やはり俺が黒の組織に居るのは間違っている。 (ひよっこ召喚士)
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ある程度書き溜めてから公開を予定し、閲覧できない状態で投稿していました。

タイトルや注意書きの通り、俺ガイルと名探偵コナンのクロスオーバーで八幡が黒の組織に所属、HACHIMAN化し、少し性格が変わっています。ご了承ください。




俺は比企谷八幡

 

現在千葉県で有数の進学校総武高校の2年生としてここに通っている

 

そして今現在放送で職員室によばれ、国語教師である平塚静先生の前にいた

 

この先生には無断欠席や遅刻の件で前にも呼び出された事がある

 

今回は何で呼ばれたのだろうか

 

先生は紙をみているが、あれは俺が書いた作文か

 

 

 

 

 

高校生活を振り返って

 

2年F組 比企谷八幡

 

青春とは愚かさを煮詰めた公害に他ならない。

 

青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺く。

 

自らを取り巻く環境のすべてを自身にとって都合が良いように肯定的に捉える。

 

何か致命的な失敗をしても、それすら青春の証とし、思い出の1ページに刻むのだ。

 

どうしようもないそんな公害の一例を挙げよう。

 

彼らは万引きや集団暴走と言う犯罪行為に手を染めてはそれを無責任なままに「若気の至り」と呼称する。

 

試験で赤点をとれば、学校は勉強をするためだけの場所では無いと正当化するために聞こえの良い文句を言い出す。

 

彼らは青春の二文字の前ならばどんな一般的な解釈も捻じ曲げ、あたかもそれが正しいと笑って見せる。

 

彼らにかかれば嘘も秘密も、罪科も失敗さえも青春のスパイスでしかないのだ。

 

そして彼らはその悪に、その失敗に特別性を見出す。

 

自分たちの失敗は遍く青春の一部分であるが、他者の失敗は青春ではなくただの失敗にして敗北であると断じるのだ。

 

そもそも青春と言う言葉の成り立ちからして可笑しな物だ。

 

青春とは『青い春』と書く、時折若い者に『青春している』だのと言う者も居るが、『青い』と言うのは別に良い意味では無い。

 

青いと言うのは『経験が浅い』『未熟』など十分ではない事を意味して使われる。

 

それは『青二才』と言う言葉を持って証明できるだろう。

 

ならば『青い春』とは『未熟な春』と言えよう。

 

まだまだ未熟な『春』と言う名の『果実』を自己だけに飽き足らず、周囲まで巻き込んで食い散らかす。

 

中身の無いその果実を特別な物だと仮定して、自分さえも特別だと論じるその姿は滑稽としか言えない。

 

成熟する前の果実を駄目にした挙句にそれを正当化する存在が正しいなどとは口が裂けても言えんだろう。

 

結論を言おう。

 

くだらない日常を『青春』などと呼び、先を見据えずに騒ぎ立てるしか能の無い愚か者どもよ、くだらない欺瞞と言うスパイスで誤魔化しただけの青い果実に腹を下し、野垂れ死ね

 

 

 

 

 

 

「比企谷……これはなんだ?」

 

なんとも不明確な問いかけだ

 

言いたい事は分かっているが正直に答える気は無い

 

「なんだとは何ですか?素材を訊いているのであれば紙ですし、定義づけるなら授業で提出を求められた作文で、捕捉するのであれば俺が書いた代物です。それとも主成分や構成元素などを上げるべきでしょうか?」

 

「作文自体のことを言ってるんじゃない、作文の内容のことを言っているんだ。比企谷、お前テロでも起こす気か?お前は欠席や遅刻の多さに目をつぶれば優等生だったと思ってたんだがな……」

 

テロ、ねぇ……起こすだけの価値も無いだろう

 

まあ、楽観的な奴らが本当に死ぬのは良いかもしれない

 

俺個人としても社会にとっても貢献になるのでは?

 

「俺の高校生活を振り返ってみて、思ったことをそのまま書いただけです。むしろ、それを書いた日は少しばかり荒れていましたので、自分らしさと言う点で見ればそれ以上の物は無いかと思いますが?生徒を測るための作文としての役割は果たせているはずですよ」

 

果たしてしまったが故にこうして呼び出されているとも言える

 

感情なんかを出さずに取り繕うべきだった

 

「小僧、屁理屈を言うな」

 

まぁあんたから見たら高校生は子供だろうよ

 

「そうですね、先生の年からみれれば俺も小僧ですよね」

 

その瞬間に目の前の教師から拳が飛んでくる

 

怒りが載っているが殺気は無い

 

下手な対処をせずに拳を受け止める

 

「これを止めるか……複数の部活に助っ人として声を掛けられるのも納得だな。だが女性に年齢の話をするのは厳禁だと教わらなかったのか、学年首席?」

 

「先にこちらを下に見たのは先生でしょう?その意志を尊重して目上として対応したまでです」

 

そう言うと苦虫を嚙み潰したような表情でこちらを睨む

 

正直、何も思わない、恐怖など感じる訳がない

 

先生はため息を一つ吐き出し、諦めの表情で口を開く

 

「私はな比企谷怒っているわけではないんだ」

 

「感情的な理由もなしに生徒に手をあげる教師ですか……教育委員会も目を見開く事でしょう」

 

体罰など古臭い文化だ

 

力に物を言わせる弱肉強食な考え

 

野生動物とさして変わらない

 

「ぐっ…いや、まずは話を聞け。学年首席でスポーツ万能となれば普通はクラスのみならず学年の人気者だ。だが君はいつも一人でいる。人を寄せようとしていないように見える。友達はいるのか?」

 

いきなりなんだ、作文から人間関係へ問題のすり替え?

 

人間性が友人だけで創られる訳でもあるまいに

 

飛躍しすぎたくだらない質問だ

 

「居ませんよ。そもそも必要とも思っていませんね。この話まだ続けるんですか?その作文は間違ってました。申し訳ありません。作文については先生方の目に触れない在り来たりな物に書き直しますので、それで終わりにしませんか?」

 

先生は難しい顔とでもいうべき表情を浮かべている

 

何も難しくないだろうに、俺が狂ってるだけ

 

制御できずに露呈させた俺が間違ってる

 

「想定以上に深刻だな……作文は書き直せ。だが、それだけで終わりには出来ない。比企谷、お前は決まった部活に所属していなかったな?」

 

「ええ、大会などに出る事はあってもどれも助っ人だけです。誘われてはいますが、実際は帰宅部と言う事になります。それがなにか?」

 

「奉仕活動としてある部活に参加してもらう。犯行声明ともとれる作文に対する罰であるため可能な限り出席するように、今から向かうから着いて来い」

 

ちっ、面倒な事になった

 

まあ、これ以上波風は立てるべきではない

 

仮入部くらい付き合っておこうと

 

そのまま先生に従い歩いて行く

 

ある教室の前で先生が止まった

 

目的地なのか、先生がノックもせずに扉を開く

 

「雪の下、入るぞ」

 

中に居たのはそれなりに容姿の整った女生徒だ

 

名前は有名で、雪ノ下雪乃といったか

 

面倒な性格だという事も知っている

 

そして彼女とは面識もある

 

「平塚先生。入るときはノックを、とお願いしていたはずですが」

 

「ノックをしても君は返事をした試しがないじゃないか」

 

「返事をする間もなく、先生が入ってくるんですよ」

 

目の前の不毛なやり取りこそなんなんだろうか

 

「まあ、良いですが、そこに居るのは比企谷君でしたか……なぜ彼をここに?」

 

「知って居たのか?まあ、学年首席と言うだけでも名前は知られているか…さっそく本題だがこいつを入部させに来た」

 

「お断りします。彼とはあまり一緒に居たくないので」

 

まあ、そうだろうな

 

その判断は正しい

 

固まった先生と口を開かない雪ノ下

 

時間の無駄と思い、俺が口を開けた

 

「先生なら知っているでしょうが入学前の事故騒動、その加害者一歩手前が彼女が乗っていた車だったので一度面識があるんですよ。俺に怪我は無いですし、飛び出たこっちが全面的に悪いんですがね」

 

「そうね。悪いのは貴方よ。性根も何もかも全部悪いようだけど悪すぎて根だけじゃなく目まで腐っているようね」

 

「いくら雪ノ下とはいえここまで言われるとは……比企谷、お前何をした」

 

俺が何かしたので確定なんですか

 

まあ、その認識であってますがね

 

「ただでさえ悪目立ちをしてたのに運転手と一緒になって謝罪をと煩くて面倒だったので、端的にお話をしただけですよ」

 

「むしろ轢いておくべきだったわね。そうすれば世界は平和になったに違いないわ」

 

あながち間違っていないだろうな

 

俺がいなくなれば救われる奴もいるだろう

 

その筆頭が俺なのが笑えない

 

「お前らの関係性がどうであれ、先ほどのは決定事項だ。無理に仲よくしろとは言わないが部活に対しては両者とも真摯に当たるように!!」

 

そう言い放つと先生は部屋を出て行った

 

反論される前に逃げたとも言える

 

ため息を吐き出して適当な椅子に勝手に座る

 

向こうもこちらに関わりたくないのか顔を向けもしない

 

そのまま、その日は下校時刻になった

 

俺は結局その部活が何をするのかも知らないままだった

 

はぁ、学校に行くのがこれまで以上に憂鬱だ

 

重い足取りで歩いていると服の奥に入れ込んだ電話が揺れている

 

開いてメールを確認するとさらにため息を吐く

 

「本当に憂鬱だな」

 

仕事が入るとは今日も睡眠時間は短くなりそうだ

 

特製の電話の隠されて登録されている番号を押す

 

『どうしたのかしら【フィーヌ】?』

 

「仕事についてですよ。詳細と足寄越してくれませんか?」

 

生憎と公共の交通機関を用いる訳にはいかない

 

そう伝えるとこちらを笑う様な声で返事が来た

 

『既に向かわしたわよ。貴方なら簡単な仕事だけど、しくじらないでね。それと幹部の集まりが近々あるけど、顔を出しなさいよ?』

 

「分かってますよ【ベルモット】」

 

即座に肯定する俺

 

満足げに電話を切るベルモット

 

しばらくして組織の下っ端が迎えに来た

 

今日は俺は何を盗み、誰を殺すんだろうか

 

幹部である俺を運ぶ車に揺られながら

 

この社会的、人道的に間違った関係はいつからだったか

 

あの中学での間違いを勝手に逆恨みするばかりだ

 

 




こんな感じで基本的に誰かの視点でとにかく話が進んでいきます。



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折本かおりへのトラウマ(間違いしかない告白)

 

あれが全ての始まりだった

 

人の視線が、心が俺は怖かった

 

だからこそ人一倍敏感になり

 

誰よりも他人を読み取る事が出来た

 

そして、その殆どが俺を笑い、蔑むものだった

 

それ故に悪意にはさらに敏感になり

 

無視しているだけなんて耐えられず

 

日常でも怯え、意味も無いのに身体を動かした

 

そして、疲れ切った身体を無理やり眠らせる毎日

 

壊れた俺を今度は痛めつける者が現れた

 

受け続けている内に痛みに慣れていき

 

無駄に鍛えた結果攻撃を防いだり避けれるようになった

 

それでも集団に独りが勝てる事は無かった

 

いや、物理的になら勝てた時もあっただろう

 

だが、それを周りが許さなかった

 

更に連鎖的に俺の環境は変化した

 

目は闇を映すばかり、体中に傷があり

 

操られているかのように体を動かし

 

学校に行く時以外は死んだように眠る俺

 

そんな異常な者を家族は受け付けなかった

 

小町だけは心配してくれていたが両親は俺を追い出した

 

きっと耐えられなかったのだろう

 

根本的には逃げ続けている俺と変わらない

 

住む場所と食費や学費など必要な物は払われていた

 

独りに安心感を抱く俺もそれを受け入れていた

 

そして、狂ったままの日常を過ごしていた

 

だが、ある日買い物に出た際に福引の券を受け取った

 

俺はついでとばかりにそれを引いてから帰る事にした

 

それがいけなかったのだろう

 

引いたくじで俺は特賞の旅行を引き当てた

 

それもニューヨークへの3泊4日と言う豪勢な物だった

 

独り暮らしとは言え、知り合いに遭遇することはある

 

とうに精神的な限界を超えており

 

理由もなく休む度胸の無い俺に丁度良すぎた

 

知り合いの居る訳がないアメリカに俺は独りで向かった

 

誰にも伝えず、必要な物だけを持って俺は日本から消えた

 

その解放感、たった数日だけの自由に心が躍っていた

 

旅行の一部にはツアーも組み込まれており

 

ガイドも着いていたため不安は無かった

 

名所巡り、食事、街を眺めるだけでも楽しかった

 

観光を楽しんで豪華なホテルで休んで一日が終わった

 

次の日も観光を楽しみ、夜はホテルのパーティに参加した

 

文系科目は得意とは言え、英語を扱えるわけではない

 

所々分かる部分もあるが、思っていたより退屈だった

 

それでも、歌手や女優などの姿が見られたので満足だった

 

立食形式の食事を端の方で楽しんでいると

 

急に日本語で話しかけられた

 

「日本人よね?パーティはどう?」

 

「っ!?た、楽しいです。はい」

 

「珍しいから声をかけちゃったんだけど、大丈夫かしら?」

 

「ええ、むしろ光栄です」

 

その人はクリス・ヴィンヤードと言うハリウッド女優だ

 

小町にせがまれて見に行った映画に出ていたので知っていた

 

怪しい所は無く、悪意は感じない

 

それでもどこかその人をみて怖いと感じた

 

だけど表に出さずにそのまま会話を続けた

 

その理由は会話をしていくうちに分かった

 

答えが出ない内は大丈夫だった

 

だが、分かってしまったら気になってしまった

 

口に出してしまった事で俺の運命はねじ曲がった

 

「それで、日本に行った時には 『あの』 ん、なにかしら?」

 

口を挟まれても優しく微笑んで聞き返す

 

その表情が仕草が気づいてからは恐怖でしかない

 

「なんで、ずっと演技してるんですか?」

 

「何を言ってるの?」

 

彼女は心底分からないと言った表情を作った

 

しかし、彼女は驚きと警戒が読み取れた

 

「気遣ってくれるのも、優しく話をするのも久しぶりです。最初は俺が人を信じれてないからかとも思ったんですけど、話続けていて分かりました。あなたの着けている仮面が怖い、自分を偽って、全てを騙し続けているその姿が怖いんです」

 

「…………ふぅん、何を言ってるのか分からないけど面白かったわ。機会があればまた会いましょう」

 

偽りの女性とはそこで別れた

 

俺はホッとしてため息を吐いた

 

恐怖からくる冷や汗で背中が濡れていた

 

身体が冷えた俺はパーティを後にした

 

俺はベッドに倒れ、死んだ様に眠った

 

次の日、ここで一日過ごせる最終日

 

昨日の事を意図的に忘れて楽しんだ

 

そしてホテルへの帰り道だった

 

俺は嫌な感覚がしてその場を飛び退いた

 

するとドラマなどでしか聞いたことのない音が

 

鋭い銃声が俺の耳に届き、俺は駆け出した

 

感覚だけを頼りに銃弾を避けていく

 

無我夢中で走った俺は路地に追い詰められた

 

戻ろうとも遅く、拳銃を手にした男が道を塞いだ

 

逃げれ無いと感じ、迫る死の恐怖に怯える

 

 

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 

 

気づいたときには男はいなかった

 

地面には拳銃が転がっており

 

路地の向こうに男が傷だらけで倒れている

 

俺の手と足が少し痺れ、赤く染まっている

 

静かになった路地に立ち尽くす

 

胸の鼓動がとにかく煩い

 

ああ、俺がやったのかと理解した

 

そして拍手が鳴り響いた

 

「普通じゃ無いとは思ってたけど、貴方は本当に面白そうね」

 

そう言って出てきたのはクリス・ヴィンヤード

 

仮面を外した彼女は笑っていた

 

そして、拳銃を拾い上げると

 

狙いを定めて撃ち抜いた

 

倒れていた、襲撃した男の事を

 

「銃を持った男に襲われた観光客、それも男子中学生がそれを返り討ちに、ってのは信じがたいわよね。それに襲撃者は死んでいるとなれば、否応なしに犯人候補は貴方ね」

 

獲物を見つけた獣の方が優しいだろう

 

ニコニコとこちらに語りかけてくる姿は

 

まるで取引を持ちかける悪魔の様だった

 

彼女から告げられた名前で迷いは無くなった

 

俺はその日から彼女の部下となった

 

闇へとどっぷりと浸かって

 

裏での地位を築き上げてしまった

 

組織において幹部の地位を与えられた

 

たぶん自業自得なのだろう

 

あの場で死んでいれば良かった

 

変に口を挟まねなければ良かった

 

アメリカに行かなければ良かった

 

福引を引かなければ良かった

 

外へ出なければ良かった

 

告白なんてするべきで無かった

 

「フィーヌ様?フィーヌ様!!」

 

「……なんだ?」

 

「着きました。本日もお疲れさまです」

 

仕事帰りは嫌な夢ばかりだ

 

沼に沈む様に、意識が落ちてしまう

 

きっと何度も声を掛けられたんだろう

 

俺は下っ端に「ご苦労」とだけ伝えて車を降りた

 

仕事終わりは普通の家には戻らない

 

裏の力を使い用意した安全な家

 

今眠っても見るのは悪夢だろう

 

だからこそ眠ろうと倒れ込んだ

 

決して許されない自分を見つめて

 

許される(死ぬ)時を夢みて眠った

 

 



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予想を外れ、夢見は悪いどころでなかった

 

夜中に跳び起きて一睡も出来ていない

 

珍しくもないが頭が痛く、視界は歪む

 

はっきり言って最悪な気分だ

 

こういう時に主席の名は便利だ

 

放課後は部活の助っ人としての約束がある

 

それに備えてせめて体を休ませようと保健室を目指した

 

何も言わずにベッドを借りて横になる

 

眠ることなくただ目を閉じ時間が過ぎるのを待った

 

こんな日はよくある事でもう慣れ過ぎている

 

だが、今日は少しボーっとしてしょうがない

 

少し思考に意識を割くことにした

 

今日入る予定なのはサッカー部だったか

 

サッカー部と言えば去年のアイツを思い出す

 

あの時も助っ人として俺が入ったのだが

 

大会で結果を残すほどの東京の高校と試合とあって

 

かなりの勢いで頼み込まれたのを覚えている

 

俺のおかげでうちの高校もあちこちで結果残してるからな

 

それで優秀校同士でと練習試合が決まったんだった

 

たしか帝丹高校という名前だったか?

 

俺と同じく助っ人として入っていたアイツが

 

高校生探偵”工藤新一”が居たあの試合

 

Jリーグにスカウトされるレベルなのに

 

探偵業の為に退部したという馬鹿だったが

 

才能と言う面では化け物と言っても良い奴だった

 

それは勿論探偵としてもだ

 

俺が相手の思考を読んで動いてるのを見破り

 

仲間に見破られても良い指示を出し

 

自分が読まれた上で出し抜こうと動いた

 

テクニックよりパワーに任せた戦法だが

 

こちらの戦略に対抗するには合っていた

 

読んでも意味が無いなら後は実力が物を言う

 

試合の殆どが俺とあいつの一騎打ちだった

 

戦局は常に拮抗し、結局点は互いに0点で終わった

 

俺の感情を感じ取るのとは違う

 

思考することで見破るあの目は嫌いだ

 

自分の内側を勝手に覗き込まれるあの感覚……

 

そこまで思い出した所で気分が悪くなった

 

精神は休まることなく気怠さを隠さずに起き上がる

 

出てく際も何も言わないがもう何も言われない

 

面倒がなくて良い事だろう

 

助っ人については断わりを入れた

 

今日は()()()に居たくなくなった

 

嫌な気分を塗りつぶしたかったのか

 

俺は仕事場へと足を運ぼうと校舎を後にした

 

足を使い、一つの場へと顔を出した

 

見慣れた顔もそうでない奴もそこそこいる

 

「【フィーヌ】か……」

「珍しいね。あんたがここに来るなんて」

 

「どうだっていいだろう。それより何かやる事ないのか」

 

直接の指令以外にも仕事は存在する

 

だが自分から受ける事なんて滅多にない

 

それ故に目の前の二人は驚きを見せてる

 

「珍しい……」

「荒れてるあんたを見るのは久しぶりだね」

 

「放っておけ【コルン】【キャンティ】」

 

煩いと視線を向けるが流されるだけだ

 

開き直る方が面倒が無くていい

 

「アタイらも暇をしてるしね。丁度いい仕事なんてないと思うよ」

「そうか……分かった。【ジン】や【ウォッカ】はどうした?」

「仕事、ボスから指令、言ってた」

「一応感謝しとく」

 

そう伝えるとその場から去った

 

【ベルモット】については訊くだけ無駄だ

 

彼女が何をしてるか把握してる奴なんていないだろう

 

ここに直接顔を見せるのは久しぶりだ

 

犯罪組織で言うのも変な気持ちだが

 

たまには友人に会っていくとしよう

 

研究施設が置かれている場所まで移動し

 

幹部クラスに渡されたIDでその部屋まで向かった

 

「何の用?って【フィーヌ】?……こっちに来てるなんて珍しいわね」

「気分が悪くてな。表に居たくなかったんだよ【シェリー】」

 

組織に入ってから2番目の友人で

 

1番目の友人の妹である彼女は

 

組織の幹部であり優秀な科学者だ

 

「ここは休憩所ではないのだけど……はぁ、お茶位は出すから座ってて」

「悪いな」

 

彼女との関係はそこそこ長い

 

1番目の友人より関わった時間は長いだろう

 

同じく理不尽に組織に縛られ

 

家族を人質にされた同類同士だ

 

そしてそれを知る数少ない1人でもある

 

知ってるのはベルモットと友人2人だけで

 

それ以外には俺は望んで組織に居る事になっている

 

組織に捕らわれた彼女と違い

 

俺はベルモットの玩具(おもちゃ)なのだ

 

微妙な所だが事情に差異がある

 

人質が姉か妹の違いもあるしな

 

まあ、そんな事はどうでも良いだろう

 

互いに傷をなめる趣味も無ければ

 

この関係にも意味は無いのだろう

 

そう結論づけて彼女の支度をただ眺めていた

 

だが少しだけ居心地が良い時間には違いはない

 

「はい、どうぞ」

「ああ……悪くないな」

「はぁ、素直に礼くらい言ったらどうなの?」

「……」

 

面倒な性格をしている自覚はある

 

だが改める気は無い

 

そして出来る気もしない

 

「急にやって来て終始無言でいるつもり?」

「……最近どうだ?」

 

自分で言っておいてこれはどうなんだ

 

はっきり言って友人に対する問いかけでは無い

 

久しぶりに会って気まずい父親の様だ

 

だが話の切り出し方など俺が知る訳も無い

 

【シェリー】もため息を吐きながら答えてくれた

 

「どうって言ってもねぇ……いつも通り研究よ。今やってるのは最近できた新薬の確認中……なのに【ジン】の奴が勝手に薬を持ち出して使ってるのが腹立つくらいかしらね。そっちは?」

「殺しと盗みが殆どだ。苛つくが支障はない……いや、学校の方で少し面倒な事にはなったな」

 

あれは本当に面倒で仕方がない

 

苛々をぶつけるべきでは無かった

 

余計に面倒な事態になるなんて考えて無かった

 

そんな感じの軽い愚痴のつもりだった

 

だけど彼女はそう受け取らなかったらしい

 

「まさか気付かれたわけじゃ無いでしょうね!?」

「ち、違う!?ただ作文に苛々をぶつけたら呼び出しを喰らって、強制的に部活に入れられただけだ!!」

「はぁ……もう、焦らせないでくれない」

「……悪い」

 

謝ってばかりだが俺が悪かった

 

確かに誤解しそうな文脈だった

 

謝罪しながらその後も拙い会話は続いていった

 

互いに近況報告や愚痴ばかりだった

 

それでもこの時間は偽りでは無いだろう

 

 



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特に用もやることも無く

 

帰る事も許されず部屋に居る

 

ただひたすらに無駄な時間だ

 

「はぁ」

 

「部室に断りもなく居座ってため息を吐くなんて不愉快極まりない行為をするのであれば早急にこの部屋から出て行ってくれないかしら?」

 

部活の内容については先生から聞いている

 

だがこのような非公式の部活に客が来るのか疑問だ

 

その疑問の答えは思いがけない形で直ぐに出た

 

この部活の扉からトントンと音が響いた

 

「どうぞ?」

 

「し、失礼しまーす」

 

「平塚先生に言われて来たんですけど・・・な!?なんでヒッキーがここにいんの!?」

 

こいつは……由比ヶ浜結衣か……

 

面倒ごとが舞い込んできた気しかしない

 

「それは俺の呼称で良いのか?」

 

「こ、呼称って……ヒッキーはヒッキーだし、何言ってるのか分かんなくて、ヒッキーキモい!!」

 

間違いなく面倒ごとのようだ

 

ヒッキーねぇ……比企谷からとったのか

 

それとも欠席の多い引きこもりからか

 

どちらにせよ馬鹿馬鹿しい呼び方だ

 

「それで何の用だ由比ヶ浜、平塚先生からと言うなら依頼か?こんな部活によく来たもんだな」

 

「勝手に話を進めないでくれる……それで由比ヶ浜さんは何の依頼で来たのかしら」

 

「えっと、その……」

 

言いづらそうにこちらをチラチラ見てくる

 

異様に驚いてたのは俺が邪魔だからか、もしくは……

 

「ああ、そこの害獣が居るせいで話せないのね。とっとと出ていきなさい、空気を読む事すら出来ない訳?」

 

「部長自ら出て行けと言うのであれば平塚先生への説明義務を負ってくれると解釈させてもらう」

 

そう呟くと逃げる様に部室から出ようとした

 

しかし、それは叶わなかった

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!?別に出てって欲しい訳じゃないから、それになんで二人はそんなにけんわるなふいんきなの!?」

 

由比ヶ浜が出て行こうとした俺を遮った

 

けんわる…険悪のことか?

 

ふいんきじゃなく雰囲気(ふんいき)だろ

 

面倒だが振り払うか……?

 

いや、十中八九余計に面倒な事になるな

 

「なんで?そこの人の気持ちを踏みにじる事しか出来ない男と仲良くすることなんて不可能だからかしらね」

 

「はっ、好きに言え。俺は人と関わるのが嫌いなだけだ。険悪云々はそいつが一方的に絡んでるだけだ」

 

「う~、二人とも怖いよ……ええっと、それでさ依頼なんだけど、私クッキー焼ける様になりたいの、上げたい人がいて、それで、えっと手伝って欲しくて……」

 

クッキーに、上げたい人ねぇ……くだらねぇ

 

依頼の方もどうでもいいな

 

手順さえ守ればある程度の物は作れる

 

作り方でも調べてろ

 

「必ずしもあなたの願いが叶うわけではないけれど、奉仕部の理念に基づいて可能な限りのお手伝いはするわ」

 

自己満足な行為で好きに浸ってると良い

 

2人が話をしている隙に出ていく

 

話しと依頼に夢中な雪ノ下は気づかない

 

俺をずっと見ていた奴は小さく「あっ」と声を零した

 

それを無視してそのまま歩き去る

 

「気の迷いってのは厄介だな」

 

あの時の俺はきっとどうかしていたんだろう

 

そしてここまで後を引くとは思わなかった

 

仮入部に付き合うのを辞めるか?

 

教室で動く事は無いだろう

 

あの場所へ行かなければいい

 

そうだ簡単な事だろう

 

「俺に関わるな……」

 

全て間違いでしかない

 

ならば関わる必要も無いだろう

 

家に帰ろうと自転車に乗る

 

そこで仕事用の携帯にメールが入った

 

「……明日の休みにトロピカルランドに集合?」

 

このメールだけで理解できると思ってるのか……

 

呆れながら詳細を寄越せとメールを送り直した

 

すると取引の見届けと工作の手伝いらしい

 

先にそっちを言えとしか言葉が出ない

 

リア充の仲良しグループじゃねぇんだぞ

 

そう思いながら必要になる荷物を選定し

 

明日の計画を複数用意してから眠った

 

そして仕事当日、俺は怪しまれない格好で来た

 

トロピカルランドなんてファンシーな遊園地

 

黒ずくめなんて浮いて仕方がないというのに

 

目の前の二人を思うと呆れるしかない

 

そもそもなんでこんな場所を取引の場所にしたんだ?

