新世紀エヴァンゲリオン 天才少年シンジ君(試作) (高橋ヒナタ)
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天才少年シンジ君
使徒、襲来


文法云々はほとんど理解せずに書いてます
読みやすいようにしたつもりではありますので
そこらへんのツッコミは無しでお願いします。

言うまでもなくシンジ君登場回ですね
まだ天才要素は少ないです
一巻は2分割での投稿を予定しております。

では本編へどうぞ。


時に、西暦2015年──

 

 

 

「正体不明の物体、海面に姿を表しました!」

 

「物体を光学で観測、主モニターへ回します。」

 

国連軍司令部に緊張が走った。

戦闘機やVTOL機が飛び、戦車が列を生して待ち構えるなか

黒い人型の巨体が海から姿を現した。

天使の名を冠し人類を滅亡させるために

第三新東京市へ襲来する恐ろしき巨大生命体──

 

「使徒」

 

胸に仮面を付けた首なしの黒い巨人という異形

「第3の使徒サキエル」だ。

 

15年ぶりに人類の前に現れたその使徒は

第三新東京市へ向けて歩みを進めていた。

 

 

 

『戦車部隊、砲撃開始!』

 

『目標、巨大生命体!撃てーッ!』

 

『航空部隊、砲撃開始!』

 

無線から攻撃開始の報が上がると同時に

ありとあらゆる兵器が一斉に火を噴いた。

80mはあろうかという巨体ゆえに狙いは付けやすい。

雨のように降り注ぐ砲火はサキエルの巨体に

クリーンヒットし爆炎で包んでいく。

 

『巡航ミサイル発射!』

 

爆撃機からも複数発の巡航ミサイルが放たれ

サキエルめがけて飛んでいく。

機銃や砲弾はあまり効いていないようだが

敵の動きは鈍く直撃必至、火力も凄まじいため

かなりのダメージが期待出来るだろう。

──が。

 

 

 

「無傷、だと!?」

 

「ミサイルも全弾直撃しただろう!?」

 

サキエルの体には傷の1つもついていなかった。

あれだけの攻撃をまともに受けて、である。

ダメージは一切受けていないハズだったが

さすがに鬱陶しく思ったのかサキエルの目線が

近くを飛んでいたVTOL機の集団へと向けられる。

 

『ひっ…こ、後退ッ!後退ーッ!』

 

弾をばら撒きながら必死に距離を取るVTOL機

使徒はその細い腕を向けると

 

ビシュゥッ!

 

まるでビームサーベルのような光のパイルが

VTOL機のコクピットを正確に貫いていた。

 

今まで無視を決め込んでいた使徒が反撃を開始したのだ。

機銃やミサイルは1秒の時間稼ぎにすらならず

撃っている機体から光のパイルで撃ち落とされる。

振るわれ始めた使徒の脅威を前に

あっという間に国連軍の戦力が壊滅していく。

 

「ぐぬぅ…止むを得んな。アレを使うしかあるまい。」

 

司令部はあまりの劣勢に切り札を切る覚悟を決めた。

「N2爆弾」

これを使えば街がひとつ消し飛び、自分たちのデスクには

関係各所からの苦情で書類の山ができてしまうが

国連軍としてはここで恥を晒す訳にはいかない。

 

「よし…NN作戦を決行する!展開中の部隊には

あと240秒で退避せよと伝えろ!」

 

残っていた味方機が一斉に退避していく。

 

 

 

『N2弾道弾、発射!』

 

 

 

ドォォォォーンッ!

 

その瞬間、使徒は火の玉に包まれた。

確実に直撃である。

 

「やったッ!やったぞッ!」

 

「これが我々のN2だ…!ヤツとて耐えられまい!」

 

「残念ながら、君の新兵器の出番は無いようだよ。」

 

国連軍司令部の面々は勝利を確信した。

使徒殲滅を掲げる組織「NERV」の司令へ

勝ち誇ったような表情を向ける。

モニターはすべて砂嵐と化してしまったが

まさかあれ程の爆発で生きていられるはずが無い。

そう思われたのだが…

 

「爆心地にエネルギー反応です!」

 

「なんだとッ!?」

 

NERVのオペレーター曰く生きていると言うのだ。

 

「映像、回復します。」

 

巨大なクレーターの中心に確かにヤツの姿があった。

全身が焼け爛れ、動くことすらままならないようだが

確かに生きていたのだ。

使徒は自己修復を始めたらしく動かなくなったため

国連軍は一定の手柄を立てたと言える。

しかし、最高火力を注ぎ込んでこの程度なのだ

とてもトドメなど刺せそうに無かった。

 

「──はい、分かっております。」

 

連絡を受けた国連軍司令部がNERVの司令へ向き直る。

 

「碇ゲンドウ君、本部から通達があった。

現時刻を以て本作戦の指揮権は君に移る。

お手並みを拝見させてもらうよ。」

 

「我々が所有する兵器ではヤツを倒せないことは

素直に認めよう。現実を突きつけられたからな。

だが、君なら勝てるのかね?碇君。」

 

NERV司令碇ゲンドウはサングラスの位置を直すと

自信を持った声で告げた。

 

「そのためのNERVですから。」

 

 

 

これが人類と使徒との熾烈なる生存競争の始まりにして

仕組まれた運命の歯車が回り始めた瞬間だった。

 

 

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国連軍はNERVの発令所から引き上げていった。

 

「やはりUNはお手上げか。碇、どうする?」

 

隣に立っていたNERV副司令冬月コウゾウが尋ねる。

国連軍に自信満々に答えたゲンドウだったが

若干虚勢を張っていた。

実は今現在その新兵器は動かせない状態なのである。

 

「レイもとても動ける状態とは言えません…」

 

新兵器の技術面を担当する赤木リツコが言うように

唯一のパイロットが負傷しており出撃させられないのだ。

作戦部長に新たなパイロットを迎えに行かせているが

まだ戻ってきそうにない。

 

「葛城一尉の到着予想時刻は?」

 

「マヤ、使徒の活動再開予想と共に割り出して。」

 

リツコが部下へ指示を出し、作戦部長葛城ミサトの乗る

ヘリの現在地と到着予想時刻を割り出させる。

あと一時間ほどは掛かりそうとのことだったが

使徒が活動を再開しここ第三新東京市へ侵攻するまでには

なんとか間に合いそうだった。

 

「シンジはまだなのか…」

 

 

 

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碇シンジはとても不機嫌だった。

父親によく分からない強権を振りかざされて

ドイツから急遽日本へ向かう羽目になったのだ。

しかもその時シンジはお世話になった大学の依頼で

エネルギー工学など複数の講義が予定にあったのだが

それらを突然全て中断せざるを得なくなったのだ。

先程までその予定変更に伴う対応をしており

ようやくそれが終わったばかりだった。

 

「シンジ君…やっぱり怒ってる?」

 

自分を迎えに来ていた葛城ミサトが尋ねてくる。

 

「当然ですよ。せめて、事情を知らせて欲しかったです。

まぁ、来た手紙がこれですからねぇ。」

 

カバンから1枚の手紙を取り出したシンジ。

貴女も知っているでしょう?と見せた封筒は

そう、ミサトの写真を同封したあの封筒だ。

肝心なゲンドウの手紙には「来い」の2文字。

ミサトは思わずアハハ…と笑うしか無かった。

 

(司令ももう少し教えてくれりゃ良かったのに…)

 

この手紙を送った時「碇シンジは14歳の少年」である

としか知っていなかったために

自分のセクシーショットでも同封しておけば

「来い」の2文字でもまぁなんとかなるだろう

そうミサトは思っていたのである。

まさかその彼が既に大卒で博士号も持つ天才少年で、

ビジネスのために各地を飛び回りながら

大学や高校で臨時教師までやっているとは

思いもしなかった。

 

数日後に彼から返ってきた手紙には

「多忙なので行けません」

と書かれておりNERVを大いに焦らせたものだ。

幸いにもゲンドウの手紙を早めに送っておいたおかげで

使徒の襲来には間に合わせられたが

アポ無しで彼の元へ突撃しNERVの強権を発動させたため

今こうしてシンジは物凄く不機嫌なのだ。

 

シンジが「ようこそNERVへ」と書かれたパンフレットに

一通り目を通し終わる頃にはNERV本部へ到着していた。

 

「さて、到着ですか。…父さんには説教ですね。」

 

シンジはパソコンをしまい、持っていた白衣を羽織る。

手鏡でチラリと自分の顔をチェックすると

NERV本部へと足を踏み入れた。

 

 

 

「あれ~おっかしいわね…こっちで合ってるハズよね?」

 

ミサトの後を追って本部内を歩いているのだが

彼女の様子がどこか変だ。

手元のバインダーとにらめっこし、ウンウン唸っている。

視線もチラリチラリと曲がり角へ向けられている辺り

どうやら迷ったらしい。

区画番号など以外は同じような景色の繰り返しで

確かに迷いやすい構造だとは思うが。

 

「あの…迷ってますよね?」

 

パシッとバインダーをミサトから奪い取り

地図へ目を通す。赤ペンでマークされている部屋で

「第二格納庫」とやらの手前まで向かえば良いらしい。

 

「あの、ちょっとシンジ君?」

 

「着いてきてください。ざっくりと理解しました。」

 

シンジはミサトの手を取って歩き出した。

 

 

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「ごめ~んリツコ、遅れた!」

 

「遅いわよ、葛城一尉!」

 

部屋で待っていたのは金髪ショートヘアの女性。

白衣を着ているあたりNERVの科学者だろうか?

彼女は自分を見ると突然目を丸くして驚いた。

 

「ッ!?…碇ユイ、さん?」

 

母さんの名前を出されて「あ〜なるほど」となる。

どうやら母さんを知っている人間らしい。

今の自分は髪を茶色に染め、白衣にタイトスカート

靴はパンプス、メイクもキッチリしている。

2~3年前から友人の影響で女装をしているのだ。

昔から母さん似だって言われてたから

母さんを知っている人は驚くこともあるだろう。

 

「あ〜…僕は母さんではないですよ?」

 

「…!貴方がサードチルドレン、碇シンジ君ね?

私は技術1課、E計画担当の赤木リツコよ。」

 

「はい、碇シンジです。よろしくお願いします。」

 

そして挨拶が済むと見せたいものがあると言われ

隣の部屋へ案内される。地図にあった第二格納庫だろう。

そして見えてきたのは「巨大な紫色の鬼」とでも言うべき

巨大なロボットだった。

シャープなフォルムで額に1本の鋭い角を備えている。

頭部のサイズからして全高は80mはあるだろうか

さすがの僕も開いた口が塞がらなかった。

 

「これが人の作り出した決戦兵器。我々人類の切り札─

人造人間エヴァンゲリオンよ。」

 

「父さんは…こんなものを作っていたのか」

 

驚きの声を上げているとスピーカー越しの声が響いた。

 

 

 

「──ユイ…なのか!?」

 

 

 

…シンジは呆れ返ってため息を吐いた。

まさか父親にまで間違われることになろうとは、と。

 

「僕だよ、父さん。息子の顔くらい覚えててよね。」

 

ゲンドウはハッとした表情をしている

まだ理解が追いついてなさそうだなあれ。

 

「………出撃。」

 

…さすがは父さんだね、コミュ障過ぎる。

唐突に「出撃」だなんて端折りすぎじゃなかろうか…

僕が来たタイミングで突然出撃と言うあたり

恐らくは僕をこの目の前のエヴァに乗せて

どっかから攻めてきているであろう敵と

戦わせるつもりなんだろう。

 

「まさか!?今来たばかりの新人を乗せるっていうの?

レイでさえシンクロに7ヶ月も掛かったのよ!?」

 

「ミサト!今は使徒殲滅が最優先事項でしょう?

少しでも可能性があるなら賭けるしかないのよ!」

 

ミサトさんとリツコさんが口論している。

どうやら乗れる人間が物凄く限られているらしい。

最低でも僕含め3人はいるらしいパイロットのうち

レイという人物ですら7ヶ月も掛かるなら相当だろう。

 

…随分面倒事に巻き込んでくれたもんだ。

 

 

 

「状況は理解しました。乗りますよ、僕。」

 

ミサトとリツコは少年の突然の発言に驚いた。

まさか自分たちが言い合っているうちに

状況を把握し乗る覚悟を決めたとでもいうのか。

 

「シンジ君!?エヴァに乗るってことはね…!」

 

「さしずめこのエヴァは僕しか乗れないんでしょ?

言いたいことは色々あるけど…これほどの機体を

使わないと倒せない敵がすぐそこまで来てるんだろう?」

 

リツコはこの発言に軽く戦慄していた。

使徒がすぐそこまで来ていることさえ私たちの様子から

感じ取ったのだろう──恐ろしい子だ、と。

 

ミサトとリツコが驚きに固まっていると

シンジは何か思いついたのかニヤリと笑ったあと

にっこりと満面の笑みを浮かべ、ゲンドウへ声をかけた。

少し高めの声、ちょうど成人女性くらいの声色で──

 

 

 

「あなた、後でお話がありますから。

覚悟しておいてくださいね。」

 

 

 

その目だけは一切笑っていなかった。

シンジのその姿に激怒した妻を幻視したゲンドウは

その場から一歩も動けなくなっていた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「さて、エヴァの概要と操縦方法は理解してあるかしら」

 

「はい。最低限は叩き込みましたから。」

 

エヴァのエントリープラグの中で答えるシンジ。

 

『主電源接続、全回路動力伝達、起動スタート!』

『A10神経接続異常なし、コンタクト正常。』

『双方向回線、開きます!』

 

オペレーターが起動プロセスを進めている声が聞こえると

無機質だったエントリープラグの内壁に

外側の景色が映し出されていく。

 

『シンクロ率…31.1%です。』

 

起動のボーダーラインは超えており安堵したミサト達。

オペレーター達はエヴァに異常などが無いように

念入りにチェックをしていく。

モニターに映るシンジは何やら考え事をしている。

いくら司令の息子とはいえ14歳、まだ不安なのだろう

大人たちはそう思い彼を支えるべく己の業務に集中した。

 

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31%。あまりいい数字ではないなと思った僕は

エヴァとのシンクロを深めるべく目を閉じる。

エヴァの姿を思い浮かべ、自分がそれと一体化するような

そんなイメージを頭の中に描いていく………

が、シンクロ率が変化したという報告は無い。

シンクロということはエヴァにも意思があるのだろうか

そう思った僕はエヴァに語りかけてみた。

 

(エヴァ…さん?碇シンジです、宜しくね。)

 

(………!)

 

反応が返ってきた。こちらからの一方通行で終わるだろう

そう思っていたが違うらしい。

どうも懐かしいような暖かいような感じがした。

優しさに包まれているかのような感覚と

「液体に満たされた生物の体内」という今いる場所に

ふと頭に思い浮かんだのが「母親」だった。

 

(…まるで子宮だね。エヴァがお母さんみたいだ。)

 

(…!!!)

 

さっきよりかなり強い反応が返ってくる。

母さんは僕が幼い頃に居なくなってしまった

そしてこのエヴァは父さんのいるNERVにあった。

…まさかとは思ったがあえてこう呼びかける。

 

(母さん?)

 

(…シンジ…)

 

 

 

╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌

 

シンジがシンクロに集中していた頃

発令所は大騒ぎだった。

 

「シンクロ率が…急上昇していきます!60%、70%…

プラグ深度も80をオーバーしました!」

 

「一体何が起こっているの…!?」

 

先程まで及第点程度だったシンジのシンクロ率が

急激に上昇し最高91.5%をマークしていたのである。

プラグ深度もあわや危険域というところだ。

初心者だとはとても思えない数値である。

 

「暴走の可能性は!?」

 

「いえ、ハーモニクス含め全て正常値です!」

 

「シンジ君…貴方は一体?」

 

しかし暴走や精神汚染などは一切起きていないという。

NERVが誇るスーパーコンピュータMAGIが言っているのだ

間違いはまず無いだろう。

 

「とりあえずは発進準備を進めましょ、リツコ。」

 

このミサトの発言を受けてリツコ達は気を取り直し

初号機の発進準備に取り掛かることにした。

 

 

 

『アンビリカルブリッジ、移動開始。』

『1番から15番までの安全装置解除完了!』

『内部電源、充電完了を確認。』

 

「エヴァ初号機、射出口へ。」

 

オペレーター伊吹マヤの指示でエヴァ初号機が移動し

射出ゲートへと運ばれていく。

 

『5番ゲートスタンバイ!』

『進路クリア、オールグリーン。』

『発進準備完了。』

 

「シンジ君、準備はいい?」

 

「あ、はい。準備完了です。」

 

ついにエヴァ初号機の発進準備が整った。

ちょうどシンジも思考の海から戻ってきていた。

ミサトは全ての準備が整ったことを確認すると

発令所の最上段、ゲンドウがいる場所へ視線を向ける。

 

「碇司令…あれ?副司令、碇司令はどちらに?」

 

しかし肝心の総司令官が不在だった。

さっきまでそこにいたというのに初出撃時に

顔を出さないとは一体何があったのか──

 

「あぁ、碇は…今はまだ使い物にならなくてな。

ヤツの代わりはとりあえず私が努めよう。」

 

何があったかは分からないが副司令がそう言うなら

特に問題は無いだろう。

ミサトは改めて最終確認を取る。

 

「副司令、宜しいですね?」

 

「ああ、使徒を倒さねば我々に明日はないのでな。」

 

 

「エヴァンゲリオン、発進!!!」

 

 

 

                      つづく

 




ざっくりとしたストーリーは構築してありますが
作者が絶賛うつ病なうなので
次回以降の投稿日時は未定です。

良いと思ったら感想などください。
みんなの感想が私の気力となるのだ
オラに元気をわけてくれーっ!


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初陣

細かい設定に関してはだいぶ適当です。
ところによってはそれっぽい言葉を
並べただけだったりします。

ここのゲンドウ君は和解するまでは
シンジ君にかな~りイジられるハズです


「エヴァンゲリオン、発進!」

 

バシュゥッ!!

 

ミサトの指示でエヴァ初号機が勢いよく射出される。

突如掛かった強烈なGに驚くシンジだったが

あっという間に地上に到着する。

白いハズのビル群が橙色に染まりはじめている──

ここへ来た時はまだ昼間だったのにもう既に夕暮れだ。

 

『さて、シンジ君。使徒の活動再開まではまだ少し

余裕が残ってるわ。それまでにウォーミングアップを

済ませておきましょ。』

 

「了解です。民間人は避難済みだし思う存分やれるね」

 

シンジはコントロールレバーを操作しUIを呼び出す。

第三新東京市のマップや兵装ビル・電源ビルの配置

使徒の現在位置などを確認していく。

続いて武装のチェックに入ったのだが

武装の情報は「プログレッシブナイフ」しか無い。

まさかナイフ1本だなんて冗談はよしてほしいので

ミサトさんに何か無いか聞いてみる。

 

「ミサトさん、武装ってナイフの他にあるんですか?」

 

『兵装ビルにパレットライフルが入ってるわ

必要であれば出せるわよ?』

 

遠距離武器はあって損のない攻撃手段である。

ブレードオンリーなど玄人のやることだろう。

ましてや初心者である自分が前線に立つのだから

装備した状態でも良かったくらいだ。

まぁ歩く練習としては良いだろう、ということで

ミサトさんにライフルを出すように伝えた。

 

「まずは歩きからか。思考だけで機体をコントロールって

まるでユニコーンみたいだな…」

 

自分の歩く姿を想像するとそれに合わせるようにして

エヴァが歩く。数ヶ月前にロボット工学を専攻する

友人から見せてもらった"あるモビルスーツ"を思い出す。

サイコフレームやなんちゃら粒子はともかくとして

ファンネルとやらは作れたりしないのだろうか?

 

さあ走りの練習だ、と視線を大通りへ向けた時

視界の隅っこに小さな人影がいるのが目に入った。

逃げ遅れたのかビルの影で震えている少女がいたのだ。

 

「ミサトさん!民間人です、逃げ遅れがいます!」

 

『何ですって!?どこにいたの?』

 

「僕の前方2ブロック先、ビルの影です!」

 

使徒はまだ来てないとは思うが何かあっても嫌なので

保安部が彼女を保護しにくるまで周囲を警戒する。

 

『もうすぐ大人の人が探しに来てくれるから大丈夫だよ。

それまでは僕がそばで見守っててあげるから』

 

外部スピーカーを使って少女に声を掛けておく。

初号機はかなりイカつい顔をしている巨大ロボットなのだ

こちらに怖気付いてどこかへ逃げ出してしまっても困る。

少女と簡単な世間話をしながら見守っていると

数分ほどで保安部の男たちが駆けつけてきた。

『民間人は保護されたわ。見つけてくれてありがとうね』

 

少女が保護されたことにホッと胸を撫で下ろす。

 

「んじゃあ、ウォーミングアップ再開だな」

 

ライフルを一度ビルへしまい、走りの練習を始める。

軽く走ってみて急停止、勢いよくスタートダッシュして

素早くターン。上手くやれそうな感じはしている。

ジャンプや前転、側転なども試していく。

今度はナイフを取り出して、殴りや蹴りも含めた

戦闘機動を練習する。素早くパンチを数発

ナイフを持って切りつけ、切り返し、突き。

勢いよく中段蹴り、続けて逆の足で上段蹴り。

何度かバランスを崩しそうにもなったが

バランスの取り方を習得するのに

さほど時間は掛からなかった。

 

「こんなもん、かな。」

 

『ええ、そろそろ使徒が活動を再開する頃よ。』

 

すでに日は沈み、ビル街は暗闇に包まれた。

初号機の蛍光グリーンの帯が綺麗な輝きを放っている。

 

 

 

「…来た!」

 

ついに使徒サキエルが山の向こうから姿を表した。

使徒の攻撃手段は光のパイルしか見ていないが

遠距離攻撃があるかどうかで厄介さが大きく変わる。

まだ有効射程とは言いづらい距離があるが

パレットライフルを取り出して数発撃ち込んでみる。

 

ガキィーーン!!!

 

弾丸は全て八角形の光の壁によって阻まれてしまった。

 

『ATフィールド!?』

 

アレがエヴァの操縦説明の時に聞かされた

使徒とエヴァのみが持つ強力なバリアか。

相手のATフィールドをこちらのATフィールドで

中和し近~中距離戦闘を仕掛ける、それがエヴァの

基本的な運用コンセプトだと説明された。

 

どうやら使徒は僕に気付いているらしい

ゆっくりとだが確実にこっちへ進んできている。

このままビル街へ引き込めれば優位に立てそうだ。

 

「使徒をビル街へ引き込みます!4ブロックほど後方の

電源ビルの強調表示をお願いします!」

 

『了解よ。こちらからも弾幕で使徒を誘導するわ!

日向君、兵装ビルから使徒の左右へ弾幕を展開して。』

 

『はいっ!』

 

 

 

…上手い具合に引き込めている。

すでにケーブルの差し替えは終わった。

使徒は弾幕が薄い部分を選んでこちらを追ってくる

初号機を前にして消耗を避けたいのだろうか?

誘導されていることに気付ける知能はないらしい。

 

ここのビル街は一棟一棟が60m前後はあるため

視界を切りつつ攻撃のチャンスを伺う。

狙うは使徒の唯一にして最大の弱点「コア」。

サキエルの場合は仮面の下で紅く輝く球体がそうらしい。

 

『ATフィールド、中和可能距離に入りました。』

 

オペレーターから使徒との距離が縮まったことが

報告される。フィールドが中和されるということは

パレットライフルが有効射程に入ったことを示す。

 

「当たれぇッ!」

 

ズバババッ!!

 

「………ギュイィ…!!」

 

使徒が呻き声を上げて一歩後ずさる。

コアへはあまり当たっていないが効いているらしい。

これならナイフを叩き込む隙くらいは作れそうだ。

 

………カッ!

 

突如使徒の仮面の瞳が輝いた!

 

「…ぐぅッ……ビーム、か」

 

『シンジ君!一旦距離を取るのよ!』

 

背筋に走った寒気に思いっきりエヴァを横っ飛びさせたが

左肩のウェポンラックが持っていかれてしまった。

自分の左肩にも火傷のような痛みが走っている。

エヴァとシンクロしているがために発生する

フィードバックダメージだ。

ミサトさんに促されるまま一度距離を取るが

悠長に考えては居られないだろう。

ビル群も一部が薙ぎ払われてしまっている。

グダグダしていれば使徒のビームで隠れる場所を

どんどん削られていってしまう。

 

「…ミサトさん、近接戦闘でいきます。いいですか?」

 

『………分かったわ。こちらも全力で援護します。

フィールド中和距離に入ったタイミングで

兵装ビルから弾幕を貼るわ。一気にカタをつけるのよ。』

 

『─19番から27番までの迎撃設備展開!』

『─誘導ミサイル、発射準備完了。』

 

僕はすぐに短期決戦の準備に取り掛かった。

ケーブルを幾度か切り替えて位置取りを大きく変え

パレットライフルを左手、プログナイフを右手に持つ。

 

『シンジ君、準備は整ったわ。あなたのタイミングで

始めてもらって大丈夫よ。』

 

ミサトさんの発言を聞いて初号機の操縦桿を握り直し

マップで使徒の位置を見ながら移動を続ける。

完全なインファイトに持ち込むつもりでいるため

後ろに逃がすわけにはいかないのだ

使徒が狙い目の場所へ踏み込むタイミングを待つ。

 

 

 

「………ここだッ!」

 

『フィールド中和距離です!』

『全兵装、撃てーッ!』

 

「ATフィールド全開ッ!!」

 

集中砲火を浴びて怯み続けるサキエルへ一気に詰め寄る。

初号機からもパレットライフルを乱射し

ビームを撃たせないようにする。

サキエルの後方にはビルが見える、最高の状況だ。

 

「うおあぁぁッッッ!!!」

 

コアへナイフを突き立て、背後のビルへ叩きつける。

半ば瓦礫に埋もれるように仰向けに倒れたサキエルへ

さらに追撃を仕掛ける。左手のライフルを投げ捨て

サキエルの仮面を掴んで明後日の方向へ向けることで

厄介な光線を封じる。

続けて右手のプログナイフを逆手に握り直し

コアへ向けて思いっきり振り下ろす。

最後に突き刺さったナイフへ向けて足を振り下ろし

使徒にトドメを刺しにかかる。

 

『目標に高エネルギー反応!!!』

 

突然ビクビクっと全身を震わせ腕を伸ばしてくる。

まさか自爆でもするつもりなのだろうか

しかしその勢いはすでに非常に弱々しかったため

コアを踏みつけていた足をそのままバネにして

後方へ大きくバックステップした。

 

「フィールド全開ッ!」

 

爆風に備えフィールド全開も忘れない。

 

 

 

ドォーーーンッッッ!

 

 

 

使徒は綺麗な十字の光を放って消滅したのだった。

 

 

『…初号機、パイロット共に生存確認!』

 

『…やった…やったぞーッ!』

 

発令所の主モニターにも初号機の姿が映し出される。

爆炎のなかからゆっくりと歩いてくるその姿は

恐ろしいながらも頼もしさを感じさせるようだった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「え…何この状況?」

 

ミサトは結果報告のため司令室を訪れたのだが

異様な光景が目に入ってきた。

すぐそこに立っているのは眩しい笑顔の碇シンジ。

出撃前にも見せていた、とても良い表情だ。

そこに特に変わった点は無いだろう。

ミサトが驚いたのはシンジの前にいる人物の様子だ。

 

「さぁて父さん、色々聞かせてもらうからね」

 

「………………………」

 

いつも仏頂面で冷徹な雰囲気すら漂わせる

NERVの総司令官、碇ゲンドウである。

しかしその彼は今サングラスをかけておらず

目が泳いでいるのがハッキリと見て取れた。

冷や汗をびっしょりと流していて小刻みに震えている。

使徒戦の最中まるで姿を見かけなかったが

その間に何があったのだろうか。

 

「僕がどこで何をしてるのかは調べてたんだよね?」

 

「…はい」

 

シンジの問いかけに対しやけに丁寧に返すゲンドウ。

いつもの彼であれば「あぁ」程度しか言わないだろうに。

これが出撃前にシンジが言っていた「お話」だろうか

突然呼び出した件について問いただされているらしい。

 

「呼ぶなら事前に連絡を入れるのが常識でしょう?」

 

「…連絡は送っただろう」

 

「アレを連絡って言い張るつもりなんだね」

 

シンジは突然振り返った。手元に1枚の手紙を持って。

既にその手紙の内容を知っているミサトは

それを見て笑いだしそうになった。

 

「ここにいる人たちに意見でも聞いてみようかな。

副司令さん、リツコさん。見てみてください。」

 

事情を知らない冬月とリツコは手渡された手紙を見る

そこには「来い」としか書かれていないわけで。

 

「…碇。…ふはっ…これは怒られても文句は言えんな」

 

「司令…さすがにこれは………」

 

冬月は苦笑い、リツコは呆れた表情をしていた。

自分の部下たちが完全にシンジの側に付いたことで

ゲンドウはもはや何も言えなくなっていた。

が、次の発言に司令室の面々はさらに困惑することになる

 

「僕は色々やらなくちゃならない事があるんだ

いちどドイツへ帰らせてもらうよ。

大学での講義やら論文の発表会やらで

帰ってくるのは1年くらい先になると思うから。」

 

ある種の搭乗拒否である。

 

「…待ってくれシンジ!お前が必要なんだ!」

 

ゲンドウはプライドをかなぐり捨ててシンジを呼び止める

次の使徒がいつ来るかは分からないが

今また来られるとレイではとても対処し切れない。

シンジに残っていてもらわねばならない

この場の大人たちは彼へと目線を向ける。

 

「…今回呼び出されたことでおじゃんになる講義の分は

後々NERVの方から補償を出してもらうことを前提として

僕が最前線で命を賭ける以上やってもらいたいことや

許可して欲しい事がいくつかある。」

 

シンジが主にNERVへ要求したのは

非常時以外は作戦の最終決定を現場の判断に委ねること

エヴァの整備や武装開発の会議に自分を参加させること

エヴァやそのパイロットに関する情報の開示

現在いるパイロットとの面会

この4つだった。

ゲンドウはかなり渋っていたようだったが

エヴァパイロットとの情報交換無しで

一体何をするつもりなんだ、と押し負けたのだった。

 

「じゃ、サングラスは返すよ父さん。」

 

シンジが立ち去ったあとのゲンドウの背中は

まるで妻に叱られしょぼくれる旦那とでもいうべき

とても哀愁漂うものだった。

 

「随分とユイ君の尻に敷かれていたんだな、碇。」

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「ねぇシンジ君、あたしのウチに来てみない?」

 

ミサトはシンジに同居の話を持ち掛けていた。

エヴァパイロットの監督役として便利だからというのも

あったがシンジの正体が気になるというのが大きい。

 

「別に一人暮らしでも問題ないんですけど…」

 

「聞けばシンジ君、伯父さんのとこ離れてからは

ずっと一人暮らしだっていうじゃない。誰かと暮らすことで新しい発見があるかも知れないわよ?」

 

「あー、そうですね。お言葉に甘えさせてもらいます」

 

シンジは思ったよりあっさり首を縦に振った。

断られるだろうと思っていたミサトは驚いたが

気を取り直してリツコへと連絡を入れた。

 

「リツコ?シンジ君ウチで引き取ることにしたからー。」

 

『急にどうしたのよミサト!?』

 

「人事部に許可取っといてね~」

 

電話口の向こうの親友は唐突な提案に驚いているが

ミサトは自分の意思を曲げる気は無かった。

 

『シンジ君はなんて言ってるのよ?』

 

ちょうどその本人が居るので彼へ電話を手渡し

自分の意見を言ってやれと伝える。

 

「あ、碇シンジです。僕はこれでいいですよ。」

 

『シンジ君がいいって言うなら私は構わないけど…』

 

どうやらリツコからもOKが出たらしい。

 

「んじゃ、あと宜しく~!」

 

強引に話を切り上げ、シンジを自分の車へ乗せると

歓迎パーティのために街へと走り出した。

 

 

 

コンビニに立ち寄ったシンジは野菜を物色していた。

ミサトがパーティの料理を「作る」ではなく

「買う」と言ったあたりで何となく察していたのだ

恐らく彼女は料理はしないクチなのだろうな、と。

 

「シンジ君、野菜なんて買って何するの?」

 

「簡単なドイツ料理を作ろうかなと。」

 

シンジがカゴに入れていたのはジャガイモと玉ねぎ

ソーセージ、キャベツとツナ缶、さらに何種類かの

調味料だった。NERVから呼び出された日に

明日の朝食にでもしようかと準備していた料理を

こっちでも作って食べることにしたのだ。

 

「それとミサトさんってビールとか飲みます?」

 

ちょうど今自分が作ろうとしている料理に合いそうな

ビールを見かけたためそう声を掛けた。

 

「あたしはビール大ッッッ好きよ!」

 

ミサトは目を輝かせながらそう告げてきた。

 

「…ならちょうどいいや。これ、飲んでみません?」

 

ミサトに手渡したのはレーベンブロイ。

このコンビニに売っていたドイツビールである。

 

「いいわね~♪シンジ君が何かご馳走してくれるんでしょ?

エビチュ一筋のあたしとしても楽しみだわ~♪」

 

ミサトは小躍りしそうなほどウッキウキである。

 

 

 

「今日からここはシンジ君のお家よ!さ、ホラ

上がって上がって~!ちょっ~ち散らかってるけどね」

 

「ただいま。」

 

ご飯食べてお風呂入ってゆっくり寝ようかな──

ここ数日の疲れを癒すために

シンジは新たな自宅に足を踏み入れた。

 

まさかこのトビラの先に、ある種の地獄絵図が

広がっているとは思いもせずに……。

 

 

 

                      つづく




まだ苦戦という苦戦はしない(ハズ)です。
まぁサキエル君ですからね。

作品中に出てくる「○○ブロック」というのは
新劇場版第6使徒戦で爆砕ボルトによって
落下していった街1区画を1ブロックと想定してます。
まぁそれでも適当なんですけどね。


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新たな絆

日常枠です。

シャムシエル戦は次回。


「ミサトさん、ゴミ袋を用意してください」

 

あたしは今、碇司令がシンジ君を前にして

ああも冷や汗を流す理由を知った気がした。

こっちを見るシンジ君の表情はやはり笑顔なのだが

それを向けられて初めて分かった。

目がまるで笑っていないのだ。

 

「は、はいっ!今すぐ用意します!」

 

このシンジ君には勝てる気がしなかった。

ゴミ袋を探し出して彼に手渡す。

 

「さて…疲れるけどやりますか」

 

シンジ君に指示されながらゴミを片付けていく。

あたしもゴミの仕分けくらいはやるけど

シンジ君のそれはとても的確で素早かった。

あっという間に燃えるゴミ燃えないゴミ

カンとビン、ペットボトルと仕分けられていき

十数分もしないうちに新居のように綺麗に片付いた。

実を言えばあたしもここに越してきて

そんなに時間は経ってないんだけど。

 

「夕食の準備しますか。ミサトさんは既製品のほうを

テーブルに広げておいてください。」

 

買ってきた惣菜を並べ、冷凍食品をチンする。

ビールも追加で数本冷蔵庫から取り出しておく。

シンジ君の手元を覗き込んでみると

ジャガイモとソーセージ、玉ねぎを炒めている。

ドイツ料理でこの材料ならジャーマンポテトね。

あっちじゃシュペックなんとかって呼ばれてたけど。

 

隣にはキャベツとツナをドレッシングで和えたもの

これはザワークラウトかしら?

美味しそうな香りがキッチンに立ち込め

思わずヨダレがこぼれそうになる。

 

「さ、出来ましたよ。」

 

「う~ん美味しそうないい匂いだわ♪」

 

「「いただきます」」

 

ほっぺたが落ちるような味とはまさにこれのこと

そう思えるほどシンジ君の手料理は美味しかった。

ビールもさっそく2本目、ついつい進んでしまう。

これは彼も喜ぶだろう、まだ寝ているかも知れないが

もう1人の同居人にも声を掛けてみる。

 

「ペンペン~!起きてたら来なさ~い!」

 

「クエックエッ!」

 

ペタペタと音を立ててすっ飛んできた同居人。

 

「うわわっ、ひょっとしてペンギン…ですか!?」

 

「そうよー。新種の温泉ペンギン、ペンペンよ。」

 

ペンペンにジャーマンポテトとザワークラウトを

取り分けてあげると、物凄い勢いで食べ始める。

彼もシンジ君の料理は気に入ってくれたらしい。

ストローを器用に使ってビールを飲んでいく。

 

夕食を食べ終えたペンペンは自室である冷蔵庫から

お風呂セットを手に取るといつもよりテンション二割増で

脱衣所のほうへと駆け抜けていった。

 

「なんというか…凄い生態してますね、彼。」

 

さすがのシンジ君も驚いた表情をしている。

レアな表情ゲットしちゃったわ。

 

 

 

「あ、そういえばファーストとセカンドって

今どこにいるんですか?」

 

…確かエヴァパイロットと面会させろって碇司令に

要求してたわね。司令も一応首を縦に振ってたし

教えても別に大丈夫でしょ。

リツコは後でデータでまとめて渡すって言ってたけど

あたしもパイロットのデータは書類で持ってるから

シンジ君へファーストチルドレンのデータを手渡す。

 

「ファーストチルドレン、綾波レイよ。

セカンドは近いうちにドイツから来る予定だけど

彼女は明日の放課後は自宅にいると思うから。」

 

「なるほど…綾波レイとは明日会ってみます。

セカンドの方はドイツにいるのか。

近いうちに来るなら会った時に話せばいいかな」

 

「それとシンジ君、明日から中学校へ通ってもらうわ」

 

「ええっ!?」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

「ねェねェ碇さん、ちょっと聞きたいことあるんだけど」

 

「君があのロボットのパイロットってホント?」

 

シンジは登校早々クラスの面々に絡まれていた。

しかも最重要機密になっているハズのエヴァの情報が

既に中学生たちにまで漏れているとは

一体どういうことだろうか。

 

「ロボット…?なんのこと?僕ここへ越してきたばっかで

ほとんど何も知らないんだけどさ」

 

シンジはその質問にあえて違うと答えた。

エヴァに関する情報をこれ以上流す意味は無いし

間違いなくクラス中が大騒ぎになるだろう。

ただでさえ既に知っている内容の学び直しで

つまらないな、と思っていたのだ。

これ以上変に絡まれても厄介だ。

 

「まさかのボクっ娘!!」

「ボクっ娘美少女だなんて最高じゃないか!!」

「ねぇねぇ、彼氏とかいるのー?」

 

………どちらにせよ面倒事になるのは確実だったようだ。

ここで男だと言っても騒がれそうではあるが

どう答えても大騒ぎ確定、そんな雰囲気だった。

もうなるようにしかならないだろう。

 

「…いや、僕これでも男なんだけど。」

 

「ネットにしか存在しないハズのガチな男の娘や!!」

「帰国子女の天才美人男の娘だなんて!!」

「ドイツから来たって聞いたんだけどホント!?」

 

「あの…ちょっとええかー?…聞こえとらんなありゃ」

 

案の定大騒ぎしだしたクラスメートが迫る。

何か話をしたそうにこちらを見るジャージの少年を

横目に見つつ、質問の嵐を一つ一つ捌いていくのだった。

 

 

 

「よォ転校生。わざわざ来てくれてありがとうな」

 

シンジは昼休みにジャージの少年から呼ばれて

学校の校舎裏まで来ていた。彼の友人だろうか

カメラを持ったメガネの少年も一緒にいる。

 

「あのロボットのパイロットやないってホンマか?」

 

「あれ~おっかしいな…オレの調べじゃ確かに…」

 

「あー、騒ぎにはなりたくないって思って否定したけど

僕があのロボットのパイロットなのは事実だよ。」

 

シンジがエヴァパイロットだろうということが

学校中で噂されていた以上隠す意味はもはや無かった。

 

「やっぱりそうか!なぁ、エヴァについて教えてくれよ!

可能な範囲で構わないからさ!」

 

メガネの少年が凄まじい勢いで食いついてくる。

スーパーロボット系でも好きなんだろうか?

しかしジャージの少年はメガネの少年とは違って

興奮や驚きとは違う反応を返してきた。

 

「ホンマに助かったで!!妹を助けてくれて…

ホンマに…ありがとうな!」

 

どうやら前に助けたあの少女が彼の妹らしい。

学校に忘れ物を取りに戻っていたとかで

逃げ遅れてしまっていたらしい。

 

「鈴原トウジや、よろしくな。」

 

「相田ケンスケだ、よろしく!」

 

「知っての通り碇シンジだ、よろしくね。」

 

トウジと、そしてケンスケとも握手を交わす。

面倒だと思っていた中学校生活だったが

賑やかな友人も出来たし楽しくなりそうだ。

 

「しっかしお前、ホンマに野郎なんか?」

 

「分かるぞトウジ、正直信じられないよな。」

 

「あははっ、昔っから色んな人に言われるよ。」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

[第三新東京市市営住宅第22番団地6号棟、402号室]

 

シンジはミサトから受け取ったレイのプロフィールに

載っている彼女の住居へと向かっていた。

 

団地があるエリアは人通りがとても少なく

工事車両やクレーンの音だけが寂しく響いていた。

団地そのものもかなり古い造りなようで

壁面は塗装が剥げ、アスファルトの地面からは

かなりの量の雑草が顔を出している。

 

「こんなところに住んでるのか?14歳の少女が1人で…」

 

シンジ自身も海外にいた時は当然一人暮らしだったが

多くの街の人たちと交流しあって生活していたのだ。

 

 

 

[402 綾波レイ]

 

「"綾波"の表札だ…本当にここに住んでるんだな」

 

シンジはその表札を見てインターホンを鳴らす。

いや、鳴らそうとした。

何度か押しても音がならないのである。

 

「綾波さーん?いるーっ?」

 

扉をノックしてみるも反応が無い。

しかし留守なのかと思って一度ドアノブを捻ってみると

カギは掛かっていなかった。

水の流れる音が聞こえてきたことから

どうやら彼女はシャワー中らしい。

 

「しょうがない…少し待つか」

 

手に持っていたレジ袋を地面に置き

マンションの壁に寄りかかって考え事をする。

考えるのは彼女の安全性だ。

当然彼女もエヴァパイロットである以上は

保安諜報部のガードが付いているだろうが

誘拐しようと思えばいくらでもやりようがありそうだ。

シンジは帰ったらミサトに相談することを決めた。

 

「…碇くん?」

 

「うわっ!?綾波さんか、びっくりしたや…

家、上がってもいいかな?」

 

「どうぞ。」

 

いつの間にか綾波が外へ出てきていた。

いきなり扉を開けて出てきたもんだから驚いてしまった。

今日僕が訪ねることはミサトさん経由で

知っていたらしく家へ上げてくれた。

 

 

 

「サードチルドレン、碇シンジだ。よろしく。」

 

「綾波レイよ。」

 

とりあえず挨拶を交わしておく。

やけに感情の起伏が乏しい子だな、という印象だ。

写真から既に無表情だったから察してはいたが

まさかここまで反応が薄いとは驚きだ。

 

部屋もこの歳の女の子にしては余りにも質素というか

コンクリ打ちっぱなしはさすがに異色だ。

ぬいぐるみや少女漫画なんかも当然見当たらない。

キッチンはあったが調理道具はひとつも無いし

そもそも使われた形跡すら無かった。

とてつもない少食にしてもちょっとこれは…

正直ミサトさんとは別の意味でひどい環境だ。

 

「そうだ、これ、良かったら食べて。

そこらで買ったものだから大したもんじゃ無いけど…」

 

近くのコンビニで買ったお菓子と飲み物を手渡す。

パイロット同士情報交換するつもりだったし

あった方が良いだろうと思って買ったものだ。

 

「必要ないわ」

 

まさかの返事だった。遠慮がちに断るでもなく

キッパリと「要らない」と返ってきた。

日本人であれば普通は受け取っておきそうなものだが…

箱入り娘でもないなら世間知らずということか?

パイロット一筋ウン10年、他のことは一切興味ありません

そういうことなら有り得るだろうが。

 

「いいから貰っておいてよ。会ってくれてありがとう─

そんな意味合いのものだからさ。」

 

お菓子と飲み物はとりあえず受け取らせておく。

 

「…ところでさ、こんなところに住んでるのって

もしかして綾波さんの趣味だったりするの?」

 

「いいえ、碇司令に用意してもらったわ」

 

 

 

………あんのクソ親父が…また説教だな。

 

1を問えば0.1しか答えてくれないような綾波との会話に

四苦八苦しつつも同世代の少女がどんな生活をしているか

今綾波が置かれている環境がどれだけひどいのかを

ひとつひとつ教えていく。

 

話を聞いていくうちに分かったことだが

彼女は少食とかそういう次元ではなかった。

全て薬やサプリメントで済ませていたようで

そもそもロクな食べ物を全く食べていないらしい。

 

「おいしい…!碇くん、これは何!?」

 

コンビニで買ったアイスを食べさせてみると

目を輝かせて未知の食べ物の正体を問い詰めてくる。

正直ものすごく庇護欲が掻き立てられる。

 

「そうだなぁ…綾波さん、僕とミサトさんのウチに

引っ越ししない?料理は僕が作ることになってるし」

 

この提案に綾波は二つ返事で了承、

ミサトさんへすぐさま電話を掛けて

綾波の引っ越しの手続きを進めてもらった。

 

「碇くん、…ありが…と…う?」

 

最高かよ。

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「なぁ碇!頼むよ!これを着た写真も撮らせてくれ!」

 

オレは必死になって碇に写真のモデルを頼み込んだ。

実はかなり大変な状況になっているのだ。

 

「あのさぁ…"コレ"はちょっと…」

 

オレは昔から写真を撮るのが好きでよく撮っていたのだが

最近は小銭稼ぎのために、悪いなとは思いながらも

クラスの女子の写真を隠し撮りして

それを男子にこっそり販売していたりするのだ。

 

オレのところへ来る客はそんなに多くはなかった

当然多くの生徒には秘密でやってたからな。

だが碇が来てから状況が急変したんだ。

碇のヤツは帰国子女で天才で美人で…

美味しそうな弁当も作れると来ている。

とにかく多くの男子の性癖にクリーンヒットした。

その結果、男子生徒にそろって押しかけられて

他の在庫も含めてスッカラカンになってしまった。

 

「僕は確かに女装はしてるけど…あくまでも"男"だ。

スクール水着まで着るような変態じゃないんだよ!」

 

「そこをどうか頼む碇っ!けっこうな人数から

依頼されてるんだよ!」

 

すでにセーラー服やメイド服、チャイナ服とかの写真も

撮ってあるから在庫は十分稼げている。

しかし、碇が男の娘だと聞きつけた男子から

スクール水着姿の依頼が数多く来ているのだ。

 

「…うぬぬぬ…………」

 

碇はかなり悩んでいる。これはワンチャンあるか?

 

 

 

「…仕方ない。1回だけそれに付き合ってあげるよ。

どんな衣装でも用意してくれたら着てあげる。

ただし、これ以降は受け付けないと思ってくれ。」

 

「やったァ!ありがとう碇!恩に着るよ!」

 

さらに嬉しいことに碇はエヴァのパイロットスーツも

機能は一切教えない変わりに、って着てくれたのだ。

ボディラインの出るピッチリスーツとは…

胸元にティッシュを詰めさせておっぱいもバッチリ!

これは売れに売れそうだ。

 

 

 

「碇の写真、1枚ずつ全て買おう」

「シンジ君のパイロットスーツの頼むよ」

「じゃあオレは水着姿貰っちゃおうかな」

 

「毎度あり!」

 

予想通り碇の写真は飛ぶように売れ

オレのサイフは数日でパンパンになったのだった。

碇には感謝してもし切れないぜ。

…「学校中の男子の性癖を歪めた」なんて噂話は

聞かなかったことにしておこう。

………あとで碇にはなんか奢ってやるか。

 

 

                      つづく

 




レイがミサト宅へ引っ越しました。
シンジ君の隣の部屋…もとい物置が掃除されて
レイの部屋になりました。

さて、次回からシンジ君の天才っぷりを
少しずつ出していこうかと思います。
本領発揮はアスカが来てからかな。


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絆のナイフ

今回ちょっと視点変更が多めです。
見づらかったらごめんね。
ある人物をここのストーリーに組み込んだら
こうなってしまったんや。


「シンジ君、操縦訓練の調子はどう?」

 

『順調です。基本的なことは頭に叩き込んでありますし

その他細かいこともあとは慣れですから。』

 

シンジ君から返ってきた回答にリツコは感心する。

エヴァに触れ始めてからまだ1ヶ月も経っていないのに

既に基本操作はマスターしているのだ。

さすがはゲンドウ・ユイ夫婦の息子と言えよう。

 

「それと。学校の方はどうなの?」

 

私生活の面も聞いてみると、もう既に友人がいるとか。

ミサトからも特に問題は起きていないと聞いていたので

さぞかし良い学校生活を送っているのだろう。

彼の目付きは戦闘訓練をしているだけあって鋭いが

その表情自体に緊張感などは見られない。

 

『そこだ!当たれぇっ!』

 

「総合的な命中率は7割ほど…悪くない数字ね」

 

仮想空間で行われる戦闘はシンジ君が有利だ。

使徒のデータはサキエルを元にしたものしかないが

なめらかな足さばきで敵の攻撃をかわし

パレットライフルの弾丸を叩き込んでいる。

 

「それじゃあこの辺で武器を切り替えましょう。

次はガトリング砲を撃ってもらうわ。」

 

『了解です。』

 

ガトリング砲の命中率はざっと5割強。

反動に慣れてくるとパレットライフルの時と

さほど変わらない命中率をたたき出す。

 

「ところでシンジ君、あなた戦いは怖くないの?」

 

戦闘の様子を見たミサトが割り込んでくる。

戦うことに恐怖が無いのかはリツコも気になっていた。

わずか14歳の少年、しかも当然戦闘経験などないだろうし

やっぱり乗りたくないと言う可能性も想定にあった。

 

『あー、怖くないって言うと嘘にはなりますけど…

ミサトさん達のバックアップがあるのは

十分分かってますからね。安心は大きいですよ。』

 

「そっか。信頼には答えなくちゃね、リツコ!」

 

「そうね、頑張りましょ。」

 

2人はシンジが信頼を置いてくれていることを受け

気合いを入れ直した。

この後控える武装開発会議にはシンジ君を呼んでいる。

彼はエネルギー学や量子力学なども得意と言っていたし

特に武装開発は彼が本領発揮できる場だろう。

リツコは楽しみで仕方なかった。

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

「まだ設計段階ですけどね。N2リアクターの設計図です。

僕だけじゃ小型化がどうも上手くいかないくって…」

 

シンジ君に見せてもらったN2リアクターの設計図は

かなりしっかりと書き上げられていたものだった。

エヴァと同スケールで作れば十分稼働しそうだ。

そこにエヴァのケーブル接続口へと取り付ける

バックパックタイプへ改良するための考察メモが

そこらかしこに書き記されている。

 

「凄い設計図ね…NERVでもこれを元に作ってみるわ。

実現できればエヴァの稼働時間が実質無限化できる…

素晴らしい案をありがとうねシンジ君。」

 

「どうもありがとうございます。計画中の武装の

設計図を見せてもらってもいいですか?」

 

「いくつかあるけど…こんなところかしら」

 

シンジ君に手渡したのは「全領域兵器マステマ」を含め

5つの武装の開発案。まだどれも設計が仕上がっておらず

開発に手が着いていないものだ。

 

「ポジトロンライフルの開発は僕も全力を尽くしましょう

丁度欲しかったんですよ、高火力の遠距離武装が。」

 

まさかの全面協力を約束してくれた。

それとは別でシンジ君から近接戦用のショットガンと

プログナイフより大きめの近接武器を要求された。

エヴァの基本運用コンセプトからして必須だ、と。

近接武器には試作してあったプログダガーを

正式に採用すると答える。

ショットガンの方も計画にはあったので

それを推し進めていけばいい。

 

そしてなにより有益だったのが腰部ウェポンラックだ。

腰にアーマーを取り付け、そこへプログナイフや

ハンドガンをマウントするというものだった。

特別重要な武装をくっ付けていなければ

装甲としても十分な機能を発揮するだろう。

エヴァという人型に鎧を着せる──

なぜいままで思いつかなかったのだろうか?

 

「あぁそうだ、あれも言っておこうと思ったんだ。

リツコさん、使徒がどうやって周囲の状況を…

もといエヴァの存在を認識しているか

調べておいて貰いたいんですよ。」

 

「確かにそれは気になるわね…何を以て敵と識別するのか

次の使徒襲来時に調べておくわ。」

 

リツコはここまでにシンジから貰った提案などを

一通りまとめてパソコンへと打ち込んでいった。

 

 

 

「とても有意義な時間だったわ。ありがとう。」

 

「いえいえ、僕も楽しかったですよ。」

 

2人でコーヒーを飲みながら休憩する。

そんな休息のひとときを終わらせたのは

使徒襲来の警報だった。

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

『いい、シンジ君。まずは様子を見るわよ!

フィールドを中和しつつガトリングの一斉射、いいわね』

 

「はいっ!」

 

『エヴァンゲリオン、発進!』

 

ミサトさんの指示でエヴァが射出される。

最終安全装置の解除を確認し近くの兵装ビルから

エヴァ用のガトリング砲を取り出す。

劣化ウランを使った弾丸なので威力はそれなりにある。

 

「ATフィールド、展開!」

 

「……………」

 

使徒は前方3ブロックほど先からスーッと空を泳いでくる

その姿はまるで海洋生物、赤いイカのような容姿をした

「第4使徒シャムシエル」だ。

 

使徒はこちらへ近づくとゆっくりと体を持ち上げ直立する

 

「一斉射撃開始ッ!」

 

そこはすでにフィールドの中和距離だ。

ダダダダダッと轟音を上げながら弾が撃ち込まれていき

使徒はみるみるうちに爆煙に包まれていく。

しかし、何の反応も無いので逆に不安になる。

使徒殲滅の報告も無いので死んではいないだろうが

不気味なのである程度距離を取る。

 

ビシュビシュッッ!!

 

「!!」

 

ムチだ。爆煙を切り裂いたのは使徒の光のムチだった。

素早く振るわれた光のムチによって

周りにあった兵装ビルはまるで紙っぺらのように

切り裂かれていた。

あれに触れればエヴァの装甲でもタダでは済まないだろう

素早く位置取りを変え何度かガトリング砲を撃つが

頑丈な表皮に阻まれているのか傷は付けられなかった。

 

「くそっ…ラチが開かないぞ、これじゃあ…」

 

『近接戦闘…ちょっちリスクが高すぎるわね…』

 

パレットライフルやハンドガンも試してみたが

やはり効き目はない。コアは使徒の顔に隠れており

銃弾で狙おうと思ったら相当の腕前が要るだろう。

今の僕の腕前ではとても狙えたものではない。

 

使徒から距離を取り銃火器を一斉射──

使徒がムチを振るいながら距離を詰める──

それを繰り返すだけだ。アンビリカルケーブルがあるため

エヴァの電源が切れることも無い。

まさに千日手な状況に追い込まれてしまっていた。

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「ちぇっ、また文字だけだ」

 

ケンスケがそう愚痴る。手元にある小型カメラには

特別非常事態宣言が発令されました、と出ている。

詳しい情報は追って伝えるとも書かれているが

前回は特にそれを知らせる報道は無かった。

 

「一度で良いから見てみたいもんだよ!」

 

「それって、上のドンパチをか?」

 

このミリタリーオタクは相変わらずだなと感じる。

強大な敵と戦う巨大ロボットというのが

男のロマンだっていうのはトウジにも理解できる。

 

「なぁ、内緒で外へ見に行こうと思ってるんだけど

トウジも協力してくれないか?」

 

「マジで言うとるんか?」

 

「あぁ、親父のパソコンをちょっと覗き見てさ

シェルターから抜け出すルートを見つけたんだ。」

 

本気で言ってるのかこのバカは…とも思ったが

トウジもエヴァの戦いには少し興味があった。

妹を守ってくれたシンジが、一体どう戦っているのか。

 

「お前ってヤツは…ホンマ自分の欲求に素直やな。

ええで、ワシもシンジの戦いには少し興味があるんや」

 

ケンスケと2人立ち上がり、クラス委員長の洞木ヒカリに

トイレだと伝えてこっそりと動き出す。

 

 

 

「はっ、はあっ、早すぎるでケンスケェ!」

 

「こっちだ!この上からなら見えるハズだ!!」

 

ケンスケを追いかけて神社の階段を駆け上がっていく。

確かに山腹にあるこの神社であれば第三新東京市を

ある程度見渡すことができるだろうが

やたらとケンスケが早い。

長く続いている階段をひたすら駆け上がっているのに

自分とこれほど差をつけて走っていくとは

趣味へ突き進むマニアの執念とは恐ろしいものだ。

 

 

 

ゴゴゴゴゴ…ガシャァン!

 

「「来た!」」

 

ついに目の前にエヴァ初号機が姿を表した!

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、早すぎるでしょあのバカたちっ!」

 

洞木ヒカリは石の階段を必死で駆け上がっていた。

怪しげに会話をしていたバカ2人を追いかけてみれば

シェルターの扉が開けられていたのだ。

近くに警備員の姿も無かったため

2人を連れ戻そうとひた走っている。

 

自分の後方では凄まじい爆音が鳴り響いているが

恐怖に震えている暇は無い。

一度飛び出して来た以上は2人を連れ戻すつもりだ。

 

 

 

「げっ、委員長!?なんでここにおるんや!?」

 

「それはこっちのセリフよ鈴原!

シェルターから抜け出して何してんのよ!」

 

トウジとケンスケを連れ戻そうとするが

特にケンスケが頑なに戻ろうとしない。

爆音は今も鳴り響いており、いつここが巻き込まれても

おかしくはない状況なのだ。

 

「ケンスケ!シンジのヤツやられ始めよったぞ!?」

 

「大丈夫っ、まだだ!」

 

後方へ視線を向けると紫色のロボットが

光のムチに翻弄され始めている。

こうなったら2人を引きずってでも連れ戻すか

そんな考えをしていた時だった。

 

「初号機がやられた!?」

 

紫色のロボット、初号機の腹部が敵の光のムチで貫かれる

敵はそのままムチを振るい、初号機が投げ飛ばされた。

 

「こっちへ飛んで来るで!?」

 

その飛ばされた方向はまさに私達のいる方向だった。

 

「「ぎゃああああァァァッ!!!」」

「いやぁァァァッ!!!」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「うぐッ…痛ったぁッ」

 

『シンジ君!大丈夫!?』

 

「はいッ…なんとか。」

 

光のムチで脇腹を貫かれ、派手に投げ飛ばされたシンジ。

結局使徒には有効打となりうる攻撃は出来ず

アンビリカルケーブルも切断され

かなり劣勢に追い込まれている状況だ。

状況を立て直すべくUIにざっと目を通した時

初号機の手のひらのすぐ側で固まって震えている

クラスメイト3人の姿が目に入った。

 

『シンジ君のクラスメイト!?なぜここにいるの!?』

 

「トウジ、ケンスケ!委員長まで…ハッ!?」

 

ビシュゥッ!!

 

使徒は待ってはくれない。

体を倒した飛行形態で接近しムチを振るってくる。

すぐさまムチを掴み取ったはいいが

ジュウジュウと初号機の手が焼かれ

シンジの手にも激痛が走る。

 

『シンジ君!そこの3人を一旦回収するのよ!』

 

「そこの3人!!早く乗るんだッ!!」

 

初号機を固定しエントリープラグを解放、

ワイヤーを降ろして3人に乗るよう叫ぶ。

 

 

 

「!?なんやコレっ!水やないか!」

 

「ああっカメラカメラっ!」

 

「碇さん!私たちはどうしたらっ!?」

 

「この液体を吸い込むんだ!呼吸は出来る!」

 

コックピットが液体で満たされていたことに驚き

騒ぎ出す3人にLCLを吸い込めと告げると

すぐさまプラグを再挿入、シンクロを再開させる。

 

「あちっ、あちちッ!シンジ、手が熱いんやが!?」

 

「ぐえっ…脇腹も地味に痛いぞトウジ」

 

「ごぼぼっ…碇さんもこの痛みを…!?」

 

エヴァに乗った以上ほんのわずかにシンクロしているのか

フィードバックダメージが3人にも行っているらしい。

仮にシンクロしたまま初号機の首が飛んでも

3人は死にはしないだろうが…

 

『シンクロ率が急激に低下しています!!現在47.1%!』

 

最低ラインは下回ってない。十分にやれる。

まずはこの状況を脱するため使徒を引き剥がしにかかる。

今の使徒は飛行形態で踏ん張りが効かないのか

ムチを引っ張ってやると簡単に振り回すことが出来た。

 

「うおぁァァァッ!」

 

ジャイアントスイングのように使徒を振り回し

その勢いのままビル街の端の方へ叩き付けてやる。

使徒が怯んでいるうちに山を駆け下りて

電源ビルからケーブルを取り出して接続する。

 

『エヴァ初号機、外部電源に切り替わりました。』

 

とりあえずバッテリー切れの心配が無くなったことに

ホッと胸を撫で下ろす。

 

『さてシンジ君、あたしの頭には今とある作戦しか

浮かんできてないわ…多分シンジ君なら分かると思うけど

何か良い作戦があったら言ってちょうだい。』

 

「肉を切らせて骨を断つ…ですよね?」

 

『えぇ。今回兵装ビルの兵器は使い物にならないから

シンジ君に全てを託す形になっちゃうけれど…

やってもらえるかしら?』

 

ミサトさんに言われるまでもない。

それしか無いだろうと薄々勘づいていたし

言われなくてもやっていただろう。

…あとは一応後ろの3人にも言っておかないとな。

 

「さて、3人とも。大変だろうが力を貸して欲しい。

僕は今からヤツの弱点にナイフを突き立てる。

その時3人にもナイフを刺すイメージをして欲しいんだ。

反撃を喰らえば痛みが走るだろうけど

どうか協力して欲しい。」

 

「あ、あぁ!シンジがこれだけ頑張っとるんや!

ワシも覚悟決めてやったるで!」

 

「オレも同じだ。ぜひ協力させてくれ!」

 

「私も。それが碇さんの力になるなら!」

 

3人とも気合いは十分なようだ。

僕も軽く両頬をはたいて再度気合いを入れ直す。

たいした効果も期待出来ないだろうが

ビルの影から奇襲できるよう位置取りを変える。

 

 

「………ここだぁッ!」

 

ガッ!!ギィィィィィーーーンッ!!!

 

使徒のコアに上手くナイフが突き刺さった。

立ち上がった状態だったためすっぽ抜けるようなことは

無かったが、ダメ押しとばかりにビルへ叩きつける。

 

バシュゥッ!!

 

使徒のムチが左肩と右太ももを貫いたが

ここで止まるつもりはない。

 

「うぐぅッ…!!」

「痛いッ…」

「負け…へんでェ!」

 

3人の気合いもまだ残っているようだ。

一気に畳み掛けるべく声を掛ける。

 

「行くぞ3人とも!押し切るッ!」

 

「「「「うおおおおぉッッッ!!!」」」」

 

 

 

バキバキッ…バキィッ!…

 

ついに、使徒は固まって動かなくなった。

 

『パターン青、消失しました!』

 

『やったわシンジ君!!』

 

発令所から使徒殲滅の報が上がった。

完全勝利とは言えない損傷を負ってしまったが

今回も使徒を撃破することに成功したのだ。

 

「やったなシンジ!」

 

「あぁ!」

 

「オレ感動したよ!最高のトドメだったな!」

 

「はぁ~良かった…正直すごく怖かったのよ」

 

友人と勝利を祝っていると発令所からも

歓声と拍手が聞こえてきていた。

やはり褒めてもらえるというのは嬉しいものだ。

そして、この後友人達に待っているであろう説教を想像し

心の中で3人に合掌しながら回収スポットへ歩いていった。

 

 

 

                      つづく

 




リツコが見せた開発計画書は
マステマ、デュアルソー、マゴロクEソード
サンダースピア、ポジトロンライフルの5つ。
当然そのうち出す予定です。

シャムシエルは形象崩壊しませんでした。
理由はなんとなくだ。
してもしなくても4号機は爆ぜるからね。

ヒカリさんの口調が正直よく分からん。
違和感あったら申し訳ない。


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小話:レイ、陥落


中途半端で本編に入り切らなかった…

所謂深夜のテンションが入っているので
やや暴走気味かもしれませんがご了承を。


 

──第4使徒戦後。

 

私は碇くんのことをずっと考えていた。

エヴァパイロットと交流がしたいという理由で

私の元を訪ねてきた碇くんは

なぜかやたらと私のことを気にかけてくれた。

 

今まで住んでいたところよりずっと快適な部屋を

ミサトさんへ掛け合って用意してくれたし

毎朝毎朝自分の分までお弁当を作ってくれて

シンクロテストがあればわざわざ送り迎えしてくれる。

お菓子片手にエヴァについて情報交換したりもした。

 

碇くんが作ってくれるお弁当はとても美味しくて

食べる度に暖かい気持ちになった。

碇くんと手を繋いでいると、繋いだ手から暖かさが

私の心にまで流れ込んでくるようだった。

碇くんと、そして碇司令とも話をしてみて分かったが

司令はどこか自分じゃないものを見ているようだったのに

碇くんは"私"を見て話をしてくれている。

 

「やっぱり…碇くんといる時は心がぽかぽかする」

 

第4使徒戦まではそれを気にはしつつも

特に何かをするほどでも無かったのだけれど…

 

「でも碇くんが傷つく姿を見ると…胸が苦しくなる」

 

碇くんが使徒に追い詰められていく様を見ていると

急に胸が締め付けられるような感じがしてきて

初号機が山腹へ叩き付けられた時は思わず彼の名前を

叫んでしまっていた。

碇くんが使徒を倒すと胸の苦しさは消え去り

こころには喜びが溢れてきていた。

 

私はこの心境の波の正体が知りたかった。

 

自分で答えを導き出せない以上は誰かに聞くしかない。

まずは自分の栄養面などを管理している

リツコさんのもとを訪ねてみることにした。

 

 

 

「リツコさん、心のこの感じは何ですか?」

 

碇くんに対して抱くあの心境を打ち明けると

リツコさんは驚いた表情のまま固まってしまった。

数秒ほどかけて再起動したリツコさんは

やけにニヤニヤしながら口を開いた。

 

「それはねレイ、たぶん『恋』よ。」

 

恋とはどういうものなのかも訊ねてみたが

恋っていうのは私にもよく分からないのよ、と

言われてしまった。

曰く、恋とはロジックで表せるものではないとのこと。

ただ、諦めて部屋を立ち去ろうとした時に

そういうのはミサトが得意だろうと教えてくれた。

私は足早にミサトさんのもとへ歩いていった。

 

 

 

「ミサトさん、恋って何ですか?」

 

質問されたミサトさんは一瞬驚いた顔をしたが

ひとつ答えを返してくれた。

 

「そうねェ…強いて言うなら、その人とずっと一緒に

居たいって思うこと…かしらね。あたしも正直言うと

恋やら愛やらって言葉にしにくいのよ。」

 

確かに碇くんとは一緒に居たいと思える。

一緒にいればぽかぽかした気持ちになるし私は嬉しい。

それを手放せと言われても出来る気はしなかった。

それはつまり私が碇くんに恋をしているということ。

 

ミサトさんは突然ニヤニヤ顔になった。

あの時のリツコさんよりもニヤニヤしている。

このニヤニヤした顔には何か意味があるんだろうか?

 

「多分シンジ君なら、好きです付き合ってくださいーって

言えばきっと分かってくれると思うわよ~」

 

あのぽかぽかをずっと味わっていられるなら

碇くんとずっと一緒にいられるのなら

「好きだ」と言わずには居られなかった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「碇くん、私碇くんのことが好き…です。

付き合ってください。」

 

ミサトさんから教えられたセリフを碇くんに言ったら

碇くんは顔を赤くして困惑してしまった。

 

「碇くん…?」

 

何かおかしな事を言っていたのだろうか、と考えていたら

突然碇くんにギュッと抱きしめられる。

 

(碇くん!?あっ…心がぽかぽか、ドキドキする…!)

 

碇くんに抱きしめられた私の心はぽかぽかを通り越して

ものすごくドキドキしている。

心臓もドキドキ鳴っているのがよく分かるが

なによりも幸せな感情が頭の中で渦巻いていて

どうにかなってしまいそうだった。

 

「嬉しいよ。こんな僕を好きになってくれるなんて。

僕でよければ、喜んで。」

 

"付き合う"というのが何に付き合うことなのかは

まだハッキリとは分かっていなかったが

碇くんとずっと居られるということなのだろう。

 

「これが…"好き"、これが…"恋"

やっぱり私は碇くんのことが…好き、なのね。」

 

碇くんがしてくれたように私も碇くんを抱きしめると

もっと心がぽかぽかで満たされていくようで

私はしばらく碇くんに抱きしめられる心地良さを

堪能し続けていた。

 

 

 

ぽかぽかを堪能し終えたら夕食の時間が近かったので

碇くんから簡単な料理を教えて貰うことにした。

 

「夕食には合わないかもだけど、おにぎりから始めようか」

 

ラップを手に乗せ、その上へ炊いたご飯を乗せる。

そして碇くんに焼き鮭をほぐして乗せてもらい

鮭をご飯で包んでいく。

初めてやるだけあってご飯が上手くまとまらない。

 

「綾波、こうやって…握るといいよ」

 

(いっ碇くん!?)

 

後ろから突然抱きしめられたかと思っていたら

白米を握っていた私の手に碇くんの手が添えられている。

ゆっくりと綺麗な三角形になっていくおにぎり。

けれど私はまた心臓がドキドキしてしまって

おにぎりどころでは無かった。

思考がまるで纏まらずパニック気味になってしまうが

それがなぜかとても心地いいという不思議な気分だ。

碇くんの体温が私から離れていっても

しばらくはその不思議な気分が続いていた。

 

「綾波、固まってたけど大丈夫?」

 

「え、えぇ。」

 

私が正気に戻る頃にはテーブルの上に

綺麗な白いおにぎりがいくつか並べられていた。

 

「食べてみなよ、きっと美味しいから。」

 

私は碇くんに促されおにぎりをひとつ手に取って食べる。

 

「……!!美味しい!」

 

食べたのはさっきもにぎった鮭のおにぎり。

白米と鮭、少々の塩くらいしか使っていないはずなのに

このおにぎりはとても美味しく感じた。

その日から、私は碇くんと一緒にキッチンに立って

料理の練習をするのが毎日の日課のようになっていった。

 

 

 

                      つづく

 




早くもレイが陥落です。
ラミエル戦後?どうなるんですかね。

なおシンジ君は、レイとの交流の理由について
パイロット仲間として放っておけなかったから
庇護欲がそそられまくったから、と話している。

正直やり過ぎたかなとは思っている。
でもレイが可愛いからそれでいい。


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エヴァの真実と


早くも物語の真相へ触れていきます。

ラミエル戦は次回。
新劇仕様で書くつもりです。
変形の表現、難しそうやね。



 

「これが使徒…!間近で見ると迫力ありますね。」

 

僕は第4使徒シャムシエルの死体を見に来ていた。

コアだけを一点狙いして倒したからなのか

光のムチを除いたほぼ全身がそのまま残っていた。

無論コアも砕かれてはいたが残っていたので

ここぞとばかりに調査に取り掛かっていたのだ。

 

「何か分かったことでもあったんですか?」

 

「残念だけどシンジ君、このとおりよ。」

 

「601…解析不能、と。さすが使徒ですね」

 

リツコさんと仮説研究室へ入ってみると

601というエラーコードがコンピュータに表示されており

ほとんど何も解析できなかったことを示していた。

 

「ATフィールドの調査結果は一定の成果が得られたわ」

 

隣りのコンピュータへ目を通すとそこにはシャムシエルの

ATフィールドの反応を記録したデータが映し出されている

本体を守るフィールドとは別にもうひとつ

ATフィールドの反応が出ているのだ。

 

「この反応は…アレですよね?」

 

「えぇ、使徒の光のムチ──」

 

リツコさんの解析によってシャムシエルのムチは

ATフィールドで作られたチューブの中に

使徒固有のエネルギーを充填しているものだと分かった。

 

「ひょっとしてATフィールドって…

単なるバリアってだけじゃあ無さそうだな

無限の可能性を秘めてるものだったりするのか?」

 

「あらシンジ君、奇遇ね。私も同じ考えよ。」

 

シャムシエルは翼やスラスターがある訳でもないのに

空中を泳ぐようにして第三新東京市へやってきたのだ。

それが使徒の持つ謎のエネルギーによるものでないなら

ATフィールドによって浮遊している事になる。

さらに言えばATフィールドは恐ろしく強固なので

板状に変化させて叩きつけるだけでも

相当な威力を発揮するのではなかろうか?

 

「リツコさん、ATフィールドの偏向制御をするような

システムって作れないですか?もし完成すれば…」

 

「ふふっ、難しいこと言ってくれるじゃない。

…でも良いアイデアね。まさに無限の可能性だわ」

 

自分のパソコンにもデータを送ってもらい

こちらでも色々解析や開発を進めていくことにする。

 

「相っ変わらず難しそうな話してるのね2人は」

 

ミサトさんも合流する。

 

「ねぇリツコ、他に何か分かった事ってあるの?」

 

「使徒の固有波形のパターンかしら」

 

画面を覗き込むと、使徒の固有波形パターンと

人間の遺伝子情報が並べられており

その一致率が画面端に映し出されているのだが

 

「99.89%!それって…エヴァと同じ!?」

 

猿よりも使徒の方が人間に近いということを示していたが

そんなことよりも重要なことが耳に入っていた。

「使徒とエヴァの波形パターンが同じ」という所だ。

 

「まさかエヴァって使徒のコピーとかだったりします?」

 

「シンジ君なら気付くわよね」

 

そしてリツコさんから語られたのは、エヴァが第1使徒

アダムや第2使徒リリスのコピーであるという事実だった。

ATフィールドが使えるのが何よりの証拠だ、と。

この話を聞いてかなり驚いたが、有り得ない話ではない。

毒を以て毒を制すという言葉があるくらいだ

相手は使徒、使える物は何でも使うしかないだろう。

 

「あぁ、面白くなってきたなぁ」

 

ここへ来てから新たな発見、面白い発見ばかりだ。

母さんと違って生物学や遺伝子工学は攻めてないけれど

エヴァのことを知るのは面白かった。

父さんと別れてからずっと人生の原動力にしていた

新たな発見とそれの理解で生まれる喜びは

やっぱりいいモノだと思いながら僕は調査現場を後にした

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

『シンクロ率、前回よりプラス4.7%、平均84.4%です。』

 

『プラグ深度も前回よりプラス3です。これ以上は…』

 

『えぇ…シンクロ率を20%カットしてみて。』

 

シンジがしているのはいつものシンクロテストだ。

実はシンジはかなり深い領域でのシンクロをしているため

見ているモニター室の面々は正直ヒヤヒヤしている。

 

「……………」

 

シンクロ率が少しカットされたことで遠のいてしまった

エヴァとの繋がりを改めて深く意識する。

最初に搭乗して以降ずっと、あの時聞こえた声を

もう一度聞こうと思って色々試していたのだ。

 

『シンクロ率平均65.2%、プラグ深度変わらずです…。』

 

『やや問題ありかしら。シンクロカットを解除してみて』

 

『了解です。』

 

シンクロの深さが再び戻ってきた。

それと同時に一気にエヴァ側へ近づいて行く感じもする。

制限されていた反動だろうか、エヴァとの繋がりが

一気に深まっていく。これならもしかしたら

あの声を再び聞けるかもしれない。

そう思ったシンジは一気に意識を集中させて

エヴァの声に耳を傾けにかかった。

 

 

 

 

 

(…シンジ。)

 

(母さん!?)

 

僕はついに声がハッキリ聞こえる領域までたどり着いた。

しかし、閉じていた目を開けるとそこはプラグ内ではなく

無限に広がる青空と浅瀬の海だった。

少し先に小さな島があり、木が1本だけ生えている。

その木の下には見覚えのある人影が立っていた。

 

(シンジ、立派になったわね)

 

(…やっぱり母さんだ!!)

 

僕は思わず母さんのもとへ駆け寄っていく。

思い出の中にうっすらと残っている母さんそのものだ。

 

(母さんがホントにエヴァの中にいるなんて驚きだよ)

 

(今のシンジになら話してもよさそうね…私がなぜ

エヴァの中に居るのか。そしてあの人、お父さんが

何を目指しているかも。)

 

母さんは僕に色々と教えてくれた。

自分が人の生きた証を残そうと思ってエヴァに残ったこと

父さんは母さんに会うため躍起になっているであろうこと

そして、SEELEというNERVの上層組織が

人類補完計画──人の魂をひとつにまとめあげ

新たな完全生命体になるという計画を行うために

サードインパクトの発動を目論んでいることも。

 

(………僕は…僕はたとえこの世界に滅びの運命しか

無かったとしても、綾波と…皆と生きていたい。

もちろん、父さんや母さんとも。)

 

(…シンジ…)

 

 

 

╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌

 

 

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

「っ!?シンクロ率、急速上昇!100%を超えます!!」

 

「何が起こったの!?」

 

「いえ…分かりません…シンクロ率依然上昇中!

120、160、240!!」

 

実験室に突然アラートが鳴り響いた。

シンジと初号機のシンクロ率が急激に上昇を始め

エヴァ側へ引きずり込まれていっている。

 

「プラグ深度、120をオーバー!これ以上は危険です!!」

 

「シンジ君!!!」

 

リツコはこの状況が何なのか予想はついていた。

最初に初号機へのエントリー実験を行った人物も

似たような状況でエヴァへ取り込まれてしまったのだ。

このままでは大切なエヴァパイロットを

NERV本部の唯一無二のエースを失ってしまう。

リツコは部下に指示を飛ばしつつ自身も対処へ走る。

 

「シンクロ率、400%!自我境界線が崩壊します!!」

 

「初号機パイロット、反応消失!」

 

しかし必死の対応も虚しく、彼はLCLに溶けてしまう。

エントリープラグ内をモニターする画面に写るのは

彼のパイロットスーツだけが漂う様子だった。

 

「何があったの…シンジ君」

 

しかし、落ち込んでいるヒマなどリツコ達には無い。

零号機がまだ動かせない以上、彼を取り戻さなければ

使徒の侵攻を防ぐことが出来ないのだ。

さらに言えばせっかく手を結んだ優秀なメカニックを

失うわけにはいかないという意味でも

シンジをエヴァから取り戻す必要があった。

 

 

 

╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌

 

 

 

(ふふっ、あの時のゲンドウくんったら)

 

(母さんやっぱり見てたんだね)

 

まさか父さんと初号機ケイジで会った時の

母さんのマネを見られていたとは…それもそうか。

 

(勿論。初号機として聞いていたのよ。あの時はまるで

もう1人の自分を見ている気分だったわ。)

 

(伯母さんに教えてもらったんだ。父さんは母さんに

頭が上がらないだろうから──って)

 

父さんの所へ行くことがあったら──と教えてくれた

父さんに要求を簡単に飲ませられる方法だ。

 

(その格好するときはお父さんだけじゃなくて

冬月先生にも気をつけなくちゃだめよ?)

 

冬月、ということは副司令をやってるあの人か。

父さんよりもしっかり者ってイメージがあるけれど

副司令のどこに気をつければいいのだろうか。

 

(お父さんほどじゃないけどあの人も

私のことが大好きだったでしょうから。)

 

母さんが言うには、副司令は母さんのいた大学の教授で

教え子としてよく面倒を見てくれたらしい。

つまりは孫か娘のように想っていた人物が

帰ってきたかのように喜んでいる、ということか。

まぁ別に気にするほどの事でもないか。

 

(…シンジと話すのは本当に楽しいわね)

 

(うん。僕も楽しいよ。)

 

ここなら食べ物を食べる必要も寝る必要も無い。

今まで失った時を取り戻すように母さんと話をしていた。

特に形而上生物学は興味をそそられる内容が多く

長いこと話が弾んだものだ。

砂浜はここまで2人で指で書いてきた図面や計算式で

埋め尽くされていた。

もちろん、料理のレシピを聞いたりもしたし

可愛く着飾るコツだとかメイクのコツだとか

そういう類いのことも教えてもらった。

 

 

(………そろそろ僕は帰らなくちゃ)

 

(…そう、行くのねシンジ。)

 

(父さんにも話を通しておくよ。

………またね母さん。)

 

僕は来た道を戻るように浅瀬を歩いていく。

やがて周りが光に包まれると、眠りへ落ちていった。

 

 

 

╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌

 

 

 

「ッ!?初号機パイロットの反応です!!」

 

「シンジ君!?戻ってきたのね!」

 

サルベージ計画の準備を進めていた初号機ケイジは

重苦しい雰囲気から一転、歓喜に包まれた。

ようやくサルベージ用の機器を取り付け終わった

そんな時にいきなりプラグ内にシンジが戻ってきたのだ。

いそいでシンジの容態をチェックさせれば

バイタルは問題無し、精神汚染も起きていないという

完全な健康体で帰ってきてくれたのだ。

リツコやミサトはホッと胸を撫で下ろしていた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

シンジは初号機の中から帰還してからというものの

毎日ノートへ得た情報を元にエヴァの拡張開発プランを

特にフィールド偏向制御に関する設計を書き込んでいた。

 

この日も学校の昼休みを利用して屋上で書いていた。

隣ではレイがお弁当を食べている。

 

「んーっ、今日はここまでだな」

 

少し行き詰まったので一度手を止め、ぐっと体を伸ばす。

空を見上げれば雲ひとつない青空に

一機の航空機が飛んでいる。

それとあれはパラシュートか何かだろうか

何かが空を舞っている。

 

「…碇くん、こっちへ来ているわ。」

 

「えっ…ホントだ!」

 

確かにあのパラシュートは風に流されている。

しかもあのルートだと落下予想地点はここだ。

まっすぐこちらへ突っ込んで来ている。

 

「どいてどいてどいてぇ~~~っ!!!」

「うわあああっ!!」

 

 

 

「う~痛たた…あれメガネは?…どこいったんだにゃ~」

 

シンジはなんとか激突を回避することに成功したが

問題の落ちてきた高校生くらいの女の子は

そのまま校舎屋上の金網に激突しフラフラしている。

激突の拍子にメガネを落っことしてしまったらしい

シンジはすぐそこに落ちていたメガネを彼女へ手渡す。

 

「はい、これだよね?君のメガネ。」

 

「おっ!サンキュ~!よっこらしょっ……と?」

 

メガネをかけ直した女の子は顔を赤くして固まった。

 

(…どこかで見た光景だな)

 

「あれ…先輩!?先輩なんか小さくないですか?」

 

やはり誰かと間違えているらしい。

自分にそっくりで自分より背の高い人物といえば

母さんしかいないだろう。

この女の子が母さんとどう知り合いなのかは置いといて

まずは誤解を解いておく。

 

「僕は碇シンジ、君とは多分初対面だよ。」

 

「ありゃ!?まさかまさかのワンコ君!?

まさかこんな所で会えるなんて思わなかったよ!」

 

向こうは僕のことを知っているらしい。

僕がエヴァパイロットである以上NERV関係者には

その名前が知れ渡っているだろう。

しかしなんだろうか「ワンコ君」って。

 

「私はマリ。真希波・マリ・イラストリアス。

ユーロNERVからの応援でね。ホントは5号機と一緒に

来る予定だったんだけどワンコ君に会いたくってね♪

一足先に飛んできちゃった♪」

 

5号機という発言からして彼女もエヴァパイロットらしい

ユーロNERVということはパリ支部から来たようだ。

しかしそんなところからわざわざ僕に会いに

はるばるやってきたということは、彼女を惹き付ける

何かが僕にあるということなのだろうか。

 

「ねぇワンコ君、今日って本部へ行く用事ってある?」

 

「あるけどどうするの?」

 

「ついて行ってもいい?」

 

「あぁ…NERV関係者だし別にいいか。構わないよ」

 

とりあえずマリさんは第壱中学校から見れば部外者なので

一旦第三新東京市の観光にでも行ってもらった。

なんというかまた騒がしくなりそうな感じだ…。

 

 

 

「へぇ~これが5号機か。目が8つあるのになんというか

可愛いって感じるな」

 

「でしょでしょー!最初はモスグリーンだったんだけど

ちょっと無理言ってピンクに変えてもらったんだにゃ」

 

マリさんに5号機のデータを見せてもらっていた。

蛍光グリーンの目が全部で8つあり機体カラーはピンク。

まだ詳細は知らないが3号機や4号機と違って

遠距離重視で作られているとのことで

目標位置の計測や射撃誘導の精度はとても高いらしい。

 

「うぉ~これワンコ君が設計手掛けたの!?

N2リアクター…!凄いモン作るねぇ!

フィールド偏向装置もまた面白そうじゃないの!」

 

初号機や零号機のデータはすでに持っているとのことで

こちらからは開発中のN2リアクターや

ATフィールド偏向制御装置の設計図を見せてみる。

ある程度仕組みを理解してくれている辺り

彼女も聡明な頭脳の持ち主のようだ。

 

「……しっかしホント可愛いねワンコ君。

並の男ならイチコロなんじゃないの?」

 

「あーうん。ありがとう。並の男かどうかは知らないけど

ある意味でノックアウト出来た人物ならいたよ。」

 

母さんの知り合いかどうかを確かめるのも込みで

僕はカバンの中の1本のUSBを取り出す。

母さんと知り合いなら父さんとも面識はありそうだし。

そのUSBにはある2つの場所の監視カメラの映像が

記録されている。ひとつは初号機のケイジ内。

そしてもうひとつがケイジの上にあるモニター室だ。

 

『あなた、後でお話がありますから。

覚悟しておいてくださいね。』

 

『…………………』

 

「ぶはっ!あははっゲンドウくんじゃん!

いつも仏頂面だったあのゲンドウくんだよね!?

すっごい冷や汗してんじゃん爆笑モンだよコレ!?

ワンコ君、相変わらず凄いことしてんねー!」

 

そう、初出撃前の父さんとのやり取りだ。

どこから流れてきたのかは知らないが

NERV本部内で密かに話題になっている映像だ、と

ミサトさんからUSBで手渡されたのだ。

 

どこで知り合ったのか父さんとも知り合いらしく

笑いのツボにクリーンヒットしたらしい。

マリさんは腹をかかえて転げ回っている。

 

 

 

「あ~~笑った笑った、お腹痛いよまったく…

ワンコ君といれば面白いことに何度も出会えそうだね。

あらためてよろしく、ワンコ君。」

 

「こちらこそよろしく、マリさん。」

 

マリさんとガッチリ握手を交わす。

そしてマリさんはまた父さんと僕の会話を再生して

しばらく笑い転げていたのだった。

 

 

 

                      つづく




コネメガネ、胸の大きいいい女こと
真希波・マリ・イラストリアス、来日。

なお、彼女にもユイと間違えられたもよう。

5号機のデザインは8号機αのものを採用。
Q最序盤、US作戦で出てきた方
ヴィレカスタムじゃない方です。


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血戦、第三新東京市


マリさんの機体はNERVパリ支部で絶賛開発中なので
彼女はしばらく戦いには参加しません。
その代わり日常枠にはどんどんぶっこむつもりでいます。

今回はラミエル戦。かなーり長いです。
いちおうラミエルさんは新劇仕様ですが
あれを言葉であらわすのは難しいので
そのへんは脳内補完して頂いて…。


 

「零号機再起動実験を開始します!」

 

「レイ、準備はいいわね?」

 

『はい。』

 

白い壁に包まれた部屋に山吹色の単眼巨人が立つ。

エヴァンゲリオン試作零号機だ。

今行われようとしているのはその零号機の再起動実験。

ちょうど1ヶ月前にも零号機の起動テストが

行われていたのだが、暴走事故を引き起こし

ここまでの間凍結処理されていたのだ。

 

『第一次接続開始』

 

『主電源接続』

 

徐々に力をつけ始める使徒に対抗するために

零号機も戦線投入するべきだということになり

この再起動実験が行われたのだ。

 

『パイロット、シンクロを開始しました』

 

『シンクロおよびハーモニクス正常。暴走、ありません』

 

この実験が成功すればようやく自分も戦線に立てる

シンジの後ろで守られるだけではなく

並び立って共に歩むことが出来るのだ。

レイは自分の胸が高鳴っているのを感じていた。

いちど深呼吸をして感情の昂りを抑える。

 

『中枢神経素子に異常なし』

 

『ボーダーラインクリア!零号機起動しました!』

 

「…やった」

 

零号機は無事起動した。

いくつか必要なテストを終えると今度は

簡単な戦闘訓練を実施する。

初号機との連携を確実なものとするため

レイと零号機の得意な分野をハッキリさせるのだ。

 

舞台は仮想空間内へと移る。軽く基本操作を再確認した後

ダミーターゲットへの攻撃を開始する。

レイはNERVの戦闘訓練をある程度受けているので

近接戦闘も難なくこなして行くが

特筆すべきだったのは射撃の精度だった。

 

『平均命中率96.1%です』

 

感情の波を抑え、目標の動きを正確に捉えることで

正確無比な射撃を可能にしたのだ。

 

『さてレイ、貴女にはこのまま仮想空間を使って

初号機との連携訓練を行ってもらうわ。』

 

「はいっ」

 

仮想空間に零号機と初号機が現れる。

まずはシンジが前衛、レイが後衛でスタートした。

 

「碇くん!」『綾波っ!』

 

『ここだっ!』「発射っ!」

 

このあとも前衛と後衛を入れ替えて訓練する予定だったが

レイの的確な牽制射撃とそれを読み切ったシンジの

切り込みが素晴らしい戦果を叩き出していった。

 

 

 

「碇、未確認飛行物体がここへ接近中だそうだ」

 

冬月からの一報が入る。恐らくは第5の使徒だろう。

 

「テスト中断。総員第一種警戒態勢。」

 

ゲンドウの指示で速やかにテストが中断され

NERVは対使徒戦の準備へと入る。

シンジとレイは既にエヴァに乗っているので

機体のシステムを実戦用に切り替え出撃を待つ。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

ラーーー…ラーーー…ラーーー…

 

『…青い正八面体って随分イメチェンしたのね、使徒は』

 

モニターに写っているのは文字通り青い正八面体。

「第5使徒ラミエル」だ。

ラミエルは甲高い声を定期的に放ちながら

ゆっくりとこちらへ飛行してきている。

以前の使徒は生物的な見た目をしていたのに

今回はパッと見無機物でしかない。

 

『初号機を出してみる?』

 

『それは悪手だと思うわよミサト』

 

ミサトの発案はリツコが持ち出した調査結果を見る限り

悪手になりそうな感じだった。

シャムシエル戦前に調査を依頼した使徒の敵探知方法は

光学やその他レーダーとはまったくの別物であり

使徒固有の能力に近いものによって行われていた。

 

恐らくこのまま初号機を出せば、出撃を察知されて

何らかの先制攻撃を食らうことになりそうだ。

 

『シンジ君、アイツの攻撃方法想像できそう?』

 

「いえ…まったく想像つきません」

 

『だよね~…』

 

いくらラミエルが無機物みたいだからといって

あの正八面体からカタパルトとかが出てきたりして

戦闘機が無数に飛んでくるような事はないだろう。

 

『…試しに無人迎撃設備から撃たせてみるわ』

 

ミサトはまず十二式自走臼砲を撃たせてみることにした。

かなりの出力があるのでラミエルに邪魔なヤツ程度の

認識くらいはされるだろう。

これでラミエルから攻撃行動を引き出せれば最高である。

 

『自走臼砲、発射!』

 

芦ノ湖上空へ侵入しようとしたラミエルにビームが迫る。

 

 

 

カキィィィーン!

 

見事ATフィールドで弾かれてしまった。

距離があったとはいえ不発か、そう思った瞬間

ラミエルは体を変形させ始めたのだ。

 

『使徒が…変形していく!?』

 

おおよそ生物とは思えないような変形だ。

四次元立体を三次元空間に投影した、とでも言うべきか。

無数の四角柱が回転しつつ重なりながら

上下へと別れたのだ。

その中心にはコアが見えている。

 

キュイィイィィーーーン!!!

 

まるで悲鳴かのような声を上げながら

コアへとエネルギーをチャージしていく。

 

カッ!!!

 

ドォォォーーーンッ!!!

 

変形を始めてからここまで僅か数秒。

ラミエルの放った光が着弾した箇所からは

凄まじい爆発と炎が上がっていた。

当然、自走臼砲は巻き込まれて消し炭である。

 

『ひえぇ…下手に出撃させなくてホント良かったわ』

 

「まさか加粒子砲とは…背筋が凍りつきそうですね」

 

『もうちょっち情報収集しときたいところね…』

 

シンジたちエヴァパイロットには一旦待機命令が降りる。

エヴァから降りて発令所へ戻ると

第2回目の威力偵察が始まろうとしていた。

 

「19番兵装ビル、攻撃開始!」

 

「あれ!?今回は変形してないですね」

 

「いえシンジ君、ほんの僅かに…ホラ!」

 

ラミエルは正八面体の体をほんの少しだけ上下に分離し

とても細い光線を兵装ビルへ撃ち込み爆破する。

以降はどこの兵装ビルから何を撃っても

最初のように大袈裟には変形しなくなった。

複数発をいくつもの方向から撃ち込んでも

ATフィールドであっさりと弾き返されていた。

どうやら大した脅威でもないと思われているようだ。

 

ラミエルは第三新東京市の中央までやってくると

ピタリとその場から動かなくなった。

 

「ッ!?目標に変化あり!八面体下部がドリルのように

伸びていきます!」

 

正八面体の下側の頂点が捻れるように伸びていき

地面に突き刺さると、ATフィールドのようなオレンジの

光を放ちながら下へ下へと掘り進んでいく。

 

「NERV本部へ向けて穿孔しているようですっ!」

 

「ここへ直接攻撃を仕掛けるつもりだわ!」

 

「悠長に考えている暇は無いみたいね。」

 

使徒のドリルの穿孔速度を計算させてみると

タイムリミットまでは約10時間ほど。

明日の0時かそこらで本部へと到達する見込みだ。

 

「ATフィールドはどうだった?」

 

「相転移空間が肉眼でも確認されています。

かなり強力なフィールドが展開できるようです」

 

フィールドの位相パターンも常に変化し続けており

これを中和するのはかなり難しいものだった。

NERVの誇るスーパーコンピュータ「MAGI」に

色々計算させて見たところ、ラミエルのATフィールドを

N2航空爆雷で破ろうとした場合このNERV本部すら

破壊するほどの火力が必要だろうとのことだった。

 

「日本政府と国連軍は本部ごとの自爆攻撃を提唱中よ」

 

「まったく…対岸の火事じゃないってのに」

 

あまりにも八方塞がりで白旗を上げたくなるが

「エヴァの基本運用コンセプトがまるで通じない相手」

というラミエルの戦闘能力を目にしてみて

リツコの脳裏にはあるひとつの武器が思い浮かんでいた。

 

「戦自研の"アレ"ならあるいは…」

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

「まっさかね、リツコからこんな大胆な作戦を提案して

くるとは思ってなかったわよ!」

 

戦自研が極秘開発中の大出力陽電子自走砲を使い

日本国内の全電力をかき集めてラミエルを狙撃する

「ヤシマ作戦」。

赤木リツコによって提案されたその作戦は即承認され

NERV本部は作戦遂行のため一丸となって動いていた。

 

「残念、原案は私じゃないわ」

 

急ピッチで進められる工事の現場を2人は歩いていく。

今回提案したヤシマ作戦は提案者こそリツコだが

この作戦は以前聞かされたエヴァの新たな運用法をもとに

すこし手を加えて書き上げられたものだった。

 

「え、ひょっとしてシンジくん?」

 

「ご明答」

 

シンジがポジトロンライフルの計画書に目を通したとき

フィールド中和からの近接戦闘が通じない相手に

超高火力の遠距離攻撃手段があるととても助かる

と言っていたのを思い出したのだ。

使徒が遠距離特化タイプだった場合は

フィールドの中和を一切考えず、超高火力の遠距離武器で

使徒の認識範囲外からコアを狙撃する──

この戦法であればラミエルにも通るかもしれない。

 

しかしNERVの手元にある試作型ポジトロンライフルでは

ラミエルを倒せるほどの大電力に耐えられないので

それに耐えうるライフルを使えばいい、となった訳だ。

 

「戦自の説得の時は助かったわ」

 

「ま、貸しがあったからね」

 

戦自研の陽電子砲もまだ自律調整が未完成だったが

そこはエヴァを使って狙撃してやればいい。

狙撃要員に選ばれたエヴァ零号機にG型装備を

取り付けるための改装作業も急ピッチで進んでいる。

 

「さぁ~て、私たちも頑張らなくちゃね!」

 

2人が歩いている要塞からはラミエルの姿がよく見えた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

日がだいぶ傾き、辺りも暗くなり始めた頃。

ミサトはヤシマ作戦の進行状況を確認していた。

ラミエルのドリルは22層ある装甲板を半分ほどまで

貫いてきている。

 

「エネルギーシステムの見通しは?」

 

『電力系統の構築はほぼ予定通りです』

 

新御殿場変電所をメインに新裾野と新湯河原を合わせた

三箇所の変電所から直接配電させる予定だ。

 

「エヴァ零号機の装備の換装状況は?」

 

『G型装備への換装もあと1時間ほどで終了します』

 

本来G型装備非対応だった零号機を急ピッチで改装し

G型装備を取り付けにかかったのだ。

十分すぎる進捗状況だろう。

 

「狙撃システムの方は?」

 

『陽電子砲も作戦開始までには十分仕上げられます』

 

ライフルは戦自研からバラした状態で輸送させたので

こちらで再度組み立てる必要があったが

完成の目処は立っているようだ。

 

「了解。順調みたいね。」

 

 

 

シンジとレイもエヴァに乗って二子山仮設基地へ

合流する。ミサトから作戦概要の説明を受けるため

エヴァを一度駐機し彼女の元へ向かう。

すでに日は沈んでいた。

 

「分かってると思うけどシンジ君が防御を担当

レイが狙撃の担当よ。」

 

シンクロ率はシンジと初号機のほうがやや高く

精度の高いオペレーションには向いていたが

レイの狙撃の命中精度はその差を覆したほどだ。

 

「陽電子砲の狙撃のインターバルは?」

 

「ざっと見積もって…20秒ね」

 

ミサトから告げられたインターバルの長さは

ラミエル戦においてはかなり長いと言える。

用意されたエヴァ専用の単独防御兵装ESVシールドも

17秒ほどまでなら耐えられるけれど

正直心もとない。

 

「狙撃用大電力の集束ポイントは一点のみ。

ゆえに零号機は狙撃位置から移動できないわ」

 

「………」

 

一撃で決めなければ自分もシンジも危ない──

そんな状況にレイは黙り込んでしまう。

 

「時間よ、2人とも準備して」

 

「はいっ」

「……はい」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「ねぇ碇くん、私…怖いの」

 

「どうしたの?綾波」

 

エヴァの搭乗用の足場の上でレイがそう言った。

すでに第三新東京市の明かりもすべて落ちており

作戦開始までもうすぐという状況。

 

「碇くんを失ってしまうのが…怖い。」

 

レイは淡々と答えているように見えるが

膝を抱えた手が僅かに震えている。

 

「碇くんの手は、気持ちはとっても暖かくて。

でもそれを失ったら…私は………」

 

徐々に震えが大きくなっていくレイを見て

シンジは零号機の搭乗デッキの方へと移り

レイを優しく抱きしめてやる。

 

「碇…くん」

 

「大丈夫だ綾波、僕は死ぬ気はさらさら無いよ。

もし死ぬとしたら…その時はきっと2人とも一緒だ」

 

「ありがとう…落ち着いたわ」

 

レイの表情に柔らかさが戻ったのを確認して

初号機の方へと戻ると、ちょうどいい時刻だった。

 

「時間だ。行こう、綾波」

 

「ええ。」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

ピッ、ピッ、ピッ、ポーーーン

『ただ今より、午前0時をお知らせします』

 

ついに作戦開始の時が訪れる。

 

「ヤシマ作戦発動!陽電子砲、狙撃準備!」

 

ミサトの号令がかかり、各所が慌ただしく動き出す。

 

『各発電設備は全力運転を維持。』

『第1から第803管区まで、送電回路開け!』

『電圧安定、系統周波数は50Hzを維持。』

 

第一次接続が始まり、各地から電力が送られ始める。

 

「第二次接続!」

 

『新御殿場変電所、投入を開始。』

『新裾野変電所、投入を開始。』

『続いて新湯河原変電所、投入を開始。』

 

第二次接続で日本国内の電力が中継地点へ集められる。

 

「第三次接続!」

 

『全電力、二子山増設変電所へ。』

 

1億8000万kwもの大電力がここ二子山へと集まり

機器の冷却システムもフル稼働を始める。

そして第三次接続が終わるとついにヤシマ作戦が

本格始動するのである。

 

「第4・第5要塞へ伝達。予定通り行動開始!」

 

ラミエルに陽電子砲の様子を悟らせないように

第三新東京市のありとあらゆる迎撃設備が

次から次へと火を吹きはじめる。

 

ラミエルもさすがにこの攻撃の量には驚いたのか

変形を解禁して迎撃にかかった。

 

『第3対地攻撃システム、蒸発!』

「悟られるわよ、間髪入れない!」

『第2砲台被弾!』

 

昼間に見せた上下へ分離する変形だけではなく

前後左右上下の6方向に四角錐を展開するもの

時計の針のように無数のパーツに別れながら回転し

周囲を薙ぎ払うもの

巨大な六角柱となり砲撃を尽く受け止めるもの

様々な形態へ変形を繰り返している。

 

『第8VLS、蒸発!』

『第4対地システム攻撃開始。』

『第5射撃管制装置、システムダウン!』

『続いて第7砲台、攻撃開始。』

 

ラミエルが必死になってミサイルや弾丸を迎撃している

最中にも着々と陽電子砲の準備が整っていく。

 

「第四次接続、問題なし!」

「最終安全装置解除!」

「撃鉄起こせ!」

 

陽電子砲にヒューズが挿入され射撃準備は最終段階へ入る

 

「第5次、最終接続!」

 

零号機の背後にある超高電圧放電システムに

全ての電力が注ぎ込まれ、蒸気が上がり始める。

 

(大丈夫、碇くんと一緒ならきっと。)

 

レイも一度深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

 

「カウントダウン開始!15、14、13…」

 

ついにカウントダウンが始まる。

………そして。

 

「3、2、1、発射!」

 

バシュィィィーーーーーンッッッ!!!

