とあるボーダー職員の話。 (天青石)
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1話

 UA数とかを確認したら1話で読むのをやめている方が多かったので自分でも確認してみたら凄い読みにくかったのでちょっと修正しました。行替えを増やしただけですが少しは読みやすくなったでしょうか


 何の話をしてたかすらあんまり覚えていない。ただ、皆寝不足でまともに働かない思考で普段しないような話をしてた気がする。合宿だあ!なんて言って泊まった友達の家の屋上で夜通し話して、ずっと馬鹿騒ぎして、ふと気が付けば朝日が皆の顔を照らしていた。

 

 マジックアワーなんて呼ばれる時間帯。空は藍色から深青色を通り、オレンジへとグラデーションを作っている。

 

「東雲ってああいう雲のこと言うんだろ?」

 最近古文でやった覚えがある、なんて言われて彼が指さした方を見れば朝日によって優しいオレンジ色に染め上げられた雲がある。綺麗じゃん、カッケェ名字だなんて口々に言われるのがちょっと恥ずかしい。

 

「シノで良いよ、東雲って言いにくいでしょ。」

 

 仇名で呼んでよ、その方が友達っぽいからさ。なんて昔呼ばれていた仇名を提案してみれば、じゃあオレの苗字も長いから呼びやすいようにしてくれ!と友人の1人に言われる。

 だが、良いあだ名が咄嗟に思い付かない。暫くあーでもない、こーでもないと悩んだ挙句、結局下の名前でいいじゃないという一言で解決すると、そのまま徹夜明けの変なテンションで全員の呼び名を決めていく。一通り決まるとまた別の話題に移り変わり、早速決まった呼び名を使いながらそれぞれへのぶっちゃけ話みたいな内容が始まった。

 

「シノってなんか憧れやすいよねー。良く言われるのは嫌いじゃないけどさ。」

 

 おれそんなにかっこよくねーよ。と呟くように友達の1人がそんな事を言う。皆次々にわかるわー、シノそういうとこあるわよね何て同意の言葉を口にしていく。まあ、自覚はあるつもりだ。ついこないだも友達を神様みたいだと思っていた事を突きつけられたばかりである。

 

「うー、やめたいとは思ってるんだけどねー。」

「じゃあさ、おれらはシノって呼ぶからさ。友達ってこと忘れないでくれよ。」

 友達なら対等、どっちが上とかないだろ?と続けられた提案はとても魅力的だった。

「なら皆対等だ。遠慮なく頼るし頼ってよね。約束!」

 

 数年経った今でもずっと続いてる大切なその約束と見上げたマジックアワーの青い空、そして馬鹿な話でもして笑う皆の笑顔だけは一生忘れないだろう。

 

─今の私を形作る、とても大切な記憶だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで5件目。人的被害ゼロなのは奇跡だよなあ…。」

「その割にはそこまでヤバそうな未来は視えてないんだよねー。」

 車の運転席に座り、端末の通知を見ながら呟くと助手席の青年が返事を返して来る。でも時間の問題だよ、なんてまた呟くように会話を続けながら、はっきり言ってかなり不味い状況だと私─東雲縁連は焦っていた。

 

 三門市、人口28万人。─ある日異世界への扉が開いた街。今もこの街では異世界からやってくる侵略者、近界民との戦闘が続いている。戦闘が続いている、といっても別に常に戦争をしているわけではなくネイバーが戦闘用の機械─トリオンというエネルギーを利用しているのでトリオン兵と呼ばれる─を送り込んでくる(ゲート)が開く位置はある程度誘導することができるらしい。

 

 ボーダーと呼ばれる彼らと戦闘する力を持つ唯一の組織は4年半前、この街で初めて大規模な戦闘が起きた範囲を警戒区域とし立ち入りを制限、そこへ(ゲート)を誘導し戦闘を行うことで被害を抑えていた。街に住む人々は警戒区域から聞こえて来る戦闘音や閃光に慣れきって、その隣で日常を送っていた。

 

 そうトリオン兵は、危険は警戒区域にしか存在しない。その前提が、ボーダーへの信頼があるから成り立っていた日常だったのだ。しかし、昨日から突然、警戒区域外に(ゲート)が開くという事態が5回も発生していた。

 

 幸い(ゲート)発生地点の側には非番の防衛隊員がいた為、すぐにトリオン兵は倒されており現状人的被害は出ていない。ボーダー上層部はこの警戒区域外に発生する(ゲート)をイレギュラー(ゲート)と呼称、その原因と対応を急いでいた。

 

 ボーダー職員である私もイレギュラー(ゲート)を解決する為に助手席に座る青年と共に駆り出されていた。他の防衛隊員達と連絡を取りつつ、街に散開して警戒区域外に(ゲート)が発生した場合直ちに対応、市民の安全を確保する。同時に何か気がつくことがあれば情報を共有し、本部のエンジニアやオペレーターを中心に解決策ができるまで待つ。それが私の今の仕事だ。

 

 戦闘員の現在位置を確認しつつ、うーんと頭を捻る。ずっと「奇跡的に」人的被害が出ていないと表現していたが、よく考えればあまりにも運が良すぎる。侵略者側からすればせっかく警戒区域外に(ゲート)を開く手段を得たのだ、それなのに非番とはいえ戦闘員が近くにいるような場所ばかりに(ゲート)を開くなんて不自然すぎる。

 

 改めて5件のイレギュラー(ゲート)発生地点を確認する。大学に高校、中学校付近などやけに学校周りが多い気がする。学生が多いボーダーの戦闘員が側にいるということだからまあ、考えてみれば当たり前なのだが。

 

 トリオン兵に対して通常兵器等はほとんど意味をなさない。トリオンというエネルギーに対してはトリオンしか有効打がないからだ。しかもこのエネルギー、トリオン器官と呼ばれる見えない内臓によって生成される生体エネルギーであり、この器官は若いうちならば鍛えることができるが、基本的に歳を取るにつれて緩やかに衰えてしまう。まるで心肺機能や筋肉と同じように。

 

 つまりボーダーは成長の余地がある若い人、学生を中心に戦闘員として採用しているのだ。当然、非番の人の多くは学校にいるわけである。私も去年までは学生をやってたし。

 

 結局学校周辺ばかりにイレギュラー(ゲート)が発生してる理由は分からず、違和感があると言う報告だけ馴染みのエンジニアと本部のオペレーターに送っておく事にする。

 

「どうする、迅君。情報欲しいならあちこち回ってみてもいいけど、しんどくはない?」

「うーん。なーんか未来の可能性が凄い分岐してるんだよねー…。これ以上視ても今は意味ない気がする。」

「じゃあひとまず本部の解析待ちで。戦闘はよっぽどのことなければ私でも対応出来るから好きにしてていいよ。」

 手をヒラヒラ振りながら私は助手席に座っている青年─迅悠一にそう伝えた。

 

 迅悠一。古株のボーダー隊員で、めちゃくちゃ強くて、ちょっと未来が視える、私の友達。

 

 副作用、サイドエフェクトと呼ばれる、トリオンが脳や感覚器官に影響を与えることで稀に発現する超感覚。トリオンも元はネイバーが使っているエネルギーであり分かっていないことばかりだ。迅君は視界に入れた人の未来が視えるらしいが、その未来も確定していれば年単位で先のことが視えるが、分岐したり変わったりしているとあんまり先が見えないと結構扱いが難しいものらしい。

 

 それでも彼はその能力と付き合い、ずっと足掻いてきた。少しでも良い未来に辿り着けるように。その彼が今この場で出来る事は無さそうと言っているのだ、ならば大人しく待とう。友人の事をそれくらいは信頼している。

 

 定期的に他の戦闘員や本部と連絡を取りつつ、コインパーキングに停めた車の中で待つ。同い年の友人が大学の空きコマなのだろうか、ナスカレー食べたいだの食堂の新メニューが楽しみだのとグループチャットに送ってくるので適当に返していた。すると別の友人が真面目に授業受けろとツッコミを入れてきた。授業中だったのかよ。

 

 そんなやり取りをしつつ待機していると、6件目のイレギュラー(ゲート)発生の報告が入る。現在地からかなり遠い、三門市立第三中学校での発生だと言う。確かあの学校、C級隊員─訓練生ならいたが、実際に戦闘を行うことができるB級以上の防衛隊員─正隊員がいないのではなかっただろうか?

 

 本部通信室からのオペレーターから全体連絡が入り、緊張が走る。1番近くにいる正隊員である嵐山隊の面々が急行しているようだったが、これは間に合わないかも知れない。焦りが募るが彼ら以上に距離のある私達には何もできない。トリオン兵を倒すのに十分な戦力として嵐山隊が、救助要請や事後処理に関しては既に本部のオペレーター達が動いている。変に持ち場を動かず、冷静さを保つことが今するべき事だ。

 

 15分もすれば続報が入る。どうやら嵐山隊が到着する前に、その場にいたC級隊員がトリオン兵を倒した事で学校の生徒達に被害はなかったらしい。軽症者こそいるが、かなり良い結果ではないだろうか。

 C級隊員の武器使用は許可されていないとか、そもそも正隊員の到着が遅れたとか色々問題はありそうだが、個人的には被害がかなり抑えられた事に何よりもホッとする。すると、迅君がいきなり呟く。

 

「あー、これは不味いかなあ?」

「防衛隊員の到着が遅れたのが?それともC級隊員の戦闘行為?確かに問題にはなりそうだけど、本部の大人達がどうにか出来る範囲じゃない?」

 

 本部の大人達、今回の場合だと広報の根付さんや外務・営業担当の唐沢さん達だろうか?彼らを始めとしたボーダーの大人達は頼りになる人ばかりだ。最前線で戦うには才能が、資質が足りない。だからこそ未成年の隊員が安心して戦えるよう全力を尽くしてくれる彼らを私達は信頼し、背中を預けているのだ。

 

「いや、それとは別件。なんかヤバそうなトリオン兵が来るかも知れない。今度こそ被害が出るかも。」

 表情を引き締め、静かに彼の判断を待つ。意見を求められればまた別だが、様々な未来を─様々な死を視ている彼に余計な負担をかけないように。

 

「ダメだ、全然定まらない。場所も、被害も何パターンもあるな。」

 しばらく迅君が悩むような表情を見せた後、お手上げといった感じで口を開く。それを受けて、私は一つ頷く。

「オッケー。とりあえず今、フリーの隊員出来るだけかき集めとく。もし可能性が高いとか、被害が大きそうな場所がピックアップできそうならよろしく。」

 

 ボーダー隊員用の端末を操作し、正隊員の多くが参加しているボーダーのグループチャットに"何か起きそうなので出来るだけ手を空けておいて欲しい。あと現在地の共有よろしく。"と書き込む。

 迅君の能力は知られているし、それを受けて本部が動けないような曖昧な案件に関して私がこうやって要請を出すことも珍しくはない。防衛隊員の多くが持つ街を守るというモチベーション、そしてボーダーの出来高性という側面もあり結構な人数がこうした要請に協力してくれるのだ。

 

 今回も学校にいる非番の隊員達が次々と手を挙げてくれている。それを確認しつつ、今度は本部のエンジニアとオペレーターにも迅君が視たものをざっくりと伝える。これで実際に事態が発生した際、素早く対応してくれるだろう。横目で見れば、地図と睨めっこしつつ迅君も自分の上司に色々報告している。上層部も迅君のことは信頼しているし、付き合いだって私よりずっと長い。そちらは任せて平気だろう。

 

 ピックアップ出来そう?と報告が終わった様子の迅君に問いかける。すると彼は睨めっこしていた地図を私にも見せながら、詳しい情報を共有してくれる。

「1番可能性が高そうなのはこの橋。ただ、他の場所に出現する未来も結構視えてるから街全体をカバーできるようにしといて欲しい。」

 彼が指差したのはボーダー基地のある警戒区域からさほど離れていない、大きめの河川にかかっている橋だった。当然、普通に人が生活している地区である。

 

「了解。話してる感じからすると、ちょっとは時間がある?なら学校さえ終われば人手はどうにでもなると思う。」

「ああ、夕暮れ時っぽいな。時間はあんまりズレないと思う。それと橋にはシノが行ってくれ。」

 私を指す仇名が聞こえ、少し驚く。私は迅君に、他の正隊員に比べて強いわけではない。そりゃ普通のトリオン兵に負けることはないだろうけれど、今回は何かヤバそうとのことだし、周囲に被害が出ないよう素早く対応する必要もあるはずだ。

 

「私で良いの?」

「正直、可能性が高めってだけだからな。最悪の結果になりそうな場所ではないんだよ。」

 なるほど。別の未来になったらもっと被害が出そうだから、リスクが高い場所、例えば人の多いショッピングモールなんかに戦力を投入しておくと。納得はできる。

 

「それに、あんまり人を集めるとまた未来が変わってきそうなんだよね。出来るだけバラけておくよう伝えといて。」

「わかった。それで何故私か、は聞いても良い事?」

 

 そう、個人の戦力として私以上の人なんて山程いる。本部で組んでいる防衛任務のシフトに参加するメンバーを抜いても十分に。それなのに私を名指しするには何か理由があるのだろう。

「1番良さそうな未来に繋がっているのがシノなんだ。」

 

 そう言われて悪い気はしなかった。偶然かも知れない、消去法かも知れない。でもその場にいれば最善の未来に進んでくれると信頼されているのだから。分かった、任せてと静かに頷く。

「あ、まだ時間あるから一度本部に寄って用意しておいて欲しいものがあるんだけど。」

 なんだろ?わざわざ用意するものなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2時間程経つと日が暮れてきた。私は迅君に言われた警戒区域外、本部基地南の橋で周囲を警戒しながらひたすら待っていた。あの後、私はグループチャットにわかっている範囲で情報を載せて具体的な協力要請をし、本部に移動した。そして迅君に伝えられたものを用意する為に、イレギュラーゲートの対応で修羅場と化している開発室にお邪魔をして、どうにか馴染みのエンジニアさんを捕まえて必要なものを用意してもらうとそのまま警戒区域外へと蜻蛉返りしたのだった。

 

 夕日に染まる空を見上げる。決して嫌いではない、むしろ綺麗だと思う。でもやっぱり私は朝日の方が好きだなあ、なんて事をぼんやりと考えていた。

 

 そんなふうに黄昏ていると、中学生の制服を着た男女3人が目に入る。何やら話し込んでいるようだ。私はそのうちのひとり、先頭を歩く黒髪ショートの少女に見覚えがあった。

「お、木虎ちゃん。お疲れ様―。」

 

 ヒラヒラと手を振りながら声をかけると、少女─木虎 藍はこちらに振り向き、ペコリとお辞儀をした。彼女は嵐山隊の一員であり、今日の昼間は防衛任務のシフトに入っていた為大忙しだった筈だ。広報部隊という嵐山隊の性質に加え、彼女のプライドが高く、自他共に厳しい性格の為あんまりボーダー隊員以外と一緒にいる姿を見ないのだが、共にいる黒髪に眼鏡の少年と白髪で小柄な少年には見覚えがなかった。

 

「えっと2人とは初めましてかな?ボーダー職員の東雲縁連って言います。」

「あ、三雲修です。」

「空閑遊真。」

 うんうん、きちんと自己紹介できるとは礼儀正しい。木虎ちゃんと仲良くしてあげてねー。なんて話していると木虎ちゃんが三雲君は規則違反を犯した訓練生です、仲良くなんてできません!と不満げに口を挟む。なるほど、話題のC級隊員は君かー、と冷や汗をかく黒髪の少年を見る。別にやんちゃしそうなタイプには見えないし、単純に正義感が強い子なのかな?

 

「アンタもオサムが規則を破った事が悪い事だと考えるのか?」

 小柄な少年─空閑君に問いかけられる。こちらを真っ直ぐ見つめるその瞳は真剣で、どこか冷徹ですらあった。まあ、命懸けで自分達を救ってくれた友人を悪く言われたくはないだろう。彼らに向き直り、出来るだけ誠実に応えようと言葉を選ぶ。

 

「私個人として、一般人を守ってくれたことに感謝しています。同時に貴方に規則を破らせてしまうような状況を作り出したことに謝罪を。申し訳ありません。」

 

 そう、警戒区域外の安全を損なったことはボーダー側のミスだ。そのせいで三雲君は訓練生であるにも関わらず自身の命を懸けて戦う判断を迫られた。一方的に彼が責められるようなことはあってはならないだろう。ボーダー職員として、出来うる限り真摯に対応する。だからこそ、この感謝も謝罪も私個人のものになってしまうのだが。そうして私が頭を下げると木虎ちゃんが少し不満げな表情をする一方で三雲君は冷汗をかき、慌てている。うん、さてはめちゃくちゃ良い子だな?

 

「その上で、ボーダーが規則を作ったのにはそれ相応の理由がある。それは一般人はもちろん、訓練生も含めたボーダー隊員を守る為でもあります。組織として手放しに貴方の行動を褒めたり、謝罪したりということはできない。その点は理解して欲しい。」

「あの、大丈夫です。僕に規則を破ったことを正当化するつもりはありません。」

 

 三雲君は慌てて私に言う。中学生という割に落ち着いた子だと感じる。いや、比較対象の1人である迅君にべったりの中学生が特に落ち着きがない方である可能性もあるか。

「ごめんなさい、君達の恩人を悪く言ってしまって。」

 恐らく三雲君に救われた側であろう、空閑君にも声をかける。こちらは落ち着いたというよりは少し冷たく感じるほどの子だ。

 

「別にアンタの理論は間違ったものじゃないし、オサムも納得してるならオレが口を挟むことじゃないでしょ。」

「あー、私が君を不快にしたかも知れないと感じたから謝罪したかったってだけ。つまり自己満足だよ。空閑君がそれを受けたり、何かするような必要はないよ。」

 

 フム、そういうものか?と首を傾げる空閑君に、そういうものなんだよ、と返しておく。そんなやりとりを交わしていると痺れを切らした木虎ちゃんが少々尖った口調で言う。

「三雲君は本部に呼び出されていますので、そろそろ失礼します。」

 案内よろしくねー、なんて声をかけて彼らを見送ろうとすると、バチッと音が響く。見れば空中に黒い球体が出現し、徐々に大きくなっていた。

 

─イレギュラー(ゲート)が発生していた。




 初めまして、天青石と申します。二次小説好きで読み漁ってたら遂に書いてしまいました。本当は作中内で説明できれば良いのですが、頑張ってプロット練ってもどうしても入らない描写があったので後書きで設定出しちゃいます。


東雲縁連(シノノメ エレン)
 19歳の本部職員。つまり高卒でボーダーに就職した。就職前までは普通に学生兼戦闘員をしていた。トリオン量が多めなこと以外は特別な技能もない平凡な女性。努力の才能も、戦闘に関する技能も、オペレーターとしても、エンジニアとしても特筆するような才能はない、どこまでも平凡な人。
 精神的に強いわけでもなくただ知り合いや友人、家族が辛そうなのを見て、不快に思う普通の感性の女性。ただ1つ、普通でないと言えるとしたらその為に命を懸けられることかも知れない。

 何かに憧れやすく、それに影響を受けたり英雄視したりしやすい。けれどボーダーに入ってからその事を自覚し、憧れて真似るだけではなく「なりたい姿」をしっかり考えるようになった。友人達に言わせると、どこか芯がしっかりしてきたとのこと。
 誰かの為になら頑張れるタイプだが、逆に言えば自分の為の努力はそんなに得意ではない。男女関係なく友人関係を築ける性格。好きなものは友達、ゆず茶。

 人間関係としては19歳組と特に仲が良い。両親共に存命であり、関係も良好で今も実家住まいである。同級生以外の交友関係もかなり広いが、強いて言えば荒船や蔵内、東など理論派と良く話している。

 派閥としては玉狛寄りの忍田さん派。学力はそこそこ良く、進学校も狙えたが第1期生としてボーダーに入隊(嵐山とか柿崎と同じで設立時入隊)したので忙しくなったから普通校に進学した。入隊理由は第一次大規模侵攻でトリオン量の多さから狙われた際に救ってくれた迅に憧れた為。
 なお、心配する家族は旧ボーダー勢がトリオン量のせいで今後も狙われるから自衛できるようになった方がいいと説き伏せた。多分ボーダーとしても早く人を集めたかったのだろう。(勝手な予想。)

 赤みがかった茶色の髪を肩まで伸ばしている。いつもポニーテールにしていて洒落っ気はそんなにない。TPO重視みたいな。瞳は青系で、小柄な事を気にしている。もうちょっと背が伸びて欲しかったなあ、と本人は思っている。


各種パラメーター カッコ内は設定時参考にした人物(BBF参照)
 結構高めな数値もあるけど、ある程度成長しきっていてもう伸びしろがほぼないのが前提。

トリオン   12(出水と同値)
攻撃     7(嵐山と同値)
防御・援護 9(嵐山と同値)
機動     8(那須と同値、二宮+1)
技術     7(別役と同値)
射程     7(別役と同値)
指揮     4(歌川と同値)
特殊戦術   3(三雲−1)


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2話

 (ゲート)発生の警報が鳴り響く中、躊躇いなく私は手に握り込んだ武器を、トリガーを起動する。使用者のトリオンによって動作するその武器は、私の起動するという意志によって動き出し一瞬で生身からトリオン体─トリオンで出来た戦闘用のボディ─へと私の体を換装する。先程まで来ていたスーツは綺麗な高空の色─深青色とでも表現するような色のジャージっぽい上着に早変わりしていた。

 

