玉藻の前に取り憑かれた『天狗』の子 (赤い靴)
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第1話 天狗の子

呪術廻戦0の映画を見てピーンと来ましたので、ノリで書きます!
『玉藻の前』……。そう言えばFateにも女狐が居たな…と……

ストーリーは、映画(小説、コミック)と似たような流れにしたいと思うので、12話あたりで終わりたいなぁーと、思ってます



誤字脱字等有りましたら、よろしくお願いします!

では、後書きでお会いしましょう



001

 

「完全秘匿での死刑執行⁈有り得ないでしょうが……」

 

「しかし、両本人はこれを承認した」

 

「未成年……。2人ともまだ16歳の子供ですよ」

 

「逆に何人、呪い殺されるかわかりません。では、やはり……」

 

目を覆う様にして、包帯の様なモノで覆った特級呪術師はこう言った

 

「<乙骨 優太(おっこつ ゆうた)>及び、<鈴谷 宗一(すずや そういち)>は、呪術高専で預かります──」

 

 

002

 

素足から感じる冬の厳しさ

 

それを赤黒く生暖かい血によって和らいでゆく

 

白く少し長い髪は、もう赤く濡れ、着ている袴もズタボロ

右手に持つ日本刀の呪具もヒビが入り悲鳴をあげる

 

「あとは……。貴方だけだ。<妙漣寺(みょうれんじ) 重蔵(じゅうぞう)>……」

 

僕の目先にいる老人はただ「応」と答えこちらを睨む

 

「もうジジイの事を『じぃさん』とは、呼んではくれない様じゃな……」

瓢箪に入っている酒をグビッと飲み干し、その老人は立ち上がる

 

「六神通を3つも取得したお前が『呪霊』に取り憑かれるとはなぁ……」

老人はカッカッカと、まるで天狗の様に笑う

 

「黙れ。全ては妙漣寺(お前たち)がいけないんだ!」

僕は憎しみを込めてそう言い張った

ふん、と老人は鼻で笑い小さな声でつぶやいた

 

「さあ、やろうか」

 

僕は日本刀にありったけの呪力を込める

 

「玉藻の前。僕に力を貸してくれ──」

僕の頭の中で、女性の声が響く

 

『ええ、勿論ですわ。宗一……』

 

記録──2016年 11月末 妙漣寺にて──

 

妙漣寺の修験者(しゅげんじゃ)全58名 死亡

 

30代当主。妙漣寺 重蔵(特別一級呪術師) 重症 未だ昏睡状態

 

特級過呪怨霊 玉藻の前 による被害を受ける

 

 

 

後に五条先生から聞いた話だけど報告書には、僕の名前が無かった

極秘裏に死刑にする為、と言っていた

 

そりゃあそうだよな

 

妙漣寺はかの御三家と強く繋がっている

こんな醜態、晒せるはずも無い

 

 

003

 

『ご主人!朝ですよ!朝ごはん、1日の活力がグヴィッと上がります!早く食べに行きましょう!』

 

頭の中に声が響く

 

寝ぼけた頭にコレは効く

ボサボサの白い髪を手(くし)で少し整えながら、上半身を起こす

 

「あ〜あ、おはよう、タマモさん。目覚まし、時計が有るから、この起こし方は、ヤメテ、欲しいな、……ぐぅ……」

深い睡魔が再び襲う

 

『朝ですよ‼︎』

さっきよりも比にならないくらいの大きい音

 

「わぁ⁈⁇」

 

飛び跳ねた

今度こそ眠気は吹き飛んだ

 

目覚まし時計を見る

 

6時28分──

 

アラームは7時に設定しておいたのに

 

『早起きは三文の徳と、言います故に。今日は新しい学舎での生活の始まりの日です!こんなところで、寝坊だなんて……タマモ、悲しくなり泣いてしまいます‼︎』

えんえんと、泣く声が響く

 

タマモ。なんでも玉藻の前の略だとさ。本人がそう呼んで欲しいとあったけど、呼び捨ては好きじゃあ無い。だから<タマモさん>と呼ぶ様にしてる

お稲荷さん、みたいな感じで……

 

「タマモさん。辞めてください。結構辛いです……」

洗面台に行き、顔を洗い始める

 

『私も本当なら顕現して、ご主人の洗濯から、ご飯の用意、お背中洗ったり、そして最後には2人きりのマイホーム。そこでいつまでも幸せに……と思ってましたが……トホホ』

 

「五条先生に怒られるからね。許しが無いと行けないからね……。さてと」

寝服からこの高校の制服に着替え終わる

ズボンは紺色

上服は丈夫で動きやすい材質

 

ふと鏡をみる

 

「案外似合ってる?なんなら五条先生に似てね⁈僕!」

僕の瞳は青みがかっているが、六眼(りくがん)では無い

六眼は、1人この世に居ると2人目は必ず出ないと聞いた

 

鏡に映る薄い青眼を見て呟いた

漏尽通(ろじんつう)……」

この目、そして僕がこうなった全ての原因だ

 

『漏尽通なら、(わたくし)が止めているつもりですが……。もしや、カバーできておりませんでしたか?』

「いやいや、違うんだタマモさん。少し思い出が……」

はあと、ため息を漏らす

 

『……そうですか』

 

「まぁ、もう過ぎたことだし朝食頂きに行こうか?」

僕はそう言って部屋を出る

 

1つ空き部屋を跨いだ先の部屋には、まだ彼は居ない

 

でも彼とも、もうじき会える

 

乙骨憂太──

 

僕の新しい友達に

 

 

004

 

朝食を平らげ(皿に盛られた食材は完食しないと気が済まない)、やや膨れた腹をそのままに教室へと向かう

食後休んだが中々しんどい

きっと肉が沢山入っていたからだ‼︎

どうも山に篭っていた所為もあるかもしれないが、肉に対しての耐性がほぼ無い

あの濃厚な脂にいつもやられるのだ

 

胃薬を口の中に入れ、飲み込む

最近の薬は良い

水が無くても飲めるし、あまり苦く無い

 

あのクソ寺で飲んでいた丸薬に比べたら、それはもう天地の差だ

 

とぼとぼ歩き、教室に向かう最後の曲がり角に差し迫る

それを左に向かう

 

そこに五条先生と、もう1人の生徒が立って居た

 

やあ、と言いたげに先生は手を挙げる

それに釣られて僕も挙げた

 

そのままのテンションで、もう1人の生徒、僕と同じ転校生にも手を挙げる

 

めっちゃ引きつった顔で手を挙げてくれた

乙骨憂太君だ!

 

どんな人かと想像していたけど、その想像よりもずっと優しそうな人だった

その背後にはとんでもない化け物がいるけれど……

 

「じゃあ僕は、中にいるクラスの皆に挨拶してくるから。それまでここで待機ね。合図したらさ、入ってきてよ!」

人差し指を立てて、まるで楽しい事を計画する子供の様に先生はそう言って教室に入って行った

 

 

待って!合図ってなに⁉︎入った後、自己紹介だよね⁈なんて言う⁈

『山から来ました。映画や、面白いテレビが有れば教えて下さい』で良くね⁈

完璧だ!僕!

よし噛まない様に繰り返そう!

『山から来ました。映画や面白い番組ぃ……

 

「あの……。大丈夫?」

 

「え"っ⁉︎」

混乱する頭に声が掛かった

 

「目がグルグルしてたから、つい……。緊張してるんだね……。僕と同じだ……」

あははと乙骨が小さく笑った

 

「入っといでー‼︎」

閉じた扉の先、まだ見ぬ教室の中から五条先生の声がした

 

「……じゃあ行こうか?す、鈴谷くん?」

 

「宗一で良いよ。憂太くん」

僕は彼にそう言った

 

乙骨は嬉しそうに、僕の名前を繰り返してから教室に入っていく

 

oh……マジかい。あの殺意モレモレのまんま入っていくのか……。気づいていない辺り、呪術師の呪の字も知らないのか……

 

乙骨に引き続き、僕も足を進める

 

『あの子、結構面倒臭いモノに取り憑かれてますね〜。ま、(わたくし)も人の事言えませんが……。ですが主人様。彼とは良い友達に慣れそうですよ?』

 

ミコッと意味のわからない鳴き声と共に玉藻の前はそうささやいた

 

 

 




お疲れ様でした。

冒頭も冒頭。案外書いていて短い1話でしたが、歯切りが良いのでここで……
にしても映画!面白かったですね!
時たま、目を瞑るとシンジくんが脳裏に浮かぶのは僕だけでは無いと思います……
エヴァネタも少しぶっ込んでみました。バレバレですねw


さて、色々出てきましたねw
こんなに設定持って大丈夫なのかと思いましたが…、「まぁ、どうにかなるかの精神」で書きたいと思います。

今回の『解説』と、下の方に『今作品のネタバレ注意』と言うことで書かせてもらいます。
解説なら、大きなネタバレにはならないと思って居ますので、見ていただいても大丈夫だと思います……。
もう一つの方は、しっかり空欄を開けて、僕の本音と共に語ろうと思います。

ちなみに、主人公の性別は考慮して書いてません。
どっちに転んでもいい様に『中性風』にしました。
急に男になるかも知れませんし、女にもなるかも知れません……

では、ここまで

次は、解説です

『解説』

ちょくちょく出ている『六神通』について

六神通とは、仏、菩薩などが持っている6種類の超能力。6種の神通力。故に六神通と言われてます

1.神足通(じんそくつう
望んだ場所に自在に行くことが出来る能力

2.天耳通(てんにつう
世界全ての音を聞き、聞き取る

3.他心通(たしんつう
他人の心を知ることが出来る

4.宿命通(しゅくみょうつう
自分、他者の過去を知れる

5.天眼通(てんげんつう
あらゆる事象や、未来を見透す

6.漏尽通(ろじんつう
煩悩が尽き、悟りに至ったことを知る能力
自分の寿命や宿命を覚える

(※より詳しい解説はWikiへGO‼︎)

妙漣寺の修験者は、100年かけて六神通の内の1つを取得できれば、天狗に成ると代々言われて来ました

解説はこのくらい?
妙漣寺、御三家との関係は、次話書きたいと思います‼︎


ではまたー




こっから本番!ネタバレ注意‼︎

FGO(Fate grand order)をやった事があるユーザーなら、少しピンと来る事が有ると思います…。
なんせそこから、設定を持ってきたので……
もう玉藻の前は言わずもがな、ですね
FGOの玉藻の前のプロフィール⑤の最後の文が好きです。
『そこまでにしておけよ〇〇。』
(一応伏せておきます)

もう言って今いますと、妙漣寺とは、ペペロンチーノの事です‼︎ぺぺです‼︎
わからない方は、この先のネタバレOKなら調べると出てきます……

これを書く気になったのも、全てコヤンスカヤ(6.5章)の所為です。イラストがいちいちストライクゾーンに……

もうじき、事件簿コラボですね
コラボ中は多分かけません!
ごめんなさい……
ライネス欲しい……

ではまたー


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第2話 玉藻の前 顕現

第2話です

今回も、楽しみながら読んで下さい!

『12話程度で終わる』と言ってましたが、早速雲行きが怪しくなってきました

出来るだけ、早く書いて投稿したいなと思ってます


001

 

結論からいこう

 

乙骨憂太の自己紹介は失敗に終わった

ただならぬ気配を感じ、クラスメイトの1人で有る禪院が乙骨に向かい刃を立てたからである

 

その結果、僕らは乙骨に取り憑いている『怨霊』に殴られた

僕はなにもして居ないのに……

 

理不尽の極みである……

 

僕は‼︎一切‼︎なにも‼︎していないだろうが──ー‼︎‼︎

心の中でそうさけんだ

 

『主人さま。流れ弾、乙です♡』

玉藻の前ですらこの始末である……

 

002

 

「んで、次はもう1人の紹介だね〜。この子はビックだよ〜。君たちなら、名ぐらいは聞いたことあるだろうけどねぇ」

 

「かの御三家の『相続』を支えてきた妙漣寺(みょうれんじ)‼︎その歴代の最高傑作がこのお方‼︎日本三大妖怪の内の1つ『玉藻(たまも)の前』に取り憑かれ、妙漣寺そのものを滅ぼした張本人‼︎」

まるで落語家の様に緩急をかけ語った

 

「鈴谷宗一君で──ーす‼︎」

手をヒラヒラされながら僕を紹介した

きっと恐らく悪意を持って

 

「そして、鈴谷君に取り憑いている玉藻の前で──す!出ておいで──‼︎」

 

あの最強呪術師である五条悟の『許し』が出た

 

その瞬間僕の3歩ほど後ろ、金色の光と共に姿を現した

 

「少しばかりお口が悪いので、は?」

露出度が高い青い色ベースの和服に、狐耳。桃色の髪を束ねる大きな青色のリボン──

そして1番の特徴がその3つのふかふかの尾──

 

玉藻の前はズカズカと五条先生の方に歩む

 

あ、やばい。あの眼は相当怒っていらっしゃる

 

「どうしたんだい?『事実』を述べただけなんだけどねぇ?それともなんだい?また『石』に戻りたいのか?」

片目の包帯を解き睨みつける

 

「あの時は、安倍晴明の式神やその子孫。他の術師がたくさんおりましたからね。油断して尾を1つ無くしてしまうだなんて失態、もう2度有りませんことよ?」

 

バチバチバチバチ……

 

両者の間に火花が今にも飛び散りそうだ!

ヤバイ!僕が止めないと‼︎

 

「2人とも、落ち着いて……!」

慌ててその間に割り込もうとした

 

「おい!転校生‼︎危ない‼︎」

パンダが突然叫ぶ

 

 

「え⁈」

後ろを振り返る

助走をつけ飛んできたのだろうか

スピードを付けた禪院の身体は(くう)に浮き、手に持つ槍を勢いを乗せて振り払ってきた

その槍先は玉藻の前の首をねらうように

 

「……ッ⁉︎」

咄嗟の判断で僕は、その槍先を両の手で掴む様に受け止めた

 

聞こえは最低に悪いが、腐っても『妙漣寺──その30代続いた中での最高傑作』

 

六神通は訳あって玉藻の前に封じて貰っているが、その肉体と呪力は1級品だ。だが──

 

 

槍を受け止めた両手。指の付け根、手首へとタラタラと血が流れゆく

 

(完全に気が抜けていた。まさかこれ程の力が有るとは……完全にカバー出来なかった。込めた呪力が足りなかったのか……)

 

流れる血を見つめる。そして僕は口を開ける

 

「たとえそれが、特級を冠する呪霊で有ろうと……、

その存在が、先の未来に影響が有ろうが、もうどうでもいい……。

僕に初めて出来た最愛の家族だ……。

この生活を壊すのであれば、僕は──」

 

そう、僕は妙漣寺の天狗道

この一族代々、悪に染まり穢れてきた

勿論その末裔の僕も

『何も知りませんでした』では済まされない

ならばとことん何処まででも──

 

「悪に堕ちてやろう……」

 

 

ピコンッ‼︎

何やら聞き覚えのある機械的な音が聞こえた

そうそれは、携帯の録画を終える音に……

 

あ、やられた‼︎

 

恐る恐る振り返る

「いや〜良いもん『撮れた』よ‼︎鈴谷く〜ん!」

とスマホをいじる五条先生

 

「ごん"な"に"も"!(わ"だぐじ)の事を、想ってくれて居たとわ"!タマモ、嬉しくて!涙が()まりません‼︎」

おいおいと泣く玉藻の前

 

ポケットの中をガサガサ漁り

「レディ。どうぞ、ハンカチを」

と五条は玉藻の前に差し出す

 

「あ、どうも有難う御座います。お優しいのですね。……ぐすっ。我が主人様の御先生は」

大きな瞳から出る大粒の涙を、上品に拭っていく

 

「あ、駄目だ足りない。誰か‼︎玉藻の前さんに、トイレットペーパー持ってきて──‼︎‼︎」

五条先生は声を上げた

しかし誰1人としては動こうとはしない

 

「ところで、先程から気になっていたのですがその板。それは……」

「あぁ!これね!ちょっとだけ待ってね〜。これをこうして……。ポチッとな‼︎」

 

先程の光景も充分にツッコミたかったが、それどころでは無い!

冷や汗がダラダラ流れる

 

『僕に初めて出来た最愛の家族だ。

この生活を壊すのであれば、僕は。

悪に、堕ちてやろう──』

 

あ、終わった

はい、終わった

楽しくなると思っていた、学業が終わった

余りの恥ずかしさに耐えかね、僕はその場に座り込み、両手で顔を覆う

 

「ん⁉︎なんと⁉︎……ん〜。『そういう』絡繰(からくり)ですか……。便利な時代になったものですね〜」

五条の持つスマホを一瞥(いちべつ)し、そう答えた

 

「だろう?まだまだ人間も捨てたものじゃあ無いだろう?どうだい玉藻の前?」

 

「はぁ、少しばかり虐めてやるつもりでしたが、こうも立場が逆転されますと……。……では、私これにて──」

玉藻の前が180度振り返り、僕の元に歩み寄る

 

僕の両手の傷は呪力による治癒。反転術式でとっくの前に直した

心の傷も治れば良いんだけどね────?

 

「あぁ、ちょっと待った」

五条先生が玉藻の前を呼び止める

 

「まだ何か?」

 

「ちょっと、この子達に『今出せる本気で挨拶』して欲しいんだよね。呪術師たる者、『最高級クラスの恐怖』を味合うか、味合わないかで成長速度が段違いになる。これ僕が言うから本当だよ」

ニヤつきながら続ける

 

「もし、やって貰ったら、さっきのデータ。新しいスマホに入れてプレゼントしますよー?」

 

玉藻の前の耳がピクリと動く

 

やる気だ……

 

「先程まで、散々流されて居ましたが……いえ。皆様どうぞ、我がご主人と仲良くして『やって』下さい。まだまだ精神が『子供』ですが、よろしくお願い致しますよ?」

 

なんか心に追撃が……

 

「そうそう。主人様に憑いて居るのがこの(わたくし)、『玉藻の前』である事を──」

 

一瞬にして空気が冷え込む

この場には居てはいけないと、本能が警報を鳴らす

重々しい重圧が身体全体にのしかかる

五条先生以外、そう僕も含めて誰もかもが息を止めて居た

 

乙骨に視線を送る

今にも吐きそうな表情

そしてその背後には『里香ちゃん』が乙骨を厳重に『守って居た』

 

「──お忘れなき(よう)──」

 

金色の光に飲まれ、玉藻の前は消えていった

 

 

 

「全く……ふざけすぎだ。尻尾が9つで完全体。現在3つであの殺気──。完全体を祓うには、この僕でさえ……」

 

骨が折れる

 

最強呪術師の五条悟が呟いた

 

 

 

 

 




お疲れ様でした!

今回は自己紹介をメインで書きました。

「妙漣寺とはなんぞや?」を今回書く予定でしたが、区切りが良いので次回詳しく書きたいと思います。
やるやる詐欺ですね。ええ、わかります泣

今回は解説は有りません
ですので、今日はここまで〜

ではまた


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第3話 宿命通

第3話です!

沢山の方に読んでいただき、とても嬉しいです!

これからも、自分のペースで書き進めたいと思います!

よろしくお願いします‼︎


001

 

「──、……っという訳だ。で──」

玉藻の前の『挨拶』で竦み上がった僕たちは、呑気に持論を展開する五条先生のお話を聞く

 

僕と乙骨の『転校生組』は、2列目に座っている

窓側が僕。廊下側が乙骨──

 

そして前の列には窓側から順に見て、男、女、パンダ

あのあと軽く自己紹介があった

 

男の人は『呪言師』の<狗巻(いぬまき) (とげ)>君

おにぎりの具で会話してくる

ちょっと分かりにくいが、なんとなくは伝わる

"呪言“は狗巻家相伝の高等術式──

きっとかなり強力なのだろう

 

次に女の人。『呪具使い』の<禪院(ぜんいん) 真希(まき)>さん

ちょっと怖い

さっきタマモさんの首目掛けて槍を振りかぶった……

まぁ、多少の怪我ならすぐに治るけど……出来るだけ仲良くしたい

相手はあの『禪院』。御三家の内の1つ──

きっとあの子も、僕と同じように育ったのだろうか?

仲良くしたい(切実)

 

最後に廊下側に座るパンダ

終わり!……って事ないよね

呪骸(じゅがい)』だよな?

あの『器』に『呪力』を込めて使役する式神もどき……

でも普通、こんなに『生き物』の様に動かないよな?

どーしてだろう?

 

 

「おーい。鈴谷くーん?僕の話、聞いてる?」

 

「聞いてないです」

即答する

だってその内容、ほとんど自分の自慢話じゃあ無いですか!

 

「はぁ、そうかそうか。まぁいいか……。じゃあ本題に入ろうか⁉︎」

いきなり皆(前列お三方)の聞く姿勢が変わる

 

「これで一年も5人になったね。じゃあ!午後の呪術実習は2-2のペアでやるよ!」

 

へー。2-2のペアね……。‼︎ちょっと待って、1人溢れないか⁈『じゃあ』じゃ無いよ⁉︎

 

「棘・パンダ、ペア」

 

あ、終わった。残るペアは3通り!その内2通りは出来ればなりたく無い‼︎

憂太君とペア!憂太君とペア!憂太君とペア‼︎

 

「真希・憂太、ペア」

 

終わった。ひとりぼっち確定──

 

「げっ」

真希が言葉を漏らす

 

嫌なら変わってあげようか?

 

「で、余った鈴谷は僕と、憂太のバックアップね〜」

あー。なんとなく分かった気がする……

 

あの人、『里香ちゃん』を出させる気だ……

 

で、僕は1つ気になっていた事が……

手を挙げる。そのまま五条先生に指され、立ち上がる

「どうして、みんなは名前呼びですが、僕は苗字呼びなんですか?」

 

「そりゃあ勿論……」

ゴクリと息を呑む

 

「可愛いからね!野郎だらけのクラスに花が2輪あった方がいいだろう?そのやや大きめな服も、わざわざ僕が頼んだオーダーメイドだからね?まるで女の子みたいだ‼︎」

 

確かにこの上服、僕にとっては大きめで着丈も長く太もも辺りまで来てるし、袖口だってわざわざ紐を通して落ちない様に縛っている

にしても最後、最後。それ悪口では?

 

「え⁈男性だったの⁈」

僕の隣、憂太が、声を上げる

 

乙骨よ。君は1番僕の近くに居たんだぞ。気付け?泣くぞ?

 

「え!マジかよ。棘より身長ないから、あとその顔……。てっきり女性かと……」

パンダがあたふたしながら続ける

「棘!背比べ!」

 

「たかな‼︎」

棘がそう言うと、僕の隣に寄ってきた

 

「おっと。棘より低いなんてー。ざっと見て156センチ?レディースの服。買ってやろうか?」

五条先生が割り込む

 

もうどうにでもなってしまえ……

 

 

002

 

「『闇より()でて闇より黒く──。その穢れを(みそ)ぎ祓え──』」

人差し指、中指を立てて五条先生は唱えた

 

"(とばり)“──

僕ら呪術師を帳の外から見えなくし、呪いを炙り出す結界だ

黒い液体が空から流れ出る

 

「夜になってく……‼︎」

 

あ、そうか。憂太君、帳を見るのは初めてだよね……

完璧の素人だから……

 

「憂太君。大丈夫だよ。外から呪術師(僕たち)を見えなくして、普段隠れている呪いを炙り出す結界だよ。

これで小学校に隠れてる呪いが見える様になったよ‼︎

これで攫われた2人の子供を助けられる様になったよ!

ドンドン解決して、ドンドン自信を付けよう!

大丈夫!憂太君には『センス』が有るから‼︎」

僕は不安そうな憂太君にそう言い聞かせた

 

「よし、じゃあ鈴谷行くよ〜」

校門に向かい歩きながら五条先生は言った

「今行きまーす。じゃあまたね。憂太!」

軽く手を振り僕は校門に向かって走り出す

 

帳が完全に降り切った

 

「さてさて。これから僕と鈴谷はこのまま待機ね。もし憂太が『祈本(おりもと) 里香(りか)』を顕現させて、暴走したら鈴谷。止めてきてね?」

 

「だろうと思ってましたよ!もし僕が負けたらどうするんですか?もぉ〜〜」

ちょっと特殊な人だな、とは思ったさ

だけど今、もう理解した

呆れた。でも実力はある。なんなんだこの人は?

 

僕らはこのまま、ボチボチと歩く

徒歩3〜4分で目的地まで着いた

 

カフェ

 

「………………。何故⁇」

 

「いやー。先生として見守らないと行けないんだけどさ〜。普通に30分〜1時間は掛かっちゃうんだよね〜。だからさ、カフェで暇潰し!」

いつの間にか、目を覆って居た包帯を取りサングラス姿になって居た

 

カランコローンと店の扉を開ける

 

「あ、2人でーす」

と、指で表しながら入る

 

「え⁈⁇⁇⁇⁇」

憂太が朝言っていた『目がグルグル』状態になっているのだろう

 

先生の意図が全く持ってわからなかった

 

 

 

「ど、どうぞ……」

綺麗な女性の店員さんが、注文した物を僕らが座るテーブルに置く

 

「あ、ありがとうございます」

僕は店員さんにそう言うと、軽く会釈し軽くスキップを踏みながら裏に行ってしまった

 

テーブルには五条先生が頼んだ、ホットカフェラテ、パンケーキ

一方僕は、ホット抹茶ラテ、それも便乗して同じパンケーキ

 

甘い香りが漂う

 

パンケーキに付いてきた、シロップを満遍なく掛ける

それをナイフとホークで一口大に切り──

口に運ぶ

 

笑みが溢れる

甘いものは良い!栄養がある‼︎(自論

そのまま飲み物に手を付ける

美味すぎる

砂糖、ミルク、抹茶──

とんでもない組み合わせだ

 

「あのーすみません〜。ちょっと良いですか?」

声がかかる

そこには2人の女性の学生が

 

「なに?君たち高校生?」

先生がそう言った

「はい、そうです!今、サボりに来てまして……」

「あの、写真1枚良いですか?」

2人の高校生は目を輝かせながらスマホを取り出す

 

写真?なんでだろ?ん〜、あんまり……

「良いよ!」

「え"⁈」

先生が即決する

 

『ありがとうございます‼︎』

声が重なった

 

「なんなら一緒に撮ろうか?店員さーん!良いですか〜⁈」

せかせかと、さっきの店員さんが出てきた

 

「良いですよ〜。喜んで〜」

いいのかよ⁉︎

 

「さぁ、寄って寄って〜」

先生が2人に近づく様に誘う

「……」

 

「はい、撮りますね〜」

パシャリ

 

「ありがとうございます!」

と頭を下げる

2人の学生の内1人──。屈んだ胸元から輝く何かが見えた

 

「ん?それ。なんですか?」

僕は気になって、指を差して質問する

 

「これ?パワーストーンをネックレスにしたものだよ〜」

「あ、その石。結構高かったって言ってたよね?」

「そうそう〜。バイトして──」

 

あれが、パワーストーン?

