黄龍さんの間違いでは? (メケ子)
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序章

お久しぶりです!
私生活のゴタゴタが終わらないんですよ…。

去年から親戚の葬式から結婚式まで忙しく、
今年も初めから、家族に怪我やら病気やら厄祓いした方がいいですかね…?

この作品はセーラームーンの作品と並行して書いていた作品です。
在庫のある分を少しずつ投稿していくので、興味や聞き覚えのある方はご覧ください。
セーラームーンも書いてるので、完成次第投稿していきますね〜。

東京魔人學園のストーリーを見直しながら、書いてるのでシナリオのまま書いてる所がほとんどですがご了承下さい。


私、緋勇 龍麻は名前は厳ついし、出生が複雑で叔父家族の中で育てられた経歴だがごくごく平凡な女の子である。

 

幼い頃の私は、自分の家族はちゃんと実の家族であると思っていた。

しかし、中学生の時に叔父さん達から教えられた。

 

叔父さんのお兄さんが、私の実の父親で、母親は私を産んでからすぐに亡くなり、父親も幼い私を知り合いに託して亡くなってしまった、と。

その預けられた知り合いは、自分では私を育て続ける事が難しいので叔父夫婦に託したらしい。

 

話を聞いた時の私は、衝撃を受けつつも納得した。

 

幼い頃に、ちょっとした悪口だったのだろう。

近所の男の子が私に、貰われっこ、捨て子、と言った時に一緒にいた義兄は隣にいた私がビビる程怒り散らしていたのを思い出す。

アレは義兄が事情を知っていて、暴れたのだろう。

 

一枚だけの写真で見た、母親はすごく美人で父親は、ムッキムキの肉体派の武術家だった…。

いや、顔は整っていたんだけどね。

 

その二人の子供である私は、平凡な顔立ち。

大丈夫?私本当にこの二人の子供…?

 

そんな顔してたのが分かったのか、叔父さんが眼が父さんに似ているらしい。

私の眼は唯一平凡ではなく、光の加減で金色に見えるらしい。

ちょっとした自慢でもある。

それでも目立つ眼を隠す為にそれからは髪を伸ばしている。

 

納得しつつも混乱もあり、ボロボロに泣き始めた私を家族みんなで抱きしめてくれた。

例え実の家族じゃなくても、龍麻は私たちの大切な娘だ。

 

嬉しかった。

きっと、私はこれからの幸運を家族に出会う為に使ったのだろう。

 

そんなふざけた事を考えていた。

 

 

 

これは、高校3年生になる直前の話。

 

1997年、12月15日の日。

私の通っている明日香学園高等学校での事だった。

 

私のクラス2ーCの教室で先生が授業の終了を知らせて、日直だった女子生徒が号令をかける。

先生が教室から出て行った瞬間にクラスの雰囲気が緩む。

 

次の生物の授業の準備や、購買部に行こうとする生徒を見ながら、私も友達に声をかけられながら準備をする。

 

 

「ねえ、あれ。」

 

 

待っている友達の1人が扉を指差す。

見えたのは、この学園では目立つ赤い髪の男子生徒。

 

A組に来た転校生が、私達のクラスを覗き込んでキョロキョロしている。

男子生徒がふざけながら、女子生徒を見てる、なんて話してたら

それが聞こえた勝気な女子生徒が転校生に声をかけた。

 

 

「ちょっとッ、あんたー。」

 

「何かウチのクラスに用?」

 

 

結構なキツめな声色で、聞いているのに転校生はジッと見ているだけで口を開く事はない。

その対応に声をかけた女子生徒がイライラしていた。

 

かける言葉がドンドンとキツくなっていくのをもう1人の女子生徒が止めようとする。

それでも黙ったままの転校生に流石にクラスに残って見ていた全員が不気味だと感じていた。

 

すると、笑い声が響いた。

一瞬誰かと思って見回すが、笑っていたのは今まで黙っていた転校生だった。

 

そして、そのまま立ち去っていく。

 

話しかけていた女子生徒の顔色が悪くなって、不可解なモノを見る表情をする。

気持ち悪いモノを見た様な対応で、女子生徒達は生物室へと走っていく。

 

 

「龍麻、私達も早く行こう。」

 

「うん、そうだね…、と先に行っててもいいよ。」

 

「じゃあ、生物室で待ってるね?」

 

 

急いで行こうとした瞬間に筆箱を落としてペンが散らばってしまった。

手伝おうとした友達を止めて、先に行くように言う。

 

早く私も向かおう、と思った時だった。

扉を開いて生物室へと急いだ瞬間に誰かにぶつかってしまった。

 

驚いた様な短い悲鳴の後、急いでぶつかった生徒の腕を掴み、転ぶのを防ぐ。

 

 

「ごめんね。大丈夫?」

 

「こちらこそ、ごめん。荷物大丈夫だった?」

 

 

両手にいっぱいの荷物を持った女子生徒。

彼女との出会いが私の宿命の始まりだったのかもしれない。

 

 

 

 

 




東京魔人學園、大っ好きなんですよ!!
マイナーで古いソフトなので、知ってる方がいらっしゃると嬉しくて狂喜乱舞します。

九龍妖魔学園はリメイクしてクリアしました。
それも神作品ですぞ!


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第零話 龍之刻 1

荷物をたくさん持った女生徒は、同じクラスではないが見覚えのある顔だった。

確か、可愛いと噂されていた子だったかな?

助けたお礼を言われて、荷物を持ち直すのを見ていると、照れたようにこちらを見る。

 

 

「荷物を持ってて、前が見えなくて…」

 

 

先生も男生徒に頼めばいいのに!

そんな事を考えていると、時間が迫っているチャイムが鳴り響く。

 

 

「――あッ。あたし、もう行かなきゃ。これ、教室まで運ばなきゃならないの。」

 

「それなら、生物室までの通りだし、手伝うよ。」

 

 

流石に、彼女の目的地が通りにあるのなら、手伝っても問題はないだろう。

でも、彼女も顔見知り程度の私に頼むのは心が引けるのか笑顔で続ける。

 

 

「え…。いいわよ。ひとりで運べるから。」

 

「大丈夫!私って家の方針で護身術とかで鍛えてるからね。」

 

 

断る彼女に、ふざけながら力こぶを見せて、いくつかの荷物を代わりに持ち運ぶ。

少し困惑していた様子だったが、最後は笑顔でお礼を言って二人で教室へ向かう。

 

 

「本当はね、結構大変だったんだ。」

 

「女の子に頼む量じゃないよ。まったく!」

 

 

クスクスと笑い合いながら、彼女の隣を歩く。

 

 

「あたし、2-Aの青葉 さとみ。ブルーの青に葉っぱの葉、平仮名のさとみ。

あなたは?」

 

「私は、2-Cの緋勇 龍麻。緋色の緋に勇気の勇、難しい龍に麻縄の麻。」

 

「緋勇さんか。」

 

「幼い頃からの友達からはひーちゃんって呼ばれてるよ。」

 

 

改めて、自己紹介をして移動を続ける。

あだ名を言うと、おかしそうに笑って「じゃあ、ひーちゃんって呼んでもいい?」なんて聞かれたりして、和やかな雰囲気だ。

違うクラスだけど、仲良くしようね、なんて話している。

 

 

「でも、不思議ね。ひーちゃんみたいな人がC組にいたら、気づきそうなものだけど…。

今まで、うちの学校にいた事も知らなかったわ。」

 

「あれー?私ってば気配が薄いのかなー。」

 

「嫌味じゃないのよ?」

 

 

私の反応にさとみは、少し焦ったように否定する。

そして、前を向きなおして言葉を続ける。

 

 

「だってひーちゃんみたいな感じなら目立ちそうだから。」

 

「そう?でも私はさとみの事聞いた事あるよ、美人だって。」

 

「うそッ、そんな事言われた事ないよ。」

 

 

聞いた事のある話を言うと、照れながら笑う。

うーん、お世辞だと思われたかな…?

 

二人で何気ない話を続けていると、さとみも目的の教室に着く。

 

 

「それじゃ、ここでいいわ。ありがと、手伝ってくれて。」

 

「いやいや、私も楽しかったから問題ないよ。またね。」

 

「ほんと、助かったわ。じゃ、またね。」

 

 

別れの挨拶で目を逸らしたのが、よくなかったのか。

さとみは、教室に入る直前に誰かとぶつかり、荷物を落としてしまった。

 

ぶつかった相手は、私のクラスを覗いていた転校生だった。

転校生はチラリと見ては、荷物を無視して教室から出ようとしていた。

すると、教室から別の男生徒が近くに来た。

 

 

「おいッ、ちょっと待てよ――。」

 

 

声をかけられたからか、転校生は立ち止まる。

 

 

「ぶつかっといて、謝りもしないのかよ?」

 

「比嘉くん…。」

 

 

さとみの知り合いなのか、明らかに安心したような顔をする。

しかし、転校生は何も言わずに睨むように男生徒を見る。

 

 

「落ちた荷物ぐらい、拾ってやってもいいんじゃないか?

