たなライバル登場に私は闘志を燃やすのだった。



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竜の都です

 イッセーside

 

 

 

 

 陽の光が降り注ぎ、そこらにある木々の果物が反射する。瑞々しい果実を見ながら、俺は自然豊かな道の上を歩いていた。

 

「異世界の魔王様も中々見どころあるわね。なんてったって、私の故郷、“竜の都”に行きたいだなんて!」

 

「ここは自然豊かでいいところなんだ。ミリキャスもきっと気に入るぜ!」

 

「はい、とてもいいところですね! この林檎もとても美味しいです!」

 

「こっちもとても美味しいですよ! ミリキャス君も食べますか?」

 

「ふぇ!? あ、は、はい! い、いただきます!?」

 

 ミリキャスはシンシヤから貰った洋梨をまじまじと見つめながら顔を赤くしている。ああ、食べかけだから意識してるのか? 

 

 シャク! 

 

 ミリキャスは勇気を出して洋梨を齧る……まあ、シンシヤが口を付けた場所とはまた別の場所だけど……。

 

「どうですか?」

 

「……と、とても甘くて……美味しい……です……」

 

「ふふん! 当然よ! ここの果物は凄いんだから!」

 

 中々微笑ましい気持ちになるな。俺とミッテルトは今、サーゼクスさんとミリキャス、シンシヤを連れたって、愛とフィオ主導のもと、ミリム領に来ていた。

 あの後、電話でミリムさんにこちらの事情を話すと結構すんなりと許可をもらったんだよな。

 で、部長達が迷宮攻略に集中している隙にこっちにお邪魔させてもらったというわけだ。

 ちなみにミリキャスは既に子ども達と打ち解けている。今までずっとグレモリー領に住んでいたから、同年代の友人もいなかったみたいだし、ミリキャスも友達ができて嬉しいんだろうな。

 

「確かに、近代的なテンペストとは違って、随分と自然豊かな場所だね」

 

「そうですね。ミリムさんの所では農産業が盛んですから……まあ、テンペストにも似たようなところはあるんですけど」

 

「でも、果物の品質なら断然こっちのほうが美味しいんすよね」

 

「流石ミッテルトお姉ちゃん。いいこと言うわね」

 

 ミッテルトの言う通り、果物やら魚やらの品質は断然こっちのほうが上なんだよな。ミリム領では文明の利器とかも普及してきてはいるけど、未だにこういう田舎の風情がある場所が多い。こういうところって結構落ち着くよな。

 

「お待ちしておりました。兵藤一誠様にミッテルト様……そして異世界の魔王サーゼクス・ルシファー様」

 

 リンゴを齧りながら、自然あふれる場所をのんびりと歩いていると、天高くから何者かが飛来してくる。魔王種に匹敵するエネルギーにサーゼクスさんは一瞬警戒するが、俺と子ども達の様子を見て即座に警戒を解く。

 

「ルチア様! クレア様!」

 

「お久しぶりです。ルチアさんにクレアさん」

 

「元気そうっすね」

 

 現れたのは“ミリム親衛軍”の副官である有翼族(ハーピィ)のルチアさんとクレアさんだ。二人共魔王種級の実力者であり、フレイさんの魔王時代からの側近でもあるんだ。

 愛とフィオはルチアさんとクレアさんに駆け寄り、二人は少し微笑みながら撫でたりしてる。

 

「……クレア」

 

 ルチアさんが目配せをすると、クレアさんは何かを察したように子ども達の方へと歩み寄る。

 

「ええ。マナとフィオにシンシヤ様……あと、ミリキャス様はこちらへ案内いたします」

 

「ええ!? なんで! ママとパパに会うんじゃないの!?」

 

「そうだよ! 折角俺と姉ちゃんで案内しようと思ったのに……」

 

 愛とフィオはルチアさんの言葉に納得がいかないようで反論する。それに対し、二人は困ったようにしながらも優しい口調で諭そうとする。

 

「……大事な話になりそうですので」

 

「愛、フィオ。ここはルチアさんとクレアさんのいうことを聞くべきだぞ」

 

「そうっすよ。まあ、ミリキャス君は初めてなんだし、折角だから案内するっすよ」

 

「「はーい」」

 

 二人共ヤンチャなところこそあるが、聡い子どもだからな。雰囲気を察して渋々ながら、クレアさんの後についていく。

 俺とミッテルト、サーゼクスさんはそれを見届け、ルチアさんの案内に従う。

 しばらくすると、一軒の民家が目の前に現れた。俺達はその民家の戸をたたき、そのまま中へと入っていく。

 

「お久しぶりですね。サーゼクス・ルシファー様」

 

 扉の向こうには、白銀の髪に竜を祀る民特有の民族衣装が特徴的な女性がいた。優しげなその笑顔は、何処か儚い印象を与える。

 

「……予感はしていたよ。やはり君だったか、クレーリアさん」

 

 愛とフィオの母親にして、元ベリアル家の上級悪魔“クレーリア・八重垣”さん。彼女に対して、サーゼクスさんは何処か負い目を持っているような瞳を向けていた。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「どうぞ、この国の茶葉で作った紅茶です。とても美味しいですよ」

 

 クレーリアさんから頂いた紅茶を一口飲みながら、俺とミッテルトは成り行きを見守ることにした。正直、この人達の事情はよくわかってないし、当人で話すのが一番いいだろう。

 

「……まさか、こうして貴方様と会える機会が来るとは思いませんでしたよ」

 

 クレーリアさんは笑いながらそんな事をいう。実際、基軸世界への帰還方法もまだ正式に使えるようになったわけじゃないし、彼女も本当にサーゼクスさんに会う機会が得られるとは思っても見なかったのだろう。サーゼクスさんは瞑目し、複雑そうな顔をしながら立ち上がり、クレーリアさんと向かい合う。

 

「……本当に、申し訳無い。貴方達にしたことは、詫びても詫びきれないことだと思っている」

 

 サーゼクスさんは神妙な面立ちとなり、クレーリアさんに対して頭を下げる。クレーリアさんは驚いたような表情となり、慌ててそれを止めようとする。

 

「頭を上げてください、サーゼクス様。私達はもう気にしてはいませんよ。主人は若干思うところもあるようですが、それでも今は幸せなのですから……」

 

 どうやら相当根が深い事情のようだな。クレーリアさんも旦那さんである“八重垣正臣”さんもあまり過去の事は話したがらないから、本当によくわかってないんだよな。多分、詳しい事情を知ってるのは傷だらけの二人を助けたというミリムさんとミッドレイさんくらいだろう。こうなってくると、流石に俺達でも何があったのか気になってくるな。

 

「……私達は、教会とバアル家、それぞれの立場の者に粛清されかけたのだよ」

 

 声がした方を見ると、二階から降りてきた正臣さんが眉間に皺を寄せながら、俺達に語りかけてきた。どういうことかと訪ねようとすると、サーゼクスさんが教えてくれた。

 

「……彼女、クレーリアさんはそこの八重垣正臣氏と恋に落ちた。君達二人は、彼女達の立場を知っているかい?」

 

「えっと、確かクレーリアさんが上級悪魔で、正臣さんがエクソシスト……でしたよね?」

 

「……ええ。その通りよ」

 

 それについては何となく聞いている。クレーリアさんや愛が使う“無価値”の力はベリアル家固有の魔力であり、正臣さんが使う剣技もエクソシストの使うものだという。

 

「……今でこそ、悪魔と天使が同席するという状況もあり得る様になってきたけど、昔は悪魔と教会の者が会合することすら、滅多なことではありえないことだった。ましてや、教会の者と恋愛をするということは、禁忌とすらされていることだったんだ」

 

