鬼滅の刃 もう一人の鬼の王 (マルルス)
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選択の時

バイオハザードヴィレッジをプレイしていてハイゼンベルクがカッコよかったので
書いてしまった。


「さぁ選択の時だ。諸君

俺の仲間になるか、それとも今ここで死ぬかだ。」

 

雲一つない月明かりの下で洋服を纏った男が不気味な笑顔で告げた。

 

「お…お前は…何なんだ…!? 」

 

震えながらそう聞く男の鬼。

 

「そうビビるな。俺はお前と同じ鬼だよ。いや…正確には造りが違うがな。

まぁ今はどうでもいい事だ。それより返答を聞かせてくれねえか?

仲間になるのか?それともここで死ぬか?」

 

ニンマリとした表情を崩さずに男は続ける。

 

「そ…それは…」

 

鬼は考える。死にたくない…それは本心だ。だがあの()()はこれを自分に通して見ているだろう。

このままこの洋服の男の仲間になると言えばあのお方は間違いなく己を殺すだろう。

そう考えると恐怖が肉体を麻痺させる。どうすれば…!どうすればいいんだ…!

 

「安心しろ。()()の阿保はこれを見ていないし気付いてもいない。

だからそんなに歯をガチガチしなくていいぞ。」

 

「!!」

 

男は震える鬼を安心させるかのように語り掛ける。

それを聞いた鬼は肉体の震えが徐々に収まっていくのを感じた。

それなら…それなら…!

 

「な…なる! 俺は貴方の仲間になる!!」

 

仲間になる。何の躊躇もなく鬼は男にそう告げた。

 

「良い返事だ。じゃあどちらかの腕を出せ。」

 

鬼は言われた通り右腕を上げた。

そして男は人差し指を鬼の右腕に突き刺した。

 

「!?…ア…アギィぃィぃガァァァァァ!!!!!」

 

すると鬼は全身から悍ましい激痛が襲った。

 

「安心しろ。ほんの数秒だ。」

 

男の言葉は届かず鬼はもだえ苦しんだ。

体の内部が何かもが変わっていく感じだった。そして男が言った通り5~6秒経つと先ほどの痛みが嘘のように消えていった。

鬼は立ち上がり男の前に立つ。

 

「気分はどうだ?」

 

「今までの…不安と恐怖…が嘘のようで…何かもがサッパリしてます…」

 

鬼の言葉に男はにこやかな顔で鬼の両肩に手を置く。

 

「おめでとう。今日からお前は俺の()()だ。

さて待たせて悪かったな鬼殺隊の諸君。

時間はあっただろう? 返事を聞かせてくれ。」

 

男はそう言い背中の滅と書かれた黒い服を着込んだ5人程の少年少女達に問いかける。

この隊士達は男の部下達に取り押さえられ銃を頭に突き付けられている状態だ。

 

「ふざけるな…!俺達はお前ら鬼を狩り人々を守る鬼殺隊だ!誰がお前の…!鬼の仲間になるものか!!」

 

「そうだ!殺すなら殺せ! 俺達はお前達のような生き汚い鬼と違って覚悟なんてとうの昔に出来ているんだ!」

 

隊士の少年達は男に向かってそう宣言した。それを聞いた男は予想通りだなと思った。

鬼殺隊は鬼を憎悪してる者達で構成されてるのでその返答は当然と言えた。

他の隊士も今の隊士と同じく憎しみが籠った目で男を睨んでいた。

まぁ…期待などしてないが…男は部下達に殺せと合図を送ろうした時、一人だけそうではない者がいる事に男は気づく。

男はその目をしていた少女の隊士に近づく。少女の隊士は男が近づくとビクリと雛鳥の様に震えていた。

 

「同僚はああ言ったがお前はどうだ?お嬢さん。

生きたいか?死にたいか?」

 

「わた…私は…」

 

「鬼の言葉に耳を貸すな!!」

 

「…!」

 

少女が返答する前に少年の隊士が叫ぶ。その時、先ほど仲間になった鬼が少年の顔面を強く殴り鼻が折れ歯が飛ぶ。

 

「うぐ…ぐぅぅぅ…!」

 

顔面からドクドクと血が流れていく。

 

「オイオイ乱暴にするな。だが人の会話に勝手に割り込むのは行儀が悪いぞクソガキが。

さて話の続きだがどうするんだ?」

 

「私は…その…」

 

少女は途切れ途切れで仲間の方をチラチラと見る。

 

「一つ教えておくがお前たちが飼ってる鴉は俺が全部殺しておいた。

だから今ここにいるのは俺達だけだ。周りの事なんて気にしなくていいぞ

鬼になるのが嫌ならならなくてもいい。仲間になるのなら人間でも構わないぞ」

 

「!?」

 

男の言葉に驚愕する隊士達。

どおりで応援が来ないわけだ。

 

「人間でいい…?」

 

「時間の無駄だな。望みどおりにしてやるよ。

全員殺せ」

 

男の言葉に部下達は隊士達の頭部に突き付けている銃の引き金の指を引く。

チキリと撃鉄の音に少女は死の恐怖に耐えられず…

 

「まって!待ってください!!」

 

少女は叫んだ。

 

「何だ?」

 

「なります…!」

 

「何のだ?」

 

「仲間に…なります!

貴方の仲間になります!だから殺さないで…!!」

 

少女は涙を流し男に懇願する。

 

「な…何を言っているんだ!! 鬼殺隊の誇りを忘れたのか!!」

 

「裏切り者!!! そうまでして…!生きたいというのか!!」

 

「鈴子!! あんたは何を言っているのか分かってるの!」

 

「裏切り者め…!! 殺してやる!!!畜生!!!!」

 

隊士達は鈴子と呼ばれる少女を怒り込めて罵倒する。

 

「黙らせろ」

 

その言葉に部下達は少女以外の隊士の頭部に銃弾を撃ち込んだ。脳を地面にブチまけて叫んでいた隊士は一人残らず消沈する。

その光景に少女は更に震え呼吸が早くなる。

 

「気にしなくていい」

 

男は少女に声をかける。

 

「生きようする意志は生物の本能だ。それを否定するなど可笑しい事だ。

鈴子と言ったな。お前は悪くない お前は危機的な状況の中で生きる為に最善な選択しただけだ

 

「…」

 

「さて歓迎しよう。鈴子…今日からお前も家族だ」

 

「はい」

 

「よし。お前らは死体を工場まで運べ。

ゾルダート()()にする」

 

部下達は隊士達の死体を袋に包みそれを担いでいく。

 

「俺達も行くぞ。着いてこい」

 

「待ってください」

 

「何だ?」

 

「名前を聞かせてください。」

 

「お…俺も知りたいです…」

 

その言葉に男は失念していた。

 

「あぁそうだった…。まだ言ってなかったな。」

 

男は自身の名前を少女と鬼に聞かせる。

 

カール・御田村・ハイゼンベルクだ。

よろしくな」

 

ハイゼンベルクはそう言い歩き出し少女と鬼はその背中についていく。




次回は主人公が転生した時の話を書こうと思っています。
チマチマやるので投稿するのが遅いです。


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転生~始まり そして新たな悪鬼

主人公が鬼滅の刃の世界に転生する話。
案外パパっとかけたんで投稿します。


俺はこれと言ってつまらない平凡な日常を送っていた。

朝起きて仕事して帰って飯を食べて趣味のゲームや映画を観て寝る。

そんな日常を送ってきた。

だけど…。

そんなつまらない日常はある日、突然で前触れもなく終わった。

交差点を渡ろうした時、初心者マークを付けた車が信号無視で突っ込んできて俺を跳ね飛ばしたのだ。

正直に言えばここから先は覚えてない。

気が付いた時は真っ白な空間で俺はフワフワと浮かんでいた。

 

「気が付いたか?」

 

「!?」

 

突然声を掛けられて俺は身構えた。

 

「ここにいるよ」

 

すると目の前に黒い煙または靄が現れた。

 

「今、俺に声をかけたのは貴方ですか…?」

 

「そうだよ」

 

黒い靄はそう答えた。

 

「早速だが君に選択してもらうよ」

 

「えっ?」

 

「君を生きたいか? それともこのまま死にたいかな?」

 

黒い靄はいきなり物騒な質問してきたもんだから俺は混乱してしまう。

 

「えっと…どういう意味ですか…?」

 

「そのまま意味だよ。おっと、失礼した。

状況を説明するのを忘れた。すまないね。

簡単に言えば君を朝の出勤途中で初心者マークを付けた車に思いきり跳ね飛ばされたんだよ。覚えているだろう?

君は全身を強く打ち病院に運ばれたが瀕死の状態なんだ。というよりほぼ死んでるな。」

 

「えっ…!」

 

「残念ながら君を治療の甲斐もなく死ぬことは確定してるんだ。」

 

「そ…そんな…!」

 

俺はその言葉にただ絶望する。確かにつまらない日常を送っていた事に嫌になったのは事実だけどそれでもこんな結末なんて嫌だ。

し…死にたくない…死にたくない!!

 

「嫌だ!嫌だ!!こんな理不尽な事なんて絶対…!絶対認めたくない!!」

 

俺は叫んだ。ただ叫んだ。

どうすれば良い!?どうすれば助かるんだ…!

 

「だから聞いたんだよ。

生きたいか? それとも死にたいか?ってね」

 

「そんなの決まってるじゃないか!

生きたいに決まってる!!

 

ようやく質問の意味が理解できた俺は黒い靄に生きたいと叫んだ。

 

「生きたいんだな。良いだろう。

生き返らせてあげるよ」

 

黒い靄のその言葉に俺はすぐに飛びついた。

 

「本当ですか!!じゃあ早速…!」

 

「ただしこれから言う条件を出来たならだぞ」

 

俺の願いを塞ぐように黒い靄は言う。

条件? それ一体…?

 

「これから言う事を真剣に聞くんだ。いいな?」

 

俺は頷き耳に集中する。

 

「君は転生というのは知ってるかな?」

 

「は? はい…意味は知ってますが…」

 

「そうか。ではもう一つ君は鬼滅の刃って漫画を知ってるかい?」

 

「はい…。知ってます。全巻読みました…」

 

鬼滅の刃

社会現象までになった有名な漫画だ。

令和の鬼退治とか言われていて日本中で話題だったから全巻一気に購入して読んでみたが敵味方構わずキャラの口調が陰険というか悪口が酷かったな…。それが妙に印象に残ってる。

 

「よし。なら話が早い。君はこれからその鬼滅の刃の世界に転生してもらうよ」

 

「えっ! 本気ですか…?あの鬼滅の刃の世界に…?」

 

「本気だよ。君は鬼滅の刃の世界に転生して私が出す条件を達成してもらう。」

 

本気のようだ…。ならこっちも腹を括るしかない。何が何でも生き返ってやる…!

 

「分かりました。それでその条件とは何ですか?」

 

「良い眼になったな。

では君が達成してもらう条件は

 

鬼舞辻無惨を滅ぼす事

鬼殺隊そして産屋敷一族を滅ぼす事

この二点だけだ。簡単だろ?」

 

黒い靄から出された条件は所謂、蹂躙物だ…。しかし簡単…?普通にキツイ条件だぞこれは…。

 

「これは自分は鬼殺隊側でもなく鬼側でもない…。

第三勢力としての転生なんですね」

 

「その通り。

安心したまえ。ちゃんと強い力を授けて転生させるから。

それで君をどんなキャラに転生したいかな? 原作のキャラでも別の作品でもいいよ

ただし!惑星をぶっ飛ばすとかの銀河級の強さのキャラはダメだよ。それじゃあつまらないからね

鬼滅の刃の世界観に近いキャラじゃないとダメだ」

 

それを聞いてやっぱりそう簡単にはいかないか…。アメコミ系のキャラに転生しようと思ったけどな…。

しかし鬼滅の刃の世界観に合うキャラか…。それだとバイオハザード系のキャラかな?

 

「悩んでるな。

ふむ…君は最近バイハザードヴィレッジをプレイしてるな。そこから選んだらどうだい」

 

そう言えばそうだな…って何で知ってるんだ!?

 

「君の人生を見ただけだよ」

 

「あの…プライベートの事なんで…そういうのは止めて欲しいです…」

 

「それは失礼した。ほらさっさと決めてくれないか?」

 

そう言われてもなぁ…何しろ自分の人生が掛かってるんだから慎重にならないと…。

鬼殺隊と鬼を蹂躙するんだから主人公系より敵キャラがいいよな…。ヴィレッジの敵キャラで鬼滅の刃の世界観にあってそうなキャラ…。

ハイゼンベルク…そうだ!カール・ハイゼンベルクがいるじゃないか!

彼の能力は鬼滅の世界観に十分にあってるしキャラとしても好きだ。これでいこう!

 

「決まりました。バイオハザードヴィレッジのカール・ハイゼンベルクに転生させてください!」

 

「決まりだな。ではキャラに合った能力と設定を授ける。

詳しい事は現地で確かめてくれ。健闘を祈ってるよ」

 

黒い靄がそう言うと俺の体が光に包まれていく。

 

「あの…いくつか質問をしてもいいですか?」

 

「うん?なんだい?」

 

「どうして自分なんですか?」

 

「それは単純に適当に決めて偶々君が当たった。それだけだよ」

 

「そうですか…。最後に一つ質問です。

貴方は何者なんですか?」

 

ずっと気になっていた事を俺は質問した。少なくとも人間なんて比べ物にならない存在なのは確かだ。

 

「私は君たち人間から言えば悪神または邪神と呼ばれるかな

さぁ時間だ。思う存分蹂躙してきたまえ」

 

やっぱりそういう存在か…。

光で何も見えなくなっていく中、俺はある失敗に気付いてしまった…。

 

ハイゼンベルクではなくアルバート・ウェスカ―にすれば良かった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ…これがこの俺、カール・御田村・ハイゼンベルクの始まりだ。

 

鬼舞辻無惨を滅ぼし鬼殺隊と産屋敷を滅ぼす事…。

これが俺が生き返る為に必要な条件だ。こいつ等には何の恨みがないが殺し尽くす…!

外道とか呼ばれようが生き汚いとか言われようが知った事か!

俺は必ず生き返って見せる…!それが俺の決意だ…!誰にも邪魔はさせねぇ!

 

 

 

こうしてこの世界に新たな悪鬼が誕生したのである。




次回はハイゼンベルクとなった主人公が自分の能力を確かめていく話


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己を知る 能力 軍団 村人

ハイゼベルクが自身の能力と拠点を知ります。


目が覚めればハイゼンベルクは大きな屋敷に寝ているのに気付いた。

ここが鬼滅の刃の世界なんだろうか? 大正時代だからか何となくだが空気が上手い気がする。

それでここは何処だ? 日本なのは間違いないが日本の何処だ?

俺は外に出ようすると頭の中で屋敷の場所が手に取るように分かった。

 

(たしか悪神様は能力と設定を授けてくれたんだったな。これがそうか)

 

これは便利だなと思いながら外に出てみると昔ながらの農村が広がっていた。

 

うん?よく見たらこの村…何か見た事がるような… ハイゼンベルクは妙なモヤモヤが掛かっていく。

 

待てよ…この村ってアレじゃないか…?

バイオハザードヴィレッジの舞台である村にじゃないかコレ!

気になったハイゼンベルクは村の中に入っていく。

途中、村人に出会ったが皆、

 

「おはようございますハイゼンベルク卿」

 

「今日もいい天気ですよ。ハイゼンベルク様」

 

「ハイゼンベルク様。水車の調子が悪いんです…見てくれませんか」

 

このように挨拶をしてくれたり頼み事をしてくる。

 

(村人は俺の事を恐れていないようだな…。友好的だ。)

 

ハイゼンベルクは村人たちと適当に挨拶しながら村の中央に着いた。

 

(やっぱりだ。この石像があるということはこの村はヴィレッジの村と同じだ)

 

日本だから家の作りが全く違うが道や家の配置がヴィレッジの村と同じだったのである。

 

(この村の名前はなんだ? まさかと思うが)

 

「おい、ちょっといいか?」

 

ハイゼンベルクはちょうど近くを通った若い村人に話しかける。

 

「これはハイゼンベルク卿…。どうされましたか?」

 

「あぁ…この村の名前は何だったか忘れてな…。教えてくれないか?」

 

「はい。美麗治(びれじ)村ですが」

 

「そうか…ありがとう。」

 

「それでは」

 

村人はハイゼンベルクにペコリと頭を下げ去っていった。

 

「おいおい…いくら何でもそのまますぎないか? 悪神様よ…」

 

ハイゼンベルクは雲一つない()()()()()空を見上げた。

 

 

その後、ハイゼンベルクは屋敷に戻り自身の力を確認する作業に入った。

 

まずは磁力の力だ。

 

ハイゼンベルクは原作のイメージして近くにあった金属を動かしてみる。すると金属物は吸い寄せられるようにハイゼンベルクの手に収まった。

 

自身の肉体を磁力にする力は原作通りという事は分かった。

 

身体能力も高い。大の大人が数人は必要な物を一人で軽がると持ち上げられた。原作でもあんな重そうなハンマーを問題なく持ち上げられたのだから当然か。

 

次は治癒能力だ。

 

ナイフで自分の腕や足に思いきりに斬りつけたり突き刺してみたら瞬く間に治っていた。

 

この感じ…首を落とされない限りは大丈夫だと知識が頭の中で浮かんだ。とは言え痛覚があるので戦闘の際気を付けよう…。

 

 

 

一通り自分の力を確認したハイゼンベルクは自分は村ではどのような立場なのか悪神から授けられた設定を考える。

 

知識が頭脳に巡り分かった事は

 

ハイゼンベルクはここ美麗治村(びれじ)では一番の有力者で地主だという事。

 

ドイツ系日本人で母親はドイツ人で父親は日本人だという事。

 

父親は美麗治村(びれじ)の権力者で地主である御田村家の当主でハイゼンベルクは御田村家の全てを受け継いだ事。だから名前はカール・御田村・ハイゼンベルクだという。

 

両親は10年前に病死していてハイゼンベルクは40代でこの御田村家の当主になった事。

 

御田村家に伝わる菌根によって人外の力を手にしてる事

更に村人全員には()()()()させていてハイゼンベルクには忠実だという事

 

 

 

…!

 

ちょっと待て

 

ハイゼンベルクは知識が駆け巡る中で一つだけ目に留まる物があった。

 

 

(菌根だと! まさかそれもこの世界に!?)

 

菌根

 

バイオハザードヴィレッジで物語の核心で途方もない力を秘めた真菌だ。

そんな物までこの世界にあるのか!

ハイゼンベルクは知識を頼りにその菌根の場所まで移動を始める。

 

それは屋敷から地下に移動する隠し通路で代々、御田村家の当主しか知らないものだ。

ハイゼンベルクはそこから30分ほど通路を歩き広い空洞に出る。

そして()()はあった。

 

「間違いないな…。この悍ましい姿形…見間違いようがない」

 

赤子のような赤黒いフォルム…前世でみた菌根のそれだった。

 

「なるほどな。そういう事か」

 

鬼舞辻無惨は青い彼岸花で鬼…人外となったがハイゼンベルクはこの菌根で人外化したのである。

更に設定を読むとこの世界のハイゼンベルクは赤子の時から体が弱く長く生きられないというもので父親は愛する妻の間に生まれた我が子を救う為にこの菌根を使う事決意したのだ。

夫が考えた提案に妻は戸惑ったものの息子を救いたいという思いは同じだった。

この方法は明らかに許されざる行いだったが息子を救いたい一心の両親は赤子に菌魂から取った菌を口に接種させた。

その結果、ハイゼンベルクは生きる事が出来たが同時に人間では無くなったのである。

 

「ここら辺んも無残と同じか…」

 

無惨も病弱で長く生きられない存在だったが彼を救いたい医者が無惨を鬼へと作り替えた。

 

「まぁいい。この世界の両親は俺を生かそうと必死だっただけだ。

責める気はあるわけねぇ…」

 

ありがとうよ。親父…お袋…。

 

「よし。早速だがこの菌根で何が出来るんだ?」

 

暫し感傷に浸っていたハイゼンベルク気を取り直しは頭脳から知識を出すと‘この菌根で兵士を作れる‘というものだった。

 

(兵士だと? どんなものだ?)

 

ハイゼンベルクは知識が流れるままに菌根に手をかざし‘兵士よ生まれろ‘と念じた。

するとズルリと菌根から人型の黒い物体が出てきた。

 

「こりゃあ… モールデッドか?」

 

バイオハザード7に登場したクリーチャーに似てるがよく見るとモールデッドの特徴である牙や爪は存在してなく人間に近い形だがその顔には口があるが()()()()()()()()もあったのだ。

その姿はバイオハザード6のジュアヴォのようだった。

 

「何というかモールデッドとジュアヴォを足したような感じだな」

 

菌根から生まれた兵士はハイゼンベルクに近づくとゆったりとした動きだが背筋を伸ばしハイゼンベルクの前に佇んだ。

 

「コイツは良いぞ…!。そこらから人間を捕まえて来る必要性がなくなった」

 

ハイゼンベルクにとってこれは嬉しい話だった。何故なら軍団を作る為に人間を捕まえてくる手間が消えたのだ。

これなら鬼殺隊と鬼を数の暴力で押しつぶす事が可能だ。

気分を良くしたハイゼンベルクは菌根から次々と兵士を生み出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、冗談だろ…。たったの200体だけかよ…」

 

どうやら菌根から生み出されるのは200体が限界のようでそれ以降はいくら菌根に念じようとも兵士が生み出される事は無かった。

 

(畜生…、200体って鬼殺隊と同じじゃあないか)

 

幸い失ってもすぐに菌根から生み出されるが数の暴力で押しつぶすには些か心もとない数だ。

 

「ジュアヴォみたいに武器などは扱えるみたいだが…銃器に関しては訓練する必要があるな」

 

この菌根から生み出された兵士は武器の扱いはただ闇雲に振り回すだけで素人のそれで兵士として問題だった。

これでは鬼どころか鬼殺隊の下っ端にも勝てないだろう。

 

(面倒だが俺が教えるしかないか?

いや、待てよ。村の中に軍人ぐらいいるんじゃないか?

もしいたらそいつにこの菌根兵を訓練させるか。

村人はこの俺に忠実らしいからな)

 

後で村人達を調べるとしよう。

ハイゼンベルクは心細いが手駒となる軍団を手に入れた。

 

「今日はここまでで良いだろう。明日から色々動かないとな」

 

ハイゼンベルクは菌根の間から屋敷へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

ハイゼンベルクは早速、村に行き軍役の経験がある村人を探した。

幸いすぐに該当する村人が数人ほどいた。

全員が日露戦争の経験者で中には部隊長として部下を率いていた者がいた。

ハイゼンベルクはその村人達を使い菌根兵の訓練官として使うを決めた。村人達はハイゼンベルクに忠実で彼の指示に怪しむそぶりもなく頷いた。

 

 

それからハイゼンベルクと数人の村人達は村はずれにある広間に着いた。

そこには昨日、菌魂から生み出された兵士達がいた。

 

「よし、お前達にはこいつ等を訓練し最高の兵士に仕上げろ。必要な物があったなら用意してやる。

何か質問はあるか?」

 

「よろしいでしょうか?」

 

連れてきた村人の中で体格が良く顔に大きな火傷跡が残る者が手を挙げハイゼンベルクに質問をする。

 

「この()()を訓練する期間はどれほどですか?」

 

「そうだな…。一年または半年ぐらいだな」

 

「分かりました。ライフルは無いのですか?」

 

「ライフルに関しては取り寄せてる最中だが拳銃だけは揃えた」

 

「分かりました。我ら一同全力を尽くしてハイゼンベルク卿の期待に応えます!」

 

「ああ、頼んだぞ。

ところでお前の名前を聞いてなかったな。何ていうんだ?」

 

「はい! 原重 正次郎(はらしげ せいじろう)と言います!

日露戦争に従軍し曹長として部下を率いていました!」

 

原重と名乗った村人はハイゼンベルグに敬礼した。

ハイゼンベルグは原重の両肩に手を置き

 

「よし、お前をここの責任者にする。期待してるぞ」

 

「お任せください!」

 

原重はハイゼンベルクの期待されてることに歓喜しすぐに訓練に取り掛かった。

 

その後、ハイゼンベルクは御田村家の軍部の繋がりを利用して大量の三十年式歩兵銃(ライフル)とその銃弾が集まり訓練は一層激しくなり銃声が村に響くが()()()()()()()()()()()にいつもの農作業に取りかかった。




カール・御田村・ハイゼンベルク

今作の主人公でバイオハザードヴィレッジのカール・ハイゼンベルクの姿と能力をもって転生した存在。
前世で不幸な交通事故によって死に瀕してるが暇つぶしの為に偶然、目を付けた悪神に生き返らせる条件で鬼滅の刃の世界にやってきた。

この世界のハイゼンベルクはドイツ系の母と日本人の父に間に生まれたが躰が弱く長く生きられない状態だった。息子を救いたい両親は菌根でハイゼンベルクを救うがその結果、人外と化した。
両親は既に他界していて御田村家の当主となっている。






美麗治村

ハイゼンベルクの拠点にして本拠地。
某県にある村で周りは大きな山々に囲まれている。人口約1000人程である。
主な産業は農業と鉱山で村人達それで生計を立てて生活してる。
村人達は気づいてないが全員は菌根の影響を受けておりハイゼンベルクに忠実で彼に害を成そうとする者に凄まじい敵意と殺意を持って襲い掛かる。





御田村家

美麗治村を有力者でまとめ役。
地主で山を初め村の全ての土地を有してるので事実上、美麗治村は御田村家の王国である。先祖は幕府や日本政府に属していた事もあり政治家や軍部にそれなりの顔が通っている。
また大変な財産家でその財力は産屋敷家に引けを取らない。
そして一族で当主しか知らされないある秘密を持っている。





菌根

御田村家が代々、受け継いできた秘密。
巨大な赤子に似たような形をしており人間の精神を支配できるなど絶大な力を有してる。
詳細は分からないが大昔、小さな農家に過ぎなかった御田村家を先祖はこの菌根を使い今日に至るまで繁栄させた。
菌根は御田村家とその一族の繁栄・権力の象徴であり力の源である。
その為、菌根の存在を知るのは御田村家の当主とその当主に信頼され御田村家に忠誠を誓う者達だけである。
しかし絶大な力が有してる故に制御がするのが不可能に近く当主の中には菌根を制御しようする者も居たが逆に命を落としている。
その為に菌根に続く道は厳重に封鎖されている。
ただし菌根によって人外となったハイゼンベルクはこの菌根を自在に動かす事が出来る。





菌根兵

菌根から生み出された人型の生命体ようなモノ。
理由は不明だが生み出されるのは200体が限界。
村人達は菌根の影響でこの菌根兵を見ても何も感じない。
肉体は黒いカビのような菌で出来ており知能は訓練すれば銃器などが扱え簡単な命令なら実行出来る程。
一見、遠くからでは人間に見えるが近くで見ると顔には口はあるが複眼が形成されてる。
ハイゼンベルクの命令は絶対だが獲物を嬲り殺す癖がある。
この菌根兵の大きな特徴は例え死んでも直ぐに減った分だけ菌根から生み出される。さらに経験や記憶を有しておりまた同じ訓練しなくても良い。




次回はハイゼンベルクと菌根兵の初の実戦です。


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実戦

今回は主人公と菌根兵の初の実戦。戦闘シーンがありますがほぼ適当です。

あと鬼殺隊のアンチが大きいですので気を付けてください。


あれからしばらくして菌根兵の訓練は大分進むんだ。

 

「大分に様になったじゃあねえか」

 

統率が取れた菌根兵を眺め感嘆の息を出す。

 

「有難うございます。ハイゼンベルク卿

菌根兵共は疲れ知らず呑みこみも早いので苦労は少なかったです」

 

「それで実戦はどうだ?出来るのか?」

 

「実戦ですか…? 鬼というモノには分かりませんが鬼殺隊とやらの隊士辺りなら問題はないかと思われます」

 

「そうか。15体ほど連れて行くが構わないな?

あとお前には来てもらうぞ」

 

「はい! 光栄であります!」

 

ハイゼンベルクは原重に前世の事は言ってないがある程度の事情を話しており菌根兵は鬼と呼ばれる怪物とそれを追う鬼殺隊という組織に攻撃するためにと伝えている。

 

「しかし…この大正の世にそんな怪物と組織が1000年以上も争っているとは知りませんでした。」

 

「そこら辺は産屋敷家がどうやったかは知らんが誤魔化し来たんだろうな

全くご苦労な事だ」

 

正直、よく1000年もバレなかったものである。産屋敷家の秘匿行為は舌を巻くほどだ。

しかし同時にハイゼンベルクはある事が気になっていた。

 

「なぁ原重。少しお前に聞きたいことがある」

 

「はい。なんでございましょう?」

 

「もしもお前が鬼殺隊の長だったらこの大正の世にどう動く?

お前の思った通りに言ってくれ」

 

「そうですね…。自分でしたらやはり時の世の権力者と協力関係を築きます。

この大正の世でしたら我が国の政府と関係を築きます

 

「理由は?」

 

「あくまで私の考えですがその鬼殺隊は政府非公式ですがそれでは効率が悪いです。しかも鬼殺隊の隊員はこの大正の世に刀をぶら下げて歩くという大馬鹿者です。

それなら政府と協力して政府公式になった方が色々とやりやすくなるでしょう。

人々に鬼の存在に気付かれてほしくないなら黙っていて鬼が苦手とする()()()()()()()()()()()などにして徐々に鬼を追い詰めていきます

そして日輪刀という刀と同じ効果がある武器を開発するか鬼に効果がある毒といった化学兵器を開発する、または太陽の同じ光を出す装置を開発するなどやりようが幾らでもあります

1000年以上も泥仕合するなど無能の極みです。時代に合わせて組織の改革や戦略など考えないとなりません

少なくとも政府と共闘したほうが鬼による犠牲が減るでしょう」

 

「なるほどな。ではお前から見て鬼殺隊はどういう組織に見える?」

 

「時が止まった時代遅れのヤクザ組織です」

 

「ありがとう。参考になったよ。(やっぱりそうか…。この時代な人間でもそう感じるんだな)」

 

ハイゼンベルクは前世で漫画で鬼殺隊の在り方を見て感じたのは何とも()()()()()()()()()()()だと感じた。

大昔の戦国時代、江戸時代から時が止まってるような感じだった。

とてもじゃあないが大正時代にあるような組織ではない…。

 

(そんな組織だ。ならばこっちは近代戦で挑めば勝算は十分にあるはずだ)

 

訓練した菌根兵が鬼殺隊と鬼に何処まで戦えるか。明日分かるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の夜

ハイゼンベルクは菌根から得た情報を元に原重と共にトラックで村から半日掛かる鬼が現れる場所に移動した。

辺りは大分暗くなっており鬼が活動する時間は近い。

 

「さて、菌根から得た情報ではこの辺りに鬼が出るはずだな。もう少し待つか」

 

村から出る前にハイゼンベルクはそこら辺に居た三羽の鴉に菌を植え付けて支配下に置き偵察として利用していた。

鴉が見ているものに意識を繋げ同調する。

 

「何処にいるんだ? この辺りで間違いないはずなんだが… うん?」

 

支配下に置いた鴉の一羽が森の中を徘徊する人影を見つけた。

目を凝らしみると青白い肌で目は紅く輝きを放ってる。間違いないアレが鬼だ。

 

(見つけたぞ。いよいよだ)

 

ハイゼンベルクは念じると地面から戦闘服を着込んだ菌根兵はズルズルと出てきた。

 

「原重」

 

「はっ。 トラックに武器がある。各自、武装し鬼を殺せ」

 

菌根兵はトラックからライフルや銃剣を装備して鬼がいる方向へ向かう。

 

 

 

 

 

その鬼は餓えていた。ここの所、鬼狩りによって人間に食えなくなったからだ。

最初は夜の時間でも隠れていたが餓えに抗う事が出来ずこうして隠れ場所から出てきたのだ。

もう限界だ…。危険を冒しても人間を食わねば…!

鬼はそう遠くない場所にある民家を目指して走り出そうとした時…

 

バキン

 

耳に骨が砕ける音は響く…そして銃声… ガクンと倒れる。

 

「!?」

 

狙われた…! 鬼狩りか!

鬼は銃声が聞こえた方に顔向けると150メートルにライフルを構える多くの人影が見えた。

 

(アイツらか!)

 

いきなり狙撃されたのは驚いたが撃ち抜かれた頭部は再生を始めている。

鬼はすぐさま立ち上がり狙撃手の方へと全速力で向かう。

 

(丁度いい…。あいつ等を食ってやる)

 

鬼は相手はライフルを使用したから鬼狩りではないと()()()()()と判断した。

鬼の身体能力は高さを生かした走りをあっという間に狙撃手に近づいた。

狙撃手は銃剣で鬼を刺そうしたが難なくソレを除け鬼の膂力で相手の胸を貫いた。

 

「くく… まず一匹だ! … えっ?」

 

鬼は相手の胸を貫いたがその感触は今まで感じてきたものと全く違った。

温かい心臓の感触がないどころか心臓そのものがない…。感じるのはザワザワするような己の皮膚に纏わりつくような悍ましいと感じた

 

「!?!?