え?莎草――。」

 

「……あッ、比嘉くん、あたしは、大丈夫だから――。」

 

 

黙ったままの転校生との間で雰囲気が悪くなったのを感じた、さとみが声を出す。

転校生は、それを聞いて前を向きなおして歩き出す。

それを、比嘉くんとやらが声をかけたが、無視して行ってしまった。

 

 

「さとみ、大丈夫か?」

 

「うッ、うん。」

 

「ほら、拾うの手伝ってやるよ。」

 

「ありがと、比嘉くん。ひーちゃんも。」

 

 

落ちた荷物を拾いなおすのを手伝っていると、比嘉くん?と目があった。

不思議そうな顔をしている、彼にさとみが私の紹介をする。

 

 

「緋勇…?そういえば、なんとなく、見覚えあるなァ。」

 

「私も見覚えあるよ。さては、さとみの彼氏だな!」

 

「ちッ、違うわよッ!!腐れ縁なのッ!!」

 

「お、幼馴染なんだッ!!」

 

 

私の言葉に焦ったように顔を少し赤くして否定する二人。

幼馴染の腐れ縁なんて言うけど、思わずニヤけてしまう。

 

 

「俺は、さとみと同じ2-Aの比嘉 焚実。焚実でいいよ。」

 

「2-Cの緋勇 龍麻。あだ名は、ひーちゃんです。」

 

 

まだ少し赤い顔のまま、自己紹介をする。

少し落ち着いた空気になった時に、焚実は続ける。

 

 

「さっきの奴も、うちのクラスなんだけどな。莎草覚っていって三ヶ月ぐらい前に転校してきた。」

 

 

莎草という転校生は、東京から引っ越してきてから、住んでる場所も知らず、友達もいないらしい。

さとみは、心配だと呟くが、アレは周りに馴染もうとする気が全然しないなぁ。

 

 

「…はははッ、何か湿っぽくなっちゃったけど。

緋勇っていったっけ?よろしくな。」

 

「こちらこそ、よろしく!」

 

 

空気が少し和やかになった瞬間に周りが騒がしくなり始めた。

おっと、私も生物室に行かなくちゃ。

二人も周りに気付いたのか、挨拶をして別れる事になった。

 

 

 

 

生物室に入ると、ギリギリで先生が入る前に着席できた。

 

 

「龍麻、遅かったね。」

 

「サボりかと思ったのにー。」

 

「A組の美人さんと友達になってきたのさ。」

 

 

小声で友達と話すと、ズルいズルいと反感が来たが勝者の笑みでかわした。

新しく友達が増えた……それくらいの気持ちだった。

だからかな…この後の出逢いには何かが変わる気がした。

 

 

 

 




会話文多いのは、御許しください!
これでも、少しは文面変えたり主観を入れたり頑張ってます!


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第零話 龍之刻 2

放課後の正門前で友達とは別れる。

クラスメイト達に挨拶をしながら、帰り道にある公園近くを通る時だった。

 

「緋勇 龍麻ーー。」

 

 

私の名前を呼ばれて、立ち止まる。

その声に聞き覚えはなく、振り返りその声の主である男を見ても見覚えがなかった。

私の名前は珍しい名前だから、聞き間違いではないと思うけど…。

返事をしないで、その男を見ているともう一度確認するように。

 

 

「緋勇 龍麻さんだね?」

 

「……はい、その通りですが、どちら様ですか…?」

 

「…捜したよ。」

 

 

一呼吸置いてから、男は話し始める。

彼は、私の出生から交友関係まで詳しく知っているようで、自分の情報と私の反応で確認するように話し続ける。

私は、明らかに不審な男に対して、何故か警戒もせずにその言葉を聞いていた。

 

 

「とりたてて、他の若者と違った点は見受けられない。それがーー昨日までの君だ。」

 

「どういう、意味ですか?」

 

 

私が疑問を投げかけると、男は覚悟を決める様に目を閉じて。

もう一度、目を開いた時は決して私の目を逸らさずに答える。

 

 

「私の名前は鳴滝 冬吾。君のーー、君の実の父親ーー緋勇 弦麻の事で話がある。」

 

 

緋勇弦麻は、叔父から聞いた私の父親の名前で間違いなかった。

実の父親の名前を聞く事になるとは思わず、固まってしまった私に対して。

その男、鳴滝さんは場所を変える事を提案してくれた。

 

 

 

明日香公園のベンチに座り、続きを話す事になった。

手には、奢っていただいた温かいココアを持って、私と鳴滝さんは向かい合う。

 

 

「突然、学校まで会いにいって、迷惑だったかもしれんが。どうしても、早く君に会う必要があってね。許してくれーー。」

 

「いえ、そんな…、混乱はしましたが迷惑ではないですよ。」

 

「ありがとう。君の寛大な心に感謝するよ。」

 

 

大人の男の人に真正面から感謝を言われ、照れながらも、話の続きを聞き直す。

鳴滝さんには、私の記憶では会った事はないが…。

言葉も喋れない頃に会った事があるらしい。

それは……、覚えてないなぁ。

 

鳴滝さんは、質問を投げかけてきた。

産まれた場所と誕生日と血液型、それを聞いては納得した顔で頷く。

 

 

「やはり…、間違いではないようだな。君の両親である弦麻と迦代さんの面影がある。」

 

 

そう言うと、寂しそうであり、嬉しそうな顔をする。

大きくなった。そう言われて少しだけ気恥ずかしい気持ちにもなった。

 

だが、父と母の知り合いならもっと早くに会いにきたりしないのか。

もしかして、仲が悪かったのかな…?

不安そうな表情に気付いたのか、苦笑いをして。

 

 

「私が、君に会いに来なかったのは、弦麻の遺言だったからだ。」

 

「遺言、ですか…。でも、どうして、父はそんな遺言を?私は、叔父の言葉と僅かな写真だけでしか両親を知りません。

……、もし知っている事があったら、教えてくれませんか?」

 

 

私の言葉に、鳴滝さんの顔は何かに耐える様な悲しい顔をしてから私を見つめる。

言葉を続けようとしては、言葉に出来ない。

ただ時間だけが過ぎていく。

 

 

「ーーすまん。私の口からは、何も言えないが、いずれ知る事もあるだろう。」

 

「そう、ですか。」

 

 

鳴滝さんの言葉に少し落胆しつつも、自分自身に納得させる。

きっと、言いたい事は沢山あるのだろう。

それを父の遺言の為に、黙ってくれているのだ。

 

 

「あァーーだが、ひとつだけ教えておこう。昔ーー君が産まれるずっと前、君の父親と私は表裏一体からなる古武術を習っていた。」

 

「私も叔父から、護身術として古武術を習っていますが、それと同じですか?」

 

「おそらく、そうだろう。緋勇家は先祖代々、表、陽の術を伝承する家系だったからね。」

 

 

続けて、小声で呟く。

 

 

「しかし、そうか…。武道を嫌がっていた弦麻の弟が、古武術を…。」

 

 

武道を嫌がる?

私の知っている叔父は、率先して私と義兄に古武術を教えていた。

もしかしたら、父と関係があったのだろうか…。

 

その後、鳴滝さんは父の事を話そうとしては、言葉を取り消していた。

そして、私に最近変わった事はないか、を訪ねる。

 

 

「心当たりがないなら、それでもいい。」

 

 

鳴滝さんが私に会いにきたのは、それが目的だと言っていた。

異変というものは、いつでも平穏な日常の陰から這い出てこようとする。

望むが望まないとに関わりなく、深い因果によって定められている、と。

 

鳴滝さんの掴んだ情報によると、ここ数日で何かが起こる。

対処する為に鳴滝さんは動くが、私自身も決して気を抜く事のないように。

父の友として、忠告しにきてくれたのだ。

 

 

「気をつけて、みます。」

 

 

私は、半信半疑のまま頷く。

鳴滝さんはそれでも良かったのだろう。

地図を差し出して、何かあったら訊ねるように言ってくれた。

 

 

「私は、しばらくはこの道場に滞在している。……また会おう。」

 

「は、はい。あのッ、ありがとうございました!!」

 

 

私が頭を下げると、優しい表情で頭を軽く撫でて去っていく。

きっと、鳴滝さんの心配も杞憂に終わるだろう。

ちょっと、変わった1日であって、明日からはまたいつもの日常に戻るだけだろうな。

そんな事を考えて、家へと帰る。

 




龍麻の叔父と義兄の設定はオリジナルですので、お気になさらずに。
何かご意見や、コレ違うよって所があったら教えてください。

作者、豆腐メンタルなんで優しくお願いします!!


