LOVE TAIL (ナツ・ドラグニル)
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プロローグ
第1話 妖精の尻尾


どうも!!ナツ・ドラグニルです!!


他の作品から来て頂いた方もいると思いますし、初めましての方もいると思います。


今回!!ようやく私が一番好きな作品『FAIRY TAIL』の作品の投稿を始めました。


小説を投稿し始めてから、ずっと何の作品とクロスさせようかと迷っていましたが『ラブライブ』に決めました。


取り敢えず、他のFAIRY TAILを書いている人達と文章が似ないように頑張ります。


長々と説明しましたが、作品をどうぞ


 

――フィオーレ王国

 

 

人口1700万の永世中立国、そこは魔法の世界。

 

 

魔法は普通に売り買いされ、人々の生活に根付いていた。

 

 

そして、その魔法を駆使して生業とする者達がいる。

 

 

人々は彼らを、魔導士と呼んだ。

 

 

魔導士達は様々なギルドに属し、依頼に応じて仕事する。

 

 

そのギルド、国外にも多数。

 

 

そして――

 

 

とある街に、とある魔導士ギルドがある。

 

 

かつて...いや、のちのちに至るまで、数々の伝説を残したギルド。

 

 

その名は...

 

 

 

 

FAIRY TAIL

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

港街、ハルジオン。

 

 

「あ、あの~...お客様方..」

 

 

駅員の1人が、2人の乗客に話しかける。

 

 

「ナツ~着いたよハルジオン。起きて起きて~」

 

 

床に突っ伏している2人の前にいる2匹いる喋る猫の内の1匹、青い猫の『ハッピー』が1人を起こそうとする。

 

 

「ウミちゃんも早く起きるにゃー!」

 

 

そしてもう1人を残りの1匹、茶色い猫の『リン』が起こそうとする。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「あい!いつものことなので」

 

 

心配する駅員に、ハッピーはそう返す。

 

 

「無理!もう2度と列車には乗んねぇ...うぷっ」

 

 

ツンツン頭の桜髪に、鱗のようなマフラーを首に巻いた少年。

 

 

『ナツ』は気持ち悪そうに答える。

 

 

「情けないですよナツ、これぐらい...気合で何とか...うっ」

 

 

蒼い色の髪を腰まで伸ばした少女、『ウミ』は根性で立ち上ろうとするが、更に顔色を悪くさせる。

 

 

「情報が確かなら、この街に火竜(サラマンダー)水竜(リヴァイアサン)がいるはずだよ」

 

「早く行こうよ、ウミちゃん、ナツ君」

 

 

ハッピーとリンが、2人に早く行こうと促すが。

 

 

『ちょ...ちょっと休ませて(ください)...』

 

 

ボォォォォォッ!!!

 

 

2匹が外に出るのと同時に列車の汽笛が鳴り、ドアが閉まり発車してしまう。

 

 

『あっ...』

 

 

ガタンゴトン、ガタンゴトン、と鳴る列車の動く音に混じって、2人の『た~す~け~て~』という助けを求める声が聞こえる。

 

 

『発車しちゃった...』

 

 

2匹は遠く離れていく列車を見ながら、そう呟いた。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「え――っ!!?この街って魔法屋1軒しかないの?」

 

 

ハルジオンに1つだけ存在する魔法道具店、MAZIC STORE 3ZX3に金髪ロングヘア―の少女『ルーシィ』の叫び声が響いた。

 

 

「えぇ...元々、魔法より漁業が盛んな街ですからね」

 

「はぁ...」

 

 

店主の話を聞いていたふんわりボリュームカールされた赤髪の少女、『マキ』はため息を付く。

 

 

「街の者も、魔法を使えるのは1割もいませんので、この店もほぼ旅の魔導士専門店ですわ」

 

「無駄足だったわね」

 

 

マキのその言葉に反応した店主は、カウンターの棚を漁り始める。

 

 

「まぁまぁそう言わずに、見ていってくださいな。新商品だってちゃんと揃ってますよ」

 

 

棚から取り出した1つのマジックアイテムを、ルーシィ達に見せる。

 

 

「女の子に人気なのは、この色替(カラーズ)の魔法かな。その日の気分にあわせて...服の色をチェンジ~ってね」

 

 

店主は色替(カラーズ)を操作し、黄色の服を紫色に変化させる。

 

 

『持ってるし』

 

 

しかし、既に持っていたせいか、ルーシィ達の反応は薄かった。

 

 

「あたしは(ゲート)の鍵の強力なやつ探してるの」

 

(ゲート)かぁ、珍しいねぇ」

 

 

ルーシィが店主と話している間に、店内を物色していたマキは商ケースの中にある銀の鍵を見つけてルーシィに声を掛ける。

 

 

「ねぇ、ルーシィ!これってあんたが探してた奴じゃない?」

 

「え?どれ?」

 

 

ルーシィはマキが指差している代物、銀色の鍵が目に入り声を上げた。

 

 

「あ♡白い子犬(ホワイトドギー)!!」

 

「そんなの全然強力じゃないよ」

 

「いーの、いーの♡探してたんだぁー」

 

 

ルーシィは鍵を手に取り、店主に質問する。

 

 

「いくら?」

 

「2万J(ジュエル)

 

「お・い・く・ら・か・し・ら?」

 

「だから2万J」

 

 

毎度の事なのか、マキは呆れながら成り行きを見守っていた。

 

 

「本当の値段はおいくらっかしら?素敵なおじさま♡」

 

 

ルーシィは胸を強調し、もう一度質問する。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

買い物を終えたルーシィ達だったが、ルーシィだけが不機嫌そうに歩いていた。

 

 

「ちぇ、1000Jしか負けてくれなかったぁ」

 

「負けてくれただけでも、ありがたいと思いなさいよ」

 

 

先程の店主の愚痴を言っていたルーシィを、マキが宥める。

 

 

「それにあんたじゃ、それが妥当でしょ」

 

「何よそれ!!あたしの色気はたった1000Jか――っ!!!」

 

 

マキの台詞に憤慨したルーシィは、近くにあった看板を蹴り倒す。

 

 

「ちょっとルーシィ、気に喰わないからって物に当たらないでよ。私まで変な目で見られるでしょ」

 

 

悪目立ちしたくなかったからか、看板を蹴り倒したルーシィをマキは注意する。

 

 

『キャ―――』

 

 

――その時、遠くで女性が悲鳴を上げた事にルーシィ達は気づいた。

 

 

しかしそれは、恐怖等で出た悲鳴ではなく、喜びで出た黄色い悲鳴だった。

 

 

「? 何かしら」

 

「誰か有名人でもいるのかしら?」

 

 

疑問に思うルーシィ達の横を、目を♡に変えた女性達が走り抜ける。

 

 

「この街に有名な魔導士様が来てるんですってぇ」

 

火竜(サラマンダー)様と水竜(リヴァイアサン)様よぉ!」

 

 

走り抜けていった女性達の話を聞いたルーシィ達は、聞こえてきた名前に目を輝かせた。

 

 

「あ...あの店じゃ買えない、火や水の魔法を操るっていう...あの!」

 

「この街に来ているの!?」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

列車から何とか降りる事が出来たナツ達は、重い足取りで街を歩いていた。

 

 

「ったくよ~、列車には2回も乗っちまうし」

 

「ナツ達、乗り物弱いもんね」

 

「お腹もすきましたね」

 

「私達、お金ないもんね」

 

 

そんなやり取りをしていたナツ達だったが、ナツがハッピーに質問する。

 

 

「なぁハッピー、火竜(サラマンダー)ってのはイグニールで、水竜(リヴァイアサン)ってのはティアマットの事だよなぁ?」

 

「うん、火の竜と水の竜なんて、イグニールとティアマットしか思い当たらないよね」

 

「だよな。やっと見つけた、ちょっと元気になってきたぞ!」

 

「あい!」

 

 

元気を取り戻したナツを見て、ハッピーも元気になる。

 

 

「ウミちゃんの話を聞いてから、ずっとティアマットに会ってみたいと思ってたんだにゃ」

 

 

イグニールとティアマットに会えると喜ぶナツ達をよそに、ウミだけは冷静に物事を考えていた。

 

 

「ですから、こんな街中にイグニールとティアマットがいたら騒ぎになって...」

 

 

話の最中だったが、ナツ達の耳に遠くから叫び声が聞こえる。

 

 

キャー、火竜(サラマンダー)様~、水竜(リヴァイアサン)様~と。

 

 

「ホラ!!噂をしたらなんたらって!!」

 

『あい!』

 

 

1人と2匹が騒ぎの元へ、駆け出していく。

 

 

「それを言うなら影ですよ、って待ちなさい!ナツ!ハッピー!リン!」

 

 

ウミが引き留めようとするが、ナツ達は止まる事は無かった。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

騒ぎになっている広場では、2人の男性を大勢の女性達によって囲まれていた。

 

 

「キャー、素敵ー!」

 

 

その様子を見ていたルーシィは、胸の高まりを抑えられずドキドキしていた。

 

 

――な..な..な..何?このドキドキは!!?ちょ....ちょっと..!!あたしってばどうしちゃったのよっ!!!

 

 

「ん?どうしたのよルーシィ?」

 

 

マキはルーシィの様子が可笑しい事に気付き、訪ねたが本人はそれ所じゃなかった。

 

 

「ははっ、まいったな、これじゃ歩けないよ」

 

「そうだな」

 

 

不意に、2人の男性とルーシィの視線が合わさった。

 

 

――こっち見た――!!

 

 

目が合ったルーシィは胸がキュンとなり、さらに胸の鼓動が激しくなった。

 

 

――はうぅ!!!!有名な魔導士だから?だからこんなにドキドキするの!!?

 

 

ルーシィの目も、他の女性達と同じように目が♡に変わる。

 

 

――これって...もしかして...あたし...

 

 

「まさか...」

 

 

マキが何かに気づき、男達に近づこうとしているルーシィを止めようとする。

 

 

「しっかりしなさい、ルー...」

 

 

「イグニール!!!!」

 

 

マキがルーシィを止めるのと同時に、ナツが大声を上げて男達の前に現れた。

 

 

その時、ルーシィの目の♡が割れ、正気に戻った。

 

 

「大丈夫、ルーシィ?」

 

「え..ええ...私は一体...」

 

 

ルーシィが正気を取り戻した事に安堵したマキは、元凶である2人の男を睨む。

 

 

(くだん)の男達は、大声を出して飛び出したナツと対峙していた。

 

 

「誰だお前ら」

 

 

ナツの言葉に、男達はショックを受ける。

 

 

火竜(サラマンダー)水竜(リヴァイアサン)と言えば、分かるかね?」

 

 

カッコつけて名乗るが、既にナツは重い足取りでその場を離れていた。

 

 

「って、早っ!!」

 

 

既に自分に眼中にないナツを見て、名乗りを上げた火竜(サラマンダー)は又もショックを受ける。

 

 

「ちょっとあんた失礼じゃない!!?」

 

「そうよ!!火竜(サラマンダー)様達はすっごい魔導士なのよ」

 

「謝りなさいよ」

 

 

火竜(サラマンダー)達を囲んでいた女性達が、ナツを2人の前に引きづって連れ戻す。

 

 

「なんだお前ら!」

 

 

自分に対して敵意を剥き出しにしてくる女性達に、ナツは戸惑いの声を上げる。

 

 

「まぁまぁ、その辺にしておきたまえ」

 

「そうだ、彼とて悪気があった訳じゃないんだからな」

 

『あ~ん、優し~!!』

 

 

男達はナツの前まで移動すると、色紙に自分のサインを書いたナツに渡した。

 

 

「僕達のサインだ」

 

「友達に自慢するといい」

 

「いらん」

 

 

ナツの言葉を聞いた女性達は、またしても目の色を変えた。

 

 

女性達にボコボコに伸されたナツは、近くのゴミ捨て場に捨てられた。

 

 

「人違いだったね」

 

「ナツ、大丈夫ですか?災難でしたね」

 

 

そこでようやく、女性達のせいで近づけなかったウミ達がナツに合流する。

 

 

「さて、君達の熱い歓迎に感謝するけど...僕達はこの先の港に用があるのでこれで...」

 

『え~!!もう行っちゃうの!!?』

 

炎の絨毯(レッドカーペット)

 

 

火竜(サラマンダー)が指を鳴らすと、2人の足元に炎で出来た空飛ぶ絨毯が現れる。

 

 

「夜は船でパーティをやるよ、みんな参加してね」

 

 

火竜(サラマンダー)はそう言い残すと、水竜(リヴァイアサン)を連れて港の方に飛んで行った。

 

 

「なんだ、アイツは」

 

「本当、いけ好かないわよね」

 

 

ナツの問いに答えたのは横にいたウミではなく、後ろにいたルーシィだった。

 

 

「私の連れが世話になったわね」

 

「私からもありがとうね」

 

「はぁ?」

 

 

ルーシィとマキがナツに感謝の言葉を告げるが、何故感謝されたのかナツには分からなかった。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

2人はお礼を兼ねて、ナツ達を近くのレストランでご馳走していた。

 

 

「あたしルーシィ、宜しくね」

 

「私はマキよ、宜しく」

 

「私はウミと申します、宜しくお願い致します」

 

 

ルーシィ達が自己紹介しあう中、ナツ達は目の前のご馳走にありついていた。

 

 

「あはは...ナツとハッピー、あとリンだっけ?分かったからゆっくり食べなって」

 

「色々と飛んできてるわよ」

 

 

――てかっ、お色気代1000Jパーだわ、これ...

 

 

胸中で少し後悔していたルーシィに、ウミが質問する。

 

 

「ちなみにですが、あなた達が言っているお礼って言うのは、あの男達が使っていた魅了(チャーム)が関係してるんですか?」

 

「へぇー、あなたは気づいてたのね」

 

 

質問を聞いたマキは、ウミに感心し話を続ける。

 

 

「そうよ、あの火竜(サラマンダー)って男、魅了(チャーム)っていう魔法を使ってたのよ」

 

 

マキはナツ達に、魅了(チャーム)について説明する。

 

 

「その魔法は、人々の心を術者に引きつける魔法なのね。何年か前に発売が禁止されてるんだけど...」

 

「あんな魔法で女の子達の気を引こうだなんてやらしい奴よね」

 

「えぇ、私も同意見です。あんな破廉恥な...」

 

 

ルーシィとマキの火竜(サラマンダー)達に対する悪口に、ウミも同意する。

 

 

「でも、ナツが飛び込んできたお陰でルーシィの魅了(チャーム)が解けたのよ」

 

「だから、ありがとうってこと」

 

「なぶぼご」

 

 

マキの説明で、ナツ達もようやくお礼の意味を理解する。

 

 

「それにしても、マキはよく魅了(チャーム)に掛かりませんでしたね」

 

 

ウミの質問に、なんて事は無いようにマキは答えた。

 

 

「こう見えても一応、私達は魔導士なの。だから私にはあのタイプの魔法は効かないのよ」

 

「ほぼぉ」

 

 

口の中がパンパンになるまで頬張っているせいか、ナツが合間合間に相槌を打つが何を言ってるのか分からなかった。

 

 

「まだギルドに入ってないんだけどね。あっ、ギルドって言うのはね」

 

 

すると今度は、ルーシィがギルドについて説明を始める。

 

 

「魔導士達の集まる組合で、魔導士達に仕事や情報を仲介してくれる所なの。魔導士ってギルドで働かないと一人前って言えないものなのよ」

 

 

先度まで淡々と説明をしていたルーシィが、興奮気味に説明を続ける。

 

 

「でもね!!でもね!!ギルドってのは世界中にいっぱいあって、やっぱ人気あるギルドはそれなりに入るのは厳しいらしいのね」

 

 

凄い勢いで話始めるルーシィを前に、ナツ達は食事する手を止める。

 

 

「あ、あのルーシィ...」

 

 

余りの勢いに、ウミはルーシィを落ち着かせようとする――しかし。

 

 

「あたし達の入りたいトコはね、もうすっごい魔導士がたくさん集まる所で..ああ..どーしよ!!入りたいけど厳しいんだろうなぁ..」

 

「いあ...」

 

 

ルーシィの迫力でナツは食事の手を止め、呆然とする。

 

 

テンションの高いルーシィを、止める事が出来ないと思ったがマキが静止の声を掛ける。

 

 

「落ち着きなさいルーシィ、あんたのテンションに誰もついていけてないわよ」

 

「えっ?あー、ごめんねぇ。魔導士の世界の話なんて分からないわよねー」

 

 

マキに指摘され、ようやくルーシィは自分の失態に気付く。

 

 

「でも、絶対そこのギルドに入るんだぁ」

 

「そうね、あそこなら大きい仕事もらえそうだからね」

 

 

ルーシィの言葉に、マキも同意する。

 

 

「ほぉか...」

 

「入れるといいですね、そのギルドに」

 

 

ナツは引き気味に返事をし、ウミは2人の事を応援する。

 

 

「あっ!」

 

 

そこで何かを思い出したのか、ルーシィが声を上げた。

 

 

「そういえば、あんた達は誰かを探してたみたいだけど...」

 

「確かに...、あの男と誰かを間違えてたみたいだったわね...」

 

 

ルーシィの質問を聞いたマキは、ナツが乱入してきた時の事を思い出した。

 

 

「あい、イグニール」

 

「それとティアマットだにゃ」

 

 

ルーシィの質問に、ハッピーとリンが答える。

 

 

火竜(サラマンダー)水竜(リヴァイアサン)がこの街に来るって聞いたから来てみたはいいけど、別人だったな」

 

火竜(サラマンダー)水竜(リヴァイアサン)って見た目じゃなかったんだね」

 

「火の竜と水の竜って言うから、てっきりイグニールとティアマットかと思ってたのにね」

 

 

3人の話を聞いていたルーシィとマキは、呆れるしかなかった。

 

 

「見た目が火竜(サラマンダー)水竜(リヴァイアサン)...ってどうなのよ...人間として...」

 

「意味わかんない...」

 

 

呆れていた2人だったが、ナツの口から告げられる思いもよらない言葉によって表情が一変する。

 

 

「ん?人間じゃねぇよ。イグニールとティアマットは本物の(ドラゴン)だ」

 

『は?』

 

「あい、本物のドラゴンだよ」

 

『.................!!!!』

 

 

後ろに仰け反り、目を見開く程に驚愕するルーシィとマキ。

 

 

この魔法の世界でもドラゴンは滅多に目撃されない、とても珍しい生き物なのだ。

 

 

『そんなの街の中にいるハズないでしょー!!!』

 

 

ルーシィ達の突っ込みで、ハッ!とナツ達も目を見開く。

 

 

「オイイ!!!今気づいたって顔すんなー!!!」

 

 

その様子に我慢が出来なかったのか、ルーシィの突っ込みがまたも炸裂する。

 

 

「だから私が、何度も説明したではありませんか...」

 

 

ウミが頭を抑えながら、そう呟いた。

 

 

「あんたも苦労してるのね」

 

 

頭を抱えるウミに、マキは同情する。

 

 

「さて、あたし達はそろそろ行くけど...ゆっくり食べなよね」

 

 

ルーシィは机の上にお金を置いて、マキと一緒に入り口に向かった。

 

 

「ありがとうございましたー!ああ゛!」

 

 

店員が挨拶した後、急に口をあんぐりと開け変な声を上げる。

 

 

「何よいきなり...ヴェエ!!」

 

 

不審に思ったマキは、店員が見ている先に視線を向けると独特な声を上げる。

 

 

「ん?」

 

 

不思議に思ったルーシィも、店員とマキが見ている方に視線を向ける。

 

 

「ああ゛」

 

 

視線を向けたルーシィも、店員やマキ同様に声を上げた。

 

 

 

 

 

――なぜなら

 

 

 

 

「ご馳走様でしたっ!!!!」

 

『でしたっ!!!!』

 

 

ナツ達が額を床に着け、土下座の姿勢で感謝を告げていたからだ。

 

 

「きゃー、やめてぇっ!!!」

 

「そうよっ!!!恥ずかしいからやめなさい!!!」

 

 

土下座するナツ達を見て、店内はざわついていた。

 

 

「い..いいのよ..あたし達も助けてもらったし..おあいこでしょ?ね?」

 

「そ..そうよ...だから頭上げなさいよ」

 

 

これ以上騒ぎにならない様に、ルーシィとマキは頭を上げさせようとする。

 

 

「あまり助けたつもりがないトコがなんとも...」

 

「はい...歯がゆいです」

 

 

助けた自覚が無いせいで、ナツ達は頭を上げられなかった。

 

 

「そうだ!!」

 

 

ナツはポンと手を叩き、何かを思いついた。

 

 

「これやるよ」

 

『いらんわっ!!!!』

 

 

ナツは火竜(サラマンダー)水竜(リヴァイアサン)のサインを、ルーシィとマキに渡すがはたき落とされた。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

店を出たマキは、一度ルーシィと別れて誰もこないであろう裏路地に移動していた。

 

 

『それじゃあ今、ハルジオンの街にいるのね?』

 

「そうよママ。今はいないけど、ルーシィも一緒よ」

 

 

遠く離れた者と会話する為の魔力の結晶、《通信用魔水晶(ラクリマ)》を使ってマキは母親と連絡していた。

 

 

『2人共、妖精の尻尾(フェアリーテイル)にどうしても入りたいのね?』

 

「うん、やっぱり私達の憧れだからね」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は、先程ナツ達との会話で出てきたルーシィが入りたいと言っていたギルドだ。

 

 

『そう...余り無茶しないようにね。お父さんと一緒に応援してるわよ』

 

「うん、ありがとうママ」

 

 

自分を応援してくれる両親に、マキは感謝の言葉を告げる。

 

 

その時、マキは自分に向けられている嫌な視線に気づいた。

 

 

『マキ?どうかしたの?』

 

「ううん、なんでもない。そろそろ切るわね」

 

『えぇ、体に気を付けなさいね』

 

「分かってる、じゃあねママ」

 

 

マキは通信を切ると、携帯用の通信ラクリマをしまい視線の主に話しかける。

 

 

「いるのは分かってるわ、出て来なさい」

 

 

マキが声を掛けると、物陰から水竜(リヴァイアサン)が現れた。

 

 

「ほう、よく気付いたな」

 

「私はこれでも魔導士なのよ。気づくに決まってんでしょ!だからチャームなんか私に効かないわよ」

 

「やっぱり魔導士だったか、目が合った時に魔導士だと気付いていたんだ。良いさ、パーティに来てくれればな」

 

 

水竜(リヴァイアサン)からパーティの誘いを受けたマキは、不機嫌さをあからさまに見せた。

 

 

「行く訳ないでしょ!アンタ達みたいなえげつない男のパーティなんて」

 

 

えげつないという言葉に、水竜(リヴァイアサン)は傷ついた。

 

 

「えげつない?俺達が?」

 

魅了(チャーム)よ、そこまでして騒がれたい訳?」

 

「あんなの只のセレモニーだろ、俺達はパーティの間はセレブな気分でいたいだけだからな」

 

「意味わかんない...」

 

 

踵を返し、その場から離れようとするマキ。

 

 

「お前...妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入りたいんだろ」

 

 

しかし、水竜(リヴァイアサン)から告げられた妖精の尻尾(フェアリーテイル)という言葉に、マキは足を止める。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の双竜って...聞いた事ないか?」

 

「ある!!!」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は、フィオーレ最強と呼ばれているギルドである。

 

 

その妖精の尻尾(フェアリーテイル)の中でも、最強のチームとして有名なのが双竜なのだ。

 

 

「実は、俺がその片割れの1人なんだよ」

 

「あんた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だったの!!?」

 

「そうだ、入りたいならマスターに話を通してやる」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入りたいと思っていたマキにとって、その話は渡りに船だった。

 

 

「その代わり、パーティに出て欲しいんだ」

 

「パーティに出れば妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入れてくれるの!!?」

 

「もちろんだ、その代わり魅了(チャーム)の事は黙っといてくれ」

 

「わ、分かったわ...」

 

「それじゃ、パーティで会おう」

 

 

そう言うと、水竜(リヴァイアサン)はその場から去って行った。

 

 

水竜(リヴァイアサン)がいなくなった後も、マキは放心し動けなくなっていた。

 

 

「はっ!!!余りの出来事に意識飛んでたわ!!!」

 

 

しばらくしてようやく、マキは放心状態から回復した。

 

 

「こんな事してる場合じゃなかった、早くルーシィに合流しないと」

 

 

裏路地から出たマキは、ルーシィが待っている広場に向かった。

 

 

ベンチの前で、立っているルーシィの後ろ姿を見つけたマキは急いで駆け寄った。

 

 

「ルーシィ!!」

 

「あっ!!マキ!!」

 

 

マキの声に反応し、ルーシィは振り返る。

 

 

「あのね...ルーシィ...」

 

「ねぇ!!この後なんだけどさ、この街出るまで別行動しない!?」

 

「え...えぇ、良いわよ」

 

 

水竜(リヴァイアサン)の事を報告しようとしたマキだったが、突然のルーシィの質問に思わず返事をしてしまった。

 

 

「本当!?実はどうしても外せない急用が出来たんだ!!じゃあ、また後でね!!!」

 

 

そう言うと、ルーシィは何処かに走り去ってしまった。

 

 

「何よ...意味わかんない...」

 

 

ルーシィの勢いに押された形になったが、今のマキにとって別行動は好都合である。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入れるって知ったら、ルーシィ驚くかしら」

 

 

大声を上げて驚くか、驚きすぎて言葉を失うか、もしくは喜びすぎてはしゃぎだすか。

 

 

マキは色々と想像し、可笑しそうに笑う。

 

 

「さてと、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入れるまで、あのバカ男に愛想よくしておかないとね」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

時刻は夜。

 

 

食事を終えたナツ達は、街を一望できる場所で夜風に当たっていた。

 

 

「ぷはぁー!食った食った!!」

 

「あい」

 

「ルーシィのお陰で、沢山食べれましたね」

 

 

お腹をさすり、ナツは満足そうに言う。

 

 

その時、沖の方に一隻の船が漂っているのをリンが見つける。

 

 

「そういえば、火竜(サラマンダー)達が船上パーティやるって言ってたのあの船かなぁ」

 

「うぷ...気持ちワリィ...」

 

 

船を視野に入れたナツは、実際に乗っていないにも関わらず乗り物酔いを起こした。

 

 

「想像しただけで、酔うのはやめてくださいよ」

 

 

流石のウミも、想像で乗り物酔いになる事はないようだった。

 

 

「見て見て~!!あれが火竜(サラマンダー)様達の船よ」

 

「あ~ん、私もパーティ行きたかったなぁ」

 

 

火竜(サラマンダー)達について話していたナツ達の耳に、近くにいた女性達の話し声が聞こえる。

 

 

火竜(サラマンダー)?」

 

「知らないの?今、この街に来てるすごい魔導士なのよ。あの有名な妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士なんだって」

 

『!!!』

 

 

女性達から聞こえた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の単語に、ナツ達は驚きで目を見開いた。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)?」

 

 

ナツはもう一度、船に視線を向ける。

 

 

「うぷ」

 

 

そして、また気持ち悪くなる。

 

 

「......妖精の尻尾(フェアリーテイル)...」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

火竜(サラマンダー)達が開いた、船上パーティ。

 

 

「マキか...いい名前だな」

 

「どうも」

 

 

その船の一室で、水竜(リヴァイアサン)がマキを持て成していた。

 

 

「他の女の子達を放っておいて良いの?」

 

「別に構わないさ、そっちはあいつに任せてるからな」

 

 

そう言うと、水竜(リヴァイアサン)は一本のワインを取り出す。

 

 

「ひとまずは、俺達の出会いに乾杯といこうか」

 

 

水竜(リヴァイアサン)の言い回しは、マキにとって生理的に受け付けなかった。

 

 

普段のマキなら強気な口調で否定するが、今回はやんわりと断った。

 

 

「悪いけど、私ワインは余り好きじゃないの」

 

「おっと...それは残念。悪いが今はこれしか無いんだが...そうか...」

 

 

マキに断られた事で、水竜(リヴァイアサン)はワインしかない事に考え込む。

 

 

「しょうがない娘だなぁ、素直に飲んでいれば痛い目みずに済んだのに...」

 

「え?」

 

 

水竜(リヴァイアサン)の言葉の意味を理解できなかったマキだったが、突然後ろから何者かに両腕を抑えられる。

 

 

「お――さすが水竜(リヴァイアサン)さんだ」

 

「こりゃ久々の上玉だなぁ」

 

 

マキの後ろにあったカーテンが開き、屈強な男達がぞろぞろと出てきた。

 

 

その内の2人が、マキの両腕を抑えている。

 

 

「な、何なのアンタ達!!?」

 

 

いきなり現れた男達に、マキは動揺を見せる。

 

 

男達を良く見ると、何人かは眠っている女性達を抱えていた。

 

 

「連れていくぞ」

 

 

何の説明をする事なく、水竜(リヴァイアサン)は男達に命令し別の部屋に連れていく。

 

 

「ちょっと!!!離しなさいよ!!!」

 

 

暴れて男達から逃げようとするが、マキの力ではびくともしなかった。

 

 

「何処に連れて行く気よ!!」

 

「直ぐに分かるさ、さぁ着いたぞ」

 

 

水竜(リヴァイアサン)は何人かの男達を連れ、目の前のドアを開け中に入って行く。

 

 

最後にマキも、男に引きづられるように中に入って行く。

 

 

「ここに一体何が...」

 

「な、何なのよコレ!!!アンタ達何!!?」

 

 

何かあるのか警戒するマキの耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

「え...」

 

 

男達に連れられ中に入ったマキの目に入ったのは、自分と同じように男達に拘束されたルーシィの姿だった。

 

 

「ルーシィ!!?」

 

 

別行動した筈のルーシィが、自分と同じようにパーティに参加してる事にマキは驚く。

 

 

「マキ!!?何でここに!!?」

 

 

それはルーシィも同じようで、目を見開いて驚いている。

 

 

最初からこの部屋にいたのか、ルーシィの他に火竜(サラマンダー)の姿もあった。

 

 

「ちょっと!!!どういう事か説明しなさいよ!!!」

 

 

マキが怒鳴り声を上げて、火竜(サラマンダー)達に問い詰める。

 

 

火竜(サラマンダー)達は、ニヤッと不敵な笑みを上げる。

 

 

「ようこそ我が奴隷船へ、他国(ボスコ)に着くまでおとなしくしてもらうよ、お嬢さん方」

 

「ボスコ...って、ちょっと...!!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)は!!?」

 

「言ったろ?奴隷船だと。初めから商品にするつもりで、こいつにお前達を連れ込んだんだからな。あきらめろ」

 

『.........!!!』

 

 

水竜(リヴァイアサン)の言葉に、ルーシィ達は言葉を失う。

 

 

火竜(サラマンダー)さん達も考えたよな。魅了(チャーム)にかかってる女どもは、自らケツ振って商品になる」

 

「この嬢ちゃん達は魅了(チャーム)が効かねぇ、少し調教が必要だなぁ」

 

「へっへっへっへ」

 

 

この後自分達の身に起こる事を想像し、ルーシィ達は恐怖する。

 

 

「や...やだ...嘘でしょ...」

 

「何なのよコイツ等..こんな事をする奴らが...」

 

 

恐怖するルーシィ達の反応を楽しむように、火竜(サラマンダー)がルーシィの太腿を撫でる。

 

 

「ひぅっ!!」

 

 

太腿を撫でられた事によって、ルーシィは小さい悲鳴を上げる。

 

 

太腿を撫でていた火竜(サラマンダー)は、手を腰の辺りまでススッと手を這わせる。

 

 

「ん?」

 

 

腰まで手を這わせていた火竜(サラマンダー)は、自分の手に硬い物が当たってチャラッと音が鳴った。

 

 

「ふーん、(ゲート)の鍵......星霊魔導士か」

 

 

火竜(サラマンダー)の手に、ルーシィの(ゲート)の鍵が握られている。

 

 

「星霊?なんですかいそりゃ、あっしら魔法の事はさっぱりで」

 

「いや、気にする事はない。この魔法は契約者以外は使えん、つまり俺達には必要ないって事さ」

 

 

水竜(リヴァイアサン)はそう言うと、火竜(サラマンダー)から鍵を受け取って窓から鍵を外に投げ捨てた。

 

 

「そっちの赤髪の女も魔導士だ、ちゃんと抑えとけよ」

 

 

両手を抑えられている事で、何もできない悔しさでルーシィ達は身体を震わせた。

 

 

「何なのよコイツ等...」

 

「こんな事をする奴らが...これが...これが...」

 

『これが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士か!!!』

 

 

憧れていただけに、目の前の男達が妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士である事を、ルーシィ達は信じられ無かった。

 

 

悔しさと恐怖で体を震わせ、2人は涙が止まらなかった。

 

 

「まずは、奴隷の焼印を押させてもらうよ。ちょっと熱いけど我慢してね」

 

 

高温に熱した焼印を持った火竜(サラマンダー)が、ルーシィ達に近づく。

 

 

「魔法を悪用して...人を騙して...奴隷商ですって......最低の魔導士じゃない...」

 

 

悔し涙を流しながら、ルーシィがそう呟いたその時。

 

 

バキッ、バキッ。

 

 

天井に2つ穴が開き、何かがルーシィ達の前に落ちてきた。

 

 

ズシィン!と音を立てて着地したのは、ナツとウミだった。

 

 

「ひ..昼間のガキ!!」

 

「ナツ!!?」

 

「ウミ!!?」

 

 

その時、波の影響で船が揺れる。

 

 

「おぷ..駄目だやっぱ無理」

 

「情けないですよ..ナツ..うぷ..」

 

 

格好良く登場したにも関わらず、2人は船の揺れで早々に船酔いを起こす。

 

 

「え―――っ!!?かっこわる―――!!!」

 

 

余りの出来事に、ルーシィは突っ込みを入れる。

 

 

「な..何だこりゃ一体...!!?」

 

「何で空からガキ共が降って来るんだ!!?」

 

「しかも酔ってるし」

 

 

火竜(サラマンダー)水竜(リヴァイアサン)は空からナツ達が現れた事に驚くが、他の男達は酔ってる事に驚いている。

 

 

「ルーシィ、何してるの?」

 

「マキちゃんも、こんな所でどうしたの?」

 

「ハッピー!!?」

 

「リンも!!?」

 

 

ナツ達が開けた穴から、顔を覗かせる羽根を生やしたハッピー達の姿にルーシィ達は驚く。

 

 

「騙されたのよ!!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入れてくれるって..それで...あたし...」

 

 

ピクっと、ナツとウミが反応する。

 

 

「てか..アンタ達羽根なんてあったけ?」

 

 

マキはハッピー達に羽根について質問するが、ハッピー達は質問に答えるより先にルーシィ達を逃がす事を優先する。

 

 

「細かい話は後回しっぽいね」

 

「行くっにゃ――!!」

 

 

ハッピーはルーシィを、リンはマキを尻尾で捕まえると、そのまま入ってきた穴から外に飛び出した。

 

 

「逃がすかぁっ!!!!」

 

 

ハッピー達に向け、火竜(サラマンダー)が炎を放つ。

 

 

「おっと!」

 

「よっと!」

 

 

それを難なく、ハッピー達は避ける。

 

 

「ちっ、あの女達を逃がすなっ!!!評議員共に通報されたらやっかいだ!!!」

 

「はいっ!!!」

 

 

水竜(リヴァイアサン)の指示を受けた男達は、銃を手に持ってハッピー達に狙いを定めた。

 

 

ドン、ドンドン、ドドン。

 

 

「わっ!銃だ!!」

 

『きゃあああっ!!!』

 

 

ハッピー達は飛びながら、飛んで来る銃弾を避ける。

 

 

「ルーシィ、聞いて」

 

「マキちゃんも聞いて欲しいんだけど...」

 

『何よこんな時に!!』

 

 

こんな大変な時に話とは何だと、ハッピー達に顔を向けたルーシィ達の目に飛び込んできたのは...

 

 

『変身解けた』

 

 

羽根が消えた、ハッピー達の姿だった。

 

 

『くそネコ―――!!!』

 

 

羽根が消えたハッピー達は、重力に従ってそのまま海に落ちた。

 

 

ザパァァァァァン!!!

 

 

海に落ちたマキはハッピーとリンを回収し、海面に顔を出した。

 

 

そんな中、ルーシィだけは海中を泳いで移動していた。

 

 

――あんなのが妖精の尻尾(フェアリーテイル)だったなんて..いや..それより女の子達を助けないと

 

 

移動するルーシィは、何かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡す。

 

 

その時、視界の端に何かが光ったのをルーシィは見逃さなかった。

 

 

――あった!!!浅いトコで引っ掛かってくれた♡

 

 

ルーシィが探していたのは、先程捨てられた(ゲート)の鍵だった。

 

 

「ぷはっ!!!」

 

 

ルーシィは海上に顔を出すと、鍵を構える。

 

 

「見つかった!?」

 

「もちろん!!さぁ、行くわよ!」

 

 

ルーシィは、鍵を海に突き刺す。

 

 

「開け!!宝瓶宮の扉!!!アクエリアス!!!」

 

 

渦巻が発生し、中から水瓶を持った人魚が現れる。

 

 

『すげぇ―――!!!』

 

 

突如現れた星霊に、ハッピー達は興奮する。

 

 

「あたしは星霊魔導士よ、(ゲート)の鍵を使って異界の星霊達を呼べるの」

 

 

ルーシィは船を指差し、アクエリアスに指示する。

 

 

「さぁ、アクエリアス!あなたの力で船を港まで押し戻して!!」

 

「ちっ」

 

「今『ちっ』って言ったかしらアンタ―!!!ねぇ!?」

 

「今そんなとこに喰いついてる場合じゃないでしょ!!!」

 

 

アクエリアスの舌打ちに反応するルーシィに、マキがさらに突っ込みを入れる。

 

 

「うるさい小娘だ。1つ言っておく、今度鍵落したら...殺す」

 

『ご..ごめんなさい...』

 

 

余りの迫力に、ルーシィだけでなくハッピーやリンも謝罪する。

 

 

「オラァッ!!!」

 

 

アクエリアスが起こした大津波で、船を港まで押し戻す。

 

 

その際、ルーシィ達も一緒に巻き込まれてしまう。

 

 

「あたしまで一緒に流さないでよォォォォ!!!」

 

 

ドゴォンと凄い音を立てながら、船は岸に乗り上げた。

 

 

「あんた何考えてんのよ!!!普通あたしまで流す!!?」

 

「不覚....ついでに船まで流してしまった」

 

「あたしを狙ったのかー!!!」

 

「しばらく呼ぶな、一週間彼氏と旅行に行く、彼氏とな」

 

「2回言うなっ」

 

 

アクエリアスは消えたが、最後までルーシィの突っ込みが止まらなかった。

 

 

「なーんて勝手な奴なのかしら!!!ムキ―」

 

「あまり関係良好じゃないんだね」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「くそっー体何が...」

 

 

頭を抑え、辺りを見渡す火竜(サラマンダー)の前にナツとウミが立っていた。

 

 

「ナツ――!!!ウミ――!!!だいじょ...」

 

 

扉を開け、中に入ってきたルーシィ達だったが、ナツとウミの迫力に言葉を失う。

 

 

「小僧共...人の船に勝手に乗ってきちゃイカンだろぉ。あ?」

 

「オイ!さっさとつまみ出せ」

 

「はっ!!」

 

 

ナツ達が狙われた事で、ルーシィ達が動こうとする。

 

 

「いけない!!!ここはあたしが」

 

「援護するわ!!」

 

 

ルーシィは精霊魔法を、マキも自分の魔法を使い戦おうとする。

 

 

「大丈夫」

 

 

しかしそれを、ハッピーが止める。

 

 

「言いそびれたけど、ナツも魔導士だから」

 

「もちろん、ウミちゃんもね」

 

「え――――っ!!?」

 

「嘘でしょ!!?」

 

 

ナツとウミの2人が魔導士と聞いて、ルーシィ達は驚愕する声を上げた。

 

 

「おまえが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士か」

 

 

ナツは着ていた上着を脱ぎながら、火竜(サラマンダー)に質問する。

 

 

その横で、ウミも同じように上着を脱いだ。

 

 

「それがどうした!?」

 

「よぉくツラ見せろ」

 

 

そんな会話をしてる間も、ナツ達に男達が迫る。

 

 

「俺は妖精の尻尾(フェアリーテイル)のナツだ!!!おめぇなんか見た事がねぇ!!!!」

 

「同じく、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のウミです!!!」

 

 

ナツはぶん殴る事で、ウミは蹴りを入れる事で男を倒す。

 

 

「な!!!!」

 

「え?」

 

「は?」

 

 

ナツ達が妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だと知ったルーシィ達は、驚愕で目を見開いた。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!!?ナツ達が妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士!!?」

 

 

その時、ナツの肩に赤色の、ウミの肩に青色の妖精をモデルにした紋章が入っている事に、その場の全員が気づいた。

 

 

「な...!!!あの紋章!!!本物だぜボラさん!!!」

 

「バ..バカ!!!その名で呼ぶな!!!」

 

 

ボラと言う名前に、リンは聞き覚えがあった。

 

 

「ボラ...紅天(プロミネンス)のボラ。数年前『巨人の鼻(タイタンノーズ)』っていう魔導士ギルドから追放された奴だにゃ」

 

「聞いた事があるわ...魔法で盗みを繰り返して通報されたって」

 

 

リンの話を聞いたマキも、ボラについて思い出した。

 

 

「おめぇが悪党だろうが、善人だろうが知った事じゃねぇが妖精の尻尾(フェアリーテイル)を騙るのは許さねぇ」

 

「えぇ、私達を馬鹿にするのは許せませんね」

 

「ええいっ!!!ゴチャゴチャうるせぇガキだ!!!!」

 

「これでも食らいやがれ!」

 

 

ナツは火竜(サラマンダー)が放った炎に包まれ、ウミは水竜(リヴァイアサン)が放つ渦潮に襲われる。

 

 

「ナツ!!!」

 

「ウミ!!!」

 

 

2人の元に行こうとするルーシィ達だったが、それをハッピーとリンが止める。

 

 

「まずい...」

 

 

炎の中から、ナツの声が聞こえる。

 

 

「何だコレ、お前本当に炎の魔導士か?こんなまずい炎は初めてだ」

 

「下衆が放つ魔法です、美味しい筈がありませんよ、ナツ」

 

 

そう言いながら、ナツは炎を食べ、ウミは水を飲み込む。

 

 

『なぁ!!!?』

 

 

その場にいる全員が、凄い勢いで水を飲み込むウミと、炎を食べるナツに驚いた。

 

 

『ふ――、ご馳走様でした』

 

「な..な..何だコイツ等は―――っ!!!?」

 

「火....!!?」

 

「火と水を食っただと!!?」

 

 

化け物を見る目で、男達はナツ達を見る。

 

 

「ナツには火は効かないよ」

 

「ウミちゃんにも、水は効かないしね」

 

「こんな魔法見た事ない!!!」

 

 

ルーシィは2人の使う魔法に、驚きを隠せなかった。

 

 

「食ったら、力が湧いてきた!!!」

 

「行きますよ!!ナツ!!」

 

「おう!!」

 

 

ナツとウミは、空気を吸い込み口の中に魔力をため込む。

 

 

「火竜の!!」

 

「水竜の!!」

 

 

 

『咆哮!!!』

 

 

 

2人の口から放たれた炎と水のブレスが、ボラ達を襲う。

 

 

ドガァァァァァン!!!

 

 

爆発に包まれ、殆どの者達が黒焦げやびしょぬれになっていた。

 

 

「ボ...ボラさん!オレぁコイツラ見た事あるぞ!!!桜色の髪に鱗みたいなマフラー...。そして..腰まで伸ばした水色の髪...間違いねぇ!!!コイツラが...本物の..双竜...」

 

 

生き残った男の1人がナツ達の正体に気づき、涙ながら話すが時すでに遅かった。

 

 

火竜(サラマンダー)水竜(リヴァイアサン)..」

 

 

ルーシィはナツ達が妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士という事だけでも驚いていたが、さらにその2人が最強チームの双竜であった事に、再度驚愕する。

 

 

「よーく覚えとけよ、これが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の....魔導士だ!!!!」

 

「ヒッ!レッドシャワー!!」

 

 

恐怖したボラは、炎の散弾をナツに放った。

 

 

「ウオーッ!」

 

 

ナツは足に力を込め、ボラの元まで跳躍し炎を纏った拳で力いっぱい殴った。

 

 

「火と水を食べたり、火で殴ったり...本当にこれ...魔法なの!!?」

 

「竜の肺は焔を吹き、竜の鱗は焔を溶かし、竜の爪は焔を纏う。これは自らの体を竜の体質へと変換させる太古の魔法(エンシェントスペル)

 

「なにそれ!!?」

 

 

ハッピーの説明に、ルーシィはさらに驚愕する。

 

 

「元々は竜迎撃用の魔法だからね」

 

「......あらま」

 

滅竜魔法(ドラゴンスレイヤー)!!!イグニールがナツに、ティアマットがウミに教えたんだ」

 

「竜が竜退治の魔法教えるってのも、変な話ね」

 

 

そう呟いたマキに、ぐわばっと目を見開いたハッピー達は指を突きつけた。

 

 

「疑問に思ってなかったのね」

 

 

ナツとボラが戦っている最中、同じように生き残った水竜(リヴァイアサン)の偽物が気づかれない様に逃走を企てていた。

 

 

「本物が相手なんて冗談じゃね、早くここから逃げねぇと...」

 

「何処に逃げるつもりですか」

 

 

水竜(リヴァイアサン)の偽物の前に、ウミが立ちはだかる。

 

 

「私達の名前だけでなく、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名も汚しておいて、簡単に逃げられると思ったら大間違いですよ」

 

 

水竜(リヴァイアサン)の偽物は、ウミから放たれる殺気に腰を抜かす。

 

 

「ま、待ってくれ!ほんの出来心だったんだ!だから見逃してくれ!」

 

「見逃すわけがないでしょう、あなたには本物の水竜(リヴァイアサン)の力を見せてあげましょう」

 

 

ウミはそう言うと、手のひらを天に翳し詠唱を始める。

 

 

「この場にある全ての眷属達よ、ウミ・ソノダの名の元に命ず!」

 

 

ウミを中心に、水が集まっていく。

 

 

「我が求め、我が願いに応え、その力を世界に示せ!」

 

 

ウミ達の頭上に、巨大な水色の魔法陣が展開される。

 

 

「セイクリッド・クリエイト・ウォーター!!!」

 

 

頭上から滝が降ってきたような量の水が、水竜(リヴァイアサン)の偽物を襲う。

 

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

頭上から放出された大量の水は、水竜(リヴァイアサン)の偽物を呑み込んだ後、幾つもの民家をも呑み込んだ。

 

 

「何よあの魔法...」

 

 

ハッピー達が抱えて飛ぶ事によって、ウミの魔法に巻き込まれるのを免れたルーシィ達は、その威力と規模に驚愕する。

 

 

「あれがティアマットがウミちゃんに教えた滅竜魔法の1つにゃ」

 

「すごい...」

 

 

そして、ウミが決着をつけた頃、ナツも決着を着けようとしていた。

 

 

「ちくしょう!」

 

 

ボラは、巨大な火の玉をナツに向かって放つ。

 

 

それをナツは正面から受け止め、炎を吸収する。

 

 

「これならそこそこ食えるな、おいてめぇブスブスの燻製にしてやるぜ」

 

「燻製イヤん!」

 

「ぶっ飛べ!」

 

 

ナツは両手を胸の前で拳を打ち合わせると、赤い魔法陣を展開させる。

 

 

「火竜の鉄拳!」

 

「ウワッ!」

 

 

炎を纏った拳で殴られたボラは、何軒かの民家を巻き添えにして吹っ飛んだ。

 

 

「ナツ、燻製は炎じゃなくて煙で出来るんだよ」

 

 

ハッピーの突っ込みに誰もは反応せず、地面に降りたルーシィ達は辺りを見渡していた。

 

 

「すごい...すごい...けど、やりすぎよォォォッ!!!!」

 

 

ナツ達が暴れすぎたせいで、幾つもの民家が崩壊しあちこちで煙が上がっていた。

 

 

「み..港が滅茶苦茶――!!!」

 

『あい』

 

『あいじゃないっ!!!』

 

 

ルーシィとマキが、ハッピー達に突っ込みを入れる。

 

 

「こ...この騒ぎは何事かね――っ!!!」

 

「軍隊!!!」

 

 

騒ぎを聞きつけた軍隊が、ルーシィ達の前に現れた。

 

 

「やべ!!!逃げんぞ」

 

「戦略的撤退です!!!」

 

 

ナツがルーシィを、ウミがマキの手を握ってその場から離れる。

 

 

「何であたし達まで――!!!?」

 

「ちょっと!!何巻き込んでるのよ!!」

 

「だって!妖精の尻尾(俺達のギルド)に入りてんだろ?」

 

 

ナツの言葉に、2人は呆然とする。

 

 

「来いよ」

 

 

ナツの言葉を聞いた、ルーシィ達の返事は決まっていた。

 

 

『うん!!!!』




ルーシィ「ギルドに入るにはまず面接!!第一印象が大事だからね!!」

マキ「確かにそうね」

ルーシィ「あ~ああ!!ううん!!こんにちはルーシィと申します」

マキ「それは固すぎるんじゃない?」

ルーシィ「やっほ~ルーシィでぇ~すぅ」

マキ「それじゃあ、フランクすぎるでしょ」


次回!!『総長(マスター)あらわる!!』



ルーシィ「もっと元気よく、かつ印象的に!!俺が!!ルーシィだぁ!!」

マキ「って!!それじゃあアンタのキャラが壊れてるでしょうが!!!」







はい!!如何だったでしょうか?


ミューズの3人、ウミとリンとマキが登場しました!!


今回はウミしか魔法を使っていませんが、ウミの魔法は水の滅竜魔導士。


ナツの相棒という立ち位置にするなら、やはり同じ滅竜魔導士かなと思い、水の滅竜魔導士にしました。


マキの魔法に関しては、また次の機会とさせて頂きます。


まぁ、タグで分かる人はいるかもしれませんが...


そしてリンですが、まぁネコキャラなので単純にエクシードにしました。


今後、ナツ達の活躍にご期待ください!!


それでは次回、第2話もしくは異世界から帰還せし、激獣拳使いの幼馴染でお会いしましょう!!


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第2話 総長(マスター)あらわる!

どうも!ナツ・ドラグニルです!

前回の投稿から、1か月以上掛かってしまい、本来ならハピネスチャージを投稿してから投稿しようと思っていたのですが、まだ時間が掛かると思い先にフェアリーテイルを投稿しました。


リアルが忙しく、投稿が遅くなってしまいました。


申し訳ございません。


それでは、作品をどうぞ


 

 

「わぁ...大っきいね」

 

「えぇ、流石フィオーレ最強のギルド」

 

 

妖精の尻尾のギルドを外から眺めているルーシィ達は、その大きさに圧倒される。

 

 

『ようこそ!妖精の尻尾へ!!』

 

 

ハッピーとリンがルーシィ達に歓迎の言葉を送り、ナツとウミもその様子を笑みを浮かべながら見守る。

 

 

「さて、中に入る前に...」

 

 

ウミはナツに視線を向け、話を続ける。

 

 

「ナツ、くれぐれも物は壊さないでくださいよ」

 

「おう、分かってるよ」

 

 

2人のやり取りに、首を傾げるルーシィ達。

 

 

「ただいまー!!!!」

 

『ただー』

 

「ただいま戻りました」

 

 

ナツが足で扉を蹴り開け、中に入って行く。

 

 

「ナツ、ウミ、ハッピーとリン、おかえりなさい」

 

 

ナツ達が帰ってきた事に、全員がおかえりと声を掛ける。

 

 

その中の1人が、笑いながらナツに話しかける。

 

 

「また派手にやらかしたなぁ、ハルジオンの港の件...新聞に載...って...」

 

 

話を言い切る前に、ギルドメンバーの顔にナツの蹴りが炸裂する。

 

 

「なんでー!!!」

 

 

入るなり暴力を振るうナツに、ルーシィは驚愕する。

 

 

ルーシィの隣で、マキも顔を引きつかせていた。

 

 

「てめぇ!!!火竜(サラマンダー)の情報嘘じゃねぇかっ!!!」

 

「んなこと知るかよっ!!俺は小耳に挟んだ話を教えただけだろうがっ!!!」

 

「なんだとー!!!」

 

「やんのかコラァ!!!」

 

 

その言葉を合図に、乱闘開始のゴングが鳴った。

 

 

乱闘はナツ達だけで留まらず、被害にあった者達の間でも行われていた。

 

 

「凄い..あたし達本当に..妖精の尻尾に来たんだぁ」

 

 

目の前で行われている乱闘を見て、ルーシィは妖精の尻尾に来た事を実感する。

 

 

「ルーシィ、マキ、ここにいると巻き添えを喰らいますよ」

 

 

ルーシィ達を非難させようと動こうとしたウミの近くで、1人の男が大声を上げながら立ち上った。

 

 

「ナツが帰ってきたってぇ!!?てめぇ...この間の決着(ケリ)つけんぞ!!!コラァ」

 

 

この男『グレイ・フルバスター』、仕事は出来るが少々...いや、名一杯の脱ぎ癖あり。

 

 

しかし、喧嘩を売りに行こうとするグレイに別の女が指摘する。

 

 

「グレイ君、ちゃんと服を着ないと駄目だよ」

 

 

この女『コトリ・ミナミ』、グレイと同じ師を持った魔導士であり、グレイの姉弟子だ。

 

 

コトリが指摘したグレイの格好は、殆ど服を着ておらずパンツ一枚のみの状態だった。

 

 

「はっ!!!しまった!!!」

 

 

グレイも無意識で脱いでいたらしく、自分の服装に今気づいた。

 

 

そこで、近くのテーブルの上に座って居た女が、悪態をつく。

 

 

「まったく、これだから品のないここの男共は...イヤだわ」

 

 

この女『カナ・アルベローナ』、妖精の尻尾最強の大酒飲みだ。

 

 

そこそこ大きい酒樽を両手で持ち、一気に飲み干す勢いで酒を飲んでいく。

 

 

「酒樽に直接口を着けて飲むあなたに、言われたくないと思いますよ」

 

 

そんなカナをウミが注意するが、本人はまったく気にしていなかった。

 

 

「オオゥ!!!ナツゥ!!!勝負せェや!!!」

 

「服着てから来いよ」

 

 

ウミ達がそんなやり取りをしてる間に、グレイがナツに喧嘩を売る。

 

 

しかし、もっともな事をナツに突っ込まれる。

 

 

「だったら私が、相手する!!」

 

 

この女『ホノカ・コウサカ』、ナツと色々な意味で意気が合うこともあり、よくナツに勝負を挑んでいる。

 

 

「今日は負けないよ!!」

 

「おう!!掛かってこいホノカ!!」

 

 

女であるにも関わらずナツに勝負を挑むホノカに、ウミは頭を抱え、コトリは苦笑する。

 

 

「くだらん」

 

 

いつの間にか、ルーシィ達の後ろに屈強な男が立っていた。

 

 

「昼間っからピーピーギャーギャー、ガキじゃあるまいし...」

 

 

この男『エルフマン』、どんな仕事も拳で解決する超肉体派の魔導士だ。

 

 

「漢なら拳で語れ!!!」

 

「結局ケンカなのね...」

 

「意味分かんない」

 

 

矛盾な事を言ってるエルフマンに、ルーシィは突っ込みを入れる。

 

 

『邪魔!!!』

 

 

しかし、エルフマンはナツとホノカによって、吹っ飛ばされてしまう。

 

 

「しかも玉砕!!!」

 

 

その時、ルーシィの近くに座っているホストのような恰好をした男が立ち上った。

 

 

「やだやだ、騒々しいな」

 

 

この男『ロキ』、彼氏にしたい魔導士上位ランカーだ。

 

 

「痛っ!!」

 

 

遠目で見ていたロキだったが、顔に向かって酒ビンが飛んで来た。

 

 

かっちーん

 

 

今、ロキの中で何かが切れた。

 

 

「混ざって来るね~!君達の為に」

 

『頑張って~♡』

 

 

キラキラを出しながら、一緒にいた女の子達に向かってサムズアップする。

 

 

「上位ランカー、抹消」

 

 

ルーシィは持っていたランキングが載った雑誌を片手に、ロキの写真にペケマークを付ける。

 

 

「ねぇ...ウミ、このギルドに真面な人はいないの?」

 

 

不安に思ったマキは、ウミに質問する。

 

 

「安心してください、ギルドの中にもちゃんとした常識人もいますよ......少し抜けてますが」

 

「最後何て言ったのよ!!?小さすぎて聞こえなかったんですけど!!?」

 

 

ボソっと呟いた言葉に食いついたマキが、突っ込みを入れる。

 

 

「あらぁ?新人さん?」

 

 

この女『ミラジェーン』、週刊ソーサラーでグラビアを飾る魔導士。

 

 

現在はここ、妖精の尻尾の従業員だ。

 

 

「ミ...ミラジューン!!!!キャー!!!本物~♡」

 

「うふ♡」

 

 

有名な魔導士であるミラに会えて興奮するルーシィだったが、正気を取り戻して乱闘しているナツ達を指差した。

 

 

「ア...アレ止めなくていいんですか!!?」

 

「いつもの事だからぁ、放っておけばいいのよ」

 

「あららら...」

 

「それに...」

 

 

喋っている途中のミラに、エルフマンが飛んできて下敷きになった。

 

 

「楽しいでしょ?」

 

 

エルフマンの下敷きになりながらも、ミラはルーシィに問いかけた。

 

 

しかし、ミラはそのまま意識を失った。

 

 

「きゃ―――!!!ミラジェーンさん!!!」

 

「ミラ!しっかりしてください!!」

 

「ちょっと!大丈夫なのその人!!?」

 

 

叫ぶルーシィ達の近くに、今度はグレイが飛んで来た。

 

 

『きゃ――――っ!!!』

 

 

しかし、格好が格好だけにルーシィとマキだけでなく、ウミやコトリまでもが悲鳴を上げる。

 

 

「へっへ~ん」

 

 

見せ付ける様に、ナツがグレイのパンツを手に持ち、振り回している。

 

 

ナツがパンツを持っているという事は、つまり......

