遊戯王の世界で遊戯王プレイヤーたちが遊びだしたようです。 (だんご)
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カードが違います。

マスターデュエルやっていたら、遊戯王で書いてみたい。
掲示板ネタって楽しそう、やってみたい。
息抜きで100%ノリです。デュエルは書くの大変なので、わちゃわちゃを中心にしようと思います。


 なんやかんやあって、彼は遊戯王世界に転生したのだった。

 

 彼は大喜びであった。

 

 遊戯王は大好きであったし、遊戯王の原作も好きであった。

 もちろん、カードゲームせずに罰ゲームしている原作初期も大好きである。

 

 彼は元の世界の『遊戯王』を原作世界の『デュエルモンスターズ』に持ち込める力があった。

 さらにその力を通じて、元の世界に時折帰り、新たにカードを仕入れてくることも可能であった。

 

 彼は高度な技術、ソリッドビジョンによりモンスターが空間に投影されるデュエルに歓喜した。楽しい、なんて面白いんだ。

 

 女の子のカードがウィンクをしてくれたり、切り札カードたちが咆哮を上げてフィールドを暴れまわる。

 3DやVRなんて比較にもならない、まるで命が宿ったようにカードたちがフィールドでしのぎを削って戦う姿は、言葉にできないほどに美しかった。

 

 そして彼は遊戯王の原作の世界を一人で楽しみに楽しみ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……あかん、なんかもやもやする」

 

 ──一人でいることがさびしくなってきた。

 

 彼は世界を動かす強大なカードたちを持っていた。

 原作のオカルト知識や、転生することで得たパワーにより、世界を征服できるだけの力を持っていた。

 

 しかし、原作を知っている身としては、世界を征服だなんてする気も起きなかった。

 

 だって原作のキャラクターたちって、とんでもないんだもの。

 

 神に宇宙、闇の力や古代文明の力にだって負けやしない。

 持ち前の運命力によって、すべての困難を乗り越えて勝利にたどり着く。

 

 そんな遊戯王世界の住人の力を彼は痛いほどに知っていたので、自分の力を悪用することは望まなかったというか、俗人なので考えはしたがすぐにあきらめた。

 

 そしてそんな激しい戦いが巻き起こる遊戯王世界、そのストーリーの中に飛び込もうともしなかった。

 

 闇のゲームは怖いし、そもそも原作のキャラたちが好きなのに、そのストーリーや輝きを自分なんて存在で曇らせたくはなかったのである。

 

 なので変な影響は与えたくはないと思い、誰かに彼のカードたちを見せることもなく、一人でソリッドビジョン遊びをして過ごし、気が付いたらバトルシティ編は終了していた。

 

 彼は神同士の戦い、ヲーでないラーの威風溢れる姿に感動した。やっぱOCGのラーはヲーでパチモンであると確信した。

 そして、この世界における自分の在り方に、なんとも言えない気持ちになった。

 

 彼はどうしようもなく普通の人間であり、俗人であり、そしてこの世界で孤独であることに耐えられなくなってきたのだ。

 

 面白いことがしたい。自分もこの世界を楽しみたい。仲間が欲しい。バカなことをみんなでお祭りみたいにやりたい。

 かといって、もはや原作に関わっていこうとは思えない。怖いし何かいやだったからだ。

 

 「思いっきりやりたいなぁ。うららを使われていた時が懐かしい。ゴキブリも見たいし、ドロールアンドロックバードされて舌打ちしたい。墓穴の指名者でブチぎれたい、ニビルでフィールドめちゃくちゃにされたい」

 

 あまりに精神が追い込まれすぎて、ちょっと危うい方向にいきかけていた。

 

 「どうしようか、どうすればいいか」と悩みに悩んだ末に、彼はある結論に至ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──あ、そうだ。自分と同じ世界の奴らも、こっちに呼んだらいいんじゃない?

 

 と。

 

 そうと決まれば話は早い。

 ネットでコミュニティを作り、そこからオカルトパワーを使って魂(カー)が綺麗な奴らを選別しよう。

 

 うん、あとは肉体が原作世界の人間ではないと、いろいろまずいことになるだろう。

 しかし、今ある体を捨てさせる。言ってしまえばある種の殺人になってしまうことは避けたい。

 

 同志たちだってあちらの現実の生活が大切だろうから、仮の肉体、そう、バーチャルな肉体をあちらで作成し、こちらの世界に形成して魂だけ持ち込める仕組みを作り上げれば……。

 

 同志たちが遊べる世界は、異空間を作り上げればいいか?

 そうすれば懸念するべき、原作世界に与えるカードのパワーによる影響は少ないだろう。

 

 「そうと決まれば……やってみるか」

 

 そうして彼は遊びだしてしまった。

 同志を募り、掲示板にてアイデアを出し合い、彼らのバーチャルな肉体と対面してソリッドビジョンのデュエルを楽しむ。

 

 そうして遊びに遊びまくった結果、同志たちとともにだんだんと理性が外れていって……。

 

 「うん、どうせお祭り騒ぎにするなら、デュエルはできないにしても、こっちの世界の人たちと少しだけ関われる仕組みがあったら面白いかな。見てもらうだけだったら……セーフ?」

 

 同じジャンプの主人公、銀さんの「一時のテンションに身を任せる奴は身を滅ぼすんだよ」 という言葉を、後々管理人となった彼と、同志となった彼らはいやというほどに痛感するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新サービスとして突如、公開された動画投稿サイト『にやにや動画』。

 

 誰でも自由に動画を投稿することが可能。さらにはリアルタイムによる生放送も行うことができる。

 

 そしてこの動画投稿サイトの最大の特徴は、コメントを投稿した際に、動画のテロップ上で表示されるという斬新な機能である。

 

 視聴者は動画の盛り上がりを視聴者全員と共有することが可能であり、生放送においては特別なソフトがなくとも配信者と視聴者がコメントを通してリアルタイムで交流を図ることができる。

 

 『にやにや動画』が公開された当初、目ざとい有識者たちはこのサイトとその機能に強い関心を寄せた。

 

 だが、まだまだネットというものが多くの人々にとって遠い存在であったこともあり、大多数の人々には認知されなかった。

 

 しかし、その『にやにや動画』における公式配信。

 『チーム俺たちの裏デュエル』によって、この動画サイトの存在は驚きをもって世界に迎えられ、一瞬にして多くのデュエリストに認知されることになる。

 

 

 

 パソコンの前に、一人の男が座っていた。

 名前はマイク。彼は一人のパソコンオタクであり、超有名カードゲーム『デュエルモンスターズ』のデュエリストであった。

 

 そんな彼は……パソコンの画面にくぎ付けになり、言葉を失ってしまっていた。

 

 デュエルするのは二人の女性デュエリスト。

 

 片方は肌がこんがりと小麦色に日焼けし、派手に服装を崩したハイスクールガール。

 もう片方はドルイドのような魔法使いの服装をした幼い少女。

 

 どちらも見目麗しく美しい。

 だが、重要なのはそこではない。デュエルのタクティクスだ。

 

 『きゃはっ☆【隣の芝刈り】を発動するぞ☆デッキから相手のデッキとの差分のカードを墓地に送っちゃう☆』

 

 『墓地にデッキから大量のカードを送るなんて、気でも違えたかッ!?くぅ、このコメントを一度でいいから言ってみたかったのですよー!』

 

 『そのノリ最高だぞ☆墓地の【馬頭鬼】を除外し効果発動、墓地からアンデット族を一体特殊召喚することができる☆そして、【ワイトキング】を特殊召喚ッ!!☆』

 

 現れたのは、デュエルモンスターズにおいて最弱と呼ばれる【ワイト】によく似た名前のモンスター。

 土を掘って現れたガイコツが、ゆらりと立ち上がり目を爛々と輝かせる。

 

 そのレベルは───ワイトと同じレベル1。

 

 レベルはそのモンスターの強さを表す。

 先ほど上げた【ワイト】もレベル1。レベル1のモンスターを特殊召喚したところで壁になることも出来ないだろうに。

 

 生放送の映像に流れていくコメントからは驚き、戸惑いと嘲り。

 

 かの決闘王も使用した超有名で高級なカード、【死者蘇生】に類する【馬頭鬼】というカードの強力な効果。

 そしてそんなカードを使用して、わざわざ特殊召喚されたのが【ワイト】カテゴリーのレベル1。しかも攻撃力は驚きの【?】。

 どう考えても強力な【馬頭鬼】の効果を無駄遣いしているようにしか見えない。

 

 

『ワイト……キング?』

『え、【ワイト】ってあの【ワイト】?』

『【ワイト】って他にもいたのかよ!?しかもキングってマジかよ!?』

『おいおい、見たことないカードのオンパレードじゃないか』

『レベル1の最弱モンスターをわざわざ特殊召喚するって……プレイングミスか?』

『さっき20枚近く墓地に送ってたしなぁ。この子、可愛いけどデュエル初心者なんじゃないの?』

『ごめん、【馬頭鬼】っていつ墓地に送られたの?ズルしているならデュエルディスクがアラームを鳴らすはずなんだけど、壊れてる?』

『いや、私にはわかる。さっきの【隣の芝刈り】によって【馬頭鬼】は墓地に送られていたようだ』

『え、あんなデッキから大量に墓地に送るなんて頭おかしいカードに、メリットもあるってこと?』

 

 

 マイクの額から、汗が一筋流れ落ちた。

 

 今、この配信を見ている連中はバカしかいないのだろうか?

 

 この配信に登場する『裏デュエリスト』と名乗る連中は、どいつもこいつも恐ろしいデュエルタクティクスを持っている。

 現役のプロたちに匹敵するであろうそんな『裏デュエリスト』が、初心者のようなミスを犯すとはとても思えない。

 

 まて、【隣の芝刈り】で送られたカードは20枚以上?

 

 どうしてそんなに多くのカードを送る必要がある?

 【馬頭鬼】を墓地に送ることが目的であるのであれば、もっと他のカードもあるはずだ。

 なぜ、あんなバクチのような、大量のカードを墓地に送るカードをわざわざ使用しているのだろうか?

 

 「ッ!!」

 

 目に飛び込んできたのは【ワイトキング】とハイスクールガールが呼んだモンスター。

 

 【ワイト】ではない、【ワイト】の王を名乗るキング。では、やはりキングと名乗るだけの能力をもっているのではないか?

 

 何かをミーは忘れている。

 そうだ、ワイトは効果を持たないノーマルモンスターだが、そのカードテキストにはなんと書かれていた?

 

 確かあれは……。

 

 「『攻撃は弱いが集まると大変』……?」

 

 アンデット族は【馬頭鬼】のように墓地に干渉するモンスターが極めて多い。

 もしや、集まるのはフィールドではなく───墓地のことなのかッ!?

 

 『【ワイトキング】は墓地の【ワイト】の数×1000ポイントの攻撃力になるぞ☆』

 

 

『なんだその効果ッ!?』

『え、墓地に【ワイト】がいれば攻撃力が上がる!?』

『驚いた、デッキに入れられる【ワイト】は三枚。つまり、最高攻撃力は【青眼の白龍】に匹敵する3000ってことか』

『【青眼の白龍】と同じとか、本当にこれがワイトなのかよ!?』

『え、【ワイト】って最弱のモンスターじゃないんですか?』

『あいつは【ワイト】じゃない、【ワイトキング】なんだよ!』

 

 

 カチカチと歯を打ち鳴らすガイコツの王に、ドルイドガールは一歩後ずさる。

 

 『っく、同名カードは三枚までデッキに入れられる。先ほどの【隣の芝刈り】で、【ワイト】を三枚も墓地に送ることに成功したというのですかッ!?』

 

 『いやー、そうはうまくはいかなくってさ☆墓地に【ワイト】は1枚しか落ちなかったぞ☆』

 

 「え?」

 

 マイクは思わず声を漏らした。

 

 

『悲報、【ワイトキング】の攻撃力1000』

『強い効果ではあるんだが、あるんだが……』

『キングであっても所詮は【ワイト】なんだなぁ』

『使いこなせれば強そうだが、彼女の言う通り運は必要のようだな』

『びっくりさせんなよ』

 

 

 『しかし、この圧力は明らかに1000の圧力では……ッ!』

 

 『そのとおり☆墓地にある【ワイト夫人】・【ワイトプリンセス】・【ワイトベイキング】・【ワイトメア】の7体はそれぞれ墓地では【ワイト】扱いになるのだ☆』

 

 『なっ!?』

 

 『しかも、実は【ワイトキング】は墓地の【ワイトキング】の分も攻撃力が上がるのだドドン☆墓地の【ワイトキング】は1体、それを含めるとフィールドの【ワイトキング】の攻撃力は───』

 

 

 

 

 『───9000だゾ☆』

 

 

 

 ハイスクールガールの瞬きとともに、映像に流れる字幕が途絶えた。

 

 だが、これは決して動画配信サイトに異常が起こったわけではない。

 このデュエルを見ている視聴者全員が、その攻撃力に驚き、手を止めて言葉を失ったからだ。

 

 ハイスクールガールがその豊満な胸を天に突き出し、満足げに「フンス」と鼻を鳴らした時。

 ようやく視聴者たちは我に返り、これまでの反動のように映像に滝が流れるような数の字幕が表示されていく。

 

 

『9000!?9000!?』

『嘘だろ、こんな攻撃力見たことないよ!!』

『すごい!』

『あの【青眼の究極龍】ですら攻撃力は4500だぜ!?ありえない!!』

『あれは本当に【ワイト】なのかい!?誰だよ最弱っていったやつは!?』

『え、【ワイト】にファミリーがいるの!?』

『家族を持ったやつは強いってことだな!』

『強すぎだろ!?というか、今何種類の【ワイト】がいるって言ったんだよ!?』

『4種類だ!それが3枚ずつ入れられて【ワイト】も3枚入れられるわけだから……』

『え、最高で15000の【ワイトキング】が3枚フィールドに並ぶこともあるってわけかよ!?』

『あはは、もう笑うしかないね』

 

 

 『というわけで【ワイトキング】でダイレクトアタックだー!☆』

 

 『ふざけないでくださいッ!!そんな攻撃くらってたまるものですかッ!?私は手札から【クリボー】を捨てて、その攻撃のダメージをゼロにしますッ!!』

 

 一瞬だけ黒いモンスターがドルイドガールの前に現れたが、すぐに【ワイトキング】の攻撃によって吹き飛ばされた。

 それを見ていたドルイドガールが、顔を青くして油の切れたブリキ人形のようにして、不貞腐れ気味のハイスクールガールに顔を向ける。

 

 『ぶー、ずるいぞー……』

 

 『いくらソリッドビジョンとはいえ、流石にそんな攻撃力をこの小さな体で受けたら、めっちゃ吹き飛ばされますよ!?アニメ見たことないんですか!?私を殺す気ですかあんたは!?』

 

 動画のコメントは【クリボー】の効果で沸き立っている。

 決闘王が使用したカードは、そのプレミア性から軒並み高額になっており、大きな大会でもそうそう見かけることがないからだ。

 

 これで返しのターンが回ってくるドルイドガールが、どのようにしてあの強大な【ワイトキング】を倒すのか見ものだな。

 

 マイクは画面にかじりついたが、次のハイスクールガールの言葉に目を見開く。

 

 『でも、ふっふっふー☆私のバトルフェイズはまだ終了していないぜ☆』

 

 『ひょ?』

 

 ドルイドガールが動揺したように体をプルプルと震わせ、自分の身を守るかのように抱きしめる。

 

 『い、いや、もうあなたのフィールドのモンスターは全て攻撃し終わっているじゃないですか!?仮に墓地に二枚目の【馬頭鬼】がいたとしても、バトルフェイズ中に効果を発動することは出来ないはずです!』

 

 あのカード、1ターンに何回も使えるのか。

 マイクは驚いたが、それ以上に重要なのは、あの不敵な笑みを浮かべる小麦色のハイスクールガールだ。

 

 場にトラップがあるのであれば、【リビングデッドの呼び声】などの蘇生カードで追撃が可能だ。

 だが、彼女の場には伏せカードは存在しない。となれば、いったい彼女は何をするつもりなのだろうか。

 

 くそ、わくわくが止まらないぜ。

 

 そしてハイスクールガールは、勢いよく手札のカード1枚をデュエルディスクに発動する。同時に、ドルイドガールの絶叫がマイクの耳を破壊した。

 

 『速攻魔法、【時の飛躍-ターン・ジャンプ】を発動するゼ☆』

 

 『え、そんなカード遊戯王に……。って、あ、あああああああああッ!?』

 

 痛い。めっちゃくちゃ耳が痛い。

 

 流石に鼓膜は破れていないようだが、よくもまぁあんな小さな体で、あんな大きな声が出せるものだ。

 星がキラキラと視界の前を回っているが、なんとかデュエルに目を戻す。

 

 しかし、【時の飛躍-ターン・ジャンプ】なんて貴重なカードをまさかこんなところでお目にかかれるとは。最高じゃないか。

 

 『このカードはバトルフェイズ中に発動することが可能、このフィールドは3ターン後のバトルフェイズまでスキップされるんだゼ☆』

 

 『おま、おま、や、やりやがりましたね!?』

 

 『そして、この3ターン後のフィールドの【ワイトキング】はまだ攻撃を行っていないんだなぁ☆』

 

 『ちょ、管理人さんこの人やってますよ!?誰ですか持ち込んじゃいけないカードを持ち込みやがったのは!?』

 

 『というわけで、【ワイトキング】もっかい行ってこーい☆』

 

 『そんなん許されるんだったら、私だって【黄泉天輪ホル───】って、ぐわぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁッ!?』

 

 少女の手前に叩き落された【ワイトキング】の一撃。

 その衝撃と風圧によって、ドルイドガールがコロコロと後ろに転がっていく。

 

 画面には「【小麦ガール】WIN」の文字。

 小麦肌のハイスクールガールがブイサインと満面の笑みをカメラに向けると、今回の放送は終了となった。

 

 デュエルの後にも先にも、大会で見られるような勝利者インタビューや運営のコメントといったセオリーはない。

 不定期に放送されるこの『チーム俺たちの裏デュエル』は、ただ純粋にデュエルのみを見せつけてくれる。

 

 そう、デュエルのみ。

 そしてそのデュエルこそ、有名デュエリストとの対決であってもなかなか見ることができないような、恐ろしくも美しい、スペクタクルなデュエルなんだ。

 

 マイクは放送終了後に、すぐに仲間たちに連絡を取った。

 仲間たちもあのデュエルを見ていたようで高揚し、興奮した様子であった。

 

 回を重ねるごとに、『にやにや動画』の名前は、その公式放送である『チーム俺たちの裏デュエル』の動画は有名になっていく。

 

 やがて一般の人々がその存在を知って競って『にやにや動画』に登録していき、有名なプロデュエリストたちが『チーム俺たちの裏デュエル』に闘志を燃やすまで、そう時間はかからなかった。




◎小麦ハイスクールガール

ロールプレイガチ勢の遊戯王プレイヤー
セットでスターチップを手に入れ、遊戯王を始める。
だが始めても周りにやっている同年代の友人がいなかったためにスターチップは増えも減りもせず、片づけを忘れたスターチップに気が付いた時には、ゴミとして母親に捨てられていた過去を持つ。
外見は完全に彼のギャル趣味である。
胸もカードの攻撃力もでかいほうがいいと思っている。

◎ドルイドガール

どうせだったらちっちゃい女の子になりたいと思ったサラリーマン。
だが所詮中身は汚いので、微妙に隠しきれていない。
どうせみんなに見せるんだったらと、意気揚々と回るかわからない遊戯デッキを作るロマン派勢。
結果、ボコられたのでガチブラマジデッキを作った模様。

◎遊戯王世界

アニメのノリや世界観を見ていると、OCGのカードパワー見たらこんな感じになるのかなって妄想。妄想って楽しい。

◎【時の飛躍-ターン・ジャンプ】

ぶっ壊れカード。これ1ターン目に使ったらもしかしてアタックできるのだろうか。

◎【黄泉天輪】

ぶっこわれカード。あかんでしょ。


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チーム俺たち掲示板回①

よくやく目的の掲示板ネタ。
うまく書けたかはわからないけれど、楽しいし書きやすかったです。


1:管理人

今回のデュエリストのお二方。

並びに観戦者の皆様。

ありがとうございました。無事に今回も盛況のうちに終わることができました。

また次も、この調子で一丸となって頑張ってまいりましょう!

 

2:デュエルマッスル

良きデュエルであったな。

 

3:メイドラゴン

コメ欄がみんなノリ良すぎで最高だった。

なんかさぁ、こういうエンターテイメント性があるってわかっただけで幸せ。

 

4:小麦ギャル

めっちゃくちゃ楽しかったゾ☆

コメント見ながらデュエルしてたんだけど、みんなたくさん驚いて楽しんでくれて良かった☆

 

5:満足民

小麦ギャルさんお疲れ様でした!

視聴者さんからもめっちゃ反響良かったしね。

 

 

 

 

でもね、一発目隣の芝刈りは犯罪でしょ(震え声)

 

6:小麦ギャル

ドーハスーラ立てて無かったし、ワイトプリンスも落ちて無かったからセーフ☆

 

7:ソリティアガール

小麦ギャルさんは先行じゃなくて後攻。

しかも魔女っ子さんは妨害をちゃんと構えられていない。

おまけに手札にうららも持っていないのが悪いから、小麦ギャルさんはセーフだと思う!

 

8:誇り高き対魔忍

お、おう。そうなのかしら?

 

9:ヌメヌメエッチ

遊戯王世界と比べて、我々OCG民の心のなんと荒んだことか(白目)

 

10:機甲娘

大火力、大火砲は大正義なのであります!

ワイトキング殿の素晴らしい戦いに、私の胸の鼓動が高まり続ける次第であります!

 

11:エイリアン☆エイリアン

>8

>9

少なくとも、あんたらのコードネームは荒むどころか荒廃していると思うの。

遊戯王世界に変なの持ち込もうとするんじゃないの。

 

12:誇り高き対魔忍

>11

私には、全国のデュエル少年を際どいカードを使って目覚めさせるという崇高な使命があるの。

なんのためにアバターもこんなエチエチなガワにしたと思っているのよ。

 

13:ヌメヌメエッチ

え、私こいつと同列扱いされるの?流石に抗議するわよ?

ヌメヌメエッチは別にいやらしい意味はないわ。

OCGからある由緒正しいデッキ名なんだからね?

 

14:モリンフェン最強

モリンフェン最強!モリンフェン最強!

 

15:メイドラゴン

ああ、うん。なんていうか、みんないつも通りだね。

 

16:リアリストだ!

俺、よくわからないんだけど、中身男な人が女のガワにするとおかしくなるん?

普通にリアルと同じ性別、同じ感じでガワ作ったんよね。

 

17:メイドラゴン

女のガワにしたものの、普通に男のつもり。

だからこいつらは元がやばいってことだと思うで。

 

18:ヌメヌメエッチ

いや、私はクール美女にしたけど、中身は普通だからね?

それにデッキ名は普通にあるデッキ名だって言うとるやろがい。

ヌメロンとエルドリッチやぞ、強いやつと強いやつを掛け合わせたら素敵やん。

 

19:黒髪ロングは正義

ならばヌメエルドでよいではないか?何ゆえに語尾のエッチを採用するのじゃ?

 

20:ヌメヌメエッチ

……だって、ヌメヌメエッチの方がなんかいいじゃん。

 

21:エイリアン☆エイリアン

それがヌメヌメとエッチにシンパシーを感じるってこと自体。

それをネタとして笑えること自体、すでに階段を駆け上がっている証なの。

諦めろなの。

 

22:モリンフェン最強

モリンフェン最強!モリンフェン最強!

 

23:リアリストだ!

まぁ、そんな楽しみ方もあるんかなぁ。

うちは否定せんよ、楽しくやるために集まったんだから、そんな趣向もええんでないの?

 

24:機甲娘

人はいろいろな性癖があるでありますが、みな尊いのであります!

思いっきり胸を誇るといいであります!

私も軍服娘は大正義だと思うであります!眼鏡をつけてるとなお良しであります!

 

25:ヌメヌメエッチ

機甲娘さん、リアリストだ!さん……!!

 

26:誇り高き対魔忍

いいじゃないのヌメヌメエッチ。

女の子キャラを粘着落とし穴に落としたりとかしないの?

めっちゃくちゃヌメヌメしてエロイわよ?

 

27:メスガキわからせたい

>26

お前、私のウィッチクラフトの時だけ蟲惑魔使ったのってそれが理由?

 

28:誇り高き対魔忍

……わからせてあげたかったのよ。

 

29:メスガキわからせたい

>28

グッジョブ!

 

30:わくわくアーゼウス

ここはもうだめだ、メルフィの森と一緒に燃やそう

 

31:満足民

いつも燃えているメルフィの森に草

 

32:小麦ギャル

むしろ自分で乗り込んで燃やしてるもんな☆

 

33:デュエルマッスル

性欲が強いのであれば、筋トレが一番発散できるぞ?

流石はデュエリストの肉体だ、パワーが違う。

皆も一緒に筋トレをやるべきだ。

 

34:エイリアン☆エイリアン

ザ・魔雲天の擬人化が何か言ってるの。

せっかくだから、誇り高き対魔忍を筆頭に何人か面倒見てもらうといいの。

 

35:黒髪ロングは正義

デュエルマッスル殿のトレーニングはみな死んでしまうぞ。

なぜ滝に打たれながらドローの練習をするのじゃ?

 

36:デュエルマッスル

何って、あれが一番ドロー力を鍛えられるからだが?

 

37:ソリティアガール

 

38:リアリストだ!

 

39:ヌメヌメエッチ

 

40:モリンフェン最強

モリンフェン最強!モリンフェン最強!

 

41:満足民

???

 

42:機甲娘

なるほど!ドロー力でありますか!

確かに、最重要強化項目でありますな!

今度ご一緒させていただいても、よろしいでありますか?

 

43:デュエルマッスル

ああ、かまわない。

安心してほしい、我々のこの肉体は見た目以上に頑丈だ。

なにせ、我々はデュエリストだからな。

 

44:機甲娘

そうでありますな!我々はデュエリストであります!

この身は鋼以上、負けないのであります!

 

45:メイドラゴン

あー、うん。

そっかぁ。ここは遊戯王世界だもんなぁ。

 

46:ペンギン大好きお姉さん

え、うちも鍛えた方がいいの?

というか、本当に鍛えられるの?

わかるけど、わかりたくないような?

 

47:小麦ギャル

運命力はなんか鍛えられるっぽいゾ☆

私も精神集中したり、カードと心交わすつもりであれこれしたら、あのデッキ初手芝刈り9割なんだゼ☆

 

48:リアリストだ!

え、マジ?

だったら俺もやろうかなぁ。

あれでしょ、リンクスの個別キャラ能力みたいなものってことでしょ?

 

49:ソリティアガール

あー、盲点だったわ。

そうよね、もう私たちって遊戯王世界の住人なんだものね。

 

50:わくわくアーゼウス

あいつら、マスターデュエルのソロモードデッキみたいなデッキでぶん回すからなぁ。

 

51:満足民

え、マジで言ってるの?本当だったら、より満足するために俺もやるわ。

初手ほしいの来やすくなるとか、めっちゃ入れたいパーツ増やせるじゃん。

満足するしかねぇわ。

 

52:メスガキわからせたい

小麦ギャルさんのあのデッキって60枚デッキでしょ?

芝刈り何枚積み?やっぱり3枚?

 

53:小麦ギャル

1枚だぞ☆

2枚以上あっても使わないし、なんか来るようになったから、最初3枚入れていたけど、2枚抜いちゃった☆

 

54:誇り高き対魔忍

……それは、すさまじいわね。

いや、最初は「抜いた」に反応して下ネタをぶっこもうと思ったけど、気持ちが冷めるぐらいにはすさまじい話だわ。

 

55:機甲娘

誇り高き対魔忍殿が冷静になるとは、明日は最終戦争でありますな!

 

56:ヌメヌメエッチ

いやいやいや、60枚デッキに1枚で初手9割?

もうオカルトの領域じゃないの。

 

57:ペンギン大好きお姉さん

まぁ、もうここにいてリアルバ美肉してること自体がオカルトなんだけどねー。

 

58:エイリアン☆エイリアン

理想の自分に物質的になれたことに大感謝なの。

それはそれとして、小麦ギャルさんの話にはマジで背筋が凍るの。

流石遊戯王世界なの。ぶっ飛んでるの。

 

59:小麦ギャル

今は難しいけど、そのうち10割いけそうな気がするゾ☆

 

60:黒髪ロングは正義

常識に囚われてはいけない、ということかのう。

まぁ、既にこんなありえないオカルト体験をしておるのじゃ、慣れるしかあるまいて。

 

61:モリンフェン最強

私、モリンフェン初手召喚成功率100%よ。

やっぱりこれって気のせいじゃなかったのね。

 

62:ネオニュー沢渡ちゃん

モリンフェン最強さんって、「モリンフェン最強」以外話せるんですね……。

 

63:リアリストだ!

正直、荒らしだと思ってました……。

 

64:ソリティアガール

あんた喋れるの!?

 

65:モリンフェン最強

正直ごめん、ガワに設定したやつの反映が強すぎるっぽい。

かなり意識をしっかりと持たないと、今は普通の会話ができない。

今回はモリンフェンの話ができるから普通に戻れたっぽい。

 

66:誇り高き対魔忍

え、それってロールプレイじゃないの?

 

67:モリンフェン最強

最初はそのつもりだったけど、最近はマジ。

モリンフェンとのシンパシーが強すぎて、他のデッキを使うと100%事故る。

その代わり、モリンフェンデッキを使うと100%やりたいことができる。

 

68:黒髪ロングは正義

それは難儀よのぉ…。

 

69:オカルトガール

こんばんは……。

ようやく仕事が終わりました……。

間に合わなかった……病む……。

 

70:金髪ドリル令嬢

遅れましたわ!

とても盛り上がったみたいですが、今回のデュエルはどうでしたの?

 

71:モリンフェン最強

モリンフェン最強!モリンフェン最強!

 

72:メイドラゴン

あ、元に戻ってる……。

お二人さんこんばんは。

 

73:エイリアン☆エイリアン

話題が本筋に戻ってしまったから、モリンフェンの話ができなくなってしまったせいなの。

哀れなの。

二人共こんばんはなの。

 

74:金髪ドリル令嬢

……え、モリンフェン最強さんのは行き過ぎたロールプレイじゃありませんの?

私はヌメヌメエッチさんみたいに、残念美人の一人だと思っておりましたわ。

 

75:ヌメヌメエッチ

訴訟

 

76:満足民

ヌメヌメエッチさん、黙ってればマジでクールビューティーなのに……。

 

77:誇り高き対魔忍

朗報、小麦ギャルちゃん原作壊れカードを使う。

 

78:ソリティアガール

悲報、小麦ギャルさん原作壊れカードを使う。

 

79:オカルトガール

……原作カード?

 

80:機甲娘

時の飛躍ターンジャンプであります!

速攻魔法、3ターン後のバトルフェイズに時間を飛ばす激強カードでありますな!

 

81:デュエルマッスル

原作で主人公の表人格が使ったカードだと記憶している。

 

82:オカルトガール

え、時を飛ばすですか?

それって、私のオカルトデッキのウィジャ盤に2枚使ったらどうなるのでしょうか?

 

83:リアリストだ!

 

 

84:ソリティアガール

 

 

85:わくわくアーゼウス

6ターン飛ばされるわけだから、ウィジャ盤のデスが揃った状態でターンを迎えるんでないの?

いや、やっぱあれって。頭おかしいな。

 

86:金髪ドリル令嬢

え、原作カードが使用できるんですの!?

てことは原作の天よりの宝札も使えるって……ことですの!?

 

87:エイリアン☆エイリアン

やめろなの。一番情報渡したらいけないやつに渡すんじゃないの。

 

88:黒髪ロングは正義

リアリストだ!殿、ソリティアガール殿、金髪ドリル令嬢殿の三銃士のデュエルは勝利実直のガチ勢だからのぉ。

せっかくこの世界に来れたのじゃし、もう少し遊びがあっても良いと思うぞ?

 

89:メスガキわからせたい

この3人は特に殺意の塊過ぎるからなぁ。

 

90:リアリストだ!

俺、原作未読でアニメもネタぐらいしか知らないOCG勢だったけど、もっといろいろ勉強してくるわ。

ちなみに原作の天よりの宝札ってどんな効果なん?OCGカードではひどい効果だったけど?

 

91:金髪ドリルお嬢様

お互い6枚になるまでカードを引くですわね

 

92:リアリストだ!

 

93:小麦ギャル

お互いに6枚になるまでカードを引くんだゾ☆

 

94:リアリストだ!

え???

デメリットは?

 

95:誇り高き対魔忍

そんなものはない。

 

96:リアリストだ!

 

 

 

97:ペンギン大好きお姉さん

ポケモンカードかな?

 

98:リアリストだ!

ごめん、疲れたからもう寝る。

原作甘く見ていたわ……。

 

99:エイリアン☆エイリアン

しっかり休んでくるの。

我々が安易に外に出ていけない理由がそこにあるの。

小学生が考えたような激ヤバカード使われるのに、命かける闇のゲームとかほんと割に合わないの。

 

101:ヌメヌメエッチ

真面目な話をしたい。

そもそも私達は原作カードに関われない身ではなかったのか?

シンクロや青眼といった世界に影響を与えたり、その設定を崩しかねない召喚方法やカードは、この放送において禁止されていたはずだが?

 

102:小麦ギャル

私が使ってみたいとお願いしたんだゼ☆

 

103:メイドラゴン

管理人さんはギャル好きだったか

 

104:満足民

クールビューティーは時代の敗北者じゃけぇ

 

105:誇り高き対魔忍

むぅ、ピチピチスーツの忍者お姉さんでは駄目か?

エロいぞ?

 

106:ヌメヌメエッチ

お前ら初手にモリンフェン3枚来る呪いかけてやる

 

107:モリンフェン最強

それ、私のデフォなんだよなぁ……。

 

108:わくわくアーゼウス

草はえまくってもはや森。アーゼウスに乗って森は燃やさないと。

 

109:管理人

他の方からお願いがなかったので、これまでお渡しをしてきませんでした。

神などの特別なカードではなく、高価ではあるものの、外で普通に入手可能で使われているカードです。

そのため、生放送に問題はないかと許可したのですが……。

視聴者の皆様には問題なかったようです。むしろ、皆さんはワイトキングやクリボーに注目していました。

 

110:デュエルマッスル

それは流石に、言葉が見つからないな……。

 

111:満足民

ワイトキング、クリボー>時の飛躍タイムジャンプ

これはクリボー禁止待ったなしですわ。

 

112:わくわくアーゼウス

訂正、この現状は森どころかもうぺんぺん草も生えてない。なんも燃やせないわ。

 

113:黒髪ロングは正義

シンクロといった召喚方法、青眼の白龍といった訳ありカードが放送で使えないことは十分納得しておる。

しかし、それ以上にやばいカードが外では普通に使われすぎじゃろう……。怖いのぉ。

 

114:金髪ドリル令嬢

だが、それがいいじゃありませんの!

いろいろとリアルでは叶わなかった夢のコンボがいくつも思いつきますわ!

楽しみですわ!

 

115:メイドラゴン

金髪ドリル令嬢さんは、ほんっと気をつけてくださいね?

この世界、リスペクトとかエンタメとか割と皆さん大事にしてるんですからね?

上島○兵みたいなフリじゃないですからね!?

 

116:エイリアン☆エイリアン

OCG世界みたいに、この世界のデュエルモンスターズプレイヤーたちは汚れていないの。

肥えてもなお飢え続ける遊戯王プレイヤーと一緒にしたら失礼なの。

満足しようとするのではなく、足りることを覚えるべきなの。

やはり人間は愚かなの。モルカーを見るの。

 

117:満足民

え?満足?

 

118:ペンギン大好きお姐さん

満足民は満足に飢え続けないと死んじゃう人たちだから……。

 

119:ネオニュー沢渡ちゃん

ところで今日デュエルした魔女っ娘さんの姿が見当たらないのですが……

 

120:機甲娘

魔女っ娘殿は先ほど会社に呼び出されてしまい、リアルに出撃したであります!

