泣いた雪鬼 (ディヴァ子)
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目を覚ませ

「泣いた赤鬼」:強面の鬼たちの、美しくも哀しい友情の物語。


 ハ~イ♪

 ボク、ゴシャハギ。世間一般的に「雪鬼獣」と分類される、牙獣種の1匹だ。

 ……え、何でそんなに自分に詳しいのかって?

 ボクが人間が大好きだからだよ~♪

 ハンターさんの方は、そう思って無いみたいだけどね。

 むしろ、狩りの対象、獲物としか見てないから、色んな情報を独り言でベラベラ喋ってくれるから、嫌でも覚えるよね。モンスターは人間が思っている程、脳筋じゃないんだよー。

 そう言えば、風の噂でボクみたいに人間と関りを持つディアブロスが何処かに居るらしいけど、本当に存在するなら会ってみたいなぁ。どうやったらそこまで仲良くなれるのか、是非ともお聞きしたい所存。

 まぁ、それはそれとして、どうしてモンスターの僕が人間が好きなのかというと――――――過去に命を救われた事があったからだ。

 ボクがまだまだ小鬼サイズだった頃、空から真っ赤な流星が降り注いで、寒冷群島は甚大な被害を受けた。同じような事が砂原の方で起こったらしいけど、ここは無人の秘境だから話題になる事は無かったけどね。

 赫く輝く不思議で不気味な隕石が次々と落ちて来て、氷土やモンスターを射抜く地獄絵図。ボクのお母さんも、その時に死んだ。

 そして、いよいよ以て死の凶星がボクを穿とうとした、その時。

 

「気焔万丈!」

 

 僕らと変わらないくらいにゴリマッチョな、強面のお兄さんが隕石を切り裂いた。「君は本当に人間?」と聞きたくなったが、後に知った情報によれば、ハンターという職業の人は大体こんな感じなのだとか。すご~い。

 

「……赫い流星、不吉の前触れ。やはり、起こるというのか、「百竜夜行」が……」

 

 その後、ハンターのお兄さんはよく分からない事を呟くと、ラージャンよりも颯爽と跳び去って行ってしまい、それっきりになってしまったけど、何時かもう一度会いたいとは思ってる。

 それからは特に何事も無く、何年何十年と時が過ぎ、ボクはスクスクと成長していった。

 ――――――何か一時的に大型のモンスターが姿を消し、一部の種族は怒り狂ったように暴れていた時もあったらしいけど、その時ボクは人間の真似事として旅に出ていたので、与り知らぬ出来事だね。それがお兄さんの言っていた、百竜夜行だろうか?

 ともかく、旅に飽きたボクは故郷へ帰って来た訳だけど、未だに人間とは仲良くなれていない。原因は分かっている。この強面のせいだ。

 いや、そりゃあ雪鬼獣なんて呼ばれますよね。前に水鏡で自分の顔見て引っくり返った事あるもん。誰か整形してくれ。

 これじゃあ、何時まで経っても人間と友達になれないじゃないか!

 だが、現実はかくも非情で残酷である。モンスターどころかハンターにも全力で恐れられ、大体は武器を向けられる。一応は対話を試みるが、哀しいかな、モンスター故に言葉は話せないので、有耶無耶の内に水泡に帰してしまい、仕方なく狩られる前に逃げ帰るのが常だ。

 嗚呼、ボクも人間とお喋りしたい。

 もしくは、人間に成りたい。

 

 だって、モンスターの世界って自分以外は敵なんだもの……。

 

『グゥゥゥ……』

 

 そして、今日も今日とて初見のハンターさんにタコ殴りにされてしまい、惨めに大粒の涙を流しながら、棲み処の洞穴に戻って来た。

 あーあ、やんなっちゃうな。もう不貞寝しよ。おやすみなさ~い。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

《そんなに人間が好きなの?》

 

 何も無い世界に、真っ白な女の子が立っている。

 

《自分を殺しに来るような相手なのに?》

 

 女の子は、呆れたような、それでいて面白がっているような、不思議な表情でボクを見つめ、

 

《……ウフフ。なら、その願い、叶えてあげる。悪しき赫耀の死兆星を生き延びた、ご褒美にね……》

 

 ちちんぷいぷい、という若干ダサい身振り手振りで踊り出し、

 

《さぁ、少しはワタシを楽しませて?》

 

 ボクに魔法を掛けて来た。

 ちなみに、呪文は「オラクル☆ケミカル★ミラル~ツ♪」でした。

 ……恥ずかしくないの?

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『………………?』

 

 何じゃ今の意味不明な夢は。

 ……ああ、そうだよ。ボクは時々夢を見る。

 ゴシャハギは寒冷群島の生態系において上位に位置する種族なので、割かし堂々と眠るし、何なら夢を見る事さえある。

 今回もまた、そのパターンなのだろうが――――――マジで何だ、あの夢は。何が悲しくて、魔法少女にオラクル☆ケミカル★ミラル~ツされなきゃイカンのか。訳が分からないよ。

 ま、良いや。どうせ今日も代り映えのしない日常が始まるんだ。誰かの命を頂いて、独りぼっちで眠るのである。

 

『………………!?』

 

 しかし、目覚めの気伸びをしようとして、自分の身体に違和感を覚えた。洞窟がやたら広く感じるし、妙にスースーする気がする。というか、ボクの腕や脚って、こんなに細かったっけ?

 

『………………!』

 

 まさかと思い、例のあの時から見ていない水鏡を覗き込んで、ボクは再びビックリ仰天した。

 だが、今回は恐怖で引っ繰り返った訳ではない。むしろ、喜びのあまり天を仰いでしまった。

 

 そう、女の子のレナナーレ的な魔法のおかげか、ボクは白髪金眼の少年になっていたのである。

 

 夢だけど、夢じゃなかった!




◆ゴシャハギ

 尖爪目堅爪亜目鬼獣科に属する牙獣種の大型モンスター。別名は「雪鬼獣」。
 寒冷地のモンスターらしく、全身が白っぽい毛皮で覆われている。骨格こそアオアシラやウルクススと同じ熊型だが、青白い鬼瓦のような強面と、ラージャンともタメを張れる程の逞し過ぎる巨体のせいで、全然そうは見えない。その見た目に違わず、丸太のような剛腕でぶん殴ったり、引き裂いたりするパワーファイターである。
 だが、一番の特徴は氷ブレスによって自らの腕に生成する「氷刃」で、どう考えても出刃包丁にしか見えないそれをぶん回す姿は、まさに鬼かナマハゲ。たまに鈍器も作る。
 また、先に述べた通り、こんな妖怪染みた姿ながらウルクススと同系統の骨格なので、兎のように跳躍し、突然背後を取って来る事もある。
 このような牙獣種に有るまじき戦闘能力故に、寒冷群島の生態系では最上位の捕食者として君臨しており、夜な夜な獲物を求めて彷徨い歩く姿が見られるという。ゴシャハギというより追剥ぎだとか言ってはいけない。
 ちなみに、縄張り意識が強く一所からあまり動かないヨツワミドウとはよく喧嘩になり、あくまで相撲を取ろうとする向こうの意見なんぞ知った事かと、馬乗りになってタコ殴りにするショッキングな場面もある。


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ぼくはゆく

うさ団子食べてみたいナァ~。


『ゲコァアアアアッ!』

 

 寒冷の浅海を揺らす、咆哮が轟く。

 ハ~イ♪ ボクだよ、理由は分からないけど、人間の男の子になれたゴシャハギだよ。

 さて、さっそくだけど……現在、大絶賛ピンチ中だ。何故なら、丸呑み力士ことヨツワミドウにパックンチョされそうだからである。

 あまりの嬉しさに、周囲の確認もせず、生まれたままの姿で小躍りしてたら、これだよ。誰か助けて。

 確かに君の餌場に潜り込んじゃったのはボクだけど、こんな幼気な男の子くらい見逃してくれても良いじゃん。他の個体ならいざ知らず、ボクはヨツワミドウをタコ殴りにした事なんか無いぞぅ~!

 つーか、こいつデカくね?

 ボクが縮んでいる事を差し引いても、明らかに大き過ぎる。目測で40メートルはヤバいでしょ。何喰ったらというか、どんだけウリナマコを食べたら、ここまで成長出来るのだろう。マジで誰か助けて。

 と、その時。

 

「止めろっ!」

『ゲコォッ!?』

 

 何処からともなく凛々しくも美しい声が聞こえて来たと思ったら、突然ヨツワミドウがボクを放り投げた。

 さらに、絶え間なく続く爆音と閃光、それからヨツワミドウが立ち去る音。どうやら何処かの誰かさんに、ヨツワミドウが撃退されたらしい。

 

「大丈夫か!?」

 

 そして、潮の中から顔を出してみれば、そこには青白い髪をした見目麗しい女ハンターの姿が。ナルガクルガの一式装備が実に良く似合っている。得物のライトボウガンとの相性は別として。ナルガ装備なら太刀使おうよ。回避能力の高さは確かに良いけどさ……。

 

「……って、何で裸なんだい!?」

『あーぅ?』

 

 これがカムラの里の上位ハンター、アヤメさんとの出会いだった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 それからそれから。

 

「ここが「カムラの里」だ。今アタシが世話になってる場所さ」

 

 無事アヤメさんに保護されたボクは、彼女の案内でカムラの里へとやって来た。

 ちなみに、今のボクはマント一丁だ。つい最近まで野生のゴシャハギだったので、当然ながら服なんて持ってないし、アヤメさんが都合よくもう一着なんて事もなく、仕方なしに採集用の布袋を外蓑代わりに使う事にしたのである。

 むろん、マントの下は裸一貫。男らしいでしょ?

 

『かむら……』

 

 カムラの里と言えば、寒冷群島から南に下った場所にある、秘境のたたら場だ。独自に築いた製鉄技術と戦闘方法も然る事ながら、和みを感じさせる雅な雰囲気から観光名所としても有名な場所である。

 ……前にハンターさんがそう言ってたから間違いない、たぶん。

 何となく、ドスファンゴとブルファンゴの群れに襲撃されそう。ガルクとはオトモダチみたいだけどね。

 そんなカムラの里に、ボクは訪れている。ここがボクの第二の故郷となる……のか?

 個人的な偏見だけど、こういう孤立した集落って、仲間意識が強過ぎて外の人間を嫌う傾向がある気がするんだよね。観光にも力を入れてるらしいから、大丈夫だとは思うが……。

 

「あら、アヤメさんじゃない。狩りの帰りかしら?」

 

 と、入り口の大門を潜った所で、女の人に声を掛けられた。番傘を取り扱っている所を見るに、傘屋なのだろう。

 

「あ、どうも、ヒナミさん」

 

 ふ~ん、ヒナミさんって言うのか。サバサバしてて人が良さそうだね。

 

「今日も相変わらずライトボウガン背負ってるのねぇ。あ、そう言えばさ、大剣で「忍傘【屠竜】」って装備があるじゃない? で、傘が大剣になるなら、ライトボウガンとかヘビィボウガンの傘を作れるんじゃないかってハモンさんに言ったら、真に受けちゃってさ。今、頑張って作ってるらしいわよ~?」

「は、はぁ……」

『………………』

 

 いやー、発想が物騒過ぎるでしょ。

 えっ何、化け物染みた戦闘狂ってハンターだけじゃないの? 人類皆戦闘員なの? それでイーッのか?

 

「……あらあら、そう言えばその子は何?」

 

 おっ、ようやくボクの存在に触れてくれましたか。先ず最初に突っ込んで欲しかったけど、脳改造されているのなら仕方ない。

 

「攫って来たの~?」

「断じて違います!」

 

 だから発想よ。

 

「冗談よ、冗談。その恰好を見るに、狩りの途中で保護したんでしょ? とりあえず、ゴコク様に報告してくれば良いんじゃないかしら?」

「あ、はい、そうします」

 

 ふぅ、一応は良識を持ち合わせているみたいで一安心だ。人間、思いやりが大事よね。

 

「おや、アヤメさんか。おかえり」

 

 たたら場に向かう一本通りを進んで行くと、今度はガルクを侍らせた男の人に声を掛けられた。この人も性格は良さそう。

 

「つい最近、新しいガルクの猟犬具を思い付いたんだけどさ。その名も「強骨牙」! 敵に噛み付くと、ガルクの口から分離しても牙を食い込ませてダメージを与え続ける上に、衝撃を与えると更に大ダメージを叩き込めるんだ!」

「へ、へぇ……」

 

 いや、あのね、怖いんだって。アヤメさんもドン引きしてるじゃん。何なのアンタらは。

 その後も妖しい格好の商人だったり、団子三昧の受付嬢だったり、吹っ飛ぶブンブジナが可愛いとか言っちゃう飴屋の幼女だったりと、ロクな住人が居なかった。本当に大丈夫なのか、この里は。

 

「あ、アヤメさんだ! おーい!」

 

 おっ、次は元気溌剌な女の子だ。どうやらお団子屋の看板娘のようである。

 

「やぁ、ヨモギちゃん。今日も相変わらず溌剌としてるね」

 

 ヨモギちゃんかぁ。……この子は大丈夫だよね?

 

「……う~ん? その子は誰さん?」

 

 おお、今回は最初にボクを気にしてくれるぞ!

 

『あーい!』

 

 そんな当たり前の事が嬉しくて仕方なったボクは、思い切り右手をブンブンと振り上げた。当然、布切れ一丁で勢いよく動けば、マントがブワッと舞い上がる訳で、

 

「キャー!」

『アッー!?』

 

 気付けば、ヨモギちゃんの投擲したお団子櫛が、見事にクリーンヒットしていた。何処がだなんて、言わせんな恥ずかしい。

 

「ヨ、ヨモギちゃん! 気持ちは分かるけど、それは流石にマズいって!」

「あわわわわっ!? ど、どうしよう!? うさ団子塗っておく!?」

「何の効果も無いよ、たぶんそれ!」

 

 薄れ行く意識の中で、アヤメさんとヨモギちゃんが慌てふためく姿が見えたけど、もはやボクにそんな事を気にしている余裕は無かった……。




◆ヨモギちゃん

 カムラの里の観光名所の1つ「うさ団子の茶屋」の看板娘で、何時も笑顔を絶やさない元気溌剌な女の子。その快活さは、宙を舞うお団子を正確に3個ずつ櫛で射抜いてしまう程。流石は戦闘民族カムラ人の一員である。ついでに銃火器類に興味があるらしく、ヘビィボウガンや速射砲で敵を撃ち抜くトリガーハッピーな姿には、いっそ清々しささえ感じる。看板娘とは……。
 ちなみに、彼女には秘められた過去があり、昔里へやって来た誰とも知らぬ竜人のハンターが託して行った子供らしく、情報屋アイルーのフカシギ曰く「どこか高貴な雰囲気がある」との事。出生が謎過ぎる覆面行商人のカゲロウといい、意外とミステリアスな少女でもある。普段はそんな事おくびにも出さないが。


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閑話:君の名は。

※彗星が落ちてきたりはしまセン。……今の所ハ。


 ここはカムラの里、民宿「やさかに」。

 そして、アタシはアヤメ。一応、上位のハンターだ。

 とは言え、今はリハビリ中なんだけどね。実は、ちょっと前に仲間の放った矢を膝に受けてしまってね。今はご覧の通り、遠距離武器しか使えない身なのよ。それでも並のハンターよりは動けている自信はあるから、そこの所は勘違いしないでよね。

 そんな訳で、療養も兼ねて秘境の観光名所であるカムラの里へ、一時的に滞在してるんだけど――――――ここの住人、人が好過ぎない?

 こんな穀潰しハンターに格安で宿は貸すし、どう見ても怪しい覆面の行商人や自称:交易商人(笑)の滞在を許してるし。……その程度の相手、どうにでもなるって事なのかもしれないけどね。

 そう、カムラの里にはもう1つの顔がある。というか、そちらの方が本命である。

 カムラの里の近辺には良質な鉱石と、それを製錬するのに必要な木々が豊富にあり、秘境故に周囲から隔絶されているのも相俟って、独自の技術を有するたたら場の町として確固たる地位を築いているのだ。

 この“独自の技術”とは製鉄だけに限らず、戦闘方法にも及んでおり、「翔蟲」という不可思議な甲虫の助けを借りながら、宙を舞う様に戦う事で知られている。その様は、まさしく忍者である。それもスレイヤーする方の。

 かく言うアタシも、イオリくんやウツシ教官の指導を受けて、少しずつ学んでいる最中だ。アタシモハヤクニンジャニナリタイ。

 ともかく、カムラの住人たちは誰にもお人好しになれるくらいに強い、戦闘民族なのである。飴屋のコミツちゃんがハンマーを振り回す姿を見た時は、腰を抜かしそうになったよ。イオリくんはスラアク使いだし、ヨモギちゃんはトリガーハッピーだし、色々と変だけど、今更ではある。気にしたら負け。

 だからと言って、今回の一件はどうかと思うのよ。

 

『あーぅ』

 

 そう、この子だ。寒冷群島でヨツワミドウに丸呑みにされかけていた、何処の誰とも知れぬ少年。

 

「“ハンター”」

『“ふんたー”』

「“勇者”」

『“ゆうた”』

「どれも絶妙に違ーう!」

『“はつみつください”』

「それは全く違う!」

 

 ……ご覧の通り、舌っ足らずなんてレベルじゃないくらいに、言語野が壊滅状態である。

 特に長文は丸っきり別物に翻訳されてしまう為、会話が全然成り立たない。これではまるで猿真似(クルペッコ)だ。少しでも言葉を覚えられるよう、読み聞かせを欠かしていないが、先は随分と長そう。

 つーか、何でアタシが世話役なの?

 いや、まぁ、それはいい。何とかなる程度の問題である。

 

「……あ、コラ! 服を脱ごうとするな!」

『あとぅいー』

 

 一番の問題点は、こいつがすぐに服を脱ぎたがる所だ。寒冷地でも素っ裸だった事もあって非常に暑がりで、隙を見てはスッポンポンになろうとするから困る。

 

「またヨモギちゃんの所へ連れて行くわよ?」

『ひゅん……』

 

 一応、魔法の言葉でポポポンと解決はするが、あくまで一時凌ぎでしかない。せめて、下は穿け。猥褻物陳列罪なんだよ。意外とご立派な物をお持ちの様ですけど。

 しかし、暑いと結局は脱いでしまうし、どうしたものか……。

 

「あ、そうだ」

 

 良い物があった事を思い出したアタシは、自前のアイテムBOXから帯と袴を取り出した。

 それらは以前、メラルという里きっての女ハンターから貰った金獅子「ラージャン」の防具で、炎・雷・龍属性に強いが氷属性に弱い特性を持ち、見た目の割りには通気性が良く、「超会心」「渾身」「力の解放」と言った剣士が有利になるスキルを発動出来る優れ物である。現状ではガンナーだしデザインが若干ダサいから、アタシは穿かないけどね。見た目って大事よ。

 

「はい、これを穿きなさい。着てても熱くならないから」

『あぅ~? ……あぅあ!』

 

 ただ、可愛らしい顔立ちながらも細マッチョな彼にはとても良く似合っており、本人も気に入っているので、そのまま譲る事にした。ちょっと勿体ないような気もするが、BOXで埃を被っているよりも……というか、こいつに裸の王子様でいられるよりも、ずっとマシだ。

 

「そう言えば、アンタ、名前は何て言うんだい?」

『うぅ~う』

 

 首を振ったという事は、名前を憶えていないのか、もしくは最初からそんな物は無いのか。

 だが、流石に何時までもアイツだのコイツだのドイツだのと言っていたら、その内紙飛行機で飛んでしまうかもしれない。ここカムラの里には「剣斧ノ折形」という冗談みたいなスラアクがあるから、全く以て安心出来ないよ。

 しかし、いきなり名前を考えろとか言われてもなぁ。生まれてこの方、オトモどころかペットすら飼った事が無いから、そう簡単に思い付いたりは――――――あっ、そうだ。

 

「じゃあ、今日からアンタは「ユウタ」だ」

『ゆうた?』

「そ、「ユウタ」。これなら今のアンタでも自己紹介出来るでしょ」

『ゆうたー』

 

 とりあえず、気に入って貰えたらしい。

 まさか異国の言葉で「ハンター擬き」という意味が込められているとは思うまい(ふんたーも同じような意味で使われている。「ゆうた」は特に「イキったクソガキ」という意味合いが強い。その昔に実在した、他人の邪魔ばかりする年少ハンターの名前が由来)。

 ちょっと悪いとは思うけど、発音出来ないんじゃどうしようもないからな。現状で上手く言えるのはこれくらいしかないから、この程度は大目に見て貰おう。

 ……まさか、自分もハンターになりたいとか言わないだろうね?

 

『ふんたー、ふんたー!』

 

 やる気満々のようですね!

 とは言え、アタシには何の権限も無いし、育てる自信も無い。というか、丸腰の素人を連れ歩くなんて、自殺行為も良い所である。だからと言って本人の意思を無碍にするものアレだしな。

 ――――――仕方ない、あの人の所へ連れて行くか。




◆「金色ノ帯」&「金色ノ袴」

 ライズにおいて、おそらく剣士たちを最も引き付けた腰と脚の装備。「渾身」「力の解放」「火事場力」がそれぞれ1レベルずつ+「超会心」がレベルMAXで付いて来る為、多くの罪なきラージャンたちが狩られてきた(※ただし溶岩洞のイージャンさんは除く)。
 大抵の属性には耐性を持つが、氷属性に対しては異常に弱く、それを補えるゴシャハギやベリオロスの装備を組み合わせると、ちょうど良い感じに打ち消し合った上で抜刀術や納刀術が付与されるので、非常に使い勝手が良くなる。
 個人的に片手剣の場合は、頭:腰:脚がラージャンで、胸がベリオロス、腕がゴシャハギがオススメ。ハイニンジャソードで馬鹿みたいな火力を出せる上に、ピンチになると馬火力を発揮出来るという、漫画の主人公みたいな気分が味わえる。見た目のダサさは健在なので、ちゃんと重ね着で補うべし。


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時は来た

※別に壮大な話が始まる訳ではありまセン。


 ハ~イ♪

 ボクだよ、何か「ユウタ」と命名された元ゴシャハギだよ~。

 さてさて、アヤメさんに連れられて、カムラの里にやって来て早数日。いい加減に人里暮らしも慣れて……は居ないけど、それなりに人間の常識は学べた。下は人前で脱いじゃダメ、絶対。

 そういう意味では、アヤメさんからプレゼントされたラージャン装備は良い具合である。見た目とは裏腹に着苦しさは全然無いし、何だか妙に力が漲る気がする。モンスターの防具を装着するとスキルが発動するって、本当なんだね。

 そんな未だヒヨッコ人間のボクだけど、本日よりハンターとしての修行を開始する事となりました。やったね!

 

「やぁやぁ、アヤメくんとハダカくんじゃないか! さっそく訓練と行こうじゃないか!」

 

 ちなみに、教官はこの人、ウツシ教官。数々のハンターを輩出して来た、凄腕の指導者だ。全部アヤメさんからの受け売りだけどね。

 

「ウツシ教官、もう裸じゃないです」

「何ッ、そうなのか? では、名前を思い出せたのかい?」

「いえ、そもそも無いようなので、とりあえず「ユウタ」と呼ぶ事にしました」

「その心は?」

「考えるのが面倒臭い」

「酷い話だ……」

 

 何か馬鹿にされてる気がする。失礼だぞ、

 

『“チョモランマ”!』

「チョモランマ?」

「……たぶん、ウツシ教官って言ってます」

「そ、そうなのか……」

 

 くそぅ、舌っ足らずな自分が憎い!

 まぁいい、ともかく訓練とやらを授けて貰おうじゃないか!

 

「それじゃあ、先ずは(・・・)寒冷群島に行こうか!」

「『ゑ?』」

 

 ……“訓練”なんですよね?

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「さぁ、クエストを開始しようか!」

 

 という事で、戻って参りました、寒冷群島。

 本当にやって来ちゃったよ、この人。訓練って、普通は訓練所でやる物じゃないの?

 

「正気ですか、ウツシ教官?」

 

 ほら、アヤメさんもこう言ってるよ。

 

「うーん、ちょっと物足りないな。蔑みが足りない」

「死ねよ雄豚」

「ヨッシャァーッ!」

 

 駄目だコイツ、早く何とかしないと……。

 

「まぁ、冗談はさておき」

「冗談じゃないですよ、色々と」

「冗談はさておいてだ」

「ゴリ押ししたよ……」

 

 ある意味最強だな、この人。

 

「ユウタくん。君は恐らく、既に戦い方は(・・・・・・)知っている(・・・・・)と見た」

『あぅー?』

 

 えっ、何で分かるの?

 

「筋肉の付き具合や歩き方、それから迷いなく武器を選んだ事から、先ず間違いなく戦い慣れしている。ただ、それを上手く(・・・・・・)思い出せないだけ(・・・・・・・・)……そうなんじゃないかい?」

『おー』

 

 何だ、やれば出来る豚だったんじゃあないか。

 確かに、彼の言う通りである。ボクは元ゴシャハギ。自分の戦闘スタイルは本能レベルで体に染みついている。

 ま、実際は思い出せないんじゃなくて、身体を使い慣れてない(・・・・・・・・・・)だけなんだけど。同じ二足歩行とは言え、体格も骨格もまるで別物だからね。

 ただし、馬力はそのままなようで、だからこそ、こうして大剣を2本担ぐ事が出来ている。

 

 そう、ボクの持ち込んだ武器とは、大剣の双剣(・・・・・)だ。

 

 世間一般のゴシャハギに対するイメージと言えば二刀流であり、最初はボクもそれに倣って双剣を担いでみようかと思ったんだけど、流石に軽過ぎた。

 そもそも、ゴシャハギの二刀流は素早い乱舞と言うより、“切れる鈍器”を振り回すような感じで、即ち大剣や戦斧を2本持っていると表現した方が正しい。たまにハンマーにもなるしね。

 つまり、重い一撃を連続で放つのが、ボクにとってのベストなスタイルである。

 ようするに、大剣だのスラアクだのハンマーだのを両手でぶん回すのが、一番の正解だ。力任せなゴシャハギらしい戦い方と言えるだろう。

 ちなみに、今回背負って来たのは、「カムラノ鉄大剣Ⅰ」。言うまでもなく最初期装備だが、初陣かつハンターですらないので仕方ない。先ずは現場慣れして、素材を集めるとしよう。何時かは「ゴシャガズバァ」とか使ってみたいなぁ、元がゴシャハギなだけに。

 

「――――――とまぁ、そんな感じだから、弱いモンスターを狩る実戦形式で技術を思い出して貰おうと思う。俺とアヤメくんは、そのサポートだね」

「アタシのリハビリも兼ねて、ですか?」

「そういう事!」

 

 おお、何だ、この人も結構考えてるじゃん。てっきり、罵られる事に喜びを見出すだけの豚野郎かと思ったけど、そこは指導者という事か。

 もしかしたら、将来的にはボクとアヤメさんでチームを組ませる算段なのかもね。そうなったら、嬉しい限りだよ。

 実際、前に出て戦うボクと後方から援護するアヤメさんという組み合わせは、理に適っている。欲を言えば、もう1人くらい前線で戦える人材が居ると良いね。ヘイトが分散するから、被弾率も低くなるし。

 あとは回復や移動の足となるオトモンが欲しい所だけど、それも含めて後々かな。

 とにかく、今は目の前の狩りに集中しようじゃないか。

 

「それじゃあ、先ずはあのベリオロスから狩ってみようか(キリッ!」

 

『グヴォオオオオオオン!』

 

「『………………』」

 

 前言撤回。この人、やっぱりただの豚だわ。




◆ウツシ教官

 カムラの里における指南役。ついでに闘技場の受付係でもある。主人公にハンターの何たるかを叩き込んだ恩師。武器は「疾風」「迅雷」という特注の双剣。
 独特の加工が成されたジンオウガ装備に身を包むイケメンで、百竜夜行の101体目みたいな主人公にハンターのイロハを教えられるだけの実力も持ち合わせているのだが、どうにも天然ボケな一面があり、モンスターの鳴き真似が得意なばかりにフクズクに嫌われたり、「やぁ、愛弟子!」と暑苦しく迫って主人公に若干引かれたりしている。何と言うか、愛すべき馬鹿キャラ。
 ちなみに、翔蟲の鉄蟲糸技を確立させた第一人者でもあり、百竜夜行では周囲のモンスター全てを一瞬で操竜待機状態に持って行くという、人間離れした技を見せ付けてくれる。正直、里長より使い易いです。でもヨモギちゃんには負ける。
 今作では教官の一面が強く出ていて、主人公とメラルだけでなく、セイハクやコミツ、アヤメにロンディーネ、果てはユウタにまで訓練を施している。見境なさ過ぎとか言ってはいけない。
 あと、確定ではないが、ぶたれたり罵られたりすると喜ぶという噂も……。


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輝くエメラルド

※ユウタくん無双回。


 ベリオロス。

 氷ブレスを吐く「零下の白騎士」にして、素早さと力強さを兼ね備えた「迅速の騎士」。

 全身が白銀の甲殻に覆われ、口に鋭い二本牙、翼脚には滑り止めの役割を果たす爪や棘が無数に生えている。腹部は触りの良い厚手の毛皮に覆われているが、ダブルコートになっている為、水を弾く上に丈夫なので、明確な弱点にはなり得ない。

 寒冷群島の生態系では上位に位置するモンスターであり、並みの中型鳥竜種を十把一絡げに薙ぎ倒し、ゴシャハギとも互角に渡り合う程の実力者である。

 ティガレックス系統の骨格を持つ飛竜種だが、ティガレックスやナルガクルガと違って飛行能力が非常に高く、大地をスライドするように駆け巡ったかと思えば、ホバリングしながら旋風の氷ブレスで相手を巻き上げるなど、空陸を制した強豪モンスターだ。

 最大の特徴は鋸状の刃を持つ琥珀の鋭牙で、口外まで伸びる程に発達している事から、別名を「氷牙竜」という。この牙で甲殻を砕き、肉を抉るのである。その為、傷口が結構エグイ事になる。

 

『グヴォオオオオオオン!』

 

 そんな白銀の騎士が、目の前で吠え滾っている。言うまでもなく敵視されているし、話し合いなど望むべくもない。モンスター相手に何を言っているんだという話だが。

 つーか、訓練でこんな奴を相手にさせるなよウツシ教官。

 

「頑張れ、ユウタくん! そいつはまだ年若い下位の個体だから、キミなら苦も無く打倒出来るだろう!」

 

 いや、それは戦い方を思い出せたらの話だろ。今の慣れない身体で何処までやれるか……。

 

『グヴォオオッ!』『うわぅ!?』

 

 むろん、ベリオロスがこちらの事情を酌む筈も無く、レックス系骨格の飛竜種が良くやる飛び掛かり攻撃を繰り出して来た。翼がデカい上に勢いもあるので避けるのは難しいが、飛び込むように緊急回避をする事で上手く躱す事が出来た。

 

『ヴォァアアッ!』『グヴォオッ!?』

 

 さらに、力を溜め込みつつ剣でタックルをかまして左の翼脚をかち上げ、がら空きの腹に薙ぎ払いを食らわせ、怯んだ所に溜め斬り→強溜め斬り→激昂斬を叩き込んで、あっという間に左翼脚の爪と棘を部位破壊した。

 良し、ベリオロスはスパイクが壊れると滑り止めが効かなくなるから、大幅に動きを制限出来る。このまま一気に叩きのめしてやる。

 

『グヴォオオオ『ヴォオオオオオオオオオオオオヴ!』……ッ、グゥゥ……!』

 

 起き上ったベリオロスが虚勢を張るように威嚇して来たが、それ以上の咆哮でかき消してやった。これでも長生きしてるんだ。調子扱いた青二才に気迫で負ける程、大人しくは無いよ。

 というか、人間になった筈なのにモンスター並みの唸り声を上げられるって、一体どうなってるんだろうね、ボクの身体?