 

 

「あ―――っ!!!オレのパンツ!!!」

 

 

グレイは今、全裸になっているという事だ。

 

 

『こっち向くなー!!!』

 

 

ルーシィとマキが目を隠しながら、全力で突っ込みを入れる。

 

 

「ナツ!!?あなたは何を捕ってるんですか!!?」

 

 

ウミも、パンツを捕ったナツに向かって怒鳴り声を上げる。

 

 

その時、グレイがルーシィ達の存在に気づき、ある頼み事をする。

 

 

「お嬢さん方、良かったらどちらかパンツ貸してくれ」

 

『貸すか―――っ!!!』

 

 

突っ込みと共に、ルーシィとマキの拳がグレイの顔に減り込んだ。

 

 

「あ――、うるさい。落ち着いて酒も呑めないじゃないの」

 

 

あまりのうるささに、カナの堪忍袋の緒が切れる。

 

 

「あんたらいい加減に.........しなさいよ....」

 

 

カナは一枚のカードを取り出し、緑色の魔法陣を展開させる。

 

 

「アッタマきた!!!!」

 

 

グレイは掌の上に拳を置くと、水色の魔法陣を展開する。

 

 

「ぬおおおおおおっ!!!!」

 

 

紫色の魔法陣を展開させたエルフマンの右腕が、石で出来た腕に形状を変化させる。

 

 

「困った奴らだ..」

 

 

ロキが右手に嵌めている指輪をいじると、緑色の魔法陣が展開する。

 

 

「行っくよ――!!!」

 

 

ホノカが手を前に翳すと、赤い魔法陣が展開される。

 

 

「これ以上やるなら、お仕置きが必要みたいだね」

 

 

コトリは足元に、青色の魔法陣を展開する

 

 

「かかって来いっ!!!!」

 

 

ナツも拳に炎を灯し、気合を入れる。

 

 

「魔法でケンカ!!!?」

 

 

先程とは違い、魔法を使用した乱闘に変化した事態に、流石に驚愕する。

 

 

「これはちょっとマズいわね」

 

「ちょっとじゃないですよ!!!」

 

 

ミラの能天気な発言に、突っ込みを入れるウミ。

 

 

「ちょっとウミ!あれは流石に止めないとまずいんじゃないの!!?」

 

「慌てなくても大丈夫ですよマキ、たぶんそろそろ...」

 

「そこまでじゃ、やめんかバカタレ!!!!」

 

 

ウミが言い終わる前に、ギルド内に制止する声が響く。

 

 

「でか―――――っ!!!!」

 

 

ギルドの天井に頭が届く程の巨人が、何の前触れもなく突如現れた。

 

 

先程まで乱闘していたギルドのメンバーが、ピタッと動きを止めた。

 

 

「あら...いたんですか?総長(マスター)

 

『マスター!!?』

 

 

巨人の正体がギルドマスターである事を知ったルーシィ達は、驚きの声を上げる。

 

 

殆どの者がマスターの一言によって動きを止めたが、この2人だけは止まらなかった。

 

 

「だーっはっはっはっ!!!みんなしてビビりやがって!!!」

 

「そうだよ!私達を止められると思ったら大間違いだよ!」

 

『この勝負、()達の勝ぴぃ』

 

 

勝利宣言する2人だったが、言い終わる前にマスターに踏み潰されてしまう。

 

 

「む?新入りかね?」

 

『は..はい..』

 

 

マスターはルーシィ達の存在に気づき話しかけるが、本人達は恐怖でそれ所ではなく返事を絞り出すのでやっとだった。

 

 

「ふんぬぅぅぅ...」

 

 

マスターが気合をいれるのと同時に、見る見るうちにマスターの体が縮んでいく。

 

 

「ええ――――っ!!?」

 

 

先程まで巨人だったマスターが、腰辺りまでの身長に変わった事に驚愕の声を上げるルーシィ達。

 

 

「よろしくネ」

 

「ちっさ!!」

 

「ていうかマスターって...」

 

「そうです、この方が妖精の尻尾のマスター、マカロフさんです」

 

 

マキの疑問に、ウミが答える。

 

 

「とう!!」

 

 

くるくると回転しながら、2階へと跳躍する。

 

 

しかし――

 

 

ゴチーン!!!

 

 

「ぐぱぁっ!!!」

 

 

マカロフは着地をミスり、頭を手摺に思い切りぶつける。

 

 

痛みに悶絶し震えていたマカロフだったが、起き上がり何も無かったかのようにそのまま話を始める。

 

 

「ゴホン!ま~たやってくれたのう貴様等、見よ!評議会から送られてきたこの文章の量を、ぜ~んぶ苦情ばかりじゃ」

 

 

バサッと、マカロフは大量の紙の束を取り出した。

 

 

「評議会...って」

 

「魔導士ギルドを束ねてる機関じゃない」

 

 

マカロフの話を聞いていたルーシィとマキは、評議会について思い出していた。

 

 

「まずは...グレイ」

 

「あ?」

 

 

マカロフは、届いたグレイの苦情を読み上げる。

 

 

「密輸組織を検挙したまではいいが...その後、街を素っ裸でふらつき、挙句の果てに干してある下着を盗んで逃走」

 

「いや......だって裸じゃマズいだろ」

 

「まずは裸になるなよ」

 

 

謎の言い訳をしているグレイに、エルフマンが突っ込む。

 

 

「はぁー...エルフマン!!貴様は要人護衛の任務中に要人に暴行」

 

「『男は学歴よ』なんて言うからつい...」

 

 

マカロフはエルフマンの言い訳を聞きながら、首を横に振り続きを読み上げる。

 

 

「カナ・アルベローナ!!経費と偽って某酒場で呑む事大樽15個、しかも請求先が評議会」

 

「バレたか...」

 

「ロキ...評議員レイジ老子の孫娘に手を出す。某タレント事務所からも損害賠償の請求がきておる」

 

 

流石のロキも、苦情の内容に顔を顰める。

 

 

「ホノカ・コウサカ!度重なる遅刻のせいで、依頼人に迷惑を掛ける。それだけでなく余りある元気のせいで、幾つもの建物を破壊」

 

「うっ...」

 

 

ホノカは苦情の内容に、苦悶の表情を浮かべる。

 

 

「そしてナツとウミ...」

 

 

マカロフはがっくんと肩を落とすと、2人の苦情を読み上げる。

 

 

「デボン盗賊一家壊滅するも、民家7軒も洪水によって壊滅。チューリィ村の歴史ある時計台破壊。フリージアの協会全焼。ルビナス城1部損壊。ナズナ渓谷観測所、崩壊により機能停止。ハルジオンの港半壊」

 

 

――本で読んだ記事は、殆どナツ達だったのね...

 

 

読み上げられた内容の殆どが、週刊ソーサラーで呼んだ事のあるルーシィは顔を引きつかせる。

 

 

当事者であるナツ達も、冷や汗が止まらなかった。

 

 

「アルザック、レビィ、クロフ、リーダス、ウォーレン、ビスカ..」

 

 

マカロフは読み上げるのも疲れたのか、淡々と名前を上げていく。

 

 

「貴様等ァ...ワシは評議員に怒られてばかりじゃぞぉ...」

 

 

ぷるぷると、怒りを抑えるマカロフ。

 

 

その様子を見たルーシィ達は、この後落ちてくるであろう雷に体を震わせる。

 

 

「だが..」

 

 

しかし、実際に雷が落ちる事は無かった。

 

 

「評議員などクソくらえじゃ」

 

 

マカロフは手に持っていた紙を燃やし、そう呟いた。

 

 

『え?』

 

 

ルーシィ達が驚く中、マカロフが燃えた紙を投げ捨てるとナツが口でキャッチする。

 

 

「よいか、(ことわり)を超える力は、全ての理の中より生まれる。魔法は奇跡の力なんかではない、我々の内にある気の流れと、自然に流れる〝気〟の波長が合わさり始めて具現化されるのじゃ」

 

 

マカロフの話を、ナツを含めたギルドメンバー全員が静かに聞いていた。

 

 

「それは精神力と集中力を使う、いや己が魂すべてを注ぎ込む事が魔法なのじゃ。上から覗いてる目ン玉気にしてたら魔道は進めん、評議員のバカ共を恐れるな」

 

 

ニヤッと笑った後、高らかに宣言する。

 

 

「自分の信じた道を進めぇい!!!!それが妖精の尻尾の魔導士じゃ!!!!」

 

『オオオオオオオオッ!!!!』

 

 

ギルドにいる、魔導士達の雄叫びが上がる。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「じゃあナツが火竜(サラマンダー)、ウミが水竜(リヴァイアサン)って呼ばれてたのか!?他の街では」

 

「確かに、オメー達の魔法はそんな言葉がピッタリだな」

 

 

ナツはその話を、ミラが作ったナツ専用のメニュー、ファイアパスタ、ファイアチキン、ファイアドリンクを食べながら聞いていた。

 

 

「ナツが火竜(サラマンダー)なら、オイラはネコマンダーでいいかなぁ?」

 

「じゃあ私は、ネコイアサンだにゃ!!」

 

「マンダーとイアサンって、何だよ」

 

 

その話を聞いていたウミは、ある事について怒っていた。

 

 

「それよりも!私の偽物が何で男なんですか!!納得いきません!!!」

 

「落ち着けって、ウミ」

 

 

怒るウミを、ナツが落ち着かせる。

 

 

「女に見えないから、男と間違われたんじゃねぇの?はははっ」

 

 

ズガアァァァン!!!

 

 

「次ふざけたこと言ったら、殴りますよグレイ」

 

「もう殴ってんじゃねぇか...」

 

 

グレイの何気ない一言に切れたウミが、グレイを地面に沈める。

 

 

「デリカシーのねぇ奴だな」

 

「あい!ナツ君以下だね」

 

 

今のナツとリンの言葉で普段ならケンカに勃発するが、ウミによって沈められたせいでそんな余裕は無かった。

 

 

「ふん」

 

 

臍を曲げたウミは、ナツの隣に座りそのまま肩に寄りかかった。

 

 

「ナツ―!!!見て―!!!妖精の尻尾のマーク入れてもらちゃったぁ」

 

 

そんな中、手の甲にマークを入れて貰ったルーシィとマキが、ナツに近づく。

 

 

「良かったな、マリオ、ルイージ」

 

「マキよ!!!!」

 

「ルーシィよ!!!!」

 

 

ナツの言い間違いに、マキとルーシィは全力で突っ込みを入れる。

 

 

ナツは自分に寄りかかるウミをどかして、席を立ち上る。

 

 

「ナツ、何処行くんですか?」

 

「仕事だよ、金ねーし」

 

 

ナツはギルドの端に置いてある、色々な紙が貼ってあるボードの前に立つ。

 

 

リクエストボード。

 

 

魔導士達はここに貼られた依頼の中から、自由に仕事を選ぶことが出来るのだ。

 

 

「ナツ君、仕事行くの?なら私も行く!!」

 

「おう、良いぜ!!一緒に行くぞ、ホノカ!!」

 

 

一緒に行きたいと誘うホノカに、ナツは直ぐ了承する。

 

 

「報酬が良い奴にしましょう」

 

 

そしていつの間にか、ナツの隣に並んでいるウミが一緒に仕事を探す。

 

 

「お!コレなんかどうかな、盗賊退治で16万Jだ!!」

 

「決まりだね」

 

 

依頼書を剥がし、早速仕事に行こうとするナツ達の耳に、小さな男の子の声が聞こえた。

 

 

「父ちゃん、まだ帰って来ないの?」

 

「む?」

 

 

酒を飲んでいたマカロフの前に、1人の少年『ロメオ』が立っていた。

 

 

「くどいぞロメオ。貴様も魔導士の息子なら、父親(おやじ)を信じておとなしく家で待っておれ」

 

「だって......三日で戻るって言ったのに......、もう一週間も帰って来ないんだよ...」

 

 

涙を浮かべるロメオに、マカロフは親父が何の仕事に行ったのか思い出す。

 

 

「マカオの奴は確か、ハコベ山の仕事じゃったな」

 

「そんなに遠くないじゃないかっ!!!!探しに行ってくれよ!!!心配なんだ!!!」

 

 

その話をナツ達はリクエストボードの前で、ルーシィ達はカウンターに座り聞いていた。

 

 

「冗談じゃない!!!貴様の親父は魔導士じゃろ!!!自分のケツもふけねぇ魔導士なんぞ、このギルドにはおらんのじゃあ!!!帰ってミルクでも飲んでおれい!!!」

 

 

「......バカ―!!!」

 

 

「おふ」

 

 

ゴスっとロメオの拳が、マカロフの顔面に命中する。

 

 

たったったったっと、ロメオはギルドから出ていった。

 

 

「厳しいのね」

 

「ああは言っても、本当はマスターも心配してるのよ」

 

 

ズシ!!!

 

 

リクエストボードから凄い音が鳴ったと思い、そちらに全員が視線を移す。

 

 

するとそこには、ナツがさっき剥がした依頼書をボードに減り込ませていた。

 

 

「オイイ!!ナツ!!リクエストボード壊すなよ」

 

 

リクエストボードの前に立っていた魔導士の1人、『ナブ』がナツに文句を言う。

 

 

「行くぞ、ウミ」

 

「えぇ、分かってます」

 

 

しかし、ナツは何の反応も示ずそのままロメオの後を追い、ウミを連れギルドから出ていった。

 

 

その後ろをホノカ、ハッピー、リンが着いていく。

 

 

「マスター..ナツとウミの奴、ちょっとヤベェんじゃねぇの?」

 

「アイツ等....マカオを助けに行く気だぜ」

 

「これだからガキはよぉ......」

 

「んな事したって、マカオの自尊心が傷つくだけなのに」

 

 

キセルをふかしていたマカロフは、ナツ達を止めようとしなかった。

 

 

「進むべき道は、誰が決める事でもねぇ。放っておけぃ」

 

 

ナツ達の様子が可笑しい事に気付いたルーシィ達は、不思議に思った。

 

 

「ど...どうしちゃったの?アイツ...急に...」

 

「それもウミも一緒になって...」

 

「ナツとウミも、ロメオ君と同じだからね」

 

 

2人の疑問に答えたのは、カウンターで作業をしていたミラだった。

 

 

『え?』

 

「自分とだぶっちゃったのかな。私達、妖精の尻尾の魔導士達はみんな何かを抱えている。傷や痛みや苦しみを」

 

 

 

 

 

翌日

 

 

ハコベ山に向かう馬車の中、その中にナツ達は乗車していた。

 

 

「何でお前らがいるんだ?」

 

「別にいいじゃない」

 

「何か文句あるの?」

 

 

乗り物酔いでグロッキーになってるナツの問いに、ルーシィとマキは答える。

 

 

ナツが座席にぐでら~と横になり、その上に覆いかぶさるようにウミが横になっている。

 

 

その対面には、ルーシィ、マキ、ホノカの順番で席に座っている。

 

 

「それにしても、アンタ等本当に乗り物ダメなのね。なんか..色々とかわいそう..」

 

「は?」

 

「ど...どういう意味ですか...?」

 

「ううん、何でもないわよ」

 

 

マキはそう言うと、昨日のミラの話を思い出す。

 

 

 

 

 

 

「ナツのお父さんも、ウミのお母さんも出ていったきりまだ帰って来ないのよ」

 

 

その話を聞いたルーシィとマキは、言葉を失った。

 

 

「お父さん....お母さん....って言っても、育ての親なんだけどね。しかもドラゴン」

 

 

ガタン、と音を立て椅子からルーシィとマキは滑り落ちた。

 

 

「ドラゴン!!?」

 

「ナツとウミってドラゴンに育てられたの!!?」

 

 

動揺するルーシィとマキの言葉に、ミラは静かに頷いた。

 

 

「2人共小さい時、そのドラゴンに森で拾われて、言葉や文化や..魔法なんかを教えてもらったんだって。でもある日、ナツ達の前からそのドラゴン達は姿を消した」

 

「そっか..それがイグニールとティアマット......」

 

 

ミラの話を聞いたルーシィ達は、なぜ2人がドラゴンを探しているのか理解する。

 

 

「ナツ達はね...いつかイグニールとティアマットに会える日を楽しみにしてるの。そーゆートコが、ナツはかわいいのよねぇ」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

ミラの話を思い出したルーシィ達は、優しい笑みでナツの事を見つめる。

 

 

その時、馬車が停止する。

 

 

「着いたの?」

 

「止まった!!!」

 

「きゃあ!!」

 

 

馬車が止まった事で、ナツが復活する。

 

 

がばっっと勢いよくナツが起き上がった事で、上に被さっていたウミはそのまま床に落ちてしまう。

 

 

「大丈夫?ウミちゃん」

 

「な..なんとか...」

 

 

乗り物酔いと顔を打った激痛に悶えるウミだったが、そこに馬車を引いてた御者の男が声を掛ける。

 

 

「す..すみません...これ以上は馬車じゃ進めませんわ」

 

「え?」

 

 

御者の言ってる事が理解できなかったルーシィだったが、扉を開けた瞬間入ってきた冷気と共にその言葉の意味を理解する。

 

 

「ちょっ...はぁっ!?何これ!!?」

 

 

馬車の外に広がっていたのは、猛吹雪によって辺り一面真っ白な白銀の世界に変えられた光景だった。

 

 

「寒い!!いくら山の方とはいえ、今は夏でしょ!!?こんな吹雪可笑しいわ」

 

「ルーシィ、知らないんですか?山の天気は変わりやすいんですよ」

 

 

悪態をつくルーシィに、回復したウミが説明する。

 

 

「そうだよ、いきなり猛吹雪に見舞われる事もあるんだよ」

 

「だからってこれは異常よ!!」

 

 

ホノカの言葉に、今度はマキが突っ込みを入れる。

 

 

「そんな薄着してっからだよ」

 

「そうですよ、ルーシィ。山を舐めすぎです」

 

「アンタ等も、似たようなモンじゃないっ!!!!その毛布貸してよ!!!」

 

 

突っ込みを入れながら、ルーシィはナツが背負っているリュックから毛布を取り出した。

 

 

「うるせい奴だな」

 

「あい」

 

 

さっきから文句が絶えないルーシィに、ナツも文句を言う。

 

 

「そうだ!」

 

 

ルーシィは何かを思いついたのか、銀色の鍵を1つ手に取る。

 

 

「開け!!時計座の扉!!ホロロギウム!!!」

 

 

パッポ――!!!という鳩時計の音と共に、アンティークな古時計の形をした星霊が現れた。

 

 

「おお!!時計だ」

 

「かっこいい!!」

 

 

ルーシィはホロロギウムの振り子部分を開け、中に入る。

 

 

そしてナツ達に向けて何かを喋るが、口をパクパク動かすだけで外まで声が聞こえなかった。

 

 

「あぁ?聞こえねぇよ」

 

「『あたしここにいる』と申しております」

 

「何しに来たんですか、ルーシィ」

 

 

中にいるルーシィの言葉を代弁するホロロギウムに、ウミが突っ込みを入れる。

 

 

「『何しに来たと言えば、マカオさんはこんな場所に何の仕事をしに来たのよ!?』と申しております」

 

「知らないで着いて来ちゃったの?ルーシィちゃん」

 

「一緒に行くならそれぐらい調べて来なさいよ、凶悪モンスター〝バルカン〟の討伐よ」

 

 

ルーシィの質問に、ホノカが驚き、マキが呆れながら答える。

 

 

「!!!!」

 

 

ホロロギウムの中で、ルーシィが目を見開き驚く。

 

 

「『あたし帰りたい』と申しております」

 

「はい、どうぞと申しております」

 

「あい」

 

 

ルーシィの代弁に、ナツはホロロギウムの真似をして返した。

 

 

「マカオ―!!!いるかー!!!」

 

「マカオ―!!」

 

 

猛吹雪の中、ナツとハッピーが大声を上げて探す。

 

 

「マカオ―!!何処ですか!!」

 

「マカオさーん!!返事してー!!」

 

 

ウミとホノカも大声を上げ、辺りに呼びかける。

 

 

その時だった。

 

 

「オラァ!!!」

 

 

ドゴォォン!!

 

 

ナツ目掛けて、何かが勢いよく振ってきた。

 

 

それは、白い毛色を持ったゴリラのようなモンスターだった。

 

 

「ウホ」

 

「バルカンだ――!!!!」

 

 

その正体に気付いたハッピーが、大声を上げ叫んだ。

 

 

ナツは持ち前の身体能力で、難なくバルカンの攻撃を回避した。

 

 

「ナツ、大丈夫ですか!?」

 

「あぁ、問題ねぇ」

 

 

ウミがナツの安否を確認し、4人は横並びで並んだ。

 

 

「こいつがバルカン!!?」

 

 

初めてバルカンを見たマキは、その大きさに驚いていた。

 

 

ナツ達が攻撃を開始しようとしたその時、ホノカがバルカンの様子が可笑しい事に気付いた。

 

 

「あのバルカン、何してるの?」

 

 

バルカンは匂いを嗅ぎ、辺りを見渡していた。

 

 

「ウホ!!!」

 

 

何かを見つけたのか、目の前のナツ達には目もくれずナツ達の横を通り過ぎた。

 

 

「オイコラ!!」

 

「待ちなさい!!」

 

 

バルカンが向かった先には、ホロロギウムに入ったルーシィがいた。

 

 

「人間の女だ♡」

 

 

バルカンは中を覗き込み、ルーシィが入っている事に喜んだ。

 

 

「おお、喋れんのか」

 

「珍しいね」

 

 

ナツとホノカは、バルカンが喋った事に驚いた。

 

 

「『てか、助けなさいよォオオオ』...と申しております」

 

「ウホホッ」

 

 

バルカンはホロロギウムを担ぎ、その場からいなくなった。




ウミ「ルーシィがバルカンに連れ去られてしまいました...不覚です...」

リン「でも...なんでバルカンはウミちゃん達を無視してルーシィだけを狙ったんだろう...」

ウミ「大体の予想は尽きますけどね」

リン「どういう事にゃ?」

ウミ「ルーシィの方が胸がデカいからですよ!!破廉恥です!!」

リン「ルーシィちゃん大きいからね...あれに比べたら確かに...」

ウミ「ルーシィが異常なだけで、私は標準サイズです!!」

リン「猫のリンには、判断が出来ません」



次回!!『双竜と女神と猿と牛』


ウミ「大体!!ナツは胸の大きい小さいは気にしません!!」

リン「そこでナツ君が出てくるウミちゃんもどうかと思うにゃ」






はい!如何だったでしょうか?

今回は、ようやく他のラブライブのメンバー、穂乃果とことりが登場しました!!

ことりはまだですが、次回ようやく穂乃果と真姫の戦闘シーンを出します。

ご期待ください。

ちなみになんですが、小説を書く際に漫画とアニメを同時に見て書いているのですが、初期のレビィがルーシィと同じくらい胸がある事に気付きました。

あれ?と思い、もしかしたらレビィに似てる別キャラなのかなと思いましたが、マカロフがレビィと呼んでいたので間違いないかと。

もしかしたら、漫画のあとがきの所で説明していて私が忘れてるだけかもしれませんが...


さて、それでは次回第3話もしくは、異世界より帰還せし、激獣拳使いの幼馴染第36話でお会いしましょう!!


それじゃあ、またな!!


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第3話 双竜と女神と猿と牛

LOVE TAIL、前回までは!!


ミラ「これはリクエストボード。ここから好きな仕事を選んでね」


ロメオ「父ちゃんまだ帰ってこないの?」


ミラ「私達、妖精の尻尾の魔導士達はみんな何かを抱えている。傷や痛みや苦しみを」


ルーシィ「寒い!!いくら山の方とはいえ、今は夏でしょ!!?こんな吹雪可笑しいわ」

 
ウミ「ルーシィ、知らないんですか?山の天気は変わりやすいんですよ」


バルカン「人間の女だ♡」


ルーシィ「てか、助けなさいよォオオオ」




 

 

 

ハコベ山、山頂付近。

 

 

「『なんでこんな事に...なってる訳~~~~!!!?何この猿、テンション高いし!!!』と申されましても」

 

 

ホロロギウムの中で涙を流しながら叫ぶルーシィの周りを、バルカンがウホウホ言いながら踊っていた。

 

 

「ここってあの猿の住処かしら。てか、ナツ達はどうしちゃったのよ~......」

 

 

ホロロギウムの中から、ルーシィは辺りを見渡した。

 

 

「女♡」

 

「!!」

 

 

しかし、ガラスに顔をへばり付けていたルーシィの前に、バルカンの顔が至近距離で現れる。

 

 

じ―――...っと見つめ合っていたルーシィ達だったが、ポウンと煙を立ててホロロギウムが消えてしまった。

 

 

「ちょ...ちょっとォ!!ホロロギウム!!!消えないでよ!!!」

 

「時間です、ごきげんよう」

 

「延長よ!!!延長!!!ねぇっ!!!」

 

 

声を荒げホロロギウムに抗議するが、それ以降ホロロギウムの声は聞こえなくなってしまった。

 

 

バルカンは鼻息を荒くし、ルーシィは絶体絶命に陥ってしまう。

 

 

「うおおおっ!!!やっと追いついたーっ!!!」

 

「ナツ!!!」

 

 

ドッドッドッと足音を立てながら駆け付けてくれたナツに、ルーシィは歓喜の声を上げる。

 

 

「サ――ル――!!!マカオはどこだぁぁ―――っ!!!」

 

 

大声を上げながら走るナツだったが、足元が岩から氷に変わったせいでつるんっと足を滑らせる。

 

 

「あがっ!ぐおぉ!ふあっ!ぶへっ!!」

 

 

足を滑らせたナツはゴロゴロと転がり、ルーシィ達の横を通り過ぎてそのまま壁にぶつかった。

 

 

「ふ..普通に登場とか..出来ないのかしら..」

 

 

ルーシィは頭を抱え、呆れる。

 

 

「オイ!!!サル!!!マカオはどこだ!?」

 

「ウホ?」

 

「言葉分かるんだろ?マカオだよ!!人間の男だ」

 

「男?」

 

「そーだ!!」

 

 

ナツとバルカンが言葉のやり取りをしている間に、ルーシィはささささっと移動してナツの後ろに隠れた。

 

 

「どこに隠した!!?」

 

「うわー!!『隠した』って決めつけてるし!!!」

 

 

しかし、そこでルーシィは気づいた。

 

 

「(ま...待って..!!冷静に考えたら..マカオさんってまだ生きてるのかしら...)」

 

 

ナツの言葉にニヤリと笑ったバルカンは、くいくいっと手招きをしてナツを呼んだ。

 

 

「おおっ!!通じたっ!!」

 

 

話が通じた事にナツは喜び、バルカンについていく。

 

 

「(もしかして..マカオさんはもう......)」

 

 

最悪な事態を想像するルーシィを他所に、ナツはバルカンが指を差す外が見える穴を覗き込んだ。

 

 

「どこだ!!?」

 

 

しかし、ナツが穴を覗き込んだ瞬間、バルカンがナツを押して外へと放り出した。

 

 

「あ」

 

 

突然の出来事でナツは口をあんぐりとさせ、ルーシィは目を見開き戦慄する。

 

 

「あああぁぁぁぁぁ!!!サルゥゥゥゥ!!!」

 

 

突き落とされたからか、ナツは怒声を上げながら谷底へと落下していく。

 

 

「ナツ―――!!!」

 

「男...いらん、オデ...女好き♡」

 

 

驚きから我に返ったルーシィは、ナツの安否を確認する為にバルカンが近くにいるにも関わらず穴に近づく。

 

 

「やだっ!!!ちょっと..死んでないわよね!!!あいつ、あー見えて凄い魔導士だもんね..!!!きっと大丈.......」

 

 

ルーシィは大丈夫だと言い聞かせるが、底の見えない谷底を見て自信を失くしていく。

 

 

「男いらん、男いらん、女~女~!!!ウッホホホ~」

 

「女!女!!ってこのエロザル!ナツが無事じゃなかったらどーしてくれるのよ!!!」

 

 

ルーシィは腰にぶら下げている鍵に手を掛けると、ジャリッと音が鳴った。

 

 

『ルーシィ!!!』

 

 

後ろからルーシィを呼ぶ声が聞こえ、勢いよく振り返る。

 

 

そこには、ナツほどではないが走ってきているウミ、ホノカ、マキの姿があった。

 

 

「マキ!!みんな!!来てくれたのね!!」

 

「当たり前でしょ!!」

 

「私達は仲間だからね!!」

 

 

仲間だから助けるのは当たり前だと告げるマキ達だったが、ウミはナツがいない事に気付き辺りを見渡す。

 

 

「ルーシィ、ナツはどうしました?先に来ていた筈ですが...」

 

 

マキ達が来た事で喜んでいたルーシィだったが、ウミの質問でハッと我に返る。

 

 

「そうだ!大変なの!!あの猿にナツが谷底に落とされたの!!」

 

「え!?」

 

「嘘!?」

 

 

ナツが落とされたと聞いてマキとホノカは、驚きで目を見開く。

 

 

「よくもナツを...絶対に許しません!!」

 

「行くよウミちゃん!!」

 

 

ホノカはウミの隣に並び立ち、足元に赤い魔法陣が展開する。

 

 

「――焦がせ、〈灼爛殲鬼(カマエル)〉」

 

 

次いでホノカが、その名を口にする。

 

 

すると彼女の周りに炎が生まれ、巨大な根のような円柱形を形作っていた。

 

 

そして、ホノカがその根を手に取った瞬間、その側部から真っ赤な刃が出現する。

 

 

それは――あまりに巨大な、戦斧だった。

 

 

ルーシィとマキの目の前で、ホノカが身体の周囲に(ほのお)を纏わせながら立っている。

 

 

袖が半ばから揺らめく火焔(かえん)に変貌した、白い装束。

 

 

天女の羽衣のごとく身体に絡みついた炎熱の帯。

 

 

その姿。

 

 

その力。

 

 

ルーシィは知っていた。

 

 

「その身を護る絶対の盾〈霊装〉を身に纏い、それに対を成す最強の矛たる武装〈天使〉を有す。それは形を持った奇跡と呼ばれる太古の魔法(エンシェントスペル)

 

「そう、それがホノカの使う〈女神魔法〉、〈焔の女神魔導士〉イフリートのホノカ」

 

 

ウミの説明にルーシィ達、特にマキが驚いていた。

 

 

「ここは私達がやるから!!」

 

「2人は下がっていてください!!」

 

 

ウミ達は2人で戦う為に、ルーシィ達を下がらせようとする。

 

 

「そういう訳にはいかないわ!!私だって、妖精の尻尾の魔導士なんだから」

 

 

ルーシィは、腰に下げている鍵の一本、ブレード部分の先が斧になっている金色の鍵を手に取る。

 

 

「開け!!金牛宮の扉..タウロス!!!!」

 

「MO―――!!!!」

 

 

(ゲート)を潜り、ルーシィの前に現れたのはホノカと同じぐらいの戦斧を担いだミノタウロスだった。

 

 

「牛!!?」

 

 

ルーシィが召喚したタウロスに、初めてバルカンが反応する。

 

 

「あたしが契約してる星霊の中で、一番パワーのあるタウロスが相手よ!!!エロザル!!」

 

 

そう宣言するルーシィだったが、自分が召喚したタウロスによって台無しにされた。

 

 

「ルーシィさん!!!相変わらずいい乳してますなぁ。MOー素敵です」

 

 

んふー、んふー、と鼻息を荒くさせながらそう語る。

 

 

「そうだ...こいつもエロかった..」

 

 

そんなタウロスを見て、ルーシィは顔に手を添えため息をつく。

 

 

「よりにもよって何でそいつなのよ」

 

「しょうがないじゃない!!今使える星霊はコイツしかいないんだから!!」

 

 

嫌悪感丸出しでタウロスを睨むマキに、ルーシィはそう言い訳する。

 

 

「ウホッ、オデの女とるなっ!!」

 

「オレの女?」

 

 

バルカンの一言に、タウロスが反応する。

 

 

「それはMO、聞き捨てなりませんなぁ」

 

「そうよタウロス!!あいつをやっちゃって!!」

 

 

ルーシィの指示で、タウロスはバルカンへと突っ込む。

 

 

「MO―――!!」

 

 

タウロスは斧を振り上げ、地面に向かって思いっきり振り下ろす。

 

 

すると、地面を伝って衝撃波がバルカンを襲う。

 

 

「ウホー!!」

 

 

バルカンはタウロスの攻撃を避け、タウロスに接近する。

 

 

「早い!?」

 

 

ルーシィがバルカンの動く速度に驚く中、バルカンがタウロスに殴りかかろうとする。

 

 

タウロスもルーシィも速度に対応できず、バルカンの攻撃が当たると思った次の瞬間。

 

 

「おらぁ!!」

 

 

バルカンの拳より先に、ナツの蹴りがタウロスに入って吹っ飛ばされる。

 

 

『ナツゥ!!?』

 

 

バルカンにではなく、仲間であるタウロスに攻撃した事にルーシィだけでなくウミ達も驚愕の声を上げる。

 

 

「MO...ダメっぽいですな...」

 

「弱―――!!!」

 

 

ナツに吹っ飛ばされ、地面に倒れたタウロスはそのままダウンしてしまった。

 

 

「おい、何か怪物増えてんじゃねーか?」

 

 

バルカンを指差し、ナツが質問する。

 

 

「味方よ味方!!!星霊よ!!!」

 

「猿が?」

 

「牛の方!!!」

 

 

星霊を倒され興奮するルーシィを放って、マキがナツに質問する。

 

 

「それよりも、アンタどうやって助かったのよ?」

 

 

マキの質問に、ナツはにっと笑いながら答える。

 

 

「ハッピー達のおかげさ、ありがとうな」

 

『あい!』

 

 

ナツの上を翼を広げて飛ぶ、ハッピーとリンの姿があった。

 

 

「そっか...ハッピー達、羽根があったわねそーいえば」

 

「あい、能力系魔法の一つ『(エーラ)』です」

 

 

その話を聞いたルーシィは、ナツに質問する。

 

 

「あんた乗り物ダメなのに、ハッピー達は平気なのね」

 

「何言ってんだオマエ、ハッピー達は乗り物じゃねぇよ。『仲間』だろ?ひくわー」

 

「ルーシィ、その質問はどうかと思いますよ」

 

 

ナツだけでなく、ウミにまでドン引きされたルーシィは素直に謝罪する。

 

 

「そ...そうね、ごめんなさい」

 

 

しかし、今まで黙って見ていたバルカンも流石に相手にされていない事に怒り、ナツに向かって右腕を振り下ろす。

 

 

「オレの女!!!」

 

 

バルカンの攻撃を、ナツは片手のみで受け止める。

 

 

「いいか?妖精の尻尾のメンバーは全員仲間だ!!!」

 

 

攻撃を受け止められたバルカンは、直ぐに右の回し蹴りを繰り出す。

 

 

「ウッ!!」

 

 

繰り出された回し蹴りを、ナツは腕をクロスする事によって防いだ。

 

 

だが、勢いだけは殺せず、ズザザザザッと後ろに下がってしまう。

 

 

「じっちゃんもミラもコトリも、うぜぇ奴だがグレイもエルフマンも」

 

 

話始めるナツに向かって、バルカンが迫って来る。

 

 

「ハッピーもリンもウミもホノカも、そして...ルーシィもマキもみんな仲間だ」

 

 

ナツの言葉に、ルーシィとマキは頬を赤らめる。

 

 

「だから...」

 

 

ナツの足元に、魔法陣が展開される。

 

 

「俺はマカオを連れて帰るんだ!!!」

 

 

ナツの右足に炎が纏い、バルカンの腹に蹴りが炸裂する。

 

 

シュボッという肉が焼ける音が、バルカンの腹部から聞こえる。

 

 

ナツの蹴りで吹っ飛んだバルカンは天井に当たり、幾つもの氷柱と一緒に落ちてくる。

 

 

「早くマカオの居場所言わねぇと、黒焦げになるぞ」

 

 

ナツの一言が逆鱗に触れたのか、バルカンは一緒に落ちてきた氷柱を手に取りナツに投げつける。

 

 

「火にはそんなモン効かーん!!!」

 

 

氷柱がナツに当たるが、全て溶けて水に変わってしまう。

 

 

「ウホ」

 

 

その時、バルカンがタウロスの斧を拾い上げる。

 

 

「おっと、それは痛そうだ」

 

「タウロスの斧!!!」

 

 

さっきナツに蹴り飛ばされた時に、タウロスの手から離れたようだった。

 

 

肝心のタウロスは、未だに気絶中だった。

 

 

「ウホッ!!」

 

 

バルカンが横薙ぎする斧を、ナツは後ろに飛ぶ事で回避する。

 

 

その後の猛攻も回避するナツだったが、つるんと足が滑ってしまう。

 

 

「なっ!?」

 

「ナツ!?」

 

 

ドシンと音を立てて倒れたナツに、斧を振り下ろすバルカンを見てルーシィは目を瞑る。

 

 

ガキンッ!!!

 

 

肉を潰す音ではなく、金属通しがぶつかり合う音がルーシィの耳に入った。

 

 

恐る恐る目を開けるルーシィの目に飛び込んできたのは、〈灼爛殲鬼(カマエル)〉でタウロスの斧を受けとめるホノカの姿だった。

 

 

「ホノカ!!」

 

「戦ってるのはナツ君だけじゃないよ!!!」

 

 

ホノカの叫びに反応したのは、今まで黙って見ていたマキだった。

 

 

「えぇその通りよ」

 

 

マキは、両手を前に大きく広げた。

 

 

「――行くわよ!〈破軍歌姫(ガブリエル)〉!」

 

 

次の瞬間、マキの足元に白色の魔法陣が広がった。

 

 

マキの声に呼応するように、その魔法陣の中心部から、何か巨大な金属塊のようなものが地面からせり上がってくる。

 

 

鈍重な本体から銀色の細長い円筒(えんとう)が何本も連なって生えた奇妙なフォルム。

 

 

それはまるで、聖堂などに設えられている巨大なパイプオルガンを思わせた。

 

 

「まさか...マキあなたも!?」

 

「えぇ、私もホノカと同じ女神魔法の使い手、音の女神魔導士よ」

 

 

するとその手の軌跡を辿る様に、虚空に光り輝く鍵盤が現れた。

 

 

「〈破軍歌姫(ガブリエル)〉――【行進曲(マーチ)】!!!」

 

 

そして両手の指を、激しく鍵盤に走らせていく。

 

 

すると洞窟内に、身が奮い立つ力が漲るような、勇ましい曲が響き渡った。

 

 

瞬間――その曲を聴いていたナツ達に力が漲る。

 

 

「これは!?」

 

「力が溢れてくる!!」

 

 

自分達の力が底上げされている事に、ナツ達は驚く。

 

 

「ありがとうマキちゃん!!」

 

 

力が均衡していたバルカンとホノカだったが、マキに強化された事によりそれが覆された。

 

 

灼爛殲鬼(カマエル)〉は、ホノカの動作に合わせて赤い軌跡を残しながら、さらにその輝きを増した。

 

 

「――〈灼爛殲鬼(カマエル)〉!!」

 

 

ホノカは気合を入れる様に言葉を発し、焔の戦斧を凄まじい勢いで前方に振り抜いた。

 

 

風を薙ぐ音が、ルーシィの所にまで響いてくる。

 

 

今の強烈な一撃をタウロスの斧で受け止めたバルカンだったが、受け止められず手からタウロスの斧が離れてしまった。

 

 

「今だよ!!ナツ君!!ウミちゃん!!」

 

「おう!!」

 

「はい!!」

 

 

ホノカの言葉を合図に、ナツとウミがバルカンに迫る。

 

 

「いくぞぉ...火竜の!!!」

 

「水竜の!!!」

 

 

2人の拳が、バルカンの顔面に直撃する。

 

 

『鉄拳!!!!』

 

 

ドゴォン!!!という音を立て吹っ飛んだバルカンは、壁に激突して動かなくなった。

 

 

『決まったー!!!』

 

 

バルカンを倒した事に、ハッピーとリンは大手を上げて喜んだ。

 

 

「あーあ...この猿にマカオさんの居場所聞くんじゃなかったの?」

 

「あ!!そうだった!!」

 

「忘れてた...」

 

 

ルーシィの質問にホノカが声を上げて思い出し、ナツも頭を掻きながらそう呟いた。

 

 

「完全に気絶しちゃってるわよ」

 

 

マキが、壁に逆さまで挟まっているバルカンを覗き込む。

 

 

その時だった、みみみみみと音と共にバルカンの体が光り出す。

 

 

「な..何だ何だ!!?」

 

「何が起こってるの~!!?」

 

 

突如光り出すバルカンに、慌てふためくナツとホノカ。

 

 

白い魔法陣がバルカンの前に展開され、ボゥゥンと音を立てて辺りが煙に包まれる。

 

 

「一体何が...」

 

 

しばらくすると、ナツ達を包んでいた煙が晴れていき、視界が良好になる。

 

 

『なっ!!?』

 

 

煙が晴れた後、ナツ達は自分達の目を疑った。

 

 

なぜなら、先程までバルカンが居た所に中年の男性が同じ格好で倒れていたからだ。

 

 

「マカオ!!?」

 

「えー!!?この人が!!?さっきまでエロザルでしたが!!?」

 

 

バルカンの正体に、ルーシィは声を上げて驚愕する。

 

 

「バルカンに接収(テイクオーバー)されてたんだにゃ!!!」

 

接収(テイクオーバー)!!?」

 

 

リンが言った接収(テイクオーバー)という言葉を知らなかった為、ルーシィが質問する。

 

 

「体を乗っ取る魔法です。バルカンは人間を接収(テイクオーバー)する事で生き繋ぐモンスターだったんですね」

 

 

ルーシィの質問に、ウミが答えた。

 

 

元に戻った事で、バルカンの状態で開けた大穴からマカオは転げ落ちてしまった。

 

 

「あ―――――っ!!!」

 

 

すぐさまナツが駆け寄り、マカオを掴もうとする。

 

 

ナツが動くのと同時に、ハッピーも翼を展開し後を追いかける。

 

 

ナツが身を投げマカオの足を掴み、更にそのナツの足をハッピーが掴む。

 

 

「2人は無理だよっ!!!羽も消えそう!!!」

 

 

「くっそぉおおおっ!!!」

 

 

何とか踏ん張るナツ達を、ルーシィがハッピーの尻尾をがしっと掴み引っ張り上げようとする。

 

 

「ルーシィ!!!」

 

 

「重い..」

 

 

ルーシィの助太刀に喜ぶナツだったが、それでも重すぎて持ち上げる事も出来なかった。

 

 

「大丈夫ですかルーシィ!!」

 

 

「私達も手伝うよ!!」

 

 

ウミ、ホノカ、マキも加勢するが、流石のウミ達も大の大人、しかも男性2人を持ち上げる程のパワーは無かった。

 

 

「リン!!ハッピーと一緒にナツを持ち上げてください!!」

 

「分かったにゃ!!」

 

 

ウミの指示を受け、リンも翼を展開しハッピーとは別の足を持って上へと持ち上げる。

 

 

その時だった。

 

 

ウミ達とは別に、ルーシの体を支える者が現れた。

 

 

「MO大丈夫ですぞ」

 

 

それは、気絶から回復したタウロスだった。

 

 

「タウロス!!!」

 

「牛―――!!!良い奴だったのかぁ―――」

 

 

ルーシィだけでなく、ナツも涙を流しながら喜んだ。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

タウロスの協力で、何とかマカオとナツを引き上げたウミ達はマカオの治療を行っていた。

 

 

医療の知識があるマキが手当をする為に、上着を脱がせ診察を始めた。

 

 

接収(テイクオーバー)される前に、相当激しく戦ったみたいだね」

 

「ヒドイ傷だわ、脇腹の傷が深すぎる...持ってきた応急セットじゃどうにもならないわ」

 

 

全身の打撲もそうだが、脇腹の切り傷が酷く出血が止まらず致命傷になっていた。

 

 

「(てゆーか....これは助からない....)」

 

 

マキが身体を強張らせ、ルーシィもマカオから眼を背ける。

 

 

誰もが助からないと思っていたが、ナツだけは諦めなかった。

 

 

ナツは、ボッっと手に炎を纏い出した。

 

 

「ちょ..」

 

 

マキが何か言い終える前に、炎を脇腹の傷口に当てる。

 

 

「ぐああああっ!!!!」

 

 

マカオの叫び声と、肉を焼くじゅうううううっ!!!!という音が洞窟内に響いた。

 

 

「何してんのよっ!!!!」

 

 

いきなりの出来事に、マキはナツを止めようとする。

 

 

「今はこれしかしてやれねぇ!!!我慢しろよ!!!マカオ!!!」

 

「あぐああっああ!!!」

 

 

あまりの激痛に、マカオは暴れ出す。

 

 

「ウミ!!!ホノカ!!!マカオを押さえろ!!!」

 

 

ウミとホノカはナツの意図に気付き、マカオの体と両足を押さえる。

 

 

そこでようやく、マキもナツの意図に気付いた。

 

 

「(そっか...火傷させて傷口を塞ぐのね!!確かに止血にはなるわ...)」

 

 

「死ぬんじゃねぇぞ!!!ロメオが待ってんだ!!!」

 

「ふがっ、あっ、ぐっ」

 

 

そこでようやく、マカオの意識が戻った。

 

 

「ハァハァ、くそ....な..情けねぇ..、ハァハァ19匹は倒し..たん..だ」

 

『え?』

 

 

マカオの言葉に、ルーシィとマキは我が耳を疑った。

 

 

「うぐぐ..20匹目に.....接収(テイクオーバー)..され...ぐはっ」

 

「わかったから、もう喋んなっ!!!!」

 

「そうだよ!!傷口が開いちゃうよ!!」

 

 

尚も喋ろうとするマカオを、ナツとホノカが止める。

 

 

「(うそ...!?あの猿...一匹じゃなかったの...!!?そんな仕事を1人で....)」

 

 

ルーシィは、マカオが1匹ではなく19匹も倒していた事に驚愕する。

 

 

マキも声が出ない程、驚いている。

 

 

「ムカつくぜ...ちくしょォ..これ..じゃ....ロメオに...会わす顔が..ね....くそっ」

 

「黙れっての!!!殴るぞ!!!」

 

 

涙を流しながら自分を貶すマカオを、ナツが黙らせる。

 

 

その様子をみていたルーシィとマキは、改めて妖精の尻尾の魔導士の凄さを実感する。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

ナツ達の帰りを、夕焼けに包まれながらロメオは家の前で待っていた。

 

 

待っている間ずっと、ロメオはなぜこうなったのか考えていた。

 

 

『何が妖精の尻尾の魔導士だよ!!』

 

『あんなの、酒ばっかり飲んでる腰抜けな奴らばっかじゃん』

 

『俺は大きくなったら、騎士になろうっと』

 

『魔導士は酒くせぇもんね』

 

 

妖精の尻尾を、何より自分の父親を馬鹿にされたのが悔しかったのか、ロメオはマカオに仕事に行くようにお願いする。

 

 

『父ちゃん!!仕事に行ってきてよ!!俺、このままじゃ悔しいよ!!』

 

『良し!!』

 

 

ロメオの話を聞いたマカオは笑顔でそう返事をし、仕事へと向かった。

 

 

ロメオはこのままマカオが帰って来なかったら自分のせいだと考え、涙が止まらなかった。

 

 

「ロメオ―――!!!」

 

 

その時、ロメオを呼ぶ声が聞こえる。

 

 

ロメオが顔を上げた先に見えたのは、ナツに肩を貸して貰いこっちに歩いてくるマカオの姿だった。

 

 

そしてその後ろをウミ達四人が歩いている。

 

 

「あっ...」

 

 

恥ずかしそうに頭を掻くマカオの姿を見たロメオは、目に涙を浮かべマカオに抱き着いた。

 

 

「父ちゃーん」

 

「うおっ!!?」

 

 

受けとめきれなかったマカオは、そのまま地面に倒れてしまった。

 

 

「父ちゃん!!ごめん!!オレ」

 

「心配かけたな、スマネェ」

 

 

泣き出したロメオを、抱きしめるマカオ。

 

 

「いいんだ..俺は魔導士の息子だから....」

 

 

2人の様子を見ていたナツとハッピーは笑顔で見守り、ウミ達は目に涙を浮かべ見守っていた。

 

 

そしてナツ達は、これ以上は親子の邪魔をすると思ってその場を後にした。

 

 

「今度クソガキ共に絡まれたらこう言ってやれ、テメェの親父は怪物19匹倒せんのか!?ってよ」

 

「うん!!」

 

 

マカオの言葉に元気よく返事したロメオは、去っていくナツ達の背中に向かって叫ぶ。

 

 

「ナツ兄―――!!ウミ姉―――!!ホノカ姉―――!!ハッピ―――!!リン―――!!ありがとうぉ――!!」

 

「おー」

 

『あい』

 

 

ロメオの感謝の言葉に、ナツは片手を上げ返事をし、ウミとホノカは手を振る事で返事をする。

 

 

「それと..ルーシィ姉とマキ姉もありがとうぉっ!!!」

 

 

その言葉に、ルーシィとマキも笑顔で手を振った。

 

 

7月4日、晴れのち吹雪のち晴れ。

 

 

妖精の尻尾はめちゃくちゃでぶっとんだギルドだけど、楽しくてあたたかくてやさしくて。

 

 

あたし達はまだまだ新人の魔導士だけど、このギルドが大好きになれそうです。





ナツ「ふぅ...そろそろ仕事に行かないと、金がねぇな」


ホノカ「それだったらこれなんてどう?」


ナツ「ほう?面白そうじゃねぇか...どうせだったらウミやルーシィ達も誘おうぜ!!」


ホノカ「そうだね。あっ!そうだ!明日ルーシィちゃん達の家に遊びに行こうよ!!」


ナツ「おっ!!ナイスアイデアだな!!ホノカ!!」


次回!!『小犬座の精霊』!!


ホノカ「でも...どうやって中に入ろうか?」


ナツ「それはもちろん、窓から侵入するに決まってんだろ」




どうも!!ナツ・ドラグニルです!!


今回、ようやくホノカとマキの魔法が出せました。


その名も『女神魔法』。


安直すぎるかなと思いましたが、他に出てこなかった為にこうなりました。


もし、こっちの方がいいんじゃないですかという、名前のアイデア提供があればよければそっちに変えます。


今回、ホノカが使った〈灼爛殲鬼〉はデート・ア・ライブのキャラの1人、五河琴里が使う天使です。


そして、マキが使う〈破軍歌姫〉は、同じくデート・ア・ライブのキャラの1人、誘宵美久の使う天使です。


最初、ウミ以外のキャラは出す予定は無かったのですが、真姫が原作でピアノを弾いている事から、〈破軍歌姫〉が合う事に気付き、他のメンバーも天使を組み合わせました。


そのせいか、μ’sのメンバーの中で海未だけは最初から滅竜魔導士の設定にしてたので、女神魔導士ではなくなりました


さて、今後の投稿日ですが決まった日に投稿出来るよう、頑張っていきたいと思います。


LOVE TAILを15日に、プリキュアとアクセル・ビルドを1日に。


プリキュアとアクセル・ビルドは難しいかもしれませんが、LOVE TAILの方は毎月15日に投稿していきたいと思います。


これからも、応援の程、宜しくお願いいたします。


それじゃあ、またな!!


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第4話 小犬座の星霊

LOVE TAIL、前回までは!!


ルーシィ「このエロザル!ナツが無事じゃなかったらどーしてくれるのよ!!!」


ウミ「それがホノカの使う〈女神魔法〉、〈焔の女神魔導士〉イフリートのホノカ」


タウロス「ルーシィさん!!!相変わらずいい乳してますなぁ。MOー素敵です」


ナツ「俺はマカオを連れて帰るんだ!!!」


マキ「私もホノカと同じ女神魔法の使い手、音の女神魔導士よ」


リン「バルカンに接収されてたんだにゃ!!!」


マカオ「今度クソガキ共に絡まれたらこう言ってやれ、テメェの親父は怪物19匹倒せんのか!?ってよ」


ロメオ「ルーシィ姉とマキ姉もありがとうぉっ!!!」


 

 

「良いトコ見つかったなぁ」

 

 

ルーシィはお風呂に入りながら、ぐぅ――――っと伸ばして寛いでる。

 

 

「本当ね、これで家賃7万は安いわね」

 

「しかも、私とマキでシェアする訳だから分けたら1人3万5千J!!こんなに良い所は他にないんじゃない!!」

 

 

事情があり、ルーシィとマキはルームシェアという形で一緒に住む事にした。

 

 

「間取りは広いし収納も充実、ちょっとレトロな暖炉に竈までついてる!」

 

 

ルーシィ達はお風呂を上がり、バスタオル一枚で部屋に戻る。

 

 

「そうね、それに何より一番素敵なのは...」

 

 

そう言って2人が部屋に入り、目に飛び込んできたのは...

 

 

「よっ」

 

「やっほー」

 

「お邪魔してます」

 

『あい』

 

 

綺麗に整えられた部屋ではなく、勝手に寛ぎ部屋を汚しているナツ達の姿だった。

 

 

「あたしの部屋―――!!!」

 

「きゃあああああっ!!!」

 

 

人がいるとは思わず、ルーシィはぐもぉっと目を見開いて驚き、マキはバスタオル一枚だった為に体を隠し悲鳴を上げる。

 

 

「何であんた達がいるのよー!!!!」

 

「まわっ」

 

 

突っ込みと共に、ルーシィの後ろ回し蹴りがゴシャっとナツの左頬に炸裂する。

 

 

「だって...ミラから家に決まったって聞いたから...」

 

「聞いたから何!!?勝手に入ってきていい訳!!?」

 

 

何で蹴られたのか分からなかったナツは、部屋に居る理由を話す。

 

 

「ごめんなさいルーシィ、少し驚かそうと思いまして」

 

「少しどころか、驚きすぎて心臓止まるかと思ったわよ!!!」

 

 

謝罪するウミに対して、マキが指摘する。

 

 

「親しき仲にも礼儀ありって言葉知らないの!!?あんた達のした事は不法侵入!!!犯罪よ!!!モラルの欠如もいいトコだわ!!!」

 

「オイ...そりゃあ傷つくぞ..」

 

「傷ついてんのはあたし達の方よ――!!!」

 

 

加害者側であるナツが被害者面してる事に、ルーシィが突っ込みを入れる。

 

 

「良い部屋だね」

 

「キレイだにゃあ」

 

 

ハッピーとリンが部屋の間取りを褒めるが、その間もガリガリと部屋の壁を爪で傷つける。

 

 

「そう思うんだったら、爪研ぐなっ!!!ネコ科動物共!!!」

 

 

我慢が出来なかったのか、爪を研ぐハッピー達にマキが突っ込みを入れる。

 

 

「ん?何だコレ」

 

 

ナツは机の上にある紙の束に気付き、手に取り内容を確認する。

 

 

「はっ!!!ダメェ―――――!!!!」

 

 

ルーシィはしゅぱっとナツが手に持っていた紙を奪い、大事そうに胸元に抱える。

 

 

「なんか気になるな、何だソレ」

 

「面白い物?」

 

 

ルーシィが大事そうに抱える紙の束を、興味津々にナツとホノカが見つめる。

 

 

「何でもいいでしょ!!!てか、もう帰ってよ――っ!!!」

 

「やだよ、遊びに来たんだし」

 

「超勝手!!!」

 

「はぁ...」

 

 

ルーシィはナツの理不尽さに涙を流し、マキは頭に手を置いてため息をつく。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

落ち着いたルーシィとマキはバスタオル一枚の姿から私服に着替え、ナツ達に紅茶を出して持て成す用意をする。

 

 

「まだ引っ越してきたばかりだし、家具も揃ってないのよ。遊ぶモンなんかないんだから、紅茶飲んだら帰ってよね」

 

「残忍な奴だな」

 

『あい』

 

「紅茶飲んで帰れって言っただけで残忍...って..」

 

 

出された紅茶を飲みながら、ウミはナツを注意する。

 

 

「ナツ、いきなり遊びに来たのは私達ですよ。文句を言う権利はありませんよ」

 

「うぐっ」

 

 

ウミに正論を言われ、ナツは黙ってしまう。

 

 

このままだとウミの説教が長くなると思い、ナツが話題を変えようとする。

 

 

「あ...あ、そうだ!ルーシィの持ってる鍵の奴等を全部見せてくれよ」

 

「いやよ!!凄く魔力を消耗するじゃない。それに、鍵の奴じゃなくて星霊よ」

 

「ルーシィちゃんは何人の星霊と契約してるの?」

 

「6体、星霊は1体、2体って数えるの」

 

 

ホノカの質問に、訂正しながら答える。

 

 

ルーシィは鍵の束から銀色の鍵のみを取り出し、机の上に並べる。

 

 

「こっちの銀色の鍵がお店で売ってるやつ、『時計座のホロロギウム』『南十字座のクルックス』『琴座のリラ』」

 

 

そして今度は、残りの金色の鍵を机の上に並べる。

 

 

「こっちの金色の鍵は、黄道十二問っていう門を開ける超レアな鍵『金牛宮のタウロス』『宝瓶宮のアクエリアス』『巨蟹宮のキャンサー』」

 

「巨蟹宮!!!カニかっ!!?」

 

『カニー!!!』

 

「うわー..また訳わかんないトコにくいついてきたし」

 

「意味わかんない...」

 

 

妙な所に食いついてきたナツ達に、ルーシィとマキはあきれ果てる。

 

 

「そーいえば、ハルジオンで買った『小犬座の二コラ』契約するのまだだったわ」

 

 

そこでルーシィは、まだ未契約の鍵がある事を思い出し、椅子から立ち上がる。

 

 

「血判とか押すのかな?」

 

「痛そうだな、ケツ」

 

 

ハッピーの血判という言葉に、ナツはお尻を押さえながら反応する。

 

 

「何故お尻...てか、聞こえてますがぁ?血判とかいらないの、見てて」

 

 

ナツとハッピーの会話に呆れながらも、ルーシィは鍵を構える。

 

 

「我..星霊界との道をつなぐ者、汝...その呼びかけに応え門をくぐれ」

 

 

ルーシィの詠唱と共に鍵の先から鍵穴が出現し、そこから魔力が溢れる。

 

 

「開け小犬座の扉!!二コラ!!!」

 

 

ぽんっと煙と共に、白い体にドリルのような鼻を持った、小さな二足歩行の妖精が現れた。

 

 

『二コラ―!!!!』

 

 

その妖精、『二コラ』の姿を見たナツ達は驚きで目を見開いた。

 

 

すたっと着地する二コラを見て、ナツ達はガタガタと体を震わせながら何とか言葉を絞り出す。

 

 

『ど....どんまい!!』

 

「失敗じゃないわよー!!!」

 

 

見た目から召喚が失敗したと断言したナツとウミだったが、ルーシィが否定する。

 

 

ルーシィは二コラを抱え上げ、頬ずりする。

 

 

「ああん、かわい~ 」

 

「プーン」

 

「そ...そうか?」

 

「まぁ..感性は人それぞれだから...」

 

 

二コラの事を可愛いと思ってないナツ達に、ルーシィは説明を始める。

 

 

「二コラの門はあまり魔力は使わないし、愛玩星霊として人気なのよ」

 

「ナツ~ウミ~人間のエゴが見えるよ~」

 

「リンにも見えるにゃ~」

 

『うむ』

 

 

ナツ達4人がそんなやり取りをしてる間、ルーシィは二コラとの契約を始める。

 

 

「じゃ.......契約にうつるわよ」

 

「ププーン」

 

 

ルーシィの言葉に、二コラはさっと手を上げて返事をする。

 

 

「月曜は?」

 

「プゥ~ウ~ン」

 

 

二コラはふるふると、首を横に振る。

 

 

「火曜」

 

「プン」

 

 

今度はこくんと、首を縦に振る。

 

 

「水曜」

 

「ププーン!!」

 

「木曜も呼んでいいのね 」

 

「地味だな」

 

『あい』

 

 

もっと派手な契約だと思っていたナツ達だったが、実際は思ったより地味な事に驚いた。

 

 

「はいっ!!!契約完了!!!」

 

「ププーン!!!」

 

「随分簡単なんだね」

 

「確かに見た感じはそうだけど、大事な事なのよ。星霊魔導士は契約..すなわち約束事を重要視するの。だからあたしは絶対約束だけは破らない...ってね」

 

『へェー』

 

 

星霊魔導士について力説するルーシィに、ナツ達は感心する。

 

 

「そうだ!!名前決めてあげないとね!!」

 

「二コラじゃないの?」

 

「それは総称でしょ」

 

 

ルーシィは顎に手を当て、うーんと悩む。

 

 

「そうだ!おいで!プルー」

 

『プルぅ?』

 

「なんか語感はかわいいでしょ。ね、プルー」

 

「プーン」

 

 

二コラの名前がプルーと決まった事で、ルーシィもプルー自身も嬉しそうだった。

 

 

「プルーは小犬(・・)座なのにワンワン鳴かないんだ。変なのー」

 

「リンはともかく、あんたもニャーニャー言わないじゃない」

 

 

ハッピーの疑問に、マキが答える。

 

 

そんなやり取りをしていた2人だったが、プルーがルーシィの手から離れ突如謎の踊りを始める。

 

 

「な...何かしら...え~と......」

 

 

プルーが体全体を使って何かを伝えようとしているが、ルーシィには何を伝えようとしてるのか分からなかった。

 

 

「プルー!!!おまえいいコト言うなぁっ!!!!」

 

「それいいねっ!!!」

 

「なんか伝わってるし!!!」

 

 

しかし、ナツとホノカの2人には伝わっており、ナツ、ホノカ、プルーの三人でグッドサインを送り合う。

 

 

「星霊かぁ...。確かに雪山じゃ牛に助けてもらったなぁ」

 

「そうよっ!!あんたはもっと星霊に対して敬意を払いなさい」

 

 

ルーシィがナツにそう注意するが、ナツは座り込んで考え事をしていて聞いていなかった。

 

 

「あん時はルーシィ達が着いてくるとは思わなかった。けど...結果ルーシィ達がいなかったらやばかったって事だよなぁ」

 

 

ナツはルーシィとマキの顔を見て、話を続ける。

 

 

「よ~く考えたらオマエ等、変な奴だけど頼れるし良い奴だ」

 

「コイツに変な奴って言われた!!」

 

「軽くへこむわね」

 

 

ナツに変な奴と言われ、ルーシィとマキは軽くショックを受ける。

 

 

「そっか...」

 

『な....何よ?』

 

 

じ――っとナツに見つめられ、戸惑う2人。

 

 

「ナツ?」

 

「どうしたんですか?」

 

 

首を傾げるウミとハッピーだったが、ナツは決心したかのようにばっと立ち上る。

 

 

「よし!!決めた!!!プルーの提案に賛成だ!!!」

 

 

ナツはこの場にいる全員に対して、ある宣言をする。

 

 

「俺達のチームにルーシィ達を入れよう!!!」

 

『なるほど――っ!!!』

 

「いいですね!!」

 

『チーム?』

 

「あい!!!ギルドのメンバーはみんな仲間だけど、特に仲の良い人同士が集まってチームを結成するんだよ」

 

「1人じゃ難しい依頼もチームでやれば楽になるしね」

 

 

分かっていないルーシィとマキに、ハッピーとリンが説明する。

 

 

「それって...双竜のチームに私達が入るって事!?」

 

「面白そう!!!」

 

 

ナツの提案に、ルーシィとマキは嬉しそうに賛成する。

 

 

「おおおし!!!決定だ――っ!!!」

 

「契約成立ね!」

 

 

そう言うと、ナツとルーシィはパチンッとハイタッチを交わす。

 

 

「ほら、マキも」

 

 

ルーシィとハイタッチを交わしたナツは、マキにもハイタッチを促す。

 

 

「ヴェッ!!え、ええ」

 

 

驚きながらも、マキもナツとハイタッチを交わす。

 

 

「ニシシ」

 

「ふんっ」

 

 

嬉しそうに笑うナツに、マキは顔を逸らして恥ずかしそうに顔を赤くする。

 

 

「さっそく仕事行くぞ!!ホラ!!!もう決めてあるんだ――!!!」

 

 

ナツはテーブルの上に、ばんっと一枚の依頼書を置いた。

 

 

「もう せっかちなんだからぁ~」

 

 

身体をくねくねと動かし、ルーシィは依頼書を手に取る。

 

 

ルーシィが依頼書を手に取った瞬間、ナツとホノカが二ヒヒッと怪しい笑みを浮かべる。

 

 

「シロツメの街かぁ...」

 

 

依頼書の内容を読み上がるルーシィの横で、マキも一緒に覗き込む。

 

 

「うっそ!!!エバルー侯爵って人の屋敷から一冊の本を取って来るだけで...20万J!!!?」

 

「美味しい仕事じゃない!!!」

 

 

報酬金額に興奮するルーシィとマキだったが、依頼書の注意事項が目に入った瞬間ぞぞぞぞと背筋が凍った。

 

 

その注意事項の内容とは...