 トリオン体に装備されている通信で本部通信室に繋ぎ、状況を報告する。ゲートからは見たことのない巨大なトリオン兵が現れていた。

「こちら東雲、新型のトリオン兵ですね。対応するので誰か空いてるオペレーターに繋いでください。」

 木虎ちゃんはひとまず避難誘導優先、オペレーター繋がったらそっちの指示に従って。そう言って飛び出そうとすると、引き止める声がかかる。

「あの、僕も手伝います!」

 見れば、C級の白い隊服に換装した三雲君だった。C級隊員は訓練以外でのトリガー使用は禁じられていると昼間の一件でよく知っいるだろうに、その瞳には固い決意が宿っている。

 

 一瞬だけ悩む。すぐ側の市街地にいる市民と彼を天秤にかける。避けるべき最悪は、目指すべき最善は何かを考える。答えはすぐに決まった。

「訓練生、三雲隊員。君には救助と避難誘導を頼みます。但し、なんらかの要因でトリオン体が破壊された場合、即座に君も避難対象だ。これだけは譲れない。」

 

 何か言いたげな木虎ちゃんを遮り、通信を繋いだまま指示を出す。私では市街地への被害をゼロには出来ない可能性が高い。私は最善を人的被害ゼロだと定めた。トリオンによる攻撃以外で傷つかないトリオン体は建造物等の崩壊の中、救助と避難誘導を行うのに適しているのだ、協力してもらわない手はないと私は判断した。

「はい!」

 

 その返事を聞くと身を翻して、私はトリオン兵に向かって駆け出す。木虎ちゃんもその辺は割り切れる子だ、頭を切り替えてくれるだろう。

 走りながらトリオン兵を観察する。かなりの巨体でまるで宙を泳ぐように、市街地に向かって進んでいく。ただ走っても間に合わなそうなことを理解し、私はグラスホッパー─空中に設置できる足場のようなもの─を起動する。出現した光球を操作して正方形の板を2枚並べて設置する。1つは私、もう1つは木虎ちゃんが踏み、加速を得ると新型トリオン兵と並走するように橋の上を移動する。

 

『弓場隊オペレーターの藤丸だ、遠慮なく指示出してくぞ!』

 通信が入る。何か起こるかも知れない、そんな曖昧なグループチャットを見て本部で待機してくれてたのだろう。彼女─”藤丸のの”の少々荒っぽい、だが頼り甲斐のある声が聞こえてきた。こうした時、ののをはじめとした付き合いの長い同級生は私や迅君のことを信じてしっかりサポートしてくれる。そのことに心強さを感じる。

 

「のの、視覚情報他のオペとエンジニアに送って解析頼んどいて。後、木虎ちゃんと訓練生の三雲君のサポートできる人も呼んでくれると助かる。」

『もうやってる!木虎、それと三雲だったか?2人にはこれから本部のオペレーターが指示出す。もしトリオン兵が攻撃してきた時はあたしが警告出すから安心しな。』

 

 そんな情報共有をしてる間にも巨大トリオン兵は市街地の上空に到達する。するとトリオン兵から街に向かって”何か”を降り注ぐ。

 不味い、と直感的に感じた。再度グラスホッパーを起動、5枚程度に分けてトリオン兵に向けて直線的に並べる。踏み込み、私は一気に空中に飛び出してトリオン兵との距離詰めた。

 

『爆撃だ!撃ち落とせ!』

 オペレーターの声が響く。その声に応えるよう私は空中で誘導弾を起動する。右手付近に出現した輝くキューブ─シューター用の誘導弾を3×3×3に分割し、ののがレーダー上で設定してくれたターゲットに向かって探知誘導で撃ち出す。27発ではとても全ては撃ち落とせない。特に障害物もない空中だ、追尾以外のコントロールは一切考えずに次弾を用意して発射することを繰り返す。

 

 私の誘導弾が当たって誘爆が起きる。コントロールも威力も限界まで削って速度と射程に全振りした弾丸はギリギリ間に合ったらしい。街に直撃したものは辛うじてなかったようだ。だが、ギリギリだったのだ。爆弾が誘爆した高度はかなり低く、その衝撃は窓ガラスを割り、建物の一部を崩壊させ市民の頭上に降り注がせる。

 

 悲鳴が上がった。歯を食いしばる。木虎ちゃんのトリガーセットがこの状況にそこまで向いていないのは知っている。今、この場でこの巨大なトリオン兵に対応できるのは私だけなのだ。しっかりしろ!

『シノ、狙え!』

 

 ののがグラスホッパーで移動する先を指示してくれる。街の上空を一周して戻ってくる軌道を描くトリオン兵に合わせて川沿いの建物─3階立てくらいか?─その屋上に降り立つと私は迅君に言われて装備してきた狙撃銃トリガー、アイビスを起動する。

 

 アイビスは火力重視の狙撃銃だ。迅君が持っていけと言っていたのにも納得する。川の方まで戻ってきたトリオン兵の横っ腹に狙いをつける。狙撃は正直そこまで得意じゃない。精密性などの技術が求められるような射撃は私には無理だ。だけどそれを把握しているののが指示した狙撃ポイントで、これだけ巨大な相手を狙うのだ。大丈夫、当てられる。深呼吸を1つ、引き金を引く。

 

 当たった。確かに当たった。トリオン兵の横っ腹は抉れている。だが、それだけだった。トリオン兵は止まることなく円を描くような軌道で再び市街地へと向かう。

『チッ。シノもう一回来るぞ!』

 

 邪魔なアイビスを消して再びハウンドを起動、分割して準備をする。市街地上空で撃墜するわけにはいかない。トリオン兵が川の上に出るまで耐えるしかないのだ。だからその間にののに1つ提案をする。

「次、川の上に出たら飛び乗るから起動予測してポイント探しといて。中央か頭撃ち抜けばさっきよりは効果あるよね?」

『一応、他のトリオン兵と同じで正面にカメラぽいのがついてるから頭狙いだな。』

「了解。」

 

 爆撃、来るぞ!とののが全体通信に切り替えて警告を出す。グラスホッパーで移動しながら、ハウンドを次々と撃ち放ち、先程よりは余裕を持って撃ち落としていく。それでも爆発の衝撃は街を、市民を襲う。1度目の衝撃で脆くなっていた建物が崩れて悲鳴が響き渡るが、木虎ちゃんと三雲君を、オペレーター達を信じて撃ち落とし続ける。

 ののが視界にトリオン兵の軌道予測を表示して、その真下へと誘導してくれる。そして爆撃が終わり、トリオン兵が川の上空までやって来ると私はグラスホッパーで空中へ飛び出した。

 

 右手にまた別のトリガー─スパイダー─を起動する。出現したワイヤー、その片側の先端をトリオン兵に向けて射出し、突き刺す。そして刺さったそのワイヤーを手繰り、私はトリオン兵に飛び乗った。こういう時、木虎ちゃんが持ってるような巻き取りのオプション欲しくなるな。

 

 アイビスを頭部に向けて構える─その瞬間トリオン兵の背面から無数の触手のようなものが伸び上がる。

『防御!』

 

 ののが怒鳴る。その声で反射的に私はアイビスの起動をキャンセルして固定シールドを展開する。周囲に透明な緑色の障壁が展開した次の瞬間、わたしは爆発に包まれた。

『あっぶな…。』

 思わずののが呟く。私も戦闘中じゃなきゃ同じことを呟いていただろう。まあ、冷静になれば近接用の武器が無いわけないだろうに、頭からすっぽ抜けてた私が悪い。オペレーター様々である。

 

 その感謝は後で伝えるとして、私は再びハウンドを起動する。キューブを先程より多い4×4×4に分割し、いくつかの弾丸には山形の軌道を描かせて背後に回らせることで全方位に放つ。そうして近接兵器を一掃すると、今度こそアイビスを起動し頭部に向かって構える。この距離なら外しようがない。躊躇いなく私は引き金を引いた。

 

 トリオン兵の頭部背面が大きく損壊し、煙を上げる。高度がどんどん落ちていく。このまま川に落とせれば、そんな考えが甘かった事を次の瞬間には突きつけられた。ゴウン…と音を立てて背部に先程の近接兵器とはまた異なる物体が出現する。同時にトリオン兵は川に向かっていた軌道を変えて市街地に向かって高度を落とし始めた。

『トリオン反応密度上昇!多分自爆する気だぞ!』

 ののが送ってくる分析に従って自爆を防ぐ為に再びアイビスを発射する。しかし、先程と違い、装甲が抉れず凹むだけだ。明らかに硬化している。自爆するまでは倒されないとか良く出来たトリオン兵だな!

 

「硬っ!?ああ、もう!!」

 

 頭部方向、先程から煙を上げている部分へ向かい、損壊部に銃口を突っ込む。装甲が割れて内部から撃てるならまだダメージ入るだろ!?

 市街地に着くまでにトリオン兵を撃墜できるかの勝負だ。迫り来る街に焦りつつ、必死に引き金を引き続ける。煙が増え、高度が下がっていくが僅かに足りず、市街地の端まで到達してしまうその瞬間、

 

─ぐいっと引き留められるような挙動をした。

 

「!?」

 トリオン兵が着水し、沈んでいく。急いでグラスホッパーとシールドを展開、その場から離脱すると、水中で大爆発が起こった。街と反対側の岸辺に降り立ち、飛沫を浴びながら市街地を見る。多少の煙が上がっているが、トリオン兵の自爆が直撃することはどうやら防げたらしい。

 

 フーッと思わず大きく息を吐いていたが、ふと視線をずらすと制服姿の空閑君と目が合った。私よりも川に近い場所に立っている彼と。何故避難していないのか、無事で良かった、そんな感情が頭を駆け巡るが、良く見れば彼は目の前で戦闘が、大爆発があったのにかなり─不自然なまでに落ち着いている。まるで戦闘に慣れ切っているかのように。

 

 爆発直前の引き留められるような挙動を思い出す。そして、1番良さそうな未来に繋がっているのが私だという迅君の言葉も。これかあ、と直感的に思った。何が何やら分からんが、私が最善だと思う行動をすれば良いのだろう。

 

 チラッと市街地の様子を見る。まだ騒がしいし、煙も少々上がっているのだ、余りここに長居は出来ない。改めて自身の最善を確認する。私の定めた最善は人的被害ゼロ。あのぐいっと引き留められるような挙動は、それが引き起こした結果は人的被害を減らすものだった。こちらに敵意が無い、むしろ協力してくれたのだ。もし彼がボーダーが把握していない”何か”を持っていても私としては構わない、反対に感謝すべきだろう。

 

 さっきの爆発でトリガーの調子が悪いみたい、なんて適当な言い訳をして一度トリガーを解除する。ボーダーにどこまで報告するかはちょっと考えてからにしたかった。そしてそのまま、空閑君の元まで歩み寄る。

 

「シノノメさん、凄いじゃん。あんな大きな奴倒すなんてさ。」

 感謝を告げようとした言葉は彼に遮られた。どうやらボーダーに知られたくないという事だろうか。

「あー、”運が良かった”だけだよ。感謝しなきゃね。」

 笑顔を作り、どこかの誰かに感謝をする事にした。すると、ちゃんと伝わったのか、空閑君が少し驚いた顔をする。

「私にとって優先すべき事は、少しでも被害を減らす事だった。敵意が無いどころか、協力までしてくれた人に悪感情は抱かないさ。そこら辺どうだい?」

 

 念のため確認すると、空閑君は敵意が無いのを示すように両手を挙げた。まあ三雲君に、その行為を規則違反と言うボーダーに対する反応を見ていれば何となく予想出来ていた。ただ、ボーダーとしてじゃなくて私個人の考えだから、その辺考慮して行動してくれると助かるなあ…。そう付け加えると空閑君は神妙な顔をして頷いてくれる。それを見て私はトリガーを再び起動し、救助と後処理に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後は忙しかった。建物倒壊などに巻き込まれた人々の救助に、ボーダー本部からの要請を受けてやって来た救急隊員などへの状況説明、先に救助を行っていた三雲君や木虎ちゃんに向いていた苦情や陳情への対応などなど。そこまで責任がある立場でも何でも無いので出来ることには限りがあるが、これでもボーダーの正規職員なのだ。信頼するボーダーの大人達の姿に近付けるよう、出来る限りを尽くした。

 

 暫くすれば、被害への補償なんかを担当するボーダーの事務員さんやトリオン兵の回収にエンジニアがやって来たので、その人達に後は任せることとした。交代の際に後は任せろ、なんて肩を叩いて格好つけた馴染みのエンジニアさんに、じゃあ徹夜用のエナドリ差し入れときますねー、なんて何とか軽口を返しておく。

 

 悲鳴が聞こえる。悲しみや怒りに満ちた声も。まだはっきりとした状況は分からないが、人的被害ゼロでないことは明らかだった。必死に足掻いた結果だった。全力を尽くした結果だった。多分この場にある戦力でこれ以上はないだろうというくらいには力を振り絞っていた。それでも私はこの結果を最善だとは考えたくなかった。”最善だった”ともし迅君に言われても、それを理由に諦めたくはなかった。そんな我儘を抱えつつ、私は木虎ちゃん達と共に今回の報告の為に本部に向かうのだった。




 早速連続投稿です。いや投稿初日に戦闘シーンゼロはいかがなものかと思いまして。ワートリらしいと言えばそうなんですけれども。

 原作だとイルガーに対応する時、木虎ちゃんにオペレーターついてなかったぽいですよね。なのでオペレーターと比較的大火力持ちが揃ってたことで撃墜が早かったという想定です。このトリガー構成なら硬化後も何とかダメージを出す方法が有りそうですし。

 あ、主人公が女性なのは19歳組の戦闘員に女性がいないからですね。戦うカッコいい女性(に憧れる人)がいてもいいじゃない!

トリガーセット(イルガー戦当時)

メイン
・ハウンド
・スパイダー
・アイビス
・シールド

サブ
・アステロイド(拳銃)
・グラスホッパー
・バッグワーム
・シールド


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3話

 ストックは放出していくスタイル。自分は5話くらい投稿されてないとあんまり読まないタイプなのでそこまでは頑張ろうと思います。


「まだ人が揃っていないようだからな、先に彼の隊務規定違反に関して話し合っておこう。」

 

 ボーダー上層部が勢揃いのなか、会議室にある長机のお誕生日席、つまり城戸司令の真正面に座らされている三雲君がちょっと可哀想だった。城戸司令、自分直属の隊員である三輪君まで横に立たせちゃって怖いったらありゃしない。

 本部まで戻ると上層部会議で報告を求められたので、私と三雲君は会議室までやってきていた。すっごい張り詰めた空気してるので発言したくないなあ…。

 

「2度の訓練以外でのトリガー使用。この事実に間違いはないか?」.

 忍田本部長が三雲君に確認を取ると三雲君は「はい」と素直にはっきりと答えた。その様子に正直だなあ、と思いながら一応訂正を入れる。

 

「あの、通信ログを辿ってもらえれば分かりますが、2回目の救助活動に際して使用した時は私が指示を出していますので彼に責任は有りません。」

「何故そんな指示を出したのかね!?隊務規定を、その理由を知らん訳ではないだろうに。」

 鬼怒田さんが私の訂正に対して怒りを露わにする。鬼怒田さんは開発室長、C級のトリガーの仕様を当然よく理解しているのだ、その危険性も含めて。そりゃこういう反応をするだろう。

 

「あの場に居た正隊員は私と木虎隊員のみであり、人的被害が相当発生することが予想されました。少しでも被害を減らす為には救助や避難誘導を行える人員が1人でも欲しかったのでC級のトリガーであってもトリオン体に換装すれば比較的安全にそうした行為が行えると判断し、彼に指示を出しました。オペレーターとの連携も取れており、彼にリアルタイムで指示を出せる状況で、直接戦闘を行うわけではない彼のトリオン体が破壊される可能性は低いと判断してのことです。もし破壊された場合は即座に避難行動をとるようにも指示を出していました。ですが、勝手にリスクを見積もり、判断をした事は事実です。本部の判断を仰ぐべきでした。」

 

 そう、理想論を言うならば私が行うべきは本部への”提案”であり彼への指示ではなかった。あの場で行動を起こすまでに時間をかけるわけにはいかなかったから勝手に判断してしまったが、万が一彼のトリオン体が破壊されてしまったら私の判断で1人の命を奪っていた可能性まであったのだ。

 

 C級のトリガーには正隊員の使用するものと違ってベイルアウトが付いていない。これは戦場でのトリオン体が破壊されて仕舞えば生身でその場に放り出される事を意味するのだ。トリオン体が破壊される可能性の、その危険性の判断はただの職員である私が現場で行って良いものではなかった。

 更に言えばベイルアウトの有無を、C級のトリガーの仕様を敵に見せる可能性まで考慮しなければならなかったが、その話題は一応伏せておく。三雲君は”敵”の姿をまだ教えられていないだろうから、あんまり言及すべきではないだろう。

 

 申し訳ありませんでした、と頭を下げるとフンッと腕を組み直され、私の話は終わりになった。まあ、本部側としても被害減らす為の判断としては一理ある程度ではあったということだろう。現場にいた面々の中でも正規職員であるのは私だけであり、かろうじて責任を取れる立場ではあった。褒められる行動ではないが、明確な規定違反ではないしそんなに重たい処分にはならないだろう。

 

 そこまで話をしたところでドアがノックされる。見れば迅君と本部長補佐の沢村さんが入ってきた。あれ、なんか沢村さん機嫌悪そう…?

「迅悠一、お召しにより参上しました。」

 会議室内の雰囲気をぶち壊すように、元気良い挨拶が響く。なるほど、本部のエンジニアが手こずっているのだ。未来視の使い所ってわけだろう。

 

  御苦労、本題に入ろう。そんなふうに城戸司令が会議を進める横で迅君は三雲君に話しかけて、自己紹介してる。ボーダー上層部とは長い付き合いで気心知れた間なんだろうけれど、結構フリーダムだよなあ。

 

「待って下さい、まだ三雲君の処分に結論が出ていない。」

 

 忍田本部長が待ったをかける。鬼怒田さんや広報部の根付さんは隊務規定違反を理由に除隊一択のようだが、忍田さんがそれに対して救助活動の功績や嵐山隊の間に合わなかった中学校での一件を挙げ、緊急時への対応能力から処分よりも戦力として扱うべきだと反論している。まあボーダーの戦闘員はいつだって不足していることもあり、実力主義的な一面もある。強ければ良いってわけではないが、トリオン兵を倒せて、正義感が強い訓練生をただ処分するなんて惜しいという感覚は私にもある。

 

 その辺どうなのよ、と迅君をチラリと見ると何やらスマホをいじっている。うーん?あんまりこの論争重要じゃないのか?

「本部長の言うことには一理ある。…が。」

 一頻り意見が出たところで城戸司令が口を開く。

 

「ボーダーのルールを守れない人間は、私の組織には必要ない。」

 もし今日と同じようなことがまた起こったら、君はどうするね?続けて城戸司令が三雲君に問いかける。すると三雲君はそれは…、と言葉に詰まる様子を見せた。

「…目の前で人が襲われてたら。…やっぱり助けに行くと思います。」

 その返答を聞いて、ああ、この子本当に正直だなあと思った。…この答えなら確かに忍田本部長達の論争はあんまり重要じゃないか。

 

 彼個人のことを、その誠実さを好ましくは思う。けれど、ボーダー組織の一員としての彼はきっとこのままではダメだろう。

 ほら見たことか、と鬼怒田さんや根付さんが反応を返し、そんなことよりもイレギュラー(ゲート)への対応策についてです、と話を進めた。

 

「分かっているだけでも重軽傷者は100名以上!建物への被害は数知れず。幸い、まだ死者は出ていないようですが重体の人はいます。第一次近界民大規模侵攻以来の大惨事ですよ!」

 

 やっぱり被害が結構出てしまっている。4年半前の街を、今日聞いた悲鳴を思い出す。ここに、ボーダーに神様はいない。だから全力を尽くしたところで救えないものがあることは覚悟している。それでも悲しんで、悔しく思って次こそはと足掻き続けると決めたのだ。だからその報告を、これからとるべき対策を話し合う会議で俯いているわけにはいかない。

 

 冷静に、現状を確認していく。被害の大きさ、そこから予想される市民の動きや問題。根付さんは広報部の立場からそれらを語っていく。まあ、補償なんかでお金がかかる、と言った話は営業担当の唐沢さんの必要なだけ引っ張って来ますよの一言で粗方解決したが。この辺が上層部の、大人達の頼れるところである。では、問題のイレギュラー(ゲート)そのものへの対応はというと。

 

「開発室総出でも原因が掴めんのだ。今はトリオン障壁で(ゲート)を強制封鎖しておるが…。それもあと46時間しかもたん。」

 鬼怒田さんが苦々しく言う。そう、(ゲート)がそもそも開かないようにすると言う割と最終手段まで使っているのだ。この障壁、コスパがよろしくないと言うか(ゲート)をただ閉じてるだけなので、この46時間でなんとかしなきゃ意味がなくなってしまう。しかし、エンジニア達は現状糸口すら掴めていないと…。

 

「…でお前が呼ばれたわけだ。やれるか?迅。」

 

 林藤支部長─迅君の直接の上司だ、因みに私は本部所属なのでまた違う─が迅君に尋ねる。そう、迅君のサイドエフェクトである未来視はこういう”詰み”に見える盤面をどうにかできる。彼に頼って、なんとかこの世界は今まで戦って来れたのだ。

 

「もちろんです。実力派エリートですから。」

 どうにかなるのかね!?なんて声を聞きながら迅君はいつも通り振る舞う。その様子を見ながら私はよし、と1つ頷く。ここでの最善は決まりきっている。なら私が迷う必要なんてない。

 

「その代わりと言っちゃなんですけど、彼の処分はおれに任せてまかせてもらえませんか?」

 肩に手を置かれた三雲君本人も含めて会議室にいる面々が驚く。

「…彼が関わっているというのか?」

 重々しく城戸司令が口を開く。

「はい。おれのサイドエフェクトがそう言っています。」

 その一言で空気が変わる。今までの積み上げが、彼への信頼がそうさせるのだろう。

「…いいだろう、好きにやれ。」

 

 城戸司令のその一言で方針が決まった。明日の会議予定やら本部としての対応など具体的な動きを最低限決めてその場は解散となった。と、迅君からスマホに動画が1つ送られてくる。見ればニュースか何かのインタビューだろうか、三雲君と木虎ちゃんの救助活動にお礼を言う市民の姿が映っていた。なるほど、この動画使って根付さんにアピールしてこいって事だな?