 

121:オカルトガール

あの、今ってリアルだと夜の11時……。

 

122:ソリティアガール

ほら、リアルは労働基準法に闇晦ましの城の効果がかかっているから(目そらし

 

123:誇り高き対魔忍

誰か原作みたいに光の護封剣使ってあげなさいよ

 

124:わくわくアーゼウス

残念、リアルには闇の護封剣しかないのでした。

 

125:黒髪ロングは正義

世知辛いのぉ……。




◎モリンフェン最強

馬鹿みたいな話を見つけたので、ノリと勢いで馬鹿みたいな設定にしてガワを制作した結果、この様だよと大後悔中。

見た目は清楚にしてお淑やか。
ツンと高い鼻に、陶磁器のように白い肌。濡れ烏色の髪は短く切りそろえられ、その姿はどこか気品が感じられる。

が、口を開けばモリンフェン最強!しか言えないし、モリンフェンのことしかまともに語れない。
ネタとしてガワだけは真剣に作成したため、残念感が香ばしい出来栄え。

実はチーム俺たちの中で一番魂の力が強く、それ故に本人は知らないが既にモリンフェンのカードには精霊が宿っている。

◎労働基準法

禁止制限が守られていない。
ジャッジがまともに機能していない。
体とメンタルのライフがゼロになっても、ダイレクトアタックを受けることがある。


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このカードの性質上、やむを得ないことです。

マスターデュエルでおじゃまを作成していたら、なんか続きができていました。
60枚デッキになり、トライブリゲードと合わさったら強いってことで、結果的にはABCおじゃま鉄獣戦線になったわけですが……。

おじゃまキングもナイトもカントリーも抜けた今、このデッキがおじゃまデッキと言っていいのだろうか。
ハリケーンが入っているから、ギリセーフだと思いたい。

今回処理に困ったカードがありますが、ノリでいきます(´・ω・`)


 異空間に設えられた、オサレなサ店。

 

 そこで椅子に腰かけ、テーブルにノートと本を広げた一人の美女。

 優雅にコーヒーをたしなみながら、「ふむ」と一言。口から漏れ出た音の響きはなんとも心地が良く、気品を感じさせる。

 

 その女性は何かに納得したのか、本から視線をノートに移し、その細い指でシャーペンを握ると書き込んでいく。

 

 「あ、ヌメヌメエッチなの」

 

 そして盛大に頭をテーブルにぶつけた。

 おでこを赤くし、さすりながらなんとかといった様子で顔を上げる。

 

 「エイリアン☆エイリアンさん、その、申し訳ないのだけど、その呼び方はやめてくれないかしら?なんか、ほら、恥ずかしくなってくるのよ」

 

 端正な顔立ちであるが、どこか残念な雰囲気を醸し出している美女の声は震え気味。

 エイリアン☆エイリアンと呼ばれた銀髪の幼い少女は目を見開き、「なんかごめんなの」と謝った。

 

 「あれなの、対魔忍と同じ類と思ってたの。だからむしろネタにしないと失礼だと思ってたの」

 

 「いや、最初はそうだったのだけど……」

 

 気まずげに顔をそむけるヌメヌメエッチに、頭に?を浮かべるエイリアン☆エイリアン。

 

 「流石に野郎の体ならともかく、この体でその名前だと思うと段々と恥ずかしくなってきちゃって……」

 

 「それは……ドンマイなの」

 

 「掲示板ではコードネームがもう変えようないらしいし、身勝手なお願いではあるのだけど、対面の時ぐらいはヌメロンとかそっちの名前で呼んでもらえたら嬉しいわ」

 

 体と魂を紐づけする関係で、コードネームの変更が効かない。

 

 その事実を最初は甘く見ていたのだが……。

 

 この出るところが出ている立派な体。

 そして鏡に映る氷のように白く、美しい顔を見る回数が増えれば増えるほどに、ヌメヌメエッチはなんかもう後悔が半端なくなってきた。

 

 常人が変態のふりをしてはいけない、そんなお手本となるべき人物がヌメヌメエッチである。

 

 対魔忍?

 あれはむしろバーチャルの世界でしか発揮できない性癖を思う存分発揮しているので、気にするだけ損。

 

 「了解したの。ところで、こんなところで何をしているの?ノートに本だなんて、デュエルの勉強でもしているの?」

 

 「いえ、リアルの資格の勉強をしていたのよ」

 

 たまたま会社で資格をとることになり、勉強をする時間が必要になった。

 

 そこで最初は自宅で資格の勉強を行っていたのだが、ある時ふと気分を変えたいと思い立ち、管理人が作り上げた遊戯王世界の異空間へ。

 

 ここはチーム俺たちであれば、ドリンク・軽食が無料のサ店が存在する。

 景観を見るに、どちらかといえばラウンジの方が言葉があっているのかもしれない。

 ではなぜサ店なのかというと、「サ店に行くぜ」と言った某決闘王のせいである。

 

 店員・時間を気にすることなく、無料の飲食が利用できることはとてもありがたい。

 ヌメヌメエッチはそのような理由で、たびたび勉強のためにここを使っていたのだが……。

 

 「この肉体のスペックがいいからか、この世界で勉強をするとね、すらすらと頭に入ってくるのよ」

 

 魂に肉体が引っ張られ、肉体に魂が引っ張られる。

 

 管理人によって作られた肉体は、原作世界のデュエリストの肉体でありとても頑丈。

 さらに設定によって基本的な能力がモリモリになった結果、チーム俺たちの肉体は現実のものとは比べ物にならないぐらいに高スペックになっていたのである。

 

 もっとも、スペックだけ上がったところで、中身がチーム俺たちであることに変わりがない。

 そのため、残念なところは残念なままである。ソースは誇り高き対魔忍。

 

 「こっちで覚えたことは、現実に帰った時に向こうでも覚えていることができる。なら学習能力がとても高い、この女性の体で勉強した方がとても効率がいいのよ」

 

 「……確かに、仕組みはわからないけれど、こちらでデュエルのために体を鍛え始めてからは、現実でもすごく体の調子がいいの」

 

 「このガワの中にいる間に魂が磨かれ、現実世界で私たちの体を補正してくれているのかもしれないわね。想像でしかないのだけれども」

 

 「いい話を聞いたの。今度管理人や他の俺たちにも教えてあげた方がいいの」

 

 記憶能力と情報処理能力、そして身体能力は望んでも中々手に入らないものだ。

 それがここでは持つ側として思う存分能力を奮い、自身を磨くことができる。

 仕事をする人間にとっても、学生にとっても嬉しい話に違いない。

 

 「ところで、エイリアン☆エイリアンさんはどうしてここに?」

 

 「これから金髪ドリル令嬢と生放送デュエルなの。軽く飲み食いしたくて、ここの存在を思い出したの。利用は初めてなの」

 

 その言葉にヌメヌメエッチは何とも言えない表情になる。原因は明らかだ。

 

 「……よりにもよってあの子なのね。気をつけなさい。ここに来てから一番最初に、エクゾディアを使ったのはあの子よ」

 

 他の俺たちが思い入れのあるデッキや、可愛いカード、ロマンカードをソリッドビジョンで楽しもうとする中で、真っ先にエクゾディアに飛びついた俺たちがいた。

 

 頭の中で高笑いする金髪ドリル令嬢の姿に、二人は互いに苦笑して、うなずき合った。

 

 「昨日、面白いデッキが出来たって騒いでいたから、きっとろくでもないやつなの。ま、楽しんでくるの」

 

 「あなたは何を使うの?愛用はエーリアンだったわよね?」

 

 「シンクロやリンクが使えない中で、はりきっている金髪ドリル令嬢を相手にするのはちょっと不安が残るの。あいつ相手なら、他の使っている未知との遭遇デッキでいくの」

 

 「ふふ、楽しみに待っているわね。そうだ、そっちが終わったら私とデュエルしない?もちろん、OCGの基準でね」

 

 「上等なの、シンクロ・エクシーズ・リンクを使うのはやっぱり楽しいの」

 

 会話が弾んで楽しそうな銀髪の幼い美少女と、クールビューティーなお姉さま。その中身は俺たち。

 

 「ここを使い慣れていそうなヌメロンに、ここのおすすめを聞きたいの」

 

 「そうね、ここはブレンドコーヒーがオススメよ。クラブハウスサンドも美味しいけれど、女性のガワなら甘いものが好きになっていない?」

 

 「確かにそうなの。この体は辛いしょっぱいより、甘いものがいいの」

 

 「ならフレンチトーストがオススメね、甘くて美味しいわ。コーヒーとも相性抜群よ」

 

 「めっちゃ旨そうなの。それにするの。ありがとうなの」

 

 口によだれがたまり、エイリアン☆エイリアンはとてとてと急ぎ足でカウンターへ。

 少し高く感じるカウンターは、この小さなガワのせいだろう。

 良いことばかりのガワだが、こればっかりは困りものだと、身を乗り出すようにしてカウンターに乗っかった。

 

 「注文を、お願い……したいの」

 

 コックハットを被った【モリンフェン】がいた。

 

 エイリアン☆エイリアンは思考が止まる。

 

 もちろん、目の前の情報は正しく確認出来ている。

 しかし、高スペックな肉体と脳にも関わらず、何が起こっているのか上手く情報が処理できていない。

 

 ふと横に視線を動かせば、【エンゼル・イヤーズ】と【シーホース】も頭にコックハットを被っていた。

 

 オールスターズである。なんの冗談だ。

 

 『注文は?』

 

 「こ、こいつ。直接脳内に……っ!?ふぁ、ファミチキくださいなの」

 

 『すいません、権利の関係でご提供できません』

 

 「こんなにふざけているのに、そこは真面目なの!?」

 

 慌てて後ろを見れば、ヌメヌメエッチがニヤニヤと笑っている。

 

 こいつ、と思った。きっと分かっていたのだろう。

 エイリアン☆エイリアンは負けじと顔を引き締め、心はワクワクしながら注文の覚悟を決める。

 

 「ブレンドコーヒーと、フレンチトーストなの……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通にめっちゃうまかった。

 エイリアン☆エイリアンはなんか悔しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『あの、大丈夫ですの?調子が悪いのでしたら、他の方をお呼びいたしましょうか?』

 

 向かい合う二人の表情は正反対。

 片方は困惑、片方はなぜか落ち込んでいる。

 

 『……気にしなくていいの。おかしいの。あいつら、あの手?爪?蹄?でどうやってあれを作ったの。不可思議なの』

 

 『……ほんとに、大丈夫ですの?』

 

 『いいからやるの、この理不尽はデュエルで発散するの』

 

 『よくわかりませんが、ならばよしですわ!』

 

 『『デュエルッ!!』』

 

 

 

『始まったぞ!』

『今日は……また見たことないデュエリストたちだ!』

『おいおい、いったい裏デュエルは何人凄腕のデュエリストを抱え込んでいるんだ!』

『あの小さい子かわいいわね!』

『ふむ、立派な金色のカール。それにあの振る舞いはどこかの貴族のお嬢様かな?』

 

 

 

 『おーほっほっほ!先攻はわ・た・く・し!わたくしは手札から【王家の神殿】を発動いたしますわ!』

 

 華美なドレスに身を包み、きらきら輝く金髪は縦カール。

 まるでどこかの貴族のお嬢様のようなデュエリストが、声高らかにカードを発動すると、空間が一瞬にしてエジプトの古代の遺跡に変貌。

 荘厳なアトモスフィアがフィールドを包みこむ。

 

 対する銀髪の幼い少女は顔を憎々しげに歪めながらも、目をキラキラと輝かせた。

 

 『めっちゃきれいなの。エジプトチックはデュエルモンスターズのだいご味なの』

 

 『ですわね!いつかエジプトに聖地巡礼にいきたいものですわ!』

 

 『でもこれ、絶対エラッタ前使ってやがるの、ざけんじゃないの』

 

 『あったりまえですの!王家なのですから、景気よくいかなければ詐欺同然!【天使の施し】を発動!3枚引いて2枚捨てる!そして手札から墓地に送られた【代償の宝札】を発動!デッキからカードを2枚ドローいたしますわ!』

 

 『おい、やめるの。それは絶対やったらいけないやつなの』

 

 『こんな気持ちのいいこと、絶対にやめられませんわ!とまりませんわ!かっぱえびせんですわ!』

 

 『微妙に庶民感覚露呈しているの、しっかりするの』

 

 『ですわ!?』

 

 

 

『最初から【天使の施し】なんて、手札事故か?』

『仲良さそうだなぁ』

『出てくる裏デュエルの人たちって、みんな基本は美男美女で驚くわ』

『鼻の下のばしていると、すぐに死ぬぞ。この前のワイト事件を忘れたか』

『忘れられるかあんなもの。あの翌日、世界のネット検索ワードランキング1位がワイトになったんだぞ?ニュースになって笑ったわ』

『公開されたドルイドガールのプロフィール、嫌いなものの項目にワイトって書かれてて笑った』

『てか、ドルイドガールって、魔女っ娘ってコードネームだったのな』

『どうせこの子たちも、プロも真っ青のデュエルタクティクス持ちなんだろうよ』

『これだけ綺麗ですごいデュエルできるんだから、大きな大会にも参加してくれたらいいのに。絶対に盛り上がるしいい成績残せるだろ。会ってみたいなぁ』

『優勝も狙えるんじゃない?』

『そしたら絶対にサインもらいにいくわ』

『てか、さらりとバトルシティで使われた超レアカードを使っている件』

『裏デュエルではプロですら見たことないカードが使われること多いんだから、もう今更だろ。俺は慣れない』

『慣れないんかい』

 

 

 

 金髪お嬢様は【代償の宝札】によってドローしたカードを確認。満足げにほほ笑む。

 

 『わたくしは手札から魔法カード、【魔術師の書庫】を発動!自分のデッキから好きな魔法カードを1枚を手札に加えますわ!』

 

 銀髪の幼い少女の動きが止まる。

 

 そんな様子を不思議そうに首をかしげながら、金髪お嬢様がデッキからカードを手札に加えた。

 なんとも言えない空気感になっているが、銀髪の幼い少女は震える手で金髪少女に指をさす。金髪お嬢様の頭の上には【?】が。

 

 『つ、続きの効果処理を早くするといいの』

 

 『……え、いや、あのそんなものはありませんわよ』

 

 『嘘つけなの、さっさとコストで手札を全部除外とかするの』

 

 『そんな酷いデメリットはこのカードにありませんわよ!?というか【魔術師の書庫】の効果は説明した以外にございませんわ!?』

 

 『ボールペンくれてやるからデメリット書き込めなの。頭おかしいの。そんなん許されていいわけないの。ぶっとんでるの』

 

 『おーっほっほっほ!由緒正しい主人公の使用カードですわ!ガッチャ楽しいデュエルですわ!』

 

 

 

『銀髪ちゃん、なんかめちゃくちゃぶちぎれている模様』

『確かに強力なカードだが……うん』

『なんていうか、年齢相応に子供って感じがする子がようやく出てきてくれて安心したわ』

『ジュニアデュエルなんて、怒ったり泣いたりが普通だもんな。これまで闇デュエルに出てきた子たちが、年齢の割にみんなやばいんだわ』

『魔女っ娘も普通に伝説のカード、ブラックマジシャンを何回も特殊召喚してくるからね。すごいよ彼女は、是非大会で彼女の雄姿と黒魔導士の活躍を見てみたいよ』

 

 

 

 試合場には現在流れているコメントが確認できるのだが、銀髪の幼い少女はコメントを見て「お前らマジかよ」と驚愕。

 金髪お嬢様も悩まし気に苦笑している。

 

 『ま、まぁ。わたくしも気持ちはわかりますわ。続けてもよろしくて?』

 

 『これが、世界観からくるギャップなの。異文化交流の難しさを改めて痛感するの。ごめんなの、続けていいの』

 

 『ありがとうですわ、それじゃカードを1枚セットして、そのまま永続罠カード【棺桶売り】を発動しますわ』

 

 『む、まさかのカードなの。確か相手のモンスターカードが墓地に送られた時に300ダメージ───』

 

 『違いますわ。この【棺桶売り】、モンスターカードに限らず、相手のカードが墓地に送られた時にそのカード×700ダメージを相手に与える効果ですわよ?』

 

 『おい、カメラ止めろなの』

 

 プリプリと怒り始める銀髪の幼い少女の姿に、コメント欄は裏デュエルらしからぬほんわかな流れになっている。

 

 しかし、銀髪少女にとってはそうはいかない。

 

 『まさかの顔芸神カードなの?というか、そんなやばいカードだったとは知らなかったの。バトルシティで直接攻撃系魔法が全部禁止にするなら、そいつら罠系バーンも軒並み潰せなの。絶対に許すななの』

 

 『まぁ、罠カードは1ターンの猶予があるから許されているのでしょうね』

 

 『その罠カードが今、1ターン目の、この場で発動しているんですがそれはなの』

 

 『王家ってすごいですわね』

 

 『王家ってクソなの』

 

 顔を手で覆って震える銀髪の幼い少女、視線を虚空にさまよわせる金髪お嬢様。

 

 一方、コメント欄はマジックコンボだと盛り上がっていた。

 

 アニメではシャークさんが攻撃力アップ魔法カードを使っただけでマジックコンボになったので、まぁこんなものである。

 少女のメンタルライフはもうゼロだ。

 

 『さて、先ほど手札に加えさせて頂いた魔法カードを発動しますわ』

 

 『さっさと来いなの。もうこれたぶん、私は終わったの。ドロールアンドロックバードはデッキで遅刻してるし、ハネワタは休暇取ってベガスで遊んでいるの』

 

 『【魔法除去細菌兵器】を発動しますわ』

 

 『ほんとろくでもないカードしか出てこないの!?』

 

 銀髪の幼い少女は白目をむいて絶叫した。

 

 少女の髪と同じ色の物々しい細菌兵器がフィールドに出現。照準を少女へと向けた。

 そのリアクションに視聴者たちは困惑を見せるが、一部の視聴者はその恐ろしいコンボの全容を理解し、驚愕。

 

 

 

『【魔法除去細菌兵器】ッ!?あれはバトルシティで海馬社長が使用した幻の魔法カードッ!?』

『あのカードの効果は、まさかッ!?』

『嘘だろ、あのお嬢様、やりやがった!!』

『え、あの、何が起こってるの?』

『魔法カードが銀髪のお嬢さんのデッキから消し飛ぶんだよ!大変だ!』

『おいおい、逆転のカードがなくなっちまうじゃねぇか!』

『違う、違うんだ!それだけじゃない!場にはあのカードがある、つまり……ッ!』

 

 

 

 コメントの一部に理解者が現れたことで、金髪お嬢様はニンマリと嬉しそうに微笑む。

 彼女はこのような目立ち方が大大大好きであった。

 

 『【魔法除去細菌兵器】は相手の手札の魔法カードをすべて墓地に送り、そして相手のデッキから10枚のマジックカードを墓地に送りますわ!!』

 

 『そして場には、【棺桶売り】があるの……っ!』

 

 『そう、この【棺桶売り】はどこぞのへなちょことは違い、同時にカードが墓地に送られてもちゃんとカードの枚数分ダメージを与えますわッ!デッキからも手札からも、送られた数×700のダメージを与えますわ!』

 

 『うわぁ、もうドン引きする以外に何もないの』

 

 『わたくしたちのデュエルのライフは4000ッ!さぁ、【魔法除去細菌兵器】さんやぁっておしまいッ!』

 

 勝利を確信した金髪お嬢様の高笑いと共に、【魔法除去細菌兵器】が細菌ビームを発射した。

 既にコメント欄は先攻1ターン目1ターンキルの可能性に阿鼻叫喚。

 

 容赦のない残酷な金髪お嬢様のデュエルに、コメント欄にいる全員が地獄をのぞいた気持ちになっている。

 

 魔法カードはデュエルの要であり、どんなデッキであっても最低10枚は入っているといっても過言ではない。

つまり、ほぼ確実に少女はこのターンで敗北する。

 

 銀髪の幼い少女に細菌ビームが着弾。

 そして【棺桶売り】の効果が発動。

 

 金髪お嬢様は良い仕事をしたと額の汗をぬぐい、コメント欄はデュエルの諸行無常によりお通夜状態。

そして少女のライフは───

 

 

 

 

 

 

 

 『……はい?』

 

 『めっちゃくちゃ危なかったの。このデッキで良かったの』

 

 金髪お嬢様は、口を開けて呆然とたたずむ。

 少女のライフは尽きていなかったのだ。

 

 少し全身がすすけているものの、少女は恐ろしい【棺桶売り】の効果を乗り切ったのである。

 

 

 

『おおおおおおお!』

『すごい、先攻1ターン目では、防げるカードはなかったのに!』

『ライフポイントは……1900!?』

『え、てことはあの子のデッキには魔法カードが3枚しか入っていないってこと!?』

『おいおい、お嬢様もすごいが、あの子もとんだヤンチャガールじゃないか!』

『デッキに魔法カードが3枚!?え、3枚!?』

 

 

 

 『え、3枚?え、えー?マジですの?なんのデッキですの、それ?』

 

 『さ、続けていいの』

 

 『ぐ、手札抹殺があれば決めきれたのですが……。仕方がありませんわ。プランBですわ!手札から【デビルズ・サンクチュアリ】を発動!場にメタルデビル・トークンを特殊召喚し、リリースッ!アドバンス召喚、現れなさい、【威光魔人】ッ!』

 

 『うわー……やっばいやつが来たの』

 

 光を放ち、不敵に微笑む魔人がフィールドに降臨。

 しかもまだまだ、金髪のお嬢様には手札がある。

 

 『【威光魔人】は全てのモンスター効果の発動を無効にする!さらに手札から【死者蘇生】を発動、【天使の施し】で墓地に送っていた【人造人間サイコ・ショッカー】を特殊召喚しますわッ!』

 

 『【人造人間サイコ・ショッカー】……ッ!エスパー絽場、城之内のフェイバリットカードッ!く、格好いいの!』

 

 『分かりますわ!このデザインは超クールですわ!』

 

 王家の神殿の前に、モンスター効果の発動を許さない悪魔と、罠カードを許さない人造人間が並び立つ。

 その威圧感に少女の額からは汗が流れ落ちるが、ふと感じた疑問を問いかける。

 

 『あれ?でもいいの?【人造人間サイコ・ショッカー】を出したら、【棺桶売り】の効果が無効化されて───』

 

 『何をおっしゃいますの。この【人造人間サイコ・ショッカー】はレベル7、つまり無効化されて破壊されるのはあなたのフィールドの罠カードだけですわ。まぁ、無効化のみであり、効果発動による破壊は、【威光魔人】によってされなくなってしまいますが』

 

 『原作インチキ効果も大概にするのッ!』

 

 

 

『めっちゃ有名なカード【人造人間サイコ・ショッカー】の効果をしらない銀髪の子かわいい』

『いや、それどころじゃないだろ。なんだあのお嬢様のフィールド』

『つまりこれって今どうなってるの?』

『【威光魔人】ってカードの効果で、あの銀髪の子はモンスターの効果は発動できない』

『【人造人間サイコ・ショッカー】の効果で、あの子のフィールドで発動した罠は全て無効化される』

『そんな状態であのお嬢様のフィールドには【棺桶売り】が発動しているので、あの子はライフの問題で2枚しかカードが使えない』

『あと【魔法除去細菌兵器】のせいで、手札もデッキも魔法カードはボロボロ。まぁ、3枚しか入っていないようだけど、代わりに入っているだろう罠がもう使えない』

『その上、お嬢様の場には伏せカードが1枚。まず間違いなく相手の攻撃を防ぐ魔法か罠だろうな』

『なんだこの悪魔のフィールド……』

『え、【威光魔人】がいるから【人造人間サイコ・ショッカー】のモンスター効果は無効で、罠は使えるんじゃないの?』

『効果の発動を無効であって、【人造人間サイコ・ショッカー】の罠無効化の効果は健在だ。罠破壊の能力は発動を封じられたがな』

『そんなのどうやって勝てばいいんだよ!?』

 

 

 

 恐ろしいカード、凶悪な効果にコメントの流れが早まっていく。

 視聴者の数は既に20万を超えたが、まだまだ視聴者の数は増え続けていく。

 

 お嬢様のデュエルタクティクスに誰もが戦慄し、同時に相対する幼い少女に同情が集まる。

 生放送に集まった視聴者たちの誰もが、すでに少女の敗北とお嬢様の勝利を確信する中で。

 

 デュエルを行っている二人だけは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ドローなの』

 

 ───敗北も、勝利も確信していなかった。

 

 

 

 

 

 

 『ラストターンなの』

 

 少女の宣言。

 それによって動画の視聴者は少女のサレンダーの可能性を考え、彼女への憐れみと暴虐無人なデュエルを行ったお嬢様への恐れを抱く。

 

 そして対面し、宣言されたお嬢様はというと……。

 

 『だ、【大天使クリスティア】さえ来ていればッ!?』

 

 絶望の仮面を貼り付け、少女の氷のように冷たい視線に一歩後ずさる。

 

 金髪お嬢様の苦悶に満ちた声に、視聴者は困惑を隠せない。

 どう考えても敗北するほどに追い詰められているのは、この圧倒的な盤面を整えられてしまった銀髪の少女の方である。

 

 少女のライフはすでに半分以下の1900。

 にもかかわらず、何故お嬢様が追い詰められているのか。

 いったい、この二人には何が見えているのだろうか。

 

 『その反応、余裕のなさ。伏せカードは【和睦の使者】や【威嚇する咆哮】のような延命カードではないとふんだの。金髪ドリル令嬢は顔にでやすいの』

 

 『かまをかけましたの!?ずるいですわ!?』

 

 『カードゲームは心理戦なの。さて、これで安心してモンスターをリリースするの』

 

 

『……はい?』

『モンスターを生贄にする?おい、あの子のフィールドには1枚もカードなんてないじゃないか』

『まさか【クロスソウル】!?』

『いや、魔法カードの発動なんてなかった!第一、【魔法除去細菌兵器】で彼女のデッキにはもう魔法カードはないッ!』

『じゃあ、いったい彼女は何を……って!?え!?』

 

 

 

 困惑するコメント。

 そして【はにわ】のような絶望顔のお嬢様、無表情ながらもどこか満足げな顔の少女。

 

 リリースされかけている【威光魔人】は早い退場に困惑気味であり、【人造人間サイコ・ショッカー】は相方に首を横に振っている。

 

 『や、やっぱり持ってやがりましたのね!?わたくしの、【威光魔人】が!?』

 

 『相手のモンスターをリリースして、特殊召喚』

 

 【威光魔人】が生贄召喚のエフェクトと共に消失。

 代わりに大きな巨影が生贄召喚のエフェクトの奥に出現。

 

 

『は?』

『これは、相手の場のモンスターをリリースだって!?』

『なんだと!?』

『ラヴァゴーレムか!』

『いや、1体だけだぞ!?』

 

 

 

 『現れるの、【海亀壊獣ガメシエル】』

 

 

 雷鳴のように轟く咆哮が、フィールドに響き渡った。

 

 海亀のような大怪獣の出現に、お嬢様は死んだ魚のような目でそれをお迎え。

 親の顔より見た怪獣、いや壊獣の姿に様々な走馬灯がお嬢様の脳裏をよぎっていく。

 

 その心は───「あ、これ死んだわ」。

 

 『相手のフィールドに壊獣がいるので、私のフィールドに壊獣モンスターを手札から特殊召喚できるの。来るの、【怪粉壊獣ガダーラ】』

 

 そして現れるのは2体目の怪獣。

 

 互いに相対した壊獣たちが威嚇し、鱗粉と塩気が含んだ暴風がフィールドに吹き荒れる。

 映画顔負けな大怪獣バトルの様相を呈してきたフィールドに、お通夜状態になっていたコメント欄は瞬く間に活気が戻っていく。

 

 

 

『で、でかい!』

『なんじゃこりゃ』

『さぁ、もうよくわからん!』

『え、怪獣映画?なんだこのフィールド』

『なるほど、強力なモンスターを送りつける代わりに、どんなモンスターでもノータイムで除去ができるのか。まさに諸刃の剣だね』

『よくわからないけど、なんかすげぇ!格好いい!』

 

 

 

 『さぁて、これで厄介な【威光魔人】は消えたの』

 

 『あの、わたくし、もうだいたいは分かっているのですが、そのデッキに罠カードって入っていますの?』

 

 『ゼロに決まってるの』

 

 『そうですわよね!?墓地の魔法3枚って絶対に【雪花の光】ですものね!?【未界域壊獣カグヤ】とか、4000のライフポイントでやっちゃいけないデッキじゃありませんこと!?』

 

 『マリク様コンボをやらかそうとしたお前に慈悲は無用なの。私はさらに【棺桶売り】を墓地へ送って、手札から【トラップ・イーター】を私のフィールドに特殊召喚するの』

 

 『私の生命線が、ついでとばかりにぶち切られましたわ!?』

 

 【棺桶売り】を食い破って大口のモンスターがエントリー。

 お嬢様のフィールドにあった恐ろしいモンスター、凶悪な罠カードがあっという間に沈黙してしまう。

 

 そのスピード、逆転劇にコメント欄の盛り上がりが頂点に達し、少女への応援コメントがすごい勢いで流れていく。

 

 それを見た金髪お嬢様は目を白黒させた。

 

 『ちょ、視聴者の紳士淑女の皆さま!?少しはわたくしを応援してくれてもよろしくてよ!?私のコンセプトは悪役令嬢ではなくって!?』

 

 『やっていることを考えると、完全な自業自得なの。ざまぁすることなく普通に沈んでいくがいいの。私はさらに手札から【未界域のビッグフット】の効果を発動するの。さ、好きな手札を捨ててあげるから言ってほしいの』

 

 『え、選びたくありませんわ!右から2番目ですわ!』

 

 『選択されたのは【未界域のサンダーバード】なの。それを捨てて【未界域のビッグフット】をフィールドに特殊召喚し、1枚ドロー。ついでに墓地に落ちたサンダーバードの効果で、そのセットカードを破壊しておくの』

 

 『私の最後の命綱の【神風のバリア─エア・フォース】がッ!?』

 

 『……ミラフォじゃないあたり、やっぱりこいつガチなの。危険なやつなの』

 

 突然手札から大猿が現れて胸を打ち鳴らし、墓地から飛び出した謎の大鳥がお嬢様のセットカードに雷を落として消えていく。

 

 

 

 

『なんだ、何が起こっているんだ!?』

『わからない!だがお嬢様のフィールドはもうボロボロだ!』

『あの子のフィールドにもうモンスターが3体もいるぞ!対してお嬢様のフィールドには王家の神殿とサイコショッカー、そして大怪獣しかいない!』

『しかも既に場の2体は相手モンスターに攻撃力で勝っている、あと一歩だ!がんばれ!』

 

 

 

 『手札の【未界域のサンダーバード】の効果を発動したいの。さ、好きなのを選んでいいの』

 

 『ええい、今は悪役令嬢が微笑む時代なのですわ!右から、1番目!』

 

 『自分で名乗ったらせわないの。……ちぇ、大当たりなの。既に効果を使っているサンダーバードはそのまま墓地に送られるの。中々回らないの』

 

 『せ、セーフですわ。ざまぁはされませんわ!かろうじて、かろうじて命を拾いましてよ!』

 

 『仕方がないの、運がなかったの。なら山札の上を8枚除外して、手札から【機巧蛇─叢雲遠呂智】を特殊召喚するの』

 

 『命を拾ったと思ったけど、別にそんなことはありませんでしたわ!?』

 

 少女のフィールドにいるモンスターは4体。

 

 大猿が手をぽきぽきと鳴らしてこぶしを温める。

 それに続いて蛾の怪獣が目を爛々と輝かせながら鱗粉をまき散らす。

 罠食いの悪魔が歯を打ち鳴らし、機械龍が3つの頭から光線を放つ準備を整えた。

 

 対するお嬢様のフィールドにいる亀の怪獣は、唸り声を上げているがどこか及び腰であり、人造人間は顔を青くするお嬢様を守るべく一歩前に進み出る。

 

 お嬢様のモンスターを倒してもなお、相手のライフを削りきることが可能であるモンスターたちを前に、お嬢様はというと。

 

 『……く、殺せですわ』

 

 『なら遠慮なくいくの。4体で攻撃なの』

 

 『ちょ、もうちょっと風情を大切にしてくださいまし!?』

 

 『1KILL未遂犯にかける情けはないの』

 

 『ごもっともって、やな感じバイバイキンですわぁぁぁぁぁぁぁッ!?』

 

 蛾の怪獣が放った鱗粉が亀の怪獣を破壊。

 大猿のパンチが人造人間をぶん殴り、その長身を爆散させる。

 そしてその奥から飛び出した機械龍、大口の悪魔にフルボッコにされたお嬢様は爆発。諸行無常。

 

 ぷすぷすと煙を放ちながら倒れ伏すお嬢様を背景に、銀髪の少女がふんすと胸を張った。

 

 映像ではこの逆転劇を見せてくれた少女へたくさんの声援、応援のコメントが寄せられている。

 その中には著名人、有名デュエリストの反応もあり、それが呼び水となってさらに動画は盛り上がりを見せていった。

 

 

 

 

 

 

 ……そして、このデュエルを見ていたデュエリストたちの心の中に、大きな闘争心が燃え始めていた。

 

 

 この裏デュエルのデュエリストたちは、全員本名も不明、経歴も不明。

 しかし、そのデュエルタクティクスが本物であることは、動画を見る限り疑いがないだろう。

 ならば、デュエリストとして彼らと戦いたい、デュエルしたいと思うことは当然。

 

 本心からデュエルをしたい者。

 有名になってきた『チーム俺たちの裏デュエル』や、『にやにや動画』に関わりたいと思った者。

 裏デュエルのデュエリストを倒すことで名を上げたい者。

 裏デュエルで使われたカードを欲する者。

 

 様々な思惑がある人々は、『チーム俺たちの裏デュエル』が望む望まないに関係なく、自らの誇りや欲望を胸にアプローチを始めていったのであった。

 




◎ヌメヌメエッチ

残念クールビューティー。
中の人は真面目なので、一週間ほどでコードネームにネタよりも恥ずかしさの方が上回った模様。

途中で醒めて悶えてしまう設定や、変更がきかない名前は絶対に止めましょう。
名前に「♰」を使うことは自由ですが、覚悟をちゃんと持つべきです。

デッキはラスボス系のようなカードが多い。

◎エイリアン☆エイリアン

銀髪不思議系少女であり、本人曰く、タッグフォースレイン恵リスペクト。
語尾をつけることは、ロールプレイの基本。
でも流石にティラノ剣山クラスまでは頑張れなかったようだ。

デッキは爬虫類や、不可思議っぽいカードテーマが好き。

◎金髪ドリル令嬢

チーム俺たちのヤバいやつ一号。

お嬢様ロールプレイは一度やってみたかったが、高笑いによる咽喉の痛みが深刻なため、最近は飴を必ず携帯している。

プレイスタイルはデュエルリスペクト皆無。
カードを回すことが楽しい、気がついたら相手の目が死んでいる。
でも負けることも楽しいらしいので、周りも遠慮なく彼女にはソリティアを仕掛けて大丈夫です。

◎最初から【天使の施し】は手札事故

そうなんだって。遊戯王Rで言っていたよ。
だからみんなも手札事故が起きないように、【天使の施し】の禁止からの復帰を祈りましょう。

◎ガダーラ

がだーらいつもありがとう
コピペは名文が多い。


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チーム俺たち掲示板回②

マスターデュエルでプラ1になったので書き上げました。
ドライトロンめっちゃくちゃ当たったので、今の私はパーデクへの殺意の波動に吞まれています。


234:機甲娘

今回も良い戦いであったであります!

 

235:金髪ドリル令嬢

お疲れさまでしたわ!楽しかったですわ!

 

236:エイリアン☆エイリアン

さらっと先行1KILLやろうとするななの。肝が冷えたの。

でも、ドキドキして楽しかったの。

 

237:金髪ドリル令嬢

社長のカードを使いたかったからあのプランだったのですが……。

次からはもっと確実なプランをとりますわ!頑張りますわ!

 

238:メイドラゴン

いやいやいや、あれって大抵のデッキが終わるから。

その後のフィールドだって、普通のデッキは詰みだぞ。怖いって。

 

239:オカルトガール

……流石に独自ルールをそろそろこっそり決めます?