 まぁいいや。さっさと身体に慣れたいし、とっとと片付けよう。

 

『グヴォオオオッ!』『ヴォァアアッ!』

 

 威嚇にもめげずにテールスイングを繰り出して来たベリオロスに対して、ボクはウツシ教官から貰った翔蟲を使い、鉄蟲糸技の「朧翔け」を発動する。この技は翔蟲に引っ張って貰う事で一定距離を高速で移動し、切り抜き様にカウンターダメージを与える事が出来る。見切りが出来ないと自爆してしまう諸刃の剣だが、流石に弱ったベリオロスの攻撃を見誤る程、耄碌はしていない。

 この朧翔けにより、ベリオロスの尻尾を傷物にした上で、右翼脚のスパイクもぶち壊した。両翼脚の滑り止めを失ったので、最早ロクに動けないだろう。

 

『ヴォォオオオオオオオオォオオオヴ!』

 

 そして、双剣特有の「鬼人化」を発動。止めを刺すべく、ジタバタと藻掻くベリオロスに突撃し、「鬼人空舞」をお見舞いする。最初の一撃を起点に敵の身体を斬りながら駆け上がる、双剣にのみ許されたスタイリッシュアクションだ。

 ……操虫棍? 知らない子ですね。

 ま、ボクが担いでいるのは大剣なので、モーションはノロノロだけどね。どちらかと言うと、軽い溜め斬りしながら空中乱舞してるって感じ。一発一発のダメージがデカいのが、こっちの有利な点かな。その分だけ手数が減る為、属性武器とは若干相性が悪いが、弱点特効に自信の有る人なら活かせるかもしれない。

 

『グヴゥゥゥ……!』

 

 よしよし、もう瀕死状態だね。タフな大型飛竜種とは思えない弱さだが、つまりそれは慣れない身体でも戦える程度の相手だったという事である。所詮は素人に毛が生えた程度の若輩者か。

 

『ヴォオオオ――――――』

『ゲコァアアアアアアア!』

『ベホマァアアアアアッ!?』

 

 しかし、砥石で整えてから最後の溜め斬りを食らわせようとした瞬間、盛大な横槍が入った。

 全長は40メートル、四足歩行時の体高だけでも20メートルはある、圧倒的な巨躯。皿と嘴が特徴的な顔に苔生した亀のような甲羅といった河童を思わせる要素に、ザボアザギルやテツカブラと同じ両生種の肉体を付けたした怪物。水を吸いエメラルドグリーンに輝くボディは、愛嬌のある見た目に反して中々に美しい。おそらくだが雌の個体であろう。

 

 そう、前回ボクを丸呑みにしようとしてアヤメさんに撃退された、あの馬鹿デカいヨツワミドウだ。

 

 しまった、ここは彼女の餌場だったっけ。餌場の管理に煩いヨツワミドウが、盛大に大暴れしたボクとベリオロスを見逃す筈もない。

 

『ゲコォオオオッ!』

『『グヴォオオ!?』』

 

 案の定、怒ったヨツワミドウが、猛然と襲い掛かって来た。




◆ベリオロス

 竜盤目竜脚亜目前翼脚竜上科ベリオ科に属する飛竜種。別名は「氷牙竜」。異名は「迅速の騎士」「零下の白騎士」。ナルガクルガとは近縁の関係。
 典型的なレックス系骨格を持つ大型モンスターで、別名の通り氷のブレスを操る。精々滑空ぐらいしか出来ないティガレックスやナルガクルガと違い、ホバリングも可能な程に飛行能力が発達しており、上空から竜巻型の氷ブレスを吐いて拘束し、そこへナルガ直伝(?)の突撃をかますのが黄金パターン。
 また、翼脚の棘や爪はスパイクの役割が有り、スライディングタックルや滑るようなテールスイングを放って来るが、破壊されるとそれらの技が全て使えなくなる上にすっ転ぶようになる為、諸刃の剣でもある。
 ちなみに、亜種は砂漠に生息しており、氷の代わりに砂のブレスを放って来る。ケチャップを掛けたように赤茶けたボディをしている為、ただの酔っ払いにも見えるが、赤い部分は獲物の返り血らしいので、舐めて掛からない事。


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カムラに眠る

※ユウタくんボコられ回。


『ゲコココォオオオッ!』

『グゥゥ!』『グベェ!?』

 

 ヨツワミドウの三連続突っ張りが、ベリオロスに全弾ヒットする。ボクは翔蟲で空中退避していたので無傷でーす(笑)。

 

『ゲロォッ!』

『うへぇっ!?』

 

 だが、ヨツワミドウは巨体に見合わぬスピンで空中のボクへ狙いを定め、水弾を放って来た。たぶん後ろ脚を片方だけ横へ開く勢いでスライドしているのだろうが、凄い動きである。

 

『ゲコラァッ!』

『ヴォオオッ!』

 

 さらに、撃ち落としたボク目掛けてヒップドロップを繰り出して来たが、翔蟲受け身で躱したので、どうにか事なきを得た。

 しかし、ヨツワミドウの攻撃は終わらない。二連続の塩撒きアタックで水やられ状態に持ち込み、動きが鈍った所に小ジャンプしながら高速の突っ張り三連打を食らわせ、猫騙しでスタンまで取って来た。突っ張りは朧翔けで何とかなったが、流石にクルッと振り向いての猫騙しまでは防げなかった。

 何コイツ、ヨツワミドウの癖に隙が少ない上にコンボが痛過ぎるんですけど。攻撃の繋ぎに難のある並みのヨツワミドウとは比べ物にならない。

 こ、これは流石にヤバいぞ!

 

「せいっ!」「今助けるぞ、ユウタ!」

『ゲコアッ!?』

 

 だが、更なる追撃を受ける前に、ウツシ教官とアヤメさんの援護射撃が入った。ウツシ教官の閃光玉がヨツワミドウの目を晦ませ、アヤメさんの斬裂弾が表皮を切り裂く。

 そして、怯んだ隙にウツシ教官が足元に潜り込んで落とし穴を発動。動きを完全に止めた所にアヤメさんが麻痺弾をぶち込み、抜け出す前に麻痺状態へ持ち込んだ。

 

「そらそらそらぁっ!」「せぇいっ!」

 

 さらに、アヤメさんの貫通弾がダメージを稼ぎ、一定範囲内のモンスターを纏めて操竜状態に持ち込むウツシ教官の必殺技「操竜波」が炸裂。ヨツワミドウとベリオロスが鉄蟲糸に拘束され、沈黙した。

 これは操竜チャンス!

 

『ヴォオオヴッ!』『グヴォオオッ!?』

 

 スタンから復活したボクは、さっそくベリオロスに跨り、なんちゃって竜騎士となった。

 正直な所、弱り切ったこいつをコントロールするのはリスクが大きいが、ヨツワミドウがあまりにも格上の強さなので、ここは彼女の撃退を優先しよう。仕留めるのは、その後でも良い。

 

『コォオオオオオッ!』

 

 先ずは横合いに周りつつ、旋風氷ブレスをお見舞いする。このブレスは暫く残るので、牽制と拘束を同時に行える便利な技だ。後はこのまま突進離脱で乗り換えて、ヨツワミドウを壁にぶつけてダウンさせよう。

 

『ゴバァ! ゴバァッ! ゲバァッ!』

『『グヴォオオオッ!?』』

 

 しかし、そうは問屋が卸さなかった。ヨツワミドウが水ブレスとは違った力の溜め方をしたかと思うと、何と口から火球を吐いて来たのである。火と言うよりプラズマ化した水泡って感じだが、どちらにせよ河童蛙のやって良い事ではない。

 その上、エイムが正確かつ三連打であり、氷やられにしておかなければ、絶対に避けられなかっただろう。お前のような両生種がいるか。

 だが、乗り切った。流石にブレスの後には素早く動けまい。今度こそ終わらせるぞ!

 

『ヴヴッ!』『ゲコォッ!?』

 

 そして、ボクはブレスの後隙を突く形でヨツワミドウに乗り換え、少し離れた所で壁ドンし、鉄蟲糸の拘束が解ける前に急いで撤退した。

 何か落とし物をしたので、ついでにそれも回収した。何だろうね、これ。尻子玉かな?

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 さて、どうにかこうにかカムラの里まで帰還したボクらだったが、

 

『グヴヴヴヴ……』

 

 何か余計なのが付いて来た。どうしてお前がここに居るんだ、ベリオロス(弱)。ヨツワミドウが乱入したいざこざで忘れてたけど、一緒に来いとは言ってないぞ。

 

「ちょ、ちょいと? それは捕獲扱いなのかい?」

 

 さっそく、門番兼傘屋のヒナミさんが待ったを掛けた。そりゃそうだよね。弱ってるとは言え、ベリオロスが普通に歩いてるんだもの。

 

「え、えっとですね、これは――――――」

『オトモン』

「「ゑ?」」

 

 しかしながら、今更この場で屠るのも面倒だし、気が引ける。何だかんだで窮地を乗り切れたのは、こいつのおかげだからね。先に喧嘩を売ったのもボクらだし、ここは大目に見てやろう。

 

「なるほど、ガルクの代わりという事か! スケールの大きい子だな、キミは!」

 

 ほら、ウツシ教官も乗ってくれている事ですし。

 

「「オトモン」って、あれよね? ライダーが乗る奴。でも、本当に大丈夫なの? 確かオトモンは“刷り込み”で懐かせてるって話だけど……」

 

 うーん、最もな懸念ですな。

 

「彼なら問題ないさ! 鋭牙以外の全てをへし折ったからね。所謂“調伏”って奴だよ」

 

 そうそう、ウツシ教官の言う通り。いざとなったら解体して食べちゃえば良いしね。勝てない相手に逆らう奴が悪い。

 

「――――――まぁ、ウツシさんがそう言うなら。だけど、里長にはちゃんと話した方が良いわよ?」

「それはもちろん、そうするさ! という事で、キミたちは少しの間ここで待っていてくれたまえ!」

 

 と、言うが早いか、ウツシ教官は風となって集会所の方へ向かった。門も屋根も跳び越えて。なるほど、あれがニンジャか。

 

『うぁーう』『グヴゥゥ……』

 

 とりあえず、ベリオロスには“暴れたらこんがり肉ね”と視線で脅しておいた。これで大丈夫だろう。他の村ならいざ知らず、カムラの里なら問題なく処理出来るだろうし。

 その後、里長から「豪気な事よ!」の一言を賜り、この弱々ベリオロスは正式に里のペットになるのであった。

 

 ……余談だが、訓練クエストは“狩猟”扱いだったので、一応は合格となりましたとさ。チャンチャン♪




◆ヨツミワドウ

 有尾目河童蛙亜目ヨツミワドウ科に属する両生種。別名は「河童蛙」。異名は「丸呑み力士」。
 ザボアザギルやテツカブラの仲間で、カモノハシ+カエル+河童という中々にユニークな姿をした大型モンスター。大柄なので動きは鈍いが、蛙故にジャンプ力はある。他の両生種と同様に、柔らかい腹が弱点。
 好物は水棲生物のウリナマコ。歯がない為、砂利ごと丸呑みにしてしまうので、異名の元にもなっている。
 また、餌場の管理に煩く、近くで騒ぐモンスターやハンターには容赦なく襲い掛かるが、普段はとても大人しい生き物である。
 事あるごとに相撲を取りたがり、大抵の中型モンスターには圧勝するが、大型モンスター同士だと若干分が悪いらしく、特に生態的に上位なゴシャハギには馬乗りされた上にタコ殴りにされる。哀れ也。
 ちなみに、今作に登場したヨツワミドウはユウタくんよりも年上の歴戦個体かつ特異個体で、食った物を消化する過程で様々な属性ブレスを生成するという、ババコンガのような能力を持つ。ここまでデカくなったのも餌のせい。


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閑話:言の葉の庭

今回は日常的なお話。


 はいはい、アタシだよ。リハビリ中のハンター、アヤメだよ。

 いやー、カムラの里に来てから半年くらい経つけれど、本当に色々あったわね。

 突然の怪我から始まった療養生活だけど、ただ大人しくしてるだけじゃあ身体が訛るからと始めたライトボウガンが、ビックリするぐらいに全然上手く使えなくて、初めは泣きそうになったわ。元は大剣使いなんだから当然だわな。次点でハンマーが得意ね。

 でも、ウツシ教官に教えを請いながら、無理のない程度に少しずつ練習し続けている内に段々と使えるようになって、アタシはまだやれるんだって柄にもなく感動したっけ。からくり蛙くんには、とてもお世話になりました。

 その後はイオリくんに翔蟲の使い方を習いつつ、ヨツワミドウやボルボロスなどの中堅モンスターたちで実戦経験を積み、ウツシ教官から合格を貰える程度には使い熟せるようになった。その過程で様々な防具一式が作れるようになったが、敢えて新しい装備は作っていない。

 あくまでアタシは剣士であり、ガンナー武器はリハビリ用。そう考えての拘りだ。実際は思い出にしがみ付いた、単なる意固地なのだが。

 しかし、ここ最近は、そうも言ってられなくなった。

 寒冷群島で拾った野生児、ユウタがその原因である。

 彼は大剣を双剣として使うという規格外の存在であり、流れで保護者にされた上にチームまで組まされてしまったので、まだまだ療養期間中のアタシは後方支援に回らざるを得なくなったのだ。大剣同士が肩を並べても邪魔になるだけだしね。

 そこで、アタシはここに来てからずっと着ていたナルガ一式を脱ぐ決意をした。ナルガ防具はガンナーに全然向いてないからね。

 だので、交易商人(笑)のロンディーネさんに協力して頂き、ライトボウガン向けの防具を制作した結果、

 

●夜行弩【梟ノ眼】(跳躍珠)

●ヴァイクSヘルム(跳躍珠/防御珠)

●アルブーロSベスト(防御珠/防御珠)

●ヴァイクSアーム(防御珠/防御珠)

●ヴァイクSコイル(跳躍珠)

●アルブーロSサンダル(防御珠/防御珠)

●護石《311》(反動軽減Lv3+気絶耐性Lv3)(貫通珠/早填珠/早填珠)

 

 ……という装備になった。

 火力より生存を優先しているのはご愛嬌。療養中に大怪我したり死んだりしたら意味が無いしね。これでも充分な威力は確保してるし、妥当な所でしょ。

 武器に関しては御覧の通り。ナルガクルガは上位へ昇進する時と膝を矢で撃たれた時に戦った、謂わば上位ハンター時代の始まりと終わりを務めた相手だから、どうしても外せないのよ。意地でも持ちましたとも。

 それにしても、ここまでガッツリとガンナー装備を着るのは初めてな気がする。前は仲間に背中を預けて只管斬ったり殴ったりしてたからなぁ。そんなアタシが今はユウタの背中を預かる立場になろうとは、世の中何が起こるか分からない。悪い気はしないけどね。

 ただし、問題もある。それは、この格好だ。

 

 ――――――どう見ても水着です、本当にありがとうございました。

 

 仕方ないでしょ、そういうデザインなんだから。嗚呼、ナルガ装備に戻したい……。

 だが、強くなるには止む無しである。前衛で身体を張るユウタの為、何よりアタシがガンナーとして生き延びる為にも、この恰好で頑張らなきゃ。

 ……って事で、さっそく実戦訓練と行きますか。

 

「おーい、ユウタ、居るかーい?」

 

 アタシは自宅(・・)の裏庭に回り込み、ユウタの姿を探した。

 そう、アタシはこの度、長期滞在を決意して、里に居宅を構えたのだ。足はまだ治って無いし、コミュ障なユウタを置き去りにするのは、流石にどうかと思ってね。船着き場の近くに購入しましたとも。

 何故わざわざ川岸の傍に立てたのかと言うと、デカいペットを飼っているからである。それも2匹(・・)

 1匹目は言うまでもなく、あのクソ雑魚ベリオロスだ。今は裏庭にポッカリと開いた洞穴の中で傷を癒しつつ、只飯を喰らっている。餌はクエストで採取した生肉やサシミウオを調理した、こんがり肉とこんがり魚である。こいつ、何気にグルメなんだよね。

 そして、もう1匹はというと、

 

『ちゃま~♪』「出迎えご苦労さん」

 

 このオタマジャクシ――――――もとい、ヨツミワドウ(・・・・・・)の幼生(・・・)だ。

 寒冷群島から逃げ帰って来たあの日、ユウタがヨツワミドウの落とし物を拾っていたのだが、実はそれが孵化寸前の卵であり、帰還と同時に誕生し、アタシを擦り込みで親だと勘違いしてしまい、現在に至る。集会所のテッカちゃん(ゴコク様に懐いているテツカブラの子供)よりは小柄だが、アタシの胸くらいの高さはあるので、充分にデカい。彼(彼女)には水が必要であり、幅を取る事も相俟って、船着き場の付近に家を建てたのである。

 ちなみに、今アタシは玄関先に居る。ヨツミワドウの幼生(名前は「ヨツミ」、渾名は「ヨッちゃん」)は庭の池に棲んでいる。この池は船着き場の大河に隣接……というか、石を組んで造った簡易的な物なので、ヨッちゃんは何時でも河に出掛けられるし、家や裏庭にも上がって来られる。

 

「ユウタは何処かな?」『ちゃまちゃま』

 

 アタシが尋ねると、ヨッちゃんは裏庭の洞穴を見た。やっぱり、あの中か。

 

「おーい、ユウタ。ユ――――――」

『『ZZZzzz……』』

 

 ズンズン奥へ進んで行くと、ユウタはベリオロスと仲良くお昼寝していた。こいつらは暑がりなので、日差しの強い日はこうして洞窟の中で寝転んでいる事が多い。本日もその例に漏れず、お休みタイムのようだ。

 仕方ない。こんなに気持ち良く寝ているのを起こすのもアレだし、今日は別の奴と行こう。

 

「居るかなぁ、ウツシ教官」

 

 という事で、アタシはウツシ教官が指導に励んでいるであろう、修練所へと向かうのであった。




◆船着場

 カムラの里の資材を運搬している場所。ゲーム的には特に意味の無いマップであるが、一応アイルーやモブ住民も居るので、たまには様子を見に行ってあげよう。
 アヤメの新居は本来なら無人小屋(と祠)がある場所に建っている。すぐ脇の岩場には洞穴が形成され、玄関先には池があるなど、ゲームとは様相が大分違う。時折、船着場のイカリ(アイルー)が勝手に昼寝したり、ホバシラ(モブの1人)が魚をくれたりと、人の出入りは割とある模様。


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閑話:そよかぜのおくりもの

ガーグァのハンマーって何であんなに攻撃力が高いんでしょウネ?


 ――――――で、修練所で今日も張り切っていたウツシを誘い、アタシたちは再び寒冷群島にやって来た訳だが、

 

「さぁ、今日も張り切って行こう!」

「お~いぇ~い♪」「………………」

 

 何故かコミツちゃんも付いて来た。「エッグハンマーⅠ」という冗談じゃないハンマーを背負って。

 ……いや、確かに修練所で一緒に訓練してたけどさ、まさか一緒に狩猟を開始するなんて思わないじゃん。せめて見学にしとけよ、そこは。

 

「おい、ウツシ!」

「何だいアヤメ?」

「くたばれ屎尿の塊!」

「Yaー㏊ーッ!」

「喜ぶなぁ!」

「だが断る!」

「だが断られた!」

 

 こいつマジで死ねば良いのに。

 

「アンタねぇ、こんな子供を狩場に連れて来るなよ!」

「大丈夫だ、彼女は既に一人前だし、何ならセイハクくんやタイシくんも良く連れ出してるから問題ない!」

「問題しかねぇよ!」

 

 それでも大人かお前は。

 

「……だが、カムラの里は逼迫している。今はまだ散発的な百竜夜行しか無いが、その内に大規模かつ尋常では無い勢いになるだろう。怨虎竜の目撃例や、謎の暗雲も立ち込めていると聞く。大人として間違っているのは重々承知だが、人手は多い方が良い。愛弟子たちにばかり負担は強いれないからね」

「急にスンってなるの止めろ」

 

 あと、割と真っ当な事を言っているのがムカつく。

 まぁ、ウツシが太鼓判を押すなら問題あるまい。いざとなったら、アタシやウツシが守れば良い訳だし。

 ――――――ああ、そうそう、お気付きの方は居ると思うが、アタシはウツシの事を呼び捨てに変えている。だってこいつ、アタシの幼馴染らしいんだもん。

 どういう事かと言うと、寒冷群島に着くまでの与太話が原因なのだが、それがこちら。

 

「そう言えば、船着場の方に新居を構えたそうだね!」

「ああ、うん。ユウタたちを野晒しにするのもどうかと思ってね」

「良い心掛けだ。流石は同じカムラの民だな!」

「……あのねぇ、アタシは外から来たハンターだよ?」

「おや、覚えて無いのかい? キミは元々カムラの里が出身だよ。まぁ、3歳の頃に引っ越してしまったから、覚えていないのは無理ないかもしれないがね。ちなみに、俺はしっかりと覚えているよ。キミのナルガクルガの鳴き真似は凄かったなぁ。おかげで俺までモンスターの鳴き真似が上手くなってしまったよ」

「ちょっと待てぇえええええっ!」

「おっ、そろそろ着くね。狩猟を開始しよう。イオリくんのサブウェポンであるスラアクくらいに使い熟して見せてくれ!」

「アタシの……アタシの、アタシの話を聞けぇ! 2分だけでも良い!」

 

 とまぁ、こんな感じで、アタシは自分でも知らない忘れていた過去をカミングアウトされる破目になった。ついでにイオリくんがスラアク使いじゃなくて、チャアク使いなのも知ってしまった。あんなに上手いのにサブウェポンなのかよ。何処が軟弱者なんですか、ハモンさん。

 そして、今現在アタシたちは寒冷群島のエリア1のメインキャンプに来ている。今回の狩猟対象は荒切りの凶猛、雪鬼獣ゴシャハギだ。里の受付でも集会所でも最上位のクエストランクを誇る、ラージャンやマガイマガドにも引けを取らない危険生物である。

 一応、此度の対象は下位個体だが、油断は出来ない。何故なら、アタシはまだ1度もゴシャハギと戦った事が無いからだ。前情報によると、氷ブレスやそれを転用した氷結武装で襲い掛かって来るらしいが、一体どうなる事やら……。

 

「ごしゃはんぎ~♪」

 

 楽しそうですねコミツちゃん。君は今から鬼退治に行くんだけど、分かってるのかな?

 

「とりあえず、ヒトダマドリを集めよう。話はそれからだ」

「了解」「はぁ~い」

 

 という事で、先ずはヒトダマドリの花粉集めである。

 ちなみに、ヒトダマドリとは腹に花粉と蜜を溜め込む環境生物であり、マップの至る所で名前通り人魂のようにユラユラとホバリングしている、不可思議な小鳥だ。

 さらに、我々ハンターが触れると、溜めていた花粉や蜜をその場でばら撒き、それらを花結という特殊な装備に集める事で持ち主にバフを齎してくれるという、かなり便利な特性を持っている。カムラの里のハンティングにおいて、この作業は欠かせない。狩場に持ち込める装備は有限なので、長期戦による息切れや事故死を防ぐ為にも、絶対にやるべき行為である。

 特にガンナーであるアタシにとっては死活問題であり、速射性と機動性の代わりに防御力がペラペラなライトボウガンは死に物狂いで集めておかないと、確実に後悔する事になる。ガードも出来ないし。

 

「お、光蟲だ」「まきむしだー」「フム、そろそろモドリ玉が欲しくなって来たな……」

 

 物はついでとばかりに、様々なアイテムや環境生物を集めていく。カムラの里はこういうのが楽しいよね。属性やられを誘発する玉ころがし系統や、強制的に操竜待機状態に持って行くクグツチグモとかは、マジで反則だと思う。

 

『ヴォオオオオオオオオッ!』

「見付けた!」「いたいた~」

「よし、それじゃあ頑張り給え! 後ろは僕が守るから、安心して狩ると良い!」

 

 そして、エリア9に差し掛かった所で、今回のターゲットであるゴシャハギを発見した。下位個体とは言え、その威圧感は半端ない……つーか怖い。何あの強面、おしっこチビリそう。

 だが、コミツちゃんの前で情けない姿は見せられない。アタシだって経験は積んでるんだ。覚悟を決めろ、アタシ!

 

「ていやー」『ヴォオオッ!?』

「コミツちゃあああああん!?」

 

 しかし、アタシが尻込みしている内に、コミツちゃんが突貫してしまった。鉄蟲糸技「鉄蟲回転攻撃」で。躊躇いなさ過ぎでしょ、コミツちゃん。子供って怖い……。

 ――――――いやいやいや、言うてる場合か。アタシも前に出るんだよ!

 

「はぁっ!」『グルヴゥゥ……!』

 

 先ずは扇回跳躍でゴシャハギの上を取り、「起爆竜弾」を直接頭部へ叩き込む。起爆竜弾は他の弾が当たると爆発する仕組みなので、ライトボウガンの低い攻撃力を補ってくれる飯伏銀な特殊弾頭だ。

 さらに、速射でガンガン貫通弾Lv2を頭にぶち込んで行く。大型モンスターは的がデカくて当て易いから良いね。

 よし、結構ダメージも稼いだし、何よりモンスターのヘイトがこっちへ向くから、コミツちゃんが断然戦い易くなる。ハンマーに限らず、大型武器は隙がデカいから、注意を逸らしてやるのが一番のサポートである。

 

「おりゃー」『グヴォオオッ!?』

「コミツちゃああああああん!」

 

 と、アタシが作った隙を突いて、コミツちゃんが鉄蟲糸技「インパクトクレーター 」を決める。鉄蟲糸で飛び上がり、落下しながらクレーターを作る程の勢いで相手をぶん殴る、ハンマー系統のザ・パワーな必殺技だ。

 その小振りな身体の何処にそんな筋力をしまっているんだい、コミツちゃん?

 

「ドラララララァッ!」

 

 ともかく、これは絶好のチャンスである。貫通弾は頭から尻へ突き抜けるように撃つのが一番力を発揮するので、スタン中に撃ち抜いてやるのが一番ダメージを稼げる。このまま刈り取ってやる!

 

『ヴォオオオオオオヴ!』

「くっ……!」「あーん」

 

 くそっ、怒り状態に移行したか。

 だが、怒っているという事は、体力が減っている証拠。慌てず騒がず、相手の出方を見よう。

 さぁ、どう仕掛けて来る!?

 

『コォオオオオオオオッ!』

「危なっ!」「わーわー♪」

 

 さっそく、ゴシャハギが氷のブレスをばら撒いて来る。楽しそうですねコミツちゃん。

 

『グルルルル……ッ!』

「いぃぃ!?」「わーぉ」

 

 さらに、両腕に出刃包丁のような氷結武器を形成すると、

 

『――――――ハァアアアッ!』

「嘘ぉ!? ……ヒャッホーイ!」

 

 まさかの扇回跳躍をやり返してきた。頭上を飛び越えて、背後から地砕きを食らわせるとか、そんなの有りか。

 いや、ちょっと待て、これは――――――、

 

『ヴォオオオォヴゥッ!』

「攻撃力ぅううううっ!」

 

 捲れた地盤に巻き上げられたアタシを、ゴシャハギの出刃包丁が叩き落す。下位個体じゃなかったら即死だろ、これは。

 というか待って、地面に身体がめり込んで動けないんですけど!?

 

『ガブガブ』

 

 ガライーバァアアアア!

 

『グヴヴゥ……!』

 

 そんなアタシに、ゆっくりと近付いて来るゴシャハギ。まるでお前の罪を数えろとでも言いた気な、恐ろしい動作だ。

 くそぅ、動け、動いてよ、アタシの身体!

 逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だぁ!

 遺言:攻撃力だなんて、そんなの嫌なんだよぉおおおおおおおおおおおっ!

 

 

 

「……ぁぁあああッ!」『グボァッ!?』

 

 

 

 だが、天啓は突如として降り注いだ。

 何と遥か彼方の上空から、見知らぬ女性が彗星の如く落ちてきて、ゴシャハギの頭部を直撃してスタンを取ったのである。馬鹿デカい出刃包丁までもが粉々に砕けた事から、相当な勢いだったのが窺える。

 

「えい、えい、お~♪」「せいやっ!」

『グギャアアアアアアアアアアァッ!』

 

 そして、その隙を見逃さず、コミツちゃんとウツシがゴシャハギを仕留めた。ハンマーで叩きのめされ、音速の双剣ラッシュで血祭りに上げられる姿は、敵ながらちょっと可哀想だった。

 

「た、助かった……」

 

 危うく最期の台詞が「攻撃力」になる所だったよ。絶対に嫌だわ、そんなん。

 

「あいたたた、何なんですか、もう!」

 

 ……余談だが、落ちて来た女性は無事でした。そんな馬鹿な。




◆エッグハンマー&卵槌ガーグァ

 丸鳥ガーグァ(の羽と卵)を素材にしたハンマー。
 打突面がガーグァの卵になっているという、どう見てもネタ要素ありありな武器なのだが、何故か卵が割れない上に攻撃力が阿保みたいに高い、恐ろしい兵器。どうして割れないのかは公式で「永遠の謎」らしいが、そこは解明しろよ。
 ハンターの得物には何かしらのネタ武器が1つは存在する物だが、その中でも卵槌ガーグァは1、2を争う威力を持つ、性能面でもネタに事欠かない装備である。


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ハンターキッド

最近ライトボウガンでリッチなハンティングしてマス。やっぱり好き嫌いは良くなイネ。しかし弓はやっぱり使えナイ……。


 ハ~イ♪ ボクだよ、たぶん精神年齢のせいでショタになった元ゴシャハギだよ。

 あまりに絶好な昼寝日和だったから、ベリオロスの「リベロ」を枕に寝ている間に日を跨いでてビックリしたよねー。

 まぁ、それはそれとして、

 

『だぇ~?』

「……そんな目で見ないで欲しいな」

「大丈夫ですよ、「相方」ッ! 彼は純粋に疑問を持っているだけですからッ! “こいつ見境無いな”とは思ってない筈です、たぶんッ!」

「人を犯罪者扱いしようとするんじゃないよ」

 

 誰よ、その女性(ひと)

 活動的な服に多機能ゴーグルやスリンガーを付けているという恰好からして、“編纂者”の1人なんだろうけど、何で新大陸調査団の人がここに居る訳?

