星空?なにそれおいしいの? (たこ焼き王国)
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第一話 俺の日常

ちょこちょこ更新していきます。
遅かったり放置してしまうときもありますが、長い目で見ていただけると幸いです。


 俺の名前は伊藤 祐樹(いとう ゆうき)

 

 そこらへんにいる普通の高校生だ。

 

 ただ一つ特異な点を挙げるならば、俺は授業中だろうが休み時間だろうが、とにかくゲームをやり続けるゲーマーだという事。

 

 そして、そのゲーム自体はというと「ドラゴンクエストIX ~星空の守り人~」で、あの大人気シリーズの第九弾目に発売されたゲームなのだが、本編に謎解きなんてものは、ほぼ存在せず個人的に言わせてもらえば、いわゆるヌルゲーだった。

 

 だが、しかしその後が問題だった。

 

 実は、このソフトにはシリーズ史上初の異様な機能が搭載されている。

 

 RPG《ロールプレイングゲーム》とは、ゲーム内で生活を体験するゲームという意味であるが、このシリーズの場合、自らが世界を救う勇者になり悪の魔王を倒してゲームクリアで終わり。という流れのものが主流なのだが、このソフトには『廃人仕様』ともいえる要素が搭載されていた。

 

 一つ目は、『宝の地図』。

 

 これは、約100パターンを軽く超えてしまう量があり、その全てがLv《レベル》で分けられたダンジョンになっている。

 

 そのダンジョンの最下層には、必ず一体ボスが居て一番強い奴になるとLvの最高値である99にしても倒せないボスが現れる。

 

 そこで、二つ目の『転生』だ。

 

 これは、Lv99から更に強くなりたい場合に使うものだ。

 

 やり方は簡単。

 

 Lv99までレベルを上げた後、『ダーマ神殿』に行く。

 

 その奥にいるおっさんに話しかけ、選択肢が現れるので『転生』を選ぶ。

 

 『転生』の条件として、Lv99になっていないと行えないという点がある。

 

 しかし、『転生』による効果は絶大で、Lv99からLv1+1という表示に変わる。

 

 だが、多くの人はレベルが下がると言い弱くなるんじゃないか?と思われるかもしれないが、Lv1と『転生』を10回やった状態であるLv1+★では、ステータスに恐ろしい差が生まれてしまう。

 

 なぜかというと、このシリーズの特色の一つである『職業』だ。

 

 この『職業』には下級職業である戦士・魔法使い・僧侶・武道家・盗賊・旅芸人と、上級職業であるバトルマスター・魔法戦士・レンジャー・パラディン・賢者・スーパースターの計十二種類がある。

 

 『職業』毎にLvアップによって得られるスキルポイントを割り振って使用可能となるスキルまたは特技とよばれる技能を取得することができる。

 

 このスキルの中には、ステータスアップの恩恵が得られるものもあり、このスキルを利用して強くしていくとさっきも言ったようにステータスに差が生まれるわけだ。

 

 しかし、『転生』無しのLv99でもアイテムと頭脳があればなんとかなる。

 

 俺には頭脳がなかっただけだ。

 

 しかし、俺にはある別の目的がある。

 

 それは、すべての値のカンスト《カウンターストップ》と完全クリアだ。

 

 そのためには、全10種類にもなる職業のLv99+★化と『せんれき』に表示されている値の群れをカンストさせることが必要だ。

 

 そしてまだ、このソフトを完全攻略するには足りない。

 

 三つ目に、『クエスト』というまた厄介なものがあり、NPC《ノンプレイヤーキャラクター》の頼まれごとをしなくてはならない。

 

 これにも膨大な種類があり、簡単なものから各地を飛び回りさまざまなアイテムを納品しなければならないという面倒くさいものまである。

 

 しかし、この最強となった主人公に困難などあんまり無い!と、言いたいところだが。

 

 プレイヤーの気苦労を考慮に入れなければ、という条件が入る。

 

 しかし、その膨大にあったクエストものこりあと少しというところまできている。

 

 そのうち二つのうちの一つが終わりそうである。

 

 『セントシュタイン城』で昼夜かまわず寝転がっているおっさんからの頼まれごとで、「トトとかいうガキに渡すようにたのまれた手紙を『ゴールドタヌ』というモンスターに取られたらしい」

 

 しかし、このモンスターには『宝の地図《ち ず》』攻略のときに犠牲になってもらっているので手紙は取り返し済みだ。

 

 あとはトトという少年だが、これも別のクエストのときに『サンマロウ』で見かけているので、探さずに済む。

 

 ということで、主人公の専用技『ルーラ』を使って目的地に飛ぶ。

 

 『サンマロウ』の教会のすぐ横の墓地にいるトトという少年に話をかけ、手紙を渡してクエスト終了となった。

 

 のこり一つのクエストは、「なんでも燃やせるものをもってきてくれ」というもので、『カラコタ橋』にいる焚き火にあたっているおじいさんからのクエストで、これは誰しもが真っ先にやるクエストだと思われがちだが、こんな簡単に終わるクエストは後にのこしておくのが俺の主義なので、残しておいた。

 

 理由をいうと、あとあとメチャメチャ面倒くさいのが大量にたまっていたらやる気がなくなるだろうと、見越して最後にのこしておいた。

 

 だって、学校の定期テスト毎に提出物があるが、ワークの宿題が終わったとおもっていたら別のワークの宿題が待っていることがあるとやる気なんておこらなくて、禁断の書でもみながらやってしまおうかな?と心のやみと闘わなくてはならなくなるだろう?あれと同じさ。

 

 しかし、さいごのクエストをやってしまおうと思っていたが、リアル《現実》のクエストをこなさなくてはならないことを思い出した。

 

 そう、先生が机の間を縫って徘徊しだしたのだ、これにはクラスの男子何人かもスマホいじりをやめ、背筋がピンッとなりいい姿勢でノートを取り出した。

 

 先生が近くに来たので、メニューを開き中断の書にセーブをして、電源を切り上着の裏にある胸ポケットに入れた。

 

 ここにも自分のこだわりがあるのだが、まぁばれにくくなるということだ。

 

 そして、俺はいかにもまじめに授業をうけているかのようにノートをとりだした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 この日のすべての授業が終わり、俺はどの学年の生徒よりも早く学校を後にした。

 

 帰宅後、自分の部屋がある二階へと急いでのぼり、上着を脱ぎベッドに放り投げた。

 

 高校指定の通学カバンから件のソフトの入った携帯ゲーム機を取り出し、折りたたみ式になっている本体をひらいた。

 

 そこから本体側面についているスライド式のスイッチをONの方へと滑らしゲームの起動を待った。

 

 数秒後タイトル画面が表示され『続きから』を選択。

 

 場所は、『サンマロウ』にてクエストを終了したあとからだった。

 