 

 

※注意 とにかく女好きでスケベで変態!ただいま金髪と赤髪のメイドさん募集中!

 

 

わなわなと震えるルーシィとマキは、ナツ達に視線を向ける。

 

 

「ルーシィは金髪で、マキは赤髪だもんな」

 

「だね!!メイドの格好で忍び込んでもらおーよ」

 

「あんたたち...」

 

「まさか最初から....」

 

 

ナツとホノカのやり取りを聞いた2人は、その時初めて自分達が嵌められた事に気付いた。

 

 

「ハメられた―――っ!!!!」

 

「星霊魔導士は契約を大切にしてるのかぁ...えらいなぁ」

 

「騙したわね!!サイテ――――!!!!」

 

 

ハメられた事にルーシィは頭を抱え泣き叫び、マキは額に血管を浮かせるほど怒鳴り散らす。

 

 

「さあ、行きますよルーシィ、マキ」

 

「メイドなんてイヤよ~っ!!!」

 

 

事の成り行きを見守っていたウミも率先してルーシィ達を連れて行こうとし、それをルーシィが嫌がる。

 

 

「少しは練習しとけば?ホラ...ハッピーとリンちゃんに行ってみてよ『ご主人様』って」

 

「ネコにはイヤ!!!!」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

その頃ギルドでは、クエストボードにエバルーの依頼書がなくなっている事に気付いた者がいた。

 

 

「あれ?エバルー屋敷の1冊20万Jの仕事...誰かに取られちゃった?」

 

 

チームシャドウギアの1人であるレビィが、依頼書が無くなっている事に首を傾げる。

 

 

レビィの疑問に、近くにいたミラが答えた。

 

 

「えぇ...ナツ達がルーシィとマキ誘って行くって」

 

「あ~あ...迷ってたのになぁ...」

 

 

残念がるレビィに、マカロフが話しかける。

 

 

「レビィ...行かなくて良かったかもしれんぞい」

 

「あ!マスター」

 

「その仕事...ちとめんどうな事になってきた。たった今依頼主から連絡があってのう」

 

「キャンセルですか?」

 

「いや...報酬を200万Jにつり上げる...だそうじゃ」

 

「10倍!!?」

 

「本1冊で200万だと!!?」

 

 

その内容に、レビィ達だけでなくギルド内全体がざわつく。

 

 

「な..なぜ急にそんな......」

 

 

普段依頼書を管理しているミラでさえ、驚く内容だった。

 

 

「討伐系の報酬並みじゃねぇか...一体...どうなってんだよ...」

 

「ちィ...おしい仕事逃したな」

 

 

ギルド内が騒然とする中、コトリはグレイがニヤリと笑っている事に気付いた。

 

 

「どうしたの?グレイ君」

 

「いや...面白そうな事になってきたなと思ってな」

 

 

 

 

 

 

一方その頃、シロツメの街に向かう為にナツ達は馬車に乗っていた。

 

 

ガタガタと揺れる馬車の座席で、ナツとウミは苦しそうに座っていた。

 

 

「馬車の乗り心地は如何ですか?御主人様」

 

 

ハメられた腹いせなのか、ルーシィがナツに質問する。

 

 

「め...冥土(メイド)が見える......」

 

「御主人様役はオイラ達だよ!!!」

 

「そうだにゃー!!!」

 

「うるさいネコ!!!」




ルーシィ「ついに初仕事かぁ~、緊張するな~私ちゃんとやれるかしら」


マキ「やれる事をやるだけよ、あまり気を張りすぎるといざという時に失敗するわよ」


ミラ「大丈夫よ、ルーシィ、マキ」


『ミラさん!!』


ミラ「聞いたわよこの間の活躍ぶり、傭兵ゴリラを倒しちゃったって」


ルーシィ「それ...ナツ達だし...」


マキ「それにちょっと間違ってる」


次回!! DAY BREAK(日の出)!!


ミラ「で?ルーシィ達はどんな依頼を受けたの?」


『メイドです』


ミラ「............え?」


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第5話 DAY BREAK(日の出)

これまでの、LOVE TAILは!!


ルーシィ「あたしの部屋―――!!!」

ナツ「ルーシィの持ってる鍵の奴等を全部見せてくれよ」

ルーシィ「開け小犬座の扉!!二コラ!!!」

ナツ「俺達のチームにルーシィ達を入れよう!!!」

ルーシィ「ハメられた―――っ!!!!」


「言ってみれば随分と簡単な仕事よねー」

 

「そうね」

 

 

そこで疑問に思ったリンが、ルーシィとマキに質問する。

 

 

「あれ?嫌がってた割には結構乗り気だね?」

 

「トーゼン!!なんてったってあたし達の初仕事だからね」

 

「えぇ、ビシっと決めるわよ!!」

 

 

ぐっと拳を握り、マキは気合を入れる。

 

 

「要は屋敷に潜入して本を一冊持ってくればいいだけでしょ?」

 

「スケベオヤジの屋敷にね」

 

「そうスケベオヤジ」

 

 

ルーシィはそう言うと、前屈みになって腕で胸を包み、強調する格好をする。

 

 

「こー見えて色気にはちょっと自信あるのよ、うふん♡」

 

「はぁ...」

 

 

ルーシィの行動に、マキはまた始まったとため息をついて呆れる。

 

 

「ネコにはちょっと判断できないです」

 

 

しかしその行為は、ハッピーには意味が無かった。

 

 

「言っとくけどこの仕事...あんたらやる事ないんだから、報酬の取り分2人で5で残りは1ずつよ」

 

「ルーシィ達1でいいの?」

 

「あたしとマキで5よ!!!」

 

 

ハッピーの的外れの発言に、ルーシィは突っ込みを入れる。

 

 

「ちょ..ちょっと待て....俺達..もやる事..ある..」

 

「何よ」

 

「捕まったら助けてやる」

 

「そんなミスしません」

 

「魚釣りでもね、エサは無駄になる事が多いんだよ」

 

「あたし達はエサかいっ!!!!」

 

 

そんなやりとりをしてる間に、ナツ達を乗せた馬車はシロツメの街に到着した。

 

 

『着いた!!!』

 

「馬車には二度と乗らん...」

 

「えぇ...あんなのはもうごめんです」

 

「それいつも言ってるにゃ」

 

 

ルーシィとホノカは街に着いた事に喜び、ナツとウミは馬車に乗った事を後悔していた。

 

 

「取り敢えずハラ減ったな、メシにしよメシ!!」

 

「ご飯を食べるのは賛成ですが、その前にホテルに行きましょう。荷物を置くために」

 

「あたしお腹すいてないんだけどぉ~、アンタ自分の〝火〟食べれば?」

 

 

ルーシィの何気ない一言に、ナツは戦慄する。

 

 

「とんでもねぇ事言うなぁ、お前は自分の〝プルー〟や〝牛〟食うのか?」

 

「食べる訳ないじゃない!!!」

 

「それと同じだよ」

 

「そうですよ、私の水もナツの炎も自分の一部なので食べる事は出来ないんです」

 

「そ...そう?」

 

 

ウミの説明で、ルーシィは自分がとんでもない事を言ったのに気づいた。

 

 

「よーするに自分の火や水は食べられないって事なのね」

 

 

一緒に話を聞いていたマキは、そう考察する。

 

 

「そうだ!あたしとマキはちょっとこの街見てくるから」

 

「はぁ?何よいきなり」

 

 

事前に聞いていなかったのか、マキはなぜ別行動するのか質問する。

 

 

「いいからいいから!!じゃあ、食事は5人でどーぞ」

 

 

ルーシィはそう言うと、マキの背中を押しながら人混みの中に消えて行ってしまった。

 

 

「何だよ...みんなで食った方が楽しいのに」

 

「ねー」

 

『あい』

 

 

ナツの言葉に、ホノカとハッピー達が同意する。

 

 

「何か用事があったのかもしれません、先にホテルに行ってから食事にしましょう」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

ホテルに荷物を置いて来たナツ達は、早速その街にあるレストランに入って食事する。

 

 

「脂っこいのはルーシィとマキに取っておこう」

 

「脂っこいの好きそうだもんね」

 

「おおっ!!!これスゲェ脂っこい!!!」

 

「ナツ...ハッピー...普通女の子は脂っこいお肉を好みませんよ」

 

 

ナツとハッピーの2人によるやり取りに、ウミは頭を抑え呆れ指摘する。

 

 

『えっ!!?そうなの!!?』

 

 

ウミの言葉に、同じようにルーシィ達の為に脂っこい肉を残していたホノカとリンが驚く。

 

 

「ウミの言う通り、あたしがいつ脂好きになったのよ...もう...」

 

 

するとそこに、街を見て回ると言っていたルーシィの声が聞こえた。

 

 

「お!ルー.....シィ?」

 

 

「遅かったね、マ.....キちゃん?」

 

 

横から声が聞こえ、ナツとホノカが同時に言葉を詰まらせた。

 

 

「結局あたし達って何来ても似合っちゃうのよねぇ」

 

「ううぅ...何で私がこんな格好を...」

 

 

なぜならナツ達の目の前に、メイド服に着替えたルーシィとマキの姿があったからだ。

 

 

「お食事はおすみですか?御主人様。まだでしたらごゆっくり召し上がってくださいね♡うふ♡」

 

「な、な、なんなりと、も、も、申しつけください...」

 

 

ルーシィは乗り乗りでメイドに徹し、マキは顔を赤くして恥ずかしそうに台詞を言う。

 

 

その様子を見ていたナツ達は脂汗を掻き、ナツに至っては口の中に入っていたお肉をボロボロと零す。

 

 

そしてナツ達5人は1か所に集まり、ひそひそと話始める。

 

 

「どーしよぉ~!!冗談で言ったのに本気にしちゃってるよ!!メイド作戦」

 

「どうするんですか!!今更冗談なんて言えませんよ」

 

「しょうがねぇ、こ..これでいくか」

 

「聞こえてますがっ!!!?」

 

「ふざけんじゃないわよっ!!!?」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

色々とひと悶着を起こした一同だったが、無事に大きな屋敷の前に到着した。

 

 

「立派な屋敷ね~ここがエバルー屋敷の...」

 

「いいえ、ここは依頼主の方の屋敷です」

 

 

ルーシィの言葉を、ウミが否定する。

 

 

「そっか...本一冊に20万に20万Jも出す人だもんね」

 

「お金持ちなんだぁ」

 

 

マキとホノカがそんな会話をしている間に、ナツはコンコンとドアをノックする。

 

 

すると、ドア越しで声が聞こえた。

 

 

「どちら様で?」

 

「魔導士ギルド、妖精の(フェアリー)

 

 

「!!!しっ!!!静かに!!!」

 

 

ナツがギルド名を名乗ろうとしたその時、急に慌てたような声へと変わる。

 

 

「すみません..裏口から入って頂けますか?」

 

『?』

 

 

意味が良く分からず、首を傾げるナツ達だったが言われた通り、裏口へと回った。

 

 

裏口からナツ達を招き入れたのは、2人の初老の男女だった。

 

 

「先程はとんだ失礼を......私が依頼主のカービィ・メロンです。こっちは私の妻」

 

「うまそうな名前だな」

 

「美味しそう!!」

 

『メロン!』

 

「あなたたち、失礼ですよ」

 

「あはは!よく言われるんですよ」

 

 

ナツ達の失礼な態度にも、眉を寄せる事なく笑って済ませていた。

 

 

「(メロン...この街の名前もそうだけど...どこかで聞いた事あるのよね)」

 

 

メロンという名前に疑問を思っていたルーシィだったが、メロンが話を続ける。

 

 

「まさか噂に名高い妖精の尻尾の魔導士さんが、この仕事を引き受けてくれるなんて....」

 

「そっか?こんなうめぇ仕事よく今まで残ってたなぁって思うけどな」

 

「そうだよね」

 

「(仕事の内容と報酬がつりあってない。きっと、みんな警戒していたのよ)」

 

「しかも、こんなお若いのにさぞ有名な魔導士さんなんでしょうな」

 

「ナツは火竜(サラマンダー)、ウミは水竜(リヴァイアサン)って呼ばれてるんだ」

 

「ホノカちゃんもイフリートって呼ばれてるにゃ」

 

「おお!!その(あざな)なら耳にした事が」

 

 

そして今度は、ルーシィとマキの2人へと視線を変える。

 

 

「....で、こちらは?」

 

「私達も妖精の尻尾の魔導士です!!!」

 

 

メイド服を着ていたせいか魔導士とは思わなかったようで、メロンはじ――――っと2人の見つめる。

 

 

「その服装は趣味か何かで?いえいえ..いいんですがね」

 

「ちょっと帰りたくなってきた」

 

「本当、意味わかんない...」

 

 

メロンにそう言われた事でナツ達が笑いを堪え、ルーシィとマキは早々に帰りたくなった。

 

 

「仕事の話をしましょう」

 

「おし」

 

『あい』

 

 

メロンが仕事の話を切り出した事で、ナツ達は気合を入れる。

 

 

「私の依頼したい事はただ一つ、エバルー公爵の持つこの世に一冊しかない本。日の出(デイ・ブレイク)の破棄又は焼失です」

 

『!!!』

 

 

メロンが伝えた依頼内容に、ナツ達は驚く。

 

 

依頼書には盗んでくると書いていたにも拘らず、メロン自身は破棄又は焼失と言ったのだ。

 

 

疑問に思ったウミが、メロンに質問する。

 

 

「盗って来るのではないのですか?」

 

「実質上、他人の所有物を無断で破棄する訳ですから盗るのと変わりませんがね....」

 

「驚いたなぁ....あたしはてっきり、奪われた本かなんかを取り返してくれって感じの話かと」

 

 

メロンの説明に、同じように驚いていたルーシィもそう呟いた。

 

 

「焼失かぁ...だったら屋敷ごと燃やしちまうか!!」

 

「そうだね!!私とナツ君だったらそれぐらい余裕だからね!!」

 

「楽ちんだね」

 

「何を言ってるんですか!!?そんな事したら確実に牢獄行きですよ!!」

 

 

物騒な事を胸を張って言うナツとホノカに、ウミが突っ込みを入れる。

 

 

「一体..何なんですか?その本は...」

 

「.........」

 

 

ルーシィが質問するが、メロンは黙ったまま何も話さなかった。

 

 

「どーでもいいじゃねーか、20万だぞ20万!!」

 

「いいえ....200万Jお払いします。成功報酬は200万Jです」

 

「ヴェッ!!!?」

 

「にっ!!!?」

 

「ひゃ!!!!」

 

「くぅ!!!?」

 

「まん!!!?」

 

「ジュ!!!!」

 

「エル!!!?」

 

 

報酬が20万だと思っていたナツ達は、200万につり上がった事を始めて聴いて驚きの声を上げる。

 

 

『なんじゃそりゃあああああっ!!!』

 

 

驚きの余り、叫び声を上げるナツとホノカ。

 

 

「おやおや......値上がったのを知らずにおいででしたか」

 

「200万!!!?ちょっと待て!!!7等分すると.................うおおおっ計算できん!!!」

 

「簡単です、私達5人で40万ずつで残りはルーシィ達です」

 

「頭いいなぁ!!!流石ウミ!!!」

 

『残らないわよっ!!!』

 

 

動揺しすぎてる2人のやり取りに、ルーシィとマキが突っ込む。

 

 

「まあまあみなさん落ち着いて」

 

 

動揺するナツ達を、メロンが落ち着かせようと声を掛ける。

 

 

「な..な..何で急にそんな...200万に...」

 

「それだけどうしてもあの本を破棄したいのです。私はあの本の存在が許せない」

 

 

マキの質問に、メロンはどこか悔いる様に吐き捨てる。

 

 

話を聞き終えたナツ達だったが、突如としてナツの顔が燃えだした。

 

 

するとナツは、ルーシィとマキの手を取って部屋を飛び出した。

 

 

「燃えてきたぁ!!!!行くぞルーシィ!!!!マキ!!!!ウミとホノカも着いてこい!!!!」

 

「ちょ....ちょっとォ!!!」

 

「何よいきなり!!!」

 

 

いきなり手を掴まれて走り出したナツに、2人は戸惑い声を上げる。

 

 

「すみません、私達はこれで失礼します」

 

「待ってよぉ~ナツ君!!!」

 

 

走り出したナツ達の後ろを追いかけ、ウミは一言告げて出ていった。

 

 

「あなた..本当にあんな子供達に任せて大丈夫なんですか?」

 

 

ナツ達が完全に出ていったのを確認した妻は、主人に確認する。

 

 

「先週..同じ依頼を別のギルドが一回失敗しています。エバルー公爵からしてみれば未遂とはいえ、自分の屋敷に賊に入られた事になります。警備の強化は当然です、今は屋敷に入る事すら難しくなっているんですよ」

 

「わかっている....あの本だけは..この世から消し去らねばならないのだ」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

依頼主のメロンと同じぐらい大きな屋敷、『エバルー公爵邸』の前にルーシィとマキの姿があった。

 

 

「失礼しまぁす♡金髪と赤髪のメイドさんの募集を見て来ましたぁ♡」

 

「すみませーん誰かいませんかぁ」

 

 

入り口から中に聞こえるように叫ぶ。

 

 

「(ふふ...簡単簡単、エバルー公爵ってのに気に入られればいいんでしょ?後は本を探して燃やして200万、チョロいな)」

 

「(うぅぅぅ....何でこんな目に...)」

 

 

そんな2人の様子を、近くの木に身を潜めナツ達が見守っていた。

 

 

「うまくやれよルーシィ、マキ」

 

「頑張ってください」

 

「ファイトだよ!!」

 

『がんばれ~!』

 

 

ナツ達が応援する中、突如ルーシィ達の足元がボコっと盛り上がる。

 

 

次の瞬間、盛り上がった地面から、何かが出てきた。

 

 

『ひっ』

 

 

ズシィン!!と地響きを立て、ルーシィ達の前に現れたのはゴリラのようなメイドだった。

 

 

「メイド募集?」

 

「うほっ」

 

「ヴぇっ」

 

 

メイドゴリラに驚き、ルーシィ達は変な声を上げる。

 

 

「御主人様!!募集広告を見て来たそうですが――」

 

「うむぅ」

 

 

メイドゴリラは自身が出てきた穴に向かって話しかけると、また別の場所から何かが出てきた。

 

 

「ボヨヨヨヨ~~~~~ン!吾輩を呼んだかね」

 

 

穴から出てきたのは卵体型に変な髪形をしたおっさん、『エバルー公爵』だった。

 

 

『(出た!!!!)』

 

「どれどれ」

 

 

観察するように、エバルー公爵は2人の事を見つめる。

 

 

「宜しくお願いします 」

 

 

じいいいいとジトっと視線で見つめる視線に、2人は鳥肌が立つ。

 

 

「(と....鳥肌が....がんばれあたし!!)」

 

 

脂汗を掻きながら、気持ち悪い視線に耐えるルーシィとマキ。

 

 

しかし。

 

 

「いらん!!帰れブス共」

 

『ブ....』

 

 

まさかブスと言われるとは思いもよらず、2人は言葉を失う。

 

 

「そーゆー事よ、帰んなさいブス共」

 

 

ぐいっと、メイドゴリラに持ち上げられるルーシィとマキ。

 

 

「え....!!?」

 

「ちょ....」

 

「吾輩のような偉~~~~~~~い男には....」

 

 

エバルー公爵の言葉を合図に、4人の影が地面から飛び出してくる。

 

 

「美しい娘しか似合わんのだよ、ボヨヨヨ....」

 

「まぁ、御主人様ったらぁ 」

 

「上手なんだからぁ」

 

「うふ~~ん」

 

「ブスは帰んな!!しっしっ!!」

 

 

メイドゴリラとは別のメイドが4人出てくるが、それはお世辞にも美しいとは言えないブス達ばかりだった。

 

 

「あちゃ―――――――っ!!!」

 

 

思いもよらない出来事に、ルーシィは頭を抱える。

 

 

 

 

 

メイド作戦が失敗に終わり、ナツ達と合流したルーシィ達はメイド服から着替えていた。

 

 

ルーシィ達はブスと言われた事に傷つき、膝を抱えてしくしくと泣いていた。

 

 

「使えぇな」

 

「違うのよ!!!エバルーって奴、美的感覚がちょっと特殊なの!!!!」

 

「そうよ!!!あんたも見たでしょ!!?メイドゴリラ!!!」

 

「言い訳だにゃ」

 

「キィ―――!!!!くやし―――!!!!」

 

 

リンの言葉に、ルーシィは悔しそうに喚く。

 

 

「よし!!こうなったら〝作戦T〟に変更だ!!!」

 

「えぇ!!」

 

「あのオヤジ絶対許さん!!!」

 

 

流石の理不尽さに、ルーシィとマキも気合を入れる。

 

 

「所で〝作戦T〟って何?」

 

「Tは突撃のTだよ」

 

 

ルーシィの質問に、ホノカが答える。

 

 

「それの何処が作戦よ!!」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

屋敷の前でナツ達が作戦を練っている間、ラクリマを通じてエバルーはその様子を見ていた。

 

 

「性懲りもなくまた魔導士どもが来おったわい。しかもあのマーク、今度は妖精の尻尾か」

 

 

エバルーは身体をじっくり見ていた時に、ルーシィの右手の甲にギルドマークがついている事に気付いていた。

 

 

「隠さんトコもマヌケだが、どーせなら美人を連れて来いっての」

 

 

そう愚痴るエバルーの後ろに、守る様に2人の影が立っていた。

 

 

「さーて....今度の魔導士はどうやって殺しちゃおうかね、ボヨヨヨヨヨヨ!!!」





ウミ「エバルーの女性の好みは凄かったですね」

リン「特にメイドゴリラは凄かったゃ」

ウミ「こんな事は言ってはいけないのですが、あの女性達がエバルーに抱きついた時は背中がゾゾゾっと震えました...」


次回!!第6話「潜入せよ!!エバルー屋敷!!」


ウミ「さて気を取り直して、作戦Tを決行しましょう!!」

リン「うん!!燃えてきたにゃ!!」


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第6話 潜入せよ!!エバルー屋敷!!

これまでのLOVE TAILは


ルーシィ「要は屋敷に潜入して本を一冊持ってくればいいだけでしょ?」


ナツ「捕まったら助けてやる」


メロン「成功報酬は200万Jです」


バルゴ「御主人様!!募集広告を見て来たそうですが――」


エバルー「いらん!!帰れブス共」





エバルー公爵邸、上空。

 

 

ハッピーとリンの力を借り、ルーシィとマキは空を飛んでいた。

 

 

「羽......まだ消えないわよね」

 

『あい』

 

「こんな所で消えたら洒落にならないわよ」

 

 

そんなやり取りをしながら、ハッピー達はルーシィ達を屋上のバルコニーへと降ろした。

 

 

「とうちゃ~く」

 

「とーちゃくです」

 

「ありがとうねハッピー、リン」

 

 

先に到着していたナツ達は、中の様子を確認していた。

 

 

ナツとホノカに至っては、べたっと窓に張り付いてじ――――っと覗いていた。

 

 

「なんでこんなコソコソ入らなきゃいけないんだ?」

 

「決まってるじゃない!依頼とはいえ泥棒みたいなモンなんだから」

 

 

ナツとルーシィが言い争いをしている間、ハッピーとリンはすたんっとバルコニーに着地する。

 

 

「作戦Tってのは突撃のTだ」

 

「そうだよ、正面玄関から入って邪魔な奴は全員ぶっ飛ばすんだよ」

 

「ダーメ!!!」

 

「で...本を燃やす」

 

「だから、それじゃダメなの!!!」

 

反論するナツとホノカを、ルーシィが一蹴する。

 

 

「あんたらが今まで盗賊退治やら、怪物退治やら、いくつの仕事をしてきたのか知らないけどね、今回のターゲットは街の権力者!ムカつく変態オヤジでも悪党じゃないのよ」

 

「そうよ、下手な事したら軍が動くわ」

 

「何だよ、オマエラだって『許さん!!』とか言ってたじゃん」

 

 

ナツの言葉に、ルーシィは拳をわなわなと握りながら力強く宣言する。

 

 

「ええ!!!許さないわよ!!!あんなこと言われたし!!!だから本を燃やすついでにあいつの靴とか隠してやるのよっ!!!うふふふふ」

 

「うわ.....小っさ...」

 

「あい...」

 

「ルーシィ...やる事が小さいですよ」

 

 

ルーシィの言っている事が余りにも小さい事だった為に、ナツ達は呆れる。

 

 

「とにかく暴力だけはダメよ、暴力だけはね」

 

『.........』

 

 

ルーシィがナツとホノカの2人に念を押すが、2人は顎を前に出し不貞腐れた態度を取る。

 

 

「何よその顔は!!!」

 

 

2人の顔にムカついたのか、ルーシィは2人の頭をビシィと叩く。

 

 

「お前言ってる事とやってる事違うぞ」

 

 

暴力はダメだと言っておきながら、言った本人が暴力を振るっている事にナツが指摘する。

 

 

話し合いを終えたナツ達は、侵入する為に窓に近付く。

 

 

ナツが窓に手を当てると、じゅうううううっと音を立て始めどろっと窓が溶け始める。

 

 

「よっと」

 

「さすがね火竜」

 

 

溶けた個所から腕を入れて鍵を開けるナツを、ルーシィが褒める。

 

 

中に入ると、色々な物が乱雑に置かれていた。

 

 

「ここは物置か何かかしら?」

 

「人はいないみたいね」

 

「好都合ですね」

 

 

中の様子を確認するルーシィとマキを他所に、ナツ達は遊んでいた。

 

 

『うわぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

ルーシィ達の前に、動く2体の骸骨が現れた。

 

 

「ナツ、ホノカ」

 

「見て見て~」

 

 

動く骸骨の正体は、髑髏を被ったハッピーとリンだった。

 

 

「お!似合ってるぞハッピー、リン」

 

「カッコイイよ」

 

「遊んでる場合じゃありませんよ!!あなた達!!」

 

 

遊んでるナツ達を叱るウミと、ハッピー達に驚かされて腰抜かしているルーシィとマキ。

 

 

「そこの扉から出れそうね、行きましょう!慎重にね」

 

「ねぇ、ルーシィもマキも見てー」

 

「見てにゃー」

 

「うるさい!!ネコ共!!」

 

 

唯一ある扉を指差して部屋を出ようとしているルーシィとマキに、ハッピーとリンが髑髏を見せるがマキに一蹴されてしまう。

 

 

その様子を、狼の装飾がついた水晶が怪しく光っている事も知らずに。

 

 

ギィィィっとゆっくり扉を開け、少しだけ開けた状態でハッピーがキョロキョロと辺りを見渡し誰かいないか確認する。

 

 

「誰もいないよ」

 

「それとりなさいよ」

 

「リンも外しなさい、気味悪いから」

 

 

ハッピーが誰もいない事を報告するが、ルーシィ達はそれよりも被っている髑髏を指摘する。

 

 

ナツ達はコソコソと動きながら、1つ1つ部屋を覗いていく。

 

 

中には部屋一面黄金で、便座にエバルーの顔の装飾がついた悪趣味なトイレもあった。

 

 

「おいルーシィ、まさかこうやって1個1個部屋の中探してくつもりなのか?」

 

「トーゼン!!」

 

「誰か捕まえて、本の場所聞いた方が早いんじゃない?」

 

「あい」

 

「見つからない様に任務を遂行するんですよ、忍者みたいでかっこいいでしょ?」

 

『に....忍者かぁ』

 

 

長年一緒に居るだけはあり、ウミは2人がコソコソ隠れるようにナツとホノカを言い聞かせる。

 

 

「また、変な所に食いついてるし...」

 

 

単純な2人に、マキは呆れる。

 

 

「隠れるのはいいけど、探すなら2手に別れた方がいいんじゃない?」

 

 

ホノカの提案に、ウミが否定する。

 

 

「確かに、探し物をするなら2手に別れた方が効率的ですが、その分見つかりやすいですから...ッ!!?」

 

 

説明をしていたウミだったが、突然辺りを見渡す。

 

 

「どうした?ウミ」

 

「何か来ます!!!」

 

 

ウミがそう叫ぶのと同時に、床がボコッと盛り上がる。

 

 

「侵入者発見!!!」

 

 

ズボォ!!!と大きな音を立て、メイドゴリラ達が床から出てきた。

 

 

「うほぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

『見つかったぁ―――っ!!!』

 

 

いきなり床から現れ、見つかった事に全員驚愕の声を上げる。

 

 

「ハイジョシマス」

 

 

ヴウンと、怪しくメイドゴリラの目が光る。

 

 

しかし、メイド達が動き出すより先にウミが動き出す。

 

 

「水竜の咆哮!!!」

 

 

ウミの口から放たれたブレスが、メイド達を襲う。

 

 

「今です!!ナツ!!」

 

「おおおおっ」

 

 

ナツはばっばっばっばとマフラーで顔を隠し、ウミのブレスを受けてもまだ立っていたメイドゴリラに蹴りを入れる。

 

 

「忍者ぁっ!!!!」

 

「はいいいっ!!!?」

 

 

騒ぎを起こしてはいけないと言ったにも関わらず、派手な攻撃をする2人に驚くルーシィ。

 

 

「まだ見つかる訳にはいかんでござるよ、にんにん」

 

『にんにん』

 

 

忍者っぽい仕草をするナツと、それを真似するホノカとハッピーとリン。

 

 

「普通に騒がしいから....アンタラ....」

 

「いけない!!きっと誰か来るわ!!!どっかの部屋に入りましょ!!」

 

 

騒がしい事に呆れるルーシィと、今の騒ぎで誰か来ると慌てるマキ。

 

 

「来るなら来いでござる」

 

「にんにん!!」

 

『いいから隠れるの!!!』

 

 

迎え撃つ気満々のナツとホノカを、ルーシィとマキが引き摺って移動する。

 

 

「ふぅー危なかったぁ」

 

「いや、アウトよね...」

 

「うぉぉ!!スゲェ数の本でござる!!」

 

「凄ーいでござる!!」

 

『あい!!でござる』

 

 

近くにあった部屋に入ったナツ達だったが、そこは幸運にも幾つもの本が収納されている部屋だった。

 

 

「エバルー公爵って頭悪そうな顔してるわりには蔵書家なのね」

 

「探すぞ―――――っ!!!」

 

「お―――っ!!!」

 

『あいさ―――!!!』

 

「これ全部読んでるとしたら、ちょっと感心しちゃうわね」

 

「うわっ!!!エロいのみっけ!!!」

 

「魚図鑑にゃ!!!」

 

「はぁーこんな中から一冊を見つけるのは、しんどそうですね」

 

「何だこれ!!?字ばっかだな」

 

「目が痛くなってきた...」

 

「ナツ...ホノカ...普通はそうだよ」

 

 

ルーシィ、マキ、ウミの3人が真面目に探してる中、他の4人は遊んでいた。

 

 

「おおおっ!!!金色の本発っけーん!!!」

 

「金ぴかだ―――!!!」

 

『ウパ――――!!!』

 

『アンタら真面目に探しなさいよ!!!』

 

ナツ達が遊んでる事に、ルーシィとマキが指摘する。

 

 

「!!?待ってください!!ナツが持ってるその本!!?」

 

 

ウミに言われ全員がナツの持ってる本を見ると、『DAY BREAK』と書かれていた。

 

 

日の出(デイ・ブレイク)!!!!』

 

「見つかった――っ!!!」

 

「こんなにあっさり見つかっちゃって言い訳!!?」

 

 

思っていたよりもあっさり見つかった事で、全員が驚く。

 

 

「さて燃やすか」

 

「簡単だったね!」

 

 

ナツが手に炎を灯し、本を燃やそうとする。

 

 

「ちょ...ちょっと待って!!!」

 

 

しかし、それをルーシィが止めてナツから本を奪い取る。

 

 

「こ..これ....作者ケム・ザレオンじゃない!!!」

 

「ケム?」

 

「魔導士でありながら、小説家だった人よ」

 

 

持っていた本を上に掲げ、ルーシィは興奮気味に語り出す。

 

 

「あたし大ファンなのよ―――!!!ケム・ザレオンの作品全部読んだ筈なのに―――!!!未発表作って事!!?すごいわ!!」

 

 

興奮するルーシィだが、他の皆はそんなに興味が無い様だった。

 

 

「いいから早く燃やそうぜ」

 

「そうだよ、さっさと仕事終わらせようよ」

 

「何言ってるの!!?これは文化遺産よ!!!燃やすなんてとんでもない!!」

 

「仕事放棄にゃ」

 

「大ファンって言ってるでしょ!!!」

 

「今度は逆ギレですか...」

 

 

話が通じないルーシィに、ナツ達全員が呆れる。

 

 

「じゃあ、燃やしたって事にしといてよ!!!これはあたしが貰うから!!!」

 

 

涙を流しながら後退するルーシィを、手から炎を出すナツがじりじりと詰め寄る。

 

 

「嘘はやだなぁ」

 

「聞いたでしょ!!?この世に一冊って...燃やしちゃったら二度と読めないのよ!!!」

 

 

その時、第3者の声が部屋に響いた。

 

 

「なるほどなるほど、ボヨヨヨヨヨ.....」

 

 

めきっと、床に罅が入った。

 

 

「貴様等の狙いは〝日の出〟だったのか、泳がせておいて正解だった!!吾輩って賢いのうボヨヨヨヨ」

 

 

ボッゴォォォォと盛大な音を立て、床からエバルーが出てきた。

 

 

「ホラ....もたもたしてっから!!!」

 

「もう!!ルーシィのバカァ!!」

 

「ご...ごめん」

 

「(この屋敷の床ってどうなってんだろ)」

 

 

エバルーに見つかった事をナツとマキがルーシィを非難する中、ハッピーは屋敷の床の構造が気になっていた。

 

 

「フン....魔導士共が何を躍起になって探してるかと思えば....そんなくだらん本だったとはねぇ」

 

「!!?くだらん本?」

 

「(依頼主が200万Jも払って破棄したい本.....所有者のエバルーまでもくだらない.....って!!?)」

 

 

そこまで考察したルーシィは、ある結論へ至る。

 

 

「も..もしかしてこの本もらってもいいのかしら?」

 

「いやだね、どんなにくだらん本でも我輩の物は我輩の物」

 

「ケチ」

 

「うるさいブス」

 

 

ブスという言葉に、ルーシィはまた傷つく。

 

 

「燃やしちまえばこっちのモンだ」

 

「ダメ!!!絶対ダメ!!!」

 

 

駄々をこねるルーシィを、ナツが一喝する。

 

 

「ルーシィ!!!仕事だぞ!!!!」

 

 

「じゃ、せめて読ませて!!!!」

 

 

ぺたっとその場に座り込み、ルーシィは本を読み始める。

 

 

『ここでか!!?』

 

 

余りの出来事に、ナツ達だけでなくエバルーまでも突っ込みをいれる。

 

 

「ええい!!!気に食わん!!!偉―――い吾輩の本に手を出すとは!!!来い!!!バニッシュブラザーズ!!!!」

 

 

エバルーのその言葉を合図に、ズズズッと本棚が動き出す。

 

 

『!!!』

 

 

「やっと仕事(ビジネス)の時間か」

 

「仕事もしねぇで金だけもらってちゃあ、ママに叱られちまうぜ」

 

 

動き出した本棚の隠し扉から、2人の男が出てきた。

 

 

「グッドアフタヌーン」

 

「こんなガキ共があの妖精の尻尾の魔導士かい?そりゃあママも驚くぜ」

 

 

2人が腕についているギルドマークに、ハッピーは見覚えがあった。

 

 

「あの紋章!!傭兵ギルド南の狼だよ!!」

 

「こんな奴らを雇ってたのか」

 

「ボヨヨヨ!!!南の狼は常に空腹なのだ!!!覚悟しろよ」

 

 

全員が睨み合う中、その場に場違いな者がいた。

 

 

『おい!!!』

 

 

じぃ―――っと本を読み続けるルーシィに、全員が指摘する。

 

 

「なんとふざけた奴等だ」

 

「これが妖精の尻尾の魔導士か.....」

 

「バニッシュブラザーズよ!!!あの本を奪い返せ!!!そして殺してしまえっ!!!」

 

 

エバルーから本奪還の命令が下される中、ルーシィはある事に気が付いた。

 

 

「ナツ!!!皆!!!少し時間をちょうだい!!!」

 

 

急に立ち上がり、だっと部屋への入り口目掛けて走り出すルーシィ。

 

 

「この本には何か秘密があるみたいなの!!!」

 

「は?」

 

「秘密!!?」

 

 

ル―シィの言葉に、ナツは意味が分からず首を傾げ、エバルーは秘密という言葉に食いつく。

 

 

「ルーシィ!!何処に行くのよ!!」

 

「どっかで読ませて!!!」

 

 

そう言ってル―シィは、その部屋から出て行ってしまった。

 

 

『はぁ!!?』

 

 

急な展開に理解できず、ナツとマキは揃って変な声を出す。

 

 

「(ひ...秘密だと!?わ...我輩が読んだ時は気づかなかった。あ..あいつ(・・・)まさか財宝の地図でも隠したのか!!?)」

 

 

そこまで考察したエバルーは、キュピコーンと目を怪しく光らせる。

 

 

「(こうしてはおれん!!!)作戦変更じゃ!!!あの娘は我輩が自ら捕まえる!!!バニッシュブラザーズよ!!その小僧共を消しておけ!!!」

 

 

エバルーはそう言い残すとギュルルルルと回転し、床の中へと消えていった。

 

 

「やれやれ、身勝手な依頼主は疲れるな」

 

「まったくだ」

 

 

バニッシュブラザーズがそう嘆く中、ナツはぐりんぐりんと肩を回しいつでも動けるように準備運動を始める。

 

 

「めんどくせぇ事になってきたなぁ。ホノカ、お前はハッピー達を連れてルーシィを追ってくれ」

 

「相手は〝南の狼〟2人だよ!!オイラも加勢する!!!」

 

 

ナツの提案に、ハッピーは自分も残ると食い下がる。

 

 

「俺とウミの2人で十分だ」

 

「あ?てめぇ!!!ママに言いつけんぞ!!」

 

「落ち着け..クールダウンだ」

 

 

ナツのその言葉に、ウミは一緒に戦うのが当たり前の様に頼ってくれるナツに嬉しく思い、ホノカは後の事を自分に任せてくれたことに喜ぶ。

 

 

「ナツ!!気を付けてね――」

 

「こっちは任せて!!ナツ君!!」

 

「そっちは頼んだわよ、ナツ!!ウミ!!」

 

「はい!!!」

 

「お―――!!!ルーシィ頼むぞ―――っ!!!」

 

ナツ達にこの場を託し、ホノカ達は部屋から出る。

 

 

来い(カモン)!!!〝火〟の魔導士、〝水〟の魔導士」

 

「ん?何で火と水って知ってんだ?」

 

 

ナツの質問にバニッシュブラザーズの片割れは、フフフと怪しく笑う。

 

 

「全ては監視水晶にて見ていたのだよ」

 

「あの娘は鍵...所有(ホルダー)系星霊魔導士だな、契約数7。空を飛んだ猫は疑うまでもなく能力(アビリティ)系『(エーラ)』」

 

「そして貴様等はガラスを溶かし、バルゴ達を倒す際に足に火を纏い、に口から水を放った....能力系の火の魔導士と水の魔導士と見てまず違いないだろう」

 

 

ちなみに能力(アビリティ)系とは、ナツやウミの様に魔法を身に着けた魔法の事。

 

 

ルーシィの様にアイテムを使う魔法は、所有(ホルダー)系と呼ばれる。

 

 

「しかし...それなら、魔法を使っていないホノカとマキの魔法までは看破できてないみたいですね」

 

「確かに、あの小娘達の魔法は看破できていない。しかしマジックアイテム等を持っていない所を見ると、お前達と同じ能力系と見て間違いないだろう」

 

「よく見てますね...」

 

 

相手が自分達を良く観察している事に、ウミは少し引いた。

 

 

「じゃあ、覚悟は出来てるって事だな!?黒焦げになる」

 

「残念ながら出来てないと言っておこう。なぜなら、火の魔導士は(ミー)の最も得意とする相手だからな」

 

 

そう言って、その男は巨大なフライパンを構えた。

 

 

「ふーん」




ミラ「ボヨヨヨヨヨ~ン!!ミラで~す!!」

マキ「え?ミラさん何それ...」

ミラ「斬新でしょ?FAIRY TAILで流行らせようと思って」

ルーシィ「いや絶対流行らないですって!!」

ミラ「そう?可愛いと思うんだけど...ほら見てルーシィ、マキ。ボヨヨヨヨヨ~ン」

『その動き、イヤ―――!!!』


次回、『魔導士の弱点』


ミラ「皆!!次回もLOVE TAILでボヨヨヨヨヨ~ン」

『なんか寒気が...』



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第7話 魔導士の弱点

これまでのLOVE TAILは


バルゴ「侵入者発見!!」


ナツ「やかましいっ」


ルーシィ「こ..これ....作者ケム・ザレオンじゃない!!!」


エバルー「ボヨヨ~ン!!本は渡さん!!」


ルーシィ「この本には何か秘密があるみたいなの!!!」





 

「どうやら、妖精の尻尾の魔導士は自分達こそが最強か何かと勘違いしているらしい」

 

「まあ確かに、噂は色々聞く。魔導士ギルドとしての地位は認めよう」

 

「...が所詮魔導士」

 

「戦いのプロ、傭兵にはかなわない」

 

 

魔導士を馬鹿にするバニッシュブラザーズに、ナツは炎でCOMEONと文字を作る。

 

 

「だったら早くかかって来い」

 

「2人一緒で構いませんよ」

 

 

馬鹿にしていた魔導士に、逆にナメられたバニッシュブラザーズは顔を顰める。

 

 

「兄ちゃん...マジでコイツラナメてるよ...」

 

「相手の片方は(ミー)の得意な火の魔導士とあっては...簡単(イージー)仕事(ビジネス)になりそうだな」

 

 

バニッシュブラザーズの兄の方が、ナツ目掛けて巨大フライパンを振り下ろす。

 

 

「とう!!!」

 

「おっと」

 

 

兄の攻撃を、ナツはばっと飛び上がり回避する。

 

 

飛び上がったナツを捕まえようと、動こうとした弟の方をウミが遮る。

 

 

「そうはさせません!!水竜の鉄拳!!」

 

 

水を纏ったウミの拳を、弟は腕をクロスする事で受け止める。

 

 

「!!?」

 

 

弟の方は驚愕する、なぜならウミの拳は自身が思っていたよりも重かったからだ。

 

 

ドガァァァァァァン!!

 

 

ウミに殴り飛ばされた弟は、そのまま壁を突き破り廊下へと吹っ飛ばされた。

 

 

「何!?」

 

 

弟が殴り飛ばされた事に、兄は驚愕する。

 

 

「余所見してる場合か?」

 

「しまっ...」

 

 

弟の方に気を取られていたせいで、ナツの接近に気付くのに遅れてしまった。

 

 

本来ならフライパンで炎を吸収する事が出来るが、反応するのが遅すぎた。

 

 

「火竜の鉤爪!!」

 

 

炎を纏った足で、兄に蹴りを放つ。

 

 

バコォォォォォォン

 

 

ナツに蹴り飛ばされた兄は、扉を突き破り廊下へ吹っ飛ぶ。

 

 

ナツとウミが後を追うと、下の廊下に弟の姿があり、兄も回転を利用して勢いを殺し弟の隣に着地する。

 

 

「兄ちゃん...コイツラ思ってたよりやるみたいだぜ」

 

「確かに...最強というのは伊達ではないという事か...」

 

 

バニッシュブラザーズは、自分達の認識が甘かった事を痛感する。

 

 

ここで、兄がナツとウミを見上げながら2人に質問する。

 

 

「貴様らは、魔導士の弱点を知っているかね?」

 

「の...乗り物に弱い事か!!?」

 

「の...乗り物に弱い事ですか!!?」

 

 

兄の質問に、2人は同じ反応をする。

 

 

「よ...よくわからんがそれは個人的な事では?」

 

 

2人の見当違いの答えに、兄は呆れる。

 

 

「弱点とは肉体だ、魔法とは知力と精神力を鍛練せねば身に付かんもの。結果...魔法を得るには肉体の鍛錬は不足する」

 

 

兄が長々と説明する中、ナツとウミはバニッシュブラザーズがいる下の階へと飛び降りた。

 

 

「すなわち...日々身体を鍛えてる我々には〝力〟も〝スピード〟も遠く及ばない」

 

「昔...こんな魔導士がいた。相手の骨を砕く〝呪いの魔法〟を何年もかけて習得した魔導士だ」

 

 

そのバニッシュブラザーズの話を、ナツ達は黙って聞いていた。

 

 

「俺達はその魔導士と向かい合った、そして奴が呪いをかけるより早く...」

 

「一撃だ...逆に骨を砕いてやった。奴の何年もの努力は、たったの一撃で崩れ落ちた。それが魔導士というものだ、魔法がなければ普通の人間並みの力も持ってねぇ」

 

「そう思っていたのだが今の一戦、お前達への認識を改めないといけないな」

 

 

そこで弟が、一気に決着を着ける為に提案する。

 

 

「兄ちゃん..ここは一気にアレで決めよう。合体技だ!!!」

 

「OK!!!」

 

 

弟が跳躍し、兄が持つフライパンの中へと着地する。

 

 

「俺達がなぜ『バニッシュブラザーズ』と呼ばれているか教えてやる!!」

 

「消える、そして消すからだ。ゆくぞ!!」

 

『天地消滅殺法!!!!』

 

 

2人の掛け声を合図に、兄がフライパンで弟を上に放り上げる。

 

 

ナツ達は思わず、上に放り上げられた弟に視線が向いてしまう。

 

 

(うえ)を向いたら(した)にいる!!!」

 

 

上を見上げていたナツは、兄によってばっこぉん!!とフライパンで殴られてしまう。

 

 

「ごあっ」

 

「ナツ!!!」

 

 

殴られたナツ達は、上に弟を居る事を忘れ兄の方を見てしまう。

 

 

(した)を向いたら、(うえ)にいる!!!」

 

 

「きゃあっ」

 

 

弟による上からの攻撃に、ウミはまともに喰らってしまう。

 

 

「相手の視界から味方を消し....敵は必ず消し去る」

 

「これぞバニッシュブラザーズ合体技『天地消滅殺法』!!!!これを喰らって生きてた奴はいな...」

 

 

そこまで言った兄だったが、何にも無かったかのように普通に立ち上がる2人に言葉を失う。

 

 

「生きてた奴は....」

 

「何ですか?」

 

「バ...バカな!!!」

 

「アレを喰らって無事でいる筈が...」

 

 

ケロッとしている2人に、バニッシュブラザーズは流石に動揺する。

 

 

「もういいや、これでふっとべ!!!」

 

 

ばっと構え、ぷくぅと口を膨らませ魔力を溜める。

 

 

「火竜の咆哮!!!!」

 

 

ゴォォォォォォと大きな音を立て、バニッシュブラザーズに向けて炎のブレスが放たれる。

 

 

「来た!!!!火の魔法!!!!」

 

「終わった、対火の魔導士専用....兼、必殺技!!!火の玉料理(フレイムクッキング)!!!!」

 

 

ナツのブレスが、兄のフライパンに収束される。

 

 

「私の平鍋は、全ての炎を吸収し...威力を倍加させ噴き出す!!!!」

 

 

先程ナツが放ったブレスよりも大きくなった炎が、ナツを襲う。

 

 

「妖精の丸焼きだ!!!飢えた狼にはちょうどいい!!!」

 

「炎の魔力が強ければ強い程、自分の身を滅ぼす。グッバイ」

 

 

しかし、2人が目にしたのは炎に焼かれ倒れるナツの姿ではなく、キュルルルルルと音を立て兄が放った炎を食べるナツの姿だった。

 

 

「何!!!?」

 

「ありえねぇ!!!!いくら火の魔導士でも火を食べるなんて!!!?」

 

 

ナツが炎を食べた事に、バニッシュブラザーズは恐怖する。

 

 

「食ったら力が湧いてきた!!!!」

 

 

炎を食べた事で、力が漲って来るナツ。

 

 

「さて、今度は私達の合体技を見せる番ですね。行きますよナツ!!!」

 

「おう!!!」

 

 

ナツとウミが指を絡ませ、魔法を集中させる。

 

 

「なんだ!!?何をするつもりだ」

 

 

本来なら交わる事のないナツの熱い火の力と、ウミの冷たい水の力を融合させ、1つにする。

 

 

「聞いた事がある...本当に息が合った者同士でなければ発動は難しく、生涯を費やしても習得には至らないと言われている」

 

 

ナツとウミが放とうとしている魔法が、以前倒した魔導士のものとは桁が違う事を理解する。

 

 

「別々の魔法を1つにして威力を高める魔法...それが...」

 

 

合体魔法(ユニゾンレイド)

 

 

水炎爆砕迅(すいえんばくさいじん)!!!』

 

 

ナツの爆炎と、ウミの水流が合わさった螺旋状の強烈な一撃がバニッシュブラザーズを襲う。

 

 

「兄ちゃん!!!早く吸収してくれ!!!」

 

「無理だ!!!炎だけならともかく水が合わさった炎など!!!」

 

 

何とかしてくれと弟が頼むが、何も出来ず2人の合体魔法(ユニゾンレイド)が直撃する。

 

 

ドッガァァァァァァン!!!!

 

 

今の一撃で、屋敷全体が揺れて全ての窓が割れる。

 

 

「やべ...」

 

「やりすぎましたね...」

 

 

白目を向き黒焦げとなって積み重なって倒れるバニッシュブラザーズを見て、ナツ達は流石に今の攻撃がオーバーキルだった事に気付く。

 

 

「まぁいいや、さーてルーシィ達探しに行くか」

 

 

もう興味を失くしたのか、ナツ達はルーシィの後を追う為にその場を離れようとする。

 

 

「それにしても、何だったんだコイツラ」

 

「傭兵ですよ」

 

 

そんな話をしていたナツ達だったが、近くに倒れているメイドゴリラの目が怪しく光る。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

場所は変わり、エバルー屋敷の地下水道。

 

 

そこでルーシィが、特殊な眼鏡を使って『DAY BREAK』を読んでいた。

 

 

これは『風読みの眼鏡』、凄い速さで本が読める魔法アイテムだ。

 

 

「ふ――、ま..まさかこんな秘密があった...なんて...」

 

 

本を読み終わったルーシィは、風読みの眼鏡を外し本を閉じる。

 

 

「この本は...燃やせないわ....カービィさんに届けなきゃ....」

 

 

決心して立ち上がるルーシィだったが、突如ズボボっと音を立てて手が出てきた。

 

 

「ボヨヨヨ....風読みの眼鏡を持ち歩いてるとは....主もなかなかの読書家よのう」

 

「やばっ!!!」

 

 

気付いた時には既に遅く、ルーシィは両腕をがしっと拘束されてしまう。

 

 

「さぁ言え、何を見つけた?その本の秘密とは何だ?」

 

「痛っ...!!!」

 

 

ルーシィの腕からギシィと音がなるが、ルーシィは我慢してエバルーに物申す。

 

 

「ア...アンタなんかサイテーよ..文学の敵だわ....」

 




ナツ「よっしゃ!!何とかブラザーズってのも倒したし、後はエバルーってのをぶっ飛ばせば依頼完了だな!!」


ハッピー「ナツ...倒したのはバニッシュブラザーズだし、依頼内容は本の破棄だからエバルー倒しても依頼は完了しないよ」


ナツ「そうか?要はエバルーって奴事、この屋敷を破壊すれば全部解決だろ!!」


ハッピー「そう上手くいけばいいけどね」


次回!!『ルーシィVSエバルー侯爵』


ナツ「良し!!さっさとルーシィ見つけて、この仕事終わらせるぞ!!」


ハッピー「あいさー!!」








はい!!如何だったでしょうか?


まず最初に、投稿が遅くなってしまい申し訳ございません。


1か月経っているのに、投稿していない事に指摘して頂いたグレイド様、本当にありがとうございました。


理由としては、暑さでばてているせいで小説を書く時間がなく、ハピネスチャージがまだ書きあがっておらず、ずっとそっちばかりに気にかけていたので、すっかり忘れていました。


ずっと待って頂いた読者の皆様、本当に申し訳ございませんでした!!


取り敢えず、今後は一週間前に投稿予約するようにして、忘れないようにします。


これからも、応援の程宜しくお願い致します。


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第8話 ルーシィVSエバルー公爵

これまでの、LOVE TAILは!