ライフも4000はちょっと……まずい?

 

240:わくわくアーゼウス

とりあえず、メルフィの森を燃やそう。

真面目に言うと、万が一でこの世界のやばいデッキに当たった際に、外のルールでも対応できるように練習する必要がある。

どこかで練習、実践して運命力を鍛える機会があった方がいい。

どうせなら向こうの住人が見ている中、その影響下でやった方がいいと予想。

 

241:デュエルマッスル

むぅ、外のネット掲示板を少し周ってきたが、令嬢は完全に悪役令嬢みたいな扱いを受けていたぞ。

 

242:金髪ドリル令嬢

ですの!?

 

243:メイドラゴン

GXかなんかで、デッキアウトを狙うプロがいたが、めちゃくちゃ嫌われていたからな。

あのデュエル、デッキアウトにしては隙が多いにも関わらずその反応だから、やっぱりぶつかり合うのが大正義なんだろ。

 

244:オカルトガール

ワイトキングやターンジャンプは称賛され、初手棺桶売りはひかれていました。

私たちには分かりにくいけど、反応を考えるにメイドラゴンさんが正しいのかも。

 

244:金髪ドリル令嬢

そんな、それって初手完封を目指すOCGは全否定になってしまいますわ!

ビースト宣告者ドラグーンアポロウーサが泣いていまして!

 

245:エイリアン☆エイリアン

こっちの人たちはみんな純粋なの。

ただ後作品を見るに、チームユニコーンがデッキ破壊やっていたの。

きっとあの頃には、私たちの感覚に時代が追いついて来ているかもしれないの。

 

246:わくわくアーゼウス

>244

そいつら許されているみたいな書き方しているけど、誰も許していないと思うぞ?

 

247:エイリアン☆エイリアン

>246

アーゼウスも許されていないの。

みんなも使っているから必要悪とか、別にそんなわけないの。

 

248:わくわくアーゼウス

(´・ω・`)

 

249:機甲娘

そこまで気にしなくていいと思うのであります!

私たちは私たちのデュエルを思いっきり楽しめばいいのであります!

競うな、持ち味を活かせッッ!であります!

 

250:メイドラゴン

現在みたいに、ライフ4000で禁止制限はなし。

シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム・リンクの特殊召喚NG。

神とか青眼の白龍とか、あっちで特別なカードもNGと。

 

251:ボチヤミサンタイ

ま、現状キープでいいんでないの。

あっち基準で言えば、うちらのデュエルってみんなやばいデュエルだしね。

合わせるって感覚が無粋っちゃ無粋じゃない?

毎回お嬢みたいなデュエルってわけじゃないし、たまに見せるエッセンスって感じで刺激があっていいでしょ?

 

252:魔女っ娘

その刺激が、ソリッドビジョンありだと、もうとんでもないことになるんですけどね。

みんなも一回超攻撃力に曝されてくださいよ、飛ぶぞ。

 

253:デュエルマッスル

体験者は語る、だな……。

 

254:オカルトガール

確かに、現地民の反応も悪くはありませんから……。

令嬢さんへの非難の言葉は、どこのサイトの評判を見ても見つかりませんでした。

コンボを生み出すデュエルタクティクスを褒められていたぐらいです。

 

255:金髪ドリル令嬢

やりましたわ!

 

256:オカルトガール

怖がられてはいましたが。

 

257:金髪ドリル令嬢

(´・ω・`)

 

258:メイドラゴン

そういえば、今日は比較的、人が少ないですね。

管理人さんもいないのは珍しいのでは?

 

259:デュエルマッスル

まぁ、平日だからこんなものだろう。

それと今回の放送で、会社運営とネット環境についていろいろあったみたいでな。

管理人が何人かを伴って外に出ているようだ。

 

260:エイリアン☆エイリアン

管理人さんだけだと、もう運営に無理が出てるってことなの?

 

261:デュエルマッスル

有事に備えた対オカルト研究、人気になっていくにやにや動画の運営、それを取り巻く会社や人間模様。

どう考えても外で動ける人間が、一人では足りないだろう。

……それに、きな臭い話も出ているらしい。

 

262:金髪ドリル令嬢

むー、外に出られるのは楽しそうですが、大変そうですわね。

原作キャラと会えるかもしれない喜びはありますが、わたくしたちの今のスタンスを考えると交流を持てるわけではありませんし。

 

263:機甲娘

にやにや動画というお祭りを考え、実行した以上、その責任が我々には生じるのであります!

私も出来る限りは協力する所存であります!

というか、原作キャラなら見かけられるだけで大満足であります!

 

264:金髪ドリル令嬢

た、たしかに!

いつの間にか多くのものを求めすぎていてしまいましたわ!反省ですわ!

 

265:オカルトガール

私、オカルト関係でお手伝いさせていただいているのですが、やっぱりカードの収集が必要不可欠でして……。

そうなると、その、もちろんお金が必要なんですよね……。

 

266:ボチヤミサンタイ

うちらが原作カードを使いたいっていう原作カードの需要高騰により、管理人が原作世界を駆けずり回っている件。

流石に人手や金額的にも負担がやばいっしょ。

 

267:デュエルマッスル

天よりの宝札、あれを手に入れるためにかなりのお金を使ったそうだ。

……カード1枚で、家が立つレベルの世界だということに、まだまだ慣れないものだな。

 

268:わくわくアーゼウス

「カードゲームは資産」って言葉が、こっちだと普通にマジで洒落にならない件。

リアルでもカードの高額化が著しいが、こっちはそんなレベルじゃない。

 

269:エイリアン☆エイリアン

ダイナソー竜崎が当時購入した真紅眼、あれが当時のプレミア価額で数十万。

今ではその倍のお金を出しても、こっちの世界だと買えないの。

出回っている枚数が、本当に雀の涙ぐらいしかないから超高額なの。

 

270:金髪ドリル令嬢

これからカードが世界の中心になっていくことを考えますと……。

マジで真紅眼1枚で家が立ちそうですわね。

 

271:メイドラゴン

いや、最低でマンション買えるぐらい上がるかもしれない。

リアルの世界だって、数年前は9万円で買えた千年原人が、今百万から二百万。

遊戯王世界だと、超有名カード1枚で億超えることもありえない話じゃない。

 

272:魔女っ娘

池袋で当選通知書欠品で投げ売りされていた、未開封ホルアクティ。

当時通知書欠品ゆえに誰にも見向きもされず、私が8000円で買ったのですが……今三十万ぐらいしますからね。

こっちだとそれ以上になっていくとか、もうカードバブルやばそうです。

 

273:機甲娘

ヤバそうなカードは、上がる前に必要枚数確保しておけ!

OCGプレイヤーの鉄則でありますな!

今のうちに我々が使う枚数をちゃんと確保しておかないと、後悔しか残らないのであります!

 

274:ボチヤミサンタイ

てか、オカルトとかカード創造で、必要なカードはある程度なんとかなるんでないの?

違法に近いコピーカードって手段もありっちゃありなのに、なんでわざわざ現地のカードを?

 

275:オカルトガール

なるべーく、穏便に済ませるには、原作カードは現地カードが一番らしいです……。

オカルトの乱発も何を呼び起こし、何を招くのか分からないから試し試しですし、件の精霊の件もありますので……。

その、あまり違法性があることは、よっぽどでない限り避けたいのではないのでしょうか?

 

276:魔女っ娘

いつの間にかカードに精霊が宿るとか、なんか繋がるとか、もうわけわかんないんですけどね!

モリンフェンが茶店でオーナーやってるあれってマジなんなんですか!?

 

277:エイリアン☆エイリアン

私もめっちゃビビッてあとで管理人に聞いたら、謎らしいの。

にやにや動画の運営を始めてから、気がついたらモリンフェン最強のカードに宿っていたみたいなの。

しかもめっちゃくちゃ私たちに協力的らしいから、お願いしているらしいの。

 

278:メイドラゴン

モリンフェン最強さんに呼応したってこと?

あの人ってあそこらへんのカードの使い手だったよね、なら三幻魔とか来たら大変かも。

アニメで精霊の力を吸収できるやばいカード筆頭なんだけど。

 

279:オカルトガール

不幸中の幸いといいますか、モリンフェンさんたちが来てくれたおかげで、精霊について解析が進みました。

オカルトパワーの中でも、精霊の行動や力は奇天烈・予想外に尽きまして、その、分かったことが……。

 

280:ボチヤミサンタイ

 

281:オカルトガール

私たちの異世界、精霊に対しては、ウィルスセキュリティソフト入れないで、インターネットからダウンロードしまくっている防御レベルだったことが判明しました。

 

282:金髪ドリル令嬢

ガバガバセキュリティですわ!?

 

283:機甲娘

通信が傍受されまくっている戦争、敗北不可避であります!?

 

284:わくわくアーゼウス

海外エロ動画サイトを見るときには、ウィルスセキュリティのソフトが大事だとあれほど言っているのに……チーム俺たちときたら(白目)

 

285:魔女っ娘

え、あ、ええ……?

 

286:オカルトガール

い、今は大丈夫です!

これまで侵入された形跡がないことも確認済みです!モリンフェンさんたちが最初で最後です!

 

287:エイリアン☆エイリアン

むしろ、どうしてこれまで対策が行えていなかったのか、深く疑問が残るの。

 

288:オカルトガール

ゆ、許してください。

カードの精霊の概念がちゃんと初登場したのって、DMのドーマ編からですよ?

それまでありもしないものに対する防衛手段なんて、オカルトパワー対策の延長でしかできないんですよぉ……。

 

289:デュエルマッスル

その時期からだったのか……。

続くGXからのアニメで、精霊は当たり前になっていたから忘れてしまっていた。

 

290:ボチヤミサンタイ

むしろ、これからが精霊活性化の時期っちゃ時期なのか?

今後は大丈夫な感じ?

 

291:オカルトガール

現状では大丈夫ですが、今後はどうなるのかっていうと、データがないのでなんとも……。

今は少しでも外部からオカルトのアイテム、精霊のカードを入手し、研究し、それによってセキュリティを高めるしかありません。

そのためには……。

その、やっぱりお金が……。

 

292:機甲娘

補給線の構築が急務でありますな!

 

293:メイドラゴン

最近、新サービス始めるって聞いたけど、もしかしてそれも関係ある?

ニコニコとようつべ混ぜた動画サービスの後には、ツイッターもどきを出すって話。

 

294:オカルトガール

はい、ネットの最初期混迷期のうちに、流行るサービスを作って特許も取得しておこうという話になりまして……。

そのうち、動画収益に投げ銭、アイドルチャンネルも始まると思います。

 

295:金髪ドリル令嬢

……それって、もうわたくしたちだけで手が足りまして?

例えリアルでの生活を削ったとしても、人手が足りなさそうなのですが。

 

296:デュエルマッスル

無理だろうな。

現地の住人を雇用して、さらに会社を大きくするしかないだろう。

アニメのパラディウス社のように、裏と表で姿を変えてな。

 

297:魔女っ娘

秘密結社ドーマのように、私たちは秘密結社チーム俺たちを……。

ネーミングの格差社会がやばくないですか?

 

298:ペンギン大好きお姉さん

今、帰ってきたわ。

話の流れを見ていたんだけど、人材の話でしょう?

私にいい考えがある!(コンボイ感

 

299:メイドラゴン

不安しか残らない司令官提案はやめーや

 

300:エイリアン☆エイリアン

……え、勝手に外に出て誰かと会ったの?

許可は降りていないし、出られないはずなの。

 

301:ペンギン大好きお姉さん

違う違う、外には出ていない。

でも、間違いなくこっちに引き入れられそうな有用な人材がいるよ。

そもそも、うちらが会社経営って難しくない?

 

302:デュエルマッスル

……まぁ、難しいだろうな。

リアルとこちらでは、常識も歴史も法律も違う。

初期のにやにや動画の運営ですらパンクし、管理人があのような状態になってしまっている。

 

303:オカルトガール

チートボディがあっても、学ぶことも、やることも多いですからね……。

 

304:ペンギン大好きお姉さん

そう、それ!

そもそも、わざわざ会社を運営するためにチーム俺たちに入った人っていないでしょ?

みんなも基本デュエル大好き人間だしね。

 

305:金髪ドリル令嬢

デュエルなら任せてくださいまし!

経営はできませんが、事務なら出来ますわ!日商簿記1級ありますわ!

 

306:わくわくアーゼウス

何気に高スペックなお嬢に草、草は増える前にアーゼウスで燃やそう。

 

まぁ、デュエルが好きでチーム俺たちになったわけだし。

頑張るっちゃ頑張るが、仕事が好きかと言えばそうではない。

 

307:魔女っ娘

ここは好きなので、仕事やる必要があると言ったらいくらでも働きますが……。

私の外見だと、児童労働関係で、絶対に外から突っ込みが入るので、あんまり表では働けませんね……。

NGOがこの世界にあるかはよくわかりませんが。

 

308:ペンギン大好きお姉さん

そっか、ガワの問題もあるんだ。

たぶんこれからもっと問題が出てくるだろうし、デュエルの時間も減るかもしれない。

そんなうちらの代わりに現地民を雇うわけだけど、こんな世界だからどこまで信頼できるかわからない。

 

309:エイリアン☆エイリアン

よくわかったから、帰納法で結論を言ってほしいの。

それらの問題を全部解決できる人材をずばり言ってほしいの。

 

310:ペンギン大好きお姉さん

OK,ずばり、BIG5の意識のデータを復元しない?

あいつら、乃亜に電脳世界で消されたけど、情報を復元できる可能性ないかな?

こっちにはオカルトも精霊もいるわけだし。

 

311:デュエルマッスル

BIG5?お前、正気か?

 

312:ボチヤミサンタイ

……え、もしかしてエロペンギンさん?マジか、テンション上がるんだけど。

 

313:メイドラゴン

おいおい、雲行きが怪しくなってきたね?

 

314:わくわくアーゼウス

まるで意味がわからんぞ!?

 

315:ペンギン大好きお姉さん

この世界はアニメに近い流れになっていて、乃亜編でBIG5の意識は電脳世界の中で消されている。

そいつらの魂を復元・復旧して、表に立たせて働いてもらい、こっちはデュエルを楽しんでいればいいじゃないかって話。

この考え良くない?

 

316:わくわくアーゼウス

初の原作キャラ遭遇がBIG5になりそうな件。

それはそれで、会えるなら嬉しい。

 

317:デュエルマッスル

……なるほど、BIG5を此方に引き入れ、表の顔にしてしまおうと。

確かに、しかし、うぅむ。

 

318:魔女っ娘

え、あのおじさんたちですか?

いや、あの人たちと会えるし一緒に働けることは、嬉しいは嬉しいのですが……。

それって大丈夫なんですか?

 

319:エイリアン☆エイリアン

あの人たちはアニメだからこそあの扱いで、本当はチートレベルの逸材なの。

企業買収、データ収集、大企業の顧問弁護士、大規模な工場運営経験、海馬コーポレーション社長の側近。

どれも社会経験豊富、超絶エリート、勝ち組の中の勝ち組なの。

本当に味方になってくれるのなら、経営に関してはとても心強いの。

 

320:わくわくアーゼウス

会社の運営を任せるにはこれ以上ない人材。

しかも物語退場済みなので、原作でこれからの出番なし。

ただし、全員変態。

 

321:金髪ドリル令嬢

変態って、女の子のガワに入っている私たちが言えた義理じゃありませんわね……。

しかし、まさかのBIG5と一緒に働きますの。興奮してきましたわね。

 

322:ペンギン大好きお姉さん

オカルトガールさん、どう?

このアイデアって実現できそうかな?

 

323:オカルトガール

……可能、かもしれません。

電脳世界から消されたデータ、それも意識レベルのデータを収集することは本来難しいのですが、こちらにはオカルトと精霊という手段があります。

何か、マッチする遊戯王カードがあれば……。

 

324:金髪ドリル令嬢

めっちゃくちゃありますわね、該当しそうなカード。

デジタルバグ関係を精霊化し、ちょっとプログラムをいじって解き放てば勝手に収集してくれそうですわ。

 

325:ボチヤミサンタイ

……あったなぁ、マスターデュエルでそんな設定が急にモリモリにされたカード。

 

326:オカルトガール

……あれ?もしかして、実現性が高い?

死後の世界、冥府関係なら特級案件になりますが、既に捨てられた電脳世界をあさるぐらいだったら難易度や危険性はそこまで……。

 

327:魔女っ娘

し、死者蘇生を本当に行うとか、割と怖い気がするのですが……。

倫理とか、その、道徳的な面で……。

 

328:エイリアン☆エイリアン

遊戯王関係だったら死人が蘇る、蘇らせようとする話なんて割とよくある話なの。

それに本人たちもあんな感じなキャラだから、割と肉体を得られたら喜んでくれそうなの。

同意が取れないで蘇らせて働かせるならともかく、同意がとれたなら人助けなの。原作キャラ救済なの。

 

329:機甲娘

嫌がることはやっちゃダメであります!

でも、喜んでもらえるのなら嬉しいのでありますな!

もしかして、生で「検診のお時間だ!」を聞けるでありますか?最高であります!

 

330:デュエルマッスル

しかし、BIG5とは。

欲望と欲望、お互いが利用し合う関係であるならば、マシと言えばマシか……。

人格はともかく、能力はこちらの望みと相違ない。

 

331:メイドラゴン

この世界で一角の会社にならんとすれば、心に鬼を飼わなくてはならないと。

こっちは嬉しいけど、野心高くて信長の野望の松永みたいな人たちだけど大丈夫なの?

たぶん、義理1だと思うけど。

 

332:オカルトガール

……そのためのオカルトです。

 

管理人に用意してもらったガワに制約を課せば、裏切りの心配はありません。

あれは魂レベルで縛ることができます。

モリンフェン最強さんを超えるガチガチぐあいに、相手を契約で拘束してみせます。

 

333:魔女っ娘

死者再生、いのちって考えると、あんまりいい気はしないです。

ただドーマ編からのやばい権力持ちが登場してくることを考えると、うん、心強い味方は欲しいです。

 

334:ペンギン大好きお姉さん

なら、決まりね。

管理人には、うちからBIG5雇用契約を提案させてもらう。

 

335:ボチヤミサンタイ

そういえば、管理人は誰を外に連れてったの?

たぶんこれから外見せの面子になるんだろうけど。

 

336:デュエルマッスル

ソリティアガールさん、リアリストだ!さん、かきたまうどんさん。

あと……誇り高き対魔忍さんだ。

 

337:メイドラゴン

最後、最後。

 

338:デュエルマッスル

あれでも、あれでも性癖が絡まなければ普通に優秀なのだ……ッ!

忍者というステータスや能力も、デュエリスト界隈では非常に得難いものであるし……ッ!

 

339:エイリアン☆エイリアン

アーゼウス出撃なの。燃やしていいの。

 

340:わくわくアーゼウス

アーゼウスにだって、燃やしたくないやつはいます。

 

 




◎BIG5

原作で主人公のライバルの会社、そこの五人の重役さん。
みんなキャラがいい。
あと女の子の体に入りたい変態が多い。

今思えば、時代が早すぎたバ美肉希望者だったのかもしれない。気持ちはわかる。

◎チーム俺たち

平日だといない面子もいる。
職種によって日の集まりが違うらしい。
ちなみに魔女っ娘は不定休・休日出勤ありありなのため、この日休めたのは単なる偶然。
15日ぶりのお休みな模様。

◎カードの高騰

ホルクアティは実話。

あの頃は当選通知書がなければ、本当に外れ扱いで大幅に値段が落とされ、通知書がない人はみんなコレクション用として売ることを諦めて持っていた記憶がある。
池袋のお店で投げ売りされていたので、当選しなかったから買ったものの、もう高級すぎてフリープレイが怖くてできない。

今はいろんなプレミアカードが高すぎてやばい。


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「対象を取る」と「選ぶ」は違います

NRの10000ポイントを集め終わったので書き上げました。
追加ミッションは私は見ないふりをします()

とりあえず、こんな感じでいこうと思います。


 デュエルモンスターズは、もはやただのカードゲームにあらず。

 

 デュエルモンスターズの人気と広まりは尋常ではなく、まるで世界を変えるほどの大きな力が、この流れを動かしているのではないかとまで言われるようになっていた。

 

 子供から老人まで誰もがデュエルを楽しむ。

 カードの大会は世界各地で様々な規模で開かれた。

 非常にポピュラーなゲームとして、年代・人種・国を問わず世界の人々の間で人気を博している。

 

 デュエルモンスターズの有名プレイヤーは、世界的な有名俳優のように人気を集め、テレビに登場しお茶の間を沸かせた。

 

 デェエルモンスターズを嗜むことは一種のステータスになり、デュエルが強いプレイヤーには社会の人々から敬意が寄せられるようになった。

 

 そして、デュエルモンスターズの影響が広まれば広まるほどに。

 ただのカードゲー厶の枠を飛び越えて、デュエルが大きな意味を持つようになっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある企業の広場にて。

 二人のデュエリストが対峙していた。

 

 片や戦意旺盛。

 

 世界最先端の艶やかなファッション。

 髪をワックスでガチガチに整えた、肉食獣のように笑う金髪の男性デュエリスト。

 

 片や困惑気味。

 

 日本のサラリーマンのようなスーツを着用。

 短めの黒髪、黒メガネ。

 よくアイロンがけされたハンカチで、冷や汗をふき取る。

 この少し困り顔の狐目デュエリストも、また男性であった。

 

「オレの顔、見覚えがないか?悪いがこのデュエルでお前さんは勝てねぇよ」

 

「……生憎、世俗のことには疎いものでして」

 

「……チッ。薄気味悪い野郎だぜ」

 

 認知度、人気、ゲーム性から、ついにデュエルが交渉の手段として社会で確立した。

 

 小さないさかいから、企業間の取引に至るまで。

 そう、一回のデュエルが、巨額のお金を動かすまでに至ったのである。

 

「……ケンガンアシュラみたいに、企業間の利益を賭けてデュエルって、うーん」

 

「おい、ぶつくさと何を言っているんだ?」

 

「申し訳ございません。あまりこのような場のデュエルには慣れていないものでして。少し緊張が……」

 

「……なんだよ、ド素人かよ。くそっ、佐藤さんも念には念を入れてオレを呼んだってことか」

 

 金髪デュエリストは、気がそがれたように髪をガシガシとかきあげた。

 

「察するに……あなたは有名なデュエリストなのですか?」

 

「……マジらしいな。おいおい、お前さん大丈夫かよ。デュエルモンスターズの規模のデカい大会では、巨額の懸賞金が動く。それを大会側、あるいは他の連中によって雇われ、回収する傭兵がオレだ」

 

「もしや、カードプロフェッサー?」

 

「……オレのことは知らないくせに、その名称は知ってるのかよ。お前、よくわからないやつだな?」

 

「は、ははは……。はぁ」

 

「オレは何度か大会で優勝、入賞している。それで目をかけられ、こうして企業に雇われて交渉事のデュエルを任せられることもあるのさ。お前もその口だと思ったが……違うのか?」

 

「生憎、公の場でデュエルすることは初めてです……」

 

「……だろうな。その緊張の様子、お前からはデュエリストとしての凄みが感じられねぇ。マジのド素人だ」

 

 から笑いする狐目に、金髪のデュエリストは憐れみの情すら見せている。

 

「まぁ、なんだ。お前はアマで、プロのオレが相手だ。負けてもしょうがねぇよ。そこに立たされている以上、なんらかしらの責任は背負っちまうだろうが……恨むなよ」

 

「そ、そうですね。私も精一杯頑張らせていただきます」

 

 金髪のデュエリストが、ちらりと上の階に視線を移す。

 

 そこには今回のデュエルを依頼した役員、並びに上等なスーツを着用した男の姿があった。

 

 その男の年齢は三十ほどだろうか。

 年に不相応ともいえるほどの重い、厳格な雰囲気を漂わせている。

 

 この男こそ、今回のデュエルの発起人であり、目の前の冴えないデュエリスト(むしろ、ただのサラリーマンといってもいいかもしれない)の主なのだ。

 

 会社の重役である佐藤は、この男を警戒し、この男が用意するデュエリストを警戒して自分を雇ったと聞いた。

 

 しかし実際に対戦相手と会ってみれば。

 挑発程度におどおどしており、デュエルの空気にもなれていないような、ド素人サラリーマンだったのだから、気が抜けるというものだ。

 

「……むしろ、あのお前の雇い主の方がまだマシだったんじゃねぇか?」

 

 思わず心の声が飛び出したのだが、狐目のサラリーマンは苦笑するばかり。

 

 不快な顔もせず、怒りもせず、睨み返しもしてこない。こんなに覇気のないデュエリストは初めてだろう。

 

 「こりゃあ、楽な仕事になりそうだ」と金髪のデュエリストは相手に向き直った。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

 そして、その甘い考えは───

 

 

「これでオレはターンエンドだ!さぁ、かかってこいよ!」

 

「では遠慮なく、ドロー。私は【高等儀式術】を発動、デッキからレベルの合計が6になるように、3枚の通常モンスターを墓地に。これにより、手札から儀式モンスターを特殊召喚」

 

「デッキから儀式素材だとッ!?」

 

「降臨せよ」

 

 

 

 

 

「【神光の宣告者】」

 

 

 

 

 

 

 ───かくも容易く消え去った。

 

 

 宙に浮かび、虹色に光り輝くは神光の宣告者。

 人ならざる天上の神意の化身。

 全てを許さず、封殺し、滅ぼす神の威光の顕現也。

 

「お、オレの、【奈落の落とし穴】が……何故ッ!?」

 

「【闇の量産工場】を発動、墓地から通常モンスター2枚を手札に。そして魔法カード【アームズ・ホール】を発動。【リチュアル・ウエポン】を手札に加え、そのまま【神光の宣告者】に装備。バトルフェイズ、攻撃」

 

「く、オレはセットされた【聖なるバリア―ミラーフォース―】を発動し───」

 

 瞬間、【神光の宣告者】の虹色の光が、相手のフィールドを照らし出す。

 

「ダメです」

 

 狐目のデュエリストの静かな声。

 

 そして効果を発揮されず、破壊される自分のフィールドの罠カード。

 金髪のデュエリストは驚愕し、目を見開く。

 

「な、何故だッ!?何故、【奈落の落とし穴】に続いて、オレのミラーフォースが発動せず破壊されたッ!?」

 

「【神光の宣告者】は手札の天使族モンスターをコストに、相手の魔法・罠・モンスター効果の発動を無効にします」

 

「……なん、だと?」

 

 魔法、罠、モンスター効果の発動が無効?

 

 なんだ、なんだというのだそのバカげた効果は。

 これまで何百人、何千人のデュエリストと戦ってきた。

 そんな自分ですら知らない未知なるモンスター、類を見ない強力な効果。

 

「たった、たった1枚のモンスターカードがなんて力を持ってやがる!?」

 

 理不尽極まりないと叫ぶが、【神光の宣告者】の攻撃はもう止められない。

 自分の場のモンスターが破壊され、ライフに大きくダメージを受ける。

 

 衝撃を手で守って受け流すが、状況は「絶望」の二文字に尽きた。

 

 あの化け物の攻撃力は元々1800。

 効果は強力だが、倒せなくはない攻撃力だった。

 

 それが装備カードによって、今や攻撃力3300。

 

 あまりにもバカげている。

 【青眼の白龍】の攻撃力さえ超えているアレを、いったいどうやって倒せばいいというのだ。

 

 おまけに天使族を手札から捨てるだけで、あらゆるカードの発動を無効……捨てる?

 

 【高等儀式術】、【通常モンスター】、そして【神光の宣告者】。

 

 なるほど、あまりにもムカつくほどによく考えられている。

 あまりに発想が最悪すぎて、吐き気がしてくるほどだ。

 

「【闇の量産工場】なんて雑魚モンスター回収カードをさっき発動したのは、その化け物の効果のためか……ッ!?」

 

 ただの通常モンスターを、2枚墓地から回収するカード。

 本来ならなんの脅威も感じさせない魔法カードが、あのデュエリストの手によって恐ろしいカードに変わってしまった。

 

 歯を噛みしめ、何とか気力を奮い立たせる。

 カードプロフェッサーとして、デュエリストとしての誇りが、彼の心をなんとかこの場に立たせていた。

 

「何が、何がド素人だくそったれ。そのプレイングスキル、強力なモンスター。お前、三味線を弾いてやがったな狐野郎ッ!!」

 

「いや、私にとっては公の場で戦うのは本当に初めてなんですよ」

 

 飄々と呆ける狐目のデュエリストを前に、血が出そうになるほどにこぶしを握りしめる。

 

 情報が全くない。

 聞いたこともないデュエリスト、聞いたこともないモンスター。

 

 こんな化け物を従えるデュエリストであれば、いくら裏の世界だって名が通るはず。

 

 いったいどれほどの闇の中に、このデュエリストは潜んでいたというのだ。

 

「カードを1枚セットして、ターンエンドです」

 

 狐目のデュエリストの手札は残り1枚。

 先ほど回収した天使族モンスターであるため、一回は確実にこちらのカードを無効にしてくる。

 

「……ッ!?」

 

 今の自分の手札に、あの異常な攻撃力を打開できるカードは存在しない。

 

 ならば、耐えるしかない。

 

 耐えて、耐えて、相手の手札の天使族モンスターを枯渇させ、なんとか逆転の目を引き込む。

 

 糸のように細い線を、繋ぐしかないッ!!

 

「ドローぉぉぉぉッ!!」

 

「あ、ドローフェイズに罠カード【補充要員】を発動しますね。墓地から通常モンスター3枚を回収します。メインフェイズに入ってもらっていいですよ?」

 

「……あ、あ?」

 

 手札が、4枚。よんまい、よん、まい?

 

 あれだ、あいつの手札に天使族は3枚いるから、少なくとも、3回、こちらは、無効化される……。

 

「く、くそったれ……」

 

 何が、何がプロだ。

 どんな、どんなプロがこいつに勝てる。どんなモンスターがこいつを倒せる。

 

 無貌の天使の眼差しに魅入られ、金髪のデュエリストは膝をついた。

 勝てない。オレは、このモンスターに勝てない。

 

「あのー、あなたのメインフェイズ……」

 

 無名のデュエリストに、このカードプロフェッサーのオレが負けるだと。

 どんな恥だ。

 この負けが知れ渡れば、この世界で生きていくことはもう難しい。

 

 ……いや、無名?

 

 突如、金髪のデュエリストの脳内に電流が走る。

 

 無名のデュエリスト、未知の強力なモンスター、そして一見するとふざけた様な雰囲気のデュエリスト。

 そして、恐ろしいデュエルのコンボ。

 

 この時になって、彼はようやく一つの可能性に行きつくことができた。

 

「まさか、まさかお前は……ッ!!」

 

 異常なデュエルタクティクス、未知なる強力なカードたちを使用するデュエリスト集団。

 

 近年、ネット放送にのみ現れ、そのデュエルから世間の話題をかっさらっていった幻の化け物たち。

 

 裏のデュエリストという称号。

 その称号をカードプロフェッサーをはじめとする裏の住人たちから奪い、真の裏のデュエリストとして名を広めた謎のデュエリスト集団。

 

「裏デュエル集団、【チーム俺たち】……ッ!?」

 

「え、あ、はい。そうですが、あの、あなたのターンですけど?」

 

 フェイクデュエルとさえ言われた、謎のデュエリストグループ。

 

 その一端に触れた金髪のデュエリストは、何かがぼっきりと折れる音を耳にした。

 

 それはきっと、デュエリストとしての誇りが折れる音だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、彼が負けるだと……ッ!?」

 

「プロとアマか。まさしくプロとアマの戦いであったな」

 

 デュエルの様子を眺めていた男は、自身のデュエリストが勝利した事実を当たり前のように受け止めていた。

 

「それでは佐藤殿。行政との仲介の件、確かに頼みましたよ」

 

 その場から歩き去ろうとする男。

 企業デュエルで敗北した佐藤は、慌てた様子で呼び止めた。

 

「ま、待ってください大門殿。あのデュエリスト、確かに、確かに【チーム俺たち】と!まさか、本当に彼らは実在したというのですか!?」

 

「……」

 

「そ、それにその若い肉体。最後にお会いした貴方は、お年を召されていた。いったい、何が起こっているのです?」

 

「佐藤殿」

 

「お、お願いです。もっと、もっと詳しい話を聞かせて頂きた……ッ!?」

 

 瞬間、佐藤は背筋が凍る思いをした。

 

 此方を静かに睨む男の視線は、まるで妖怪のように不気味で、野生のオオカミのように鋭い。

 

 言外に発せられる威圧感は強烈。

 肌がピリピリと悲鳴を上げ、熱が入った頭が、一瞬にして冷めてしまうほどであった。

 

「今の私は高橋だ。くれぐれも、そこのところを理解してもらいたい」

 

「あ、ああ。すまない」

 

「貴方と私との間ではいろいろあった。私は貴方を信頼している。信頼しているが……」

 

 妖しげに光る男の眼。

 思わず一歩後ずさりした佐藤は、ごくりと唾を一飲みした。

 

「その信頼を裏切ったものが、どんな末路を辿っていったのか。ご存じでありましょう?」

 

「……すまない、だ、いや、高橋殿」

 

 微笑を浮かべた高橋は、改めて佐藤に向き直った。

 

「近々、貴方の会社では社長の席が空くそうですな。誰が次に座ることになるのかはわかりませんが、このプロジェクトの利益が大きければ大きいほどに、支援者である貴方の株も上がる」

 

「……任せてください。必ず、行政の上の方にかけあって話を通してみせましょう」

 

 高橋は満足げにうなずいた。

 そして歩き出そうとして、また立ち止まる。

 

「一つだけ、よろしいですかな?」

 

「……なにか?」

 

「不可思議なことが、この世には多いようでしてね。オカルトといいましょうか。若返りに生死の克服。デュエルモンスターズの特別な力など、あまりにも荒唐無稽な話が多い」

 

「……なるほど、なんとも胡散臭い話ですね」

 

「賢明な貴方なら、お判りでしょう。この社会で力を持つものは、少なければ少ないほど良いと」

 

 その言葉を受けて佐藤は口を開こうとし、閉じた。

 

 自身のすぐ後ろに誰かいる。

 

 馬鹿な。

 こんな見通しが良い広い空間、誰かが来れば、すぐに気がつくことができるはず。

 

 にも関わらず、音もなく、気配もなく、気がつけば何者かが一歩後ろに立っていた。

 

 甘い吐息が、佐藤の耳を撫でた。

 

「ッ!?」

 

「肩に、ゴミがついておりますよ」

 

 驚き、振り返って、言葉を失った。

 

 美しい、あまりにも美しい女がいた。

 

 自分ほどの上の人間になれば、おおよそ美人と呼べる女には縁を持つ。

 

 しかし、そんな自分が見てきた全ての女を忘れてしまうほどに、その女はあまりにも美しすぎたのだ。

 

 黒く、まるで水にぬれた様な艶のある髪。

 

 宝石のように輝き、目を離せない瞳。

 

 甘く、淡い薄紅色のくちびる。

 

 高い鼻も、その滑らかで触れたくなる肌も、陶磁器のように白い指先も。

 

 その女のすべてが、佐藤の心をつかんで、ぎゅっとにぎりしめて、撫で上げて、離さない。

 

 女から発せられる香水の香りが、佐藤の鼻の穴を通り、ついに脳に届いて溶かしていく。

 

 赤子に触るように優しく、佐藤の頬は女の手のひらで撫で上げられ、そして───

 

「ごほん、対魔忍殿。佐藤殿は、我々のビジネスバートナーなのだが」

 

「……あら、そうよね」

 

 ───目が、覚めた。

 

「ッ!?」

 

 よろけてしまい、思わずその場に手をついて座り込む。

 

 どっと冷や汗が背中に流れ、自分の心が自分のものでなくなったかのような瞬間を思い出した。

 あまりの気持ち悪さに、佐藤は吐き気を催した。

 

 自分は何をやっていた?何をさせられようとしていた?

 

 あのまま高橋殿に声をかけられなければ、自分は、自分はどうなっていたのだろうか?