 

 

 

「キュイアアアァァァーーッ!!!」

 

 

 

陽電子砲の光条はついにラミエルを撃ち抜いた。

ラミエルは悲鳴をあげ、ウニのように形状が乱れる。

 

「やったか!?」

 

 

 

「…パターン青、健在ですッ!」

 

「何ですって!?」

 

ほんのわずかな磁気の狂いが光条を逸らさせた結果

コアへクリーンヒットしなかったのだ。

 

「第二射、急いでッ!」

 

ミサトの指示で再び陽電子砲の再充電が始まる。

湖を挟んだ向こう側ではラミエルが活動を再開し

かなりのスピードで自己再生を終えていく。

だが大ダメージを負ったのは確かなようで

第二射をチャージするくらいの時間はあった。

 

「目標に高エネルギー反応!!」

 

ラミエルは命の危機に瀕しついに本気になった。

こちら側に向けている角が5つに割れ

まるで花が咲くかのように何度も体を展開していく。

綺麗な星型に変形したラミエルはフル出力の射撃を

一瞬でチャージする。

 

「カウント省略、第二射撃てーッ!」

 

バシュィィィーーーンッッッ!!!

カッ!!!

 

 

 

なんと陽電子砲の第二射はラミエルの加粒子砲と干渉し

それぞれの軌道がグニャリと曲がってしまったのだ。

 

ズドォォォーーーンッ!!!

 

お互いから決して遠くない箇所で大爆発が巻き起こる。

 

 

 

「第三射は!?」

 

ミサトは諦めるつもりは無かった。

2発でダメなら3発目を撃つまでだ、と。

 

「いけます、すでに再充電を開始!」

「陽電子砲と周辺設備はもってあと1発です…」

 

「レイ!大丈夫!?」

 

『……はッ…はッ…』

 

ミサトは射手であるレイにも確認を取ったが

レイの様子がだいぶおかしかった。

外したのは彼女のせいではないしシンジの出番は

まだ来ていなかったが、大切な人を危険に晒しかねない

外しは彼女の精神に多大な負荷をかけていた。

 

「目標にふたたび高エネルギー反応!!」

 

(まずいッ!)

 

キュイィイィイィーーーン………カッ!!!

 

『綾波はやらせないッ!』

 

『碇くん!!』

 

今まで沈黙を守っていたシンジがついに動いた。

ESVを斜めに構えて加粒子砲を可能な限り受け流している。

ただ、それでも盾はみるみるうちに溶けていく。

 

『ダメっ!碇くん逃げてっ!!』

 

盾が溶けてからはATフィールドもフルに使って

零号機と陽電子砲を守ろうとするシンジ。

レイも必死に照準を合わせようとするが

いつまで経っても照準が定まらない。

焦りと恐怖と、使徒への怒りと…

感情のブレが照準のブレに出てしまっていた。

しかし、こんな状況でもシンジはみずからの

痛みなど意に介さないかのようにレイへ声をかけた。

 

『レイ、僕は必ず君のところへ無事で帰るから。』

 

『!!!』

 

 

 

安心する力強い声。

瞬間、レイの心は全てがクリアになった。

 

バシュィィィーーーンッッッ!!!

 

使徒の加粒子砲をかき消し陽電子砲が撃たれる。

 

 

 

「キュイアアアァァァーーッ!!!」

 

再び悲鳴をあげて固まったラミエル。

今度は磁気狂いも無かった。となれば…

 

「パターン青、消失!!」

 

「いよっしゃあッ!」

 

トドメを刺されたウニ状のラミエルは

大量の赤い液体を吹き上げながら崩れていった。

 

 

 

 

 

「碇くん!碇くん!!」

 

レイは倒れ伏した初号機からプラグを抜き

手がヤケドしそうになるのも厭わず

高温のレバーを必死になってこじ開けた。

 

「…あぁ綾波、僕もなんとか無事だったよ。」

 

「良かったっ!無事でっ!」

 

最愛の人の無事にホッとしたレイは

救助班が迎えに来るまでずっとシンジを抱きしめ

喜びの涙を流し続けていた。

 

 

 

                      つづく

 




いったい誰がラミエルは2発で終わると言った?
…言いたかったんですスイマセン。

1発目は新劇の一発目
2発目は新世紀の一発目
3発目は新劇の二発目

後半はだいぶ文章変になってる気がする。

次はアスカ…の前に日常枠をいくつか。


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小話:憩いの部屋

ちょっとした日常枠です。


「シンジー!遊びに来たで!」

 

「いらっしゃい!上がってってよ!」

 

時は少し遡りシャムシエル戦の数日後。

シンジはトウジとケンスケ、ヒカリを自宅に招いていた。

 

「戦場へ乱入したことについては大丈夫だったの?」

 

「あぁ、厳重注意で済んだよ。こってり絞られたけどな」

 

トウジ達3人はシャムシエルとの戦闘時に

避難指示が出ているにも関わらずシェルターから抜け出し

戦場へ乱入したことで説教を受けていたのだ。

今回が初犯だったこと、そしてエントリープラグへの

複数人搭乗のデータが採れたことを受け

刑罰などは受けずに済んだらしい。

 

「でさでさ、オレNERVにスカウトされたんだよ!

お前の美人上司のミサトさんにさ!」

 

「何だって!?」

 

ケンスケ曰く民間人へエヴァや使徒の情報を開示する際に

その撮影技術で色々協力してほしいと言われたとか。

既にエヴァの機密の一端に触れてしまった者を

スカウトして取り込んでしまうのはアリだろうが…。

 

「ミサトさん曰くコイツの根性が気に入ったんやと」

 

たしかにケンスケはエヴァの事を色々知ってて

それでもなお戦場まで見に来たのだから

その根性は大したもんだ。

 

 

「綾波さん、怪我はもう治ったんだね」

 

「えぇ、碇くんのお陰で早く治ったわ」

 

あっちはあっちで色々話をしているらしい。

クラス委員長としてやはりクラスメイトの様子は

気になるのだろう。

 

「お菓子とか色々作っておいたから食べていってよ」

 

テーブルに、あらかじめ作っておいた簡単なお菓子を

ずらりと並べていく。ポテチやチョコ、飲み物なんかは

スーパーマーケットで買ってきたやつだけれど。

 

「これ全部碇さんが作ったの!?」

 

「いくつかコンビニのやつも混ざってるけどね」

 

「あとで作り方教えてくれないかな?」

 

「僕の予定がない日なら何時でもいいよ」

 

手作りのお菓子だということに委員長が飛びついた。

ヒカリも料理を作ることがあるため、お菓子作りにも

当然興味はあった。知り合った人物がここまで作れるなら

教えてもらうしかないと思い頼み込んだのだ。

 

「シンジはホンマ何でもできるんやな~、尊敬もんやで」

 

「基本的に必要だったから身についただけだぞ?」

 

「それでもや!凄いモンは凄い、誇ってええと思うで!」

 

トウジからここまで褒められるのは嬉しいけれど

正直言ってちょっと恥ずかしい。

 

 

「そういえばさ碇、エヴァに乗った時のあの痛み

あれは何だったんだ?」

 

「…せや、そいつはワシも気になるな」

 

フィードバックダメージのことだ。

このことはエヴァの機密情報に入りそうではあるが

ミサトさんがケンスケをスカウトしたのなら

話しても問題はないだろう。

 

「あれはエヴァとシンクロしてる状態で発生する

フィードバックダメージだよ。」

 

「え、でもあれは碇にしか動かせないんだろ?」

 

「うん。動かすこと自体はね。」

 

シンクロ率が一定以上無いとまともに動かせないが

エントリープラグに乗っている時点で

ほんのわずかだがシンクロが発生するのだろう。

 

「シンジはあれ以上に痛かったって言うんか!?」

 

「まぁそうだね」

 

シンジはシンクロ率が80%を優に超える。

となれば受けるフィードバックダメージも大きくなり

場合によっては直接ダメージが残る可能性もある。

 

「…シンジはやっぱ凄いヤツやで!お前はワシのセンセや

センセって呼ばせてもらうで!」

 

「お、おぅ」

 

ガチャっ…

 

「たっだいま~!」

 

ミサトさんが帰ってきたようだ。

 

「おおっ、ミサトさんのご登場やで!」

「待ってましたーっ!」

 

トウジとケンスケは美人上司サマの御帰宅に歓喜する。

この2人は知り合って以降よくシンジの家に遊びに来るが

それはミサトさんと会いたいからというのも大きいらしい

美人上司と同居しているのを2人は羨ましがっているが

僕が来る前のミサトさんを見てもそう言えるのだろうか?

 

「くぅ~ッ!仕事終わりのビールは最ッ高だわ~♪」

 

帰ってくるなりビールをぐびぐび飲んでいる。

 

 

ピンポーン!

 

「誰か来たみたいやで?」

 

「誰だろう?」

 

呼んだ友人はすでに全員集まっているし

ミサトさんも今さっき帰ってきた。

となるとNERVの関係者がミサトさんを訪ねに来たか

リツコさん辺りが僕に用があって来たかぐらいだろう。

 

「どちら様です…か?」

「やっほーワンコ君!遊びに来てみたにゃ♪」

 

まさかのマリさんだった。

何故ここに来たのかと訊ねてみると特に理由はない、

言葉通りただ遊びに来てみただけとのことだった。

 

「お~友達呼んでパーティーかい?楽しそうだねぇ」

 

迷彩柄のキャミソールトップスにショートパンツという

ラフな格好で現れたマリさんにトウジとケンスケは

思わず鼻の下を伸ばしている。

マリさんもそれには気付いているみたいだけど

そういう視線には慣れているのか

2人に何か言うことはしなかった。

 

「ねぇ碇くん、お菓子を作ってみたいの、いい?」

 

綾波と委員長がお菓子のレシピ本を持って聞いてきた。

女の子同士交流を深めてるのは良い事だと思いつつ

いま家にある材料を軽く思い浮かべる。

 

「…今ある材料だとクッキーくらいしか作れないけど」

 

「うん。作ってみる」

 

綾波は笑顔でキッチンの方へ向かっていった。

 

「ワンコ君、もしかしてあの子と付き合ってたりする?」

 

「あ、バレた?まぁ関係は超健全だk…「なんやと!?」

「やっぱりか碇っ!?」

 

トウジとケンスケが物凄い形相で迫ってきた。

これが非リア充の怒りってやつだろうか

鼻息がふんすふんすと鳴っていそうな

余りの勢いにマリさんも若干引いている。

 

「碇、お前あんな美人上司と同居していながら!」

「やっぱセンセは隅に置けんヤツやで全く…」

 

僕が二股でもかけてるとでも言いたいんだろうか

関係は健全だと言っていたのは聞こえなかったらしい。

 

「へぇ~あの"2人目ちゃん"が…。

あはははっ、本当にワンコ君は面白いね…!」

 

…面白いと言ってくれるのは嬉しいけれど

綾波が「2人目」とはどういうことなのかが気になる。

綾波はセカンドではないし姉妹がいるとも聞いていない

となれば大方父さんが1枚噛んでいるんだろう。

 

「そうそう、冬月副司令がワンコ君のこと呼んでたよん。

暇な時に来てくれると嬉しい~ってさ。」

 

ここで何故副司令の名前が出てくるのか…。

母さんは副司令には一応気をつけろと言っていたけど

呼び出しを断り続けて副司令に反感を持たれても

良い事は無いだろうし時間は作っておくことにしよう。

 

 

 

「シンジ君~!ちょっ~ち来て~?」

 

ミサトさんが書類を2枚ピラピラさせながら

僕のことを呼んでいる。

 

「これ、目ェ通しておいてね。もう少し先の事だけど。

1枚目の方はここにいる子達なら誘っても良いからね~♪」

 

1枚目はエヴァ2号機の受け渡しについての書類だ。

新横須賀へ来航する国連軍太平洋艦隊へ合流し

非常用電源ソケットを届けろという指示だった。

これにトウジ達を呼んで平気なのかは疑問だが

まぁミサトさんが良いと言ったのなら良いんだろう。

 

2枚目の書類は日本重化学工業共同体から来ており

その内容は作業用ロボット「ジェットアローン」の

完成披露宴兼稼働テストへ来ないか?という誘いだ。

差出人は時田シロウと書かれていた。

 

「2枚とも了解です。楽しみだなぁこれは…」

 

 

 

                      つづく




マリをさっそく日常枠にぶっ込んでみました。

エヴァをよく知る方であれば
あるフラグが立ったのが分かったですかね?

次は貞本版には無いジェットアローン回。
ただ、アニメ版を何時でも見られる環境ではないので
今回のように小話レベルで済ませるかと。


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人の造りしもの


本編扱いしますがちょっと短めです。
ほかの回の3分の2。

原作第7話を全く見たことがないので
オリジナルでストーリーを組ませてもらいました。
キャラも恐らくは崩壊しているかと。

ちなみに小話は文字数にして本編の約半分。


 

──旧東京。

 

セカンドインパクト後、世界中を巻き込む紛争の最中に

新型爆弾が投下され壊滅したかつての花の都だ。

今はビルの瓦礫が所々に見られる程度で

かつてあった華々しさは面影すら残っていないが

そんな旧東京を目指してNERVのVTOL機が飛んでいく。

 

「これがあの花の都とはね…」

 

ミサト、リツコ、そしてシンジは旧東京に設けられた

日本重化学工業共同体の試験場へと向かっていた。

そこで日重の作業用ロボット「ジェットアローン(JA)」の

試作機の稼働試験が行われる予定なのだ。

 

「歓迎はされないでしょうね、私たち。」

 

リツコは今回の招待にはあまり乗り気では無かった。

NERVは超法規的機関で非常に強い権限を持っているため

世間一般からの印象はあまり良くない。

この招待でもNERVへの嫌がらせを目論む組織が

何かしら面倒事をしてくれるだろうと予想していたのだ。

 

「大丈夫ですよ、きっと。」

 

シンジはそんな事は無い、と自信を持って言う。

彼が言うなら間違いはないのかもしれないが

リツコは一抹の不安を拭えずにいた。

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

[日本重化学工業共同体 特殊試験場]

 

旧東京でも比較的山間部に近いエリアに立てられた

JAの試験場に到着したNERV一行。

管制室などがあるだろうビルが異彩を放っている。

 

「碇シンジ様、赤木リツコ様、葛城ミサト様ですね?

お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」

 

待っていた日重の職員に案内され、敷地内を移動する。

稼働テストの前にJAの概要説明を行う関係で

まずは管制室のある棟ではなく事務用の棟へ向かう。

たどり着いたのは広い会議室を改装して用意された

披露宴会場。

 

「NERV御一行様のお席は中央にご用意してあります。」

 

NERV御一行様、と書かれた札の置かれているテーブルは

大人数を想定したものが用意されており

豪華な食事やドリンク類などもキッチリ用意されている。

予想以上の好待遇にリツコは驚く。

 

「来てくれたんだな、シンジ博士。」

 

壇上に立って会話をしていた男が一人こちらへやって来て

親しげにシンジに声を掛けた。

ミサトとリツコはこの男を知ってはいたが

シンジとどういう関係なのかとても気になった。

胸元に掛けている社員証には

「日本重化学工業共同体代表 時田シロウ」

と書かれている。

この披露宴の主催者である日重の代表なのだ。

 

「お久しぶりです、時田博士!」

 

「久しぶりだなぁシンジ博士!」

 

2人は笑顔で再会の挨拶を交わしている。

 

「時田博士とは学会や論文発表会でも

よく顔を合わせていたんですよ。」

 

「まさか彼がNERVにいるとは驚いたものですよ。

2ヶ月ほど前に学会やらに顔を出さなくなったことで

界隈は結構揺れていたんですよ?」

 

とても親しげな様子の時田とシンジの姿に

ミサトとリツコは空いた口が塞がらなくなる。

それと同時にやけにNERVへの待遇が良い理由を知った。

 

「シンジ博士、N2リアクターの開発進捗はどうだい?」

 

「えぇ、順調ですよ。もうすぐ試作機が完成します。」

 

時田とシンジはお互いの研究の成果を

楽しそうに共有しあっている。

 

「やっぱシンジ君って天才なのね」

 

「えぇ、恐ろしい子だわ全く」

 

2人はシンジのハイスペックぶりを再認識していた。

そして、こうも思っていた。

彼に敵対視されていなくて良かった、と。

そうしなければ人類が滅んでいたとはいえ

かなりの強権を振りかざしてNERVへ連れてきたのだ。

彼であれば素直に従うように見せかけながら

NERVを内部から崩壊させることも出来ていただろう。

 

 

 

「さて、あと1時間ほどでJA試作機の稼働試験が始まる。

シンジ博士の参考になってくれると嬉しいよ」

 

そう言って時田は壇上へと戻って行った。

 

 

 

プロジェクタによってジェットアローンの姿が

スクリーンに映し出される。ジェットアローンは

使徒サキエルに近い体型をした人型のロボットで

赤と白のカラーリングが特徴的だ。

 

「これより、ジェットアローンの概要説明を始めます」

 

時田はジェットアローンの概要を語っていく。

──JAとは自然災害や紛争によって被災した地域の

復興を強力に支援する多目的ロボットである。

無人機であるため放射線災害などにも対応している。

 

「では、続いて動力源についてです」

 

今回稼働テストを行う機体は試作機であるため

核分裂炉を搭載しているが、正式採用予定の機体は

現在開発中のN2リアクターを採用することになっており

炉心融解による放射線事故のリスクも無い。

連続稼働日数もおよそ200日にもなる。

 

「続けて、機体を人型とするメリットですが──」

 

人間に近い形をしているため非常に柔軟な対応が可能。

マニピュレーターが人間と同じ5本指になっており

瓦礫の撤去作業なども丁寧に行うことが出来る。

この後の稼働テストでも実践する予定だが

山間部など地形状況の悪い箇所でも足を使って

問題なく走破することが可能な設計である。

 

「復興支援用にはピッタリな性能ね」

 

「これをエヴァでやったら大変な事になりそうね」

 

リツコとミサトはJAに確かな有用性を見出す。

仮にエヴァを復興支援に使おうと思ったら

その莫大な消費電力や整備性の悪さゆえに、

普通に復興するよりコストがかかる可能性すらある。

 

 

 

「…概要の説明は以上になります。」

 

「では、試験場管制室へご案内いたしますので

少々お待ちください。」

 

時田によるジェットアローンの概要説明は終わった。

シンジも時田の研究成果に感心しているのか

とても良い表情だった。

 

 

 

「NERVの御三方、少しいいですかな?」

 

「時田博士、どうしたんですか?」

 

概要説明が終わった時田がシンジ達のもとへ歩いてくる。

 

 

「私は近いうちにNERVへ移籍したいと思っているのです」

 

時田は自分を日重から引き抜いて欲しいと言ってきた。

NERVが世界のために謎の巨大生命体と戦っているのなら

我々もそれを支援すべきだとして日本政府へ

追加予算の申請をしたのだが、日重がNERVへつく気なら

資金援助を全て打ち切ると脅されたとのこと。

それがNERVへ移籍する事を考えていた理由だった。

 

「世界の危機を前にしても下らない争いをしているような

醜い役人どもの下には付いていたくないですから。」

 

「………分かったわ。上層部へ掛け合ってみるわね」

 

「感謝します。」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

『ジェットアローン、起動しました!』

 

全身を固定していた安全装置が解除され

キャリアーから降ろされるとJAがついに動き出す。

 

『歩行試験、開始』

 

今はまだ敷地内の平坦な場所を歩いているため

JAの歩行速度はエヴァの歩行と比較しても

決して見劣りしないくらいには速度が出ている。

 

『続いて、山間部歩行試験を開始』

 

JAは敷地内から移動し山間部へと向かっていく。

この試験場からもJAの姿は見えているが

映像中継用のヘリが飛ばされているので

JAの歩いている姿をハッキリ見ることができる。

 

「随分しっかり歩けんのね、JA」

 

山間部へ入ったJAだが、歩行速度こそ落ちたものの

そのバランスを一切崩すことなく歩いている。

傾斜や岩石地帯にもキッチリ対応出来ており

被災地への派遣は全く問題無さそうだ。

 

『山間部歩行試験終了、損傷率も問題無し』

 

山間部から帰ってきたJAの脚部は泥まみれではあるが

大きな損傷を負っている様子はない。

 

『続けて、作業試験に移ります』

 

JAは敷地内に用意されてあった瓦礫の山へ向かう。

瓦礫の山にはダミー人形が埋もれているらしく

それに大きな損傷を与えずに取り出すのが

この試験の内容のようだ。

 

JAは指先で器用に瓦礫をつまんで退かしていき

数十秒もしないうちにダミー人形が取り出された。

ダミー人形はしっかりと原型を維持している。

あれの強度は人間とほとんど同じで作られていると

解説していたので試験は合格だろう。

 

『専用輸送コンテナの離合試験を開始』

 

JAの両肩に用意されたマウントラッチへ

専用の大型輸送コンテナが接続される。

JAはその状態で少し歩いてみせ、こんどは接続を解除し

コンテナを取り外していく。コンテナは大容量なので

物資輸送の面に関してもかなりの性能のようだ。

 

『被災地への電力供給に関しては──』

 

さらに電力供給機能も実演される。

JAはN2リアクターの搭載を予定されているが

機体稼働用の電力をすべて外部出力へ回せば

大規模な避難所などであってもその電力需要を

1年分近くを賄うことも不可能ではないだろう。

腰部へ専用コネクタを接続することで

様々な形式で電力供給が行えるとのことだった。

 

 

『─以上でジェットアローンの稼働試験を終了します』

 

JAの稼働試験は特に事故などが起こることも無く

予定通り終了したのだった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「シンジ博士はエヴァの武装開発もしてるんだって?

凄いことやってるじゃないか」

 

「はい、結構楽しいんですよ」

 

「時田博士のJA、もとい大型の無人作業機械の話は

僕もよく耳にしてますし凄いと思ってますよ?」

 

「そいつは嬉しいねぇ」

 

完成披露宴と稼働試験が終わり、静かになった会場で

時田とシンジは軽く会話をしていた。

2人とも今回の完成披露宴は有意義なものだったのだ

お互いに嬉しそうな顔をしている。

 

「時田博士がNERVに来る時を楽しみにしてますよ」

 

「私もNERVへ行くのが楽しみだよシンジ博士」

 

宴会ホールには時田とシンジのやや黒い笑い声

そしてミサトとリツコの苦笑いが響いた。

 

──このあと、時田シロウと彼を慕う部下数名は

リツコらの奔走によって無事に引き抜かれ

シンジと手を組んでNERV本部を改造しまくるのだが

それはまだもう少し先のお話。

 

 

 

                      つづく




時田シロウの口調や性格を知らないので
思い切ってオリジナルで書きました。
公の場では誠実で、親しい人とはフランクに。
口調は中の人繋がりでヤザン・ゲーブルを
参考にしてあります。

JAは運用コンセプトを変えれば
かなりいい機体になると思うんよ。
追加したのは肩のコンテナ用コネクタと
腰の外部用ケーブルコネクタのみ。

次回からいよいよ「アスカ来日」です。
お楽しみに!


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アスカ、来日

ついにアスカ&2号機登場です。

2号機のデザインは首から上だけが
新世紀のものと思ってください。
あっちの弐号機の顔が好きなのでね。

それと、2号機にタンデムしている間は
2人は基本的にドイツ語で喋っております。
作者はドイツ語分からないんで
そこも日本語で書いてますが。


「Mil-55Dに乗れるなんて最高だよ!!」

 

ケンスケがやたらとハイテンションである。

 

「しかも向かう先はニミッツ級8番艦と来た!!」

 

…ケンスケがやたらとハイテンションである!

 

今シンジ達は、エヴァ2号機の非常用電源ソケットを

国連軍太平洋艦隊へ送り届けるために

NERVの大型ヘリコプターMil-55Dに乗っている。

ミサトから友人を連れてきても構わないと

言われたのでトウジとケンスケを連れてきたのだ。

 

「世界初の量産型原子力空母!

ニミッツ級8番艦、CVN-75オーバー・ザ・レインボー!!

こんな機会でもなきゃお目にかかれないよ!!」

 

重度のミリタリーオタクであるケンスケにとって

国連軍の艦船や航空機を間近で見れるこの状況は

天国かなにかに見えていることだろう。

 

「やっぱ持つべきものは友達だな!ありがとう碇!!」

 

シンジの手を握りありがとうありがとうと

ブンブンと手を振るケンスケ。

 

「「「「……………」」」」

 

このやかましさにはミサトやレイは勿論、トウジも

ヘリを操縦しているNERVの職員たちも

そして何故か付いてきたマリもドン引きである。

 

「…も、もうすぐ着艦ですので着陸準備を…。」

 

 

 

 

 

ヘリはオーバーザレインボーへと着艦する。

扉が開けられるとケンスケは真っ先に飛び降り

オーバーザレインボーの容姿を眺めている。

カメラによる撮影は基本NGだと言われていたらしく

ケンスケは空母にも穴があくのではというレベルで

隅から隅まで凝視している。

 

そんなケンスケを変人を見るような目で見つつ

黄色いワンピースの少女がこちらへ駆け寄ってくる。

 

「ハロ~ミサト、元気にしてた?」

 

少女はミサトさんに声を掛けた。

ミサトさんも使徒襲来の少し前までドイツにいたと

聞いていたのでその時知り合ったのだろう

少女は綺麗な金髪をエヴァ用のヘッドセットらしきもので

ラビットスタイルのツインテールにしている。

恐らくは彼女がセカンドチルドレンだろう。

 

「紹介するわ。惣流・アスカ・ラングレーさん。

エヴァ2号機の専属パイロットよ」

 

僕はその名前を聞いてどこか引っかかる感じをおぼえた。

 

「アスカにも紹介しないとね。青い髪の女の子が

ファーストチルドレンの綾波レイよ。

そしてこっちの茶髪の可愛い可愛い男のコが

うわさのサードチルドレン、碇シンジ君よ♪」

 

ミサトさんの紹介に凄まじい悪意が感じられる。

まぁさっきから屈強な海軍の男どもも数名僕のことを

チラチラと見ているので間違いはないのかもだが。

 

僕のことを聞かされた惣流さんはその内容に

どこか引っかかったような表情をしている。

 

「碇…シンジ、ねぇ…」

 

「惣流…惣流…どこかで聞いたような…」

 

僕がドイツにいた頃を思い出してみる。

こんな少女と出会っているとしたら学校だろうけど

ドイツで通っていたのは大学だけである。

大学の頃の記憶を探っていって思い出したのは

「飛び級で入学してきた文武両道の秀才美少女がいる」

という噂。

まさかとは思ったが一応惣流さんに問いかけてみる。

 

「「君(アンタ)、同じ大学にいた?」」

 

「「凄い飛び級生がいるって噂で…!」」

 

「……息ピッタリね、あんたたち」

 

惣流さんとピッタリ同じ質問をしていた。

慌てて彼女に出身大学を聞いてみれば

僕が通っていた大学と同じ名前だった。

 

「…確かにいた!確かに何度か見かけたよ!」

 

「…居たわね、私の周りでも話題になってたわ」

 

 

 

会話の場を艦内のフードコートへと移し

再び惣流さんと昔の話を再開する。

 

「え!?アンタホントに男の子だったの!?」

 

惣流さんは僕のことを

「飛び級で入ってきた日本人の天才少女(仮)」

と覚えていたらしい。

大学内では僕のことを男だと信じる派と

本当は女の子じゃないのかと疑う派に別れていたようで

惣流さんも印象に強く残っていたとのこと。

 

「せやで!ワシも最初は見間違えたもんや」

 

トウジが久しぶりに会話へ入ってきた。

僕と惣流さんがお互いしか分からないような話をしてて

今まで入ってこれなかったらしい。

ケンスケは今もこの艦隊を見て回っているだろうが。

 

「そういえばこのジャージとさっきの変態メガネは

アンタとどういう関係なのよ?」

 

「ジャージ…やと?ヒドい呼び方やな!

確かにジャージばっか着とるけどな」

 

確かに僕とトウジやケンスケの関係は

見知らぬ人からしてみればちょっと変わっているように

見えているかもしれない。

 

「僕の友人だよ。本人たちは民間人だけど知り合った

きっかけはどっちもエヴァだったりするんだ──」

 

特にケンスケとの馴れ初めを話すと惣流さんも驚いた。

エヴァの戦いの危険性をある程度分かっていながら

戦場へ見物に来たともなれば驚きもするだろう。

それで戦いに巻き込まれ、エヴァに乗って一緒に戦って

NERVからスカウトまでされているのだ。

驚かないほうが不思議といえた。

 

「随分変わり者の知り合い持ってんのねアンタ」

 

トウジ達のことを知った惣流さんの、2人を見る目は

ある種感心しているようなものへと変わっていた。

 

 

 

話も弾んできた時、ミサトさんの後方から

無精髭を生やした男が歩いてきた。

彼は人差し指を口元に当てながらまっすぐ向かってくる。

ミサトさんにバレずに近づこうとしているようだ。

 

「!!やっ、ちょ…誰よ!?」

 

「よっ葛城、元気にしてたか?」

 

「げーっ加持ィ!?」

 

加持という男に後ろから抱き着かれたミサトさんは

厄介なヤツに見つかった、と言いたそうな顔をして

イスを蹴倒す勢いで加持から飛び退いた。

 

「ななななんでアンタがここにいるのよッ!?」

 

「アスカの随伴でね。しばらくは本部付きになるヨ」

 

しばらくNERV本部に残ることになると語る加持さんに

ミサトさんは至極嫌そうな顔を浮かべる。

知り合いのようだが過去に何かあったのだろうか?

 

「碇シンジ君は…キミかい?俺は加持リョウジだ。

君の活躍の噂は俺も聞いているよ。」

 

「あははっ、やっぱり知られてますよね…」

 

「あぁ、この業界で君のことを知らない奴は

モグリ扱いされるくらいさ」

 

加持さんは僕の凄さをやや誇張気味にベラベラと喋る。

初出撃時にはシンクロ率90%オーバーをマークし

その後の戦闘を無傷で終えたことに加え

ここまで3体の使徒を殲滅、オマケに新技術をいくつも

NERVへ提供している物凄いパイロットだ、と。

 

この話を聞いた惣流さんもさすがにイライラし始める。

まあいきなり自分の目の前で他のパイロットが

手放しで褒められていたらイラつきもするだろう。

…と思いきや惣流さんの視線は加持さんへ向いている。

 

「加持さん!そんな誇張表現しなくたってシンジの凄さは

よく分かってるわよ!大学であたしと並び立ててた

凄い奴なんだからコイツは!」

 

身体能力はアスカの方がかなり上回っていたが

学業成績に関しては、彼に追い迫ることはあっても

追い抜き引き離すことはまるで出来なかった。

大学を卒業するころにはアスカも理解していたのだ

「碇シンジとやらは自分と同じレベルの逸材だ」と。

 

「お、おぅそうか」

 

加持さんは不意打ちを食らったような顔をしている。

しかし気分を切り替えるように軽く首を振って。

 

「シンジ君は葛城と同居してるんだろ?

コイツの寝相、治ってるか?」

 

──突然爆弾発言を投下したのだ。

…加持さんとミサトさんは以前付き合ってたようだ。

そりゃミサトさんから見れば別れた元彼のご登場なわけで

ここまで不機嫌になるのも納得だ。

しかもその本人は飄々としているから尚更だろう。

 

「なななんてこと言うのよ子供の前で~ッ!?」

 

あっちへ行きやがれとミサトさんに怒鳴られた加持さんは

ケラケラと笑いながら立ち去っていった。

 

 

「ひ~めっ!」

「ちょっと!誰よあたしにまで!」

 

今度は惣流さんに抱き着いた人物がいた。

その人物は白いビキニとショートパンツという

軍艦にしてはラフすぎる格好をしていて

掛けているメガネは怪しく光っていた。

 

「げッ!?マリぃ!?アンタはなんでここにいるのよ!」

 

「姫が来るって言うから、来てみたんだにゃ!」

 

マリさんは指をワキワキさせながら惣流さんへと迫る。

彼女のメガネの輝きはさらに怪しさを増していく。

 

「姫がどれだけ成長したか確かめてやるにゃ~ッ!」

 

「ふんッ!」

 

ゴッ!!!

 

惣流さんの胸元へ向け飛び込んで行ったマリさんだったが

キレた惣流さんの拳に一撃で伸されるのだった。

 

「痛たたぁ~相変わらず姫は乱暴だなぁ」

 

「アンタが変態じみたことするからでしょーが!!」

 

実はマリさんはここへ着くなりどこかへフラフラと消え

今まで一種の行方不明状態だったのだ。

恐らくは惣流さんを探してウロウロしていたのだろう。

ちなみにだが、マリさんが惣流さんを探しに行った方向は

惣流さんがやって来た方向とは真逆だったりする。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

「まさかシンジがエヴァのパイロットだなんてね…」

 

「それを言ったら惣流さんだってそうだろう」

 

シンジとアスカは輸送艦オセローへ向かっていた。

アスカがぜひ2号機を見せたい、と言っていたので

2人で話をしながら向かっているのだ。

 

「堅苦しい言い方はやめてよ、アスカで良いわ」

 

「そうか。アスカって呼ばせてもらうよ。」

 

傍から見ればシンジとアスカは2人とも美少女なので

屈強な男どもの集まる太平洋艦隊においては

とても貴重な目の保養になっていた。

甲板上の視線も2人へ集まっていたが

2人は特に気にすることも無く輸送ヘリへ歩いていき

輸送艦オセローへ飛んでくれと指示を出す。

 

 

「これがあたしのエヴァ、エヴァ2号機よ!」

 

そこにいたのは冷却用の赤紫の水に浸かっている

額に角を付けても似合いそうな赤い四ツ目のエヴァ。

エヴァンゲリオン正規実用型2号機だ。

 

「スペックデータは見させてもらってるよ。

汎用性高くていろいろ弄りがいがありそうだな」

 

「え、まさか本部のエヴァを改造してるたりするの?

『マカイゾウ』ってヤツで異形になってないわよね?」

 

「いやいや、魔改造みたいな事はしてないって」

 

アスカは日本のサブカルにも一定の興味はありそうだし

日本へ戻ったら色々教えてあげるのも良さそうだ。

一応アスカから今の2号機の状態も見せてもらう。

 

「これが今のデータよ」

 

「海路輸送なのにB型装備?海の上で使徒に会う可能性も

ゼロとは言いきれないだろうに…」

 

「でも使徒は第三新東京市に向かってくるんでしょ?」

 

使徒と偶然ルートが重なる可能性は残ると言えば

アスカもそれはそうねと納得する。

2号機のデータを確認し終えたところで

掛けられたシートから出てオセローの甲板上へ戻る。

 

ズゥゥゥ……………ン

 

船が突如鈍い揺れに襲われた。

アスカと顔を見合わせ、水中衝撃波だとの結論を出すと

後方では凄まじい水しぶきが爆炎と共に上がっていた。

 

「…まさかこれ、もしかしてよ?」

「…使徒…!」

 

後方で護衛艦を沈めた巨大な影はこの艦隊の下を

何かを探しているかのように泳ぎ続けている。

この艦隊で使徒が狙うようなものと言ったら

さっきまで見ていたあれしか考えられなかった。

 

「シンジ!一緒に来なさい!」

 

「ああっ!」

 

シート内へ戻るなりアスカに2号機へ同乗しろと言われ

僕もプラグスーツへ着替えてからプラグへと飛び乗る。

エヴァ2号機は思考言語がドイツ語とのことで

思考回路をドイツにいたときのものへ切り替えた。

 

「………」

 

アスカの動きを妨げないよう最低限シンクロをしにかかる。

初号機には母さんの魂が眠っていたから

2号機にもアスカと親しい人が眠っているハズだ。

 

(2号機の人…アスカと共に戦うことになった碇シンジです)

 

(………)

 

2号機からの反応は帰ってこない。

 

(僕もアスカの力になってあげたいんです!)

 

(………!)

 

少しだけ2号機から感じる雰囲気が柔らかくなる。

 

 

「あたしの2号機とシンクロするなんて流石ねシンジ」

 

アスカは僕が2号機とシンクロしたことに気づいたらしい。

何か意識してることでもあるのかと聞かれたため

2号機の中の人に協力してくれと頼み込んだと言うと

流石に怪訝な顔をされる。

 

「エヴァの中には人の魂が封じ込められていてね──」

 

エヴァのコアには人の魂が入っていて

それを介して初めてエヴァを動かすことができると

エヴァの基礎理論を作った人から聞いた

初号機に入っていたのは自分の母だったと説明する。

 

「えっ!?初号機にシンジのママが!?」

 

アスカは「母親」というキーワードに強い反応を見せた。

まぁ恐らく2号機も"そう"なのだろう。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

『巨大生命体、輸送艦オセローへ接近!!』

 

無線から響いてきた報告にアスカは思考の海から

現実へと引き戻された。使徒が迫っているのだ

このままでは2号機もろとも海の藻屑だ。

アスカは速やかに2号機を立ちあがらせる。

 

さっきシンジから聞いた、エヴァのコアに母親がいる

という話はにわかには信じ難いものだったが

思い当たる節があったアスカは2号機に意識を向けた。

 

(…2号機、ママだったらあたしに力を貸してッ!)

 

すると一気に機体が軽くなった気がしたので、

ケーブルソケットを受け取るために船を飛び移って

向かおうと思っていたオーバーザレインボーの甲板へ

一気に大跳躍する。

 

「エヴァ2号機、着艦しま~すッ!」

 

『『『うわあああッ!?』』』

 

ズダァーンッ!と凄まじい音を立てながらも

無事オーバーザレインボーへ飛び移れたので

ケーブルを接続する。

UIに表示されていた内部電源の残り時間が消え

外部電源に切り替わったことが表示される。

 

「武装は?」

 

「ナイフしか無いのよ、ケチってくれちゃって…」

 

ウェポンラックからカッター状のプログナイフを取り出す

艦の右舷側からザザザザーッ!と白波を立てながら

巨大な影が迫ってくる。

 

 

ザバァーーーッ!!!

 

 

ついにその使徒が姿を表した。

口が大きく裂けた白い魚のような使徒

「第6使徒ガギエル」だ。

 

「こんのぉッ!」

 

アスカは姿勢を低くしてナイフを使徒の下顎へ突き刺し

そのまま艦の左舷側へと投げ返す。

使徒はオーバーザレインボーに匹敵する巨体なため

甲板上でのしかかられでもすれば船ごと転覆して

海に叩き落とされる可能性があったのだ。

 

「せめて海洋戦闘用のO型装備が残ってれば…」

 

オセローに一応O型装備は積まれてはいたらしいが

2号機がオセローから離脱した瞬間に

ガギエルによって真っ二つにされてしまっている。

今頃は海の底だろう。

 

ミサトも良い作戦を思いつくことが出来ず

シンジとアスカの集中力だけが削がれていく。

 

「…あれ?使徒が離れていく!?」

 

飛びかかってくるガギエルを受け流し続け、さすがに

疲れが見え始めてきた頃、突然使徒が離れていったのだ。

この行動にはシンジもアスカも、ミサトたちも驚いた。

そして、使徒の逃げていった方向をよく見てみると

一機のVTOL機が離れていくのが見える。

 

『…加持のヤツがいない!』

 

オーバーザレインボーの艦橋にいたミサトが叫んだ。

さっきまで自分と一緒にここに居たはずなのに、と。

 

『甲板に停まってたハズのYak-38改が居ません!』

 

甲板からVTOL戦闘機が一機消えていたと

オーバーザレインボーのクルーが報告する。

離着陸の管制は行われていなかったので

部外者か誰かが勝手に飛ばしたのだと思われる。

そこから導き出される結論は…

 

『あんのバカッ!逃げやがったっ!!』

 

「加持さんが危ない!」

 

逃げていくVTOL機は恐らく加持が飛ばしていて

その機内には使徒を強烈に惹き付けるような

「何か」が載せられているのだろう。

 

ガギエルは今海中を泳いでいるが、今まできた使徒のうち

シャムシエルとラミエルは飛行することが出来たのだ。

VTOL機をはるか上空へ待避させたとしても

ガギエルも空を泳いで追っていく可能性が高い。

 

「2号機が海を泳げれば…ッ!」

 

このままでは加持はVTOL機ごと使徒に殺されてしまう─

アスカにとって加持とはチャラチャラしてはいるものの

自分たちと親身になって接してくれる良い人でもあった。

そんな彼を失うのはなんとかして避けたかったが

今の2号機では海に落ちた瞬間動けなくなってしまうため

アスカは何も手出しをすることが出来なかった。

 

 

 

「フィールド偏向制御を使ってみよう、アスカ」

 

しかしシンジにはまだ策があった。

この状況を打開できる可能性を秘めた未完成の切り札が。

 

 

 

                      つづく




アスカを誰かとくっつけるか否かは
まだ考えていません。
が、アスカがリタイアする要因になりうるものは
徹底的にフラグ折りしていきます。

O型装備のOは"O"CEANのOを取ってきました。

ガギエル君は当然"アレ"を狙っています。
2号機が自分の領域へ降りてこようとしないので
スルーした模様。


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洋上決戦、計画の崩壊

ガギエル戦後半です。

ヤツは空を飛びます、当たり前ですよね。
第三新東京市までびっちびち跳ねながら
やってくるとは思えなかったんだ。


「フィールド偏向制御を使ってみよう、アスカ」

 

シンジが打とうとした一手は、幼い頃からエヴァに

乗っていたアスカでさえ知らない機能だった。

 

「フィールドの偏向制御?何よそれ!?」

 

「ATフィールドの展開形状を自在に変えるための技術

もとい装置を使った、新しいATフィールドの使い方だよ」

 

シンジが言うには、エヴァにあるATフィールドは

使徒と同じようにバリアに使えるのは当然のこととして

張る向きを変えたり、複数枚に分けたり

敵へ投げつけたり、色んなものに使えるらしい。

 

複雑な展開を可能とするためのシステムを開発中で

今はまだ大したフィールドの偏向制御は出来ないらしい。

しかし、今回は海に落ちなければいいのだ

足場として展開するくらいなら機器が無くても

出来るのでは無いだろうか、ということらしい。

 

「ほんっとシンジって天才ね」

 

「アスカ、僕も力を貸すよ」

 

『シンジ君、アスカ、あのバカを頼むわね』

 

シンジはミサトに対し、エヴァ零号機を新横須賀港に

呼んでおくように頼んでいる。

アスカは失敗する気などさらさら無かったが

取り逃してしまうと迎撃は一気に難しくなる。

そのバックアップを頼んでいたのだ。

 

「行くわよシンジ」

 

「うん」

 

「「せぇーのッ!」」

 

アンビリカルケーブルをパージし一気に大ジャンプする。

海に対しての拒絶を強く思えば良いらしいので

あの海を「落ちたらアウトな溶岩」とでもイメージする。

 

ガキィーンッ!

 

ATフィールドが足元へ展開されている。

 

「行けるッ!」

 

ガキンガキンとATフィールドを蹴ってガギエルを追う。

ここから新横須賀港まではもうかなり近くなっており

内部電源は余裕で持ってくれるだろう。

 

「加持さん!使徒だ!使徒が追いかけてきてるぞ!!」

 

『何だって!?』

 

ザバァーーーッ!!!

 

加持さんのVTOL機へ向けシンジが警戒を呼びかける。

ガギエルが加持さんのVTOL機に飛びかかるのと

機体が回避運動に入ったのはほぼ同タイミングだった。

 

ドッ…パァーーーンッ!!!

 

 

 

『うお~ッ!?…危なかったよシンジ君、アスカ』

 

水しぶきにまみれながらも加持さんのVTOL機は無事だった

ガギエルはその後も何度かVTOL機を狙って

飛びかかり攻撃を繰り出すも、加持さんの機体操縦で

ひらりひらりと躱されていく。

 

「加持さん!このまま陸へ揚げるわ!」

 

『了解!新横須賀港へ向かえばいいな?』

 

「はい、レイも零号機で来てますから!」

 

VTOL機へ飛びかかるガギエルに対して2号機からも

タックルや蹴りを浴びせて軌道を逸らしたり

海中へ叩き返したりしていく。

 

「シンジ、フィールド!」

 

「任せろ!」

 

ガギエルはかなりイライラしてきているらしく

飛びかかりの頻度が増えていっているが

シンジもATフィールドを張る手助けをしているため

アスカは余裕でガギエルの攻撃を捌けている。

 

「来た!ヤツの本気だわ!」

 

陸が近くなったことでついにガギエルが空を泳ぎ出す。

全長が400m近くあるガギエルが空を泳ぐ姿は

何とも言えないシュールさがあったが

油断をしている暇はない。

ガギエルはATフィールドでの飛行に切り替えたのだ

下手すると海中より器用な動きが出来るようになっている

可能性もある。

 

 

『シンジ君、大丈夫?』

 

ついに零号機と通信が繋がる。

 

「レイ、援護を頼む!」

 

『任せて!』

 

新横須賀港からスナイパーライフルを使って

ガギエルを狙撃してくれている零号機。

アスカにも余裕が出来たことでシンジはレイと話し始める

 

「レイ、そっちからコアは見えた?」

 

『いいえ、まだ確認出来てないわ』

 

ここまでガギエルをしばき続けているがヤツのコアは

まだ見つけられて居なかった。シンジはコアの在り処を

ガギエルの体内、あるいは攻撃行動中にのみ

どこかへ現れているのではないかと予想した。

 

アスカも使徒との戦闘データは全て目を通しているため

シンジの言うことも何となくわかる気がした。

サキエルとシャムシエルはコアを隠せるほど

体格が大きくなかったし、ラミエルは攻撃行動中に

コアが実体化しているのを見ていたからだ。

 

そして、VTOL機の前へ回り込んでいた2号機が

後方から襲いかかるガギエルの下顎へ飛び蹴りを

叩きこんだ時だった。

 

「「コアだ!」」

 

口の中である。ガギエルの大きく裂けた口の中

人間で言えば口蓋垂にあたる部分に赤く輝く球体を

見つけたのである。シンジはそれを見るやいなや

レイへ連絡し上陸後の作戦を話し始める。

 

「陸上へ上がったら僕らのほうで使徒の口を開かせる!

レイはそこでコアをライフルで攻撃してくれ!」

 

『了解。ケーブルは出しておいたわ』

 

それに加えてシンジは何故か加持のVTOL機を拘束するよう

レイに指示を出したのだ。アスカにはその理由は

分からなかったが、この真剣な場でシンジが

ふざけたことを言い出すようなヤツじゃないことは

分かっていたのでアスカは口は出さなかった。

 

そしてついに、2号機とガギエルは陸地へたどり着いた。

すぐさまケーブルを接続しガギエルを追う。

 

「どぉりゃーッ!」

 

近くの山を使ってガギエルの上顎へ向けて蹴りを入れ

地面へと叩きつけた。そしてガギエルの歯へ手をかけ

フルパワーで口をこじ開けにかかった

 

「「開け、開け、開けーッ!!!」」

 

2号機の瞳の光が一気に強さを増し、ガギエルの口が

大きくこじ開けられる。零号機もライフルを手に合流し

ガギエルの口の中へ向けて弾を放った。

 

「ライフル、発射!!」

 

 

ドォーーーンッッッ!

 

ガギエルは口の中をコア諸共穴だらけにされて力尽きた。

そしてそこには、アスカたちの勝利を祝うかのように

綺麗な十字の光が立ち上っていた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

加持リョウジは自身が置かれている状況に困惑していた。

様々な組織のスパイとして活動している加持だったが

自分を初めてまともに拘束し尋問をしてきた相手が

エヴァを動かせるとはいえ、14歳の少年少女だったことに

驚きと困惑を隠せないでいたのだ。

 

(俺はどこで何を間違えたんだ…)

 

VTOL機でNERVの司令へある"ブツ"を届けに行くために

オーバーザレインボーに同乗していたまでは良かった。

使徒に襲撃された艦からひと足早く離脱したのだが

それに気付いたのか使徒に追いかけられてしまったのだ。

 

(使徒に気づかれたから、ではないだろうなァ…)

 

2号機の援護を受けてなんとか新横須賀港まで

たどり着いた加持だったが、待っていた零号機に

ワイヤーを巻き付けられてVTOL機の動きを封じられ

使徒殲滅が終わるまで機内に閉じ込められていたのだ。

 

「さて加持さん、機内を捜索させてもらうよ」

 

「…悪いけど大人しくしててもらうわよ」

『………』

 

そして、一応は機内から解放されたこの場でも

アスカが拳銃で、レイが零号機で見張っているのだ。

シンジは機内の捜索を始めたため無防備だが

ロープで体を拘束されているので身動きは取れなかった。

 

(俺に取れる行動は…無いか)

 

仮に逃げ出そうとしたり、シンジに危害を加えれば

2人の少女は容赦なく実力行使に出るだろう。

アスカの持つ銃には加持の目の前で実弾が装填されており

何時でも撃てるよう構えられている。

零号機はライフルを手に持った状態で待機しているが

そのモノアイもずっとこちらを捉え続けている。

 

「あった…加持さん、これはなにかな?」

 

司令へ届けるハズの"ブツ"も見つけられてしまう。

厳重なロックが掛かっているためシンジには

開けることは出来ないだろうが、ほぼ手詰まりだった。

 

「まぁ僕には何となく予想が付いてるんだけどね」

 

加持の額に一筋の冷や汗が走る。

シンジはニコニコした顔をこちらへ向けているが

その表情は逆に酷く恐ろしかった。

 

(まさかシンジ君は本当に…中身を知っているのか?)

 

そしてシンジは自らの考察を語り出した。

 

第6使徒ガギエルはエヴァ2号機を前にして突然逃走

加持のVTOL機を追跡しはじめた。それはその機内に

エヴァ以上に使徒を強く誘引する何かがあるという証拠。

そして、使徒が求めているものは始祖たる存在のみだ。

これに使徒がたどり着けばサードインパクトが

起こり、人類が滅ぶといわれている。

始祖の一体である第2使徒リリスはNERVの地下にある。

となれば加持の手元にあったのが何なのかは

当然決まっているだろう。もう一体の始祖──

 

「──第1使徒アダム」

 

加持は背筋が凍りつくような思いをしていた。

自分が持っているこの荷物の中身が始祖アダムであると

目の前の少年少女たちは見抜いていたというのだ。

 

「さて、僕達はこれからNERV本部へ向かう。加持さんにも

来てもらうよ。」

 

シンジはNERVへ電話を掛けて迎えを呼んでいた。

アダムを持ってNERVではないどこかの機関へ

寝返るのかと思いきや行先はNERVだというのだ。

加持は自分を待ち受ける運命がまるで見えなかった。

 

「加持、アンタ何やってんのよ…」

 

「すまんな葛城」

 

下手しなくても自分の命は保証されないだろう。

迎えに来たかつての恋人に、申し訳なさで一杯になった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「何!?諜報員をシンジ君たちが捕らえただと?」

 

司令室で冬月が入ってきた報告へ答える。

葛城ミサトから連絡があり、

オーバーザレインボーでパイロットを誘拐しようとした

他組織の諜報員をその場にいたセカンドと加持と協力して

逆に捕らえた、とのことだった。

また、かなりの重要機密を持っており目撃者である加持と

新横須賀港から司令室へ直行する、と報告されたのだ。

 

「どうする碇、アダムは加持首席監察官の手元だろう?」

 

「………どういうことだ…!?」

 

加持リョウジにアダムの極秘運搬を依頼し

届くのを待っていたタイミングで入ってきた報告。

2人は嫌な予感が頭の中で渦巻いていた。

 

アダムを受け取りたい所だが、当の加持が事件の目撃者で

被害者がエヴァパイロットと来ているため

司令室での受け渡しなどはできそうにない。

 

 

 

「碇シンジです。入るよ父さん」

 

司令室へまず入ってきたのはシンジだった。

この時点で冬月とゲンドウは嫌な予感しかしなかったが

続いて入ってきた面子に、その予感が的中していることを

嫌でも思い知らされることとなった。

 

シンジは加持が持っているはずのケースを持っており

その加持は両手を後ろへ回されロープで拘束されている。

セカンドとファーストは拳銃を構えており

その照準はキッチリとこちらへ向けられていたのだ。

ミサトとリツコも手元に拳銃を持っている。

 

「さて父さん、この"第1使徒アダム"を何に使うつもりか

教えて貰えるかな?」

 

「……なんの事だ」

 

ゲンドウは思わずヒザから崩れ落ちそうになる。

しかし、強靭な精神力で平静を装って答えた。

自らが進めている計画は今シンジが持っているケースの

中に入っているもの、アダムが無ければ成立しないのだ。

 

「──人類補完計画。」

 

ビクッ!

 

「…ご存知なんですね?碇司令」

 

…アウトだ。シンジからは絶対に出てくるはずのない

人類補完計画というキーワードに動揺してしまったのだ。

ここで下手を打てばミサトやリツコはすぐに照準を定め

正確に自分の脳天すら撃ち抜いてくれるだろう。

ゲンドウは絶望で床へ崩れ落ちた。

そして、次の言葉でゲンドウは死を悟った。

 

「さぁ、母さんのところへ行こうか?」

 

シンジは母ユイが初号機のコアの中にいることを

知らないはずである。つまりユイとはあの世で会ってこい

というシンジなりの死刑宣告だとゲンドウには聞こえた。

 

「司令を初号機ケイジへお連れして!」

 

ゲンドウはさらに混乱の渦へ落ちていった。

ユイが初号機にいることをシンジが知っているのなら

ユイと会うための何らかの方法を試そうとしている訳だが

そうでないのなら…それは最高の皮肉と言えよう。

息子を道具のように使ってでもユイと会おうとして

ユイの眠る初号機の前で息子に殺されるのだから。

 

 

 

「さあ父さん、コアへ触っていてね」

 

初号機ケイジまでくると、初号機は胸の装甲板が外され

コアが剥き出しになっている。

ゲンドウはシンジに言われるがままコアへ触れる。

それを確認するとシンジは初号機へ乗り込んだ。

まさか初号機で握りつぶすつもりなのか、と

ゲンドウは死ぬ覚悟を決めていたが…

 

『初号機パイロット、深層シンクロを開始──』

 

オペレーターがそう告げたのを聞いた瞬間に

ゲンドウの意識は光へと溶けていった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

(…あなた)

 

(ユイかっ!?)

 

愛する妻の声でゲンドウが目を覚ます。

なぜか自分は浅瀬の海に寝そべっていた。

起き上がって辺りを見回すと、そこに広がっていたのは

無限に続いているこの浅瀬の海とそして青空。

 

(ここは…?)

 

(…あなた。こっちですよ)

 

(ユイ!)

 

前方からはっきりと聞こえた声にゲンドウは駆け出す。

少し走っていくと目の前に小さな島が見えてきた。

そこには木がたった1本だけ生えており

その下には2人の人影が立っている。

 

(ユイなのかっ!)

 

島へ近づくにつれて人影の顔もはっきりと見えてくる。

 

(ユイ…か!…シンジもいるのか!?)

 

(あなた…)

(おまたせ、父さん)

 

シンジとユイはゲンドウを暖かく迎え入れてくれた。

ゲンドウは思わず涙が溢れ出る。

 

(父さん、僕はたとえ世界に滅びの運命しか無いとしても

その世界で足掻き続けていきたいと思ってるんだ。

父さんと、そして母さんとも。)

 

(全ての使徒を殲滅したあとでサルベージしてくれれば

私はかならずあなたのもとへ帰るつもりでいますから。)

 

(シンジぃ!!ユイぃ!!すまなかったっ!!)

 

息子と妻が自分のためにここまでしてくれているとは

思っていなかったゲンドウは罪悪感で涙が止まらなくなる

 

(父さん、大丈夫だよ。時計の針は元にはもどらないけど

未来は自らの手で作り出すことができるんだから。)

 

ゲンドウはシンジの言葉に心打たれる。

まさかここまで強い子に育ってくれたとは、と。

 

(あなた、親は子供を見守るものですよ。見守りましょう

シンジを。私は初号機として、あなたはNERVの司令として)

 

ついにゲンドウは覚悟を決めた。

子供のために、子供とともに運命と戦う覚悟を。

たとえそれが仕組まれた運命であったとしても。

 

(シンジ、今まですまなかったな。これからは父さんにも

お前の戦いの協力をさせてくれ。)

 

(うん。頼りにしてるよ、父さん。…母さんも。)

 

(親子の仲直り、いい光景ねぇ)

 

 

 

ふとシンジとユイが同時にゲンドウへ向き直った。

最近も見たことがある2人の表情にゲンドウの額には

再び大粒の冷や汗が滝のように流れ始める。

 

 

 

((…さてあなた(父さん)、この件とは別で色々と

お話がありますから覚悟しておいてくださいね?))

 

(ひいぃ頼むユイ、シンジ!許してくれぇっ!)

 

そして、ゲンドウへの説教が一通り済むと

この空間は親子の楽しそうな声に包まれていた。

 

 

 

「私とシンジから通達がある!」

 

現実世界へ帰還したシンジとゲンドウから

新たに定められるNERVの最終目的が発表される。

使徒を全て殲滅することは変わらないが

使徒殲滅後に発生しうるであろうサードインパクトと

人類補完計画の発動を阻止することを最終目標とする

と、ミサトやリツコを含む一部職員に発表されたのだ。

 

部屋には運命の歯車が狂い始める音が響いていた。

 

 

 

                      つづく




シンジ君は加持さんが持っていたアダムに気付き
少し強引にゲンドウと和解しにかかりました。

ゲンドウがゼーレからの裏切りを決意。
補完計画と戦う覚悟を決めました。
量産機戦は2号機単体なら超ハードモードなもの
そしてそれを打ち砕くような展開を
予定してますのでお楽しみに。

原作4巻はガギエル+イスラフェルなので
ま~だまだあるんですよね…
次回の投稿は少し時間が掛かりそうです。


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トライアタック

イスラフェル君の登場です!
前後編の2つになってしまいましたので
第2戦は次回!

難産気味で少しだけ短いです。


「惣流・アスカ・ラングレーです♪」

 

「「えぇーッ!?」」

 

転校生として入ってきたアスカにトウジとケンスケは

イスから転げ落ちそうになるほど驚いていた。

 

「あたしもここに通うことになったのよ」

 

「惣流は大学卒業しとるんやろ?」

 

「ミサトに言われたのよ。行ってきなさい、って。」

 

アスカは僕と同じように大卒だがこれまた僕と同じように

ミサトさんにこの中学へ通うよう言われていたのだ。

エヴァパイロットを全員ここへ放り込む気だろうか?

 

面倒くさい、とモロに顔に出ているアスカだったが

ここ第壱中学校2-Aに来た以上、面倒事は避けられない。

エヴァパイロットらしき人物が新たに転校してきたのだ

しかもその人物がレイやシンジとならぶ美少女とくれば

クラスじゅうが大騒ぎをし始めるのは必然と言えた。

 

「ねぇねぇ、惣流さんもエヴァのパイロットなの!?」

「シンジ君とはどういう関係!?」

「惣流さんのエヴァってどんな機体なのか教えてくれ!」

 

アスカとおまけに僕までクラスメイトに囲まれ

次から次へと質問が飛ばされる。

今まで強気な性格を崩すことは無かったアスカだが

さすがにこれにはタジタジ、表情に困惑の色が浮かぶ。

 

「だぁ~っ!答えてやるから順番に聞きなさいよ!」

 

エヴァパイロットへのある種の洗礼のようなものだ。

僕があれこれ言ったところで収まることも無いだろうし

アスカには乗り切ってもらうしかないだろう。

 

 

 

「ねぇ…シンジも転入初日はああだったの?」

 

「うん。隠そうと思ったけど無駄だったよね」

 

質問の嵐から屋上へ逃げ出してきた僕たちは

お昼ご飯を食べながら話をする。

いつものようにレイも一緒だ。

 

「なんというか…程度低いわね、授業内容込みで」

 

「あはは、授業がつまらないのは僕も同意かな」

 

なにせ既に知っている内容の再履修なのだ

同じ大卒の身としては分かるような話だった。

 

「セカンドインパクトの件も政府の話鵜呑みだし」

 

「そう言うしかないんだよ、教師ってのは」

 

──セカンドインパクト。

15年前、南極で発見された使徒アダムの調査中に起こった

原因不明の大爆発である。

政府はこれを巨大隕石の衝突と発表していたのだ。

 

「加持さん、セカンドインパクトのこと追ってたんなら

あたしに聞いてくれりゃ安全だったでしょうに」

 

「ごめんねアスカ、加持さんに銃向けさせるようなこと

指示しちゃって。」

 

アスカに、加持さんへ銃を向けさせたのは僕だ。

何かおかしな行動をしたら撃ってでも止めろと

指示を出していたのだ。それは謝っておく。

 

「ま、加持さんも相当ヤバいことに首突っ込んでた訳だし

それを少しでも辞めさせられたのは良かったわよ」

 

加持さんはセカンドインパクトの真相を知り

NERVの新たな目的を聞いて、ゼーレと内務省調査部の

スパイとしての活動から身を引くことにしていた。

 

 

「アンタ、ファーストとはどういう関係なの?」

 

同じパイロットとしてファースト、レイとの関係は

やはり気になるんだろう。

どうせだということでここで色々話し合う事になった。

 

「レイとは恋人どうしだよ。」

「私はシンジ君が好き、なの。」

 

「え"っ!?」

 

アスカはこの発言に驚いたような表情を浮かべた。

どうやらアスカは、ファーストはNERV本部司令ゲンドウの

依怙贔屓で選ばれたのではという噂を聞いていたらしい。

 

「いや、あれを依怙贔屓とは言えないよな」

「うん。酷かった。」

 

レイがコンクリ打ちっぱなしのボロマンションに住んでて

食事は全てサプリメントや薬、それの大半が司令の指示で

用意されていたと聞くとアスカはドン引きだった。

 

「なんと言うか…まさにマダオ…?よね」

 

万事屋の天パが出てくるコメディー漫画のアイツか。

まるでダメなオッサンを略したものだったし

確かに父さんはマダオと言われてもおかしくは…ない。

 

「あのマダオにはたっぷり働いて貰わなくちゃね!」

 

アスカの言う通り父さんには色々やってもらう事がある

特にゼーレとのやり取りに関しては流石の僕でも

介入出来そうにないので。

 

「そういえばアスカ、マリさんとはどんな関係なの?」

 

「…あ~、アイツとはねぇ…親戚みたいなものね」

 

アスカ曰くマリさんは幼い頃からずっと傍にいた人で

なぜかやたらと自分に構ってくれる人らしい。

最近はそれがめんどくさい方向へ向かいつつあるが

何だかんだ加持さんと同じくらい親しい、とのこと。

 

 

 

「ねぇシンジ。レイと付き合ってるんならさ、ふたりは

どれぐらいまで進んでるのよ?」

 

アスカがニヤニヤしながら聞いてくる。

 

「進んでる、って何?」

 

アスカはレイの発言に一瞬驚いたような顔になると

ふたたびニヤニヤ顔で今度はレイへ声をかけた。

 

「シンジともっとラブラブになる方法を教えてあげるから

あとであたしの家に来なさい!ココに住んでるから」

 

「ありがとう…!あとで行くわ」

 

アスカは自分の住所をレイへ教えている。

そこでレイに何を教える気なのかは分からないが

あの顔からして僕にとっては「大変だけど嬉しい」

そんな状況へたたき落としてくれそうだ。

レイほどの純粋さは時に強力な"武器"になるからだ。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

『巡洋艦はるなより入電、紀伊半島沖合にて使徒と思しき

巨大生命体を確認!データを送ります!』

 

「…分析パターン青、使徒です!」

 

第5使徒ラミエルが第三新東京市に残した傷跡も

まだ癒えていない中、第7の使徒が襲来した。

 

幸いにも沖合で潜航移動しているところを発見出来たため

ミサトは海岸線にエヴァを出撃させ、使徒が上陸する所を

奇襲し一気に叩く作戦を提案した。

 

「シンジ君、今どこにいるの!?」

 

すぐさまエヴァパイロットへ連絡を取る。

 

『アスカとレイも一緒に、今向かってる!』

 

パイロットがこちらへ向かっていることを確認すると

電源ケーブルの運搬や攻撃車両の手配などを済ませる。

 

「零号機もまだ改装作業に入ってないからだせるわよ?」

 

「それは好都合だわ!零号機の準備も進めて!」

 

零号機には今まさに量産化改造を開始する予定だったが

使徒が来たことで作業が中断させられていたのだ。

これを好機と見たミサトは改装作業を後回しにさせ

零号機の出撃準備も進めさせる。

 

「出撃ルートはR26リニアラインでいいわ!」

 

『エヴァの各武装、搭載開始』

 

エヴァの武装がエヴァ輸送トレインに載せられていく。

初号機と零号機のトレインにはパレットライフルが

2号機のトレインには新武装のコンテナが載せられ

エヴァの発進準備が全て整った。

 

『エヴァパイロット、到着しました』

 

シンジたちがエヴァへと飛び乗ったのを確認すると

ミサトはエヴァへ通信を繋ぎ作戦を伝達する。

 

「今回は2号機が前衛、初号機と零号機が後衛よ。

連携はぶっつけ本番になるけどいいわね?」

 

『『『はい!』』』

 

全ての準備が整いミサトは発進指示を出した。

 

 

「エヴァンゲリオン、発進!」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「アスカ、お手並みを拝見させてもらうよ」

 

「あっと言わせてやるから見てなさい!」

 

シンジ達はリニアラインで海岸線までたどり着くと

すぐにケーブルを接続し各々武器を構える。

初号機と零号機はパレットライフルを手に取った。

 

「これが日本刀…良い武器じゃない!」

 

2号機の手に握られているのはこの戦闘の直前に完成した

「マゴロク・E(エクスターミネート)・ソード」だ。

プログレッシブナイフの技術を使用した振動剣で

物体を分子レベルで切り裂く強力な刀である。

 

ザザザザザザーッ!!

 

海の方へ目をやると白波を立てながら使徒がこちらへ

泳いで来ているのが目に見える。

 

ザバァーーーッ!!

 

ついに使徒がその姿を現す。

サキエルと同様首らしいものは無く、黒いボディの上下に

灰色の三日月を2つ手足として付けたような見た目だ。

ボディには赤と青の太極図のような仮面が付いている。

「第7使徒イスラフェル」だ。

 

『攻撃開始!』

 

ミサトの号令でシンジとレイが射撃を開始する。

使徒がATフィールドでそれを防いでいるうちに

アスカは廃ビルを踏み台にして一気に使徒へ詰め寄る。

 

(コアらしい球体は…ッ!?な、何で2つあるんだ!?)

 

シンジは使徒の弱点のコアを真っ先に探した。

それらしいものは使徒の仮面の下に付いていたので

すぐに見つかった。しかし、そのコアらしき赤い球体は

仮面の下に並ぶようにして"2つ"付いているのだ。

 

「行けるっ!」

 

防御に集中している使徒を見てアスカが叫ぶ。

ビルを蹴って使徒の真上へと飛び上がった2号機は

マゴロクソードを大上段に構えた。

 

「だあぁぁぁーーッ!!」

 

ズバァッ!!!

 

マゴロクソードの刃はスパッと使徒の体を切り裂き

イスラフェルは綺麗すぎるくらいに真っ二つになった。

もちろん、2つあったコアも諸共真っ二つだ。

そして切られたイスラフェルはバシャリと海へ倒れた。

 

「お見事!」

 

使徒を一撃で真っ二つにしてみせたアスカに

シンジは拍手とともに賞賛を送った。

 

 

 

『…パターン青健在ですッ!』

 

「「えっ!?」」

 

オペレーターから告げられたのは信じられない報告。

確かにコアは2つとも真っ二つにされたハズである。

 

「シンジ君、惣流さん、使徒が動いてる!」

 

そんなレイの声にイスラフェルの方へ視線を向けると

2つに別れたイスラフェルの体がそれぞれビクビクと

動き始めていたのだ。

 

「アスカ、離れてっ!」

 

アスカが飛び退いたのを確認したシンジはすぐさま

パレットライフルをイスラフェルへ向けて撃つ。

しかしATフィールドで阻まれ爆煙だけが上がった。

 

 

 

『ぬぁ~んてインチキ!!』

 

煙が晴れたそこに立っていたのは"2体"の使徒。

仮面は3つの穴が空いた白いものへ変わっており

手足の色はそれぞれオレンジと白へ変わっている。

新たな使徒が2体追加で現れたのかとも思ったが

続くオペレーターの報告によってそれが否定される。

 

『パターン青が2つに増えていますっ!』

 

『固有パターンはどちらも依然第7使徒のものです!』

 

──分裂。

 

イスラフェルは恐らく合体と分離ができる使徒で

合体して現れることでこちらの油断を誘ったようだ。

アスカが切り裂いたコアも偽物だったのだろう。

 

「復活したってもう一度やっつけてやるまでよ!」

 

2体のイスラフェルは腕の先のカギヅメを振り回して

3人に襲いかかってきたが、シンジとレイはライフルで

アスカはマゴロクソードで反撃する。

 

「僕達もやろう、レイ!」

「うん!」

 

アスカは白いイスラフェルへと斬りかかり

シンジとレイはオレンジのイスラフェルを撃ちまくる。

 

「たあぁぁぁッ!」

 

アスカはマゴロクソードを器用に使いながら

白いイスラフェルの全身を切り裂いていく。

腕を、足を、胴体を。

しかしイスラフェルは何度その体を切り裂かれても

わずか1秒ほどでその傷を完全再生してしまったのだ。

 

「なんなのよ~これ~ッ!?」

 

腕や足が切り飛ばされた程度なら一瞬で再生され

たとえ上半身と下半身がさよならしたとしても

コアが残った方から数秒で新しい半身が生えてくる。

 

「くそぉッ!」

「だめ、再生されてる!」

 

シンジとレイもオレンジのイスラフェルを撃ちまくり

ボロ雑巾のように身体中を穴だらけにしてやるが

それも一瞬のうちに再生されてしまう。

 

『コアを狙うのよ!』

 

「だめ~ッ!コアも再生されてるわ!」

 

アスカは下手な攻撃では意味が無いと分かると

すぐにコアを狙ってマゴロクソードで攻撃していたが

なんと弱点であるはずのコアでさえ、切ろうが貫こうが

瞬時に再生されてしまっていたのだ。

 

「こっちもダメだッ再生されてる!」

 

シンジとレイはコアを狙えと指示された瞬間から

その射撃をひたすらコアへと撃ち込んでいたが

弾丸によって抉られたコアの傷が次の着弾までには

ほとんど治ってしまっているらしく、いつまでたっても

コアを砕ききれずにいた。

 

『一体どうしたら…』

 

この事態にはエヴァパイロット達も発令所の面々も

有効打がまるで見いだせなかった。

しかし、突然ゲンドウが口を開いたのだ。

 

『…国連軍へN2弾道弾を要請しろ!強力な足止めになる。

エヴァパイロット3名は目標をなるべく1箇所に集めながら

爆発の範囲から退避!…出来るな?』

 

ゲンドウが指示を出したのはイスラフェルを足止めして

その間に作戦を練り直そうというものだった。

 

「分かった父さん、やってみるよ!」

 

「「了解!」」

 

シンジは父からの作戦を聞くと速やかに行動に入った。

アスカへ、今からオレンジの方を海へ投げ飛ばすから

白いの方をそこへ投げつけてくれ!と指示をする。

そしてシンジ本人はレイに牽制射撃を続けさせ

オレンジのイスラフェルの隙を伺った。

 

「…ここだァ!うおぉーッ!」

 

使徒が大きく怯んだタイミングで懐へと飛び込み

オレンジのイスラフェルを腕を掴むと

一本背負いの要領で勢いよく投げ飛ばした。

 

「今だアスカッ!」

 

「でやぁぁぁーーッ!」

 

アスカは張り倒した白いイスラフェルの両足を掴み

ジャイアントスイングを使って投げ飛ばす。

勢いよく投げ飛ばされた白いイスラフェルは

ドゴッ!とオレンジのイスラフェルに激突して

2体とも海へと倒れ込む。

 

『N2、今だ!』

 

「退避ーっ!」

 

ゲンドウの指示でN2弾道弾が発射されたのを見て

3人は爆発範囲から全力ダッシュで退避した。

 

 

 

ドォォォォーーーンッ!!!

 

 

 

新型のN2弾道弾が直撃し大爆発が巻き起こった。

これによって使徒イスラフェルは体を構成する物質を

およそ3割ほど焼却され、一時的に活動を休止。

イスラフェルが自己再生を終えるまでの間、時間にして

およそ5日ほどの猶予をNERVは手に入れたのだった。

 

 

 

                      つづく




アスカにマダオ呼ばわりされたゲンドウ君。
今回は良い指示を出してくれました。

アスカに持たせたのはソニックグレイヴではなく
マゴロクソード。イスラフェルを真っ二つにするには
刃の長さが足りないような気がしたんでね。
誰がこれを作ったのかは次回。


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セカンドラウンド


イスラフェル戦、2回戦目です

今回一応オリキャラが居ます。
メインキャラではありませんがね。


 

[戦術作戦部 作戦局第一課 作戦会議室]

 

NERV本部の一角にある作戦局第一課の会議室。

そこには今、NERVの主要メンバー達が大勢集まっていた。

 

NERV副司令である冬月コウゾウ

この部屋の室長とも言える作戦部長葛城ミサト

エヴァの整備面の書類を抱えた赤木リツコ

使徒のデータを纏めた書類を抱えた伊吹マヤ

そしてシンジ、アスカ、レイのエヴァパイロット3名。

 

「──新型N2弾道弾により目標を攻撃、これにより

構成物質の約30%の焼却に成功。」

 

トドメを刺せなかった第7使徒イスラフェルに関する

情報整理と、第2回戦へ向けての作戦立案を行うために

これだけのメンバーが作戦会議室に集まったのだ。

 

「さて、第7使徒との第1回戦に対しての関係各省からの

抗議文とUNからの請求書に関しては私が一部受け持とう」

 

冬月の隣には山のように積まれた書類が見える。

今までの使徒戦後もこのように請求書やら抗議文やらが

送られてきたことはあったが、今回は使徒を殲滅できず

撤退という形に終わってしまっているのだ。

関係各省からの抗議文はいつにも増して多い。

その対応は主にミサトがやることなっていたのだが

まだミサトには第2回戦の作戦考案という仕事がある。

冬月はこれを考慮し、抗議文などの対応を

一部受け持つと言ったのだ。

 

「ありがとうございます副司令!」

 

ミサトは冬月に大いに感謝している。

 

「じゃあ始めましょうかしら。まずは使徒のデータね」

 

リツコに促され、彼女の後輩のオペレーター伊吹マヤが

使徒の詳細なデータをモニターへと写す。

 

「使徒は現在自己修復中です。自己修復の完了予想は

およそ5日後、5日後の午後には再進行が開始されると

MAGIは予想しています。」

 

さらにマヤは使徒の現状を解説していく。

現在自己修復中のイスラフェルはラミエルを上回るほどの

強力なATフィールドを展開しているため

エヴァ3機分のATフィールドで中和を行っても

修復中の奇襲は不可能であるとの予想が出ていた。

 

「ここで奇襲出来れば楽だったんだけどね~…」

 

「続けて、再生能力についてのデータです」

 

2体に分裂したイスラフェルのコアはお互いがお互いの

コアの傷を急速修復するように出来ているらしく

撃破するためには1秒ほどの一瞬の間に両方のコアを

同時に破壊しなければならないとの予想だった。

 

「え、それって物凄く難しくない?」

 

「僕とレイでもかな~りキツいね、これ。」

 

エヴァパイロット達もかなり難しい顔をしており

同時撃破の難易度が高そうなことは明白だ。

 

 

 

「お困りのようだね、シンジ博士」

 

作戦会議室に新たにやってきた人物の声が響く。

シンジにはその声に聞き覚えがあった。

 

「時田博士!?」

 

日本重化学工業共同体でジェットアローンを作っていた

時田シロウがやってきたのである。

どうやらリツコさんが時田博士の引き抜きを司令へ提案し

父さんが直接交渉に出向いていたとのこと。

 

前回戦闘でマゴロクソードがロールアウトしていたのも

時田博士が開発に加わって完成が早まったかららしい。

 

「新たな武装の完成の目処が立ったからな」

 

「どうも、最上アドルといいます。データはこちらに。」

 

時田博士の部下である緑がかった黒髪の青年が

この5日間で仕上がるという武装のデータを持ってくる。

どうやらデュアルソーとサンダースピアの2つは

既に試作型が出来上がっており、急ピッチで製造すれば

それを正式に仕上げることが出来るとのことだ。

 

「我々でも限界があるのでね、5日後までに仕上がるのは

デュアルソーとサンダースピアのどちらかのみだ」

 

「碇博士の研究データは参考になりましたよ!」

 

あまり贅沢を言える状況でもないためそれでも有難い。

ただ、今この場でおおまかな作戦が立案されなければ

それらの武器は今回使えないと思った方が良いだろう。

 

「う~ん…それでも同時攻撃に賭けるべきじゃない?」

 

ミサトさんはユニゾンアタックに賭けようかと悩んでいる

5日間みっちりアスカやレイと特訓に打ち込んだところで

1秒という短い瞬間に同時にコアを破壊できる気はしない

僕はそれとは別で気になっていたことがある。

デュアルソーの破壊力である。

 

「リツコさん、デュアルソーでコアを破壊した時の

ダメージ予想を出してもらえませんか?」

 

「ちょっと待っててね」

 

リツコさんがMAGIを使って使徒へのダメージを計算する。

出てきたその答えは、僕の中で考えついていた作戦が

実現可能であると告げている。

 

「リツコさん!デュアルソーを使いましょう!」

 

僕が思いついた作戦はそんなに難しいものでは無い。

両方の使徒を同時に倒さなければならないのなら

どちらかのコアをデュアルソーで攻撃し続けて

"死に続けている状態"にしてしまえばいい。

あとは残ったもう片方に1回トドメを刺せばいいのだ。

 

「なるほど!シンジ君いい作戦思いつくじゃない!」

 

真っ先にこの作戦の意味を理解したのはミサトさんだ。

さすがNERVの作戦部長を務めているだけある。

他の面々もミサトさんからダメージ計算の画面と合わせて

説明されると理解した様子を見せている。

 

「その作戦なら成功率も高いみたいね」

 

MAGIで作戦の成功率を算出していたリツコさんも

この作戦に同意を示してくれている。

ついに作戦は決まった。あとは実行に移すのみだ。

 

 

「──死に続けるだなんて"レクイエム"みたいですね」

 

片方をデュアルソーで惨殺し続ける残酷な作戦なのに

アドルさんがそう言ったことで、この作戦の名前が

「レクイエム作戦」という皮肉じみた名前になったのには

なんとも言えない気分になったが。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「碇博士、少しお時間いいですか?」

 

僕は作戦会議のあとアドルさんに声をかけられていた。

なにやら見てもらいたい資料があるとのことだ。

 

「機密情報でなければ食堂で話をしましょうよ」

 

別に機密でもなんでもないとのことだったので

昼食を兼ねてNERV本部の食堂へと向かう。

 

 

「博士にはこれを読んでもらいたくて。」

 

手渡された書類にはかなり面白い内容が書かれていた。

受けたエネルギー攻撃を熱として拡散させることで

レーザーやビームなどへの耐性を高める装甲材と

電流で相転移を起こさせ物理攻撃への強い耐性を得る

特殊な金属を用いた装甲材の計画書だった。

 

「どちらも何だかんだ行き詰まってまして…

時田博士にも相談したんですけどね。特に2枚目は酷くて

材料の用意が地球上では難しいみたいなんですよ…」

 

確かにこれは僕の持つ知識を以てしても難しそうだ。

ただ、時田博士やリツコさんと色々情報交換しあってなら

まだなんとか、最低限の性能を確保した程度のものなら

作れないことも無さそうだ。

 

「これってアイデアはアドルさんなんですか?」

 

「いいえ!僕ではありませんよ。…実は──」

 

そう言って手渡されたのはどこかのウェブサイトを

そのまま印刷したような書類。

ページ名にはアニメのタイトル名が含まれている。

以前ドイツにいた友人に教えて貰ったロボットアニメと

同じようなタイトル名がつけられている。

 

「僕はこういったアニメや漫画に出てくるような技術を

現代科学で再現することを目標にしてるんです!」

 

アニメや漫画には疎かった僕には無かった発想だ。

 

「この書類の件は分かったよ。色々掛け合ってみます。」

 

「本当ですか!?ありがとうございますっ!」

 

キラキラした笑顔でお礼を言うアドルさんは

僕より一足先に昼食を食べ終えると

「昼食代は僕がお支払いしておきますからーっ!」

と言って支払いを全て済ませて去っていってしまった。

おおかた再び自分の研究をしに戻ったのだろう。

僕も昼食を済ませ自分のやることをしに行くことにした。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

『目標は強羅絶対防衛線を突破しました!』

『現在、第三新東京市へ向けて山間部を進行中です!』

 

ついにイスラフェル達が活動を再開した。

2体はまだ表皮にヒビが残っている状態で現れたため

MAGIが出した活動再開予想よりも3時間ほど早いようだ。

表皮のヒビ程度ならほぼ全快されたと言えるだろう。

 

『シンジ君、アスカ、レイ、準備はいいわね?』

 

「「「はい!」」」

 

『エヴァンゲリオン発進!』

 

 

 

地上へ出た僕達は近くの兵装ビルへ送られてきた武装を

それぞれ手に取る。僕はデュアルソーを、アスカは

ソニックグレイヴを、レイはパレットライフルを2丁だ。

 

「私が先行するわ」

 

レイが使徒の方へゆっくりと歩いていったのを見送り

僕とアスカは所定の位置まで先回りする。

まずやらねばならないのはイスラフェル達の分断だ。

 

今回は僕がレイと協力して片方を押さえ込み

デュアルソーをコアへねじ込む手筈なのだが

その状況へ持ち込むまで、もう片方はフリーになる。

下手にもう片方からの援護を許してしまえば

戦線が瓦解するリスクがあったため最初から2体を分断し

アスカには分断した片方の足止めとトドメを頼んだのだ。

 

「射撃開始!」

 

レイは山間部から現れた2体のイスラフェルへ

2丁のパレットライフルを乱射する。

狙いを定めることもなく弾をバラ撒いたのだ。

 

「…回避!」

 

2体のイスラフェルは当然零号機へ向かって飛びかかるが

もともと当てる気など無かったレイはヒラリと回避する。

 

「ビーム!…でもっ!」

 

イスラフェルは自己修復するついでに進化したのか

仮面からのビームも撃ってくるようになっていたが

2体とはかなり距離を開けているため回避は余裕だった。

これを何度か繰り返し、所定の位置まで誘い込むのだ。

 

 

 

「…来た」

 

僕達のもとへ2体のイスラフェルが誘導されてくる。

パラパラと撃っては逃げる零号機にイライラしているのか

初号機と2号機はまるで眼中に無いようだ。

 

「次を狙うわよシンジ」

 

「了解」

 

次イスラフェルが零号機へ飛びかかれば丁度いい辺りへ

飛び込んできてくれるだろう。最高のタイミングを

逃さないためにも視線をイスラフェル達へ集中させる。

 

 

「今よ!」

 

「はあぁぁぁーッ!」

「おりゃぁぁーッ!」

 

飛び込んできた2体のイスラフェルの腕をガッチリ掴んで

2体を引き離すようにして勢いよく投げ飛ばしてやり

かなり離れた場所へと叩きつける事に成功した。

僕達はまず作戦の第一段階を突破したのだ。

 

「そっちは頼むよアスカ!」

「任せときなさい!」

 

僕はオレンジのイスラフェルをアスカへ任せ

白いイスラフェルを拘束すべく隙を伺う。

前回戦闘でも隙を突かれて投げ飛ばされN2を貰ったせいか

白いイスラフェルは掴まれないように距離を置いている。

 

「シンジ君、惣流さん、使徒はビームを使うわ」

 

『ありがと、気をつけるわ』

 

レイが使徒がビームを会得していると教えてくれた。

アスカとも通信は開いているので返事が返ってくる。

サキエルと同じくビームの直前に仮面の瞳が

キラリと輝くようで回避は難しくないようだ。

 

『アタシが軽く遊んであげるわ。ほらほらッ!』

 

向こうも遊んでいられるくらいには順調らしい。

僕も負けてられないとばかりにギアをあげる。

 

「シンジ君、今よ!」

 

「僕が狙っているのは…これだよッ!!」

 

バゴォーンッ!!

 

白いイスラフェルを零号機とで挟んだ瞬間にヤツへ向けて

飛び蹴りを叩き込む。掴みを警戒していたようだが

逆に狙いやすくなっていたのでとても有難かった。

蹴りが仮面にクリーンヒットした白いイスラフェルは

零号機の方へ勢いよくぶっ飛ばされる。

 

「捕まえた!」

 

ぶっ飛ばされた白いイスラフェルは零号機に腕を掴まれ

地面へと押さえ付けられる。抜け出される前に初号機で

下半身の方も押さえ付け、デュアルソーを起動する。

 

ギュイーーーン!!!

 

コア同士の相互修復が途切れる瞬間を報告するよう

オペレーター陣に伝えてあるので、あとは僕はひたすら

このデュアルソーをコアへ押し付けるだけだ。

 

『トドメを刺せそうなのね?シンジに合わせるわよ!』

 

アスカにもデュアルソーが唸る音が聞こえたようで

トドメの準備が完了していると連絡が来る。

ジタバタと暴れる白いイスラフェルに苦戦しつつも

デュアルソーをコア目掛けて押しつける。

 

ギャリギャリギャリギャリギャリギャリッ!!!

 

物凄い音と共にコアが砕かれていき赤い破片が飛び散る。

ノコギリの部分の先端は白いイスラフェルの肉体深くまで

突き刺さっているようで、バタバタと暴れていた手足は

今はもはやビクビクと震えている。

 

『コア同士のエネルギーのやり取りが途切れました!』

 

「今だアスカ!」

 

オペレーターから、白い方が死に続けはじめたと聞き

すぐさまアスカへトドメを刺すよう伝える。

 

『トドメだあぁぁぁーーーッ!』

 

2号機は一気にオレンジのイスラフェルの懐へ飛び込み

ソニックグレイヴでコアを綺麗に貫いていた。

 

 

 

2体のイスラフェルは糸が切れたようにバタリと力尽き

二箇所で十字の光が上がった。

 

『パターン青、消失しました!』

 

オペレーターからもパターン青消失の報が入り

今度こそ本当にイスラフェルが殲滅されたことを

実感したのだった。

 

 

 

                       つづく

 

 

 




ユニゾンではない方法で仕留めてやりたくてな
ユニゾンを期待していた方には申し訳ない。

ここで出てきたレクイエムとは
あのスタンドさんのことです。

時田さんの部下、最上アドルさん登場。
シンジ君に色々ヒントをくれました。
名前は重巡洋艦「最上」と、
時田さんの中の人つながりで
ヤザンゲーブルの部下「アドル・ゼノ」から。


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マグマダイバーズ


UA6000突破、評価バーに色がつきました!
感謝感激です!

さて、今回は貞本エヴァには居なかった
サンダルフォン戦です。
やはり書くのに苦戦しましたよ。

今回最後の方にR-15要素アリです。
R-18には入らない…ハズ。


 

 

 

『総員第2種警戒態勢!繰り返す、総員第2種警戒態勢!』

 

使徒らしきものが発見されたという事を知らせる警報が

NERV本部内に鳴り響くなか、ゲンドウは司令室で

ある人物が来るのを待っていた。

手元には浅間山地震観測研究所から送られてきたデータ。

 

「父さん、入るよ」

 

「待っていたぞシンジ」

 

ゲンドウが呼んでいたのは息子であるシンジだった。

 

「今回の事態にどう対応すべきかお前の意見が聞きたい」

 

ゲンドウは今置かれている状況がやや複雑だったため

事態の対応策をシンジにも聞こうとしていたのだ。

 

「浅間山の火口内に…使徒らしきもの?」

 

「あぁ、葛城君に調査へ向かわせたんだが…」

 

浅間山の火口に異変があり、それを調べたところ

マグマ内に不自然な影のようなものが見つかったのだ。

研究所からの観測データにも確かに写っている。

葛城ミサトらを現地へ送り、NERV本部でも調査しているが

MAGIですらそれが使徒である可能性は半々と答えたのだ。

 

「僕からは…もう少し情報が欲しいね」

 

仮にそれが使徒だったとしても場所が場所である。

マグマの中で戦わされる可能性が大きい以上

どう対応するべきか判断するには情報が足りなかった。

 

ピーッ、ピーッ、ピーッ

 

『司令、葛城です。観測結果が出ました。』

 

観測所へ出向いていたミサトから連絡があり

詳細なデータが送られてくる。

 

「青…やはり使徒か」

 

「厄介なヤツが出てきたもんだね」

 

観測機器を壊れるまで潜航させてギリギリ採れたデータは

その影が確かに使徒であると物語っていた。

ゲンドウはそれが使徒であると薄々勘づいてはいたものの

こうしてシンジを呼んでいるように、対抗策はあまり

いいものが思いつかなかったのだ。

 

ただ、どうやらその使徒はまだサナギのような状態で

一切活動をしていないとのことだった。

これを捕獲出来れば貴重な「生きた使徒のサンプル」を

手に入れられそうだと思ったゲンドウは、捕獲作戦を

行ってまで手に入れる価値があるかどうかシンジにも

尋ねてみることにした。

 

「シンジ、使徒の捕獲をしようと思うのだがどうだ?」

 

「確かに使徒のサンプルは欲しいところだね」

 

ゲンドウはこの反応を受けて今回の使徒を捕獲する方針で

作戦を組み立てようとするが、ふとシンジの表情が曇る。

 

「…父さん、使徒がサナギみたいな状態ってことはさ

成長して成体になる可能性は大いにあるよね」

 

「だろうな」

 

シンジが指摘した問題というのは、成体になった使徒を

どうやって大人しくさせるのかというものだった。

ゲンドウはこれを指摘され、ハッと我に返った。

確かに今までの使徒も、エヴァを使っても殲滅するのに

四苦八苦するほど強力な存在だったのだ。

いちど成体になってしまえば、人の手では研究は勿論

抑え込むこともロクに出来ないだろう。

 

「使徒封印用呪詛柱があるにはあるが…」

 

「用意するのが難しい、と?」

 

──使徒封印用呪詛柱。

それは表面に赤い模様が浮かぶ巨大な黒い柱で

これで囲まれたエリア内の使徒の活動を制限する

未知の技術が含まれた特殊な物体のことである。

 

「使徒を封印出来る可能性があるほど強力なものは

ベタニアベースで実験中のやつしか無くてな」

 

「なら、捕獲作戦は断念するしか無さそうだね…」

 

「そうだな…」

 

ゲンドウとシンジはそろって頭を悩ませる。

使徒を殲滅する方針へ切り替えたのは良いのだが

やはり使徒が火口内にいるという事実が重くのしかかる。

 

「現行の武器では歯が立たないだろうな」

 

「あの環境で生きていられる体だもんね」

 

エヴァを火口内へ突入させるための装備は存在するが

今回の使徒はマグマの中という高温高圧な環境下でも

生きていられるのだ、恐ろしい程に体が頑丈なのだろう。

となれば並の武器でなくても攻撃はほとんど通らない。

 

 

 

「コーヒーでも飲んで考えなおそうか」

 

「だな」

 

シンジがコーヒーメーカーを使ってコーヒーを淹れ

ゲンドウの元へ持ってくる。シンジが来る前までは

ゲンドウのデスク以外何も無かったこの司令室には今

応対用のテーブルとソファ、コーヒーメーカーが

新たに置かれていたのだ。

2人はソファへ座り、コーヒーを飲む。

 

「それは学校の教科書か?」

 

「うん、さっきまでアスカ達と勉強しててね」

 

ゲンドウはシンジのカバンに第壱中学校の教科書が

入っているのを見かけた。どうやらテストが近いようで

軽く覚え直しをしていたらしい。

 

「あぁ、熱膨張か。父さんも子供の頃やったもんだ」

 

「丁度今理科はこの辺をやってるからね」

 

理科の教科書で付箋が貼られていたページでは

温度による体積の変化やらが解説されている。

それを見たゲンドウは懐かしい気分になっていたが

突如ピンと来たのである。

 

「…シンジ!これだ!!これを使おう!」

 

「父さん!?……そうか!」

 

すぐにゲンドウはNERVの各所に連絡を取り、作戦の準備を

進める。シンジもミサトへ電話を掛けて作戦を伝えると

司令室を飛び出していった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「これが…使徒?」

 

「まだ幼体みたいだわ。サナギみたいなものね」

 

繭に包まれた胎児のようなその姿に、アスカはこれが

使徒だとは想像がつかないらしい。

見せられた資料にじっくりと目を通している。

 

「この作戦あんたと司令で作ったの!?」

 

作戦立案者にはシンジとゲンドウの名前が書かれている。

普段はここにミサトの名前が入っていたので

アスカは少し驚いていたのだ。

 

「先制攻撃する作戦ですね」

 

「そうよレイ、幼体とは言え使徒は使徒だもの」

 

アスカとレイへ今回の作戦の概要を説明すると同時に

新調したプラグスーツを手渡したリツコ。

この新スーツの解説も行うからいちど着替えてきなさいと

言われて2人は更衣室へ入っていった。

 

 

 

「リツコさん、これ前と何が違うの~?」

 

アスカ達が着てきたプラグスーツはパッと見だと前の物と

全く変わらないデザインをしている。

そこへ、正式に技術2課所属になったアドルが

ヘルメットを2つ持って現れる。

 

「技術2課で作った物です。付けてみてください」

 

アスカとレイ、それぞれのスーツに合わせた赤と白の

ネコミミのような物が付いたヘルメットだ。

ヘルメットに付いているネコミミは中の温くなったLCLを

外へ排出するためのものだとか。

 

「ネコミミ…ねぇ。マリのがあれば付けてやったら?」

 

ヘルメットを被りスーツのコネクタと接続した2人。

レイはネコミミに対して特に何も言わなかったし

アスカはヘルメットが邪魔だとでも言いたそうな顔だ。

 

「2人とも、右手首のスイッチを押してみて」

 

2人はプラグスーツの右手首にあるスイッチを押す。

 

「ちょっと!エアーが入っちゃってるわよ!?」

 

本来スーツは内部のエアーを抜いて肌に密着させるのだが

手首のスイッチを押したスーツは逆にエアーを入れたかの

ようにゆったりとした状態へと戻っていってしまう。

 

「……いいえ、正しい動作みたいだわ」

 

「…ホントだ!涼しくなってきた!」

 

プラグスーツがゆったりしたものへ変化した理由は

2層になっているスーツの生地の間に冷却用のガスが

充填されたからである。ヘルメットの内部の方は

今はバックパックで冷やされた空気が循環している。

エヴァに乗った時はこれが冷えたLCLに変わるだろう。

 

「さて、エヴァの方も準備が進んでるからついてきて」

 

 

 

リツコさんに案内されてたどり着いたのはエヴァのケイジ

ではなく起動実験などで使われる実験場だ。

そこにいたのは、真っ白な潜水服のようなD型装備を

着せられたエヴァ零号機だった。

 

本来零号機に特殊装備は規格外で使えなかったのだが

イスラフェル戦後に量産化改造が施されたことで

対応する特殊装備の幅が2号機と同等になっていたのだ。

 

「えっ~!?ちょっとこれはダサすぎない!?

