レズはヤダ!レズはヤダ!レズとドSは嫌だぁぁぁぁぁ (空色)
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1話

急募!監禁場所から逃げる方法

1:イッチです

賢いスレ民たちよ、ワイに力を貸してください

 

2:名無しのパンピー転生者

ほうほう

 

3:名無しのパンピー転生者

どうした?

 

4:イッチです

転生してはや9年。クソレズ共に扱かれ、屑ポニーテールにシバかれる日々を送ってきたけどもう限界だ!

 

5:名無しのパンピー転生者

一行だけなのに凄まじい情報濃度だな

 

6:名無しのパンピー転生者

kwsk

 

7:名無しのパンピー転生者

もっと詳しく説明しろ

 

8:名無しのパンピー転生者

掲示板初心者か?

 

9:イッチです

失礼。ワイが転生した世界から説明していく。といっても正直、どこの世界に転生したのかわからない。漫画とかゲームの世界に転生するケースが多いって言われたけど、読んだことない漫画とかだったら前世の知識とかあんまり役に立たないんだよな。

 

世界観はファンタジー?だと思う。5歳くらいでよくわからん奴らに攫われたから判断に困ってる。魔法はある。あと呪法っていう魔法の上位互換もある。割と物騒な世界だと思う。魔導士のギルドがあるらしい。

 

ワイのスペックについて。

転生特典は二種合理(グレー)と未来予知。未来予知はそのままで、もう一つの奴は任意のタイミングでTSできる転生特典で通常時は男でTSすると女になる。ただし満月の夜は自動的に女になるし新月の夜は男。男の時は普通の少年って感じだけど、女になるとびっくりするほど可愛い。めちゃめちゃ美少女になる。戦闘にはあんまり役に立たない。

 

現状

ワイは5歳の時に自分を悪魔だって名乗る屑どもに連行されて、よくわからない部屋に監禁されてる。4年間、悪魔たちに魔法を教えてもらいながらボコボコにされている。クソレズ女2人が世話役?監視役?なんだけど、どっちとも性格がクソ悪いドSで、ワイを嬲って興奮してやがる。TSして女の状態のときなんかひどいぞ!?SMクラブもビックリなプレイの連続だボケ!!!!!

 

ワイが監禁されている理由はたぶん二つで、一つは未来予知を自分たちのために使わせたいんだと思う。ワイの転生特典まだ不安定だからうまく使えないけど、それでも3ヵ月くらい先のことは予知できるから預言者の真似事やらされる。一回、ムカついて嘘ついたことあるんだけどマジで殺されかけた。二つ目は、ワイの希少性に興味を持ったからだと思う。この世界の魔法色々種類があるんだけど、ワイって男の時と女の時で使える魔法が変わるんだよね。村にいる時から有名だったから目をつけっられたのかも。

 

10:名無しのパンピー転生者

情報量が多い

 

11:名無しのパンピー転生者

もっと整理して書け

 

12:名無しのパンピー転生者

闇が見えるのやめろ

 

13:名無しのパンピー転生者

さらっと村滅ぼされてて草

 

14:名無しのパンピー転生者

クソレズ2人ってどんな感じ?

 

15:名無しのパンピー転生者

情報量が多い

 

16:名無しのパンピー転生者

誰か世界を特定してやれよ

 

17:名無しのパンピー転生者

何となく察してるけど、当たってるとしたらイッチは中々詰んでる

 

18:名無しのパンピー転生者

もっと簡潔に書いてくれよ

 

19:イッチです

>>11

ごめん………

>>14

クソレズその一は、鳥のような髪型や足に尻尾が付いた仮面を被った緑色の長髪の女の姿をしている。一人称は「此方」で、古風な口調で話す。捕らえたやつを拷問し、散々痛ぶってはそれを楽しむサディスト。

クソレズその二は、2本の角が付いたカチューシャに豹柄の着物が特徴の女の姿をしている。正直エロい。クソレズその一を慕っている。物静かな性格で礼儀正しい口調で話す。読書が趣味で時々拷問明けのワイに読み聞かせをしてくるけど、人間の書く書物はつまらないと最後に罵倒してる。

>>16

頼むわ

 

20:名無しのパンピー転生者

>>19

ええんやで

 

21:名無しのパンピー転生者

優しい世界

 

22:名無しのパンピー転生者

ヤサシイセイカツ

 

23:名無しのパンピー転生者

優しい世界だ

 

24:名無しのパンピー転生者

>>19

たぶん、イッチの転生した世界わかったわ

 

25:名無しのパンピー転生者

>>19

美人なお姉さんに世話してもらえて拷問までしてもらえるとかご褒美やんけ!

 

26:名無しのパンピー転生者

 

27:イッチです

>>24

マジ?

 

28:名無しのパンピー転生者

>>25

変態

 

29:名無しのパンピー転生者

>>25

通報するぞ

 

30:名無しのパンピー転生者

>>25

通報した

 

31:名無しのパンピー転生者

>>25まあわかる

 

32:名無しのパンピー転生者

>>19

TSすれば百合に挟まる幼女に慣れるな!

33:イッチです

>>32

そんなものに慣れたくないわ

 

34:名無しのパンピー転生者

 

35:名無しのパンピー転生者

 

36:名無しのパンピー転生者

 

37:名無しのパンピー転生者

>>27

たぶん、FARLY TAIL

 

38:名無しのパンピー転生者

幼女を拷問するお姉さんか………そそるな

 

39:名無しのパンピー転生者

はい通報

 

40:名無しのパンピー転生者

通報した

 

41:名無しのパンピー転生者

通報案件ですね!あ、俺は薄い本作ってきます

 

42:名無しのパンピー転生者

話それ過ぎやろ

 

43:名無しのパンピー転生者

>>37

これは思った

 

44:名無しのパンピー転生者

FARLY TAILかぁ………

 

45:名無しのパンピー転生者

>>37

補足な。

世界中に幾多も存在する魔導士ギルド。そこは、魔導士達に仕事の仲介などをする組合組織である。立派な魔導士を目指す少女ルーシィは、ひょんなことから火を食べ火を吐き火を纏う滅竜魔導士のナツと喋る青い猫ハッピーと出会い、彼らの所属するギルド「妖精の尻尾」に加入する。王国最強と謳われながらも問題児だらけの「妖精の尻尾」だが、ルーシィはナツとハッピーとチームを組んで様々な依頼に挑んでいく。ってのがあらすじ。

 

46:名無しのパンピー転生者

>>45

イッチを攫ったのはバラム同盟の一角である冥府の門(タルタロス)やろなぁ。メンバーは全員ゼレフ書の悪魔で構成されており、別名「ゼレフ書架」。呪法を使用し、幹部には「九鬼門」を擁している。解散命令を出されたにも拘らず、それを守らずに裏で活動し続けているギルドが闇ギルドって言われてる。その中でも選りすぐりの凶悪なギルドをバラム同盟っていう。

 

47:イッチだよ

>>37>>45>>46

ありがとう。とりあえず、ワイの状況がやばいって認識でOK?

 

48:名無しのパンピー転生者

OK

 

49:名無しのパンピー転生者

間違いない

 

50:名無しのパンピー転生者

やべーヤクザに育てられてるようなもんだな

 

51:名無しのパンピー転生者

そこから抜け出すとかたぶん無理だぞ………本拠地が確か空の上だし

 

52:名無しのパンピー転生者

イッチって何の魔法が使えるん?

 

53:イッチです

男の時は風の滅悪魔法。風で色々できる魔法。女の時は再現魔法。自分の見たことのあるものを再現する魔法。

 

54:名無しのパンピー転生者

 

55:名無しのパンピー転生者

 

56:名無しのパンピー転生者

ワンチャン脱出できるだろこれ

 

 

 

 

 

 

 

 



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2話

主人公の名前はケネシーです。


キョウカは腰に手を添えたまま、目の前の少女を眺めていた。冥府の門の地下に存在する石牢に、少女は天井から鎖でつるされていた。普段からここにいる訳ではない。ここに少女が連れてこられるのは、キョウカのテンションが上がった時か少女が反抗してメンバーを怒らせたときだ。

 

「満月の夜は気分が良い。こうしてケネシーで遊べるからな」

 

「………ハハハッ、ホント趣味が悪い。レズに加えてロリコンか?悪魔様は高尚な趣味をしていらっしゃる」

 

鈴の鳴るような声でそう吐き捨てたのは拘束されている少女だった。否、少女というよりもはや童女というべきであろう。彼女は息を呑んでしまうほど美しかった。腰まである銀髪は、常に濡れそぼっているかの様に艶やかだ。銀眼は妖艶に輝いており幼いながらも色香を感じさせる。

 

まるで美しいガラス細工のような美しさを持っていた。

 

「そなたは実に美しい…故に惜しいな。男に戻らずに今のままでいればいいものを」

 

「口説き方がヘタクソだな。セイラはそんなこと言わないぜ?」

 

ケネシーは半裸の状態で放置されていた。彼女を繋ぐ拘束具はあらゆる魔法を封じる鉱石でできている。そのため、魔法の使用を危惧する必要などない。仮に武器などを隠していたとしても悪魔にはあまり意味がない。ではなぜキョウカはケネシーを半裸にしているのか。

言ってしまえばこれはキョウカの趣向だ。半裸や全裸の状態は尋問において、無意識のうちに相手との格差を感じ、屈服しやすくなる。そういう意図が普段はあるのだが、ことケネシーに限って言えばただの趣味だった。

 

キョウカはケネシーの顎を掴みあげながら、静かに笑った。

 

「そなたは良いな。何度嬲っても折れぬ」

 

「………加減してくれてもいいんだぞ?」

 

顎を引き、敵意半分怯え半分で返すケネシー。キョウカはケネシーのことを何度嬲っても折れないと称したがそんなことはない。辛うじて口答えできているだけで、内心は震えあがっている。キョウカやセイラはそれを分かったうえでこのような発言をしていた。

 

ケネシーの顎から滑るようにして彼女の身体を伝う。キョウカはケネシーの急所を摘み上げた。

 

「ああああああああああああ!!!!!」

 

表面上は気丈だったケネシーの仮面が瞬時に砕け、苦悶の叫びを上げ始める。キョウカが指先へ力を込めるたび、悲痛な叫びが石壁に響く。

 

「此方の力は感覚を変化させる。そなたの痛覚は限界まで引きあがっている」

 

ケネシーは拳を握り目を瞑り悲鳴を堪えるが、軋む体が隠し切れないほどの痛みを訴えていた。想像を絶する痛みが脊髄を駆け上っているのが見て取れた。

 

しばらくキョウカに嬲られていたケネシーの身体は思わず目を伏せたくなる状態になっていた。至る所に鞭痕ができ、眼に大粒の涙を湛え、唇の端から唾液の線を垂らし、汗に塗れ視線は虚空を泳いでいた。

 

しかし、そこには一種の魔性があった。悪魔さえも目を見張ってしまう魔性。傷つき放心してもなお、彼女は美しかった。

 

キョウカは愉悦を噛み締めてさらに鞭を振るおうと構えたところで、一つの声がそれを止めた。

 

「キョウカ様。マルド様が呼んでましたわ」

 

ケネシーに意識はほとんど残っていなった。しかし、第三者の介入によって少しだけ意識を覚醒させる。

 

気が付けばケネシーの前にいるのはセイラだけになっていた。

 

「セイ、ラ………」

 

理性をドロドロに溶かされるセイラのお遊びの方がよほど恐ろしいと知っているケネシーは昔からセイラにだけは口答えをしなかった。

 

「ここに来た時と比べれば信じられないほど強くなりましたわね。意識があるんですもの」

 

焦点が合っていないケネシーを拘束から解放しセイラは抱きかかえ上げる。セイラはケネシーの頭を軽く撫でながら、ケネシーに与えられた部屋に足を運んでいく。

 

「意識が完全に落ちるまでまた本を読んで差し上げましょう。人間が紡ぐ退屈な物語を。そしていつか、ケネシーさんが成長した時はわたくしが紡ぐ物語を読ませて差し上げます。—————悪魔が紡ぐ物語をね?」

 

キョウカに向けるものとは違う。しかし、それでもセイラがケネシーを見る時の眼には熱っぽい感情が込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

76:イッチです

すまん、クソレズの拷問で意識飛んでたわ

 

77:名無しのパンピー転生者

 

78:名無しのパンピー転生者

拷問中にスレやってたんか?