兄「戦いのプロ、傭兵にはかなわない」


弟「兄ちゃん..ここは一気にアレで決めよう。合体技だ!!!」


『天地消滅殺法!!!!』


ウミ「今度は私達の合体技を見せる番ですね。行きますよナツ!!!」


ナツ「おう!」


『水炎爆砕迅!!!』


ルーシィ「この本は...燃やせないわ....カービィさんに届けなきゃ....」


エバルー「さぁ言え、何を見つけた?その本の秘密とは何だ?」


ルーシィ「ア...アンタなんかサイテーよ..文学の敵だわ....」


 

「文学の敵だと!!?吾輩のような偉~~~~~~くて教養のある人間に対して」

 

「変なメイドつれて喜んでる奴が教養ねぇ...」

 

「我が金髪メイドを愚弄するでないわっ」

 

 

「痛っ、色んな意味で...」

 

 

ルーシィの言葉に怒ったエバルーは、締め付ける手を更に強めた。

 

 

「宝の地図か!?財産の隠し場所か!?その本の中にどんな秘密がある?」

 

 

ルーシィは痛みに耐えながら、捕まった際に落とした鍵を取ろうと、ジリジリと足を少しずつ近づかせる。

 

 

「言え!!!言わんと腕をポッキリとへし折るぞ!!!」

 

 

エバルーはそう脅すが、ルーシィはべ―――っと舌をだして馬鹿にする。

 

 

「むかっ!!調子に乗るでないぞ!!!小娘がぁあ!!!その本は我輩の物だ!!!我輩がケム・ザレオンに書かせたんじゃからな!!本の秘密だって我輩のものなのじゃあっ!!!!」

 

 

そしてとうとう、ボキッという骨が折れる音が地下水道に響く。

 

 

「おおっ!!?」

 

 

しかしそれはルーシィの腕から鳴った音ではなく、推進力を利用したハッピーとリンの蹴りによってエバルーの左腕が折れる音だった。

 

 

「ハッピー!!!リン!!!」

 

 

助けに来てくれた事に、ルーシィは喜びで名前を叫ぶ。

 

 

「ぎゃあぁあぁあっ!!!」

 

 

腕が折れた事で、エバルーは悲鳴を上げる。

 

 

「ナイスカッコイイー 」

 

『にっ』

 

 

ハッピー達はそのままくるくると回転し、ちゃぽんと下水に落下してしまう。

 

 

「おのれ...何だこの猫共は!!」

 

 

折れた腕を抑えながら、エバルーはハッピー達を睨む。

 

 

「ぶく、バッビィべぶる、ぶくぶく」

 

「ぶく、リンべぶ」

 

「『ハッピーです』『リンです』だってさ。てか、アンタラ上がってきなさいよ」

 

『ぶくぶく、びぶ..びぼびいべぶる(水..気持ちいいです)』

 

「下水よ」

 

 

汚い水を気持ちいいと言っているハッピー達に、ルーシィはかなり引いている。

 

 

「形勢逆転ね、この本をあたしにくれるなら許してやってもいいわよ。一発は殴りたいけど....」

 

 

ルーシィは落ちた鍵を拾い上げ、エバルーに突きつける。

 

 

「ほぉう...星霊魔法かボヨヨヨ。だが文学少女のくせに言葉の使い方を間違えておる、形勢逆転とは勢力の優劣状態が逆になる事だ」

 

「間違ってないわよ!!!」

 

 

そこに、更に第3者の声が響く。

 

 

ルーシィが振り向くとそこには、〈破軍歌姫(ガブリエル)〉を展開しているマキと、〈灼爛殲鬼(カマエル)〉を手に持ったホノカの姿があった。

 

 

「伏せてなさい!!ルーシィ!!」

 

 

言われた通り伏せたルーシィは、マキが何をしようとしているのかを理解し、身を縮めて衝撃に備える。

 

 

「〈破軍歌姫〉――【輪舞曲(ロンド)】」

 

 

すると、マキを囲うように、地面から何本もの銀筒が出現し、その先端をマイクのようにマキの方に向けた。

 

 

否、それだけではない。

 

 

地下水道の床の各所にもパイプオルガンの金属管が現れ、エバルーに向けて可変させた。

 

 

「行くわよ」

 

 

マキが身を逸らしながら息を大きく吸い――

 

 

 

 

『―――――――――ッ!!!』

 

 

耳の奥に響くような高音の声を、自分の周囲に立った天使の銀筒目掛けて発する。

 

 

〈破軍歌姫〉の銀筒に高音域の声を通すことで、対となる銀筒から物理的攻撃力を持たせた音波をエバルーにぶつける。

 

 

「猫2匹に女2人が増えたくらいで、我輩の魔法『土潜(ダイバー)』はやぶれんぞ!!」

 

 

しかし、音波が当たる直前エバルーは地面に潜って攻撃を回避する。

 

 

「これ....魔法だったのかぁ」

 

「てことは、エバルーも魔導士!!?」

 

 

ハッピーは今までのエバルーの床を移動する方法が魔法であった事に驚き、リンはエバルー自体が魔導士であったことに驚く。

 

 

「この本に書いてあったわ、内容はエバルーが主人公のひっどい冒険小説だったの」

 

 

地面から本を奪い取ろうと飛び出てきたエバルーを、ルーシィは後ろに飛ぶ事によって回避する。

 

 

「我輩が主人公なのは素晴らしい、しかし内容はクソだ。ケム・ザレオンのくせにこんな駄作書きおって!!けしからんわぁっ!!!」

 

 

上下左右と縦横無尽に動き回るエバルーを、バックステップで避け続けたルーシィだったが背中が柵にぶつかってしまう。

 

 

「無理やり書かせたくせに、何て偉そうなの!!?」

 

「偉そう?」

 

 

手を掛けた柵の上で逆立ちし、飛び出てきたエバルーは柵に激突する。

 

 

「我輩は偉いのじゃ!!!!その我輩の本を書けるなど、物凄く光栄な事なのじゃぞ!!!」

 

「脅迫して書かせたんじゃないっ!!!」

 

「脅迫?」

 

 

脅迫という言葉に、ホノカは疑問符を浮かべる。

 

 

「それが何か?書かぬと言う方が悪いに決まっておる!!!」

 

「なにそれ...」

 

 

エバルーの態度に、マキは嫌悪感を抱く。

 

 

「偉―――いこの我輩を主人公に本を書かせてやると言ったのに、あのバカは断りおった」

 

 

そう言うと、エバルーはもう一度地面に潜る。

 

 

チョロチョロと動き回るせいで、マキは輪舞曲の照準を合わせらず、ホノカは動けないでいた。

 

 

すると、ルーシィ達の後ろに手だけを出したエバルーが喋り出す。

 

 

「だから言ってやったんだ、書かぬと言うなら奴の親族全員の市民権を剥奪するとな」

 

 

意味を理解したハッピーは、声を上げて驚く。

 

 

「市民権剥奪って...そんな事されたら商人ギルドや職人ギルドに加入できないじゃないか!!コイツにそんな権限あるの!?」

 

「封建主義の土地はまだ残ってるのよ、こんな奴でもこの辺りじゃ絶対的な権力をふるってるって訳」

 

 

辺りをキョロキョロと見渡し、何処から出てくるかルーシィは警戒する。

 

 

「けっきょく奴は書いた!!!」

 

「!!」

 

 

足元から出てきた手が、がしっとルーシィの足を掴む。

 

 

「しかし、1度断った事はムカついたから独房で書かせてやったよ!!!ボヨヨヨヨヨヨ!!!やれ作家だ文豪だ...とふんぞり返っている奴の自尊心を砕いてやった!!!」

 

 

ガッガガッと掴まれてる反対の足で、エバルーの手を蹴りつける。

 

 

「自分の欲望の為にそこまでするってどうなのよ!!!独房に監禁されてた3年間!!!彼はどんな想いでいたかわかる!!?」

 

「3年も...!!?」

 

 

3年も監禁されてたと知ったリンは、口を両手で抑えて驚く。

 

 

「我輩の偉大さに気付いたのだ!!!」

 

「違う!!!自分のプライドとの戦いだった!!!書かなければ家族の身が危ない!!!だけどアンタみたいな大バカを主人公にした本なんて...作家としての誇りが許さない!!!」

 

 

そこでマキは、何故ルーシィがそこまで詳しいのか気になった。

 

 

「ちょっとルーシィ、何であんたそこまで詳しく知ってるの?」

 

 

足の拘束を外し、バックステップしたルーシィは『DAY BREAK』を掲げるそう言った。

 

 

「全部、この本に書いてあるからよ」

 

「はぁ?それなら我輩も読んだ。ケム・ザレオンなど登場せんぞ」

 

「もちろん普通に読めばファンもがっかりの駄作よ、でもアンタだって知ってるでしょ?ケム・ザレオンは元々は魔導士」

 

「な....!!!まさか!!!」

 

 

そこまで説明された事で、マキやホノカ、エバルーまでも気が付く。

 

 

「彼は最後の力を振り絞って..この本に魔法をかけた」

 

『おおっ!!!』

 

 

驚きの事実に、ハッピーとリンは声を上げて驚く。

 

 

「魔法を解けば我輩への怨みを綴った文章が現れる仕組みだったのか!!?け..けしからんっ!!!」

 

「発想が貧困ね、確かにこの本が完成するまでの経緯は書かれていたわ。だけど、ケム・ザレオンが残したかった言葉はそんな事じゃない。本当の秘密は別にあるんだから」

 

「な....っ!!!なんだとっ!!!?」

 

 

衝撃の事実に、エバルーは驚愕する。

 

 

「だからこの本はアンタには渡さない!!!てゆーかアンタには持つ資格なし!!!!」

 

 

ルーシィは腰のホルダーの中から、ブレードの先が蟹になってる鍵を取り出す。

 

 

「開け!!!巨蟹宮の扉..キャンサー!!!!」

 

 

星霊界からの門を潜り、頭や背中から蟹のような脚が生えている男が現れる。

 

 

その男の両手には、ハサミが携えていた。

 

 

『蟹キタ――――――!!!』

 

 

最初に話を聞いた時から食いついていた巨蟹宮の星霊が現れた事で、ハッピーとリンのテンションが上がる。

 

 

「絶対語尾に『~カニ』つけるよ!!!」

 

「間違いないにゃ!!!カニだもん!!!」

 

「オイラ知ってるよ〝お約束〟って言うんだ!!」

 

「集中したいの..黙んないと肉球つねるわよ」

 

 

ホノカもハッピー達と一緒にはしゃぎ、それをルーシィは注意する。

 

 

「ルーシィ..マキ..今日はどんな髪型にするエビ?」

 

 

『空気読んでくれるかしら!!?』

 

『エビ―――――――!!!?』

 

 

キャンサーのKYな発言に突っ込みを入れるルーシィとマキ、そしてカニなのにも拘らず語尾がエビだった事に驚くハッピー達。

 

 

「戦闘よ!!!あのヒゲオヤジやっつけちゃって!!!」

 

「OKエビ」

 

 

ルーシィの命令を受けて戦闘に入ろうとするキャンサーだったが、ここでハッピーとリンが空気の読めない発言をする。

 

 

「まさにストレートかと思ったら、フックを食らった感じだね」

 

「うん!!もう帰らせていいにゃ」

 

「あんたらが帰れば」

 

 

3人がそんなやり取りをしている間、エバルーはケム・ザレオンの秘密について考察していた。

 

 

「(ひ...秘密じゃと!!?まだ何か...ま..まさか我輩の事業の数々の裏側でも書きおったか!!?)」

 

 

そこまで考えたエバルーは、冷や汗を流す。

 

 

「(マズイぞ!!!評議員の検証魔導士にそれが渡ったら...我輩は終わりじゃないかっ!!!)ぬぅおぉおぉっ!!!!」

 

 

エバルーは雄叫びを上げると、懐から1本の()を取り出す。

 

 

「開け!!!処女宮の扉!!!!」

 

「え!!?」

 

「ルーシィと同じ魔法!!?」

 

「こいつも星霊魔導士だったの!!?」

 

 

エバルーがルーシィと同じ星霊魔導士だった事に、ルーシィ達は驚愕する。

 

 

「バルゴ!!!!」

 

「うそぉ!!!?」

 

 

門を通ってルーシィ達の前に現れたのは、先程ナツ達に伸されたメイドゴリラだった。

 

 

「お呼びでしょうか?ご主人様」

 

「バルゴ!!!その本を奪えっ!!!!」

 

 

メイドゴリラの正体が星霊である事に、ルーシィは驚きの声を上げる。

 

 

「こいつ..星霊だったの!!!?」

 

「エビ」

 

 

しかし、ルーシィ達はもっと驚く者を目にする。

 

 

「あっ!!!」

 

「あ!!!!」

 

「あ!!!!?」

 

 

ルーシィ達が目にしたのは、バルゴの服を掴んでいるナツと、ナツの腰に腕を回ししっかり捕まっているウミの姿だった。

 

 

「ナツ!!!!」

 

「ウミ!!!!」

 

「お!!?」

 

「ここは!!?」

 

 

自分達が何処にいるのか分かっておらず、混乱するナツとウミ。

 

 

「なぜ貴様等がバルゴと!!!」

 

「あんたら...どうやって...!!?」

 

 

意味が解らず、ナツ達に質問するルーシィ。

 

 

「どう...ってコイツが動き出したから後をつけてきたらいきなり..」

 

「私は...後をつけたナツが一緒に光りだしたので...思わず抱き着いてしまいました...」

 

「訳分かんね――!!!」

 

 

説明されても尚、ルーシィは理解する事が出来なかった。

 

 

「『つけて』って言うか....『つかんで』でしょ!!!」

 

 

がっしりっとバルゴの服を掴んでるナツに、ルーシィは突っ込みを入れる。

 

 

そこでルーシィは、ナツ達がバルゴと一緒に地下水路に現れた経緯を推測する。

 

 

「まさか...人間が星霊界を通過してきたって言うの!!?ありえないって!!!!」

 

 

本来なら、人間が星霊界に入ることは不可能なので、ルーシィは頭を抱える。

 

 

「ルーシィ!!俺は何をすりゃいい!?」

 

「指示してください!!」

 

 

状況が解らないナツ達は、ルーシィに指示を仰ぐ。

 

 

「バルゴ!!!早く邪魔者を一掃しろ!!!」

 

「そいつをどかして!!!」

 

 

エバルーとルーシィが、同時に指示を出す。

 

 

「おう!!!!」

 

「了解!!!!」

 

 

バルゴが動く前に、ナツとウミがバルゴを沈める。

 

 

どりゃあっ!!!!

 

はぁっ!!!!

 

 

ナツの拳とウミの蹴りが、バルゴの顔面に直撃する。

 

 

「ぼふおっ」

 

「なにィ!!」

 

 

最後の砦だったバルゴが倒されて、エバルーは驚きの声を上げる。

 

 

ルーシィが腰に着けている鞭を外し、エバルーを拘束しようとする。

 

 

しかし、それよりも早くマキが動く。

 

 

『―――――――――ッ!!!』

 

 

〈破軍歌姫〉の銀筒はマキの声を幾重にも反響させ、目に見えない手で締め付けるように、エバルーを拘束した。

 

 

「む!?なんだこれは!?」

 

 

エバルーの腕が不自然に歪み、ロープで縛られるかのようにぐぐっと身体に密着する。

 

 

「ナイス!!マキ!!もう地面には逃げられないわよ!!!」

 

 

マキの意図を理解したルーシィは、キャンサーに目配せで合図を送る。

 

 

マキによって拘束されたエバルーは、ルーシィ達の頭上に勢いよく放り出された。

 

 

「アンタなんか..ワキ役でじゅうぶんなのよっ!!!!」

 

「ボギョオ」

 

 

繰り出されたキャンサーのハサミが、エバルーの頭に繰り出される。

 

 

エバルーの唯一あった髪が全て無くなった。

 

 

「お客様...こんな感じでいかがでしょう?」

 

「ははっ」

 

 

キャンサーの活躍に、ナツは笑みを浮かべる。

 

 

「よーし!!最後は私が決めるよ!!」

 

 

既に決着は付いてると言っても過言ではないが、ここまで活躍が無かったホノカがそう宣言する。

 

 

ホノカは〈灼爛殲鬼〉を天高く掲げると、その手を離した。

 

 

すると〈灼爛殲鬼〉の刃が空気に掻き消え、棍部分のみがその場に静止する。

 

 

「〈灼爛殲鬼〉――【(メギド)】」

 

 

ホノカの声に応えるように、刃を失い棍のみになった〈灼爛殲鬼〉が蠢動(しゅんどう)した。

 

 

柄の部分が本体に収納され、ホノカが掲げた右手を包み込むように装着される。

 

 

肘から先を長大な棍に覆われたホノカは、その先端を倒れてるエバルー達に定めた。

 

 

――その姿はまるで、戦艦に備えられた大砲を思わせた。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいホノカ!!!こんな所でそんな技を放ったら!!!」

 

 

ホノカが今から何をするか気づいたウミは、止めるように声を荒げる。

 

 

ウミが止めようとするが時既に遅く、〈灼爛殲鬼〉がその体表を展開させ、赤い光を放っていた。

 

 

そしてホノカの周囲にまとわりついていた焔が、その先端に吸い込まれていった。

 

 

ホノカが、静かに口を開く。

 

 

「――灰燼と化せ、〈灼爛殲鬼〉」

 

 

次の瞬間――ホノカの構えた〈灼爛殲鬼〉から、凄まじい炎熱の奔流が放たれた。

 

 

辺りが一瞬、一足早い夕日に彩られたかのように真っ赤に染まった。

 

 

「きゃあ!!」

 

 

ルーシィは思わず腕で顔を覆った。

 

 

わずかに空気を吸っただけでも、鼻と口から入った熱気が粘膜を灼き、呼吸を阻害する。

 

 

数秒ののち、地下水道を灼く炎熱の光線が段々とその体積を減らしていき――ホノカの右手に装着された大筒が、過酷な作業を終えた機械のように白い煙を勢い良く吐き出した。

 

 

「けほ....っ、けほ......っ」

 

 

軽く咳き込んでからルーシィは視線を上げる。

 

 

視界を覆う煙が晴れ――ルーシィは小さく肩を揺らした。

 

 

地下水道の壁や天井は凄まじい熱に融かされ、下水は全て蒸発し(メギド)の通った後には何も残っていなかった。

 

 

「やるじゃん!!ホノカ!!」

 

「イェーイ!!」

 

 

ナツの言葉に、ホノカはパアン!!とハイタッチを交わす。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

 

「ん?」

 

 

地響きが聞こえ、ナツ達は頭上を見上げる。

 

 

すると、エバルーが空けた穴の罅がどんどん広がっていく。

 

 

先程のホノカの攻撃が止めとなり、地下水道が崩壊を始めた。

 

 

「ま...まさか...」

 

 

嫌な予感が過ったルーシィ達は、外に向かって走り出す。

 

 

「噓でしょ!!?」

 

「急げぇ!!」

 

 

ナツとホノカは笑いながら走り、その後を翼を出したハッピー達が追いかける。

 

 

ウミとマキが険しい顔で走り、ルーシィは涙を流しながら必死で走る。

 

 

「何で私がこんな目に――――!!!」

 

 

ルーシィの叫びが、崩壊し始める地下水道に響いた。

 

 

地下水道を抜け、無事脱出したナツ達は崩れていくエバルーの屋敷を眺めていた。

 

 

「派手にやったなぁ、ルーシィ、マキ。さっすが妖精の尻尾の魔導士だ」

 

「あい、でもまた壊しちゃったね...」

 

「これって私達のせい?」

 

「いや...狭い空間であんな大技を繰り出したホノカのせいですね」

 

「え―――!!!私だけのせい!!?」

 

 

ナツ達が崩れる屋敷を眺める中、バルゴはエバルーを抱えて崩れる地下水道から脱出していた。

 




リン「本も奪えて、エバルーも倒したしこれで依頼達成にゃ!」


ウミ「倒す必要は無かったのですが...それにしても、ルーシィはあの本をどうする気なのでしょう?」


リン「何か秘密があるって言ってたから、その秘密をメロンさんに教えるのかもしれないにゃ!」


次回、DEAR KABY~親愛なるカービィへ~


ウミ「ところで、秘密って何なんですかね」


リン「リンが知るわけないにゃ」


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第9話 DEAR KABY~親愛なるカービィへ~

LOVE TAIL前回までは!!


ルーシィ「DAY BREAKにこんな秘密があったなんて」


ナツ「食ったら力が湧いてきた!!」


バニッシュブラザーズ『ひぃぃぃぃぃぃっ!!!』


双竜『水炎爆砕迅!!!』


「この本はね....エバルー侯爵がケム・ザレオンに無理矢理書かせた、自分が主人公の冒険小説なのね」

 

 

依頼主であるカービィの屋敷に向かう途中、ルーシィはDAY BREAKについて説明する。

 

 

「本当....構成も文体もひどくてとてもじゃないけど、ケム・ザレオンほどの文豪が書いたとは思えなかった。だから秘密があると思ったのこの本にはね」

 

 

説明をするルーシィだったが、ナツ達はその秘密が解らず首を傾げるしかなかった。

 

 

屋敷に戻ってきた一同は、盗んできた本をカービィに渡した。

 

 

「!!」

 

 

渡されたカービィは、手に取った本がまだ破棄されていない事に驚く。

 

 

「こ..これは一体....どういう事ですかな?私は確か破棄してほしいと依頼したハズです」

 

「破棄するのは簡単です、カービィさんにだってできる」

 

「だ..だったら私が破棄します、こんな本..見たくもない!!!」

 

 

その言葉を聞いて、ルーシィは確信した。

 

 

「あなたがなぜ、この本の存在が許せないのか分かりました。父の誇りを守る為です、あなたはケム・ザレオンの息子ですね」

 

「うおっ!!!」

 

「ヴェッ!!?」

 

「嘘!!?」

 

『パパ――――――!!?』

 

 

思わぬ事実に、その場にいたルーシィ以外の全員が驚きの声を上げる。

 

 

「な....なぜ....それを...」

 

 

自身の正体が明かされた事に、カービィは動揺する。

 

 

「この本を読んだ事は?」

 

「いえ..父から聞いただけで読んだ事は..しかし読むまでもありません。駄作だ、父が言っていた」

 

 

話を聞いていたナツは、カービィに質問する。

 

 

「だから燃やすって?」

 

「そうです」

 

 

カービィの返答に、ナツは怒りの形相で詰め寄った。

 

 

「つまんねぇから燃やすってそりゃああんまりじゃねーのか!!?お?」

 

「そうだよ!!お父さんが書いた本でしょ!!!」

 

 

我慢できなかったのか、ホノカもナツと一緒に詰め寄る。

 

 

「ナツ...言ったでしょ!!誇りを守るためだって!!」

 

「ホノカも落ち着いて下さい!!」

 

 

ルーシィがナツを羽交い絞めにし、ウミがホノカの前に立ち止める。

 

 

「ええ..父は〝日の出(デイ・ブレイク)〟を書いた事を恥じていました」

 

 

そしてカービィは、当時の事を思い出しながら父親が帰ってきた時の事を語り始める。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

31年前...

 

 

『遅く....なった..』

 

 

3年ぶりに帰ってきたケム・ザレオンは、ふらっと家に入ってきた。

 

 

『!!父..さん..え..あ..』

 

 

今まで音沙汰も無かった父が急に帰ってきた事に、カービィは驚く。

 

 

『さっ....3年もずっと連絡くれないで.....一体..どこで執筆してたんだよ』

 

 

カービィの質問に答える事無く、ケム・ザレオンは物置の中をガサゴソと漁る。

 

 

ケム・ザレオンはロープを見つけると、右腕の根元をぎゅうときつく結ぶ。

 

 

『私はもう終わりだ、作家をやめる』

 

『ちょ..何を..』

 

 

カービィが止める間もなく、ケム・ザレオンは薪割り用に使っていた斧を手に持つ。

 

 

『2度と本は書かん!!!!』

 

 

そしてケム・ザレオンは、斧を振り上げた。

 

 

『うおおおおっ!!!!』

 

『父さん!!!!』

 

 

カービィの止める声も虚しく、ケム・ザレオンは思い切り斧を振り下ろし、自身の右腕を切り落とした。

 

 

 

 

その後搬送されたケム・ザレオンは、病院に入院した。

 

 

『カービィ....か..』

 

 

お見舞いに来たカービィに気付き、声をかける。

 

 

『ふふ..少し背が伸びたな..』

 

 

久しぶりに見た息子の姿を見て、ケム・ザレオンは笑みを浮かべる。

 

 

『アンタはバカだ...』

 

 

そんなケム・ザレオンとは逆に、カービィは病院にも関わらず大声で責め立てる。

 

 

『3年前....オレは言ったハズだぞっ!!!そんなくだらない本の仕事をしたら絶対後悔するって!!!!』

 

『そうだな..』

 

『なんであんな変態貴族を主人公に本なんか書いたんだ!!!』

 

 

怒鳴るカービィに対し、ケム・ザレオンは淡々と答えた。

 

 

『.........金がよかった......』

 

『最低だよアンタ!!!』

 

『ああ、最低の駄作に仕上がった..』

 

『そんな駄作の為に....3年も家族をほったらかしにしたんだぞ..何考えてんだ』

 

 

カービィの質問に、ケム・ザレオンは慈愛の笑みを浮かべ答える。

 

 

『いつもおまえの事を想っていたよ』

 

 

その言葉が信じられなかったカービィは、さらにまくし立てる。

 

 

『だったら適当に書いて早く帰ってこれただろ!!?アンタは作家の誇りと一緒に家族を捨てたんだ!!!』

 

 

それ以上何も言わず、ただ見つめてくるケム・ザレオンに耐えられず、カービィは踵を返す。

 

 

『作家やめて正解だよ、誇りのない奴にはつとまらない。父親もね』

 

 

そう言い残し、カービィは病室から出て行った。

 

 

ケム・ザレオンが自殺したのは、そのすぐ後だった。

 

 

そんな弱いトコも含めて、死んだ後も彼はケム・ザレオンを憎んでいた。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「しかし、年月が経つにつれ、憎しみは後悔へと変わっていった....私があんな事を言わなければ父は死ななかったかもしれない....と」

 

 

かつての事を悔いるように長々と説明したカービィは、ズボンのポッケからマッチを取り出した。

 

 

「だからね.....せめてもの償いに、父の遺作となったこの駄作を..父の名誉の為、この世から消し去りたいと思ったんです」

 

 

マッチに火を灯したカービィは、その火を本に近づける。

 

 

「これできっと父も.....」

 

「違うんです」

 

 

ルーシィの言葉に、全員が首を傾げる。

 

 

そして、突如としてマッチの火が消えてしまった。

 

 

「始まった!!」

 

 

ルーシィの言葉を合図に、本にカッと魔法陣の光る。

 

 

「え?」

 

『!!』

 

「一体何が..」

 

「な..何だこれは..!!!」

 

 

ルーシィ以外のその場にいる全員が、驚愕する。

 

 

題名のDAY BREAKという文字が浮き上がった。

 

 

「文字が浮かんだ――っ!!!」

 

「まさか魔法っ!!?」

 

 

文字が浮かんだ事にハッピーが驚き、マキが気付いた。

 

 

「そう、ケム・ザレオン..いいえ..本名はゼクア・メロン。彼はこの本に魔法をかけました」

 

「ま....魔法?」

 

 

浮かび上がった文字が、並び替えられ本当のタイトルが現れた。

 

 

「DEAR..KABY!!?」

 

「そう..親愛なるカービィへ。彼のかけた魔法は文字が入れ替わる魔法です。中身も..全てです」

 

 

本が勝手に開き、ペラペラとページがめくられていく。

 

 

そしてその本から、全ての文字が浮かび上がってきた。

 

 

「おおっ!!!」

 

「きれー」

 

 

皆が圧倒される中、ルーシィが説明を続ける。

 

 

「彼が作家をやめた理由は、最低な本を書いてしまった事の他に.....最高の本を書いてしまった事かもしれません..カービィさんへの手紙という最高の本を」

 

「すげぇ!!!」

 

「文字が踊ってるにゃ!!!」

 

 

ナツ達が文字が渦を巻いて本に戻っていく様子に感激する中、カービィは父の言葉を思い出す。

 

 

『いつもおまえの事を想っていたよ』

 

 

あの言葉が本当だった事を、今...痛感する。

 

 

全ての文字が戻っていき、カービィに贈られた本は完成する。

 

 

「それがケム・ザレオンが、本当に残したかった本です」

 

 

カービィは中身も全て変わった本を手に取り、中身を確認する。

 

 

その内容を見たカービィは、涙を流す。

 

 

「私は....父を....理解できて無かったようだ....」

 

「当然です、作家の頭の中が理解出来たら、本を読む楽しみがなくなっちゃう」

 

「父さん...ありがとう、この本は燃やせませんね...」

 

 

カービィは涙を拭いながら、お礼を告げる。

 

 

「じゃあ、俺達も報酬いらねーな」

 

「だね」

 

「え?」

 

「はい?」

 

 

ナツの言葉に、耳を疑うカービィとルーシィ。

 

 

「依頼は『本の破棄』です」

 

「でも、達成してないしね」

 

 

ナツと同じように、報酬はいらないと言うウミとホノカ。

 

 

「い....いや....しかし..そういう訳には....」

 

「ええ..」

 

 

ナツ達の申し出に、戸惑うカービィ夫妻。

 

 

「そ..そうよ..せっかくの好意なんだし..いただいておきましょ」

 

「あ―――!!!ルーシィがめつー!!!」

 

「さっきまでいい事言ってたのに全部チャラにゃ」

 

「それはそれ!!」

 

 

ハッピーとリンの指摘に、くわっと目つきを鋭くし突っ込む。

 

 

「いらねぇモンはいらねぇよ」

 

 

かっかっかっと笑う横で、いる~私欲しい..と涙を流すルーシィ。

 

 

「諦めなさい...ルーシィ」

 

 

今回ばかりはしょうがないと、マキはルーシィの肩に手を置き慰める。

 

 

「かーえろっ、メロンも早く帰れよじぶん家

 

『え!!!』

 

「え?」

 

 

 

☆★☆★☆★

 

月が照らす夜道、依頼を達成し満足げに歩くナツ達とは別に、ただ働きとなってしまいズーン...と落ち込みとぼとぼと歩くルーシィ。

 

 

「信じらんな――い...普通200万チャラにするかしら...」

 

「まぁまぁルーシィちゃん、依頼達成してないのにお金をもらったら妖精の尻尾の名折れだからね」

 

『あい』

 

「ホノカの言うとおりだ」

 

「全部うまくいったんだからいいじゃないのよぉ...てゆうか帰りは歩き?」

 

 

ルーシィはグチグチ文句を言いながら、ナツとウミに教えてもらった事にため息をつく。

 

 

「はぁー...あの人たちお金持ちじゃなかったのかぁ...作家の息子のくせに何でよぉ~」

 

「まぁ、あの家も見栄を張るために友人に借りたって言ってたし...元々200万なんて払えなかったわよ」

 

 

マキの話を聞いて、ルーシィはぶくぅと頬を膨らませる。

 

 

「そんな事しなくても、依頼引き受けたのにね」

 

「どうかな?」

 

 

ハッピーが、ルーシィを疑う目で見る。

 

 

「引き受けたわよっ!!!」

 

「たぶんね」

 

 

休憩の為、ナツが灯した焚火を囲いそこらへんで捕まえたトカゲを焼いて食べるナツ達。

 

 

「てゆーか、アンタら何で家の事気付いたの?」

 

「んぐ、ん?あいつ等のにおいと家の匂いが違った」

 

「だから、あの屋敷があの人達の家ではないと気づきました」

 

「相変わらず凄い嗅覚だね!!二人とも!!」

 

 

ナツ達の嗅覚の鋭さに、ホノカは2人を褒める。

 

 

「あの小説家...実はスゲェ魔導士だよな」

 

「そうですね、30年も昔の魔法が消えてないなんて相当な魔力ですよ」

 

 

ケム・ザレオンを称賛するナツとウミにルーシィが説明する。

 

 

「若い頃は魔導士ギルドにいたみたいだからね、そしてそこでの冒険の数々を小説にしたの」

 

 

今頃、本当の家に帰って本を読んでいるであろうカービィ夫妻の事を思い、説明する。

 

 

「憧れちゃうなぁ~」

 

 

ルーシィのその言葉を聞いたナツは、ニターと笑う。

 

 

「ん?」

 

 

その笑みの意味が解らず、首を傾げるルーシィ。

 

 

「前....ルーシィが隠したアレ..」

 

「うっ!!!」

 

「あ~あ...」

 

 

そこでようやく、ルーシィは笑みの意味を理解した。

 

 

「自分で書いた小説だろ」

 

「やたら本の事詳しい訳だぁ~~~!!」

 

 

ナツ達に自分が小説を書いている事がバレ、ルーシィはかぁ――っと顔が熱くなる。

 

 

「ぜ..絶対他の人には言わないでよ!!」

 

「何で?」

 

「ま..まだヘタクソなの!!読まれたら恥ずかしいでしょ!!!」

 

 

ルーシィは顔を手で覆い、ぶんぶんと顔を横に振る。

 

 

「い...いや...誰も読まねーから」

 

「それはそれでちょっぴり悲しいわ...」

 

 

ナツの戸惑いながらの返答に、ルーシィは再度落ち込んだ。

 

 

「そんな事はないですよルーシィ、私は読んでみたいです。ルーシィが書いた小説」

 

「本当!!?」

 

 

ウミの慰めの言葉に、ルーシィはがばっと顔を上げる。

 

 

「えぇ、本当です」

 

「じゃあ!!完成したら一番に見せてあげる!!」

 

「楽しみにしてますね」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

翌朝、ナツ達の腰辺りまでの深さがある沼地を歩いていた。

 

 

「ちょっとちょっと!!本当にこの道でいいの?と申しております」

 

「ハッピーがこっちって言うんだから、こっちなんだろ?と申しております」

 

 

ホロロギウムの真似をしながら、安全なホロロギウムの中に避難しているルーシィに言う。

 

 

「失礼しちゃうなぁ、オイラはこう見えても猫だよ。猫は鼻が利くんだ」

 

 

同じく、ナツの頭の上に避難しているハッピーが自信満々に言う。

 

 

「それって犬の話じゃないの」

 

「てか、匂いと道って何の関係が?と申しております」

 

 

ハッピーの言葉に、マキとルーシィが突っ込みを入れる。

 

 

「それよりルーシィ、あなたは自分で歩かないんですか?」

 

「あたし疲れた...と申しております」

 

「たくよぉ...」

 

 

ルーシィの言葉に、ナツは呆れる。

 

 

その時だった、近くの茂みがガサガサと音がして何かの気配がする。

 

 

その気配に気づいた全員の目つきが、鋭く変わる。

 

 

「誰だコラッ!!!」

 

 

ナツが背負っていた荷物を放り投げ、茂みに飛び込んだ。

 

 

「喧嘩ぱやっすぎ!!と申しております」

 

「頑張れナツー!!」

 

 

ホロロギウムの中でナツの行動力にルーシィは驚き、ハッピーはナツの応援をする。

 

 

「ん?この匂いは...」

 

「どうしたの?ウミちゃん」

 

 

放り出したナツの荷物を持っているウミは、茂みの中にいる者の匂いが誰の者か気づいた。

 

 

茂みの中からナツと一緒に出てきたのは、パンツ一丁のグレイだった。

 

 

「グレイだにゃ!!」

 

「なんでパンツ!?と申しております」

 

「トイレ探してんだよ!!」

 

「見つける前に何でもう脱いでんだテメェは!!」

 

 

そこで、ナツとグレイの程度の低い争いが始まる。

 

 

「そもそもこんな森にトイレがあるわけねぇ!!」

 

「てめぇこそ人のトイレの邪魔してんじゃねぇぞコラ!!」

 

「レベル低...」

 

「と、申しております」

 

 

二人の争いに呆れるルーシィと、ホロロギウムの真似をするハッピー。

 

 

「あれ?みんなこんな所でなにしてるの?」

 

 

そこに、後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。

 

 

ルーシィ達が振り向くと、そこにはコトリの姿があった。

 

 

「コトリちゃん!!!」

 

 

コトリの姿を見つけたホノカは、がばっと抱き着いた。

 

 

「きゃあっ!!もう..危ないよホノカちゃん」

 

「えへへ、ごめんねぇ」

 

 

急に抱き着かれたことに驚いたコトリは、ホノカを注意する。

 

 

 

 

その後、争いを辞めたナツ達はグレイ達からなぜここにいるのかを聞く。

 

 

「そっか、仕事の帰りなんだ」

 

「マグノリアに戻るには、この森突っ切るのが近道だからな」

 

「ほうらぁ!!ほうらぁ!!ほうらぁ!!」

 

 

自分が正しかったんだと、ハッピーが主張する。

 

 

「鼻が良いって自慢してたのに、グレイの匂い分かんなかったでしょ?アンタ」

 

「コトリならともかく、嗅ぎたくない匂いもあるんだよ」

 

「んだコラぁ!!!」

 

 

ハッピーの発言に、グレイは青筋を浮かべる。

 

 

「うっせぇな、テメェはさっさと1人で帰れ」

 

「当たり前だ、早く帰らないとやばいからな」

 

「何がヤバいの?」

 

 

ルーシィの質問に、グレイはゴクンと唾を飲み込む。

 

 

「もうすぐエルザが帰ってくる」

 

『え゛ぇ!!』

 

「エルザってあの?」

 

「妖精の尻尾最強って言われてる魔導士?」

 

 

グレイの言葉にナツとホノカが変な声を上げ、エルザという聞き覚えのある名前に食いつくルーシィとマキ。

 

 

「凄ーい!!会いたーい!!」

 

 

エルザに会えると知って、ルーシィは興奮する。

 

 

「でも、エルザって雑誌とかに全然写真とかでないけど...どんな人なの?」

 

『怖い』

 

 

マキの質問に、ウミとコトリ以外が即答する。

 

 

『は?』

 

 

思いもよらない回答に、ルーシィとマキは変な声が出る。

 

 

「野獣?」

 

「ケダモノ?」

 

「もはや魔物だね!!」

 

 

ナツ達の言葉でルーシィ達が連想させたのは、火を吐いて町で暴れる巨人だった。

 

 

「そんなに大きくないにゃ」

 

「いや、意外に大きいよ」

 

「怖さという点では、ルーシィ達の想像は外れてねぇ。つか、もっとでけぇかも」

 

 

ルーシィ達は、さらに巨大な山を蹴り飛ばすエルザを想像する。

 

 

「まぁ、こんぐらいはでけぇだろ」

 

「いやぁ...山だったら一蹴りで3個くらいは一辺に吹っ飛ぶんじゃねぇか?」

 

「3個は大げさだよ、2個くらいでどう?」

 

 

ナツとグレイ、そしてホノカの3人はエルザについて説明する。

 

 

「あなた達、エルザに怒られても知りませんよ」

 

「大丈夫だよルーシィちゃん、マキちゃん、怒らせるような事をしなければそんなに恐くないよ」

 

 

好き勝手言うナツ達にウミは呆れ、変な先入観を持ち始めたルーシィ達の誤解を解くコトリ。

 

 

「とにかく、早く帰んないと」

 

「やべぇ!!行こうぜ!!」

 

 

急ごうとする一同だったが、そこに邪魔をする者達が現れる。

 

 

ナツ達に、砂塵が襲う。

 

 

「ぺっぺっ」

 

「魔導士か!?」

 

「ハッピー!!」

 

 

砂まみれになったナツ達だったが、ナツがいち早くハッピーがいない事に気付いた。

 

 

「あい...」

 

 

ハッピーは、今襲ってきた魔導士達に捕まっていた。

 

 

「久々のタンパク質だぜ」

 

「木の実にはもう飽き飽き」

 

 

ハッピーは、魔導士達に食べられそうになっていた。

 

 

「おにく!!」

 

「うまそうだすな」

 

 

自分を食べようとする魔導士達を見て、ハッピーはぷるぷると体を震わせる。

 

 

「あ~らら」

 

「震えてやがるぜ、コイツ」

 

「悪ぃな、怖ぇだろうが俺達の胃袋に入ってもらうぜ」

 

 

しかし、それをハッピーが否定する。

 

 

「違うよ、怖くて震えてるんじゃないよ。おトイレ行きたくなっちゃった」

 

 

ハッピーの言葉に、魔導士達は言葉を失う。

 

 

「漏れちゃうかもしれないよ、そしたらきっと変な味になっちゃうよ」

 

「うるせぇ、やれ」

 

 

リーダー格の奴が、鶏みたいな見た目の魔導士に命令する。

 

 

「おにく!!」

 

 

杖に炎を灯し、ハッピーに近づける。

 

 

「ミディアムで宜しくだす」

 

「ああ...もう駄目かもきっと変な味になっちゃうけどいい?」

 

 

諦めるハッピーだったが、それを止める声が聞こえる。

 

 

「待ちやがれ!!」

 

 

崖の上に、ハッピーを助けに来たナツ達が姿を現す。

 

 

「ハッピー!!大丈夫!!?」

 

 

ハッピーを心配し、リンが声を掛ける。

 

 

「良かっだぁ~!!変な味にならずに済んだぁ~!!」

 

「まだ言うか!!」

 

 

ハッピーの言い訳に、リーダー格の男が突っ込む。

 

 

「そいつは俺らの仲間でなぁ、腹減ってるからって食わせる訳にはいかないんだよ」

 

「お前ら魔導士だな?何処のギルドだ」

 

「関係ねぇ!!やれ!!」

 

 

グレイの質問に答える事無く、魔導士達はナツ達を襲う。

 

 

ナツ達も迎え撃とうと、構える。

 

 

「ハッピー君は返してもらうよ!!」

 

 

コトリがバッと右手を上げたかと思うと、それを真下に振り下ろした。

 

 

「凍てつかせ..<氷結傀儡(ザドキエル)>!!」

 

 

瞬間――コトリの足元に青い魔法陣が出現し、中から巨大な人形が現れる。

 

 

全長3メートルはあろうかという、ずんぐりとしたぬいぐるみのようなフォルムの人形である。

 

 

体表は金属のように滑らかで、所々に白い文様が刻まれていた。

 

 

そしてその頭部と思しき箇所には、長いウサギのような耳が見受けられる。

 

 

「な.....!?」

 

「まさかあれって!?」

 

 

その魔法の正体に気付いたルーシィとマキは、同時に声を発する。

 

 

「そう...コトリもあなた達と同じ女神魔導士なんです」

 

「氷の女神魔導士、『ハーミット』のコトリ。それがコトリちゃんの通り名だよ」

 

 

驚く2人に、ウミとホノカが説明する。

 

 

コトリは、自分の足元から出現した人形の背にぴたりと張り付くと、その背にあいていた2つの穴に両手を差し入れた。

 

 

次の瞬間――人形の目が赤く輝き、その鈍重そうな体躯を震わせながら、グゥォォオオオオオオオオォォォォ――と、低い咆哮を上げる。

 

 

それに合わせて、人形の全身から白い煙のようなものが吐き出された。

 

 

「冷た......ッ!?」

 

 

ルーシィは、思わず足を引っ込めてしまう。

 

 

その煙は、まるで液体窒素から発せられているもののように、非常に低温であったのだ。

 

 

「行くぞグレイ」

 

「俺に指図すんな」

 

 

恐らく双子であろう魔導士達の攻撃を避けるナツと、鶏男の攻撃を華麗に避けるグレイ。

 

 

「食らえサンドボム!!」

 

 

リーダー格の男が地面に拳を叩きつけると、回避したナツの目の前に球状の巨大な砂嵐が現れる。

 

 

「ぐあっ!!?」

 

 

ナツはそのまま、砂嵐の中へと入ってしまった。

 

 

『ナツ!!?』

 

 

捕らわれたナツを心配する、ルーシィとマキ。

 

 

「構うな、それよりもハッピーを頼む」

 

「うん」

 

「分かったわ」

 

 

グレイの指示で、ルーシィ達はハッピーを助ける事を優先する。

 

 

『はぁぁぁぁぁ!!』

 

 

武器を持った双子の攻撃を、グレイは魔法も使わずに倒した。

 

 

「わぁ~ルーシィとマキに食べられるぅ~」

 

『うるさいネコ』

 

 

棒読み過ぎるハッピーの言葉に、ルーシィとマキは突っ込みを入れる。

 

 

しかし、その二人に近づく影があった。

 

 

「きゃあああっ」

 

「ちっ」

 

 

杖に炎を灯した鶏男が立っている事に気付いたルーシィは悲鳴を上げ、マキは破軍歌姫の召喚に間に合わない事に舌打ちを打つ。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

しかし、それを氷結傀儡を使って体当りしたコトリによって、2人は助けられた。

 

 

「ジャストミート...」

 

 

鶏男はそのまま地面に倒れ、動かなくなった。

 

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 

魔力が込められた水晶を持った魔導士が、グレイに向かって雄叫びを上げる。

 

 

直ぐに自分に向けた攻撃だと気づいたグレイは、いつ攻撃が来てもいいように構える。

 

 

 

 

 

しかし...

 

 

 

 

「待ち人来るだす、水難の相と女難の相が出てるだす」

 

「占いかよ!!?」

 

 

只の占いに、グレイは額に血管が浮き上がる。

 

 

「うぜぇ!!!」

 

 

グレイの肘鉄が、魔導士の顎に命中した。

 

 

「魔法も使わずに...凄い...」

 

 

魔法を一切使わず、相手の魔導士達を倒すグレイを感心するルーシィ。

 

 

「つか、服!!」

 

「うおっ!!?」

 

 

いつのまにかパンツ一丁になってるグレイに、指摘するマキ。

 

 

「何者だこいつら?」

 

 

グレイ達の強さに、驚くリーダー格の男。

 

 

しかし、次の瞬間ナツを閉じ込めていた砂嵐が爆発した。

 

 

砂嵐から脱出したナツは、リーダー格の男の前に着地した。

 

 

「ゲロヤバッ!!」

 

「てめぇ...人の口の中じゃりじゃりさせてんじゃねぇよ!!」

 

 

そう言って、ナツは口の中の砂をプッと吐き出した。

 

 

「行くぜ!!」

 

 

ナツは拳を打ち付けると、赤い魔法陣が出現する。

 

 

「火竜の鉄拳!!」

 

 

炎を灯したナツの拳が、リーダー格の男に繰り出される。

 

 

「ぷぎゃあ!!?」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

ナツがリーダー格の男を倒した事により、魔導士達は全員捕まえる事が出来た。

 

 

逃げられないように、全員をロープで木に縛り付ける。

 

 

「雑魚相手にマジになってんじゃねぇよ」

 

「てめぇその口燃やしてやろうか?」

 

 

一件落着した事により、またナツ達のレベルの低い言い争いが始まる。

 

 

「燃えねぇよ、テメェのぬるい火じゃな!!」

 

「あぁ!!?デカパン!!」

 

「ツンツン頭!!」

 

 

そんなナツ達を放置する事にしたルーシィ達は、魔導士達に話を聞こうとする。

 

 

「らら..」

 

「え?」

 

 

その時、リーダー格の男が何かを呟いたのをマキは聞いた。

 

 

「らら...ばい..が..」

 

「あ?」

 

「ららばい?」

 

 

言い争いをしていたナツ達も、その呟きが聞こえたのか一緒に首を傾げる。

 

 

『危ない!!』

 

 

その時だった、何かの気配に気づいたハッピーとリンが、みんなを突き飛ばす。

 

 

「ヒィ!!?」

 

 

手の形をした影が、魔導士達の下に現れた。

 

 

次の瞬間――魔導士達は木の根元ごと地面に飲み込まれてしまった。

 

 

影も一瞬にしていなくなってしまった。

 

 

「何あれ!?」

 

「誰だ?」

 

 

突然の襲撃に、驚くナツ達。

 

 

「もう気配が消えています...」

 

「めちゃくちゃ逃げ足の速い奴だ」

 

 

既に襲撃者の気配が消えている事に、いち早く気付いたウミとグレイ。

 

 

「何なのよ...意味わかんない...」

 

「ららばい...」

 

 

動揺するマキと、ららばいという言葉に聞き覚えがあるが思い出せないルーシィ。

 

 

 

 

 

 

ナツ達が襲撃者を取り逃した同時刻。

 

 

マグノリアの街中を、巨大な角を片手で持っている女性が歩いていた。

 

 

その特徴は、鎧を身に纏い緋色の髪をした女性だった。

 




ルーシィ「うぅぅぅぅ...せっかく頑張ったのにただ働きなんて...」


マキ「いつまでもウジウジしてんじゃないわよ」


ミラ「でも、すごく感謝されてたみたいだし、報酬は次の仕事で頑張ればいいじゃない」


ルーシィ「そうですよね」


ミラ「うふ、で?次はどんな格好で働くの?」


『なんか誤解されてるっ!!?』



次回、『鎧の魔導士』


ルーシィ「だから私は趣味で着てるんじゃなくて...」


ミラ「メイドってきたら、バニーか水着がセオリーよね」


マキ「だから、人の話を聞いて~」


如何だったでしょうか?


最後のグレイ達と合流し、魔導士達と戦うのは漫画にはないアニメオリジナルの話だったのですが、グレイの占いで出た《水難の相》と《女難の相》って間違いなくジュビアの事ですよね...


この時から伏線があった事に驚きです。


ここでようやくプロローグが終わり、次回から鉄の森編に入ります。


言うて、既に5話分のストック出来てるんですけどね...


もう少し、ストックが増えたら月一ではなく、月二回の投稿に変えようと思います。


まぁ、来月には試しに10日と20日に投稿してみようと思いますが...


投稿が間に合わなくなってきたら、また月一に戻るかもしれません。


また、この作品に限らず、私の書いている他の作品にも言える事なんですが、小説を書くのに集中しすぎて、感想を送っていただいたにも関わらず、返せていない読者の方々、本当にすみません。


返したつもりだったんですが、全く返していない事に気づきました。


これからは気を付けます。


それでは次回、第10話、もしくはベストマッチな加速能力者第9話でお会いしましょう!!


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鉄の森編
第10話 鎧の魔導士


LOVE TAIL、前回までは


ミラ「ようこそ妖精の尻尾へ」


ナツ「うおらぁぁぁっ」


ルーシィ「なんで!?」


グレイ「やんのかコラァ」


マキ「これが妖精の尻尾の魔導士...」


グレイ「エルザが帰ってくる」


ナツ「エルザ!?」


マキ「エルザって?」


ウミ「妖精の尻尾最強の魔導士です」


ハッピー「捕まりました」


『ハッピー返せ!!』


ナツ「んだ?意味分かんねぇ」


ルーシィ「ララバイ?」


がやがやと騒ぐ、ギルドの中。

 

 

「ミラちゃ~ん!!こっちビール3つお願ーい!!」

 

 

「はいはーい!!」

 

 

ウエイトレスとして働いているミラは、元気よく返事する。

 

 

「今度デートしてよ、ミラちゃ~ん」

 

「また始まった」

 

 

リーゼント頭に糸目、そして加えているパイプが特徴の魔導士『ワカバ』がミラを口説こうとする。

 

 

その様子を、眼鏡に頭の大きな赤いリボンが特徴の『ラキ』が呆れる。

 

 

「あら、だってあなた」

 

 

ミラが指パッチンすると、ピンクの魔法陣が顔の前に現れる。

 

 

「奥さんいるでしょ?」

 

 

ミラの顔が一瞬にして別人の顔になり、ふくよかな女性の顔へと変わる。

 

 

「やめてくれよミラちゃん!!」

 

「あははははっ!!!」

 

 

ワカバは自分の嫁の顔に変わったミラを本気で嫌がり、ラキはその様子を笑ってみていた。

 

 

「たまには静かに飲みたいわ」

 

「お前は飲みすぎ...」

 

 

そしてその様子を酒を飲みながらそう呟くカナだったが、それをマカオが指摘する。

 

 

近くのテーブルではナツが突っ伏していた

 

 

「そろそろ仕事しないとな...」

 

「あい!!食費が無くなるよ」

 

「200万J...やっぱもったいなかった...」

 

「あんたまだ言ってるの?」

 

 

前回の初仕事の報酬が無くなった事に嘆くルーシィと、それを呆れるように見るマキ。

 

 

「そういえば、今月の家賃危ないわ!!私も仕事しなきゃ!!」

 

 

ルーシィはマキを引き連れ、リクエストボードの前でクエストを探す。

 

 

「う~ん..〝魔法の腕輪探し〟に〝呪われた杖の魔法解除(ディスペル)〟」

 

「それに、〝占星術で恋占い希望〟!?〝火山の悪魔退治!!?〟」

 

 

色々貼られているクエストに、ルーシィ達は驚く。

 

 

「へぇー....魔導士への依頼っていろいろあるんだなぁ...」

 

 

ルーシィの呟きに、近くのカウンターに立っているミラが反応する。

 

 

「気に入った仕事があったら私に言ってね、今はマスターいないから」

 

 

ミラのその言葉で、いつもミラの横に座っているマスターの姿がない事にルーシィ達は気付いた。

 

 

「あれ?本当だ」

 

「定例会があるから、しばらくはいないのよぉ」

 

 

定例会という知らない単語に、マキが食いつく。

 

 

「定例会?」

 

「地方のギルドマスター達が集って、定期報告をする会よ。評議会とは違うんだけど......う~ん...ちょっとわかりづらいかなぁ?リーダス、光筆(ヒカリペン)貸してくれる?」

 

 

ミラは、近くに座っていた太った魔導士『リーダス』に話しかける。

 

 

「ウィ」

 

 

リーダスはそう返事すると、一つのペンを取り出しミラに渡す。

 

 

光筆(ひかりぺん)、空中に文字が書ける魔法アイテムだ。

 

 

「魔法界で一番偉いのは、政府とのつながりもある評議員の10人」

 

 

ルーシィ達に解りやすく説明するために、光筆で『魔法評議員』と書いていく。

 

 

「魔法界における、すべての秩序を守る為に存在するの。犯罪を犯した魔導士を、この機関で裁く事も出来るのよ」

 

 

魔法評議員の下に、『地方ギルドマスター連盟』と書いてその下にさらに『ギルド』と書いていく。

 

 

「その下にいるのが、ギルドマスター評議会での決定事項などを通達したり、各地方ギルド同士の意思伝達(コミュニケーション)を円滑にしたり、私達をまとめたり......まぁ...大変な仕事よねぇ」

 

「知らなかったなぁー、ギルド同士のつながりがあったなんて」

 

「ギルド同士の連携は大切なのよ、これをおそまつにしてると....ね」

 

「黒い奴等が来るぞォォォ」

 

 

ミラがその続きを、ルーシィ達に話すより先にナツが指先に炎を灯し怖い演出を作り、2人の後ろで怖い声を上げる。

 

 

『ひいいいっ!!!!』

 

 

ナツの脅かしに、2人はゾクッと背筋を震わし悲鳴を上げる。

 

 

「うひゃひゃひゃひゃっ!!!『ひいい』だってよ、なーにビビッてんだよ」

 

「もォ!!!おどかさないでよォ!!!」

 

 

驚かされた事に、マキは息を荒くしてナツに怒鳴る。

 

 

「ビビりルーシィ、略してビリィーだね」

 

「変な略称つけんなっ!!!」

 

 

ルーシィはハッピーにいじられ、突っ込みを入れる。

 

 

「でも、黒い奴らは本当にいるのよ」

 

 

ミラはさらに、『闇ギルド』と先程の一覧の中に書き加え、ルーシィ達に注意する。

 

 

「連盟に属さないギルドの事、時には犯罪にも手を染める悪質な連中を闇ギルドって呼んでるの」

 

「へー」

 

「あいつ等法律無視だからおっかねーんだ」

 

「あい」

 

「じゃあ、いつかアンタにもスカウト来そうね」

 

 

ナツの説明に、マキはナツがよく物を壊す事で闇ギルドからスカウトされると指摘する。

 

 

「つーか早く仕事選べよ」

 

「何でアンタに、そんな事言われなきゃなんないわけ?」

 

 

ルーシィの質問に、ナツはだって俺達チームだろ?と返す。

 

 

「前は私達が勝手に決めてしまいましたからね、今度はルーシィ達の番ですよ」

 

「冗談!!!チームなんて解消に決まってるでしょ」

 

 

近づいてきたウミが説明するが、ルーシィはぷいっとナツ達に背を向ける。

 

 

「何で?」

 

「あい」

 

 

拒絶するルーシィに、ホノカとリンは首を傾げる。

 

 

「だいたい、金髪と赤髪の女だったら誰でも良かったんでしょ!!」

 

 

ルーシィは自分の髪を指さし、ナツに質問する。

 

 

「何言ってんだ..その通りだ」

 

「ホラ――――!!!」

 

 

予想通りの事を言ったナツに、ルーシィは声を荒らげる。

 

 

「でも、ルーシィ達を選んだんだ。いい奴だから」

 

 

ナツのその言葉に、先程まで怒っていたルーシィは頬を赤くし、マキは真っ赤になって照れ隠しに「意味わかんない」って言いながら髪を指でくるくるさせる。

 

 

「なーに、無理にチームなんか決める事ァねぇ」

 

 

ナツ達のやりとりみていたグレイが、声を掛ける。

 

 

「聞いたぜ、大活躍だってなきっとイヤってほど誘いがくる」

 

「ルーシィ....マキ....僕と愛のチームを結成しないかい?今夜三人で」

 

「イヤ..」

 

「お断りします」

 

「な?」

 

 

グレイの説明するのと同時に、ロキがルーシィとマキにチームになろうと勧誘してくるが、二人は即断った。

 

 

「傭兵ギルド南の狼の二人と、ゴリラみてーな女やっつけたんだろ?その余波で屋敷を崩壊させたみたいじゃねーか、すげーや実際」

 

「そ...それ全部ナツとウミ」

 

「屋敷に止め刺したのはホノカだけどね」

 

 

ルーシィとマキの話を聞いたグレイは、ナツに突っかかる。

 

 

「てめぇか、このヤロォ!!!」

 

「文句あっか、おぉ!!?」

 

 

ケンカを始めるナツ達だったが、ミラがある事をグレイに指摘する。

 

 

「グレイ......服」

 

「ああああっまた忘れたぁっ」

 

「うぜェ」

 

 

また服を着てない事に気付いたグレイは、頭を抱え驚く。

 

 

しかし、ナツのボソッと呟いた言葉が引き金となり、またケンカが始まる。

 

 

「今うぜぇつったかクソ炎!!!」

 

「超うぜぇよ変態野郎!!!」

 

「鳥頭!!!」

 

「サラサラ野郎!!!」

 

「暑苦しいんだよ!!!」

 

「くせぇんだよ!!!」

 

「はぁ...また始まってしまいました」

 

 

二人がケンカを始めた事に、頭を抱えるウミ。

 

 

「ねー」

 

『何が!!?』

 

 

ナツ達が取っ組み合いで地面をゴロゴロ転がっている間、ロキは懲りずにルーシィ達を口説こうとする。

 

 

「君達って本当に綺麗だよね、サングラスを通してもその美しさだ......肉眼で見たらきっと眼が潰れちゃうな.....ははっ」

 

「潰せば」

 

 

ルーシィ達を口説いていたロキだったが、ルーシィの腰にぶら下がるキラリと光る鍵を見て目を見開く。

 

 

「うおおっ!!!き..君!!!星霊魔導士!!?」

 

「?」

 

 

見て分かるように、明らかに動揺するロキにルーシィは何故そこまで動揺するのか分からなかった。

 

 

「ウシとか、カニとかいるよ」

 

「な..なんたる運命のいたずらだ...!!!ゴメン!!!僕達はここまでにしよう!!!」

 

 

ロキはそういうと、泣きながら走り去ってしまった。

 

 

「何か始まってたのかしら......」

 

 

ロキの様子に、ルーシィは呆れる。

 

 

「何あれぇ」

 

「ロキは星霊魔導士が苦手なの」

 

「はぁ?」

 

「昔、女の子がらみでトラブったって噂よ」

 

「やっぱそういう...」

 

「うわぁ!!」

 

「きゃあ!!」

 

 

呆れるルーシィだったが、急にナツが飛んできて一緒に床に転がった。

 

 

「いい加減にしなさいよあんた達...」

 

 

ナツの下敷きになったルーシィは、青筋を浮かべる。

 

 

「売られた喧嘩だ、買わずにいられるか」

 

「だから服」

 

「うおおおおっ」

 

 

今度はパンツのみになってる所を、カナに指摘されるグレイ。

 

 

「テメェから吹っ掛けたんだろうが!!たれ目野郎!!」

 

「何時何分に吹っ掛けたつうんだよ!!ツリ目野郎!!」

 

「おしゃべりパンツ!!」

 

「単細胞!!」

 

「レベル低ぅ」

 

 

相変わらずレベルの低い争いに、ルーシィは呆れる。

 

 

ホノカが、いつもの事だよと説明する。

 

 

その証拠に、他のギルドメンバー特に止める事無く、笑ってみていた。

 

 

その時だった。

 

 

「大変だ!!!」

 

 

ロキが勢いよく扉を開け、中に入ってきた。

 

 

「ナツ!!!グレイ!!!マズイぞっ!!!」

 

『あ?』

 

 

喧嘩を止められ、一緒にガンを飛ばす二人。

 

 

「エルザが帰ってきた!!!!」

 

『あ!!!!?』

 

 

エルザが帰ってきたと聞き、揃って変な声を上げるナツとグレイ。

 

 

「エルザさんて、前にナツ達が言ってた...」

 

「フェアリーテイル最強の女魔導士...」

 

 

外から、ズシィン、ズシィンと足音が聞こえる。

 

 

「エルザだ」

 

「エルザの足音だ」

 

「エルザが戻って来やがった」

 

エルザと呼ばれる魔導士が帰ってきた事に、ギルド中がざわざわと騒ぐ。

 

 

「このリアクション...エルザさんってやっぱり凄い魔導士なんだ」

 

 

ルーシィ達は、ナツ達から聞いた印象を思い出し、恐怖する。

 

 

「怖っ!!」

 

 

ルーシィ達が恐怖する中、ロキだけオレ帰るわと言い残し、そそくさと逃げて行った。

 

 

そして...巨大な角を担いだ鎧を纏った緋色の髪の女性『エルザ・スカーレット』がギルドの中に入ってきた。

 

 

エルザが地面に巨大な角を降ろすと、ズシィィィン!!とギルドが揺れる。

 

 

「今戻った、マスターはおられるか?」

 

「き...綺麗...」

 

「何よ、皆が怖がるほど怖そうな人じゃないじゃないのよ」

 

 

先程まで恐怖していたルーシィ達だったが、エルザが思っていたよりも綺麗な人だった為に見惚れていた。

 

 

「お帰り!!マスターは定例会よ」

 

「そうか....」

 

 

ミラの言葉に、エルザは残念そうにする。

 

 

「エ....エルザさん..そ..その...バカでっかいの何ですかい?」

 

 

ギルドメンバーの1人が、気になっていた巨大な角に関して質問する。

 

 

「ん?これか、討伐した魔物の角に、地元の者が飾りをほどこしてくれてな.....綺麗だったのでここへの土産にしようと思ってな....迷惑か?」

 

「い..いえ滅相もない!!!」

 

 

逆に質問されたギルドメンバーは、ぶんぶんと首を横に振った。

 

 

「討伐した魔物の角......か」

 

「すげ..」

 

 

他の者はこの巨大な角を持った魔物を倒したのかと、畏怖する。

 

 

「ハコベ山の件、もうバレてるんじゃない?」

 

「や...やべぇ...殺されるかも...」

 

 

カナにそう言われ、冗談抜きで殺されるのではとマカオはドキドキしていた。

 

 

「それよりお前達、旅の途中で噂を聞いた。また問題ばかり起こしているようだな。マスターが許しても、私は許さんぞ」

 

 

エルザは早速、樽事お酒を飲んでいるカナに目をつけた。

 

 

「カナ!!なんという格好で飲んでいる!!」

 

「う..」

 

「ビジター!!踊りなら外でやれ!!ワカバ!!吸い殻が落ちているぞ!!」

 

 

その後もエルザは、次々とギルドメンバー達を注意していく。

 

 

「ナブ!!相変わらずリクエストボードの前をウロウロしているのか?仕事しろ!!」

 

 

そしてエルザは、マカオに視線を向ける。

 

 

「マカオ!!」

 

 

呼ばれた本人は、ギクッと体を強張らせる。

 

 