 あと、顔が絶妙に芋臭いな。今はアップにしてるけど、三つ編みと眼鏡が似合いそう。愛嬌はあるから別に良いんだけどさ。

 そんな謎の編纂者をアヤメさんが連れているのだが、一体何がどうしてそうなった。そもそも、お名前は何て言うのよ。

 

「受付嬢ですッ!」

『イビルジョー?』

「違いますよッ!?」

 

 でも、口の周りに食べカス付いてるし、色んな食材の匂いがするんですけど?

 

「ああ、うん……こいつは「ウケツケジョー」だ」

「何かイントネーションに悪意がありませんッ!?」

「それはアンタが自分の名前を忘れたからだし、明らかに食い過ぎだから文句は受け付けないよ。お前は今日からウケツケジョーだ」

「何て酷い話ッ!」

 

 ふーん、記憶喪失なのか。頭でも打ったのかな?

 

「まぁ、その、何だ……お仲間が見付かるまで、こいつもカムラの里で暮らす事になりそうだから、宜しくやってくれないかい? 寝泊まりは里クエストの受付所でするから、そこまで頻繁に顔を合わせたりはしないと思うけど」

『あぅーい』

 

 そう言えば、全然使われてないよね、あの建物。ヒノエさんは基本的に外の座席に座ってるからなぁ……。

 

「とりあえず、宜しくお願いしますね、ユウタくんッ!」

『よーしく、イビルジョー』

「受付嬢ですッ!」

 

 何だかよく分からないが、そういう事になった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 つぎのひ~♪

 

「さぁ、張り切って行きましょうッ!」

「『………………』」

 

 今日も今日とて狩猟に励もうとしたら、何故かウケツケジョーさんがノリノリで付いて来た。何故に。

 

「私は受付嬢ですが、編纂者でもありますッ! 今まで訪れた事の無い土地の生態系を調べるのも、仕事の内なのですよッ!」

「『はぁ……』」

「何故納得されないッ!?」

 

 だって、ねぇ?

 つーかさ、何でガライーバ入りの大樽を背負ってるのよ。一体何の意味があるんだ、その行為に。

 

「非常食ですッ!」『ビチビッチ!』

 

 いや、ガライーバは納得していないようですが?

 

「あとは“幸運のお守り”ですねッ! 何でも、彼はアヤメさんとゴシャハギの戦闘に巻き込まれながらも生き延びた、豪運の持ち主だとかッ!」

『はぁ……』

 

 だからって、そんな物を担いで歩くなよ。常識って物が無いのかい?

 

「ユウタ、たぶん今“常識知らず”って考えてんのかもしれないけど、アンタも結構常識無いからね?」

 

 えぇ、そんな馬鹿な。

 まぁ良いや。今日は狩りへ行く前に寄る所があるのよ。

 

『かもぉん、さぁ~ん』

「いや、儂はお前の息子じゃないし、むしろお前が来い。老骨を動かすな」

 

 それがここ、たたら場前の加工屋である。

 そして、目の前におわすこの方が、里一番の鍛冶職人、ハモンさんだ。オトモ雇用窓口を務めるイオリくんのお爺ちゃんでもある。

 見た目は頑固一徹の鉄鉱石頭だが、ボクは知っている。彼は口下手なだけで、意外とファンキーな人だという事を。発想元が里の住人とは言え、団子とか折り鶴とか臼を武器にしてるのはカモンさんだからね。アヤメさんのヴァイク装備やアルブーロ装備を嬉々としてデザインしている辺り、結構スケベなのかもしれない。彼も男だという事さ。

 さらに、イオリくんに厳しく当たっている場面を時折見掛けるが、本音はガルクが怖いだけだったりと、付き合っていれば割と可愛い一面が見えて来る。

 ま、ハモンさんを含めて、この里に悪い人は居なさそうだけどねー。セイハクくんやコミツちゃんは一緒に遊んでくれるし、ヒノエさんはお団子をご馳走してくれるし。八百屋のワカナさんは、ちょっと押しが強過ぎるけど。ボク、野菜はそんなに好きじゃないのよ。果物は好きだけど。

 さて、どうしてボクが加工屋に来たのかと言えば、確認するまでもないよね?

 そう、武器の新調だよ。流石に何時までも「カムラノ鉄大剣Ⅲ」と「スティールソード」のままじゃねぇ……。

 という事で、前に頼んでおいた武器、下さ~いな♪

 

「……ほれ、出来ているぞ。「アイシクルファングⅡ」と「ゴシャズバァⅠ」だ。受け取れ」

『おー』

 

 ハモンさんから渡された、2組の大剣たち。

 1つはベリオロス素材の大剣「アイシクルファングⅡ」。ベリオロスの翼脚や尻尾を剣にしたような形をしており、パワーは今1つだが、高い会心率と氷属性値が特徴だ。

 もちろん、提供元はリベロ。討伐はしてないけど、以前の戦いで結構な素材が手に入ったし、何なら毛や甲殻の欠片ぐらいだったら何時でも貰える。使える物はガンガン利用しよう。

 もう1つはゴシャハギを素材にする「ゴシャズバァⅠ」。見た目は完全にデカい出刃包丁で、会心率がマイナスかつ氷属性値も低いけど、素材元並みの馬鹿力を発揮出来る。

 ……そう、素材はゴシャハギである。

 それはつまり、ボクが寝ている間に狩って来たモンスターが、ゴシャハギだったという事。ボクは今、同族の亡骸を手に狩りへ行こうとしているのだ。

 しかし、全然気にならないと言えば嘘になるけど、そこまで感傷的にはならない。野生下における共食いは珍しくないし、そもそも赤の他人がどうなろうと知った事じゃないからね。というか、出合頭の第一声が「ぶっ殺してやる」なゴシャハギ族に、想う所は特にないよ。ボクにとっての身内は、カムラの里の皆だけさ。

 

『だぅもー』

「構わん。装備を作りたい時に、また来い」

 

 もうちょっと笑った方が良いよ、ハモンさん。初対面の人にはアナタの人間臭さは伝わりにくいからねー。

 さぁて、武器も揃った事だし、今度こそ一狩り行こうか。今回はアイシクルファングⅡを持って行くよー。




◆ゴシャズバァ&ゴシャガズバァ

 ゴシャハギから作られる氷大剣。見た目は完全に出刃包丁。
 低い会心率と氷属性に馬鹿高い攻撃力が特徴の、所謂「脳筋武器」。匠を付けて「鈍刃の一撃」を発動させれば、かなりの攻撃力を発揮する。敢えて切れ味を補完せずに、「鈍器使い」でぶん殴るのも良いかもしれない。何れにせよ、“力こそパワー”な大剣らしい武器である。
 体験版の大剣にも抜擢されており、作っていなくとも見た事がある人は、案外と多い筈。作者は盾で殴ってたから知らなかったけど。


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悪夢の海へ

※別にホラー回ではありまセン……今ハ。


 さてさて、またしてもやって来ましたよ、寒冷群島。

 今回のターゲットは人魚竜「イソネミクニ」。

 所謂「海竜種」の1体であり、小振りな頭部に胴体、細長い首と尻尾、鰭や水かきのある四肢と、基本的な要素は網羅しつつ、傘のように開閉する紫色の髪鰭、青白く光る鰓、角質化した腹部の甲殻など、他には無い特徴も多々ある。

 だが、最大の特徴は口から放出する睡眠ブレスだろう。これを浴びた者はたちどころに昏睡してしまい、無防備になった瞬間、イソネミクニの強烈なタックルを食らう破目になる。

 また、示威行為なのか、時折天へ向かって“歌声”を放つ事があり、その妖艶な姿は狡猾な本質を覆い隠す隠れ蓑になっている。そんな性質からか、「黄泉の歌姫」という異名を持つ。

 ……まぁ、近くで見ると結構不気味な顔してるんだけどね。完全に深海魚って感じ。

 ちなみに、睡眠ブレスという武器を持ちながら、こいつの主食は魚介類である。縄張りへの侵入者を眠らせて捕食する事もあるが稀であり、基本的には魚や貝を食べるのだ。

 余談だが、貝を食べる時は腹の甲殻で叩き割る。ラッコかな?

 さて、そんな黄泉の眠らせ姫だが、生態系の地位としては中堅処である。ヨツミワドウやドスバギィ辺りとは良い勝負をするが、ベリオロスなどの上位捕食者には精々手痛い反撃をする程度で、ゴシャハギに至っては相手にさえして貰えない。

 まぁ、海竜種らしい細身な上に軽量級だから、根本的に正面切って戦うのが苦手なのだろう。陸地だと動きが鈍るし。

 だからと言うか、狩りの対象としては、正直そこまで強い相手ではない。睡眠ブレスは厄介だが予備動作が丸分かりであり、その上スキルで無効化すると単なる生臭い溜息にしかならないので、ボクみたいな剣士でも近接戦に持ち込めてしまう。遠距離武器であるライトボウガンは言わずもがな。

 はっきり言って、今回の狩りは物足りない。

 というか、ゴシャハギ時代に何度も出くわしているので、新鮮味も無い。あんまり美味しくないし。

 個人的にはアルビノエキスが欲しいから、フルフル狩りをしたいんだけど。鬼人薬グレートと硬化薬グレート、飲んでみたいよねー。どれくらいパワーアップ出来るのか楽しみだなぁ。

 では、一体どうして大して興味の無い狩りへ赴いているのかと言うと、

 

「いやぁ、楽しみですね、イソネミクニッ! どんな声で歌ってくれるんですかねッ!?」

「知らんし聞きたくない」『あぅー』

 

 ウケツケジョー(こいつ)のせいである。

 彼女は編纂者らしくモンスターの生態に興味深々で、特に見た事の無い種類に関してはゴリ押しで向かおうとする悪癖がある。記憶喪失になる前の彼女も大体こんな感じだったんだろう。受付嬢としてならともかく、旅の相棒にはしたくない。絶対に面倒な事を起こしそうだもん。

 しかし、来てしまったものは仕方ない。幸い今回のクエストはフルフルを含めた2頭狩りだから良しとしよう。アヤメさんが新しい武器作りに寒冷群島の鉱石を欲しがってたから、丁度良いのかもしれない。

 という事で辿り着きましたよ、「エリア7」。熔山龍「ゾラ・マグダラオス」の頭蓋骨と肋骨が鎮座する浅海のフィールドだ。人が立ち入れる領域内では中央に位置しており、結構広いので戦い易い場所である。

 

「おや、この光る烏賊の群れは何ですかッ!?」

「シラヌイカだな。触ると墨を吐くけど、バフ効果があるから、積極的に刺激を与えるべきだね」

「そうなんですかッ! 刺身にしましょうッ!」

「触るだけだっつってんだろ」

 

 ……本当にもう、この人は。

 

『グォルルル……』

『あぅーあー』

 

 ほら、リベロも呆れてるよ。

 あっ、ボクのオトモはリベロだけど、他の皆はちゃんとガルクに乗ってるよ。ヨッちゃんはまだ子供だからね、仕方ないね。

 ちなみに、アイルーは誰も連れていない。ガライーバなら居るけど。本当に何故だ……。

 

「おーい、居るか「クスネ」?」

 

 と、ゾラ・マグラダオスの肋骨がある崖を壁走りで登った所で、アヤメさんが誰かを呼んだ。

 

『呼んだかぬー?』

 

 すると、ソウソウ草の中から1匹のメラルーが顔を出した。よく見掛ける他の連中と違い、この個体はデスギア装備で身を固めており(ただし顔の髑髏は左眼孔の周辺しかない)、大分印象が違う。

 名前付きという事は、アヤメさんの知り合いだろうか?

 

「こいつはクスネ。見ての通りのメラルーだが、こいつとは結構な腐れ縁でね。オトモって訳じゃないが、一応は味方だと思ってくれていいよ」

『ただし、頂く物は頂くがぬー。只働きは御免だからぬー。まぁ、金と素材を貰えるなら、今は味方をしてやるぬー』

「……アンタは相変わらずね」

『褒めても何もやらぬー』

「このクソ猫が……」

 

 なるほど、腐れ縁だ。猫って言うより鼠ぽいんだけど。

 

「ほれ、駄賃だ。とりあえず、イソネミクニとフルフルの動向を教えろ。他にも重要な事があるなら、それも吐け」

『しけてるぬー。ま、リハビリ中のふんたーじゃこんな物かぬー』

 

 アヤメさんがポンと5万ゼニーを払うと、クスネはぶつくさ文句を言いながら情報を纏め始めた。

 いや、5万ゼニーって結構な額だと思うんだけど。それだけで上位武器が作れちゃうし。結構金持ってんね、アヤメさん。流石は金食い虫なライトボウガンを使っているだけはある。

 でも、大型モンスター2体が相手とは言え、そこまで金を掛ける必要はあるのだろうか?

 

『というか、フルフルとイソネミクニぐらいなら、わざわざアタイに頼らずとも、事前情報なしでもお前1人でいけるんじゃないかぬー?』

 

 ほら、クスネさんも同じ事を考えてる。

 

「……命より高い買い物は無いよ」

 

 そう言って、アヤメさんは己の膝を見下ろした。

 ああ、なるほど、そういう事か。そりゃあ、慎重にもなるわな。

 

「それに気になる事もある」

『ぬー?』

「出発前にギルドで聞いた話だが、最近ここらで幽霊を見たってハンターが居るらしい。それも動く死体(・・・・)なんだそうだ」

『えぇ……』

 

 何それ怖い。動く死体って、ゾンビじゃん。

 

「何か知らないか?」

『うーん、アタイは何とも……いや、大ババ様が何か言ってったぬー』

「大ババ様? 寝たきりで今にも死にそうな、あの人がか?」

『そーそー。譫言で「悪しき赫耀が降って来る」って怯えてたぬー。実際この所、夜空に赤い彗星っぽいのが流れてるぬー。確かにあれは、不吉な感じだぬー』

「そうか……」『………………』

 

 悪しき赫耀……赤い彗星……いや、まさかな。

 

『まぁ、とりあえず今分かる情報はそれに書き記してやったぬー。精々死なないように頑張るぬー』

 

 何やら意味深な言葉と情報が記されたスクロールを残して、クスネはそそくさと立ち去ってしまった。狩りには参加しないらしい。あくまで情報交換だけか。実にメラルーらしいなぁ。

 

「よし、イソネミクニもフルフルも「エリア11」付近に巣食っているらしい。他にもティガレックスがポポを求めて滞在中らしいから、気を付けていくぞ」

『おー』「分かりましたッ!」

 

 そして、ボクたちは一抹の不安を抱えたまま、「エリア11」の洞窟地帯へと足を踏み入れるのだった……。




◆イソネミクニ

 海竜目海竜亜目人魚竜下目イソネミクニ科に属する海竜種。別名は「人魚竜」。異名は「黄泉の歌姫」。皆のあだ名は「クソネミ」か「クソネミクニ」。
 典型的な海竜種の体格をしているが若干小柄であり、頭に生える髪ヒレが大きな特徴。好物は魚介類で、特に貝類に目が無い。
 催眠ブレスを得意としており、縄張りに侵入した外敵を一瞬で眠らせてしまう。時には古龍でさえ昏倒させる程の威力を秘めているので、絶対に浴びない事。
 また、ビシュテンゴのように食べ物を武器にする事もあり、硬質化した腹部の甲殻に打ち付けて叩き割る事で“閃光”や“爆発”を起こす。イソネミクニじゃなくて貝が凄いとか言ってはいけない。他にも強靭な尻尾で立ち上がる事もあるなど、何かとビシュテンゴと共通点がある。一体何の因果だ。
 ちなみに、戦闘中には聞けないが、異名通り時折“歌声”を発する事があり、しかもエリア毎に曲調が違ったりする。もちろん、奇麗な歌声とは言い難いが……。


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寒冷群島の夢たち

今回はホラー回……カモネー。


 とりあえず、狭い場所ではデカ過ぎて邪魔になるリベロは入り口の歩哨に立てて、薄暗い洞窟の中を進んで行くと、

 

 

 ――――――アァアア~ゥハァアアアァアア~♪

 

 

 奥から響いてくる、不気味な歌声。抜き足差し足で近付いてみれば、

 

 

「居たな」『くぅ~』

『あーう』

「……、…………!」『ビチビチ』

 

 居た居た。薄気味悪い人魚姫が。

 ちなみに、ウケツケジョーは声が煩いので、アヤメさんのガルクに口を塞いで貰っている。必死に何か言おうとしてるけど、喧しいから大人しくしてろ。

 さて、どう攻めたものかな。イソネミクニは今、ボクたちには全く気が付いていない。呑気に歌いながら、水浴びしている。お前は本当に野生動物なのか。

 

『どーぅ?』

「……そうだな。一先ず、アタシが麻痺弾で動きを封じてから、減気弾で体力を奪う。その隙に一気に攻めな」

『あいあい』

 

 その後は会心の一撃でKOして、一斉攻撃をするんだね。素晴らしい作戦じゃないか。やっぱりガンナーが居ると大分違うなぁ。

 それじゃあ、作戦開始――――――、

 

『……ん?』

 

 だが、いざ動こうという時に、ウケツケジョーの霊圧が消えた。振り返ってみれば、ガルクすら居ない。在るのは無明の闇、虚空の間。

 ウケツケジョーは一体何処へ……?

 

 

 ――――――ドワォッ!

 

 

『ホワァォオオオオオオオッ!?』

「あべばーッ!」『キャィン!』

 

 何事ぉっ!?

 いきなり上から爆風が来たんですけどーっ!?

 さらに、ドチャリと落ちて来る、粘液塗れのウケツケジョーとガルク、

 

『ホァァアアアアォオオオッ!』

「フルフルだとっ!?」『わー!』

 

 そして、つるつるブヨブヨな白い皮膚が特徴の飛竜種、奇怪竜「フルフル」。今回のもう1体の狩猟対象だ。

 ……って、フルフルぅ!?

 こいつ、天井に張り付いて待ち構えてたのか!?

 

『キュァアアアアアアアアアアアアアッ!』

「気付かれましたッ!」『「くっ……!」』

 

 当然、ここまで大騒ぎをすればイソネミクニにも気付かれる。

 なるほど、そういう事か。ボクがリベロを見張りに立たせたように、イソネミクニもフルフルを天井に潜ませていたんだな。フルフルはアサシンか。

 しかし、悪くない生存戦略である。

 イソネミクニの弱点は雷属性なので相性が悪いのだが、フルフルもイソネミクニの操る爆破に弱い為、そのままだと下手をすれば同士討ちになってしまう、五分と五分の関係性だ。

 だが、こうしてフルフルが洞窟の入り口付近に潜み、イソネミクニが歌で獲物を誘き寄せれば、理想的な共生関係に早変わりする。イソネミクニが魚介食なのに対して、フルフルは基本的に陸生の小動物を食べるので、餌の被りも殆ど無い。フルフルが苦手な炎属性を扱うモンスターはイソネミクニが始末してくれる。まさしく小指が赤い糸で繋がっているコンビ。

 まぁ、どちらかが弱れば餌になる事に変わりは無いのだが。共生関係なんて案外そんな物である。

 いや、言うてる場合か。想定し得る中でも最悪のパターンだぞ、これ。こんな狭い場所で2頭狩りとか、不利過ぎるにも程がある。

 

「このっ……!」

 

 イソネミクニの高速突進を躱したアヤメさんが麻痺弾を撃ち込もうとするが、

 

『ホヴァアアアアアヴォオオオオオオオオッ!』

「ぐっ……!」

 

 後ろからフルフルが咆哮で身体を硬直させた。

 

『キィキィ!』

「ぐはぁっ!」

 

 そこへイソネミクニが髪ヒレから無数の棘矢を放つ。これらは地面に突き刺さった後も切れ味を失わず、触れただけで裂傷を負わせる設置トラップとなる。

 

『キキキキキキッ!』

 

 さらに、怯んだ隙を突くようにイソネミクニが再び突進を繰り出す。何て厭らしいコンボだ。

 

『ヴォオオオオッ!』『キュァッ!?』

 

 だが、アヤメさんは独りじゃない。ボクという相棒が居る。ガードタックルをダブルで叩き込み、真っ向からイソネミクニを吹き飛ばしてやった。そこから1発、2発、3発と、集中溜め斬りを食らわせていく。

 

『ホワォッ!』『グルゥッ!』

 

 背後からフルフルが首を伸ばして来たが、牙獣種由来の人間離れした跳躍力でイソネミクニの尻尾側に着地し、大地を列斬してストーンエッジを巻き起こして、諸共浮かび上がらせた。

 

「……ナイスだユウタ!」

 

 そして、衝撃で硬直したフルフルの頭部へ、アヤメさんが扇回跳躍で超爆竜弾を直接撃ち込んで、間を置かずに貫通弾Lv1を速射で叩き込む。弾丸の刺激に反応して超爆竜弾が連続で爆発を起こし、フルフルに少なくないダメージを与えた。

 

「アタシに乗られなっ!」『ホヴァッ!?』

『キュァアアアアアッ!?』

 

 さらに、操竜状態へ持って行き、イソネミクニと同士討ちさせる。弱点である雷属性を食らったイソネミクニは堪らず気絶した。まさに千載一遇のチャンス。

 

「フンッ!」『ホワァォッ!』

 

 しかし、アヤメさんは敢えてイソネミクニには止めを刺さず、フルフルに踵を返させて、洞窟の出口へと向かった。戦力を分断して戦い易くするつもりなのだろう。

 それに出入り口付近にはリベロが待ち構えている。今度はこちらが2対1を強いれるという訳だね。最高の展開じゃあないか。

 

「……って、危なっ!?」

『グルヴォッ!?』『ホワァアアォッ!』

『えー……』

 

 そこはちゃんと決めて下さいよ、皆さん。本当に出入口間近で待機していたリベロに勢い余ったフルフルが突っ込んで、全員共倒れになっちゃったよ。なぁにこれぇ?

 とは言え、今度はボクがリベロに跨れば良い話である。何となくで行くぞ、リベロ!

 

『コォオオオオッ!』

『ホォオオオオン!?』

 

 先ずはリベロの氷ブレス。氷やられと拘束を同時に行える便利な技だ。他の技が隙だらけなだけとか言わない。

 

『ヴォッ!』『グルヴォッ!』

『ホギャォオアアアオォッ!?』

 

 そして、動きが止まった所にジャンピングプレス。これぞベリオロスの操竜黄金パターンだよね。すぐに次の氷ブレスに繋げられるから、絶え間なく攻める事が出来る。

 さぁさぁさぁ、このままリベロの餌にしてやるぞ、フルフルさんよぉーっ!

 と、その時。

 

 

 ――――――キィイイイイイン!

 

 

 天を赫い彗星が通り過ぎた。

 さらに、空より降り注ぐ赫揺れる流れ星。それらは藻掻き苦しむフルフルや浅い海面を穿ち、

 

『……ぁぁああ』『おぉぉ……』『うぅぅ……ぁあ……』

 

 凍て付く水底から、寒冷群島に眠る夢たち(ゾンビ)を呼び覚ました。状態から見て、つい最近死んだのだろう。ここには海の掃除屋(スクアギル)が居るから、基本的に死体は残らないからな。

 ……って、いやいやいやいやいや、イヤァアアアアアッ!?

 本当に動く死体なんですけど!?

 恰好からしてハンターか密猟者だと思われるが、そんな事どうでもいいわ。何で屍が歩くんだよぉーっ!?

 

『あぁあうぅううあああっ!?』『グルヴォッ!?』

「お、落ち着け、落ち着くんだよ、ユウタ、リベロ! 落ち着いて「モチツキウス」を探せ!」

 

 あんたが餅付けぇえええっ!

 

「これは何たる事ですかッ!? 本当に動く死体が居ますよ!?」『ビチャビチャ』『きゃわ~ん!?』

 

 ああ、居たんだね、ウケツケジョー(とガライーバ&ガルク)。声が煩いんだよ。

 

「……って、気持ち悪ッ!?」

 

 と、ウケツケジョーがフルフルの方を指差して叫ぶ。確かにフルフルは気色悪いけど、今はそんな事を言ってる場合じゃ――――――、

 

『ウフフ』『アハハ』『エヘヘ』

『りょうさんきぃいいいいっ!』

「いや、何の量産機……エヴァアアアアアアアッ!?」

 

 前言撤回、最高に気持ち悪い事になっていた。フルフルの口が裏返り、中から無数のオリジナル笑顔が飛び出していたのだ。何がどうしてそうなった!?

 

『キヒィイイッ!?』

 

 これには復活したイソネミクニもビックリ。一瞬で洞窟の奥へUターンしていった。気持ちは分かるが、少しは躊躇えよ。

 

『アハハハハハハハハハハハ!』『あぁぁ』『おおぉ』『うぅぅ』

「『うぁあああああああッ!』」「バイオハザードぉおおおっ!」

 

 そして、押し寄せるゾンビの群れと顔面量産機フルフル。キモ過ぎるぅ!

 

「アタシの傍に近寄るなぁーっ!」『ヴォオオオッ!』『コォオオオッ!』

 

 だが、所詮は生ける屍。生前よりも遥かに脆い身体は即座に砕かれ、完全に海へと還った。

 

『アァァアアン♪』

 

 裏返ったフルフルを除いて。喘ぐな。

 

『ウフフフ……アッハハハハハハッ!』

 

 これは……サンダーッ!

 

『しびれぇえええええっ!』

 

 しまった、麻痺ったぁ!?

 

「ユウタ! このぉっ!」『グルヴォオオッ!』

『あはぁぁあんん♪』

 

 しかし、アヤメさんとリベロが全力で止めてくれたので、追撃は来なかった。

 くそっ、早く麻痺から脱却しないと。

 

「行って下さい、エヴァちゃん!」『ガブガブ』

 

 ガライーバァアアアッ!

 お前、そんな名前貰ったんかぁ!?

 だが、おかげで痺れが取れた。よしゃあああああっ!

 

『ヴォオオオオァアアアアッ!』

『きゃはああああああああん!』

 

 復帰したボクの鬼人空舞が悪魔のフルフルを滅多切りにして、その息の根を止めた。肉質と属性耐性が下がっていたのか、殆ど抵抗なく切り刻む事が出来た……のは良いけど、最期まで気持ち悪いな、君は。絶頂して死ぬなよ。

 

「た、助かりましたねッ!」

「そうだね……」『うぅー』

 

 こうして、ボクらは不気味な死者の軍勢に引導を渡す事に成功した。

 しかし、イソネミクニは取り逃がしたので、クエストは失敗に終わりましたとさ。チャンチャン♪




◆フルフル

 竜盤目竜脚亜目奇怪竜下目稀白竜上科フルフル科に属する飛竜種のモンスター。長らく付いていなかった別名は「奇怪竜」。異名は「白い虚無」。
 別名の通りギギネブラの近縁種で、眼が退化した口だけの顔と粘液塗れの白いブヨブヨした皮膚が特徴的な、気持ちが悪過ぎる姿をしている。分類こそ飛竜種だが飛ぶ事は殆ど無く、吸盤化した爪や尻尾で洞窟の天井に張り付いている事が多い。捕食の際は首の関節を自ら外し、強靭な筋肉で支えながら、にゅる~んと伸ばして不意打ちを仕掛けて来る。気色悪過ぎんだろ……。
 体内に電気袋という発電器官を持ち、強力な放電攻撃で相手を痺れさせる事が出来る。この能力は敵の排除や捕食に使われるのだが、繁殖行動の時にも利用され、感電させた生物の身体に卵を産み付け、幼生たちは内部から宿主を食い破って巣立って行く。エイリアンかな?
 ちなみに、こんな気持ち悪過ぎる見た目と性質を持っているにも関わらず、「そこが良い」というファンが意外と居たりする。しかも何故か女性から人気がある模様。どういう事なの……?


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閑話:ほしのこえ

大体のライトボウガンを作っちゃったノデ、今度はヘビィボウガンに手を出し始めている今日この頃。


 はいはい、いつも通りのアタシ、アヤメだよ。

 何と言うか、前回の狩猟はホラーだったわね。本当にゾンビが湧くとは思わなかったし、フルフルが本当の化け物になるとは予想だにしなかった。口から笑顔がいっぱいってどういう事なの?

 だが、どんなに奇妙奇天烈魑魅魍魎だろうと、所詮は動く死体と奇怪竜。ボウガンで蜂の巣にしてやりましたとも。フルフルに止めを刺したのはユウタだけども。

 結局何だったんだ、あれは。空に煌めいた赫い彗星と関係あるんだろうか。

 それについてはウケツケジョーが編纂者らしく調査がしたいとの事なので、任せてみるとしよう。小難しいのは専門外だし。

 ……ああ、そうそう、ユウタについてなんだけどね、

 

『あーい』

「えっ、新しいライトボウガン?」

 

 何と新たなライトボウガンをプレゼントしてくれたんだ。

 帰って来てからハモンさんに何かしら働き掛けてたみたいだけど、まさかおニューの武器を、それもアタシの為に依頼していたとは。ちょっと泣きそうになったよ。

 確かに言われてみると、「夜行弩【梟ノ眼】」以外は「カリプスイェーガン」と「風鎌銃ローザレクス」くらいしか持ってなかったっけ。無属性だから物理ダメージ以外は望めないし、貫通弾が通じ難い相手には深刻な火力不足に陥るだろう。精々「斬裂弾」が刃に弱いモンスターに効くかどうかって所か。「徹甲榴弾」は弾数からして牽制か一時的なダウンしか狙えないし。

 出来ればで良いから、「徹甲榴弾」メインか状態異常撒きのボウガンが欲しいなぁ。

 ちなみに、現状だと布が巻かれてて中身が見えないんだけど、どんな出来栄えなのかはユウタも知らないらしい。開けてのお楽しみって事か。やっぱり意外とお茶目だねぇ、ハモンさん。

 さてさて、気になる中身は何かな~?

 年甲斐もなくワクワクしながら封を開けた、アタシたちの目に飛び込んで来たのは、

 

 

 フルフルの頭みたいな注射器だった。

 

 

 ――――――えっ、どういう……事、なの?

 

「これは……何?」

『りょうさんき?』

「いや、そうだけども」

 

 そういう事じゃないのよ。これが何だって、聞いているんだ。こんなライトボウガンありか!?

 

『しゅん……』

 

 ああっ、シュンとしないで!

 中身が予想外にも程があるのは絶対に撤回しないけども、ユウタが悪いんじゃない。本当の悪魔は、こんなデザインを思い付いちゃった、お茶目なハモンだから!

 つーか、何をどうしてこうなった。しかも、ロングバレルが針じゃなくて誰かの顔面だし。確実にわざとだろ。「ほう、そりゃ面白い」とか考えて実行したに違いない。流石は折り鶴やお団子を武器にしてしまう男。今度会ったら徹甲榴弾を速射で全弾ぶち込みたい。

 えぇい、くそっ、せっかくのサプライズプレゼントだったのに、何でこんな事になるんだ!?