 

 迅君と鬼怒田さんが何やら軽く打ち合わせている横を通り、根付さんに話しかける。

「根付さん、この動画見てください。これ、如何にも”広報向き”では?」

「ふーむ…!これならボーダーの株を回復させられるかも知れないねえ…!」

「とりあえず、広報部の方に動画送っておくので後はお任せしますねー。」

 サクッと根付さんにお願いしておく。未成年のボーダー隊員の扱いは1番慣れてるのだ、任せておけば間違いはないだろうという信頼がある。

 

 振り返れば迅君は鬼怒田さんとの打ち合わせがちょうど終わったようだった。話題の三雲君は、と会議室内を見回せば何やら会議中ずっと黙っていた三輪君と話していたようだった。そのことに違和感を覚える。

 

 三輪君の城戸司令横と言う立ち位置、そして隊服を着ている、つまりトリオン体で会議に参加していることを考えるに形の上だけかも知れないが彼の役割は”護衛”だ。まあ、他にも私の知らない情報を持っているとかもあり得るが、今日戦闘に参加していた面々の情報はもう本部で分析してるだろうし、重要な情報なら会議で共有しないのも変だ。なのでひとまず護衛と仮定して考えると、この場にいるメンバーで信用がないといえば、一応三雲君になるのか?

 でも、C級の隊務規定違反なんて初めてではないのだ、三雲君よりもしょうもない理由でのトリガー使用なんて山ほどあるし、違反した状況を見れば危険人物とは余り考えられないように思う。

 

 そこでふと、彼と共にいた空閑君のことを思い出す。空閑君関連だとして、ボーダーもまだ詳細を掴んでないとかならまあ、ありうるのか?ちょっと情報が足りない気もするが、一応彼に関することは慎重になっておくべきかも知れない?でも私個人で判断できることでもないしなあ…。後で迅君にぶっちゃけて聞いてみるのもありかも知れないと頭の片隅に置いておく。

 

 やる事が決まった人から次々と退室していく。三雲君を連れた迅君と一緒に退室する時にチラッと部屋を見れば残っているのは三輪君と城戸司令だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迅さんはもう目星がついているんですか?イレギュラー(ゲート)の原因…。」

「いや、全然。」

 三雲君の問いかけにサラッと迅君が返事している。迅君、それ知らない人からすると割と絶望の答えだよ?

「んー、となると今すぐは動かない?なら報告書書いてオペレーター陣とかと情報共有しときたいんだけど、それで良い感じ?」

 迅君に確認を取る。目星が、あるいは何か具体的な未来が見えているなら今すぐ行動を起こすだろうけど、どうやらそういう雰囲気ではない。今はゲートが開かないのでその間に新型トリオン兵の情報とその対抗策練って各隊オペレーターやエンジニアと共有しておいてしまいたいな。ののにもお礼を伝え損ねているし。

 

「そうだな。ひとまず今日は解散で、明日の朝集合って事でよろしく!」

 三雲君が困惑しっぱなしだが、迅君は説明する気がないようだった。まあ、多分考えあってのことだろうし、あんまり余計なことはしないでおこうかな。

「えっと、三雲君。まだ時間があるのは確かだし、ボーダー側もさっきの被害でバタバタしてる。その辺片付けてから明日行動開始って事でお願いしても良い?」

 はあ、とひとまずは頷いてくれた三雲君に本部内の道案内をざっくりして今日は帰した。まあ、もう夜遅いしね。中学生をあんまり拘束するわけにもいかない。

 

 そうして三雲君が帰った後、迅君もさっさと暗躍に向かおうとしたところを呼び止める。

 

「迅君、私は最善の未来に繋げられた?」

 

 空閑君に関しての対応がこれでいいのかだけは確かめないといけない。迅君にとっての最悪は私にとっても望ましいものではないと思うからその辺、何か問題があればきちんと教えてくれるだろう。

 

「ああ、ちゃんと繋がったよ。」

 

 彼は振り向き、予想通りきちんと答えてくれる。頼りきっちゃいけない、絶対視してはいけない。それでも彼の一言だけでこんなにも安心できる。そんな彼に憧れて追いかけて、彼がヒーローでも神様でもないと知ったのに。

 

「明日も”友達”として遠慮なく頼るからよろしくなー。」

 

 対等で、友達でいたいと願う私の事をよく分かったうえで言葉を選んでくれる。のの達もそうだけれど、私は友達に恵まれたと本当に思う。

 ヒラヒラと手を振る彼に手を振りかえして見送る。そしてパンッと一度手を打ち、気合を入れる。ののや他にも親しいオペレーター陣を中心にチャットで声をかけ、新型トリオン兵の報告書作成と対抗策研究に取り掛かるのだった。




 1話冒頭のシーンは入隊後半年〜1年弱後くらいに「せっかくだし同級生で合宿みたいなことしよう!」と嵐山が提案した為、玉狛支部で行われたイベントです。当時入隊していたのが誰か分からない(弓場ちゃんとかイコさん、藤丸、橘高さんあたりはBBFに載ってない…。)ので誰がいるかはぼかしております。迅、嵐山、柿崎、月見はいたと思われる。
 昼間はトレーニングルームで個人戦やら何やらしまくって、夜は菓子パしつつひたすら騒いでいた模様。イベントの詳細を林藤さんが聞いてニッコニコで招いたらしい。多分迅は玉狛に住んでただろうし、友達の(住んでいる)家で間違ってないだろ、うん。


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4話

「開発室から装甲関係のデータ来たぞー。」

「え、硬くない?良くこれ1人で落とせたな?」

「これトリガーセットによっては詰みません?必要とされる最低火力が高すぎる。」

 

 通信が飛び交う中、私は現在の所属しているボーダー本部通信室の隅の席でイレギュラー(ゲート)対応と新型トリオン兵についての報告書作成と対抗策案の作成をしていた。

 元々は対策練るのを手伝ってくれる人達が所属してる隊室に適当に集まって、私は報告書作りながら、他の皆を中心に色々考えようなんて予定だったのだがなんか思ったよりも参加者が多かった。今回は絶対報酬ないよ?と確認したが、ののを始めとした同級生組以外にも各隊のオペレーターや隊長などが次々と手を挙げてきたのだ。最終的には本部の通信室勤務の職員やエンジニア達も含めて20人を超えていたので1つの隊室で実際に集まるなんて到底無理、通信でやりとりすることになった。流石にもう夜遅いので、高校生以下は家に連絡して許可取ってこいとは言ったが。

 

 報告書自体はそんなに時間がかからなかった。見たものまとめるだけだし、具体的なデータはトリオン兵の残骸を解析している開発室から報告が上がる。白熱したのは対抗策の方だった。

 

「通常時はなんとかなると思うよ?ガンナーとかだとキツいかも知れないけど、アタッカー武器の火力なら余裕で足りる気がする。ただ、その後の自爆前に硬化してたのがなあ…。」

 

 話題は装甲の硬さ、これをどう突破するかで皆頭を悩ませているようだ。数値としての情報はもう送られてきたが一応、実際に戦った者としての感覚を共有しておく。

 

「シノさんはアイビスで落としたんでしたっけ?トリオン量に物言わせればなんとかなる範囲なのか…。」

「いや、私のトリオン量多い方だけど、それでも硬化後は装甲抜けてないよ。凹んだりはしてたから何回か撃てばまた違ったかも知れないけど。」

 

 荒船君の認識に軽く訂正を入れる。彼は理論派のスナイパーで隊長も務めてる高校生だ。私とは狙撃や立ち回りなんかでこうやって色々議論したりする事が多く、そこそこ仲が良い。こういう時、彼のような理論派の人がいると話し合いがしやすくて助かる。

 

「シノは硬化する前に装甲抜いてたからな、そこから内部狙ったんだよ。」

 オペレートしてたののが説明してくれるのを聞きながら、送られてきたデータを見ていく。確かに自爆するまで倒されないという執念を感じる装甲の硬さだ。

「警戒区域内なら最悪、勝手に自爆するのを待てばいいんだけれどね。今回みたいに市街地狙われたら厄介だわ。」

「それなあー。」

 

 オペレーター陣を中心に声が上がる。防衛任務を想定するならば隊単位で対応する。だから基本、一定以上の火力はあるだろうから爆撃を止めて自爆を待つ戦法はありではある。ただ、意見で出たように市街地狙いされたらその戦法は取れないし、警戒区域には避難時に置いてきてしまった市民の大切な物が山程ある。選べるので有れば自爆以外の方法を考えたい。

 

「でもこれ、旋空の理論値出せれば十分なんとかなりそうですよ?アタッカー武器を主軸にするのはアリじゃなーい?」

「空中で毎回最大火力狙えるのは天才共だけなのよ…。」

 

 そう、データ上だけならどうにかできる火力はある。ただ、武器の火力はどうしたって使い手に左右されるからなあ、その辺が難しいのだ。皆、自分の隊ならどうするかという策を出し合いながら対抗策を出していく。私はそれを聞きながら汎用性のある案はマニュアルのようにまとめて、今この話し合いに参加していない隊員達にも共有できるように準備を進める。

 

 一通り意見が出尽くす頃には深夜を迎えていた。しょうがない、議論が白熱したんだから!自分にはそう言い訳しつつ、高校生達を急いで帰るかボーダー基地に泊まるように伝える。特に女性陣はこの時間に1人で帰らせるわけにはいかないので、親に連絡をした上で隊室に泊まるか誰かに送ってもらうよう言った。

 

 私も明日は色々振り回されるかも知れないので対抗策案まとめはそこそこにしつつ、席を立つ。すると、今日も何度もお世話になった馴染みのオペレーターのおっちゃん、佐崎さんに声をかけられた。

「シノちゃん、これからどんな感じになるのか”お告げ”はないのかい?」

「お告げとか、そういうのやめてくださいよ。」

 

 あんまりそういう表現は好きじゃないので適当に返しておく。佐崎さんも悪意があっての言葉ではないだろう、すぐに悪い悪いと謝ってくれる。

「明日の朝までは動きがないっぽいので今晩は体力温存しておくとかですかね?ただ本部からきちんとした指令が来てないことからわかると思いますけど、あんまり当てにしないでくださいね。」

 

 佐崎さんはそれを聞くと、その辺も含めて室長に伝えとくわ、と言って自身の仕事場へと戻っていった。私も明日に備えて休まないと。

 お先に失礼します、と一礼してから通信室を出る。家族に今日はボーダーに泊まる旨を連絡してロッカーから常備している着替えなどを引っ張り出し、仮眠室へと向かう。流石に今日は疲れたのでこのまま寝てしまおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。昨日と同じように本部の車を出して玉狛支部に向かう。警戒区域は結構広いので足がないと意外と移動が大変なのだ。戦闘中はトリオン体だからあまり気にならないけど、徒歩だけだと絶妙に不便なんだよなあ。

 玉狛支部についてインターホンを押すと、すぐにほーいと声がして支部長が玄関を開けてくれる。

 

「おはようございます、林藤さん。」

「おはようさん、東雲。悪いな、朝から。」

 

 迅はまだ朝食食べてるからちょっと上がっていくか?お茶ぐらい出すぞ、というお誘いに頷く。いつ来てもアットホームな支部だ。

 

「あれ、シノさん。おはようございます。」

「京介君おはよー、朝からお邪魔するね。」

 

 リビングに入ると玉狛支部の皆が口々に挨拶してくれるのでそれに返していく。古株の戦闘員であるレイジさんに小南ちゃん、先ほど1番に挨拶してくれた京介君にオペレーターの栞ちゃん、そしてカピバラに跨った陽太郎君。うん、いつもの玉狛支部の風景だ。

 

「ちょっと迅、シノさんもう来ちゃったじゃない!早くしなさいよ。」

 小南ちゃんがテーブルで食事をとっている迅くんを急かす。時刻は9時前。これから用事がある事も含めてちょっと遅めの朝食だ。

 

「まあ約束に間に合えばいいから、ヘーきへーき。」

 迅君の適当な答えに不満げな表情をする小南ちゃん。他の面々は私も含めてしょうがないなあ、みたいな苦笑いだったりいつもの事だとスルーしたりしている。

 

「東雲は流石にもう食事は済んでいるか?簡単な物なら出せるが。」

 レイジさんに尋ねられ、一瞬悩む。朝食はボーダーの食堂で済ませてきたがレイジさんの料理美味しいんだよなあ…。

 

 葛藤の末、もう食べてきたので大丈夫ですと答える。あんまり時間もないし、今回は我慢しなければ。そんなやりとりをしていると林藤さんがコーヒーを持ってきてくれたので、それをいただきながら迅君が食べ終わるのを待つ。

 

 本当に暖かい場所だ。本部の雰囲気も嫌いではないが、玉狛は本当に居心地がいい。時折、旧ボーダー勢でも玉狛支部所属でもない私には踏み込めない場所があるが、それも不快ではない。私にとってここは”友達の家”なのだ。

 

 そう、旧ボーダー勢。本部なら城戸指令や忍田本部長など、ここにいる面々ならレイジさんに小南ちゃん、林藤さん、そして迅君。彼らはボーダー設立前、4年半前の大規模侵攻以前から戦い続けてきた人達なのだ。ネイバーの、トリオン兵の存在が公になる前からひっそりと戦ってきた彼らの話は隠すような事じゃないから、と聞けば色々教えてはくれた。

 ネイバーは私達と同じような人間で、いい奴も悪い奴もいること、ボーダーは元々交流を目的としていた事、今に比べて足りない装備や技術で戦って犠牲者も沢山出た事。そうした事を聞いた上で誰も私に対して態度を変えないのだ。だからここが私の居場所になることはなくても、踏み込めないことがあっても不快ではない。

 

「ごちそうさまでした、レイジさん。」

 迅君は食べ終わるとさっさと出かける準備を始める。どうやら彼以外は今日は支部にいるようだ。イレギュラーゲートに備えて全員待機のようである。

「コーヒー、ご馳走さまでした。」

 私もそろそろ出発する準備を始める。さて、今日のお仕事もひとまず運転手だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日三雲君と約束した待ち合わせ場所に向かう為、蓮の辺方面に車を走らせる。時間ギリギリになりそうだが、遅刻はしないだろう。

 待ち合わせ場所の公園で迅君を先に降ろすと近場のパーキングに車を止めに行く。免許取ってからこの一年弱で運転上達したなあ、なんて思いながらサクッと駐車をし。迅君に合流しに行くと三雲君も既に来ていた。おはようございます、なんて簡単に挨拶を交わすと迅君が行くぞー、と先導してくれるのでそれについて行く。

 

「さあ、この先にイレギュラーゲートの原因を知る人間がいる。」

「!迅さんの知ってる人ですか!?」

「いや、全然。」

 そんな三雲君と迅君の会話を聞きながら歩くが、どうやら警戒区域に向かっているようだ。というか、迅君ずっとぼんち揚食べてるけど君朝食食べてすぐだよね?よく食べれるなあ。

 

 警戒区域に入って直ぐに戦闘の痕が目立つ場所に辿り着く。そこには昨日出会った白髪の小柄な少年、空閑君が何やらこちらに背を向けてしゃがみ込んでいた。

 

「空閑…!?」

 三雲君が驚いた声を上げると、空閑君もこちらに気付いて振り返る。

「おう、オサム、それにシノノメさん。…と、どちら様?」

 軽く手を振っておくが今日の私はただの運転手。話を進めるのは迅君に任せておく。

 

「おれは迅 悠一!よろしく!」

 迅君がフレンドリーに自己紹介をして、おまえちびっこいな、なんて言いながら空閑君の頭をわしゃわしゃと撫でている。こら、身長に関しては気に触る人だって多いんだぞ、私とか!

 

 空閑君の名前に何か思うところがあるのか、ちょっと迅君が気にする様子を見せるが、ひとまずお互いの自己紹介が終わると、迅君がいきなり爆弾を放り込んできた。

 

「おまえ、向こうの世界から来たのか?」

 

 ビクッと体を硬直させる三雲君に身構える空閑君。そりゃいきなり言われればそうなるよな。実際私も結構衝撃を受けたし。でも成る程、向こう側─ネイバーフット、侵略者側の世界から来たのならなんらかのトリガーを持っていて当然だ。あの巨大なトリオン兵を動かせるとなると相当だが。

 

「いやいや、まてまて。そういうあれじゃない。お前を捕まえるつもりはない。」

 

 そのまま迅君が向こう、ネイバーフットに行ったことや実際に交流した経験がある事を伝えると、2人はひとまず警戒を解いてくれた。あ、いや空閑君は私の方をちょっと伺ってるな。

 

「私は実際に行ったことはないけど話は聞いてる。それに、私の考え方は昨日伝えた通り。今、君を捕まえようなんてつもりはないよ。」

 はっきり告げれば、彼は今度こそ警戒を解いてくれる。警戒心の割になんかちょろくないか、君?

 

 その後、迅君のお決まりのセリフが飛び出したのでサイドエフェクトの説明し、彼らが驚くというテンプレの流れを見た後、空閑君がついさっき突き止めたという原因を見せてもらう。

 

「犯人はこいつだった。」

 

 そう言って彼がぶら下げる小型のトリオン兵?を受け取り詳しく見せてもらう。6本足に長い尻尾のような形はサソリや昆虫か何かをイメージさせた。とは言っても胴体は人の顔ほどの大きさがあるのでサソリなんかに比べれば相当大きいが。

 

『詳しくは私が説明しよう。』

 

 いきなり第三者の声が響き顔を上げる。声の主は空閑君の指輪からにゅっと出てきた黒い、黒い…。なんだこれ?どこか炊飯器を彷彿とさせる丸いボディに目とウサギのような耳が付いている物体だった。宙に浮いていて、自由に動けそうな感じを見るに、トリオン兵に近い何かなのだろうか。

 

『はじめまして。ジン、それにシノノメ。私はレプリカ。ユーマのお目付役だ。』

「おお、これはどうも。はじめまして。」

「は、はじめまして。」

 

 慌てて挨拶を返すとレプリカさん?は前言通り詳しい説明を始めた。いや、あなたの自己紹介それで終わりなんですか?