何だ…! お前らは人間じゃあないなのか…」

 

慌てて手を引き抜き後ろへと下がる。よく見ると目がいくつもある…! それらの眼はギョロギョロして鬼を見ていた…!

(一体どうなってる!? 何なんだ!)

鬼は警戒する中、貫かれた菌根兵は何もなかったのかと思うように再び銃剣に鋭い突きをかけてきた!

周りにいた菌根兵ももライフルや拳銃を発砲してきた。

 

「ク…クソ! 調子に乗るな!!」

 

銃弾を受けながらも鬼は再び飛び掛かり人型達に攻撃を加える。爪で引き裂き、貫き、腕や足をもぎ取るなどをしたがそれでもなお襲ってくる…!

 

「ち…畜生…! 何で死なないんだよ…!」

 

見た事もない異形の存在に鬼は恐怖した。その隙を狙ったのか両足をもがれた菌根兵が這いずりながらも鬼に抱き着き銃剣で胴体や首を何度も差してきた。

 

「い…いてぇ!! クソが!」

 

鬼は菌根兵を振りほどきその頭を踏みつぶした。

するとその菌根兵はピタリと活動を止めた。

 

「ま、まてよ…!もしかしたら…!」

 

何かに気付いた鬼は近くに居た菌根兵の頭部を破壊してみるとその菌根兵も活動を停止した。

 

「はは…! そうか…お前ら頭を潰せば死ぬんだな!!」

 

弱点が分かればこっちのものだ!

強気になった鬼は次々と菌根兵を倒していく。15体居た菌根兵だったが数を減らしてのこり5体となった。

 

「手こずらせやがって、これで終わりだ!」

 

残りの菌根兵を片付けようと鬼は飛び掛かろうとその時…!

 

ドサッ!

 

鬼は突然倒れた…。

 

「は? 何だ…力が出ないぞ…?」

 

鬼は突然襲った自身の異常に戸惑った。何が起きてるのか分からなかった。

ふと自身の足を見るとその足は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と崩れていた…。

 

「うぁぁぁ!! ど…どうなってるんだ!! 何で足が崩れてるんだ!!!

ヒィ…! 手も崩れて…!体も崩れてる!!!」

 

ボロボロと崩れていく鬼に菌根兵は倒れ伏した鬼に近づいていく。

 

「ヒィィ!! く…来るな!あっち行け!!」

 

鬼の懇願を無視して菌根兵達はライフルに付いた銃剣で鬼の体を何度も()()()()()

 

痛い痛い痛い!!!! や…やめてくれ!!!! やめてくれぇぇぇぇ!!!!

 

鬼は泣き叫ぶが菌根兵達はそれを楽しむかのように銃剣を突き刺し続けた。

やがて全身が灰色に染まった鬼の体は石が砕けていくように崩れて息絶えた。

 

戦いが終わったのでハイゼンベルクと原重は隠れるのをやめて菌根兵達の元へ行く。

 

(15体中、生き残ったのは5体か…。やっぱり鬼相手だと損害がデカいな…。

まぁ全滅しなかったのは良しとするか。)

 

それにしてもこの鬼は一体何が起きたのかだろうか?

今回の実戦で全滅しなかったのは鬼に起きた異常だ。

 

(この鬼に何が起きたんだ? 帰ったら調べるとしよう)

 

ハイゼンベルクは崩れた鬼の体の一部をポケットにしまった。

 

「お前達、よくやったぞ。しかし10体も犠牲になるとは…これは戦い方を変えなければなりませんな」

 

原重は菌根兵が訓練通りに戦えたのは嬉しかったがやはり被害の大きさに思う所があった。

やはり鬼相手で人間を相手にした戦法では効果が薄い…。武器もライフルの他に何か強力な物がいいだろう。

とはいえいつまでここに居ても仕方がない。

ハイゼンベルクは菌根兵に戻れと念じると菌根兵達は地面に吸い込まれていく。

残った二人はトラックに乗り美麗治村へと帰路についた。

 

 

 

 

 

村に戻ったハイゼンベルクは原重に帰し自身は研究用の部屋に籠った。

 

「フム… これは石灰か? しかし何故…?」

 

鬼の肉体の一部を調べると石灰のそれだった。

何故、肉体が石灰化したのか?

ハイゼンベルクは鬼と菌根兵の戦いを思い出していた。

 

(そういえばあの鬼は素手で戦っていたな? それで菌根兵達を攻撃していた…。

もしかしたら菌根兵達の菌が体内に入ったのか?それかもしれない)

 

ハイゼンベルクが考え出しのは菌が鬼の肉体を石灰に変えたのでないかというものだ。

 

「コイツは一度試してる見る必要があるな」

 

思い立ったハイゼンベルクは部屋から出て地下の菌根がある間に行き新しい獲物を探した。

 

 

 

 

 

次の日の夜。

ハイゼンベルクは護衛の為に菌根兵を再び15体動員した。

今回の狩りには原重は来ていない。

現在、彼は対鬼の戦術を考えてる最中だからだ。

 

「よし。今回お前らは鬼を狩りだすのが仕事だ。戦うのは俺だ。いいな」

 

行け、と命じるとすぐさま菌根兵達は動き鬼が隠れている場所へと向かう。

昨日は菌根兵の実力を測るためだったが今回はハイゼンベルクが自身の力を試す事と実験を行うためだ。

 

「流石に緊張してくるな…。 勝てると思うが俺は不死身じゃあないからな…。気を付けねえと」

 

この世界に来て初めての実戦…バイオヴィレッジのハイゼンベルクと同じ能力と鬼に匹敵する身体能力だが油断は禁物だ。

もし頭部を破壊されたら間違いなく自分は死ぬ…。二回目の死なんて御免だ。

そう考えてると銃声が響いた。

 

「始まったな…さて行くか」

 

ハイゼンベルクは歩み出し鬼が居る場所へと向かう。

 

 

 

 

「ぐ…くうう! 鬼狩りめ…!またしてもか!」

 

寝床へと隠れてた鬼は突然、銃で撃たれて逃げ出した。

鬼狩りに見つかったかもしれないからだ。全速力で走り襲ってきた集団から距離を取っていく。

 

「ふん…! ノロマ共め。」

 

敵の気配が消えて安心したのか鬼は走るのをやめて侮蔑の言葉を吐いた。

 

「それにしても何故見つかったんだ? 痕跡は全て消したはずっだが…」

 

自分の足跡といった痕跡は残した覚えはない…それなのに何故見つかったのか?

とにかう日が昇る前に身を隠せる場所を探さなければと鬼は行動すると

 

「就寝中に悪いな。おっと、鬼は眠らないか」

 

「!?」

 

いきなり声を掛けられた鬼はすぐさま後ろへと下がった。

そこには洋服を着た異人の男が大きな鉄槌を持って立っていた。

 

「悪いな。お前には何も恨みはないが…死んでもらうぞ」

 

そう言われた鬼は直ぐに男に飛び掛かりその体を引き裂こうとした。

 

「おっと! 危ない危ない…」

 

しかし男は簡単に避けてしまう。

鬼は続けて爪や蹴りを仕掛けるが全て躱されてしまう。

 

「じゃあ、そろそろこっちの番だ」

 

その言葉と同時に鬼は大きな衝撃を受けて大きく飛んだ。

 

 

 

ハイゼンベルクは鉄槌を鬼もわき腹に打ち込むと鬼は吹き飛んでいった。

 

(思った通りだ。相手の動きが遅く見える…。)

 

相手は動きがスローモーションで動いてるように見えたハイゼンベルクは鬼の攻撃を全て避けれたのだ。

そしてこの鉄槌をわき腹に打ち込んでみたがどうだ?

 

ぎ…!がァァァぁぁぁ…!! グェェェ…!!!

 

鬼は血反吐を吐きもがき苦しんでいた。傷は治っていくが痛みだけは中々消えない…。

動けない鬼にハイゼンベルクは近づき鉄槌を鬼の背中に振り下ろした。

 

ぎゃあああああああ!!!!

 

更に大きな痛みが襲い鬼は絶叫した。

激痛に動けない鬼を前にハイゼンベルクは懐から試験管を出した。

 

「さて…次はコレを使わせてもらう。どうなるかな?

ホラ、さっさと飲め」

 

ハイゼンベルクは鬼の口に試験管に入ってる液体を呑ませる。

 

(俺の予想通りならすぐに効果が出るはずだ)

 

液体を飲ませてほんの数秒経つと鬼は苦しみ始めた。

 

「がぁぁぁぁ…!!! あっ…ハァァァ!!!がッ…か…!…!!」

 

鬼の体が石灰化していきボロボロと崩れていく…。

 

「はっは、やっぱりだ。鬼には菌が効果があるのか

こいつは良い。原重の奴は喜ぶだろう

それと重ねて言うが本当に悪かったな…。お前には全く恨みがないんだが自分の不運を恨んでくれ」

 

鬼に謝罪をするとハイゼンベルクはもう用が無いばかりに此処から立ち去った。

こうして鬼に対しての戦術が手に入れたハイゼンベルクは再び村に戻った。

 




次回は鬼殺隊隊士を攻撃します


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実戦 その2

今回は鬼殺隊の階級が低い隊士を攻撃します。



村へ戻ったハイゼンベルクは早速、菌根兵の改良に移った。

改良と言ってもただ菌根兵の体を構成する菌の濃度を上げるだけだ。だがこれだけでも大きな効果が望めるだろう。

鬼には菌根の菌が有効だ。接近戦が得意とする鬼には正に致命的だ。

もはや雑魚鬼は脅威ではなくなった。

 

ハイゼンベルクは軍部のツテを使い米国からウィンチェスターM1897という散弾銃を大量に購入した。更に村の工場でそのライフルと一緒に散弾銃もコピーを作ってる。

それらの銃器は菌根兵に配備され鬼と鬼殺隊の戦いに備えている。

散弾銃の使用する銃弾の中には固まった菌の粒が入った菌塊弾というものを開発した。その効果は鬼に対して絶大でたった一発当てただけで鬼は石灰化して死亡した。

原重はこの菌根弾の用いた戦術を考え近々それを実行するという事だ。

 

(さて、雑魚鬼はこの菌塊弾で一撃だったが下弦の鬼や上弦の鬼にはどれくらい通用するのか気になるな。

あれから鬼を狩り続けているが中々出くわさないんだよな)

 

屋敷の自室でハイゼンベルクは椅子に座りこれからの行動を考えていた。

あれから11体の鬼を始末したが下弦や上弦の鬼は出くわさず雑魚鬼ばかりだった。

 

「とは言え雑魚鬼の実戦データは取れたから次は鬼殺隊を狩るとするか」

 

鬼殺隊は特殊な呼吸を使った技で戦うがそれ以外はただの人間なのだ。

近いうち武装した菌根兵は20体を動員して鬼殺隊の隊士にぶつける予定だ。

 

「確か鬼殺隊の隊士は一人か二人で行動していたな。勝ち目は充分にありそうだな」

 

鬼殺隊の隊士は何故か分からないが単独で行動してるので鬼より簡単に倒せるかもしれない。

 

「よし。菌根で隊士が何処にいるのか探るとするか」

 

ハイゼンベルクは立ち上がり鬼狩りを狩るために菌根の間に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから四日後。

 

準備を終えたハイゼンベルクは原重と20体の菌根兵と共にとある山にいた。

 

「ハイゼンベルク卿。鬼殺隊の隊士はここに現れるのですか?」

 

「ここで間違いない。餌も用意したからな」

 

「餌…?」

 

「コイツさ、ここに来い」

 

ハイゼンベルクが呼びかけると暗闇から鬼が姿を現した。

 

「ハイゼンベルク卿…! 何故鬼がいるのです!」

 

「落ち着け。コイツはギンと言って俺に忠実な奴だ。襲い掛かる事もない」

 

鬼の危険性を知ってる原重を声を荒げるがハイゼンベルクは何とも無いように語り掛ける。

 

「鬼狩りしてる最中、試したい事があったんでな。実験のために一匹だけ捕獲したのさ」

 

「そうだったんですか…。キモを冷やしました。」

 

「悪かったな。事前に言っておくべきだった。

ギン、お前は隊士はこの地点まで誘導するんだ。適当に戦って隙を見て逃げ出せ」

 

「ハイ…オ任セヲ…」

 

原重に謝罪しハイゼンベルクはギンに指示を出しギンは隊士を誘い出すべく行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼殺隊の隊士である上原 倉仁(うわばら そうじ)今日も一人で鬼狩りの為に夜の世界を動いていた。

この上原は最下位の位である(みずのと)で実戦経験はあるがまだ浅かった。

 

「確か、報告によればこの辺りにで鬼が潜んでるハズだ…」

 

彼は鬼に家族を殺され駆け付けた鬼殺隊の隊士に拾われ鬼への憎悪で鬼殺隊に入隊した。

 

(俺のような被害者はもう出すわけにはいかない…! この世すべての鬼を狩りつくしてやる!)

 

あのような悲劇を生みだしたくない…! そういった思いで彼は今日も鬼狩りに勤しむのだ。

 

ガサリ…

 

「!?」

 

上原はすぐさま日輪刀を抜き戦闘態勢に取った。

音が聞こえた方向に目を向けるとそこに人影があった…。

月の光でその姿があらわになってくる…。

その姿は肌は青白く瞳は血に染まったの如く真っ赤でその口には鋭い牙が見え隠れしていた。

 

「見つけたぞ…!悪鬼め! 覚悟しろ」

 

いた…!見つけた…!

上原は心から湧き上がる憎悪と殺気を隠さず鬼を睨め付けた。

だが鬼はそんな上原をただ見つめるだけだった。

 

「行くぞ! 雷の呼吸!」

 

上原は修行で身に着けた呼吸で肉体を強化し鬼に向かっていく。

しかしその首を狙った一撃はいとも容易く躱されてしまう…。

 

「クソ…まだまだ!!」

 

それでも上原は攻撃を続けるが鬼はその攻撃を全て躱してしまう。

 

(そんな! どうしてだ…!今までの鬼は直ぐに倒せたのに…!!)

 

上原は焦る…。己の攻撃を全て躱されてしまう状況に混乱し焦燥感の駆られてしまう。

混乱し焦りがある故に上原は先ほどから鬼が攻撃してこない異様な状況に気づいていない…。

それでも上原はひたすらに鬼に向かっていくが状況は変わらない…。

 

「畜生!畜生…!なんで…!どうして!」

 

遂には戦いの最中、しかも敵を前にして上原は弱音を吐いてしまう失態を見せてしまう…

 

「アーアー!落チ着ケ!落チ着ケ! 冷静ニナレ!!」

 

「うるさい!!黙ってろ!!!」

 

鬼殺隊の隊士には一人一人に鎹鴉(かすがいがらす)という人語を喋る鴉がついている。その鴉が隊士に鬼の居場所を報告して隊士は行動する。

今戦闘中の上原にも当然、鎹鴉が付いている。

上原の鎹鴉は冷静になれと叫ぶが上原はその言葉にイラつき怒鳴り散らす。

 

「落チ着ケト言ッテイル! モウスグ応援ガ来ル!」

 

「! そ、そうか…! 応援が来るなら…!」

 

鬼殺隊の隊士は単独行動するが近くに隊士がいるなら援軍として来てくれる。

援軍がくるという報告に上原は幾分落ち着きを取り戻していく。

悔しいがあの鬼は自分では倒す事が出来ない…だけど味方と戦えば勝てるかもしれない!

そう思い呼吸を整えて鬼を見据える。鬼がどんな攻撃してきても対処出来るようにするために

しかし…。

 

鬼は突如、上原から背を向け走り出した。

 

「!? しまった!逃げる気か! そうはさせるか!」

 

逃げ出した鬼に上原は追いかけようとするが

 

「待テ! ナニカアヤシイ! 深追イハスルナ!!

ココハ応援ガクルマデ待機スルンダ!」

 

「…!」

鎹鴉は追いかけようとする上原を制止する。闇雲に追いかけるより応援を待って万全を期すべきだと鎹鴉は言う。

 

(確かに応援を待った方が良いかもしれないけどその間にあの鬼が見失ったらどうする?

逃がしたせいで俺の家族のように犠牲者が出たら…!)

 

上原は自分の家族の犠牲を思い出す。あの時は偶然、自分は生き残ったが他はそうじゃないかもしれないのだ。自分が取り逃がしたせいでまた犠牲者が出たらどうなる?

己が鬼殺隊に入隊したのは何故だ? もう二度と自分のような被害者を出さないと誓ったからだ!

 

「駄目だ! 応援を待ってる間にあの鬼を逃げてしまう! 追いかけないとダメだ!」

 

そう言い上原は鬼を追いかける。

 

「!?マ、待テ! 止マルンダ!行ッテハナラナイ!!」

 

鎹鴉は上原に止まるように言うが上原はその言葉に耳を貸さず制止しなかった。

 

(ごめん! だけど俺はあんな思いはもうしたくないんだ…!)

 

自分の身に起きた悲劇を繰り返さない…。上原は必死に鬼を追いかける。鎹鴉も已む得ずに上原に付いていく

修行で鍛えた躰は鬼との距離を縮まっていく。

 

(もう少しだ! 今度こそ仕留めるんだ!)

 

ガーン!!

 

「ガァ!!」

 

「えっ?」

 

突然、銃声が響き自分の鎹鴉が悲鳴を上げ地面に墜ちていく…。

鎹鴉は血まみれになりピクリとも動かなくなった。

 

ズダーンガガガガ!!!!

 

「ぐえ!!」

 

上原は躰が貫かれて焼きつく感覚が襲う。

 

「ごぼぉ!!」

 

口から大量に血を吐き出し膝を付きそして座り込む。

目を向けると胴体、胸からドクドクと血が流れていき熱が消えていく…。

 

(な、なにが…起き…たん…だ…どう…し…て撃…たれ…て…)

 

躰が冷たくなっていき目の前が暗くなっていく…。上原は一体何が起きたのか分からなかった。

薄れゆく意識の中で上原が最期に目にしたのは無数の影が自分に銃を向けていて…そして銃声が轟き上原は意識はそこで消えたのだった…。

 

 

 

 

 

 

「今のは何だ!」

 

遠くから破裂したような音が聞こえる…。

ここに四人の鬼殺隊の隊士がようやく応援にきたのだ。

 

「おい…今のは銃声じゃないか…!」

 

「何で銃声が…?」

 

遠くから鳴り響く銃声に隊士達は困惑していた。

 

「みんな見てください! 此処に足跡があります!」

 

少女の隊士が呼びかけると三人は集まり足跡を見る。

 

「これってもしかして…」

 

「たぶん…上原さんの足跡だと思う」

 

少女の隊士、階級は「癸」の波島 葉子(なみしま ようこ)が答える。

 

「馬鹿な…! 何で我々を待たなかったんだ!」

 

怒りを滲ませるのは応援に来た隊士の中で最も階級が高い「辛」の芽島 高次郎(めじま こうじろう)

 

「森の中まで続いてる… 早く追いかけよう!」

 

「壬」の階級の下村 信二(したむら しんじ)

 

「待て! 罠かもしれないぞ! ここは一旦引いた方がいいんじゃないか!」

 

撤退を進言する「壬」の階級である高上 孝也(たかなみ たかや)

 

「何言ってんだ! 上原を見捨てるって言うのか!」

 

高上の言葉に怒りを隠さない下村は食って掛かる。

 

「そうは言ってない! だけど銃声が聞こえたんだぞ! 俺達、鬼殺隊は銃なんか使わない

もしかしたら鬼の罠かもしれないと言ってるんだ! ここは慎重に動くべきだ」

 

「その慎重に動いてる間に上原は死ぬかもしれないんだぞ!

こうしてる間にもアイツは俺達が来るのを待ってるかもしれないんだぞ!」

 

「相手はそれを見据えて俺達を待ち構えてるかも知れないんだ!

下手したら全滅するかも可能性もあるんだ! 少しは考えたらどうだ!」

 

「お前!!」

 

「二人とも止めてください…!! 言い争ってる場合ではありません!」

 

波島はヒートアップする高上と下村に落ち着かせようと割って入る。

 

「波島の言う通りだ! 二人共落ち着け!」

 

「すみません…」

 

「…悪かったよ」

 

年長者の芽島は二人を叱り喧嘩を辞めさせた。

下村と上原は同期で共に修行を乗り越えた兄弟なようなもので助けに行きたいのは芽島も分かっていた。

しかし高上の言う事も一理あった。残酷なようだが上原は既に死んでいるかもしれない…。ここは一度撤退し後日戦力を整えてから来るべきなのが良いかもしれない。

 

「芽島さん…どうしますか? 高上さんの言う通りここは引きますか?」

 

「お前まで…! いいさ…!そんなに引きたいなら引けよ! 俺一人でも行くぜ!!」

 

「おい! 何を勝手な事いってるんだ!」

 

またしても二人の喧嘩が始まりそうだった…。

 

「いい加減しないか! 何も引くとは言ってないだろう」

 

「芽島さん…?」

 

「下村。お前は本当に一人でいくのか?」

 

「はい。上原とは共に飯を食ってきた仲です。 見捨てるなんて出来ません」

 

「そうか分かった。ならば行こう。一人で行くよりずっと安全だ」

 

「なっ!芽島さんまで!」

 

「高上…お前の言葉の一理あるがこのまま下村を行かせるわけにはいかない。

俺と下村で行ってくる。お前と波島は一旦戻って他の隊士のこの事を報告してくれ」

 

「待ってください。私も行きます」

 

「まったく…そんな事言われると自分だけ引くわけにはいきません。

行くなら四人の方が安全かもしれませんし」

 

話し合いの結果、四人で行くことになった。

 

「よし。とにかく討伐より自分の身を安全を第一に動くんだ。上原を探し生きていたのなら連れ帰るぞ。

もしも…死んでいたならせめて遺品を持ち帰る… それでいいな下村」

 

「わかりました…。」

 

四人は足跡をたどり山の中の入っていく。

周囲を警戒しながら出来るだけ急いでいく…。

 

「不気味だな…。何も気配を感じない…」

 

「もしかしたら鬼はもう逃げてしまったんじゃないのでしょうか?」

 

「かもしれないな…」

 

暗く見通しが悪い中、慎重に動く四人。

波島の言う通りもう鬼は逃げてしまったのかもしれない。

それなら上原の安否を確認しなければならない。

山に入って一時間程経っただろうか…?

先頭の芽島は鼻に嫌な臭いを感じ取る。

 

(全員止まれ…)

 

声を静かに出し停止の合図を出す。

 

(どうしたんですか…?)

 

(前方に何かがある。 ゆっくり進むぞ)

 

三人はコクリと頷き進み始める

 

(これは…血の匂いだ… まさか…!)

 

芽島は不吉な感覚が襲う。前方に何か()()()()()…。

まさかと思いその倒れてる何かを目を凝らして見ると…それは

 

 

血まみれになり肉体が所々欠損した上原の死体だった…。

 

 

 

「上原…!」

 

「あぁ…そんな…そんな…!」

 

「畜生…! 畜生…!」

 

「駄目だったか…!」

 

芽島は歯を食いしばって無念の表情を浮かべ

波島は両手で口を覆い震え

下村は親友の無残な姿に涙を流し

高上は自分の予想が当たってしまったことに悲痛な顔を歪む。

 

「已む得ない…全員ここから撤退するぞ…。」

 

芽島は上原の死を確認して三人に指示を出す。

 

「待ってくれ…! 芽島さん! このまま尻尾を巻いて逃げるんですか…!」

 

「お前の気持ちは分かる…!俺だって同じ気持ちだ…! だが最初に言ったはずだ

自分の身の安全を第一だ。後日、戦力を整えて討伐に来るんだ。だから耐えろ…!」

 

「…!!」

 

下村は納得がいかないがいつまで此処にいるわけにはいかなかった…。

リーダーである芽島に言う通りにするしかなかった。

 

「分かりました… せめて…せめてアイツの日輪刀だけ持ち帰らせて下さい」

 

「分かった」

 

芽島達は少し離れていき下村は上原の亡骸に近づき黙とうする。

 

(兄弟…必ずお前の仇は取ってやるからな…天国で見守ってくれよ…)

 

決意を露わに親友の亡骸に手を合わせ形見である日輪刀を手に持ちそれを持ち上げた。

 

 

 

 

 

カチリ

 

 

 

 

 

 

「はっ?」

 

何の音だ?

それが下村の…最期の…瞬間だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガーン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

うぉぉぉぉ!!!

 

きゃあああああああ!!!!

 

うぁぁぁっぁぁぁ!!!!

 

突如、鳴り響く爆音とそれに続く爆風が三人を襲う。

爆風で態勢をくずし地面に倒れる三人は一体何が起きたのか分からなかった。

 

「イッツ…な、何なんだ一体…」

 

高上は何が起きたのか調べようと立ち上がるが…

 

「待て!立つんじゃない!!」

 

芽島は大声でそれを制止しようとするが

 

 

バキ!

 

何かが砕ける音が響い瞬間、高上の頭部は砕けて地面にドサリと斃れた…。

高上は目を見開きピクリとも動くことが無かった…、

 

「ッ!?クソ…! 波島!大丈夫か!しっかりしろ!」

 

芽島は高上の死を実感し隣に倒れている波島に声をかける。

 

「だ…大丈夫です…。 …!下村さんは!」

 

「下村は…死んだ…。高上もだ…」

 

「そ…そんな…」

 

波島は二人が死んだ事に青ざめる。

 

「恐らく、上原に死体に爆弾を仕掛けていたんだ…。

下村はそれに気づかず罠に引っ掛かった…。こんな事初めてだ…。」

 

今までの経験から鬼がこんな事を仕掛けてくるなんて初めてだった。

思案してる中、向こう側から何かが近づいてるの感じる

 

(数からして十人から二十人…! 馬鹿な!鬼は群れないはずだ…!

我々を襲って来てるのは鬼ではないのか! )

 

有り得ない…。

鬼は共食いの性質から基本、単独動いている。このように徒党を組んで動くなど今まで無かった。

芽島も一体や二体の鬼なら一人でも難なく処理できる実力だが流石に多勢に無勢である。

 

「芽島さん…!どうするんですか…!このままでは私達は!」

 

「分かっている…。

波島、今から言う事をよく聞くんだ」

 

「はい…!」

 

「いいか…。俺は出来る限り奴らの相手する。

君は全速力で森を抜けてこの事を鬼殺隊に伝えるんだ」

 

「待ってください…! いくら芽島さんでも…!」

 

芽島は言ってるのは自分が囮になるからお前は逃げろと言ってるようなものだった。

 

「いくら何でも芽島さんだけでは無理です!

それなのに私だけ逃げろなんてそんなの…!」

 

「いいから言う通りにするんだ!

ウオオオオオ!!!!」

 

そう言って芽島は立ち上がり集団の方へ突っ込んでいった。

 

「芽島さん!! う…く…!!」

 

瞳から涙が溢れ波島も立ち上がり全速力で走った。

背後から銃声が轟きそれでも走るのを辞めなかった…。

そしてその内、銃声が止んだのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっけなく終わったな」

 

戦いが止みハイゼンベルクと原重は奥から現した。

 

「菌根兵の被害は無し…。やはり人間だからか銃器で武装した兵には分が悪いようですな」

 

「タダイマ戻リマシタ…。」

 

「ご苦労だったな。ギン

村に戻ったら上手い肉を食わせてやるからな」

 

「アリガタキ幸セ…!」

 

戻ってきたギンに労りの声をかけ今回の戦果を確認する。

今回の戦いで菌根兵は犠牲はなく死んだのは鬼殺隊の隊士四人だった。

最後に突撃した隊士はそれなりに実力があったのか20体の菌根兵相手でも多少は持ちこたえたが()()()()を持った菌根兵に押し止めされ横に回った菌根兵が散弾銃で二発発砲して仕留めたのである。

 

「こいつ等は隊士の中では階級が低い下っ端だな。なら実力は高がしれている」

 

「なるほど。しかしそれにしてもハイゼンベルク卿が開発したこの一号短機関銃は何と素晴らしい…!

このような銃が日露戦争には無かったのが悔やまれます」

 

原重が手に取り見つめているのはハイゼンベルクが悪神から授けられた知識を元に設計・開発した【ハイゼンベルク式一号短機関銃】である。

ハイゼンベルクは菌根兵の部隊の火力を上げる為にこの短機関銃を開発して今回の攻撃はその試験運用を重ねていた。

 

「それはそうとハイゼンベルク卿…一人だけですが逃がして良かったのですか?」

 

原重は戦場から一人だけ鬼殺隊の隊士が逃げるのを確認したがハイゼンベルクはそれを制止したのだ。

 

「それでいいんだ。 あの隊士は他の隊士に今回の事を報告するだろう

そうすりゃこの山に実力がある隊士がやってくるはずだ。特に【柱】の階級の隊士に菌根兵部隊がどこまでやり合えるか見たいからな」

 

あえて一人だけ隊士を逃がしたのはその為だ。鬼殺隊を殲滅でいずれ戦う事になる【柱】の隊士達に菌根兵だけではなく自分も何処まで戦えるのか試さなければならない。

これからこの山に大勢の鬼殺隊の隊士がやって来るだろう。

忙しくなりそうだ…そう思いハイゼンベルクは原重と菌根兵達を連れて闇の中に消えていくのだった。




【上原 倉仁】

階級は【癸】で今回の戦いで最初の犠牲者。
家族が鬼に食い殺されただ一人生き残った。
その鬼は既に知らせを受けた隊士の倒されたが鬼への復讐の為に鬼殺隊に入隊し
修行で雷の呼吸を学び最終試験に合格。
自分ような犠牲者はもう出したくない一心で任務に臨んでいたが今回の戦いでは
その思いが仇となり菌根兵達に射殺された。

【下村 信二】

階級は【壬】で上原と同じく雷の呼吸の使い手で二番目の犠牲者。
上原とは同じ同門の関係で年も近かった事もあり兄弟同然の関係だった。
慎重な高上孝也とは余りウマが合わない。
隊士の中でただ一人撤退の拒否した。
上原の死に嘆き敵討ちを誓ったがハイゼンベルクが仕掛けた爆弾に気付かず爆死した。

【高上 孝也】

下村と同じく【壬】の階級で水の呼吸の使い手で三番目の犠牲者
何があろうとも慎重な動きを崩さず冷静を心掛けている。
隊士の中で強く撤退を進言した。
最終的に渋々ながらも上原の救援の為に山に入った。
上原の死体に仕掛けらた爆弾の爆風に吹き飛ばされながらも何とか立ち上がったがそれが災いして潜んでいた菌根兵のライフルで頭部を撃ち抜かれて即死した。

【芽島 高次郎】

救援に来た隊士の中で年長者でリーダー格である。
炎の呼吸の使い手で四番目の犠牲者。
階級の【辛】で実戦経験も大きく将来が期待されていた。
今回の戦いでは高上と同じく撤退寄りの考えだったが下村を一人で行かせるわけにはいかず彼と共に山へ入る事にした。
最終的に四人で入る事になったが隊士達には自分の身の安全を重視した動くようにと告げる。
しかし今回の戦いは今までの経験が一切通用しないものであっという間に下村と高上の二人が死亡してしまう。
そのような状況の中、波島だけでも助ける為にただ一人、菌根兵の部隊に突貫する。
だが多勢に無勢で短機関銃を持った菌根兵の釘付けされ横に回った散弾銃を持った菌根兵に撃たれて致命傷を負う。
それでも戦おうとするが菌根兵達の一斉射撃で受けて壮絶な最期を遂げる。

【波島 葉子】

階級は癸で救援に来た隊士の中で唯一の女性。
水の呼吸の使い手。
今回の戦いの唯一の生存者で芽島の決死の時間稼ぎの(というよりハイゼンベルクがあえて見逃した)おかげで何とか山を下りる事が出来た。
生き残った彼女は今回の事を他の隊士達に報告した。


【ハイゼンベルク式一号短機関銃】

菌根兵達の火力向上の目指してハイゼンベルクが開発した短機関銃。
見た目は100式短機関銃だが違うのは弾倉が横ではなく下についてる事と口径が7.63×25mmマウザー弾である。




次回 鬼殺隊 【柱】登場


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鬼殺隊 【柱】

今回は【柱】と戦います。

来るのはあの二人です。


 

ここは××山…。

鬼殺隊士18人はこの山に隠れている鬼の討伐に来ていた。

しかし…

 

ダダダダダダダダ

 

 

「だ、駄目だ…! 太刀打ち出来ない…!早く逃げないと…!」

 

轟く銃声の中、生き残った隊士は泣きながら地面を這いずり回ってた。

最早、生き残った隊士は指で数えるほどになっていた…。

 

(うぅ…何でこうなったんだ…

こんなの【柱】じゃないと無理だよ…。

俺達では荷が重すぎたんだ)

 

隊士は後悔してた。18人も居れば問題ないと思っていた。

だがそれは大きな間違いだった…。

数は完全に向こうのが上で尚且つ銃器や手榴弾(爆弾)などの重装備をしてるのにこちらの武装は日輪刀、つまり刀一本だけだ。

完全武装した集団相手に戦うにしてはあまりの貧弱の装備だった…。

 

「と…とにかく逃げな…」

 

「見ツケタゾ…」

 

「!?」

 

隊士は魂の底から震えあがるのを感じた…。

歯をガチガチ鳴らし震えながら後ろを見るとそこに鬼が立っていた。

 

「ヒィ! た…たす…助け…」

 

「腰抜ケガ… サッサト来イ…オ前デ六人目ダ」

 

鬼は隊士の首根っこを掴むと引きずっていく。

 

「い…嫌だ! 誰か…誰か助けてくれ!!!!」

 

隊士の叫ぶがその声は仲間に届くことは無く隊士と共に闇に消えていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【癸】の波島葉子は命からがら何とかの××山を下りる事が出来た。

彼女は鬼殺隊の支持者である宿屋で集まっていた隊士達に今回の出来事を報告した。

それは鬼が群れて銃器を使い集団で攻めてくるというその驚くべき内容に隊士の誰もが驚愕する。

 

「鬼が群れるだって!そんなはずがないだろう!」

 

「きっとなんらかの血鬼術を使って集団で動いてるように見せてるだけじゃないか?」

 

「うぅ…芽島さん…! もう会えないんですね…。」

 

「お前…!ノコノコと逃げてきたのか!! この臆病者が!!」

 

「…」

 

報告を終えた波島はまるで生気が失ったかのようにただ座り込んでいた。

隊士達は波島の報告に疑問を持っている者もおれば波島を睨みつけ怒りをあらわにする者もいる。

彼らからすればそんな鬼など見た事も聞いたこともないのだから無理はないのだろう。

 

「本当です…。相手は集団で行動し銃などで私達を攻撃してきました。

その結果、芽島さん 上原さん、下村さん、高上さんの四人が殉職しました…。

私も芽島さんの最期の命令で山を下り皆さんに報告しなければなりませんでした…」

 

「はッ! よく言うぜ。そう言って本当は自分だけ逃げてきたんだろう!」

 

隊士の一人は波島を責め立てた。彼からすれば波島は臆病風に吹かれて芽島を見捨て逃げた卑怯者だからだ。

 

「なっ! いくら何でもそれは聞き捨てなりません!