 

「アヤメさん、里長たちがお呼びですよ」

 

 と、居た堪れない気持ちのせいですっかりお通夜ムードになっていたアタシたちに、ミノトさんがお呼び出しを掛けてきた。

 

「……どうかされましたか?」

「何でもないです」『りょうさんき……』

 

 アタシはそっと布を閉じた。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「来ましたね、皆さんッ!」

 

 ……で、着いてみれば、里長やゴコク様に加えて、ウケツケジョーまで居た。“調査をする”というのはマジだったらしい。半分くらいは冗談だと思ってたんだけど。

 

「疑っている顔ですねッ! 見れば丸分かりですよッ!」

「いや、いいから早く本題に入ってくれませんかねぇ?」

「情緒が足りない人ですねッ!」

 

 お前に言われたくはないのよ。

 

「さて、本題ですが……例のゾンビ化の原因が分かりましたッ!」

 

 おっと、いきなり大きく出たね。何処まで信用出来るやら。

 

「それが“コレ”ですッ!」

 

 そう言って、ウケツケジョーは懐から布に包まれた何かを取り出した。まさかフルフルの一部だとかじゃないだろうな。

 

「実はあの後、ウツシさんにお願いして遺体とフルフルの一部を回収して貰ったのですが――――――」

「何でだよッ!」『あぃやーっ!』

「えっ、何ですか急にッ!?」

 

 喧しい。暫く見たくないんだよ、フルフルは!

 

「何があったのかは知りませんが、見て貰いたいのは“コレ”ですッ!」

 

 しかし、ウケツケジョーに知る由などある筈もないので、普通に紐解きやがった。こ、こいつ……!

 

「『なぁにこれぇ?』」

 

 だが、出て来たのはフルフル特有のブヨブヨした白い物体ではなく、赫茶けた鱗のようなナニカ。マジで何これ?

 

「実はコレ、フルフルの背中の皮膚なんですッ! 死体から剥ぎ取りましたッ!」

「えっ……」

 

 何処からどう見ても硬質な鱗なんだけど、どういう事なのよ?

 

「これが一体どういう物なのかまでは流石に分かりませんが、あの時空から降り注いだ赫い物体が、細胞を変質させたのだと思われますッ! 実際、変化していたのは着弾点を中心とした一部でしたからッ! 言うなれば“媒介者(キャリアー)”ですねッ! 新大陸では“刺した棘で無性生殖する”と思しき古龍「ネルギガンテ」が居ましたが、まさか現大陸でも似たような現象が起きるとはッ! 近い物では「ゴア・マガラ」や「シャガルマガラ」が存在しますけど、あれは狂竜ウィルスを媒介するので、ちょっと違うんですよねッ! 本当にこれは一体何なのか、興味が尽きませんッ!」

 

 どうしよう、ウケツケジョーがちゃんと編纂者している。これだけの事態ですら“興味津々”とか言っちゃう辺り、それらしい。

 いや、それよりも、この鱗だ。まさかシャガルマガラが持ち出されるとは思わなかったが、確かに彼女の言う通り、少々毛色が違う。

 再発した百竜夜行といい、このカムラの里で一体何が起きようとしているんだ……?




◆受付嬢(MHW)

 「新大陸古龍調査団」第5期団のメンバーであり、主人公のバディを務める編纂者。アップヘアとそばかすが印象的な年若い女性で、動き易い服装に身を包み、ボトムズみたいな多機能ゴーグルを付けている。祖父が新大陸古龍調査団の第1期団に参加しており、志半ばで帰郷した彼の夢を代わりに叶える為、家族の声援に見送られながら第5期団に参加した。
 ここまで聞くと可愛い感じなのだが、実はとんでもないトラブルメイカーで、意気揚々と新大陸への船出をすればゾラ・マグダラオスの古龍渡りに巻き込まれ、どうにか翼竜を利用した脱出し、新大陸へ到着した瞬間にドスジャグラスとアンジャナフのジュラシックワールドにかち合うなど、本人の意志とは無関係に様々な厄介事に主人公を道連れにしている。ついでに主人公の手柄を「私たちの成果」とか言っちゃう、ちゃっかりした所もある。
 また、小柄な身体に見合わぬ健啖家であり、「迷ったら食ってみろ」という祖父の言葉通りに何でもかんでも口に運んで食い尽くそうとする。おそらくアステラの食糧事情を一番圧迫している。その食いっぷりは調査団メンバーから「まるでイビルジョーのようだ」と揶揄される始末だが、そんな彼女が後にIBでイビルジョーにライド・オンする事になろうとは、この時は誰も知る由がなかったのであった……。
 そうした面倒臭い一面からか、「ウケツケジョー」呼ばわりされて嫌われる傾向が高いものの、編纂者という立場の関係上、活躍自体は歴代受付嬢でも最上位級で、ゼノ・ジーヴァ及びムフェト・ジーヴァ、イヴェルカーナにアン・イシュヴァルダと言った古龍たちと巡り合い、禁忌の存在たるアルバトリオンとミラボレアスにも出会ったりと、見る事すら珍しい伝説たちを目にしているなど、目覚ましい活躍を見せている。
 ちなみに、今作の彼女は現大陸でミラボレアスと一戦交えた帰り道であり、主人公たちと空中帆船で遊覧飛行を楽しんでいたのだが、何かしらの理由で船から投げ出されて寒冷群島に墜落し、自分に関する大体の事が頭からすっぽ抜けた。
 だので、調査団メンバーは現在、血眼になって彼女を捜索している。何時もの迷惑な受付嬢である。


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閑話:クロスロード

大規模百竜夜行、勃発。


 その後ウケツケジョーは里に何かしらの情報が無いかを調べる為、修練所に遺されているという壁画の有る場所へと向かって行った。寝泊りも壁画の前でする程、缶詰状態で調査しているらしい。そこまで重要なのか、あの壁画?

 まぁ、難しい事は編纂者に任せよう。アタシはハンター、モンスターを狩るのが仕事だ。

 さぁて、今日も今日とて一狩り行こうぜ……と言いたい所だが、そうはイ神崎だった。

 

「皆の者、よく集まってくれた! ……察している者もいるだろうが、2回目となる大規模な百竜夜行が勃発した! カムラの里はこれより、完全防衛体制に入る! 全ての狩猟と外界との交流を自粛し、百竜夜行を迎え撃つ準備に取り掛かるぞ!」

 

 そう、今までの散発的な物とはレベルが違う、2回目の大規模な百竜夜行が勃発したのである。

 まさしくカムラの里、存亡の危機。呑気に狩りなんぞしている場合じゃ無い。ウツシのせいでアタシも里の出身だと知ってしまった以上、戦わねば。

 

「ユウタ、アンタは……」

『うぁーう!』

「そうか……」

 

 ユウタもやる気満々か。彼は外から来た孤児だから命を張る筋合いは無いのだが――――――本人がこれ程までに高揚しているんだし、それこそアタシが止める筋合いは無い。

 

「ヨッちゃんはオトモ広場に行ってようね?」

『ちゃま~』

「……ウケツケジョーとエヴァの事、頼むよ」

『おちゃま!』

 

 ヨッちゃんは可愛いなぁ、デカいけど。

 という事で、ヨッちゃんはウケツケジョーたちと一緒にお留守番。オトモ広場は緊急時の避難場所も兼ねているので、ある意味丁度良い。ヨッちゃんには厄介者たちを見張っていて貰おう。百竜夜行にひょっこり乱入されても困るからな。

 

「お前は……」

『ガァヴォルルルッ!』

「やる気だけは有るみたいだね」

 

 ちなみに、リベロは参戦する模様。そろそろ上位にレベルアップしたいらしい。いい加減「零下の白騎士」としての自信を得たいのだろう。君ここに来てから贅沢三昧だったからね。少しは運動しろ。あんまり食っちゃ寝ばっかりしてると「鈍足の豚野郎」になるぞ。

 

「やぁ、アヤメ! キミも参加するんだね!」

 

 と、色々と身辺整理していたら、通りすがりのウツシに話し掛けられた。拳を入れてないで、お前も働けよ。

 

「まぁ、これでも里の一員……らしいからね」

 

 正直、あんまり実感は湧かないけど。3歳の頃なんて覚えてないわよ。居心地が良いのは認めるけどね。

 

「ま、あまり無理はするなよ! 死んだら終いだからね!」

「縁起でもない事を言うなよ」

「それもそうだな! ユウタくんの為にも、しっかりとな!」

 

 それだけ言うと、ウツシは颯爽と去って行った。……何だよ、意地でも死ねなくなったじゃないか。

 

 ――――――「第2次百竜夜行」まで、後少し。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 百竜夜行。

 数百年前からカムラの里を襲い続ける、謎の災禍。

 幾百のモンスターが恐慌状態で雪崩れ込んで来る現象なのだが、その原因は釈然としない。少なくとも何かに追い立てられている(・・・・・・・・・・・・・)のは分かるのものの、元凶の正体は未だに掴めていないのだ。

 とは言え、百竜という現実的な脅威が押し寄せているのだから、迎え撃つしかなかろう。その為にカムラの里は長年に亘って準備を重ね、独自の戦闘技術を磨き、武装した砦を幾つも築いてきたのである。数は4つ。東西南北、四方を守る要塞だ。

 そして、今アタシが居るのは、南側の第3砦。主に砂原から来るモンスターを迎撃する場所である。

 

『うぁーい!』『コォルルルッ!』

 

 もちろん、ユウタとリベロも一緒だ。何だかんだで、この暑がりコンビは頼りになるから、是非とも頑張って貰おう。何たって怪力ハンターとベリオロスだからね。並みの大型モンスターなら鎧袖一触に出来る……と思いたい。リベロが若干心配だなぁ、まだ下位だし。

 

「来ます!」

 

 しかし、そんな事を気にしている場合では無くなった。遂に百竜夜行が到達したのである。

 

「『うへぇ……』」『グゥゥゥ……』

 

 うーわ、いっぱい居る。話に聞く「第1次百竜夜行」より多いぞ、これ。

 敵状は――――――、

 

・破砦役:バサルモス

・突撃隊:ボルボロス、ディアブロス、ラージャン

・機動隊:リオレウス、リオレイア

 

 うーん、クソ面倒臭い面子!

 リオ夫婦は閃光玉で叩き落せば良いとしても、ボルボロスとディアブロスは構わず大暴れするだろう。ラージャンに至っては、怒って闘気化してしまうかもしれない。

 だが、一番面倒なのは破砦役のバサルモスだ。斬っても叩いても撃っても大して効かない、どっちが砦か分からないようなモンスターである。こいつこそ、リベロの旋風氷ブレスで足止めして欲しい所。バサルモスは硬いけど、状態異常には弱めだからな。

 アタシは第3砦全体の遊撃役として頑張るとしよう。背中は里守バリスタ隊に任せられるし、最悪ピンチの時は「里の猛き焔」たちに助けて貰えるから、安心して戦える。

 ……そうでも思わなきゃ、やってられない。本当に、よくこんなモンスターの津波に真っ向から立ち向かえるな。

 しかし、ユウタが最前線に立っているのに、上位ハンターのアタシが臆する訳にはいかない。

 

『グヴェアアアアアアッ!』

「来いやぁ!」

 

 アタシは先頭を突き進むディアブロスに、扇回跳躍で文字通り飛び掛かった。




◆百竜夜行

 文字通り「百竜」が「夜行」の如くカムラの里へ押し寄せる、謎の現象。
 モンスターの種類は多種多様で纏まりが無いものの、まるで示し合わせたかのように役割分担が為されており、必死になって砦を破壊しようとする。何故か寒冷群島のモンスターは混じっていないが、理由は不明。
 数百年に亘って原因不明のままだったが、後に「猛き焔」の活躍により遂に判明。風神龍と雷神龍の求愛活動に巻き込まれたモンスターが、我先にと逃げ惑った末に“立て籠もり易そうな場所”へ雪崩れ込んでいるだけだという事が分かった。


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閑話:秒速5センチメートル

漢なら立ち上がれ! 漢女もそうさ、誰かの為に強くなれ!


「オラオラオラァッ!」

 

 脳天に打ち込んだ起爆竜弾目掛けて電撃弾を速射で撃ち込み、雷やられ状態に移行させる。

 今回持って来たのは、アイテムBOXで埃を被せておくつもりだった、「フルーミィシリンジ」。電撃弾と麻痺弾(+睡眠弾)をばら撒く電撃ライトだ。貫通ライトは混戦状態だと使い難いからね。「夜行弩【梟ノ眼】」は少しお休みよ。

 

『グヴァァオオオッ!?』

 

 さらに、徹甲榴弾Lv1を頭部に食らわせ、気絶状態にした。これぞ「フルーミィシリンジ」の持ち味である。動けなくなった所に、止めの電撃貫通弾を……、

 

 

 ――――――ピィイイイイイイッ!

 

 

『ボルァッ!』

「危なぁっ!?」

 

 だが、追撃をする前にボルボロスが頭突き突進で横槍を入れて来た為、仕方なく攻撃を中止して回避した。クソッ、モンスターが助け合うんじゃない!

 とは言え、相互援助はアタシたちにも出来る。むしろ、四方八方に射手が居る分、こちらの方が手数は上だ。やっちゃって下さい、里守バリスタの皆さ~ん!

 

「そりゃそりゃそりゃあっ!」

「ヨモギちゃぁあああんッ!?」

 

 何時の間に参戦してたんですかね、ヨモギちゃん。速射砲を笑顔で撃つの止めろ。

 

『ボルァッ!?』

 

 しかし、おかげでボルボロスは甲殻を砕かれ、堪らずダウンした。

 

『グヴェァアアアアアッ!』

 

 代わりにディアブロスが復活したが。怒りに満ちた突進を繰り出し、幾人もの里守バリスタを打ち砕いていく。止めろ、クソッタレがぁ!

 

『バォオオオ!』『キュェエエエン!』

 

 是が非でも止めを刺したいが、そうこうしている間に破砦役のモンスターたちが、我が物顔で関門へ向かっている。バサルモスだけでなく、ロアルドロスまでいるのか。水場が生息地でハーレムが基本のこいつが混じってるなんて、異常事態にも程があるぞ。

 と、その時。

 

『コォオオオオオオオオッ!』

『バヴォッ!?』『クェアッ!?』

 

 旋風氷ブレスが破砦役たちの行く手を阻んだ。ナイスだぞ、リベロ!

 

『ヴォオオオオァッ!』「ハァッ!」

『バモォォ……!』『キュェ……!』

 

 そして、ユウタの連撃とアタシの連射が彼らの息の根を止め、

 

「てぁっ!」『グヴェアアアアッ!?』

 

 突如舞い込んだイオリくんのモチツキウスがディアブロスをぺったんこにした。臼とは。

 

「イオリくん!」

「すいません……でも、僕も何かしたいんです!」

「………………」

 

 だが、モンスターはまだまだ居る。人手は多い方が良い。

 

『ギュァアアアアッ!』『キュァアアアッ!』

 

 今度は航空戦力のリオレウスとリオレイアが着陸し、猛然と襲い掛かって来た。陸の女王は分かるが、空の王者が降りて来るなよ。

 しかし、こいつは良い、お誂え向きである。「フルーミィシリンジ」の錆にしてやるよ!

 

『コォオオオオッ!』

『『ギィッ……!』』

 

 よし、破砦役を始末したリベロの援護射撃だ。何だ、やれば出来る子なんじゃないか!

 

「死ねよやぁっ!」

『ギュァアアッ!』

 

 先ずは空に逃げられると厄介なリオレウスから斃す。リオレイアはユウタが力尽くで止めてくれている。今の内に、こいつを殺るぞイオリくん!

 

 

 ――――――ゾクッ。

 

 

 嫌な予感がした、突然に。

 

「よし、これで……」

「危ない!」

『ギャァアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 アタシがイオリくんを突き飛ばした瞬間、視界の全てを赤く煌めく気光が覆い尽くす。これは、ラージャンの……いや、だが……しかし――――――、

 

「……激昂した、ラージャン!」

 

 イオリくんの言葉に、アタシは納得した。1匹だけ混じっていた、あのラージャン。何処かアタシの知る物とは違うと思っていたが、そうか、獰猛化した個体だったのか。

 

『グゲァヴォオオオオオオァアアアアアッ!』

 

 さらに、地を引き裂き、岩盤を捲り上げて、新たな脅威が出現する。

 全身が赤黒く染まり、鏖魔の如く闇色の靄を吹き出す、傷だらけの悪魔。砂原からの百竜夜行を指揮する、ヌシ・ディアブロスの登場である。

 チクショウ、このタイミングで……!

 

『ギャヴォオオオオオッ!』「アヤメさん! ……かはっ!?」

 

 しかも、現れてすぐに水蒸気爆発を伴う爆速突進を敢行。今度は自分が庇う側に回ったイオリくんが、紙切れのように飛んで行った。

 

『グヴォォォォ!』

 

 その上、空中で気絶している彼目掛けて、激昂ラージャンが大岩をぶつけようとしている。

 

「や゛……め゛……ろ゛……ッ!」

 

 か、ら……だ、うごか……な――――――、

 

『グルヴォッ!』『ヴォオオオ!』

『ウギャッ!?』『グヴェァアッ!?』

 

 いよいよ全てが手遅れになろうとした、その瞬間。リベロが激昂ラージャンに突撃して体勢を崩し、ユウタがガードタックルでヌシ・ディアブロスを押し倒した。

 結果、激昂ラージャンが投げようとしていた大岩がヌシ・ディアブロスに命中。

 

『グギャアアアアッ!』

『グヴェァオオオッ!』

 

 元々忘れていた我を空の彼方へ放り投げ、激昂ラージャンとヌシ・ディアブロスが殺し合いを始めた。一発一発が一撃必殺の殴打が飛び交う。

 

『やくっ!』

「その言い方は……」

 

 その間にユウタの大粉塵と持ち合わせの秘薬で体力を回復し、瀕死のイオリくんを避難させる。

 

「ごめんなさい、アヤメさん……僕は――――――」

「いいから」

 

 君は良くやった。だから、そこで休んでて。後はアタシとユウタがやるから。

 

「食らえ!」

『グヴェァォ!?』

 

 アタシは横槍を入れる形で、ヌシ・ディアブロスに麻痺弾を撃ち込み、動きを封じた。殺し合いをするなら勝手にやれ。その代わり、お前には死んで貰う。他ならぬ、激昂ラージャンの手でな!

 

『グゴォオオッ!』『グヴェァ……!』

 

 身動きが取れない無防備な状態では流石に耐え切れなかったのか、異常なタフネスを持つヌシ個体のディアブロスも、遂に力尽きた。ざまぁ見やがれ。

 

『ヴォオオオヴッ!』『コォオオオオッ!』

『グググッ……!』

 

 そして、暴れ疲れた激昂ラージャンには、ユウタの鬼人空舞とリベロの氷ブレスが襲い掛かる。弱点である氷属性をこれでもかと叩き込まれた激昂ラージャンは、唸り声を上げながら去って行った。あの傷じゃあ長くはあるまい。何処ぞで勝手にくたばれ、独りぼっちでな。

 こうして、砂原側からの百竜夜行は終息した。後に遺されるは死屍累々。人もモンスターも、沢山死んでいる。

 

「………………」

 

 全然喜べないよ、こんな物。どうしてアタシたちは、こんな目に遭わなきゃいけないんだ……!

 

 

 ――――――ドドドギャァッ!

 

 

「『えっ?』」

 

 だが、まだ終わりではないらしい。

 静まり返った第3砦に、天空から赫い彗星が3つも降って来たのだ。

 いや、これは星の類じゃない。アタシが知っている物よりもずっと小さく、全身が赫々としているが、こいつらは紛れもない――――――、

 

 

『『『ピィイイイイイイイッ!』』』

 

 

 絶望の兇星、天彗龍「バルファルク」だ!




◆ヌシ・ディアブロス

 竜盤目竜脚亜目重殻竜下目角竜上科ブロス科に属する凶暴な飛竜種、ディアブロスの暴走個体。何処ぞの古龍夫婦の婚活に巻き込まれる形で深手を負い、その怒りと憎しみで超飛竜に覚醒した。元は通常個体だが、まるで鏖魔ディアブロスのように大暴れする。
 今回第3砦に進撃して来た個体は、とある不可思議なディアブロスの父親だとか。


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閑話:星を追う子ども

ただそれだけで、英雄の証さ!


「何でバルファルクがこんなに、こんな所に!?」

 

 天彗龍バルファルク。

 「遺群嶺」と呼ばれる、頂に円柱状の巨岩塔が聳え立つ摩訶不思議な山脈に棲息し、滅多な事では地上に姿を見せない事から、長らく伝説上の存在として語られていた古龍である。

 「龍気」なる龍属性のエネルギーを操り、超高々度を物ともせず超音速で飛び回る事が可能で、赫い緒を引きながら高速飛行する姿が彗星のように見える事から、「天彗龍」の別名が付いた。

 ようするに、バルファルクが地表に姿を現す事自体が異常なのだ。

 それでなくとも、漏れ出した龍気で赫く染まった身体や、親の仇を探すかのように血走った狂気的な眼は、傍から見ても完全に狂っている。大抵の古龍なら持ち合わせているであろう“知性”や“理性”は微塵も感じられない。

 それどころか、警戒態勢を取るアタシたちの事など気にも留めず、辺りを見渡したかと思うと、

 

『ギャアァッ!』『ギャヴギャヴ!』『キキィッ!』

「こいつ、死体を――――――」

 

 親鳥に群がる雛鳥の如く、息絶えたヌシ・ディアブロスを一心不乱に食い始めた。これでは、まるでハイエナかハゲワシである。

 

『でっかい!』「馬鹿な、成長しているだと!?」

 

 さらに、食った傍から体躯が巨大化していくという、尋常では無い成長力を見せ付けて来た。初登場時は精々ドス鳥竜種くらいしかなかったのに、今ではリオレウスを上回る程までに大きくなっている。

 何だコイツ、本物の化け物じゃないか!?

 いや、そんな事を言っている場合ではない。食えば食う程に成長するとしたら、このまま放っておけば際限なく巨大化してしまう。第3砦は今、死体だらけだからな。

 何より、こんな奴らに里の仲間たちの亡骸を食い散らかされるなんて、認められない!

 

「ユウタぁ!」『ヴォオオオオヴッ!』『ゴォルルッ!』

『キィィッ!?』『ギャァギャァッ!』『カァアアアッ!』

 

 そして、アタシたちは里守バリスタの遺体に食い付こうとしていた3体のバルファルクに猛然と襲い掛かった。リベロの氷ブレスが視界を奪い、ユウタの大剣が甲殻を叩き、アタシの電撃貫通弾が脳天を打ち抜く。

 

『『『ギャォオオオオオオス!』』』

 

 何ッ、貫通弾が効かないばかりか、怒りで属性を無効化しただと!?

 マズい、フルーミィシリンジは属性メインのライトボウガンだ。貫通弾以上に属性が通らないのは痛過ぎる。ユウタの攻撃に怯んでいる辺り、打撃や斬撃は通用するようだが……。

 クソッ、こんな時に徹甲弾メインの得物を作っておけば――――――、

 

「いや、そうじゃないだろ!」

 

 火力だけが全てではない。ユウタが素材を集め、ハモンさんが作ってくれやがったこの武器は、攻撃以外にも出来る事はある!

 

「はぁっ!」

『カァッ!?』

 

 アタシは弾倉を麻痺弾Lv1に切り替え、バルファルクの1体を麻痺状態に追い込んだ。

 

『ギャォオオオッ!』

「甘いっ!」

『ギィィイ……ッ!?』

 

 さらに、後ろから食い付こうとしていた、もう1体のバルファルクの噛み付きを扇回跳躍で躱しつつ超爆竜弾を叩き込み、着地と同時に変換した麻痺弾Lv2を食らわせ、動きを封じた。

 

『ヴォオオァッ!』『グルヴォオッ!』

『『キャァッ!?』』

 

 そして、動けぬ2体にユウタとリベロの追い打ちが入る。1体は片翼が壊れ、もう1体は頭部の甲殻が破壊された。こいつら見た目程は硬くないぞ。成長力を上げた弊害だろうか。

 ともかく、これはチャンスだ。一気に畳み掛ける。

 

 

 ――――――ゾクッ。

 

 

「……ッ!」

 

 激昂ラージャンの気光ブレスの時と同じく、嫌な予感がしたアタシは、咄嗟に扇回跳躍で空中へ退避した。

 まさに、その瞬間の事だった。

 

 

 ――――――ドギャルァアアアアアッ!

 

 

 赫々とした龍気の奔流が、眼下の砦設備を消し炭にした。どうした事かと見てみれば、残るもう1体のバルファルクが、翼槍を砲台のように構えて、こちらを見据えていた。おそらくだが、奴が翼に龍気を収束して、ビーム砲としてぶっ放したのである。

 こいつら、化け物ですらない。兵器だ、こんなもの……!

 

『ヴァギャォオオオオオオッ!』

「かっ……!」

 

 さらに、バルファルクは翼槍を可変させ、文字通り「槍」として突き出し、驚異の力に一瞬だけ硬直してしまったアタシを穿った。

 ヤバい、威力が……あり過ぎる……ッ!

 

『ギャギャァッ!』『ギャオオオス!』

『ヴォッ……!』『グヴゥゥゥ……!』

 

 そして、麻痺を脱却した残る2体も翼槍を機械のように変形させ、生物に有るまじきトリッキーな軌道でユウタとリベロを翻弄し、龍気の弾幕を浴びせてダウンさせてしまった。特に下位であるにも関わらず、連戦に次ぐ連戦で無理をしていたリベロは瀕死に近いダメージを受けている。

 

『クァァヴォァッ!』『キャアアアアッ!』『グギャォオオオッ!』

 

 むろん、バルファルクたちは容赦しない。深手で完全に沈黙したアタシたちを、単なる獲物として食い付こうと、狂喜乱舞しながら襲い掛かって来た。

 

 ……嘘、これで終わりなの?

 

「アヤメぇえええっ!」

『『『ギィイッ!?』』』

「あっ……」

 

 そんなピンチに颯爽と現れたのは、第1砦に居る筈のウツシだった。着地と同時に「操竜波」を放ち、バルファルクたちを操竜待機状態へ追い込む。

 

『『『ギャヴォオオオオオッ!』』』

 

 だが断られた。こいつら、翔蟲の鉄糸拘束を振り解きやがった!

 

「何ィ!? イェエエエエエエスッ♪」

 

 ウツシ叫喚。何しに来たんだお前は。

 

「……今だ、2人共っ!」

 

 しかし、彼はあくまで囮であったらしい。

 

「「気焔万丈!」」

『『『グギャァアアアアッ!?』』』

 

 アタシたちが戦っている間に配置に付いていたらしいイオリくんとヨモギちゃんが、撃龍槍と破龍砲を同時にぶっ放した。それも水平に。撃龍槍は分かるけど、破龍砲の平撃ちはヤバいでしょ、ヨモギちゃん。

 だが、威力はご存知の通りで、破龍砲が直撃した1体は爆砕し、他の2体も身体を串刺しにされた。

 

『クァアアアアッ!』

 

 いや、1体はギリギリで躱してる。このまま逃げるつもりか!

 

「そうはさせんぞぉ!」「お爺ちゃん!?」

『ギィイィィッ!』

 

 しかし、老骨に鞭を打って出陣してきたハモンさんが、自前の「蛮顎弩フラムマヌバ」で徹甲榴弾を全弾暴れ撃ちして、逃げるバルファルクを再び砦へ叩き落す。

 

「貴様は儂の孫を傷付けた! 万死に値する! 絶望の淵に沈めぇ!」

 

 さらに、物凄い形相で砦の秘密スイッチを押し、撃龍槍の天蓋を築く。アンタ何て恐ろしい物を造り上げてるんだよ!?

 

『グヴヴゥゥ……シィィィィィ……!』

 

 すると、地に墜ちたバルファルクは、槍衾の檻を見上げながら大きく口を開け、

 

『カァァァ……クァオォォ……ドヴァォオオオオオッ!』

 

 

 ――――――ガキィィン!

 

 

 赫い閃光の刃を放出、撃龍槍を纏めて切断した。嘘だろ……!?

 

「ば、馬鹿な……うぉっ!?」

『ギャヴォオオオオスッ!』

 

 そして、一瞬の隙を突き、今度こそバルファルクは空へと逃げる。

 

「ユウタ、リベロ!」『ヴォオオオッ』『グルォッ!』

 

 しかし、逃がさない。

 ウツシの持って来てくれた「いにしえの秘薬」で、どうにか持ち直したアタシたちは、逃亡したバルファルクを追って飛翔した。

 正直もう一杯いっぱいだが、奴を取り逃がして回復と成長を許したら、今度こそ手に負えなくなる。

 だから、逃がさない――――――地獄の果てまで逃げても追い掛けて、息の根を止めてやるぞ……!

 

『かんれい!』

 

 あいつ、寒冷群島の方へ逃げようとしているな。寒さで動きを鈍らせるのが狙いか?

 いや、もしかしたら前に見た赫い彗星は、こいつらだったのかも。そうだとしたら、益々行かせる訳にはいかない。土地勘で負けては勝負にならないからな。

 

「クソッ、速い!」

 

 だが、速過ぎる。リベロが全身全霊全速力で飛んでいるのに、どんどん引き離されている。このままでは……!

 と、その時。

 

『ゲゴヴァアアアアッ!』

『キャァアアアアアッ!?』

 

 寒冷群島に差し掛かる手前の海を突き破り、山のような何かがバルファルクの行く手を阻んだ。

 

「おっきくなったねぇ!?」

 

 と言うか、例のクソデカヨツミワドウだった。前の時点でゴシャハギよりデカかったが、今は甲羅だけで60メートルはある。

 だから、一体何を食ったらそうなるんだよ!? ラギアクルスでも丸呑みにしたの!?