 サーゼクスさんの言葉に俺は思い立つ。確かにそうだ。今でこそ、天使のイリナと悪魔の部長が協力するといったこともあるけど、半年もしない最近まで、天界と冥界は冷戦状態だった。そんな中、互いに敵国の存在同士が恋に落ちる……なんてことがあれば……。

 

「……つまり、お二人が死にかけてた理由は……」

 

「察しの通り、お互いがお互いの不備を正そうとし、粛清されたのですよ。僕達はただ愛し合っていた。それだけだと言うのに……」

 

 忌々しげに呟く正臣さんの言葉が響く。ただ愛し合っているだけだと言うのに、それを不備とし、殺されかけたことに関して今でも思うところがあるようだ。その事に苦笑しながらも、クレーリアさんは続ける。

 

「お互いの勢力が私達を説得しようとしたわ。でも、例え命を落とすことになっても、私は、正臣君と一緒にいたかった……」

 

 ……そして、二人は粛清を受けた。どちらの勢力が先だったのかは二人にもわからない。エクソシストに悪魔、その両方から襲撃を受け、眷属の助けを借りながらも逃げ切ることはできず、最終的には互いに庇い合うような形で死ぬ寸前の致命傷を受けた。

 

「そんなとき、私達は世界の歪みに巻き込まれ、ミリム様に助けられた」

 

「最初は驚いたがね。まさか、異世界なんてものに飛ばされるとは……」

 

 ミリムさんに助けられてからは、二人は魔王ミリム領の“竜を祀る民”としてこの地で十数年生きてきた。眷属悪魔だった人達もこの地に帰化し、別々に暮らしているのだという。

 

「今は幸せよ。愛しい子どもにも恵まれて、昔では考えられないくらいにね……」

 

 向こうの世界で追手に追われながらでは、ここまで安心して幸せを謳歌するなんてできなかった。だから、これで良かったのだとも語っている。

 

「ですので、私は大丈夫ですよ。そもそも、サーゼクス様は当事者でもないわけですしね」

 

「……そう言ってもらえると、此方としては気が楽になりますよ」

 

「……僕も一応は吹っ切れてるつもりです。まあ、実際に当事者に会えばどうなるかはわかりませんがね」

 

 そういう正臣さんは笑顔こそ浮かべているが目が笑ってない。その有り様にはクレーリアさんも苦笑いだ。

 

「まあ、紫藤さんも此方に斬りかかる際に涙を浮かべて謝っているのを見ましたし……向こうの事情もわかるにはわかるつもりです。クレーリアの言う通り、今が幸せなんだ。会ったら一発殴るくらいで許してやるつもりさ」

 

「ん? 紫藤?」

 

 俺は正臣さんの言葉に少し引っかかるものを感じる。偶然か? いや、こういう時って案外合ってたりするしな……。そもそも、イリナの父親がエクソシストだという話はイリナからそれとなく聞いてるし……。

 

「……もしかして、お二人共駒王町で活動されてました?」

 

「ええ、そうよ。私は元々、駒王町の管理者だったの」

 

 つまり、クレーリアさんは部長の先人に当たるということか。というか、これ確定っぽいな。なんか、運命じみたものを感じるぞ。

 

「……実は、うち達駒王町に住んでるんすよね。で、転生天使に紫藤イリナって友達がいるんすケド……」

 

「……聞いた覚えがありますね。間違いなく紫藤さんの娘さんでしょう」

 

 やっぱりかー。まさか、こんなところに繋がりがあるとは夢にも思わなかったぜ。これ、部長に報告すべきか? いや、知ってたら部長もあらかじめ説明してるだろうし、資料の一つ二つあってもおかしくない筈だ。多分、これは秘匿されてる類の情報なのだろう。となると、サーゼクスさんの許可がない限りは喋らないほうがいいな。

 

「……最後に、サーゼクス様に聞きたいことがあります」

 

「ええ。聞きましょう」

 

 紅茶を飲み干し、一息つく。ポツリとクレーリアさんはサーゼクスさんに何かを問おうとする。それを見たサーゼクスさんは、何かを覚悟していたらしく、クレーリアさんの瞳をじっと見つめる。クレーリアさんはそれに対して静かに呟く。

 

「……“王の駒”は実在するのですか?」

 

 ……“王の駒”? 初めて聞く単語だ。“駒”というからには、レーティングゲーム……“悪魔の駒(イーヴィルピース)”関連か? 何のことだかはよくわからないけど、少なくとも何か重要そうなものだということはクレーリアさんの表情を見てわかった。

 

「……ええ。実在します」

 

「そう……ですか……」

 

 サーゼクスさんの答えを聞いたクレーリアさんは、沈痛な面立ちとなり、首を振るう。そして、今度は静観していた俺とミッテルトの方へと向き合った。

 

「……イッセー先生、ミッテルトちゃん。貴方は今、リアス姫の眷属候補をしているそうね」

 

「あ、はい」

 

 知ってたのか。まあ、リムルや守護王の方々に、シンジ達までもがエスプリ経由の情報で知ってたしな。クレーリアさんは愛とフィオ関連で魔国にもよく来るし、何処かから知られてもおかしくはないか。

 

「なら、今聞いた話はあまり言わないでほしいわ。最悪、リアス姫に危険が及ぶわ」

 

 ……“王の駒”。どうやら相当重要そうなものらしいな。サーゼクスさんをちらりと見るが、サーゼクスさんは複雑そうな顔をしながら首を縦に振る。サーゼクスさんでもおいそれと話せない秘密。悪魔の闇の部分に関係してる事柄なのかもな。なら、サーゼクスさんが話すまでは意識の隅に留めておくだけにしておくか。

 

「わかりました」

 

「了解っす!」

 

 俺達の言葉に満足したのか、クレーリアさんは笑顔を見せながら小さく頷いた。

 

 ガチャ! 

 

「「ただいま!」」

 

「お邪魔しまーす!」

 

「お、お邪魔します」

 

 タイミングがいいな。どうやらずっと黙って控えていたルチアさんがクレアさんに思念伝達で状況を伝えてたらしく、話の終わったタイミングを見計らっていた様子だ。

 

「? クレアさん、何かありました?」

 

「……いえ、何もありませんよ」

 

 なんだろう。何やら途轍もなく疲れている感じがする。魔王級の力を持つこの人が疲れるって尋常じゃねえぞ? なんだ? 子どもたちが何かしたのか? でも、なんか違和感があるな……。

 

「ママ! 今日はシンシヤと、さっき友達になった子を連れてきたわよ!」

 

「はじめまして。ミリキャス・グレモリーと申します!」

 

「あら、サーゼクス様の御子息様ね。歓迎するわよ」

 

 ミリキャスを微笑ましそうに見つめるクレーリアさんは来客用の菓子を取り出し、子どもたちにふるまう。そんな中、フィオは少し言いづらそうに正臣さんの元へ近づき、耳打ちする。

 

「ねえ父さん。実は、あの方も遊びに来てくれたんだけど、家に入れていい?」

 

「ん? あの方……ちょっと待て、なんか覚えのある気配がするんだが」

 

「なんだろう。目茶苦茶嫌な予感がするんですケド……」

 

 フィオの言葉に嫌な予感を覚えた俺と正臣さんはだらだらと汗をかく。俺も気づく。途轍もない気配がこの家にのしのしと近づいてきているのが。この気配、師匠にも匹敵するほど大きいものだ。それでいて、その力を完璧に抑え込んでいやがる! そんな事ができる人、竜の都では一人しかいねえぞ!? 

 

 バアァンッ!! 

 

「たのも────なのだ────!」

 

 ドアを勢いよく開けながら、小さな影が部屋の中へと入ってきた! 俺と正臣さんの不安が的中だ! 現れたのは、ツインテールに纏められた桜金色(プラチナピンク)の髪と青い瞳、露出度の高い恰好が特徴の美少女! 八星の中でもトップ3に入る最恐の魔王“ミリム・ナーヴァ”さんその人だ! 