 最終クエストの目的地は『カラコタ橋』という橋に町……というよりか、スラムといったほうが正しいのではというところである。

 

 今回はその橋の下にいる、老人になにか燃えるものを差し出すクエストである。

 

 このクエスト、用は燃えるもの……可燃物ならなんでもいいのだ。

 

 どんなに重要なものでも「本当にいいですか?」という確認のセリフを吐くでもなく火にくべてしまうのだ。

 

 だから、俺はもうすでにアイテムの個数はカンストさせているのでアレを出してしまってもかまわないだろう、だってたくさんあるのだから。

 

 『せかいじゅのは』を。

 

 これは、ダンジョンの攻略が滞っていた際に『あめのしま』に暇つぶしに通い続けていたときに入手したものだ。

 

 そのとき、アイテムの個数もカンストさせたら更にクリアの価値があがるよなぁ、と思って無駄に各地へとアイテムの採取に飛んでいた。

 

 過去を振り返っていると、バンッ!とクエストのクリアを示す、CLEARの文字がクエスト内容にスタンプの様に押された。

 

 すべてのクエストを達成し、称号を期待してゲーム画面を覗いてみたらパソコンがバグった時などにみられるプログラムの羅列が見えたが、俺の意識は遠いていった。

 

 

 

 

 

 

  

 

 




お読みいただきありがとうございます。
感想お待ちしております。
指摘等ありましたら感想のほうによろしくお願いします。

2014/05/31 本文にて転生したらステータスが上がると書いておりましたが、
       自分の勘違いでした。ので、改訂しました。 
       メリー さんありがとうございました。
       


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第二話 神様アラワル

お待たせしました。


 「………っっ、ん?」

 

 目を覚ますと俺はなぜか黒くて固く冷たい石の上にいた。

 

 あたりを見回すと、どこまでも黒い空間が広がっていた。

 

 “暗い”空間ではなく“黒い”空間だった。

 

 なんせ、頭の上では月が煌々と照っているから決して暗い空間ではない。

 

 少しは暗いが。

 

 それでも光源があるのなら少しは表面が白んでもよいはずであるが、下の石は月に照らされてなお黒かった。

 

 そこで俺は、高校の授業で習ったことを思い出した。

 

 エネルギーの放射を受けた物体は、エネルギーの流れを反射・吸収・透過のいずれかをする。

 

 そこで、すべてのエネルギーを反射する素材を白体(はくたい)という。

 

 反対に、すべてのエネルギーを吸収する素材を黒体(こくたい)という。

 

 しかし、この白体・黒体は厳密な意味で同じ物体は地球上には存在していない。

 

 だとすると、この空間が黒いと思える理由は、ここが黒体に相当する物質でできていると考えることができる。

 

 そういう点から俺は、この空間が地球以外の場所であると推測した。

 

 なぜ俺が異空間だと認識できるのかと問われればそういう関連の小説をよくよんでいたからで、いつか自分の身にも起こらないかと思っていた。

 

 所詮は夢物語だと検討をつけていたが。

 

 しかし、異空間だとわかっても事態は、一行に進まない。

 

 そのとき耳にイヤホンでもつけているかのような鮮明な音が聞こえてきた。

 

 それも人の女性の声だった。

 

  「こちらへ、来なさい」

 

 たったその一言だけだった。

 

 だが、こちらとはどこだろうか。

 

 そう思った瞬間、まるで心でも読まれていたかのように疑問の答えが返された。

 

  「光を灯すから、こちらへ」

 

 その声のしたあと俺の見ている方向にぼんやりとだが光がうまれた。

 

 普通なら本当に従って大丈夫かと疑うものと数瞬思ったが、このままここに突っ立っていても仕方がないと割り切り光の灯る方向へと歩き始めた。

 

-------------

 

 歩いてみればそこまで距離は無かった。

 

 着いた、と思ったのは光のある場所の周辺だけが淡い燐光を放っていた。

 

 (いな)、少しだけ反射していたのだ、地球の満月の夜のように。

 

 その時、フッと光が消えた。

 

 あとに残ったのは、また暗闇に戻った空間と、"一人の女性"だった。

 

 その女性は、体に見覚えのある、だが現実では見るはずのない『セレシアのはごろも』に似通った衣服を身に着けていた。

 

 さらにその衣服…いや、体全体から直視出来ないほどではないが光を放っていた。

 

 なんというか神々しいオーラを感じる。

 

 だが、髪色は青色で黒い瞳をしていた。

 

 身長は166cmちょいの俺よりもだいぶ小さく、小学生くらいだ。

 

 なんてことを思いながら目の前に突如現れた女性改め少女は口を開いた。

 

  「ここは、はざっ!?」

 

 が、唐突に喋られたため俺が驚いて素っ頓狂な声をあげてしまい少女は言葉を止めてしまった。

 

 少女と俺との間に微妙な間が空く。

 

 まぁ、会話?を止めてしまったのは俺なのだし、ここは俺から声をかけるべきなのだろう。

 

  「さっき、はごめん。ここはいったいどこなのかな?」

 

 俺は相手が少女という認識で話しかけてしまった。

 

 それもそのはず。

 

 会話を区切られたときから少女から後光といわんばかりに光やオーラがはなたれていたのだが、今はなりを潜めてしまっているからだ。

 

 その少女は現在うつむきがちに何事かをぶつぶつとつぶやいている。

 

 耳をすませてみると。

 

  「ここ・・・、は・・ま。こ・は、・・ま・・・」

 

 同じ言葉を列挙しているように聞こえた。

 

 そこで俺はもう一度彼女に質問することにした。

 

  「ここは、どこ?」

 

 そのことばを境に彼女は再起動を果たした。

 

  「ここは、ハザマ。」

 

  「はざま?」

 

  「そう、そしてこの場所はわたしの領地(ベイルラ)。」

 

 ここの名前がついにはっきりとした。

 

 『はざま』というらしい。

 

 小説とかでよくみるあたりだと世界と世界の境界の間のことだろう。

 

 すなわち狭間(はざま)だ。

 

 しかし、まだまだ彼女には聞かねばならないことが、たくさんある。

 

 なにせ彼女はこの場所の第一村人だからだ。

 

  「俺から聞きたいことがいっぱいあるんだが、いいかい?」

 

 その投げかけに彼女は、うなずくことで了解の意を示してくれた。

 

  「場所の名前はわかった。ここは地球のどこかなのか?」

 

  「いいえ、ここは『宇宙』という世界とわたしの治める『カラク』との間にある空間」

 

 やはりそうだったか。

 

 しかし、『宇宙』ってのは俺が住んでた世界ってことでいいんだよな。

 

  「『宇宙』っていうのは俺がいたところでいいんだよな?」

 

  「はい。間違いないです。」

 

 いちおう確かめてみたがやはりあっていた。

 

 となると次に気になるのは、彼女の名前は・・・後回しでいいか。

 