私だって…私だって!!」

 

その言葉に波島は怒りをあらわにする。

いくら何でもそんな事を言われる謂れはない。

この男は自分がどんな思いで山を下りたのか知らないのに…!

 

「やめなさい!!」

 

一瞬即発の中でする宿の女将は大きな声で制止する。

 

「全く嘆かわしい! 仲間を失い命からがらで撤退した人にそのような口を叩くなんて…恥を知りなさい!」

 

「だけど女将さん!」

 

「黙りなさい! どうして芽島君は命を捨ててこの子を逃がしたのか分からないの! この子がどんな思いで撤退したのか分からないの!

後の人達にどんな敵か教えるためなのよ! 貴方達の為にこの子を命を捨てて撤退させたのよ!」

 

「…すみません」

 

「私ではなく葉子ちゃんにでしょ。」

 

「済まない… 波島…。」

 

「いえ…良いんです。」

 

女将に説教されて頭を冷やしたのか波島に怒りを向けてた隊士は冷静になり謝罪する。

 

「それでどうする? 今日の夜に討伐に向かうか?

報告では11人の隊士が応援に来てくれるそうだ」

 

「俺達を合わせて18人か…」

 

「でも波島さんの話ではその鬼は集団で銃で攻撃してくるのですよね。正面から行くのではなく奇襲をかけたほうが良いと思います」

 

応援の隊士を合わせれば18人だが、相手が銃で武装してると考えると正面から立ち向かうのは余りにも危険だ。

 

「その鬼なんだがさっきも言ったけど血鬼術で人形を作り操ってると思う。

俺は以前、そういう血鬼術を使う鬼と何回か出会ってるんだ。」

 

その隊士が言うにはその鬼は血鬼術で多数の泥人形を作りだしそれで攻撃してきたそうだ。

そしてその鬼を倒すと泥人形は全て崩れた。

 

「ただその血鬼術を使ってる間は人形を操るために集中力が必要で鬼は無防備になるんだ

そこを狙えば勝機は充分にある」

 

「待て、そう言っても鬼は何処にいるのか分かるのか?

かなり遠くで操っていたらどうするんだ?」

 

「大丈夫だ。どんなに遠くても大体50メートル以内にいる。これも同じだった」

 

隊士は今までの経験から××山の鬼は血鬼術で人形を操る個体だと結論づけた。

そしてその対処法も伝えた。

 

「よし。なら応援にきた人達にも教えよう

集まり次第××山に向かうぞ」

 

隊士達は頷き準備をしようとする中、

葉子は言い難い不安に胸に渦巻いてた。

 

(鬼の能力が分かったのにどうしてこうも胸騒ぎがするの…?

何か見落としてるの…)

 

こうも胸騒ぎがある中、葉子は迷いを振り払うように準備を始めた。

 

 

 

 

 

しばらくして宿に増援としてきた11人の隊士達が集まってきた。

葉子達は鬼の血鬼術とその対処法を伝え暫しの休息を取った後、××山に向かった。

全員は仲間の敵討ちに燃え意気揚々と××山に乗り込んでいく。

 

 

 

 

 

 

結論から言ってしまおう。

彼らの命運は既に尽きているのだ。この××山に向かった時点で…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズダーン! ズガガガ!! ドゴーン!!!

 

夜の山の中に轟く銃声と爆発音…。

30体の菌根兵は手に持った銃器や爆弾で18人の隊士達を追い詰めていた。

彼らは散り散りになり戦うどころか逃げる者と縮こまった者しかおらずその者達はギンによって捕らえられていき全滅はするのは時間の問題だった。

この様子をハイゼンベルクは眺めていた。

 

(この有様じゃあ【柱】はいないのか?

全くこれじゃあ無駄骨じゃねえか…

もっと被害を出さないと【柱】は来ないな…。

仕方ない…今回は生きた()()が手に入った事で良しとするか)

 

今回、鬼殺隊は18人も送り込んできたから【柱】の隊士が居るのかと思ったがどうも全員下っ端だったようだ。

落胆しながらハイゼンベルクは後は()()となった原重に任せて自分は村に戻ろうとした時…

 

「!? これは…!」

 

「ハイゼンベルク卿? どうかされましたか…?」

 

主君であるハイゼンベルクの異変に原重は声をかけた。

 

「菌根兵がやられていく…既に13体も殺られたぞ…!」

 

「なっ! 馬鹿な…!鬼殺隊は既に散り散りになり反撃が出来ないハズです…!」

 

原重は声を荒げる。

最早、連中には反撃する力は無く残った隊士は菌根兵とギンによって掃討されてるハズなのだ。

ハイゼンベルクは菌根兵達の視線と同調する…。そして何が起きてるのかすぐに理解した。

 

「クク…ハハハハ!! とんだ思い違いだったな…! 産屋敷はちゃんと送り込んできたか!」

 

「閣下…?」

 

突如笑い出すハイゼンベルクに原重は何があったのか驚く。

 

「【柱】だよ。鬼殺隊の最高戦力が二人も来たぞ!」

 

「な…なんと!」

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る…。

 

 

 

「急がなければ…!」

 

「はい…! 報告によれば多くの隊士が犠牲になり生き残った人達も時間の問題だそうです…!」

 

××山に急行する男女の一組。

 

【岩柱】悲鳴嶼行冥

 

【花柱】胡蝶カナエ

 

鬼殺隊の最高戦力である【柱】の階級の二人は産屋敷の命で××山に急行する。

××山で下弦または上弦の鬼が潜んでる可能性がある。四人の隊士が××山で殉職し18人の隊士を送り込んだが連絡が途絶えた…。

直ぐに向かってほしいと…。

悲鳴嶼とカナエは××山の到着すると山から銃声と爆発音が遠くから響いていた。

 

「銃声…!まだ生きてる者がいるのか」

 

銃声が聞こえるという事はまだ生き残ってる隊士が居るという事である。

二人は山に入り奥へと向かう。

気配を探りながら進んでいくが銃声がドンドン近くに響いてくる。

 

「胡蝶さん…悲鳴嶼…さん」

 

小さい声だったが二人の耳は見逃さなかった。二人はその声の方向に顔を向けるとそこには血だらけの少女の隊士が樹の腰を落とし寄りかかっていた…。

 

「貴方は…波島さん!」

 

カナエは見覚えがある隊士に近づく。

 

(ダメ…!傷が深すぎる…)

 

カナエは波島の傷は致命傷だと見抜く。そしてもう長くない事も…。

 

「何があった?」

 

盲目の悲鳴嶼も音で彼女は長くないと見抜いた。

 

「わ…私達は…作戦を立ててこの山に入ったのですが…敵を予測していた…のか…待ち伏せされて猛攻に合い皆…散り…散りになってしまいました…

私は…最後まで役立たずで…芽島さん…高上さん…下村さん…上原さん…ごめ…んな…さい…」

 

「波島さん!」

 

波島洋子は死んでいった仲間達に懺悔の涙を流しながら息絶えた…。

 

「行くぞ…カナエ。」

 

「はい…!」

 

涙を流すカナエに悲鳴嶼は先を急がせる。

隊士達の死を無駄にするわけにはいかない。必ずやこの山に潜む悪鬼をうち滅ばせければならない…!

二人は決意の胸に生き残ってる者達を救うために全速力で駆けた。

 

 

 

 

 

sideハイゼンベルク

 

一方ハイゼンベルクは山に来たのは【岩柱】の悲鳴嶼行冥と【花柱】の胡蝶カナエと分かったがここで疑問が湧いていた

 

(胡蝶カナエだと? アイツが生きてるという事はまだ童磨には出会ってはいないという事か?

確か原作だと四年前に殉職したハズだな… という事は今は原作が始まる四年前ということか?)

 

原作の知識では胡蝶カナエは物語が始まる四年前に童磨と戦い殉職してる。

だが胡蝶カナエは今ココにいる…。

 

(そういえば原作開始前とか原作開始とか考えてなかったな…。

胡蝶カナエがいるなら原作開始前ってことでいいか?

考えても仕方ないか…とにかく【柱】が二人もいるんだ。

俺の実力が通じるのか試せないとな…)

 

原重に菌根兵を任せるとハイゼンベルクは柱の隊士の二人の元に歩み出した。

 

 

 

 

 

sode胡蝶カナエ

 

現在、カナエは悲鳴嶼とは二手に分かれて生存してる隊士を捜索してる。

あちこちに轟く銃声にまだ生存者がいるのだろう。駆ける中、カナエは前方に二人組の人型の怪物を見つける。

 

「ハァッ!」

 

呼吸法で鍛えた身体能力で二匹の怪物をあっという間に切り倒す。

 

「一体何なのかしら…?この化け物は…」

 

銃で武装し此方を攻撃してくる奇妙な怪物にカナエは訝しんでいた。

 

(まるで藁を斬るような感触…鬼とは全く違う… 鬼血術の一種なの…?)

 

分からない…。この××山には本当に下弦または上弦の鬼が潜んでいるかもしれない。

自分の腕には自信がある。例え居たとしても必ず討伐して見せる。

呼吸を整えてカナエは生存者を探すために動き出そうとした時だった。

 

「大したもんだな。菌根兵をあっという間に始末するとは…。

流石、【柱】だな。今までの雑魚とは大違いだ。」

 

「!?」

 

すぐさまカナエは声をした方向に体を向けて刀を抜く。

其処に居たのは洋服を着た外国人だった…。大きな鉄槌を肩にかけて腰には西洋の(サーベル)を携えていた。

 

「貴方は誰ですか…?」

 

最大限の警戒しながら目の前の男性に聞いた。

 

「これは失礼した。俺はカール・御田村・ハイゼンベルクと言うんだ。以後よろしく」

 

「ハイゼンベルク…」

 

彼は飄々と自分の名前をカナエに告げた。この人は味方…?それとも敵…?。

 

「お前の事は何でも知っているぞ。

幼いころに妹の胡蝶しのぶを除いて家族は鬼に食い殺されて偶々駆け付けた【岩柱】の悲鳴嶼行冥に救われる。

それでソイツの伝手で鬼殺隊に妹と一緒に入隊する。

蝶屋敷では傷ついた隊士の治療に鬼によって孤児になったガキ共を養う。

お前は()()()()()()()だとか()()()()()()()()()とか発言していて一部の隊士から印象が悪いとかな」

 

「どうしてそれを…!」

 

それはしのぶを始め蝶屋敷でも一部の人だけなのに…どうやって調べたというの…!

この人は何者なの…!?

 

「お前と岩柱は今必死に生存者を探してるがもう手遅れだ。

半数は死んで残りは素体として確保してるからな」

 

「じゃあ、貴方が…!」

 

「まぁ直接、手を下したのは部下達だが俺の指示だからな

だから俺が殺した事には変わりはない」

 

「どうして! 鬼舞辻無惨の命令なの?」

 

無惨の指示で動いているのかとカナエは問いただす

それを聞いたハイゼンベルクは不機嫌な表情を浮かべた。

 

「鬼舞辻無惨だと…? 俺があんなゴミクズの部下だと思ってるのか?

虫唾がはしるな」

 

「名前を…!」

 

鬼舞辻無惨は配下の鬼に呪いを掛けており自分の名を相手に言えば呪いで殺されてしまうのだ。

だがこのハイゼンベルクという男は無惨の名を出してるのに何ともない…。

 

「貴方は鬼ではないの?」

 

「確かに俺を人間じゃないがあんな出来損ない共と一緒にするな」

 

「人間ではない? でも鬼では無いのなら鬼殺隊と敵対する理由がないはずでしょう?」

 

彼が鬼では無いのなら何故、鬼殺隊を襲うのか…?

 

「確かにお前らには何も恨みはないが…だがな俺の目的の為にはお前らは鬼殺隊は滅ぼさないといけなくてな

そして産屋敷にも鬼舞辻無惨のクソにも消えてもらう。」

 

その言葉にカナエの表情は険しくなる。

彼の言葉通りなら無惨と産屋敷を殺すということだ。

それだけじゃない、愛する妹や蝶屋敷にいる家族も殺すという事だ。

 

「そんなことはさせない。 貴方が鬼でもなくても私の家族を殺すというのなら…貴方を斬る!!」

 

カナエは意を決してハイゼンベルクに突貫する。常人を超えた速度でハイゼンベルクの首を落とそうとするが…

 

「流石は柱だが…遅いな」

 

ハイゼンベルクはひらりと身を躱す。

 

「そぉら!!」

 

ハイゼンベルクは手にした鉄槌でカナエに襲い掛かる。

 

「くッ…!」

 

直ぐに体を動かし鉄槌から逃れるカナエ。

頭上からブォン!と空気が切れる…鉄槌は近くにあった木に当たりバキバキと砕け倒れた。

 

(!? 何て威力なの…! あんなもの直撃すれば確実死ぬ…!

日輪刀で受けても刀身が絶対に持たない…! 避けるしかない!」)

 

カナエはハイゼンベルクが繰り出す鉄槌の威力に戦慄する。

防御してもあの鉄槌は簡単に突破して己の命を絶つだろう…。

 

「花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬!!」

 

カナエは周りを囲むように素早い突きを放つ。逃げ場がないハイゼンベルクはだがそんなものは気にも留めなく

 

「鬱陶しいんだよ!!」

 

「!」

 

手にした鉄槌で無造作にしかし圧倒的なパワー・圧倒的なスピードで薙ぎ払う。

身の危険を感じたカナエは技を中断して咄嗟に後ろに飛ぶが風圧がカナエを襲った!

 

「あぁ!」

 

吹き飛ばされ態勢を崩したカナエは地面に叩きつけられてしまう。

 

「あ…ぐ…」

 

「寝てる場合か?」

 

全身を強打し痛みで身動きできないカナエにハイゼンベルクは一気に近づき

 

ドゴォオ!

 

カナエを蹴り飛ばした。咄嗟に両腕で防御したが蹴りの威力は高く両腕の骨をバキリと響き折れてしまった。

 

「げぼぉ…! う…ぁぁ…」

 

吐血し全身に凄まじい痛みが駆け巡る…意識を飛びそうになるが痛みですぐに覚醒した。

微かに目を開けるとハイゼンベルクが再び近づいて来る…。

 

(ダメだ…体が動かない…必ず帰って来るって約束したのに約束破っちゃった…

ごめんね…しのぶ…アオイ…カナヲ…)

 

迫りくる死の影にカナエは目を閉じ意識を手放す…。最愛の家族を置いて行ってしまう罪悪感に呑まれながら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「死んだか? いや、気を失っただけか」

 

倒れ伏すカナエに近づくまだ生きてると確認する。

このまま止めを刺そうと鉄槌を振り上げるハイゼンベルク…しかし

 

(待てよ…? 胡蝶カナエは【柱】階級の隊士だ…このまま殺すより()()()()に付かした方が良いな…。

試したい事もあったしここは生かすとするか)

 

気が変わったハイゼンベルクはカナエを止めを刺さず生かす事に決めた。

ハイゼンベルクは念じると二体の菌根兵が現れる。

 

「コイツを俺の屋敷に連れて行け。あと医者も呼べ」

 

指示を受けた菌根兵はカナエをトラックまで運んで行った。

 

(さて、柱の隊士との実戦は問題は無かったな。雑魚隊士よりは速いが見切れないもんじゃあない

これなら柱が四人同時でも問題ないんじゃないか?)

 

柱との実戦でハイゼンベルクは己の能力に自信をもった。

次の獲物は【岩柱】だ。

向こう側で戦ってるにも岩柱(悲鳴嶼行冥)に挨拶に行くとするか。

 




次回 鬼殺隊【柱】その2

相変わらずの亀更新ですが気長にお待ちください。


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鬼殺隊 【柱】その2

悲鳴嶼行冥と対決します。


「むん!」

 

【岩柱】悲鳴嶼行冥は襲い来る菌根兵に自身の日輪刀…鎖が繋がった斧と鉄球で次々と屠っていく。

 

(妙な生物だ… 血鬼術で作り出したものか?

しかし先ほどから他の者の気配が感じ取れぬ…!)

 

カナエと二手に分かれた行冥は隊士達を救うべく周りにいる菌根兵を次々と倒していくが銃声は聞こえるものの

隊士達の気配が感じ取れなくなっていた。

 

「来るのが遅かったのか…私はまた…!」

 

行冥の胸に後悔の渦が沸き上がる。 彼とてこのような状況は何度か味わってきているがその度にこのように後悔と己の無力を嘆くのだ。

 

ザッ

 

「!」

 

草を踏む音に行冥は臨戦態勢を向ける。

 

「マダ生キ残コリガイタノカ…丁度イイ…オ前デ11人メダ」

 

「貴様…鬼か」

 

視力がない行冥だが肌で感じる禍禍しい気配に直ぐに相手が鬼だと理解した。

 

「ウン? オ前…目ガ見エナイノカ? ダトシテモ容赦シナイガナ」

 

「…」

 

鬼の、ギンの言葉に返事しない行冥。

しかし返答がなくとも鎖付きの鉄球の振り回し集中する。

 

「ケッタイナ武器ダナ。」

 

ギンは飛び掛かった。鬼の身体能力で目に見えない速さで行冥に襲い掛かった。

 

「遅い」

 

ガギン!

 

「!? ガァッ!」

 

そんなギンの突進に行冥は眉一つ動かさず冷静に対処した。

 

(ナ…ナンダト…イツノ間ニ鉄球ヲ…!

血鬼術デ全身ヲ鉄ニ変エテナケレバ殺ラレテイタ!)

 

突進したギンだがいつの間にか鉄球が己の腹に直撃したのだ。

鉄に変えていなければギンは鉄球によって粉砕されていただろう。

 

(コイツ…今マデノ奴ラトハ違ウ…!)

 

今の一撃でギンは目の前に居る鬼殺隊隊士が最初の隊士達と格が違うと感じた。

 

「ナラバ、コレデドウダ!」

 

ギンは再び突進を開始した。

だが今度は行冥ではなく近くにある樹木だ。それを足で蹴り、向こう側の樹木に飛んでいきまた蹴って向こうの樹木にと行冥の周りを回るように飛んでいく。

 

(ドウダ! コレナラ音ガ混ザリ合ッテ俺ノ音ガ聞コエマイ…!)

 

素早い動きで木々の周りを飛ぶギンに行冥はただ静かに立っていた。

 

(クク…。何モ出来ナイ感ジカ!)

 

何もせずに立っている行冥にギンは己の勝利を確信する。

 

「死ネイ!!」

 

行冥の背後に回った瞬間、ギンは突進した。

しかし…

 

「そこか」

 

ズバババ!!

 

行冥は斧でギンを斬りつけて鉄球でギンの腹を直撃させた。

 

「ギ…ギャアアアア!! バ…馬鹿ナ…!」

 

「己の肉体を鉄に変える…それが貴様の血鬼術か」

 

「何故ダ…! 何故俺ノ動キガ分カッタ!!」

 

「どんな音を出そうとも貴様の音など見分けがつく。あのような浅知恵で私を倒そうなど笑止!」

 

「!?」

 

ギンは目の前の男と己の実力の差がようやく理解した。

撤退しようにも受けたダメージは大きく思うように体が動かない…!

 

「南無阿弥陀仏… 悪鬼…滅殺!」

 

行冥は目の前にいる鬼に止めを刺そうと鉄球を振り下ろした時だった。

 

グン!

 

「!? なに!」

 

突然だった。

鉄球はギンに当たるのではなく宙に停止したのだ。

 

「危ない所だったなギン。」

 

男の声が響く。

 

「オオ…ハイゼンベルク様…!」

 

間一髪でギンを助けたのはハイゼンベルクだった。

 

「貴様…何者だ!」

 

突如現れた男に行冥は警戒しながら問う。鉄球は未だに宙に浮き手に持つ戦斧は()()()()()()()()()()()()感触があった

 

「まぁ待て、後で話をしてやるからよ

今日はもういい。ご苦労だった」

 

「ハッ…失礼イタシマス…」

 

ハイゼンベルクの言葉にギンは痛みが残る体にフラフラしながらも闇の中に消えていった。

 

「さて、待たせたな【岩柱】」

 

ハイゼンベルクは気さくに話しかけると宙に浮いていた鉄球はそのまま地面とに墜ちた。

武器が引っ張られる感覚が無くなった行冥はすぐさま距離をとり鉄球を振り回し始めた。

 

「なるほどな。さっきの【花柱】と違ってかなり出来るな」

 

楽しめそうだ。そうニヤリとする男に行冥は見逃せない言葉があった。

 

「花柱だと…! 貴様カナエを…!」

 

「そう怒るな。安心しろ、生きてるよ。辛うじてだがな」

 

()()()()()

その言葉に僅かばかりの安緒をする行冥だがそれを顔には出さずに目の前の男を睨みつける。

 

「この山に入った18人の隊士はどうした?」

 

「あぁ何人かは死んだよ。残りは生かして捕らえてある」

 

「…捕らえた者達をどうする気だ?」

 

「そんな事言う必要があるのか? ここで死ぬお前に」

 

その言葉に最後にハイゼンベルクは目に見えない速さで行冥に迫り鉄槌を振り下ろした。

 

早い!

先程戦った鬼とは比べ物にならない速さに驚愕するが辛うじてだが身を避ける行冥

しかし逃さないとばかりにハイゼンベルクは追撃する。

迫りくる鉄槌で戦斧で受け止めるが…

 

「ぐっ!!」

 

重い…!!

巨人とも思わせる一撃に行冥は吹っ飛んでしまう。

ハイゼンベルクは再び追撃しようとするが横から鉄球が襲い来るがハイゼンベルク足を止めては難なくソレを鉄槌ではじき返した。

その隙をついて行冥は何とか態勢を整えた。

 

(何という重い攻撃…!

幾ら私でもこのような攻撃は防ぎ続ければこの肉体が持たないだろう…)

 

ハイゼンベルクの重い攻撃に戦慄する行冥…

受け続ければ武器と体が持たない。

かと言って避け続けるのも限界がある。

 

(接近戦は余りにも不利…

ここは鉄球で出来る限り離れて戦うしかない!)

 

近づけば圧倒的な力で屠られてしまうと考えた行冥は鉄球で用いて遠距離で戦う事を決めた。

しかしそれでは相手に勝つことは出来ない。

 

(悔しいが私では奴を倒す事は不可能…。危険だが夜明けまで戦い日光で奴を倒すしかない…。

 

行冥は自分とハイゼンベルクの実力差を感じ取っていた…。

己の実力では奴を倒す事は不可能…ならば夜明けまで戦い太陽の光でハイゼンベルクを倒ししかないと考えた。

しかし行冥は考えを二つ間違っている。

 

一つはまずハイゼンベルクは無惨から作られた鬼では無い…太陽の光などハイゼンベルクには何ともないのだ。

しかし圧倒的な力を持つハイゼンベルクに行冥は相手は鬼と認識してしまったのだ。

 

二つ目は… ハイゼンベルクの能力を知らずにいた事だ

 

「ほぉ…近づかずに俺を倒そうって事か?

舐められたもんだな…!」

 

行冥は鉄球での攻撃しかしてこないと分かったハイゼンベルクは自身の能力を解放した。

 

「!? これは…!」

 

ハイゼンベルクに近づかず鉄球で繰り返す攻撃していた行冥だが異変を感じ取る。

 

「鉄球が…!」

 

ハイゼンベルクに目掛けて投げた鉄球が戻ってこない…。

盲目の行冥には見えないがそこには鉄球が行冥とハイゼンベルクの中間で空中で止まり少しも動いていなかった。

 

(これは一体…!

くっ…!鉄球が戻らぬ! まるで何かに鷲掴みにされているようだ…!)

 

行冥は必死に鉄球を自分の元に戻そうとするが何かの力で掴まれているような感覚だった。

 

「クク… どうした? 随分と必死だな」

 

そんな行冥を嘲笑うかのようにハイゼンベルクは余裕の表情で浮かべる。

ハイゼンベルクの能力…それは磁力

原作のハイゼンベルクが持っていた力で自身をコイルに変えて鉄などを宙に浮かべたり引き寄せる事が事ができるのだ。

 

「ほら! さっさと来い!」

 

(これは…! 日輪刀が引っ張られているのか!)

 

行冥はハイゼンベルクの方へと引き寄せられていく…。必死に踏ん張るが足は地面を削りながら前と進んでしまう。

 

「ぐぅぅ!! い…いかん…!!」

 

このままでは武器事ハイゼンベルクの方へと引き寄せられてしまう…!

やむを得ず行冥は日輪刀を手放した。

行冥の手から離れた日輪刀はハイゼンベルクの方へと引き寄せられてしまった。

 

「さて、どうする?

お前の刀は…いや、鉄球と斧か?

どっちでもいいか…お前の武器は俺の手元にある

お前は爪と牙を失った犬と同じだ」

 

「…!」

ハイゼンベルクは自分の後ろに行冥の日輪刀を遠くに投げ捨てた

行冥は已む得なかったいえ頼りにする武器が失ってしまったのは不味い…。

今の行冥はハイゼンベルクの言う通り牙と爪を失った状態だ。

 

「鬼殺隊最強もこれじゃあ形無しだな」

 

そう言いハイゼンベルクは行冥へと近づいていく。

 

(好機…!)

 

余裕の表れか…敵が自分に近づいてきた。

 

「オオオオ!!」

 

行冥は残されたあらん限りの力を利き腕の集結させその拳を目の前の男に叩き込んだ。

その力は鬼の肉体すらも砕くものだ。事実、行冥は素手で夜明けまで鬼を砕き続けたのだから。

しかし…

 

「痛ってぇな…! 確かに凄いパンチだな。これなら鬼でもミンチに出来そうだ」

 

だがその拳はハイゼンベルクの命を砕くことは出来なかった。

 

「!?」

 

「よぉし! 次は…俺の番だ!!」

 

ハイゼンベルクはお返しばかりに行冥の腹に拳を叩き込んだ!

行冥は腹に力を入れて防御するが…

 

「ガァ…!!」

 

ハイゼンベルクから叩き込まれるその拳は砲弾如く強く圧倒的だった。

腹に防御をしても僅かに威力を落としただけで行冥の肉体を破壊していく。

その威力に行冥は吹き飛ばされ樹木を砕いて止まった。

 

「ゴフ…!」

 

ヒューヒューと息も絶え絶えで動くことは最早出来なかった。

 

(お館様…皆…済まぬ…)

 

己の最期を悟った行冥はその意識を失った…。

 

 

「まだ生きてるのか? 全くしぶとい奴だな」

 

気を失ってると行冥を見たハイゼンベルクは呆れながらも行冥の元に歩き出した。

 

「悲鳴嶼行冥は原作でも大した影響も持つキャラじゃないし特に好きなキャラでもないし。

此処で始末しても問題は無いよな」

 

こっちは十人の隊士と胡蝶カナエも捕まえたのでもう捕虜はいらないと思ったハイゼンベルクは悲鳴嶼行冥をここで始末することに決めた。

 

「うん?」

 

ふと空が騒がしいと感じたハイゼンベルクは見上げると月の光に当たりながらも沢山の鴉が空を飛びまわっていた。

 

「あれは…鬼殺隊の…。」

 

その鴉は鬼殺隊の隊士と共にする鎹鴉(かすがいからす)だった。

その鴉達は足に持った球体状の何かを次々と落としていく。

 

ボゥン! ボゥン! ボゥン!

 

落ちたそれは大きな音を出しながら周りを白い煙幕で包んでいった。

 

「煙幕か? 何のつもりだ?」

 

もしかしてこの煙に乗じて奇襲をかけて来るつもりなのか?

警戒したハイゼンベルクは足を止めて迎え撃つ態勢を取った。

しかし何も来ない…。

 

「なんだ? 一体どいうつもりだ!」

 

相手の行動に訳もわからず苛立ちするハイゼンベルクはさっさと悲鳴嶼行冥を始末すべく速足で行冥が倒れている場所に向かう。

 

「あぁ? あのデカブツはどこだ?」

 

そこには悲鳴嶼行冥の姿は無かった。血が地面に付いてるのでここに倒れていたのは事実だ。

相手は深い傷を負っているので動くことは出来ないはずだ?

 

「待てよ…? さっきの煙幕か!」

 

ハイゼンベルクは先ほどの煙幕は時間稼ぎだと気づいた。

恐らくハイゼンベルクが立ち止まってる間に鬼殺隊の隊士が運び出したのに違いない。

 

「クソ! 今から追いかけるか?

いや、俺の力は柱でも問題ないと分かったしこのまま逃がしてもいいか」

 

どうせ鬼殺隊の滅ぼすのだからその時に他の柱共々始末すればいい。

そう考えたハイゼンベルクはここから立ち去る事を決めた。

 

こうした××山の死闘は終わった。

ハイゼンベルクは己の実力を確認し柱を含む()()も手に入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




悲鳴嶼行冥

胡蝶カナエ

鬼殺隊の最高戦力である【柱】階級の二人。
××山に送った18人の隊士が危険だと予知し急遽この二人を向かわせたが到着したころには既に全滅状態で誰も救えなかった。重武装した菌根兵が相手でも難なく蹴散らす実力だがハイゼンベルクには通じなかった。

【花柱】の胡蝶カナエは試したい事があったので生かして捕らえた。
【岩柱】の悲鳴嶼行冥は特に原作に影響がないキャラなので始末しようとしたが鴉達の煙幕を使った時間稼ぎを利用して隠に所属する隊士達が気を失った彼を救い大急ぎで山を下りていった。

波島葉子

××山に最初に送り込まれた隊士で今回で仲間の仇を取ろうとしたが菌根兵に待ち伏せされて散弾銃を受けて致命傷を負ってしまい到着した柱達の前で絶命した。
ハイゼンベルクも二度目は無いという事で彼女を助ける気はなかった。


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疑惑と矛盾

前回、柱を含む多数の隊士を捕らえたハイゼンベルク。

その中で【花柱】胡蝶カナエをこちら側に引き込もうと画策する。



ヘイト要素がとても高いですので注意。


「う…うぅん…?」

 

微睡の中胡蝶カナエは目を覚ました。

 

「ここは…?」

 

目を覚ましたカナエは辺りを見ると木造の部屋にいる事が分かった。

周りには高価そうな時計や陶器が置いてあり自身の乗っているベッドも装飾が彫られた高級そうな感じがする。

 

「蝶屋敷ではないわね… 確か…私は…?そうだ!」

 

自分は××山に【岩柱】の悲鳴嶼行冥と共に向かって隊士達を救おうと戦いあの男に敗北したことを思い出す。

 

「ここはもしかしてあのハイゼンベルクという人の住処…? そうだ!悲鳴嶼さんは!」

 

共に来た悲鳴嶼行冥を探そうとベッドから起き上がるが

 

「ぁぐっ…!」

 

ズキリと全身から鋭い痛みが襲う。

よく見るよ体中は包帯が巻かれ両手は腕を固定するギプスにはめられてる…。

 

「やめとけ。お前は瀕死の重傷だったんだ

治療したとはいえまだ動ける状態じゃあない」

 

「!? 貴方は…!」

 

声が聞こえてカナエは目を向けるとそこにいつの間にかハイゼンベルクが椅子に座っていた。

カナエは睨みつけるがハイゼンベルクは気にしなかった。

 

「そう睨むな。お前を殺す気はないさ。」

 

「信用できないわ。私をどうする気なの?」

 

「強いていうなら話でもしようかと思ってな」

 

ハイゼンベルクは飄々とした態度は崩さない。

カナエは睨みつけるが今の状態では抵抗することなど不可能で相手が自分を殺す気ならとっくの殺してるだろう。

目の前の男は殺す気はないと言ったから一先ずはそれを信用する。

 

「それで私に何を聞きたいの? 鬼殺隊の不利になる事は一切話さないわ」

 

例え拷問されても味方が不利になる事は一切話す気はない…。

それにそうしてる間に鬼殺隊はきっと自分を探してる。出来るだけ時間稼いで相手の情報を掴みたい。

 

「別にいい。お前らの事は良く知ってるし弱点なんざどうでもいい。

俺が話したいのは世間話みたいなものさ」

 

「えっ?」

 

カナエは想像した事と違い戸惑う。

鬼殺隊の弱点とかお館様の居場所とか聞いて来ると思ったがそれでは何を聞きたいのか?