 

「あ、ミリム様! 久しぶりっすね!」

 

「あら、ミリム様。ようこそいらっしゃいました」

 

「うむ、邪魔するのだ……おお、イッセーにミッテルトではないか! 久しぶりなのだ!」

 

「えっと、久しぶりです。ミリムさん」

 

 俺達の姿を確認すると、ミリムさんはトコトコ近づき、声をかけてきた。近づくやいなや、不満げな顔で憤慨している様子だ。

 

「全く、リムルといい、お前といい、異世界の魔王などという面白そうなことを黙ってるだなんて、ズルいではないか!」

 

 やっぱりその件か。おそらくはサーゼクスさんの気配でも感じて面白そうだから来たのだろう。そこで、子ども達から異世界関連の話を聞いたといったところだろうな。

 ミリムさんは一通り文句を言った後、視線をサーゼクスさんの方へと向けた。その瞳からは、僅かな歓喜が滲んでいる。

 

「ほう、お前が異世界の魔王だな。中々強そうではないか」

 

「……貴方様が創造神の御息女、ミリム・ナーヴァ様ですか。はじめまして、サーゼクスと申します」

 

「うむ! よきにはからえ!」

 

 ミリムさんはサーゼクスさんの強さを見抜き、面白そうだと感じてるみたいだな。対してサーゼクスさんの方も、ミリムさんの力を測ろうとしている。だが、直に途方も無い力だと認識した様子。

 

「ミリム様、フレイさんにちゃんと言ったんすか?」

 

 有頂天になっていたミリムさんはミッテルトの言葉にドキリと身体を震わせ、直ぐに目を泳がせた。

 

「う、うむ。フレイの部下にはちゃんと出かけてくると言ったから、大丈夫なのだ……多分……」

 

 また部下を簀巻きにしてるんじゃなかろうか、この人。フレイさんの宿題をサボってきたな。それを悟ったミッテルトはジト目を維持しながらも、クレアさんとルチアさんに目配せをする。内緒にするようにしているのだろう。それを悟ったクレアさんとルチアさんは、ミリムさんと一緒にいると不味いということで何処かへと飛び立っていった。

 

「まあ、フレイ様に怒られたらうちも謝っとくっすよ」

 

「う、うむ。感謝するぞミッテルトよ」

 

「その会話……聞かれていたら意味ないと思うわよ」

 

 ビクッ! とミリムさんの肩が跳ね上がる。ミリムさんが冷や汗をかきながらゆっくりと後ろを振り向くと、そこには怒気を放つフレイさんの姿があった。

 

「ふ、フレイ!? な、何故ここに!?」

 

「貴女の行動なんて想定済みなのよ。異世界の魔王という、貴女の興味を惹きそうな存在がここに来ていると知った時点で、私はこの近辺を監視していたのよ」

 

 さ、流石はフレイさんだ。元々有翼人(ハーピィ)は卓越した飛行能力と同じくらい、視力に特化した種族。そんなフレイさんならどれ程遠く離れていても、一つの場所に注視すれば、ミリムさんが来たことに気付くことも容易だろう。後は気配を消しての隠密飛行で近づけばいいだけのことだ。

 フレイさんはその自慢の爪でガシッとミリムさんの頭を掴むと、ズルズルと城へ引き摺ろうとする。

 

「うぅ……フレイのバカ……」

 

「バカで結構。遊びは私の宿題をちゃんと終わらせてからにしなさい」

 

 小学生かな? 引き摺られていくミリムさんの姿には、流石のサーゼクスも苦笑を禁じ得ない様子だ。

 

「まあまあ、子ども達だってミリム様と遊びたそうっすし、少しくらい良いんじゃないすかね?」

 

 ミッテルトの言葉にフレイさんはチラリと子ども達を見つめ、暫し思案すると溜息をつきながらミリムさんを離した。

 

「仕方がないわね。その代わり、ミリムは終わったら宿題を少し増やさせてもらうわよ」

 

「うっ、わ、わかったのだ……」

 

 ミリムさんは一瞬躊躇したが、それでも遊びたい欲の方が勝ったらしく、渋々とフレイさんの提案を受け入れた。

 フレイさんが飛び立つのを見送ると、ミリムさんはくるりとこちらの方に振り返り、子ども達と向き合った。

 

「さあ、気を取り直して遊ぶのだ!」

 

 そんなミリムさんに対し、子ども達は笑顔でそれを迎え入れた。

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、用事も済んだことだし、うち等も戻るとしましょうか」

 

「そうだな。部長達も迷宮攻略頑張ってると思うし、速めに準備しとくか。お前等も用意しろよ」

 

「「「「はーい!」」」」

 

 日も暮れ、ミリムさんが帰ったのを確認した俺の言葉に、子ども達はシンシヤを除き少し元気のない様子だが、充足感のある笑顔で答えた。

 ミリムさんとの取っ組み合いや最近普及し始めたテレビゲームなどで遊んだ四人は、疲れつつも満足そうなご様子だ。シンシヤはまだまだ全然行けそうな辺り、流石といったところだな。

 愛とフィオも現在は学生寮暮らしだし、休日ならまだしも明日も学校があるわけだからテンペストに戻るつもりのようだ。

 それを確認して、俺とミッテルトは転移魔法陣を用意する。すると、クレーリアさんがサーゼクスさんの方に近づき、微笑む。

 

「ディハウザーに伝えてください。私は元気にしていると……」

 

「ええ、必ず」

 

 こうして、俺達は竜の都を後にするのだった。

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「あっ! やっと来ただわさ!」

 

「丁度良いタイミングですね」

 

 竜の都から帰還してから二日程。皆の攻略具合が気になってきたので迷宮に戻るとラミリスさんとシンジが何やら慌てた様子で俺を呼び出してきた。

 

「どうしたんだ?」

 

「それが……」

 

「あいつら、もう五十階層に来てるだわさよ!」

 

「え? まじすか?」

 

 これは流石に驚いた。部長達も強くなっているとはいえ、広大な迷宮を攻略することは生半可ではない。一日二日で二十もの階層を攻略するとなると、凄まじいスピードだ。

 

「どうやら、エレンさん達から迷宮攻略のコツを色々聞いたようで……」

 

 なるほど。エレン達にはある程度慣れるためのアドバイザーとして一日だけ同行させたんだけど……どうやら、後々の階層の罠の種類や敵の種類なんかも口を滑らせてしまった様子だ。

 

「ま、まあそれくらいならいいんじゃないすか? どの道、部長達なら二度目以降の罠は通じないでしょうし……」

 

「初見殺しの罠を予め知ってて攻略してたら意味ないだろ……」

 

 正直、そういう罠で対応力を身に着けてほしかったわけなんだが……。

 

「……例え事前に聞いていたとしても、実際に体験するのとでは全く違うっすし、対応力はちゃんと身についてるんじゃないすかね?」

 

 うむ……確かにミッテルトの言う通りかもしれないな。初見殺しと言っても知ってたところで早々に攻略できるものでもないし、映像を見ると危なっかしい点はあれど、ちゃんと実力で突破してる。

 

「それに、五十階層のボス二人の情報はエレンちゃんも流石に言ってないみたいっすしね。それなら問題ないと思うっすよ」

 

「……そうだな」

 

 今回、五十階層のボスには二人で出撃しろと予め言ってある。二人共やる気満々だったし、あの二人を同時に相手取るのは今の部長達でも中々キツイ。部長達の真価が発揮されるのはこれからだ。俺はそう思い直しながら、モニターに目を向けるのだった。