 なぜここに俺が呼ばれた、あるいは移動させられたかである。

 

  「なんで俺はこの空間に移動させられたんだ?」

 

  「ええ、実はわたしの世界では現在、人間が平和に暮らしています。」

 

  「ん?ちょっと待て。」

 

  「はい?」

 

  「今、『わたしの世界』っていったよな。」

 

  「はい、それが何か?」

 

  「まさか君、神様かなんかか?」

 

  「ええ、創造神の端くれですが。いちおう」

 

 まぁ、やっぱりな。

 

 こういうことは覚悟してたよ。

 

 しっかし、まさか神様がこんなに小さいとは。

 

 最初に見たときにまさかとは思ったが、本物だったとは。

 

 ふつう神様あいてとかだと敬語で話さなければならないとおもっているので、機嫌をそこねでもして罰をあたえられたりしたらとんでもない。

 

 ただ、その神様が少女ということもあり頭からぬけていた。

 

 神様告白をうけた後たっぷり一分間くらいはかたまっていたが、まぁ彼女が怒ったそぶりをみせないのでいいだろうと、忘れることにした。

 

  「話の腰を折ってすまなかった。続けてくれ。」

 

  「しかし、最近になって魔族が活性化し始めたのです。」

 

  「はぁ」

 

  「そして、魔族は人間を襲いました。」

 

 なるほど、ここまでくれば話しの流れはわかる。

 

 つまり、

 

  「俺が魔族を倒せと?」

 

  「え…あっ、はい。」

 

  「しかしなぜ俺が?」

 

 俺は、ゲーム大好きのTHE もやしっこである。

 

 特技は腕にちからをこめて、筋肉がうきあがるのを利用した、「生骨格模型」である。

 

 まぁ、ようするにガリなのである。

 

 BMI指数は最近とうとう"やせ"の部類の仲間いりをはたしてしまっている。

 

 そんな俺が当然強いはずもなく、ケンカは、幼稚園のころからたった一度たりともやってはいない。

 

 理由は簡単、やっても返り討ちにあうから。

 

  「あなたは、ご自分の強大さを理解されてないのですか!」

 

  「は?なんのことかさっぱりだ。俺は、ゲームが大好きな…」

 

  「そう!そのゲームの方です。」

 

  「ああ、ゲームの方か、それならステータスはゲーム内で出せる最高値にあるな。」

 

 ちなみに『ゲーム内での最高値』とは、通常ゲームをやっていて、得られる訳のない常軌を逸した凶悪なステータスを持っているプレイヤーがいるが、あれはすべてバグ技を駆使して得たものである。

 

 いわゆる、チートとよばれる類のもの。

 

 今回言っている『ゲーム内での最高値』という奴は、それらバグ技を使用せずに辿りついた境地のことである。

 

  「わたしは、ゲームの中でのあなたを発見しました。」

 

  「それで?」

 

  「はい、その力で是非私の世界『カラム』を救っていただけないでしょうか?」

 

  「ええ、わかりました。喜んで引き受けましょう。」

 

 とたんに少女の顔には喜色が浮かんだ。

 

  「では、早速転移に移りましょう。」

 

  「あっ、ちょっと待って。」

 

  「なんでしょう?」

 

  「俺の家族は……」

 

  「ああ、それでしたら問題ありません。『宇宙』の時間を止めておけばいいだけです。」

 

 ええ…。

 

 さすが神と、言いたいところだが、さっき端くれとか言ってなかったか?と思いつつあらためて神の強大さを感じた。

 

  「あっ、はい。」

  

 そして、呆然と頷くしかできなかった。

  

  「それと、転移をはじめるまえにやらなければならないことがあります。」

 

  「なんでしょう?」

 

 そのとき俺は早く異世界に行きたいという願望に心を埋め尽くされていて完全にあたまからすっぽ抜けていたことがあった、それは?

 

  「せっかく、わたしの世界を助けにいかれるのですから、加護つまりは能力を授けなければなりません。」

 

 能力を授けるだって!?

 

 それってつまり……『チート』?

 

 チートとは、祐樹が地球で読んでいた異世界転移系に小説には必ずといっていいほどの確率で転移するまえになんらかの神様に出会い、異端な能力つまり本来普通の人間が持ちえていないような特殊な能力を神様より授かる。

 

 というような流れが存在していた。

 

 すなわち今この状況こそ祐樹が待ち望んでいた瞬間なのであった。

 

  「キタ━(゚∀゚)━!」

 

 おもわず心の奥に思っていた言葉が飛び出してしまった。

 

 そしてまたも俺が急に叫びだしてしまい、少女は一瞬ひるんだものの多少戸惑いながら話しかけてきた。

 

  「どっ、どうされましたか?急に」

 

  「ん?ああ、ちょっと長年の願望が叶ったのさ」

 

  「願望?」

 

  「ああ…いやちょっとしたことさ、それよりも能力とか加護って具体的にはなんなんだ?」

 

  「ええと、具体的に。ですか、例を挙げるならば人よりも数段身体能力(ステータス)を上げたり、深い知識を得るとかですね。」

 

  「例が挙げられるってことは、過去にも加護ってやつをやったことがあるのか?」

 

  「ええ、異世界人はあなたがはじめてですが、わたしの世界のもので特にすごい功績を残した者には簡易的ですが行ったことはあります。」

 

  「へぇそうなのか」

 

  「ではいまからあなたに加護を授けます。望む能力(チカラ)をわたしにおっしゃってください。」

 

  「ああ、************だ。」

 

  「はい、ではそのような加護でよろしいですね?」

 

  「OKだ。」

 

 その瞬間、少女から一時は失われていた後光のようなものが体を包みはじめた。

 

  「セーレが創造神、汝に加護を授ける。受け取るがよい」

 

 セーレ、というのが彼女の名前であるのだろうか。

 

 すると、彼女の左手の人差し指の先にソフトボールほどの大きさの光の玉が瞬時に形成された。

 

 その後、彼女は右手の人差し指で自分の額に手をあててなにかを引き抜くように指を離し、そのまま指を光の玉の表面へと触れた。

 

 そして、とうとう転移の儀式が始まった。

 

  「それでは、祐樹よ。我が世界『カラム』へと行くがよい。」

 

 その言葉を最後に俺の意識は再び遠のいていくのであった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 




お読み頂き有り難うございます。
ご指摘、ご感想等ありましたら、是非お寄せ下さい。
 
2014/6/10/光の玉の表現を訂正しました。
      今の祐樹君にはまだ見えていませんが、指の先っちょには細長い糸くずのような
     物が付着しています。イメージはハリーポッターの校長先生がやったようなあれ。
2014/6/21/光の玉には、『カラム』側の基本的な言語などの知識が含まれています。