 

「今言っただろう? ’お話’さ。

おい、入ってきていいぞ」

 

「失礼いたします」

 

入ってきたのは顔に大きな火傷をした男性ともう一人…

 

「! 鬼…!」

 

紅く染まった瞳に青白い肌…自分達、鬼殺隊が討伐すべき鬼が居た事にカナエは青ざめる…

 

「落ち着け。コイツらは俺の部下だ。手出しはしない」

 

「ご安心を。貴方に害する気はこちらにありません。

申し遅れました。私は原重重太郎と申します。

こちらはギンというものです」

 

火傷の男は原重と名乗り鬼の方はギンというらしい。

二人が揃った事にハイゼンベルクはカナエの方へ向きニヤリと笑う。

 

「よし…それじゃこれからの事を含めて話し合いと行こうじゃないか。」

 

 

 

 

 

 

 

カナエは得体のしれない者達に恐怖していた…。

一体何を話し合うのか分からない。

 

「さてカナエ。お前は今のままでいいのか?」

 

「どういう事ですか?」

 

「このまま鬼殺隊の為に自分の人生を使い潰すのか?

あんなろくでもない一族の()()()()の為に死んでいくつもりか?」

 

その言葉にカナエは目の前の男を睨む付ける。

尊敬するお館様を侮辱し自分の人生を下らないと言ってるこの男を…!

 

「ふざけないで…!

私は鬼殺隊に入った事に後悔は無いわ。鬼から人々を守り抜く事に誇りにしてる。

何よりお館様の侮辱は許さない…!」

 

カナエの家族は妹を残して鬼に殺された…。

辛うじて悲鳴嶼が来てくれたお陰でカナエと妹のしのぶは助かったがこの世には鬼がいて今も多くの人達を手に掛けている

その人達を守りたくて、もう自分達のような犠牲を出したくないからカナエは悲鳴嶼の反対を押し切って鬼殺隊に入った。

後悔なんてしてない。

 

「そうか。だがお前はそんな目にあったというのに何故鬼と仲良くしたい?

矛盾してないか?」

 

「確かにそうよ。鬼は憎いけど同時に哀れだからよ。出来れるなら救いたいとも考えてるわ」

 

当初は鬼が憎かったが鬼を狩っていく内に彼らが哀れな存在だと感じてきた

人しか食べられない、そうやって恨みを増やしていく鬼が哀れだと思うようになった。

その内鬼を救いたいと考えるようになった。

 

「だそうだ。おいギン…お前はどう思う」

 

ハイゼンベルクが後ろに佇んでいる鬼に聞く。

そのギンという鬼はカナエを見て睨みつけている。

 

「ズイブント虫唾ガ走ル事ヲ言ウナ…!

哀レダノ救イタイダノ自分ハ神ヤ仏ニナッタツモリカ…?」

 

「そのつもりはないわ。だけど本当にそう持ってる」

 

鬼は怒りを見せてカナエを批判する。

しかしカナエは本当に鬼を救いたいのだと言う

 

「フン…デハ聞クガドウヤッテ鬼ヲ救ウツモリダ?

何カ考エデモアルノカ?」

 

「それは…」

 

答えられない…。

具体的にどうするつもりなのかカナエ自身、それが分かっていない…。

ただ曖昧に彼らを救いたいと考えてるだけだ…。

 

「ソレガ答エダ。オ前ハボンヤリト考エテルダケ。

タダ()()()()シタイダケダ」

 

「…!」

 

そんな事はない!

…そう言いたかったけど言い返せないなかった…。

ギンという鬼の言う通りカナエは具体的にどうするのか考えていない…。

だけど自己満足のつまりは無い…無いが…。

 

「まぁお前がどう思おうが勝手だがそれでもボンヤリと考えているのは流石にどうかと思うがな

ギンからすればお前の考えなんて偽善そのものだぞ?

鬼と仲良くしたい? 鬼は哀れ? そう言って()()()()()()()()()()()()()()?」

 

ハイゼンベルクの言葉にカナエは何も言えない…。

でも人々を守るのにそうしないといけなくて…。

 

「ソモソモ何故俺タチ鬼ハ人間ヲタベテイケナインダ?」

 

ギンの言葉に怒りが沸いたカナエは叫ぶ。

 

「そんなの当たり前じゃない! 殺された人は何か悪い事をしたの!生き残った人がどんな気持ちで生きていくのが分からないの!」

 

「それでは()()()()()()()()()()()という事ですかな?」

 

カナエの言葉に反論したのは火傷の男性、原重だった。

 

「えッ?」

 

「貴方の言い分では悪い事をした人間なら食べても良いという事ですかと聞いてるんです」

 

「それは…でも人間は食べていけないことよ!」

 

「だから何故それが駄目なのかと原重とギンはお前に聞いてるんだが?」

 

「それは…その…」

 

カナエはまた答えられない…。

でも人間を殺す事はいけない事だ…

 

「人間が人間を殺すのは重罪だがギンは鬼だ。この国の法律に()()()()()()()()()()()()()()()()と書かれていない。

なら鬼が人間を食うのは法律違反じゃないし問題はないだろ?」

 

「そんなの!あまりにも横暴よ!」

 

「それにな、人間は毎日動物を殺してその肉を食ってるだろう?

それはいいのか?」

 

「でもそれは食べないと生けていけないからよ!」

 

「俺達鬼ハ人間シカ食ベラレナイ。ソレニ腹が減ルノハトテモ苦シイゾ。

ソノ餓エヲ満タスノニ人間ヲ食ベテ何ガイケナインダ?

ソレトモ何ダ? 鬼はズット餓エ続ケロト言ウノカ?」

 

「……」

 

「自分達の事は棚に上げておいて人間を食うなと言えたもんだな?

人間だから動物や魚は食って良いってか?」

 

ハイゼンベルクの煽る言葉にカナエはただキッと睨みつけるだけだった。

 

「私からも質問ですがカナエさん…もし貴方のご家族を殺したのは鬼では無く()だったなら?

貴方は熊を殺し続けるのですか?」

 

「……」

 

「そうです。もしも貴方のご家族を殺したのが熊だったのなら貴方は()()()()()()()()()()()()()と言って平凡な生活を過ごしてたでしょう」

 

原重の言葉にカナエは黙り込んでしまう。

言われてみればそうだ…。

もしも自分の家族を殺したのが熊だったなら「これは不運だった」と諦めていただろう…。

 

「熊なら諦めるのに鬼だったなら何故許せないんだ?」

 

ハイゼンベルクは畳みかけるようにカナエに質問する。

何故、鬼は許せないと思うのか?

 

「私は…」

 

また分からない…。

どうして?何が違うのか?

 

「ハァ…ハァ…」

 

呼吸が苦しくなる。

何も考えられない…だれかおしえてほしい…おしえて…

 

「俺から言わせれば鬼よりお前ら人間の方がよっぽど数多くの命を奪っているぜ

この世界から一体どれだけの種を絶滅に追いやったんだ

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…どっちが酷いんだろうな?」

 

「…ッ」

 

唇をギュッと噛んで俯くカナエ。

 

「話を変えようか。

お前ら鬼殺隊は産屋敷を随分と慕ってるがどうしてなんだ?」

 

「……

お館様は私達を救ってくれたし居場所がない私達に親身に接してくれた

あの人が居なければ私達は路頭に迷ってるわ。」

 

俯いてたカナエはゆっくりと顔を上げてポツリと話した。

鬼殺隊の長の産屋敷耀哉は身寄り無くした者達に居場所を与えてくれた。

長でありながら気さくに優しく寄り添ってくれた。

だから鬼殺隊の隊士達は産屋敷耀哉を親のように慕い命を投げ出す覚悟すらあるのだ。

 

「これはこれは…随分と()()()()()()()()()

こうやって自分の手を汚さずに家で呑気に過ごせるわけだ」

 

「何ですって…!」

 

カナエはハイゼンベルクの言葉に怒りを見せて睨みつけた。

 

「可笑しなことを言ってるか?

汚れ仕事はお前らみたいな何も知らないガキを()()して自分は安全な場所でぬくぬくしてるだろう」

 

「貴方は何も知らないわ。

お館様は亡くなった隊士の一人一人の名前を憶えているのよ。

毎朝、あの人は隊士達のお墓参りだって一日も怠った事もない」

 

当主である産屋敷耀哉は亡くなった隊士の名前を忘れておらず墓参りだって一日も怠った事もない。

そんな産屋敷耀哉を侮辱を許すわけにはいかなかった。

 

で?それが何だ?

 

しかしハイゼンベルクはくだらない事のように煽る。

 

「死んだ隊士の名前を憶えている? 墓参りをちゃんとやってる?

それが何だ?なんの価値があるんだ? そんな事をしてる暇があるなら隊士の犠牲を減らす事を考えた方がずっと建設的じゃねえか?」

 

馬鹿にするようにハイゼンベルクは言う。そんな事をしてる暇があるなら何か戦術を考えた方が良いだろうと。

 

「カナエさん。産屋敷耀哉が亡くなった隊士の名前を憶えていたり毎日墓参りするのは結構ですがそもそも隊士達の殉職率が高いというのに何も対策しないのはどうかと思いますがね…

鬼殺隊の首領として鬼という人間を凌駕する生物相手に刀一本で立ち向かえという戦術を何とかするべきと思いますが」

 

鬼殺隊の戦法は日輪刀という刀一本で鬼を倒すという前時代的な戦い方で戦国時代といった昔ならともかくこの大正時代でそんな戦い方するのはどうかしてると言う原重。

 

「それによ…そんな風に隊士達を、命を大切に考えてるなら何であんな()()()()()()()()()なんてやってるんだ?」

 

「えっ?」

 

「おいおい。お前だってその試験をやっただろう?

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったか?

しかも監視役もいない有様だ」

 

「で…でもそれは任務の性質上即戦力となる隊士が必要だからよ…!

監視役だって…その…鬼殺隊は人手不足だから…」

 

「お言葉ですが隊士候補の中には今は開花してないだけで将来有望な者だっているでしょう?

試験の監視役は助ける為だけではなくそういった者を見極める為でもあるのです。

そして人手不足? そんな非合理で意味がない試験などやっていればそうなるに決まってるでしょう。

それ以前に監視役が居なければ誰が優秀な者かも分からないでしょうが…」

 

鬼殺隊に入るためには年中鬼が嫌う藤ノ木が生えている山の中で行われるのだが隊士候補に「七日間、食料も水も持たされず餓えた鬼達が居る中生き延びろ」という軍隊ですらやらない頭のネジが飛んでるとしか言えない試験なのだ。

更にいざとなった助けに入ってくれる監視役すらいないのだ。

ハイゼンベルクも前世で原作の最終試験の内容に「頭がおかしいじゃないか?」と思ったほどだ。

 

「しかも毎年やってるそうだが大体30人ぐらいが受けて2~3人生き残れば良いらしいな

ハッキリ言って鬼より殺してんじゃないか? そんなんでよく隊士の事を考えているとかほざけたな」

 

「ぁ…」

 

ハイゼンベルクと原重の指摘にカナエは弱々しく呻く。

言われてみればそうだ。自分は鬼を倒したい一心で乗り越えたが冷静に考えてみればあまりにもおかしい試験だった。

 

「疑問に思ったな?

本来ならお前を始めとした()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だぞコレは」

 

「カナエさん…貴方を始めとした()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ハイゼンベルク卿から聞きましたが貴方達【柱】は鬼殺隊の首領である産屋敷耀哉と同等の関係らしいですがそれなら()()()()()()()など進言することだって出来たでしょう?」

 

経験豊富な隊士を監視役として送り込むとか

その経験豊富な隊士達と一緒に行動させるとか

もしくは先輩達の訓練をし合格か否か判断させるとか

考えなかったのか?

 

二人の指摘にカナエは真っ青になっていく。

本来なら柱階級である自分達が真っ先に改善をお館様に言わなければならない立場だったというのにお館様に何も言わず鬼狩りばかりに勤しんでいた事に気付く…。

人手不足なら尚更改善しなければいけないというのに…。

人命を救ってるハズなのに逆にその最終試験で人命を多く散らしてる鬼殺隊の実態にカナエは自身が信じていた正義がガラガラと崩れていったのだった…。

 

 

 

「最終試験もそうだが胡蝶カナエ・・・お前自身も産屋敷家と同じく大勢の人々の人生を狂わしてるからな」

 

「えっ…?」

 

ハイゼンベルクの言葉にカナエは意味が分からず呆ける。

 

「お前は鬼によって孤児となった子供を保護してるが、それでその子供達の人生を台無しにしてるという事さ」

 

「な…! どういうつもりそんな事を言うの!! そうしなければあの子達は路頭に迷ってしまうでしょう!! 私は間違った事なんかしてない!!」

 

カナエは青筋を立ててハイゼンベルクの言葉に反論して睨みつける。

自分は間違った事はしていない確信してるかのように。

 

「確かにそのままじゃあ路頭に迷うのは確実だな」

 

「だったら…!」

 

「だけどな、何で蝶屋敷に連れてくんだ?市内の孤児院でも良いじゃねえか?」

 

「何を言って…?」

 

「分からないのか? そんな所に連れていったらそいつらは()()()()()()()()()だろう

お前はそいつらを鬼殺隊に入れたいから市内の孤児院ではなくて蝶屋敷に連れて行くんじゃないのか?」

 

「ち…違う…!そんな事は…」

 

「カナエさん。子供は親の影響や周囲の環境で自分が何処に行こうかと決めていきます。

蝶屋敷は謂わば鬼殺隊に影響が大きい場所ですよ? そこに居れば世間を知らない子供は十中八九、鬼殺隊に入ります」

 

「つまりだ。蝶屋敷に連れて行けば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って訳だ

お前はそういったガキ共を保護するという名目で産屋敷の為に捨て駒を補充してた事さ」

 

「そ…そんなはずは…」

 

勿論カナエ自身はそんな気は一切なかっただろう。間違いなく善意で保護してたのだ。

だが改めて指摘されれば保護した子供達は皆鬼殺隊に入っていったのを覚えている。

自分の継子のなると言う子供も居た。

 

「さっきギンが言ってた事を覚えているか?

お前は自分は良い事したと酔いしれてだけだ。自己満足だったんだよ、

お前の善意はな」

 

「ち…がう…」

 

「違わないさ。お前がやって事はそう言う事だ。

もっと言えばお前はそいつ等には幸せになって欲しかっただろうが蝶屋敷(そんな所)に連れて行けば鬼殺隊に入っちまうだろうが。

長生きも出来ない()()()()()()()としてな」

 

ハイゼンベルクと原重の指摘と言葉の責めにカナエは青ざめた顔で小さくも息を荒げていた。

自分のやってきた事は全部意味が無かった事と幸せになって欲しいと言いながらも幸せがない死地に送り込んでいた事も…

 

 

「もう一つ教えてやるよ

産屋敷がどうして無惨を殺したいのかをな」

 

カナエの様子を見たハイゼンベルクはトドメとばかりに真実を教える。

カナエはまだあるのかと絶望した表情をする。

 

「産屋敷は無惨と()()()()があるのさ」

 

「……ぇ…?」

 

ハイゼンベルクから聞かされる衝撃な発言にカナエは理解するのが出来なかった。

 

「1000前、何者かに無惨は鬼にされたのさ

だが何の原因なのかは分からないが産屋敷一族は呪われちまった。そのせいで長生きが出来なくなったんだ。

その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。」

 

「…ま…さか…お館様が無惨を討つ事に執着してたのは…!」

 

「そうさ。産屋敷一族は世の中の為とか日本を救うとか人々を救うとかそんな大層な理由で無惨を殺したいんじゃない。

ただ()()()()()()()()()()()()()それだけだ」

 

「無惨…とお館様が…血縁関係…?

そんな事お館様は一言も…!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

それでお前ら鬼殺隊には自分の都合が良い事しか話してない。

言ってることが分かるか? 所詮、鬼殺隊(お前ら)()()()()()()()なんだよ

お前らそれを知らず産屋敷を聖人如く崇めて犬死にしてるんだよ

それによお前らは鬼殺隊は鬼は生き汚いとか言ってるが()()()()()()なのが笑えるよな」

 

「ぅ…ぁ…」

 

この世の終わりかのように体が震えて目を見開き絶望するカナエ…。

 

「ここまでいってな鬼殺隊に戻って産屋敷の為に命を懸けるなら止めはしねえさ。

お前が決めた事だしな」

 

話す事がもう無いと言うのかのようにハイゼンベルクは立ち上がり部屋から出ていき原重とギンも彼と一緒に部屋から出ていく。

一人残されたカナエはハイゼンベルクに告げられた真実にショックを受けてただ固まっていた。

 

(自分達が長生きしたいだけ…?)

 

カナエは刀を振り数多くの鬼を斬ってきた。

それは世の為で人々を救う為だと信じてきた…。

お館様だって人々の為に無惨を討つと皆に告げた。

 

(でも…それは嘘だった…)

 

あの男(ハイゼンベルク)の戯言だったならどれだけ良かったんだろうか…?

 

(私は何の為に…!)

 

ドクンドクンと心臓の鼓動が早くなっていく。

 

(私がやってきた事…私が信じたもの…)

 

全部…全部…!

 

「無駄だった…意味が無かった…」

 

何もかも無駄だった…! 何もかもが無意味だった…!!

 

「アハっ」

 

何故だろうか可笑しくて仕方がない。

 

アハ…アハハハハハハハハハハハ!!!

 

カナエは笑った。大粒の涙を流して…

 

アハハハハハハハッハハハハッハハハハハ!!!!!

 

カナエは泣きながら嗤い続けた。愚かな自分を…。

 

アハハハハハハハッハハハハッハハハハハ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして

 

ようやく泣き止んだカナエは頭がスッキリしてた。自分が為すべきことも分かっている

 

「やる事なんて決まってる。

いえやらなけば駄目よ。これ以上犠牲を出すわけにはいかない」

 

やらなけばならない…。人々の為に…世の中の為にも…!

 

「鬼舞辻無惨を殺す…!

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達を騙して利用する産屋敷も殺す…!!!

 

 

 

 

その瞳には憎悪の炎が激しく燃え盛っていた。




次回 ゾルダート計画


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ゾルダート計画

ハイゼンベルクから告げられた真実にカナエは産屋敷への憎悪をむき出しにして復讐を誓う。
カナエを自陣に下したハイゼンベルグは以前から考えていたゾルダート計画を実行に移す。


美麗治村

ハイゼンベルクの工場

 

「よぉし…良いぞ…!そのまま行ってくれ…!

うん…?あぁ!不味いぞ! 待ってくれ…!!」

 

ガァァァァァァァァァ!!!!!

 

「クソ!! また()()()()()()()になっちまった!!」

 

机を思いきり振り下ろしその衝撃で机が粉々になってしまった。

 

「畜生…!! 何が足りねえんだ!!

どうして上手く行かねぇんだ!!」

 

苛立ち叫ぶハイゼンベルク。

 

「やっぱりカドゥじゃないとダメなのか…!

だがアレの製造方法は俺にも分からねえ…。

落ち着け…もう一度やり直してみよう…。今度は菌の濃度を下げて形もより臓器に近づけてみよう」

 

助手として連れてきた菌根兵に獣のごとく暴れまわる鬼殺隊隊士を檻に放り込んでおけと命じて一旦実験室から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前。

 

ハイゼンベルクはカナエの部屋に尋ねて彼女の意志を聞く。

だが彼女の目を見ればなんと答えるか分かる。

 

「さてどうする?

鬼殺隊に戻るか?」

 

「いいえ…もう鬼殺隊には戻らないわ」

 

「ほう…という事は」

 

「ええ。私は貴方側に付くことにします。」

 

「ソレは良かった。歓迎するぜ胡蝶カナエ」

 

カナエはハイゼンベルク側に付くことにした。

真実を告げられて最早鬼殺隊には未練が無い…むしろ己を恥じていた。

必ずや産屋敷一族を根絶やしにすると決めて…。

 

「とはいえ暫くは体の傷を治す事に専念しろ。

我が家に伝わる薬を使えばすぐに良くなるはずだからな」

 

「それと一つあります。

産屋敷一族は必ず殺すけどその…蝶屋敷の人達は…私が何とかします

あまり手を出さないでくれますか?」

 

「分かった。

出来る限りは手を出さないでやるが状況次第では始末するかもしれないが構わないな?」

 

「それで良いです。」

 

カナエは蝶屋敷の者達は出来る限り救いたいと考える。

あの子達は自分が連れてきてしまったとはいえ産屋敷に使い潰される未来にさせる訳にはいかない…!

これは自分の贖罪でもあるのだから…。

カナエの様子を見てハイゼンベルクはこの部屋はお前の好きにしろと告げて部屋から出ていく。

 

(随分な変わりようだな。さっきとはもう別人って言ってもいいな。信じてきた分裏切られた時に憎しみは大きいからな

あの様子だと鬼殺隊が何を言っても聞かないだろうしかつての仲間だろうと躊躇なく斬り捨てるだろうな

良い駒が手に入ったぜ)

 

カナエの豹変ぶりに少しの驚きはしたがハイゼンベルクは鬼殺隊の最高戦力を自軍に迎え入れられてことに満足したのだった。

 

 

 

 

カナエが自軍に入ってからハイゼンベルクは捕らえた隊士を使って「死体機械化兵」ゾルダート計画に着手する。

ゾルダート計画は以前から計画してたが素体の確保について案外手間取ったのだ。

ハイゼンベルクは当初は村の住人を使ってゾルダートにしようと考えたがこの村に過ごすうちに彼らに愛着が湧いてしまってやめたのだ。

少し手間だったが敵対する鬼殺隊や鬼を使ってゾルダートにすることにしたのだ。

現在、ハイゼンベルクの手元には約20人程の鬼殺隊隊士がいて早速彼らを使ってゾルダート計画を始めたのだが…いくつか問題が起きた。

バイオハザードヴィレッジ原作ではハイゼンベルクは()()()という線虫をベースした寄生生物を使っていたがこの世界ではカドゥなんてないのでハイゼンベルクは已む得ず菌根から知識を元にカドゥの代用品を作り出す事にした。

ハイゼンベルクはersatz(エイザッツ)(ドイツ語で代用品)と呼ぶ事にした。

 

そしてハイゼンベルクの知識通りに一人の素体を牢から出して村の奥にある工場の秘密の実験室に連れて行き早速ゾルダート制作の乗り出した。

手術着に着替えたハイゼンベルクは喧しく泣き叫ぶ素体にうっとおしく感じながらまず素体の胸部を切開する。素体から発せられる耳をつんざく悲鳴を無視しながら不要な臓器を取り出していく。

素体は絶命していてようやく静かになりハイゼンベルクはエイザッツを素体の胸に埋め込み経過を見守る。

エイザッツは失った臓器の代わりに動き出して肉体の隅々まで触手を広げていく…そこまでは良かったのだ。

 

ゴアアアアアアアアアアアアア!!!!!

 

絶命した素体がエイザッツによって再び蘇ったのだ。

その肌は灰色の染まり歯は鋭い牙が生成され手足の爪も鋭く伸びていた。

 

「な…なんだ! どうなってやがる!」

 

ハイゼンベルクは驚き素体を観察する。素体は拘束具によって身動きが取れない状態だが激しく暴れてる。

 

「なんてこった…! ()()()()()()()()()()()()()()のか…。

これじゃライカンじゃあないか!」

 

予想外の事にカドゥの代わりとして作ったエイザッツは死んだ素体の肉体を乗っ取り再び蘇らせたのだ。

厄介な事にこのライカン擬きは自我は無いが本能が強すぎるのかハイゼンベルク(自分)の制御があまり受けつかない有様だ。

制御が上手く出来ないのなら使い物にならない。やむを得ずハイゼンベルクはこのライカン擬きを「raubtier《ラウディティア》」(ドイツ語で捕食者の意味)と名付け別の牢の閉じ込めておいた。

 

 

 

御田村邸

ハイゼンベルクの部屋

 

「エイザッツを構成する菌の濃度が高すぎたのか…しかしこれ以上下げちまうとエイザッツが機能しなくなっちまう」

 

今日一日ハイゼンベルクは何度もエイザッツの調整しながら実験を行ったがあまり良くない結果だった。

11人の素体(鬼殺隊)のうち8人はラウディティアに変貌してしまい2人はエイザッツの菌の濃度下げ過ぎたのか機能せずに廃棄、残る一人は菌の濃度を上げたエイザッツを使ったが最初こそ上手く行ったが結局はエイザッツに支配されてしまい今まで以上に凶暴化してしまい目に付くものを無差別の襲い掛かってしまうという結果になった。ただ今までのラウディティアと違い子供の体系から大柄の成人男性まで成長し身体能力がかなり高くなったのでそこは評価した。

 

「まいったな…。ゾルダートなんてすぐに作れると思ったが完全な思い違いだった…。

原作のハイゼンベルクも結構苦労しながら開発したんだから当然か…」

 

原作のハイゼンベルクもかなりの試作誤差を重ねながらゾルダートを開発したのだから上手く行かなくて当然なのかもしれない。

 

「電圧の調整だってあるからな…。それは後にして今はエイザッツの調整だけだ…。

ゴールは見えないが何度もやるしかねえ…!

残る素体はあと9人か。

仕方ない…ギンとカナエを使って調達させるか」

 

実験の成功まで結構な素体が使う必要になりそうなのでハイゼンベルクは重いため息して就寝することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

一か月後

 

ハイゼンベルクの工場・手術室

 

 

「記録開始

今回で22回目の実験になる。

使う素体は適当に捕まえた鬼殺隊士だ。

それで『やめろ!!離せ!! 何をする気だ!!答えろ!!』 オイ!うるせえぞ!! 黙ってろ!!

えぇと…何だったかな? あぁそうだ… エイザッツを構成する菌の濃度を1.3倍にした。

今までの実験を検証した結果のこの濃度が最適と判断した。次に人工血液を『このクソ野郎!! お前らは皆殺しだ!! 絶対に許さない!!!』新たに…『聞こえないのかよ!!何とか言いやがれ!!!』・・・記録を一旦停止する」

 

さっきからうるせえぞ!!!このクソガキが!!!

 

「グェ…!」

 

ハイゼンベルクは喧しく叫ぶ素体の顔面を殴りつけた。

せっかく記録をつけようとしてるのにこの素体は喧しく叫び続けるのでハイゼンベルクはキレたのだ。

 

俺が!黙ってろと! 言ってるだろうが!!!

 

怒りが収まらないのかハイゼンベルクは素体の顔面を殴り続けた。

 

グシャ…!! ビシャア…!!

 

人外の腕力で殴られた素体の頭部は砕け散り血と脳漿が辺り一面にぶちまけた…。

 

「しまった…殺っちまった…

おい、この汚物(クソ)をさっさと炉に放り込んでおけ」

 

菌根兵に告げて次の素体も持って来いと命じた。

 

 

 

 

 

「記録再開する。

 

知識を元に人工血液を作り出した。

その結果は良好だ。エイザッツは素体の神経と筋肉に浸食していき尚且つ素体をラウディティア化させずにいる」

 

新たな素体は叫べない様に口に布を押し込まれてそのうえで猿ぐつわもしている。

おかけで静かで助かる

 

「…以上のように今度こそ上手く行くはずだ。

では早速始めよう」

 

ハイゼンベルクはメスを手に取ると素体である少女隊士は恐怖にそまり涙を流してる。

 

■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!■■■■■!!!!!!

 

メスが素体の胸を切開すると激痛に素体が暴れまわるが頑丈な拘束具で何重と縛られてるので僅かな動きしか出来ない。

 

「切開完了。

次は心臓を始め不要な臓器を取り除く」

 

素体の心臓と不要な臓器を取り除いていく。素体である少女隊士は激しく痙攣を繰り返す。

 

「よぉし…次はエイザッツを中に埋め込む」

 

ハイゼンベルクは手元に置いておいたエイザッツを掴むと素体の胸に埋め込む。

 

「次に人工血液をエイザッツに注入するぞ」

 

注射器をエイザッツに注入する。

 

「良い感じだ…。

エイザッツは問題なく神経と筋肉に取り込んでいく…。

素体のラウディティア化も起きてない」

 

以前ならこの辺りで素体がラウディティアとなって息を吹き返すが今のところはそんな事は起きていない。

 

「さて、素体の胸に制御装置を取り付ける。

ここが終わったら頭部にも制御装置を取り付ける」

 

知識で作った制御装置を素体の胸に取り付けて切開した場所を再び閉じる。

そして頭部にも制御装置を取り付けた。

 

「いよいよ電圧を流すぞ。

・・・上手く行ってくれよ 頼むぜ…。」

 

最早死体と化した素体に電圧を流し込む。

すると僅かだが素体が起きるが直ぐに倒れてしまう。

 

「…! 電圧が足りなかったか?

よし8800ボルトまで上げるぞ」

 

これで上手く行かなかったらゾルダート計画は諦めるしかない。

天に祈りながらハイゼンベルクは電圧を再び流し始める。

 

「………」

 

再び素体は起き上がる。

ゆっくりだが確実に起き上がっていく!

 

「良いぞ…!! そのまま起き上がるんだ!」

 

素体はベットから起き上がり足を地面に付けて立ち上がる。

 

「やった…! 遂にやったぞ!!!!成功だ!!!」」

 

ハイゼンベルクはあまりの嬉しさに大笑いする。

自分は遂に成し遂げたのだ。多くの失敗があったからこその喜びだった。

 

「遂に成功したぞ。この後は利き腕を切除して工業用のドリルを取り付けるだけだ。

数多くの失敗を繰り返したがようやくゾルダート計画は成功を一歩を歩んだ

今回はここまでにする。記録を終了する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に一か月後…。

 

「記録を開始する。

現在夜の11時。 いよいよゾルダートの実戦実験を開始する

此処にいる六体のゾルダートをこれから来る鬼殺隊にぶつけてどのような結果になるか見てみよう

囮役はギンに頼んで鬼殺隊をこの場所に誘導してくれるので後は待つだけだ」

 

実験成功から一か月経った。

今夜ハイゼンベルクは六体のゾルダートを使って実戦実験を行う事にしたのだ。

六体のゾルダートはそれぞれ利き腕が工業用のドリルを付けられている。

因みにハイゼンベルクは失敗作のラウディティアを使ってゾルダートの実戦実験を行っている。

結果はゾルダート一体でラウディティア三体を一分足らずで殺してる。

とはいえラウディティアは本能で動くので作戦の戦術もないのでただ一直線に向かってくるだけだった。

では人間である鬼殺隊ならどうだろうか?

彼らはゾルダートにどう立ち向かっていくのか?