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第零話 龍之刻 3

炎が見える。

周りが騒がしくなる中で、私はその炎の中にいる人影を見つめる。

あれは、誰だろう。

 

疑問に感じた瞬間、意識が上がる感覚があり、目が覚める。

 

 

「あーあ、久しぶりに見たなぁ。」

 

 

幼い頃から、たまに見ていた悪夢。

それは、きっと私がまだ赤ん坊の頃に残っている記憶なんだろうな。

 

ボーッとしながら、学校へ行く準備を始める。

あの夢を見ると、意識がハッキリと覚醒するせいか、二度寝ができないのだ。

 

部活もしてない、帰宅部なのに朝早くから家を出て、学校へ向かう。

私って、結構優等生なのでは…?

そんなふざけた事を考えながら、歩いていると声をかけられる。

 

 

「ひーちゃん、おはよッ。」

 

「おはよう、さとみ。」

 

「昨日は荷物運ぶの手伝ってくれて、ありがと。」

 

「そんな、気にしないで!また何かあったら、手伝うよ。」

 

 

寒さで丸まった背中を伸ばして、さとみに挨拶を返す。

さわやかな1日だなぁ。

 

昨日のお礼を改めて、言われるが次に頼まれた時の約束を取り付ける。

さとみは、頼まれたら一人で頑張りそうだからね。

苦笑いをしたさとみは、よろしくお願いします、なんて軽く頭を下げるから自分でも思ったのだろう。

 

 

「そうだ!良かったら友達の第一歩として、放課後に比嘉くんも誘って、お茶でもしない?」

 

 

それは、私がお邪魔なのでは!?

そんな考えで、悩んでると急に声を小さくして。

 

 

(うちの学校、放課後の寄り道は禁止だから。放課後にC組に迎えに行くから待ってて。)

 

 

結構、強引に約束させられたかな。

私が了承すると、嬉しそうに目を輝かせる。

いつの間にか、教室近くの廊下まで着いていて。

 

 

「じゃ、また後でね。ひーちゃん。」

 

「はーい、ちゃんと前見て歩きなよー。」

 

 

私に手を振りながら歩くさとみに、注意しつつ私も教室まで移動しようとすると、別の声がかかる。

 

 

「見てたぜ、緋勇。さとみに気に入られたな。」

 

「いや、そりゃ嬉しい事だね。さとみみたいな可愛い子に気に入られたらさ!」

 

 

からかうつもりで、私に声をかけたのに冷静に返答した私に少し悔しそうな焚実がいた。

でも、すぐに嬉しそうな顔をして、さとみの事をフォローする。

 

ふむ、確実に焚実はさとみに好意を持ってるな。

ニヤけた私の顔を見て、なんだよ、なんて聞いてくるけど、笑って誤魔化す。

第三者が口出ししても、良い事ないよね。

 

 

「おッ、そうだ。放課後、喫茶店でも寄ってかないか?友情の証に、さとみも誘ってさ。」

 

「…ふはっ、さっきさとみにも誘われたよ。本当に仲いいねぇ!」

 

 

同じ内容を聞かされた瞬間に、我慢してたのに笑ってしまった。

照れたように、頭をかく焚実に放課後の約束をする。

そのまま、別れるつもりだった……。

 

 

「離して下さいッ!!」

 

 

女の子、それも同じクラスの子の声だった。

その声の方向を見ると男生徒がその女の子の手を掴んで何処かへ連れて行こうとしていた。

 

 

「ちッ、何で誰も助けてやらないんだ?」

 

 

怒った顔の焚実がそちらへ向かうのを見て、私も着いていく。

焚実が来た事で、女の子は安心した顔をする。

男生徒は、不機嫌そうな顔でこちらを向く。

 

 

「何やってんだよ、嫌がってるじゃないか。その手を離せよ…。」

 

 

男生徒は黙ったまま動かなかったが、もう一度強い口調で言えば、舌打ちしながら女生徒から手を離した。

自由になった女生徒を私の後ろに隠す様に立つと、男生徒は忌々しいとばかりに睨んでくる。

 

 

「緋勇を睨むのは、やめろよ。アプローチするにしても、こういう場合は、ちょっとマズいんじゃないの?」

 

「…莎草さんが、連れて来いっていってるんだ…。」

 

「莎草が…?」

 

 

莎草…、確か昨日教えてもらった転校生だったっけ。

莎草って友達いないんじゃなかったかな…。

 

もう一人の男生徒が近づいてきて、後ろにいた女生徒に手を伸ばす。

それを、さらに前に出て防いでいると舌打ちが聞こえる。

 

 

「女だろうが、邪魔するなら怪我するぞ。」

 

「そう言われて、クラスメイトを渡す程薄情じゃないつもりだけど?」

 

「緋勇さん……。」

 

 

押し問答をしてるのに気付いてくれた焚実が私の前に来てくれた。

脅すように退けるように言われるが、動かないで守ってくれている。

 

 

「どうしたんだよ、いったい。何で、莎草の言いなりになってんだよ?あいつに何か、借りでもあるのか?」

 

 

焚実が聞くと、怯えながら男生徒は話し出す。

 

 

「あいつは…、怖しい奴だ。」

 

「はァ…?」

 

「あいつには…。あいつには、誰も逆らえない。いずれ、お前にもわかるさ。あいつの怖しさが…。」

 

 

何が言いたいのかは分からなかったが、彼らが莎草を恐れているのはわかる。

それでも、女生徒を渡すわけにはいかない。

そう思っていると焚実もそう思ったのか、言葉で彼らに女生徒を渡す気はない、と宣言してくれる。

 

何を言っても退く気がない事がわかったのか、悪態を吐いて行ってしまう男生徒達。

それを見送ってから、女生徒は安心したように息を深く吐く。

 

 

「あ…ありがとう、比嘉くんッ。緋勇さん。」

 

「あァ、大丈夫だった?」

 

 

質問に肯定する彼女に、続けて理由を聞く。

でも、彼女にも理由がわからないらしく、抱き締めるように自分に肩を摩りながら、怖かった…と答える。

その答えに考え込む。

 

そういえば、初めて莎草が私の教室を見に来てた時に彼女はキツめに言葉をかけてなかったか…。

思いついた時には、女生徒がもう一度お礼を言ってから立ち去ってしまった。

見送ると、彼女が入った教室の更に奥の廊下に莎草が立っていた。

何かあるのか、と思ったが何も言わずに立ち去ってしまった。

 

 

「あいつ…、何を見てたんだ?」

 

 

焚実の言葉と共にチャイムの音が鳴る。

その音を聞いて、私達も慌てて教室に行く為に別れた。

 

放課後に、女生徒が再び莎草の元に連れて行かれると知らずに。

 




原作設定資料では、青葉ちゃんは龍麻にほんのり好意を持って、比嘉くんは青葉ちゃんに恋心を持ってます。
ひーちゃん、モテますよね!

1番最初の夢は、アニメ版の東京魔人學園の部分から出してます。


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第零話 龍之刻 4

放課後になってからの、お茶は思ったより遅い時間になった。

原因は焚実の宿題を忘れたからだ。

さとみ曰く、毎回毎回宿題を忘れるから先生も説教が長くなったのだと。

待っていた私達二人も、空が赤く染まる夕方まで待たされたわけで…。

言い争いをする二人を見ながらも、喫茶店までの道を歩く。

 

 

「もちろん、今回のお茶は比嘉くんのお・ご・り・で。」

 

「本気かよ…。」

 

「とーぜん。終わるのひーちゃんと待っててあげたんだから。」

 

「悪いね、ご馳走様です。」

 

「うゥ…。今月、金ないのに…。」

 

 

情けない声を出す焚実に、ついさとみと二人で笑ってしまう。

しばらく、三人で話しながら歩いていると、思い出したようにさとみが声を上げる。

 

 

「比嘉くんって莎草くんと話をしたことある?」

 

 

その言葉に、今朝の事を思い出してドキッとする。

焚実も、嫌な予感がしたのか顔を曇らせる。

大した交流がない事を言ってから、理由を聞くと少し言いにくそうにしながら。

 

 

「今日の昼休みなんだけど、莎草くんがあたしの席まで来て「俺の女になれーー」って。」

 

「はァ?」

 

 

間の抜けた声を出す焚実と、口を大きく開ける私。

まさかの、さとみに告白?

話した事もないのに?