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第三話 Another God

やっと投稿できます。
ネーミングセンスには期待しないでください。


 祐樹が異世界『カラム』へと転移されている間。

 

 創造神セーレが住まうハザマでは、彼女自身の想像をこえた事態が起こっていた。

 

 時は(さかのぼ)る事数十分前。

 

 創造神セーレが自らの世界の救世主として祐樹を転移させるための儀式を終えたところだった。

 

 彼女は、祐樹の体が儀式陣の中におぼろげに消えていく様を見送りまずはひと段落ついたと、安心していた時であった。

 

  「くふふ、そうはさせぬぞ。セーレ?」

 

 その声をかわぎりにして、白い輝きを帯びていた儀式陣にわずかずつだが、黒が混ざり始めてた。

 

  「だっ、誰ですか!……っ!?」

 

 そして、次に彼女が驚いたのは、本来転移の儀が終了した後、この世界に体を慣らすために体の最適化を施してから転移座標を指定する工程があるのだが、驚くべきことに体の最適化の儀が中止させられており祐樹の体は元の世界にいた頃のままになってしまっている。

 

 このままでは彼は、住環境の激変による病気・もともとすんでいる人間たちよりも弱い肉体。

 

 それらによって最悪の場合せっかく見つけたこの世界の救世主になるであろう人物をみすみす死なせてしまうことになりかねない。

 

 そこで、急いでなぞの声に対抗してみようとしたが、もう手遅れだった。

 

 なんと相手はセーレが熟考している短い間に攻撃を受けた最適化の儀自体を破壊していた。

 

 そこまで来てこんなことをする相手の正体を見破った。

 

  「神であるこの私に対抗できうる力を持つのは”コーク”あなたしか、いませんっ!」

 

  「ふっ、見破ったか、確かに私は魔界を創造したもの『コーク』だ。しかしあまりにも遅すぎたようだなぁ。おまえは昔からそうだったが、今も変わらないようだな、いったい何人の異世界人を殺せば気が済むのだ?」

 

  「こ…殺してなどいない!すべて転移に水を差してきたのはあなただろうコークッ」

 

  「『そのせいで彼らは死んでいってしまった。』とでも言うつもりだったかな?」

 

  「…っ」

 

  「だいたいお前が人間が増えすぎたから世界の均衡を保つために魔族をつくったじゃないか、あれが発端だろう。」

 

  「それは、認めますが、あなたが今の魔族軍を作り出した張本人でしょう。」

 

  「ああ、確かにな私はもともとは普通の魔族だった。」

 

 『普通の』魔族だった。という言葉を聞いてセーレは驚いた。

 

 実はコークの生まれた原因がセーレにはわかっていなかった。

 

 セーレは人間のことで頭がいっぱいになっており魔族のことなど気にも留めていなかったからだ。

 

 はじめて語られるコークの過去にセーレは耳をかたむけた。

 

  「ひたすら何の目的感情を持たずただただ機械のように人間を殺す毎日、そこでほんの少しの疑問感情が生まれたとき私に天啓が届いたのだ、いやあれは天恵だったのかもしれない。」

 

  「天啓?」

 

  「そうだ、その送り主の名は、創造神オメテオトル様だ。」

 

  「オメテオトル!」

 

 創造神オメテオトル、かつてセーレを創造した神の名である。

 

 いわばセーレの上司ともとれる存在。

 

 オメテオトル様は、複数の世界を創造した神をも創造した複数の神の長である。

 

 オメテオトルの考え方は実に公平で平等だが、なにも考えていないようにも思える。

 

 強い意思を持った願いならその世界のルールに反しないことであれば大抵の事は叶えてくれる。

 

  「そのときオメテオトル様に魔族たちへの私の疑問をぶつけてみると、「その者達に住処を与え永久(とわ)(ちぎ)りを指南せよ。」とのお達しを承り、私はその内容を達成するのには一魔族であるこの私には達成できないと申したところ、神位(しんい)と知識をくださった。そしてそのときにこの私『創造魔神コーク』が生まれたのだ。そして私はまず魔族全員に知識を与え、命の保護をした。それこそ人間の真似事のようにな。そのあと魔族の長となるもの『魔王』の選定を行った。」

 

  「そのころからですね、魔族が人間を駆逐しなくなり暗黙の時代が訪れたときは」

 

  「ああ、そうだな確かに魔族には人間を襲わせず、より下位にいる獣を魔族化して作った魔獣を使って人間の技術や社会構造を盗んでいた。」

 

  「あれは魔獣というのですか。あの普通ではない強欲で凶暴な獣たちは…。」

 

 しかし、コークは新たに存在を『作った』と言った。

 

 存在を作るということはすなわち『創造を行った』であるから自分と同じ力を得ているということに相違ないであろう。

 

 だが、ひとつの世界に二人の同じ創造をつかさどる神が二人いるというのは、どうなのだろうか。

 

 やはり、その真実こそ(オメテオトル)のみぞ知ることだろう、何を考えてらっしゃるのかわからない。

 

 そこでセーレは、さすがにオメテオトル様とあろうものが同じ能力を有する二人を共存させるわけはないだろう、ということで一縷《いちる》の望みをかけてコークに問うてみることにした。

 

  「さきほどあなたは『魔族化』といいましたね?」

 

  「ああ、それで魔獣は生まれたのだ」

 

  「『魔族化』とは何をどうするのですか?」

 

 正直セーレは、だめもとでコークに質問をした。

 

 だが、恐らくこれには答えてはくれないだろう。

 

 なぜなら恐らく『魔族化』というのはコーク自身が編み出した方法なのだろうからだ。

 

 創造されているのならわざわざ『魔族化』と、区別をつけて言わなくても、創造したと言えば済むことなのだから。

 

 それゆえ次のコークの発言にはいい意味で裏切られ、さらにこの世界の創造主であるセーレすら知らなかったある重大な情報を知ることになるのである。

 

  「わざわざそのことを聞いてくるのであれば創造主であるセーレ…お前は知ってるんだろうなぁ…」

 

 知らないとは、口が裂けてもいえないセーレである。

 

  「まぁ、お前のその質問意図は確認ということなのだろうが、まぁ簡単なことだからこたえてやるよ。」

 

  「お前の生み出したこの世界『カラム』だっけか?その生きとし生けるもの全てには魔力限界といういわばボーダーのようなものが存在していて、そのボーダーを越えると途端に思考回路、まぁ意識だな。それが魔力に侵食されて生物は興奮状態に陥る。そこまでは人間のなかにもたまにいる()(りょく)()()(しょう)といわれている病気の一種だ。だが、さらにその状態よりも魔力を注ぐとどうなるか……体に魔力が溜められなくなると体中の筋肉を魔素に置き換えてしまう。それで体のほとんどが魔素に置き換わってしまったものが、魔獣もしくは魔人といわれる。」

 

 その言葉を聞いてセーレは愕然とした。

 