そのうえでゾルダートが彼らは始末したならその実力が分かるだろう。

 

「もうじきギンが此処に来る。

ではゾルダートを配置する」

 

ハイゼンベルクは傍に佇むゾルダート達を命令するとゾルダート達は動き出し指示された場所に向かった。

 

 

 

 

ハイゼンベルクの指示を受けたギンは鬼殺隊隊士を支持された地点に誘導していた。

 

「逃がすな! 逃がしたらまた罪の無い人々が犠牲になる!」

 

誘いこまれてる知らずに数人の鬼殺隊隊士は必死になってギンを追いかける。

 

(フン… 相変ワラズ下ラネェ戯言ヲ言イヤガル…。)

 

馬鹿の一つ覚えみたいに叫ぶ隊士共にウンザリしながらギンは駆ける。

 

「ソロソロカ…」

 

ようやく指定の場所に着いたギンは足を止め隊士達が来るのを待つ。

 

「覚悟しろ!鬼め!!」

 

隊士達は()()()()()()()に何も疑問に思うことは無く日輪刀を構える。

何一つ疑問に思わない隊士達に間抜けぶりにギンは呆れる。

 

「所詮、阿保ノ集マリダナ。何モ疑問ニ思ワナイノカ?」

 

「何だと!」

 

ギンに馬鹿にされて隊士達は青筋を浮かべる。

怒りのままに飛び掛かろうとすると…

 

ザッザッザッザ

 

突如複数の足跡が聞こえ隊士達は警戒する。

周囲を警戒してると(ギン)の背後から人型の何かが現れる。

 

「な…何だ…アレは…!」

 

月の光に照らされてその異形が見えた。

それは()()()()()()()()()()体中に手術跡みたいな傷が並びその顔は口の部分には何かマスクなような物が取りつけらており頭部には妙な物体が付けられており最も異常なのは片腕が採掘で使うような巨大なドリルが取り付けられていた事だ…。

 

「ヒィ…」

 

鬼とは違う異形に恐怖する隊士達。

更に追い打ちをかけるように次々と異形な怪物が現れる。

 

頭部と目がスッポリと装置に覆われ唇が切除されて歯が剥き出しになってる者。

 

巨体だが胸に女性の特徴である乳房がある者。

 

全身に鉄の塊に覆われている者。

 

両腕がドリルのなってる者。

 

それぞれ特徴がある怪物が六体も現れたのだ。

 

「行ケ…奴ラ殺セ。」

 

ギンが命じると異形の怪物、ゾルダートはドリルを唸らせて隊士達に向かっていく。

 

「お…おい…!どうするんだよ…!!」

 

「やるしかない…!! 皆構えろ!!」

 

リーダー格の隊士が叫ぶと覚悟を決めたのか隊士達は刀を構えて臨戦態勢を取った。

ゾルダートはドリルで隊士達に襲い掛かる。

 

「グ…!」

 

隊士の一人はゾルダートのドリルを日輪刀で受け止めるが…

 

バキン!

 

「え…? ギャアアアアアアアアアアア!!!!

 

何と日輪刀は回転するドリルとゾルダートの膂力にあっけなく折れてしまい隊士の顔をガリガリと削り取ってしまった。

顔面を削った後は胴体の心臓の部分をドリルで突き刺して止めを刺す。

 

「…!? 駄目だ! 相手の攻撃を受け止めるな()()()()()()()()()!!」

 

肉塊となった隊士を見て他の隊士は戦慄しゾルダートの攻撃を必死に避ける。

一人の隊士がゾルダートの首を切断しようとするが…

 

ガギン!

 

「か…固い…! まさか体内に金属が埋め込んであるのか!?」

 

実はゾルダートの首には防御用に金属鉄板を埋め込んでいる。そうとも知らない隊士は切断しようとして失敗しただけではなくそのあまりの硬さに日輪刀が刃こぼれしてしまってる…。

首を切断することは出来ないことに隊士達の動揺が広がる。

あんなの一体どうすればいいのか…! 動揺は恐怖に代わって隊士達の戦意を消失させていく…。

 

「だ…ダメだ…! 勝てっこない!! 俺は逃げるぞ!」

 

隊士の一人がゾルダートの恐怖の勝てず逃げ出すが…

 

 

「ドコイクンダ?」

 

ギンがそれを見逃すわけがなく逃げた隊士を捕まえてゾルダートの方へと投げる。

待ち構えていたゾルダートは飛んでくる隊士の顔面をドリルで貫いた。

顔面を貫かれた隊士は激しく痙攣しながらそのまま息絶えた。

 

 

その様子をハイゼンベルクは眺めていたが…

 

「オイオイ… 相手が鬼じゃなければこんなに脆いものなのか鬼殺隊ってよ…」

 

残った隊士達は戦意がないのか避けてばかりで一向に攻撃をしようともしないのでこれでは話にならない。

 

「ハァ… 雑魚じゃあ話にならないな…。」

 

これ以上は時間の無駄だと感じハイゼンベルグは念話でギンにさっさと終わらせろと命じ命令を受け取ったギンはすぐさま残った隊士達を動けなくしてゾルダートに始末させた。

こうして鬼殺隊を使ったゾルダートの試験運転は失敗に終わりハイゼンベルクは村に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

浅草郊外 某所

 

「あ…ああ…」

 

尻もちを付き恐怖で涙を流しガチガチと歯を鳴らし酷く怯える鬼殺隊隊士。

月明かりで照らされば周囲には斬殺された隊士達が転がっており地面には血の海が出来上がっていた。

そしてその血の海と化した地面にパチャパチャと響かせながら蝶を飾りを付けた女性が近づいて来る。

 

「どうしたの? 抵抗しないの?」

 

返り血で鮮血に染まったその姿で怯える隊士に微笑みながら語りかけるが表情の裏腹にその言葉には何の感情が宿っていなかった

 

「ど…どうして…?」

 

隊士は知っている…目の前の女性を…。

鬼殺隊に居る者なら彼女を知らないはずがない。

何故なら彼女は鬼殺隊の最高戦力である【柱】の階級を持つ者で誰でも優しく鬼でも仲良くしたいとも言っていた人物。

そして一か月前の任務で行方不明となり今でも捜索されている人でもある。

 

「どう…してなんですか…? カナエさん…!!」

 

胡蝶カナエ。

鬼殺隊の【花】柱の名を持つ彼女は突如、自分達の前に現れて手にした日輪刀で有無を言わさず次々と仲間を斬殺したのだ。

躊躇もなく淡々をかつての仲間を斬り捨てたカナエは生き残った隊士の前に立つ。

 

「…これは決別よ…。

産屋敷に騙され続けた愚かな私への決別であり鬼殺隊への()()()()でもあるの」

 

「何を言っ…」

 

言い切る前にカナエは隊士の首を刎ねた。そして頭上に飛び回る鎹鴉に目を向け・・・。

 

「そう…これは宣戦布告…。

産屋敷に伝えなさい。 お前の悪行を私は許さない…!

必ずその首を取りに行くと」

 

鎹鴉はその言葉を受け取ったのかバサバサと夜の空を消えていく。

それを見届けるとカナエもまた漆黒に夜に消えていった。




胡蝶カナエ

ハイゼンベルクに捕まり自身の考えと鬼殺隊の矛盾を付かれ更に産屋敷の真実を聞かされて今まで自分が信じてきた信念や理想が砕け散り一転して鬼殺隊を嫌悪し産屋敷に対しては激しい憎悪を抱くようになる。
今の彼女は産屋敷一族を根絶やしすることに執念もとい自身の存在理由としておりその為ならかつての仲間を斬殺することに一切の躊躇がない上に必要とあらば拷問すら辞さない冷酷な性格に変貌してしまってる。
まだ妹を始めとした蝶屋敷の者達には愛情が辛うじて残っているがもしも自分の邪魔をするならその愛情は消え失せカナエは淡々と家族を斬り捨てるだろう。

因みに治療の際にハイゼンベルクは菌を使っており本人はまだ自覚が無いが徐々にその肉体は人間のそれとは乖離しつつある。



ギン

ハイゼンベルク配下の鬼。
ハイゼンベルグは自身の力を試してる最中に出会う。
当初は他の鬼と同様に始末しようとしたが菌の力で味方に出来るのか気になり始末するのは止めて捕獲して研究所に連れ込み菌根から取り出した菌の植え付けた。
その結果、鬼の力と再生能力はそのままに無惨の呪いが消滅しただけではなく太陽の光すら克服している。
菌によってハイゼンベルクに絶対的な忠誠を誓っており彼の命令で鬼殺隊を呼び出す囮にもなってる。
鬼血術は自身の肉体を硬化するもので硬化した肉体は日輪刀や銃弾すら弾く固さである。

ゾルダート

バイオハザードヴィレッジに登場した生物兵器で人間と機械を組み合わせた異形の怪物。
ヴィレッジでは夜な夜な墓荒らしで材料となる人間の死体で作ったが今作のゾルダートは主に鬼殺隊隊士と鬼をベースにしている。
ヴィレッジではカドゥという寄生生物を使っていたがこのこの世界ではカドゥがないのでハイゼンベルクは新たに代用品となるエイザッツという菌根から作り出した菌の塊を使って製作している。
原作の知識も持っても製作にはかなり苦労した。

ラウディティア

カドゥの代用品であるエイザッツを使った際、素体と適応せずにエイザッツが素体の肉体を乗っ取りその肉体を蘇生させて誕生するモンスター。]
とにかく凶暴で目に付くもの無差別に襲う。
食欲も高く獲物を見つけたら一直線に向かい鋭い牙や爪で獲物を屠る。
ただし本能で動いているので知能は低く武器も道具も扱えないので生物兵器としては価値が低い。そのためにもっぱら人間の死体処理として扱っている。

ヴィレッジでいうライカンに当たるモンスター。

エイザッツ

ハイゼンベルクがカドゥの代わりとして作った菌の塊。
人間の死体に取り付くと体内で増殖して神経や筋肉を取り込んでいき内臓や脳を再び動かす事が出来る。
ただしエイザッツが素体を完全に支配してしまうと失敗作のラウディティアになってしまう。
ハイゼンベルクはエイザッツの菌の濃度を下げ各種薬品も使ってようやくゾルダートの完成に漕ぎつけた。

エイザッツはドイツ語で代用品という意味である。



次回 柱会議


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柱会議

今回の話は柱階級のオリキャラが出てきますがヘイト要素が高いですがそれでも良かったらどうぞ


とある山に建つ大きな日本屋敷。

 

この屋敷こそ鬼殺隊の首領である産屋敷一族が住まう屋敷で鬼殺隊の本部でもある。

そして今、この屋敷には産屋敷一族の当主で鬼殺隊の首領である産屋敷耀哉と10人の隊士が集まっていた。

 

「お早う子供達 半年ぶりに顔を合わせられてとても嬉しいよ」

 

「お館様もご壮健そうで何よりでございます」

 

屋敷に庭には9人の隊士がいた。

 

水柱 冨岡義勇

 

蟲柱・胡蝶しのぶ

 

炎柱・煉獄杏寿郎

 

音柱・宇髄天元

 

霞柱・時透無一郎

 

恋柱・甘露寺蜜璃

 

蛇柱・伊黒小芭内

 

風柱・不死川実弥

 

岩柱・悲鳴嶼行冥

 

 

知恵柱有坂 勇三郎(ありさか ゆうさぶろう)

 

彼からこそ鬼殺隊最高戦力である柱階級の猛者達である。

 

 

「では早速会議を始めようか。」

 

「はっ!」

 

挨拶もソコソコに当主である産屋敷耀哉は直ぐに会議を始めた。

 

「始めに言っておくけどこれから話す内容はどれも暗いものばかりだから心して聞いてほしい」

 

「「…」」

 

暗い話…此処にいる全員がどんな話なのか検討がついてる…。

 

「この一年間、鬼殺隊の被害が大きくなってるのは知ってるね?

鬼によってではない。謎の勢力によってだ」

 

「…」

 

謎の勢力。

一年前に突如現れて自分達、鬼殺隊を攻撃してきた者達だ。

 

「彼らによって鬼殺隊は大きな打撃を受けてしまい鬼狩りの任務に支障を起きてしまいそのせいで柱である皆に大きな負担になってしまっている」

 

現在、鬼殺隊は非常にマズい状態だ。

一般隊士が大勢殉職または行方不明になるかで鬼狩りの任務がまともに機能しなくなってしまい最高戦力の柱達が何とかその任務を処理してるが碌な休息が取れない日々を送っている。

さらに現場の後処理をやってくれる(かくし)達にも犠牲が出ており彼らも人手が足りず後処理にも支障が出ている有様なのだ。

簡単に言えば鬼殺隊は深刻な人材不足に陥っているのだ。

 

「悲鳴嶼が言うにはその勢力を率いているのはハイゼンベルクという人物だそうだ」

 

ハイゼンベルク

耀哉から伝えられるその名に柱達はザワりつく

 

「ハイゼンベルク…? ソイツが親玉って事ですか?」

 

顔に大きな傷を纏う青年、風柱の不死川実弥だ。

 

「うむ…奴が異形の軍勢を率いていたのだ」

 

数か月前にハイゼンベルクと交戦し大怪我を負いつつも何とか戦線復帰を果たした岩柱の悲鳴嶼行冥は言う。

 

「異国の方かしら? でもどうして鬼殺隊を襲うのかしら?」

 

際どい服装をした女性、恋柱の甘露寺蜜璃は考えるが答えは出なかった。

 

「どっちにしろ鬼殺隊は派手にヤバい状況だぜ…。」

 

鬼殺隊の現状に危機感を覚える音柱で元忍の宇髄天元。

 

「その通りだ! 幾ら柱である俺達も限界はある!」

 

宇髄と同じく今の鬼殺隊の現状に憂いている炎柱・煉獄杏寿郎

 

「どうでもいいかな… 行けと言ったら行くだけだし…」

 

眠そうな表情を崩さない霞柱・時透無一郎

 

「だが隊士の質が悪かったのもある… こんな短時間にこれほど死ぬなど質が悪いにも程がある!

育手の質が低くなった証拠だ…それも…」

 

隊士の質が悪いのは育手の育成が悪いと苛立つ蛇柱・伊黒小芭内

 

「蝶屋敷でも怪我人が増えすぎて手が追い付かないだけではなく怪我が治っても後遺症で前線に復帰出来ない人が多いです

人手が無くなるのはやむを得ないでしょう」

 

激増した負傷者のせいで碌に眠れてなく目にクマが出来ている蟲柱・胡蝶しのぶ

 

「…(ハイゼンベルク…。一体何者なのだろうか? 鬼殺隊を襲撃する理由は何だ?

それに奴らは鬼殺隊だけではなく鬼にも攻撃を加えていると聞く…何が目的なんだ…?)」

 

口には出さず心ではハイゼンベルクという人物の目的を考えている水柱 冨岡義勇

 

「育手の皆には出来る限り人材を最終試験に送るように伝えているけど人手不足は当分の間は続くだろうから皆には苦労を掛けて済まないね…」

 

産屋敷も今の鬼殺隊の不味さが重々承知しており何とかしようと足搔ている。

 

「お待ちくださいお館様」

 

ただ一人産屋敷に異を唱える青年がいた。

 

「何だい? 有坂

 

それは【知恵柱】とである有坂勇三郎だった。

有坂家は煉獄家と同じく産屋敷家に仕えて鬼狩りを生業とする一族で現在、勇三郎はその当主であり鬼殺隊の大きな影響力を持ってる人物でもある。

 

「お館様… 無礼を承知で進言いたします

鬼殺隊の最終選別ですがアレはもう()()()()()です」

 

「それは…どうしてだい?」

 

有坂の言葉に一瞬だが言葉を詰まらせる産屋敷…。

 

()()()()()()だからです

30人以上の候補がいて生きて帰れるのがたったの2~3人で下手したら誰一人戻りません。

そして鬼殺隊に入隊しても高すぎる死亡率のせいで直ぐに居なくなってしまいこれでは人手不足になるのは当たり前です。

100歩譲ってやるのはいいですが柱または経験豊富な隊士を監視役として配置はすべきです。

候補者達は鬼殺隊の将来を背負う者達です。そんな彼らを犬死させるなど愚の骨頂です!」

 

「…」

 

産屋敷は黙って有坂の言葉を聞いている。

 

「重ね重ね言いますがお館様はあの藤襲山を管理出来てるとは思えません

周りの藤の花が覆っているから鬼は出られないと思っていますがそれは絶対でしょうか?

あの山に居る鬼は全て弱い鬼でしょうか? そこの調査は出来ていますか?」

 

「それは…」

 

「おい! てめぇ…!お館様に対してどういう口を聞いてんだァ!」

 

有坂の言葉に言葉を詰まらす産屋敷にそれを見た不死川実弥は有坂に食ってかかる。

 

「ですから私はあの山で行う最終選別は無駄で非効率だと言うのです!

そんな選別の仕方より我々柱が直々に候補者達を試験または鍛錬を施して選別をするのです。

少なくともそのやり方の方が候補者達の無駄死にさせず多くの有能な人材を見つける事が出来るでしょう」

 

「おい! 無視すんじゃねェ!!」

 

不死川の怒りなど無視して有坂は自分の考える鬼殺隊の改革を産屋敷に進言するがソレを見た不死川はますます有坂に怒りをぶつける。

その不死川にうっとおしそうにチッと舌打ちをして不機嫌な表情で有坂は不死川実弥に顔を向ける。

 

「さっきからうるさいぞ! 私は今お館様に話してるんだ! 能無しのお前には分からない話だから黙っていろ!」

 

あァ!!」

 

有坂に能無しと言われブチ切れた不死川実弥は日輪刀を抜こうするが

 

「たく…! いい加減しろよお前らよ!」

 

それを止めたのは宇髄天元だった。

心底ウンザリした顔で不死川と有坂を睨みつけ他の者達もまたか…と溜息ついて二人を見る。

 

不死川実弥と有坂 勇三郎

この二人は顔を合わせる度にコレなのだ…。

大きな理由としてはまず二人の思想の違いだ。

不死川は言葉が悪く粗暴に見えるが正義感が篤く礼節と和を重んじるのに対して有坂は相手が先輩だろうが鬼殺隊の首領である産屋敷に相手でもズバズバと自分の意見を言うのだ。

有坂の行動は不死川からみれば組織の和を乱し礼節が欠けている物で容認できないし何より産屋敷に対して人一倍忠義を抱いており彼にとって産屋敷を愚弄するかのように意見する有坂に怒りを抱いて当たり前だった。

 

一方有坂は目上の者でも関係なく意見を言うし反論もするが言ってることは正しいし適切な意見だから相手はあまり強く言えないのだが言われた相手は彼に対してあまり良い感情が抱けないのだ

また有坂は任務に行く際は必ず数人の隊士を同行させ地形を見て作戦を考え不利だと悟ったら直ぐに自身が殿を務めて退却するなど隊士の生存を重視しているので彼の隊は生存率がとても高いのだ。更に有坂は鬼殺隊の非合理な組織体制と殉職率の高さを問題と見ており産屋敷に積極的に鬼殺隊の改革を訴えている。

 

しかしそんな彼にはある問題があった…それは鬼殺隊隊士の生存を重視するあまり時には作戦の為に一般人の犠牲にしたことがあるのだ。

勿論、有坂は一般人の犠牲が出る前に鬼を仕留める事が目標にしているのだがある任務での話だ。

相手があまりにも強い鬼だったために有坂は直ぐ撤退したのだがその鬼はその日の夜に集落の村人を数人食い殺したのだ。

その鬼は翌日、作戦を立てて対抗策もしたの有坂と隊士達に容易に討ち取る事が出来たのだが、それを知った不死川実弥は激怒し柱会議の裁判で有坂を切腹を申し立てたのだ

実弥だけではなく他の柱達も有坂勇三郎の行いに怒りを抱いていて実弥の意見と同調していた。

これに対して勇三郎は…

 

あの撤退は正面では確実に敗北するため無意味な犠牲になるだけで同行した隊士達の生存を重視した上だった。あのまま戦えば自分達を全滅してただけではなく鬼の糧となり強くなった鬼によって後続の隊士達が犠牲になる可能性が高かった。

 

撤退はしたが自分は鬼の監視は一切怠っておらず直ぐに討伐出来るようにしており事実は我々は直ぐに標的の鬼を討伐している。隊士達は一切犠牲になっておらず集落も一家族は犠牲になったが集落全体から見れば最小限の犠牲で留められた事

 

このように真向から反論し自分と隊士達に非は無いと言い勇三郎の反論に産屋敷と柱達は呆気に取られてしまった。

更に…

 

此処にいる者達は自分を死罪と言ってるがそもそも鬼殺隊は政府非公式の組織であり隊規も法的拘束力もない。よって自分はそれを受ける必要もなく此処にいる全員に自分を死罪にする資格もない。

どうしても死罪にしたいなら正式に裁判所で大日本帝国の憲法と照らし合わせ裁判官に自分の所業を伝えて判決を下せばいいだろう。

自分は間違ってる事は言っているだろうか?

 

鬼殺隊の隊規など何の価値もないと宣言したのだ。

この言葉に実弥と杏寿郎、小芭内は青筋を立て目は血走り怒りに震え今にも飛び掛かろうとしてた。

 

天元と行冥は勇三郎の言い分には一理あり派閥の事を含めて冷静に考えていた。

 

しのぶと蜜璃は実弥と杏寿郎と小芭内の三人に冷静になってと諫めていた。

 

義勇と無一郎はどちらも中立を取って産屋敷の判断に任せる事にした。

 

「…」

 

産屋敷耀哉は座敷で混沌と化した庭を見つめて冷静に考える。

確かに勇三郎の言葉に間違いはなく自分達に彼を死罪にする資格などない。

とは言え(勇三郎)が罪なき一家族を犠牲にしたのは事実でありなんの咎が無ければ鬼殺隊の中から納得しない者が出てきて()()()()に発展するだろう。

何故なら鬼殺隊は二つの派閥が出来てしまっているからだ。

 

一つは従来と同じく悪鬼滅殺を掲げ罪なき人々を鬼から守り隊規を絶対とする保守派。

 

もう一つは勇三郎が筆頭とし隊規を廃止させ鬼殺隊の改革を訴えて組織を生まれ変わらせようとする改革派。

 

この二つの派閥が勇三郎の処罰を難しくしてる…。

もしも実弥の言う通りに勇三郎を処刑したら間違いなく改革派は黙ってないだろう…。

逆に保守派は勢いづき改革派を潰そうと躍起になり改革派はそれに抵抗して泥沼の抗争に陥り鬼殺隊は瓦解…自滅するだろう…組織の長としてそんな事は絶対に許すわけにはいかない。

考えに考えた耀哉は勇三郎に半年間の謹慎処分にした。

実弥を始めとした数人は産屋敷の判決に猛反対したが天元と行冥が反対者を宥めて落ち着かせた。

こうして勇三郎の柱裁判は終わりを迎えたのだった。

 

 

 

こういった確執があって柱達だけではなく鬼殺隊は隊士同士なのにギクシャクな関係になっており天元と行冥は苦心しながらその場を治める緩衝材として動いていたのだが現在は人手不足によってその役目が果たせず勇三郎はこれを生かして改革派の勢力増大に成功させており勇三郎は鬼殺隊の中で首領である産屋敷に匹敵する影響力を誇っていた

 

「お館様。鬼殺隊もいつまでも古臭いやり方と下らない隊規に縛られていてはなりません

戦国時代ならともかく今は大正です。鬼殺隊も時代に合わせて変わらなければなりません。

組織を改革し政府公認の組織となり国家一丸となって鬼、無惨を討伐するのです」

 

これこそ勇三郎を始めとした改革派が目標とするもの…鬼殺隊は国家公認の組織となって政府と共に鬼を討伐することである

 

「有坂! 前も言ったはずだろう!!

我々は政府と手を組む必要はない!! 」

 

勇三郎の言葉に反論する杏寿郎。

 

「杏寿郎。現実を見たらどうだ?

鬼殺隊は1000年も無惨を追いかけてるが一向に討伐出来てないじゃないか。そもそも鬼という凶悪な生物を一華族が対処してるのがおかしいんだぞ?

こんな泥仕合いつまで続けると言うんだ?」

 

「…ッ」

 

「お館様。どうかご決断を…

このままでは無惨を討伐するなど不可能です。」

 

「…」

 

「何を黙ってるのですか! 貴方もこのままだと無惨を討伐するのは不可能だと分かっているはずです!!

無惨だけではない! ハイゼンベルクという輩にも対処も出来ません!!」

 

押し黙る耀哉に勇三郎は声を荒げる。それを見てた柱達も落ち着くように宥めるが…

 

「これだけ言っていると言うのにまだお分かりにならないのですか!!

良いですか…! 貴方は、我々鬼殺隊は今、崖っぷちの窮地に陥ってるのです!

このような状況だからこそ私は改革を訴えておるのです!!」

 

「…」

 

「ッ!!

何も決断を下せないのなら鬼殺隊の指揮権をどうかこの私にお譲りください!! 貴方は資金を与えるだけで構いません!!」

 

判断を下さない産屋敷に勇三郎は不満が溜まっていき鬼殺隊の指揮権を渡す様に要求した。

 

「有坂ァ手前ェ…!!いい加減にしやがれェ!!!」

 

余りにも無礼な勇三郎に実弥は我慢の限界だった。

実弥だけではない… 杏寿郎や小芭内、周りを抑えていたと天元と行冥、中立の義勇と無一郎ですら勇三郎に怒りの目を向けていた。

しかし勇三郎は怯まない。

 

「何がいい加減にしろだ? お館様はこの状況に判断が出来ないからいっそ私に指揮権を渡せと言っただけで何が問題だ?」

 

「いい加減にしろ!有坂! お館様あってこその鬼殺隊だぞ!!

お前の態度は最早擁護出来ぬ!!」

 

「悲鳴嶼の旦那の言う通りだぜ。いくら何でもやり過ぎだって分からねぇのか!」

 

「お前は柱でありお館様は主君だ…お前の先ほどの行動は裏切りだぞ」

 

今まで周りを抑えていた行冥と天元は有坂に我慢の限界だった。

勇三郎の発言は産屋敷もとい鬼殺隊の裏切りだと怒りを向ける小芭内。

 

「先程の発言は捨て置けん!! お前はお館様を何だと思っている!!!」

 

代々産屋敷に仕えてきた煉獄家の杏寿郎は激怒していた。

 

「有坂さんには薬を件では感謝してますが今のは見過ごせません! いくら何でも言い過ぎです!」

 

「みんな止めて!! 喧嘩なんか駄目よ!!」

 

しのぶも勇三郎の発言に怒りを見せており蜜璃は何とか周りを宥めようと必死だった。

 

「どいつもこいつも随分と偉そうな口を聞いてるが何もわかってないようだな…」

 

「何だと…!」

 

周りの怒りに勇三郎は呆れたような言葉に義勇は訝しむ。

 

「分かってないようだから言ってやるがお前達は柱になって何をした

言ってやろうか。ただ鬼を狩っていただけだ

 

「何が言いたい…?」

 

無一郎は反応する。

 

「私は柱になってからも鬼を狩りながらも鬼殺隊をどのように改善しようかと常に考えていた。

どうすれば隊士達の殉職率を下げられるのかどうすれば効率よく鬼と戦えるのかどうすれば隊士の質を上げられるのかとな

だから思いついた事を他の隊士達の意見を聞いて時には隊士達に相談もした。」

 

「…」

 

全員が黙って勇三郎の言葉を聞く。

 

隊士の質を上げる為に定期的に私自身が隊士達の鍛錬を施し生存率を上げる為に部隊を組ませて連携出来るようにした

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と違ってな

 

「…ッ!」

 

見下す様に伊黒小芭内を見る勇三郎。

 

「お前達はどうだ? 私は柱として任務をこなしながら鬼を討伐し鬼殺隊の戦力強化と効率化を進める事が出来たぞ。」

 

「「「「…!」」」」」

 

「事実私が手ほどきした隊士達は次々と鬼を討伐しながらも生存もして戦果を上げ続けている。

今の鬼殺隊は人不足ながらも何とか回っているのは私の部下達が補助してくれてるからだ。

一方 保守派とか言われてる奴らはどうだ? 任務に行っては死んでいきどんな敵なのか情報を残さない。人々を守るなど言いながら相手の実力の差を理解せず無計画に突撃して死んでいく…無意味な自己満足しながらな」

 

「貴様…! 彼らを侮辱する気か!!」

 

死んでいった隊士達を馬鹿にするように言う勇三郎に杏寿郎は殺意をむき出しにする。

 

「事実だろう? だからこんな状況になってるんだぞ。」

 

「くっ…!」

 

「分かったか? 鬼殺隊がこうしてギリギリながらも持ちこたえているのは私と部下達のおかげだぞ。

だがそれでも何とかしようと必死に考えてる中、貴様らは何だ? 鬼殺隊の現状を理解してないのかお館様お館様と馬鹿の一つ言葉でイチイチ私に突っかかり邪魔ばかりをする…!

ハッキリ言ってやる! 何もしない貴様らは私を批判する資格などない!!!

私を批判したいなら少しでも鬼殺隊の改善を考えたらどうだ!!!」

 

勇三郎はそう言って屋敷の外へと向かっていく。

 

「待て有坂! 柱会議は終わっていないぞ!!」

 

「こんな無意味な会議など時間の無駄だ!隊士達の鍛錬を施した方がずっと有意義だ!! 」

 

有坂!!!!」

 

行冥は呼び止めるが有坂は立ち止まる事はなく屋敷から出ていったのだった…。




有坂 勇三郎(24歳)

15歳に鬼殺隊に入隊。
両親は煉獄家と同じく代々産屋敷一族に仕えて鬼狩りを家業としてきた一族である
両親も鬼殺隊だったので彼もまた鬼殺隊として鬼狩りにすることになった。
しかし入隊して直ぐに鬼殺隊の組織の歪さと非効率に不満を持ち始めた。
入隊して間もないのにたった一人で鬼を討伐してこいの無茶ぶりに辟易して必ず組織改革をすると強く誓った。

柱となった彼は直ぐに組織改革のために様々な案を当主である産屋敷に伝えて改革を迫ったが産屋敷は乗る気が無いのか非効率な組織運営を中々変えず彼を苛立たせている
他の柱とはあまり仲が良くなく特に【風柱】の不死川実弥とは犬猿の関係で殺し合い寸前まで行ってしまいその度に悲鳴嶼行冥や宇髄天元が間に入って二人を諫めている。


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柱会議2 二つの決意

知恵柱・有坂勇三郎は屋敷から出ていってしまい周りは静粛に包まれる。

 

悲鳴嶼行冥は深いため息をして天を仰いだ。

行冥は勇三郎の実力を認めているし意見だって大いに賛成出来るのだが如何せん鬼殺隊の在り方、悪鬼滅殺の信条など何もかも変えてしまうものであり行冥自身、勇三郎の考えに理解は出来るが鬼への憎悪で上手く受け入れる事が出来ずにいた。

自分ですらこうなのに誰よりも悪鬼滅殺を掲げる不死川実弥が勇三郎の改革を受け入れるなど不可能だった。

不死川から見れば勇三郎の改革は鬼殺隊の信条を破壊するも同然で組織の和を重視する彼にとって勇三郎は鬼と同等の敵でもあった。

 

宇髄天元も行冥と同じく疲れ切った表情だった。

 

アイツ(有坂勇三郎)が言いたい事は派手に分かるが言い方っていうのがなぁ…)

 

確かに勇三郎の改革は損耗率が高い鬼殺隊を改善し生存率を上げており鬼の討伐など以前と違って犠牲が少なくなり効率よく討伐出来るようになった。それは天元も認めておりハイゼンベルク一味の攻撃でズタズタな状態の鬼殺隊が何とか存続出来てるのはひとえに勇三郎と彼の部下達に奮闘のおかげである事も認めている。

だがそれでも言い方というのがあるだろう… 先ほどの主君である産屋敷に対する不敬とも言える態度と言動…鬼殺隊の隊士は多くが産屋敷に慕い忠誠を誓っており特に柱は誰よりも産屋敷への忠誠と尊敬の念が高いのに関わらず勇三郎の態度と言動は決して受け入れられない当然だし食って掛かるのは当たり前なのに勇三郎はそんなの知った事かと言わんばかりの行動なのでますます溝が深くなってしまっている。

また勇三郎は隊士の生存を重視し任務達成の為なら一般人の犠牲すら容認しているがそれも「強き者が弱き者を守るのが責務」を信条する煉獄を始め人々を鬼から守りたい隊士にとっては決して受け入れることが出来ない。

面倒なのは勇三郎だけではなく彼を慕う隊士達、改革派の隊士達も同じような考えを持ち更に産屋敷より勇三郎に忠誠を誓って慕っている事だ

当然ながらそれで他の隊士達とイザコザと頻繁に起きておりいがみ合ってる有様だ。

何とかしないと仲裁に回るこっちが持たない…。

 

 

行冥と天元が考えてる中…

 

「あの野郎ォォ…!!!」

 

不死川実弥は煮えたぎる怒りを抑えずに目が血走り勇三郎への怒りが隠せなかった。

 

「お館様!!

先程の有坂の言動と態度はお館様への反逆と言っても過言ではありません!!