 

木を隠すのは森とは言うがいささか騒がしすぎる

 

「本当に一人で来てるのか確認するぞ」

「へぃ、アニキ」

 

確認の仕方がジェットコースターってお前ら

 

自分達の見た目を考えてねぇのか

 

悪目立ちなんてもんじゃない

 

俺は少し離れて着いて行く事にした

 

どうやら一回の乗員は8人か

 

俺は次になりそうだなと思ってると様子がおかしい

 

戻ってきたコースターは血まみれだった

 

面倒に巻き込まれやがって

 

俺は関係ないから離れて仕事の準備に向かった

 

「おー、工藤君じゃないか!!」

「なに、工藤!?」

 

後ろの方から気にくわない名前が聞こえた

 

だがあの状況では好都合か

 

あの一般人はターゲットじゃないし

 

アイツらは犯人ではない

 

となればあの場の警察からはむしろ助かるだろう

 

目ぇ付けられたら面倒どころじゃないがな

 

予想通りあの気持ち悪い探偵は事件を解決したようだ

 

俺はあいつに見つからない様に隠れた

 

そして取引の様子を見守っていると

 

【ウォッカ】の奴がつけられているのが見えた

 

しょうがないと【ジン】にそれを伝えた

 

静かに携帯を覗いたジン、工藤を確認すると

 

気配を殺してあいつに一撃を入れた様だ

 

あの様子なら顔を隠せばばれないだろう

 

「こいつ(バラ)しやすかい!?」

 

「いや拳銃(チャカ)はまずい!!さっきの騒ぎでサツがまだうろついてる!!」

 

今の気分を言葉で表すのは難しい

 

良いとは決して言わないが悪い訳では無い

 

だが目の前に倒れる存在を嫌悪し

 

その自身をも殺す好奇心に呆れた

 

「こいつを使おう…組織が新開発したこの毒薬をな」

 

どこかで聞いた話だな

 

ああ、そうだシェリーの奴が愚痴ってた奴か?

 

「フフフ…なにしろ死体から毒が検出されない…完全犯罪が可能なシロモノだ!!まだ人間には試した事がない試作品らしいがな…」

 

『やっぱりアイツの薬か、勝手に使って迷惑してると言ってたぞ』

 

「フン、知った事か、行くぞ」

 

「アニキ達、早く!!」

 

【ウォッカ】の声に従い俺も素早くこの場を離れる

 

まったく、名探偵とは愚かしい生き物も居たもんだな

 

 



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トロピカルランドで仕事をした次の日

 

気怠さが少しマシだったので登校した

 

無論、部活に行く気は無かった

 

靴箱に謎の袋を発見するまでは

 

「……紛い物ではない……炭?」

 

贈り物を装った悪意

 

勘違い甚だしい好意

 

そのどちらでもないソレ

 

中身を見てみると黒く炭化した物体

 

恐らくクッキーの亡骸だろう

 

焼ける様にはなったようだが

 

「……」

 

ここに入れたのは配慮か

 

気遣ったつもりかなのか

 

それとも自分本位なエゴか

 

はたまた温い氷の嫌がらせか

 

ああ、理解できない

恐ろしい、怖い

湧いた感情を圧し潰す様に衝撃を加える

 

「ふざけるな……」

 

微かな震えを殺し

 

苛立ちを持って意識を塗り替える

 

今日は授業を受けれそうだ

 

ツマラナイ授業に全て出た

 

視線は黒板と宙にだけ向けられる

 

気付くと全ての授業は終わっていた

 

気配を殺して姿を隠す

 

「あれっ、ヒッキーが居ない!?」

 

「ヒッキーって、ああ比企谷君かい?」

 

「本当だマジで居ねーじゃん、やっべーっしょマジで」

 

「さっきまで居たはずなのにねー」

 

「はぁ、別にどうでも良いでしょ?てかあーし早く遊びに行きたいんだけど」

 

「助っ人をキャンセルした事について訊きたかったんだけどね。また今度にするか」

 

「ヒキタニ君居ると居ないで試合がマジでやっべーから来て欲しいな」

 

「隼×八?戸部×八?それとも全員でなんて!!!!」

 

「海老名擬態しろし!!てか結衣どうしたし、早く荷物持って行くよ!!」

 

「ごめん、今日ちょっと行く場所あって……ごめんねまた今度行くから!!」

 

「ちょっ待っ結衣!!」

 

行先は方向からしてあの部室だ

 

俺はその後に続く様に歩いて行った

 

鉢合わせることは避けたい

 

室内に二人いる事を確認して近付く

 

「それでクッキーは渡せたのかしら?」

 

「あー、うん、靴箱に入れたし、見てたわけじゃないから分かんないけど、たぶん……」

 

「煮え切らないわね。まぁ、良いわ。それで貴女が納得したのなら、私なら絶対にごめんだけどね」

 

「あはは……でもこれで良かったよ」

 

これで確定してしまった

 

あれを入れたのは由比ヶ浜結衣だと

 

俺はそのまま扉を開き部室に入った

 

その手には件の炭入りの袋を持って

 

「ヒッキー!!??というかそれ……」

 

「貴方何しに、というか何時からそこに居たのかしら?まさか盗み聞ぎなんて恥知らずな行為をしていたんじゃないでしょうね!!」

 

両者とも俺の持ち物に気付いている

 

そして俺の意図を理解したと思って良いだろう

 

討論するつもりはない

 

「これはなんだ?」

 

「あ……そうだよね。そんなんじゃ分かんないよね……それ実はクッキ『違う!!』!?」

 

「これは何のつもりだ?」

 

言葉を止められた由比ヶ浜は驚いているがどうでも良い

 

これが何かなんてのは関係無い

 

原因は分かっている

 

だが行動の意味が理解できない(わからない)

 

語気の強い俺に驚いているのか固まっている

 

「その……お礼なの、入学式の時にサブレ……私の家族を助けてくれたお礼」

 

「なんで靴箱に入れた?」

 

「えっ?ヒッキー目立つの嫌いみたいだから直接渡さない方が良いのかなって思ったから」

 

本気で気づかいのつもりなのか

 

それとも渡してしまいたいと言うエゴか

 

だが、これで終わりにすればいい

 

「これを受け取れば満足か?」

 

「え?」

「!?」

 

由比ヶ浜は質問の意図が分かっていない

 

雪ノ下は俺が礼を受け取る事に驚いている

 

「お礼を受け取ればそれで満足なのかと訊いたんだ。目的が達成できたのなら用は無いだろう……これは受け取った……だから二度と近寄るな」

 

「ッ!?」

 

「貴方本当に何様のつもり!!由比ガ浜さんがどれだけ頑張っていたか!!どんな思いで作っていたと思っているの!!!!」

 

雪ノ下が怒り狂っている

 

きっと依頼人の手助けを全力で行ったんだろう

 

物凄く努力をしたのかもしれない

 

だからどうしたって言うんだ

 

「分かる訳ないだろ」

 

ああ、そうだ分からない

 

あれは気紛れでそれ以上は無い

 

だからその感情を向けるな!!!

 

「ごめんねヒッキー……」

 

「……由比ヶ浜さん?何を言ってるの?」

 

答えは出て、()は受け取った

 

俺がここに居る必要はない

逃げようと

その場から足を進める

 

「ヒッキーの気持ちを考えて無かったね。目立つの嫌いって聞いてたのにね……」

 

そうだ、ただの押し付けでしかない

 

「ごめんね。ううん、ごめんなさい」

 

迷惑でしかないエゴを寄越すな

 

「私の我儘に突き合わせちゃったね…私もよく周りに合わせてばっかいたから分かるのに……」

頼むから俺に関わるな

「人と関わりたく無いのも気付いてたのに……ヒッキーは人が嫌い……ううん人が怖いの?」

俺を視るんじゃない!!

気付いたら俺は近くの壁を殴りつけていた

 

力任せで何も考えていない一撃で拳が痛む

 

だがそれ以上に凹んだ壁と衝撃に部屋は静まった

 

「……頼む……頼むから……俺に関わらないでくれよ……」

 

はっきりと言えた自信は無い

 

ただ、零した言葉を呑み込めないままに

 

止める者も居ない中で俺は走り去った

 

 





『4』

ここまでで一応一つの区切りです。

この世界での八幡の過去を語り、奉仕部との関りが出来、コナンの物語も始まる。ここから先は俺ガイルとコナンが混ざる部分が多くなるから執筆に時間がかかる。他の作品を書いたりもしてるので更新はとても遅くなると思います。

ですが、ここまで書けたのに出さないのもなぁ。と思って公開設定を通常に変えました。時間がある時に書いて行く予定です。

コナンの方は話1個1個を拾っていくようなことは出来ませんが組織関係の話とかと劇場版とかは絡めていきたいと考えています。

まぁ、思い付きから始まった自己満足な作品ですが興味がある人は少し読んでください。

それでは他の作品でも使ってるあいさつでさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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腐り目:File.2 Page.1


 

「はぁ……クソっ」

 

心理的な不調は留まることを知らない

 

気分の悪さは仕事にも影響が出てくる

 

しょうもないミスのせいで反撃を喰らった

 

当たり前の様に致命傷は避け仕事をこなす

 

こんな時だけは無駄に丈夫な身体に感謝する

 

失敗=死という服と同じくブラックな仕事だ

 

立ち止まる事なく処理を急ぐ

 

必要な物は抜き取り後はそのまま

 

今回は建物ごとで良いからまだ楽だ

 

俺がいた事実だけを消し去れば良い

 

顔に傷は作れないと腕を犠牲にしたが

 

流れ出る血が熱く、服を赤く染める

 

軽く止血だけ終えると黙々と目的を果たす

 

相手の使ったナイフを回収し痕跡を消し去る

 

そして仕掛けを施してその場を立ち去る

 

数十分後には何も残らず全て灰になるだろう

 

足が用意されてるから後は家に帰るだけ

 

改めて傷を確認するが支障は出ないだろう

 

報告だけ送ってそれでおしまいだ

 

「そういやシェリーに伝え忘れたか…」

 

この前ジンが薬を使っていたのを思い出す

 

組織への報告には含まれてる筈だ

 

となればそのうちあいつも確認はするだろう

 

少なくない疲れのせいで頭が働かない

 

昼間の生活の事も考えなくてはいけない

 

とりあえず休むために薬を飲むと横になる

 

どうせ見る悪夢に辟易しながら目を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんねヒッキー(【ごめんね■■■■■】)

 

 

嫌な記憶に身体を一気に起こした

 

ガタンと机と椅子が音を立てる

 

視線が向くが直ぐに喧騒に消える

 

時計に目をやると昼休みなのが分かる

 

登校だけして寝てたのを思い出した

 

元々必要なのは出席だけだ

 

高校程度の内容は既に理解している

 

いまさら起こしてくる教師もいない

 

仕事の夢を見たのは傷の痛みからだろう

 

あの言葉が出てきた原因は分かりきってる

 

「あたしお昼に行くとこあるんだ」

 

「あ、そうなん?じゃあさ、帰りにレモンティー買ってきてよ。飲み物忘れちゃって」

 

「ごめん、あたし戻ってくるの五限になるの、。お昼まるまる抜けるから、埋め合わせはするから」

 

奉仕部(あの部屋)に行かずとも聞こえる声

 

関わりたくないという思いとは裏腹に

 

同じ教室に割り振られている現実

 

朝から時折視線を飛ばしてくるのに苛つく

 

無視して眠っていたのに声が邪魔をした

 

何を揉めているのか知らないがいい迷惑だ

 

気取られぬ事なく視線を向けるが

 

ずけずけと踏み込んできた姿はそこにない

 

それが余計に腹ただしく思えて仕方ない

 

教室を出てしまおうと扉の方に足を進め

 

廊下へ出て保健室に向かおうと曲がる

 

「あっ、ごめんな…なんだ貴方だったのね」

 

ぶつかりそうになり避けたらこの言い草だ

 

由比ヶ浜に用でもあるのだろう

 

反応も示さずにそのまま歩き去る

 

一瞬何か言いたげにしていたが関わる気はない

 

それは向こうも同じようで良かった

 

これ以上の面倒は御免被りたい

 

滅多に人の居ない保健室は好き勝手使えて便利だ

 

だが今日はその滅多の日であったようだ

 

痛みと眠気、周囲の騒がしさが相まって気付けなかった

 

扉を開いた時にはこちらへ視線が向く

 

踵を返して離れるには少々遅かった

 

「あれ、比企谷先輩?」

 

亜麻色の髪をしたその後輩に見覚えはある

 

先輩と呼ばれてる様にこいつは一年だ

 

「一色か……」

 

名前を一色いろはと言い、性格は打算的

 

サッカー部のマネージャーの一人だったはずだ

 

よく助っ人に行く関係で話した事がある程度

 

その程度であっても知り合いには違いない

 

無関係な人物であれば良かったが運が悪い

 

「どうしたんですか保健室なんかに来て」

 

「休みに来ただけだ。邪魔なら出ていく」

 

「そんな、先輩を邪魔に思う訳ないじゃないですか〜」

 

そう言うと頼んでもいないのにベットの準備を始めた

 

気に入られようとしてるのが分かりやすい

 

優等生で功績がある方が過ごす上で便利だが

 

こうなると校内で名が知れてるのも考えものだ

 

これが地の性格ではないのは簡単に見抜けるが

 

気付かない方が良い事があるのは身に沁みてる

 

だから決して文句は言わずに放っておく

 

それが互いの為と言っても過言ではない

 

軽く礼だけ伝えると遠慮なく横になる

 

これで黙る相手ならなお良かったんだがな

 

「そういえば先輩が部活に入ったって噂を聞いたんですよ〜それって本当なんですか?」

 

甘ったるい声という題目の例にできそうだ

 

相手をこちらに引き避ける蠱惑とは違い

 

自分から強者へ擦り寄ろうとする魂胆

 

使おうとは思わないが一つの手法ではある

 

こいつがソレを扱いきれてるかは別の話だが

 

そんな事よりも何故その話題が出てきたのか

 

「何処からの情報なんだそれは……」

 

由比ヶ浜は部活について話した様子はない

 

平塚先生は回りくどい方法は好まない

 

雪ノ下の周りに人が居るとは思えない

 

軽く考えてみても予想がつかない

 

念のため確認するために話に付き合う

 

「大元は分からないんですが運動部の顧問の先生が生徒指導を理由に比企谷を平塚先生が持っていったと愚痴ってたらしいんですよ?そこから広まったそうで助っ人の話が無くならないか不安なのかと」

 

勧誘はあちこちから受けていた

 

どこの部かまで特定は難しいだろう

 

とはいえ教師から情報が漏れるとはな

 

そもそも俺に頼りきりな姿勢は間違いだろう

 

というかそんなに話が広まっているのか

 

話しかけられる事が増えそうで頭が痛い

 

「それでどんな部活なんですか?」

 

話題を広げるとなるとそれしかないか

 

あの部については語るのも遠慮したいが

 

情報提供分くらいは付き合うべきか

 

「端的に言えばボランティア部の一種だ。奉仕部と言い、二年の雪ノ下と由比ヶ浜が部員だ」

 

事細かに理念まで話してやる義理はない

 

概要も間違っていないので問題ない

 

「学年一の美少女と噂の…それに葉山先輩のグループの…そこに先輩も加わるとなると中々に豪勢なメンバーですね」

 

名と顔が知られている面子なのは間違いない

 

調べる奴が増える事がなければ良いが

 

取り敢えず情報分は会話をしただろう

 

この後も何かと聞かれたが適当な所で切り上げる

 

一色は多少だが奉仕部に興味を示していた

 

こいつ経由でさらに広まらないだろうな

 

そもそも辞めてしまえばいい話か

 

そう考えながら惰性で授業を過ごし

 

そのまま帰ろうとしたが行く手を阻まれる

 

「何処へ行くつもりだ?そちらに部室はないぞ」

 

やはり何かあればこの人は直接動く

 

こういう人物は動きも読みやすい

 

「行くつもりはないので当然かと」

 

きっぱりと告げるだけで良い

 

既に最低限はこの人にも付き合った

 

「それを許すと思うか?」

 

「許されなくても帰りますよ」

 

じっと互いの視線が交差する

 

だが意味がないと悟り、直ぐに終わる

 

「雪ノ下にも、君にとっても良い経験になると思っていたんだがなぁ……」

 

残念そうに告げているのが声色で分かる

 

それをしてなんの得がこの人にあるというのか

 

振り返ることもせずに学校を後にする

 

とっとと家に帰って休もうと考えていると

 

「っと、メールか……そうか……」

 

予定にない連絡が入り顔をしかめる

 

だけならばまだ良かったんだろう

 

手伝いを命じられたのは裏切り者の始末

 

書かれた名前は見知ったものだった

 

 

 

 

『宮野明美』

 

 

 

 

 



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腐り目:File2 Page.2


〜Close〜

 

闇をそのまま象ったかの様な瞳の少年

 

彼との対話を終えた教師は寂しげに虚空を見る

 

思い出すのは与えられた生徒の情報

 

鍵付きの引き出しからファイルを取り出した

 

見逃しはないかと上から順に目を通す

 

中学から送られている資料に特筆事項はない

 

高校生活は彼が見せてる姿が纏められただけ

 

だがそれだけではないと感じていた

 

平塚の教師の勘がそう叫んでいる

 

「比企谷……あいつに何があったんだ」

 

一教師として助けとなれない事に拳を握るが

 

扉を叩く音に気が付き、ファイルを片付ける

 

そして居るであろう者に入室の許可を出した

 

「あの、平塚先生。部室に不審者が……」

 

何事かと思い部室へ向かうと依頼人で

 

小説の感想が欲しいと言う男子生徒だった

 

部員と教師は一安心で良かったが

 

彼は先生がいきなりやって来て焦らされ

 

女子二人の空間に耐えられず挙動不審になり

 

新たな黒歴史を一つ作り上げる事となった

 

救いがあるとすれば依頼は達成されたぐらいだ

 


〜Open〜

 

メールで知らされた場所へ出向く

 

そこにはもはや見慣れた面が二人

 

またジンとウォッカ(こいつら)と仕事か

 

そんな思いを抱く程度には顔を合わせている

 

ベルモットよりも人使いが荒いかもしれないな

 

まぁ、何かと便利に使われてる自覚はある

 

未だに決まった役割が無いのもその要因だろう

 

未成年だと表での立場を作るには不自然だ

 

裏で動き続けるにはしがらみが多い

 

ティーンエイジャー故の悩みだが

 

ティーンエイジャーらしからぬ悩みだ

 

そんな事を組織の施設の一室で考え

 

どうでも良いと切り捨て思考を仕事に変える

 

「これまでの経緯と作戦の概要」

 

それがなければ始まるものも何もない

 

わざわざ呼ばれたからには何かあるだろう

 

「随分と態度がでかいな。フィーヌ」

 

態度ねぇ……備え付けの椅子に座り

 

背もたれに盛大にもたれ掛かり

 

投げ出した足を組んでいる

 

確かに仕事の話をする態度ではないが……

 

「この前の一件」

 

「ぐっ」

 

「それに本来なら休みなんだ。時間まで身体を休ませて何が悪い」

 

そう言うとミスをした本人は黙り込み

 

ジンの奴は薄気味悪い笑みを浮かべる

 

こいつが何を考えてるかは本当に分かりにくい

 

「資料ごと渡してやれ」

 

「へい」

 

指示に従いウォッカが紙の束を取り出す

 

バサッと渡された資料にざっと目を通す

 

なるほど10億円事件もうちの管轄だったか

 

実行犯の所に今回の標的の名前

 

成功したら組織から足抜けか

 

甘言を吐く方も方だが

 

あいつも何を夢見てんだか

 

「ここ変更させろ」

 

資料から作戦が書かれた紙を放り出す

 

「俺とウォッカの配置を交代、そして俺とお前の役割もだ」

 

これは要望ではなく宣言だ

 

「俺が殺す……」

 

あいつは裏切ったんだ

 

それを許すことはできない

 

 



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腐り目:File2 Page.3


 

既にあいつはジンの指示で動いてるらしい

 

持ち逃げした奴を探して回ってるだけだが

 

組織の仕事でミスしたのは紛れもない事実だ

 

目的も相まって焦りまくってる事だろう

 

自身を除いて関係者がいないからこそだが

 

行方を調べるために探偵まで雇ってると言う

 

適当な理由を用意してやってるだろうが

 

部外者を使うというのはリスクが高い

 

俺なら末端だろうが構成員を使うな

 

探偵には良い思い出がないが軽く調べる

 

毛利探偵事務所と言うらしく

 

どうやら警察上がりの探偵

 

伝手こそありそうだが知名度はない

 

受けた依頼とやらも数えられる程度

 

好奇心任せに絡まれれば面倒だが

 

金の行方だけ分かれば言葉通り儲けもんだ

 

そんな事を考えていると新たにメールが一件

 

「……ベルモットか」

 

仕事の最中に呼び出しをかけるか

 

まだ動きがないから良いが……

 

いや、だからこそ連絡を寄越したのか

 

嫌なことほど重なるもんだな

 

とりあえず詳細を確認していく

 

 


〜Close〜

 

近くを通る人々はみな目を向けている

 

ホテルの真ん前に立ち続けている女性

 

その容姿に老若男女問わずに振り向く

 

声をかける事さえも戸惑う様な美しさ

 

そんな彼女へと真っ直ぐに向かう人影

 

携帯電話を覗いていた彼女も頭を上げ

 

互いの顔がはっきり見える距離となる

 

「あら、やっと来たの。遅かったわね?」

 

「本来なら待機中の所に来たんですよ。勘弁してください」

 

男は丁寧な口調と裏腹に不満を隠しておらず

 

「どいつもこいつも…」と小声で文句を言う

 

その様子が面白い様でクスクス笑い声が響く

 

誰もが勘違いしそうな笑顔にも靡くことなく

 

居心地悪そうに相手は視線を払い除けている

 

「とりあえず入りましょう」

 

逃しはしないと相手の腕を取り歩き出す

 

相手も嫌そうにしつつ振り払う事はない

 

ホテル内に入るとエレベーターに乗った

 

目的は落ち着いた雰囲気の個室付きバー

 

注文だけパパっと伝え、足早に席に着く

 

互いに話す事なく、黙ったまま酒を待つ

 

沈黙の数分の後に届いた品に手を伸ばす

 

グラスを持ち上げ目礼を交わし口に含む

 

「良い夜ね。貴方もそうは思わないフィーヌ?」

 

「確かに良い夜に良いバーに良いグラスに良い酒ですね」

 

「あら、良い女の文字が足りないんじゃない」

 

「良いの後に()()()と付くんなら良いんじゃないですか?」

 

憚ることなく皮肉を吐き捨てる男

 

ソレを聞き、満足気にほほ笑む女

 

部外者が見るならば異様な光景だ

 

殺伐としたやり取りが常の二人組

 

喧嘩前にジャブを打つのとは違う

 

彼女と彼での戦いは成り立たない

 

かつて彼がしていた抵抗の名残り

 

形骸化した結果、挨拶の様な物だ

 

「宮野明美を始末するそうね」

 

「えぇ、ジンに手伝いを頼まれまして」

 

世間話をするのと変わりない口調

 

零れるのは闇に住まう人間の日常

 

脅し、騙し、奪い、殺し、生きる

 

彼らにとってなんてことない日常

 

彩りがあるとすれば血の赤の世界

 

「友人の貴方がわざわざ?」

 

「裏切りはご法度、組織の共通認識でしょう」

 

「まぁ、良いわ。しくじらないようにだけ気をつけなさい」

 

注意を口にすると再び酒を傾ける

 

それ以上何もないのか会話は止む

 

許可を貰った男も静かに酒を嗜む

 

 


〜Open〜

 

どうにも磯の香りが強くてかなわないな

 

ここで待ち続けるのは少々苦痛に思える

 

漁港ではなく生臭くないのがせめての救いか

 

いや、もうじき血生臭い事になるのに違いはない

 

静かな港にカツカツと歩く音が響いてきた

 

ジンもそれを聞いて嘲笑を浮かべる

 

「行くぞ」

 

端的に合図を出し移動を開始するジン

 

俺も一歩遅らせてそれについていく

 

そしてついにその時がやってきた

 

「ご苦労だったな広田雅美…いや…宮野明美よ…」

 

行く手を塞ぐように現れたジン

 

相方(ウォッカ)の姿が無いのは不審に思っていそうだが

 

合流は予定の内だから慌ててはいない

 

俺が顔を見せた時、あいつは驚くか

 

そんな下らない事を考え影から機を窺う

 

「一つ聞いていいかしら?あの大男を眠らせるためにあなたにもらったこの睡眠薬…飲んだとたんに彼、血を吐いて動かなくなったわ…どういうこと?」

 

「フ…それが組織(われわれ)のやり方だ…」

 

むしろ素直に渡された物を使うとはな

 

その行動の方がこちらとしては正気を疑う

 

他人は何処までいこうが他人だ

 

これは表裏関係ない摂理だろうに

 

「さあ、金を渡してもらおうか…」

 

「ここにはないわ…ある所に預けてあるの…」

 

まぁ、見るからに荷物は無いからな

 

わざわざ聞くあたり性格の悪い事で

 

「その前に妹よ!約束したはずよ!この仕事が終わったら、私と妹を組織から抜けさせてくれるって…あの子をここへ連れて来れば金のありかを教えるわ…」

 

無策でやってきた訳では無い様だが

 

ジンを相手にそれは悪手でしかない

 

移動経路から考えれば予測は簡単だ

 

そして端から金だけが目的ではない

 

「そいつはできねー相談だ…奴は組織の中でも有数の頭脳だからな」

 

「な!?」

 

何を驚いているんだか…

 

「あいつにコードネームが与えられてる意味を考えろよ。宮野……」

 

「え!? フィーヌ…あなた…」

 

コンテナの影から姿を現すと

 

宮野はそれはそれは驚いてみせる

 

色々な予測が頭の中で渦巻いてる事だろう

 

「愚痴聞きの時にも言っただろ。組織はこれっぽっちも甘くないと」

 

「まさかあなたが手引したの…」

 

シェリーや宮野とはよく話していた

 

組織に対する不平不満、愚痴話はざらだ

 

それ故に簡単に行き着く答えだが

 

「それこそまさかだな。俺はただ裏切り者の始末の手伝いに来ただけだ。組織を抜けようとした裏切り者をな」

 

「そう…金のありかはどうでも良いのね……」

 

金は集めようと思えば方法など幾らでもある

 

だがシェリー、あいつの換えは何処にもない

 

それを連れ出そうとするお前の存在は邪魔だ

 

ヘマを繰り返したから大義名分は十分足りる

 

なのに安易な餌に飛びつき処刑台に上がった

 

組織だけじゃない俺も、あいつも裏切る行為

 

「最後に言い残す事はあるか?」

 

「ごめんね…とだけ」

 

こっちの目をじっと見るんじゃねぇよ

 

誰への謝罪なのか分からねえだろうが

 

一瞬の後合図と共に引金に指を掛けた

 

 

 

 

 

 

 

「なんでどいつもこいつも謝るんだよ」

 

 

 



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見透かす目:File.2 Page.4


 

目的の人物である雅美さんを探して、確かに入った港の中を駆け出した。

 

見失ってからかなりの時間が経つが諦めることはなく、血眼と言う言葉通りの姿となってコンテナの並ぶ通路を走り続ける。

 

物音の一つでもないかと耳をすませていると船の汽笛が遠くから聞こえてきた。鳴り終わった後も足音一つ聞こえず、見つからない不安の中でようやくその姿を捉えた。

 

また逃げられる前に彼女を捕まえなければとその方法で頭を巡らせているその瞬間、彼女が膝から倒れ、俺の思考が真白に染まった。

 

「ま、雅美さん!?」

 

「どうしたの雅美さん。しっかりして!!」

 

何が起こったのかと周囲を見渡すと地面には拳銃が一丁転がっており、血が流れている事から撃たれたのだろう。

 

「蘭ねえちゃん、早く救急車を!!それにおじさん達にも!!」

 

「う、うん、わかった!!」

 

とにかく治療を急がなくては雅美さんが死んでしまう。蘭に指示を出して、何か出来ないかと簡単な応急処置の方法を思い浮かべる。

 

「む、無駄よ…もう手遅れだわ…」

 

「しゃべっちゃダメだ!!しゃべると傷口が…」

 

そう言おうと思ったが既に雅美さんから流れる血の量は多く、苦しげに咳き込む口からも溢れる様に出てきている。応急処置どころか救急車が来るのを待つ時間も残されていない。助からないのが分かってしまう。

 

「…心臓を狙ってたみたいだから……多少逸れたとはいえ、死は免れないわ……」

 

雅美さんは苦しげにしつつも服の下からアクセサリーを取り出し「曲がっちゃったかしら?」と残念そうな表情を浮かべている。

 

「ボ、ボウヤは確か…探偵事務所にいた子だったわよね…? どうしてここがわかったの?」

 

俺は死にゆく彼女につまらない嘘を吐きたくなかった。博士に貰った発振器の事も本当の名前の事も全てを話し、逆に彼女から広田さんや大男の事も聞かせてもらった。

 

「10億円はホテルのフロントに預けてあるわ…もしかしたら回収済みかもしれないけど…組織の中でも彼はかなり優秀だから……」

 

「組織…?」

 

大きな事件であることや拳銃の入手等を考えれば手引した存在がいるのはおかしくない。おそらく雅美さんもその組織の手にかかったのだろう。

 

「謎に包まれた大きな組織よ…ま、末端の私にわかっているのは組織のカラーがブラックって事だけ…」

 

「ブラック!?」

 