 まさか、自分の知らないようなことがこの世界『カラム』には組み込まれているんだということに。

 

 そいて同時に人間と魔族の研究にここまでの差がでているのだと。

 

 まだまだセーレはこの世界についてしらなかったのだと。

 

 ここでふとセーレは思い出した。

 

 それはセーレがかつてオメテオトル様と一緒に世界創造を行ったことを。

 

 もしかしたらそのころにはすでに世界にはこの法則が組み込まれているのでは?と思った。

 

 そんな時コークが突然思い出したかのようなくちどりで口を開いた。

 

  「あれ?救世主君(祐樹)まだ生きてるね、体の適正化をやってないから『宇宙』側の人間はこの世界の大気に含まれる魔力に耐えられないかと思ったんだけど…さてはセーレ、お前なにかやったな?」

 

 そうなのだ、セーレは、なんとない雑談へとコークを誘い込むことによって、転移陣への興味を移そうとしていたのであったが、その目論見は成功し祐樹は無事に『カラム』へとたどり着くはずである。

 

  「ええ、まんまと引っかかりましたね、コーク。わざと雑談に誘い込むことによって謀略、策略嫌いで素直なあなたはまんまと引っかかったのですよ。その隙に祐樹君には申し訳ないですが、いちから体を再構成していただくことにより体の適正化を図ることにしました。」

 

  「くそっ!この腹黒女め。まぁいい後々、祐樹……だったか?の無力化をすればいいだけのことだ。」

 

  「早速作戦を()らねぇとなぁ!!」

 

 そういったきり、コークの言葉がハザマに響くことはなかった。

 

  「ふぅ、コークのあの純粋さには、敵であっても毒気(どくけ)をぬかれるわ」

 

 そのころには転移陣の輝きは消え失せ、セーレの姿もなかった。

 

 ハザマにまた静寂(せいじゃく)が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
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2014/06/18/ルビ振りができてませんでした。修正しました。


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第三・五話 知らない天井

今回短いです。


 人は意識が回復したら目を開けようとするだろう、自分がどこにいるのかを判断・確認するために。

 

 しかし、祐樹の場合は意識は取り戻したのだが、目を開けようとはしなかった。

 

 否、できなかったのである。

 

 (なっ、なんだ? 目が開かない!?)

 

 (これはもしかすると金縛りというやつだろうか…?)

 

 熟考のためしばらくじっとしていた祐樹だがそんな時間はなかった。

 

 いきなり体が上へ、上へと引っ張られた。

 

 そして無意識的に体がくねくねと身を(よじ)りなにやら細い管のようなところをくぐろうとしているのがわかる。

 

 それから頭が管を抜けたと思ったのは僅か数秒後だった。

 

 その直後、視界を閃光が襲った。

 

 その閃光に対して俺は顔を背ける事によって回避に成功したが、襲ってきた感覚はそれだけで終わりではなかった事に気づいた。

 

 時間にして2~3分後だろうか、腹部に激痛が走った。

 

 その痛みで俺はなぜか泣いてしまっていた。

 

 しかも大声でだ。

 

 だが、自然と痛みは以外にも早く引いていった。

 

 その後、体をなにかざらざらしている物に包まれた。

 

 今俺の体を包んでいる物体は正直言って痛い。

 

 乾布摩擦でもこんなに痛くはないだろう。

 

 まるで、使い古した襤褸雑巾(ぼろぞうきん)で、顔面をすごい勢いで(こす)っているかのようだ。

 

 なぜ、そんな特殊な感覚を知っているかというと、目の中にシャンプーの泡が入ってしまったとき、手を伸ばした先にあった俺愛用のフェイスタオルで、目の端を思いっきり拭ってしまい泡による痛みは消えたが、代わりに水をあまり吸わなくなってしまったタオルによる痛みがジーンと残ってしまった失敗によるものである。

 

 閑話休題。

 

 かつての失敗をおもいだしていると今度はまた液体の中に浸かった。

 

 液体というか、ぶっちゃけ温ま湯(ぬるまゆ)である。

 

 そして、少しの間、湯に浸かっていると話し声が聞こえてきた。

 

  「おばさん、どっちだった?」

 

  「男の子だよ。」

 

  「そっかぁ、男の子かぁ名前どうしよっかな。」

 

 その時、バンッと大きな音が鳴った。

 

 いきなりのことだったので話声(はなしごえ)(ぬし)は、驚いたような声を上げていた。

 

 だがそんなことよりも、と急に入って来たのであろう声からして男性は、切羽詰ったような声音(こわね)で叫んだ。

 

  「ベラ! 子供は?子供はどうなった?」

 

 その問いかけに答えたのは先ほどの話し声の主たちの内、女性にしては少し低いような気のする女性のなだめるような言葉だった。

 

  「こらっ、急に入ってくんじゃないよ年甲斐もなく…。」

 

 この会話からここは、どこかの部屋の中だと判断がいく。

 

 さっきバンッといったのは、部屋に設けてある戸《ドア》であろう、聞いた感じおばちゃん風の声の主は男性に入ってくるなとか言っていたはずである。

 

  「ルーテ、男の子だったよ。」

 

 その声にテンションがあがったのか、男性はヒャァッホーと声で最上の喜びを表していたかのようだった。

 

 それから俺は誰かはわからないが、運ばれシーツの上に寝かされた。

 

 寝かされた俺はすぐさま睡魔に襲われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




お読みくださりありがとうございます。
ご意見ご感想お待ちしております。


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第四話 俺、誕生

ちょうどきりがよかったので、投稿します。
ちょっと短いかもです。
投稿おくれてごめんなさい。


   睡魔に襲われ、本能に従うがままに眠りについた俺が目覚めるころには、目も開くようになっていた。

 

 俺が目覚めた場所は、ベッドの上で周囲は洋風の木造家屋だった。

 

 よくファンタジー映画やライトノベルで見るような場所である。

 

 大きさは、ビジネスホテル程度だろうか。

 

 高校生の俺がビジネスホテルの大体の一部屋を知っているのには、よくイベントなどで東京など都会によく行きなるべく安めの所に泊まろうと思うと、必然的にビジネスホテルやカプセルホテルといった一部屋一部屋が小さなものになってしまうのだ、そういう経緯からいろいろなホテルに泊まってきた俺から言えば、割と平均的な広さのビジネスホテルと同規格程度の部屋だと判断した。

 

 ベッドはその部屋のドアがある方向から見て左奥の隅っこに位置している。

 

 今おれはドア向きに起きている。

 

 左側には、机と椅子が置いてある。

 

 とりあえず床に足を付こうとベッドの左端(ひだりはし)に移動し足を()()()()()

 

 ? ぶら下がった?