即刻、あの男を隊規に従って切腹を申し付けるべきです!」

 

実弥と同じく怒りを隠せないのが煉獄杏寿郎だ。

杏寿郎にとって有坂は考えは決して容認することなど出来なかった。幼い頃に死別した母と交わした言葉…「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務」最愛の母から交わした約束でもある。

この言葉を信条にする杏寿郎にとって勇三郎とその配下である改革派の任務の為なら一般人(弱き者)を切り捨てるやり方を絶対に黙認など出来る訳がなかった。

隊規に従って切腹をさせようと産屋敷に迫るが…

 

「それは出来ない…」

 

産屋敷耀哉は杏寿郎の案を拒否した。

 

「な…何故!!」

 

「煉獄…どう考えてもそれは無理だ…」

 

「どういう事だ!」

 

富岡義勇も杏寿郎の案は無理だと言う。

 

「勇三郎は居ないと駄目だ…」

 

「何だと!」

 

「富岡ァ…手前ェまでアイツの肩ァ持つつもりかァ…!」

 

「そんな気はない」

 

「あぁ!」

 

言葉足らずな義勇の言葉に実弥は馬鹿にされたのかと怒り出す。

そんな義勇に助け船を出したのが天元だった。

 

「不死川に煉獄。お前らは有坂の奴が鬼殺隊でどれだけ隊士共に慕われてその影響力を持つのか知らねぇのか?

仮にお前らの言う通りにして有坂に腹を切らせてみろ…有坂を慕う改革派の奴らがブチ切れて鬼殺隊から脱退するぞ

いや…脱退だけで済めばいい方だ。下手したら改革派の隊士共がお館様だけではなく俺達にも刀を向けてくる

そうなったらこっちも応戦しなきゃならねぇ…例えこっちが勝ってもそん時には鬼殺隊が組織として体を成していない

鬼殺隊は瓦解するだけだ…つまり自滅して終わりなんだよ」

 

「彼の言う通りだよ。有坂は鬼殺隊に大きな貢献していている上に組織に必要な存在でもあるから排除なんて以ての外だよ

それに有坂の言ってる事は間違っていないし切腹は行き過ぎだ」

 

「しかし…!」

 

実弥は尚も耀哉に言うが天元に諫められて渋々と引き下がった。

 

「有坂に関しては後にしよう…

まだ皆に伝えなければならない報告があるからね」

 

勇三郎でかなりズレてしまったがまだ柱の皆に伝えなけばならない事があった。

残った柱達も気を取り直して耀哉の伝えようとしてる事に耳を傾ける。

 

「これは…皆に伝えるべきか悩んだが事態が事態に隠すのはよろしくないと判断して皆に伝えるよ。

今から言うのは良い事でもあるが同時に悪い話でもあるんだ」

 

「それは一体…?」

 

耀哉は目が見えないものの胡蝶しのぶに視線を出す

急に耀哉が自分を見るので何なのか不安になる。

 

「落ち着いて聞いてほしい…。

実は先週、半年前に行方不明となった胡蝶カナエが生きている事が確認出来た」

 

「!?ほ…本当ですか! 姉さんが生きているんですね!!」

 

姉が生きている!

その報告を聞いた妹のしのぶは歓喜の表情に彩られる。

 

半年前…行冥と共に任務に取り掛かった姉のカナエが行方不明となったと聞いた時は自分も××山に向かおうとしたのだが義勇に「お前が行っても足手まといだから待っていろ」と強引に引き留められ渋々と蝶屋敷に待機した。

その後、行冥は瀕死の重傷を負って蝶屋敷に担ぎ込まれしのぶは行冥に姉の行方を聞きたかったがとても喋れる状態ではないので懸命に治療を施した。その甲斐があって行冥は何とか意識を取り戻したがまだ予断が許されないので喋れる状態になるまで我慢強く待ち続けた。

その後、峠を越えた行冥から姉の事を聞いた。

 

「カナエはハイゼンベルクという男に攫われた」

「自分が居りながら助ける事が出来ず済まない…」

 

と何度もしのぶに頭を下げて謝罪する行冥を見てしのぶは彼を責める事が出来ずその場を後にした。

そして姉は生きていると信じて捜索願を出して姉の無事を今日まで祈り続けていた。

 

「良かった…本当に良かった…!」

 

大粒の涙を流して喜ぶしのぶに耀哉は胸が締め付けられる思いを抱く。

 

本当に言って良いのか…?

今から話すのは彼女(しのぶ)()()()()()()()()()()()()()()なのだから…。

 

耀哉は苦悩する…。

そんな耀哉の様子に一部の者は訝しむ

 

「お館様…顔色が優れないようですが…」

 

哉耀の様子には一早く気付いた義勇は言葉を出す。義勇の言葉にしのぶや周りの柱達も産屋敷の様子がおかしい事に気付く。

その様子を見た耀哉は意を決して伝える事を決心する。

 

「カナエは確かに生きていたが…だけど…残念だがカナエはもう()()()には…()()の元に帰って来る事はない…」

 

「どういう…事ですか…?」

 

しのぶや周りの柱達も嫌な予感が膨れ上がっていく…

 

「カナエは…カナエは先週、任務中の六人の隊士達を斬殺し鎹鴉に向けて私に宣戦布告したんだ」

 

「!?」

 

耀哉の発せられた言葉に一同に激震が走った。

 

「まさか!本当なのですか!お館様!!」

 

「信じられん…!カナエが…鬼殺隊を裏切ったというのか!!」

 

「そんな…カナエさん…」

 

実弥、杏寿郎、蜜璃は信じらない言わんばかりに唖然とする。

 

「…!!!」

 

己が未熟だったからカナエは救えずこのような最悪の結果を招いてしまったのだと行冥は体を震わせ己を激しく責めた。

 

「こいつは…派手にシャレになんねえぜ…」

 

まさか鬼殺隊に、しかも柱が敵側に寝返った事に天元は想像する限り最悪の展開に戦慄する。

 

「カナエさんが…僕達の敵になったの?」

 

「カナエ…何故だ…」

 

流石の時透無一郎も事態の大きさに戸惑い義勇はカナエが敵になった事に悲しむ。

 

「ッ!! よりによって柱たる者が敵に寝返るとは! 恥晒しが…!!」

 

鬼殺隊の最高戦力である柱が敵側に寝返る事に激しい怒りを抱く伊黒小芭内

 

「…そだ…」

 

そして胡蝶カナエの妹であり蟲柱である胡蝶しのぶは…

 

「嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だ…」

 

嘘だ…

何度も同じ言葉繰り返して心あらずの姿だった。

 

「胡蝶…!」

 

「嘘だ…嘘だ…そいつは姉さんじゃない…!!

姉さんがそんな事するわけがありません!!!」

 

最愛の姉が鬼殺隊を…自分達を裏切った…。

そんな現実を受け入れらないのかしのぶは叫んだ。姉がそんな事をするわけがないとあらん限りに叫んだ。

 

「お館様! 鎹鴉が見たのはカナエ姉さんに化けたです!! きっと鬼血術で姉さんの姿に化けて私達を混乱させるのが目的なんです!!」

 

姉の無実を訴えるかのように鴉が見たのは姉に化けた鬼だと耀哉に叫んだ。

 

「…」

 

「お館様! お願いです…!信じてください! ならば私が行ってその鬼を討ち取ってご覧に入れます!!

そうすれば…「胡蝶やめろ!!」 !?」

 

「やめろ胡蝶 そんな事は無駄だ」

 

取り乱すしのぶを諫めたのは義勇だった

 

「ッ!! 何を言うんですか富岡さん…! 貴方に何が分かるんですか!!!」

 

「落ち着けと言っている

お前の言う通り鬼だとしても何処を探すというんだ? 闇雲に探しても見つからないぞ」

 

「それは…」

 

「本人だったならどうする…?

お前は…()()()()()()()?」

 

「…!?」

 

姉を斬る…

その言葉にしのぶは押し黙ってしまう。

しのぶの言う通り隊士達を斬殺したのが(カナエ)に化けた鬼だとすると何故隊士達の遺体を食らわなかったのか?

鬼は餓えており好物の人間を食わないのは可笑しい…。

そしてしのぶは斬殺された隊士達の遺体を見たが斬り傷は相当な熟練者によって付けられた傷だったのだ。

姉に化けたその鬼は相当な使い手であり真っ向勝負で勝てる相手ではないだろう。

 

しかし本当に姉のカナエが隊士達を斬殺したなら姉は鬼殺隊(自分達)の敵であり討たなければならない存在だ…。

果たして自分に姉が討てるのか?

姉は鬼殺隊の最高戦力の柱だ…剣術なんてそれこそ凄まじいもので真っ向勝負なんかしたら自分と姉…どちらに軍配が上がるのは火を見るより明らかだ…。

何より…この世にたった一人の肉親であり最愛の姉を斬る…?

 

「そんなの…」

 

出来る訳がない…!!!

 

「…!」

 

唇を噛み締めるしのぶ。

 

「お前の気持ちは派手に分かるけどよ…現実は見た方が良い。

じゃなきゃ地味に死ぬだけだ」

 

天元はしのぶを気にかけながらも厳しい言葉を投げる。周りの者もしのぶを痛ましい眼差しで見つめていた。

花柱・胡蝶カナエの離反に全員が悲痛な気持ちになった。

 

「…これは非常にマズい状況だ。有坂の言う通り私達は正に崖っぷちに立っている

この状況を打破するには隊士同士いがみ合ってる場合ではない。一致団結しなければ私達の敗北だ」

 

鬼殺隊は有坂率いる改革派と産屋敷を慕う保守派で対立している。

しかし互いに手を取って協力しなければ生き残れない…。

 

「隊士達の補充に関しては有坂と話をするよ

皆も鬼殺隊の未来の為に考えて欲しい。私からは以上だ」

 

「はっ…」

 

その後、波乱に満ちた柱会議は終わった。

 

 

 

 

 

同日 産屋敷邸

 

柱会議が終わってから暫くして…

日は落ち空には月が出て辺りを儚く照らしている。

 

「…」

 

産屋敷哉耀は自室で静かに正座をして来客を待っていた。

 

トットット

 

襖の向こう側の廊下で静かに音を出してこちらに向かってくる。

 

「失礼いたします」

 

スーと音を立てずに襖を開けたのは妻であるあまねだ。

 

「どうぞ」

あまねの言葉に従い部屋に入るのは知恵柱の有坂勇三郎だ。

有坂が部屋に入るのを確認するとあまねはまた静かに襖を閉める。

 

「有坂、夜遅く申し訳ないね」

 

「いえ…」

 

有坂は哉耀と相対するように座布団の上に座る

 

「昼間は済まなかった… 君が不満に思うのは当然だ」

 

「…」

 

「君を呼んだのは他でもない… 鬼殺隊の()()の事だ」

 

哉耀が勇三郎を呼んだのは鬼殺隊の改革の事だ。昼間の会議では他の柱の介入で流れてしまったが哉耀自身も鬼殺隊の現状を理解しているので勇三郎の意見は最もだと感じている。

 

「今から一か月後に最終選抜が行われる」

 

「参加する人数は…?」

 

「約50人だよ」

 

「50人ですか…成程」

 

来月に鬼殺隊の入隊試験が年中藤の木が咲き乱れる藤襲山という山で行われる。その山には弱く餓えた鬼が多数閉じ込められており隊士候補はその山で鬼を狩りながら七日間生き延びるという過酷すぎる試験だ。

当然ながら呼吸の訓練を受けていても隊士候補の大多数が試験中に死亡して脱落する有様で合格出来るのは一握りである。

鬼殺隊は何百年も続けておりそうやって鬼狩りの隊士を作っていたのだが勇三郎はその試験があまりにも非効率で無駄だと思っており前々から藤襲山の最終選別の廃止を訴えていた。

 

「それでお館様はその選別試験を廃止するのですか?」

 

勇三郎は哉耀を真っ直ぐ見つめ哉耀もまた勇三郎の真っ直ぐに顔を向ける。

 

「いや…最終選抜は恒例通りに行う」

 

帰ってきた言葉は勇三郎が期待する言葉ではなかった。

 

「お館様…!」

 

「ただ有坂の言う通り今後の選抜は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()として配置する

人手不足の今、少しでも候補者達の生存を重視する」

 

異を唱えようとする勇三郎の前に哉耀は昼間の会議で勇三郎が言った選抜の改善を取り入れると説明する。

 

「まぁ…それなら良いでしょう。寧ろ早く取り入れなければならなかったですが…」

 

「その事に関しては我々産屋敷一族の失態だ…。誰かに言われる前に改善すべきだった」

 

哉耀は申し訳なそうにこう垂れる。

 

「いえ…分かってくれれば私も意見を言った甲斐がありました。

所でお館様、先ほど50人の隊士候補が受けると言いましたが私に考えがあります」

 

「それは?」

 

「50人候補者達の約半数の…25人をこの有坂に預かっても宜しいでしょうか?」

 

「それは何故だい?」

 

「柱を始めとした経験豊富な隊士達が試験官としているのなら問題は無いでしょうが…それでも万が一というのがあります

少しでも人材を確保するためにここは一旦半数に分けましょう。これも昼間に言いました藤襲山でやらなくても柱が候補者達を選抜すれば良いのです

勿論言葉だけではなく行動で示しましょう」

 

藤襲山で行う過酷すぎる選抜などしなくても柱直々の候補者達を試験を施し選別する。

勇三郎はそれを言葉だけではなく行動で示そうとしている。

 

「…」

 

確かにその方がより多くの優秀な隊士を選別出来るだろう…。藤襲山で行う試験よりずっと良いかもしれない…

しかし哉耀はそれを素直に首を縦に振るう事が出来ない理由があった…その理由は鬼殺隊内部の力関係(パワーバランス)だ。

鬼殺隊は産屋敷に忠誠を誓う保守派有坂に忠誠を誓う改革派に二派に分かれているのだが現在、保守派はハイゼンベルク一味の攻撃で大勢が殉職してしまっており改革派が多数の状態だ。

しかし保守派は数こそ改革派に劣るが組織の最高戦力であり組織の影響が大きい【】の多くは産屋敷に忠誠を誓っている保守派に属してるので数が多い改革派に何とか対抗できているのだ。

だがそれも時間の問題だろう…。

勇三郎に25人の隊士候補者達を預ければ間違いなく鬼殺隊の戦力上昇に繋がるのは間違いないだろうが…同時に隊士達は有坂に忠誠を誓う改革派に属するだろうし勇三郎もまた結果を出すので彼の影響力の拡大するのは間違いないだろう。

 

そういった理由があって哉耀は思い悩んでいるのだ…。

 

鬼を狩り鬼舞辻無惨を滅する

 

保守派も改革派もその考えは一緒なのだが以前にも言った通り改革派は鬼を狩るなら一般人の犠牲はある程度容認する考え罪なき人々から鬼から守りたい保守派とはそれが原因で互いをいがみ合ってる。

本当なら保守派も改革派も手を取り合ってほしいのだが思想の違いで両者が対立してる現状に哉耀を悩ましてる。

 

「お館様? どうかされましたか?」

 

勇三郎の呼びかけでハッとした哉耀は何でもないと告げる。

 

「分かった。勇三郎、君に半数の候補者達を預けるよ」

 

「有り難き幸せ。この有坂必ずやお館様の信頼に答えて見せます」

 

深々と頭を下げて感謝を伝える有坂

 

「すっかり遅くなってしまった。今回はここまでにしよう…

また連絡するよ」

 

「それでは失礼致します…。お館様もお早めにお休みください」

 

そう言って有坂は哉耀に一礼をして部屋から出ていった。

 

「ふぅ…」

 

有坂が去っていく事を確認した哉耀は息を吐き出した。

 

「貴方…本当に宜しいのですか…?」

 

部屋に入ってくるあまね

その表情は不安を隠しきれないものだった。

 

「仕方がない…有坂は必要な存在だからね

ここで彼が私への不満を貯め込めば逆に暴走しかねない」

 

哉耀は勇三郎が自分に不満を抱いているのは分かっている…。下手に扱えば勇三郎は自分の命令を聞かなくなり改革派と共に好き勝手に動き出すかも知れないのだ。

現状、改革派は多数で勇三郎の影響力は無視出来ない。

 

「それはそうですが… 私は彼が怖いです…」

 

「だからこそ選抜試験で私に忠義を誓ってくれる子供達を一気に増やしたかったが…

まさか半数を持っていかれるとはね…有坂も抜けが無い…」

 

哉耀は次の選抜試験で保守派の数を増やしたかったが有坂によって50人の内、半数が持っていかれてしまった。

全くままならないものだ…

 

「話が変わるけどあまね…君が見た夢で()()()()()()()()が運命を動かすのだね?」

 

「はい その少年が運命を動かすのは間違いありません」

 

気を取り直すように哉耀は話を変えることをする。

哉耀の妻のあまねは神職の家の出で断片的だが予知夢が見る事が出来る。

彼女が見たのは()()()()()()()()が選抜試験に出て合格し鬼殺隊の運命を大きく動かす内容だった。具体的に分からないが哉耀はあまねの予知に確信を感じた。

 

「その子を…是非とも鬼殺隊に入って欲しいが有坂に悪いけど彼を渡すわけにはいかない…

あまね…早急にその子を見つけて藤襲山で選抜を受けさせてほしい」

 

「分かりました

そろそろ貴方もお休みください。夜更かしは体に毒ですから」

 

夫の哉耀の指示を受けたあまねは哉耀に休むように告げて静かに部屋から去っていった。

 

(運命が動く…か

1000年に渡る鬼舞辻無惨との因縁を私の代で終わらせなければならない…!

こんな悍ましい因縁を息子・娘達に背負わせるわけにはいかない!)

 

呪いの侵され余命幾ばくも無い体だが必ず終わらせて見せる…!

産屋敷哉耀は満月が輝く空を見て強く決意する。

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザッザ

 

産屋敷邸を出た勇三郎は有坂家に向かいながらこれからの事を考えていた。

 

(チッ 出来れば50人纏めて貰いたかったがそこまでやると()()()に睨まれるから半数で已む得ないか…

計画通りにやればその半数は大きな戦力になり成果を出せば私の発言力も高まるはずだ… そうすれば産屋敷も私に逆らえなくなるはずだ)

 

勇三郎は産屋敷を嫌っていた

1000年に渡り無惨を討ちとれない無能だと蔑んでいる。

あの一族の為にどれだけの命が犠牲になったのか…! それは有坂家も含んでいた。

有坂家に先代、つまり父は産屋敷に忠誠を誓っていたが己は違う!

 

(無惨を滅するのは同感だ あれに存在価値などない

その点は協力するが無惨を滅した後は産屋敷一族には責任を取らせてやる!)

 

貴様ら産屋敷一族の尻ぬぐいの為に死んでたまるか

 

誰にも悟られねように静かに同時に激しい怒りを抱きながら勇三郎は決意する

 

 

 

 

来月の最終選抜である少年が現れる事によって運命が物語が大きく動き出す…。




次回 最終選抜


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最終選抜

前回の柱会議から一か月後…
とある場所にある藤襲山で鬼殺隊の最終試験が行われる。




ようやく時間軸が第一話から進みました。


藤襲山。

その山は鬼が忌み嫌う藤の花が一年中周りを囲むように咲いており山には多数の鬼が閉じ込められていた。

何故このような山で鬼を閉じ込めるのか? この藤襲山で育手に育成された隊士候補達は一週間、多数の鬼が潜むこの山で生き延びるという過酷すぎる試練を乗り越えて初めて鬼殺隊の隊士に成れるのだ。

当然ながらその過酷すぎる内容の為に生きて生還出来るのはほんの僅かだ。片手の指で数えられる程である。

 

そして今夜、各地の育手から送られた25人の隊士候補がこの藤襲山にやってきたのだった。

 

(ここが最終試験の場・・・。周りの人達は皆、俺と同じ隊士候補の人達なのか・・・?)

 

辺りを見渡すながら額の痣がある少年、竈門炭治郎は緊張しながらも試験の時を待っていた。

炭治郎は元々、炭を売って生計を立てている一家の六人兄弟の長男として生きてきた。

貧しい生活だったが長男として炭を売って家計を支えながら頑張ってきたがある日、その生活が音もなく壊れた・・・。

炭を売り終えて家に帰る最中、血の匂いを嗅ぎつけ急いで戻ると家は血の海だった…。母と兄妹がズタズタにされて殺されていた。

ただ一人生き残ってたのは妹の竈門禰豆子だけだったがその妹は人食い鬼という怪物になっていた。

炭治郎を見ると食い殺そうと襲い掛かってきたがそこに報告を受けた富岡義勇が駆け付け自分と禰豆子を引き離した。

妹は手遅れだと言い禰豆子を殺そうとするが炭治郎は義勇を説得し禰豆子に子守歌を聞かせると禰豆子は炭治郎に襲い掛かる事はなくなり静かに眠りのついたのだ。

それを見た義勇は炭治郎に鬼殺隊に入れと説いた。鬼殺隊として鬼を狩っていけば妹を戻す方法が見つかるるかもしれないと・・・。

妹以外、家族が失った炭治郎はその言葉に従い義勇に告げられた場所に向かいそこで育手を務める鱗滝左近次に出会い彼の厳しすぎる修行を乗り越えてこの選抜試験に行く許可をもらったのだ。

 

(禰豆子・・・待っててくれ・・・! 俺は必ずお前の元に戻るからな!)

 

左近次の家で昏々と眠り続けている妹を思い炭治郎は気合を入れる。

 

「どうしよう・・・どうしよう・・・どうしよう・・・

俺絶対に死ぬよ…」

 

ふと耳に入ってきたのはガタガタを怯えている黄色の髪で黄色の着物を着込んだ少年を見る。

 

「あの・・・大丈夫ですか…?」

 

「うわ…! きゅ・・・急に話しかけないでくれよ…ビックリしたじゃないか…!」

 

「ご・・・ごめん・・・」

 

あまりの怯えぶりに心配した炭次郎は声をかけると少年はびっくりさせるなと炭治郎を責めた。

 

「爺ちゃんもどうかしてるよ…! 俺なんかが鬼殺隊に入れるわけがないじゃないか…。

あぁ…でも逃げ出したら爺ちゃんに殺される・・・」

 

「えぇと・・・俺、竈門炭治郎(かまどたんじろう)って言うんだけど君は?」

 

ブツブツと弱気の言葉を繰り返す少年に炭治郎はどうしようかと気を紛らわせようと思い自己紹介をしてみる。

 

「えっ? あ・・・俺は我妻善逸(あがつまぜんいつ)

でも・・・どうせ死ぬから覚えなくていいよ…」

 

ネガティブな感情のままに答える善逸に炭治郎はどうしようと悩んでいたときだった。

 

「皆さま。これより最終選抜を始めます。」

 

「!?」

 

声が聞こえた方へと目を向けるといつの間にか綺麗な着物を着込んだ少年・少女が立っており周りには多数の隊士達が守るように囲んでいた。

 

(富岡さんだ! それに周りにいる人達・・・とても強い・・・!)

 

炭治郎は恩人である富岡義勇が見て声を掛けようとしたが富岡に近くに居る隊士達の刺すような気配に思いとどまる。

 

「皆さまには今日から七日間、この藤襲山で鬼を狩りながら生き延びてもらいます。」

 

「無事合格された方には隊士として日輪刀が渡されます。

何か質問はある方はいますか?」

 

その言葉に多数の者が手を挙げた。

 

「ちょっと待ってください!

多数の鬼が潜むこの山で七日間も生き残れなんて無茶ですよ!

食料や寝床だってどうするのですか!」

 

「そうだ! もしも鬼に殺されそうになった時とかどうするんだよ!!

何が食べられるのかそんなの教わっていないんだぞ!!」

 

あんまりな試験内容に集まった隊士候補達は不満の声を上げる。

自分達は確かに鬼を倒す術や呼吸法を育手から学んだが山で生き延びる方法なんて教わっていないのだ。

 

そんな状況なのに多数の鬼が潜んでいるこの山で七日間も生き残れだって・・?

無茶苦茶すぎる・・・!

 

「今晩は皆さま、私は鬼殺隊の柱を務めていただいております胡蝶しのぶと申します。

質問内容ですが、まず食料ですがそれぞれに七日分の食料を渡しておきます。寝床についてはそれぞれ安全と判断した場所にしてください

そして山には私を始めとした鬼殺隊の最高戦力である【柱】の方々や経験豊富な隊士達が監視しています。

もし無理だと判断したらすぐに救援を要請するかまたは私達が判断して助けに入ります。ただしそのかわり不合格としますので慎重に判断し動くようにお願いします。

それでも無理だというなら今のこの場で辞退してください。剣士ではなく隠の者として働いてもらいます。」

 

声を出したのは蝶の髪飾りをつけた少女で蟲柱の胡蝶しのぶだった。

食料を渡すが寝床は自分で何とかしろとの事だがそれでもまだ隊士候補達から不満の声が消えなかった。

 

「本当に安全なんですか? この山には弱い鬼しかいないと言ってますがそれも本当なんですか?」

 

「たったの七日分の食料しかないないなんていくら何でも難しいよ…。最低でも三週間分は欲しい・・・。」

 

「やってられねえよ…。合格させる気あんのか?」

 

ザワザワと騒ぎ出す隊士候補達。しかしその隊士候補達の態度に苛立ったのか・・・

 

「貴様ら・・・。黙って聞いておけばグチグチと五月蠅いぞ。

そもそも本来ならこの最終選抜には我々のような試験官もいないし監視役も居ない。こちらも貴様らに構ってる程ヒマではない。

そこの胡蝶が言うように嫌ならさっさと此処から消え失せろ。臆病者や雑魚など必要ない」

 

口元を布で隠した青年、蛇柱の伊黒小芭内は殺気を出し候補者達を威嚇するように語り掛ける。

その伊黒の気迫を当てられた候補者達はピタリと黙り込んでしまう。中には腰が抜けてしまう者もいた。

 

「やめろ伊黒。言い過ぎだ。」

 

「本当の事だろう。鬼殺隊に気概がない者など必要ない。

自分だけが死ぬだけならまだしも周りの者にも被害が及ぶ。鬼殺隊に必要なのは優れた剣士だ。

そうじゃない者は隠になって後片付けをしていればいい」

 

水柱の富岡義勇は言い過ぎだと嗜めるが伊黒はそれがどうしたと気にも留めていない。

 

「本来ならここには50人の候補者達が居たというのに有坂は半数の25人を引き抜いていったと聞いてる・・・!

このままだと改革派が影響力が増して奴と奴の信奉者共がはますます図に乗るぞ・・・! お前はそれが分からないのか?」

 

伊黒が苛立っている原因は知恵柱の有坂勇三郎の事だった。伊黒は有坂を嫌っており同時に有坂を危険視しておりこのままだと鬼殺隊は有坂に乗っ取られると危惧している。

出来るものなら有坂を排除したい、もしくは奴の影響力を下げて好き勝手が出来ない様にしたいと考えてる

 

「お前は何を言ってる…。

確かに有坂は問題行動があるが奴は奴なりに鬼殺隊の事を考えている。

有坂も仲間だぞ・・・! そんな言い方は辞めろ」

 

「お前は奴の態度を見ておきながら本気でそう言ってるのか…!」

 

伊黒は富岡に殺気を出しながら睨んだ。富岡は表情は冷静だが利き手に日輪刀の柄を掴んでいる。

今にも互いに殺し合いを始めようとしてた。

 

「お二人共! いい加減してください!

皆が怖がってますよ!」

 

一瞬即発の危機の中、待ったを掛けたのが怒りを滲ませる胡蝶しのぶだった。

言われてみれば候補者達は酷く怯えていた。

柱階級の隊士二人が殺気を滲ませて互いに睨みつけて居ればそうなって当然だろう。

それを見た二人はバツが悪そうに離れる。

 

「お見苦しい所を見せて申し訳ありません…。

しかし先ほども言いましたがこの試験は大変危険です。生半可な実力では合格するのは不可能です。

ですので自信が無い方は今すぐ辞退してください。辞退してもなじる気は一切ありません。皆さんの判断を尊重します。」

 

真剣な表情で候補者達に語り掛けるしのぶ。

その言葉に決心がついたのか一人また一人と辞退する者が現れた。

 

「しのぶさん・・・!帰して宜しいのですか・・・

今、鬼殺隊が人手不足なのはしのぶさんもご存じのはずです・・・! 」

 

監視役として連れてこられた隊士の一人が異議を申し立てる。

 

「分かっています。

だけど伊黒さんの言う通り実力がない者がこの試験を受けても死ぬだけです・・・。

この試験がどれほど過酷なのかは貴方も知っているはずです。例えが運よく合格しても長くは生きれません」

 

「・・・。」

 

しのぶの言葉に隊士は黙り込む。

何度も言うがこの最終試験は本当に過酷なのだ。鬼を倒すだけでなく餓えとも戦わなければならず運の要素も関わって来るし一つ欠けたらこの試験を乗り越えることが出来ない。

しのぶは数分ほど待つと候補者達からはもう辞退する者が居なかった。

 

「ここに残ってる方々は試験を受ける覚悟があるとみて宜しいでしょうか?

最後にもう一度言います。辞退するなら今ですよ。辞退しても私達は貴方方を責めたりしません」

 

しのぶはもう一度候補者達に語り掛ける。

それでも辞退する者は居なかった。

 

「良いでしょう。では今から試験を始めます。

各自、藤襲山に入って下さい。」

 

その言葉に隊士候補者達は意を決して山に登り始め炭治郎もまた覚悟を決めて藤襲山に入山したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

時間が最終選抜が始まる前に戻る。

 

 

「ふぅん・・・アレが藤襲山か。

成程、山の周りを囲むように藤の花が咲いてやがる。まさに牢獄だな」

 

ハイゼンベルクは鬼殺隊入隊の最終選抜が行われる藤襲山に来ていた。

 

「まだ一年しか経ってないのに何だか懐かしく感じます」

 

ハイゼンベルクと隣に佇む少女、北沢鈴子(きたさわすずこ)は懐かしむように藤襲山を見ていた。

 

北沢鈴子

 

彼女は三か月前にハイゼンベルクがゾルダートの素体集めの際、ただ一人ハイゼンベルクに命乞いをして鬼殺隊を裏切りハイゼンベルク一味の仲間に加わった少女だ。

そんな彼女を藤襲山(此処)に連れてきたのは理由がある。

 

「懐かしむのは良いが・・・分かっているな?

お前が此処にいる理由(ワケ)を」

 

「はい・・・! 承知してます。

私はあの山に行き鬼殺隊隊士を斬れば宜しいのですね」

 

ハイゼンベルクは鈴子を連れてきた理由・・・それは鈴子に本当に自分の忠誠を誓っているのかの試験であり鬼殺隊の決別の意味もある。

 

「覚悟は出来ています。

カナエ様から真実を聞かされた以上、最早未練などありません」

 

ハイゼンベルクの仲間になった鈴子は美麗治村に住む事なりそこで胡蝶カナエに出会った。

最初こそ身構えたがカナエもまた自分と同じく鬼殺隊を抜けた者だと分かり安緒した。そしてカナエから産屋敷一族の秘密と目的を知らされ産屋敷一族を滅する事を決意したのだ。

 

(私の人生はあいつらのせいで狂ったんだ…!

絶対に許さない…! 必ず思い知らせてやる!)

 

鈴子は迷いなど無かった。産屋敷一族に自分の怒りを受けさせる・・・それが鈴子の決意だった。

 

「申し上げます。」

 

ハイゼンベルクと鈴子の前に一匹の鬼が現れる。

 

「現在、隊士候補と思われる少年・少女達が藤襲山に向かっております。

それと鬼殺隊隊士と思われる者達もおります」

 

「そうか。鬼影(おにかげ)、お前は引き続き山を監視しろ。

それが済んだらお前はこの鈴子と共に鬼殺隊を始末しろ。山に居る鬼にはこの菌を吸わせて仲間にしろ。

それでも歯向かうなら始末してもいい」

 

「は!」

 

返事すると鬼影は再び監視へと戻っていった。

 

鬼影

 

この鬼は鈴子と共にハイゼンベルクの仲間となった鬼だ。

彼の血鬼術は己の影を実体化してその視線を同調出来る事だ。実体化した影は戦闘能力こそ無いものの気配は感じ取れず敵に見つかる事がない。例え見つかって攻撃されても本体には一切影響がない。

さらに影がある場所ならどこでも実体化が出来る上に10体まで複製できるので偵察や監視に持ってこいの能力なのだ。

 

「ハイゼンベルク様。

原重殿カラ伝言デス・・・。ゾルダートノ機動準備ガ完了シタトノ事デス」

 

鬼影が去って今度はギンが現れゾルダートの出撃準備が終わった事を報告された。

 

「よし。()()()()は問題は無いか?」

 

「ハッ 投入地点ニハ見張リハイマセン。

鬼殺隊ハ山全域マデハ監視ガ出来テオラズ人手不足ガ影響シテルカト思イマス」

 

「そうか。結構痛みつけてやったからな。補充するのだって一苦労だろう」

 

鬼殺隊は政府非公式の組織なので民間企業みたいに募集が出来ない上に呼吸法の鍛錬もあるから新しい人員を補充するのは難しいのだ。

 

「タダ・・・鬼影ノ情報ニヨレバ50人ノ候補者ガイタソウデスガ半数ノ25人ガ別ノ所ヘト移サレタトノ事デス。」

 

「その話は知っている。何でも知恵柱という奴が半数を持っていたと聞いてるが・・・。」

 

(知恵柱か・・・。原作にはそんな奴など居なかった。カナエによれば他の連中とは考えが違って隊士の生存を重視して必要があれば一般人を見捨てる事もあるそうだが・・・。

原作には居なかった現実主義者というところか?)