その言葉を聞いた瞬間にトロピカルランドで出くわしたあの黒ずくめの男が脳裏に浮かんだ。

 

「そうよ…組織の奴らが好んで着るのよ…カラスのような黒い服をね…あぁ、でも一人だけ黒以外も普通に着る人も居たわね……」

 

「そ、そいつらの中にフィーヌって人はいる?」

 

「…?! ええ…居るわ……幹部はみんなお酒の名前のコードネームを与えられてる」

 

死に瀕しているにも関わらず言い寄る様に尋ねてしまったがその質問に対して雅美さんは目を大きく見開いて驚きつつも肯定した。

 

「……そうだ思い出したわ…工藤ってフィーヌが嫌いだって愚痴をこぼしてたっけ……その身体も組織のせい…ゲホゴホガホ……」

 

「雅美さん、無理に喋らないで!?」

 

また大きく咳き込むと血を吐き、さらに顔色が悪くなっている。それでも何故か雅美さんは笑みを浮かべている。だが既に目に力はなく、今にも閉じそうだ。

 

「…あぁ、気遣いを無下にしちゃったわね……苦しまない様に心臓を狙って……あのこにも悪いことを……」

 

「雅美さん!!雅美さん!!」

 

「…これで良いのよ…あいつらに利用されるのはごめんだもの……あなたもありがとう…小さな探偵…さ……」

 

最期に俺の手を握り、視線を合わせてそう言い残すと彼女はそっと息を引き取った。

 

彼女のいったとおり10億円はホテルのフロントに預けられていた様だが警察が確認した時には彼女の代理を名乗る者によって引き取られた後だった。

 

死んだ広田さんが家を借りた際に使われたというピン札の札番号を調べた事で犯行は証明されたがついに10億円の行方は途絶えてしまった。

 

彼女の近くに落ちていた拳銃から彼女の指紋が発見され罪に耐えかねて自殺したかと思われたが衝撃が加わり、ひしゃげたアクセサリーから他殺であると断定された。

 

しかし、代理人や現場周辺の目撃情報等を集めても事件の首謀者へと繋がる情報は見つからず、事件は迷宮入りとなって幕を閉じた。

 

 


 

 

「なるほどのお…そんな事がおきておったのか」

 

「あぁ、組織の連中を捕まえる理由がまた増えたよ」

 

雅美さんの依頼からの経緯を博士に話していた。組織について話せるのが博士だけなのに加えて、偶然だが発信機が役立った事の報告だ。それに情報共有はしておいて損はないからな。

 

「組織を嫌っていたであろう女性にしてはそのフィーヌと呼ばれている幹部と親しそうじゃのう。それになんでも君の事を嫌いだと言う愚痴を聞いていたそうじゃないか」

 

「俺と面識のある人物…とまでいかなくとも関わりがある人物かもしれない、だろ?」

 

その可能性は一番に考えた。単純に新聞やニュース等でも知られている高校生探偵の工藤新一が嫌いなだけかもしれないが、警戒しておいて損はない。

 

「所でそのフィーヌという名前はトロピカルランドで聞いたのか?」

 

「そういや殴られた事と黒ずくめだった事しか話して無かったっけか? 殴られた後、朦朧としてたけど『こんなガキにつけられやがって…見張っていたフィーヌに感謝するんだな』って言ってたのを朧げだけと覚えてたんだ。そいつは声を聞いてなきゃ姿も見てないけどな」

 

逆に姿も声も覚えてる奴らはコードネームが分からない。近くに居るかもしれない姿の分からない奴と何処にいるかも分からない姿の分かる奴とどちらが追いやすいか……

 

「なるほど、彼女の話が確かならフィーヌってのも酒の名称なんじゃな」

 

「あぁ、フィーヌは基準に満たないぶどうや品質の悪いワインから作られたブランデーだ」

 

「そう聞くと幹部の名前にしてはなんとも微妙じゃのう」

 

由来を考えると確かに博士の言うとおりだ。フィーヌというブランデーにも高級な物はあるらしいが、名前として使うには少々縁起的にも良くないとか考えないのか。いや、そんな事に意識を向けるだけ無駄か。

 

「由来なんて関係ねぇ。どんな奴だろうと闇から引きずり出して、白日の下に晒してやる!!」

 

 



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腐り目:File.3 Page.1

他の投稿作品を書いてたり、転職してから忙しかったりで、かなり久しぶりの投稿になりました。

まだ待っていてくださる方には大変お待たせしました。新しく見つけた方も良ければ気長に待ちつつ読んでください。




 

 

 

体育は好きとは言わないが嫌いではない

 

身体を動かし続けていれば思考を減らせる

 

付き纏う言葉を払い除ける様に身体を動かす

 

今も昔も俺のやってる事は変わっていない

 

過去があって今があると言うのにだ

 

学習出来ない自分が本当に嫌になる

 

そして嫌な気持ち(それすら)も振り払おうとする

 

本当に救われない、いや救いようがない

 

準備運動を終えるとラケットを握る

 

待っていれば誰かしらから声が掛かる

 

動ける奴だと良い、そんな事を考え待つ

 

一人見たことある顔が近付いてきた

 

「比企谷くん、一緒にやらせてもらえないかな? いつも一緒にやってる人がおやすみでね。それに比企谷くん、テニス強いから」

 

戸塚彩加…テニス部員、同クラス

 

助っ人に行く関係で話をすることがある

 

顔だけ見れば女子と大差ないが男子だ

 

骨格や筋肉の付き方から直ぐに把握した

 

なんでか知らないが妙に懐かれている

 

だがこいつは距離感を保っている

 

そのため接していて面倒には思わない

 

見た目と裏腹にそこそこ動けるのも知ってる

 

テニスの相手としては申し分ないだろう

 

了承すると意気揚々とコートに向かう

 

テニスを楽しんでいるのが読まずとも分かる

 

……いや、良いんだ……とにかくやろう

 

一般人と俺とでは色々と違いがある

 

相手との体力の差などを考えなければならない

 

それでも可能な限りはボールを打ち続けた

 

「やっぱりすごいね比企谷くんは!! ぺースは早いのに打ちやすい球を必ず返してくれるし、僕のミスもカバーしてくれてたし」

 

ある程度打ち合って気は紛れた

 

そう感じた所で終わりの鐘が鳴った

 

道具を片付け水分補給をする

 

その最中に興奮した様子で話しかけられた

 

取り繕う()()()の方がまだ良い

 

いつも通り対応すれば良いだけだからな

 

大した事はしてないと返すがはたして

 

コイツは裏がなく純粋だからこそ厄介だ

 

こういった手合には嫌味も通じない

 

「比企谷くんレベルだとあれが普通なんだ!!運動部全体を引き上げる腕前だもんね!!」

 

コイツは馬鹿な訳では無い

 

ただ人の悪意を疑わない

 

善意を信じすぎている

 

裏どころか世間にすら呑まれかねない

 

か弱さで言えば雛鳥と大差ない

 

今までどんな環境を生きてきたのか

 

箱入りだってこうはならないだろうに

 

あぁ…ある意味真逆なのだろう

 

人の善意を疑って

 

悪意ばかりを信じている

 

同属嫌悪という言葉があるが

 

対極過ぎるが故の反応なのか

 

自身でも覗くことは叶わない

 

真黒な心を思うと失笑する

 

そんな傍らで留まることなく話は進む

 

「比企谷くんに頼みがあるんだ。僕を鍛えてくれないかな?あ、もちろんテニスの腕前だよ」

 

去年と比べてどの部も人員が増えた

 

実績による影響は大きいと言える

 

練習等にも力が入ってるそうだ

 

引っ張る立場として負けれない

 

自分も少しでも強くなりたい

 

そんな思いから頼み込んでるらしい

 

明確にはしてないが噂はされている

 

俺が助っ人以外で関わろうとしないと

 

その情報くらいは知っている筈だ

 

その上でただ頭を下げて頼んでいる

 

なんとも純粋な事だろうか

 

これを受ければ煩い奴もいるだろう

 

コイツはともかく馬鹿は多い

 

権利だけを主張する愚者が出てくる

 

それを考えれば答えは分かりきっている

 

お願い、比企谷くん(【お願いね、あ■■の■】)

 

屈託ない笑み、くしゃくしゃの顔

 

真っ直ぐな瞳、沈痛な声

 

身体をもう少し動かしたい

 

「……俺が居る昼休みだけだ」

 

果たして昼まで居る日は何日か

 

くだらない考えで自身を誤魔化す

 

勝手に開いた口を抑えるには遅い

 

喜びの声から遠ざかろうと足早に去る

 

どうしようもない自分に嫌気がさした

 

逃げる気はないが今日は予定があった

 

どっちにしろ直ぐには出来ないだろう

 

必要な準備を整えておけとメモを残す

 

任務でないから足を来させるのは悪い

 

公共の交通機関を使い離れた家に行く

 

そこで着替えや物の準備が必要になる

 

今からなら目的地までの時間を含めて

 

余裕をもって間に合わせる事が出来る

 

だが予定になく嗅ぎ慣れた臭いが漂う

 

バス内の離れた位置でドサッと音がし

 

目を向けると男が血を吐いて倒れてる

 

若そうだが近くには杖も転がっている

 

顔色が悪く、汗を掻き、吐血している

 

物音なし、目立った外傷なし、毒殺か

 

恐らくふぐ毒であるテトロドトキシン

 

男がふぐの肝を食った可能性もあるが

 

ざわめきが広がって、バスは停車する

 

警察が来るまで、いや来ても帰れまい

 

また無駄で面倒な事に巻き込まれたな

 

俺の手荷物は細工もありまず大丈夫だ

 

携帯で当たり障りないメールを送った

 

下手なことさえしなければ問題はない

 

十分経ったくらいか警察がやってきた

 

「千葉県警の(もとい)照彦(てるひこ)です。皆さん順番にお話を聞かせてもらう事になりますがご協力お願いします」

 

取り仕切る役の刑事は二人だけだった

 

微妙な時間の為乗客は20人も居ない

 

その内の一人が聴き取りの担当の様だ

 

別々に聴いて纏めるよりは効率的か?

 

明らかに関係ないであろう乗客もいる

 

それを考えるとそこまでかからないか

 

現場の保存や身元の確認と同時に進み

 

程なくして俺の聞き取りの番となった

 

「先程紹介しましたが千葉県警の基照彦です」

 

「比企谷八幡、総武高校二年」

 

「やはりあの八幡くんですか、天才高校生と有名な」

 

有名税とはよく言ったものだが面倒だ

 

関係のないことに時間を使いたくない

 

適当に話は切り上げ質問に答えていく

 

何処に居たか、何か気付く事はあるか

 

あの男が倒れた際には何をしていたか

 

聴かれるであろうと言ったものばかり

 

淡々と答えていくだけで直ぐに終わる

 

「協力ありがとう。状況からみても害者との関係性からも君は問題ないだろうから直ぐに開放されるよ。もうしばらく辛抱してくれると助かる」

 

聴き取りが終わって数十分が経った頃

 

調査をしていた警官から報告が入った

 

報告を聴いた刑事は運転手を呼び出す

 

「鑑識の結果、害者からは神経性の毒物が検出しました。また、バスの座席にある手すりからも同じ毒物が出たそうです」

 

「害者は障がい者だったからな。座る位置は補助をした運転手のあんたが好きに決めれるんじゃないか?」

 

「そ、そんな私は知りません?!本当です!!」

 

嘘ではない、驚き、焦り、恐怖の感情

 

混こぜの心のまま必死に否定している

 

表情の引き攣りと声の震えが痛々しい

 

間接証拠もとい状況証拠しかない現状

 

しかも案内と毒が見つかった事実だけ

 

これだけでは十分な理由に足り得ない

 

逮捕が難しく検証となれば面倒になる

 

障がい者、杖、手摺、毒物…足りない

 

乗車位置に時間は、持ち物は何がある

 

他にも何か、何かが此処には足りない

 

「……犯人がこの中に居ない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の言った通り障害者手帳からも毒が検出された。カード化した手帳を確認と称して受け取り、その際に毒を付着させて返したのだろう」

 

伝えるならこの人が良いと予想を話し

 

運転手の疑いも晴れ乗客も開放された

 

「害者が寄った施設を調べたら職員とトラブルがあった事が確認され、直ぐに調査した結果毒物を見つけ犯人は逮捕された。おかげで誤認逮捕することにならずに済んだ。感謝しかない」

 

目立ちたくないと俺の活躍はなくなる

 

礼もこの場だけになるから些か重たい

 

だが話とやらはそれだけではない様だ

 

「俺はあまり詳しくないが天才というのはこういった事件(もん)にまで分かるもんなのかと驚かされた。だかな俺としては本当に()()()()かと疑問にも思っちまうんだが……そこんところどうだ? 比企谷八幡」

 

興味からか知らないが此方に踏み込む

 

其方がその気ならば此方も踏み込もう

 

あんた犯人に対して怒りは無かったな

 

害者に対しての慈しみも少なかったな

 

むしろ犯人への同情が途中で強まった

 

真相が解明して、報告を受けてからだ

 

警察以外の人間を安心させる為の平静

 

場馴れしていて取り繕うことが出来た

 

理由付けは色々と出来そうだけど……

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()中道(なかみち)和志(かずし)刑事」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

面倒に違いないがもう終わったことだ

 

これ以上引きずっても仕方のないこと

 

そう割り切って進む足に意識を向ける

 

わざわざこっちまで来てくれてるんだ

 

アイツラ(ジン・ウォッカ)と違って長く待たせては悪い

 

目的地は組織の手は掛かってない場所

 

エンジェル・ラダーと洒落た名のバー

 

とは言え裏の目的で使われる事が多い

 

出入りしても怪しまれる事のない立地

 

そして個室があるために話をしやすい

 

従業員に話し掛けて相手の名前を出す

 

既に着いていた様で席へと案内された

 

「なんや、ワレにしては遅かってんな()()()()

 

「不可抗力なんだが待たせてすまない()()()()





フィーヌ、もとい八幡は意外と組織内や組織関連の顔は広めです。付き合いの長さだけで言えばベルモットやジンが一番ですが、仲の良さで言えば二人以上の幹部は何人かいます。

Page.1とあるようにまだ続きますが、このまま連続で投稿……という訳にはいかず、続きの構成自体は出来てますが、まだ書いてないのでのんびりお待ち下さい。

読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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腐り目:File.3 Page.2


 

テキーラは組織内でも交渉に長けた幹部だ

 

表で足をつけることなく必要なモノをトル

 

その腕前で様々な面なら組織に貢献してる

 

交渉術の基本は彼から習ったと言って良い

 

見て盗んだが正しいが世話にはなっている

 

「まあええさ、じぶんのことや。何ぞ理由があったんやろ?」

 

理由を伝える前にそう言う当たり人が良い

 

まぁ、()()()()()()()と頭に付くのだがな

 

それ故に申し訳ない気持ちで理由を告げる

 

「関係のない殺人事件に巻き込まれてな」

 

「そら災難やったな。ワレは表の動きがあっても問題ないから良かったが腹はたったやろ」

 

心情をしっかりと理解しての共感が沁みる

 

とりあえず何か呑めとメニューを渡される

 

適当に果実酒を注文すると()()()()()()()

 

向こうは何も気付いていないのは幸いだな

 

それは()()()()()()()という意味だけどな

 

服装もセーフハウスから変えてやってきた

 

顔も不自然じゃ無い程度に隠してるからな

 

一般人からは分からないのが当り前なんだ

 

「そういや最近もあいつらも成果を上げたそうやな」

 

「確か4億だったか…組織からすれば端金だろうが一度で手に入れたとすればまぁまぁか……」

 

アイツの時に手にした10億には及ばない

 

だが何も使わずに生み出したのは悪くない

 

額が額だがやってる事はただの詐欺だがな

 

「こっちももうじきええ土産を用意出来そうや。金はかかるが楽にプログラマーの情報をあげれる」

 

組織が必要とする情報を適切に手に入れる

 

こんな細かい芸当はアイツラには出来まい

 

「さすがだな。探りと取引では勝てん」

 

「当たり前や。誰が教えたと思うとる」

 

そう笑って言うが嫌味な感じに聞こえない

 

ジンだと何をしても嫌味になると言うのに

 

あれもある種の才能と言っても良いだろう

 

「足はいるか?足以外でも手伝いとかでも良いが」

 

「いらんいらん。相手は一般人やからな。それに午後にはジンとウォッカと合流もする。変に気ぃ回しなや。しんどいぞほんまに」

 

「俺が疲れてんのはいつもだけどな。それなら吉報を楽しみにしとく」

 

大事でないが成功を祈って乾杯をかわして

 

後は互いになんでも無い世間話を楽しんだ

 

 


 

 

 

約束は好かないが破る気にもならない

 

そんな複雑な心境を無駄に燻らせるも

 

無常にも時間は流れ過ぎその時が来た

 

「よろしくね。比企谷くん」

 

「あぁ……」

 

黙って準備を終えてそっと構えをとる

 

ある程度のレベルは既に把握している

 

それでももう一度見てからの方が良い

 

言葉だけで伝わるほど人は単純でない

 

それらしい理由付けは何にでも必要だ

じゃあなんで俺は一言一言に囚われる

適当に打ち合って頃合いを見計らった

 

疲れが見えてきた時が分からせやすい

 

疲労は思考能力を多少なりとも落とす

 

戸塚がボールを2回逃した所で止める

 

「はぁはぁ、比企谷くん…? ぼくまだ出来るよ?」

 

「疲れがミスに直結してる。続けても意味はない」

 

これに関しては嘘でなく、正しい事だ

 

伸びるとしても少なめの体力くらいか

 

伸びた所でそれだけでは全く意味ない

 

こいつはテニスの腕を伸ばしたいのだ

 

まぁまぁ動けてはいることは確かだし

 

技術は部活をやってる者では上の方だ

 

変な癖を付ければマイナスでしかない

 

基礎は十分、となると足りてないのは

 

試合の動き方や読み合いなどに加えて

 

持久力を伸ばさねば力は発揮されない

 

それを言うと不思議そうに首を傾げた

 

何を言いたいのかは簡単に予想出来る

 

「持久力なら続けた方が良いんじゃないの?」

 

「試合における持久力だ。通常時と緊迫時は違う」

 

助っ人時に試合が目に入ることもある

 

意図的に観戦することはまずないがな

 

だが何度かは戸塚の試合の動きは見た

 

練習での動きと比較すると拙く思える

 

結果が出てないのはそこが原因だろう

 

あっちの仕事でも似たような例はある

 

いざという時に動けるかで命が決まる

 

感情を殺して無駄な思考をしない奴や

 

常に戦場にいるかのように動く奴など

 

タイプは違うがどちらもロスは少ない

 

「なるほど!! でもそれはどうすれば良いの?」

 

対策としては精神面の補強が一番だな

 

要するに少しでも自信が付けば良いが

 

自信がなくて俺を頼ってるから無理だ

 

それでも打つ手が無いなんで事は無い

 

練習と実戦との距離を近付ければ良い

 

練習を実戦に近付けていっても良いし

 

実戦で練習の様に動ければさらに良い

 

後者は感情のコントロールとも言える

 

常に冷静になり自然体である事が重要

 

直ぐ一喜一憂する戸塚には厳し過ぎる

 

前者は練習に緊張感を足せば済む話だ

 

簡単な所だと本気の罰を与えれば良い

 

それでも特訓ならと受け入れかねない

 

この状況下で戸塚が嫌がるだろう事か

 

「打ち損じが出た時点で即終了」

 

俺なんかを頼るならそれを取り上げる

 

望んだ練習が終わるぞと強迫してやる

 

始めは緊張に負けて二三回で終わった

 

不甲斐なさに顔を俯かせても何もなし

 

気付かれずに調整して次も終わらした

 

フォローする気はなくそのまま帰った

 

これでだれるなら付き合う事は無いが

 

戸塚は段々とボールに食らいついてく

 

こちらの一挙一動を見逃さずに動いた

 

見た目とは裏腹にギラリと目を輝かす

 

緊張の中で読み合いも動きも成長する

 

ほんの数日間で一皮剥けて見せるとは

こいつは裏切らなかった。あぁ面白い

普段の姿がキビキビしている事はなく

 

練習になると直ぐ切り替えが出来てる

 

鈍らない様にはするがもう良いだろう

 

戸塚が打ち損じて今日のお礼を言った

 

片付けに入るところへ待ったをかける

 

「なに? 比企谷くん」

 

「このままやるぞ」

 

「え?! あっ、うん!!」

 

即終了のゲームは続けていく予定だが

 

少し打ち合いを増やしても良いだろう

 

そう告げると認められたと思ったのか

 

直視出来ない様な笑顔でコートに戻る

 

打ち続けるだけのラリーにはしないが

 

これまでよりは楽しくプレイしている

 

だがその分の面倒事は増えてしまった

 

今までは実質ワンゲームだけだったが

 

何回もプレイする事で片付けが増えた

 

ボール一個なら押し付けても良かった

 

あちこち転がるボールの数々は流石に

 

戸塚は頼んでいるからと率先している

 

最近では片付けも考えて切り上げてる

 

他人への配慮なんていつ以来だろうか

 

それがこうも裏目に出る事があるとは

 

「片付けで練習が減るのも比企谷くんに迷惑かけるのも嫌で、僕だけが特訓してもらってる手前、運動部関係の人には頼めないし、困ってたら声掛けてもらって……」

 

「あはは……戸塚くんの練習相手って()()()()()だったんだ」

 

「……まさか貴方とはね」

 

いつしかあの部屋で見た事ある顔ぶれ

 

今すぐにでも帰ってもらいたい気分だ

今すぐに逃げ帰ってしまいたい気分だ

面倒事を嫌い噂にならない様に動いた

 

ギャラリーはいない方が良いと思った

 

だから俺がいるという情報は届かない

 

その結果がこの邂逅なら選択を呪おう

 

「それで、えっと…どうしようか?」

 

戸塚も何かしらあった事には気付いた

 

だからこそ判断をこちらに投げてきた

 

どうするのかと視線で訴えてきている

 

それに関してはまぁ仕方ないだろうが

 

なんで向こうも依頼者でなく俺をみる

 

「…依頼者は戸塚、お前だ。すきに決めろ」

 

「え、えっと……それじゃあ、予定通り練習とそれの手伝いをそれぞれお願いするね」

 

頼んだ手前無しには出来なかった様だ

 

それぞれに頭を下げて練習を開始した

 

俺がやることはいつもと何も変わらん

 

戸塚との打ち合いを普通にやっていく

 

打ち損じた球をあの二人が回収してく

 

俺と二人には会話がなく練習は進んだ

 

このままの空気感で終わると思われた

 

だがこの日は二つもの違いが生まれた

 

戸塚が大きく転けてしまい体を痛めた

 

「彩ちゃん大丈夫?」

 

「……救急箱を借りてくるわ」

 

由比ヶ浜は戸塚を心配して駆け寄って

 

雪ノ下は手助けとしての仕事に徹した

 

練習の再開は出来ず終わればまだ良い

 

だがもう一つの違いが顔を出してきた

 

「あ、テニスしてんじゃん、テニス!」

 

そんな声と共にこちらに近付いて来る

 

クラスでグループを形成している奴ら

 

葉山と三浦の二人を中心としてる集団

 

俺は睨むでもなく相手を観察している

 

葉山の奴はほんの少し表情を歪ませた

 

視線は合わせて無いが俺に気付いてる

 

それでも行動へと移す様子は全く無い

 

止める事も出来ないのがアイツらしい

 

「ね、戸塚ー。あーしらここで遊んでていい?」

 

「ぼ、ぼくは遊んでるわけじゃなくて、練習を…」

 

「え?なに?聞こえないんだけど」

 

戸塚に話し掛けるって分かってるのか

 

それとも一番弱そうな所を狙ったのか

 

どちらにせよやり方としては悪くない

 

「れ、練習だから」

 

「ふーん、でも部外者混じってるってことは男テニだけじゃないんでしょ?ならあたしらも使ってよくない?」

 

「でも……」

 

責任者は戸塚なんだから横入りしない

 

俺は仲介までは頼まれていないからな

 

試合に対する心掛けは出来上がってる

 

だが精神自体はまだまだ未熟だからな

 

強く出られれば縮こまるのも仕方ない

それでも何処か期待している俺がいる

騒動の外側からはどう見えてる事やら

 

アイツもここらで外聞を気にし始めた

 

「じゃあ、こうしないかテニスの勝負をしよう。勝ったほうがここを使える。負けたら戸塚の練習を俺等も手伝うよ。その方がみんなで仲良く出来ると思うんだ」

 

妥協している様に見せるのが上手だな

 

勝負する時点でテニスは出来てるだろ

 

負けたらって条件から手伝う気もない

 

たちが悪いのはむしろこいつだろうな

 

空気が出来上がり、それを押し付ける

 

こうなっては練習は終いになるだろう

 

受けても受けなくとも変わりはしない

 

誰でも頭がなくても導き出せる答えだ

 

「どうかな戸塚くん?」

 

「う、うん……」

 

押し切られ向こうは準備を始めている

 

落ち込む戸塚を横目に俺は歩き出した

 

「あれ?比企谷くん何処に行くの?」

 

そう言えばこいつがまだ残っていたか

 

わざわざ応えてやる義理は少しも無い

 

だが無視して出ていくのも引っかかる

 

練習が終わったから帰るのだと伝える

 

「「えっ?!」」

 

戸塚と共に驚いて見せるが当たり前だ

 

俺は練習を頼まれた覚えしかないんだ

 

こんな遊びに付き合う時間なんて無い

 

俺はもう帰るし戸塚は怪我をしている

 

由比ヶ浜はテニスする様には見えない

 

さて、誰と勝負するのか分からないが

 

()()()()()()()()()()()()すると良い

 

そこまで言い切るとその場を後にした

期待なんて無駄だっていい加減学べよ


 

適当にアジトへと訪れると銀髪(ジン)か居た

 

照明の真下に居ると目がチカチカする

 

入って直ぐの場所を何故陣取っている

 

待ち構えていたんじゃとすら思えるが

 

俺がここに来てるのは予定外だからな

 

どちらにせよ面倒な事には変わりない

 

こちらに話し掛け様としているからな

 

溜息を吐いて諦め気味に何だ?と訊く

 

「なに、これからシェリーの所に行くんだがお前からも話してやると良い。あいつの数少ない友人の一人としてな」

 

趣味の悪さに関して一位独走している

 

組織とか関係ない所で捕まってしまえ

 

研究再開させたいってのに(火種)を呼ぶか

 

仕事関係で手前の面白さを優先するな

 

それにしても本当に面倒な事になった

 

ストライキ中のあいつの所に行くのか

 

アジトから車に乗り込み施設へと行く

 

幾重ものロックの先にある薄暗い部屋

 

牢獄みたいな所にあいつは繋がれてる

 

部屋に入る際にジンの奴は置いていく

 

文句は言わせないし、今更疑いもない

 

静かに扉を開けるとそのまま踏み込む

 

疲弊の中でも睨む目の力は失ってない

 

顔を上げ俺を見た瞬間に色まで変わる

 

「…………フィーヌ!!!」

 

「久しぶりだな。シェリー」




『5』

とりあえず書けたのでPage2を投稿しました。このままPage3まで投稿と言いたいところですがまだ書けてないのでしばらくお待ちください。それでもしばらくはこの作品を重点的に書く予定なので何ヶ月もは待たせないと思います……たぶん。

File3自体はPage3で終わりになる予定です。というかそこで区切りが良いのでそこまでにしようと思ってます。

でも八幡が奉仕部に入ってない関係でその次がめちゃくちゃ短くなりそうなんですよね。チェーンメールのやつなんですけど、下手したらPage1 で終わりそう。File4にしないでFile3に付け足して纏めるか悩み中。

雅美さんもとい明美さんより後で灰原登場前のコナン関係の組織要素はこのFile3で殆ど出し切っちゃってるんですよね。

俺ガイルの依頼数よりも確実にコナン要素の方が多いからこれから先は多少は時の流れおかしいくらいにコナン側の要素は詰め詰めになるし、俺ガイルの依頼をオリジナルを用意する必要が出てくる。

今の段階だと灰原哀が生まれてない時系列だから先取りは出来ないからなぁ。灰原哀がコナン側に合流してからなら多少は無理できるのになぁ。

依頼に依頼を重ねても俺ガイル要素ばかりになるから嫌だし、コナンのオリジナル話を考える程の頭は私には無い。次のFile3のPage3までは直ぐに書き始めるけどそれ以降はどうするかは少し悩むと思うので未定です。

と長々と愚痴を口にしてすみません。
そろそろいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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腐り目:File.3 Page.3


 

あることないこと吹き込まれでもしたか

 

まさに親でも殺されたのかという雰囲気

 

実際に死んだのは唯一の家族である姉だ

 

力強く睨んでいるが瞼は少し震えている

 

結構厳しい監禁状態に置かれている様だ

 

分かりたく無いがジンのやり方じゃない

 

あった事をただ嫌らしくネチネチと語る

 

ジンがするとすれば恐らくそんな所だろ

 

ブラフは使えど偽りを吹き込みはしない

 

嘘がバレて希望を持たれたくないだろう

 

殺すなら偽の希望を抱かせたりもするが

 

シェリーは組織の都合上殺せないだろう

 

となると考えられる答えは一つしか無い

 

「ベルモットでも来たか?」

 

「……?!……まさか本当に……」

 

俺が来る事まで読んで吹き込まれたのか

 

相当まいってるのは確かか、意志が弱い

 

普段の強気な態度と違い完全に張りぼて

 

小動物の威嚇の方がまだマシだと言える

 

「あの人がなに言ったかまでは知らねぇよ。ただ何か吹き込むやり方はジンらしくねぇと思っただけだ」

 

()()の性に対する恨みや執念の根深さよ

 

何があったのか事の詳細までは知らない

 

それでも滲み出る凄まじさは知っている

 

気分が良いのだろうこれで()()は終わる

 

ついでとばかりに憂さ晴らしまでやって

 

それで俺に当たられても困るんだけどな

本当にそうか?何も期待してないのか?