まっ、まさかあたしの2号機もとは言わないわよね?」

 

「2号機も勿論D型装備よ」

 

キッパリと告げられたリツコの言葉に項垂れるアスカ。

確かにこれはダサい。これではまるで雪だるまか

かのネコ型ロボットを白くしたかのようなそんな感じだ。

 

「惣流さん、これでも性能は確かなんですよ?

技術2課も総力をつぎ込んた自信作ですから」

 

「そうね、耐熱耐圧の面で言えば1.5倍くらいあるわ」

 

そう言われても、自分の2号機までこの有り様になるのが

よほどショックなのかアスカの機嫌は良くならない。

そしてある事に気付きシンジの方へ振り向く。

 

「初号機には着せられないの!?」

 

「残念、初号機はD型装備非対応よ」

 

しかも、試作型フィールド偏向制御装置のテスト中であり

戦線投入自体が不可能だと言われてしまった。

 

「仕方ない、やってやるわ!見た目をひっくり返すような

鮮やかな戦い見せてやるんだから!」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──浅間山。

 

溶岩の赤い輝きが白煙の切れ目から時折見えているなか

零号機と2号機の降下準備が進められていく。

電源ケーブルを含めた6本のパイプが背中に繋がれ

手には7本目のパイプを持たされている。

両機の腰アーマーにはプログナイフがセットしてあるが

使っても精々トドメを刺すのに使う程度だろう。

 

『降下用クレーン、準備完了です』

 

『レーザー打ち込み開始』

 

 

着々と準備が整っていくなか、パイロット2人は

それぞれのエヴァの搭乗デッキで会話をしていた。

 

「あんたとまともに組むのは初めてね」

 

来日直後のガギエル戦はシンジと組み、イスラフェル戦は

3人とはいえアスカは実質ソロだった。

今回こうしてレイとアスカが組むのは初だったのだ。

 

「シンジ君は惣流さんを信頼している。私も信頼するわ」

 

つい顔が緩むアスカ。しかし、一応は共同戦線を張った

仲である。故にこう続ける。

 

「にしては堅っ苦しいじゃない、アスカでいいわ」

 

「ならそうする。今作戦はよろしく、アスカ」

 

そう言って手を差し出してくるレイ。

満点の答えにアスカは笑顔で握手を交わした。

 

「こちらこそよろしく、レイ」

 

 

 

『作戦開始時刻です』

 

ついにマグマダイバー達が動き出す。

 

「ジャイアントストライドエントリー!」

 

「じゃ、ジャイアント…なに?」

 

そう言って2人はおどけてみせる。死地へ向かうとはいえ

緊張し過ぎていては逆に良くないだろう。

そして、その白い巨体がマグマへと潜っていく。

 

「何にも見えなくなっちゃったわね」

 

「CTモニターへ切り替えれば見えるわ」

 

マグマ内にいるため肉眼では何も見えないだろう。

レイの言葉を聞きアスカもCTモニターへ切り替える。

 

『深度400、450、500、550』

 

指揮車両にいるマヤの声で今いる深さが伝えられる。

予想では目標は1300ほどの深さにいるとのことだったので

まだもう少し潜る必要があるだろう。

 

『深度1100、1200、1300、目標予測地点です』

 

「レイ、いる?」

 

「見つからないわ」

 

アスカとレイは辺りを見回してみるがそれらしきものは

まだ見つからなかった。

 

『対流が早いのかしら。マヤ、再計算して』

 

『もう少し降りてみましょう』

 

パイプにもD型装備にもまだ異常は出ていない。

理論上では2000ほどまで潜れる仕様なのでさらに潜る。

 

『…深度1780、目標予測修正地点です』

 

「「…いた!」」

 

『目標を映像で確認しました』

 

ついに「第8使徒サンダルフォン」の姿を捉えたのだ。

アスカとレイは未接続のパイプをサンダルフォンへ向け

接近するのを待ち構えている。

 

『目標接触まであと30』

 

サンダルフォンはマグマの対流に乗っているため

このチャンスを逃せば次は無いだろう。

2人と指揮車両の面々は慎重にタイミングを伺う。

 

『接触まであと3、2、1』

 

 

「「冷却材放出!!」」

 

2人の持つ7本目のパイプから冷却材が一気に吹き出し

サンダルフォンへと吹き付けられていく。

 

『使徒、急速に羽化していきます!』

 

「「まだよ!」」

 

突然の攻撃に驚いたのかサンダルフォンは羽化を急いだ。

まるで人間の胎児のようだった姿が一気に変化し

腕の生えたカレイのような姿へと変貌する。

しかし、止むことのない冷却材攻撃に晒され続けた結果

羽化直後の姿で動けなくなってしまったのだ。

 

「おまけよ、これも喰らえーっ!」

 

そして、急速冷却で脆くなったサンダルフォンの体は

アスカのプログナイフの一撃でコナゴナに粉砕され

マグマに溶けていってしまった。

 

 

『パターン青消失、やけにあっさりですね』

 

オペレーター日向マコトはあまりの瞬殺に驚く。

イスラフェルの前例があったため油断は出来なかったが

今回はパターン青がキッチリ消失しているのだ。

この使徒殲滅は確かなものだろう。

 

「パターン青残ってたなんて言わないわよね!?」

『たっ、確かに消失しています!』

 

そして両機の引き上げ作業が始まる。

冷却材パイプにも傷は入っていなかったので

問題なく2機は地上へ引き上げられた。

 

「お疲れ様、レイ、アスカ」

 

「良い作戦をありがとねシンジ!」

「戻ったわ、シンジ君」

 

エントリープラグを降りた2人はシンジに迎えられ

この後宿泊する予定の温泉旅館へ向かったのだった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「ふう~…日々の疲れが取れるなぁ~…」

 

シンジは1人で温泉を堪能していた。

この温泉旅館は戦闘待機のために修学旅行へ行けなかった

シンジ達へとミサトが手配してくれていたのだ。

NERVの男性陣は皆本部へ帰っていってしまったので

男湯はシンジ1人で使えていた。

 

「アスカの肌ってほんとキレイよねぇ~」

 

「ちょっとミサト!?どこ触ってんのよ!」

 

女湯から聞こえてくる会話はガン無視を決め込む。

こんな会話に一々反応していたら、マリとアスカの絡みや

ミサトのイジりには精神が持たないからである。

 

「あ、そうだレイ。あのね──」

 

「本当に!?」

 

アスカがレイに対して何か吹き込んでいるらしい。

それが何だかは分からないがシンジは嫌な予感がした。

 

「行ってくる!」

 

「ちょ、レイ!冗談だって!待ちなさいってば!」

 

それを聞いたレイはどこかへ駆け出してしまったらしい。

シンジはレイの行き先に何となく検討がついた。

だからこそ下手に扉の方へ振り向くようなことはしない。

後ろの方でガラガラと扉が開かれた音がしたが

今この旅館はNERVの貸し切りで一般客は1人も居ない。

つまり──

 

「シンジ…っ…」

 

「れれれっ、レイ!?」

 

シンジの隣にザバッと音を立ててレイが入ってきたのだ。

レイの体には白いタオルが巻かれてはいるがそれだけだ。

さらにレイが「君」を付けずに呼んだため

さすがのシンジもこれには心臓がバクバク鳴り響き

頭が混乱に陥る。

 

「シンジ、こっち見て?」

 

「─んむっ…んーっ!?」

 

 

 

─その瞬間、シンジは鼻血を吹いて卒倒した。

 

 

 

レイの悲鳴を聞いて駆けつけたミサトが応急処置し

シンジはただの鼻血で済んだ。

がしかし、彼が目を覚ますまでの間のレイは

普段の落ち着きが嘘のように取り乱していたとか。

そして、レイへ冗談半分で誘惑を教えたアスカは

ミサトにキッチリ怒られたそうだ。

 

 

 

                      つづく




原作のD型プラグスーツはもはやギャグなので
少し改変を加えてみました。
ヘルメットはQ冒頭でアスカとマリが
被ってたアレと同じようなデザイン。

サンダルフォン君は瞬殺されました。
捕獲したあとどうすんのよ、ということでね
ゲンドウ君から殲滅指示が出ました。


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小話:劇場版エヴァンゲリオン


息抜き回…もといケンスケ回です。
彼がNERVにスカウトされてから
一体何をしていたのか、明らかになります。

本編と関わるような要素はほとんど無いので
ぶっちゃけスルーしても構わないかと。


 

 

 

─NERV本部、技術1課研究室。

 

僕はサンダルフォン戦を終えたあとすぐ本部へ戻り

N2リアクターやフィールド偏向制御装置を完成させるため

リツコさん達技術1課、時田博士達技術2課と協力して

ひたすら開発を進めていた。

 

「ひとまずこんなとこですかね」

「だいぶ仕上がったなァ」

「一息つきましょうか」

 

そして、休憩するためにコーヒーを淹れて飲んでいた時

思わぬ人物からの呼び出しがかかった。

 

『あーあー、え~NERV広報の相田です。葛城さんから通達

パイロット3名と赤木リツコさんは至急第1資料室まで

お集まりください』

 

「えっ相田!?」

 

「あら、私まで呼ばれるのね?」

 

何のために呼び出されたのかは分からないが丁度休憩に

入っていたところだったのでリツコさんと2人で

呼び出された部屋へと向かうことにした。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

[第1資料室]

 

NERV本部が得たデータや映像などの資料を保管している

大きなスクリーンが備え付けられた部屋だ。

 

「やぁ碇、さっそくだけどそこへ座ってくれ」

 

スクリーンの前にはイスがいくつか並べられており

既にミサトさんと、なぜかトウジまで来ている。

 

「やぁ相田ケンスケ君、失礼するよ」

 

「シンジ、お前も呼ばれていたか」

 

「やぁ葛城、何するか教えてくれないかい?」

 

続いて入ってきたのはなんと父さんと副司令、それと

加持さんだ。父さんと副司令はこれから何をするのか

知っている様だが、ここまでのメンツが揃うとなれば

かなりの大事なのだろうか?

 

「メガネがなんで!?ここで何してんのよ?」

 

「綾波レイ、到着しました」

 

レイとアスカは何も知らされていないらしい。

特にアスカはケンスケがNERVにいることに驚いている。

 

「さて、皆集まったね?じゃあ始めるから座って!」

 

全員がイスに座ると部屋の明かり落とされプロジェクタの

電源が入れられる。どうやら何かを見るようだ。

 

 

 

[劇場版エヴァンゲリオン:序(仮称)]

 

「ぶはっ!え?え?映画!?」

 

画面に映し出されたのは映画のタイトルである。

ケンスケはエヴァを映画化しようとしていたらしい。

 

「オールCGでまだ荒削りだけどな」

 

UNの戦車が待ち構えるなか、巨大な水柱が立つ。

流れ的にサキエルが来るシーンだろう。

 

 

『あっ、ダメか…携帯も圏外のままだし──』

 

僕をイメージしたと思しき少年が映る。

そして、突然現れる黒い巨大生命体サキエルに驚く

彼のもとに破壊されたVTOL機が落ちる──

 

『ごめ~ん、おまたせ♪』

 

華麗に滑り込んできた青いアルピーヌルノーから

ミサトさんがモチーフの人が顔を出す。

 

「確かにミサトってこういう運転してそうよね」

 

そう言うアスカに、僕も確かにそうだなと思う。

あそこまで豪快な運転ではないが、ミサトさんの運転には

NERV本部へ急いでいたときに何度かお世話になっている。

 

 

『久しぶりだな、メグム』

 

『父さん…』

 

初号機の目の前で僕がモチーフの少年、緒方メグム君と

父さんモチーフの立木司令が顔を合わせる。

 

『こんなの乗れるわけないよっ!』

 

「ねえ、シンジちょっとナヨっとし過ぎじゃない?」

 

初号機を前にしたメグム君はその恐ろしさに竦んだのか

搭乗したくないと叫んでいる。

 

「あくまでも普通の少年だからこれくらいでいいのさ」

 

確かにあれは僕も初めて見た時驚いたのだ。

ただの14歳の少年なら竦んで動けなくなるかも知れない。

 

 

『ウ"オ"オ"オォーーーンッ!!!』

 

エヴァ初号機が暴走を起こしサキエルへと向かっていく。

 

「ユイ君が、ということか。いいアイデアじゃないか」

 

これは少し前父さんに聞いたことなのだが、初戦の時は

僕が戦えなくなった場合、コアに眠る母さんが目覚めて

初号機を暴走させるだろうことを予想していたらしい。

実際、画面の中の初号機も左目を貫かれており

パイロットのメグム君は今戦えない状態だろう。

 

 

『すまんなぁ転校生、ワシはお前を殴らないかん』

 

黒いジャージを着たトウジモチーフの少年、関トモゾウが

メグム君のことを殴り飛ばす。どうやら彼の妹は

暴走した初号機に巻き込まれ怪我をしまったようだ。

 

「確かにサクラが巻き込まれとったら、ワシはセンセの事

ぶん殴ってたかもしれへんな」

 

 

『メグム君、命令を聞きなさい!退却よ!』

『うわあぁぁぁッ!』

 

初号機がプログナイフを構えシャムシエルへ突撃する。

作中のミサトさん、三ツ石コトミさんが制止するも

メグム君はそれを無視して突撃。ギリギリのところで

シャムシエルの撃破に成功していた。

 

「結果としてはあれが最適解なんでしょうね~」

 

ミサトさんの言葉には同意である。遠距離戦闘が効かず

懐へ飛び込むしかないならさっさと決着を付けるべきだ。

ただ、メグム君は命令違反で怒られてしまっていたが。

 

 

『これで貸し借りチャラや、殴ってすまんかったな』

 

メグム君の戦う様を見たトモゾウ君は己の非礼を詫び

メグム君にワシを殴れと言って自分の頬を殴らせる。

彼なりのケジメの付け方ということだろう。

 

「殴りあって友情が芽生える、王道だね」

 

「ええケジメの付け方やな、映画のワシも」

 

さすがケンスケ、トウジの事をよく分かっているようだ。

 

 

『あ"あ"あ"ぁぁぁッ!ここから出してよッ!』

 

初号機がラミエルから砲撃を喰らってしまう。

 

「うわぁ…エっグいわね」

 

「危うくこうなるところだったよ」

 

初号機は出撃用カタパルトが溶けてしまい戻せなくなる。

爆砕ボルトを使って街ごと回収したはいいものの

メグム君は意識不明、初号機は大きく損傷してしまう。

 

「あの時はホンっト迂闊に出さなくて良かったわ」

 

映画はヤシマ作戦へと突入していく。

 

 

『あなたは死なないわ、私が守るもの』

 

レイモチーフの少女、森原メグミさんが月をバックにして

そうメグム君へと語りかける。

 

「幻想的ね…レイ、今度こういう写真撮りましょうよ」

 

「シンジに撮ってもらいたい」

 

そして覚悟を決めたメグム君もエヴァに乗り、ヤシマ作戦

がついに開始された。

 

『外した!?』

『まさか、このタイミングで!?』

 

初撃はギリギリのところで外してしまう。

ケンスケ曰く「一発目は絶対当たらないもの」らしい。

 

『早く…早く…!早くっ!』

 

ラミエルの2発目を森原さんが盾を使って必死にガードする

そして、照準が合い発射される陽電子砲。

 

『キュイアアアァァァーーッ!!!』

 

実物同様の凄まじい声を上げてラミエルは殲滅された。

初号機はライフルを放り投げ、全身から蒸気をあげる

零号機へ駆け寄るとプラグを強引に引っ張り出し

非常用ハッチのレバーを回して森原さんを救助する。

 

『こんな時、どんな顔をすればいいのか分からないの』

 

『笑えばいいと思うよ』

 

なぜか涙を浮かべるメグム君に困惑する森原さんだったが

笑えばいいよ、と言われ彼女はニコッと微笑んだ。

 

[──つづく]

 

 

映画はここで一区切り、となる。

 

パチパチパチパチパチパチ…!

 

すぐに資料室全体に拍手が鳴り響く。

 

「これからも作っていくから期待しててよ!」

 

ケンスケはこの映画をだいたい三部作くらいとして

仕上げる予定のようで、今後出てくる使徒から

3体から4体ほど選んで出演させるつもりらしい。

 

「あたしは次の映画からかしらね、期待してるわ」

 

「ああ、惣流の期待に答えられるよう頑張るよ」

 

さらにケンスケは自分のロマンを加えたアナザー作も

計画しているようで、エヴァの技術を使った戦艦で

巨大な使徒と戦わせてみたい、何ならエヴァ対エヴァも

やってみたい、と意気込みを語ってくれた。

 

 

 

 

 

「劇場版エヴァンゲリオンシリーズ」。

 

相田ケンスケ監督が作り出したこの作品は

実際の使徒戦をモチーフとしたフルCG映画として

爆発的なヒットを記録することになる。

 

実際のエヴァや使徒のおおまかな情報が載せられた

パンフレットが来場者記念プレゼントとして配られ

スーパーロボット系や特撮系のマニアもイチオシの

大ヒットシリーズとなるのであった。

 

 

 

                     つづく?




劇場版エヴァンゲリオン回は続きません。
この世界線は貞本・新世紀エヴァ──
急…もといQあたりから狂っちゃうからね。

作中の登場キャラの名前はシンジ君たちの
中の人から取ってアレンジしています。


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目覚めるイレギュラー

今回は第9使徒との戦闘回。
ちなみに「リウェト」という名前です。
発明の天使だそうな。
名前を変えた理由はすぐに分かるよ。



──月面。

 

「─また3番目とはね…。変わらないな、君は。」

 

月面に並べられた柩から少年が目を覚ます。

 

 

 

「………僕は1番目ではないのか…!?」

 

地球へ目を向けていた少年はある"変化"に驚きを見せた。

 

 

 

「今度こそ、君を救い出してみせるよ…!」

 

そして、決意を改めた少年はどこかへと歩いていった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「ん~こんなもんで合ってたかしら」

 

アスカが自宅のキッチンに立っている。

手に持っているのはケチャップとウスターソース。

これから作るものにかけるソースを作っているようだ。

まな板の上にはソーセージとおろしニンニクのチューブ、

カレー粉が置かれている。

 

「姫~♪お、姫が料理してるなんて珍しいね。

ワンコ君にでもご馳走すんの?」

 

突然自宅を訪ねてきたマリがアスカをからかうが

アスカはいつも通りの対応でそれを否定する。

 

「残念、シンジはこれを教えてくれた側。

むしろアタシが食べるために作ってるのよ。」

 

アスカは分量のメモとにらめっこしつつソースを作ると

フライパンで輪切りにしたソーセージを炒めはじめる。

 

「ひょっとしてカリーヴルスト!?私も食べていい?」

 

「……いいけどあんまし食べすぎないでよね」

 

ソーセージにはやや焦げ目がついてしまったが

しっかりと火が通ったことを確認し皿に取り出す。

ソースとカレー粉をかけてカリーヴルストの完成である。

 

「お~♪姫にしては上手く出来てるジャン!」

 

「"にしては"は余計よ」

 

そういうマリだったが、その味にずいぶんご満悦のようで

表情からして美味しいと言っている。

実はアスカは来日してから何度かシンジの所へ行き

郷土料理であるドイツ料理を教えてもらっていたのだ。

 

「ん、アタシにしては良く出来たかしらね」

 

 

 

ピンポーン

 

「アスカー!入るわよ!」

 

訪ねてきたのはミサトだった。手には書類を持っている。

NERVのロゴ付きのバインダーで挟んであるので

どうやらNERVに関係することで何か連絡があるようだ。

 

「お?お仕事かにゃ?」

 

「大正解よ」

 

ミサトが手渡してきたのはユーロNERVからの招集書で

アスカと2号機、それとマリを一旦こちらへ戻して欲しい

というものだった。

 

「ベタニアベース?モグモグ…北極にあるアレか」

 

ベタニアベースとは北極にあるNERVの研究施設である。

使徒封印用呪詛柱に囲まれているため使徒に関する研究が

ここで行われることもそう珍しくはない。

カリーヴルストをつまみながらミサトの持ってきた書類に

目を通していく2人。

 

「休眠中の使徒ぉ?この前みたいなヤツって訳ね」

 

永久凍土から発掘された使徒が休眠状態だったため

ベタニアベースへ運んで調査・研究をしているとのこと。

これから更に詳しい調査を行う予定になっているため

護衛としてそれぞれパリ支部とドイツ支部に所属していた

2号機と5号機を寄越してほしいとのことだった。

 

「随分上手に出来てるじゃないのアスカ!」

 

「あ、ちょっとミサト!何勝手に食べてんのよ!?」

 

アスカが1人で食べるつもりで少しだけ作っていた

カリーヴルストはマリに、そしてミサトにも食べられ

すでにかなり少なくなってしまっている。

 

「…アタシ達はそのベタニアベースへ行けばいいのね?」

 

「エヴァは向こうへ輸送してあるからヨロシクね~♪」

 

そう言ってミサトは帰っていった。

すっかり空っぽになってしまった目の前の皿を見て

アスカはもう一度作るか、と再びキッチンへ立った。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──ベタニアベース。

 

「なんというかすっごい異様な雰囲気ね」

 

海の上に浮かんだ円形の人口大陸と、その縁に立てられた

無数の使徒封印用呪詛柱が特徴的だ。

アスカはマリとともに乗っている輸送ヘリの中から

ベタニアベースを眺めてそう呟いた。

 

「お待ちしておりました。すぐに実験を始めますので

エヴァ搭乗の準備をお願いします。」

 

ベタニアベースの職員に出迎えられ、2号機と5号機のいる

仮説ケイジへと案内される。

 

 

「うわぁお、ずいぶんデッカイの付けたね~」

 

「何よこれ。ローラースケート?」

 

2号機と5号機の脚部には増加装甲が付けられているのだが

何より2人の目を惹き付けたのはその"タイヤ"だ。

足の外側に大きなものが2輪、内側に小さなものが1輪

まるでローラースケートかのように付けられている。

 

「使徒封印監視用極地仕様化装備です。急造品ですがね」

 

両機のウェポンラックへ目を向ければ、仮説ケイジの

天井に貼られた架線へ向けてケーブルが1本伸びている。

架線との接続部分は架線をレールにして動くようで

これがベタニアベース内でのケーブル代わりらしい。

 

「…まぁいいわ。あの雪だるまほどじゃないし」

 

2号機の右腕には巨大な槍、簡易式ロンギヌスの槍が

持たされている。ケーブルが付いていない方の肩には

マゴロク・E・ソードが取り付けられていた。

 

5号機の左腕には、かつて初号機がシャムシエルに対して

使った大型ガトリング砲が固定されている。さらに

背中にはスナイパーライフルも装備されていた。

 

「さぁ~て!いよいよ初の実戦かにゃ~?」

 

マリはついにエヴァを本格的に動かせるということで

ワクワクを抑えきれないらしい。スキップしながら

5号機のエントリープラグへ向かっていった。

 

「エヴァ5号機、起動!」

「エヴァ2号機、起動!」

 

そして、両機の瞳に光が灯った。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

『エヴァ両機、起動しました。実験開始』

 

今回ベタニアベースで行われようとしているのは、使徒を

外部からコントロールすることが可能か調べるものだ。

 

『頚部エントリープラグ、接続』

 

使徒の首に埋め込まれたソケットのようなものに

エントリープラグが差し込まれる。

 

『擬似エントリーシステム、プログラム起動』

 

続けて使徒を制御し外部からの操作を可能にするため

擬似エントリーシステムを起動する。

 

『全制御装置、正常』

 

着々とシステムの立ち上げが進んでいく。

これが成功すれば使徒を使って使徒に立ち向かうという

新たな対抗策が手に入るのだ。ベタニアベースの職員は

固唾を呑んで実験を見守る。

 

 

(シンジだって使徒の制御は無理だろうって言ってたのに。

…成功なんてしないわよこんな実験。)

 

アスカはこの実験が成功するとは決して思っていなかった

使徒と戦ったからこそ分かることだが、あんな超常的な

存在をコントロールするなど無謀でしかない。

 

 

『臨界点まであと0.2、0.1──』

 

ビーッ!ビーッ!

 

今まさにコントロール下に入ろうかというその瞬間

ベタニアベースの管制室に突如警報が鳴り響く。

 

『システムが使徒側から侵食を受けています!』

 

擬似エントリーシステムが使徒に侵食され始めているのだ

パイロットにあたるものを取り込んでいることになるため

もしこれが人間だったら命はまず無いだろう。

 

『プログラムが…未知のものへ書き変わっていきます!』

 

さらに、システムに書かれていた行動制御のプログラムが

未知の言語によるプログラムへと書き換えられていく。

 

『使徒、活動を再開しますッ!』

 

プログラムが全て書き換えられた瞬間、使徒が覚醒する。

何かの頭蓋骨のような使徒の頭部の瞳が輝くと

ビームが照射され実験場の装甲板が破壊される。

空いた穴から使徒は外へ抜け出していった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

『エヴァ両機、使徒を殲滅してくれ!』

 

「待ってました~♪」

「予想通りね」

 

ベタニアベースの内部は地下鉄のようになっており

それらがそれぞれの区画を繋いでいる。

先程までその地形の把握にエヴァを走らせていたが

使徒殲滅の指示が入ったことで2人は本格的に動き出す。

 

「さぁ~て!先行するよん、姫!」

 

「了解、すぐ向かうわ!」

 

使徒に近いマリが先に接触を図る。このトンネルは

この先で非常用シャッターが降りていて通れないが

使徒の反応はこちらへ真っ直ぐ向かってきている。

 

ドォォォォーンッ!

 

突如爆炎があがりシャッターが破壊される。

細い4本の足をカサカサと動かして出てきたその使徒は

2つ折りに丸められた濃緑と黄色のボディを持ち

それぞれの先端から骨のヘビのようなものが生えている。

「第9使徒リウェト」だ。

 

「いっくよ~ん♪」

 

ズダダダッ!と5号機のガトリング砲が火を噴く。

リウェトは嫌がるような素振りを見せてはいるものの

ダメージは通っていないようだ。

 

「ありゃ!?姫!そっち行ったよーっ!」

 

ガトリング砲を鬱陶しく思ったリウェトは壁に穴を開け

別の道へ入り込んで逃げていってしまう。

しかし、近くにアスカが来ていたので回り込んでもらう。

 

「ラジャー!対応するわ!」

 

ビシュイーーーンッ!

ビシュイーーーンッ!

 

「チョロいチョロい!」

 

リウェトは正面から迫る2号機へビームを何発も撃つが

アスカは側面の壁へ片足をつけて左右へと回避する。

 

「でやぁぁッ!」

 

ガキィーンッ!!

 

アスカが突き刺そうとした簡易ロンギヌスの槍を

ATフィールドを張りつつ体を捻って回避したリウェト。

 

「まずーっ!逃げられたわ!」

 

「私は先にアケロンへ出とくよん!」

 

リウェトは着実にベタニアベースの地上層アケロンへ

上がっていっている。それを察したマリは一足先に

アケロンへ出てリウェトを奇襲しにかかったのだ。

 

「逃げんじゃないわよっ!」

 

光の環を浮かべ、頭上の装甲板をくり抜いて地上へ

出ようとするリウェトにアスカは食らいつく。

リウェトはフラフラしながらもなお上昇していく。

 

ビシュイーーーンッ!

 

「はんっ!そんなの当たんないわよ!」

 

リウェトの頭部が不気味に蠢きビームを放ってくるが

アスカが今しがみついているのはリウェトの首元。

頭部を押さえ付けてバランスを取ってやれば簡単に

回避することができる。

 

「マリ!ヤツが地上に出るわ!」

 

「あいよ~!的を~狙えば外さないよ~ん♪」

 

マリはガトリング砲を取り外し、背中に持っていた

スナイパーライフルを装備する。

リウェトが装甲板をくり抜いた穴は見えているので

スコープを覗いて正確に狙いを定める。

 

ズダァーー…ンッ!

 

「マリ!まだ足んない!」

 

2号機がリウェトの首にしがみついている状況でも

正確に狙撃を決めて見せたマリだったが

頭部にあるリウェトのコアはまだ破壊し切れていない。

 

「大人しく寝てなさいっつーの!!」

 

アスカもマゴロクソードを抜き、リウェトのコアへと

突き立ててやる。コアへダメージを負ったリウェトは

フラフラとアケロンの地面へと落ちていく。

 

ビシュイーンッ!

ビシュイーンッ!

ビシュイーーンッ!

 

「ったく…鬱陶しいわね!」

 

ダメージを負いつつも2号機を振り落とし地面へ降りると

執拗にビームを2機のエヴァへ向けて放つリウェト。

コアの再生に意識を割いていたため威力は低いが

アスカ達からしてみればかなり厄介だ。

 

「姫!もいちど飛ばれる前に仕留めるよ!」

 

「マリ!合わせなさいよ!」

 

「合点承知ィ!」

 

リウェトに再生完了を許せばまず間違いなく飛び立たれ

恐ろしく面倒くさい戦いになるだろう。

2人はそれをさせないため、大きなチャンスが来るまで

可能な限りダメージを与え続ける。

 

「大人しくっ!捕まんなさいよっ!このっ!」

 

光の環を失い地面を駆けるリウェトに2号機が肉薄する。

リウェトは致命傷こそ貰っていないが、その体には

すでに無数の切り傷や弾着の跡が残っている。

 

「狙い撃つぜ~♪よっ!ほっ!はっ!」

 

5号機からも次々と弾丸が放たれ、リウェトを撃ち抜く。

アスカとマリの絶妙なコンビネーションによって

着実にリウェトの体力が削がれていく。

 

ビシュイーーーンッ!

 

「うあぁっ痛いなァ!でも、これなら!!」

 

リウェトの首が突然蠢いてマリの方へ振り向き、ビームが

5号機の右足に大きなダメージを与えた。しかしマリは

痛みなどものともせずに、こちらを向いたリウェトへ

華麗にカウンタースナイプを撃ち込んだのだ。

 

「ィよっしゃァ!!」

 

5号機の放った弾がコアへクリーンヒットする。

 

「ちょっ~と足止めさせてもらうにゃッ!」

 

大きく怯んだリウェトを地面へと叩き伏せたマリは

足でリウェトの首を押さえ付け、頭部の外殻を掴んで

コアを露出させる。

アスカはマゴロクソードを放り投げ、簡易ロンギヌスを

手に取るとリウェトのコア目掛けて突き刺す。

 

「これでラストォォォッ!!!」

 

 

 

ドォォォォーーーンッ!!!

 

コアに簡易ロンギヌスが深々と突き刺さったリウェトは

綺麗な十字の光を残して消し飛んだ。

 

『パターン青消失。お疲れ様です』

 

リウェトを殲滅したアスカとマリはすぐに帰路に着く。

最後の攻防での損傷率が高かった5号機はいちど

修復作業を受けにパリ支部へ向かうことになった。

そしてやはりマリは日本に戻るとのこと。

 

「シンジがね、カレイ買ったって言ってたからさ」

 

「あ~ムニエル?ワンコ君に教えてもらう訳ね」

 

日本へ戻る輸送ヘリの中では、日本へ戻って何をするかを

考える2人の少女の楽しそうな声が響いていた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「カシウスは手に入った。これで希望が揃う…!」

 

 

 

                      つづく




第9使徒リウェト、もとい第3の使徒登場回でした。
新世紀には居なかった子なのでね
独自(であろう)設定を色々盛り込んで書きました。

「擬似エントリーシステム」とは言ってしまえば
ダミーシステムのようなものです。

2号機と5号機の脚部に装備させられていたものは
装甲付きの巨大なローラースケートの様なもの。
エヴァパチではベタニアベース内を走ってましたが
今回は仮設5号機みたいなの付けました。

月で目覚めた少年は勿論「彼」です。
彼が何者なのかはそのうち。


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落ちてくる巨影


前半日常回、後半サハクィエル登場回です。

UA8000、感謝感激ですっ!



 

 

 

「割引券、捨てるには勿体ないんだけどな…」

 

伊吹マヤは、今手に持っている物の使い道に困っていた。

芦ノ湖の沿岸にあるスイーツカフェの割引券だ。

ショッピングモールへ買い物に行った時に引いた福引で

当てたものなのだが、5枚で1セットになっており

NERVの業務に忙しい自分では使い切れそうにないのだ。

 

「シンジ君なら興味あったりするかしら?」

 

すぐ近くで仕事をしている日向や青葉はこんな物には

興味はないだろうし、ミサトも恐らくそうだろう。

自分の憧れの先輩は仕事の虫だし、となった時

マヤの頭に浮かんだのはサードチルドレンだった。

 

 

 

「ねぇシンジ君。これ、興味ない?」

 

「あ、このカフェ!確かに興味あります!」

 

シンジは見事に食い付いてきてくれた。

5枚セットであることにはやや驚いていたものの

友人の女の子で興味が有りそうな子がいるから

誘っていいかと聞かれたのでOKを返しておく。

 

「僕達の予定が空いてるのは…ここですかね」

 

「じゃあこの日のお昼にしましょうか」

 

シンジとマヤは自分達の予定をサクサクと調べあげると

数日後の昼に現地で落ち合うことを決め、2人はそれぞれ

自分の作業に戻っていった。

 

 

 

「ふふっ、シンジ君とカフェ…楽しみ!」

 

この日以降、やたら眩しい笑顔を浮かべるマヤが目撃され

マヤ推しの男性職員が一気に増えたとか。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

マヤは芦ノ湖を眺めながら、カフェ前のベンチに座り

シンジ達が来るのを待っていた。約束の時間までは

まだ十数分あるので、彼がどんな姿で来るのかを少し

想像してみる。

 

(学生服…かしら?私服はどんなの着てるんだろう?)

 

実はマヤとシンジはプライベートでは驚く程接点が無く

彼が着ている服は学生服か白衣か、プラグスーツの

どれかくらいしか知らなかったのである。

 

「マヤさん、お待たせしました」

 

「あの、洞木ヒカリです」

 

丁度約束の時間になった辺りで2人の少女が現れる。

茶色のショートボブで白いトップスに水色のレース付き

フレアスカートを着た、聞き覚えのある声をした少女と

ボーダーのトップスに白いレースのアウター

黒のミモレ丈スカートを着て、茶髪を左右のお下げにした

洞木ヒカリと名乗った少女だ。

 

「あれ?シンジ君はどうしたの?」

 

「僕が碇シンジですよマヤさん」

 

ショートボブの少女がそう名乗ったことにマヤは驚く。

改めて見てみると確かに碇シンジそっくりであり

彼に兄弟が居ないのは知らされている。

となれば、目の前の少女が碇シンジ本人ということだ。

 

「えーっ!?シンジ君凄く可愛いじゃない!

お友達と揃ってすっごく美少女よ!」

 

「え、あぁ、そうですか」

「ありがとうございます!」

 

ヒカリは素直にお礼を言っているが、普段のマヤを知る

シンジはやや興奮気味な彼女に驚いてしまっている。

 

「さぁさぁ、シンジ君。女子会始めましょ!」

 

「女子会…?一応言いますけど僕は男ですよ?」

 

「いいのいいの!ほら碇さん、行こ!」

 

女子会と聞いて戸惑うシンジを、マヤとヒカリで店内へと

連れていく。その様子を傍から見れば、友人達に連れられ

カフェにやって来た、やや内気な少女でしかなかった。

 

 

 

「シンジ君ってお菓子どんなの作るの?」

 

シンジはその質問に対し、普段はクッキーやプリンなどの

簡単なお菓子を作るが、気が向いたときには世界各国の

特にドイツのお菓子を作ったりすると答えた。

 

「さすが碇さん、グローバルね」

 

ストレートティーをお供にパフェを食べながら

会話に花を咲かせる3人。最初は遠慮気味に話をしていた

シンジも少しずつ流れに乗ってくる。

 

「僕最近このブランドに目を付けてるんですよ」

 

「私これ知ってる!お姉ちゃんも話してたわ」

 

「値段もお手頃で頼りになるのよね」

 

店に置かれていたファッション誌を持ってきて

パンケーキを食べながら3人でお気に入りを探していく。

気付けばシンジもすっかり女子会に溶け込んでいる。

 

「シンジ君のその服の色はプラグスーツ意識?」

 

「少し意識してたりします」

 

「あ~分かるかも」

 

上半身が白、下半身が水色という配色はマヤの指摘通り

プラグスーツの色を意識して揃えたものだったらしい。

シンジのプラグスーツ姿は、ヒカリも一度見ていたため

そのカラーの理由に納得していた。

 

「2人はこのリップクリーム使ってる?良いやつなのよ」

 

「あぁ、僕はすでに常備もんですそれ」

 

「やっぱ良いやつなんだ!後で買ってみよっと」

 

今度はメイク関連の話で盛り上がる3人。

特にヒカリはこれから色々覚えることになるから、と

メモ帳に2人からのアドバイスを書き込んでいく。

 

 

 

「ん~美味しかったぁ!」

 

「良いスイーツカフェですねここ」

 

「また来ましょ、シンジ君」

 

丁度ランチタイムが過ぎた頃、3人はカフェを後にした。

シンジとヒカリはこのあと特に何も無いが

マヤにはNERVでの仕事が入っているのである。

 

「さ~て、気合い入れてお仕事しますか♪」

 

仕事へ向かうとなれば足取りが重くなりもするだろうが

十分にリフレッシュしたマヤの足取りはとても軽かった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

シンジとヒカリはモノレールに乗って第三新東京市へと

戻ってきた。まだ3時頃で日は高いままだ。

 

「おっ?委員長とセンセやないか!」

 

「鈴原!?」

 

駅前から自宅の方面へ向かおうとして友人達と出くわす。

トウジとケンスケは遊び歩いていた途中だったらしい。

 

「あ!そうだ碇、ちょっと頼みがあるんだ」

 

学校では明後日から中間テストが始まるのだが、2人は

かなりピンチなようで困っていたらしい。

丁度会ったことだしシンジの家で勉強会をしないか

と持ちかけてきた。

 

「あの鈴原が…勉強会?雪が降る、っていうのコレ?」

 

「ワシだってやる時はやる男や!」

 

どうせ皆この後は予定無いだろ、とケンスケに言われ

ヒカリも一緒に4人で勉強会をする運びになった。

 

 

 

「──センセの隣、誰か越してきたんか?」

 

「…さぁ?」

 

自宅に着くとすぐ隣の玄関ドアの脇に大量のダンボールが

積み上げられていた。引越し業者のロゴが書かれていて

誰かが越してきたようだがシンジは知らされていない。

 

「あれ!?シンジじゃない!」

 

「お、ワンコ君!いい所にいてくれたね!」

 

なんと隣の扉から出てきたのはアスカとマリだ。

話を一通り聞いてみると、マリが最近アスカの部屋に

入り浸るようになってきたので、何ならシンジ達のように

マンションの一室を借りて住もうか、となったらしい。

 

「ちょっとシンジ借りるわよ~!」

 

シンジは問答無用とばかりに荷物整理に駆り出された。

 

「ちょっ!?センセ…あーもうワシも手伝ったるで!」

 

彼がいないと勉強会が始まらない、とトウジとケンスケ

そしてヒカリも荷物整理に手を貸した結果

マリとアスカの引っ越し荷物の片付けはあっという間に

終わったのである。

 

「お~シンジ君達じゃない!仲良くやってる~?」

 

そこへちょうどミサトも帰ってくる。

ペンペンもご主人様の帰宅に気付きグワっグワっと

駆け寄ってくる。

すると突然、ミサトを見たケンスケが姿勢をビシッ!と

直してこう言った。

 

「葛城三佐、ご昇進おめでとうございます!」

 

「え?あ、あぁ…ありがとうね」

 

それを聞いたシンジも襟のところをよーく見てみると

確かに襟章の線が1本増えている。

ミサトは使徒殲滅の功績を讃えられ、一尉から三佐に

昇進していたらしい。

 

「そんなん気付くのお前だけや」

 

ただ、それを一発で見抜いたケンスケはその場にいた皆に

軽く引かれてしまっていたが。

 

 

 

「葛城三佐の昇進および惣流さん真希波さんのお引越しを

祝して!カンパ~イ!」

 

ミサトの昇進を知ったケンスケは怒涛の勢いで準備を始め

あっという間に焼肉パーティーの場を整えたのだ。

テーブルに置かれたホットプレートの上には

沢山の肉が美味しそうな音を立てて焼かれている。

 

「せっかく用意してくれたんだし、楽しもうよ姫~」

 

「それもそうね!」

 

ちょうど肉が焼け始めた頃に加持が松代の土産を持って

合流し、メニューにわさび漬けと桜肉が加わる。

ミサトは加持の乱入に面倒くさそうにしていたが

ビールが進むにつれてそれも気にしなくなっていった。

 

「レイのは僕が作っておくよ」

 

「ありがとう、シンジ」

 

レイはまだ肉への苦手意識が根強く残っているので

シンジが別のメニューを用意していく。

彼氏の作ってくれた美味しい手料理にレイもご満悦だ。

 

「ちょおい惣流、それはワシが狙っとった肉やで!」

 

「先に取ったのはアタシよ~!モグモグモグ…」

 

9人と一羽という大人数で行われた焼肉パーティーは

使徒との戦いの日々を忘れさせるほどの大盛況となる。

奢りだし飲みまくるかと調子に乗って飲みすぎたミサトは

早々に酔いつぶれてリタイアしてしまったが。

 

「ウノ!あたしは1上がりだにゃん♪」

 

「お、俺もウノだな。お先に!碇、トウジ!」

 

料理を食べ終えたあともトランプやUNOを持ち出して

皆で遊んだりと、パーティーは夜遅くまで続いた。

 

「今日はなんだかんだいい1日だったよ」

 

「またこういう日が作れるといいね、碇さん」

 

昼間にカフェで女子会、帰ってきて皆でパーティーという

とても濃い1日を送ったシンジとヒカリは

疲れてはいたが皆の中でも特に良い笑顔だった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「目標を第3監視衛星が光学で捉えました」

 

「まさか宇宙からとは…恐れ入るわね」

 

NERV本部内は突然の使徒出現に慌ただしさを増す。

主モニターへ映し出されたのは巨大な黒い球体。

ラミエルを凌駕するであろう巨体がATフィールドを纏い

ここNERV本部目掛けて落ちてきているのである。

 

「NERV本部への命中確率、99.99%です!」

 

「当然、ここへ落ちてくるわよね…」

 

上空ではN2航空爆雷を使った軌道修正が試みられていたが

光をも歪めるほどの強力な使徒のATフィールドに阻まれ

1ミリたりとも効果を得られていなかった。

このN2航空爆雷は新型のもので、一発一発にサキエルを

自己修復に追い込むほどの威力があるのだが

その威力に傷つくどころか怯みすらしないのである。

 

「ヤツがここに直撃すれば、ジオフロントどころか

ドグマまで丸裸にされる威力ですよ」

 

凄まじい質量がATフィールドと落下エネルギーを伴って

落ちてくるのだ。その威力は恐ろしいの一言に尽きる。

 

「南極の碇司令は?」

 

「使徒の放つ強力なジャミングにより通信不能です」

 

使徒自身の位置もジャミングで分からない状態だが

恐らくはまだかなりの高度にいることだろう。

そんな位置からでも、南極との通信が途絶えるほどの

強力なジャミングが扱えるのだ。

仮に狙撃しようとしてもまるで命中させられないわけで

ヤツが相当べらぼうな相手であることは間違いない。

 

「独自に判断してやるしかないわね…」

 

ミサトはまず特別非常事態宣言D-17の発令を指示し

半径120キロという凄まじい範囲へ避難指示を出させる。

それほど今回の使徒による被害想定は大きいのだ。

車で、鉄道で、船で、航空機で。一斉に民間人が避難し

第三新東京市から人がいなくなっていく。

 

 

 

「MAGIのバックアップは松代に頼みましたが…」

 

一般市民の避難はひと通り終わったが、だからと言って

使徒に対抗する手段を思いつける訳ではない。

 

「シンジ君はどう?何か思いつく?」

 

「ちょっとお手上げですね、手の打ちようがない」

 

さすがのシンジも、宇宙から落ちてくる使徒を相手に

どうこう出来る術を思いつくことは出来なかった。

 

 

「……シンジ君、作戦を思いついたんだけどイイ?」

 

なんとミサトが思い付いた作戦とは、使徒をエヴァの手で

もといATフィールドを使って受け止めるというもの。

それにはシンジは勿論、リツコも賛同しなかったが

しばらく思案したシンジはその作戦の成功率を高める

いくつかの要素を挙げていく。

 

「まずはフィールド偏向を仕上げるのが前提ですかね」

 

受け止める際にATフィールドを使うのでそれを補強する

偏向制御装置の完成を急ぐことを前提として上げる。

これが無ければ、特に零号機は受け止めた際の衝撃に

耐えられない可能性があったからだ。

 

「それと、エヴァ3機の配置を計算させましょう」

 

使徒のロストまでの軌道から落下予想地点を割り出させ

MAGIを使って作戦開始時のエヴァの位置を決定させる。

各機体のスペックまで正確に反映されたその配置は

いずれかのエヴァが90%以上の確率で使徒の落下に

間に合うというものに仕上がっていた。

 

「…シンジ君、お手柄だわ」

 

先程まで作戦成功率は1%未満、MAGIが全会一致で撤退を

提案するほどだったミサトの作戦は、シンジがそれに

色々手を加えたことでヤシマ作戦程度には成功率を

引き上げることが出来たのだ。

 

「これならまだ…」

 

「リツコはこれ以上の作戦を提案出来るの?」

 

この質問にリツコは首を横に振った。この作戦をベースに

詰められる所をしっかり詰めれば、勝機は十分にある

そうリツコも思っていた。

 

「やるなら徹底的にやりましょミサト。勿論シンジ君にも

色々協力してもらうことになるわ。」

 

NERV本部は落ちてくる巨影を受け止めるべく一丸となる。

彼らが奇跡をひとつ手にするまで、あともう少し。

 

 

 

                      つづく




次回、Catch The G-Shock!
さぁ〜てこの次も、サービスサービス♪



…ここのシンジ君なら多分マヤちゃんも
仲良くなれるんじゃないかな?
並の女の子より女の子してますから。

マリとアスカがミサト宅の隣に越してきました
投稿時点では対した意味は考えてないです。


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Catch The G-Shock!


第10使徒サハクィエル戦です。

勿論新劇場版仕様。
キリがいい所で終わらせたので
文字数的に言えばちょっと短いです。


 

 

 

無人になった第三新東京市に3機のエヴァが立つ。

位置情報を撹乱している使徒の正確な落下予想地点を

割り出すために、使徒が観測可能な範囲へ現れるのを

待っているのだ。

 

それぞれのエヴァパイロットは作戦開始へ向けて

気持ちを整えていく。

 

 

 

(ママ…今回はちょっとムリさせちゃうかもしれない)

 

(………)

 

アスカはシンジがしていたというシンクロを試してみる。

まだ2号機から帰ってくる反応に変化はない。

 

(でも、アタシはこの街を守りたい。力を貸して!)

 

もう少し深くまでシンクロし、己の決意を2号機へ

母であろう存在へと伝えてみる。

 

(…いつでも見守っているわ)

 

(…っ!!!)

 

アスカにもついに聞こえたのだ。エヴァの、母の声が。

その時、2号機の四つのカメラアイは力強く輝いていた。

 

 

 

(これを倒せば使徒はあと7体ね)

 

(今回は強敵みたいだ。母さんの力、借りさせてもらうよ)

 

(お母さんに任せなさい!)

 

シンジは普通に母ユイと会話をしていた。

ゲンドウと和解した辺りからよりハッキリと

深い層までシンクロせずとも会話が出来ていた。

 

(そろそろ来るわ。構えて、シンジ!)

 

(うん!気合い入れていこう!)

 

頬を軽くはたいて気合いを入れたシンジに呼応するように

初号機はいつもより鋭い眼差しで空を見上げていた。

 

 

 

(シンジやアスカはエヴァと意思疎通が出来るのに…私は)

 

レイはややブルーな気分だった。シンジから教えられて

ずっと零号機と意思疎通しようと試みていたのだが

零号機からは反応が鈍いなどという次元ではなく

そもそも何も感じられなかったのだ。

 

(零号機の中は…少しさびしい)

 

やはり零号機からは何も返ってこない。

その無反応っぷりにレイは少し寂しさを覚えた。

 

零号機はどこか上の空かのように立ち尽くしていた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「なんかレイ、最近シンクロ率のブレが激しいわね」

 

今までかなり安定した数値を叩き出してきたレイが

最近になって不安定になったことを心配するミサト。

 

「きっとシンジ君が原因ね」

 

「エヴァと話せるっていうアレ?」

 

「レイは話せないらしいのよ」

 

作戦開始直前だというのに曇った表情のままのレイに

ミサトもリツコも不安を覚える。

 

 

 

「目標が観測可能範囲に入りました!距離3万!」

 

オペレーター青葉シゲルから、使徒接近の報が入る。

モニターには少し前にも見た黒い球体が映る。

ミサトはすぐにパイロット3人へ通信を繋ぎ

作戦が始まることを告げる。

 

「エヴァ全機、スタート位置!」

 

その指示にエヴァ3機がクラウチングスタートの姿勢を取り

続く発進の指示を待つ。

 

「2次的データはアテに出来ないわ。よって、これ以降の

判断は貴方達に委ねます。頼んだわよ3人とも!」

 

『『了解!』』

『………』

 

相変わらずレイが無言なのを気にしつつも、ミサトは遂に

あの指示を出す。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

『では、作戦開始。発進!』

 

「第10使徒サハクィエル」が雲を割って姿を現したことで

ついに戦闘の火蓋が切られる。

アンビリカルケーブルがパージされ、内部電源の表示に

10分という数字が映し出される。

 

そのタイムリミットが減り始めた瞬間、ダァンッ!と

地面を勢いよく蹴って初号機と2号機がサハクィエルの

落下予想地点を目指して走り始める。

 

「……………」

 

しかしなんと零号機は動き出さなかったのだ。

 

『レイ!?どうしてスタートしないの!?』

 

「…っ!いけない!」

 

ミサトの大声で思考の海から帰ってきたレイは

弾かれるように走り出した。

 

(…まだ間に合う!私が足を引っ張るわけにはいかない!)

 

『目標、距離2万5000!零号機のカバー範囲内です!』

 

シゲルの報告にレイは少しだけ安堵する。

スタートが遅れてしまったもののまだ間に合うのだ

零号機は降ってくるサハクィエルのもとへ全力疾走する。

 

「レイ!間に合いそう!?」

 

「えぇアスカ、間に合うわ!」

 

市街地を駆け抜け、鉄塔や川を飛び越えて3機のエヴァは

ひたすらサハクィエルのもとを目掛けて走り続ける。

 

 

 

──バリバリバリーンッ!

 

サハクィエルの様子が変化した。光すら歪めていた

表面の黒いATフィールドを自ら剥がし、虹色の縞模様を

持つ球体へ変化したのである。

 

『目標のATフィールド変質!軌道が大きく変わります!』

 

『意地でもここを持っていく気だわ!』

 

サハクィエルは下側へ展開したATフィールドを器用に

使って一気に軌道を変え、街の郊外へ落ちていく。

使徒はまだやってくるのだ。自分は始祖たる存在へは

たどり着けないだろうが、せめて後続にそれを託すため

第三新東京市をとにかく吹っ飛ばすことだけを

考えているようだった。

 

「アスカ、シンジ!私じゃ間に合わないわ!」

 

「くっそぉ!」

「このままだとマズイわ!」

 

『目標、増速していますッ!』

 

サハクィエルは軌道を変えたばかりではなく

受ける空気抵抗を減らすことで一気に加速したのだ。

 

『落下予想地点修正……ダメです、間に合いません…!』

 

シゲルの切羽詰まったような声が発令所に響く。

軌道を変え増速したサハクィエルは3機のエヴァすべてが

間に合わないような位置に落ちようとしている。

 

『被害規模再計算…巻き込まれるのは確定です…っ!』

 

絶望的な雰囲気がNERV本部発令所を包む。

色々手を打って、作戦の成功率はかなりの物になったのに

それをたった一つの行動でパーにされたのだ。

 

 

 

「まだだ!」

「諦めてたまるもんですか!」

 

しかしエヴァパイロットは諦めてはいなかった。

初号機と2号機から見て、サハクィエルは約120°ほど

逆の方へ落ちていこうとしていたので、2機は思いっきり

ブレーキをかけ、再び走り出す。

 

「レイ!ショットガンを!」

 

「っ!了解!」

 

レイがサハクィエルから一番遠くなったことを確認した

シンジはショットガンを持ってくるよう指示する。

これもシンジの立てた作戦のひとつだ。

使徒を受け止めることを最優先とするため武装を持たずに

全機一斉に走り出し、最も使徒から遠くなるエヴァが

途中で武器を取りに向かうことにしていたのだ。

 

「ママ!もっと飛ばすわよッ!」

 

「母さん!行くよッ!」

 

シンジとアスカはエヴァの中の母と力を合わせて加速し

音速を優に超えるスピードで使徒へ駆けていく。

凄まじいソニックブームが巻き起こり、辺りを更地へ

変えながら、サハクィエルを受け止めるべく

山すら超えて走り続ける。

 

 

『カバー範囲再計算、間に合います!』

 

『目標が再変形します!距離1万4000!』

 

地上へ近づいたサハクィエルはさらに変形する。

赤紫色の光を放ちながら球体の表面が裂けていき

左右5枚ずつ計10枚の翼のようなものを広げたのだ。

翼を持ったサイケデリックな目玉のような姿だ。

ついに第10使徒サハクィエルがその真の姿を現した。

 

『落下速度、変わりません!距離1万!』

 

体を大きく広げたにも関わらずその速度は落ちていない。

広がったサハクィエルの裏側からは触手のようなものが

キッチリと列を生して生えており、赤いオーラを放つ。

使徒特有のエネルギーで加速しているらしい。

 

「「ATフィールド全開ーッ!!!」」

 

ガキィィィーーーン!!!

 

初号機と2号機がサハクィエルの落下に間に合ったのだ。

2機と1体の間でATフィールドが干渉しあい、輝きが迸る。

辺りが虹色とも言える輝きに包まれていく。

 

「「フィールド偏向制御開始!」」

 

エヴァ全体を守るように展開していたATフィールドが

上側のみに一点集中展開される。フィールドに押されて

サハクィエルが少しだけ空へ押し返された。

 

「シンジ!アスカ!」

 

レイも2丁のショットガンを腰のアーマーに取り付けて

サハクィエルのもとへとたどり着いた。

 

「アタシが受け止める。シンジとレイでコアを!」

 

「分かった!」

「了解!」

 

初号機がフィールドから手を離すと2号機は少しだけ

大地へと沈み込む。速やかに決着を付けるべく

プログナイフへフィールドを纏わせると

サハクィエルのATフィールドへと突き立てる。

 

(ママ!アタシも耐える!もっと力を!)

 

『2号機のシンクロ率、97.9%に到達!!』

 

2号機の顔面の装甲が少しだけ上下に開いた。

空いた装甲の隙間からは、素体の瞳から発せられる

恐ろしく鋭い輝きが見えている。

 

「中から何か出てきたっ!?」

 

使徒の目玉模様の中心に穴が空き、中から人型のような

何かが出てきたのだ。サハクィエルは自分を受け止める

2号機の手へ自らも手を伸ばす。

 

「捕まってやるつもりなんてないわよ!」

 

アスカはこれを、使徒の腕を掴み返すことで回避する。

まだ余力があるのに敵の方から伸ばされた手をわざわざ

素直に受け止めてやる馬鹿はいないだろう。

 

「これでフィールドをッ!」

 

アスカがサハクィエルを受け止めている間にシンジは

プログナイフでサハクィエルのフィールドを破き

レイを人型の部分へよじ登らせる。コアはその人型の

付け根の部分にあるのだ。

 

 

ググッグッ……ドスッ!

 

アスカに掴まれていた使徒の腕が突然鋭いドリルのように

変化し、2号機の二の腕を貫いたのだ。

 

「ぐうぅぅッ!!!」

 

シンクロ率を高めていたアスカは痛みに悶え苦しむ。

が、あのまま使徒の手を受け止めていたら今頃は腕の中を

グチャグチャに掻き回される痛みを味わっていただろう。

それに比べれば温いハズだとアスカは耐える。

 

「これでトドメ…っ!?」

 

ズダァン!とショットガンを撃った零号機。しかしそれは

コアには命中していなかった。突然コアが動き出し人型の

付け根部分をグルグルと逃げ回り始めたのだ。

 

「シンジ!レイ!そろそろ時間がヤバいわよ!」

 

タイムリミットはすでに半分を切っている。

そこでシンジはナイフへのフィールド偏向を解除し

今度は腕に中和用のフィールドを展開する。

そして、ぬるりと使徒のフィールドをすり抜けた手で

コアを掴み取りにかかる。

 

「ぐうっ…捕らえたッ!」

 

ついに初号機の手がサハクィエルのコアをガッチリと

捕らえたのだ。

 

「くそッ…火傷するように熱い…ッ!」

 

使徒のコアは強力なエネルギーの源であるためか

素手で触っている初号機の腕は赤熱してきていた。

 

「今度こそ!トドメ!」

 

ズダァン!ズダァン!ズダァン!!

 

ショットガンをコアへ押し付けゼロ距離射撃を行う。

 

ズダァン!ズダァン!ズダァン!!

 

残弾全てを撃ち尽くした時コアはすでに割れかけだった。

レイは肩からプログナイフを取り出して追撃する。

 

「ッ!!!」

 

バキィッ!!!

 

サハクィエルのコアはついに砕け散った。

 

 

 

ズドォォォォーーーンッ!!!

 

トドメを刺されたサハクィエルは全身から色彩が抜けて

真っ黒になったかと思うと、その後大爆発を起こし

赤い体液の津波を引き起こして散っていった。

 

「はあっ…はあっ…やったわね、シンジ!レイ!」

 

「あぁ、ありがとう2人とも!」

 

「よかった…街が少しでも守れて…!」

 

赤い津波に揉まれつつも3人は喜びを分かちあった。

 

(私でも、2人の力になれるのね。今はこれでいいわ)

 

サハクィエルとの激戦をシンジやアスカと共に戦い抜いた

レイは自分がまだ戦えることに少し安堵し、エヴァとの

意思疎通はまたいつか実践すればいい、と気持ちを

改めていた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──南極。

 

セカンドインパクトの爆心地であり、生物の生きられぬ

地獄と化した赤い海が広がる死の世界だ。

 

そんな赤色に染まった南極の海を、NERVの輸送艦が

航行している。甲板上には布を被せられた長い棒状の

荷物が載せられていた。

 

「生命の存在が許されぬ死の世界…南極か。」

 

「原罪の穢れなき浄化された地…やはり少し不気味だな」

 

艦の外に広がる一面の赤い海を見てゲンドウはそう呟く。

シンジと出会う前であれば何とも思わなかったのだろうな

と考えながら。

 

『NERV本部より入電、第10使徒を殲滅したとのことです』

 

「そうか。ご苦労だったと伝えてくれ」

 

NERV本部との通信を終えるとゲンドウは甲板上にある

荷物へと目を向ける。その中身である"槍"は

人類補完計画の発動のキーとなる物なのである。

 

 

 

「絶望の槍ロンギヌス、そのオリジナル…か」

 

 

 

                      つづく




新旧から要素を引っ張ってきて
配役も色々入れ替えてみました。

零号機のコアの中身は色々言われてましたよね
私のところでもどうするか悩んだものですよ。

次回は…たぶん元マトリエル君。
貞本版はNERV停電がサハクィエル君の
直後にやってくるんですよ。
マトリエル本人は不在ですがね。


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イレギュラー再び

マトリエル君は第7の使徒に置き換えました。
名前は「シャルギエル」。
雪の天使だそうです。
ちなみに少しだけ強化しました。

UA1万突破!本当にありがとうございます!


 

「今戻った」

 

ゲンドウは南極から槍を回収し、NERV本部へ帰ってきた。

南極にいた間に襲来した第10使徒サハクィエルの

被害報告などにひと通り目を通していく。

エヴァは2号機と初号機の腕に少し損傷を負った程度で

パイロットも3人とも無事であることに安心する。

 

「司令、レイが呼んでいますが…」

 

「分かった。向かおう」

 

司令室へ向かう途中にレイから呼ばれているとリツコから

教えられる。ゲンドウは何で呼ばれたのか思い当たる節は

あった。零号機やレイ本人のことだろう、と。

レイは今発令所にいるということなので折り返して向かう

 

 

 

「碇司令、零号機の中には誰がいるんですか?」

 

レイから問われたのはゲンドウの想定した通りのものだ。

しかしこれの答えを話そうと思ったら、零号機だけでなく

レイの正体についても話さねばならない。

それを聞く覚悟があるか、とレイに問いかける。

 

「──それでも聞く覚悟があるか?レイ」

 

「…はい。シンジはきっと受け入れてくれる」

 

「うん。レイが何者でもレイはレイだから」

 

レイとシンジが良い雰囲気なことに父親としてやや複雑な

気分になりながらも、全てをレイに打ち明ける。

 

「まず零号機だが、コアには誰もいない」

 

「いない?しかしエヴァは…!」

 

そう、リツコの指摘通りエヴァはコアにいる人の魂を

通してシンクロするものである。コアが空のエヴァに

乗ると、ユイのように魂を取り込まれてしまうのだ。

 

「レイは…魂が第2使徒リリスのものなのだ」

 

「私が…リリス…!」

 

エヴァの元となった使徒、第2使徒リリスの魂があるから

コアが空のエヴァでもレイが取り込まれることは無い。

 

「その点について、レイにやってもらいたい事がある」

 

ゲンドウは、回収してきた槍を地下で眠るリリスへ

刺してくるよう指示する。リリスが目覚めるにつれて

レイの意識はリリスのものへ塗り替えられ、リリスが

覚醒してしまう危険性があるからとのことだった。

 

使徒を殲滅し終わるまでにレイの魂を確固たるものとし

リリスの方をレイの支配下に置ければ理想的だと

ゲンドウは語った。

 

「課題は使徒殲滅だけじゃない、か…」

 

 

 

ブツっ………………

 

突然、NERV本部が暗闇に包まれた。

 

「停電、だと!?…にしても長いな」

 

ゲンドウも突然の停電には驚いた。停電が長いのだ。

 

「生きているのは2567番からの9回線のみです!」

 

NERV本部の電源系統は正・副・予備の3系統あり

数分間停電することさえ万に1つもない。

しかし、今もまだ停電が続いているのだ。

 

「となると、ブレーカーは故意に落とされた訳ね」

 

「赤木博士、MAGIへダミープログラムを」

 

この停電の下手人の目的は、本部の構造を復旧ルートから

探ることだろうと判断したゲンドウはすぐに手を打たせる

本部の中枢を担うMAGIにダミープログラムを走らせ

少しでも本部構造の解析を妨害させる。

 

 

 

ゴウゥー………ン

 

「非常灯が!?」

 

空調が回り出す音と共に非常灯が灯ったのだ。

それと同時にザザッ…とノイズ混じりではあるが

通信も入ってくる。

 

『あー、…ー。時…です。新型N2を起……ました』

 

開発中だった新型N2リアクターを時田が起動させたようで

徐々に本部の機能が復旧していく。

エレベーターや自動ドアも復旧したようで加持とミサトも

発令所へと戻ってくる。

 

「時田博士、助かったわ」

 

『いやぁ、起動して良かったですよホントに』

 

加持はゲンドウや冬月と、下手人の正体について話し合い

ゼーレか日本政府の諜報員の仕業だろうと結論付ける。

 

『こちら第3管区航空自衛隊!NERV本部聞こえますか?』

 

突然、自衛隊からの連絡が入る。彼らから齎されたのは

使徒接近の報だった。

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

「こちらでもパターン青を観測、第11の使徒です!」

 

復旧した主モニターにも使徒の姿が映し出される。

無数の黒い棒で出来た水飲み鳥のような姿をした使徒

「第11使徒シャルギエル」だ。

頂点には、サキエルと同じような仮面がついており

赤い針とともに時計のように回っている。

 

「こりゃまた随分と背が高いわね~」

 

ミサトの言うようにシャルギエルの全高はラミエルの

倍近い大きさがある。しかも、コアと思しき球体は

頂点にある仮面のすぐ下についているため

簡単に攻撃できるとは思えない。

 

「ポジトロンライフルは出せると思いますよ?」

 

最上アドルがポジトロンライフルの設計書を手に

発令所へとやって来た。N2リアクター内蔵バックパックも

あとは取り付け調整のみとのことで、それを使えば

臨機応変にコアを狙撃出来そうである。

 

「零号機にライフル共々装備させろ。初号機と2号機は

先行してデータの収集にかかれ。」

 

「了解!」

「OK、先行ってるよレイ」

 

初号機と2号機が出撃していく。

 

「N2リアクターは強度を高めて作っていますが直撃は

なるべく貰わないようにしてくださいね」

 

レイはアドルと時田からポジトロンライフルや

N2リアクター内蔵バックパックの取り扱いについて

ひとつひとつ聞いていく。

リアクターのバックパック型はまだ試作段階のため、

炉の部分の保護が完全ではなかったのだ。

 

「零号機、発進します」

 

リアクターとライフルの取り付けが終わり

2機に遅れること数分、零号機が出撃した。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

ギギィー…カンッ!ギギィー…カンッ!

 

シャルギエルは相模湾をその足で凍りつかせながら

ゆっくりと進行していた。

ただ、その巨体ゆえに進行速度そのものはかなり早い。

 

「ダメだっ、僕達の射撃じゃ…」

 

シンジは必死にシャルギエルを追いかけながら

パレットライフルを乱れ撃ちする。

 

「このライフルじゃだめね、レイの合流を待ちましょ」

 

アスカも2号機にシャルギエルを追わせつつ

ライフルで射撃を続けているがパレットライフルでは

地上からコアまでかなり遠いうえに、そのコアも巨体の

割にとても小さいため2人では撃ち抜けずにいた。

 

ゴッゴッゴッ…ギュォンッ!!!

 

「うわっ!また使徒の触手が来るよっ!」

 

「近づきすぎたわね…くッ!」

 

使徒の仮面が急にぐるりと回ると、仮面から黒い触手が

無数に放たれ襲ってくる。シャルギエルに近づくと

これを使ってくるのか、先程から何度か使われている。

 

「うわっ!…着弾点が凍るのが厄介すぎるッ!」

 

初号機が凍結した地面に足を取られてスリップする。

なんとか回避には成功したが、先程まで立っていた場所は

真っ白に凍りついてしまっている。

シャルギエルの触手攻撃は地面やビルに着弾すると

周囲を凍りつかせるため、下手に撃たせると

回りの足場が物凄く戦いづらくなるのだ。

 

 

 

『シンジ君!アスカ!レイをそっちへ送ったわ!』

 

待ちに待った報がミサトによってもたらされる。

ポジトロンライフルを持った零号機が出撃したのだ。

 

「発射!」

 

バシュゥーッ!!!

 

ポジトロンライフルの弾はシャルギエルのコアを

一撃で貫き、ガラガラと音を立てて使徒が崩れていく。

 

「流石レイ、コアを一撃で…えっ!?」

 

「ちょっと…!元に戻っていくわよ!?」

 

「撃ち抜いたのはダミー…!」

 

ガラガラと崩れかけていたシャルギエルの体は

逆再生が始まったかのように元へ戻っていく。

レイの予想通りさっき撃ち抜いたコアはダミーだった。

水飲み鳥の体に当たる部分が逆さまになっていき

重りだと思われていた下側の赤黒い球体が持ち上がる。

 

『上空へ上がった方がコアみたいよ!』

 

ミサトもそう言ったように上空へ高々と上がった方の

赤い球体は、先程まで赤黒い色をしていたのだが

コアと同じような綺麗な真紅色へ変化していた。

間違いなくあちらが本当のコアだろう。

 

「だめ!出力が足りない!」

 

『何ですって!?』

 

レイはポジトロンライフルをもう一発撃った。

間違いなくコアへ吸い込まれるだろうと思われた射撃は

ATフィールドで阻まれてしまったのだ。

 

「偽物はワザと撃ち抜かせたってことか!」

 

偽物のコアを撃ち抜いた時、シャルギエルはフィールドを

ほとんど展開していなかったのだ。自分を撃ってくるのは

人間達のチマチマした射撃だけ、コアにもダミーがある。

ただの様子見に全力を出す必要は無かったわけだ。

 

「まだよ」

 

本来の出力で展開されたシャルギエルのATフィールドは

ポジトロンライフルの射撃を跳ね返していく。

リアクターが未完成状態だったこともあり、これ以上は

出力を上げることが出来ない。

 

「また触手が来るぞっ」

 

より熾烈になって放たれる触手攻撃を回避しながら

レイ達がどうすべきか頭を悩ませていた時だった。

 

『上空にエヴァ輸送機!ユーロNERV所属ですっ!』

 

 

 

「ィやっほーッ!おまたせーっ!」

 

『エヴァ5号機っ!?』

 

上空から空中挺進用S型装備を纏ったピンク色のエヴァが

降下してくる。マリが駆るエヴァ5号機だ。

 

「トドメはアレで決めてやるにゃッ!!!」

 

5号機は片足を下へ突き出し、ポーズを決めながら

シャルギエルの赤い球体へと飛び蹴りを放つ。

発令所ではそれを見たゲンドウと冬月が笑っている。

 

「ライダーーーっ、キッーク!」

 

ガキィィィーン!

 

下から撃ってくる3機に気を取られていたシャルギエルは

咄嗟にATフィールドを張り5号機をギリギリのところで

受け止める。

 

「まだまだァ!」

 

5号機はS型装備のスラスターを思いっきりふかした。

シャルギエルのATフィールドをぶち抜いた5号機は

赤い球体の中へとめり込んだ。

 

ズボォッ!!

 

「コアが!」

 

シャルギエルの赤い球体を突き破って出てきた5号機は

その足でしっかりとコアを捉えていた。

赤い球体の内部にあったらしい小さなコアは

5号機の足の裏でバキッと砕け散った。

 

 

ドォーーーンッッッ!

 

『パターン青消失、使徒殲滅を確認!』

 

スラスターをふかし、華麗な着地を決める5号機の後ろで

綺麗な十字の光があがった。

 

「真希波マリ!エヴァンゲリオン5号機で参戦だにゃ!」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「あらためてヨロシク、ゲンドウ君♪」

 

「…あ、あぁ」

 

マリがNERV本部司令室で正式な着任のための書類を

ゲンドウへと手渡した。これでエヴァ5号機も正式に

NERV本部所属のエヴァとなるだろう。

 

しかし。この司令室には大きな問題が1つ起こっていた。

 

「改めて宜しく、"お父さん"」

 

「………」

 

ゲンドウをお父さんと呼ぶ、銀髪赤目の少年のことだ。

彼は人類補完委員会から送られてきた監視員とのこと。

 

「僕はカヲル、渚カヲルだ」

 

パッと見はマリと同じようにフライングで来日した

エヴァパイロットのように見える。がしかし、渚カヲルは

綾波レイと同じ赤色の瞳をしているのだ。

 

「渚カヲル君、君は一体何者だ?」

 

いくらアルビノでもそこまで綺麗な赤になる訳では無い。

レイが母ユイのクローンであることを知っていたシンジは

目の前の少年に、一体何者なのと問い詰める。

 

「僕かい?僕はシンジ君の協力者さ」

 

「どういうこと?君にとっては初対面じゃないの?」

 

「そう、僕は君と会ったことがあるのさ」

 

シンジには彼と会った記憶は無い。

幼い頃に会っていたかもしれないが彼も同世代のようだ。

自分が覚えていなければ彼もまず覚えていないだろう。

ますます混乱に陥るシンジ。

 

「2人だけで話をしないかい?」

 

「………ジオフロントの庭園で話をしよう」

 

シンジは意を決して彼と話をしてみることにした。

ゲンドウに頼み周囲を封鎖させておく。

 

 

 

 

 

「…君になら話してもいいかもしれない。………僕はね

フォースが起こった世界からやってきたんだ」

 

「フォース?サードじゃなくて?」

 

使徒がアダムやリリスと接触すればサードインパクトが

起き、あらゆる生命がLCLに還ることは僕も知っていた。

だがカヲル君は"フォース"と言ったのだ。

 

「サードで壊滅した世界を作り替えるためにね。」

 

ロンギヌスの槍とカシウスの槍、覚醒した特別なエヴァ

これらを揃えたうえでフォースインパクトを起こせば

地球の再創造を行うことが可能だったらしい。

 

「でもそれは失敗してしまった……」

 

向こうの僕とカヲル君で起動させたフォースは

向こうの父さんの介入で失敗してしまったうえ

望まぬフォース発動を阻止するためカヲル君は自らを

犠牲にするしか無かったとのこと。

 

「僕はあのシンジ君を傷つけてしまっただろう…」

 

カヲル君に依存していた向こうの僕は、カヲル君が

死ななければならないと知った時酷く悲しんでいたと

そうカヲル君は話してくれた。

 

「君をこんどこそ幸せにしたいんだ、僕は」

 

カヲル君はそう言って自らの首に"黒い首輪"を付けると

僕に小さなコントローラーみたいな物を手渡した。

 

「これは僕が君へ尽くすことの証さ」

 

その首輪が何なのかを聞いた僕は、彼を信じてみる

ことにした。

 

「…カヲル君はそれに手を貸してくれるんだね?

ぜひ頼むよ。僕はこの世界で生きていたいからね」

 

「うん、喜んで力を貸すよ。シンジ君!」

 

僕はカヲル君と握手を交わしたあと、父さんへ話を通す。

そして、僕は父さんや母さん、カヲル君達と協力して

新たな計画を始動させる。

 

 

 

「──希望の槍と絶望の槍は揃った」

 

「…世界再生計画、頑張らなくちゃね」

 

 

 

                       つづく




エヴァ5号機、参戦。
次の使徒は影が本体のアイツなので
活躍が見られるのは少し先。

最後のシ者、参戦。
彼の存在ゆえに転生タグを付けました。
公式でもループしてるみたいですし。

世界再生計画については次回以降で。

※シンジ君視点カヲル君がめっちゃ怪しいとの
意見を頂いたので少し修正しました。


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希望は闇には呑まれない


レリエル回です。

その前にカヲル君関連について少し。

…文字数がやや少ないです今回。
精彩を欠いてる気もしますね。
ちょっと休息期間設けますか…


 

「世界再生計画ぅ?」

 

ミサトは仰々しい計画の名前に思わず聞き返した。

ミサトやリツコ、マヤなどNERVの主要メンバーを集め

ゲンドウとシンジから発表された計画である。

 

「発案者はシンジだ。…そしてこれが計画の概要だ。」

 

計画の概要というにはやけに多い書類が積まれている。

しかしミサトもリツコも目を通していくにつれて

納得の表情へ変わっていく。

 

「これが…世界再生計画!」

 

エヴァの技術を転用した建築技術や機器開発を軸に

旧東京の緑地化および再開発計画など、文字通り世界を

再生するためのプランが載せられていたのである。

セカンドインパクトで人類文明が受けたダメージを

徹底的に癒すための計画だ。

 

「ノアの方舟計画?まだあるっていうの!?」

 

強固な装甲板と使徒封印用呪詛柱によって保護された

世界中のあらゆる生物を保存するための施設を建て

仮にサードインパクトが起きたとしても

次世代へ生命を繋ぐための計画がノアの方舟計画だ。

 

 

 

「彼のことも紹介しておこう」

 

銀髪の少年渚カヲルがシンジと共に司令室へ入ってくる。

 

「改めて自己紹介といこうか。僕は渚カヲルさ」

 

カヲルは自身がゼーレの監視員として送られてきたこと

NERVのパイロットに何かあれば自分もパイロットとして

使徒と戦う予定であることを告げる。

そして最後に、最も重要な事を口にする──

 

「──第17使徒タブリス、僕のもう1つの名前だ」

 

「使徒!?」

 

さすがのミサト達もこれには驚愕を隠せなかった。

自分達とまったく変わらない人間の姿をしたこの少年が

自ら使徒を名乗ったのである。しかも17番目という

まだ少し先の番号で、だ。

 

「…シンジ君、どういうつもりなの?」

 

「彼を倒すべき立場なのよ!貴方は!」

 

しかしシンジは余裕の表情を一切崩さない。

それどころかカヲルの元へと歩いていって、ポケットから

リモコンらしきものを取り出して彼の首元へ向ける。

 

「…渚君、その首輪はいったい?」

 

「これはDSSチョーカー。僕が一足先にここへ来るために

ゼーレから着けられた首輪さ。裏切り防止のためにね。

当然ながら僕には外せないように出来ている」

 

カヲルはシンジが自分へ向けているリモコンの機能と

この首輪の機能を説明する。このDSSチョーカーは

シンジの持つリモコンのスイッチを押すことでのみ起動し

装着者の首を爆破して殺害するのだ。

 

続けてシンジが、なぜリモコンを自分が持っているのか

なぜ彼に信頼を置いたのかを説明していく。

 

リモコンはゼーレの元にもあるのだが、カヲルがここへ

来る際に精巧なニセモノとすり替えたため今この首輪を

起爆出来るのはシンジだけだ。自らの命を差し出してまで

自分の幸せを想う彼の意思を無碍には扱えない──

シンジはそう答えた。

 

「あなた方も起爆出来るようにしておきましょうか」

 

そう言われてミサトとリツコはリモコンにデータを登録し

渚カヲルを受け入れることにした。

 

 

 

「ねぇ渚君、あなたが使徒ってホントなの?」

 

カヲルがここにいる理由が分かれば、気になることは

やはり彼が使徒と名乗った理由である。

 

「渚、使徒の探知機は切ってあるぞ」

 

「それじゃあお見せしましょうか」

 

カヲルはミサトを指名し、自分を攻撃するように言う。

しかも、手加減は一切不要だとまで言ったため

ミサトは少し戸惑ってしまう。ミサトは戦闘訓練を

トップスコアで突破するほど白兵戦が得意なのだ。

お互いに何も武器を持っていない状況でも

14歳の少年など本気で戦わずとも叩きのめせてしまう。

 

「さあ、いつでもどうぞ」

 

「………いくわよ」

 

恐ろしく自信に満ちた態度でそう言うカヲルに対し

彼は使徒だ、と自らの使徒への復讐心を煽ったミサトは

カヲルへ向けて攻撃を繰り出した。

 

カキィーーーン……

 

「AT…フィールド…!」

 

カヲルの目の前に八角形の光の壁が展開され

ミサトの攻撃を弾く。その光景にミサトは納得の表情を

リツコは好奇心がそそられたような表情をしたのだった。

 

 

 

ピーッ、ピーッ

 

ゲンドウのデスクにある通信機が鳴った。

 

「私だ。……総員、第2種警戒態勢!」

 

ゲンドウが受けた通信によると、第三新東京市上空に突如

使徒と思しき存在が現れたとのことだった。

全員は急いで発令所へと向かった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「これは…第10使徒!?」

 

主モニターへ映し出されていたのは第10使徒と同じような

黒い球体。違うのは表面に白い模様が入っていることと

地面へ落ちていこうとしないこと。

 

「パターンはオレンジです。使徒だとは思いますが…」

 

オペレーター日向マコトからの報告によれば

使徒特有のパターン青は検知されていなかった。

先程使徒の探知機を一度切ったが、今現在その探知機は

フル稼働で動かしている。検知漏れは有り得なかった。

 

「富士の電波観測所は?」

 

「検知していないそうです。突然ここへ」

 

第三新東京市周辺の様々な観測施設へ問い合わせても

それらしい物体は確認されていないとのことだった。

つまり、黒い球体はここへいきなり現れたのだろう。

 

「迎撃設備は?」

 

「先程撃たせてみました。ですが…」

 

映像には、黒い球体へ襲いかかる無数の弾丸が全て

反対側へとすり抜けてしまっている様子が映っている。

 

「まるでそこに存在していないみたいですね」

 

ラミエルやサハクィエルとは別の意味で手の打ちようが

無い存在に発令所の面々は困り果ててしまう。

 

「あれはデコイってこと?」

 

「だとしたらシンジ君、本体は…影になるわよ?」

 

直前にデコイのコアを使う使徒と戦っていたシンジは

あの球体がデコイである可能性を指摘する。

そうなってくるとあの球体の本体がどこになるのかだが

ミサトの言うように影くらいしか残っていない。

 

「……撃ってみましょうか、影を」

 

ミサトの指示で迎撃設備が黒い球体の影へ攻撃する。

影へ向かった弾丸は、地面へと着弾して爆煙を上げる──

そんな結末に終わるだろうと誰もが思っていたが…

 

 

 

『……………!』

 

黒い球体がついに反応を見せた。白い縞模様が一瞬消え

球体の影が真っ黒なものへ変わったのだ。

放たれた弾丸も地面ではなくその闇へと消えていった。

ついでにそこにあった兵装ビルも全て闇の中だ。

 

「ディラックの海か。使徒の本体もあの中だろうね」

 

黒い球体を見たカヲルはそう結論付けた。

そしてその予想が真実であると言うかのように球体を分析

していた日向によってあの言葉が告げられる。

 

「僅かですがパターン青を検知しました!」

 

NERVはこれを受け、黒い球体を「第12使徒レリエル」と

認定。使徒殲滅のため動き出す。

 

『巡航ミサイル発射…効果無し』

 

『対地攻撃システム、効果ありません』

 

色々な攻撃手段を試してみたが、レリエルは一瞬だけ

模様が消えるだけで大きな反応を見せなかった。

 

「仕方ない…アレを使おう。僕達謹製のやつを」

 

 

 

シンジが指示したのは攻撃用に作った新型N2爆弾を

ありったけ撃ち込むという作戦だった。

シンジと時田の持つエネルギー理論を組み込むことで

そのN2はサキエルへ使った時より火力が激増している。

 

『第一次投下、開始!』

 

まずは様子見のために1個投下する。落ちていったN2は

レリエルの影へと吸い込まれていき、その内部で

時限信管が作動し爆発する。

 

『………!!??』

 

上空に浮かぶレリエルのダミー体が大きく歪む。

確実にダメージが入っているらしい。

第一次投下からある程度時間を開け第二次投下が始まる。

 

『第二次投下、開始!!』

 

残る39個のN2が一斉に投下された。その総火力は従来の

N2の1000個分にもおよぶ程であり、そのまま投下すれば

NERV本部は消し炭になってしまっていただろう。

しかしそれは全てレリエルの影へ吸い込まれていく。

 

 

 

バシャーーーッ!!!

 

レリエルは突然ダミー体から赤い体液を吹き出して

消し飛んだ。どうやら内部でN2が炸裂したことで

コアを破壊できたらしい。

 

『パターン青消失。使徒殲滅、確認しました』

 

レリエルがいた場所は兵装ビルが飲み込まれて

更地になってしまったが、それ以外に大した被害も無い。

人の科学の力が使徒に牙を剥いた瞬間だった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「消失!?本当に第2支部は消失なんだな!?」

 

『はい。消失で間違いありません』

 

司令室へと戻ってきたゲンドウと冬月は信じられない報に

思わず耳を疑った。NERVの北米第2支部が消失した──

倒壊したでも、爆発したでもなく、"消し飛んだ"のだ。

 

「原因は4号機か…」

 

エヴァンゲリオン4号機。米国が製造権を主張して作った

正規実用型のエヴァンゲリオンで、新型のエネルギー機関

使徒も持つS2機関の搭載実験を行っていた機体だ。

 

「ディラックの海に落ちたんだろう」

 

カヲルが言うには4号機と支部を消滅させたエネルギーは

S2機関から解放されたもので、4号機はその余波によって

ディラックの海へ消えたのだろう、とのことだった。

S2機関を下手に起動させようとして失敗したのだろう。

 

「委員会の差し金だろうな」

 

第2支部はかなり強引な研究開発を続けていた支部で

その間接的な制裁が、委員会もといゼーレによって

下されたのだろうとゲンドウは予想した。

 

「3号機はどうすると?」

 

「こちらへ寄越すそうだ。きな臭いな」

 

いくら4号機の消滅事故があったとはいえ3号機を手放せば

米国は全てのエヴァを手放すことになる。

それでも米国政府が3号機を押し付けてきたことに

ゲンドウも冬月もきな臭さを感じた。

 

「シンジにも話を通そう。いい判断基準だ」

 

「4号機のサルベージは出来ますよ、お父さん」

 

カヲルがゲンドウにそう告げる。先程レリエルを見て

ディラックの海への接続が自分にも可能だと判断した

カヲルは4号機の引き揚げを提案したのだ。

 

「………そうだな、頼む」

 

「碇っ!?」

 

ゲンドウは4号機の引き揚げをカヲルに指示した。

 

「渚、相模湾沖合にでも落としておいてくれ。こちらで

引き上げておく。」

 

「委員会にはどう報告するんだ?」

 

「事故後の調査で見つかったとでも言えばいい。

どうせ大した口出しなど出来んよ」

 

4号機消滅が仕組まれていようとそうで無かろうと

ゲンドウ達が4号機を回収することに対して、ゼーレは

ハッキリと言及など出来ないのである。

故意でないなら回収してくれてありがとう、となるし

仕組んでいた場合は、自ら自分達が仕込みましたと

明言するようなものである。

 

「じゃあ、僕は行ってきますよ」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「これが4号機、かぁ…」

 

「銀色でカッコイイわね」

 

シンジ達の前には白銀のエヴァが立っている。

初号機と似たような鋭いツインアイにグレーの仮面

手足などには差し色として赤が使われている。

 

「まだ正規パイロットは決まってないのよね?」

 

「ええ」

 

カヲルにも自分のエヴァが用意される予定とのことで

エヴァ4号機には正規パイロットがまだ居なかった。

 

「3号機も来るんでしょ?どうなの、怪しくない?」

 

「正直僕もきな臭いったらありゃしないと思ってるよ」

 

4号機の消滅事故と3号機譲渡の詳細を聞いたシンジは

やはり父親らと同じくきな臭さを感じ取っていた。

シンジもエヴァが国へ齎す権力の絶大さは分かっていたし

それをアメリカが手放すと言ったことに驚いたのだ。

 

「ま、要警戒かな」

 

「そうね」

 

3号機をどう扱うかはこれから決めるにしても

カヲルを除いてもあと4体使徒を倒す必要があるのだ

警戒しておくに越したことはないと気を引き締めた3人。

 

──黄昏は希望に染まることとなる。

 

 

 

                      つづく




シンジ君の計画はこれだけじゃありません。
でもそれ書いちゃうとネタバレになるので…

ここのDSSチョーカーはエヴァ覚醒による
発動はしません。それしちゃうとカヲル君が
ゼーレの目的通り動いたとしても
サード前に首チョンパだからね。

レリエル君は…瞬殺されました。
ヤツをエヴァ暴走以外で倒す方法なんて
ほとんど思いつかんかったんや…
暴走でも良かったかもしれへんな


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小話:老人と少女の大暴走


いつぞやの小話で立てたフラグを
ようやく回収する時がやってきました。

今回相当におふざけ気味です。
新世紀エヴァ2のあの冬月先生
そこにマリが加わったらどうなるのか…

小話とは言えないほど長いですが
私なりに描いてみたのでどうぞ。


 

 

──NERV本部、居住区画。

 

シンジはある人物に呼び出されてこの区画へやって来た。

ここは本部に勤務する職員に用意される所謂社員寮で

シンジも当初住む予定だったエリアである。

 

「ホントにこんなトコでいいのかよ…」

 

シンジが向かっているのはこの居住区画のなかでも特に

使われていないエリアだ。歩いていくにつれて人通りも

少なくなっていき、生活感も減っていく。

 

 

 

「この部屋だ…失礼しま~す」

 

居住区の奥の方まで辿り着いたシンジは待ち合わせの

部屋をようやく見つけて入室する。部屋は今までの

人気の無さから一転、どこか研究室の様な雰囲気を

漂わせる内装になっていた。

 

「待っていたよシンジ君!」

 

「いらっしゃ~いワンコ君♪」

 

待っていたのは冬月とマリだ。そして何故か彼らの目は

異様な程に鋭くこちらを見ている。

 

「さて…シンジ君には写真撮影に協力してもらう」

 

(あっ…マズいヤツだコレ!)

 

以前受けたユイからの警告と、ケンスケという前例から

シンジには2人が何を考えているのかが良く分かった。

まず間違いなく良からぬことを企んでいる。

 

(逃げ…れないヤツですねハイ)

 

シンジは思わず逃げ出したくなったが、2人の視線は

まるで獲物を狙うかのような目をしている。

とてもではないが逃げれそうに無い。

 

「ワンコ君、これを」

 

マリから紙袋を手渡される。ウォークインクローゼットが

あるからそれを使ってくれと言われたので、シンジは

クローゼットへ歩いていく。

 

 

 

(あれ?思ったより普通…?)

 

紙袋に入っていたのはピンクのシャツとタイトスカート

いつも自分が着ているような白衣、というセット。

ここNERVへ初めて来た時も似たような服装だったので

特に気にも留めることなく着替えていく。

 

 

 

「着替えてきましたよ~」

 

「おおっ!まさしくユイ君だよ!素晴らしい!」

「いいね~いいね~先輩が一足早く帰ってきたにゃ!」

 

カシャ!カシャカシャ!

 

普段と対して変わらないだろうに一体どこがいいのかと

聞いてみれば、これは母がよく来ていたセットのようで

冬月がポケットから取り出した写真にも今のシンジと

同じような服装の母ユイが写っていた。

 

「では、こちらへ来たまえ」

 

案内されたのは書類が置かれた普通の事務デスクだ。

イスに座って書類を眺めるように言われる。

 

「ああっ!在りし日がここへ蘇ったのだ!!」

「う~ん、大学時代を思い出すにゃ~♪」

 

カシャ!カシャ!

 

「バインダーを持ってここへ立ってくれ」

 

デスクの前へ来ると更に写真を何枚も取りまくる2人。

すでにシンジの頭の中は帰りたいで一杯だ。

 

「マリ君、頼むよ!」

「あいよ~♪」

 

シンジが再びデスクのイスに座ると、冬月が脇に立ち

デスク上の書類を覗き込むような素振りを見せる。

教え子の研究成果を見る教授というシチュエーションだ。

そしてそこをマリが手際よく撮影していく。

 

「冬月先生、今度はお願いしますね♪」

「任せてもらおうか!」

 

2人でバインダーを手に持ち、指を絡めて手を繋ぐ。

 

(こっ、これって恋人繋ぎじゃないか!)

 

マリがシンジとしたのはそう、恋人繋ぎである。

シンジがそれに顔を赤らめた瞬間を冬月は見逃さずに

素早くシャッターを切っていく。

 

「あぁっ最高だよユイ君!!…いやシンジ君!」

 

「一生モンの宝物だよ~これは♪」

 

写真を一頻り撮り終えた2人は撮った写真を確認して

ご満悦そうな表情を浮かべる。これでようやく終わりかと

思っていたシンジだったが、突然振り向いた2人に

さあ次だ!とまだまだ続くを宣言され軽く絶望する。

 

(もうなるようにしかならない…よな)

 

 

 

シンジ達は一度廊下へ出て、隣の部屋へと入る。

そこは先程の部屋とは違ってシックなカフェのような

内装が用意されていた。

 

「次はこれを来てもらうにゃ♪」

 

シンジは受け取った紙袋をクローゼットで開ける。

中に入っていたのは丁度この撮影セットに合うような

クラシカルタイプのメイド服だ。

パッと見でも分かるほど高級品であり、彼らがこの撮影に

どれだけの熱意を懸けているかが無駄に分かった。

 

「あぁ最高だよユイ君!!」

「さあこっちからこう、台本の通りにね!」

 

シンジは2人からコーヒーと紅茶を淹れるよう指示され

台本を手渡される。コーヒーも紅茶もインスタントだが

豆や茶葉はしっかりした物が使われているようだ。

 

 

「お待たせ致しました。ご主人様、お嬢様」

 

カシャカシャ!カシャカシャ!

 

シンジはそう言ってトレーに乗せたコーヒーと紅茶を

2人の座るテーブルへと置く。冬月の持っていたカメラは

ビデオカメラへ変わっており、録画ランプもしっかりと

点っている。

 

「お味は如何でしょう?」

 

「最高だよユイ君!」

「世界一美味しい味だよん先輩!」

 

2人が飲んでいるものは高価ながらも市販品なのだが

この状況こそが2人にとって最高の調味料らしい。

 

「ああ、ユイ君も飲んで構わんよ」

「うんうん、私たちはそれを眺めて飲むからさ!」

 

(一通り付き合うしかないかな、これは…)

 

シンジはそう思いながら自分用に淹れた紅茶を飲む。

すでに2人はシンジのことをユイ君、先輩、と呼んでおり

並大抵のショックでは戻ってくることはないだろう。

 

「母さんが戻ってきた時怒られますよ?」

 

「構わん構わん、元より覚悟のうえだとも!」

「私もそうだにゃ~!…怒られるのもいいかも~?」

 

2人は尋常ならざる覚悟でこの撮影に臨んでいるらしい。

シンジは最早この2人を止める術は自分には無いと確信し

最後まで付き合う覚悟を決めた。

 

 

 

続いてやってきた部屋はまさに撮影スタジオと言うべきか

背景スタンドや照明機材まで用意されていた。

今は真っ白の背景紙がスタンドにセットされている。

 

「今度はこれね♪順番に着てもらうからにゃ~」

 

シンジが手渡されたのはスクールボストンバッグだ。

今までとは違い何着分か入っているらしく、やや重い。

 

 

 

「…えっ!?何でコレ…大丈夫なのか!?」

 

シンジは中に入っていた物を見て、思わずスタジオへ戻り

バッグの中身は着ていいものなのかを2人に尋ねる。

 

「うんいいよ~予備だから」

「あぁいいだろう。万一の場合は私が責任を取ろう」

 

「いいのかよ…」

 

2人からあっさりOKが出たのでクローゼットへ戻る。

多分本人たちへの確認は取っていないのだろうが

ここで逃げようとしてもまず捕まってしまうだろう。

シンジは全ての責任を冬月に押し付けることを決意し

ボストンバッグの中身へ手を伸ばした。

 

 

 

「プラグスーツ…僕まで悪さしてる気分だよ全く…」

 

入っていたのは白と赤、ピンクの3枚のプラグスーツ。

見知った少女達のプラグスーツを着るという事態に

もの凄く気まずい気分になってくる。

シンジはまず、この状況の主犯の1人でもある少女マリの

ピンク色のスーツに袖を通した。

 

 

 

「お~お~お~!私のから着てくれたんだね!」

 

自分のスーツを着たシンジにマリは大興奮である。

冬月も悪くないとばかりに頷いている。

 

「ならば壁紙はこれになるかな」

 

冬月がスタンドを操作し、サーキットの背景紙が降りた。

マリからは台詞をメモした紙とモデルガンを手渡される。

シンジは銃を構えてセリフを言うが、恥ずかしさが抜けず

何度もマリに指摘を入れられやり直す。

 

「………的を~狙えば外さないよ~ん♪」

 

カシャ!カシャ!

 

マリが時々口ずさんでいた「グランプリの鷹」の

イントロを同じように口ずさみながら銃撃の構えを取ったシンジ。

 

「最ッ高!!!冬月先生!しっかり撮れてる!?」

「完璧だよマリ君!」

 

2人はご満悦のようである。

 

 

 

「次は…レイのかな」

 

クローゼットへ戻ってきたシンジはマリのスーツを脱ぎ

今度はレイのスーツを手に取る。仮にそれを知られても

レイなら気にすることもなく許してくれそうだ。

 

「どんなセリフ言わされるんだろ…」

 

 

 

レイのスーツを着てきたシンジを見て冬月がスタンドを

月が輝く夜景へと切り替えた。マリから手渡された紙に

書かれていたセリフを見てシンジは思い出した。

 

(ケンスケの映画のレイだこれ!)

 

シンジは思ったより余裕を持って演技を成功させた。

レイの様子は普段から見ていてイメージし易いのもあるが

何よりもセリフが恥ずかしいものではないからだった。

 

「……あなたは死なないわ、私が守るもの」

 

「「おお~っ!」」

 

カシャカシャ!

 

映画のレイと今のシンジが重なり、幻想的に見えた2人は

感動にも近い反応を示した。2人が満足したのを確認した

シンジはクローゼットへと戻る。

 

 

 

「さて、最後は………」

 

残ったのは赤色のプラグスーツ、アスカのスーツだ。

マリは大喜びだったし、レイなら許してくれそうだが

さすがにアスカがこれを知ったら激怒しそうである。

それを考慮し、せめて前者2人のスーツで時間を稼いで

ミサト辺りが来てくれないものかと期待したのだが

結果は無常、誰もここへは来ていない。

 

「ごめんアスカ!!僕は使徒よりあの2人が怖いんだ!」

 

シンジはここには居ないアスカへ最大級の謝罪を述べて

意を決して彼女のスーツに袖を通した。

 

 

 

「ふおぉ~っ!姫スーツのワンコ君!!!」

 

親しい人同士がコラボした今のシンジの姿にマリは

荒い鼻息をあげるほど大興奮だ。

 

「似合ってるじゃないかユイ君!」

 

冬月も満更でもない様子で感想を述べつつ壁紙を変える。

アスカと再会したオーバーザレインボーを思わせるような

クルーザーの甲板上から撮られた海の壁紙だ。

 

「ワンコ君にはこれを言ってもらうよん♪」

 

マリから手渡された紙に書かれているのはパッと見では

単なる罵倒のセリフ。しかしマリ曰くアスカと言えば

このセリフらしい。ドイツにいた頃からずっと

なんだかんだ言われ続けているセリフだそうだ。

 

(………分かる気がする)

 

シンジは目の前の少女の姿に思わず納得した。

 

 

マリのスーツの時ほどではないがこちらも苦戦した。

シンジは特に相手を罵倒したりする事など全く無かった

ため、イメージがしにくかったのだ。

 

「あ、あんたバカァ?」

 

「もっと相手を見下すような気分でっ!」

「堂々とするんだユイ君!」

 

だが、ふと気付く。目の前にいる2人へ抱いている感情を

そのまま表へ出してしまえばいいのではないか、と。

そう気付いたシンジは1発で撮影を成功させる──

 

「…あんたバカァ!?」

 

カシャカシャカシャ!