 

 足で床を探すも一向に足が床を触る気配はない。

 

 まさかと思い、足を揚げもう一度ベッドの上に立つ。

 

 そして、俺の股間に手を伸ばす。

 

 よかった…あった。

 

 しかし、違和感は無いわけではなかった。

 

 そう、スケールが違った。

 

 以前の俺とは手の大きさが違った。

 

 まぁ、まさかとは思うけど、あの神様のことだ何かヘマでもしたに違いない。

 

 これは、いわゆるあれだ……『転生』。

 

 転移とは違い異世界で新たに生まれ変わることを『転生』という。

 

 まぁ、昨日のことを思い出すかぎり誰かがしゃべっていてその内容を理解することができていた。

 

 ましてや、転生して赤ん坊になった俺がだ。

 

 どこにいるだろうか生まれた瞬間から言葉を解する赤ん坊が。

 

 ちゃんと神様からもらったチート能力は発動しているようだ。

 

 そうこうしているうちに昨夜?と同じような強い睡魔が襲ってきた。

 

            ・

            ・

            ・

            ・

  「…………ット、…ィ…ト、ウィット」

 

 ん?

 

 声がするので薄目を開き首をめぐらせあたりを確認すると、俺の左側に茶髪に茶色の目をした若い女性がいた。

 

 その女性は俺を覗きこみやさしそうな目で見ていた、口元はわずかに微笑みを見せている。

 

  「わたしの、かわいいかわいい…ウィット。」

 

 ここで、俺はある失態を犯してしまう。

 

  「誰ですか?」

 

 そう、話してしまった。

 

 俺が言葉を発したことに驚いたのか女性は目を大きく開き驚いているようであった。

 

 正直日本でこういう露骨に驚かれる状態に立ち会ったことがなかったので、リアルにこんな反応見られるとは思ってなかった。

 

 目をまん丸にして驚いている表現とはまさに意をとらえた表現といえよう。

 

  「? もう一度言ってみて、ウィット」

 

 あっ···やっべぇ、ついついやっちまった。

 

 思えばそうだよなぁ、産まれたばっかの赤ん坊が喋っちゃオカシイよな。

 

 大抵こういうことをすると、小説とかに出てくる人たちは主人公を化け物扱いしたり、はたまた神童として勇者扱いをしたりする。

 

 俺は、この後どちらのルートに進んでしまうのかドキドキしていた。

 

 まるで、嘘がバレそうになっている少年のように。

 

 だが、この女性には予想の斜め上をいく返答をもらった。

 

「喋ったのね?···そっかぁ、赤ちゃんって喋るのね!」

 

 んん?

 

 なんだ? なぜ長年の悩みが解決したかのような晴れやかな顔をしているんだ。

 

 おまけに頷きながら手のひらの上に拳骨を落とすガッテンガッテンをしている?

 

 おかしい、こんな予想は無い。

 

 俺にこんなデータは入っていない。

 

 ところで、転生先の村人には大きく分けて三種類居る。

 

 一つは、現代人並みの知力を持ちつつ科学や医学がわからない人類。

 

 二つ目は、喋ることはできるが読み書きが一部の人しか出来ない人類。

 

 三つ目は、地球よりもオーバーテクノロジーを持った人類。

 

 この三つぐらいしか俺は知らない。

 

 この時点で間違いなく三つ目は除外確定だ。

 

 赤ちゃんが喋る訳がない。

 

 仏教の開祖であるとされるガウタマ・シッダールタと呼ばれる人物は、生後すぐに「唯我独尊(ゆいがどくそん)」と言ったらしいが、それから生後すぐに喋った事例は知らないので、それだけ生後すぐの人間が喋る確率は低いことが分かる。

 

 そんな思惑をよそに目の前の人物は止まらない。

 

 キャーキャー言って、何事か叫びながら家の外へと走りだして行った。

 

 もう俺には彼女を止めることは出来そうにない。

 

 一昔まえに流行った、ある企業のCMで、「しゃべったあああああああ」と子どもたちが叫ぶシーンがあったが、それにも勝る声を出している。

 

 

==============

 

 しばらく自分自身や周りを見ていると、先程出て行った女性が帰ってきた。

 

  「ウィット。散歩に行きましょう!」

 

 ・・・散歩かぁ

 

 行きたいのだが、肯定の意をどうやって示そうか

 

 さすがにさっきの失態を繰り返してしまうのはヤバイだろう。

 

 よし、それっぽく(赤ん坊)返事してみようか。

 

 こう、人指し指をピンッと立たせて目の前の女性に向け

 

  「あぁ、だっ!」

 

 ・・・おうふ。

 

 これはなかなかに恥ずかしいな・・・

 

  「あら、結構ノリノリねぇ」

 

 どうも、俺が喋らなくてもまったく気づいてないご様子だ。

 

 それから俺はその女性(以下、母)に抱っこされて部屋の外もとい家の外に出た。

 

 部屋にはドアのようなものは一つしか発見できなかったので、どうやら家にはひとつしか部屋が無い様だった。

 

 外は、太陽が丁度天辺まで昇ったところで時刻は正午あたりだろう。

 

 さんさんと日が降り注ぐなか散歩は開始した。

 

==============

 

 まず、最初に訪れたのは家から出て目の前のにあるグルマーという男の家だった、なんでもこの村の男はまず畑仕事をやって体を鍛える、その後猟師をやった後に自分に合った職業を選ぶのだと母に教えられた。

 

 そこにグルマーの鋭い?ツッコミが飛んだ。

 

  「おいおい、生まれてまだ二日しか経ってない赤ん坊がわかるわけねぇだろうが・・・」

 

 その言葉を聞いて俺は安堵した。

 

 なぜなら母以外の人もこんな知識水準だったらどうしようかと・・・? いやそれはそれでアリか?

 

 まぁ、なんにせよ母のうっかりぶりが露呈(バレた)したところでグルマーさん宅の訪問は終わった。

 

 さて次は家の左の道をまっすぐ行ったところにある露天だった。

 

 外観としては軒先に机を構えてその上に商品を乗っけて販売してる感じだ、イメージとしては縁日の屋台なんかを思い浮かべると変にしっくりくる。暖簾(のれん)がかかっているのが大きいのかもしれないそこには『アサダ ポーショナー』と書かれていた。

 

 ん?・・・アサダ?