 

「じゃあ私達はこれで。仲のいい『兄妹』ですね。写真ありがとうございます」

 

「あぁ、一応言うけど僕ら兄妹じゃあ無いんだよね。あとこの子、男の子ね」

先生が僕を指さす

 

「え?え?」

2人の女子高生。店員さん。そして僕らは顔を歪めた

 

「あ、そうゆうことか……」

僕は小声で呟いた

 

またかよ!チクショウ……

 

深呼吸して落ち着く

彼女たちが、自分のテーブルに戻る事を確認してから僕は言った

 

「先生。さっきの彼女、面白いことを言ってましたね。『パワーストーン』なんて。テレビでも有るんですけど、パワースポット巡りどか……。

本当にパワー、つまり『力』が有る物や場所、そこは人間が行く(又は所持する)だけで『嫌な気がする』だとか本能に直接訴えるはずなんですよ。

玉藻の前が『挨拶』した時の様に、重厚で、凍てついた様な気配──。

僕は、この生活が結構好きです。甘いものが食べれて、面白い番組や、アニメ、ゲームで満ち満ちてる。

でもそんな生活にも『偽り』が混じってる。僕は少しだけソレが嫌いです」

 

なんでだろう。何故か喋ってしまった

けどまぁいいか

僕は一口分残っていた抹茶ラテを飲み干した

 

 

003

 

「美味しかったね。ちょっとここで話そうか?」

 

「何ですか?僕の過去ならお断りします」

 

「おいおい。一体誰がお金を払うとでも?」

 

「ゔ……」

胃が急に痛くなる

 

「分かればよろしい。まずは──」

妙漣寺(みょうれんじ)を滅ぼした理由──

ニヤつきながらそう言った

 

「では……、此処では無いところで……なら……」

テンションが下がった

まるで自分の吐瀉物を飲み込んだ様な気分だ

 

僕らは風の様に早々と店を後にした

 

そして車を置いてある、小学校の校門前まで歩く。そして僕は口を開いた──

 

「簡単に言いますと、代々続いた『子攫い』と『無能への扱い』。それが(ゆる)せなかった。いや、赦せる筈も無い」

思い出しながら、かつ淡々と語る

「妙漣寺は、修験道の一派。まだここまでは、普通だ。だけど僕らは悪名高い『天狗道』──。

『堕落した天狗が至る地獄に、辿り着くことを前提とした修験道』──。

妙漣寺の修験者は血も涙も無い。ただ六神通を極める為、代々継がれてきた──」

 

「子攫いに、無能の扱いね。その無能、どうせ皆んな『処分』されるんだろ?」

 

「……。はい。手足、足首の腱を切られ、喉を潰されて山に捨てられます」

 

「わお。こりゃあ酷いな。御三家より酷いかも。もう少し深く聞きたいけど、一旦ここで。次。六神通について」

おおよそは知ってるけどね、と最後に付け足す

 

「六神通とは、仏教において仏や菩薩などが持っている6種の超人的な能力の事です。6種の神通力。ですので、六神通と言われてます」

そこから、各神通について簡単に説明した

 

1.神足通(じんそくつう)

望んだ場所に自在に行くことが出来る能力

 

2.天耳通(てんにつう)

世界全ての音を聞き、聞き取る

 

3.他心通(たしんつう)

他人の心を知ることが出来る

 

4.宿命通(しゅくみょうつう)

自分、他者の過去を知れる

 

5.天眼通(てんげんつう)

あらゆる事象や、未来を見透す

 

6.漏尽通(ろじんつう)

煩悩が尽き、悟りに至ったことを知る能力

自分の寿命や宿命を覚える

 

「ふーん、大体は分かった。つまりは、『どんな事をしてでも、六神通を取得する集団』で良いね?」

 

「あ、それ。すごくわかりやすいです」

 

「で、鈴谷は何を取得してるの?」

 

「僕は『神足通』『宿命通』『漏尽通』の3つです。1つの神通力を取得するのに100年かかると言われてます。ですので僕は──」

 

「あぁ、だから『最高傑作』ね。その六神通さ、僕の六眼(りくがん)と似てるね〜。例えば『天眼通』。これ初見の術式ですら見抜けるでしょ?」

指先を回しながら言う

 

「僕は取得してませんが、30代目は、天眼通を取得してました。他に漏尽通を。30代目はよく、相手の弱点を攻める人でした。恐らく先生の言う通りだと思います……」

 

「あっそう。30代目当主でも2つ……か。ねぇ、コレ終わったら本気で戦ってみないかい?」

最強呪術師である五条悟の誘いを貰った

でも、僕は……

 

「嫌です。お断りします。僕は神通力は使いたく有りません。玉藻の前が僕に取り憑いているのも、大きな理由の1つです。3つの神通力は封じてもらってます」

それを聞くなり先生は「え──!」と声を荒げる

 

「ですが安心してください。六神通の1個でも取得すると、その肉体は仏・菩薩……或いは神の肉体に変化します。封じてもらっても、肉体はそのままです」

僕は淡々と続ける

 

「六神通のうち、3つを取得した僕の身体は──」

 

 

人間を半分辞めてます

 

 

「じゃあ、僕と戦う事出来そうだね?あと鈴谷の術式もかなり『強烈なモノ』だ。是非、僕を超えて貰いたいものだね──」

 

 

「あ、あと。鈴谷、反転術式使えるだろ?真希に斬られた時、直してたよね?あれさ、あんまり使わない方が良いぞ。目の下にクマが出来るから」

と、笑いながら言った

 

 

004

 

特級過呪怨霊 祈本里香が完全顕現してから5分が経つ

その高圧的な存在感は玉藻の前と比べ、また違った『恐ろしさ』があった

 

その5分後──

 

ドサッ‼︎

 

3名を抱き抱えた憂太が校門を少し抜けたところで崩れた

帳も、憂太の生還が確認出来た所で閉じた

 

「おかえり。頑張ったね」

包帯を巻き直した五条先生が憂太に優しく言う

 

僕も憂太君に近づき、屈む

 

「大変だったね。お疲れ様。憂太君、君はこの3人を救ったヒーローだよ。もう昨日までの君はここには居ないよ──」

 

「はは、ありがとう。鈴谷くん。自信、持てそうな気がするよ」

憂太君は笑って応えた

 

そうさ、君は真っ直ぐ育って欲しい

その為なら、僕は君に全てを捧げるつもりだよ

 

そしていずれ、君は僕を超えて。そんな君に僕は──

 

…………。

 

辞めた。『僕を殺して欲しい』なんて思うのを……

 

妙漣寺の生き残りが僕。穢れきった一族は滅びなければならない

勿論この僕も

 

初めて出来た友達にこれは流石に言えないよな

 

やはり僕が死ぬ時は1人が良いのかも知れない

 

 

005

 

それから2日後──

 

「君から僕を誘うなんて、どんな風の吹き回しだい?」

高そうな椅子にふんぞり返り、クルリと回る

 

 

「五条先生にどうしても聞いておきたい事が有りまして……。僕の『前世』についてです」

そう、僕の前世についてだ

どうしても五条先生に確認を取らなければならない

 

なんせ、僕の前世の記憶には『五条悟』に似ている人が居たから

 

「前回話した六神通──。そのうちの1つ、僕が取得している『宿命通』です。

この神通力は、自分の前世を少しだけ見る事が出来ます。

ですか個人の尊重を僕は重んじてますので、その記憶を見なかったですが……。

僕が確か、6か7歳頃だと思います。ある日突然、宿命通を取得しました。

そして強制的に『見て』しまいました──」

 

「へぇ、前世の記憶……ね。面白そうじゃんか?で?それでそれで?」

興味津々の先生を置いといて、僕はそのまま続ける

 

「その記憶には多分、『五条悟』が居ました。あともう1人……。『前髪が変』としか覚えて無いんですが……。

人違いですかね?」

 

「……⁉︎…………ん〜〜。どうだろうか?まずその前世について詳しく」

顎に手を置き、深々と思い出す

 

「えっと、前世といえど必ずしも『過去の人の魂』という事では有りません。……多分。遠い未来や、今生きている人物からのケースも有ります。僕の前世の人も、遠い過去の人では無く。

僕が生きて居た、『ここ十数年以内に死んだお方』と考えてますけど……」

 

「あとこう聞いた記憶も有ります。『私たちは、最強なんだ』」

どうですかね?と、聞く

 

「いやーわからないな〜。その『私たちは、最強なんだ』って(笑)。ここ十数年なら、最強の呪術師の五条悟は生まれてるぞ──‼︎是非とも、この僕と手合わせしたいものだね〜?

お、そういえばさ。僕と模擬戦しない〜?ずーっと最強はつまらないんだよ〜」

 

「はいはい。今日は雨が土砂降りなので、天気のいい日にしましょうねー」

僕はギャグ漫画で習った、老人に愛憎を込めて言うセリフをパクり先生に言った

 

「なんか、最近乗ってこないねー」

 

「慣れです。慣れです。順応スピード、自慢じゃあ無いですが早いですよ?……。じゃあ、先生は僕の過去の事は知らない……と」

 

「あぁ、そうゆう事。お役に立てなくて申し訳ないね?玉藻の前に解放して貰って、本気で観ればわかるんじゃ無い?」

 

「いやだから、相談しに来たんですよ。ぶん殴りますよー?……。いや、でも。ありがとうございます。なんせ、とても(おぼろ)げな記憶なもんで……」

僕は扉に手をかける

 

「じゃあ失礼しましたー」

 

鈴谷はそのまま、五条の部屋を後にした

 

 

「全く、前世とは怖いものだね。これもまた、天与呪縛(てんよじゅばく)では無く、自ら取得した『能力』だから尚更タチが悪い……。才能がそうさせたのか、因果がそうさせたのか……」

 

ギィギィと椅子を鳴らしながら、天井を見る

 

「『私たちは、最強なんだ』──。そんな事言う奴は、この世界中でたった1人しかいねぇよ」

 

屋根に水玉が幾度となく叩きつける音がその部屋を支配する

 

その部屋の中、最強呪術師 五条悟はただ自らの過去を思い出して居た

 

 




お疲れ様でした!

如何でしょうか?

今回は、僕(作者)の悪意を持って書かせて頂きました!
こんな設定にしたら、『最高で最低じゃ無いかな?』と無い頭で考えまして、書きました。

前回から『妙漣寺と、御三家との繋がり』についてやるやる詐欺でしたので、ここで補足したいとおもいます。
なんせ、御三家である五条悟は勿論、禪院家の真希も知ってますので、中々ぶっ込み辛いので……。すみません。

まず術師は代々、『術式』を受け継ぎます。(五条家の無下限呪術や、禪院家の十種影法術((間違ってましたら、すみません‼︎))など)
継承の仕方は、子を残す事です。ですが、僕ら人間ですので『思う様に行かない時』も有ります。
例えば、子が全て亡くなった。子を作る為の配偶者が居ない、などです。

前者は考え易いですが、後者は少し考えが難しいと思ってます。
子を作る為の配偶者ーー。ただ『子を作る』なら『誰だって良い』んです。
ですが、術式の継承となると話は別です(きっと)
『呪力』が少ない一般人と子を成すのは、リスクしか有りません
一方で、自分の家系。つまり従兄弟など、自分の『術式』と同じなら、子への『術式』の継承は簡単でしょう
ですが、それは近親婚となり、類稀な病を発症しいずれも短命でした。
かと言って、他の家系に『人をくれ‼︎』とは言えない。どの家系も仲が悪いですので……。

そこで現れたのが妙漣寺。天狗道です!(パパーン)
妙漣寺は、子を攫います。そしてその子を『六神通』の取得を目指し、日々鍛錬させます。
ダメなら捨てる。有能なら残す。これ繰り返せば、『術式』を持たない『呪力』が一丁前の『失敗作』が出来ます。で、その人を相続に困っている家系に売る。素晴らしい。世界が丸く収まりました。
六神通のうち、1個でも取得できれば、『天狗の子』とみなされ、日々より厳しい鍛錬に打ち暮れます。
売られた人が、六神通に目覚めないか?
それは有りません。『失敗作』とみなされた人間なので。

(この辺の設定は、僕が大好きなフロムソフトウェアのゲーム。ダークソウルや、ブラッドボーンをモチーフにしてます。血筋なんてもろロスリック家ですよね(笑))

以上、御三家との関係でした。
まぁ、深く見ればおかしな所も有ると思いますが、許してください。

今回はここまでです!

最後まで見てくださってありがとうございました‼︎
感想も読ませて頂いてます。
『直ぐ返す』。これは少し難しいので、自分ができる範囲で返信したいと思います。
感想は全て読ませて頂いてます。読んだ感想はgoodを押させてもらってます‼︎
僕にとってかなり大きい励みになります。

こんな趣味100%の文章を読んでいただいてとても嬉しいです‼︎

今後もどうぞ、よろしくお願いします

ではまたー


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第4話 晴天の下。乙骨育成計画

第4話です。

今回も楽しみながら読んでください!



001

 

僕が『前世』について相談した4日後──

 

快晴──

 

「あのー。タマモさん。天気予報だと今後ずっと雨の予報なんですけど……。何かしました……?」

いつも通り、起床して顔を洗いながら聞いてみた

 

『なーんにも、構ってませんよ?天候を操るなんて『今』は到底無理ですね〜』

と、僕の頭の中で囁く

 

玉藻の前は、基本的に『危険が迫る。又は、敵対時』、『こっちから語りかける』、『寝坊しそうな時とか』に語りかけてくる

その他の時間は寝てるそうだ

『約束』して手に入れたスマホ(僕の動画入り)で、遊んでいるそうな

8割型、料理のレシピや、動画を見てるらしい

 

と言いますか。『今』は出来ないんですね……

ふと僕は尻尾について疑問を浮かべた

 

「ねぇ、タマモさん?」

 

『どうしました?』

 

僕はぶかぶかな上着に袖を通す

 

「尻尾ってさ、僕みたいに『修行』すれば増えるものなの?」

 

『昔は増えましたが……今は『取り込まないと増えません』ねぇ〜。残りの尻尾の気配も、全然感じませんし。どこに行ってしまったのやら……』

はあーと、深いため息を吐く

 

『では、(わたくし)はこれで。また、御用が有ればいつでも呼んで下さいまし』

 

そうなんだ。これは初めて知った

イヤ。今まで聞かなかっただけか……

 

僕は上着のチャックを締める

昨日、寝る前に両袖に太い紐をわざと見えるように縫いつけた

 

「あとは……。腰紐、腰紐……」

服が入っているタンスから紐を取り出す

その紐を一旦たすき掛けをする

「で、次に……。また紐……」

今度は短い紐を取り出す

肩に掛かる腰紐と、袖に落とした紐を括り付ける

 

8分袖──

これでいい感じに出来上がった‼︎

長く白い。少し癖っ毛の髪を櫛でとかす

 

白い髪に、薄青い目。ダボダボな白色の学校指定の制服──

 

「朝食、食べに行こ」

 

部屋を出る前にもう一度、窓から外を見る

 

快晴──

 

嫌だなぁ、と心の底から嘆いた

『天気のいいに日しましょうね』と言った自分を殴りたい

痛い思いするの確定だもの

 

 

002

 

今日は『生憎』天気が馬鹿みたいに良いので午後、グラウンド(空いてるスペース)で模擬戦をする事に

今までは室内で僕と真希さんで、憂太くんを指導していた

 

パン‼︎と竹刀同士がぶつかる音が響く

 

「いいねー。憂太くん。さっきよりも『力』が入ってるよ!よし、今までよりも早く振ってみるよ」

僕はブンブンと竹刀を左右に振る

このぐらいの速さ〜、と見せる為にに大袈裟に

 

「じゃあ、いくよ?」

 

「お、お願いします‼︎」

憂太君は竹刀を構え直し言う

 

「たかな‼︎」

棘くんの一声が掛かり、模擬戦が始まる

 

先に動いたのは乙骨──

竹刀を下から上にと切り上げる

それを半歩動き、かわす

(この避け方も後で教えてあげようか……。飲み込み早いし)

乙骨の切り上げた竹刀は、止まることなく2撃目、3撃目と繋いでゆく

鈴谷は避けに徹し竹刀を振らず、ただ乙骨の行動を見ていた

 

(とても良くなってきてる!だけどやっぱり……)

僕が、わざと竹刀を大袈裟に振った所為で、そこにしか見ていない

 

鈴谷はふと立ち止まり、両手で竹刀を握り上段に構える

ここから繰り出される『一文字』。またそこから派生する『一文字・二連』──。露骨に、正面から叩き斬る。ただそれだけ。両手が頭より上に有るので、隙にはなるが修練を重ねれば重ねるほど、重たく、速く、威圧的な攻撃が出来る技。僕はこの技は好き、カッコいいから‼︎

 

しかし鈴谷の両手が天側に上がったのを、乙骨は許しはしなかった

体制を瞬く間に立て直し、突きの攻撃をくり出す。それも鈴谷の心臓部を目掛けて──

 

「いいね。憂太くん。敵の隙に対して、適切な攻撃──。でも‼︎」

鈴谷は竹刀を手放し、乙骨に向かい突っ込む。

 

「ッ⁉︎」

一瞬焦る乙骨。だが覚悟を決めて竹刀を放つ

それをスレスレで避け、竹刀を片足で踏みつける

「うわっ‼︎」

いきなり体勢を崩された乙骨は、悲鳴にも似た声を上げる

そのまま鈴谷は掌底(しょうてい)で、竹刀を撃ち落とし背後に廻る

 

「どっこいしょ」

軽い蹴りで乙骨に膝カックンをし、より体幹がブレる

そのまま服を掴み投げた

「嘘ぉぉ⁈‼︎」

乙骨が空に浮かぶ

 

「ぐふぇ‼︎」

砂埃が舞う

 

「たかな‼︎」

棘くんの『終わり』の合図がでる

 

『たかな』で始まり、『たかな』で終わる……

本当の意味での意思疎通は、まだまだこれからなのかも知れない……

『終わり』ぐらい、『はまち(寿司ネタ)』でも良く無いのか?

 

「お疲れ!いい感じだったよ!だけど、剣(竹刀)を見過ぎだね〜」

憂太くんに僕は手を出す

「あ、ありがとう。本当(ホント)に宗一くんは強いね?」

 

「どうもありがとう〜。でも憂太くんも、良くなってるよ!僕と真希さんで、おおよその事は『教えた』から、あとは反復練習だね」

そう言って、握られた手を引き上げる

そのまま、皆んなが居る所に向かう

 

そう。大体のことは教えた。今は少し動きが硬いが、もう2、3ヶ月有れば良くなるだろう

 

「真希さん!次、真剣貸して〜。練習するから〜」

 

「少し早すぎるんじゃねぇの?ま、鈴谷が言うんだからまぁいいか。怪我しても、私の責任じゃぁねぇし」

ほらっ、と2本手渡した

「ありがとう。真希さん。あ、……憂太くん練習終わったら、模擬戦やる?」

ずっと見っぱなしだった。きっと退屈だったろう

 

「いいぜ。鈴谷は何を使う?持ってきてやんよ」

少し笑いながら真希さんは言った

『何を使う』……。きっと模擬戦で使用する武器の事だろう

 

「槍──。……出来れば『十文字槍(じゅうもんじやり)』。それか『片鎌槍(かたかまやり)』がいいなぁ〜。あ、でも有れば、で良いからね〜」

 

「……⁈わかった、武器庫覗いて来る」

そう言い去って行った

 

「なんだー。鈴谷ぁ、オマエ良いとこあるじゃん?」

パンダが肘で、僕の横腹を突く

「い、痛いです。パンダパイセン……」

パンダ()()。僕は愛称を込めて『パイセン』とつけてる

 

「真希さん。なんだか嬉しそうでしたね?」

乙骨が口を挟む

 

「そりゃあそうさ。今まで、真希(自分)と張り合える程の武具使いの立ち合いは少なかったからな……。

昨日、室内で鈴谷に教えて貰ったろ?武具の素人の俺ですら、真希程に振るえるのでは?と思えるぐらいだぞ?

ただ『教えが上手い』だけでは出来ない神業だ──。

扱う武器を熟知し、尚且つ憂太(オマエ)の身体も気にしての『指導』だ

真希なら鈴谷の『指導』を見るだけで、強者(つわもの)だと思うだろうな」

 

「えっ⁉︎そんなに凄いの⁈‼︎」

とても驚く乙骨

 

「おいおい。まさか自分に『才能』が有るだなんて思ってたのかよ……。逆だ、逆」

へな〜って感じでパンダが言う

 

「……」

乙骨が膝から崩れる

 

「まぁまぁ!憂太にも才能有ると思うよ!最近劇的に良くなってるよ‼︎あ……あれだ!誰にも負けない、ガッツがあるよ‼︎」

よしよしと、乙骨の背中をさすりながら言う

 

「ガッツって……。鈴谷ー、それフォローになって居ないぜ……ッ⁉︎(天啓がいまパンダに降りた‼︎‼︎)」

 

「憂太ァ‼︎鈴谷ァ‼︎超大事な話だ‼︎心して聞け‼︎」

 

鈴谷、乙骨はパンダを見つめる。どうしたんだろうと、言わんばかりの顔で──

 

「巨乳派?微乳派?」

 

「「え?」」

声が重なる

 

「ぼ、僕は……あんまり気にしたこと無いけど……、人並みには大きいのが好きかと……」

(答えるんかい⁈乙骨‼︎)

 

「で、鈴谷は?」

(え"〜〜言わないといけないの〜⁈じゃ、じゃあ……)

 

「……背が高くて……。……大きい人……かな……。でも巨乳とか、そんなんじゃ無いからね⁈」

あれ、最後の言葉……。なんかのアニメで聞いたことある……

 

チクショウ!このまま誤解されてもアレだ!

「真希さんみたいな(強い)人も好きだよ!」

 

ガシャガシャ……

後ろで金属と木製の『ナニカ』が崩れる音がした

振り向きたく無いが、恐る恐る首を後ろに……

 

あぁ、多分終わった

両手を挙げて降参のポーズを取る

一旦お話を……。全てはこのパンダパイセンが悪いんです

 

 

003

 

「ィッ……⁉︎」

真剣での立ち合いの際、乙骨は右手首を見つめた

 

「……!どうしたの?」

 

「手首を軽く痛めちゃったみたいで……。真剣って重いね。竹刀とは全然違うや……」

そこまで多くは振っていない。まず『慣れ』が必要だから、と思い真剣を持たせたが……

 

「切り上げるときに変な癖、付いちゃってる様でさ……。本当に軽く捻っちゃたんだ……」

 

「そうか……。真剣は、まだ早かったみたいだね。じゃあこの一週間は竹刀。それから木刀に移りつつ、真剣の修行ルートで」

僕は憂太くんに反転術式を使用して、捻挫を治す。小声で、皆んなには内緒とつけ加えて

 

それから僕は、袖に取り付けて居た紐をほどく

ほどいた紐は適当に腕に巻き、たすき掛けしていた腰紐も同様にほどき真剣で、手頃なサイズになる様に切断する

 

それを乙骨の右手首に巻き付けていく

「慣れないうちは、僕がやってあげる。だけど覚えるんだよ?」

捻挫しないよう、手首を固定する為に固く巻き上げ、縛る

 

「手製サポーターの完成!これなら手首も固定されて、変に動かないし、怪我も減らせる。木刀からは必要になるかな?あ、でも。慣れてきたら要らないと思うよ〜」

2本の刀の汚れを取り、鞘にしまう

そのまま、刀を真希さんに手渡す

 

「ごめん、出してくれたのに……。見えてなかった」

 

「別に謝る必要ねぇだろ?よし‼︎これで乙骨との練習は終わったな‼︎じゃあ──」

拳をこちらに出して「やろうぜ」と──

 

「あぁ、そうだったね……。憂太くーん!休憩ー!棘くんと、パンダパイセンと一緒に休んでてー」

少し遠くに居る憂太くんに言った

 

僕は立てかけてある十文字槍を手に取る

(へー。本当に有るとは……。綺麗な刃先だな〜)

そんな事を思っていると、思わぬ人から声がかかる

 

 

「ねぇねぇ。鈴谷ぁ〜?僕とは?」

 

五条悟である

 

遂に来てしまった!約束は約束。やらなけばならない……

 

「ごめんなさい。真希さん。先客が居る事、忘れてた」

忘れていた作戦!でも上手くいかなそう……

 

「おぉい!『忘れていた』なんて、悲しいこと言うなよ!ま、こーゆー事だから、真希。ごめんね〜」

言うだけ言って、グランドの中心に先生は歩いて行った

 

「おい!鈴谷!」

真希さんの重い声にビクリと反応する

「1発殴って来い!」

 

きっと真希さんなりの、応援なんだろうか

 

「オッケー。任せろ任せろ!」

武器は持たず、僕もグラウンドの中心に向かう

 

 

 

 

「六神通。解放しなくていいの?」

顎に手を当て、先生は喋る

 

「友達から『1発殴ってこい』って言われたんで、『神足通』だけ解放したいと思ってます。玉藻の前呼んでもいいですか?」

 

「いーよ!」

即答だった。こんなんで良いのか?玉藻の前と結んだ『縛り』は──⁉︎

 

僕は心に念じる

 

タマモさん。神足通だけ解放してくれ。と

 

『全部……と、言う訳には行かない様ですねぇ。かしこまりました。では……‼︎』

 

一気に身体が軽くなる

2、3度ジャンプして感覚を思い出す

 

「もう大丈夫ですよー。あ、『終わり』方ですけど、僕の『戦闘不能』か『降参』。或いは『五条悟に1発パンチをお見舞いする』です」

 

「へー。いいね、それ。ますますやる気が出てきたよ。なんならもう始まってるんだぜ?ほらほら、来いよ?」

先生が手招きする

いつの間にか、包帯を取り六眼で僕を見ていた

 

完璧に舐めてやがる……

僕は一呼吸し、飛び出した

野をかける狼の様に。イヤ、それよりも速く──

 

「単調だね。まずは簡単に──」

五条が術式を発動させる

 

「術式順転『蒼』」

五条悟の無下限呪術の『収束』を強化した技──

その吸い込む力はとてつも無く強力

 

「おりゃ!」

鈴谷は地面を蹴り上げ、収束する空間に砂煙を被せる

五条からは、鈴谷の姿は見えなくなる

しかしその砂煙は1秒としない間に、『蒼』により消えてしまった

 

だけれども、鈴谷にとっては満足する結果となった

 

五条の背後、そこから力強く、天に向かって五条を蹴り上げたからだ

勢いよく空中に飛んだ五条だが、上空10m程で失速。その場に留まり浮かぶ

 

「次は空中戦ね──。了解‼︎」

鈴谷は足を2度地面を踏む

すると突然、鈴谷の視界に五条悟が現れる──

 

鈴谷の素早い蹴りを空中で食らわせるが、上手く入らない

五条は腕で鈴谷の攻撃をガードしつつ、術式順転『蒼』を使い自らを後ろに逃がし、受けるはずだったダメージを激減させた

 

 

「瞬間移動──?。いいね、その『神足通』ってヤツ。でも、デメリットもあるんだろう?」

先生が語りかける

 

「そうですねー。これと言ってデメリットは無いですが……。あ、強いて言うなら、自分で『座標』をつけて居ない土地、場所へのテレポートは出来ませんねー」

空中を歩きながらそう返した

 

「あ、じゃあ、女湯とかは『自分が前持って一旦入る』、或いは『目視で座標を作成』しないと出来ない訳ねー。神様も酷いことをする……」

 

「何ですか?その最低な発想は……?でも、強いでしょ?コレ。全部不意の攻撃でしたし。まぁ、直前で避けられてますけど……」

はぁぁ、と息を漏らす

普通の人ならまず避けられない

これが五条悟か、としみじみ思う

 

でも──

 

「1発ぶん殴りますからね?覚悟した方が良いですよ?」

不敵に笑ってみせた

 

「何言ってんだい(笑)。僕はまだまだ本気じゃあないぞ〜」

青い眼がこちらを見つめる

 

 

コワッ‼︎

何この人⁈

 

僕は今頃になって少し後悔し始めた

でも、カッコつけちゃったしねー

 

 

まだまだ鈴谷と五条の模擬戦は始まったばかりである

 

 




お疲れ様様でした‼︎

今回は、鈴谷と乙骨がイチャイチャする話でした

皆様、本当に読んでくださりありがとうございます!
めちゃくちゃ嬉しいです!励みになります!
この後も、出来るだけこのペースで進めたいな、と思ってます。

では、ここらは先はキャラ紹介!
今更ですが、主人公をさせて下さい

鈴谷 宗一 (すずや そういち)
誕生日 3月21日 2001年生まれ 男

白く少し長い髪に、薄く青い目が特徴
背は低く157センチ。体重41kg
第一印象は女の子
本人はそれを気にしてる
けど、美味しいご飯が食べられれば、どうでもいーや。と思ってる。単純な奴

山に閉じ籠って生きて居たので、急に状況が変わると混乱して、目がグルグル状態になる(乙骨に言われたアレ)
かなり、おっちょこちょい(良い意味で)
しかし、通常の生活ではソレが発症するが『山に籠っていた時』、『戦闘時』にはならない
逆説的に言うと、鈴谷がリラックスしてる証拠


好きなものは、甘い物全部。食べ物。アニメ、漫画、ゲーム。友達。魚料理

嫌いなものは、妙漣寺。

苦手なものは、お肉(でも最近食べれる様になってきた)。五条悟


ん〜。大体こんな感じですね。
鈴谷の過去は、本編に出そうかなと思ってます。

ここで解説もあれですが、『十文字槍』。あれの使用はかなり難しいらしいです。ですが使いこなせると、突けば槍、払えば薙刀、引けば鎌と言われてます。
鈴谷が十文字槍の名前を挙げたのは、殆ど自慢です。ですが、真希の素早く力強い攻撃を牽制するには、十文字槍が妥当と考えたからです。

ただそれだけです。申し訳ないです…

では、また〜



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第5話 還源術式 領域展開

第5話です‼︎

書いていて、少し長めになってしまいました…

12話前後には、なんとか終われそうです(確信!
でも、どうせ次話辺りで撤回すると思いますが……

今回も楽しみながら読んで頂けたら嬉しいです‼︎‼︎


001

 

ボロボロの僕。その隣には、方鼻にティッシュを詰めた先生──

 

そんな僕らが正座で<夜蛾(やが)>学長が現在進行中で作る、縫いぐるみを見つめる

 

チクチクチクチク……

 

夜蛾学長が刺す、針の音がこの部屋に響く

それほど静かなのだ

 

「で、どっちが悪いんだ?」

夜蛾学長の問いにすぐに反応する

コイツがやりました、と僕は五条先生に指をさす

 

「……で、どっちなんだ?」

夜蛾学長の言ってる事が分からない

もしや、と思い僕は五条先生の方に顔を向ける

 

「…………」

僕に向けて指をさしてやがる

「悟だな……」

指導の拳が五条の頭に入る

「オマエは昔から全く変わらんな!」

 

イタタと呟きながら夜蛾学長に返した

「確かにグラウンドは僕らの模擬戦で……まぁ、使い物にならなくなったけど鈴谷の力量は知れたよ。『ここまでしないと』実力が測れないからね。収穫はあった──」

ニヤリと笑い続けて言った

 

「特級呪術師の中では、僕の次に強いよ。まだ成長途中だけどね──」

 

10分程叱られ続けた

1番僕の心に効いた言葉は、『悟の様な人間は2人も要らん!』

酷くないか?なんなら玉藻の前ですら、笑って居たし……

 

 

「し、失礼、しました〜」

僕はゆっくりと扉を閉めた

このまま教室にと向かう為、廊下を歩く

 

東京都立呪術高等専門学校。その学長である夜蛾正道(まさみち)先生に怒られた

理由は五条先生との模擬戦

何度も何度も、先生の術式によりボロボロになりながらも、右頬に1発パンチをお見舞いする事が出来た

けれど、それが行けなかった

 

お互いヒートアップし、気づいた頃にはグラウンドが大小様々なクレーターが出来ていた

痛い思いしたけれど、楽しかった

だけどやり過ぎた様だった。最後に夜蛾学長から『直々に任務を下す』と、処罰を貰う

 

五条先生が

「真希や、棘、パンダが日々やっている任務とそう変わらないよ。ただ鈴谷の場合、『特級クラス』の任務になるだけだから」

と笑っていた

 

『特級クラス』ね……。どんな相手だろう?

先生との模擬戦で僕は、『領域展開』、『生得術式(しょうとくじゅつしき)(※術式の事)』を使わなかったからな〜

僕の『生得術式』は、『領域展延(りょういきてんえん)』と似た様な能力──。いっその事、火でも吹けたら良かったのに……

 

心の中で愚痴を垂らし、教室の扉の前で止まる

 

少し息を整えてから──‼︎

 

「五条先生をぶん殴って来たよ──‼︎‼︎」

今までに無い笑顔で教室に入る

 

そこからは楽しい時間が続いた

黒板には堂々と『あの憎きバカに清々しい一発をありがとう‼︎』と書いてある

僕の机の上には、近場のコンビニで買ったであろう沢山のお菓子とアイスがあった

 

「ほら、沢山食えよ?俺たちが買ってきてやったんだからな?」

腕を組み、パンダ先輩(パイセン)がうなずく

 

「甘いものが好きって言ってたからさ……。嫌いなものがあったらごめんね……」

憂太くんがソワソワしながら言う

それに続き、棘くんも相槌を取る

 

「そんな事ないよ!お菓子なら、なんでも好きだよ〜。皆、ありがとう〜。わぁ!アイスあるじゃん‼︎」

 

アイス(それ)、溶ける前に早く食った方が良いぞ?」

真希さんが指をさす

 

『チョコミントアイスクリーム』──

 

蓋を開けて、付属のスプーンで一口頬張る

「ん⁈あんまぁい!」

 

「?『あんまぁい』?」

眉をひそめ真希さんが聞く

 

「『甘い』と『美味い』の複合語。僕のオリジナルの言葉。真似していいよ?」

 

また美味しい食べ物を見つけてしまった!

後から聞いた話だけど、チョコミントアイスを買ったのは真希さんだと、憂太くんに聞いた

 

 

002

 

それから3日後──

 

僕は、呪術高専の先生(関係者?)が運転する車の後部座席に居る

時刻は夜の9時58分。いい加減、眠たくなって来ているが『彼』が僕を寝させてくれない──

 

五条悟──‼︎

 

なんなんだよ、この人は⁉︎人が嫌がることをするプロフェッショナルだろ⁈しかもなんで隣に居るんだよ‼︎⁉︎

あともう一つ。スヤスヤと寝れない理由(わけ)が……

 

「……でさ、さっきの天ぷら、美味しかったね?」

サービスエリアで食べた夕ご飯の話をしている

 

「……。でも、そうですよね……。この季節に『山菜の天ぷらは珍しいな』と思って食べましたが、予想以上に美味しくて──。あとあの蕎麦も良かったです!やっぱり蕎麦は冷たいヤツが最高で、すぅぅぅ──」

口が滑った。食べ物の話になると喋らずにはいられない……

僕の悪い癖だ。早急に治さなければ……!