 

 

 

 

 

プラグスーツでの撮影をなんとか乗り切ったシンジは

いつもの白衣に着替えて2人の後へついて行く。

また隣の部屋へ移動するのかと思っていたが、行き先は

居住区内では無いらしい。

 

「さて、もうすぐ着くよ」

 

シンジはNERV本部に備え付けられたジムへとやってきた。

スポーツウェアで撮影でもするのだろうか、と

考えながら歩いていくが、向かっていく先を示す看板に

非常に嫌な予感が溢れ出す。

 

 

[屋内プール]

 

かつて友人に1度きりだと宣言して着たアレを、下手すれば

それより過激な物の可能性すらあるあの衣装が浮かぶ。

 

(これ…水着着せられるやつだよなぁ)

 

シンジにとって幸いだったのが、ジムへ入ってからは

人を1人も見かけていなかったことだ。

まるであらかじめ人避けがされたかと思うほどに

利用客の少ない時間ならこの事が露呈する心配は少ない。

 

「…さて最後だにゃん♪これ、着てねっ♪」

 

「監視カメラは切ってある。安心したまえ」

 

更衣室の前で手渡されたのは、青色のワンピース水着だ。

しかも、パッと見た限り布面積はかなり少ない。

シンジはもう目の前の2人がラミエルやサハクィエルより

恐ろしく見えていた。逃げる事などは許されないようだ。

 

 

 

「………ど、どうかな」

 

シンジは顔から蒸気が上がりそうになるほど顔を真っ赤に

しつつ、更衣室から恐る恐る2人の前へと姿を現す。

 

 

 

「うっひょぉ~~♪最高だにゃ先輩~~っ!!!」

 

「あぁ、あぁユイ君!エデンはここにあったのだ…!」

 

「……………」

 

カシャカシャカシャカシャ!

 

2人はビデオカメラもしっかり回しながら写真を連写し

己の目にもその光景を焼き付けていく。

2人のあまりの大興奮っぷりに、さっきまで真っ赤だった

顔も呆れの表情へと染まっていくシンジ。

 

「ぐふっ…!ユイ君…私は……」

 

バタッ!

 

ついに冬月が鼻血を吹いて倒れた。

マリも恍惚に浸っているのか動けずにいる。

 

「…ミサトさん?今本部にあるジムのプールにいます。

何も聞かずにここへ来てください。」

 

シンジは倒れた冬月を放っておく訳にもいかなかったので

ミサトへ連絡だけ入れると、最悪な気分を切り替えるべく

2人からカメラを奪い取ってプールへと飛び込んだ。

 

(…水に入ると今までの気分がスッキリするね)

 

 

 

 

 

連絡を受けて駆けつけたミサトは血まみれで倒れる冬月と

カメラを手に慌てるマリ、際どい水着で泳ぐシンジという

カオス過ぎる現場の有り様に驚愕した。

 

そして、いつもの白衣に着替えてきた無表情のシンジに

今日の夕食で最高級の料理とビールを用意するから

このことは黙っていてくれと言われたミサトは

何が何だか分からないまま納得するしかなかった。

 

もちろん、2人の持っていたカメラのデータは消し飛び

プールで撮影された映像と写真──シンジの水着姿は

他へ発覚することは無かったという。

 

 

 

後にミサトはこう語る─

「あの日ほど混乱したのはセカンドインパクト以来よ」

…と。

 

 

 

                     つづく?




冬月とマリが手を組めばきっと
こうなるかと思われる。
ミサトさんがあちら側なら…?

冬月先生が尊さに耐えきれずリタイアしたため
これ以上の被害?は出ずに済みました。
ちなみにパイスーまでに撮影された写真と動画は
ご丁寧にバックアップが取られていた模様。


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舞い戻りし白銀

日常回、そして4号機起動です。

だいぶ書くのに苦労しました…
1万5000UA突破、ホント感謝です!


エヴァ3号機が日本へ来る数日前。

リツコとマヤは4号機関連の日程の合間を縫って

葛城ミサトの家を訪れていた。

 

「シンジ君、上がりますよ~」

 

勿論、この家のズボラな主人に用がある訳ではない。

3号機および4号機のパイロット選出の件や

その両機の武装構成についてシンジと考察しに来たのだ。

マリとアスカには先に話を通しておいたので

あとはシンジとレイから意見を聞けばいい。

 

なぜミサトの家まで来たのかというと、2人は実は今日

夕方まで予定がほとんど入っていないので

エヴァのことについて軽く話すついでに

新湯本まで出てショッピングしようとなったからだ。

ちなみにミサトはただ今絶賛仕事中である。

 

「待ってましたよ、上がっていって下さい」

 

「あのミサトの家とは思えないわね…」

 

靴もキッチリ揃えられ、廊下にゴミなどは落ちていない。

リツコは自分の親友のズボラっぷりを知っていたので

この家がキレイな状態を保っている事に感動する。

 

「チーズケーキ用意したんで、よかったらどうぞ」

 

「わぁ美味しそう…さすがシンジ君ね」

 

テーブルに用意されたのは小さなチーズケーキと

エスプレッソコーヒーのセット。リツコ達はここへ集まる

ことをシンジに提案したときに、飲み物を何にするか

聞かれてエスプレッソを注文していたのだ。

 

「エスプレッソとセットなら…リコッタチーズかしら?」

 

「さすがリツコさん、当たりです」

 

彼がわざわざチーズケーキを作ったというのなら

使われているチーズはエスプレッソの本場のアレだろうと

リツコはチーズケーキの種類を言い当ててやる。

相変わらずグローバルだな、と感心しながら。

 

 

「…3号機と4号機のパイロット候補はこの2人です」

 

マヤから手渡された資料に載っていた人物はシンジや

レイもよく見知った2人だった。

 

「トウジと委員長が…!?」

「相田君じゃないのね」

 

友人たちがパイロット候補であることにさすがのシンジも

驚いてしまう。ちなみにケンスケも候補の1人だったが

俺なりにエヴァに関われてるからいい、自分はあの戦いに

直接参戦する覚悟がまだ無い、と断ったらしい。

 

「これが機体データですね」

 

チーズケーキをつまみつつデータに目を通すシンジ。

正規実用型なだけにスペックは十分なものが備わっており

2号機以上に柔軟な運用が可能だろう。

最新鋭機の名に恥じぬ素晴らしいスペックだ。

 

「…随分良い性能してますね、4号機も含めて」

 

これ程の性能の機体をアメリカが手放したということが

シンジやリツコにとっては引っ掛かる点だった。

 

「父さんにも言いましたけど、再精査させましょう」

 

「S2機関の件ですか?でもそれは…」

 

「念には念をよ、マヤ」

 

シンジの意見を受け、3号機は一度細部まで検査を

行うことになり、起動実験を遅らせることが決定した。

 

続いて2機の武装面について話し合うことにした。

零号機と5号機が遠距離タイプ、2号機が近距離タイプ

初号機がバランスタイプと来ていたので、シンジは

近接重視とバランス重視で進めて行きたいと提案する。

 

「軽量型ESVは仕上がったそうよ?」

 

「それは良い報告だね」

 

「ESV…ヤシマ作戦の?」

 

軽量型ESVシールドはヤシマ作戦でシンジが使っていた

ESVシールドの改良型で、フィールド偏向を組み込んだ

強固で軽い防御用兵装として完成させたものだ。

 

勿論、改良元であるESVシールドも強化されていて

ラミエルの加粒子砲を2発は耐えられる性能があるが

初心者に持たせるにしては重たいだろう。

 

「軽量型ESVは洞木さんの機体に装備させましょうか」

 

ヒカリは戦闘が得意なタイプではないだろうということで

防御・生存面を重視した装備構成にすることを決定。

サブ武装にハンドガンとプログナイフを用意することで

遠近のバランスを取る形となった。

 

「トウジが乗る方は近接主体で組めばいいね」

 

トウジの乗る機体の方は現状はマゴロクソードを軸とし

サンダースピアやビームグレイグを選択肢として用意

腰部ウェポンラックへはスマッシュホークや

プログダガーを装備させよう、ということになった。

 

「こんなところですかね、武装面については」

 

「それじゃ、出掛けましょうか」

 

ササッと書類を片付け、出掛ける準備を済ませる。

そして、リツコ達が乗ってきた車で新湯本へと向かった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──新湯本。

 

第三新東京市から旧小田原方面へ向かった所にある

大きな街である。使徒迎撃に重きを置く第三新東京市とは

違って普通の街なため観光施設もかなりある。

4人は新湯本にある、箱根近辺で最も大きいと言われる

ショッピングモールへ来ていた。

 

「ここに来るのも久しぶりですね~」

 

「私達は基本仕事だものね」

 

やはりリツコやマヤはNERVでの仕事が忙しくてここへ

来る機会は少なかったらしい。シンジやレイもそう頻繁に

来ている訳ではなかったが。

 

「あ!シンジ君、これですよこれ!」

 

ショッピングモール内を歩き回っていた一行は

マヤのお目当てだった洋服のブランド店を見つけた。

 

「深乃ヨウジ氏がデザインしたドレス…ですか?」

 

深乃ヨウジ氏は有名なゴシックドレスのデザイナーで

このモールの5周年を記念して店を出していたのだ。

シンジもこのブランドから日本向けにデザインされた

ドレスやタキシードが出ているのは知っていたが

実際日本に来てから目にしたのは初めてだ。

 

「シンジ君、レイちゃん、どう?」

 

マヤはモノトーンのゴシックドレスを2着ほど手に取ると

2人へずいっと差し出してくる。

 

「え?まさか僕もですか?」

 

「きっと似合うわよ♪」

 

いくら普段から女装しているとはいえ、ゴシックドレスは

自分には似合わないだろうと思うシンジだったが

さぁさぁ、と勧めてくるマヤに押し負けドレスを試着して

みる事にしたのだ。

 

 

「着てみましたけど、どうです?」

 

「似合ってる~!私も買っちゃおうかな」

 

シンジが着てみたのは白がメインカラーのドレス。

胸元の色が左右で異なるなど非対称が特徴のデザインだ。

このブランド特有の十字架のアクセサリは腰にあり

首元には黄色いリボンが付けられている。

 

マヤは自分とシンジの容姿はそれほど変わらないと

思っていたので、彼に似合うなら自分も似合うだろうと

シンジが着たこのドレスの購入を決めたようだ。

 

「シンジ、どう?」

 

「似合うね~レイ」

 

レイもマヤから手渡されたドレス、黒ベースのゴシック

ドレスを着て戻ってきた。元々ミステリアスな雰囲気を

纏っているレイにゴシック系のドレスは合うらしい。

ちなみに十字架は首元のチョーカーに付いている。

 

「あら、レイは黒も似合うのね」

 

「スーツが白ですし、無彩色が似合うんですかね」

 

 

 

その後も4人はこのブランドのドレスやスーツを物色し

各々気に入った物を購入した。なおシンジはというと

スーツスタイルのものを1着だけ買う気でいたのだが

レイとマヤも買っていたドレスを追加で持たされている。

マヤとリツコが買ってあげていたのだ。

 

「…で、なんで僕までこれを着せられてるんですかね?」

 

シンジは今、彼が最初に試着したドレスを着ていた。

レイも先程選んだゴシックドレスを着ているのだが

なぜ自分まで、と問うシンジにリツコとマヤは2人揃って

こう返した。

 

「「シンジ君が可愛いからよ」」

 

仲睦まじく手を繋ぐドレス姿のシンジとレイは

周囲の目を良い意味で引き付けまくっていた。

 

 

 

時間は丁度正午を回った頃、4人はイタリアンレストランで

ランチタイムを堪能していた。

 

「シンジ君はイタリア料理とかも作るの?」

 

「向こうに居た時は結構作ってました」

 

4人でそれぞれ違うパスタを頼み、お互いのパスタを

食べ比べながら世間話に花を咲かせる。

マルゲリータピザは8枚に切って、2枚ずつ皿に取る。

 

「レイとは最近どうなの?」

 

「どうって…いつも通りですよ?」

「シンジと居られるだけで幸せ」

 

リツコはエスプレッソを飲みながら鋭く切り込んでくるが

シンジとレイはそれをさらっと受け流す。

あっさり受け流されたリツコはぐぬぬと唸る。

 

「メイク道具のブランドって拘ってたりするの?」

 

「いいえ、僕は自分に合うかで決めてます」

 

マヤはティラミスコーヒーを片手にメイク関連について

シンジと色々語り合った。

 

「ここの料理も美味しい…!」

 

レイはキノットのジュースとヘーゼルナッツ味の

ジェラートを1人黙々と堪能している。

一番は気持ちが込められたシンジの手料理だが

ここの料理も十分美味しいようでご満悦の様子だ。

 

 

 

「「「「ご馳走様」」」」

 

食事を終え、お会計のためレジへと向かう。

レジに立った店員は今日のキャンペーンにチラリと

目をやるとお会計に取り掛かった。

 

「本日はレディースデイですので4名様分の──」

 

シンジは慌てて店員に待ったをかける。

自分は男だから割引を受ける訳にはいかないと説明するが

店員は信じられないとでも言いたげな表情をしている。

 

「これでどうです?」

 

「え、…えーっ!?」

 

学生証を見せることでようやく納得してくれたようで

3人分の割引がされ、会計は無事済んだ。

 

「…シンジ君って律儀なのね」

 

「紛らわしい格好してますからね」

 

その分誠実に対応しているだけだと語るシンジに

リツコとマヤは立派な子だと大いに感心していた。

 

 

 

ちなみに、今日自分に大量の仕事を寄越してくれたのが

シンジとお出掛けをしたリツコ達だと知ったミサトは

しばらく不貞腐れたままになってしまったらしい。

最終的にはリツコが折れ、ミサトに高級ビールセットを

奢ることで手を打ったとのこと。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「委員長、頑張れよ!」

「応援してるわよヒカリ!」

 

「う、うん!頑張る!」

 

──松代、NERV第2実験場。

オレンジ色のプラグスーツを着た洞木ヒカリが

エヴァの仮設ケイジへと歩いていく。

3号機の起動実験を少し先送りにした関係で、4号機の方が

先に起動実験を行うことになっていたのだ。

 

ちなみに、ヒカリが4号機に乗ることになった理由は

トウジが3号機のカラーリングを気に入ったからである。

 

 

 

『エントリースタート』

 

ついにエヴァ4号機の起動プロセスが開始される。

 

『LCL電荷、圧力正常』

 

無機質なプラグの内壁がスクリーンへと変わり

外の様子が映し出される。以前にも目にした光景だが

すごい仕組みだとヒカリは目を見張る。

 

『A10神経接続異常なし、コンタクト正常。』

『双方向回線、開きます!』

 

エヴァとのシンクロが開始され、温度とは違う暖かさを

ヒカリは感じ取る。先程までかなり緊張していたが

それが少しずつほぐれていく。

 

『ハーモニクス正常、暴走ありません』

 

そして、エヴァの起動ラインである絶対境界線を超える。

 

「え…エヴァンゲリオン4号機、起動します!」

 

白銀のエヴァの双眸に力強い輝きが宿る。

暴走なども懸念されていたがその瞳の光は4号機本来の

僅かに桃色がかった白い光。エヴァンゲリオン4号機は

無事起動したのだ。

 

『平均シンクロ率、38.8%です』

 

シンクロ率が最も低いレイでさえ80%前後で安定する

現役パイロットたちと比べるとかなり低い数値だが

初心者であるヒカリとしては素晴らしい数値と言える。

シンクロに慣れ、母との意思のやり取りができれば

ヒカリも十分シンジ達に追いつけるだろう。

 

『やるやん!流石は委員長やで!』

『いい数字してるじゃないヒカリ!』

 

「えへへ、ありがとう」

 

通信越しに聞こえてくる友人たちからの賞賛に

ヒカリは顔を赤くして喜んでいる。

 

 

 

続いて、機体のシステムを訓練用のものへと書き換え

簡単な操縦訓練を行う。

 

「わわっ…歩くだけでも難しいですね」

 

ヒカリがそう言うように4号機はまだフラフラしている。

歩きと走り、ジャンプや物を掴む動作など基本的なものを

マスターするのには少し時間がかかっていた。

問題なく行動できるようになると次の訓練に進む。

 

『ダミーターゲット出現、攻撃はしないから安心してね』

 

「はいっ!」

 

手元にある武器を使って、ダミーの赤い球体──コアを

破壊してみろと言われたヒカリはまず腰に装備してある

ハンドガンを手に取る。

 

「目標をセンターに入れて…スイッチ!」

 

『ダミー撃破。次はガードの練習ですね』

 

4号機のもとへ大きなシールドが現れる。

軽量型ESVシールドだ。大きさの割にはとても軽く

ヒカリも余裕をもって構えることができた。

 

『では、今から敵の攻撃のガードをしてもらいます』

 

「えっ…当たったら痛いですよね?」

 

『いいえ、攻撃の方もダミーだから大丈夫よ』

 

その言葉にホッとしたヒカリはダミーの方を向き

シールドを構える。ダミーの仮面が強く輝き

レーザーサイトのようなものが4号機へ照射される。

4号機やシールドに当たるとピッピッと音がなり

ガードや被弾のカウントがそれぞれ加算されていく。

 

「まだまだ!ガードっ!」

 

『ガード成功率は6割くらいですね』

 

そしてここからシンジら先輩パイロットによる指導も

加わったことで、前転や側転などを使った攻撃回避や

簡単なATフィールドの展開を会得することに成功。

 

「これで…ダミー撃破!次いいですよ!」

 

『次のダミー、行くわよ』

 

操縦訓練のプログラムを終える頃にはヒカリは4号機を

スムーズに動かすことが出来るようになっていた。

まだ荒削りではあるが、ついにエヴァ4号機も

戦場に立てるようになったのである。

 

──対を成す漆黒の目覚めも近い。

 

 

 

                      つづく




4号機のパイロットはヒカリちゃんです。
トウジ君といいペアになれそうですね。

今回シンジ君達が着ていたドレスは
「エヴァ カレンダー 2008」で調べれば
出てくるかと思います。
深野洋一さんデザインのものだそうです。
本作中ではゴシックドレスのデザイナーとして
名前を変えて登場させました。

次回、3号機起動実験。


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目覚めし漆黒

トウジ君が頑張る回やで。

遅くなってしまってすみません…
上手い文章構成が思いつかなかったのと
ミワs…アルセウスが楽しすぎるんだ。
まぁ更新は続けていくつもりなので
気長に待っててください。



『大腿部第1装甲板の撤去、開始します』

 

『肩部ウェポンラックの取り外し終了』

 

NERV本部の実験棟で漆黒のエヴァが解体されていく。

 

『人工筋肉など生体パーツへの検査は追って行います』

 

米国政府や米国NERVからの妨害工作を考慮し

全身の隅から隅まで可能な限り分解しての精密検査が

エヴァ3号機に行われていたのだ。

 

『3号機内部にエネルギー反応はありません。

コア周辺も4号機のデータを元に精査させていますが

やはりS2機関の搭載は行われていないようです』

 

実際に消滅事故を起こしたのは4号機だが、念の為にと

3号機の方にもS2機関が存在するかチェックさせたが

こちらには搭載された形跡は確認されなかった。

 

『胸部装甲板、取り外し完了です』

 

『ケーブルコネクター、撤去を開始』

 

3号機の外装が着々と取り外されていく。

外された装甲板などは別の実験室へと運ばれ、製造段階で

意図的に欠陥が残されていないか等を調べられている。

 

『全外装、取り外し完了です』

 

「了解。生体パーツのチェックへ入ってちょうだい」

 

リツコの指示で、3号機本体の方は生体パーツの検査が

開始される。

 

『脚部装甲板、全チェック終了。異常ありません』

 

『エントリープラグの検査も一応開始させました』

 

装甲板のチェック終了報告も着々と上がってくる。

エントリープラグに関してはどうしても気になるのなら

新しいプラグへ交換してしまえるが、廃棄するにしても

何かあってからでは遅いので一応検査を行わせた。

 

『赤木技術課長、少し宜しいですか?』

 

「何か見つかったの?」

 

『はい。画像をそちらへ送っておきます』

 

プラグの検査を行っていた整備員から送られてきたのは

内壁の隙間に青いカビの様なものが生えている画像だ。

その画像にリツコは少し違和感を覚えた。

金属などに生える青カビにしてはやけに鮮やかなのだ。

 

「除去は出来そう?」

 

『いえ…それが──』

 

異様に硬いのかブラシやヘラでこそぎ落とそうとしても

まるで効果が無いとのことだ。それならば、とリツコは

確実な対応策を手配する。

 

「火炎放射器を送らせるわ、焼却処理しておいて」

 

『了解です』

 

エントリープラグの処置を決定した辺りで装甲板などを

チェックしている班から連絡が入り、全てのチェックが

完了したという報告が行われる。

 

「3号機は何ともないみたいね」

 

特に異常の無さそうな3号機にホッと一息ついた時だ。

 

 

ビーッ!ビーッ!ビッ………

 

 

「何!?何が…起こったの?」

 

突如警報が鳴ったと思ったら一瞬でそれが鳴り止み

直後に2つの報告がリツコの元へと入ってきたのだ。

 

『こちら第一発令所!実験棟でパターン青を検知!』

 

発令所から突然届けられた使徒出現の報。

しかも場所がリツコと3号機の居るこの棟だという。

 

『…技術課長、異物の焼却処理は完了しました』

 

もう1つは先程指示した、3号機エントリープラグ内の

青いカビ状の異物の焼却処理の完了報告だ。

 

「…まさか?」

 

まさかとは思ったリツコだったが、焼却処理に関わった

整備班から作業中の映像を受け取り発令所へと急いだ。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「パターン青は一瞬だけ確認されました」

 

「時刻は焼却処理の開始時刻と一致してますね…」

 

リツコは日向に異物の焼却処理時の映像データを渡し

主モニターへと映し出させる。そこに映っていた映像は

青い粘菌状の物体が炎を放射され、小さな白い十字の光を

無数に放ちながら焼却されていく様子だった。

 

「これって…使徒、ですよね?」

 

「ああ、第13の使徒だろう」

 

「3号機の中で眠ってたんだろうね」

 

ゲンドウもこの粘菌が使徒だろうと認識している。

使徒の寄生がゼーレの仕業かどうかはともかくとして

輸送中か何処かで3号機のプラグへ侵入・寄生した使徒は

当の3号機がまだ起動状態ではなかったために一時的な

休眠状態に入り、3号機起動に合わせて活動を再開して

機体を乗っ取るつもりだったのだろう。

 

「普通に起動させてたらと思うとゾッとしますね」

 

上手くいけばエヴァ3号機とパイロットを乗っ取れていた

「第13使徒バルディエル」だったが、火炎放射器という

使徒から見ればあまりに貧弱過ぎるハズの武器によって

綺麗に殲滅されてしまったのだ。使徒としてはあまりにも

呆気ない最後である。

 

 

 

「…3号機の処置はどうしましょう?」

 

使徒を殲滅したはいいものの3号機をこれからどう扱うか

かなり悩ましいものであった。いわく付きの機体である。

トウジも一度は乗ることを決意していたし戦力として

加わるのはとても頼もしいことだが、もし第13使徒が

残っていたらと考えると決断は難しかった。

 

「…最終的な判断は3号機パイロットに一任する。」

 

「そうだね…。トウジなら乗るって言いそうだけど」

 

トウジがやっぱり乗らないと言ったら3号機は解体し

装甲板などを他機体の修理に回すことで決定した。

 

「そういえば父さん、擬似プラグは届いたんだよね?」

 

「ああ、届いている。…再起動実験はそっちでか」

 

シンジの意図を読み取ったゲンドウは再起動実験に

擬似エントリーシステム内蔵のプラグを使うことを決定し

各所へ予定変更の指示を出していく。

 

「──生体パーツの方の検査は特に念入りにね」

 

使徒が寄生していたことを受け、3号機のパーツの検査を

再度行うよう指示するリツコ。特にプラグ挿入部周りや

生体パーツの検査を重点的に行うよう付け加えて。

 

そして後日、検査に異常が無かったという報告を受けて

ゲンドウが第13使徒は殲滅されたと発表したのだ。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──松代。

 

「ほえ~…やっぱ近くで見ると違うモンやな!」

 

数日前4号機が目覚めた仮設ケイジには今、漆黒のエヴァ

エヴァンゲリオン正規実用型3号機が佇んでいる。

トウジは自分が乗る予定のエヴァの前に立ってみて

改めてその大きさに驚く。

 

「トウジはいいの?3号機は…」

 

3号機に使徒が一度寄生していたという事実はトウジにも

伝わっているハズだがやけに気合いの入っている友人に

シンジはそう問いかけた。

 

「いいも何も…委員長だって乗る言うとったんや。

友達と過ごす時間だけでも守れるなら…やったかな?

ここでワシだけ逃げる気はあらへんで…!」

 

そう言うトウジは視線を真っ直ぐ3号機へ向けている。

その顔はすでに覚悟が決まった漢の顔をしていた。

 

「そういやなんでトウジは3号機にしたんだ?」

 

「そりゃセンセ、似合っとるからに決まっとるやろ」

 

どうやらトウジ曰くその顔付きと機体のカラーリングが

どこか自分に似ている気がして選んだとのこと。

確かにトウジのよく着ているジャージのカラーは

黒がベースで赤と白の差し色だ。3号機のカラーリングと

とてもよく似ている。

 

「そろそろ起動実験の時間だ。僕はエヴァへ行くよ」

 

「せやな。ワシは管制室や」

 

 

 

「擬似エントリースタート」

 

オペレーターによる管制の元、3号機の再起動が始まる。

実験場のすぐ近くでは初号機と零号機が待機しており

2号機と5号機もいつでも発進準備が行えるよう、マリと

アスカが本部内で待機している。

 

「擬似エントリーシステム、起動しました」

 

今回使うこのシステムは第9使徒リウェトの制御に

使おうとしたものをエヴァ用に再調整したものだ。

激しい戦闘にはとても耐えられないものの

起動させるだけならばこれで構わないのだ。

 

「送信用・受信用の両回線、開きます」

 

「データリンク正常」

 

行動制御用システムがエヴァの双方向回線やA10神経と

接続されていき、起動準備が整っていく。

 

「シンクロ率、ハーモニクスは基準値を維持」

 

擬似エントリーシステムのシンクロは機械が行うため

シンクロ率などの数値は大きく変動することはまずない。

今回の数値も変動はほぼ無いので、ここまでのプロセスは

順調に進んでいると言っていいだろう。

 

「間もなく絶対境界線を突破します!」

 

 

緊張の一瞬である。

 

 

「3…2…1………エヴァ3号機、起動しました!」

 

全員が固唾を呑んで見守る中、ついに3号機が起動する。

その瞳に宿っているのはエヴァとして正常な白い光。

 

「エネルギー反応正常」

 

「暴走および使徒の反応、ありません」

 

システムの動作や機体の稼働データをチェックしている

オペレーター達からも異常が無いことが報告され

3号機は正式に本部所属機体として登録されることになる。

 

「んじゃ、次はワシが動かす番やな!」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「電源入れるまでは何も無いんやな、コックピットは」

 

トウジはエントリープラグの内装を見渡してみて

思わずそう呟く。前回シンジの初号機に同乗した時には

色々映し出されていたのに、と。

 

『LCL電荷』

 

「おわっ!?…景色が映りよった!」

 

コックピットの奥から光が溢れてきたと思ったら

外の景色が映ったことにトウジは驚く。

見たことがあるとはいえ2回目、新鮮なのに変わりはない。

 

『シンクロ率40.4%、ハーモニクス正常』

 

トウジもまた初起動としては十分な数値を叩き出す。

リツコがシンジの協力を得て改良を続けているとはいえ

その数値は初号機を初起動させた時のシンジの31.1%に

十分追い迫るほどのものなのだ。

 

『絶対境界線、突破』

 

「いよ~し、エヴァ3号機起動やッ!」

 

パイロットがシンクロしている状態でも無事起動した。

ここからは仮想空間内へ場所を移しての操縦訓練。

エヴァの基本操作を徹底的に叩き込んでいくのだ。

 

『では鈴原君、説明通りに歩いてみてくれ』

 

「そんじゃ行くで!…確かセンセはこうやるって…」

 

トウジはオペレーターからの指示を受け、頭の中に

自分が歩いている様を思い浮かべる。すると3号機は

ゆっくりと歩き出し、トウジが脳内で立ち止まることを

イメージするまで歩みを進めた。

 

「面白い操縦方法やな~。次は少し走ってみるか!」

 

トウジが己の走る姿をイメージすれば、3号機も同様に

走り出す。徐々にスピードアップさせながら慣らしたため

無様にすっ転ぶようなことはしなかった。

 

その後も3号機を動かし、パンチやキックをしてみたり

回避の練習として前転やバックステップを試したりする。

トウジは運動神経は悪くない方なので、慣れてくるのには

それほど時間はかからなかった。

 

『仮想敵を配置しました。規定数撃破してください』

 

「おっ、ついに来よったか!やったるで!」

 

マップ内を歩き回って発見したのは最初に現れた使徒

サキエルをモデルにした人型のダミーターゲットだ。

戦闘能力はレベルごとに強くなっていくシステムであり

今いるターゲットは初心者用ということでレベル1だ。

トウジは腰に装備してあったプログダガーを手に取り

弱点であると説明されたコアへ攻撃する。

 

「でやァーッ!」

 

マップ内に居るターゲットは3体。攻撃はして来ないので

落ち着いて探して撃破する。

 

「よ~し、倒したで!」

 

『次の仮想敵は攻撃をしてきます。ご注意を』

 

マップ内に配置された敵は1体だけだが、その反応は

ゆっくりとこちらへ近寄ってきている。

トウジはビルの影から何度か敵の様子を伺う。

 

ビシュイーンッ!

 

「のわっ!?イテテ…意外と痛ぇモンなんやな」

 

ビルからはみ出しすぎて敵からビームを受けてしまう。

フィードバックダメージについてはシンジから聞いていて

メイン操縦者ではないものの喰らったこともあったが

改めてその痛みが結構なものであることを痛感する。

 

「敵を有利ポジから叩くのは鉄則や、ってケンスケも

言うてたしな。じっくり狙わせてもらうで!」

 

気を引き締めなおしたトウジはインターフェースに

表示されている敵アイコンをしっかりと見ながら

奇襲のチャンスを伺う。

 

「そこの角やな…これでも喰らえやーッ!」

 

『お見事です!では次へいきましょう』

 

続いてマップに現れたのは遠距離主体のターゲットで

第9使徒リウェトがモデルになっているものだ。

こちらも先程のターゲットと同じくレベルは1である。

マップ内に数箇所ある兵装ビルにはパレットライフルや

ハンドガンが配置された。

 

「ケンスケが喜びそうやな。使うなら…コイツか?」

 

マップ上のアイコンに注意しつつライフルを手に取る。

敵はこちらへ寄ってはくるものの一定の距離を取っていて

こっそり近づいたとしてもバレてしまうと逃げられる。

 

「ちょこまか逃げよって…突っ込んだるで!」

 

 

ピシュイーンッ!

ピシュイーンッ!

 

「イテテっ!イデっ!アカン、無策はアカンかった!」

 

とりあえずビルの影に逃げ込んだはいいものの

3号機はかなりダメージ判定を食らってしまっていた。

 

「………避けろ、っちゅうことか。厄介やなぁ…」

 

トウジはまずビルの影からライフルを適当に撃ちまくり

敵からの反撃を誘う。ターゲットの懐へ飛び込むため

敵の攻撃がどういうものか知りたかったからだ。

何度かやってみて分かったのはターゲットの顔が光ると

ビームが飛んでくる、ということだ。

 

「…行くで。…勝負やッ!」

 

ビルの影から飛び出し、ターゲットの撃ってくるビームを

右へ左へ躱しながら走る。そしてビームのインターバルを

上手く突いてプログダガーをコアへと突き刺す。

 

「コイツで終いやーーーッ!」

 

 

 

『お疲れ様です。基礎訓練プログラムは以上で終了です』

 

「ふう~っ!使徒と戦うのって大変なんやな…」

 

基礎訓練だというのに中々苦戦させられたトウジは

実際に使徒と戦っていたシンジがどれ程大変だったかを

改めて認識する。

 

「ワシも頑張るで~!ワシとしてもセンセ達といる毎日は

楽しいモンやからな!」

 

そう言ってトウジは改めて覚悟を決め直す。

頭の中で、昨日委員長からもらった手作り弁当の味を

思い出しながら。

 

 

 

──その後トウジ達はしばらく平穏な日常を謳歌する。

第三新東京市を最強の拒絶が襲うその日まで。

 

 

 

                      つづく




はい、バルディエル君は焼却処理されました。
あるゲームじゃデッキブラシで洗われて
殲滅されたらしいし…仕方ないね。

次は最強の拒絶タイプことゼルエル君ですが
その前に少し日常回を挟みたいと思います。
次回は多分レイちゃん関連。

…エヴァ6機でも過剰戦力とは言えそうにない
新劇ゼルエル君…ハンパじゃないよね。


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シンジとレイの日常

日常回、シンジ&レイ回です。

今回一般人が1人ゲストとして登場しますが
ストーリーには特に関わるキャラではありません

これ書き始めた頃に気付いたんだけどさ
…ゼルエル君って来るのクッソ早くね?



「………ふわぁ…おはよう」

 

「おはよう、レイ」

 

レイの朝は早い。元々ほぼ時間通りに目が覚めるレイだが

葛城家に引っ越してきてからもそれは同じだった。

越してきてからよく一緒に寝ているシンジが朝食の準備で

かなり朝早くに起きるので、それにつられる形でレイも

一緒に目が覚めるのだ。

 

「シンジ、今日の朝ご飯は?」

 

「アメリカンブレックファストの予定だよ」

 

レイはシンジから朝食のメニューを聞いたら玄関へ行き

ポストから今日の新聞を受け取って、いつもペンペンが

座る席のところへ置いておく。

 

「おはよ~…シンジ君レイちゃん」

 

「おはようミサトさん」

「朝食はもうすぐ出来上がりますよ」

 

朝食を作り始めて少しするとミサトが起きてくる。

その時のテンションは日によってまちまちだが今日は

二日酔いがややキツいらしく若干テンション低めだ。

 

「ミサトさん、お水です」

 

「サンキューねレイちゃん」

 

ミサトが起きてきた時にこんな状態だった場合は

レイが大きめのコップに水をたっぷり注いで渡している。

今までシンジがミサトの二日酔いの対処の1つとして

やっていたのだが最近レイも分かるようになってきたため

朝食作りをしているシンジの代わりに用意している。

 

 

 

「「「いただきま~す」」」

「クワワッ!クワッ!」

 

シンジが作った朝食を3人と1匹で一緒に食べる。

二日酔いのミサトの分は炭水化物が少し多めだったり

レイはベーコンの代わりに他のメニューが多めだったり

ペンペンには魚料理を用意していたり、そのメニューには

シンジの数々の工夫が散りばめられている。

 

その後朝食を食べ終えた人から顔を洗いに洗面所へ向かい

戻ってきたら3人で朝食後の後片付けをする──

これがレイを含む葛城家のモーニングルーティーンだ。

 

 

 

「私はお仕事行ってくるわね~」

 

3・4号機関連でまだ少し本部での仕事があるミサトや

お昼頃リモート講義の予定が入っているシンジと異なり

特にレイは今日何もやる事はない。

 

よく読む本を持ってリビングで寛いでいたレイだったが

シンジが洗面所辺りで何かしている様子が気になった。

様子を見に行ってみれば、ヘアカラーのボトルを手に

髪を染める準備をしているようだった。

 

「髪の色を染める?」

 

「うん、最近また黒くなってきちゃったからさ」

 

シンジはドイツの大学にいた頃から髪を茶色に染めていて

第壱中学校へ転校してからもその髪色を維持していた。

地毛と言われてもさほど違和感のない色で留めているため

教師陣から髪の色で何か言われたことは少なかった。

 

「私もシンジと同じ色にしたい」

 

「えっ、レイも?流石に校則に引っかかるぞ…?」

 

レイは水色の髪が地毛だと学校へ説明してあるので

ここから茶髪に染めたら確実に校則違反だと指摘される。

しかしレイはどうしても茶髪にしたい理由があった。

 

「好きな人と…お揃い?にしてみたいの」

 

「…!!」

 

レイは以前ヒカリと恋愛や友情について話をしていた時に

ペアルックのことを聞いていて、服装や持ち物などを

シンジのものに似せるよう少し意識していた。

それが染めることで髪の色までお揃いに出来るとなれば

シンジと同じ色に染めるしかないとレイは思ったのだ。

 

「うーん…どうしたらいいかな」

 

「………」

 

思いのほか頭を悩ませるシンジに、それほど難しいなら

諦めるべきかと思いつつレイはシンジの回答を待つ。

 

「…1つ手があった!」

 

 

 

シンジが手に持って来たのは自分と同じ茶色のウィッグ。

ロングヘアにしたい気分の時に使っていた長髪のものだ。

 

「はい、これで完成だよ」

 

「すごい…!」

 

元々ショートボブ程度まで髪を伸ばしているシンジの

使っていたウィッグはほとんど調整せずともレイに

ピッタリと合い、雰囲気がガラリと変わる。

そして眉マスカラを使って眉毛の色を合わせると

そこに居たのはもはや綾波レイではなく碇レイだった。

 

「予想以上に僕とそっくりだね…!」

 

「そう!?嬉しい!」

 

眩しい笑顔を浮かべたレイにドキッとしたのか

シンジは少し顔を赤くしていた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──午後。

 

リモート授業の講師としての仕事を終えたシンジと共に

レイは街のスーパーマーケットへ来ていた。

夕食用の食材を買い出しに来たのである。

 

「確か…豆腐は切らしてたハズだし買っていこうか」

 

「レタス、入れておくわ」

 

シンジは今日豆腐の和風ハンバーグをメインとする

料理を作るつもりでいるようで、レイもメモを渡されて

必要な食材を探し歩いている。

 

「次は…ひじき」

 

「僕は日用品の方見てくるよ」

 

今日はボックスティッシュやトイレットペーパーなども

買いに来ているためシンジはそれを探しに行った。

レイは海鮮コーナーへ目を通して目的の品を探す。

 

「乾燥わかめは…これ」

 

乾物コーナーからも目的の品をひとつ見つける。

シンジ曰く色々使えるから沢山あっても損は無いとして

予備を買っておきたいとのことだった。

 

「色々見つけてくれたみたいだね」

 

「カゴに入れておくわ」

 

シンジの押す買い物カートには洗剤やティッシュなどの

日用品からレタスやほうれん草などの野菜類まで

様々な品物が放り込まれている。

3人と1匹で暮らしていれば生活用品も食材もどんどんと

溶けていくのだ。

 

 

「お~シンジ君じゃない!?」

 

「片山さん!片山さんも買い物ですか?」

 

「えぇそうよ、一人暮らしでも減るもんは減るし」

 

レイ達に声を掛けてきたのは同じアパートで暮らしている

片山さん。使徒襲来以降疎開が進んだ第三新東京市で

一般人ながらも暮らし続けている自称変人の女性だ。

こうしてレイ達とスーパーマーケットで顔を合わせるのも

片手では足りないくらいになっている。

 

「貴女…ひょっとしてレイちゃん!?」

 

「こんにちは片山さん」

 

片山さんは目を丸くして驚いている。何せ元々シンジと

かなり似た顔付きをしていたレイが茶髪になったことで

更にシンジとそっくりになったのだから。

 

「ほんとに姉妹じゃないの?2人は」

 

「ええ」

「そうですよ。それと片山さん僕は男ですって」

 

片山さんは分かっていると言いつつシンジのことを

ずっと女の子として扱っているのである。

2人は黒のズボンに白系のパーカーというラフな格好だが

それでもシンジも含め美少女にしか見えないとのこと。

 

「私達残留組の間では貴女達話題になってるのよ」

 

片山さん曰く、歳に合わないくらい家庭的な美少女2人が

ロボットのパイロットとして街を守ってくれていると

そう話題になっていたらしい。

 

「君たち2人を仲良し姉妹と見るか百合ップルと見るかで

揉めてたりするのよ、残留組の間では」

 

「え"っ…なんですかソレ?」

 

自分の知らない所で意味のわからない揉め方をされていた

ことにシンジは軽く引いている。

 

「私とシンジはカップルです」

 

「へぇ~!百合ップルって訳ね!」

 

レイが素直にシンジとの関係を伝えると、片山さんは

以前ミサトらもしていたニヤニヤした表情に変わった。

レイはその表情にいったい何の意味があるのか

百合ップルとは何を指すのかまでは分からなかった。

ただ、シンジはなにやら呆れたような表情をしていた。

 

「それじゃ私は私で探してる物があるから」

 

「…また会えるといいですね」

 

シンジとレイは片山さんと別れ買い物を再開した。

2人が買い物を終えて家に帰る頃には、セミの鳴き声に

ヒグラシの声が混ざり始めていた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

シンジとレイ、そしてミサトも帰宅した日暮れ時の

葛城家のキッチンには楽しそうに料理を作る声が響く。

丁度いい時間にミサトが帰ってきたので3人で夕食を

作ろうかと相成ったのである。

 

「レイはそのレシピ通りにごま和えを作っておいて」

 

「ほうれん草とひじきを?…軽く茹でる」

 

シンジがハンバーグや味噌汁の準備をしている間に

レイはほうれん草とひじきのごま和えを作っていく。

ニンジンや油揚げの下準備も簡単なため

料理にまだ慣れていないレイでもサクサク作れる。

 

「ミサトさんもこれをお願いしますね」

 

「シンジ君のレシピ、勉強になるわね~」

 

ミサトが作り始めたのはレタスの和風サラダだ。

独自で作らせると壊滅的な料理が出来上がるミサトだが

今回はシンジのレシピがある。その内容はレタスを切って

醤油やサラダ油と混ぜ、かつお節と刻み海苔をかける

とても簡単なものだ。分量もしっかり書かれているので

まず失敗することは無い。

 

「シンジ君、ハム大丈夫なの?レイは」

 

「他ならぬレイからのリクエストですよ」

 

「シンジの料理は美味しいから」

 

レイは肉が苦手だったが、シンジの美味しい料理をもっと

沢山食べたいからと肉嫌いを克服しようとしていたのだ。

サラダには小さく刻んだハムが入っているし

今日のメインである豆腐ハンバーグも豆腐の割合は

7割ほどで残りは普通の肉で作られている。

 

「あ"~っ、やっぱシンジ君の手料理とお酒は最高ね!」

 

「相変わらずですねぇミサトさんは…」

 

「ハンバーグ、美味しい…!」

 

「グワーッ!クワックワッ!」

 

料理をつまみながらお酒をガンガン飲むミサトと

黙々と彼氏の手料理を味わうレイ、料理をガツガツと

食べながらビールをストローで飲むペンペン

そしてミサトに軽く呆れつつ笑顔で料理を食べるシンジ。

これがいつもの葛城家の夕食である。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

夕食の片付けを終えたシンジは部屋へ戻り、パソコンを

開いて第2の職場NERV技術局へと連絡を取る。

 

「時田博士、この前の装甲板の問題点を見つけましたよ!

改良版の設計書をメールに添付して送りますから」

 

『あの特殊装甲板の件かい?助かるよ!アドル君も色々と

改良してくれていたんだが進まなくてねぇ!』

 

「リツコさん、フィールドの攻撃転用って進みました?

僕の方はまだあと一歩が詰められないんです」

 

『それなら完成させておいたわ。シンジ君達のデータから

色々調整を重ねてあるから実戦でも使えるハズよ』

 

こうして毎晩NERVの技術局1課・2課と情報交換を行い

エヴァや本部の改良に大きく貢献していたのだ。

ジオフロントと第三新東京市の間にある特殊装甲板は

24層あるうちの16層が新型のものへ差し替えられており

下側8層は更に新しいものへ差し替えられる予定だ。

 

エヴァのATフィールドも偏向制御装置の改良が進められ

フィールドそのものを武器として使える程度にまで

仕上げられている。使徒の強固な守りを簡単に砕ける

必殺の刃として信頼の置ける武器となるだろう。

 

 

 

「シンジ、一緒にお風呂どう?」

 

「えっ!?…急にどうしたの?」

 

この時間はリビングで本を読んでいることの多いレイが

凄まじい爆弾発言とともに突如乱入してきたのだ。

シンジは落ち着いてレイに理由を聞きにかかる。

 

「これを使えば一緒に入っても大丈夫ってミサトさんが」

 

『ぶはっ!』

『レ、レイ!?』

 

2人の色恋沙汰によく首を突っ込んでくるミサトだったが

まさかここまでするとは、とシンジは驚く。

レイが手に持っている(0.01mm)の使い時を考えれば当然である。

通信越しの時田とリツコも驚きが隠せていない。

 

「それの使い道…分かってる?」

 

「…分からない」

 

やはりレイは手に持つ物が何なのか知らないようだ。

シンジは後でミサトに小言を言うことを決定事項とし

レイの持っているモノを回収する。

 

「何というか…すみません」

 

『あ、あぁ見なかった事にするよシンジ博士』

 

『…ミサトには私からも言っておくわ』

 

これ以上は特に報告することも無い、ということで

技術局との情報交換会はここでお開きとした。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

まだ10時も回っていないというのにシンジはレイと共に

ベッドに横になっていた。一緒にお風呂が無理ならと

レイはシンジに早めの添い寝を要求していたのだ。

 

「シンジの体…温かいわ」

 

レイはこうして毎晩シンジに抱きしめてもらいながら

寝ている。交際初日にしてもらった抱擁の温もりが

忘れられず毎晩抱きしめてもらっているのだ。

 

「……………」

 

シンジも無言でレイの頭を撫でている。

しかしやはりあの一件の後では悶々としてしまって

思うように寝付けなかった。女装しているからといって

女の子との恋愛に興味が無い訳ではない。

 

「すぅ………すぅ………」

 

「…これくらいはいいよね」

 

シンジは眠りに落ちたレイの唇をそっと奪った。

浅間山の旅館で初キスを交わしてから何度かしていたが

シンジからキスをしたのは何気に初めてだった。

 

 

 

──翌朝シンジの目元には深いクマが出来ていたとか。

 

 

 

                      つづく




これ以降レイがたまに茶髪で登場するかと。
本筋の方では基本的にいつものレイですが
日常回には茶髪で出すと思います。

2人が着ていたのはGUとのコラボイラストに
描かれていたもの。2018のものです。

2万UA到達しました、ご愛読感謝感激です!


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アスカとマリの日常


めちゃくちゃ難産だったアスカ&マリ回
お待たせいたしました!
ガバってないか心配です…


 

 

 

──第三新東京市、繁華街。

 

「ホント日本のサブカルって飽きないわよね」

 

「漫画にゲームに食べ物に、色々あるからにゃ~」

 

先程コンビニで買った飲み物を片手にアスカとマリは

ある場所を目指して歩いていた。アスカは来日して以降

日本のサブカルチャーを色々と漁っていたのだ。

今日2人が向かっているのはゲームセンター。

 

「相っ変わらず視線すごいわね…」

 

「ゲーセンだともっとじゃないかにゃ?」

 

「げっ、マジ?」

 

抜群にスタイルの良い美少女が2人並んで歩いていたので

街ゆく人々からの視線が物凄く集まっている。

それに愚痴るアスカだったが、マリがそう言った通り

ゲーセンは若者が集まる場──視線に込められる思いは

より濃くなることだろう。

 

「あのクレーンゲーム、まだあるわよね…?」

 

「ゲットされてなきゃまだあると思うよん」

 

アスカは以前ゲーセンの前を通りかかった時に見かけた

ぬいぐるみをぜひ取りたいと思っているのだ。

 

 

 

「おっ…まだあるじゃない!私が取ってやるわ!」

 

「クレーンゲームは難しいから頑張ってね、姫~♪」

 

中にお目当ての景品がまだ残っていたのを見かけ

アスカは早速とばかりに100円玉を取り出して放り込む。

あるアニメのキャラクターのデフォルメぬいぐるみで

メガネと蝶ネクタイが特徴的な少年を中心に

色々なキャラクターがラインナップされている。

 

「………ぐあっ!?何よコレ、難しすぎじゃない?」

 

「クレーンゲームはこうだからね~」

 

アスカが狙っていたのは赤いスカーフを首に巻いた

グレーの子供ライオンのぬいぐるみだったが

クレーンのアームはぬいぐるみを手放してしまう。

 

「くっ…もう一回よ!」

 

アスカは負けじと再びクレーンゲームに挑戦するが

何度かやっても獲得に至ることが出来ない。

 

「ちょっと貸してみ~」

 

マリもゲームの攻略に参加し出費を重ねること千数百円

アスカのお目当てはなんとか手に入れることに成功した。

財布に沢山用意していた100円玉はまだ残っているが

両替機のお世話になっており千円札が2枚消えている。

 

「思ってた以上の出費だわ…取れたからいいけど」

 

「アレは子供の頃から変わってないんだにゃ~」

 

クレーンゲームへは下手に手を出さないと心に決めた

アスカは新たなゲームを求めてゲーセンの奥へと

足を踏み入れる。

 

 

 

アスカが目をつけたのは足踏みでリズムを刻む

音ゲーの1種。数ヶ月前に稼働し始めたばかりの新機種

DD・Evolutionである。

 

「マリ!リズムワンテンポ遅い!」

 

「姫のリズムが少し早いー!」

 

こう言い合う2人だがその足が刻むリズムは傍から見れば

ほぼ完璧としか言いようのないものである。

 

「92点…惜しいわね」

 

「もう一曲いくかにゃ~」

 

基本的に常にトップであることを追い求めるアスカは

92点という点数では満足しない。限りなく100点に近い

数字を出すことを目標としているからである。

 

「「~♪~♪♪~♪」」

 

2曲、3曲と挑戦していくなかでノリに乗ってきたのか

2人は立て続けにハイスコアを更新していく。

ゲーセン内トップどころか全国トップ記録を塗り替え

上書き不可能とも思える記録を残していった。

 

 

 

「次はこいつのスコアを塗り替えてやるわ」

 

アスカが次に選んだのはFPSシューティングゲーム。

筐体に繋がれた専用の銃を持って画面の敵を狙い

倒した敵のスコアを競うゲームだ。

 

「アタシが前衛やるから援護よろしく」

 

「仰せの通りに~♪」

 

アスカが敵をざっくりと片付け、仕留め損ねた敵はマリが

的確に射抜いていく。エヴァのパイロットとして

積んできた経験をフルに発揮した2人はそのステージを

パーフェクトでクリアしたばかりか、こちらもまた

全国記録を余裕で塗り替えるスコアをたたき出す。

 

「次は対戦モード、いくわよ」

 

「受けて立つよん姫」

 

ゲームルールを協力モードから対戦モードへと切り替え

アスカとマリでスコアを競い合うことになった。

 

「さっさと片付けるッ!」

 

アスカは並み居る敵へ素早くダメージを叩き込んで

片っ端から片付けていく。

 

「狙いは外さないよ~ん♪」

 

一方でマリはヘッドショットなどの高スコア射撃を

正確に敵へ撃ち込んでいく。

 

 

 

「ぐっ…射撃じゃアンタには敵わないわね」

 

「一本頂きだよ姫♪」

 

勝てなかったとはいってもそのスコアはかなりの僅差。

ソロ&対戦モードのトップスコアを両者共に上回っており

一位と二位に2人のユーザー名が刻まれたのだった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

NERV本部、シミュレータルーム。

いつもエヴァの操縦訓練などで使っている部屋だ。

午後から訓練の予定が入っていたアスカとマリは

ゲームセンターから2人一緒にここへ来ていた。

 

「ぐあっ!」

 

「やっぱキツいにゃ!」

 

2号機と5号機の前に立ち塞がるのは青い正八面体。

自分たちが戦ったことの無い使徒を相手してみよう、と

サキエルやシャムシエルを相手に戦闘訓練をしていた。

 

「大破判定………正攻法じゃムリってこと?」

 

「だにゃ…ヤシマ作戦しか無いみたいね」

 

2人がやっていたのはラミエルとの真っ向勝負。

使徒を複数体倒した今ならばヤシマ作戦に頼らずとも

ラミエルに勝てるのではないかと挑んだのだ。

 

しかし強すぎるATフィールドと加粒子砲に阻まれ

ロクなダメージを与えられていなかった。

最もダメージを叩き込んだのは至近距離でフィールドを

目一杯中和してポジトロンライフルを撃ち込んだ時だ。

 

「…ちょっと気分転換したいわね」

 

『エヴァと戦ってみるっていうのはどう?』

 

「あー、13番目意識ってことか」

 

リツコが2人に提案したのは機体の稼働データを元にした

各エヴァとの対戦。

 

「順番通り零号機からいきましょ」

 

 

 

リツコが操作するとホログラムが零号機の姿を取った。

手にはパレットライフル、腰アーマーにはハンドガンが

2丁、肩のラックにはスナイパーライフルを装備している。

 

「あたしから行くわ!」

 

「援護するにゃ!」

 

駆け出した2号機に対して零号機はすぐさまライフルで

射撃を開始する。アスカは器用に避けていくがその精度は

一瞬でも判断が遅れれば直撃しかねないものだ。

 

「恐ろしいっ!精密射撃ねッ!」

 

使徒に侵食された状態を想定しているため能力が高く

ライフルの弾数も無限になっている。

 

「突っ込むわ!マリ、援護!」

 

「あいよ~!」

 

撃たれ続けて消耗する訳にはいかないとアスカは

零号機の懐へ飛び込むことを選択する。

 

「姫っ!」

 

「これでプラグをッ!」

 

マリが零号機のライフルを射抜き、武器を切り替える

一瞬のスキをついて2号機がプラグを引き抜く。

 

『零号機ダミー、沈黙』

 

 

 

続いて仮想空間に現れたのはシンジの操縦データが

組み込まれている初号機。

 

「…ちょっと、この動きって」

 

「有利ポジション取りに来てるね~」

 

マップに映っている初号機の反応は素早く移動しており

2号機や5号機を奇襲出来るような位置へ向かっている。

 

「陽動掛けてみるわ」

 

「慎重にね~♪」

 

アスカは細かい判断をマリに任せ、とりあえず初号機と

接触し陽動を仕掛けてみることにしたのだ。

 

しかし初号機は思うようにアスカの陽動にかからない。

2号機が奇襲出来そうな時に5号機の援護がまるで通らず

5号機の射程に入っている時に2号機が来れないのだ。

 

「…シンジに読まれてる?」

 

「地形把握も完璧みたいだにゃ…」

 

初号機はこのビル街マップの地形を全て把握しているかの

ように上手く動いている。

 

「初号機が動いたよ姫!」

 

ついに初号機が動き出した。2号機を狙っているようで

ビル街を縫うようにして走っている。

 

「………待って…狙いマリじゃない?」

 

「…ヤバそうだにゃ」

 

初号機の動きは2号機を狙っているように見えたが

突然コース取りを少し変え、5号機へ向かって走り出す。

5号機は今高いビルの上に居るがその位置からでは

他のビルが邪魔で初号機を撃てないのだ。

 

「おわ~っ!?」

 

「マリ!」

 

足元のビルが初号機によって崩され、5号機が地に落ちる。

 

「姫!」

 

「…分かってる!」

 

5号機は初号機を可能な限り足止めし2号機を待つ。

マリは近接戦闘もこなせるが武装のチョイスが遠距離で

やや初号機に押され気味である。

 

「やるじゃないシンジ!でも…こいつでッ!」

 

「ぐぇ…ナイス姫」

 

5号機と取っ組み合いを繰り広げる初号機を背後から

奇襲しエントリープラグを引っこ抜いたアスカ。

5号機はギリギリ撃破判定を喰らわなかったものの

だいぶダメージ判定を貰ってしまっていた。

 

 

 

「さぁ~て…日頃の鬱憤、晴らさせてもらうわよ」

 

「姫だからって…手抜きはしてやらないにゃん♪」

 

少し休憩を挟み、ついに2号機対5号機の対決が始まる。

マゴロクソードとパレットライフル、プログナイフに

ハンドガンと2人とも同じ武装を持っている。

 

「大人しくやられなさいよッ!」

 

「さっさとくたばるにゃッ!」

 

近距離戦ではアスカにやや分があるが、遠距離戦になると

戦況はややマリの方へ傾く。

マリが引き撃ちを始めるとアスカは射撃の癖を読んで

懐へ一気に飛び込む。

お互いに癖を知っていたり考えが読めたりするので

それぞれ一歩も引かない熾烈な戦いになっているのだ。

 

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…ここらで切り上げない?」

 

「はぁ…はぁ…賛成だにゃぁ」

 

結果は両者ともに体力切れで引き分けだった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──アスカ&マリ宅。

2人は宅配ピザのチラシを広げ、食べるピザを選んでいた。

 

「マリ、なんか良いのあった?」

 

部屋着に着替えたアスカがリビングへ戻ってくる。

模擬戦が白熱したせいで想像以上に体力を消耗したし

夕食は豪華にいこうとアスカがピザを提案したのだ。

 

「クォーターでも食べる~?」

 

「あ、良さそうね」

 

2人でそれぞれピンと来るクォーターピザを探していく。

 

「姫はどれにする~?」

 

「う〜ん…これかしら」

 

2人はそれぞれ異なるクォーターピザを選び、ピザ屋に

注文の電話を入れる。到着までは10分ほどかかるとの

ことだったのでその間に他の準備を進めていく。

 

 

 

「あ、そういや姫。これ渡しとくよん」

 

「何コレ…2号機の仕様書?」

 

取り皿やコップを並べ終えたマリがアスカに手渡したのは

極秘と書かれたエヴァ2号機の仕様書だった。

自分の持っている仕様書と何が違うのかざっと目を通す。

 

「こんな機能があたしの2号機に…」

 

細かいバージョンアップの情報も纏められていたが

何よりアスカの目に留まったのは新しいシステムの情報。

エヴァの攻撃能力を格段に引き上げるためのシステムが

2号機に試験的に搭載されていると載っていたのだ。

 

「随分危なっかしいモンよね、これ」

 

「ハイリスク、ハイリターンだね」

 

仕様書によればそのシステムは精神汚染のリスクも高く

非常に危険なものだがそれに見合う攻撃力と機動力を

手に入れることが出来るとのことだった。

建造当時から組み込まれていたようで、この改良型が

4号機にも搭載される予定だったらしい。

 

ピンポーン!

 

注文の品の到着を告げる音がリビングに響いた。

 

「ピザも来たし、パーッとやるわよ!」

 

「使徒も強くなるだろうからにゃ~」

 

2人は宅配員から受け取ったピザをテーブルへと広げ

全ての味を1切れずつ自分の皿に取り分けていく。

クォーターピザを2種類頼んだので8種類の味をちょうど

1切れずつ味わえるという寸法だ。

 

「手軽でいいもんね、宅配ピザって」

 

手軽で美味しい宅配ピザを堪能するアスカ。

シンジの作る料理には及ばないが、電話で注文するだけで

自宅まで届けに来てくれるのはとても便利である。

 

「私らだけじゃ、モグモグ…作れないもんね~」

 

ピザを頬張りながらマリがそう呟く。

レイやヒカリ、マヤなどと一緒に料理を教えてもらって

いる2人だがピザを作るのはとても骨が折れるのだ。

 

 

「そういえばさ、姫は彼氏とか作らないの~?」

 

「なっ、なによ急に!?」

 

不意に飛んできた質問にアスカは思わず顔を赤くする。

 

「ゼーレの少年はともかく、モグ…恋人持ちじゃないの

私らだけだな~と…モグモグ…思ってさ」

 

シンジとレイは言うまでもないが、トウジとヒカリも

恋人同士でしか出せない雰囲気を纏う時があるのだ。

 

「シンジっていう手も無くはなかったんだけど…

あのレイからシンジは奪えないわよ」

 

初対面の頃のレイは基本的にずっと無表情だったが

シンジと居る時だけは人が変わったように眩しい笑顔を

浮かべているのを何度か見かけていたのだ。

それがどれほど彼女にとって至福の時なのかは

アスカにも分かっていた。

 

「ま、恋人はしばらくはいいわ。1人の良さもあるし」

 

「ワンコ君も時々振り回されてるもんね~」

 

自分のペースで活動したいアスカとしては、下手に恋人を

作って中途半端な男に振り回されるぐらいなら

使徒との戦いが片付いた後じっくり探せばいいだろう、と

結論づけていたのだ。

 

 

「あ姫、その味貰っていい?」

 

突然の要求にアスカは渋い顔になる。その味をあげるのは

構わないが自分の食べる分が減るのは困るのだ。

 

「………それと交換ならいい」

 

アスカはマリの取り皿に残っていたピザから自分の好きな

味を見つけ、それと交換だと告げる。

 

「う~…仕方ないにゃ!」

 

マリはかなり悩んだが渋々その要求を呑むことにした。

しれっとアスカからピザを1枚頂くという目論見は

失敗に終わってしまったのだった。

 

 

 

──つかの間の平穏を楽しむ少女2人の小さな宴は

この後も夜遅くまで続いたとか。

 

 

 

                       つづく




次回からいよいよゼルエル編となります


うつ症状が少し悪い方へ傾いてましてね
書き溜めも無いので次回も遅くなるかと…
気長にお待ちくださいm(_ _)m


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最強、襲来

ゼルエル君襲来、前編です。

コメントありがとうございます!
応援パワーを貰って頑張りました!


 

 

──NERV本部司令室。

 

「要塞都市の強化プランはどうだシンジ?」

 

「予定通りの進行だよ。新型装甲板への差し替えも順次」

 

シンジとゲンドウは次の使徒に備えて、本部や要塞都市の

迎撃設備などを徹底的に強化するプランを実行していた。

その強度は凄まじく、ラミエルの全力の加粒子砲でさえ

難なく受け止められるとの試算が出されているほどだ。

 

「N2バックパックに関しては?」

 

「うん、そっちも進めてあるよ。実験のデータ取りは

レイとリツコさんに頼んであるから後で聞いておいて。」

 

エヴァの電源まわりの強化も進めてあり、その稼働時間は

内部電源のみでも15分、N2リアクター内蔵バックパックで

実質無制限になるというレベルにまで達していたのだ。

 

「時田博士、マステマの完成度合いはどうだ?」

 

「N2ミサイル以外は今からでも使えますよ」

 

今ここに居ないリツコの代わりに時田が現状を答える。

新たに全領域兵器マステマとビゼンオサフネが実用化。

対フィールド特化型のプログダガーも開発されており

サキエル程度なら苦もなく退けられる戦力が揃っている。

 

「回してもらった予算で対人面も強化していますよ」

 

「資材の方もエヴァの余剰分を回させよう」

 

実はここNERV本部は人類の未来を担う組織としては

違和感が残る程侵入者要撃のための予算が下りないのだ。

今のところ大きな被害は以前あった停電くらいで

済んでいるが今後それ以上の被害が無いとは限らない。

ゲンドウはエヴァの修繕費などから浮いた分を一部

そういった対人設備の予算へと回していた。

 

「第3基部の方はどうする?僕としては欲しいとこかな」

 

「メインシャフト直上か…そうだな、予算を回そう。」

 

ここまでシンジとゲンドウが大きな被害も無く使徒を

撃退してきたためか、ゼーレはかなり機嫌が良いようで

使徒迎撃用の予算に関しては融通が利いたのだ。

 

「加持監察官、各支部の様子はどうだ?」

 

「これがデータを纏めた書類です。どうぞ」

 

「これは…」

 

加持から手渡された書類を見た一同は顔をしかめる。

そこに記載されていたのは9体の量産機の建造計画と

それとは別にエヴァの素体が4体分ドイツ支部へ極秘で

搬入されていたという報告だった。

 

「S2機関…厄介なことになりそうだね」

 

量産機に使われる動力源がなんとS2機関だというのだ。

シンジ達NERVはいずれゼーレに刃を向ける気でいるが

その場合、この量産機たちは倒さねばならないのだ。

ドイツに運び込まれた4体がどうなるかも気になる所だ。

 

「既存のエヴァの強化を急がねばな…」

 

「僕もしばらく働き詰めになりそうだなぁ」

 

「我々もお手伝いしますよ、シンジ博士」

 

司令室に集った面々は揃ってしかめっ面をしながらも

ゼーレと本格的に事を構える覚悟を決めなおす。

 

 

 

ピーッ、ピーッ

 

「私だ」

 

『旧小田原防衛線からの連絡が途絶えました』

 

ゲンドウの元へ突如入った連絡は、第三新東京市の東側の

旧小田原付近に敷かれた防衛線が壊滅したとの報だった。

 

「総員、第一種戦闘配置だ。我々も発令所へ向かう」

 

『了解』

 

「…第14使徒だね」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「冬月、今戻った」

 

すでに本部のセンサーはパターン青を捉えており

エヴァの発進準備を含め着々と戦闘準備が進められる。

主モニターにはここへ向けて侵攻する使徒の姿が

ハッキリと映し出されている。

 

「最強の拒絶タイプ…破壊力は想像したくないな」

 

黒い帯を包帯のようにぐるぐる巻きにした繭のような体に

サキエルらとは少し違う恐ろしさを感じさせる様な形状の

仮面を付けただけという変わった風貌をした使徒──

「第14使徒ゼルエル」だ。

 

「通常攻撃には目もくれず、か」

 

冬月がそう言ったようにゼルエルは無数の迎撃設備や

国連軍の戦闘機からの砲撃に一切反応をしていない。

悠々と空を飛び侵攻する姿には覇気すらも感じられる。

 

 

 

カッ!!!

 

ズドォォォォーーーンッ!!!

 

ゼルエルの双眸が輝いたかと思ったその瞬間、要塞都市の

ど真ん中から凄まじい光の柱が立ち上る。同時に凄まじい

爆発も巻き起こり、迎撃設備はいとも容易く消し飛んだ。

ただの巻き添えだというのに被害は甚大だった。

しかし、NERV職員を震え上がらせたのはそちらではなく

ゼルエルが狙っていたものの損壊報告、第三新東京市と

ジオフロントを隔てる特殊装甲板の損壊報告だった。

 

「第1から第9番までの特殊装甲板、損壊!!」

 

「あれほど強化された装甲が一瞬で9枚も…!?」

 

1枚だけでも凄まじい防御能力のある強化型装甲板が

まとめて9枚も貫かれたのだ。信じられない程の高火力を

ゼルエルが有しているという何よりの証拠だった。

さらに言えば強化された装甲板はあと7枚しかない。

通常の装甲板もあと8枚残ってはいるがあの高火力では

下手すれば次で抜かれてしまう。

 

 

『時田さん!残った装甲板のPS層の電圧を最大に!!

ラミネート層の排熱へも電力を回してください!

そうすればまだ耐えられます!』

 

エヴァの配置を進めていたシンジから大声で通信が入る。

地上迎撃は間に合わないと見たミサトの指示を受けて

ジオフロントへのエヴァ展開を進めていたのだが

まだ準備が整っておらず、今侵入されると厄介なのだ。

 

「あ、あぁ!損壊した層のリアクターからも電力を回せ!

目いっぱいだ!」

 

 

 

カッ!!!

 

ズドォォォォーーーンッ!!!

 

時田の指示で装甲板の機能がフル稼働を開始した瞬間

ゼルエルの第二射が放たれた。

 

「特殊装甲板、第15番まで損壊!!」

 

装甲板は多少の余裕を残して耐えることが出来ていた。

もう一射されればジオフロントへの侵入を許してしまうが

シンジ達もエヴァの準備を整えることが出来ていた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「さてと、これで準備は整ったね」

 

地面にずらりと並べられたコンテナからそれぞれの武装を

取り出して装備した6人。近接戦闘を仕掛けることになる

初号機と2号機、3号機の背中にはN2バックパックが

取り付けられている。

 

 

「さぁて、顔出した瞬間ぶち抜いてやるにゃ♪」

 

「…撃ち抜く」

 

強敵を前にして昂っているのかマリはパレットライフルを

天井の都市へ向けて待ち構えている。

レイもそれに倣ってスナイパーライフルを構える。

 

 

「あないなヤツ、ワシらで何とか出来るんか?」

 

「ら、らしくないじゃない鈴原」

 

トウジとヒカリもそれぞれ武器を構えてはいるが

初陣で凄まじい強敵が現れたからかかなり緊張している。

そんな様子を見たアスカは2人へ声をかけた。

 

「ヒカリ、ジャージ、先輩パイロットの私から命令よ!」

 

「な、なんや惣流急に!」

 

"先輩からの命令"という普段よりさらに高圧的な口調で

指示が飛んできたことにトウジは驚いて聞き返したが

アスカから出された指示は2人を気遣ったものだった。

 

「死なないこと。いいわね?」

 

「お、おう、せやな」

「…うん、分かったよ惣流さん」

 

このやり取りで2人の緊張はほどよく解れていた。

トウジはスマッシュホークを、ヒカリは軽量型ESVと

ハンドガンを構え直す。

 

 

 

…ズドォォォォーーーンッ!

 

「来た!」

 

天井の都市から大爆発が起こり、ビル群がガラガラと

ジオフロントの大地へと落ちていく。

瓦礫が飛び散るなか、ついにゼルエルがジオフロントへと

顔を出した。巻きついていた黒い帯が解かれており

ヒラヒラと棚引いている。

 

『攻撃開始!』

 

ミサトの指示で6機が持つ遠距離武器が一斉に火を噴く。

スナイパーライフルが、パレットライフルが、バズーカが

ハンドガンが。無数の弾丸が雨あられのようにゼルエルへ

向かって飛んでいく。

 

「N2ミサイル、いっけぇッ!!!」

 

初号機の握るマステマからはN2ミサイルが発射される。

 

それに対してゼルエルが取った行動はATフィールドによる

防御。通常の弾丸ならあっさり弾き返せるだろうが

シンジが放ったN2ミサイルはそう簡単に防ぐことは

出来ないだろう。

──それが1枚であれば、だが。

 

「フィールドを複数枚!?」

 

ドォォォォーンッ!!!

 

ゼルエルはATフィールドをこちらへ押し出すようにして

複数枚展開して弾丸を弾き返しつつ、自身から離れた

場所でN2ミサイルを爆発させてみせたのだ。

 

「こんのォッ!」

 

「まだまだいくにゃッ!」

 

ライフルやバズーカを連射してもフィールドを押し返す

程度で無数に展開されたフィールドを破ることは

まるで出来ていなかった。

 

「アスカ!切り込もう!」

 

「了解!狙うはコアのみッ!」

 

遠距離武器が効かないと見るやいなやシンジとアスカは

近接武器に持ち替えてゼルエルへ突撃する。

ゼルエルは射撃を防御するのに気を取られているようで

初号機や2号機へ攻撃する様子は無い。

 

「うおぁーッ!」

 

「食らえーッ!」

 

磨きあげられた戦闘センスを活かして懐へ飛び込んだ2人。

初号機の持つマステマと2号機の持つビームグレイブが

ゼルエルのコアを捉えようとした瞬間だった。

 

ガキィンッ!!

 

「なっ!?コアを…ぐあっ!」

 

「防いた!?きゃぁっ!」

 

コアの両脇から生える爪のような部位を使ってガードし

ダメージを防いただけでなく、フィールドを瞬時に展開し

初号機と2号機を吹き飛ばして見せたのだ。

 

「帯が!ヤツの帯が巻き取られていくで!?」

 

迫り来る2機を弾き返したゼルエルは自らの黒い帯で

最も長い一対をくるくるとロール状に巻きとっていく。

攻撃のための行動だというのは何となく想像がつくが

それを一体どうやって攻撃に使うのかまではまるで

想像がつかなかった。

 

…バシュゥッ!!

 

「「!!!」」

 

巻き取りが終わった瞬間、零号機と5号機を目掛けて

その帯を打ち出したのだ。自分が狙われていることに

気付いたレイとマリはすぐにエヴァを回避させる。

 

「…ライフルが…!」

 

「いててっ…危ないことしてくれるにゃァ…」

 

零号機も5号機も回避には成功したが持っていた得物は

紙っぺらのように真っ二つにされ、零号機は左腕に

5号機は脇腹に浅くない切り傷を負っていた。

 

「まだ打つ気よ!」

 

ゼルエルは打ち出した帯を再び手元へ戻すと今度は

やけに動きが鈍い2機へ狙いを変更する。

 

「トウジ!委員長!避けろッ!!」

 

バシュゥッ!!

 

「のわ~ッ!?」

 

「ガードっ…あうぅっ!」

 

トウジはすんでのところで回避に成功し、ヒカリは

ESVシールドで受け止めることに成功していた。

しかし4号機は受け止めた時の衝撃でぶっ飛ばされてしまい

両肩のウェポンラックが破損し使えなくなっていた。

 

「今度はこれで行くか…にゃッ!」

 

「アタシも行くわ!」

 

アスカとマリがコンテナからサンダースピアを取り出し

ゼルエルへ向かって駆け出す。帯を使った攻撃には

多少なりともインターバルがあるため、2人であれば

それを回避しつつ突撃することが可能だった。

 

「援護するよアスカ!」

 

「私もいくわ」

 

突撃したマリとアスカに狙いが向かないようにシンジは

マステマの射撃で、レイは2丁のパレットライフルで

攻撃を行いゼルエルの気を引こうと動く。

 

「ワシも陽動行ったるで!」

 

3号機もスマッシュホークを両手に持って走り出し

アスカ達とは別の方向からゼルエルへ接近する。

 

これらの陽動は多少の効果を発揮したようで、ゼルエルは

その帯を誰に打ち込むべきか迷ったのか帯を使わずに

フィールドによる防御を選んだのだ。

 

「「フィールド中和効果全開!!」」

 

2号機と5号機がフィールド偏向を起動して飛び上がる。

 

「「うおりゃァァァーッ!!」」

 

 

ガキィィィーーーンッ!!!

 

ゼルエルはフィールドを一点集中させてガードしたが

エヴァ2機が全重量と落下エネルギーをかけた一撃は

凄まじい衝撃だったのか地面へとめり込んでいた。

 

「ゼロ距離ならばっ!」

「ペンシルロック!」

 

2機の両肩からニードルガンが発射され、計24発の弾丸が

ゼルエルのATフィールドに打ち込まれる。

 

「「!!」」

 

打ち込まれたニードルは全てフィールドで受け止められ

サンダースピアのバヨネットもフィールドを貫くことは

出来ていなかった。

そればかりか、ゼルエルはフィールドを器用に使い

2機を吹き飛ばそうと構えている。

 

「2度も食らってたまるもんですか…ッ!!」

 

「おわ~っ!?」

 

先程同じ攻撃を食らっていたアスカは間一髪で飛び退き

吹き飛ばされずに済んだが、マリは見事に吹き飛ばされ

ビルの瓦礫に叩きつけられてしまった。

 

「マリ!上ッ!!」

 

「……ヤバっ!?」

 

ゼルエルは追撃の手を止めようとはしない。

吹き飛ばされた5号機の上空へATフィールドを展開し

そのまま5号機へ振り下ろしたのだ。

マリは5号機をすぐに飛び退かせたことで

潰されるのは免れたが、先程まで5号機がいた所には

ぽっかりと大穴が開けられていた。

 

「くっ…やってくれるじゃないの」

 

「んにゃろ~何てヤツ…!」

 

ここまで何度か連携も交えてゼルエルへ攻撃しているが

ダメージを負ったのはエヴァ側のみであり、ゼルエルには

まだロクな傷すら付けられていなかった。

 

「取り敢えずあの帯を切り落としたい所だね…」

 

「そうは言うてもなセンセ、落とせるモンなんか?」

 

光線を使ってこないのには謎が残るものの、ゼルエルの

主な攻撃手段は帯を使った攻撃である。それを切って

封じてしまえればあとはフィールドを破るだけだ。

ただ、容易に実行出来る作戦とはとても言えなかった。

 

『さすがは力を司る使徒…僕がこのまま出ていっても

勝てるかどうか怪しいなぁ』

 

発令所のカヲルも難しい顔をしていた。彼が第1使徒と

同等の存在だといっても人の姿をとっているせいか

絶大な力を誇るゼルエルに勝てるとは限らないらしい。

 

 

 

「………仕方ないわね。マリ、"アレ"を使うわ」

 

6機がかりで傷1つつけられないというあまりの劣勢に

アスカは自身の持つ切り札を切る覚悟を決めていた。

 

 

 

                      つづく




ここまで6機がかりでノーダメージです。
決着は次回!

PS層とラミネート層…ええ、SEEDのアレです。
PS装甲は宇宙でしか作れないそうですが
擬似的な何やかんやで簡易版を作らせました。

ドイツ支部へ搬入された4機に関しては
正体判明はもう少し先になります。


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The Beast

ゼルエル戦後半です!

キリが良いので少し短め。
トウジの関西弁が地味に難しい…

30000UA突破感謝ですっ!



 

「………仕方ないわね。マリ、"アレ"を使うわ」

 

アスカが使おうとしている"アレ"が何なのかはさすがの

シンジでもまるで予想がつかなかった。

この状況を打開出来る可能性を秘めたモノであることは

予想出来ていたが。

 

「…僕らはあの帯とコアのガードを何とかしよう」

 

たとえそれがどんなモノであってもシンジのやる事は

変わらない。すぐさまアスカを援護するための策を練る。

 

「伸ばして来るんは一番長いヤツだけみたいやで?」

 

「押さえ込んでぶった切ってやるかにゃ~」

 

マリは5号機のフィールド偏向を最大出力で起動し

プログダガーへと集束させる。フィールドを多少張っても

ゼルエルの火力の前では紙っぺらも同然である以上は

フィールドを攻めに用いるのが正しい判断だろう。

 

 

 

「モードチェンジ!裏コード…『ザ・ビースト』!!!」

 

 

 

アスカが音声認識を起動させ、専用のキーワードを叫ぶ。

その直後、2号機の肩と腰のウェポンラックがパージされ

水色の制御棒らしき物が両肩から2本ずつ飛び出す。

 

「2号機…ママ…ッ!ぐうっ…本気でやるわよ!」

 

続けて背中側の装甲もパージされ制御棒が複数本飛び出し

腕の長さなどといった体型が獣のように変化していく。

 

『エヴァに…こんな機能が!?』

 

『プラグ内、モニター不能!危険すぎます!』

 

プラグ深度が汚染区域に突入しているのはほぼ確定的で

先程からアスカの声に呻き声が混じっていることから

非常に危険な状態であることは容易に分かった。

しかしシンジは、アスカの覚悟を無駄にしないためにも

冷静になって指示を飛ばす。

 

「トウジ!僕と一緒にコアのガードを剥がすぞ!」

 

「ィよっしゃ、やったるで!」

 

「レイと洞木さん、マリさんで帯の対処を頼む!最悪でも

長い帯2本は封じ込めておいて欲しい!」

 

「「任せて!」」

 

「合点承知~♪」

 

シンジが指示を出し終えた辺りで2号機も変化を終える。

顎部拘束具を自ら引きちぎって鋭い牙の並ぶ口を開くと

ゼルエルへ向かって大きく吠える。

 

「だあァッ!!!」

 

「作戦開始だっ!」

 

アスカの叫びと共に2号機がゼルエルへ飛びかかっていく。

続いて初号機が備前長船を、3号機がマゴロクソードを

手に取ってゼルエルのもとへ駆け出す。

零号機と4号機、5号機はそれぞれ散るように駆け出し

帯攻撃を封じるべくチャンスを伺う。

 

「食らえーーッ!!」

 

ゴォーーーンッ!!!

 

一斉に動き出した6機のエヴァに対してゼルエルが取った

行動はまたもや防御。しかし形態変化した2号機を脅威と

見なしたのか、凄まじい数が重ねられたのATフィールドで

完全に防ぎにかかったのだ。そのあまりの分厚さゆえか

攻撃を受け止めた時の音もかなり鈍いものになっていた。

 

「でやァッ!!!だあァッ!!」

 

バリーンッ!バリーンッ!

 

しかし2号機は1枚でも手を焼いていたATフィールドを

拳を叩きつけるだけで次々とかち割っていく。

フィールド偏向制御を中和モード最大出力で両手のみに

展開しているため、2号機の拳はゼルエルの強固すぎる

ATフィールドであっても易々と破壊出来るのだ。

ゼルエルもフィールドを猛烈な勢いで再展開しているが

勢いはやや2号機にある。

 

「切り込むぞトウジッ!」

 

「鍛え上げたワシの力見せたるでッ!」

 

ゼルエルとの力量差を考えればこの2号機であっても

帯攻撃なりATフィールドなりで退けられてしまいそうだが

これほどの攻勢を保って居られる理由は、隙を突いて

攻撃を仕掛けている残りの5機のエヴァにあった。

 

「逃げんなオラァ!」

 

「洞木さんそっちへ行ったわ」

 

「今度こそ捕まえるっ」

 

ここまでゼルエルが主力技として使っていた長い帯は

零号機と4号機、5号機がずっと追い回し続けており

巻き取ろうとした瞬間を狙って攻撃することで

帯による攻撃の準備を行わせないようにしていたのだ。

さらに初号機と3号機がコアのガード剥がしを狙って

連続で切り込んでいくため、ゼルエルは2号機への対処を

ATフィールドのみで行わざるを得なくなるのだ。

 

──ゼルエルの攻撃手段が帯による攻撃のみなら、だが。

 

 

「ここだっ……ッ!?」

 

カッ!!!

 

 

 

「あ"あぁァあぁッ!!!」

 

ゼルエルはついに怪光線という切り札を切った。

狙われたのは最もゼルエルまで接近してきていて

防御の甘かった初号機。

 

『シンジ君!』

 

狙われた初号機はかろうじて怪光線の直撃は免れたが

その左腕は肩口から綺麗に消し飛んでしまっていた。

発令所ではミサトが思わず心配の声をあげる。

 

「ぐっ…があっ…まだだァッ!」

 

しかしシンジと初号機は折れることなく立ち上がる。

片手を失ったことで持ちにくくなった備前長船を投げ捨て

腰からプログダガーを取って再び駆け出す。

 

「負けて…らんないのよッ!アンタなんかにィッ!」

 

アスカも瞳に宿す緑色の輝きをより一層強めると

ATフィールドの防御を解いたゼルエルに突撃する。

ゼルエルは間一髪でフィールドを再展開するが

2号機がフィールドを破る勢いは先程よりも増している。

 

「コイツで釘付けにしてやるにゃッ!」

 

ついに長い帯が1本封じられる。5号機のサンダースピアが

地面ごと帯を貫き釘付けにしたのだ。凄まじい力を以て

引き抜こうとするゼルエルだったが5号機が全重量を掛けて

地面へ押さえ付けているため、中々引き抜けていない。

 

「この帯は…もうしばらく足止めさせてもらうにゃん♪」

 

腰のプログダガーとプログナイフを手に取り、さらに帯へ

突き刺していく。2号機が投げ捨てていたビームグレイブも

おまけにと突き刺した結果、ゼルエルの帯は文字通り

地面に縫い付けられてしまったのだ。

 

「洞木さん!」

 

「うん!もう一本を!」

 

ヒカリは軽量型のESVシールドを上手く使って帯を弾きつつ

レイと共にもう一本の帯を追い詰めていく。

零号機と4号機が残った帯を捕らえるのも時間の問題だ。

 

カッッ!!!

 

「ッ!?…ちぃッ!」

 

ゼルエルはいい加減鬱陶しくなったのか2号機へ向けて

怪光線を放ったが、アスカは反射神経も鋭くなっており

脚部装甲が少し溶けた程度で回避に成功する。

 

「逃がすかァッ!!」

 

ATフィールドを解除した一瞬のスキを突くべくアスカは

2号機を数回横っ飛びさせゼルエルの懐へ一気に飛び込む。

 

ゴォーーーンッ!!!

 

「まだまだァッ!」

 

最初はATフィールドにしがみついて攻撃していたが

今は2号機の足がしっかりと地面についている。

踏ん張りを効かせたことで限界まで力が乗ったその拳は

凄まじいスピードでATフィールドを割っていく。

 

カッ!!!

 

「それは通じないっつってるでしょうがァッ!」

 

何度も怪光線を放ち2号機を引き剥がそうとするが

研ぎ澄まされていくアスカの戦闘センスは怪光線の回避を

より洗練されたものへ昇華させていく。

しかし、いくら回避してもATフィールドをもっと一気に

割れないのであれば延々とこの繰り返しである。

 

「センセ!先に光線をどうにかしぃひんと!」

 

「あぁっ!最悪仮面を引き剥がすッ!」

 

 

得物を手にゼルエルへ再度突撃する初号機と3号機。

近づく度に短い帯の攻撃に晒され、すでに全身の装甲が

かなりボロボロになっているが動きは鈍ってはいない。

 

「うおァァァーッ!」

 

「ワシの攻撃もくれてやるでッ!」

 

ゼルエルの眼に深々と初号機のダガーが突き刺さる。

2号機の攻勢を防ぐことに手一杯だったゼルエルは

フィールドによるカバーを初号機まで回せなかったのだ。

大きく怯んだこのスキをついて飛びかかった3号機は

マゴロクソードを逆手で持つともう片方の眼へ突き刺す。

 

ゼルエルはついに攻撃手段の殆どを失った。

しかしそれでも短い帯とATフィールドを使って

必死に抵抗を続けるゼルエル。

 

「次は…ぐっ…コアのガードだッ!」

 

「ここで退く気はァ!あらへんでェッ!」

 

初号機と3号機は全身を使ってコアのガードを無理やり

引き剥がしにかかる。短い帯による抵抗を受け続けた結果

2機は全身裂傷まみれになってしまっているが、シンジも

トウジも一切力を緩めることはしない。

 

 

「捕まえたっ!」

 

「私も力を貸すよ綾波さん!」

 

残っていた長い帯もついにレイに捕まえられてしまう。

帯を切り落としてしまうと再生されると判断したマリが

レイ達に帯は切らずに捕まえておけと伝えていたのだ。

零号機と4号機も全身の装甲にかなりの切り傷が刻まれ

ボロボロになってしまっていたが両機とも健在だった。

 

 

「センセ!もうちょいやァッ!」

 

「剥がれろぉぉぉッ!!」

 

シンジもトウジも必死の形相でコアのガードを引っ張り

コアを露出させようと試みる。

 

「あとォ……一枚ィィッ!!!」

 

バキィーーーンッ!!!

 

ついに2号機がゼルエルのATフィールドを全て破壊し

正面突破を成し遂げてみせたのだ。

 

背中や肩から出ていたリミッターがすでに何本か

抜け落ちているようで、手には鋭い爪が見えている。

掛けられたリミッターをさらに外していくその行動は

正直あまり良い気はしないと思ったシンジだったが

パワーが上がってゼルエルのフィールドを破れたのなら

ここでは吉報だと言えよう。

 

「これで…っコアをッ!!!」

 

「トウジ!いくぞッ!」

「センセ!いくでッ!」

 

初号機と3号機、そして2号機がフルパワーでガードを

こじ開け、ついにゼルエルのコアが射程圏内に収まった。

両手をガードをこじ開ける為に使っていたアスカは

コアを砕くために2号機の牙を使うことを選ぶ。

 

「があァァッ!ぬう"う"~~ッ!!!」

 

コアへ食らいついた2号機に合わせるようにしてアスカも

必死で顎へ力を込める。

 

 

 

バキィッ!!!

 

ついにコアが光を失い、粉々に砕け散った。

 

『パターン…青………消失していますッ!!』

 

ゼルエルはついに殲滅されたのだ。

パイロット達も発令所の面々も歓喜に包まれた。

ここまで大きな被害も無く戦闘を切り抜けてきたエヴァが

初めてまともな損傷を被ったほどの激戦がようやく

幕を閉じたのである。

 

 

 

 

 

「…んぐっ…あぐっ」

 

皆が歓喜に包まれていた中、妙な音が耳に入ってきた。

グチャりグチャりと何かを食べているような音だ。

声の主が乗るエヴァの方へ視線を向けてみるとそこには

ゼルエルの残骸を無心で貪る2号機の姿があった。

 

『…アスカ!?使徒を食べてる…の!?』

 

コアは既に食べ終わっているようで、2号機はゼルエルの

胴体へと手をつけた。その食べっぷりは餌にありついた

獣と言って間違いないものだった。

 

『うっぷ…先輩、ちょっと…任せます』

 

あまりにもグロテスクなその光景に、発令所ではマヤが

吐きそうにでもなったのかどこかへ駆けていった。

 

 

 

「アスカ…寝た、のかな?」

 

「まるでネコだにゃ~…ちょっと保存しとこ」

 

ゼルエルの死骸を食べ終えた2号機は満足したのか

その場で丸くなるようにして活動を停止した。

まるでネコが眠るかのように。

 

 

 

ゼルエル戦という激戦は幕を閉じたが

シンジ達にはまだもう1つ激戦が待っている。

 

──事後処理という名の激戦が。

 

 

                      つづく




初号機は今回覚醒しませんでした。
レイも無事だし、彼のメンタルも無事だし。

新世紀視聴済勢には私が何を書こうとしてるか
何となく分かっちゃいますかね…?
ええ、次の使徒は「鳥を司る天使」さんですからね。

…初号機必殺とかMark6降臨とかやりたかったなぁ
でもそれやっちゃうとストーリー崩壊するんでね。


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最強が遺したもの


バタフライエフェクトに悩まされつつも
28話、書き終わりました…っ!
だいぶお待たせしちゃいましたね…。

ゼルエルくんの残した爪痕が
色々と見えてくる回です。
悪いことも、良いこともね。



 

 

 

──NERV本部、第一発令所。

 

 

『特殊装甲板へ回す資材がまだ足りてない!』

「こっちからも余った資材を回しておくから使ってくれ」

 

『第4班と第13班から人員不足との連絡です』

「人員はここも足りてないんだ!他を当たってくれ!」

 

『来ている抗議文の対処はどうなってる?』

「あぁ、適当に返しておいたさ。非常事態だってな」

 

 

戦闘終了から一夜明け、被害の全貌が見えたことで

本格的な復旧作業が始まっていた。

第14使徒ゼルエルを辛くも撃破したシンジ達だったが

ゼルエルが残していった爪痕は非常に大きかったのだ。

 

 

 

「第三新東京市の迎撃設備はほぼ全滅ですね…」

 

目の前に並べられた被害状況の報告書を見てマヤが呟く。

ゼルエルが放った数発の怪光線の余波だけで

地上の迎撃設備は軒並み破壊されてしまっていた。

 

「装甲板復旧の目処は立ちそうか?」

 

「本当に復旧だけで手一杯、って感じですかね」

 

見事な大穴を開けられてしまった24層の特殊装甲板は

急ピッチで修復工事が行われているが、MAGIの試算では

次の使徒襲来までに間に合う可能性は47%ほどと

あまり期待できないような数値が提示されていた。

 

「シンジ君が動ければ少しはマシなんですけどね…」

 

シンジが左腕の精密検査でしばらく動けないために

最新型の装甲板も最終チェックが一時中断となってしまい

導入が見送りとなっていたのだ。

 

「本部用の人員と資材を追加で回すそうだ」

 

「しかし…それで本部はどうするんですか?」

 

シゲルの問いかけに冬月は渋い顔になる。

本部設備の方も衝撃でいくつか破損しているのだが

使徒迎撃を最優先とすべく本部へ回す人員や資材を

目一杯削って装甲板とエヴァの復旧へ回していたのだ。

 

「発令所の機能が生きているのは幸いかしらね」

 

リツコはゼルエルとの戦闘で発生しうる被害を想定した時

ここ第一発令所が落ちてもおかしくはないとしていたが

シンジ達の善戦により基本的な機能に大きな損傷は無く

今のままでも問題は無いとの判断が出ていた。

 

「エヴァの修復資材は初号機を優先します」

 

「損傷が1番酷いのは初号機だからな…」

 

エヴァの損傷は初号機が最も酷く、左腕損失に加えて

全身の内部組織が装甲板ごと切り裂かれているため

ヘイフリックの限界をギリギリ超えてしまっていたのだ。

 

「3号機もかなり酷いですが…」

 

初号機と共にゼルエルの懐へ飛び込んでいた3号機も

短い帯による集中攻撃に晒されていたため

四肢の欠損こそ無いもののかなりの修理が必要な状態だ。

 

「初号機を優先しましょ。…問題なのは2号機ね」

 

エヴァの獣化第2形態を解放しゼルエルを撃破した2号機は

戦闘直後にゼルエルを食らい、その後眠りに落ちるように

活動を停止した。プラグにアスカを乗せたままでだ。

しかしNERVを悩ませていたのはエースの不在よりも

2号機が新たに獲得した能力の処置についてだった。

 

「…S2機関、ですよね?」

 

スーパーソレノイド機関、略してS2機関。

圧倒的な力を持つ使徒たちの活動エネルギーの源であり

半永久的に稼働する未知の動力機関である。

 

「一番の問題はそれね。他にも色々あるけれど…」

 

プラグを排出させるために2号機を外部から起動させた時

体内に強いエネルギー反応が確認されていたのだ。

永久機関と言えば夢のようだが、僅かでも扱いを誤れば

以前の4号機のように大爆発を引き起こす超危険物だ。

2号機は今休眠状態にあるが扱いには難儀していた。

 

「委員会はうるさいだろうな」

 

「あぁ、碇共々呼び出しを食らったが問題は無いさ」

 

ゼーレからS2機関の件について呼び出しを受けていた

冬月とゲンドウだが「2号機が制御下でなかった」こと

「獣化第2形態が勝利の鍵だった」ことを理由にし

追求をはぐらかし続けていた。

 

「…アスカはそのうち帰ってくるでしょう」

 

2号機のエントリープラグにアスカの姿が無く、エヴァに

取り込まれている状態だろうとのことだったが

シンジという前例があったため、アスカがプラグ内に

取り残されていることについて問題視はされなかった。

 

「…お母さんに会えるといいですね」

 

アスカが2号機の中で母と会えれば、アスカも2号機も

更なるパワーアップを遂げることが出来るのだ。

事情を知る者達はむしろこの状況を好ましく思っていた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

(ここは…いつも見た向日葵畑だ…)

 

アスカは無限に広がる向日葵畑に立っていた。

幼い頃から、母を失ったあの時から何度も夢に見る

背の高い向日葵が無数に咲き誇る花畑だ。

 

(……アスカちゃん…ママをつかまえてごらん?)

 

(これは…ママの声…っ)

 

この向日葵畑へ消えていった母を探して歩き続けるも

周りを取り囲む向日葵に遮られ結局は見つけられない──

アスカにとっては一種のトラウマのような場所である。

 

(あたしは…2号機に乗ってたハズよね………なら!)

 

ほんの少し前まで2号機に乗っていたことを思い出した

アスカはトラウマを振り払って向日葵畑を歩き出す。

 

 

(………うふふ…さあどこにいるでしょう?)

 

再び母の声が聞こえてくる。

 

(声の聞こえる方向が分かる…!?)

 

向日葵の背丈は大人たちよりも高い程に育っているが

アスカには頭の中に響いてくる母の声がどちらから

聞こえてきているのかがハッキリと分かった。

 

 

 

(あれ、向日葵畑から抜けちゃった……?)

 

母の声を追って歩き続けたアスカは、向日葵畑を抜けて

美しい大草原へとやってきた。ざっと見渡してみるが

この草原は小さな木がぽつりぽつりと生えている程度で

青空と共に無限のように広がっていた。

 

 

 

(…人?…まさかっ!?)

 

大草原にぽつんと佇む1人の女性を見つけたアスカ。

その女性は自分と似た美しいブロンドのロングヘアで

黄色いワンピースを着ている。

2号機の中にいる人物でそんな見た目をしているとしたら

アスカの知っている人の中ではただ1人しかいない。

自らの母、惣流・キョウコ・ツェッペリンだ。

 

 

(………見つけたっ…やっと!)

 

 

アスカが女性の元へ駆け寄ると、彼女もアスカに気付き

くるりと振り向く。女性が浮かべる眩しい微笑みは

アスカの記憶の奥底にある母の微笑みそのものだった。

 

(やっと会えたわね、アスカちゃん)

 

(ママっ!ママぁっ!)

 

大粒の涙を流しながら母の胸に飛び込んだアスカ。

直接会うことは叶わないだろうと思っていた最愛の母との

再開にアスカはしばらく嬉し涙を流し続けていた。

 

 

 

 

 

(落ち着いたかしら?)

 

(ぐすっ…少し、落ち着いた)

 

ようやく落ち着いたアスカは改めて母の顔を見上げる。

その姿は幼い頃見た姿から全く変わっていなかった。

 

(2号機にかなり無理させちゃったわ…ごめんねママ)

 

(今回もよく頑張ったわね。立派だったわよアスカちゃん)

 

サハクィエル戦に続き2号機を大きく損傷させたことを

かなり気にしていたアスカだったが、母は特に気にもせず

アスカの活躍を大いに賞賛してくれていた。

 

(きっとまだ使徒は来る…その時は力を貸してくれる?)