 

 

「ないないない!論外!!一目惚れだとしても、流石にない!」

 

「うん、そうなの。あたしも、あんまり莎草くんの事知らないから、オッケーはできないけど、ごめんね…って。」

 

「玉砕か…。まッ仕方ないな。」

 

 

私の言葉に、さとみが同意して断った事を話す。

焚実は、安心したように笑いながらもさとみを気にする。

告白を断った話だとしても、さとみの顔は暗い表情だ。

 

 

「でも、そしたら…。そしたら、すごい形相で睨みつけられて、」

 

「……。」

 

「「俺から逃げられると思ってるのかーー」って。あたし、すごい怖かった。」

 

「何だそれ?…どういうつもりなんだ、莎草の奴。」

 

 

断られて逆上したとしても、脅す様に言って、怖がらせるのは良くないな。

なにより、今朝のように男生徒を複数人連れていたら大変だ。

三人で少し考え込む。

 

 

「明日にでも、俺が話してみるよ。」

 

「でも…。」

 

「いったい、さとみのどこが気に入ったのか、興味あるしな。」

 

 

ふざけながら言った言葉にさとみは怒るけど、安心したような表情だ。

やっぱり、幼馴染って分かり合えるのかな。

 

 

「それじゃあ、おススメのお茶を飲みに行こうか。」

 

「うん、まかせて。」

 

「おいッ、あんまり高いのは無理だぞ!!」

 

 

 

 

 

1997年12月17日

明日香学園中庭  昼休み

 

 

今日は朝から、どの教室でも騒がしかった。

理由はすぐにわかった。

 

昨日の放課後、とある女子生徒が自分の手で、自分の瞳にボールペンを刺した、という話だ。

受験ノイローゼではないか、との噂が広がっているが私には信じられなかった。

何故なら、被害者である女子生徒が昨日助けた子だから。

 

あの後、クラスでも声をかけたけど、普通の反応だった。

それなのに、受診ノイローゼ?

原因不明だとしても、可能性としては低いと思う。

むしろ、絡んでいた男子生徒達に脅されて……。

 

いや、それでも、自分で自分の瞳を刺すなんて猟奇的な事はしないだろう。

考えながら、お昼を食べ終わりボーッとしている。

 

そういえば、鳴滝さんから言われたっけ。

ここ数日で何かが怒る、それはコレの事なのかな。

制服のポケットに入れっぱなしにしていた、鳴滝さんに渡された地図を触って確かめる。

 

 

「緋勇ーー。おすッ。」

 

 

声をかけられて、振り向くと焚実が立っていた。

不安そうに、少し眉間に皺を寄せた顔をして、近くに来た。

 

 

「昨日の話…聞いたか?」

 

「うん、ウチのクラスでも朝からその話ばっかり。」

 

「何で、彼女が一人で体育館裏なんて行ったんだろうな。でも、自分で瞳を刺したのは間違いないらしい。」

 

 

体育館裏なんて、良くない噂を持つ生徒の溜まり場だった。

それを、女子生徒一人で行くのも怪しい。

 

二人に首を傾げていると、焚実が気付いたように前を向く。

見ている方向に目を向けると、転校生…莎草が立っていた。

 

 

「おいッ、莎草ーー。」

 

 

呼び止めると、睨みつけながらも立ち止まる。

そのまま、莎草の元へ歩いていき、昨日さとみから聞いた話を切り出す。

 

 

「その、さとみにアプローチしたんだって?見掛けによらず勇気あるじゃない。」

 

 

チャイムの音が鳴り始めたが、焚実はそのまま続ける。

さとみにも莎草にも配慮しつつ、注意するような言葉を。

 

 

「…うるせェ。」

 

 

一瞬、誰が言ったのか分からなかった。

その一言が、初めて聞いた莎草の声だったからだ。

聞こえづらかったのか、聞き返す焚実。

 

 

「うるせェって言ったんだよォ!!」

 

「莎草…。」

 

「ベラベラ、一人で喋りやがってッ。ムカつくんだよッ、比嘉ッ!!」

 

「あ…悪かったよ。そんなに、怒らないでもーー。」

 

 

激昂した莎草は、動揺する焚実を置いて、話し始める。

 

 

「人形って知ってるか?」

 

 

何を言っているのか、焚実の側で聞いていた私も分からなかった。

いきなり、キレて、人形の話を始める莎草。

 

人形とは人の形と書くのに、どうして動物の人形は鳥形や獣形とは言わないのか。

そんな言葉を並べて叫ぶ莎草は、異様としか思えなかった。

 

焚実も莎草の様子に焦ったように、肩に手を置く。

落ち着かせる為だった。

 

 

「糞みたいな汚ェ手で俺に触るんじゃねェッ!!」

 

 

その瞬間、空気が変わった。

莎草から目が離せない。

あぁ、コレは危ないモノだ。

どこか冷静な自分が、自然とそう考える。

 

 

「イイ気になるなよ、…比嘉。」

 

「うッ腕が…動かない。」

 

 

焚実から離れた莎草が余裕をもちながら言う。

焚実は莎草に触れようとした手をそのままに動かなかった。

いや、動けなかった。

 

そして、莎草はこちらを向く。

 

 

「そっちのお前も俺をナメんじゃねェぞ。」

 

「……ナメる程、価値のある人間だったかな。」

 

「…何だ、その態度は…。てめェ…ナメやがって。」

 

 

そうだ、こちらに集中しろ。

訳はわからないけど、焚実が解放されるように莎草の注意を引く。

正直、恐くて仕方ない…けど。友達を見捨てる訳にはいかない。

莎草が私の方に、一歩近づこうと動き出した。

 

 

「おいッお前ら何やってんだ?もう、授業が始めるぞ。早く教室に入れ。」

 

 

先生の声だった。

先生の方を見て、莎草は舌打ちをしながら去っていく。

私達に対して、操り人形だと言い残して。

 

莎草が去ってから、焚実は動けるようになったが、私達は莎草の不気味さにしばらく動く事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 




莎草の転校前の学校は、魔神学園なので、もしかしたら生徒会長である美里さんは知ってるかもしれませんね。


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第零話 龍之刻 5

放課後になり、教室で帰る準備をしていると、声をかけられる。

振り向くと、ドアの所にさとみが立っていた。

荷物を入れた鞄を持ち、さとみの方へ向かう。

 

 

「…あの、ちょっと、話があるんだけどいい?」

 

「もちろん、私も話したい事があったからね。」

 

「ありがと…、知り合って間もないひーちゃんにこんな事、相談するのは気が引けるけど、他に相談できる人がいないの。」

 

 

不安な表情を隠せないでいるさとみの手を引く。

着いたのは、人通りの少ない、少し薄暗い水道が並ぶ場所。

 

 

「ここでいいわ。…話っていうのは、比嘉くんの事なの。」

 

「うん、私の話も関わってると思う。昼休みの事なんだけどーー。」

 

 

私は隠さずに、昼休みにあった事をさとみへ伝える。

さとみは、納得したような顔で頷いた後に、私の顔を見る。

 

 

「ひーちゃん、比嘉くんを救けてあげてーー。比嘉くん、凄く苦しんでる。」

 

 

莎草の事を相談した事を後悔しているのか、暗い表情で続ける。

私の手を取り、お願いーー、と。

 

 

「……知り合いに、今回の事を詳しく知ってそうな人がいるから、聞いてみる。」

 

「…うん、ありがと。ひーちゃん。」

 

 

ポケットの中の地図を再確認する。

あまり遠くない位置に、道場はあるらしい。

今からでも、行ってみるか…。

 

 

 

拳武館 支部道場

 

地図に書いてあった道場は、思っていたよりも大きく立派だった。

入口で少し迷っていると、私に気付いたのか扉が開く。

 

 

「…そろそろ来る頃だと思っていたよ。」

 

 

そこに立っていたのは、あの時公園で話していた鳴滝さんだった。

この道場は鳴滝さんが、校長を勤める高校の道場だと言う。

中に通され、お茶を出される。

 

 

「話をする前に君に聞きたい事がある。…君は<人ならざる力>の存在を信じるかね?」

 

「そ、れは……。」

 

 

それは、昨日の放課後の事件や、今日の昼休みの事だろうか。

あれは確かに、人間の〈力〉とは思えなかった。

言葉の詰まり、考え込む私を見て、鳴滝さんは続ける。

 

 

「今年の初めから猟奇的な事件が東京を中心に多発している。君が体験しているような事件がね…。」

 

 

今回、この街に来たのもそういった事件に関わっているであろう少年を追ってきた、と。

その瞬間莎草を思い出す。

 