 

79:イッチです

やっぱり事故に見せかけて死んだふりをするのが一番いいっていうのが今のところの結論だけど異議ある?

 

80:名無しのパンピー転生者

まあ強行突破で脱出するよりはマシだろ

 

81:名無しのパンピー転生者

それはそう

 

82:名無しのパンピー転生者

じゃあ魔法の訓練中に壁をぶち抜いて外に投げ出されるやつで行くのか?死ぬぞ?

 

83:名無しのパンピー転生者

正直死んだふりの難易度が高すぎる

 

84:名無しのパンピー転生者

イッチにどの程度の興味と関心を抱いているかでだいぶ変わるな

 

85:名無しのパンピー転生者

そもそも上空から自由落下でイッチは地面に辿り着けるのか?

 

86:名無しのパンピー転生者

やっぱりクソレズたちの間に挟まっている方がいいんじゃ

 

87:名無しのパンピー転生者

今更だがどんな拷問をされているんだ?私気になります!!!!!

 

88:イッチです

>>87

痛覚を高めた上での鞭打ち、蝋燭、言葉、拳、水etc………最近は終わった直後のクソレズその二の読み聞かせが癒しになってきているのが怖い

 

89:イッチです

>>85

たぶん行ける。男の状態で落ちると死ぬけど女の状態なら再現魔法でなんとかなる。で、ワイが自由にTSできるのを悪魔たちが知らないことを利用して男の状態で飛び降りるわ

 

90:名無しのパンピー転生者

>>88割とガチガチの拷問で草枯れるわ

 

91:名無しのパンピー転生者

>>88

イッチはもはや調教されているのでは?ボブは訝しんだ

 

92:イッチです

みんなに相談してたら結構できる気がしてきた。行ってくる!!!!!

 

93:名無しのパンピー転生者

え!?

 

94:名無しのパンピー転生者

今からやるの?

 

95:名無しのパンピー転生者

さっきまで拷問されてたんじゃないのか?

 

96:名無しのパンピー転生者

あー、掲示板と各世界の時間のスピードは一定じゃないから

 

97:名無しのパンピー転生者

それにしても行動力の化身だなw

 

98:名無しのパンピー転生者

でもイッチ逃げた後の行先とかある?

 

99:イッチです

あっ

 

100:名無しのパンピー転生者

 

101:名無しのパンピー転生者

 

102:名無しのパンピー転生者

 

103:名無しのパンピー転生者

ノープラン

 

104:名無しのパンピー転生者

それも一興

 

105:イッチです

アイキャンフライしちゃった

 

 

 

 

 

 

 

 



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3話

街が燃えている、見慣れた何もかもが炎の舌に巻かれて呑まれていく。そこはつい先ほどまでは、どこにでもある普通の街だったはずだ。しかし、それが見るまもなく炎に飲まれて消えていく。

 

様々な色に塗られていた建築物が次々と同じ黒にそれとともにその形すら失い崩れ落ちていく。緑豊かだった木々に囲まれた道は、今や巨大な松明の炎に照らし出された光の道となっている。

 

火の粉が舞散る広場の隅で、俺はペタリと力なく腰を落としていた。

 

光だけで瞳を焼きそうな炎の中を真っ直ぐに見据えている。瞬きひとつせず呆然と失われていくものを見つめている。そうしている間にも炎が凄まじい勢いで勢力圏を広げていく。

 

異形に蹂躙される故郷とその原因である自分に吐き気を催しそうだった。この身を焦がす激情をその時の俺はまだ知らず、ただただ座っていることしかできなかった。

 

そんな中で一人の悪魔が問いかけた。

 

『その感情に名を与えその激情の飼い慣らし方を教えて差し上げます』

 

———————俺はその手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『天魔の激昂』!」

 

薄紫の風が吹き荒れケネシーを害そうとしていた魔獣を吹き飛ばす。強烈な風のブレスが木々を吹き飛ばして地面を削る。

 

「あ゛ー、しんどい」

 

その場で大の字になって倒れこんだケネシーは空を見上げる。青空なんて久しぶりに見たかもしれないなとケネシーは思った。

 

タルタロスに掴まった直後は良くごねてセイラに外に連れ出してもらったが、最近ではめっきりと減ってしまった。

 

「………疲れたな」

 

手のひらをひさして、目を細める。そうしてみても太陽の光はとても強い。目視ができない。そこに太陽があるとわかっているのにその姿を確かめることができない。

 

「ああ、そうだよな」

 

誰に問われるでもなく誰に言われるでもなく、ましてや悪魔に急かされるでもない………自分自身でも何に対する相槌なのかを把握せずに、それでいてそのことに疑問すら抱かずに、ケネシーは頷いた。

 

立ち上がり再び森の中を歩き始める。ケネシーが落下したのはとある川だった。五体満足で着水したものの、予想以上にダメージが大きかったケネシーは川に流されて気が付けば、森に漂着していた。

 

身体のダメージが抜けきらないケネシーは再度性別を変えて、少しでも筋肉の多い男の身体で森の中を探索していた。

 

ケネシーは闇雲に森を歩いているわけではなかった。きちんと太陽の方角を見て自分が進んでいる方向と周りにあるものを記憶しながら進んでいた。しかし、体の方に

限界が来た。

 

視界が霞んできており、足元もおぼつかない状態だった。

 

(こういう時どうするんだっけな?なんて言われたっけ?確か、セイラは——————)

 

疲労と身体的なダメージが蓄積していたケネシーの身体は限界を迎え、視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天使キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

1:イッチです

眼を空けたら目の前には、藍色の長髪をもった華奢な少女がいたんだ。美少女だぞ!

 

2:名無しのパンピー転生者

イッチ!生きていたのか

 

3:名無しのパンピー転生者

前スレの後半からイッチが消えて死んだと思ってたけど

 

4:イッチです

生きてます!森で意識が途切れた時は詰んだ気がしたけど、魔導士のギルドに拾われたっぽいな

 

5:名無しのパンピー転生者

ほん、どこのギルドに拾われたん?

 

6:名無しのパンピー転生者

藍色の髪………まさかな

 

7:イッチです

化猫の宿っていうギルド。何かどっかの民族みたいな格好しているおじいちゃんがマスターをしているらしい。

 

8:名無しのパンピー転生者

………藍色の女の子、名前がウェンディだったりする?

 

9:イッチです

>>8そう。何かしゃべる猫もいてこの世界本当にファンタジーだなって思った。

 

10:名無しのパンピー転生者

原作キャラじゃん

 

11:名無しのパンピー転生者

イッチ今何年

 

12:名無しのパンピー転生者

ウェンディは何歳なんだ

 

13:名無しのパンピー転生者

ケットシェルターにいるってことはまだ原作前か

 

14:名無しのパンピー転生者

少なくともニルヴァーナ編じゃないな

 

15:名無しのパンピー転生者

このタイミングで原作キャラとエンカウントしたのかぁ

 

16:名無しのパンピー転生者

これはギルドに転がり込むしかないな

 

17:イッチです

>>11

780年かな、たぶん

 

18:名無しのパンピー転生者

原作開始が784年だから4年前なのか

 

19:イッチです

とりあえず藍色の少女と猫、それとおじいさんとあいさつを交わして記憶喪失っていう体で匿ってもらえないか交渉してる

 

20:名無しのパンピー転生者

あっ

 

21:名無しのパンピー転生者

いやイッチ………そのギルドは

 

22:名無しのパンピー転生者

まあいいんちゃうか?ギルドのいるのといないのだと全然違うしね

 

23:名無しのパンピー転生者

記憶喪失ってそんなにうまい演技できるか?

 

24:名無しのパンピー転生者

このままケットシェルターにいるとガッツリ原作に関わることになるぞ?

 

25:名無しのパンピー転生者

なんならバラム同盟を相手に戦うからな。ワンチャンイッチの生存がバレる。

 

26:名無しのパンピー転生者

ワイら的にはそっちの方が面白いけどな

 

27:イッチです

>>23

騙されてくれたかはわからないけどしばらく置いてくれることにはなったぜ!勝ったな!

>>25

詳しく

 

28:名無しのパンピー転生者

魔導士ギルドは依頼を受けてお金を稼ぐんだけど、ある日とある依頼がギルドに届くんだ。バラム同盟の一角である闇ギルド「六魔将軍」を壊滅させるため、4つのギルドと共に連合を組んで頑張ろうっていう依頼が。

 

29:名無しのパンピー転生者

>>28

なるほど、つまり依頼を受けなければ解決だな!勝ったな!風呂入ってくる!

 

30:名無しのパンピー転生者

落ち着け

 

31:名無しのパンピー転生者

もっとよく人の話聞け

 

32:名無しのパンピー転生者

イッチが入ろうとしているギルドは狙われているからどっちにしろ避けられないと思う

33:イッチです

大丈夫だ!ワイはあのクソレズ悪魔どもから逃げきれたんやぞ!?最強や!勝ったも同然や。風呂入ってくるわ

 

34:名無しのパンピー転生者

>>32風呂だけじゃなくて頭も沸いてる?

 

35:名無しのパンピー転生者

>>33達成感と疲労で頭がおかしくなってやがる

 

36:名無しのパンピー転生者

面白いからヨシ!

 

37:名無しのパンピー転生者

極限状態なのかで森を探索して死に掛けのところを救われてタガが外れるのは理解できるけど

 

38:名無しのパンピー転生者

>>33

逃げきれてると良いけどな

 

39:名無しのパンピー転生者

>>33

何か話聞いてる限りだとイッチクソレズ二人に毒され過ぎだと思うけど

 

40:名無しのパンピー転生者

特にクソレズその二に半分依存してません?

 

41:名無しのパンピー転生者

あかんイッチほんとに風呂に行ったぞ

 

42:名無しのパンピー転生者

頭冷えるまで待つか

 

43:名無しのパンピー転生者

っていうかこの掲示板におる奴ら暇だな?

 

44:名無しのパンピー転生者

ほのぼの系アニメに転生したから

 

45:名無しのパンピー転生者

スローライフ小説の世界だから

 

46:名無しのパンピー転生者

現代日本が舞台なんで

 

47:名無しのパンピー転生者

イッチ、満月の夜のことどうやって説明するつもりなんだろ?

 

48:名無しのパンピー転生者

>>38フラグと見た

 

49:名無しのパンピー転生者

>>38実際問題、逃げ切れた保証がない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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4話

ニルヴァーナ編までは爆速で行きます


75:イッチです

冷静になって考えたんだけどワイこのギルドにいるのまずくね?(滞在3週間目)

 

76:名無しのパンピー転生者

やっと気づいたのか

 

77:名無しのパンピー転生者

だからやばいってあれほど………

 

78:名無しのパンピー転生者

っていうか3週間も経ってから気が付いたのか

 

79:イッチです

スレ見直してフリーズした。ハイになっててスルーしてた。ごめん

 

80:名無しのパンピー転生者

ええんやで

 

81:名無しのパンピー転生者

ワイらは面白いから

 

82:名無しのパンピー転生者

俺たちは笑ってられるし

 

83:名無しのパンピー転生者

3週間ってそろそろ満月じゃね?

 

84:名無しのパンピー転生者

みんな鬼畜で草

 

85:名無しのパンピー転生者

まだ間に合うぞ!イッチ正式加入してないんなら脱退して静かに暮らせ

 

86:名無しのパンピー転生者

っていうか3週間も滞在してたんか

 

87:名無しのパンピー転生者

そろそろ正式加入してる頃だろ

 

88:イッチです

>>85

微塵もその気はない!天使と離れるなんてもうワイにはできん

>>87

そのためにスレを見直してた

 

89:名無しのパンピー転生者

4年で抜ければへーき

 

90:名無しのパンピー転生者

>>88

完全に絆されてて草

 

91:名無しのパンピー転生者

イッチ!お前の年でウェンディを好きになるのは………

 

92:イッチです

は?今のワイは9歳なので!TSすれば女なので!お前もウェンディの魅力に気づけ!あの幼さも自信のなさも頑固さも謎の天真爛漫さも無垢な動きも最高やろ

 

93:名無しのパンピー転生者

お、おう

 

94:名無しのパンピー転生者

ごめん

 

95:名無しのパンピー転生者

予想以上にガチだったわ

 

96:名無しのパンピー転生者

ちなみにクソレズに魅力はなかった?