 

(勿論よ♪ユイさんの初号機にも負けないくらいに

頑張っちゃうわよ~)

 

自分のためにこれ程まで張り切ってくれるのは嬉しいが

やり過ぎや盛大な空回りをしてしまわないだろうか、と

少し不安にもなったアスカであった。

 

 

 

(そういえば、シンジ君ってとっても素敵よね~)

 

(………)

 

やけにニコニコしながら話題を切り替えてきた母に

アスカは何とも言えない表情を浮かべる。

母が今浮かべている表情は最近よく見る表情──

自分たちをまとめている女上司がシンジ達相手によく

見せている表情であり、面倒事の予感しかしない。

 

(彼氏にいいんじゃないかしら♪)

 

(……はぁ、シンジには婚約者がいるんだって)

 

(あらそうだったの、残念だわ)

 

実際はシンジとレイは別に婚約している訳では無いが

天然でマイペースなところがある母を諦めさせるため

あえて「婚約者がいる」とアスカは言ったのだ。

毎回シンジとの仲を根掘り葉掘り聞かれても困る。

 

(せっかく会えたんだから色々お話していきましょ)

 

(まぁそうね、ここならゆっくりできるらしいし)

 

母と娘が楽しそうに語らう声は、流れるそよ風に乗って

無限に広がる草原にしばらくの間響き続けていた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「シンジ君、左腕は動かせそう?」

 

看護師にそう聞かれ、シンジは左手へ意識を向けた。

 

 

 

「…ダメだ、動かせそうにないや」

 

目一杯力を込めようと意識してもシンジの左腕は

ピクリと動く程度でまともに動く状態では無かった。

 

高いシンクロ率を保った状態でエヴァが損傷すれば

フィードバックダメージは痛みだけにはとどまらない──

フル稼働をさせればパイロットにも相当の疲労が溜まるし

手足が切断されたりでもすればパイロットの脳は

自分の手足は無くなったものだと誤認してしまう。

 

「地道にリハビリしていくしか無さそうだなぁ…」

 

そう言いつつもシンジは自分のパソコンを取り出し

右手を上手く使ってNERVの現状を確認し始める。

 

「シンジ君、無理はしちゃダメですからね?」

 

「分かってます。本職はこっちじゃないですし」

 

心配する看護師に余裕はあるとの返事を返しながら

シンジはゼルエル戦の被害状況に目を通していく。

 

「初号機の左腕は…あとでシンクロテストするとして

穴空けられた装甲板を早いとこ直しておかないとなぁ。

コストカットしたい所だけど…うーん」

 

覚悟していたとはいえ想像以上に各所で被害が出ており

シンジは思わず頭を抱えそうになる。

特にあの装甲板は「使徒迎撃の際の最終防衛線」という

扱いであり、戦闘がジオフロントまでもつれ込むどころか

たった数発の怪光線で破られるなどとはシンジ自身も

想定すらして居なかったのだ。

 

「第三基部…メインシャフトの補強が必要かな。

そこに関しては元々あったプランを再利用出来そうだ」

 

MAGIも使徒再来に間に合うかは微妙と言っていたのを

思い出し、シンジは被害状況の整理を早めた。

 

 

 

「シンジ君、ちょっと…いいかしら?」

 

予定にない上官の訪問にシンジは一旦作業の手を止める。

声色からしてどうやら困り事を抱えているらしい。

 

「はい。大丈夫ですよ」

 

シンジは進めていた作業を保存して一旦切り上げると

扉から入ってくるミサトの方へ顔を向けた。

 

 

「シンジっ!」

「ぐえっ!?」

 

水色の髪の誰かが飛び込んできた事に気付いたその刹那

シンジは凄まじい衝撃と共にベッドへ叩きつけられた。

 

「………うぐっ…レイ?」

 

飛び込んで来たのは半泣き状態のレイだった。

 

「よかった…生きていてくれて…ぐすっ」

 

シンジがゼルエル戦後から数日間目を覚まさなかったうえ

左腕の精密検査を行っていた事もあって、レイはここ数日

シンジと会うことが出来ていなかったのだ。

 

「心配させてごめん、僕はちゃんと生きてるよ」

 

シンジはレイを抱きしめながら頭をそっと撫でる。

 

「暖かい…この暖かさ、好き」

 

就寝前と同じ抱擁にレイは少しずつ落ち着きを取り戻し

荒れていた呼吸も整っていった。

 

 

 

「ミサトさん、ここへ来た用事って?」

 

レイが落ち着いた所で、ミサトへここに来た理由について

なんとなく想像はつくが尋ねてみる。

 

「あ~それはね…」

 

ミサト曰くゼルエル戦後に行われたシンクロテストで

レイのシンクロ率が急落し、訓練にも集中できない状態が

ずっと続いていて一向に改善しないらしい。

他の作業は可能な限りバックアップを手配しておいたから

レイのメンタルケアを頼みたいとのことだった。

 

「2人にはしっかりと休暇を楽しんできてもらうわ。

レイが元気になるまでゆっくり休むこと、いいわね?」

 

有無を言わせぬミサトの表情にシンジは素直に頷いた。

そして、疲れてしまったのかぐっすりと眠るレイを見て

自分も一旦寝ることにしたシンジだった。

 

 

 

                      つづく




次回は多分アラエルさん。
その前に日常回挟むかも?

バタフライエフェクト、大きくなるのは
この先が本番なんですよね…
書きたいことはざっと纏まってますが
綺麗に収まるかどうかは分からん。

期待せずに待ってて下さいね。

追記:R18編 28.5話を投稿しました。
シンジとレイの"休暇"が気になる方は
そちらも併せてどうぞ。


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輝く翼


大変長らくお待たせ致しましたっ!
遅れてしまい申し訳ないです…

前回の続き&アラエル回です。
原作だとここでアスカが一時退場し
物語は完全にシリアス一色になっている頃ですね。
2分割したので次回まではアラエル回です。



 

 

 

『絶対的存在となったエヴァ2号機…使徒を食うことで

S2機関を自ら手に入れるとは。』

 

 

暗闇の中にモノリスのホログラムが浮かぶ。

モノリスには逆三角形と7つの目玉模様が描かれている。

秘密結社SEELEのシンボルマークだ。

 

『SEELEのシナリオを大きく逸脱している』

 

SEELEは基本的にこうして音声のみで会議を行っているが

今この場には何時も以上に物々しい雰囲気が漂っている。

 

『容易く修正出来るものではないぞ』

 

『碇ゲンドウ…彼にNERVを与えてはならなかったのだよ』

 

NERVが突如SEELEの想定にない行動を取り始めたことで

それに対しどの様な処分を下すのかを議論しているのだ。

 

『左様。絶対的存在を手にして良いのは神のみだ』

 

『キール議長、やはり碇ゲンドウからNERVを取り上げ

我々が裏から事を進めるべきではないのか?』

 

議長と呼ばれた01番のモノリス、キール・ローレンツは

ゲンドウを処分すべきだというメンバーの提案に対して

少しばかり思案した後に口を開いた。

 

『碇とその息子がいなければシナリオはここまで

順調に進むことは無かっただろう』

 

『むう…それも確かな事だ』

 

SEELEにとってシンジとゲンドウとは、計画進行のために

無くてはならない存在であると同時に、計画完遂時には

邪魔されないよう消えてもらいたい存在でもあった。

 

シンジ達を早々に退場させてしまうと使徒を殲滅出来ず

かといって長々と泳がせた挙句に計画を乱される事も

許される事ではないのだ。

 

 

『しかし、鈴は我らの手元を離れていったではないか』

 

『もうひとつの鈴も鳴らなくなって久しい』

 

SEELEがNERVへ送り込んだ諜報員が消息を絶つ頻度が増し

切り札として送り込んでいた「鈴」達も鳴る気配が無い。

それに加えてNERVが好き勝手に物事を進め始めたことで

SEELEのメンバーは一抹の不安を拭えずにいたのだ。

 

『我々はこうして行く末を見守っていれば良いのだ。

…無論、最終手段は用意しておく必要があるだろう』

 

キールは動揺する素振りなど一切見せずに「最終手段」の

用意を進めるようメンバーへと通達する。

キールの言う最終手段とは、時に人類補完計画の鍵となり

時に計画完遂のために用意された犠牲のひとつでもある

"特別な存在(とあるエヴァ)"のことだ。

 

『最終手段…犠牲は払わねばならんか』

 

『しかしそれならば良い。』

 

もう1枚切り札を切る事を決断したキールの下した答えに

メンバー達も冷静さを取り戻し、覚悟をひとつ決める。

 

 

『全てはSEELEのシナリオ通りに』

 

 

そして、いつも通りの言葉でSEELEの会議は幕を閉じた。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「この情報、確かなの?」

 

ジオフロントに広がる湖の畔で、パソコンの画面に

食いつきながらミサトが驚きの声をあげた。

 

「はい、上海経由の情報です。信頼出来る筋からの。」

 

マコトのパソコンに映っているのはエヴァ量産機の

建造状況やその機体スペック。ドイツで建造中の11号機

12号機は既に完成しており、試験稼働終了を待つばかり。

機体の動力源は11号機から19号機まで全てがS2機関。

 

残る使徒は第17使徒である渚カヲルを除いてあと2体。

仮に前回のゼルエルクラスが同時に襲撃するような事態に

なりでもしなければあまりにも過剰戦力だろう。

 

「試験を非公開で行う理由は無いわよね…」

 

「NERVへ差し向ける機体、ってことですか」

 

ミサトとマコトは揃って顔をしかめる。

量産機のテスト稼働はここNERV本部にすらその情報を

ほとんど開示せずに進められているのだ。

その鋭い矛先(超スペック)はNERVへ向けられようとしていた。

 

「ドイツへ搬入された素体は?」

 

「いえ、そちらはまだ…」

 

ドイツへ搬入された素体4体は依然詳細不明のままだが

そちらも恐らくはS2機関搭載機になるだろう。

こちらは現状6機しかいないため機体スペックで勝っても

数の有利で押し切られてしまう可能性が大いにある。

仮に渚カヲルに与えられるという「6号機(Mark.6)」の性能が

相当高いものだったとしても強敵と言えよう。

 

「シンジくんはエヴァの補強を急ぐって言ってましたよ」

 

「彼には無理させられないのにね…」

 

ミサトは未だビルの瓦礫まみれの(ゼルエルの爪痕が残る)NERV本部を眺めながら

小さくため息をついた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「レイ、調子はどう?」

 

シミュレーション空間内で零号機を駆り、ターゲットを

撃破していくレイにリツコは今の調子を訊ねてみる。

 

『問題ありません』

 

レイは微笑みを浮かべてそう答えた。

それと同時に零号機の持つライフルが火を吹き

はるか遠くを飛ぶターゲットの中心に風穴が空く。

ここまでほぼ全てのターゲットが撃ち抜かれている様が

レイの完全復活を如実に表していた。

 

「シンクロ率81.6%、プラグ深度も安定しています」

 

零号機のモノアイがカメラの絞りを調整するように動く。

モノアイが動いたその刹那、レイは引き金を引き

再び超遠距離にあるターゲットのど真ん中が射抜かれる。

 

「まさに百発百中、調子は万全見たいね。

シンジくんとの休暇はたのしかった?」

 

『はい。楽しかったです…!』

 

以前では考えられないような笑顔を浮かべるレイ。

すぐに表情を戻すと最後のターゲット、最も遠い位置に

配置されていたターゲットを正確に撃ち抜いていた。

 

『状況終了』

 

レイは狙撃用バイザーを外して一息ついた。

感覚を掴むために試し撃ちをした以外は命中率100%

少し前までの不調が嘘のような好スコアだった。

 

 

 

「シンジ君はレイに何をしたのかしらね?」

 

言っておくとここ数日のレイのスコアはズタボロ

命中率も良くて5割を切る散々なものだった。

シンクロ率もあと少し落ちれば起動すら危うかったレイを

これほどまでに立ち直らせたのだ。驚きもするだろう。

リツコもマヤもその方法がとても気になった。

 

 

 

ピリリリッ!ピリリリッ!

 

「はい、私よ。………分かった、すぐ行くわ」

 

エヴァのケイジの管理担当から掛かってきた1本の連絡。

それはNERVが待ち望んでいた、とある報告だった。

 

「何かあったんですか?」

 

やけに慌ただしくシンクロテストの結果を纏めるリツコに

着替えから戻ってきた私服姿のレイが状況を訊ねる。

 

「2号機が目覚めたそうよ!」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「状況は?」

 

「まだ2号機に大きな変化はありません」

 

2号機のケイジに着いたリツコとマヤ、そしてレイ。

目の前に佇むエヴァ2号機は動きこそしていないものの

その四ツ目には先程からずっと鋭い光が宿っている。

 

「アスカは…帰ってくるんでしょうね?」

 

駆けつけたミサトも固唾を呑んで2号機を見守る。

 

 

『……波形パターン、変化ありません』

 

2号機は起動こそしたが、それ以外に変化は無く

鋭い眼光が僅かに揺らめくばかり。

然るべき時を待っているかの様な雰囲気を漂わせながら。

 

先程までの2号機は行われたあらゆる干渉に対して

うんともすんとも言わず、起動すらさせられない状態で

手の付けようが無かったのだ。それが突然勝手に起動し

鋭い眼光を湛えたのなら何かの予兆であると考えられる。

 

 

「全てのデータを精査させて!…意味は必ずある筈よ」

 

『はい!』

 

リツコは発令所にも通信を繋ぎ、2号機のみならず

初号機ら各エヴァや監視衛星からの映像にも注視させる。

2号機が突如起動した意味が必ずあると──

アスカと2号機を信じて。

 

 

そして、あらゆる報がシンクロする──

 

 

『2号機パイロットのバイタルサインです!』

 

『シンジ!聞こえる!?使徒が来るわよっ!』

 

『監視衛星に感あり!映像…出します!』

 

『衛星軌道上にパターン青を観測っ!使徒です!』

 

 

使徒出現を感じ取ったかの様にアスカがLCLの海から帰還

それとほぼ同時に15番目の使徒の出現が確認される。

 

突然のエヴァ起動に慌ただしくなっていたNERV本部は

突然の使徒襲来に慌てること無く各々が持ち場へと走り

使徒の迎撃準備を開始する。

 

 

───その準備の大半は無駄に終わってしまうのだが。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「これは…輝く…鳥?」

 

主モニターに映し出されていたのは、巨大な輝く翼を広げ

空に悠々と浮かぶ鳥のような姿をした使徒。

「第15使徒アラエル」だ。

 

アラエルは出現したであろう地点に留まったまま

今の所一切の動きを見せていない。

 

 

が、その出現位置というのがあまりにも厄介だった──

 

「…目標は高度12,000kmの地点に停滞中です」

 

「衛星軌道に留まって何をする気なのかしら…」

 

アラエルが居るのは遥か上空、セカンドインパクト以降

その距離が大きく遠のいた暗く冷たい未知の領域。

そう、宇宙である。

 

「エヴァの武装は…当然届かないわよね」

 

プログナイフ、マゴロクソード、サンダースピアなどの

近接武器は言うまでもないが、パレットライフルといった

エヴァ用の遠距離武器もとても届く距離ではない。

こちらからは手出しがほとんど出来ない位置に居るのだ。

 

「ATフィールドを破れる可能性は低いわ」

 

NERVの有する兵器の中で最も長い射程を誇るライフル

ポジトロンライフルを用いても、アラエルを撃ち抜けるか

かなり怪しいとの試算がMAGIによって出されていた。

 

さらに言えば今日の第三新東京市一帯は悪天候で

狙撃の精度低下や光学兵器の威力低下を招きかねない。

 

「どうします?」

 

「うーん…難しいわね」

 

ラミエルより遠い位置に居るためポジトロンライフルの

エネルギーもヤシマ作戦の時よりも大量に必要。

サハクィエルの様に落ちてくる訳でもないために

エヴァで受け止めての近接攻撃も不可能。

NERV本部の打てそうな手は非常に少なかった。

 

 

 

(…エヴァを出してみる?…でもそれは避けたいよのねぇ)

 

ミサトはその選択肢だけはなるべく避けたかった。

ラミエルと相対した時にその選択肢を取ろうとして

敵の主砲(荷電粒子砲)の射線上へ誘い込まれそうになった事がある。

今回も使徒(アラエル)がどんな攻撃を行うかは一切不明だが

エヴァを出した瞬間に狙撃される可能性もあるのだ。

 

正八面体(ラミエル)の時の映像、見せてもらえる?」

 

「ヤシマ作戦…ですか?はい」

 

ラミエルとアラエルが似たタイプと言えるかは不明だが

参考にはなるかも知れない、とラミエルとの戦闘映像を

アーカイブから引っ張り出してもらって眺める事にした。

 

 

(…あの時は確か…2回撃たれたのよね)

 

第三新東京市の迎撃設備をまるでバターの様に溶かした

ラミエルの荷電粒子砲を、シンジ達は2回撃たれている。

超遠距離からの高火力先制攻撃をどう防ぐか

何かアイデアを得ようと映像を食いつくように眺める。

 

『──綾波はやらせないッ!』

 

「これが2発目…」

 

1発目は零号機の陽電子砲と交差し逸れていたが

2発目は甚大な被害を被った記憶がある。

あの状況下で記録出来た2発目の映像を片っ端から漁り

ミサトはついに糸口を見つける──

 

「──ATフィールド!」

 

シンジがあの荷電粒子砲をATフィールドを器用に使い

受け流して見せていた光景を。

 

NERV本部が誇る葛城ミサト作戦部長の行動は速かった。

ピンと来た瞬間に作戦の大まかな段取りを仕上げると

各所へ必要な資材、装備品の手配を済ませていったのだ。

 

 

 

 

 

「初号機と2号機で先陣を切るわよ」

 

シンジとアスカはATフィールドの扱いに長け

戦闘経験も豊富ということで、強化型ESVシールドに

防壁型に偏向されたATフィールドを展開して出撃

アラエルの出方を窺う。

 

「零号機と5号機はバックアップ」

 

アラエルの出方次第ではあるが、反撃を行う事も想定し

ヤシマ作戦の時に使用したポジトロンライフルを改良した

2種類のライフルを装備した零号機と5号機が

シンジ達のバックアップとして付く。

 

「3号機と4号機は非常時に備えて待機よ」

 

アラエルが思わぬ行動を取った時に備えて

3号機と4号機は作戦エリアの外周部で待機。

宇宙からでも届く攻撃を持っていると予想されているが

10番目の時の様に落下してくる可能性も0ではないのだ。

備えておくに越したことはない。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

『エヴァ各機、配置に着きました』

 

「さて…配置は上手くいったわね」

 

シンジ達6人は特に妨害されること無く移動を完了した。

 

「…何もして来ないね」

 

「シンジ…ちょっと不気味じゃない?」

 

シンジとアスカが出撃してからトウジとヒカリが

配置に着くまでそれなりに時間が掛かっている。

エヴァを出待ちしている可能性が非常に大きかったため

射出カタパルトの安全装置も使わずに出撃したのだが

アラエルはここまで微動だにしていなかった。

 

 

「ポジトロンライフルは多分射程外だにゃ~…」

 

『ま、スペックからしてねェ…』

 

マリの持っている「20X」と書かれたライフルは

残弾式で取り回しに優れる分射程・威力が少々低く

出現位置から動いていないアラエルには届かないだろう。

 

 

「私のなら狙えると思うわ」

 

一方で零号機の傍らに設置されている大型ライフルは

設置型かつ動力接続型の超高火力試作ライフル。

ヤシマ作戦に使われた物よりも更に火力と射程を伸ばした

今ある武装の中で最も攻撃性能の高い武装だ。

 

大型かつ設置型ということで取り回しが非常に悪く

完全にお蔵入りにされてしまっていた武装だが

アラエルに対してはギリギリ使えそう、ということで

技術開発部に眠っていた(ホコリを被っていた)物を時田博士に調整してもらい

蔵から引っ張り出したのだ。

 

『レイから仕掛けてちょうだい……注意してね』

 

「はい」

 

レイは狙撃用のバイザーを装備して精神を研ぎ澄ます。

 

(出力最大…エネルギー減衰率を計算…)

 

インターフェースに表示されるあらゆる情報を拾い

アラエルまで攻撃が届くかどうか、それが届いたとして

ATフィールドを貫いて撃破できるかを計算する。

 

(…恐らくは…足りない)

 

ヤシマ作戦でラミエルを貫いた時の感覚からして

とてもではないが火力が足りない──

より確実な作戦が無いか、シンジや発令所の面々へ

作戦の練り直しを提案するべくトリガーから指を離す。

 

 

「シンジ。出力が足りないわ」

「"それ"でも多分届かないよ、レイ」

『ミサト…MAGIは殲滅出来ないとの予想よ?』

 

レイとシンジ、リツコの声が重なった。

──「墜とせない」と。

 

 

 

『………6人とも、一旦作戦中止よ』

 

作戦の練り直しを行うべく、ミサトがパイロット達に

一時撤収を促す。

 

大型ポジトロンライフルは回収や再設置に手間取るため

その場に残し、レイ達は撤収作業を始める。

 

『20Xは付けたままでいいわ、一旦回収しましょう』

 

「ラジャッ!」

 

より長射程の物で届かない以上持たせっぱなしでは

デッドウェイトになってしまう。

5号機は20Xを手に抱えルート19カタパルトから帰投する。

 

 

「零号機、帰投します」

 

『ルート20で回収するわ』

 

大型ライフルと狙撃用G型装備のリンクを解除し

5号機の降りていったカタパルトの近くにある

ルート20カタパルトへ零号機を移動させる。

 

 

が、零号機がカタパルトへ足を乗せようとした瞬間

ついにアラエルが動く──

 

……カッ!!

 

 

「レイっ!」

 

『敵の指向性兵器!?』

 

微動だにしていなかったアラエルが突然光線を放ち

零号機を攻撃したのだ。

 

 

『いえ、熱エネルギー反応有りません!』

 

『…零号機に物理的損傷は認められません!』

 

しかし、その光線に熱エネルギー等といった反応は無く

零号機も破壊されるどころか傷一つ無い。

"ただの光(攻撃ですらない何か)"が零号機を包んでいる──そんな状況だ。

 

すぐに発令所の面々はこの光の正体を探り始める。

熱源反応が無いならば紫外線やX線である可能性

ATフィールドを用いた使徒特有の攻撃の可能性など

様々な可能性を視野に入れて調査を行ったが

真っ先に反応があったのは攻撃を受けたレイだった。

 

「………痛い…これは…何?」

 

『レイ!?どうしたの?』

 

今でもあまり感情を大きく表に出す事は無いレイが

困惑や苦悶の入り交じったような表情をしていたのだ。

頭痛でもしているのか右手でこめかみを押さえている。

 

 

『心理グラフに僅かな乱れ有り!』

 

『使徒の精神攻撃!?』

 

非常に緩やかではあるが心理グラフが乱れ始めており

アラエルからの光線でレイの精神が汚染され始めていた。

 

使徒がついに人の心(自分たちに無いモノ)に興味を示したのだ。

 

 

 

──つづく。





レイさんが餌食になってしまいました。
シンジ、アスカ、レイの3人だと
うちで現状最も不安定なのは実はレイです…
でもシンジ君が支えてくれているからきっと大丈夫。

次回、アラエル戦後半!

【大型ポジトロンライフル】
原作9巻で零号機が撃っていた、ケーブルまみれの
すっごく撃ちにくそうなポジトロンライフル。
ヤシマ作戦のヤツとも20Xとも違う様で
かつ詳しい事も不明だったので、扱いのクセが強くて
中々使われないオーバー火力の試作品ってことに。



…実は「つづく」の位置の調整が上手く行かなくて
右端ではなく左端に寄ってるんですよね、今回。
どうか、気にしないで下さい。


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Shining Bullets


アラエル回後半です!

前々回から前回までの間、だいぶ空いてたのに
待ってました、なんて言ってくれる人がいるなんて
嬉しくてつい書く手が進んじゃいますね。
ほんと、ありがとうございます!

原作なら主要キャラの退場が始まるアラエル戦
続きをどうぞ!



 

 

 

『レイ!もう一歩前へっ!』

 

宇宙にいるアラエルから放たれる光に晒され

零号機がカタパルトの手前で力無く地面に膝をつく。

 

人の心を探っているのか、アラエルの光を浴びたレイは

意識へ流れ込んでくるノイズと酷い頭痛に苛まれ

零号機を動かす事にまで意識を割けなくなっていた。

 

 

 

(──これは…私の記憶?)

 

レイの脳裏に薄らといくつかの光景が浮かんでくる。

黒髪の女性(赤木ナオコ)に首を絞められる水色の髪の少女(一人目のレイ)

暗い地下の水槽に漂う同じ姿をした少女達(自分の入れ物)

自分を通して別の何者か(亡き妻)を見つめる眼鏡をかけた男(碇ゲンドウ)

 

(シンジはっ…私を…受け入れてくれた…!)

 

心の奥底に封じ込めていた、他者(人間)とは違う(クローン)の姿。

恐怖していたモノを浮き彫りにされていくような

曖昧ながらも心を蝕んでいくじくじくとした痛みに

レイは幸せな思い出を手繰り寄せて耐える。

 

(シンジは私に暖かい手を差し伸べてくれた)

 

何もかも知らなかった、色の無い人生を送っていたレイに

シンジは人の心の暖かさを教えてくれた。

そんな彼の手はいつ触れても何度触れても暖かいままで。

 

(真実を知っても…それは変わらなかった!)

 

それはレイの過去を──自分は人間の作り物(クローン)であり

人間ではないモノ(第2の使徒リリス)の魂を宿した存在だと知った後でも

決して変わることはなかった。

 

徐々に心の痛みが増していく中でも、その暖かさを

思い出せばレイはいくらでも耐える事が出来た。

 

(………わたしたちは…わかり…あえる?)

 

ふと、レイの心に声が響く。

その声はレイの声にとてもよく似ていて──

 

(……使徒?)

 

(…シトとは…わかりあえない?)

 

ひとりぼっちを嘆くような、どこか寂しそうな声。

失った母(第1の使徒アダム)を探しているような、そんな悲しそうな声。

人の心を知ってしまったからこそ感じる「感情」に

その声の主は苛まれているようだった。

 

(…(リリス)は分かり合えた。シンジと…みんなと。)

 

人間と使徒が分かり合う道もきっとある、と

レイは母の様な暖かい声色で声の主へと告げる。

 

──己の瞳を紅色に淡く輝かせながら。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「っアスカ!」

 

「えぇ!守るわよ!」

 

突如行われた使徒の攻撃に、シンジとアスカは反応する。

すぐさまESVシールドのATフィールドを起動し

光線の中へと飛び込んで零号機の前に立ち塞がった。

 

「ぐっ…何かが…情報が流れ込んでくる?」

 

「嫌な事…思い出させてくれるじゃないの…!」

 

レイだけではなく、光の中へ飛び込んだ2人にも

アラエルの干渉は当然行われる。

 

何かの実験室、無数のケーブルが繋がれた巨人(エヴァ)

突然鳴り響くアラート、そして居なくなった母。

並ぶ喪服の人々、花が手向けられた墓標

人形()を愛でる女性、そして自ら命を絶った母。

 

ビジョンが流し込まれるかの様にフラッシュバックする

己の内に抱えていたモノたち。

 

(母さんは今も僕らと共に居る。戦ってくれている!)

 

(ママが…ATフィールドが!私達を守ってくれてる!)

 

しかし、心の拠り所を取り戻していた(母と再会していた)2人には

アラエルが無作為に引き摺り出す辛かった過去も

正面から見据え、受け入れることが出来ていた。

 

そして、子供たちの強い心に、意思に母親(エヴァ)は応える──

 

「「ATフィールド全開ッ!!!」」

 

 

 

『綺麗…ATフィールド、ですよね?』

 

『ここまでクッキリ見えるなんて…』

 

初号機と2号機の前には、虹色に輝くATフィールドが2枚

肉眼でも確認出来るほど強くハッキリと現れ

アラエルの光のほとんどを遮断していた。

 

 

 

『零号機パイロットの精神汚染、止まりました!』

 

光から解放された事で、レイへの精神汚染も収まる。

 

緊張の糸が切れてしまったせいか今度は放心状態に陥り

未だ零号機は身動きが取れなかったが、そこへ

見せ場が無いことに悩んでいた2人(鈴原トウジと洞木ヒカリ)が駆けつける。

 

「零号機と綾波はワシらに任しときなッ!」

 

「トウジ!いいから早く運ぶっ!」

 

アラエルが可笑しな行動を取った時に備えて

少し離れていた場所で待機していた3号機と4号機が

零号機を抱えてカタパルトへ乗せたのだ。

 

初号機と2号機はATフィールドの維持に集中しており

5号機は再出撃に時間が掛かる。ここで自由に動けたのは

トウジ達だけだったため、まさに最高の判断と言えた。

 

「トウジ!ポジトロンライフルも頼めるっ?!」

 

零号機を運び終えた後も割と余裕を残していたシンジは

その場に残してあった大型ポジトロンライフルを

何とか解体して持っていけないかとトウジ達に問う。

射程自体は届く計算であるため、破壊されたりする前に

回収しておきたかった。

 

『鈴原君、ケーブルは切っても構わないわよ』

 

「よっしゃ!ほんなら行けるで!」

 

トウジは3号機にプログナイフを持たせると

ライフルに繋がっていたケーブルを特に躊躇いも無く

バッサバッサとぶった切り、あっという間に

ライフルをエヴァで持ち帰れる状態にしてしまった。

 

「トウジ、あんたねぇ…」

 

「切ってえぇ言うてるし…かまへんやろ」

 

確かにケーブルを切っても良いとは言っていたが

その扱いの雑さに少しばかり呆れたヒカリ。

 

ポジトロンライフル本体はヒカリが4号機に抱えさせ

カタパルトに乗って帰って行った。

今トウジに持たせたら本体まで壊しそう、とのこと。

 

 

「後は僕らだね」

 

「…一気に行くわよ!」

 

光線の遮断のため最後まで残っていたシンジとアスカは

ATフィールドを緩めると地を強く蹴って駆け出す。

降り注ぐ光の量が増えることで再度侵食が始まるが

2人にとってその程度は気にする程のものでも無かった。

 

『初号機、2号機共に回収完了!』

 

『使徒、攻撃を中止。動き有りません』

 

2機の乗ったカタパルトが地中へと消えていくと

アラエルも光の照射を止め、動きを見せなくなった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──戦術作戦部作戦局第一課、作戦会議室。

 

 

「何か案はあるかしら?」

 

「「「……………」」」

 

ミサトの問いかけに回答を返す者は現れない。

 

これまでに何度か「まるで打つ手立ての無い相手」と

交戦し打ち勝って来たNERVだが、今回の相手アラエルも

相当に厄介な相手である事は疑いようも無かった。

 

「フィールド強度は10番目に匹敵──お手上げですよ」

 

以前サハクィエルに対して行ったように、アラエルにも

N2航空爆雷を用いての威力偵察が行われたが

爆雷は全てATフィールドで防がれ、偵察衛星の方も

ATフィールドによる質量攻撃で破壊されてしまい

まともな情報を収集することは出来ていなかった。

 

 

 

「唯一届く武装があるとしたら──」

 

ここでシンジは一つの可能性を挙げた。

現在までに攻撃への転用が提案されていながら

装備開発の難航で正式運用に至っていない

ある武装──ATフィールドによる攻撃を。

 

「…開発、難航してるんでしょ?」

 

「問題は山積みですけどアテはありますから」

 

乗り越えなければならない問題は色々あるが

大型ポジトロンライフルと同等の射程を持たせた

ATフィールドの射撃装置を用意出来れば

エヴァの持つフィールドでアラエルを撃破出来る

シンジはそう試算していた。

 

そして、NERV技術開発部にはその開発を手助けする

データや試作品がいくつも保管されている。

 

「力を貸しますよ、シンジ博士!」

 

「技術1課も総出でやりましょ」

 

シンジとリツコ、時田で武器の基礎設計を書き上げ

技術1課でエヴァやATフィールド関連の開発を

技術2課で武装や周辺機器の開発を行う事になった。

 

「シンジ君、コーヒー飲んでいかないかしら?」

 

「お、いいですね。景気づけの一杯に!」

 

「私もご馳走してもらいたい所だなぁ!」

 

恐らくは徹夜での作業になるだろう、とのことで

シンジ達3人は一度リツコの部屋へと立ち寄り

冷たいブラックコーヒーを飲んでいくことにした。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──翌朝。

 

 

「これが…試作型A.T.F.(ATフィールド)ランチャーですか」

 

「何とか完成したわね」

 

ミサト達の前で、20Xを更に大型化させた様な形の

大型スナイパーライフルが初号機に装備させられていく。

エヴァの生体パーツを流用して製造した特殊な弾丸へ

ATフィールドを付与し超高速で撃ち出す遠距離武器だ。

 

改造元の武器(20X)ATフィールド偏向のノウハウ(これまでの戦闘データ)を活用し

シンジ達と技術1課・2課がほぼ不眠不休で造り上げた

NERV技術開発部渾身の一作である。

 

『ウェポンラックの取り外し、開始します』

『ランチャー側各コネクタ解放を開始』

 

「僕は両腕が使えない訳だけど…今回は平気かな」

 

この試作型A.T.F.ランチャーは武器の構造上の問題で

ウェポンラックを取り外し、エヴァの腕を武器の内部へ

差し込み一体化させて使用する必要がある。

 

シンジはまだ左腕がリハビリ中なために動かせず

これを装備すると両腕の使用が封じられてしまうが

アラエルとの戦いでマニピュレーターを使うことは

ほとんど無いだろう。

 

『全コネクタ接続確認。神経接続開始』

『OS更新完了。情報リンク異常無し』

 

 

 

「しっかし…だいぶコスト掛かったわね」

 

「こればかりは仕方ないですよ」

 

ミサトはライフルへ向けていた視線を少し横へズラす。

そこには、初号機と同じようにライフル(2挺目)を装備する

2号機の姿があった。

 

「20を解体してたら終わってたわ」

 

実は設計段階の時点でアラエルを殲滅し切れない可能性が

少なからず残っているとMAGIによって指摘されていた。

しかし、短期間での出力向上には限界があるということで

20Xの開発元「試作20型ポジトロンライフル」を改造し

フィールド突破直後に追撃を加える方針を取ったのだ。

 

試作20型は現行の20Xと構造がそれほど変わらないため

技術2課総動員で改造を進めることで掛かる時間を

最小限に抑えることが出来ていた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──NERV本部第1発令所。

 

「使徒の様子は!?」

 

新型武器の完成を確認し終えたミサトは全力ダッシュで

発令所へと舞い戻ると、使徒の様子を監視させていた

オペレーター達へ現状を尋ねる。

 

「いえ、あれ以降動きは有りません」

 

「現在は高度10,000km付近で停滞中です」

 

アラエルはエヴァ全機が撤退した直後に一度だけ

ATフィールドに近いエネルギー波を用いて

爆撃のような攻撃を行っていたが、それ以降は

ずっと沈黙を貫き通していた。

 

「油断は禁物よ。エヴァの準備を急がせて!」

 

「はい!」

 

今回、A.T.F.ランチャーを装備する初号機と2号機は

ATフィールドを全て攻撃に回すことになる(防御に使えない)ため

残る4機でアラエルによる精神汚染を防ぐ必要がある。

そのため防御役の4機にはフィールド偏向制御装置を

防壁特化型に調整を施して装備させる。

 

「LCL精神防壁、展開確認」

「逆流防止措置完了」

 

前日の交戦でアラエルの攻撃に精神汚染効果があると

判明しているため、エヴァ側へ施すことの出来る防護策が

一通り施されていく。

 

『初号機、A.T.F.ランチャー装備完了』

『2号機も完了したわ!』

 

『偏向制御機器の装着完了』

『専用OSセットアップ完了しました』

 

エヴァの装備も準備が着々と進められていく。

今回は第三新東京市の迎撃設備も、パレットライフル等の

汎用装備の用意も必要無い。たとえ一睡もしていなくとも

この程度の準備に手間取るNERV職員達では無かった。

 

 

 

「……では。護衛部隊、発進!」

 

『エヴァ零号機…行きます』

『鈴原トウジ!エヴァ3号機、行くでェッ!』

『ほ、洞木ヒカリ、4号機発進します!』

『真希波マリ、行っくよ~♪』

 

ゲンドウと目配せを交わして確認を取ったミサトから

作戦開始の号令(「発進!」)が飛び、フィールド全開の状態でエヴァが

4機先行して発進する。

 

「続けて攻撃部隊発進!」

 

『行こう母さん。初号機行きます!』

『アスカ、行きまーすっ!』

 

少し間を置いて、ライフルを持った初号機と2号機が

先行した4機にほど近い位置へと出撃した。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

『使徒、行動を再開!光線が来ます!』

 

エヴァの再出撃を感知したアラエルはすぐさま活動を再開

前日精神干渉を行ったからかは不明だが零号機の乗る

カタパルトの発進ゲートを狙って光線を照射する。

 

「………フィールド全開」

 

狙われたレイはどこか葛藤を抱えた様な表情のまま

ATフィールドを全開にして光線を減衰させる。

 

「…光線の狙いが変わるっ!?」

 

『初号機と2号機が出るわ!急いで!』

 

このまま光線を引き付けておければ攻撃役の2機が

フリーの状態で狙撃することが出来たのだが

零号機へ照射されていた光線が少しづつズレていき

初号機と2号機が射出されるカタパルトの方向へ向かう。

 

今回初号機と2号機がライフルを装備しているのは

ATフィールドの最大出力が最も高いからなのだが

その長所には、使徒にとって存在を感知しやすく

より脅威として映りやすい(狙われやすい)という側面も存在した。

アラエルの興味は零号機よりも強力な存在である

初号機と2号機に移っていたのだ。

 

 

「─間に合ったにゃッ!」

「──させへんでッ!」

 

『初号機、2号機共に出撃しました!』

 

間一髪の所で近くに出撃していた5号機と3号機が間に合い

光線の効力が弱められていく。

 

「綾波さん、私達も!」

「…ええ」

 

少し遅れて零号機と4号機も駆けつけ、ATフィールドが

4重になって展開される。

弱まっていた光線はほとんど完全に遮断されていた。

 

 

「「A.T.F.ランチャー起動!」」

 

シンジとアスカはすぐさまランチャーを空へと構え

全システムを起動させる。

 

『フィールド展開誘導システム動作開始』

『弾丸へのフィールド固定開始します』

『射撃誘導の諸元、ランチャーへ入力』

 

武器の内部でエヴァから展開されたATフィールドを

弾丸へと固定しつつ、エヴァの生体組織が組み込まれた

砲身内部へもATフィールドを展開。

 

砲身はエヴァの3本目の腕とも言える(人間には存在しない)部位となるため

そこへATフィールドを正確に展開するのは非常に難易度が

高いが、シンジもアスカも器用に展開させていく。

2人のATフィールド操作技術の高さが輝いていた。

 

『フィールド反発力、射撃位置まであと20』

『弾丸へのフィールド展開完了』

 

弾丸と砲身内部のATフィールドが干渉する事で発生する

強力な反発力が弾丸を超加速させ、弾丸のフィールドが

効力を失ってしまう前に目標へ命中させるのだ。

 

 

『射撃準備完了しました!』

『発射タイミングをパイロット両名へ譲渡』

 

「「了解!」」

 

ついにランチャーの全ての準備が整い、射撃可能となる。

少々時間は掛かってしまったが、アラエルの光線は

エヴァ4機分のATフィールドによって遮断されており

パイロット6人に精神汚染の兆候は無かった。

あとは狙いを定めるだけである。

 

 

ピピピピ………

 

照準が少しづつ合わせられていき───

 

 

 

ピーーーッ!!!

 

『撃てーッ!』

 

「「発射ッ!!!」」

 

バシューーーッッッ!!!

 

 

輝く2発の弾丸(Shining Bullets)が空にオレンジ色の軌跡を残しながら

アラエルのコア目掛けて飛翔する。

 

 

 

『──目標消失!』

 

ATフィールドは地球の重力や自転の影響を受けること無く

文字通り真っ直ぐに飛び、アラエルへと直撃した。

一発目の弾丸がアラエルのATフィールドを粉々に粉砕し

無防備になったコアを二発目が貫いたのだ。

 

シンジ達の勝利を示すように、雲が払われた青空には

綺麗な十字の光が煌々と輝いていた。

 

 

 

──つづく。





第15の使徒アラエル、撃破です。
ロンギヌスの槍は使いませんでした。

今回使わせた「A.T.F.ランチャー」ですが
参考元はエヴァンゲリオンANIMAの
零号機F型装備の持つ「天使の背骨」です。
少々オーバーテクノロジーな気がしますが
そこはシンジ君補正ということで…。

次回は…恐らくアルミサエルかと。


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迫る終わり


アルミサエルは顔出し程度です。
次回から本格的なアルミサエル戦となります。

使徒戦の間の準備期間を描く回であり
シンジ君が可愛くなる回でもある。
ここまでするのはやり過ぎた気もしますが
シンちゃんは可愛いからいいんです。



 

 

 

『第15の使徒の殲滅、御苦労だった』

 

「恐縮です」

 

暗闇の中、ゲンドウを取り囲む様にモノリスが浮かぶ。

 

『鮮やかな使徒殲滅だった。賞賛しよう』

 

『被った被害も少ないと聞く…素晴らしいな』

 

使徒殲滅後の詳細報告を行うためにSEELEが普段会議で

使っているこの空間へゲンドウは呼び出されていた。

 

アラエルから受けた被害は地上の迎撃設備幾つかと

第三新東京市の兵装ビル数棟のみだったため

特段お咎め等も無く、SEELEのメンバー達の声色も

普段より機嫌が良さそうである(愛想が良すぎて気持ち悪い)

 

『計画完遂の時は近い。くれぐれも…頼むぞ?』

 

「分かっています」

 

全ての使徒を殲滅した後に儀式を実行することで

SEELEが望む究極の計画「人類補完計画」への

道が開かれるのだ。

 

その為にも残っている2体の使徒を殲滅せねばならない。

SEELEのメンバーはその任を確実に達成するよう

ゲンドウへと念押しした。

 

 

『独断で事を進めた時は…分かっているな?』

 

「はい」

 

議長キールは会議の締めに、ゲンドウに一つ釘を刺す。

「全てはSEELEのシナリオ通りに」という言葉にある様に

ゲンドウら全ての存在は"とあるシナリオ(裏死海文書の予言)"に従って

行動していれば良い──と。

 

裏切る事は決して認めない、そう暗に告げたのだ。

 

 

 

『………タブリス』

 

ゲンドウが会議室を去った直後、円形に並ぶモノリスの

外側で退屈そうにしていた人物へ──渚カヲルへと

議長キールから声が掛かる。

 

「何だい?」

 

『…何故連絡を寄越さない?』

 

ポケットに手を入れたままパイプ椅子に腰掛け

余裕そうな表情を崩さないカヲル。

定期的に連絡を寄越すよう指示したにも関わらず

NERV潜入から一切連絡が無いのはどういう事だ、と

キールは彼を問い詰める。

 

「何故…って、何も無いからに決まってるだろ?」

 

カヲルはさも当然の様にそう答えた。

 

『………連絡を怠るな』

 

あまりにも適当な返事にキールは呆れつつ

これ以降特に何も無くても連絡はするよう指示を出す。

 

SEELEの元へ入ってきている情報を全て精査させても

2号機がS2機関を手に入れたのは偶然であるとの結果が

出てはいるが、不安は排除しておくべきだとキールは

そう判断したのだった。

 

実際のところカヲルがNERV離反の証拠を掴めていないのは

事実である。重要設備があるエリアへの立ち入りは

基本的に認められていなかったのだ。

──そこには"ワザと立ち寄らない様にしている"という

注意書きが付くことにはなるのだが。

 

 

「それじゃあ僕もこの辺で失礼するよ」

 

カヲルはポケットに手を入れたまま退室していった。

 

 

 

『タブリス…我らを裏切る気だとでもいうのか…?』

 

 

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──NERV本部。

 

「シンクロテスト、ですか?」

 

少々暇を持て余してNERV本部をブラついていたカヲルに

リツコからシンクロテストを受けてみないかとの提案が

投げ掛けられた。

 

「──万一の事が無いとも限らないからよ」

 

「…そうですね」

 

今まで本部所属エヴァには専属パイロットがいるから

という理由でカヲルのシンクロテストは行われずにいたが

いずれ来る第16の使徒に対して万全を期したいというのが

今回リツコがこの件を提案した理由だった。

 

「まずは零号機から試しましょ」

 

 

 

 

 

「シンクロ率…100%…ですっ!」

 

モニターに表示されたのは、信じられない(システム上有り得ない)結果。

シンクロ率が100%を超えた事自体はシンジやアスカという

前例があったが、カヲルが叩き出した数値はなんと

ジャスト100%。その数値はブレる事さえ無かった。

 

「まさかとは思ったけれど…」

 

「コアの書き換えもしていないのにね」

 

ちなみにだが、シンジ達が他のエヴァに乗り換える場合

基本的にはコアを乗り換え先の機体へ移す必要があり

仮に必要無かったとしてもシンクロ率は落ちる事になる。

 

しかし、カヲルはそれすら必要としなかった。

エヴァンゲリオンとは、第1の使徒(アダム)第2の使徒(リリス)

始祖たる存在をコピーして作られた存在である。

第17の使徒であるカヲル(アダムより生まれし者)にとって、自らの母の分身達と

シンクロを行う事などはとても容易い事だったのだ。

 

 

「次は初号機に──」

 

「無理だよ」

 

「えっ?」

 

零号機とのシンクロテストが終わり、そのまま他の機体へ

次は初号機とのテストをしようとリツコ達が

動き出した瞬間、カヲルは「乗れない」と言った。

 

「それは…どうしてかしら?」

 

今まさに目の前でエヴァを自由自在に操れる事を

証明して見せた少年が、何故か初号機には乗れないと

言ったのだ。

 

2号機はS2機関という特異性を備えているが

初号機は他のエヴァと何ら変わりのない機体だ。

一体どんな理由があるのか、とリツコは訊ねた。

 

「あの機体は魂が覚醒しているんだ」

 

「魂…まさかユイさんの事?」

 

"魂"と言われて思い当たったのは、コアに眠っている

碇ユイや惣流・キョウコ・ツェッペリンの存在。

 

「そう。僕は拒絶されてしまう」

 

 

 

 

 

[シンクロ率:00.0000%]

 

「──そういう事だったんですね」

 

初号機のシンクロ率を示すモニターを見て

マヤは納得の声を上げる。

 

彼の言葉通り、母と再会した2人の機体(初号機と2号機)のシンクロ率は

どれだけ調整を行っても上昇する事は無かった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

カヲルがシンクロテストを終えてから数十分後──

 

「待ってたわよ。シンジ君、レイちゃん」

 

「いつものシンクロテストですよね?」

「宜しくお願いします」

 

定期シンクロテストの準備が整い、シンジとレイが

実験室近くの更衣室へと呼び出されていた。

 

「あの…なんでここ集合だったんですか?」

 

シンクロテストを行う時は基本的に実験室集合だったり

本部内であればミサトやリツコが呼びに来たり

学校であれば黒服達が車で迎えに来たりするのだが

何故か今回は更衣室の前という異例な集合場所だった。

 

 

「2人のスーツを新調したのよ」

 

新しいスーツの入った袋をミサトが持ってくる。

 

「え?…僕、何も聞いてないんですけど」

 

エヴァに関わる事はシンジの要望もあって

最低限の連絡は入るのだが、このスーツ新調に関しては

シンジの元へは何一つ連絡が入っていなかった。

 

「ま、良いの!ホラ早く着替える!」

 

「あのっ、ミサトさんちょっ…イテッ!」

 

シンジはミサトに背中をバシンッと叩かれて

有無を言わさず更衣室へ放り込まれたのだった。

 

 

 

──数分後。

 

「………なんですか…コレ」

 

新しいプラグスーツへ着替え終えたシンジが

物凄く不機嫌そうな表情で戻ってきた。

 

「イイじゃない!似合ってるわよ、シンちゃん♪」

 

「…これはマヤも薦めてくる訳ね」

 

目の前に立っているミサトとリツコは、新スーツ姿の

シンジをつま先から頭のてっぺんまで穴が空きそうな程

ジッと眺めながら、とても良い表情で絶賛する。

 

厚みが減った事で更にスマートになった肩周り

邪魔なパーツが取り払われスッキリしたウエスト部

ボディラインを強調するかのような鼠径部のデザイン

そして、柔らかそうなラインを手に入れた胸元──

 

「──何で女子用なんですかね」

 

どこからどう見てもシンジのプラグスーツは

男子が着る様なモノでは無い。

 

ご丁寧な事に、"男の象徴"は目立たない様になっているし

胸元にはしっかりと柔らかい素材が充填されている。

要するに、タチの悪い(女の子に見せる為の)細工が随所に施されているのだ。

 

「似合ってる」

 

「…レイ?」

 

同じデザインの(色の違う)スーツを身にまとったレイが

嬉しそうな表情でシンジの隣に立つ。

 

「…訳を聞かせて貰いますね」

 

「分かったから!シンジ君、顔が怖いわ」

 

久々に発せられたシンジの"NERV司令すら黙らせる声(激怒した妻の声)"に

ミサトとリツコは己の知りうる限りの事情を

ひとつひとつ丁寧に説明し始めるのだった。

 

 

 

「怒りにくくなったじゃないですか…」

 

このスーツは、プラグスーツもシンジとお揃いにしたいと

レイに頼み込まれた技術1課が開発したモノだった。

その証拠とばかりに先程からレイはシンジの姿を見て

嬉しそうにニコニコと微笑んでいる。

 

 

「然るべき対処はさせて貰います」

 

「あの…シンジ君、お手柔らかに…ね?」

 

実は最近NERV本部のセキュリティ強化の一環として

全データベースの検査が行われていたのだが、その際に

非常に厳重なセキュリティで何重にもロックが掛けられた

怪しげなファイルが発見されていた。

 

『…シンジか。何かあったのか?』

 

「あぁ父さん。副司令辺りの事でね──」

 

MAGIによってロックを解かれたそのファイルの中には

白衣やメイド服を着た美少女(碇シンジ)の写真が数百枚以上も

保存されていたが、どこからソレを持ち出したのか

女子用プラグスーツを着ているものまで確認されたのだ。

 

「ちょっと…シンジ君…待ってくれないかしら」

 

そしてその写真は誰の手から漏れたのかは不明だが

消去される前に流出、リツコ経由でレイから依頼を受け

プラグスーツを新調していた技術1課の元へと辿り着く。

 

そこからは単純、感銘を受けた課の職員(変態)達の手によって

あれよあれよという間にスーツのデザインが変更され

現在のデザインへと至ったのだった。

 

「リツコさん、言い逃れはさせませんよ?」

 

「…本当にごめんなさいね」

 

少なくとも技術1課の課長(赤木リツコ)は完全に共犯者だった。

 

悪ノリし過ぎたリツコを含む技術1課には厳重注意が

主犯である2人(冬月とマリ)には一時減給が言い渡されたという。

 

しかし、発見された数百枚の写真はというと

被写体(シンジ)からの直々の要請で全て削除される筈だったのだが

何故かそれらの一部がブロマイドや写真集と化し

NERVから大々的に市販されてしまう事となる。

その裏には、サングラスを掛けた髭面の男(娘の可愛さを広めたい父親)

ビデオカメラを手にした眼鏡の少年(依頼を受けたプロカメラマン)が居たのだとか。

 

 

「レイ、シンクロテスト…行こうか」

 

「うん!」

 

可愛い彼女からの頼みを断る事が出来なかったシンジは

新しいプラグスーツを着たまま定期シンクロテストへと

向かったのだった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──新強羅駅。

 

「相田君、素晴らしいプレゼンだったぞ」

 

「加持さんこそ良い交渉でしたよ」

 

第三新東京市を走るモノレール駅の近くの喫茶店で

2人の男がブレイクタイムと洒落込んでいた。

 

「また次回も頼むよ」

 

コーヒー片手にタバコを吸う、無精髭を生やした男

加持リョウジと──

 

「あぁ、碇の力になってやりたいからな」

 

メガネを輝かせながら愛用のビデオカメラを弄る男

相田ケンスケだ。

 

2人は日本政府や戦略自衛隊への根回しとして

NERV本部が置かれている状況やSEELEの目論み

使徒との戦況やこれまでの戦闘記録などを

可能な限り詳しく説明して回っていたのだ。

 

軍事関連にも詳しく映像編集技術も持つケンスケが

エヴァや使徒について分かりやすくまとめた

プレゼンテーション資料を作り、それを元に加持が

こちら側(NERVの味方)へ引き入れる交渉を行う。

 

つい先日戦略自衛隊への説明を終えて区切りがついたため

こうして第三新東京市へ戻ってきていた。

 

「そろそろ葛城が合流する頃か」

 

「碇達に会うのもなんだか久しぶりだな」

 

この後、私用で第三新東京市を離れていたミサトが

車で戻ってくる時に2人を回収し、そのままNERV本部へ

向かう予定になっている。

 

 

 

「相田君、おまたせ~!…加持もね」

 

「何か俺に対して冷たくないか?」

 

ブレイクタイムを堪能し終えた辺りでタイミング良く

NERVの官用車(4人乗りのセダン)が喫茶店の駐車場へと滑り込んだ。

 

「それじゃあ、行くわよ」

 

2人を乗せたミサトの車は豪快な走りで強羅市の郊外へと

駆け抜けていく。ジオフロントへ向かうルートとしては

新強羅モノレール駅から接続するルートもあるが

今回使うのはNERV職員専用のカーゴトレインである。

 

 

 

 

 

車を少し飛ばして新強羅市街を抜け、周辺の景色が

街から森へ変わり始めた頃──

 

「…葛城!」

 

窓を開けてタバコを取り出し、火をつけようとした加持が

ふと車窓へ視線を向けた時にあるモノへ目が留まる。

 

ピピピピッ!ピピピピッ!

 

「ミサトさん、あれは!」

 

「もっと飛ばすわよ、掴まって!」

 

ポケットの中で音を立て始めた携帯電話を加持へ投げると

ミサトはアクセルフルスロットルで山間を行く道路を

猛スピードで飛ばし始めた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「パターン青です!旧小田原方面より接近!」

 

ミサト達が車窓に映るモノ(使徒と思しき存在)を発見したのとほぼ同時刻

NERV本部ではその存在からパターン青が検出されていた。

事実上最後の使徒となる「第16使徒アルミサエル」が

第三新東京市へと姿を現したのだ。

 

「目標、尚も進行!大涌谷上空へ侵入します」

 

「光学映像も捉えました。主モニターへ出します」

 

その使徒の容姿を分かりやすく言うなら

円環状の白く光るDNA。プラスミドにも似た形状で

ゆっくりと回転を続けていた。

前回に引き続き攻撃方法の推測が難しい見た目である。

 

 

「碇、どう見る?」

 

「…前回を鑑みるなら目的はエヴァとの接触か」

 

タイミング悪く作戦部長が不在なため、今作戦指揮権は

ゲンドウが持っていた。

 

単体で見ると性質や攻撃方法がまるで想像つかない

アルミサエルだが、ゲンドウはこれまで戦った使徒達の

行動の変化からそれを推察しに掛かった。

 

ゼルエルまでの使徒は(12番や13番を除けば)方法こそ違えど基本的には

エヴァやNERVの施設を攻撃して破壊し、本部地下にある

第2の使徒リリスへの接触を試みていたが

前回のアラエルはそういった様子がほとんど見られず

レイの心への接触を図ってきていた。

 

「前回が精神なら…今回は肉体へ、か?」

 

「分からんが可能性はある」

 

アルミサエルがどんな手段でエヴァと接触するかは

相変わらず不明だが、恐らくは何らかの接触があると見て

ゲンドウと冬月は慎重にエヴァの準備を進めさせる。

 

「2号機はまだ出すな。中距離以遠で対応させろ」

 

『了解。装備の手配を進めます』

 

仮に物理的接触を行ってくるとした場合、S2機関を備える

エヴァ2号機は他の機体より被弾時のリスクが高いとして

攻撃の詳細が判明するまでは原則待機。

残る5機も装備の方向性を遠距離重視とすることで

接触の可能性を極力減らす方針を取った。

 

「…エヴァへの被害は避けたい所だな」

 

 

 

使徒と分かり合う道は果たして有るのか──

 

使徒との最終決戦の幕が切って落とされようとしていた。

 

 

 

──つづく。





次回、アルミサエル戦。

ここまで目立った活躍の無かったケンスケですが
裏で色々と重要な事をやっていて貰いました。
これがどんな意味を持つかはもう少し先で。

ちなみにシンジ君の新スーツはエヴァQに登場した
アヤナミレイが着ていた物とほぼ同デザインです。
要するに…更に可愛くえっちになりました。
R指定はないです。大分センシティブですけど…。
それと、これ以降彼のスーツはこのままとなります。


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対話


アルミサエル戦、前半です。



 

 

 

『ちょっとシンジ!可愛くなったじゃない!』

 

『本当はワンコちゃんなんじゃにゃいの~?』

 

『僕は男だからね!忘れないでくれよっ!?』

 

作戦開始前だと言うのに、NERV本部には妙に和やかな

気の抜けた雰囲気が漂っていた。

 

「でしょ!?シンちゃんったら本当に可愛いんだから!」

 

「男の子とは思えないです!妹に欲しいなぁ~」

 

先日シンジとレイのプラグスーツが新調されたのだが

作戦の最終確認を行った際に通信ウインドウへ

その可愛らしいプラグスーツ姿が映った事で

アスカ達他のエヴァパイロット達にもその姿が広まり

今のような雰囲気になっていたのだ。

 

その可愛さには男嫌いな(レズの気がある)マヤも絶賛し

ぜひ妹に欲しいとまで口にするほどであった。

 

 

「───総員!第一種戦闘配置だ!!!」

 

「「は、はいっ!」」

 

忘れてはならないが今は使徒戦の直前である。

 

 

 

「エヴァンゲリオン、発進!」

 

仕事モードへ戻ったミサトの号令で、エヴァ2号機を除く

5機のエヴァが大涌谷近くの発進ゲートへ向けて

射出された。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「今回は僕らが前衛だね」

 

「宜しく頼むよ、シンジ君」

 

初号機はマステマを、4号機は2挺のパレットライフルを

手に構え、アルミサエルの居る地点へと進行する。

 

今回エヴァ4号機にはヒカリではなくカヲルが乗っていた。

先日のシンクロテストの結果を受け、3号機か4号機の

パイロットを変えてみたらどうだとゲンドウから

提案され、ヒカリと交代で出撃していたのだ。

 

 

『エヴァ各機、配置に着きました』

 

中衛を務める3号機と5号機、後衛を務める零号機が

それぞれポジションに到着したことが

オペレーターによって報告される。

 

『今回は可能な限り接触は避けて応戦するのよ』

 

アルミサエルが行ってくると予想されるエヴァへの接触を

素早く回避出来るよう武装はやや遠距離の物を多めに

最も機動力のある初号機と4号機を前衛に据え

残る3機が中~遠距離から支援砲撃を行う──

これが今回の作戦の大まかな概要である。

 

『では…作戦開始!』

 

 

 

「お手並みを拝見させてもらうよ」

 

「さぁ、接敵といこう!」

 

初号機と4号機は更に歩みを進め、アルミサエルの姿を

視界へと捉える。

 

『…まだ反応は無いわね』

 

「フィールドの中和距離ではありますけど…」

 

多くの遠距離武装が届く距離まで2機は接近したが

アルミサエルに反応は無い。

 

 

『パターンの推移に変化はありません』

 

アルミサエルは使徒特有の波形"パターン青"と

波形パターンが特定出来ない"パターンオレンジ"が

交互に入れ替わるという異色の反応も示していた。

 

MAGIもアルミサエルの正体に対して回答不能を提示。

 

ミサトは前回に引き続き苦渋の決断としてエヴァを出し

それに対する反応を見ることにしていたのだ。

 

 

『…敢えて手を出すわよ』

 

それでもまだ変化を見せないアルミサエルに

ミサトが痺れを切らしかけた時──

 

「いえ、来るわ…!」

 

「そうだね!来るよシンジ君!」

 

 

アルミサエルはプラスミド状だった体の形状を変化させ

一本の紐状となると、シンジ達に突っ込んできたのだ。

 

「当たれッ!」

 

「僕らが勝たせてもらうよ!」

 

マステマ内蔵ガトリング砲、パレットライフル3挺

ショットガン2挺に実弾式スナイパーライフル

凄まじい量の弾丸がATフィールドを中和された

アルミサエルへと襲いかかる。

 

 

「…ダメだ、ライフルは効かない!」

 

ヒュンヒュンと飛び回るアルミサエルを撃っていた

カヲルはパレットライフルは手応えが無いと気付く。

 

「マステマもダメだ!」

 

シンジもアルミサエルの攻撃を躱しながらマステマの

ガトリング砲を叩き込むが、こちらもライフル同様

まるでダメージが通っていなかった。

 

『マヤ、使徒のATフィールドは?』

 

『…中和されています!…しかし…』

 

アルミサエルのATフィールドは中和範囲内にいない

零号機の分を除いても残るエヴァ4機のフィールドで

完全に中和され切っているとの観測結果が出ており

アルミサエル自身が非常に強固であるだけとの

結論が導き出される。

 

「う〜ん…かっっったいなぁ~…」

 

「ワシのもダメや!効いとらんっ!」

 

中衛の3号機と5号機から撃ち込まれるショットガンと

ライフルも当然効果は無い。

 

 

 

「こっちを試させてもらおうかな…っ!」

 

カヲルは足元を狙った攻撃を華麗に躱すと

肩のラックからデュアルソーを手に取り起動する。

 

「僕も行くよカヲル君!レイ、合わせて!」

 

「分かったわ!」

 

シンジも肩のラックから近接武器を──

ATフィールドを纏える様になったビゼンオサフネ改を

手に持って構える。

 

 

ギィィィーーーンッ!!!

 

アルミサエルの体とデュアルソーがぶつかり合い

凄まじい音と閃光が走る。

 

ガキィンッ!ガキィンッ!

 

ビゼンオサフネがアルミサエルへ打ち付けられる度に

鈍い金属音が辺りに響き渡る。

 

 

 

「くそっ…これも効かないのか」

 

「僕のもっ!…効いてる気配は無いみたいだっ!」

 

アルミサエルは近接武器すらも弾き返して見せたのだ。

デュアルソーはただひたすら煩い音を掻き鳴らすだけの

楽器と化し、ビゼンオサフネもアルミサエルにとって

なまくらなただの鉄の棒にしかなっていなかった。

 

しかし、厄介な点は防御力が高すぎるだけではなく──

 

 

「まずい、侵食型だ!シンジ君離れよう!」

 

「やっぱりそう来るか!」

 

アルミサエルは4号機のデュアルソーに切られながら

体の先端を伸ばし、デュアルソーを取り込み始めたのだ。

侵食が進んでいくにつれ、機械部品の集合体である筈の

デュアルソーの表面には血管の様なものが浮き出る。

 

ズズズズ…ッ

 

ゆっくりと、だが着実に侵食は4号機の手元目指して

デュアルソー伝いに登ってくる。

 

「くっ…どうする?」

 

カヲルはデュアルソーを手放しソニックグレイブへ

持ち替えるが、恐らくはこれも効かないだろう。

 

「レイ、ショットガンを貸してくれる?」

 

「今渡しに行くわ」

 

シンジも侵食され始めたビゼンオサフネから手を離し

レイが持て余していたショットガンを受け取りに行く。

 

 

「厄介になったもんだね」

 

「本気でやり合うと僕らの方が危ない」

 

アルミサエルはエヴァから奪い取ったデュアルソーと

ビゼンオサフネを振り回して襲ってくる様になった。

アルミサエルには効かなくとも、あの2つの武器は

エヴァにとっては致命傷にもなりうる。

 

「ちぃとでも足止めさせて貰うでっ!」

 

「ワンコ君に手出しはさせない…にゃッ!」

 

3号機、5号機からの支援砲撃で出来た隙に

素早く距離を取り、続く攻撃の回避へと移る。

 

「シンジ、これを──」

 

腰に懸架しているショットガンを手に取り

零号機が初号機の近くまで歩いてくる。

 

 

 

『レイッ!避けなさいッ!』

 

「っ!?」

 

 

 

両端で武器を操っているから侵食は来ない──

そんな油断が命取りだった。

 

「くっ…う…」

 

「レイ!早く脱出をっ!」

 

複数本へ分岐したアルミサエルは零号機へ襲いかかり

全身へその侵食を開始していた。

 

「……っ」

 

ようやく本来の標的(エヴァ)へと接触を果たしたアルミサエルは

デュアルソーとビゼンオサフネを手放し、零号機への

侵食スピードを一気に加速させていく。

 

『零号機のエントリープラグを強制排出!』

 

『ダメです!信号を受け付けませんっ!』

 

早くも5%以上の生体部品を侵され、エヴァの機能が

いくつか機能停止していく。

 

 

『2号機を出せ。何としても救出しろ』

 

『エヴァ2号機起動!今行くわよレイ!』

 

ゲンドウは零号機が危機的状況に陥ったと判断した瞬間

2号機への待機命令を解除、即座に発進させる。

 

現場に最も近いゲートへ射出しても少なくない時間が

掛かってしまうが、今のゲンドウにレイを見捨てる判断は

出来るハズも無かった。

 

 

 

「レイっ!…僕らの事も狙ってくるのか!」

 

「少し下がるんだシンジ君!」

 

零号機への侵食を進めながら、近付くエヴァに対しても

その手を伸ばそうとしてくるアルミサエルに

シンジ達は迂闊に手を出す事が出来ずにいる。

 

『これ以上の侵食は危険です!』

 

『レイッ!』

 

零号機が侵食されていくにつれ、コックピットにいる

レイの体にも丁度零号機が侵食を受けている場所と

同じ場所から血管の様な模様が浮き上がってくる。

 

「私が死んだら…シンジがっ…悲しむ…」

 

レイも何か打てる手段が無いか必死に探す。

 

ここで自分がアルミサエル諸共自爆すれば

使徒は殲滅出来るかもしれない。

スペアの身体を使えば"綾波レイ"も生き返る。

 

だが生き返った綾波レイ(3人目)は、シンジと親しくしてきた

今の綾波レイ(2人目)とは異なる存在になってしまう。

シンジと出会う前であれば何の躊躇も無く自爆し

使徒を殲滅しただろうが、今のレイには出来なかった。

 

 

 

(あなたと…わかりあいたい…)

 

「…シン…ジ……」

 

レイの意識はその声と共に闇に落ちていく───

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

(ここは…?)

 

目を覚ますと、摩訶不思議な空間に居る事に気付く。

 

どんよりとした灰色に濁った空と遠くに見える山脈

そして足元に広がる広大な湖。

 

レイはその湖の水面の上に浮かんでいた。

 

 

 

(誰っ?!)

 

目の前の水面に波紋が広がり、水の中から誰かが

レイの前へ姿を現してくる。

 

(私…っ!?)

 

水色の髪の毛に白いプラグスーツ──まるで目の前に

鏡でも置かれているかの様な、自分とそっくりな

姿をした少女が現れたのだ。

 

(貴方が使徒?)

 

(……そう。貴方達がそう呼ぶもの)

 

表情は伺いしれないが、非常に淡々とした声で

目の前の少女──アルミサエルは口を開いた。

 

 

(…わたしとひとつになりましょう)

 

アルミサエルは、少し妖艶さを帯びた声で

レイへそう語りかける。

 

アルミサエルのいう"ひとつ"とは、文字通りひとつ。

ATフィールドを失い、完全に溶け合った状態。

しかし、レイはこの問いに拒否を返す──

 

(いいえ…ひとつにはならないわ)

 

(………何故?)

 

今の綾波レイはこうして生きる今の綾波レイだけであり

誰かと溶け合ってしまえばそれは自分では無い何かへ

変わってしまうから。そうアルミサエルへ答えた。

 

 

(こんなものを抱えて生きていくの?)

 

(…ッ)

 

アルミサエルの瞳が煌めいたかと思ったその瞬間

レイの全身──否、心に不快なモノが流れ込んでくる。

ドロっと濁った、より濁りを増したこの空のような

複雑な感情が入り交じったものが。

 

(それは貴方の心。とても醜い心)

 

(………)

 

ただシンジと共に居たい。

シンジの時間全てを自分の為に使って欲しい。

自分だけを見つめていて欲しい。

 

心の中に渦巻く醜い感情が痛みとなってレイを蝕む。

 

(──ひとつになれば苦しむことも無いわ)

 

全てが溶け合えば、そんな痛みも忘れる事が出来る

そうアルミサエルはレイを誘惑する。

 

 

 

(そう、これが私の心。人の心)

 

しかしレイは自身を蝕む痛みをただ受け止め肯定する。

これこそ、人として生きる事を選んだ自分(リリス)の心だ、と。

シンジと共に生きる世界を守るためならば

どんな存在を敵に回しても構わない、そう思う位には

自分は汚れた人間なのだと語る。

 

 

(人の…心?)

 

(それが弱さであり…強さでもあるわ)

 

人は時に傷つけ合い、時に分かり合い、そうして

少しずつ強くなっていくものだとシンジは教えてくれた。

 

 

 

(………)

 

更に心と記憶が掘り返され、自身の心へと流れ込むが

レイはそれを全て受け止める。辛い過去も全て。

 

(これが人の心…人の強さ…)

 

アルミサエルがレイの記憶を過去へ遡るほど

空もそれを表すかのようにより黒く、より平坦に

何もかもが無くなっていく。

 

悲しみも憎しみも(悪いことも)幸せや喜びも(良いことも)

 

 

 

 

 

アルミサエルはひとつ問いかける。

 

(私達は…分かり合う事が出来る?)

 

レイは俯いたままのアルミサエルへ歩み寄り

優しく抱きしめる。

 

 

つぅっ、とアルミサエルの頬に涙が伝った。

 

(私は…さみしかった。とても)

 

使徒は人を知ろうとして、人の心を覗き込んで

知ってしまった。(アダム)を失った事への悲しみと

一人ぼっち(完全生物)で居る事への寂しさを。

 

(暖かい…これも人の心?)

 

(そう。醜くも強い人の心)

 

アルミサエルは自分を抱きしめるレイの腕から

心地よい暖かさが伝わってくるのを感じる。

心の壁を持ったままでも感じられる暖かさが。

 

 

 

(私は…貴方と共に居たい。生きていたい)

 

アルミサエルはそっと顔を上げ、レイを見つめる。

 

 

(歓迎するわ。…きっと、みんなも)

 

レイはアルミサエルから一歩離れ、手を差し出す。

──自らの意思で手を取り合う事を選ばせるために。

 

 

 

(…よろし…く?)

 

 

 

アルミサエルはレイの手を取った。

 

 

 

──つづく。





レイは原作通り捕まってしまいました。
"外"がどうなったのかは次回で。

今回、レイの心境描写にかなり苦戦しました…
人の心って難しいですからね。
「人はそんなものじゃない!」ってところが
もしかしたらあるかも知れませんが…
筆者が基本ぼっちなので…。


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分かり合った少女達


アルミサエル回完結編です!

レイがアルミサエルと対話をしていた頃
外で一体何が起こっていたのかを
描いた回となります。

前半はね。

※後半R15要素有り?です



 

 

 

「フィールド偏向制御を外部から強制起動!」

 

「制御シグナルロスト!起動しません!」

 

アルミサエルに侵食された零号機を、レイを救出するため

NERV本部発令所にいたゲンドウ達も職員総動員で

取れる対策を片っ端から試していた。

 

「プラグカバーを強制排除!」

 

「ダメです、侵食により装置破損!」

 

エヴァには非常時のために様々な安全装置や

パイロットの脱出機構が装備させられているが

その殆どが侵食の影響により動作しない。

 

『このッ!何なのよコイツ~っ!』

 

『武器がどれも通らないっ!』

 

エヴァ2号機も合流し必死の応戦が続いているが

NERVが保有する装備はどれもアルミサエルに通用せず

マステマに搭載されたN2ミサイルも、零号機との

距離が近すぎて安易に発射出来ずにいた。

 

「どうする?碇」

 

「我々にはもう打つ手が…」

 

ゲンドウが言うようにNERV側が持っていた手札は

ほとんど切ってしまっており、更にアルミサエルには

その多くが通用していなかったのだ。

 

「万事休すってワケね…」

 

MAGIが唯一使徒を殲滅出来る可能性があると推測した

エヴァの自爆装置はアルミサエルの侵食を受けて

外部からの起動という手段が絶たれてしまっており

ここでアルミサエルを殲滅することが出来なければ

もう1人誰かが使徒との自爆を決行する必要が出てくる。

 

使徒との戦いには勝利出来るかもしれないが

この後にはSEELEとの決戦が控えているのだ。

エヴァとパイロットは誰1人として犠牲になど出来ない。

 

 

 

ゲンドウ達が悲痛な面持ちで戦いを見つめ

シンジ達が決死の覚悟で戦い続けていた時──

 

「…零号機との通信が復活しました!」

 

侵食が始まって以降途絶えていた零号機との通信が

ノイズのみではあるが復活したのだ。

 

『使徒の動きが!?』

 

『…止まりよったで?』

 

アルミサエルの方へも目を向けると、先程まで零号機を

侵食しつつシンジ達へもその手を伸ばそうとしていたのが

まるで嘘のように大人しくなっていたのだ。

 

「何が起こっているの?」

 

「分からないわ…」

「レイが…何かしたのか…?」

 

ミサトは勿論リツコやゲンドウもこの状況には

思わず首を捻った。

 

 

 

「っ!?零号機、ATフィールド反転!」

 

突如、防壁として展開されていた零号機のフィールドが

アルミサエルを受け入れるようにして反転する。

 

「侵食が!加速していきます!」

 

「使徒を…抑え込むつもりなの?」

 

ATフィールドが反転した事でアルミサエルにとって

その侵食を阻むものの全てが無くなった。

アルミサエルは一気に侵食を早めていく。

 

 

「侵食、尚も加速──いえ!減速、反転します!」

 

「何ですって!?」

 

侵食が早まったと思った瞬間、生体部品の侵食が

減速へ転じ、あっという間にそれが反転

アルミサエルへと逆侵食を始めたのだ。

 

生体部品を侵食するなど、エヴァにはその様な機能は

一切搭載されていない。だがしかし、現にアルミサエルは

零号機の体へと吸収されていっている。

 

「零号機パイロットの生体反応確認!」

 

「レイが!?」

 

そして、ロストしていた零号機パイロットの反応も

復活する。レイが無事である事が確認されたのだ。

 

アルミサエルは零号機の体内へと取り込まれていき

それが完全に零号機へと吸収されるのと同時に

パターン青が消失、アルミサエルの殲滅が確認される。

 

「…使徒の反応はありません」

 

「使徒殲滅、でいいのかしらね?」

 

何が起こったのかは一切分からないままだったが

ひとまず第16使徒アルミサエルは殲滅された。

 

 

 

「司令…しかしこれは…!」

 

「あぁ、間違いない」

 

2号機に引き続き、使徒をその身に取り込んだという事は

恐らくは零号機にもS2機関が発現するという事──

事後処理が更に山積みになる事が確定したことに

渋い顔になったゲンドウ達だった。

 

 

 

 

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

「何っ!?どうしたの?」

 

突如NERV本部内に再び警報が鳴り響く。

この警報が示すのは──

 

「パターン青っ!?し、使徒ですっ!」

 

使徒出現の報。しかし先程殲滅したアルミサエルが

16番目、最後の使徒である渚カヲルが17番目。

使徒は全部で17体と言われているのだが、この反応が

新たな使徒であるなら存在しない18番目の使徒となる。

 

そして、存在しない使徒である可能性の他に残るのは

以前一度だけあった(7番目のような)「仕留め損ね」である可能性。

 

「使徒だと?だが第16使徒は確かに──」

 

殲滅されたハズのアルミサエルが生きている──

再び零号機の体内で侵食を始めている──

考えられる最悪の事態を避けるため、NERV職員達は

大慌てで対応へ走りだす。

 

そして、オペレーター日向マコトも今まで通りに

観測されたパターン青の解析に取り掛かる。

この反応が一体誰によるものなのかを。

 

「…分析パターン出ました!…こ、これはッ!?」

 

 

 

[BLOOD TYPE:BLUE(パターン青) 2nd ANGEL(第2使徒リリス)]

 

「第2ッ!?第2は──」

 

「リリスが目覚めたとでも言うのか!?」

 

──第2使徒。NERV本部のセンサーが捉えた反応は

本部の地下深くターミナルドグマの最深部で

磔にされ眠っている筈の第2使徒リリスのものだった。

 

「発信源は!?」

 

「現在捜索中です!」

 

第2使徒リリスはゲンドウが南極から持ち帰った

神殺しの(使徒を殲滅する)力が宿る槍「ロンギヌスの槍」に貫かれており

目覚める事はまず有り得ない。しかし、もし本当に

リリスが覚醒を始めているのなら、つい先程殲滅した

アルミサエルなど比較にならないほどの非常事態(インパクトの危機)である。

 

 

「…ぜ…零号機から発せられています!」

 

「まさか!レイが!?」

 

第2使徒が現れた位置というのは、信じられない事に

エヴァ零号機のエントリープラグの中だった。

これらの情報から導き出される答えはレイの魂である

リリスの魂が覚醒した、というもの以外には無いだろう。

 

 

 

『ミサト!零号機がっ!』

 

「これは…」

 

 

第2使徒の反応が零号機から発せられていると判明したのと

ほぼ同タイミングで、現地にいるエヴァパイロット達から

零号機に異変が起きたとの報告がもたらされる。

 

「覚醒…!」

 

零号機の頭上には白いエンジェル・ハイロゥが浮かび

その足も重力の鎖から解き放たれ宙に浮いている。

始祖のコピーたるエヴァが、本来の力を取り戻したのだ。

 

 

『…心配掛けてごめんなさい、みんな』

 

「レイ?レイなのっ!?」

 

通信ウインドウが開かれ、レイの姿が映し出される。

いつも通りの、最近よく浮かべる穏やかな笑みをした

レイの姿が。

 

ただ唯一異なっていたのは、レイの綺麗な紅い瞳が

暖かく輝いていたこと。

 

『使徒とも、分かり合えたわ』

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──ターミナルドグマ。

 

「………」

 

「………」

 

カチリ、カチリ、と階層を刻むエレベーターに

シンジとレイ、カヲル、ゲンドウの姿があった。

 

このエレベーターは「レベルEEE(トリプルイー)」と呼ばれる

普段は誰も立ち入る事の出来ない特殊な区画へと

繋がるエレベーターであり、ここの最深部に

第2使徒リリスが眠っている。

 

「ヘブンズドア…この先に…」

 

「あぁ。リリスが眠っている」

 

たどり着いた場所はヘブンズドアと呼ばれる

通常の扉より遥かに重厚な扉。

この先にリリスの眠る部屋があるのだ。

 

ピーッ

 

[OPEN]

 

ゴゴゴゴ…

 

 

幾重にも重なった扉のロックが外されていき

リリスの眠る部屋へ繋がるヘブンズドアが開いていく。

 

 

「あれが…リリス」

 

100m以上はあろうかという巨大な赤い十字架に

足のちぎれた白い巨人が磔にされていた。

7つ目の紫色(黙示録の仔羊)の仮面をつけたこの巨人こそ

エヴァの元にもなった「第2使徒リリス」である。

 

リリスからは生命の源LCLが常に流れ出していて

十字架の周囲は広大なLCLのプールで囲われている。

 

 

「…レイ、行っておいで」

 

「うん」

 

レイは一歩前へと踏み出すと、赤い瞳を輝かせて

ふわりと地面から浮き上がる。

 

 

 

「………」

 

リリスの胸元まで飛んだレイは、その手でそっと

リリスの体へと触れる。

 

──バシャァッ!!!

 

その刹那、リリスの白い巨体は全てLCLとなって弾けた。

 

弾けたLCLが一斉に流れ込んだ足元のLCLプールは溢れ

岸に立っていたシンジ達の足元がLCLで満たされていく。

 

そして弾けたLCLは仄かな光を放ちながらレイの身体へ

少しずつ吸収されていき、LCLのプールの水位が

元に戻った時、レイの心に声が響く──

 

 

(………ただいま)

 

「おかえりなさい」

 

レイはただ一言、帰ってきた半身を迎える言葉を発した。

 

 

 

 

 

「どうだい?綾波さん」

 

「問題無いわ」

 

レイはゆっくりとシンジ達の所へ戻ってきた。

 

──その身に宿る始祖の力を覚醒させて。

 

 

「ATフィールドは使えそう?」

 

「見たい?分かった」

 

ガキィィィーーーンッ!!!

 

シンジの素朴な疑問にレイは笑顔でそれに答えた。

くるりとカヲルの方へ振り向くと、スっと手を掲げ

巨大なATフィールドの塊を投げつけたのだ。

 

「…綾波さん…事前に声を掛けて欲しいな?」

 

「貴方へ使うのが分かりやすかったから…」

 

言ってしまえば、始祖(アダム)始祖(リリス)のぶつかり合い。

大好きな彼からの質問に少しばかり浮かれた事で

さじ加減を間違えたレイのATフィールドは

ゼルエルと戦っていた時を思い起こす程強烈な音を立て

シンジとゲンドウはそれに思わず腰を抜かしていた。

 

レイは第2使徒の力を完全に自らのモノとしたのだった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──零号機ケイジ。

 

『全圧力、およびエネルギー反応正常』

 

『S2機関安定。異常ありません』

 

レイ達がドグマへと向かっていたのとほぼ同時刻

エヴァ零号機が収容されたケイジでは、戦闘の影響

もといS2機関の有無とその影響がチェックされていた。

 

「今回も大丈夫そうね」

 

「使徒との融合。想定外もいい所だわ」

 

以前第14使徒ゼルエルを喰らいS2機関を手に入れた

2号機と同様に、第16使徒アルミサエルを取り込んだ

エヴァ零号機も当然のようにS2機関を手に入れていた。

 

2号機の時に得られたデータと手法を用いたことで

零号機へのチェックは特に何事も無く終了。

 

 

「で、次はレイの"頼み事"よね」

 

「えぇ。使徒が増えるわ」

 

チェックを終えた零号機へ、機器が大量に接続された

特殊なエントリープラグが挿入される。

 

以前、初号機に取り込まれたシンジを救出する際に

初号機へ取り付けられ、彼が早々に自力で戻ってきた事で

結局未使用のままだったサルベージ用のものだ。

 

『全探査針打ち込み完了』

 

『スペアのバイタル、異常無し』

 

今零号機のエントリープラグには、魂の入っていない

レイのスペアボディが乗せられている。

 

「レイったら…ホント凄い事するわよね」

 

今回サルベージするのは、零号機のコアに宿った

第16使徒アルミサエルだった少女の魂。

 

熾烈な戦いを繰り返していた使徒と分かり合い

人として生きる事を決意させたレイの行動力には

ミサトも大いに感心したのだった。

 

 

『サルベージ準備完了』

 

『第1信号、送信します!』

 

そして、全ての準備が整いサルベージが始まる──

 

 

 

『………ふわぁ…』

 

コックピットシートで眠っていた少女は

可愛らしい欠伸と共に目を覚ました。

 

 

『…ねぇ!綾波レイはどこにいるっ!?』

 

「え?レイ?レイなら今は──」

 

綾波レイと同じ姿からは想像出来ない程に快活な

ハキハキとした声が飛び出した。

 

突然信じられない声色でレイの居場所を尋ねられ

ミサトは豆鉄砲を食らったハトのような表情のまま

レイの今の居場所を答えたのだった。

 

 

『よ~し、会いに行ってくるわ!』

 

「…ちょちょっとォ!待ちなさいってば!」

 

少女アルミサエルはレイの居場所を聞くとすぐさま

エントリープラグから飛び出し、自分へ居場所を

与えてくれた親愛なる少女の元へと駆け出した。

 

しかし少女アルミサエルは、レイのスペアボディを

そのまま持ってきた所へ魂をサルベージした直後。

要するにそれが何を表しているのかというと──

 

「レイお姉様!今会いに行きますわ~っ!」

 

「…服っ!服を着なさぁーいッ!」

 

一糸まとわぬ姿なのである。

 

元々が使徒で羞恥心を知らない彼女にとっては

衣服を身に纏う事よりもレイに会いに行く事の方が

優先順位が高かった。

 

「リツコ!ちょ~っち白衣借りるわよ!」

 

「ちょっとミサト!?待ちなさい!」

 

そして始まる、ミサトと少女アルミサエルの鬼ごっこ。

レイの元目指して一目散に駆けていく裸の少女と

リツコの白衣を片手に鬼の形相で追うミサト。

 

使徒との戦闘直後だというのに、余りにも気の抜ける

バカみたいな光景が繰り広げられ、NERV本部には

とても和やかな空気が漂うのだった。

 

 

 

「…プラグスーツだけでも着せておくべきだったわ」

 

そして零号機のケイジには、唖然とする作業員達と

親友に白衣を剥ぎ取られて呆然としながら

スペアボディをそのまま乗せたことを後悔する

赤木リツコ技術課長が取り残されていたとか。

 

 

 

──つづく。





零号機とレイさんが覚醒しました。
なお機体の関係上現時点ではカヲルを超える
NERV本部最強のパイロットとなる模様。

そして、レイの手を取ったアルミサエルが
彼女のスペアを借りて人間の姿を手にしました。
セリフや性格は「早乙女らんま」をベースに
リナレイを意識して書く予定です。

次回からいよいよSEELEとの最終決戦。
しばらくほのぼのは無い予定。

追記:R18編33.5話を投稿致しました。
決戦を控えたシンジ君とレイちゃんが
イチャイチャする回です。


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決戦へ向けて


本作のメインストーリーもいよいよ終盤
SEELE戦へ備えて色々レベルアップする回です。




 

 

 

──芦ノ湖、湖畔。

 

「間もなく到着予想時刻です」

 

第16使徒アルミサエルの殲滅、もとい勧誘を終え

一通りの事後処理を済ませたNERVの主要メンバーは

厳重に閉鎖された第三新東京市の一角

芦ノ湖に面したエリアへとやって来ていた。

 

「エヴァMark.06…SEELE秘蔵の機体か」

 

「本当にここへ来るんですかね?」

 

彼らが待っていたのは、SEELEから渚カヲルへ直々に

与えられる新型のエヴァ「エヴァンゲリオンMark.06(マークシックス)」だ。

カヲル自身から芦ノ湖へ降ろすとの指定を受け

シンジ達はここへ集まっていたのだ。

 

 

そして、月が丁度空へ登り始めた頃──

 

「…上空に巨大なATフィールドを確認!」

 

「ついに来たわね」

 

第三新東京市上空に発生した、覚醒した零号機をも上回る

非常に強力なATフィールド。

 

Mark.06が頭上で虹色のエンジェル・ハイロゥを輝かせ

月を背にして芦ノ湖へゆっくり降りてきていた。

 

 

 

「やぁ皆。お待たせ」

 

降下してきたMark.06とカヲルは、芦ノ湖の水面に

その重さを感じさせない様にしてふわりと足を着いた。

 

 

 

「これがMark.06…」

 

「確かにSEELE秘蔵と言えるわね」

 

他のエヴァとは異なる名を与えられた紺色のエヴァは

ロンギヌスの槍と似た真紅の槍も手にしていた。

名を「カシウスの槍」と言い、ロンギヌスの槍と対を成す

神殺しの力を持つ槍である。

 

予言が本当であれば、カシウスとロンギヌスが揃えば

世界の再生や造り変えすら可能とされる神槍であり

SEELEはこの槍とMark.06で補完を行う予定なのだろう。

 

 

「これで僕らの手元には2本の槍が揃った…」

 

「まずはSEELEの計画を阻止しなくちゃね」

 

だがMark.06はSEELEの手では無く、アダム(カヲル)の意思のもとに

シンジ達人類に味方することを選んだ。

 

これからやるべき事はSEELEがその事実に気付くまでに

SEELEの戦力に対抗しうる備えを可能な限り万全に

用意しておく事である。

 

「機体は7番ケイジへ格納しておいて」

 

「分かった。この子を運んでくるよ」

 

機体を降りていたカヲルはさも当たり前のように

Mark.06を外から起動・操作し、自身も共にふわりと浮いて

少しばかり格好をつけてNERV本部へと向かっていった。

 

「………なんでもアリね」

 

今更大騒ぎするほど驚くNERVの面々では無かったが

空いた口はしばらく塞がらなかったとか。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「どうかしら?偏向制御式フィールド推進器は」

 

「もう少しです。あとは細部の調整を──。」

 

技術開発局第1課のエヴァ装備用整備室の一角で

シンジはシミュレーション画面とにらめっこしていた。

 

モニター上に映し出されている図面はエヴァ用の追加装備

ATフィールドの作用を利用し機動力を大きく底上げする

「偏向制御式フィールド推進器」の図面である。

 

「手を貸すわよ」

 

「ありがとうございますリツコさん」

 

対SEELE、もとい対量産機を意識し、NERV所属のエヴァを

持てる技術すべてを注ぎ込んで強化することとなり

シンジは技術1課と共同で装備開発に勤しんでいた。

 

 

「使った感じはどう?レイ」

 

『もう少し安定感が欲しいわ』

 

エヴァのシミュレータとも接続され、エヴァ零号機が

シミュレーション空間内で装備の使い心地を試す。

 

 

「ここには生体パーツを採用しよう」

 

「A.T.F.ランチャーの予備は余ってるわよ」

 

様々な部品、様々な設計を試しながら装備開発を進める。

 

「専用マゴロクソードは仕上がりました!」

 

「そうか!後で僕も確認に行きます!」

 

シンジと技術1課が今作り上げようとしているのは

改良を繰り返したN2バックパック或いはS2機関による

ほぼ無限の出力をフル活用する為の装備

「フィールド偏向制御実戦運用型増設アーマー」

通称「F型装備(フルアーマー)」である。

 

全身へ増設した偏向制御装甲による防御力の強化と

フィールド推進器による低下した機動力の補強

そして、ジェネレータ出力を活用した高火力の兵装。

これがF型装備のおおまかなコンセプトである。

 

「5号機用A.T.F.ランチャーも完成です」

 

「3号機、4号機用装備に着手しました」

 

ATフィールド展開が可能な「F型専用マゴロクソード」と

二回りほど小型化した「A.T.F.ランチャー改良型」を

主兵装として装備する。

 

アラエル戦で得たノウハウがフル活用された装備は

汎用性の低下をものともしないスペックが

叩き出されるとの予想が出ていた。

 

 

 

一方その頃技術2課では──

 

「アドル君、装甲板の差し替えはどうだ?!」

 

「はい。24層全て最新式へ差し替え完了です」

 

時田シロウらの手によって、NERV本部の施設面への補強

戦略自衛隊迎撃用の設備開発などが行われていた。

 

「PS層とラミネート層排熱設備の省電力化も、順次」

 

第三新東京市とジオフロントを隔てる特殊装甲板は

ゼルエルに開けられた大穴も綺麗に無くなり

稼働に大電力が必要だった問題も改善されている。

 

 

「…オートマトンの兵装、必要ですかね?」

 

「あぁ必要だ。奴らは人殺しのプロだぞ」

 

更に、侵入者迎撃用のオートマトンも開発されていた。

普段は本部内の清掃や整備を担当するが、有事の際には

内蔵する武器を起動して防衛にあたるのである。

 

加持と相田による引き込み工作は引き続き行われているが

SEELEの息が掛かった部隊が侵攻してくる可能性に備え

万が一への対策は講じておくに越したことはない無い。

 

「本部N2リアクターの改良はどうします?」

 

「上層施設が優先だ。先に隔壁をやるぞ」

 

本部地下にある、増設と改良を繰り返したN2リアクターは

10機全てをフル稼働させればNERV本部の中枢機能を

ほぼ半永久的に賄う事が可能なレベルとなっている。

 

そして本部施設の非常用シャッターもこの後に

時田達の手によって、エヴァの装甲板素材を流用した

とんでもなく強固なモノへと差し替えられる。

 

 

 

そして第1発令所では──

 

『ひとまずMAGIは任せたわよ、マヤ』

 

「はい!プロテクトはキッチリ仕上げてみせます!」

 

NERVが誇るスーパーコンピュータMAGIにも改装の手は及び

ファイアウォール、ネット回線、各通信設備など

様々な箇所へと補強が行われていく。

 

リツコは今エヴァ関連の開発に駆り出されているため

マヤは手元に抱えるリツコ謹製の資料を参考にしつつ

MAGIへのプロテクト施行をこなしていく。

 

「MAGIコピーへの対策も必須ですからね」

 

「加持君が松代を抑えてくれると助かるのだがね…」

 

MAGIはNERV本部第1発令所にあるオリジナル以外にも

松代のMAGI2号、ベルリン、マサチューセッツ

ハンブルク、北京など世界各所のNERV支部に

そのコピーが設置されている。

 

これらMAGIコピーから総攻撃を受ければ、オリジナルと

言えども無傷では済まない。

 

「先輩が戻り次第追加プロテクトですね」

 

エヴァの装備開発が一段落しリツコ達が戻った際に

MAGIの外装を開けての追加プロテクトも行われる予定だ。

 

 

 

シンジ達の活躍によって節約され貯蓄され続けていた

SEELEから提供された資金をごっそりと使い込んでの

NERV本部大改造が行われ、NERV本部は人類最後の砦と

呼ぶに相応しいトンデモ要塞へと進化を遂げたのだ。

 

しかし、相対するSEELEもS2機関搭載エヴァ量産機が9機

詳細不明のエヴァが4機、国連軍や戦自の指揮権も持ち

世界を裏から操る秘密結社である。

これでもまだかなりの不安が残る。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「──これが復元したアダムだ」

 

天井にセフィロトの樹が描かれたNERV本部の司令室

総司令碇ゲンドウのデスクに、かつて加持が運んできた

対爆ケースが置かれる。

 

ケースに入っているのは硬化ベークライトで固められた

第1使徒アダムの復元された肉体。

胎児の状態に戻されているが、確かに使徒である。

 

「お前に…シンジ達に託す」

 

「あぁ、確かに受け取ったよ。お父さん」

 

ゲンドウの向かいに立つカヲルがアダムに触れると

カヲルの手のひらから吸い込まれるように吸収され

跡形もなく取り込まれる。

 

 

「……僕もこれで綾波さんと同等だね」

 

すうっと一瞬だけ虹色のエンジェル・ハイロゥが

カヲルの頭上に浮かぶ。

 

先日リリスの肉体を吸収し始祖としての本来の力を

取り戻したレイと同様、カヲルもアダムを取り込み

始祖の持つ本来の力を全て取り戻したのだ。

 

 

 

「──これで僕らの目的を果たせる」

 

計画がひと段落した事をシンジが喜んだ。

 

カシウスの槍とロンギヌスの槍、世界を作り替える力を

持つ2本の槍をシンジ達の意志でひとつにまとめ

神に等しき力を得たエヴァで"儀式"を行う。

 

セカンドインパクトが地球へと与えた影響を全て

本来あるべき姿へと戻す──

 

それが、世界再生計画の裏で進められていた真の計画

シンジ達NERVが目指す究極の目的である。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「それじゃあ、リナさんの誕生を祝って…乾杯!」

 

「「「乾杯!!」」」

 

NERV本部の食堂には大勢の職員達が集まっていた。

 

少女アルミサエル改め綾波リナの誕生祝いと

SEELEとの決戦へ備えた英気の養いとして

大規模なパーティーが開かれていたのだ。

 

「綾波リナ、綾波リナ。…ウン、気に入ったわ!」

 

「そう?良かった」

 

ちなみにアルミサエルにリナと名付けたのはレイ。

良い名が無いかNERV本部職員に聞いて回って

雰囲気が似ていたアニメキャラ(リナ・インバース)から取ったのだ。

 

 

「皆して僕を振り回して!もうやめてくれよっ!」

 

「あっははっ!可愛いわよっ、シンちゃん♪」

「マヤ!テストスーツ、持ってきてくれるかしら?」

 

「はい先輩!まとめて持って来ますね!」

 

食堂のど真ん中では大勢の職員達に、主に酒に酔った

ミサトとリツコに弄り倒されていたシンジ。

 

持っている可愛い服を着せてみたい、と女性職員達から

着せ替え人形にされ、メイド服やチャイナ服、NERV制服

第1中学校の女子制服にとやりたい放題だった。

 

「トウジ!ケンスケ!助けてくれよぉっ!」

 

シンジが助けを求めた2人はというと…

 

「──あとは、台所に立つ男はモテるぞ~!」

 

「「参考になりますっ!」」

 

アルコールが回り始めた加持とのボーイズトークに

熱中しているのかそれに応える様子は無かった。

 

「ワシは委員長一筋──って何言わすんじゃボケ!」

 

「誰がボケですって!?」

 

そして始まる、トウジとヒカリの夫婦喧嘩(いつものやり取り)

 

 

──ドドドドドドドドッ!!!

 

「姫も着せ替えさせてくれにゃ~~~ッ!!!」

 

「だぁぁっ!この変態!あたしはやらないっつーのッ!」

 

メガネをギラリと輝かせ、ふんすふんすと鼻息を鳴らし

獣のようにマリがアスカを追いかけ回す。

マリの手にはメイド服と、先程すれ違ったマヤから借りた(強奪した)

やけに透け感のある特殊なテスト用スーツが。

 

「そんなスケスケ人前じゃ着られないわよッ!」

 

「ノープロブレム!恥ずかしがる事は無いにゃッ!」

 

シンジが人に囲まれて着せられないのならばと

マリの視線は愛しのお姫様へロックオンされていた。

 

 

「冬月、お前はユイが戻ったら怒られるぞ」

 

グビっ…グビっ…

 

「そういうお前こそ、一時期不倫していただろう?」

 

ゴクッ…ゴクッ…

 

NERV本部のトップ2人は溜まっていた相手への嫌味を

吐き出しながら、互いに一杯ずつ強めの酒を飲み

先にダウンした方が負けの飲みくらべをしていた。

 

「碇、顔がだいぶ赤いぞ。降参したらどうだ!」

 

「冬月こそ!体がぐらついているぞ?」

 

2人とも決して若い訳では無いというのに、強めの酒を

一切の躊躇いもなくグビグビと飲み干していく。

 

「ゔえっ…ユイ!私に…ヒック…力を!」

 

「ヒック…私は、負けんよ…ユイ君!」

 

バターンッ!

 

そして、周りの皆が想像した通り2人はぶっ倒れた。

 

「あ~、担架!ジイさんとオッサンが倒れた!」

 

ゲンドウも冬月も医務室へと運ばれていったが

下手すれば明後日までは二日酔いという名の地獄に

苦しめられることだろう。

 

 

「シンちゃ~ん!加持ったらヒドイのよ!」

 

「ミサトさん、その話もう3回目ですよ?」

「…流石に飲みすぎよ、ミサト!」

 

勢いに乗って飲んだ結果案の定ベロベロに酔ったミサトは

シンジにだる絡みを繰り返していた。

 

ちなみにシンジは散々着せ替え人形にされた挙句

標的をアスカから切り替えたマリに捕まり

あの透け感強めのテストスーツを着せられている。

今は羞恥心より呆れの方が強いようだが。

 

熱狂と爆笑と酒の匂いに包まれたNERV本部の食堂で

今日の主役だった少女はポツリと呟く──

 

「今日の主役ホントにあたしよね?」

 

 

 

この後この大騒ぎにリナが積極的に飛び込んだことで

盛り上がりが更にヒートアップし、翌日の本部食堂に

酔いや疲れでぶっ倒れた職員を増やす事となるのだった。

 

 

 

──つづく。





Mark.06降臨。芦ノ湖に下ろした理由はですね
「花なら散りゆく~♪夢なら果てなく~♪」
オマージュです。

アルミサエルの性格をああした理由は
彼女の名前をリナレイもとい綾波リナにする事が
作者の中で決定していたからでした。

次回!ついに…SEELEとの最終決戦が始まります!