しかし、エルザは何も言わずただため息をつくだけだった。

 

 

「何か言えよ!!」

 

 

堪らず、マカオは逆に突っ込みを入れてしまう。

 

 

「まったく......世話がやけるな。今日の所は何も言わずにおいてやろう」

 

「ずいぶんといろいろ言ってたような...」

 

「風紀委員か何かで...?」

 

「それがエルザです」

 

コソコソと話すルーシィとマキに、ハッピーが答える。

 

 

「でも、ちょっと口煩そうだけどちゃんとした人見たい」

 

「そうよね、そんなに怖がらなくてもいいんじゃ」

 

 

ルーシィとマキは、なぜ皆がそんなに怖がっているのかが分からなかった。

 

 

「ところで、ウミとホノカ、そしてコトリはいるか?」

 

「はい、私達はここにいますよ」

 

 

そう言って、ウミ達はエルザの前に出る。

 

 

「ふふ、相変わらずお前達は仲良さそうだな」

 

「うん!!私達は大親友だからね!!」

 

 

そう言って、ホノカはウミとコトリの腕に抱き着く。

 

 

「そうか...」

 

 

その様子を見ていたエルザは、嬉しそうに眺めていた。

 

 

「そういえば、ナツとグレイはいるか?」

 

「あい」

 

 

エルザに聞かれ、ハッピーは指をさす。

 

 

そこには、がっしりと肩を組んで握手を交わすナツとグレイの姿があった。

 

 

「や..やあエルザ..オ..オレたち今日も仲よし..よく..や....やってるぜぃ」

 

「あ゛い」

 

『ナツがハッピーみたいになった!!!!』

 

 

ナツがハッピーみたいになった事に、驚愕する。

 

 

「そうか....親友なら時にはケンカもするだろう....しかし私はそうやって仲良くしてるところを見るのが好きだぞ」

 

「あ..いや..いつも言ってっけど....親友って訳じゃ....」

 

「あい」

 

「こんなナツ見た事ないわっ!!!」

 

「キモッ」

 

 

ナツの変わりように、ルーシィ達はまたも驚愕する。

 

 

「ナツは昔、エルザにケンカを挑んでボコボコにされちゃったのよ」

 

「まさかぁー!!あのナツが!!?」

 

「嘘でしょ!!?」

 

 

ナツの強さを良く知ってる2人は、ナツが負けたという事実に驚く。

 

 

「グレイは裸で歩いている所を見つかってボコボコに」

 

「ロキはエルザを口説こうとして、やっぱりボコボコに」

 

 

グレイの説明をワカバが、ロキの説明をカナがする。

 

 

「自業自得だね」

 

「やっぱりそういう人...」

 

 

ロキの説明に、ルーシィは呆れてため息つく。

 

 

「2人とも仲が良さそうでよかった、実はお前達五人に頼みたい事がある。仕事先で少々やっかいな話を耳にしてしまった。本来ならマスターの判断をあおぐトコなんだが、早期解決が望ましいと私は判断した。五人の力を貸してほしい、ついてきてくれるな」

 

「え!?」

 

「はい!?」

 

 

突然の申し出に、驚くナツとグレイ。

 

 

「ど..どういう事!!?」

 

「あのエルザが誰かを誘うトコなんか初めて見たぞ!!」

 

「こんなでけぇ怪物倒す女だぞ...」

 

 

驚いてるのはナツ達だけでなく、ギルドのメンバー全員だった。

 

 

「何事なんだ....!?」

 

 

只事じゃないという事は、新人であるルーシィ達にも分かった。

 

 

「出発は明日だ準備をしておけ」

 

「あ....いや....ちょっ..」

 

「行くなんて言ったかよ!!!」

 

「詳しくは移動中に話す」

 

 

ナツ達が止めようとするが、エルザは話を聞かず会話を続ける。

 

 

「エルザと..ナツと....グレイ....それにウミとホノカとコトリ、今まで想像した事もなかったけど.......」

 

 

『?』

 

 

ミラが小さな呟きに、ルーシィ達は首を傾げる。

 

 

「これってフェアリーテイル最強チームかも....」

 

 

『!!!?』

 

 

ギルド最強チームが結成された驚きに、ルーシィとマキは口を大きく開けて驚くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

エルザがいなくなった後のギルドは、尚も騒がしかった。

 

 

「む..無理だ.....」

 

 

グレイはぐもおっと目を見開き、ナツを指さす。

 

 

「こいつと一緒ってだけでうぜぇのに、エルザが一緒だなんて――!!!!」

 

「こんなチームありえねぇっ!!!つーか行きたくねえ――っ!!!」

 

 

同じように、目を見開きグレイを指さすナツ。

 

 

すると、ナツは急にルーシィの方に振り向き、くわっと目を更に見開く。

 

 

「おおおおっ!!!」

 

「きゃあっ、な....何するのよオォオ」

 

 

シュバババッと早い手つきでルーシィの髪をいじり、自身の服を着させる。

 

 

「お前は今からナツだ」

 

「無理だって」

 

「あい」

 




グレイ「たくっ...エルザの奴勝手に話進めやがって」


コトリ「しょうがないよ、エルザちゃんだって忙しんだから」


グレイ「あれは忙しいんじゃなくて、自分勝手って言うんだよ」


コトリ「まぁまぁ、それにしても私達が必要って、どんなやっかいな話なんだろうね」


グレイ「嫌な予感しかしないけどな」


次回!!『その列車はナツを乗せていく』


グレイ「まぁ、誰が相手か知らないが、俺達のチームも双竜に負けないって事を教えてやらないとな」


コトリ「ふふっ、そうだね」


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第11話 その列車はナツを乗せていく

LOVE TAIL 前回までは


ミラ「気に入った仕事があったら私に言ってね、今はマスターいないから」


マキ「定例会?」


ナツ「つーか早く仕事選べよ」


ルーシィ「冗談!!!チームなんて解消に決まってるでしょ」


ロキ「ナツ!!!グレイ!!!マズイぞっ!!!エルザが帰ってきた!!!!」


ルーシィ「怖っ!!」


エルザ「五人の力を貸してほしい、ついてきてくれるな」


ミラ「これってフェアリーテイル最強チームかも....」


マグノリア駅。

 

 

「エルザちゃんはまだ来てないみたいだね」

 

 

コトリは辺りを見渡し、エルザがまだ来ていない事を確認する。

 

 

「うん、いつも通りエルザちゃんは準備に時間が掛かるからね」

 

「それよりも...」

 

 

ホノカと話していたウミだったが、ある一点を見つめる。

 

 

「だぁぁぁぁっあ!!」

 

 

マグノリア駅に、ナツの叫び声が響く。

 

 

「何でエルザみてーなバケモノがオレ達の力を借りてぇんだよ」

 

「知らねぇよ、つーか〝助け〟ならオレとコトリで十分なんだよ」

 

「じゃあ、オマエ等だけで行けよっ!!!オレは行きたくねぇ!!!」

 

「じゃあ来んなよ!!!後でエルザに殺されちまえ!!!」

 

 

ボコ、ドカ、ドゴと殴り合いのケンカを始めるナツとグレイ。

 

 

「他人のフリ...他人のフリ...」

 

 

ルーシィは近くのベンチに座り、身を縮こませて見て見ぬフリをする。

 

 

「迷惑だからやめなさいっ!!!!」

 

 

周りを巻き込んでケンカをする2人を、止めるマキ。

 

 

「もおっ!!!!アンタ達、何でそんなに仲悪いのよぉ」

 

 

ふーとため息をつき、呆れるマキ。

 

 

ケンカを止めたナツとグレイは、マキの方を見て質問をする。

 

 

「何しに来たんだよ」

 

「頼まれたのよっ!!!ミラさんに!!!」

 

 

マキは、昨日のミラとの会話を思い出す。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

『確かに、あの三人が組めば素敵だけど、仲がギクシャクしてるトコが不安なのよぇ~ルーシィとマキついてって仲を取り持ってくれる?』

 

『ええーっ!!?』

 

『あの二人、絶対エルザの見てない所でケンカするから、止めてあげてね』

 

『あたし達が!!?』

 

『ウミ達だけじゃ、止められないと思うから』

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「ミラさんの頼みだから仕方なくついてってあげるのよ」

 

「本当は一緒に行きたいんでしょ」

 

「ヴェッ!!?イ...イミワカンナイ!!」

 

 

図星を突かれたのか、顔を赤くするマキ。

 

 

「ですが、二人が来てくれて助かりました。ミラの言う通り、私はナツに甘いですし、二人もケンカを止めるほど強く出れませんから」

 

 

着いてきた2人に、ウミが感謝を告げる。

 

 

「てめェ、何でいつも布団なんか持ち歩いてんだよ」

 

「寝る為に決まってんだろ。アホか、おまえ」

 

 

眼を離した隙に、またケンカを始めるナツとグレイ。

 

 

「あ~あ....めんどくさいなぁ....」

 

 

その様子を、面倒くさそうに見つめるルーシィ。

 

 

「!」

 

 

その時、ルーシィは何かを思いつき、ぱんっと手を合わせる。

 

 

「あ!!エルザさん!!!」

 

 

ルーシィがそう叫ぶと、ナツ達はビクッと反応する。

 

 

「今日も仲良くいってみよー」

 

「あいさー」

 

 

2人は肩を組み、先程とは打って変わって仲良くする。

 

 

「出た!!ハッピー2号!!」

 

「あはははっ!!これ面白いかも」

 

 

ナツの変わり様に驚くマキと、2人の様子をお腹を抱えて笑うルーシィ。

 

 

『騙したなテメェ!!!』

 

「あんたら本当は仲良いんじゃないの?」

 

 

揃ってルーシィに怒鳴る2人に、ルーシィはクスッと笑う。

 

 

「冗談じゃねぇ!!何でこんな面子で出かけなきゃならねぇ!!胃が痛くなってきた...」

 

「魚食べる?」

 

「いるかっ!!!」

 

 

胃が痛いと言ってるにも関わらず、魚を進めてくるハッピーにグレイは声を荒げる。

 

 

「マキ、何でお前がいるんだ?」

 

「何も聞いてなかったんですかっ!!!」

 

 

さっき説明したにも関わらず、もう一度同じ質問をするナツに、マキは眼を見開いて驚く。

 

 

「すまない..待たせたか?」

 

 

そこに、エルザの声が聞こえる。

 

 

「あっ!エルザさ...ん!!?」

 

 

ルーシィが声のした方に顔を向けると、顔を強張らせる。

 

 

なぜなら、エルザの後ろにずっしりと積まれたキャリアケース等が山の様に積まれた台車があったからだ。

 

 

『荷物多っ!!!!』

 

 

その荷物の多さに、ルーシィとマキは驚く。

 

 

「ん?君達は昨日、妖精の尻尾にいたな...」

 

「新人のルーシィといいます」

 

「同じく新人のマキです。ミラさんに頼まれて、同行する事になりました。よろしくお願いします」

 

 

2人はペコリとお辞儀をして、挨拶する。

 

 

「私はエルザだ、よろしくな」

 

 

エルザが自己紹介する後ろで、メンチを切りあうナツとグレイ。

 

 

「そうか...君達がルーシィとマキか」

 

 

チラッと後ろを見るエルザは、仲良く肩を組むナツとグレイの姿を見る。

 

 

もう一度ルーシィ達に視線を向けると、またメンチ切り合うナツ達。

 

 

「傭兵ゴリラを小指一本で倒したって言うのは、君達の事か。力になってくれるならありがたい、宜しく頼む」

 

 

挨拶を終えると、またナツ達の方をチラッと見るとまた肩を抱き合って仲の良い振りをする2人。

 

 

そしてエルザが視線を戻すと、またしてもメンチを切り合う。

 

 

『こ...こちらこそ...』

 

 

逆にルーシィとマキは、事実と色々と異なる事に引きながらも訂正する事が出来なかった。

 

 

「今回は少々危険な橋を渡るかもしれないが、その活躍ぶりなら平気そうだな」

 

「危険!!!?」

 

 

説明するエルザだったが、危険という言葉にルーシィが食いつく。

 

 

「フン、何の用事か知らねぇが今回はついてってやる。条件付きでな」

 

「条件?」

 

 

エルザの逆鱗に触れるのではないかと恐れたグレイが、声を荒げる。

 

 

「バ..バカ..!!!オ..オレはエルザの為なら無償で働くぜっ!!!」

 

 

グレイのその言葉を無視し、エルザは続ける。

 

 

「言ってみろ」

 

「帰ってきたら、俺と勝負しろ」

 

『えっ!!?』

 

 

ナツの言う条件を聞いた全員が、驚きの声を上げる。

 

 

「オ..オイ!!!はやまるなっ!!!死にてえのか!!?」

 

 

グレイがナツの肩を掴み、止めさせる。

 

 

「前にやり合った時とは違う、今の俺ならお前に勝てる。あの時とは違うんだ」

 

 

ナツの顔を見たエルザは、その言葉が冗談ではなく本気である事が分かった。

 

 

ナツの覚悟を見て、エルザはフッと笑った。

 

 

「確かに、お前は成長した。私はいささか自信がないが...いいだろう、受けて立つ」

 

「自信がねえって何だよっ!!!本気で来いよな!!!」

 

 

エルザの言葉に、ナツは突っかかる。

 

 

「フフ..わかっている..。だが、おまえは強い....そう言いたかっただけだ」

 

 

そう言うと、エルザはグレイの方に顔を向ける。

 

 

「グレイ....お前も勝負したいのか?私と」

 

 

エルザの問いに、グレイは全力で横にぶるんぶると首を振る。

 

 

「おしっ!!!燃えてきたァ!!!!やってやろうじゃねーかっ!!!!」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

シュポーと汽笛を鳴らして走る列車、その中でナツとウミがぐてぇぇぇ...と並んで椅子にもたれかかっている。

 

 

「たくっ...なっさけねえ奴だな、ナツさんよォ.......ケンカを挑んだ直後にこれかよ」

 

「ナツ君、ウミちゃん大丈夫?」

 

 

ナツの様子に通路を挟んだ隣の席に座るグレイは呆れ、その対面の席に座るホノカは2人を心配する。

 

 

「うっとおしいから別の席に行けよ....。つーか列車乗るな!!走れ!!」

 

「もうっ、そんな事を言ったらダメだよグレイ君」

 

「まいどの事だけど...つらそうね」

 

 

グレイの隣に座るコトリが注意し、ウミの対面に座るルーシィが心配する。

 

 

「まったく....しょうがないな。私の隣に来い」

 

「あい...」

 

「どけってことかしら......」

 

 

エルザが自分の隣をポンポンと叩き、ナツを招く。

 

 

ルーシィはナツと席を交換し、ウミの隣に座る。

 

 

「楽にしていろ」

 

「あい...」

 

 

しかし、次の瞬間エルザがナツの鳩尾に拳を入れる。

 

 

「ぐわぁっ!!!」

 

「!!!」

 

 

ボス!!と音を立てて入った拳によって、ナツは気絶する。

 

 

突然の出来事にルーシィ達は驚き、グレイは見てないフリをする。

 

 

「これなら少しは楽だろう」

 

や...やっぱりこの人ちょっと変かも...

 

 

エルザの奇行に、ルーシィは小声で呟いた。

 

 

「さて、次はウミだな」

 

「いえ、私なら大丈夫です」

 

 

次の標的をウミに変えたエルザだったが、ウミは先程までのグロッキーだったにも関わらず、普段の様子と変わらなかった。

 

 

しかし、顔は真顔だが身体がプルプルと震えており、顔も青くなっている為に無理してるのが明らかだった。

 

 

「ほぉ...流石はウミだな」

 

 

しかし、天然なのかエルザは簡単に騙された。

 

 

そこでホノカの隣に座るマキが、別の話へと話題を変える。

 

 

「そういや...あたし......妖精の尻尾でナツ達以外の魔法見た事ないかも。エルザさんは、どんな魔法使うんですか?」

 

「エルザでいい」

 

「エルザの魔法はキレイだにゃ」

 

 

マキの問いに、ウミとルーシィの間に座るリンが答える。

 

 

「血がいっぱいでるんだよ、相手の」

 

「キレイなの?それ」

 

 

マキの問いに対するリンの答えに、ルーシィが突っ込む。

 

 

「たいした事はない....私はグレイやコトリの魔法のほうが綺麗だと思うぞ」

 

「そうか?」

 

 

グレイは開いた掌の上に、拳を置くとシュウウウウと冷気がグレイの手に集る。

 

 

グレイが拳を開くと、その中にはキラリと光る氷で出来た妖精の尻尾のマークがあった。

 

 

「わあっ!!!!」

 

「氷の魔法さ」

 

「氷って、アンタ似合わないわね♡」

 

「ほっとけっての」

 

 

そこで、ルーシィがある事に気付いた。

 

 

「氷!火!!あ!!!!だからアンタ達仲悪いのね!!!単純すぎてかわいー」

 

「そうだったのか?」

 

「どうでもいいだろ!?そんな事ァ」

 

 

図星を突かれたからか、グレイは顔を赤くしそっぽを向く。

 

 

「つーか、そろそろ本題に入ろうぜエルザ。俺達は何をすればいいんだ?」

 

 

話題を変えようと、グレイはエルザに質問する。

 

 

「そうだな...話しておこう。私達の相手は闇ギルド鉄の森(アイゼンヴァルト)...ララバイという魔法で何かしでかすらしい」

 

『ララバイ!!?』

 

「ってこの間の!!?」

 

 

聞き覚えのある言葉に、全員が声を揃える。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

闇ギルド、鉄の森。

 

 

「影山から連絡があったそうだ」

 

「例の物がやっと手に入ったってよ」

 

 

ギルドで話しをするメンバーの頭上に、以前ナツ達の目の前で連れ去られた者達が吊り下げられていた。

 

 

「ようやくチャンスが来たな、俺達の目的を達成するには今しかねぇ。ギルドマスターのジジィ共が定例会している今がな」

 

 

大きな鎌を持った男が、そう宣言する。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「という事なんです」

 

 

平常心を装いながら、仕事帰りに出会った魔導士達の事をエルザに説明するウミ。

 

「そうか、お前達も鉄の森に会ったのか」

 

「ララバイがどうのって言ってたからな。恐らく間違いない」

 

 

ウミの説明を聞いたエルザは、自身の持っている情報と照らし合わせ、ナツ達の前で攫われた魔導士達の正体を予測する。

 

 

「その連中、鉄の森の脱落組だな。計画に着いて行けずに逃げ出したんだろう」

 

「その計画が、ララバイと関係あるの?」

 

 

ホノカの問いに、エルザが答える。

 

 

「想像だがな、そいつらを攫って逃げたというカゲも、多分鉄の森の本隊だ。計画が漏れないように、手を打ったに違いない」

 

「計画っていったい...」

 

「順番に説明しよう、この間の仕事を終えて帰る途中の事だ。私はオニバスの街で、魔導士が集まる酒場へ寄った」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

オニバスの街、酒場。

 

 

「コラァ!!!酒遅ェぞ!!!」

 

 

エルザの座る席の近くで、大声で怒鳴り声を上げる魔導士がいた。

 

 

「ったくよォなにモタモタしてんだよ!!!」

 

「す....すみません」

 

 

4人組の内の1人、動物のような3本の髭が特徴の大柄の男『ビアード』が怒鳴り、頭を下げて謝罪する店員。

 

 

「ビアードそうカッカすんな」

 

「うん」

 

 

騒ぐビアードを、虎縞柄のパーカーを羽織った男『レイユール』と厚い唇が特徴の巨漢『カラッカ』が止める。

 

 

「これがイラつかずにいられるかってんだ!!!せえっかくララバイの隠し場所を見つけたってのにあの封印だ!!!何なんだよアレはよォ!!!まったく解けやしねぇ!!!」

 

「バカ!!声がでけぇよ」

 

「うん、うるせ」

 

「くそぉっ!!!」

 

 

ビアードはそんな事を気にせず、ぐびぐびとお酒を煽っていく。

 

 

「あの魔法の封印は人数がいれば解けるなんてものじゃないよ」

 

「あ?」

 

「焦る事ないよ、後は僕がやるからみんなはギルドに戻ってるといいよ」

 

「カゲちゃん?」

 

「1人で大丈夫か?」

 

 

そう言って、後ろで結んだ黒髪が特徴の男『カゲヤマ』は立ち上がった。

 

 

「エリゴールさんに伝えといて、必ず三日以内にララバイを持って帰るって」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「ララバイ...子守歌って意味よね」

 

 

マキの質問に、エルザはコクンと頷いた。

 

 

「封印されているという事は、かなり強力な魔法だと思われる」

 

「そいつらも鉄の森だったのか」

 

「そうだ。迂闊にもその時は思い出さなかったんだ、エリゴールという名をな。闇ギルド鉄の森のエース、暗殺系の依頼ばかりを遂行し続け、ついたあだ名が死神エリゴール」

 

「し..死神!!?」

 

「暗殺!!?」

 

 

エルザの説明に、ルーシィは死神という言葉に、マキは暗殺という言葉に食いつく。

 

 

「本来、暗殺依頼は評議会の意向で禁止されているのだが、鉄の森は金を選んだ。結果..6年前に魔導士ギルド連盟を追放....しかし彼らは命令に従わず、活動を続けている」

 

 

話を聞いたルーシィは、全身から汗を流す。

 

 

「私...帰ろうかな...」

 

「ルーシィ、汁いっぱい出てるよ」

 

「汗よ」

 

 

エルザは握りこぶしを、ナツの顔に叩きつける。

 

 

「不覚だった...あの時エリゴールの名に気付いていれば....全員血祭りにして、何をする気か白状させたものを...」

 

『怖っ!!』

 

 

ゴゴゴゴと殺気全開にするエルザに、ルーシィとマキは恐怖する。

 

 

「なるほど、鉄の森はそのララバイで何かしようとしている」

 

「どうせろくでもない事だから食い止めたい、と」

 

 

グレイとコトリは、エルザの頼みの真意を理解した。

 

 

「そうだ、ギルド1つを丸ごと相手する以上、私1人じゃ心もとない。だからお前たちの力を借りたい」

 

 

エルザは凛とした顔つきで、その場の全員に宣言する。

 

 

「鉄の森に乗り込むぞ」

 

「面白そうだな」

 

『あい!!』

 

「よーし!!」

 

「頑張ろうね!!」

 

 

エルザの言葉に、ルーシィとマキ以外は笑顔で答える。

 

 

「来るんじゃなかった」

 

「同感ね」

 

 

ルーシィとマキは、ミラに頼まれたとはいえ同行した事を後悔する。

 

 

「ルーシィ、汁...」

 

「汗よ!!」

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

オニバス駅。

 

 

「で......鉄の森の場所は知ってるのか?」

 

「それをこの町で調べるんだ」

 

 

早速街に繰り出し、情報収集しようとするルーシィ達。

 

 

「あれ?」

 

 

急にマキが、キョロキョロと辺りを見渡す。

 

 

「やだ...嘘でしょ!!?」

 

 

マキはある事に気付いて、慌てだす。

 

 

「どうした、マキ」

 

「まさか列車に忘れ物でもしたのか?」

 

 

慌てるマキに質問するエルザとグレイ、グレイに至っては少し笑っている。

 

 

しかし、次のマキの言葉を聞いて全員が慌てだす。

 

 

「ナツがいないんだけどっ!!!」

 

 

目をぐわっと見開き、全身から汗を流すルーシィ達。

 

 

そんなルーシィ達の耳に、遠くからシュポーという列車の汽笛の音が聞こえる。

 

 

「ナツ―――!!!!」

 

「ナツ君―――!!!!」

 

 

しばらく呆けていたルーシィ達だったが、ウミとホノカがナツの名前を叫びながら来た道を走って戻る。

 

 

「ウミちゃん待ってよ~!!!」

 

 

走り去るウミを、リンは翼をだして追いかける。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

その頃、列車に置いていかれたナツは目を覚ましていた。

 

 

「お兄さん、ここ空いてる?」

 

 

ナツに話しかける男だったが、ナツの息遣いが荒い事に気付き心配そうに声を掛ける。

 

 

「あらら...つらそうだね、大丈夫」

 

 

男はナツの対面の席に腰掛け、ナツの肩の紋章に気が付いた。

 

 

「妖精の尻尾、正規ギルドかぁ....うらやましいなぁ」

 

 

ナツの対面に座った男、鉄の森所属のカゲヤマは羨ましそうにナツを見つめる。

 




ウミ「迂闊でした...まさかナツを置いて行ってしまうとは」


リン「しょうがないにゃ、ウミちゃんは乗り物酔いでグロッキーになってたんだもん」


ウミ「それでも、仲間を置いていくなんて最低です!!」


リン「それだったら、話に夢中になってナツ君の事を忘れてたリン達はもっと最低にゃ」


次回!!『呪歌』


ウミ「さぁ!!ナツを救出に行きますよ!!」


リン「あい!!」


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第12話 呪歌

LOVE TAIL、前回までは


ナツ「何でエルザみてーなバケモノがオレ達の力を借りてぇんだよ」

 
グレイ「知らねぇよ、つーか〝助け〟ならオレとコトリで十分なんだよ」


マキ「迷惑だからやめなさいっ!!!!」


ナツ「何の用事か知らねぇが今回はついてってやる。条件付きでな」
 

エルザ「条件?」


グレイ「なるほど、鉄の森はそのララバイで何かしようとしている」
 

コトリ「どうせろくでもない事だから食い止めたい、と」


マキ「やだ...噓でしょ!!?ナツがいないんだけどっ!!!」


オニバス駅を出た列車を追いかける為、ウミとリン、ホノカの3人は空を飛んで追いかける。

 

 

「リン!!急いでください!!」

 

「分かってるにゃ!!」

 

 

ウミはリンに抱えてもらい、ホノカは〈灼爛殲鬼〉の力を使い、空を飛んでいる。

 

 

「見えてきたよ!!」

 

 

ホノカ達の前方に、ナツを乗せた列車が見えてくる。

 

 

「私達が乗っていたのは前方の車両です!!早くナツを降ろしましょう!!」

 

「うん!!」

 

「了解にゃ!!」

 

 

ウミの言葉に、リンとホノカが元気よく答える。

 

 

「なっ!!?」

 

 

しかし、ウミの眼に飛び込んできたのは、ナツの顔に足を乗せているカゲヤマの姿だった。

 

 

『ナツ君!!?』

 

 

ナツが襲われている事に、驚くホノカとリン。

 

 

「ナツに何をしてるんですか!!あなたは!!」

 

 

バリーン!!と窓ガラスを突き破り、ナツを襲っていたカゲヤマにウミは拳を繰り出した。

 

 

「ぐはっ」

 

 

カゲヤマはウミに殴られたことにより、ドアの近くまで吹っ飛んだ。

 

 

「何だ...てめぇ...」

 

 

口の中を切ったのか、口の端から血を流しカゲヤマはウミを睨んだ。

 

 

カゲヤマを殴ったウミは、ナツの前にスタッと格好よく着地した。

 

 

「うぷっ...気持ち悪いです...」

 

 

しかし、乗り物酔いのせいで口元を押えて蹲る。

 

 

「大丈夫!?ウミちゃん!!?」

 

 

ホノカは〈灼爛殲鬼〉を構え、3人の前に出て戦闘態勢をとる。

 

 

その時、キィィィィと音を立て列車が急停止する。

 

 

「止まった..」

 

 

列車が止まった事で、動けるようになったナツとウミ。

 

 

「一体何が...」

 

 

急に列車が止まった事に、不審に思うホノカ。

 

 

「恐らく、エルザ達が何かしたのでしょう」

 

 

列車が止まった理由を、ウミが推測する。

 

 

「ん?」

 

 

その時、ナツはカゲヤマが持っていたであろうバックの中から何かが転げ落ちるのを見た。

 

 

それは、髑髏の装飾がついた笛のようなものだった。

 

 

「み...見たな...」

 

 

カゲヤマは、その笛を見られた事に初めて焦りを見せる。

 

 

「やかましい!!!さっきはよくもやってくれたな!!!!」

 

 

ナツは飛び上がり、カゲヤマに鉄拳を繰り出す。

 

 

「ガードシャドウ!!」

 

 

影を幾つも重ね合わせ、カゲヤマはナツの攻撃をガードする。

 

 

「あの魔法は!!?」

 

 

ウミは見覚えのある魔法に、眼を見開く。

 

 

「ハエパンチ!!」

 

 

意味ありげな事を言うナツ。

 

 

「て....てめぇ~..」

 

 

ナツに殴られた事で、カゲヤマは口からだけだなく鼻からも血を流す。

 

 

「ナツ!!あの男もしかして」

 

「ああ、間違いねぇ。この間ハッピーを襲った連中を連れ去った奴だ」

 

「じゃあ...もしかしてこの男が...」

 

 

そこに、カンカンカンと車内放送が流れる。

 

 

『先ほどの急停車は誤報によるものと確認できました。間もなく発車します、大変ご迷惑をおかけしました』

 

「マズ..」

 

 

車内放送が終わると同時に、ジリリリリっと発車の合図であるベルが鳴った。

 

 

「逃げよ!!!」

 

 

ナツは直ぐに降りる為に、荷台に乗っけてた荷物を取る。

 

 

「逃がすかぁっ!!!鉄の森に手ェ出したんだ!!!ただで済むとは思うなよっ!!!妖精(ハエ)がぁっ!!!!」

 

「やはり、鉄の森の魔導士でしたか」

 

 

鉄の森という言葉に、ウミは自身の推測が当たっていたことを確信する。

 

 

「こっちもてめぇの(ツラ)覚えたぞっ!!!さんざん妖精の尻尾をバカにしやがって」

 

 

カゲヤマに指を指し、宣言しようとするナツだったが。

 

 

ゴトンガタンと音を立て、列車が動き出した。

 

 

「今度は外で勝負してやばる...うぷ」

 

 

列車が動き出した事によって、ナツとウミはまた乗り物酔いで気持ち悪くなる。

 

 

ナツは残っている最後の力を振り絞り、ウミとホノカとリンを抱え列車から脱出しようとする。

 

 

「お前達も一緒に逃げるぞ!!」

 

「待ってナツ君!!あの男は...」

 

 

ホノカが言い終わる前に、ナツはガシャンと窓を破壊し外に出る。

 

 

「とう!!!」

 

 

外に飛び出たナツ達だったが、その近くを列車と並走するように走る魔道四輪車が走っていた。

 

 

魔道四輪車。

 

 

スピードは出るが、運転手の魔力を消費する。

 

 

「ナツ!!ウミ!!ホノカ!!」

 

 

運転していたエルザが、飛び出してきたナツ達に驚く。

 

 

「何で列車から飛んでくるんだよォ!!!」

 

「どーなってんのよ」

 

 

驚くグレイとマキだったが、魔道四輪車の屋根に乗るグレイにナツ達が迫ってくる。

 

 

ゴチ———————ン!!!

 

 

と大きな音を立て、勢いよく2人は頭をぶつけた。

 

 

『ぎゃあああああ!!!!』

 

 

列車から飛び降りた時に後ろに流された勢いと、魔道四輪車のスピードも相まってぶつかった瞬間、思いっきり悲鳴を上げる二人。

 

 

「ナツ!!!無事だったか!!?」

 

 

ゴシャアっと音を立てて、落ちたナツ達をエルザは心配する。

 

 

「痛————っ!!!何しやがるっ!!!!ナツてめぇっ!!!!」

 

「今のショックで記憶喪失になっちまった!!誰だオメェ、くせぇ」

 

「何ィ!!?」

 

 

頭の痛みに耐えながらナツに文句を言うグレイだったが、ナツは記憶喪失になったと言って誤魔化す。

 

 

ウミとホノカもナツ達程ではないが、落ちた衝撃で打った身体を押える。

 

 

「ナツ―ごめんねー」

 

 

魔道四輪車から降りたハッピー達が、ナツ達に駆け寄る。

 

 

「ハッピー!!エルザ!!ルーシィ!!マキ!!コトリ!!ひでぇぞ!!!オレをおいてくなよっ!!!ウミとホノカは助けに来てくれたのによ!!」

 

「すまない」

 

「ごめん♡」

 

「おい....随分都合のいい記憶喪失だな..」

 

 

記憶喪失と言っておいて、自分以外の者達の名前を覚えてる事に指摘するグレイ。

 

 

「無事でなによりだ、よかった」

 

「硬ぇ!!」

 

 

ナツの無事に安堵したエルザは、ナツを自身の胸に抱きよせる。

 

 

しかし、エルザは鎧を着ている為にナツは鎧に装甲にガシャンと顔をぶつけた。

 

 

「たくよっ!!無事なものか!!汽車で変な奴に絡まれたんだ」

 

「変な奴?」

 

「森でハッピー食おうとした奴等を攫った野郎だ。なぁウミ、ホノカ」

 

「そうでした!!エルザ!!今すぐあの列車を追ってください!!」

 

 

ナツに問いかけられ、思い出したようにウミはエルザに詰め寄る。。

 

 

「そうだ!!あの列車に鉄の森の魔導士が乗ってるんだった!!」

 

 

ホノカも思い出したように、そう告げた。

 

 

「何!!?」

 

「あの列車に乗ってたのね」

 

 

ホノカの言葉に、エルザ達は驚く。

 

 

「お前ら何慌ててんだ?」

 

 

話が見えないナツは、首を傾げる。

 

 

「バカモノぉっ!!!!」

 

 

そんなナツに、バチィンとエルザの強烈な平手打ちが決まった。

 

 

「ごあっ」

 

 

エルザに引っ叩かれた事によって、ナツは数メートル先まで吹っ飛んだ。

 

 

「鉄の森は私達が追っている者だ!!!なぜみすみす見逃した!!!」

 

「そんな話初めて聞いたぞ......」

 

 

ナツは叩かれた頬を押えながら、頭に疑問符を浮かべる。

 

 

「さっき説明したろ!!なぜ私の話をちゃんと聞いていないっ!!!」

 

「それって...あんたが気絶させたからじゃ...色んな意味で凄い人...」

 

 

理不尽に怒られるナツを見ながら、マキはボソッと呟いて指摘する。

 

 

「だろ?」

 

「それがエルザです」

 

 

マキの呟きに、グレイとリンも同意する。

 

 

「さっきの列車に乗っているのだな、今すぐ追うぞ!!!どんな特徴していた?」

 

 

エルザの質問に、ナツはカゲヤマの事を思い出しながら答える。

 

 

「あんまり特徴なかったなぁ、なんかドクロっぽい笛持ってた。三つ目があるドクロだ」

 

「何だそりゃ、趣味悪い奴だな」

 

 

その話を聞いたルーシィは、体を震わせる。

 

 

「三つ目のドクロの笛..」

 

「どうしたのよルーシィ」

 

 

ルーシィの様子が可笑しい事に気付いたマキは、ルーシィに話しかける。

 

 

「ううん..まさかね.....あんなの作り話よ......でも....もしもその笛が呪歌だとしたら..子守歌(ララバイ)..眠り....死....!!!」

 

 

色々と推測していたルーシィだったが、そこである事に気付いた。

 

 

「その笛がララバイだ!!!!呪歌(ララバイ)....〝死〟の魔法!!!!」

 

「何!?」

 

「呪いの歌?」

 

呪歌(じゅか)の事だね?」

 

「どういうこと?ルーシィ」

 

 

ルーシィの言葉に驚くエルザ達と、何の話をしているか分からずナツとホノカは頭をこんがらがらせる。

 

 

「あたしも本で読んだ事しかないんだけど....禁止されてる魔法の一つに、呪殺ってあるでしょ?」

 

「ああ...その名の通り、対象者を呪い〝死〟を与える黒魔法だ」

 

 

ルーシィの問い掛けに、エルザが答える。

 

 

呪歌(ララバイ)はもっと恐ろしいの」

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

クヌギ駅。

 

 

「客も荷物も運転手も全部降ろせ~い、この列車は鉄の森が頂く。逆らう奴は命がねぇ~ぞ」

 

 

列車を襲撃し、荷物と客を降ろす魔導士達。

 

 

「エリゴールさん」

 

「カゲヤマ」

 

 

逃げる客たちに混じって、カゲヤマが列車から降りてくる。

 

 

「この列車で戻るとは聞いていたがこの破壊の跡...何かあったのか?」

 

「その話は後で...まずはこれを」

 

 

そう言って、カゲヤマは懐から呪歌(ララバイ)を取り出した。

 

 

「へへ、何とか封印を解きましたよ」

 

「ホウ...これが..これがあの禁断の魔法、呪歌(ララバイ)か..」

 

『おおっ!!!』

 

「さすがカゲちゃん!!!」

 

「これで計画は完璧になった訳だな!!!!」

 

 

一緒に行動していたカゲヤマの仲間が、大手を叩いて喜ぶ。

 

 

「この笛は元々、〝呪殺〟の為の道具にすぎなかった。しかし、偉大なる黒魔導士ゼレフがさらなる魔笛へと進化させた」

 

 

そう説明するエリゴールは口角を上げ、怪しげな笑みを浮かべる。

 

 

「まったく...恐ろしい物を作ったものだ。この笛の音を聴いた者全てを呪殺する....〝集団呪殺魔法〟呪歌(ララバイ)!!!!始めよう!!!作戦開始だ!!!」

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

険しい山道を、猛スピードで駆ける魔道四輪車。

 

 

「飛ばし過ぎだエルザ!!いくらお前でも魔力の消費が半端ねぇぞ!!!」

 

「そんな悠長な事は言っておられん!!!」

 

 

グレイの忠告を聞かず、スピードを落とす事のしないエルザ。

 

 

中のルーシィ達は、吹き飛ばされないように椅子にしがみ付き、乗り物に弱いナツとウミは胸を押え背もたれにもたれかかっていた。

 

 

「集団呪殺魔法だと!!?そんなものがエリゴールの手に渡ったら.....あいつめ、何をするか分からん!!!おのれ!!!奴等の目的は何なんだ!!?」

 

 

エルザはエリゴール達の目的を考察しながら、目的地であるクヌギ駅を目指す。

 




ルーシィ「ミラさん...エルザって怖い人?」


ミラ「ううん、全然そんな事ないわよ」


ルーシィ「本当ですか?良かった~」


ミラ「怒らせると10メートル位吹っ飛ばされたり、首まで地面にめり込まされたりはするけどね」


マキ「それって...充分怖いんですけど!!」


次回!!『死神は二度笑う』


ミラ「大丈夫!!ルーシィもマキもそのうち慣れるわ。昔はナツとかグレイもよく怒られてたし」


『私も怒られる前提!!?』


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第13話 死神は二度笑う

LOVE TAIL前回までは


エルザ「鉄の森が何かを企んでいる」


グレイ「死神エリゴール」


カゲヤマ「正規ギルドのハエ共が!!」


ルーシィ「あたしその笛知ってる!!呪いの笛ララバイ!!」


エルザ「やつらを止めるぞ!!」


クヌギ駅。

 

 

魔道四輪車で、カゲヤマを追うエルザ達。

 

 

その途中、駅で騒動が起きている事に気づく。

 

 

「いきなり大鎌を持った男達が乗り込んで来たんです!!!」

 

「ワシは知っとるぞ!!!あいつ等はこの辺にいる闇ギルドの者だ」

 

「女房より大切な商売道具を、列車の中に置いてきちまったんだ」

 

 

ざわざわと騒ぐ乗客の話を聞いて、状況を理解したルーシィ達。

 

 

中には、見覚えのある者もいたが。

 

 

「あいつ等..列車を乗っ取ったの!!?」

 

「みたいだね」

 

「馬車や船とかならわかるけど列車って..」

 

「あい....レールの上しか走れないし奪ってもそれほどのメリットないよね」

 

「ただし、スピードはある」

 

 

ルーシィとハッピーの考察に、グレイも入る。

 

 

「何かをしでかす為に奴等は急がざるえないという事か?」

 

「なぜ脱ぐ」

 

 

話をしている間も、なぜかグレイは着ている服を脱いでいく。

 

 

「もう軍隊も動いているし、捕まるのは時間の問題なんじゃないかしら?」

 

「.........だといいんだがな.........」

 

 

マキの言葉に、エルザはそう返した。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

乗っ取った列車の中で、エリゴールはカゲヤマからナツ達の話を聞いていた。

 

 

妖精(ハエ)だぁ?」

 

「えぇ..さっきまでこの列車に乗ってましてね。まったく..ふざけた奴っスよ」

 

 

カゲヤマの話を聞いたエリゴールは、ぎりっと歯を食いしばった。

 

 

次の瞬間、スパァンと音を立てカゲヤマの左右にかまいたちが通過する。

 

 

ピッと音を立て、カゲヤマの両耳が切れた。

 

 

「あ゛っ......いぎぃぃぃぃっ!!!」

 

 

両耳を押さえ、カゲヤマは床に倒れる。

 

 

「まさか感づかれたんじゃねぇだろうな」

 

妖精(ハエ)なんかに感づかれた所で、この計画は止められやしないでしょうがっ!!!」

 

「当たり前だ、しかし邪魔はされたくねぇ。わかるな?」

 

「くっ...」

 

 

くるくると手の中でララバイを玩ぶエリゴールは、ララバイをカゲヤマに突きつける。

 

 

妖精(ハエ)か....飛び回っちゃいけねぇ森もあるんだぜぇ」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

ギャギャギャと凄い音を立て、エルザは町中で魔道四輪を走らせる。

 

 

エルザが魔道四輪に繋いでいるプラグは、ドクンと大きく脈打っていた。

 

 

「エルザ!!飛ばしすぎだぞっ!!!SEプラグが膨張してんじゃねーか」

 

「ララバイが吹かれれば、大勢の人が死ぬ!音色を聴いただけで、人の命がきえてしまうんだぞ!」

 

「わかってっけど!奴等の目的もはっきりしてねぇし....一戦交える可能性もある。そんなにスピード出したらいざって時におまえの魔力が枯渇しちまうぞ!!」

 

「構わん、いざとなれば棒切れでも持って戦うさ。それにおまえたちがいるしな」

 

「む..」

 

 

エルザの言葉に、グレイは何も言えなくなってしまった。

 

 

エルザ達がそんな話をしている中、魔道四輪の中では...

 

 

「何かルーシィに言う事があった気がする」

 

「私に?何?」

 

「忘れちゃったんだ、ルーシィに関係してたのは確か何だけど」

 

「気になるじゃない、思い出しなさいよ」

 

「う~~ん....」

 

 

思い出そうと頭を捻るハッピーだったが、全然思い出せないでいた。

 

 

その時、床で突っ伏していたナツが呻いた。

 

 

「うぷ...気持ち悪い...」

 

「......キモ..チ..ワ..ル....それかも!!」

 

「それかいっ!!!」

 

 

そこで、エルザの乱暴な運転に我慢できなかったのか、ウミが窓から体を半分程出した。

 

 

「ちょっと!!ウミ落ちるわよ!!」

 

「う゛う゛う゛......落として..ください....」

 

 

落ちようとするウミを、マキが押さえながら介抱する。

 

 

「う~ん何だろ?ルーシィ気持ち悪いじゃないとしたら、ルーシィ、変、魚?おいしー、ヘルシー、変、変、変、変...」

 

「私は変ばっかりかい!!!」

 

 

耐えきれなかったルーシィは、思わずハッピーに突っ込みを入れる。

 

 

「あ!!」

 

「!!」

 

 

その時、外に出たウミを引き上げるために窓から顔を出していたマキと、運転していたエルザが何かを見つけた。

 

 

「何だあれは..」

 

 

マキ達の視線の先には、建物から黒い煙が立ち上がっていた。

 

 

 

 

 

オシバナ駅。

 

 

駅の周りには、ざわざわと騒ぐやじ馬で溢れかえっていた。

 

 

『みなさん!!お下がりください!!ここは危険です!!』

 

 

拡声器を使い、1人の駅員がやじ馬達に注意を促していた。

 

 

『ただ今、列車の脱線事故により駅には入れません!!』

 

「脱線?本当かい?」

 

「いや..やばい連中に駅が占拠されたって噂が...」

 

 

『お下がりください!!内部の安全が確保されるまで、駅は封鎖します!!』

 

 

呼びかける駅員に、エルザが質問する。

 

 

駅内(なか)の様子は?」

 

「な..何だね君は!!!」

 

 

驚く駅員だったが、エルザは即座に頭突きで駅員を黙らせる。

 

 

駅内(なか)の様子は?」

 

「は?」

 

 

ゴッ!!

 

 

駅内(なか)の様子は?」

 

「ひっ」

 

 

ゴッ!!

 

 

エルザは他にも2人の駅員を黙らせる。

 

 

「即答できる人しかいらないって事なのね」

 

「だんだんわかってきたわ..」

 

 

その様子を、見ていたルーシィとマキはエルザに恐怖する。

 

 

「てか!!ナツ(これ)ってあたしの役!⁉」

 

「流石にウミ(これ)運びながらじゃ動きにくいんですけど!⁉」

 

ナツをルーシィが、ウミをマキが運ぶ事をエルザ達に抗議する。

 

 

しかし...

 

 

「中へ行くぞ」

 

「おう」

 

『了解』

 

『あいさ』

 

『シカト..』

 

 

2人の抗議は、流されてしまう。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「軍の一個小隊が突入したが、まだ戻ってこないらしい!!恐らく、鉄の森(アイゼン・ヴァルト)と戦闘が行われているのだろう」

 

「ひぇ~」

 

 

駅内を走るルーシィ達の前に、驚くべき光景が広がっていた。

 

 

「なっ!?」

 

「全滅してるにゃ!!?」

 

 

軍の者であろう人達が、全員血を流して倒れていた。

 

 

「相手は一つのギルド、すなわち全員が魔導士。軍の小隊ではやはり話にならんか....」

 

「急いで!!!ホームはこっちだよ!!!」

 

 

コトリの先導の元、ルーシィ達はホームへと向かう。

 

 

ホームに足を踏み込んだエルザ達は、足を止めた。

 

 

「やはり来たな、妖精の尻尾」

 

 

列車の屋根に腰掛けるエリゴールと、その前には多くの魔導士達が待ち構えていた。

 

 

「な....なに....この数..」

 

 

魔道士達の数に、ナツを担ぐルーシィは驚く。

 

 

「待ってたぜぇ」

 

「貴様がエリゴールだな」

 

 

ここで、魔道士達のリーダーであるエルゴールとエルザが対面した。

 

 

「あれ....あの鎧の姉ちゃん......」

 

「なるほど....計画バレたのオマエのせいじゃん」

 

 

そこで、酒場で見た覚えのあるエルザにビアードが反応し、カラッカはなぜ計画が漏れたのか理解する。

 

 

「ナツ起きてっ!!!仕事よ!!!」

 

 

ゆっさゆっさとナツを揺らして、起こそうとするルーシィ。

 

 

「無理だよっ!!!列車→魔道四輪車→ルーシィちゃん、乗り物酔いのスリーコンボだもん」

 

「あたしは乗り物かっ!?」

 

 

ホノカの言葉に、ルーシィは突っ込みを入れる。

 

 

妖精(ハエ)がぁ~おまえ等のせいで....」

 

「おちつけよカゲちゃぁん」

 

「ん?」

 

「この..声....」

 

 

カゲヤマの声に、ナツとウミが反応する。

 

 

「貴様らの目的は何だ?返答次第ではただでは済まんぞ」

 

 

ゴォォォと威圧するエルザに対して、エリゴールは面白半分に答えた。

 

 

「遊びてぇんだよ、仕事も無ェしヒマなモンでよォ」

 

 

エリゴールの言葉に、ぎゃはははっと爆笑する。

 

 

「まだわかんねぇのか?駅には何がある」

 

 

ヒョオオオオと音を立て、エリゴールは宙に浮いた。

 

 

「飛んだ!!」

 

「風の魔法だっ!!」

 

「駅?」

 

 

ルーシィとハッピーは空を飛んだ事に驚き、エルザはエリゴールの言葉に疑問に思う。

 

 

エリゴールは放送機の上に、すとんっと着地した。

 

 

そこでようやく、エルザは言葉の意味を理解する。

 

 

「ララバイを放送するつもりか!!!?」

 

「ええ!!?」

 

「何ですって!!?」

 

 

エルザの言葉に、ホノカとコトリが驚く。

 

 

「ふははははっ!!!!この駅の周辺には何百..何千ものヤジ馬どもが集まっている。いや....音量を上げれば町中に響くかな..死のメロディが」

 

「大量無差別殺人だと⁉何の罪もない人達にララバイを聞かせるつもりか!!!」

 

「これは粛清なのだ。権利を奪われた者の存在を知らずに、権利を掲げ生活を保全している愚か者どもへのな。この不公平な世界を知らずに生きるのは罪だ、よって死神が罰を与えに来た。〝死〟という名の罰をな!!!」

 

 

エリゴールに、コトリが正論をぶつかる。

 

 

「そんな事したって、権利は戻ってこないよっ!!!」

 

「てゆーか、元々自分たちが悪いってのに....あきれた人たちね」

 

 

コトリに続いて、ルーシィも呆れながら正論をぶつける。

 

 

「ここまで来たらほしいのは〝権利〟じゃない〝権力〟だ。権力があれば全ての過去を流し未来を支配する事だってできる」

 

「アンタ、バッカじゃないのっ!!!」

 

 

呆れたマキは、エリゴールを罵倒する。

 

 

「残念だな、妖精(ハエ)ども」

 

『この声!!!』

 

 

カゲヤマの声に反応し、今度こそナツ達は目を覚ます。

 

 

「闇の時代を見る事無く死んじまうとは!!!」

 

「きゃあ」

 

 

影の魔法が、ルーシィを襲う。

 

 

「しまった!!!」

 

 

油断していたエルザは、攻撃を許してしまった事に後悔する。

 

 

拳の形をした影が、ルーシィに当たると思った次の瞬間。

 

 

「やっぱりオマエかああぁぁぁっ!!!」

 

 

ボゴォ!!という大きな音を立て、カゲヤマの攻撃を無力化させるナツ。

 

 

「てめぇ...」

 

 

ナツが起き上がった事に、エルザ達は笑みを浮かべ、グレイは安堵のため息をつく。

 

 

「ナイス復活♡」

 

 

ナツが起き上がった事に、ルーシィは喜んだ。

 

 

「なんかいっぱい人がいますね」

 

「敵よ敵!!ぜーんぶ敵!!!」

 

 

そして、ナツだけでなくウミも立ち上がった。

 

 

「へっ、面白そうじゃねぇか!!」

 

「今度は地上戦ですね!!!」

 

 

鉄の森を相手に、ナツ達はやる気をみせる。

 

 

そんなナツ達の様子を見て、エリゴールは内心笑っていた。

 

 

——かかったな......妖精の尻尾。多少の修正はあったが..これで当初の予定通り、笛の音を聴かせなきゃならねぇ奴がいる。必ず殺さねばならねぇ奴がいるんだ!!!

 

 

心の中でそう決意し、エリゴールは怪しい笑みを浮かべた。

 




ウミ「それにしても、エリゴールの目的は本当にララバイを放送する事なのでしょうか?」


リン「他に目的があるって事?」


ウミ「なぜ列車を占拠したのか...本当にスピードを求めての行動なのでしょうか?何かを忘れている気が...」


リン「だったら代わりに、リンが思い出してあげるにゃ!!」


ウミ「絶対に不可能なので遠慮しておきます」


次回!!『妖精女王』


ウミ「さて、鉄の森の魔導士達全員が相手ですが、ララバイを阻止する為に負けるわけには行きません!!」


リン「リンも頑張るにゃ!!」




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第14話 妖精女王

LOVE TAIL前回までは


エリゴール「妖精ハエか....飛び回っちゃいけねぇ森もあるんだぜぇ」


ハッピー「何かルーシィに言う事があった気がする」


エルザ「軍の一個小隊が突入したが、まだ戻ってこないらしい!!」


リン「全滅してるにゃ!!?」


エルザ「ララバイを放送するつもりか!!!?」





 

 

「こっちは妖精の尻尾最強チームよ、覚悟しなさい!!」

 

 

睨みあう両者だったが、そんな中でエリゴールが動いた。

 

 

「後は任せたぞ、俺は笛を吹きに行く」

 

 

そう言うと、エリゴールは駅の大きな窓ガラスへと近づいた。

 

 

「身の程知らずの妖精(ハエ)どもに......鉄の森(アイゼンヴァルト)の..闇の力を思い知らせてやれぃ」

 

 

ガシャァァァァァン!!という大きな音を立て、ガラスを割って隣に移った。

 

 

「逃げるのか!!エリゴール!!!」

 

「しまった!!!向こうのブロックに!?」

 

 

逃げるエリゴールにエルザが静止の声を掛けるが届かず、逃げるエリゴールに驚くコトリ。

 

 

「ナツ!!グレイ!!二人で奴を追うんだ」

 

『む』

 

 

直ぐにエルザがナツ達に指示するが、2人は不服そうにする。

 

 

「おまえたち2人が力を合わせれば、エリゴールにだって負けるハズがない」

 

『むむ..』

 

「ここは私達で何とかする」

 

「なんとか..ってあの数を女子だけで?」

 

 

エルザの言葉に、ルーシィは驚いた。

 

 

「エリゴールはララバイをこの駅で使うつもりだ。それだけはなんとしても阻止せねばならない」

 

 

エルザが説明するが、2人はメンチを切りあって全然聞いていなかった。

 

 

「聞いているのかっ!!」

 

『あいさー!!!』

 

 

ナツ達は肩を組みあって、エリゴールを追いかけていた。

 

 

「うわっ!!逃げた!!」

 

「エリゴールさんを追う気だ!!」

 

 

その時、レイユールが動いた。

 

 

「任せろ!!」

 

 

レイユールは指の根元に付けた紐のようなものを操り、2階の手すりに巻き付けた。

 

 

紐を使い、2階に飛んだレイユールは仲間に対して高々と宣言する。

 

 

「このレイユール様が仕留めてくれる!!」

 

 

レイユールに続いて、カゲヤマも足元に魔方陣を発動した。

 

 

「俺も行く!!あの野郎だけは許せねぇ!!」

 

 

そう叫ぶと、カゲヤマは影の中へと消えていった。

 

 

「あらあら、レイユールとカゲは好戦的だのう。あんなの放っておいてお姉ちゃんと遊んだほうが楽しいだろうに」

 

「作戦の為だよ、オマエよりずぅーっとエライ」

 

 

ビアードの発言に、カラッカが指摘する。

 

 

「こいつら片付けたら、私達もすぐに追うぞ」

 

「うん」

 

「早く倒して、ナツの援護に向かいましょう!!」

 

「早くグレイ君を追いかけないと」

 

 

残ったエルザ達を見て、ビアード達は鼻の下を伸ばす。

 

 

「女だけで何ができるやら....それにしても、全員いい女だなぁ」

 

「殺すにはおしいぜ」

 

「とっつかまえて売っちまおう」

 

「待て待て妖精の脱衣ショー見てからだっ」

 

 

男達の言葉を聞いて、ルーシィは頬に手を当てる。

 

 

「可愛すぎるのも困りものね」

 

「ルーシィ...帰ってきなさいよ...」

 

 

自分の可愛さにトリップするルーシィに、マキが突っ込みを入れる。

 

 

「下劣な」

 

 

エルザが手を前に突き出すと、1本の剣が出現した。

 

 

「剣が出てきた!!」

 

「魔法剣!!!」

 

 

エルザが剣を出現させた事に、ルーシィとマキは驚く。

 

 

「これ以上、妖精の尻尾を侮辱してみろ。貴様等の明日は約束できんぞ」

 

 

ふざけた事をいう鉄の森の魔導士達に、脅しを言うエルザ。

 

 

「めずらしくもねぇ!!」

 

「こっちにも魔法剣士はぞろぞろいるぜぇ」

 

「その鎧ひん剥いてやるわぁ!!!」

 

 

エルザの脅しも居に返さず、エルザに向かう魔導士達。

 

 

向かってくる魔導士に対して、エルザの剣が一閃した。

 

 

『うわぁァァァァァッ!!?』

 

 

一瞬にして魔導士達が吹っ飛ばされ、相手の魔法剣も粉々に砕かれた。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

気合の掛け声と共に、エルザは魔導士達の群れの中に突っ込む。

 

 

エルザが横薙ぎにすると、またしても多くの魔導士達が吹っ飛ぶ。

 

 

「これでもくらえ!!」

 

 

近距離じゃ不利だと思った魔導士達は、遠距離攻撃へとシフトした。

 

 

飛んでくる魔法をジャンプする事で避けたエルザは、魔法剣から槍へと変えた。

 

 

「槍になった!!」

 

 

エルザが槍を横薙ぎすると、遠距離の攻撃をしてきた魔導士を吹っ飛ばす。

 

 

「おごっ」

 

 

すると今度は、槍から双剣へと変わりまたも一掃する。

 

 

『うわぁぁぁぁっ!!』

 

「今度は双剣!!?」

 

「こ...この女....なんて速さで〝換装〟するんだ!!?」

 

 

エルザの強さに、驚くカラッカとビアード。

 

 

「換装?」

 

 

換装をしらないルーシィに、リンが解説する。

 

 

「魔法剣はルーシィちゃんの星霊魔法に似てて、別空間にストックされてる武器を呼び出すっていう原理なんだにゃ」

 

「なるほど、その武器を持ち換える事を換装っていうんだ」

 

「へぇ~....すごいなぁ」

 

 

リンの説明に、マキとルーシィはエルザの凄さを実感した。

 

 

「でも、エルザのすごいトコはここからですよ」

 

「え?」

 

「エルザ?」

 

 

ウミの言葉に疑問に思うルーシィと、エルザという名に疑問に思うカラッカ。

 

 

「まだこんなにいるのか..面倒だ一掃する」

 

 

そう言うと、エルザの鎧が剝がれる。

 

 

「おおっ!!!なんか鎧がはがれていく」

 

「うひょー」

 

 

エルザの鎧が、ドレスのような銀の鎧に背中から2対の翼が生えている『天輪の鎧』へと変わる。

 

 

「魔法剣士は通常〝武器〟を換装しながら戦う。だけどエルザは自分の能力を高める〝魔法の鎧〟にも換装しながら戦う事ができるんだ。それがエルザの魔法、その名は『騎士(ザ・ナイト)』!!!!」

 

「うわぁ」

 

「おおおっ!!!」

 

 

ハッピーの説明に、ルーシィは喜びの声を上げ、男達も目を♡に変える。

 

 

「エルザ..!?こいつまさか....」

 

 

そこで、カラッカがエルザの正体に気づいた。

 

 

「舞え、剣たちよ」

 

 

数本の剣を、円状に召喚する。

 

 

循環の剣(サークル・ソード)

 

 

回転する剣が、カラッカとビアード以外の魔導士達を一掃する。

 

 

『うわぁぁぁっ!!』

 

「凄っ!!」

 

「一撃で殆ど全滅...」

 

『あい!!』

 

「私達の出番ありませんでしたね」

 

「さすがエルザちゃん」

 

 

エルザの強さを知っているウミ達は改めて感心するが、初めてみたルーシィとマキは若干引いていた。

 

 

「くそっ!!こんのヤロォ!!!俺様が相手じゃあ!!!」

 

 

ビアードは頭に血が上り、腕に魔法を発動させエルザに突っ込む。

 

 

「ま..間違いねぇっ!!!コイツぁ妖精の尻尾最強の女、妖精女王(ティターニア)のエルザだっ!!!」

 

 

エルザの正体に気づくカラッカだったが、気づくのが遅くビアードは一撃で沈められた。

 

 

「ビアードが一撃かよっ!!!ウソだろ!!?」

 

「すごぉぉ——い!!!ちょっとホレそ♡」

 

 

エルザの強さにカラッカは恐怖し、ルーシィは惚ける。

 

 

「相手が悪すぎる!!」

 

 

そう言って、カラッカはその場から逃げ出した。

 

 

逃げた事に気づいたエルザは、直ぐにルーシィ達に指示する。

 

 

「エリゴールの所に向かうかもしれん、追うんだ!!」

 

「え——っ!!?あたし達がっ!!?」

 

「頼む!!」

 

 

断ろうとするルーシィだったが、ギロッと睨む。

 

 

「はいいっ!!!行ってまいりまーす!!!」

 

 

ルーシィはマキとハッピーを連れて、カラッカの後を追った。

 

 

「それでは、エルザ私達は」

 

「あぁ、早くナツ達の援護に向かってやってくれ」

 

 

エルザの許可を得た事で、ウミ達はナツ達の後を追った。

 

 

一人残されたエルザは、鎧を元の簡易的な物に戻すとふらついて膝をついた。

 

 

「やはり魔道四輪を飛ばしすぎたのがこたえたな....みんな、後は頼んだぞ」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

一方、エリゴールを追いかけているナツ達は、口論しながら通路を走っていた。

 

 

「二人で力を合わせればだぁ?冗談じゃねぇ」

 

「火と氷じゃ力は一つになんねーしな、無理」

 

「だいたいエルザは勝手すぎんだよっ!!!」

 

「なんでもかんでも自分一人で決めやがって!!!」

 

 

『エリゴールなんかオレ一人で十分だっての!!!ってマネすんなっ!!!』

 

 

取っ組み合いを始めそうになったナツ達だったが、前が左右に分かれている事に気づいた。

 

 

「どっちだ?」

 

「二手に分かれりゃいいだろーが」

 

 

ナツは左に、グレイは右の通路の前に立つ。

 

 

「良いかナツ、相手は危ねぇ魔法ぶっ放そうとしてるバカヤロウだ。見つけたら叩き潰せ」

 

「それだけじゃねえだろ?妖精の尻尾にケンカ売ってきた大バカヤロウだ、黒コゲにしてやるよ」

 

 

二人はにぃと笑いあうが、直ぐに正気に戻りふん!!!とそっぽを向いた。

 

 

死ぬんじゃねーぞ

 

 

「ん?」

 

 

ボソッと言ったグレイの言葉に、ナツは反応する。

 

 

「なんでもねぇよ!!!さっさと行きやがれっ!!!」

 

 

柄にもない事を言ったせいか、グレイは顔を赤くし走り出す。

 

 

 

 

 

しばらく走ったグレイは、拡声器を見つけて悪態をつく。

 

 

「チィ、呪殺の音色をあんなモンで流されたら、たまったモンじゃねぇぞ」

 

 

しかし、ある事に気づいてピタッと止まる。

 

 

「流す!!?そうかっ!!!ララバイを放送するつもりなら、エリゴールは拡声装置のある部屋にいるハズじゃねぇかっ!!!」

 

 

体を反転させ、来た道を戻ったグレイは放送室へと向かった。

 

 

「ふっ!!!」

 

 

放送室の扉を蹴破ったグレイは、中を見回すが誰もいなかった。

 

 

「いない...なぜいねぇ?放送するならココからしかできねぇだろ?」

 

 

熟考するグレイに、近づく影があった。

 

 

「ま....待てよ..ココにいねぇのはおかしい..放送が目的じゃねぇってのか?」

 

 

天井裏からレイユールが紐で逆さまになってぶら下がり、グレイに向けて紐で攻撃する。

 

 

攻撃があたる直前、グレイは横に飛ぶことで避ける。

 

 

「オマエ..勘がよすぎるよ。この計画には邪魔だな」

 

「やっぱり何か裏があるって事か?まったく....仕事もしねーでなーにしてんだか.....」

 

 

狭い放送室で、グレイとレイユールの戦いが始まった。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

ナツ達を追うウミ達は、先程ナツ達が分かれた通路まで来ていた。

 

 

「二手に分かれてる」

 

「グレイ君達、どっちにいったんだろ?」

 

「二人が一緒に行動することはあり得ません、おそらくここで別れたのでしょう」

 

 

コトリの疑問に、ウミが答える。

 

 

そこで、ウミはスンスンと鼻を動かした。

 

 

「こっちからナツの匂いがします」

 

 

そう言って、ウミは左側の通路を指差した。

 

 

「ってことは、グレイ君はこっちだね」

 

 

そう言って、コトリは右の通路を見る。

 

 

「じゃあ、そっちは任せましたよ。コトリ」

 

「多分、グレイ君の方に紐使いの魔導士が向かったから気を付けてね」

 

「そっちも影使いが行ったから、気を付けてね」

 

 

そう言って、ホノカとウミが左に向かい、コトリが1人で右に向かった。

 




ナツ「あの影野郎!!次会ったら容赦しねぇ!!」

ホノカ「私も許さないよ!!だってナツ君を足蹴にしたんだもん!!」

ハッピー「ナツ~ホノカ~、オイラ達の目的はエリゴールを止める事で、影の魔導士を倒す事じゃないよ」

ナツ「そんなの関係ねぇ!!やられっぱなしは気に食わねぇからな!!」

ホノカ「燃えてきた~!!」

ハッピー「そんなこと言ってると、エルザにぶっ飛ばされちゃうよ」


次回!!『妖精たちは風の中』


ホノカ「さ、さぁ、エリゴールを止めるよナツ君!!」

ナツ「あ、あいさ~」


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第15話 妖精たちは風の中

エリゴール「後は任せたぞ、俺は笛を吹きに行く」


エルザ「これ以上、妖精の尻尾を侮辱してみろ。貴様等の明日は約束できんぞ」


カラッカ「ま..間違いねぇっ!!!コイツぁ妖精の尻尾最強の女、妖精女王ティターニアのエルザだっ!!!」


グレイ「ララバイを放送するつもりなら、エリゴールは拡声装置のある部屋にいるハズじゃねぇかっ!!!」


レイユール「オマエ..勘がよすぎるよ。この計画には邪魔だな」


グレイ「やっぱり何か裏があるって事か?まったく....仕事もしねーでなーにしてんだか.....」


クローバーの街の地方ギルドマスター連盟、定例会会場。

 

 

「マカロフちゃん、あんたんトコの魔導士ちゃんは元気があっていいわぁ~♡」

 

 

魔導士ギルド『青い天馬(ブルーペガサス)』のマスターボブ、ちなみに男だ。

 

 

「聞いたわよ、どっかの権力者コテンパンにしちゃったとかぁ」

 

 

飲みすぎて酔っぱらっているのか、うひゃひゃひゃと笑いながらマカロフは答える。

 

 

「お———!!!新入りのルーシィじゃな!!!あいつはいいぞぉっ!!!特に乳がいいっ!!!ムチムチボヨヨ~ンじゃ!!!」

 

「きゃ~エッチ~♡」

 

「笑ってる場合か、マカロフよ」

 

「あぁ?」

 

 

そこで、1人の男が話しかけてくる。

 

 

魔導士ギルド『四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)』のマスターゴールドマイン。

 

 

「元気があるのはいいが、てめぇんトコはちぃとやりすぎなんだよ。評議員の中じゃ、いつか妖精の尻尾が町1コ潰すんじゃねえかって、懸念してる奴もいるらしいぞ」

 

「うひょひょ、潰されてみたいのう!!!ルーシィのボディで~」

 

「もう♡ダメよ!!自分のトコの魔導士ちゃんに手ぇ出しちゃ」

 

 

その時、マカロフに手紙を持った1羽の小鳥が近づいてきた。

 

 

「マスターマカロフ、マスターマカロフ、ミラジェーン様からお手紙が届いてます」

 

「ほい、ご苦労」

 

 

マカロフは手紙を受け取ると、妖精の尻尾のマークが入った封蝋印を、円を描くようになぞった。

 

 

すると、手紙から魔方陣が現れ、ミラの姿が映し出される。

 

 

『マスター、定例会ごくろう様です』

 

「どうじゃ!!!こやつがウチの看板娘じゃ!!!め~ん~こ~い~じゃろぉ!!!」

 

「あらま~」

 

「ミラジェーンちゃんか、すっかり大人っぽくなりやがったな」

 

 

マカロフはその場にいる全員に、ミラを自慢げに見せつける。

 

 

『実は、マスターが留守の間とても素敵な事がありました』

 

「ほう」

 

『なんと!!エルザとナツとグレイ、それにウミとホノカとコトリがチームを組んだんです!!!もちろんルーシィとマキ、ハッピーとリンも』

 

「!!!」

 

 

さっきまで上機嫌に飲んでいたマカロフだったが、ミラの話を聞いて一気に酔いが醒め、表情が一変する。

 

 

『ね?素敵でしょ?私が思うに、これって妖精の尻尾最強チームかと思うんです』

 

 

ミラの話が進むに連れ、マカロフは小刻みに震えだし冷や汗もダラダラと流していく。

 

 

『一応報告しておこうと思って、お手紙をしました♡それでは~』

 

 

ミラの話が終わった途端、マカロフはガクッと全身の力が抜け、ぱたっと倒れた。

 

 

「マカロフ!!!」

 

「きゃー!!!」

 

「ど..どうした!?」

 

 

突然マカロフが倒れた事で、その場が騒然となった。

 

 

「あ~らら~♡」

 

「心配が現実になりそうだな、おい」

 

 

事の顛末を見ていたボブは笑い、ゴールドマインは呆れていた。

 

 

——な..なんて事じゃっ!!!奴等なら本当に町一つ潰しかねんっ!!!定例会は今日終わるし明日には帰れるが....それまで何事も起こらずにいてくれぇぇぇっ!!!頼むっ!!!