「……お姉ちゃんは死んだのよね?」

 

「そうだな」

 

シェリーの中でも確定してしまった情報

 

否定してやる意地の悪さは持っていない

間違った優しさなんてもっての外だろう

「……貴方が殺したの?」

 

「あぁ」

 

瞳が揺れている確かめたくてしたくない

 

確定させたくないのは誰の為なのだろう

 

自分の為か姉の為か、俺の為な訳はない

そんな答えだけは存在しちゃ駄目だろう

なんで?!

 

荒げて大きくなった声は何処か掠れてる

 

なんで殺したのかを訊いてる訳では無い

 

なんで()()(親友)を殺したのかを訊いている

 

知りたがった何故殺されたかではなくだ

 

組織へではなく俺に声を荒げているのだ

 

そして問いに対する答えは単純なもんだ

 

「裏切ったからだ」

何度も何度も忠告はしてやった筈なのに

簡潔的で分かりやすいこれ以上ない答え

なんで組織を抜けようなんて考えたんだ

組織を裏切ればこうなる事は分かる筈だ

自分が死んだ後の事を何故考えないんだ

それなのにある筈もない希望に縋りつき

組織を信じて、なんで俺を信じないんだ

その結果がこの状況なのだから笑えない

俺もシェリーもこれで独りなんだからな

「……それだけなの?……あなたもそうなの?……」

 

縋るものを求める姿は姉妹らしさがある

こんな所にいてもなお何処か純真な姿が

それでいて諦めの悪さまで持ち合わせて

芯が強くて最後まで抗うその心の強さが

明日に願った所で何になるというんだか

俺にはないそれが何処か眩しく見えてた

「恨むなら自分を恨め」

俺はそうした…否そうするしかなかった

「……帰って……」

 

弱く呟いた言葉は否定かはたまた失望か

 

どちらとも違うがその言葉に嘘はないな

 

慣れた感覚と違う拒絶に俺はただ従った

 

ニヤついてるジンを無視して施設を出て

 

そのまま車に乗り込むと直ぐに走り去る

 

あぁ気持ち悪い、夢見が悪くなりそうだ

 


 

最近はなかったがまた嫌な夢ばかり見る

なんでかなんて自問をするつもりはない

不機嫌さを隠す事なく高校へと出向いた

 

人付き合いの悪い俺へと声は掛からない

 

戸塚彩加も遠巻きに此方を見てるだけだ

 

何処までも変わらないいつも通りの日常

 

適当に授業を受けてたまに助っ人に入る

 

今日も作業をこなす様に過ごす筈だった

 

目の前のこいつが声を掛けてこなければ

 

「やぁ、この前は申し訳なかったね。後からやってきて仕切りだしちゃって、空気も少し悪くなったみたいで失敗したよ」

 

上辺だけの笑顔と謝罪を携えた葉山隼人

 

失敗したと理解してもなお直さないのだ

 

みんなで仲良くというスローガンを掲げ

 

クラスの顔へ出馬する姿は滑稽と言える

 

だが掲げた以上は撤回する事は許されず

 

出来ない事を出来てる様に見せるその姿

 

ピエロの方がまだ笑えるだけ優れている

 

帰った俺に対する報告のつもりだろうか

 

あの後どうなったのかまでも話しだした

 

俺が帰ってテニス出来る奴がいなくなり

 

勝負も出来ずそのまま解散となった様だ

 

戸塚側に由比ヶ浜が居たのは痛かったか

 

そっちの空気も悪くなり三浦も帰ったと

 

それを宥めて纏めた後にまた問題発生か

 

「謝罪もそうなんだけど、実は君に頼みがあってね」

 

遠回しさに腹はたつが逆に分かり易いし

 

よく分からん感情を向ける奴よりマシだ

 

コイツを無視するのは少し憚られるしな

 

なんの要件で来たのかも察しはついてる

 

表用の携帯から一つのメールを呼び出し

 

画面を見せれば葉山も直ぐ本題に入った

 

「君は本当にすごいな。僕がなんで来たのかまで分かるなんて……そのチェーンメールについてどうにかしたいんだ」

 

少し前からクラス内で回りだしたメール

 

内容は下らない数人をターゲットした物

 

『戸部は稲毛のカラーギャングの仲間でゲーセンで西高狩りをしていた』

 

『大和は三股かけてるクズ野郎』

 

『大岡は練習試合で相手校のエースを潰すためにラフプレーをした』

 

この三つの内容が飛び交い広がっている

 

俺からすればだからどうしたと言う話だ

 

葉山が俺に持ってきた理由も分かり易い

 

現実を知っててなお止まない理想主義者

 

そんな葉山に自分で確かめる勇気は無い

 

それでもこいつは少し変わってきている

そして変わりきれてない姿に安堵してる

「送り主を突き止める方法はないかな?」

 

俺が葉山を知る様に葉山も俺を知ってる

 

俺なら容赦をすることは絶対にないとな

 

気にしていただけの傍観者にはならない

 

中途半端には終わらせないと言う宣言だ

 

表沙汰にしたくないあたりは甘過ぎるが

 

劣等感を抱き嫌悪する俺に頼むんだから

その感情の間違いに気付いてはくれるな

それなりの覚悟があって此処に立ってる

 

「報酬になるか分からないけど職業体験の俺の行き先、君が決めてくれて良い。それなりに便乗する人もいると思うよ」

 

言葉を聞いて俺は引き受ける気になった

 

弁護士志望だったか、清濁併せ呑む姿を

 

白黒だけで済まない灰色を見せられたか

 

中々に厳しい家庭勉強を強いられてるな

 

もしくは自ら望み渦中に飛び込んだのか

 

「県内って指定はなかったよな?」

 

ある程度は覚えているが念の為確認する

 

急に此方から話を振って驚いてはいたが

 

直ぐに返答を返せるあたりは分かってる

 

「あぁ、日帰りで行けて移動費を用意出来る距離であれば結構自由に決めれるらしいよ」

 

進学就職関係で東京方面の希望はいるし

 

先輩だと関西まで行った人もいるそうだ

 

うわさ話とかからだろうが情報は使える

 

一番そういった話をしてくる奴は一年(一色)

 

学年が違うと入る情報に違いが出ている

 

二年の事は葉山なら簡単に知れそうだな

 

「でも遠過ぎると誘導もそう上手くいくか……」

 

高校生であれど資金面はマチマチだろう

 

近場の電車賃すらも惜しい奴だっている

 

だが全員を向かわせる必要性はないのだ

 

「都内であれば後は何処でも良い。ある程度がそっち方面に行くように仕向けろ」

 

明日にでもメールの主は特定してやろう

 

学校に連絡する様な家族はいないからな

 

そのまま帰らずに動くことが俺は出来る

 

土日も含めればかなり時間を確保出来る

 

アリバイにしても良いし、仕事も選べる

 

時間に余裕があるというのは貴重な事だ

 

私用だが道具を借りようとアジトへ赴く

 

メールについて調べるが直ぐに終わった

 

この程度であれば辿るのは誰でも出来る

 

浮かび上がった名前も想像通りの結果だ

 

その名前を葉山にメールで送ってやった

 

本文は簡潔にそいつの名前だけを書いた

 

 

 

 

 

『大和』

 

 

 

 

 

それから三日も経たずにそいつは消えた

 

家庭の事情で転校したと聞くが怪しいな

 

葉山は個人的にお話はしたと言ってたが

 

その葉山からの報酬は確かに受け取った

 

東京方面に向かう奴等がそれなりに居る

 

それでいながら行き先は散らばっている

 

誰が何処に行っててもおかしくない様に

 

あえてそうなるように考えて喋ったのか

 

「一人減って四人チームが二つ出来る様になってるけど、僕の所に来るかい?」

 

まだ行き先は提出していないんだけどね

 

そう言い笑って魅せる姿は様になってる

 

まだということはかなり上手くやったな

 

話を少し溢すだけで誘導に成功した訳だ

 

そうした技術も将来に向けてなんだろう

 

申し出に関しては追加か次への掛かりか

 

ただより高いものなんてないとは言うが

 

確かにその方が動き易いかもしれないな

 

増額された報酬は有り難く受け取っとく

 

体験の当日は悪くない物になりそうだ

 

気分もマシになった所に水を差すメール

 

表でなく裏用の携帯からの報せに苛立つ

 

諦めて目を通すがあまり嬉しくない物だ

 

「死んだかテキーラ」

 

気兼ねなく関われる相手は貴重なんだが

 

そう思いながら悲しまない自分に嗤った

あいつ(宮野)と彼の何が違うと言うのだろうか

表に居座るだけで生きてはいないこの姿

葉山は俺に劣等感を抱いてるが間違いだ

誰よりも出来損ないのピエロな自分では

一番にくるのは同族嫌悪以外にないだろ

周りを笑わす事なんて出来ないのだから

間違いと知ってなお繰り返す馬鹿同士だ

せめて嗤ってやらなければ場も保たない

だから俺はアイツの観客でいてやるのだ


 

職業体験の日は意外と早くにやってきた

 

適当な所を調べて悪くない場所を選んで

 

葉山グループ男子三人と東京都へ出向き

 

職業体験を早々に終わらせて帰路に立つ

 

話したくなる内容なんてものは何もない

 

今の仕事を辞めれる訳もないのだからな

 

「本当にやっべー。働くのって大変ってよーくわかったわ」

 

「お前、本当かよ。その割にはしゃいでたろ」

 

「はは、良い勉強になったなら良かったじゃないか。大岡だって楽しくない訳では無いだろ?」

 

一人減っても騒がしさに変わりはないな

 

むしろ一人減った事を誤魔化してるのか

 

それとも減ったから騒がしくなったのか

 

確認するつもりは無いが上手く回してる

 

「それでこのまま少し遊んで行こうよ隼人くん」

 

「良いなそれ」

 

「学校にバレたら不味いから本当に少しだけなら」

 

「よっしゃー流石隼人くん分かってる〜ヒキタニ君はどうする?一緒に来ちゃう?」

 

サッカー部で一番話し掛けてくる戸部翔

 

読み間違いをそのまま渾名にする阿呆だ

 

阿呆であるが故に悪意なくノリで生きる

 

この誘いもこいつなりの善意なのだろう

 

どうにかしろと視線を送ると葉山が動く

 

「比企谷くんは何かと忙しいし、遅くなったら悪いから無理に誘ったら悪いよ」

 

「んー、そっか。わりぃヒキタニくん。それでも中々遊べないから今度時間あったら遊ぼうな。あ、サッカーでも良いからさ」

 

「野球部もまた来てくれると助かってる。またな」

 

それぞれから挨拶をきいて別れ一息吐く

 

これで本当に帰る訳はなく仕事に向かう

 

東京都での拠点に出向いて情報を入れる

 

数日猶予はあるので今日は準備に徹する

 

職業体験の予定は確定してなかったから

 

武器や足など考える事など幾らでもある

 

こっちの方でしか会えない奴にも会うか

 

長時間千葉を離れる事は少ないのだから

 

此方でやる事はなるべくやっておきたい

 

色々と考えながらも準備は進んでいった




『21』



ジン「俺の車……」



なんか色々考えながら書いてたらもう一話出来ちゃった。そして結果的にチェーンメール&職場体験までFile3に纏めてしまいました。

そして次のFile4も何ならもう書き始めてます。東京方面にやってきた八幡、いったい何に巻き込まれるのか、お楽しみに。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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腐り目:File.4 Page.1


 

昨日と違って私服で東京都を歩き回った

 

自分で立てた予定を順調にこなしていき

 

午前中からおやつ時の予定を終わらした

 

ここから移動に少しだけ時間を取られる

 

次に向かうのは米花町という危険区域だ

 

何かと事件が多くて犯罪率の高めの街で

 

警察などの警戒も厳しくなってるからな

 

そこには東都環状線とやらで行ける様だ

 

米花町までは駅数があるので快速に乗る

 

これなら十六時までには到着出来そうだ

 

あまり来ない場所の公共交通機関は迷う

 

千葉ならば迷うことなんてあり得ないし

 

車ならカーナビがあるから楽なんたがな

 

乗り換え案内もわかりやすくなってくれ

 

そんな愚痴を溢してる内に緑台まで来た

 

次が米花町だよなと外の案内で確認する

 

扉付近を見ると駆け込み乗車が目に入る

 

「ぎりぎり間に合いましたねぇ」

 

「今日はついてる日なのよ」

 

注意なんてする気はないが少し騒々しい

 

だがそれ以上に厄介な騒動が舞い込んだ

 

「スピードを上げた?」

 

駅と駅との距離はなんとなく把握してる

 

半ばも過ぎたのにスピードが上がってる

 

「なぁこの電車おかしくないか?」

 

「何がおかしいの元太くん」

 

「だってよう。もうすぐ米花駅なのにだんだんスピードが速くなってんぜ」

 

子供でさえも異常事態に気付き始めてる

 

何か起きたかと疑ってると確定する声が

 

『お客様にお報せします。緊急事態発生のためこの電車は次の米花駅を通過いたします』

 

車内アナウンスが流れ緊急事態を報せる

 

そしてそのまま停車駅を通過していった

 

また何かしらの事件に巻き込まれた様だ

 

『繰り返します。この電車はしばらくの間、駅には止まらずに走行いたします。なお車内に不審物を見つけましたら絶対に手を触れずに車掌までお知らせください』

 

こりゃあテロ事件か、爆弾あたりだろう

 

この車内には怪しい物は見当たらねぇが

 

適当に探した所で見つかるとも思えねぇ

 

「爆弾?!」

 

「えっ、やっぱり?!」

 

「じゃああたし達死んじゃうの……」

 

どうやらあの子供達は何か知ってそうだ

 

俺は自分の席から立ち上がり歩き出した

 

手に持ってるのはなんらかの通信機器か

 

子供に関わりたくないが仕方ないだろう

 

そっと気配を消して俺は近付いて行った

 

「コナンくん……」

 

「くそー、コナンだけに任しておけるか!!俺達も頑張ろうぜ!!こんなときこそ少年探偵団の出番だ!!」

 

「少年…」

 

「探偵団…そうですね。爆弾は車内にあるみたいですから」

 

「おーし!!少年探偵団出発!!」

 

「「おおー!!」」

 

あまり乗客はいないが小声にしておけよ

 

パニックを起こされれば面倒になるだろ

 

幸い周りで聴いてる奴はいなさそうだな

 

その事に安堵しながら子供の横に立つと

 

ヒョイッと嬢ちゃんから通信機をもらう

 

「あっ?!なにするの?!」

 

「おい兄ちゃん。なにしてんだ?!」

 

「探偵バッチを返してください」

 

『おい、何があった?!おい、お前たち!!』

 

「少し借りるだけだ。爆弾の場所に関する情報を寄越せ」

 

『あんたは誰だ?!子供達に何もしてないだろうな?!』

 

こんな状況で感情的になっても意味ない

 

少しは落ち着いて話したらどうなんだか

 

といっても声からして相手も子供だろう

 

それならば慌てふためいても仕方ないか

 

とりあえず大人に変わるように伝えよう

 

「耳が良いだけの乗客だよ。詳しい事を聞いとこうと借りてるだけだ。もう一度言うが情報を寄越すか、大人に代われ、この後も予定があるんだよ」

 

『一般人に情報を渡せるわけねぇだろうが?!何を考えてんだ手前は?!』

 

大人には代わったようだが話は通じない

 

警察関係に働きかけるのは無理だからな

 

どうにか口先だけで聞き出す必要がある

 

「情報がないなら俺も死にたくないから手当たり次第探させてもらう。その結果、爆弾について他の乗客に知られても関与しないぞ」

 

脅しに近い形になったが問題ないだろう

 

この通信機器には録音機能はついてない

 

強めな言い方をした所で証拠は残らない

 

『何を考えているんだ そんな事すれば乗客がパニックになるぞ?! 子供達は本当に無事なんじゃな? 話すしかないんじゃ』

 

向こうの会話がごちゃごちゃに聞こえる

 

とっとと決めてくれると助かるんだがな

 

『余計な事はしてくれるなよ。勝手に動いたらしょっぴいてやるからな!!』

 

騒ぎを早々に大きくする事を嫌った様だ

 

注意と共に爆弾に関する情報が話される

 

なるほど意外と分かり易い条件だったな

 

・十六時以降に起動する

・時速六十km以下になると爆発

・日没になっても爆発

・爆弾の場所は「☓☓の☓」

・☓には漢字が一文字ずつ

 

日没という時点で日照センサーは確定で

 

速度が関わるならば電車の影が関係する

 

それで☓☓の☓となれば入る漢字も簡単だ

 

「線路の間だろ。電車を直ぐに別の線に移して停めてしまえ」

 

言い切るだけ言って通信機を少女に返す

 

何やら向こうで叫んでいるが関係は無い

 

少なからず騒ついている車内をすり抜け

 

子供達からも姿を隠して停車の時を待つ

 

時間が勿体ないので手仕事を進めておく

 

携帯電話も弄くって連絡まで済ませると

 

電車がスピードを落として停まり始めた

 

警察の保護も取材に捕まるのも面倒だな

 

跡を残したくはないので直ぐに離脱する

 

人目を避けつつ駅周辺から距離をとって

 

さっきの連絡で用意させた足に乗り込む

 

運転席には見慣れた面が既に座っていた

 

「なんでここまで来てんだよ()()()()

 

相変わらず胡散臭いお面を張り付かせて

 

乗り込んだそばから無言で車を走らせる

 

いったい何のつもりなんだかエセ優男が

 

「足を用意させてると情報を掴みましたので出迎えてあげようという親切心ですよ。数少ない同期ですからね」

 

「数少ない同期つっても()()()()()()だろ?」

 

一緒にコードネームを貰った連中なんて

 

もう誰一人として組織に残ってないだろ

 

「だからこそですよ」

 

その笑顔は取り入る気満々の表情だろう

 

ベルモットにずっと付いてれば楽なのに

 

なんで俺にまでこいつは付きまとうのか

 

行動の考えは読めるがその先は分からん

 

一応と頭に付くが身内の筈なのに厄介だ

 

それでも用事の一つは先に済ませられる

 

俺は記録媒体をダッシュボードに置いた

 

「これは?」

 

「お前が可能ならって頼んでたデータだよ。いらねぇなら持って帰るぞ」

 

そんなに苦労はしてないがなんか癪だし

 

渡さなくて良いならこの場で叩き割るぞ

 

「いえいえ、こんなにはやくに貰えると思っていなかっただけですよ。ありがたくいただきます」

 

戦闘も普通に行えるがこいつは情報屋だ

 

情報屋がなぜ俺に情報を求めるのかって

 

この情報が探りに入る前に必要だからだ

 

身体能力を活かして潜入して工作したり

 

その面を利用してロミトラを仕掛けたり

 

何でも器用にこなす腕でハッキングなど

 

色々とやっていると噂には聞いているが

 

当然だが事前の準備は必要になってくる

 

それも自分でやるもんだが場所が場所だ

 

千葉は俺のホームと言って過言ではない

 

たまにしか来ない連中よりも動ける訳だ

 

そして場所以外にももう一つ理由がある

 

必要とする情報の中に極めて狭いモノが

 

ターゲットに付随して必要なんだろうが

 

たった一人、一個人の情報も求められた

 

その個人を調べるのに俺は丁度良かった

 

「こっちの企業に食い込むつもりらしいが、()()()()()の情報は役にたたねぇと思うぞ」

 

他の情報はこっちの犯罪組織の動き方や

 

企業の力関係や有力者の家族関係などだ

 

犯罪組織では一つ面白いところがあって

 

色々な物の売買を一部取り仕切っており

 

流れを誤魔化す為の店舗が置かれてるが

 

()()()()()と付く店はほとんど黒だった

 

普通にバイトが出入りしてる店なんかも

 

責任者クラスに一人は息がかかっていた

 

やってるのは商品の運びを誤魔化したり

 

ちょっとした資金確保に洗浄当たりだが

 

後ろ二つは微々たるものでついで程度だ

 

話がずれたが企業の情報で予測は可能で

 

こいつのやりたい事は大体は分かってた

 

雪ノ下は地元の名士で雪ノ下建設も大手

 

千葉内で上位の方だし親の仕事が仕事だ

 

関わりが持てたならやりやすいだろうが

 

あれ個人に関わる価値なんてないだろう

 

接触しても怪しまれて終わるのがオチだ

 

これは同級生を庇って言ってる訳でなく

 

極めて客観的、業務的に判断した答えだ

 

「いえ、彼女自身に用件はないですよ。それに雪ノ下建設だけに狙いを付けてる訳でもないですしね。ただ、少しばかり警戒しないといけない相手がターゲット層に居ましてね」

 

既にパーティに出て顔繋ぎを始めており

 

そこで女性をメインに話掛けていた所に

 

ボロの出せない面倒な相手が居たそうだ

 

年齢の割に在り方が完成し切っていたと

 

あぁ、なるほど()()()に接触してたのか

 

そりゃ厄介とまではいかないがやり辛い

 

と言っても相手はあくまで一般人だから

 

やり方は幾らでもあるし情報もその為か

 

「貴方の仕事はどうなりそうですが?」

 

「予定の一つは今終わった。もう一つはさっき巻き込まれた件で必要なくなった」

 

かなり杜撰な犯行である事から分かるが

 

爆薬と犯罪組織は関わっていないからな

 

やり口から何かへの恨みを強く感じたし

 

恐らく私怨による個人によっての犯行だ

 

大量の爆薬の動きとなると警戒は必要だ

 

抗争目的なら詳細を掴みたかった訳だが

 

こうなれば探った所で損も得も無いだろ

 

別に面子も関係無いし報復の必要も無し

 

正直こっから先の予定はもうなくなった

 

辻褄を合わせる為に夜には帰路に着くが

 

何かしたい事もパッと思い付きもしない

 

そういう訳で夜まではフリーだと伝える

 

何かしら仕事があるなら手伝い位はする

 

そういった組織的な意味で言ったのだが

 

「それでしたらこれは如何ですか?」

 

何気なく差し出してきたのは長方形の紙

 

今更ながら運転程度では何も言わないが

 

俺にいったい何を勧め様としてるんだか

 

「映画のギフト券?」

 

本当になんつう物を渡しにきているんだ

 

考えが分からなくて困惑が頭を占めてる

 

よく見てみると二枚が重なっている様だ

 

これから二人で見に行く様な仲ではなく

 

一人で二回見てこいと言うのでなければ

 

「米花シティービルで僕の代わりに一人の女性の相手をして欲しいんですよ」

 

ロミトラをさせるなら変装が要るんだが

 

まず専門じゃないしお前レベルは無理だ

 

情報を引き出すやり方は揺さぶりが主だ

 

優しい言葉掛けなんて物は吐き気がする

 

流石に頼まれてる内容が分野違いだろと

 

やんわりと否定するが内容が違うらしい

 

「良いとこのお嬢さんなんですが、周りが少々きな臭く探ろうと相手をしていたら更に関係を持とうと踏み込んできまして……少し貴方から話して来てください」

 

足掛かりにしてたら惚れられちまったと

 

縁を切るために俺に脅しを掛けて来いと

 

チケットは相手への合図兼代理の証拠か

 

嫌な役だけを押し付けてる自覚はあるか

 

お前も凄めばそれなりに迫力あるだろう

 

「女性陣に頼めばどう拗れるか分かりませんし、他の男性陣だと面倒だから殺せといった思考になりそうでして……」

 

適度に相手をしてくれるのが俺だけだと

 

訊いとくがお前は他に仕事があるんだな

 

念を押して確認すると肯定する様に頷く

 

それなら自分から言った手前引き受ける

 

詰まらねぇ嘘付きにはなりたくねぇしな

 

「ありがとうございます」

 

他に仕事があるというのは本当の様だし

 

感謝の言葉にも嘘の気配は感じられない

 

目的以外の所は何処か素直だよなコイツ

 

だから胡散臭い以上に()()()んだけどな

 

証拠なんてねぇから詰める真似はしない

 

それでも俺は疑うのを辞めることはない

 

コイツからは警察(役立たず)の気配がするんだから

 


 

バーボンを足にしてビルまでやってきた

 

相手の情報は粗方聞いており覚えている

 

顔については写真も見たので問題はない

 

辺りを軽く見渡すだけで簡単に見つかる

 

米花シネマワン周辺の椅子に座っている

 

元ターゲットであろう女性の姿があった

 

寒川(さがわ)(さち)であってるな」

 

「えっ、なんで私の名前を。まさか家の事を知って?!」

 

欠けてると思ったが危機意識はある様だ

 

バーボンにわざわざ近付く相手だからな

 

てっきり夢見がち女かと思ってたんだが

 

流石に家が家だから危険はあるのだろう

 

反応速度は悪くなく護身の心得はあるな

 

足運びが何かしら習ってた奴の動き方だ

 

まぁこれ位ならば危険視するまでもない

 

だが変な誤解のまま騒ぎになれば面倒だ

 

「はぁ……お前の待ち合わせ相手の代理だ」

 

そう溢してその証拠を示すと相手は黙る

 

ポケットから取り出した二枚のチケット

 

意表を突かれたのか動きが停止している

 

数十秒待つと呑み込めたのか口を開いた

 

「彼の…?彼はいったいなんで来ないんですか?」

 

来ない時点で脈がないんだと気付いとけ

 

一般人の普通の奴ってこんな物だったか

 

鋭くなってから普通の感覚をもう忘れた

 

空気も感情も読めない状況が分からない

未知の感情を浴びるのが怖くて仕方ない

「こういう事だ……アイツに近付こうなんて思うんじゃねぇ。火傷程度ではすまねぇぞ」

 

ネタバラシをする様に顔を近付け睨むと

 

低めの声と共に殺気を諸にぶつけてやる

 

ヒィッ?!