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迷宮ボスと対決です

社会人になりました。


 木場side

 

 

 

 

 

「やっと着きましたね」

 

「ええ、ここが五十階層……」

 

 五十階層……テンペスト地下迷宮の表向き最後の階層だとイッセー君から聞いている。約二日かけてここまで辿り着いたわけだけど、僕達はその扉の前で少し尻込みをしていた。……扉の前から凄まじい気配が漂っている。間違いなく、今の僕達よりも格上の存在が向こう側にいる。

 

「じゃあ、開けるわよ」

 

 部長の言葉に僕達は頷き、今までとは異なる豪華な装飾の扉を開ける。

 ギギィ……と重厚感のある音とともに扉が開ききると、眼の前に二頭の怪物が鎮座していた。

 片方は数メートルはあろう牛頭。もう片方は同じくらいの大きさの馬頭だ。二頭とも、日本や中国などの土地に存在する妖怪であり、“はぐれ悪魔”となった個体と戦ったこともある……でも。

 

「……これは、とんでもないわね」

 

 眼前の二頭は今まで出会った牛頭馬頭とは比べ物にならないほどの圧倒的な威圧感を放っている! これは最上級悪魔……もしかしたら、魔王様の眷属にも匹敵するかもしれない! それほどの威圧感だ! 

 二頭の牛頭馬頭はニヤリと口角を上げ、高らかに宣言する。

 

「よく来たな小童共! 俺の名はゴズール! 迷宮五十階層の守護者よ!」

 

「俺の名はメズール! 同じく五十階層の守護者だ!」

 

 っ!? 今までの迷宮の守護者達が知性なき獣のような存在だったから、勘違いしてたけど、流石に迷宮最後の守護者となると、人間と同じく知性ある存在のようだね。

 厄介だ。二頭────いや、この二人は恐らく相応の経験を積んでいるし、その分技術も卓越しているはず。今までの力任せの存在と同じに考えてたら痛い目を見るだろうね。

 

「そちらが名乗ったのだから、此方も名乗らせてもらうわ。私はリアス・グレモリー。こことは違う世界の魔王の妹でイッセーの友人よ」

 

 相手の名乗りに部長も返す。それを聞いたゴズールさんとメズールさんは僕達を吟味するかのように観察すると、クックッと笑い出した。

 

「うむ。貴殿らのことはイッセー殿から聞いている。本来、五十階層の守護者は交代制で行っているのだが……」

 

「イッセー殿からは二人同時に出撃しろと言われてな。イッセー殿がそこまで言うほどの者達。どれほどのものか楽しみよ」

 

 ゴズールさんは部長と軽く握手を交わし、直ぐ様武器を取る。メズールさんも同様で、既に武装を展開している様子だ。

 ゴズールさんは盾と巨大な戦斧。メズールさんはゴズールさんと同様の盾と槍を装備している。どちらの武器も相応の業物だということが見てわかる。あれは僕の作る魔剣と比べても遜色のないかもしれない。

 

「油断せずに行くわよ!」

 

 部長の号令で僕達も構える。二人はそれを見て不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 イッセーside

 

 

 

 

 

「来たぞ。イッセー」

 

「どうやら始まったばかりのようだね」

 

 声の下方向を見ると、アザゼル先生とサーゼクスさんが部屋に入ってくるのを確認できた。どうやら、皆の迷宮攻略の模様を見物しに来たみたいだな。

 

「なるほど……あの二人の牛頭馬頭……相当な使い手だな」

 

「ええ、二人共伊達で五十階層の守護者をやっているわけじゃありませんからね」

 

 十傑と比べると舐められがちだが、ゴズールとメズールは各々が準魔王種級の力を持っており、カリオンさんが進化する前……祝福(ギフト)を受け取る以前のフォビオさんよりも強い。しかも、一人でも厄介だが二人が組むとそのコンビネーションで下手な魔王種を撃破できるほどの力を発揮する。

 子ども達の中でも彼奴等と一対一で勝てるのはアカヤとシンシヤだけだ。

 まあ、集団戦なら工夫をすれば、子ども達でも勝てる相手だし、今の部長達にはちょうどいい相手だろう。

 

「特にメズールは部長達と相性が悪いっすからね。どうやって戦うのか見物っすね」

 

「相性が悪い? それはどういう……」

 

「どうやら始まるみたいだぜ。俺も気になるが……まあ、見りゃわかんだろ。最初からネタバレ食らっちゃつまらねえしな」

 

 アザゼル先生の言葉を聞いて、サーゼクスさんは少し考えてモニターへと視線を戻す。

 

「……アザゼルの言う通りか。ここは見物させてもらうとしよう」

 

 サーゼクスさんの言葉を聞いて、俺達もまた視線を戻した。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 リアスside

 

 

 

 

 

「滅びよ!」

 

「ぬぅ!? これは……っ!?」

 

 私は魔力を貯め、滅びの魔力を放つ! それを見たゴズールさんは回避する素振りを見せるが、回避しきることができず、右腕を消し飛ばした! 

 

「ぐぬぅ、この俺の右腕を消し飛ばすとは……大した威力だな」

 

 ゴズールさんは抉り取られた右腕を見ながら感心するように呟く。感心しているところ悪いけど、この隙を見逃したりはしないわよ。

 

「今よ! 右側を中心に狙いなさい!」

 

「ああ、わかってるさ!」

 

 ゼノヴィアは即座にゴズールさんの右側面に回り込み、デュランダルに聖なる力を込め、解放する。だけど、ゴズールさんは慌てることなく、()()を振るいゼノヴィアを薙ぎ払った! 

 

「ふん!」

 

「っ!? がはっ!」

 

 咄嗟のことで回避することができず、ゼノヴィアはその一撃を喰らってしまう。

 

「再生……それも、尋常ではない速度で……」

 

「ククク、その通りよ。俺の“超速再生”の前にその程度の攻撃は無意味よ!」

 

 そういいながら、ゴズールさんは右腕を掲げ、自慢の戦斧を振り回す。それを回避しながら、私は再び滅びの魔力を放つ。それを見たゴズールさんは戦斧を回転させ、滅びの魔力に真正面から対抗する。どうやらゴズールさんの戦斧は彼の魔力で覆われているらしく、いとも容易く滅びの魔力を打ち消してしまった! 

 

「はあっ!」

 

「むぅ!」

 

 一瞬の隙をつき、イリナが光の槍を投げつけ、ゴズールさんの眼を潰す。ゴズールさんはそれを鬱陶しげに引っこ抜き、逆にイリナに投げつける。イリナはそれを弾き飛ばしつつ、一気に近づきゴズールさんの攻撃を掻い潜る。

 

「ここまで近づけば、その斧は振り回せないわよ!」

 

 イリナの攻撃を喰らいながらもゴズールさんはまるで慌てずに再生を続ける。瞬間、ゴズールさんの角が紫電を纏いながら激しく発光する。それを見たイリナは冷や汗をかきながら、急いで場を離れようとするが、間に合いそうにない。

 

「ここは私が! 雷光よ!」

 

「っ! “電撃角(ライトニングホーン)”!」

 

 朱乃の雷光とゴズールさんの紫電が激突する。二つの雷は激しいスパークを起こし、直後に爆発する。イリナは何とか回避できたようね。

 

「あひがとうね、朱乃さん」

 

「これくらい、どうということはありませんわ」

 

「ゴズールばかりに目を向けてていいのか?」

 

「「!?」」

 

 いつの間にか、朱乃とイリナの後ろにメズールさんが回り込んでいた! メズールさんはその槍でイリナと朱乃を丸ごと串刺しにしようとする。

 

「させません! “フルバースト”!」

 

「滅びよ!」

 

 ドゴォォンッ!! 