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

「一体中で何が起きてんだ?」

 

「軍隊が突入したけど、まだ戻ってきてねぇぞ」

 

「まさか、テロリスト達にやられちまったのか?」

 

 

オシバナ駅の前には、先程よりも多くの野次馬が集まってざわざわと騒いでいた。

 

 

「それにしても風が強いな..」

 

「見ろ!!誰か出てきた!!」

 

 

その時、野次馬の1人が駅の中からエルザが出てくるのに気づいた。

 

 

「き..君!!さっき強引に中に入った人だね、中の様子はどうなんだね」

 

 

駅員の1人がエルザに質問するが、エルザは質問に答える事無く、駅員から拡声機を奪った。

 

 

『命が惜しい者は、今すぐこの場を離れよ!!!!駅は邪悪なる魔導士どもに占拠されている!!!!そしてその魔導士は、ここにいる人間全てを殺すだけの魔法を放とうとしている!!!!できるだけ遠くへ避難するんだ!!!!』

 

 

シーンと静まる野次馬達だったが、数秒かかってようやく状況を理解する。

 

 

 

 

『わああああああああ』

 

 

 

野次馬達は一目散にと、駅から離れようと逃げ出した。

 

 

「き..君!!!なぜそんなパニックになるような事を!!!」

 

「人が大勢死ぬよりマシだろう」

 

 

慌てる駅員に、エルザは冷静に答えた。

 

 

「君達も早く避難した方が良い、今私が言った事は本当の事だ。もちろん私達は全力でそれを阻止するつもりだが、万が一という可能性もある君達も避難した方がいい」

 

「ひっ」

 

「うああああっ!!」

 

 

エルザの話を聞き終わった駅員達も、野次馬同様逃げ出した。

 

 

——ララバイ....その音色を聴いた者全てを死に至らす禁断の魔法....エリゴールはそれを使い大量殺人を目論んでいる。しかしこれだけ人がいなければララバイを放つ意味があるまい。さて....奴はどう動くか..

 

 

頭の中で考えを纏めるエルザだったが、振り向いた瞬間エルザは我が目を疑った。

 

 

「こ....これは!!?」

 

 

エルザが見たものは、オシバナ駅を包み込むように竜巻が発生していた。

 

 

「こ..こんな事が....駅が風に包まれている!!!!」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

エルザが外で野次馬達を逃がしている間、グレイは放送室でレイユールと戦っていた。

 

 

「計画の邪魔をする奴は、全て殺す」

 

「計画もくそもねぇだろ。ララバイを放送してぇなら、この場所からしかできねぇ。そのララバイを持ったエリゴールがここにいねぇんじゃ、何の為に駅を占拠したのかわかんねぇぞ」

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!はぁ!!!!」

 

 

グレイの話も聞かずに、ユリエールは問答無用で攻撃を仕掛ける。

 

 

「おっと」

 

 

グレイはレイユールの攻撃を避けながら、粉々に壊されていく放送機を見る。

 

 

——放送機器を躊躇なく破壊しやがった....!!!!やはりララバイを放送する気はねぇぞこいつ等!!!

 

 

「俺のウルミンからは、逃げられねぇ!!」

 

 

言葉通り、グレイが避けたレイユールの紐は軌道を変えてグレイに襲い掛かる。

 

 

その状況にグレイは慌てる事無く、魔法を発動させる。

 

 

グレイが左の掌の上に右の拳を置いた途端、グレイから冷気が放出する。

 

 

グレイの前に、水色の魔方陣が展開される。

 

 

「アイスメイク!!(シールド)!!」

 

 

八方に広がる花のような形状の盾を、グレイは氷で造り出した。

 

 

レイユールの紐は、氷を貫通するほど威力が無かった為に全て弾き飛ばされてしまう。

 

 

「氷の魔法かっ!!?」

 

 

攻撃が防がれた事に驚くレイユールに、グレイのとは違う冷気が襲った。

 

 

「離れて!!グレイ君!!」

 

 

突如響いたその声に反応し、グレイは上へ飛んだ。

 

 

レイユールの後ろに、氷結傀儡に乗ったコトリに気づいたからだ。

 

 

耳をつんざく不快な高音と共に、口にあたる部分から、青い光線のようなものを吐き出す。

 

 

その光線が床に当たり、レイユールの足ごと凍らせる。

 

 

「あ、足がっ!!?」

 

「ナイスだ!!コトリ!!」

 

 

着地したグレイは、反撃させる余裕を与えず魔法を発動する。

 

 

「アイスメイク!!(ナックル)!!」

 

 

コトリが作った床の氷の形を変え、グレイは氷で作った拳でレイユールを殴り飛ばす。

 

 

「ぐわぁぁぁぁっ!!!」

 

 

殴り飛ばされたレイユールは、壁を貫通し隣の部屋まで吹っ飛ばされる。

 

 

「てめェ等の本当の目的は何だ?」

 

「スピーカーで、ララバイを放送するつもりじゃなかったの?」

 

 

コトリも放送室の惨状を見て、レイユールを問い詰める。

 

 

「ふっふっふ、そろそろエリゴールさんの魔風壁が発動している頃だ」

 

「魔風壁?」

 

「貴様等をここから逃がさねぇ為の風のバリアさ」

 

「何!!?」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

オシバナ駅が風に包まれているのに驚いているエルザの後ろに、エリゴールが現れる。

 

 

「ん?なぜ妖精(ハエ)が外に1匹..そうか..ヤジ馬どもを逃がしたのはてめぇか女王様よォ」

 

「エリゴール!!!貴様がこれを!?」

 

「てめぇとは一度戦ってみたかったんだがな....残念だ。今は相手をしてるヒマがねぇ」

 

 

そう言うとエリゴールの手が紫色に光ると、エルザに突風が襲った。

 

 

腕を交差して防ぐエルザだったが、後ろに吹っ飛ばされ風の中へと入ってしまう。

 

 

「エリゴール!!!」

 

 

エルザは風に向かって走り、脱出しようとする。

 

 

「あぐっ」

 

 

しかし、中に入れた時とは違い、風に弾かれ腕を痛めてしまう。

 

 

「やめておけ..この魔風壁は外から中への一方通行だ。中から出ようとすれば風が体を切り刻む。鳥籠ならぬ妖精(ハエ)籠ってところか、...にしてはちとデケェがな。ははっ」

 

「これは一体、何のマネだ!!?」

 

「てめぇ等のせいでだいぶ時間を無駄にしちまった。俺はこれで失礼させてもらうよ」

 

「待て!!!どこへ行くつもりだ!!?エリゴール!!!話は終わっていないぞっ!!!」

 

 

エルザは尚も叫び続けるが、もう既にエリゴールの姿は無かった。

 

 

「一体....どうなっているんだ..この駅が標的じゃないのか!?」

 

 

エルザは悔しそうに、血だらけになった拳を握った。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

グレイはレイユールの胸倉を掴み、壁に叩きつける。

 

 

「ややこしい話は(キレ)ェなんだ、何がどうなってやがる」

 

「計画に想定外の妖精(ハエ)が飛んで来た、だから閉じ込めたってだけの話さ。本来、この駅を占拠する目的はこの先の終点クローバー駅との交通を遮断する為だ」

 

「何!?」

 

「あの町は大渓谷の向こうにあり、この路線以外の交通手段はない。エリゴールさんのように、空でも飛べれば別だがな」

 

「ララバイはそっちねっ!!?」

 

 

 

そこでようやく、コトリにもエリゴール達の目的が分かった。

 

 

「クローバーには何があるか、よーく思い出してみるんだなっ!!!」

 

 

そう言うと、レイユールは袖の下に隠していた紐でグレイを攻撃する。

 

 

「隙あり!!」

 

 

至近距離で攻撃を食らったグレイは、まともに攻撃を食らってしまった。

 

 

「グレイ君!!?」

 

 

グレイが油断して攻撃を受けた事に、コトリは動揺する。

 

 

「ま....まさか..!!そんな..!!!クローバー.........あの町は......じーさんどもが定例会をしてる町だ!!!!本当の狙いはギルドマスターかぁっ!!!!」

 

 

「ははははははっ!!!ようやく気付いたか!!!もう手遅れだけどな!!!」

 

 

グレイ達が気づいた事に、レイユールは笑い声をあげる。

 

 

「強力な魔法を持ったじーさんども相手に、思い切った事するじゃねーの」

 

「何も知らねぇじじい相手に、笛を聴かせるなんて造作もねぇさ。エリゴールさんならきっとやってくれる」

 

「ぐおっ」

 

 

レイユールはグレイを紐で拘束し、身動きを取れなくさせる。

 

 

「そして、邪魔するてめぇ等はこの駅から出られない。もう誰にも止められないって事だ!!今まで虐げられてきた報復をするのだっ!!!すべて消えてなくなるぞォ!!!!」

 

「グレイ君!!」

 

 

グレイを助けようとコトリが動こうとした、その時だった。

 

 

「うぅぅぅおぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

グレイの体から、尋常じゃない程の冷気が放出された。

 

 

「えっ!?」

 

 

その冷気はたちまち、レイユールの紐を凍てつかせる。

 

 

自身を拘束する全ての紐が凍り付かされ、破壊することで脱出するグレイ。

 

 

「止めてやるよ」

 

「え!?へあっ!!?」

 

 

そしてその冷気は、徐々にレイユールの身体をも凍らせる。

 

 

「そして、オレ達の〝(マスター)〟を狙った事を後悔しやがれ。あんな爺さん共でも、俺達の親みたいなもんだ!!!」

 

「うっ...」

 

 

恐怖するレイユールの顔を、グレイが鷲掴みにする。

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞコトリ」

 

「うん」

 

 

そう言って、グレイ達は放送室を後にする。

 

 

「闇ギルドよりおっかねぇギルドがあるって事を、思い知らせてやる!!!!」

 

 

グレイ達が出ていく放送室には、完全に氷漬けにされたレイユールだけが残されていた。

 




ルーシィ「格好良かったな~エルザの鎧姿!!」


マキ「妖精女王と呼ばれるだけはあるわね」


ミラ「他にも、100種類以上あるらしいわよ」


ルーシィ「私も正義のヒーローみたいな格好いい鎧が欲しいな~はぁ~」


マキ「あんたには似合わなそうだけどね」


ミラ「でも...ルーシィ達にはもっと似合う服があるじゃない」


ルーシィ「え?」


マキ「何ですか?」


次回!!カゲヤマを捕まえろ!!


ミラ「皆が一度は憧れるアレよ」


マキ「制服か何かですか?」


ミラ「そうそう!!この間のメイド服とか...」


『そのネタはもういいです!!』



どうもナツ・ドラグニルです!!


20日に投稿するのを忘れてしまい、申し訳ございません!!


楽しみにしていただいた読者の皆様、申し訳ございません!!


リアルが忙しく、パソコンを起動するが出来ませんでした...


なので、本来なら1話だけ投稿していますが本日だけ2話投稿させていただきます。


まぁ、LOVE TAILを2話ではなく、他の作品と合わせての2話ですが...


これからも応援の程、宜しくお願いいたします。


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第16話 カゲヤマを捕まえろ!!

LOVE TAIL前回までは!!


野次馬「なんだありゃ!!?」


野次馬「駅が風に包まれている!!」


エリゴール「貴様等はここから出る事は出来まい」


レイユール「そろそろエリゴールさんの魔風壁が発動している頃だ」


グレイ「闇ギルドよりおっかねぇギルドがあるって事を、思い知らせてやる!!!!」


「知らねぇんだよ....む..無理だって..魔風壁の解除なんて.........オレ達ができる訳ねぇだろ....」

 

 

エルザは鉄の森の魔導士達が倒れている場所まで戻り、倒れていた魔導士達を縄で括り、ビアードを問い質していた。

 

 

「エルザ——!!!」

 

「エルザちゃ——ん!!!」

 

「グレイとコトリか!?」

 

 

上の階から、エルザを呼ぶグレイとコトリの声が響く。

 

 

「ナツ達は一緒じゃないのか?」

 

「二手に分かれた!!つーかそれどころじゃねぇっ!!!」

 

「鉄の森の本当の標的はこの先の町だ!!!」

 

「何!?」

 

「マスター達の定例会の会場..奴はそこで呪歌を使う気なの!!!」

 

「そういう事か!!」

 

「ひぃぃぃぃぃっ!!!」

 

 

グレイとコトリの説明を聞いたエルザは、更に怒気を孕んでビアードを睨む。

 

 

「しかし今、この駅には魔風壁が」

 

「ああ!!さっき見てきた!!無理矢理出ようとすれば、ミンチになるぜありゃ!!」

 

 

グレイはそう言って、コトリと共に2階から飛び降り、エルザの目の前に着地する。

 

 

「経験済みだ...」

 

「っ!?」

 

「エルザちゃんその腕...」

 

 

グレイ達はそこでようやく、エルザが右腕を負傷している事に気づいた。

 

 

「何ともないさ...しかし、こうしている間にもエルゴールはマスター達の所へ近づいているというのに..」

 

 

しかしそこで、エルザはある事に気づいた。

 

 

「そういえば、鉄の森の中にカゲと呼ばれてた奴がいた筈だ!!!奴は確かたった一人で呪歌の封印を解除した!!!」

 

解除魔導士(ディスペラー)か!!?」

 

「それなら魔風壁も!!!」

 

 

その話を聞いていたビアードは、チィっと舌打ちをする。

 

 

「探すぞ!!!カゲを捕らえるんだ!!!」

 

「おう!!!」

 

「うん!!!」

 

 

エルザ達はカゲヤマを探すべく、駅の中へと捜索に向かった。

 

 

エルザ達の姿が完全に無くなったのを確認すると、ビアードは壁に向かって話しかける。

 

 

「カラッカ......いつまでそこに隠れてる?いるんだろ?」

 

 

何かの魔法か、ルーシィ達が追いかけていた筈のカラッカがぬぅぅっと壁から出てきた。

 

 

「ス....スマネ..」

 

「聞いてただろ?カゲが狙われている、行けよ」

 

「か..かんべんしてくれ!!オレには助太刀なんて無理だっ!!!」

 

 

しかし、ビアードから帰ってきた言葉はカラッカが重いもしなかった言葉だった。

 

 

「もっと簡単な仕事だよ....」

 

「え?」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

その頃...逃げたカラッカを追って、ルーシィ達は通路を歩いていた。

 

 

「あ~あ....完全に見失っちゃったよ」

 

「あの図体でどんだけ足速いのよ」

 

『あい』

 

「ねぇ....いったんエルザのトコ戻らない?」

 

「そうね...宛もなく彷徨うよりは、合流した方が良いんじゃないかしら」

 

 

そう提案するルーシィとマキだったが、それを聞いたハッピー達はがくがくぶるぶると震えだす。

 

 

『な..何よ』

 

 

様子の可笑しいハッピー達に、ルーシィ達は訝し気に見る。

 

 

「エルザは〝追え〟って言ったんだよ...そっか.....すごいなぁルーシィ達は.........エルザの頼みを無視するのかぁ」

 

「あのエルザちゃんの頼みをねぇ~、エルザちゃんにあんな事されるルーシィ達は見たくないなぁ」

 

 

ハッピー達の不穏な言葉に、ルーシィ達は恐怖する。

 

 

「あ..あたし達何されちゃう訳!!?」

 

「わ..分かったわよっ!!!探しますっ!!!見つかるまで探しますっ!!!」

 

 

怖くなったルーシィ達は、探すことを再開する。

 

 

「ルーシィ達って、コロコロ態度変わるよね」

 

「もおぉぉっ!!うるさいなぁっ!!!」

 

「てか、何でアタシになついてんの!!?このネコ共ォ!!!!」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「エリゴォォォォル!!!!」

 

 

ドゴォ!!と音を立て、壁を破壊するナツ。

 

 

「何処に隠れてんだァァっ!!!!コラァアァ———っ!!!!」

 

 

ふん!ふん!と周りを見回したナツは、部屋を出た後に扉を開けずに隣の壁を壊す。

 

 

「次ィィっ!!!」

 

「(あ..あいつ..扉ってモン知らないのかよ。まったく.....メチャクチャな奴だな.....)」

 

 

その様子を、天井の影に隠れて見ていたカゲヤマが呆れる。

 

 

「次ィっ!!!」

 

 

さっきと同じ様に、壁を破壊しようとするナツ。

 

 

しかし...

 

 

「やめてください!!!」

 

「あがっ!!?」

 

 

騒音を聞きつけてやってきたウミに、後頭部をシバかれるナツ。

 

 

「何度言ったら分かるんですか!!部屋に入るなら扉を使ってくださいと、あれ程言ったではないですか!!」

 

「さすがにそれはやりすぎだよ、ナツ君」

 

 

いつもナツに甘いウミですら、余りの行いに説教を始める。

 

 

その様子を見ていたカゲヤマは、ニヤニヤしながら見ていた。

 

 

「(しかし、エリゴールさんはもうこの駅にはいないよ....いくら探しても無駄なんだ)」

 

 

天井の影から、にゅっと出てくるカゲヤマ。

 

 

その事に、ホノカはもちろん、匂いに敏感なナツとウミですら気づかなかった。

 

 

「(もう放っておいても何の問題もないんだけど....それじゃあ僕の....)」

 

 

影から出てきた時の勢いを利用し、ナツの後頭部に蹴りを放つ。

 

 

「気がおさまらないんでねっ!!!!」

 

「ぐほぉ!!」

 

 

ズゴォン!!と大きな音を立て、荷物の中に突っ込むナツ。

 

 

「ナツ!!?」

 

「あなたは!!?」

 

 

ナツが奇襲された事に驚くウミと、突然カゲヤマが現れた事に驚くホノカ。

 

 

「さっきは世話になったな、乗り物酔いのハエ野郎!!」

 

 

脚をバタバタとさせながら、何とか這い出てくるナツ。

 

 

「またおまえか——っ!!!」

 

 

くわっと目を見開いてキレるナツだったが、ワクワクランドという看板に顔を突っ込み、ちょうどキャラクターの顔の部分がナツの顔に差し替えられていた。

 

 

『ぶふっ!!』

 

 

ナツの面白い格好に、思わずウミとホノカは噴き出してしまった。

 

 

「ふふっ、似合っているよそれ」

 

「うるせぇよハゲ」

 

「ナツ君、この人はハゲヤマじゃなくてカスヤマさんだよ!!名前を間違えたら失礼だよ」

 

 

ナツの言葉に、ホノカがズレた指摘をする。

 

 

「ハゲでもカスでもねぇ!!カゲだ!!カゲヤマ!!ていうか、お前の方が失礼なんだよ女!!!」

 

 

ボケなのか天然なのか分からないホノカに、突っ込みを入れるカゲヤマだったが直ぐに冷静さを見せる。

 

 

「まぁいいや、君の魔法はだいたい分かった。体に炎を付加する事で破壊力を上げる、めずらしい魔法だね」

 

 

人を馬鹿にする物言いに、ナツは怒りで看板を破壊する。

 

 

「ぬぉおおおっ!!!めっちゃくちゃ殴りてえけど、それどころじゃねぇっ!!!」

 

 

ナツは拳を、カゲヤマに向けて突き出した。

 

 

「おめえには用はねえ!!!」

 

「エルゴールはどこ!!!」

 

 

ナツとホノカの問いに、カゲヤマは笑いながら答える。

 

 

「さあてどこかな、僕に勝てたら教えてやってもいいけどね」

 

 

カゲヤマがそう言うと、足元に紫色の魔方陣が現れる。

 

 

「ナックルシャドウ!!」

 

 

拳の形をした影が襲うが、ナツ達は全て避ける。

 

 

「ほう?殴った後に教えてくれんのか?一石二鳥じゃねーか。燃えてきたぞ」

 

「チッ、すばしっこい!!しかし八つ影(オロチシャドウ)はかわせまいっ!!!」

 

 

8つの首の蛇の影が、ナツ達を襲う。

 

 

「逃げてもどこまでも追いかけてゆくぞ!!!」

 

 

襲い掛かる蛇に慌てる事無く、ナツは拳を撃ち合わせ赤い魔方陣を出現させる。

 

 

「砕け散れ!!火竜の翼撃!!」

 

 

ナツは炎を纏った両腕を薙ぎ払う様に攻撃する。

 

 

「オラぁ!!」

 

 

ナツの攻撃によって、八つ影(オロチシャドウ)は全て破壊される。

 

 

「バ..バカな!!!八つ影をたったの一撃で破壊しやがった!!!この破壊力...こんな魔導士ありえねぇ!!!」

 

 

ナツの真の強さを見たカゲヤマは、恐怖する。

 

 

「ハエパンチ...もう一発きついのいっとくかコラァ」

 

「ば...ば...バケモノめぇ!!!!」

 

 

ナツの強烈な一撃がカゲヤマに直撃し、駅全体がドゴォン!!!!と揺れる。

 

 

「これは...」

 

「あぁ、近いぞ!!こっちだ!!」

 

「これはナツ君に間違いないね」

 

 

近くの通路で、エルザ達はその音のする方へと急ぐ。

 

 

「え!?何!?」

 

「ナツ!!」

 

 

また、別の通路では突然の揺れにルーシィが驚き、マキが揺れの正体に気づく。

 

 

「あ~あ...また派手に壊しちゃったね」

 

「どうするんですか?」

 

 

壁を突き抜け、駅を破壊した事にホノカとウミはこの後の心配をする。

 

 

「まぁいいじゃねぇか、これですっきりしたんだからよ」

 

 

ナツはそう言って、カゲヤマの前に立つ。

 

 

「かっかっかっ!!!オレの勝ちだなデコヤマ!!!」

 

「カゲヤマだっつうの!!!」

 

 

まだ間違えるナツに、カゲヤマは再度突っ込む。

 

 

「さて、約束通りエリゴールの居場所を話してもらいますよ」

 

 

ウミのその問いに、カゲヤマはふっふっふと笑った。

 

 

「バカめ..エリゴールさんはもうこの駅にはいない.........」

 

「は?」

 

「それはどういう...」

 

 

カゲヤマの言葉に、疑問符を浮かべる3人。

 

 

「ナツー!!!ウミー!!!ホノカー!!!」

 

 

その時、3人を呼ぶ声が聞こえる。

 

 

「それ以上はいい!!!彼が必要なんだ!!!」

 

「でかした!!!クソ炎!!!」

 

「さすがだねナツ君」

 

 

「あ?」

 

 

頭にいっぱい疑問符を浮かべるナツ。

 

 

「って!!!」

 

 

しかし、エルザが物凄い形相で自身に向けて剣を振るう姿を見て、ナツは恐怖する。

 

 

「何か知んねぇけどすんません!!!」

 

 

ヒィ!!!と怖がるナツだったが、エルザの剣はナツではなく、カゲヤマの顔をすれすれで切りつけた。

 

 

「ヒィィィィィ!!?」

 

 

いきなりの出来事に、カゲヤマは悲鳴を上げる。

 

 

「四の五の言わず魔風壁を解いてもらおう。一回NOと言う度に切創が1つ増えるぞ」

 

「いぃぃぃ...」

 

 

カゲヤマはあまりの恐怖に涙を浮かべ、鼻水も垂れている。

 

 

「ひぃぃぃぃ!!!洒落になってね!!!やっぱりエルザは危ねぇ!!!」

 

「黙ってろ!!!」

 

 

何の事情も分からないナツを、グレイが黙らせる。

 

 

「いいな?」

 

「わ..分かった......うっ...」

 

 

しかし、突如カゲヤマが急に呻きだし、口から血を吐き出した。

 

 

「な...なぜだ...」

 

 

倒れるカゲヤマの背中には、剣が刺さっていた。

 

 

そしてその背後に、壁から這い出てくるように姿を現すカラッカの姿があった。

 

 

『簡単な仕事だよ....カゲを殺せ!!!』

 

 

カラッカは、ビアードが支持してきた言葉が頭をよぎった。

 

 

「カゲ!!!」

 

「くそっ!!!唯一の突破口が..」

 

 

倒れるカゲヤマに、駆け寄るエルザ。

 

 

ナツ達もいきなりの展開で、目を見開き驚愕する。

 

 

「ちくしょオォ!!!」

 

 

グレイも慌てて、カゲヤマに駆け寄った。

 




グレイ「まさかマスター達が狙いだったとはな...」


コトリ「唯一の頼みだったカゲヤマもやられちゃったし、これからどうしよう」


グレイ「他に脱出方法を探すしかねぇ、エリゴールの好きにさせる訳にはいかねぇからな」


次回!!『乙女の魔法』


グレイ「さっさと魔風壁を脱出して、じいさん達を助けに行くぞ!!」


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第17話 乙女の魔法

グレイ「鉄の森の本当の標的はこの先の町だ!!!」


エルザ「そういえば、鉄の森の中にカゲと呼ばれてた奴がいた筈だ!!!奴は確かたった一人で呪歌の封印を解除した!!!」


コトリ「それなら魔風壁も!!!」


ビアード「聞いてただろ?カゲが狙われている、行けよ」


カラッカ「か..かんべんしてくれ!!オレには助太刀なんて無理だっ!!!」


ビアード「もっと簡単な仕事だよ....」


「カゲ!!!しっかりしろ!!!オイ!!!おまえの力が必要なんだ!!!」

 

 

エルザが必死で呼びかけるが、カゲヤマはぐったりと倒れて何の反応もしない。

 

 

「マジかよ!!!くそっ!!!」

 

「あ..うあ..ああ..」

 

 

何もできず悔しがるグレイと、自分で手を掛けたにも拘らず恐怖するカラッカ。

 

 

「魔風壁を解けるのは、おまえしかいないんだ!!!死ぬな!!!」

 

 

必死に、カゲヤマを起こそうとするエルザ。

 

 

「仲間じゃ......ねぇのかよ..同じギルドの仲間じゃねぇのかよ!!!!」

 

 

ナツの怒りの炎に、その場にいる全員が驚きでナツを見る。

 

 

「ひっひいいっ!!!」

 

 

ナツの事が怖くなったのか、カラッカは壁の中へと逃げる。

 

 

「このヤロォオッ!!!」

 

 

ナツはエルザ達の上を飛び越え、カラッカが逃げた壁に思いっきり拳を叩きつける。

 

 

「あぎゃあ!!!」

 

 

壁を破壊したナツの拳は、カラッカへと直撃した。

 

 

「それがお前たちのギルドなのかっ!!!!」

 

 

敵であるにも関わらず、仲間に手を出したカラッカに怒りの鉄拳を喰らわせた。

 

 

「カゲ!!!しっかりしないか!!!」

 

「エルザちゃん.....もうだめだよ......意識がない」

 

 

エルザが尚もカゲヤマを起こそうとするが、コトリがそれを止める。

 

 

「死なすわけにはいかん!!やってもらう!!」

 

「やってもらうたって、こんな状態じゃ魔法は使えねぇぞ!!!」

 

「やってもらわねばならないんだ!!!」

 

 

そんな時、ようやくルーシィ達が合流した。

 

 

「えっと...お...お邪魔だったかしら...」

 

『あい』

 

 

カゲヤマが倒れ、それを起こそうとするエルザとグレイとコトリ。

 

 

壁が崩壊し、その前に立っているナツ。

 

 

そして、その4人から離れて立つウミとホノカ。

 

 

全然状況が掴めず、そう呟いたルーシィ。

 

 

「一体何が起こったの?」

 

 

状況が掴めなかったマキは、近くのウミに近づく。

 

 

「それが...私にも何が何だか...」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

クローバー大峡谷。

 

 

地の底へ繋がっているとされる深い谷。

 

 

それを跨ぐ線路以外、ここを超えていく手段はない。

 

 

「ギルドマスターの集まるクローバーの町......近いな。魔風壁で使った魔力もほぼ回復した事だし、とばすか」

 

 

線路の上で休憩していたエリゴールは、魔法を使って空を飛ぶ。

 

 

「我らの仕事と権利を奪った老いぼれどもめ、待っていやがれ」

 

 

そう言うと、エリゴールは後ろに魔方陣を展開させ、物凄いスピードでクローバーの町を目指す。

 

 

「呪歌の音色で全員殺してやる!!!!死神の粛清だ!!!!」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「え!?エリゴールの狙いは....定例会なの!!?」

 

「なっ!!?じっちゃんが!!?」

 

 

事情を聴かされたルーシィとナツは、驚きで声を上げる。

 

 

「クローバーへの唯一の移動手段は寸断し、エリゴールは空から向かった」

 

「魔道四輪車で追いつけなくもない」

 

「だけど、この魔風壁をどうにかしないと、駅の外には出れないの」

 

「そんな...」

 

 

エルザ、グレイ、コトリの説明に、マキは言葉を失った。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

ナツが拳に炎を纏わせ、ホノカが灼爛殲鬼を構えて魔風壁に攻撃をする。

 

 

少し均衡する2人だったが、すぐに弾かれてしまう。

 

 

「ぎゃああああっ!!!」

 

「きゃああああっ!!!」

 

 

ナツは血だらけの拳を押さえて、地面を転がる。

 

 

ホノカは灼爛殲鬼のお陰で怪我はないが、衝撃で腕が痺れていた。

 

 

「な?外に出ようとすれとこれだ」

 

 

グレイはのたうち回るナツを見ながら、冷静に説明する。

 

 

「あわわ...」

 

 

そんな様子を、マキは口を押える。

 

 

「カゲ..頼む....力を貸してくれ....」

 

「くそぉおおっ!!!」

 

 

ナツは諦める事無く、もう一度突っ込む。

 

 

「こんなモン!!!つきやぶってやるぁっ!!!」

 

 

しかし、バチィィィと激しい電撃の音と共に、ナツは弾かれ吹っ飛ばされてしまう。

 

 

『ナツ!!』

 

「ナツ君!!」

 

 

心配するウミ達が、ナツに駆け寄る。

 

 

「バカヤロウ....力じゃどうにもなんねぇんだよ」

 

「急がなきゃマズいよっ!!!アンタの魔法で凍らせたり出来ないの?」

 

 

グレイに問いかけるマキだったが、目を離したすきにまたナツが魔風壁へと近づく。

 

 

「できたらとっくにやってるよ」

 

 

ぶっきらぼうに答えるグレイ。

 

 

「ぬぁあああっ!!!」

 

 

体当たりして、突き破ろうとするナツ。

 

 

「ナツ君!!?」

 

「ナツ!!!やめてください!!!バラバラになってしまいます!!!」

 

 

ホノカとウミが止めようとするが、ナツは一向に止まろうとしなかった。

 

 

「やめなさいって!!!」

 

 

見ていられなかったのか、ルーシィが羽交い絞めにしてナツを魔風壁から遠ざける。

 

 

「くそっ!!!どうすればいいんだ!!!」

 

 

どうする事も出来ず、うなだれるエルザ。

 

 

「くそ......ん?」

 

 

そこで、ナツがじーっとルーシィの顔を見つめる。

 

 

「な...何よ!!」

 

 

至近距離で見つめられたルーシィは、顔を赤くする。

 

 

「あ————っ!!」

 

 

突如、ナツが大声を上げて驚くルーシィ。

 

 

「そうだ星霊!!!」

 

「え?」

 

「エバルーの屋敷で星霊界を通って、場所移動できただろ」

 

 

ナツはエバルーの屋敷で、ロビーから下水道まで星霊界を通って移動した時の方法を提案する。

 

 

「いや....普通は人間が入ると死んじゃうんだけどね..息が出来なくて。それに(ゲート)は星霊魔導士が要る場所でしか開けないのよ」

 

「は?」

 

 

ルーシィが説明するが、ナツは意味が解らず疑問符を浮かべる。

 

 

そんなナツに、ルーシィはもっと分かりやすく説明する。

 

 

「つまり星霊界を通ってここを出たいとしたら、最低でも駅の外に星霊魔導士が1人いなきゃ不可能なのよ」

 

「ややこしいな、いいから早くやれよ」

 

「できないって言ってるでしょ!!!」

 

 

全く理解してないナツに、ルーシィは更に説明を続ける。

 

 

「もう一つ言えば、人間が星霊界に入る事自体が重大な契約違反!!!あの時はエバルーの鍵だからよかったけどね」

 

「うん......意味分かんねぇ」

 

「エバルーの...........鍵......」

 

 

そこで今まで話を聞いていたハッピーが、エバルーの鍵という言葉に引っ掛かりを感じる。

 

 

「あ—————————————っ!!!!」

 

 

先程のナツよりも大きな声で叫ぶハッピーに、その場にいた全員が驚く。

 

 

「ルーシィ!!思い出したよっ!!!」

 

「な..何が?」

 

「来る時言ってた事だよぉ!!!」

 

 

そこでルーシィは、ハッピーの言おうとしている事が分かった。

 

 

「あぁ...私が変とか変とかってあれ?」

 

 

するとハッピーは、背中の風呂敷を地面に降ろし、ごそごそと漁り始めた。

 

 

「これ」

 

 

そう言ってハッピーが取り出したのは、エバルーが持っていたはずのバルゴの鍵だった。

 

 

「それは..バルゴの鍵!!?」

 

 

驚いたルーシィは、ハッピーの口をムギュウウウウと掴んだ。

 

 

「ダメじゃないっ!!!勝手に持ってきちゃ———!!!」

 

「違うよ、バルゴ本人がルーシィへって」

 

「ええ!!?」

 

 

驚くルーシィに、グレイは悪態をつく。

 

 

「たくっ...こんな時にくだんない話してんじゃねぇよ」

 

「バルゴ....?」

 

「エバルーの所にいたメイドゴリラよ。忘れたの?」

 

 

バルゴを忘れているホノカに、説明するマキ。

 

 

「何の話だ?」

 

「さぁ...」

 

 

バルゴの事を知らないエルザとコトリは、何の話か分からなかった。

 

 

「エバルーが逮捕されたから、契約が解除になったんだって。それで今度はルーシィと契約したいってオイラん家訪ねてきたんだ」

 

「あれが....来たのね..」

 

 

事の顛末を聞いたルーシィは、あのメイドゴリラが訪ねてきたことに恐怖する。

 

 

「嬉しい申し出だけど、今はそれどころじゃないでしょ!?脱出方法を考えないと!!」

 

「でも...」

 

 

食い下がろうとするハッピーの顔を、ルーシィはムギュウっと横に引っ張った。

 

 

「うるさいっ!!!ネコは黙ってにゃーにゃー言ってなさい!!!」

 

 

その様子を見たグレイは、ルーシィに恐怖する。

 

 

「こいつも時々怖いな...」

 

「意外と強いんだぜ」

 

 

顔を引っ張られたハッピーは、涙を浮かべながら床に手を付いた。

 

 

「だって...バルゴは地面に潜れるし..魔風壁の下を通って出られるかなって思ったんだ」

 

「何!!?」

 

「本当!!?」

 

「マジかよ!!?」

 

『えっと?』

 

『あっ!!そっか!!』

 

「その手がありました!!!」

 

 

ルーシィは、ハッピーを抱き上げて、アハハ、エヘヘと笑い出す。

 

 

「やるじゃないハッピー!!!もう!!!何でそれを早く言わないのよぉ!!!」

 

「ルーシィがつねったから」

 

 

ルーシィがそう言うと、ハッピーは恨みを持った口調と態度でルーシィに訴えた。

 

 

その言葉に、ルーシィは涙を流して土下座をし始めた。

 

 

「ごめんごめん!!あとで何かお詫びするから!!しますから!!させて頂きます!!だから鍵を貸して~」

 

「あい!!あとでお詫び宜しくね!!」

 

 

その様子を見ていたナツとグレイは、ルーシィの掌の返しように引いていた。

 

 

皆が見守る中、ルーシィはバルゴの鍵を前に突き出した。

 

 

「我....星霊界との道をつなぐ者。汝.....その呼びかけに応え、(ゲート)をくぐれ!!」

 

 

バルゴの鍵を使って、星霊界との(ゲート)を開ける。

 

 

「開け!!!処女宮の扉!!!バルゴ!!!」

 

 

(ゲート)を潜り、出てきたのはゴリラのような筋骨隆々な太った女。

 

 

「お呼びでしょうか?ご主人様」

 

 

......ではなく、線の細い美少女だった。

 

 

「............誰?」

 

 

自分が知っているバルゴとは、まったくの別人が出てきたことにルーシィは驚く。

 

 

「よぉマルコ、激やせしたなおめぇ」

 

「バルゴです。あの時はご迷惑をおかけしました」

 

 

普通に話をしているナツとバルゴに、マキが突っ込みを入れる。

 

 

「いやいやいやいや!!!やせたっていうか別人でしょ!!!」

 

「別人?」

 

 

あった事のないグレイは、首をかしげる。

 

 

「あ..あなたその格好..」

 

 

驚くウミが、バルゴに質問する。

 

 

「私は、御主人さまの忠実なる星霊。御主人様の望む姿にて、仕事をさせていただきます」

 

「前の方が迫力あって強そうだったよ」

 

「そうですか、では...」

 

 

すると、バルゴの身体が光りだした。

 

 

「元の姿に」

 

 

ホノカの余計な一言で、バルゴはメイドゴリラの姿に変わる。

 

 

その姿を見たグレイは、うぁぁぁぁぁぁっと悲鳴を上げる。

 

 

「余計な事言わなくていいの!!瘦せた方でいいから!!」

 

 

するとバルゴの身体が再度光り、先程の美少女へと戻った。

 

 

「承知しました」

 

 

元の姿に戻った事に、ルーシィ達はホッと溜息をつく。

 

 

「とにかく時間がないのっ!!!契約は後回しでいい!?」

 

「かしこまりました、御主人様」

 

「てか、御主人様はやめてよ」

 

 

そう言われたバルゴは、ルーシィが腰に付けている鞭へと視線がいく。

 

 

「では『女王様』と」

 

「却下!!!」

 

「では『姫』と..」

 

「そんなトコかしらね」

 

 

姫と呼ばれ、満更でもないルーシィ。

 

 

「そんなトコなのか」

 

「つーか急げよ」

 

 

ルーシィ達のやり取りに、ナツとグレイが突っ込みを入れる。

 

 

「では!!!いきます!!!」

 

 

バルゴの足元に魔方陣が現れると、そこから地面に穴を掘っていくバルゴ。

 

 

「おお!!!潜った!!!」

 

「いいぞっ!!!ルーシィ」

 

「硬っ!!」

 

 

道が切り開けた事に、喜ぶグレイとエルザ。

 

 

エルザはルーシィを胸に抱き寄せるが、鎧のせいで顔をぶつけた。

 

 

「おし!!!あの穴を通っていくぞ!!!」

 

 

グレイが穴に入ろうとするが、ナツがカゲヤマを担いでいるのに気づいた。

 

 

「何してんだ、ナツ!!」

 

 

敵を運ぼうとしているナツに、グレイが怒鳴った。

 

 

「オレと戦った後に死なれちゃ、後味悪ィんだよ」

 

 

敵にも関わらず助けようとするナツの行動に、エルザやウミ達は笑みを浮かべる。

 

 

そしてバルゴの作った穴を通り、ようやく皆が魔風壁の外に出た。

 

 

「出れたぞ——!!!」

 

 

外に出たエルザ達だったが、魔風壁の影響で物凄い突風が発生していた。

 

 

「先を急ごう!!!」

 

「うわっ」

 

「凄い風!!」

 

 

ルーシィとマキは、風のせいで巻き上がりそうなスカートを押さえながら出てくる。

 

 

「姫!!下着が見えそうです!!」

 

 

バルゴがルーシィの下着が見えないよう抑えるが、自身のスカートがぶあっとめくりあがっていた。

 

 

「自分の隠せば」

 

 

そしてその後ろにいたグレイは、顔を赤くしてその状況をガン見していた。

 

 

「フンっ!!!」

 

「あだっ!!?」

 

 

そんなグレイの後頭部を、コトリが殴った。

 

 

「グレイ君...何をそんなにまじまじと見てるのかな?」

 

 

笑顔にも関わらず、物凄い覇気を纏ってデリカシーのないグレイに、コトリは説教を始める。

 

 

「無理だ....い..今からじゃ追いつけるハズがねぇ....オ....オレ達の勝ちだ..な」

 

 

カゲヤマの言葉に黙る一同だったが、そこでエルザがある事に気づいた。

 

 

「ん?ナツとホノカはどうした!?」

 

 

エルザの言葉で、他の者達もナツとホノカが居ない事に気づいた。

 

 

「あれ?」

 

「ハッピーもいねぇぞ」

 

 

辺りを見渡すが、3人の姿は何処にもなかった。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

大渓谷の上を飛ぶエリゴールの目に、1つの町『クローバー』が見えてきた。

 

 

「あの町だ、見えてきた」

 

 

町が見えた事に笑みを浮かべるエリゴールの後ろから、うおおおおおっと、はあああああっっという掛け声が聞こえる。

 

 

「これが....ハッピーの....」

 

「私の....」

 

 

声に気づいたエリゴールが後ろを振り返ると、そこには物凄いスピードで迫ってくるナツとホノカの姿があった。

 

 

『MAXスピードだぁ!!!!』

 

 

ハッピーのスピードを利用したナツの蹴りと、ホノカの灼爛殲鬼での攻撃が命中し、エリゴールは線路の上に墜落する。

 

 

「もう..飛べない......です..」

 

 

線路の上に着地したナツの上に、魔力が切れたハッピーが落ちてくる。

 

 

「ありがとうなっ!!!おかげで追いついたぞ!!!」

 

 

落ちてくるハッピーをキャッチし、労うナツ。

 

 

その横に、ホノカも並び立つ。

 

 

「キ....キサマラ..貴様等は妖精の尻尾の....なぜこんな所に......」

 

「あなたを倒す為だよ!!!!」

 

「そよ風野郎!!!!」

 




ウミ「まったく、あの二人は勝手なことをして...」


リン「でも、幾ら飛ばしてもすぐに追いつくのは無理なんじゃないかな?」


ウミ「いや、ハッピーとホノカが全力で飛ばせばあるいは...」


リン「じゃあ、リン達も急ぐにゃ!!」


次回、『炎と焔と風』


ウミ「早くナツ達を追いかけて、双竜の力を見せつけましょう!!」


リン「あい!!」


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第18話 炎と焔と風

LOVE TAIL前回までは!!


ナツ「同じギルドの仲間じゃねぇのかよ!!!!」


ルーシィ「エリゴールの狙いは....定例会なの!!?」


ハッピー「ルーシィ!!思い出したよっ!!!」


ルーシィ「それは..バルゴの鍵!!?」


バルゴ「お呼びでしょうか?ご主人様」


ルーシィ「............誰?」


ナツ達を追いかける為、線路の上を魔道四輪で走るエルザ達。

 

 

「これ....あたしたちがレンタルした魔道四輪車じゃないじゃん!!!」

 

 

そんな中、マキが自分達の乗っている魔道四輪の車種が違う事を指摘する。

 

 

「鉄の森の周到さには頭が下がるよね、ご丁寧に破壊されてたもん」

 

「弁償か......」

 

 

コトリの言葉に凹むルーシィに、カゲヤマが指摘する。

 

 

「ケッ..それで他の車盗んでちゃ、せわないよね」

 

「借りただけよ!!!エルザが言うには

 

 

カゲヤマの言葉に反論するルーシィだったが、最後は言葉が小さくなってしまう。

 

 

その後しばらく俯き、黙っていたカゲヤマだったが、意を決して質問する。

 

 

「な..なぜ僕をつれてく..?」

 

「街に誰もいないのですから、しょうがないじゃないですか」

 

「クローバーのお医者さんに連れてってあげるって言ってんのよ、感謝しなさい」

 

 

カゲヤマの質問に、ウミとマキが答える。

 

 

「違う!!!何で助ける!!?敵だぞ!!!」

 

 

敵にも関わらず、なぜ自分に情けが掛けられているのが解らなかったカゲヤマは、声を荒げる。

 

 

「そうか....わかったぞ....僕を人質にエリゴールさんと交渉しようと..無駄だよ....あの人は冷血そのものさ、僕なんかの為に動きはしないよ..」

 

「うわー暗―い」

 

 

ぶつぶつと喋るカゲヤマに、ルーシィは呆れる。

 

 

「死にてぇなら殺してやろうか?」

 

「ちょっとグレイ!!」

 

 

あんまりの言葉に、マキが指摘する。

 

 

「生き死にだけが決着の全てじゃねぇだろ?」

 

「そうだよ、もう少し前を向いて生きたら良いと思うよ。貴方達全員..」

 

 

グレイとコトリの言葉に、カゲヤマは言葉を失う。

 

 

その時、魔道四輪車の車輪がレールに乗り上げたのか、ガタンと車内が揺れる。

 

 

その際、カゲヤマの顔がルーシィのお尻によって潰される。

 

 

「エルザ!!!」

 

「大丈夫ですか!!?」

 

 

突然の出来事に、エルザを心配するグレイとウミ。

 

 

「すまない大丈夫だ」

 

 

そう答えるエルザだったが、肩で息をするほど消耗しており、前もよく見えていなかった。

 

 

——目がかすむ....さすがに魔力を消耗しすぎたか..

 

 

「ごめ~ん」

 

 

潰してしまった事を、謝るルーシィ。

 

 

「でけぇケツしてんじゃねぇよ....」

 

 

自分の顔を押さえながら、そう呟くカゲヤマ。

 

 

「ひ———っ!!!セクハラよ!!!グレイこいつ殺して!!!」

 

「オイ....俺達の名言チャラにするんじゃねぇ」

 

「あははは...」

 

 

格好良く決めた後に、それを台無しにするルーシィにグレイは突っ込み、コトリは苦笑いをする。

 

 

震える手で運転しながら、エルザは前を睨みつける。

 

 

——ナツ....ホノカ....エリゴールを止めてくれ....!!!私達が行くまで頼んだぞ!!!奴を止められなければ....この辺りの総長(マスター)は全滅する!!!

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「来やがれ!!」

 

「物騒な笛ごと、叩き切ってあげる」

 

 

ナツは両拳に炎を灯し、ホノカは灼爛殲鬼を構える。

 

 

——魔風壁は....カゲヤマどもはどうしたんだ!!?あと少しでじじいどものいる場所につくというのに....!!!

 

 

ナツ達が臨戦態勢を取る中、エリゴールは胸中で悪態をつく。

 

 

「本当に邪魔な....妖精(ハエ)どもだぜ!!ここは通らせてもらう、消えろ!!」

 

 

エリゴールが手を前にかざすと、魔方陣が現れる。

 

 

すると、その魔方陣から物凄い突風が発生し、2人を襲う。

 

 

「くっ!!」

 

「なんでい、こんなもん!!」

 

 

2人を吹き飛ばそうと襲い掛かる突風、ホノカは踏ん張り、ナツは気合で前に進む。

 

 

ドッガァァァァァン!!!

 

 

突風の影響で、ナツ達を覆い隠すほどの砂塵が生まれる。

 

 

「ん?」

 

 

砂塵によってナツ達の姿が見えなくなったエリゴールだったが、砂塵の上に突き出る2つの光を見つける。

 

 

その光の正体は、両足から炎を放出することで空を飛ぶナツと、灼爛殲鬼の力で空を飛ぶホノカだった。

 

 

「うおっらぁ!!」

 

 

まずナツが、エリゴールに向けて拳を振り下ろす。

 

 

しかし、エリゴールは冷静に後ろに跳ぶことで、ナツの攻撃を避ける。

 

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 

ナツの攻撃を避けたエリゴールに、すかさずホノカが灼爛殲鬼を横薙ぎする。

 

 

エリゴールはその攻撃を、自身の鎌で受け止める。

 

 

ガキィン!!!

 

 

金属同士がぶつかり合う音が、渓谷に響く。

 

 

——なにっ!?炎で跳躍し、炎で殴るのか!!?

 

 

エリゴールは、ナツの力に驚愕する。

 

 

——あの女の武器も、ただの武器じゃねぇ!!

 

 

エリゴールは自身の鎌を見ると、先程のやり取りで鎌が刃毀れを起こしている事に気づく。

 

 

——それにこの威力、魔導士の拳じゃねぇ!!

 

 

「調子に乗るなよ!!妖精(ハエ)がぁ!!!暴風波(ストームブリンガー)!!!!」

 

 

エリゴールは、ナツに向かって烈風を起こす。

 

 

その烈風は徐々に大きさを増し、大きな竜巻へと変化する。

 

 

「どわぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 

その竜巻に呑み込まれたナツは、竜巻の中でぐるぐると回る。

 

 

「ナツ....」

 

 

その様子を見ていたハッピーは、助けようと翼を展開しようとする。

 

 

「うぅぅぅぅぅ!!!」

 

 

気合で展開するハッピーだったが、途中で翼は霧散してしまう。

 

 

「駄目だ...魔力が足りないよぅ...」

 

 

力を使い切っている今のハッピーでは、翼を展開することが出来なかった。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 

竜巻に舞い上げられたナツは、そのまま谷底へと落ちてしまう。

 

 

「これなら炎で跳びあがってこれまい」

 

 

その様子を、エリゴールは笑ってみていた。

 

 

「ナツ———!!!」

 

「ナツ君!!」

 

 

何もできず叫ぶハッピーと、助けに行こうとするホノカ。

 

 

「おっと、そうはさせないぜ」

 

 

ホノカの前に、エリゴールが乱入して鎌を振るう。

 

 

「!?」

 

 

ホノカは咄嗟に灼爛殲鬼で、エリゴールの鎌を防ぐ。

 

 

「悪いがあのガキは、ここでゲームオーバーだ」

 

「くぅ...」

 

 

助けに行こうにも、エリゴールが邪魔してくる事にホノカは歯噛みする。

 

 

一方、落下しているナツは、落ちながらも何とかしようと考える。

 

 

「や、やべえ...洒落になってねぇぞ...いったいどうすりゃ...」

 

 

上に向かって、手を伸ばすナツ。

 

 

「じっちゃん...」

 

 

その時、ナツはマカオの言葉を思い出す。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

『しゃあねぇ奴だな、おめぇ。良―く見てな、ほれ』

 

 

マカオはそう言って、紫色の炎でビールジョッキを持ち上げる。

 

 

『おぉ、スゲェ!!』

 

『《パープルフレア》つってな。燃やすだけじゃねぇ、他にも色々出来るぜ』

 

『俺のは、色々燃やしちまうけど...』

 

『火の質を変えるんだよ、おめぇが心から求めれば自然と応じるようになるもんだ。そうすりゃ火は、水にも風にも負けはしねぇ!!』

 

『わ、わけわかんねぇ...』

 

 

☆★☆★☆★

 

 

ドオオオオン!!!