 

『グヴァォッ!』『グギャァッ!?』

 

 さらに、ヨツミワドウは鬼火を纏った(!?)右の突っ張りでバルファルクを叩き落し、そのまま爆砕した。残るは赫い泡沫のみ。グロ過ぎる……。

 

『クァアアヴァアアア! ……フンッ!』

 

 そして、「煩い蠅を叩き潰してやったぜ!」と言わんばかりに鼻を鳴らし、そのまま海に還ってしまった。

 

「『えぇ……』」

 

 こうして、何とも言い難い雰囲気のまま、事態は終息したのだった……。




◆奇しき赫耀のバルファルク

 古龍目天彗龍亜目バルファルク科に属する天彗龍……の変異個体。
 遺群嶺などの高々度に棲み、滅多な事では地表に姿を現さない通常のバルファルクと違い積極的に降下して来て、赫々とした鱗で地上を空爆し、死んだ動物を食い漁るという、凶暴な性質を持つ。これには呼吸により体内で生成される「龍気」が関わっており、必要以上に高まった龍気に呑まれて暴走してしまっている状態にあるらしいが、何故そうなるのかまでは解明されていない。
 第3砦に飛来した奇しき赫耀たちはゲーム本編よりも更に異様な個体であり、ドス鳥竜種程しかない小さな体躯と狂気的な瞳が特徴で、マガイマガドの如く食えば食う程、爆発的に成長する能力を持つ。
 また、その身体には“他生物の一部がパーツのように浮かび上がっている”という、不気味な特徴があったりする。


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燃える砂海原

今回は寒冷群島じゃない所へ行きマス。


 ハ~イ♪

 ボクだよ、すっかり大剣双剣が板鬼に付いた、元ゴシャハギのユウタだよ~♪

 いやぁ、第2次百竜夜行は本当にとんでもなかったね。何アレ。百竜→ヌシと来るのは分かるけど、最後にバルファルクが3体現れるのはおかしいでしょ。ハッピーセットかよ。成長する機動兵器なんて卑怯だろ。

 まぁ、それも済んだ事。大規模な百竜夜行も治まったし、今日から再び狩りの日常が始まる……と、言いたい所だが、

 

「ほら、ユウタ。手を合わせて」

『………………』

 

 人が死んだ。沢山死んだ。日頃お世話になっている人や、昨日撫でてくれた人が、皆みんな死んでしまった。あれだけの大災害だから仕方ないとは言え、理解と納得は別物である。

 良い人は早死にするって、本当なんだね……。

 

「帰ろうか、ユウタ」

『………………』

 

 戦死者の弔いを終えたボクらは、真っ直ぐ家に帰った。

 

「お、おい、ユウタ?」

『………………』

 

 ……何だろう。無性に狩りへ行きたくなった。人間はこれを八つ当たりと言うのだろう。

 別に否定する気は無いね。人間になった影響なのかもしれないけど、愛憎がより高まった気がするし、野生のゴシャハギだった頃には無かった感情だ。それが良いか悪いかは知らないが、人間への理解が深まったと前向きに考えておく。

 そして、ゴチャゴチャと思考の海に沈みながらも、身体はテキパキと狩りの態勢を整えていく。心と身体が分離するって、こういう事を言うんだろうね。

 

「ユウタ!」

 

 自宅中にアヤメさんの声が響いた。

 

『………………』

「―――――――ッ!」

 

 しかし、ボクの心には響かない。雪鬼獣そのままの、冷たい視線を彼女へ向けてしまう。

 

「……分かったわよ。行きなさい。でも、アタシは行けないわ」

 

 そうだろうね。前回、アヤメさんは無理をし過ぎた。リハビリの為に里帰りしたのに、瀕死寸前のダメージを負い、今でも身体がガタガタ言っている。暫くは絶対安静だろう。膝は殆ど治っているようだが……それ以外がね。

 

『じょーぶ』

 

 大丈夫。死に急ぐような真似はしない。

 ただ、この気持ちに整理を付けたいだけさ。これからも、楽しくハンターライフを続ける為に。

 

『いってきゅー』

「……行ってらっしゃい。必ず帰って来るのよ」

『あーい』

 

 こうして、ボクは1人、集会所へ向かった。

 

『グルヴォッ!』

『うぁーう』

 

 ま、もう1匹は居るんだけどね。無事に上位級へ昇格した、迅速の騎士がね。

 さぁ、行こうか、零下の白騎士様。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「あっ、ユウタくんではないですかッ! 今日も一狩り行くのですかッ!?」

 

 ……集会所に着いて早々、幸先が悪くなった気がする。

 

「何か失礼な事を考えていますねッ! 顔を見れば分かりますよッ!」

『しずかにしてくれませんか?』

「しゃ、喋れたッ!?」

 

 お前も大分失礼だと思うぞ。

 ところで修練所の壁画に釘付けである筈のウケツケジョーが、どうしてこんな所に居るのかな?

 

「実はですね、新しい壁画を発見したんですよッ! だから、里長さんとゴコクさんへの報告ついでに、誰かに自慢したくてッ! 人が集まるであろ集会所に、こうしてやって来た訳ですッ!」

 

 えっ、何コイツ、無敵なの?

 八つ当たりで狩りに行こうとしているボクも人の事は言えないけど、人が死んだのにエキサイティングしてるのはどうなのよ?

 

「また失礼な事を考えていますねッ! 心外ですよッ! 私は編纂者として、事態の究明と一刻も早い解決を望んでいるだけですッ! ……という事で、1つクエストを受注しませんか?」

『うー?』

「うーうー言わないで下さいッ!」

 

 そんな事を言われましても。

 それより、そのクエストとやらは何よ。里長さんやゴコクさんに報告を入れた上で発注するような物なんだろうな。

 

「ええ、それはもうッ! ――――――内容は「砂原の大調査」ですッ!」

『うぇー』

 

 うわっ、怠ッ!

 何でストレス発散の為に疲労困憊しに行かなきゃならんのよ。止め止め、そんな暑い所になんか行きたくない。他のクエストを受注しよう。やっぱり寒冷群島かなー。

 

「おっと、そうは行きませんよッ! 何せこのクエストは、あの奇怪なバルファルクの調査でもあるんですから!」

『………………!』

 

 おっと、確かにそれは聞き捨てならないな。詳しく聞かせて貰おうか。

 

「では、OKと言う事でッ! 早速、砂原へGOですッ!」

 

 ……クーラードリンク、カゲロウさんの所で売ってたっけ?

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『さはらー』

「“砂原(すなはら)”ですッ!」

 

 砂原。

 文字通り砂の平原――――――と言いたい所だが、実際は上下に入り組んだ岩窟地帯が多く、ついでにオアシスが意外と点在している為、砂漠と言うよりかは“サバンナ”と表現した方がしっくり来るフィールドである。それらしい場所は「エリア9」や「エリア10」くらいだろうか。ハンターの言う砂原は“砂漠の中にある高台地”みたいな場所だから、岩だらけなのは当たり前なのかもしれないが。

 ただし、砂漠らしく昼夜の寒暖差が顕著であり、日中は焼かれるように暑いが、夜間は寒冷群島を鼻で嗤う程に寒くなるのだ。

 だから、ここへ訪れるには気温に体調が左右されなくなる「クーラードリンク」や「ホットドリンク」が必須となる。大抵は昼間にやって来るので、クーラードリンクが持ち込まれる事だろう。

 だが、カムラ人がそれらを持ち込む事は無い。流石に長時間は無理だが、クエスト時間内くらいは平然と耐えられるのである。君ら本当に人間?

 しかし、ボクは元ゴシャハギ。寒冷群島の生態系に組み込まれたスペシャリストが、砂原で何の問題も無く自由に動ける筈がない。

 

『あとぅーい』

「我慢して下さいッ! 男の子でしょうッ!」

 

 その結果、ボクは二日酔いのおっさんの如く、ダラダラのドロドロになっていた。完全に熱中症だ。クーラードリンク飲もうが何だろうが、暑い物は暑いんだよ。むしろ熱い。何これ、火山とは別方向でキツイんだけど。溶岩洞に行った事は無いがな!

 ちなみに、リベロはお留守番である。あれだけ行く気満々だったのに、「今回は砂原に行くよ」って伝えたら、速攻で裏庭の洞窟に避難しやがった。非難してやるぞ、貴様ァ!

 ……落ち着こう。ボクは気持ちの整理をする為に来たのであって、怒り状態になりたい訳ではない。何だかんだでウケツケジョーは自分のガルク(名前は「テリー」)にボクを(エヴァと一緒に)乗せてくれてるし、楽は出来てる。

 そろそろ高温環境でも活躍出来るオトモが必要かなぁ。ガルク雇えって話だけど、何故か懐いてくれないのよね、どの子も。テリーは例外だけど、彼はウケツケジョーのオトモだからねぇ……。

 最悪、新大陸よろしく現地調達しようかなぁ。“オトモダチ”って奴だね。

 ところで、この砂原でバルファルクの何を探りに来たのよ?

 

「過去の砂原は緑豊かな交易地だったと聞きますッ! しかし、ある日降り注いだ赫い彗星に端を発する異常気象に見舞われ、荒れ果てた大地になったそうですッ! そして、赫い彗星と言えばバルファルクッ! つまり、天彗龍に関する何かが遺物として残っている可能性が高いのですよッ! という事で、「エリア12」へ向かいますよッ! ついでに「キングトリス」とやらも見てみたいですッ!」

 

 何処までも編纂者だなぁ、この人は。それくらいの探求心が無いとやってられないんだろうけど。

 という事でボクはガルクに揺られ、ウケツケジョーは翔蟲移動を駆使して、荒れ果てた大地を突き進んでいく。何でカムラ人並みに翔蟲が使えるんだよ……。

 

『クゥゥゥ……』

 

 だが、「エリア6」に差し掛かった辺りで、大型モンスターに出くわした。

 草食竜のような頭部に岩壁を思わせる甲殻に覆われた胴体を持つ、地底を棲み処とする飛竜種、双角竜ディアブロスの通常個体だ。ヌシと違って表皮は砂色で、そこまで大きくも無い。精々ドス鳥竜種程度しか――――――、

 

「何か随分小さいディアブロスですねッ!」

 

 あ、やっぱり小さいんだ。流石にリオレウス以上の体格ぐらいないとね。

 じゃあ、このディアブロスは何でこんなに小さいんだろう?

 しかも、会敵したというのに攻撃どころか吠えすらしない。ディアブロスと言えば一期一会が「お前を殺す」という、とんでもなく凶暴な草食動物なのだが、こいつは只管にビクビクと震え、常に逃げ腰という、異常とも言える個体である。所謂“劣等種”って奴か。

 しかし、こいつは丁度良い。ボクは重たい身体を動かして、臆病者のディアブロスの前に鬼人化状態で立ち、

 

『ヴォオオオオオオオオヴッ!』

 

 思い切り吠えた。心底ビビりなのだとしたら、これで完全に心が折れる筈。

 

『キュゥゥ……』

 

 案の定、ディアブロスは恐怖で縮こまり、服従とも言える姿勢を取った。

 いや、何か考えていた以上にあっさり調伏されるな。少なくとも一太刀くらいは刃を交えると思ったんだけど。その低姿勢が生存に繋がってるのかもしれないが。

 ともかく、これで足を手に入れた。少しはウケツケジョーに楽をさせられるぞー。

 

「相変わらず凄いですねッ! では、ガンガン行きましょう!」

『うー!』

「うーうー言わないで下さいッ!」

『えぇ……』

 

 そんな事言わないでー。




◆とても小さいディアブロス

 竜盤目竜脚亜目重殻竜下目角竜上科ブロス科に属する凶暴な飛竜種……の筈だが、何故か物凄くビビりな雌個体。大きさもドス鳥竜種程度しかなく、大型飛竜種とは思えないくらいに小さい(最小金冠以下)。その分かなり素早く、危機察知能力も高い為、第2次百竜夜行が勃発した際も巻き込まれずに逃げる事が出来た。
 とは言え、かなり命からがらだったので体力をかなり消耗しており、暫くの間は動けず、やっとこさ回復して来たのでサボテンを食べに巣穴から抜け出したら、何故か滅茶苦茶に怖い男の子に目を付けられてしまった。
 優しい男の子が好みだが、ディアブロスという種族に生まれてしまった以上、半ば諦めている模様。


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果てしなく青い空

フライング登場再ビ。全部スペシャル映像が悪イ(冤罪)。


 とっとこ歩くよディアブロス~♪ 大好きなのは~♪

 

『『もしゃもしゃ』』

「サボテンをもしゃもしゃしないで下さいッ! そそられますッ!」

 

 そそられるじゃねぇよ。どうせ食欲だろうけど。

 さてさて、エリア11の日陰で休みつつ、皆でサボテンパーティをしている訳だが……意外とサボテンうめぇ。種類によってはエグ味が酷いらしいが、この王様サボテンは普通に美味しい。味気ないと言われればそれまでだけど、このクソ暑い砂漠のど真ん中で食べるには最高に瑞々しい食材だ。ステーキにするのも良いが、火を起こす気にならないので生で行きます。そう言えば「火炎草」もサボテンらしいけど、どんな味がするんだろうね?

 ――――――それにしても、このディアブロス、大人し過ぎない?

 威嚇にビビる時点で既に異常だったけど、ボクが弱っているのを察して日陰に移動し、剰え自分の主食をご馳走してくれるなど、ディアブロスという種族どころか野生動物では絶対に有り得ない。特に砂原のような厳しい環境では、尚更の事。

 さっきは脅してゴメンね。大型モンスターと仲良くなれるなんて、今までこれっぽっちも考えてなかったから、新鮮な感覚である。これからは大型モンスターにも、もっと優しく接してみよう。

 ……よく考えるとリベロは大型モンスターだし、この子は中型サイズだから、そのまま当て嵌めるのはどうかと思うが。彼女には是非とも幸せな竜生を送って欲しいなぁ。

 

「さて、腹ごしらえも終えた事ですし、本来の仕事に戻りましょうッ! 「エリア12」へ向かいますよッ!」

『うー』

「唸らないで下さいッ!」

『うっ!』

「吐かないで下さいよッ!?」

 

 大丈夫、その時は君の顔にぶっかけるから。元気にサボテン食い散らかしやがって。恥を知れ。少しはこのディアブロスを見習え。どう見てもお淑やか系のヒロインだぞ。

 まぁ、ふざけるのはこれくらいにして、本題に入ろう。こんな暑い場所、何時までも居たくないし。

 という事で、エリア12に到達。数多くの遺物が残る人工的なエリアであり、幻の環境生物「キングトリス」も時折現れるという、色々な意味で編纂者には垂涎物な場所だ。

 

「では、ジャギィの排除、お願いしますッ!」

『グヴォオオオッ!』

 

 ただし、大型モンスターの寝床にされがちな上にジャギィやジャギィノスが巣食っているので、先ずは邪魔者を排除しないと話にならなかったりする。

 

『ク、クェ~ン!』

 

 君は無理しなくていいからね、ディアブロスちゃん。流石にジャギィなんぞに後れを取る程、弱ってないからさ。

 

『ギャワンギャワン!』『キューンキューン!』『ギジャアアアッ!』

 

 突如現れた外敵たるボクたちに、ジャギィノスとジャギィたちが耳つんざく吠える。

 ジャギィとは“狗竜系”という鳥竜種の一角で、最も基本的な「狗竜」に属する小型モンスターである。親玉たるドスジャギィと雌のジャギィノスを中心とし、それらを若い雄であるジャギィが取り巻くという構成で群れを作っており、先ずジャギィが突っ込み、次いでジャギィノスが攻撃を仕掛け、最後にドスジャギィが止めを刺す、というパターンで襲い掛かって来る。

 ようするに、鉄砲玉(子分)→若頭→組長という順番で攻めて来る訳だ。ヤクザか。ジャギィ系統は基本的に肉弾戦しか出来ない脳筋スタイルなので、組織立った動きを取るのは妥当なのだろうが。

 ま、こいつらの攻撃力は高が知れてるし、適当に殴るだけでも倒せるんだけどね。何かドスジャギィが不在みたいだし。

 さぁ、一丁殺ったるかぁ!

 

『ピュァアアアン!』『う~?』

 

 と意気込んだ、その瞬間。ボクは何かに鷲掴まれ、空へ掻っ攫われてしまった。えっ、何これ、どういう事?

 ……いやいやいや、言うてる場合か。空を飛んでるって事は、今ボクを鷲掴みにしているのは大型の飛竜種という事である。

 ならば、このまま連れ去られるのはマズい。リオ種だったら巣に運ばれて雛の餌にされるし、それ以外でも何処かで美味しく頂かれてしまう。

 

『たべないでくださ~い!』『ピァアアアッ!?』

 

 ボクは鬼人化して、鷲掴むナニカの拘束を力尽くで脱出した。

 

『わーっ!』

 

 思ったより高かったぁっ!

 

『あべしっ!』

 

 あぅーん、痛ぁい。でも、予想よりも痛みが少ないぞ?

 ……この照り付ける暑さ、口や鼻に嫌でも入って来る砂塵、無駄にデカい大蟻塚――――――もしかしてここ、「エリア9」か!?

 

『ピュァアアアン!』

 

 さらに、目の前に降り立つ、金色に輝く刃のような鱗で身を包んだ大型の飛竜。翼を地に着ける姿はワイバーン骨格のモンスターを思わせるが、発達した長い後脚と物を掴むのに適した対趾足、オウムなどの鳥を連想させる頭部を持つ、一種独特かつ唯一無二の全容が特徴的なレックス型のモンスター。

 

『ピキュァアアアアアアッ!』

 

 そう、空の王者リオレウスのライバル、千刃竜「セルレギオス」だ。何で居るんだよ!?

 セルレギオスは元々「未知の樹海」というゴルドラ地方の極一区画にしか生息していない、割かしレアなモンスターだった。一時期放浪の旅に出ていたボクも、過去に一度、事変が起こる前に縄張りを追われ衰弱した個体を見たのが、最初で最後である。

 だが、狂竜ウイルス(つまりマガラ種の繁殖活動)に端を発する「セルレギオス事変」によって現大陸の各地へ離散してしまい、生息域が大幅に増えたという、これまた珍しい経歴を持っている。

 その後は狂竜症による騒動も治まり、セルレギオスたちも未知の樹海へ戻るかと思われたが、一部はそのままデデ砂漠などに定住してしまい、少なからず近隣の集落に被害を齎しているという。

 そして、カムラの里では今まで一度も棲息が確認された事は無い。つまり、砂原に居る筈が無いのだ。また何か起きたのか?

 

『キュァアアアッ!』

 

 しかし、そんなの関係ねぇとばかりに、セルレギオスが刃鱗を飛ばして来た。この鱗は衝撃を与えると炸裂する性質を持っており、着弾すると複雑な傷により動く度にスリップダメージを負ってしまう“裂傷状態”となる。

 是非ともガードタックルで防ぎたい所だが、こいつはリオレウスと違って飛行中の小回りが利くので、“次”に備えるべきだろう。

 

『ピュァアアッ!』

 

 出たよ、空中鳥脚キック。急降下しながら連続で蹴り付けて来る、セルレギオスの代名詞的な技である。

 だが、今のボクには鉄蟲糸技がある。朧翔でカウンターしてやるぞーっ!

 

『はにゃん……』

 

 駄目だ、暑さで力が出ない~!

 

『ピュアアアアンッ!』『わきゃーっ!』

 

 しまった、真面に食らっちゃった。続く刃鱗も直撃し、見事に裂傷状態に。やっぱり砂漠のボクは駄目駄目だぁ……。

 

『ピュァアアッ!』

「させませんッ!」『ガヴォオオッ!』

『ピキュァアッ!?』

 

 しかし、止めの鷲掴み引っ掻きが繰り出される前に、突如として眩い光が炸裂し、次いで何かがセルレギオスを吹っ飛ばした。というか、アンジャナフを操竜したウケツケジョーだった。だから何でお前はカムラ人並みに翔蟲を使い熟してるんだよ!?

 

『ピュアアアン!』『グヴォオオン!』

 

 割と直ぐに立ち直ったセルレギオスが果敢に反撃するものの、人の手が加えられたアンジャナフの攻撃は何時もの力任せな物ではなく、上手く躱した後に繰り出される強攻撃の数々に圧倒され、最後に大技を食らってダウンした。

 

「これでも食らいなさいッ! そーいッ!」

『キィイイイ……ッ!』

 

 さらに、着地狩りの形で落とし穴に嵌められ、動けぬ所へ大タル爆弾Gを2つも設置された末に投げクナイで爆破されてしまい、頭部が大分悲惨な事になってしまった。凄い手慣れてる……。

 

「そりゃそりゃそりゃッ!」

『クギャアアアアアアッ!』

 

 そして、穴から抜け出した後も痺れ罠で拘束されて、スリンガーアクションで頭に飛び乗ったウケツケジョーにクナイで滅多刺しにされるなど、中々に酷い目に遭っている。ちょっと可哀想になって来たな。

 

『キャォオオオッ!』

 

 流石にこれ以上は付き合えないと見たか、セルレギオスは砂原のエリア外へ飛び去って行った。棲み処は別の場所にあるのだろう。

 

『どぅーも』

 

 まさかウケツケジョーに救われるとは思わなかったが、助かったのは事実。ボクは素直にお礼を言った。

 

「いえいえッ! それよりも、調査に戻りますよッ! そっちではしっかりと頼みますねッ!」

 

 そんなこんなで、ボクたちは遺跡調査に戻るのだった……。




◆セルレギオス

 竜盤目竜脚亜目刃鱗竜下目レギオス科に属する大型の飛竜種。刃のように鋭い黄金の鱗で全身が覆われ、ヘビクイワシによく似た長い後脚やオウムのような頭部など、全体的に竜と言うより怪鳥を思わせるシルエットをしている。
 空の王者リオレウスの正式なライバルであり、後述する鱗を飛ばしたり素早い連続キックを繰り出すなど、尻尾や火球をメインに据えるリオレウスとは真逆の戦闘スタイルを取る。縄張り意識が強く、他の大型モンスターを追い出した上で同種同士による群雄割拠を繰り返すという、戦国大名みたいな生態を持つ。
 セルレギオスの鱗は刃のように鋭く、着弾すると炸裂する特性を持っており、これを獲物や敵にぶつける事で裂傷状態に追い込む。その性質故にハンターズギルドでは「刃鱗」と呼称している。
 一ヶ所で殺し合いをするという生態を持っている為、本来は殆ど人類と関りの無い生物だったのだが、近年になって何処ぞのホームシック古龍のせいで大陸各地に離散してしまい、生息域が急速に拡大してしまった。
 それでもカムラの里周辺に棲息は確認されていなかったのだが、何故か突如として砂原に出没するようになった。


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君の元へ

物語ハ、動き出ス……。


『ギャーギャーッ!』『キャンキャン!』『ヴーッ!』

『くえん……』

「『えぇ……』」

 

 ようやくエリア12に戻って来たら、ディアブロスがジャギィたちに苛められているという衝撃的な絵面が展開されていたので、一先ず狗竜共には素材になって貰った。お肉はスタッフ(ディアブロス以外の全員)が美味しく頂きましたとも。

 その後、疲れ果てて休むボクを横目に、ウケツケジョーは精力的に遺跡を調査し始めた。

 

「おー、これは中々凄いですねッ! 記念撮影しましょうッ!」『キュイ? ……キュィーン☆!』

 

 ……なぁんて事は無く、偶然出くわしたキングトリスと記念撮影に勤しんでいた。お前も決めポーズを取るんじゃない、キングトリス!

 

「――――――さて、おふざけはこれくらいにするとしてッ! 早速調査と行きましょうッ!」

 

 キングトリスが満足して立ち去るまで散々写真を撮りまくったウケツケジョーが、ようやく遺跡を調べ出した。30分も時間を浪費するな貴様。さっきの素直なお礼を返せ。むしろセルレギオスの餌になって来い。

 

「何か酷い事を考えてそうですねッ! しかし私は美味しくないので問題ありませんッ! 逆に食ってやりますッ! お爺ちゃんも「先ずは食ってみろ」って言ってましたからねッ!」

 

 毎度ながら発言がイビルジョーなのよアナタ。それで良いのか受付嬢。

 ……そう言えば、壁画にはどんな物が描かれてた訳?

 

「ヌシと思われるモンスターたちを後ろから追い立てる2匹の龍、そして、それらに襲い掛かろうとする巨大な蟲と鳥ですッ!」

『むし、とり?』

「はいッ! それぞれが多くの手下らしきモンスターを従えているので、相当強力な存在なんでしょうねッ! 流石に詳細までは分かりませんが……必ず解き明かしてみせますともッ!」

 

 そっか、頑張ってね。ボクは少し寝るから。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 それから暫くして。

 

「起きて下さい、ユウタさんッ! 面白い物が見付かりましたよッ!」

 

 ウケツケジョーに叩き起こされた。どうやら何か見付けたらしい。

 

「これは手記ですねッ! まぁまぁ古ぼけていますが、太古の物ではありませんッ! 状態から見て、大体50年前くらいの代物でしょうッ!」

 

 その手には、古めかしい手記が握られていた。確かに色褪せてはいるが、そこまで風化は進んでいないって感じだ。50年って言うと、半世紀くらい前の物か。

 ――――――で、何て書いてあるの?

 

「所々掠れて読めないですが、訳すとこんな感じですね」

 

 ======

 

 ま か、こんな日が来よ とは。

 長きに渡 根を り、先 代々骨を   きた、この地を離れる事に  など、  も信じ難い。

   し、悪しき赫 の死  が降っ    上、故郷を捨て 逃れる   ろう。命  ての物 である。

 こん 俺の姿を見て、フ ンはどう思う  ろうか。  つに頭を下げ  は癪だ ら、ゴコ 様にお願いするとし  。悪い  にはし    。

 娘も 婚し、孫も出来  、一人 無茶は出  い。家 の為、亡 妻 、俺は  でこの地を離れよう。

 だ  、お前もフ  ラと放浪な して いで、早く帰っ  い。

 そして、もしこ  紙を見付  なら、カム の里を目指

 彼女は 句一つ く、ずっとお  待っている 。分かっ か、この甲 性無

 

                                  コ リより

 

 ======

 

 “悪しき赫耀の死兆星”。

 たぶん、歯抜けの一部には、この言葉が入る筈だ。

 

「そうですねッ! 先ず間違いないでしょうッ!」

 

 ボクの意見にウケツケジョーも賛成のようだった(意見は手書きで伝えた)。

 悪しき赫耀の死兆星――――――たぶん、バルファルクの事なんだろうけど……幾ら古龍と言えど、砂原全土を滅ぼす程の力なんてあるのか?

 古龍は“生きる災害”であり、“天災”そのもの。自然神と言ってもいい。それ程までに、竜や獣とは隔絶した能力を持っている。

 だが、それはあくまで自然現象の範疇(・・・・・・・)である。あのシャガルマガラでさえ、“大量絶滅”という役割を超えてはいない。全ての創造は破壊から生まれるのだ。

 しかし、今回現れたバルファルクは、何処か違う気がする。確かにシャガルマガラやネルギガンテとよく似てはいるのだが、何だろう……何と言うか――――――この先には破滅しかない、みたいな?

 とりあえず、分かっている事を整理しよう。

 寒冷群島の夢たちを生ける屍に変え、フルフルを見るも無残なオリジナル笑顔に変貌させた鱗状の物体は、第2次百竜夜行に飛来した奇しき赫耀のバルファルク、もしくはその同位体とでも言うべき存在がばら撒いた物だった。その鱗は生死を問わず、あらゆる生物の肉体を侵食し、自分たちと同じ構造に書き換える能力が有る。

 さらに、変異したバルファルク自体も驚異的な成長力を持っており、他生物を苗床兼餌として爆発的に増えていく。そこに終わりは無く、文字通りの滅びしかない。砂原の文明も、そうして終わってしまったのだろう。

 

 そう……例えるなら、“癌細胞”だろうか?

 

 シャガルマガラは1体が成体になれば他のゴア・マガラの成長を阻害し、必要以上に増えないようになっている。

 だが、前回の百竜夜行を見る限り、あのバルファルクたちには、そう言った“リミッター”の類が無かったように感じた。

 死体すらも利用して鼠算式に増殖し、1体1体が際限なく成長し続け、大元である“巨大な鳥(ナニカ)”になる。これを癌細胞と言わずして、何と言おうか。

 それに、ウケツケジョーが言っていた、壁画の続き――――――もう1体の巨大な蟲というのも気になる。描写を聞く限り、鳥と同じような能力を持っているとしたら……2体の龍と併せて、カムラの里は一体どうなってしまうんだろうか?

 

『うぁーう』

「そうですね、何とかしなければッ! ……もはや調和など言ってられませんッ! これは由々しき事態、完全なる生存競争ですッ!」

『………………』

 

 調和を重んじる新大陸の編纂者が、調和を真っ向から否定してしまうのか。これは本当に由々しき事態なのかも。

 

 ……と、その時。

 

 

 ――――――ゴロゴロゴロゴロ……ビシャアアアアアアアアンッ!

 

 

 突如、雷が落ちた。

 

『ハヴォオオッ!』『ガァッ!』『グヴェァォオオッ!』

 

 急いでエリア6に戻ってみれば、空には暗雲が立ち込め、地響きと共に大移動するモンスターたちの姿が。百竜夜行である。

 

『くぇ~ん!?』

 

 その勢いは凄まじく、驚き一瞬逃げ遅れた小さなディアブロスを呑み込み、掻っ攫ってしまう程だった。

 

『コァォオオオオン!』

 

 そして、モンスターが過ぎ去った後、砂原に鳴る神が舞い降りた。

 

『――――――ギィゴォァヴヴウウウウウッ!』

『コァアアアッ!?』

 

 さらに、暗黒に染まった入道雲を矢の如く突き抜け、鳴る神をも超える巨大な“ナニカ”が飛来する。

 姿こそ殆ど同じだが、「銀翼の凶星」とも「絶望の星」とも違う、白銀に輝く装甲と海よりも蒼い瞳、ジエン・モーランに匹敵する凄まじい巨躯を持つ天彗龍。超大型の古龍であろう鳴る神が小型モンスターに見えてしまう程の、“空の大怪獣”とでも言うべき圧倒的な威容である。

 

 

 そう、“悪しき赫耀の死兆星”が遂に姿を現したのだ。畏れ見よ、衰星(すいせい)の神龍を!

 

 

『うぅ……!』「くっ……!」

 

 しかし、襲撃の衝撃があまりに強烈で、ボクたちの意識はそこで途絶えてしまった……。




◆悪しき赫耀の死兆星

 遥か太古の昔に語られた、“滅びの象徴”にして“生態系の癌”。その姿は見る者全てを魅了する美しさを持つが、一度姿を現れれば、その大地は死の世界に塗り替えられてしまうという。
 カムラの里では「“禍群の息吹”と“禍群の鳴神”を捕食する事で天魔開焉の星となり、世界を滅ぼす衰星龍となる」と伝えられていたが、長い年月の内に失われ、壁画も埋もれてしまい、完全に忘れ去られていた。
 しかし現在、とある場所でシャガルマガラが英雄に討ち果たされた事を契機に、密かに目覚め、“神化”を進めていた。

 ……そう、闇黒の女王蟲と共に。


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閑話:彼女と彼女の猫

第3次百竜夜行、勃発――――――。


「えっ、ユウタが……?」

 

 はいはい、アタシだよ、上位ハンターのアヤメだよ。

 ……とりあえず、アタシの話を聞いてくれ。

 つい先日、第2次百竜夜行で心の傷を負ったらしいユウタが、憂さ晴らしを兼ねてウケツケジョーと砂原に向かったのだけれど――――――出て行ったきり、帰って来ていないみたいなのよ。戻って来たのは、ウケツケジョーのオトモガルクであるテリーのみ。他は一切、影も形も無かったそうだ。

 

「嘘でしょ……?」

 

 ユウタが……死んだ?