 

恐怖に顔が青ざめて身体が膠着し震える

 

稽古で殺気を浴びる事なんてないだろう

 

殺し殺される世界の空気には耐えれまい

 

思う様に動かないのか声も蚊の様に細い

 

周りに聴かれる心配はこれならないだろ

 

それに少し俺の見た目も弄っているから

 

少なくとも不審者には見えない姿の筈だ

 

ファッションなんかも無理矢理仕込まれ

 

流行とかも今では把握しているぐらいだ

 

周囲にも問題なく溶け込めているだろう

 

さて上下関係は分からせる事が出来てる

 

後は口を閉ざすように言い聞かせるだけ

 

そう考えていると嫌な感覚が身体に走る

 

此処に居てはまずいと警鐘が鳴り響いた

 

だが次の瞬間に爆風と熱が辺りに広がる

 

俺は咄嗟に体を動かし身を守ろうとした

 

豪快な崩落音を最後に俺の意識は潰えた





『1』

八幡「エンジェルと付く店はほとんど黒だった」
??『えっ?!』

それとなく原作よりも危険度が増している方が1名……次のFile5で登場予定です。

という事で映画を挟み込んで見ましたが、まだコナンくん自体と接触がないのでメインには関わらないでどちらかという被害を受ける側です。

そのうちコナンくんと出会ったらもっとメインよりで登場する様にもなるかもしれませんが、今は裏でこんな事も起きてたよ的なサブストーリーな感じです。

八幡が接触した女性はオリキャラです。俺ガイルにならって名前は神奈川県の地名から貰いました。読み方は名探偵コナン側と繋がりを作るために変えちゃったけど。まぁ、詳しい設定についてはそのうち出るかと。

先ほどいった通り名探偵コナンのキャラとの関連性も用意しましたが、家柄とかそこいらへんは捏造というかオリジナルです。

そして触れるのが遅いですがバーボン登場です。ちょっと無理矢理ですが八幡ことフィーヌとライ、スコッチ、バーボンの幹部就任を同時期に設定しました。

彼らとの関わりは書けるか分からないけどある程度考えています。プロットには起こしてないけど。これは気が向いたらとか以前に書くとしてもまだまだ先ですね。

とまぁ後書きで喋りすぎてもつまらないのでこれくらいにして、いつもの挨拶でさようなら。

読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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腐り目:File.4 Page.2


 

「……?!………!!」

 

何処か遠くで叫んでる声が聴こえた

 

焦りと不安と後はなんだ…分からん

 

だけど何処か懐かしい感覚を覚える

 

意識した所で衝撃的な痛みが走った

 

「く……?!……はぁはぁ」

 

「……良かった目を覚まされたんですね」

 

声の主は誰だったか頭が回らねぇな

 

此処は何処で俺は何をしていたんだ

 

ひたすらに遡ってでも思い起こさせ

 

数秒後やっと現状に脳が追い付いた

 

「大丈夫ですか?」

 

ずっと黙り込んでたから不安な表情

 

それを浮かべてるのは俺が脅した奴

 

寒川幸というちょっと裕福な一般人

 

ああそうだ俺がこいつを投げたんだ

なんでそんな事をしてしまったんだ

爆風の煽りを受け辛い壁際へ向けて

あぁ前にも似たような事があったな

次々落下してくる瓦礫も蹴り飛ばし

あの時は助けない方が良かったのに

その直後に横から飛んで来た何かが

それなのに身体が勝手に動いたんだ

頭に直撃して俺は意識を失ったんだ

 

傷が浅い事から硬いものではないな

 

痛みは少し酷いが止血すれば死なん

 

頭以外の状態はどうなってるか視る

 

熱風が吹いて火傷が少しだがあるな

 

骨は折れてないし動きに問題は無い

 

火傷程度じゃすまねぇと脅した直後

 

爆発に巻き込まれるとは笑えねぇな

 

自嘲しているとか細い声が耳に届く

 

……なんで私を助けたんですか?(『……なんで私を助けたのよ?』)

そんなの俺が教えて欲しいくらいだ

全く似てないのにダブって聴こえた

 

あん時も意識した訳じゃないだろう

 

うるせぇ助けたつもりなんかねぇよ

俺に誰かを助ける事なんて出来ない

自己満足にも満たない愚かな行為だ

手段を選ぶ事なんてなくなったのに

そんな高尚な行動へと置き換えるな

未だ道を選べると思い込んだ結果だ

「……それでも私は生きてます。だから……」

 

 

ありがとう(『助かったわ』)

 

 

礼をするなよ言葉にしてくれるなよ

 

そんな想い(重い)は受け取ってはいけない

 

どうせまた囚われるだけなんだから

 

頭を回せ、思考を早く巡らせるんだ

 

俺がやるべき事だけをやってしまえ

 

既に最低限だが手当は済ませてある

 

派手に動かなければ問題はあるまい

 

建物の構造を思い浮かべ立ち上がる

 

「何処へ行くんですか?」

 

俺は何も言わずにそのまま歩き出す

 

追いかけてくる足音を無視したまま

 

荒れ果てたビルの中の探索を始めた

 

最初の爆発では確実に殺せはしない

 

あれは恐らく分断させる為の仕掛け

 

それならば本命はホールの方になる

 

少し離れていた為にホールとは遠い

 

解除に向かうのはリスキー過ぎるな

 

間に合うか分からずに向かうなんて

 

そんな奴がいたらよほどの馬鹿だな

 

ビルの上部なので逃げ道も限られる

 

何よりこの騒動で下だって騒がしい

 

派手な事をして捉えられても駄目だ

 

通路自体は崩落してるがいけるか?

 

証拠は残せないので道具は使えない

 

このビルは天井までそんな高くない

 

階高で考えても五メートルちょっと

 

着地をミスらない限り降りれる高さ

 

そこまで考えた所で足音を思い出す

 

一人なら余裕で下へ降りれるだろう

 

一階まで跳び下り続ける訳じゃない

 

ある程度降りれば無事な道も増える

 

後は人目を避けて離れるのは得意だ

 

二人となると建物への負担も大きい

 

着地地点を見誤れば崩落して終わる

 

小説やアニメの世界でないのだから

 

落下してく足場から跳び移るなんて

 

妄想でのみ許される真似は出来ない

 

違うなぜ俺はこいつを勘定にいれた

 

一人でとっとと降りれば良いだろう

 

こいつを見張っておく必要性もない

 

この騒動で死んでてもおかしくない

 

不安ならこの場で殺しても解決する

 

懐の拳銃を取り出して引き金を引く

 

それだけで済む至極簡単な話なのに

 

何故頭を必死に回しているんだ俺は

 

感情と思考と身体の全てが別に動き

 

導き出したのはアウトドアショップ

 

そこの登山用品からピッケルを拾い

 

上手く使う為に手袋ももらっていく

 

他に必要な物を幾つか急いで見繕い

 

ロープとヘルメットを寒川に渡した

 

ついでとばかりに靴も変えておこう

 

履いてた方は火を着け瓦礫に投げる

 

瓦礫の山ならば延焼はしないだろう

 

持ち合わせがないし普通に盗みだが

 

店も半壊していて気付かれないだろ

 

勝手に持ち出した物を渡された方は

 

なんとも言えない表情を浮かべてる

 

だが緊急事態と割り切ったのだろう

 

「ヘルメットは被るんですよね。このロープは?」

 

降りる時に使うのは分かってる様だ

 

しかしこの辺りに結べる場所はなく

 

結べたとしても命は預けたくはない

 

ロープは落下防止の為に持ってきた

 

俺が寒川を背負ってここを降りてく

 

勢いは壁にピッケルを刺して抑える

 

そうすりゃそこまで負担なくいける

 

失敗した時も脱臼覚悟で引っ掛けて

 

ぶら下がる位はまぁ出来なくはない

 

口が裂けても安全とは言い切れない

 

「私一人では降りれないのでお願いします」

 

それでも寒川は直ぐに了承を示した

 

他人を直ぐに信じてみせた事に驚く

 

それも命を預けるに等しい行為でだ

理解らない判らないわかるわけない

だが止まっているだけの余裕はない

 

軽く跳ね固定がずれないのを確かめ

 

穴の縁にいき無事な足場を見極めて

 

少し勢いをつけると下へ飛び降りた

 

初めの足場まではそう遠くなかった

 

身体を反らした反動だけで十分届く

 

そして着地の瞬間にその衝撃を逃す

 

握力を強め崩落に備えるが何もない

 

問題なく降りることが出来た様だな

 

直ぐ上がボロいから予測はしてたが

 

この階も瓦礫が多く通路は使えない

 

丈夫に作られてる非常階段があれど

 

そこまで辿り着かなければ役立たず

 

いや非常階段は警察や救急が使う筈

 

鉢合わせたら面倒になるに違いない

 

もし行けても使わない可能性が高い

 

あぁ寒川を先に逃がす事は出来たか

 

()()()なんて語る暇あるなら進めよ

何回夢を見たってそれは有り得ない

無駄な事ばかりして俺らしくもない

 

今回ばかりは頭が回る気がしねぇな

 

おそらく血が足りてねぇんだろうな

 

集中してないとふらつきそうになる

 

違うそうじゃない意識せず動き出せ

 

着地点だけを見据えて降り続けよう

 

そうして一つ二つと順々に降りてく

 

その途中で降りる事に集中し過ぎた

 

俺にはぶつからないが寒川に当たる

 

そう気付いた瞬間には体勢を崩して

 

跳ぶ予定のコースを無理矢理変える

 

勿論上手く着地出来る訳はなかった

 

不安定な床が崩れてそのまま落ちる

 

なんとかまだ無事な段階で壁を蹴り

 

ギリギリだが壁まで跳んで腕を振る

 

ガキンと音が鳴りピッケルが刺さる

 

そして片腕で人間二人の重さを受け

 

肩が悲鳴をあげそれでも力を込めて

 

もう片方の腕を伸ばして姿勢を直し

 

予定より下の階へと着地してみせた

 

その代償として肩が外れ傷も開いた

 

さらに頭から血が流れて顔を伝った

 

「大丈夫ですか?!」

 

身体が強張り腕の力も強くなったが

 

悲鳴もなく耐えた寒川が声を荒げる

 

「・・・・・・・・」

 

自分が何言ってるのかも分からない

 

視界を確保出来てるのが奇跡である

 

辺りをまた確認すると無事な通路が

 

館内の構造を思いだすと階段がある

 

向かうと罅はあるが形は残っていた

 

跳びはねたりしなければ十分使える

 

寒川を下ろしてそのまま降っていく

 

幸いにも途中で人と出くわす事なく

 

一階まで降りきりビルから出てきた

 

そして警察の包囲をなんとか抜けて

 

とうに限界だった身体が横になった

 

「大丈夫ですか?!きゅ、救急車を」

 

携帯端末へ伸ばす手を鷲掴み止める

 

持ち物的にも状況的にも不味すぎる

 

救急車だけは呼んでくれるなと頼む

 

組織の人間を呼ぶにも俺は動けない

 

手さえ動けば俺の端末を使えるのに

 

どんどん朦朧としていく意識の中で

 

今日中に千葉へ帰る筈だったのにと

 

考えた所で俺の意識は呑み込まれた





『10』

バーボンとオリキャラである寒川さんの心情を入れようかと思ってたけど書いてみたらこれ違うなと思って辞めた。

色々と布石にしようかとしてたんだけど今じゃねえなって要素の方が多かった。

そのため今回話脱出までの流れだけとなりました。そして仕事でもないのにボロボロになる八幡くんおいたわしや。

次はコナン側の視点を久々に入れてFile4は終わりかな。そしてFile5から千葉へと戻ります。

金曜に職場体験からの仕事の前準備、土曜の午前中は準備した仕事をこなして電車の爆弾に巻き込まれ、ビルの爆破に巻き込まれて、日曜休んだとして月曜から登校かぁ……これが黒の(ブラックな)組織かぁ……(なお今回一般犯罪者(劇場版)の巻き添え喰らっただけというね)

少しずつ書いてるのでお待ちください。
それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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見透かす目:File.4 Page.3


 

爆破の時間が来たというのに何も起こらなかった。蘭も無事に救出されて下で合流出来た。もうダメだと思っていた分本当に良かった。

 

だけど不思議なのはなんで蘭は赤を切らなかったんだ。赤は好きな色だし、ラッキーカラーだから選んでもおかしくない。

 

それを知っていたから犯人である森谷帝二も罠として赤の色を用意した筈だからな。本当に嫌な手を使ってくれる。

 

赤を切るなという引きずられながら叫んだ声が届いたとは思えないし、助かった今としては届いていなくて良かった訳だが、やっぱ謎だな。

 

こうなりゃ本人に確認するのが手っ取り早いだろうとそのまま蘭に声を掛ける事にした。

 

「そういえば、新一兄ちゃんが不思議がってたよ。蘭なら絶対赤いコードを選ぶと思ってたのに、なんで青いコードを切ったんだろうって?」

 

「だって、切りたくなかったんだもん。赤い糸は新一と……つながってるかもしれないでしょ?」

 

それを聞いて顔が熱くなるのは感じた。きっと耳が赤く染まっている。そんなつもりは蘭にないのは分かってるが思わねぇ所で不意打ちを喰らったな。

 

そんな事を考えているとパスンと言う音と共にパトカーのガラスに穴があいた。そして意気消沈した顔でパトカーに乗り込んでいた森谷帝二の額にも穴があいていた。

 

「なっ狙撃か?!辺りを警戒するんだ!!」

 

「念の為に急いで救助者達を移動させます!!」

 

パトカーの向き、フロントガラスを割って森谷帝二の額を狙えるポイントは彼処らへんか。

 

暗さに加えて距離がある…どうにか確認出来ないか辺りを見渡すと狙撃で慌てて逃げ出した野次馬が落としたオペラグラスを拾った。

 

「なっ?!」

 

見据えたビルの屋上には顔は見えなかったが黒ずくめの服装をしたおそらく男が居た。狙撃を終えて既にスコープからは目を離しこちらには気付いていない。

 

そしてそのまま男はスナイパーライフルを仕舞うとくるりと背を向けて去っていった。

 

綺麗に一発の弾丸で狙撃された。他に殺された者はなく、二回目の狙撃がなかった事から狙いは森谷帝二だけだったのだろう。

 

捕まった際は殺して貰う様に頼んだ可能性とかもあるが、あれだけ自信満々にしていた事からは考えにくい。

 

となるとまず浮かぶ理由は恨みだが、まだ公表もされてない状況で森谷帝二を撃ったという事は何らかの手段で情報を手に入れてない限り、犯人を突き止めたって事だ。

 

かなり頭が切れるのは間違いない。救助者の安全を確保してから直ぐに警察も狙撃位置を割り出して調べたが痕跡は何も残ってなかったらしく、迷宮入りとなった。

 

一連の放火及び爆弾事件は解決したがみすみす犯人を殺されてしまった事で警察はバッシングを受けているそうだ。博士の家でテレビのニュースを見ているとどうもやるせない気持ちになる。

 

「そう気を落とすな。犯人が殺された事も狙撃犯についても思う所はあるじゃろう。だが爆破を防いだ事は誇らしく、蘭くんの無事は喜ばしい事じゃろう?」

 

ぐだぐだしてたら博士が励ましてくれる。そりゃ犯人を突き止める事は出来たし、蘭が無事だった事には安心したけどそれとこれとじゃ話が違うんだよ。

 

「そうは言ってもよぉ博士、黒尽くめの奴らの手がかりかもしれねぇ奴をこの目でおさめておいて何も出来なかったんだぜ。もっと早く確認出来てたら何か分かったかもしれねぇしよぉ」

 

犯人についての手がかり一つでもあれば警察のバッシングも少しは弱くなっていたかもしれないと思うとやっぱりなぁ。

 

「しょうがないのぉ。それじゃあ犯人追跡メガネに望遠機能でも付け足しておくから次に期待してうだうだするのはおしまいにするんじゃ」

 

「そんな事が出来るなら最初から付けといてくれよぉ」

 

撃った直後であれば顔の確認が出来たかもしれない。メガネならば目があっても偶然で済むから危険もねぇだろうしな。

 

「わがまま言うでない。追跡機能だけでもそのメガネに詰め込むのにどれだけの技術を組み込んだか……」

 

「分かった分かった、だから小言は勘弁してくれよ。黒尽くめの奴の事を除いてもちっと落ち込んでんだぜ」

 

「およ、他にも何かあったかの?」

 

博士はもう忘れているみたいだが俺としてはあれ程敗北感を味わったのは初めてだぜ。

 

「ほら東都環状線の爆弾の場所をみつけた奴だよ」

 

「あぁ、あれの事か!!あれのおかげで子どもたちも無事で済んだ訳じゃし、東都環状線の方も被害は減ったじゃろ」

 

「俺は直ぐに分からなかったのに電話先の奴は情報を聞いて直ぐに当てたんだぜ」

 

そりゃ被害が減るのは良いことだけど悔しい思いはどうしても湧いてくるんだよ。それとその相手には不信感もあるしな。

 

「あぁ、子どもたちが探しても見つからず、電車停車後も姿は確認出来なかったそうじゃな。それと君に言われてあゆみくんの探偵バッチを預かって調べたら指紋も消されていたからのぉ」

 

身バレを防ぎたいにしてもちと怪しいのぉ。なんて博士は言っているがそれだけで済ませて良い話ではないと俺の勘が言っている。

 

爆弾の情報で直ぐに日照センサーなんて言葉が一般人から出てくるか?それに閉鎖された電車内で子ども三人から隠れる技術も怪しく思える。

 

子ども達に姿を聞いたが服装に怪しい所はなく、雰囲気が怖かったことしか分からず手がかりなんてねぇ。はぁとため息を一つ吐いているとテレビから爆破事件関連のニュースが流れた。

 

『米花シティービルの爆破事件時に米花シネマワンに居たとされる寒川グループの代表取締役寒川大蔵氏の長女である寒川幸さんの行方が分からずにいましたが、今朝方に大蔵氏からの証言で爆破したビルから逃げ出した後で寒川家専属の医師による治療を受け千葉県にある別荘で療養中との事が分かりました』

 

『寒川グループは鈴木財閥には及ばなくても日本で生きてりゃ一度は聞く名前ですからねぇ。それに寒川幸さんが進めてるプロジェクトも多いと聞きますし、取りやめになったり遅れが出たりした際の経済への影響が心配ですねぇ』

 

「へぇ、幸さん彼処に居たのか」

 

「何じゃ知り合いか?」

 

「園子の関係でな。蘭とパーティに言った時に知り合って話した事があるんだけど、まぁ普通に良い人だよ」

 

おっとりしてる所もあればしっかりした面もあるし、ちょっと不思議なお嬢様だ。園子には負けるが好奇心が強めな人で俺が探偵やシャーロックホームズの話をした時に楽しそうに聞いてくれたのを思い出す。

 

「幸さんあれでバリバリ働ける人だから怪我とか酷いと会社への損害は出るだろうな。たぶん園子や蘭も心配してそうだなっと噂をすれば……」

 

新一の携帯電話に表示されたのは蘭の文字、博士に音を出さないように伝えて蝶ネクタイ型変声機を用意し、ボタンを押した。

 

『あ、新一? あのねこの前の米花シティービルに幸さん居たらしいのよ!!』

 

「へぇーそうだったのか知らなかったが無事なのか?」

 

小声で白々しいと博士が呟く、心の中でうっせーと思いながら蘭の言葉を待つ。

 

『ニュースでは大怪我はないって言ってるし、園子も大蔵さんに確認したら擦り傷と本当に軽い火傷が少しある程度らしくて今療養してんのは疲労を顧みて念の為らしいよ』

 

「何処も酷くなってないんなら良かったな」

 

あの人も護身程度に動けるが蘭程ではない。全く何も出来ない園子よりはマシだが、あの場にいてそれぐらいで済んだんなら良い方だろ。

 

『それでね幸さんが大蔵さんに心配ないから来なくて良いって強めに言ったらしくて、仕事を放って行ったら怒られるから代わりに見舞いに行ってくれないかって園子に言ってね。急な話だけど折角だから私も行こうかなって思って、新一は来れない?新一も幸さんとよく話してたでしょ』

 

「あぁ、そりゃあ行きたい所なんだが昨日駆けつけた時もかなり無理しててな。本当に時間が取れそうにねぇんだよ」

 

『もう!!いっつもそればっかりなんだから……まぁ映画は見れなくなったけど来てくれたから許してあげるわよ』

 

「俺も悪いとは思ってるんだぜ。あぁ、そうだそれならあのメガネのガキを連れてってやれよ」

 

『コナン君を?』

 

「アイツも色々と知識はあるし、俺と同じくらいホームズや他の推理小説も読んでるから幸さんと話が合うだろうからよ。それじゃあ、ちょっと忙しいからまた今度かけてくれ」

 

『あっ、ちょっと、新一?!』

 

怒声が響いてくるがそのまま切って携帯電話も一時的に切っておく。ふぅ~これでなんとかなるだろう。

 

「その姿でお見舞いに行って大丈夫なんじゃろうな?」

 

「あー小さい頃に会ってるけど流石に分かんねぇよ。幸さんそういった所は抜けてるから、蘭が預かってる子だって紹介すればそうなんだ〜で終わると思う」

 

「そう言うんなら心配な気持ちは分かるから止めはせんが、気をつけるんじゃぞ」

 

わぁってるよと新一兄ちゃんからっ事でなんか見舞いの品を用意しとくか?っとコナンの方に蘭から電話が掛かってきたな。用件は分かってるがしっかり対応するか。

 





『0』

さて原作と違い森谷帝二の死亡をもって時計じかけの摩天楼の終わりとなりました。殺したのはいったい誰なのかそれもいずれ分かるでしょう。

予想などは自由ですが感想に書いても正解とも不正解とも言えませんのでそこはあしからず、どうしても正解かを確かめたい人はメッセージを送ってください。正解教えてくださいは無しです。

さて次からFile5になりますが初っ端から一波乱起きそうな予感がありますね。というかFile5は中々に忙しくなりそうです。ボロボロなのにね

評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。チマチマ書き続けていくので今後もよろしくお願いします。(Fileの節目なので足したちょっとした挨拶)

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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腐り目:File.5 Page.1


 

何も分からずに闇にポツンと浮かんでる

 

痛い辛い寒い怠い暗い怖い苦しい淋しい

 

数多の負の感情達がその身を取り巻いて

 

絡み付いて締め付けられ縫い付けられる

 

そのまま一歩も戻って来られなくなって

 

自分がその闇の一部になって消えていく

 

その光景に何故か安心感を抱いてしまう

 

消えて良い居なくて良い死んでも良いと

 

そんな時声が響いてきた大丈夫大丈夫と

 

何が大丈夫だそんな保証なんてないだろ

 

いったい何に向けた大丈夫の言葉なのか

 

それすら確かでないってのに目を開いた

 

見覚えのない部屋の中の知らない天井に

 

着替えた覚えのない服に見知らぬベッド

 

そこまで考ると拳銃の存在を思い出した

 

利き腕が動かないので反対の手を伸ばし

 

探すが見当たらず服が違うからだろうと

 

取り上げられたなら周囲にある筈もない

 

なのに無理に起き上がって探そうとする

 

上半身を起こした所でベッドの脇を見て

 

俺は数秒の間だが動きも思考も止まった

 

酷使し過ぎで感覚の薄い腕を握り締めて

 

そのままベッドに倒れて寝ている寒川幸

 

こいつが居るという事は寒川関係の家か

 

敵地になり得る可能性もなくはないのに

 

完全にでないが安堵している自分がいる

 

息を吐いてふと枕元の照明付近を見ると

 

俺があの日持ち出した銃が置いてあった

 

他にも携帯端末等も一通り置かれている

 

バーボンから渡されたチケットまである

 

律儀なのかなんなのか知らんが呆れるな

 

「目が覚めた様ですね」

 

寒川は起きておらず声も完全に男のもの

 

先程までの空気は無くなり即座に構える

 

視線を向けた先に居たのは白衣を着た男

 

男と言えど初老でこの怪我でも負けない

 

そう自信をもって言えれば良いが無理だ

 

弱っていて殺気も力ないとは言え無反応

 

片腕が動かず体も重いとなると厳しいな

 

着ている白衣から推測するに医者だろう

 

この場所が組織の研究所でない限りはな

 

「反応が戦場のそれですね…安心しなさい私は寒川家に雇われてる医師の一之宮です。そしてここは千葉にある寒川家の別荘の一つ…そうそう危険はないでしょう」

 

一之宮と名乗った男は距離を保ったまま

 

俺の怪我などの状態を淡々と話していく

 

頭の傷は縫ったが無理な動きは禁物だと

 

火傷の方は軽度で水ぶくれも出来てない

 

二週間で治るが薬は毎日塗る必要がある

 

身体が動かないのは疲労と出血が原因で

 

休んでしっかり食事を取るのが一番だと

 

肩は外れ腕の筋肉は断裂寸前だった様だ

 

ギリギリで耐えている事が奇跡だと言う

 

一日も経たずに起きた事もおかしいとも

 

外れた肩はきちんとはめられている様で

 

腕全体の腫れなども含めて完治するまで

 

数ヶ月は掛かるだろうとの診断を受けた

 

「それと拳銃の方も血が入り込んでたので整備はしておきました」

 

カルテを読み上げるついでに軽い口調で

 

何気ない世間話の延長線の様な雰囲気で

 

拳銃の整備をしたと言われフリーズする

 

「昔は外国を巡ってましてね。戦場にも何度も赴いて、その際に知り合った方に一通り教えられたんですよ。護身に一つ持っていけと実物と共にね」

 

通りで弱りきってる殺気が効かねぇ訳だ

 

戦場で殺気も怒号も聴き慣れてるんだろ

 

他にも何かあると俺の勘が告げているが

 

互いに深入りしても良いことはないだろ

 

それでも拳銃の整備のサービスは馬鹿だ

 

何者かも分かんねぇ奴にやる事じゃねぇ

 

「お嬢様が望まれましたのでね。そうそうこの別荘には私しか呼ばれておりません。お嬢様と私以外は他に誰もおりませんし、旦那様にも貴方の事は報せていませんのでご安心を」

 

一之宮は食事を持ってきますと出ていき

 

ボロボロの俺と寝たままの寒川が残った

 

普通の声量でそれなりに話していたのに

 

一切起きる様子はなく疲れてるのだろう

 

こいつも怪我を少しはしている様だしな

 

掴まれてる腕は振り解こうにも動かない

 

というか何故怪我をしてる方の腕を取る

 

部屋が広くてベッドの左右に空間はある

 

無事な方の手を持った方が良いだろうに

 

そんな事を考えていると一之宮が戻った

 

明らかに二人分の食事をカートに載せて

 

寒川は寝てるがまさかお前も食べるのか

 

「ああ、いえこれはお嬢様の分です。お嬢様お食事のお時間ですよ」

 

「……ごはん?」

 

寝惚けながら顔を起こして声に反応する

 

腕を離せ持ったまま行くな痛むだろうが

 

反対の手で促すととても簡単に腕を離す

 

寝ていた時の力はなんだったんだろうか

 

そして離した後はじっと食事を見ている

 

確か成人していた筈なんだが幼稚園児か

 

「こいつ幾つだ?」

 

「今年で二十六歳になられました。並べておきますのでお嬢様はお顔をお洗いになってきてください」

 

そう言って部屋の外に促すと歩いて行く

 

ふらふらしているがあれで大丈夫なのか

 

心配ではなく純粋に疑問を覚えるのだが

 

寒川家に仕えてる一之宮がやってるのだ

 

他人の目のない所では常にああなんだろ

 

セッティングするのをただ待っていると

 

部屋の外からドタドタと足音が聞こえる

 

「目が覚めてたんですね?!」

 

ああ覚めていたよお前よりも早くになあ

 

顔を洗った所で思い至ったのか水が滴る

 

とりあえず落ち着いて顔拭いてから来い

 

そう告げると顔を赤く染めて駆けていく

 

恥ずかしがるだけの常識は持ってる様だ

 

どうして良いか分からない事ばかりだが

 

しばらく成り行きに任せて何とかしよう

 

食事の準備は直ぐに終わり寒川も戻った

 

全員が席につき整った食事を食べ始める

 

舌にもそれなりに自信はあるが毒はない

 

体力回復も兼ねてしっかり食べておこう

 

燃費が良いとは決して言えない体だしな

 

「おくちにあった様で良かったです」

 

発言から考えるに一之宮でなく寒川作か

 

寒川が作っておいたのを持ってきた様だ

 

というかお嬢様なのに料理が出来るのか

 

武術も習ってる様だし結構活発なんだろ

 

それで食べながらでも会話位出来るよな

 

なんでお前は俺を此処に連れてきたんだ

 

この怪しい奴を秘密裏に助けようとする

 

「…? 先に助けられたのは私ですし、貴方はそんなに悪い人に思えませんでしたので……そう言えばお名前はなんて言うのですか?」

 

連れ込んだ相手を調べてすらいないのか

 

「お嬢様が本人から聞きたいと調べようとする私を止めましたので。私は見覚えがありますので予想は出来ますがお嬢様は知らないかと」

 

顔の変装も取られているし持ち物からも

 

調べようと思えば簡単に出来ただろうに

 

それこそ寒川の力を使わなくても出来る

 

なのに起きるまで待つとか馬鹿ばかりか

 

とは言え貴方なんて呼び方は虫唾が走る

 

本名にコードネームそれに偽名もあるが

 

顔もバレてて偽名を名乗っても意味ない

 

ましてコードネームをばら撒く気はない

 

「比企谷…比企谷八幡だ……」

 

「よろしくお願いします八幡くん」

 

いきなりくん呼びに変えてくるかこの女

 

年齢差的には呼ばれてもおかしくないが

 

距離の詰め方をそこの医師に一度教われ

 

「やはりそうでしたか。世間からは総武高校の麒麟児と呼ばれる天才高校生、スポーツ万能、学力もトップクラス、数多の大会で優勝をもぎ取る姿から八幡神が遣わした勝利の使者とも言われてます」

 

「へぇ、八幡くん凄いんですね」

 

天才だのなんだのは聞いたことがあるが

 

他の呼び方はどれも初めて聞いたんだが

 

自分の評判なんて調べる事はない弊害だ

 

余程のボロを出さない限りは優秀ならば

 

大抵の事は許されるし疑われないからな

 

その為に結果を残してるのが始まりだが

 

こうも知れ渡り過ぎたのは正直失敗した

 

まぁ俺の話はどうでもいい本題に入ろう

 

寒川は俺と今後はどうするつもりなんだ

 

「どうすると言うと?」

 

色々と理由はあれど俺とお前は関わった

 

お互いに一度助け合って貸し借りはなし

 

命の件はそれでお終いで構わないだろう

 

あるとすれば脱出時の貸しだがもう良い

 

後はこれから先のことを決めてしまおう

 

全てなかった事にして忘れてさよならか

 

それとも何かしら取り決めでも決めるか

 

なぁなぁで済ませられる関係でなくなり

 

方針の決定はどちらかと言うとお前次第

 

なんやかんやちょうどよく食事も終わる

 

決めるタイミングがあるなら今この時だ

 

「言いたい事は分かるんですけど。私としては付き合いを続けたいと思ってます」

 

はっきり言って犯罪者の俺と関係を持つ

 

その意味を分かっていて言っているのか

 

仮に何かあればお前だけの問題ではない

 

そこまで告げると表情がキリっと変わる

 