 

 そことなく日本感がある。

 

 しかし俺はいまそれどころじゃぁなかったこんな体だから言葉の意味がわかるのは前世があるからだと思っていたのに、文字の読み方までわかってしまった。もちろんカタカナで書かれていた訳ではなく見たこともない言語・・・若干ロシア語っぽくも見えるが、読めてしまったのは事実である。

 

 なぜだ。と考えているとフッと思い出した。

 

 体感でいうとつい数時間まえのことのように思い出される、ある少女との会話と『それ』がもたらしたある能力。

 

 そう、言語能力(チート)である。

 

 ほかにも、ゲームの能力を引き継いでいたが今はそれを確認する(すべ)は俺にはわからない。

 

 そうだ、俺には能力があったんだった。

 

 うーん、と俺がもらった能力のことに関して考えているといつのまにやら訪問が終わってしまっていた様で次の目的地へと歩き出した。

 

===================

 

 数分歩いていると、(くわ)を持ったおじさんが挨拶と祝いの言葉を言ってすれ違った。

 

 もうすぐよ、と母が伝えるように微笑みながら顔を向けてきた。

 

 そしてほらっ、と手を向けた方向を見て俺は圧倒された。

 

 見渡す限りの畑、その奥に広がる森、青々とした森を突き抜けるかのように屹立する雄雄しい山々。

 

 こんな光景は日本・・・いや地球には存在しないだろう。仮にあるとしても、畑に、頭に角を生やしたウサギが農作物を満載した荷台を角に引っ掛けて運んでいる光景はないだろう。

 

 てか、妙に見覚えがあるような・・・、ああ!そうだ!『いっかくうさぎ』だ!アルミラージの劣・・・ゲフンゲフン、下位種だったはず。ていうかなぜにドラ〇エ?

 

 いや、『いっかくうさぎ』とは別のこの世界産のモンスターだろうと思っておくことにしよう、そうしよう。

 

 そして、そのあとも訪問という名の俺のお披露目会は終了した。

 

 家に帰ると、今朝っていうか、昼に出会ったグルマーさんとツンツンした赤髪の男が家の前であっはっはと笑いあっていた。

 

 話の内容は遠くからだったので聞き取ることはできなかったが、赤髪の男の肩をグルマーさんがどついていた。

 

 近づいていくとグルマーさんがこちらを振り向き・・・

 

  「おいっ、お前のとこのが帰ってきたぞ」

 

  「ああ」

 

  「じゃあまたな、ちゃんと上さんの暴走止めろよ」

 

 頬を緩めたグルマーさんは茶化すようにして畑とは別の方向に去っていった。

 

 分かってるってと、赤髪の男はそう返した。

 

  「ルーテいつ帰ってきたの?」

 

  「ああ、ついさっきだ」

 

 それよりもと、男は家の脇に姿を隠したかと思うとゴロゴロと音を立てて板に載せた毛むくじゃらの何かを引っ張ってきた。

 

 それを見た母は宝石でも見つけたかのように目を輝かせ、耳を疑うような一言を発した。

 

  「『あばれうしどり』じゃな~い、今日はこれで豪勢にできるわね」

 

  「ベラの出産祝いにはもってこいなんだが・・・ベラ、お前産後(・・)なんだからな」

 

 おそらく産後というところに反応したのであろうが、「はうっ」とびっくりしたかと思うと途端にシュンとして俺の頬に自らの頬を()り寄せてきた。

 

 そう、妊婦さんが子供を産んだあとはなぜかちゃんとした食事をすぐに取ってはいけないと、中学校の保健で習った気がする。

 

 すなわち今日の晩御飯に母は『あばれうしどり』を食べられないことになる。同時に自分もこの世界ではまだ乳児なのでご飯どころかミルクを飲むことになるのだ。

 

 そんな母を励ますように男は、干してまた食べればいいじゃないかと言った。しかしそんな励ましのことなど知るものかと母は無駄に情熱をこめて言い放った。

 

  「せっかく生の肉があるのにそれをどうして干して食べなければならないの!?ああ、神様、これも運命だというの?」

 

  「「そんな運命があってたまるかぁ!」」

 

 突っ込みを押さえ切れず男と俺の言葉は偶然にもハモってしまっていた。

 

 こうしてめでたく男と母に俺が喋れるということがばれてしまった。

 

 え?

 

 どうしてハモったのにばれてしまったかだって?

 

 考えてみたらわかることじゃないか、この生後で声変わりをしている訳がない、当然男の低い声ではなく女性よりもわずかに高いソプラノが出てしまっていたのだ。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 




ご意見ご感想お待ちしております。

最近また忙しくなってきてしまい書けない(パソコンに触れられない)時間が増えてきまして大変難儀しております。
亀更新ですが、ご迷惑をおかけします。


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第五話 チートの確認

 かくして俺は二人に喋れることがバレてしまった。

 

 現在、俺は不思議な気持ちで飯を()っている。

 

 普通はこの言葉からは俺が飯を食っているとしかわからないが、それは俺が地球でのおれだったらばだ。

 

 今の俺は生後二日の赤ん坊なわけだ、この情報が入るのと入らないのとでは大きく意味の重要性が変わってくる。

 

 医学的、生物学的に見て人間の赤ん坊に歯が生えているというのはおかしな話だ。だから赤ちゃんにはまず、乳を与え乳離れをしてから離乳食、そして歯が生えそろってきたら普段自分達が食べているような料理を食べることが叶うわけだが、俺の場合は二段階ほどすっ飛ばしてしまっている。

 

 しかし、なぜかそのことに対してこの二人は不思議がらず、普通に受け入れてしまっている。

 

 それと、母と男の関係は夫婦の様だと今はじめて気づいた、冷静な俺だったらすぐに気づけたのだろうが一連の騒動で冷静さを欠いていた。つまり、あの男は俺のこの世界での父親であるということになる。

 

俺達が食事を食べ終わり、母に抱っこされたままベッドに行き横になった母は数分間俺の頭を撫でていたがすぐに眠ってしまった。

 

 母が予想以上に早く眠ってしまったので視線をまだ机に座っているであろう父へと向けると残念なことに机に突っ伏して寝てしまっていた。

 

 ここの世界の人は眠るのが早いのであろうか、と勘繰りたくなるほどの早寝である。丁度日が沈んだあたりであるので電気がないところの生活はこんなものかと思った。

 

 PS.父は短い赤毛のイケメンだった。クソッ・・・

 

 それから二週間ぐらいたった朝、俺は母におんぶされて畑に連れてこられた。見た感じこの村の女性は農作業か機織(はたおり)を中心に行っているようで、初めはおんぶされたまま母が作業しているのを見ていたのだが、それは赤ちゃんが落ちてしまうかも知れないから危ないと、近くにある家の影に入れさせてもらった。

 

 母は作業に集中できていないのかすごく頻繁に俺のほうを見てくるがそれも最初のうちですぐに作業に没頭するようになっていった。

 

 そんななか俺は特にやることもなかったのでだいぶ前に思い出したある事をやろうとしている。

 

 そう、能力(チート)である。

 

 まず、俺がセーレに願ったある能力とは、『ドラゴンク〇ストIX』の全ステ・全アイテムの引継ぎである。その起動方法は、某VR小説で取り上げられたメニューの開き方で『右手の人差し指と中指を立てて下に下げる』というものである。左か右かは曖昧だったが、とりあえず利き手の右にしておいた。