 いや、そんな筈は――――――あの子に限って、そんな事は……。

 

「証言によると、見た事もない巨大な古龍と、それ以上の大きさを誇る白銀のバルファルクが現れたらしい。テリーは襲撃の爆風で吹き飛ばされ、目を覚ましてから戻ってはみたが、ユウタくんたちは居なかったそうだ」

「………………」

 

 ウツシの言葉が心に刺さる。まさか、本当に?

 ――――――どうして、皆アタシの傍から居なくなるんだ。

 

「キミがそんな調子では、ユウタくんも浮かばれんぞッ!」

「いや、確定で殺すなよ!?」

「ハッハッハッハッ、それもそうだなッ! あのしぶとさに定評のある2人が、そう簡単に殺られる訳も無いかッ! 大方、何処かで傷を癒しているんだろうッ!」

「………………」

 

 この男は、本当に……。

 

「この豚野郎が!」

「ありがとうございますッ!」

「……こっちこそ」

 

 アタシは思わずそっぽを向いた。

 

「――――――それはそうとして、またしても百竜夜行が勃発したようだ。今回も前回同様……いや、それ以上の規模だそうで、里長としてはこれを「第3次百竜夜行」として扱うらしい」

「……そう」

 

 また、あの惨劇が始まるのか。ナニカに追われた百竜と、それに呑まれまいとする人間とで巻き起こる、何の救いもない殺し合い。どうして、こんな事が起きるのだろう。

 

「もしかしてだけど、百竜夜行って古龍が意図的に起こしてるんじゃないの?」

 

 ふと、思った事を口にしてみた。砂原に現れたという未知の存在か、絶望の星々かは不明だが、あまりにもタイミングが合い過ぎる。何れかの古龍が、何らかの目的を持って引き起こしているのは、間違いあるまい。

 

「そうだね。里長やゴコク様も、そう睨んでいる。それに、百竜夜行に紛れて異形な姿のモンスターを見たとの情報も入っている。まず間違いなく、今回の百竜夜行では何かが起こるね。根幹に迫る、核心を突くような何かが……」

 

 ウツシもそう思っているのか、神妙な顔付きで頷いた。

 

「ま、結局やる事は変わりないさね」

 

 そう、アタシたちがやるべき事はたった1つ。

 迫りくる脅威から、カムラの里を――――――ユウタたちが帰って来る場所を、全力で守り抜く。それだけの事だ。

 

 ……「第3次百竜夜行」到達まで、幾ばくか。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 この世界の何処かで。

 

 

 

『……ギカァアアッ! ギィクァアアォオオオオッ!』

 

 

 

 巨大な闇が、目を覚ました。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「うぉっ!?」「どうしてモンスターがこんなに!?」「何じゃこりゃあああああっ!?」

 

 集会所で作戦会議をするとの事で出向いてみれば、何やら騒動が起こっていた。何じゃもんじゃと見てみれば、たたら場前の広場に人集りができ、その中心にはリオレウス、リオレイア、セルレギオス、ライゼクスなどの飛竜種、更にはドスランポスやドスジャギィを始めとするドス狗竜系、アオアシラにドスファンゴと言った牙獣種などなど、大中様々なモンスターが勢揃いしていた。

 そして、それらの傍らには、寒冷地の若干暑苦しい恰好や南洋系の独特な民族衣装を身に纏った人間たちが、寄り添うように立っていた。この人たちは、もしかして――――――、

 

「此度の百竜夜行は不明瞭な部分があまりにも多過ぎる。故に彼ら“ライダー”の力も借りようと思う」

 

 やはり「ライダー」か。

 ライダー。一部の地域にのみ存在する、モンスターをオトモとしてフィールドを駆る、ハンターとは一線を画す者たち。「絆石」という特殊な器具と“刷り込み”を活用して絆を育んでいるようだが、詳しい事情はアタシも知らない。

 何でそんな人たちが大集合しているのかは分からないが、そう言えば以前、今は亡き里長の旧友が元ライダーだったって噂を聞いたような、聞かなかったような……?

 まぁ、カムラの里にはユウタとリベロ、アタシとヨッちゃん、ウケツケジョーとエヴァという前例が有りまくるので珍しくも無いし、皆も初見こそ驚くものの、すぐに興味本位の野次馬に切り替わっている。

 

「おお、この里の人たちはライダーを見ても驚かないのか」

「嬉しい反面、逆に違和感があるような……」

 

 それに関してはライダー側も同じなようで、嬉しいやら困惑するやらで忙しそうだった。遠路遥々な事に加えて、色々とお疲れ様です。

 

『流石はカムラの里長さん! 話が早くて良いねぇ! このナビルーもしっかりナビするから、撃龍船に乗ったつもりでまっかせなさーい!』

『一瞬でゾラ・マグダラオスの背中に座礁しそうだぬー』

『おい! 久しぶりに会ったのに、その言い方は無いだろう!?』

 

 と、その人混みの中に、ドーナツみたいな丸っこい顔をした見知らぬアイルー(名前はナビルーというらしい)と、よーく見知ったメラルー……クスネが居た。

 

「アンタ、ライダーと知り合いだったの?」

『アタイは世界を股に掛ける大泥棒だぬー。ライダーの知り合いくらいは居るし、何ならアタイもライダーだぬー』

「へぇ……」

 

 そりゃあ知らんかった。結構長い付き合いなのにねぇ。

 ちなみに、彼女のオトモンは亜種っぽいクルルヤックだった。うーん、お似合い。

 

『なーにが世界を股に掛ける大泥棒よ! メラルー商会のヒトたち、滅茶苦茶怒ってたわよ!』

 

 おっと、また知らないアイルーが。こちらもまた特徴的な容姿の持ち主で、何と言うか、セミロングが似合うちょっとキツイお姉さんみたいな顔である。

 

『ツキノの分際で煩いぬー』

『分際って何よ!? まったく、本当にいけ好かないわねぇ!』

『別に構わんぬー。お前はカイルの尻に敷かれてるのがお似合いだぬー』

『敷かれないわよ!』

 

 ああ、ツキノさんって言うのね。クスネと知り合いだなんて、可哀想に……。

 

『あの、何処の誰かは知らないけれど、同情はしなくていいからね?』

「あ、はい」

 

 気を遣われてしまった。哀しくなっちゃう。

 

「……つーか、何でアンタがここに居るのよ、クスネ。寒冷群島からは引っ越さなかったっけ?」

 

 そうなのだ。クスネは元々流浪人だが、引っ越す時は何時もフクズクで知らせてくる。今回は赫い彗星の1件や大ババ様が遂に逝った事もあって、予定よりも早く移動したのである。行き先は確か――――――、

 

「あっ……」

 

 そうだ、砂原にテントを張ったって、

 

「クスネ、アンタ、ユウタの事――――――」

『アイツらなら、アタイのテントで一休みしてるぬー。置手紙は書いたから、目覚めれば勝手に来るだろうぬー』

「………………ッ!」

 

 そうか、生きててくれたんだ……!

 

「まさか、アンタその事を知らせる為に?」

『それこそまさかだぬー。アタイが用があるのは、セイハクの方だぬー』

「セイハクくんに?」

『そうだぬー。ま、とりあえず伝える事は伝えたから、アタイは立ち去りぬー』

 

 そう言って、クスネはクルルヤックを伴い、さっさと行ってしまった。一体何をやらかすつもりなんだか。とは言え、嬉しい事には変わりない。素直に礼は言っておこう。

 あとは、ユウタたちが帰るのを待つのみ。

 その為にも戦って、生き延びなくちゃね。

 

「おや、アヤメさん、こんな非常時に笑顔とは、何か良い事でもあったんですか?」

「別に大した事じゃないよ。……再認識したってだけさ」

「そうですか。まぁ、お互いに無理のない程度に頑張りましょう。なぁに、アイツが居るから大丈夫ですよ、たぶん。それよりも、ロンディーネさんがやる気満々なのが心配で――――――」

「ははははは」

 

 アンタこそ無茶しちゃ駄目よ、メラル。“彼”に心配されるわよ?

 

 ……「第3次百竜夜行」到達まで、あと僅か。




◆ナビルー&ツキノ

 外伝作品「モンスターハンター ストーリーズ」に登場する特別なアイルーたち。
 ナビルーはドーナツ模様の丸顔な雄個体で、好物もドーナツという、ネタ要素に事欠かない不思議なアイルー。かなりのお調子者だが、世界中を旅して来た故に結構な物知りで、意外としっかりナビゲートしてくれる。「ナビ出来るアイルーだから“ナビルー”」という本人談の由来も納得である。
 しかしながら、その内には明確な正義感が宿っており、悪戯にモンスターを傷付ける者に憤慨したり、仲間の為なら命を張れるなど、かなりの熱血漢。そんな見た目に反する重過ぎる過去を持つが、嵐に巻き込まれたショックで一切の過去を忘れてしまい、その後は気の向くまま放浪の旅に出ていたそうな。
 ツキノはカイルというハンターのオトモアイルーであり、言ってしまえばそれだけなのだが、とにかく見た目が印象的で、“ツンデレな(もしくは勝気な)お姉さんがアイルー化した”と表現するしかない、アニメ調な容姿をしている。性格も概ねそんな感じで、「いけ好かない」が口癖。
 分かり易く雌個体であり、ライズにも関りがあるなど、中々に優遇されている。流石は公式の推しキャラ。作者もなりきりセット使ってマス。


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閑話:空の記憶

※前作「怪物のバラード」の時からそうだったのでスガ、実は作中に風神龍と雷神龍は複数体登場していマス。


 ――――――第3砦、第1関門前。

 

「いよいよか……」「そうですね……」

 

 アタシは1人、最前線に立っていた。

 しかし、独りではない。背後には里守バリスタ隊に加えてライダーの皆さんも居るし、何らイオリくんも居る。ウツシとヨモギちゃんは別の場所を担当しているが、心は一緒だと思っておこう。

 

『おちゃまー!』

 

 あと、何故かヨッちゃんも付いて来た。今回も前回同様お留守番をしていて貰おうと考えていたのだが、頑として譲らなかったので、仕方なく同伴を許した。何やら異様な気配を感じているらしい。

 ……たぶん、何かが起こるんだろうな、きっと。

 

「仲が良いんだな」

 

 すると、第3砦の防衛に参加してくれたライダーの1人――――――確かシュヴァルさんだかが話し掛けて来た。不思議な額当てにリオレウス亜種の物と思われる防具を身に纏った赤髪の男性で、如何にも活発な見た目をしているが、その容姿とは裏腹に慈しみに満ちた瞳をしている。傍らのリオレイアも絶大な信頼を置いているようだ。

 

「ええ、まぁ……拾いモンですけど」

「そうか……なら、大切にするんだ、その絆を」

「はぁ、分かりました」

 

 よく分からないが、過去に一悶着あったのだろう。そうでなければ、そんな言葉は出ない。

 ま、詮索したりはしないけどね。他ならぬライダー様からの忠告として受け取っておくよ。

 

「来るよっ!」

 

 と、目の良いイオリくんの声が響いた。駄弁る時間はお終い、って事か。

 

『ホァアアアオオオッ!』『ボァアアッ!』『ガァガァッ!』『バヴォオオオッ!』『ウッキャウッキャァッ!』

 

 そして、数刻と経たぬ内に雪崩れ込んで来る百竜たち。

 今回の破砦役はフルフルで、機動隊はプケプケか。その他はオサイズチにアオアシラ、ビシュテンゴと。何か百竜と言うより“百獣”って感じだな。これでラージャンまで居たら「ふざけるなよテメェら!」と叫ぶ所だが、これなら前回よりは楽そう。第1波なんて、こんな物か?

 

「行くぞッ!」「はい!」

「「「「「おおぉぉっ!」」」」」

 

 むろん、撃退する事に変わりはない。しっかりと守り通らせてもらう。カムラの里は、お前らの避難所じゃない!

 

「はぁっ!」『ギャヴォッ!?』

 

 アタシは車輪のように回転しながら襲い来るビシュテンゴの頭上を扇回跳躍で取り、超爆竜弾を撃ち込む。

 

『ギャギャギャァッ!』「甘い!」

 

 さらに、無作法な柿投げ乱れ撃ちを“疾替え”で切り替えた扇回移動で回り込みつつ躱し、放散弾Lv2を食らわせた。今回背負って来たライトボウガンは「ボルボランチャー」。貫通弾と放散弾の撃ち分けを得意とする、多頭同時狩り向きの性能である。モンスターが入り乱れる百竜夜行にはピッタリだろう。

 

『バヴォオオッ!』「フッ……!」

 

 背後からシャケクローを食らわせようとしていたアオアシラを前転回避でやり過ごして、お返しに麻痺弾Lv1をお見舞いして動けなくする。

 

『ボァアアッ!』「食らうかっ!」

 

 空から放たれたプケプケの横槍毒玉は再度扇回跳躍で避けつつ、拡散弾を直接ぶち込んで叩き落す。後はアオアシラ共々、残らずお掃除だ。

 

『クァアッ!』

「させないッ! レイア!」『ギュアアアアッ!』

『ウギィッ!?』

 

 後隙をオサイズチに狙われたが、シュヴァルさんとリオレイア(レイアと言うらしい)に救われた。

 

「どうも」「良いさ」

 

 言葉数は少ないが、戦場ではそれだけで充分である。本当にありがとう。

 

「第2波来ます!」

 

 クソッ、立て続けかよ。弾切れになる前に倒さないとな。

 面子は――――――破砦役がヤツカダキ、機動隊がセルレギオス(!?)、突撃隊がオロミドロとリオレイアか。顔ぶれからして、第1波は巻き添えを食っただけで、砂原から来たのはこっちだな。

 

「後ろは……」

 

 あっ、そう言えば第1波の破砦役を忘れてた。

 

『ナビルー様を舐めるなよぉ!』

『ホヴァアアアォオオォォッ!』

『ごめんなさぁあああああい!』『まったく、何してんのよ、アンタは!』

 

 ……まぁ、大丈夫そうだな。ライダーも居るし。

 

『キキキキィッ!』『ホヴァォ……』

 

 あと、何故か1匹だけイソネミクニが混じっているが、里守バリスタ隊やライダーたちには目もくれず、どういう訳か次々とフルフルを眠らせ、一定数を背中に乗せると、そのまま何処かへ立ち去ってしまった。何しに来たんだ、あのイソネミクニは。もしかして、寒冷群島のあいつか?

 ――――――百竜夜行に乗じて自分の手駒を掻っ攫いに来るとか、火事場泥棒にも程があるだろ。

 

「アヤメさん!」「……ッ!?」

 

 イオリくんの言葉で我に返る。

 そうだ、人の心配をしている場合じゃ無い。背中は彼らに任せて、アタシたちは“奴”の相手をしよう。

 

『ギュガァアアアアアアッ!』

 

 立て続けに押し寄せた第2波の最後尾で指揮を執るα個体……ヌシ・リオレイアのな。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

《対ハ……何処……対ヨ……我ハ、ココニ在リ……》

 

 そして、破局は動き出す……。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『グギャヴォオオオッ!』

 

 ヌシ・リオレイアの紫毒棘が飛び交う。あれは猛毒だから、食らう訳にはいかないし、誤って触れる事さえ許されない。一応漢方薬は持って来たが、解毒する前に死ぬ可能性が高いからね。

 

『ギュガァアアアアッ!』「おっと!」

 

 だが、そっちばかりを気にしていると、ヌシ・リオレイア本体の攻撃を食らう破目になる。こいつとの戦いは、如何に周囲へ気を配るかが鍵になるわね。

 とは言え、アタシも第2次百竜夜行を乗り切った女だ。

 

 ……お前なんて、あの奇しき赫耀たちに比べれば怖くない!

 

「はぁあああっ!」『グギャアアッ!?』

 

 アタシは扇回跳躍で右上に上昇する事でヌシ・リオレイアのサマーソルトを躱しながら拡散弾を二連続で直接叩き込み、多大なダメージを与える。

 

『ギャヴォォ――――――』「黙ってろ!」『グヴァッ!?』

 

 さらに、尻尾の薙ぎ払いで着地狩りをしようとするヌシ・リオレイアに閃光玉を食らわせ、地へ叩き落した。ついでに麻痺弾と減気弾を叩き込み、弱らせておくのも忘れない。

 

「レイア!」『ギュアアアアアッ!』

 

 そして、藻掻く彼女に、シュヴァルさんとレイアの絆アタックがヒットする。片手剣の使い手なんですね、シュヴァルさん。まるで我が里が誇る「猛き焔」みたいだな。普通に強い、盾が。音が痛そう……。

 

『うさぁ~ん!』

「あたたた……」

 

 何だ、誰だよ、足を引っ掻くのは!

 

『うきゃ~っ!』

「えぇ、何この小っちゃいウルクスス……」

 

 足元を見れば、ブンブジナよりも小さなウルクススが。幼体か?

 

「……邪魔だからあっちに行っててね」

『おちゃまー』『うさ~!』

 

 とりあえず、ウルクススにはお引き取り願った。よろしくね、ヨッちゃん。

 さぁ、邪魔者も消えた事だし、目の前の脅威を退けよう!

 

「行くぞレイア!」『ギュァアアッ!』

『ギャアアアアアアアアアアアアッ!』

「倒されてたぁああああああああっ!」

 

 いや、強いって、シュヴァルさん。流石は歴戦のライダーさん(たぶん)。

 ……何か拍子抜けしたけど、これで今回の百竜夜行は乗り切った。

 

 

 ――――――ドギャアアアアアン!

 

 

 

 そんな訳が、無いよねぇ?

 

『コァアアアォォォ……ギャォオオオオオスッ!』

 

 空から降って来たのは、奇しき赫耀のバルファルク。

 しかし、何か変だ。

 ――――――いや、おかしいのは元からだけど、口が二重構造になってたり、前脚や背中にイソギンチャクのような触手が生えているなど、何と言うか……完全に成りきれてない(・・・・・・・・・・)って感じである。身体から稲妻が迸っている所を見るに、元は雷属性を操るモンスターだったのかもしれない。

 あと、滅茶苦茶デカい。前のバルファルクたちは狗竜系モンスター程度だったが、こいつは大型の海竜種であるオロミドロよりも全長がある。素体が元から大きかったのだろうか?

 それにしても、仮にも古龍の侵食に未だに抗っているとは、こいつの原型となったモンスターとは一体……?

 

『コァァアギャォオオオオッ!』

 

 だが、生ける屍同然のこいつがこちらを考慮する筈も無く、異形で異常なバルファルクが襲い掛かって来た。




◆シュヴァル

 「モンスターハンター ストーリーズ」の登場人物にして、第1作主人公の幼馴染。
 元は大人しく気弱な少年だったが、母親が凶気化したナルガクルガに殺された事で心に傷を負い、徐々に精神が歪み始め、やがて主人公の前から姿を消した。
 後に現れた彼はリオレウス亜種の防具を身に着け、リオレイアを馬車馬のように使う、気性の荒いハンターとなっていた。ハンターになった理由はむろんモンスターへの復讐であり、パートナーであるリオレイアすら「使えない」と罵るような人間へと成り下がっていたが、「黒の凶気」に関わる事件を始めとした紆余曲折の果てに主人公と和解した。
 続編の「MHST2」でも登場しており、その頃には過去の自分を省みる事が出来る立派な大人になっている。
 今作では「MHST2」の凶光化と破滅レウスを巡る壮大な物語を乗り越えた後の設定であり、本編以上に優しい大人になっている。
 ちなみに、カムラの里を訪れた際に、故郷には無かったライトボウガンやヘビィボウガンに興味を持った模様。


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閑話:天気の子

ただ愛したかっただけなのに。


「舐めるなぁッ!」

 

 アタシは前転回避や扇回移動を駆使してバルファルクの攻撃を往なしつつ、麻痺弾を叩き込んで行く。

 

『クォオオオン!』

「くっ、流石に直ぐには無理か!」

 

 まぁ、古龍を相手に“麻痺させるだけの簡単なお仕事です”とはいかないだろう。身体が大きいから、毒の回りも悪いだろうしね。流石にガムート程の威容は無いけど。

 しかし、何度でも言ってやる。アタシたちは独りじゃない。

 

「てぁああっ!」『コギャォオオオオス!?』

 

 追撃を繰り出そうとしていたバルファルクに、イオリくんのスラアクが唸る。今回本来の得物であるチャアクで無いのは、百竜夜行は嫌でも乱闘になるからだろう。チャアクは変形の際にスラアク以上に隙が出来易い上に、一時的に翔蟲が使えないので、乱痴気騒ぎの最中だと被弾した後の立て直しが難しい。良いチョイスだ。

 ただ、どうして「剣斧ノ折形【桜吹雪】」を担いで来たのかは分からない。「百竜剣斧」でも良かったじゃん。

 

『コァアアオオオオォォッ!』「フンッ!」

 

 奇襲に近い金剛連斧で出来た後隙を狙った、バルファルクの翼脚による叩き付けを、イオリくんはスラッシュチャージャーで受け流しつつゲージを溜め切り、更なるラッシュからの属性解放フィニッシュに繋げた。

 

「はぁっ!」『ギュァアアアッ!』

 

 さらに、シュヴァルのとても痛そうなハードバッシュ連携と旋刈り、レイアの二連続サマーソルトが決まる。

 

『ギャアアアアッ!』

 

 それらの手痛い連撃により、バルファルクの角と左翼脚が破壊された。やはり死体だからか、もしくは完成されていないが故か、想像以上に脆い。扱いなれない身体に振り回される姿は、いっそ哀愁すら誘う。

 所詮、仮初の命と借り物の力しか持たない、この奇しき赫耀は、何処まで行っても虚仮脅しだった。

 

「よし、止めを――――――」

 

 さっさと楽にしてやろうと、超爆竜弾を撃ち込む体勢に入った、その瞬間。

 

 

 ――――――ドワォオオオオオッ!

 

 

「うごぁっ!?」「ぐふぅっ!?」「ズワォッ!?」

 

 何処からともなく龍属性が渦巻く風の塊が飛来し、アタシたちを盛大に吹っ飛ばした。

 

《我は狂飆……天津を濯ぐ禍ツ神也……!》

 

 そして、第1砦に舞い降りる、誰も見た事の無い巨大な古龍。ゴムとも甲殻ともつかない青白い皮膚で覆われ、珊瑚のような角の生えた頭部、獲物を逃さぬ為の二重構造の顎、太い前脚に対して鰭しか残っていない後ろ脚、長大な尻尾と、海竜種……と言うか深海魚を思わせる姿をしている。

 また、腕や背中には先程の風を吹き出したであろう特殊な器官があり、それにより常時逆さまに浮遊しているという、「生物としてどうなの?」としか言い様のない格好でゆっくりと降りて来る様は、神秘的ではあるが同時に非生物のような不気味さを醸し出していた。

 

「………………!」

 

 さらに、吹き飛ばされた時に出来た、このカマイタチにでも遭ったかのような裂傷。おそらくだが、あの古龍が百竜夜行の元凶である。あいつがモンスターを力尽くで追い立て、ヌシたちはその時のトラウマにより本物の怪物へと変貌したのだ。

 つまり、奴を倒せば一先ず百竜夜行は終息する。そうなれば、残る厄介事である白銀のバルファルクにも集中出来るだろう。

 何より、あいつは遣り過ぎた。何が目的で百竜夜行を引き起こしているかは不明だが、巻き込まれた方は堪った物じゃないんだよ。絶対に生きては還さないぞ。

 

『ガァァヴィイイイアアアアアアッ!』

「「「ぐぅっ!?」」」『グゥッ……!』

 

 しかし、あの古龍が現れた途端、這う這うの体だったバルファルクが急に活気付いた。

 

『ギャヴォオオオオオオッ!』

「ぐあぁっ!?」「アヤメさん!」「アヤメ!」

 

 それどころか、背中の触手から無数の光刃を乱れ撃ちしながら、物凄い速さで翼槍を繰り出してくるなど、明らかに動きが早くなっている。

 まるで、探し物が見つかった子供のように。無邪気にはしゃいで、邪悪な連撃をかましてくる。「そこを退け、彼に会えない」とばかりに。

 

『ガヴィァアヴォオオッ!』

「ぐぶはっ!?」

 

 そして、今度は尻尾の先からビームを出して来るという、意味不明過ぎる攻撃が避け切れず、腹を抉られた。高出力かつ高熱を帯びているが故に出血こそしなかったが、小腸と大腸の殆どが蒸発した。

 

「あ、ぅ……あ……か……」

「アヤメさん! 今、粉塵を――――――ぐはっ!?」「イオリくん! ……がはっ!」

『ギギャヴォオオオオッ!』

 

 慌ててイオリくんとシュヴァルさんが回復しようとしてくれたが、そんな事は絶対に許さないバルファルクの攻撃で吹き飛ばされてしまった。レイアも必死に止めようとしているものの、箍が外れているのか、バルファルクは見向きもしない。

 

『ガァァヴィィイアアアアアアッ!』

 

 さらに、脳味噌と言わず全部融けちゃえとばかりに翼脚を合掌し、龍気砲の構えを取る。マズい、これは誰も耐えられない。

 というか、その前にアタシが死ぬ。腸どころか横隔膜まで消し飛んだようで、肺が全く機能していない。

 

 ……嫌だ。こんな苦しみ抜いて死ぬなんて。誰か、助け――――――。

 

『グヴォァアア……ゴギャァオォッ!?』

『まったく! 世話が焼けるぬーっ!』『コカカカカッ!』

 

 だが、止めの一撃は来なかった。発射直前のバルファルクを、何かが殴り倒したのだ。

 いや、何かではない。あれは、

 

『リハビリに来たのに、こうも毎回死に掛けてたら、前と何も変わらないぬー』『コキャキャキャ♪』

「ク……ス……」

 

 鎌を携えたクスネと、何処からかライトボウガンを拾って石代わりに使っているクルルヤック亜種だった。さっきの爆発は撃ち込んだ3発の超爆竜弾を鎌で誘爆させたのか。遣り方がえげつない……。

 

『ウツシの奴が頼むから来てみれば……おら、無駄なお喋りしている暇が有ったら、これでも食らってろぬー』

「……ッ、はぁっ!」

 

 クスネの持って来た回復アイテムの雨あられのおかげで、アタシはどうにか持ち直した。毎度思うけど、これは薬効が凄いのか自分がおかしいのか分からなくなる。超回復を半ば暴走状態にしているんだろうけど、それでも普通なら絶対に死んでるだろ、この傷は。

 しかし、失った血液まで戻って来ないので、アタシは立ち上がる事さえ出来なくなっていた。イオリくんとシュヴァルさんも未だ気絶から目覚めないし、レイアは龍気に中てられて動きが鈍っている。

 こうなったらもう、彼女(クスネ)に任せるしかない。

 

『コァアアアアアッ!』

『煩い魚だぬー。料理してやろうか!』『クルァッ!』

 

 そして、怒りに満ち満ちたバルファルクと、クスネたちが激突した。

 

『ギャヴォオオオッ!』

『甘いぬー!』『クケケケ♪』

 

 バルファルクが目にも止まらぬ速さで翼槍を繰り出して来るが、当たらない。クスネもクルルヤックも動きが俊敏な上に小柄なので、冷静に対処すれば簡単に避けられるのである。アタシたちには出来ない芸当だ。

 

『せいっ!』『グギャッ!?』

 

 さらに、クスネの投げた鎌が正確にバルファルクの右眼を射抜いて怯ませ、

 

『ヤックル!』『クカカカッ!』

 

 翔蟲をバルファルクの頭へ飛ばしたかと思うと、クルルヤック(ヤックルと言うらしい)からライトボウガンを受け取り、徹甲榴弾を速射で撃ち込みながら反動でグググっと自らを引き絞り、

 

『死ねっ!』『グァアアアアッ!』

 

 パチンコ玉の如く飛び掛かり、空中で刺さっている鎌を掴み、そのままバルファルクの脳天をかち割った。

 

『クケケケケッ!』『ギャアアアッ!』

 

 そして、そこへ叩き込まれるヤックルの嘴連打。ただでさえ割れている頭が完全に壊れ、脳と右の眼球が零れ落ちる。元より生ける屍だったバルファルクは、いよいよ以て完璧なゾンビになった。これでもまだ死ねないとは、逆に可哀想ですらある。

 

『お前に生きる価値は無い。死んだ古龍だけが良い古龍だ。今まで奪ってきた分、苦しみに苦しみ抜いて、それからもう一度死ね』『クカカカカカッ♪』

『グギァアアアアアアアアアアアッ!』

 

 だが、大泥棒(自称)クスネは容赦しない。相棒のヤックルと共に、返り血塗れになりながら、バルファルクの命を盗み取っていく。切り裂き、引き千切り、傷口を押し広げ続けるような戦いっぷりは、死神と言うより悪魔だった。

 

『カッ……!』

 

 翼をもがれ、内臓を引き摺り出されて、そこら中を血肉の海に沈めた辺りで、ようやくバルファルクの仮初の命が尽きた。

 

『ヴァァアアアア……ァアアアアアァァ……アアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 それでも、全てが消えるその瞬間まで、バルファルクは藻掻き苦しむしかない。致命傷でも事切れる事すら許されていないのだ、この命は。

 残った眼から血を吹き出し、天に向かって何かを掴むようにのた打ち回る姿は、捨てられて泣き喚くしかない赤ん坊のようにも思えた。

 

『………………』

 

 そんなバルファルクを、まるで何の価値も無い粗大ゴミを見るかのように見下ろすクスネは、やっぱり死神であった。「命をくすね取る死神」の異名は伊達じゃないな。

 

『グゥゥゥ……!』

 

 さらに、丁度バルファルクが見上げる空で、あの古龍がボロ雑巾のようになって逃げていくのが見えた。一瞬、かの古龍とバルファルクの目が合ったような気がするが、どちらも最早どうしようもない。空の古龍は「どうしてこうなった」という表情を隠しもせずに飛び去り、

 

『アァァ……ヴゥッ!』

 

 散々に苦しみ抜いたバルファルクは、最期に虚空へ手を伸ばし、それっきり二度と再び動かなくなった。辺りが静寂に包まれる。

 

「……済まない、助かった」

 

 と、気絶から抜け出したシュヴァルがクスネに頭を下げる。イオリくんも目を覚ましたし、レイアも龍気を克服したようで何よりである。

 

『礼は良いから、さっさと事態の“尻”を拭えぬー』

「分かっている。行くぞ、レイア」『ギュアァッ!』

 

 しかし、クスネはぶっきら棒に返し、だがシュヴァルは気にせず、レイアに跨って飛翔した。あの古龍の行方を追うのだろう。

 

「まだまだだな、アタシは……」

 

 結局、アタシは自力で里の脅威を退ける事は出来なかった。それが、何とも悔しい。

 

『言ってる暇があるなら、行動しろぬー』

「分かってるわよ」

 

 だが、後悔するだけでは意味が無い事も分かっている。次に繋げる為にも、もっと努力しなくちゃね。

 こうして、異形なバルファルクの討滅と風を操る古龍の撃退を以て、第3次百竜夜行は幕を閉じた。

 

 

 

 ――――――かに思えたのだが、まさかあんな恐ろしい事が起こるとは。




◆クスネ

 ユクモ村出身のメラルーで、自称「大泥棒」。非常にがめつい上に事なかれ主義であり、余程の事が無ければ故郷が滅ぶような事態になっても動かない、割とドライな性格をしている。一方で気に入った人物には結構肩入れするようで、今回の百竜夜行にもアヤメとセイハクが参加している為、急遽参戦した。
 普段はやる気の欠片も無い言動が目立つが、戦闘となると一変し、悪魔もドン引きするような残虐ファイトを繰り広げる。その実力は単騎でジンオウガを狩るどころか古龍すら返り討ちにする程であり、界隈では「命をくすね取る死神」として恐れられている。
 ちなみに一端のライダーでもあり、未発見のクルルヤック亜種と、ガーグァの超進化態を使役する。どちらの性格も主人に似ており、嗤いながら敵を嬲り殺しにするタイプである。


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閑話:雲の向こう、約束の場所

 ソノ者 蠅声為邪神ヲ統ベル 闇黒ノ覇王ナリ

 天魔開焉ノ時 衰星龍ト共ニ 再ビ目覚メン

 ――――――ウケツケジョーが見付けた壁画の碑文、「闇黒ノ章」より一部を抜粋


 ――――――カムラの里より数キロ離れた上空。

 

「シュヴァル!」

「やはり来たか」

 

 先行して古龍を追尾していたシュヴァルとレイアに、彼の幼馴染にして心友であるリュートとレウスが合流した。彼もまた、飛び去った古龍を追いかけて来たのだろう。

 そう、あの哀れで満身創痍な古龍を逃がす訳にはいかない。如何なる理由が有ろうと、奴は遣り過ぎた。その落とし前は付けて貰う。

 

「何処へ行くつもりだろう?」

「さぁな。女の所にでも駆け込むんじゃないか?」

 

 冗談半分に言ったシュヴァルだったが、案外間違いではないんじゃないかと思っている。血の涙を流しながら必死に逃げ惑う後姿は、まさしく何もかもを失ってどうしようもなくなった情けない男そのものである。

 

「方角的には大社跡に向かってるみたいだけど」

「とりあえず、様子を見よう。棲み処が分かるなら、それに越した事は無い」

 

 だが、容赦はしない。しっかりと寝床まで案内して貰って、そこで永遠の眠りに就いて頂こうか。

 

「……大丈夫か?」

「何が?」

「いや……」

「俺だって何時までも子供じゃない。お前こそ、無茶はするなよ」

 

 どうやら、リュートの心配し過ぎだったようだ。

 シュヴァルは過去に、凶気化したナルガクルガに母親を殺されており、一時は完全な復讐鬼となっていた。それこそ、相棒のレイアでさえ道具扱いする程に酷い有様だった。

 しかし、それはあくまで過去の話。幾多もの窮地を乗り越え、人の心を取り戻した今の彼が、暴走するような事にはならないだろう。立派な大人になったのだから。

 というか、シュヴァルの言う通り、どちらかと言うと心配なのはリュートである。彼もまた大人には成ったが、無鉄砲な所は相変わらずであり、友や家族の為なら身を捨てる覚悟を常に持っている。

 だからこそ怖い。和解した今に至ってさえ、とてもとても。

 

(頼むから、“俺に任せて先に行け”なんて真似は止してくれよ……)

 

 シュヴァルは不安でいっぱいの視線をリュートに送った。

 

「………………」

「おい、こっち向けよ」

 

 リュートは目を逸らした。そういうとこやぞ。

 

『まぁまぁ、そんな真似はオレがさせないぜ!』

「いや、何も言って無いんだけど……」

『いやいや、相棒の考えてる事は大体分かるぜ! 何せ、オレはナビルーだからな! 相棒が馬鹿な真似をしそうになったら、ぶん殴ってでも止めてやるさ!』

 

 すると、リュートの背中にくっ付いて来たナビルーが、何時もの偉そうな口ぶりで宣った。大体彼の察した通りだから困る……。

 

『ギュアッ!』

「どうした、レウス?」

『おい、あれ見てみろよ!』

 

 レウスが鳴き、ナビルーが指差した方向――――――つまり、古龍の行く先を見ると、

 

「雲?」

 

 巨大な古龍もスッポリと呑み込んでしまいそうな、闇よりも黒い暗雲が立ち込めていた。雷雲なのか、バリバリと稲妻が迸っている。

 だが、さっきまであんな雲は無かった筈だが……?