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最後の敵


vs戦自。ある意味でこの後に控える量産機戦と
同レベルかそれ以上のえげつなさを誇る戦闘。

原作の戦自vs本作のNERVではNERVが圧勝します。
ですがそれでは面白みに欠けますよね?
…ええ、敵も強くなっておりますとも。

書くのが楽しくて完成が少し早まりました。



 

 

 

──12月31日(ニューイヤーズ・イヴ)

 

 

 

『タブリス…やはり我々を裏切ったか』

 

ナンバー1のモノリス、キール・ローレンツは

第17使徒タブリス(渚カヲル)の裏切りをようやく知った。

 

『DSSチョーカーもすり替えられていた』

 

裏切り防止用に装着させた自爆装置DSSチョーカーも

つい先程全ての信号が途絶え、それが取り外された事を

タブリスが裏切った事を知らせていた。

 

『これが本来の筋書きと考えるべきか』

 

『左様。彼が生命の継承者である記述は無い』

 

SEELEが保有する予言書、裏死海文書にはタブリスが

最後の使徒である事は記されていたが、補完の鍵となる

生命の継承者がタブリスであるとまでは記されていない。

 

『補完は我らの手で実行するべきではないのかね?』

 

『…アダムや使徒の力はもう借りぬ、か』

 

SEELEは、思い通りに事が進まない他者によってではなく

自分達の手で人類補完計画を行う事を決意する。

 

 

『──碇ゲンドウ。まずは彼を始末せねばならん』

 

人類補完計画の実行組織たるNERVを我が物のように扱い

再生の喜びを拒む者碇ゲンドウ。

 

人類補完計画を完遂するにあたり彼の存在は邪魔になる。

タブリスを除く全ての使徒を殲滅した今であれば

NERVを制圧しタブリス共々ゲンドウを始末することで

邪魔者の排除と儀式の発動条件達成を同時に行える。

 

 

『…期は熟した。始めよう』

 

『『『──全てはSEELEのシナリオ通りに』』』

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──NERV本部、第1発令所。

 

「先程、A-801が日本政府より発令されました」

 

「801!?」

 

特務機関NERVを法的に保護する特例の破棄

そしてNERVの指揮権を日本国政府へと移譲する

最後通告とも言える措置が発令されていた。

 

これが発令されるという事は日本政府が敵へ回った事

ひいてはSEELEの侵攻が始まるという事を意味する。

NERV本部に一気に緊張が走った。

 

「政府からは何と?」

 

「いえ、それ以外には何も…」

 

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

 

「ッ!来ました!MAGIへのハッキングですッ!」

 

「始まったわね…」

 

A-801が発令されてすぐ、NERVと繋がる全ての外部端末から

一斉にMAGIへのハッキングが開始される。

 

「侵入者はどこだ?松代の2号か?」

 

松代は結局懐柔し切れなかったとの報告を受けており

先制してきたのは松代だろうと冬月は予想するが──

 

「ドイツと中国、アメリカからの侵入を確認!」

 

「…総力を挙げてきたか…少々分が悪いな」

 

冬月の予想は悪い方向へと外れる。

MAGIタイプが5台、SEELEのお膝元であるドイツは勿論

NERVアメリカ支部などのMAGIコピーからも

オリジナルを接収すべくハッキングを仕掛けて来ていた。

 

「Bダナン型防壁を展開しろ。侵入させるな」

 

「マヤ、シンジ君。やるわよ」

「「はい!」」

 

本部のあらゆる機能をコントロールするMAGIの占拠は

NERV本部を掌握される事と同義と言える。

 

それをさせないために、MAGIの外装を再び開け

リツコとマヤ、シンジの3人が配管の隙間へ潜り込んでの

プロテクト作業へと入った。

 

 

「やっぱり凄い量のメモですね」

 

「また力を借ります、赤木ナオコ博士」

 

MAGIの内部にはメンテナンス等のための隙間があるが

そこへ面するケーブルには裏コードなどを記したメモが

開発者(赤木ナオコ)の書いたメモが大量に貼り付けられていた。

 

「ありがとう、本当に助かるわ母さん」

 

MAGIを構成する3台の大型コンピューターのうち

今まさにハッキングを受けているMELCHIOR(メルキオール)へはリツコが

残るBALTHASAR(バルタザール)CASPER(カスパー)にはマヤとシンジが

プロテクト作業を行う。

 

3人による猛スピードのプロテクト構築が行われ──

 

 

 

ピーーーッ

 

「ハッキング、停止しました」

 

最初にハッキングを受けたメルキオールの掌握すらも

許すことなく、ものの数分で対処は完了した。

 

このBダナン型防壁を展開したことにより、今後62時間は

外部からのあらゆる侵入をシャットアウト出来る。

2日半とはいえハッキングを完全に阻止出来るというのは

非常に大きなアドバンテージとなるだろう。

 

 

「意外とアッサリだったな」

 

「流石はシンジ君達だ」

 

オペレーターの日向と青葉はホッと一息ついた。

 

この後もまた息が詰まる様な時間がやって来るのだ。

少しでも休息を取っておくのは大事である。

 

 

 

 

 

それからしばらくして──

 

…ピリリリッ…ピリリリッ

 

「緊急通信?どこからだ?」

 

NERV本部へと1本の緊急通信が入った。

 

 

「日本政府、総理大臣から直接です!」

 

「総理からだと?!」

 

この通信を届けてきたのはなんと日本政府、それも

総理大臣から直接でであった。

 

最後通告まで行っておいて一体何の用があるのかと

ゲンドウは少し迷った末に通信を繋げる──

 

 

 

「…つまり、SEELEが動いたと」

 

『ああそうだ。急ぎ伝えておきたくてな』

 

日本政府総理大臣からもたらされた情報とは

第三新東京市を包囲し待機させていた戦略自衛隊から

独断で先行した命令違反者(裏切り者)が多数現れたということ

SEELE指揮下の国連軍が日本へ向けて多数の部隊を

出撃させたということの2つだ。

 

敵に回ったかと思われた日本政府はSEELEに従う振りを

しつつNERVへそれらの情報を回すため動いていたのだ。

 

「総計でおよそ3個師団相当とは…」

 

「ヤツらも本気という事だ」

 

NERV本部へ向け進行する部隊は戦自の離反者を含めると

最低でもおよそ3個師団、人数にして5万人を超える兵が

投入されているだろうとのことだった。

 

『N2爆撃機が動いたとの情報もある』

 

「手加減無しか。厄介だな…」

 

日本政府が掴んだ情報によれば、国連軍の攻撃機部隊に

N2ミサイルを積んだ爆撃機が含まれている可能性があり

今しがた市民へ避難勧告を出させたとのことだ。

 

第三新東京市の市民を巻き込むことも厭わない辺りに

SEELEの本気具合が見て取れた。

 

 

「すまんがシンジ、対策を頼めるか?」

 

「分かった父さん。やっておくよ」

 

シンジは何時でも出撃出来るようプラグスーツを着たまま

特殊装甲板の制御を行うコントロールルームへ走った。

 

 

 

「他のエヴァパイロットは!?」

 

「2号機、5号機パイロットは既に搭乗済みです」

 

国連・戦自合同部隊の本部侵攻の狙いがエヴァであるなら

エヴァパイロット達は真っ先に狙われ射殺される。

 

ミサトは日向と青葉に各パイロットの捜索を指示した。

アスカとマリは既にエヴァに搭乗し出撃準備中なため

残りで優先すべきなのはトウジとヒカリだ。

 

 

「零号機パイロットを発見しました」

 

レイが居たのはジオフロントにある小さな庭園。

シンジが忙しい時に彼女が良く訪れている場所だ。

 

「付近へ零号機を射出!レイへも連絡急いで!」

 

レイには始祖が持つ強力なATフィールドがあるが

国連軍が占拠する前に零号機へ乗せたいところだ。

ミサトは零号機をレイの付近へ射出させる様指示。

 

ちなみにカヲルは外部からエヴァを起動出来るために

国連軍の占拠も意味は無いだろうとのことで

細かい対応は本人に任せる方針とした。

 

 

 

『大観山第11番レーダーサイト沈黙!』

『同様に9番サイトも沈黙!』

 

「いよいよだな」

 

そしてついに、NERV所有設備が破壊されたとの

連絡が入ってくる。

 

『強羅防衛線に2個特化大隊!』

 

『3個大隊が御殿場方面から接近中です!』

 

国連軍がNERV本部目指して侵攻を始めたのだ。

 

 

『西館搬入路からの侵入を確認!』

 

「そいつは陽動だ!東館から隔壁下ろせ!」

 

生きているレーダーサイトや監視カメラの映像から

部隊の侵攻ルートを推測、職員の退避を終えた区画から

時田の指示で次々とシャッターが下ろされていく。

 

『──まだ足りん!もう1発C4(プラスチック爆弾)だ!』

 

『クソッ!RPG(対戦車ロケット)も使って吹き飛ばせッ!』

 

エヴァの装甲板を流用したシャッターの強度は

ATフィールドなど無くとも通常の兵器で破壊するには

凄まじい量の爆薬が必要になる。

 

カメラに映る国連兵達は大量の爆発物をつぎ込んで

シャッターの爆破を試みている様だが、そのペースでは

中枢施設へ辿り着く前に爆薬が尽きる可能性すらある。

 

 

「Cブロックは閉鎖したな?オートマトンを起動しろ!」

 

『了解!メインシャフトCブロックへ投入します!』

 

職員の退避とシャッターの閉鎖が完了した区画

特にメインシャフト等の重要ルートへは

戦闘(キル)モードに移行したオートマトンが解放され

侵入者を次々と排除していく。

 

『何だコイツッ!?ギャアッ!!!』

 

『ぐわあッ!おのれNERVめッ!』

 

いくら白兵戦に長ける国連軍であろうとも

遠慮を知らないオートマトンの前には苦戦を強いられる。

既に非戦闘員を含む職員を何名も殺害している相手に

手加減や情けなどかける必要は無いのだ。

 

 

 

『──N2ミサイルです!爆撃機2個中隊!』

 

「くっ…分かった!電圧調整、排熱効率19%アップ!

8番から20番までエネルギーバイパスを接続!」

 

ジオフロントを閉ざす特殊装甲板を破るための

N2ミサイル爆撃機が確認されたとの報告を受け

シンジは最適な調整を装甲板へ施していく。

 

「本部リアクターからの送電量43%上昇!耐熱、耐衝撃の

アブソーバーのバランスを最適化!」

 

物理的衝撃を吸収するPS(フェイズシフト)層と、ラミネート層の排熱を

行っている排熱機関への電力供給量を的確に操作し

N2ミサイルの爆発を最小限の被害に抑えるのだ。

 

 

『着弾まであと3、2、1!着弾しますッ───』

 

 

ゴゴゴゴ………

 

 

『特殊装甲板、第4層まで損壊!第5層も中破!』

 

『後続の2個中隊接近!次弾着弾まであと約120秒!』

 

「めちゃくちゃだなぁ全くっ!」

 

N2ミサイル第一波で第三新東京市の大部分は壊滅

特殊装甲板の第4層までが破壊され、第5層が中破。

さらに第二波が接近中とかなり押され気味な状況だった。

 

 

『シンジ君!装甲板はいいわ、エヴァへ向かって!』

 

「分かりました!格納庫へ向かいますッ!」

 

国連軍の侵攻が進んだと報告を受けたミサトから

特殊装甲板の調整を中断しエヴァへ向かえと指示される。

 

シンジは装甲板のコントロールルームを飛び出し

エヴァ初号機の居る第2ケイジへと急いだ。

 

 

 

「第2層に侵入者!ブロックFからです!」

 

「第2層までを破棄!第3層で食い止めるわよ!」

 

NERVの抵抗を受けながらも国連軍は着実に侵攻してくる。

ついに第2層のメインシャフトのうちブロックFが落ち

第1層から一斉に国連軍がなだれ込んで来る。

 

これを受けミサトは早々に第2層の破棄を選択

第3層に戦闘員を集めそこで食い止める方針を取った。

 

ゴゴゴゴゴッ…

 

『N2ミサイル第3波着弾!装甲板第17層まで損壊!』

 

「くっ…奴ら遠慮無いわね」

 

地上では爆撃機部隊によるN2ミサイル攻撃が再三直撃し

残っていた装甲板がさらに持っていかれる。

残る7層も第5波辺りまでで抜かれてしまうだろう。

 

ジオフロントが露呈すれば空挺降下による増援の侵入も

許してしまうため、出来れば長く持って貰いたかったが

シンジがいた操作室の付近へも侵攻が迫っていたため

彼の安全を考慮し操作を中止させざるを得なかった。

 

 

『3号機、4号機が発進準備に入りました!』

 

トウジとヒカリが格納庫へと辿り着き、エヴァへ搭乗

大急ぎで両機の発進準備が進められる。

 

『2号機と5号機がジオフロントへ到着!』

 

そして、ジオフロントへ先行して射出された2機は

既にジオフロント露呈に備えて準備を進めていた。

 

 

 

『第2層、オートマトンが全滅!』

 

「何ですって!?」

「技術2課の傑作を…敵さんもやるねェ」

 

国連軍の部隊はオートマトンの対処に慣れてきたようで

第3層の侵入を防ぐため第2層最下層付近へ配置していた

オートマトン達が早くも全滅する。

 

「ケイジ区画に侵入させるなッ!主要隔壁閉鎖!」

 

『敵の勢いが強すぎて防御し切れませんっ!』

 

「やはり狙いはエヴァか!」

 

侵攻ルートからして国連軍は確実にエヴァ格納庫を

目指しており、そこへ向かえるルートを片っ端から制圧

どんな手段を使ってでもパイロットとエヴァの接触を

絶とうとしていた。

 

 

 

「はっ…はっ…第1格納庫!あと少しだ!」

 

チラリと視線を向けた先に見えた第1格納庫への案内。

遠くから聞こえてくる銃声や爆発音を気にも留めず

シンジは初号機のいる第2格納庫目指してひた走る。

 

『シンジ君急いで!敵が来てるわ!』

 

「はっ、はいッ!」

 

耳に着けた通信機からの声にシンジは足を早める。

 

 

「居たぞ!サードだッ!」

 

「──くそぉっ!」

 

後方から爆発音が響き、国連兵がなだれ込んでくる。

国連兵はアサルトライフルの弾をばら撒きながら

何としてもシンジを射殺しようと追ってくる。

 

『初号機のプラグと第2格納庫の隔壁を一時解放!』

 

「うおぉぉぉッ!」

 

 

 

ガシャァン!

 

 

「ハァ…ハァ…辿り着けた…っ」

 

『よくやったわシンジ君!エヴァ初号機起動開始!』

 

すんでのところでケイジ内へ滑り込み、シンジは初号機へ

飛び乗った。

 

『全安全装置、全拘束具解除!』

 

既に起動に必要な作業はほとんど終わっているため

あとは初号機を起動させるだけである。

 

 

『…シンジ!派手にやってこい!』

 

「うん!…エヴァ初号機、強制発進しますッ!」

 

父からの声を受け、シンジが初号機を起動させる。

 

「遅かったか!うわあっ!?」

 

「紫も手遅れだ!クソッ…撤退するぞ!」

 

初号機の周りに"置かれているだけ"となった拘束具を

周辺の壁ごと派手にぶっ壊して発進する。

先程まで自分を殺そうと追ってきていた国連軍兵の事は

意図的に巻き込むことこそしないが構いもしない。

 

エヴァへも果敢に銃を撃っていた男たちが何人か

瓦礫の中へ消えていった気がするが、今のシンジに

それへ構っている余裕など無かった。

 

 

 

『監視衛星がエヴァ輸送機を捉えました!数は9!』

 

 

──もっと悲惨な事態(サードインパクト)を引き起こしかねないモノ(エヴァ量産機)達が

NERV本部目指してやって来ていたのだから。

 

 

 

──つづく。





原作では戦自1個師団が投入されていましたが
本作ではUN+戦自で約3個師団が攻め込みました。
その数実に3倍。原作のままならアウトでした。

「部隊単位と人数が合ってねぇよ」とかあったら
こっそり教えてください。直しときますので。



──ついに始まったNERVとSEELEの最終決戦!
シンジ達の前に立ち塞がる9機のエヴァ
戦いの最中に投入される新たな犠牲たち
果たしてシンジ達は明日を手にする事が出来るのか!?

次回「Beginning of the End」!
この次も、サービスサービス♪


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Beginning of the End


量産機+‪α戦です。




 

 

 

『国連軍戦車隊、ジオフロントへ侵入!』

 

『後続に地対空ミサイル部隊!』

 

NERVと国連軍の熾烈な争いは、舞台をジオフロントへと

移しつつあった。

 

「いい加減しつこいッ!」

 

「おとといきやがれってんでぃ!」

 

一足先にジオフロントへと出たアスカとマリが

国連軍の戦車隊らを相手に戦っていた。

 

エヴァは凄まじい戦闘能力を誇るが、汎用性や小回りなど

戦いやすさの面で言うと通常兵器よりも劣ってしまう。

 

「ありったけをつぎ込め!ミサイルも全部だッ!」

 

「何としてでも奴らのエヴァを破壊するぞ!」

 

そして何より厄介なのが、その数にものを言わせて

死をも恐れぬ特攻紛いの攻撃が次々と飛んでくる事だ。

 

彼ら国連軍は「NERVはサードインパクトを引き起こして

人類を滅亡させる事を目論む危険な組織である」と

上層部(SEELE)によって吹き込まれているため、人類滅亡を

阻止出来るのならと決死の攻撃を行うのだ。

 

 

 

『N2ミサイル第5波が来ます!』

 

切羽詰まったような青葉の声が響く。

 

ジオフロントを閉ざしている24層の特殊装甲板は

シンジの調整により初弾着弾時の予想よりも1発多く

持ち堪えてくれていたが、残りの枚数は僅か1枚。

次で確実に抜かれてしまう。

 

 

 

ズドォォォォーンッ!!!

 

 

 

轟音と共にとうとう特殊装甲板が全て破壊され

ジオフロントにとんでもない大穴が開けられた。

 

穴の縁からは芦ノ湖だったもの(大量の水)がザバザバと降り注ぎ

溜まった爆発の熱に触れて湯気となって消えていく。

 

 

「全く…派手にやるわねぇ…」

 

『VTOL機の中隊を確認!』

 

アスカが呆れたようなセリフを呟いた直後に

国連軍VTOL機の部隊がまるで羽虫の群れかのように

開けられた大穴から降りてくる。

 

 

「いっちょやりますか!姫!」

 

「マリ…遅れるんじゃないわよ?」

 

わらわらと降りてくるVTOL機目掛けて2機のエヴァが

パレットライフルを乱れ撃ちしていく。

 

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃーーーっ!」

 

「うりゃあああァッ!」

 

2人とも敵対する相手を攻撃する事に特別躊躇いが

あるという訳でも無く、パレットライフルの弾丸は

次々とVTOL機を射抜いていった。

 

 

 

 

 

「惣流さん、真希波さん、大丈夫?」

 

「なんや、ワシの出番は無しかいな…」

 

続けて発進したトウジとヒカリが合流する頃には

ジオフロントへ展開していた国連軍も

ほとんど殲滅し終わっていた。

 

 

「よし、僕で最後だね」

 

程なくして本部施設をも派手にぶっ壊しながら

シンジがジオフロントへと表れ、全部で7機のエヴァが

SEELEの切り札(エヴァ量産機)を出迎える準備を終えた。

 

 

『エヴァ輸送機を光学で捉えました!』

 

「──来たっ!」

 

青葉の報告にシンジが空へと視線を向けると

超大型の全翼機(エヴァンゲリオン輸送機)が9機、編隊を組んで飛んできているのが

しっかりと確認出来た。

 

「エヴァに翼?なんか似合わないわね」

 

「なんちゅうか…けったいな見た目やな」

 

エヴァ輸送機から飛び立ったエヴァ量産機達は

なんと上空で生物的な形状の翼のような器官を広げ

鳥のように滑空しながら降りてきたのだ。

 

その翼のような器官にまるで吊るされるようにして

エヴァのボディがくっ付いている姿は中々にシュールで

アスカもトウジもそのデザインに苦言を呈する。

 

「SEELEの美的センスを疑うにゃ~…」

 

『なんかすっごくムカつく顔してるわねぇ』

 

量産機達がゆっくり降りてくるにつれてその顔も

ハッキリ見えてきたのだが、言うなれば目のないウナギ

白くて目のないニヤついた表情のウナギだ。

唇だけ血に染まった様に赤いのも、その不気味さを

より一層引き立てていた。

 

 

「レイ、墜とせる?」

 

「任せて!」

 

その顔にミサトらと同様少々ムカついたシンジは

レイに"必殺の一撃"を放つよう促した。

 

 

「……………っ!」

 

──ビギュオンッッッ!!!

 

 

 

ズドォォォォーンッ!!!

 

 

零号機のモノアイから、使徒達も使ってきていた

あの怪光線が独特な音と共に発射され、上空にいた

1機の量産機に直撃。その直後に周囲にいた8機をも

まとめて巻き込んだ大爆発を引き起こす。

 

 

「焼き鳥9丁あがり、だね」

 

「…コイツ美味そうやないで?センセ」

 

全身の装甲に焼け焦げた跡が付いた状態で

ボトボトと落ちてきたその姿は正に焼き鳥だった。

 

翼を焼かれ、空を飛ぶ手段を失った量産機達は墜落し

勢いよく地面へと叩きつけられた。直撃した1機に至っては

その翼だけではなく片方の腕が胸部の辺りから

ゴッソリと吹き飛んでしまっていた。

 

 

「………」

 

ゆっくりと起き上がった量産機達。

さすがにこの程度でくたばる訳ではないらしい。

 

 

 

「やろうか、みんな!」

 

シンジはビゼンオサフネ改を手に取って構えると

他のエヴァ達と共に量産機へと駆け出す──

 

「ワシらに押される様じゃまだまだやでェ!?」

 

「せいっ!」

 

飛び掛ってきた3号機に顔へとプログダガーを突き刺され

よろけた所へ4号機のマゴロクソードが直撃し

1機の量産機の上半身と下半身がサヨナラした。

 

 

「こんなのお茶の子サイサイよっ!」

 

2号機へ襲いかかろうとした量産機は、反撃を貰って

腕を持っていた諸刃の大剣ごと切り落とされ

首元と頭部を1本ずつマゴロクソードで貫かれて撃沈。

 

 

「的を~狙えば外さないヨ~ン♪」

 

片手にA.T.F.ランチャー改良型、片手にライフルを持ち

歌を歌いながらヒラヒラと戦う5号機を相手に

量産機が手も足も出せずに蜂の巣にされて行く。

 

 

「NERV本部は!落とさせないっ!」

 

ビゼンオサフネ改を手に推進器を吹かす初号機。

近くにいた別の量産機諸共その土手っ腹を貫かれ

湖へと投げ飛ばされた量産機はいとも容易く沈黙した。

 

 

「私はみんなと生きる。邪魔はさせない」

 

眼前のATフィールドへ必死になって剣を叩きつけていた

量産機が、頭部を綺麗に吹き飛ばされ地に倒れる。

覚醒した零号機は、手にしたその"(ロンギヌス)"すら使わずに

量産機を黙らせてみせた。

 

 

「シンジ君の幸せは守ってみせるよ」

 

人間で言う鳩尾辺り、その装甲の真下にコアがある箇所を

"真紅の槍(カシウス)"で綺麗に一突きされた量産機が

力無く地面へと倒れ伏した。始祖そのものと化した

Mark.06に触れられる者などいないのだ。

 

 

──交戦開始から僅か数十秒。

より素早く、より高火力になったエヴァ7機を相手に

量産機たちはあっという間に叩きのめされた。

 

「ふう…あっさりだったね」

 

 

 

──が。

 

『何これ…エヴァシリーズの反応が…!?』

 

通信先の発令所で、マヤが怯えたような声を上げる。

 

 

ググッ…グググッ…

 

「量産機が…生き返ってる!?」

 

「──S2機関!」

 

使徒が持つ無限のエネルギーを生成する永久機関(S2機関)

2号機や零号機も持つこの機関だが、決して稼働時間を

無限にするだけで終わるようなシロモノではない。

 

本来であればS2機関とは、その未知のエネルギーで

生体組織すらも再生する力を持ち、これまでの使徒達が

受けたダメージをすぐに再生していたのもまさに

このS2機関の機能によるものだった。

 

「こっちもだ!」

 

「不死身っちゅう事かいな!?」

 

まるでゾンビ映画のゾンビ達かの様な気持ちの悪い

起き上がり方で立ち上がってきた量産機。

 

 

「………ウィ…!」

 

起き上がった9機の量産機達がニヤリと哂う(わらう)

 

そして、量産機達が起き上がると同時に本部発令所に

更なる凶報が舞い込んでくる──

 

 

 

[New EVA-Unit(新型エヴァ) Activation Signal Confirmed(起動信号を確認)]

 

[Evangelion Mark.07]

[Evangelion Mark.08]

[Evangelion Mark.09]

[Evangelion Mark.10]

 

[EVA-OPFER TYPE]

 

『新型っ!?』

 

『4体も!?…まさか!』

 

何処かで未確認のエヴァが新たに起動したという反応。

しかもその数なんと4機。

 

未確認の4機という特徴に、ミサトとリツコは揃って

以前報告にあった未完成のエヴァ素体の事を思い出す。

ドイツへ4体揃って搬入され、それ以降建造状況などが

一切確認出来ていなかった謎のエヴァを。

 

 

『輸送機到着予想まであと約600秒!』

 

「…ちょっとマズイね」

 

シンジの額に冷や汗が浮かんだ。

目の前に立つ量産機達をあと10分で殲滅しなければ

増援が来て戦闘が一気に劣勢になる。

 

シンジ達7人はギアをさらに上げて量産機へ向かい───

 

 

 

『目標を光学で確認!』

 

「くそぉっ!」

 

倒しても倒しても起き上がる量産機達を殲滅する事は

結局できないまま、その増援の到着を許してしまった。

 

 

 

──ビギュオンッッッ!!!

 

 

「うわあッ!?」

 

「きゃあーーッ!」

 

上空から4発の光線が降り注ぐ。

 

降りてきた4機のエヴァはX字状の模様が刻まれた仮面と

それぞれ黄、赤、青、白の機体色を特徴とし、頭上には

Mark.06と同じ虹色の光輪を浮かべていた。

 

補完計画完遂のためSEELEが用意した保険であるエヴァ

エヴァオップファータイプだ。

 

 

 

「来るぞッ!」

 

今までも7vs9でだいぶ劣勢だったというのに

増援が4機加わったことて7vs13となり、更に劣勢になる。

 

オップファータイプ達は仮面のスリットにある目から

何度も光線を放つため、その火力は量産機の比ではない。

再生能力こそ劣るもののATフィールドと空中浮遊能力が

その欠点を補うため戦闘能力は量産機を上回る。

 

「……うぅ…っ!」

 

「もぉーっ鬱陶しいッ!」

 

「僕を消しに来たね」

 

中でも特にS2機関を持つ2号機や零号機、最後の使徒(殲滅対象)が乗る

Mark.06などはオップファータイプにも優先的に狙われ

特に劣勢に立たされる。

 

「姫っ!なんの…これしきっ!」

 

「放せっくそぉっ!レイッ!」

 

オップファーに狙われている3機を援護しようとしても

手の空いた量産機がシンジ達に殺到し、それを阻む。

 

量産機は大剣を持っていなくても動きがノロマで

トウジやヒカリでも1機撃破するのに苦戦はしないが

それが2機3機と飛び掛かってくれば、シンジやマリでさえ

援護まで注意を回せる余裕はあまり残らない。

 

「ぐあっ!」

 

『エヴァ初号機、胸部増加装甲損壊!』

 

量産機の諸刃の大剣が肩を抉るようにして突き出され

初号機の胸部に取り付けられた増加装甲が破壊される。

 

「ちぃッ!」

 

『2号機のマゴロクソードが破損!』

 

何度も諸刃の大剣と切り結んでいた影響か、2号機の

マゴロクソードが量産機の頭へ突き刺したのを最後に

1本ボキリと折れてしまう。

 

『5号機、A.T.F.ランチャー残弾ゼロです!』

 

A.T.F.ランチャーに使う特殊弾が底をついた。

マリはチャンス時などに限定して、なるべく節約しつつ

撃っていたが、それでも無くなるのは一瞬だった。

 

ただでさえ量産機戦で疲弊させられていた所へ

オップファーが加わった事で被害が一気に拡大していく。

 

 

ピーーーッ!

 

[活動限界まで 1:45:97]

 

ピピピピ……

 

突然初号機のエントリープラグ内に警報が響き渡った。

電源が外部電源から内部電源へ切り替わった時の警報だ。

 

『初号機!N2バックパック、システムダウン!』

 

「くっ…まだだッ!」

 

被弾が増えてきた事で、初号機のN2バックパックが

とうとう不調を来たし機能停止に陥ってしまったのだ。

 

フィールド推進器などの電力をバカ食いする装備を

多数身につけている今のNERVのエヴァは稼働時間が

非常に短くなっており、一気に活動限界時間が迫る。

 

『5号機バックパックにも不調!発電量が低下します!』

 

「んにゃろ〜ッ!」

 

同様のトラブルは5号機のものにも現れ始めており

こちらは機能停止こそしていないものの、派手に暴れれば

一時的にエヴァがダウンする恐れがあった。

 

 

 

──ビギュオンッッッ!!!

 

「うわあァッ!?」

 

『シンジ君っ!』

 

焦っていたシンジは、突如こちらへ振り向いたMark.09の

怪光線を避け損なった。

 

 

 

『エヴァ初号機左腕損失、沈黙ッ!』

 

『初号機、活動限界ですっ!予備も動きませんっ!』

 

NERV本部の特徴的なピラミッド状の建物に叩きつけられ

蛍光色のパーツと双眸から光が失われた初号機。

咄嗟の防御に使われた左腕は無残にも二の腕辺りから

吹き飛んでしまっている。

 

戦況をモニターしていた青葉とマヤの悲痛な叫びが

第1発令所に響いた。

 

『シンジ君…っ!』

 

仰向けに建物へ倒れ込んだボロボロの初号機の姿が

死にかけるシンジの姿に見えてしまったミサトは

胸に掛けたペンダントを握りしめ彼の無事を願った。

 

 

 

そして、3人目の覚醒の時が来る───

 

 

 

「レイは……っ…やらせないッ!!!」

 

 

 

つづく。





次回、最終回。

【エヴァ オップファータイプ】
シンエヴァではNHGの主機として使われた機体。
対NERVエヴァ用の機体にして儀式の補佐・予備機。
儀式の予備機でもあるためS2機関が搭載されているほか
使徒同様の強固なATフィールドと浮遊能力を有する。

出演エヴァの数の関係でナンバーが2つズレていますが
仮面のスリットがX字状のものだけである点以外は
デザイン・カラーリング面に原作との違いはありません

【エヴァ11号機~19号機】
みんなのトラウマ、ウナゲリオン。
番号がズレただけで原作と何ら変わりありません。


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エヴァンゲリオン


天才少年シンジ君、ついに最終回です!

今まで約1年と1ヶ月、長い間のご愛読
本当にありがとうございました!
お気に入り、感想、評価をして下さった方々
完走する気力をありがとうございます!

では、どうか最終回をお楽しみ下さい!



 

 

 

「レイは……っ…やらせないッ!!!」

 

 

 

グググッ…

 

───初号機は再び立ち上がった。

 

 

 

『動いてる…?!活動限界の筈なのに…』

 

──その双眸に赤い輝きを宿して。

 

『暴走?』

 

『分からないわ…』

 

再び動き出した初号機に、ミサト達発令所の面々も

6人のエヴァパイロット達も目を奪われる。

 

「………」

 

それは量産機達もオップファータイプ達も同じであり

その視線を初号機へと注ぐ。

 

 

ズゥン…ズゥン…

 

立ち上がった初号機はゆっくりと歩き始める。

光を失っていた蛍光グリーンの部位が真紅に輝き出し

頭上には零号機と同じエンジェル・ハイロゥが現れる。

 

 

 

──ビギュオンッッッ!!!

 

1機のオップファータイプが怪光線を放った。

 

 

「ッ!」

 

キィイィィーーーンッ!!!

 

初号機は残っていた右腕を前へ向けて突き出すと

虹色に輝くATフィールドが現れ、怪光線を防ぐ。

 

ビギュオンッッッ!!!

 

そして、初号機の双眸が一際強く輝き、お返しとばかりに

撃ってきたオップファーへ怪光線を撃ち返す。

撃ち返されたオップファーもATフィールドを展開したが

それを紙っぺらの様に引き裂いて光線が命中

オップファーの胴体をゴッソリと持っていく。

 

「シンジ…」

 

「レイは僕が守る。絶対にッ!」

 

レイの無事を確かめたシンジは、失った左腕へ意識を

集中させ、その腕をATフィールドの塊で再生

それを零号機の近くにいた別のオップファータイプへ

凄まじい勢いで撃ち込んだ。

 

 

「やっと分かったよ…"エヴァ"の倒し方!」

 

シンジはすぐそばに居た量産機へと近付くと

フィールドで再び生成した腕をその胴体へぶち込む。

 

バキンッ!

 

「エントリープラグ!?」

 

「なるほど~そういう事ね、ワンコ君」

 

初号機は引きずり出した量産機のエントリープラグ(赤色のプラグ)

グシャリと握り潰したのだ。

 

プラグを砕かれた量産機は胴体に風穴が開けられたまま

二度と動き出すことは無かった。

 

そう、今戦っている相手は使徒ではなくエヴァ。

いくらでも傷を再生する能力があったとしても

それを操作する存在(パイロット)が居なくなってしまえば

仮に再生しようとも動く事は出来ない。

 

 

「やってやるわッ!」

 

「反撃開始や!このウナギっ!」

 

 

 

覚醒したエヴァ初号機の戦闘能力は凄まじく

オップファータイプの強力な光線を気にも留めず

光線とATフィールドの塊で次々と敵エヴァを破壊する。

 

「くらえッ!」

 

「…当てる!」

 

「シンジ君の邪魔はさせないよ」

 

初号機と零号機、Mark.06の覚醒エヴァ3機は

オップファータイプ4機を相手にしてもまだ

他の量産機にまで目を向ける余裕があった。

 

「ひとつめ!」

 

アスカがダウンした敵エヴァのプラグを握りつぶす。

シンジと同じく胴体をぶち抜いて破壊したその姿は

まるで鬼神のようだった。

 

「すまんな…ワシらは勝たなあかんのやッ!」

 

続けてトウジも量産機のプラグを1本破壊した。

トウジの瞳にも彼女(ヒカリ)を守るという強い意思が宿っている。

 

「はいはい~大人しくしててにゃ~」

 

マリが量産機の背中にパレットライフルをねじ込んで

機体に刺さったままのプラグを破壊する。

 

 

 

 

 

「よし、これで終わりだ」

 

初号機が最後のオップファータイプのプラグを

握り潰した。

 

「…酷い光景ね」

 

全身の様々な部位を千切られ吹き飛ばされ、量産機と

オップファータイプ達は無残な姿で地に転がる。

 

辺りには無数に飛び交った光線の余波で出来た火の海と

敵エヴァから飛び散った大量の体液が散らばり

一種の地獄絵図のような有様となっていた。

 

『敵性エヴァ、生体反応無し!』

 

「終わったのね…」

 

日向によってもたらされた、敵エヴァの殲滅完了報告に

アスカが安堵の声をこぼす。

 

SEELEとNERVの決戦はNERVに軍配が上がったのだった。

 

 

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

 

 

「さぁ…時が来たね」

 

「やろう、カヲル君」

 

SEELEとの決戦は終わりを告げたが、シンジ達にはまだ

やるべき事が残っている。

 

「レイ。アスカも」

 

「分かった」

「あたしに出来るかしら…」

 

ジオフロントの中央に、初号機と零号機、そして2号機と

Mark.06が集まった。

 

零号機はロンギヌスの槍を、Mark.06はカシウスの槍を

手に持ち、初号機も含めて頭上に光輪を浮かべている。

 

 

「僕達で世界を直すんだ」

 

シンジの宣言で、零号機とMark.06が手に持つ槍を

交差させるようにして掲げる。

そして、初号機と2号機が掲げられた2本の槍へ

それぞれ手を添えた。

 

「示そう!僕らの"意志"を!」

 

「みんなと…生きていきたい!」

「そうね…あたしもそんな世界が良いわ!」

「…僕らの槍をひとつに!」

 

 

4機のエヴァが槍へ祈りを、自分たちの意志を捧げると

ロンギヌスの槍とカシウスの槍はふわりと浮き上がり

捻れるようにして1本の槍(ガイウスの槍)へと変形していく。

 

中心の白い槍を軸に、両側の赤と青の槍が絡み合う

3本の槍をまとめたような形状の槍へと変化する。

 

「これが…!」

 

「僕達の意志の槍……ヴィレ(WILLE)の槍ってとこかな」

 

シンジ達の意志を神へと届ける、"奇跡"を起こす槍。

 

 

 

「いくよ…!」

 

ゆっくりと降りてきたヴィレの槍をシンジ達は掴む。

 

 

ヴィレの槍を掴んだエヴァ達が一斉に覚醒し

2号機の頭上にも光輪が浮かぶ。機体色は4機とも

全身が眩いばかりの純白へ変化していく。

 

 

 

 

 

「世界の再生が始まる…!」

 

エヴァから降りてその光景を眺めていたマリが

いつもの語尾も忘れて4機へ視線を向けた。

 

「シンジ君…頑張るのよ」

 

「ユイ、シンジを頼む…!」

 

リツコやゲンドウ、そして日向や青葉らオペレーター勢も

本部内での戦闘や後始末などが粗方片付いたため

最低限必要なものを手にジオフロントへとやって来た。

 

 

「綺麗やな…」

 

「そうね」

 

同じくエヴァを降りていたトウジとヒカリも

無意識に手を繋ぎながらシンジ達のエヴァを眺める。

 

 

「翼…15年前と同じ!」

 

そして、上空へと上がった4機のエヴァは背中から

一斉に輝く光の翼を広げていく。

 

ミサトだけがその光景をかつて眺めたことがある

始祖が神としての力を解放した時(セカンド・インパクト)の翼。

人の域に留めておいたエヴァ達がその呪縛を解き

エネルギーの凝縮体(神に近い存在)へと姿を変えていく。

 

「セカンドインパクトの続きではなく──」

 

「…シンジ君達の願いを叶えるために!」

 

日が傾き出した空に煌々と輝く16枚の翼が広げられた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「あたし、今なら何でも出来そうな気がするわ」

 

「僕らは今始祖そのものだからね」

 

シンジ達は、地球と月が背景に浮かぶ不思議な空間に

生まれたままの姿で浮かんでいた。

ここは、神そのものとなったエヴァの中に広がる世界。

 

かつてシンジが初号機の中でLCLへ溶けた時のように

4人の魂とでも言うべき存在だけがここにいる。

 

 

 

「でも…私たちの記憶だけでは不完全」

 

世界の再生を行うには、その世界の姿を思い描く必要が

あったが、シンジ達はセカンドインパクト後に生まれ

それ以前の世界を知らなかった。

 

「──なら、知っている人たちを呼べばいい」

 

「呼べるの?カヲル君」

 

その人を知っているなら呼べるさ、とカヲルは言う。

4人は始祖そのものであるため、自分たちが知っていれば

その人物の魂──もとい意識をここへ呼ぶことなど

造作もない事である。

 

 

「………っ!?シンジ君?」

 

「ミサト?ここは一体…」

 

シンジ達が目を閉じその姿を思い浮かべると

次々と見知った人たちが呼び出されていく。

ミサトが、リツコが。

 

「…父さんの力が必要か?シンジ」

 

「私が教鞭を振るっていたのはだいぶ昔の事だぞ…?」

 

ゲンドウが、冬月が。

 

「葛城も呼ばれたのか」

 

「私も手を貸そうシンジ博士!」

 

加持が、時田が。

 

セカンドインパクト前を知る大人たちが呼び出された。

 

その記憶を元に地球は本来あるべき姿を取り戻していく。

捻じ曲げられてしまった地軸が、浄化された南極が

何もかもがセカンドインパクトの無かった世界の姿へと

生まれ変わっていく。

 

 

 

「リナと分かり合えたなら、きっと──」

 

「綾波さんは優しいね…僕も力を貸すよ」

 

レイは手元に槍を呼び出し、自らの体を貫いた。

始祖たる者が槍で自らを貫く時、ガフの扉は開き

そこに眠る魂たちを出入りさせる力を得る。

 

「サキエル、シャムシエル、ラミエル──」

 

「ガギエル、イスラフェル、サンダルフォン──」

 

神の使いたる残酷な天使たちが再び舞い降りる。

 

「リウェト、サハクィエル、シャルギエル──」

 

「レリエル、バルディエル、ゼルエル──」

 

アダムとリリスが手を取りあったことで

いつかどちらかが滅ぶ運命にあった2つの種族(人類と使徒)

同じ姿で(人間として)手を取り合う。

 

「君で最後だね、アラエル」

 

アダムはそれと同義となる存在タブリス、もといカヲルが

リリスもその肉体を取り込み一体化したレイがおり

アルミサエルも一足先に人と分かりあっているため

残酷な天使たちはアラエルで最後だ。

 

 

 

「………最後の仕上げだね」

 

シンジは、この儀式の締めを宣言する。

 

──世界をあるべき姿へと戻し、天使たちと分かり合い

その役目を終えたある存在を眠らせる事を。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「…これからどうなるんでしょう?」

 

4機のエヴァの上空に広がった巨大な虹色の輪(ガフの扉)を見上げ

マヤがポツリとそう呟く。

 

「さあな。シンジ君達にしか分からんさ」

 

「ですよね…!」

 

青葉の言った通り、この現象が一体何のためのもので

これからどうなるかはシンジ達にしか分からない。

 

だが、彼らなら「世界を再生する」との宣言通り

セカンドインパクトで傷ついたこの世界を

癒してくれるだろう、とマヤは確信していた。

 

 

「……っ…いよいよ、始まるわね」

 

「葛城さん!?大丈夫ですか?」

 

意識を失っていた(シンジ達の元へ行っていた)ミサト達も目を覚ました。

 

気絶していた6人は目を覚ますと揃って空を見上げ

4機のエヴァへと視線を注ぐ。

 

 

「…!?エヴァが!」

 

「引き寄せられていく!?」

 

すぐ近くに待機させていた3号機、4号機、5号機と

ジオフロントに転がる量産機達、オップファータイプの

残骸も輝きを放ちながら空へと浮かび上がった。

 

「…やってるの、シンジ君達ですよね」

 

マヤの推測通り、エヴァとその残骸達は遥か上空で

尚も輝きを放つ4機のエヴァへと引っ張られていた。

 

その効果は地球全体に及び、世界中からエヴァの素体や

LCLなどがジオフロント上空へと集っていく。

 

 

 

「──形状制御のリミッターが消失!」

 

「…来るわよ!」

 

エヴァがより一層輝きを強めたかと思ったその瞬間

それらは光り輝く花火のようにLCLとなって弾けた。

 

 

「綺麗ですね…!」

 

「あぁ」

 

キラキラと金色に輝く光が空一面へと広がっていき

それがゆっくりと地球全体へと降り注いでいく。

まるで、世界が祝福されていくかのように。

 

 

 

そして───

 

 

 

「誰か降りてくるっ!」

 

エヴァが飛んで行った上空から、巨大な影がひとつと

小さな人影が数十人降りてくる。

その人影は4人の少年少女を先頭に、13人の子供たちと

多くの女性たちを連れてゆっくりと降下してきていた。

 

 

 

「──あれはッ!」

 

そしてその人影の中に求めてやまなかった人の姿を

見つけたゲンドウが歓喜の声を上げる。

 

「あなたっ!」

 

「ユイッ!ユイ~ッ!」

 

 

 

「ただいま、父さん」

 

碇シンジ、綾波レイ、惣流・アスカ・ラングレー

渚カヲルのエヴァパイロット4名と

碇ユイや惣流・キョウコ・ツェッペリンを初めとする

エヴァのコアに宿っていた母親達が帰還を果たしたのだ。

 

 

「あぁっ!あぁ!よくやったぞシンジぃっ!」

 

「わっ、父さん!嬉しいのは分かったからっ!」

「あなた、シンジが困ってますよ…!」

 

ゲンドウはユイとシンジを抱きしめながら

人目を気にせず大粒の涙を流して号泣した。

 

 

「改めて…やっとこっちでも会えたわね」

 

「ありがとうね~アスカちゃん♪立派だったわよ」

 

地面へ降り立った惣流母娘も感動の再会を果たす。

母キョウコに愛おしそうに抱きしめられるアスカも

平静を装ってはいるが、目元に嬉し涙が浮かんでいる。

 

 

「レイお姉さま~っ!おかえりなさいっ!」

 

「うん。ただいま、リナ」

 

無事に帰ってきた愛しの姉の胸元へリナは飛び込んだ。

離れていたのはそう長い時間では無かったとはいえ

やった事が事なだけにリナはレイの無事を喜ぶ。

 

 

「僕たちも…地球で生きていけるんですね」

 

「そうさサキエル。シンジ君たちのおかげだね」

 

カヲルと同じ位の年頃の銀髪の少年が嬉しそうに呟いた。

後ろに立つ12人の兄弟達と共に、アダムとリリスの力で

新生を果たした少年サキエルである。

 

滅びの運命から解き放たれた喜びを感じつつ

サキエルはそっと大地を踏みしめた。

 

 

 

そして、巡る月日がひとつの節目(新年)を迎えた時──

 

 

 

「…冷たっ!」

 

シンジの頬には、綺麗に白く煌めくものが付いていた。

 

「雪…だわ」

 

「ふぅん…やっぱり綺麗ね」

 

15年前、日本の季節から夏以外が全て奪われて以降

1度たりとも日本では見かけることの無かった、雪。

 

アダムとリリスの取り合った手で鳴らされた福音は

白く煌めく雪となって、今を生きる全ての子供たち(アダムとリリスの子供たち)へと

届けられていく。手を取り合った全ての子供たち(人類と使徒)へと。

 

 

 

 

 

「………今までありがとう」

 

号泣するゲンドウから解放されたシンジは

自分たちと共にジオフロントへと降りてきた

1体のエヴァへ感謝の言葉を投げかける。

 

これまで幾度となく死線を潜り抜けてきた相棒にして

もう1人の母とも言える存在、エヴァ初号機。

 

「またいつか…僕らを守ってくれると嬉しいな」

 

人類の生きた証を永遠に残しておきたいという

母の願いを叶えるため、いつか遠い未来人類の前に

新たな脅威が現れた時に彼らを守るために

たった1機だけ残されたエヴァが初号機だった。

 

「──おやすみ、エヴァ初号機」

 

それを最後に、エヴァ初号機はそっとその瞳を閉ざした。

その手にシンジ達の意志(ヴィレの槍)を抱きながら。

 

 

 

 

 

「全ての人たちへ、エヴァンゲリオン(福音)を──」

 

シンジは空を見上げ、そうとだけ告げると

エヴァ初号機の元を後にした。

 

 

 

 

 

──時に、西暦2016年。

 

運命から解き放たれた少年達は新たな道を歩み始める。

手を交わした残骸な天使たちと共に。

 

 

 

 

 

──天才少年シンジ君 FIN





はい、これにて「天才少年シンジ君」は
一旦の完結となります。
ですが、このあとも後日談もとい続編として
まだまだ物語は続いていく予定です。

今回出した"槍"、登場経緯が原作とだいぶ違いますが
訳あってこの形で登場させたかったので…
そこはどうかご容赦ください。

──裏タイトル「使徒、新生」



SEELEとの決戦を制した碇シンジ達は
新生した使徒達と共に幸せな生活を謳歌する。
しかし、そんな生活に再び魔の手が迫る──
突如行方を晦ませた渚カヲル
再び目覚める望まれぬ福音たち
大きく成長した碇シンジ達は幸せな生活を
再び手にする事が出来るのか!?

次回「シン・天才少年シンジ君」!
さぁてこの次も…サービスサービス♪


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シン・天才少年シンジ君
始まり、再び



新章開幕でございます!

と、その前にCVの変更のお知らせをば。
碇シンジ→神木隆之介氏
???→緒方恵美氏
???→林原めぐみ氏
綾波レイ→沢城みゆき氏

レイさんのCVに関しては、鈴原サクラと
クラピカを足して2で割った様な声を
想定しています。

以降は基本独自ストーリーなのでね…
合う合わないがきっとありますし
行き詰まって打ち切りになる可能性も
少なからずあります。ご了承下さい。



 

 

 

──旧ジオフロント。

 

神奈川県箱根町、かつて旧第三新東京市が存在した場所に

ポッカリと空いた大穴の底にあるドーム状の窪地。

 

雪が降り積もり真っ白になったジオフロントを

一台の車が、マツダのセダン(MAZDA6 SEDAN)が駆け抜けていく。

 

 

 

「さて、もうすぐZUKUNFT本部だ」

 

そのセダンを駆るのは、17年前に使徒との戦いに於いて

エヴァンゲリオンを操り世界に福音をもたらした

世界中が知る英雄「碇シンジ」である。

 

彼は今、解体された特務機関NERVの後継組織となる

地球環境保全機関「ZUKUNFT(ツークンフト)」の本部所長を務めており

ジオフロントにあるその本部施設へと向かっていた。

 

「…ここへ来るのも久しぶりだわ」

 

車窓に写ったZUKUNFT本部をチラリと見て

助手席に座っていた水色髪の女性が微笑みを浮かべる。

 

名を「碇レイ」といい、碇シンジと同じく17年前に

エヴァンゲリオンを駆って使徒と戦った英雄の一人。

今は働き詰めの夫シンジを支える専業主婦である。

 

「お母さんの昔の職場かぁ…」

 

「お父さんのエヴァを早く見に行きたいわ!」

 

後部座席で「ようこそ ZUKUNFT江」と書かれた

パンフレットを読みながら期待に胸を膨らませるのは

碇シンジ・レイ夫妻の子供たち。

 

少しばかり内気な、右目の赤い少年「碇レン」と

レンの妹で芯の通った、左目の赤い少女「碇シイ」だ。

どちらも髪色は茶髪で、所々にダークシアン色が混ざる

天然メッシュである。

 

 

 

「よし、着いたぞ!」

 

シンジ達の前にそびえ立つのは、NERV本部の象徴であった

巨大なピラミッド状の建物、現ZUKUNFT本部だ。

 

 

 

「やァシンジ所長、待ってたぞ」

 

「所長はやめてくださいってばリョウジさん」

 

シンジ達一行を出迎えたのは、無精髭が特徴の壮年の男

ZUKUNFT本部が進める「ノアの方舟計画」の

種子保存プロジェクト担当者「加持リョウジ」だ。

 

「君達がレン君シイちゃんだね?」

 

加持はレンとシイの頭をわしゃわしゃと撫で回す。

子供達2人と加持が顔を合わせたのは今日が初だが

加持曰く「意志を秘めた様な目」が気に入ったらしい。

 

「──それじゃ、案内するよ」

 

「はい…!」

「行きましょ!」

 

今回シンジが子供達と共にZUKUNFT本部を訪れた理由は

子供達から「エヴァが見たい」とせがまれたからだ。

どうせならそれを見るついでに本部周辺の施設を

いくつか見て回ろうという運びとなったのだ。

 

これから向かうエヴァンゲリオンの居る場所は

基本的には一般公開はされていないエリアとなる。

そのため、乗ってきた車からZUKUNFTの官用車へ乗り換え

改めて目的のエリアへと向かう。

 

 

 

「──17年振りだね、相棒」

 

「あれが…!」

「お父さんの?」

 

少し車を飛ばし、ジオフロント内の湖近くに

見えてきたのは80m程もある紫色の巨大ロボット。

 

独特な形の槍(ヴィレの槍)を両手で持ち片膝をついた姿勢で

眠っているこの巨人こそ、17年前にシンジ達が使徒との

戦いで乗っていた「エヴァンゲリオン」、その初号機だ。

 

「これが"ラスト・エヴァ"かぁ…」

 

「カッコイイわね…!」

 

たった1機だけ残されたエヴァンゲリオンということで

ラストエヴァとも呼ばれている。

 

「でも動かせるのってお母さんと──」

 

「渚さんって人だけなのよね?」

 

世界に福音をもたらしたこの最後のエヴァは、17年前に

眠りについて以来長いこと目覚めていない。

コクピットハッチが開かず電源も充電出来ない

外部からの信号なども受信しないという状態なため

誰も動かすことが出来なかったのだ。

 

「そうよ。動かすつもりは無いけれど」

 

そして、その非常に数少ない例外というのが

シンジの妻碇レイと、元エヴァパイロットの一人

現在ユーロにいる渚カヲルという人物の2人だけだった。

 

「お父さんは動かせないの?」

 

「…僕も乗る気が無いだけさ」

 

レンの問いにシンジは「乗らないだけ」と答えた。

事実今のシンジに初号機は動かす事は出来ないが

仮に動かせたとしてももう乗る気は無い、として。

 

 

「なぁレン君達、イチゴでも食わないか?」

 

丁度八つ時(2時頃)、小腹が空く頃だろうと、加持が子供達を

いちご狩りに誘う。

 

「ジオフロントにあるの?」

 

「ぜひ食べたいわ!」

 

如何にも研究施設の集まりという雰囲気のジオフロントに

果たしてイチゴのビニールハウスなど有るのか?と

疑問に思うレンだったが、妹シイと両親にも誘われ

隠されたイチゴ農園へと向かうことにした。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「あれが俺たちの『葛城農園』さ」

 

「ホントにあった…すごいや」

 

初号機の元から再び車を飛ばすこと十数分。

ジオフロント内で少し小高い丘になっているエリアに

レンの想像より遥かに広大な「葛城農園」はあった。

 

この農園は加持が趣味で育てていたスイカの畑を

ZUKUNFT創設時に研究や種の保存を兼ねた栽培場として

大規模に拡張したものだ。

 

「やっほ~レン君♪」

「やぁレン君、父さんに誘われたか?」

 

「加持ミサトさん!コウキ先輩も来てたんだね!」

 

農園でレン達を出迎えたのは、凛々しさの残る黒髪の女性

「加持ミサト」とその一人息子「加持コウキ」だ。

 

加持ミサト、もとい葛城ミサトはNERV本部戦術作戦部に

務めていた人物で、エヴァパイロット達のまとめ役として

使徒との戦いに大きく貢献した女性。ミサトは今は

職から身を退き、第三新東京市で家族と生活しつつ

頻繁に葛城農園へ足を運んで農作業に勤しんでいる。

 

そして、使徒との戦いの1年後にリョウジ・ミサト夫妻の

間に生まれたのが加持コウキ。今は学業の合間を縫って

父親の管理するこの葛城農園の手伝いをしている。

 

 

「美味しそうに育ってますね」

 

「この辺はね、あたしが世話してるのよ」

 

シンジが手に取ったイチゴの株には「ミサト」と書かれた

タグが巻き付けられていた。形は少し不格好だが

皮には張りツヤがありしっかりと赤色に染まっている。

美味しいイチゴの証拠だ。

 

「コウキ先輩が育てたモノもあるんですね!」

 

「あぁレン君。きっと美味しいから食べてみてくれ」

 

タグの中には「加持」や「コウキ」と書かれた物は勿論

「赤木」や「マコト」、「青葉」など十数名分の名前が

含まれており、この葛城農園がいかに愛されているかが

よく分かる。

 

 

「お、サキエル君もここに居たんだね」

 

「碇所長!お久しぶりです」

 

シンジは、モスグリーンの農作業着を身につけた

銀髪の青年へ声を掛けた。

 

彼の名は「サキエル」。17年前にNERVへ所属した

特殊な能力を持つ13人の「エンジェルズ」のうちの一人で

そのまとめ役を請け負っている人物だ。

 

「僕の作物達、ちゃんと実ってくれたんですよ」

 

頬に付いた土を払い落とし、笑顔を浮かべたサキエル。

イチゴの他にも白菜やほうれん草など様々な作物へ

手から生み出した水を撒きながら、とても嬉しそうに

最近の収穫まとめをシンジへと見せる。

 

「うん、去年よりだいぶ量も質も良くなってるね」

 

「生きてるって感じがして楽しいですから」

 

ダイコンを掘り起こしながらサキエルは呟く。

曰く、ゆっくりと育つ植物達の成長を確かめる時間が

地球と共に生きている感じがして好きだとのこと。

 

 

 

「サキエル兄さん、野菜余ってる?」

 

「アラエルか。それならこっちに──」

 

レン達が丁度イチゴを食べ終えた辺りで、葛城農園に

一人と一羽の訪問者が訪れた。

 

「ん、ありがと」

 

地に足をつけずにフワフワと飛行し、その胸元には

赤いトサカを持つ(チャボ)を抱きかかえる銀髪の小柄な女性。

 

「あ…え…ニワトリ?!」

「ニワトリだよね?可愛いわ!」

 

生きたニワトリを直接目にした事の無かったレン達は

目を丸くして驚いた。

 

「そうだよ。可愛いでしょ」

 

静かにコケコケと鳴くチャボを抱えているのは

サキエルと同じくエンジェルズのメンバーの一人

「アラエル」。

 

ここZUKUNFT本部で心理学や精神医学の研究を行いつつ

趣味としてジオフロントの葛城農園のそばで

数多くの鳥たちを飼っている女性だ。

 

「これが今月の余りになるやつ」

 

「相変わらずいい品質。皆喜ぶよ」

 

アラエルがここを訪れた理由は、葛城農園で生産された

野菜のうち余ってしまうものを引き取って

鳥たちのエサに再利用するためだ。

 

 

 

「ここ、研究施設よね?お父さん」

 

「間違いなくそうだよ」

 

シイは疑問に思っているが、光景としてはほのぼのだが

生産した野菜や果物の一部は種子や苗の保存施設へと

運ばれ、ノアの方舟計画の一環で管理されている。

 

また、アラエルの飼っている鳥達も一匹一匹にキチンと

足にタグが付けられており、飼育環境の調査や

品種存続のための研究に活用されているのだ。

 

「それじゃあ今度は"水族館"に行こうか」

 

「えっ!?まさか…そんなのあるの?」

 

シンジは、今度はZUKUNFT本部施設の中にあるという

水族館へレンとシイを招待すると言った。

 

「サキエルも用事あるだろ?」

 

「えぇそうですね。…また泳いでるんだろうか」

 

レン達はますます混乱する。水族館が本当にあるなら

魚たちは水槽の中を泳いでいるのが当然だろう。

しかし、自分達に続けて車に乗り込んだサキエルは

それが問題事かのように心配をしている。

疑問に思いながらも、レン達は葛城農園を後にした。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「本当に水族館だわ…!」

 

「ちょっと無骨だけど、凄いね」

 

無数に並べられた水槽の中で魚達が泳ぐ姿に

シイもレンも心を奪われる。

 

温度、塩分濃度、酸素濃度、対流速度などが

全て厳密に管理された水槽の中で、魚達が生き生きと

とても元気そうな姿で泳いでいたのだ。

 

確かに、無骨ながら水族館とも言えるだろう。

 

「水棲生物保存プロジェクト、専用区画だ」

 

世界中のあらゆる水場に暮らす生物達を飼育する区画で

こちらもノアの方舟計画の一環で管理されている。

 

日本とその近海に生息する水棲生物はどこかしらの水槽に

最低でも一組以上のつがいで飼われているのだ。

 

「シロナガスクジラも居るんだ!?」

 

「勿論。こっちはジンベエザメの水槽だよ」

 

シンジは慣れた足取りで区画を案内していく。

 

そして、ここの担当者が──

 

 

 

「よォサキエル!待ってたぜ!」

 

「全く…君って奴は…!」

 

レン達はサキエルの言っていた意味を理解した。

金髪オールバックの男が、普通の水着だけを着て(スキューバ等も無しに)

巨大な水槽の中で魚達と戯れていたのだ。

 

息継ぎもせず、彼から魚達が逃げていく様子も無く

彼はまるで元から海に生きる人魚(マーマン)かのように

楽しそうに水槽の中で泳いでいた。

 

「ガギエル!魚が好きなのは分かるけれど──」

 

「この水槽は今水質固定じゃねぇんだからいいんだよ」

 

ザバッと音を立てて水槽から上がってきたこの男こそ

エンジェルズの一員にしてこの区画の担当者を務める

「ガギエル」だ。

 

金色のベリーショートヘアをオールバックにし

肌も小麦色に焼いているという、エンジェルズにしては

非常に変わった出で立ちがガギエルの特徴である。

 

「群れの変化は今まで通り。個体数も纏めてあるぜ」

 

「仕事は真面目なんだもんな…はぁ」

 

ガギエルは「個体数の変化に伴う繁殖行動の変化」と

銘打たれた書類をバインダーに挟んでサキエルへ手渡す。

 

彼はパッと見の外見は不真面目だが頭は切れる男で

書類の提出期限などはしっかりと守った上で遊んでいる。

あまり煩く口出し出来ないという意味ではガギエルは

中々に厄介な男でもあった。

 

 

「俺はまた泳がせてもらうぜ!」

 

「あっ!ちょっ…待てっ!」

 

バシャァーンッ!

 

ガギエルは余程の魚好き、そして余程の泳ぎ好きであり

休みの日には日本各地の海へ出向いては泳ぎ、そして

海洋生物を何匹も捕獲して此処へ連れて帰ってくるのだ。

 

目の前の水槽にいる魚達の多くも、実を言うとガギエルが

連れ帰ってきた魚達の子孫に当たる。

 

 

「凄いのね、お父さんの職場」

 

「何でもあるんだね。すごいや」

 

非常に"濃い"父シンジの職場に、レンもシイも

少しばかり語彙力が溶けてしまう位には驚いていた。

 

 

 

ピリリリッ…ピリリリッ…

 

「はい。レイです…分かりました」

 

レイの携帯に一本の電話が掛かる。

発信元には「赤木」の文字。

 

「──船を見にこないか、だそうよ」

 

電話相手の赤木という人物がレイへ伝えたのは

地下で建造中のとある"船"をレンとシイにも

見せに来たらどうだ、との持ち掛けだった。

 

 

 

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──ZUKUNFT本部第1層、超大型特殊ドライドック。

 

 

 

「すごい…これもお父さんの仕事なの?」

 

「そうだよ。どうだい?レン、シイ」

 

第3層付近にあった水棲生物の保存区画から階層を上がり

第1層と第2層の殆どを占める区画へやってきた

レンとシイの目に飛び込んできたのは、1km以上も続く

巨大すぎる工場のような区画そのものだった。

 

「何を…作ってるの…?」

 

この区画で一体何を作っているのか、大きさが余りにも

巨大過ぎてレンとシイにはイメージが湧かなかった。

 

 

「あら碇所長。右舷第2船体は粗方仕上がったわよ?」

 

「だからリツコさん、所長は……了解です」

 

金髪ベリーショートに白衣が特徴的な女性が

シンジ達一行を出迎える。ZUKUNFT本部技術開発部所属

「赤木リツコ」博士だ。

 

リツコはレンとシイを案内しながら、ここで建造中の

船について説明をしていく。

 

 

「貴方達のお父さんが中心となって作り上げた

究極のスペース・アーク、その1番艦よ」

 

[WunderClass SpaceArk Wunder]

 

レンとシイの目の前で建造が進められていたのは

ZUKUNFTが誇る全長2kmを超えるスペース・アーク

「ヴンダー級スペース・アーク1番艦 ヴンダー」だった。

 

 

 

──つづく。





原作完結から17年後を起点とする新ストーリー
Qやシンの要素も取り入れた私なりのエヴァ
「シン・天才少年シンジ君」開幕です。

今回出てきた"船"については次回以降で。

シンジ達の子供の名前は、2人から1文字ずつ
持ってきて「レン」と「シイ」にしました。
加持リョウジ少年は名前そのまんまだと
親父と被っちゃうので、中の人から取って
「加持コウキ」としました。

エンジェルズもある程度キャラ付けをして
しっかりとストーリーに介入して行きます。
今回はサキエル君、アラエルちゃんと
ガギエル君でした。

シンジ君の車にMAZDA車を選んだ理由としては
その車のナンバーを『20-22』と想定している
とだけ言っておきます。

追記:8万UA、お気に入り1000件、総合評価1400突破
本当にありがとうございますっ!


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奇跡と希望


今回はヴンダー級について色々と。

エンジェルズ然りヴンダー級然り
まだまだ新要素が沢山出てきますので
頑張ってついてきてくださいな。

ヴンダー級の外見としては、「とある艦」と足して
2で割った様なモノを想定して頂ければと。
その「とある艦」についてすぐ分かります。



 

 

 

「これが…ヴンダー!」

 

「見た事の無い大きさだわ…!」

 

この後また仕事がある父シンジと一旦分かれたレン達は

ヴンダーの全体像が特によく見える場所へやってきた。

まるでそこに街がひとつ佇んでいるかのような光景に

レンもシイも思わず圧倒される。

 

「地球に住めなくなったとしても人類と多くの生物を

可能な限り永遠に存続させる船──それがヴンダーよ」

 

丁度目の前に見えているのがヴンダーの中枢となる

中央船体で、艦橋を含む重要設備が備え付けられている。

 

また、リツコが言った様に人類が地球を脱する必要に

迫られた時──具体的に言えばインパクトの再発に備えて

この船単独でも自活して行けるよう設計されており

生活排水を飲料用レベルまで浄化する浄化槽や

食料の生産プラントなども順次取り付けられる予定だ。

 

 

「地球から避難って…もしかして宇宙ですか?」

 

「勿論視野に入れて建造されているわ」

 

スペースアークの名が示す通り、ヴンダーは大気圏外でも

半永久的に運用出来るよう設計されている。

 

二酸化炭素を電気分解し酸素を生成する空気循環装置と

高性能空気清浄機を併用する事で艦内の空気を常に

清潔に保ち、水周りも大気圏内と宇宙空間双方に対応する

専用開発のものを採用している。

 

 

 

「確か…3胴構造と言うのかしら?」

 

「両側のも真ん中と変わらない位大きいや」

 

2人は視線を中央船体から両翼上部の第2船体へと移す。

 

第2船体はこのヴンダーの特徴とも言える部位で

船体前部の大型搬出入ゲートを有するカーゴブロックと

後部のN2パルス推進器を有するエンジンブロックで

構成されている。

 

数週間後には左舷第2船体も完成する予定となっており

個別で組み立てられているN2リアクターと推進器を

取り付ける事で完成となる。

 

 

「──足付き、なんて呼ばれてるのよ」

 

リツコが、この船に付けられているニックネームの中で

特に広まっている名称を明かした。

 

「このゲートが足…ですか?」

 

「分からなくも無いわね」

 

レンとシイは第2船体前面に取り付けられている

大型搬出入ゲートをチラリと眺める。

確かにそれが足だと言われれば、足に捉えられなくも無い

そんな外見をしていた。

 

正式名称が決まるまでは様々な仮称で呼ばれていたようで

「エンジェルズが開発に携わっている翼を持つ艦」という

特徴から「大天使(アークエンジェル)」と呼ぶ者も多かったとか。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──第2ドック特殊組み立て室。

 

「リアクターの完成度合いはどう?」

 

「作業に9.1%程遅れが出ていますが、予定以内には。」

 

シンジは子供達をリツコに預け、ヴンダー級の開発現場を

見て回っていた。

 

この方舟の開発を含む計画「ノアの方舟計画」も

シンジが最高責任者を務めているため、時折ドックへと

顔を出し現場監督らと共に建造を進めているのだ。

 

「2番艦は…かなり遅れ気味だね」

 

「コスト削減が難航していまして…」

 

ドライドックの方をチラリと眺めてみれば、そこには

1番艦ヴンダーとそっくりなシルエットが佇んでいる。

 

[WunderClass SpaceArk Hoffnung]

 

より多くの種を存続させられるよう、保存ユニットに

割くスペースが1番艦よりも広く取られている

ヴンダー級スペースアーク2番艦「ホフヌング」だ。

 

いかにヴンダーが巨大だとしても、日本近辺の生物を

最低限収容しただけでかなりの収容枠を食ってしまう。

そこで造られたのがこのホフヌングで、コストの削減や

収容枠の向上を目指した量産先行機に当たる。

行く行くは世界各国の支部でも3番艦以降の建造を進め

現存する生命全ての種の存続を実現させる予定だ。

 

 

 

「建造は1番艦と比較しても31%の遅れが出ています…」

 

建造状況を告げた整備士の言葉の通りと言わんばかりに

ホフヌングは第2船体の基礎フレームの大半が剥き出し

中央船体がようやく完成したという有様だった。

 

これ程2番艦ホフヌングの建造が遅延していた理由は

1番艦ヴンダーの圧倒的な超スペックにあった。

あらゆる技術をつぎ込んで高性能化を目指した1番艦に対し

コスト削減や汎用性の確保を目指す必要があった訳だが

推進器や生命維持装置のコスト削減に苦戦していたのだ。

 

「2番艦を優先させよう。人員と資材も回しておく」

 

「助かります…!」

 

 

 

シンジは改めて目の前のリアクターへと視線を戻す。

 

[ヴンダー級専用 N2リアクター改参型]

 

かつてNERV本部の電源供給を一手に担っていた

大型N2リアクターを更に改良したものだ。

ヴンダー級に搭載するためにシンジらが17年掛けて

改良を進めたもので、最高出力は従来機の比では無い。

 

「シンジ博士、本当に4基でいいんですかい?」

 

「えぇ時田博士。予備緊急込みでも足りますよ」

 

シンジの開発仲間であり技術開発部所属の技術者

「時田シロウ」に、シンジはリアクター配置の予定図と

エネルギー配分を記した設計図を見せる。

 

通常時用リアクター2基、予備と緊急で1基ずつあれば

船の航行と保存ユニットの機能を維持するのに

十分過ぎる出力が用意出来るとの予想だった。

 

 

「…所長、コイツこんなに出力あるんすか!?」

 

表示された図面を覗き込んだ作業員が驚きの声を上げる。

 

シンジ達はさも当たり前の様に話していたが

このリアクターはZUKUNFT本部でも随一の頭脳を持つ

シンジ、時田、リツコの3人が持てる技術全てをつぎ込んで

フル改造を施した逸品である。

 

「"コレ(全長2km超)"を飛ばすには必要だよ」

 

「そりゃそうっすけど…。民間には出せないっすね」

 

その出力は、かつて日本全国から大電力を集めて撃った

あの「大出力自走460mm陽電子砲(ポジトロンスナイパーライフル)」さえこれ1基で

ポンポン撃ててしまう程のものを叩き出していたのだ。

これが2基あれば、日本で稼働中のあらゆる発電設備を

お払い箱に出来てしまうトンデモ発電機なのである。

 

仮にこのリアクターを民間にでも出そうものなら

電力事業の権益を巡って戦争が起きかねない。

 

 

 

「所長ー!ちょっとええか?!」

 

ドック側入口から、独特な口調でシンジに声が掛かる。

 

「──バルディエルか、今行くよ」

 

シンジを呼んだのは、黒系の作業着を身にまとった

言葉の端々に関西弁が混じる黒髪の男「バルディエル」。

彼もまた「エンジェルズ」の内の1人だ。

ZUKUNFT本部技術開発部所属のメカニックであり

特に電装系の調整や修理を得意とする。

 

因みに、彼の言葉に関西弁が混じるようになった理由は

シンジの友人らと交流を繰り返しているうちに

気の合った人物の口癖が移ったかららしい。

 

 

「ヴンダーの方や。シエルが呼んどったで」

 

「分かった。リアクターの再調整も丁度済んだし」

彼がココへ来た理由は、ヴンダーの方のドックで

シエルなる人物がシンジを呼んでいたからとの事だった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──推進器開発ブース。

 

 

 

「やぁシンジ所長、待っていましたよォ」

 

特殊なデバイスを装備しモニターとにらめっこしていた

青年が、シンジの到着に気付き振り返った。

 

 

「──待たせたねシャムシエル」

 

太陽モチーフのネックレスを掛ける金髪の青年の名は

「シャムシエル」。額に自作の太陽観察グラスを

常に乗っけている大の太陽好きで、ZUKUNFT本部内では

ヴンダー級の推進器系の開発を任されている人物の1人。

シャムシエルもバルディエル同様「エンジェルズ」に

所属する13人の内の1人だ。

 

「用事ってのは?」

 

「推進器の開発が上手く行ってなくてねェ…」

 

シャムシエルがシンジを呼んだ理由は、開発途中である

ヴンダー級用の推進器の開発を手伝って欲しい

というものだった。

 

[大型艦船用フィールド推進器 試作設計図]

 

補機として搭載する特殊なジェネレータから供給される

エネルギーを利用した最新型の推進器だ。

 

これを用いる事で、全長2kmを超える巨体であっても

空中に浮遊、静止させる事が可能になるというモノだが

シャムシエル曰くその出力がまるで足りず

船の総重量の維持が現状では不可能との事だった。

 

 

「う〜ん…増幅が足りないにしてもコレは…」

 

シンジは画面に表示されるフィールド出力図を眺め

問題は別の所にも有るとの指摘をする。

 

「バルディエル、頼めるかな?」

 

「任しとき!」

 

ここでバルディエルの出番が来る。彼はおもむろに

電装系の配電盤のカバーを外すと、剥き出しのケーブルに

何の遠慮も無く手を触れる。

 

[!危険 超高電圧!]

 

人間では耐えられない様な高電圧が流れている配線に

ガッツリと触れたバルディエルは、手のひらを青色に

変色させ、触れているケーブルを侵食していく。

 

「…待ってな、今探っとるから」

 

これがバルディエルの特技。手で触れた電装部品を

一時的に侵食し一体化する事でその電子機器の構造を

完璧に把握する事が可能であり、エネルギーの過不足や

回路の伝達効率といった要改善箇所、配線の接続不良や

ショート、オーバーヒートといった修理が必要な箇所を

一瞬で見抜く事が出来るのだ。

 

 

「Cの…09番と…N-97番が改善出来そうや」

 

機器全体のバランスを見て、バルディエルが改善点を

発見・指摘する。

 

 

「──次は僕だね。プログラムを少し調整しよう」

 

推進システムと電装系との接続や出力の配分を

少しづつ調整していくシンジ。

 

「シャムシエル、システムを起動して」

 

「了解です!…行きますよォ!」

 

シャムシエルは、両手にセットした特殊デバイス

「試作型フィールド制御用アームレイカー」を起動させ

仮想空間内に現れたヴンダーの操縦を開始する。

 

エンジェルズの中でも特にフィールド制御に長ける

シャムシエルは、推進器へ供給されるエネルギーを

器用に操作し船体の姿勢を安定させに掛かった。

 

「宙域航行時のボーダーはクリアしましたァ!」

 

「…大気圏は…まだ調整が足りないか!」

 

「N-40から47までの出力を13%アップや!」

 

シャムシエル、シンジ、バルディエルの3人が

逐一システムに調整を施していき──

 

 

「大気圏航行ラインまであと0.4、0.3──」

 

シンジが出力増幅装置を増設し、ヴンダーの航行が徐々に

安定したものへと変わっていく。

 

 

「…来ましたァ!航行可能ライン到達です!」

 

「流石はシンジ所長やな」

 

そしてついに、仮想空間内のヴンダーの飛行が

完全に安定したものに落ち着く。

シャムシエルがアームレイカーで操作し停船させても

重力に引かれて落下していく事は無かった。

 

 

「──あとは増幅装置の開発だね」

 

肝心のフィールドの増幅装置がまだ未開発なため

これを完成させなければならないという問題は

残ってしまっていたが。

 

 

 

 

 

「N2パルス推進器は使わないんですかね…?」

 

「確かに使ってなかったよな?」

 

ヴンダーの新型推進器のシミュレーションを後ろから

見守っていた開発ブースのメカニック達は

そのシミュレーション内容に空いた口が塞がらなかった。

 

ヴンダー級に搭載予定の推進器は、主翼部に搭載予定の

特殊な推進器を含めても3種類存在するのだが

今回のシミュレーションではそれらを一切使わずに

フィールド推進器のみで航行させて見せていたのだ。

 

「年々磨きが掛かってるよな、碇所長」

 

「色々とんでもないモノ発明してますしね…」

 

使徒との戦いを終えてからも、シンジの研究意欲は

衰えるどころか更に勢いを増しており、数ヶ月程前には

「相転移で物理攻撃を無効化する装甲材の完成品(ヴァリアブルフェイズシフト装甲)」や

「物理・光学双方に耐性を持つ装甲用塗料(ナノラミネートアーマー)」をあろう事か

個人で作り出してしまったとか。

 

「最上さんも楽しそうでしたよね」

 

「…あぁ、凄く楽しそうだった」

 

最近はヴンダーの主機、主推進器開発と並行して

特殊な光子を生成し続ける動力機関の基礎理論構築を

進めているらしく、ロボットアニメ作品の映像を片手に

ああでもないこうでもないと議論をしているらしい。

 

「アレ、試料って残して無いんでしたっけ?」

 

「所長自ら破棄しちまったんだと」

 

それらは作られた直後に完成品も含めた全ての試料が

破棄されたため現存はせず再現も不可能とされているが

設計データは未だにシンジの手元にあるのだとか。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──ZUKUNFT本部、司令室。

 

 

 

「──以上が、公安の調査結果です」

 

「ありがとうございます。藤井長官」

 

相変わらずだだっ広くて殺風景な本部の司令室で

シンジは内務省公安調査庁長官から、とある調査依頼の

定期報告書を受け取った。

 

[国際テロ組織SEELEに関する動静調査報告書]

 

シンジが公安調査庁に依頼していたのは、17年前を境に

世界から姿を消した秘密結社SEELEの動静調査。

 

「未だに国内での活動は確認されていません」

 

「やはり日本には居ない…か」

 

SEELEは17年前に、国連軍および戦略自衛隊を扇動し

特務機関NERVを含む第三新東京市一帯に壊滅的な被害を

齎したとして国際テロ組織の認定がされており

人類補完委員会のメンバーを含むSEELEの構成員には

国際指名手配が出されていた。

 

しかし、事件から既に17年が経過した今でも

構成員の所在特定・逮捕に繋がった事例はほとんど無い。

世界を裏から牛耳っていた秘密結社なだけあって

憎たらしい位に証拠隠滅が完璧で、各国政府が一斉検挙に

乗り出した頃には既に雲隠れされてしまっていたのだ。

 

 

「碇所長、微力ながら応援していますよ」

 

「色々と…本当にありがとうございます」

 

シンジがヴンダー等の開発に全力を尽くしていたのは

SEELEが再び活動を再開した場合に備える為であった。

 

彼らがまだ人類補完計画の発動を諦めていないのなら

それは地球壊滅のリスクがまだ残っている事と同義。

エヴァは1機を残して全て失われ、かつての始祖達は皆

確固たる自我を持って今の世界を守るため動いているが

サードインパクトは絶対に発動させてはならない。

 

「ユーロからの調査結果次第かな」

 

「旧NERVドイツ第1支部、ですか」

 

シンジは今日も人類の未来のため奔走するのだった。

 

 

 

──つづく。





cv.三石琴乃さんが艦長を務める艦ということでね
「とある艦」とはSEEDのアークエンジェルの事です。
主翼は艦底部から左右に長く広がる1枚の翼に
第2船体前面にはAAの様な足、搬出入ゲートを取り付け
そんな感じの改変が施されております。

エンジェルズとして新たにシャムシエル君と
バルディエル君が登場しました。
シャムシエルは「神の強き太陽」を
バルディエルは「神の雷光」を意味する名だそうで。
彼らの特徴等はそちらも参考にしております。

次回は…多分日常回。


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憩いの日々のひとかけら


新章第3話です。

本来もう少し書き込んでから投稿するつもりで
書き進めていたんですが、中々にスランプで
いつまで経っても先へ進めなさそうな気がしたので
ある程度まとまった段階での投稿を選びました。

普通に読めるレベルには纏まっているとは思うので
足りない部分は読者様方の方で補完して頂いて…。

私どうやら日常回を書くのは苦手な様です。



 

 

 

「わざわざ迎えに来てくれてありがとう」

 

17時を廻り早くも暗くなり始めたZUKUNFT本部に

レイの駆るセダンがシンジを迎えに来た。

 

「レンとシイは?」

 

「2人なら家で待ってるわ」

 

レイは本部内観光を終えた子供達を一足先に家へ送り

そのまま本部へとトンボ帰り。電車で帰宅する気だった

シンジを車に乗って迎えに来たのだ。

 

ジオフロントは今でも民間人が利用する様な(ZUKUNFT関連以外の)施設は少なく

ここへ通ずる民間カーゴトレインも利用するには

ある程度の手続きを踏む必要があるのだが

愛する旦那を出迎えに行くレイにとってはその程度など

道端の小石程の障害にすらならない。

 

「んっ…今日もお疲れ様」

 

「何年経っても可愛いねレイは」

 

車へと乗り込んだシンジへレイは頬に軽くキスをし

彼の今日の労働を労ってやる。

2019年の6月に結婚して既に13年程が経つ2人だが

付き合い始めた当初と変わらずラブラブである。

 

 

 

「まぁトレインはガラ空きだよね」

 

「ここの人しか使わないものね」

 

地上とを結ぶカーゴトレイン、ジオフロント側の駅は

だいぶ閑散としており、基本的に待つ事は無い。

 

「この後買い物に寄るわ」

 

「分かった、付き合うよ」

 

 

「来月北米支部との打ち合わせがあって──」

 

「…少し寂しいわ」

 

 

「………今夜、どう?」

 

「明日は早くないし、いいよ」

 

カーゴトレインがレールを走る音だけが響く中で

2人は本を読みつつ時折会話を挟んで暇を潰す。

 

 

 

『間もなく、新強羅駅に到着致します──』

 

2人の車を載せたカーゴトレインは特に何も変わりはなく

地上のモノレール線と接続している新強羅駅へと

たどり着いた。

 

 

「…この街も大きくなって来たもんだね」

 

「えぇ。人の強さが垣間見えるわ」

 

新強羅駅を発ったレイの車は自宅がある方向へと

駆け抜けていく。

 

市街地へ近づくにつれ真新しい綺麗なビルやマンションが

増えていき、街並みも美しく整ったものへ変わる。

直径3kmを超える大穴旧ジオフロントのフチに建てられた

新興住宅地もとい新興ビル街であり、主にZUKUNFT本部に

務める技術者を中心に少なくない人が暮らしている街だ。

 

[第三新東京市]

 

この街は、かつてここにあった要塞都市の名を継ぎ

数年程前にようやく活気を取り戻したのだ。

 

 

 

「今夜の献立のリクエストはある?」

 

立ち寄ったスーパーマーケットで、日用雑貨を探しつつ

晩ご飯を何にするかレイへ尋ねる。

 

「今日は既に決まっているわ」

 

「──随分豪華に行くね」

 

食べたい物の材料をリストアップしたメモ用紙には

薄力粉やお好み焼きソースを中心に沢山の材料が

書き記されていた。

 

 

「牛乳って余ってたっけ?」

 

「3分の1位残ってるわ」

 

 

「ミサトさんが飲むのはこのビール?」

 

「うん。エビチュビールで合ってる」

 

 

他愛のない会話を挟みつつ、ショッピングカートに載せた

買い物カゴへぽいぽいと品物を放り込んでいく。

 

復興直後からあるこのスーパーマーケットで

2人が和気藹々とした雰囲気を漂わせながら買い物をする

この光景は、長いこと第三新東京市に住む人々にとっては

とても良く見慣れた光景である。

 

 

「片山さんも買い物ですか」

 

「あらシンジちゃんレイちゃん、数日ぶりね」

 

そして、2人のNERV時代を知る数少ない民間人のひとり

片山さんと楽しそうに会話するのもまた見慣れた光景だ。

 

「…シンジちゃん仕事終わりでもそんなに綺麗だなんて

敗北感凄いんだけど!?」

 

「そういう片山さんこそ実年齢まるで分からない位に

綺麗じゃないですか」

 

30歳になっても初見では99%男性だとは信じて貰えない

レディーススーツでビシッと決めている碇シンジ、

美しい水色の長髪をゴールデンポニーテールでまとめた

ミステリアスな色気の漂う美女碇レイ、

そして、その2人よりも年上(40代半ば)な事を微塵も感じさせない

エイジレスビューティー片山さん。

 

この3人が、ショッピングカートへ野菜やら生鮮食品やら

物凄く家庭的な品物を次々と放り込んでいくこの光景も

少々異様ながらこのスーパーマーケットの

お馴染みとなりつつある光景だった。

 

 

 

「雪がだいぶ強くなってきたなぁ」

 

店の窓から外を眺めてみると、昼間は止んでいた雪が

また徐々に強くなり始めていた。

 

「積もる時は積もるからね、箱根は」

 

「"セカンド"以前もですか」

 

2000年から2016年の間は、隕石衝突(第一使徒の覚醒)が原因とされる

未曾有の大災害セカンドインパクトによって

夏が終わらず(地軸がねじ曲がり)雪が降らない時期が続いていたが

元々箱根は冬になると雪がしっかりと降る地域なのだ。

 

「暖房器具の売れ行きも落ち着いたよね」

 

「人が寒さに慣れてきたんだわ」

 

突然冬が再来し雪が降り積もった第三新東京市は

暖房器具はもちろん除雪用具などが飛ぶように売れ

街の人々の間で慣れない寒さに風邪が大流行するなど

一時期小さくない騒ぎになった事もあった。

 

ただ、今では夏しか知らなかった人々も冬の到来に慣れ

日本各地の生活スタイルはセカンドインパクトが

起こる前と殆ど変わらない物へと戻っている。

 

 

「──"残留組"も皆戻ってきたし」

 

要塞都市第三新東京市壊滅の折にここを離れていた

街に愛着のある人々も多くが戻ってきている。

 

特に片山さんを初めとする、使徒による破壊が続く中でも

第三新東京市に住み続けていた「残留組」は

全員が現第三新東京市に居を構えているという。

 

 

 

「良い街並みになったよね」

 

「…うん、綺麗ね」

 

スーパーマーケットの駐車場からジオフロント方面を

眺めると、綺麗にほぼ真円状に空いた直径3kmの大穴と

そのフチまで広がる第三新東京市が眼前に広がる。

 

その光景は、かつて使徒と死闘が繰り広げられていたとは

とても思えない程美しいものだった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──コンフォート芦ノ湖、A-22号室。

 

シンジとレイ、レンとシイの碇家4人が住む高層ビルだ。

芦ノ湖跡の大穴とジオフロントを眺めることのできる

良い立地に建ち、周辺施設へのアクセスも良い。

 

 

「「ただいま」」

 

シンジとレイは買った物を手に自宅の扉を開ける。

 

 

「おかえり、シンジ」

 

「父さん!?」

 

出迎えたのは、シンジの父碇ゲンドウだった。

 

かつてNERV本部の総司令官を務めた男だが流石に歳で

今は第三新東京市の郊外に立派な一軒家を建てて

自身の妻でありシンジの母碇ユイと共に暮らしている。

 

「ただいま。ユイお母さん」

 

「あらレイちゃん、おかえりなさい」

 

その碇ユイも廊下の奥からひょっこりと現れた。

料理の準備でも進めていたのか、エプロンを身にまとい

手にはフライパンとフライ返しを持っている。

 

「母さん、仕事は──」

 

「今日はお昼で上がりだったのよ」

 

碇ユイは既に還暦を過ぎている碇ゲンドウの妻であり

今年で31歳になるシンジの母親だが、とある事情により

まだ40代という若さで、ZUKUNFT本部で仕事を続けている

バリバリのキャリアウーマンである。

セカンドインパクト及び使徒との激戦で人類が被った

甚大な被害を復興させる計画「世界再生計画」の

最高責任者を務め息子シンジの手助けをしているのだ。

 

今日は仕事が早上がりだったため、ゲンドウを伴って

シンジの家を訪れたとの事だった。

 

 

「ねぇレイ、パーティーでもするの?」

 

「うん。大正解!」

 

今日の買い物の目的をあっさりと見抜いたシンジ。

そんなシンジに対しレイは食い気味に正解だと告げると

彼の手を取ってリビングへと向かった。

 

「やァシンジ所長。昼間ぶりだな」

 

「お邪魔してるわよ~シンちゃん♪」

 

そこに居たのは、まずは昼間会ったばかりの加持一家

加持リョウジと加持ミサト、加持コウキの3人。

 

そして──

 

「トウジ!?」

 

「よォセンセ。レイに呼ばれてな」

 

シンジにとっては中学以来の親友の一人で、数年前から

第三新東京市で医者をやっている男「鈴原トウジ」だ。

少年時代シンジを巻き込んで散々バカ騒ぎしてきた彼も

17年の月日を経て立派な大人に成長していたが

親しみやすそうな雰囲気は今でも変わっていなかった。

 

レイが子供達を自宅へ送った時に電話で誘いを受け

家族を連れてここへ訪れたとの事だった。

 

 

「碇さんっ!」

「おわっ!?」

 

「ぐえっ…相変わらずだねサクラちゃん」

 

鈴原トウジを突き飛ばしてシンジに抱きついたのは

「鈴原サクラ」。トウジの妹で、過去に使徒との戦闘に

巻き込まれかけてシンジに救出された経歴を持つ女性だ。

トウジ曰く半ば強引に着いてきたらしい。

 

「碇さんは今日も格好ええわ…ホンマに」

 

「…うん、相変わらずだね」

 

使徒との戦闘から救出された直後に一度会ってから

彼女はシンジにベタ惚れしていた時期があった。

彼がレイと結婚し抱いていた夢が叶わぬものとなっても

好意自体は薄れておらず、シンジと会う度にこうして

「碇シンジ分」とやらを摂取している。

 

「……これでうちはまた仕事に行けます」

 

「……………」

 

サクラはただシンジを眺めて抱きしめる位しかせず

シンジもその程度で靡く男でないのは分かっているため

レイはこの件について深く追求する事は諦めている。

当然あまり良い表情では無かったが。

 

 

「久しぶりね碇さん」

「れんのぱぱ~?」

 

「ツバメちゃんも大きくなってきたね」

 

義妹が落ち着いたのを見て声を掛けてきたのが

鈴原トウジの妻である「鈴原ヒカリ」。

夫トウジ共々シンジらと同じ第三新東京市立第壱中学校の

出身で、エヴァ4号機のパイロットも務めていた女性だ。

 

ヒカリのスカートの裾を掴んだままシンジを見上げるのは

3年ほど前に鈴原トウジ・ヒカリ夫妻の間に生まれた娘

「鈴原ツバメ」だ。

 

 

 

「レイさん本当に料理上手になったわよね」

 

「シンジと2人で何度も料理したから」

 

レイとヒカリの2人もキッチンに立ち今日のメニューを

テキパキと作り上げていく。

お好み焼きとそれに合うおかずを中心に数品目

お酒に合うツマミも追加で数品目と作っていく手際は

まさしく家庭を支える母といった様である。

 

「お味噌汁が得意料理なの?」

 

「ええ。シンジの伯母さんから受け継いだ味よ」

 

レイの得意料理である味噌汁はシンジが幼い頃に

彼の伯父の元に預けられていた時に覚えたレシピで

2人で料理を作っているうちにレイへ受け継がれたもの。

今ではシンジよりも美味しく作れるとのこと。

 

 

 

「最近ツバメがワシに対して冷たい気がするんや」

 

「イヤイヤ期かぁ…色々アドバイスするよ」

 

「これを乗り越えると少し楽になるぞ鈴原君」

 

妻達にキッチンから追い出された男達はビールを片手に

窓際で雪の降り積もる第三新東京市を眺めながら

駄弁っていた。

 

家族を大切にするトウジは、イヤイヤ期に突入して

ワガママになったツバメに突っぱねられる機会が増え

少なくないショックを受けているらしい。

顔に中々しょんぼりとした表情を浮かべている。

 

そんなトウジへ既に子供がイヤイヤ期を抜けた2人が

アドバイスを送る。自我がハッキリとしてくれば

理由無く冷たくされる事は減るだろう、と。

 

 

「そういえばケンスケとは会ってるの?」

 

「アイツか、今パリに行っとるらしいで」

 

「今頃はきっとユーロ空軍でも視察中だろ」

 

仕事の都合で最近あまり会えていなかった事もあり

とても良く会話が弾む。

 

 

「お夕飯が出来上がりましたよ~」

 

「シンジ。料理、出来たわ」

 

漂う美味しそうな香りと共に、キッチンに立っていた3人(レイ・ヒカリ・ユイ)

今日のメニューの完成を告げ、ささやかなパーティーが

始まった。

 

子供4人と大人9人で開かれたパーティーは

こうして集まるのが久しぶりだったということもあって

夜更け近くまで盛り上がったのだった。

 

 

 

 

 

この日のA-22号室は1部屋だけ日付を跨いでもまだ

明かりが点いている部屋があったらしいが、その部屋で

誰が何をしていたのかはまた別のお話。

 

 

──つづく。





今回は鈴原家の登場回でもありました。
トウジ、サクラ、ヒカリ、ツバメの4人。

鈴原夫妻の結婚は原作シンだとニアサーに起因する
ゴタゴタを乗り越えた事が少なからず
影響を与えているとのことでしたが、本作では
「エヴァでの共闘が絆を深めた」という事で。

「尻の大きい重い女」こと鈴原サクラさんは
流石にあそこまで暴走するキッカケは無いので…
──逆にシンジ好きが悪化しております。

次回からまた少し物語を動かしていきます。



※本編内でヒカリとサクラを間違えていたら
早急にご報告下さい。多分無いとは思いますが…


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終わりの足音


新章…第4話かな?

前回の評判があまり良くなかった、というか
お気に入り解除が多発して意欲低下気味な中で
書き進めたんで、少々雑な所があるかと…。
ストーリー構築って難しいですね。

そうそう、大人レイさんの声優ですが
甲斐田裕子さん(マリーダ・クルスetc…)
石川由依さん(ミカサ・アッカーマンetc…)
辺りでも合いそうだなと感じておりまして。
各々で合うと思った方にアフレコさせて下さいな。



 

 

 

「以上がドイツ支部の視察結果です」

 

「ありがとう、目を通しておくよ」

 

シンジはZUKUNFT本部の司令室で、ユーロ支部から

送られてきたSEELEの動静調査報告書に目を通した。

 

(ドイツ第3支部…表面上は問題ないけど…)

 

──ZUKUNFTドイツ第3支部。

NERV時代はドイツの第1支部として活動していた施設で

かつてSEELEが隠れ蓑として利用していた支部だ。

 

NERV解体の折にこの支部も大規模な人員入れ替えを実施し

規模が縮小されていたが、最近になって独自の活動が

少しづつ増えてきていた。

 

 

「関連の強い支部のデータも合わせて精査しようか」

 

その活動内容はごくありきたりなものばかりで

警戒する程のものでも無かったのだが

シンジはずっとそこに引っ掛かりを覚えていた。

 

 

 

「──MAGIを使う!?」

 

「不安の芽は摘んでおきたいからね」

 

NERV時代と比較してだいぶ静かになった第1発令所に

リツコの驚いた声が響いた。

 

MAGIとはNERVの業務を(第三新東京市の市営も)全面的に力強く支えていた

スーパーコンピュータで、世界でも無二の性能を持つ。

しかし、使徒との戦闘を終えた今MAGIを使うほどの

場面は少なくなっており、ここ最近で動かしたのは

ヴンダー級の基礎設計を立ち上げた時位である。

 

それをシンジがいきなり動かすと言い出したため

一体何事かとリツコは驚いたのである。

 

「物資、資金、人員──支部の全ての流れを調べる」

 

「分かったわ。マヤ、手伝ってちょうだい」

 

「はい!先輩!」

 

リツコが自身の後輩であるオペレーター伊吹マヤに

声を掛け、数年ぶりにMAGIを動かしに掛かった。

 

 

「物流及び資金の流通を可視化」

 

「人員の異動を反映」

 

第1発令所の巨大な空間投影ディスプレイに映った

世界地図にありとあらゆる"流れ"が重ねられ

今世界で起きている流通が一通り可視化されて行く。

 

「支部独自プロジェクト関連をピックアップ」

 

表示された流通の中から、ZUKUNFTの各支部が独自で

進めているプロジェクトに関わる流れだけが

ピックアップされ強調表示がなされる。

 

シンジは当然各支部が進めるプロジェクトの多くを

キチンと把握しているが、それでも把握漏れや

秘匿されているプロジェクトは少なからず存在する。

これらをMAGIの力を借りて素早く発見していく。

 

 

「──流通の多い経路をピックアップ」

 

「はい」

 

一通り独自プロジェクトの把握を終えたシンジは

世界各地を巡る流通ルートのうち、特にアクティブな

流通ルートをピックアップさせる。

 

「これは…!」

 

「ベタニアベースは北極にある支部ですよね」

 

その指示で浮かび上がってきたのは、ドイツ第3支部と

とある場所を結んでいた経路。

 

まず1つは北極にある特殊な支部ベタニアベース。

かつて使徒のコントロールを研究していた支部であり

現在は基本的に稼働していない支部だ。

 

そしてもう1つが──

 

「カルヴァリー…ベース?」

 

「南極に"存在した"支部よ」

 

 

──カルヴァリーベース。

 

2000年9月に地球を襲った大災害セカンドインパクトの

爆心地である南極に立てられていた支部の名である。

 

カルヴァリーベースは当時南極で発見された

巨大な人型生命体「第1使徒アダム」の研究のため

ミサトの父が率いた葛城調査隊の活動拠点として

建てられた支部であり、セカンドインパクトと同時に

消滅し今は存在すらしていない支部なのだ。

 

「これはもう…」

 

「確定ね」

 

存在しない支部や稼働していない支部とのやり取りが

SEELEのお膝元だった支部(ドイツ第3支部)との間で行われている──

これはほぼ確実にSEELEの活動を証明していた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──ZUKUNFT本部総合開発ブース。

 

「ふわぁ…ヴンダーを改造するんだって?」

 

「待ってたよリウェト」

 

眠そうに目を擦りながらシンジの元へやってきたのは

エンジェルズの一員である女性「リウェト」。

長い銀髪をだいぶボサボサのまま後ろで束ねており

掛けているメガネも少し傾いていた。

 

来ているZUKUNFTの制服もだいぶシワが刻まれている辺り

大方それを着たまま仕事場やらで寝ていたのだろう。

非常にルーズだというのが伺える。

 

「え?リウェトひょっとして寝てない?」

 

「キミが呼んだから飛び起きてきたんだよ」

 

眠そうにしながらもこれから行うヴンダーの改造に

とてもワクワクしているらしくその手で液晶タッチペンを

クルクルと回している。

 

「研究開発はボクの全てだからね」

 

リウェトは寝ても醒めても研究開発、晴れの日も雨の日も

ひたすら研究開発という研究開発バカなのである。

 

 

「…で、何を作るんだい?」

 

「ヴンダーを戦艦に造り替えようとね」

 

シンジは、方舟として作られたヴンダーを宇宙戦艦へ

複数機のエヴァンゲリオンを相手取ることを想定した

戦闘艦へと改造することを計画していた。

 

「ワクワクするねぇ♪まずは主砲を作ろうか!」

 

「そうだね。対空防御砲も作りたいかな」

 

かつて猛威を振るった使徒と同レベルかそれ以上の相手を

複数同時に殲滅する宇宙戦艦、というトンデモ機体を

開発するというシンジの目標に、開発大好きなリウェトも

人が変わったようにキビキビ動き出す。

 

「主砲のベースはこいつにしようか」

 

「装甲材はキミが作ったアレが使えるんじゃないかな?」

 

1人でも色々なモノを作り出す開発バカが2人集まった時

更にとんでもないものが作り出される。

 

ヴンダー級の設計図に次々と追記が加えられていき

主砲および対空砲の追加と装甲材の更新、推進器の改良と

様々な方面での改造が立案されていく。

 

 

 

「ちょっとシンジ君!本当にこれを作るの?!」

「戦争でもする気かい?!シンジ博士」

 

シンジによってNERVが誇った技術者・科学者が呼び出され

ヴンダー級の改造に加わる。

 

テーブルの天板モニターに映し出された設計概要には

呼ばれたリツコと時田は驚きを隠せずにいたが

シンジがわざわざこれ程の物を造ろうとする理由は

必ずあるとして、深く指摘する事はしなかった。

 

 

「…リウェトと所長が手を組みましたかァ」

「こんなん本気で作る気なんかいな」

 

リウェトがエンジェルズの中でも機器開発に長けた

シャムシエルとバルディエルを呼び出し、彼らも改造に

参加させる。

 

エンジェルズの面々はリウェトが発明バカであることを

とても良く知っているため、彼女がとんでもない物を

造ろうとしている事に驚く事は無かった。

ただ、リウェトとシンジが手を組んだ事に関しては

「これの更に遥か上を行く発明が飛び出すのでは」という

言いようのない不安感が残ったが。

 

 

ZUKUNFTが誇る天才技術者・科学者6人が集まり

ヴンダー級の大改造が始まったのだった。

 

 

 

──数週間後。

 

「これが装甲材になるって訳ね」

 

リウェトが完成した装甲材の試料を手にした。

一見するとただの金属のパネルで変わった点など無いが

このパネルには山ほどの技術が詰め込まれている。

 

[フェイズシフト(VPS)・ナノラミネート複合装甲材]

 

かつてジオフロントと第三新東京市を隔てていた

特殊装甲板に小型化・改良を施したもので

使徒やSEELEの覚醒エヴァが使用する高火力な怪光線も

鏡面加工により屈折、熱エネルギーは拡散し放熱

爆発ダメージを相転移により軽減、と複数の反応を

同時に発生させる事で被害の大幅な軽減が可能。

 

この装甲材で作られたハニカムパネルがヴンダー級の

船体装甲板として採用される予定である。

欠点として非常に高コストな点が挙げられるが

多少の支出には目を瞑る事にするとのこと。

 

 

「コイツはちぃとやり過ぎやないか?」

 

「SEELE相手には必要になる。きっとね」

 

バルディエルがそう指摘したのはヴンダー級の主砲。

使徒と同等のATフィールドをぶち抜いての広域殲滅が

行えるレベルというとんでもない火力を誇っており

これをなんと2門も大型搬出入ゲートと差し替える形で

取り付けることとなっている。

 

「うんうん、ボクが手を掛けただけはある」

 

リウェトが満足そうに出来栄えを眺めるこの主砲もまた

非常に高コストであるという欠点が付きまとっているが

SEELEを相手するのに手抜きなどは出来ないという理由で

製造・搭載することが決定された。

 

 

 

 

ピーッ、ピーッ、ピーッ

 

シンジの仕事用携帯電話に1本の通信が入る。

 

『碇所長!ユーロ支部より秘匿回線での通信です!』

 

「秘匿回線!?」

 

パリのユーロ支部から、普段は決して使われる事の無い

秘匿回線で本部司令室へ緊急連絡があった事が

総務部の海外支部担当部署によって知らされる。

 

この回線はNERV時代で言えば使徒出現やエヴァの暴走など

すぐさま情報を伝えなければならない状況下で

他の一般回線に干渉する事無く接続される非常用回線。

これが今になって使われたのである。

 

『ユーロ空軍所属惣流中佐(アスカ)からの通信で──』

 

「アスカから?分かった、すぐ行く!」

 

通信相手が馴染みのある戦友であると理解した瞬間

シンジはすぐに通信を取りに行く事を決定。

携帯電話を乱雑にカバンへしまい込み全速で駆け出す。

 

(…ついにSEELEの活動再開か!?)