莎草は、常人とは異なる〈力〉を手に入れた可能性が高いらしい。

だが、そこまで調べても鳴滝さんが手を出せないのは、莎草に対抗する術を持っていないから。

斃す術が見つかるまでは、私も莎草を刺激せずに大人しくしろ、と言われた。

 

 

「いいねーー。」

 

「ですが、私はもう目をつけられてると思いますし、友達は被害にあってます。」

 

「…君は平穏な一生を送るべきだ。それがーー君の御両親の願いなのだから。」

 

 

私に強く言い聞かせるように鳴滝さんは続ける。

私が護身術を習っていても、…父さんの血を引いていても。

それだけで斃せる相手ではない。

 

 

「敵わない相手に闘いを挑むのは勇気ではない。……。それは…犬死だ。」

 

 

確かに、正しい事を言っている。

でも、どうしてか鳴滝さんにはそんな事言ってほしくなかった。

返事のない私に鳴滝さんは苦笑いをする。

 

 

「私の言うことが間違ってると思うかね?よく聞きたまえーー。」

 

 

鳴滝さんの声に顔を上げる。

 

武道の行きつく先は禅と同じ境地であり、精神を磨く事で、手を合わせずとも勝敗が決する。

武道の極意を悟った者同士が立ち合えば、一切の術技を排した状態になり瞬時に勝負がつく。

 

 

「わかるかね、龍麻さん。武道の極意というのは、精神にあるといっても過言ではない。精神を制御するんだ。」

 

「精神を制御……。」

 

「今は斃せなくても、いずれ斃せる日が来る。」

 

 

でも、斃すのが遅くなった分だけ被害が大きくなり、大切な人を失ったら。

私は精神を制御なんて、できるのかな…。

 

鳴滝さんはぐるぐる考え込む私を見た後に、腕時計を見る。

時間はいつの間にか深夜になっていた。

 

 

「もう時間も遅い。奥に休める場所がある。今日は道場に泊まっていくといい。」

 

「うぇ、あ、はい。お言葉に甘えます。」

 

 

急な申し出に、驚いて変な声を出しながらも甘える事にした。

鞄から携帯を出して、親に連絡をとる。

途中、叔父さんから鳴滝さんに代わるように言われ、二人は静かに話していた。

電話が終わった後に、鳴滝さんが苦笑いで、怒られてしまった、と話していたのがどこか嬉しそうだったのを感じた。

 

明日も、何事もなく終わって、莎草の事も対処してくれればいいな。

 

 

 




鳴滝さんと叔父さんの会話は簡略すると、

「ちょっと、関わるのはいいですけど、ウチの娘女子高生なんですからね!?気をつけてくださいよ!!」

「わかった、すまない。」

みたいな会話してました。


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第零話 龍之刻 6

誰かの嘆きが聞こえる。

きっと、これは夢だ。夢なんだよ。

 

 

『宿命の星がーー。再び天に姿を現すその時まではーー。』

 

 

その言葉で意識が戻ったのを感じる。

見渡すと見慣れない部屋と布団。

あ、そうか。鳴滝さんの所に行って、道場に泊まらせてもらったんだ!!

 

光が漏れ出ているのを見て、そちらへ向かう事にする。

扉を開けると、私に気付いて鳴滝さんが振り向いた。

机で何か書類を書いていた。

 

 

「眠れないのかね?私も仕事があってね…。今夜は徹夜になりそうだ。」

 

 

確かに、目が冴えてこのままでは眠れないかな。

鳴滝さんが隣に座布団を置いてくれる。

甘えさせてもらい、座布団に座ると鳴滝さんも休憩するのか私の方を見る。

 

 

「龍麻さん…。君は強くなりたいという願望はあるかね?」

 

「…はい。あります。」

 

「何のために?強くなってどうする?」

 

 

きっとこの質問は私の為であって、私の為ではない。

鳴滝さんの中の疑問なのだろう。

 

 

「人を…、家族や友達はもちろん。他人を護る為に。」

 

「他人を…?そんな事を本気で考えているのか?そんな事が本当にできると…。」

 

 

戸惑う様に揺れる眼を見続ける。

きっと、私の言葉は別の人の言葉に聞こえるのだろうな。

 

 

「それでは、もしーーもし仮にだ…。君の大切な人が、今回の事件に巻き込まれたらどうする?相手に勝てないとわかっても闘うかね?」

 

「はい。救います。」

 

 

私の言葉に耐えきれなかったのか、鳴滝さんは言葉を荒げる。

 

 

「誰かを護るために自分の命を賭けるなんて馬鹿げているッ。誰かをーー何かを護るために死ぬなんて愚かな行為だ…。

後に残された者の気持ちを考えてみろ。その者たちの想いをーー。

お前は、それを、どうやって、受け止めてやれるんだ…。お前は…ッ…。」

 

 

その言葉は、父さんに言いたかったのだろう。

どれだけ慕われ、どれだけ傷つけたんだ。あんたは…。

こんなに苦しんでる人を、あと何人残したんだよ…。

 

 

「…すまない。」

 

 

冷静になった、鳴滝さんから謝られる。

私は、今、自分で言った言葉を曲げるつもりはないので素直に頷くだけで返した。

 

 

「不思議だな…。君と話していると、まるで弦麻と話しているようだよ。」

 

「眼は父さん似だと言われましたけど、頑固な所も似たんですかね…。」

 

 

長くしている前髪を上げ、鳴滝さんを見直す。

本当に懐かしそうに、見つめ返してくれるにが分かる。

 

 

「私は、君には平穏な暮らしをして欲しいと思っている。それがーー私が、弦麻と迦代さんから託された願いなんだ。」

 

「はい。」

 

「何かを護ろうとすればそれがかけがえのないものであるほど、人は、大きな代償を支払わなければならない。

君には、そういう生き方をして欲しいとは思わない。」

 

 

そう話した後は、明日の学校の事を話し、寝るように言われる。

布団に戻った私は、鳴滝さんの言った言葉を考える。

 

鳴滝さんは、父さんと母さんの言葉を護ろうと、私を護ろうとしてくれている。

でも、私自身の意思はーーきっと、やっぱり闘う選択を選ぶだろう。

 

 

 

1997年12月18日

 

道場から急いで家に戻り、今日の学校の準備をしてから学校へ向かう。

置き勉でもしとけば良かったかな…。

 

 

「ひーちゃん。」

 

 

ここ最近になって聞き慣れた声が私を呼び止める。

振り返れば、予想通りにさとみがいた。

 

 

「おはよ。」

 

「うん、おはよッ。比嘉くんが一緒の訳は…ないわよね。」

 

 

少し落ち込んだ様子で焚実の事を探す。

どうやら、さとみも昨日から会えていないらしい。

 

詳しく聞くと、あれから心配になったさとみが家に電話をかけたが、焚実は家に帰ってはいないらしい。

その為、早めに学校へ行き、校門で待つ事にしたのだ、と。

 

そんな話をしていると、校門から見覚えのある姿が出て行く。

焚実だ。

それに気付いたさとみが追いかけようとするのを、着いていく事にした。

 

 

 

着いた場所は、明日香公園だった。

そこで焚実を見失い、二人で辺りを見回す。

 

 

「青葉ーー。」

 

 

急に声をかけられて、驚き、声を出しながら振り向くと前に女子生徒に絡んでいた男子生徒達が立っていた。

 

 

「一緒に来い青葉。」

 

「なッ、何でーー。」

 

「沙草さんがお呼びだ…。」

 

 

その言葉を聞いた瞬間にさとみの前に立つ。

前に女子生徒に絡んでいた時よりも、気が大きくなっているのか馬鹿にするように笑う。

 

 

「どけッ邪魔をするとお前も痛い目に会うぞ。」

 

「無理矢理友達を連れて行こうとする相手に、言うこと聞く必要はないと思うけど?」

 

「何だとォ…。」

 

「女のくせに、生意気言いやがって…。少し、痛めつけておくか。」

 

「馬鹿な奴だぜ…。へっへっへ…。」

 

 

そう言って拳を振り上げる相手に素早く近づき、顎を狙って掌底を打つ。

油断していたのか、一発で気絶した

驚いて動けないでいる後ろに立っていた男子を蹴りを入れて吹き飛ばす。

残りの1人が、焦りながら私に向かって来るのを冷静に見ながら腹に掌底を叩き込み気絶させる。

 

 

「ふぅ…。」

 

 

少し熱くなった体を冷ます為に深呼吸をする。

 

 

「ひーちゃん…。」

 

「くッこいつ強ェ…。」

 

「うゥ…。」

 

 

 

呆然としているさとみの側へ近づき、学校へ戻ろうとすると焚実が現れる。

驚いたさとみの無事を確認すると、表情を和らげている。

 