 

「あははは、鈴谷はそうゆう所あって良いねー。是非ともこのまま、変わらずに居て欲しいものだね〜。ね?<七海>?」

 

「いい加減にして下さい。鈴谷くん、このヒトの言う事は聞いてはいけません。反応するだけ無駄です」

助席に座る一級呪術師の七海(ななみ)健人(けんと)が冷たく言った

 

「チッ!乗れないなぁ。この『脱サラ呪術師』め‼︎」

舌打ちしたよ!この五条悟(バカ)‼︎

 

もう嫌だ。この車内の空気、絶対に淀んでる……。運転してくれてる人だって青い顔してるもの‼︎‼︎

 

ゴホンと大袈裟な咳払いをして、五条先生は口を開ける

 

「もう、耳がタコになるくらい繰り返して悪いが、今回は『呪詛師(じゅそし)』への処分執行だ。この事は、クラスの皆は知らない。夜蛾先生からの依頼だ」

 

『呪詛師』。それは、呪霊から人々(非術師)を守る呪術師に対し、自身の欲望や快楽のために人々を呪い、殺害する者たちの事──

つまりは僕ら呪術師の敵。その待遇は呪霊と変わらない

 

五条先生(うえ)の『命令』なら、なんだってこなしますよ。僕は先生の『犬』ですから」

僕に秘匿死刑を命じられてから、自分の運命はある程度決まっているのかもしれない

今ここで死ぬか?

それとも、この人の犬として生きるか?

 

「申し訳有りません、鈴谷くん。その該当する呪詛師、かつては私の部下でした……」

いっそう渋い声で、七海さんは言った

「良いんですよ!別に七海さんは悪いことしてませんし!部下と言っても3年も前の事ですよね?」

 

「…………」

七海さんはサングラスに手を当てる

 

 

「『人殺し』は僕の様に、堕ちた人間にやらせれば良いんです。その方が、他の人に迷惑、かかりませんから……」

ふとクラスメイトの顔が浮かんだ

 

「そんな事言うなよ……。こっちまで悲しくなる」

 

「嘘つけ」

 

そんな僕の返しに先生は、何も反論しなかった──

 

 

 

003

 

依頼があったのは、街灯も無く(さび)れた村──

 

任務概要

『村落にある日、4人組の男が現れた。その日を境に村内で神隠し、変死が目立つ様になった。

その原因は4人の男と思われ、6名の視察を派遣。しかし派遣した隊員は戻らず、村内の住民との連絡が急に止まる。

この事から、4人組の男を呪詛師と判断する。

呪術規定9条に基づき、処刑対象として扱う。

以上──』

 

そんな事を書いてある紙に目を通す

この紙切れ1枚で、4人が死ぬ──

 

「では、鈴谷くん。よろしくお願い致します」

 

 

「じゃあ僕はここで。伊地知(いじち)と七海と待ってるよ」

 

村の前。少し拓けている場所に車を止る

「ご武運を!」

今にも倒れそうな伊地知さんが言ってくれた

 

「……すみません。上からの命令でもこれは……私の……」

七海さんが眉間に皺を寄せる

 

「大丈夫です!頑張ります」

何が大丈夫なのかわからないが、僕はそう言って車に出た

 

この村は山の麓にある

山の頂には、(やしろ)。恐らくはソコに呪詛師が居るのだろう……

けれど……生存者はたとえ居ないと分かっていても、探さなくては……

 

全部で14軒。この情報は伊地知さんから教えてもらった

僕は一軒一軒周り、最後に社に向かう事にした

 

〜1軒目〜

 

異臭無し

畳に血痕

争った痕跡

 

最悪な気分になってきた

 

 

〜2軒目〜

 

異臭が微かに臭う

大量の血痕

台所に転がる、血がついていない包丁

抗ったが無駄だったのだろうか?

 

長い髪の毛、耳の一部を発見

 

「脅しに使ったのか……?」

 

『酷いことをする人も居るんですねー』

玉藻の前がそう悲しく呟く

 

「人じゃあ無いよ。こんなの『出来る』人はただの──」

獣だ

 

戸を開け外に出る

 

「タマモさん。次、行こうか?まだ……、生存者がいるかも知れない……」

『そうだと、良いのですが……』

 

無意識のうちに妙漣寺と重ねてしまった

確かにあの中には、この世に解き放っては行けない『獣』も居た

だが、皆んなが皆んな、そうだったのだろうか?

 

僕が殺した中には、まだ『まともな人』が居たのかもしれない……

 

 

吐き気がしてきた

 

 

〜3軒目〜

 

戸を開けて中に入る

そこには一体の下級呪霊が居た──

 

小さく、ゆらゆらと漂う──

今まさに消えようとしている程に

 

「こっちに来い、って事だよな」

僕は、その呪霊に近寄る

異臭が鼻をつく

僕が近づくと、その呪霊は奥へと進む

(やめろ。ソッチに行かないでくれ……)

 

廊下を歩き寝室に

さらに臭いが酷くなる

それに伴い、蠅が空を舞う

 

小さく、弱い呪霊が『あるところ』を見つめて、留まる

 

高級そうな木製のタンスが有る。見つめる先には、子供1人が隠れられる程の引き戸がある

『そこを開けて』と言うかの様に

 

「……開けるよ?」

 

(なにやってるんだ僕は⁈まだ今なら、深く傷付かない筈だ!ソコの確認は呪詛師を殺してから、調査団に確認して貰えればいいだろう⁇また……僕は……『あの時』と同じように傷つくぞ‼︎‼︎)

 

しかし僕はソノ取っ手に、手を伸ばす

呪霊が見つめる目が、とても愛おしい者を見つめる眼だったから

 

鍵が掛かっていた

第三者が、外から鍵を締めたのだろう

父親か、母親か。それとも祖父母なのか……

 

力強く引く

バキッ‼︎と金具が壊れる音と共にソレは落ちてきた

 

ヒトの丈夫な皮に覆われた、ドロドロした液体が

 

見た目から10歳程の少年

露出した肌は、点々と青と紫に変色している

半開きの口には、白色の虫が蠢く

 

絶句──

 

言葉を失った

僕をこんなところに案内した呪霊を見る

 

その呪霊は1つお辞儀に似た行動を取り、消えて行った

 

成仏した?『子供の死』を確認出来たから?それとも、生きてる人間に『子供の死体』を発見して貰ったから?

その理由は分からなかった

 

僕はその遺体を優しく抱えて体制を整える

そのまま、少年の頭を撫でる

 

「後でしっかり弔ってあげるから、もうちょっと待っててな?お線香もあげに行くよ。線香だけじゃあつまんないから、他にも……」

少し考え、思い付く

「ん!そうだ、どら焼き好き?あと『おはぎ』どか?僕、甘いもの好きだからさ、昔よく食べてたんだよね〜。良い思い出はソレだけだな〜」

 

僕は撫でるのを辞めて、立ち上がる

「少し用事があるからまたね。すぐに戻ってくるよ。すぐに、ね」

 

上げた視線の先、古い甲冑が有った

それに僕は近寄る

古く使いこなされている

刀は無いが、とても良い防具だ

 

「あの呪霊め……。コレはそのお代な?コレで貸し借りは0だ……」

甲冑。その兜にある面頬(めんぽお)を取る

(※面頬(めんぽお)。顔面を守る防具。ゴーストオブツシマにあるアレです!)

その面頬は鬼をかたどった物だった

 

そのまま僕は外に出る

 

『残り11軒ありますが……』

「もう辞めた。自分の欲に溺れた獣が、そう易々と人を生かす訳が無い……」

僕は紐を頭の後ろで結び、面頬を付ける

 

「全部、解放して」

『……!それは勿論♡‼︎』

 

この時僕は『あの時』と同じように修羅に堕ちた

 

これも因果律(さだめ)と言うモノなのか?

 

 

 

004

 

「もう、呪詛師と戦っている時間でしょうか……」

七海は腕時計を見る

 

「ま、大丈夫、大丈夫。鈴谷さ、僕と同じぐらい強いから」

あははは、と笑い返す

 

「こんな事態に笑うのは辞めて下さい。『最悪の事態』になりましたら、私たちは、『鈴谷くんを殺さなければならない』。分かってますか?」

 

その言葉を聞くなり、急にテンションが落ちる

「分かってるよ、七海。<夏油(げとう) (すぐる)>──。

アイツの二の舞にならない様に仕組んだチームだろ?

『裏切りが無いか、確認する為』に、わざと『人殺し』の任務を鈴谷に与えた──」

 

五条は片足を運転席、伊地知が座る席を蹴る

 

「なぁ、伊地知。なんで僕がこんなにイラついているかわかるか?」

 

「う……上の対処の方法……でしょうか?」

 

「そう!本当にふざけてるよな?やはり纏めて、殺した方が早そうだ」

ガリッと歯の噛み締める音が鳴る

 

「まぁ、それは置いておいて、鈴谷くんの『術式』を教えてもらっても?最悪、相手をしなければなりませんので……。あと貴方を殴ったと聞いてますが」

七海が五条に言った

 

「あぁ、じゃあ紹介してあげよう!鈴谷の術式は『還源(かんげん)術式』だ!あ、コレ僕が名前をつけたから」

還、源と文字を七海に伝える

 

「還源術式……。能力は?」

 

「触れた『術式』や『呪力』を消失させる。これで僕が殴られた」

凄いだろ〜と自慢げに話す

 

「?『術式』の消失なら『呪具』を用いれば無くなる事は知ってます。ですが、呪力となると……」

 

「そう!呪力もろとも『奪われる』。そう言った方がいいかな?」

 

「では何故、『(かえ)る』に『(みなもと)』なんです?これなら『奪う』の文字が入って居てもいいのでは?」

 

「なんでも『奪う』とは違うらしい。鈴谷がそう言ってた。『呪力をもとの場所に還す』だってさ。僕の術式が消えたのは、触れられた部分の『呪力』が無くなったからだよ。ややこしいね〜」

 

「つまりは、『触れた部分』を家電製品に置き換えましょう。

我々は『呪力』という『電気』を消費して、『術式』……つまりは『ミキサーを動かしている』。

鈴谷くんが触れた場所は、電気(呪力)の供給を強制的に遮断する。つまりはコンセントを抜く、という事。

よって『電気(呪力)』を失ったミキサーは止まる……」

 

「あー。いいね!それ。今度、乙骨にもそうやって教えてあげよう!」

 

「ですが、『触れる』。これはかなりのデメリットですね。これなら最悪、勝機はありますね」

七海は独り言の様に呟く

 

「あ、言い忘れたけど、鈴谷さ。『領域展開』使えるんだよね〜。まっ!僕の『領域展開』の方が洗練されてるから、負けないけどね‼︎」

 

パリッ!

七海のサングラスに薄くヒビが入る

 

「領域展開は、術式を付与した生得領域を呪力で具現化すること。その領域内は術式が必中──。つまり領域内に入ったら最後……『全身から呪力そのものが抜ける』……。呪力が無ければ、『術式』や『呪力での自己強化』すら出来ない……」

 

「そゆこと。あと鈴谷さ、六神通のうち3つも取得しててさ身体の半分、人間辞めてるんだよね〜。素の身体能力、マジヤバいぞ?」

さらに笑いながら言った

 

「それ、勝てるんですか?」

 

「勝てるとも。なんせ僕は『最強』だからね──」

 

 

 

 

005

 

「領域展開。自世限下理(じせいげんかり)!」

 

最後の呪詛師に向かって僕は領域展開を発動する

『やってしまいなされ!ご主人様‼︎カッコいいですわよ!』

 

眩い光の中、領域が広がりその世界が見えるようになる

 

日本神話で例えるならば『天地開闢(かいびゃく)』の時

空は神々しい光が降り注ぎ、下は暗く混沌とした海が暴れている

 

その間、まるでそこにガラスの板が有るかの様に僕と、呪詛師は立っていた

 

「ゔっ!なんだ!これは‼︎」

そんな悲鳴にも似た声で呪詛師は膝から崩れる

呪力が底を尽きたのだろう。一気に無くなったことによる、高山病にも似た症状が呪詛師を襲う

 

「なんだ。オマエ弱いじゃんか。見栄を張らなければ、もっと楽に逝けたのに。呪力があればある程、この空間でも普通に動けるはずだけど……」

僕は血に濡れた日本刀を持ち、一歩、また一歩と近寄る

 

「領域展開か……。なら、逃げ場は無いか……。ここで、俺は、死ぬのか……」

虫の様に転がる呪詛師に僕は反応する

 

「僕の領域展開は縛りを設けてある。能力が強いあまり、範囲が狭くてね。だから僕のは、『結界』が存在しない。つまり、出入りは自由。その縛りのお陰で、範囲を直径50mまで伸ばせたけど……。頑張れば逃げれるよ?」

まぁ逃す気は無いけど、と付け足し冷ややかに言い捨てた

 

「『結界』が……存在しない、領域展開、だと⁉︎結界を閉じずに『生得領域』を展開しているのか……‼︎‼︎」

 

「そうゆうこと。これも出来る様になったのも、半分人間を辞めたおかげだけどね。でも僕は、妙漣寺(こんな奴ら)に感謝はしないよ」

 

刀を構える

 

「最後に言い残す事は?」

 

 

そう言うと、呪詛師は笑って応えた

 

呪術師(お前たち)は、呪霊など払ってなどいない‼︎あれは!やはり、『人』だったよ……!!」

 

社に山の様に重なった死体を思い浮かべた

 

 

「地獄に堕ちろ」

 

僕は呪詛師の首を目掛けて、刀を振り下ろした

 

血が噴水の様に出る

だがそれは一瞬のこと

それ以来は、チョロチョロと血が首から出る

 

再び光に包まれ、領域展開が閉じる

 

「タマモさん。もう良いよ。また『封じて』欲しい……」

血がついた刀をその辺に投げ捨て、言った

 

『……。それ程までに嫌うのですね?その力を……。わかりました。再度、封をしておきましょう』

 

玉藻の前の声と共に、一気に開ていた視界が狭まる

神通力を封じ込めた原因だ

 

「さて、もう帰らないと……。五条先生と、七海さんに報告……。あと、あの子の葬儀に線香とお菓子……。もう……いいや……。疲れた……」

僕はそう呟き、テクテクと歩き出す

 

「待ちたまえ!君!」

後ろから声がかかる

声のトーンからして、殺意は無さそうだ

 

残った残党?それとも新しい敵?

後ろを振り向く

 

そこには『見たことある様な顔』の人物が

 

「誰ですか?敵なら殺しますよ?あと、前髪、なんか変ですね」

僕はソイツに言った

 

「前髪が変って、前にも言われたな……」

ボソリとつぶやいてその人は言った

 

「私の名は、夏油 傑。ある理由で呪詛師をやってる。今の君とは、敵対中の存在だね」

その夏油と名乗る男は、僕に手を出す

 

「?……知らない男の人には、手を出しちゃダメって、五条先生が言ってた」

と拒否する

 

「釣れないねー。キミ。なぁ、鈴谷くんと言ったかな?

キミも私と同じようにならないか?

今日はスカウトしに来たのさ。この世の中、間違いだらけじゃあないか?

君もそう思ったこと、あるはずさ。なんせ君は──」

 

妙漣寺の最高傑作だからね

 

「勧誘はお断りです。もう疲れたので、行きますね。さよなら」

僕はそのまま行こうとした

 

だが手を握られ、ナニカを渡された

 

090-×× ×× ×× ××

 

「私の電話番号。いつでもかけてくれよ?」

 

「僕が、この紙。番号を上の人間に伝えたらどうしますか?」

 

「そんな事はあり得ない!キミは私と同じ匂いがするからね」

 

「…………」

僕はその場を後にした

 

後ろから声がかかる

 

 

「呪術師だけの世界を創る。これが私の目的だ。そうなれば、『呪い』で困る人はいなく成るはずだ。電話、いつでも待ってるよ」

 

 

 

 

 

006

 

今回のオチ

 

呪詛師、4人の処刑は鈴谷によって達成された

 

鈴谷が裏切ることなく、五条の元にたどり着いた

 

鈴谷が夏油から受け取った番号は、暗記し紙を粉々に破き、風に残骸を運ばれた

夜蛾学長は勿論、五条先生にも『夏油傑』が居た、と言って居ない

その理由はわからない。何故か言えなかった

 

 

今日も屋根に強く雨が打ちつける

時折、稲光が電気をつけて居ない部屋を明るくする

 

あれから10日経った

 

心に残るモヤモヤは消えないままだ

 

「なぁ、タマモさん。携帯。持ってるよね?」

深夜の自室。僕の声と、雨音が響く

 

『まさか、電話しようと考えてませんよね?』

 

「しようと思ってる。でも、少し話をするだけだよ?『高専から出たい』なんて1ミリも考えて無いよ」

あははと笑い玉藻の前に、そう言い返した

 

『では……』

 

金色に輝く光と共に、タマモさんの携帯が降ってくる

 

「ありがとう」

 

僕はそういうと、番号を打ち込む

 

5回ほどコールが鳴る

そして……

 

『はい、もしもし。どちら様で?』

夏油の声が、携帯越しに聞こえる

 

「僕、鈴谷、です。少し……お話をしたくて……」

 

『あー、そうゆう事ね〜。鈴谷くん、また会えないかい?東京に行きたいとうるさい子がいるもので……。日時は、2日後には決める。また電話してくれないか?』

 

「良いですよ?今、少しお休み貰ってますので。いつでも」

 

そう言ってから、僕は電話を切る

 

話だけ、話をするだけ……

 

 

はぁ、とため息を漏らしベットに横になる

 

疲れた

 

眠い

 

 

このまま、まるで子供の様に深く眠れたらいいのに……

 




お疲れ様様でした!

今回は、かなりハードな内容だと思います
全て、僕の文を書く能力がない為なので、、、

ですので、ここまで読んでくださって本当に感謝してます
ありがとうございます!

さて、今回は色々と呪術について書きました
いやー、これからですね。鈴谷の本当の戦いは!

鈴谷の術式ですが、これを書く前にだいぶ考えてました
五条悟と匹敵するほどの術式。かと言って、五条悟に勝てないぐらいの能力……と
そこで思いついたのが、これです!
コンセントを引き抜いて、物理で殴る戦法!

これしか無い、と思い、これをベースに妄想して出来上がりました!
この先『やりたい展開』があるので、時間軸を呪術廻戦0にしました

一応、僕の頭の中では、呪術廻戦(本編)でも続けられる様に書こうと思いますが、いかんせん時間とやる気が………
ですが、この作品。『玉藻の前に取り憑かれた『天狗』の子』は最後まで、しっかりと書き切りたいです!

今回は、これと言った解説はありません

次回は、鈴谷の過去のお話を2話ぐらいに渡って(最悪1話)書こうと思います

鈴谷というキャラクターの何故?どうして?が解消されれば、良いなぁ〜と思っています

ではまた〜


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第6話 鈴谷宗一①

第6話目です。

今回は、鈴谷の過去の話です。

①とある様に、続きます…
本当は1話で終わらせたかったのですが、区切りが良かったのでここで。

では、ごゆっくり


001

 

2001年 3月 19日

 

3月も過ぎ去ると思われていたが、予想以上の冷気が身体を包む

確かに寒い。だが、この程度の冷気など妙漣寺(みょうれんじ)を語る上では、些細な事だった

 

「顔を上げよ。<宗蓮(そうれん)>よ」

 

29代目、<妙漣寺正長(まさなが)>の年老いた声が部屋に響く

 

「はっ‼︎」

私は顔を上げる

 

「人攫いはこれで最後じゃ……。なんせ、俺の地位を狙うネズミ(馬鹿共)は沢山おる……。こうやって、2人でまじまじと話せるのも『似た思想を持つ者』同士だからの」

ニヤリと薄ら笑いをし、正長はそう言った

 

「では、『30代目』は……。この私が……?」

淡い期待も持つ

 

妙漣寺の黒い歴史を知ったのは、私が25歳の時だった

六神通のうち、1つを身につけた際に私は『執行人』として初めて人を殺した

 

『ある程度』まで弱らせた失敗作(人間)の目を潰して、手に(かせ)を繋げ山に登る

少し拓けた地で、その人間達の手足の腱と、喉を潰す──

 

あとは、その山に住む『呪霊』に処分してもらう──

 

その日の夜は今でも覚えている

 

全てを焼き尽くしたいと思うほど、腹の底から黒くドロドロとしたモノが込みあがり、その夜は寝れず、眉間に皺を寄せ、ただひたすらに『よきもの』に成るにはどうすればと、ひたすらに──

 

その夜を期に決心を固めた

『良き妙蓮寺を創る──』

 

だが、29代目からの言葉は、現実的で、かつ冷たく、期待を裏切る言葉だった

 

「まだならぬ。まだ。まだ。……確かに俺は、『人攫い』をこれで終わりにし、『失敗作』の処分も辞めようとは、思っとる。だが、それは早すぎるのだ。これまでの28代は、平気で人を殺し、処分し、攫ってきたのだ。舵を急に切っては、下の者共は納得して来る訳が無い」

 

現に25代目は『これによって無惨な死を迎えた』と最後に付け足した

 

「……お前、宗蓮は誰よりも『強く』成り、『30代目』として、振る舞わ無ければならん。つまりは──」

 

「『妙漣寺当主』の座を狙う者どもを跳ね除け、そして改革も進める……」

宗蓮は重い口を開けて、29代目の後に続けて言った

 

「その為の『俺の(だい)最期(さいご)の人攫い』だ。せいぜい、ネズミ(馬鹿共)に殺されない様に、精進せい。……だが、『目』が、因果と言っておる。しっかり育てろ」

 

「はっ!では、これにて。……最期に挨拶を──」

宗蓮は再び頭を下げ、一言付け足した

 

「お世話になりました。我が師。猩猩(しょうじょう)──」

 

「ふッ……。ここで古い名を出すか……。お前が戻って来るまでに、『名』を考えておこう」

 

宗蓮は立ち上がり部屋からでる

 

通常、『人攫い』は『当主』に『命令された者』が子を見定め、攫う。だが、今回は異なるケースだ

29代目が、直々に『ピンポイント』で子を攫えとの命令が下ったのだ

 

これには必ず『意味』がある。29代目、正長には『漏尽通』、自らの宿命を知れる神通力を持つ

『因果』と言ったのも、宿命を知れたからなのかも知れないが、宗蓮には漏尽通は取得していない

全ては、その『子』に出会えば全て理解出来るはずである

 

簡単に支度(したく)を済ませ、和服から、スーツに着替える

 

3月の21日──

 

それが、宗蓮と赤子が出会う日であった

 

 

 

002

 

2001年 3月 21日

 

朝7時48分

 

コーヒーの香ばしい匂い。そして甘い香りが気持ちを落ち着かせる

新聞を広げ、熱々のコーヒーに手を伸ばす

 

海沿いの喫茶店。人はまばらで、店の中央にあるテレビの音がこの空間を支配する

 

『先日、行方不明になっている女優の<高辻(たかつじ)ひより>さんは…………』

 

「全く、映画の撮影中に事故だなんて。しかも『お腹に子ども』も居るのに……。救われぬ世の中だね?そう思うだろ?旦那ぁ?」

喫茶店の店員、歳は60過ぎで腹がまん丸と出ており、いかにも『店長』と感じが溢れていた

 

「えぇ、そうですね。まだお若いのに。残念なニュースですね」

宗蓮は新聞をたたみ、席を立つ

「お勘定を──」

 

カラカラとドアを開けて外に出る

 

『人攫い』の任が有るとはいい、このぐらいの休憩はさせて欲しい

なんせ山に入れば、甘いものなど殆ど口に入れることが出来ないのだから

かといって情報収集もしなくてはならない。先程の新聞とニュースであらかた『分かった』

 

宗蓮はそのまま、海に沿って歩くことにした

 

恐らく『対象となる子』は、女優の赤子に違いない

20日の昼ごろ、映画の撮影中に事故は起きた

スタッフや、役者を乗せるボートが突然『転覆』したそうだ

原因は不明。今のところ、『巨大な海洋生物に衝突』が有力なのだろうが、本当の原因は『呪霊』だろうか

 

全14名の内、4名が溺死。9名が保護され、残り1人──

つまりは、その女優が今なお『行方不明』

 

 

トボトボと歩くこと50分程度

その事故現場らしき場所にたどり着いた

 

警察車両が並び、捜索隊、報道陣が浜辺にうじゃうじゃと居た

 

「ここには居ないか……」

少し落胆した。だが良い情報が手に入る

 

宗蓮の目には微かに残った『呪力』を捉えることが出来た

天眼通の能力だ。これなら、その跡を辿り出逢える事ができる

 

それを頼りに、更に進む

整備された道を歩き、廃れた道を行き、挙句の果てに人が足を踏み入れて居ないであろう場所を進んだ

 

もうどのぐらい歩んだのだろうか

 

辺りには人の生活感は一切無く、鋭く尖った崖を渡り、押し寄せる波が作ったであろう洞穴に行き着いた

 

『そこに』、『赤子』は居た──

 

黒く、暗く、スライムの様に蠢く呪霊にそっと抱かれる赤子が。その傍らには、腹を裂かれた、美しい顔と、白髪の女性──

 

悍ましいモノを見た宗蓮は嗚咽を漏らす

天眼通に写る呪霊はとても異様で、呪力に底は無く、深海の様に深く、ただひたすら深く……。恐ろしいものだった

 

思わず後退りをする。ザッと音が洞穴に響く

 

この音に気付いたのだろうか

赤子を抱く呪霊が宗蓮の方に向く

2つの点。目の様なものが見つめる

 

時として5秒

 

威圧的で冷ややかな重圧。もう耐えられまいと、自死の手刀を首まで攻め立てたが、なんとか踏み留まった

 

『妙漣寺の再建』。たったこれだけの為に──

 

その呪霊は、まるで子供が興味を失ったかの様に、赤子を母親の裂けた腹に戻し、ポチャンと音を立てて海に消えた

 

少しの間、放心した

しかし赤子の泣く声で我にかえる

 

「そうだ……。私にはやるべき使命が……」

折れた心に喝を入れるように呟く

宗蓮は赤子に目を移す

 

母親と同じ白髪の子

泣く声はまるで鈴の様に凛としていた

 

震える両手で、母親の血に濡れた赤子を優しく抱き寄せる

 

名前、名前を与えなければ

 

『鈴』。そして私の宗蓮の『宗』──

 

「お前はこれから『鈴谷 宗一』だ──。そこの母親よ、名は知らぬが、この赤子、貰い受ける。誰よりも『強く、優しく』育てて見せよう」

 

振り返ろうと足を動かす

 

カツン

 

何か、小さなものに足先に触れたようだ

赤子を落とさぬ様に、恐る恐る下を見る

 

まるで卵の形をした、真紅の石の様なものが

大きさは手のひらに、丁度収まる程度……

 

一見するとただのネックレスのようだった

 

あの母親の物なのか、何かの儀式に使用する為の呪具なのか、或いは先程の呪霊が寄越した物なのか

 

深く考えたが辞めた

無意識に手が伸び、ソレをポケットの中に放り込んだ

 

今はそんな事よりも、この赤子が優先だ

呪力で赤子を覆い、保護する

 

洞穴を抜け、人の痕跡が有る所まで引き返す

ふと海を見る

 

まるで絵画だった。引き込まれる様な感覚、それとただひたすらに、夕陽が美しかった

 

 

 

003

 

「かの赤子。連れて参りました。今は乳母に預けて有ります──。このままいけば4年、5年程度で……」

私は29代目の長正に報告をいれる

 

「そうか……。で、どうであった?」

 

どうだったのか?

どう出会ったのか?

 

どちらの意味だろうか。だが1つ言える事は……

 

「まるで海の様な呪霊に、抱きかかれておりました。……それと『コレ』を──」

私はポケットから、あの時拾った真紅の石を取り出す

それを長正に渡す

 

「ふん……。奇妙な石じゃ。(まぶた)、鼻、唇……。位置は人と異なるが……。見た事も無い」

 

「これと言って呪力も無い。ただの装飾品でしょうか?」

 

「分からぬ。その鈴谷と言ったか……。その子が大きくなった時渡してみるのも良いかもな……。それまで、オマエが大切に取っておけ」

 

「わかりました……。では私はこれで……。鈴谷を見てきます……」

立ち上がり、襖に手を掛ける

 

「あ、そうそう。オマエの名。もう決まったぞ。これからは、覚悟して生きよ」

フフフッと笑いながら長正は言う

 

 

それから8日後

 

29代目 妙漣寺長正が亡くなった

 

遺書には、

『妙漣寺、30代目は <林 宗蓮>に任命する

これに伴いその者の名を<妙漣寺 重蔵>とする』

と、いかにも淡白な内容だった

 

そして私は30代目、妙漣寺当主となった

 

 

004

 

やはり当主となると、私の意に背く者が現れた

『人攫い』と『失敗作の処分』を禁止としたからだ

 

急に舵をきった所為でも有る

だが、そんな事は想定内だ

意に背くものは、私が打ちのめしてきた

 

それでも、まだ諦めきれない者が居るならば、最後の最後に殺した

 

そんな事を繰り返し5年、経過した

妙漣寺の風通しが良く成ると思っていたが、まだ足りなかった

裏でコソコソと蠢くネズミが出てきた

29代目が『ネズミ』と言っていた事を酷く理解した

 

この時期に私は2つ目の神通力を取得した。『漏尽通』である

 

これで私の周りでは、神通力を取得している9名の中では、群を抜いて強くなった

だがそれは、一時(いっとき)の間だった

 

鈴谷宗一である。わずか5歳にも幼い子が『神足通』を取得した

私が聞いた話の中では、神通力の取得は早くても20歳を超える

それをまだ10にも満たないこの子が取得して見せた

妙漣寺当主のこの私ですら28歳で、一つ目を取得したのだから……

 

寺の修験者どもは2つの派閥に分かれた

『神仏、菩薩の御子』と頭を下げる一派

『魔の使い』『人ならざる者』と恐れ慄く一派

そのどちらも熱狂的であり、私の改革など範疇の外となっていた

 

『せいぜい、ネズミ(馬鹿共)に殺されない様に、精進せい』

29代目の言葉を思い出す

まさにそれであった

 

2つの派閥。そのどちらとも鈴谷の稽古は厳しくあたった

 

崇拝心が深すぎるがあまり、過激になる者

畏怖、妬み、嫉妬し息の根を止める勢いの者

 

このままではいずれ壊れてしまう、と感じた私は鈴谷に『呪霊狩り』を誘う事にした

妙漣寺の山には、古くから呪霊が吹き溜まる

多すぎてはならない

この狩りは代々、妙漣寺の当主が行なってきた

 

ならば、好都合だろう?