 

 唖然としたままに女を見れば、女は艶やかな唇を歪ませ、白い歯を見せて嗤った。楽しそうに。

 

「あまりにも反応が可愛らしい方だったものだから、ね?」

 

「私は少し注意をお願いしただけで、骨抜きにしろとは言っていない。彼には働いてもらわなければならないのだからな」

 

「ええ、わかっているわ。それでは佐藤さん、お願いいたしますね?私たちチーム俺たちは、貴方の働きにとても期待しておりますので」

 

 尻をついた佐藤に伸ばされた手。

 そのこころを知って、恐る恐る手を握り返せば、まるで自分が人形のようにあっという間に立たされた。

 

 唖然としている佐藤の横を抜け、高橋と共に歩き去っていく二人の影。

 

 それに遅れて、狐目のデュエリストが一度自分に黙礼すると、小走りに二人に続いて消えていった。

 

「……詮索は、命に関わるか」

 

 反逆を計画し、消えた大企業の元幹部。

 その行方は知れず、殺されたのだろう。

 そして戦々恐々と、海馬コーポレーションの行方を思案していた中で。

 

 突如、彼は再び現れた。

 

「……大門殿、あなたは優秀な方だった。数多の契約を結び、莫大な利益を我々にもたらしてくれた」

 

 若返り、活気を取り戻した姿。

 自身の存在を隠し、新たな名前と共に、新企業であるネットサービスに参入。

 それをバックアップするのは、未知のデュエリスト集団。

 不気味な何かを漂わせる、チーム俺たちの存在。

 

「そんなあなたが、今度は……」

 

 先ほどのデュエルを思い出し、無意識に体が震えてくる。

 

「いったいどんな悪魔と契約したのですか?」

 

 佐藤の力ない言葉。

 それに返してくれる人間は、もう誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、やりすぎちゃったのかなぁ?」

 

「リアリストだ!さんが心配する必要はないんじゃない?これはエンターテイメントではなく、企業利益のために、ただ勝つことが必要なデュエルだもの」

 

「そうなんだよなぁ。いや、デュエルで交渉が解決するって……。いいのかね?」

 

「郷に入っては郷に従えってやつよ、楽しいからいいじゃない」

 

 楽しそうに盛り上がる裏デュエルの二人。

 それを横で静かに眺める高橋に気がついた誇り高き対魔忍が、高橋に笑いかける。

 

「高橋さん、いえ、大門さんもありがとう。流石はBIG5の筆頭ってやつね」

 

「ふふ、この程度で満足してもらっては困るな。これからもっと我々は大きな存在になっていくのだから」

 

 そう、この高橋はただの人ではなかった。

 

 海馬コーポレーション前社長の側近。

 そして反旗を翻し、主人公たちに敗北し、電脳世界からも消えていった悲しきサイコショッカー。

 

 その正体は、大門小五郎。

 

 チーム俺たちによって電脳世界から情報が集められ、再生された、遊戯王デュエルモンスターズの登場人物である。

 

 憧れの原作人物がお助けキャラに。

 チーム俺たちの面々は、まるで推しを近くで見られることのように、その事実に喜びを感じていた。

 

「カードに吹き込まれたエネルギーから、死者を蘇生する計画。それを参考に、電脳世界から情報エネルギーを精霊を使って集めた、だったっけ?」

 

「そうね、『遊戯王R』のやつをパクッ……いえ、オマージュした『R計画』ね。結果は成功して復元され、BIG5人全員が契約に同意した。そして、今、ここで私たちの先頭に立って働いてくれている」

 

「いやー、渋いっていうか、かっこいいよなぁ……」

 

 大門の姿は壮年のものから、活力と威厳に満ちた若々しいボディになっている。

 

 これは本人の希望であり、その中身は人を超えたパワーが発揮できる。

 車一台がぶつかってきても、跳ねのけられるほどのマッスルだ。

 

「お前たちが我々に頼ったことは正しい判断だ。あんな事業計画書では、得られる金も権威も得られないだろう」

 

 頼られ、まんざらでもない様子で頷く大門に、俺たちの二人は互いに顔を見合わせた。

 やっぱり、遊戯王世界の住人であるためか、アクの強い人物のようだ。

 

「……あのー、一ついいかな?」

 

「何かな、リアリストだ!殿」

 

「私たちは貴方たちが表舞台にいるってバレたら怖いんだけど、どうしてBIG5の名前を利用しようとしているんですかね?」

 

 滅ぼされたはずのBIG5の存在が表に出てしまえば、社長・主人公たちに目をつけられないかと気にする俺たちは少なくない。

 

 そのため、最初は別の名前で活動してもらおうとしていたのだが……。

 

 BIG5はこれを拒否。

 いくつかの場面においては、自分たちの名前を利用するように進言したのだった。

 

「社会でのし上がっていくために、必要なのは何だと思う?」

 

「それは……お金かしら?」

 

「最近、dアニメに登録して勉強したからわかる。『これが権力だ!』ってやつかな?」

 

「どれも正しい。しかし、重要なのものはまだある。それは人脈と信頼だ」

 

 大門小五郎は、怪訝そうな二人に語る。

 

 会社の利益というものは、かける金の規模が多ければ大きいほどに利益を得られる。

 しかし、普通にやっても利幅は少なく、儲けは少ないことが多いものであると。

 

 そのため、会社というのは、如何に法の穴をつき、行政を巻き込み、国から助成金を引き出し、払う税金を少なくして利益を上げるかだと。

 

「そんな話のからくりを知っているような、あるいは通じる知恵を持っているような上の人間が、今の我々の規模の会社に担当としてつくと思うか?将来性があると分かる者がいても、これまでのやり方では協力どころか、食い物にされるのがオチだろう」

 

「……あー、カモがネギしょってやってきた感じなのかな?」

 

「……管理人も四苦八苦していたわね、最初は資金が中々調達できなかった。今はいろいろと話が来ていて、今度はどれを受け入れたらいいのか分からないって」

 

「ゴミといくら取引ごっこをしても、成長する前に資本の大きい会社にすぐ食われることになるだろう。自社にない伸びしろがある分野を開拓するには、買収が一番だからな。優秀で金がある会社は一から始めようとは思わん。人材も能力も全て金で解決する。同じBIG5であった大下は、その手のスペシャリストであった。だから海馬コーポレーションは、あれほど多くの分野で業績を伸ばすことができたのだ」

 

「もしかして、うちの方でAmazonとかがよくやっていることか?なるほどなぁ」

 

「なるほどね……。特に今は、パラディウス社等、まずいところが多いわね」

 

 復活した大門をはじめとするBIG5は、チーム俺たちから話を聞く中で、彼らの会社の現状を知り、いくつかの原作の知識を知ることとなった。

 

 そして、気がついた。痛感した。

 「あ、こいつらに経営を任せたら、せっかく復活したのに、すぐに我々はまた消えかねないぞ」と。

 

 そしてあっという間に、各々が了解をとって行動を開始したのである。

 

 チーム俺たちの会社経営の方針や計画。

 それは彼らからすれば「ノリと勢いしかない」と判断するしかないものであり、頭を痛めることとなった。

 

 それはさながら、高級カードをスリーブに入れずに輪ゴムでとめるような、知るものからすれば「やめろぉ!?」と叫びたくなるような有様であったという。

 

 というわけで、BIG5は急いで会社を強くするべく、それぞれが奮闘することになる。

 

 BIG5は全員、もう十日は寝ていなかった。

 

「上の人間と下の人間では、使われる権利も権威も、通る金額もまるで違う。下の人間とぐだぐだと何か月も話し合うより、電話一本で上の人間に話を通した方がずっと早い。知れば知るほどに、ネットサービスは今が勝負時だとわかる。誰かが行動する前に此方がシェアを確立しないといけないという、時間との戦いだ」

 

 ギラリと目を輝かせる大門。

 

「だが、そのツテがお前たちには無かった。金がないだの、会社の規模が小さいだの、そんなことは何の問題にもならない。一番大事なことは、我々がやることの話を通し、最大限の利益を生みだすための土壌を作り出す人脈なのだ。我々の活動を見守り、その価値を保証する、他の権力者が必要なのだ」

 

 大門はこぶしを強く握りしめ、胸に掲げる。

 

「我々BIG5にはそのための人脈がある。一度は敗れたが、成してきた功績による信頼もある。お前たちのネットサービスは今後ますます発展し、拡大し、そしてこの業界のスタンダードな形になっていく。その前に我々の人脈を活かして顔を繋ぎ、社会における立場を確立し、地盤をより確実なものにしなければならない」

 

 リアリストだ!と対魔忍は、唾をごくりと飲み込んだ。

 二人とも大門の演説に聞き入っている。

 

「にやにや動画という動画共有プラットフォーム、そして企画しているソーシャルネットワークサービス、そのどれもが今後携帯電子機器が発展すればするほどに、需要が増えていくのは目に見えている。ここで金を集め、シェアを拡大し、稼がなくて今後どうやって会社を守るというのかね」

 

 「停滞する企業は死ぬしかないのだ」という大門の言葉に、チーム俺たちの二人は目を輝かせた。

 

 すごいぞ大門小五郎、すごいぞBIG5。

 これが海馬コーポレーションという、世界的な企業を支えた男たちの視界と行動力である。

 

「……理由はわかったわ。ただ、海馬社長に目をつけられたら、遊戯さんたちに目をつけられたらと思うと、本音を言えば怖いのよ」

 

「神のカードだろ?運命力だろ?あの行動力だろ?勝てる気しないよなぁ。戦いたくもないし」

 

 大門は眉をひそめた。

 

 BIG5が海馬たちに敗北した一番の原因は、デュエルで敗北したからだ。

 

 言ってしまえば、最後のピースが此方にはそろわず、ただその最後のピースが決定的な敗北の原因になったのだ。

 

 そのピースとは、強力なカードと、それを扱える凄腕のデュエリストである。

 

 チーム俺たちは最強だ。

 

 大門は彼らこそ、世界最強のデュエリスト集団であると確信している。

 その証明は、ここ数週間の企業間におけるデュエルにて、十二分になされてきた。

 

 数多の有名なデュエリストを蹂躙し、有名な大会の優勝者でさえ足元にすら及ばない圧倒的デュエル。

 

 チーム俺たちは強い。

 

 あの海馬や遊戯たちすら凌ぐだろうと、BIG5はデュエルにおいて、全幅の信頼をチーム俺たちにおいていた。

 

 あの時にこいつらの一人でもいればと、そう思わずにはいられない。

 だが、その力が手元にあるというのに、何故か本人たちはこのように海馬や遊戯たちと戦うことに及び腰。

 

 「人生は上手くかみ合わないものだ」と、大門は感情を隠して、相手を落ち着かせるように、笑みを顔に貼り付けた。

 

「腹がたつ話だが……。海馬という男は、敗者に目もくれんだろう。こちらから何かをしない限りはな」

 

「……ああ、なるほど」

 

「そうねぇ、あの、海馬社長だものねぇ」

 

 ゲーム版ではBIG5が反逆した後も、実は普通に海馬ランドで働かせていたりする。

 

 最初期の社長なら「ぶち殺すぜ☆」だったかもしれないが、遊戯たちと戦い、誇りを手に入れた彼は気風のよい人間に変わっていた。

 

 ……まぁ、初期は遊戯も城之内くんも、はっちゃけまくっていたのは別の話。

 

 その時、大門の携帯に連絡が入った。

 

「私だ。む、大瀧か。そうか、技術者の目途はついたのか。引き抜きも済んだならばいい」

 

 大門の笑みが蛇のように変わる。

 

「……ほぉ、大下のやつがそんな話を持ってきたか。確かに、広告塔としてチーム俺たちの舞台が必要だったが、最適だな。その話を進めてくれ」

 

 互いに顔を見合わせるチーム俺たちの二人。

 電話を切った大門が、怪訝そうな二人へとニヒルな笑みを返す。

 

「大規模なデュエルモンスターズの大会が行われるのだが、そこでチーム俺たちとの特別マッチが考案されている」

 

「え、ちょ、はいッ!?」

 

「ちょっと、大門さん?」

 

「スポンサーに後援者、彼らが実際に表舞台で実力を発揮し、観客を沸かせてくれることを我々に求めている。これが成功すれば、多くの繋がりと信頼を得られるだろう。たかが一回のデュエルで得られるとすれば、パフォーマンスが良い話でもある」

 

「いやいやいや!裏なのに表に俺たちが出たらまずいでしょ!?ほら、だって、ねっ!?」

 

「動画配信サービスであれだけ姿を晒しておいて、今更何を言っている。最高のタイミングでお前たちのデュエルを売りつけることができたのだ。ここでやらずにどうする?」

 

「動画で出るのと、リアルで多くの人たちの前で出るのとでは違うわよ」

 

「なら遅いか早いかだ。若い世代でもお前たちの活躍は大きな話題になっている。カフェかどこかで、無駄に人生の時間を潰している学生の会話を隠れて聞いてみろ。テレビでも名のあるデュエリストが、チーム俺たちの名前を出していることを知らんわけでもあるまい」

 

「……え、対魔忍さん。俺たちって、もしかして有名になってたの?」

 

「……確かに、生の視聴者50万人は、多いわよね」

 

「パソコンも一般市民には金がかかるものだ。そしてまだまだネットサービスという概念もろくに普及していない社会の中で、50万という数字はほぼ世界全員が見ていると言っても過言ではないぞ?」

 

「「……」」

 

「……やはり、経営は任せられんな。現実が不自然なほどに見えていない」

 

 世界観、そして時代のギャップのずれに、あごが下に落ちて呆然とする二人。

 

 どうでもいい話だが、ペガサス編はまだビデオデッキの時代だ。

 そしてビデオデッキ、わかる若い人は減っているらしい。そういうことである。

 

「相手はかつて全日本選手権で活躍したデュエリスト、インセクター羽蛾とダイナソー竜崎だ」

 

「「……ッ!!」」

 

「かつては有名な選手だったが、デュエリストキングダムにおいてはトーナメントにも進めず敗退した。多くの期待を裏切った彼らは、今では冷や飯を食わされているが、今一度実力を見てみたいそうだ」

 

 多くの人間の思惑が、複雑に絡み合った結果のデュエル。

 勝てば多くの栄光を得られるが、敗北すればこれまでの積み重ねが全て無駄になってしまうだろう。

 

 まぁ、こいつらが負けるとも思えないしな。

 そう思って大門がやけに静かになった二人をみると……。

 

「ねぇ、聞きました対魔忍さん」

 

「ええ、聞いたわリアリストさん。あの、あの二人よ、あの、二人なのよ!?」

 

「マジかぁ、あんまり知らない俺ですら知っているぞ!」

 

「だめよ、ダメ!生インセクター羽蛾!生ダイナソー竜崎!頬が、緩んで、ふへへへへ」

 

「対魔忍さん、ちょっと待って、お子様が見たらダメな顔してる」

 

「って、いけないわね。この体、ちょっと欲望で顔が崩れるとすぐにアヘるのよ」

 

「聞きたくなかったそんな事実」

 

 めっちゃくっちゃ、二人は喜んでいた。

 先ほどまでの不満はどこへいったのか、もう大変喜んでいる。

 

 大門はわけがわからなくなったが、チーム俺たちは特定の人物に並々ならぬ関心。

 いや、妄念とも呼べるべき感情を向けることがあることを知っていた。

 

 自分たちBIG5が魂を縛られ、契約した時もそうであった。

 チーム俺たちの何人かから、謎の胴上げを受けたことは忘れられない思い出である。

 

 ……胴上げが高すぎて、大瀧なんぞは頭を天井に突っ込まれて宙ぶらりんになったのだ。

 

 忘れたくても忘れられるか。

 

「……まぁ、やる気が出てくれたのならば構わんか」

 

 大門は考える。

 最初は自分が管理人を含め、チーム俺たちに説明しようとしていたが、この反応を見るに面倒くさいのは100%分かり切っていた。

 

「……太田にやらせるか」

 

 BIG5。

 復活しても人が良くなったわけではなく、仲が良いわけでもない。

 

 何とか誤魔化してやらせるかと、何も知らない同じBIG5の太田宗一郎に押し付けた結果。

 

 原作キャラ厄介オタクと化しているチーム俺たちは、誰が大会に出るかということで揉めに揉めてしまい、太田の胃は死ぬことになった。

 

 がんばれ太田、人呼んで「工場の鬼軍曹」。




◎宣告者

なんでも無効にしてくる遊戯王のすごいやつら。

私はお前たちを絶対に許さない(´・ω・`)

◎誇り高き対魔忍

長所
・ガワは忍者なので遊戯王世界におけるほぼ最高スペック、中の人も何気にいろいろできる。

欠点
・対魔忍

◎BIG5

管理人によって、魂ガッチガチに拘束された。
チーム俺たちは大歓迎状態なので、海馬たちに傷つけられた自尊心は大いに満たされたらしい。
今は「こいつら持っている力と行動力の割に、いろいろおかしい」と危機感の方が強い。

実は多くのチーム俺たちから、その豊富な社会経験から頼られてリアルの相談されることが多い。
相談数一位はブラック会社勤務の魔女っ娘。

こいつらを海馬と遊戯にぶつけられないかと実は考えているが、推しの概念、彼らの憧れと恐怖を理解できないために中々上手くいかない模様。


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シンクロフェスの折り返しに来たので投稿です。

なんか今回は長くなってしまったので途中で区切ろうとかとも思ったのですが、最後までいっかと分割は止めました。

シンクロフェスは壊獣カグヤで潜ってます。
いや、シンクロってバロネスパックしかむけてないんです……汎用シンクロみんな超高い。


 『生で遊戯王のキャラクターとデュエルできる』

 

 その吉報に、チーム俺たちは喜んだ。

 

 ここにいる面々は全員がデュエル馬鹿であり、遊戯王馬鹿である。

 その想いには大なり小なりあるものの、原作のキャラとデュエルができると聞いて、テンションが上がらない者はいなかった。

 

 そして生まれてくる大きな問題。

 チーム俺たちが、遊戯王が好きなこと、言ってしまえばオタクであったことだった。

 

 そうでなければ、チーム俺たちなんて胡散臭いものに縁があるわけがなかった。

 超高性能のガワに入って遊戯王世界に参入し、ノリノリでデュエルなんてすることもないわけで。

 

「わたくしが、わたくしが戦いますわ!」

 

「こんな千載一遇の機会、逃すわけにはいかないの」

 

「一人のファンとして、デュエルしてみたいよね☆」

 

「ここで心が燃えなければ、いつ燃やすというのでありましょう!挙手であります!」

 

「こんな満足できる機会はなかなかねぇぜ!ハーモニカ吹きながら入場してやる!」

 

「モリンフェン最強!」

 

 当然、ほとんどのチーム俺たちが参加の意を示した。

 一部、手を上げない者もいたが、社会で生きていたらのっぴきならない理由があるわけで。

 

「難儀なものよのぉ。まるで原作キャラという、炎の光に惹きつけられた蝶のようじゃ」

 

「あれ?黒髪ロングは正義さんは、そこまで乗り気じゃない感じ?」

 

「……それがのぉ、ペンギン大好きお姉さんや。本当であれば参加したいのじゃが、妾は当日バイトがあって難しそうなのじゃよ。世知辛いのじゃ」

 

「……どこぞの名家のお嬢様みたいなガワと口調なのに、バイトって言葉が出てくるのが、なんというのか、私たちらしいわね」

 

「バイト仲間が腰を痛めてしまってのぉ。臨時の日とたまたま被って……ッ!ああ、理由が理由なので責められんし、こぶしの振り下ろす先が見つからぬのぉ」

 

「めっちゃくちゃ後悔してて草。どんまいだ、次の機会も来るって。ちなみにバイト先どこよ?」

 

「わくわくアーゼウスか、寿司屋じゃよ」

 

「アーゼウスが軍艦を握りながら、全部吹き飛ばしてくれると有名な……寿司屋!?」

 

「目をキラキラさせるでないわ。それは店主と客がお互いにゴキブリを投げつけ合うという、衛生観念が喪失した遊戯王の寿司屋じゃろうて。普通の回転ずしじゃ」

 

 参加したいと切望し、感情が暴走する者。

 諸事情によって参加を断念せざるを得ず、他の俺たちをうらやましく思う者。

 

 ここにいるチーム俺たちの全員が、インセクター羽蛾とダイナソー竜崎とのデュエルを心待ちにしていた。

 テンションが上がり過ぎて、もう一種のお祭り状態になっている。

 

 だが、蚊帳の外でこの惨状を見守っている人物もいた。

 

 説明係を任命、もとい押し付けられていたBIG5大田。

 デュエルにノリノリなチーム俺たちを見て、とても複雑そうな表情である。

 

「……誇り高き対魔忍殿。あれだけ有名どころのデュエリストと戦うことを避けようとしていたのに、どうして今回はここまで喜び勇んでいるのかね?」

 

「それは、ねぇ。みんな基本的には、彼らと関わりたくて、話したくてしょうがない人たちばかりだもの」

 

 正統性を保証されたことによって、もう彼らの想いをせき止めるものは何もなかった。

 

 推しのアイドルを見守る立場にあっても、向こうから握手のために手を差し出してくれたのならば、その心意気を無視することは逆に無作法というもの。

 

 チーム俺たちも同じである。

 

 なんだかんだいいつつ、実際は遊戯王世界の住人と会ってみたいと思っていた。

 

 話してみたいと思っていた。 

 

 握手したいと思っていた。

 

 しかし、「推しと握手は実際恥ずかしいし、無粋なのかな」と諦めていた。

 

 そんな時、BIG5はチーム俺たちに言い訳がきくような、都合の良い感じでデュエルをセッティングしてしまったのである。

 そりゃテンションが上がらないわけがなかった。

 

「いやぁ、BIG5さんたら、しょうがないなぁ」と表面上は取り繕いつつ、チーム俺たちは大歓喜。

 

 隠しきれていない満面の笑顔。

 

 心は発狂してSAN値は大幅減少。

 

 不定の狂気を発症してしまい、もうレッツパーリーピーポー大騒ぎである。

 

「言ってはなんだが、このデュエルはそう軽いものではないぞ?我々の進退を決める、大事な一戦となるものだ。相手も落ち目とはいえ、実力のあるデュエリストであることは間違いないのだから」

 

「安心して頂戴、ここにいるのはデュエル馬鹿だけよ。憧れのデュエリストに手を抜くことはむしろ失礼。全力でぶつかることこそ、私たちのリスペクトなのだから」

 

 むしろ、原作のキャラ相手に手を抜くとか、死亡フラグでしかないとチーム俺たちは必死になる。

 

 どんなに原作ではダメなように書かれていたキャラであっても、唐突に突っ込まれるぶっ壊れ原作カードたちは脅威そのもの。

 

 それをライフポイント8000ではなく、たった半分の4000で受けきらないといけないわけだから、油断なんぞするわけもできるわけもなかった。

 

 各々の愛用デッキを仕上げに仕上げ、全力で襲いかかるべし。

 可能であれば封殺するべし、とチーム俺たちは考えていた。

 

「……そんなに歯ごたえがある相手と戦いたければ、お前たち憧れの海馬や、遊戯相手にデュエルの舞台を用意することもできるが?」

 

「それはそれ、これはこれよ。あれは無理、マジで無理」

 

 さりげなく自身の願望も交えて提案したが、対魔忍は断固拒否の構え。

 

 デュエリストであれば誰もが憧れる存在となった二人(BIG5からすれば恨めしい二人)。

 この二人とデュエルができる機会があれば、それを逃すようなデュエリストはいないだろう。

 

 だが、チーム俺たちはこれをきっぱりと断る。

 

「私たちはわかるわ。突然『カンコーン☆』とか『バン☆』とか擬音が聞こえてきて、逆転カードが初公開。そして処刑用BGMがスタートするのよ」

 

「……何を言っているのかわからないのだが」

 

「これでテーマソングが歌入りで流れだした日には、このガワが無事であるかどうかも怪しいわね」

 

 顔を青くして、ぶるりと体を震わせた対魔忍。

 大田はなんとも言えない視線を向け、胸の感情を一息で吐き出した。

 

「……まぁ、今はインセクター羽蛾とダイナソー竜崎とのデュエルが大切だ。しかし、こうも混乱しきっていては、誰がデュエルするかの話もまとめられないだろう。どうするべきか」

 

 収拾がつかなくなってしまった現状に、大田は頭が痛くなってきた。

 

 見た目は美男美女であっても、若返った大田と同じように、その中身は全く別物と大田は察している。

 むしろ、より問題のある何かだと受け止めていた。

 

 大田はかつて海馬コーポレーションのかなめとなる、軍事工場の責任者であった。

 

 生産や運営のシステム、そして人を見極め配置して働かせることに関しては、他のBIG5よりも秀でていると自信がある。

 

 そんな大田からすれば、チーム俺たちは異質そのもの。

 

 一見ただのデュエル馬鹿かと思えば、彼らの手がけた様な先見性のあるサービスを思いつく。したたかな行動や、考えを提案してくる。

 

 ずっとそんな感じでいてくれたらいいのだが、いったん珍妙なことを始めると、もう彼らは興奮し始めて始末に負えない。

 

「……デュエルに関しては安心して任せられるのだがなぁ。対魔忍殿はこの混乱を収めるような、良い考えはあるかね?」

 

「任せて頂戴。こんな時のために、とっておきのアイデアを用意してあるわ」

 

 声をかけて、チーム俺たちの注目を集めた対魔忍。

 たくさんの視線を集めて興奮し、顔を赤らめた対魔忍がごほんと咳をひとつ。

 

「誰もが参加したいのなら、あとはこの世界の天に全てを任せるしかない。デュエリストであるからには、運も実力のうちというもの。というわけでメスガキわからせたいさん、例のあれを!」

 

 ビシッと敬礼した青髪ポニーテールの小さな女の子が、部屋の外に消えていく。

 

 それを見て全員が怪訝そうに成り行きを見守っていたが、メスガキわからせたいと一緒に入ってきた代物に目を輝かせる。

 

「ま、まさかあれは!」

 

「バトルシティ編で使われた、伝説の抽選マシーン!」

 

 沸き立つチーム俺たち。

 その反応が欲しかったと微笑む誇り高き対魔忍。

 

「そう、この『ビンゴマシーンGOGO!(自主制作)』で決めましょう!」

 

「「「「「おおおおおおおおお!」」」」」

 

 原作でも使われたマシーンの登場に、チーム俺たちは大歓喜。

 

 一方、大田は「なんだこのセンスもなくダサいマシーンは」と肩を落とした。

 

 ダサい、なんというか、ダサい。

 しかも、あの憎き海馬のフェイバリットモンスターの形をかたどっているのだから、気にいるわけもなかった。

 

 だが、目の前のチーム俺たちはご満悦の様子。

 せっかく収拾がつきそうなのに、ここで水を差すほど大田は空気が読めない男ではなかった。

 

「……体は若くなったのに、疲れが取れないな」

 

 ビンゴマシーンを見て大盛り上がりするチーム俺たち。

 それを残念なものを見るような目で大田は眺め、ため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるネットニュースより。

 

≪チーム俺たち、大型デュエル大会の特別ゲストに≫

 

 ◎月◎日に行われるデュエルモンスターズの大型大会イベント×××××において、にやにや動画に所属する裏デュエリスト、チーム俺たちの特別デュエルが行われることが今月△日、分かった。

 にやにや動画は近年誕生した新型の動画投稿サイトであり、登場後すぐに全世界で話題となり会員が急増している。その中でも注目すべき大きなコンテンツは、「チーム俺たちの裏デュエル」というデュエルの生放送だろう。

 スター性のある他では見られないデュエリストたちが、レアカードと高いデュエルタクティクスで行うデュエルは人々を魅了し続けている。直近の生放送では、全世界で50万人が同時視聴という、ネット同時視聴者数としては世界初の偉業を達成したことも驚きだ。

 そんな世界各国の幅広い年代から人気を獲得した「チーム俺たちの裏デュエル」であったが、これまでメディアへの露出や公の場でのデュエルが見られることはなかった。

 それが今回、大型デュエル大会である第〇回×××××にてゲストとして参加、さらには特別デュエルまで見せてくれるという。

 

「チーム俺たちのデュエルは、プロの間でも大きな話題になっていました」

 

 世界のデュエリストに詳しい、デュエルモンスターズ研究家、篠崎渡氏は詳しい実情を語ってくれた。

 

「デュエルの実力や希少なカードを扱うエンターテイメント性から、多くのプロデュエリストや企業から強い関心を集めていました。デュエルの希望や、メディアへの出演も提案されましたが、すべて断っていたそうです」

 

 私たちが知っている有名なテレビ局からのオファーや、プロデュエリストの団体からの提案もすべて断っていたとのこと。先日の報道では、米デュエリスト団体からの巨額の契約金による移籍オファーも断ったことが分かっている。

 それが今回、どうして大会にゲストとして参加することになったのだろうか。

 

「今回の大会の後ろについていたスポンサーが、特別なアプローチを使って話を通したそうです。にやにや動画の運営会社より、SNSと呼ばれる新サービスの開発が先月発表されました。インターネットサービスのバックアップを背景に、粘り強く交渉を重ねた結果、チーム俺たちの特別参加に繋がったと聞きます」

 

 会社のサービスの拡大によって、人気のあるデュエリストが広報としてメディアに登場することは珍しくない。

 

「チーム俺たちのデュエリストは見目麗しく、デュエル以外でも高い人気があります。彼らのスター性は、企業にとって咽喉から手が出るほどに欲しい人材なのです。今回の大会に関わる者たちからすれば、これを契機にデュエリスト個々人たちとも繋がりを持っていきたいと考えているでしょう」

 

 既に第〇回×××××のチケットは売り切れになり、直接自分の目でデュエルを見たいファンたちからは、早くも次の大会におけるチーム俺たちのゲスト参加を強く望む声が上がっている。

 果たして、今回の大会でチーム俺たちはどのようなデュエルを見せてくれるのだろうか。当日のデュエル大会が楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある学校。

 その昼休みに、学生たちが集まって会話を楽しんでいた。

 

「ねぇ、聞いた!?チーム俺たちの人たちが、デュエル大会で特別デュエルのゲストに呼ばれたんだって!」

 

「え、チーム俺たちって、にやにや動画の?」

 

「そう、すごくない!?」

 

 驚く友人たちを前に、少女が顔をほころばせて興奮する。

 

「しかも相手はあのインセクター羽蛾とダイナソー竜崎だって!」

 

「すごいじゃん、あの遊戯さんたちとも戦ったデュエリストでしょ!?」

 

「うわ、やばい。チケット買わないと!」

 

 焦る友人たちの前で、首を横に振る。

 

「残念、もうどこも売り切れだって。発表があってから、ものの五分もしない間に売り切れになっちゃったんだって」

 

「えー。じゃあダフ屋から買わないとだめかぁ。お金かかりそうだなぁ」

 

「いや、それもダメ。あまりにも欲しい人が多すぎて、めちゃくちゃ高いよ。具体的には……これぐらい」

 

「……げ、私たちのおこづかいだと、前借しても無理じゃん。どれだけバイトしたって買えないでしょ、これ」

 

「生のチーム俺たちに会えるってなったから、そりゃあねぇ。この値段って昨日の話だし、もしかしたらもっと値段が上がっているか、売り切れているかもしれないよね」

 

「あああああ、生で俺たち見てみたかったなぁ。すごいカードも見てみたかったし」

 

「ところで、誰が出演するの?」

 

「コメンテーター枠で例のヤバイお嬢様、あとはまだ選手選定中っぽい。もしかしたら、私たちが知らない俺たちの人がくるかも」

 

「どうせなら、満足民さんみたいなイケメンがこないかなぁ。チーム俺たちって、女性の人めっちゃ多いからさ」

 

「むしろ、俺たちのお姉さま方のデュエルが私は見たい。生であの美しい、力強いデュエルが見られるんでしょ?もう私冷静でいられる自信がないよぉ」

 

「魔女っ娘ちゃんとか、エイリアン☆エイリアンちゃんとか来ないかなぁ。ちっちゃくて可愛いから生で会ってみたいかも」

 

 このようなチケットを買えない人々は、その場でデュエルが見られないことを残念に思った。

 

 しかし、そんな彼らにも朗報が伝わった。

 

 それから間もなくして、テレビでも放送することが決定したのだ。

 この機を逃してはならないと、偉い人によって特別に放送枠が設けられたのだ。

 

 本来テレビ放送の予定がなかった大会である、見ることが叶わなかった人々に大きな反響を呼んだ。

 当局のワイドショウではこのことが大きく報じられ、放送がない他局でもこの話題を逃さじと、チーム俺たちについて特番が組まれていく。

 

 その様子を外の世界から見ていたチーム俺たちは驚いた。

 

 本人たちはただただ、普通にデュエルだぜと公認大会に出るような心持ちであったからだ。

「ここまでの話になるものなのか」と予想外の展開に困惑し、BIG5たちは望外の話題性にほくそ笑んだのであった。

 

 

 

 

 

 そして、大会当日。

 

 

 

 

 

 本戦参加者によるデュエルは、つつがなく終わりを迎えた。

 

 大会入賞者の健闘が称えられる中、どこか観客たちは浮足立っていた。

 そして、大会が終わったというのに、入賞者たちの顔からは緊張感が抜けていない。

 

 この大会は素晴らしい大会だった。

 多くのデュエルが、観客たちの心を震わせた。

 

 しかし、今日ここに集まった人々が望むのは、もっと刺激が強いものである。

 神秘性に包まれた謎のデュエリスト集団。

 実在に疑問がなげかけられたカードとデュエル。

 

 そのすべてが、今、ここで明らかになる。

 

「えー、それではこれより、皆様お待ちかねのエキシビションマッチに入ります。今回のデュエルではいくつか禁止カードが指定されておりまして、直接的なダメージを与えるバーンカード、あるいは特定のバーンカードについては規制がかけられて───」

 

 少し緊張気味でルールを伝える女性司会者。

 観客が固唾をのんでまだかまだかとデュエルを待ち望んでいる中、会場の熱気を入場口で見ていたデュエリストがいた。

 エキシビションマッチの参加者である、インセクター羽蛾選手とダイナソー竜崎選手の二人であった。

 

「ぐぎぎ、ふざけやがって。まるでオレが添え物みたいな扱いを……」

 

 インセクター羽蛾は、憎々し気に会場を眺めていた。

 その横に並んだダイナソー竜崎も、不満げに頬をかいている。

 

「……しょうがないやろ。チーム俺たちといったら、世界で今一番話題になっとるデュエリストたちや。人気も知名度も、ワイらとはまるで違うからな」

 

「オレをお前と一緒にするんじゃない!くそ、バトルシティで城之内みたいな雑魚にまぐれで負けさえしなければ、こんな扱いにはならなかったのに……ッ!」

 

 元全国大会優勝者、元準優勝者も今では日の目を浴びていない。

 デュエルキングダム、バトルシティでの予選敗退によって、その実力が疑問視され、いわゆる過去の人に。

 あの人は今みたいな扱いをされるようになってしまった。

 

「チーム俺たちだなんてふざけた名前をしやがって!あのデュエルだって、どうせインチキに決まっているだろうが!」

 

「……まぁ、ふざけた名前やな。ワイらが踏み台扱いっちゅうのも気に食わん」

 

 二人はこの世界では普通に強いのだが……。

 まぁ、あれだ、これまでの対戦相手が悪いと言わざるを得ない。

 なんというか、相手に恵まれていなかった。

 

 そうして彼らの支援者から、最後の機会とばかりに与えられたチャンス。

 それがこの大会でのエキシビションマッチなのだ。

 

「それでは、まずはかつて全国大会で優勝、準優勝を飾ったお二方からの入場です!インセクター羽蛾選手、ダイナソー竜崎選手です!」

 

 会場から拍手・歓声と共に二人が入場。

 

 自分たちが先に入場するというのは、目玉はあちらということなのだろう。

 この借りはデュエルで返してやると、二人の闘争心は天を突き抜けんほどに燃え上がった。

 

「……えー、それでは」

 

 会場の熱気がピークに。

 

 女性司会者は会場から向けられる熱い視線を感じていた。

 期待感がこれ以上ないくらいに盛り上がっていることを確認し、緊張しながら文面を読み上げる。

 

「謎に包まれた裏デュエルのデュエリスト、その幻想に包まれた正体が、本日ここで明らかになりますッ!チーム俺たちよりこの三人が来てくれました!」

 

 選手の入場口の奥から、三つの人影が進み出る。

 