しかし、そこに莎草が現れる。

青褪める焚実とさとみを笑いながら、痛みが落ち着いたのか立ち上がる男子生徒に命令する。

 

 

「おいッ、青葉を連れて来い。」

 

「え…?」

 

「やッ止めろッ、莎草ッ!!」

 

「どういうつもりかな…?見物だけで満足したら?莎草。」

 

 

騒ぐ私たちを無視する莎草に対して、動こうとする焚実に脅しをかける。

あの不思議な力を使おうとしているのが分かる。

そして一言。

 

 

「やれッー。」

 

「あッ比嘉くん危ないッ!!」

 

 

その瞬間に後ろに回り込んでいた男子生徒に殴られる。

呻く焚実に続けて蹴りを入れて動けないようにする。

それを見て、焦ってしまった私は他の人の動きに気付けなかった。

 

 

「緋勇…後ろだ…。」

 

 

焚実の言葉を聞いた時には後ろから頭を殴られていた。

グラグラする意識の中でさとみの悲鳴と焚実の悔しそうな声が聞こえた。

そして、もう一度殴られた私は完全に意識をなくした。

 

 

 




戦闘描写に悩んだりしてたら、リアルがまた面倒な事で遅れましたー。
これからの戦闘描写は似た感じになってもどうか許してほしいです。
本当はゴールデンウィーク中に更新する予定だったんです。申し訳ない!!


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第零話 龍之刻 7

「龍麻、強く生きろ。誰よりも強く。誰よりも優しく。そして、叶うのなら平凡な一生を送ってくれ。」

 

 

いつもの夢の言葉。

分かっている、貴方の言ってる言葉は分かってるよ。

 

 

「だが、もしも――、宿星がお前を闘いに導くのなら―。」

 

 

この夢の続きは、初めて聞く。

思わず、夢の中の内容に集中してしまう。

 

 

「友のために闘え…。」

 

 

<力>は何かを護ろうとする心から生まれる……。

それを……きっと忘れないよ、父さん……。

 

 

 

 

目を覚ますと、一度見覚えのある部屋だった。

拳武館の道場だ、ということは……。

 

 

「…目が覚めたね。」

 

「鳴滝さん……。」

 

「ずいぶん手酷くやられたものだな。傷は残る事はないだろうが……。」

 

 

殴られた頭の傷を、鳴滝さんが優しく撫でる。

心配してくれているのが分かる。……ついでに怒ってるのも。

 

 

「さとみ……女の子を見ませんでしたか?」

 

「私があの場所に着いた時にはベンチに横にされている君だけだった。」

 

 

焚実がいない上に、ベンチに……?

きっと焚実が私を置いて、追っていったのか!

このままでは、いられない!!

 

 

「鳴滝さん!私は、行かなくちゃ。莎草の居場所、知りませんか!?」

 

「君の傷はまだ激しく動いていいものではない。それに、彼の<人ならざる力>はいわば魔人。一介の高校生が勝てる相手ではない……。」

 

「それでも、行かなくちゃいけないんです。」

 

 

二人を、護りたい。

鳴滝さんの部下は優秀だろう、けど時間がかかってしまう。

すぐに、動けて二人を護れる確率が高いのは私が行く事だと思ってる。

 

思い上がりだと思う。

鳴滝さんにも失礼だ、でも、あの夢を見てしまったら止まれない……。

 

 

「自分を犠牲にして誰かを助けようなどと思っているのか……?……君は、君だけは生き続けるんだ……。どんな事があっても。」

 

「さとみを、救けに行きます。」

 

 

鳴滝さんの眼を見て答える。

父や母を想って言ってくれてるこの人に、酷い事をしている。

でも、今、やらなきゃダメなんだ!!

 

しばらく睨み合っていると、諦めたように息を吐く。

 

 

「ひとつ条件がある。私の部下と闘ってもらう。覚悟を私に見せてくれ。」

 

「……わかりました。」

 

 

返事をして、怪我の様子を確認する。

手足は大丈夫。殴られた頭も包帯はしてるけど、問題ない。

大丈夫、幼い頃から傷の治りは早かった。

 

鳴滝さんの部下たちの目の前に立ち、叔父さんの教えを思い出す。

 

 

『いいか、龍麻。へそより下の、ここ。ここを意識して動いてみろ。氣を練るんだ。そうすれば、お前ももっと強くなる。』

 

 

義兄さんに負け続きの私に、言ってた言葉。

これを意識した時に、初めて義兄さんに勝ったんだ。

 

 

「ふぅぅうぅ……。手加減などせずに、よろしくお願いします!!」

 

 

一礼をして、手合わせは始まった。

 

仕掛けたのは私。

呼吸を意識して、相手の懐に入り込み、掌底を打つ。

不良たちに喰らわせた技より強く入り込む。

 

喰らった一人がダウンした事で残りの門下生が気を引き締める。

仕掛けてくる拳を受け止めると、傷が痛み思わず呻き声を漏らす。

それでも、相手の流れに乗る前に、半歩後ろに避けて掌底で倒す。

 

残り二人は息を合わせて、私に攻撃の隙を見せない。

捌き、避けて、自分の氣を練る事を考える。

 

大きく後退して距離をとって、大きく深呼吸をする。

そして、一気に距離を詰めて……。

 

 

「龍星脚ッ!!」

 

 

足技を繰り出して、一人を吹っ飛ばしもう一人を巻き込み倒れるのを確認する。

息を整えながら、鳴滝さんの方へ顔を向ける。

 

 

「っは、はぁっ、……場所は、何処ですか?」

 

「……。それが、君の答えという訳か……。因果は巡る…か。」

 

 

深く考える様に目を閉じて、私を見つめ直す。

息を整えながら、鳴滝さんの話を聞く。

 

私の父は<人なるざる者>と闘って…、命を落とした、と。

 

この世界には、人知れずに人ならざる異形の存在がある。

<外法>、現在も受け継がれる代物がこの世には存在する。

 

一通り話をした後に、諦めたように続ける。

 

 

「明日香学園の近くにある廃屋へ行きたまえ。」

 

「廃屋……。」

 

「もしかしたら、君の仲間を護りたいというその心が、陰を照らし、道を切り開くかもしれない。…さっき闘った時の気持ちを忘れない事だ。」

 

 

道場を出る時に、聞こえるかギリギリの音量で鳴滝さんは言った。

 

 

「生きて帰って来い…必ず。」

 

「……。はい!」

 

 

日が落ちて、真っ暗な中で私は廃屋へ走る。

少しでも早く二人を護る為に……。

 

 

 

 

 

 

 




まだだ、まだ終わらんぞ!!


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第零話 龍之刻 8

廃屋へ着いた時には、月が高く昇っていた。

入り口から中に入ると、聞き覚えのある声が聞こえた。

振り返ると、焚実が少しボロボロの立っていた。

 

 

「よくここがわかったな?」

 

「ちょっとした、伝手かな。」

 

「そうか、莎草の奴が、さっき奥へ入っていった―。さとみもきっと、そこだ。」

 

「じゃ、入ろっか!」

 

 

お互いに顔を見合わせてから、覚悟を決めて奥へと進む。

奥は先程の場所より暗く、よく見えない。

足下に気をつけながら、奥へ、奥へ……。

 

 

「あれは…」

 

 

先を進んでいた焚実の声に目を凝らす。

さとみがそこにいた。

しかし、彼女はまるで拘束されているかのような体制で服が少しはだけていた。

 

さとみの名前を叫び、近寄るが彼女は意識がないようだ。

 

 

「何だ、これは……。何も見えないのに、まるで何かに吊られているような…いったい、これは……。」

 

「!……焚実、気を引き締めて。莎草だ。」

 

 

莎草は笑いながら、ゆっくりと現れる。

まるで、私たちを脅威になんて思ってないかのように。

 

 

「莎草ッ!!お前ッさとみに何をしたッ!!」

 

「まあ、同意って訳じゃないよね、趣味悪い……。」

 

 

私たちの言葉に対して笑い声を上げながら異様な雰囲気を放つ。

その瞬間に焚実が息を飲む。

 

 

「目障りなんだよ…比嘉。」

 

「くッ…。身体が…動かない。」

 

 

咄嗟に焚実を助ける為に、動こうとするのを莎草が止める。

 

 

「ちょっとでも動いたら、こいつもそこの女もどうなるか、わかってんだろうな?」

 

「っ…。」

 

「いくら足掻いた所でお前らは俺には敵わない。平凡なヒトであるお前らは俺に勝つ事などできない。」

 

 

莎草はそのまま続ける。

自分には<運命の糸>が見え、操る事が出来る。

 

明日香学園に転校する前に、その<力>で人を殺した、と。

 

その話を笑いながら誇らしげに言う莎草は狂ってるように思えた。

そして<力>を見せつけるように焚実の腕が勝手に動き出す。

 

 

「うッ…腕が勝手に…。」

 

 

焚実はまるで自分の手で自分の首を締め上げている。

それを、私は見ているしかできない。……。

 

本当に……?