 

97:名無しのパンピー転生者

肉体年齢的にはセーフ。精神年齢的にはアウトか

 

98:名無しのパンピー転生者

まあ、転生者はそんなこと言うとみんな恋愛できなくなるので

 

99:イッチです

>>96

クソレズは………クソレズその二はそれなりに可愛かった…。いやエロかった………何というか冷酷さの中に暖かさがあるんだよな…それで、でも、あれは悪魔で………レズだから………あああああああああああああ!!!!!優しくしてドロドロにした後に急に突き放すな!冷たくした後に急に慰めるな。情緒おかしくなるわ!!!!!あああああああ

 

100:名無しのパンピー転生者

 

101:名無しのパンピー転生者

 

102:名無しのパンピー転生者

 

103:名無しのパンピー転生者

ヒェ!

 

104:名無しのパンピー転生者

見てはいけないものを見てしまった

 

105:名無しのパンピー転生者

想像以上にイッチのメンタルに爪痕残してるなぁw

 

106:名無しのパンピー転生者

イッチ不安定やな

 

 

107:イッチです

あ、今日満月じゃん(冷静)

 

 

 

 

 

 

 

 

化猫の宿に来てから3週間が経った。ケネシーは時折ウェンディが受ける以来の手伝いをしながら過ごしていた。ウェンディは最初は人見知りを発動していたが、魔法を見せたり諦めずに話しかけていたら距離が縮まってきた。

 

年が近かったというのも大きいだろう。

 

「あった!ケネシーさん、あったよ!」

 

嬉しそうに笑みを浮かべながら依頼書にあった薬草を抱えたウェンディが走って駆け寄ってきた。

 

(天使か?)

 

「やったなウェンディ。これで依頼達成だ」

 

「結局あんた今回役になってないじゃない」

 

ケネシーに向かってシャルルが毒を吐いた。ケネシーは困った顔でそれを受け流し、ウェンディがシャルルを軽く窘める。

 

「シャルル?ケネシーさんがいなかったらこんなに安全に森の奥まで来れてないんだからね?」

 

「記憶がない以上これくらいしか役に立てないからな。ウェンディとシャルルは必ず俺が守るよ」

 

そう、そもそも長い間監禁生活を送ってきたケネシーは記憶喪失でなくても常識がないのである。出来るのは魔法で敵を粉砕することだけだ。だからここ数日の流れは、ウェンディたちの護衛ということになっていた。魔獣が出てくれば、ケネシーが滅悪魔法で迎撃、攻撃魔法を使えないウェンディがその援護をするのがお決まりになっていた。

 

「ありがとう………私もケネシーさんみたいに攻撃魔法を使えればいいんだけど」

 

攻撃魔法が使えないウェンディと攻撃魔法しか使えないケネシーは相性が良かったのである。

 

「俺は支援魔法好きだけどな。誰も傷付けない優しい魔法だ」

 

これはケネシーの本音であると同時に打算的なセリフでもある。ケネシーはウェンディに攻撃魔法を使えるようになって欲しくはなかった。ウェンディは未熟故に自分が役立てると思っているからだ。

 

『欲しい相手がいる時は依存させるとよいでしょう』

 

幼いころに教えられてきたセイラの言葉が頭を反芻する。

 

『相手の弱さを知れ。勝負とはそこから始まる』

 

拷問中に言われたキョウカの言葉が頭を滑っていく。

 

「さあ、帰ろう。陽が沈む前に」

 

少し嬉しそうなウェンディと怪訝そうなシャルルを見ながら薄く笑うケネシーは、悪魔の爪痕に気づけないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

190:イッチです

結局TSの説明がややこしいから今回は森の中に避難することで、バレるのを回避しました。記憶喪失設定がここに来て裏目に出てる

 

191:名無しのパンピー転生者

しゃあない切り替えろ

 

192:名無しのパンピー転生者

自分の魔法は覚えているんだから体質を覚えていてもおかしくないのでは?

 

193:名無しのパンピー転生者

それは思う

 

194:イッチです

そうなんだけど、嘘を重ねるとバレやすくなるから。あと、年頃の女の子がいるからさらにややこしくなりそうじゃん?ウェンディに距離置かれたら発狂するわ

 

195:名無しのパンピー転生者

おい

 

196:名無しのパンピー転生者

もうこいつダメだろ

 

197:名無しのパンピー転生者

ロリコンめ

 

198:名無しのパンピー転生者

男はみんなロリコンだろ

 

199:イッチです

でここでみんなに安価を取りたいんだけど

 

200:名無しのパンピー転生者

ガタッ

 

201:名無しのパンピー転生者

座れ

 

202:名無しのパンピー転生者

安価だと?

 

203:名無しのパンピー転生者

最高か?

 

204:名無しのパンピー転生者

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!

 

205:名無しのパンピー転生者

何を安価するんだ?

 

206:イッチです

夜に森の中に避難したんだけど、ウェンディ達が気が付いて追いかけてきちゃった。迷子になったと思ってるらしい。ギルドの他のメンバーも森に入ってきてる

 

207:名無しのパンピー転生者

ファ!?置手紙とかなしで出てきたのか?

 

208:名無しのパンピー転生者

クォレはやらかしだな

 

209:イッチです

いや、散歩してきますって置手紙してきた

 

210:名無しのパンピー転生者

 

211:名無しのパンピー転生者

これは自明だろ

 

212:イッチです

どうしようか?>>217

 

213:名無しのパンピー転生者

もう素直に謝るしかないのでは?

 

214:名無しのパンピー転生者

素直に話しちゃえよ

 

215:名無しのパンピー転生者

素直にゲロった方が良いと思う

 

216:名無しのパンピー転生者

戻って謝るしかないな

 

217:名無しのパンピー転生者

ギルド戻って謝る

 

218:名無しのパンピー転生者

早くギルド戻って謝ってこい

 

219:名無しのパンピー転生者

ですよねー

 

220:イッチです

え!待って、マジか

 

221:名無しのパンピー転生者

どうした?

 

222:イッチです

戻ろうとしたらウェンディ達がいなくなってるって会話が聞こえた

 

223:名無しのパンピー転生者

完全に二次被害じゃん

 

224:名無しのパンピー転生者

イッチのせいやんけ

 

225:名無しのパンピー転生者

完全にミイラ取りがミイラになってるなw

 

226:名無しのパンピー転生者

はよ探しに行け

 

227:イッチです

えーっと、この姿見られたときの言い訳どうしよう

 

228:名無しのパンピー転生者

まだそんなこと言ってるんか

 

229:名無しのパンピー転生者

そんなの後で考えろ

 

230:名無しのパンピー転生者

いいから行け

 

231:名無しのパンピー転生者

安価取ればいいじゃん

 

232:イッチです

なるほど。じゃあ、姿を見られたときの言い訳>>240

 

233:名無しのパンピー転生者

マジか

 

234:名無しのパンピー転生者

こいつ………

 

235:名無しのパンピー転生者

別人を装う

 

236:名無しのパンピー転生者

もう素直に話しちまえよ

 

237:名無しのパンピー転生者

素直に話す

 

238:名無しのパンピー転生者

笑ってごまかす

 

239:名無しのパンピー転生者

ガン無視

 

240:名無しのパンピー転生者

呪いってことにして二重人格を装う

 

241:名無しのパンピー転生者

素直に話せ

 

242:名無しのパンピー転生者

さらにややこしくなったなw

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウェンディとシャルルは森の中で迷子になった末、魔獣と対面していた。不意を突かれて襲われた二人は完全に道を見失ってしまった。その上ウェンディを庇おうとしたシャルルが魔獣の攻撃を受け負傷してしまったのだ。

 

「逃げなさいウェンディ!」

 

「できないよぉッ!」

 

シャルルが苦痛に顔を歪め、そんな彼女を庇ってウェンディが前に出ようとする。魔獣の鉤爪がウェンディに迫る。

 

瞬間

 

再現魔法(リバイバル)『雷の鎖』」

 

「え?」

 

いつまでたっても来ない衝撃にウェンディは恐る恐る目を見開いて、驚愕の声を上げた。彼女の眼と鼻の先で魔獣は動きを止めていた。否、動きを止められていたのだ。淡く光を放ち、バチバチと電気を纏った鎖が獰猛な魔獣を縛り上げていた。

 

シャルルとウェンディが呆然と視線を向けた先に、それを成したものが立っていた。電光の残滓を纏った右腕と鎖を突き出し、傍観者の位置から一歩前に踏み出して。

 

月光を反射させ、幻想と魔性をその身に宿した少女がそこに立っていた。

 

 

 



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5話

日間ランキング7位!?二度見しました。評価、感想ありがとうございます。

必要な過去回想は間に話を挟んで書く予定です。


ケネシーは現在激しく後悔していた。何にというのは語るまでもなく安価を取ってしまったことである。ウェンディを助けてギルドに戻ってきたケネシーは必然的に自分の姿に対する説明を求められた。

 

「つまりお主はケネシーであってなぶらケネシーではないということでよいか?」

 

「そうなるね。この体は紛れもなくケネシーのものだけど僕は彼じゃない」

 

「所謂二重人格というやつかの?」

 

ローバウルは自身の髭をなでながら、ケネシーの語ったことについて考察する。ウェンディとシャルルは話についていけていないようで混乱しているのが見て取れた。

 

「それに近いだろうね。()の性別が反転しているのはそういう呪いをかけられたからなんだ。満月の日になると必ずケネシーの人格が性別と一緒に反転するのさ」

 

「………なぶらわかった。お主が別のケネシーであろうとウェンディを助けてくれたことには変わらんし、ケネシーであることにも変わりはないのだろう。であれば儂から言うことはない………ウェンディとシャルルはどうじゃ?」

 

マスターの語り掛けに混乱していたウェンディが顔を上げる。そして不安げな顔でケネシーに問いかけた。

 

「ケネシーはケネシーなんだよね?」

 

「…ああ、それは保障しよう。姿や性別が変わろうと中身はそう変わろうと本質は変わらないよ」

 

「ほんしつ?」

 

知らない言葉だったのか小首をかしげるウェンディにケネシーは苦笑いを浮かべた。

 

「ああ、まあ僕は君が知るケネシーとほとんど一緒ということさ」

 

「じゃあ大丈夫!」

 

ウェンディの笑顔の断言にケネシーは少し驚いた顔をしマスターは優し気に微笑んだ。

 

「3週間も一緒にいてそれを隠そうとしていたのは気に食わないけど、助けてもらったから水に流してあげるわ」

 

フンっとそっぽを向くシャルルに一同は苦笑した。

 

「さあ、ウェンディとシャルルはもう寝なさい。なぶら夜も更けてきている。ケネシーは説教じゃ。残りなさい」

 

当たり前のように出ていこうとしていたケネシーはマスターローバウルに呼ばれて立ち止まった。

 

ウェンディが遠ざかっていく足音を聞きながら両者の間に静寂が流れる。

 

「すべて話せとは言わん。儂にはそれを言う資格などないのじゃから」

 

しばらくしてマスターはゆっくりと語りだした。それは過去を悔いて自戒するものの姿だった。

 

「お主が何を隠しているのかは聞かん。壮絶な過去があることは理解できるのでな。絶望を知るものの眼はいつの時代も変わらん」

 

「絶望、ね」

 

「お主の闇がここにいて晴れるのであればいくらでもいるとよい。じゃが———」

 

マスターローバウルは真っ直ぐとケネシーに視線を向けた。そのあまりに力強い眼力と奥にある温かみにケネシーは耐え切れず目をそらした。

 

「じゃがあの子たちを傷つけてくれるなよ。なぶらそれだけは儂との約束じゃ」

 

「………わかってる」

 

後日、ケネシーは化猫の宿(ケットシェルター)に正式に加入したのだった。

 

 

 

 

4年後———

 