 

ある稽古終わりの日、私は鈴谷の元へ行く

 

「これはこれは、30代目さま。どうなされましたか?」

鈴谷の数ある稽古人の1人。<島田>が大袈裟に、ゆっくりと言う

歳は42。オールバック、常に眉間に皺がある

そして高身長、首周りは太く、胸も筋肉で厚い。ドンと胸を張る男に私はこう返した

 

「鈴谷と話がしたくてな。少し2人きりになりたい」

 

「そうですか。承知しました、30代目。では、俺はこれで」

軽く頭を下げ早々に消えていった

 

「さて、鈴谷……」

私は屈み、目線を合わせる

 

道着の隙間から痛々しいアザが幾つも見える

髪は少しばかり長く、まだ幼い。女優の子というだけ有り、整った顔。中性的でもある。しかし口元にも、ぶたれた跡が残る

 

「なぁ、明日。儂と呪霊狩りに行かんか?」

 

『儂』だなんて今まで使った事が無かった。もう歳も60を過ぎた……。自然と、この子の前では張ってきた気も解けてしまう

 

「良いですけど……。重蔵さん。良いんですか?僕となんて……」

両手を合わせてモジモジとしている

 

「いいんだよ。むしろ鈴谷。お主の力量を見たくてな。あと、重蔵さんだなんて、硬くならなくて良い。呼びやすい名で呼べ」

 

「じゃあ、『じぃさん』。そう呼ぶよ‼︎」

元気な声が響いた

 

「そうか、じぃさんか。そんなに老けて見えるのか?」

思わず聞き返した。私の側近は「いつまでもお若い」と言っていたので、疑問に思った

 

「髪の毛、僕と同じで少し白くなってるでしょ?みんな歳を取ると、白くなるって後藤(ごとー)さんが言ってたよ」

 

白髪のことか……

確かに当主となった辺りから、汚れ仕事は自ら行ってきた。側近の『若い』とは、『いつまでも技量が落ちない』の意味だったか……

 

そうか、私も29代目の様に老いてきたのだな──

 

あと後藤よ。私と同期で、たった1人の親友だからと言って、この子にそれを吹き込むのは……。きっといつもの調子で言ったのだろうか。実際に見て居なくとも、その風景が目に浮かぶ

 

「そうだな。もう儂もジジイだからな……。では、呪霊狩りは明日。朝6時には、ここを出る。今日は早くお休み。島田には儂から言っておく」

頭を軽く撫で鈴谷に告げた

 

わかりました!と鈴谷は返し、テクテクとその場を後にした

 

 

あんな無邪気な子供が、あざだらけになるまで稽古だなんて

猩猩。貴方は『これで最期の人攫い』と言っていた。

確かに、鈴谷には才がある

 

けれど、しかし……

 

「あの子をここまで痛めつけて、何となるのでしょうか?私には一切、因果、はたまた宿命すら見えません。このままで良いのか、明日、鈴谷と話して決めたいと思います……。我が師よ──」

 

重蔵、否、宗蓮は1人夜の闇が迫る中そう呟いた

 

 

 

 




お疲れ様でした!

今回は、妙漣寺30代目の重蔵の視点で書かせて貰いました。
多分次話も、そうなると思います。

ここで少しだけ解説を……

妙蓮寺は、当主が代わるごとに名前を変えます。

29代目も『長正』の名ですが、当主になる以前は『猩猩』と言う名でした。
ですので、『古い名』と長正は言ってます

きっと、猩猩と宗蓮は良い師弟関係だったのでしょうね。


あともう一つ。
鈴谷に稽古をとって居た<島田>ですが、『鈴谷大嫌い』派閥の一員です。(本作で言う所の後者になります)
島田は数少ない神通力持ちです。40歳の時に取得しました。
現在、歳は42なので、本当に最近取得した感じです。
あまり神通力も使えこなせず(所得するのにも才能が必要な様に、十分に使いこなすにも、当然厳しい修練と才能が必要です)、その腹いせもあり、鈴谷の稽古をしてます。

こんな感じですねー。
次回、この続きを出せるようにしたいと思います。

出来るだけ早く投稿できるようにしたいです…。

では、また〜


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第7話 鈴谷宗一②

第7話目です!

今回もごゆっくり読んでいって下さい。
前回の続きになります!

では〜


001

 

「とりゃっ‼︎」

鈴谷の一太刀が、呪霊を断ち祓う

 

相手は2級から3級レベル

助太刀が必要だと思っていたが、それすら要らなかったようだ

 

「大丈夫そうだな?鈴谷」

 

「うん!木刀に呪力を込めるのも慣れてきたよ」

あはははと、笑う鈴谷

 

「そうかそうか、ならば良い。この辺りも掃除が済んだことじゃ。少しばかり休憩といくか」

 

重蔵は手頃な石に腰掛け、カバンから魔法瓶と木の箱を取り出す

鈴谷も並ぶ様に座り込む。足が地に着いておらず、ブラブラと遊びながら周りを見る

 

「なんじゃ?何かおるのか?儂の眼には、呪霊はみえんぞ?」

コップにお茶を注ぎ鈴谷に手渡す

ありがとう、とお礼を言いそれに口をつける。そして鈴谷は話を切り出した

 

「最近、ちょっと辛くて、嫌になった時に『洞穴』に行くんだけどさ。そこにキレイな狐さんが居たの。この辺にも居るのかな〜って、思ってさ」

 

「狐……さんね。儂も鈴谷のように小さい頃は、よく狐と遊んでいたな」

昔を思い出し、重蔵もお茶を啜る

 

「ん⁉︎じぃさんも、遊んでたの?」

まるで宝物を見つけた顔で重蔵の方に向く

 

「そうさ。小さい頃の話さ。ある年、雪深い年。積もる雪の所為で、儂もその洞穴に行かなくてな。雪が溶け、春1番で行ってみたが……。以来、狐は現れなかった」

 

重蔵は、狐との記憶を巡らした

あの時は、儂も辛いことがあろうと、あの狐が一緒に居たからやってこれた。一緒にいた頃はまるで、冬の厳しさを忘れさせた、春のような時間だった

 

しかし、その春はとうとう迎えには来なくなってしまったのだ

 

 

「鈴谷、その狐さん。大切にしろよ?じぃさんとの約束だ」

小指を差し出す

 

「あ、『ゆびきりげんまん』だね!後藤(ごとー)さんとやったことあるやつだ!」

 

「じゃあ、意味はわかるな?」

 

「うん。約束!破っちゃいけない約束だって習ったよ」

 

そう言って、鈴谷は小指を出す

 

ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます。ゆびきった‼︎

 

鈴谷の声が山に響く

 

「これでじぃさんも、安心だね!あ、でも狐さんとは約束しなくても仲悪くはならないよ!だって僕の家族だからね!」

 

「それも後藤に教わったのか?」

 

「そう!お菓子も秘密でくれるし、楽しいことも話してくれるから、僕は好きだよ!」

 

「そうかそうか。なら良かったな。儂も昨日、その後藤に教わってな……」

木の箱を開ける

そこには、少しばかり形が不揃いの『おはぎ』がぎゅうぎゅうに入っていた

 

「わぁ!美味しそう〜!食べて良いんだよね?」

 

「いいぞ。その前に、これで手を拭いてだな」

カバンから、手拭きを取り出して鈴谷に渡す。それを貰うなり、早々と汚れを落とし、おはぎを頬張る

 

「あんまぁい‼︎」

うふふふと、笑いながら食べ進める

見事な食いっぷり。作った重蔵ですら、ふと笑みが溢れる程の

 

「なんだ?その『あんまぁい』って……」

 

「『おいしい』と『あまい』を合わせた言葉なの!コレを思いついた時は後藤(どこー)さんに褒められたよ」

と、嬉しそうに笑う

 

そう言う意味か……と、ふむふむと頷く重蔵

ここに来て、重蔵は『ここまで来て、したかった事』を実行した

 

鈴谷の調子の良いことを機として、あの真紅の石を見せる

 

「ナニコレ?卵見たいな石?でも人の顔が……」

おはぎを食べる手が止まった

 

「儂も分からん。調べては見たが、一切資料が無くてな……。鈴谷なら、何か感じるかなと思ってな」

 

「別に……。それがどうかしたの?じぃさん?大切な物?」

頭を傾げ、ハテナと顔をする

 

「いや、そうゆう訳では無い……。少し気になるだけじゃ……」

重蔵は手で、それを転がすように見る

 

「それ貸してよ」

渡す重蔵

 

ソレを遠くに投げ捨てる鈴谷。見事に木々に引っかからず、山の斜面に沿って落ちていった

 

「これで、また一つ考事がなくなったね!」

笑う鈴谷

 

確かにアレには、特別、呪力が込められている訳では無い

呪霊に化ける心配は無いが……

何がの触媒でもなさそうだった

色々調べたが、手がかりは無し

 

ならば

 

「そうだな。これで考え事が無くなったな!」

笑う重蔵

 

そして、再び呪霊狩りを行い今日、この日は終わった

 

あの真紅の石については解らないままだった

だけど、これで良かったのかも知れない

 

 

そして、1年後の冬の日

 

鈴谷の稽古人が大怪我をしたと報告が入った

その者に何があったかを聞くが、躊躇い、言葉を濁す

 

キリがないと思い、鈴谷のところに行く

 

鈴谷は部屋に居た

明かりを付けない暗い部屋の中。その隅で体育座りで、背を丸めて居た

 

目は虚ろ、服は乱れている

首元に、相手の手の跡。顔には打たれたであろう、青いアザ

その時点で重蔵は察した

 

乱暴されかけた、のだと

 

言葉をかけようとしたが、出来なかった、

躊躇ったしまった

 

重蔵はこの事に深く後悔する事となった

 

『妙漣寺の改革』を揚げて進めてきたと言うのに──

 

 

 

002

 

鈴谷が16の時のまだ雪深い3月の初め──

 

「……!──。でさ〜」

鈴谷は調理場から強奪(バレてないからセーフ)した、魚肉ソーセージを口で小さく噛みちぎり、毛並みが美しい狐にあげる

 

神通力を3つ取得し、周囲から『最高傑作』と呼ばれつつある

 

もうタイマンならば、妙漣寺には鈴谷に勝る者は居なかった

30代目、重蔵ですら今や老い衰えた。当主争いのきな臭い雰囲気が寺を包む

 

「僕が31代目どか、ありえね〜。絶対に!寺!出て行ってやる‼︎……そうしたらさ、オマエも一緒に来るか?」

 

「クゥ──ン!」

 

「そうかそうか!そうだよな‼︎でもさ、行くあてが無いよね〜。フリーの呪術師にでもなろうかな?」

狐を撫でながら呟く

 

「動物有りの物件に住まないと……。流石に都会は無理そうだな……。てか、人混みがイヤ」

 

はぁぁぁ、と深いため息をはく

 

洞穴から外を除く

時は夕暮れ。気温もグッと下がり、吐く息はより一層、白くなる

 

「……。もう、行かないと……」

鈴谷は最後に、狐の頭をクシャクシャと撫でまわす

心地良さそうな顔の狐。その表情を見るなり、鈴谷は寺に戻る

 

神足通で5、6回、テレポートし中庭に戻る

 

 

 

 

 

「おやおや。これは鈴谷殿。こんな時間にご苦労ですな」

隠しきてれ居ない上から目線な口調と、悪意を困った挨拶をその男はした

 

「あぁ、島田さん。いえ、そっちも……。ところで、神通力の取得、おめでとうございます。気配で直ぐに分かりましたよ?昨日、会った時は変化はなかったので、今日の昼辺りですかね?」

 

「やはりお気づきになりましたか……。ええ、そうです。これで(わたくし)も2つ目……。もう歳も50を過ぎた所……。やはり、貴方の様な才能はなかった様で……」

 

島田は口角を上げながら言った

表情と言葉が全く持って合っていない

鈴谷はソレが気持ち悪かった

 

「で?なんの用ですか?僕はもう寝ますよ。起きてても良いこと無いので」

冷たくあしらう

 

「ええ。そりゃあそうでしょう。では、単刀直入に──」

 

 

「俺の配下となり……妙蓮寺を!かつての先人の様に、この呪術界に妙漣寺の名を再び知らしめてやろうではないか⁈‼︎」

 

島田は声を荒げた

一人称すら、今の上司の立場である鈴谷に気を使わず、自らの思想を高らかに挙げた

 

「妙漣寺が人攫いを辞めてもう何年になる⁈御三家との繋がりも薄くなり!他の関係も脆弱なものとなった‼︎

明日(あす)食う(メシ)!武具や雑用品の購入‼︎それすら、神通力取得者(我々)が任務に行かねば維持する事が出来なくなってしまった‼︎

今の当主は頭がおかしいのだ‼︎何が『より良き妙漣寺を造る』だ⁉︎

呪術界をいつも裏から支えてきた我々が、今や笑いものだ‼︎

なぁ‼︎鈴谷ぁ‼︎おかしいと思うだろ⁉︎」

 

勢いよく唾が鈴谷の顔に飛ぶ。それほど熱狂的に、ただ1人の少年に問うたのだ

 

「きたねぇ……」

鈴谷は小声で呟くと、袖で顔を拭く。そして──

 

 

「あぁ、おかしいと思うぞ。『オマエ』がな」

 

交渉決裂

 

期待に反った答えに島田は眉間により一層、皺を寄せる

 

「第一に、人攫いどか頭おかしいんじゃねーの?僕は見たことすら無いが、失敗作の処分も。山で呪霊狩りする時に、沢山の骨を見たよ。余裕で察する──」

 

鈴谷はまだ続けて言おうとしたが、やめた

島田の顔色が急に変わったからだ。殺気を漏れ出し始めた

 

「そんな程度の理由なのか?」

 

「こんなにも大きな理由なのに、解らないのかい?島田」

 

 

「そうですか……。最高傑作と言われた貴方なら……ましては小さい頃、散々俺が痛めつけたガキがこんなにも、つまらなく成長するだなんて」

 

島田は両手を叩く

甲高い音と共に、室内の暗闇、屋根の上──

そこからはまるで虫の如く、妙漣寺の修験者が湧いて出る

 

憎き最高傑作を殺める為

妙漣寺の歴史上。最高傑作の行く道を正す為

ただ己の生きた意味を見出す為

自らの思想の為

強者との死合に価値を見出した為

 

鈴谷と戦う意味は人それぞれだが、今この瞬間バラバラだった視線が揃った

各々が見つめる先は最高傑作

 

 

「こんな中、じぃさんは何やってんだよ……」

 

鈴谷は小言を呟いた

 

鈴谷に勝る者は妙漣寺には居ない

しかしそれは、『1対1』、「あくまで模擬戦』である事を前提としている

 

最低でも2級術師のクラスである修験者──

神通力を取得した者は、特別1級術師とカウントされる

たとえ術式が貧弱だとしても、それを十分に補える『肉体』がある──

 

鈴谷を取り巻く影は50を超える

 

 

「じゃあ……もう……。死ね」

島田の一言で影が動き出す

 

 

「全員まとめてぶっ飛ばしてやんよ!」

 

鈴谷は拳に呪力を込めた──

 

 

 

003

 

 

煙幕、毒突き、目攻め、死角からの攻撃、閃光、飛び道具、槍、刀、斧──

 

戦いに秩序すらない

イヤ、これこそが『本当の(いくさ)』なのだろうか

 

距離を詰め、関節を外し殴って気絶させる

武器を奪い、飛んでくる手裏剣やクナイを弾き、1人、また1人と気絶させた

 

僕の中で、何やら黒いモノが蠢き囁く

 

『殺してしまった方が楽だろう?何故しないんだ?』

まるで僕を嘲笑うかの様にそれは囁いた

 

殺してしまったら、コイツらと同じになる。そうはなりたく無い、とソイツに返した

 

『くだらない痩せ我慢だ。もう自分に素直になれば良いのさ。ほら、今もこうして……人を殺したくてウズウズしている』

 

ハッと我にかえる

 

右手は力強く敵の首を締め付けて居た

この手をすかさず離した。もしもう少し遅れて居たら、と考えると吐き気がした

 

「うおおおお‼︎」

耳がキーンと鳴りそうな、大きな声を上げその者は太刀を振り下ろす

 

半歩、身体の軸をずらし太刀の軌道から避ける

1番下まで振り切った事を目視で確認するなり、足で太刀を踏みつける

 

「ゔっ‼︎」

一瞬で太刀の持ち主は青ざめた

鈴谷の一撃に対応しようとしたが、両の手は太刀を握っていた

それほど鈴谷の対応は早く、青ざめさせる程に威圧的だった

 

今にも殴りかからんとする拳は、強大な呪力で覆われていたのを見てしまったからだ

その見た目通りの鈍重な衝撃が脇腹に入るのを感じた瞬間、その修験道は意識を失った

 

 

「さて、次は……」

顔、特に額から流れる血を、袖でサッと拭き全体を見る

 

おおよそ30名強──

 

(まだ居るのかよ……。撤退、逃げも可能性に入れて動こうか……。流石にキツすぎる……)

 

 

「かなり辛くなってきたのでは?」

島田が嬉しそうな顔をして言った

 

やはりというか、この騒動の主犯格は島田で決定だった

特に動かず、配下に指示を出して居た

 

先程まで姿が見えなかったのが引っかかる……

 

しかし、島田を戦闘不能にすればこの騒動も収まるだろうと、思った鈴谷は島田の背後に神足通で駆ける

頭が倒れれば残りの奴らの戦意も無くなるはずだ

 

2、3回、神足通で移動し島田の居る一際高い建物の屋根に行く

 

屋根に足をつけた途端に、生暖かい風を感じた

春の香り──

 

そして目先には──

 

ニヤついた島田と4人の従者

その足元には、何やら赤い物体が横になって居た

 

何かの動物。腹は大きく裂けその周辺は毛も血で染まり、内臓は既に抜かれている様だった

風になびく美しい毛と、島田の笑い声

 

その時僕は理解した

 

 

「島田ぁぁぁ‼︎‼︎」

 

 

「んな、デケェ声出さなくても聞こえてるよ‼︎最高傑作‼︎‼︎」

 

 

 

刃は既に無く、刀と云うには余りにも粗末な武器を片手に、鈴谷は島田の首を目掛けて進み出す

 

それを止めようと阻止する従者を1人、また1人と倒してゆく

その勢いは止まることなく鈴谷は島田の元に駆けた

 

しかし──

 

夜の闇から、恐ろしく早い一刀が鈴谷を襲う

島田しか見れて居なかった所為もあり、満足に交わし切れず左腕に傷を負う

 

急いで距離を取り鈴谷は、その者の次の一撃に備える

夜空の雲が晴れ、月明かりがシルエットを照らす

 

白髪が目立つ短髪。背は高く、服の上からも磨き上げられた筋肉がわかるほど大きい。そして、極め付けは顔にある一筋の傷

そう、その者は鈴谷を長年、実の孫の様に可愛がって居た後藤であった

 

「──ーッ‼︎ど、どうして‼︎」

息が詰まりながらも後藤に心の叫びを放つ

 

「どうしても何も。ただ、俺の夢の為に」

後藤はそう言い切った

 

「後藤さん。ありがとうございます。これで鈴谷(アイツ)の精神すら、もう終わり。肉体も、修験者を『無理に生かそうと』したから、よりダメージを」

クックックと、笑いながら島田は後藤の側による

 

「おいおい。それ以上は近寄るなゴミが。年老いたからと言って、俺は生半可な神通力持ち(お前)なら、10秒有れば殺せるぞ」

後藤は冷たく後藤に返す

 

「んで、もう降参か?最高傑作?」

鈴谷に語りかけるも、その本人はすでに(くう)を見つめ、ただブツブツと独り言を吐いて居た

 

「そうか、じゃあ『コレ』はもう要らないよな。直々に俺が殺してやったんだ。感謝するんだな、嶋田」

後藤は狐の死骸を手に取ると、屋根から中庭に向かって投げ捨てた

 

ドシャ

 

そんな音があたりに響く

 

 

「どうして……後藤(ごとー)さんが……?じぃさんが、来ないのももしかしたら……。どうしよう……どうしよう……。どうやったら……狐さんを生き返られる……?僕がいけなかったのか…………。僕が…………全て……」

 

放心状態の鈴谷に後藤は近寄り一言呟く

 

「あぁ、そうだとも。お前が『最高傑作』だからいけないんだ。皆、夢を見てしまったのだよ。30代目も、島田も、お前も俺も……。だから──」

 

 

さようならだ

 

 

後藤は項垂れる鈴谷を切り捨てた

 

鮮血が鈴谷の白い髪の一部分を濡らし、力が抜けた身体はそのまま、屋根の傾斜に沿って転がり落ちて行く

 

その先は奇しくも後藤が、狐の遺体を投げ捨てた中庭だった

 

 

004

 

暗い意識の中、鈴谷は『体験』させられてしまって居た

妙漣寺30代に及ぶ、人攫いと、処分について

 

『人攫い』

その子供を必死に探す母親

夫婦の仲が悪くなる一家

酒に溺れる父親

これを機に新しい命を育む家庭

と、いった残された家族のさまざまな視点

 

そして、泣き崩れる子に厳しくあたる妙漣寺の修験者──

 

『処分』

喉を潰される痛み

目を潰された事による暗闇の恐怖

恐れ、恐怖

死にたく無いと言う、生への渇望

 

処刑人の冷ややかな感情

健をナイフで切る感覚

喉を潰す感触

目を潰す快楽

 

 

実際の時間は15分も経って居ないだろうか

 

しかし、鈴谷は見た光景、あるいは体験した事の全ては、これまでの妙漣寺の『悪行』を凝縮した為、鈴谷にとっては長く苦しい時間に感じた

これも全て、中庭に鈴谷が落ちた時に始まった

 

遠くなる意識の中、神通力の1つである『宿命通』が鈴谷に告げた

 

『妙漣寺を滅ぼすべし』と──

 

最早、全てを失ったと感じた鈴谷はソレを断った

しかし神通力は許さなかったのだ

 

過去1000年に渡る悪逆を尽くした妙漣寺を鈴谷は知った

そしてこの先、近い将来再び妙漣寺は悪に堕ち、これまで以上に犠牲者が出てしまうと神通力は告げた

 

そんな事、神通力に告げられなくともわかっている

今も憎悪と吐気で死にそうだ

 

 

「……分かったよ……!……最高傑作の『僕』が‼︎全てを終わらせれば良いのだろ⁉︎」

 

重くダルい身体を這いながら起こす

 

 

「おい!生きてるぞ‼︎」

 

少し遠く、後ろから声が聞こえた

 

「殺すなよ?生かして島田さんに差し出すんだ!」

 

「おいおい。勿体ねぇ事すんじゃねぇ。出す前に俺たちで『遊んで』からでも遅くねぇ」

 

「マジか……。だが、それも良いな。アイツは失敗してたが今は違う。鈴谷は弱ってるかな〜。あぁ、確かに遊べそうだ」

 

気色の悪い声がこちらに近寄る

数は3名程

 

 

後藤から斬られた部分からの血が止まらない

先程から呪力で傷口を覆っているが、やはり血が出る

 

何か特殊な呪具なのか、それとも毒でも塗ってあるのか……

 

震える下半身に力を込め、立ち上がる

 

「おりゃ‼︎」

3人組のうちの1人。鈴谷に蹴りを入れる

 

ドシャ

 

再び鈴谷は地に落ちる

 

「おい、まずは俺からだ!オマエ等、抑えとけ」

カチャカチャとベルトを緩める

 

「その次は俺な?あぁ、何して貰おうか?歯でも全部抜いとくか?」

そう笑いながら2人は、鈴谷の両腕を持ち上る

 

 

「……後で覚えてろよ……。ゴミ共が……‼︎」

 

ドガッ‼︎

 

「あんまりお兄さん方に、汚い言葉を使うんじゃ無いよ?きれーなお顔に傷がつくからね」

 

頬を殴られた所為で口を切り、血の味が広がる

 

 

(もう、どうしようも無いのか……。何が最高傑作だ……。

『殺さない』──。そんな下らない事、守らなければ良かった……。

あぁ、肉体も変化した様に、精神も暗く、冷たく、冷酷に成れたらどんなに楽なことか……)

 

 

「「もういい加減、楽しめましたよね?」」

 

何重にも重なる女性の声が響く

それと同時に両手を支える力が無くなる

 

倒れる身体を右足で踏ん張り、なんとか体勢を立て直す

先程までの者達は皆、首から上が無くなり、絶えず血が流れていた

そして鈴谷は異様な光が差す後ろに視線を移す

 

青色ベースの美しい十二単衣(じゅうにひとえ)

桃色の長髪に、狐の耳。頭には青いリボンを結んでいる

美しい女性。しかし女狐だった

 

鈴谷は見た瞬間理解した

 

今の自分には到底勝てない相手だと

しかし、鈴谷にはやるべき使命がある

 

妙漣寺を滅ぼす事──

 

だからこそ、無謀だと分かっていながらも、鈴谷は口を開いた

 

「どなたか存じませんが……助けてくれて……ありがとうございます。

ですが……。僕には……やりたい事が……。それまで」

 

生かしてはくれませんか

 

そう懇願した

そう祈った

 

その言葉を聞くなり女狐は目を潤ませた

 

「貴方と一緒に居た狐です!ずうぅぅぅぅと化けていました!理由は少し諸事情がありまして、今は言えませんが……。

ですが!貴方と居た温かい日々!それは決して忘れることのできない幸せな日常でしたわ!」

 

「……え?じゃあ、貴方があの狐さん?」

鈴谷の短い問いに、満面の笑みを浮かべ「はい」と返す

 

「そうか、良かった……。生きてたんだね……」

 

「ふふふ……。あまり私をみくびってもらっては困りますよ?あの程度、私の最大体力の1万分の1も削れてません」

堂々と、まるで親に自慢する子供の様に女狐は鈴谷に言った

 

「そうですわね。まずは私の自己紹介から。ゴホン!私、<玉藻の前>と言います。以後お見知りおきを。ではご主人!まずは……」

そして玉藻の前は、傷ついた鈴谷を反転術式で軽々と治してゆく

 

「あ……。ありがとうございます……。玉藻の前さん」

 

「『さん』は不要ですわよ?狐の時の様に、軽々しく呼んで欲しいなぁ〜と思ってます!」

 

(自分よりも確実に格上の相手に愛称で呼べと……。一歩間違えたら死か?……どうしようか。じゃあ、お稲荷さんと同じように──)

 

「タマモさん。そう言うよ」

これを聞いた玉藻の前は満足そうに笑う

 

「ええ。では、早速本題に。ご主人、私に取り憑かれてはみませんか?神通力持ち、その最高峰である貴方では無いと出来ない……」

 

「うん、いいよ。よろしくねタマモさん」

話の途中だったが鈴谷はソレを了承した

 

「そんな軽々と……。ですが、お互いそれが良いのかも知れませんね。ええ、これで主従関係が出来ましたわね。勿論、主人(あるじ)はご主人ですよ」

そうニコニコしながら言った

 

「……でも一つだけお願い……イヤ、約束を……」

鈴谷は過去を思い出し玉藻の前に告げる

 

「主従じゃあ無くて、対等の方がいい。友達の方がいい。僕の事は何で言ってもらっても構わないけど……」

ここにきて、後藤さんに教えてもらった『友』の定義を思い出し言ってしまった

 

先程、後藤に斬られたばかりだと言うのに……と考えたがフッと笑ってしまった

 

 

「貴方がそう言うなら……。では失礼。あぁ、そうそう。私、呼ばれるまでは一切、力を貸しません。存分に覚醒した自分をお試しあれ──」

玉藻の前は、鈴谷に取り憑いた

 

直後、鈴谷に断片的に『前世の記憶』がフラッシュバックする

その後、玉藻の前が乗り憑った所為か、異様に力が湧いてきた

 

まるで、呪力の核心に触れたかの様に……

 

「じゃあタマモさん。行くよ」

 

 

 

その後、妙漣寺は血で染まった

鈴谷の覚醒に歓喜し笑いながら死んでいった

「自分の存在は、最高傑作をより高みにさせた‼︎」と

 

島田を殺し、ついには親しかった後藤にすら手をかけた

「友として、そして僕に色々と教えてくれた師匠として……。約束を果たしに来ました……」

後藤にはその言葉だけで十分だったのか。鈴谷が小さい頃ら後藤と隠れて菓子を食って居たあの微笑ましい顔をして刀をぬいた

 

幾度となく、大小の傷を作りながらも後藤に勝利した

死に際に後藤は言った──

 

「全ては、あの(バカ)(はかりごと)よ。心して行くがいい。……それにしても、あの小さい子がこんなにも強くなったな……」

 

それだけ聞き、鈴谷は先を急いだ

 

残りは30代目の首

それと僕の命

 

妙漣寺の滅亡まで、残りはあと2つ──

 

 

 

 

005

 

「…………!お────い!聞いてる──?」

五条先生の声で我に帰る

 

「……すみません。聞いてませんでした」

 

「おいおい。せっかく、伊地知が『30代目のお見舞いに行ってきて、報告してる』っうのに。ほら、伊地知も言ってやりなよ」

先生は、伊地知さんに指を差す

 

「あ、いや!鈴谷くん!お見舞いと言っても、未だ意識不明の中ですから……。報告と言いましても、大したものでは……」

伊地知さんはテキパキと僕にそう返す

まるで、五条先生を無視しているかの様に……

 

「伊地知。君、僕を無視してるよね?後で、本気(マジ)パンチな」

ひぃぃぃと声と共に、冷や汗が吹き出す

 

「いえ、伊地知さん。大丈夫です。僕がさせませんから。あと、報告ありがとうございます……」

僕はそう返した

 

「じゃあ、僕はこれで寝ますね。夜の10時をもう回ってますし……おやすみなさい」

僕はそれだけ言うと、会議室のような部屋を出るなり自室に急いだ

 

「(お見舞い)行かなくて良いのかい?」

と五条先生の問いが聞こえた気がするが無視

 

もう眠い。限界が来てる。しかし、寝る前にやりたい事が……

 

 

隣の隣と言っても、憂太くんの部屋から近い

物音があまり鳴らない様に、ソッと戸を開けベットに倒れ込む

 

電気を付けないでいるが、窓から月光が入ってきてまぁ明るい

僕は横になったまま、タマモさんの携帯を手に取り電話をかけた

 

「あ、もしもし。僕です。鈴谷です。明日、任務があるので、明後日に変更して欲しいです……。はい…………。ええ──。では、」

 

明日は、僕と憂太くん、そして棘くんとで、寂ついた商店街の除霊の任務

朝8時発なので、もう眠らないとマズイ

明日眠気で死ぬ

 

瞼を閉じると、サッと意識が遠のいて行く

 

『行かなくて良いのかい?』

五条先生の言葉が脳裏に浮かぶ

 

行く訳ないでしょ

そう心の中で返し、鈴谷は意識の狭間に落ちていった

 

その最中、かつて『友』の意味を教えてくれた後藤の言葉を思い出した

 

『友とは、決して人のの夢、又は野望にすがったりはしない。

誰に強いられる事は無く、自分の生きる訳を自ら定め進む者。

そしてその夢を踏みにじるものがあれば、全身全霊をかけて立ち向かう。

それが、俺自身であっても……。

俺は、友とはそんな対等な者──。

そう思ってる……』

 

 

 




お疲れ様でした‼︎

ここまで読んでくださりありがとうございます‼︎

時間があいてしまいました…

七海の言葉を借りるなら
「労働はクソ」
ただこの一言に尽きます…

今回も少しだけ解説?と後書き?を

解説です

ここは一点だけ

後藤が、この騒動の黒幕は重蔵と言ったのには、理由が少しばかり…
幾ら神通力持ちとは言え、人間の比率が多い重蔵です。老います。老いには勝てません。残念。
つまり全盛期はもう過ぎて行き、力でねじ伏せる事が次第に出来なくなっていきました。
ここで重蔵が考えたのは、『最高傑作(鈴谷)を覚醒させ、妙漣寺を潰す』と言うシナリオです。
この事は、大の親友であった後藤にも相談してます。
勿論、後藤は断りました。なんせ、自らの子供の様に可愛がって居た子に残酷な選択を科さないといけないからです。
ですが、後藤は知ってます。自分は妙漣寺の当主には一生なれず、ゲスな野郎が後を継ぐと。
これは後藤にとっても、断腸の思いだったのでしょうか。渋々引き受けてしまいます。
そして後藤は鈴谷を斬り、覚醒させ、本気で鈴谷と斬り合い、負けたのです。

解説終わりです。

次は後書き(メチャクチャどうでも良い話しか有りません)

fgoでの、バレンタインイベントが終わったと思ったら、なんかガチャ来ましたね笑
石、全部無くなったんですけどね泣
めちゃくちゃ欲しい。欲しい。でも石ない……。最悪

それはそうと、フロムソフトウェアの最新作ゲーム
エルデンリングが発売されますね!
買います。めちゃくちゃ楽しみです!
ステータスを何に振ろうか、と考えるだけでワクワクがとまらねぇ(レジライ風)

ゲームしながら、ゆっくり書こうかなぁと思ってます

長くなりましたが、ここまで読んでくださいましてありがとうございます!