 

万一の事態に備え各国政府などとの連携策も考えつつ

シンジは司令室へと急いだ。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──ZUKUNFT本部司令室。

 

 

 

「カヲル君が…拐われた…っ!?」

 

司令室で戦友からの通信を取ったシンジに齎されたのは

ここまで何度もエヴァ(超常的存在)を駆り使徒(超常的存在)と戦ってきた身でも

耳を疑う様な信じ難い報告。

 

「そんな…!だってカヲル君は──」

 

『あたしも最初は耳を疑ったわ』

 

つい先程拐われたというシンジの親友「渚カヲル」は

新生すること無く人類と手を取りあった最後の使徒

「第17使徒タブリス」でもある人物だ。

その身に始祖たる存在「第1使徒アダム」の肉と魂を宿し

同じく始祖を身に宿す碇レイと同様神に等しい力(原作を超える能力)

持っている存在なのである。

 

そんな彼は使徒が持っていた非常に強固な防壁

「ATフィールド」を完璧に使いこなす事が出来るため

通常兵器はおろか、核やN2ですら傷を付けられるか

怪しいレベルの戦闘能力を秘めている。

そんな彼が誘拐されるなど万に1つも有り得ないのだ。

 

 

『送られてきた映像データよ』

 

だが通信相手である惣流中佐はその誘拐事件が事実だと

目でもハッキリと語っていた。

 

「一体何が…」

 

シンジはアスカから送られてきた映像データを

恐る恐る再生する。渚カヲルを封じ込め誘拐するなど

神以外に誰が居るのだろうか、と考察しながら。

 

 

 

 

 

『どうだい?サンダルフォン。パリの街は』

 

『わたし、この街好き!』

 

映し出された映像にはまずパリの街を観光している

渚カヲルと、エンジェルズの一員である小柄な女性

「サンダルフォン」の姿が映し出されていた。

 

渚カヲルは新生した使徒達もといエンジェルズの

情操教育などを担当しており、今回のユーロ圏遠征では

精神的に最も幼いサンダルフォンを連れて

最後の教育を実施していた。

 

「…こんな市街地で誘拐を?」

 

大都市という雰囲気でこそないものの、彼らの歩いている

地区はパリ近郊の新興住宅街にあたるエリア。

しかも真っ昼間であり、白昼堂々襲撃を掛けるにしても

中々不利なエリアとなる。

 

 

『次はどこへ…ATフィールド!?』

 

カヲルがATフィールドを発する存在を感じ取ったらしい。

どうやら彼が把握していないイレギュラーな存在の様で

その発生源を突き止めようと辺りを見渡しだす。

 

『渚さん!上からッ!』

 

『くっ…サンダルフォンを退避させるんだっ!』

 

撮影者であるZUKUNFTスタッフがカメラの向きを

下へ向けてしまったために映像には地面だけが映るが

飛び交う声や足音から察するに、カヲルは咄嗟に

サンダルフォンをスタッフへ預けたらしい。

 

『ガシャァンッ!!!』

 

直後に強烈な轟音──まるで巨大な建造物が倒れた様な

大きな音が複数回鳴り響いた。

 

『カヲルお兄ちゃんっ!』

 

『はっ、早く逃げましょう!』

 

撮影者が落ち着きを少し取り戻したのか、カメラの画角が

ある程度前を向く。

 

そして、カヲルが拐われた原因が映り込む──

 

「封印柱!」

 

映りこんだのは「使徒封印用呪詛柱」と呼ばれる

表面に不可解な紋様が無数に浮かんだ黒い柱状の物体だ。

 

使徒に類する存在の力を大きく封じ込める能力を持ち

始祖クラスでもなければ基本的に活動すら不可能。

その効力は使徒であるカヲルには当然発揮される。

エンジェルズのサンダルフォンへの効力は不明なものの

カヲルが封印の効力の中に立ち入れば、彼が持つ能力は

ほとんど封じられてしまうだろう。

 

 

『惣流中佐に繋いで下さいッ!…これは…!』

 

『ズゥゥゥン…』

 

手ブレで揺れるカメラ映像の中に、この柱を撃ち込んだ

主犯と思しき存在がハッキリと捉えられる。

下手なトラックより巨大な靴の様な金属のカタマリ

そのサイズからして80m近い人型と思しき機体──

 

「エヴァMark.07…っ!なんで!?」

 

X字状のスリットの入った仮面を持つSEELEのエヴァ

エヴァンゲリオンMark.07がカヲルに手を伸ばしていた。

 

エヴァンゲリオンは17年前に初号機以外を除いて

その材料諸共全てLCLとなり消滅している筈である。

加えてMark.07を初めとするSEELEのエヴァンゲリオンは

シンジ達が駆るエヴァによって破壊・殲滅されている。

しかし、映像に映るMark.07は本物である(CGではない)ことが

周辺調査の結果でも判明しているというのだ。

 

 

『お兄ちゃん!お兄ちゃぁんっ!』

 

『逃げましょうサンダルフォンさん!』

 

ZUKUNFT職員が兄を助けようとするサンダルフォンに

退避を促し、映像はプツリと途切れる。

恐らくは逃げるためカメラを止めたのだろう。

 

 

 

『──映像はここで終わり、以降アイツ(Mark.07)は行方不明』

 

アスカは苦虫を噛み潰した様な顔でその後の経緯を語る。

 

カヲルを誘拐したMark.07はATフィールドを使ったのか

レーダーによる索敵を逃れて逃走。

ユーロ空軍が捉えた飛翔体の目撃情報を辿って追跡した所

取り逃したと思われる飛翔体(Mark.07)はドイツ方向へと移動。

その後は電源が落とされたのか反応そのものが消失し

詳しい位置情報の特定は出来ていない。

 

現在ユーロ連合軍がドイツ第3支部周辺を中心に

強制捜査網を展開し行方を調査中とのことだった。

 

 

「…だいぶマズイ事になったね」

 

『あたしらは浄化結界への対策を進めてるわ』

 

SEELEは再誕した。

 

2人はSEELEがどれ程厄介な組織かを知るが故に

これまで立てていた行動指針の大幅な方向転換を

余儀なくされたのだった。

 

 

 

──時に、西暦2033年

 

福音は再臨し、三度の報いの時は訪れる。

 

 

 

──つづく。





リウェトさん登場でございます。
発明に没頭し過ぎて年中寝不足空腹気味な
典型的なマッド気味な科学者、そんなイメージ。
天災ウサギとか某アプリのタキオンとかそんな感じ。

アスカとサンダルフォンについては
この後また本格出演させる予定なので
今回はまだ顔出し程度としました。

Mark.07、原作で言うところのMark.09は
シンジ君ではなくカヲル君を拐っていきました。
さぁ…何故でしょうね?
今後をお楽しみに。


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ヴンダー級、発進


新章第5話です。

評価バーの色が1段落ちてしまいましたが
もうこのまま最後まで突っ切る事にしました。
1人でもこの作品を「良い作品」と言ってくれるなら
それだけで私は嬉しいですから。



 

 

 

──ヴンダー艦橋。

 

「資材搬入はリストの86%までクリア」

 

「艤装作業のペースが遅い!あと3%加速させろ!」

 

遂に表立って活動を再開したSEELEとの決戦に備え

ヴンダー級2隻の最終調整が着々と進められていた。

 

艦外のドックでは物資搬入用のトラックが慌ただしく

走り回り、各所で大型クレーンを用いての搬入や

極太ケーブルでの動力注入が続けられている。

 

「エネルギーサプライヤは補機関連が最優先だ!」

 

「主機N2リアクター、最終試験稼働を開始」

 

「始動用電力注入作業急げ!」

 

特にヴンダー級は航行する際に使用するエネルギーが

一般的な艦船とは全く種類もスケールも違う。

比較的マトモな構造をしている主機N2リアクターでさえ

そのサイズがサイズなだけに扱いは非常に難しく

外部から凄まじい量の始動用動力を回さなければ

ヴンダー級ほどの巨体は動かすことが出来ない。

 

『補機擬似エントリー回路、反応ありません!』

 

「もう一度308からやり直すんだ!」

 

艦長席に立つシンジも艦の状態を逐一確認しながら

難航する補機関連の整備を中心に指揮を行う。

 

『主砲及び対空砲の設置作業78.4%完了』

 

「対空砲優先!以降の搬入はA-12と15を使ってくれ!」

 

それなりの月日は掛かってしまったものの

ヴンダーの戦闘艦への改造は順調に進んでおり

開発された主砲や対空砲などの設置が

もうすぐ完了しようかという所まで来ている。

 

 

 

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

突然、艦橋の主モニターに「EMERGENCY」の文字が並ぶ。

 

『エヴァMark.07の起動信号確認!』

 

『ユーロ支部より通信!超大型飛行物体が日本方向へ

侵攻を開始した模様です!』

 

以前渚カヲルを誘拐したエヴァMark.07の起動信号が

確認された事に起因する警報と、ユーロ支部から

謎の大型飛行物体を確認したとの報告が重なり

艦橋にはけたたましくアラートが鳴り響く。

 

 

「もう来たか…っ!」

 

早くも仕掛けてきたSEELEに、シンジは制服を整え直し

艦長の証として購入した(ミサトに買わされた)サングラスを掛けると

心持ちを戦闘モードへと切り替える。

 

 

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

艦橋内に再び警報が鳴り響いた。

 

[BLOOD TYPE BLUE]

[Evangelion Mark.04]

 

今鳴り響いている警報の内容は、パターン青の観測──

使徒が出現した事と、エヴァンゲリオン4号機と

思しき存在が新たに起動した事を表す警報。

 

「今度は何だっ!?」

 

「新型の反応です!4号機ではありません!」

 

突然の事態に慌てふためく若手オペレーター(多摩ヒデキ)の代わりに

かつてNERVで使徒との戦闘をオペレートしていた

眼鏡の男「日向マコト」が状況を報告する。

 

ヴンダーのセンサーが捉えたエヴァMark.04という反応は

以前存在したエヴァ4号機とは少し異なる反応であり

尚且つパターン青はそのMark.04とナンバリングされた

謎の機体が発しているとの事だった。

 

 

「位置の特定を急げ!2番艦の発進も急がせろっ!」

 

「了解!」

 

シンジはブリッジクルー達に的確な指示を飛ばし

この状況を脱するべく動き出す。

 

「第三新東京市に避難指示を発令!ここの受け入れは

以降全て2番艦へ回せ!」

 

日向と同じくNERV時代からオペレーターを務める

長髪の男「青葉シゲル」も的確な対応を進め

第三新東京市から詰めかけるであろう避難民の

受け入れ態勢の敷設を進める。

 

 

「目標を捕捉!包囲陣形を取りつつあり!」

 

日向のモニターに映し出されているMark.04の配置は

第三新東京市を取り囲む様に複数機が展開しており

このままではヴンダーはここに封じ込められ

集中攻撃を浴びる事になってしまうだろう。

 

「コア反応はっ!?」

 

「駄目です!捕捉できません!」

 

シンジは使徒との戦闘を思い出し、当時の戦闘で特に

重要だった敵の弱点「コア」の位置特定を行わせる。

しかし、Mark.04らにはそういった反応は無かった。

 

(コア出現は攻撃行動時のみか!だとすると…)

 

使徒はそのコアを破壊しなければ殲滅は不可能──

Mark.04もそうなのだとしたら、非常に厄介である。

ただでさえ汎用性に欠ける巨大戦艦で、普段は隠れている

敵の弱点を的確に射抜かなければならないのだから。

 

 

 

「マズイわね…私らしくないって言われそうだけど

ここは撤退を提案するわシンジ君」

 

艦長シンジの意向で副長として招集された加持ミサトも

この状況には苦虫を噛み潰した様な表情を見せる。

 

熾烈な攻撃を繰り出す使徒を相手に柔軟に対応してきた

歴戦の元NERV作戦指揮官加持ミサトと言えど

弱点が分からない複数の敵に包囲された状況では

攻勢に打って出る策は取れなかったのだ。

 

 

『シンジ君…いえ碇艦長、擬似プラグは使用不可能だわ。

補機はどちらかしか起動出来ないわよ』

 

艦の整備班を取りまとめているリツコからも通信が入り

補機が使い物にならなくなった事が告げられる。

 

ヴンダー級2隻はジオフロントの底で建造していたため

補機によるエネルギーが無ければ垂直浮上が出来ず

ドックから出す事すら出来ないのだ。

搭載されている補機は現在レイとカヲルを運用者として

登録しており、運用者を書き換えるには時間が掛かる。

カヲルがSEELEに誘拐され敵が迫っている現状

2隻のうちどちらかを諦める必要に迫られていた。

 

「…シンジ君、どうするの?」

 

『私からも撤退を提案するわ。碇艦長』

 

ミサトと通信越しのリツコから撤退を促される。

1番艦を破棄しここを脱するべきだ、と。

 

しかし、シンジは余裕の表情を崩さず──

 

 

「現状を変えて後顧の憂いを断つ…。

2隻とも飛ばしますよ、ミサトさん。リツコさん」

 

 

なんと、敢えて二兎を追う事を選んだのだ。

 

 

「それは無理なのよ!?シンジ君!」

 

『補機の運用員(パイロット)が居ないわ!』

 

思いもよらないシンジの決断に、ミサトとリツコは

今は補機が使えない状態だという事を改めて告げる。

何故そんな結論に至ったのか困惑しつつも。

 

だがシンジは、それでも尚余裕を崩す事は無かった。

手元の小さなモニターに映る人物をチラリと見て

余裕の理由を口にする──

 

「問題ないよ。たった今代理が来た」

 

モニターに映っていたのは、ZUKUNFT職員に案内され

艦内を歩いている2人の少年少女(シンジとレイの子供達)の姿だった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「お父さんは何で僕達を呼んだんだろう?」

 

突然の避難警報にバタバタしながらZUKUNFT本部内へ

避難してきたレンは、以前来たことのある工場の様な

エリアを妹シイと共に歩いていた。

 

第三新東京市の街の人々と一緒に避難してきた所へ

ZUKUNFTの職員がやって来て「父親が呼んでいる」と

そう告げられ避難民とは別行動となったからだ。

 

「お父さんに直接会って聞けばいいわ」

 

「…うん、そうだね」

 

こんな非常事態に何故自分たちを呼ぶのだろうという

疑問は、呼んだ父親に直接尋ねる事にした。

 

いついかなる時も常にしっかり自分を引っ張ってくれる

シイの強さに安堵しつつも、兄として妹を守れるよう

強くならなくてはという想いを抱きながら

レンはシイと共にZUKUNFT職員の背中を追った。

 

[総員第一種戦闘配置!繰り返す──]

 

 

「警報すごいね…」

 

「戦闘…戦いが始まるんだわ」

 

あちらこちらに立ち入り禁止や高電圧注意の看板が置かれ

トラロープ(標識ロープ)がそこら中に張り巡らされている区画を

すり抜ける様に進んでいき、途中にあったゲートから

建物の様なものの中へと入っていく。

 

その最中も警報と機械の強烈な駆動音が鳴り止む事は無く

作業員の慌ただしさからも事態が緊迫している事が

うかがえる。

 

 

 

「ここです。暗いのでご注意を」

 

レンとシイが連れてこられたのは、微かに水の音がする

かなり暗い部屋。

僅かな光の反射から、立っている足場のすぐ下に

巨大なプールの様なものが広がっていて

部屋に無数のケーブルが張り巡らされている事が分かる。

 

 

カシャン!

 

「わっ!?」

 

電気が灯され、この部屋に横たえられている存在の姿が

ハッキリとレン達の目に入ってくる。

 

「これは…エヴァンゲリオンっ!?」

 

「お父さんのエヴァとは違うみたい」

 

所々外装が無い部分があるものの、その金属の巨体は

紛れもなくエヴァンゲリオンそのものだった。

 

外装のカラーは紫色がベースで随所に蛍光グリーンの

差し色が施されてはいるが、以前父親に見せてもらった

ラスト・エヴァ(エヴァ初号機)とはやや異なるデザインであり

2人は直感的に"別物である"と理解出来た。

 

「これもお父さんが作ったのかな」

 

厳つい風貌の機体を眺めながら、これを作ったであろう

自らの父の姿を思い浮かべていると──

 

 

 

「──そうだよレン」

 

数日前に電話越しに聞いた2人の父親の声が響く。

 

 

「「お父さん!」」

 

「久しぶりだね」

 

レン達が入ってきた扉からシンジが顔を出した。

その後ろには友人(コウキ)の母加持ミサトと、以前父の職場で

顔を合わせた事がある女科学者赤木リツコの姿もある。

 

「──エヴァP-01(プロトゼロワン)。この艦の動力源になる機体だ」

 

「艦…ヴンダー、だっけ?」

 

シンジが目の前にある機体の情報を簡潔にまとめて

レン達に教えていく。

 

ヴンダー級の補機として運用する事を前提として

ATフィールドの出力・操作性を極限まで高めて建造された

特別なエヴァンゲリオン──それがP-01である、と。

 

 

 

「…もしかして僕を呼んだのって──」

 

今自分が置かれている状況を少し整理したレンは

父親譲りの察しの良さで自分が呼ばれた理由に勘づく。

 

外では戦端が開かれようとしていて、自分たちは今

父に呼ばれてエヴァンゲリオンの目の前に立っている。

そして、エヴァは操作する人を機体が選ぶ──

 

「レンの考えている通りだよ」

 

 

 

「僕が…これに乗って?…戦えって言うの?」

 

レンの体が少しづつ震え出す。

 

こんな巨大ロボットに乗って戦うのは男子中学生としては

とても憧れる状況だが、いざ実際にこれに乗れと

命令されると憧れよりも恐怖の方が上回ってしまう。

 

穏やかな人物だった父親が何故突然こんな危険なモノに

自分を乗せようとしているのか、戦う事にもなるのか、と

レンは父シンジの意図が掴めず尚更混乱していく。

 

 

「シンジ君!貴方ねぇっ!」

 

自分の息子をエヴァに乗せるという行為にミサトが

思わず声を荒らげる。かつてシンジの父ゲンドウも

何の説明も無しにシンジをエヴァに乗せようとした事が

あったが故に目の前の光景にそれが重なって見えていた。

 

「ミサト、今は目標殲滅が最優先でしょ!?」

 

「そうは言ったって…」

 

事実今迫っている敵を殲滅出来なければZUKUNFTはおろか

地球上の人類全てが死滅することになるのだ。

しかし、1児の母であるミサトとしてはその行為は

中々容認し難いものでもあった。

 

 

「今回はただ座っていればいいんだ」

 

「す、座ってれば…いいの?」

 

ただ、シンジの出した指示は特別危険なモノでも無ければ

難しい操作を要求するモノでも無かった。

エヴァに乗って"コクピットに座っているだけ"。

ただそれだけで良いのだ。

 

「敵と戦うのは僕らがやる」

 

このエヴァP-01は戦闘行動を基本的に想定していない。

故にレンのやる事はただエヴァに乗る事だけなのだ。

 

もう時間があまり無いため詳しい説明は省く事となるが

その詳しい説明無しでも問題はほとんど無かった。

 

 

 

(逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ…!)

 

少し前に兄として立派になると決意したばかりだろう、と

自分に自分で喝を入れ、心を奮い立たせる。

一つ一つ父の力になれる様になって行けばいい、と。

 

 

「やります!…僕が乗ります!」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

 

 

「アンカリングプラグ固定完了」

 

「LCLガス充填、電荷密度に到達しました」

 

P-01にレンが搭乗し、遂にヴンダー級の起動シーケンスが

実行される。

 

ちなみに2番艦の補機P-02(プロトゼロツー)にはシイが搭乗している。

レンには特に告げずに2番艦へと移動していったため

彼は2番艦の主機には母レイが搭乗したと思っている。

 

 

「エントリースタート」

 

外と隔離され、ガス状のLCLで満たされた戦闘艦橋に

エヴァのエントリープラグと同様のシステムを用いて

映像が映し出されていく。

 

「点呼完了。全乗組員の移乗確認」

 

「ドック内作業員、シェルターへの退避を確認」

 

ブリッジクルー達の手によって、発進に問題が無いかが

テキパキとチェックされていく。今この瞬間にも目標は

刻一刻と第三新東京市を包囲しようと接近しているが

そのプレッシャーをものともしない作業速度である。

 

 

「主機N2リアクター、回転数28,000!」

 

「補機出力上昇、臨界値まであと2.1%」

 

数多のケーブルを焼き切れさせ、多くのコンバーター群を

爆発させながら主機・補機共に出力が順調に高まっていき

着実に臨界ラインへと近づく。

 

「補機臨界。エネルギーを船体各部へと伝達」

 

「A.T.F.ディフレクションウイング起動!」

 

ヴンダーとホフヌングの巨大な主翼が薄らと光をまとい

光がその翼に絶大な浮力を齎していく。

補機から発せられたATフィールドを大きく偏向させ

重力に対して反発する力場を発生させることで

ヴンダー級をも持ち上げる揚力もとい浮力を得るのだ。

 

 

「時空間制御を起動。シンクロ操舵へ切り替え」

 

操舵用の特殊仕様のオペレーター席に立った碇レイが

ヴンダーの航行システム・操舵システムを切り替える。

レイのオペレーター席を包むように専用モニターが

投影され、艦の姿勢などが鮮明に表示されていく。

 

ATフィールドを用いた時空間航行に切り替わる事により

更に柔軟な操縦が求められる。そのため、操舵システムを

シンクロによる直感的な操舵が可能な特殊システムへと

切り替えたのだ。

 

『2番艦も切り替え完了!レイお姉様、行けますわッ!』

 

ホフヌングも航行・操舵システムの切り替えが完了する。

わざわざ通信を開いてまで切り替え完了の報告を行った

2番艦の操舵を担当している快活な声の女性は

レイの義妹である「綾波リナ」だ。

 

 

「来ました!全リアクター臨界突破!」

 

「発進、いけます!」

 

若手オペレーターがN2リアクターの状況を知らせる。

フライホイールの充電率も102%を突破し

補機を含む全てのエネルギー伝達も正常運転中だ。

 

全ての発進準備が整ったことを機関長の男(高雄コウジ)が告げた。

 

 

「行こう、父さん」

 

『あぁ』

 

シンジが2番艦の艦長である碇ゲンドウへ合図を送る。

 

そしてついに、2隻の巨大宇宙艦が発進する──

 

 

「ヴンダー、発進ッ!」

『…ホフヌング発進!』

 

 

 

──つづく。





ヴンダーとホフヌングは無事起動しました。

今回のレン君のパートは原作1話オマージュです。
思いつきでぶち込んでみました。
尚、レン君シイちゃんがエヴァを動かせるのは
何となく想像つくかとは思いますが
レイ(始祖)が母親だからです。

P-01のデザインは最終号機に近いもの
P-02のデザインはメタルビルド零号機に
近いものと想定しています。
画力があれば自作したんですが…画力クダサイ。

Q初出ヴィレクルーですが、まだ続編内での
立ち位置があまり決まっていないので
明確な名前出しはせずにルビのみとしました。
可能な限り全員出すよう頑張りますので。


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天罰への抗い


新章、第6話となります。

ネーメズィスシリーズとの戦闘回にして
ヴンダー級の処女航海かつ初戦闘回です。
果たして4Aか4Bか4Cか──
まぁ流れ的に分かるとは思いますが。



 

 

 

『ヴンダー、発進ッ!』

 

「…ホフヌング発進!」

 

2隻の艦長を務める男達の号令と共に、巨大宇宙艦が

その巨躯をゆっくりと空へ浮かび上がらせていく。

 

「重力操作および空力制御は正常!」

 

「主翼フィールド出力は120%を維持だ!」

 

ジオフロントの底にあった施設が軒並み格納され

まるで大地が割れるかのように発進ゲートが開いていく。

 

そうして空いた大穴からまずはホフヌングが顔を出す。

両翼に眩いばかりの光をまとい、重力を感じさせない

ゆったりとした動きでジオフロントから脱していく。

 

「ホフヌング、地上に出ます!」

 

そして、ついにその巨躯が地の底から抜け出し

青い空の元へと姿を現した。

 

 

 

「これがシンジ君の傑作か。良い艦じゃないか碇」

 

ゲンドウの後方に立っていた老人が、艦橋から見える

光景を目にして少しばかり楽しそうに笑みを浮かべる。

 

名を「冬月コウゾウ」と言い、かつてNERVの副司令として

ゲンドウの右腕として様々な策を打ってきた男にして

シンジの母ユイの大学時代の教授を務めた男でもある。

既に80歳近くにもなる冬月だが、その歳を感じさせない

堂々とした佇まいで前を見つめていた。

 

 

「ああ。魂への確固たるレジスタンスのためには

無くてはならない艦と言える」

 

「…さて、その序曲をどう演じる?シンジ君」

 

 

お手並み拝見といこうか、と冬月が下方にいるヴンダーへ

視線を向けたその時──

 

 

ガシャァンッ!!!

 

 

「どうしたッ!?」

 

「目標物の攻撃か…!」

 

強烈な衝撃と共に艦が大きく揺れ、船体がぐらりと傾く。

 

「主翼を貫通されましたッ!損害不明!」

 

何者か──Mark.04からと思しき攻撃を受けたようで

ホフヌングの主翼には小さくない穴が開けられ

地上から伸ばされた触手の様なものが突き刺さっていた。

 

「目標の捕捉は?」

 

「依然として位相空間内に潜伏中の模様」

 

ゲンドウの問いにオペレーターが険しい表情で答える。

かつて第12使徒(レリエル)が扱ったディラックの海のような

こちらからは視認出来ない次元に目標は潜んでおり

弱点であるコアの捕捉はおろか、目標の現在位置すらも

正確に捉える事が出来ない状態であった。

 

 

「艤装の手薄な2番艦を狙うか。タチが悪いな」

 

すぐ下では高い戦闘能力を有する1番艦の発進準備が

今まさに整おうとしているというのに、戦闘能力の無い

2番艦を狙ってきたMark.04の行動基準に対して

冬月は厄介そうにしつつも何処か愉しそうにもしていた。

 

「こうなった以上囮として動かすしかあるまい」

 

2番艦には多くの民間人を保護しているため

戦闘行動に投入する事は躊躇われるが、Mark.04が

お構い無しに──寧ろ優先的に狙ってくるのであれば

武装を持たないホフヌングは囮として使うべきだろう。

 

 

『父さん!2番艦を囮にして目標を引きずり出すよ!』

 

1番艦から通信が入り、シンジの立てた作戦が伝えられる。

やはり親子と言うべきか、2番艦を囮にするという作戦が

親子でピタリと合致したのだ。

 

 

「揚力最大。目標を位相空間から引きずり出せ!」

 

「了解!主翼出力フルスロットル!」

 

ゲンドウは速やかに2番艦機関長へと指示を飛ばし

ホフヌングを勢いよく浮上させる。

 

主翼を貫通していた触手はそのまま主翼に絡まり

地上にある位相空間の入口から物凄い勢いで

引っ張り上げられていく。

 

「主翼全体に亀裂発生!危険です!」

 

「かまわん。引き揚げを続けろ!」

 

ホフヌングの主翼にも目標物の凄まじい重量が掛かり

主翼全体に少しづつヒビが入っていくが、ゲンドウは

それに一切怯むこと無く引き揚げを続けさせた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「目標物が引き揚げられていきます!」

 

「よし。殲滅戦用意!主砲および対空砲発射準備!」

 

ゲンドウが武装の無いホフヌングで奮戦している中

ヴンダーの方でもシンジ指揮の元Mark.04殲滅のための

準備が進められていた。

 

船体を浮上させつつも砲撃の準備も進められる。

大型搬出入ゲートと入れ替えで設置された2門の主砲が

第2船体の先端が開くようにして姿を現した。

 

「陽電子破砕砲発射用意!」

 

「陽電子加速用電力を注入、回路開きます」

 

シンジの指示を受けた高雄が2門の主砲へと繋がる

給電用回路を一斉に開き、陽電子の加速が始められる。

ヴンダーに備え付けられた主砲とは、巨大な陽電子砲で

その口径はなんと2300mm。かつて第5使徒戦で運用された

ポジトロンスナイパーライフルの5倍にも及び

最大出力も相応以上に強化されているという

凄まじい火力を誇る武装である。

 

「対空砲にエネルギー貫通弾を装填!」

 

「各砲、自動照準補正を起動!補機直結を確認!」

 

日向が対空砲のFCSを起動させ、弾種の切り替えと

エネルギー回路のオープンを確認する。

こちらは補機から供給されるエヴァ特有のエネルギーを

様々な弾種へ切り替えて発射する対空防御火器である。

主砲に比べれば幾分かマシではあるが、それでも

通常兵器が鉄くず(無用の長物)と化す凄まじい火力を誇っている。

 

 

──バリバリバリーンッ!

 

「出ました!目標物です!」

 

「目標の光の柱、消滅していきます!」

 

触手の発生地点の空間が大きく裂けるようにして

六角形のパネル──恐らくは偽装用だろうATフィールドが

ガラスの様な音を立てて散り散りになっていく。

そして、割れた空間の隙間から触手の束の数と同じだけの

計6機分の機影が勢いよく引きずり出された。

 

Mark.04と思しき機体が引きずり出されると同時に

第三新東京市周辺に展開していた光の柱は

エネルギーの供給源を失ったのか消滅していく。

 

 

「あれもエヴァだっていうんですか?!」

 

「識別番号上はそうらしいね」

 

Mark.04の全体像を見たヒデキは率直な感想を口にした。

 

それもそのハズ、エヴァMark.04は人の形をしておらず

巨大な円盤状の外周部にウェポンラックの様な形状の

パーツが幾つも並び、ホフヌングの主翼を貫いた触手は

円盤の中心部から上下に複数本生えていた。

 

あれをエヴァだとは認めたくない異質な見た目であり

ここまで凛とした佇まいを崩さなかったシンジも

さすがに苦笑いである。

 

 

 

『目標の動きを封じる。取舵いっぱい!』

 

ホフヌング内でゲンドウの指示が飛び、Mark.04を

吊り下げていたホフヌングが反時計回りに回転し始める。

 

空中に放り出されたMark.04は機体を固定する術を失い

ゲンドウの思うがままに振り回され、為す術も無いまま

ホフヌングの周囲を凄まじい勢いで回転していく。

 

「なるほど…主砲を回転軌道上へ向けろっ!」

 

「了解。予想軌道計算、機体を回頭」

 

レイがシンジの思惑をすぐさま理解し、機体の向きを

主砲がMark.04の回転軌道上へ向くように変更する。

 

「主砲のエネルギーチャージ率はっ!?」

 

「88%ですが撃てます!」

 

日向が計器にチラリと目をやり、主砲が撃てることを

シンジへと報告する。

 

 

「ならいい。ジークフリート、撃てぇッ!」

 

バシュィィィーーーンッッッ!!!

 

 

 

竜をも屠る英雄(ジークフリート)の名を冠した奇跡(ヴンダー)の主砲が火を吹き

青空に桃色の光条が駆け抜けていく。

 

 

『このまま陽電子砲へ叩きつけろ!』

 

勢い良く振り回されたMark.04達は結局抵抗は出来ずに

ヴンダーから放たれた2本の光の柱へと放り込まれる。

 

覚醒したエヴァをも屠る事を目標に鍛え上げられた

ヴンダーの主砲に使徒のATフィールドという些細な防壁が

意味を成す筈も無く、一瞬でその機体が光へ溶けていく。

 

「逃がすなッ!対空砲で追撃っ!」

 

「ファウスト、全砲門斉射開始!」

 

運良く軌道が逸れて逃れたとしても、シンジの的確な

追撃指示によって発射された対空砲(ファウスト)が待ち構え

残ったボディを悉く穴だらけにされていった。

 

 

ドォーーーンッッッ!

 

 

「目標殲滅!」

 

『パターン青は消失しました』

 

シンジ達の勝利を祝う眩い十字の閃光が6つ青空に輝き

両艦の観測員からMark.04殲滅完了の報が上がった。

 

 

 

 

 

「ヴンダーは後続のMark.07を迎え撃つ準備へ入るよ」

 

『2番艦は主翼の応急処置完了後離脱する』

 

ひとまず初戦は勝利で終える事が出来たが、まだこの後も

Mark.07と謎の大型飛行物体への対処が残っている。

 

主翼に多大なダメージを負ったホフヌングは

速やかな応急処置に入り、ヴンダーの方も続く戦闘に備え

陽電子砲の冷却や再充電などを済ませておく必要がある。

 

「回収したラストエヴァの状況は?」

 

『冷却用LCL注水、停止信号プラグ挿入を実行中よ』

 

更にシンジ達は回収したラストエヴァの対処を

どうするべきかという判断にも迫られていた。

 

SEELEに利用されないようにヴィレの槍ごと回収して

ヴンダーに積んではいるが、仮にレイを乗せたとしても

エヴァは空が飛べないため出撃させる意味は薄い。

武器を開発して無理に固定砲台をやらせるぐらいなら

対空砲を増設する方が安上がりかつ汎用的なのだ(誰でも扱える)

 

 

 

「Mark.07の現在位置は?」

 

「中国上空に侵入したとの事です」

 

日向が各支部から伝達された後続の敵の情報を

主モニターへと表示させる。

 

Mark.07と大型飛行物体の反応は中国キルギス間の

国境付近で観測されていたとの事で、その航行速度を

考慮に入れるとあまり時間的余裕は無さそうである。

 

「中国支部より光学の映像データを受信しました」

 

今度は青葉が送られてきた映像を主モニターへと映す。

 

 

「これは…!」

 

「なんて言うか…ヴンダーに似てますね」

 

画面に映し出されたのは、ヴンダー級と似た3胴構造で

より生物的な外見をした巨大な戦闘艦の姿だった。

 

ヴンダーのものとほぼ同等の翼が左右両端に2枚ずつ

上から見た時X字状になる様な配置で取り付けられており

第2船体甲板上には謎の球体が左右一基ずつ──

位置的に恐らく対空砲であろう物が取り付けられている。

 

だがしかし、シンジを含む使徒との戦闘を知る者達の

視線を釘付けにしたのはその造形ではなく──

 

「『光輪!?』」

 

機体上部に薄らと光り輝く、虹色の光輪(エンジェル・ハイロゥ)だった。

 

それは使徒が自身の力を解放させた時などに現れるもの。

どう間違っても通常の兵器や乗り物に現れる事は無く

エヴァの力を借りているヴンダー級でさえも

あれほど綺麗な光輪を発する事は無いのだ。

 

それが一体どういう事を示しているのかと言うと──

 

「ヤツら…サードインパクトを起こす気かっ!」

 

あの艦は使徒やエヴァの生体パーツを組み込んで作られた

生きる艦であり、それの秘める力が使徒を軽く超えて

始祖の域に達しているという証拠となる。

 

そしてそれは、SEELEが目指していた究極の計画

人類補完計画のトリガーとなる可能性が存在し

補完計画の要となる儀式サードインパクトが

発動する可能性を孕んでいる事の証拠でもあった。

要するに、人類滅亡の危機がすぐそこに迫っているのだ。

 

 

 

「──全支部に緊急通告!対浄化結界装置(アンチLシステム)を起動!」

 

『全保存ユニット射出準備。大気圏離脱用意!』

 

その輪を見た2人の艦長はしばし青ざめた顔になるも

各々がすべき事を即座に実行に移していく。

 

「支部の対浄化結界装置を!?」

 

「あぁ。目標到達予想時刻より最大稼働と伝えるんだ」

 

シンジが指示したのは、この様な事態が起こる事に備えて

作り出させた特殊な防護装置の全力運転。

正式名称を「ANTI()-PurificationBarrier(浄化結界) System(装置)」と呼び

使徒や始祖が発するアンチATフィールドの影響による

LCL化やコア化と呼ばれる現象を防ぐ装置である。

 

かつてゲンドウがセカンドインパクトの爆心地南極を

訪れた時に搭乗していた艦にそれのプロトタイプが

搭載されていて、シンジがその仕組みを応用して

作り出した、人類にとって最後の砦となる防壁だ。

 

「ということは…!」

 

「SEELEとの決戦ですか!?」

 

これをフル稼働すると言うことは、もうすぐ目の前に

人類滅亡の時が迫っている事を明確に表している。

 

ブリッジクルー達の表情にも緊張が走った。

 

 

『これよりホフヌングは低軌道周回航路へ突入する。

以降は衛星通信でな。後を頼むぞ、シンジ』

 

「あぁ。任せてよ父さん」

 

第三新東京市からの避難民と多くの生命達のつがいを

載せたホフヌングが、大気圏離脱シークエンスに入った。

計6機のN2パルス推進器をフルスロットルで吹かし

重力のくびきを逃れていく。

 

地球上の生命の多くをインパクトを超えて存続させる

ノアの方舟──それがヴンダー級本来の役目である。

鈴原・洞木両家や相田一家などシンジの知人たちも乗せ

ホフヌングは宇宙へと離脱していった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──???

 

 

「第3の少年…コード4Cをも退けるか」

 

 

機器の駆動音だけが静かに鳴り響く艦橋のような場所で

バイザーを掛けた老人が歯噛みした。

 

老人はただ館長席らしき場所に座ったまま

目の前に広がる戦況報告に目を通していた。

「Mark.04 Code:4C」と記された反応グラフは

全て暗灰色(SIGNAL LOST)に染まっており、対応する機体が

生命活動停止或いは破壊に陥った事を示している。

 

 

「我らに背き、神が与えた運命にも背き…

自ら滅びへと進む者…碇シンジ──」

 

 

誰も居ない空間で怪しげなバイザーを身につけ

シンジへの文句をぶつぶつと呟いているその姿は

関わってはならない危険人物に見えてしまうが

この男こそSEELEの中心人物であり人類補完委員会の

議長を務めていた「キール・ローレンツ」である。

 

 

「我らに牙を剥くならば、死をもって償ってもらおう」

 

 

彼の背後には「01」のナンバーが記された

モノリスが設置されており、周囲には同じモノリスが

扇を描く様に並べて設置されていた。

 

ただ、キール以外のメンバーはモノリスだけであり

並ぶモノリスはまるで魂が宿っているかの様に

仄かな紅い輝きが揺らめき続けているだけだ。

 

 

「始まりへ還る事を拒んだ最後のシ者を贄とし

我らの神による儀式の遂行を始めよう」

 

 

キールはモニターの一角へと視線を向ける。

 

そこには、補完計画の贄となる最後の使徒の姿と

再臨したSEELEの"神"が佇むさまが映し出されていた。

 

 

 

「宿願たる人類補完計画……原罪に穢れた魂を浄化し

人々を真の姿へ還す三度の報いの時が、今こそ──。」

 

 

そしてキールは一度言葉を区切り、並ぶモノリス達と共に

人類補完委員会最後の会議の終了を告げる──

 

 

 

『『『「全ては人類補完計画のために」』』』

 

 

 

──つづく。





コード4Cとの戦闘回でした。
2隻いるのに原作のまま4体だとつまんないよな
ってことで更にプラス2体しましたが
まぁこれは前哨戦、サクッと撃破されました。

そうそう、アンチLシステムについてですが
本作はリリスが結界を貼らずレイと同化したので
名称を変更させてもらいました。ご了承を。

【2300mm陽電子フィールド破砕砲】
主砲、ジークフリート。名前の元ネタはSEEDの
アークエンジェル級の武装命名法則に則って
リヒャルト・ワーグナーの楽曲名から。
口径は小さい気もするけど陽電子砲の口径×5。
要するにローエングリン。

【375mm対空防御ビーム砲塔システム】
ファウストと呼ばれてた対空砲。
元ネタはSEEDのイーゲルシュテルンで
口径はAAとの対比からざっくりと5倍化。
要するに原作ヴンダーの主砲。

【追記】
ストーリー構成の都合上で少し修正を加えました。
Mark.07と大型飛行物体の反応は
別々ではなくセットで移動している事としました。


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サードインパクト


新章第7話でございます。

この後は基本的にシリアス強めの予定ですが
中でも特にシリアス強めのパートです。



何かめっちゃUA伸びて評価バーの色も
赤色に復帰した直後にこれ投稿するの
すっごく怖いんだけど…

UAや評価本当にありがとうございますっ!



 

 

 

──1番艦補機管理室。

 

「エヴァの乗り心地はどう?」

 

『何でだろう…妙に落ち着くんだ』

 

シンジはMark.04との戦闘直後、メンテナンス支援がてら

補機を稼働させているレンの様子を見に来ていた。

 

『お母さんに見守られてるような気分で』

 

エヴァに乗る前に感じていた恐怖はすぐに薄れていき

とても安心していられた、とレンは乗り心地を語る。

 

戦闘中は祖父(ゲンドウ)から受け継いだS-DATで音楽を聞いたり

整備長(リツコ)から両親のNERV時代について尋ねたりして

暇を潰していたとのこと。

 

 

『──まだ戦闘は続くんだよね?』

 

通信先の慌ただしさから、戦闘が先程の1戦で終わりでは

無いと悟っていたレンは再び操縦桿に手を添え

キリッとした表情へと戻る。

 

「すまないレン。もう暫くP-01を頼む」

 

『頑張ってねお父さん』

 

エヴァンゲリオンとは、通常の兵器や乗り物等とは

比較にならないぐらい様々な面で扱いが難しく

危険な機体である。そんな機体に子供たちを乗せる事に

内心ではひどく抵抗を覚えていたシンジ。

 

心配は要らないとばかりに自身へ激励の声を掛けたレンに

感動や後ろめたさなど複雑な感情を抱きつつ

シンジはそれを押し込めて戦闘の準備を続ける。

 

 

 

ゴゴゴゴゴッ…!

 

「ぐっ…何だっ!?」

 

突如ヴンダーの船体が轟音と共に大きく揺らぐ。

 

ジリリリッ!ジリリリッ!

 

「あぁ僕だ」

 

『右舷第2船体に被弾!いきなりやられました!』

 

警報と共に鳴り出した内線を取ったシンジへ

艦橋にいる日向から被害報告が齎される。

 

「本命のお出ましか…ッ!」

 

予想よりもかなり早い"本命"の襲来を知らされたシンジは

手に取った受話器を乱雑に本体へ戻すと、補機管理室から

艦橋方向へ全力ダッシュで駆け出して行った。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「状況は!?」

 

「損害は軽微!ダメージコントロールを実行中です」

「敵性エヴァを3機確認!後続の艦影も光学で捕捉」

 

艦橋へ駆け込んだシンジへブリッジクルー達から

先程の被弾の詳細および対応内容と、捕捉した敵機体の

詳細なデータが報告される。

 

[Evangelion Mark.08]

[Evangelion Mark.09]

[Evangelion Mark.10]

 

ヴンダーに移植されたMAGIが捉えた敵性エヴァとは

かつてシンジ達をエヴァ量産機と共に散々苦しめた

エヴァオップファータイプ3機だった。

 

「この18年間で新造したのか…ッ!」

 

 

──ビギュオンッッッ!!!

 

「ぐっ…全艦緊急発進ッ!敵、SEELEエヴァ3機ッ!!!」

 

「航行システム切り替え!ATフィールド展開!」

 

一機のオップファーが放った怪光線が戦端を開く。

 

シンジは速やかにヴンダーを発進させ、接近する3機の

敵エヴァの撃墜を目標とする戦闘を始めさせる。

 

「対空砲および対空防御ミサイル起動!」

 

「了解!各砲塔、対空戦闘用意!」

 

日向の操作によって対空砲(ファウスト)が起動し、エネルギー貫通弾が

凄まじい勢いで射掛けられていく。

ATフィールドを意図も容易く貫くエネルギー貫通弾は

SEELEのエヴァに防御という選択肢を与えず

回避に失敗した敵機に手痛いダメージを与える。

 

「被弾箇所の排熱処理完了!まだいけます!」

 

「爆発ダメージ軽微、VPS層蓄電量91.7%」

 

入射角の浅いビームは塗膜の鏡面加工(ナノラミネートアーマー)によって弾かれ

直撃したビームも熱エネルギーを装甲全体へ放熱

爆発ダメージを相転移(フェイズシフト装甲)が無効化して損害を減らす。

 

ここにATフィールドが合わさる事で、高い火力を持つ

エヴァオップファータイプ3機の連続砲撃をも

ヴンダーは掻い潜る事が出来ていた。

 

 

「敵艦、接近!」

 

ビギュオンッッッ!!!

 

 

[NHG-***1 Buße(ヴーセ)]

 

MAGIが解析した情報によれば「ヴーセ」と呼ばれる

SEELEの巨大戦闘艦が艦首方向から接近して来る。

 

第2船体甲板上に設置された球体状の機器がまるで

生き物のような挙動で蠢き、X字状のカバーが開くと

オップファーよりも強力な怪光線が連続して放たれる。

 

ズドォンッ!!!

 

「3番対空砲大破ッ!火災拡大ッ!」

 

「超熱伝導体蓄熱率上昇!このペースでは…っ!」

 

まるで、人と神の格の違いを思い知らせるかのように

強烈な怪光線がヴンダーを襲う。

 

「怯むなっ!敵艦の後方へ回り込む!全砲門発射用意!」

 

それでもシンジは退く事はしない。

ここで退けば人類は全て滅ぶ──そんな危機を前にして

かつての英雄として退く訳にはいかないのだ。

 

「給電用回路解放、陽電子加速開始します!」

 

「了解。コース変更、回避用意」

 

高雄が陽電子砲(ジークフリート)の発射準備を、レイが艦の姿勢制御を

迅速に進めていき、オップファー3機が迫る中で

敵艦への対処準備が整えられていく。

 

「全砲門一斉射と同時に回避行動!」

 

 

バシュィィィーーーンッッッ!!!

 

 

「敵艦に命中!」

「回避行動っ!」

 

ジークフリートがヴーセの左舷側に大ダメージを与え

その直後に2隻の船体同士が擦れ合う程の至近距離で

ヴンダーはヴーセの左舷側をすり抜けていく。

 

「ファウスト砲撃開始!」

 

すり抜けつつも日向の声と共に3基の対空砲が火を吹き

ほぼ零距離射撃でヴーセを叩いていく。

 

 

 

「回避成功!」

 

「よし。ダメージコントロールの後追撃!」

 

ヴーセの左舷側主砲を損傷させヴンダーは一時離脱する。

艦尾主砲がまだ撃って来ているが、被弾の少ない艦尾側を

敢えて盾にして被害の大きい艦首側を修復させる。

 

 

 

 

 

「──些か早い気もするが…始めるとしよう」

 

大きく揺れるヴーセの艦橋でキールが呟いた。

"儀式"の始まりを──。

 

 

 

 

 

ピーーーッ!!!

 

[EVA-Unit Activation Signal Confirmed]

 

[Evangelion Mark.06 Activation]

 

[BLOOD TYPE BLUE]

 

「また旧式エヴァの起動信号ですッ!」

 

唐突なエヴァの起動信号受信を青葉が叫ぶ。

 

エヴァオップファータイプ計4機に続く新たな再建機体

敵が増えた事を示す報告に艦内は更に慌ただしさを増すが

この識別番号に見覚えのある旧NERVスタッフ達は

緊張感とは別の感情を浮かべていた──

 

「エヴァ…Mark.06っ!?」

 

「…まさか渚君が乗っているのか?」

 

エヴァンゲリオンMark.06とは、以前SEELEに誘拐された

渚カヲルが乗機としていた特別なエヴァンゲリオン。

SEELEが人類補完計画の鍵とするために建造したが

カヲルの離反によりNERV所属となった機体で

覚醒すると使徒と同じ虹色の光輪が浮かぶ異色の機体。

 

カンの鋭いシンジが全幅の信頼を置いていた辺り

それは無いだろうとは思われたが、彼がZUKUNFTを離反し

再びSEELEの手の者として牙を剥くのではという

不安感が少なからず湧き上がってくる。

 

 

「光学映像でも確認しました」

 

「間違いない…Mark.06だ…!」

 

青葉が主モニターへ映した映像には、紅色のバイザーが

特徴的な紺色のエヴァンゲリオンの姿が確かにあった。

 

 

「オップファータイプ、急速接近!」

 

「ちぃっ…再度対空戦闘用意ッ!」

 

まるでMark.06の起動に呼応するかのように駆け付ける

オップファータイプに、シンジは思わず舌打ちする。

 

 

──ビギュオンッッッ!!!

ビギュオンッッッ!!!

 

「艦尾より砲撃!艦尾N2リアクター損傷!」

「1番対空砲被弾!FCS回路断線ッ!」

「敵性エヴァに取り付かれました!排除出来ませんッ!」

「超熱伝導体熱量増加!放熱回路緊急閉鎖!」

 

「ぐっ…くそぉッ!」

 

オップファータイプ3機とヴーセからの総攻撃を受け

あちらこちらから損害報告が飛び込んでくる。

 

主機N2リアクター一機損傷、対空砲2門破損

ラミネート層排熱システムダウン──

全力の抵抗も虚しく、ありとあらゆる箇所が損傷し

あっという間に戦闘能力を奪われていくヴンダー。

 

「全砲門発射っ!エヴァを一機でも持っていくッ!」

 

バシュィィィーーーンッッッ!!!

 

「Mark.08、Mark.10中破!」

「逃がすなッ!残った対空ミサイルで叩くッ!」

 

ズドドドドッ!!!

 

「Mark.09中破!Mark.10撃墜!」

 

だがシンジ達も深く取り付かれた事を逆利用し

至近距離から回避困難な砲撃を叩き込み

敵エヴァ2機を中破、1機を大破へと追い込む。

 

 

 

「Mark.06!第三新東京市上空へ侵入!」

 

しかし、そうこうしているうちにMark.06を取り逃し

第三新東京市上空への侵入を許してしまう。

 

「Mark.08および敵艦、尚も接近!」

 

「Mark.09が第三新東京市上空へ移動していきます!」

 

ヴーセからの妨害は続き、Mark.06を止めようにも

第三新東京市上空へ戻る事が困難な状況に

追い込まれていく。

 

「Mark.06に通信を繋げっ!」

 

「はいっ!」

 

シンジは一縷の望みを賭けてMark.06への通信を

繋がせに掛かる。敵機体へのハッキングという形に

なるため時間がかかってしまうが、インパクトの

起動までに何とか間に合えば希望は残る。

 

 

 

「敵性エヴァ、S2機関を解放!」

「次元測定値が反転!マイナスに突入!」

 

「来るかっ…サードインパクト!」

 

Mark.09を侍らせたMark.06が光の翼を広げ

早くもサードインパクトの始まりが告げられる。

 

「翼…っ!18年前…いえ、33年前と同じ!」

 

神々しさよりも禍々しさを感じさせるその翼は

ミサトの記憶にある翼のうち、福音を齎した翼ではなく

氷の大地を浄化した始まりの使徒の翼を想起させた。

 

 

 

ゴゴゴゴ………

 

「あれは…黒き月?」

 

光の柱が天に立ち昇るかのような凄まじい爆発と共に

第三新東京市があった場所からまるで聖杯のような形の

巨大な物体──「黒き月」が地を割って現れる。

 

黒き月はまるでMark.06に導かれるようにして

第三新東京市の遥か上空へと浮遊していく。

 

 

「アンチATフィールドが臨界点を突破!」

「個体生命の形が…維持出来ませんッ!」

 

「対浄化結界装置をフル稼働!まだ耐えられるっ!」

 

日向と青葉がアンチATフィールドの発生を告げると

その力の広がりと共に大地がコアの様な真紅に染まり

無数の十字の光がそれを覆っていく。

 

人類の原罪を贖罪し再び楽園へと戻るための結界が

地球上の人々を神の子へと新生させていく。

──知恵を持たずただ永遠を生きる存在(エヴァンゲリオンインフィニティ)へと。

 

 

「ガフの扉が開いていく…!」

 

Mark.06が頭上に浮かべていた光輪が7色の輪となって

急速に広がっていき、世界を紅色に染め上げる。

 

──ガフの扉。

かつて人類が追放された神の楽園(マイナス宇宙)へと繋がる扉。

以前開かれた時は分かりあった神の子(使徒)を新生させるため

シンジ達の手によって極わずかな時間だけ開かれたが

SEELEは人類を新生させ再び神の国へ舞い戻るために

利己的な思想の元にその扉を開いたのだ。

 

「結界密度尚も上昇…!この艦も危険です!」

 

「……カヲル君…ッ」

 

強固な対浄化結界装置を搭載しているヴンダーでさえ

神そのものと化したMark.06が放つ強力な結界に

徐々に装置の効力が押し返されていく。

 

地上では結界の効力を防ぎきれず支部やシェルターが

次々と真紅色に染め上げられていき、施設の内部にいた

職員や避難民が一斉に新生し新たな生物へ生まれ変わる。

新生した人類の姿は、神の子に相応しいと言うべきか

儀式を起動させたMark.06にとてもよく似た姿をしていた。

 

 

 

 

 

「Mark.06との通信、繋がりました!」

 

そんな惨劇の中、事態の主犯であるMark.06との通信を

ようやく繋げる事に成功した。

 

 

『──ごめんシンジ君、僕は君の幸せを守り抜く事が

出来なかった…』

 

「カヲル君…」

 

銀髪赤目の青年渚カヲルの姿が映し出される。

 

「DSSチョーカー…!」

 

彼の首にはDSSチョーカーと呼ばれる首輪型の爆弾が

セットされており、四肢にも使徒封印用の呪詛文様が

刻まれた拘束具を取り付けられている。

 

その様子からして、SEELEに誘拐された後に

指示に従わせる為に装着させられたのだろう。

 

 

『ガフの扉は僕が閉じる。僕が起こした事に対しては

僕がキチンとケジメをつけるさ』

 

「何を…言ってるの?!」

 

この事態を引き起こした事への責任は必ず取る、と

カヲルは覚悟を決めたような表情を浮かべる。

 

Mark.06は手に持っていたロンギヌスの槍の複製を

自身の胸へと突き刺し、アンチATフィールドを

更に強めていく。

 

 

『君はもう十分立派になった。僕がいなくてもきっと

新たな安らぎと自分の居場所を探せるだろう?』

 

「ダメだよ…カヲル君…っ!」

 

カヲルが何をしようとしているのか(自ら死を選ぼうとしている事)を察したシンジは

悲痛な面持ちで考え直すよう促す。

 

──シンジは分かっていた。"そう"する以外には

この惨状を止める手段が残っていない事を──

人類の滅びを止める方法が他に無い事を。

 

「カヲル君が何を言ってるのか…分からないよっ!」

 

それでもシンジは、カヲルを止めたかった。

自分を支えてくれた大切な親友を失いたくは無かった。

 

 

 

カヲルはコクピット内のとあるバーを引き

中から出てきたテンキーにカチ(2)カチ(8)カチ(8)カチ(7)

四つの数字を入力する。

 

「Mark.06内部に高エネルギー反応ッ!!」

 

「ダメだカヲル君…っ!」

 

 

そしてその直後、Mark.06から新たな光が溢れ───

 

『君が望めば、また会えるよ。シンジ君』

 

 

 

ドォーーーンッッッ!

 

 

 

「カヲルくんッッッ!!!」

 

 

 

紅く染まった空に儀式の終わりを告げる十字の光が

ひどく残酷に輝いた。

 

 

 

「ううっ…僕は確かに大人になった…けどッ!

君を失いたくなんて無かった…っ…!」

 

 

 

──つづく。





………はい、新章第7話でした。

この次の回の中盤位までシリアスパートです。



あまりオマージュ元がどうたらとか
話すべき場面じゃないですね…覚えていたら
この回の分は次回サッと紹介します。


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そして、再起の時


新章第8話です!お待たせしました!




 

 

 

人類はサードインパクトを乗り越えた。

 

「…カヲル君…っ」

 

──大きすぎる犠牲を払って。

 

 

 

「…ガフの扉が閉じていきます」

 

虹色の円が中心へ吸い込まれる様にして消えていき

空が元の青色に戻っていく。

 

黒き月が大地へと落ち、聖杯からワインが溢れる様に

ビルだったモノが──電車だったモノが──

神の子となった人々が大地へ降り注いだ。

 

「結界密度減少、危険域を脱しました」

 

「地上付近の結界密度は依然危険域です」

 

儀式の中断に伴い一帯を支配していた結界の効力も

徐々に弱まっていき、第三新東京市の上空は

再び原罪で穢れた人類の住める地へと戻る。

 

それでも、神によって浄化され深紅に染まった大地は

人類がその土を踏みしめる事を許さなかった。

 

 

 

 

 

「副長より通達。これより現空域を離脱するわよ」

 

親友を目の前で喪い失意のどん底に沈んた艦長に代わり

副長ミサトがこの非常事態への対処に就いた。

 

儀式は終わりを告げたかも知れないが、この艦の周囲には

この事態を引き起こした主犯がまだ残っているのだ。

どんな光景であれ驚き戸惑っている場合では無い。

 

「敵勢力の様子は!?」

 

ミサトは真っ先に敵艦と残存オップファータイプ2機の

動向を調べさせた。

 

光学を含む各レーダーは爆発による電磁波や衝撃波で

一時的に障害に陥っていたが、それらが復活した今

敵勢力が追撃を行おうとしているかどうかを

真っ先に確認しなければならない。

 

「敵艦に動きはありません」

 

「パターン青、反応無し。敵機は帰投した模様」

 

爆心地付近を航行するヴーセに大きな動きは見られず

撃墜されたMark.10を含むオップファータイプ3機も

帰投ないし回収された後らしく反応自体が消失していた。

 

 

「本艦は損傷箇所の応急処置および物資補給のために

インド洋方面へ一時離脱します」

 

『2番艦も主翼の応急処置が完了し次第向かわせよう。

入港先の当ては…ユーロか北米辺りになるか』

 

ミサトはゲンドウと衛星通信で連絡を取り

今後の方針を定める。まずはヴンダーの応急処置のため

2番艦と合流、そこで物資の補給なども済ませてから

現時点で生存している最も大きな支部へ入港する。

それをおおまかなプランとして行動する事となった。

 

 

 

「ユーロ支部より入電!」

 

「繋いで」

 

おおまかな方針が決まったタイミングで、ユーロ支部から

衛星経由で通信が入る。恐らくは向こうもこの事態に

どう対応すべきかを話し合おうとしていたのだろう。

ミサトはすぐに通信を繋げさせる。

 

『…大変な事になったわね…ミサト』

 

「ええ。久しぶりねアスカ」

 

通信に出たのは「惣流・アスカ・ラングレー」中佐。

ZUKUNFTユーロ支部長を務める母親が余りにド天然なため

ユーロ空軍所属でありながらZUKUNFTユーロ支部長を

事実上兼任するユーロ圏イチの天才美女だ。

 

「この艦をユーロに降ろしたいんだけどいけるかしら?」

 

『いいわよ。人員の補充と交換で良ければ』

 

ミサトとアスカはNERV時代でも良く交流をしていたため

交渉事もあれよあれよという間に成立していく。

 

ユーロ支部にヴンダー級2隻の停泊場所を確保する代わり

避難民を含む2隻の搭乗員から人員をユーロ支部へ提供──

といった形で今後の対処に当たる流れとなった。

 

 

「レイ、ユーロ支部へ航路を取ってくれる?」

 

「了解。…入力完了、自動操縦へ切り替え」

 

レイは損傷でフラついていた船体を上手く立て直し

ヴンダーをユーロ支部への航路へと乗せた。

 

 

 

 

 

「…シンジ」

 

「レイ…か。何だい」

 

操舵をオートに切り替えたレイは、未だに艦尾方向(第三新東京市)

見つめて動かないシンジの所へ足を運ぶ。

 

「………レイ?」

 

流した涙の跡がまだくっきりと残るシンジをレイは

そっと抱きしめた。

仕事で失敗したりして落ち込んだ彼を励ます時と

同じように、彼が最初にしてくれた抱擁と同じように

優しく、暖かく。

 

 

「──きっと、"彼"はどこかで生きている」

 

レイは、己の心が感じるままにそう告げた。

 

 

「カヲル君が…?でもカヲル君は今さっき…ッ」

 

──レイは悲しむ人を励ます時に優しい嘘は吐かない。

シンジは混乱で再び涙が溢れてくる。

 

「…この目で見た…エヴァと一緒に吹っ飛んだんだ」

 

Mark.06はシンジ達の目の前で眩い光と共に吹き飛び

原型すら分からない残骸だけが第三新東京市の跡地に

バラバラになって落ちていった。

エントリープラグの射出も確認されておらず

パイロットが助かるような程度の爆発では無かったのは

誰の目から見ても確かだった。

 

だが──

 

 

 

「…私の中のリリスが…そう言っているわ」

 

「リリス…が…?」

 

シンジの瞳に少しだけ希望の光が戻ってくる。

 

「確かに渚君は死んでしまったかも知れない」

 

碇レイは渚カヲルと同じ様に始祖を身に宿す存在である。

普段そういった力は一切使わずに生活しているが

その気になればATフィールドで空をも駆け

核ミサイルすら意図も容易く受け止める力を持つ。

 

そんなレイは、同格の存在である渚カヲルの反応を

互いが地球上のどこに居ても感じ取る事が出来た。

 

 

「でも…まだ"彼"を感じとれる」

 

「カヲル君…また会えるかな」

 

リリスがそう言っているのなら、彼が最後に言った通り

自分が望めばいつかまた出会えるのかも知れない──

 

 

「希望は残っているわ。どんな時にも」

 

「うん…!奇跡を起こせば…きっと…!」

 

奇跡を起こして希望を掴む──

今乗っているこの艦の名に込めた意味を思い起こし

シンジは再び立ち上がった。

 

幼い頃(Qのシンジ)であれば完全に折れてしまっていたかも知れないが

今のシンジには守りたいものややりたい事が沢山ある。

大切な親友との別れに嘆き立ち止まっている事など

もうシンジには出来ないのだ。

 

──新たな幸せを掴んでくれと願って光の中へと散った

大切な親友の想いを無駄にしない為にも。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「酷い有様だな…」

 

──冬月がサードインパクト後の地球を見て呟いた。

 

鮮やかな深紅に染まった大地、第三新東京市跡地に

横たわる黒き月、地上を闊歩する神の子達(インフィニティ)──

広大な海はまだ青さを保っているが、大地から流れ込む

浄化された水がそれすらも紅く染めてしまうだろう。

 

宇宙へと上がっていたホフヌングから見えた地球の姿は

それを"浄化された世界(かつて追放された楽園)"と呼ぶには禍々し過ぎた。

 

 

「…だが、希望はある」

 

「対浄化結界装置、そしてこの艦か」

 

ゲンドウは、地上に点在する紅色では無い土地を見て

まだ人類文明の復興の兆しは残っている事を確信する。

 

巨大な対浄化結界装置に囲まれた支部やシェルターは

紅色の世界も神の子達も踏み入る事を許さなかった。

このエリア全てが紅色に染まらない限り、人類にはまだ

か細い光条だとしても希望の光は残されているのだ。

 

 

 

『居住ブロック、大気圏突入準備完了です』

 

艦内無線で全ての区画の大気圏突入準備が整った事が──

散乱する可能性のある物の固定完了が報告された。

 

 

「よし。リナ、大気圏突入だ」

 

「リョーカイっ!フィールド展開、突入開始ッ!」

 

リナが舵を取りホフヌングの船体が地表面に対して

ほぼ直角へと姿勢を変える。

その直後に6基のN2パルス推進器が一斉に起動し

地球の重力と併せて加速し大気圏へと突入を開始した。

 

『断熱圧縮を確認。艦外は現在8,000℃』

 

同様の大気圏突入をスペースシャトルなどで行えば

確実に機体が崩壊する角度での突入をホフヌングは

難なく実行に移す。

 

輝くATフィールドが艦首方向へ円錐状に展開され

圧縮された大気が発する超高温と強烈な抵抗力を防ぐ。

5万km/hを超える超スピードでの降下にも関わらず

船体に傷が一つも付かないのは、ATフィールドが

そういった熱やデブリを防いでいるからだった。

 

『対流圏突入まであと5、4、3、2、1──』

 

「──降下プロセス終了!」

 

その圧倒的速度を以てすれば大気圏突入プロセスなど

あっという間に終わる。最後に艦の姿勢を元に直せば

無事大気圏突入完了である。

 

 

『おかえり、父さん』

 

「立ち直れた様だな。シンジ」

 

地球へ帰還したゲンドウ達をヴンダーが出迎えた。

 

モニター越しに映るシンジは艦長服を綺麗に着直し

キリッとした目付きに戻っており親友を喪った悲しみから

立ち直れている事がハッキリと見て取れた。

 

『まずはユーロ支部へ向かおう』

 

「──全てはそれから、という訳だな」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──補機管理室。

 

「レン、調子はどうだい?」

 

今後の方針の決定や修繕工事の優先順位付けなどといった

艦長としての諸業務を一通り終えたシンジは

発進から現在までヴンダー級の補機を稼働させ続けている

自分の息子の様子を見に来ていた。

 

『う〜ん…ちょっと眠い、かな』

 

「まぁそうだよね」

 

補機が起動していなくてもヴンダー級は飛ぶ事が可能だが

空中への適応力は大きく落ちてしまう事になる。

戦闘中なら尚更地の利を失う訳にはいかなかったため

補機の稼働をレンに任せ切りにせざるを得なかったのだ。

 

父親からの期待を受け気丈に振舞っていたレンだが

流石に表情には眠気や疲労が浮かんできていた。

 

 

「パリ支部までの時間は──」

 

シンジは補機を動かしているレンとシイに少しでも

休息を取らせようと時間を工面しにかかる。

 

 

「レイ!通常航行に切り替えてくれる?」

 

『分かった。やっておくわ』

 

航海艦橋でレイが航行システムの切り替えを実行する。

 

『フラップを最大展開。ラダー、エルロン共に正常』

『空力制御翼全システムの稼働を確認』

 

「補機エネルギーサプライヤ全回路閉鎖」

「エントリープラグ排出プロセスに移行します」

「LCLガス排出」

 

艦橋と補機管理室のオペレーター同士で無数のやり取りが

飛び交い、補機に関する全てのシステム切り替えが

正常に行われた事が報告されていく。

 

これまでヴンダー級はATフィールドの力で浮遊していたが

利用するエネルギーを動的揚力に切り替える事で

空中での停泊や浮遊移動は出来なくなってしまうが

補機に頼る事無く航行を続けることが可能となるのだ。

こうすれば、パリ到着までの数時間の間だけではあるが

レンとシイを休憩させてやる事が出来る。

 

 

 

「エントリープラグ排出」

 

バシュッ!

 

エヴァの首元に挿入されていたプラグが排出され

補機管理室の方へと移動してくる。

 

「意外と疲れるんだなぁ…エヴァに乗るのって」

 

エントリープラグから降りたレンはぐぐっと伸びをして

疲れた体を軽くほぐす。

 

レン自身は座って雑談や音楽鑑賞に勤しんでいただけだが

乗っているエヴァがATフィールドを発し続けていたため

その分の疲労感がフィードバックダメージとして

レンの身体に蓄積していたのだ。

 

「おつかれ、レン」

 

「ありがとうお父さん」

 

シンジはレンへの労いの言葉を掛けつつ、彼が好きな味の

ソフトドリンクを追加で1本手渡した。

 

 

 

「……あの、更衣室ってどこだっけ?」

 

「──向こうにある」

 

今着ている衣服(プラグスーツ)に慣れないのか、レンは少し赤い顔で

更衣室がどこにあったかを父に尋ねた。

 

そのスーツに関する思い出のあれやこれやを思い出した

シンジは、何とも言えなさそうな苦笑いを浮かべたまま

最寄りの更衣室を案内してやったのだった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

 

 

「ユーロ第二号封印柱の復元作業は後回しだ」

 

「直ぐにヴンダーが来る!受け入れ作業の準備を急げ!」

 

シンジ達が再起の仮拠点として選んだパリ支部では

ZUKUNFT職員とユーロ連合軍が総出でヴンダー級の

受け入れ作業の準備を進めていた。

 

 

「各補給部隊はヘリポートで待機!発進後は補給対象の

管制指示に従って補給を行ってくれ」

 

「物資搬入、搬出共に準備完了しました」

 

ヴンダーとホフヌングは緊急発進させたが故に

人員も物資も足りなかったり余っていたり

色々な意味でかなり滅茶苦茶な状態で入港する。

同時にパリ支部も結界による浄化で人員も物資も

中途半端な部分が多く現れていたため、それらを整理し

状況を整える必要があった。

 

 

 

「米国およびロシア政府との連絡がつきました」

 

「中国政府はまだ応答無しか…」

 

ZUKUNFT支部にほど近いエリゼ宮殿ではフランス政府が

主導となる形で各国政府との連絡も行われており

ヴンダーが到着し次第国連臨時総会という形で会談が

開催される予定だ。

 

現時点で連絡手段を含めて首脳陣の生存が確認されている

国家とZUKUNFT支部の主要メンバー、ZUKUNFT本部長の

シンジがオンライン上での会議を行い、SEELEへの対応や

各地での救助活動の方針などを策定する。

 

 

 

「中佐!避難民の受け入れ準備、完了しました!」

 

「ん、了解。追加の指示は追ってするわ」

 

ドイツ国防空軍の意匠をあしらった軍服を身にまとい

お気に入りのネコミミ付き帽子を被ったアスカも

ユーロ連合軍管轄の仮設エリアを駆け回って

部下達の指揮に精を出していた。

 

 

 

「…来たわね、ヴンダー!」

 

「あれが…!」

 

程なくして、地中海方面からヴンダー級2隻が現れる。

 

巨大な翼に輝きを宿して飛来したその巨大宇宙艦の姿は

見た者達に人類の再起の意志を強く感じさせたのだった。

 

 

 

──つづく。





大地がQ以降と同じように真っ赤になり
エヴァインフィニティ達が出現しました。

次回は本格的な再起へ向けたパートと
あとはアスカ達との再会とかかな。

【前回の補足】
・2887
イージスガンダムの自爆コード。
中の人繋がりでMark.06も自爆させました。
イージスとジャスティス、頑侍と…あと他に
cv.石田彰が搭乗者の自爆したロボットって
何かありましたっけ?


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英雄達の再会、結ばれるものたち


新章第9話、お待たせ致しました!

日常回…とは言えるか微妙だけど戦闘はナシ
アスカ達との再会がメインとなります。
そして、名前が既に出ていた子を含め
エンジェルズ3名の登場回でもある。

1ヶ月ほど間が空いてしまいました…。
筆者が精神的に酷く不安定なせいで
文章構成やらストーリー構築やら色々と
苦戦しておりまして…申し訳無いです。



 

 

 

『1番艦、2番艦共に船体の固定完了』

 

『地上側アンカーの安定稼動を確認』

 

パリ北駅上空付近にヴンダー級2隻は無事停泊した。

 

 

『後部ハッチ解放。発艦は民間が優先だ』

 

『支部ヘリポートの着陸許可を確認』

 

第三新東京市からの少なくない避難民を載せた輸送ヘリが

複数機船体後方のハッチから発進し、受け入れ作業を行う

ZUKUNFTユーロ支部やユーロ連合軍仮設基地のヘリポートへ

列を生して降りていく。

 

 

 

「さて…また忙しくなりそうだな」

 

「そうね。色々手伝うわシンジ」

 

本部関係者らが乗るヘリには本部長シンジは勿論のこと

1番艦操舵士を務めていたレイも同乗していた。

現在ヴンダーの操舵は予備操舵士である女性クルー(長良スミレ)

操作把握も兼ねて任せている。

 

 

「──で、何でワシらまでこっち(ZUKUNFT関係者側)に乗せられとるんや?」

 

「今の私達はただの民間人よ?碇さん」

 

自分達が乗るなら民間側だろうと疑問を投げかけたのは

鈴原トウジと娘ツバメを抱っこする鈴原ヒカリ。

彼らも何故か突然呼び出されて本部関係者として

ZUKUNFTユーロ支部の方へ降りる事になっていた。

 

「アスカからの指名だよ。僕も詳しくは知らないんだ」

 

トウジとヒカリを呼び出したのはアスカとの事だが

その詳細はシンジにも知らされて居なかった。

 

 

 

「着陸完了です」

 

程なくしてヘリは支部のヘリポートへと足をおろした。

 

ヘリの後部カーゴハッチが開かれ、シンジ達5人は

ZUKUNFTユーロ支部へと降り立った。

 

 

 

「久しぶりね!シンジ、レイ!」

 

「元気そうで良かったよアスカ!」

 

「生きていてくれて嬉しいわ」

 

エヴァのパイロットとして長い間戦線を共にした3人が

サードインパクトという災禍を乗り越えて再会を果たす。

 

それぞれ2~3年程前にも一度会っているが、やはり

あれだけの惨事から生還したという点は再会の喜びを

より大きくしていた。

 

 

「──"ジャージ"が来たわよ」

 

『了解。直ぐに向かうよ』

 

そして、アスカはシンジ達の後ろから歩いてくる

トウジ・ヒカリ夫妻の姿を見つけると

インカム越しに誰かを呼び出した。

 

 

 

「やァ碇、トウジ、委員長。直接会うのは久しぶりだな」

 

 

現れたのはミリタリーバックパックを背負った眼鏡の男。

SF映画監督とフリージャーナリストを兼業し

世界各国の軍事情勢に精通するこの男の名は──

 

「ケンスケ!?生きとったんやな!」

 

「ユーロに居るとは聞いてたけど無事だったんだね」

 

この相田ケンスケという男はシンジやトウジの同級生で

かつてNERVの広報担当として縁の下を支えていた男だ。

 

数年ほど前から映画製作の取材も兼ねて各国の軍部に

取材をして回っており、ここ最近はユーロ連合軍を中心に

フランスやドイツ、イギリス等を訪問していた。

 

「あぁ。エヴァモドキ(インフィニティ)に襲われるわで散々だったけどな」

 

2週間ほど前にユーロ連合軍取材のためにパリ市入りし

パリ市内のビジネスホテルを拠点に活動を行っていたが

それが幸いしコア化等の被害を免れたとのこと。

 

 

 

「親父やおふくろは無事か?」

 

「皆無事だよ。今頃は艦を降りてるんじゃないかな」

 

旧友との再会に5人は和やかな会話を交わしながら

仮設避難所が設営され続けるパリ市街を歩いていく。

 

「まだ少し時間に余裕あるし──」

 

「『支部に寄ってく』ね?」

 

「うん。頼んだモノと、天使達の様子も。」

 

エリゼ宮殿での対策会議までは時間があるとの事で

ZUKUNFT支部へ立ち寄る流れと相成った。

 

この事態が予測された時点で本部からパリ支部へ

建造を依頼していたモノの作業進捗チェックと

サンダルフォンを始めとするフランス支部に滞在中の

エンジェルズとの合流を行うのだ。

 

「ラミエルがアンタに会いたがってたわよ、レイ」

 

「私?また射撃訓練の勝負…?」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──ZUKUNFTパリ支部、第1特殊格納庫。

 

 

 

「頼んでたモノは?」

 

「昨日何とか仕上がったわ」

 

格納庫とを仕切るガラスのマジックミラー効果が切られ

そこに収まっていた「依頼品」の正体が露になる。

 

「ほぇ~…懐かしいモンやな」

 

「もう18年前だものね」

 

その姿を見たトウジとヒカリは、シンジ達と共に使徒と

戦っていた時代を思い出し感傷に浸る。

"それ"はヴンダー級の補機として使われているモノと

ほとんど同じ形をした機体──

 

 

「新生使徒に合わせた調整が施された最新式のエヴァ

仮称、エヴァ・エンジェルズ──か」

 

 

全て合わせて4機、本来であれば今後建造される予定の

ヴンダー級の補機とするために建造されたエヴァであり

戦闘能力を持たされる予定は無かった機体だが

この非常事態を受け、エンジェルズに合わせた調整と

新設計の武装を搭載する形で完成したのだ。

 

「──3人目以降の選出も急がないとね」

 

エヴァ・エンジェルズのパイロットは現時点で

ラミエルとゼルエルが選抜されており、3人目と4人目は

まだ決まってはいなかった。

 

「………ラミエル、合流しました」

「碇本部長、僕をお呼びですか?」

 

シンジ達の元へそのラミエルとゼルエルが合流する。

 

サファイアの様に綺麗な青色の髪の女性が「ラミエル」。

かつてのレイを彷彿とさせる程に寡黙かつ無表情で

使徒だった時の名残か射撃スキルは目を見張る物がある。

 

ラミエルの隣に立つ体格の良い青年は「ゼルエル」。

争い事を好まず表情も穏やかで優しそうな容姿だが

力を司るというその名に恥じない凄まじい戦闘力を誇る。

 

「待ってたよ。2人とも」

 

ラミエルとゼルエルはエヴァ・エンジェルズ調整の為

ここパリ支部へ滞在していたのだ。

 

 

 

 

 

ラミエルとゼルエルのシミュレータでの戦闘を見ながら

事務的な会話を交わしていく中で、シンジは1人の旧友の

ちょっとした違和感に気付いた。

 

「──ねぇアスカ、ケンスケとの距離がやけに近いけど…

何かあったの?」

 

「へっ!?」

 

以前見た時より遥かに2人の距離が近いのだ。更に言えば

距離が近付き過ぎるとアスカが気まずそうな表情になり

縮まった距離が再び開く、これを何度も繰り返していた。

 

「なっ、何でも無いわよ!」

 

ケンスケとの関係について否定の言葉を口にするが

表情にはハッキリと動揺が現れている。

 

(…なるほど…おめでとう。アスカ、ケンスケ)

 

この時点でシンジは確信した。アスカとケンスケは

中々に"良い関係"になっているのだろう、と。

意外なカップリングに驚きつつも、ツンデレ気質な彼女の

鉄拳を避けるため心の中で2人を祝福した。

 

 

「──ケンケンはちゃんと"アタシ"の事見てくれてるし

何だかんだ体力あるし、軍事にも詳しいし…

料理も不格好だけど美味しいし、でも別に…っ!?」

 

 

混乱していたアスカは盛大に自爆した。

 

 

「アスカ?」

 

 

「い、言わせるんじゃないわよッ!」

 

「ぐあっ!」

「何でワシまで…ッ」

 

──顔を真っ赤にしたアスカの理不尽な鉄拳が飛んだ。

それを聞いてしまったシンジと、ついでにトウジにも。

 

 

 

「…元エヴァパイロットへの偏見、やっぱり辛くて。

アタシらしくないけど」

 

「うん。分かるよアスカ」

 

偉業を成した人物に課せられる宿命と言うべきか

畏怖や畏敬といった感情を向けられる事が増え

その内面に目を向けてくれる者(「個人」を見てくれる者)は減った。

 

『サードインパクトによって広がったこの惨状も

かつての英雄であればきっと何とかしてくれる──』

 

人類文明崩壊の危機を前に民衆は使徒と戦った英雄達へ

そんな過度な期待を向けてくるようにもなった。

民衆に悪意は無いとはいえ、流石のアスカでもこれには

神経が少しづつすり減らされつつあった。

 

 

「渚のヤツは碇しか見とらんかったやろうし──」

 

「真希波さんは恋人というより親友だものね」

 

そんな中色眼鏡を通さずにアスカの事を見ることが出来て

ミリタリー知識で仕事の手伝いも十分にこなせて

サバイバルスキルで美味しい料理も振る舞ってくれる

ケンスケという存在は良き精神的支柱になっていたのだ。

 

 

 

 

 

「おっひさ~ワンコ君♪私をお呼びかにゃ?」

 

「マリさん!」

 

部屋の隅でいじけていたアスカが復活して少しした辺りで

赤いメガネを掛けた女性が格納庫へとやってきた。

名前を「真希波・マリ・イラストリアス」といい

エヴァ5号機のパイロットを務めていた経歴を持つ

ZUKUNFTパリ支部所属の女性だ。

 

「──サンダルフォンを連れてきたヨン♪」

 

マリがここへやってきた理由は、パリ支部に滞在中の

エンジェルズの一員であるサンダルフォンを

シンジ達と合流させるためであった。

 

 

「遅れてすみません、サンダルフォンですっ」

 

首にヘッドホンを掛け、楽器と流れるメロディの意匠が

あしらわれたフルジップパーカーを着た女性が

マリの後ろから駆け足でやって来た。

 

彼女こそがサンダルフォン、エンジェルズでも一二を争う

大の音楽好きにして兄弟達の事が大好きな癒し枠である。

 

 

「気分は平気なのかい?サンダルフォン…」

 

シンジは、サンダルフォンの精神面を少し心配していた。

 

サンダルフォンの耳にも、最愛の兄が死んだという報告は

入っている筈である。カヲルの事が大好きな彼女にとって

辛すぎる事実を突きつけられて参って居ないか──と。

 

 

「お兄ちゃんは…『僕が死ぬ時はシンジ君が死ぬ時だ』

っていつも言ってましたから。きっと…いえ、確実に

どこかで生きている──私はそう信じてます」

 

 

少しばかり気丈に振舞っている気がしなくは無いが

その目は絶望し切った者の目では無かった。

 

使徒サンダルフォンは、マグマの中という過酷な環境下で

NERV本部への侵攻を虎視眈々と狙っていた。

この子も同じように、辛い現実を前にしても挫けない

強い精神も持ち合わせていたな──と、シンジは改めて

彼女の精神の強さに感心したのだった。

 

 

 

──ところで。

 

サンダルフォンもエンジェルズの一員に共通する点として

特殊な能力や色濃い個性を持っている。

 

「負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと

信じ抜く事♪駄目になりそうな時っ、それが一番大事♪」

 

マリと並んで常日頃から何かしら音楽を口ずさむ位には

音楽を愛してやまないのも彼女の個性。

"兄弟"を意味する名を持ち、天国の歌を司る天使──

名は体を表すとは言うが正にその通りと言わんばかりに

「サンダルフォン」の名が良─く似合っていた。

 

 

 

「~~♪…あれ?惣流さん──」

 

そしてもう1つ、サンダルフォンにも"特殊能力"がある。

彼女は"何か"に気付いたのかアスカの方へと近寄り──

 

 

「ご結婚なさるんですか?!」

 

「──ゔぇっ!?…ゲホッ…いきなり何よ?」

 

「惣流?俺何も聞いてないぞ?」

 

「えっ?アスカ結婚するの!?」

「おめでとう、アスカ」

「なっ、なんや!?ケンスケとでも結婚するんか!?」

 

何をどう解釈してそういう結論にたどり着いたのか

サンダルフォンからとんでもない爆弾発言が飛び出した。

 

別にアスカは左手薬指に指輪をはめている訳でもないし

衣服に既婚者を意味する意匠が施されている訳でもない。

なぜサンダルフォンはそう解釈したのか?とその場にいた

全員が彼女の話の"続き"を固唾を呑んで待つ。

 

一発目を超える爆弾が飛び出すとも知らずに──

 

 

 

「お腹の赤ちゃん、無事に産まれるといいですね!」

 

 

 

場の空気が一瞬、ビシッと凍り付いたように固まった。

 

「………マジ?」

 

「…サンダルフォンが言うって事は──」

 

恐らく当事者であろうアスカとケンスケは

喜ぶべきなのか慌てるべきなのか、困惑したままだ。

 

 

サンダルフォンが見抜いた通り、アスカは妊娠していた。

本人にさえ妊娠しているか確かめようのない時期だが

サンダルフォンにはそれが分かる。

 

その人が妊娠しているかどうか一発で見抜くことが出来

更には性別もエコー検査などせずとも外から分かる──

これがサンダルフォンの持つ特殊能力であった。

 

 

 

「おーおー、姫もとうとうお母さんかにゃ~♪」

 

「…そっか。アタシがママに、か」

 

衝撃の事実を告げられたアスカは大いに驚きこそしたが

密かに続けてきた自身の理想のパートナー探しに

そろそろ終止符を打ってもいいのではないか?と

軽く下腹部をさすってそう呟いた。

 

彼ほど良い男をもう1人探そうと思ってもそう居やしない

仮に見つかっても色々と遅過ぎる事になっていそうだ、と

そう思いながら。

 

 

「…惣流…いや、アスカ」

 

新たなステージへ踏み出す決意を固めたアスカのもとへ

改まった表情のケンスケが歩み寄ってくる。

 

「………何よ」

 

彼の口から出てくるであろう言葉は想像は付くとはいえ

アスカは彼の表情を見て、信じられない位緊張した。

それはもう、エヴァパイロットの最終採用テストの

結果発表時よりも何倍も何倍も緊張していた。

 

 

 

そして、永遠にも感じられる刹那の時が流れ──

 

 

 

「俺と…結婚してほしい…!」

 

「うぅ…っ!絶対!絶対ケンケンの事離さないからッ!」

 

 

アスカは大粒の嬉し涙を流しながら彼の手を取った。

 

「指輪、用意出来てなくてすまないな」

 

「気持ちだけでもっ…ぐすっ…十分嬉しいわよ」

 

相田ケンスケは王子様というには庶民的すぎる男だが

生涯の伴侶となる男とアスカは遂に結ばれたのだった。

 

 

 

この後アスカとケンスケは、部下達があっという間に

手配を進めた市内の高級ホテルへと送り届けられ

つかの間の休息を堪能することとなった。

 

 

「SEELEの企みは絶対にぶっ潰してやるんだから!」

 

「俺も何か出来る事を探してやらないとな」

 

この休暇をフル活用しアスカは極限まで英気を養う。

いずれやってくるSEELEとの決戦に勝利しなければ

この幸せはつかの間のもので終わるどころか

全てひとつになって無に帰ってしまうのだから。

 

 

 

──つづく。





アスカとケンスケが結ばれました。

本編開始時点では誰とくっつけるか未定で
なんなら未婚で自由に人生謳歌させようかな
なんて考えていたんですが…
「シン」を見て色々考えた結果
私はケンスケとくっつける事にしました。

また、現時点ではまだ全くの未着手ですが
アスカ×ケンスケのR18パートも
書けたら書こうかなと思っとります。

ラミエルちゃんとゼルエル君の活躍については
この後沢山書く予定なのでお楽しみに。


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子供達の覚悟


本当に長いことお待たせしました…!
新章第10話でございます!

描きたい展開ってのはあるんですけど
そこにたどり着くのが中々大変…
最終話までのプロット自体は
ある程度出来てはいるので
必ず完結はさせたいと思っとります。

上手い事纏まったので今回少し短めです…。



 

 

 

──アスカとケンスケが結婚して数日。

 

 

 

ZUKUNFTパリ支部では、SEELEとの決戦へ向けた準備が

忙しなく進められていた。

 

 

 

『ホフヌング、船体固定終了』

 

「改造期間に余裕は無いぞ!急げよ!」

 

特に目を引くのは、パリ北駅上空に固定された状態で

大規模な改装作業を受けている2番艦ホフヌング。

 

第三新東京市から乗せてきた避難民らはほぼ全員

パリ支部へと移ったため、SEELEの戦闘艦に対抗出来るよう

1番艦同様の戦闘仕様へ改造されているのだ。

やる事としては陽電子破砕砲および対空砲の設置

コストカットされていた主翼推進器の改修作業

4機目となる緊急用N2リアクターの増設。

 

 

『シエル!ちぃと出力抑えろ!ワシが触れん!』

 

「分かってますよォ!難しいんですからッ!」

 

『リウェトさん、対空砲設置は完了です』

 

「ん、りょーかい。次はどこ進めようかな…」

 

改造にはエンジェルズの面々も駆り出されており

バルディエルとシャムシエルは主翼周りの改装作業を

リウェトは搭載火器の作業監督を務めている。

 

 

 

それとは別に改装作業を手伝っているエンジェルズが

もう1人居る。宙に浮いているために作業がしにくい

ホフヌングの船体下部を重点的に───

 

 

「あわわっ!?あれーおっかしいなぁ~?」

 

「あれ?ナットが無い…落っことしちゃったかなぁ」

 

「んー…こんな感じならオッケーだね。だよね?」

 

 

実に不安になる手つきで作業を進める女性がいた。

 

「これでオッケーでしょ?シエル兄さん!」

 

「サハクィエル…確かにそうですけどねェ…」

 

ド派手なブライトオレンジに染められた髪に

サイケデリックなカラーリングの服装をした

長身の女性「サハクィエル」である。

 

彼女はアラエルと同じ様に常に空中に浮遊する事が出来

さらにATフィールドの扱いに長けるのもあって

ホフヌングの主翼の外部機器調整を担当している。

 

『あのなぁ姉さん、機械っちゅうモンは──』

 

「オッケー出たんですから!平気ですって!」

 

ボルト締めにすら不安を感じるほど大雑把で

何もかもをフィーリングでこなして行く彼女だが

一つミスしても最終的には成功に繋げていくし

ATフィールドの調整は何だかんだ完璧に仕上げる。

 

更に言えば、時折誰も思いつかない様な発明を

創意工夫で編み出してしまう事さえある。

それがサハクィエルという人物であった。

 

 

 

「続き、やってきますからっ!」

 

『お…おいっ!』

 

サハクィエルは楽しそうにフワフワと飛びながら

残っていた作業に取り掛かっていく。

 

『ねぇ…ちょっとそいつ大丈夫なの?!』

 

『キチンと完成はするから大丈夫や。せやけどなぁ…』

 

「不安ですよねェ…」

 

艦外からは短時間なら飛行可能なシャムシエルが

艦内からバルディエルと2番艦操舵士に就いたアスカが

見守っているが、なんとも不安である。

 

 

 

一方地上では──

 

 

 

「レン!ゼルエル!反応が遅いぞッ!」

 

『お父さ──ぐあっ!?』

『早い…ッ!目で追えないなんて…!?』

 

「シイもラミエルも狙いが甘いわ」

 

『うっ…当てて見せるッ!』

『…負けません……!』

 

エヴァの操縦シミュレータでシンジ&レイペアを相手に

レン、シイ、ゼルエル、ラミエルの4人が

全力で抗い続けていた。

 

 

一体何故こんな事になっているのかというと

それは数時間前に遡る───

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「碇本部長、人員の異動報告はこちらの書類に」

 

「あぁ。確かに受け取ったよ」

 

補機の擬似エントリー用プラグを完成させ

ヴンダーとホフヌングの繋留を済ませたシンジは

凄まじい量の報告書の処理に追われていた。

 

ホフヌングは保護した民間人のほとんどが下船し

戦闘艦への改造が決定した事もあって

大幅な人員異動が実施されており

シンジがその大まかな采配を執っていたのだ。

 

 

「パイロットの方は…宜しいのですか?」

 

「僕も所詮は1人の親だ。子供に嫌われたとしても

あの子達を守ってあげたいんだ」

 

「…ははっ、奥さんと全く同じ事を仰りますね」

 

その人員異動の中には、P-01とP-02の搭乗員として

臨時で登録されていたレンとシイも含まれていた。

 

擬似プラグが完成した今、2人が補機パイロットとして

エヴァに搭乗する必要も無くなっていた。

更に言えば、エヴァ・エンジェルズを補機として

使用する事も可能になっているので

それに伴ってレンとシイはパイロットの任を解かれ

一民間人の立場へと戻る事になる。

 

 

 

そんな話をしていた時──

 

 

「「お父さんっ!」」

 

まるで話を聞きつけたかの様なタイミングで

レンとシイが支部長室で報告を受けていた所へ

飛び込んで来たのだ。

 

「──すみません本部長、押し切られてしまって…」

 

「レンにシイ…急にどうしたんだ?」

 

シンジの前に立つ子供達2人は瞳に鋭い闘志を湛えており

それはこの支部長室の警備を務めていた黒服達が

思わず押し切られてしまう程だった。

 

覚悟の決まった鋭い眼差しをしている。

 

 

「僕達も…エヴァに乗って戦いたいんだ!」

 

「お父さんを…皆を守りたい…っ!」

 

 

「レン…シイ…っ」

 

2人は、エヴァのパイロットを降ろされた事を

受け入れたくは無いらしく、猛抗議するように

シンジの事をジッと見つめる。

 

 

その視線は思わずシンジも気圧される──が。

 

 

「ダメだ。これは2人を守る為だ。分かってくれ」

 

2人をパイロットから降ろした理由が理由だ。

シンジもそれだけは譲らない、と返した。

それも、かなり厳格な態度を以て。

 

今のシンジが纏う雰囲気は、彼が第三新東京市で

久しぶりに出会ったばかりの父ゲンドウにも匹敵する

見方によっては「高圧的」「冷徹」と評されても

おかしくは無い、そんな雰囲気だった。

 

子供達を危険に晒さないために、敢えて冷たく接し

2人から嫌われてでもエヴァから遠ざけにかかったのだ。

 

 

 

だが、子供達は決して意志を曲げなかった──

 

 

「「お父さんッ!」」

 

「っ!?」

 

かけがえの無い親友(渚カヲル)を亡くしたと聞いたから──

 

 

「お父さんが託してくれたんだ…!」

 

「大切な人を守る為の力を…!」

 

父と母にもう二度とそんな想いをして欲しくない──

 

 

 

「僕は…エヴァンゲリオンP-01のパイロット…

碇レンなんだよッ!」

 

「お父さんとお母さんがもう!悲しい思いをしなくても

いいようにするの!だからッ!」

 

 

シンジを。レイを。親しくしてくれたみんなを。

そして自分たちをも。絶対に守ってみせる──

そんな覚悟をレンとシイは父シンジへとぶつけたのだ。

 

 

「……………───」

 

 

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──そういった出来事があり、レンとシイは再び

エヴァンゲリオンのパイロットに任命されていた。

子供達の成長の証をまざまざと見せつけられて

尚も首を横に振り続ける訳には行かなかったのだ。

 

 

 

『まだまだ目標は遠いぞ!レン、シイ!』

 

『ぜえっ…ぜえっ…お父さんはやっぱ強いや…ッ』

『まるで当てられない…これがお父さんの実力!』

 

 

子供達の覚悟を思い知らされたシンジだったが

そう簡単に再搭乗を許可させる訳では無い。

 

SEELEとの決戦に備える僅かな期間の間に

エンジェルズ達と共に戦闘訓練を受け

一定以上の戦績を叩き出し続けなければ

その時は容赦無くパイロットから降ろす──

そんな条件を出していた。

 

 

『狙いが素直過ぎるわ』

 

『これでリリスの力を使っていないなんてッ…!』

『…ゼルエル、挟み撃つ。回り込んで。』

 

十分な戦績を叩き出し、父に認めてもらえるよう

エヴァ・エンジェルズの正式パイロットである

ゼルエルやラミエルと共に、父シンジと母レイが主導する

地獄のトレーニングに2人は打ち込んでいたのだった。

 

 

 

「流石はシンジ君達ね。現役時代から衰えてないわ」

 

「あのゼルエルで敵わないなんてね…凄まじい強さだ」

 

シミュレータルームのモニター室側では

エヴァの管理を任されている伊吹マヤ副整備長や

手が空いていたサキエルが試合を観戦している。

 

6人とも使用している機体のスペック値は共通だが

シンジとレイは攻撃面に於いても回避面に於いても

圧倒的だった。エンジェルズでも随一の戦闘能力を誇る

ゼルエルとラミエルを片手間で相手にしながら

子供達を指導しているのだから。

 

 

 

『シンクロ率に差がある分だけ反応も遅くなる!