ケネシーは依頼でオニバスという街に足を運んでいた。そこでケネシーは何をしているかと言えば——————

 

「天魔の激昂!!!!!」

 

闇ギルドを相手に戦っていた。依頼を達成し帰ろうとしたところで偶然にも闇ギルドが街に押し入り暴れだしたため、急遽帰るのを遅らせ闇ギルドを退けることにしたのである。

 

「天魔の撃鉄!」

 

拳の連打が魔導士の胴体を穿ち、風を纏った拳から放たれる強烈な一撃でその体を吹き飛ばした。

 

「天魔の連風」

 

両手の風を合わせ相手に叩きつける。風が魔導士に直撃した瞬間、巨大な爆発が辺りを包んだ。

 

正確に言えば、爆風であるが。

 

正直、ケネシーは闇ギルドの討伐などするつもりはなかった。ケネシーとしては目立つのは避けたいからである。また、ケネシーとしては赤の他人のために戦う理由が理解できなかったのだ。別に街中で闇ギルド連中に市民が襲われていようとケネシーは正式な依頼が無ければスルーしてしまう確率の方が高かった。しかし、今回ばかりは例外である。

 

「腕試しにちょうどいいと思ったんだけどな。また当てが外れてしまったな」

 

死屍累々。闇ギルド『グラキウス』、総勢100名はたった一人の魔導士の手によって全滅していた。

 

山のように積みあがった人間の上でケネシーは空を見上げる。その目には何も映っておらず、ケネシーは何事もなかったかのように一言

 

「帰るか」

 

そう呟き街を後にした。その圧倒的な光景を目にした住民によってこの話はちょっとした噂となり様々な街を駆け巡ることになる。

 

 

 

 

 

 

4年間色々あった。

1:イッチです

そろそろ二重人格の演技きつくなってきた

 

2:名無しのパンピー転生者

 

3:名無しのパンピー転生者

4年間お疲れ様っす

 

4:イッチです

TSしている時はやっぱりウェンディとの距離も物理的に近いんですよ。男の時は昔に比べて仲は良くなったけどそれなりに距離があるというか抱き着いてきたりがなくなってきてる。天使の抱擁が………何か男に戻るの意味ないかもって思い始めてきた。けど、TS状態でもふとした瞬間男言葉とか素が出そうになるから普段使いできない………。

 

5:名無しのパンピー転生者

 

6:名無しのパンピー転生者

イッチの自業自得では?

 

7:名無しのパンピー転生者

おまわりさーん、ここです

 

8:名無しのパンピー転生者

やっぱりこいつウェンディに近づけてはだめでは?

 

9:イッチです

>>7

TS状態ではイチャイチャしても犯罪にはならない!!!!!男の状態でも年が近いから犯罪じゃないッ!セーフ(鋼の意志)

 

10:名無しのパンピー転生者

アウトなんだよあ

 

11:名無しのパンピー転生者

アウトすぎる

 

12:名無しのパンピー転生者

安価のせいで記憶喪失と二重人格になったイッチさんおっす

 

13:名無しのパンピー転生者

この4年、タルタロスからの刺客とか来なかった?

 

14:名無しのパンピー転生者

うんうん、肉体年齢は近いよな

 

15:名無しのパンピー転生者

精神年齢は………

 

16:名無しのパンピー転生者

>>13これが起こってたらスレ立ててるでしょ

 

17:名無しのパンピー転生者

>>16おっしゃる通り、何もなかった

 

18:名無しのパンピー転生者

腕試しに闇ギルドをいくつか潰したのまずくなかったの?

 

19:イッチです

すぐに評議員に引き渡すし意外と大丈夫だった。でも単独依頼以外で外出するときはTS状態にしてる。時々男の状態で外出するけど、一緒にいるウェンディとかに危害が及ぶのはやばいので控えてる。

 

20:名無しのパンピー転生者

?満月の日にしかTSしない設定じゃなかったの?ウェンディとTS状態で外出してるんだよな?

 

21:イッチです

記憶喪失はそのままだけど、呪いに関しては歳を取るごとに少しだけ制御できるようになったことにした。マスターに協力してもらって、ウェンディの純粋さに付け込みました。すいません。

 

22:名無しのパンピー転生者

>>21

ええんやで………というわけないだろ?

 

23:名無しのパンピー転生者

優しいせか………なんだと!?

 

24:名無しのパンピー転生者

ヤサシイセイカ、何?

 

25:名無しのパンピー転生者

変化球で草

 

26:名無しのパンピー転生者

アウト扱いなのか

 

27:イッチです

今までは満月の夜になると自動で女、新月の夜になると自動で男に切り替わるって感じにしてたけど、満月と新月以外の日は制御できるようになったことにした。つまり、今までは満月の夜以外は基本的には男で調子が悪い時に女になるって設定だったけど、満月の夜以外も自由に人格を変えられるようになったっていう設定。

 

28:名無しのパンピー転生者

ウェンディを騙すなんてお前に良心はないのか!?

 

29:名無しのパンピー転生者

良心は………死にました

 

30:名無しのパンピー転生者

勝手に殺すな

 

31:名無しのパンピー転生者

ケットシェルター付近の街では、女のワイの方が有名になってしまったのだ………。

 

32:名無しのパンピー転生者

>>31前から思ってたけど、イッチ女の時は常時魅了の魔法を振りまいてたりする?

33:イッチです

>>32

知らない。ワイが美少女過ぎて男も女も寄ってくるだけやろ。実際、美少女だしな

 

34:名無しのパンピー転生者

 

35:名無しのパンピー転生者

うーん

 

36:名無しのパンピー転生者

この自己肯定感よw

 

37:名無しのパンピー転生者

転生特典やからなぁ………神が全力の遊び心で制作した美少女ボディって考えると妥当だよな

 

38:名無しのパンピー転生者

前にイッチが建てたスレで女の状態でナンパしまくって遊ぶって話し合ったけど、結局どうなったの?

 

39:名無しのパンピー転生者

あー、確かにあったな

 

40:イッチです

あー………あれは…そうですね

 

41:名無しのパンピー転生者

おい!

 

42:名無しのパンピー転生者

面白そうだな話せよ

 

43:名無しのパンピー転生者

どっちの性別にナンパしたんだ?

 

44:名無しのパンピー転生者

wktk

45:名無しのパンピー転生者

>>43

どっちもだった気がする

 

46:名無しのパンピー転生者

>>43

女だけだった気が…

 

47:イッチです

ワイって二重人格設定だから演技してるじゃん?

 

48:名無しのパンピー転生者

そうだな

 

49:名無しのパンピー転生者

あっ

 

50:イッチです

だから女状態の時の方がコミュ力上がるし気障なセリフが吐けるんだ

 

51:名無しのパンピー転生者

ほう

 

52:名無しのパンピー転生者

わかるぞ

 

53:名無しのパンピー転生者

おっと、これは

 

54:イッチです

色々あってウェンディに怒られたのでやめました

 

55:名無しのパンピー転生者

誤魔化してんじゃねぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここ(次)からはゆっくりと物語が展開します。


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6話

ギルドに戻ってきたケネシーは信じられないことを聞き、マスターに問いかけなおした。

 

「聞き間違いだよな?ウェンディとシャルルだけで六魔の討伐に行かせたって聞こえたんだけど」

 

「なぶら聞き間違いではない」

 

その言葉を聞き、ケネシーはマスターの襟元を掴み上げる。そして至近距離で覗き込むようにして怒気を辺りに振りまいた。

 

ケネシーの周囲から魔力が吹き荒れ暴風となって辺りを揺らす。魔力だけでマスターの持っていたジョッキ内の酒を激しく波立たせた。酒場だったこともあり中にいたギルドメンバーは固唾をのんで見守っていた。

 

「なぶらこれはウェンディが望んだことじゃ!もしかしたら自分と同じ滅竜魔導士がいるかもしれないからと!」

 

「………チッ!マスター、場所を教えてくれ。今から俺も行く」

 

マスターを開放したケネシーは旅支度を始めた。

 

 

 

同時刻、とある館で三つのギルドが顔を合わせていた。

 

「これで3つのギルドが揃った。残るは化猫の宿の連中のみだ」

 

化猫の宿(ケット・シェルター)か…ジュラさん前に話題に上がっていたギルドですよね?」

 

リオンの問いかけにジュラが頷いた。

 

「ああ、正式な情報ではないが闇ギルドをたった一人で潰したとされている魔導士が在籍している」

 

「一人で!?」

 

「マジかよ…」

 

「俄かには信じがたいが今回は味方である。心強い限りだ」

 

「早く会ってみてえな!」

 

周囲がざわつき始めるとそれを遮るように一夜が声を上げた。

 

「あの~、連中というか、一人だけだと聞いてまぁす」

 

鼻血を流しながらそう語った一夜に、グレイたちが驚いて喋り出す。

 

「一人だと!?こんな危ねー作戦にたった一人だけをよこすってのか!?」

 

「ちょっとぉ~、どんだけヤバイ奴が来るのよぉ~!」

 

「それだけ自信があるのではないか?件の魔導士が来るのであれば納得だ」

 

「きゃあっ」

 

動揺が広がる中、そんな悲鳴と共に盛大に転んだ人物がいた。

 

「痛ぁ………あ、あの………遅れてごめんなさい」

 

その人物は服を叩くと起き上がる。

 

化猫の宿(ケット・シェルター)から来ました。ウェンディです。よろしくお願いします!!」

 

そこには緊張した面持ちで自己紹介する、可愛らしい少女がいた。

 

「子供!?」

 

「女!?」

 

「————ウェンディ?」

 

全員が意外な人物に驚いた声を上げる中、ナツはその名前を反芻した。

 

ウェンディは珍しいものを見るかのように周りをキョロキョロと見回した。他の人たちはまだ、衝撃から立ち直れないでいる。そんな中でジュラが口を開いた。

 

「これで全てのギルドがそろった」

 

「話進めるのかよっ!」

 

グレイのツッコミがその場に響く。

 

「この大掛かりな討伐作戦にお子様一人をよこすなんて何を考えてますの?」

 

「それだけ自信があるのだろう」

 

シェリーが不満そうに言えば、その場にまた新たな声が響いた。

 

「あら、一人じゃないわよ。ケバいお姉さん」

 

それはウェンディよりもさらに小さい影だった。

 

「シャルル、ついてきたの!?」

 

その小さい影、白いネコが偉そうに胸を張った。

 

「当然よ。あなた一人じゃ不安でしょうがないもの。今回はケネシーもいないし」

 

シャルルはため息を吐きながらウェンディを見る。

 

「あ、あの………私、戦闘は全然できませんけど………そ、それでも、皆さんの役に立つサポートの魔法いっぱい使えます………だ、だから仲間はずれにしないでください〜!」

 

ウェンディはここ数年で気弱さに拍車がかかっており、ここまで言うのにもう泣きそうになっていた。前情報とのギャップに、この場にいるものは完全に毒気を抜かれていた。

 

「そんな弱気だからなめられるの!アンタは!ここにはケネシーは居ないんだからねッ!」

 

「うぅ………ごめん」

 

「謝らないの!」

 

「ごめん………」

 

一同はだんだんとウェンディとシャルル、両者の関係性を察してきている。

 

「すまないな。驚かせるつもりはなかったんだ」

 

エルザが優し気に話しかけるとウェンディは目を輝かせた。そして興奮気味にシャルルに話しかける。

 

「うわぁ、エルザさんだ!?本物だよぉシャルル!」

 

「思ってたよりいい女ね」

 

そこにハッピーが近づく。

 

「オ、オイラのこと知ってる?ネコマンダーのハッピー!」

 

シャルルは鼻で笑ってプイッとそっぽを向いた。

 

「照れてる………かわいい〜」

 

パッピーは名前の通りハッピーな思考でそれを独自解釈した。

 

「あの娘、将来美人になるぞ」

 

「いまでも十分かわいいよ」

 

「さあ、お嬢さん。こちらへ」

 

ペガサス三人衆がウェンディに声をかける。

 

「えっ、あの…」

 

それに対してオロオロとするウェンディを見ながら、一夜たちが話し込む。

 

「あの娘・・・なんて香りパルファムだ。ただ者ではないな………」

 