 

 私の滅びの魔力とロスヴァイセのフルバーストでメズールさんを吹き飛ばそうとする。複数属性の魔力の破壊力は凄まじい爆発を起こす! でも、メズールさんはまるで応えた様子がなく、気にした素振りも見せずに朱乃とイリナを貫こうとしていた。

 

「そうはさせない!」

 

 ガギィィンッ! 

 

「むっ!」

 

「炎の聖魔剣!」

 

 ゴォォォゥッ!! 

 

 間一髪の所で祐斗が聖魔剣で防ぐ。どうやら騎士のスピードで間に合ったようね。祐人はメズールさんの槍を捌き、炎の聖魔剣から放たれる炎で牽制する。

 

「ほう、俺の槍を止めるとはやるな! だが……」

 

「なっ!」

 

 メズールさんは至近距離での祐人の炎をも容易くかき消し、祐人を吹き飛ばす! 

 

「……魔力の攻撃が……効かないのか!?」

 

「ほう、気づいたか! 俺の“魔力妨害”は俺の周囲に近付く魔法や魔力の働きを妨害し、無力化する。どれほど強力な魔法も俺の前では無意味よ!」

 

 魔力妨害……確か、メロウも使っていた技ね。その力で私の滅びの魔力やロスヴァイセのフルバーストをも無力化させられたということね、厄介だわ。

 

「喰らえ! “馬超連槍”!」

 

「させませんっ!」

 

 祐人を貫かんとする槍をアーシアが結界で防ぐ。眷属の中でも防御結界の構築に長けているアーシアの結界は流石の一言であり、罅割れながらもメズールさんの槍による連撃を見事に防いでみせた! 

 

「やるな……俺の槍を防ぎ切るとは……だが、これならどうだ! “馬槍穿槍”!」

 

「っ! きゃああっ!?」

 

 アーシアの結界を見たメズールさんは、まるで槍をドリルのように回転させ、結界を削りながら破壊する! アーシアはその威力に耐えきれず、吹き飛んでいく! 

 

「アーシア!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 慌てて私は翼を羽撃かせ、アーシアを受け止めて地面に降りる。アーシアは礼を述べながら、再びメズールさんと向き合う。

 

「挟み撃ちよ!」

 

「死ねぃ!」

 

 っ!? 私とアーシアが着地したタイミングでゴズールさんとメズールさんが双方から槍と斧を私達に向けて振り下ろしてきた! “瞬動法”で高速移動をしたのね! このタイミングは躱せない。

 

「させないって言ったはずですよ!」

 

「ほう?」

 

「ここは私が……」

 

「むっ?」

 

 すかさずに瞬動法で移動をした祐人がゴズールさんの剣を弾き、小猫がメズールさん目掛けて飛び膝蹴りを繰り出す。メズールさんは槍でそれを弾き、素早く槍を持ち替えて、着地をした小猫に放つ。それを見た小猫は真剣白刃取りでメズールさんの槍を防いでみせた! 

 

「ぐっ……」

 

「ほう、力で俺と張り合うとは……やるな、小娘!」

 

「っ!?」

 

 メズールさんは槍を押し込むのではなく、勢いよく持ち上げることで小猫を上空へと跳ね飛ばす。小猫は悪魔の翼を駆使して何とか中空に踏みとどまった。しかし、メズールさんは掌から炎を出し、それを小猫に向けて放つ。

 

「“炎馬掌来”!」

 

「さ、させませぇぇんっ!」

 

 メズールさんから放たれた炎をギャスパーが停止させ、その隙に小猫は離脱する。それを確認すると、ギャスパーは停止を解除し、炎はそのまま突き進んでいった。

 

「ふむ、中々面倒なユニークスキルを持っているな……いや、異世界の者なら神器というやつなのか?」

 

「流石にイッセー殿が認める存在ということだな」

 

 祐人と剣を交えていたゴズールさんがその力で祐人を弾き飛ばし、メズールさんと共に私達の前に立ち塞がる。私は弾き飛ばされた祐人に尋ねる。

 

「祐人。どうかしら?」

 

「……どうやら、メズールさんは魔法攻撃が得意のようですね。先程も槍の間に魔法を織り交ぜてるのが見えました。対して、ゴズールさんは近接戦闘に特化してるみたいです。あの斧さばきは僕でも見切ることが難しかったです」

 

 成る程。大体は私の考えと同じね。

 ゴズールさんの斧は遠目から見た私も見切ることはできなかった。でも……。

 私は先程までの戦闘を振り返り、改めて皆に指示を出す。

 

「ゴズールさんは祐人、ゼノヴィア、イリナ、朱乃に任すわ。私とロスヴァイセは小猫を前衛にしつつ、メズールさんを対処する。ギャスパーはアーシアを守りつつ、自己判断でサポートをしてちょうだい」

 

「なっ! それは危険では? あのメズールさんは魔力攻撃を主とした部長達では相性が悪い。それよりも、僕達がメズールさんの方を……」

 

「いえ。正直、私じゃあゴズールさんの攻撃が見切れそうにないのよ。でも、剣士である三人なら見切れる筈よ。あの雷も、同じ雷の使い手である朱乃なら対処できると思うわ」

 

「……なるほど。でも、ゴズール殿の再生能力はどうするんだ? あの再生能力はデュランダルでも突破できるかどうか……」

 

「いえ、それは違うと思うわ」

 

 確かに、普通に考えればゼノヴィアの懸念も最もだと思うけど、私は先程の再生を見て思うところがあるの。

 

「確かにあの再生能力は驚異的だけど、あれ程の力が長く続くとは思えない。いつか限界が来るはずよ」

 

 思い返すは先程の攻防。あの時、ゴズールさんは私の滅びの魔力をわざわざ斧で弾いていた。あれ程の再生能力があるんだったら、そんな事しないで気にせずに攻撃すればいいもの……このことから、あの人の再生能力には限界があるんじゃないかと思うのよね。

 

「メズールさんにしたって、妨害できる魔力には限界があるはず……私の滅びと、ロスヴァイセのフルバーストならそれも可能なはず」

 

「成る程。確かにそれは一理ありそうだね」

 

「わかりました。やってみせましょう」

 

 ゼノヴィアとロスヴァイセは気合を入れ、各々の戦う相手に向かい合う。それを見た二人の守護者は面白そうに口角を上げた。

 

「いいだろう! かかってこい!」

 

 ゴズールさんの宣言を皮切りに戦闘は再開する。私達は全霊を持って、この二人に挑むのだった。

 

 

 

 

 

 




書き溜め尽きたんで投稿遅れるかもです(最近小説書くモチベが……一応執筆でき次第、なるだけ時間通りに投稿します)


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五十階層突破です

今回批判あるかも


 木場side

 

 

 

 

「はあ!」

 

「えい!」

 

 イリナさんとゼノヴィア、二人の連撃がゴズールさんに迫る。激しいながらも息のあった連携はエクソシスト時代より培われたものだろうね。ゴズールさんはその凄まじい連携を前にしながらも慌てることなく、巨大な斧を駆使してその攻撃を防いでいた。

 

 ガギィン! 

 

「中々の連携だが、俺には通じん! “電撃角(ライトニングホーン)”!」

 

 イリナさんとゼノヴィアの波状攻撃を弾いたゴズールさんはそのまま角に雷を貯め、二人に向けて放とうとする。

 

 バチバチィ! 

 

 凄まじいまでの雷撃。多分、直撃すれば無事じゃ済まないと思う。でも、二人は慌てることなく、ゴズールさんにそのまま向かっていく。二人の行動に訝しげにするゴズールさんだが、すぐにその瞳は驚愕の色に染まった。

 

「させませんわ!」

 

「なぁっ!?」

 

 ゴズールさんの放った雷撃は二人に直撃することなく、別の方向へと誘導された。朱乃さんは強力な電磁波を発することで、ゴズールさんの雷を誘導したのだ。これには流石のゴズールさんも目を剥いているみたいだ。

 

「今だ! 聖魔剣!」

 

 ズドドドドドドドドッ!! 