では、また〜


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第8話 分岐点、そして…

遅くなりました8話目です。

最後まで読んでいただければ幸いです。


001

 

実をいうと、僕は少しの間だけ学校を休んでいた。

 

と言っても一週間だけ。

 

その間に外に遊びに行き、パフェを食べたり、クレープを食べたり、たい焼きを食べたり……

 

特に、カスタード入りの鯛焼きが1番気に入った。『カスタードは冷たいお菓子』と固定概念に縛られていたが、いざ食べてみると美味しかった……

熱く、もっちりした生地に、甘く、香りの良いカスタードとの相性は抜群だった。20個は食べた。多分……。もっと多いかもしれないけど……

 

こう思い返すと甘いものしか食べていない……

 

タマモさんから『甘いものを食べすぎ』と注意されたが、あの甘い香りを嗅ぐとどうしても我慢できなくなってしまうのだ……

 

いつもと同じ様に、白い服に腕を通す。

 

「あ、そう言えばさ。タマモさん。今いい?」

 

『どうかしましたか?まさか、甘いものの食べ過ぎで服が入らないとか……』

脳内にやや焦り気味の声が響く。

 

「まさか〜。確かにこの一週間、甘い物しか食べてないけど、僕、幾ら食べても体型は変わらないよ?まぁ、そんな事は置いといて……」

僕は声のトーンを一段下げる。

 

「この一週間、僕に尾行してきた奴居たじゃん?やっぱり高専に報告するの辞めるよ。きっと夏油さんの手下だと思うからさ」

 

『あ〜。あの、殺意はダダ漏れ。視線から放たれる妬みのビーム……。女子(おなご)2人組……。全く……。より適任が居たとは思うのですが……』

せっかくの楽しみが2割減になった、と継ぎ足しで言った。

 

「あははは。確かに。でも、きっとそれすら読んでいたんじゃないのかなぁ?」

鏡を見ながら髪を整える。今日はヘアピン5本!前髪3本、両サイド1本ずつ

今見てるアニメを意識して、前髪にかかるピンをバッテン(つまりはX字)にしてみた。

 

『もう分かりきっているつもりですが……。何故このような危ない橋を?』

玉藻の前の質問が僕を刺す。

 

自分でも、この橋を渡る事はヤバい事ぐらいわかっている。だけども、だけれども……やりたい事、確認したいことがある……

いざ言葉にしようとすると、つっかえてしまう。適任な言葉が見つからない……

 

・懐かしい→全然違う……。……とも言い切れない……

・気になる→確かにそうだ。気になる。では何故?

 

あ、そうか。そうかも知れない……

 

「なんとなくだけど、僕と夏油さん。『似てるから』かな?あと、五条先生にも……」

 

『その心は?』

 

「わからない。どうしてだろうか……」

支度が済み、僕は部屋の戸に手を掛けた。

 

 

 

002

 

「はーい。と、言うことで。棘。ご指名だよ。ちゃちゃと払っておいで」

午後の授業、模擬戦の最中に五条先生はそう言った。

 

「『ご指名……』」

僕と、憂太くんの声が重なった。

 

あの時、あの依頼も『僕』に対しての指名だった──

一瞬だけ顔が濁ってしまったが、いつも通りの表情に戻す。

 

「棘は、一年で唯一の2級術師。単独行動も許されてんの」

パンダ先輩(パイセン)からの補足が入る。

 

「『へぇ〜。凄いなぁ〜』」

またも声がかぶる。

 

「『お前ら特級じゃん』」

次は、パンダ先輩(パイセン)と真希さんの声が重なった。

 

「はいはい。こんな茶番は置いといて……」

五条先生は、両手で元を運ぶ動作をして進める。

 

「憂太も一緒に行っといで。棘のサポートだ。それから鈴谷。鈴谷も行ってきな。2人のアシスタントだ。

憂太はサポート……。ってよりは見学だね。呪術は多種多様。棘と、鈴谷はよりいい例だ。

遠くに居ても攻撃ができる棘。

直接触れないと効果が発動されない鈴谷。

2人、それぞれのメリット。デメリットを見つけてくるのが今回の肝だ。

しっかり勉強しておいで」

 

スラスラと憂太くんに言った。

 

こうして翌日の早朝、僕らは、伊地知さんが運転する車に乗り込み現場に向かった。

 

その際、五条先生から杭を打たれた。

『里香は出すな』

 

まぁ、当たり前だよなぁ〜と。

 

そして、僕、棘くん、憂太くんを乗せた車は走り出す。

 

行き先は寂れた商店街だ‼︎

 

 

003

 

伊地知さんが降ろした帳の中にいる。

 

「じゃあ、行こうか?」

僕の問いかけに、

 

「しゃけ」

 

「………………」

意思疎通が出来ねぇ!

神通力で……と、一瞬考えてみたけど辞めた。

 

「呪い……。低級の群れって伊地知さんが言ってたよね?」

憂太くんがつぶやく

『低級』。伊地知さんの吐いた言葉。それにより憂太くんの警戒心がに下がっていた。

 

「たとえ低級でも呪いは呪い。侮ることなかれ。憂太くん」

ニヤリと口元を上げて返した。

 

「そ……そうだよね?でも、真希さんと一緒の時は……」

 

 

「そう言う慢心が命取りになるのさ。……憂太くん。後ろ。気づいていないね?」

 

「え?」

乙骨が振り返る。そこには肥大した目玉。全長40センチはある魚型の呪霊が泳いでいた。

 

『ずるい……ずるいよ。ママ』

 

何やら言葉を発する一匹の呪霊を先頭に、続々と魚型の呪霊が現れる。

 

『迷子のお知らせです』

『今日の晩御飯は……』

『まぁ、酒でも飲んで落ち着けよ……』

『俺はこの商店街を愛していたんだ』

『そうさ、だからこそ……』

 

『みんなで渡れば怖くない』

 

百を超える呪霊は群れとなり、巨大な球形を形作る。

 

「どうだい?憂太くん。『真希さんと一緒の時』とは、また違うでしょ?」

 

「……うん。幾らなんでも、これは多すぎだよ……」

 

「そう。だからこそ。あの時と一緒なんて思わないほうがいいよ。あくまでも、『状況が似ている』に留めたほうがいいよ。

前回と同じだからわ回も同じやり口で……なんて事、呪霊(彼等)は許してはくれないからね〜。

まぁ、僕が言いたいのは『弱く見える呪霊でも侮ることなかれ』」

 

それで子供の頃に大怪我した、と僕は笑いながら言った。

 

「じゃあ、棘くん。ここは任せたよ。どでかいの1発、素人特級野郎に見せつけてやれ!」

 

「たかな!」

ノリノリで言ったら、そのテンションで返してくれた

 

そして──

 

「『爆ぜろ』」

 

棘くんのひと言。

それに反応したかのように、魚型の呪霊は次々と爆発していき、一匹残さず祓ってしまった。

 

棘くんはクルッと振り返り口を開ける。

 

「ヅナ"マ"ヨ"」

 

めっちゃ声枯れてる……

 

「うん、お疲れ!カッコよかったよ!でだ、憂太くん。この術式なメリットとデメリットを」

 

「えっと……。凄い能力だけど、喉が枯れてる……。連発して出来ない……かもしれないです。あ、だから喉薬、買ってたんだ」

 

うんうんと棘くんが首を縦に振り、憂太くんに向かいグットサインを出す。

 

「なんとなくだけどわかってきたよ!でさ、宗一くんはどんな術式なの?」

憂太くんから質問が入る。車の移動中に軽くだけど、呪力と術式を再度教えている。でも、僕と棘くんの術式は教えて居ない。

だって、びっくりさせたいからね‼︎

 

「えっとね、僕の術式は五条先生が名付けて……くれ……た……。…………」

 

「どうしたの?」

 

「ちょっと待って、憂太くん。ねぇ、棘くん。呪霊、全部祓っちゃったよね……?」

 

棘くんは数秒の間、フリーズする。そして我に帰るなり、表情を変えた。

 

あー、忘れてた。最悪だ!この世で最も嫌いな人に怒られないといけないなんて‼︎

 

取り乱しても、過去は変わらない。変えられない。受け入れるしかない……。めちゃくちゃイヤだけど……

 

「帰ろっか……」

僕のひと声で、2人は商店街の出口に歩み出す

 

 

 

「おかか‼︎」

棘くんの声を聞くなり俯いて居た顔を上げた

 

あれ?帳が上がって居ない……。何故?

 

急に寒気が身体を走る。

 

商店街の奥。その影で異様な気配を感じた。

すかさず、装備して居たナイフを振りかぶり、投擲しようとした。

しかし、それは止められた。止めるしか無かった

 

憂太くんと棘くん。その2人の背後に呪霊が急に現れる。

達磨のような形。白い毛が全身を覆い、宙に浮いていた。

 

『ゾんば』

 

2人を覆うように、光の輪が現れ、キィィィィと嫌な音が鳴る。

 

咄嗟に手が出た。手が出てしまった。

2人の服を掴み、安全そうな場所に向けて投げた。

出来るだけ遠くに……

 

投げる際、視線の端に黒いドロドロとした液体が蠢くのを捉えた。

 

寒気の元凶はコレだと悟る。

その半液体が形を成すたびに悍ましい呪力を感じたからだ。

 

見事、2人を助ける為に動いた僕は、呪霊の攻撃を受けることとなった。

 

ドゥン‼︎‼︎

 

全身に強い圧力がかかる。

地面は圧に負け沈み、僕も圧力に抗うことできず深く深くおちていった。

 

 

 

004

 

砂埃が舞う。

 

その中、僕はゆっくり、息を殺して穴から出る。

 

身体へのダメージはほとんど無かった。

衝撃と、道路の破損具合からして、等級で言えば2級から準1級クラスの呪霊。

 

この程度なら、憂太くんと棘くんのところに飛ばしてもいいだろうか……

 

僕は姿勢を低くしたまま、勢いよく駆ける。

砂埃のお陰で、呪霊もこちらを探知できないようだ。まぁ、元々の体質もあるけれど……

 

素早く毛むくじゃらの呪霊の背後に周り蹴り飛ばす。

 

「おりゃ‼︎」

 

クリティカルヒット‼︎‼︎

 

その呪霊は手をジタバタさせながら、蹴りの勢いに負け商店街の奥に消えていった

まるで、カーリングのストーンの様にスゥーと行ってしまった。

 

 

「うん……。じゃあ、やろうか?」

毛むくじゃらよりも気配がヤバイ呪霊にそう言った。

 

視界も晴れ、2体の呪霊の姿が現れる。

 

1体は、黒い肌。まるでバッタのような顔。胸、そのから嫌な気配を感じる。そこに元となる呪物があるようだ。

 

2体目は、レインコートに身を隠した人型の獣。右腕が異様に大きく露出している。その腕、手はまるで猿だった。こちらも、呪物を飲み込んだ呪霊だと思われる……

 

バッタ野郎の呪物は検討がつかない。しかし猿野郎はわかった。『猿の手の木乃伊(ミイラ)』。見たまんま。多分そうだ。しかし、もう一体がわからない……

 

「特級呪霊……、レベルかな……?まぁ、こっちも色々イライラしてたから丁度良かった」

僕は腰を少し落として構える。

 

2体の呪霊は、首を回したり、腕を伸ばしたりとかなり余裕そうだ。

 

それもそうだそうさ。術式を発動してる為、身に纏っている呪力が少なく見える(或いは感じる)はずだ。

ソイツらは僕のことを、格下の格下……。まるで蟻をみる人間の様な目線なのだろう。

 

「けどまぁ、僕の呪力量は憂太くんと比べれば少ないし……。やってる事も、棘君みたいに迫力無いし……」

ブツブツと愚痴をこぼす。

 

「けど、僕。結構強いんだよねぇー。じゃあまずは、挨拶がてら片腕、貰うとするか──」

すぐに祓うと退屈だし、と小言を付けた。

 

 

 

005

 

それから15分後──

 

「『潰れろ』‼︎」

 

四方から見えない壁が迫り込むように、毛むくじゃらの呪霊は圧死した。

 

「スゴい……」

額から血を流す乙骨。その下に駆け寄る狗巻──

 

「高菜‼︎」

 

「あぁ、大丈夫だよ。少しかすっただけだから。でも、いきなりコッチに来るなんて思わなかったね。なんか背中に大怪我してたみたいだけど……」

乙骨は先ほどの呪霊を思い出し言った。

 

「それよりも、宗一くんの所に!助けに行かないと!」

 

「ツナマヨ!」

 

満場一致。2人はボロボロになりながらも鈴谷の元に向かう。向かう理由はただ一つ──

 

『大切な友達だから』だ──

 

焦る気持ちを抑え込み、狗巻を先導する様に乙骨は走る。

 

「こっちを曲がった方が早いかも!」

 

「しゃけ!」

 

大通りではなく、脇道を通る──

細い通りを幾度と曲がり、大通りの光が差し込む方に──

 

 

「鈴谷‼︎」

 

乙骨はそう叫んだ。もし呪霊に気づかれても『里香』を出せば良いと甘えてしまったからだ……

乙骨には武器は無い。先程の戦闘で破損してしまったからだ。

呪力の『入れ物』である武器を無くしてしまった以上、呪霊と戦う術はたった一つしかなかった──

 

 

「わぁ‼︎……びっくりした……。なんだ憂太くんか……。脅かさないでよ〜」

そこにはいつもの調子の鈴谷が居た。

 

足元には弱り果てた2体の呪霊。

乱れた髪と、ボロボロな服。しかし鈴谷自体には大した怪我は無く、その様は何処か惹かれるような光景だった。目線を下ろし、呪霊を見る姿……

 

 

「…………」

乙骨と狗巻は鈴谷を見るなり黙り込む。

 

「ん?どうしたのさ⁉︎人を見るなり黙り込んで!タチが悪いぞ!」

鈴谷はプンスカ2人に怒る。

 

「ご、ゴメン‼︎別に悪気は無いんだ!ただ……」

 

「…………ま、良いや。ちょっと憂太くんに見てもらいたくてね。この呪霊の事でね」

鈴谷は早々と話題を変えた。

 

「『呪物』から成る『呪霊』。この2体はそのパターンだよ。見ててね」

そう言うと、鈴谷は動けなくなった呪霊に手を置いた。

途端に呪霊の身体がボロボロと壊れて消えてゆく──

 

「まだ本格的には見せてなかったね。これが僕の術式。触れるものの呪力を元ある場所に還す──。呪霊は呪力の塊だから、呪力が減ったり、無くなると、こんな感じに崩れていくんだ……」

 

最期に残ったのは、小さい腕の木乃伊と、人の指の木乃伊──

 

 

鈴谷がそれを拾い上がるなり、帳が開いていった。

 

「ヨシ‼︎これにて一件落着!僕と棘君の術式も見れたし、呪霊祓えた!最高の出来じゃあないか?憂太くん?棘くん?」

 

「しゃけしゃけ」

狗巻は頷き、手で伊地知さんが待っている出入り口を指差し、先に行ってしまった。

 

 

「『先に行くので、ごゆっくり』……って感じなのかな」

乙骨はポツンと呟く。

 

「そんな感じだねー。で、なんかあるの?」

鈴谷は呪物に布を巻いている。慣れているのか、その作業は1分とかからなかった。

 

 

「と、言いますか……憂太くん。さっき僕の事を『鈴谷‼︎』って、言ったね〜?心配してくれて居るのは嬉しいけれど、なんかこうさ……『綾波ッ‼︎』て感じで。いやー、アニメとかで言ってるのを見たりしてるけどさ、実際に言われると……、なんだか嬉しいね」

鈴谷は笑って見せた。

 

「でも、君が僕に追いつけるのは、相当先だから。そこまで深刻にならなくても良いよ。だって僕、サイキョーだからね」

グルグル巻きにした呪物をポケットの中にしまい込み、鈴谷は歩き始める。

 

 

「あぁ、僕の事、女性だとでも思って言ったんでしょ?」

鈴谷が振り返りケタケタ笑う。

 

「え"っ!ま"ッ!…………。うん。でも、髪もいい感じに長いし……。……ワザとなの?」

乙骨の核心めいた言葉が鈴谷に刺さる。

 

鈴谷は2、3秒ほど黙り込み、「なんでだろうなぁ?僕にも分からん!」と乙骨に背中を向けて言った。鈴谷ふと思い浮かべた記憶は、数少ない『嬉しい記憶』。心から大好きだった、30代目との出来事──

 

 

喉に詰まる色々と混ざった感情を、寂れた商店街の空気と共に飲み込んだ。

 

 

 

006

 

翌日──

 

ハチミツや、シロップの甘い香りと、コーヒーの良い香りが漂う喫茶店でティラミスを口に運ぶ。

ほろ苦いビターが口を占領し、その後、うんと甘いレアチーズの風味が広がる。その後、ホットミルクで整える。

つまりは、メチャクチャ美味いって事だ‼︎‼︎

 

「良い顔で食べるね、キミは……。まるで悟と一緒だ……」

湯気が立ちあがるコーヒーを口につけながら彼はそう言った。

 

「僕、五条先生嫌いだから、一緒にされるの死ぬほどイヤなんですけど……。あ!次はコレ!ミル・クレープ!注文しますね〜」

 

僕はすかさず、定員呼び出しのボタンを押し、追加の注文をした。

 

プルルルル──

 

急に彼の電話が鳴る。「失礼」と一言入れ対応する。

 

<夏油(げとう) (すぐる)>──

呪術高専を追放された、最悪の呪詛師。五条先生とタメで、尚且つ元特級呪術師──

 

追加したミル・クレープを崩れぬように食べつつ、僕は夏油さんを見つめる。

もうかれこれ20分は居る。夏油さんの目線配りや、客の増減で、店内にどのぐらい夏油さんの部下が居るのかわかった。

 

まずは、1番目立って居る肌黒い男。アフリカ系?漂う気配がまず面倒臭そう。そもそも、気配自体を隠していない。強者の余裕?強力な術式持ちか、呪物持ちか……

 

2、3番目は、前回食べ歩きしていた時に着いてきた、あの双子(?)ちゃん。

相変わらず殺意ダダ漏れ。僕、何かしましたか……?

 

4番目は、かなり微妙……。長い黒髪の女性。どう見たって一般人の可能性がメチャクチャ高い。殺気なし、嫌な気配なし。でも、僕が喫茶店に入る前から居る。

そんなに長居するのか?気になる……。あと、あんなにコーヒー飲んで良いのか?10杯目だぞ?

 

5番目は、喫茶店の外。道路を挟んだビルの屋上。性別は不明。喫茶店に入る前に人影が見えた。

僕が高専の応援を呼んだかどうか監視しているのだろうか?

 

僕が捉えられたのはこの5人だ。きっとまだ居そう……。戦闘はしない。会話だけ。会話だけ……

 

「あー、ごめんごめん。私の部下から連絡あってさ。鈴谷君、約束守ってくれてありがとう」

 

「別にお礼はいらないです。僕はただ、『一般の方と、タダ飯を貰いに』来ただけです」

カチャカチャと、僕は食事を進める。

 

「こんな感じの状況さ、2回目だよね。ほら、学校に乙骨君と行った時さ」

夏油さんはコーヒーを飲み、話を続けた。

 

「どうして、あんな『恐ろしい存在』をほっといて、『一般人を避難させず』、君と悠々と食事していたか分かるかい?」

 

「…………」

言われてみればその通りだ。当時はかなり驚いた記憶がある……

 

「きっと、悟は君の『本気』が見たかったんじゃ無いのかな?いつか殺し合いになった時、少しでも情報が欲しいからね。幾ら六眼でも、事前の情報の有無で、かなり戦況は変わるだろうさ」

 

「僕が、高専を裏切るとでも?」

 

「あぁ、君はそうする。きっと、必ず。高専だけではなく、全人類の敵となる日が来るだろうさ」

 

「何故?」

 

「それは勿論──」

 

君は、六神通の全てをいずれ取得する『妙漣寺の最高傑作』だからね、と告げた。

 

僕は少しだけ気分が悪くなり、フォークを皿に置く。

口直しに、グラスに入った水を飲み反論する。

 

「意味が分からない。何故、そう思う?僕が知る限り、神通力を取得しただけで、人類の敵とまで言われた存在は居ない。ただ、小さな謀反を起こしてるだけだ」

全て失敗に終わったけれど、と小声で継ぎ足した。

 

「そんな過去の出来事をなぞった理由ではないよ。君が持っている呪物、そしてその『持ち主』の君が関係しているんだ。このとこは、最近仲良くなった呪霊が教えてくれた事だけどね」

 

「くだらない。帰ります、さようなら」

僕は両手をテーブルにつけ立ち上がる。

何故か腹がたってしまった。僕の心の奥底をまるで、みられているようで……

 

 

「待て待て待て……。

この事を回避できる可能性が有るとするならば?

君の願う世界が実現できるなら?

鈴谷君、キミはあの時、修験者と呪詛師を殺して何か思うことがあったんだろう?

ほら、話し合いをしようじゃないか?

だってまだ話し合いは、始まったばかりなのだから」

 

妙漣寺の修験者、そして呪詛師。彼等を殺害して、思うところは多々有った。

割り切れない気持ちも有った。

 

僕は再び座り直し、夏油さんに言った。

 

 

「あと30分だけ。僕からは何も言わない。聞くだけ聞いてやる」

 

 

夏油さんはニヤリと笑い、夏油さんの1人語りが始まった──

 




お疲れ様でした!

いかがでしたか?

サブタイトルの『分岐点』とは、ここから、いろんな√が展開される重要なキーポイントだと思いましたので、付けてみました‼︎

でも、ほかの√は書く気が無いので……。勘弁してください…。


〜めちゃくちゃ蛇足な後書き〜

にしても、鈴谷くん。夏油さんに見事に釣られましたね〜。
美味しいご飯を食べさせてくれるなら、基本誰でも釣られます。
(五条となら、一瞬考える。だけど行く)
書いてる中、なんだこの魚は…と、多々思いました。

僕の頭の中では、この後、適当にドンパチした後、1ヶ月間鈴谷は冥冥さんに『飼われます』。美味しいご飯に釣られて……。

もし、本編も交えて書く機会とやる気が有りましたら、鈴谷はずっと何かを食ってるような存在になってるイメージです。


今回はここまでです。

かなり間が空いてしまいました。
この先も、自分のペースで出来るだけ早く投稿したいです。

最後まで読んで頂いてありがとうございます‼︎‼︎


ではまた〜




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第9話 決裂

お久しぶりです!
9話目です!
最後まで読んでいただければ嬉しいです!!


 001

 

 8分29秒──

 僕は店内に飾られた時計を見ながら時間を計る。

 

 夏油さんが喋り出してからの時間だ。

 手元のコーヒーはとっくに冷め、皿に乗るスイーツすら目に留めず、彼は僕に語り続けた。

 

 内容は、呪詛師になる事を決めた経緯、その過去。

 

 その過去話から僕の前世……、あの記憶の保有者が分かった。

 

 “星漿体(せいしょうたい)”。かの天元(てんげん)様との適合者──

 

天内 理子(あまない りこ)

 

 呪詛師、夏油の資料を漁った時に、彼の経歴書にあった名だ。

 これで、一つ謎が解けた。あの光景は、五条悟と夏油傑との記憶だったのだ。

 

 では何故?天元様との同化に失敗した人間が、僕の元に……?

 

 

「で、私は猿共の時代に幕を下ろし、呪詛師の楽園を築こうと思ってる」

 

 12分56秒──

 

 僕が『あと30分』と言ってからの経過時間だ。

 

「それで高専を裏切り、日夜人々を懲らしめるために勤しんでいると」

 僕は少し皮肉を込めて笑った。

 

「あぁ、その通りだ。その通りだとも。かく言う鈴谷君も、私の過去話に共感する場面も有っただろう?」

 

「例えば?」

 思いつかないなぁと、あえて余裕顔を見せて言った。しかし夏油さんの次なる発言で、その余裕顔が消えたのが当事者の僕でもわかった。

 

「妙漣寺。その一族を滅ぼした。あぁ、でも30代目は、未だに生きてるけどね。以前、意識不明と聞いたけど」

 夏油さんはそのまま続けた。

 

「何故君は、そのような選択を取ったんだい?

 もう妙漣寺から犠牲者を出させない為だろうか?

 では、もっと深く、深く君に聞こうか……。

 どうして、妙漣寺はわざわざ『天狗道』などと言った地獄の道を選んだのだろうか?

『善のためなら、悪に染まる』。聞こえは良いが、君たちが、今までしてきたことは全て『悪』だ。

 赤子を攫い、才能が無ければ捨てられ、たとえ才があっても神通力を取得出来なければ売られる……。

 まぁ、つまり私が言いたいのは──」

 

 夏油さんは冷めたコーヒーを一口含み、ゆっくり口を開け言った。

 

 

「全て、何も出来ない人間(猿共)が原因だ」

 ニヤリと笑みを浮かべて語る。

 

「妙漣寺の起源は知っているね?仏、仏法に囚われ魔に落ちた修験者達──。そう、君たちは『人間を愛しすぎた』のだよ」

 

「つまり、鈴谷君。君も心の奥底でこう思った筈だ。『人間が呪霊に対抗できる最低限の力が有れば、この様にはなって居なかった』と……。どうだい?」

 

 まるで、僕の心の底。奥深くに仕舞い込んだモノを見られているかの様な感覚だった。

 夏油さんとの一連の話し合いから、僕を夏油一派(そちら)に引き入れたいとこがしみしみと感じた。だからこそ、僕は夏油さんに伝えないといけない事がある。

 

「確かにそうです。そう思った事は有ります。だけど、だからこそ僕は夏油さんに伝えないといけない事があります」

 僕たちは決して分かり合えない。それを理解してもらう為、僕は言った。

 

 

「そもそも呪術師は正義のヒーローなんかじゃあ無いですよ」

 

 

 この言葉を聞いた夏油さんは酷く悲しそうな顔をしていた。

 

 

 002

 

 

 残っていたスイーツを残さず平らげ、僕は帰る支度をする。

 

「では、帰ります……。ご馳走様でした。とても美味しかったです。……。……また、機会が有れば……」

 椅子から立ち上がり夏油さんに目を向ける。

 

「あぁ。君は本当に偉いなあ。どこかの五条(バカ)も見習って欲しいくらいだよ」

 あははははと笑う。

 

「もう時間は過ぎているが、僕の独り言を聞いてはくれないか?」

 

「?」

 

「君の術式、『還源術式』──。触れた者の呪力を『何処かに還す』。しかも、領域展開も使えるときた。私にとって、鈴谷君は天敵だ」

 またしても笑う。

 

「君を見ていると、何故か彼女を思い出す。それ繋がりで、私の馬鹿げた考えを聞いて欲しい」

 

「私は、人間(猿共)の時代を終わらせてようと思っている。しかし、君と同じある特級の考えが最近よぎってね。『原因療法』──。もしかすれば君なら出来る気がするんだ」

 

「どうやって?って感じの顔をしているね。大雑把に言ってしまえば、君の領域展開を地球中に張り巡らせる。まぁ、馬鹿げた話だ。私もそう思う。しかし、ピースはもう既に揃っている」

 

「私の『呪霊操術』、君の『還源術式』といずれ揃う『六神通』。本物の『玉藻の前』。そして、乙骨憂太の『祈本里香』。最後に『天元』。もうわかったかな?」

 

 

「僕が、夏油さんの手駒となった天元様と同化して、その結界を利用し、領域展開……。結界内に僕の術式を常に張り巡らせる……。そうすれば、擬似的に人間は『呪力から解放』される──。イヤイヤ、無理でしょ」

 

 どう考えたって無理がある。そもそも僕の領域展開の範囲はメチャクチャ狭い。

 しかも、それを実現するとすれば六神通が必要──

 

 幾ら最高傑作と言えど、6つの神通力の取得だなんて出来るはずがない‼︎

 

 あと、玉藻の前と、祈本里香が何故必要かすら分からない……

 

 

「そうか……。君が『無理』と言うのなら、ダメらしいな。よかった──」

 うつむきボソリと呟いた。

 最後の単語。それは鈴谷に聞こえぬほど、小さく小さくこぼした。

 

 

「では、また」

 

 

「あぁ、鈴谷君とはまた会わなければならないからね。君は君の信じた道を行けばいい。私は私で、我が道を行くよ」

 

 

 

 カラーン

 

 喫茶店のドアを開けて僕は店を出る。

 

 次会う時は、きっと殺し合いになるだろう。

 

 トボトボと歩く。あの喫茶店から100mは離れただろうか、脳内に玉藻の前の声が響く。

 

『見事に断りましたね、ご主人……。確かに、夏油様のあの計画にはかなり欠陥が見られ……実現はしないでしょう……』

 

 僕が天元様と同化して……。その話だろうか。

 ポケットから携帯を取り出し、耳に当てて喋る。こうでもしないと、空に語りかけるヤバい奴になってしまうからだ。

 

 カモフラージュ。カモフラージュ?

 

「まぁ、もし出来てもやらないけどね。確かに、僕は少しばかり人を恨んだよ。けど、今の生活も案外好きなんだ。人が傷つくのは……好きじゃない」

 

 

『ですが……。そうですね。できるだけ『良い終わり』になればいいのですが……』

 玉藻は寂しくそう言った。

 

 いい終わりなんて訪れる訳がない。

 僕らは呪術師。

 

 所詮はヒーローになり損ねた、力のある人間なのだから──

 

 




お疲れ様でした!