 

ハイゼンベルクは知恵柱の有坂勇三郎という人物に警戒を抱いてる。何故なら有坂勇三郎は鬼滅の刃には存在しない人物だ。

カナエが言うには鬼殺隊は改革派という派閥があって有坂はそのトップだという・・・。産屋敷を信奉する派閥である保守派とは折り合いが悪く互いにいがみ合っているそうだ。

有坂も他の柱とは仲が悪いとか・・・。

 

(鬼殺隊は良くも悪くも鬼を殺すためなら自分がどうなっても構わないぶっ飛んだ連中ばかりだったがその有坂って奴は他の連中とは全く違う

組織の戦力を重視して確実に鬼を倒す為に綿密に計画を立てて必要あらば民間人も切り捨てる・・・。厄介な奴だ)

 

原作のキャラとは大きく違う有坂にハイゼンベルクは危険視する。もしかしたら鬼殺隊殲滅に大きく立ちはだかる存在かも知れないからだ。

 

(考えても仕方ないか・・・。今は主人公である()()()()()()()()することに集中しよう)

 

今回の攻撃で一番の目標は竈門炭治郎の抹殺することだ。

炭次郎は主人公として数多くの強敵を倒してあの無惨を追い詰めるほどの実力を手にする。もしかしたら自分にも届く実力になるかもしれない…そうなる前に藤襲山で始末するのだ。

 

「そろそろ時間だ。ギン、原重に伝えてゾルダートと菌根兵を山に送り込め

鈴子、お前も行け」

 

「ハッ」

 

「はい!」

 

ハイゼンベルクの指示に鈴子とギンは動きだした。

 

「炭治郎…お前には恨みが無いがここで退場してもらうぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山に入って一時間が経っただろうか?

炭治郎は警戒しながら慎重に前に進む。

 

「鬼がいるって聞いたけど…出くわさないな・・・?もっと奥にいるのかな」

 

山に入ってから何も出くわさない事に炭治郎は不思議に思う。 辺りは真っ暗に覆われ静かなものだった。

 

「だけど何でこうも胸騒ぎがするんだ…? 何か大きな事が起こりそうな感じだ」

 

生まれつき匂いで相手の感情が理解できる炭治郎の感覚が警戒音を鳴らしていた。この静かな山で何が起きるのか?

 

パァーン

 

「!? 今のは銃声・・・!」

 

遠くから聞こえる銃声に炭治郎は警戒する。

こんな時間でこの山に猟師が居るわけがない…!

 

ゾワリ・・・

 

「・・・!?」

 

急に悪寒が体中に走った炭治郎は咄嗟に身を屈めた。

 

パァーン

 

今度はそう遠くない所から銃声が響きその弾丸は炭治郎の真上が飛んで行った。

 

「・・・!」

 

炭治郎は息を呑み戦慄する。

もしも咄嗟に屈まなかったら今の弾丸は自分は頭を貫いていた・・・! 間違いなく死んでいただろう。

 

「くっ…!」

 

炭治郎は直ぐにその場から逃げ出した。

背後からビュンと弾丸が横を掠める音が響き銃声が轟く。

 

「ヒィ…」

 

弾丸が空気を切り裂く音に炭治郎の口から小さな悲鳴が漏れた。

とにかく木々を盾にして炭治郎は全力で走った。

鱗滝から刀と鬼の倒し方を学んだが銃を持った相手の戦い方なんて学んでいない…。

どうすればいいのか必死に考える。

 

「アレ…追ってきていない…?」

 

背後から気配が感じず銃弾も飛んでこない。

炭治郎は何とか逃げ切ったのだ。

 

ダダダダダダ

 

「!? まただ!」

 

遠くからまた銃声が響く…。

他の人達も襲われているのか…?

 

「怖がるな…! 立つんだ…!」

 

震える体を喝を入れて炭治郎は立ち上がろうとした時…

 

ザザザザザ

 

何かがこっちに向かってくる! 炭治郎は音が鳴った方へ視線を向けると

 

「うわぁ!!」

 

鋭い銃剣が自分の頬を掠めた!

態勢が崩れて炭治郎は地面に転がってしまう。

 

「な…なんだコイツは…!」

 

月の光が相手を照らすと炭治郎は見た。

 

軍服を着込んでおり手には銃剣がついたライフルを持っており軍人かと思ったがその顔を真っ黒で目玉が三つにありギョロリと自分を見ている。

 

(人間じゃない! それにこの匂いはなんだ?! 鬼でもない…!)

 

直ぐに炭治郎は起き上がり日輪刀を構えが相手はライフルを炭治郎に向けて発砲する。

 

「!!」

 

だが炭治郎は銃口の位置から銃弾が飛ぶ位置を予測していた。相手が発砲する瞬間に動き出し体を低く屈んで尚且つ足の速さを殺さずに素早く突っ込んだ。

ピュンと弾丸が掠める音を聞いて息が止まるが相手の懐に入り日輪刀で胴体を斬り裂いた。

相手は大きくよろけり好機と見た炭治郎は覚えた水の呼吸を使った斬撃で相手の首を斬り落とした。

 

(なんだ? まるで固い草を斬ったみたいだ…)

 

奇妙な感触に不気味に思いながらも首を落とすと相手は静かに倒れる。

 

「やった…」

 

ゼェゼェと息を荒げながら炭治郎はペタリと座り込む。

 

(こ…これが最終試験…? あの女の人(しのぶ)はこんなの言っていなかった…)

 

鬼が潜む山とは聞いているが銃を持った怪物の話なんか一つも言っていない…。

一体何が起きているのか炭治郎は理解出来なかった…。

 

「考えても分からないんだ…。他の人達と合流してみよう」

 

暗闇の中、不安と抱きながら炭治郎は再び動き出した。

 

 

 

 

 

一方、藤襲山の別の場所では。

 

 

ダダダダダダ

 

「ヒィィ!! た…助けて…!」

 

ある候補者は泣きながら這いずり回りながら逃げ回っていた。

 

(どうなってんだよ!! 話が違うじゃないか!!

あんな奴らが居るなんて聞いてない!!!)

 

彼はこの山に居るのは弱い鬼だと聞いていた。

自慢になるが自分は剣の腕はいい線をいっていると自負してた。だから弱い鬼なら倒せるかもしれないと踏んでいた。

ところが実際はどうだ? 突然あちこちから銃撃されて一緒にいた仲間があっという間に死んでしまい自分だけになってしまった。

 

(は…早く逃げよう…!! 鬼狩りなんて無理だよ!!

山に下りて失格になった方が良い!)

 

もう合格なんてどうでもいい! 鬼殺隊に入るのはあきらめよう!

迫りくる死の恐怖に心が折れてしまった…。

見つからない様に静かに動くながら山を下りようとするが…

 

チャキ

 

(!?)

 

コツリと頭部に固い何かが押し付けられる。

だけど直ぐにソレが分かった…銃口だ…。三つの目を持つ怪物がライフルを突き付けていた

 

「ぁ…ぁぁ」

 

終わった…自分は此処で死ぬんだ…。

恐怖と絶望にガチガチと歯を鳴らして強く目を瞑った。

 

「えっ…?」

 

何故か銃弾が発射されなかった。

疑問に思った彼は恐る恐る怪物の方を見るとフラフラと揺れており目を凝らすと怪物の頭部が無かった。

そしてドサリと目の前に怪物の頭部が落ちてきた。

 

「うああぁぁl!!」

 

直ぐに後ずさり何が起きたのか分からなかった。

 

「早く逃げろ。この道を下りていけば隊士達がいる。」

 

腰が抜けてしまった彼に声を掛けたのは水柱の富岡義勇だった。

 

「あ…有難うございます…!!」

 

「礼は良い…早く行け」

 

「は…はい!!」

 

候補者は一目散に義勇に教えられた道を下りていく。

それを見届けた義勇は他にも助けを求めてる者達の為に再び駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

蟲柱の胡蝶しのぶもまた藤襲山に起きた異変に戸惑いながらも隊士候補者達の救助に駆け回っていた。

 

試験が始まって間もない頃に突然に山中に軍の兵士の服装をした三つ目の人型の怪物達が現れて隊士候補者達、監視に来ていた鬼殺隊隊士に銃撃をしてきたのだ。

突然の不意打ちに経験が高い隊士達が何人も成すすべもなく射殺されてしまった。しのぶを始めとした富岡と伊黒は柱会議で聞いたハイゼンベルク一味が現れたのだと確信した。

 

(コイツらは一体何なの…! 何が目的で私達を襲うのよ!)

 

例のハイゼンベルク一味は何が目的で自分達を攻撃をするのか…?

それが分からないしのぶはイラつきながら銃撃を加えて来る三つ目の怪物…菌根兵に自ら調合した毒を練り固めた日輪刀を突き刺すが…

 

(やはり駄目ですか…!)

 

しのぶが調合した毒は強靭な肉体を持つ鬼を死に至らしめる程の威力だ。

しかし()()()()()()()()|()()()()()()()()()()()()()()()のか先ほどから決定打が与えられなかった…。

何度も日輪刀で毒を打ち込んでも菌根兵は何事も無かったかのように平然としていた。

 

「師範…私がやります」

 

どうすればいいのか…! 対処を考えるしのぶだったが…だがそこに小柄の少女が現れ菌根兵の頭部を斬り落とした。

グラリと力なく倒れる菌根兵に油断なく見据える少女。

 

「カナヲ…」

 

現れた少女を見るしのぶ。

 

栗花落(つゆり)カナヲ

 

彼女は幼い頃、両親に虐待されていた所を胡蝶カナエに助けられて以降、カナエとしのぶを始め蝶屋敷の者達に育てられた。

そんな彼女だが誰かに教わったと訳でもなく見様見真似でカナエの流派である花の呼吸を使えるという天性の才能の持ち主でもある。

 

「…」

 

しのぶの危機を救ったカナヲだったが何処か後ろめたい気持ちでしのぶを見つめていた。

 

「何故、ここに居るのですかカナヲ…直ぐに山を出るように言ったはずよ」

 

怒りを含んだしのぶの声にカナヲは僅かに後ずさる。しのぶは厳しく冷徹な目でカナヲを睨みつけていた。

実はカナヲはしのぶの継子(弟子)であり師弟関係なのだ。

本来この藤襲山の最終試験は育手、師の許可が必要なのだがカナヲは師範であるしのぶに試験を受ける許可どころか話してもおらず勝手にこの最終試験を受けているのだ。

しのぶがカナヲに気付いたのは試験が始める前だ。彼女(カナヲ)の気配を感じたしのぶは戸惑いながらも気づかない振りをして試験を始めた後、直ぐに隠れている彼女の元に向かい

 

何故ここにいるのか?

 

誰の許可をもらったのか?

 

カナヲを問いただすと彼女は誰の許可をは貰っていない、自分の意志で藤襲山(ここ)に来たと言った。

 

「カナヲ…貴方は私どころか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは許される事ではありません。

今は非常事態だから後にしますが処罰を覚悟しておくように」

 

自分の意志で来た。

その言葉にしのぶは内心、驚くがそれを顔には出さず師範として継子であるカナヲに厳しい言葉をぶつけた。

 

「分かりましたね? 今すぐこの山に離れなさい」

 

そう言ってしのぶは異変が起きてる藤襲山に入っていったのだが…。

 

 

「師範の事が心配で…コインも表が出たから…」

 

カナヲはしのぶにコインを見せる。彼女は幼少期の虐待の影響で自分の意志で決める事や動くこと事が出来なかった。

そこで自分を拾ってくれた胡蝶カナエは彼女に表・裏と書かれた銅貨を与えてその出た結果で動くことにしたのだ。

表が出たから師範であるしのぶの言いつけを破って彼女の加勢に来た。

 

「…仕方がありません…

カナヲ、共に行くことは許可します。ただし二つ約束しなさい

自分の身を第一に考える事ともし危なくなったら私を置いて直ぐに逃げる事です

良いですね?」

 

強引に追い返してもカナヲは自分に着いて来るだろう。そう考えたしのぶは已む得ず同行を許可した。

カナヲもしのぶの約束にコクリと頷く。まだ山中に銃声が響く中、しのぶとカナヲは移動を始める。

 

「ヤット見ツケタゾ」

 

「「!?」」

 

不気味な声に二人は直ぐに日輪刀を構える。

 

「見ツケタゾ…。オ前ガ、柱デアル胡蝶しのぶダナ?

ソッチノ方ハ確カ…栗花落カナヲダッタカ?」

 

現れたのは鬼だった。

しのぶは警戒するが疑問が湧きあがる。

 

「貴方は鬼ですね?

それよりどうして私達の名前を知っているんですか?」

 

目の前の鬼は何故か自分達の名前を知っている。鬼を憎むしのぶにとってはとても不愉快な事だった。

 

「フフ…オ前ラノハ()()()カラ聞イテイル。」

 

「!? 何故姉さんを知っている…!」

 

「仲間ダカラナ。オ前ラノ事ハ良ク話シテクレタゼ

オット自己紹介ガマダダッタナ。俺ハギンダ。ヨロシク」

 

その言葉にしのぶは怒りが沸きあがる。

姉を仲間と言った…つまり

 

「貴方は例のハイゼンベルク一味ですね」

 

「ソノ通リ」

 

「なら姉さんはどこだ…! 姉さんに何をした!!」

 

怒りと憎悪に囚われた表情で前の前の鬼、ギンを睨みつける。

 

「何ヲシタ? ソウダナ…怪我ヲ治シタ事ト()()ヲ教エテヤッタ」

 

「真実…? 何を言ってる…!」

 

「知リタケレバ本人ニ聞クンダナ。

時間ガ惜シイ…始メルトシヨウカ。出テコイ!!」

 

ギンが叫ぶと奥から()()()やって来る…!

 

「紹介シヨウ。

ハイゼンベルク様ノ力ノ一ツデアル鋼ノ軍団ノ兵士、()()()()()ダ!」

 

「なっ…これは…!」

 

「っ…!」

 

奥から現れたゾルダートの軍団にしのぶとカナヲは戦慄する…。

今まで多くの鬼を狩ってきたしのぶすらゾルダートの異形の姿に恐怖してしまう。

 

「クク…カナエカラ聞カサレタソノ実力デゾルダートノ良イ実戦記録ヲ取ラセテクレ。

行ケ!ゾルダート達ヨ! アノ小娘共ヲ八ツ裂キニシロ!!」

 

ギンの言葉にゾルダート達はドリルを唸らし二人へと向かってくる。

 

「カナヲ…約束を覚えてますね?」

 

「…自分を身を優先する。危なくなったら直ぐ逃げる」

 

「結構です」

 

覚悟を決めて二匹の蝶は異形の軍団へと挑む…。

 




次回 死闘


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死闘

ハイゼンベルクは藤襲山の最終選抜に乱入して原作の主人公である竈門炭次郎の抹殺を目論む。



今年最後の投稿になります。


藤襲山の各地で激戦が繰り広げられる中、ハイゼンベルク一味である北沢鈴子と鬼影は鬼殺隊士と隊士候補者を探していた。

 

「ふぅむ…連中は上の方に居るようですな。」

 

「そうですね…もうこの辺りは菌根兵とゾルダート達があらかた片づけたようですし…」

 

目の前で数人ぐらいの隊士達と候補者達が転がっていた。

生き残った連中は山を下りたか、まだ上で戦ってる最中だろうか?

 

(早く鬼殺隊の奴らを始末してハイゼンベルク様の信頼を勝ち取らないと…)

 

鈴子に少しの焦りが出る…。早くしないと菌根兵やゾルダートによって全部持っていかれるかも知れないからだ。

 

「鈴子殿。お気持ちは分かりますが戦場で焦りは禁物ですぞ。」

 

そんな鈴子の心情を見抜いたのが鬼影は静かに諫める。

ことわざに「窮鼠猫を嚙む」というものがある。追い詰められた人間の執念は恐ろしい。鬼影は人間だった頃にそれを知ったのだ。

生き残ってる隊士達や候補者達は死に物狂いで戦ってるだろう。だからこそ油断は出来ないのだ。

 

「すみません…」

 

鬼影の言葉に鈴子は冷静になり謝罪する。

 

「とにかく、慎重に動きましょう。物陰に隠れて奇襲を掛けてくるかも知れませんからな…。」

 

「はい」

 

辺りを警戒しながら二人は山を登る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴子殿…。貴方に聞きたい事があります」

 

「え? 何でしょうか…?」

 

山を登ってる最中、鬼影は鈴子にある事を気になっていたのでこの際、聞くことにする。

 

「鈴子殿、貴方は()どうして鬼殺隊に入ったのですか?」

 

「えっ?」

 

鬼影の言葉に鈴子は足を止めて呆けてしまう。

 

「初めて貴方を見た時です。当時は貴方は鬼殺隊隊士として他の者と一緒でしたが…貴方だけ他の連中と違う目つきをしていた」

 

「…」

 

「貴方と共に行動していた隊士達は()()()()()()()()()…そんな目でした

しかし貴方は違った。貴方はそんな()()()()()()()()()()()()()()()()かのような…()()()()()()()()を見る目だった。

何故です?」

 

「…それは…」

 

「あの中で貴方だけが浮いてる存在だったので(それがし)はずっと気になっていたのですよ。」

 

鬼影がハイゼンベルク一味に加わる前の話だ。

彼は鬼舞辻無惨によって鬼にされた存在だ。そんな存在だから鬼殺隊に滅殺の対象になっていた。

ある日の夜、鬼殺隊に見つからり多勢に無勢だったから逃走にする中、己を追う鬼殺隊隊士の集団でただ一人違う目つきをしていた少女が居る事に気づき追われてる最中だというのにそれが不思議に思っていた。

その後、偶然現れたハイゼンベルクの誘いの乗り一味に加わった鬼影。

そして自分と同じくハイゼンベルクの一味の加わった一人だけ目つきが違う少女、北沢鈴子…。

鬼影は以前から気になっていた。何故鈴子は鬼殺隊に入ったのか?

だから思い切って彼女に質問したのだ。

 

「私が鬼殺隊に入った理由ですか…。……簡単に言えば()()()()()()()()()()()のですよ」

 

鈴子は目の前にいる鬼…鬼影に自身の境遇を話すべきか迷ったが彼も同士なので話す事にした。

 

「無理やり…? どういう事です?」

 

「そうですね…。これは私の家に理由があったんです…」

 

鈴子は鬼影に自分の過去を話す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の家は外国との貿易をする会社を経営していたのでとても裕福でした」

 

12歳の頃までは裕福な家庭のおかげで不自由もなく気の良い友人と毎日遊びながら平穏暮らしていた。

 

「当時は分からなかったけど今思うと本当にかけがえのない楽しい毎日でした。

でもそれが唐突に終わったのです…」

 

過ぎ去ってしまった過去を思い出し憂を帯びた表情を出す鈴子。

 

「あの日です…。 私はもうすぐ女学校に入学するので勉学に精を出していました。」

 

入学する女学校に備えて勉強していた時、当主である父に部屋に来るように呼び出されたのだ。

 

「急にお父様に呼び出されて部屋に入ると()()のような物を渡されてコレに限界が来るまで息を吹き続けろと言われたんです。

私は訳が分からなくて理由を聞いても言われた通りにやれとしか言われず…仕方なくやったんです」

 

理由を聞いても答えてもらえず「言われた通りにやれ」の一点張りで仕方なく瓢箪に限界が来るまで息を吹き続けた。

その後、限界が来た鈴子は息を吹き込むのを辞めると父から「部屋に戻りなさい」と言われたので結局、理由が分からないまま不機嫌になりながら部屋に戻った。

 

次の日の朝だった。

鈴子はまた父から呼び出される。昨日の事といい一体何なのか…とウンザリしながらまた父の部屋に行く鈴子。部屋に入ると父だけではなく祖父と祖母、母と上の兄達がいた。

 

「家族全員が同じ部屋に集まっていて驚きました…。おまけに皆、真剣な顔つきだったので…」

 

鈴子は自分は何かやったのか…? そんな恐怖が沸き上がってきた。

恐る恐る鈴子は自分の座布団に座った。

父からまずは()()()()()()落ち着けと言われ茶を啜る。

 

鈴子…。明日からお前は()()()に入る為の修行に出てもらう

 

当主である父が真剣な顔つきで淡々と鈴子に告げたのだ。

 

「意味が分からなかった…。いきなりそう言われたんですよ…。」

 

そして鈴子の父は説明する。

 

この世に鬼という人食いの怪物が居る事

 

そしてその鬼を狩り人々を守る鬼殺隊の存在

 

代々受け継がれてきた北沢家の掟

 

「北沢家は昔、鬼に襲われ食われそうになった時…駆け付けた鬼殺隊によって一族が救われただけではなく鬼殺隊を率いる産屋敷一族に多大な支援と援助によって家は大変な財産家になったんです。

その恩を報いる為に北沢家は優れた人を鬼殺隊に入隊させ鬼から人々から守るのが使命だそうです」

 

鈴子は当初、全く信じていなかったそうだが父と祖父が真剣に話すので段々と本当だと分かった。

 

「話を聞いて私はそんな危険な仕事をする組織に入らないといけない事に絶対に嫌だと反対しました…。

だって私は…もうすぐ学校に入って友達とワイワイと楽しみながら通学すると思っていたんですよ…。

それなのにいきなりそんな組織(鬼殺隊)に入れなんて…酷過ぎますよ…!!」

 

自分に置かれた状況に理解した鈴子は泣きじゃくりながら父に縋りついた。

 

鬼殺隊(そんな所)に行きたくない!!考え直して欲しい!!

 

しかし父はそんな鈴子の態度に憤慨し彼女を平手打ちをした。

 

大恩ある産屋敷様に報いる事がどれだけの名誉なのかお前には分からないのか!!!

 

()()()()()()()で大声で怒鳴りつける父に鈴子は恐怖した…。こんな怒りを今まで見た事が無かったからだ。

 

「鈴子に何をするの!!」

 

鈴子を近寄り抱きしめる鈴子の母…。

 

父に言っても無駄だと知った鈴子は今度は母と兄達、祖父と祖母に縋りついた。

 

しかし…

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…!!」

 

鈴子を強く抱きしめて大粒の涙を流す母…。

母は今でも反対してるんだろう…。

 

「鈴ちゃん…! 可哀想にな…何でこんな目に合わないといけないんじゃ…!」

 

祖母も泣きながら鈴子を抱きしめる。

 

「泰三《たいぞう》! 今回の件は儂が産屋敷様を説得する!!

幾ら素質があっても鈴子に鬼狩りなど無理じゃ!!

資金援助をいつもの倍にすれば産屋敷様も許して下さるだろう」

 

恐怖に怯える孫娘の痛ましい姿に鈴子の祖父は当主である息子を説得しようとするが…。

 

「父上…貴方は相変わらずそれだ…。我が兄が使命に殉じて鬼殺隊に入ろうとするのに母上と共に猛反対しましたな。

産屋敷様に会社の資金援助を受けておいてその恩を報いないその姿に情けなく思います。」

 

自身の父親に軽蔑する目で見つめる鈴子の父…。

息子のその態度に祖父は激怒する。

 

「何を言うか!! 何処に自分の子供を喜んで死地に送る親がいる!!

鈴子を見よ! こんなに怯えておるのだぞ!! お前は何とも思わないのか!!」

 

「鈴子の素質は我が兄を凌駕してる。これほどの素質を持っているのに関わらず鬼殺隊に入れないなど産屋敷様のご恩を仇で返すのも同然。

こうしてる間にも鬼に食われる者が居るのですぞ?」

 

祖父の怒りの叫びを聞いても鈴子の父は気にもせず、寧ろコレが当たり前の行動だと言わんばかりだ。

 

「我が兄は鬼から人々を守る為に戦い戦死した。私はそんな兄上を誇りに思っています。

そして鈴子も鬼狩りの使命を果たしていけば兄と同じ志を持つだろう」

 

鈴子の父は羨望するような顔で娘である鈴子を見つめる。

 

「お…お前は…」

 

話を聞いていた祖父と祖母、母と兄達は夫を、父を、息子に恐怖する。

 

「話は終わりだ。

鈴子、直ぐに持っていく物を準備しなさい。もうじき迎えが来る」

 

父は手を挙げると襖が開いて刀を武装した者達が部屋に入って来ると刀を抜いて切っ先を突き付けてきた。

 

「鈴子は鬼殺隊に入隊する。これは当主としての決定事項だ。

邪魔をするなら身内でも容赦せぬ…!」

 

それは本気の言葉だった。

最早、逃げ切れないと悟った鈴子は泣きながら自室に戻り持っていく物を袋に詰めて母と祖母の泣き叫ぶ声を聞きながら父が手配した育手の元に送られたのだった。

 

「…これが私が鬼殺隊に入った経緯です」

 

話を終えた鈴子は目に光が宿っていなかった。

 

(何という事だ…! これは人柱…生贄と同じではないか!!)

 

鈴子の悲惨な過去に鬼影は怒りに震えていた。

自分の娘に対して何という所業なのか…!

幾ら産屋敷に報いる為とは言え本人の思いを無視して己の考えを押し付ける鈴子の父に怒りを抱く。

 

(可哀想に…。 もしも鬼殺隊に入っていなかったら友人達と学校に行って平穏な日々を過ごしていただろうに…!)

 

そんな日々を突如奪い去る北沢家の掟…それを喜々として己の娘を鬼殺隊に捧げる父親…まさに狂気である。

 

「後から知ったんですが…産屋敷は私の家だけではなく華族や他の裕福な家にも資金援助をしていてその見返りに鬼殺隊の人材確保に協力をさせているんです。

それだけではなく孤児院から引き取ったり人身売買などもやって鬼殺隊の人材の確保もやっているみたいです」

 

「!? な…なんという…!!」

 

その言葉に鬼影は産屋敷一族に戦慄する。何も知らない子供を引き取りそれを良い事に鬼狩りは崇高な物と教えて洗脳し長生きも出来ない組織に入れさせる…。

正に鬼畜である。

 

「そうやって奴らは自分の手を汚さずに鬼狩りを続けている訳か…。

それを1000年も…」

 

いったいどれだけの命が産屋敷一族に使い潰されたのか…。

鬼舞辻無惨は太陽の克服の為に1000年に渡り数えきれない人間を鬼にしてきたが産屋敷一族もその無惨を討つ為に数えきれない人間を犠牲にしている…。

どちらも唾棄すべき悪である。

 

「鈴子殿…そのご両親とはもう…」

 

「最初は手紙でやり合っていましたが父はそれを必ず内容を見て気に入らなければ誰にも見せずに処分していました…。

ですから鬼殺隊に入った後でも父が居ない時間を見てお母様と兄様達、おじい様とお婆様に会いに行っていました。

皆、嬉しそうに迎えてくれてお母様とお婆様は毎日仏様に私の無事を祈ってくれて…おじい様と兄様達は何とか私を助けようと動いてくれています」

 

「良き家族ですな。父親を除いて…」

 

「えぇそうです。おじい様は昭平(しょうへい)叔父様と連絡を取って私を助けようと動いてくれいます」

だけど…。」

 

鈴子の顔が曇る…。

 

「何が問題でも…?」

 

「昭平叔父様は帝国陸軍の中佐ですが聞くところによると軍部や警察の中にも産屋敷のシンパが潜んでいるそうで迂闊に動くのは危険だそうです。」

 

「厄介な…」

 

普通に考えれば産屋敷一族だけでは1000年に渡って鬼や鬼殺隊の存在を世間から隠すのは不可能…。

当然、権力側に協力者がいるのは当然の話だろう。

 

「話が変わりますが…私はお父様が信頼する育手の元に地獄のような修行を耐えてこの藤襲山の最終試験を何とか合格しました…。

その後、鎹鴉の指示を受けて鬼狩りを行ってきました」

 

育手の元に送られた鈴子に待っていたのは想像が絶する修行が待っていた。

 

至る所に危険な罠が張られた山の頂上に放り出されて一日以内に戻ってこいとか

 

いきなり真剣を持たされて木刀を持った育手に手加減無しに体中に打たれながら身を守り方、刀の扱い方を教えられる

 

体中に重石を付けられて深い川底に放り投げられる

 

そして最終試験では弱い鬼しかいないと教えられていたのに隊士でも手に負えなさそうな全身が無数の手に覆われた鬼がいた。

 

 

このように何度も死にかけた…。

逃げようにも人里から隔離された場所な上に育手も一日中監視もあり逃げられない。

鈴子はやるしかなかったのだ…。

 

「任務では他の隊士と協力する場面がありました。その人達は鬼に大切な人を食い殺されたから復讐心も相まって鬼を殺す為なら自分の命を簡単に放り投げる人ばかりで…。

私はついていけなかったんです…。

だって私は鬼に家族や友人が殺された訳でもなく父に無理やり鬼殺隊に入らされたんですから…」

 

最終試験を合格して鬼殺隊の隊士となった鈴子だが任務で共に戦う他の隊士達と何度か行動を共にしたが彼らは鬼を倒す為なら全身が傷だらけになろうが手足がもがれても鬼への殺意を無くさずに尚も食らいついていった。そんな彼らの()()()姿に鈴子は恐怖を感じていた…。

 

「どうしてそんな平然に自分を犠牲に出来るのか

幾ら憎くてもそうまでして鬼を倒したいの…?

理解出来ませんでした…。」

 

鬼に家族が友人が殺された訳が無い鈴子には理解できない有り方だった。そのため鈴子は周囲との覚悟の違いに辟易してしまい孤立していった。

 

「お父様は私が鬼狩りを続ければ亡くなった伯父様のような信念と考え方になるとか言っていましたが絶対にそんな事になるわけがありません…。」

 

「でしょうな… そう言った信念や覚悟を持った者はそれ相応の出来事があったからこそ持つことが出来るのであって貴方のように鬼に何かされた訳でもないのに強制的に入れられた者には理解できる訳がない…。」

 

鬼影は溜息をついて鈴子に同意する。

 

「恐らくですが、貴方の父君は亡くなった兄、貴方の伯父に何らかの劣等感、もしくは羨望を抱いていたのでしょう。

それを娘である貴方に託そうしてる訳だ」

 

「ッ…! とんだ迷惑ですよ…! 伯父様は伯父様で私は私です!

自分の思いを私に託すなんて冗談じゃない!!」

 

怒りを見せる鈴子…。

父が伯父にどんな感情と思いを抱いていたかは分からないがそれでも娘の自分にそれを託すために鬼殺隊というこんな異常者の集まりに放り込むなんて…!

 

「鈴子殿が家に戻る為にはどの道、父君をどうにかしないとなりませんな…」

 

彼女の父親は先ほども言ったが正気ではない。 戻ろうとしたら逆に娘を殺そうするだろう。

もしも鈴子が家に戻るには父親を排除しなければならない。

 

「それは…」

 

鬼影の言葉に鈴子は戸惑う…。

 

「鈴子殿も分かっておられるでしょう?

家に戻るためには父君を()()()()()()()()()()()()()と?

話を聞いただけですが貴方の父君は自分の兄の思いと産屋敷の忠誠心が混ざり有って最早正気ではない…。」

 

「…」

 

鬼影の言葉に鈴子は黙り込んでしまう…。

いや…言われるまでもない…。それは彼女が一番理解していた。

 

「父君を生かす殺めるか…。いずれは決断しなければなりませんぞ?」

 

非情な言い方だが鈴子が家に戻るためには避けて通れない事だ。

 

「私は…「危ない!!」」

 

何か言おうとするがそこに何者かが割り込んでくる。

 

「早く逃げるんだ!

向こうに行けば他の隊士達がいるから保護してもらえる!!」

 

そこにいたのは鬼殺隊の隊士だった。

彼は鈴子が鬼に食われそうになってると思い鬼影に日輪刀を振るう。

鈴子を自身の背後に庇うように鬼影と相対する。

 

「全く…まだ話の最中だったというのに」

 

「黙れ! 生き汚い鬼め!!」

 

隊士は鬼影に殺気をぶつけるが鬼影はそれを何ともないように涼しい顔で受け流す。

 

「まぁ任務に殉じるのは結構だが…拙者に構ってばかりで宜しいのですかな?」

 

「何をいって…」ドス「えッ…?」

 

隊士は訳が分からなかった。

鬼に襲われている候補者を助けたというのに…痛みがゆっくり襲ってくる…。

視線を下に向けると自身の胸から鋭い刃物が突き出ていた。

ゴボリと口から血を流しながら後ろ振り向くと…

 

「まず一人…」

 

無表情で手に持つ刀で己の胸を貫いている少女が見えた

 

「な…何で…?」

 

「…」

 

鈴子は隊士の問いに答えず日輪刀を少し回して胴体を横に切り裂いた。

グラリと訳が分からないまま隊士は斃れ息絶えた。

 

「…これが人を斬る感触…」

 

「大丈夫ですか? 無理せず拙者が彼奴等を片付けますが…?」

 

初めて人間を斬った鈴子は呆然とする。鬼影は心配になり声を掛ける。

 

「大丈夫です…。私は覚悟が出来てますから…。」

 

「…そうですか。ですが無理はなさらずにして下さい」

 

コクリと首を縦に動かして鈴子は死んだ隊士が言っていた方向を見る。

 

「さて、向こうに隊士共が集まっているそうですが…行けますかな?」

 

「大丈夫です。コレが私の始まりなんです。逃げる訳にはいかない」

 

「では参りましょうか。出来る限り補佐しますぞ」

 

鈴子と鬼影は鬼殺隊隊士が居るであろう場所に駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身軽を生かした速さで胡蝶しのぶは目の前の異形、ゾルダートに突貫する。

ゾルダートは腕に取り付けられた巨大なドリルを振りかぶり、しのぶに向けて振り下ろした。

 

(遅い!)