「デュエル解説としてき、金髪ドリル令嬢様?そして、ソリティアガール選手と……。わ、わくわくアーゼウス選手の入場です!」

 

 奇抜な名前であるが故に、かみかみになってしまったが、なんとかその名前を呼びあげた。

 

 入場曲が会場に鳴り響き、大歓声の人々の前で放たれた風船が天を舞う。

 巨大モニターに映るのは、三人のデュエリストのコードネーム。

 

 そして、会場のステージへ登壇していく三人のデュエリストたち。

 

「おーっほっほっほ!超・ハデハデですわ!最高ですわ!気分もアゲアゲですわ!」

 

「う、うっひゃー。すごい人の数……って、見てよ!本物のインセクター羽蛾さんとダイナソー竜崎さんがいる!うわ、マジだ、マジの二人だ!やば、あとで一緒に写真とってもらえるかな!?」

 

「アーゼウスは概念だ。だからこのデッキは、アーゼウスデッキなんだ。アーゼウスがなくても、アーゼウスなんだ。誰がなんと言おうと、アーゼウスなんだ」

 

 満足げなお嬢様を筆頭に、眼鏡をかけた真面目そうなポニテの女の子が、きゃーきゃーと嬉しい悲鳴を上げて入場。

 もう一人の謎の機械の仮面を被った少女は、ぶつぶつと呟きながらぎくしゃくと入場する。

 

 ……右手と右足が同時に出ているが、大丈夫なのだろうか。

 

「あ、ほ、本物だ!本物のお嬢様だぞ!」

 

「悪いお姉ちゃんだ!お母さん、悪いお姉ちゃんがいるよ!」

 

「うわ、き、綺麗……」

 

「他の二人は、プロフィールでは見たことがあるが、実際にデュエルは見たことがないデュエリストだ!」

 

「おいおい、楽しませてくれるじゃないの!」

 

「あの仮面の女の子、めっちゃ緊張してない?だいじょうぶ?」

 

 会場の盛り上がりはピークに達した。

 

「ちょ、今わたくしのこと悪いお姉ちゃんっていった子がいませんでして!?わたくしってマジでそんなイメージついてますの!?」

 

「プレイングだけでなく、サイコショッカーを筆頭に、使っているカードも実は悪役っぽかった件について。これには草を禁じ得ない。そして草は燃やそう、今日はアーゼウスいないけど」

 

「いっそ、ここで悪役令嬢の概念を流行らせたらいいんでないの?BIG5の人も流行は作っていけ金になるって言っていたしね」

 

「ガーンですわッ!?」

 

 いい加減に大会を進行しなくてはいけないので、「あのぉ」と緊張気味に三人へ話しかける女性司会者。

 

 事前の挨拶でも一度会ったのだが、三人共にいろいろ個性が強い。

 これで大丈夫なのかと思ったが、意外や意外。

 お嬢様が音頭をとって、司会者との会話や、マイクパフォーマンスを順調に進めていく。

 

 女性司会者、会場の人々からのお嬢様への警戒心は、ほぼなくなったといってもいい。

 ……そのデュエルスタイルへの恐怖はまったく少しも消えていなかったが。

 

「と、いうわけでとても皆様とお会いできる日を楽しみにしておりましたわ!今日はチームメイトの対戦ですが、解説は初めてですので頑張りますわ!」

 

「はい!よろしくお願いいたします!それでは、選手同士の握手から。どうぞ対戦相手と握手をお願いします。あ、カメラマンがおりますのでよろしければ視線もお願いいたします!」

 

 インセクター羽蛾はソリティアガールと、ダイナソー竜崎はわくわくアーゼウスと握手を握る。

 

「ずっとずっとファンでした。握手出来てうれしいです。あの、良かったらサインください」

 

「へ、ワイのサイン?ホンマか?」

 

「お願いします」

 

「お、おう」

 

 仮面越しのキラキラとした視線に戸惑う竜崎。

 

 なんか想像していたものと違うが、それでもここまで敬意を払ってもらって悪い気はしない。

 差し出された色紙に名前を書くと、小さな体で大事そうにそれを胸に抱える。

 

 そしておずおずと差し出された手を握れば、まぁ小さな子供特有のやわらかさと温かさなわけで。

 

「……そうか。まぁ、デュエルでは手加減できへんが、良いデュエルにしようや」

 

「はい、はい!ありがとうございます!こっちも全力で頑張ります!アーゼウスはないけど!」

 

「……アーゼウスって、なんや?」

 

 始終和やかに、二人の握手は終わった。

 

 一方、そうならなかった二人もいる。

 インセクター羽蛾と、ソリティアガールである。

 

「……おい、こういうのはやりたくなくっても、やるのが通例ってもんなんだよ」

 

「……」

 

「……おい、そろそろいいだろ。手を離せよ。いや、離せって!?」

 

 ソリティアガールは無表情になっていた。

 

 羽蛾をガン見し、握手もガッシリと握りこんで中々離さない。

 それを見て周囲もダイナソー竜崎もドン引きしていたが、同じ立場に立ったわくわくアーゼウスは分かった。

 

 こいつ、どちゃくちゃ興奮しきって一周して感情が無になっていると。

 

 共に中央から離れていく最中も、興奮しすぎたのか。

 ソリティアガールの鼻からは、鼻血が流れ始めていた。

 

「……やばい、もう、やばい。インセクター羽蛾さん小さい、なんか小物っぽい。もう無理、感動で泣きそう」

 

「……涙よりも鼻血が先に出てるのやばい件。ほら、すぐ始まるから、鼻にとりあえずティッシュ詰めてどうぞ」

 

「なんか目の前にしたら頭が働かなくて、ファーストコンタクト最悪……。私も色紙を用意していたのに……」

 

「後でちゃんと謝ろうね」

 

「うん」

 

 困惑気味の女性司会者は、ちらちらとお嬢様を見て様子をうかがっている。

 

「えーと、準備はよろしいでしょうか?えー、大丈夫なのでしょうか?」

 

「まぁ、わたくしたちって基本裏というか、人がいないところで戦っておりましたので。こんな大舞台に、緊張しっぱなしになっているのだと思いますわ。普通にごめんなさいですわ」

 

「そ、そうでしたか……。あ、ソリティアガール選手が頭をインセクター羽蛾選手に下げましたが、苦い顔されて泣きそうな顔に」

 

「ソリティアガールさんもわくわくアーゼウスさんと同じように、インセクター羽蛾選手からサインをもらおうとしていたようですから……。まぁ、気持ちを切り変えて頑張れって感じですわね」

 

「そうですね。あ、デュエルの準備が整ったようです。撮影の皆様は、デュエル中は撮影をお控え頂きますよう、よろしくお願いいたします。それでは、間もなく開始ですッ!」

 

 特注のデュエルディスクを装着するソリティアガール。

 その顔は先ほどと打って変わって、落ち着いたものになっている。

 

 そして壇上に上がるとインセクター羽蛾と相対し、向き合った。

 

「それでは、元全国大会優勝者インセクター羽蛾選手、チーム俺たち代表ソリティアガール選手との、特別エキシビションマッチをこれから開始します!お二方ともに準備はよろしいでしょうか?はい、それでは───」

 

 インセクター羽蛾とソリティアガール選手の視線が交差。

 会場が静かになり、息をのむ音だけが聞こえる。

 

 張り詰めた弓から矢が放たれるように、緊張が最高潮に達した時。

 

 デュエリストの戦いは始まる。

 

 

 

「「───デュエルッ!!」」

 

 

 

「先攻はソリティアガール選手のようです。インセクター羽蛾選手はお得意の昆虫族デッキだと思うのですが。お嬢様に伺います、ソリティアガール選手はどのようなデッキを使われるのでしょうか?」

 

「彼女は使っているデッキに特にこだわりがありませんので、わたくしも知りませんわ!」

 

「おっと、なんと珍しくフェイバリットデッキがないタイプのデュエリストであるようです!これは楽しみですね!」

 

「ただ……」

 

「はい?なんでしょうか?」

 

「いえ、チーム俺たちの中でも、トンでもデュエルをやらかす三人と言われるデュエリストがおりまして。一人目がわたくしこと金髪ドリル令嬢、二人目がリアリストだ!さん、そして三人目が───」

 

「は、はぁ」

 

「そう、あそこにいるソリティアガールさんですわ」

 

「……私、なんだかとても嫌な予感がしてきたのですが」

 

「わかりますわ、とても楽しみですわね!」

 

 一方、ソリティアガールはドローした後に、自分の手札をじっと見つめていた。

 何を考えているのか表情からは読み取れないが、手札を見つめるばかりのソリティアガールの様子に会場がざわざわと騒がしくなる。

 

 それを見て喜んだのは羽蛾であった。

 

 これはきっと何もできないような酷い手札になったのだろうと、嘲りの表情を浮かべて笑っている。

 

「ヒョヒョヒョ、どうやら良くない手札になっちまったみたいだなぁ。ええ、どうするんだいお嬢さん?」

 

 ソリティアガールはびくりと肩を跳ね上げた。

 羽蛾が悪い笑みを浮かべる中、ソリティアガールは静かに手札の一枚を引き抜く。

 

「……私は手札から、【バンデット─盗賊─】を発動」

 

「ヒョ?」

 

「相手の手札を見て、一枚奪うことができる」

 

「っち、小癪な真似を。何もできないなら、こっちの妨害ってことか」

 

 相手のカードに頼るなんて、自分の手札やデッキが頼りないと相手に教えているようなもの。

 この大舞台で手札の大事故をやらかしたのかと、会場の誰もががっかりと気持ちを落とした。

 

 ただ唯一、金髪ドリル令嬢とわくわくアーゼウスだけが顔を強張らせている。

 

「まさか、【バンデット─盗賊─】……ッ!?」

 

「有名でありました元全米チャンピオン、バンデット・キース選手も用いたレアカードです!しかし、いきなり発動するなんて、だいぶ手札がよろしくないのでしょうか?」

 

「いえ、違いますわ。あれは、あれはそんなものじゃありません。相手を殺す一手ですわッ!」

 

「へ、あ、あの、どういうことでしょう?」

 

 金髪ドリル令嬢、わくわくアーゼウスの二人は、遊戯王の初期からのプレイヤーである。

 そのため、最初期の暗黒カードたちの脅威をいやというほどに知っていた。

 

 だからこそ、この相手の手札に干渉する行為がどれほどに問題があるのか、心が悲鳴を上げるほどに理解している。

 

 同じく、この現代遊戯王をよく理解していた、他のチーム俺たちも戦慄していた。

 

 現代遊戯王は空中戦である。

 相手先攻ターンといえど、手札から妨害する手段はいくらでもあるのだ。

 その手札に相手が干渉すると……だいたいろくでもないことになる。

 

「おい、早く選べよ。それとも、オレの手札を見てビビっているのかい?ヒョヒョヒョヒョヒョ!」

 

「……じゃあ、この【DNA改造手術】、もらいます」

 

「チッ!あながち素人というわけでは、いや、まぐれか?いいよ、持っていけ」

 

 【DNA改造手術】を手札に加えると、元の位置に戻っていくソリティアガール。

 

 ソリティアガールは知った。

 相手のカードをピーピングする中で、インセクター羽蛾の手札には手札誘発がないことを確認したからだ。

 

 【灰流うらら】もない。

 【ドロール&ロックバード】もない。

 【増殖するG】もない。

 【PSYフレームギア・γ】もない。

 【ディメンション・アトラクター】もない。

 【アーティファクト─ロンギヌス】もない。

 その他、多くの問題児たちのカードは存在しなかった。

 

 羽蛾は相手ターンに何かできる手段は何もない。何もないのだ。

 

 それが何を意味するのかというと、相手はソリティアガールのカードに干渉する術はなく、ソリティアガールは思いのままにカードを動かすことができるということである。

 

 つまり、思う存分、カードを、この大衆の中で、憧れの原作キャラを相手に回せるということ。

 

 彼女にとってデュエルは愛。

 すなわち、ソリティアもまた愛。

 

 ソリティアガールの顔には───狂気とも言える笑顔が張り付いていた。

 

「やりやがりましたわね、あの子。確かに、それは盲点でしたわ」

 

「えっと、どういうことでしょうか?」

 

「デュエルモンスターズにはクリボーを筆頭に、相手ターンであっても妨害するカードがありますわ。手札から発動できるカードがどれだけ活躍できるのか、決闘王である武藤遊戯さんが証明してくれていますわよね?」

 

「は、はぁ。そうですね」

 

「あの【バンデット─盗賊─】によって、ソリティアガールはそれらのカードがないのか確認しましたわ。そして場合によってはそのカードを奪い盗る、自分が使用する。あのカードによって手札を確認したことが、あの子にとって何を意味するのかというと……」

 

「はい!」

 

「このデュエル、ひょっとするとこのターンで終了のお知らせですわ」

 

「はい!……って、ええええええ!?」

 

「あの子ならやりかねませんわ」

 

「いや、でも、この大会ではバーンカードは禁止されています!お嬢様が使われた【棺桶売り】も禁止されていますし、どうやって1ターン目で勝つっていうのですか!?」

 

「今回の大会でバーンカードの規制が強かったのって、もしかしてわたくしのデュエルが原因でしたの!?」

 

 お嬢様の推察、そして女性司会者の驚愕の叫び。

 

 会場の観客にもその会話が届くと、ざわざわと会場全体に困惑が広がり、騒がしくなっていく。

 

「1ターン目で1ターンキル?まさか、いや、それは無理だろう。あのお嬢様だってそれは出来なかったんだ」

 

「ば、バカげている」

 

「いや、でも、チーム俺たちだぞ?」

 

「そうだ、ひょっとすると……」

 

 その騒ぎが、インセクター羽蛾の逆鱗に触れた。

 

「ふざけるなよ。1ターンで終わらせる?1ターンで勝つ?そんなのエクゾディアを初手で揃えるぐらいな無茶な話だ」

 

 羽蛾の言葉は正しかった。

 しかもただの1ターンではなく、正真正銘の1ターン目。

 バトルフェイズが行えないために、相手への直接攻撃はできない。

 

 羽蛾の言葉は正しかったが、その言葉を聞いてソリティアガールは口元を押さえ、震えだす。

 最初は訝しんでいた羽蛾であったが、ソリティアガールが笑っているのだと気がつくと表情は一変。

 

「……何が、何がおかしいんだっ!?」

 

「大舞台で、インセクター羽蛾さんっていう素晴らしい遊戯王の人物がいて、この放送が他のデュエリストにも届いているかもしれなくて、こんなの、こんなの……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソリティアするしかないじゃないッ!!!!」

 

 ソリティアガールは、弾けた。

 

 端正で美しかった顔は狂気に歪んでおり、眼鏡の奥の赤い瞳は爛々と輝いていた。

 その様相は、ともすれば地獄の悪鬼のようであった。

 

 これを見て女性司会者は小さな悲鳴を上げ、金髪ドリル令嬢は「あーあ」と呟いた。

 テレビ画面を通して会場のデュエルを見ていたチーム俺たちの面々は、両手を合わせて合掌のポーズ。

 会場の観客は清楚で真面目そうな女の子であったソリティアガールの悪魔的変貌に、阿鼻叫喚の大騒ぎ状態へ。

 

 そう、ソリティアガールの設定は───

 

 

「ヒャッハッハー!デュエル続行よッ!」

 

 

 ───遊戯王アニメ伝統芸、顔芸枠だったのだ。

 

 

「な、なんだ、なんだお前はッ!」

 

「あんなに遊戯さんたちにやったみたいに馬鹿にしてもらえて、生で『ヒョッヒョッヒョ』も聞けて、これでいい加減なデュエルなんてしたら最低よねッ!」

 

「ひ、ひぃぃぃぃっ!?」

 

「私は手札から魔法カード【強欲な壺】を発動、二枚ドロー!」

 

 ソリティアガールの変貌ぶりに戦慄し、悲鳴を上げる羽蛾。

 

 そんな羽蛾を目にして、ソリティアガールは歪んだ感情を乗せた笑みのまま、ぺろりと舌なめずり。

 そしてドローしたカードを確認し、顔を蕩けさせた。

 

「引けたぁッ!魔法カード【苦渋の選択】を発動ッ!」

 

「【苦渋の選択】……だと!?」

 

 自分デッキから5枚を選択し、1枚を選んで手札に加え、残りは墓地に送られるカード。

 しかし、そのカード選択は相手に委ねられており、お世辞にも良いカードとは言えない評価をされている。

 

 なお、チーム俺たちは愛用者が多い模様。

 金髪ドリル令嬢のテンションは爆上がりだ。

 

「出ましたわ!相手に苦渋をなめさせる【苦渋の選択】!」

 

「え、あの、あのカードって相手に好きなカードを選ばせて、他は全部墓地にいってしまう。そんなめちゃくちゃなカードだった気がするのですが」

 

「それが激強なのですわ!デュエルモンスターズは墓地で効果を発揮するカードがたくさんありますの!それに墓地にコストや素材を求めるカードも多いですわ!そんなカードたちを4枚もデッキから選んで墓地に送れるなんて、【苦渋の選択】は最高のカードですわ!」

 

「そ、そうなんですか!解説ありがとうございます!」

 

 女性司会者はこれまで聞いたことのないカードの見解に、なるほどと大きくうなずく。

 そして、ソリティアガールが選択した5枚のカードは。

 

「私は【絶望の宝札】を3枚、そして【魔法再生】を2枚選択!さぁ、選んでください!」

 

「に、2種類だからどちらかしかないだろうが!?」

 

「違います!この【魔法再生】は、ノーコストで墓地から魔法カード1枚を回収できる魔法カード。つまり事実上の選択肢は、【絶望の宝札】しかありません!」

 

「な、なんだと!?」

 

 金髪ドリル令嬢やわくわくアーゼウスにとっては、いやというほどに昔見た光景である。

 

 しかし、この世界においては全くそんなことはなく。

 ソリティアガールのデュエルタクティクスに、会場全体が震えあがっている。

 

「ぐ、ぐ、くそっ!ならとっとと、その【絶望の宝札】を手札に加えやがれ!」

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!そしてお楽しみはこれからだ!魔法カード発動!」

 

 

 

 

「【絶望の宝札】」

 

 

 

 

 「バン☆」という不思議な音が聞こえた気がした。

 

 会場の観客、テレビの視聴者、そして世界のデュエリストたちは「【絶望の宝札】!?」と一様に驚いた。

 

 あらゆる人々が知らない「宝札」系のカード。

 チーム俺たちですら知らない者がいるが、知っている者にとってはとんでもないインチキカードだ。

 

「効果はデッキから3枚のカードを手札に加え、その後に───デッキのカードを全て墓地に送る!」

 

「「「「「な、なんだって!?」」」」」

 

 羽蛾だけではなく、会場にいる他のデュエリストも、女性司会者も、会場の観客も、テレビを見ている世界の視聴者も言葉を失った。

 いわゆる遊戯王キャラの驚き顔というやつである。

 

 「デッキのカードを全て墓地に送る」という効果は、それだけ大きなデメリットだったのだ。

 

 デュエルモンスターズでは、デッキからカードを引けなくなってしまった時点でそのプレイヤーは敗北する。

 つまり、このまま羽蛾にターンが回り、そしてそのままターンが返ってくれば、ソリティアガールはデッキからカードを引けずに敗北してしまうのだ。

 

「ば、馬鹿者がぁッ!」

 

 関係者の中でも、特に格式が高い人間だけが入ることができる大会観覧室。

 

 そこでワインを飲みながら大会の様子を見守っていたBIG5大門が、手からワイングラスを床に落とし、怒りの声を上げた。

 

 大門だけではない。

 世界中のデュエリストが、ソリティアガールはデュエルを放棄したと考えていた。

 

 今はまだ1ターン目であり、そもそもバトルフェイズを行うことができない。

 つまり、ソリティアガールはモンスターの攻撃によって、羽蛾のライフポイントを減らすことができないからだ。

 

「ひょ、ヒョヒョヒョヒョヒョー!バカだなぁ、今はまだ1ターン目だぞ!これでオレが何もせずともターンエンドすれば、次のターンお前はドローできず敗北!なにが最強のデュエリスト集団だ、裏デュエルだ!こんなプレイミスするなんて、拍子抜けだよ!」

 

 羽蛾は自分が勝ったとばかりに手をたたいて喜んだ。

 

 これでデュエルでの勝利は確実。

 自分はチーム俺たちに勝ったという実績が手に入る。

 こんな雑魚を相手にしただけでは、自分の名誉の回復に不安が残るが……。

 

 それはそれで、チーム俺たちが評判倒れの連中だったと、世間に知らしめた功績は残るだろう。

 

「ヒョヒョヒョヒョヒョー!」

 

 羽蛾は自分の輝かしい未来を確信する。

 そして目の前の阿呆をさらに嘲笑ってやろうと、ソリティアガールの顔を見て───

 

 

 

 

 

 

 

「あはぁ」

 

 ───ソリティアガールの底知れない悪意を目の当たりにすることになった。

 

 自分の敗北をまるで受け入れていないような、戦意に満ちた笑み。

 小躍りしていた羽蛾を嘲笑うかのように、ニヤニヤと顔を歪ませるソリティアガールの姿に、羽蛾は思わず一歩後ずさった。

 

「な、なんだ!なにがおかしいんだ!お前はもうデッキがゼロ枚なんだぞ!?」

 

「そうです、デッキゼロ枚!でも私のターンはまだ終わっていません!」

 

「だ、だから何だっていうんだ!?モンスターの攻撃だって、このターンはできないんだぞ!デッキからカードが引けなくなったら負けなんだ!お前は、負けだ!」

 

「モンスターの攻撃なんて必要ない!見てください、これが私のDEATH☆GAME!!」

 

 ソリティアガールの手札から、1枚のカードが右手によって引き抜かれた。

 

 これこそソリティアガールの狙い。

 この1枚のカードを発動させ、絶対に妨害されないために彼女は全てを尽くしたのだ。

 

「【絶望の宝札】によって墓地に送られたカードの中には、【処刑人マキュラ】のカードがあります! このカードが墓地に送られたターン、私は手札から罠カードを発動することができる!」

 

「手札から罠カード!?で、でもそれでもターンが回ってくればオレが勝つ!それにバーンカードはこのデュエルではほとんど禁止されているはずだ!」

 

「ダメージなんて与える必要はありません!私は手札から罠カードを発動します!このカードは、私の墓地に15枚以上のカードがある時、1000ポイントライフを払って発動できる!」

 

「墓地に、15枚以上のカードッ!?まさか、そのために【絶望の宝札】を!?」

 

 ソリティアガールはますます笑みを深める。

 

 彼女のリスペクト相手はマリク様。

 その設定が存分に発揮されたお顔は、もう遊戯王ファンならわかる顔芸ぶりであった。

 

 つまり、お顔放送事故。

 

「さぁ、幾多ものデュエリストを地獄に叩き込んできたカードのご開帳です!」

 

 ノリノリでソリティアガールはカードをデュエルディスクに叩き込んだ。

 

 それは多くのデュエリストを地獄に叩き込んだ魔物。

 コンマイへの怨嗟の声で満ち溢れたカードの産声が、この会場で花開くのだ。

 

 

 

「【現世と冥界の逆転】」

 

 

 

 チーム俺たちはそのカードにトラウマを思い出し、やりやがったとから笑い。

 目はもちろん笑えていなかった。

 

 その一方で観客と羽蛾は事態が理解しきれておらず、放送を見ていたごく一部のデュエリストだけがソリティアガールの狙いを完全に理解し、戦慄した。

 

「【現世と冥界の逆転】……!?」

 

「このカードが発動された瞬間、お互いに墓地に眠っていたカードがデッキになり、デッキにあったカードは墓地に眠る」

 

 羽蛾のデュエルディスクがカード処理のために作動。

 ものすごい勢いで、羽蛾のデッキのカードを墓地に送っていく。

 

 それを呆然と見つめる羽蛾は、ここで初めて自分の末路を知る。

 

「ま、まさか。オレの墓地はゼロ枚、デッキは35枚、それが逆転するってことは……」

 

「そうです、あなたの今のデッキ枚数は───ゼロ枚です」

 

 羽蛾がその場に膝をついた。

 手札にあった4枚のカードは全て手から零れ落ち、ただただ、デッキがあった場所を彼は見つめていた。

 

「あ、ああ」

 

「私はターンエンド、そしてインセクター羽蛾さんのターンです。さっき説明してくれましたよね?ドローできなくなったら敗北だって」

 

「あ、あああああああああ」

 

 震える声で羽蛾は叫んだ。

 

 デッキのあった場所を、何度も、何度も見つめる。

 しかし羽蛾がいくらデッキを見つめても、彼のデッキはゼロ枚から変わることはなかった。

 

 羽蛾はデッキからドローできない。無いものは引けない。

 彼はデュエルに敗北したのだ。

 

 

 

 

 ソリティアガール、WIN。

 

 

 

 

 これが、本当にデュエルなのか?

 

 自分たちの常識をはるかにこえたデュエル。

 そしてその結末に、会場は静まり返っていた。

 

 この会場だけではなかった。

 この放送を見ていたすべての人々が、ソリティアガールのカードコンボとデュエルタクティクスに呆然とし、言葉を失ってしまった。

 

 モンスターを召喚し、バトルを行い、相手の魔法罠を乗り越えて戦っていく。

 これを何ターンも何十ターンも積み重ねていくこの戦いこそが、世界が知るデュエルモンスターズだった。

 

 膝をつき、呆然と地面を眺める羽蛾。

 そんな羽蛾を見てようやく顔が戻り、状況全てを把握して賢者タイムに突入したソリティアガール。

 

 そして───心の底から湧き上がる何かに突き動かされた、観客たち。

 

 「「「「「うおおおおおおおおおおおッ!!」」」」」

 

 恐ろしいデュエルだった。

 無茶苦茶なデュエルだった。

 見たことがないデュエルだった。

 

 だが、こんなデュエルが行われるのが、チーム俺たちの裏デュエルなのだ。

 そして、チーム俺たちの裏デュエルは、世間で噂されるようなインチキや嘘の存在ではなかった。

 

 チーム俺たちは、今、確かにこの世界に実在する。

 

 それはソリティアガールのデュエルの狂気の伝播か、あるいは新たなデュエリスト誕生への祝福の声か。

 

 大地が震えるほどの歓喜の声が、チーム俺たちのソリティアガールへ向けられる。

 ソリティアガールはそれを感じ取ると、戸惑いながらも静かに右腕を天に掲げた。

 それを受けて観客の歓声はさらに大きなものに。

 

「うん、私たちらしいデュエルですわね」

 

「あれと一緒にされたら困るんだけど。アーゼウスの効果が発動した後みたいなデュエルだよ?アカンでしょ」

 

 会場の、世界の誰もが感情の衝動に突き動かされる中。

 金髪ドリル令嬢は満面の笑み、わくわくアーゼウスはドン引きしていたのだった。

 




今回長くて力尽きたので、ダイナソー竜崎戦はいつものようにあっさり予定です。

◎ソリティアガール

本人は清楚・メガネ・ポニテと好きな要素を詰め込んだガワだったが、マリク様ファンだったため、顔芸の設定を詰め込まれた模様。
ところどころ頑張って耐えていたが、羽蛾の挑発が本人にとってはファンサービスすぎてはじけてしまった。

デュエルスタイルは全力バトル。
OCGプレイヤーの権化。
たぶんチーム俺たちで一番えげつない。

◎【絶望の宝札】

「お前は存在してはいけないカードだ」の見本。

漫画で登場した【絶望の宝札】はテキスト上では3ドローだが、実際の処理はデッキから3枚選んで手札に加えて、他は全部墓地送り。

あたまおかしい。

これでデッキから【現世と冥界の逆転】を手札に加えれば、なんとデッキから【処刑人マキュラ】も落ちているので、そのまま【現世と冥界の逆転】を使えます。

この戦い方で必要なコンボ枚数はこれ1枚。
もちろんこれも【魔術師の書庫】でデッキからサーチ可能だし、なんなら原作版の【魔法再生】は発動コストゼロなので墓地に落として回収でもいい。

◎【処刑人マキュラ】

「サッカーしようぜ!お前ボールな!」を体現したすごいやつ。

原作の効果は、
「フィールドで破壊された時に手札から罠を瞬時に発動できる。ただしそのターンのエンドの時に手札は全て墓地に送られる」
だった。

で、私たちの遊戯王のカードゲームに持ち込まれた時に、効果がこうなった。

「このカードが墓地へ送られたターン、このカードの持ち主は手札から罠カードを発動する事ができる」

?????????????

なんか強化された。

しかも雑誌付録で配られまくった。アニメではこの効果のまま持ち込まれた。
エラッタされたが、私は許すつもりは一切ありません。


◎【現世と冥界の逆転】

「遊戯王よりも他に楽しいことはたくさんあるよな」と多くの遊戯王プレイヤーに気がつかせた、偉大な功績がある化け物。

だいたいこの話みたいににたくさん使われた。

エラッタされたカードの中でも、特に酷いエラッタのされ方をしたので、コナミは後悔しているであろう原作効果のまま現実に持ち込まれたカード。

ちなみに原作において、表マリクは姉であるイシズにこれを使われまくって負けまくっていたらしい。

うちなる闇マリクがあんなに強大になったのは、絶対にイシズに原因があると思う()

※追記
大事なお知らせです。私も勘違いして書き方が誤っておりました。
ソリティアガールの使用後のセリフ「デッキから墓地に送られる」を「墓地に眠る」の原作仕様にちゃんと直しました。

このカード、「墓地とデッキを入れ替える」なので「墓地に送られる」扱いになりません。悲報です、慈悲もありません。
つまり、墓地発動はありません。唯一出番がありそうなコカローチ・ナイトくんは死にました。


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サレンダーは公式ではありません

お待たせしました。
遅れた理由ですが、仕事が変わるからです。
はい、そういうことです。

築き上げた「強いぞ!カッコいいぞ!」なフィールドを、ラーの翼神龍のタマタマや、ラヴァゴーレムに食われるぐらいに、ここ最近は大変でした。

感想返し途中でできなくなってしまっていましたが、みんな読ませていただきました。みんなノリが良くて笑いました。

てかなんであれ書いてからイシズ新規でてるんだ……。


 両腕を支えられて、引きずられるようにステージから降りていくインセクター羽蛾。

 

 ダイナソー竜崎はそんな羽蛾の光のない目を見て、言いようのない寒気にぞくりと体を震わせた。

 

 この次のデュエル相手は自分。

 羽蛾の姿に自分を重ね、歯を噛みしめる。

 死刑台に上がるような陰鬱な気持ちになりながらも、竜崎は一歩一歩強く踏みしめてステージに上がっていったのであった。

 

 観客の熱気は、まだまだ冷める様子がない。

 

 チーム俺たちが行ったデュエルは、蹂躙の一言に尽きる。

 カードパワー、デュエルタクティクス、そして決して表では見られないような残虐的エンターテイメント性。

 

 そのどれもが強烈なものであり、ここにチーム俺たちありと世界に知らしめるものであった。

 観客の誰もがチーム俺たちの輝きに目を奪われている。

 

 もしこれが並みのデュエリストであれば、バトルをせずにデッキを狙う戦術など「卑怯」とヤジが飛んでくるだろう。

 

 しかし、チーム俺たちは違う。

 

「……次は我が身やな」

 

 元々世界は知っていた。

 チーム俺たちのデュエルは普通ではないことを。

 

 元々観客は期待していた。

 自分たちのコトワリとは違うデュエルが見られることを。

 

 故に、ここでは「邪道」こそが「正道」。

 

 ダイナソー竜崎は自分の震えをおさえつけるために、歯を砕かんばかりに噛みしめた。

 

 インセクター羽蛾の魂の抜けた姿を思い出す。

 

 デッキはデュエリストの誇りだ。

 それをあんな形で蹂躙された心の痛みは、いったいどれほどのものか。

 考えるだけでも竜崎の胸が痛む。

 

 しかし、そんな心折られた羽蛾の姿が、狂気に魅せられた観客の目に映ることはない。

 

 ギラギラと目を輝かせる観客が望むのは、チーム俺たちの未知なる刺激に満ち溢れた決闘なのだ。

 

 恐るべきはそんな異常な空間を作り上げ、人々を魅了したあのソリティアガールとチーム俺たちの狂気。

 

 その美しい相貌もあって、観客は皆チーム俺たちにくぎ付けになっている。

 彼らの目には、次に戦う竜崎の姿は映っていない。

 

 それがどうしようもなく悔しく、竜崎は目を爛々と輝かせて吼えた。

 

「それでも、ワイにだって意地があるんや!」

 

竜崎が拳を突き付けた先には、仮面の少女。

ソリティアガールと同じく、チーム俺たちのデュエリストにして奇妙なネームセンス。

 

 その名は「わくわくアーゼウス」。

 

 彼女が小さな肩を震わせているのは、こちらのちっぽけなプライドを嘲笑っているからだろうか。

 

 ダイナソー竜崎は忸怩たる思いを感じて、わくわくアーゼウスを鋭く睨む。

 

 なお、実際はそんなことは全然なかった。

 

 わくわくアーゼウスは生でダイナソー竜崎とデュエルできる喜びによって、こらえ切れず肩を震わせていただけであったのだ。

 憧れの一端が目の前にいるのに、限界化しないファンはいないのである。

 

 しかも生でデュエリストの誇りを見せつけられてしまっている。

それはもう格好いいのだ。

 

 この誇りを賭けてデュエルに臨む姿勢。

 一人のデュエリストの生き様は、わくわくアーゼウスの現実世界では見ることのできない輝きだ。

 

 全力で生きるデュエリストの輝きを前に、わくわくアーゼウスはダイナソー竜崎に憧れすら抱いていた。

 

 そう、これぞ遊戯王。

 これぞ「決闘」と書いて「デュエル」と読む戦いの儀。

 

 その場に立ち会うことができて、感動しない遊戯王ファンがいるのだろうか。いや、いない。

 

 もしわくわくアーゼウスに犬のしっぽがついていたなら、そのしっぽは大暴れしていたことだろう。

 

 本来であれば思いっきりアーゼウスをぶっ放し、ほのぼのメルフィの森を薪にしてキャンプファイヤーしてマイムマイムを踊りたいところ。

 

 しかしエクシーズは不許可ということで、非常に残念ながらそれはできない。悔しい話である。

 

 だが、原作世界ではなくOCGデュエリストであれば、デッキのコンセプトが異なるデッキを複数扱うことは当たり前。

 むしろ一つのデッキを使い続けることが珍しい。

 

 わくわくアーゼウスは、代わりのデッキを手にして、ワクワクしながら一歩前に進み出た。

 

「さぁ、お次はわくわくアーゼウス選手とダイナソー竜崎選手のデュエルが始まります!」

 

「そうですわね!」

 

「ところで、わくわくアーゼウス選手はどんなデッキを使うのですか?」

 

「いつもはマスコットの森を燃やしているのですが、今日はなんのデッキなのかわたくしもわかりませんわ!」

 

「……えー、非常に物騒な言葉が聞こえましたが、意気込みは十分伝わってきました!デュエル開始です!」

 

司会とお嬢様の会話を皮切りに、ついに二人のデュエルが始まる。

 

「「───デュエルッ!!」」

 

 わくわくアーゼウスは自分の手札をちらり、迷いなく一枚のカードを選択。

 

「私のターン、ドロー。私は───【黒き覚醒のエルドリクシル】を発動!デッキから【黄金卿エルドリッチ】を守備表示で特殊召喚する」

 

 おい、加減しろ。

 

 試合を見ていたチーム俺たちの心が、今一つになった。

 

 先ほどのソリティアガールのデュエルは、「滅茶苦茶理不尽なデュエル」であった。

 もうなんか、いろいろと酷いものであった。

 

 そして、これからわくわくアーゼウスがやろうとしているデュエルは、「会話しているようで会話していないデュエル」である。

 一見ちゃんとデュエルしているようで、その実態はわかりにくい対話拒否。キャッチボールではなく一方的ドッジボールだ。

 

 つまり、いつもの遊戯王OCGだった。

 

 アニメみたいに切り札を出されたら大体負けるので、そもそも出させないのが現実のOCG。

 こんなカードゲームに誰がしたと言ったら、だいたいコナミが悪い。

 

 カードを刷っているコナミはもっと反省してほしいなって。

 

「デッキから特殊召喚やと!?専用のテーマかいな!?」

 