お待たせしました。
かなかな書く気が起きず……。
もう少しで終わるので、書いて行こうと思ってます!!

ではまたー


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第10話 彼なりし亜の刻

10話目です。

最後まで読んでいただければ嬉しいです。


 001

 

 あれから数日経ったある日。

 

 1年一行は外での稽古が終わり、五条先生の愚痴を挟みながらトボトボと歩いていた。

 

「ん?」

 

 鈴谷は気配を感じ空を見る。

 乙骨も何かを察したのか、同様に首を上にする。

 

「何か…感じなかった…?」

 

 ポリポリと頭を掻く乙骨にパンダが冗談を飛ばした。

 

「里香が四六時中、隣に居れば呪力感知もガバガバになるわな…カワイソス」

 

「……。それだと鈴谷もガバガバ扱いになるだろうが…。おい!どうしたんだ?」

 

 真希は鈴谷に声をかける。しかし、その声は白髪の彼の元には届かなかった。

 鈴谷は小言で「夏油さん」と呟いた。

 秋の冷たい風によってかき消された言葉は、誰にも届く訳も無く、鈴谷は空をただひたすら見つめていた。

 

 

 

 002

 

 

 

 ペリカンを何十倍も大きくしたような呪霊から続々と人が降りてきた。

 降りる、といっても背中ではなく、口の中なのだけど……。

 

「やあ」と言わんばかりに僕に向かって夏油が手を振る。

 この異変を嗅ぎつけ、先輩、教師などが続々と集まりつつある。

 五条は既に到着していて、夏油を警戒している様子だ。

 

 先ほどの夏油の話である『呪術師だけの世界を作る』という、到底理解できぬ思想を吐き出したが、誰一人賛同せず、逆に困惑しているようだ。まぁ、そりゃそうだよな……。

 

「それにしても悟。今年の一年は豊作じゃないか……」

 

「特級被呪者」

 

「突然変異呪骸」

 

「呪言師の末裔」

 

「禪院家の出来損ない」

 

「おいテメェ!!」

 

 真希が声を上げるが夏油はそれを無視して続ける。

 

「妙漣寺の最高傑作」

 

 夏油と目が合うが直ぐにずらした。

 

「いやー以前、鈴谷クンをスカウトしようと思ってお茶会をしたんだけどねぇ…断れちゃったからまた来たよ」

 

 夏油の言葉を聞き、皆の視線がこちらに向く。唯一1人だけ…五条は夏油に対し威嚇するように睨んでいる。

 

 僕は深く息を吐くなり夏油に言う。

 

「夏油さん…あなたの望む世界は………好きじゃない」

 

「はは……そうか……。また、振られてしまったな…。分かってはいたが、辛いね……」

 

 トホホと泣く夏油に五条は確信を迫った。

 

「なら、一体…。どういうつもりで来たんだ?」

 

「フフ……そりゃあ勿論、宣戦布告さ!」

 

 両手を開き、自らを囲む敵の一人ひとりに視線を合わせてから夏油は高らかに宣言した。

 

「来たる12月24日!!日没と同時に、百鬼夜行を行う!!場所は呪いの坩堝、東京 新宿!!呪術の聖地、京都!!」

 

 僕は理解した。夏油のこの発言は嘘が無いことに。ならいっそ……今ここで!!

 

「存分に呪い合おうじゃないか」

 

 ニヤリと笑う夏油の首を目掛けて手を伸ばす。

 術式、神通力も使用した最高な一撃だ。このまま喉を潰して骨を折る!!

 

 ぬるり、と夏油の影から黒い何かが、勢いよく動き僕の腕を止めた。

 伸ばした右腕。手先から腕まで黒色のスライムのようなものに浸かった。

 その腕から嫌と言うほど感じる『不快感』。人間の負の感情を鍋にぶち込んで、煮詰めたような感覚だ。常人ならまず耐えられないと察した。

 

「!!お、驚いた…。鈴谷くん…キミの一撃がこんなにも早いとは…。だけど我々の方が一枚上手だったようだね」

 

 そのスライム状の呪霊から腕を引き抜き後ろに下がった。

 

 5秒間、術式を使用しても『呪霊の呪力に大きな変化が無かった』。5秒間触れれば2級までの呪霊は消滅する。1級ですら大ダメージだ。

 

 つまり、スライムの呪霊は『呪力がほぼ無限にある』と解釈できようか…。

 奴の体内、何やら沢山の呪物を取り込んでいる様子だ。

 時間をかけて呪物を取り出せば祓えなくも無い…だけど、今この場でやることでは無い。

 

 死者が出てしまう──

 

「流石だね、最高傑作は頭の出来すら、その辺のゴミと違うらしい。話が分かってくれて嬉しいよ」

 

 嬉しそうに夏油は言った。

 

「あ────!!夏油様!お店が閉まっちゃう!!!」

 

 スマホを見て金髪の少女が声を上げた。

 彼女の一声で夏油一行は、ペリカンの口の中に入っていった。

 

「あぁ、そう。鈴谷くん。このスライムの呪霊なんだけどさ、君に縁があるらしいんだ。私の能力では従えられなくてね…利害が一致したから共にしているんだ…」

 

 嘴から上半身を出し、小さくなったスライムを片手で撫でつつ彼は呟いた。

 

「そうそう!この子の名前は私が付けたんだ!教えてあげよう!来る日、キミは戦わないといけないからね。この子の名前は……

 

 ダゴン

 

 そう残して、巨大なペリカンは空に旅立った。

 

 

「ふぅ──!!一時はどうなるかと思ってヒヤヒヤしたよー!!ところで!すーずーやーくーんー!!夏油とお菓子食べに行ったんだってね?詳細、詳しく!!」

 

 先ほどの張り詰めた最強はそこにはおらず、いつものウザい五条先生が居た。

 きっと空気を読んで、敢えて壊しにきてくれたのだろう。

 ならばここは僕も乗っかってやらないと行けない…。

 

「夏油の財布が空になるまで食い尽くしましたよ!!!」

 

 

 003

 

 

 

 謹慎。それが僕に与えられた罰だ。

 秘匿死刑が決定している僕に対して謹慎とは…いささか甘い御三家だこと。

 まだ妙漣寺を利用したい魂胆なのだろうか。

 

 

「夏油の狙いは『里香』、『鈴谷』と仮定して……では何故新宿と京都に百鬼夜行を起こすのだ!?」

 

 学長が机に拳を打ちつけた。

 その衝撃により、僕の茶のみに入る熱々のお茶が溢れた。

 

「もぐもぐ……。まぁ、戦力を割りたいからで無いですかねー?アイツらしい」

 

 ハッピー●ーンを食べつつ五条は返した。

 

「……なら、24日の当日は…僕と憂太くんを別々のところに置いたらどうですか?そうすれば『物理的に距離が有る』ので、一気に2個取りは無いと思いますが…」

 

 アルフ●ートを齧りながら僕は言った。

 夏油さんの狙いは確定している。分かっている以上、どう対応するかが大切だ。

 

「鈴谷はよくても乙骨はダメだ。里香の制御がきかない…。東京、京都のどちらかに乙骨を置いてしまうと、乙骨が居ない方の戦力が低くなる。夏油は『里香の暴走』を狙ってくるでしょう…。我々は乙骨を死守しなければならない…」

 

 顎に手を置き五条は俯いた。

 

「ならいっそのこと、憂太くんを学校に置くのはどうですか?もし暴走しても『人的被害は2ヶ所よりも圧倒的に少ない』。ですが…憂太くんの守りは薄くなる……」

 

 謹慎室と言う名の『五条の部屋』に3人集まり、菓子とお茶で休憩を挟みながら、議論している。

 もうかれこれ3日目だ。

 

 表面上では良い顔をして会議に出席している学長だが、この空間内では苦虫を噛み潰した顔をしている。

 部下の士気を下げてはいけない。そんな思いが彼から溢れて見えるのだ…。

 

「ガッデム!!万が一、里香が暴走するならば此処が良い…。だが鈴谷、お前はどうするんだ?」

 

「僕は……」

 

 迷う僕に五条の声がかかる。

 

「京都に行かせましょう。京都高も居ますし、七海も居る。そこが1番いい」

 

「五条、お前はどうするんだ?」

 

「東京。それしか無いでしょ?特級呪術師が各エリアに1人ずつ……。それがイイ…。詳しい内容はまた明日でも……。もう疲れたー」

 

 時計は午後11時近く。

 

 現在12月の22日。まだ検討するには時間が有る。

 

 椅子にふんぞりかえる五条を横目に、僕は新しい菓子袋を開いた。

 

 

 

 004

 

 

 

 12月24日。午後4時53分──

 冬の時期だけあって、陽の落ち方が早い。

 

 民間人の避難は1週間前から始まっていて、街は光だけが灯る活気の無い、どこか悲しい雰囲気を出していた。

 避難の内容は『不発弾の処理』だそうだ…。なんだよそれ、舐めてんのか?

 

「もう時期ですかね…七海さん……」

 

 腕を捲り、時計を何度も確認する男に僕は問うた。

 

「そうですね…。もうそろそろでしょう……。ほら」

 

 街の影。そこからウジャウジャと大小様々な呪霊が湧き出した。

 

「鈴谷くん。貴方は出来るだけ温存して下さい。夏油さんの計画。その中に貴方も入っていますから」

 

 何十回も聞いた。だからと言って、ハイハイと適当に流してはいけない。

 僕の敵はダゴンと言う呪霊。アイツはヤバい……。僕の勘と玉藻さんが全力でそう言っているから…。

 

「……。………」

 

「ん?どうしたんですか、七海さん…。何か言いたげですけど……」

 

 カチャっとメガネに手をやり、七海は告げた。

 

「つい先ほど入った情報ですが…30代目当主、妙漣寺重蔵が亡くなられました……。こればっかりは貴方に伝えなければならないと思いまして……」

 

 

 

 

 

 長い沈黙の果てに鈴谷は七海に返した。

 

「あ、そうなんですか。へぇーやっと…ね…。ありがとうございます。ですけど僕は大丈夫です。その気で、妙漣寺を滅ぼしたので。覚悟は決まってました」

 

 

 

 005

 

 

 

 するりするりと刃が抜けてゆく。

 2級、3級の有象無象のゴミに対しては力など入れなくとも、ゼリーに刀を入れるように斬れてゆく。

 

 退屈──

 

 鈴谷にその感情が支配した。

 自分を殺せるのもは、もはや五条しか居ないのでは無いのかと考える。

 もし…そう、もし神通力を全て取得してしまったら、この世界は酷くつまらない物になってしまうのでは無いのか、と恐れた。

 

 ただで死ぬのは嫌だ。打ちのめされ、全力を出し切って死にたいと言う、ある種の『性癖』が妙漣寺と言う環境にて育ってしまった。

 

 自分よりも強いものに蹂躙されるのが好きなのか?

 自分よりも強いものを蹂躙するのが好きなのか?

 

 言葉にすると、とても脆く、あやふやになってしまう。

 何が『要因』なのかすら分からない。

 何が『原因』なのかすら分からない。

 

 だけど一つだけわかることがある。

 

 きっと今の僕は自暴自棄になっているのだと──

 

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

 長い水色髪の娘が、尻もちして体勢で礼を言う。

 

「別にいいよ。さぁ、どうぞ」

 

 僕は手を出す。重ねてお礼を告げて彼女は僕の手を借り立ち上がる。

 京都高。三輪とか言っていたような…。

 

「簡易領域も術式も使用しないで…素の呪力で倒してしまうなんて……。もし交流会に鈴谷くんが居たら、本当に完敗でしたね…」

 

 トホホと彼女は愚痴をこぼす。

 

「三輪!!怪我は無いか!!」

 

 後方から男の声が聞こえる。

 あの若き加茂家の嫡男だろうか…。ならば離脱して良さそうだ。

 

「じゃ。宜しく伝えといて」

 

 僕が言い終わるなり、ビルを粉砕しながら巨大な呪霊が現れた。

 すかさず身構え刀を構えるが、僕の頭上を飛ぶように何者かが移動した。

 ものの数秒で巨大な呪霊は祓われ、砂煙と共にある大男が現れた。

 

「ほぉ、交流戦に居なかったヤツか……。ならば俺はお前に問わなければならない事が有る!…どんな女が好み(タイプ)だ!?」

 

 ん?はぁぁぁ!?

 こんな状況で良くそんな事言えるな!この東堂っつう男は!?

 交流戦当日に仕事が入って行けなかったのが今になって響くとは…。

 パンダ先輩。あなたの言うとおり、東堂っつう男は変態です。

 

 しかし、しかしだ。問われた質問は返すのが僕。……好みのタイプかぁ〜。

 玉藻さんを上げたいけど、人外はダメだよな……。

 

 ふと街を煌々と照らす大型ビジョンが目に入った。

 テレビ番組の番宣。つまるところCMがやっていた。

 

 あ、高田ちゃんだ。

 

『高田ちゃん』こと高田延子のぶこは、この日本では珍しい長身アイドルだ。身長は180cm。

 やや渋めのアイドルという事で、ハマるには狭き門だが、好きになってしまっては虜になってしまうほどだ。

 

 かくいう僕は、高田ちゃんのファンである。

 高身長。太もものサイズ。時たまに毒を吐く。はかそことなく、玉藻さんに似ているので好みなのだ。

 しかし何度も言うが、ファンはかなり限定されていて、『好きな女のタイプ』で答えるにはヤヤ適していないであろう。

 

 だがしかし、東堂と言う男は『めんどくさい男』と聞いた。

 ならばここは『高田ちゃん』と本心を言い、引かれてしまうのが手っ取り早い。

 何度でも言うが、高田ちゃんのファンは極めて稀だ(鈴谷調べ)!!東堂が高田ちゃんのファンの確率は限りなく0に近い!!

 

 この間たったの0.2秒で整理し、僕は東堂に告げた。

 

「人だと高田ちゃん。理想は高身長で、腰回りがいい感じに大きい子が好きかな」

 

 下を向いて言った。どんな顔しているかは僕にだって理解できる。

 だけど…それなのに、東堂の返信が来ない。

 フと顔を上げて確認した。

 

 鼻水と涙をこぼし、身体が震えている東堂が写る。

 

「どうやら俺たちは…『親友』だったんだな……」

 

「はぁ!?!?」

 

 

 




お疲れ様でした!!

如何でしたか?

12/24が百鬼夜行の当日なので、次話も同日に投稿したいなぁ、と考えてます。
この物語も、もう直ぐ終わります。
最後まで見ていただければ、とても嬉しいです。

ではまた〜


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第11話 亜なりし彼の地

11わです。

12月24日投稿とか言っていた僕は無事に浜で死にましたので、ダイジョブです!!

さて気を取り直して11話目です。
この物語もあと2話で終わらせるつもりです。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

12話完結とは????


 001

 

 

 僕の居る京都側は順調そのものだった。

 負傷者こそ居るが、死者はおらず、京都高や七海率いる1級、準1級呪術師のお陰でスムーズに時が流れていく。

 夏油派の呪詛師も複数確認されたが、事前に打ち合わせした陣形を維持し、呪霊を大胆に祓いかつ、呪詛師が取り入るスキが無い状況を維持していた。

 

 東京側……七海さんから連絡が入り、棘くんとパンダ先輩が呪術高専に五条先生によって転送されたらしい。

 嫌な予感がするが……僕はこの持ち場を離れる訳にはいかない……。

 

 そして今僕は、京都校の皆様と

 

「背中はは任せたぞ!ブラザー!!」

 

 東堂の威勢の良い声が響く。

 特級呪霊といえど下の下。僕1人でも全然余裕なのだが……何故か東堂が僕の背中に引っ付いてくるのだ……。

 

 僕はその辺で拝借した日本刀を構え直し、東堂と息を合わせる。

 

 軽く息を吐き、神通力を使用した。今、僕が取得している3つの内の1つ。神足通だ。

 

 この百鬼夜行──

『神通力は使用したく無い』など下らない意志を貫ける程、僕は愚か者では無い。

 人命優先。そう割り切った。

 

 京都高とは交流会では,惜しくも急な仕事が出てしまったので顔合わせは初めてだ。

 だけど、術式の情報は五条先生から聞いている。

 

 

 巨大で腕が4本生えている鬼の呪霊の後ろに瞬間移動し、「東堂!!」と合図を告げる。

 

『パン!!!!』と手を合わせる音が鳴った。

 

 東堂の術式、『不義遊戯(ブギウギ)』。その対象内の『一定以上の呪力を持ったモノ』の位置を入れ替える……。

 

 僕の『神足通』と相性抜群の術式だ!!

 

 東堂の術式がかかる瞬間僕は『神足通を使用し鬼の頭上に移動した』。

 するとビックリ。東堂は僕が先ほどいた『鬼の背後』に現れるのだ。

 だからこそ、このカラクリを知らぬ者には『いきなり2人が別々の場所に現れた』状態になるのだ。

 

 状況を理解できぬ特級呪霊。

 落下の勢いに合わせ、鬼の頭部に兜割りを繰り出す。

 呪具である刀と呪霊、そして僕の呪力が完璧に重なり、黒い稲光が走る。

 

 

 黒閃

 

 

 特級呪霊は弱点を潰され爆ぜ、呪物を遺して消えていった。

 

「東堂、さっきの連携は良いね!!もっと複雑に出来るぞ!コレなら領域展開無しの五条先生に100%勝てるぞ!!」

 

 あはははと笑う鈴谷を東堂は薄ら笑いを浮かべていた。

 その理由は単純明快。

 自身のレベル差に怖気付いたのだ。

 最高傑作でも神通力は3/6。六つ全て取得した場合を想像し、東堂は1人戦慄した。

 しかし同時に東堂はこう思った。「流石は俺のベストマイブラザー」と。

 

「黒閃……。妙漣寺の最高傑作だと朝飯前か?」

 

「……黒閃は『現象』だ。狙って出せる術師は居ないよ。んー、だけど六神通を極めれば『狙って出せる』かも知れない……。人間で無くなるから。まぁ、知らんけど」

 

「マジかブラザー」

 

 

 僕は地面に落ちている呪物を拾い上げる。

 鬼の顔のミイラ……?その周りに黒い粘液が付いている。恐らくアイツだ。ダゴンどか言ったヤツ……。

 

「西宮さん!!コレ!仕舞っといて!」

 

 僕等の上空、ホウキに跨り浮かぶ女の子に投げつけた。

 うわわわ!、と聞こえたが無視無視。

 もしかしたら近くにダゴンがいるかも知れないから……。

 

「……。まぁ、ブラザーが『どうなりたいか』は勝手だが……助けが欲しかったら大きな声で俺を呼べ!!マイブラザーと!!」

 

「はいはい。そん時はお世話になりますよ」

 

 適当に東堂に返し、僕は思考を巡らす。

 

 ダゴンの目的は?

 今ヤツは何処にいるのか?

 もし出会った際の対処法は?

 何故『ダゴン』と言う名前なのか?

 

 百鬼夜行というだけであって呪霊の量が半端ない。

 かと言って対処出来なくは無い量だ。

 有象無象の雑魚を並べて、夏油さんは何がしたいのか……。

 

 

 乙骨憂太ならびに折本里香の回収。

 僕はどうなのだろうか?玉藻さんは?

 

 黒閃をキメた後の頭でも解らない。考えるだけ時間の無駄かも知れない。……に、しても…………

 

「ブラザーなら既に感じてるかもしれんが、此処は何故か呪力の残穢が濃い」

 

 僕に語り掛ける東堂に、加茂が間に入る。

 

「東堂。お前の言う通りだ、さっき三輪が呪力濃度の所為で吐いた……一旦このエリアは退却する。いいな?」

 

 加茂が東堂に賛同し、引き上げの命令を出した。

 だが、このゴリラはまだ暴れ足りなそうだ……。ならばここは僕が鶴の一言を。

 

「おい、ブラザー。一旦帰るぞ」

 

「……す、鈴谷……オマエ……!!ああ、心の友よ!!」

 

 なんだよそれ、キモいんですが……。ジャイアンしか言わないだろ、そのセリフ……。

 踵を返し、1番近い拠点に向かって移動することとなった。

 顔色が悪い三輪は僕が背負い走る。

 

「申し訳ございません……ぅっぷ……」

 

「まぁまぁ……。あの環境は流石にキツイよ。あの加茂家の嫡男ですら顔色優れないからね」

 

 和むと思って冗談を入れてみたが……結果はダメだった。皆、呪力濃度が原因でテンションがダダ下りだ(東堂を除く)。

 

 それから2分ほど走り続け、800mぐらいさっきの場所から離れた。

 当たり前だが僕らは呪術師。呪力で脚を強化すれば2分ほどで1キロは余裕で走れる。

 だが、今なお気味の悪い呪力が滞留している。それが原因で皆、疲弊している。

 取り敢えず危険地帯(レッドゾーン)は越えた……と思う。なら少し休憩を挟んだ方が良さそうだ……。

 

 

 さぁさぁ僕の出番だ!

 

 

「……どう三輪ちゃん。気分良くなった?」

 

「!あれ!?なんで!?」

 

 三輪はキョロキョロと辺り、そして自分の身体を確認する。

 結果、解が出ず不思議そうに鈴谷を見つめる彼女に東堂が発した。

 

「コレが噂に聞く『還源術式』か……。対象の呪力を常に減少させる。ブラザーは背中、三輪が居る所に結界を張って、術式を発動しているのだな?……フッ、領域展開の応用か……素晴らしいぞブラザー!!!!」

 

 結界は使ってないんだけどね……。

 

「ちょいと違うけど、説明ありがとー。……じゃあ一旦此処で休憩しよう。周りに呪霊は居なそうだし、あのキミの悪い呪力の残穢も薄くなってきた。どうする?憲紀くん?」

 

「確かに……では一旦ここで呪力を練り直すとするか……。『西宮、降りてこい』」

 

 上空で偵察をしている西宮に加茂は無線で連絡を取る。数秒とせず彼女は地に足を付けた。

 

 加茂憲紀、東堂葵、西宮桃、禪院真依、三輪霞、メカ丸の計6名。

 真依とメカ丸はつい先ほど合流した。

 これで京都校の皆が揃った。

 

「それでどうするんだ、ブラザー?結界を張るために、地に陣を書くのか?」

 

「……。いやー、それが……東堂……。僕、結界術が苦手なんだよね……。あり得ないと思うけど……」

 

『え”マジで!?』と複数の声が重なった。

 

「いや、だってさ!僕の術式、結界なんてほとんど要らないし、対象に触れれば勝ちゲーだったんだもん!」

 

 僕の弁論に対し、御三家の血を引く加茂と禪院の2人が息を吐いた。額に手を当てる加茂は数秒耽り、口を開いた。

 

「御三家の子供ならば『結界術なんて初歩的なモノ』当然のように習うが……。特級呪術師なら当然のように使えると思っていたが……いや、すまない。鈴谷くんは我々とは『違う』事を考慮していなかった」

 

 なかなか棘のある言い方で……。まぁ、実際真っ赤な嘘だからどうだっていいんだけど。

 

「で?どうするのよ?」

 

 真依が手持ちの弾を確認しつつ鈴谷に問うた。それに応えるように妙漣寺の特級術師は、両腕を大きく開きこう言った。

 

 

 

「僕に抱かれない?」

 

 

 

 002

 

 

 抱かれない?と提案したが、ソレは僕にとっては『実験』だ。

 どうとでも解釈できる僕の術式を偽る。

 

 あまり人に話しては居ないが僕は反転術式を使用して『自身と他人』の傷を癒せる。

(五条先生から他人に話すのを止められている。なんでも目の下にクマが出来るそうだ……。……家入さんの事だよな?)

 しかし反転術式はかなりの呪力を消費してしまう。

 そこで僕が実験で使いたいのが『術式反転』だ。

 

 

 呪術師の初心者が間違いやすい『反転術式』と『術式反転』を少しおさらいしようか!!

 

 反転術式:正のエネルギーを生成。人の傷を癒せる。対呪霊に効果良。

 術式反転:正のエネルギーを流し、術式を反転させる。

 

 

 僕の術式は『還源術式』。それを反転させる。しかし、前もって「これは術式反転だよ」と言ってしまえば、五条先生の警句が水の泡になってしまう。だから偽るのだ!!

 

 恐らく『呪力が無尽蔵に放出』出来るはず……。今までやった事がないので、どうなるかは知らない。

 メチャクチャ失礼だが、先程背負っていた三輪に対してヤッてしまった。

 

 結果。大成功!!本人は元気を取り戻しピンピンしている。

 しかも鈍感な性格?もあってか呪力量が増えても(回復と言っても良いかも)気づいてない。

 他の方々なら流石に気付いてしまうので、ほんの微量、呪力をあげたいと思う。

 

 加茂から始まり、西宮、禪院と流れた。

 一応、僕は男だ。女性陣に対しては、恥ずかしい思いをさせていると思うが、割り切ってもらった。

 

 抱かせている間に、色々試させてもらって分かった事がある。

 

 呪力を放出と言っても、術式反転。勿論、呪力を消費して行う。

 本当に、だいたいだけど呪力の『消費』『獲得』の比は10:11と言う感じだった。

 

 想像以上に呪力の獲得量が少ないことが分かった……。

 あまり使い勝手が良くない。

 

『呪力』の観点から言えば、かなりお得な条件なのだけども、『身体的、精神的』の観点では劣る。

 つまり……獲得する呪力量に対する僕自身の負担が大きい。

 

 多分きっと、術式反転は使用しないだろう。

 

「じゃあ、最後。東堂」

 

 僕は真依さんに周る手を解き、東堂を呼んだ。

 メカ丸も居るのだけど、遠隔操作型の術式のおかげか元気そうだ。

 

「おうブラザー!!ほらほら、しっかり俺を抱いてくれ!!!!」

 

 ピキ……

 

 僕の中で何かが弾けた音がした。

 

「とうどうー?気をつけ、の姿勢で居てー」

 

「ん?こうか?」

 

 東堂は両腕をピンと下に伸ばし、直立不動で立つ。

 そこに僕は『東堂が逃げられないように』その腕を覆いかぶさるように自らの手を伸ばし、ガッチリとホールドした。

 

「ブ、ブラザー……。やけに対応が……」

 

 僕はニヤリと笑い、東堂だけ『術式反転』ではなく『術式』を流した。

 

「だあああああ!!ぶ、ブラザー!!俺の呪力が……吸われていく!!」

 

 じたばたする東堂を抱き抑え、2秒経った後に「あ、ごめんごめん。間違えた」と棒読みで言い、手を離した。

 その場で四つん這いになる東堂。

 僕の後方からは「ナイス鈴谷」との歓声?が沸く。

 

「これが……ブラザーの、術式、か。強力だな……」

 

「そりゃどうも」

 

 僕は東堂に手を差し伸べた。

 

 

 

 003

 

 

 休息も終わり、皆が回復(東堂を除く)したところで、再び僕らは走り出した。

 拠点に戻る案は無くなり、これから七海さんと合流することとなった。

 

 あのキミの悪い場所から離れている。しかし何故かここも『あの呪力』を感じるが……まだ薄い。

 皆の体調も今のところ良好だ。

 

 何事もなく合流できればいいのだが……。

 

 幾度も街角を曲がり、合流場所に急ぐ。

 

「!?ストップ!!!」

 

 僕の一声で、皆が足を止めた。その視線は1つのマンホールに映った。

 この呪力の気配。間違いない……アイツだ!

 

 僕らの目先。マンホールをゴボゴボと水の音を立てて退かし、あの黒いスライムが現れたのだ。

 今までのキミの悪い呪力をさらに濃縮したオーラを纏っている。

 

 僕は一瞬で理解した。僕以外の人間は難なくこの呪霊に殺されるだろう、と。

 

 考えるより早く、僕の身体は動いていた。

 如何に呪力量が無限に近い呪霊ですら、僕の領域に入れば数分の時間稼ぎになるはずだ。

 

 神足通でダゴンの側まで移動し、指を組み唱える。

 

「自世限か──

 

 僕の領域展開を食い止めるかのようにダゴンは迅速に動いた。

 ダゴンの身体は、捕食するタコのように一瞬で広がり、鈴谷を取り込んだ。

 

 重い沼に落ちるように、雪崩に埋もれるような感覚に襲われた鈴谷は、領域展延を体に巡らせた。

 ダゴンの術式が何であるのか、が分からない以上、領域展延を使用し中和するしかなかった。

 

 しかし、その努力は意味をなさず、ダゴンのいい様に物事を展開されることとなった。

 

 

 

 004

 

 

 

 光が差し込んだ。ソレは帳の内側に居る時の独特な光。

 その光景に驚いたが、考え、予測し、勝手に納得した。

 

 現在、僕は呪術高専東京校に居る。ダゴンによって転送されてきたのだろうか……。

 いや違う……。領域展延は『触れた相手の術式を中和する』。

 

 つまり、ダゴンに飲み込まれた僕は『ダゴン以外の誰かの術式』で転送された、と考えるのがよさそうだ。

 ダゴンのあの動きはブラフ。僕を東京に転送するのが目的だったのか……。

 だからダゴンは夏油一派と協力関係を結んだ。……考えすぎか……。

 

 だが、今はそんな事はどうでもいい。

 

 辺りは鳥居や石畳はボロボロで、誰かと争った跡があった。

 

「!!憂太!!」

 

 棘君、パンダ先輩は先に転送している。五条先生が送ったのだから、何か理由があるはずだ……。

 京都と言う物理的な距離が有ったので、応援に行きたくてもいけない状況だったが……話が変わった。

 

 あのダゴンと言う呪霊……ワザワザ僕が行きたい所にワープさせやがってのだ。

 勿論、何か理由……罠があっての行動と理解はしている。

 だけど……友達をほっておくほど僕は『なり下がっていない』!!

 

 今なお砂煙と爆音が響く境内に向かって、全速力で駆けていった。

 

 

 以前、憂太と模擬線をした開けた広間についた。そこで僕は4つの影を見る。

 

「やあ、鈴谷君。私の目論見通り。時間ぴったりだ」

 

 夏油がこちらに振り返り言った。

 その背後には血を流し倒れている棘と真希。荒々しく地面がえぐれた箇所にはパンダが静かに倒れている。

 

「夏油さん……。僕は……あ、貴方を……殺……ッ!!憂太!!」

 

 倒れる皆に気づかなかった……!!

 寮に向かう階段、そこに彼が居たことを……!!!!

 

 

 

 記録──

 2017年12月24日

 折本里香

 二度目の完全顕現

 

 

「来い!!!!里香!!!!」

 乙骨の呼び声に応えるように、特級過呪怨霊は姿を現した。

 

 流石にマズイ!!このまま二人を戦わせる訳にはいかない!!