 

 

エリゴールとホノカが鍔迫り合いを続ける中、突如谷底から物凄い火柱が上がった。

 

 

「おぉ!!?」

 

 

突然の出来事に、驚くエリゴール。

 

 

「ナツ君?」

 

 

しかし、ホノカだけはそれを誰が起こしたのか理解する。

 

 

吹きあがった炎は、手の形へと変化すると線路を鷲掴みにする。

 

 

「うおおおおおっ!!!」

 

 

その炎を使い、ナツは自力で這い上がってきた。

 

 

「ナツ!!」

 

「ナツ君!!」

 

 

ナツが生きていた事に、喜ぶハッピーとホノカ。

 

 

「あぶねぇ、あぶねぇ。へへ、火の質を変えるねぇ...やったぜマカオ!!」

 

 

マカオに助けられたナツは、自分の炎を見て笑みを浮かべる。

 

 

「な..何だ今のは..」

 

 

ナツの力の一部を見て、戦慄するエリゴール。

 

 

「おまえ、裸じゃ寒いだろ。温めてやろうか?」

 

「お前も似たようなもんじゃねぇか!!!」

 

 

ナツが何をするのか瞬時に理解したホノカは、ナツの隣に降り立った。

 

 

「行くぞ!!ホノカ!!」

 

「うん!!」

 

 

「これで吹っ飛べ!!火竜の..」

 

 

ナツは、空気を吸い込んで口の中に魔力を溜める。

 

 

「<灼爛殲鬼>」

 

 

刃を失い棍のみの灼爛殲鬼が、ホノカの右手に装着される。

 

 

「咆哮!!!!」

 

「【(メギド)】!!!」

 

 

ナツから放たれた炎のブレスと、灼爛殲鬼から放たれた凄まじい炎熱の奔流がエリゴールを襲う。

 

 

暴風壁(ストームウォール)!!!」

 

 

2人の攻撃を、風の壁で防ぐエリゴール。

 

 

ドッゴォォォォォン!!!!

 

 

物凄い爆発が、エリゴールを襲う。

 

 

——なんて奴等だ....やる事全部デタラメじゃねえか!!これが妖精の尻尾の魔導士か!!

 

 

防いだエリゴールだったが、魔法を放つために前に突き出した手は2人の攻撃でボロボロになっていた。

 

 

「貴様等の力....少々あなどっていたようだ....ここからは本気でいこうか。お互いにな」

 

「燃えてきたぞ」

 

「うん!!」

 

 

気合を入れるナツ達、すると最初にエリゴールが動く。

 

 

暴風衣(ストームメイル)

 

 

エリゴールが魔法を発動すると、ヒョオオオオという音を立ててエリゴールに風が集まっていく。

 

 

そして、エリゴールは風の鎧を身にまとう。

 

 

「行くぞ!!」

 

 

エリゴールは、ナツ達に突っ込んでいく。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

エリゴールとナツ達が戦って居る中、エルザ達は今もなお線路の上を走っていた。

 

 

「あの火の玉小僧達死んだな..」

 

 

カゲヤマの言葉に、ルーシィが反応する。

 

 

「なーんでそういう事言うかなぁ」

 

「ふふ、火の魔法じゃエリゴールさんの暴風衣は破れない、絶対に」

 

「それはどうですかね」

 

 

その話を聞いていたウミが、カゲヤマを指摘する。

 

 

「暴風衣がどういった魔法かは分かりませんが、ナツとホノカの使う炎は普通の炎とは訳が違います」

 

 

ナツ達の事を、説明を始めるウミ。

 

 

「なにより、あの2人が組んで負ける事はありません。絶対に

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「おらっ!!」

 

 

暴風衣を纏ったエリゴールに、殴りつけるナツ。

 

 

しかし...

 

 

バチィっと音を立て、弾かれるナツ。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

ホノカも灼爛殲鬼を振るうが、結果は同じだった。

 

 

「どうした?そんなもんか?」

 

「くそっ!!鬱陶しいもん張り付かせやがって!!」

 

 

憤慨するナツは、拳を撃ちつかせる。

 

 

「これで引っぺがしてやる!!」

 

 

ナツは拳に炎を纏い、パンチを放つ。

 

 

「火竜の鉄拳!!!!」

 

 

エリゴールは、その拳を受け止める。

 

 

しかし...

 

 

ナツの纏っていた炎が、一瞬にしてかき消されてしまった。

 

 

「んな!?」

 

「どうなってるの!?炎が消えた!?」

 

 

炎が消えた事に、動揺を見せるナツとホノカ。

 

 

「やはり炎を纏ってなければ、あの破壊力は出せんか..まるで効かんな..」

 

 

「だったら私が!!」

 

 

そう言って、ホノカが飛び出した。

 

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 

ホノカが、灼爛殲鬼を振り下ろす。

 

 

しかし、バチィィィィという音を立てて、灼爛殲鬼を弾こうとする。

 

 

「くぅぅぅぅ!!」

 

 

ホノカは負けじと、灼爛殲鬼に力を籠めるがエリゴールに届くことは無かった。

 

 

「はぁ!!」

 

 

エリゴールが力を籠めると、烈風が発生する。

 

 

「きゃあっ!!」

 

 

その烈風に、ホノカは後ろに吹っ飛ばされてしまう。

 

 

「ホノカ!!」

 

 

飛ばされてきたホノカを、風に耐えながらなんとか受け止めるナツ。

 

 

「いかに攻撃力を持つ武器でも、俺に届かなければ話にならないな」

 

 

訳も分からないナツ達に、エリゴールは暴風衣の説明を始める。

 

 

「暴風衣は常に外に向かって風が吹いている。分かるか?炎は向かい風には逆らえねぇ、炎は風には勝てねぇんだ」




ルーシィ「エルザにナツ、グレイ。で、あたし。それにウミ達も加えたら結構バランスが取れてると思いません?」


ミラ「そうね、フェアリーテイルの中でもベストチームって感じじゃないかしら」


ルーシィ「ですよねですよね!!」


マキ「急にどうしたのよ」


ルーシィ「だって!このチームで仕事をバリバリすれば!!あっという間に有名になって~うふふふふふふ」


次回!!『無理、ナツ達じゃ勝てないよ』


ミラ「さて、このチームで壊れる街は...2つか3つか...4つ5つ...」


ルーシィ「うぅ...もう許してください!!」


マキ「調子に乗った罰ね」


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第19話 無理、ナツ達じゃ勝てないよ

LOVE TAIL前回までは


エルザ「5人の力を貸してほしい、着いてきてくれるな」


ナツ「こいつと」


グレイ「チームだと⁉」


マカロフ「え...えらいこっちゃ———!!!!」






大昔の黒魔導士、ゼレフによって生み出された禁断の魔法『呪歌(ララバイ)』。

 

 

その笛の音色は、人々の魂を奪うと言う。

 

 

今......呪歌(ララバイ)を巡る戦いに決着がつこうとしている。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

暴風衣(ストームメイル)を纏ったエリゴールを中心に、ゴオオオオオオっと強風が吹き荒れる。

 

 

「すげぇ風だ」

 

「まるで台風みたい」

 

 

顔を覆いながら、飛ばされない様に踏ん張るナツ達。

 

 

「これではさすがに炎は届くまい!!!!」

 

 

エリゴールのその言葉の後、さらに風圧が強くなる。

 

 

「喰らえ!!暴風斬(ストームシュレッド)!!」

 

 

無数の鎌鼬がナツ達を襲うが、2人は荒れ狂う暴風の中全て避ける。

 

 

ホノカとナツは、炎を吹かせることでエリゴールに急接近する。

 

 

「おらあああっ!!!!」

 

「届けぇぇぇっ!!!!」

 

 

エリゴールに攻撃しようとする2人だったが、風が強すぎて後ろに吹っ飛ばされてしまう。

 

 

「炎どころか、私達が近づけない!!!」

 

「くそっ!!!」

 

 

近づけない事に、苛立ちを見せるナツ達。

 

 

「どうした?小僧共。そんなものか?もうすこし骨のある奴等だと思ったが...まぁいい、これで終わらせる!!」

 

 

すると、エリゴールの前に紫色の魔方陣が幾つも出現する。

 

 

「全てを切り刻む風翔魔法(ほうしょうまほう)翠緑迅(エメラ・バラム)

 

翠緑迅(エメラ・バラム)だって!!?そんなのくらったらバラバラになっちゃうよ!!!」

 

 

その魔法を知っているハッピーは、驚きの声を上げた。

 

 

「死ぬがいい!!!!燃えカス小僧と小娘!!!!」

 

 

ナツ達に向かって、強力な風の刃が放たれた。

 

 

ズギャギャギャギャと音を立て、鉄橋を崩落する。

 

 

「うっ!!!」

 

 

暴風に耐えるハッピーの後ろに、ボロボロのナツとホノカが落ちてくる。

 

 

「ナツ———!!!ホノカ———!!!」

 

 

必死に呼びかけるハッピーだが、2人はピクリとも動かなかった。

 

 

「ほう?その肉体が残っただけでもたいしたモノだ。若ェ魔導士にしてはなかなかだったぞ」

 

「起きて———!!!ナツ——!!!ホノカ——!!」

 

「安心しろ、じじい共もすぐにそっちに送ってやる。呪歌(ララバイ)の音色でな」

 

 

そう言い残してその場を立ち去ろうとするエリゴールだったが、ガンっと地面を叩きつける音を聴いてエリゴールは驚く。

 

 

「何が....呪歌(ララバイ)だ」

 

 

拳を地面に叩きつけてふらふらと立ち上がり、ボロボロになった上の服を脱ぎ捨てるナツ。

 

 

「おじいちゃんの首が欲しいなら、正々堂々戦え!!!」

 

 

ナツに続いて、ホノカも立ち上がる。

 

 

「流石!!ナツとホノカ!!」

 

「バカな!!!まだ生きてるのか!!?」

 

 

翠緑迅(エメラ・バラム)を喰らっても尚立ち上がる2人に、驚愕するエリゴール。

 

 

そして、二人が立ち上がった事に喜ぶハッピー。

 

 

「戦う勇気がねぇなら、手ェ出すんじゃねぇ!!!!」

 

 

ナツは拳に炎を灯し、ホノカは灼爛殲鬼を構え、エリゴールに向かった。

 

 

「なんてしぶてぇガキ共だ」

 

 

エリゴールがそう叫ぶと、暴風衣(ストーム・メイル)の風を更に強くする。

 

 

「うっ!!」

 

「くっ!!」

 

 

ナツ達はまたも近づけず、後ろに吹っ飛ばされてしまう。

 

 

「ちくしょオォオォっ!!!!」

 

「ふん」

 

 

ナツの怒りに同調するように、炎もその大きさを増していく。

 

 

その時、ハッピーはエリゴールの暴風衣(ストームメイル)の風が不自然な動きをしている事に気づいた。

 

 

「なんで近づけねェんだ!!!!くそったれが———!!!!」

 

 

ナツは怒りで物に当たり、線路を壊そうとしている。

 

 

メキメキと線路が壊れ、ナツの炎で線路が溶け始めていた。

 

 

「納得いかな———い!!!!」

 

 

ナツに影響するように、ホノカも怒りで炎を噴出させる。

 

 

2人の炎が合わさった影響で、近くの岩にまで炎が燃え移った。

 

 

「それにしても、不気味な魔法だな。感情がそのまま炎へと具現化されてるようだ」

 

 

ナツ達を観察していたエリゴールだったが、暴風衣(ストームメイル)の風がどんどん流されていた。

 

 

「な..なんだ!?エリゴールの纏ってる風が、変な方向に流れてる」

 

 

そしてその事に、いち早くハッピーが気づいた。

 

 

「んが———っ!!!」

 

 

そして等々、ナツは線路を引きちぎった。

 

 

「感情の炎..!!?た..確か古代の魔法にそんな魔法が..いや....こんな若造が古代の魔法など....」

 

 

そこでようやく、エリゴールも風が流されている事に気づいた。

 

 

「何っ!!?風が....奴等の方に......」

 

「そうか!!!」

 

 

そこでハッピーは、ある事に気づいた。

 

 

「くそぉおぉおっ!!!」

 

「はぁあぁあっ!!!」

 

 

怒りで雄叫びを上げる、ナツとホノカ。

 

 

「ナツ———!!!ホノカ———!!!」

 

『ん!』

 

 

そこでハッピーに呼ばれ、物凄い形相で睨む2人。

 

 

「無理、ナツ達じゃ勝てないよ。グレイとコトリにまかせよ」

 

 

まるで2人を馬鹿にするような仕草で、ナツ達を挑発するハッピー。

 

 

しばらくぽかーんと口を開けて黙る2人。

 

 

「何だとぉおおおおおっこらぁああああああっ!!!!!」

 

「何ですってぇええええええ!!!!!」

 

 

2人は更に怒り、炎が空に向かって柱の様に伸びていく。

 

渦を巻く様に伸びていく炎のそれは、炎の竜巻『火災旋風』と酷似していた。

 

 

「バ..バカな!!!暴風衣(ストームメイル)が....流されて..」

 

「よし!!!風の鎧がはがれたっ!!!」

 

 

ハッピーはエリゴールの暴風衣(ストームメイル)が完全に剝がされた事に握りこぶしを作る。

 

 

——ナツ達の超高温であたためられた周りの空気が、急激な上昇気流になって低気圧が発生したんだ。風は気圧の低い方へと流される!!!

 

 

「俺達が倒してやるよォオォ!!!!」

 

「これほどの超熱魔法..!!!!こいつまさか!!!?」

 

「ホノカ!!!俺達のありったけをぶつけるぞ!!!」

 

「うん!!!」

 

 

ナツとホノカは並び立つと、2人の炎を1つに合わせる。

 

 

『はぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

2人の炎が合わさり、炎が一方向に収束されて炎が圧縮する。

 

 

炎が凝縮されて、温度がさらに上昇する。

 

 

最初は赤色だった炎の温度が上昇する事により、色が変わる。

 

 

オレンジ、黄色、へとどんどん変化していき、最終的には最高温度を意味する青色へと変化する。

 

 

「いたのか!!!?滅竜魔法(ドラゴンスレイヤー)の使い手が!!!?それにあの女の魔法は一体!!!?」

 

 

ナツの魔法の正体に気づいたエリゴールは、驚愕の声を上げる。

 

 

紅蓮業火焔(ぐれんごうかえん)!!!!!』

 

 

ホノカの技の1つ、『(メギド)』よりも凄まじい炎の奔流がナツ達から放たれた。

 

 

辺りが一瞬、青白い閃光で包まれた。

 

 

「ぐわぁあああああああっ!!!!」

 

 

ゴオアアア!!と音を立て放たれた融合魔法(ユニゾンレイド)が、エリゴールを包む。

 

 

「うわっ!!」

 

 

その時の衝撃で、顔を覆うハッピー。

 

 

煙が晴れると、血まみれになり所々火傷を負い、ボロボロになったエリゴールが倒れていた。

 

 

その近くに、エリゴールの懐から落ちた呪歌(ララバイ)が転がっていた。

 

 

「どうだ!!!ハッピー!!!」

 

「私達が倒したよっ!!!」

 

「あい!!さすが火竜(サラマンダー)のナツとイフリートのホノカだね!!」

 

「おまえさっき何て言った」

 

「猫の記憶力はしょぼいモノなので...」

 

 

ナツの言葉に、誤魔化すハッピー。

 

 

「俺達じゃこいつに勝てねぇからエルザ(・・・)がどうとか言ってただろ!!!」

 

「そうだよ!!ウミ(・・)ちゃんがどうとか!!!」

 

「うわー猫よりしょぼい記憶力」

 

 

ナツ達の記憶力に、ハッピーはドン引きする。

 

 

「エルザとウミじゃなくて、グレイとコトリ。でもナツ達は勝ったよ」

 

 

しばらくハッピーを睨むナツ達だったが、すぐに笑顔になった。

 

 

「ま...いっか」

 

「それより、何で最後攻撃が当たったんだろう」

 

「ナツ達が凄いからだよ!!」

 

 

ホノカの疑問を、ハッピーが誤魔化した。

 

 

「そっか!!?かかかかかかかっ!!!」

 

 

エリゴールを倒し上機嫌に笑うナツ達の近くで、呪歌(ララバイ)の口の部分から怪しい煙が発生していた。

 




ナツ「よっしゃぁ!!!ようやくエリゴールを倒したぜ!!!」


ホノカ「私とナツ君が揃えば、勝てない敵なんていないからね」


ナツ「そう通りだ!!!かっかっかっか!!!」


ハッピー「そんなこと言って...結構苦戦していたくせに」


次回!!!『強く生きる為に』


ナツ「そう言えば、この後どうするか考えてなかったな」


ホノカ「取り敢えず、ウミちゃん達合流すれば良いんじゃない?」


ナツ「そうだな、考えるのはあいつ等に任せるか!!」


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第20話 強く生きる為に

LOVE TAIL 前回までは


エリゴール「安心しろ、じじい共もすぐにそっちに送ってやる。呪歌の音色でな」


ナツ「何が....呪歌ララバイだ」


ホノカ「おじいちゃんの首が欲しいなら、正々堂々戦え!!!」


ナツ「戦う勇気がねぇなら、手ェ出すんじゃねぇ!!!!」


ハッピー「無理、ナツ達じゃ勝てないよ」


エリゴール「これほどの超熱魔法..!!!!こいつまさか!!!?」


『紅蓮業火焔!!!!!』


「ナツ———!!!」

 

「ホノカ———!!!」

 

 

線路の上を、エルザが運転する魔道四輪が走り、そこから2人の名を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

「お!遅かったじゃねぇか」

 

「もう終わっちゃったよ」

 

「あい」

 

 

3人の足元に、ボロボロになり気絶したエリゴールが倒れていた。

 

 

「さすがだな」

 

「ふふ」

 

 

称賛するエルザと、ナツなら勝つと信じていたので笑みを浮かべるウミ。

 

 

「ケッ」

 

ナツがエリゴールを倒したのが気に食わなかったのか、悪態をつくグレイ。

 

 

「そ....そんな!!!エリゴールさんが負けたのか!!?」

 

 

エリゴールが負けた事に、驚くカゲヤマ。

 

 

「エルザ大丈夫?」

 

「あ..ああ気にするな」

 

 

降りる際に、エルザに肩を貸すマキ。

 

 

「こんなの相手に苦戦しやがって、妖精の尻尾の格が下がるぜ」

 

「苦戦?どこがだ!?」

 

「そうだよ!!圧勝だったよ!!ねぇ?ハッピー」

 

「微妙なトコです」

 

 

そこでグレイが、ナツの格好に突っ込みを入れる。

 

 

「つかよ、おまえ..裸にマフラーって変態みてーだぞ」

 

「お前が言うか...」

 

 

ナツの記憶が確かなら、分かれる前のグレイは服をちゃんと着ていた。

 

 

しかし、今のグレイはいつ脱いだのか上半身裸だった。

 

 

「ルーシィ、服貸してくれ」

 

「何であたしなの!!?」

 

「じゃあ、マキ...」

 

「貸すわけないでしょ!!てか、じゃあって何よ、じゃあって!!!」

 

「ふふふ」

 

 

そのやり取りを見て、笑うコトリ。

 

 

「何はともあれ見事だ、ナツ、ホノカ。これでマスター達は守られた」

 

 

事件が解決した事に、全員が笑みを浮かぶ。

 

 

「ついでです...定例会の会場へ行き、笛の処分についてマスターに指示を仰ぎましょう」

 

「クローバーはすぐそこにゃ!!」

 

 

ウミの提案に、リンが賛同する。

 

 

しかし...

 

 

ドゴオォォ!!!

 

 

大きな音を立て、いきなり魔道四輪が急発進する。

 

 

「カゲ!!」

 

「危ねーなァ、動かすならそう言えよ!!」

 

 

驚くエルザと、危うく轢かれそうになったグレイは文句を叫ぶ。

 

 

「油断したな、ハエ共」

 

 

しかし、帰ってきたのはナツ達を罵倒する言葉だった。

 

 

「笛は..ララバイはここだ———!!!ざまあみろ———!!!」

 

 

そう叫ぶカゲヤマの手には、いつの間にかララバイが握られていた。

 

 

「はっははははは!!!」

 

 

カゲヤマの笑い声が響き、取り残されたナツ達は呆然とする。

 

 

「あんのヤロォォォ!!!!」

 

「何なのよ!!!助けてあげたのに———!!!」

 

「追うぞ!!!」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

クローバーの町、定例会会場。

 

 

「はぁはっはぁ」

 

 

急いで飛ばしたせいか、少し息が荒いカゲヤマが定例会会場の裏側に姿を現す。

 

 

——よし....定例会はまだ終わってないみたいだな

 

 

窓からマスター達のものであろう影が見えるので、まだ終わってないと判断するカゲヤマ。

 

 

——この距離なら、十分にララバイの音色が届く。ふふふ....ついにこの時が来たんだ.....

 

 

その時、カゲヤマの肩が誰かによってポンと叩かれる。

 

 

いきなりの事でビクッと、肩をはねるカゲヤマ。

 

 

そろお...と振り向くカゲヤマだったが、相手の人差し指がカゲヤマの頬にむぎゅうと刺さる。

 

 

「ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

「なっ」

 

 

驚くカゲヤマが見たのは、大笑いするマスター・マカロフの姿だった。

 

 

「ゲホッ!!ゲホッ!!!」

 

「.........」

 

 

笑いすぎたせいでむせてしまったマカロフに、呆れるカゲヤマ。

 

 

「いかんいかん、こんな事してる場合じゃなかった。急いであ奴等の行き先を調べねば......町が消えかねん!!」

 

 

ぶるぶると震え、何かに恐怖する。

 

 

「おまえさんもはよぉ帰れ、病院に」

 

 

——待てよ......こいつ..妖精の尻尾のマカロフじゃねぇか!!つくづく妖精に縁がある一日だな

 

 

「あ....あの....」

 

「ん?」

 

 

立ち去ろうとするマカロフを、引き留めるカゲヤマ。

 

 

「一曲..聴いていきませんか?病院は楽器が禁止されてるもので....」

 

「むう?」

 

 

ララバイを取り出して一曲吹こうとするカゲヤマに、訝しむマカロフ。

 

 

「誰かに聴いてほしいんです」

 

「気持ち悪い笛じゃのう」

 

「見た目はともかく、良い音が出るんですよ」

 

 

少し考えた後、マカロフは口を開いた。

 

 

「急いどるんじゃ、一曲だけじゃぞ」

 

「えぇ」

 

 

マカロフの言葉に、カゲヤマは内心で笑った。

 

 

——勝った!!!

 

 

「よぉく聞いててくださいね」

 

 

カゲヤマはララバイを吹くために、吹き口に口を近づける。

 

 

——正規のギルドはどこもくだらねぇな!!

 

——能力が低いくせに、イキがるんじゃねえっての!!

 

——これはオレ達を暗い闇へと閉じ込め....生活を奪いやがった魔法界への復讐なのだ!!!

 

 

その時、カゲヤマはレイユールとカラッカ、それにエリゴールの言葉を思い出す。

 

 

今まさに、ララバイを吹こうとしたその時...

 

 

——そんな事したって、権利は戻ってこないよっ!!!

 

 

コトリの言葉を思い出し、躊躇するカゲヤマ。

 

 

——もう少し前を向いて生きろよ、お前ら全員さ

 

 

グレイの言葉を思い出し、ドクンドクンと激しく脈打つ心臓の音が聞こえる。

 

 

——カゲ!!!おまえの力が必要なんだ!!!

 

——同じギルドの仲間じゃねえのかよ!!!

 

 

だらだらと大量の汗を掻き、吹き口から口を離してしまうカゲヤマ。

 

 

 

 

 

「いた!!!」

 

「じっちゃん!!!」

 

「おじいちゃん!!!」

 

『マスター!!!』

 

 

ちょうどその頃、カゲヤマを追って来たナツ達が到着していた。

 

 

「しっ」

 

 

しかし、1人の男?がナツ達の行く手を遮る。

 

 

『どわぁぁぁぁっ!!!?』

 

 

突如現れたオカマの大男に、驚くナツ達。

 

 

「今良いトコなんだから見てなさい♡」

 

 

すると、マスター・ボブはナツとグレイに近づく。

 

 

「てか、あんたたちかわいいわね。チョータイプ!!」

 

『ヒイ!!?』

 

 

いきなりの事でお互いに身を寄せ合い、悲鳴を上げるナツとグレイ。

 

 

「な..何この人!?」

 

「マスター・ボブ!?」

 

 

ルーシィの質問に、エルザが答える。

 

 

「あらエルザちゃん、大きくなったわね」

 

「この人が、あの青い天馬(ブルーペガサス)のマスター!!?」

 

 

大男の正体に、マキは大声を上げて驚く。

 

 

「どうした?早くせんか」

 

 

急かすマカロフだったが、カゲヤマは一向に動こうとしなかった。

 

 

「いけない!!!」

 

 

今にも吹きそうなカゲヤマを、エルザが止めに入ろうとする。

 

 

「だから黙ってなって、面白ぇトコなんだからよ」

 

四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)の!!?」

 

「マスター・ゴールドマイン」

 

 

エルザを止めに入った男性を知っていたマキとウミは、その名前を叫ぶ。

 

 

「さあ」

 

「....!!!」

 

 

更に催促されたカゲヤマは、等々吹き口に口をつけた。

 

 

——吹けば....吹けばいいだけだ。すれで全てが変わる!!!

 

 

「何も変わらんよ」

 

 

そのマカロフの言葉に、カゲヤマは目を見開く。

 

 

「弱い人間は、いつまでたっても弱いまま。しかし、弱さの全てが悪ではない」

 

 

マカロフの言葉を、止めに入ろうとしていたナツ達も黙って聞いていた。

 

 

「もともと人間なんて弱い生き物じゃ、1人じゃ不安だからギルドがある、仲間がいる」

 

 

今度こそカゲヤマは、言葉を失ってしまう。

 

 

「強く生きる為に、寄り添いあって歩いていく。不器用な者は人より多くの壁にぶつかるし、遠回りもするかもしれん」

 

 

そしてそれを、会場の中から外の様子に気づき、見ているマスター達もいた。

 

 

「しかし、明日を信じて踏み出せばおのずと力は湧いてくる。強く生きようと笑っていける、そんな笛に頼らずともな」

 

 

カゲヤマは理解する、何も分かっていないと思っていたのは自分の方だったと。

 

 

——さすがだ....すべてお見通しだったか....

 

 

そして、カゲヤマの手からララバイが零れ落ち、地面に転がる。

 

 

カゲヤマは膝から崩れ落ち、そのまま頭を下げる。

 

 

「参りました」

 

 

自身の敗北を認め、降参するカゲヤマ。

 

 

『マスター!!!』

 

「じっちゃん!!!」

 

「おじいちゃん!!!」

 

「じーさん!!!」

 

 

マカロフの言葉に感動し、駆け寄るナツ達。

 

 

「ぬぉおぉっ!!?なぜお主等がここに!!?」

 

 

定例会会場にナツ達がいる事に、驚くマカロフ。

 

 

「流石です!!!今の言葉、目頭が熱くなりました!!!」

 

「硬っ!!!」

 

 

感動してマカロフを抱き寄せるエルザだったが、鎧を着てる為にマカロフは顔を思いっきり強打する。

 

 

「一件落着だな」

 

「そうだね」

 

 

事件が解決した事に、喜びあうグレイとコトリ。

 

 

「じっちゃんスゲェなァ」

 

「そう思うならペチペチせんでくれい」

 

 

マカロフの言葉が響いたのか、ナツはマカロフを褒める。

 

 

しかし、その間も頭をペチペチと叩くことにマカロフは突っ込む。

 

 

『かかか...どいつもこいつも根性のねぇ魔導士どもだ』

 

 

突如、ララバイが喋りだし、怪しい煙が口から大量に出てくる。

 

 

「何かでたにゃ!!?」

 

 

いきなりの事で、驚くリン。

 

 

『もうガマンできん、ワシが自ら喰らってやろう』

 

「笛がしゃべったわよっ!!ハッピー!!!」

 

「あの煙....形になっていく!!!」

 

 

笛が喋りだした事に、驚くルーシィ。

 

 

そしてハッピーの言う通り、煙が徐々に何かを形作っていく。

 

 

そして、ララバイから出た煙が結集することで木の巨人が姿を現した。

 

 

『貴様等の魂をな....』

 

「な!!!」

 

『怪物————!!!』

 

 

突如として巨人が現れた事に、驚くナツ達。

 




グレイ「とんでもねぇのが出てきたな」


コトリ「まさかララバイからあんなのが出てくるなんて...」


グレイ「.........」


コトリ「グレイ君、大丈夫?」


グレイ「なんでもねぇ、ちょっと昔を思い出しただけだ」


コトリ「そっか...」


グレイ「あんな奴、俺が倒してやる」


コトリ「それは違うよグレイ君、俺じゃなくて『俺達』でしょ?」


次回!!『最強チーム』


グレイ「ふっ、そうだったな。俺達妖精の尻尾に喧嘩売ったら、どうなるか教えてやるぜ」


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第21話 最強チーム

前回のLOVE TAILは


エルザ「何はともあれ見事だ、ナツ、ホノカ。これでマスター達は守られた」


カゲヤマ「笛は..ララバイはここだ———!!!ざまあみろ———!!!」


マカロフ「急いどるんじゃ、一曲だけじゃぞ」


ボブ「今良いトコなんだから見てなさい」


マカロフ「強く生きようと笑っていける、そんな笛に頼らずともな」


カゲヤマ「参りました」


ララバイ「もうガマンできん、ワシが自ら喰らってやろう。貴様等の魂をな....」


「デカすぎっ!!?」

 

「そこ突っ込むの⁉」

 

 

ララバイから怪物が出て来た事ではなく、その大きさに騒ぐルーシィにハッピーが突っ込む。

 

 

「な..なんだこいつは⁉こんなのは知らないぞ!!」

 

 

突如怪物が出てきた事に、カゲヤマは狼狽する。

 

 

「あらら..大変」

 

「こいつは、ゼレフ書の悪魔だ!!!」

 

 

怪物の正体を知ってるゴールドマインが、その名前を叫ぶ。

 

 

「こりゃちとマズイのう」

 

「助太刀にゆくか」

 

「腰が痛いんじゃが...」

 

 

ゼレフ書の悪魔に気づいた他のマスター達も、騒ぎ出す。

 

 

「一体....どうなってるの?何で笛から怪物が....」

 

「あの怪物がララバイそのものなのさ。つまり、生きた魔法。それがゼレフの魔法だ」

 

 

驚くルーシィに、説明するゴールドマイン。

 

 

「生きた魔法..」

 

「ゼレフ!!?ゼレフってあの大昔の!?」

 

 

驚くグレイに、ボブが話を続ける。

 

 

黒魔導士ゼレフ、魔法界の歴史上最も凶悪だった魔導士....何百年も前の負の遺産がこんな時代に姿を現すなんてね....」

 

 

怪物は、少し屈んでナツ達を見渡した。

 

 

『さあて.....どいつの魂から頂こうかな』

 

「なにぃ?なぁ、魂って食えるのか?」

 

「美味しいのかな?」

 

 

怪物の言葉に、ナツとホノカが反応する。

 

 

「知るか!!!つか、俺に聞くな!!!」

 

 

ぐもぉ!!!と目を見開いて怒鳴るグレイ。

 

 

「やっぱ、そこに食いつくのね」

 

 

予想道理の行動に、マキは呆れる。

 

 

「ナツ、グレイ、皆を遠くへ」

 

「偉っそうに」

 

「命令すんじゃねぇ」

 

 

エルザが2人に指示するが、不満げに答えた。

 

 

「頼んだ!!!」

 

『あいさー!!!!』

 

 

エルザが凄むと、ナツとグレイは肩を組んで走り出した。

 

 

「でた、ハッピー2号...」

 

 

その様子を見て、ルーシィはため息をついた。

 

 

『決めたぞ、貴様ら魔導士全員の魂を頂く!!』

 

「面白れぇ!!やれるもんならやってみやがれ!!」

 

 

マスター達を遠くへ避難させ、戻ってきたナツが吠える。

 

 

「たった7人でなにするつもり?」

 

「ルーシィは?」

 

 

ルーシィが数に入っていない事を、指摘するハッピー。

 

 

「今日はもう使える星霊いないし、皆の足引っ張るかもしんないし」

 

「言い訳だにゃ」

 

「うるさいネコ共!!」

 

 

ルーシィ達がそんなやり取りをしている中、怪物は雄叫びを上げる。

 

 

すると、紫色の巨大な魔方陣が出現し、ララバイを発動しようとする。

 

 

「あら、酷い声」

 

「なにこの不快感」

 

「始まったか」

 

「いかん!!!ララバイじゃ!!!」

 

「魂を食われる!!」

 

 

余りのデカい音に、全員が耳を塞ぐ。

 

 

ヴォオオオオと大きな声を上げるララバイの怪物、魔法が発動されようとしたその時。

 

 

「え?」

 

 

先程まで耳を塞ぐほどの音が、ピタリと止まった。

 

 

「何!?」

 

「これは一体...」

 

 

急に音が止んだ事に、誰もが驚く。

 

 

「まったく...やかましいったらないわね」

 

 

誰もが鎮まる中、マキが呟いた声がその場にいる者たち全員に届いた。

 

 

視線を向けると、そこには破軍歌姫を展開するマキの姿があった。

 

 

「悪いけど、あんたの不快な音は消させてもらったわよ」

 

『何!?』

 

 

自身の音を消された事に、動揺するララバイの怪物。

 

 

「そうか、ノイズキャンセリングですね!!」

 

 

頭の良いウミが、直ぐにマキが音を消した仕組みに気づいた。

 

 

「ノイズキャンセリング?」

 

 

聞き覚えの無い単語に、ルーシィは首をかしげる。

 

 

「なるほど、相手の音波に対して、それと全く正反対の音波をぶつける事で無音状態を作ったんだね!!」

 

 

ノイズキャンセリングについて、解説するハッピー。

 

 

「音の魔導士ならではの戦い方ですね」

 

「ほう」

 

「やるじゃねぇか、マキ」

 

 

マキの活躍に、エルザとグレイは感心する。

 

 

「サポートは私がするわ!!」

 

 

マキは両手の指で、鍵盤を激しく鳴らす。

 

 

「〈破軍歌姫〉——【行進曲(マーチ)】!!!」

 

 

勇ましい曲が響き渡り、ナツ達に力が漲る。

 

 

「なっ!!?これは!!?」

 

「すげぇ!!何時にも増して力が漲って来るぜ!!!」

 

 

初めてマキの支援を受けたグレイとエルザが、その効果に驚愕する。

 

 

「良し!!行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

 

エルザの掛け声の後、全員が駆け出した。

 

 

「換装!!騎士(ザ・ナイト)!!!」

 

 

エルザは換装を行うと、ララバイの怪物の右脚に一撃入れる。

 

 

「アイスメイク槍騎兵(ランス)

 

 

氷で出来た無数の槍が、怪物を襲う。

 

 

「これでも喰らえ!!!」

 

 

ナツは右手に、炎を纏わせる。

 

 

「火竜の鉄拳!!!」

 

 

怪物を、ナツが殴り飛ばす。

 

 

「炎で殴ったぞ!!」

 

「あっちは氷の魔導士か」

 

「鎧の換装とは」

 

 

ナツ達の戦いを始めてみるマスター達は、全員驚いていた。

 

 

「はぁ!!」

 

 

ホノカの横薙ぎした灼爛殲鬼が、怪物を切りつける。

 

 

「やぁ!!」

 

 

氷結傀儡から放たれた冷気のビームが、直撃する。

 

 

「これも喰らいなさい!!!」

 

 

ウミが両手に水を纏わせ、頭上でクロスさせる。

 

 

「水竜の翼撃!!」

 

 

水を纏った両腕を振るい、一撃を放つ。

 

 

「凄いっな!!こんな連携攻撃見た事ない!!」

 

「息ぴったり!!」

 

『あい!!』

 

 

今までナツ達の攻撃を喰らっているだけの怪物だったが、突如として頭上に展開されていた魔方陣を己の中に取り込んだ。

 

 

「なんかやばそう!!」

 

「ララバイ来るよ!!」

 

 

ララバイを発動しようとするのと同時に、辺りの木々が一瞬で枯れていく。

 

 

「緑が枯れてく!!」

 

「ララバイに吸われてるんだよ!!」

 

 

周りから生命エネルギーを吸収した怪物は、等々魔法を発動しようとする。

 

 

『貴様らの魂頂く!!』

 

 

ララバイが発動し、マキはいつでも音を消せる準備をする。

 

 

しかし...

 

 

ぷすうううううう、すうううう、すか———という、すかしっぺのような音しか出なかった。

 

 

『んあ!?』

 

「何これ!!?」

 

「すかしっぺ!!?」

 

 

突然の出来事に、怪物は勿論、ルーシィ達も動揺する。

 

 

『なんじゃあこの音は!!?儂の自慢の音色は何処に!!?』

 

 

そこでようやく、カゲヤマが状況を理解する。

 

 

「あ!!!そっか!!さっきの攻撃で!!」

 

「たくさん穴開けたから、音がちゃんと出ないのね...笛だから...」

 

 

カゲヤマに続き、ルーシィも理解する。

 

 

「さんざん引っ張っといて、このオチ!!?」

 

 

ようやく理解した怪物は、肩を落とし呆然とする。

 

 

『ざけんな!!!!』

 

 

事が旨く行かなかったせいか、近くにあった山を蹴り壊す怪物。

 

 

「キレおったぞ!!!」

 

「デカい分、質が悪いわ!!!」

 

 

身を屈めながら、さらに遠くへ避難するマスター達。

 

 

怪物は口元を光らせ、ビームを放とうとする。

 

 

「アイスメイク...〝(シールド)〟」

 

 

その事に気づいたグレイが、いち早く動いた。

 

 

「氷の造形魔導士か!?」

 

「しかし間に合わん!!くらうぞっ!!!」

 

 

ビームが直撃し、辺り一面が炎に包まれる。

 

 

しかし、ビームが着弾する前に巨大な氷の盾が、マスター達を守っていた。

 

 

「早い!!!」

 

「あの一瞬でこれほどの造形魔法を!!?」

 

 

他のマスター達が驚く中、マカロフだけは笑っていた。

 

 

「造形魔法?」

 

「魔力に〝形〟を与える魔法だよ」

 

「そして、形を奪う魔法でもあるにゃ」

 

 

ルーシィが驚く中、ウミが既に次の一手に出ていた。

 

 

「この場にある全ての眷属達よ」

 

 

ウミの周囲に、霧のような物が漂う。

 

 

「ウミ・ソノダの名の元に命ず」

 

 

ウミの周りに現れていた霧が、小さな水の玉となって辺りを漂う。

 

 

「我が求め、我が願いに応え、その力を示せ!!」

 

 

その小さな水の玉一つ一つに、ギュッと魔力が凝縮される。

 

 

ウミが両手を広げる。

 

 

「セイクリッド・クリエイト・ウォーター!!!」

 

 

ウミが技を放つのと同時に、小さな水の玉が怪物の上空に集結し大量の水が降って来る。

 

 

その量は以前の物とは規模が少なく、かつてのようにその場にいる全員を巻き込むほどではなかった。

 

 

その水は、先程の攻撃で出来た炎を一瞬で鎮火させた。

 

 

「コトリ!!」

 

「うん!!『カースド・クリスタルプリズン』!!!」

 

 

次の瞬間、ウミが放った大量の水がギシッと軋んだ音を立て、一瞬で凍結される。

 

 

『なに!?』

 

 

脚が水に浸かっていた怪物は、水が凍ってしまった事により身動きが取れなくなってしまった。

 

 

「今だよ!!ホノカちゃん!!」

 

 

コトリの掛け声を上げるのと同時に、ホノカは両目を閉じて詠唱を始めていた。

 

 

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう!!」

 

 

ホノカの頭上に、巨大な赤い魔方陣が出現する。

 

 

「まさか!!?あれは爆裂魔法!!?」

 

「あの若さで習得しているとは!!?」

 

 

今からホノカが何をしようとしているのか気づいたマスター達は、驚愕の声を上げる。

 

 

「爆裂魔法って?」

 

「爆裂魔法は、習得が難しいと言われる爆発系の、最上級クラスの魔法だよ」

 

 

ルーシィの疑問に、ハッピーが答える。

 

 

「覚醒の時来たれり、無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!!」

 

 

ホノカはカッと目を見開き、赤い瞳を鮮やかに輝かせた。

 

 

「『エクスプロージョン』ッ!!」

 

 

定例会場に、一節の閃光が走り抜ける。

 

 

魔方陣から放たれたその光は、怪物の凍っている下半身へと突き刺さる。

 

 

その直後、凶悪な魔法の効果が表れた。

 

 

目を眩む強烈な光、そして辺りの空気を震わせる轟音と共に、怪物の下半身が爆発四散した。

 

 

『ぐわぁぁぁぁぁっ!!』

 

「きゃあっ!!」

 

 

凄まじい爆風に吹き飛ばされそうになりながらも、ルーシィは足を踏ん張りながら顔を庇う。

 

 

『わ、儂の体が!!?』

 

 

下半身が吹っ飛ばされた事に、驚愕する怪物。

 

 

「換装!!」

 

 

エルザは天輪の鎧から、蝙蝠のような黒い翼と十字架の模様がある黒い鎧へと換装する。

 

 

その際、髪型がポニーテールへとなっている。

 

 

「おおっ!!黒羽(くれは)の鎧!!」

 

「一撃の破壊力を増加させる魔法の鎧じゃ!!!」

 

 

鎧が変わった事に、マスター達も興奮する。

 

 

「アイスメイク!!回転鋸(ソーサ―)!!!」

 

 

回転する巨大な鋸が、怪物の肩にに命中する。

 

 

「はぁ!!」

 

 

エルザが怪物の顔に斬りかかり、下半身が無い事で簡単に体制を崩す。

 

 

「ナツ!!」

 

「今だ!!」

 

 

エルザとグレイの呼び声に、ナツが答える。

 

 

「おう!!」

 

 

ナツは両手に炎を灯す。

 

 

「右手の炎と左手の炎...2つの炎を合わせて!!!」

 

 

2つの炎が合わさった事により、巨大な火球を作り出す。

 

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!これでも食ってろ!!!火竜の煌炎!!!!」

 

 

ドゴォン!!!!

 

 

怪物に火球が当たった瞬間、巨大な爆発を起こす。

 

 

その威力は、先程の爆裂魔法にもひけを取らなかった。

 

 

『バ..バカな..』

 

 

怪物は驚愕する声を残し、完全に消滅する。

 

 

「見事」

 

「素敵~♡」

 

「ゼレフの悪魔をこうもあっさりと」

 

 

その様子を見て、マカロフ、ボブ、ゴールドマインは戦っていた7人を称賛する。

 

 

他のマスター達も、驚きで言葉が出なかった。

 

 

「す....すごい..こ....これが..これが妖精の尻尾の最強チーム!!!!」

 

 

カゲヤマも、震えながらナツ達を見る。

 

 

「すごーい!!!超カッコイイ!!!」

 

「どうじゃ———!!!すごいじゃろぉぉぉっ!!!」

 

 

7人の活躍にルーシィは興奮し、マカロフは自慢する。

 

 

「みんなやったねー!!!」

 

「大した事なかったな!!」

 

「ちょろいもんだ」

 

 

ナツ達に駆け寄るルーシィ達を、膝をついて見守るカゲヤマ。

 

 

「へへっ、やっぱバカだあいつら。敵わねぇや」

 

 

カゲヤマは目元に涙を浮かべ、打ち震える。

 

 

「ホラぁん♡」

 

 

カゲヤマは急に、ボブに肩を叩かれる。

 

 

「アンタはお医者さんに行かなきゃね♡」

 

「じょりじょり!!?」

 

 

ボブに抱きしめられ、頬ずりされるカゲヤマだったが髭がこすりじょりじょりされる。

 

 

「いやあ、いきさつはよく分からんが、妖精の尻尾には借りが出来ちまったなぁ」

 

「うむ」

 

「なんのなんのー!!!ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

 

ナツ達の活躍に、上機嫌になるマカロフ。

 

 

「ひゃ......ゃ..は........!!」

 

 

調子に乗るマカロフだったが、ある事に気づいて目を見開いて硬直する。

 

 

「ん?」

 

 

様子が可笑しいと思ったマスター達も、後ろを振り向いた。

 

 

『!!!』

 

 

その光景を見たグレイ達も、目を見開くか、頭を抱える。

 

 

「ぬああああっ!!!!定例会の会場が..」

 

「粉々じゃ!!!!」

 

 

建物処か会場があった場所に巨大な穴が開いていて、原形をとどめて居なかった。

 

 

「定例会の会場どころか...」

 

「あい!!!山が1つ2つ消えてるよ」

 

 

ルーシィとハッピーの言葉が止めになったのか、マカロフはがくっと崩れ落ちて魂のようなものが出てくる。

 

 

「マスター!!!?」

 

「なんかでたニャ」

 

 

その様子を見ていたマキとリンが、驚愕する。

 

 

「ははっ!!!見事にぶっ壊れちまったなぁ」

 

「笑っとる場合か!!!」

 

「誰かあいつら捕まえろ!!!」

 

 

笑うナツに怒鳴るマスター達。

 

 

そんな中、エルザとウミは飛び出たマカロフの魂を捕まえようと必死だった。

 

 

「こう、親に似るっつうかよ」

 

「現役時代を思い出すわね」

 

 

ボブとゴールドマインは、ナツ達を見て昔のマカロフや自分達を思い出していた。

 

 

「ば、バカだ...」

 

「カゲちゃんも昔の私にそっくりぃ♡」

 

「え!!?」

 

 

思わぬ情報に、固まるカゲヤマ。

 

 

「あの頃は楽しかったわ~!!皆で滅茶苦茶やって評議員に怒られてばっかりだったからね~」

 

 

そう言うと、ボブは一枚の写真を取り出す。

 

 

妖精の尻尾のギルドの前で取られた写真で、近くに若かりし頃のゴールドマインが写っている。

 

 

その後ろに4人の男性と1人の女性が写っていた。

 

 

「あぁ!!ちなみにこのイケメンが私だぞ」

 

 

そう言って、ボブはスーツを着たホスト風の高身長の超イケメンを指差す。

 

 

「別人だろ!!?」

 

 

余りの変わり様に、カゲヤマは思わず大声を上げる。

 

 

「ねぇ?カゲちんクリソツクリソツ!!」

 

「似てねぇって!!!」

 

 

時の流れが残酷である事を知ったカゲヤマは、ショックを受ける。

 

 

似てると言われ、自分もいずれはこうなるんじゃないかと想像してしまい......。

 

 

「何にせよ、お前さんも少しは感じるところがあるだろ?」

 

「ギルドは楽しいって」

 

 

ショックを受けたカゲヤマから、魂が飛び出てくる。

 

 

「なんか出たぞ」

 

「あら?」

 

 

そこでナツが大声を上げる。

 

 

「よーし!!!俺が捕まえてやる!!」

 

「私に任せて!!!」

 

『お前らは捕まる側だ———!!!』

 

 

ナツとホノカの言葉に、マスター達は大声で突っ込みを入れる。

 

 

「マスター...申し訳ありません...」

 

「顔をつぶしてしまって.....」

 

 

逃げる際中、エルザに背負われているマカロフに謝るエルザとウミ。

 

 

「いーのいーの、どうせもう呼ばれないでしょ?」

 




ルーシィ「今月もお財布がピンチだな~」


マキ「報酬が出ても、殆どが修理代で消えちゃうからね」


ミラ「行く先々で、物とか街とか壊さなければもうちょっとリッチな生活ができるのにね」


ルーシィ「家賃払ったら、ご飯が...ご飯が食べられなくなるっ!!!」


マキ「2人でシェアしてるにも拘らず、ここまで追い込まれるとはね...」


ミラ「そうだ!!ルーシィ達もナツ達の魔法を覚えたら、火とか水とか食べられるわよ」


次回!!『ナツ、村を食う』


マキ「なるほど、それで解決ですね!!!」


ミラ「あれ?突っ込みなし?」


ルーシィ「突っ込みって何にですかぁ?」


ミラ「ルーシィ達のいじわる...」





はい、如何だったでしょうか?


今回の鉄の森編での話で、ウミ達があまり活躍しなかったのはララバイ戦で活躍させようとしてたからです。


まぁ、直ぐに終わりましたけど...


このすばの魔法3連発、アクアのセイクリッド・クリエイトウォーター、ウィズのカースドクリスタルプリズン、めぐみんのエクスプロージョン。


やりすぎたかなと思いましたが、まぁフェアリーテイルの魔導士だったら、丁度いいぐらいですかね


そして次回から、1話の文字数を増やそうと思います。


今までは漫画の話数で話を区切っていましたが、これからはアニメの方で話を区切りたいと思います。


なので、文字数としては、今までの話の3話分の話が1話に纏まる形です。


それでは次回、第22話もしくは、ベストマッチな加速能力者第15話でお会いしましょう!!


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第22話 ナツ、村を食う

LOVE TAIL前回までは


ナツ「何でてめぇと一緒なんだよ!!」


グレイ「じゃあ来んなよ!!」


エルザ「2人の力を貸してほしい」


グレイ「鉄の森?」


エルザ「奴らの企みを食い止めるんだ」


ルーシィ「ナツ――!!」


ナツ「うわぁぁぁぁ!!!」


ルーシィ「呪いの笛、ララバイ!!」


エルザ「マスターが危ない!!」


ルーシィ「これがララバイの正体!?」


ウミ「セイクリッド・クリエイトウォーター!!」


コトリ「カースド・クリスタルプリズン!!」


ホノカ「エクスプロージョン!!」


ルーシィ「やりすぎよぉ!!!」


1人のカウボーイ風の男が、地面に付いた足跡を調べる。

 

 

「この跡...間違いないな...もうこの道を通って2日は経ってる」

 

「とっくにマグノリアに着いてて良い頃よね、何かあったのかしら?」

 

「うん...」

 

 

同じくカウガール風の女の言葉に、男は考える。

 

 

「取り敢えず、報告に戻るか」

 

「追わないの?」

 

 

男の言葉に、女は驚く。

 

 

2人はダチョウのような魔法生物に乗り、元来た道を戻る。

 

 

この女『ビスカ・ムーラン』、この男『アルザック・コネビ』。

 

 

2人共、妖精の尻尾の魔導士だ。

 

 

ギルドに戻ってきた2人は、ミラに報告する。

 

 

「そう...困ったわね。評議会からの通達が来てるのに」

 

「私は追うつもりだったんだけど」

 

「いや、駄目だよ。クローバー大峡谷のあの先、熟練のハンターギルドの狩人ですら一度迷うと2度と出られない」

 

「大自然の迷宮か...何であんなところへ」

 

「何か理由があるのね、マスターが一緒だから大事ないと思うんだけど」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「あー!!もう!!ちょっとハッピー!!あんたまた迷ったでしょ!!?」

 

「そうよ!!歩いても歩いてもマグノリアの街に着かないじゃないの!!!」

 

「この方向音痴ネコ!!!」

 

 

ここは、太古の地震によって無数の断層が走る通称『蜘蛛の巣谷』。

 

 

先の話の通り、ここに迷い込んで帰ってこなかった者が数多くいるという。

 

 

「またって失礼しちゃうな、この間は迷わなかったよ。今回が初めてなんだ」

 

 

ルーシィとマキの言葉に、ハッピーは抗議する。

 

 

「初めてでもなんでも、迷ったのには違いないじゃない!!」

 

 

迷ったことに、ルーシィが突っ込みを入れる。

 

 

「はぁー腹減ったなぁ」

 

「ゆうな、余計腹減るだろうが」

 

「減ったもんはしょうがないだろ!!」

 

「減った減った言うんじゃねぇ」

 

 

いつも通り、ナツとグレイが言い争いを始める。

 

 

「確かに、減ったのぉ~」

 

『だから!!』

 

 

マカロフの一言に、ナツとグレイは揃って声を上げる。

 

 

「よせ」

 

 

そんな2人を、エルザが止める。

 

 

グ~~~~~!!!

 

 

しかし、そこでエルザのお腹が大きな音を立てる。

 

 

「今グーって鳴ったよね、グーって」

 

「鳴ってない、空耳だ」

 

 

ホノカの指摘に、エルザは頑なに認めなかった。

 

 

「す、凄い言い訳だね」

 

 

エルザの言い訳に、コトリは呆れる。

 

 

「わぁぁぁぁ!!!」

 

「あぁぁぁぁ!!!」

 

 

その時、ハッピーとリンが何かを見つけて目を輝かせる。

 

 

「何騒いでんだよ」

 

「どうしたのですか?リン」

 

 

騒ぐ相棒たちに、問いかけるナツとウミ。

 

 

「ナツ!!あれ見て!!」

 

「あれを見るにゃ!!ウミちゃん!!」

 

 

ハッピー達が指差す方を見ると、そこにはがけ下を羽の生えた魚が飛んでいた。

 

 

「幻の珍味、羽根魚だ!!」

 

「あれ滅茶苦茶美味しんだにゃ!!」

 

 

空腹な状態で好物の魚が目の前にある事に、ハッピー達は興奮状態になっていた。

 

 

「幻の珍味」

 

「羽根魚...」

 

「旨そうだな」

 

 

ハッピーとリンの肩に手を置き、涙を流すマカロフ。

 

 

「でかしたハッピー、リン。よぉく見つけたのぉ」

 

 

グー、グゥゥと、お腹を鳴らすマカロフ。

 

 

「みんなお腹空き過ぎです」

 

 

そう言うマキのお腹からも、グーっと音が鳴る。

 

 

「そういうマキちゃんもね」

 

「あい...」

 

 

マキのお腹の音を、コトリが指摘する。

 

 

「よーし釣るぞー!!」

 

「頑張るにゃー!!」

 

 

ナツ達は釣竿を持ち、横一列に並んで釣りを始める。

 

 

「くそぉ...こいつら釣れそうで釣れないな」

 

「釣りは忍耐が必要なんです、釣れるまでの辛抱です」

 

 

悪態突くナツに、ウミが窘める。

 

 

「おいら頑張るぞー!!」

 

「負けないにゃー!!」

 

 

その中でも、ハッピーとリンが一番気合入っていた。

 

 

「何か余り美味しそうに見えないんだけど...」

 

「黙って釣れ、この際食えれば良い」

 

「おぉ!!そんなに腹減り!!」

 

 

ルーシィの呟きにエルザが指摘し、思ったよりエルザがお腹空いている事にマキは驚く。

 

 

「羽根魚食べたいぞー!!美味しいぞー!!」

 

「幻の珍味だにゃー!!」

 

 

しばらくして......