「一夜殿も気づいたか………あれはワシらとは違う魔力だ。エルザ殿も気づいているようだが」

 

「さ、流石」

 

ペガサス三人衆がウェンディに接待をしている。

 

「オレンジジュースでいいかな」

 

「おしぼりをどうぞ」

 

ひたすら困惑して慌てているウェンディを見ながらシャルルは憤慨する。

 

「あの、えーと………」

 

「何なのこのオスども!」

 

ソファに座らされもてなされるウェンディ。仮にこの場にケネシーがいれば死人が出ていただろう。しかし、今まで困惑していたウェンディの豹変によって事態が動いた。

 

「あ、あの!」

 

「うん?」

 

「何かな?お嬢さん」

 

「どうして男の人はよく知らない女性に思わせぶりな態度をとるんですか?よく知りもしない女の人を誑かすのが好きなんですか?」

 

ドストレートな疑問に三人衆の表情が凍った。ついでに様子を見ていたグレイやルシーも硬直した。

 

「あまりにも不誠実じゃないですか?」

 

「あ、いや、ウェンディちゃん。僕たちはね………」

 

「言い訳なんて聞きたくありません!」

 

先ほどまでオロオロしていた少女とは思えない強気さと謎の怒気に天馬の三人衆は困惑した。

 

「スイッチは入ちゃったみたいね………」

 

シャルルは頭を押さえながら零す。しばらくウェンディのお説教と尋問が続き、三人衆が正座させられていた。

 

「なんか急にキャラ変わったな」

 

「ウェンディ………どっかで…」

 

ウェンディを見て何かを思い出そうとしているナツ、彼に向かってウェンディはニッコリと微笑んだ。

 

「あんまり他のオスに色目を使うとケネシーが妬くわよ」

 

「そ、そんなつもりじゃ!?」

 

「遊びに来たんじゃない。片付けろ」

 

慌てるウェンディ、一夜の一喝で慌てて片づけを始める三人衆。状況は混沌としたままだった。

 

 

 

 

 

 

ケネシーは全速力で集合場所である屋敷に向かって走っていた。ローバウルから集合地点と目的を聞き、急いでウェンディ達の元に走っていた。

 

掲示板ではちょっとしたお祭り騒ぎになっている。『下手をするとタルタロスに生存がバレるからやめておけ』だの『原作の主要キャラのウェンディは死なないから放っておけ』だの好き勝手に言うスレ民に青筋を立てながら、ケネシーは走っていた。

 

スレ民の意見は間違いではない。バラム同盟の一角である六魔の動きは他の闇ギルドも注目していた。原作が存在する以上ウェンディが死ぬことはないのかもしれない。

 

だが、ケネシーがいることで蝶が羽ばたいているとしたら?少なくとも化猫の宿には2人の魔導士が在籍しているし、ウェンディはケネシーが過保護にしたせいで原作以上に気が弱いかもしれない。

 

結果的にウェンディが死んでしまったら?そんなことを考えるとケネシーは動かずにはいられなかった。

 

樹海に入ってしばらくたった時、巨大な爆発音とともに飛行艇らしきものが墜落していくのが目に入った。

 

ケネシーは目的地を変えてそこに向かって走り出した。確実に何かが起こっていると確信して。

 

 

 



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7話

敵を一か所に集め爆撃することで撃破するという作戦は、エンジェルという敵魔導士によって暴かれ、爆撃艇は墜落してしまった。そして、連合達は後手に回った状態で六魔と正面衝突することとなった。

 

最大戦力であったジュラと天馬の支柱である一夜の不在を加味しても、完全敗北と言わざる得ない惨状がそこには広がっていた。

 

「もうよい、ゴミどもめ、まとめて消え去るがよい」

 

ブレインの持っていた杖に禍々しい魔力が集まり始めた。

 

「な、なんですの?この魔力………」

 

「大気が震えてる」

 

魔力が集まり、ブレインが杖を掲げた。

 

「『常闇回旋曲』」

 

魔法を放とうとした瞬間、ブレインは岩陰に隠れているウェンディに気付いた。瞬間、凄まじい魔力が弱まり完全に消え去った。

 

「どうしたブレイン!なぜ魔法を止める!?」

 

「ウェンディ」

 

ブレインは、ウェンディを見て彼女の名を口にした。

 

「え?」

 

ウェンディは急に自分の名を呼ばれて、混乱と恐怖で固まってしまった。

 

「何だ、知り合いか?」

 

「間違いない。ウェンディ………天空の巫女」

 

ブレインは薄く笑った。

 

「こんな所で天空の巫女に会えるとはな。丁度いい、来い!」

 

ブレインの杖から緑色の魔力が出て手を形作り、ウェンディの方に伸びる。

 

「え?きゃああ!!」

 

「ウェンディ!!」

 

その手はウェンディを掴むとブレインの方に引き寄せた。そうはさせまいとナツたちが向かおうとするが、ホットアイに邪魔されてしまう。

 

「金こそがすべて、デスネ!」

 

「うわああああ!!?」

 

必死にシャルルがウェンディに手を伸ばし、ウェンディも手を伸ばすが。

 

「あれ?」

 

「ちょ、ちょっとアンタ!」

 

ウェンディが掴んだのはハッピーの手だった。

 

「きゃあああ!」

 

「ナツゥゥゥゥゥ!」

 

「ウェンディ!ハッピー!」

 

シャルルとナツが叫んだ途端、魔力の手は1人と1匹を連れ謎の空間の中に吸いこまれようとして————

 

「————————『天魔の風弓』!」

 

吹き荒れた風がそれを阻んだ。

 

 

 

暴風と共にその地に降り立った少年が辺りを睥睨する。少年はウェンディを抱きかかえ、ハッピーの尻尾を持った状態で立っていた。

 

「—————ギリギリ間に合った」

 

「ケネシー………どうして」

 

ケネシーは不安げに瞳を揺らしどこがすがりついたような様子で手を握ってくるウェンディに笑いかける。

 

「大丈夫だ。もう怯えないでいい」

 

ギュッとウェンディを強く抱きしめ、そしてゆっくりと地面に下した。

 

「少し下がっていろウェンディ。すぐに終わらせる」

 

ケネシーは六魔の方へ視線を向けて魔力を漲らせた。そして同時に振りまかれる尋常ではない殺意に鳥肌が立った。

 

「誰だあれ!?」

 

「ケネシー!?」

 

「何という異質な魔力………」

 

ナツは困惑を露にし、シャルルは驚愕で思わず大声を上げる。リオンはその魔力にひたすら恐怖を抱いていた。

 

「何だあのガキ!」

 

レーサーがその魔力の異質さに警戒心をあらわにする。そしてブレインはただその双眸を大きく見開き、ケネシーを見つめていた。

 

「バカな………まさか。いや、だが………銀髪に白銀色の瞳。そしてこの魔力。もし仮にあの者が冥府の———」

 

「知り合いか?」

 

コブラの問いかけにブレインは答えない。否、正確に言えば答えられなかった。なぜなら、ケネシーの膝蹴りがブレインを吹き飛ばしたからだ。

 

「なッ!?」

 

コブラの驚愕を置き去りにして、ケネシーは追撃をかける。

 

「無益な殺生は好まないが今回は別だぜ。俺のウェンディ()に手を出したことを後悔して死ね!『天魔の撃鉄』!」

 

風を纏った拳の連打を受け、相手は悲鳴もなく悶絶し吹き飛んでいった。

 

「ブレイン!!!!!」

 

「金が人を強くする!デスネ!」

 

ホットアイは地面を軟化させてケネシーを攻撃する。土の津波がケネシーを飲み込まんと襲いかかる。

 

「『天魔の連風』」

 

それに対して、ケネシーは右手を掲げその攻撃を無操作に振り払いのけて見せた。風と土の激突の余波にホットアイが呻いた。

 

「中々強ぇーが、遅ぇぞ!!!!!」

 

レーサーの蹴りが何度もケネシーに叩き込まれる。スピードにものを言わせた連打は、苛烈の一言に尽きる。だが、それだけの攻撃を身に浴びてなお、ケネシーはまるで効いていないかのように自身を踏みつけているレーサーの足を掴んだ。

 

「なん、だと」

 

「悪いな。痛みには慣れているんだ。この程度は俺の痛みに入らない」

 

ケネシーは瞳孔を見開き魔法は放つ。レーサーは顔を引きつらせた。まるで深淵を除きこでしまった哀れな罪人のように。

 

「『天魔の激昂』」

 

「ガァァァァァァァ!!!!!?」

 

レーサーは風のブレスによって吹き飛ばされた。立ち上がったケネシーに今度はコブラが向かっていく。

 

「『天魔の鉄拳』!!!!!」

 

風を纏った拳がコブラに向かう。だが、その拳は空を切った。ここで初めてケネシーは眉を顰める。

 

「当たらねえな。聴こえているからな!」

 

コブラのカウンターをケネシーは最低限の動きで躱す。再度、ケネシーが拳を振るうがコブラに届くことはなく、回避される。

 

「不思議か?オレはな聴こえるんだよ、テメェの思考も、息遣いも、筋肉の収縮から全て」

 

獰猛な笑みを向けて余裕を表すコブラに、ケネシーはハイキックを放つが、それを彼は目を瞑って回避する。間髪入れずにケネシーは拳を振るった。

 

「だから聴こえてるっての」

 

「なるほど、俺の思考と行動を読んでいるのか。便利な耳だな」

 

ケネシーはコブラからバックステップで距離を取った。

 

「だが、わかっていても対処できなければ同じだろ?」

 

「何?まさか!!!!!テメェ!」

 

ニヤリと笑ったケネシーは魔力を体中に巡らせる。ケネシーの前に風が渦を巻いて球体を作っていく。そして————

 

「そう大声を出すなよ?動揺が聞こえるぞ?『天魔の———逆鱗』!!!!!」

 

瞬間、球体は弾け岩や砂塵が風に流され激しい大爆発が引き起こされる。風の爆発の衝撃で大地が削れ、地震の如く地が揺れる。あまりの攻撃範囲に他の六魔を含め、その場にいる全員が身動きを封じられる。

 

粉塵に視界が覆われる中、ケネシーは上手く身動きの取れないコブラに接近した。拳に風が収束していく。

 

「悪魔の拳、受けたことあるか?『天魔の撃槌』!」

 

そして、その拳をケネシーはコブラの腹部に叩き込んだ。風が止むと同時に凄まじい速度で殴り飛ばされたコブラが地面に転がった。辛うじて意識はあるものの大ダメージであった。

 

「つ、強ぇ………」

「マジで何者なんだあいつ」

「何という魔力」

「オレたちが手も足も出なかった怪物をこうもあっさり」

 

ケネシーの戦いに戦慄する連合の意識を切り裂くように一つの魔法が放たれた。

 

「『常闇奇想曲(ダークカプリチオ)』」

 

ケネシーはそれを紙一重で躱した。その動きを見て体勢を立て直したブレインは狙いを変えた。

 

「ヌシは強いが弱点を晒したままでは脅威ではない『常闇奇想曲(ダークカプリチオ)』」

 

「チッ、さっきので気絶しなかったのか」

 

ブレインは、クロドアの杖から回転するレーザーを放った。ケネシーではなくウェンディに向けて。

 

「なッ!?クソ!!!!!」

 

ケネシーは回避と防御を後回しにしてウェンディの元まで走った。ウェンディを抱きかかえ横に飛んだケネシーの肩をブレインの魔法が掠める。鮮血が散るがケネシーはこれをダメージとはカウントしなかった。痛みを気にしないのは彼の歪みの一つだろう。

 

「ケネシー!?」

 

「問題ないッ!」

 

素早く体勢を立て直したケネシーにボロボロのコブラが迫る。しかし、コブラの眼には確かな殺気が宿っていた。

 

「頑丈だな!」

 

「聴こえるぜ、お前の焦りが!クソガキ!」

 

「『天魔の鉄拳』!」

 

大胆な踏み込みでコブラの一撃を掻い潜り、ケネシーの拳が彼の胴体に届く。その瞬間—————

 

藍色の影が両者の間に割ってい入った。

 

「!?」

 