 

 と、その時。

 

『クオォオオッ!?』

 

 突如として暗雲の中から馬鹿デカい鎌足が飛び出し、ボロボロの古龍をガッシリと捕らえた。

 

『ギカァァアアアァオッ!』

 

 そして、雲を突き抜け現れたるは、古龍を遥かに上回る巨躯を誇る甲虫種。遠目に見ても細部が確認出来る程に大きく、超巨大古龍にも迫る勢いであった。

 

「あれは……「アトラル・カ」か!?」

 

 その姿は閣蟷螂「アトラル・カ」によく似ているのだが、

 

「いや、色も大きさも違い過ぎる!」

『それに、アトラル・カが空を飛ぶなんて、聞いた事無いぞ!?』

 

 彼らの知る、閣螳螂とは大分違う。

 先ず通常種は金色の甲殻に青紫色の模様が付いているのだが、あの蟷螂は白金の甲殻に黄金のラインが描かれている。瞳の色は共通だが、心なしかこちらの方が赤みが強いようにも見える。他にも、胸郭の襟飾りの側面に複数の節足が発生し、腹部が山なりで撃龍槍のような突起が3対伸びているなど、細部の意匠もかなり異なる。

 さらに、通常種には存在しなかった巨大な翅が生えていて、バチバチと帯電しながら力強く飛んでいる。滑空ではなく、完全な飛翔だ。蟷螂では絶対に有り得ない。

 だが、やはり最大の相違点は、その大きさだろう。全長がジエン・モーランどころかゾラ・マグダラオスに匹敵する程の巨体であり、今し方捕らえた古龍が小魚に見える程の体格差である。

 そんな規格外の螳螂は、しかしてリュートたちを気にする素振りは無く、

 

『ギカァアアォォオ! ……グルァッ!』『カァッ……!』

「あ、あいつ……」「古龍を……」『食いやがった……!』

 

 目の前でバリバリと古龍を食べ始めた。肉を引き裂き、骨を噛み砕く様は、まさしく獲物を食い散らかす蟷螂に相応しい姿だ。

 

『――――――って、あれ見ろよ! 姿が変わっていく……!』

 

 その上、食った傍から変異を始め、襟飾りの後ろから大鎌を彷彿とさせる一本角が生え、脚や突起の形状がより鋭角的になった。古龍の力を取り込んだのだろう。

 まるで、噂に聞く白銀のバルファルクのようだ。

 

「どうする……?」

 

 目の前で起こっている信じ難い光景に、リュートが息を飲む。かつて黒い凶気を退けた彼でさえ、あのアトラル・カのようなナニカの姿は衝撃的だったようである。

 

「見守る訳にもいかないだろう。……とりあえず、威力偵察だけは試す!」

 

 それはシュヴァルも同様だが、こんな化け物を座して見過ごす訳にも行かないので、ちゃっかり持って来たライトボウガンで威嚇射撃を試みた。先ずは通常弾、次いで貫通弾、最後に徹甲榴弾を発射する。

 

 

 ――――――ガキガキガキガキィン!

 

 

『嘘だろ!?』

「徹甲榴弾が刺さりもしないとは……」

 

 しかし、傷一つ負わす事すら叶わず、全て甲殻に弾かれた。

 

「だったら、こっちも試す!」『ギャヴォッ!』『ギュァアアッ!』

 

 それならばと、こっちも何気に持って来たヘビィボウガンでリュートが狙撃し、レウスとレイアも火球で援護射撃する。

 

 

 ――――――バチィイイイン!

 

 

 だが、やはり弾かれてしまった。何か見えない壁が張り巡らされているようだ。

 

『クォァァァ……』

 

 すると、突然アトラル・カが急降下し、姿を晦ませた。

 

「逃げた!?」

『いや、何かヤバい! ヒゲがビリビリする! “加速”しろ、相棒!』

「………………!」

 

 そして、これまた何時の間にか帯電状態になっていたナビルーに促され、レウスとレイアを加速させた、その瞬間、

 

『ギコォォォアァアアアヴヴヴゥッ!』

「「うわっと!?」」『下から来たか!』

 

 雲海を突き破って、アトラル・カが襲い掛かって来た。ナビルーの言う通りにしなければ、今頃下から突き上げられていただろう。

 

『ギカァアアアアアッ!』

『ぐっ!?』「ナビルー!」

 

 さらに、アトラル・カの鎌が振るわれ、ナビルーの背中を掠めた。正確にはソニックブームが少し撫ぜたのだが、それだけで背骨や肋骨が露出する程の重傷を負ってしまった。

 

『オレは良い……! それより、アイツが触手みたいなので攻撃して来るぞ!』

「うぉぁっ!?」「化け物め!」

 

 しかし、休んでいる暇は無いようで、アトラル・カが腹部の撃龍槍のような突起を先端とした“電磁の触手”を伸ばしてきた。

 

 

 ――――――ビシュゥウウウウンッ!

 

 

 しかも、矛先から龍属性のビームを発射。雲海をかち割り、大地に十字架の光柱を築き上げた。あんな物を食らえば、弱点がどうこうではなく、粒子レベルで分解される。

 

「ナビルー、この事を、カムラの里に!」『……悪い! 相棒も無理はするなよ!』

 

 持ち合わせの回復薬で即死を免れたナビルーだが、これ以上の継戦は不可能と判断したリュートが彼に脱出を促す。ナビルーもそれは重々承知だったようで、即席パラシュートでレウスの背中から飛び降りた。無理をさせて悪いとは思うけれど、こんな重大情報を伝えずに未帰還となる訳にはいかない。

 

『ギカァァアアヴォゥウゥウウ!』

「この野郎!」「クソッタレが!」

 

 こうなれば、もはやナビルーが無事に逃げ延びる事を祈りつつ、撤退するのみ。

 だが、翼を畳み尻尾を高速振動させつつ先端から熱気を放つ事でバルファルク並みの加速をしているレウスやレイアでさえ、アトラル・カを撒く事が出来ない。単純に大きさが違い過ぎる。蟻が幾ら全速力で走ろうと、象の一歩から逃れる事が出来ないのと同じである。

 むろん、無抵抗で殺されるつもりは毛頭無いので、リュートもシュヴァルも反撃しているが、もちろん何の効果も無く、無駄弾でお茶を濁しつつ、光線を避けながら逃げるのが精一杯だった。

 そして、その無駄な抵抗も、やがては通じなくなるだろう。レウスとレイアの体力も無限では無いのだから。今の所はギリギリ避けているが、何発かは掠めているし、何時かは直撃する未来しか見えない。眼下に広がる無数の輝く十字架が“ここがお前の墓場だ”と言っているようにさえ思えた。

 

「……先に行け!」

「馬鹿、よせっ!」

 

 そんな暗いビジョンが頭を過ぎったからか、レウスの息が上がって来た事を肌で感じたからか、リュートはレウスと目配せすると、一気に反転、アトラル・カに突撃した。懸念していた事を、見事にやってくれやがった。

 

「ここから先は――――――うわっ!?」『ギュァア!?』

『ギゴォォォアヴヴヴヴッ!』『キカァァアアォォ!?』

 

 しかし、勇気を振り絞って玉砕しようとしたリュートの行く手を、新たな飛行物体が遮る。

 

「白銀の、バルファルク……!」

 

 雲の下から白銀のバルファルクが現れ、アトラル・カを突き上げたのだ。

 だが、助けに来てくれた訳ではあるまい。こいつもまた、リュートたちには目もくれず、アトラル・カと対峙した事からも、それが分かる。

 

「今の内に逃げるぞ、リュート!」「あ、ああ……」

 

 とは言え、チャンスである事には変わりなく、リュートたちは漸くアトラル・カの魔手を振り切った。

 

 

 ――――――ガン!

 

 

 安全圏まで退避した所で、リュートの頭に何かがぶつかる。シュヴァルが弾を一発ぶん投げたのである。

 

「二度とするな、馬鹿野郎……!」

 

 その声は震えており、表情こそ窺い知れないが、その姿は母親を失った時の彼を彷彿とさせた。

 

「……悪かった。もうしないよ」

 

 リュートは、そう答えるしかなかった。

 

『グヴヴウゥン!』『ゴヴルァッ!』

 

 一方、2人が退避した後も、アトラル・カとバルファルクは壮絶な空中戦を展開していた。

 先ずはアトラル・カが龍属性ビームを放つが、バルファルクに龍属性攻撃は殆ど効果が無い為、白銀の装甲に弾かれてしまう。

 しかし、お返しとばかりにバルファルクが口から光刃を発射したものの、単純に硬過ぎる白金の甲殻を傷付ける事は出来ず、互いに膠着状態となった。

 

『キカァアアヴォッ!』

 

 それならばと、物理的に貫通してやろうと、アトラル・カが触手を伸ばすが、

 

『ギゴォォアヴヴヴッ!』

 

 バルファルクは片翼だけを前に向けたかと思うと、円盤のように回転して撃龍槍を全て跳ね返し、そのままエッジの付いた翼槍でガリガリと体当たりをかました。

 

『ギガァアアアッ!』

 

 流石にこれは効いたようで、アトラル・カが悲鳴を上げた――――――のも束の間、襟飾りの上端が展開し、後ろの角と併せてエネルギーをチャージして、

 

 

 ――――――ビシャアアアアアアン!

 

 

『ゴヴァッ!?』

 

 ラージャンの気光ブレスと同じ、無属性の純然たる破滅の光を零距離で浴びせ掛ける事で、力尽くでバルファルクを吹き飛ばした。

 だが、バルファルクも黙ってやられはしない。

 

 

 ――――――ドギャルァアアアアアッ!

 

 

『ギガァアアヴォッ!?』

 

 奇しき赫耀たちも使っていた、両翼を合わせた龍気砲でアトラル・カに手痛いダメージを与える。

 これで戦いは仕切り直し……かと思われた、その時。

 

『ガヴォルァアアアアアアアッ!』

『ゴヴァォッ!?』『ギカァアア!?』

 

 ひっそりと戦いを見守っていた、新たな風神龍が不意打ちをかました。龍属性の通じないバルファルクは尻尾で叩き落し、硬いだけのアトラル・カには全力の龍属性ブレスを浴びせ掛け、見事に両者共に撃墜する。

 

『フォフォフォフォッ!』

 

 さらに、2つの脅威が離散した事を確認すると、風神龍は高笑いしながら姿を消した。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 その後、ハンターズギルドは百竜夜行の元凶たる古龍を「イブシマキヒコ」、砂原で目撃されたよく似た存在を「ナルハタタヒメ」と命名し――――――、

 

 帰還したライダー2人の意見により、ウケツケジョーの調べ上げた壁画や碑文を参考に、

 

 

☆白銀のバルファルクを、衰星龍(すいせいりゅう)「アトラファルク」

★白金のアトラル・カを、闇黒螳螂(あんこくとうろう)「ハバエナス」

 

 

 ……と、呼称する事となったのであった。




◆アトラル・カ(闇黒螳螂:ハバエナス)

 甲虫目閣螳螂亜目アトラル科に属する甲虫種。別名は「閣螳螂」。
 見た目は完全に黄金色のニセハナマオウカマキリ。ただし、翅が無く糸を吐くなど、当然ながら相違点も多い。
 モンハンXXのラスボスを務めた異形の甲虫種であり、本体の大きさこそ普通の大型モンスター程度だが、吐いた糸で瓦礫を組み合わせる事で「アトラル・ネセト」という巨大な龍型の機動要塞を造る能力を持ち、それ故人工物を求めて国や町を襲撃する事もある危険生物である。作中に登場した個体の築いた“巣”でさえ未完成の発展途上であり、放っておけば更なる脅威と化していただろう。
 ……と、この様に、本来のアトラル・カは巣がデカいだけで、本体は少し大きいだけの甲虫種に過ぎない筈なのだが、カムラの里周辺に出現した個体は体色が異なるばかりか、完全な飛翔能力とゾラ・マグダラオス並みの巨躯を誇り、その上ビーム兵器まで携えているなど、あまりにも異常な特性を有しており、ハンターズギルドは別種として扱う事を決定。
 壁画の伝承と併せて、蠅声為邪神(読み:サバエナスアシキカミ)を統べる覇王、「闇黒螳螂:ハバエナス」と呼称する事と相成った。


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閑話:すずめの戸締り

そシテ、日常の終ワリ。


 第3次百竜夜行より暫く。

 

「おお、無事であったか、編纂者殿!」

「ハイ、第3次百竜夜行にも間に合わず、遅くなってしまって申し訳ありませんッ!」

「構わん。これはカムラの里の問題。無事に帰還してくれただけでも有難いくらいだ」

「豪放磊落ですねぇッ!」

「ウム、よく言われる!」

「「ハッハッハッハッハッハッハッ!」」

 

 カムラの里にウケツケジョーが久し振りに帰還した。

 ……ハイハイ、アタシだよ。第3次百竜夜行後、お医者のゼンチさんから『お前、いい加減にしないとマジで死ぬニャ』という呆れ言葉と共に約1ヶ月の絶対安静を告げられたアヤメだよ。

 まぁ、そりゃそうだよね。冷静に考えたら、アタシあの場で即死しててもおかしくなかったもん。“アタシもやっぱりカムラ人なんだなぁ”としみじみと思ったものだ。ハバエナスもアトラファルクも、あの後は不気味なくらい姿を見せなかったし、もう1匹の風神龍(イブシマキヒコというらしい)も動向が掴めてないらしいから、有難く休ませて貰いましたとも。そうだよ、アタシってば、療養しに里帰りしたんじゃん。

 ――――――さて、それはそれとして、ウケツケジョーについて話そう。

 第3次百竜夜行の後、ユウタたちは程なくして帰って来たのだが、彼女はそのまま調査に奔走しており、今になってようやく帰還したのである。後にウツシも巻き込んで調べる辺り、結構重大な情報を掴んだようだ。ご苦労様ですこと。

 そして、満を持して本日、カムラの里へ戻って来た訳だが、ウケツケジョーは1度飯を食べた以外は休憩らしい物は取らず、そのまま里内会議を開いてしまった。ワーカーホリック過ぎませんかね。本人は「重大発見なんです!」と発表したくてウズウズしているので、問題無いのかもしれないけど。

 ちなみに、参加者は里長、ゴコク様、ウケツケジョー、ウツシ、シュヴァル、それと何故かアタシだ。帰りたいなぁ。リュートやナビルーは療養してるのに、何でアタシは強制参加なんだよ。全部ウツシのせいだ(暴論)!

 それはそれとして、はてさて、一体どんな重大事変を発表してくれる事やら。

 

「ハバエナスとアトラファルクの正体が分かりました!」

 

 いきなりぶっ込んできましたねぇ!?

 

「ほぅ、それは素晴らしいな!」

「でしょうッ!? もっと褒めてくれても良いんですよッ!?」

「ウム、大儀であった!」

「「ワッハッハッハッハッ!」」

 

 いや、笑ってないで話を先に進めてくれませんかね、里長とウケツケジョーさんや。

 

「……で、ハバエナスに関してですが、もぎ取られた巨大な翅を見付けましたッ!」

 

 ウツシも言ってたけど、本体は見付からず、巨大な翅だけが発見されたんだっけか。

 

「それは先の戦いのダメージで破損した、という事か?」

 

 当事者の片割れにしてライダー筆頭のシュヴァルが尋ねる。普通はそう判断するわよね。

 

「いえ、おそらく自分で抜いたんでしょうッ! どうやら彼女たちは“社会性”を持っているようですし、女王蟻がそうであるように、役割が済んだから破棄したに違いありませんッ!」

 

 だが、ウケツケジョーの答えはやはりぶっ飛んでいた。

 

『女王蟻が翅を抜く時……それはつまり、“繁殖”の態勢に入った、という事でゲコね?」

「その通りですッ! 姿を見せないのも、壁画にある通り、“兵隊カスト(せんぺい)”を増産しているからでしょうねッ!」

 

 ゴコク様の勘は妙に当たり易いから嫌なんだよ……。

 つーか、ハバエナスってアトラル・カの特殊個体なんじゃないのかよ。

 

「それで、ハバエナスの正体と言うのは?」

「――――――これはサンプルを基にした仮説でしかありませんが……あれは一種の“完成形”なんですッ!」

『話が見えんでゲコね。分かり易く言うと、どういう事なのでゲコ?』

 

 里長とゴコク様の質問に、ウケツケジョーにしては珍しく、一瞬だけ溜めて答える。

 

 

 

「あの巨体は、完全に一体化した(・・・・・・・・)「アトラル・ネセト」ですッ!」

 

 

 

 ……どういう事だってばよ?

 

「どういう事だってばよ、と言いたい顔ですね、相方ッ!」

「こっちに話題を振らないでくれる?」

「だけど「アトラル・ネセト」については知っているでしょうッ?」

「人の話聞けよ」

 

 いや、まぁ知ってるし、気になるから良いけどさ。

 

「あれでしょ? アトラル・カが瓦礫を糸で組み上げて造る、要塞みたいな巣の事でしょう?」

 

 そう、ちょっとデカいだけの甲虫種であるアトラル・カを、ハンターズギルドが古龍種や古龍種級生物並みのモンスターとして危険視する理由がここにある。

 アトラル・カは人工物を糸で組み合わせる事で「アトラル・ネセト」という巨大な要塞を築き上げる習性があり、その材料集めの一環として人口密集地を襲撃する事がある。只の瓦礫ならまだしも、撃龍槍まで取り込んで武器にしてくる為、並の大型モンスターとは比較にならないくらいに危険なモンスターなのである。

 さらに、蟲とは思えないくらいに知能が高く、材料の特性を理解しているばかりか、“こうされたら相手も嫌だろう”という事まで考えて攻めて来るので、ある意味古龍よりも厄介だ。古龍は基本的に人間を歯牙にも掛けないけど、アトラル・カはしっかりと相手を見定めて攻撃して来るからね。まさに知恵ある悪魔である。

 そんな特性からか、ギルドは過去に討伐した個体の持っていたアトラル・ネセトも未完成であるとし、もしも完成してしまえば手が付けられなくなるだろう、と考えているという。

 

「……じゃあ、あれがギルドが危惧していた、完成形なの?」

「あくまで1つの形でしかないのでしょうが、そう考えるべきかもしれませんッ! 何せ接着剤でしかない筈の糸に血管や神経のような物も見受けられましたし、おそらく本体のアトラル・カは心臓兼脳髄としてしか機能していないと思われますッ! つまり、ハバエナスとはアトラル・カとアトラル・ネセトが細胞レベルで融合した、“半機械生物”とでも言うべき存在なのですッ!」

「………………!」

 

 ウケツケジョーの言葉に、アタシは絶句した。皆も二の句が継げなくなった。それ程までに、衝撃的な調査結果だったからだ。

 

「……アトラファルクに関しては?」

「サンプルが少なくて断言は出来ませんが、奇しき赫耀の特性を見る限り、たぶん過去にマガラ種かネルギガンテを捕食し、自己進化した存在だと考えられますッ! ただし、本来在るべき姿ではない、完全に生態系の枠を外れてしまった存在なので、共存は不可能でしょうッ! 何せ彼らと違い、リミッターが一切無いですからねッ!」

 

 そして、ウケツケジョーは最後にこう締めくくる。

 

「――――――そして、稲妻を纏う奇しき赫耀や捕食された風神龍、その後の動向を鑑みて、ハバエナスもアトラファルクも完全態ではありませんッ! 壁画のように、風神・雷神、両方を取り込む事で真の力を発揮するのでしょう! だから、我々は消えたイブシマキヒコだけでなく、それを虎視眈々と狙う彼らの動きにも注目しなければなりませんッ! 時期は分かりませんが、確実に“最終戦争”とでも言うべき、三勢力による三つ巴が勃発するでしょうッ! どれが生き残っても我々に未来はありませんッ! それだけは絶対確実ですッ!」

 

 ……夢なら覚めて欲しい、切実に。




◆アトラファルク

 “悪しき赫耀の死兆星”の正体。天彗龍バルファルクの異常個体であり、過去にシャガルマガラを取り込み自己進化した存在である。ウイルス性の龍気で他生物を侵し、奇しき赫耀に書き換える能力を持つ。その白銀の装甲はあらゆる兵器が意味を成さず、風雷合一した彼が天より墜ちる時、世界は終わりを迎えるという。
 ちなみに、現在活動中の個体は2代目で、初代はハバエナスとの殺し合いにより生態系が完全崩壊する事を危惧したミラ系統の禁忌たちの手により討伐された……が、殺される前に次代を遺し、グラン・ミラオスを道連れにするなど、往生際の悪さも含めて相当な力を持っていた模様。それは2代目も然り……。
 


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ときめく家出の旅

夢も希望も無い話が続いていたノデ、たまにはハートフルな話を書こうかと思いマス。


 とある暗い晩。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 暗い森の中を、独りの少女が直走っていた。全身が傷だらけの泥まみれで、衣類もボロボロと、実に酷い有様になっている。息も完全に上がっているし、どう考えても限界である。

 だが、少女は足を止めない。少しでも立ち止まったら、終わりだと分かっているから。

 

 

 ――――――ガッ!

 

 

「あっ……!」

 

 しかし、世は諸行無常なり。どんなに努力しても、結果に繋がるとは限らない。むしろ、こうして無為に終わる事が殆どだ。

 そして、

 

「あ……あぁ……っ!」

 

 痛む脚に涙しながらも、思わず振り返ってしまった、その先には……、

 

『遊ぼう♪ 一緒に遊ぼうよ♪』

「いやぁあああああああああ!」

 

 闇が来ていた。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 ハ~イ、ボクだよ、アトラファルクに不意打ちされて気絶している間に第3次百竜夜行へ参加し損ねた、お間抜けな元ゴシャハギのユウタだよー。

 うーん、本当に悔しいね。古龍の襲撃を受けたとは言え、一大事に駆け付けられないなんて、恥さらしにも程がある。ゴシャハギらしくないボクでも、戦闘本能くらいはあるんだよ。

 

『グルヴゥ~』

『あぅー』

 

 おお、慰めてくれるのか、リベロ。

 でも君、確か第4砦の方で活躍したんだよね?

 何でもセイハクくんたちのピンチに駆け付けて、その命を救ったんだとか。

 さらに、百竜夜行に乗じて何かしらを成そうとしていたルナガロンを撃退し、その後に襲撃して来た奇しき赫耀のバルファルクも討伐したらしい。アヤメさんにも負けないどころか、最高に華があるやないか。ふざけやがってぇ!

 こういう時は、

 

『あそぼー』

「……あん? ああ何だ、ユウタかよ。……どうする、お前ら?」「良いっスよ!」「……リーダーがそう言うなら」「コミツもさんせい~♪」

 

 子供らしく皆と一緒に遊ぼう!

 皆もセイハクくんを中心に“狩りごっこ”するつもりだったみたいだし、丁度良かったかもね。

 

「やぁ! 今日はジンオウガ、行っておくかい!?」

 

 モンスター役は、通りすがりのウツシ教官。この人、モンスターの鳴き真似が得意というピンポイント過ぎる特技を持っているから、まさにハマリ役である。

 

『アヴォオオオオオオン! アォ――――――あたたたッ!?」『ピュイピュイ!』

 

 まぁ、そのせいでこうしてフクズクに突かれる訳だが。どうせ嬉しいんだろ?

 

「よし今だ、一斉に飛び掛かれ!」「「「ハーイ!」」」『がおー!』

「いや、あの、ちょ――――――そこはらめぇ!」

 

 それにしても、こうして遊んでいると、皆(ボクを含めて)子供なんだなぁ、と思う。

 セイハクくんは公然の秘密で一級のハンターだし、その取り巻きであるタイシくんとタイガくんも立派なハンター見習いで、コミツちゃんに至っては趣味でハンマーをやっているから勘違いしそうになるが、どの子もまだ10歳そこらなんだよね。他の子供たちも武器を扱う事ぐらいは出来るから、カムラの里には非戦闘員が存在しないとも言える。

 こんな年端も行かない子供たちが矢面に立たなければなならい現状を憂うべきなのか、将来有望過ぎて困るべきなのか。

 

「……ぃ、たっ!」

『あっ……』

 

 そんな下らない事を考えていたせいか、力加減を間違えてコミツちゃんを怪我させてしまった。幾らメガトン級のハンマーを振り回す怪力を誇る彼女とて、所詮は人間の子供。本当の鬼子に突っ掛かられて無事で済む筈がない。一瞬誰かに押されたような気がしたけど、怪我をさせた事に変わりはないので、言い訳の仕様が無くボクのせいである。

 

「おい、何してんだ!」

『ご、ごめぅ……』

 

 これにはセイハクくんも怒り心頭。コミツちゃんに惚れ込んでいる彼としては、例えごっこ遊びの結果だとしても許せないのだろう。それでも強い口調は最初だけで、後はぶっきら棒ながらも許してくれる、分かり易いガキ大将、それがセイハクくんという男だ。

 ただ、今日のセイハクくんは様子が違った。

 

「少しは考えて動けよ! お前は俺たちとは(・・・・・・・・)違うんだぞ(・・・・・)! 里の一大事にサボってた癖に、遊びだけは一丁前にやりやがって! ふざけてんのか、お前は!」

『………………!』

 

 思えば、今日の彼は最初から少し元気が無かった。何時もなら、声を掛けた時に「おう、お前も一緒に遊ぶか!」って言ってくれるのに、微妙に乗り気じゃなくて、他の子たちが元気付けようとしている感じだった。

 もしかしたら、第3次百竜夜行の最中、あるいはその前後に、ショックを受ける程の嫌な事があったのかもしれない。普段の事を考えると、完全に八つ当たりっぽいからね。

 

 

 

 ――――――パンッ!

 

 

「……いいすぎだよ、セイハクくん。ユウタくんにあやまって!」

「………………!」

「リ、リーダー、流石に今のは……」「……ちょっと酷いと思う」

「……、…………ッ!」

「セイハク。俺は無用な暴力を振るう為に、君に狩りの技を教えた訳ではないぞ」

「――――――ッ!」

 

 周りもそう思ったのか、怪我をした側であるコミツちゃんはセイハクくんの頬を張り、取り巻きコンビも引き気味に非難し、ウツシ教官は普段が嘘のような冷ややかな声で注意した。

 

『うぅーっ!』

「あっ……!」

 

 ただし、セイハクくんが謝罪する前に、ボクは泣きながら走り出してしまったのだが。

 ……ボクって、こんなに涙脆かったっけ?

 やっぱり、身体年齢に精神が引っ張られてるのかな。何と言うか、怒りと哀しさと悔しさを綯い交ぜにしたような、表現しようのない感情が爆発する感じ。そういう本心の吐露を抑制出来ないからこその子供なのだろう。

 

『あーうぅうっ!』

「えっと、どうかしましたか?」

 

 かくして、ボクは早々にごっこ遊びから一抜けし、代わりに集会所の受付に飛び込んだ。ミノトも困惑しているが、ボク自身の心が混沌としているので、軽く流して頂きたい。

 それよりクエストちょうだい、クエスト!