 

 僕はその隙を見逃さず、聖魔剣を地面に突き刺し、地より這い出る数多の剣でゴズールさんの足を縫い留める! 

 

「ふん、なめるなよ!」

 

 ゴズールさんは自らを貫いた聖魔剣に冷や汗をかきながらもその強靭な肉体で無理やり脱出しようとする。バリバリと軽快な音とともに聖魔剣の拘束を破ったゴズールさんは瞬時に肉体を再生させ、僕に襲い掛かろうとする! 

 

「さ、させません!」

 

 そこに薄緑の綺麗な障壁が眼の前に現れ、ゴズールさんの攻撃を防ぐ! アーシアさんの結界が僕を守ってくれたんだ! 

 

「雷光よ!」

 

 動揺するゴズールさんに雷光の矢が迫る! 直ぐにそれに気づいたゴズールさんは角より出る電撃で矢を迎撃していくけど、アーシアさんの障壁に気を取られて反応が遅れた分、いくつかの矢を喰らったみたいだね。

 

「今がチャンスね!」

 

「ああ、畳み掛けるぞ!」

 

 再びイリナさんとゼノヴィアが波状攻撃を仕掛ける! ゴズールさんはそれを斧で迎撃しようとするけど、ゼノヴィアとイリナさんら僅かな隙を見逃さず、次々と細かい傷をつけていく! 

 

「お前の動きは見切った!」

 

「またまだ行くわよ!」

 

「ぐっ……」

 

 振り下ろされる斧を回避すると、ゼノヴィアはデュランダルに力を込め、それを解放する! デュランダルから放たれた聖なる一撃はゴズールさんの斧を持ってしても防ぐことはできず、斧とともにゴズールさんを袈裟切りにした! 

 

「無駄だ! この斧は最早俺の一部も同然! 我が身同様再生させることもできるのだ!」

 

「「!?」」

 

 ゴズールさんの宣言通り、斧はみるみると再生し、大技を放ち隙だらけとなったゼノヴィアを斬り裂かんと襲ってくる! 僕はすかさずゼノヴィアの前に立ち、ゴズールさんの斧の軌道をずらしてみせた! 

 

 ビリビリッ! 

 

 くっ! わかってはいたけど、なんて重い攻撃なんだ!  こうして受け止めるだけでも腕がしびれる! 

 

(でも、負けるわけには行かない!)

 

 力は向こうが圧倒的に上。速度も正直あまり変わらない感じだ。このままでは押し切られる。……このままじゃ駄目なんだ! ここで強くなれなきゃ、僕達はいつまで経ってもイッセー君におんぶに抱っこの形になってしまう! 力ではどうあがいても敵わない……なら、もっと速く! 

 

「うおおおおっ!!」

 

 ガギギギギギギギギィン! 

 

「なっ!? さらに速度が上がっただと!?」

 

 僕は脚が悲鳴を上げているのを無視しながら、更に強く踏み込んで速度を上げる! 

 だけど、その速度にもゴズールさんは即座に対応している。まだだ。まだ足りない。もっと速く……もっと強く! 

 

「デュランダル!」

 

「雷光よ!」

 

「えいっ!」

 

 ガギィィンッ! 

 

 そこにゼノヴィアとイリナさん、朱乃さんの三人が割って入る。三人の波状攻撃を前には流石のゴズールさんも耐えきることができなかったらしく、後方の壁まで吹き飛ばされる。それでもまだ再生するんだから凄まじい。

 

「でも、負けない!」

 

 再生の速度が速いんだったら、それよりも速く倒すんだ! ゼノヴィアのような破壊力を持たない僕にできるのは速度を活かすこと……再生が間に合わないほどの速度で剣撃を叩き込むしかない! 

 

「うおおおおおおっ!!」

 

 ガガガガガガッ!!! 

 

「ぐっ、まだ上がるというのか……っ!?」

 

 徐々に僕の斬撃に対応しきれなくなったらしく、ゴズールさんの体に少しずつ攻撃が入るようになってきた。もっと、もっと……イッセー君にだって負けないぐらい、速く! 

 

『────確認しました。個体名木場祐斗がユニークスキル“疾走者(ハヤキモノ)”を獲得しました』

 

「なっ!?」

 

 何処からともなく変な声が僕の頭の中に響いた。次の瞬間、僕は今までにないくらい疾く動いた! 

 突如として加速した僕の剣に対応できず、ゴズールさんは切り裂かれ、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「がはっ!?」

 

 何だ……今の速度は……? 僕自身が制御できないほどの速度……。それが前触れなく唐突に出たんだ。さっき聞こえた声から察するに、これがユニークスキルと言う奴なのか? 

 

「ぐっ、まさかユニークスキルを手に入れるとはな……だが、今手に入れたばかりの力を全て把握できる道理なし……これで終わりだ!」

 

 ゴズールさんは雷を纏わせた斧を僕目掛けて思い切りぶん投げた! 僕はすぐに立ち上がり、身構えるが体勢が悪い……でも、心配はいらない! 

 ゴズールさんの斧を狙い撃とうとしている朱乃さんの姿が目に写っていたから……。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 朱乃side

 

 

 

 

 

 裕斗君目掛けて飛んでいく斧に狙いをつけ、私は手を翳す。

 

「雷光よ!」

 

 バチィッ! 

 

 雷光の矢は斧目掛けて真っ直ぐと翔んでいき、見事に斧を弾いてみせた。

 

「チィ! だが、この斧は我が身同然といったはずだぞ!」

 

 その宣言通り、弾かれた斧は旋回し、ゴズールさんの手元へと戻っていく。そして、その遠心力を利用し、肉薄するゼノヴィアちゃんとイリナちゃんを弾き飛ばした! 

 

「ぐっ……」

 

「手強いわね……」

 

 電撃は封じている。次はあの斧を封じなければならない。でも、ただ壊すだけじゃ駄目……どうすれば……。

 

(……いいえ、ここで弱気になったら、イッセー君の隣になんか立てそうにありませんわ!)

 

 メロウとの戦い……私は母様と戦い、母様の尊厳を救おうと必死だった。でも、それをいとも容易く踏み躙られて、心が張り裂けそうになって……そんな中、彼は私の無念を晴らすため、必死に戦ってくれた。

 私の為に必死で戦ってくれたイッセー君。あの時の姿は忘れない。

 

(私はその恩を返したい! その為にも、強くなりたい!)

 

 イッセー君やミッテルトちゃんが過ごしたここでなら、私も強くなれるかもしれない。そう思って私はこの世界に来た。

 実際、ここの人達は凄まじい強さを持っている。子ども達ですら、私達を上回る程の力を持っているのだから、他の人達の強さは想像を絶するものなのでしょう……。

 

「でも、諦めたりはしませんわ! 強くなってイッセー君に褒めてもらう為にも、絶対に負けませんわ!」

 

『────確認しました。個体名姫島朱乃がユニークスキル“稲妻様(カミナリサマ)”を獲得しました』

 

 瞬間、私の放つ雷が更に大きな物となった! それだけじゃない、以前よりもスムーズに雷を放つことができている……。これがユニークスキル……。

 

(イッセー君の言ってた通りね……)

 

 イッセー君は、こちらの世界では魔素と呼ばれる大気に漂う魔力の作用で修行をすれば、ユニークスキルと呼ばれる力を手に入れやすいかもしれないと言っていた。流石はイッセー君ですわね。

 

(でも、いきなり使っても今の裕斗君の二の舞いになってしまうのがオチ……まずは新しく得た力がどのようなものなのかを見極めないと……)

 

「雷光よ!」

 

 私は雷光の弓矢に新たな力を込め、それを放つ! 