ケネシーは強引に体を傾け、拳を無理やり打ち上げて少女から遠ざけた。何故ウェンディが飛び込んできたのか?そんな疑問は自身の後ろにいるウェンディ本人の驚愕の表情で解決した。その正体はエンジェルが使役する星霊、ジェミニが能力を使って変身した姿だった。

 

「偽物かッ!」

 

「正解だが遅ぇ!キュベリオス!」

 

コブラの号令と共にキュベリオスが素早くケネシーに近づき、彼の脇腹に噛みついた。牙が深々と抉りこまれ流石のケネシーも苦悶の声を上げた。

 

「グッ………なめん、なッ!!!!!」

 

ケネシーは右腕を突き出し魔法陣を展開する。

 

「天魔の———ガッ」

 

だがその魔法は猛威を振るうことなく不発となった。レーサーが追い打ちをかけたからだ。

 

「大して効かないんだろうが魔法発動の邪魔くらいにはなるだろ?」

 

「クソッ!」

 

「きゃああああ!」

 

ケネシーが悲鳴を捉えて振り返ると魔力の腕がウェンディを捉えて異空間に引きずり込もうとしていた。

 

「ウェンディ!!!!!」

 

「ケネシー後ろ!」

 

シャルルの悲鳴は彼に対する警鐘だった。ケネシーがウェンディに気を取られ後ろを向いた瞬間キュベリオスが再度噛みついたのだ。

 

「邪魔だァ!」

 

風が吹き荒れキュベリオスとコブラを吹き飛ばすが、ケネシーにできたのはそれが限界だった。休息を取らずにここまで来た体力不足と急激な魔力消費、蓄積したダメージでケネシーは限界を迎えていた。視界が揺れだし耳鳴りが始まる。

 

「天空の巫女を害されたくなければ動くな」

 

ブレインはケネシーに杖を向ける。そして

 

「『常闇奇想曲(ダークカプリチオ)』」

 

「ケネシー逃げてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

ウェンディの悲鳴が大気を揺らしケネシーの鼓膜に届くが、それは何の意味もなかった。

 

放たれた魔法は彼に直撃し、その意識を奪った。

 

「フン、ゴミどもよ今度こそ消えよ!!『常闇回旋曲(ダークロンド)』!」

 

再び巨大な禍々しい魔力が集まり、今度こそ放たれた。

 

連合の人間はもうダメかと思い臍を噛んだ瞬間、声が響いた。

 

「岩鉄壁!」

 



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8話

「岩鉄壁!」

 

ブレインが放った魔法を地面から岩の柱が防いだ。

 

「………間一髪」

 

「ジュラ様!」

 

それを行ったのはエンジェルにやられたと思われたジュラだ。

 

「すごいやジュラさん!」

 

「ありがとう、助かったよ」

 

「あいつらは…!?くそ!」

 

ナツたちが慌てて六魔将軍を探すが、既にその場から消えていた。 

 

「消えちまったか………」

 

「んだとコラァー!」

 

「ウェンディ………」

 

「完全にやられた………」

 

「あいつら強すぎるよ………手も足も出なかった」

 

完全敗北ともいえる結果だった。先手を打つつもりがそれを読まれて逆に強襲されてしまった。

 

「六魔将軍………集めた情報以上の魔力だった」

 

「それに頼りのクリスティーナまで………」

 

イブが悲しげにボロボロになったクリスティーナを見る。天馬としても使われることなく撃墜されるとは思わなかった。不幸中の幸いだったのがクリスティーナが無人飛行だったことだ。人が乗っていればただでは済まなかっただろうことは想像に難くなかった。

 

「ジュラさん、無事だったのか」

 

「いや、今は一夜殿の痛み止めの香りで一時的に抑えられているが………」

 

ジュラもまた浅いものの至る所に怪我があった。その一夜はというと。

 

「六魔将軍め。我々が到着した途端に逃げ出すとは………さては恐れをなしたな」

 

「あんたボロボロじゃねーか!」

 

トイレで強襲されたままのため、ボロボロだった。

 

「ケネシー!目を覚ましなさい!」

 

シャルルのそんな声に一同は振り返る。ケネシーの怪我を見ていたヒビキは冷や汗を流しながら、零す。

 

「ダメージが大きい。それに毒も………先生!」

 

「まかせなさーい!!!!!痛み止めの香り(パルファム)でーす」

 

ヒビキの懇願に答え、一夜は痛み止めの香りをその場に充満させ、皆の痛みを和らげた。

 

「あいつら………!よくもウェンディとハッピーを!どこ行ったコラァァァァァ!」

 

「落ち着きなさいよ!」

 

「ぐえっ」

 

早速どこかに駆けだそうとするナツをシャルルがマフラーを引っ張ることで止めた。

 

「羽?」

「羽ですわ」

「猫が飛んでる」

「すごいや!」

 

「これは『(エーラ)』っていう魔法。ま、初めて見たなら驚くのも無理ないですけど」

 

「ハッピーと被ってる」

 

「なんですって!?」

 

シャルルがショックを受けた。自分のアイデンティティが侵されている気分だ。

 

「………とにかく、あの子たちの事は心配ですけど………闇雲に突っ込んでも勝てる相手じゃないってわかったでしょう」

 

「シャルル殿の言う通りだ。敵は予想以上に強い」

 

ジュラも同意するように頷いた。

 

「それに………」

 

シャルルが視線だけ別の方向に向ける。そこには腕を押えて苦しんでいるエルザと息を荒げながら痛みに耐えるケネシーの姿があった。

 

「私の香り(パルファム)が効いていないのか!?」

 

「しっかりしろ、エルザ!」

 

ルーシィたちは苦しむエルザ達に近づいた。

 

「すまない…ベルトを借りるぞ、ルーシィ」

 

「へ?」

 

エルザはルーシィのベルトに手をかけると一気に引き抜いた。結果何が起こるか?必然的にスカートが地面に落ちる。重力に従ってスカートが落ちる道理がある様に、欲望に従って視線が吸い寄せられる道理が天馬の男たちにはあった。

 

「きゃああああああ!?」

 

「「「おおおおっ!」」」

 

「見るなああああああ!!!」

 

結末は説明するまでもないだろう。エルザはベルトを毒に侵された腕に巻きつけ、強く締め上げた。全身に毒がまわらないようにするためだ。

 

「な、何するのエルザ………」

 

「斬り落とせ」

 

エルザが剣を地面に投げ出し、腕を差し出した。確かに、このままではエルザは戦力にならないどころか、最悪死に至ってしまう。しかし、これからずっと隻腕というハンデを背負うことになる。

 

「馬鹿なこと言ってんじゃねえ!!」

 

思い切ったことを言ったエルザにグレイが怒鳴りつける。

 

「分かった。俺がやろう」

 

リオンは躊躇いなく引き受けると剣を持ち上げた。

 

「リオン!てめぇ!!」

 

「今、この女に死んでもらうわけにはいかん」

 

「やめろリオン!!」

 

リオンは剣をエルザの腕に振り下ろし、グレイが造り出した氷に止められた。

 

「貴様はこの女の命より腕の方が大事か?」

 

「他に方法があるかもしれないだろ?短絡的に考えるなよ」

 

グレイとリオンが静かに睨み合っていると、とうとうエルザが力尽きて倒れてしまった。

 

「エルザ!」

 

エルザの腕を見るとやはりどんどん毒が広がっている。このままでは全身に毒が広がってしまうは火を見るよりも明らかである。

 

「ウェンディなら助けられる」

 

そう声を上げたのは意識をなくしているはずのケネシーだった。

 

「あんた大丈夫なの!?」

 

シャルルの問いかけには答えず、ケネシーは連合の面々に語り掛けた。

 

「その女の毒はウェンディなら解毒できる」

 

「………結局お前は誰なんだ?」

 

「確かに只者じゃあねえよな?六魔相手にあんだけやれるんだ」

 

「ウェンディの仲間だっていうのはわかったけど」

 

「今更!?」

 

ナツ達の疑問はもっともだったが、今更過ぎる質問だった。思わず突っ込みを入れたシャルルを見ながら、ケネシーは名乗りを上げる。他の連合の面々も似たような感じだったからだ。

 

「俺の名前はケネシー。化猫の宿(ケットシェルター)に所属している魔導士だ。よろしく」

 

「銀髪に白銀色の瞳。もしや最近噂になっている闇ギルド潰しはケネシー殿のことか?」

 

「噂になっているのか………」

 

「詳しい話はいい!エルザは治るのか」

 

「ちょっ!ナツ!相手は怪我人よ!?」

 

ナツがケネシーに凄むとケネシーは冷静に答えを返す。

 

「ああ、ウェンディには解毒を可能にする魔法がある。加えて、解熱や痛み止め、傷の治療もできる」

 

「そんなことまでできるのか!」

 

「すごいや」

 

「また、私のアイデンティティが………」

 

天馬の面々が驚愕を露にしている。シャルルはその様子を見て何とも言えない顔をしていた。

 

「ウェンディは六魔将軍(オラシオンセイス)が言ってた『天空の巫女』っていうのに何か関係があるの?」

 

「彼女は天空の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)、天竜のウェンディ」

 

「「「「滅竜魔導士!??」」」

 

衝撃の事実が発覚した。ウェンディもナツと同じ、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だったのだ。話が長引きそうだと思ったシャルルが口をはさむ。

 

「詳しい話は後。今私たちに必要なのはウェンディよ。さっきの戦いでわかったと思うけど、ケネシーが復活すればかなり有利になる。そして目的は分からないけれど、あいつらもウェンディを必要としてる」

 

真剣な顔つきのシャルルの言葉に皆も気を引き締めた。とにかく、これで目的も決まった。

 

「やることは一つ。奴らからウェンディを救いだす!」

 

皆の心が一つになった。全員で拳を突き合わせた。

 

「行くぞォ!」

 

「「「「「おおー!!!!!」」」」」

 

連合軍の反撃はここから始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺も探索に参加する…」

 

ヒビキたちが探索ルートを説明している最中、ケネシーがそう提案した。

 

「なッ!?無茶だ!君の怪我はエルザさんよりもひどい。毒だって体が小さい分回るのは早いんだぞ!?」

 

ヒビキの言うことはもっともであったし、この場にいるものの代表意見でもあった。しかし、ケネシーはそんなことは関係ないとばかりに首を振った。

 

「ヒビキさん、あんたの言うことはもっともだけど一つ間違いがある。俺の身体はそこの女のよりも頑丈だ。今こうして動けているのがその証明だろ?大丈夫だ、多少の戦闘なら問題なくこなせる」

 

そうは言いつつも彼の状態は立っているのが不思議なほどだった。傷もさることながら、毒とそれに由来する顔色の悪さが尋常ではない。焦点の合っていない瞳と鬼気迫った表情が合わさって正直人間とは思えない顔色だった。ゾンビと言われた方が納得できるものである。

 

「あんたは残りなさい」

 

這ってでも必ず探しに行くっとそんな覚悟を見せるケネシーを止めたのはシャルルだった。

 

「却下だ」

 

「残りなさい」

 

「嫌だ」

 

「残りなさい!」

 

「ッ!このメンバーで探しに行っても返り討ちに遭うだけだって言ってんだよ!!!!!わかんねえのか!?」

 

それはある種の侮辱でありナツを始めとして、己に自信のある強者たちは文句を言おうとしたが、ケネシーのあまりの必死さと鬼気迫る形相に一瞬怯んでしまった。

 

「俺が到着するまで一方的にやられてた連中にすべてを託すってか?バカが!そんなことできるわけないだろ!?俺の見立てじゃ、まともに戦闘になるのはそこにいる聖天のジュラとここで倒れているエルザ・スカーレットくらいだ!そんな簡単なことも理解できないのか、シャルル!!!!!」

 

「あんたこそ、その怪我で戦えると思ってるわけ!?わざわざ殺されに行くようなものよ!あんたまたウェンディを泣かせたいわけ!?」

 

そのシャルルの言葉にケネシーは唇を噛んで、下を向いた。ケネシーの状態的にシャルルの言っていることは否定できなかった。しかし、ケネシーは誰かを利用することはあっても頼ることはしない。そういう生き方をしてきたし、そういう考えがあの場所で染みついている。ここで、自分は残って「後はよろしくお願いします」はできないのである。