 竜崎の驚愕の声。

 世界の誰もが耳にしたことがないカードテーマ、エルドリッチに世界中のデュエリストたちの関心が高まる。

 

 一方、エルドリッチを知っているチーム俺たちは頭を抱えた。

 だいたいみんな嫌な思い出があるからだ。

 

 

 「降臨せよ───【黄金卿エルドリッチ】」

 

 

 満を持してフィールドに現れるは、幾多のデュエリストを絶望させた不死者の姿。

 

 黄金と宝石によって彩られた、豪華絢爛な鎧。

 

 太陽の光に反射して、様々な色に光り輝く姿に、会場の女性の口からは感嘆の吐息が零れる。

 

 その煌びやかな様相は、まさに黄金卿の名に相応しいものであった。

 

 ゆっくりと立ち上がるエルドリッチ。

 その強大なパワーを感じ取り、観客たちが思わず息をのむ。

 

 エルドリッチは会場の視線を独り占めにし、応えるように両腕を雄大に広げる。

 通称エルドリッチポーズ。

 その尊大な姿、高ステータスを前に観客たちは興奮し、歓声は叫びとなって会場を震わせた。

 

「……攻撃力、2500?守備力が2800!?そんな緩い条件で出てきていいモンスターやないやろ!?」

 

 ダイナソー竜崎の悲鳴に近い驚きの声。

 

 会場のソリティアガールやお嬢様、画面越しにデュエルを見物していたチーム俺たちが大きくうなずいた。

 

 一方、観客たちはぽんぽんと簡単に飛び出してくる超級モンスターに、これこそチーム俺たちのデュエルだと盛り上がっている。

 

「【強欲な壺】で2枚ドロー。……うん、【天獄の王】の効果を手札から発動。このカードを手札から相手ターン終了まで公開している間、セットカードは効果で破壊されない」

 

「なっ!?手札からモンスター効果やと!?」

 

 唐突な手札からのモンスター効果の発動、そしてその強力な効果に、ダイナソー竜崎は目を丸くする。

 試合を見ていた世界中のデュエリストも息をのんだ。

 

 これはどういうことかと、司会にコメントを求められたお嬢様はもう遠い目をしている。トラウマを刺激されたようだ。

 

「セットカードが破壊できないということは、地雷を除去できないようなもの。魔法罠を破壊する【大嵐】も【サイクロン】も、【ライトニングストーム】も、【魔導戦士ブレイカー】もみんな意味がありませんわ。踏むまでわからない嫌なびっくり箱でしてよ」

 

「あのー、さらりととんでもない効果のカードが出た気がするのですが」

 

「えぐいでしょう、あれ。しかもあれは毎ターン使えますのよ?」

 

 会場がザワザワと騒がしくなる中。

 その視線を集めるわくわくアーゼウスは、意に介さずに手札のカードを魔法・罠ゾーンにセットしていく。

 

 この当たり前のように強大なカードを扱う姿が、多くのデュエリストに恐怖を与えるのだ。

 

「さらに4枚カードをセットして、ターンエンド」

 

「く、ワイのターンや!ドロー!」

 

 悠然と構える黄金の王。

 そしてその背後に見える4枚のカードに、竜崎は何か恐ろしいものを感じる。

 

 しかし、攻めなくては勝てない。

 否、自分はここで勝たなくてはいけないのだ。

 

「うわぁ、これだからエルドリッチに先攻渡したくないのですわ」

 

 疲れた笑みを浮かべるお嬢様に、司会の女性は疑問の声を投げかけた。

 

「そ、その……。わくわくアーゼウス選手が使っているデッキはどうなんでしょう?先ほどのソリティアガール選手と比べて、結構穏やかなスタートと言いますか」

 

「これが穏やかとか、マッドサイエンティストなコザッキーが理性的になるぐらいにありえませんわ」

 

「と、いいますと?」

 

「あのデッキの強み、それはソリティアガールや私のような分かりやすい強さじゃありませんわ。むしろ古き良きデュエルモンスターズを悪意で煮詰めたような、真綿で首を絞め続けるようなデッキ。それがエルドリッチというテーマですわ」

 

 主観であるが、現代遊戯王OCGで罠カードを多用するようなデッキは、全員漏れなくろくでもないテーマしかない。

 でもだいたいの現代テーマはろくでないものなので、酷いレベルでバランスが取れていた。

 

 カードの差し合いがカードゲームの原点だとすると、エルドリッチほど原点に回帰したテーマ性もないのだが、それはそれとして理不尽である。

 

「ワイは手札から融合を発動!手札のモンスターを素材に、融合デッキからモンスターを特殊召喚する!」

 

 次元が歪み、竜崎の前にモンスターが現れようとした刹那、わくわくアーゼウスがセットカードに手を伸ばした。

 

「【虚無空間】を発動」

 

 鬼かお前は。

 

 チーム俺たちの心は一つになり、お嬢様は白目をむいて、ソリティアガールは思わず唸る。

 

 【虚無空間】。

 それは下手なソリティアをされるよりも嫌な、ワントップトラウマカード。

 

「このカードが存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚できない。私のフィールドのカードが墓地に送られた時、このカードは破壊される」

 

 そう、この【虚無空間】は特殊召喚を全て封じる。

 モンスターを特殊召喚することでデュエルを成立させている遊戯王を、全否定しているようなカードである。

 

 「じゃあ、お互いモンスターを特殊召喚できないから、苦しいゆっくりとした戦いになるよね」と思う人もいるだろう。

 

 とんでもない。

 みんな自分がモンスターを特殊召喚しまくって、盤面を整えた後。

 相手のターンにこれを発動するのだから「鬼」の一言に尽きる。

 

 あるいは、その処理のしやすさから、自分の時にはあっさりとこのカードを墓地に送って特殊召喚フェスティバルを開催するのだから、もうなんていうか始末に負えない。

 

 だが、ダイナソー竜崎は諦めていなかった。

 

「させへんで!魔法カード、【サイクロン】を発動や!そのカードを破壊する!」

 

 ダイナソー竜崎……ッ!!カッコいい!!

 

 チーム俺たちは思わずガッツポーズした。

 

 気分は野球やサッカーで推しのチームを応援するそれと同じである。

 自分の地域のチームを応援しなさい?うるさい、私はけなげに頑張っている好きな方を応援したいんだ。

 

 これも偏にエルドリッチという、多くのデュエリストを地獄に叩き込んできたテーマが積んできた、重すぎる業の結果かもしれない。

 

 ただ、当のデュエルしている本人、わくわくアーゼウスも「まだ終わらないんだ!」と目を輝かせていた。

 なんかもう滅茶苦茶なデュエルである。

 

 自分が一番チーム俺たちに応援されていると知る由もないダイナソー竜崎は、決死の表情で手札からモンスターを特殊召喚。

 

「手札から【ヘルカイトプテラ】と【俊足のギラザウルス】を融合召喚!来い、【ヘルホーンド・ザウルス】!」

 

 大きく翼を羽ばたかせた恐竜が召喚され、エルドリッチめがけて咆哮する。

 対面するエルドリッチは余裕を崩さず、顎を撫でて恐竜を観察していた。

 

「来ました!ダイナソー竜崎選手、わくわくアーゼウス選手の妨害を飛び越えて、お得意の恐竜族モンスターを召喚に成功だ!」

 

「流石ですわね!正直、終わったと思いましたわ!」

 

「攻撃力は2000! 先ほどのインセクター羽蛾選手は昆虫族モンスターを召喚することも出来ずに敗れましたが、ここで仇を討てるのでしょうか!」

 

「あのカードはどんな効果ですの?わたくしは寡聞にして存じませんわね」

 

「【ヘルホーンド・ザウルス】は融合召喚したターン、相手に直接攻撃が出来るんや!」

 

「流石です、これで守備力2800のモンスターを超えて相手にダメージを与えられます!これはダイナソー竜崎選手、チャンスです!」

 

 ようやくまともなデュエルが始まると、意気揚々とマイクを掴んでコメントする司会。

 

 そして対応策を瞬時に用意したダイナソー竜崎のプレイング、エースモンスターの召喚に、観客たちは竜崎へ声援を送った。

 

 なお、それを見守るお嬢様は、「え、効果それだけですの!?」と内心焦っていた。

 

 「出したターンだけしか直接攻撃できませんの?」

 「攻撃するときに何か効果が発動するとかありませんの?」

 「墓地に送られた時に何か発動する効果は?」

 「カード3枚使って直接攻撃2000だけ!?」と目を白黒させている。

 

「【ヘルホーンド・ザウルス】で直接攻撃や!」

 

 翼竜が小さなわくわくアーゼウス選手に飛び掛かる。

 エルドリッチが手を伸ばすが、空飛ぶ恐竜を捕まえるには至らない。

 

 これは大ピンチと全員が目を見張る中、わくわくアーゼウス選手はさらなるセットカードを発動する。

 

「ライフポイントを1000払い、【スキルドレイン】を発動」

 

 解説のお嬢様は顔を覆った。ソリティアガールは天を仰いだ。

 それは原作世界の人々には、非常に分かりにくい理不尽であった。

 

 フィールドに異様な空気が流れだす。

 空を飛んでいた恐竜が、辛そうに地面に落ちていく。

 その姿を見てダイナソー竜崎は声を失った。

 

「どうした、どうしたんや【ヘルホーンド・ザウルス】!?」

 

「【スキルドレイン】は、フィールドにおける効果モンスターの効果を全て無効化する」

 

 強く力を足に込めて、【ヘルホーンド・ザウルス】は立ち上がろうと、羽ばたこうとするが上手くいかない。

 

 それを悔し気に竜崎は見つめる。

 絶好のチャンスが失われてしまった。

 

 だが、相手もモンスター効果が使えなくなることは苦しいはず。

 まだ、まだチャンスはあると竜崎は奮起する。

 

「そして、罠カードである【スキルドレイン】が発動したことで、手札の公開されていた【天獄の王】の第二の効果が発動する」

 

「……は?」

 

 ───竜崎を、巨大な影が覆った。

 

 

「降臨せよ───【天獄の王】」

 

 

 2体目の王の召喚。

 

 その姿は異形。

 

 まるで嵐がそのまま擬人化されたかのような、非生物的な巨体。

 悪夢を体現したかのような恐怖を感じるモンスターが、雄々しくエルドリッチの横に並び立った。

 

 その攻撃力、守備力は脅威の3000。

 

「ま、マジかよ!?」

 

「あのモンスターって、手札で効果が発動していたモンスターだろ!?なんでフィールドに出てくるんだよ!?」

 

「3000って、また【青眼の白龍】と同じ超攻撃力モンスターかよ!」

 

「カッコいい……」

 

 観客たちが騒然としながら【天獄の王】を眺める。

 

 お嬢様は先ほど竜崎のモンスター効果に足りないと驚いていたが、むしろこの世界では遊戯王OCGのような謎の効果モリモリな方が異常そのものであった。

 

 こんな攻撃力3000モンスターが、お手軽に次々に召喚されるデュエル。

 つまりチーム俺たちのデュエルがおかしいのだ。

 

「【天獄の王】の効果発動、デッキから魔法・罠を選んで1枚セットする。このカードは次のターンエンドに除外される」

 

「な、ちょい待ち!【天獄の王】の効果は【スキルドレイン】で無効になるんやないのか!?」

 

 竜崎が思わず叫んだ。

 会場の観客の顔にも戸惑いが見える。

 

 司会も理由がわからず、隣のお嬢様に顔を向けた。

 観客も、竜崎も全員お嬢様に一斉に視線を向ける。

 そのすごい勢いにお嬢様の頬は引きつった。

 

 この世界はカードゲームな世界だけあって、みんなの勢いが強いなぁとお嬢様はビビってしまう。

 

「お、お嬢様!解説お願いします!」

 

「えーと、あれ、手札で発動した効果に含まれますので、フィールド限定に作用する【スキルドレイン】の拘束力が通じないのですわ」

 

「そ、そうなんですか!?みなさん聞きましたでしょうか!わくわくアーゼウス選手、カードを理解した素晴らしいプレイです!これには会場も騒然です!」

 

「な、なんやて!?」

 

 竜崎は嫌な予感がした。

 

 【スキルドレイン】は効果を失わせる強力なカードだが、反面自分のモンスターも効果が使えないデメリットがある。

 デメリットの大きさゆえに、どんなデュエリストも使用を避けてきたカードだった。

 

 恐るべきは、デメリットを上手くかわしてスキルドレインを有効に活用しているわくわくアーゼウス。

 

 そうだ、チーム俺たちのカードプレイスキルは、プロデュエリストでさえうならされるほどに高い。

 

 忘れるな、先ほどの羽蛾とソリティアガールのデュエルを。

 あのデュエルの速度が異常すぎて、感覚がおかしくなっていたが、わくわくアーゼウスも彼らチーム俺たちの一員なのだ。

 

 少しでも気を緩めたら───負ける!

 

「私はデッキから永続魔法【呪われしエルドランド】をセット」

 

「ワイは、カード2枚を伏せるで!ターンエンドや!」

 

 諦めない、諦めてなるものか。

 

 気を引き締め、気炎が感じられる竜崎。

 その姿を見て、わくわくアーゼウスは仮面に隠れた顔を輝かせた。

 

 楽しい。なんて楽しいんだ。

 

 これが原作キャラの持つ熱なのか。

 

 竜崎の心がデュエルを通して、こちらの心にも伝わってくるようだ。

 こんな体験、チーム俺たちとのデュエルでは、現実世界では感じ取ることができない。

 

 これがカード世界の熱。

 心と心のぶつかり合い。

 こんな非現実的な体験ができるなんて、もう、言葉にできないぐらい楽しい。

 

 デュエルモンスターズは、この世界ではただのカードゲームではない。

 OCGとは違い、心と心のぶつかり合い。

 プライドを賭けた魂の決闘なのだと理解し、わくわくアーゼウスの心は蕩けそうになった。

 

 遊戯王、最高。

 

 一方、対話拒否でそんな実感を少しも感ずることなく勝利したソリティアガールは、指をくわえて二人のデュエルを様子を羨ましそうに見つめていた。

 

 わくわくアーゼウスはそんなソリティアガールを努めて無視した。

 

「草がうんたらなんて言ってられない件。私のターン、ドロー。【天獄の王】の効果でセットされていた【呪われしエルドランド】を発動」

 

 妖しくも美しく、輝かしい。

 

 魔性の美とも呼べる黄金の居城が、大きな振動と共にわくわくアーゼウスとエルドリッチの背後に出現。

 その荘厳な城は多くの人々を魅了し、竜崎は嫌な予感を感じて後ずさる。

 

「ライフを800払って、効果を発動。デッキから───2枚目の【黄金卿エルドリッチ】を手札に加える」

 

「その城の王様を呼べるってことかいな。だが、そのカードは【天獄の王】の効果でこのターンの終わりに除外されるはずや!」

 

「それで充分。私は手札から【黄金卿エルドリッチ】と罠カード【御前試合】を墓地に送り、【黄金卿エルドリッチ】の効果を発動」

 

「な、なんやて!?【黄金卿エルドリッチ】も手札で発動できる効果を持っとるんかいな!?」

 

「このカードと、手札の魔法・罠カードを墓地に送ることで、フィールドのカード1枚を墓地に送る。私は相手の伏せカード1枚を墓地に送る。やれ、エルドリッチ」

 

 ───『征服王葬送』。

 

 エルドリッチの効果の発動と共に、エルドリッチの黄金の腕が出現。

 消えゆく刹那、それは竜崎の伏せカード1枚を握り潰した。

 

「フィールドのカードを墓地送りやって!?ワイの、【ジュラシックハート】が!?」

 

「さらにフィールドの【呪われしエルドランド】を墓地に送り、墓地の【黄金卿エルドリッチ】の効果を発動」

 

「な、なんやと!?」

 

「【黄金卿エルドリッチ】を手札に加える。その後、手札からアンデット族モンスター1枚の攻守を相手ターン終了時まで1000上げた状態で特殊召喚する。この対象には、【黄金卿エルドリッチ】も含まれる」

 

 崩れ行く黄金の都。

 しかし、崩壊する都の奥から、金色に輝く黄金卿が整然と現れ出た。

 

 その攻撃力、2500ではなく攻撃力上昇を受けた3500。

 もう伝説のカードである【青眼の白龍】ですら、真正面からでは勝つことができない驚異のパワーライン。

 

「手札からの除去能力に加え、自己蘇生強化持ちとかふざけとる!いや、なんで【スキルドレイン】があるのにも関わらず、攻撃力アップしとるんや!?いや、まさか!?」

 

 竜崎の顔から血の気がさーっと引いた。

 

「それも、それもフィールドではなく墓地で発動した扱いになるってことかいな!?」

 

「その通り。でもどちらの効果も1ターンに1回だから安心してほしい」

 

「い、1ターンに1回?このターンだけではなくて、倒しても毎ターン【黄金卿エルドリッチ】は復活できるなんて、そんな無茶苦茶なことは」

 

「うん、その通り。あ、ついでに【呪われしエルドランド】の効果でデッキから【黄金卿のコンキスタドール】を墓地に送る」

 

「あ、あはは……。1枚のカードで何枚動かすんや……。無茶苦茶やん」

 

 攻撃力、3500。

 

 それはデュエルモンスターズに存在する、モンスターのほとんどを破壊できる攻撃力だ。

 しかも【黄金卿エルドリッチ】は毎ターン蘇る、恐るべきイモータルキングだったのだ。

 

 このフィールドで、それを打開できるモンスターの効果は、強力な永続罠である【スキルドレイン】で封じられている。

 デュエルモンスターズにおける多彩なモンスターたちの効果は、もはや何の役にも立たない。

 

 ここにきてようやく、会場の観客、テレビの向こうの視聴者たちは、この戦いの全貌を理解した。

 

 ソリティアガールと羽蛾の戦いは、とても分かりやすい象とアリの戦いだった。

 あんなに劇的であり、圧倒的な戦いはなかなか見られるものではない。

 

 そしてこのわくわくアーゼウスと竜崎の戦いは、沼のような戦いであった。

 同じ土俵で戦っているようで、同じ土俵で戦っていない。

 

 気がつけば対戦相手は沼の中に引きずり込まれて溺れかけており、わくわくアーゼウスはそれを安全圏でジュース片手に見物しているような状況だ。

 

 解説でお嬢様が言った「真綿で首を締めるような戦い」。

 これ以上相応しい言葉がない、強者の恐るべきデュエル。

 

 最初から、二人は同じ土壌に立っていなかった。

 そこには天と地ほどの圧倒的な力の差があったのだ。

 

 竜崎も、観客も、このデュエルを見ているデュエリストたちも全て戦慄する中。

 

 当の本人であるわくわくアーゼウスはというと……。

 

「そしてフィールドには、レベル10が3体いる」

 

「まだ、何かあるんか!?」

 

「いや、何もない」

 

「何もないんかい!?」

 

「何もないんだ、何も、ないんだよなぁ。……草」

 

「なんでお前が追い詰められた顔をしとるんや!?」

 

 何故かメンタルにダメージを受けて落ち込んでいた。

 

 肩を崩し、無念そうな溜息を吐き出し、グロッキー状態なわくわくアーゼウス選手姿。

 竜崎は「なんやこいつ」と冷や汗を流し、会場の観客も首をかしげる。

 

「黄金卿とか天獄でロマン砲グスタフどっかん、列車砲ロマン変形し大型どんどん、そして列車砲が変形してお馴染みアーゼウスに。黄金卿を材料にしたアーゼウスはカッコいいのに、どうしてこんなことに。いや、もう最終的にそれが見えるなら、黄金卿はやっぱりアーゼウスでいいのではないだろうか。もうこいつ9割はアーゼウスだよ」

 

 強者の余裕を滲ませていたエルドリッチたちが、今はもうめちゃくちゃ気まずそうである。

 ソリッドビジョンなのに無茶言わないでくれという、彼らの心の声が聞こえてくるようだ。

 

 そんなわくわくアーゼウスに、お嬢様は手を振って声を上げる。

 

「わくわくアーゼウスさん、安心してくださいまし!【スキルドレイン】が発動されているので、アーゼウスはただの置物ですわ!」

 

 わくわくアーゼウスは肩をびくりと震わせた。

 そして目に怒りの炎を燃やして顔を上げる。

 

「あ、確かに。アーゼウスを妨げる【スキルドレイン】とか、やっぱりろくでもないと確信して草生えた」

 

「じょ、情緒不安定すぎるやろこのお嬢ちゃん」

 

「【スキルドレイン】は許さない」

 

「それ自分で発動したんやろうが!しかもお前は全部効果を【スキルドレイン】すり抜けて使ってくるやんけ!」

 

 わくわくアーゼウスは秒で我を取り戻したが、対する竜崎からすれば振り回されてたまったものではない。

 

 お嬢様やソリティアガールと同じく、ひょっとしてチーム俺たちは変人しかいないのではないかと竜崎は訝しんだ。

 

 また、とても有利なフィールドのはずなのに、何故か【天獄の王】も【黄金卿エルドリッチ】も微妙な雰囲気である。

 素材扱いされて、気まずい思いを感じているようだ。

 その様子はパンドラのブラックマジシャンを思い出させる。

 

 「なら遠慮なくいこう。バトルフェイズ、【天獄の王】と2体の【黄金卿エルドリッチ】で攻撃」

 

 【天獄の王】が雷撃を迸らせて右手を天に掲げ、2体の【黄金卿エルドリッチ】が竜崎へ素早い動きで向かっていく。

 

 「3000、2500、3500のモンスターが竜崎選手を襲います!これは決まったか!」

 

 司会の叫びに会場の誰もが竜崎の敗北を確信する中。

 竜崎だけは勝負を諦めていなかった。

 

 「……【黄金卿エルドリッチ】の効果先、失敗やったな!伏せカードを発動や!」

 

 【天獄の王】の雷撃、【黄金卿エルドリッチ】の強靭で重い拳が【ヘルホーンド・ザウルス】を襲うその瞬間。

 

 【ヘルホーンド・ザウルス】の前に不可思議な何かが出現。

 わくわくアーゼウスが目を見開く。

 

 「残された1枚は【聖なるバリア―ミラーフォース】やで!お前のモンスターは全滅や!」

 

 轟音。そして衝撃。

 

 【天獄の王】が自らの雷撃の反射で自壊。

 【黄金卿エルドリッチ】も拳の衝撃が反射され、耐えられずに吹き飛んで粉々に。

 

 強大なモンスター三体の攻撃による反射エネルギーは、まるで地震のように会場を大きく揺らしたのであった。

 

 あまりの振動と衝撃に多量の粉塵が舞い上がるが、それすらもミラーフォースは反射しているのか。

 わくわくアーゼウスのフィールドに粉塵が押し寄せ、小さな少女をそのフィールドごと覆い隠した。

 

「これは竜崎選手!全国大会準優勝の意地を見せました!逆転に次ぐ逆転、これはわくわくアーゼウス選手もモンスターたちの全滅は苦しいはずだ!」

 

 会場が沸き立ち、歓声が大きな波のように伝播していく。

 

 【黄金卿エルドリッチ】は再生能力があるが、このターンはもう効果を使い果たした。

 わくわくアーゼウスの残りライフは2200。

 

 竜崎のフィールドには竜崎の【ヘルホーンド・ザウルス】が健在であり、わくわくアーゼウスのフィールドのモンスターはゼロ。

 そう、逆転の目は一気に竜崎へと流れ込むことになったのだ。

 

 強者は人を惹きつける。

 しかし、強者の敗北という展開も人を惹きつけるものだ。

 

 チーム俺たちの強さは、もはや世界が知るところとなった。

 ならば、次は誰が彼らを打破できるのかという疑問と興奮が生まれる。

 

 この瞬間、世界の人々はチーム俺たちに勝てるかもしれないという未来に魅せられた。

 ダイナソー竜崎の勝利、その可能性に魅せられたのだ。

 

「いいぞー!ダイナソー竜崎!」

 

「がんばれー!」

 

「熱いデュエル、最高だ!」

 

 ダイナソー竜崎へ応援が届き始めた。

 

 竜崎は一瞬呆けたが、これは自分の存在がチーム俺たちの対戦相手ではなく、一人のデュエリストとしてようやく会場に認知されたのだと理解した。

 

 王国でのデュエルから、長い間日の目を浴びることが出来なかった竜崎。

 応援の声に感動で心が震え、胸の奥からあふれ出る思いに目頭が熱くなる。

 そしてここからだと気合を入れなおし、拳を握りしめた。

 

「会場もダイナソー竜崎の応援一色になりました!一転してアウェイになりましたわくわくアーゼウス選手ですが、これからどうなってしまうのでしょうか!」

 

 わくわくアーゼウスの様子は、未だ立ち上る粉塵の影響でうかがい知れない。

 

 司会のお姉さんもこの逆転こそ「これぞデュエル」と楽し気にマイクパフォーマンスを披露する。

 彼女のマイクパフォーマンスによって、観客はより一層盛り上がりを見せた。

 

 さて、こうなってくると気になるのは、隣に座るお嬢様の反応だ。

 わいわいと賑やかなお嬢様にしては、これまでと打って変わってやけに静かな様子である。

 これは仲間の危機にはらはらしているのだろうか。

 

 意外と人間らしい一面もあるんだなぁとお嬢様をちらりと見れば、予想外の様相に言葉を失った。

 お嬢様は仲間の危機にも関わらず、少しも余裕を崩さず、微笑んでいたからだ。

 

「あの、お嬢様はこの勝負をどう見ますか?」

 

「この勝負ですの?それはもちろん決まっておりますわよ」

 

 お嬢様の場違いのような弾む声に、竜崎が、観客が、カメラが、カメラの奥の視聴者が注意を惹きつけられたその時。

 

 

 

 

 粉塵を引き裂いて、黄金の一筋の光が現れ出た。

 

「わくわくアーゼウスさんの勝ちですわ」

 

 光の正体はなんと【黄金卿エルドリッチ】であった。

 

 その輝かしい鎧には、驚くべきことに傷一つない。

 悠然と腕を組んで構えるその姿に、会場の誰もが言葉を失った。

 

 【黄金卿エルドリッチ】は一歩、一歩と竜崎の【ヘルホーンド・ザウルス】に歩み寄る。

 【ヘルホーンド・ザウルス】が苦悶のような唸り声を上げ、ついにはこらえ切れずに【黄金卿エルドリッチ】に飛び掛かった。

 

 【黄金卿エルドリッチ】は決死の【ヘルホーンド・ザウルス】を一瞥すると、腕を振り上げ、一閃。

 

 「やれ、エルドリッチ」

 

 ───『征服王撃掌』。

 

 そのエネルギーが込められた一撃は、【ヘルホーンド・ザウルス】の頭部を陥没。

 悲鳴すら上げさせずに粉砕する。

 

 さらに不可思議な力に満ち溢れた掌は、【ヘルホーンド・ザウルス】の体すらも貫通。勢いそのままにフィールドに突き刺さった。

 花火のような爆音、観客たちの悲鳴。

 

「なん……やて……」

 

 呆然と佇む竜崎。

 破壊されたはずの【黄金卿エルドリッチ】の登場に、竜崎は動揺を隠せない。

 

「【黄金卿エルドリッチ】は、自身の効果で再生させたモンスターに効果破壊耐性を与える。つまり、【聖なるバリア―ミラーフォース】の破壊効果では、再生した攻撃力3500のエルドリッチは破壊されない」

 

 粉塵の奥から進み出てきた仮面の少女、わくわくアーゼウスの言葉は、小さな声にも関わらず静かな会場によく響いた。

 

 その内容は驚くべきものだった。

 

 黄金卿は何度も蘇る不死性だけではなく、死に対する破壊耐性すら獲得していたのだ。

 なんという強大なモンスターなのだと、このデュエルを見ていた世界中のデュエリストが顔を歪め、歯を噛みしめた。

 

 また、現れたのは少女と【黄金卿エルドリッチ】だけではない。

 その横には謎の獅子の像も浮遊していた。

 

「さらに私は伏せていた【黄金郷のガーディアン】の効果を、ミラーフォースにチェーンして発動していた。このカードは罠モンスターとしてフィールドに特殊召喚できるカード」

 

「罠モンスターやと!?」

 

「さらに場に【黄金卿エルドリッチ】が存在するとき、【黄金郷のガーディアン】は1体のモンスターの攻撃力を0にする追加効果がある。このカードを守備表示で特殊召喚したことで、【ヘルホーンド・ザウルス】の攻撃力は0になっていた」

 

「でましたわ!俺はカードを発動していた宣言!」

 

「え、罠モンスターなのに、守備力2500!?しかも、罠モンスターだから【スキルドレイン】も効かないってこと!?」

 

「そうなんですわよ!しかもここで使うってことは、デュエルを終わらせに来たってことですわね!」

 

「な、なんということでしょう!? 【黄金卿エルドリッチ】が竜崎選手のエースモンスターを破壊してしまいました! そして効果破壊されないとか、え、どうやって倒せばいいんですかこれ!?」

 

 お嬢様が楽し気に笑い、司会のお姉さんは驚く。

 

 実は他2体のモンスターは破壊されても、再生した【黄金卿エルドリッチ】は【聖なるバリア―ミラーフォース】で破壊されていなかったのだ。

 さらに【ヘルホーンド・ザウルス】の攻撃力は【黄金郷のガーディアン】によって2000の攻撃力が0に変動していた。

 

 つまり、竜崎の【ヘルホーンド・ザウルス】は【黄金卿エルドリッチ】の3500の強大な攻撃力をそのまま受けてしまったのだ。

 

 竜崎の残りライフは───たった500になってしまった。

 

「まだや、まだライフは500も残っとるんや!!」

 

 竜崎の手札は尽きて、フィールドのカードも全滅した。

 

 相手の場にはモンスターの効果を完封する【スキルドレイン】が発動中。

 

 【ヘルホーンド・ザウルス】を破壊した強大な【エルドリッチ】は健在であり、仮に戦闘で破壊できたとしても、次のターンには破壊耐性を獲得して再び蘇ってくる。

 

 誰もが竜崎の敗北を確信する中で、ただ一人竜崎だけは諦めていなかった。

 デュエルは最後までわからない。

 自分のデッキを信じて、カードを信じて戦い抜く。

 

 その想いに、きっとデッキは応えてくれるはずだ。

 

 膝を折らぬ竜崎の姿に、会場のチーム俺たちの面々は眩しいものを見たと、思わず目を細めてしまう。

 

 竜崎の在り方は正しい。

 これこそがデュエリストのあるべき姿だ。

 そして諦めなければ、デッキはきっとそのデュエリストに応えてくれる。

 

 そんな数多くの熱いデュエルをたくさん画面越しに見てきたチーム俺たちだからこそ、観客たちが可哀そうな目で竜崎を見ていたとしても、竜崎の勝利の可能性を見誤らなかった。

 

 そう、この世界のデュエリストはどんな小さな可能性でも、勝利に結びつけるチャンスがある。

 

 その輝かしい原作キャラの可能性を見誤らなかったが故に、わくわくアーゼウスは次のターンなど絶対に竜崎に与えるつもりはなかった。

 

 舐めプダメ絶対。

 

 ソースはアニメの中で遊戯を前に、余裕かまして散っていった数多のデュエリストだ。

 主人公補正は怖い。

 

「そして、黄金卿のしもべはガーディアンだけではないよ」

 

「ッ!?まさか、その残り1枚の伏せカードは!?」

 

「罠カード、【黄金郷のワッケーロ】を発動。このカードは攻撃力1800の罠モンスターであり、【黄金卿エルドリッチ】がフィールドにいるときに特殊召喚に成功した時、相手の墓地のカード1枚を除外する」

 

 呪いによって生ける屍となった、盗掘者の罠モンスター。

 

 不穏な空気が流れる中、倒れ伏した竜崎の【ヘルホーンド・ザウルス】を食い破って出現する。

 それは体中が腐敗し、崩れ、それでもなお動きうめき声をあげるゾンビであった。

 

 そんなR18映画のようなあまりにも惨い光景に、会場の女性子供は悲鳴を上げ、熟練のデュエリストでさえ顔をしかめた。

 

 わくわくアーゼウスも、このソリッドビジョンの本気にドン引きしている。

 思えば漫画でも結構エグイ描写のカードがあったが、リアルで目の前にするとさらに酷い。

 これは子供が泣いてしまうだろう。

 

「んな、阿呆な……」

 

 竜崎は呆然とエルドリッチを眺める。

 

 何度でも蘇り、破壊耐性を獲得する黄金卿。

 そして特別な専用罠モンスターに、相手を封じ込める恐ろしい永続罠。

 さらにはその罠を守り、手札から発動可能な異形の王。

 

 何か自分にできることはあったのではないか。

 何かミスはあったのかと、悔しい思いを飲み込んで自問自答する。

 

 そして様々な葛藤を繰り返したのちに、彼は一つの結論に達した。それは非常にシンプルな答えだった。

 

「インチキ効果もいい加減にせぇ!!」

 

 カードパワーが違い過ぎた。

 

 何度も蘇るカード、しかも攻撃力3500。

 しかも破壊耐性持ちとか、どうやって倒せばいいんだ。

 仮に1体を対処できたとしても、後2枚もいるに違いない。バカげている。

 

 自分はどうすれば良かったんだと吼えた竜崎。

 それにわくわくアーゼウスはきょとんと一言。

 

「え?【神の宣告】とか【王宮の勅命】を引けてなかったから、【ハリケーン】で負けるって実は焦ってた件」

 

「そんな都合よく、必要なカード引けるわけないやろ!?」

 

「引けないの!?」

 

「当たり前やろ!?」

 

 そんな都合よくカードが引けるんだったら、自分は全国大会優勝できているに違いない。

 ぐわーっと頭をかき乱す竜崎に、わくわくアーゼウスは戸惑いを隠せない。

 

「デュエリストとは、時に必要なカードをデッキの一番上に創造したりするんじゃないのか!?」

 

「どんな発想があったら、デュエルモンスターズにそんなトンチキなオカルトを絡められるんや!?」

 

「デュエルモンスターズってオカルトでしょ!?」

 

「アホ!カードゲームや!」

 

「ならリストバンドに隠していたカードをこっそり使うとか!?」

 

「そんなことする屑みたいなデュエリストがいるわけないやろ!?それにもしそんなことをしたら、デュエルディスクが感知してアラームが鳴るで!」

 

「ピンチの時には、カードの効果が書き換わるってこともあるはず!?」

 

「まるで意味がわからへんこと言うな!」

 

 わくわくアーゼウスの奇天烈な発言に、頭を沸騰させた竜崎はすばやいツッコミを入れていく。

 デュエルモンスターズのデュエル中なのに、二人がこんな有様なので漫才のような空気になってしまっている。

 

 観客も司会のお姉さんも戸惑いを見せる中、ご乱心中の主人にエルドリッチは大きく肩を落とした。

 

 そして、心配そうにこちらを見つめるワッケーロを見つめると、「もういいからやってしまえ」と言わんばかりに指先を竜崎に向けた。

 

 頷いたワッケーロは、恐る恐るツッコミに夢中になっている竜崎に忍び寄る。

 竜崎が自分に覆いかぶさった影に気づき、ぜぇぜぇと荒い息をそのままに影の方を見れば、そこにはその腐れ落ちつつある腕を振り上げたワッケーロの姿が。

 

「……あ?」

 

「あー、はい。【黄金郷のワッケーロ】でダイレクトアタック」

 

 気がついたわくわくアーゼウスの気の抜けた声。

唖然とする竜崎に振り落とされた手は、竜崎の頭を軽くたたいた。

 

わくわくアーゼウスWIN。

 

 

 

 

「くぅ、覚えとれよ!必ずこの借りはいつか返したるからな!」

 

「はい!ありがとうございます!よろしくお願いいたします!」

 

「めっちゃええ返事やな!?くそ、気が抜けるでほんまに……」

 

 仮面越しでも笑顔が分かるようなわくわくアーゼウス。

 最後の握手として差し出された竜崎の手を、小さな両手で包んで何度も何度も楽し気に握りしめている。

 

 戦っている最中はこれ以上ないくらいに恐ろしい相手だったのに、デュエルが終わるとこうも見た目相応の子供らしさが見えてくるのは何とも言えない。

 

 だが、この見た目に騙されるデュエリストはもういないだろう。

 

 司会席で先ほどの試合を総括する、金髪カールのお嬢様。

 わくわくアーゼウスをうらやまし気に、指をくわえて見ているソリティアガール。

 そして手を大きく竜崎に向かって振りながら、壇上を弾むように降りていくわくわくアーゼウス。

 

 可憐な乙女たちだが、いずれも恐るべきカードを驚異のデュエルタクティクスで扱う凄腕のデュエリストなのだ。

 

 世界中に放送されたこのデュエルは、多くの驚きと歓声によって迎えられた。

 そして世界中のデュエリストたちにその存在と強さが改めて知られることとなり、チーム俺たちの名声は大きく高まることになった。

 

 それはチーム俺たちの社会的な価値を上げることに繋がり、ひいては彼らを看板とするカンパニーの評判を押し上げていく。

 BIG5は狙いが見事に達成できたと各々笑みを浮かべ、さらなる野心を燃やした。

 

 これでにやにや動画を含めた、自社のソーシャルネットサービスを取り巻く交渉の壁が低くなり、ネットにおける広告収入ビジネスにも大きな利益が見込めるようになったからだ。

 BIG5は自社拡大、利益の増加、顧客の獲得、さらには企業・政府間への交渉にこれからさらに尽力することなる。

 

 一方、デュエリストはこのたった2回のデュエルによって、いやでもチーム俺たちを意識しなければいけなくなった。

 

 世界はチーム俺たちを知ってしまった。

 その異常なデュエルは彼らの個性であり、常識から外れた普通ではないデュエルであることは間違いない。

 

 しかし、これから世界のデュエリストは比べられる。

 チーム俺たちは評価のひとつの基準になる。

 

 世界のデュエリストにはランクがあり、その実力からデュエリストの団体からは順位付けされることもある。

 これまではそれだけが絶対の基準であった。他に彼らの名声・実力を示す基準はなかった。それだけで十分であった。

 

 だが、そこから外れたチーム俺たちという存在が、どこからか飛び出してきてしまったことで世界の評価は変わる。

 

 「このデュエリストは強い。どこどこの大会で優勝している」

 「ランク上位層のデュエリスト。世界的な評価も高い」

 「しかし、このデュエリストはあんな衝撃的なデュエルをするチーム俺たちに勝てるのか」と。

 

 プライドが高いデュエリストにとって、自分の実力を疑われるなんてこれほど屈辱な話はない。

 故に、己の実力を自負する世界のデュエリストたちは、「打倒チーム俺たち」の決意を心に刻む。

 

 そう、この日のチーム俺たちのデュエルは、チーム俺たちの想像以上に大きな影響を世界に与えてしまった。

 

 本人たちは「スマホを落としただけなのに」よろしく、「普通にデュエルしただけだったのに」ぐらいなもの。

 求められたから、失礼がないように全力で戦っただけであり、「生でインセクター羽蛾とダイナソー竜崎と会えた!」と大興奮していたわけだが……。

 

 カードゲームで人が死ぬこともある、そんな本来架空のものであった遊戯王の世界観。

 

 それをリアルの社会でお金を稼いで生きている、いわゆる普通の人間が、この世界の常識を本当の意味で理解ですることがそもそも難しい話であった。

 

 

 

 

 

 

 

「やったー、ダイナソー竜崎のサインゲット!リアル世界初!これは草を超えて森!」

 

「い、いいなぁ。私、結局サイン、もらえなかった……」

 

「顔芸はリアル世界初ですわよ」

 

「草」

 

「は、ははは。手札が良すぎて、カード回しが、もう、楽しすぎて、抑えきれなくなりました。はい」

 

「気持ちはわかりますけど、ねぇ?」

 

「インセクター羽蛾選手に合掌」

 

「わくわくアーゼウスさんも人のこと言えませんわよ?」

 

「!?」

 

「いや、『!?』じゃありませんわよ」

 





私生活の理由でぐだぐだしてましたが、なんとか目途がたって一安心。
いろいろあったせいで竜崎戦が気がついたら長くなってました。ストレス発散で二次を書くのって楽しい。

次回も一気にかけているので、割と早く投稿できるかも。四日後ぐらい?