 

 

「そらそら、締まるぞ…。比嘉を始末したら、次は、緋勇―お前を始末してやる。」

 

「……くだらない。」

 

「あァ?」

 

「操るだけ操って、自分で手を出す訳でもない。お前は何も変わってないよ、莎草。」

 

 

莎草の顔色が変わる。

焚実に向けていた手を下ろして、私に向き直る。

息苦しさから解放された焚実が、咳をするのを安心しながら見る。

 

 

「そうか…わかったよ。貴様から、先に始末してやるぜ―――緋勇ッ!」

 

「ぐゥッ……!」

 

 

先程の焚実の様に、勝手に手が自分の首を締め上げていく。

酸欠になり、薄れる意識の中で莎草の高笑いが聞こえる。

 

ここで、……ここで私が死んだらさとみや焚実はどうなる……。

鳴滝さんとの約束は……どうなるんだッ……!!

 

 

「誰も俺を止める事などッ……!?」

 

 

莎草のが自分の勝利を確信した時だった。

もうすぐ死ぬはずだった、少女から強い<力>を感じ取った。

 

 

            目醒めよ―――  

 

 

「なッ何だ、この光は――ッ!!」

 

 

            目醒めよ―――

 

 

「くッくそッ!!俺の<力>で操ってやる!!操って――ッ!?」

 

 

莎草は信じられないモノを見る目で、龍麻を見つめる。

見えない。

今まで見えて操っていた、少女の糸が、見えないッ!!

 

 

「さ……のくさ……。」

 

「ひィッ!!俺は<力>を手に入れたんだぞ、俺は――。」

 

 

少女の普段隠れている眼が見える。

黄金のような光が見える。

少女の声に自分が怖気づいてしまうのが分かってしまった。

 

 

「お前なんかに…負けるわ…け…」

 

 

認めてしまった瞬間だった。

空気が変わった。

 

今まで自分の<力>だったモノが、自分に牙を向く。

 

 

「うッ…ぐおォォッ!!あ…頭が…割れる…グオォォォッ!!」

 

「莎草……?」

 

 

呻き苦しむ莎草の姿がどんどんと変わっていく。

まるで、一本の角を持つ青い肌の鬼。

 

 

「グオォォォッッッ!!」

 

 

まだ動けないさとみと焚実を護る為に、龍麻は前を向く。

もはや、言葉を話せなくなった同級生を見つめる。

 

人ならざる存在、<魔人>との初めての戦いだった。

 

 

 




多分、龍麻の初めてのトラウマでございますね!


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第零話 龍之刻 9

動きはまさに、人外だが持っている<力>はそのままなのか、近くに立っていた不良たちも私に向かてくる。

しかし、動きが単調なので不良たちは掌底で気絶させていく。

 

最後の一人を戦闘不能にさせてから、上を向くと鬼になった莎草が殴りかかってきたのを、間一髪で避ける。

 

体が軽くはなった、でも何でだかは分からない。

道場での闘い以上の氣を自分から感じる。

 

目醒めよ、あのわからない言葉は何だったんだろう。

莎草の攻撃を避けながら、さとみたちから距離を取るようにする。

 

 

(魔人…だったっけ。父さんたちが闘ったのは、こんな奴らだったのかな。)

 

 

掌底を喰らわせても、なかなか怯まない。

逆にあちらの攻撃を喰らったら、私は下手したら一発で倒れる。

 

私には……死ねない約束がある。

 

呼吸を整える。例え、莎草に何があっても……それでも…。

 

少し考えていたのがダメだったのだろう。

莎草は引き離した二人に気付いて、二人に向かって走り出す。

手を伸ばし、二人を傷つけようと……。

 

 

「さ、……せるかあァァッ!!」

 

 

同じタイミングで走り出し、莎草の目の前に立ち攻撃を真正面から受け止める。

頭を防いでいる手がミシミシ、と嫌な音と激痛が走る。

攻撃が一度緩んだ瞬間に、龍星脚を放ち吹き飛ばす。

 

 

「ひ…緋勇……。」

 

「焚実、怪我は?」

 

「俺もさとみもないッ!でも、お前が……ッ!」

 

 

爪が掠ったのか、頬から血が流れていた。

そして、気付くのが髪の毛だった。

 

私の髪の毛がざんばらに、切られていた。

 

別に髪に対して思い入れがある訳でもない。

それでも、少し嫌だ、と思った。

 

 

「邪魔ヲスルナッ!!」

 

「何さ、話せるのか。莎草……私を怨んでくれ。」

 

 

きっと、この集中した氣を喰らったら莎草はどうなるのか、わからない。

だから、アイツの意識がある内に、言った。

 

 

「雪蓮掌ッ!!」

 

 

私の出した氣が凍るように冷たくなって莎草に襲い掛かる。

暴れまわっていた莎草の動きが、ゆっくりになっていく。

 

そして、完全に動かなくなった。

 

 

「ウオォッッ!!カッカラダガ溶ケル…」

 

 

まるで崩れていく様に、溶けていく莎草を見届ける。

死にたくない、と泣き叫ぶ莎草の最後を。

 

そして、莎草はこの世から消えた。

 

 

「いったい、何が…、何がどうなっているんだ……。莎草は…。」

 

「……。」

 

 

動揺している焚実の言葉には、何も答えられない。

その間に、さとみが目を覚ました。

 

 

「ひーちゃん……。」

 

「あァ、緋勇が救けに来てくれたんだぞ。」

 

「う…ん…。莎草くんは…?」

 

「あッあァ……。」

 

 

さとみの疑問に焚実は私の方を向く。

不可解なモノを見る目で。

 

 

「莎草は……、私が殺した。」

 

「え……?」

 

「緋勇、お前…。」

 

 

二人との関係をこれで終わっても構わない。

約束も二人も護れた。

でも、私も知らなくてはならない事が増えた。

 

 

 

病院へと向かう二人を見送り、私は鳴滝さんの道場へ向かう事にした。

 

着いたのは、深夜。

扉をそっと開けると鳴滝さんがずっと待っててくれた。

 

 

「無事に還って来たようだな――。よく生きて還って来た。」

 

「鳴滝さん……。」

 

 

疲れ切った私の頭を撫でて、安心したように誇らしげに笑う。

私の言いたい事は分かっていたのだろう。

それでも、今日は休むように言われて、お言葉に甘える事にした。

 

 

 

 

1997年12月19日

 

 

早朝、道場で目覚めた私の前には変わらずスーツで決まっている鳴滝さんがいた。

一瞬、夢かと疑ったのは内緒だ。

 

朝ごはんを、いただきながら昨日の話を聞く。

 

 

「龍麻さん…。君には先天的な武道の才がある。やはり、君の身体には緋勇の血が流れている――。あの弦麻の血が―――。」

 

「鳴滝さん、私は父の様にはなれません。だけど、強くなりたい。」

 

「そうか……それでは、大切なものを護り抜く自信はあるか?」

 

「……。ある。」

 

 

覚悟は決めた。

未だ私の言葉は、若輩の戯言。

それを真実にするために、私は強くなりたい。

 

 

「大した自信だな。」

 

 

哀しそうに笑い、鳴滝さんは続ける。

 

いつでも、護ろうと思って護れるものではない。

何かを失った時その哀しみに耐えられるのか……。

 

それを、乗り越えられなければ、強くなる事はできない。

だから―――。

 

 

「……新宿に行きたまえ。新宿の真神学園へ―――。」

 

「真神学園……莎草がいた?」

 

「ああ、君は行かなければならない。君の<力>を必要とする者たちのために―――。」

 

 

それでも、<力>をうまく使えるように、鳴滝さんの下古武術を学ぶ事になった。

きっと、これから辛い事もあるのだろう。それでも、

 

 

「よろしくお願いします!!」

 

 

頭を下げる、もうこんなやるせない気持ちにはなりたくないから!

 

 

 

 




はいはーい!!
東京魔人學園剣風帳、24周年!!
おめでとうございます!

間に合ったー!!


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第零話 龍之刻 10

少しのオリジナル話あります。


新宿には3年生に上がる際に、転校する事になった。

家族との話し合いは鳴滝さんに任せたけど、最終的に殴り合いになって、叔父さんは鳴滝さんにボコボコにされてたなぁ……。

 

あれから、さとみと焚実とは軽く話すけど、莎草の話は禁句になった。

転校するまでの三ヶ月間、毎日道場で鳴滝さんに鍛えられる。

 

ちなみに、一回も勝てない。

悔しい!!