 

「コブラはダメージが深いだろう。レーサーもそれなりに手ごたえがあった。だけど、エンジェル、ミッドナイトはほぼ無傷でブレインも健在。見つけて奪還することが目的だとしても、戦闘は避けられないはずだ。勝率は決して高くない。そうでしょう、ヒビキさん」

 

ケネシーはそう問いかける。それに対してヒビキはしばらく目を瞑り、そして答えを出した。

 

「確かに勝率が高いとは言えない。だけど僕は、ここにいるみんなを信じている。団結すれば道はあるよ!」

 

その言葉を聞き、さらに反論しようしたケネシーだったが平衡感覚がなくなったかのようにふらついて、その場に座り込み木の幹に背中を預けた。そのまま再度意識を落とした。

 

「………ケネシー」

 

ケネシーのウェンディに対する執着は異常と呼べるものだった。大切にしているのはわかる。好意を抱いていることもわかる。その行為が自分に向けられているようなベクトルでないことも理解できる。しかし、それは親愛の情などでは表現できない。もっと深く歪で恐ろしい何かだった。

 

シャルルは何がケネシーにそこまでさせるのか未だに理解することができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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9話

ヒビキはケネシーという少年に危機感を抱いていた。それは警戒心と言い換えてもいい。それは彼が見せた精神面の話だけではない。最もヒビキを警戒させたのは、彼が六魔将軍のメンバーの名前を知っていたことだった。本人はスレ民から聞いていただけなのだが。

 

この作戦の情報は漏洩を恐れて天馬の人間だけにしか事前に知らされていなかった。ジュラでさえ、メンバーの名前を知ったのは打ち合わせの時なのだ。

 

そもそもアーカイブを使えるヒビキだからこそ割り出せた情報だ。それを歳はも行かない子供が知っていた。何か特殊な魔法が使えるのかもしれない。それならそれでいい。ただ、もしそうでない場合は警戒する必要があるとヒビキは判断した。歳に似合わない冷静さと冷徹さ、そして圧倒的な強さ。加えて、知っているはずのない情報を持っている不気味さ。

 

(後で調べておこうか)

 

ヒビキはそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

数時間が立ち、ナツたちが無事にエルザたちの元に到着した。

 

「着いたー!」

 

「ナツ!」

 

「すげーな!おかげで、ここまでの道が頭の中にスラスラと出てきたぜ!」

 

「それより、ケネシーとエルザさんは!?」

 

到着した四人を見て嬉しそうな顔をするルーシィの脇を通り過ぎて、ウェンディはケネシーとエルザの方に向かった。エルザの方は体の大半が毒に侵されており、すぐにでも死んでしまいそうだ。ケネシーの方もかなり毒が回っておりどちらも急を要する状態だった。

 

「ケネシー………」

 

その様子を見て涙を溜めるウェンディにシャルルは一喝する。

 

「ウェンディ、体力的にきついでしょうけど早くしないと手遅れになる!できる?」

 

「う、うん。やってみる」

 

ウェンディが治療に取り掛かる。しばしの静寂の後、見守ることしかできなかったルーシーたちに声がかかる。

 

「終わりました。エルザさんの体から毒は消えました…ケネシーの身体からも毒は消せました」

 

その報告を受け少し張りつめていた空気が弛緩する。

 

「お疲れ、ウェンディ」

 

エルザの体から毒が抜けて、彼女の顔色が良くなっていた。ケネシーも同様だ。ただケネシーが蓄積している疲労や魔力などは回復していなかった。

 

「おっしゃー!!!」

 

それを見てみんな歓喜の声を上げる。互いに手を合わせるルーシィとナツ。ハッピーも可愛らしくハイタッチしていた。喜びを分かち合ってる中、ウェンディが疲れたように言った。

 

「………しばらく目を覚まさないと思いますけど、もう大丈夫ですよ」

 

ヒビキがエルザに顔を近づける。

 

「すごいね………この短時間で本当に顔色がよくなってる。これが天空魔法」

 

「いいこと? これ以上天空魔法をウェンディに使わせないでちょうだい」

 

シャルルがその場にいる人間に注意した。治癒魔法はウェンディにかなり負担がかかるのだ。

 

「私の事はいいの。それより………」

 

ウェンディは何かを言いだそうとして右往左往としていた。自身が抱えている問題をどう説明したものか、はかりかねてるのだろう。

 

そんな時、樹海の方から黒い光の柱が上がった。この異質な感じと禍々しさはそう判断するだけのものがあった。

 

「まさか六魔将軍に先を越された!?」

 

「あの光………ジェラールがいる!」

 

「ジェラール!?」

 

ナツはルーシーの困惑を置き去りにして走り去ってしまった。

 

「ちょっとナツ!ジェラールってどういう事!?」

 

「私の………私のせいだ」

 

ウェンディがショックを受けた表情で蹲った。現状が受け入れられないようだった。その様子を見ながらも、ヒビキはナツの捜索を提案した。

 

「ナツ君を追いかけよう。さすがにこの状況で1人は危険だ」

 

「ナツ、ジェラールって言ってたよね………」

 

「それより今ナツを————」

 

予想外のことが重なり方針が決まらなかった。連合としてはいきなり不意打ちで後頭部を殴られたようなものなのだ。

 

その時、シャルルが大声をあげたのでみんな後ろを向いた。

 

「ああ————!!!!!エルザがいない!」

 

「「ええ!?」」

 

ルーシーは驚愕で固まってしまう。いつの間にいなくなってしまったのか。

 

「なんなのよあの女!ウェンディに一言の礼もなしに!!!」

 

「エルザ…もしかしてジェラールって名前を聞いて…」

 

ハッピーの推測は当たっていた。エルザは会話の内容を聞きナツの後を追いかけたのだった。

 

「どうしよう………私のせいだ………」

 

ウェンディが暗い瞳で自分を責め始めた。

 

「私がジェラールを治したせいでニルバーナが見つかって、エルザさんやナツさんが」

 

ヒビキはその様子を見てウェンディを気絶させようと魔力を熾す。瞬間、凄まじい殺気がヒビキに向けられた。そして、優しげな声が響く。

 

「ウェンディ——————君は悪くないよ」

 

彼女は、ふいに引っ張られる。引き寄せられて、ケネシーの胸に頰があたった。腕が背中に回り、強く抱きしめてくる。ケネシーの衣服を通してウェンディの頰にケネシーの体温と鼓動が伝わる。

 

「ニルバーナが見つかったとしても、それは誰のせいでもない。しいて言うなら連合全員のせいだ。ウェンディが誰かを癒したことが、悪いわけない。その優しさが間違いだなんて誰にも言わせない………誰にも」

 

「で、でも、私………」

 

ケネシーの声色はずっと優しい。壊れ物を扱うかのようにウェンディをただただ優しく抱きしめる。

 

「ウェンディのおかげで俺は生きてる。エルザ・スカーレットもそうだ。ウェンディはもう二人救ったんだ。それをもっと誇っていい。周りの奴に文句は言わせない。ウェンディは二人助けて連合に貢献した。これだけが揺るがない事実だ」

 

「………」

 

ケネシーの言葉がウェンディに染み込んでいく。麻薬だ。自分のすべてを受け入れ、優しさだけで構成された言葉は人間には強すぎる。

 

「ニルバーナは必ず俺が止める。今度こそ、ウェンディに危害は加えさせない。絶対だ!」

 

ケネシーはよく知っていた。昔から教えられてきたから。こういう時にどういう言葉をかければいいのか。自分の望む物語を紡ぐには何をすべきなのか。

 

「仮に責められることがあったとしても、俺は、俺だけは味方だ。だから、そんなに泣くな」

 

「うん………」

 

ウェンディの震えが徐々に収まっていく。

 

「大丈夫か?」

 

「うん…大丈夫」

 

ウェンディはふわりと笑顔を浮かべた。この様子ならば大丈夫だろう。ケネシーはそう判断した。

 

「………ケネシー君、ありがとう。おかげでウェンディちゃんを傷つけずに済んだ」

 

様子を見て、ヒビキはケネシーに話しかけた。それに対してケネシーはウェンディの手を握ったまま、顔だけ向けて答える。

 

「そうですね。俺としてもヒビキさんを殴らずに済んでよかったですよ」

 

「え?どゆこと?」

 

「それは移動しながら説明するよ」

 

「も、もう!さっきからなんなのよう!!」

 

ケネシーたちは、ナツが向かった方に走り出す。なにも知らないルーシィは混乱で泣きそうになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

75:イッチです

わあー、お空綺麗

 

76:名無しのパンピー転生者

現実逃避すんな

 

77:名無しのパンピー転生者

おっすおっす、仲間を見捨てて逃げ出したイッチさんおっす

 

78:名無しのパンピー転生者

脱兎御ごとく逃げだしたもんな

 

79:名無しのパンピー転生者

ジェミニはイッチの天敵だからしょうがない

 

80:名無しのパンピー転生者

コブラもある意味天敵だよな、深く聴かれると終わるぞ

 

81:名無しのパンピー転生者

ウェンディを即座に回収してシャルルと逃げる早業。見逃しちゃったぞ

 

82:名無しのパンピー転生者

イッチ今何してんの?

 

83:名無しのパンピー転生者

ウェンディ抱えてジェラールのところに向かってるんだろ?

 

84:イッチです

迷った

 

85:名無しのパンピー転生者

 

86:名無しのパンピー転生者

 

87:名無しのパンピー転生者

ええ

 

88:イッチです

迷ったんだよ!森の中で

 

89:名無しのパンピー転生者

は?

 

90:名無しのパンピー転生者

何故

 

91:名無しのパンピー転生者

どうして

 

92:イッチです

マジでガムシャラに森の中を爆走してみろ?どこいるのかわからなくなるから

 

93:名無しのパンピー転生者

それはそう

 

94:名無しのパンピー転生者

シャルルがいるから空飛べば解決するだろ

 

95:イッチです

とりあえずウェンディは魔力の回復に専念させるために、隠れてもらってワイは目印作りながらその辺探索することにした

 

96:名無しのパンピー転生者

イッチってブレインとか倒せるんだよな?

 

97:イッチです

サシなら負けないと思う。っというか悪魔以外はあんまり怖くない

 

98:名無しのパンピー転生者

これはフラグか?

 

99:イッチです

再現魔法で水とか出せるからサバイバルは困らない

 

100:名無しのパンピー転生者

便利だよな。欠陥魔法だけど

 

101:名無しのパンピー転生者

ああ、便利だよな。欠陥魔法だけどな

 

102:名無しのパンピー転生者

俺も使いてえな。欠陥魔法だけど

 

103:名無しのパンピー転生者

そんなに欠陥魔法なのか?

 

104:名無しのパンピー転生者

物しか再現できないからなぁ。魔法を再現出来たらチートなんだけど

 

105:名無しのパンピー転生者

消費魔力は少ないけど、集中できていない状態で使うと魔力が暴走するらしいし

 

106:名無しのパンピー転生者

物は再現できる………閃いた

 

107:イッチです

>>102

うるせえ

 

108:名無しのパンピー転生者

通報した

 

109:名無しのパンピー転生者

ウェンディのパンツとか?

 

110:名無しのパンピー転生者

天才か?

 

111:名無しのパンピー転生者

変態か?

 

112:名無しのパンピー転生者

ロリコンか?

 

113:イッチです

天使で想像するな、殺すぞ

 

114:名無しのパンピー転生者

ガチギレで草

 

115:名無しのパンピー転生者

怖いわ

 

116:名無しのパンピー転生者

イッチってニルバーナの影響で闇落ちしそうだよな

 

117:イッチです

は?ワイはあんな光に負けないが?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

177:イッチです

ブレインが俺のこと知っててもこの場にいる者を殺せば問題ないだろ。ジュラさんを殺すわ

 

178:名無しのパンピー転生者

やっぱりフラグだったか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ふと思ったんだけど、ケネシー君ちゃん、手動TSロリショタ闇深転生記憶喪失DV耐性二重人格の主人公かぁ…人の性癖()は無限大だ!