 

小柄な体を生かした速さでそれを苦も無く避ける。攻撃が避けられたゾルダートは続けさまにドリルで横に薙ぎ払おうするがしのぶはそれも難なく避ける。

そして

 

「ハァ!」

 

得意とする刀の突きでゾルダートの胸に突き刺すが…

 

ガギィン…!

 

「!?」

 

「■■■!!」

 

しかしその突きは僅かに刺さっただけだった。

ゾルダートは唸り声を上げてドリルを振り回す。

 

「くっ!」

 

しのぶは一旦後ろに下がる。

 

(ッ! 胸…いえ、胴体の中に何か仕込んでいる…!)

 

僅かに聞こえた音から察すると金属だろうか?

敵を見ると僅かに肉が裂けており血も出ていない。

 

「胴体が駄目なら…!」

 

しのぶはもう一度、突貫してゾルダートの攻撃を避けて攻撃の射程内に入る。

 

「ここならどう!」

 

彼女が狙ったのは敵の首だった。一寸狂いもなく正確に敵の喉元に刀の切っ先が飛ぶ。

だが…

 

ギィン!

 

「!? 首まで…!」

 

またしても刀が僅かに進んだだけで止まってしまう。

 

「■■…!」

 

予想が外れてしまい僅かに硬直してしまったしのぶにゾルダートはしのぶの髪を鷲掴みにする。

 

「は…離せ!!」

 

髪を鷲掴みにしたゾルダートはそのまましのぶを持ち上げる。

 

(ま…マズい…!)

 

このままでは殺られる…!

しのぶはジルダートの肉体のアチコチと突き刺すが何処も金属音が響いて弾かれしまう。

自身を掴んでいる腕にも刺すが効果が無かった。

 

「■■■■!!」

 

咆哮を上げてゾルダートはをしのぶの胴体、心臓に狙いを定める。

 

「うぅぅぅ…!!」

 

必死に足搔くしのぶだがゾルダートの拘束から逃れる事が出来ない。

 

「■■■■!!!」

 

足搔くしのぶにトドメを刺す為にゾルダートはドリルで突き刺そうする!

しかし…!

 

ドボォ…!

 

「■…? ■■!?」

 

「…!!」

 

しのぶがイチかバチか狙ったのはゾルダートの口だった。

彼女の刀はゾルダートの口内を通り抜けて喉を貫いていた。

 

「■■…■■■■!!!!」

 

自分の口に刀を突っ込まれたのかゾルダートは暴れる。そしてしのぶの心臓を目掛けたドリルは機動が大きく外れてしまう。

 

ガガガガガガガ

 

「う…!アアアァァァァァ!!!!」

 

ドリルは心臓からは逸れたが完全に外した訳ではなかった。

大きく軌道がズレたドリルはしのぶのわき腹を抉った…!

 

「■■■!!」

 

口内に異物()が刺さってるのが効いてるのかゾルダートはしのぶを投げ捨てる。

 

「ああぐ…!! う…ァァァァァ…」

 

何とか敵の拘束から逃れることが出来たが大きな代償を払ってしまったしのぶ。

激痛に悶える中、しのぶは抉られた傷口に指で触る。

 

「ッ…!! (ううぐ…!!な…内臓までは抉られていない…だけど出血が酷い…このままだと死にますね…)」

 

傷の具合を確かめたしのぶは歯を食いしばりながら何とか立ち上がるが呼吸は酷く乱れ両足は力が入らずガクガクと震えてしまう。

 

「■■■…」

 

口内に刀を突っ込まれて少しの間、行動不能になっていたゾルダートだが元の調子を取り戻ししのぶを睨みつける。

それだけではなくさっきまで様子見していたのか動かなかった他のゾルダート達もしのぶの方へと向かって来る。

 

(…! いけない…この出血を止めずに戦うのは自殺行為…。何とかこの場を一旦離れて手当しないと…)

 

そう考えしのぶは一旦離脱を考えた。

しかし…。

 

(駄目! そんな事をしたらこいつ等はカナヲの所に向かってしまう!)

 

チラリと目を向けると離れた場所で三体のゾルダートに押されつつもカナヲは懸命に戦っていた。

目を凝らして見るとカナヲは所々、致命傷ではないが傷を負っていた。

カナヲもゾルダート達に刀が通じず防戦一方だった。

そんな状況に更に敵が追加されたらカナヲが持たない。

 

(どうすれば…!!)

 

柱として鬼との数々の戦いを乗り越えてきたしのぶだったが、銃を持った怪物(菌根兵)や目の前に居る機械仕掛けの怪物に今までの経験が通じない事に焦燥に駆られてしまう。

必死に打開案を考えるが有効な手立てが思いつかない。

 

「■■■」

 

「■■…」

 

「■■!」

 

それぞれ唸り声を上げて三体のゾルダートがしのぶに迫る。

 

やるしかない…!

覚悟を決めたしのぶはふらつきながらも日輪刀を構えるがもう満足に動けない有様だった。

 

「フン…柱ダロウト攻撃ガ通ジナケレバ無意味ダ。

蟲柱ハ此処デ終ワリダナ。アノ傷デハ満足ニ動クコトガ出来マイ。

モウ一人ノ女モナ。」

 

戦いを観察していたギンはしのぶの状態を見て彼女は終わりだと結論した。

もう一人の少女も直ぐに後を追う事になるだろう。

 

「■■■■!!」

 

「…!」

 

ゾルダートは腕に取り付けられたドリルを振りかぶりしのぶ目掛けて振り下ろす。

 

(駄目だ…体が動かない…避けられない…

カナヲ、葵、皆さん、先に逝きます…ごめんなさい…。

姉さん…貴方を助ける事が出来なくてごめんなさい…)

 

避けられない死にしのぶは姉とカナヲ、蝶屋敷と鬼殺隊の者達に心の中で謝罪する。

遠くからカナヲが叫んでいる…。

しのぶは目を瞑り死の瞬間を覚悟する。

 

「そこまでだ」

 

突如、男性の声が響く。

 

ザシュ!

 

ゾルダートの体が斬られる。

 

「■■■…!!」

 

体内の仕込んだ鉄板のおかげで奥深くまで斬られなかったもののゾルダートは大きく怯む。

 

「えっ?」

 

しのぶは呆けた声を出して目を開けるとそこには…

 

「無事か、胡蝶」

 

「と…富岡さん…?」

 

そこにいたのは水柱の富岡義勇だった。

 

「直ぐに手当てしろ。こいつ等は俺が相手をする

カナヲも方も安心しろ。伊黒も来ている」

 

そう言われてしのぶはカナヲの方へ見るとそこにはカナヲを守るように伊黒が前に立っていた。

 

「よ…よかった…」

 

疲れか痛みでしのぶは座り込む。

そして包帯を取りだして傷の手当てを行う。カナヲもこっちの方に向かって来ている。

 

「■■■■!!」

 

「■■■…!!」

 

「■■■!」

 

突如現れた新たな敵にゾルダートは咆哮しドリルを突き付ける。

 

「オ前ハ…水柱ノ富岡義勇ダナ?

ギリギリ間ニ有ッテ良カッタナ。ダガ…オ前デモコノ”ゾルダート”ノ相手ニ出来ルカ」

 

「…」

 

ギンの言葉に義勇は何も言わない。

 

「ム…? 何ヲ黙ッテイル?」

 

「鬼に話すことなど無い…」

 

「ソウカ。ナラサッサト死ネ。行ケイ!!”ゾルダート”達ヨ!

アノ、ガキヲバラバラニシロ!!」

 

「「「■■■■■!!!!」」」

 

ギンの言葉にゾルダートは辺りに振動させる咆哮をしながら富岡義勇に突撃する。




次回 竈門炭次郎


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竈門炭次郎

藤襲山で最終試験に挑んだ炭次郎だったが山には鬼だけでなく未知の怪物達(菌根兵)が徘徊していた。
敵の猛攻に受けて傷を負いながらも炭次郎は何とか生き延びていた…。


「ハァハァハァ…」

 

炭治郎は藤襲山を駆けていた。

 

ガガガガガガガ

 

迫りくる銃弾から必死に逃げていた。

あの後、炭治郎は生き残りが居ないか探していたが見つからず、居るのはライフルを始めとした銃器を持った人型の怪物(菌根兵)が山の彼方此方に居るだけだった。

息を殺して慎重に動いていたが落ちていた木の枝を踏みつけてしまいその音で菌根兵に気付かれてしまい有無を言わさず銃を乱射される。

それだけではなくその銃声で周りにいる菌根兵も炭治郎の存在を気付き手にした銃で次々と銃撃を受ける羽目になってしまった。

 

「あぐ…!」

 

必死に逃げていた炭治郎だが銃弾が左腕を掠める。

掠めただけだが鋭い痛みが炭治郎を襲い彼はその痛みでバランスを崩して転倒してしまいアチコチに擦り傷が出来てしまう。

痛みに悶える中、背後から多数の菌根兵が迫ってくる事に気づき炭治郎は痛みを押し殺して走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「い…痛い…だけど何とか撒けたみたいだ…」

 

息を切らしながら銃声が聞こえない事に安緒する炭治郎。

 

「もしかして生き残ってる人は俺だけなのかな…?」

 

あれだけ探しても自分と同じく隊士候補者と隊士達が一人も見当たらない事に炭治郎は不安になる。

自分以外はあの怪物達に殺されてしまったのだろうか…?

 

「ぐ…体中が痛い…ど…何処かで休まないと…」

 

炭治郎は自分の体を見やると全身、傷だらけで着物が汗と血でぐっしょりと濡れており、特に銃弾を掠めた腕が痛む…。

一旦治療しなければならない…。炭治郎は悲鳴を上げてる体に鞭打って休める場所を探す事にした。

 

 

 

 

 

 

休める場所を探してしばらく経つ。

途中、またあの銃を持った怪物に遭遇するが気配を殺して何とかやり過ごした。

体が鉛みたいに重くなり、動くのきつくなってきている事に炭治郎は焦燥感を感じる。

 

「あっ…あれって…洞窟か?」

 

炭治郎は岩陰にぽっかりと穴がある事に気付く。

大きさもちょうど入りこめそうな大きさだ。

 

(しめた…! あそこで休もう)

 

ようやく見つけた休息に使えそうな場所を見つけた炭治郎は周りに敵がいないか見渡しながら小さな洞窟に入っていった。

 

「ふぅ…ようやく一息付けられそうだ…」

 

刀を腰から抜いて地面に置き試験が始める時に隊士から渡された荷物から包帯や塗薬を取り出して怪我をした箇所に不器用ながら薬を塗り包帯を巻く。

 

「これで大丈夫かな?

はぁ…これからどうすればいいんだろう…」

 

一息ついた炭治郎はこれからの事を思案する。

鬼が潜むこの山で七日過ごさなければならないがこの試験を合格する条件だが今、この山には鬼では無く銃器を武装した異形の怪物達が大勢でうろついておりこちらを攻撃してくるのだ。

それに対してこっちは一人で武器だって師に渡されたこの日輪刀一本だ…。

 

(刀しかないのに相手は大勢で銃を持ってる…。

戦ったら間違いなくこっちが負けるよな…。)

 

相手が一人で接近戦ならまだ勝ち目あるかもしれないが…多数では圧倒的に不利で戦えば敗北するのが目に見えていた。

正直にいえば炭治郎はこの試験を乗り越えるのが無理だと思っている。先ほど一体の怪物を倒せたがアレは運が良かっただけで二度は無いだろう

あの双子の言う通り山には鬼しか居なかったらまだ何とかなったかも知れないが、あの怪物達相手に七日間も生き残るのは不可能だ…。

炭治郎は師である鱗滝に鬼相手の戦い方は学んだが銃器を持った相手との闘いは全く教わっていない…。

だけど鱗滝もまさか銃器を持った怪物達が試験の場に殴り込んでくる予想なんか一切していないだろう…。

 

(傷が良くなったら…()()()()()()

死んだら元も子もないし…鱗滝さんだって事情を話せばきっと許してくれるはずだ…

何より禰豆子を置いていくわけにいかないんだ…!)

 

炭治郎は山に下りる事を決断した。

勿論、その決断はこの選抜試験で失格になる鬼殺隊に入隊する事が出来ないことを意味する。

だが炭治郎はこのままこの山にいても確実に死ぬと直感してた。

なら今回は諦めてもう一度、鱗滝の元で修行をして次の試験に再度挑戦しよう。

無理して死ぬよりはずっと良いだろう…死んだら何もかもが終わりなのだから…。

そう決めた炭治郎は体を休めようと寝転がり休息を取ろうとすると…

 

カサリ

 

(!?)

 

僅かだが草を踏む音が聞こえて炭治郎は起き上がり置いていた日輪刀を手に持つ。

 

カサリ カサリ

 

今度はハッキリと聞こえる…!

そしてこれは…!

 

(間違いない…! こっちに近づいてる音だ!)

 

あの怪物達だろうか?

連中もこの洞窟を見つけて近づいているのかも知れない…!

炭治郎は日輪刀を僅かにクンと抜き何時でも攻撃出来るようにするが炭治郎はある事に気づいてしまった。

 

(!? し…しまった!!

此処(洞窟)だと狭くて刀が振れない…!! に…逃げ場も無い!!

銃で狙われたら一巻の終わりだ…!!)

 

炭治郎は此処で自分の失策に気付いてしまう…。

この洞窟は人間は入れるものの中は思ったより狭いのだ。

刀の長さを考えると縦も横も振れない上に見つかった時、隠れる場所も無いのだ。

相手は銃器を持ってるので外から一方的に攻撃出来る上に狙い撃ちに容易だ…。

 

(小さい洞窟だから入り口に何か草や木の枝で隠しておくべきだった…!)

 

敵に見つからない様に偽装ぐらいはするべきだったのにしなかった…。

炭治郎は自分の浅はかさに猛烈に後悔する。

 

カサリ カサリ

 

音も先ほどより大きく聞こえる…。向こうは間違いないくこの洞窟を見つけている。

炭治郎は体を小さく丸めて相手から見えない様に今できる事をやり見つからない様にと神に祈る。

 

「何も居ないな…。良かった…

ここで隠れよう」

 

聞こえたのは日本語だった。

何者かが洞窟に入って来る。

 

「小さいけど…贅沢言えないよな…

何でこんな目に合うんだよ…。鬼どころかもっとヤバい奴らが居るし…明るくなったら山を下りて隊士の人達に保護してもらおう…。

爺ちゃんは怒るけど事情を話せば許してくれるよな…?」

 

ブツブツと独り言喋って荷物から食料を取り出してそれを食べる。

 

「あ…あの…?」

 

「なんだよ…今、食べてる最中…」

 

炭治郎は声を掛けて目の前の人物と目が合う。

 

「………」

 

「………」

 

目が合い互いに沈黙してしまう。

 

「えっと…」

 

気まずくなったのか炭治郎は相手に声を掛けるが…

 

ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!

 

大絶叫だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い…いるなら居るって言ってくれよ…!!

心臓が本当に止まるかと思ったじゃないか!」

 

「ご…ごめん…って大声を出しちゃだめだと言ったじゃないか…!」

 

「あっ…ゴメン…」

 

金髪の少年は両手で口を押えて謝罪する。

あまりの大絶叫だったので炭治郎も度肝を抜かれてしまったが直ぐに黙らせた後、周囲に敵が居ないか確認して洞窟の入り口をそこらから取ってきた草や木の枝で隠す。

互いに落ち着いた後、自己紹介をする。

 

「あれ…君は確か…我妻善逸さんだっけ…?」

 

「えっ? どうして俺の名前を…って君はあの時の…?」

 

先程、大絶叫をした少年、我妻善逸は試験が始まる前に話しかけてきた少年だと気づく。

 

(確か…竈門炭治郎という名前だっけ?)

 

「良かった…まだ生き残ってる人がいたんだ。」

 

炭治郎はホッとするように孤独感が薄れていく。

先程までは自分以外は候補者は全滅したと思っていたからだ。

 

「俺もだよ…。まだ生き残ってる人がいて良かったよ…」

 

善逸も炭治郎と同じ気持ちだったようだ。

 

「えっと…我妻さん…貴方以外に生き残りは…?」

 

「俺の事は善逸で良いよ。俺も君の事を炭治郎と呼ぶからさ。

それで生き残りなんだけど俺も無我夢中で逃げていたから分からないんだ…。

逃げてる最中だったけど殺された候補者や隊士の人達の死体を見たよ…」

 

「そっか…。」

 

やはりというか善逸も同じ状況だったようで自分と同じく逃げ回るのが精いっぱいだったようだ。

 

「本当にどうなってんだよ…! 爺ちゃんが言っていた事と全然違うじゃないか!

あんな銃を持った化け物が居るなんて聞いてないよ!

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()し…!」

 

善逸も頭を抱えて言われていた事と全く違う事に怒り出す。

炭治郎も善逸の気持ちが分かる。自分だって同じこと考えていたのだから…。

だが一つだけ気になる言葉があった。

 

「なぁ善逸。

今、()()()()()()()()()()()()()と言ったよな?

俺、この山に入って一度も鬼に出くわさなくててっきり、鬼もあの化け物に殺されたと思ってたけど…」

 

炭次郎はこの山に入って一度も鬼に出くわせていない。出くわしたのは銃を持った怪物達だけだ。

 

「えっ? 炭治郎は()()()()()()?」

 

善逸はポカンとした表情で炭治郎に聞き返した。

 

「なにを見てないって…?」

 

「俺、見たんだよ…。

あの化け物達が鬼に何かするのを…」

 

善逸はポツリと自分が見た光景を語り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試験が始まりビクビクしながら山に入った善逸はまず何処かで安全で休める場所を探していた。

 

「あぁ…どうしよう…。七日間も生き残るなんて無理だよ…

俺、絶対に死ぬよ…」

 

ガチガチと自分の死ぬ未来に恐怖しながら善逸は周囲に鬼が居ないか警戒しながら進んでいく。

 

 

 

 

 

 

「変だな…。多数の鬼が居るって言っていたけど全然出くわさない…。

…その方がいいけどさ…」

 

山に入ってから一向に鬼に出くわさない事に善逸は不可解に感じていた。

自分の師から「山にいる鬼は人に餓えており入った途端に襲い掛かって来る」と聞いていたからだ。

勿論、鬼に遭遇するのは嫌なので今の状況の方が良い。

 

「何処か身を隠せそうな…水の調達が出来る場所とかないかな…?

うーん…川とかないか?」

 

善逸は安全な場所を探しながら川が無いか山を下っていた。

このまま上に登っても水の調達が出来ないと判断したからだ。

 

「・・・…!!」

 

「…? 今、何か…」

 

「…!!」

 

「! 何か聞こえる…! 話し声…?」

 

善逸は生まれながら並外れた聴力の持ち主だ。

常人なら聞こえない音も善逸は聞き取れてしまう。

それは遠くから聞こえる。

 

「何だ…? 叫んでいるのか…?」

 

もしかしたら他の候補者かもしれない。

 

(もしかして鬼に襲われている?)

 

もしそうなら助けに行った方が良いだろう。

しかし…

 

(で…でも俺が行ってもどうしようもないじゃないか…? 逆に食われるだけじゃないか…)

 

恐怖で体が硬直してしまう…。

自分の事だけで手一杯だ。他の人達を助ける余裕なんてない…。

 

(辞めよう…。気の毒だけど運が悪かったんだ…。

俺だって自分の事で精一杯なんだ…)

 

自分にそう言い聞かせて善逸は叫び声から反対の方へと足を向け速足で動き出した。

 

(でも…ここで見捨てたら…俺は自分を()()()()()()?…)

 

再び足を止める善逸。

もしかしたら助けられる命なのかもしれない…。助けられる命だったのにそれを見捨てて自分は何とも思わないのだろうか?

 

「ッ…!! あぁもう…俺って本当に馬鹿だな…! 放っておけばいいのに!」

 

善逸の足は既に先ほど向かおうとした方向へと走っていた。

 

 

 

 

 

 

「ハァハァ…確かこの辺だよな?声が聞こえていたのって…?」

 

善逸は耳を澄まして周囲の音を細かく拾う。

そして

 

「ヤメロ…! ハナセ!」

 

(聞こえた! 向こうの方だ)

 

まだ小さいが先ほどと違ってはっきりと聞き取れた善逸は声が聞こえた方向と足を進める。

急いで駆け付けると前方60メートル程に人影が見えた。

 

「あれ…?」

 

違和感を感じた善逸は足を止めて人影を観察する。

 

(1~2人…いや、10人以上は居るぞ! それに銃…だよなアレ…?)

 

よく見れば10人以上が集まって何かをしている。更に銃を所持してる…。

このまま行くのは危険だと感じた善逸は茂みに身を隠して集団を見る。

 

「や…やめろ…! お…お前らは何なんだ!」

 

怯えが混じった叫び声を上げる人間…と思いきや、よく見ると…

 

(え…! アレって鬼なのか…? 爺ちゃんから聞いた通りだと…)

 

青白い肌に真っ赤に染まった瞳に口から見える鋭い牙…。師匠から聞いた鬼の特徴が揃っていた。

更に鬼は人間を超える怪力に驚異的な再生能力を持つ恐ろしい怪物なのだが…。

 

(何で鬼が捕まってるんだ…? それにあの銃を持った人達は誰なんだろう?)

 

恐ろしい怪物である鬼が仰向けに組み伏せられてジタバタと手足を僅かに動かす抵抗しか出来ない。

善逸は鬼を組み伏せてる集団を見る。そして月の光が照らされて暗かった周囲が明るくなる。

月の光に照らされて集団の姿を見えてくると…。

 

「ヒッ…!」

 

善逸は口を押えて悲鳴を上げない様にする…。

 

(な…何だアレ…! アイツら人間じゃない!)

 

鬼を組み伏せてる者達はドス黒い肌を持って顔には目玉が三つほど付いておりギョロギョロと動かしていた。

 

「離せ!!」

 

怪物から逃れようと鬼は抵抗するがガッシリと抑えられるのか僅かに動くことしか出来ないようだ…。

そして一体の怪物(菌根兵)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…。

 

「な…何だソレは! や…やめろ何をする気だ…!!」

 

怪物の手にはこぶし程の大きさを持つ球根のようなもので多数の触手が生えておりウネウネと動いていた…。

そしてソレを()()()()()()()()()()()()()()()()()()…。

 

「ウェ… ぐえぁうううう!!!!」

 

得体のしれない()()()を呑みこまされた鬼はもがき苦しむ。

そして…

 

「ガァ…ァ…ァ…」

 

鬼は苦しむ姿から一転、今度は動かなくなる。

善逸からは見えないが鬼の瞳から()()()()()()()()()()が流れている。

 

「…」

 

何も言わずゆっくりと鬼は立ち上がる…。

それを見た怪物(菌根兵)は鬼に回転式拳銃(リボルバー)を差し出す。

鬼は何も言わず差し出された拳銃を持ち弾薬も受け取る。

 

(な…何が起きてるんだよ…! アイツら鬼の口に何を突っ込んだよ…!?

なんだがヤバそうだし離れた方がいいかも…)

 

離れた場所から茂みに隠れていた善逸は一体何が起きてるのか分からなかった。

あんなに暴れていた鬼が大人しくなる事に不気味に感じていた。

嫌な予感がした善逸はこの場から離れようとする。

 

「…! あそこにいるぞ!!」

 

「!?」

 

その場から離れようとした善逸だったが人間の匂いに気付いたのか大人しくなっていた鬼が善逸が隠れてる場所に指を差して叫ぶ。

それを聞いた怪物(菌根兵)達は持っていたライフルや散弾銃、短機関銃を善逸が隠れていた場所に一斉射撃する。

 

「ウアアアアアアアア!!!」

 

襲い来る銃弾の嵐に善逸は泣きながらその場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

「ハァハァハァ!…!」

 

善逸は力の限り走った。だが…

 

「逃がすな!!」

 

「撃ち殺せ!!」

 

「バラバラにしろ!!」

 

後ろから無数の殺意が背中に刺さり吐き気が沸き上がってるくる中、空気を切り裂く銃声と銃弾が飛んでくる…。

善逸の後ろから銃で武装した多数の鬼が迫っている。

 

(ど…どうなってんだよ! 爺ちゃんは鬼は群れないと言っていたのに!!)

 

鬼は共食いの性質から群れずに単独行動すると聞いていた。

だが実際はどうだ…? 自分を追いかけてる()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(や…ヤバいよ…! このままだと追いつかれる!!)

 

鬼達は強靭な身体能力でグングンと善逸を距離の詰めて来ている。

夜の為に辺りは暗く木々を避けながら走る善逸に対し、長い間この山で過ごしてきた鬼達は辺りの地形を理解しており最短距離で追跡してきている。

善逸は確実に追い詰められていた。

 

(ど…どうしよう…!! 何処かで隠れないと!)

 

走りながら追跡から逃れる場所が無いか探す。

 

「…! 一か八かだ…!」

 

このままだと追いつかれてお終いだと悟った善逸は一か八かで近くにあった大きい樹木を木登りの要領で軽やかに昇った。

 

(頼むから見つからないでくれ!!)

 

太い枝に腰を掛けて天に祈るように善逸は息を殺して身動きも抑える。

 

ザザザザ

 

草木を強く踏む音が聞こえる。

 

「むぅ! 何処に消えた! 」

 

「近くに居るはずだ! 探せ!」

 

追ってきた六体の鬼達は消えた善逸を探す。

樹木の上で鬼達が自分を探してる事に善逸は沸き上がる恐怖を必死に抑えながら鬼達は去る事を待つ。

 

「クソ… 血と腐臭でガキの匂いがよく分からない!」

 

「散れ! そこら辺に隠れてるはずだ」

 

消えた善逸を探して鬼達は散らばり捜索を開始する。

 

(チャンスだ! 他の奴らがもう少し離れたら逃げられる!)

 

鬼が散り散りになった事に善逸は逃げ出す好機を得た。

 

ガサ

 

「! そこか!!」

 

僅かに草木が揺れた音を聞いた鬼は手にした散弾銃で音がした方向に発砲する。

 

「ひいいいいい…!!!」

 

銃声に驚いたのか草木から人影が飛び出す。

 

「見つけたぞ!」

 

ドーン

 

鬼は人影に向かって散弾銃を発砲する。

銃弾が当たったのか飛び出した者は大きく転げだした。

 

「いぎぃ… あ…足が…だ…誰か助け…」

 

善逸は下に目をやると足を撃たれて動けなくなった人を見る。

 

(アレって… ! そうだ最終試験を受けに来てた奴だ…!)

 

倒れてる人物は自分と同じ最終試験に受けに来てた人物だった。

とは言え、あくまで目にしただけで話した事は全くないが…。

 

「た…助けて…」

 

痛みに耐えながら必死に助けを求めてる姿に善逸は助けようと考えるが…

 

(だ…ダメだ!! 連中が集まってきている! 出ていっても殺されるだけだ…)

 

鬼が一体だけだったならまだ何とか出来たかも知れないが銃声を聞きつけて先ほど散っていった鬼達が集まってくる音を聞く。

銃を持った多数の鬼が集まってきたらどうしようもない。出ていっても死ぬだけだった。

 

(ごめんなさい!! ごめんなさい…!! どうしようもないよ!!)

 

善逸は彼を見捨てる選択を取った。そして…

 

ドーン

 

「手間を取らせやがって」

 

動けなくなった候補者を散弾銃で頭部に撃ち込んでトドメを刺した。

 

「見つけたのか?」

 

「あぁ…今、始末したところだ」

 

仲間の鬼は死体を確認する。

 

「おい…こいつは俺達が追っていた奴じゃあないぞ…」

 

「はっ?」

 

「よく見ろ。髪が黄色じゃない。匂いも違うぞ」

 

「チッ…別にいいだろ。 コイツも鬼狩りなんだ。殺す事には変わりがないさ」

 

不貞腐れように死体を足で蹴る。

 

「どうする? もう一度探すか?」

 

「もう面倒だ…。さっきの奴は諦めよう。どうせ別の連中か菌根兵共が始末するさ」

 

「それもそうだな。他の獲物を探そう」

 

探すのが面倒になった鬼達は追っていた人間(善逸)を諦めて他の人間を探す事にしてその場から離れていった。

鬼達の気配を消えた事を確認した善逸は静かに巨木から降りた。

そして先程、鬼に射殺された候補者の遺体に近づく。

 

「ごめんよ…助けられなくてごめんなさい…」

 

自分は彼を見捨てた…。

 

もしかしたら助けられたかも知れなかった。だが彼がこの場所に居なかったら亡骸をここに晒していたのは自分だったかもしれない…

 

「ゥァ…」

 

心が罪悪感に塗りつぶされていく…。瞳から涙が溢れていく…

助かるために最善の選択をしたはずだった。

どうしようもない…已む得なかった…。それでも善逸は納得出来なかった。

善逸はただ静かに涙を流し続けた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…その後、鬼に見つからない様にアチコチ逃げ回って此処にたどり着いたんだ…」

 

話し終えた善逸は膝を手を回して顔を隠す様に埋める。

 

「善逸…」

 

彼から悲しみと罪悪感に匂いを感じ取る炭治郎。

善逸は自分自身を強く責めてることが分かってしまう。

 

「どうしようもなかったんだ。俺だって同じ事をしていたよ…」

 

自分の身を守る事に手一杯の中、炭治郎も自分も同じ状況だったら同じ事していただろう。

善逸を責めるなんて出来る訳が無い…。

 

そして善逸の話を聞いた炭治郎はあの銃を持った怪物達の恐怖が大きくなる。

話し通りなら鬼は奴らの仲間になったという事だろうか?

 

(鬼が協力して俺達を攻撃してる…。

駄目だ…教わった通りにやったら確実に負ける…戦い方を考えないと)

 

炭治郎は師である鱗滝から教わった鬼への対処法では歯が立たないと実感する。

相手は銃を持って集団で動く敵だ。従来の戦い方では勝てない…。

 

「!?」

 

どうしたものかと考えていた矢先だった。

先程からうずくまっていた善逸が勢いよく顔上げた。

 

「善逸? どうしたんだ…」

 

「向かって来ている…」

 

「えっ?」

 

「この音… !? そうだ…! 銃と弾丸の音だ!

この感じだと… あぁ…マズいよ炭治郎…!

奴らだ! あの銃を持った化け物がこっちに向かって来ている!」

 

「なっ!」

 

善逸は青ざめた表情で炭治郎に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「足跡は向こう側に続いてますな」

 

「分かるんですか?」

 

「えぇ…人間の頃に猟師の仕事もこなしてましたからな」

 

「やるじゃないか。お前にこんな特技あったとはな」

 

「恐れ入ります」

 

地面に残った足跡を追跡しているのは鬼影と鈴子、そしてハイゼンベルクと数体の菌根兵だ。

鈴子と鬼影はあの後、山で奮戦している鬼殺隊隊士と候補者達を次々と抹殺し同じく山に登っていたハイゼンベルクと合流したのだった。

 

「結構な人数の排除したので鬼殺隊は更に弱体化したでしょう」

 

「まぁな。以前から痛みつけてやったから連中は鬼狩りをやってる場合じゃないのは確かだな」

 

鈴子の言葉にほくそ笑むハイゼンベルク。

 

「しかし…ハイゼンベルク様…その…宜しかったのですか?

この山には【柱】階級の隊士が数人いるのですが、それをほっといて()()()()()()()()を優先するとのことですが…。」

 

「その痣があるガキが()()()()なんだ。そいつを始末したかで大きく変わる。

それと比べれば柱なんざそこらのカスと大して変わらない」

 

(何しろ原作主人公だからな…。)

 

竈門炭治郎…

原作の主人公である彼を存在は決して無視は出来ない。

これから炭治郎は鬼殺隊隊士として数多くの死線をくぐり抜けていき、あの無惨相手に食いつけるまでに成長する。

ハイゼンベルクはそんな炭治郎を脅威と見做している。放置していたら手に負えない存在になり自身の生き返りの願いが断ち切られるかも知れないからだ…。

今ならまだ手に負える存在だからこそハイゼンベルクはこの山で炭治郎の抹殺を最優先にしている。

 

(お前さんには本当に恨みがないが…ここで退場してもらうぞ)

 

両者の邂逅は近い…。




次回 邂逅


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