「分かってます。これでも会社の一部門を預かる立場ですからね。それでも折角の縁を失いたくないんです」

 

とは言っても思い切り犯罪は出来ません

 

なんて困った様に笑う寒川をじっと見る

 

「私は比企谷八幡くんと秘密を共有し助け合う協定を結びたいです。貴方が『・・・・・・・・(大丈夫だ心配するな)』と言ってくれた様に私も魘される貴方に大丈夫だと言います。貰った分をお返しし合う関係になりたいです」

 

俺は朦朧とした時そんな事を叫んだのか

 

意識が無いとはいえ何を言ってるのやら

 

あと俺が夢で聴いた大丈夫は寒川の声か

 

何が駄目で何が良いか決める必要がある

 

寒川グループではなく寒川幸との関係だ

 

そんは特がある関係とは決して言えない

 

だが伸びた手を振り払うには遅すぎたな

 

「はぁ、今後はよろしく頼む」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

不利益が生じない限りは続く関係が増え

 

当分は色々と準備が必要になってくるな

 

とりあえずバーボンに何て言うかからか

 

言い訳を考えてると一之宮が慌てて来た

 

「大変ですお嬢様?!」

 

「何があったんですか?一之宮さんがそんなに慌てるなんて……」

 

「たった今旦那様から連絡があったのですが、旦那様の代わりに鈴木財閥の園子お嬢様とご友人の毛利蘭様、そして蘭様のお連れとして子どもが一人がお見舞いにやってくると!!」

 

「嘘でしょう?!せっかくお父さんの追求を振り切って此処に来ないように伝えたというのに……一之宮急いで八幡くんを家まで送って…」

 

寒川が一之宮に指示を出した瞬間に音が

 

来客を告げるインターホンが鳴り響いた

 

「手を取るのはやまったか?」

 

そう溢してしまった俺は悪くないだろう





『0』

園子蘭コナン「来ちゃった♡」
幸一之宮八幡「来ないで……」

という事で八幡個人への味方として寒川幸さんが正式に決定しました。グループとしての協力は出来ませんがそれでも手を回したり、情報を渡したりは出来るかな。

そして今回から登場したのは一之宮、これも例のごとく地名から貰っております。基本的に医師ですが幸さんの執事に近い役割もこなしています。(本当は幸さん付きの執事の予定だったけど、八幡の怪我が酷いのでただの執事設定だと厳しいかなと思って医師設定が後から追加されたのは内緒)

基本的にオリキャラばかりの作品にはしたくないのでこの二人以外はしばらくは出ないと思います。(保険をかけて絶対にとは言わない小心者)

という事で比企谷八幡=フィーヌとは知られて無いですがコナン君との出会いが持ち受けております。まぁ逆にコナン=工藤新一もバレてないけどね。

ちなみに新一と八幡はもちろんですが、様々な部活の助っ人をしている関係で蘭&園子とも面識はあります。会ったら必ず話すような中では無いですが、話したことはあるし、互いに認識はしてる。

視点はこのまま腐り目です。見透かす目にはなりません。そしてそれが終わったらようやく例の彼女の話へと進んでいきます。

という事で今日からまた仕事なので次の更新がいつになるか未定になります。(おそらく早くても土日)あぁ、楽しかった四連休。おかげでたくさん投稿出来た。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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腐り目:File.5 Page.2


 

玄関付近で相手してる内に裏から逃げるか

 

いや一人で帰り着くのは少し厳しいかもな

 

だが一之宮を借りれば怪しまれるだろうし

 

この付近に呼び出して覚えられるのも厄介

 

詰んだというのが正しい様な最悪な状況だ

 

それと聞こえてきた名前には覚えがあった

 

「えっと、遠縁の親戚という事でなんとか誤魔化しましょう」

 

「無理だ…聞こえた名前には覚えがある。勘違いでなければ顔見知りだ」

 

「なるほど……蘭様は空手の大会ですかな。それと園子様はボーイフレンドの部活やサークルの大会に顔を出していました」

 

成績を残していて知られてるのだけでなく

 

工藤新一の所為で会話をした事があるのだ

 

まず間違いなくきっと向こうも覚えている

 

とりあえず落ち着こう何が必要か確かめろ

 

このままでは出会うのは確定になるだろう

 

出会った上で見せても良い事は一体なんだ

 

見せてはいけない知られてはいけないのは

 

誤解させてもいけない事もしっかり定める

 

「見せてはいけないのは拳銃くらいですか?」

 

「助けた助けられたの関係ならばここに置いてる理由にも十分です。関係を変に深読みされない為に出合いに関してはそのまま伝えましょう」

 

「園子ちゃんなら恋愛にこじつけそうですが何も他意はなくお礼ですと言って惚けてれば興味を失いますね」

 

問題なのは俺の事を家に報せていない訳と

 

病院ではなくて此処に運び込んだ理由だな

 

何か適当なストーリーを考える必要がある

 

「玄関へと向かいますのでお二人で話を用意してください。私はそれに合わせます」

 

救急車を待ってると間に合わなかったとか

 

近くに一之宮が待機してたらまぁ範疇内か

 

それを一切報告してない理由はどうするか

 

「報告先である父を理由にしてしまいましょう。過保護なのはお見舞いを差し向ける事から分かるので、大事にしたくなかったで押し切ってしまえば違和感もないかと思います」

 

粗はあるがまぁそこまでおかしくはないな

 

待たせ過ぎると怪しまれると一之宮が出た

 

対応を始めてから引き延ばせても五分程度

 

そろそろ見舞客が部屋へとやってくる頃だ

 

足音と気配がゆっくりと近付くのが分かる

 

部屋の前までやってきてノックが響き渡る

 

ガチャリとノブが回り扉がスゥーと開いた

 

「お嬢様、比企谷様、お客様がいらっしゃいました」

 

扉を開け一之宮が横に避けると姿が見える

 

「やっほー、幸さんお見舞いに来たわ。そっちの人が幸さんの命の恩人の方?…何処かで見たことある様な?」

 

「ちょっと園子、怪我人が居るのよ…すみません騒がしくて…って貴方はたしか?」

 

「あー!!比企谷八幡だ!!色んな大会で賞を取ってるあの超人!!」

 

部屋に騒がしさが広がり視線が俺へ集まる

 

相手の内一人はこっちに指まで向ける始末

 

一緒に来た子供の方がまだわきまえている

 

何故か分からんが異様に視線は向いてるし

 

それに対しての不快感を俺は少し感じてる

 

表に出さずに向こうの動きを待っていると

 

先に動いたのは視線の主である子供だった

 

「お兄さん、千葉の凄い人だよね。色んなスポーツで記録を残してるって聞いた事があるよ」

 

なんだこいつはどうにも言動が気持ち悪い

 

変装した同僚を見てる様な気分に襲われる

 

向けられる感情と行動は一致しているのに

 

感じ取った雰囲気が普通じゃないと思える

 

「ちょっとコナン君?! ごめんなさい、お見舞いに来たのに騒がしくしてしまって、幸さんも無事な様で良かったです。これ道中で買ったケーキです。それで、えっと……」

 

毛利蘭が子供を慌てて引っ張り俺から離す

 

そして見舞いの本命である幸に土産を渡す

 

慌ててるのは俺の怪我を把握したからだな

 

触れて良いのか分からないと言った感情か

 

続けて喋ろうとはしたが話題に悩んでいる

 

「お久しぶり蘭ちゃん。無事なのは比企谷くんのおかげって部分が大きいけどね。父が無理を言ったのに見舞いの品まで用意させて申し訳ないわ。来てくれてありがとう」

 

「いえ、これはどちらかと言うと新一からなので」

 

「まぁ、新一くんから?」

 

ものすごく嫌な名前が耳に入った気がする

 

なるほど寒川と工藤にも面識があったのか

 

「あいつ忙しいからってこの子経由でお金だけ渡してきたんです。そうだこの子なんですけどいま家で預かってる子で、新一の親戚の子なんですよ。ほら、コナンくん」

 

「えっと、ぼく江戸川コナンって言います。よろしくね幸お姉さん」

 

あれの親戚ねぇだから嫌悪感を感じたのか

 

何処か嫌な見られている感覚を思い出して

 

「それにしても凄い怪我ねぇあんた。こんな大怪我をしながらも幸さんの事を守り切るなんて映画みたいでロマンチックにも思えてくるじゃない」

 

「ちょっと園子?!」

 

「爆発し崩れ落ちていくビルの中からたまたま居合わせた男性に守られて脱出する。命の恩人と始まる恋とか定番じゃないの」

 

これを話題の対象がいる場でするんだから

 

中々に肝が座ってるとでも言えばいいのか

 

呆れを通り越してもはや感心すら覚えるな

 

「本当に危ない所を助けて貰って八幡くんには感謝しかないわ」

 

「他の感情は何かないの幸さん?ほら胸のあたりがキュゥってくるような!!」

 

心筋梗塞なんかの前触れじゃないだろうか

 

でなけりゃ気管支喘息か肺炎か高血圧だな

 

「胸のあたりは火傷もしてないし痛みはないわ。他に感情ねぇ……助ける為に怪我を負わせて心苦しいし、父がどう反応するか分からないからってコソコソ隠れて治療して貰って二重に申し訳ないわね」

 

表情を作るのが上手いし声に震えもないな

 

仕草は少し怪しめなのと話す速度が速いな

 

それでも一般人なら問題なく騙せるだろう

 

目と手の動きがなけりゃもっといけそうだ

 

「あぁ…そう言えば幸さんってそう言う人だったわね。騒がしくしてごめんなさいね」

 

「「ははは……」」

 

誤魔化しは成功した様で妙な追求は終わる

 

後はとっとと帰ってくれたら良いんだがな

 

怪我人が居るから要件が済んだら直ぐだろ

 

寒川の父親からの伝言など女組で話が進む

 

するとフリーになるのがガキ入れて男三人

 

このコナンと言う奴がずっと俺を見ている

 

「ねぇねぇお兄さん。サッカーも出来るんだよね。新一兄ちゃんから凄い強い奴が居たって話を聞いた事があるんだ。僕もサッカー好きでやってるんだけどお話聞かせてくれない?」

 

「コナン様、比企谷様は命に別状はありませんが身体はボロボロですのでお話はまたの機会にお願いします」

 

「えぇ、ならなんで病院にいかなかったの? そんなに怪我が酷いなら救急車呼ばないといけないよねぇ」

 

聞きたがりがガキになると余計に面倒だな

 

あいつも試合後にしつこく話し掛けてきた

 

嫌な遺伝子が機能してるんだな工藤の血は

 

とりあえず共有の意味も兼ねて設定を話す

 

「俺は目立つのが嫌いなんだ。事件当時に寒川を心配して駆け付けた一之宮さんが居たから彼に治療を願ったんだ」

 

「色々と噂になるほど有名人なのに目立つのは嫌いなの?」

 

ここが人気の無い路地なら殺してるかもな

 

それくらいうざったいが流石に分別はある

 

んな真似をすりゃ自分の首をしめるだけだ

 

「目立ちたがりなお前の親戚とは違うんだよ。それと自分を中心にして考えるのはやめておけ、いい迷惑だ。今のうちに直さねぇと手遅れになるぞ」

 

俺の嫌いだったアイツの様に冷たくなるぞ

 

そこまで考えた所で酸素と栄養を求めてか

 

身体中の血が頭に集まる様な感覚を覚えて

 

怪我とは一切関係ない所で頭が重く痛んだ

 

『これはどちらかと言うと新一からなので』

 

『この子経由でお金だけ渡してきたんです』

 

そんな訳がねぇだろうがあの馬鹿はジンが

 

シェリーの薬を確かに飲ませた筈だろうが

 

冷静になれ死者が金を渡してくる事はない

 

もしこれが本当の事ならば生きているのか

 

顔を見せなくなったのは死んだからでなく

 

組織から生きている事を隠す為だとすれば

 

「……さん?………お兄…ん?!………ちょっ………宮さん………ちさん……兄さ…の様…が?!」

 

「………んくん?!八幡くん?!」

 

アイツが生きていて組織を追っている光景

 

最悪とも言える状況が頭の中に過っていく

 

急に動かした脳に身体が全く追いつかない

 

それなのに嫌な想像に呼吸さえ忘れている

 

どうにか届いた声にハッとなり口を開いた

 

「はぁはぁ………わるい、少し意識が飛んでた……もう大丈夫だ……」

 

この状態を怪我のせいだと勘違いしたのか

 

見舞客が直ぐに帰ってくれたのは幸いだな

 

それ以外の全てが脚色なく最悪と言えるが

 

仮定に仮定を重ねた様な話は報告出来ない

 

色々と調べる必要が出てきて非常に面倒だ

 

怪我が回復するまでは派手に動けないしな

 

とりあえず今日一日はこのまま休ませよう

 

裏の仕事は俺でないといけない物は少ない

 

他のは流石にカバーを入れて貰えるだろう

 

となると問題になるのは昼間であり表側だ

 

怪我を誤魔化しながら生活する必要がある

 

利用できるものはなんでも利用していこう

 

少しでも回復を早める為にもここは便利だ

 

寒川と一之宮に話したら直ぐに許可が出た

 

マスコミとかが来ない限りと前置きしつつ

 

ここを拠点にしてしばらく生活をしていく

 

明日朝一で色々と準備を済ませるとしよう

 

頭の中で算段を立てつつ俺は眠りへ落ちた

 





『0』

八幡「はぁ………はぁ………」
コナン(やっべぇー……)

自分が無理に話し掛けたから体調悪化させたかと内心で戦々恐々しているコナン君。彼にはセンサーは無いので全く何一つ八幡の事には気付いてません。色々と話し掛けてるのは自分と同じくらいサッカーの強い同年代の有名人への興味関心からです……昔、新一の頃に会った際、話し掛けて迷惑そうにされた事は忘れてます。

そしてお見舞いだから何か土産ぐらい用意しないとという思いによって自分で自分の首を緩やかに締めていくこの有り様。まだ完全に確信した訳ではありませんが、もしかして生きてる?位の疑惑が八幡に宿りました。

ちなみに薬の詳細と言うか組織の目標は聞けば教えてくれる人、教えてくれる立場の人が居ますが、八幡は興味ないので聞いてないです。組織の上の人から見ても裏でしか生きれない存在だと言う認識のため、忠誠度とはまた別の所でフィーヌの評価は高いです。逆に薬の事を知ったら一発で辿り着くでしょうが、しばらくはすれ違う事でしょう。

次からドキドキ、ボロボロな身体で学校生活篇が始まります。そして俺ガイル側のストーリーですね。ちまちまとですが書いていくのでよろしくお願いします。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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腐り目:File.5 Page.3


 

最低限生活に必要な私物を詰め込んでいく

 

他には学校で必要になるもの一式全部もだ

 

それだけがあればきっと問題はないだろう

 

逆にいらない物は全て此処に仕舞っていく

 

普段なら肌身離さずに持ち歩く武器の類も

 

今の状況では証拠を差し出すのと変わらん

 

そうせねばむしろ自分の首を締めてしまう

 

仕事の時は手間をかけるが用意してもらう

 

相手が信用出来る前提になるが頭は無事だ

 

そこらへんの判断を間違う気は更々ないな

 

傷の辺りは痛むし身体の動きも完全でない

 

それでも輸血などもあって血は足りている

 

それならば後はやるべきことをやるだけだ

お前にはそうする事しか出来ないのだから

そうすれば何も問題なく今回も乗り切れる

 

荷物をさくさく仮拠点へと運び込み終えて

 

用意されている食事を取ったら支度をする

 

体育や助っ人はやる気がないと断れば良い

 

座ってるだけで良い授業は休息と変わらん

 

だから送り迎えなんてものはしなくていい

 

「長距離を歩くのはあまり良くないと思うんですが」

 

目立ちたくないと言う俺の前提を忘れるな

 

今まで無かったってのに送り迎えしてみろ

 

何事かと注目を浴びるのは決まってるだろ

 

お前の家の車だとバレたらどうなると思う

 

既に決まっている事を蒸し返す寒川を諭す

 

こいつは何処か抜けているが馬鹿ではない

 

でなければ異様な状況であっても認めない

 

手を取る関係になるのはお前が決めたんだ

 

寒川幸としてではなく協力者として考えろ

 

「……はい」

 

根が善良な共犯者なんて言うのは初めてだ

 

だがこいつが裏切らない限りは続く関係だ

 

適当に落し所を用意して納得させれば良い

騙してしまえば簡単なのに何故そうしない

今回は時間がなくて断ち切ったが問題ない

 

初めから譲ってやるのはむしろ問題だろう

 

決まれば早めに動こうと荷物を持ち向かう

 

いつもとは全く違う道程を進んで学校まで

 

もちろんバス等は使わないと話にならない

 

あまりバスに良い思い出は無いが仕方ない

 

流石に通勤や通学と被ってると人が多いな

 

優先席に座るかと考えたが報せたくはない

 

何処が何処と繋がるか分からないこの世界

 

下手をして情報が漏れたら面倒極まりない

 

火傷の痛みは押されても問題はないだろう

 

頭の怪我は殴られなければ触れる事はない

 

問題があるとしたら外れた肩と腫れた腕だ

 

服を着ていれば外から分からない怪我だが

 

狭い車内で押されるだけでも激痛が走った

 

何なら荷物を持つだけでも痛かったからな

 

そんな時にバスが信号を曲がり人も斜める

 

体幹が良く勢いの殺せる者ばかりではない

 

それなりの圧が腫れた腕へと伸し掛かった

 

「ッ………」

 

息が漏れるのさえ抑え込んで痛みに耐える

 

普通なら叫び声を上げる様な激痛を呑んで

 

表情が歪んでしまうのは抑えきれはしない

 

普段から良い表情でない分誤魔化しはきく

 

とは言え朝からこれでは消耗が激し過ぎる

 

少しでもマシになるのならば睡眠を削ろう

 

そうして無駄な空白になるが早くに出よう

 

治るまで一ヶ月は掛かると一之宮は言った

 

ゲームでないのだから経過でもマシになる

 

それでも二週間は痛みと戦わないとならん

 

二三日ならば耐え忍ぶのも考えただろうが

 

半月ともなればマイナスの方が圧倒的だろ

 

計画の大筋と離れないならば変えても良い

 

頭の中でシミュレートしたいが余裕がない

 

流石にバスの動きまでは頭に入っていない

 

狙撃予定なら信号の連動も含めて覚えたが

 

とりあえずバスの動きに集中して耐え続け

 

ようやく降車予定のバス停まで辿り着いた

 

途中からは総武の制服も見るようになった

 

流石に乗車してからしばらくはなかったが

 

俺へ向けられた視線の幾つもが面倒の種だ

 

これまで乗っていないバスに俺が居た事実

 

それが校内で広まるのは確定と思っておく

 

耳に入り学校側がとう動くか次第になるが

 

どういう風に捉えられるかも含め対策する

 

憂鬱になってる暇もなく教室に向かい座る

 

机に無事な腕を載せそれを枕に頭を預ける

 

眠る様な体勢を取ってれば邪魔は入らない

 

授業も教師次第だが流せる所は流していく

 

聞かずとも分かる内容だからどうでもいい

 

とりあえず出る時間を早くするのは確定だ

 

制服が見え始めたのは四つ前のバス停から

 

それくらいなら普段は歩いても大丈夫だが

 

避けられる面倒と使う体力が割に合わない

 

無駄に消費して回復を遅らせるだけだろう

 

表でも使えるセーフハウスを思い浮かべる

 

バスを利用してもおかしくない場所は三つ

 

そのどれかに引っ越した事にするのが無難

 

元より一人暮らしなのは学校側も知ってる

 

誤魔化せてこれたから引っ越しは初めてだ

 

学校に知られてる物はという意味だけども

 

だからこそ放課後に届け出れば問題はない

 

懲りずに家を特定しようとする奴は出るか

 

他の拠点に移れない今だと無視は出来ない

 

そして懲りない馬鹿以外にも注意は必要だ

 

前の件で二三年は大丈夫だとしても一年だ

 

教えられたり共有してない限りは知らない

 

勘違いした奴らが動く可能性は十分にある

 

それとなく前の件についての噂を流せるか

 

騒いでる今なら情報は回りやすいだろうし

 

それこそチェーンメールでも事足りるだろ

 

集団で動かれなければ対処も出来なくない

 

当面の計画の見直しはこれぐらいだろうか

 

他にあればその時に対応すれば良いだろう

 

そうしていつも通り適当に一日を過ごして

 

情報を流すのを促すためのメールを流して

 

最後の授業が終わると直ぐ職員室を目指す

 

住所と通学路の登録の変更をしに向かうと

 

どうにも運が悪いのか平塚教諭に出会した

 

「比企谷か、職員室に来るのは珍しいな。いったい何の用だ?」

 

「引っ越して住所と通学路が変わりました。変更に関する書類をください」

 

好かないが仕事に関してはきちんとこなす

 

端的に用件を伝えれば必要な書類をくれる

 

情報は頭に入ってるからその場で記入して

 

お願いしますと提出して帰ろうとした所で

 

「比企谷、少し良いか?」

なんでこの人は俺に関わろうとするんだか

やはりこの人は好きになれそうにはないな

面倒極まりないというのに嫌いにも成れず

聴こえなかったで通すには距離が足りない

距離の遠さを飛び越えて来る様なこの人を

諦めて何ですか?と振り返り返答を待った

認めてしまうことだけはしたくないだろう

すると場所を変えると生徒指導室へ入った

 

周りと遮断したこの場を選ぶ様な話なのか

 

疑問に感じながらも話し手の動きを待った

 

「面倒を嫌うお前だから単刀直入に訊くが、その引っ越しの要因、もしくは引っ越しに付随して何かトラブルは無いか?」

 

何処までも際限なく教師をしてくる人だな

この人の様な人がいやそんな人は居ないか

仕事ではなく果たすべき役割を果たしてる

この人が居たらなんて下らない夢を捨てる

そう言った点だけで見れば尊敬に値するが

俺はもう俺なんだ既に終わっているんだよ

いやとりあえず何一つ問題はないと答える

 

「それならば良い。後はお前一年の頃から三者面談を行っていないが「無理ですね」返答が早いな……」

 

「両親は共働きですし、時間は取れませんよ」

 

「そうか二年からは受験について考え始める奴も多いから担任も気にしてたが、まぁ出席日数は危ういが比企谷なら何処でも行けるだろう」

 

何処でも行く事が出来る頭を持ってるのと

 

本当に何処にでも行けるかは別の話だがな

 

話は終わりかと思ってるとまだ続きがある

 

「最近少しだが雪ノ下の様子が変わった。そして今更過ぎるがお前が顔を出さなくなった直後から由比ヶ浜も大きく変わった。何か君が関わってるんじゃないか?」

 

そう言うと平塚先生は二人の変化を語った

 

雪ノ下は融通が利き話し方の鋭さが減った

 

由比ヶ浜も行動的になり成績が良くなった

 

そんな事を言われても知ったことではない

何一つ変われない俺への当て付けだろうか

あいつらが勝手に変わっただけの話だろう

 

沈黙を答えとして生徒指導室から出ていく

 

帰るつもりの俺を更に引き止める声が響く

 

「待って比企谷くん!!」

 

「戸塚か……」

 

同じクラスでありあれ以来話してない相手

一度勝手に期待した期待するだけの相手だ

教室からつけてきてるのは分かっていたが

 

貰った書類を書いた時間だけならまだしも

 

生徒指導室で話した時間も待ち続けたのか

 

何がしたいのかは分からないが待ってやる

 

そうすると俺へと目を合わせて口を開いた

 

「この前はせっかく手伝いを了承してくれたのに、比企谷くんの善意を裏切る様な真似をしちゃってごめんなさい」

 

そう言い地面に着く様な勢いで頭を下げた

違うだろ俺が勝手に期待しただけだろうに

ざっと周りを見渡すが辺りに人の姿はない

今も前も調子の悪さ以上に狂わされている

尾鰭の付く噂が流れる心配はなさそうだな

何故そう真っ直ぐに生きる事が出来るのか

さて一心に頭を下げ続けているがどうする

諦めた俺では一生分からない事なんだろう

正直な所でもう関わる事はないと思ってた

だがその真っ直ぐさは眩しい物なんだろう

だからこそ今ここで終わりにしてしまおう

目を奪われる資格も無いのに立ち止まった

簡単な話だと言うのに出来ないままでいる

それが何故なのかは薄々気付いてるだろう

未だに戸塚に対して期待している俺がいる

未練がましく普通を生きる戸塚を見ている

「別にいい…謝られる様な事じゃない」

 

「それでも謝りたかったし、伝えたかったんだ。中途半端な事をしてごめんなさい。そして手伝ってくれてありがとう(【■ィ■■、ありがとう……】)

やっぱり何故だかあいつと重ねてしまった

勝手な理屈で勝手に帰った俺へと謝罪して

踏み込んで来ない点はやりやすくて良いさ

手伝いの礼を笑顔で述べる戸塚が分からん

だがやってる事は()()()と同じ自己満足だ

分からないという事は分かり合えない事だ

なのに拒否反応が起きないのは何故なんだ

分り合えない相手にどうするかは知ってる

 

関わらなければ良いそれで解決するだろう

 

血は足りてて悪夢は見ていないというのに

 

口が思考に反逆するかの様に制御出来ない

 

「俺はお前を許す…………また声を掛けろ」

許すなんてどの口が言っているのだろうか

「……!! うん!!」

 

満面の笑みの例えになりそうな顔で頷いた

 

今はテスト前だしそう呼ばれないだろうが

 

仮に声が掛かったとして腕をどう誤魔化す

 

この口は何を考えているんだろうな本当に

 

二週間いや一週間は無いことを祈ってると

 

戸塚がこの後お詫びをしたいと言ってきた

 

「ファミレスになっちゃうけど手伝ってくれてたお礼も合わせて奢りたいと思ってて時間があるなら一緒に行ってほしいなぁなんて」

 

別にいいと言っても戸塚は聞かないだろう

 

利き腕は使えるから食事は問題なく出来る

 

このまま行ってしまう方が後腐れもないか

 

そう決まると近いサイゼへと二人で向かう

 

あまり混んでなく入店して直ぐ案内された

 

奢りだからと食い荒らす程落ちぶれて無い

 

そもそも金に困る様な仕事ではないからな

 

とは言え身体を戻す為ある程度腹に入れる

 

ドリアとドリンクバーにすると戸塚に言う

 

「それだけで良いの?」

 

奢りなのに?という事かと思ったが違うか

 

そう言えばそこそこ食うのを知られてるな

 

俺は身体を鍛えてて必要エネルギーも多い

 

仕事が入る日は昼から良く食っとくのだが

 

同じクラスならその姿を見た事あるからか

 

動いてないし予定も無い日はこんなもんだ

 

そう伝えると納得したようで店員を呼んだ

 

自分の分の注文も伝えて改めて向きなおる

 

「比企谷くんはテストもいつもトップだよね。ぼくは赤点はとらないけど勉強しないと全然だからこの時期は大変でさ。それで……」

 

話題に困るかとも思ったが戸塚が良く喋る

 

だから相槌を打ったり意見を言えれば良い

 

頭を働かせずに話すのもたまには悪くない

 

「あっ、飲み物がなくなったから取ってくるね。比企谷くんも無いみたいだけどついでに入れてこよっか?」

 

「いやそれは良い…俺も一緒に行く」

 

何かを混ぜられる心配は流石にしていない

 

単純にやってもらう事に対し違和感がある

 

それ故に断ったが戸塚は少し悲しげになる

 

だから咄嗟に別の提案をしたが正解の様だ

 

ドリンクバーまでの道はそんな遠くないし

 

取られても困る様な物は今は持っていない

 

仮に置き引きが居てもこの距離なら気付く

 

まぁそんな事は言えないので貴重品は持つ

 

そうして二人でドリンクバーへと向かうと

 

「由比ヶ浜さん、これは何処にお金を入れるのかしら」

 

「へっ?!えっと、これはお金を払わなくても良いんだよゆきのん!!」

 

どうにも出会う率が高い気がしてならない

 

戸塚に二人を引き寄せる効果でもあるのか

 

そんなあり得ない考えが過る程度に最悪だ

 

戸塚も俺とあの二人の関係性は知らないが

 

あまり良い仲で無いことは覚えてたようで

 

どうするか此方に視線で問いかけてきてる

 

パッと引き返しても気付かれるのがオチだ

 

諦めて向かうしか無いと頷いて歩み寄った

 

「あっ、さいちゃんに比企谷くん。えっと、やっはろー」

 

「……久しぶりね二人とも」

 

「由比ヶ浜さんに雪ノ下さん、こんにちは、二人もご飯?」

 

近寄ったはいいがその後を考えてなかった

 

どうするか考えていると戸塚が応えている

 

「先に淹れてる」

 

何かしていれば話さなくても問題ないだろ

 

そう思って自分の飲み物をゆっくり淹れる

 

確かに以前と雰囲気は変わっているかもな

 

戸塚と二人の会話を耳を向けて拾っておく

 

向こうはテスト勉強をする為に来たらしい

 