 

 鈴谷は夏油の正面に移動し止めに掛かる。

 

「悪いね鈴谷くん。キミの相手は私じゃない。キミが生れ落ちる前から『先客』は800年以上も待っていたんだよ」

 

「ッ!?!?」

 

 身体の側面に強い衝撃が走った。

 それに負け、20メートルほど飛ばされた。ここでやっと勢いが弱まり、体に自由ができた。

 飛ぶ瞬間、衝撃もとに視線を移せたので原因は理解している。

 

「お前は何なんだよ!ダゴン!!」

 

 僕の呼びかけに応えるかのように、丸くドロドロした身体から2つの腕が生えた。

 生気が一切感じられぬ腕。細く痩せ、肌色は水死体のように真っ青で、所々青や紫、赤。はたまた緑色が見えた。

 

 枝のような指を両手で絡め合い、印を作った。

 

蕩蘊平線(たううんへいせん)

 

 声ならぬ音が告げた。

 その瞬間、僕はダゴンの領域に引きずり込まれた。

 

 圧倒的な呪力消費による、領域展開の超高速化。

 そのスピードは半分人間を辞めている鈴谷ですら対応ができなかった。

 

 

 

 005

 

 

 

 風景がガラリと変わった。そりゃあ当たり前だ。領域に引きずり込まれたのだから。

 

 広い砂浜。後ろは崖で、よく見るとこの浜辺は三日月状だった。

 空は暗く、人間の瞳に似た赤い月が辺りを照らす。

 ザァザァと波音をたてる海は、時折赤い血を流し、座礁した木船が何百と鎮座していた。

 

 余りにも広い空間。ダゴンという呪霊の力量がひしひしと感じた。

 だが……未だ『攻撃』が来ない。

 

 領域展開は対象者を『殺す』前提で行う。領域内は『術式が必中』故に必中必殺。

 

 しかしなんの意味があるのだろうか。

 ダゴンの領域内に居るというのに、僕に対して術式が『働いていない』。

 理由は不明。

 

 

 グチャ……クチャ…………

 

 僕の視線の先、海岸線には古めかしい小袖を来た女性が倒れており、先ほどからの嫌な音の元凶元はソコだと理解した。

 

 そして、僕をこの領域に引き入れたあの手が、女性の影から現れた。

 

 細い身体を懸命に陰から引き出した。身長180センチはあるガリガリとやせ細った呪霊。

 服は無く、色褪せた皮膚と浮かび上がる骨。

 一見ひょろそうに見えるが、ソイツの呪力量と禍々しいオーラがそれを否定した。

 

 骸骨……木乃伊(ミイラ)のような顔。そこから光る2つの眼光は海に視線を移した。

 

 そして泣いた。泣きじゃくる子供の様に。擦れた声で。

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaa!!!!!!!』

 

 奴は……ダゴンは慟哭を上げ僕の方に振り返る。

 そのまま右手を自らに刺し、ナニカを掴み地に投げた。

 

 バシャァ!!と音を上げ、幾匹の呪霊が現れた。

 そのどれもが1級呪霊以上の実力を持つほどの力を感じた。

 

 

『ご主人!!聞こえますか!?』

 

 玉藻さんが問いかける。

 

「聞こえてるよ……。これは……」

 

 僕の問いかけに、数秒沈黙し口を開いた。

 

『これは……余りにも報われない……。神のなりそこない……と言いましょうか。何百の呪物と何百年の呪いが堆積した出来損ない……』

 

 その答えを理解はできなかったが、今までの呪霊には合点がいった。

 以前、乙骨と狗巻と同行した時に現れた呪霊。百鬼夜行での呪霊。強力な呪霊が居た。それは『こうやって出現』させていたのだと。

 

「どうすればいい」

 

『私も加戦できれば五分五分なのですが……今は『五条悟等と結んだ縛り』が邪魔をして完全顕現は出来ません……。ですが、あのダゴンの身体には『私の尾の神核』が5つも有りますわ(道理で探しても見つからない訳ですわ(小声))。それを回収できれば『五条悟等と結んだ縛り』も強制的に『白紙』に戻せます!それまではご主人の呪力をブーストして援護しますわ!!』

 

 なんかとんでもない様な事を聞いてしまったような気がする。

 いや待て待て!!

 

「玉藻さんの尾が5つ!!!無理だよ!?」

 

『あぁ、私以外のモノにとって神核は、その辺の呪物と同じですから問題はないです☆』

 

「…………」

 

 気を取り直すため呼吸する。

 目標ダゴンから『玉藻の前』の神核を奪う事。

 

 それまで僕に勝機は0。

 

 さぁ、ここからは耐久戦だ。

 

 

 




お疲れさまでした!!

色々詰め込んだので長くなりました。
もう、伏線回収のお時間(?)なので色々書いてしまいました。

書くこと無いので解説どか入れますね。


玉藻の前と五条悟「等」は『縛り』をお互いにしています。
(どっかで書いたような気がしますが、掘り起こすのが面倒なので…)
内容は『鈴谷の死刑を中断する代わりに玉藻の前の完全顕現の封印』です。
この内容は鈴谷は知りません。
「等」と書いたのは、ほかの御三家の当主、現呪術会の重鎮の名前です。

本文で『縛りを白紙』とありましたが、それは『尾が3つの玉藻の前』と縛りをしたからです。
玉藻(尾が3)=五条悟「等」
で、縛りが釣り合いました。しかし、玉藻の前が尾を回収し力を増すと天秤はバランスを崩し、縛りを白紙にすることができます。
(これは僕の設定なのであしからず)
まぁ、玉藻さんは『神核が目の前にあるから、取り込んでパワーアップしつつ縛りを白紙にしよう』と考えました。
白紙に必要な『神核』は5こなんて過剰なので、2、3こ取り込めたら玉藻さんが出てくる感じです。

玉藻の神核1個は宿儺の指の2~3個のレベルです。


あと裏設定ですが、スライム状のダゴンと人型のダゴンは別人です。
それが誰なのか、終わったら書くかもしれませんが、今の段階で理解した人は本当に凄いと感激すると思います。
次話に答え合わせになりますので、待ってくれたら嬉しいです!!



~以下ハイパー蛇足~

ミクトランくそ面白い。トラロックが可愛い。プロテアアルタが可愛い。紅閻魔オルタ可愛い。コヤンのNFFバニーめっちゃ好き。言峰は何故か引けた。ニトクリスオルタ欲しい、貯めた石40個溶けた、宝具7のアタランテが来た、何故?????????
カマソッソは今のところ嫌いだけど、面と性格が好き。カマソッソ先生!うちのレジライもオルタ化させてくれぇぇぇぇ!!

話は変わりますがポケモン皆さんやっておりますか?
僕はシーズン1ではマスター帯まで行けたのですが、やる気をなくし、新しいアカウントで初めからやっています。本当に面白いですねポケモン。
舞台がスペイン(ポルトガル?)なのでサンドイッチ(なお上のバンズは行方不明)やオリーブ畑どかあっていいですね。
ですが、僕の頭の中のレジライがいちいち反応するんです……
「ハッハァ!おい相棒ッ!!このスパイスうめぇじゃねぇか!もって帰ろうぜ!」だの「おい見ろよ相棒!俺が間違えて命名した『チリペッパー』をもじったキャラが2匹もいるぜ!俺に感謝しろよぉ?」だの言うんです。

今後僕の書く小説にレジライが出てきたら「あ、発作が起きてるんだぁ」とスルーして頂けたら嬉しいです。

あ、エルデンリングで全身を真緑にした裸のセスタス持ちが侵入したら私なので、その時は宜しくお願いします?

以上になります。ではまた~


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第12話 上位者の落胤(らくいん)

12話です!
色々詰め込んだ結果、文量がかなり多くなってしまいました……。

楽しく読んでいただければ嬉しいなぁと思ってます!!




 001

 

 

 この特殊な領域に居て分かった事がある。

 まず1個目は、『空間が歪んでいる』こと。

 これは少しめんどくさいが別に大した問題ではない。領域内の空間の体積と、領域展開を『発動する際』の結界の体積がイコールでないと『歪む』。

 その歪みによるデメリットは基本的に無い。

 しかし、僕の神足通は『空間に座標を打って移動する』のでややダルイ……。

 

 空間に干渉する術式の持ち主なら、きっとこの『歪み』は天敵なのだろうか?

 

 

『AAAAaaAA!!』

 

 ダゴンによって生み出された人型の呪霊攻撃をかわす。

 態勢を整え、すかさず腹に腕を槍の様に刺し込み呪物を引き抜く。僕の手には、小さい頭蓋骨に木の杭が2本刺さる呪物。

 調べれば『どんなものか』が分かると思うが、そんな時間と余裕はない。

 

 その呪物を首の後ろに回し、玉藻さんに手渡す。

 渡すといっても『手』だけ現れるので、五条先生との縛りに触れていないらしい。

 玉藻さんが居るのは『僕の生得領域』内。常に『玉藻の前』以外の『モノ』に術式を発動しているので、呪物の持ち運びは最適解だ。

 しかし、対象が多くなるほど呪力量が増える。

 便利だが不便。

 

 あ────!!僕も六眼が欲しいよ~!目ん玉、片っぽ貰えないかな!?

 

 息切れを起こす僕に玉藻さんは語り掛けた。

 

『体感では30分戦っていますが…領域外ではホンの数分…。外では乙骨さまと夏油さまが……。応援は未だ当分来ませんわね…。今すぐにでも私も参戦したいのですが…』

 

 複数の呪霊の攻撃を避け、呪力量が一番高い箇所を目掛け反撃を繰り出す。

 呪力量が高い=弱点、となる訳では無いが相手は1級、特級レベルの集団。少しでも『還源術式』で相手を削り、ダゴンに近寄らなければならない……。

 5体居る内の3体を祓い、呪物を生得領域に仕舞いダゴン等から距離をとる。

 

 ジュウゥゥゥ……

 

蝕爛腐術(しょくらんふじゅつ)ッ!?そんな呪霊(モノ)まで『持っている』のか…」

 

 先ほどの呪霊の攻撃を受ける為に左腕でガードした。

 しかしその行為が仇となった。傷口から物凄い勢いで腐食が始まった。祓ったというのに腕が蝕む。

 

 岸辺に座礁した木船まで移動し反転術式を施す。

 腕は治るが呪力消費は半端ではない。

 もうかれこれ30分戦った。致命傷になる傷は治しつつ、どうにか保っている。

 だがもう僕の呪力は……ハッキリ言ってもう無い。

 

「玉藻さん…神核1つ、尾が1つ増えるだけでも違う?」

 

『…。ええ、そりゃ勿論♡』

 

 何が違うかを瞬時に察した玉藻。顔こそ見えないが、きっと口角を上げ言ったのだろう。

 ならば攻守交替──

 

 ダゴンの領域に入る前に黒閃をキメている。ゾーンに入っていて『この始末』だ。

 なら本日2発目の黒閃を出すしかない!!

 しかも、ダゴンに黒閃を繰り出せたとしても、目当ての『神核』が出るとは限らない……。

 玉藻さん曰く「呪物と呪力がごっちゃで、存在は確認できるが位置は不明」との事だ。

 

 

 ならここは賭けてみますか!!

 

 

『やっちゃって下さいご主人!!できる範囲でサポートしますわ!!』

 

 

 忌々しい風が吹く中、一枚の紙切れが僕の足に引っかかる。ダゴンの領域外から入って来た物だろう。

 きっと領域の侵入は僕と同じでガバガバなのだろう。

 その紙をピッシっと開き、見る。そこには乙骨の字でこう書かれていた。

 

 〈皆を回収して反転術式を施した。任せて〉

 

『あらあら、カッコいい事を言えるようになりましたわね。乙骨様』

 

「確かに…。玉藻さん…こっちも負けてられないね!」

 

 

 

 

 002

 

 

 

 

 ダゴンに向かって駆ける。

 この領域内の空間はヤツの手中。

 逃げ、守りの神足通は『ゆるされた』が、攻めの神足通はどうだろか?

 カウンターが来るかもしれない。いや、有るならもう使っているかもしれないが…。

 

 これ以上深いダメージを負いたくない一心で神足通を使用せず突っ込んだ。

 

 蟲群れに蝕みながら進み、灼熱の炎に巻かれながら進み、飛び掛かる無数の刀を受けながら進んだ。

 もう見飽きた赤が僕の身体のあちこちから漏れ出す。

 玉藻さんの加護が無ければ生きていなかった。尾が3つでこの効果。優先するものは初めから決まっていた。

 己の命よりも玉藻さんの神核。

 

 そして、目標のやせ細った呪霊の手前。僕は脚を踏み込み、腰を落として右拳に100%の呪力を集めた。

 ガードにまわす呪力は0。

 そんな無謀な僕を戸惑うように見るダゴン。

 

 的先はダゴンの右肩。そして『取れ易くなった右腕』を奪う!!

 

 ダゴンの肩に深々と拳が刺さり次第、僕の術式を流す。これにより破損部の回復が還源術式によって阻止できるはずだ。そしてそのまま千切るように腕を奪取する。

 

 右拳の呪力オーラを槍状に鋭く変化させる。そのまま玉藻による呪力のブーストを籠め右肩に目掛け一撃を与える。

 ダゴンに拳が接触する刹那。黒い閃光が辺りを照らした。

 僕の人生の中で一番の衝撃。何十も重なった呪力の装甲を貫くような感触。

 

 そして──

 

 還源術式を駆使し、ダゴンの腕は千切れていった。

 

「ッ!!」

 

 その腕を回収し距離をとろうと神足通を使ったが、移動する瞬間に攻撃を受けてしまった。

 身体の防御にまわす呪力は0だった。

 承知はしていたが…ここまで抉れるなんて想定すらしていなかった。

 

 グシャり、と音を立てて船の上に倒れこむ。

 自分の状況は見なくとも理解した。

 

 右側の腹部がごっそり無くなっている。

 

『ご主人!神核は2つありましたわ!これで……ご主……ん……!!』

 

 

 音が消えていく。

 あの腕から玉藻さんの神核は2つも奪えたそうだ。

 彼女の呪力量が馬鹿らしい程に上昇したのが、こんな僕でも感じ取れた。

 

 完全顕現は成功した。

 

 後は玉藻さんが如何にかダゴンを退治してくれるだろうか……。

 

 これで穢れた妙漣寺も終わり。

 

 あぁ、じじいは僕を叱ってくれるのかな…………。

 

 

 

 ダゴンの領域内

 48分間戦闘し鈴谷宗一は息を引き取った

 

 

 

 

 003

 

 

 

 眼を開ける。

 一面霧に包まれた場所。

 

「はい?ここ何処?地獄……じゃないな……」

 

 独り言をつぶやく。

 辺りを見回しても、意識を集中させても何も感じられない。

 

「おいそこの小僧!」

 

「うぃす!!」

 

 メチャクチャ驚いた。その所為で変な声が出た…。

 後ろを振り向くとそこには、丸太に座る男が一人。え?誰?

 

「まぁ警戒すんな…。ここに座れ」

 

 知らないオッサンが命令口調で隣に指さしてる……。従わないと殺されそうだ……。まぁ多分死んでますけどね。

 

「…あ、じゃあ、失礼します…」

 

 沈黙

 

 これほど胃が痛む静けさは体験したことがない。助けて……。

 

「あ、名前……。僕は…鈴谷宗一と言います。貴方は…?」

 

 オッサンは少し口を籠らせた。

 自身の名前を言いたくないのだろうか?

 表情こそ変わらないが、きっとこの人は考えているのだろう……。

 僕が一番『理解』し易い名前を…。

 

 数十秒経って彼は言った。

 

 

「お米の神様だ」

 

「嘘つけ────ー!!!!!」

 

 そんな事ある訳ないだろ!?

 さっきの長考は?意味が分からない。何なんだこの人は……。

 

「あぁ、間違えた間違えた……。いささか大雑把だった…」

 すまぬ、と軽く謝りゴホンと咳払いをした。

 

 そうですよね?お米の神様じゃあ意味が分からないよね……。

 

「稲穂の神様だ」

 

「????????」

 

 日本で神と言っても種類が多すぎる。稲穂の神…この霧の空間…合点がいかない……。

 どんな呪霊……いや、神霊だ?

 

 もういいや。

 

 

「そんなことよりも、俺と取引しないか?」

 

「取引…。何を……」

 

 空気がガラリと変わる。

 

「小僧を生き返らせてやる。お前は少々『めんどくさい死に方』をした。反転術式で治しようのない…まぁ、言ってしまえば『魂を壊された』。それを直してやるのさ」

 

「魂を壊された…。見返りは?」

 

「小僧が再び死んだとき、天国にも地獄にも行かせん。お前が来るのはココだ」

 

「?」

 

 何を言っているのかが分からなかった。

 僕は妙漣寺、天狗党の修験者。その者は死後、天国にも地獄にも行けないと教わっている。

 しかも、僕が習得している『漏尽通』。それは『自身が生まれ変わることが無い』事を知らすもの……。

 

 僕にとって『当たり前』を彼は言っていたのだ。

 それは到底『見返り』とは言えず、僕の認識では天秤は傾いている。

 取引、契約はバランスが取れなければならない……。それなのに何故…?

 

「いや待って下さいよ!それは…当たり前の認識で

「なら取引成立だな」

 

 彼が黙々とそう返すと、徐々に霧が濃くなっていく。

 気づいた頃にはもう彼の姿は見えなくなった。

 

「あぁ、一つ言い忘れた…。キミは間違いなく六神通を極める。しかしそれは『五条の坊や』と同じ状況になる」

 

 ぼやけた声が響く。

 

「……。それは、呪霊が多くなる…ということですか…?」

 

「違う。古い神々を目覚めさせるだけだよ。基本的に人間が失態を起こさない限り無害だろう」

 

 彼が言い終わるなり霧が渦を巻くように覆ってきた。

 急に意識が遠のく。この濃霧が原因か…?

 

「神…々……」

 

「そうさ、みんな新しい赤子に興味深々なんだよ」

 

「…………」

 

「──────」

 

 

 

 004

 

 

 

「ギャッ!」

 

 僕が目を開くと同時に玉藻さんの悲鳴が耳に入った。

 寝ている体の状態を起こし、現在の状況の整理をする。

 

 僕が死ぬ前に移動した船の上。身体の傷は全てきれいに治っている。

 あと…玉藻さんの完全顕現……。これ五条先生怒るよな??まあいいか!!

 

「僕が倒れてどのくらい経った?」

 

「あ、そ、そうですね…。10秒程……。何かあったんです?」

 

「…なんでも無いや。守ってくれてありがとう」

 

 玉藻さんの質問から、僕が死んだ事は認識していないらしい。

 なら…あの霧の出来事について質問しても意味ないか……。

 

『キミは間違いなく六神通を極める』

 あの言葉を思い出した。

 普通ゲームや漫画なら『死に生き返り、強くなる』という展開が……!!と期待したが、変化なし。結構ショックだ……。

 というか、あのオッサン最後に何か言っていた。………。思い出せない……。

 それにしても──

 

「玉藻さんってそんなに『強かった』んですね…。もともと尾が3つであの迫力だったのに……」

 

「うふふふ。そのように言ってくれますと玉藻、嬉しさのあまりテンション上がりますよ」

 

 などと言っているが玉藻の前は、鈴谷がやや引くほどテンションが上がっており、鼻歌交じりに現在の身体を堪能していた。

 そんな『特級呪霊』を眼前に、ダゴンが繰り出した3体の呪霊が我先にと走り出した。その理由は不明。

 

「飛んで火に入るなんとやら……ですわ」

 

 玉藻の前がそういい終わると札を呪霊に向け放つ。その後、札を中心に巨大な火柱が立った。

 業火──

 その火力に耐えられず呪霊たちは、呪物を残さず灰と化した。

 

「すご…」と鈴谷は感嘆の声を漏らす。

 

 玉藻の前は少し黙り込み言った。

 

「さあ主様、私たちによる『反撃』を開始いたしましょう…。ですが私には『ダゴン本体を攻撃出来ません』……。私の攻撃は『ダゴンの養分』となりましょう…。今気づきました。ダゴンを打破するにはご主人の還源術式しかないようで……」

 

「え……。じゃあ僕がダゴンの相手すんの?ちょっと無理っすよ!一回しんdeeee…やられてますから。どうすれば?」

 

 鈴谷にはダゴンを倒すビジョンが浮かばなかった。その皮膚は鋼板のように固く、一撃は鋭く重く、呪力…ダゴンの体力は未だ底が見えない。

 

 だが鈴谷は1つ思い出した。

 それは妙漣寺を自らの手で終わらせた時、『自分は似た体験』をしたことに。

 30代当主である妙漣寺重蔵に対してだった。

 その時、玉藻の前から力を借り30代目を斬り倒した。

 それと同じことをすればいい、と彼は瞬時に思いついた。

 

「なぁ、玉藻さん…。僕とまた契約しようよ……」

 

「…………」

 

 玉藻の前は口を開かない。彼女の表情は悲しげで、全て『こうなる』と完全に理解した顔だ。

 

 この状況ですらダゴンが次々と呪霊を放ち、攻撃を辞めずにいる。

 玉藻の前からの補助もあり、呪霊を倒しつつ目標から距離を開ける。まだ攻め時ではないと鈴谷は判断したからだ。

 

「ねぇ玉藻さん」

 

 鈴谷は玉藻の前に語り掛ける。

 

「僕は数か月前は、自分なんて死んでしまえばいいんだって思っていた。だけど、今は違う。自分の命を落としてでも『守りたい友達』が出来たんだ」

 

 玉藻の前からの応答は無い。

 

「いや。死んでも守る。そのために玉藻さん…。僕と一緒に堕ちてくれないか……?」

 

 ピコンッ!!

 

 あ、この音は……と鈴谷は絶句した。

 入学当初、憎き五条悟にやられた事を思い出す。

 

「いい『モノ』撮れましたわ~♡やはり五条様と仲良くして正解でしたわ」

 

 鈴谷の後ろで玉藻の前がキャッキャウフフとスマホを操作している。

 今なお先ほどの録音された音声が何度も流れる。しかも最後の言葉をメインで……。

 

「うふふふふ♡招致いたしましたご主人♡ですが……ダゴンを倒すなるとかなりの呪力提供になります。ご主人の呪力生成では、返済に2,3年は必要かと……」

 

「2,3年……。その間、僕はどうなるんだ?」

 

「あの時と同じように、返済が完了するまで昏睡状態になりますね」

 

 玉藻はそう告げた。

 五条先生の話によると、妙漣寺で僕を回収してから5日間『僕は死んだように寝ていた』と言っていた。ん?あの30代目で5日?まさかあのジジイ、手加減を……いやいや、今はそんな事はどうでも良いんだ。

 

 鈴谷は息を吸い、一言。大きな声で言った。

 

 

「反撃開始だ!」

 

 

 

 005

 

 

 

 ダゴンの身体の破片と呪物が宙を舞う。その呪物を器用に玉藻の前は回収する。

 

『AAAAAaaaAaa!!』

 

 ダゴンの咆哮と共に、背中から幾本の槍の様な触手が鈴谷を襲う。

 それを神足通で躱し、ターゲットを失い硬直している触手を根本から引き抜く。

 

 ブチブチブチ!!

 

 引き抜く際、呪霊の背骨も触手と同時に引きはがされた。

 悲痛な断末魔を浴びながら、鈴谷はさらなる一撃を与える。それは黒い稲光を発した──

 

 ダゴンの頭部が弾け飛んだ。しかし、その呪霊は未だ呪力量は健在で、頭部の再生が急速に始まる。

 

 今までの鈴谷ならば、カウンターを恐れ距離を取っていた。

 しかし、今の彼は神足通を使用せずにいた。

 かの五条悟が体験したという『確信』を感じ、鈴谷は笑っていた──

 

 玉藻の前の協力な呪力提供、合計13回の黒閃。常人ならざる体験を経て未収得の神通力を習得した。

 天耳通、他心通、天眼通の3つを──

 

 6つの神通力を習得した少年は、この瞬間『人ならざる者』となった。

 

 

 

 ──今はただただ、この世界が愛おしい──

 

 

 

 それは上位的思想であり、彼は『この世でで私より尊い者はいない』と悟った。

 

「天上天下唯我独尊」

 

 鈴谷は六神通、其の凡てを取得して、初めて言葉を放った。

 

 ダゴンが頭部の再生が終わる瞬間、鈴谷は手で印を組んだ。

 

自世限下理(じせいげんかり)

 

 ダゴンを包み込むように、鈴谷の領域が広がっていく。ダゴンは状況を把握し、ただた広がりつつある鈴谷の領域を見つめるだけだった。

 

「やってしまいなされ!ご主人様‼︎カッコいいですわよ!!」

 

 パシャリパリャリ!!とシャッター音が無限に音を鳴らす。容量は大丈夫なのか?と鈴谷は思った。

 

 

 鈴谷の領域内は、日本神話で例えるならば『天地開闢』の時。

 空は神々しい光が降り注ぎ、下は暗く混沌とした海が暴れている。

 その狭間。まるでそこにガラスの板が有るかの様に鈴谷と玉藻の前、ダゴンは立ち尽くしていた。

 

 この領域内では『対象の呪力が減る』。この権能は六神通により大幅に強化された。

 いままでは『引算』のみの対応だったが、今では『四則演算』のように自由に『呪力を操作』できるようになった。

 

「いくら無限に近い呪力とて、『割合』で削れていけば辛かろう?」

 

 最大呪力量を毎秒1%で削っていく。完全に祓うまで100秒。これが今の最大だ。

 

 つまり、この領域に入れてしまえば『呪力を持つモノ』なら2分と待たずに決着が着く。

 例え、噂話にしか聞いたことがない『呪力から解放された』人間ですら、鈴谷はその者に『呪力を付与』すればいい、と考えた。そうすれば縛りは狂い、『天与呪縛』から解放され、『本来生まれるハズ』の状態になる……。

 

「そうかそうか、あの時、あの時代に僕が生れていれば君は生きていたかもしれないんだね……」

 

 自身の前世を思い出す。しかし今更、そう思っても仕方がない。鈴谷はダゴンに視線を移した。

 現在8秒経過した。

 身体から漏れだす呪力に驚いた様子だったが、ダゴンは理解したらしく、自らの身体を引き裂き幾匹の呪霊を生み出した。

 その行為はデメリットしかないが、鈴谷を殺して領域なら脱する、という面では理にかなっていた。

 先ほどまでの戦闘で、1対1の戦闘は不利だと学んだのだろう。

 故に可能性が、那由他の彼方に存在するとしても、ダゴンはその選択をしたのだ。

 

『AAAAAアアア!!!』

 

 叫び声と共に、何百と群れを為す呪霊が行進した。

 その呪霊に対しても、鈴谷の術式が働いているので、呪力量が少ない呪霊はその場で呪物と化した。

 

「さあ、罪深き者達よ。仕事だ」

 

 鈴谷の前方から続々と人影が現れ実物と成す。ある者は太刀を構え、ある者は槍を手に持ち、ある者は屈強な拳を──

 

 その者達は『はっ』と声を揃え、呪霊の群れに突っ込んでいく。ただ一人を除いて……。

 

 鈴谷は幼少期から不思議に思っている事があった。それは、妙漣寺、天狗党の修験者。その者は死後、天国にも地獄にも行けない、と言うこと。

 そして今、その意味を汲み取った。

 修験者たちは死後、その魂を囚われる。覚者の『物』となるようだ。

 

「まさか…こんな所で再び会うとは…。これだから人生とは面白い」

 

 頬面を装備した老人が言う。

 

「僕も同じですよ……30代目当主、妙漣寺重蔵……」

 

 鈴谷がそういい終わると老人はカッカッカと盛大に笑った。

 

「もう全て『終わった』んだな……妙漣寺は……」

 

「……千年の歴史も、僕で終わりです…。僕は、やりましたよ、じぃさん……」

 

 涙を浮かべていたのか、袖口を目元にやるとじんわり湿った。そんな中、玉藻の前が口を挟んだ。

 

「あの~しんみりしている中恐縮ですが、ダゴンさん、いよいよ『本命』を取り出しましたわ」

 

「はい???」

 

 鈴谷はふとダゴンを見る。

 その呪霊の右手には1本の長い物体が。それは白い肉のような塊がこびり付き、その周りを太い血管が脈を打っている。

 その物体から忌々しいオーラを感じた。

 アレは鈴谷を『殺した』元凶。稲穂の神様曰く『魂を壊す』モノ。

 その物体は鈴谷の領域効果を、持ち主であるダゴンを中心に中和させている。これでは『時間による消滅』は絶たれ、直接ダゴンを祓うしか通用しなくなった。

 

 鈴谷はあの肉塊の本性を、天眼通によって読み解く事ができた。しかし……それは……

 

 

草薙剣(くさなぎのつるぎ)?どうして奴が……?」持っているんだ、と小声で言った。

 

 そんな鈴谷の独り言に玉藻の前は反応した。

 

「平家の滅亡の王手を指した戦、その際、かの宝剣は海に没しました…」

 

「……。壇ノ浦の戦い……」

 

 そう言われてみれば辻褄が合うと、鈴谷は理解した。

 ダゴンの領域。その様は全てが終わった海戦そのもの。座礁した木船も、血に染まった海も…。

 

 

「あの子は今も苦しんでいるのでしょう…草薙剣という呪縛と、絶えず川から流れる人々の呪いや呪物によって……」

 

 

 古くから日本には『様々な思いを川に流す』という習慣がある。

 形代流し、人形流し……。はたまた、呪符を燃やし、その灰を川に流してきた。

 それは、到底『呪術師』と言えない、矮小な人々による習慣だ。

 

『人は呪いに対し無力であり、それを逸らすことしかできない』

 

 その為の呪術師だ。

 

 だが鈴谷はダゴンに対し、何も出来ず立ち尽くしていた。

 あの忌々しい呪いに強化された『三種の神器の一つ』は、玉藻の前による呪力供給、妙漣寺の愚者によるバックアップ、鈴谷の六神通を持ってでも祓えないと悟った。

 

 

 火力がまだ足りない──

 

 

 そんな中、鈴谷の領域外で2つの大きな呪力の衝突を感じた。

 乙骨と夏油によるものである。

 そのぶつかり合いは5秒と絶たず勝敗が決まった。

 

「夏油様……」

 

 玉藻の前は今、消えかかる夏油の命の灯を察し呟いた。

 その時であった。

 鈴谷の領域に『ナニカ』が入り込んだ。

 ヒトではない。それは鈴谷の目も前に落ちた。

 

 夏油の呪力の残穢が残る『呪具』だった。

 

 赤色の三節棍。その名を游雲(ゆううん)──

 

 一目見て分かった。この呪具があればダゴンを祓えると。

 

 

「夏油さん…」

 

 鈴谷は游雲を拾い上げる。

 

「本当は誰よりも優しいヒトだったんですね…」

 

 三節棍は鈴谷にとって初めて扱う武器だった。だが天性の才能により、扱い方を瞬時に理解しダゴンに向かって駆け出した。

 

「ありがとうございます」

 

 何故このタイミングで夏油が游雲を手放したのかは、鈴谷には見当も付かなかった。

 ダゴンと協力関係に有るならば、その行為は裏切りだ。

 それでも事実は変わらない。

 