 

 

そんな事を考えて、道場の扉を開けたからか知らない人とぶつかってしまった。

 

 

「す、みません……。」

 

「あァ、大丈夫だから気にすンな。」

 

 

着物を着た、竹刀袋を持つ長髪の男性。

この人は、どこかで……?

 

 

「ああ、神夷。彼女が、弦麻の……。」

 

 

道場の奥から鳴滝さんが、その人に声をかける。

それを聞いて、彼は私の事をしっかりと見直す。

 

 

「ッ……。」

 

 

莎草との戦闘後に切り揃えてもらってから短くなった髪越しに眼が合うと、息を飲む音が聞こえた。

私は何かをしてしまったのかな…?

 

 

「なァ、名前はなんてんだ?」

 

「あ、遅くなりました。緋勇 龍麻です!よろしくお願いします。」

 

「たつ、ま…。」

 

 

懐かしそうに、眼を細めている。

父の事を思い出してんのかな?

 

 

「俺ァ、神夷 京士浪だ。よろしくな。」

 

「はい。」

 

 

それからの、今日の稽古を見ていてもらったけど…。

私が鳴滝さんに、吹っ飛ばされた時に笑ってたのは許さないんだからッ!!

 

 

「それにしても、お前が用もなくここに居座るのは珍しいな。」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、コイツには放浪癖があってね。私でも会えるのは数年に一度あるかないかなんだ。」

 

 

はぐれメタルかな…?

鳴滝さんの言葉に、ふんッ、と鼻を鳴らして無視してる神夷さん。

 

休憩に入り、お茶を淹れてくれるために鳴滝さんが席を外す。

神夷さんに顔を向けると、丁度眼が合った。

 

 

「神夷さんって…、私で誰を見てんですか…?」

 

 

つい、口が滑ってしまった。

言った後に、慌てて何でもありません!なんて言っても取り消せない。

 

 

「そうだなァ。鳴滝とかは弦麻とお嬢ちゃんを重ねるかもしれねェが、俺は…昔の仲間だな…。」

 

「……。女性だったりします?」

 

「わかるかい?」

 

 

当てずっぽうだったが、当たりだったらしい。

私の事をあまりにも大切に見つめるから、女の勘ってヤツが働いたのです!

 

 

「俺が、…惚れてたヤツに似てんだよ。お嬢ちゃんは。」

 

 

切なそうな雰囲気がする、神夷さんは小さく笑った。

 

 

「お、奥さんだったり?」

 

「ブッ、ははッ!だったら良かったんだかな。強い…女だった。勝手に俺が惚れてただけだ。別れてからは、それっきりさ。」

 

 

はあ~…。大人の恋ってヤツなのかな…。

一人で納得してた私の頭を撫でながら神夷さんは続ける。

 

 

「なァ。お嬢ちゃん、俺の事を‘京梧’ッて呼んじゃくれないか?」

 

「?いいですよ。……京梧。」

 

 

呼んだ瞬間に、勢いよく顔を上げて、私を見つめる。

正確には、私と重ねてる人物と、だろうけど。

よく、分からないけど神夷さんにとっては大事な事だったんだろう。

 

 

「……何をしてるいるんだね?」

 

 

お茶を持った鳴滝さんが私たちを見て、表情を無くしていた。

女子高生の顔をじっ、と見つめる成人男性。

おっと、怪しい感じだな~。

 

そう考えていると、お茶を机に置いて神夷さんに攻撃を始める鳴滝さん。

それにようやく気付いて、迎撃する神夷さん。

机に向かいお茶を飲む私の行動に分かれた。

 

壁や床の壊れる音を聞きながら、これは今日はお休みかな?と考える。

 

 




龍麻の髪は、莎草の攻撃により前髪長めのショートヘアになっています。
原作ひーちゃんのちょい後ろが長めな髪型のつもりです。


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第零話 龍之刻 11

龍之刻、終了ですな。


約束の三ヶ月が、過ぎた。

神夷さんにも、稽古をつけてもらえたのは良かった。

相手が刃物を持っていても対処ができるようになったしね。

 

鳴滝さんは、すごく驚いていたからかなり珍しい事なのだろう。

 

 

「それじゃあ、お二人とも。ありがとうございました。学校に行ってきますね。」

 

「気をつけて行ってきなさい。」

 

「あァ、おそらく帰る頃には俺もここを離れてる。」

 

「それは…、寂しいですね。」

 

 

少ししょんぼりとした私に、神夷さんは軽く頭を叩く。

仕方ない、これは神夷さんが決めたことだから、邪魔はできない。

 

それでも、笑顔で別れる事ができて良かった。

私は振り返らずに、明日香学園へと向かう。

 

 

 

明日香学園に着くと、早朝だったのにさとみが待っていた。

私に気づいたさとみが私に走り寄って、抱きついてくる。

 

 

「どうしたの?」

 

「転校するって…ほんと?」

 

 

誰にも言ってなかったのに、担任から聞いたのかな。

さとみは私が何も言わないのを、理解していた。

 

 

「…あの時からよね。莎草くんとの事があってからでしょ?ひーちゃんが転校しようと考えてたの…って。」

 

「えへ、バレたか~。」

 

 

少しふざけて笑うと、さとみは私から離れ、顔を見る。

泣きそうな顔をしている。

いや、もう泣いちゃったのかもしれない。

 

 

「きっと、どこかで…、ひーちゃんの力を必要としている人がいるのね。」

 

「そう、だといいかな……。」

 

「ひーちゃん……。」

 

 

握ったままの手に力が強まる。

さとみと、もっと早くに仲良くなってればよかったなあ。

 

 

「いつか――また逢えるよね?」

 

「……うん。必ず、また逢おう。」

 

「うん……、手紙書く――必ず…。だからあたしたちの事忘れないでね。」

 

「当たり前だよ……。」

 

「あたしたちも――あたしも、ひーちゃんの事忘れない。忘れないから……。」

 

 

いつの間にか、二人で涙が零れ落ちていた。

別れが苦しく感じられた。

 

 

 

さとみと別れて、赤い目になりながら下駄箱へ向かうと焚実が立っていた。

焚実も、転校の事を聞いたのか複雑な顔をしていた。

どう、声をかけたら、動いたらわからない、そんな顔。

 

 

「焚実、さとみを任せた。」

 

「ッ……!」

 

 

だからこそ、焚実の胸に拳を当てて、一言残す。

職員室に向かおうと、歩き出すと後ろから焚実の大きな声が聞こえた。

 

 

「任せろッ!!緋勇、ありがとう!」

 

 

その言葉に周りの生徒が、訝し気な顔で見ている中で、私は、振り向いて笑って手を上げた。

その心意気でさとみとカップルになっていくのかな……?

なんて、考えてしまうのは私も寂しいんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

1998年 東京 春

 

 

「龍麻、ここが今日から君が1年間住む部屋だ。」

 

「……でかくないですか?家賃って……?」

 

 

私がいるのは、転校先の学園の近くにあるマンションだった。

曰く、このマンションも鳴滝さんが管理している建物の一つで安全性はバッチリだそうで……。

 

 

「家賃は君の叔父から払ってもらっている。そしてこれを……。」

 

「こ、れは……。クレジットカード?」

 

「ああ、暗証番号は――」

 

「いやいや!!ダメでしょう!そんな大事なカード渡しちゃッ!」

 

 

その後、正座で今後の事を話し合った。

これから何があるか分からない中で、鳴滝さんは日本を離れなくてはならない。

 

支援できる範囲を考えた結果、このカードを好きに使っていい、と。

いいの?本当に……?

 

 

「でも、叔父から生活費も貰ってますし……。」

 

「私も、少しでも君の助けになりたいんだが……。」

 

「……。……っ、家計簿は書きますかね!無駄遣いもしません!!」

 

「少しはハメを外しても構わないが、こちらとしては了解した。」

 

 

くっ!私を甘やかしてくるのに、稽古ではあんなにボコボコにするなんて!

 

 

「とりあえず、明日から真神学園へ通う。気をつけて、いや……楽しんできなさい。」

 

「……はいっ!」

 

 

龍麻は満面の笑みで、鳴滝に返事を返す。

その後の未来では、どうなるか、なんて今は考えてなんかいなかった。

今は、それでいい。

 

 

『強く生きろ、龍麻―――』

 

 

 

 

 




女の子だから防犯バッチリなお部屋をご用意されてました!!

鳴滝さんなら、マンション位持ってるよね!


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