 

 レプリカさんによると今回の原因はこのラッドと言う小型トリオン兵の(ゲート)発生装置を備えた改造型であるらしい。ラッドは元々隠密偵察用であり、今回はバムスター─大型でトリオン能力の高い人などの捕獲を目的としたポピュラーなトリオン兵─の腹部に格納されており、バムスターが倒されるとこっそりと分離、人がいなくなった後隠れて行動を開始したらしい。

 そして改造によって付けられた(ゲート)発生装置を近くの人間から少量ずつトリオンを集める事で起動したとのことだ。成る程、ボーダー隊員はトリオン能力が高い人が多い。非番の隊員が多い学校周辺でイレギュラー(ゲート)が発生するわけだ。色々と腑に落ちた。

 

「じゃあつまり、そのラッドを全て倒せば…」

「いや〜きついと思うぞ」

『ラッドは攻撃力こそ持たないが、その数は膨大だ。今感知できるだけでも数千体が街に潜伏している。』

 

 何やら空閑君とレプリカさんが三雲君に話している横で私はパシャパシャとラッドの記録写真を撮影していた。一通り撮影し終わると開発室と広報部、そして通信室宛にメッセージを作成し、先程の写真を添付する。隣で同じように端末をいじっている迅君は恐らく林藤さん宛にメッセージでも送っているのだろう。

 

「全部殺そうと思ったら何十日もかかりそうだな。」

 空閑君の言葉に三雲君がショックを受けているが、これなら大丈夫だ。

「いやめちゃくちゃ助かった。こっからはボーダーの仕事だな。」

迅君の言葉に頷き、私も口を開く。

「まあ見てなよ、ボーダーって結構凄いからさ。」




 イレギュラーゲート解決するまでは取り敢えず投稿したいと思っています。その後は評価と自分の満足度によるかなあ。

佐崎のおっちゃん
 システムエンジニアとして通信室に勤務している職員。女性以外のオペレーターがいないわけは無いけど、並列処理が高くないならこういった仕事内容かなあという想像です。おっちゃんやおっさん、大人なキャラが基本好きな筆者なので、オリキャラが増えると基本的にそういったキャラになるのが予想されます。

通信室勤務(本部)
 各隊所属のオペレーターとは違い、戦闘をリアルタイムで支援するというよりはそれに必要なシステムの開発や情報の解析などがお仕事のイメージ。大規模な作戦では本部の指令を各隊に伝達したりもする。一応シノの所属はここであり、C 級オペレーター達なんかと一緒に基礎的な機器操作を勉強して、防衛任務の臨時部隊で人が足りない時にオペレーターなどをしている。トリオン兵相手の支援ならなんとかこなせる程度の実力。対人戦などはとてもではないけど無理。

 感想で指摘があったので一部描写を変えました。プロット出来た後、細かい描写が設定と食い違わないように気をつけてるんですが、やっぱり主にチェックするのは該当部分の原作になってしまうので感想などでご指摘していただけると助かります。


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5話

 これにてイレギュラーゲート解決です。ひとまずはここまで、今後投稿していくかはここまでの出来でちょっと悩みます。感想や評価いただけると参考になるので是非お願いします。


「実力派エリート、ただいま戻りました!」

 

 あの後、私と迅君はラッドの実物を持って本部に一度戻った。迅君が鬼怒田さんや根付さんにラッドの解析とレーダーの調整、市民への緊急放送と情報提供の呼びかけ準備などを頼んでいる横で私は人海戦術になりそうなのでC級を含めた全隊員に出動要請を出して欲しいことを忍田本部長に伝える。

 グループチャットの方にはすぐに本部から指令が来るので詳細はそっちで、とりあえず害虫駆除を一斉にやると思われるので覚悟しといて欲しい、と言った内容の文章をラッドの写真と共に貼っておいた。

 

 そのまま迅君とは別れて通信室に向かう。そして通信室長にレプリカさんに聞いたことは伏せつつ、市民からの情報提供がある事、人海戦術が取られるだろう事などを伝える。室長も事態を把握すると素早く対応を始めた。

 広報部と連携して市民からの情報提供をまとめる体制の構築、開発部からの解析結果を元に行うレーダーの調整、B級以上の各隊のオペレーターとの連携体制、C級隊員へ指示を出すためのオペレーターの確保、かなり広範囲での作戦なので必要とされるだろう車などの移動手段の確保…。やる事は山程あった。打つ手なしでどこか暗い雰囲気だったボーダー本部が一気に活気付く。私も通信室勤務の職員として駆け回り始めた。

 

「シノ、支部所属の隊との連携準備頼む!前に必要なシステムについては教えたよな!?」

「了解です!!開発室からレーダーのプロトタイプ送られてきたんでチェックお願いします!」

 

 通信室内はまるで戦場だった。各支部のオペレーター達に連絡を入れれば皆すぐに反応を返してくれる。大規模作戦用の情報共有システムを起動すればすぐに各支部オンラインになり、支部の窓口に寄せられたり隊員達が既に見つけたラッドの情報などが共有されていく。

 

「今手元にある情報はシステムの方に上げといて!後、リアルタイムで必要なシステム組んでるんで作戦時間近づくまではデバッグお願いできる!?」

 

 各支部オペレーター達のそう頼むと彼女達から一斉に了解の返事が返ってくる。そう、ボーダーのオペレーター達は学生だろうが優秀なのだ。同じ依頼を本部所属の各隊オペレーターにも頼むと室長にその事を報告する。私にはのの達のようにリアルタイムで戦闘をサポートするような能力は余りないし、佐崎さんみたいにプログラムを組むこともできない。でも、あっちこっちに顔出して協力関係を築いてきたのだ。必要な人手をかき集めることくらいはしてみせる。

 

「室長、システムのデバッグを各隊オペレーターが手伝ってくれるそうです!いくらか回してください!」

「助かる!後でなんか奢るって伝えといてくれ!」

「女子学生甘く見てると後悔しますよ!?まあいい、シノ!今送った分だけ頼んどいてくれ!」

「了解です、佐崎さん!」

 

 あっちこっちから声がかかる。専門的な業務がさほどできない代わりに、雑用をこなしたり各隊オペレーターを始めとした学生組との連絡係を務めたりとタスクをひたすら消化していく。

 

「レーダー最終調整終わりました!起動します!」

 担当の人の声が響くと、皆が一瞬手を止めてメインモニターを見る。そこにはトリオン兵を、ラッドを示す赤い輝点が街を覆い尽くしていた。

 

「ッ!」

 誰かが息を飲む。こんな沢山の反応をこの場にいる誰も見たことがなかった。数千を超える、というレプリカさんの声が蘇った。覚悟はしていたが流石に来るものがある。だけど。

 

「区域分けと人員配置急げ!戦闘員を待たせるな!」

 数が多い?ならそれをひっくり返せる作戦を司令部や開発室が考えるだろう。なんだったら戦闘員やオペレーターがその場で思い付くかもしれない。昨日の新型トリオン兵対策だってそうだったのだ。この程度で絶望している暇なんてない。

 

「開発室から小型トリオン兵の詳細報告来ました!本体に攻撃能力はなく、トリオン障壁が展開されている間、イレギュラー(ゲート)発生の可能性も無し。司令部からも作戦変更の必要無しとのことです!」

 そうして準備を進めていくとあっという間に作戦開始時刻を迎えた。

『さーて、いくぞ皆。』

 迅君から通信が入る。さあ害虫駆除だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小型トリオン兵の駆除作戦は昼夜を徹して行われた。C級隊員も動員した作戦は初であり、準備時間が短かったこともあって様々な問題が発生もしたが全員でフォローし合ってどうにか乗り越えた。昼頃から始まった作戦だがらレーダーがクリアになる頃にはもう夜が明けていた。トリオン障壁が展開できるタイムリミットまで10時間以上を残しての作戦終了だった。

 

『よーし、作戦終了だ。皆よくやってくれた。おつかれさん!』

 初めと同じように迅君からの通信が入る。通信室で喜びと疲れが満ちた歓声が上がる。オペレーターも戦闘員もエンジニアも、誰もが限界だったがそれでも成し遂げた。私達は街を守り抜いたのだった。

 

 大きく伸びをする。学生組はともかく、職員達はまだまだ後処理やら警戒やらが残っている。とは言え、まだトリオン障壁が展開中でゲートは発生しない。それだけでかなり余裕ができるのだ。私はデスクに置いてあるエナジードリンクに手を伸ばした。もう一踏ん張りである。

 

 その後、職員達で臨時シフトを組みどうにか通常業務をこなしていった。こういう時、疲労などで身体的なパフォーマンスが落ちないのがトリオン体の良いところである。精神的疲労は勿論あるが。私以外にも戦闘員上がりなどでトリオン能力が高めのオペレーター達は結構いるので、そうした人がまずシフトに入りシフト外の人達は仮眠室で爆睡していた。

 

『シノー?メガネ君今回の手柄でB級昇進させるからトリガーの用意とか頼んでもいいか?』

 個人通信で迅君から連絡が入る。成る程、ラッド発見の手柄は確かにそれをするのに十分だ。ただ…。

「いいけど、明日の朝イチねー…。まだ本部、臨時シフトで修羅場ってるから…。」

 エンジニアには話通しておくし、簡単な説明は私も付き合うから…。そう付け加えて返事を待たず通信を切る。何やら大事なことのようだが、昇進とかの手続きをやってる余裕はないのだ。まあ、不味ければなんかアクション起こしてくるでしょ。

 

 そんなこんなで昼過ぎまでの勤務を終えるとトリオン体を解除し、フラフラと帰路に着く。正直今日も仮眠室に泊まってしまいたかったが、家族と過ごすのが1番だな!と言う友人の姿が脳裏を過ったので帰ることにした。うん、いつでも君は光り輝いているなあ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜…」

「お帰りなさい、大変だったみたいね。」

 お風呂沸かしてあるし、何か食べたいなら用意するわよ?と母さんと父さんが出迎え、気を遣ってくれる。何か食べてシャワー浴びる、と答えとりあえず着替えにいく。最近のスーツは洗濯機で洗えてホント助かるよ。

 

 部屋着に着替えてリビングに向かうと母さんがスープを出してくれる。気遣いに、その優しさに礼を言い、食べ始めると付けっぱなしのテレビから流れるニュースが目に入った。当然内容は今回のイレギュラー(ゲート)についてだ。

 

「お疲れ様、守ってくれていつもありがとう。」

 

 思わず手を止めて画面を注視していると、そっと母さんが声をかけてくれる。だが市街地が崩れる光景が、悲鳴がフラッシュバックする。母の車椅子が目に入る。4年半前、私を守って動かなくなった足が。

 

「守るってやっぱり難しいね…。」

 無意識のうちに呟く。全部は守れないとは覚悟している。神様もヒーローもいないって知ってしまったから、その難しさも苦しさも学んだから。

 

「それでも頑張るって決めたんでしょう?実際、私とお父さんはその頑張りで昨日守ってもらったわ。」

 知っている。レーダーを見ていたのだから、自宅の側にラッドの反応があったことくらい気づいていた。ボーダー職員の東雲縁連は、それでも動揺せずに最善を尽くせた。でも家に帰って、家族に会って、食事をしたらただの縁連に戻ってしまった。友達が、家族が大好きな19歳の縁連に。もう終わった事なのにもしも間に合わなかったら、なんて恐怖が今更襲ってくる。

 

「俺も母さんも、ボーダーのお前に守ってもらった。だから家にいる間くらいは親に守らせなさい。」

 ずっと静観していた父さんが静かに、だが力強く言う。まるで幼児にするようにわしゃわしゃと私の頭を撫でる。

 その言葉に、温かさに安心してこくり、と頷く。ああ、大人に─両親には敵わないなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一眠りして起きると、窓の外は夕焼け空だった。のそのそと布団から腕を伸ばし、スマホを手に取る。通知がそこそこ来ていてちょっと驚きながら一つ一つ確認していく。

 

 迅君からは三雲君の昇進関連の話だった。やばい、忘れてたと慌てて馴みのエンジニアさんにチャットを送っておく。一昨日からデスマーチだった筈だけど明日の朝までに見てくれるかなあ…?まあ、最悪明日の朝突撃して当直の人に相談しよう。

 次は業務連絡だった。今日の夜シフト来れるか、との事だったので了解を返信しておく。室長からは個人チャットで最近の女子学生には何贈ればいい?と相談が来ていたのでこちらには日持ちするお菓子とかが無難じゃないですかね?と返しておく。

 同級生からはしばらくしたら本部行くけど車一緒に乗ってく人いるか?という問いかけが来てたので手を挙げておく。夕飯食べてからでもいい?と聞くと了解してくれるのでお願いしておく。

 その他にも昨日から協力してくれていた隊員に対して改めてお礼のメッセージを入れる。そこまで終えると起き上がり、両親に予定を伝えにいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家族揃って夕食を終えるとスーツに着替えて上着を着込む。もう12月になっている。油断したら風邪をひきそうだ。

 いってきます、と声をかければ当然いってらっしゃいと送り出してくれる。近くのコンビニの駐車場まで行けば友人達は既に待っていた。

 

「お疲れ様!」

「お疲れー。」

 

 友人達─嵐山准と柿崎国治がこっちに向けて手を振っているのに応えながら小走りでそちらに駆け寄った。

「お疲れ様、2人もこれから防衛任務?」

 同学年かつ同期の2人はボーダーの戦闘員として良い腕をしているし、今ではそれぞれ後輩達を率いる隊長だ。

 

「ああ。シノはオペレーターの方のシフトか?」

「いや、今日は戦闘員の方。臨時シフト急に組み直したみたいだから確認してみないとわかんないけど、多分2人と一緒だよ。」

 

 准君に聞かれ、推測を答えておく。そう、職員としては通信室所属だがこういう深夜帯を含む防衛任務なんかは臨時部隊として結構組み込まれるのだ。

 

「高校生組あんまり引っ張り出すわけにもいかにいしなあ。でもシノ達と一緒なら気楽でいいな。」

 あ、夜の運転久しぶりだから2人も注意しといてくれよ?そう言いながらザキ君がエンジンをかける。本部までならそんなに遠くないが、安全運転するに越したことはない。

 

 特に危険運転もなく本部まで辿り着くと改めてシフトを確認する。本日のシフトは戦闘員が私、准君、ザキ君でオペレーターは羽矢ちゃんだった。同級生しかいないので結構気楽である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 22:00。交代の時間になったのでトリガーを起動する。赤、オレンジ、深青色と色とりどりの隊服で廃墟となった街に私達は繰り出した。

 

『こちら、王子隊オペレーターの橘高羽矢です。いつも通りお願いね。』

「羽矢ちゃんよろしくー。」

 

 オペレーターから通信が入ったので軽く打ち合わせる。といってもお互い気心が知れた仲だし戦闘スタイルもよく分かっている。羽矢ちゃんが言う通り、”いつも通り”にやれば問題ないだろう。

 

『隊長役は誰がやるの?』

「私パス」「嵐山だな」

 

 私とザキ君が即答する。臨時部隊の場合、戦闘時に混乱しないようその場のトップを決めるのが普通だ。今回はこの4人の中で唯一A級である准君になるのは妥当ではある。

 

「別に誰がやってもこのメンバーなら構わないだろうに…。」

「ならランク順でいいだろ、シノは部隊組んだ事ねえし。」

 

 何やらぼやく准君にザキ君がそれっぽいことを言っているが、別に部隊経験がない私以外だったら誰でもいいんだよなあ。私は入隊してからタイミングがなかったり、他にやる事があったり、ぶっちゃけ迅君に誘導されたりして部隊に所属することがなかった。

 別に防衛任務参加するだけであったらそれでも構わないんだが、対人戦を想定したり、より強敵に対応するならばやっぱり固定のメンバーで戦う経験積んどきたいなあ、とは思っている。ゲートが発生していないので担当区域を巡回する中、私はそんな考えを彼らにぶっちゃけていた。

 

「じゃあ、ウチの隊入るか?文香や虎太郎達もお前の事尊敬してるし、スナイパー出来るからポジションのバランスも悪くないだろ。」

『あら、スナイパーなら私達も欲しいわよ?シノ確か蔵内君と仲良いでしょうし、王子隊も悪くないんじゃない?』

「何、急に勧誘してくるじゃん…。」

 思わず呟く。急にどうしたんだ、君達。

 

「そりゃ部隊に所属してないスナイパーは貴重だからな。しかも今のB級以上の隊員ほぼ全てと面識があって関係良好、臨時部隊での経験豊富で誰とでも合わせられるサポート能力。更にはシューターとしての腕も良い。こんな優良物件放っておく人はいないさ。」

 

 ザキ君の言葉に目をまん丸にする。私そんなに優秀じゃないんだが?そこまで持ち上げられるとちょっと気持ち悪い。

 

「私の腕スナイパー名乗れる最低ラインだよ?しかもコミュ力MAXみたいな表現してるけど別にそんなことないからね…?」

「C級やB級成り立ての頃にお前の世話になった人が何人いると思っているんだ。確かに天才的な技術はないかも知れないが、シューターやガンナー、スナイパーの基礎的な技能を一通り抑えて、それを適切に使うことができる。加えてその技術を他人に教えたり、適切な師匠見つけて来るなんてそうそうできることじゃない。」

 

 あんまり自分の評価低いのはどうかと思うぞ。准君にそう言われてしまうと何も言えなくなってしまう。うーむ、B級以上で活躍してる人達に比べると力不足だと感じるんだけどなあ。

 

『実際のところどうなの?どこかのチームに入るつもりはあるのかしら。』

 うーん、と考え込む。強くなるならそれが1番なのだけれど、

「開発室のテスターやら通信室の勤務があるから現実的ではないかなあ…。迅君にも結構好きに使われてるとこ見るにもうしばらくはこのままかな。」

『あら、残念。』

 そこでアラートが鳴る。その音に全員無言で行動を始める。

 

(ゲート)発生、距離は500m。』

「シノ、狙撃で先手を取ってくれ」

 OK、と准君の指示に応えてグラスホッパーを起動、准君とザキ君が踏めるよう展開する。同時に大きくジャンプして近くの民家の屋根に上がる。彼らがゲートの方向へ移動する姿を視界の端に捉えながら、羽矢ちゃんの誘導に従い狙撃ポイントで狙撃銃─ライトニングを起動する。

 

 ライトニングは火力の代わりに弾速と連射性を重視したスナイパートリガーである。つまり最も”当てやすい”と言えるのだ。この間使った火力重視のアイビスとはある意味正反対のコンセプトである。狙撃の腕がそんなに良くない私が普段セットしているのはこの取り回し良いライトニングの方であり、アイビスを実戦で使うなんてそうそうないことである。当てるの難しいし、そんな火力普通いらないし。

 

 ライトニングを膝立ての姿勢で構え、(ゲート)からちょうど出てきたバムスターのモノアイに向けて引き金を引く。2発、頭部とモノアイに命中するとバムスターは倒れた。

 

『1体討伐、残り5体ね。反応からして3体はバドと思われるわ。』

『こっちも確認した。バド3体にモールモッド2体だな。モールモッドはオレと柿崎、バドはシノ頼む。』

 

 バドとモールモッド─比較的小型で飛行するタイプのトリオン兵に近接戦闘型のトリオン兵─か。結構多いな。モールモッドは近づかれるとしんどいので准君とザキ君が受け持ってくれるのは助かる。

 そんなことを思いながら、ライトニングの狙いを准君達の方に向かうバドに向ける。移動目標に対しての命中率そんな高くないんだよなあ…。

 1発目は脇を掠める様に、2発目は中央を撃ち抜く。うん、いつも通りだ。

 

『バド2体接近。もうハウンドの射程入るから切り替えてね。』

 先程射線を見られてから移動してないし、トリオン反応を消すバッグワームも使用していない。当然向かって来るバド達に対してオペレーターが警告を出してくれる。その言葉でライトニングを解除、ハウンドを起動した。トリオンキューブを5×5×5に分割、誘導強度と発射角度をバラして左右から回り込む様に射出する。同時に左手で起動した拳銃を構える。バドは誘導半径の内側に入り込もうと私に向けて移動してくるが、真正面の相手なら外さない。左手の拳銃の引き金を引き、アステロイドで2匹とも撃ち抜く。

「バド3体討伐完了。そっちは?」

『こちらも無事終了だ。お疲れ様。』

 ザキ君が答えてくれる。まあ、2人共モールモッドに負ける様なことはないから予想通りの結果である。

 

 その後も雑談や相談やらをしつつ、(ゲート)発生に対応して特に問題もなく防衛任務は終了した。イレギュラー(ゲート)も解決していつも通りの日常である。




 イレギュラーゲート解決、その後の日常。ラッド駆除は多分人手がとにかくやばかったのだと思います。なのでその辺の裏方話を想像して書かせてもらいました。広報、開発室、通信室全部修羅場ってだろうなあ。

 後半は19歳組での防衛任務のイメージです。原作の防衛任務の描写もっとください…。でも葦原先生の健康が1番です…。

 シノの狙撃の腕はかなり悪いです。多分C級から上がるのにめちゃくちゃ時間がかかる程度には才能がないです。本人の気質的にも中距離、シューターが1番あっている模様。スナイパートリガー自体は開発の頃からテスターを務めていたので一通り使えはするし、合同訓練にも出来るだけ顔を出しているがどうにも性に合わないとのこと。荒船君のメゾットがなければもっとヤバかったらしい。

 柿崎さんは車の免許取ってそうという勝手なイメージにより運転してもらいました。絶対安全運転してそう。嵐山はどうかなあ…?

トリガーセット(防衛任務時:通常)

メイン
・ハウンド
・スパイダー
・ライトニング
・シールド

サブ
・アステロイド(拳銃)
・グラスホッパー
・バッグワーム
・シールド


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6話

 主人公のことが一通りわかる、キリがいいところまでは投稿することに決めました。具体的にいうと黒トリ争奪戦あたりですね。


「三雲君こっちこっち。」

 朝、まだ人の少ないボーダー基地エントランスでキョロキョロしている眼鏡をかけた少年、三雲君に呼びかける。

「おはようございます。」

「おはよう、ごめんね朝から。」

 

 とりあえず、書類の処理からだね。とそのまま会話を交わしながら彼を私は事務窓口に案内する。防衛任務が終わってから数時間後、私は迅君に頼まれたように三雲君の昇級関連のあれこれを手伝いに来ていた。

 

 事務窓口では書類の提出、給料や隊務規定諸々の説明などを受けた。これで彼は正隊員の仲間入りである。通常での昇格とはちょっと異なる部分が多かったが、無事手続きが終わると今度は彼を開発室に案内する。

 

 開発室は死屍累々だったが、まあいつものことである。三雲君がちょっと驚いているようだが、その反応もよくあることである。すみませーん、と声をかけながら比較的綺麗な来客対応用のデスクに彼を案内すると予想外の人物が出迎えてくれた。

 

「あ、来た来た。」

「あれ、寺島さん。榊さんは?」

 

 無言で寺島さん─ぽっちゃりとした体格の男性で開発チーフの1人だ─が自身の背後を指差す。覗き込めば昨日の夕方にチャットを送った相手である壮年の男性、榊さんがデスクに突っ伏して寝ていた。あちゃー、やっぱりデスマーチだったか。

 

「榊さんが準備はしてくれてるよ、ほらコレ。」

 

 寺島さんが棒状のプラスチックケースのようなもの─トリガーホルダーを出してくれる。ありがとうございますとお礼を言いながらそれを受け取り、三雲君に見せながら聞いてみる。

 

「もともとレイガスト使ってくれてたみたいだから、取り敢えずレイガストがメインにセットしてもらったけど何か使いたいトリガーの希望ある?」

 

 あ、スラスターも入れてあるらしいから心配しなくていいよと寺島さんが付け加えてくれる。自分が開発したトリガーを使ってくれてるからかちょっと上機嫌な気がする。

 

「すみません、そもそもどんな武器があるのかあまり知らなくて…。」

「んー、じゃあひとまずはシールドかな?メイン側はレイガストあるしサブに1個入れとくのが無難かな。」

 

 困った様子の三雲君に提案し、シールドの説明をざっくりとしていくがいまいちイメージが湧いていないのか微妙な表情である。まあ、使ってみないと分かんないかな?