◎わくわくアーゼウス

アーゼウスの仮面を被った少女。
大好きなデッキは語感で気に入っているわくわくアーゼウス。

が、使用できないために、うんうんと頭捻って選んだデッキがあれ。
割と長期戦を見て、ソリティアガールみたいに一気に攻めるのではなく着実に勝てるデッキを選択したが、そもそもカードパワーが段違いなことを忘れている。

ダイナソー竜崎のサインは特殊加工され、万全の体制で壁にかざられているそうな。

◎【黄金卿エルドリッチ】

なんでこんなカードを出した。

エルドリッチをあらゆる場所から特殊召喚する「エリドリクシル」、相手を妨害する「黄金卿」罠モンスターを従えて暴れまくった化け物。

この話での描写では使用後に書かれていないが、実は相互に墓地から除外してデッキから「エリドリクシル」と「黄金卿」をサーチできる。
しかもフィールドに、しかも相手ターンに。

こんなカードでもてっぺん取れないのがOCGの魔境具合。
というか、もっとやばい炭酸野郎が大暴れ中。
その結果、餅とカエルが禁止されたと言われて、遊戯王知らない方がどれだけ理解できるのだろうか……。

◎【スキルドレイン】

フィールドの効果モンスターの効果が全て無効になる。
こんなカードが許されていいのかって思うかもしれないが、使っている人以外は誰も許していません。

◎【虚無空間】

なんでお前、禁止になっていないの?

そんな長年の問いにコンマイが応え、目出度く最近禁止になりました。
だがきっと多くの遊戯王プレイヤーは「判断が遅い」と某先生みたいになってるはず。

制限だからギリギリ許されていたらしいが、最近これを安定してサーチできるようになったので禁止に叩き込まれた模様。

◎【王宮の勅命】

「どうしてわざわざ二回も殺すんだっ! なぜあのまま死なせてやれなかった!?」というブラックジャックの名言を思い出させてくれたカード。

実は登場してないだけでちゃんと入っていました。やったぜ。

きっと、遊戯王プレイヤーの誰もがずっと死んでてくれと願ったカードに違いない。
エラッタされて復帰したが、結局効果がぶっ飛んでいた肝心のところが修正されていなかったのでまた禁止に。

その効果は魔法の永続無効。
遊戯王で許されるのは、罠の永続無効ぐらいなものだと思う。
つまり許されなかったので、こいつは再度禁止になった。

たぶんこのカードをエラッタした担当はおハーブをキメてるんだと思う。

エラッタで再度禁止に叩き込まれたのはこのカードが初。
そんな運営が考えなしなカードゲーム、遊戯王は大変楽しいゲームなので、みんな楽しく遊びましょう(白目)

※追記
間違えておりました。
クリッターくんという可哀想なカードもおりました。
今は無事無制限なので、大切にしてあげましょう。


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何故このような処理になるのか、資料がなく回答できません

四日後ぐらいといってしまったため、めっちゃくちゃ急いで仕上げました。
穴がありそうで怖い。
毎回誤字修正の指摘ありがとうございます。

忙しい出張から帰ってきたので、これを投稿したらようやく落ち着いて前話の感想を見ることができます。
皆さん、感想ありがとうございます。
ただ、また忙しくなるので、次回はだいぶ先になるかもしれません。

あと、ハーピィの羽根帚は絶対に許さない(確信


 あのデュエルから早一か月。

 世界はほんの少しだけ変わってしまったが、変わっていない人たちもいる。

 

 そう、チーム俺たちだ。

 

「ふははははははは、私は【死者蘇生】を発動!甦れ、超絶レアカード、【モリンフェン】」

 

 美女が髪を振り乱して墓地からカードを引き抜き、デュエルディスクに叩きつける。

 

 その叫びに呼応するかのように、1体の悪魔が再生し、フィールドに現れた。

 残念なステータス故に、一部界隈ではカルト的な人気を誇るカード。

 そんな悪魔の能力とは……。

 

 レベル5!つまり1体のモンスターをリリースする必要がある!

 

 攻撃力1550!そこらへんのレベル4にも負ける攻撃力!

 

 効果モンスターではなく、通常モンスター!

 効果の代わりにフレイバーテキストがついているぞ!

 

 そしてその外見、変な羽と変な爪、あと変な顔!きもい!

 

 これぞ知る人ぞ知る有名カード、【モリンフェン】である。

 

 ちなみに、超絶レアカードではない。

 その実態は値段があってないようなもので、10円コーナーの格安ストレージでよく見かけることができる。

 

 「俺の出番だ、さぁいくぞ」と、誇らしげに空中に浮遊する【モリンフェン】。

 この雄姿を見て、対戦相手の企業デュエリストは拳を握り、手を震わせ、叫んだ。

 

「お前、そいつの特殊召喚何度目だよ!?」

 

「いいカードは何度見ても良いだろう。何をお前は言っているんだ」

 

 企業デュエリストは目を怒らせ、顔は真っ赤になっている。

 何度も駆除している害虫が毎晩家に現れれば、そこの住人はどんな顔をするだろうか。

 たぶん、この企業デュエリストの今の顔になるんだろうなって。

 

 激昂する企業デュエリストの反応を見て、チーム俺たちのメンバー、モリンフェン最強は「はっはっは」と笑い飛ばした。

 なお、その目はブラック企業に勤める新入社員のように死んでいた。

 

「私のデッキのエースモンスターだからな。そりゃあ決闘王の【ブラック・マジシャン】のように何度も蘇るとも。同じ通常モンスターだしな」

 

「そんな雑魚カードが【ブラック・マジシャン】と同列なわけないだろ!?頭沸いているのか!?」

 

「照れるな」

 

「ほめてない!ああもう、他に良い通常モンスターカードなんて山ほどあるだろうが!?なんでよりによって【モリンフェン】なんだよ!?そいつだと倒しがいがないんだよ!?何度ぶっ殺しても家に出てくるゴキブリを見る気持ちにさせるんじゃねぇ!?」

 

「馬鹿を言え。デュエルモンスターズではゴキブリの方が使えるカードは多いだろうに。そんな言い方はゴキブリに失礼だ」

 

「なら違うカード使えよ!なんでそんなゴミカード使うんだよ!」

 

「ゴミとか酷いこというな。紙の無駄遣いと言え」

 

「お前の方が酷いこと言ってるからな!?なんだよこいつ!?」

 

 【モリンフェン】が「え、ひどくない」と、後ろにいる使い手に顔を向けた。

 彼女は端正な顔を能面のようにして、【モリンフェン】の訴えるような視線を無視した。

 

 一方、企業デュエリストはやるせなさを感じ、歯を噛みしめる。

 

 ずっと努力をしてきた。

 フリーを選んでデュエルしてきたにも関わらず、チーム俺たちと戦うために厳しくなった選抜を勝ち取って企業デュエリストとなり、自らに首輪をかけた。

 

 そして、ようやくこの日を迎えた。

 チーム俺たちに勝利し、名声を手に入れるべくいざ勝負と戦いの場に赴いたら───

 

「俺は、俺はあのチーム俺たちと戦えると思って、ずっと腕を磨いてきたんだぞ。あの黄金卿を、黒魔導士を、強大なモンスターとカードコンボを打ち破るために、実力をつけてきたっていうのに……。なのに、なのに……ッ!」

 

「そうか、良かったな。お前の期待に応えて【モリンフェン】様が来てやったぞ。嬉しさにむせび泣け」

 

「悲しくて涙が出そうだぜ、このくそったれ!」

 

 ───【モリンフェン】がいたのである。

 

 もう感涙ものである。

 ハンカチなしでは見ることのできないデュエルだ。

 

 こんなに頑張ったのに、決意を固めて来たというのに。

全部丸めてゴミ箱に叩き込まれるような展開があっていいのかと、企業デュエリストは泣きそうになった。

 

 これでは仮にチーム俺たちに勝つことができたとしても、勝った相手のエースカードが【モリンフェン】でしたなんて知られたら、せっかく勝ったのに冗談としか思われないだろう。

話した相手に鼻で笑われてしまう。

 

 理不尽、これ以上ないぐらいの理不尽。

 苦悶の声を上げる企業デュエリストを見て、モリンフェン最強は顎を撫で上げて微笑む。

 

「そうか、そんなに照れなくていいんだぞ?【モリンフェン】様の門は常に、万人に開かれているからな」

 

「無駄にポジティブだな、くそが!」

 

「万人に開かれているはずなのに、私一人しか使っていない。そう、これは開かれていても、その門をくぐるのは自由であるという個人の尊重の素晴らしさを表している。こんなカードに付き合わなくていい、そんな優しさを与えてくれるのが【モリンフェン】様のすごさだ」

 

「お前、やっぱりそのカード言うほど好きじゃないんじゃないのか!?なんで他のカードを使わないんだよ!?」

 

「もうここまで来るとそれは愛と言っても過言じゃないと思う。結婚30年後の熟年夫婦みたいなもの。もう他のカードを使いたいのに、設定のせいで他のカードが不思議パワーで上手く使えない。これはもうポジティブにならないと、とてもじゃないけどやってられないんだぜ」

 

「お前何をいっているんだ!?」

 

「リバースカード発動!」

 

「話を聞けよ!?」

 

 ツッコミにツッコミを重ね、怒りまくっている企業デュエリストを無視して、美女は伏せカードを発動する。

 

「永続罠【DNA移植手術】を発動、このカードはフィールドのモンスター全てを宣言した属性に変える。私が宣言するのは───神属性だ!」

 

「……は?」

 

 予想外のカードに唖然とする企業デュエリスト。

得意げになるモリンフェン最強。

そして咆哮する【モリンフェン】。

 

 この瞬間、モリンフェンはDNAの移植手術により、伝説のカードである神属性になったのだ。

 その神々しさ、並みのモンスターを凌ぐ威圧感。まさに神。

 

 ……なんてことはなく、なんか無駄にちょっと神っぽい空気を醸し出すようになった【モリンフェン】がそこにいた。

 

 ちょっと残念な感じが隠し切れていないモンスターを前に、企業デュエリストは困惑。

 

「神、神だと!?まさか、伝説の三幻神の属性なのか!?」

 

「その通り!【ラーの翼神竜】、【オベリスクの巨神兵】、【オシリスの天空竜】に並ぶ新たな神、【モリンフェン】様の誕生だ!」

 

 神という言葉に思わず一歩後ずさり、たじろいでしまう企業デュエリスト。

 

 だが、彼はすぐに何か違和感に気がついたのか、なんか無駄に神々しくなった【モリンフェン】を見て首をかしげる。

 

「……なんか、たいしたことなくないか?」

 

 【モリンフェン】はショックを受けた。

 モリンフェン最強は「そうだよ」と言って頷いた。

 【モリンフェン】は二度ショックを受けた。

 

「いや、ただ属性変更しただけの【モリンフェン】様だから、ぶっちゃけ神を自称する怪しいモンスターでしかないぞ」

 

 【モリンフェン】は「え?」と後ろの使い手を振り返った。

 自分でやっておきながら酷い言い草である。

 

 だが、実際その通りであった。

今の【モリンフェン】は野原ひろしを自称する一般人のように、神のレッテルを強引に張られた通常モンスターである現実は変わらないのだ。

 

「本来であれば、神は他のカードの効果を受けないチートモンスターだ。上級呪文であれば1ターンは受けるらしいけど」

 

「上級呪文……それは、いったい?」

 

「私にもわからない」

 

「お前マジでいい加減にしろよ!?」

 

「そんなの私が知るわけないだろう、高橋和希先生に聞いてくれ」

 

「誰だよそれ!?」

 

「まぁ、この【モリンフェン】はデュエルモンスターズあるある、自称する神の仲間入りをしただけで、そんな強力な能力はない」

 

 「あはは」と声を上げて笑うモリンフェン最強に、もう企業デュエリストは憤死寸前。

 手が出そうなのを抑えられているのは、このデュエルの行方を見守っている3人の存在が大きい。

 

 対戦相手の会社の重役、企業デュエリストの上役のダンディなおじ様。

 そしてチーム俺たちからは元BIG5、変態ペンギンこと大瀧修三55歳。なお外見は本人の功績と要望によって妙齢の美人になっている。

 そのお隣には、バイト明けで疲れた様子の和服美少女、黒髪ロングは正義の姿もあった。

 

「あんな雑魚カードをここまで上手く使えるとは……。やはり、チーム俺たちの皆さんは侮れませんな。いや、どうして【モリンフェン】に拘っているのかは謎ですが」

 

 なんとも言えない顔の上役。

 それを見て笑いながら、大瀧はかつてと比べ物にならないぐらいふさふさになった艶のある髪を撫で上げた。

 

「そうですねぇ。どうせでしたら可愛いペンギンちゃんデッキを使ってほしいものですな」

 

 嬉しそうに髪を弄ぶ大瀧は、黒髪ロングは正義の「ついにやりやがったこの人」の視線に気づき、微笑む。

 

「ん?おお、これは失敬失敬。いやぁ、若い体になっても中身がおじさんというのは、どうしても雰囲気に出てしまうものですねぇ。黒髪ロングは正義殿はどうやって意識しているのでしょう?」

 

「ロールプレイの黒歴史を掘り下げないでくれんかのぉ?お互い趣味の肉体が手に入った、それでいいではないのか」

 

「ぬふふ、人に歴史ありですかねぇ。わたくしも、こんなピチピチになれたのですから文句があるはずもございません!」

 

 流石はアニメで主人公ヒロインの体を乗っ取ろうとした男。

 これまでの報酬として若い女性となった体を望み、そしてそれで活動する様は他のBIG5のメンバーも困惑していた。

 

 男性の方が交渉で舐められないからと、他のメンバーが同じ性別とそれなりの年代で活動する中。

 彼だけは趣味を押し通して活動するあたり、いよいよ手遅れ感が半端ないものになっている。

 

 そんな三人から視線を対戦相手に戻した企業デュエリスト。

 【モリンフェン】に肩をもんでもらっているモリンフェン最強の姿に、怒りがいよいよプッチン。

 

「いい加減にしろよ!どこまで俺を馬鹿にすれば気が済むんだ!?」

 

「その馬鹿にしている【モリンフェン】相手にデュエルを優位に進められていないのは君だろう?君のライフはこのモリンフェンのたった1550の攻撃力で終わりじゃないか」

 

「そんなクソカードの攻撃、これ以上通ると思うな!」

 

 企業デュエリストのライフは残り1050。

 そう、企業デュエリストは確かに追い詰められていた。

 

 【帝王の烈旋】によって帝王の力を獲得し、企業デュエリストのエースモンスターを生贄に【モリンフェン】。

 

 【突撃指令】を受けて、捨て身で相手のフィールドを粉砕していく【モリンフェン】。

 

 【切り裂かれし闇】によって超常なる力を奮い、戦闘で負け知らずになった【モリンフェン】。

 

 【超自然警戒区域】によって保護され、企業デュエリストのフィールドカードを軒並み破壊していく【モリンフェン】。

 

 【天威無双の拳】によって至高の武の力を発揮し、企業デュエリストの逆転カードの発動を潰す【モリンフェン】。

 

「あと【思い出のブランコ】によって、墓地からブランコに乗って蘇ってくるファンシーな【モリンフェン】様もいるぞ。【時の機械─タイム・マシーン】でタイムリープしてくる【モリンフェン】様も忘れないで欲しい」

 

「おい、【モリンフェン】の力じゃなくて他の介護カードが強いだけだろ!?」

 

「こら、それは最大の秘密だ。ばらしちゃいけない」

 

「ぐがぁぁぁぁぁぁ!?イライラするぜ!?」

 

 なんで、なんで【モリンフェン】なんだ。

 

 当たり前な話だが、【モリンフェン】は全く強力なカードではない。

【モリンフェン】はただの雑魚モンスターだ。

問題はその【モリンフェン】を異常なほどにサポートする、通常モンスターのサポートカードたちだ。

 

 というか、通常モンスターサポートカードをそんなに使うのであれば、もうちょっとマシな通常モンスターなんていくらでもいるだろうにと悩まずにはいられない。

 もし他の高性能通常モンスターを使われていたのなら、悔しい話だがとっくの昔に自分は敗北していただろうに。

 

 悔しいが、相手が【モリンフェン】なんてステータスが貧弱のカードを中心に戦っているおかげで、自分はまだこの場に立っていられるのだろう。

 

 ふざけた話だ。

 あのデュエリストは強い。残念なことに強い。なんでだと嘆くが強い。

 

 チーム俺たちのメンバーに相応しい強力なデュエリストであり、これまで自分が戦ったデュエリストの中では間違いなくナンバー1の実力者だ。

 

 だが、だが、なんでエースカードが【モリンフェン】なんだ!?

 

 素晴らしいデュエルをしているはずなのに、これではどうしてもデュエルが間抜けなものに見えてしまう。

 

 全力を出しているのに、これまでのデュエリスト人生で一番良いデュエルをしているのに、「でも【モリンフェン】に押し負けているんですよね?」という屈辱。

 人生最高のデュエルをしているのに、相手が【モリンフェン】。

 絵面が最悪だ、これでどうやっていいデュエルが出来たと誇ればいいんだ。

 

 ああ、これでは勝っても負けても笑いもの。

 地獄だ、どうして俺がこんな目に。

 

「くそぉぉぉぉぉ!それで【モリンフェン】の属性が神になったところでなんだっていうんだ!?何が出来るようになったんだ!?どうせただの弱い通常モンスターなだけだろうが!?」

 

 せめて、せめて他のチーム俺たちデュエリストだったら。

 他のモンスターだったらよかったのに。

 もう負けてもいいんだ。

 エルドリッチや壊獣、強大なワイトたちと戦えていたら、他のライバルにだって胸を張れる。

 

 だが、現実は【モリンフェン】。

 企業デュエリストは涙が出そうだった。

 

 どうして自分は、【モリンフェン】がエースカードの女に負けそうになってるんだ!?

 

「それはその通りだ。このままでは【モリンフェン】様は雑魚。だが───」

 

 悪寒。

 背筋に伝わる異常な気配。

 何かの前触れ。

 形の見えない異常。

 

 モリンフェン最強の掴んだ1枚のカードに、企業デュエリストの怒りは冷め、我に返る。

 

「お前に、神を見せてやろう」

 

 何を、とデュエリストが口を開こうとしたその時。

 

 嵐が【モリンフェン】を中心に発生。

凄まじい風に、前を向くことが難しい。

体を両腕でかばいながら、恐ろしい気配がフィールドに高まっていくことを感じ取り、何が起こっているんだと企業デュエリストは歯を噛みしめた。

 

「私は手札から、【神の進化】を発動。私の場の神属性モンスター1体には、神としての一つ上のランクが与えられる。つまりこの瞬間───」

 

 嵐を突き破り、現れ出た異形。

 その姿は【モリンフェン】のものではなかった。

 

 これまでとは異なる次元の威風堂々たる姿。

 

 ありとあらゆるモンスターとは、格が違うほどの強大なオーラ。

 

 体中に発現した、オリエンタルでエスニックなエジプトを思わせる文様。

 

 ゴシックのように黒く、堅く、刺々しく変じた異形の肉体。

 

「偽りの神であった【モリンフェン】は、真なる神へと変貌を遂げるのだ!!」

 

 

【神祖・モリンフェン】、降臨!!!

 

 

「結局【モリンフェン】じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

 企業デュエリストが顔を真っ赤にして叫んだ。

 散々にもったいぶって、自信満々に、無駄に時間を使って出てきたモンスターは、【モリンフェン】だった。

 

 攻撃力?

 【神の進化】の効果によってなんと2550に。

 流石にもう弱いカードには見られない攻撃力だ。

 が、特別強いかと言ったらそうではない。効果もないし。

 

「こんな感動的な光景はないだろう。むせび泣くことを許そう。あの【モリンフェン】が神になったんだぜ。すごいよね、これ発見した時、私も大爆笑だったよ」

 

「おま、おまえふざけんなよ!?結局出てきたのは攻撃力がマシになった雑魚モンスターじゃないか!?」

 

「それはどうかな、かんこーん。【神祖・モリンフェン】でダイレクトアタック!モリンフェン様最高ファイヤー!」

 

「さっきからなんなんだよそのダサい技名!?」

 

 【神祖・モリンフェン】が神々しくなった爪を伸ばし、企業デュエリストに向かって振り下ろす。

ファイヤーどこいった。

 

「そんな、そんな雑魚モンスターに負けたくない!負けてたまるか!」

 

 やりきれないとばかりに企業デュエリストはリバースカードを発動する。

 

「リバースカードオープン、トラップ発動!【万能地雷グレイモヤ】!相手の攻撃力が1番高いモンスターを破壊する!」

 

 【神祖・モリンフェン】が飛来したすぐ下の地面が大爆発。

 【神祖・モリンフェン】が強烈な爆炎に包まれ、企業デュエリストはほっと胸をなでおろした。

 

 しかし───

 

「……は?」

 

 ───そこには圧倒的無傷の【神祖・モリンフェン】の姿が。

 【神祖・モリンフェン】、健在。

 

「ん、何かしました?」といわんばかりに、ちょっとカクカクしく微妙に格好良くなった顔を、ぬぼーっとさせている。

 

 これに驚いたのは企業デュエリストだ。

 わけがわからないと焦り、叫ぶ。

 

「何故、何故だ!?どうして【モリンフェン】が破壊されない!?」

 

「さっき言っただろう。神は上級呪文しか受け付けないと。たかが地雷程度で神となった【神祖・モリンフェン】に傷をつけられると思うのか」

 

「な!?神、神だと!?」

 

 【神祖・モリンフェン】が誇らしげに胸?を張る。

 モリンフェン最強も誇らしげにその豊満な胸を張る。弾む。

 

 もう企業デュエリストのキャパシティーは完全にオーバーしていた。

 何が起こっているのか理解が出来ない。

俺はいったい何と戦っているんだと、彼の脳内は真っ白になっている。

 

 【神祖・モリンフェン】は膝をつき、仰ぐように自分を見つめる企業デュエリストへ両爪を振りかぶる。

 

 思考が現実に追いついた企業デュエリストの顔が、泣きそうな子供のそれに変わる。

 「ぐぅ」とうめき声を上げ、悔しさにどんどん表情が歪んでいく。

 

 これまで築き上げてきた栄光、デュエリストとしての自信。

 それが、それが【モリンフェン】を前に傷つき、崩れ去っていく。

 自分の敗北を思い知り、受け入れ、それでもやりきれないと彼は絶望した。

 

「オレが、オレが、こんな雑魚モンスターにぃぃぃぃぃぃぃ!!??」

 

「雑魚モンスターではない、神だ!」

 

 【神祖・モリンフェン】の剛爪が企業デュエリストに直撃。

 

 暴風が吹き荒れ、企業デュエリストをフィールドの端まで吹き飛ばす。

 恐ろしい悪魔、いや、神の叫びが勝利を告げた。

 

 

 モリンフェン最強、WIN。

 

 

 

 

 

 

 

「無茶苦茶なデュエルだったのぉ。いや、今までの連中に比べればまともと言ったらまともなんじゃがなぁ」

 

 黒髪ロングは正義は、デュエルの終わりを見て嘆息した。

 

 「モリンフェン最強!」と繰り返し叫び、海馬社長のように高笑いするモリンフェン最強。

 そして呼応して咆哮する【モリンフェン】、いや、【神祖・モリンフェン】。

 

 あの大会以降、自分たちの出動は、増えるばかりで減ることを知らない。

 

 数多くの大会主催者から、ゲストではなく正式な参加者として大会に出場してもらいたいと、招待状が山のように届いた。

 そして、チーム俺たちはその挑戦を受け、気炎を燃やした……。

 

 

 

 

 

 

 かというと、そんなわけではなかった。

 

 加熱する報道。

 

 右肩上がり天井知らずの視聴者数。

 

 現地のテレビを点ければ、プロデュエリストたちから叩きつけられてくる挑発。

 

 カードアニメの世界の熱狂ぶりはチーム俺たちの想像を超えていた。

 あまりの反響にチーム俺たちは怖くなってきてしまった。

 もう困惑して狼狽えるばかりであった。

 

 「自分たちは原作キャラと戦えるんだ!」、「生であんな大舞台で戦えるんだ!」とワクワクしながら参戦して帰ってきてみたら。

 分かっていたつもりが分かっていなかった世界観の違いを叩きつけられ、頭がショートしてしまった。

 理解していたつもりだったが、体感するとそれ以上だった。

 

 チーム俺たちはビビる。

 

 中身が遊戯王大好き一般人だったので、彼らは「デュエルをしようぜ!」以外に何も求めてはいなかった。

 スーパースペックの遊戯王キャラとして体を手に入れたとしても、中身は現実世界で日々生活楽になんないかなぁと愚痴る一般人。

 

 例えるなら、スーパーコンピューターを使ってマインスイーパーをするような残念さ。

 大好きな遊戯王世界の反応に、もうなんというか心がついていけず「これどうすんの」状態になってしまっていた。

 

 そしてどうするかと会議に会議を重ねた結果……。

 

 日本人の悪いところが出た。

 

 つまるところの現状維持。

 何も根本的には解決していないが、出来る限り現状を悪化させないように心に決めたのであった。

 

 ぶっちゃけ、アニメの世界の一端に触れることが出来たから、もう満足です。

 世界のみんなありがとう。

 やっぱりアングラ系アイドルは表に出てはいけない、私は地底に帰るぜ。

 

 原作キャラと戦った二人のメンバーに「いいなぁ」と声をかけながらも、自分はいいやと仲間うちで盛り上がる方向にシフト。

 ぶっちゃけ可愛い、カッコいい外見になってロールプレイ、ソリッドビジョンでデュエルできるだけで満足だった。

 

 そのあまりの野心の無さ、功名心の無さにBIG5が頭を痛めたことは言うまでもない。

 

 これに困ったのは意外なことに原作世界のデュエリスト、並びにその関係者であった。

 

 普通、ここまで挑発されれば受けて立つのがデュエリストというもの。

 しかし、チーム俺たちの正体は、中身遊戯王オタクのノリと勢いしかない連中であったために、「流石アニメ世界だ勢いがすごい」とこれをスルー。

 ノリと勢いから醒めてしまったら、チーム俺たちは驚くほどに慎重になってしまった。

 

 現代日本人は本来、冒険なんかせずに安定が大好きだと思う。

 安定の公務員はなりたい職業上位、忙しい出世よりも自分の時間が大切。でもお給料は欲しい。かといって転職は自信がない。

 

 チーム俺たちも現代日本人よろしく、石橋をたたいて渡る前にチェック項目を100個作るような連中だった。

 リア充に手を引かれてカラオケに誘われた瞬間、アニメキャラ並みの高速思考して結果言葉が出ない非リア充のような人間が大半だった。

 

 そんな彼らが原作のキャラでもない挑発に乗るかといったら、そんなわけはなく「うわ、怖い」とスルーした。

 大きな理由がない限り、変に世界に打って出ようとか戦おうとは思えなかったのだ。

 

 このままでは、世界中のデュエリストはチーム俺たちと戦うことができない。

 そんなわけで世界のデュエリストたちは様々なアプローチを考えるわけだが、唯一彼らと直接戦える方法を見つけてしまう。

 

 企業間デュエルだ。

 

 流石の彼らもスポンサーの意向は尊重するらしい。

 そんなことが知れ渡った結果、山のような企業デュエルの申し込みが行われた。

 そしてチーム俺たちの会社は勝ちに勝って、異常な急成長を遂げていくことになる。

 

 BIG5はこの予期せぬ展開に愉快そうに笑い、チーム俺たちはなんでこうなってるんだと不思議そうになりながらも楽しくデュエルしていた。

 

「出席に△を付けていた妾までもが駆り出されるとは……。バイト明けで疲れるが、有難い話じゃのぉ」

 

 眠そうに欠伸をする口を、着物の袖で隠して微笑む。

 それを見た大瀧は、意味ありげに目を細めた。

 

「……黒髪ロングは正義殿、わたくしは事情はわかりませんが、こちらの方に本腰を入れられてはどうです? 皆様がほんの少し、本気を出してくだされば、バイトなんぞしなくても、生涯遊べるだけのお金を稼いでみせますよ?」

 

「もう十分、妾たちは楽しんでおる。これ以上求めるのは業が深い話というものよ」

 

 黒髪ロングは正義は、そう言って目の前の光景を静かに眺めている。

 大瀧はさらに言葉を重ねる。

 

「勝ち組には勝ち組の格というものがあります。チーム俺たちの皆さまの現状は、それに見合っていないと思いますがねぇ。もう少し手を伸ばしても、バチはあたりますまい」

 

「幸せじゃよ。もう十分幸せじゃ。生きている間に遊べると思えなかったソリッドビジョンで遊べ、こうして仲間たちと夢のような世界でデュエルができる。こんな機会に恵まれて足りぬことを覚えぬ阿呆は、ろくなものではない」

 

「ほほぉ、それでは大門を含めた我々5人がそんな阿呆ということですかな?」

 

 意味深げに微笑む姿は大変に美しいが、その中身は変態ペンギンこと大瀧。

 大瀧の少しとげのある言葉に、黒髪ロングは正義は困ったように笑う。

 

「意地が悪いのぉ。BIG5の先生方は皆、資格があるのじゃよ。妾たちにはそれがない。だからこれで良いのじゃ。少し欲を出したのが先の件。それで反省し、こうしてこれ以上の大事を妾たちが起こす前に引っ込めたのが幸運よ」

 

「むぅ、わかりませんなぁ。あなた達に資格がないとしたら、この世界の誰が資格を持てるというのです?」

 

「この世界の誰でも持てる資格を妾たちはもっていないのじゃよ。でもそれが良い、それが一番楽しいのぉ。外から見てることが良い、と妾たちは思い出せたのじゃ。こうしてBIG5の先生方と共に歩めるだけ、妾たちは果報者よ」

 

 ほほほ、と笑う黒髪ロングは正義。

 その穏やかな表情に、大瀧は何とも言えない顔になった。

 

 チーム俺たちに欲がないわけではないのだが、どうも理解できないルールを持っている。

 そのルールさえ理解してしまえば、あと一線さえ超えてくれたのなら、もっと大きく動くことが出来るのだが。

 

 去っていった対戦相手の上役と、肩を落とした企業デュエリストを見送りながら、そんなことを大瀧は考える。

 今回も難なく話はまとまった。

 これで表の話もスムーズに進んでいくことだろう。

 

 未だに【モリンフェン】と戯れながら、ハイタッチしてはしゃいでいるモリンフェン最強に声をかけようとした。

 

 その時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたわよ、チーム俺たち」

 

 突然、耳に飛び込んできた第三者の声。

 

 モリンフェン最強が、黒髪ロングは正義が、大瀧が、その声の方向に振り向く。

 

「……これは、たまげたのぉ」

 

 予想外の人物に、大瀧は驚き、黒髪ロングは正義の額からは冷や汗が流れ落ちた。

 そこにいたのは、有名な女性デュエリストの姿だった。

 

 孔雀舞。

 

 ハーピィ・アマゾネス使いであり、孤高の女性デュエリスト。

 遊戯王の原作キャラであり、主人公の友人、城之内のライバルとして登場した人気キャラクターだ。

 

 その美しい外見、優雅で不敵な笑みには、どこか暗さと危うさを感じさせる。

 

「これは、いったい。ここには関係者以外、誰も入ることができないはずです。どうして彼女がこんなところに?……黒髪ロングは正義殿?」

 

 ぶわり。

 そんな大きな何かを感じ取り、顔を横の少女へ動かした大瀧は驚いた。

 

「管理人のいう通りじゃった。まさか、いや、警戒していた通りじゃ。既に連中が動き出していたという話はまことであったということかのぉ」

 

 か細い小さな花。

 それが今や毒々しく、可憐に咲き乱れていた。

 

 その目はかっと開かれ爛々と妖しく輝いており、慎ましいはずの黒髪ロングは正義が歯を剝き出しにして隠すことなく獰猛な笑みを浮かべている。

 

「妾たちは引っ込むつもりでも、引っ張り出されるのじゃったら仕方あるまいて。」

 

 予想外の原作キャラの登場に、モリンフェン最強は【モリンフェン】みたいな顔になっている。

 推しが突然目の前に現れる衝撃、ご本人様登場に、もう心が限界化してしまって頭まっしろになっていた。

 このままではモリンフェン最強が危ない。

 