此方がただ食事に来た事が向こうに伝わり

 

俺と戸塚の関係修復を知り声が震えている

 

表情を見ていないので確証はないが罪悪感

 

他に不安等も声に滲んでるのが読み取れる

 

「淹れ終わったから先に戻る」

 

向こうが何を感じていても俺には関係ない

だと言うのにわざわざ理由を口にしている

戸塚に悪いが先に席へと足を進めていると

 

「あれ?もしかして…お兄ちゃん? お兄ちゃんだ!!」

 

確かめる様な不安そうな声を此方に掛けて

 

顔を見て喜色満面の笑みを浮かべ抱き着く

 

それは俺の実の妹である比企谷小町だった

 

今日は色々と嫌な巡り合わせがある日だな

 

占いなんて非科学的な物は信じていないが

 

今日の俺の運勢は最悪だなと溜息を吐いて

 

持ってた苦いコーヒーを一気に呑み干した

 






『24』


小町「お兄ちゃんだ!!」パリーン
店員「コップゥ?!」

まぁ、ドリンクバーで出会うという事は小町ちゃんもドリンクバー目当てで来てるという事で、コップを持ってるのは当然、そしてその状況で駆け寄って抱き着けばコップはこうなります。

もう三が日も過ぎましたがあけましておめでとうございます。私は年末の少し前に盲腸かもと診断され、年末年始は少々痛みに苦しんでおりましたがなんとか生きて書いてますので今年も何卒よろしくお願いします。

そしてやはりボロボロの八幡、それでもやる事は多いしトラブルはお構いなしにやってきます。

戸塚との関係値は回復出来た分、前よりも少しプラスなぐらいかな。雪ノ下と由比ヶ浜はまだまだこれからかなぁ。まだマイナスですね。ただ次回からどうなるかですね。今までは関わりがなかったけど少しずつ関わる機会が増えていきます。

そして最後の最後ですがこの作品で初登場小町ちゃんです。出てきてませんが店内に大志くんも居たりしますが

大志「帰ってこないなぁ」

とドリンクバーから壁で見えない席で一人座って帰りを待っている状況ですね。ちなみに両親の事もあり外でお兄ちゃんの事は話してないので、仮に見えてたら余計に落ち着かなかったかもね。

と言う事で次回から依頼に関する話に入りそうですね。解決までは流石にいかないかな。原作より危険度マシマシになってるのでね。どんな展開になるのかそしてどの様に解決されるのか、お楽しみに。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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腐り目:File.5 Page.4


 

笑顔のままで涙を流し抱き着いてくる実の妹

 

まず間違いなく一般的には異様な光景だろう

 

とりあえず右腕だけ避けさせたのは正解だな

 

見た目よりかなり力強く抱きしめられている

 

片腕で引き剥がそうと思うと面倒なくらいだ

 

「お兄ちゃんって呼んでるって事は比企谷くんの妹さん?」

 

周りへの説明を思うと面倒の一言で済まない

 

入る前までの事情は小町も知っているからな

 

逆に俺の過去を知られ過ぎるのも考えものだ

 

泣きながら抱き着くってどういう家庭環境なのよ……

 

特殊な事は理解してるからわざわざ触れるな

 

いや、俺が呟いた声を拾ってしまっただけか

 

事が事だから過敏に反応してしまってる様だ

 

コントロールが出来ないとは情けない話だな

 

だが目に入ってしまう状況なのは理解してる

 

周囲の客の中にも視線を向けてくる奴は居る

 

コーヒー呑んで現実逃避してる暇なんてない

 

「こういうの何ていうんだっけ修羅場?」

 

阿修羅と帝釈天は闘ってなく恋愛事でもない

 

話をややこしくするだけなんだから黙ってろ

 

まず小町を落ち着かせないと話にもならんが

 

組織に入ってからずっと関係を断っておいて

 

「お兄ちゃん」

兄を名乗る資格なんて物は俺にはないだろう

今さらどんな顔で何を話して良いと言うんだ

 

とっとと解消して逃げるべき状況であるのに

 

突然過ぎる事態に思考が乱され固まっている

 

「すみませんお客様…ドリンクバーの前で止まられると他のお客様のご迷惑になりますので……」

 

邪魔な位置を陣取り続けていた事を指摘され

 

ようやく動き出す事が出来たが逃げれはせず

 

俺達、雪ノ下達、小町と連れが一席に集まる

 

いや席は二つか、四人掛けと二人掛けの席だ

 

店側も店内でのトラブルは避けたいのだろう

 

移る許可を出し見え易い場所へと集められた

 

なんでこんな事になってしまったのだろうか

 

俺が自分から動いたからかつくづく嫌になる

 

この席はもちろんファミレス全体が物静かで

 

なんとも言い難い奇妙な雰囲気に包まれてる

 

俺も含めて口を開けずに時間が少し流れると

 

「……とりあえず事情を聞く気は無いけど、自己紹介でもしなければ話のしようもないんじゃないかしら?」

 

雪ノ下がゆっくり周りを確認しながら提案し

 

このままではどうしようもないと肯定を示す

 

誰からいくのかで止まるかとも思っていたが

 

「提案をした私から先に」と雪ノ下が口開く

 

「総武高校二年の雪ノ下雪乃よ。奉仕部と言うボランティア部に近い部活の部長をしているわ」

 

反応を示す様な空気じゃなく沈黙が流れてる

 

この雰囲気で名乗り上げるのは勇気がいるな

 

とは言え雪ノ下の次となるとほぼ決まってる

 

総武の面々は自然と由比ヶ浜に視線が向いた

 

「えっと、私だよね。同じく総武高校二年の由比ヶ浜結衣です。ゆきのんと同じく奉仕部に所属してます」

 

グループ毎に順番で話してく方が無駄がない

 

奉仕部組は終わりだから高校繋がりが無難か

 

隣に座ってる戸塚と目を合わすとそっと頷く

 

「総武高校二年の戸塚彩加です。由比ヶ浜さんや比企谷くんと同じクラスです」

 

由比ヶ浜の事まで言わなくても良いだろうに

 

だが考えても何一つ得はないので紹介に移る

 

「総武高校二年の比企谷八幡、小町の兄だ」

 

見覚えのない小町の連れに向けてそう伝える

 

他の奴らは小町の呼び方で分かってるだろう

 

少し視線を送ったからか少しビクついている

 

まぁ見た限り小町の友人は普通な人間の様だ

 

俺の端的な自己紹介が終わり最後のグループ

 

ここで何の繋がりもない男が名乗れる訳なく

 

順当にと言うより満を持して小町が口を開く

 

「お兄ちゃんの妹の比企谷小町と言います。中学三年生です……じゃあ次は大志くん」

 

そのまま続けて喋りそうにしてたが目が動く

 

連れの方を見てから開きかけてた口を閉じた

 

話しやすい様にとバトンを渡す所までやって

 

気配りと言うか小町も周りをよく見ているな

 

「ええっと、川崎大志っ…です。その、比企谷さんとは学習塾が同じでして仲良くさせてもらってて…今日は相談にものってもらって、あの本当に助かってます…はい」

 

緊張からと言うのもありそうだが俺を見たな

 

恐らく普段と違う喋り方の上にテンパってる

 

まぁ小心者っぽいが悪い奴でもない感じだな

 

提案の通り自己紹介はこれで終わった訳だが

 

その次はどうするかなんて決まってないのだ

 

また沈黙が戻り大志とやらが気不味くしてる

 

関係なくとも直前まで喋っていれば仕方ない

 

時間と共に場も流れるのであれば良いのだが

 

そんなどうしょうもない願いが叶うはずなく

 

小町が俺の方を向くと意を決して話し出した

 

「お兄ちゃん、なんで小町と会ってくれなかったの?」

 

最早理解者には成り得ないがただただ一途に

 

俺を想い、悲しげに溢す小町の目を見れない

 

まして会わなかった理由なんて語れやしない

 

()()()()が居ても会えてはいたんだから他にも理由があるんでしょ? 急に連絡も出来ず三年間も会えなくなった理由が」

 

「「「三年……」」」

 

妹と三年も音信不通だった事に驚かれている

 

一般的な日本の家庭では早々ない事だからな

 

言葉を失ってしまうのもおかしくない反応だ

 

大志が反応を示してないのは知ってたのか?

 

小町は勉強は出来ないが決して馬鹿ではない

 

「あの人達を問い詰めたら連絡取れなくなった少し前からお金の振込をしてないみたいだし、その時の家は解約されてるし、心配してたんだよ」

 

俺と違い行動的だから自ら情報を探ったのか

 

続けば決定的な何かに触れてくる危険がある

 

一方的に喋らせず下手な事も言わずに止める

 

そんな俺にばかり都合の良い言い訳を考えた

あぁやはり俺は逃げてばかりで変われないな

「あの人達とは少し経ってからほぼ縁を切った。成人してないから分籍まではいってないし、なんの効力もないけどな」

 

実際に親族関係調整調停位はしても良かった

 

彼奴等なら関わらないと言質も簡単に取れる

 

正式な文書に残せば抑止力にはなってくれる

 

俺等の発言からあの人達が一体何を示すのか

 

オーディエンスも確信した様で真剣な表情だ

 

何故だか雪ノ下が強く反応を示している様だ

 

完全に予想だが()()()に関する事情故だろう

 

偽りでも本当でもない曖昧な話でこれなのだ

 

彼彼女らは本当に極一般的な生に活きている

 

それこそ住む世界の違いを力強く感じられる

 

「頼るのは癪だから働いて自分で家を借りてるし、その職場の人に頼って携帯とかも新しく契約して、連絡を取れなくしたんだ」

 

諸々の保証人等は自分や同僚の偽名だけどな

 

安全な偽の戸籍がゴロゴロとあるから便利だ

 

本当に安全かとか使う予定がないかは調べた

 

保証人が逮捕されたなんて話は勘弁だからな

 

「それで小町とも連絡出来なかったの?」

 

「連絡せずに会える状況じゃないし、忙しいのもあった。それとこっそり会ってるのがバレるとまだ成人してない俺だと面倒になるって分かったからな。まぁ俺に関わりたくないあの人達はわざわざ調べようなんて思わないだろうけど、勝手にあれこれしたのに会うのも気不味くてな」

 

一字足りとも聞き逃しはしないと真剣な表情

 

ただ黙って俺の目を見て誤魔化しを聞く小町

 

本当の事を言ってるのかまだ怪しんでる様だ

 

一応筋は通っているが即興故に穴は大分多い

 

()()()()()()()()()けど、会ってくれないのは寂しかった」

 

「…俺が悪かった」

 

とりあえずかやはり小町相手は厳しかったか

 

俺が本当の事を話してないのを確信している

 

その上でそう言う事にしておいてくれる様だ

 

「まったくもうお兄ちゃんは……これからは小町とも会ってね。約束だよ……」

 

その約束は了承出来る類のものではなかった

 

もっと具体性が低い分類ならば可能性はある

 

しかしこれからと言う継続的な期間の指定と

 

会うという直接の接触なんて危険でしかない

 

俺なんかの危険ではなく他ならぬ小町の危険

 

ただそれを真っ向から伝えてやる方法はない

 

それでもこの約束は無かった事にするべきだ

 

だが俺よりも本人が後悔し顔を青くしている

 

たった数秒前の過去を悔やんで引き摺ってる

 

思わず口から滑り出たたけの言葉なんだろう

 

だからこそ小町の心の奥を一番に表している

 

どうして良いのか分からず泣き出しそうな顔

 

初めの別れの時の絶望が向こうから覗いてて

 

「あまり時間は取れないけど連絡は必ずするし、会えるように努力はする」

 

俺の口からもそんな言葉が零れ出てしまった

 

言いながら隣の小町の頭をそっと撫でている

 

瞑った目は健やかな寝顔の様に穏やかなのに

 

笑顔を浮かべながらポロポロ涙が落ちている

 

止めてやる事も手を止める事も出来ない様だ

 


〜Close〜

 

『…勝手にあれこれしたのに会うのも気不味くてな』

 

正直私の学校の成績は下から数えられる

 

上から数えるより確実に早いお馬鹿です

 

それでも大切な家族の嘘一つは見抜ける

 

何をそんなに誤魔化してるのか訊きたい

 

本当を話して欲しいと願うのは悪い事か

 

それと同時に私にさえ話したくない我儘

 

それを受け入れたいとも思ってしまった

 

()()()()()()()()()けど、会ってくれないのは寂しかった」

 

だからこれぐらいの仕返しは悪くない筈

 

チクチク以上が私の心にも刺さっている

 

永く長く伸びてまるで茨の様に巻き付く

 

そんな棘さえも繋がりだと思ってしまう

 

きっと私も何処かしら壊れてるのだろう

 

同じというだけで嬉しいのも一緒なんだ

 

だからこの棘を避けたら本当に赦さない

 

そう思ってお兄ちゃんを見つめていると

 

『…俺が悪かった』

 

気不味そうに申し訳無さそうに言ってる

 

少なからず私の事を想ってくれていると

 

その表情はきっと本心なんだと願ってる

 

でも私にも頼ってくれないのは許せない

 

守り育てる存在としか見てくれない兄も

 

頼られる存在だと思わせられない私にも

 

やるせなさと怒りがふつふつと湧いてる

 

それでも私はずっとお兄ちゃんの味方で

 

私はお兄ちゃんのたった一人の(家族)だから

 

「まったくもうお兄ちゃんは……これからは小町とも会ってね。約束だよ……」

 

棘よりお兄ちゃんを縛れる約束と言う鎖

 

弱みにつけ込むかの様なズル過ぎる方法

 

この約束はお兄ちゃんを困らせてしまう

 

こんな言い方をしちゃうと破れないから

 

すぐ嘘だよ冗談だよと言ってあげないと

 

「なんちゃって焦った?」なんて言って

 

()()()()()()してしまえば良い筈なのに

 

私の口は接着剤で貼り付けた様に固くて

 

僅かに隙間を開けても息が溢れるだけで

 

嫌われてしまうのではないかと震えてる

 

そんな小町にもお兄ちゃんは優しかった

 

『あまり時間は取れないけど連絡は必ずするし、会えるように努力はする』

 

そう言いお兄ちゃんがそっと頭を撫でた

 

とても優しい暖かさを感じる素敵な手で

 

小町の頭を少しの間だけど撫でてくれた

 

あぁ、お兄ちゃんは小町のお兄ちゃんだ

 

意味の無い感情を反芻する様に味わった

 

小さな弱い幸せが失われない事を祈って

 


〜Open〜

 

大変な約束と共にしばらく撫で続けた訳だが

 

そのかいあって小町の精神は回復したようで

 

薄っすら目元を赤くしてるが落ち着いている

 

「ごめんねお兄ちゃん…」

 

「いや別に小町は悪くない……」

 

誰が悪いかと問われれば間違いなく俺になる

 

曖昧な善悪でも都合の良い罪過でも違わない

 

互いに譲る事ないのは分かってて話が変わる

 

「えっと…お兄ちゃんはそっちの人達と一緒に来てたの?女の人ばかりだけど…」

 

流れを変えるためとはいえそこに話を振るか

 

いや、あえて触れる事で確認しにきてるのか

 

俺の人間関係にまともなものは全くないから

 

お節介焼きな所は昔とちっとも変わってない

 

だが二人に対してばかりと使うのは大げさだ

 

おそらくばかりの中には戸塚も含まれている

 

色々と整理して話すつもりだがまず訂正だな

 

あいつ等が勘定に入るのも少し気に食わない

 

「そっち二人は偶然会っただけだし、クラスメイトと顔見知りだ」

 

一緒に来ていないしサイゼに来た目的も違う

 

俺は会話に混ざってないので知らなかったが

 

戸塚が言うには向こうは勉強会をしてた様だ

 

「ははは……」

 

「……ええ、彼の言う通り私達は偶然会っただけよ」

 

話題に出た二人は別方向に顔を歪ませている

 

由比ヶ浜の方は乾いた笑いを浮かべているが

 

視線は別の方向を向いており顔を俯かせてる

 

雪ノ下は少しだが怒りの感情が発せられてる

 

そのまま文句でも挟むかと思ってたが静かだ

 

あの教師が言ってた変化とやらの影響だろう

 

面倒がないのならば俺としてはどうでもいい

 

「今日はこっちの戸塚に誘われて来た。それと戸塚は男だ」

 

「えっ?! 男の人だったんですね。間違えてごめんなさい」

 

「よく間違えられるから気にしないで」

 

容姿だけを見て女子と判断しても仕方がない

 

周りの空気は感じ取れても見抜けはしないか

 

だが小町は俺の言葉を疑うなんて事はしない

 

失礼な事をしたと慌てて戸塚に謝罪している

 

戸塚も直ぐに信じたからか機嫌は悪くないな

 

紹介はしたし総武側の来店理由も軽く話した

 

プライベートの話等なく此方が訊くしかない

 

「小町達は…さっきそっちのが相談とか言ってたか?それに関する話があったんじゃないか?」

 

それとなく解散しやすい方向にも誘導しとく

 

約束はしたが今のこの状況では落ち着かない

 

とはいえそう簡単にはいかずに思惑は外れた

 

「ちょうど良かったかも…大志くん、お兄ちゃん達に相談してみれば?」

 

「えっ?!でも…」

 

「いいのいいの。お兄ちゃん、小町との約束は破らないからさ。ちょうど総武高校の人がこんなに居るんだから」

 

俺としても向こうからしても予想外の提案だ

 

大志とやらが遠慮しているが小町が押し通す

 

話し方からして総武かそれに付随した相談か

 

「それならこいつ等にしとけ、総武に関する相談事も一応奉仕部の活動内容に含まれてる」

 

初め適当に付き合う為にと詳細は聞いていた

 

方針はあるが基本は悩み相談にボランティア

 

奉仕部で受けるか受けないかは決められるが

 

内容が内容で無い限り悩みを話す事は自由だ

 

「「えっ?!」」

 

俺が話を振ると思ってなかったのか驚いてる

 

ただただ面倒を嫌う故に関わりたくはないが

 

こいつ等は別に絶対的な悪性の存在では無い

 

俺にとって損な相手であり苦手な相手であり

 

排除しなければならない障害でも敵でもない

 

過大評価で無ければ最近は成長してるらしい

 

放り投げたとして悪い結果には早々なるまい

 

「俺としては総武の人に相談にのってもらえればとにかく助かるっすけど……」

 

勝手にどんどん進んでく話に尻込みしている

 

チラチラと投げ先の二人の方に視線を向ける

 

由比ヶ浜は雪ノ下の方をじっと見て待ってる

 

雪ノ下は少し思案したかと思うと目を開いた

 

「出会ったばかりの私達に話しても良い内容であると思うのなら聞くだけ聞くわ。ただ私達で解決出来るかは聞いてみるまでは分からない。それでも良いと貴方が思うなら話して」

 

話の成り行きを見守るでもなくただ拾ってる

 

見ない内に雪ノ下は随分夢を見なくなったな

 

前のこいつなら私達に解決出来ない物はない

 

それくらいの事は平気で言う人間だった筈だ

 

融通がきく程度で片付けられる変化ではない

 

一応仲介人として最低限の保証は出来そうだ

 

そう認識すると相談しやすいように席を移る

 

隣の二人席の小町達と席を変わるだけだがな

 

今さら元の席には戻して貰えそうにはないし

 

俺等は食いに来ていただけだから直ぐに立つ

 

とはいえ横を向きながら相談するのも何だし

 

妹の為でもあると思えばこれくらいは譲れる

 

寄せていた席を離して座ると戸塚が口を開く

 

「色々あってなんか疲れたね。どうする追加で何か頼んでも僕は問題ないけど」

 

対面の俺に問題なく届く程度の大きさの声だ

 

隣の奴等も相談事だからある程度小さな声だ

 

聞き耳を立てるか耳がいい奴以外は聞けない

 

俺は聞こえてしまうがさっきよりはマシだな

 

そんな事を考えながら戸塚への返答を考える

 

疲れたかどうかで言えば俺も精神疲労はある

 

とはいえこうなるととっとと帰りたい気分だ

 

「そっちに問題が無ければ最後にドリンクだけ飲んで帰りたい気分だ」

 

ある程度は取り繕いながらもそのまま伝える

 

相手の気遣いだろう物を否定する言い方だが

 

「そっか、確かに少し寄るだけのつもりが時間も結構経ってるしね。比企谷くん、さっき淹れてたので良い?それなら淹れてくるよ?」

 

戸塚は全く気にした様子もなく意見を呑んだ

 

世話を焼くとは違うがまた仕事を請け負って

 

ドリンクバーから今回の起点となったからか

 

思ってた以上に疲れていたからかは知らんが

 

戸塚の提案に頷いて俺はそのまま席で休んだ

 

話し相手がいなくなり近くの会話が耳に入る

 

「姉ちゃん親の言う事全然聞かないんすよ。俺が何か言ってもあんたには関係ないってキレるし…………中学のときとかすげえまじめだったし、高1の時もそんな変わんなくって変わったのは最近なんすよ…………でも、朝の5時過ぎナンスよ…………それだけじゃないんす、なんか変なところから姉ちゃん宛てに電話がかかって来たりするんすよ。たしかエンジェルなんとかって店で…………」

 

彼奴等の反応は聞かずとも別にどうでもいい

 

いやそもそも話の内容の全てがどうでもいい

 

だというのに情報の源に耳が勝手に集中する

 

その中のエンジェルと言う単語が頭に響いた

 

()()大志…確か彼処にいたのも()()だったな

 

家に電話をしたのは流石に非関係者だろうが

 

それ(電話)を取った大志と小町が知り合いなのか…

 

専門でない俺が簡単に内情まで把握している

 

なんなら店内を話し合いに利用できる程だし

 

犯罪組織としてのレベルはそこまで高くない

 

だからこそ何を考えるか分からない所がある

 

ああいう連中に限って無駄にプライドは高い

 

意地汚さまであれば未来の川崎は食い物だな

 

それはどうでも良いが問題は小町への危険だ

 

そのままでは繋がりなんて見えない間柄だが

 

仮に奉仕部が動けば多少は不審な点が見える

 

川崎と大志、そして大志と奉仕部を繋げる点

 

見る可能性は低いし見れる頭も無い相手だが

 

可能性が少しでもあるなら排除の必要も出る

 

他の組織を食い物にするのは珍しくもないが

 

仕事の代理や面倒を頼む現状で暴れられない

 

となるとやるべきなのは川崎の自然な離脱か

 

幸いな事に対象の問題点も勤務先も把握済だ

 

彼奴等が直接動く前に解決出来ればベストか

 

流石に帰宅して無ければ問題になってる筈だ

 

川崎は未だにあのバーに務めている事だろう

 

今日にでも会いに行けば良いんだろうがなぁ

 

比企谷八幡もフィーヌも動ける状態ではない

 

それなら使える奴を動かせば良いだけの話だ

 

「比企谷くん、おまたせ!!…あれ、どうしたの?」

 

険しい顔でもしていたのか覗き込み心配する

 

何も問題はない、問題らしい問題もなくなる

 

「なんでもない。飲み物は感謝する」

 

全てを飲み込む様な暗い暗い黒を呑み干して

 

自身の感情にさえ区切りを付けて嗤ってみせ

 

夢になり得ない早すぎる鐘の音(現実)を届けてやる

 






『2』




八幡「リンゴン リンゴン リンゴン 」
川崎「うるさ?!」


↑あんまり良い小ボケが今回は思いつかなかったけど、とりあえず遅れながらも投稿しました。なるべく同じFileは纏めて投稿したいんですが、ちょっと今回時間が掛かってます。

年末年始の盲腸が主な原因ですね。そちらは薬で散らして治ったんですが今度は風邪を引いたりと、八幡には圧倒的な差で負けるけど私も中々にボロボロです。

さてさて小町ちゃんがしっかりと登場し、今後も八幡に関わるようになりました。これが八幡にとってプラスになるかマイナスになるかは時と場合によるかな?

そして間に挟むか非常に悩んだ小町視点です。CloseOpenを使ったの平塚先生以来かな?しかもあれだって話が変わってから入れてるのに今回は途中で視点変えてるし、八幡以外の心情を多く入れるのは本当に悩んだ。

けど小町ちゃんはこの小説においては色々と特殊な立ち位置になるので入れました。具体的に言うと対応間違えると死ぬかな?八幡か小町か、はたまたその両方がね。ただし八幡にとっては最重要な守る相手でもあるし、そんな片鱗までは読み取れない。

色々と話が進んでいく中で分岐点の様な物は私の手元に書き記しており、まぁ全て書くのは現段階では無理ですが終わりの形も色々とあります。もちろん共有してる部分も多いですがね。

基本的に小町ちゃんへの対応は失敗しない前提で今回は進みますのでゲーム風に言えば小町ルートのバットエンドにはいきませんので、読んでる側の考察にはそこまで影響しませんがね。

登場人物同士の関係性、仲の良さとかは結構細かく管理して話を進めてます。流石に全登場人物を双方性では無理ですが、八幡からのやじるしと八幡へのやじるしはあります。前回の関係値の補足ですね。相手からの評価と八幡の相手の評価で色々と事が進みます。

次で解決まで行く予定ですし、ようやく彼女が登場する事でしょう。名前こそ出てないのに姿は登場してからここまで無駄に長かった。

さて語り過ぎも嫌われますのでここらでいつもの挨拶でお別れしたいと思います。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。

……予約投稿ミスった…2/4の朝に投稿する予定だったのに即投稿になってる……まぁ、良いか…特に問題はないし

……あ、次回の投稿に触れるの忘れてた…今回の解決までの道筋は完全に決まったのでそうかからずに投稿できる筈です…


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腐り目:File.5 Page.5


 

「また此処に来ることになるとはねぇ…」

 

見上げる建物の一角であるバーへ視線を向け

 

予想外だと愚痴には満たない様な言葉を溢す

 

容姿は若々しくて優しい表情を浮かべており

 

カジュアルスーツでドレスコードは問題なく

 

濃紺のスーツと色鮮やかな髪が対照的で映え

 

肩まで伸びた赤い長髪は後ろで一括りにされ

 

目の色はコンタクトか少し人工的な黄色の光

 

「さて、入るとしようか」

 

迷うこと無く進みだした足は真っ直ぐバーへ

 

キリッとした顔付きから止められる事もなく

 

カウンターまで出向くとそっと席へと掛ける

 

「ご注文はいかがなさいますか?」

 

そう聞いてくる店員は長い水色の髪の女性だ

 

左胸に付いてる名札に()()()()と書かれてる

 

「普段はこれと言うのは決めてないんだけど……それじゃあスピリッツが良いんだが…そうだ()()()()があったら貰えるかな。 オンザロックで頼むよ」

 

何かと縁がある酒なんだよねと男は笑ってる

 

目の前の彼女はカクテルは作ってなさそうで

 

そのままか氷か割るだけで出せる物を選んで

 

「かしこまりました」

 

頭を下げると直ぐに酒がグラスに注がれてく

 

その姿を笑顔のままじっと男は見つめていた

 

「あの、何か他にご要件でしょうか?」

 

ただ見つめられるのも不気味なのか問われる

 

男は慌てた様に首を降ってみせると口を開く

 

「いや、不躾にごめんね。僕より若そうなのに中々様になってるなと思ってね。僕もバーを経営してるからつい店に入ると動きを目で追っちゃうんだ」

 

男がそう返すと納得がいった様で表情が戻る

 

そして話している間に品の準備も終わってる

 

「そうでしたか、こちらこそ失礼しました。こちらお待たせのフィーヌのオンザロックです」

 

規定量まで注がれたそれを受け取り喉を潤す

 

その仕草まで何処か色っぽく様になっている

 

浮かぶ笑みや顔付きは幼く見えるというのに

 

全てを見ると何処かチグハグで不思議である

 

「言葉遣いとかもよく出来てるしね。君さえ良ければうちでも働いて欲しいくらいだよ」

 

「お褒め頂きありがとうございます」

 

「それが結構冗談じゃなくてちゃんとした奴だとしたら? 女の子相手にどうかと思うけどちょっと見てよ」

 

少し上を開けさせ見えるのは痛々しい怪我だ

 

肩周りに大きく痣が出来て、腕には切り傷が

 

その近く首元周りなんかは肌艶があり綺麗で

 

雰囲気に呑み込まれ無い様に川崎は首を振る

 

「仕入れの途中にお店の人のミスで瓶が落ちてきてね。打ち付けたのと割れて切っちゃったので肩から腕に掛けて今あまり動かないんだよ」

 

「それでも怪我で済んで良かったですね。頭に当たっていれば命も危険な状況ですから」

 

本気で怪我に驚き心配の言葉を男へと告げる

 

優しくて真面目なのがひしひしと感じられる

 

男は心配ありがとうと笑顔で川崎へと返した

 

「仕事が仕事だから出来れば経験者が良くてね。こうして駄目元で勧誘したって理由なんだ」

 

その後も男は条件なんかをつらつらと語った

 

怪我で急募しているから給金はかなり高めで

 

不定期で開いてるからその分も手当もある等

 

具体的な金額と共に言うと中々に揺れていた

 