『────────―!!』

 

 全ての(しもべ)を失ったダゴンは甲高く雄たけびを上げ、肉に覆われた剣を空高く構える。

 その剣から淡い光が漏れ出す。この領域を破壊するつもりだろうか。

 

「ッ!!」

 

 宝剣の目の前に神足通で瞬間移動した鈴谷は、小さいな身体、だが屈強な筋肉を弓の様に張り詰め游雲を振るった。

 少年の攻撃に合わせるかのように、妙漣寺の亡霊たちもダゴン本体にダメージを与える。

 筋という筋を切断させたダゴンは、万足に宝剣を振れないまま鈴谷の游雲と衝突した。

 

 

 特級呪具 『游雲』

 その効果 術式効果が付与されていない純粋な力の塊。故に威力は使用者の膂力(りょりょく)に大きく左右される。

 

 

 人間という型を逸脱した鈴谷による一撃は、黒閃も相まってダゴンから宝剣を引きはがす程の威力となった。

 剣を失った呪霊は砂の様に崩れ消滅し、その元凶は玉藻の前の前方に転がり落ちた。

 

 

「疲れた……」

 

 余りの疲労の所為もあり、彼はうなだれ小言を吐いた。

 

「ご苦労、と言いたいところじゃが鈴谷……。お前は『これから地獄を見る』ことを理解しているのか……?」

 

 頬面を外した30代目が鈴谷に警告した。

 

「今更だが、儂の天眼通()が告げている。鈴谷お前は6つの神通力の1つ、漏尽通が『中途半端』だ。到底『六神通を取得した』など言えぬ…。仏に近い人間の末路は知っているのか……?」

 

「知ってる……だけど!漏尽通を完全に取得したら僕の心は『人間でなくなってしまう』!!」

 

 そう叫んだ鈴谷に対し、重蔵が言った『地獄』が訪れた。

 眼が溶けるほどの激痛。脳内に流れる幾万の人々の怒号、悲痛。それに耐えられず地に伏せる。

 その苦痛が耐えられず、まるで赤子の様に涙を流し喚く。

 

「ご主人……尾が7つに戻りましたが…もう私に貴方を守れるほどの呪力が無くなってしまいましたわ……」

 

 玉藻の前は悲鳴を上げる鈴谷に言った。彼にその言葉が届かないと知っていながら。

 

 両手で目を覆いうずくまる少年は叫ぶ。人の温かみを忘れたくなかった、と。

 

「おい、天照。この場合、鈴谷はどうなるんだ?」

 

「あら、やはり『眼』が良いですね。まぁそんなことは置いといて……。そうですね……私に呪力の返済のために5年間昏睡状態になりますが……ご主人の意識は『生得領域内で苦しみ続けます』」

 

「どうにかならんのか?」

 

「なりません」

 

「そうか」

 

 重蔵は鞘から刀を抜いた。

 当然、玉藻の前は見過ごさず間に割り込む。

 

「ここで殺すのが救いだろう?違うのか?天照」

 

「ご主人をここまでのどん底までに陥れた人間が……よく言いますわね?」

 

「妙蓮寺を終わらせる為だ」

 

「全く、ふざけた話ですわ」

 

 玉藻の前の言い分は、他の妙漣寺の当主にも理解ができた。

 しかし彼らは『鈴谷宗一』とは深く関わっておらず皆、口を一の字にした。ただ2人の選択が決まるのを待っていた。

 

 その時である。

 

『あらよっと!ごめんよー』

 

 幼い子の声が響いた。

 黒髪のおかっぱ頭で、白い小袖(こそで)姿の少年が鈴谷の元に駆け寄った。

 

 敵意は無い、と判断した重蔵は一旦刀を仕舞う事にした。そのな老人をみて玉藻の前も警戒を解き、少年に視線を移した。

 

 今なお地面に這いながら苦しむ鈴谷の目の前で少年は屈み、あるモノを取り出した。

 

『これ、キミのおとしものでしょ?川から流れてきたから拾っていたんだ!返すよ!……ぼくを退治してくれて、ありがとうな!!』

 

 少年は何かに握った手を差し出した。声が届いたのか鈴谷は震える手を懸命に伸ばす。

 

 コロッ……

 

 鈴谷の手のひらには、幼少期に投げ捨てた深紅の卵が転がっていた。

 鼻や目、口が装飾されたナニカ。

 それはいきなり震えだし、血の涙を流すと口から血液のような液体を吐き出し、皮膜のように鈴谷を包み込んだ。

 その数秒後、深紅の膜は溶け白髪の少年があらわになる。

 

「ご主人!?」

「鈴谷!?」

 

 一人の老人と一匹の呪霊は鈴谷に近寄った。

 それに反応するかのように白髪の少年は目を開いた。

 

「…?痛くない……治った???」

 

 ポカンと口を開ける鈴谷に少年は言った。

 

『人は呪いに対し無力であり、それを逸らすことしかできない……。…今のキミはまだ未完成だ。だからその卵はキミの漏尽通を回収した。其の時が来れば卵はキミを再度飲み込む』

 

 そういうだけ言って少年は砂の様に消えていった。

 

「じゃあ今は、5/6の状態……。助かったぁぁぁぁぁ~~~~~。誰が仏になるか馬鹿」

 

 鈴谷は状況を整理し、安堵のため息を漏らした。最後に愚痴を添えて。

 

「ご主人~~!!良かった~~!!タマモ、不安で死にそうでしたぁ~」

 

「よく言うわ、この女狐め」

 

 重蔵がそう呟くと玉藻の前は物凄い目つきで睨みを効かせた。

 

「って待て!!玉藻さん!?僕が『寝る』までどのぐらい余裕ある?」

 

 その言葉を聞いた玉藻の前は察し、「あと3分ほど」と返した。

 それを聞いて鈴谷は急いで領域を閉じ始めた。

 

「じぃさん!また後で!」

 

 そういい終わると白髪の少年は「笹食ってる場合じゃねぇ!」と動き出した。

 

 鈴谷が居なくなった領域。29代目当主である正長は、30代目当主の重蔵に語り掛けた。

 

「笹?おい、重蔵、どういう意味だ?」

 

「あぁ、アレは友に会いに行ったんですよ。鈴谷は…」

 

「友?…フフ……それは良いことだ。ところで、小僧の名。新しき31代目の名は決まっているのか?」

 

「ゥッ!相変わらず痛いところを突いてきますね…。もう決まってますよ、猩々。それを受け入れてくれるかは、鈴谷自身の問題ですが……」

 

 天国にも地獄にも行けない彼らは、酒も無いもにも関わらず大はしゃぎをし、殺し合いを始めた。

 自らを『悪の化身』と銘打って天狗に堕ちた者共。

 その存在理由は『最高傑作を守ること』。

 魂を囚われ、疑似的に『不死』となった彼らは、より牙を研ぎ澄ますため殺し合いを始めた。

 欠損した部位は瞬時に治り、金切り声を上げ武器を、拳を振るった。

 その一人一人が一級呪術師並みの技量を持っているが、彼らはさらに求めたのだ。

 鈴谷宗一という光が示した『強さ』を──

 

 さぁさぁ、ここは堕落した妙漣寺の修験者が行きつくところ。

 そこは(まさ)しく天国であり、地獄でもあった。

 

 

 

 006

 

 

 

 領域を出た。

 地に足をつけると乙骨たちが寄って来たが、鈴谷は断りを入れ『游雲』が残した呪術師の元に走り出した。

 

 幾つも曲がり、暗い裏路地に彼は居た。それと彼の目の前には、最強の呪術師が立っていた。

 

「ん?まさか、君が来るとは…。思ってもなかったよ。鈴谷宗一くん」

 

「鈴谷……」

 

 二つの顔がこちらに向く。夏油は満身創痍で、左腕を失っていた。

 

「いつかのタダ飯のお礼を……いや……」

 

 少年は息をのんだ。彼が死ぬ前に伝えないといけない事があった。それが呪術高専にとっての裏切りだとしても……。

 

「僕は……夏油さんが言っていた『世界』に少し賛同していました……」

 

「……?じゃあ、君が私の2代目になってくれるのかい?」

 

 夏油はからかう様に鈴谷に問うた。

 

「なりません!」

 

 即答。その様に夏油は笑った。

 

「僕は……」

 

 神に成りかけた少年は口を開いた。

 

「たった一瞬ではありますが『世界中の呪いの声』を聴きました。それは『平等に造られなかった人間の悲鳴』でした……。だから僕は……」

 

「少しでも多くの善人が、平等を受けられるように……僕は不平等に人を救います」

 

 ははは、と擦れた声で夏油は笑った。

 

「それが上位的視線を持った、君の考えなのだね……分かった。では、私から君に呪いを……。キミが夢見た世界が、いつの日か成就することを願っているよ……同志よ……」

 

 鈴谷は夏油の言葉をしみじみと聞いた。そして呪具の感謝の言葉を述べた。

 

「じゃあ、今の僕には時間が無いので!!お互い地獄でまた会いましょう!!!」

 

 そう言って鈴谷は裏路地の影に消えた。

 

「…………。面白い事を言うね、彼は……。なぁ悟、『あの時、あの場所』に鈴谷くんが居たら、私たちは変わっていたのかな……」

 

「さぁな…。だけど、もし『そういう過去』があれば今頃、『5人』でつるんでいたんじゃねぇの?」

 

「あははは……それはそれは…楽しそうだな……」

 

 

 この後、少しの会話を経て、夏油傑は五条悟の手によって深い眠りについた。

 

 

 

 007

 

 

 

 あの広場に着いた。

 そこには皆が揃っていた。

 

 泣き崩れている乙骨を囲むように、真希、棘、パンダが立ち尽くしている。

 折本里香の気配が完全に無くなっていた。解呪に成功したのだろうか……。

 

「あ、鈴谷ぁ!?てめぇ今までどこ行ってたんだ!?」

 

 真希の怒号が鈴谷の脳内に響く。怒っていらっしゃる……。

 

「あ、あの…少しヤボ用を…」

 

 視線を逸らして言う少年に、彼女は言い返した。

 

「心配したんだぞ……」

 

 予想外の返しに鈴谷は驚いた。

 心配……そうか、心配なのか。ここは、『ただいま』と答えるのが正解だろう?

 

「ただいm……!」

 

 その時であった。清算が始まったのである。

 

 一瞬意識が遠のき、その場に倒れこむ寸前に真希の腕に包まれた。

 

 まだ意識はある。だが身体が動かない……。

 

 自身の状況が明るみになり、軽い絶望を感じる。

 

「おい鈴谷!聞こえてるのか!?」

 

 真希の声を筆頭に、乙骨、棘、パンダの声が耳に届いた。

 しかし少年の脚は、次第に重力すら抗うことが出来ずその場で倒れこんだ。幸いに真希に抱き付いた状態での出来事だったので、地面と衝突せず、彼女の膝の上に頭を置く体勢となった。いわゆる、膝枕である……。

 

 

 

「玉藻の前との縛りだな?どのぐらい寝る予定なんだい?鈴谷」

 

 五条悟は六眼を鈴谷に向け言った。

 

「2、3年と聞いた。けどもっと長いかも…」あはははと笑い、鈴谷は五条に言った。「これ、戦利品」

 

 右腕を横にめいいっぱい伸ばし、ダゴンから奪った呪物を放出した。

 

 呪われた刀及び槍×18、鬼の右腕×1、ナニカの目玉×3、木乃伊の新生児×1、血が滴る臓器の一部×1、気色の悪いナメクジ×3、蛇の抜け殻×2、焦げた仏像×1、貝殻の首飾り×4、遺体が入った壺×7、神木の破片×2、龍の髭×1、両面宿儺の指×2、病創の皮膚×7、人形×28、背骨×2、歯や指の骨×12、などなど……

 

「うえ……沢山隠していたね…。気持ち悪くないの?」

 

「なるに決まってんでしょ……」

 

 鈴谷はそう答えた。宝剣は隠しておくことにした。あの五条悟の事だ。壊しかねん……。

 

 五条はパンパンと手を鳴らした。

 

「さぁ男ども!鈴谷が持ってきた呪物に呪符を巻くぞ!!早くしないと呪霊がやってくる」

 

「高菜!?」

「え、早く持ってこないと!!」

「俺の腕片っぽ無いから、乙骨、棘、荷物持ちな?」

 

 各自、今できることをする為に校舎に向かって走り出した。

 

「じゃあ僕も乙骨たちの手伝いにいこうか。じゃあ、真希。鈴谷を頼んだ」

 

 えええええええええ……。行ってしまうのかよ……。

 

 辺りが一斉にしんと静まりかえる。

 そんな中ですら、鈴谷の清算は徐々に本格的なものとなっていく。

 意識が薄れるさなか、真希は口を開いた。

 

「待ってる」

 

「……?」

 

「私『たち』は待ってるからな!2、3年?……笑わせんな!10年だとしても余裕だ!!」

 

 鈴谷の頬に点々と涙が落ちる。それが誰のモノか、なんて探りを入れるのは失礼だと少年は思った。

 

 意識が落ちかける。

 

「そうだよな……僕たちは友達だもんな……」

 

 そう告げ、玉藻の前に憑りつかれた『天狗』は静かに眠りについた。

 

 

 

 008

 

 

 

「ありえない…」

 

 12月25日。

 五条悟は怒りに満ちていた。

 

「何度も言うが、妙漣寺の小僧は昏睡状態だ。これは『玉藻の前を祓う』という条件を完璧に成立させた!」

 

「いかにも。我々との『縛り』が強制的に解けたのだ。それは即ち我々と同格の存在から、『人類の敵』という高みまで至ってしまった…」

 

「当時の『鈴谷宗一の死刑』と現在を比べてみろ!!圧倒的に『今』が理想的……いや、それ以上の状況を作り出しているんだ!」

 

「10年ほどの猶予?そんなものは要らぬ!!今すぐ鈴谷宗一の殺害、および玉藻の前の排除を行うべきだ!!」

 

 老人どもは口を揃えて「殺せ」と言う。

 

 それだけなら五条は『落胆』程度で済むハズだった。

 しかし、今日は状況が異なる。

 

 五条の視線の先に『乙骨憂太』が居るからだ。

 

 今、老人どもは乙骨に対し『鈴谷の殺害』を進めている。呪術高専で成した『友情』をへし折ろうとしているのだ。

 

「鈴谷宗一。一人の命でこの先の何百名もの命を救うことになるのだ!」

 

 如何に驚異的かという議論から、英雄的選択という罪悪感をより減らす弁論に移行した。

 

「その救える命には、お前のクラスメイトの存在や同僚、はたまた新しき後輩も含まれる…」

 

 五条はこの真意を把握した。

 鈴谷に危害を与えれば確実に玉藻の前の『呪い』が降りかかる。その呪いで乙骨を……いや、五条悟の教え子の死去により、メンツを潰しに来ている、と。

 例えその状況になっても、五条悟の地位は動かない。それを老人たちは考えるまでもなく理解しているのだろう。

 この行為の確信は単なる『いやがらせ』だ。

「どうせ死ぬなら足を引っ張ろう」という幼稚な考えが、五条をより激高させた。

 

 老人のいくつもの重なる声をかき消すように乙骨は言った。

 

「僕が……!!……鈴谷宗一を……殺します……」

 

 その一言で、この空間に居る殆どの人間の口角を上げさせた。

 

 

 

 009

 

 

 

 乙骨と五条は長い廊下を歩く。

 呪いの女王から解き放たれた少年の手には、一本の小刀が握られていた。先ほどの議会にて渡された『呪具』であった。

 

 いつもは長いと感じた廊下が、今はこんなにも短いものなのか、と乙骨を困惑させる。

 

「本気、なのかい?乙骨」

 

 五条が声をかける。数秒の沈黙の果てに乙骨は言った。

 

「宗一くんにとって…真希さんや棘くん。パンダくんが傷つくのは本意じゃない…と思ってる……。それが例え、あのヒトたちの思惑と一致しているとしても…」

 

「そうか」

 

 その答えを聞き、不意に夏油の事を思い出した。それが友達というモノなのか。

 

 それから二人は会話もないまま進み、鈴谷が眠るドアの前で立ち止まった。

 

 ガチャリと音を立てて部屋に入る。

 

 大きな室内の中心。ベットに横になる人影が目に入る。人影の真横には点滴スタンドが有り、そこから管がのびている。壁には覆いつくさんばかりの呪符が貼られ、無造作に置かれた椅子には東京校をはじめに、京都校のメンバーや鈴谷に関わりがあった呪術師が居た。

 

 鈴谷の隣で観察していた家入は、五条の存在に気づくと状況を報告した。

 

「あぁ五条。彼への点滴は『許された』よ。いや、そもそも点滴など要らないと踏んだが…。10日間、様子を診て……」

 

「必要なくなった」

 

「ん?」

 

 五条は乙骨に視線をずらした。それに導かれるように、家入も目を動かした。小刀が映る。

 

「あぁ、そういうことね」

 

 自分の仕事が無くなったと察し、彼女は(きびす)を返し椅子に座った。

 

 乙骨は進む。それに対し誰も制止しなかった。

 真希、棘、パンダとは一晩中話し合い日が昇ると共に、友を助けられないと結論が出、断腸の思いで飲み込んだ。

 故に残された東京校の皆は乙骨を見ていた。

 そうなった以上、京都校は勿論、他の関係者もただ見守る事しか出来なかった。

 

 ベットの真横。彼の顔が良く見える位置まで移動した乙骨は、得物を両手で固く握りしめた。

 

 白い髪。

 整った中性的な顔は、初めて会った際に女性と間違うものだったと、乙骨は思い出す。

 それを皮切りに、さまざまな思い出がよみがえる。

 武器の振り方、手製サポーターの巻き方、好きなお菓子の話や、皆でファミレスに寄ってパンダによってちょっと店内がパニックになった事、など……。

 

 しかし、その思い出が霞んで見えるほど『玉藻の前』の存在は恐ろしいモノに成った。

 五条曰く、尾は7つ集まったそうだ。のこり2つで完全体だ。最悪に事態になる前に、先手を打つしかなかった。

 

 乙骨は鈴谷の心臓を狙い、刃先を下にした。あとは振り下ろすのみ。

 

 その体制のまま彼は固まった。

 10秒程経ち、ついに動いた。

 

 乙骨憂太は鈴谷宗一に対し、短刀を大きく振りかぶった――

 

 




お疲れさまでした!!!!!

次話で一応終わりです。

出来るだけ早く投稿したいです(白目)!!
まぁ、次話は書くこと無いんで、すぐ書けると思いますが……。

今更ですが、サブタイトルにルビって振れたんですね……初めて知りました……。

落胤の意味は多々ありますが、落とし子、と受け取ってください。
烙印と文字遊びしようと思いましたが……断念しました。難しいね♨

今回はここまでで、蛇足に入ろうかと思います~~。

~~以下蛇足~~

この為だけに古事記を読みました。メチャクチャで、なんか、面白かったです。
言ってしまえば資料収集ですね……。一言で言い現わすと「カオス」です……。
なんだよ八千矛神って……。チ●ポが沢山って……。ゼウスか?お前は???さすがイケメン……。
まぁ、そのおかげで色々勉強になりました。
伏黒の十種影法術って十種神宝なのでしょうかね?布瑠部由良由良も十種神宝の神話からでしょうし……。アッ(察し)
伏黒ぉぉぉ!!幸せになってくれ~~泣
古事記は面白かったので、皆さま、もし興味がありましたら読んでみるのも良いかもしれません。

あとテスカトリポカが欲しかった。引けなかった。何故??(FGO)
2部7章はとても面白かったです。デイビット好き。ORTヤバい。
あと新差分をちゃっかり貰ってるメリュ子…。お前は何なんだ……。


今回はここまでになります。

ではまた~


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第13話 因果律

13話です。

誤字脱字等ありましたら、報告よろしくお願いします。


001

 

 

自らの生得領域に囚われた鈴谷は茫然としていた。

 

玉藻の前という、無限に言葉が湧いて出る神霊が居るのだが、今は話す気になれず座り込み、混沌と波打つ海を眺めていた。

 

体感で8時間は経った。返済終了期間は5年。そのことを思うとゾッとした。

思わずため息を漏らす。

 

「こうなるなら、ぎりぎりまで粘って五条先生に対処して貰えばよかった…」

 

この独り言に突っかかるように玉藻の前は言った。

 

「いえいえ、ご主人の還源術式と神通力があってこそ祓えた呪霊ですわ。あの子も喜んでくれていると思います」

 

「はあ」鈴谷はダゴンとの戦闘を思い出す。

 

あの少年が『そう』だったとして、僕になんの因果が…?

壇ノ浦の戦い…源義経の子孫だったりして?義経は、かなりのプレイボーイと聞いたぞ…。もしかしたら、もしかするかもしれないぞ?

その理論でいくと、僕は源氏側の人間。果たしてあの少年は喜ぶのか……?

 

「ご主人…。この状況、何とかなるかもしれません」

 

聞き間違えかと耳を疑ったが、彼女の顔を見て心の中で訂正した。

なんとなく察してしまった。だから僕は言った。

 

「嫌だ!」

 

「しかし、それをしなければなりませんわ。五条悟らと私の縛りが無くなった時に『ご主人に命』は、おおよそ想像が出来ました……。ご主人が生き残るにはこの方法しかありません」

 

玉藻の前は淡々と言葉を並べる。

 

「夏油さまに言っていましたよね?『不平等に救う』と。ならばその『不平等』に私が入りますわね。……もし、私が解放された暁には、人間など皆殺しの勢いで殺戮を始めますわ。ご主人以外、興味がありませんので♡」

 

その言葉は嘘偽りがないことを、他人通が見通した。つくづく最悪な機能だ。

 

「…ですからそんな顔しないで下さいまし…」

 

「なぁ、玉藻さん。…また会えるかな……?僕たち」

 

「ええ。貴方が望むなら、幾らでも頑張れますわ」

 

 

 

002

 

 

 

乙骨憂太の咆哮と共に振りかざされた短刀の刃先は、鈴谷の心臓に狙いを定める。

「より痛みが無いように」と願った結果だ。

その意味を理解した東堂は、構えていた両手を下げ、ベットで眠る『弟』を見ていた。

 

鈴谷宗一を救出する条件が全て絶たれた。

その後、訪れる状況は誰もが想像した通りになった。

 

布団越しではあるが、その担当は確実に心臓を貫いた。

しかし、『結果』は皆の想像しないモノとなった。

 

「…どうして……どうして!!…宗一くん……」

 

乙骨はその場で項垂れた。

それを五条悟が見逃す訳なく、未だ眠る鈴谷の布団を剥ぎ、笑った。理解したのだ。

 

五条は鈴谷の首に視線を移す。

紐。否、首飾り。それが今回の元凶。

手に手繰り寄せ、鈴谷の頭を通して外す。

 

「赤い石?人の顔がまばらにある…。何かの呪具か?(ほの)かに温かい」

 

掌サイズの石を転がすように見る五条。「あったあった」と嬉しそうに見るは、先ほどの短刀による刺突痕だ。

 

その石から視線を外す為、真希は首を逸らした。

 

「で、どうしようか?まだ続けるかい?」

 

皆に促すように問う。それに東堂はいち早く答えた。

 

「さすがにリスクがある。一度失敗したならば、二度目は無い。マイブラザーに取り憑いているのは『玉藻の前』だ。俺はやらん。なんだったって高田ちゃんが俺を待っているからな!こんなところで死ぬのは御免だな」

 

それに続くように真依が声が上がる。

 

「…そうね。私もまだ死にたくないから。あ、そういえば御三家は妙漣寺に『大きな貸し』があるのよね?ほら、後継ぎがいない時の『接ぎ木』として。あの禪院家当主(バカ)にそう言うのも面白いかもしれないかも」

 

「真依…」真希がつぶやく。

 

「まて真依。その理論でいくと、私と鈴谷くんは疑似的だが兄弟になってしまう」

 

顎に手を置く加茂に「そんなわけねぇだろ」とパンダが突っ込みを入れる。

 

「あ、そういえば鈴谷くんと交流会をしていないんですよね?どのぐらい強いんですかね~?気になりますね!メカ丸!!」

 

「イヤ、昨日鈴谷ニ介抱されていただロ?ぅむ…ダガ、特級とは一度、手合わセしたいものダ」

 

「しゃけ……」

 

「全くいい子たちだな…。これを見習ってほしいものだよ…。さて、憂太」

 

嗚咽をもらす乙骨の背中に手を置き、五条は言う。

 

「老人たちはあぁ言っているが、僕に任せてよ」

 

 

「そうそう。メンドクサイ事は全部、五条先生に任せればいいのさ。憂太くん」

 

それは乙骨にとって、もう二度と聴くことのないと覚悟を決めた『声』だった。振り返ると上体を起こした彼が居た。

 

『鈴谷ぁ(しゃけぇ)』と東京高1年の声が重なる。同時に室内がやや賑やかになった。

 

「よく戻ってこれたな」五条から声が掛かる。

 

「玉藻さんが『全部』持って行ってくれた」

 

「そうか。その目は?」

 

「見たくないモノまで『見えてしまう』から閉じてる」

 

「まるで僕の六眼のようだな、六神通は」

 

「いまは五神通ですけどね」鈴谷は笑って最強呪術師に言った。

 

 

 

003

 

 

 

あれから3日経った。

 

玉藻の前が居ない生活。それは想像以上に虚しいモノだった。

昨日、僕は妙漣寺に向かった。「また玉藻の前に出会えるとはず」という淡い期待に覆われて。

結論を急ぐならば、出会えなかった。

しかし、成果もあった。草薙剣の複製だ。

 

僕の清算を玉藻の前が『引き受ける』時に宝剣を持って去っていった。

本物の宝剣を知っているからこそ、これは『偽物』だと理解した。そしてこれを作ったのは…………。

 

 

 

「おい鈴谷!なにボサッとしてるんだ?私たちが大金支払った肉が食えねぇのかよ!?」

 

「あの…金額の5割、僕の手持ちなんですけど…」

 

「嫌味か特級?残りの5割でも私たちの貯金は0なんだよ!!」

 

ドンと黒塗りの高価そうな机を叩く真希。壊れたら弁償しないといけないんだ…辞めてくれ……。

 

ジュージューと肉を焼く音と、軽やかなBGMが部屋を満たす。

鈴谷たちは今、高級焼き肉店に居る。しかも個室!!

パンダが自由に動けるようにそうしている。

 

5人全員の皿にタンやらハラミやら聞いたことのない肉の部位が行き届いた。

 

「じゃあ」

 

パンダがコーラが入ったグラスを持つ。

 

「乙骨憂太と鈴谷宗一の解呪を祝って――」

 

それに続き鈴谷も、お茶の入るグラスを持つ。

 

 

乾杯!!!!

 

 

その乾杯の意味合いは一人ひとり違っていた。それを皆知っていたし、あえて口には出さなかった。

『百鬼夜行を生存できた』という意味でも良いし、『乙骨と鈴谷、それぞれの解呪の成功』と言う意味でも良い。

つまりこの会に深い意味など無く、『ただ今を楽しもう!!』という青春を体現したものだった。

 

「さぁさぁ、鈴谷~。お前、魚ばっか食ってるから肉の美味しさを知らないだろ?」

 

パンダが鈴谷に圧を掛ける。それを面白がってか、真希も同様にちょっかいを仕掛ける。

 

「野菜が食いたきゃ、焼き野菜屋に行くんだな。牛・牛・豚・鶏・牛・内臓・内臓の順番がおススメだ」

 

「………」

 

今思えば、肉がトラウマに成っていたのではないのか?と思えてきた。

幼少期から人間の血と脂の匂いを嗅いで育った。それが起因していたのかもしれない、と。

 

ふと鈴谷は思い出した。玉藻の前が、現代の調理レシピと睨めっこしながら小さなハンバーグを作ってくれた事を……。

とても美味しかった記憶がある。

 

鈴谷は盛られた肉を箸で取り、タレや塩、レモン果汁をつけずに口に入れた。

 

「あ。美味しい…」

 

それは嘘偽りのない、純度100%本心から来る『本物』の言葉であった。

 

その後、金欠となった東京高1年たちは家入硝子の友人の元、コスメショップ「玉ティナ城」にて、時給600円で働かされることとなった……。

 

 

 

004

 

 

 

「いやー、こうして見ると女の子にしか見えないね~。この学生証、性別の欄を直してやろうか?」

 

鈴谷の2つある内の1つ。『名前』が違う学生証をクルクルと回しながら五条は言う。

 

「殺しますよ????…まぁいいとして……。この『呪布』、かなり性能良いですね…。ほとんど感じない…」

 

鈴谷は目を覆う様に、かつて五条悟がつけていた呪布を巻き終わり呟いた。

 

「僕の特級品さ。欲しかったらあg…

 

「やったーー!!」

 

「…………」

 

呪術高専。五条の部屋にて2人は話をしていた。

お互いの『眼』の話もあるが、もう一つ重要な事が……。

 

「やっぱり家入さんは『あの後』僕に付きっきりで、『夏油さん』の遺体は違う人に任せていたようです…」

 

「高専内に夏油の死体を持ち去った者が居る…。しかも、僕と鈴谷の『二重の眼』によるチェックを持ってしてでも網に掛からなかった…狙いは何だろうね…」

 

はぁとため息を吐き、鈴谷は言う。

 

「遺体の警護をしていた人間は『行方不明』…。痕跡が見えなかった…いや、消されていた??」

 

「だとしても狙いが不明だ」

 

 

そう、僕がダゴンと対決した翌日、夏油傑の遺体が無くなった。

本来遺体は、家入さんが処分することとなっていたが、僕の介抱を優先した。

つまり、『家入硝子では無い人間が遺体の処理をする』ことになってしまった。その結果、その人間と遺体は消失した。

 

このことは一部の人間しかまだ知らされていない。

 

 

「じゃあ五条先生。僕、これから仕事が有るので」

 

「お土産は?」

 

「?東京内ですよ…」

 

「いーからさ。ほらほら、美味しいモノ沢山あるだろ?」

 

「じゃあ…日本酒で」

 

「なめんなよ?」

 

その後、共に笑い、呪布を巻いた少年がドアを開けた。

 

「コレは?」

 

五条は学生証を突き出した。

 

「今回は、鈴谷宗一で行くつもりなんですけど…」

 

「まぁそういうなって。いい名前じゃんか?使ってやれよ?」

 

「…じゃあ、そうしますね」

 

鈴谷はその学生証を受け取った。

 

彼の顔写真と特級のマーク。学籍ナンバーの下に、大きく名前が印字してあった。

 

妙蓮寺 鴉郎(あろう)

 

新しき妙蓮寺31代目当主の名前である。

 




お疲れ様でした。いかがでしょうか?
もう少し続く予定でしたが、一刻も早く虎杖を曇らせたいので本編を書こうと思います!!

これで呪術回線0の時間軸である<玉藻の前に取り憑かれた『天狗』の子>は終わりになります。
また新しくタイトルをつけて本編を始めようと思います。

ありがとうございました。


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