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10話

ブレインは目の前に立つ少年こそが最も警戒すべき魔導士だと知っていた。彼こそがニルヴァーナ発動における最大の懸案事項だと。

 

大地に巨大な都市が現れ、歩み始めてから数分後。ブレインの元に現れたケネシーは近くにいたコブラの対処をナツとハッピーに投げてブレインの首を取らんと戦闘を行っていた。

 

「『常闇奇想曲(ダークカプリチオ)ォ』」

 

「『天魔の風林』」

 

貫通性のレイザーは風によって逸らされて、明後日の方向に飛んでいく。

 

「流石は冥府の住人とでも言っておこうか」

 

「………」

 

「しかし驚いたぞ………冥府の住人が正規ギルドに協力しているとはな」

 

ブレインは杖を向けたまま、なおも話続ける。その目には怯えはなく炎のような野心が燻っていた。

 

ブレインはケネシーの様子には気が付かず、興奮状態でこれからの野望について語る。

 

「この魔法があれば我を止められるものはなし。他のバラム同盟の奴らも恐れるに足らず。我は光と闇の番人となったのだ!フハハハハハ」

 

「………」

 

「光栄に思え、冥府の住人!新たな六魔に貴様を加えてやろう!手始めに天空の巫女を殺させてやるぞ」

 

ブレインはケネシーを勧誘しようとようやく彼の顔を見た。そして、息を呑んだ。

 

ケネシーの顔には何の感情も浮かんでいなかった。否、感情が湧きすぎて能面のように固まっているのだ。

ケネシーにとってブレインを殺すのは決定事項だった。それは何故かケネシーの正体を知っているからである。自分が闇ギルドに関りがあると知られれば、ウェンディにどんな顔をされるかわからない。今の関係を壊す危険性がある。それは許容されない。

 

よってケネシーは邪魔者がいない状態でブレインを殺すために、一人でこの場所に来たのだ。

 

それだけならよかった。ケネシーは使命感だけでブレインを殺していただろう。しかし、ブレインの言葉の中に二つほど気に食わないものがあった。

 

一つはウェンディを自分に殺させるなどという馬鹿げたセリフ。そしてもう一つは冥府の門に対する侮辱だった。前者に抱いたのは殺意と怒り。後者に抱いたのは、嫌悪と憐みだった。

 

「あまりにも不愉快だな…お前という存在が」

 

「何?ッ!?」

 

瞬間、ブレインの背後に移動したケネシーがローキックを叩き込み、彼の体勢を崩した。

 

「『天魔の鉄拳』」

 

ブレインはその拳を躱すことができずに王の間から転げ落ちる勢いで吹き飛ばされる。

 

「何処で俺のことを知ったのか答えろ。でなければ筆舌に尽くしがたい状態で殺す」

 

ケネシーの声に熱はない。色もない。ただ平坦に、決定事項を述べる少年の姿がそこにあった。

 

「だ、ダークロッ!?」

 

ブレインが杖を構えた瞬間、彼の身体は宙を舞っていた。風に巻き上げられたのだ。王の間の真上に位置する空中で、ブレインは初めて少年の脅威を体感する。

 

「『天魔の激昂』」

 

無慈悲の咆哮がブレインを王の間に叩き落した。床に亀裂が走り、砂埃が宙を舞う。ブレインに魔法を放つような隙をなるべく与えない立ち回りをケネシーはしていた。

 

「『天魔の撃槌』、『天魔の撃鉄』、『天魔の激昂』」

 

猛攻がブレインを襲う。無数の打撃と風の砲撃がブレインを吹き飛ばした。恐ろしきはケネシーの容赦のなさである。すでに意識を飛ばしかけているブレインに対して、ケネシーは攻撃の手を緩めなかった。そこにウェンディやシャルルに向ける優しさはなく、有象無象に向ける無関心もなかった。

 

「よ、よせ………」

 

フラフラと立ち上がり、顔をひきつらせたブレインにケネシーは拳を振るった。

 

「『風魔の撃槌』」

 

「ガァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

風を纏ったケネシーの拳は内臓と骨を揺るがす感触を突き放すように、ブレインの身体を王の間から放り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュラとグレイ、そしてルーシーは都市の中を探索していた。それは仲間を探すためでもあり、この都市を止めるためでもあった。

 

戦闘音のする方へと足を向けるとそこには倒れ伏すナツとハッピー、そしてコブラがいた。

 

「ちょっと!?大丈夫なの?」

 

「また派手にやりやがって」

 

ナツに駆け寄るグレイとルーシー、後からそれを追うジュラ。最後尾にいたジュラだけが天を飛来するそれに気が付いた。

 

「ッ!岩鉄壁!」

 

グレイたちを庇うように岩で屋根を作り上げる。そしてそこに一人の人間が落ちてきた。

 

凄まじい轟音と共に飛来したその人間は、敵の首領だった。

 

「この男は!」

 

驚愕を露にするジュラと状況の理解が追い付かないグレイたちの前に、一人の少年が降り立った。風を纏い音もなく着地したケネシーは、微かに意識のあるブレインに近づく。

 

「これが…冥府の力か………怪物め」

 

落下したブレインと距離が近いジュラだけがそのささやきを拾った。

 

「………終わりだ」

 

止めを刺そうと拳を振り上げたケネシーの腕をジュラが掴んで止めた。

 

「何の真似だ?」

 

「それ以上はいかん。その男はもうすでに戦闘不能だ。加えて、この魔法について情報を聞き出す必要がある」

 

「………」

 

にらみ合う両者を見てようやく理解が及んだグレイたちが叫ぶ。

 

「そいつ六魔のボスじゃねえか!?」

 

「ええ!一人で倒しちゃったってこと!??」

 

ジュラはケネシーの掌が開かれたのを確認して、ケネシーの腕を放した。

 

「『天魔の団扇』」

 

ケネシーはその隙を逃さず腕を振るい突風を発生させる。ルーシーたちはその風に吹き飛ばされ、ジュラは姿勢を低くして何とか耐えた。

 

「何を!?」

 

ジュラの困惑は無言の攻撃によって無に帰す。咄嗟に発動させた岩鉄壁が無ければ、ジュラの身体は宙を舞っていただろう。

 

「まさか!ニルヴァーナの影響をッ!?」

 

「『天魔の撃鉄』」

 

「ッ!岩鉄壁!」

 

8つの岩の壁が展開される。そのすべてをケネシーの拳が砕いて見せた。それと同時に、ジュラはグレイたちを岩の壁に乗せて遠くへ放り投げた。

 

「グレイ殿達はニルヴァーナを!ここはワシがなんとかしよう」

 

ケネシーはジュラに接近し、攻撃を仕掛けた。それに応戦するジュラにケネシーは残念そうにつぶやいた。

 

「聖天の魔導士と言えど、所詮は人間か」

 

ジュラの岩を用いた攻撃が風の刃と拳によって砕かれる。彼の攻撃はジュラの岩鉄壁で防がれる。しばらくその繰り返しだった。

 

「終わりにしようか」

 

ケネシーは弓を引くように左腕を前に出し、右腕を引く。そして

 

「『天魔の魔弓』」

 

収束する風は矢のような形状を取り、放たれた瞬間大地を削りながら進む風のレーザーに変質した。

 

ジュラは魔力を限界まで熾し魔法を展開する。それは自身が最も信頼する魔法。

 

「ぬおおおおおおお!!!!!岩鉄壁!」

 

元はただの土にも関わらず、その硬度は鉄を遥かに凌駕していると言われるその魔法を紙屑のように吹き飛ばした魔弓はジュラの身体を掠めるように軌道をそらし当たりのものを破壊していった。

 

「防御のためではなく、回避のために魔法を使ったのか」

 

ケネシーは熱の籠っていない声で、薄く笑った。

 

「悲しいな、聖天の魔導士。お前がもう少し強ければ完全に防げていただろうに」

 

咄嗟に防御は不可能だと断じて、攻撃をズラす判断は並大抵の胆力ではできないだろう。かつ、その判断を実現できることは流石と言える。だが、それは人間としては優秀程度なのだ。

 

「もうお前は立てないだろ?」

 

当たりの風景は災害が起きたのかと錯覚するほどの惨状に侵されていた。建物は倒壊し、地面は削れ、土埃が舞っている。

 

そんな光景を作り上げる魔法を人間が受ければ、どうなるかは考えるまでもなかった。

 

掠っただけとはいえ、人間にとっては過ぎた魔法だ。その脅威はジュラの身体が証明していた。

 

左の腕はズタズタに裂傷が刻まれており、脇腹は赤く染まっていた。命に係わるレベルの怪我ではない。しかし、戦闘は不可能であると断ずる負傷だった。

 

掠っただけでこの惨状である。直撃すればジュラはこの戦いから離脱していただろう。

 

「ケネシー殿………手荒になるが許せ」

 

「何を………ッ!」

 

「『覇王岩砕』!!!!!」

 

周囲の瓦礫が集まりケネシーを閉じ込める。そして、その瓦礫たちが爆ぜた。ケネシーを岩の中に閉じ込め中から爆砕させたのだと、理解するのにケネシーは数秒かかった。

 

思わぬダメージに踏鞴を踏むケネシーをジュラは追撃した。

 

「『岩垂』!」

 

地面から複数の柱が隆起して、ケネシーは体勢を大きく崩した。

 

「チッ!『天魔の—————」

 

「確かにその歳で恐るべき技量を持っていることはわかる。だが、儂も聖天の魔導士!慢心する子供に負けてやる道理はないわ」

 

ジュラの魔力が極限まで高まっていくのを感じ、ケネシーは自分の失策に気が付いた。辺りを破壊して瓦礫を作ったのは、ケネシーが魔法を使った結果ではない。ジュラが魔法を防ぐのではなく、逸らしたのはケネシーに瓦礫を作らせるためだったのだ。

 

「————逆鱗』!」

 

「岩鉄流!」

 

周囲を飲み込む暴風と岩の津波が衝突し、辺りを薙ぎ払う。轟音が響き両者の衝突の結果が表れた。

 

ほぼ無傷で立っているケネシーとボロボロで倒れているジュラ。勝者と敗者をわかりやすく分ける構図。それをひっくり返す一手をジュラは打っていた。

 

慢心するケネシーは視界の端に移った僅かな変化に気が付き、顔を引きつらせる。

 

「慢心がケネシー殿の弱点だ、岩鉄壁」

 

飛び出してきた岩の柱に殴打され、ケネシーは宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

意識を失っているジュラを眺める少女の姿がそこにはあった。ジュラの身体には雷を纏った鎖が巻き付いていた。

 

「…悪いけど人よりタフなものでね。僕の勝ちだよ、ジュラさん」

 

少女の瞳には、正気の明かりが灯っていた。少女の身体に傷はほぼない。しかし、色の濃い疲労がありありとその表情から伺える。

 

魔力を使い過ぎたのである。ウェンディが行ったのは、簡単な怪我の治療と解毒のみであり、疲労と消費した魔力は回復していない状態だった。ブレインとの戦闘、ジュラとの戦闘、様々な要因が重なってケネシーは疲労困憊だった。

 

「女に切り替わって正解だった。滅悪魔法を使っていたら、僕が倒れてた」

 

再現魔法は消費魔力が少ない。継続戦闘を考えるのであれば、必要なTSだった。本来なら不用意なTSは控えるべきだったのだが、ケネシーはノータイムでTSした。ブレインが自分のことを知っていた時点でやけくそ気味になっていたのもある。

 

「セイラ達が仮に僕の生存に気が付いているとして、それでも回収に来ない理由は何だろう?いやこの場合は僕の生存に気が付いていないが、捜索のためにバラム同盟に情報を流したというのが正解かな………?それにしてはブレインの反応は微妙だった」

 

(僕の生存を前提にしないとあの悪魔は捜索なんてしないだろう)

 

ケネシーは考え込む。

 

「………一番あり得るのは、捜索とは関係なく僕の情報をバラム同盟が知っている場合か?」

 

ケネシーは仮説をいくつか挙げた時点で眩暈に襲われる。グラリと体が揺れ、世界が回る。

 

「…ちょっと………休んでから、考えよ」

 

尻餅をついて壁に寄り掛かったケネシーは、体の力を抜き意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 



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