 あとで思い直してみると俺は右利きなので物を持っている際にメニューを開くのは自然と左手だから右手はいけなかったかなとも思ったものの、まぁ慣れればいいかと、開き直ってみた。

 

 そんなわけで早速、右手を掲げて人差し指と中指を立て、タッチパネルを下にスライドさせる感覚で滑らせる。

 

 ピッ、という音をたてて出現したのはまさしくゲームでXボタンを押すと出てきていた白枠で中が半透明の黒でできた画面が出てきた。

 

 ご丁寧にも出現時の音はゲームとまったく同じであった。

 

メニューにはゲーム同様の選択肢が表示されていた、物は試しと『そうび』の文字を指でタッチした。

 

 すると俺の装備はインナー(はだか)の状態でなにも装備していなかった。

 

 ためしに俺が苦心の末()()()()まで作った『ぎんがのつるぎ』を装備すると、ごとりと音をたて剣が現れた。

 

 画面で見るグラフィックでは夜空を思わせるダークブルーの刀身に金がちりばめられた装飾で初めてできたときはそのグラに神々しさを感じていた。

 

 さすがに、カンスト近くなってくるともうちょっと剣がでかい方がカッコイイよなぁ、と思っていた。

 

 が、ゲームではそのグラでバランスの取れた大きさだったのだろう、今現れた剣は正に俺の思い描いていた大きさになっている。

 

 現実で見てみるとかっこいい、素直にそう思ってしまった。

 

 ためしに柄を握ってみると驚くことに剣は縮んでしまったが、それは単に自分の今の身長にあわせた結果なのだと思った。

 

 実際、ゲームの中でも身長の高い仲間と身長の低い仲間に同じ武器そ持たせても必ずバランスの取れた大きさになるのだ、あれ、これってかなりすごくね?

 

 まぁなにはともあれ無事実験には成功したのだった、次は防具をやってみたところ結果は同じで自分の体にあわせる機能つきだった。

 

 さきほどの『ぎんがのつるぎ』は生成がある条件により非常に難しくなっている。

 

 ある条件とは、素材が入手困難(めんどくさい)・生成確率が非常に低い・まずレシピがゲーム内に存在せず自分で見つけないといけない。

 

 このほかにも最強装備がいくつかあるのだが、それらは追々試す機会にやるとしよう。

 

 さて、次は・・・・・・おっと母の仕事が終わったようで女性がたがこちらに集まってきた。

 

 その後俺は機織をしていたおばさんが作ってくれた料理を食べた。

 

 え? どうして食べられるかについての周りの反応?

 

 母が皆に歯が生えていることを見せたらなんか皆「そんな早い子もいるんだねぇ」とかいって納得してた。やっぱり医学知識の乏しい村なのかなと思った。

 

 

=======================================================

 

 

 それから体感で2~3時間たったころ父が帰ってきて村長のところに行くらしい、なんでも赤ちゃんが生まれてから何日か経過すると神に感謝の意を示す儀式が行われるらしい。

 

 その際、ちょっとしたご神託があるそうでその内容は、「この赤ん坊は強く育つ」とか「この子は将来有名になる」という一言程度だというがそのご神託が外れたことはいままで一度もないそうだ。

 

 そして儀式の様相は、まず赤ちゃんを中央にある台座に仰向けで寝かせる。

 

 次に、台座の周りに白い粉を撒いてから聖水を撒く。

 

 村長が神に感謝を意をしめす呪文を言うと白い粉が消え聖水が赤ちゃんの持つ性質(ステータス)にあわせて光る。

 

 魔力(MP)を持つ者は青く光り、将来財を成す者は黄色く光り、力の強い者は赤く光り、人並みの性質のものは白く光る。

 

 とはいってもこの村の大抵の人間はみな白だそうだ。

 

 多少白に薄い青や黄、赤に光るものはいるそうだが、純色として発現することはないそうな。

 

 まぁ、なんにでも例外というのはあるもので唯一純色で出現するものがある、とんでもない強者になる者は紅に光り、勇者は蒼に光り、神に認められるような者は金に光る。仰々しい単語からもわかるようにこれらの出現率は非常に稀だそうだ。そりゃそうだそんな奴がポンポン出ていたらとっくに魔王なんて倒されているだろう。

 

 しかし、過去この村にたった一人だけ紅が発現した赤ん坊がいたという。ただし、伝承で伝わっていることなのでその人物が誰なのかどのような者になったのか知るものは既にいない。

 

 という遥か昔の人なのにまだまだ伝承として伝わっているレベルで後者3色がいかに稀少なのかがわかったところで、俺はこの世界に勇者として不本意ながらも転生されてきたのでほぼ間違いなく銀色に光るだろう、あるいは転生の影響を考えて紅か・・・。となると俺は遠く後生まで語り継がれることになるのだろうかと思うとあまりの事の大きさに今更ながらに冷や汗がでてきた、あの時創造神に二つ返事で答えてしまった心境が自分でも信じられない。

 

  「どうしたの? ウィット」

 

 俺が頭を抱えてうんうん(うな)っていると母が心配そうな表情で聞いてきた。

 

 その問いに対して俺は親指をしっかりと立てグーサインを出した。

 

 さすがに村長にまで俺がしゃべることを知られては困るからだ。

 

 そんな村長は儀式用なのかそれまで着ていた村民の服装に少し色を足した様な村長らしい格好から更に華美な衣装に着替えている。

 

  そんななか俺が、村長をじろじろと見ていると目が合ってしまい気まずくなったので視線を彷徨(さまよ)わせているとそれを、そわそわしているように思ったのか村長はやや急いで儀式の準備を進めだした。

 

 4~5分程度待っていると儀式の準備が完全に終了したようで俺は母から村長に渡され父と母は部屋から出て行ってしまった。

 

 今儀式を行う部屋には男が二人、そう俺と村長である。

 

 準備が済んだと思われる部屋には祭壇を中心として二重の円が描かれており円の隙間にはなにかよくわからない記号が書かれていた要するにこれは『魔法陣』なのであろう。

 

 そして四隅にはランプと裏白みたいな葉っぱが置かれていた。

 

 それから俺は村長に祭壇っぽいところに仰向けに寝かされ、水をかけられたその後俺の周囲にも液体を撒き村長は部屋から出て行ってしまった。

 

 これでこの部屋には俺以外の人間がいなくなり、寝かされてほっとしたのか急な眠気に襲われ俺はフッと意識を失うように自然と眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます。
 遅い更新となりましたが、そろそろ自分専用のPCを買ってもらえましたので
小説をバンバン書いていけると思います。
 ご意見ご感想お待ちしております。

2015/01/26
村長と村民の服装の表現を訂正しました。
   儀式の祭壇周りの説明を追加しました。
 
 (誤) フッ意識を失うように自然と眠った
 (正) フッと意識を失うように自然と眠った。


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