だが揺れているだけで乗り気ではない様子だ

 

「開いてない時も待機扱いだから給金は出るし、開いてる時も人手が必要なのは準備のある午前中が主だから夜遅くにはならないよ。それも魅力にならないかな?」

 

「確かに条件は良いですがあまりにも都合が良くて疑ってしまいますね。それにお金は必要なので私は夜でも問題はありませんので」

 

「えぇ、そう? この時間帯()()()()()()()()()?」

 

「えっ……?!」

 

笑顔を隠さず確信した様子の男と目があった

 

先程まで話を聞きつつも飄々としていた川崎

 

その顔が一気に青く、白く変わるのが分かる

 

少しばかり挙動不審になりながら男を見てる

 

「何の事でしょうか? 私は既に成人していますが」

 

それでも認めてはいけないと誤魔化し出した

 

目だけは近くに誰か居ないかチラチラ動いて

 

ポーカーフェイスから程遠い素直さが見える

 

そこに畳み掛ける様に更に男が言葉を紡いだ

 

「見た感じ八幡君と同じくらいにしか見えないんだよね」

 

「八幡君と言うとあの比企谷八幡でしょうか?」

 

少し驚きを見せたが有名人として名を捉える

 

川崎沙希(クラスメイト)として知ってる様には話していない

 

それも次の男の発言で簡単に崩れてしまった

 

「まぁね、うちの常連さんだから仲良くさせて貰ってね」

 

「えっ?!あいつバーに通ってるの?!」

 

口調さえも崩して少し声を荒げて驚いている

 

次の瞬間には口を手で隠して失敗を悟ってる

 

だがその失敗も中々に仕方ない事だったろう

 

川崎自身のクラスメイトで総武高校の有名人

 

そして弟の友人の兄かもしれない者の名前が

 

ヤバいで済まない話題で飛び出したのだから

 

「その反応…ふふ、やっぱり未成年だね。口調はそのままで僕は気にしないよ。それとうちはカフェ兼バーだから此処と違って高校生が通っていてもおかしく無いからね」

 

「あぁ……そうですか」

 

納得をしつつもしてやられたと機嫌は悪そう

 

明らかにボロが出るのを狙った話し方をされ

 

まんまと引っ掛かってしまっては無理もない

 

未だ話し方は正そうとしている辺り真面目だ

 

「こんな時間まで働くなんてそれなりの理由があると思うけど、あまり危ない事はしない方が良いよ」

 

「そんな事は分かってる!!…あ、すみません……」

 

お客に対して怒鳴ってしまい直ぐに謝罪する

 

幸いな事に声は荒げてもそこまで大きくない

 

他の店員も客も近くに居らず何も気付かれず

 

店内は何事もないいつも通りのままの空気だ

 

「大丈夫、大丈夫。ほらゆっくりで良いから、順番とかも考えずに話せる事を話して、ね」

 

「…うち下に三人もいて…両親共働きで忙しいし…直ぐ下は受験生だしで…わがままなんて言えないから……」

 

「そうなんだ。下の子のお姉さん頑張ってるんだね。とても大変だろうに偉いね。でも年齢詐称はお店側も困る事だし、学校にも迷惑がかかるかも、更には家族にもね」

 

認めつつも注意を織り交ぜて続きを促してく

 

ぼそぼそと整理する事なく心の内を溢してく

 

それを余すこと無く拾って集めて受け入れる

 

「でもお金がないと……私も大学は行きたいし…授業だけじゃ自信ないから…だけど誰かに相談なんて出来ないし…それなら……こうするしか……」

 

大学へ行く費用は出せても予備校は厳しいと

 

大変な中で高校生にもなって我儘は言えない

 

それでも諦めきれない中で何とか考えた結果

 

誰にも頼らず必要なお金を稼ぐ手段がバイト

 

その中でも賃金の高い深夜帯のバイトだった

 

「予備校かぁ…それだけ勉強したいならスカラシップって知ってるかな?」

 

「スカラシップ…?」

 

話を聞いていた男がふと思い出す様に言った

 

川崎は繰り返すも聞き覚えはないと首を振る

 

「成績優秀者の学費を免除してくれるシステムだよ。塾も実績が欲しいからね。受験対策してる所だと塾ごとに設定されててもおかしくないよ」

 

「そんな物が…何も知らなかった…でも最近授業も受けれてないし…このままじゃ……」

 

勉強の為のバイトで勉強が出来なくなってる

 

本末転倒な話だが本人には切実な思いである

 

スカラシップが難しい以上直近の手段は必須

 

その為の資金まではせめてなんて考えもある

 

しかしそれを打ち砕くに十分な爆弾もあった

 

「何方にせよこの店は辞めた方が良いよ。此処は裏で危ない所が絡んでるからさ」

 

そう言い懐から数枚の写真を隠しつつ見せる

 

そこには如何にも堅気でない男とチーフの姿

 

他にも裏口から何かを運び入れてる所などが

 

詳細に写されており川崎の血の気が引いてく

 

「こ、これ…?!」

 

「シー…ま、そういう事だね。これからを決めるにしても此処で働くのはおすすめしないよ」

 

そう優しく告げると何とか平静を装い頷いた

 

コクコクと必死に顔を動かしての意思表示だ

 

「それでも最終的には川崎さん次第だけど…どうする?」

 

自身で選択するべきと言う考えが根付いてる

 

そんな男の優しい声の厳しい問いが投げられ

 

「私は……」

 


 

やる事を終えた八幡は拠点(寒川別荘)にて休んでいると

 

嫌な着信を報せる振動が体へと伝わってきた

 

比企谷八幡は気怠げにしながらも携帯を取る

 

「何の様ですかベルモット」

 

最早見慣れた仕事用の番号に確認後せず返す

 

すると向こうも即座に声を出して話し出した

 

『少し気になる事があってね…仕事の一部を他に回すように頼んでるわよね?』

 

「それには理由が……」

 

焦る必要はなく冷静に弁解に入ろうとするも

 

『怪我の事なら知ってるわ。文句を言う気も頼み事する気もないから安心しなさい』

 

なんてこと無いように把握していると宣った

 

安心と共にどうやって知ったのか疑問が湧く

 

だが言動に一々反応を示しては身が持たない

 

一抹の不安と不思議は飲み込み用件を訊ねる

 

「…それじゃ本当に何の様でわざわざ電話を掛けてきたんですか?」

 

今すぐその用件を話してくれと意志を込めた

 

声から滲み出る思いは余り意味ないだろうが

 

ベルモットからは特に何もなく話へと入った

 

()()()を動かしたと私の耳に入ったのだけど……そんな状態で問題はないんでしょうね?』

 

なんてことないただの確認の為の電話だった

 

なら変に焦る事をついでに聞かないで欲しい

 

そんな思いを込めた溜め息を一つ吐き出して

 

八幡もなんてことない様に口を開き報告する

 

「その事でしたか、特に問題は無いですよ。勝手な評価ですが相手があの程度なら失敗するとは思えませんから」

 

それは強がりでもない純然たる事実であった

 

個人的に動かしたとしても問題もない存在で

 

危険も組織への不利益も発生しないと言える

 

八幡の主張に一拍おいてから反応の声が届く

 

『そう、なら問題ないわ。宇佐門は好きにしなさい。それと私のものである貴方の経過については随時伝える様に』

 

「了解」

 

用件は終わったと言いたい事だけを言い切り

 

一方的な命令への返答をもって電話も切れた

 

本当に何処から情報を仕入れてんだか…」

 

つい小声で呟き八幡は今度こそと休息へ戻る

 

静かな時間がまた数分後に壊れるとも知らず

 

束の間にも程がある短過ぎる一時を味わった

 


 

大通りからは少し外れた小さな路地の一角に

 

看板らしい看板など出されてない店がぽつり

 

窓はあるが中を覗き見る様な構造ではなくて

 

店が開いてるかも何の店なのかも分からない

 

扉に店名は書かれても入り難い事間違いなし

 

世間にも認知されてないその店の前に人影が

 

まだ若い学生らしきその女性は迷わず進むと

 

"パロマドラダ"そう綴られた扉へ手を掛けた

 

「すみません!!少し遅れました!!」

 

迷いが無いのは勿論だが急いでもいたらしく

 

一気に開いた扉からカランコロンと音が響く

 

「来てくれだけで有り難いから気にしないで、ただでさえ不定期なのも申し訳ないのに急な開店にも付き合わせてごめんね()()()()()

 

最近まで規則を破り夜遅く働いていた少女だ

 

そして少女を優しく迎え入れるのは赤髪の男

 

「いえ()()()()()には本当に世話になりっぱなしなんで、しっかり働かせてください」

 

それは危ないバーから自然と抜けさせた事か

 

それともかなり高い給金が支払われてる事か

 

もしくはスカラシップとい制度を教えた事か

 

それともその全てを含んでかは分からないが

 

川崎は多くの恩を宇佐門に対して感じていた

 

「とりあえず運び込みと奥の掃除からで大丈夫ですか?」

 

「うん、いつも助かるよ」

 

川崎がやってるのはなんて事ない雑用が多い

 

届く食材や飲み物を保管場所に運びこんだり

 

客が来た日は昼間に使われた食器を洗ったり

 

カフェを閉めてバーが開く間に店内の掃除と

 

大変と言える様な業務はこれっぽっちもなく

 

勧誘時に経験者が良いと言ってた意味もない

 

それなのに多くの給金を受け取って良いのか

 

働き始めてから直ぐに川崎は宇佐門に訊いた

 

すると宇佐門はなんて事ない様に笑って言う

 

「お酒の種類や名前とか扱う為の器具の知識があるだけで十分なんだよ。やっちゃいけない事とか危ない場所とかはなんとなく分かってるしね。一から全部教えるよりもずっと楽させて貰ってるから大丈夫だよ」

 

本当かもしれないが絶対でもない答えだった

 

探せば川崎よりも動ける人だっている筈だし

 

内心で納得してないがこれで終わりと言われ

 

店主の意向に従いせめてと仕事に力を入れた

 

川崎のパロマドラダでの日々はとても順調で

 

無駄にした時間分の勉強を見てもらうなどの

 

さらなる恩を受けたりもしながら続いていき

 

少し先の未来にて騒動はあるが今この時には

 

静かな店内にあるのは穏やかな空間であった

 


 

ファミレスの一つであるサイゼのテーブル席

 

そこに以前に顔を合わせた四人が揃っていた

 

「いやぁ、急に連絡したのに直ぐに集まって貰えるなんて、お二人共本当にありがとうございます!!」

 

そう告げたのは連絡役を担当した比企谷小町

 

呼び出された側の二人は気にしないでと返し

 

その内一人は待ったりはせずに本題へと入る

 

「それで相談の取り消しと聞いたのだけれど」

 

話を切り出したのは奉仕部部長の雪ノ下雪乃

 

視線の先にはこの集会の大元である川崎大志

 

「はい…なんか姉ちゃんなんですけど最近は普通に帰ってきてて…変な名前の店からの電話もあれ以来なくなったので…問題がないなら相談もこのままでで良いのかなって思ったっす……」

 

その様に口にする大志の声には余り力がない

 

大志としても解決と言い切るにはあやふやで

 

何が起きてどうなったのか分らなかったのだ

 

「こちらも家庭の事だからとまだそれとなく探ってる状態で接触すらしてなかったけど、何もわからない不透明なままで終わっても良いのかしら? 何をしてたのか分からないままでは再発の可能性も考えられるけど……」

 

動き出す前の今ならフェードアウトは可能だ

 

奉仕部としては依頼者からの意向には従うが

 

雪ノ下は納得していないのか大志へと訊ねる

 

「今まで何してたのかははぐらかされてるので全く分からないのは確かっす。それでも最近はそこまで言い方はきつくなくて、ピリピリしてた空気が無いのでたぶん大丈夫かなって、何の証拠にもならない主観なんすけど…」

 

「家族の事は家族である大志くんの方が気付ける事はあるとわたしは思うよ。それと教室で川崎さんを見てた感じ遅刻とかも全然しなくなってたから確かに良くなってるんじゃないかなぁ」

 

学校の様子も踏まえて言うのは由比ヶ浜結衣

 

不安そうに意見を告げる大志をフォローする

 

家でも学校でも現状では何も問題はないのだ

 

「そう、それなら調査はここまでね。また何か問題があったなら遠慮せずに連絡してちょうだい」

 

「はい!!皆さん本当にありがとうございました!!」

 

相談に乗ってくれた三人に大志がお礼を言い

 

その場は程なく解散しこの依頼も幕を閉じた

 


 

「それじゃありがとうございました。お先に失礼します」

 

元気に返事をして唯一の従業員が上がってく

 

掃除は彼女がやったのでもうやらなくていい

 

一見お断りなこの店では他店より客は少なく

 

業務の全体から見てもやる事は少ないけどね

 

そんな事を考えながらバー開店の準備を進め

 

バーの営業を開始してからは暇を潰している

 

常連には開店の報せを携帯に届けてるのだが

 

カフェの間は客層が広い為に零にはならない

 

だが客が大人に限られるバーは零の日もある

 

それでもやっていく分には何一つ問題はなく

 

のんびりとした時の流れすらも楽しんでいる

 

「夏休み中はけっこう開けるだろうし、沙希ちゃんも出勤するかな。となると直ぐにでも塾代くらいは貯まるかな……っと、珍しいな紹介かな?」

 

重くないが事情のある彼女の事を考えてると

 

バーの入口の方から扉が開く音が鳴り響いた

 

そしてその常連の横には見知った見ない顔が

 

「一見お断りの店とはさすが旭さんっすねぇ。しかし俺なんか紹介しても良いんですか。それに場違いな店だったりしませんかね?」

 

「はは、この店はそこまで厳しくはないさ。客を選んでるのもあくまでマスターのこだわり故さ」

 

そんな会話をしながら店の奥へ入ってきた

 

カウンター近くまできた客へと頭を下げる

 

「いらっしゃいませ旭様、隣の方はご紹介ですか?」

 

実業家でレストランを経営している旭勝義様

 

隣に立っているのはそれなりに有名な人物だ

 

「あぁ、ペットの猫探しを依頼させて貰ってね。名探偵の()()()()()くんだよ。依頼の報酬とは別に労おうと思って此処を紹介したいんだが構わないかね?」

 

「えぇ勿論です。初来店から規定の期間が経ち、規定数以上の来店をされていれば何方でも紹介出来ますので」

 

「そうか、それなら早速呑ませて貰おうかな。毛利くんも座ろうじゃないか」

 

初めは()()()ばかりだったがかなり広まった

 

それでも常連の人数は予定通り限られている

 

客が来るのは嬉しいが無駄に忙しくても困る

 

なんやかんや言っても今くらいのが丁度いい

 

「えぇとマスターさんお若いっすね。旭さんから紹介されましたが探偵の毛利小五郎です」

 

「毛利様ですね。お名前はかねがね聞かせて頂いております。このカフェ&バー"パロマドラダ"の店長兼マスターをしています宇佐門(うさかど)大西(たいせい)と申します。これからよろしくお願いいたします」

 






『0』


ジン  「仕事を代わらせてるらしいな?」
八幡  「あぁ?!なんだお前かよ…」
ジン  「……」
ウォッカ「兄貴、どうしやした?」
ジン  「切れた……」

ベルモットの数分後に電話かけたジンさん、タイミングが悪過ぎた様です。怪我した情報は確保しているのでよく分からないままご機嫌取りにお見舞いの品を送るジンさんの姿をウォッカが見守ります。

これにてFile5は終了となりますが、次の投稿は遅くならないと言いつつ一週間以上あきましたねぇ。原因はなんて事ないただのサボりです。遅れてすみません。

危ないある意味主役とも言える川崎さんですが今回一話の登場でおしまいとなりました。まぁ、パロマドラダに居るから宇佐門が出る際に顔出すかもね。

いやぁ俺ガイル原作よりも危なくなってしまったバーから無事に退職できて良かった良かった…(なお新しい職場の裏側の方が危険とかは考えない)

そして前回から匂わしていましたが、新しいキャラの登場ですね。まぁ色々とまた面白いキャラですが明言されてない事には触れないので詳しくは今後をお楽しみに。

言えることがあるとすれば依頼とか事件で一時的に出すオリキャラと違って寒川幸と宇佐門大西は基本的に終盤まで出てきますのでよろしくです。

宇佐門大西の姿は絵を作ってくれるアプリでAIに描いて貰ったんだけど、どうせならもう一人のオリキャラの寒川も作ってから公開しようと思ってたんですが……

挿絵ってあったら邪魔ですかね?なんかイメージと違うとかもあるかもしれないし、ない方が良いって意見も絶対にあると思うんですよね。だからちょっと悩み中。

アンケート取るほどのことでは無いし、そういう手法の作品でもないのに、自分の作品の事でアンケートに委ねるのはなんか責任から逃げてるみたいだしねぇ。

アンケートしたとしても選ばれなかった側にわだかまりは多少は残るだろうし、やるとしたら活動報告に載せてみたい人だけ見るが無難かな?

さて話がずれましたが他に触れる所があるとしたら旭勝義についてですかね。14番目の標的の登場人物と言う事は直ぐに分かってるでしょうし、予想は簡単でしょうが近い内にやります。

ですが劇場版をやる前に千葉村へと参ります。奉仕部に入ってないのに行けるのかって?そこいらへんは読んでからのお楽しみと言うことで(最近そればっかですみません)

千葉村と言うことは勿論ですがあのキャラが登場します。その他にも既に登場済みの俺ガイル勢もちゃんと登場します。

てすがコナン側との絡みは少ないと思いますのでその点はご了承ください。あくまで原作との変化を楽しむ感じになると思います。

他に言うことあったかなぁ……多分ない!!と言うことでね。次の投稿であるFile6は三月には上げられると良いなぁ(願望)と思ってますので気長にお待ち下さい。

それではいつものあいさつでさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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腐り目:File.6 Page.1


 

組織関連でない怪我をして三ヶ月経った頃

 

寒川家のお抱え医師から診察を受けていた

 

治療や診察も()()()となると慣れたものだ

 

「あれ程の大怪我を重ねて何故この短期間で回復するのか……医者としては不思議でなりませんよ」

 

診察結果は殆ど完治していると告げられた

 

死にかけた割に治れば呆気なく拍子抜けだ

 

「気を抜いてるかもしれませんが、殆どと言った様にダメージ自体はまだ残っています。()()()()早々無いと思いますが無茶な動きはしない事です」

 

別に気にしないが言葉に棘が刺さっている

 

治りかけで潜水した事を根に持っているな

 

まぁ保証こそ出来ないしする義理もないが

 

何時までも負傷してるのも面倒に違いない

 

「でもたしか八幡くん出かけるんですよね?」

 

寒川の言う通り数日後には出かける予定だ

 

だが仕事との関係は一切ないので問題無い

 

ある意味仕事の皺寄せの結果とは言えるが

 

ただのボランティアへの参加に危険は無い

 

「学業の都合で必要な物を止める権利…いや、私達に比企谷様の行動を決める権利はありません。ですが、少しでも良いのでご自愛ください」

 

分かったと示す様に形だけでも頷いてると

 

携帯端末から連絡を報せる音が鳴り響いた

 

「まさか、またお仕事ですか?」

 

鳴っているのは仕事用じゃないと否定する

 

メールの受取と共に送った人物の確認する

 

そこには"小町"と妹の名前が書かれていた

 

ベルモットの悪戯で無いことに安心しつつ

 

何かあったのではないかと内容を見ていく

 

段々と自分の顔が険しくなったのが分かる

 

普段と違う難しい表情に寒川が訊ねてきた

 

「何か大変な事でもあったのですか?」

 

「いや…前に約束したから会えないかって言う連絡が来ただけだ」

 

そう言うと寒川もこの表情に納得した様だ

 

この二人は俺の予定を大体知ってるからな

 

「確か…八幡くんは休んでた分の皺寄せでボランティアの日以外のお休みは仕事でしたよね?」

 

その通りで今から予定の調整なんて無理だ

 

多少は時間も作れるだろうが確実にバレる

 

組織に小町の存在が、小町に組織の存在が

 

なら会わなければ良いだけの話だと言うが

 

「悩んでると言う事は八幡くんも会いたいんですね。それならボランティアに連れて行ってはどうですか? お相手は小学生のようですし、中学三年なら担当の先生次第では手伝いを認められるのでは?」

 

到底無理な話と一蹴するには可能性が高い

 

ボランティアの担当はよく知っている相手

 

奉仕部の顧問であり生活指導である平塚静

 

ボランティアの紹介の際に連絡先も貰った

 

だが、こんな都合のよい事を頼めるものか

 

一抹の不安を抱きつつ駄目元で番号を押す

 

「はい、平塚です」

 

何回かコール音を聞いてから無事に繋がる

 

番号を渡してないから誰かも分からないか

 

悪戯と思われない様に此方も名前を告げる

 

「休み中にすみません。比企谷です」

 

「おお、比企谷か!! 渡しておいてなんだがお前から電話が掛かってくるとは思わなかったよ。それで何の用かな?」

 

驚いた後に何故か知らんが嬉しげな様子だ

 

此方としては話を切り出し安くて良いか…

 

「あの、もう直ぐ例のボランティアがありますよね」

 

「あぁ、千葉村のだろう? 何か予定でも入ってしまったのか? 足りない出席の代わりになりそうな物は少ないからこれが駄目だと少し調整を考えるのは大変になるが文化祭で何かするか、生徒会関連の手伝いとかが一応考えられるが……」

 

俺を心配し、頼まずとも次の案を提示する

 

この人はなんでそこまでするんだろうか?

 

不思議に思いつつ本題に入ろうと声を遮る

 

「いや、そうではないんです。ボランティアには行けるので当日はお願いします」

 

「それなら良かった。それじゃ電話の用件は一体なんだ?」

 

君は事前に挨拶するタイプじゃないだろう

 

正しいが失礼である認識と共に訊ねられる

 

「そのボランティアに一人同行者を連れてきては駄目でしょうか? 俺の妹で中学三年生なんですが」

 

「ふむ、君の妹か…此方としては少しでも手が増えるなら問題はない。中学三年なら問題なく動けるだろうし、ボランティアとは言え高校の活動に参加するのも良い経験になる」

 

「それなら「だが…」何かまだあるんですか?」

 

お願いしますと続く前に声が間に挟まった

 

先生的に大丈夫でも厳しい可能性もあるか

 

そんな事を考えながら向こうの話を待った

 

「いや、単純に理由を訊いておきたいと思ってね。君がそんな事を頼むのは珍しいどころの話ではないだろう。それに押し付けられたとは言え責任者だからな。参加者について把握しておく必要はあるのだよ」

 

同行自体に問題がないのであれば良かった

 

だが理由か…この場で咄嗟に嘘はつけない

 

後々に発覚するのが目に見えているからな

 

仕方がないのでそのままを語ることにした

 

中身はさておき予定が立て込んでいること

 

妹から会いたいと連絡がさっき届いたこと

 

それでボランティアへの同行が浮かんだと

 

「なるほどな。そういう事なら構わんよ。それにしても比企谷にもそう言った悩みに振り回され、大人に相談しようとする子供らしさが見えてなんとも嬉しい気分だ」

 

俺の事でなんでこの人が嬉しくなるんだが

 

前後の繋がりの見えない発言に頭が痛いが

 

小町との約束が無事に果たせるのなら良い

 

最後に礼だけ伝えて切ろうと思ったその時

 

「忘れてたが総武の学生じゃないから念の為に親御さんからの許可はきちんと取っておく様にしてくれ。それと中学に此方で連絡を入れれば君の妹に内申点を追加できるかもしれんが話をしておこうか?」

 

親御さんねぇ…伝えた所で取らないだろう

 

中学の方も下手に伝わったら面倒になるな

 

「妹に伝えておきます。望んだらお願いしたいですが、それは直ぐに確認した方が良いですか?」

 

「いや、なんならボランティアの日に直接聞くでも問題はないが……」

 

「そうですか、それなら本人に確認してください。それではありがとうございました」

 

「お、おい…」

 

最後に声が聞こえた気もしたが気の所為だ

 

そう言う事にして話を終わったものとして

 

小町にボランティアの事をメールで伝えた

 

参加の意思は喜びに塗れながら返ってきた

 

もう一度返信して俺も改めて準備を整える

 

良い時間になる事を意味も無く祈りながら

 


〜Close〜

 

見守るべき生徒である雪ノ下

 

そして彼女の友人の由比ヶ浜

 

二人の他に同じクラスの戸塚

 

多くの者に彼は影響を与えた

 

学業は優秀の言葉に尽きない

 

学業のみならず運動面でもだ

 

だがやはり生徒らしさのない

 

誰より大人に近く感じる子供

 

そんな者だからこそ気になる

 

「反応があったのは親と中学の話の時だな。それと彼の妹と言うと報告にあった比企谷小町くんだろう」

 

生活指導の立場は伊達でなく

 

隠された動揺も僅かに気付き

 

何かが繋がった様な気がした

 

そして話の内容を振り返ると

 

部活の報告書を机から出した

 

【ファミレスにて当校生徒、『比企谷八幡』の妹、『川崎沙希』の弟と遭遇。その際に『川崎沙希』の最近の生活について『川崎沙希』の弟より相談を受け、状況改善に向けて話し合いを行った。その数日後『川崎沙希』の生活状況が改善、学校での姿も踏まえて依頼者が問題なしと判断し、依頼の取り消しを確認】

 

端的に書かれてる依頼の流れ

 

生徒の生活関係なら相談しろ

 

そう言いたい気持ちもあった

 

だが教師に言えない事もある

 

依頼者や対象への配慮だろう

 

だからこれもマナー違反だが

 

『はい、雪ノ下です』

 

「休みにすまんな。私だ平塚だ」

 

少しでも手掛かりはないかと

 

比企谷の妹と会った雪ノ下に

 

休みで悪いと思うも連絡した

 

学業やボランティアの事など

 

なんてことない話をしてから

 

「一つ訊きたいことがあるんだが良いか?」

 

『訊きたいことですか、それはいったい?』

 

雪ノ下も不思議そうな声色だ

 

此方が本題だと気付いている

 

だからこそ内容を気にしてる

 

「活動報告を見たんだが、君は比企谷の妹にあったそうだね。その時の様子を少し教えてくれないか?」

 

『……幾ら先生でもそれはプライバシー的にだめなのでは?』

 

悩んだのが伝わる間をおいて

 

それとなく断わりを返される

 

だがここで止まってられない

 

そんな予感から食い下がった

 

「これはオフレコでお願いしたいんだが彼と妹もボランティアに参加する。その為の把握だから私の仕事の範囲内だ」

 

大いに詭弁に溢れた言い方だ

 

生徒や仕事を利用するなんて

 

普段は絶対にしたくない事で

 

してはならない事に違いない

 

それでも雪ノ下を言い包めた

 

『そう言う事でしたら、比企谷君とその妹の小町さんについて私が見聞きした様子をお話します』

 

そうして雪ノ下から話を聞き

 

その異様さに流石に驚かされ

 

声を漏らしそうにもなったが

 

平静を装い礼を伝えて切った

 

「親との縁を切っていて、妹とも三年間あっていないとは……出席日数は仕事の関係でだろうが…どんな家庭状況だったんだ? それに家を出ておいて中学は何も把握してないのか? そんな訳がないだろう!!」

 

取り繕った書類に価値はない

 

まだ見えてない事がある筈だ

 

私は再び携帯端末を取り出す

 

「すまない私だ。あぁ、今日は頼みがあって連絡を入れたんだが、少し調べて欲しい事がある」

 

古い知り合いに電話を掛けて

 

直ぐに頼み事について伝える

 

渋られたが必要な事だと言い

 

無理をきいて貰う事が出来た

 

時間が掛かると考えていたが

 

報せは思ってたより早く届き

 

その情報にじっくり目を通す

 

「イジメにネグレクト、『細かく調べずとも簡単に調べられました』か……ふざけるな!!」

 

教師として到底認められない

 

杜撰で適当な中学のやり方に

 

知っても何も出来ない自分に

 

やり場のない怒りを叩きつけ

 

「……とりあえず準備を念入りにしよう。ボランティアで問題の起きない様に……」

 

特大の爆弾である生徒を想い

 

ずっと出来る事を考え続けた

 

彼は生徒で子供で私は教師(大人)

 

ただやるべき事をやるだけだ






『0』


八幡『ボランティアと言う形でなら泊まり込みで千葉村に行けるぞ』
小町『ヒャッホー!!イエーイ!!オラオラオラウラァ!!ウレシー!!コマチイッキマース!!』
八幡「喜びに塗れてやがる……」


とりあえず締め切りを伸ばしに伸ばしてですがようやく投稿できました。続きも書き始めてますので少しだけお待ち下さい。

今回で平塚先生が八幡の過去におけるおかしな事の一端に触れました。少し危ない行動ですが学校関係、いわゆる表における過去なのでセーフです。

現段階では組織や八幡にも気付かれていませんし、直接調べた人も見つかってません。連絡先はコナン側の原作キャラと知り合いの設定にしており、その伝手を使っての今回の行動です。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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