それをしっかり意識するんだ!』

 

 

「──当人が一番シンクロ率低いのに良くやれてますね」

 

「そうね…30%以下に設定してるとは思えないわ」

 

シンクロ率が100%でない以上必ず発生する"ラグ"を

修正しつつ戦うようレンとゼルエルを指導するシンジ。

 

そしてそう、サキエルが指摘しているように

シンジはなんとシンクロ率の設定を極限まで落とし

起動可能ラインギリギリの数値で戦っている。

ラグの修正を彼らの目の前で実践して見せているのだ。

 

シンジの操縦手腕は18年経った今でも健在だった。

 

 

 

『命中させる事に拘り過ぎてはいけないわラミエル。

シイもそうよ。時には誘い込む事も必要』

 

 

「──ラミエルは相変わらずなのかい?」

 

「シャルギエル…そうだね。いい様に撃たれてるよ」

 

アッシュグレーの髪色の青年がレイの戦闘の様子を

サキエルの隣から覗き込んできた。

 

支給されているZUKUNFTの制服をキッチリと着こなした

彼の名は「シャルギエル」。種子保存プロジェクトの内

冷凍保存を中心に研究を行っていた青年だ。

 

 

「…0.2秒、1.0秒、0.3秒、0.5秒。射撃タイミングも

毎回全てずらしているのか…碇レイは」

 

シャルギエルはレイの牽制射撃をジッと眺め

彼女の凄まじい射撃スキルに感心する。

 

等間隔かつ正確に敵を狙うラミエルの射撃とは違い

レイの射撃はパッと見る限りでは非常に不規則。

だがそれは、相手の回避のタイミングを掻き乱し

最後に叩き込む本命を当てる為の誘導。

 

レイもまた、当時の手腕を維持していたのだ。

 

 

 

「シャルギエル、そっちの仕事は済んだんだ?」

 

「そうですね。プロジェクト再開は順調ですよ」

 

シャルギエルは自身が進めるプロジェクトの報告書を

エンジェルズのまとめ役であるサキエルへ提出しつつ

シンジ達の戦闘を眺める。

 

レンとシイは両親であるシンジ(天才)レイ(始祖)の血を引くからか

エヴァとのシンクロや戦闘スキルをメキメキと高めており

本格的な訓練開始から半日も経っていないというのに

基本の戦闘動作などは全てマスター出来ていた。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

 

 

──こうしてレンとシイがエヴァの操縦訓練を

受ける様になって十数日。

 

 

「第二号封印柱復元?」

 

「はい。2番艦の改装も完成の目処が立ちましたし」

 

ZUKUNFTパリ支部から少し離れた場所に刺さっている

使徒封印用呪詛柱の復元作業が行われる事が決定した。

 

現在稼働しているパリ支部所有(凱旋門)の封印柱のみだと

居住スペースや農業用スペースを確保していく過程で

明確な敷地不足に陥ると判明したため

渚カヲル誘拐に使われた封印柱を再起動させ

浄化結界無効化領域の拡張を試みるとの事。

 

 

「シャムシエルが補佐に、ゼルエルが護衛に付きます」

 

「何も無いといいけどね…」

 

──そう言うシンジだが、封印柱の復元を試みれば

必ずSEELEによる妨害が入ると確信していた。

 

「ま、万全にしておくに越したことはないし…──」

 

「了解です。手配はこちらで進めておきます」

 

 

復元作業の補佐としてATフィールドの操作に長ける

シャムシエルがエヴァ・エンジェルズの4号機で

作戦中の封印柱周辺の防衛役として高い戦闘能力を有する

ゼルエルが3号機でそれぞれ出撃する予定だ。

 

1番艦ヴンダーは予想されうる敵部隊の駆逐が主目的。

SEELE側の大型戦闘艦をも相手取る事を想定し

N2リアクターを予備・緊急用を含む4機を全てフル稼働

補機出力も最大近辺を維持し、封印柱復元班および

パリ市街を狙う敵を殲滅する火力要員となる。

 

また、2番艦ホフヌングは主砲がまだ未完成なため

レンのP-01、シイのP-02を直掩機として配備し

後方からの援護を担当する。

 

「明後日、午前10時より作戦開始です」

 

「さて!更に忙しくなるぞ!」

 

 

 

今後を見据えた領土奪還作戦へ向け気合を入れ直すと

シンジは意気揚々と仕事に戻っていく。

 

 

 

パリ市街が三度目の屋島の戦いの地となるまで

あとわずか──

 

 

 

──つづく。

 

 

 





レン君シイちゃんが正式にエヴァパイロットに。
「僕はエヴァンゲリオン初号機パイロットの──」も
「碇くんがもうエヴァに乗らなくても──」も
ここではやってないのでね、子供達2人に
セリフを引用させてみました。

サハクィエルとシャルギエルが初出演。
如何せんエンジェルズが全部で13人いるので
出番が少ない子が出てしまうんですよね…
あと出てないのはイスラフェルとレリエル。

次回はシン冒頭のあの作戦!…かな


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大暴走、再び


新章第11話でございます。

封印柱復元オペの予定でしたがちょっち予定変更。
もう一本非戦闘パートを挟みました。
パリカチコミは次回以降に。



 

 

 

これは、レンとシイが正式にエヴァパイロットに任命され

最終決戦へ向けた準備が本格始動してすぐの事。

 

 

「対浄化結界型スーツ、ですか?」

 

「あぁ。全クルー分も含めて製造させるんだ」

 

シンジが製造を指示したのは、あの赤い大地を包む

強力な浄化結界(L結界)を無効化する特殊なスーツ。

 

これからシンジ達はSEELEと刃を交えるに当たって

新たなインパクトは必ず阻止する必要があるのだが

その場合、SEELEが拠点にしていると思しき

南極のカルヴァリーベースへ攻め込む事になり

結界密度の高い低空域が主戦場となる。

 

「…最悪サードの爆心地が戦場になるし」

 

「あー…確かに必要ですね」

 

交易ルートの利用頻度や物資の移動量を鑑みれば

決戦の地はカルヴァリーベースになるとの見込みだが

仮にそれが第三新東京市上空になってしまうと

サードインパクトの爆心地という結界の密度が

最も高いエリアでの戦闘になるのだ。

 

戦艦クルーや各パイロットが結界に耐えられなければ(コア化・LCL化してしまえば)

それこそ一巻の終わりである。

 

 

 

「赤木博士に依頼しておきますね」

 

シンジからの注文を受け取った若い本部職員が

当時エヴァのパイロットスーツの製造を担当していた

赤木リツコへ製造依頼を行うと返答する。

 

 

「ん?!…ちょっと待って?」

 

「…赤木博士がどうかしました?」

 

パイロットスーツおよびクルースーツの新調

そして赤木リツコの名を聞いたシンジは

己の脳内で強烈な警鐘が鳴るのを感じた。

 

突如難しい顔になった本部長碇シンジに

若手職員は首を傾げる。何の問題があるのか?と。

 

 

「そっか、NERV時代は知らないんだっけ」

 

「はい、私は。…過去に赤木博士が何か?」

 

「リツコさん…というかNERV組の大半かな」

 

支部の技術開発部へと向かいながら

シンジは少し昔話を始める。

 

 

「これ、誰だと思う?」

 

 

シンジが取り出したのは1枚の写真。

 

「シイちゃん…では無いですよね?」

 

「そうだね」

 

中央で非常に恥ずかしそうな表情で写っているのは

エヴァのパイロットスーツを着たとても可愛らしい子。

レンやシイにも似ていたが、その子の両隣には

14歳位だと思われる惣流中佐と、水色髪が特徴的過ぎる

本部長の妻碇レイもとい綾波レイが立っているため

少なくともレンやシイではない。

 

「………まさか!…本部長…ですかっ?!」

 

「あははっ………そのまさかだよ」

 

その"並び"からしてその少女らしき子の正体は

自分の隣を歩いている、長めの後ろ髪をラフに(加持さんの様に)束ね

軽く崩したZUKUNFTの制服を身に纏う碇本部長その人──

それに気付いた若手職員は大いに驚く。

 

 

「で、これを赤木博士が…と」

 

「まぁそんな所だね」

 

シンジが心配していたのは、スーツの新調をする際に

過去にされた様な「タチの悪い細工」を

自分のスーツに施されるのでは、というものだった。

 

30代の男を当時と同じように弄り回すとは

流石に思いたくは無いシンジだったが

今パリ支部に身を寄せている技術者達の中で

目的の品の開発に最も適しているのは

恐らくはリツコだろう。

 

「ま、頼むよ」

 

「はい」

 

不安は抱えながらも、シンジは新型スーツの製造を

リツコに依頼することにした。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──数日後。

 

 

 

「本部長~赤木博士から呼び出しっす」

 

「…北上さん?今行くよ」

 

シンジは、最近ヴンダーの艦橋オペレーターとして

採用された、厚めの唇が特徴的な黒髪の若い女性

「北上ミドリ」から同行を求められていた。

 

要件としてはリツコからの呼び出しとの事だったが

彼女が言伝を預かっているのは中々に珍しかった。

シンジと良く仕事の連絡を取っているのは確かだが──

 

(何だろう?所属も分野も違うし…)

 

シンジは少しばかり訝しんだ。

 

リツコは1番艦ヴンダーの整備長なのに対し

ミドリは同艦所属とはいえ艦橋オペレーター。

受け持つ場所が全く違うため、リツコからミドリへ

声が掛かる事は連絡役だとしても滅多に無い。

何なら、リツコからシンジへ用事がある時は

基本的に向こうから直接連絡を取ってくるのである。

 

(嫌な予感するんだよな…)

 

シンジは猛烈に嫌な予感がしていた。

 

 

 

そして連れてこられたのは──

 

 

「……君達、僕をどうする気なのかな?」

 

支部技術開発部の"女子更衣室"。

 

「また可愛い碇さん見れるとか感激やわぁ~」

 

そして、いつの間にか真後ろに現れていた鈴原サクラ。

ミドリと同様最近ZUKUNFTに所属したのだが

彼女は兄共々医療班所属。尚更ここに居る理由は無い。

 

「やるよサクラ!」

「全力でやりましょ!」

 

「ちょ…ちょっと!2人とも…待っ──」

 

シンジは無情にも女子更衣室へ引きずり込まれていく。

 

 

 

「本部長マジ可愛すぎだって!」

 

「常にこっちでいましょうよ碇さん!ね?」

 

十数分程して更衣室から出てきたシンジは

20代女子2名による最先端のナチュラルメイクが施され

全くの別人のような姿へ変えられていた。

 

綺麗に整えられてまとめられたポニーテール

30代男性とは思えない様な柔らかそうな質感の肌

瑞々しさのある綺麗なピンク色のリップ──

これを男というには余りにも可愛い

素敵な女性へ変身していたのだ。

 

 

で、そんな美人本部長碇シンジさんは

首から上だけが女の子な状態のまま

ミドリとサクラに連れられていく。

 

「正直アタシちょっと悔しいんですけど…!」

 

「分かるわぁ~うちらと変わらへんもんな」

 

目的地はそう──

 

 

 

「あらシンジ君、待ってたわよ」

 

「やはりリツコさん貴方でしたか」

 

先日新型スーツの製造を依頼した赤木博士の元である。

 

伊吹マヤを初めとするNERV時代からの職員達も

とてもワクワクした表情でシンジを見ており

彼女達の手元には完成した新型スーツ以外にも

結構な種類の衣服が握られている。

 

 

「じゃあまずはこれからですね」

 

まずはマヤが件の新型スーツをシンジへ手渡す。

ヴンダー級2隻に乗艦するクルー全員に配布される予定の

制服扱いとも言える基本的な衣服であり

プラグスーツを開発元として作られた

黒を基調とするジャケット付きのスーツだ。

 

「貴方専用で作ってあるからサイズは丁度の筈よ」

 

「…上半身側がやたら重いのは気の所為ですかね!」

 

ご丁寧に特注したというシンジ専用のそのスーツは

手に取った瞬間、上半身側が重いと分かる謎の仕様。

ジャケットは別だというのにやたらと重い。

 

 

「これで男とか冗談っしょ!」

 

「ホント可愛いですよね、シンジ君は」

 

上半身側が1kgほど余計に重いそのスーツを身に纏うと

シンジの両胸には綺麗な双丘が形作られる。

 

母ユイ譲りか元々スリムで柔らかいシンジの体つきが

プラグスーツ特有のボディライン強調によって際立ち

そこに先程ミドリとサクラの手によって施された

最先端ナチュラルメイクが加わることで

ついさっきまでラフな雰囲気の中性イケメンだったとは

とても思えない美人女性へと生まれ変わっていた。

 

 

カシャッ!カシャカシャッ!

 

「ちょっ!撮るなってば!」

 

そして、そんな可愛い可愛いシンジさんを

リツコが、マヤが、サクラが、ミドリが──

その場にいた職員達が次々に写真へ収めていく。

 

「今更よ、諦めなさいシンジ君」

 

「そりゃあそうだけどさっ!」

 

既にシンジの可愛い姿は18年前から散々撮られている。

プラグスーツは勿論のこと、メイド服やNERV女性用制服

セーラー服にチャイナドレス、果ては水着まで──

更に言えば、シンジとレイが結婚式を挙げた時にも

レイの要望でウエディングドレス姿が撮影されている。

 

そう、完全に今更なのである。

 

 

 

「──次は船外活動用スーツね」

 

「う~わ、例のハっズイスーツじゃん」

 

今シンジが着ているのは船内用のスーツであり

リツコが今手渡したのが船外活動用である。

 

こちらは、より浄化結界の密度が高いエリアに対応する

気密性も高い物なのだが、ジャケットが存在しないうえに

デザインもよりボディラインを強調するものになっていて

ミドリが「絶対に着たくない」と評したシロモノ。

 

 

「ひょっとしてこれも──」

 

「勿論特注品よ」

「碇さんなら絶対似合います!さ、ほら!」

 

当然のようにこちらもシンジ専用の特注品。

いつぞや(「迫る終わり」)の新調スーツにもあったような

タチの悪い細工が随所に施された逸品だ。

 

「あぁもう分かったよ!最後まで付き合ってやるよっ!」

 

シンジは彼女達の暴走に付き合う事にした。

 

──教え子の事が大好き過ぎて仕方ない老人(冬月)

見た目の割に言動が昭和チックだった元同僚(マリ)

乱入してくる前に事を終わらせなければ、と。

 

 

 

 

 

しかし──

 

 

「やっほ~ワンコ君~~~っ♪」

 

「私がここに来ている事はユイ君には秘密で頼むよ」

 

今のシンジにとってSEELEよりも遥かに恐ろしい2人は

何処で情報を聞きつけたのか、ご丁寧に2人揃って

目の前に現れてくれやがったのである。

 

 

 

「NERV時代のシンジ君の写真、見ていくかね?」

 

「マジ?!ちょー見たい!」

「うちの知らない碇さんがそれに…!?」

 

冬月が手に持っている「秘蔵」と書かれたアルバムには

彼がNERV副司令を務めていた時代に収集した

碇シンジの様々な姿が収められていた。

 

エヴァに乗って使徒と戦う凛々しい姿も含まれているが

このアルバムのメインは彼の可愛らしい姿──

サクラやミドリら当時NERVとは無関係だった者達にとって

まさにお宝と言える様な、美少女碇シンジの姿が大量に

それこそアルバムの8割程を占めている。

 

「冬月先生!僕それ削除でって言いましたよねッ?!」

 

「すまんなシンジ君、如何せん歳なものでな」

 

わざとらしく白を切る冬月。

 

確かに彼はNERV副司令をしていた時で既に60歳と

ボケが現れていてもおかしくは無い年齢だが

元京都大学教授にしてNERVの頭脳冬月コウゾウが

使うにしては実に苦しい言い訳である。

しかし、目の前に立つ当人はそんなもの何処吹く風だ。

 

 

 

「姫といい君といい弄り甲斐があって最高だにゃ~♪」

 

「──君の揉んでるそれは作り物だよ?分かってる?」

 

冬月に文句の一つや二つぶつけるシンジに

艶めかしく絡みつき、シリコンで出来た彼のバストを

もにゅもにゅといやらしい手付きで揉むのはそう

相変わらずメガネが妖しく輝く真希波マリだ。

 

作り物だと分かっていてもそれを揉みしだいてやれば

彼は抱き着く自分を押し退けようとする力を緩め

ほんの少し顔を赤らめるのである。

実にからかい甲斐がある。それこそ、自分が「姫」と呼び

可愛がっているツンデレちゃんに匹敵する程。

 

 

「絵になるわぁ~碇さん♡一生の宝物にします!」

 

「ね。見ててドキドキするんだけどホント」

 

全身をいやらしく這い回るマリの手に悶えながら

冬月の持つ秘蔵アルバムを没収しようとする彼の姿は

場にいる多くの女性達の目を惹き付けていく。

 

サクラは恍惚とした表情を浮かべながら写真を撮り続け

ミドリも隣の友人に軽く引きつつも視線は外せていない。

 

 

「そのうち性転──ゴホンッ若返りの薬でも作ろうかしら」

 

「いいですね先輩、その時は私も力になります」

 

18年前からこんな光景に慣れているNERV組は

微笑ましい光景だ、といい笑顔を浮かべているが

その中でも昔からレズの気があるとの噂が囁かれている

リツコとマヤは何やら怪しげな会話を。

 

「そこの2人っ!余計なモノ作らないで下さいね?!」

 

「あらシンジ君、何の事かしら?」

「邪推は良くないですよ~?」

 

特にリツコは眼鏡がマリと同じ光り方をしているので

何かえげつない事を考えているのは確定的だが

こちらもまた何処吹く風で受け流されてしまう。

 

 

 

そして、彼女達の暴走の収拾が付かなくなってきた時──

 

 

 

「冬月先生…何をしてらっしゃるのですか?」

 

 

 

場の空気が絶対零度のように凍り付く声が響く。

 

その声はとても良く透き通った女性の声でありながら

それを聞いた者はそれこそ全身が凍り付いたかの様に

指先1つ動かせなくなってしまう。

 

 

「…あ~あ、僕じゃ止められないですよコレ」

 

唯一動く事が出来たのは碇シンジただ1人。

だがそんな彼でさえ、声の主を止めることは不可能。

 

 

 

「ははは。なに、ちょっとした戯れだよ」

 

冬月は己の肩に手を置く女性の方へ顔を向ける。

ただし、ギギギ…と錆び付いた音を奏でながら。

 

そこに居たのは──

 

 

 

 

 

「…すまない、私が悪かった。許してくれユイ君」

 

不気味なぐらい眩しい笑顔を浮かべた碇ユイだった。

 

彼女の笑顔は、冷徹だった頃の碇ゲンドウのメンタルを

一撃で打ち砕いたシンジの笑顔より遥かに眩しく

冬月は適当に軽口を叩いた事をひどく後悔した。

 

その眩しすぎる笑顔の裏には、地獄の鬼も裸足で逃げ出す

阿修羅をも凌駕する憤怒の形相が隠れている様に見える。

 

 

 

「シンジ。少し休んで来なさい」

 

「………母さん、程々にね?」

 

シンジは母に促されて部屋を出ていく。

 

冬月やリツコ、マリからの「助けてくれ」という視線が

背中に突き刺さっていたが、こうなってしまった以上

シンジに出来ることは彼らの無事を祈る事だけである。

 

 

「さぁ…"お話"をしましょうか」

 

「待ってくれユイ君!」

「ユイさん…悪かったわ」

「ちょ…ワンコ君…待っ──」

 

 

 

 

 

その日、件の事態の原因となった者達が──

中でも年長者に当たる面々がどうなったのかについては

シンジは知る由も無かった。

 

 

 

──つづく。





…まだWILLEクルーがシンで着ていたあの服を
出すのを忘れていたと気づきましてね。

シンエヴァ最大のツッコミ役登場。
彼女はインフィニティが誕生する前に
家族共々第三新東京市から避難しているので
あのピンク髪ではありませんし
シンジ君を恨む様な事はありません。
…ここの彼女がZUKUNFTに所属した理由は
それ程深いものでは無いかと。

あ、私は-46h本編は未視聴です。

特に予定変更とかがなければ
次回からは第二号封印柱復元編!
4444Cと44Bのお目見え…まで行くかな?


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決戦序章


44A達の登場回です。
今回と次回はほぼ戦闘パート。

・変更内容
細かい事ではありますがシャムシエルの乗機を
エンジェルズ1号機から4号機へ変更しました。



 

 

 

──パリ市街東部。

 

 

 

『目標地点到達。作戦開始時刻まであと300』

 

『120までにはゼルエルも出すんだ』

 

『2番艦、作戦コースへの投入完了』

 

新1号機(P-01)および新0号機(P-02)、発進準備完了』

 

ヴァンセンヌの森の一角、パリ動物園のすぐ近くに

深々と突き刺さった漆黒の柱を中心に

全長2kmを超える巨大戦艦が配置されていく。

 

シャルル・ド・ゴール広場に設置されている

「ZUKUNFTパリ支部第一号封印柱」から最も離れており

起動時の結界無効化範囲がほとんど重複しない

このヴァンセンヌの森の封印柱を「第二号封印柱」として

再起動させるべく、シンジらZUKUNFT主要職員達は

ここへ集結しているのだ。

 

 

 

「こちら4番機、配置に着きましたよォ。

ATフィールド干渉準備もオーケー!」

 

かつてのエヴァ零号機を思い出す様なデザイン──

新0号機をベースに青を基調とした塗装が施された

エヴァ・エンジェルズ4号機が、封印柱の傍らに立つ。

 

メインカメラユニットが新0号機と同型へ換装された

その機体を駆るのはシャムシエル。

特にATフィールドの操作に長けていることから

ラミエルの乗機である4号機を借り受けて

作業の補佐要員として出撃している。

 

 

 

『DSRV降着。脚部接地システム起動』

 

 

第二号封印柱上空に静止したヴンダーから

浄化結界対策が施された急造のDSRVが降りてきて

封印柱頂点部の制御ユニットへと着陸した。

 

 

「──結界密度は予定よりマイナス10、だいぶ薄いわ…

あっち(第一号封印柱)のお陰かしらね?」

 

緑色の耐高密度結界型作業用プラグスーツを身にまとった

リツコがDSRVから封印柱制御ユニットへと降り立ち

浄化結界密度を測定する機器へと目をやる。

 

この密度の数値が高いと、耐結界スーツを着用しなければ

人間は5分と持たずにコア化ないしLCL化を起こし

命を落としてしまうのだが、第二号封印柱の付近は

リツコの視線の先にあるものの影響が及ぶからか

比較的結界密度は低めだった。

 

 

「復元オペの作業可能時間は当初の予定通りとします」

 

「900秒、ですね」

 

リツコに続いて、黄色のスーツを着たマヤが降り立つ。

 

彼女が口にした"900秒"という時間は作戦開始時刻から

復元オペのタイムリミットまでの時間だ。

尤も、すぐ近くに拠点があり後がない訳でも無いので

帰投時間も十分に考慮されている。

 

 

「これなら十分に行けそうですね」

 

「なんだよ、180秒位は短くなるって覚悟してたのに」

 

復元に用いる機材を持った男性作業員3人も

同じ様な男性用の黒いスーツを装備して降りてくる。

 

彼らは比較的最近ZUKUNFTに所属した若手ではあるが

赤木リツコ整備長の元で働く、期待のエース達。

十分に余裕が残されている今回の作戦を前に

慌てる事も無く機材をテキパキ配置していった。

 

 

 

「余裕ならこんなの着る必要ないっしょ~っ」

 

最後にDSRVから降りてきたのは、自身の藤色のスーツに

酷く不満気な表情を浮かべた北上ミドリ。

 

数日前、このスーツに対して「絶対に着たくない」と

嫌悪感を示していつつも、恐らく自分が着る機会は

特に無いだろうと思っていた彼女だったが

1番艦の艦橋オペレーターとして作戦のオペレートを

任せられた事で事態が一変。第一号封印柱の付近とはいえ

浄化結界のど真ん中に突き刺さっている第二号封印柱へ

直接出向く必要が出来たことで、この"ハズイスーツ"を

着用する機会が訪れてしまったのだ。

 

「文句は言わない!作戦開始まであと60秒よ」

 

「んもぉ~っ!分かってますぅ!」

 

──口では盛大に文句を言ってはいたが

ミドリも正式なZUKUNFTの職員、素早くモニター機器を

ヴンダーの観測システム等とリンクさせ

周辺環境のチェックを開始していく。

 

 

 

『では…第二号封印柱復元オペ、開始!』

 

 

 

通信越しにシンジからの作戦開始の号令が伝えられ

マヤ達が一斉に作業を開始する。

 

「…どう?()()()L()()()()()は起動できそう?」

 

「ステージ4まではショートカット出来そうです」

「対浄化結界装置と基本は同じですからね」

 

マヤの問いかけに男達が余裕の反応を返す。

 

この封印柱はNERV時代から構造が変わっていないため

対浄化結界装置ではなくアンチLシステムと呼ばれる

人外未知の未解明システムで制御されているが

"それ"を解析して作ったのが対浄化結界装置である以上

アンチLシステムを起動する事は可能そうであった。

 

ステージ1からステージ5までの暗号化を解く訳だが

少なくともステージ4までは解析で判明している

ショートカットを用いて素早く復号を進められるのだ。

 

 

 

「復号作業、始めるわよ」

 

「「「はいッ!」」」

 

マヤの合図と同時に、全員が一斉にキーボードに触れ

猛スピードかつ滑らかに指を滑らせ始める。

 

 

 

──ピーーーッ!!

 

4人がステージ1の復号作業を開始した瞬間

ミドリの持っていた端末から警報音が鳴り響いた。

 

[BLOOD TYPE BLUE]

[Evangelion Mark.04 Code:44A(フォーツーエー)]

 

「やっぱり来ました!お邪魔キャラですッ!」

 

その警報音は、エヴァンゲリオンMark.04シリーズが

作戦の妨害に現れた事を示す警報であった。

 

遠く離れた空域に開けられた位相空間と繋がる穴から

凄まじい量の敵機体が飛び出してくる様子が確認出来る。

 

 

「…数はちょーいっぱい!4時方向から接近中!」

 

出現位置があまりにも遠すぎるため実感が湧かないが

エヴァと同程度のサイズはあると思われる

平坦な形状の"何か"が、文字通り夥しい数接近してくる。

 

 

 

で、その容姿というのが──

 

『何スかアレ?!Mark.04はこんなのばっかかよ!』

 

『分かるよ多摩君…4号機はカッコよかったのにね』

 

ヴンダーの艦橋で多摩ヒデキがそう叫んだ様に

前回戦ったMark.04シリーズ「Code:4C」と同じく

あれをエヴァンゲリオンとは認めたくない

異質な形状をしていた。

 

ざっくりと言うならば、両手足を大の字に広げたエヴァを

向かい合わせに2機くっ付け、それを青いビニールで

真空パックした様な意味の分からない外見。

両手足の先端にはドローンのローターに当たると思しき

回転するユニットが取り付けられていて

機体の頭部──があった場所には使徒サキエルと

同形状の仮面、そしてその中心からは

ロンギヌスの槍の先端部分が生えている。

 

 

「…見事な単縦陣ね」

 

「第一波、ヴンダー隊3番機との交戦距離に入ります!」

 

そんな意味不明な機体達は、リツコが呆れてしまう程に

綺麗すぎる単縦陣を敷きながら更に接近して来た。

 

使徒にも近い存在だというのに見事な群れを作るなど

最早それは新しい生物と言っても差し支えは無い程だ。

 

 

 

「迎撃を頼むわゼルエル。あと740秒保たせて」

 

「了解です」

 

リツコからの44A迎撃要請を受け、静かに配置に着いていた

エヴァ・エンジェルズ3号機が動き出す。

 

 

「ディフレクションウイング起動…!」

 

ゼルエルは機体のバックパックを起動させる。

すると、ウイング部が薄らと光を帯び

機体がふわりと宙へ浮かび上がった。

 

 

『──すまないねゼルエル、新装備テストが実戦で』

 

「いえ。戦闘は任せて下さい」

 

まだテスト稼働すらしていない新装備を

ぶっつけ本番で使わせる事になってしまった事を

シンジが詫びるが、ゼルエルはそれを気にも留めず

素早く戦闘の準備に取り掛かる。

 

 

 

「高収束荷電粒子ライフル装備、射撃開始!」

 

バシュゥッ!バシュゥッ!

 

腰部ウェポンラックに取り付けられていた

パレットライフルと同程度のサイズの

荷電粒子式ビームライフルを2丁手に取ると

それを44Aへ射掛けていく。

 

 

「……ッ!!」

 

──ビギュオンッッッ!!!

 

それだけでは無い。かつて使徒ゼルエルの必殺技だった

怪光線も、エヴァ搭乗時であれば使いこなす事が出来る。

威力はだいぶ落ちてしまっているが、それでも

信じられない火力を誇っている。

 

 

ドォンッ!ドォンドォンッ!!

 

「命中確認。引き続き目標を殲滅する」

 

ゼルエル機から放たれた2種類のビームに対し

臆すること無くATフィールドを展開して

真っ直ぐ突っ込んで行った44Aであったが

その防御壁が何か意味を成すことは一度たりとも無く

まるで紙っぺらの様に撃ち落とされていく。

 

44Aの第一波は、ゼルエルが放つビームを前に

意図も容易く殲滅されていった。

 

 

 

「第二波出現!数がさっきより増えてますっ!」

 

「了解」

 

しかし、44Aはまだまだやって来る。

 

第二波はミドリが言うように出現数が更に増え

殲滅される傍から増援が現れる。

 

 

「──44Aは3番機に釘付けです!」

 

そんな「戦いは数だよ」と言わんばかりの44Aだが

肝心の戦法があまりにもお馬鹿だった。

銃火器の一つも備えていない44Aの取る行動は

ただひたすらゼルエル機目掛けて突撃する事ばかり。

攻撃が飛んでくれば多少は回避を試みる様だが

それでも回避の成功率はほとんど無い。

 

 

 

「…ステージ3を突破!十二分に押してます!」

 

「一気に巻くわよ!」

 

そうこうしている内に封印柱の起動は進んでいく。

 

ショートカットを利用して一気に復号を押し進め

既にステージ4へ突入した。これを突破すれば

再起動を実行する為のステージ5の攻略に

取り掛かる事が出来るのだ。

 

マヤ達4人は更に指の動きを早めていった。

 

 

 

「第二波殲滅を確認!続いて第三波、来ますっ!」

 

ゼルエル機による荷電粒子ビームと怪光線

ヴンダー・ホフヌングからの対空砲火

ホフヌング直掩のレン・シイからの支援砲撃で

44A達はあっという間に第二波が殲滅され

続く第三波が現れる。

 

 

しかし、第三波は44Aのみでは無く──

 

ピピピピッ!

 

[BLOOD TYPE BLUE]

[≒ Evangelion Mark.06]

 

Mark.06と同じ形状をした緑色のエヴァンゲリオン

後に「グリューン」と名付けられるエヴァが

パリ市街を含む作戦エリアを取り囲む様に現れたのだ。

 

旧式ではあるもののパレットライフルを手にしており

生身であるマヤ達にとってそれは凄まじい脅威となる。

 

 

 

『2番艦を奴らの迎撃に回せっ!シェルターが無事なら

地上施設は多少損壊しても構わんッ!』

 

シンジもすぐさまグリューン達の対処へ走る。

パリ市街の避難民達はZUKUNFT支部の持つシェルターへ

避難訓練として退避させているため

今最も優先すべきはマヤ達の安全なのだ。

 

 

『レン!シイ!頼むぞっ!』

 

「任せてよお父さん!」

「やるわよ、レン」

 

臨時戦闘仕様として改修され、それぞれ名を

新1号機・新0号機と改めたレン達の駆るエヴァが

ホフヌングの艦首甲板に立ち、迫るグリューン達へ

大量の射撃を放っていく。

 

グリューンらは以前交戦したMark.07らと同様

飛行能力を有していたが、それ以外に特筆する点は無く

パレットライフルの狙いも非常に甘い。

 

「行っけぇッ!!」

 

「当てる…っ!」

 

バシューーーッ!!

 

新1号機と新0号機はこちらも実戦テスト前ではあるが

かつてシンジ達が使徒アラエルとの戦闘で使った

高火力遠距離武器「A.T.F.ランチャー」の改良型を装備し

コンスタントな長距離射撃を行うことが可能だ。

 

四方八方から押し寄せる44Aとグリューンの大群を

ゼルエルやヴンダー級2隻の対空砲と協力して

次々と撃墜する。

 

 

 

「ステージ4、全セキュリティ突破!」

「行けます副整備長!」

 

「焦らず詰めるわよ!」

 

レン達が第三波を殲滅し第四波との交戦を開始する頃には

アンチLシステムの攻略はステージ4をクリアし

残すはステージ5へのショートカット構築と

ステージ5復号のみとなっていた。

 

今押し寄せている第四波を乗り切る事が出来れば

第五波の途中辺りでアンチLシステムを起動させ

DSRVでヴンダー艦内へ退避出来るだろう。

そうなれば、残りのウェーブは煮るなり焼くなり

流れ弾の行き先等気にせず殲滅する事が可能だ。

 

 

 

「真希波さんッ!!」

 

『でかしたぞ子犬(レン)くん!』

 

そして、その第四波に早くも王手が掛かる。

レン達によるレイ仕込みの牽制射撃に誘われた44A達は

1箇所に集められ、ホフヌングの主砲が向けられたのだ。

 

『…べらぼうめェおとといきやがれーーーッ!!!』

 

 

バシュィィィーーーンッッッ!!!

 

2番艦の火器管制を担当するマリの渾身の叫びと共に

桃色の閃光が青空を駆け抜け、進路上の邪魔者どもを

文字通り完全消滅させていった。

 

飛び回るグリューン達もゼルエルに軽く薙ぎ倒され

既に1機残らず殲滅されている。

 

 

『ふふん♪御茶の子さいさいよん♪』

 

第四波を綺麗さっぱり殲滅出来た事に喜ぶマリ。

 

 

 

──だがマリを含むZUKUNFTメンバー達は知らなかった。

この戦力が陽動でしか無い事など。

 

 

 

 

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

[Camouflage Cocoon(偽装コクーン) Materializing(物質化)]

[Contents Date N/A(目標データ 該当無し) Analysis Ongoing(解析継続中)]

 

──バリバリバリーンッ!

 

 

「大物出ました!ボスキャラですッ!」

 

 

けたたましい警報音と共に位相空間から現れたのは

複数機のエヴァを組み合わせて作られた更なる異形達。

 

4本の触手状の脚部を有する土台に、腰から下が無い

エヴァが4機埋め込まれ、その4機が神輿を担ぐように

"見覚えのある大砲(陽電子砲)"を支えている「4444C(フォーフォーシー)」と

腰から上が無いエヴァ2機が発電ユニットを保持し

4444Cに付き従ってパレードの様に行軍する「44B(フォーツービー)」だ。

 

更に、これまた見覚えのある(ESV)を構えたグリューンが

計8機現れ、4444Cと44B達を守る様にして前へ躍り出る。

 

 

 

『シンジ君!これって──』

 

『葛城副長…まさかッ!?』

 

 

 

───ヤシマ作戦。

 

 

 

かつて第5の使徒ラミエルを撃破する為に

日本中から2億キロワット近い大電力をかき集め

陽電子砲を用いて超遠距離から狙撃させた必殺の作戦を

今まさにシンジ達はやり返されようとしていた。

 

 

 

──つづく。





予告にしか出てこなかったあの機体を
ちょっと出してみました。
Mark.06は今もゼーレの手の中なのでね
…で、結局アレは何だったんですかね?

次回、血戦。


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血戦、パリ市街


vs4444C&44B。



 

 

 

「──44Bに高エネルギー反応っ!」

 

 

 

それは、完全なる不意打ちだった。

 

 

「………」

 

「整備長っ!」

 

 

使い捨て同然の44Aやグリューンにかまけていた結果

本命となる4444Cの奇襲を許してしまったのだ。

 

 

『配置が悪過ぎるッ…!』

 

『ヤツめ、ここをまとめて持っていくつもりか…!』

 

4444Cが狙っているのは封印柱の頂点に居るマヤ達──

だけでは無い。その射線の先にはパリ中心街があるのだ。

そう、今まさにシンジ達が活動の拠点にしている

結界を無効化された貴重なエリアが。

 

先程シンジはグリューンらを迎撃する際に

パリ市街への被害は多少なら目を瞑ると言ったが

目の前でチャージされようとしているものは

余りにも例外が過ぎる。

 

『アレを撃たせたらどれだけの被害が…!』

 

陽電子砲は、一発撃つ度に周囲に凄まじい電磁波と

少量ながらも有害な放射線をばら撒いてしまう。

ヤシマ作戦の際は市街地への直撃には至らなかったうえ

住民の避難先や除染作業の準備も十二分に整っていた。

だが、ここはパリ支部があるとはいえ浄化結界のど真ん中

周りには支援してくれる存在なんて何一つ無い。

陽電子砲を撃たれてしまった場合の被害は深刻だった。

 

 

 

「44B、大出力電力放射装置へ蓄電開始!」

 

不意を突く事に成功した44B達は機体全体を

ブルブルと振動させながら、一斉に発電を開始する。

 

 

 

「ゼルエル!間に合いそう?!」

 

「ダメだ赤木博士、"盾持ち"に防がれている!」

 

『レン、シイ!届くかっ?!』

 

「くそっ…遠くて威力が足りないッ…!」

「ATフィールドで防がれているわ!」

 

ゼルエル達護衛部隊はすぐさま銃撃を44Bへ集中させ

電力の供給源を断とうと試みたが、陽動で距離を離され

有効射程距離から遠のいてしまった射撃では

ESVシールドとATフィールドによる防御を抜けなかった。

 

ヴンダー級の主砲も強力な陽電子砲であるため

上空へまとめられた44Aを撃ち抜くならまだしも

地表付近にいる4444C・44B目掛けて発射する事は──

奪還予定の土地を放射能で汚染する様な行為は

可能な限り避けたい所である。

 

 

 

「4444C、発射体勢に入りました!全給電システム解放!

続けて陽電子加速システム作動開始!」

 

しかし、モタモタしている暇は無い。

 

4444Cは回転させていた触手状脚部を固定させ

陽電子砲の銃口の高さを封印柱の頂点へ合わせると

機体下部に設けられた照射電力の給電装置を起動し

44Bからの放電を待つ姿勢を取った。

 

まるでエネルギーの流れを表すかのように

陽電子砲各所のケーブルが輝きを放ち始める。

砲身の左右に取り付けられた陽電子加速装置が

光の輪を形成し、陽電子の加速を行う。

 

──ここまで僅か十数秒。

 

 

 

「来ますっ!」

 

44Bも超大電力の発電を終え、機体上部の放電プラグから

4444Cの給電システムへと電力が放射される。

 

「激ヤバですぅッ!誰でもいいから助けて~ッ!」

 

このまま陽電子砲の発射を許してしまえば

復元作業中のマヤ達4人と戦況オペレート中のミドリ

そして無言で状況を見定めているリツコは

跡形もなく消し飛んでしまう。

 

 

そんな絶体絶命な状況下でシンジが取った選択とは──

 

 

 

『ヴンダーをヤツの前に割り込ませろッ!』

 

 

 

なんと、ヴンダーを盾にする事だった。

 

『正気なの?!碇艦長!』

 

『構わんッ!"直撃"よりはいいッ!!』

 

 

 

バシュィィィーーーンッッッ!!!

 

そして、4444Cを構成する4機のエヴァの仮面の瞳が輝き

陽電子砲が放たれる。

 

 

 

 

 

『陽電子砲、右舷第2船体に着弾!!』

 

「うわあっ!?」

 

周囲を輝きで橙色に染め上げる高エネルギーの奔流は

間一髪のところで、地面を抉りながらも滑り込んだ

ヴンダーの右舷側第2船体へと命中。

 

船体がVPS・ナノラミネート複合装甲材で作られていて

エネルギー兵器を屈折ないし放熱させ無効化するとは言え

陽電子砲レベルの超火力兵器を前にしてしまうと

防ぎ切る事は出来ず、着弾した箇所がみるみるうちに

溶解していく。

 

 

「…………」

 

「ぐ…うっ…凄まじい熱…っ!」

 

しかしその甲斐あってか、マヤ達の元へ届いたのは

強烈な熱風程度まで抑え込まれていた。

 

ナノラミネート加工によって砲撃の一部が弾かれ

まるで水流が枝分かれするように跳弾していくが

それもあくまでヴンダーの艦首側──

およそ2km程離れた場所で発生しているため

跳弾がマヤ達へと飛ぶ事も無い。

 

 

 

 

「だ…第一射、終了を確認!」

 

ミドリが危機からの脱出を叫んだ。

 

 

『状況は?!』

 

『右舷第2船体中破!けどまだ許容範囲内よ!』

 

ヴンダーへの被害もそれ程深刻ではなかった。

防御機能を最大出力にしていたお陰で

被弾した箇所の表層ブロックが多少溶解した程度で済み

右舷側の中枢機能へのダメージも無かったのだ。

 

更に、ヴンダーが身を呈して守った事で

パリ中心街へ着弾した流れ弾もほとんど無く

一見無謀にも思われたシンジの奇策は

マヤ達、パリ中心街、ヴンダー、それら全てへの

「直撃」を避けるという最高の結果を齎したのである。

 

 

 

しかし、その直後──

 

 

「4444Cが再び発射体勢に入りましたッ!」

 

早くも第二射が来ることがミドリの口から告げられる。

 

「陽電子加速システム最終段階!第二射すぐに来ます!」

 

かつてのヤシマ作戦の際は、ヒューズの排莢・再装填や

送電システムを含む各機器の冷却などが求められ

単純にリロードをすればいいという話では無かった。

がしかし、目の前で再チャージを開始した4444Cは

そんなものは必要無いと言わんばかりだ。

 

赤い木々を薙ぎ倒しながら触手状脚部がうねり

目標との高度が合わせられた。ケーブルに再び光が走り

給電システムのカバーが再度解放される。

もはや第二射までは秒読み段階だった。

 

 

「──!!A.T.F.ランチャーフルチャージ完了ッ!」

 

「同じくエネルギー充填率200%!」

 

だが、エネルギーをチャージしていたのは

4444C達だけでは無い。

 

レン達の持つA.T.F.ランチャー改弐型である。

通常であれば銃弾は高圧縮されたATフィールドだが

機体側のN2リアクターからエネルギーを借用し

2段階のエネルギーチャージシステムを用いる事で

ATフィールド・ビーム複合の超高火力射撃へ

パワーアップさせる事が可能なのである。

 

 

『シンジ!』

 

『ヴンダー、急速離脱ッ!』

 

2番艦艦長である父の声にシンジが離脱指示を出す。

 

4444Cと真正面から向き合っていたヴンダーが

ゆっくりと左舷側へ離脱していくと

すぐ後方で控えていたホフヌングの艦首甲板上で

2丁のA.T.F.ランチャーの銃口が眩い輝きを放っていた。

 

Mark.06´(マークシックスダッシュ)が防御体勢に入ります!」

 

反撃の危機に気付いた盾持ちのグリューン8機が

大慌てで4444Cの目の前へ躍り出る。

 

ESVシールドとATフィールドの防御壁をフルで使い

何としてでも4444Cの陽電子砲を守ろうという構えだ。

 

 

『構わん撃てッ!』

 

「「発射ッ!!」」

 

バシュィィィーーーンッッッ!!!

 

 

先に火を吹いたのは、2丁のA.T.F.ランチャー。

封印柱の上のマヤ達を綺麗に避けつつも

2本の光条は的確に4444Cの元へと駆け抜ける。

 

「Mark.06´、2機目沈黙!続けて3機目が沈黙!」

 

ATフィールドを意図も容易く貫くその銃弾は

グリューンを盾ごと溶かし尽くしていく。

 

2段階チャージには、エネルギーの消耗が非常に大きく

チャージ完了までかなりの時間が掛かるという

大きな欠点を抱えていたが、その破壊力は絶大だ。

 

 

「ッ!!」

 

──ビギュオンッッッ!!!

 

そこへゼルエルの怪光線によるダメ押しが突き刺さる。

 

 

4機、5機、6機、と立て続けにグリューンが撃墜され

防御壁が突き崩されていく。

グリューンの持つESVシールドは頑強とはいえ

所詮は18年前のシロモノ。今のZUKUNFTが持つ高火力には

とても耐えきれないのである。

 

 

だが、4444Cも狼狽えたりする事は無い。

 

「第二射チャージ完了!来ますッ!」

 

バシュィィィーーーンッッッ!!!

 

グリューン達の犠牲の裏で進められていた

陽電子砲へのエネルギーチャージが完了し

ZUKUNFTへ反撃を放ったのである。

 

 

 

 

 

死の光がマヤ達とパリ中心街を襲おうとした

その瞬間、シンジの"頭脳"が輝く──

 

 

『シャムシエル!ATフィールドを陽電子砲入射角に対して

最大1°以内で全力展開ッ!!!』

 

「任されましたァッ!!!」

 

今の今まで静観を続けていたシャムシエルが遂に動く。

 

ミリ単位で精密に制御されたATフィールドを

美しい青空へと向けて展開したのだ。

人間の目には完全に真上を向いている様(地面に対し並行)にしか見えない

その強力なATフィールドは、陽電子砲の入射角が

1°以内に収まるようほんの僅かにだけ傾斜していた。

 

本来、耐熱耐ビーム加工を施してあったとしても

高エネルギーの陽電子砲を盾で受け流そうとすれば

その盾は凄まじい超高温に晒される事になる。

無論、ATフィールドで同様のことを試みたとしても

あっという間にATフィールドは割られてしまう。

 

では、1°以内というその僅かな傾斜が一体どんな結果を

もたらすのかというと──

 

 

 

カキィーーーーーンッ!!!

 

「陽電子ビームが…反射されていきますっ!」

 

鏡やプリズムへ照射された光が綺麗に屈折するように

陽電子のビームがATフィールドで反射されたのだ。

 

臨界角と呼ばれる角度より小さい入射角で

侵入した陽電子ビームは、物質との反発力によって

全反射という現象を引き起こしてしまう。

こうなってしまえば、ビームを照射された側の物質──

今回で言う所のシャムシエル機のATフィールドには

殆ど負荷を与える事が出来ないのである。

 

 

 

「ひえぇ…助かったぁ…」

 

結果、マヤ達を初めとする封印柱復元班は

間一髪の所で陽電子砲の直撃を免れ

パリ中心街へもダメージを発生させずに済んでいた。

 

──物質を対消滅させあらゆる物を焼き尽くす

眩い死の光が自分たちの頭上を駆け抜けていくという

もう二度と経験したくない恐怖の光景が過ぎ去り

ミドリは思わず気の抜けた声をこぼす。

 

 

 

 

 

ここからはZUKUNFTの反撃のターンだ。

 

「ステージ5復号、全てクリア!」

「最終セキュリティを突破しました!」

「アンチLシステム起動可能!」

 

熱風と閃光の中でも指を走らせる事を止めなかった

復元班の男たち3人が作業の完了を一斉に報告する。

全ての暗号化を解除する事に成功したのだ。

 

「先輩!アンチLシステム、発動しますッ!」

 

部下達からの報告を受けたマヤが起動コマンドを打ち込み

封印柱のアンチLシステムがアクティブになる。

 

黒一色だった封印柱の表面に赤い光を放つ紋様

使徒封印用呪詛紋様と呼ばれる文字が浮かぶと

封印柱は一瞬眩い光を纏い、それが地面へ打ち込まれる。

打ち込まれた光は柱を中心に広がっていき

コア化した赤い大地が本来の姿へ戻っていく。

 

 

「帰投準備、急ぐわよ」

 

「「「はいっ!」」」

 

復元オペを完了させたマヤ達はすぐさま機材を回収し

撤収の準備を始める。

 

システム再起動に使用したラップトップや

各観測用機材を手早くDSRVへと積み込み

自分たちも速やかに船内へと乗り込む。

 

「シャムシエル、頼むわ」

 

「了解ですゥ!」

 

全ての撤収作業を終えハシゴに手を掛けたリツコは

柱のすぐ傍で待機しているシャムシエルへ声を掛けた。

 

DSRVをワイヤーでここへ降下させたヴンダーは

現在4444C・44Bらとの交戦中であるため

リツコ達の帰投は手の空いたシャムシエル機が行う。

船体上部に増設されたエヴァ用のグリップを使えば

丁度小物入れでも持つかのように保持出来るので

パリ中心街の方で待機しているホフヌングへ

エヴァ発進用ゲートを使って格納する手筈となっている。

 

 

 

「残りの防御は薄い。畳み掛けるぞ」

 

「ゼルエルさん…分かったッ!」

「了解!」

 

4444Cとの戦闘も、遂に大詰めへと入った。

 

護衛の盾持ちグリューンを軒並み沈めたことで

残っているのは自衛手段を持たない発電専用の44Bと

小回りが利かず露払いの出来ない4444C──

陽電子砲を発射する為には44Bの存在が必須なため

そちらを手早く数機ほど破壊してやるだけで

44Bは勿論のこと4444Cも攻撃手段を失う事になる。

 

 

「当たれぇッ!」

 

バシューーーッ!!

 

レンの放った弾丸が4444CのATフィールドを穿つ。

 

「終わりよ!」

「良い射撃だレン君」

 

無防備になった44Bへ、シイのA.T.F.ランチャーと

ゼルエルの荷電粒子ライフルが放たれ

44Bはいとも容易く破壊されていった。

 

 

 

「あとはあのデカブツだけだね」

 

「これなら余裕」

 

そして、色を取り戻したパリ市街東部に残されたのは

必殺の一撃が撃てなくなった哀れな4444C──

 

陽電子砲が機能しなくなった4444Cなど

ただ巨大なだけのマトでしかない。

4枚の仮面から怪光線を撃つ姿が先程の二射で確認されたが

あくまでも陽電子砲の補助としてしか使えない様で

フライトユニット装備のゼルエル機に対しては勿論

レン達も5km程離れた場所に陣取っているため

数少ない攻撃手段である触腕(「打撃」)すら届かない有様。

 

 

 

『よし…撃ちまくれぇッ!!』

 

「うおぉぉぉっ!」

「外さないわ!」

「ターゲット、ロックオン…!」

 

 

 

 

 

ドォーーーンッッッ!

 

 

 

『4444C、完全に沈黙!』

『パターン青の消失を確認!』

 

A.T.F.ランチャー2丁、高収束荷電粒子ライフル2丁

対空砲ファウスト8門の集中砲火に晒された4444Cは

全身を穴だらけにされて吹き飛んだ。

 

何とも哀れな最後である。

 

 

 

こうして、シンジ達ZUKUNFTはまた一つ

人類の世界の奪還に成功したのだった。

 

 

 

──つづく。





WILLE、もといZUKUNFTの現有戦力が
原作シンとだいぶ異なっているので
どう戦闘を運ばせるか少々難儀しましたが
上手いことまとまったかと思います。

4444Cくん、陽電子砲発射の瞬間に
仮面から怪光線エフェクト出してるんですけど
ビームは陽電子砲の1本しか描かれてないし
それ単体では一切撃ってないんですよね…
ということで、怪光線は単独使用不可としました。

A.T.F.改弐型の2段チャージの元ネタは
「ルビコン行きたい」とだけ言っておきます。


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それぞれの想い


新章14話です。

キャラクターごとの心情描写に関しては
どちらかというと苦手な分野なので
少なくない綻びが出てそうですが
そこはどうか読者様方の方で補完して下さい。

貞本版5巻42頁、セカンドインパクトの日付が
9月13日ではなく8月15日となっていますが
本作は「セカンドインパクト=9月13日」
として扱います。



 

 

 

「さぁ~って!探すわよぉ!」

 

「「はい!」」

 

つい先日色を取り戻したパリ市街東部地区を

加持リョウジ・ミサト夫妻とその息子加持コウキ

碇レン・シイ兄妹とサキエルが、ZUKUNFT職員を引き連れ

意気揚々と──まるでお宝探しにでも出掛けるような

楽しげな雰囲気で歩いていた。

 

彼らが何をしているのかというと──

 

「まずはここからだな」

 

リョウジが急造の荷車を停めたのは

がらんどうになったホームセンターの前。

 

 

「使えそうな物はかき集めていきましょう」

 

「僕は農具が無いか物色してくるよ」

 

「行こうシイ!僕達は野菜コーナーへ!」

 

「ええ。まだ植えられるものがきっとあるわ!」

 

コウキとサキエルは雑貨コーナーへ

レンとシイは青果売り場へと駆けていく。

 

そう、ミサト達がここへやってきた目的とは

食料の自給自足を行う為、野菜・果物の苗や種

農耕に使えそうなクワやスコップ等の道具

ビニールシートやキャンプ道具といった

汎用性の高いアイテムの回収である。

 

 

「どんどん持っていっちゃって!私達もやるわよ~!」

 

「「「了解!」」」

 

サードインパクトによって文明は事実上の壊滅状態──

物を売買する際に用いる金銭も、それを支払わない事を

咎める司法も、実質的に機能していない様なもの。

故に、人類の存続に必要なものであれば

片っ端から持っていき生活に役立てるだけだ。

 

 

 

「この辺の野菜は芽が出るんじゃないかな?」

 

「そうね。水に浸ければ根が出ると思うわ」

 

レン達は野菜コーナーに並んだ青果から

傷んでいないものを選定してカゴに放り込む。

そこだけ切り抜いてみれば「少年少女のおつかい」だが

その野菜達は料理の材料にされる訳では無い。

発芽させ新たな食料の元とするのだ。

 

当初は青果の保存状態が心配されていたが

サードインパクトからそれ程月日は経っていないうえ

コア化していた間は物質の構造が変化しており

状態は殆ど変わっていない。つまり、結構新鮮な状態。

支部に持ち込んで検査に掛ける必要はあるが

十二分に足しに出来るだろう。

 

 

 

「サキエルさん、頼りにしてますよ」

 

「勿論だともコウキ君。農業は僕の得意分野だからね」

 

雑貨コーナーを物色しに行ったコウキとサキエルは

無事に使えそうなツールを確保した。

流石に耕運機のような機械的なものは少なかったが

鍬や鎌、熊手といったものであれば十分に集まる。

 

この収集作業を終えたら2番艦の物資輸送班と合流し

ヴァンセンヌの森の一角、南東のマルヌ川と隣接する

区画を中心に人力開墾を実施するのだ。

人手はZUKUNFT職員や避難民から募集すればいいが

道具がなければ始まらない。

 

 

 

「そういやシンジ君達は今どうしてるんだ?」

 

「『川』の方をやるって。ガギエルが補佐に付いてるわ」

 

「水の供給源確保は急務だもんな」

 

一方で今ここにいないシンジや他エンジェルズだが

そちらは中心街区画でセーヌ川の調査を実行中。

 

水は食料生産の面以外でも重要で、飲料水は勿論

機械の冷却水や医療にも当然大量に消費する。

現状はヴンダー級2隻の浄化槽をフル稼働させて

対応しているが需要に追いついていないので

セーヌ川を水源兼魚の養殖池として利用出来ないか

更なる調査を進めているという訳だ。

 

ミサトとリョウジは数名のZUKUNFT職員と共に

避難民の生活に役立ちそうなツールを回収していった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

 

 

「どっこいしょーっ!……儘ならないもんね」

 

鍬を勢いよく地面へ振り下ろしたミサトがつぶやく。

首に掛けたタオルで汗を拭いつつ。

 

「ですね…っ!僕も何だかんだ機械に頼ってた訳だ!」

 

続けてサキエルが鍬を振り下ろし感想を一言。

 

早速始まった開墾作業だが、中々に苦戦していた。

邪魔な木々を斧を使って切り倒し、切り株や雑草を抜き

鍬で地面を片っ端から耕していくのだが

これがまた体力をゴッソリと持っていかれる。

 

サキエルが言った様に、第三新東京市在住の面々は

予想以上に機械化・電子化の影響を受けていて

それがモロに出ていたのだ。

 

 

「良いんですかミサトさん、僕達がこれ使って…」

 

チェーンソーで木を伐採していたレンが

申し訳なさそうな表情を見せる。

 

彼が手に持っているのは充電式チェーンソー。

ガソリン等の確保が絶望的な現状でも使うことの出来る

数少ない電動の工具。レンは自分達が楽をする事に

申し訳なさを感じている様だが──

 

「へーきへーき、あたし達はこう見えて体力あるから」

 

鍬を肩に担いでニカッと笑ったミサト。

彼女はNERV時代作戦部所属であったとはいえ

白兵戦スコアトップクラスの、言わば元軍人。

苦労こそすれど体力の心配は不要だった。

 

 

「それに電気は──」

 

「ジェットアローンが居るからな。よっと!」

 

リョウジが視線を向けた先で歩いていたのは

「JA改 地上仕様」。N2リアクターで稼働し

大量の物資の輸送や大電力の継続供給などを

難なくこなす大型無人重機だ。

当然レンやシイが扱う機器の充電もJA改が生産した

電気を用いて行われている。

 

4444Cとの戦闘で散らかったビルの瓦礫をものともせず

ヴンダー級からの物資を背中のコンテナで輸送し

避難民居住区にも十分な電力を供給し──

いつぞやの披露宴会場で時田シロウが語った

ジェットアローンの運用を見事実現していたのだ。

 

「なんというか…可愛い動きですね」

 

腕をぶんぶんフレキシブルに振って歩く姿が

中々シュールで可愛らしいと人気なんだとか。

 

 

 

「結界密度問題無し、pHも許容範囲内だね」

 

土壌調査の結果は可もなく不可もなく。

 

懸念されていた浄化結界による影響は無く

土地自体も極端に痩せている訳では無かったので

あとは農業経験者らも招いて細かい調整を施せば

割とすぐにでも栽培が始められそうであった。

 

ヴンダー級のプラント頼りの食料生産体勢を

改善出来る、とサキエルもミサトも安堵する。

 

 

 

 

 

「……………」

 

作業の合間にふと手を止めたサキエル。

 

 

「赤い大地がどうかしたのかい?」

 

「…いや、不気味だなって…ね」

 

視線の先にあるのは、結界に浄化された赤い世界。

最近「ハイカイ」と呼称されるようになった

傷だらけのエヴァンゲリオンインフィニティが

3体ほど、当てもなく彷徨っている。

 

目を向けるたび、禍々しいと思えてしまって。

 

 

「──曰く、神の世界だそうだ」

 

リョウジがタバコに火を付けて呟く。

 

SEELEが望んだ世界、原罪の穢れ無き世界だ、と。

 

 

 

「…これが、ねぇ」

 

サキエルは決してそうだとは思えなかった。

 

(僕は一度この世界を望んでいるはずなのにね…)

 

使徒サキエルは、サードインパクトを起こす為──

リリスより生まれし者との生存競争に打ち勝ち

アダムより生まれし者のみが生きる世界を求めて

第三新東京市へ侵攻したというのに。

 

 

「還りたいとは思わないのかい?」

 

「いいや全く。僕は緑といるのが好きだからね」

 

それでもサキエルは人で穢れた世界を望んだ。

ゆっくりと、だが力強く生きる植物たちの姿は

赤い大地では見られない景色だ、と。

 

サキエルだけではない。他のエンジェルズは勿論

綾波リナことアルミサエル、リリスの化身たる碇レイ

そしてアダムの化身たる渚カヲルも、人の姿のまま

この星で生きる事を望んでいる。

 

 

「そうだな。何かを育てるってのはいい事だ」

 

「ですね」

 

 

サキエルとリョウジはまた鍬を手に取り

耕作に戻って行った。

 

 

 

それ(タバコ)、貴重なんじゃないんですか?」

 

「そうなんだよなァ…」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

──ヴンダー航海艦橋。

 

 

 

「あらシンジ君、ここにいたのね」

 

ひと仕事終えたミサトが艦橋に戻ってくる。

そこには、黙々と仕事を続けるシンジの姿が。

 

「ミサトさん」

 

シンジはセーヌ川の調査がひと段落した後も

休憩時間に入り静まり返っていた航海艦橋で

コーヒー片手に作業を続けていた。

 

 

「相変わらず仕事の虫ね。リツコのが移ったのかしら」

 

一度仕事モードに入ると寝食も忘れるその様は

NERV時代から割と変わっていなかったが

最近特に──サードインパクト発生以降

作業に没頭する時間が増えつつあった。

 

勿論、子供たちやレイと接する時間も設けていたが

それ以外の時間は殆ど作業に費やしている。

 

 

「少しくらい休んでもいいのよ?」

 

ミサトは働き詰めのシンジを気遣う言葉を掛ける。

 

「…あなたのご両親も、アスカのお母さんも

SEELEとの決戦に力を貸すって言ってくれているわ。

何もシンジ君が無理をする必要は無いのよ?」

 

ゲンドウとユイを初めとするシンジ達の両親世代や

冬月ら旧NERVスタッフ達は、かつて使徒との戦いで

子供たちを最前線に送り出してしまった罪滅ぼしにと

持てる力を総動員して決戦の準備を進めている。

 

ミサトの言う通り、シンジは無理をしなくてもいい

むしろ少し休んでいろと言われる立ち位置に居るのだ。

 

だが──

 

 

「………これは僕なりのけじめの付け方なんだ」

 

「けじめ…?」

 

シンジは負い目を感じる様な表情を浮かべ

過去の己の選択を思い返す。

 

 

 

『示そう!僕らの意志を!』

 

『全ての人たちへ、エヴァンゲリオンを──』

 

 

それは、世界に福音が降り注いだ日の事。

 

 

「…あの時僕はSEELEの人達を消してしまう事も

可能だったんだ。でも…僕はそれをしなかった」

 

覚醒した4体のエヴァンゲリオンとヴィレの槍を手にし

神に近い存在へと昇華していた当時のシンジには

アンチATフィールドを使いSEELEの構成員を

全てL.C.Lへ還元させ消し去る事も可能だった。

 

けれど、人として他人と共に生きるからこそ得られる

強さというものを彼らにも理解して欲しい、と

上位者として力を振るう以上私情は挟むべきではない、と

シンジはSEELE構成員をL.C.Lへ還元する事はしなかった。

 

 

「…優しいあなたらしい良い選択だわ」

 

「ありがとうミサトさん。けど、結果はこの通りだ」

 

だが、その結果SEELE復活とサードインパクト発生を許し

多くの命が失われる事態を引き起こしてしまったのだ。

 

「SEELEを壊滅させるまでは止まれないんだよ」

 

真実を知った時シンジを恨む人は数多くいるだろう。

理解すら出来ぬまま赤い大地に呑まれた人も大勢いる。

喪った親友の魂も未だSEELEの手の中にあるだろう。

 

だからこそ、けじめを付けるまでは立ち止まれないのだ。

 

 

 

 

 

「ミサトさんこそ、何で戦うんです?」

 

「私は…そうね…」

 

シンジから依頼されたとはいえ、ミサトにもまた

立ち止まれない理由はあった。

 

思い出すのは、2000年9月13日の出来事(セカンド・インパクト)──

 

 

 

『ミサト…お前は生きるんだ──』

 

『……お父さん…?』

 

 

それは、父の姿を見た最後の記憶。

 

研究に没頭してばかりで、いつも母を泣かせていた父が

突如崩壊を始めた南極の研究施設から自分を命懸けで

救い出してくれた時の記憶。

 

 

「お父さんへのせめてもの償いかしらね」

 

そんな父をミサトは別れの間際までずっと嫌っていた。

憎んでさえいた。父の想いに気付いた時には全てが遅く

何も伝えられないまま父は帰らぬ人となってしまう。

 

ミサトにとって、セカンドインパクトの元凶でもある

SEELEは父の仇も同然。元凶のうちの1人であった

NERV司令碇ゲンドウが生きて罪を償う事を選んだ今

SEELEを討つ事は父にしてやれる数少ない償いであった。

 

 

「…運命って残酷ですね」

 

「そうね」

 

たとえ人類に仇なす使徒を全て討ったとしても

たとえセカンドインパクトの真相を暴いたとしても

たとえ世界に福音をもたらしたとしても。

運命はまた残酷にもシンジ達に戦いを強いる。

 

人類の補完という、救済という名の終焉を齎さんとする

巨悪を討たなければ、本当の平穏は訪れない。

 

 

「僕は戦いますよ。最後まで」

 

「力を貸すわ。私も、リョウジも」

 

けれど、決してシンジ達の目から光は消えない。

 

人類の知恵と意志が神の力をも克服する事を

誰よりも信じているのだから。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

 

 

「最後の執行者が完成したか」

 

 

キール・ローレンツのバイザーに隠れた視線の先で

血の様な赤紫色の液体で満たされたドームの中から

一体のエヴァンゲリオンが引き上げられていく。

 

 

「人類を滅びの宿命から救う希望の機体──」

 

 

その機体色は赤い水を浴びてもなお美しい白だが

素顔はペストマスクの様な(アダムの系譜にある事を示す)仮面で隠されており

肩からは禍々しい赤色の翼らしき部位が伸びている。

 

希望の機体を謳うには些か禍々し過ぎるそのエヴァは

SEELEが求める人類補完計画の鍵となる機体。

原罪の穢れを浄化し、人のシン化と補完を完遂させる

最後の執行者たる機体。

その名は──

 

 

「Mark.13…我らを救う唯一神(ヤハウェ)よ」

 

 

 

 

 

『リリスの再現を担うホースマンは我らの手の中にある』

 

『生命の樹を形作る12の"使徒"の建造も終わった』

 

SEELEはただただ人類の永続を願う。

 

「フォースインパクトの鍵となり、補完計画の贄となる

かつての神の復活を以て、約束の時となる」

 

知恵の実を食した人類へ神が与えた運命──

生命の実を得た使徒に滅ぼされるという運命に抗い

神の子の地位を奪って永遠を生き続ける為に。

 

 

「では…始めよう」

 

キールは静かに立ち上がり、最後の儀式へ向け

再び時計の針を進める事を宣言する。

 

 

 

「『『全ては人類補完計画の為に』』」

 

 

 

──つづく。





ここから先はいよいよ最終決戦です。

人類補完計画という、エヴァの中でも特に
難解な部分を取り扱う事になるため
物語の構成に個人的解釈を多く含みます。
そこはご容赦ください。


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ハヤタ作戦、始動


お待たせいたしました、新章15話です!

最終決戦、突入。

結局新生イスラフェル君回よりも先に
本編が完成してしまったので
こちらを先に投稿させていただきました。
イスラフェル回の方は、完成した場合は
前回との間に挟み込んでおきますが
あまり期待はしないで下さい…。



 

 

 

──艦長室。

 

 

「──ああ、2番艦の艤装作業は1500までに。

後はエヴァの調整と新装備の搬入に掛かってくれ」

 

シンジは珍しく艦長室から作業指示を出していた。

 

最近特に働き詰めだった事をミサトやユイに指摘され

今日1日の艦長室からの外出禁止を言い渡されて

こうして内線を通しての指揮に留めていたのだ。

 

 

『JA改宇宙仕様の改造は完了しました』

 

「了解。後は主翼上の作業班に引き継げばいい」

 

『新装備の搬出準備が整いました』

 

「4号機の飛行ユニットから取り掛かってくれ」

 

生死不明と思われていたイスラフェルがつい先日

巡礼先であったメッカからゴルゴダベースを経由して

無事合流を果たし、ZUKUNFTは最終決戦へ向けて

本格的な準備を開始している。

 

前回の戦闘で破損してしまった箇所の完全修復をしたり

ユーロNERV時代から収蔵されていたエヴァ用の武器を

片っ端から引っ張り出して装備させたり

旧NERV本部現SEELE本部へカチコミを掛けるために

本部の外壁をぶち抜けるミサイルを用意したり

Mark.06再覚醒のリスクに備えた装備を作ったり、と

その多忙っぷりはヤシマ作戦直前の準備や

ゼルエル戦直後の後処理に匹敵するほどだ。

 

 

『──シンジ君、グッドニュースよ。停止信号プラグが

ようやく形になったわ』

 

「助かります。プラグはレン(新1号機)に預けておいて下さい」

 

『了解。手配しておくわね』

 

リツコ、ユイ、キョウコ、そして時田──

ZUKUNFTが誇る世界トップクラスの頭脳によって

"切り札(強制停止信号プラグ)"も遂に完成。

 

決戦の準備は着々と整いつつあった。

 

 

 

 

 

「………」

 

シンジは通信の合間にテーブルへ目を向け

小さな植木鉢に飾られたアザミの花を眺める。

 

荒れ地にひとりぼっちで咲いてたんだ、と

レンとシイが植木鉢に入れて持ってきたもので

去年からずっとこの艦長室に置いてあるが

今でも綺麗な赤紫色の花を咲かせてくれる。

 

「…カヲル君…必ず迎えに行くから待ってろよ」

 

誰の手も振り切って強く生きていたであろうアザミを前に

静かに決意を新たにするシンジ。

 

 

 

──その彼の瞳がアザミと同じ色に煌めいていた事は

誰にも気付かれる事は無かった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

 

 

カチャリ…

 

それは、シンジが貴重な挽きたてコーヒーを淹れ

ちょっと贅沢な休息を堪能し終えた時──

 

 

「休憩中失礼致します」

 

何も無い空間から声だけが響く。

 

夜闇の様にしっとりと落ち着いた女性の声色が

部屋の中心の床から聞こえてきた。

下の階層からでは無く、まさにシンジが今いる

この艦長室の床から声が発せられたのだ。

 

 

「ん、レリエルかい?」

 

「はい。エンジェルズNo.12、レリエルです」

 

その声の主はシンジの返答を確認すると

床に「ディラックの海」と呼ばれる黒い影を広げ

そこからスーッと室内へ浮上して来た。

 

星空の様に煌めくダークシルバーアッシュの髪

モノトーンカラーでまとめられた服装に

物静かで落ち着いた雰囲気を纏う長身の女性の名は

エンジェルズメンバーのうちの1人「レリエル」。

 

「君が来たってことは──」

 

「はい」

 

レリエルはディラックの海による瞬間移動を活かし

ここパリから遠く離れた旧静岡県浜松市(第3村)付近にある

レジスタンス基地兼SEELE監視所との連絡役

および人員の運搬役を担ってもらっている。

ついでに人員不足だった現地の助産師も兼任しているが

それは置いておいて、SEELEを監視していた彼女が

直接艦長室にいるシンジの元へ跳んで来た理由は

もはやひとつしかない。

 

「…NHG1番艦が旧NERV本部および黒き月を伴って

カルヴァリーベース方面へ移動を開始しました」

 

「残り時間はあと僅か、って訳だ」

 

SEELEとの決戦が始まるのだ。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

 

 

「──全艦、発進準備」

 

シンジの号令が2隻の戦艦へ静かに響き渡る。

 

『総員、第一種戦闘配置にて発進準備!』

 

『自立誘導ミサイル、推進剤注入開始』

 

両艦のクルー達はその声に弾かれる様に

一斉に決戦への最終準備へと取り掛かった。

 

艦の巨大な主翼の上では、手足を取り外された

JA改宇宙仕様へ大型のプロペラントタンクが装着され

高精度の自立誘導ミサイルへと改造が進められる。

 

『新1号機、エール・ド・アンジュを接続。異常無し』

 

『4号機の増設ブースターはぶっつけ本番で行くわよ!』

 

一方のエヴァ格納庫内では、専用飛行ユニットである

「エール・ド・アンジュ」の完成品が取り付けられ

あとは各パイロットの搭乗を待つのみ。

 

『主機N2リアクター、臨界点を突破。出力安定』

 

『補機パイロットのバイタルにも問題無し』

 

全てのN2リアクターに火が入れられ、艦の各機能が

全力運転を始める。補機のエヴァ・エンジェルズには

既にイスラフェルとサハクィエルが搭乗しており

巨大な主翼を光で包んでいる。

 

 

 

──そして、発進を目前に控えた2隻の艦内に

ZUKUNFT本部長碇シンジの声が再び響く。

 

「これより我々『WILLE(ヴィレ)』は、SEELEの壊滅および

フォースインパクトの不可逆的阻止を目的に

旧南極カルヴァリーベースへ進行中の旧NERV本部

現SEELE本部を強襲、フォースのトリガーとなりうる

エヴァMark.06の奪取ないし無力化を主目的とした

『ハヤタ作戦』を決行する!」

 

その声は、30を過ぎたばかりとは思えないほど

覚悟と威厳、そして強い意志に満ちていて

WILLEのクルー達も自然と身が引き締まる。

 

「人類の知恵と…そして何よりもその"意志"が

いずれ神の力をも克服する事を忘れないで欲しい!

次の時代を作る子供たちに青い星(地球)を託すためにも…

諸君の健闘を期待する!!」

 

クルー全員が身につけている青いバンダナは

それを持つ者が「かつての青かった地球を必ず取り戻し

人間として生きる未来を切り開く」という強い意志を

内に宿している事を表すものであった。

 

最後にシンジはひとつ息を吐き、決戦の火蓋を切る。

 

 

「……全艦、発進!!!」

 

 

 

ついに、2隻のヴンダー級がパリの空を発った。

 

目指すは旧南極へ向かうSEELE本部。

黒き月を伴っていることからSEELE本部の進行は遅く

あちらがオーストラリア大陸を抜けた辺りで

対象を捕捉出来る計算となっている。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「──目標を光学で確認!」

 

"それ"は程なくして見つかった。青葉が報告を上げるが

主モニターを見ている面々であれば誰でも気付けた。

 

水平線の先に、まるで太陽が登るかのように

姿を現した超巨大な構造体はそう、黒き月。

最大望遠でも頂上で浮遊する旧NERV本部が

まるで砂粒のようにしか見えない遠距離でも

黒き月の姿はハッキリと見て取れる。

 

 

「高度を合わせろ!誘導ミサイル発射準備!

突入部隊の出撃準備も進めるんだ!」

 

「誘導ミサイル発射最適地点算出、軌道修正」

 

『エヴァ全機発進準備!』

 

シンジは素早く戦闘準備へと入る。

 

レイが1番艦を、2番艦をアスカが巧みに操り

誘導ミサイルを最も撃ち込みやすいポイントへ向け

ぐんぐん高度を上げていく。

 

1番艦のエヴァはリツコが、2番艦のエヴァはユイが

主導し素早い発進準備が進められる。

第2船体前面へ繋がるカタパルトへと載せられ

安全な射出タイミングを待つ。

 

そんな時だった。

 

 

 

──ビギュオンッッッ!!!

 

 

 

「右舷第2船体に被弾!」

 

凄まじい火力の怪光線がヴンダーを襲ったのだ。

 

ヒデキがコンソールにしがみつきながら報告を上げる。

幸い損害は表層のみで、カタパルトや火器に異常は無い。

 

「3時方向に艦影発見!」

 

立て続けに、今度はミドリが敵影の位置を報告。

 

「NHG1番艦ヴーセ…!」

 

「目的はMark.06再起動までの時間稼ぎか!」

 

ミドリが告げた方角へ目を向けてみれば

海面下から──厳密に言えば位相空間の中から

サードインパクトの時にヴンダーを苦しめてくれた

NHGの1番艦ヴーセが顔を出していた。

 

 

 

2隻と並走するように姿を現したヴーセは

艦首側6門、艦尾側1門の計7門へ増設された主砲を

綺麗に全てこちら側へ向け、一斉に撃ってくる。

 

「あちこちに被弾っ!あっちの火力も圧倒的ですぅ!」

 

一点特化されればATフィールドすらぶち抜かれる

超火力の砲撃が主にヴンダーを襲う。

 

 

「怯むな!右舷砲撃戦用意!SEELE艦を牽制しつつ

目標地点へ急ぐッ!」

 

「A.T.フィールドを右舷側へ集中」

 

『各砲射線が開き次第発砲を開始。撃て!』

 

『あいよゲンドウ君!虎の子AAミサイルだよん♪』

 

だが、シンジ達はこれしきの事では怯まない。

 

艦を更に加速させつつ、対艦戦闘用火器をフル稼働。

ヴンダーがA.T.フィールドを集中展開させて前衛を務め

その背後からホフヌングが全火力をぶっぱなす。

NHG対策として用意させた専用対艦ミサイルは

A.T.フィールドによる防御を貫いてダメージを与え

対空砲が装甲を徐々に赤熱させていく。

 

 

「SEELE艦が離れます!」

 

「よし。父さん、2番艦を後方へ!」

 

『防御機能を最大展開、1番艦の後方へつけろ』

 

『了解!A.T.フィールドを後方へ回すわ!』

 

6発のN2パルス推進器によって更に加速した2隻は

ヴーセを後方へ置き去りにしていく。

 

A.T.フィールドとラミネート層の蓄熱容量を消費した

1番艦を先程まで後衛にいた2番艦が守るようにして

後方へ移動。縦列陣を敷き再び黒き月を目指す。

数の有利が可能にする、単純明快かつ強力な戦法だ。

 

だが──

 

 

 

「艦首12時方向に艦影出現!」

 

「待ち伏せかっ!?」

 

そんな有利は、すぐに崩れ去ってしまう。

 

SEELE本部から出撃したと思しき2隻目のNHGが

突如前方に現れ、挟み撃ちにされてしまったのだ。

 

 

ビギュオンッッッ!!!

ビギュオンッッッ!!!

 

「やばいですッ!これ以上やられると防御機能が!」

 

「くっ…!」

 

『どうする碇、このままでは艦が持たんぞ?』

 

『…今ある手札でなんとかするしかあるまい』

 

前方、「NHG2番艦Erlösung(エアレーズング)」からの砲撃は若干薄いが

それでもWILLE側2隻への被害は拡大していく。

 

A.T.フィールドを貫通した砲撃が何度も直撃し

ラミネート層の蓄熱容量を一気に食い尽くす。

容量オーバーを起こしてしまうと艦体が崩壊するため

いずれ緊急保護機能が作動し機能停止してしまうのだ。

 

 

 

「──シンジ君、やるわよ!」

 

「あぁ!前方の2番艦から排除する!舵そのまま!」

 

シンジはとんでもない奇策を打つことにした。

 

それは、かつての使徒との激戦の中で築かれた

副長加持ミサトとの信頼関係が可能にする

常人であれば考えつきもしない策の即断即決。

 

 

 

「本艦はこれより、360度バレルロールを行うッ!」

 

 

 

全長2kmを超える超巨大戦艦での、バレルロールである。

 

 

「レイ、頼む!」

 

「任せて!」

 

尚も接近してくるエアレーズング。

 

WILLEはこの危機的状況に風穴を空けて脱出するべく

吶喊の準備を始めた。

 

 

「安全確保の通達完了!総員シートベルト着用!」

 

「対空砲起動よし!バレルロール開始と同時に一斉射!」

 

『敵艦の進路確認!最大戦速を維持!』

 

『主砲エネルギーチャージ完了!いつでも撃てます!』

 

重力下でバレルロールを実行するという荒業のために

1番艦の館内ではあらゆるモノの仮止めなどが行われ

シートベルトの着用や安全な場所への避難も始まる。

 

2番艦の方は、1番艦が前方にいる状態ながらも

主砲の陽電子破砕砲をチャージし、射線が通った瞬間に

エアレーズングへぶちかませるよう構える。

 

 

 

「接触まで、10!9!8!──」

 

 

脇目も振らず突っ込んできたヴンダーに

エアレーズングは減速するが、もう遅い。

 

 

「バレルロールッ!!」

 

ヴンダーはその巨体を見事にバレルロールさせ

エアレーズングの背中を対空砲で叩きながら

後方へとすり抜けていく。

 

『陽電子砲、撃て!』

 

ヴンダーが宙を舞い、射線が開いたその瞬間

陽電子のビームが鮮烈な輝きを放ちながら

エアレーズングの前面にぶち込まれる。

 

そして、煙を吐きながら落下するエアレーズングを

まるで足蹴にするように船体下部で踏みつけながら

ホフヌングも後方へと抜けていった。

 

 

 

 

 

『発案は葛城君か…相変わらず無茶をする』

 

海に叩きつけられたエアレーズングを眺めながら

痛快な光景だ、と冬月が笑みを浮かべる。

 

墜落していくエアレーズングに進路を遮られ

ヴーセも大きく迂回させられているので

少しの間はNHGによる襲撃を凌ぐことが出来るだろう。

 

 

 

「さて、いよいよ本部攻略だ」

 

「そうね。気合い入れていくわよ」

 

2隻のNHGを退け、とうとう旧NERV本部が射程内に収まる。

 

SEELE本陣の最奥に仕舞い込まれているであろう

Mark.06の元までは、まだ山のように敵が居るのだろうが

どれだけ敵がいようとも薙ぎ倒すだけだ。

 

「自立誘導ミサイル起動!」

 

「目標座標入力、制御システム起動」

 

両艦の主翼で待機していたJAミサイルの光学センサーに

一斉に光が灯り、その視線を旧NERV本部へと向ける。

必要最低限の冷却水のみを積んだ彼らは

機体のN2リアクターをオーバーロード寸前の状態まで

フル回転させている。

 

「誘導ミサイル発射最適地点まであと10!」

 

彼らは燃料を満載したプロペラントタンクを抱えたまま

目標へ向けて飛行し、セットされた近接信管が

着弾とほぼ同時にリアクターを暴走させ大爆発するのだ。

 

 

「──3、2、1、発射地点到達!」

 

「誘導ミサイル全弾発射!!」

 

CIC担当の日向とマリが誘導ミサイルの発射スイッチを

同時に押し込み、ジェットアローンが飛び立つ。

 

そして───

 

 

 

ドォォォォーンッ!!!

 

 

「目標に命中!」

 

「侵入ルート確保を確認!」

 

吸い込まれる様に旧NERV本部に飛び込んだJAたちは

凄まじい大爆発を引き起こし、本部の堅牢な外壁に

どでかい大穴をぶち開けるのに成功していた。

 

エヴァンゲリオン再建区画へと繋がるであろう

大穴が開いたことを確認したシンジとゲンドウは

速やかに突入部隊へと発進指示を出す──

 

 

 

「『エヴァンゲリオン、発進!!』」

 

 

 

碇レン搭乗のエヴァンゲリオン新1号機と

碇シイ搭乗のエヴァンゲリオン新0号機が

ヴンダーのカタパルトから。

ゼルエル搭乗のエヴァ・エンジェルズ3号機と

ラミエル搭乗のエヴァ・エンジェルズ4号機が

ホフヌングのカタパルトから。

それぞれ飛び立って行った。

 

 

 

──つづく。

 

 

 





いよいよシンのラスト、ヤマト作戦編へ。

作戦名はウルトラマン「ハヤタ隊員」から。
頭文字が「ヤ」でないのは気になりますが…
悪くはないかと。

【新生イスラフェル】
新生前と同様2人に分かれることが可能。
髪色はアッシュグレー、音楽が大好きで
サンダルフォンやカヲルと特に仲がいい。
使徒の中で唯一イスラム系由来ということで
服装などは基本中東系がベース。
サードインパクト時はメッカへ巡礼中で
何とかゴルゴダベースへ逃げ込んだ。


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設定解説:エンジェルズ


エンジェルズのまとめパートでございます。

基本的にはこれで完成形としますが
何かネタが思いついたら随時更新していきます。
漠然としたアイデアから書き上げた所が多いので
かなり解釈違いな部分があるかと思いますが
どうしても気に入らない場合は皆様方の脳内で
再解釈するなり補完するなりして読んで下さい。



 

【エンジェルズ】

新生した使徒たちの総称。

綾波リナとして生まれ変わったアルミサエルと

特殊な存在であるアダム&リリス、タブリスを除いた

全13人の新生した使徒たちのこと。

 

人間をベースとして新生したため基本的な身体能力は

ほとんど人間と変わらず、合体状態のイスラフェルを除き

全員に性別がある。再生能力はかなり高いため

意図的に日焼けしない限り基本的に肌は色白。

全員がATフィールドを発生させる事が可能で

一般的な対人兵器であれば無効化出来る出力はある。

 

 

【サキエル】

一人称:僕

性別:男

身長:168cm

体型:平均的(スレンダー寄り)

髪色:アッシュグレー

飛行能力:無し

長男的立ち位置の、リーダー気質で穏やかな青年であり

カヲルが不在の時のエンジェルズのまとめ役。

手で触れた水分を自由自在に操る事ができ

水蒸気や氷などから液体の水を生成したり

その水を容器を使わず液体のまま持ち運んだり出来る。

葛城農園の設立に携わった経験から土いじりも好きで

ジオフロントで加持親子と共にスイカなどを育てている。

髪色はカヲルと同じ銀色だが、色としては緑系が好き。

エンジェルズの中でも群を抜いて感情表現豊かであり

笑った顔がとても可愛らしいと密かに評判になっている。

 

【シャムシエル】

一人称:ボク

性別:男

身長:165cm

体型:平均的(筋肉質寄り)

髪色:ゴールドブロンド

飛行能力:短時間のみ

完全な昼型。プライベートではアウトドア派で

晴れている日は散歩として外出する事が多い。

ガギエルやバルディエルらと共にかなり陽気な性格。

その性格ゆえレリエルとは反発も多いが仲自体は良い。

天文学、特に太陽に関する研究観察が趣味。

髪色は太陽に近い色との理由でゴールドブロンド

髪型はショートウェーブ。

いつでも太陽を観察できるように、サングラスを改造した

自作の太陽観察グラスを肌身離さず持ち歩いている。

ATフィールド操作の器用さに関しては13人の中でトップ。

 

【ラミエル】

一人称:私

性別:女

身長:170cm

髪色:ネイビーブルー

体型:平均的(グラマー寄り)

飛行能力:有り

非常に整った顔立ちをした長身の女性。

口数が少なく表情を表に出すことも基本的に無いため

理性的かつミステリアスな雰囲気を纏っている。

ただし、かなり不思議ちゃんな側面も持ち合わせており

何かに導かれているかのような行動を起こす事がある。

エンジェルズ随一の射撃の名手で狙いはまず外さないが

あまりにも正確過ぎる為に対人戦では読まれやすい。

自分の射撃の腕に密かに抱いていた絶対的な自信を

シミュレータ、実銃共にレイにへし折られた事があり

レイやマリと射撃対決をする事が小さな趣味になった。

シャルギエル程では無いが規則正しい生活を送っており

神経質な彼にとっては良き話し相手。

 

【ガギエル】

一人称:オレ

性別:男

身長:178cm

体型:筋肉質

髪色:ホワイトブロンド

飛行能力:短時間のみ

海で泳ぐ事と魚を育てる事が大好きな青年で

海洋生物保存プロジェクトの担当者。

仕事でもプライベートでも海へ出向く事が多く

本人も積極的に日焼けしていくため肌はやや黒め。

夏場は特に海へ行く頻度が高く、シャムシエルや

バルディエル、トウジやケンスケなどを誘い

海洋生物の調査と称してバカンスへ出掛けたりする。

髪はホワイトブロンドのベリーショートオールバック。

見た目に違わぬ陽気な性格だが、切れ者でもあり

物事の本質や隠された真実を見抜くのも得意。

やるべき事はキチンとこなすが、それ以外の場面では

割と自由奔放にフラフラと遊び歩く癖があるため

タチの悪い人物として問題児扱いされる事もある。

 

【イスラフェル】

一人称:僕or私

性別:無し

身長:164cm

体型:平均的

髪色:アッシュグレー

メッシュ1:マンダリンオレンジ

メッシュ2:ホワイトシルバー

飛行能力:無し

新生前同様に分裂合体を行う事が出来る。

分裂後はそれぞれ性別が存在するが、合体中は無性。

音楽をこよなく愛し、情操教育で世界を巡った時には

カヲルやサンダルフォンと共にCDや音盤を買い漁った。

楽器の扱いの上手さはエンジェルズ随一であり

様々な楽器を使いこなすが、特に管楽器の扱いに長ける。

基本的にはマイペースかつ掴みどころのない性格なのだが

やたらと涙脆い所があり、音楽好きな事も相まって

頻繁に名曲を聴き漁っては感動の涙を流している。

名前が唯一イスラム教の天使に由来しているからか

私生活に中東系の文化を積極的に取り入れていて

普段着用する制服にもアレンジを加えている。

エンジェルズメンバー以外ではギター好きの青葉や

チェロを扱えるシンジ、ピアノ好きのゲンドウ

日頃から歌を口ずさむマリなどを中心に交流をしている。

【分裂イスラフェル(甲)】

性別:男

髪色:マンダリンオレンジ

性格は分裂前よりやや陽気寄りになる。

分裂前と同様あらゆるジャンルの音楽を好み

もう1人の自分である相方と衝突する事は基本的に無いが

特に好きな音楽のジャンルがポップスであるため

その僅かな音楽性の違いで相方と揉める事が時折起こる。

名前は相方共々単に「イスラフェル」と名乗っているが

あまりにも呼びづらく紛らわしいとの理由で

髪色から取って「ブルトカール」と呼ばれる。

【分裂イスラフェル(乙)】

性別:女

髪色:ホワイトシルバー

性格は分裂前よりも穏やかさが少し増す。

特に好きな音楽ジャンルはクラシック。

こちらも基本的には相方と同じような特徴を持ち

周囲からは「アブヤド」と呼ばれている。

 

【サンダルフォン】

一人称:わたし

性別:女

身長:155cm

体型:平均的(スレンダー寄り)

髪色:アッシュグレー

飛行能力:無し

13人の中で1番小柄。寒がりであり暖かい場所が好き。

兄に当たるカヲルやエンジェルズの兄弟達が大好きで

割と誰かしらにくっついて行動している。

胎児の性別が分かる特殊能力があり、レリエルと共に

ZUKUNFT本部の医務室に産婦人科医として務める。

イスラフェル、カヲルと並ぶ大の音楽好きでもある。

見た目とは裏腹に何事にも動じない打たれ強い精神を持ち

しっかり者でなおかつ兄弟愛に溢れているため

エンジェルズ同士の喧嘩の仲裁に入ることも多い。

それゆえ一部のメンバーは彼女には頭が上がらない。

 

【リウェト】

一人称:ボク

性別:女

身長:162cm

体型:スレンダー

髪色:アッシュグレー

飛行能力:短時間のみ

何よりも開発が大好きな女性。伊達メガネを掛けている。

ひとつの事に集中すると周りが見えなくなる傾向があり

身体の丈夫さを無駄にフル活用して徹夜を続けて

よくサキエルやレリエルに怒られている。

研究開発以外の事にはあまり興味は無いようで

大抵は本部の技術開発部を気ままにブラついている。

髪はポニーテールにしてまとめてはいるが

生活リズムのせいでかなりボサボサ。

体型もスレンダーの域を脱しかけていて

度々ユイやマヤ、レリエルやサンダルフォンに心配され

何度か医務室へ強制連行された経歴がある。

几帳面なシャルギエルとは相性が悪い。

 

【サハクィエル】

一人称:わたし

性別:女

身長:182cm

体型:グラマー

髪色:アプリコットオレンジ

飛行能力:常時浮遊

細かいことを考えるのが苦手でかなり大雑把な性格。

とても親しみやすく、色々な意味で恵まれた体格も持つが

割とアホの子なため立ち位置はマスコット寄り。

シャムシエルに次いでATフィールドの扱いに長け

純粋な出力で言えばゼルエルのものにも迫る。

サハクィエルのATフィールドは飛行能力に特化していて

基本的にはフワフワと浮遊移動しているが

最近「身体が全体的にもっちりとしているのは

飛行能力に甘えているからなのでは?」と言われ

あえて能力を抑制して徒歩で移動する事が増えた。

色方面のセンスが壊滅的で、やたらとド派手な色を好む。

服装にもその壊滅的なセンスは現れており

お気に入りはサイケデリックな虹色のTシャツ。

彼女が思いつくアイデアは奇天烈なものが多いが

意外にも大当たりする傾向にある。

 

【シャルギエル】

一人称:私

性別:男

身長:180cm

体型:スレンダー

髪色:アッシュグレー

飛行能力:無し

何事においても規則正しく活動する青年。

普段からスーツ等のカッチリしたフォーマルな服を好み

本部内ではZUKUNFTの制服を一切のズレ無く着ているため

彼がカジュアルな服を着ている事は滅多に無い。

接触している物質の温度を急速に奪う能力を持ち

種子保存プロジェクトの冷凍保存研究に携わる。

相手のネクタイを締め直す光景が度々見かけられる程に

ルーズな事を嫌う神経質な側面があり、その性格ゆえ

リウェトや加持リョウジとは相性が良くない。

一方でラミエルやレリエル、レイなど特に真面目な面々

潔癖症のマヤなどとは頻繁に交流をしており

中でもラミエルは親しみやすいとして密かに慕っている。

 

【レリエル】

一人称:ワタシ

性別:女

身長:169cm

体型:グラマー

髪色:ダークシルバーアッシュ

飛行能力:有り

完全な夜型。冷静な性格をしているが包容力があり

特にサハクィエルのフォローに入る事が多い。

ただしあまり感情の起伏を表に出す事はしないタイプ。

助産師としての技能に長け、サンダルフォン共々

ZUKUNFT本部で産婦人科医を務めている。

シャムシエルとは反発も多いが仲自体は良い。

新生使徒特有の再生能力と夜型の生活リズムのせいで

シンジと出会う前の綾波レイと同レベルで肌が白い。

レリエル本人のみであれば地球上のあらゆる場所へ

ディラックの海を操る事で瞬間移動する事が出来る。

能力の効果範囲を広げる事で物資や人員の輸送も行えるが

範囲を広げるほど移動に掛かる時間が伸びていき

一定範囲を超えて広げようとするとその使用条件に

「発動場所と移動先がどちらも夜であること」が加わる。

 

【バルディエル】

一人称:俺

性別:男

身長:167cm

体型:平均的(筋肉質寄り)

髪色:ブラック

飛行能力:無し

黒系の色が好きな活発な青年。トウジとはすぐに打ち解け

過去に3号機を乗っ取ろうとした事を気にもとめない

懐の深さに感銘を受け、彼を兄貴と呼び慕う。

電装系と一体化する事で故障や問題を見抜く能力があり

様々な電子機器の修理に頻繁に駆り出される。

また、その能力の都合上高圧電流に強い耐性があり

雷に打たれた程度ではビクともしない。

ケンスケに壊れた電動ガンの修理を頼まれたことで

サバゲーに触れ、ケンスケやトウジら第壱中学校出身勢と

時折サバゲーを楽しむようになった。

新生前の影響か戦闘スタイルは「待ち」のスタイルで

好機が訪れるのをジッと待ち粘り強く戦う。

また、相手を煽てたり取引をしたりして上手く動かし

自分はちゃっかり苦労を逃れる少々ずる賢い側面もある。

髪は黒染めしており、元の色はアッシュグレー。

 

【ゼルエル】

一人称:僕

性別:男

身長:175cm

体型:筋肉質

髪色:アッシュグレー

飛行能力:有り

基本的に争い事を好まない穏やかな性格の青年。

ATフィールドが強力であるがゆえに他者との交流は

あまりせず、会話も基本的に必要な分のみ。

フィールドの出力はエンジェルズ内ではトップであり

戦艦の主砲レベルでなければ破壊不可能な出力を持つ。

また、唯一使徒特有の怪光線を現在も使用でき

対戦車砲と同等の火力を有している。

温厚な性格ではあるが、いざ戦闘となると性格が変わり

必要とあらば同部隊のメンバーとも積極的に連携を取り

敵として現れた相手に対して情け容赦は掛けないなど

軍人然とした思考を元に行動するようになる。

 

【アラエル】

一人称:わたし

性別:女

身長:158cm

体型:スレンダー

髪色:ホワイトシルバー

飛行能力:常時浮遊

心理学、精神医学の研究を趣味とする女性。

新生前と同様に人間が持つ感情などに強い興味を持ち

ZUKUNFT本部の職員たちとも積極的に交流している。

そのため本来の精神年齢以上に大人びた性格をしていて

物事の判断に哲学的思考が混ざる傾向が強い。

それ故ミステリアス度はラミエルと並んでトップクラス。

鳥たちと戯れるのも好きで、ジオフロントにも個人で

多数の鳥小屋を所有し様々な鳥たちを飼育している。

サハクィエル以上の高い飛行能力を有しており

本人も能力の抑制はしていないので常に浮遊している。

 

 

 

○身長ランキング

1位:サハクィエル 182cm

2位:シャルギエル 180cm

3位:ガギエル 178cm

4位:ゼルエル 175cm

5位:ラミエル 170cm

6位:レリエル 169cm

7位:サキエル 168cm

8位:バルディエル 167cm

9位:シャムシエル 165cm

10位:イスラフェル 164cm

11位:リウェト 162cm

12位:アラエル 158cm

13位:サンダルフォン 155cm

 

 

○身長ランキング(男性)

1位:シャルギエル 180cm

2位:ガギエル 178cm

3位:ゼルエル 175cm

4位:サキエル 168cm

5位:バルディエル 167cm

6位:シャムシエル 165cm

7位:イスラフェル 164cm

 

○身長ランキング(女性)

1位:サハクィエル 182cm

2位:ラミエル 170cm

3位:レリエル 169cm

4位:イスラフェル 164cm

5位:リウェト 162cm

6位:アラエル 158cm

7位:サンダルフォン 155cm

 

○バストサイズランキング

1位:サハクィエル H

2位:レリエル F

3位:ラミエル E

4位:アラエル D

5位:リウェト C

6位:イスラフェル B

7位:サンダルフォン B

 

 

 





メンバーの身長や体格、バストサイズについては
使徒時代のサイズ等から連想してはいますが
かな~りアバウトです。

また、髪型については項目内に記述がない場合
しっくりくる髪型が思い付かなかっただけなので
ひとまずは読者様方の想像にお任せします。
ファッションに疎い筆者に13人分+αの髪型を
全部キッチリ考えるのは無理でした…。

本編の方は既に終盤に突入してしまったので
主役パートを後入れする予定は現状ありません。
リメイク版をお待ちください。


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