 以前の雷光よりも速くなったそれをゴズールさんはいとも容易く弾き返していく。

 

「フハハハッ! この程度かぁ!?」

 

 速度は上がっても威力までは変わっていない? そう思いながら、私はもう一度雷光の矢を放つ。ゴズールさんは余裕の笑みを浮かべながら、それを先程のように防ごうとする……しかし────

 

 ズガァァァァンッ!! 

 

「なぁっ!?」

 

 なんと、斧に触れた矢は炸裂し、凄まじい爆発と放電を起こしたのだ! 

 

「これは……相手に雷光を蓄積する力?」

 

 そう考えれば説明がつく。今までの雷光の力が彼の斧にどんどん蓄積していき、限界を迎え、暴発したのね。

 これなら、サポートだけでなく私も相手にダメージを与えることができる……。

 

「ぐっ、やってくれたな……」

 

 ゴズールさんは音を再生させながら、私に雷を放つ。それを受け止めながら、私は再度雷光の矢を生成し、それを放った。

 

「ぐっ、何度も食らうとでも……」

 

「させん!」

 

「私達の事を忘れないでよね!」

 

 雷光の矢を全て雷で弾き返そうとするのを見て、イリナちゃんとゼノヴィアちゃんがそれを防がんと奮起する。

 再び開始されたその波状攻撃を防ぐことができず、ゴズールさんは私の雷光を幾度かその体で受けてしまった。

 

 ズガァァァァンッ!! 

 

 炸裂する雷光の矢が彼の身体を大きく抉る。その再生能力で肉体の損傷を治しつつ、ゼノヴィアちゃんとイリナちゃんを両断せんとその斧に力を込める……でも。

 

「させません! 私だって、お役に立ちたいんです!」

 

 アーシアちゃんがその斧の一撃を遠隔の結界で見事に防いでみせた。アーシアちゃんの魔力の操作も向上しているみたいね。私は頼もしい後輩の力に思わず笑みを浮かべる。

 

「瞬裂斬っ!」

 

 ザンッ! 

 

 大きく目を見開いたゴズールさんの隙を見逃さず、裕斗君が今までとは比べ物にならない速さでその腕を切り裂いた。

 ゴズールさんの腕は斧とともに地に落ちる────それよりも速く、裕斗君はゴズールさんの体を切り刻んでいく! 

 

「ぐおおおおおおっ!?」

 

 彼の眼でも見極められない圧倒的な速さに苦悶の声を浮かべる。それを見たゼノヴィアちゃんとイリナちゃんも、合いの手を挟むように、剣撃を叩き込んでいく。

 

「まだまだ行くわよ!」

 

「デュランダルの力、思い知るといい!」

 

 デュランダルと光の剣により、ゴズールさんは壁際にまで吹き飛ばされる。でも、彼は苦悶の表情の中に僅かな笑みを浮かべている様子。何かある。その考えは間違っていなかったようで、ゴズールさんに集中している三人の後方で斧がスーッと浮かび上がり、三人を同時に斬り裂かんと旋回しながら彼の手元に戻っていこうとしている。

 

「これは躱せまい! “牛鬼旋嵐斬“!」

 

 斧は雷を纏い、今までにない速度で裕斗君達に迫っている。アーシアちゃんの障壁も、私の矢も間に合いそうにない速度。それを見て焦るけど、私はふとあることに気付いた。

 彼の斧が帯電しているだ。彼の角から出る電撃? ────否、あれは私の雷の魔力だ。それを確認した私は咄嗟に手を翳し、魔力を込める。

 

 ────ズンッ!! 

 

 すると、猛スピードで三人に迫っていた斧は、突如として地面に急降下し、めり込んだのだ! 

 

「なにぃ!?」

 

 あまりに突然のことで眼を丸くするゴズールさん。私自身、驚いている。あれは……磁力? 

 

(対象に帯電させる力は電撃の威力を上げるだけじゃない……電磁力として対象を拘束することもできるのね)

 

 流石にゴズールさん本人には通じなさそうだけど、金属製の武器にならば凄まじい効果を発揮しそうですわね。

 呆然とするゴズールさんの眼前にまで迫る三人。三人はそれぞれの武器を解放し、一気に解き放った! 

 

「デュランダルッ!!」

 

「天使の光、見せてあげるわ!」

 

 ザンッ! ザンッ! 

 

 デュランダルの輝きとイリナちゃんの光の剣が彼の腕と角を切断する。

 反撃の術を失った相手に裕斗君は聖魔剣にありったけの力を込め、一気に加速させた! 

 

「朧・地天轟雷!!」

 

 ズドォォォオンッ!! 

 

 朧流の上段の斬撃がゴズールさんに降りかかる。角と腕を失ったゴズールさんは躱すことも防ぐこともできず、そのまま脳天にその剣の一撃を喰らった! 

 

「……見事」

 

 勢いよく血を頭から吹き出しながらそう言い残すと、ゴズールさんは粒子となって消えていった。

 こうして、私達の戦いは幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 小猫side

 

 

 

 

 

「クハハハハッ! やるな小娘! 拳でこの俺の槍を捌くとは……」

 

「くっ……」

 

 私はメズールさんの槍をなんとか受け流しながら、拳を放っていた。

 メズールさんの槍さばきは尋常じゃない……それでも、何度か攻撃を食らわせることはできている……でも……。

 

(堅い……それに、再生している……)

 

「クククッ、その通り! ゴズールの“超速再生”程ではないが、俺も“自己再生”による再生能力を備えているのだ!」

 

 メズールさんもゴズールさんと同じで再生能力を持っているみたいですね……それに、先程から“気”を流していると言うのに、応えた様子がまるでない。

 私が不審に思っていると、メズールさんは笑いながら私の疑問に答えた。

 

「どうやら貴様も仙術が使えるようだが……黒歌殿やモミジ殿ほど洗練されたものではないな! ならば、俺の魔力で貴様の“気”を抑え込めば、影響は受けんよ!」

 

 やはりそうですか……。姉様もこの場所で修行していたと言っていたし、メズールさん達はフェンリルとは違って仙術を抑え込む術を知っているんだ……。

 

(やりにくい……でも……)

 

 負けるわけにはいかない。

 神祖の弟子達は皆、魔王であるセラフォルー様や、神であるオーディン様をも上回る力を持っていた……。

 イッセー先輩や姉様と共にいる以上、“禍の団”だけでなく、神祖の手下とも相対しなくちゃならない。

 

「そのためにも……こんな所で負けるわけにはいかないんです……!」

 

 決意を新たに拳を握る。すると、今までに感じたことがないほどの大きな力が私の拳に宿るのを感じた……。

 

『確認しました。個体名白音がユニークスキル“拳闘者(ナグルモノ)”を獲得、それと同時にエクストラスキル“仙術”を獲得、“拳闘者”と統合されます』

 

「なにっ!?」

 

 ドゴンッ!! 

 

 今までにない程の手応えを拳から感じる。メズールさんは口から唾液を吐き、信じられないといった表情で私を見ている。

 

「ぐはっ……この威力、先程までとはまるで違う……しかも、仙術が強化されているだと……?」

 

 私もそれは感じている。今まで意識して操っていた“気”を、まるで自分の身体の一部みたいにスムーズに巡らせる事ができている……。

 

「ユニークスキルにエクストラスキル……イッセー先輩と姉様の言っていた……」

 

 この感覚がスキルとやらの恩恵なら凄いことだ。まだまだ未熟だろうけど、この力があれば少しはイッセー先輩や姉様達に追いつけるかもしれない。

 

「まだまだ行きます……」

 

「フン、舐めるなよ。先程は不意を付かれたが、二度は通じんよ!」

 

 宣言通り、メズールさんは私の拳を逆に受け流したりして回避している。何度か直撃はするけど、先程みたいなダメージはない……多分、魔力で防御しているんだ。

 

「どうした! ユニークスキルを得てもこの程度か────っ!?」

 

「今です! フルバースト!!」

 

 ドゴォォォォォンッ!! 