 

「えっと、東雲さんが使っていた射撃用のものって僕も使えますか?あの、立方体の…。」

「あー、シューター用か。いいんじゃない?レイガストは防御寄りだしサブに入れるのは悪くなさそう。」

 

 初めてならアステロイドがいいかな、と言いながら三雲君の様子を観察する。オプショントリガーならともかくシューター用のトリガーならオリエンテーションで一通り説明受けるはずなんだけどなあ。説明を真面目に聞かないタイプでもないだろうし、シューター用のトリガーがわからないのはちょっと変な感じがする。

 

「取り敢えずメインにレイガストとスラスター、サブにアステロイドとシールドでお願いしてもいいですか?」

 寺島さんにそう頼むとはいはい、と慣れた様子でトリガーホルダーを開けチップをセットし始める。

 

「三雲君。アステロイドはともかくシールドとかスラスターみたいなオプションの使用感分からないと思うんだけど、良かったら簡単なレクチャーしようか?15分もあれば最低限は終わると思うけれど。」

「お願いしてもいいですか?その、僕入隊時期が他の人とズレていたみたいであまりそういったレクチャーを受けていなくて…。」

「え、ホント!?うわ、ごめんね。本来こっちでサポートしなきゃならないのに…。」

 

 コレ、私の連絡先ね。困ったことあったら何でも聞いていいから、と慌てて電話番号とチャットの登録を済ませる。うわー、マジで申し訳ないな。いきなりボーダーに放り込まれて説明なしは困っただろう。

 

「この後時間大丈夫?トリガーの使い方とか本部の施設案内とかするよ。」

「約束があるので1時間くらいだけになってしまうんですがお願いしてもいいでしょうか?」

 

 もちろん、と応えていると寺島さんが隊服どうする?と聞いてくる。

「部隊所属してないみたいだし、いくつかあるプリセットから色だけ選んでもらう形になるけど…。」

「あ、デザインデータもらってるのでそっちでお願いしてもいいですか?」

 コレです、とデータの入ったメモリを寺島さんに渡す。何か昨日のうちに迅君から送られてきていた。どんだけお気に入りなんだ、彼のこと。

 

 データの入力を終えると寺島さんがトリガーホルダーを三雲君に渡す。私達の会話を聞いていたのだろう、仮想戦闘モード使うでしょ?とそちらの用意もしてくれる。

 

 助かります、と言って奥にある開発室用のトレーニングルームに三雲君と共に入る。いつもここでトリガーテストなどを行なっているのだ。

 

「じゃあトリガー起動してくれる?一通り使ってみようか。」

 

 内部から設定をいじって自分のトリガーセットを彼と同じものに変更する。シールドモードのあるレイガストに機動力を補う専用オプションのスラスター、アステロイドにシールド。あんまり時間もないしそれぞれの使い方を確認するぐらいかなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ボーダー基地内部の案内も軽く終えると彼は丁寧な礼を言い、帰っていった。結論から言って三雲君は今のところあまり将来有望とは言えなかった。

 

 オリエンテーションや合同訓練をそんなにこなしていないとは言っていたが、そもそも体を動かすのが得意なようには見えなかった。今回の昇級でなく、普通のランク戦でポイントを稼ぐ方式ではB級になるのはだいぶ遅かっただろう。バムスター程度には勝てるだろうけど、モールモッドのような戦闘用トリオン兵に勝てるようになるのはまだ先かな、なんて思う。まあ訓練すれば防衛任務こなすのには困らない程度には強くなるだろうけど、対人戦とかは苦手そうだなあ。

 そんなことを思い返しつつ、C級の個人戦ブースへ向かう。今日は休日であり多くの人が訓練にやってくるのだ。

 

 ブースに着くとC級隊員の白い隊服を来た学生たちが個人戦を行っていたり、それをモニターで眺めたりしている。C級のトリガーは1つのみだが、それでも慣れるまでは思ったように扱うのは難しい。実際モニターに映っている隊員の1人はガンナーなのに上手く当てられないのか、少しでも当てやすいようにとアタッカー相手に距離を詰めてしまっている。

 

 トリガーを起動、白い隊服ばかりの中1人目立つ深青色の隊服を着て正隊員であることを示す。しばらく眺めていると避けきれなかったガンナーの子が相手の弧月にぶった斬られ、勝敗が決した。

 

「あ、東雲さーん!」

 

 勝ったアタッカーの女の子がこちらに駆け寄ってくる。勝てましたよ、褒めて褒めて!と言うように飛びついてくるのでおめでとう、とお祝いを言っておく。

 

「無駄に振ることなく、ちゃんの相手を見て動けてたね。うん、上達してる。」

 

 その調子で色んな人と対戦しておいで、というとはーい!と元気一杯にかけていった。そのうち壁にぶつかりそうだし、誰か師匠探しておくかあ?弧月使ってて元気いい女の子任せられる人いるかな。

 

「初めまして。何か悩んでること、例えば上手く銃が当たらないとかある?」

「あ、えっと…。」

 

 今度は先程負けてしまった少年に声をかける。時々こうやってC級やB級に上がりたてで困っている隊員にアドバイスしたりしているのだ。自分自身、あっという間に強くなっていく准君やザキ君達とは対称的に伸び悩んでいた時期が長かったので、こういったアドバイザーがいて欲しかったと思っていた。そのうち制度としてもっと指導体制作っていきたいなー、なんて思っているので理論的に様々なポジションの技能を学べる荒船メゾット確立にかなり期待している。

 

「私は東雲縁連と言います。時々、こうやってC級のランク戦見にきてるんだ。一通り武器使ったことあるから何でも聞いていいよー。」なんて言うと少年はおずおずと切り出す。

 

「あの、僕上手く弾が当てられなくて…。」

「ふむふむ。まず、人に当てるのが怖いとかそう言うわけでない?」

「あ、そう言うわけではないです。ただ、狙いをつけるのに時間がかかっちゃって。」

 

 なるほど、と頷く。訓練量にもよるが、動きを見た感じ弧月はしっかり避けれてたから生身より運動能力の高いトリオン体にはそこそこ慣れていそうではある。

 

「他に使ってみたトリガーはある?ずっと拳銃タイプのアステロイド?」

「初めはシューターだったんですけど、焦ると思った方向に撃てなくてガンナーに変えました。」

 

 定番である。シューター難しいよな、私の頃ガンナー開発中だったから選択肢ほぼ無くてなくて頑張ったけど。

 

「うーん、ガンナーはまず動作に慣れるのがかなり重要だ。だからこのまま続けるのも1つの選択肢だね。」

 でもね、と続ける。

「狙いをつけるのが苦手なら連射性を上げる、弾種を変えるっていう手もあるよ。例えば拳銃じゃなくてアサルトライフルとかにすれば連射性が高いからばら撒くっていう感じになる。狙いも拳銃に比べれば付けやすいと思うよ。あとはハウンドを使えば探知や目視で誘導することができる。ただ、もちろんデメリットもあるし、相性もあるから絶対こっちの方がいい、ていうものではないけどね。」

 

 どうする、ちょっと試してみる?と聞くと少年は少し悩む姿を見せる。

「アサルトライフルって嵐山隊が使っているやつですよね。ちょっと試してみたいです。」

 オッケーと応えてランク戦ブースの脇にいくつかあるC級隊員が自由に使えるシュミレーターに入る。彼をフィールドに転送すると機器を操作、トリガーをアサルトライフルに設定する。

「じゃあ、的を出すからちょっと撃ってごらん。」

「はい!」

 

 しばらく静止目標やトリオン兵を撃っている様子をモニターで見るが、少年との相性は悪くはなさそうだ。実際試し撃ちが終わって彼が出てくると早速私に報告する。

 

「あの、僕アサルトライフルにします!」

「オーケー、ちょっと落ち着け。」

 

 少し興奮気味の少年の肩に手を置き、落ち着かせる。じゃあ、いくつかデメリットを説明しとくよ?と新しい武器に変えることが良いことばかりではないと確認する。

 

「まず取り回しが拳銃に比べて悪い。当てるのは楽になったかもしれないけど、全く別方向に向けるとか片手で撃つとかはやりにくくなったと思う。あとは1発の火力が下がったからたくさん当てなきゃいけない。今まで君は拳銃に慣れてきたから、そうした違いに慣れるまでは成績が伸び悩むかもしれないよ。それでも構わないかい?」

「はい!」

 なら、これから頑張れ。そう励ますと彼は早速トリガー変更の手続きに向かった。

 

 その後も以前アドバイスした子が報告に来たり、友達を連れてきたりてアドバイスを求めてきた。また先程の様子を見ていた子がアドバイスを求めて話しかけてきたりもしたのでそうした事に対応しているとあっという間にお昼になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼を食べに食堂に行くと、同じような隊員や職員たちで混み合っていた。冬だしあったかいのがいいなあ、と思いきつねうどんを選ぶとトレイに器を乗せて空いている席を探す。結構埋まっているなあ。

 

「シノー。こっち空いとるでー。」

 耳慣れた声がしたのでそちらを見れば、友人達が席を1つ確保してくれていた。

「イコ君、弓場ちゃん!ありがとう!」

 友人2人と一緒にランチを食べることにする。ちなみにイコ君はマグロ丼、弓場ちゃんは焼き魚定食のようである。

 

「シノ、お前今日は非番か?」

「んー、夜シフトあるからその前には一回家帰りたいなあ。何かあるの?」

 弓場ちゃん─弓場拓磨、同い年の隊長である。そして威圧感が凄い。─が尋ねてくるので予定を応える。

 

「いや、久しぶり帯島が稽古付けて欲しがってたからな。頼めるか?」

「それなら喜んで。久しぶりに対人戦やりたかったんだー。」

 帯島ちゃんは弓場ちゃんのところの隊員であり、今伸び盛りの子だ。どれくらい強くなってるかなあ?

 

「えー、俺もシノと久しぶりに個人戦したいねん。弓場ちゃんだけずるない?」

「何言ってやがる、やるのは帯島だ。」

 何やらイコ君─生駒達人、同い年のこれまた隊長である。─は私と個人戦をやりたがっているようだ。そういえば君割とバトルジャンキーだったね。

 

「帯島ちゃんとやって時間あったらいいよ。あんまりたくさんは出来ないだろうけど。」

「よっしゃ!ほんならランク戦ブースで待っとるな。」

 おっけー、と返してその後も雑談をしながら食事を続ける。話題は彼らの大学での出来事やボーダーでのことなど、本当に何気ないことばかりだ。友人達と和やかなひと時を過ごし、私は弓場ちゃんと共に弓場隊隊室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強くなった帯島ちゃんとの勝負を終え、イコ君との個人戦も終えるともう夕方である。流石に一回帰って夜シフトに備えて仮眠を取るかあ、とボーダーの出口に向かうためエレベーターを目指していると、自販機やベンチが置いてある簡易休憩所に黒髪の少年─三輪君が座っていた。その表情は暗く、同時にかなり苛立っているようだ。

 

「三輪君、どうした?」

 

 思わず声をかける。三輪君は入隊時期も結構早く、私を含めた年上の戦闘員からかなり可愛がられている。昔の鬼気迫る様子を知っていることもあって、困っていたら力になってあげたいとは思うのだ。可愛い後輩の為なら睡眠時間ぐらい削ってやろう。

 

「東雲さん…。いえ、別に。」

 

 目線逸らしちゃって分かりやすいなあ、三輪君。んー、言いたくないのか言えないのか、その両方か分からないが、何となく予想はつく。

 

「誰かに負けた?まあ、言いたくなければ別にいいけどさ。」

 昔から結構負けず嫌いだよねえ、だからこそ強くなったんだろうけど。そんなことを言いながら自販機でホットのカフェオレを2つ買い、片方を三輪君に差し出すと割と素直に受け取ってくれた。何か餌付けしてる気分になる。

 

「…東雲さんは初めて戦う相手に勝つにはどうしたら良いと思いますか?」

「勝ちを捨てて粘る。」

 

 卑怯上等、引き撃ち一択だよ。そう即答すると三輪君は驚いてこちらを見る。勝つ為の方法を聞いたのに勝ちを捨てるという発言でなんだか訳がわからないという様子だ。

 

「私はそんなに強くないからね、情報を出来るだけ集めて粘って勝てる人が、状況が揃うのを待つ。特に初見ならね。」

 

 逆に言うとそれしか出来ないんだよ。と少し寂しく思いながら言う。本当ならパッと倒してしまいたいけど出来ないものはできないのだ。無理に意地張って事態を悪化させるわけにはいかない。

 

「訓練して、もっと強くなれとかは言わないんですね。」

 なるほど、そういう方向性のアドバイスをお求めだったか。でもなあ。彼の問いかけに悩みながら言葉を紡ぐ。

 

「君が努力をしていないとは思わない。まあ、あとはあくまで私の場合として聞いてね。

 私は強くない、強くなれなかった。だから自分が努力して強くなるよりも勝てる人を、勝てる状況を用意する方が効果的だと思うんだよ。だってボーダーは皆で街を守ってるんだからね。誰が、どんな形で勝っても街が守れるなら構わない。そういう考えだから、今まで部隊に所属したりせずにあれこれ手を出してきた。」

 

そんな考えを彼に伝える。その上ででもね、と続ける。

「勝たなきゃいけない、ていう瞬間は確かに存在すると思う。粘ろうと思っても力が足りなくて何も出来ないって場面だってあるだろう。初見殺しとかもあるしね。だから、強くなるのは絶対に無駄ではないよ。」

 

 脳裏に浮かぶのはイレギュラー(ゲート)から出現してきた爆撃型トリオン兵。もし狙撃の腕がもっと良ければ、モノアイを撃ち抜いて爆撃を許すことなく倒せたのではないか。そんな思いがないわけではないのだ。

 

「すぐにめちゃくちゃ強くなるなんてことはない。君はその段階をとっくに過ぎてるからね。でも君自身も、三輪隊も、ボーダーもまだまだ強くなる余地はある。どんな勝ち方を狙うかも含めて色々考えてみなよ、隊長さん。」

 はい、と静かに頷く彼は悩んではいるものの、その表情に苛立ちはなくなっていた。




 三輪君とのコミュニケーション。東隊にいた頃の狂犬のような姿も知っているので、独立して友達と隊を組んでいる今を全力で応援したくなる年上組は絶対多いと思う。

 遊真VS三輪隊の裏側。嵐山や柿崎がさっさと正隊員になっていく横で伸び悩んでいた時、迅からのアドバイスで開発中のトリガーテスターなどをやってた時期がある。周囲がどんどん強くなって隊を組んでいく中、アレコレ手を出して教え方や教わり方、師弟関係の重要さなどを学んだので後輩達の育成環境を整えようと必死である。迅からすればシノがいるとボーダー全体の育成能力に若干バフがかかる感じなので、そりゃそういう方向に誘導するよね。荒船メゾットの完成に期待してるし、協力も惜しまない姿勢。荒船がガンナーへの転向したら基礎技能を教えることを約束しているとか、してないとか。

榊さん
 エンジニアのおっちゃん。元々はオペレーターとしてボーダーに入ったがトリガー改造などに興味が湧いてきたので開発室に移ったという設定がある。オリキャラが佐崎、榊、東雲と無意識にサ行ばかりであるため筆者はサ行が好きなのかも知れない。


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7話

 三輪君とのお悩み相談会の後、私は毎日の通信室勤務に加えて戦闘員としての防衛任務や合同訓練、C級やB級に対してのアドバイザーボランティアなどをこなす日々を送っていた。迅君から空閑君が玉狛支部に入隊したこと、合わせて三雲君が転属することなどを聞いたが、なかなか会いに行く余裕もなく彼らとはチャットで軽く話す程度であった。

 

 それもそのはず、迅君から対人戦の練習しといた方がいいよー。なんて割と具体的なアドバイスを聞いていたからだ。どういうことか分からないが力不足で嘆くことは避けたい。最近サボり気味だったこともあり大慌てで友人達や仲の良い後輩達に声をかけ、珍しく毎日のようにランク戦ブースに通うことになったのだ。

 

 そんな日々を数日送り迎えた12月18日。昼間に遠征部隊─今回はトップ3部隊がネイバーフットに向かっていた。─が無事帰還したその日。迅君に夜まで准君と一緒にいるよう言われたので嵐山隊の隊室にお邪魔し、彼らのお仕事、新入隊員向けのオリエンテーションの用意などを手伝っていた。正直もう少し事情を聞きたいが、聞いたら良くない未来に向かう可能性があることも理解してはいる。その辺は友人の倫理観、道徳感を信じて待つことに決めていた。

 

「うーん、やっぱり嵐山隊が使ってるトリガー人気だねえ。まあ、メディア露出あるのがそれだけともいうんだけどさ。」

 

 見たことない武器には手を出しにくいよねえ、と言いながら現状提出されている新入隊員の使用トリガーを眺めていく。嵐山隊はスコーピオンに銃トリガーの組み合わせが多い為そのどちらかを使いたがる子が多いのだ。

 

「佐鳥もいますよー!?なんでスナイパー希望者少ないの…?」

「狙撃は難しそうってイメージがあるのかなあ。私は君のスタイル好きだよ。」

 

 真似はできないけど。と嘆く佐鳥君─嵐山隊のスナイパー─をフォローする。遠くの人でも助けられるからスナイパーというポジションを選んだ彼のことは本当に尊敬してる。ただツインスナイプは意味がわからないけど。

 

「佐鳥先輩、手を動かしてください。」

 木虎ちゃんが冷たく言う。うん、この感じはいつもの嵐山隊だ。

 

「シノ、ちょっといいか?シューター希望者向けのデモ映像を頼みたい

んだが…。」

「あれ、前に撮ったのだとダメだっけ?」

「ああ、トリオン量を平均値にして取り直した方がいいんじゃないかと思ってな。シノは結構多い方だからその辺合わせて撮り直して欲しくて。」

 

 それくらい良いよー。と准君の頼みに頷きトレーニングルームに向かおうとした、その時。

「嵐山隊長、忍田本部長からの通信です。」

 全員に聞いて欲しいとのことですが、どうしますか。オペレーターの綾辻ちゃんがそう問いかけたことで忙しくも和やかな時間は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。警戒区域を嵐山隊と共に駆ける。相手が強い事は良く知っているから正直結構緊張している。頼ってもらったのだから何とかその分の働きをしたいが、何も出来ずに落とされる可能性だって十分ある…。

 

「シノはいつも通り迅のサポートを頼む。俺達より迅に合わせる方が慣れているだろう?」

 

 シノのサポートは俺達がするから任せておけ。そう准君に言われるが、不安なものは不安である。普段の個人戦が真剣でなかったわけではないが、ここまで実戦での対人は初めて。緊張しないわけがなかった。

 

『ドンと任せておけば良いのさ、シノ。それともアタシ達が信じられないのかー?』

 

 そんな事ないよ、とオペレーターに入ってくれたののに応える。嵐山隊の戦闘員だけで4人いるのだ、綾辻ちゃんだけではキャパオーバーなので忍田本部長から今回の作戦の連絡が来た時に、たまたま本部にいたののに私のオペをお願いした。大丈夫、1人ではない。私にできる全力をしよう。そう心に決めてすぐ、向かい合う迅君と太刀川さん達が目に入った。

 

「嵐山隊、現着した。」

 見ればA 級1位から3位の太刀川隊、冬島隊、風間隊に7位の三輪隊とそうそうたる顔ぶれだ。ソロならこの中の誰にも勝てないかも知れない。

 

「忍田本部長の命により玉狛支部に加勢する!」

「忍田本部長派と手を組んだのか…!」

 太刀川さん達が驚いている間に迅君の半歩後ろに位置取る。いつも通り、サポートしやすい位置に。

 

「東雲さん、アンタまでなんで…!?」

 三輪君が切実な声で問いかけてくる。君はそんなに私の事を信頼していたのか。

 

「理由はまあ、色々あるよ。空閑君と実際に知り合ってその人柄を知った事とか、私の考える最善の形とか。でも1番は─友達の為かな。」

 

 忍田本部長からの連絡で知った事情を思い出す。空閑君がネイバーであり、ブラックトリガー─人の命を代償に作り出す強力なトリガーを持っていることを。その力だけでネイバーに対する考え方の違いから生まれた派閥のバランスが崩壊する可能性があるから城戸司令はこうやって強引に奪いに来たことを。でもそんな事より私を動かしたのは迅君が、友人が協力を求めてきたという点だった。

 

「友達の為!?そんなことの為でアンタはネイバーを庇うのか!?」

「そうだよ。君からしたらそんな事だろうけど、私はその為にボーダーにいるんだ。」

 きっとこの場で彼には理解してもらえない感情を、考えを言葉にする。そんなこの場では不毛な会話を断ち切るように迅君が口を開く。

 

「おれだって別に本部とケンカしたいわけじゃない。退いてくれると助かるんだけどな、太刀川さん。」

 まあ、退いてくれないんだろうなあとは思う。太刀川さん楽しそうな顔してるし。

 

「未来視のサイドエフェクトか。ここまで本気のお前は久々に見るな、面白い。」

 ほら、あのバトルジャンキーめちゃくちゃいい顔してるよ。

「お前の余地を、覆したくなった。」

 彼が弧月を抜くのを合図に全員が構える。交渉決裂だ。

「やれやれ、そう言うだろうなと思ったよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近距離型のアタッカーが一気に距離を詰めて来る。嵐山隊の面々と共に射撃で牽制するが、この程度高レベルのアタッカー達ならシールドと身のこなしで確実に距離を詰めて来る。

 

 一番最初に斬りかかってきたのは風間隊の2人─歌川君と菊池原君だ。どちらも風間隊のコンセプト通り軽量型のブレード、スコーピオンを使用している。

 

 斬りかかってきた菊池原君のブレードを厚く展開したサブのシールドで受け止め、ハウンドで応射する。流石に素早く躱されてしまうが距離は取れた。視界端に入った歌川くんは迅君にいなされ、受け太刀しようとして彼のブラックトリガー─風刃に叩き折られた。

 

『後ろ、ワープ!』

 ののが叫んだのに慌てて振り返りながら距離をあけようと必死に下がる。風間さんがスコーピオンを振りかざして踏み込んできていた。

 完璧に間合いに入られている。ギリギリで身を逸らすがとても避け切れない。右肩に刃が食い込む。

 