 

 

『飽きてきました』

 

 

釣竿を地面に置き、そう言うハッピーとリン。

 

 

『意思弱っ!!!』

 

 

ハッピー達が直ぐに飽きた事に、ルーシィとマキが突っ込みを入れる。

 

 

「だって全然釣れないんだもん」

 

「つまらないにゃ」

 

「お腹空いてるんでしょ?」

 

「だったら頑張らないと」

 

「そうよ、諦めないで」

 

 

詰まらなそうに俯くハッピー達に、優しい言葉を掛けるルーシィとマキ。

 

 

そして、顔を上げるハッピーとリン。

 

 

「ルーシィの意地悪ぅ!!!」

 

「マキちゃんが酷い事言うにゃー!!!」

 

 

涙を流しながら、2人の元から走り去るハッピーとリン。

 

 

「えぇぇぇぇぇ!!?」

 

「励ましたんですけどぉ!!?」

 

 

ハッピー達の思わぬ言葉に、2人共口をあんぐりと開けて驚愕する。

 

 

しばらくして、9人と2匹もいながら釣れた羽根魚はたったの2匹だった。

 

 

「難しいのね」

 

「結局2匹だけでしたね」

 

 

釣った2匹の羽根魚は、ナツの炎によって一瞬で焼き魚へと変わった。

 

 

「ハッピーとリンが食えよ」

 

「でも...おいら達だけじゃ...」

 

「そうだにゃ...」

 

 

遠慮する2匹の背中を、グレイとマカロフが押す。

 

 

「そんなのちょびっとづつ分けて食ったら、余計腹が減るわ」

 

「遠慮するな、食え!!食え!!」

 

「そう!!」

 

「じゃあ頂きまーす!!」

 

 

頭から羽根魚をかぶりつく2匹の後ろで、ナツ達は物惜しそうに見つめる。

 

 

「こんな魚を美味しそうに食べられるなんて、あんた等本当に幸せね」

 

 

ルーシィがそう言った、次の瞬間。

 

 

『不味っ!!』

 

 

ハッピーとリンは、同じタイミングで顔をしかめる。

 

 

『不味いんかい!!』

 

 

思わず、突っ込みがかぶってしまうルーシィとマキ。

 

 

「それにしても...」

 

「腹が...」

 

「減ったのぉ...」

 

 

鳴るお腹を押さえながら、歩き続けるナツ達。

 

 

しばらく歩いていたナツ達の目の前に、1つの村が見えてきた。

 

 

「村だ!!」

 

「家だ!!」

 

「だったら多分!!」

 

「食いもんだー!!」

 

 

ご飯にありつけると、ナツ達は走り出す。

 

 

村に着いたナツ達だったが、村には人の気配がない事に困惑する。

 

 

「誰もいないぞ」

 

「何か静かな村ね」

 

 

誰もいない事に、訝しむグレイとルーシィ。

 

 

「昼寝でもしてんじゃねぇのか?」

 

「おーい!!誰かいませんかー!!」

 

 

ナツは軽く考え、ホノカが呼びかける。

 

 

「お腹減り減りです~!!」

 

「誰かご飯くださいにゃー!!」

 

「そこの腹減りネコ共、露骨過ぎだから!!」

 

 

欲望に忠実な呼び声に、ルーシィが突っ込みを入れる。

 

 

「本当に昼寝か?」

 

「さもなきゃ、村中酔っぱらって寝てるかのぅ」

 

「それは、妖精の尻尾ですから」

 

「ははぁ!!そうともいうのぅ」

 

 

そんな話をしている間も、人が出てくる気配は無かった。

 

 

「ええい、面倒くせい!!力ずくでも何か食ってやる!!」

 

「おおい!!そりゃちょっとした強盗だろ」

 

「そうだよ!!そんな事したらいけないよ!!」

 

「って、お前らもそのつもりだろうが!!」

 

 

走り出したナツに、グレイとホノカが止めに入るが、顔は笑っておりナツに同乗するき満々だった。

 

 

「おーい、誰かいないか!?」

 

「何か食べさせてください!!お願いします!!」

 

 

ナツとホノカが一つの一軒家の扉を叩き、返事を待つが一向に出てくる気配は無かった。

 

 

ナツが扉を叩いていると、鍵が掛かっていなかったのかそのまま扉が開いた。

 

 

ナツ達が中を覗くと、テーブルの上に幾つものパンとバター、そしてスープが置かれていた。

 

 

「やっぱ誰もいないな」

 

「とにかく食いもんだ」

 

 

そう言って、ナツはテーブルの上に置いてあるパンを1つ手に取り、匂いを嗅いだ。

 

 

「よっしゃまだ食える!!」

 

「本当!!?」

 

 

ナツの安全確認を途端、ホノカもパンを1つ手に取った。

 

 

『いっただきまー』

 

「待ってください」

 

 

食べようとするナツ達を、ウミが待ったを掛ける。

 

 

「なんだよ!!」

 

「様子が可笑しいです」

 

「うん、スープに湯気が立ってるし、さっきまでご飯を食べてたみたい」

 

 

ウミの言葉に、コトリが同意する。

 

 

「この家の連中、何処に消えたんだ?」

 

 

グレイも怪しく思い、辺りを見渡す。

 

 

「知るかよ、取り敢えず食おうぜハッピー、ホノカ」

 

「うん」

 

「あい」

 

 

自分には関係ないとばかりに、パンを食べようとする。

 

 

『あー...』

 

「待て!!」

 

『は、はい!!』

 

 

今度はエルザが止め、その気迫にナツ達は直ぐに食べるのをやめた。

 

 

「先に村の様子を調べる必要がある、今まで我慢してたんだもう少し我慢」

 

 

しろと言いかけた所で、エルザのお腹がグ~と派手に鳴った。

 

 

一回だけでなく、グー、ぐ~と何回も鳴っていた。

 

 

「エルザ、お腹鳴りすぎ...」

 

「説得力ゼロね」

 

 

エルザの腹減り具合に、ルーシィとマキは呆れる。

 

 

「ナツ達はキノコかなんか探してこい、村の食べ物には触るな。私とマスターは、その間村の中を調べる」

 

 

指示するエルザだが、尚も腹は鳴り続ける。

 

 

「あ~あ、分かったよ。行くぞハッピー」

 

「私達も行きましょう」

 

 

ナツ達は、キノコが生えているであろう森を目指す。

 

 

「何故にキノコ?」

 

 

ルーシィは他にも木の実とか採れる物があるにも関わらず、キノコを指定した意味が解らなかった。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

森に入ったナツ達は、早速キノコを見つける。

 

 

しかし、どれも明らかに毒キノコだと分かる物ばかりだった。

 

 

その事に、頭を抱えるルーシィ、マキ、ウミの三人。

 

 

「せっかく旨そうな食い物があったのによ~」

 

「そうだよ、キノコ何かじゃお腹膨れないよ!!」

 

 

そこで、ナツ達もキノコを見つける。

 

 

「あっ」

 

「キノコだ」

 

「あった!!美味しそう!!」

 

「何故にキノコ!?」

 

 

毒があるかもしれないのに、なぜキノコを選んだのかまだ納得していないルーシィ。

 

 

「オイラ知ってるよ」

 

「何?」

 

「ナツとホノカがワライダケ見たいな毒キノコ食べちゃうんだ、お約束なんだ!!」

 

「ハッピー...洒落にならない事言わないでください...」

 

 

ハッピーの言葉に、ウミはまたも頭を抱える。

 

 

「何言ってんだハッピー」

 

「そうだよ失礼しちゃうな~」

 

『流石にそんなベタな事』

 

「しねぇよ」

 

「しないよ」

 

 

そう言って振り返る2人の口には、大量の毒キノコが銜えられていた。

 

 

「ナツ!!?何を食べてるんですか!!?」

 

「早くペッしなさい!!」

 

 

慌てて止めに入る、ウミとマキ。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

村を調べていたマカロフは、ある1つの一軒家の中に居た。

 

 

そのマカロフの前には、旨そうな鍋があった。

 

 

マカロフは一緒に置いてあった卵を器の中に割って入れ、よくかき混ぜていた。

 

 

しかし、後ろに圧を飛ばすエルザの存在に気づき、手を止めた。

 

 

「マスター...」

 

「いやちゃう!!調べようとしただけじゃ!!」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「たかがキノコでも、こんだけ食えば腹は膨れそうだな」

 

「そうだね!!」

 

 

ウミ達が止めたにも関わらず、食べ続けたナツ達の腕には大量のキノコが抱えられていた。

 

 

「これはフリなんだにゃ」

 

 

そう言って、リンもハッピーと一緒にフリと書かれた看板を手に持つ。

 

 

「良いから早く取れ」

 

「あ、あはは...」

 

 

グレイも同じようにキノコを食べている事に、コトリも苦笑いを浮かべる。

 

 

『うっ!!うぅぅぅぅ!!!』

 

 

同じタイミングで、ナツとホノカが苦しみだし、真っ青な顔で喉を押さえる。

 

 

「ナツ!!?」

 

「ホノカ!!?」

 

「大丈夫ですか!!?」

 

 

突然の事に、驚く3人。

 

 

「ほら!!」

 

「来たにゃ!!」

 

 

すると、ナツとホノカの頭からそこそこ大きいピンク色とオレンジのキノコが生える。

 

 

『ビックリした!!』

 

『こっちもビックリ!!』

 

 

ナツの頭に突如キノコが生えた事に、ルーシィ達は驚く。

 

 

「ワライダケじゃないのか...」

 

「がっかりだにゃ...」

 

「落ち込むとこなの?」

 

 

予想していたオチではない事に、ハッピー達は落ち込み、その事にマキが突っ込む。

 

 

「なーに騒いでんだよ」

 

 

グレイがコトリを連れて戻ってくるが、そのグレイの頭にも青い大きなキノコが生えていた。

 

 

「2人共、頭、頭」

 

『あ?』

 

 

ルーシィが指摘すると、ナツとグレイはお互いの頭を見る。

 

 

『あ————!!!』

 

 

大声を上げ、お互いの頭を指差す。

 

 

「あはははは、何だてめぇそのキノコ!!」

 

「てめぇこそふざけたキノコ乗っけやがって!!」

 

「な~んで自分の心配はしな~い」

 

 

自分の心配はせず、相手を馬鹿にするナツ達にルーシィは呆れる。

 

 

「って...」

 

 

そこで、いつものやり取りが始まった。

 

 

「オイ垂れ目、今笑いやがったな?」

 

「てめぇも阿保面でにやけてただろうがよ」

 

 

いつものように、取っ組み合いの喧嘩が始まった。

 

 

「頭にキノコ乗せて喧嘩しなーい!!」

 

「それくらいでやめてください、間抜けすぎますよ」

 

 

呆れながら止めようとするウミに、自分の背よりも大きいキノコをリンが持ってくる。

 

 

「ウミちゃん!!特大の見つけたにゃ!!!」

 

「え?うわ本当ですね!!」

 

 

その大きさに、ウミは驚く。

 

 

「でも...それちょっと怪しくない?」

 

 

リンが持ってきた特大キノコを、コトリが怪しむ。

 

 

「どれどれ?おぉーデケェ!!!」

 

「これ一個で2日は持ちそうだな」

 

「あんた達は頭のキノコ何とかしたら?」

 

 

呆れながらルーシィがそう言うと、何の躊躇なくハッピーとリンがキノコにパクっとかぶりついた。

 

 

「ちょっとリン!!?駄目じゃないですか!!」

 

 

「そうよハッピー!!毒かもしれないのよ!!早くぺっしなさい!!ぺっ!!」

 

『でも、美味しいよ』

 

 

するとさっきの既視感か、急にハッピーとリンが喉を押さえだした。

 

 

すると、ハッピー達の頭からもキノコが生えた。

 

 

『ギャー!!!』

 

 

ハッピー達の頭からもキノコが生えた事に、ルーシィ、マキ、ウミの三人が悲鳴を上げる。

 

 

「結局、どれ食ってもこうなるんじゃないか?」

 

「村の連中、どうやって食ってたんだ?」

 

「もしかしたら、皆こうなんじゃないの?」

 

「村の名前はキノコ村だったりしてね、あは...あはははははは...」

 

「あははは.....」

 

「あは...あはははは」

 

 

ハッピー達を励まそうとするナツとグレイに続いて、ホノカとコトリも話に乗っかる。

 

 

『二度目は寒い(にゃ)!!!』

 

 

そう言って、ハッピー達は泣きながら皆の前から走り去ろうとする。

 

 

『そういう問題じゃないでしょう』

 

 

的の外れた事を言うハッピー達に、ルーシィ達は指摘する。

 

 

そこでマキは、ある事に気づいた。

 

 

「ちょっと待って!!あんたのキノコ成長してない!!?」

 

 

マキの言う通り、ナツの頭のキノコが更に増えており、その1つが一回り成長していた。

 

 

「って!!ホノカのキノコも成長してますよ!!?」

 

 

ホノカのキノコも、更に一回り大きくなっていた。

 

 

「ずるいよ!!ナツ達ばっかり美味しい所!!!」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「どうでしたか?」

 

「やはり誰もおらん、この村は廃村じゃ」

 

「というよりは、つい最近まで人が暮らしていた形跡が...」

 

 

そこでエルザは、足元にある不自然な溝に気づいた。

 

 

「この線はなんだ?」

 

 

溝を辿ってみると、一直線に伸びていた。

 

 

「たんなる石の隙間ではありませんね、明らかに意図的に彫られている」

 

 

エルザ達は溝を辿ると、その溝は他にも存在していた。

 

 

「ここには別の線が...」

 

「うーむ...」

 

 

その時、突如として獣のうめき声が聞こえてきた。

 

 

「何だ?」

 

 

エルザはいつでも動けるように、身構えた。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

そのうめき声は、ナツ達にも聞こえた。

 

 

「な、何!?」

 

 

驚くルーシィだったが、立て続けに驚くことが起こった。

 

 

「あっ!!?」

 

 

突如として、ナツ達の頭のキノコが光りだした。

 

 

そしてそのまま、3人の頭からキノコがポロっと取れた。

 

 

「うわ!!?」

 

「キノコが消えたにゃ!!」

 

 

キノコが取れた事に驚くハッピー達だが、ハッピー達の頭にはまだキノコが残っていた。

 

 

「ハッピー、リン、あんた達だけついてるわよ」

 

『えぇぇぇぇ!!?』

 

 

ルーシィの指摘に、ハッピー達は驚く。

 

 

「エルザ!!じっちゃん!!」

 

 

エルザ達の身を心配し、ナツ達は駆け出した。

 

 

「美味しいけど、これはこれでいやだよ!!」

 

「何でリン達だけ取れないんだにゃ!!?」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

エルザ達が警戒する中、急に溝が赤く光りだした。

 

 

「エルザ!!」

 

 

警戒するエルザ達に、ナツ達が合流する。

 

 

すると、溝だけでなく地面までも光りだした。

 

 

「気を付けろ、ハッピー」

 

「あい」

 

「何が起こるか分かりません、私から離れてはいけませんよリン」

 

「分かったにゃ」

 

 

赤く光りだしたのは地面だけでなく、辺りの建物までもが光りだした。

 

 

「ヴェ!!?」

 

 

そして、ぐにゃぐにゃと建物が歪みだした事にマキが驚きの声を上げる。

 

 

「な、なんだこりゃ!!?」

 

「どういう事!!?」

 

 

突然の出来事に、動揺するナツとルーシィ。

 

 

「オイラ、家が動くのなんて初めて見たよ」

 

「なんでそこがツボ?」

 

 

ルーシィ達がそんな気の抜けた会話をしてる間、マカロフは脈を打つように盛り上がる地面を見ていた。

 

 

「これは...」

 

 

そこで、グレイが手に冷気を纏って動き出す。

 

 

「やるぜ、じいさん」

 

「待て!!!」

 

 

しかし、それをマカロフが止める。

 

 

「な、なんでだよ!?」

 

 

止められるとは思わなかったグレイは、マカロフを責める様に叫ぶ。

 

 

「高い所に登るんじゃ、確かめたい事がある」

 

「みんな来い、離れるなよ!!」

 

 

マカロフの先導の元、崖の上に移動したナツ達が見たのは、先程までの建物が怪物へと変わった姿だった。

 

 

「うひゃぁぁぁぁ!!」

 

「訳分かんないぞこれ!!」

 

 

驚くナツ達を他所に、エルザだけはこの現象の原因に気づいていた。

 

 

「マスター、あれは魔方陣では?」

 

『え?』

 

「あぁ、お前が見つけたあの幾つもの線は魔方陣の一部じゃ。そしてこの魔方陣は、かつて禁止された封印魔法『アライブ』を発動させる為のものじゃ」

 

「アライブ?」

 

 

聞き覚えの無い魔法に、マキはその魔法を復唱する。

 

 

「あれを見い、一目瞭然...本来生命の無いものを生物化して動かす魔法じゃ」

 

 

マカロフの説明で、なぜ建物が怪物に変わったか理解し質問するウミ。

 

 

「では...この村の人達は、その禁断の魔法を発動させて逆にバケモノ達の餌食になったのですか?」

 

「恐らくな」

 

「でも...どうしてそんな危ない事を?」

 

 

ルーシィの質問に答えたのは、説明をしたマカロフではなくエルザだった。

 

 

「ここは、闇ギルドの村だ」

 

「何!?」

 

 

自分達が立ち寄った村が闇ギルドのものである事実に、ナツは驚愕の声を上げる。

 

 

「先程、ある家の納屋を調べていたら、魔法に使用する道具を幾つも見つけた」

 

「その道具に、ギルドのマークが?」

 

 

今まで黙っていたコトリが、そう質問する。

 

 

「あぁ、いずれも真面な魔法の物では無かった」

 

「闇ギルドの事じゃ、良からぬ企みをしてそのせいで自滅したのじゃろう。じゃが!!!」

 

 

突如、マカロフが大声を上げた事に全員が驚く。

 

 

「これぞ不幸中の幸い」

 

「じっちゃん、何だよそれ!?」

 

「何か策でもあるんですか!?」

 

 

全員が、マカロフの次の言葉を待つ。

 

 

「やつらは生き物じゃと言ったはずじゃ、大抵の生き物は食える!!」

 

『えー!!』

 

 

マカロフの言葉に、ルーシィとマキは声を上げて驚く。

 

 

「へっ!!」

 

「へへっ!!」

 

「キモイ笑顔で何脱いでんのよ!!?」

 

 

いつの間にか服を脱いで、戦う気満々のグレイにルーシィが突っ込みを入れる。

 

 

「あぁ?」

 

 

キモイと言われ、ガンを飛ばすグレイだったが今までで一番大きい腹の音が鳴った。

 

 

「しゃあ!!食うか!!」

 

「わーい!!ご飯の時間だ!!」

 

「この際、味がどうのなんて言ってられないな!!」

 

 

皆がやる気になっている中、エルザが真っ先に動いた。

 

 

「え———!!エルザそんなに腹空きぃ!!?」

 

 

誰よりも先にエルザが動いたことに、マキが驚愕する。

 

 

「遅れを取るわけには行きません!!」

 

「私達も行こう!!」

 

「うん!!」

 

 

エルザに続いて、ウミ達も動いた。

 

 

「ちょっと!!」

 

「噓でしょ!!?」

 

「儂の分も頼んだぞ!!」

 

 

 

 

 

怪物の前に対峙する、ナツとホノカ。

 

 

「おいてめぇら、俺達を誰だか知ってるか?」

 

「妖精の尻尾の1、2を争う炎の料理人だよ!!」

 

「火竜の鉄拳!!」

 

 

ナツの炎を纏った拳が、怪物に直撃する。

 

 

「まずは火をよーく通して~」

 

 

炎で怪物達を、焼いていくホノカ。

 

 

「はぁ!!」

 

 

すると、ホノカが崖を崩すと怪物たちを下敷きにさせる。

 

 

「蓋をして蒸す、しばし待つ」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「いきなりデザートてのも何だが」

 

「まぁ、しょうがないよ」

 

 

怪物が、目の前にいるグレイとコトリ目掛けて襲い掛かる。

 

 

「アイスメイク!!フィッシュネット」

 

「はぁ!!」

 

 

グレイとコトリの氷結傀儡による広範囲の攻撃で、怪物たちが氷漬けになった。

 

 

「シャーベット完成」

 

「いただきます」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

ナツ達が戦って居る中、ハッピーとリンが血まみれの椅子と戦っていた。

 

 

ハッピーは釘が刺さった棍棒を片手に、リンは自身の爪で攻撃する。

 

 

その様子を、ハラハラした様子のウミが見守っていた。

 

 

「羽根魚と椅子とどっちが不味いか微妙だけど」

 

「えい、えいにゃー!!」

 

 

椅子が足で蹴りを放つが、それをハッピーが棍棒で受け止め、その隙をリンが攻撃する。

 

 

「私も加勢すべきでしょうか?でも...ハッピーもリンも頑張ってますし、水を差すのは...」

 

 

2人を見守るウミは、はじめてのおつかいに向かう子供を心配する親みたいだった。

 

 

しかし、3人の攻防はしばらく均衡していたが、椅子が高く跳躍しハッピー達に跳び蹴りを放つ。

 

 

「うわぁ!!」

 

「きゃあ!!」

 

 

椅子のキックをジャンプする事で避けたハッピー達だったが、その際に2匹は椅子の上に飛び乗ってしまった。

 

 

「うぇぇぇぇ!!」

 

「えぇぇぇぇ!!」

 

「ハッピー!?リン!!?」

 

 

ハッピー達が連れ去られた事に、驚くウミ。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

怪物と対峙するエルザに、ルーシィとマキが近づく。

 

 

『エルザ!!』

 

「下がっていろ、調理の時間だ」

 

「調理って...」

 

「換装!!」

 

 

驚くルーシィを他所に、エルザは換装して鎧を変える。

 

 

コック帽にエプロン、そしてエプロンのしたに水着という特殊な格好へと換装したエルザ。

 

 

その手には、二振りの巨大な包丁が握られていた。

 

 

エルザが瞬く間に怪物達を切りつけた瞬間、大量のスティックへと変わった。

 

 

「げっ!!?」

 

「ヴェっ!!?」

 

 

一瞬で怪物をスティックに変えた事に、2人は驚く。

 

 

「一本の長さが約5cm、幅は4mm各で刻むのがコツだ」

 

「そんなこだわりまで...」

 

「ていうか、エルザその格好...」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

崖の上で、ナツ達の戦いを見ながらマカロフは待っていた。

 

 

「お腹空いたのぉ~...まだかのぉ~」

 

 

ナツは蒸し終わった怪物をホノカと一緒に、ちぎって食べようとする。

 

 

『いっただきまーす』

 

「うわっ!!」

 

「待ってください!!」

 

 

しかしそこに、椅子に乗ったハッピー達が通り過ぎ、その後ろをウミが追いかける。

 

 

「何やってんだろう、ハッピー達」

 

「いくらなんでも椅子は食えねぇだろ」

 

 

 

 

エルザ達の方でも、怪物を食べようとしていた。

 

 

「ルーシィ、マキ、先に食べてみろ」

 

『嫌です!!』

 

 

腕でバツを作り、全力で拒絶する2人。

 

 

「しかたないな...」

 

「それ違うでしょ!?どうして私に先に食べさせようとする!?」

 

「うにゃ———!!?」

 

「ハッピー!!リン!!」

 

 

文句を言うルーシィ達の後ろを、ハッピー達が通り過ぎる。

 

 

「な、何やってるんだろ...」

 

「自分で何とかするだろう、ウミも一緒みたいだし大丈夫だろう。では...」

 

 

エルザは躊躇なく、スティックを食べた。

 

 

「ど、どんな味?」

 

「美味しいの?」

 

 

ルーシィ達が質問すると、エルザは何も言わず2人に自分が食べていたスティックを差し出す。

 

 

「うっ...じゃあ...」

 

 

受け取ったスティックを、ルーシィは2つに分けて片方をマキに渡す。

 

 

 

 

グレイとコトリも、怪物を食べようとしていた。

 

 

「さてと...」

 

「食べてみようか」

 

 

そしてナツ、ホノカ、ルーシィ、マキ、グレイ、コトリは同時に怪物を食べる。

 

 

『まぁっずっい—————!!!!』

 

 

全員がその不味さに、絶叫を上げる。

 

 

「なんだあれ!!じっちゃん!!あんなの食えないぞ!!」

 

「不味いにも程があるぞ!!」

 

 

あまりの不味さに、ナツとグレイはマカロフに文句を言う。

 

 

「あぁ、食べられたもんじゃないな」

 

『私達に食べさせてから言わないでください!!』

 

 

エルザの非道な行いに、ルーシィ達は声をそろえて抗議する。

 

 

『うわぁぁぁぁぁ!!』

 

 

ドッガァァァァアアアアン

 

 

ナツ達の後ろに、ハッピー達が突っ込んだ。

 

 

「あん?」

 

 

ナツが振り向くと、そこには倒れているハッピー達の姿があった。

 

 

「ナツ大丈夫ですか?」

 

「おぉ!!お前もお守ご苦労さん」

 

 

そこでようやく、ウミもナツ達に合流した。

 

 

『あ!?』

 

 

そして次の瞬間、ハッピー達の頭からキノコが取れた。

 

 

その事に、2人は声を揃える。

 

 

「お前ら、キノコ採れたぞ」

 

 

2人のキノコが取れた事に、グレイは喜ぶ。

 

 

「そんな事より、どうして誰も止めてくれなかったんだよ!!」

 

「そうだにゃ!!ウミちゃんも見てただけだったし!!」

 

 

誰も助けてくれなかった事に、ハッピー達は喚きだした。

 

 

「酷いよナツ!!どうして!!?」

 

「はぁ?」

 

「遊んでたんじゃないのか?」

 

 

ナツとグレイの言葉に、ハッピー達は口をあんぐりと開けて固まった。

 

 

「しかしまいったな、こう不味くては幾ら空腹でも...」

 

「もともとバケモノ食おうって言うんだからな」

 

「あーくそ、食えねぇって分かったら本気で腹減ってきた」

 

 

ナツ達がそう言いあっていたその時、まだ残っていた怪物の一体がハッピーを襲う。

 

 

「うわぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「危ない!!」

 

 

ハッピーを襲おうとしている怪物を、ウミが倒した。

 

 

「ウミ!!」

 

 

助かった事に喜ぶハッピーだったが、怪物はその一体だけでなくナツ達の周りを囲むように他にも現れた。

 

 

「不味い奴らめ」

 

「腹が立つ」

 

 

グレイとエルザがイラつく中、ナツとウミが動いた。

 

 

「纏めて吹っ飛ばしてやる!!」

 

「行きますよ!!ナツ!!」

 

 

ナツは両腕に炎を、ウミは水を纏う。

 

 

「火竜の!!」

 

「水竜の!!」

 

『翼撃!!』

 

「アイスウォール!!」

 

「〈灼爛殲鬼〉——【抱】」

 

ナツ達に続いて、グレイとホノカが動く。

 

 

「あたしも!!」

 

 

ルーシィは、タウロスの鍵を手に取った。

 

 

「開け!!金牛宮の扉!!タウロス!!」

 

 

扉を潜り、タウロスが現れる。

 

 

「相変わらず、ナイスバディですな!!」

 

 

目をハートに変え、鼻息を荒くしてルーシィを見つめるタウロス。

 

 

「はい、後宜しく」

 

 

呆れながら、タウロスに指示するルーシィ。

 

 

「では、久々に!!モォォォレェェェツ!!」

 

 

タウロスが斧を地面に叩きつけると、衝撃波が地面を走って怪物をバラバラにする。

 

 

しかし、ナツ達が幾ら倒しても怪物が減る事は無かった。

 

 

「きりがねぇぜ」

 

 

すると今度は、地響きが鳴る。

 

 

「今度は何?」

 

 

突然の地響きに、ルーシィが警戒する。

 

 

すると、幾つもの魔方陣が現れ、怪しく輝きだした。

 

 

「魔方陣!?」

 

「なんだこれ!?」

 

「わあー綺麗!!」

 

「そうじゃないでしょ!!」

 

「あんたのツボって、さっきからどうなってるのよ!!」

 

 

突如現れた魔方陣に驚くナツとグレイと、的外れな事を言うハッピーにルーシィとマキが突っ込む。

 

 

更に魔方陣の輝きが増すと、その魔方陣に怪物達が吸い込まれていく。

 

 

そして、ナツ達が足場にしている岩に罅が入った。

 

 

「逃げろ!!」

 

 

誰よりもいち早く気づいたエルザが叫ぶが、一歩遅くナツ達は魔方陣へと落下する。

 

 

『うわぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

『きゃぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「あー、腹減った...マジで...」

 

「オイラも歩けないよ」

 

「リンもにゃー」

 

 

嘆くナツの横で、歩けないと言っておきながら空を飛ぶハッピー達の姿があった。

 

 

「だから自慢げに羽根を使うな!!羽根を!!」

 

 

わざとらしくナツ達の前を飛ぶ2匹に、文句を言うグレイ。

 

 

「マスター」

 

「んあ?」

 

「先程の説明では、納得できません」

 

 

そう言って、エルザは先程の闇ギルド達とのやり取りを思い出す。

 

 

 

『お前ら、何やってたんだよ』

 

 

ナツの質問に、闇ギルドの者が答える。

 

 

『魔方陣を作ったら、化け物が現れて...皆、テイクオーバーされちまって...』

 

『ではお前達は、あの化け物の中に』

 

『うげ!!あたしちょっと食べちゃった!!?』

 

 

自分が食べた化け物の中に人がいた事実に、ルーシィは顔を青くする。

 

 

『余所者のあんた達が村に入ってきて、魔方陣が刺激されて動いたんだ』

 

『もうあの魔方陣が動くことは無い!!』

 

 

マカロフがそう言い切った事に、闇ギルドの者達は驚く。

 

 

『なんでなの?おじいちゃん』

 

 

意味が解らず、質問するホノカ。

 

 

『細かい事はどうでも宜しい!!とにかく、テイクオーバ―が解けただけでもありがたいと思う事じゃ!!これにこり、2度と妙な真似をせんと誓うなら評議会への報告は無しにしてやる。どうじゃ!!』

 

『あんなおっかねぇ目に合うのは、もうごめんだ。すみません』

 

『2度としません』

 

 

マカロフの言葉に、闇ギルドの者達は素直に頭を下げて謝った。

 

 

 

 

 

「化け物がやられた事で魔方陣のスイッチが入り、全てを消去しようとした」

 

 

先程の事を思い出しながら、エルザは再度マカロフに問いかける。

 

 

「でもマスターは、あの一瞬に私達を助け、闇ギルド達のテイクオーバーを解き、そして魔方陣そのものを消滅させた。そうですね?」

 

 

「はあてのぉ~」

 

 

エルザの質問に、マカロフははぐらかす。

 

 

「それにしても...」

 

『腹減った~!!!』

 

 

ナツ達の叫びが重なった、ぐ~と鳴るお腹の音と共に。

 




ルーシィ「えぇっ!!?ナツとエルザって本当に戦うんですか!?」


ミラ「そうよ、ナツって昔から負けず嫌いだから」


マキ「止めなくていいんですか?」


ミラ「良いのよ、いつもの事だし。それより、ルーシィ達はどっちが勝つと思う?」


ルーシィ「そりゃ...エルザ...あーでもナツにも負けてほしくないし」


マキ「難しい所よね」


次回!!『ナツVSエルザ』


ミラ「ルーシィもマキも、エルザと戦って最強の女魔導士を狙ってみれば?」


『無理です!!』


ルーシィ「あ、でもハッピーには勝てるかも」





はい、如何だったでしょうか?


何とか投稿に間に合って良かった...


今さっき書き終わった所だったので...


今回は、単行本の原作にはないアニメオリジナルの話でした。


アニメだけの話だったおかげか、今回は文字数が長くなりました。


前回でも言いましたが、アニメで話を区切る為に今後はこの文章量で行きます。


それでは次回第23話、もしくは激獣拳使いの幼馴染第4話でお会いしましょう!!


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ガルナ島編
第23話 ナツVSエルザ


LOVE TAIL前回までは!!


ロメオ「父ちゃんを助けてよ!!」


ナツ「マカオを返せっ!!!」


マカオ「借りが出来ちまったな」


エルザ「ナツ、グレイ、ホノカ、ウミ、コトリ、五人の力を貸してほしい」


ナツ「付き合ってもいいが、条件がある。帰ってきたら俺と勝負しろ!!」


エルザ「受けてたつ」


ルーシィ・マキ「何でそうなるの~」


マグノリアにあるルーシィとマキが住む家。

 

 

そこでルーシィは、母親に向けて手紙を書いていた。

 

 

鉄の森による、ギルドマスターの定例会を狙ったテロ事件は、一躍大ニュースとなり国中に知れ渡ったの。

 

 

あんな大事件の中心に自分がいたなんて未だに信じられないけど、あたしはいつもと同じ日常を送ってます。

 

 

たまにあの時の事を思い出して、ドキドキしてるけどね。

 

 

風の噂じゃ、あのカゲって人や鉄の森のメンバーは殆どが捕まっちゃったみたい。

 

 

ま....当たり前か。

 

 

1つ怖いのは、エリゴールだけは捕まってないらしいの。

 

 

妖精の尻尾に復讐とかしに来たらどうしよう!?

 

 

でも大丈夫よね、妖精の尻尾にはナツ・ウミ・ホノカ・グレイ・コトリ・エルザの最強チーム+(ハッピーとリン)とあたしとマキがいるからね♡

 

 

このギルドは最高よ、だからママも心配しないでね、あたしは元気にやってます。

 

 

P.S パパには秘密にしてね。

 

 

書き終えた手紙に封蝋印を押し、作業を終える。

 

 

「ふぅー」

 

「手紙書き終えたの?」

 

「バッチし!!」

 

 

一段落したのを確認し、マキが声を掛ける。

 

 

「ハラハラドキドキの大冒険もいいけど、やっぱりじぶん家はおちつくなァ」

 

「これで家賃7万Jは確かに安いなぁ」

 

 

しかし、そのルーシィの呟きに答えたのはマキではなかった。

 

 

「いいトコ見つかったね、ルーシィちゃん」

 

 

いつの間に入ったのか、ソファでくつろぐことりとパンツ一丁のグレイの姿があった。

 

 

『不法侵入————っ!!!!』

 

 

知らない内にグレイ達が入ってきた事に、ルーシィ達は驚く。

 

 

「しかも人ん家で服脱ぐなー!!!」

 

「ぐほぉ」

 

 

ルーシィの回し蹴りが、グレイに炸裂する。

 

 

「ちょっと待て!!誤解だ!!」

 

「そうだよ!!」

 

 

蹴られたグレイは、ルーシィに慌てて弁明してコトリも弁護する。

 

 

『脱いでから』

 

「来たんだ」

 

「来たんだよ」

 

「帰れ!!!」

 

 

弁明にもなってない言い訳も聞かず、ルーシィは出入り口である扉を指差す。

 

 

「例のアレ(・・)今日だぞ」

 

「そうだよ、忘れてるんじゃないかと思って来たんだよぉ」

 

『アレ?』

 

 

グレイの言うアレが何を言ってるのか分からず、ルーシィ達は首をかしげる。

 

 

「やっぱり忘れてんじゃねーか」

 

「出発前にナツ君が言ってたでしょ?」

 

「ナツとエルザが戦うんだ!!!」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

ギルドの前でナツとエルザが対峙し、それを囲う様にギルドメンバー達が集まっている。

 

 

「行けーナツ!!」

 

「ナツー!!」

 

「ちょ....ちょっと!!!本気なの⁉2人共!!」

 

「あれって冗談じゃなかったの!!?」

 

 

群衆を掻き分けて、前に出てくるルーシィとマキ。

 

 

「ルーシィ、ようやく来たのですね」

 

「遅かったね、マキちゃん」

 

 

そこで、ウミ達がルーシィ達が来た事に気づく。

 

 

「本気も本気、本気でやらねば漢では無い!!!」

 

「エルザは女の子よ」

 

「怪物のメスさ」

 

 

ミラとエルフマンのやり取りに、マカオが口を挟む。

 

 

「だって....最強チームの2人が激突したら....」

 

「最強チーム?何だそりゃ」

 

「あんたとナツとエルザじゃない!!!」

 

「それとホノカとウミとコトリ、私達を含めたチームの事よ」

 

「はぁ?」

 

 

ルーシィとマキの言葉に、グレイは鼻で笑った。

 

 

「くだんねぇ!!誰がそんな事言ったんだよ」

 

 

それまで笑顔を絶やす事のないミラだったが、グレイの言葉がショックだったのか手で顔を覆い泣き出してしまう。

 

 

「あ....ミラちゃんだったんだ......」

 

「グレイ君がミラちゃん泣かしたっ!!」

 

「グレイ君最低」

 

 

ミラが泣き出してしまった事にグレイが慌てて、それをホノカとコトリが批判する。

 

 

「確かにナツやグレイの漢気は認めるが....〝最強〟と言われると黙っておけねえな。妖精の尻尾には、まだまだ強者が大勢いるんだ。俺とか!!」

 

 

エルフマンは良い笑顔で、自分の事を指す。

 

 

「最強の女は、エルザで間違いないと思うけどね」

 

「最強の()となると、ミストガンやラクサスもいるしな」

 

あのオヤジ(・・・・・)も、外す訳にはいかねぇな」

 

 

ルーシィ達の話に、チームシャドウギアであるレビィ、ジェット、ドロイも加わる。

 

 

「私はただ、ナツ達が一番相性が良いと思ったのよ」

 

「あれ~?仲が悪いから心配って言ってませんでした?」

 

「いつもエルザがいないところで、2人が喧嘩するからって...」

 

 

前に行っていた事と違う事に、ルーシィとマキは呆れる。

 

 

「なんにせよ、面白い戦いにはなりそうだな」

 

「そうか?オレの予想じゃエルザの圧勝だが」

 

 

エルフマンは良い勝負をすると思ってるが、グレイはナツが瞬殺されると予想する。

 

 

「こうして、おまえとぶつけ合うのは何年ぶりかな.........」

 

「あの時はガキだった!!!今は違うぞ!!!今日こそおまえに勝つ!!!」

 

「私も本気でいかせてもらうぞ、久しぶりに自分の力を試したい」

 

 

エルザはそう言うと、鎧を換装させる。

 

 

「すべてをぶつけて来い!!!」

 

 

その鎧は翼がある赤い鎧で、エルザの髪型もツインテールとなっている。

 

 

炎帝の鎧!!!耐火能力の鎧だ!!!」

 

「これじゃ、ナツの炎が半減されちまう!!!」

 

「エルザ!!!そりゃあ本気すぎだぜ!!!」

 

 

周りの声を聴いたハッピーは、背負っている風呂敷からお札を取り出した。

 

 

「やっぱりエルザにかけていい?」

 

「何て愛のないネコなの!!!」

 

 

炎帝の鎧に換装した事で、ナツに勝ち目ないと悟って賭けの対象をナツからエルザに乗り換えるハッピー。

 

 

その事に、怒鳴るマキ。

 

 

「あたしこーゆーのダメ!!どっちも負けてほしくないもん!!」

 

「意外と純情なんだね」

 

 

ルーシィの発言に、コトリが苦笑いをする。

 

 

「ナツ君大丈夫かな?」

 

 

ナツが劣勢になった事に、ホノカが心配する。

 

 

「大丈夫ですよ、ホノカ。ナツはこの程度では諦めません」

 

 

ウミは、ナツを信じて成り行きを見守っていた。

 

 

「炎帝の鎧かぁ....そうこなくっちゃ、これで心おきなく全力が出せるぞ!!!」

 

 

ウミの言う通り、ナツは諦めていなかった。

 

 

「始めいっ!!!」

 

「マスター......」

 

 

マカロフが合図するが、マスターまでも乗り気な事にマキは呆れる。

 

 

「だりゃっ!!!!」

 

 

拳に炎を纏わせて殴るナツだが、それをバックステップで避けるエルザ。

 

 

お返しとばかりに剣を横薙ぎするが、伏せた事でその攻撃を避ける。

 

 

「おらぁっ!!」

 

 

直ぐ様蹴りを放つが、エルザには片手で防がれてしまう。

 

 

エルザがもう一度横薙ぎするが、それをナツは後転することで避ける。

 

 

逆立ちした状態でいるナツを、支えている腕を蹴る事で支えを失くすことで態勢を崩す。

 

 

態勢を崩された事で、ナツは口からブレスを吐く。

 

 

しかし、そのブレスはエルザの横を通り過ぎ、野次馬達に当たる。

 

 

「あちち」

 

「こらナツ!!てめぇ!!!」

 

 

ナツの攻撃に、文句をいう。

 

 

「すごい!!!」

 

 

ナツとエルザの戦いに、ルーシィが驚く。

 

 

「な?いい勝負してるだろ?」

 

「どこが」

 

 

エルフマンの言葉に、認めなくなかったのかグレイはそっけなく答える。

 

 

ナツとエルザの攻撃が交差しようとした、その時。

 

 

 

 

 

パァン!!

 

 

 

 

 

突如として、柏手を打つ音が響いて2人は動きを止める。

 

 

「そこまでだ」

 

 

ギルドメンバーの間をすり抜け、1匹のカエルが現れた。

 

 

「全員その場を動くな、私は評議員の使者である」

 

「評議員!!?」

 

「使者だって!!?」

 

「何でこんな所に!!?」

 

 

評議員の使者が現れた事に、驚くシャドウギア。

 

 

「あのビジュアルについてはスルーなのね....」

 

 

使者がカエルな事に、誰も指摘しない事を気にするマキ。

 

 

「先日の鉄の森テロ事件において、器物損壊罪、他11件の罪の容疑で......エルザ・スカーレットを逮捕する」

 

「え?」

 

「何だとぉおぉっ!!!?」

 

 

使者の言葉に、エルザは言葉を失い、ナツが絶叫する。

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

エルザが使者によって連行された後のギルドでは、殆ど物が机に突っ伏している。

 

 

いつもの騒がしいギルドとは打って変わって、静まり返っていた。

 

 

「出せっ!!!俺をここから出せぇっ!!!」

 

 

しかし、そんな中でもいつもと同じように騒がしい人物がいた。

 

 

「ナツ....うるさいわよ」

 

 

ミラが注意したのは、逆さまになったコップの中にいる赤いトカゲだった。

 

 

「出せ—————っ!!!」

 

「出したら暴れるでしょ?」

 

「暴れねぇよ!!!つーか元に戻せよっ!!!」

 

 

コップに閉じ込められているのは、トカゲの姿に変えられたナツだった。

 

 

「そしたらナツは『助けに行く!!』って言うでしょ?」

 

「言わねぇよ!!!誰がエルザなんかっ!!!」

 

 

ナツとミラの話に、グレイが口を挟む。

 

 

「今回ばかりは相手が評議員じゃ、手の打ちようがねぇ....」

 

 

グレイは、ナツに諦める様に言い聞かせる。

 

 

「出せ————っ!!!俺は一言言ってやるんだ———っ!!!評議員だがなんだか知らねぇが、間違ってんのはあっちだろ!!!」

 

「白くても、評議員が黒って言えば黒になるんだよ」

 

「コトリの言う通りだ、ウチらの言い分なんか聞くモンか」

 

 

しかし、納得いっていないのはナツだけでは無かった。

 

 

「でも...ナツ君の言う通りだよ、今まで数々やってきた事が何で今回にかぎって」

 

「えぇ....理解に苦しみます」

 

 

ホノカの発言に、ウミも賛同する。

 

 

「絶対....絶対何か裏があるんだわ」

 

 

今回の裁判に、思惑があると疑うルーシィ。

 

 

「それにしても、まさかウミが率先してナツを閉じ込めるなんてな」

 

「確かにな、ウミはナツには甘いからな」

 

 

グレイに、エルフマンも同調する。

 

 

「ふふふ、そうですね」

 

 

意味深なウミの笑みに、グレイ達は首を傾げる。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

ここは、評議院のフィオーレ支部。

 

 

エルザはここで裁かれるというのだが......さて。

 

 

使者に連れられ、廊下を歩くエルザだが誰かが待ち構えている事に気づいた。

 

 

そこにいたのは青髪に、右目に入れ墨を入れた青年だった。

 

 

「ジークレイン」

 

「久しぶりだな....エルザ」

 

 

その男の出現に、エルザは身構え、使者は膝まづく。

 

 

「そう身構えるな、これは思念体だ。俺の〝体〟はERAにある」

 

 

その言葉と共に、ジークレインの体がブッとぶれる。

 

 

「あの扉の向こうにいるじじいどもも全員思念体さ、こんな小せェ案件でわざわざ出向くわけないだろう」

 

 

そこでようやく、エルザは今回の裁判の意図に気づいた。

 

 

「そうか....これは貴様の仕業だったのか、くだらん茶番だ」

 

「心外だな....俺は妖精の尻尾を弁護したんだぞ。だが、じじいどもは責任問題が自分達に及ぶのを恐れ、全ての責任をおしつける対象をつくらざるをえなかった。スケープゴートってやつさ」

 

「黙れ」

 

 

エルザはジークレインの事を、鋭く睨んだ。

 

 

「まあ..いいが裁判前にオマエに会いに来たのは他でもない..」

 

 

ジークレインはエルザの顎を持ち上げて、顔を近づける。

 

 

「〝あの事〟はじじいどもには言うな。お互いの為にな」

 

 

使者には聞こえないであろう声量で、ボソッと呟く。

 

 

「では..扉の向こうで待っている。評議員の1人としてな」

 

 

そう言い残して、ジークレインは姿を消した。

 

 

「あ..あんた...すごい人と知り合いなんだな....」

 

 

ジークレインを恐れているのか、使者は震えながらエルザに質問する。

 

 

「〝悪〟だ」

 

「え?」

 

 

エルザの言葉に、使者は呆然とする。

 

 

 

 

 

法廷に移動したエルザは、証言台の前へと立たされる。

 

 

「これより魔道裁判を開廷する、被告人エルザ・スカーレットよ....証言台へ」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「やっぱり放っておけないっ!!!証言をしに行きましょ!!!」

 

「マキ」

 

 

我慢できなくなったのか、マキが立ち上がる。

 

 

「まぁ...待て」

 

 

しかし、それをマカロフが止める。

 

 

「何言ってんの!!!これは不当逮捕よ!!!判決が出てからじゃ間に合わない!!!」

 

「今からではどんだけ急いでも、判決には間に合わん」

 

「でも!!!」

 

 

尚も食い下がるマキ。

 

 

「出せー!!!俺を出せー!!!」

 

 

そして、尚も騒ぎ続けるナツ。

 

 

「本当に出してもよいのか?」

 

 

マカロフの質問に、ナツは騒ぐのを止めて体を震わせる。

 

 

『ん?』

 

 

マカロフの意味深な言葉に、全員が首を傾げる。

 

 

「どうしたのですかナツ、急に元気がなくなりましたよ」

 

 

何かを知っているのか、ウミだけは平然としていた。

 

 

「かっ」

 

「ぎゃっ」

 

 

マカロフがナツに魔法で吹き飛ばす。

 

 

魔法が解けて煙の中からナツ......ではなくマカオが出てくる。

 

 

「マカオ!!?」

 

「え————っ!!!!」

 

『何でぇ———っ!!!?』

 

 

ナツだと思っていたギルドのメンバーは、驚愕の声を上げる。

 

 

「す....すまねぇ......ナツには借りがあってよォ。ナツに見せかける為に自分でトカゲに変身したんだ」

 

 

その話を聞いたマキは、ある事に気づいた。

 

 

「もしかしてウミ、最初からナツじゃないって気づいてたの⁉」

 

「当たり前です、私は滅竜魔導士なので鼻は良いので、直ぐにナツじゃないって気づきましたよ」

 

「じゃあ本物のナツは⁉」

 

「まさかエルザちゃんを追って..!!!」

 

「ああ..たぶん」

 

 

ルーシィとコトリの質問に、マカオは答える。

 

 

「シャレになんねぇぞ!!!アイツなら評議員すら殴りそうだ!!!」

 

 

ナツがエルザを追いかけたと聞いて、慌てだすエルフマン。

 

 

「全員黙っておれ、静かに結果を待てばよい」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「被告人エルザ・スカーレットよ。先日の鉄の森によるテロ事件において、主はオシバナ駅一部損壊、リュシカ峡谷鉄橋破壊、クローバーの洋館全壊....これら破壊行為の容疑にかけられている。目撃証言によると....犯人は《b》鎧を着た女魔導士であり....」

 

 

ドゴォン!!!!

 

 

罪状を読み上げている途中で、突如として入り口が爆発する。

 

 

「何事!?」

 

 

煙が晴れるとそこには、エルザと同じ鎧と赤髪の鬘を被ったナツがいた。

 

 

「俺が鎧の魔導士だ——っ!!!捕まえられるものなら捕まえてみやがれぇぇっ!!!!」

 

「!!」

 

 

ナツの奇行に、その場にいた全員が口をあんぐりと開けて驚き、エルザも目を見開いて驚く。

 

 

「俺がエルザだァ!!!コラァァ!!!!何の罪だか言ってみやがれ————っ!!!!」

 

 

驚く評議員達と、恥ずかしそうにため息を吐くエルザ。

 

 

そして、その様子を面白そうに見つめるジークレイン。

 

 

「それぁギルドマスターの命よりも重てぇ罪なんだろうなァ!!!!」

 

 

にっと笑うナツ、その周りには暴れたせいで壊れた残骸が転がっていた。

 

 

「ふ..二人を牢へ」

 

「も..申し訳ありません」

 

 

裁判長の言葉に、頭を下げて謝るエルザ。

 

 

「エルザ!!こんな奴に謝る事なんかねぇ!!!あ..いや......俺がエルザだ!!!」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

牢屋に入れられたナツ達、そこでエルザが今回の裁判について説明する。

 

 

「お前にはあきれて言葉もない、これはただの〝儀式〟だったんだ」

 

「儀式!!?」

 

 

エルザの説明に、ナツは正座しながら首を傾げる。

 

 

「形だけの逮捕だ。魔法界全体の秩序を守る為評議会としても、取り締まる姿勢を見せておかねばならないのだ」

 

「なんだよそりゃ..意味分かんねー」

 

 

説明されても尚、理解できないナツ。

 

 

「つまり、有罪にはされるが〝罰〟は受けない。今日中にでも帰れたんだお前が暴れなければ」

 

「え—————っ!!!」

 

 

衝撃の事実に、ナツは大声を上げて驚愕する。

 

 

「まったく......」

 

「う....スマネェ......」

 

 

自分の身勝手な行為で、エルザに迷惑を掛けてしまった事にナツはしょげる。

 

 

「だが、嬉しかったぞ」

 

 

嬉しそうに微笑むエルザに、バツが悪そうにナツは顔を逸らす。

 

 

そして、その2人の様子を遠くから眺める姿があった。

 

 

「なるほど......妖精の尻尾にいたのか....ナツ・ドラグニル」

 

 

怪しそうに、ジークレインが笑った。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

翌日、牢屋から解放されたナツとエルザは、ギルドに戻っていた。

 

 

「やっぱりシャバの空気はうめえ!!!!最高にうめえっ!!!!」

 

 

狭い牢屋から出れて事に、ナツははしゃいでいた。

 

 

「自由って素晴らしいっ!!!フリ―――ダァ――――ム!!!」

 

「うおっ!!やかましい!!」

 

「おとなしく食ってろ!!」

 

 

騒がしいナツを注意する、ジェットとドロイ。

 

 

「こういう所が可愛いらしいのよね」

 

「そうですね」

 

 

その様子を、微笑ましく見守るミラとウミ。

 

 

「けっきょく〝形式だけ〟の逮捕だったなんてね....心配して損しちゃった」

 

 

その時、グレイは何かに気づいたのか掌の上に拳をポンッと叩いた。

 

 

「そうか!!カエルの使いだけに、すぐに〝帰る〟」

 

「なるほど、カエルと帰るをかけた訳だね」

 

 

グレイとコトリのやり取りに、エルフマンは身体を震わせる。

 

 

「さ..さすが氷の魔導士、ハンパなくさみィ!!!」

 

 

そこでエルフマンが、騒いでいるナツに質問する。

 

 

「....で、エルザとの漢の勝負はどうなったんだよナツ」

 

「漢!?」

 

 

エルフマンの漢という単語に、驚くマキ。

 

 

「そうだ!!!忘れてたっ!!!」

 

 

ナツは食事をしているエルザに、近づいた。

 

 

「エールザー!!!この前の続きだーっ!!!」

 

「よせ....疲れてるんだ」

 

 

しかしそんなエルザにお構いなしに、ナツは拳に炎を灯して突っ込む。

 

 

「行くぞ――――っ!!!」

 

「やれやれ」

 

「がっ!!?」

 

 

仕方なく立ち上がったエルザは、思いっきりナツにボディブローを喰らわす。

 

 

「あ...あぁぁ...」

 

 

ナツはそのまま、地面にくたっと倒れる。

 

 

「仕方ない、始めようか」

 

「終――了――!!!」

 

「ぎゃっはははっ!!!だせーぞナツ!!!」

 

「やっぱりエルザは強ェ!!!」

 

「おい、この間の賭け有効なのか?」

 

「あ~あ....またお店壊しちゃってぇ」

 

 

ナツが秒殺された事に、ある者はエルフマンと一緒に笑い、ある者は前回の賭けの心配をし、ある者はお店の心配をする。

 

 

くすっと笑うミラだったが、マカロフの様子が可笑しい事に気づいた。

 

 

「どうしました?マスター」

 

「いや..眠い..」

 

「え?」

 

「奴じゃ」

 

 

マカロフがそう言った途端、ミラは突然睡魔に襲われる。

 

 

ミラはそのまま倒れ、眠ってしまう。

 

 

眠ったのは、ミラだけでは無かった。

 

 

「これは!!」

 

「くっ」

 

「眠っ」

 

 

次々と、ギルドの者達が眠りについてしまう。

 

 

そして、眠っているメンバーの間を歩く一人の男がいた。

 

 

全身をローブで身を包み、顔を布で覆って隠し目元しか分からなかった。

 

 

「ミストガン」

 

 

唯一眠っていなかったマカロフが、その正体に気づいた。

 

 

ミストガンはリクエストボードから討伐クエストの依頼書を一枚手に取り、マカロフの前にやってくる。

 

 

「行ってくる」

 

「これっ!!眠りの魔法を解かんかっ!!!」

 

 

「伍、四、参、弐」

 

 

踵を返し、ギルドから出ていくミストガン。

 

 

「壱」

 

 

完全にミストガンの姿が消えた次の瞬間、ギルドの殆どの者が目を覚ました。

 

 

「ぐ――ぐ――」

 

「す――す――」

 

 

しかし、唯一ナツとホノカだけは眠ったままだった。

 

 

「こ....この感じはミストガンか!!?」

 

「あんにゃろォ!!!」

 

「相変わらずスゲェ強力な眠りの魔法だ!!!」

 

 

目をこすりながら、ミストガンの事を話すジェットとドロイとマカオ。

 

 

『ミストガン?』

 

「妖精の尻尾、最強の男候補の1人だよ」

 

 

ルーシィとマキの疑問にエルフマンが答えた。

 

 

「どういう訳か、誰にも姿を見られたくないらしい」

 

「だから、仕事を取るときはいつもこうやって全員を眠らせちゃうの」

 

「なにそれっ!!!」

 

「あやしすぎ!!」

 

 

グレイとコトリの説明に、ルーシィとマキは声を上げて驚く。

 

 

「ですから、マスター以外誰もミストガンの顔を知らないんです」

 

「いんや....俺は知ってっぞ」

 

 

ウミの言葉に説明に答える声が、誰もいないはずの2階から聞こえてくる。

 

 

そこには、逆立った金髪で右目に傷がある大柄な男がいた。

 

 

紫色のシャツに、厚手のロングコートを羽織っていた。

 

 

「ラクサス!!!」

 

「いたのか!!!」

 

「めずらしいなっ!!!」

 

 

その男の存在に、ギルド内が騒がしくなる。

 

 

その騒ぎで、ナツが目を覚ます。

 

 

「もう一人の最強候補だ」

 

『!!』

 

 

グレイの説明に、ルーシィ達は言葉を失う。

 

 

「ミストガンはシャイなんだ、あんまり詮索してやるな」

 

 

ラクサスの存在に気づいたナツは、声を張り上げる。

 

 

「ラクサス――!!!俺と勝負しろ――っ!!!」

 

「さっきエルザにやられたばっかじゃねぇか」

 

 

吠えるナツに、グレイが呆れながら止めに入る。

 

 

「そうそう、エルザごときに勝てねぇようじゃ、俺には勝てねぇよ」

 

「それはどういう意味だ」

 

 

ラクサスの言葉はエルザの逆鱗に触れ、物凄いプレッシャーを放つ。

 

 

「おい.....おちつけよエルザ」

 

 

エルザを恐れ、グレイが落ち着かせようとする。

 

 

「俺が最強って事さ」

 

「降りて来い!!!コノヤロウ!!!」

 

「お前が上がってこい」

 

「上等だ!!!」

 

 

ラクサスの挑発に乗り、ナツは2階に上がろうとする。

 

 

しかし、マカロフが左手を大きくし、階段を登ろうとするナツを潰した。

 

 

「ぎゃっ」

 

 

突如ナツが潰された事に、ミラは口を手で覆い、目を見開く。

 

 

そしてそれは、ルーシィ達も同じだった。

 

 

「2階に上がってはならん、まだな」

 

「ははっ!!怒られてやんの」

 

「ふぬぅ...」

 

 

潰されたナツを馬鹿にするラクサスと、必死に抜け出そうとするナツ。

 

 

「ラクサスもよさんか」

 

 

マカロフから注意を受けるラクサスだが、全然気にもとめていなかった。

 

 

「妖精の尻尾最強の座は誰にも渡さねぇよ、エルザにもミストガンにもあのオヤジにもな。俺が..最強だ!!!」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

夜となり、殆どの者が帰ったギルドの中で、マキがミラに質問する。

 

 

「さっきマスターが言ってたでしょ?2階には上がっちゃいけないって、どうゆう意味ですか?」

 

「まだルーシィ達には早い話だけどね」

 

 

そう言って、ミラは2階について説明を始める。

 

 

「2階の依頼板(リクエストボード)には、1階とは比べものにならないくらい難しい仕事が貼ってあるの。S級の冒険(クエスト)よ」

 

『S級!!?』

 

「一瞬の判断ミスが死を招くような危険な仕事よ、その分報酬もいいけどね」

 

「うわ..」

 

 

ミラの説明に、マキは引いた。

 

 

「S級の仕事はマスターに認められた魔導士しか受けられないの、資格があるのはエルザ、ラクサス、ミストガンも含めてまだ5人しかいないのよ」

 

「おぉ...」

 

「それだけしか...」

 

 

ナツを筆頭に、強い魔導士はいっぱいいるにも関わらず、それだけの人数しかいない事にルーシィ達はS級の危険さを実感する。

 

 

「S級なんて目指すものじゃないわよ、本当に命がいくつあっても足りない仕事ばかりなんだから♡」

 

「みたいですね」

 

 

ミラの言葉に、マキは苦笑いするしかなかった。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「ミストガンもラクサスも、聞いた事ある名前だったわね」

 

「やっぱ妖精の尻尾ってすごいギルドよね、だいたい妖精の尻尾の力関係も分かってきたし.........」

 

 

ルーシィの頭の中では、ナツやホノカやウミと同じ順位に並び、他のエルフマンやマカオ達はその下のその他に含まれていた。

 

 

「明日から仕事がんばろー!!」

 

 

気合を入れて、家の扉を開けるルーシィ。

 

 

『おかえり』

 

『おかー』

 

 

部屋に入ったルーシィ達が見たのは、ベッドの上で一緒に腹筋するナツとホノカ。

 

 

そしてバーベル上げをしている、ハッピーとリンの姿があった。

 

 

「きゃああああああっ」

 

「汗臭―い!!!」

 

「ふんごっ」

 

 

悲鳴を上げるマキと、ナツのお腹にドロップキックを食らわせるルーシィ。

 

 

「筋トレなんて自分家でやりなさいよ!!!」

 

「何言ってんだ、俺達チームだろ」

 

 

蹴られたお腹を押さえながら、ナツはルーシィにピンク色の鉄アレイを渡す。

 

 

「ホラ、お前の分」

 

「これはマキちゃんのだよ!!」

 

 

ホノカも赤い鉄アレイを、マキに渡す。

 

 

「ルーシィ、ピンク好きでしょ」

 

「マキちゃんも赤色好きそうだったから、赤色にしたにゃ」

 

『それ以前に鉄アレイに興味ないですからっ!!!!』

 

 

ハッピーとリンの発言に、揃って突っ込みを入れるルーシィとマキ。

 

 

「エルザやラクサスを倒すには、もっと力をつけねぇとな」

 

『あいさー』

 

 

すると今度は、床で腕立て伏せを始めるナツ達。

 

 

「あたし関係ないし..帰ってよ!!」

 

「てか、ウミは何処行ったのよ!!」

 

 

マキはここにウミがいない事に嘆く。

 

 

「今日は修行でオールだよ!!」

 

『誰か助けてぇぇっ!!!』

 

 

ホノカの言葉に、ルーシィ達は等々泣き出した。

 

 

「オレ、決めたんだ」

 

『?』

 

「S級クエスト行くぞ!!!!ルーシィ、マキ」

 

 

すると、ハッピーが大きくSとスタンプが押された依頼書を2人に見せる。

 

 

「どーしたのよそれ!!」

 

「ちょっとどういう事!!?2階には上がっちゃいけないはずでしょ!!?」

 

 

ルーシィとマキの質問に、ハッピーが何でもない様に答える。

 

 

「勝手に取ってきたんだ、オイラが」

 

『ドロボー猫――!!!』

 

 

2人の反応を見て、ハッピーはニヒッと笑う。

 

 

「取り敢えず初めてだからな、2階で一番安い仕事にしたんだ」

 

「それでも700万Jだよ!!」

 

「駄目よ!!!あたしたちにはS級に行く資格はないのよ」

 

 

マキが注意するが、ナツは嬉しそうに笑った。

 

 

「これが成功したら、じっちゃんも認めてくれるだろ」

 

「本当にもう、いつもいつも滅茶苦茶なんだからなァ」

 

「まったくよ、自分のギルドのルールくらい守りなさいよね」

 

 

2人は呆れたように、どかっと椅子に座った。

 

 

「そしたらいつまでたっても2階に行けねぇんだよ」

 

「とにかくあたしはいかない」

 

「私もよ、4人でどうぞ」

 

 

そこでリンが、今回のクエストについての説明をする。

 

 

「〝島を救ってほしい〟って仕事だよ」

 

「行ってみよーよ」

 

『島?』

 

 

興味本位で聞く、ルーシィ達。

 

 

2人の頭には、一瞬リゾートの出来る島が思い浮かぶ。

 

 

『呪われた島、ガルナ島』

 

「呪....!!!絶対に行かないっ!!!」

 

「魚半分あげてもついて来ない?」

 

『全然嬉しくないし!!!』

 

 

ルーシィ達の反応を見て、ナツ達は面白くなかったのか帰る準備を始める。

 

 

「ちぇーっ!!」

 

「じゃあ帰ろ」

 

『あい』

 

「少しは頭を冷やしなさいよねっ!!!」

 

 

マキの小言も無視し、ナツ達は帰っていく。

 

 

窓から。

 

 

「てゆーかドアから出てって」

 

 

扉からではなく、窓から出ていくことに突っ込むルーシィ。

 

 

「はぁ...私はもう寝るわよ」

 

「あぁ...うん...おやすみ」

 

 

マキが自分のベッドに入ったのを確認したルーシィは、ふぅ...とため息をこぼす。

 

 

「あぁぁれ―――っ!!?紙置きっぱなし!!?」

 

 

そこで床に依頼書が落ちている事に気づき、大声を上げる。

 

 

「ちょっとォ!!!あたし達が盗んだみたいじゃない!!!どおしよォォ!!!」

 

 

疑われると思ったルーシィは、頭を抱える。

 

 

「......お?」

 

 

そこでルーシィは、依頼書の報酬に追加報酬として金の鍵もついている事を。

 

 

「ウッソォ!!?王道十二門の鍵がもらえるの!!?」

 

 

しばらく固まっていたルーシィだが、にっこぉと笑みを浮かべナツ達を追う。

 

 

「ナツ――!!!ハッピー!!!ホノカー!!!リン――!!!待ってぇぇん♡」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「たいへ―――ん!!!!」

 

 

朝のギルド内で、ミラの叫び声が響いた。

 

 

「マスター!!!2階の依頼書が1枚無くなっています!!!」

 

 

2階から急いで降りてきたミラがそう告げるが、マカロフは落ち着いてお茶を飲んでいた。

 

 

ズズッとお茶を口に含んだ瞬間、事の次第を理解してマカロフはブフォっとお茶を吹いた。

 




誰もいない真夜中のギルド。


薄暗い2階のリクエストボードで4つの動く影があった。


ハッピー「ナツ、どれにする?」


ナツ「う~ん、そうだな~」


ホノカ「初めてだし、一番簡単そうな奴にしようよ」


リン「あい、じゃあガルナ島の奴は?この追加報酬何てルーシィちゃんが欲しがりそうだにゃ」


ナツ「おっ!!良いんじゃないか!!これに決めちまおうぜ」


ハッピー・リン「あい」


次回!!呪われた島!!


ナツ「よーし!!そうと決まれば出発までルーシィ達の家で筋トレでもするか!!」


ホノカ「だったらどっちが多く筋トレできるか勝負だよ!!ナツ君!!」


ハッピー「いっそ清々しいまでにやりたい放題だね...」






どうも!!ナツ・ドラグニルです!!


長らくお待たせしました。


前までは10日、20日に投稿していましたが、今までは漫画の話数で話を区切っていましたが、これからはアニメの話数で話を区切る為、漫画の3話分の話になりました。


なので、これからは他の小説と同じように毎月1日に順次投稿させて頂きます。



それでは次回、第24話もしくは激獣拳使いの幼馴染第5話でお会いしましょう


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