 

 私は一瞬の隙をついてその場から離脱する。瞬間、風や炎、水に雷といった様々な属性の魔力を浴びた攻撃がメズールさんを襲った。

 先程までずっと魔力をためていたロスヴァイセさんが“フルバースト”でメズールさんを攻撃したんだ。

 メズールさんは自らの身体を見て驚いている様子。その姿はボロボロで、先程までとは違い、間違いなくダメージを受けているみたいですね……。

 

「ぐっ、なるほど……仙術か! “気”の力で我の“魔力妨害”を弱めたのだな!」

 

「その通りです。小猫さんが仙術で貴方の防御を崩したおかげで私の魔法が効くようになったんですよ」

 

「小癪な真似を……だが、その程度で……」

 

 そこまで言うと、メズールさんは目を見開き、バッと振り返った。そこには大気が震えるほどの魔力を溜めていた部長の姿があった……。

 

 

 

 

 ****************************

 

 リアスside

 

 

 

 

 

 小猫が時間を稼いでくれたお陰で魔力を溜める事ができた。

 私は今まで“隠形法”で姿と気配を隠しながら、ずっと魔力を溜めていた。元々はメズールさんの防御ごと貫くためのものだけど、小猫が彼の防御を剥がしてくれた今なら、一撃で消滅させられるはず。

 ────私の滅びの魔力と、()()()()を組み合わせれば! 

 

「行くわよ! “消滅の魔星(イクスティングイッシュ・スター)”!」

 

 私の滅びの力が一直線にメズールさんに向かっていく! その破壊力は、普段のものを遥かに超越している! 思い返すはシンシヤちゃんとの戦いだ……。

 あの時、私は一矢報いることすらできず、彼女に敗北を喫した。もしも彼女が本気だったら、多分何をすることもできずに全滅していたかもしれない。彼女からはそれほどの強さを感じた……。

 

(悔しい!!)

 

 自分よりも年下の子どもに敗北するなんて……。確かに彼女は強かった。でも、それはそれとして本当に悔しいのよ! 

 

(このままじゃあ、イッセーに追いつくなんて夢のまた夢よ……)

 

 その不甲斐なさを糧に、私は迷宮に入る以前からずっと自分自身の力と向き合っていたの。全てはイッセーと隣で闘いたいがために……。

 そんな時、私の頭に不思議な声が響いた。さっき迄はまだ慣れずに使えなかったけど、集中して力を溜められたお陰でやっと制御できた。

 

「ユニークスキル“消失者(ケシサルモノ)”! その力、見せてあげるわ!」

 

 このスキルは滅びの魔力の精密操作を可能にし、破壊力を強化することができる。それこそ、()()すらも飲み込み、空気を消滅させてしまう程の滅びの力を……。

 この特性を付与すれば、空気抵抗といったものがなくなり、今までにない速度で滅びの魔力を打ち出すことができる。

 その速度に焦りを覚えたメズールさんは、咄嗟に障壁を作り出そうとする────無駄よ。

 

「ギャスパー」

 

「は、はいぃぃぃっ! が、頑張りますぅぅ!!」

 

「うおっ!?」

 

 障壁を貼ろうとしたメズールさんの動きが止まる。その時間はわずか数秒もない。それでも、速度の上がった新しい滅びの力ならその隙をつくことができる! 

 

「……ここまでか……」

 

 バシュゥゥゥゥゥゥゥッ!!! 

 

 そう言いながら、メズールさんは滅びの力に飲み込まれる。その破壊力と吸引力は凄まじく、小猫とギャスパー、ロスヴァイセ達も巻き込まれないように必死に堪えている。その破滅的な破壊力に巻き込まれたメズールさんは、塵一つ残らず消滅した。

 

「……勝った?」

 

 まだ実感がわかない。メズールさんの身体は消滅し、魔力の残滓も感じない。それを見たギャスパーはへなへなと座りながら、嬉しそうに言う。

 

「や、やりましたぁぁ!」

 

「ええ」

 

「やった……」

 

 ギャスパーの言葉に頷く皆。

 チラリと裕斗達を見ると、ほとんど同時にゴズールさんを倒していたみたいだ。それを見た私はようやく実感が湧いてきた。

 

「勝った……勝ったのね……!」

 

 嬉しい。貴族としては抑えなければならないのかもしれない。それでも、勝った実感が湧いてきた私はついついガッツポーズをしてしまうのだった。




リアス、木場、小猫、朱乃のユニークスキル解禁です!
本当は出すかどうか滅茶苦茶悩んだんですけど、今後神祖達と戦う上で、やはり根本的なパワーアップはしないとなと思い、解禁しました。
ちなみにこの四人はイッセー加入前のグレモリー眷属達です(ギャスパー除く)。
ギャスパーのユニークスキルはどんなのにしようかまだ考え中というのもあるのですが、出すとしたら相応しい章があるかなと思い、この四人にしました。
取り敢えず、ユニークスキル獲得組の現時点のステータスを出しときます。

リアス・グレモリー
EP 16万9666
種族 上級悪魔
加護 グレモリーの加護
称号 グレモリー家次期当主、(キング)
ユニークスキル “消失者(ケシサルモノ)
消失、対象指定、魔力操作、思考加速、魔力感知
消失は滅びの魔力の滅ぼす範囲を拡張させる力。この力を使用することで、大気や魔力といった非物質も消滅させることが可能(抵抗可能)。また、対象指定は滅びの魔力の滅ぼす対象を設定できる力。モデルは特になし。

姫島朱乃
EP 15万2263
種族 眷属悪魔
加護 グレモリーの加護
称号 グレモリー眷属女王(クイーン)、雷光の巫女
ユニークスキル “稲妻様(カミナリサマ)
帯電、蓄電、魔力操作、解析鑑定
このスキルの目玉は帯電と蓄電。帯電は相手に電力を帯びさせ、電磁石化させるというもの。また、蓄電は相手に電力を蓄積し、電撃の威力を底上げさせるというもの。モデルは金色のガッシュのジケルドとザグルゼム
 

木場裕斗
EP 16万3586(聖魔剣+5万(最大))
種族 眷属悪魔
加護 グレモリーの加護
称号 グレモリー眷属騎士(ナイト)
ユニークスキル “疾走者(ハヤキモノ)
加速、脚力強化、魔力感知、思考加速
騎士としての速度を求めた結果生まれた木場のスキル。加速はある地点から一気に速度を加速させるというものであり、制御は難しいが、脚力強化と合わせることで、並の覚醒魔王をも上回る速度を発揮することができる。モデルは沢田綱吉のxグローブVersionボンゴレ。

 

塔城小猫
EP 24万2992
種族 眷属悪魔
加護 グレモリーの加護
称号 グレモリー眷属戦車(ルーク)
ユニークスキル “拳闘者(ナグルモノ)
剛力、金剛身体、連撃、思考加速、仙術
殴ることに特化したユニークスキル。剛力は拳の力を強化し、金剛身体は肉体の強度そのものを強化する。この二つは併用可能であり、金剛身体で強化された拳に更に剛力を乗せることもできる。連撃は殴れば殴るほどに威力を上げる権能であり、仙術もこのスキルに組み込まれ、強化されている。モデルは七つの大罪のデリエリの連撃星


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