「ッ!?」

 迅君にカバーしてもらいながらそのまま両断されることを避け、転がる様に回避しながらスパイダーを起動、風間さんの身体と地面を繋ぐように展開する。追撃しようとしていた風間さんはスパイダーを避ける為に急停止する。

 

 火線が風間さんに集中して彼を下がらせる。ベストはスパイダーで動きを止めて嵐山隊のクロスファイア当てる事だったがまあ、そう上手くはいかないよな。私が普段スパイダー使ってるのは当然知られているし。

 

 見れば迅君と太刀川さんが鍔迫り合いをしているところへ菊池原君が斬りかかろうとしていたので左手の拳銃て早撃ちして彼のシールドを叩き割って下がらせる。弓場ちゃん仕込みの技術だ、当たれば結構痛いぞ。

 

 そこへ上からハウンドが雨のように降り注ぐ。出水君の援護射撃だと瞬時に理解してシールドを自分と迅君の上に展開、嵐山隊と合わせて少し後退したところに飛んできた狙撃は、迅君が視覚共有で指示してきた位置に集中シールドを展開して防ぐ。迅君の視覚情報と私の視界をリンクさせる事でピンポイントの防御などを指示してもらうことができるのだ。専用のシステムを栞ちゃんに組んでもらってはいるが、それでもののにめちゃくちゃ負担をかけている。

 

「冬島さんこっわ。」

「厄介だな。」

「向こうの方が前衛が厚いのも辛いですね。」

 

 此方の後退に合わせて太刀川さんが放った旋空を准君のメテオラで誤魔化し、距離を大きく離すことで仕切り直しとて、作戦会議をする。それにしてもトラッパーの冬島さんが怖すぎる。今日帰ってきたばかりでそこまでトラップ設置は出来ていないと思いたいが、ショートワープ1つ有るだけでだいぶ変わって来る。

 

 木虎ちゃんが言った前衛の厚さも問題だ。風間隊3人に太刀川さん、三輪君にどこかに隠れているだろう米谷君。弾幕は此方の方が厚いけれど、寄られて仕舞えば嵐山隊の面々もスコーピオンに切り替えざるおえない。弾幕張り続けて寄らせないように徹底しても、彼らの技術と冬島さんやスナイパー陣のサポートがあればどうしたって距離を詰められる。

 

「…次はこっちを分断しに来そうだな。」

『三輪君と出水君、アタッカー陣で分かれようですね。スナイパーはどちらに来るでしょうか。』

 綾辻ちゃんがレーダーから分析する。うーん、そうなるのかあ。

 

「どうする、迅。」

「別に問題ないよ。何人か嵐山達に担当してもらうだけでもかなり楽になる。」

 迅君はブラックトリガーで有るのでバックワームを使えない。必然的にマッチングを選ぶのは向こうになるのは厄介だな。

 

「うちの隊を足止めするなら多分三輪先輩達ですね。」

 嵐山隊の時枝君が理由と共に推測する。そのまま皆で意見を出し合い、作戦を立てていく。

「シノはおれのサポートを頼む。上手いことやれよ、嵐山。」

「そっちもな、迅、シノ。」

 私はちょっとカッコつけて無言で拳を突き出すと2人共応えてくれる。そうして私達は再び戦闘に飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び太刀川さん達と対峙する。見える範囲でいるのは風間隊の3人と太刀川さんという近接特化な面々だが、スナイパーが1人はいるだろうと予想は付く。未来視がある迅君はともかく、私が狙撃を完璧に躱すことは厳しい。射線が制限される立地だが、常に意識を割かなければならないのはかなりしんどいなあ。

 

『トラップの反応が幾つかある。ショートワープだと思うが警戒しとけよ!』

 

 相変わらず迅君の半歩後ろという、中距離サポーターにしてはかなり前にポジショニングする。彼から離されてアタッカーに寄られたら1人であっさり落とされるのが目に見えている。注意しなければならない。

 迅君に斬りかかってきた太刀川さんに半数、残りの半数は後ろで構えている風間さんに向かってハウンドを射出する。あっさりシールドで防がれ、躱されるがアタッカーをフリーにしないことが一番重要だ。フリーにしたら絶対間合いに入られる。

 

 此方に向かってきた菊池原君は再びシールドで防ぐ。彼の後退に合わせて降り注ぐ歌川くんの放ったアステロイドはメインのシールドで対応、何も動かず私を信頼してる迅君のこともカバーする。

 

 当たらないだろうことを覚悟しつつグラスホッパーを起動、踏ませて接近してきた太刀川さんの体勢を崩そうとするが軽々躱される。アタッカー2人くらいなら同時だろうと迅君が絶対に対応してくれる。それくらい強い事はよく知ってるから、安心して前衛は任せる。

 

 視界に赤いポイントが出現する。躊躇いなく迅君から共有されたそのポイントに集中シールドを展開、狙撃を止める。迅君を狙ったもう一撃は本人が首を捻って余裕で躱している。3射目がないのは当真君はこっちにいないのか、それとも当たらないなら撃たないという彼の信念に基づいてのものか。まだ警戒は怠れないが、射線が見えたチャンスは逃さない。アタッカー陣から迅君に庇ってもらいながら彼の背後でライトニングを起動、ののが送ってくれる情報を元に狙いをつける。

 

 三輪隊のスナイパー、古寺君の心臓を狙うが、腕に着弾する。まあ構わない、ガンナーやスナイパーに共通するが腕の欠損はそのまま戦闘不能を意味する。古寺君、他のトリガー使ってないはずだし、片手で撃てるほどの変態技量もまだないはずだ。ほぼ無力化したと思っていいだろう。

 

 アタッカーが此方を囲もうとする素振りを見せるとすぐに2人で後退する。時間稼ぎに徹することは作戦会議で伝えられていた。だから落とされない事に重点を置く。向こうの想定した戦闘域から外れられれば冬島さんのサポートもなくなる。

 迅君が相手のアタッカーに、相手のアタッカーは私に切り傷を与えていく。ジリジリと損耗していく事に焦りはあるが、人よりはトリオンに余裕がある。まだ平気だ。

 

「随分と大人しいな、迅。昔の方がまだプレッシャーがあったぞ。」

 太刀川さんが揺さぶりをかけて来る。流石に違和感はあるみたいだ。

 

「まともに戦う気なんてないんですよ。この人は単なる時間稼ぎ、今頃玉狛の連中がネイバーを逃しているんだ。」

 菊池原君が言う。まあ、そう思ってもおかしくはない消極性だ。迅君はブラックトリガーである風刃をただのブレードとしてしか使ってないし、トリオンを温存しているようにしか見えないだろう。

 

「いいや、迅達は予知を使って守りに徹しながら、此方のトリオンを確実に削っている。」

 気付かれた、と思った。

 

「こいつらの狙いは俺たちをトリオン切れで撤退させる事だ。」

冷静に此方の作戦を見破ってくるあたり流石だなあ、風間さん。私はライトニングを解除して覚悟を決める。こっからは向こうも様子見はやめるだろう。

 

「なるほど、あくまで俺たちを帰らせる気か。「撃破」よりも「撤退」の方が本部との摩擦が少なくて済む。」

 戦闘になるとホント頭回りますよね、太刀川さん。じゃなきゃアタッカー1位な訳ないけど。

 

 戦闘中に後始末の心配とは大した余裕だな、と風間さんに言われる。

「いやですね、全面戦争なんてごめんだから勝ち方考えてるんですよ。余裕がないから頭使って戦ってるんです。」

 私が頑張ってあちこち協力関係築いてきたのに無駄にされたらたまりませんからね。そう風間さんに返すが、風間さんの言う余裕と私の言う余裕は視点が、見てる点が違うのだということは分かっている。それでもこれが私と迅君が最善だと考えた戦い方なのだ。

 

「やっぱりこの人達は無視して玉狛に直行しましょうよ。」

 菊池原君がそう提案する。目標はブラックトリガーなのだから、私達を追い回してもムダだと。

「確かにこのまま戦ってても埒が明かないな。玉狛に向かおう。」

 埒が明かないままが良かったんだけどなあ…!

「…やれやれ。やっぱこうなるか。」

「!!」

 

 迅君が斬撃を壁面に伝播させる。ギリギリで反応を見せた風間さんと太刀川さんにハウンドを展開されるであろうシールドを割る気で集中させて放つ。

 壁から出現した斬撃によって菊池原君の首が宙を舞い、ベイルアウト。私の弾丸は風間さんのシールドを破り左腕を欠損させる。贅沢を言えば弧月使いの太刀川さんの腕の方が欲しかったかなあ…!

 

「出たな、風刃。」

 

 周囲に光の帯が出現した風刃を目にしても動揺しない隊長2人に気を引き締める。1人と片腕分有利になったところでまだスナイパーもトラッパーも健在。何も油断できない。

「仕方ない。プランBだ。」

 迅君の言葉に頷き、位置関係を確認する。さあ、戦闘再開だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二ラウンド開始と言わんばかりに太刀川さんの猛攻が始まった。旋空でぶった切られないように視界には捉えつつ、私の対応すべき相手─透明化トリガーであるカメレオンを使い始めた風間さんと歌川君に探知誘導でハウンドを放つ。風間さんは先程の負傷からトリオンが漏れているのが見えるのも大きい。ののにサポートしてもらいながら目に見えない相手に向かって弾幕を維持する。しかし風間さんが素早く判断しカメレオンを解除、シールドを展開して自身と歌川君を守る。流石にいい連携だな!

 

『囲まれるぞ!』

 

 ののが警告してくれるので立ち位置を2人で後退する。瞬間、戦闘している道路の奥からマズルフラッシュが見えたので反射的に集中シールドを展開する。まあ、弱い方から落とすよねー!

 

 そんなふうに狙われつつもギリギリで粘りながら私達は後退を続ける。もう少し壁に囲まれた空間まで行ければ、風刃が有利に立ち回れる条件が揃うんだけどなあ!

 

 だがそうそう此方に有利なポジションまで移動させてはくれない。太刀川さんはもう迅君に任せて、ずっと歌川君が不意打ち狙って来るのを必死に交わしながらどうにか反撃で負傷させようとするが風間さんが完璧なカバーに入ってくる。なんだったらそのままカウンター決められそうになるのを迅君にカバーして貰いつつ、時折飛んでくる精密狙撃ちは集中シールドでどうにか対応する。そうやってなんとか私がフリーになった瞬間だった。

 

 突然、迅君が私にシールドのポイントを指示するので展開、太刀川さんのブレードを割れかけながら止める。その瞬間、隙ありと見たのか私に斬りかかる為に姿を現した歌川君に風刃のブレードが地面を伝播、彼を真っ二つにする。

「今です!」

 ベイルアウトしながら彼が叫ぶ。視界端のレーダーに急にショートワープの反応が出る。

 迅君の背後から狙撃が飛んでくる。彼の心臓部目掛けて。

「ッ!?」

 

 射線が彼の視界から外れてるばかりか、距離が近い。2枚抜きされる覚悟で太刀川さんも動いている今、私が防がなきゃ迅君が落ちる!集中シールドを迅君の背後に展開、彼への狙撃を防ぐがその隙に風間さんに足を落とされる。これは間に合わないな。

 

 恐らく三輪隊の奈良坂君だろう、その正確な2射目が私に向かって来る中、迅君が鍔迫り合いから強引に距離を離しただろう太刀川さんと私を置いて迅君に向かう風間さんの背後あたりに()()()()()を展開する。

 ここでベイルアウトするならトリオン残量は関係ない。使い切るつもりで幾つものエスクードを地面から生やし、壁に囲まれた空間を強引に作り出す。

 次の瞬間、私は頭を撃ち抜かれてベイルアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベイルアウト用マットに背中から落ちる。作戦開始前に弓場隊の空いているそこに登録させてもらっていた私は慌てて体を起こし、ののが操作しているモニターを後ろから覗き込む。戦闘は、終了していた。

 風間さんと太刀川さんは恐らくエスクードに伝播させた背後からの風刃の斬撃でベイルアウト、現在残っているのは奈良坂君と冬島さんだけであり、未来視持ちの迅君に2人だけで命中させるのは至難の業なので戦闘終了といったところだろうか。

「嵐山達の方も佐鳥が決めて、勝敗はついてる。お疲れ様、シノ。」

「うん、ありがと。のの。おかげで助かったよ。」

 でも最善ではなかったかもなあとちょっと思う。あのまま消耗戦で撤退の方が色々良かったのではないか。そんな考えがずっと頭に残っている。

 

「これ以上はなかった。」

 ののに強い口調で言われる。そう、ののが正しい。今の私の実力でこれ以上はなかった。空閑君は守れたし、ボーダーと彼が敵対関係になる事もこのまま行けばない。最悪は避けたのだ。嘆くのは勝手だか、その事を無かった事にするのは仲間達に失礼だろう。

『そうよ。これで最善じゃないとか、私達の部隊のこと弱く見られてるみたいで不快だわ。』

 いつの間にか蓮ちゃん─三輪隊オペレーターの同級生─から個人通信が繋がっている。戦闘相手からすぐに連絡が来るがまあ、そこまでネイバーに強い憎しみがない限り、一般隊員にとって派閥争いなんてこんなものである。

「そうだね、蓮ちゃん、のの。ごめん。それとありがとう、みんな全力でやってくれて。」

 お礼を言うとののが拳を突き出して来たのでコツンッと合わせて私はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議室にまでの通り道にあるベンチに座ってホットコーヒーを飲む。先程迅君が、ちょっと取引して来るわ〜。と会議室に乱入して行ったのを見送ったところだった。しばらくすると何やら不満げな表情の風間さんと太刀川さんがやってきた。取り敢えず会釈しておく。

「よお、シノ。やってくれたな。」

「そっちこそ、見事撃ち抜いてくれたじゃないですか。」

 蓮ちゃんの作戦でしょう?アレ。と尋ねると太刀川さんはそうそう、アレで決めるつもりだったのによー。なんて返して来る。

「エスクードを入れて来るとは予想外だったな。」

 今度は風間さんに言われる。アレなー。

「実は昔から迅君と組む時は割と使ってたんですよ。風刃と相性良いからって。」

そもそも風刃使うようになってから迅君と組んでの戦闘がそんなになかったですけどね。そんな事をぶっちゃける。一度見られてしまったならもう隠す必要もない。本来は味方だし。

そんな雑談をしていると会議が終わったのだろう、迅君がぼんち揚食べながら此方に向かって歩いて来た。

「よう、ぼんち揚食う?」

そんないつも通りの会話の筈だった。太刀川さんの一言を聞くまでは。

 

「…まったくお前は意味不明だな。何あっさり風刃渡してんだよ。」

 時間が止まる。どうして、なんで。だってそれは。

「ブラックトリガー奪取の指令は解除された…。風刃を手放す気があったなら最初からそうすれば良かっただろう。」

「昨日の段階じゃ風刃に箔が足りなかったと思うよ。」

 会話が続いているがそれどころじゃない。君がそれを手放すなんて、そんな事。

「そうやって風刃を売ってまでネイバーをボーダーに入れる目的は何だ?何を企んでいる?」

「玉狛に新しく入った遊真ってのが結構ハードな人生送っててさ。おれはあいつに「楽しい時間」を作ってやりたいんだ。おれは太刀川さん達とバチバチやり合っていた頃が最高に楽しかったからな。」

 知ってる。ずっと見て来たんだから。それに風刃の価値だって、取引の意味だって理解してる。それでも。

「いまいち理解できないな。そんな理由で、争奪戦であれだけ執着していたブラックトリガーを…。あれはおまえの師匠の形見だろう?」

「形見を手放したくらいで最上さんは怒んないよ。むしろボーダー同士のケンカが収まって喜んでるだろ。」

 

「君は、どうなの…!」

 いつの間にか私は立ち上がっていた。だってそうだろう、君がどれだけ必死でその形見を勝ち取ったのか私は見てた。

「最上さんは怒らないかもしれない、でも君は?ボーダー同士のケンカなんてもので手放して良いものじゃないでしょ!?」

「遊真の、可愛い後輩の為だから別に惜しくないよ。」

 その言葉に、その表情に何も言えないまま手を握りしめる。笑って、いつもみたいに余裕そうで、なのに寂しそうなその瞳に。

 

「…強くなるよ、私。」

「シノ。」

「友達にそんな顔させるのを最善なんて言いたくないから。」

 これだけは譲らない、譲れない。私は友達が辛そうなのを放って置けるような性格してないから。

 その決意だけ伝えて私は踵を返す。この場で何もできない事が悔しかった。




 今回、補助で使っていたシステムはシノと迅の位置座標と視覚情報をリアルタイムでリンクさせるものです。イメージとしてはfpsゲームでピン刺して共有するのの自由度が高い版な感じ。リアルタイムでの大量の情報処理が発生するので戦闘員側もオペレーター側もかなりの処理能力を食われるような代物で、オペレーター1人につき戦闘員2人が限界です。

 冬島さんが加わったのに対してシノと藤丸の2人でなんとか拮抗できたかなあという戦力想定で書きました。原作だと迅はここの戦闘、ほぼオペレーターの支援なしなのやばいな。今回は準備時間が足りなかった(昼間に堂々とやると玉狛側にバレる可能性がある)ことと迅が戦闘位置を選んだことでトラップがかなり少なかったという設定でショートワープのみの描写にしました。そろそろA級ランク戦が見たい欲が…。トラッパーの詳細が待たれる。

 シノが慣れているのは臨時部隊での戦闘なので、フルメンバー揃っている嵐山隊に合わせる経験はほぼない&あんまり意味がないので迅のサポーターになりました。アタッカー勢を迅に止めてもらえなかったら一瞬で落とされてた模様。中距離の射撃戦が得意ではあるが、出水相手だと技術とトリガー構成で押されるかなあ…。人数差もあってフルアタさせられなかったので結構描写が押され気味になりました。本当は弓場ちゃんに習った早撃ちでシールド割って決めにいったりとか考えてたんですが、アタッカー勢の人数と技量考えたらとても無理だったのでサポートに全振りさせました。

トリガーセット(黒トリ争奪戦)

メイン
・ハウンド
・スパイダー
・ライトニング
・シールド

サブ
・アステロイド(拳銃)
・グラスホッパー
・エスクード
・シールド


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8話

 強くなるとは言ったものの。覚え始めなどで急激にレベルアップする時期はもう過ぎてしまっているわけで、シフトの合間にコツコツ個人戦をこなす日々が続いていた。

 

 通信室勤務以外にもやる事とやりたい事は山程ある。この前の争奪戦で中断されてしまった新入隊員向けのオリエンテーションの準備、C級隊員向けのアドバイザー、B級も参加できるポジションごとの勉強会の企画、そしてトリガーテスト。

 もう本部に泊まり込んでしまおうかと思ったが、両親のことを考えると出来るだけ帰りたかった。この辺の感覚は家族、特に弟と妹を溺愛している准君の影響が大きかった。あんなに幸せそうな様子見ると流石に影響されるよ。

 

 そんなこんなで今日はトリガーテストの日。朝から開発室に向かい、いつも通り声をかける。

 

「すみませーん、東雲です。誰か起きてますかー?」

 おー、と疲れた声が返って来る。なんでエンジニアっていつも疲れてるんだろうか。

 

「シノちゃん今日はよろしくねー。」

 今日は起きていた榊さんがこっちこっちと手招きしてくれてるので早速そちらへ向かうと、ほいコレとトリガーホルダーを渡される。

 

「今日は仮想戦闘ですか?それとも起動?」

「実際に起動してみてくれる?それでトリオン供給システムに不具合出ないかチェックしたいから。」

 はーい。了解です、なんで軽く返事を返す。

 

「じゃあこのまま屋上でスナイパーとシュータートリガー使ってみて。こっちでモニターしながら細かい指示出すから。」

 言われた通り基地の屋上に向かい、テストの準備を行う。今榊さんが中心になって作っているのは拠点防衛用の特殊トリガーだ。

 

 このトリガー、”防衛用トリガー”とでも言うべきそれは簡単に言うと本部基地等に貯蔵されたトリオンを使用できるトリガーだ。今までの防衛装置はコンピュータ制御が殆どでオペレーターが管制するものだったが、戦闘のプロじゃないオペレーターが扱うよりも戦闘員がその膨大な貯蔵トリオンを使うのが効果的ではないかと言う発想によるものだった。

 今のところトリオン量にものを言わせてイーグレットとアイビスの特徴を両立させた狙撃銃とサラマンダーの特徴を持ったシュータートリガーが実用段階一歩手前まで来ている。オペレーターにがっつりサポートしてもらう前提だが、個人的な所感として高火力の攻撃を自由に放てるのは結構良さげである。

 既存の固定砲台はどうしても射角があるし、火力の調整もできないからなあ。弾幕張るにはいいけど柔軟に対応するならこっちの方が適しているだろうと榊さんは言っている。

 

「屋上、トリオン供給口着きました。何からやります?」

 目の前には本部の地下にある貯蔵庫に繋がっている機材がある。屋上に複設置してあるこの機材に専用トリガーのトリオン体で触れて接続すればオーケーと言うわけだ。ちなみに通常のトリガーだと臨時接続で大量のトリオンが移動するのに耐えられないので不具合が出てしまう。

 

『取り敢えずスナイパーの方から行こうか。あ、建物に当てないでよ?』

 わかってますよ、と応えて準備する。

「それじゃあトリガー起動します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一通りテストを終え、データを取っていたエンジニアの皆さんに所感を伝えると今日の仕事は終わりとなる。テストの日はトリオン能力に影響があるかもしれないので基本的に他のシフトは入れないようにしているのだ。

 