 大瀧は何が起こっているのかと黒髪ロングは正義に尋ねると、黒髪ロングは正義は楽し気に顔を蕩けさせながら言った。

 

「あれが秘密結社ドーマの先駆けじゃよ。ここにいるということは、もうペガサス会長もやられてしまっているかもしれぬのぉ」

 

「な、なんですと!?あれが噂の!?いや、それよりもインダストリアル・イリュージョン社がそんなことに!?」

 

「大瀧先生はモリンフェン最強と共に本社に帰り、報告して欲しい。ここは妾が受け持つ」

 

 誘われなければ参加することもない。

 成り行きならともかく、無理に強引に割って入って原作キャラの絡みに入るのは解釈違い。

 

 しかし、こうも強引に求められたのなら嬉しい限り。

 いや、しょうがない。うん、しょうがないのである。

 

「妾の出番じゃ。ここは譲ってもらおうかのぉ。データの収集を管理人やオカルトガールに頼まれておることじゃし」

 

 長く黒い濡れ烏色の髪を靡かせながら、上階より飛び降りた黒髪ロングは正義。

 現状に戸惑いながらも、「モリンフェン最強!」と叫んだモリンフェン最強が上階へ飛び上がり、大瀧を避難させるべく横に抱える。

 

 そして近くのガラス窓を突き破ってダイナミック退避だ。

 ここは地上から遠く離れた上階だが、遊戯王世界の強靭な肉体ならどうということはない。

 窓ガラスの請求は、BIG5にお願いします。

 

 入れ違いになって着地した黒髪ロングは正義。

 その収納していたデュエルディスクを素早く展開。

 赤と黒が入り混じったその異様なデュエルディスクには、禍々しいヒエラティックテキストや、不可思議な文字が刻みまれていた。

 

「来ていただいたお客さんに茶を出さずに帰してしまっては、ご先祖様方に顔向けができないというもの」

 

 赤と黒色の特製デュエルディスクに謎のエネルギーが発生。

 周囲が異様な空間に包まれ、二人の姿を外部から隔離。

 

 孔雀舞は驚き、焦り、過去に似たような体験をしたことを思い出す。

 これはまるでマリクとの戦いにおける、闇のゲームのようではないか。

 心の奥底に刻まれた非情なデュエルを思い出した舞は、思わずその胸を抱きかかえ、黒髪ロングは正義を睨む。

 

 その鋭い眼光に少し怯みながらも、黒髪ロングは正義はさらにデュエルディスクの機能を展開。

 これこそ原作における恐ろしい闇のデュエリストに対応するべく研究された、チーム俺たちの秘密兵器。

 

『次元統合。召喚ロックシステム、解除』

 

『シン───召喚システム、承認』

 

『──エ─シー───召喚システム、承認』

 

『─ペ──ン─召喚システム、承認』

 

『───ク召喚システム、承認』

 

「ここから先は大瀧先生にも見せられぬ。お楽しみはこれからじゃ」

 

『防衛システム展開。疑似ヌメロンシステム起動。コア・コアキメイルの負荷が上昇しております』

 

『クリフォート制御システム、正常です』

 

『完了。これより、闇のゲームを開始します。領域展開、デンジャー、デンジャー』

 

 あっという間に二人の場所が歪み、周囲が非現実的なものに。

 気がつけば立っているのは亜空間。

 床と壁はなく、二人の他には誰もいないどこまでも広がる白いフィールド。

 オカルトパワーによって構成された、誰にも邪魔されず、誰にも見られることはない別世界だ。

 

 そう、遊戯王世界ではとんでもないやつに乱入されたり、ヤバい異次元に叩き込まれてしまうのは日常茶飯事。

 だったら先にヤバい場所に叩き込んでやれという設計思想の下、チーム俺たちは様々なデュエルモンスターズの精霊の力を借りて、このとんでも機能を開発したのであった。

 

 ちなみに、協力はマッドサイエンティストの【魔導サイエンティスト】や【コザッキー】、【Dr.フランゲ】などの精霊が関わっている。

 安全性とかいろいろ大丈夫とかと問われたら、おそらく大丈夫ではない。

 

「まさか、これは闇のデュエル!?」

 

「舞殿が【オレイカルコスの結界】を持っていることは知っておる。ドーマとの繋がりも、のぉ」

 

「な、どうして知っているの!?」

 

 闇のデュエルと思わしき異様な空間。

 そして自分が所持しているカード、隠されてきた秘密結社の名前の暴露。

 舞は油断ならないと和服の少女を睨むが、「これが知っていることの愉悦、楽しい」と彼女はご満悦気味だ。

 

「なぁに、舞殿は勝っても負けても命を奪われることはないから安心して欲しい。勝っても負けても、舞殿はこのデュエルの記憶を失うことだけが参加の条件よ」

 

「闇のゲームの割には、ずいぶんとぬるい話ね」

 

 わぁ、生で舞の声を聴けている。妾、幸せ。

 

 CV七緒はるひに幸福を噛みしめる黒髪ロングは正義。

 そんな和服少女の余裕にいら立ちを隠せない舞だが、次の言葉に絶句してしまう。

 

「しかし、妾は敗北した際に、デッキと肉体が消失する。さらに妾の魂はお主の【オレイカルコスの結界】のように、この闇のゲームの力を借りるおおもとに捧げられるわけじゃ」

 

「……なん、ですって」

 

「重い条件じゃろう?でもそうでなくては、あの4つのデュエルパワーを覆い隠すことは不可能じゃからのぉ」

 

 苦笑する黒髪ロングは正義。

 その余裕とはどこから生まれてくるのかと、慄き戦慄する舞。

 

「それに誤算じゃったが、妾たちの条件がきつくなることによって酷いレベルでバランスが取れた。対戦相手の心や体を傷つける不安はなく、万が一の犠牲は妾たちが全て背負えるという」

 

「頭、おかしいんじゃない?」

 

「じゃろ?こんな頭がおかしいぐらい此方に都合がよい条件でこんなオカルトフィールドを展開できるなんて、お得極まりないといったところよのぉ」

 

 自分の命と体を、自分の命より大切なはずのデッキを、まるで気にしていない。

 命をまるで駄菓子を買う小銭のように扱う少女に、孔雀舞は悍ましく歪んだ何かを感じ取る。

 

 生きる存在であれば大切にする命を、デュエリストであれば自分の存在をかけて作り上げたデッキを、こうも粗雑に賭けるなんて。

 

 自分が【オレイカルコスの結界】と契約するときに、そして契約に至るまでにどれだけの葛藤を抱えたことか。

 

 どれだけ私は悩み、苦しんだことか。

 

 だからこそ、この和服の少女のことが異様に思えてならない。

 どうしてそんな闇を抱えていない顔で笑える。

 どうしてそんなに楽しそうに笑えるのだ!?

 

「この支配域に入った以上、妾の魂が敗北しても行先はこの闇のゲームの主のところ。残念じゃが、いずれにしても妾の魂は諦めてもらおう」

 

「……なるほどね、その闇のゲームの主が、あんたたちチーム俺たちの真の主ってわけね」

 

「じゃが、舞殿ほど悲哀に満ちたものではない。楽しい、楽しい遊びを提供してくれた素晴らしい主様じゃよ」

 

「っは!楽しい闇のゲームなんてあるわけないでしょう!あんたいかれているわよ!」

 

 主人たるその闇の主に対して信仰が強すぎるのか。

 

 捧げることが当たり前だから、そもそも覚悟を決める必要がないのか。

 

 なるほど、この和服の少女もだいぶ壊れているようだ。

 だが、そんな小さな年端も行かない少女の魂を捧げようとしていた、外道に堕ちた自分が説教するのはお門違いというもの。

 

 こんな情けない姿を見たら、あいつ、どう思うのかしら。

 

 そう思うと舞はどうしようもなく情けない気持ちになった。

 自嘲気味に笑い、そして悲しみを振り切ってデュエルディスクを構える。

 

 それに対する黒髪ロングは正義は、思ってもみなかった戦いが来たと喜び、両手をワキワキさせながら笑っている。

 

 その笑顔は最高に気持ち悪いものだったが、だいたいオタクはこういう時は気持ち悪くなってしまうものだからしょうがない。

 でもこういう時が実はオタクにとって一番幸せなものなのだ。

 

「さぁ」

 

「いくわよ!」

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

「先攻は妾じゃな。ドロー、妾は手札からフィールド魔法、【軍貫処『海せん』】を発動する」

 

 その瞬間、二人を囲む光景が一変。

 

 地面から現れ始める巨大な建造物。

 フィールド魔法という言葉に警戒する孔雀舞が目にした、そのフィールド魔法の真なる姿とは。

 

「え、えぇ……?」

 

 舞は困惑した。

 先ほどまでの緊張感がある雰囲気、決意を固めた自分はなんだったんだろうと胸が切なくなる。

 

 ほかほかの炊き立てご飯!

 

 だし巻き卵!伊達巻!かんぴょう巻き!

 

 まぐろ!いくら!サーモン!

 

 そしてトロトロの香ばしい、しょうゆ!

 

 お酢の酸味のある香りがあたりに漂い、謎のクレーンが巨大な寿司のネタを運ぶ。

 なんというか、海外特有の間違った日本テイスト満載の謎の漁港の姿がそこにはあった。

 

 舞はきょろきょろとあたりを見回すが、どこを見ても酢飯、寿司ネタしか見えない。

 フィールド魔法特有の恐ろしさも感じられず、強大なモンスターの気配もしない。

 

 私は何と戦っているんだと複雑な気持ちになっている舞を置き去りに、黒髪ロングは正義は不敵な笑みを浮かべ、手札を1枚引き抜いた。

 

「さらに妾は【しゃりの軍貫】を通常召喚する」

 

 どん!っと大きな音を立てて現れたのは……大きな米の塊であった。

 その形、フォルムは確かにお寿司の軍艦のしゃりそのもの。

 

 孔雀舞は目を丸くした。

 

 デュエルモンスターズには奇抜なモンスターが存在するが、ここまでおかしなモンスターはみたことがない。

 その美味しそうな姿に食欲をそそられるが、空中に表示されたステータスに表情は一変。

 

「攻撃力2000……?」

 

 このしゃり、どんな下級モンスターよりも攻撃力が高い。

 魔法使いに戦士、凶暴な魔物よりも攻撃力が高いのだ。

 

 舞は私のハーピィ、こんなカードに攻撃力が負けるのかとなんとも言えない気分になった。

 

「手札の【しらうおの軍貫】の効果を発動じゃ。場に【しゃりの軍貫】が存在するとき、このカードは手札から特殊召喚できる」

 

 【しゃりの軍貫】に並び立つ、【しらうおの軍貫】。

 その攻撃力は200、守備力250と控えめだが、どう考えても攻撃力2000のしゃりがおかしい。

 

 しかしなんと新鮮なしらうおなのだろうか。

 テカリよし、海鮮物特有の海の香りよし。

 きっととれたてピチピチなのだろう。

 

 米にしらうおをのっけて、しょうゆで味つけ。

 もうこれぞゴールデンコンビ。この組み合わせでご飯が何杯おかわりできるのだろうか。

 

 そう、黒髪ロングは正義のデッキは───軍貫デッキだった。

 美味しい酢飯、新鮮なネタ。

 これが組み合わさって最強に見える謎テーマデッキである。

 

 舞はカードテーマにあたりをつけ、そのなんとも間抜けなカード群に気が抜けそうになる。

 

 しかしすぐに気持ちを切り替えた。

 

 そして相手の動きをじっくり観察する。

 チーム俺たち特有の聞いたことのないデッキテーマ。

 だがエルドリッチと同じように油断はできない。

 

 そう、孔雀舞はチーム俺たちの危険性を知りながらも、この戦いに勝ちに来たのだ。

 

「さて、妾のフィールドにはレベル4モンスターが2体存在する」

 

「それがどうかしたのかしら?」

 

「妾はこの2体で、オーバーレイネットワークを構築するとしようかのぉ」

 

 オーバーレイネットワーク?

 聞いたことがない言葉に舞が顔をしかめたその時。

 

 2体のモンスターがエネルギーの流れに変化。

 さらに2つのエネルギーが互いに溶け合い、大きな一つの円となって循環していく。

 なんという大きなパワーだろうか。

 

 この見たことのない現象に、舞はただただ驚くばかりであった。

 

「これは、いったい!?」

 

「お主が大きな闇の力と契約していることは知っておる」

 

「言いなさい、何が起こっているの!?」

 

「そんな闇の力に妾たち凡人が立ち向かうためには、封じられていた力を解禁する必要がある。そのための闇のゲーム、そのための不可侵不観測なこの領域。この未来の召喚をもって妾たちは闇へ挑む」

 

 2つのエネルギーの流動が最高潮に達した。

 そしてそれは大きな、偉大なモンスターに形を変えていく。

 

「同じレベルのモンスターを素材に、融合デッキ、いや、エクストラデッキからエクシーズモンスターを特殊召喚」

 

 このエネルギーの輪こそ、デュエルモンスターズのさらなる可能性。

 

「EDO-FRONT製の至極の一品、新鮮な素材と独自開発された粘り気の少ない古米、お酢と握りの加減はまさに職人の技!ノリのパリッとした食感を楽しみ、どうぞご賞味あれ!」

 

 召喚口上を叫び、ばっと腕を振りあげれば、その動きに呼応するようにモンスターが出現。

 大きな出航の音はモンスター自身の気合の叫びだ。

 

「エクシーズ召喚!現れよ!」

 

 

「【空母軍貫-しらうお型特務艦】!」

 

 

 フィールドに登場したのは巨大な軍貫。

 

 海苔の匂いが香ばしく、その上には沢山のしらうおがこれでもかといわんばかりに贅沢に盛られている。

 上にちょこんと乗ったすりおろしのショウガ、もみじおろしの薬味がなんとも嬉しい。

 端にあるキュウリも味をさっぱりとして飽きがこないよう考えられた、職人の温かい心遣いだ。

 

 だが、そんな異様なモンスターに目を向けられないほど、舞はその召喚方法に心を奪われていた。

 

「エクシーズ、召喚……」

 

「素材となったモンスターは墓地に送られることなく、そのエクシーズモンスターの素材としてフィールドに存在することになる。これぞ未来の召喚方法、その可能性の一つよ」

 

「未来、ですって」

 

「【空母軍貫-しらうお型特務艦】の効果発動。エクシーズ素材となったカードに【しらうおの軍貫】があることでデッキから軍貫魔法・罠カードを1枚手札に。さらにエクシーズ素材に【しゃりの軍貫】があったことで1ドローの追加効果も発動する」

 

 特定の素材をネタにエクシーズ召喚した際に、追加効果が適用できるのが軍貫エクシーズモンスターの美味しいところ。

 

 たまに食材偽装して、龍とか魔導士とかゴキブリとか、とんでもないものを素材にすることもあるが、それは店主のきまぐれ握りだからしょうがない。

 

「だがその前に、軍貫モンスターが特殊召喚されたことによって、【軍貫処『海せん』】の効果を発動。軍貫モンスターが通常召喚、特殊召喚された時、デッキのトップに軍貫カードをデッキから1枚選び、置くことができる」

 

 へい、らっしゃい。

 そんな威勢のいい店主の声と共に、デッキから1枚の軍貫がデッキトップへ。

 

「妾は【しゃりの軍貫】をデッキトップに。そして【空母軍貫-しらうお型特務艦】の効果で1ドロー、さらに軍貫罠カードである【きまぐれ軍貫握り】を選び、手札に加えさせてもらおうかのぉ」

 

「デッキから2枚も手札に……。ふざけた外見だけど、油断できないモンスターね」

 

 舞の視線は鋭く、黒髪ロングは内心ビビりながらカードを回す。

 

 こんなネタデッキなのに、どんなガチカードを回しているときよりも緊張する。

 なるほど、これが原作世界で味わえるデュエルの醍醐味か。

 

「そう、ドーマから気を付けろと言われていたけれど、そういうことなのね。チーム俺たちは未来人だったと」

 

「近からず、遠からずじゃ。しかしもっと驚かれると思っておったが……」

 

「ふん!舐めないでもらえる?私はあなた達に勝ちに来たのよ。ここで負けるわけにはいかない!私はもう、負けられないのよ!」

 

 力強い声。

 しかし、どこか悲壮感を感じさせる声に、黒髪ロングは正義は複雑な思いになった。

 

 原作キャラと戦えることは嬉しいが、こんな辛そうな舞と戦うことは望んでいなかった。

 憎まれたり、嫌われたりした方がまだマシである。

 

 ここにいる孔雀舞は、あの漫画で見た輝かしい孔雀舞ではない。

 

 マリクとの戦いで心に誰にも言えない傷を抱え、闇に魅入られ力を欲し、これまでの自分を裏切ってしまったアニメ版孔雀舞なのだ。

 

 流石はブラックで有名なアニメドーマ編。

 監督が力を込めすぎたと反省するシリーズなだけあって、黒髪ロングは正義は少し切なくなる。

 

「……こんな真剣なときに、どうして妾は軍貫デッキなんて使っておるんじゃろうか?」

 

 ただ、絵面がもうこれ以上ないぐらいに最悪である。

 黒髪ロングは正義は、なんだかとても申し訳ない気持ちになった。

 

 周りを見れば寿司ネタの港に巨大なしらうおの軍貫。

 そう、寿司である

 日本の伝統お寿司である。

 

 アニメのドーマ編における孔雀舞のデュエルは、とても悲しく美しいデュエルだった。

 翻って、この二人の戦いはどうだろう。

 見ているととてもお腹が空いてしまう光景だ。

 

 酢飯・海苔・魚という食材が合わさり最強に見える。

 これぞジャパニーズ寿司。富士山、忍者、寿司。

 とてもではないが、こんな緊張感ある空気の現場には絶望的にあっていないモンスターたちだ。

 

 もしこれがアニメで放送されていたら、人は孔雀舞の悲哀ではなく、寿司を話題にしていただろう。

 ネタ回以外の何物でもない。

 寿司だからそもそもネタ回だって? 寒いからやめなさい。

 

「……それで、どうするかしら?」

 

「えーと、カードを2枚伏せてターンエンドじゃ」

 

「そう、私のターン。ドロー」

 

 さて、ここで1つ注意がある。

 

 この孔雀舞は、原作漫画の孔雀舞ではない。

 闇落ちしてドーマ編のラスボス、ダーツの下に連れてこられて秘密結社ドーマの一員となった孔雀舞である。

 

 つまり、闇落ちしたがために、この世界のデュエリストの誇りを捨て、負けることを恐れて勝利のみを追い求めるようになってしまった。

 

 この世界において、デュエルとは互いの心の会話。

 信じるカードとの交流、相手のデュエリストとの誇りと誇りのぶつけ合い。

 

 これを忘れてしまったということは何を意味するだろうか。

 そして、それを忘れてしまった存在はどのような存在になると想像できるだろうか。

 

 さらにはチーム俺たちによって、デュエルの研究は加速したとしたら?

 

 多くのとんでもないカードが再発見され、秘密結社ドーマはそのツテと資金力でそれを獲得していったとしたら?

 

 己のデッキを信じていた孔雀舞が自分のデッキを信じられなくなり、そのデッキを勝利を求めてただただ改造してしまったら?

 

 そう、様々な要因が不幸にもかみ合ってしまった結果───

 

「私は、手札から【ハーピィの羽根帚】を発動するわ!」

 

「なぁっ!?超絶ガチカードじゃと!?わ、妾のフィールド魔法と伏せカードが!?」

 

 現代でも使われる制限カードによって、黒髪ロングは正義のフィールドが羽箒によって一掃される寸前。

 黒髪ロングは正義は慌てた様子で、自身の伏せカードをつかみ取る。

 

「な、なるほどのぉ。そういえば羽根帚の原点はお主であったか。ならば不思議ではあるまい。妾はセットしていた【きまぐれ軍貫握り】を発動」

 

 空中にお品書きが出現。

 3枚の木製のお品書きに、達筆な墨字で軍貫の名前が浮かび上がり、舞が何事かと目を見開いた。

 

「デッキの中から3体の軍貫モンスターを見せ、そのうち相手が選んだカードを手札に加える。ただし、ここに【しゃりの軍貫】が含まれた場合、選ぶのは妾じゃ。よって、妾は【赤しゃりの軍貫】を手札に加える」

 

 へい、こちらになりやす!

 

 手札に飛び込んできた【赤しゃりの軍貫】、そして破壊されていく黒髪ロングは正義の魔法・罠カードたち。

 

 その中には相手の効果モンスターの効果を封じる速攻魔法、【禁じられた一滴】もあった。

 

 吹き荒れる風から顔を守りながら、これは不味いことになったと焦る和服少女。

 だが、孔雀舞は止まらない。

 

「そして私は【テラ・フォーミング】を発動!デッキからフィールド魔法を手札に加える!」

 

「そのカードは……そうか。妾は手札から【灰流(はる)うらら】を捨ててその効果を発動、相手のデッキからカードを手札に加える効果を無効にさせてもらおうかのぉ」

 

 小さなかわいらしい妖怪少女が現れ、デッキから飛び出るカードを掴んで微笑むと、元の場所に返してしまう。

 妖怪の少女らしく、いたずらも大好き。

 しかし、その効果は強力だ。

 

「手札発動の強力なモンスター、チーム俺たちの特徴の一つね」

 

「これでお主の切り札、【オレイカルコスの結界】は手札に加えることができなくなった。とりあえず一安心じゃなぁ」

 

「ふふ、【オレイカルコスの結界】を知っているから当然の対応ね。でも、そのカードの効果は1ターンに1度だけらしいわね。その判断は本当に正しかったのかしら?」

 

「……なに?」

 

「私は手札から【ハーピィ・レディ】を通常召喚!」

 

 現れたのは遊戯王で超有名なカード、【ハーピィ・レディ】。

 

 テーマ化され、雑誌の特典にもなったハーピィ・レディの原点に、思わずおおと見を見張る。

 

 だが、この胸に湧き起こる危機感はなんだ。

 デュエリストの勘が、この戦いはただではすまないと自分に教えてくれる。

 

 舞はニヤリと笑うと、手札から魔法カードを発動。

 

「私は【万華鏡-華麗なる分身-】を発動、デッキから【ハーピィ・レディ三姉妹】を特殊召喚する!」

 

 しまった、そちらが本命であったか。

 黒髪ロングは正義は目を見開いた。

 

 もしや何かを察知して、【灰流うらら】の効果を【テラ・フォーミング】に使わせられた?

 

 バカげた考えかもしれないが、原作のキャラクター、それも孔雀舞ほどのデュエリストであれば、遊戯や城之内のように何かを勘で感じ取る能力があってもおかしくはない。

 

 しかし、それでも【オレイカルコスの結界】の方が今は脅威だ。

 この判断は確かに間違っていなかったはず、と黒髪ロングは正義は呻く。

 

「妾はその魔法にチェーン、手札から【増殖するG】を発動する。このターン、相手がモンスターを特殊召喚する度に、妾はカードを1枚ドローすることができる!」

 

 フィールドに突如大量のゴキブリが出現した。

 

 衛生問題が紛糾する事態に寿司の港は騒然。

 大嫌いな虫ランキング1位のカード登場に、舞は背中にゾゾゾと寒さが走って顔をひきつらせた。

 寿司にゴキブリとか、なんと酷い光景が広がっているのだろうか。

 

 だが、これで相手の手は全て判明した。

 そう、これ以上はチーム俺たちは打てる手がないと舞は嗤う。

 

 現れたのは【ハーピィ・レディ三姉妹】。

 

 その体にはエロティックなボンテージの鎧を装着し、手には電流が走る鞭が。

 華やかでありながらも、嗜虐的な笑みを浮かべた3人のハーピィが登場。

 

 そして、すぐにフィールドの異様さに口を開けて呆然とした。

 

 寿司&寿司。

 

 周囲を飛び回る膨大な数のゴキブリたち。

 

 緊急事態で対応に追われる寿司職人たち。

 

 ゴキブリを嬉々として踏みつぶして周っている、墓地に行ったはずの【灰流うらら】。

 

 なんだこれはと三姉妹は顔を見合わせるが、その気持ちをなんとか抑え込んで優雅に宙を浮遊する。

 だが、隠しきれず微妙に頬が引きつっているのが可愛らしい。

 

 困った様子でカードを1枚ドローする黒髪ロングは正義の様子を見て、舞は確信した。

 相手は強力なカード・未知の召喚方法を扱うが、デュエルの駆け引きは未熟。

 

 ならば、私はチーム俺たちに勝つことが出来る!

 

 舞の手札には、とある1枚の永続魔法カードがある。

 このカードはこれまで舞が使用したことはなく、むしろ忌避していた類のカードであった。

 

 だが、私は勝ちたい。もう負けたくないんだ。

 掴み取る手が重い、運ぶこの手が重い。

 

 もう私は戻ることはできない。

 既に過ちは犯してしまった。もう、戻ることはできないのだ。

 

 心配そうにこちらを見つめるハーピィたちをみて、一瞬カードの発動をためらう。

 しかし、全てを振り切るように舞はそのカードを発動し、叫んだ。

 

「私は、私はッ!」

 

 舞の異様な様子に、黒髪ロングは正義は警戒を最大限高める。

 その警戒は正しい。

 この舞が使用するカードこそ、原作のぶっ壊れカードの始まりを告げるラッパなのだから。

 

 

「私は、永続魔法【リビングデッドの呼び声】を発動するわ!」

 

 

 永続魔法!?

 罠カードではない!?

 

 自分の知る罠カード、【リビングデッドの呼び声】。

 しかし魔法カードという同名カードの登場に、黒髪ロングは正義は驚愕。

 

 あっという間にフィールドが墓場へと変わり、多くの墓標が並び立つ。

 陰鬱な雰囲気に怪しい空気の流れ、そこに交じる香ばしいお酢の香り。

 

 二人のデュエルは、寿司と墓場という混沌としたフィールドに変わった。

 

「バトル!私は【ハーピィレディ三姉妹】と、【ハーピィ・レディ】で【空母軍貫-しらうお型特務艦】に攻撃!」

 

「なぬ?攻撃力が劣るモンスターで攻撃じゃと?さては、何か手札から魔法カードを発動するつもりか?」

 

 だが、そんなことはなかった。

 

 決死の表情で【空母軍貫-しらうお型特務艦】に突撃した4人のハーピィは、その飛来するしらうおの爆弾によって反撃を受け、苦痛の悲鳴を上げながら破壊され、フィールドに倒れ伏していった。

 

「な、なにを考えておるのじゃ?これではモンスターの無駄死にではないか?」

 

 顔を伏せる孔雀舞に、黒髪ロングは正義は戸惑うばかり。

 

 彼女は自分のモンスターが破壊されるのは見たくないと、主人公遊戯に負けを認め、敗北する前に初めてサレンダーを行った心優しきデュエリストだった。

 

 そんなモンスターを気遣う舞にしては異様なデュエルの運び。

 黒髪ロングは正義は原作を愛するが故に、おろおろと視線をさまよわせる。

 

 そしてさまよう視線は───

 

「……な、なんじゃと?」

 

 ───ボロボロな姿になってもなお立ち上がる、異形のハーピィたちをとらえるのであった。

 

「【リビングデッドの呼び声】の効果。敵によって抹殺された自軍のモンスターを、全てゾンビ化し、蘇生させる!」

 

「なっ!」

 

 腐れ、崩れ落ち、それでもなお動き出すハーピィたち。

 その姿にハーピィの可憐さはもう見ることはできず、ただただ悍ましい化け物に成り果ててしまった。

 

「もしや、そのカードは!王国の【リビングデッドの呼び声】か!?」

 

 腐敗し、痛みを知る感覚や知性を失って、より凶暴になったハーピィのゾンビたち。

 それが魔法版の【リビングデッドの呼び声】だ。

 

 その無茶苦茶な内容、計算しにくい効果によって遊戯王OCGでは単なる罠蘇生カードになってしまったが……。

 

「蘇生したモンスターの攻撃力は、破壊された時の攻撃力の10%を加算する!そしてこのモンスターの戦闘で発生したダメージを、私は受けることはない!」

 

 腐敗化し、痛みを知る感覚や知性を失って、より凶暴になったハーピィのゾンビたち。

 寿司の港でうめき声を上げ、腐臭を放ちながら軍貫へと進軍を開始する。

 

 【空母軍貫-しらうお型特務艦】はハーピィゾンビたちを何度も迎撃して撃ち落としていくが、破壊する度にハーピィゾンビたちは攻撃力を上げて復活していく。

 

 しかもこのカードの効果の恐ろしいところは、「蘇生」であって「特殊召喚」ではないこと。

 つまり、【増殖するG】の効果の適用範囲外なのだ。

 

 さらにゾンビと化した【ハーピィ・レディ三姉妹】が、黒髪ロングは正義に襲い掛かる。

 

「私は、私はもう負けるわけにはいかない!

 

 そしてついに【空母軍貫-しらうお型特務艦】にたどり着いた時、ハーピィゾンビたちの攻撃力は【空母軍貫-しらうお型特務艦】を上回っていた。

 

 迎撃のしらうおの爆撃をものともせず、ハーピィゾンビは巨大な空母軍貫を破壊。

 さらにゾンビとかした【ハーピィ・レディ三姉妹】が、黒髪ロングは正義に襲い掛かる。

 

 なんとグロイ光景か!

 

「さらに直接攻撃!いきなさい!【ハーピィ・レディゾンビ三姉妹】!」

 

 度重なる爆撃によって、肉はぐずぐず。

 美しい玉のような肌は青緑に腐敗し、体のいたるところに骨を覗かせるハーピィ姉妹が、黒髪ロングは正義に突撃。

 

 悍ましく迫力あるソリッドビジョンに、小さな悲鳴を上げた。

 

「ひ、ひぃぃぃぃ!……え?」

 

 その時であった。

 黒髪ロングは正義は確かに見た。

 

「お、お主ら……」

 

 ただのカードであるはずのゾンビハーピィたちが、その白くなった目から涙を流している姿を。

 

 黒髪ロングは正義は驚きに目を見開く。

 すぐに衝撃によって吹き飛ばされ、地面を転がってせき込むが、体の苦しさよりも今見た光景の方が彼女にとっては重要であった。

 

 カードには精霊が宿る。

 大切にされればされるほどに、そのカードには精霊が宿りやすい。

 

 ハーピィのカードには、恐らく精霊が宿っているのだ。

 それは孔雀舞とカードの信頼であり、美しい絆の証であった。

 

 そのカードの精霊が流す涙は、自分の痛みへの涙ではない。

 

 自分の主人を案じる心の涙であると黒髪ロングは正義は理解できた。

 

 頭ではなく、デュエリストとして成長した心がそう理解できたのだ。

 

 孔雀舞は心で未だ迷っている。

 こんな在り方でいいのかと悩み、苦しんでいる。

 

「……世は、無常にして、難儀よのぉ」

 

 迷い、悩むことが世の常。

 迷い、悩むことは罪ではない。

 自分を見失い、悩み苦しむ中で人は成長し、その意思を輝かせてきた。

 

 だが、迷い不安定になった人の心につけ込む悪の存在。

 心優しいデュエリストを闇に巻き込んでいく悪役。

 秘密結社ドーマの悪辣なやり方を改めて思い知り、黒髪ロングは正義は吐き気すら感じ始めていた。

 

「……うーむ、これがシリアスなデュエルか。酷いデュエルはたくさん経験してきたが、これは別の酷い趣がある」

 

 ゆらりと立ち上がった黒髪ロングは正義。

 それを視認し、舞は警戒した様子でカードをセットしていく。

 

「私は、カードを数枚セット。ターンエンドよ」

 

 相手を見て、自分のモンスターを見ていない。

 だから舞はゾンビと化したハーピィたちの涙を見つけられないのだ。

 

 王国編にて遊戯のカオスソルジャーに怯え、戸惑うハーピィたち。

 それを見て迷わずサレンダーを選んだ、あの優しく気高い孔雀舞が自分のカードを見ていない。

 

 一人のファンとして、こんな姿を見ることはとても苦しい。

 生き生きとしている相手だからこそ、こちらも全力で叩き潰しに行けるのだ。

 こんな悲壮な決意をしている相手に、どう向き合えばいいのかわからない。

 

 だからこそ、黒髪ロングは正義は一人のファン、厄介オタクとして原点に立ち返る。

 

「……すまんのぉ、本来これは妾の役割ではない。このデュエルの記憶も定めた我らの愚かな条件で消え去ってしまう。そんな妾たちの愚行を、どうか許してくれとはとてもじゃないが言えん」

 

 しかし、と闘志を燃やして、黒髪ロングは正義はゆらりと立ち上がる。

 そして孔雀舞を睨み、叫んだ。

 

「しかし一人のファンとして!この終わりの僅か一時、その悍ましいオレイカルコスとの繋がりを、僅か一時解き放つことを願い、これより戦わせて頂くとしようかのぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(とはいったものの、ちょっとこれ厳しいのぉ)」

 

 この状況で伏せられた舞の伏せカードが怖い。

 魔法版の【リビングデッドの呼び声】が来るぐらいだから、あの伏せカードも恐らく一癖も二癖もあるだろう。

 

 本来、孔雀舞が使うはずでないカードが、何かの因果によって使用されている。

 これはもう、なんか大変な災難がこちらに降りかかってくるに違いない。なんか泣けてくる。

 

「(ば、バグースカとかメタモルフォーゼとかちゃんと積めば良かったか。ええい、少し慣れ切ってきて気が緩み始めるとか妾の阿呆が。4000のライフなんぞ風前の灯火のようなものだというのに!)」

 

 未だ見えぬ脅威、そして香るお酢の匂いに、頭が痛くなってきた。

 

 ……しばらく、お酢の匂いがトラウマになりそうだ。

 




◎モリンフェン最強

モリンフェン教万歳。
モリンフェンは神。

実は自分の運命力に対するバフだけではなく、モリンフェンが活躍できるために相手の運命力にもデバフをかけるような力が働いているかもしれない。

◎【進化する神】

Q実際にこの内容でこの原作カードを使ったら、モリンフェンは神になれますか?
A私にもわからんけど、言ったもん勝ちな気がするからたぶんなれます(おい

正直、進化する神の原作テキストの解釈で悩むところだが、月を攻撃できる世界だからまぁいいかと書きました。
だって、神になるモリンフェンが書きたかったんだ……。

◎黒髪ロングは正義

寿司屋でバイトしている。
黒髪ロングキャラはどの作品でも何かあるとすぐ断髪式を行うので、推しができると毎度気が気ではない模様。

カードが精霊化するということは、テーマを愛し使い続ける中で絆と信頼関係がカードと生まれ、いずれアニメみたいに動けるようになるのではないか。
そんな考えを持っている、チーム俺たちの中でも割とロマン派勢。

ガチとロマンの間で戦えるファンデッキを作り、それを愛用していたが、今回初手羽箒されたことでかなり決意が揺らいだ模様。

◎とんでもデュエルシステム

闇のゲームは対等。

その条件の穴をついて非常に自分たちに都合よく条件をつけたが、外から見るとただの自殺行為レベルに理不尽な条件。
魂とられるぐらいなら、先に取られてしまえばいいというとんでも理論で管理人に回収されます。


◎【リビングデッドの呼び声】

原作では発動すると絵柄がグロイ。本当に、グロイ。

原作では魔法。
その効果は抹殺されたモンスターをゾンビとして蘇生させる。

蘇生した際は10%攻撃力を上げ、戦闘ダメージを使い手は受けないために、戦闘においてはほぼ無敵。
さらにはよくわからないが、ゴースト化もしている。
……私にも、ゴースト化の意味はわかりません。たぶんアンデット族。

蘇生は破壊された際に同時に処理して発動するような描写もあるため、墓地の経由や特殊召喚ないという解釈で今回書いた結果。
増殖Gも効かないことになりました。墓地の除外も効きません。

実は前回のエルドリッチ対策で孔雀舞が選び、使用しているという設定。
つまり今回の黒髪ロングは正義は盛大にとばっちり受けてます。

◎ハーピィの羽根帚

ファンデッキが環境に勝つためには、たくさんの汎用魔法罠が必要。
そんな環境勢への勝利に淡い期待を持つファンデッキの使い手の心を、環境勢がバキバキに折ってくる際に使われる魔法カード。

好きだけど、嫌いです(´・ω・`)


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