 久しぶりに時間がたっぷりあるしC級のブースに顔出してから個人戦やろうかなあ、なんて思っていると蓮ちゃんから個人チャットで連絡が飛んで来る。何やら隊室に来て欲しいとのことだったので良いよー、と返して早速向かうことにする。

 

「東雲です。蓮ちゃんに呼ばれて来ました。」

 ノックをして中から蓮ちゃんの返事を待つ。すぐにどうぞと言う声と共に扉が開けられる。中には蓮ちゃんのほかに休日で早くから本部に来ていたのだろう、三輪君がいた。そういえば、三輪君に会うのはあの夜以来だ。

 

 呼ばれたからきたよー、どうしたの?と軽く尋ねる。蓮ちゃんの答えは予想外のものだった。

 

「三輪君に貴方がボーダーにいる理由をちゃんと話してあげて頂戴。」

 今度は時間あるからしっかり伝えてあげて。と言われ驚く。三輪君の方を見れば何やら真剣で、悩んでいる様子だった。

 

「構わないけどなんで蓮ちゃんわざわざ…。」

「あら、隊長が悩んでいるならそれを助けるのが隊の仲間でしょう?」

 

 それはそうか。良いオペレーターだね、なんて言いながら三輪君に向き合うように座る。が、何と切り出したものか。しばらく静寂が流れる。

 

「…三輪君に納得してもらおうとか共感してもらおうは思わない。戦う理由も価値観も人それぞれだから。ただ、君が何か引っかかっているならそれは解消したいからね。んー、何から話せば良いかなあ。」

「…東雲さんは、友達の為にボーダーにいると言いました。それは迅の為ですか?」

 

 三輪君のその問いかけに出来るだけ誠実に応えようと言葉をゆっくり選ぶ。

「迅君だけじゃないかな。蓮ちゃんだってそうだし、ボーダー全員が友達…とはいえないけど、まあ知り合いにあんまり辛い思いはして欲しくはない。特に仲の良い友達には。私の根底にあるのはそう言う思いだよ。」

 今回は君に辛い思いをさせる結果になってしまったようだからダメダメだけどね。そんなふうに付け加える。

「でも東雲さんもネイバーに家族を傷つけられたんだろう!?何でネイバーの味方なんかできるんだ!」

 

 ああ、やっぱりそこか。4年半前の光景が蘇る。私を突き飛ばして逃したせいで瓦礫に押し潰される母、駆け寄ろうとする私を引き摺ってでも逃がそうとする父、そんなこと関係なく襲ってくるトリオン兵。そうだよね、憎いよね。でもね。

 

「ネイバーも人それぞれって先に迅君から聞いちゃったからなあ。私達と同じで良い奴も悪い奴もいる。それを知った上で空閑君と出会って、敵意が無い事を知った。なんだったらイレギュラー(ゲート)の時に助けてもらった。だから私が味方したのは空閑君であって、ネイバーじゃない。」

「何で信じられるですか…!裏切るかも知れない、敵意を隠しているかも知れないでしょう?」

 それを言われちゃうと、結構痛いなあ。納得しなくて良いからね。そう前置きをする。

 

「迅君がそれが最善って言ったから。盲信するわけじゃないけれど、彼が最悪を見逃すようならこの世界はとっくに滅んでいるよ。」

 

 納得いかなそうな表情の彼に理解してもらう為に言葉を続ける。折り合いをつけなければきっと先に進めないだろうから。

「私ね、4年半前旧ボーダーの人に、迅君に命を救ってもらったんだ。それから暫くは彼のこと神様かヒーローみたいに思ってたよ、絶望してたところから救い出してもらったんだから。でもね、1年くらい経った後だったかなあ。」

 

─彼が神様じゃないって突きつけられちゃった。

 

「防衛任務明けの早朝だったかな。いきなり迅君が走り出してさ、道路に飛び出して居眠り運転に轢かれそうになってた人を助けたんだ。轢かれそうになってた人はなんとか無傷、当然お礼を言われたよ。」

 

けれど、と言葉を続ける。

「運転手は電柱に激突、重症だった。救急車を呼んで、警察も来て誰もが死者が出なくて幸いだったって言う中、迅君は辛そうな表情してたんだ。まるでその未来しか選べなかった自分のせいだって言うように。私が見た彼はね、常に最善でみんなを救える神様やヒーローなんかじゃなくて、足掻いてそれでも救えないものに苦しむただの人だった。」

 

 あの朝を、東雲から覗く朝日が照らす彼の表情を私は一生忘れない。勝手に神様のようだと思い込んで、彼がいれば大丈夫なんて安心して。私はその足掻きも苦しみも知らなかった。

 

「迅君は自分が取りこぼしたものに苦しむ人だ、最善を尽くしてそれでも手が届かない人がいる事を自分のせいだって思う人なんだ。」

 

 傲慢でしょ?と問いかけると渋々と頷かれる。そうだよね、でも。

「人の不幸を減らそうと、最善を選ぼうとして悩む彼の倫理観を、道徳観を私は信じてる。別に私の考えに納得しなくて良い、好ましく思わなくても良い。けどね、彼が最善だと考える未来は君にとって最悪でないことが多いと思うよ。」

 

 私はそんな色々抱え込んでる友達に笑っていて欲しいなあって思ってる。それだけ。そう話し終えると三輪君はまだすっきりしてないような、でも先ほどの訳が分からないという顔ではなかった。

 

「東雲さんは迅に恩返しがしたいってことですか?」

「違う違う。友達や知り合いが辛そうな顔してるの無視して自分が幸せになれないっていうだけ。我儘だよ。」

 三輪君だって米谷君達が何か困ってたりしんどそうなのを放っておくの気分良くないでしょ、それと同じ。そう言うとその動機はまだ理解できるようで、納得の色が浮かんでいる。

 

「何度も言ってるように納得しなくて良いよ、価値観なんて人それぞれなんだからさ。ただ私や迅君の行動が君にとってデメリットばかりじゃないって事は分かって欲しい。じゃないと今回のこととか折り合いが付けにくいと思うからさ。」

 

 私に話せるのはこんなところかな。またこういう話でも、関係ないことでも気軽に連絡してくれて良いからね。そう言って蓮ちゃんにあとはお願いね、と目で伝え隊室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また別の日、私は玉狛支部を訪れていた。京介君からヘルプの連絡が来たのである。何やら彼の弟子になった三雲君がシューターを目指すので基礎を教えて欲しいとのことだった。

 

「それで師匠の京介君に確認するけど、私が教えるのはシューターの基礎でいいのかな?」

 師匠の指導方針に従うよ。と京介君と三雲君に向き合ってソファーで話し合う。三雲君の戦い方に口出しするわけにはいかないからね。

 

「修は戦うっていうイメージがそもそも余り湧かないようなので、基本的な動きを見せてくれると助かります。弾丸の分割とか調整に関しては俺でも分かるので実践で具体的にどう使うかを教えてやってください。」

「なるほど、じゃあ同じトリガーセット使って私が戦って見せようか。相手はトリオン兵?それともランク戦を想定する?」

 

 確か三雲君はレイガストを使った防御型のシューターって形だったはず。私でもそこそこの動きを見せることが出来るだろう。

「まずはトリオン兵でお願いします。対人戦はその後何本かログ残しておいてもらう形でお願いします。」

 オッケー、早速始めよっか。というと2人と共にトレーニングルームへ向かった。

 

 普段実戦で使ってこそないが、開発中のレイガストとスナイパー各種のトリガーテスターを務めてきたのだ、トリオン兵相手に負けるようなことは無い。

 レイガストで受けてアステロイドでトドメを刺すパターンや、反対にアステロイドで動きを止めてレイガストとスラスターでトドメを刺すパターンなど意識して様々な戦い方を、ゆっくりわかりやすく見せた。ログも残るしこれなら参考になるだろう。

 

 一通りやってみせ、三雲君の質問などに答えると彼の動きは明らかに良くなった。まあ、まだまだ判断が遅かったりそもそもの動きが固かったりするが、どこまで強くなるかはこれからの彼の頑張り次第でもある。

「良い弟子だね。才能があるわけじゃ無いけど努力家だし良く考えてる。」

 京介君にそう言うと彼も頷く。頑張れよ、師匠!

 

 その後、良い機会だから遊真君と小南ちゃんの模擬戦祭りに少し混ぜてもらうことにする。2人とも強すぎないか?

 

「シノノメさんは部隊に入ってないんだよな?」

「そうだねー、なんだかんだ入ったことないや。あとシノで良いよ、言いにくいでしょ。」

 それじゃシノさんで。そう呼んでくれる空閑君とは結構打ち解けられた気がする。

 

「部隊に入ったことないなら、シノさんは遠征には興味ないの?」

「そう言うわけじゃないんだけど、たまたま機会がなかったって感じかな。」

 私が1番活躍できるのは個人や部隊の戦力としてじゃないみたいだって迅君に言われてねえ、人に教えたり師匠と弟子引き合わせたり、”ボーダー”が強くなれるように色々頑張ってきたんだよ、なんて話す。

 

「なるほど…?シノさんは迅さんのこと凄い信用してるんだな。」

「そりゃまあ、友達だからね。喧嘩でもしてなければ悪意のあるアドバイスはされないと思ってるよ。」

 

 ねえ、今度は私が色々聞いてもいい?向こうの世界ってどんな感じ?と尋ねると彼は色々教えてくれた。私の知る日本とは全く異なる、でも確かに私達と同じような人が生きている世界について。

 

「シノさんは嘘付かないな。」

 オレ、サイドエフェクトで分かるんだ。暫く話してからそんな事を言われて、彼の警戒心が解けるのがやけに早かった事に納得がいった。嘘を付かれてるかもって疑う必要がないならそりゃそうなる。

 

「必要があれば私だって嘘付くよ。あと、嘘はつかなくてもそもそも黙ってるとか誤魔化すとかはするだろうし。まあでも、君が生きてきた世界に比べればまだ、この国は嘘をつく必要が少ないのかも知れない。その上でそのサイドエフェクトは便利かも知れないけど大変だね。」

「大変だって思うのか。」

 

 ためらいなくうん、と頷く。

「サイドエフェクトで色々抱え込んでる人を知ってるからね。良いことばかりだとはあんまり思えないなあ。」

 

  そんな事を話しながら彼らとの模擬戦を繰り返す。ちなみに結果はボロボロだった、特に小南ちゃん相手は。シールド普通に割ってくるのは止めてくれ。




 東雲縁連が忘れられない朝は2つあります。人に理想像を勝手に押し付けていたことに気付いた瞬間と、友達として対等でいようと約束した瞬間。きっかけは迅でしたが、嵐山は広報もやっててすごいなぁとか月見さんは戦術も学んでてどんどん強くなってくなあなんて憧れては、どこかでその努力や苦悩を突きつけられる瞬間があったでしょう。イコさんとか弓場ちゃんにもそういうことがあったかも知れない。柿崎さんとはみんな凄いね、なんて言い合っては一緒に頑張ろうなんて励まし合ってきたかも知れない。友達と同じ分野ではきっと勝てないと思っていじけてたところを迅にアドバイスもらったり、友達に背中を押されてテスターなどに手を出して、ようやく自分がやってきた事に自信を持てるようになった人。そんな主人公です。

 ひとまず彼女が本編のような人になるまでのきっかけが描けたので満足しました。基本的に友達は皆凄いと思っていて憧れてたところに、その努力や苦悩を叩きつけられて、少しでも力になりたいと願うようになった。こんな主人公で今後面白くなるのか、とか暫く悩むつもりです。そもそも大規模侵攻書くの凄い難しいですし。多分続きを書くとしてもだいぶ期間が開くと思います。


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閑話①

 主人公のイメージが自分でもまだ固まってないので幾つか小話を書いてみる事にしました。今回かなり短いです。結局あんまり固まらなかったな…。


「「誕生日おめでとうー!」」

 ボーダー基地内、ラウンジの一角。9人もの人間が集まり、ホールケーキが置かれたテーブルを囲んでいる。ケーキには蝋燭が立っており、火が揺らめいていた。

 早く火ィ消せよ、一気に行けよなー、なんて声がかけられる中私─東雲縁連は息を大きく吸い、蝋燭の火を一気に吹き消した。今日は私の誕生日。共に過ごすことの多いボーダーに所属している同級生達が簡単なパーティを開いてくれていた。

 

 ケーキを切り分け、早速食べ始める。皿とフォークはしっかり準備したのに、誰も包丁の類を用意してなかったのでスコーピオンで代用したのは余談である。誰も気づかなかったの?ライターは気づいたんだけどなあ、なんて笑い合いながら、ワイワイと騒ぎながら食べていればあっという間に皿の上は空っぽになっていた。9人もいて、しかもその半分が男子高校生となれば当然である。ケーキは結構良い値段しそうな味だったし、何より隊長を務めたり、ボーダーで主戦力を務めていて忙しい友人達がこうして時間を作ってくれていることから皆がなんだかんだ準備していたことが伺える。そのことが1番嬉しかった。

 

「ホントにありがとう。」

「ええねん、俺らも美味いもん食えたしな。」

 次の誕生日誰やっけ?またその時はケーキを食べれるわね、なんて茶化しながらテーブルの上を片付け始める。本当はもっと皆で過ごしていたかったが、これから防衛任務が入っているメンバーもいる。あんまりゆっくりはしてられなかった。その事を少し残念に思いつつ、だがテキパキと皿などを片付けてしまった。ちょっとでも長く皆と駄弁っていたかった。

 それからは暫く9人で騒いだ。学校でのことや最近あったランク戦、流行りの音楽やニュースについて。話題が尽きる前に用意されていたジュースなどのペットボトルもすっかり無くなってしまうとと、急に蓮ちゃんがちょっとトリガーを貸して頂戴と言い出した。

「?良いけど、何するの?」

「まあちょっと待ってなさい。」

な 羽矢ちゃんがそう言いながら何やらボーダー用のノートパソコンを取り出すとトリガーに接続している。友人達の顔を見回せば何か知っているようにニヤニヤしている。一体なんなのさ、全く。

 

 はい、終わったわよ。と羽矢ちゃんからトリガーを受け取る。外側には特に変化はないようだ。トリガーホルダーをひっくり返して確かめるが変なところは無さそうである。

「トリガー起動してみろよ。」

 ニヤニヤするザキ君に言われてえー?何かしたでしょ、絶対。と言い返す。口々に皆がそんなことないよー、いいから早く早く、と急かされ期待の目で見つめられる。

「大丈夫よ、変なことは何もしてないから。」

 羽矢ちゃんにそう言われて仕方ないなあー。とトリガーを握り込む。多少の悪ふざけがあったとしてもそんな悪意があるものではないだろうし、まあいっか。

「トリガー起動。」

 いつも通りトリオン体に換装される。が、その服装は驚く事にいつもとは異なっていた。

 

 深青色とでも表現すればいいのか、濃く、でもどこか透明感のある美しい青に黄色の細いラインが入ったジャージスタイルの上着。ズボンは上半身が暗めだからか対照的に明るく、もはや白に近いグレーで足元はコンバットブーツ。全体的なデザインは嵐山隊や迅君の隊服の色違いって感じだろうか。スッキリとしたデザインである。

「えっ!?何コレ!?」

「シノ、ずっと部隊に入ってないから隊服ないだろ。だからオレらからのプレゼントだァ。」

 といっても主に頑張ったのは橘高だがなと弓場ちゃんが説明してくれる。思わず羽矢ちゃんを見ればどこか満足げに頷いている姿があった。

「うん、似合ってるわ。」

「アイデアは皆で出し合ったのよ?」

 特に色はアタシだな、シノ結構そういう青好きだろ?と女性陣に言われ少し呆然としつつ頷く。夜明け前の空の様なこういう青は印象に残っているので確かに好きである。

 

「ありがとう。ホント、めちゃくちゃ、嬉しい。」

 どうやってこの気持ちを表現すれば良いか分からず、言葉を選ぶ様に紡ぐ。ああ、幸せだ。私は本当に友達に恵まれている。

 嬉しくて暫くボーダー基地内でずっとトリオン体で過ごす様になったのは秘密、のつもりだったが後日皆には普通にバレていた事が発覚した。それどころか後輩達から「新しい隊服良いっすね」とニヤニヤ言われてしまう始末。私そんなに分かりやすかっただろうか…。

 




 とある日の19歳組達。入隊時期が分からないので何歳の誕生日かは不明な模様。初めは正隊員昇格祝いという形で書いてたんですが、設立時入隊のシノが昇格するのがどんなに遅かったとしても、スカウト組のイコさんがいたかが怪しいので誕生祝いに慌てて変更しました。


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閑話②

 今回は戦闘描写の練習を兼ねての小話です。前よりはキャラの解像度が上がって来たかなあ…?


 左手の拳銃を向けようとして、目の前に迫ってきた弧月に対して慌ててシールドを張る。何とか止められたと思ったら相手はシールドで止められた反動で今度は下から切り上げる様に弧月が振る。シールドをメイントリガーに切り替えてそれを防ぎながらサブの拳銃の引き金を引くが、相手も銃口をよく見て集中シールドでしっかり止めてくる。

 だが、何とか距離を空ける事に成功した。メイントリガーのハウンドを起動し半数は直線、残りは散らして回り込む様に放つ。

 

 相手もこのままだとフルアタックされると分かっているのだろう、此方がハウンドを起動した時点でアサルトライフルを起動、射撃戦に切り替えている。そのままバックステップでどんどんと距離を空けられ、拳銃の射程圏内から出られてしまう。

 シューターとガンナーでは射程ボーナスや発射時の手間などから基本的に正面からの撃ち合いはシューターが不利だ。仕方なく建物で射線を切りバッグワームを起動、隠れ合いを始めた。

 

 ここは柿崎隊の訓練室で作り上げた市街地フィールド。ザキ君から次のランク戦の対戦相手にシューターがいるという事で対策を兼ねて個人戦をしないか、と誘われたので1対1の真剣勝負をしていた。

 

 ライトニングを起動しようか、と一瞬考えてすぐにやめる。トリガー構成を知られているのだ、狙撃は絶対に警戒されている。隠れ合いをしながらオペレーターも無しに適切な狙撃ポイントを探して、更に警戒している相手に当てられるとは思えなかった。それよりは隙を見つけてフルアタックを狙いに行きたい。

 

 相手もバッグワームを使っているのだろう、お互いの位置は分からない。だがザキ君はグラスホッパーなどは持っていないはずだからあんまり長距離を素早く移動できないはずだ。こっそり距離を詰めての建物越し旋空弧月とかされるのが現状1番怖いか。

 

 いつの間にか真っ二つにされることを避ける為、裏路地から建物の非常階段を駆け上がり高度を取っておく。そのまま屋上に飛び上がり、路地にいるであろうザキ君を上から探す。どうにか先に見つけたいところだが…。

 

 路地を見下ろしながら建物の上を移動していると背後にレーダー反応が急に現れる。えっ、と此方もバッグワームを解除して振り返りながらシールドで全身をカバー出来るよう張る。見ればペントハウスを切り裂いて迫る旋空弧月。

 横に薙ぎ払うような一閃は当然のように広げたシールドを割ってくる。私はギリギリのところでグラスホッパーを踏み、斜め後方に飛び上がったが間に合わず、両足を切断される。それを見てザキ君がそのまま勝負を決めに来た。

 

「っにゃろ!」

 足が無くなった状態でグラスホッパーを展開、必死に下がりながらハウンドを起動して半数は直線で残りは高く打ち上げる。だが、ザキ君は冷静にアサルトライフルに切り替え、射撃を混ぜながらシールドで距離を詰めて来るので此方はサブトリガーをシールドに使わされる。フルアタックさせてくれないなあ!

 

 高く打ち上げた事により時間差で降り注ぐ弾丸の雨を頭上で展開したシールドで防ぎながら近付いてくるザキ君。コレ建物から飛び降りたところで旋空で斬られてお終いだな。方針を切り替えもう一度ハウンドを散らして射撃、今度は分割量を増やして置き玉も混ぜる。

 目視で20mを確実に切ったと判断、左手の拳銃を真っ直ぐ近づいて来るザキ君に向けるが、アサルトライフルによってフルアタックを阻止して来るのでサブトリガーで固定シールドを展開、耐える方向に切り換える。

 

 ザキ君がメテオラを使用、爆発で此方の視界を奪って来る。置き玉を探知誘導で撃つがレーダー上から反応が消失、目標を見失って弾丸が彷徨う。嘘でしょ!?

 固定シールドを解除、最後に見たザキ君の位置から推測してグラスホッパーをその進行方向一面に広げる。視界が悪いのは相手だって同じ、踏ませて体勢を崩すのが狙いだ。視界さえ晴れればハウンドで狙える、例えフルガードされてもこっちがフルアタック出来れば勝てる!

 

 刹那、視界が斜めに傾く。目の前には爆風を突っ切って来たザキ君がいた。軽く飛び上がり、弧月を振り抜いたその姿は消えかけのバッグワームを靡かせていた。

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト。』

 

 一矢報いようと起動しかけていたハウンドを放とうとするが、分割が終わったところで機械音声と共にベイルアウトシステムが作動。視界が真っ白に染まった。

 

「ぐわー。負けたー!」

 バッグワームは上手すぎ、悔しい!と呻きながら柿崎隊のオペレーター、宇井ちゃんに頼んで訓練用に設定していたベイルアウト用のマットから起き上がる。丁度、ザキ君も訓練室から出て来たところだった。

 

「今のグラスホッパー読んでたの?」

「いや、グラスホッパーだとは分かってなかった。ただ、グラスホッパーかスパイダー、あとは見えてなくてもハウンドを散らして腕か足を狙って来るとかはしてくるだろうと思ったからな。上に逃げておけば弧月を振る腕は守れるだろうと思ったんだ。」

 

 それは読んでるって言うのよ、うわー悔しいなあ。と呟きながら宇井ちゃんに頼んでザキ君と一緒にログを見ていく。ザキ君のシューター対策なのだから当然、反省会までセットである。

 

「ここ、私が建物の上来るの分かってた?」

「シューターやスナイパーなら射線を通せる方が良いだろうからな、此処は読めた。」

 

 ログを見ていくとまず、話題に上がったのは私が屋上に出たシーンである。確かにそうだなあ、やっぱり射線は通したいと思ってしまう。特に今回はオペレーター無しだからバッグワーム使われると視線誘導でハウンド使いたくなっちゃうなあ。といった私の意見を伝えていく。

 

「オペレーターがいたらやっぱり違ったのか?」

「ハウンドとかバイパーなら曲射すれば良いからね。オペレーターに大体の位置を予測してもらって狙うとかはあるかも知れない。那須ちゃんとかは絶対やって来るよ。」

 成る程、と考え込むザキ君。ついでに落ち着いているから考えられる意見を述べていく事にする。

 

「後は隠れ合いをするなら置き玉に注意かな。メテオラとかが代表的だけど、ハウンドとかでも普通に出来るしオペレーターの補助ありなら逃げるよう見えて実は誘い込んでた、なんて事も普通にあるかも。」

 今回は壁越し旋空が怖すぎてさっさと建物の上に出ちゃったけどね、と付け加える。まあ、この辺はチームとして戦略を練っていくとこだろう。

 

 ログを進めていく。次に注目したのはやはりバッグワーム使用についてだ。

「バッグワームはどうだった?」

「ハウンド使う側からするとめちゃくちゃ嫌な一手だった。」

 

 メテオラも合わせてたから視線誘導も探知誘導も使えないのはホント厄介だった。冷静になればトリオン量にものを言わせて弾を散らしてシールド広げさせて、最後拳銃で相打ち狙いに行くという手が良かったかも知れないけど、探知誘導を使おうと考えてたのにその反応がいきなり消えた時点で焦ってしまった。

 

「アレ、私がハウンド散らして来たら弧月と反対のシールド?」

「ああ。見えないし探知できないならシールド割るほどの火力は出せないと思ったんだ。」

 

 うーん、完璧に詰めに持ち込まれてしまった。屋上出て先に見つけられなかった時点で厳しかったなあコレ。旋空の火力が高すぎるから間合いを維持し続けなきゃいけなかったのにあっさり、それも視覚外から詰められてしまった。

 よく考えたらザキ君、旋空使うにはバッグワーム解除しなきゃいけないし、屋上に出るよりは隠れ合いの方が勝率高かったのではないか?向こうだって此方の位置は分からない訳だし。

 そんな意見を出すとザキ君が反論して来る。

 

「そうだなあ、でも上取られるのも嫌じゃないか?」

「それはそう。」

 上からバッグワームのままアサルトライフルで撃たれたら嫌すぎる。けど、初撃さえ銃声とかで反応できればハウンドで充分応射出来るしガンナーよりは上下の位置どりに左右されにくいかも知れない。

「まあこの辺は結果論かなあ。」

「そうだな。ランク戦だとまた変わって来るだろうし。」

 

 ありがとな、付き合ってくれてと感謝を述べられるが私としても対人戦の経験は貴重なのでwin-winである。一通り反省会を終えた後、ログや訓練室の設定をしてくれた宇井ちゃんにお礼を言ってからザキ君が入れてくれたコーヒーを飲みつつ、強くなりたいねー、そうだな。なんて会話を交わす。

 

「ザキ君隊長になってから色々小技増えたよねー。」

 今回のバッグワームとか使うのとか凄い良かったし、使うタイミングも完璧だった。と感想を話すとザキ君は今の悩みを話してくれる。

 

「でも隊長としてはどうなんだろうなあ、ランク戦だと勝ててないし。」

「私そもそも隊長なんて出来ないからあんまりアレコレ言えないけどさ。」

 作戦考えて、必要な時に判断下せるだけで充分じゃない?というと、ザキ君が額に皺を寄せながらこんな事を言う。

「虎太郎や文香達の能力を引き出せるような判断が下せてないからダメだろ。」

 

 どうしたら良いと思う?と聞かれ、うーんと頭を悩ませる。私隊長経験ないから判断下せるだけで凄いと思うんだけどなあ。

 

「判断下す側の事はよく分からん!だから判断待つ側の考えとして聞いてね?

 私としては方針決めてくれるからこそ、全力を出せると考えてるよ。何に意識を割いて、何は無視して良いのか決まるだけでパフォーマンス上がるし。もし悩むとか時間稼いで欲しいって言うならその方針でどうにかする。ザキ君の隊はチームが合流すれば落とされにくいし、相手を観察するっていう手も考慮すれば良いんじゃない?」

 

 あとはザキ君が耐えるから何がなんでもコイツ落としてこい!みたいな方針もありかも知れないねー。なんて適当な意見も続けて言う。正直固定のメンバーで組んだことないからよく分かんないんだけど。

 

 そうか…。と何やらザキ君は悩みを深めてしまった様子でちょっと慌てる。待って待って、そんなに私の意見参考にしないでくれ…!

 

「ええっと、それこそ虎太郎君や文香ちゃん、宇井ちゃんに直接聞きなよ!どんな指示出しが良いとか人それぞれだと思うし。私は粘るのとかサポート役が点取役よりはまだ得意だろうからそういう考えなだけで、ガンガン行きたいとかあるかも知れないしさ!」

 

 ねえ、宇井ちゃん!?とオペレーター席にいる彼女を振り返りながら慌てて言うとそーですね〜。と苦笑いしながら返してくれる。ほら隊を組んだ事ない私の意見なんて置いといて、チームメンバーでそう言う事は話し合いなよ!そんなふうに口早に言いながら私は席を立つ。

 呼び止める声を無視してコーヒーご馳走さま、ランク戦頑張ってね!とだけ告げると足早に隊室を飛び出す。ああ、力になれなかったどころか余計なことを言ってしまったかも知れない。そのことにちょっと凹みながら、私はとぼとぼと廊下を歩くのだった。




 とある原作開始前の1日。正隊員達に声をかけられれば烏丸のように仮想敵役をやったりしている模様。今回はザキさんがそこまで合わせてもらうのは申し訳ないといって通常のトリガーセットで行ったが、要望があればトリガー構成を変えたりしている。

 ザキさんとのコミュやオペレーター無しでのシノの戦闘を書いてみました。書いてて思ったんですがコイツ、オペレーター無しだと弱いな。本誌でも話題になってましたが隊長経験の有無は結構大きいのに、そもそも固定メンバーでのチーム戦の経験すらないのは大変かも知れない…。
 一応、シノは方針が決まっているならそこそこのパフォーマンスが発揮できるという想定で書きました。黒トリ争奪戦とか特にそうですね。作戦や状況を常に考えるのではなく、得意分野であるサポートに全振りで苦手なアタッカーの一部は迅が受け持ってくれるという状況だからこそあそこまで粘れた。盤面を作るのは得意だけどその盤面自体を考えるのは苦手みたいな。シューターだしその能力が育てばもっと伸びるかも知れないですね。


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閑話③

 今回の小話はいつも以上に捏造満載です。時系列とか原作で判明してないところはふわっと書くことで可能な限りぼかしているので、明らかな矛盾が無い限りあんまり突っ込まないで頂けると助かります。
 どう見ても原作設定と矛盾してるところはじゃんじゃん指摘してください。どうしても20巻以上ある原作の隅々までチェックは出来ていないので、温かい目で見守ってください。


「ランク戦の実況が欲しい?」

「はい!あの、何か困ったりしたら基本的に東雲先輩に聞けばなんとかしてくれるって聞いたんです。」

 

 とある休日の午後、ボーダー基地内の廊下で、オペレーターの制服を着た中学生くらいの少女にお願いします!と勢い良く頭を下げられて私は困惑していた。ちょっと事情が掴めないのだが、周りの視線が痛いので取り敢えず頭をあげてくれ。

 

「えっと、そもそも君の名前とかランク戦の実況ってなんだとか色々聞きたいことはあるんだけど、まず最初に聞かせて。誰だ、私のこと紹介したの。」

 

 そう聞くとオペレーターの月見先輩に言われました!と笑顔で告げられる。なるほど蓮ちゃんかー、そっかー。確かに部隊に所属もせず何でも屋みたいな事してるのは認めるけど、全部丸投げはないでしょ!?後で絶対巻き込んでやる。と何も分かってない中、心に誓う。

 

「あー、分かった。ひとまず話は聞くから場所変えよっか。立ち話で済むような事じゃなさそうだし。」

 

 ラウンジに移動しながら名前聞いても良い?と尋ねれば武富桜子、オペレーター訓練生です!とこれまた元気な返事が返ってくる。蓮ちゃんの紹介ならまあオペレーターで納得はする。最近、通信室勤務で基礎を学び終えた訓練生達に部隊所属に向けての指導役やったって言ってたし、多分そこで知り合ったのだろう。蓮ちゃん、後輩の女子達から凄い慕われてるからなあ…。

 

 ラウンジのテーブルを1つ確保し、自販機で適当に飲み物を2本買う。概要も何も分かってないけど、多分かなり時間がかかる類いだろう。防衛任務で普通の高校生よりは稼いでるし、後輩に飲み物くらい奢って格好つけたい。

 席に戻り、桜子ちゃんにカフェオレとオレンジジュース、好きな方を選ばせてまずは一息つく。さて、わざわざ蓮ちゃんが私を紹介したのだ。何か現役オペレーターではなく私が向いているような事情があるのだろう。

 

「えーっと、ランク戦の実況が欲しいって言ってたけどもう少し詳しい事教えてもらっても良いかな?」

 なんで欲しいのかとか、具体的にどんな事がしたいのかとか聞かせてくれる?というと目を輝かせながら桜子ちゃんが語り始める。

 

「B級以上のランク戦は観戦を自由に出来ますけど、C級隊員が見たところで戦闘が高度すぎて参考にしにくいと思っているんです。

 立ち回りや技量についてなど学ぶべき事は沢山あるのに、自分達じゃそれすらも分かりません。どうにか解説をしてくれる師匠や先輩方を見つけて、初めてその戦術や技術を理解できるというのが現状なんです!」

 

 確かにランク戦はボーダー隊員なら訓練生も含めて誰でも観戦したりログを見たりできる。実際師匠を務める隊員達が弟子を連れてモニターで観戦したり、ログを見て研究したりしている姿はよく見かける。

 だが、やはり対戦相手の研究といった側面が強いのかそうした姿はB級以上の隊員の方が圧倒的に多いのは事実であるし、かなり高度な戦闘が多く見ても訳分からんということも実際ある。

 

「C級の私達にとって解説をしてくださる人を見つけるのはかなり大変なんです。ログを使って行われてるポジションごとの勉強会も、レベルが高すぎて訓練生である私達では意味がないんです。だから、ランク戦の実況や解説を行って欲しいんです!」

 

 勉強会は私が企画しているものだな。B級上りたての隊員の参考になればと思って終了したシーズンのログをみんなで見ながら、気軽に質問したり、なんだったら上位陣も議論を交わせる場所として意外と人気があるのだ。

 きっかけは私自身、チームでの戦闘経験があんまり無いのでランク戦を見ても訳が分からないことが多かったことである。時間がある時は友人達と一緒に見て、分からなかったことをすぐ聞いたりしていたが、チームを組んだばかりの後輩達が困っているのを見て、一緒に勉強会開こう!と思い立ったのが始めだっただろうか。

 

「勉強会だとハイレベルすぎるってことかな?もっと初心者向けというか、基礎から学ぶ場所が欲しいってことで合ってる?」

「はい。もっと気軽に、それこそC級隊員がなんとなくランク戦を見て興味を惹くようなものが良いと思うんです!」

 

 

 桜子ちゃん曰く、勉強会は難しいしかなり興味がある人じゃないと参加しにくい。それに対してモニターに映し出されるランク戦は大迫力であり、勝ち負けが分からないのは盛り上がる。もし解説などで分かりやすい試合となれば、C級隊員達はその姿を真似て強くなれるだろうし、何よりモチベーションに繋がるとのことだった。

 

「なるほどねー。確かに勉強会のメインターゲットはB級以上だ。まだチーム戦をしないC級隊員へのフォローは考えてなかったよ。」

 現状、訓練生全員に師匠が付くことは不可能であることを考えると、ランク戦という教材をC級隊員も最大限利用できる桜子ちゃんの案は悪くなさそうである。

 

「桜子ちゃんは実況っていう形が良いと思うんだよね?」

「そう、そこですよ!実況はランク戦を盛り上げるのです。真似したい、強くなろうって思わせるならやっぱり実況が必要だと思うんです!」

 

 ふむふむ、一理ある。実況というシステムはランク戦の見学というものに対してのハードルを下げることに繋がるだろう。必要になりそうな要素を具体的に考えていく。

 

「実況や解説は誰がやるとか考えてる?基本的に今のボーダー、人員に余裕がないからそういうものは有志でやるしかないんだけど。」

「実況は私がやります!解説はA級の方などでそのランク戦に出ていない人にお願いできればと…!」

「解説の方は、まあそうなるだろうね。でも実況は全部君がやるわけにはいかない。ランク戦は平日の昼間にだって普通に行われるし、回数だってかなりあるからね。今後ずっと継続していくことを考えるなら、君以外に出来る人を探さないといけない。」

 

 うーん、戦況ををしっかり把握できる能力があって、それを言葉でしっかり伝えることが出来る人かあ…。話すのが得意な人なら広報部の人がぱっと思い当たるけど、戦闘に関しては別に専門でも何でもない。戦闘員上がりの人もあの部署ほぼいない筈だし…。そうしてしばらく頭を悩ませていると、目の前に座る桜子ちゃんの制服が目に入る。オペレーター用のそれが。

 

そうだ、戦況を把握できてそれを言葉で伝える能力がある人いるじゃん…!

 

「桜子ちゃん、オペレーターの皆にお願いしてみよっか。」

 誰よりも戦闘中の状況を把握してそれを誰かに伝える事に慣れている人だ。これ以上適切な人もなかなかいないだろう。

 なるほどー!と言う桜子ちゃんに頷き返しつつ、私は端末を取り出して早速連絡を取り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで実況役をオペレーターにやってもらいたいと言うわけね?」

「そうそう、戦闘のプロで喋れるのなんてオペレーターしかいないからねー。取り敢えず桜子ちゃんと一緒に過去のログ見ながら実況をやってみてくれない?それでそもそも実現可能か、とか必要なものは何かとか考えるたたき台にしたいからさ。」

 

 後日、桜子ちゃんと共に隊室に突撃した私は蓮ちゃんに協力を求めていた。正直やってみなければわからないことが多すぎるので、まずはやってみてそこから考えていこうと私は思ったのだ。

 

「聞いた感じ、実現すれば悪くないシステムみたいね。良いわ、やりましょう。」

 解説役はシノがやってくれるの?と聞かれて私は首を横に振る。

 

「無理無理、私にチーム戦の解説なんて出来ないよ。三輪君、お願いしても良い?」

 振り返りながら聞けば、我関せずと言った顔でお茶を飲んでいた三輪君がむせていた。大丈夫かー?

 

「どうしてオレが…?」

「だって三輪君、チーム戦の経験たっぷりあるでしょ。今回はお試し、そんなに難しく考えないで良いからさ。ちょっとやってみてよ。」

 

 まあまあ良いじゃない、と宥めながら彼の背を押しモニター前に移動させる。何やら面白そうだと、三輪君と一緒におやつタイムをしていた米屋君もやってきて、皆でオペレーター用のモニターを覗き込む。なんだか恥ずかしいわね、なんて蓮ちゃんが言いながら早速ログを再生し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「佐崎さーん、今ランク戦の実況を考えててですね。こう戦況をマップ上で説明できるシステムが欲しいんですけど組んでいただけないでしょうか。」

 

「榊さん、榊さん。ランク戦の観戦ブースにモニターを操作したり出来る機材を設置したいんですけど、予算ってどれくらいかかりますかね?」

 

「羽矢ちゃん、前に話したランク戦実況用のシステムできたんだけどさ、ちょっと見づらいから画面デザイン考えてくれない?」

 

 お試し実況会が終わった後、蓮ちゃんや三輪君、見ていた米屋君などから出た意見を参考に私は必要なものをかき集める為、伝手を辿ってあちこちにお願いをしていた。皆快く引き受けてくれたのでなんとか実況が出来そうな環境は整ってきたところである。

 実況役も蓮ちゃん達を通してオペレーター陣にお願いすると、忙しい中OKを出してくれる人ばかりであり、本当に助かった。後は解説役に当てを見つけて本部の許可を取るだけだ。

 

「あの、解説役をやってくれそうな方を今日は紹介していただけるんですよね?」

「そうそう、一応初回予定のランク戦には絶対出ない人もいるから、オッケー貰えたら後は本部に企画書出してプレゼンだ。」

 

 あ、いたいた。と事前にアポを取ってラウンジで待ち合わせをしていた相手を見つけると緊張した様子の桜子ちゃんを連れて待ち合わせ相手の元に向かった。

 

「東さん、風間さん。お待たせしてすみません。」

「いや、オレ達が早かっただけだ。気にするな。」

 既に来ていた2人に謝罪すると風間さんにきっぱり言われる。やっぱり格好のいい先輩だなあ、風間さん。

 

「それでそちらのオペレーターが東雲が話していた?」

「はい、今回のランク戦実況を企画している武富桜子ちゃんです。」

 東さんに聞かれて桜子ちゃんを紹介しどこか強張った表情をした彼女の背をそっと押しすことで自己紹介を促す。

 

「はじめまして!オペレーター訓練生の武富桜子です。今日はお2人に、私が考えたランク戦実況での解説役をお願いしに来ました!」

 

 事前に考えてきた文章で桜子ちゃんはランク戦実況について説明をしていく。C級隊員が感じている問題点とそれを解決する為の工夫、今考えて用意している機材やシステムなどだ。

 

 一通り説明し終え、東さんと風間さんからの質問に答えると2人とも快諾してくれた。元々、きちんと説明すれば引き受けてくれるだろうと考えてこの2人に声をかけていたが、実際にOKを出していただけると安心する。

 

「ありがとうございました!」

 元気に頭を下げる桜子ちゃんにお疲れ様を伝え、先に帰らせる。初対面の年下だからと言ってこうした企画とかに妥協する人達ではないが、ぶっちゃけた話を聞きたかった。

 

「今日はありがとうございました。」

 どうでした、この企画。と聞けば予想通り先程言った通りだ、と返ってくる。やっぱり変に気を遣ったらはしない人達である。

 

「少し気になったのは彼女がまだ訓練生であることだな。」

 オペレーターを目指すなら、まずは自分が正隊員になることが優先だ。話はそれからだ、なんて言われかねないな。と東さんに指摘される。そこは言われるだろうなあ…。

 

「一応、蓮ちゃん達に猛特訓つけてもらってるので昇格の目処は付いてます。後はスターターこそ彼女にお願いするつもりですが、継続していくなら正隊員皆でやっていけたらなあとは考えてます。」

 

 その為にも解説役の話を広めておいていただけませんか、今後きっと皆さんにお願いすると思うので。と頼めばこちらも快諾してくれる。

 

「今はC級隊員向けの側面が強いですが、いずれは誰もが利用するシステムになるよう目指していきたいと思っています。皆で作って、皆が使うシステム。今後も何か気付いたことがあったら是非教えてください。」

 

 私は解説も実況も出来ないので、そうした視点から協力していただきたいです。とお願いすれば当然のように頷かれる。頼りになる先輩方に改めて礼を言い、今日はお開きになった。

 

 

 

 

 

 その後は割とトントン拍子で進んだ。ランク戦は本部の管轄なので企画書を出してから忍田さん達に向けて行ったプレゼンは、流石に桜子ちゃんと2人ずっと緊張していたが事前に資料を東さん達にチェックしてもらった事もあり、無事に終了した。

 

 観戦ブースの工事も終わり、遂にやってきた実況ありで行われるランク戦の初戦。事前に告知した事もあって訓練生も含めてブースは満員である。

 

「じゃあ私は席で見てるから。頑張っておいで、桜子ちゃん。」

「はい!東雲先輩、ありがとうございました!」

 お礼は終わってからね、ランク戦実況システムはこれから始まるんだから。そう言ってほらもう準備しないと、と彼女の背を押すと私は適当な席を探して座る。

 

「ボーダーの皆さん、こんばんは!本日実況を務めます武富桜子です!解説をお願いするのは東隊長と風間隊長です!」

 

 実況として彼女の元気な声が定着するまでに時間はそうかからなかった。




 C級の指導とかやってるキャラがランク戦実況に関わってないわけないよなあ、という考えから生まれた小話です。月見さんと気兼ねなく頼り頼られる関係性を描こうとしたらいつの間にか桜子とのコミュになっていた…。

 なんだか説明的なお話になってしまったのであまり面白くないような気がしています。そのうち修正するかもしれません。

 一応、実況システムは桜子が訓練生の頃から粘り強くプレゼンし続けた結果(だと記憶している)のですが、本作中ではシノがアレコレ準備を手伝ったのでその辺が短縮されたという想定です。ランク戦実況の歴史が原作より少し長いかもしれない。

 感想が、感想がもっと欲しい…!強欲なのは分かっているんですが、是非気軽に書いてください!
 ここの描写分かりにくいやなんか矛盾してない?と言ったご指摘から、この話面白かったorつまらなかったなどの感想があれば改善に活かせますし、何より励みになります。

 アレコレ長く書く必要は全然ないので何卒よろしくお願いします…!


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