 今のモヤモヤした気持ちを晴らせるような、鬱屈した頭を冷やしてくれるような、クールでハイな奴をお願いします!

 

「……まぁ、何があったのかは分かりませんが、とりあえずこれなど如何でしょう?」

 

 そう言ってミノトさんが勧めて来たのは、【氷結の歌姫】というクエスト。何でも最近、寒冷群島でイソネミクニの亜種らしき個体が見付かったらしい。しかも、多数のフルフルを護衛役にしている為、倒すに倒せないのだとか。

 うん、絶対“アイツ”だな!

 

「……あ、ユウタ! ちょっと待っ――――――」

『あぅうううううっ!』「あーっと、行ってらっしゃいませ?」

 

 ちょっと遅れてセイハクくんが入り口の暖簾の向こうから顔を出したが、ボクは半ば意固地になって狩りへ出発した。

 何があったのかは知らないけど、ボクの気持ちも知らないで、好き放題言ってくれちゃって!

 暫く口なんて聞いてやらないんだから!

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 その日の午後。

 

「……という事があったんだよ」

「アンタが付いていながら、何をやってんのさ」

「いや、面目ない……」

 

 いきなりウツシが家に転がり込んで来たと思ったら、実にしょうもない話を聞かされた。

 ……ハイハイ、アタシだよ。先日ようやくドクターOKを貰った、療養中(笑)なハンター、アヤメだよ。

 さてはて、つい最近ウケツケジョーから明かされた衝撃の真実ゥに驚かされたばかりで、今度は何事かと慌ててみれば、何て事は無い、単なる子供の喧嘩だった。苛めとかじゃないんだから、そんなの放っておきなよ、まったく……。

 

「――――――実を言うと、セイハクくんは結構追い詰められているんだよ」

 

 すると、ウツシにしては珍しい、静かなトーンで話し出した。真面目な時は真剣になる彼だが、こうしてシュンとしているのは初めて見た気がする。

 

「どういう事よ?」

「……数日前、彼の友人が死んだ」

「は? タイシもタイガも生きてるじゃん」

「いや、“人間の”ではない。所謂“オトモダチ”さ」

「ああ、例のプケプケたちか……」

 

 直接見た訳ではないが、コミツちゃん経由で聞いた事はある。何でも、大社跡に棲む特異なプケプケと、その彼女であるアルビノ個体と、結構仲良くやってるんだとか。

 ――――――じゃあ、そのどちらかが死んだのか?

 

「アルビノ個体の方だよ。名前は「ケプカ」というらしい」

「………………」

 

 名前を付けるぐらいに仲が良いんじゃ、そりゃあ哀しいよな。アタシもリベロやヨッちゃんが死んだら泣くと思うし。

 

「……聞かない方が良いかもしれないけど、どうして死んだんだ?」

「アトラファルクの襲撃を受けたんだそうだ。目的は別にあったようだが、物のついでに殺されたらしい。その場にはセイハクくんも、特異個体のプケプケも、彼らの育ての親らしいオオナズチも居たそうだが、殆ど手も足も出なかったそうだ。それがショックだったんだろうね」

 

 自分の無力を嘆いた、って事か。男の子なら、よくある話である。女にもあるけどね。

 

「それで、アタシにどうしろってんだよ?」

 

 だが、そうなると話が見えない。コイツはアタシに何を求めてやって来たんだ?

 

「……彼を説得して欲しい。もう一度、セイハクくんと話をするように」

「大人が出て行くとややこしくなると思うけど?」

「そうだね。特に俺が行ったら、変に拗れるかもしれん。しかし、今はそうも言っていられない。聞いてないか、例の話?」

「何の話だ?」

「“闇隠し”だよ」

「闇隠し? 何だそりゃ?」

「ここ最近の話なんだがね――――――」

 

 そして、ウツシは話し出す。

 何らや、一部の子供たちの様子がおかしいらしい。異変と言うには些細だが、どうにも何かが違う。ある日、夜になっても帰って来ないと思ったら、別の日にひょっこり帰って来て、そこから人が変わり始めたのだという。そんな子供が10を優に超え、そればかりか、やがて子供の家族もおかしくなり始めるのだとか。

 さらに、その話を聞いたクスネが『大ババ様の言ってた、「闇隠し」みたいだぬー』と言った事から、里長を含む上層部もそう呼ぶようになったらしい。

 竜人族のゴコク様さえ知らない情報を何でアイルーが知っているのかは不明だが、考えても仕方あるまい。現に事例が幾つも上がっているのだから。

 

「その子らについては、調べたの?」

「ああ。人には言えない方法でね。ただ、少なくとも“人間”としての違和感はなかったよ。“人間性”には若干の違いが見られるけどね」

「人には言えない方法って……」

 

 何をやったんだ貴様。

 いや、それよりも“人間性”が違っているって、どういう事だ?

 

「感情が薄れているというか、人間味に欠けるというか、とにかく変なんだ。一番驚いたのは、タイガくんかな。前は虫も殺せぬお人好しだったのに、この前は普通に蟻を踏み付けてたし、ついさっきもセイハクくんにもはっきりと意見を言っている。情けない事で有名な彼とは思えない所業だ」

「お前、何気に酷いな……」

 

 しかし、確かにそれは変な気もする。心変わりしたと言えばそれまでの変化だけど。

 

「――――――「闇隠し」に遭ったと思われる子供は、必ず1度は独りになる時間があった。ユウタくん程の実力者が後れを取るとは思えないが、念の為にな。俺はこの後、風神龍の動向調査に向かわねばならないし、何よりセイハクくんまでもがいじけて1人狩りに向かってしまった」

「だから猫の手も借りたい、って事ね」

「まぁ、そういう事だ。頼む! キミのおニャン子ハンドを貸してくれ!」

「死んでくれないかなぁ!?」

 

 ……仕方ないわねぇ。

 

「分かったわよ」

「恩に着る! では、俺は先に行かせて貰おうぞ!」

 

 そう言って、ウツシは颯爽と跳び去ってしまった。まったく、アイツは……。

 

「さーて、それじゃあ――――――」

「あのー、アヤメさん、居るかい?」

 

 と、今度は別の来客が。織物屋のミドリさんだ。

 

「どうかしましたか?」

「いや、あのね……ウチの娘が来てないかい?」

「ヒスイちゃんですか?」

「ええ。てっきりセイハクくんと遊んでるのかと思ったら、会って無いって言うし。ほら、最近変な噂が立ってるでしょ? だから、心配で……」

「心当たりは?」

「何時もなら大社跡の方に行くんだけど――――――そう言えば、アカネさん所の子も、「呼ばれたから」って言ったきり、もう三日も帰ってないって……」

「………………」

 

 何だ、これは? 何が起きている?

 

「……分かりました。アタシもユウタを連れ戻しに行かなきゃいけないんで、一緒に探してみます」

「そうかい、よろしく頼むよ! ……この脚さえ無事なら、自分で行くんだけどね」

 

 ミドリさんは過去にモンスターとの戦いで左脚を失っている。夫であるテルオさんもその時に失い、それ以来ヒスイちゃんと2人2脚で暮らして来た。だからこそ、アタシなんかに頼みに来たのだろう。正直アタシも手一杯だけど、断る気にはなれない。

 それに、何だか嫌な予感がする。ゴコク様には心の中でああ言ったけど、アタシの嫌な予感も結構当たるんだよね。

 

 ……そう、膝に矢を受けた、あの日みたいにね。

 

「さてと、それじゃあ改めまして」

 

 ユウタ探しの旅に出るか。どうせ寒冷群島の方でしょ。

 ま、先に大社跡の方へ行ってみるけどね。もしかしたらヒスイちゃんが見付かるかもしれないし。




◆闇隠し

 クスネが大ババ様から伝え聞いた話。大ババ様がまだまだ小さい頃、彼女の曽祖父から寝る前に読み聞かせられたそうだが、昔とある村では夕方まで遊んでいた子供が数日間居なくなり、戻って来ると人が変わったように冷たくなるという、奇妙な事件が続いたらしい。しかも、その家族までもが段々おかしくなり始め、気付けば村中の者が何処か“人間味”を失ってしまったのだという。
 何時までも遊んでばかりいる子供たちに言い聞かせる“躾け”のような物であり、大分脚色されているが、その話は紛れもない事実なのだそうである。



 ――――――そして、件の村は“人間”が誰も居なくなって滅びたらしい。


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君の命を捕まえに

『ボルフゥッ!』

 

 何か行き倒れのボルボロスを助けてしまった(汗)。

 ……ハ~イ、ボクだよ。悔し紛れにイソネミクニ亜種を狩りに寒冷群島へやって来た、元ゴシャハギのユウタだよ~。

 さて、来て早々なんだけど、何なのこれ?

 クエスト開始と意気込んだら、何か凍死し掛けてるボルボロスが居て、このまま見捨てるのもアレだし、仕方ないから介抱してあげたんだけど……何でボルボロスがこんな寒冷地に居るんだろうか。乾燥しているのは同じとは言え、溶岩地帯とでは気温の差が有り過ぎる。砂漠地帯に適応した生物であれば、普通なら近寄りもしない場所だ。

 

『ボルルル』

 

 すると、火石コロガシと回復薬により復活したボルボロスが、その辺の枝を前足で器用に掴むと、これまた器用に画を描き始めた。しかも、意外と上手い。

 

『グルヴォッ!』

 

 これにはリベロもビックリですよ。

 

『あぅー』

 

 ……描かれているのは、溶岩洞、ディアブロスの番い、ロアルドロス、バサルモス、リオ夫婦、ラージャン、そしてボルボロス。

 なるほど、普段は溶岩洞の水場で暮らしていて、新天地を求めて寒冷群島に通い詰めているのか。そう言えば、ボルボロスの亜種って氷砕竜っていうらしいね。だからって凍死し掛けてるようじゃ、本末転倒だと思うけど。

 いや、でも考えようによっては、ボルボロスが寒冷群島に足を踏み入れられている時点で、大分場慣れしているって事でもあるのか。環境の変化には急に対応するのは不可能に近いから、案外こうしてギリギリを見極めつつ身体を慣らしていくのは、案外理に適っているのかもしれない。今回は見極めに失敗したようだが。

 ――――――つーか、ちょっと待て。溶岩洞に暮らしているディアブロスって、もしかして風の噂に聞くあの変わり種の事か?

 なら、今度紹介して貰わなきゃ。1度で良いから、会ってみたかったんだよねー。

 

『ばいばーい』『グヴォッ!』

『ボルァアアアッ!』

 

 とりあえず、別の機会に顔合わせする約束をしてから、ボルボロスと別れた。早く亜種に成れると良いね。

 さて、奇妙な縁を結んだせいで大分時間を食っちゃったけど、本腰を入れて狩りに臨もう。頼むよ、リベロ!

 そして、前回奴と初対面した洞窟の入り口がある、エリア10に辿り着いたのだが、

 

「わきゃーっ!」

『キキキキッ!』『ホヴァアアッ!』『ホォオオオッ!』

 

 いきなり修羅場に出くわした。イソネミクニ亜種とフルフル2体(通常種と亜種の紅白コンビ)に、1人の少女が襲われていたのである。これはいけない。

 

『ヴォオオオオッ!』『グルヴォオオオッ!』

 

 という事で、早速妨害してみた。リベロの氷ブレスがフルフル亜種に直撃し、驚くフルフルにはボクの二連斬りがヒットする。

 

『ヴォオオヴッ!』

『ギキィイイイ!?』

 

 さらに、唯一冷静に氷ブレスを放とうとしていたイソネミクニ亜種に対して、ボクは両方の大剣を投げ付け、怯んだ隙に翔蟲を柄縁に差し向けて、パチンコ玉の要領で急接近。そのまま鬼人空舞に繋げ、滅多切りにしてやった。

 

『コァアアアアアア!』『『ホヴォオオオッ!』』

 

 しかし、何時までもボクたちのターンとは行かない。腐ってもフルフルが2体も居るし、イソネミクニは経験を重ねた上位個体だ。放電と扇状氷ブレスが反撃として放たれる。

 

『コォオオッ!』『ヴォオオッ!』

 

 だが、こっちもそう簡単には殺られないよ。リベロの氷ブレスでイソネミクニ亜種のブレスを一部相殺し、放電網は朧翔けによる見極めで切り抜け、イソネミクニ亜種へ立ち向かう。

 

『キュァアアアッ!』『グゥッ……!』

 

 と、ジャンプ斬りを食らわせようとした瞬間、イソネミクニ亜種が跳ねるように尻尾で薙ぎ払い、単発の氷ブレスで反撃して来た。流石にこれは避け切れず、被弾して氷やられになってしまう。

 

『コキャアアアアアアアッ!』

『グルルルッ!』『ヴォッ!』

 

 そして、イソネミクニ亜種は続け様に横薙ぎの直線氷ブレスを繰り出して来たのだが、それは割り込んだリベロが盾になってくれたので、直撃はしなかったものの、これで全員が氷やられ状態になった。ちょっとマズいかもしれない。

 

『『ホォオオッ!』』

『ベホマラーッ!?』

 

 その上、背後から紅白のフルフルが電撃弾を放って来て、真面に直撃してしまい、麻痺状態に陥った。ヤバいヤバいヤバい、これは非常にヤバいよーッ!

 

『グルヴォッ!』『ホイミッ!』

 

 痛い……けど、ナイス尻尾薙ぎ払いだ、リベロ。

 

『『グヴォオオオオオッ!』』

 

 さらに、そのままリベロにライド・オン。ホバリングでフルフル2体の後ろを取り、氷ブレスで怯ませ、直ぐ様ダイブアタックをかまして、イソネミクニ亜種の方へ吹っ飛ばした。イソネミクニ亜種は咄嗟に回避したが、続くリベロの跳躍ダイブまでは避け切れず、もんどり打って倒れ込む。

 

『ギギュィイイイイイイヴヴヴヴヴッ!』

 

 しかし、怒り状態になる事で、無理矢理に復活。猛烈な勢いで攻勢に転じて来た。裂傷状態に陥らせる髪棘、フリーズドライ突進、クルッと振り返ってローリング跳躍ダイブを繰り出して来る。

 

『グヴォオオオッ!』

『ギギャアアアッ!?』

 

 だが、既に通常種だった頃の戦いを記憶していたボクには通じない。棘と突進は転がって回避して、跳躍ダイブはガードタックルで迎撃。撃ち落とした所に、真・溜め斬りを5連撃で叩き込んだ。これぞ大剣の双剣だからこそ成せる技よぉっ!

 

『キキィィィ……ッ!』

 

 それでもイソネミクニ亜種は瀕死にも討伐にも至らず、氷ブレスを煙幕代わりにして、さっさと逃げ出した。紅白のフルフルたちも後に続く。前回の時よりも、ずっと強固な共生関係を結んでいるようである。

 ……このままだとクエスト失敗だけど、ま、良いか。

 

「うぅぅん……」

 

 この子が助かったからね。

 

『なまえ~?』

「わたし? わたし、ルカ!」

 

 へぇ、ルカちゃんって言うのか。可愛い名前だね!

 

「助けてくれてありがとー! ねぇねぇ、一緒に遊ぼ~?」

 

 えっ、良いの?

 なら、せかっくだから、遊んじゃおう!

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 ――――――大社跡、エリア9付近。

 

「これは……」

 

 はいはい、アタシだよ。ちょっと嫌な予感がして、調査に出向いた上位ハンター、アヤメだよ。

 いや、それは良いとして……これは一体、何だ?

 

「抜け殻? それに、これは……」

 

 廃墟の陰に、包み隠すように脱ぎ捨てられた、何かの抜け殻。大きさは小型モンスター程度であり、甲虫種であれば脱皮するくらい珍しくも無いが、問題はその周りに転がっている物(・・・・・・・・・・・)

 

「子供の……骨……?」

 

 それは、バラバラに砕けた、子供の白骨死体だった。色合いからして時間はそう経っていないようだが、肉や皮は一切残っておらず、骨髄すら抜き取られている。

 まるで、骨の髄まで(・・・・・)しゃぶり尽された(・・・・・・・・)ように。

 

「こいつに、食われたのか? じゃあ、抜け殻の中身は、何処へ行った?」

 

 と、その時。

 

「……何ッ、霧が!?」

 

 急に霧が立ち込め、

 

『ホォオオォン……』

「オ、オオナズチ!?」

 

 霞龍オオナズチが姿を現した。身体中の痛々しい傷跡を見るに、ウツシの話していた、プケプケを育てた変わり種の個体だろう。

 しかし、そうだとしたら、一体何故アタシの前に姿を現したんだ?

 

『……ペロ!』

「うわぉっ!?」

 

 すると、オオナズチが突然舌を伸ばして来た。

 

『………………』

 

 しかも、直ぐに姿を消してしまった。いやいやいや、本当に一体何なんだよ……?

 

「いや、これは……」

 

 舌で舐められたアタシの手の内に、何かが収められている。開いてみれば、握らされていたのは、服の切れ端。まさか、これは……!

 

「………………」

 

 もしかして、オオナズチは“これ”を渡しに来たのか?

 それでも意味不明な事に変わりは無いが、そんな事を気にしている場合ではない。

 

「急がなくちゃ!」

 

 アタシは直ぐ様カムラの里にトンボ返りし、“証拠品”を渡してから寒冷群島へ向かった。




◆イソネミクニ亜種

 海竜目海竜亜目人魚竜下目イソネミクニ科に属する海竜種、イソネミクニの亜種。別名は「氷人魚竜」。
 通常種と違い、氷属性のブレスを吐いて来る。動きはより俊敏となり、自らの冷気で凍らせた地面を滑走して襲い掛かって来る。正直、耐性上げれば雑魚助な通常種とは比べ物にならないくらいに強い。
 今作の個体は、最初に出遭ったイソネミクニが変貌した物。自らを退けたユウタとアヤメの事をライバル視しており、百竜夜行に出張ってまで戦力を補強した……が、結局辛酸を舐めさせられた。
 ……ちなみに、今回初めにエリア10で行っていたのは、狩りではなく“防衛”である。


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闇が来た

心温まるお話ヲ、ドウゾ。


『わーい』「いぇーい」

 

 馬鹿になっちゃう~♪

 ハァ~イ、ボクだよ、セイハクくんと喧嘩して、クエストにも失敗しちゃった、負けた雪鬼ユウタだよ~♪

 さて、もう何もかもどうでも良くなっちゃったから、イソネミクニ亜種たちの魔手から救った女の子、ルカちゃんと思い切り遊んでいる。今は鬼ごっこの最中だ。何故かルカちゃんが鬼役になりたがっていたけど、そこは断固として譲らなかった。雪鬼の名が廃るからね。

 

『たっちー!』「あだちー!」

 

 ルカちゃんの、ここにタッチ♪

 ……それにしても、ルカちゃん、割と身体能力高いなぁ。結構長い時間ボクから逃げ続けてたし、勢い余ったタッチにも余裕で耐えてるし。カムラの皆と遊ぶのは楽しいけど、こうして思い切り力を解放するのも良いよねー。

 

『グルヴ……』

 

 そんな目で見るなよリベロ……後で遊んであげるから。

 

「次は何する~?」

『かくれんぼ!』

「じゃあ鬼は……」

『ぼくー』

「やっぱりー」

 

 という事で、次はかくれんぼ。もちろん、鬼はボクである。譲らないよ~。

 

『いーち、じゅう、ひゃーく……』

「飛ばし過ぎー」

 

 カササっと隠れる音。さーて、何処に隠れてるのかな~?

 

 

 ――――――バァッ!

 

 

『わーお!』

「きゃー!」

 

 ズルい、そっちから捕まえに来るなんて!

 でも、やっぱり楽しいなぁ。……帰って、もう1度ちゃんと謝れば、許してくれるかなぁ。

 

「……どうしたの?」

『うーぅん』

 

 何でもない、とは言えない。

 ……里の皆は、良い人だ。それは間違いない。だけど、

 

 

 

 ――――――お前は俺たちとは違うんだぞ!

 

 

 

 セイハクくんの言う通り、ボクは皆とは違う。元がゴシャハギだし、身体能力の差は歴然である。どんなに皆が優しくても、フィジカルの違いはどうしようもない。本当の意味での喧嘩や遊びは、同レベルでしか成立しないのだから……。

 

「………………」

 

 すると、ルカちゃんが背後からそっと抱き締めてきて、

 

「トモダチ♪」

『……うん』

 

 そう言ってくれた。優しい子だね。この子なら全力で遊んでも問題無いし、ここだけの関係とは言わず、こちらからもお願いして――――――、

 

「ユウタ!」『ちゃま!』

 

 と、聞き慣れた凛とした声。視線を合わせれば、何故かアヤメさん(とヨッちゃん)が立っていた。

 

 

 グレネードリボルバーの銃口をこちらに向けて。

 

 

 ……え、何? 一緒にサバゲーでもする気なの? その割には、装備も表情も本気(マジ)なんですけど?

 

「ユウタ、その子は?」

『あぅー』

 

 ああ、そうか。ボクは本来クエストに出掛けてる筈だから、顔も知らない女の子とイチャイチャしてて怒ってるのか。スイマセン、真面目に遣ります。失敗したけど。

 

『トモダチ!』

「ルカぁ~♪」

 

 あ、自己紹介ありがとね。そうそう、新しいオトモダチだよ~♪

 

「そうなの……」

 

 しかし、名前を聞いた後にも関わらず、アヤメさんは表情も態勢も崩さず、もう1度訊ねた。

 

「……それじゃあヒスイちゃん(・・・・・・・・・・・)お前の本当の名前(・・・・・・・・)を教えて貰おうか(・・・・・・・・)

『えっ?』

 

 そして。

 

 

 

「アトラル・カ~♪』

 

 

 

 ルカちゃんの笑顔が、2つに割れた。

 

『……キシャアアアアアアッ!』

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『グルヴヴヴゥゥッ!』

『あああああああっ!』

 

 噴き上がる血飛沫。響く悲鳴。

 折り畳んでいたであろう身体を一瞬にして展開した、ヒスイちゃんだった物……ハバエナスの手下であるアトラル・カ異常個体が、ユウタの両腕をガッシリと鎌で押さえ付けた上で、頸筋に食いついたのだ。

 こいつ、言い逃れが出来ないと悟った途端、開き直って殺しに掛かりやがった!

 

「ちくしょうがぁあああっ!」

 

 アヤメ(アタシ)は力の限り叫び、徹甲榴弾を速射でブチかました。本来なら通常弾で怯ませる予定だったが、こうなっては仕方ない。ユウタにもダメージが入るけど、こうする他なかった。そうでなきゃ、今頃は頸を食い千切られている。

 ともかく、ユウタはアトラル・カの魔鎌から解放された。今の内に――――――、

 

『オギャヴヴヴヴヴッ!』

 

 だが、アトラル・カは何事も無いかの如く、赤ん坊のような声を出しながら、即座に復活。

 

『好きすきスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキィイイイイッ!』

『あ……ぅ……ぁあ……ッ!』

『トモダチ、ダイスキ、アイシテルゥ! オギャヴウウウウウウウウァアアアッ!』

『うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!』

 

 世にも恐ろしい友好宣言を為した。

 それを間近で聞いてしまったユウタは、泣いて、鳴いて、哭き叫んだ。

 ……前に、奇しき赫耀は化け物ではなく兵器だと言ったな。

 こいつもまた、化け物ですらない。

 

 

 ――――――こいつらは、悪魔だ!

 

 

「やめろ! それ以上、ユウタを壊すなぁっ!」

 

 これ以上は聞くにも見るにも堪えないと、アタシは斬裂弾を放ったが、その殆どが弾かれてしまう。

 

《ガァァアギィイイイングゥゥヴヴヴヴ!》

 

 さらに、周囲の残骸を糸で寄せ集め、即席のアトラル・ネセトを形成。メカメカしくも生々しいゴシャハギの姿となって、未だに立ち直れないユウタに襲い掛かる。

 

『オチャマァアアアアッ!』《コァアォオオン!?》

 

 しかし、それは割り込んだヨッちゃんが四つ身の姿勢で抑え込む。彼女はまだオタマだが、既に最小金冠のヨツミワドウの成体ぐらいには大きくなっているので、どうにかアトラル・ネセトの巨体を押さえる事が出来た。

 

『グルヴォオオオオッ!』《ガガギギガガ……!》

 

 そして、怒り狂ったリベロが横から体当たりをかまし、アトラル・ネセトの義骸ボディを粉々に粉砕した。

 

『オギャヴヴヴヴッ!』

 

 だが、アトラル・カ本体は無事であり、しかも翅まで持っているようで、今度は空中からユウタ目掛けて鎌を振るう。

 ……そんな事、許すと思ってんのか!

 

「こっちだぁ!」

 

 アタシは蜻蛉返りで急降下して来たアトラル・カの目の前を翔蟲で過ぎった。エンエンクのフェロモンを纏った状態で。

 

『オギャアアアアアッ!』

 

 案の定、アトラル・カは興味をこちらに向けて、追い縋り始めた。

 

『トモダチ、ゴチソウ、ダイシンユウゥヴヴヴヴッ♪』

 

 悍ましい言葉と共に。そういう台詞はな、涎を垂らしながら言うもんじゃないんだよ!

 

『アブヴゥウウウウウウウ!』

「この悪魔がぁあああああ!」

 

 アタシは、とにかく逃げ続けた。翔蟲や壁走りを限界まで駆使して。少しでも、ユウタから引き離す為に。背後から飛んで来るプラズマ弾(鎌同士を祈るように合わせて発射している)が氷海を割り、水飛沫を上げる。フルフルの物とよく似たあれを食らえば、麻痺状態に追い込まれ、そのままジ・エンドとなるだろう。

 さらに、生きたまま生皮を剥がれて、食い殺されるのである。

 

「あっ……ぐぅっ!?」

 

 そして、エリア3まで引き離した所で、その時は来た。飲んでいた強走薬と体力が切れたと同時にプラズマ弾が直撃し、麻痺状態になってしまった。

 

『トモダチィイイイイイッ!』

「く、そ……ぉおお……っ!」

 

 アトラル・カの恐ろしい大口が迫る。よく見ると、歯にふやけた人間の眼球が引っ掛かっていた。きっと、ヒスイちゃんの物であろう。アタシも今から、ああなるのだ。

 ……チクショウ!

 

 

 ――――――ピィイイイイイイイッ!

 

 

 と、その時。

 

『ボルァッ!』『オギャァッ!?』

 

 突如、霜焼け気味なボルボロスが横合いから突っ込んできて、アトラル・カを捕食した。徹甲榴弾でも死なないボディと言えど、所詮は子供サイズ(イズチと同レベル)。蓄積したダメージも相俟って、大型モンスターの不意打ちには甲殻も耐えきれず、あっさりと噛み砕かれてしまった。

 

『タスケテ、ユウタクン!』

「ふざけるなよ、貴様ぁ!」

 

 そんな断末魔があるか。最後の最期まで、ふざけたヤロウだ。

 

『ボルッフゥ……!』

 

 食べ終えたボルボロスは、満足気にゲップをすると、何処かへと去って行った。行儀悪いな。

 とにもかくにも、脅威は取り除かれた。しかし――――――、

 

『うぅ……ぅ……』

「ユウタ……」

 

 這う這うの体で戻ってみると、ユウタが嗚咽を漏らしていた。

 

『トモ、ダチ……おもってたの……ボク、だけ……!』

 

 さらに、出会ってから初となる、意味の通じる長文も。……こんな形で聞きたくなんて、無かったよ。

 

「………………!」

 

 こんな時、どうすれば良いのか、分からない。

 だから、黙ってユウタを抱き締めた。彼の身体は、極寒の海よりも冷たく、震えていた。

 

『うぁあああああああああああああああああああああああああああああん!』

 

 ユウタの慟哭が、寒冷群島に鳴り響く。

 

『ちゃま……』『グルヴ……』

 

 そんなユウタに、ヨッちゃんとリベロが慰めるように擦り寄る。

 

『キキキ……』『『ホヴォ……』』

 

 それを洞窟の陰から見ていたイソネミクニ亜種と紅白のフルフルは、何もせずに奥へ引っ込んだ。

 

『ゲコォ……』

 

 沖合では、騒ぎを聞きつけたらしいヨツミワドウが1度だけ顔を覗かせたものの、何とも言えない表情を浮かべた後、イソネミクニ亜種たちと同じように姿を晦ませた。

 そして、寒冷群島にはアタシたちだけとなった。

 

 他にはもう、誰も居ない……。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 その後、意気消沈したまま、アタシたちはカムラの里へ帰還したのだが、

 

「ああああっ、ヒスイぃッ!」

「どうしてなんだよぉ……!」

 

 そこには何時もの活気など、まるで無かった。たたら場前の広場で、僅かばかりに残った遺留品を胸に、泣き叫ぶ人たちが大勢いる。皆、アトラル・カに家族を殺された被害者だろう。何て救いの無い光景だ。

 

「………………」

 

 さらに、その中には、セイハクやタイシ、コミツちゃん、それからウツシの姿が。

 

「あれ……?」

 

 何だろう、何かが足りないような気がする。

 

「なぁ、ウツシ」

「……何だい?」

 

 話し掛けてみると、ウツシは憔悴しきった顔と声で答えた。こんな姿、今まで見た事がない。

 それでも、アタシは思わず聞いてしまった。アタシ自身も、余裕が無かったから。

 

「タイガはどうした?」

「――――――今は聞かないでくれ、頼む」

 

 ……その言葉だけで、充分だった。

 

 

 

 そして、数日後、タイガを含む20人あまりの住民が喰い替えられていて、その内の半数近くを取り逃がした事が、里長から伝えられた。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 答えるな、闇が来るぞ。

 振り返るな、闇に食われるぞ。

 

『キミ、誰ぇ?』『アタシ、ルカ♪』『ボクと“トモダチ”になろうよ♪』

 

『アトラル・カ、トモダチ、ダイスキィ♪ きゃはははははははははは!』




◆サバエナス

 アトラル・カ異常個体、ハバエナスのワーカーに相当する小型モンスター。別名は「悪螳螂」。姿形はアトラル・カそっくりだが、こちらには翅が有り、発電能力も有している。
 最大の特徴は、殺した人間の生皮を癒着し一体化した上で身体を折り畳む事により、人間の姿に化けられる事。この能力によりコミュニティに紛れ込み、内部から崩壊させる事で、事前にハバエナスの脅威を取り除く事が役目である。
 ちなみに、子供を含む親族に化けるのは“その方が相手は躊躇う”と知っているから。
 ただし、彼女らはあくまで真社会性の蟲である為、子供を相手にすると躊躇する事は知っていても、“どうして躊躇うのか”は全く理解していない。「何か知らんけど、この姿なら敵が油断してくれるから、これで行ったろ」ぐらいにしか考えていないのだ。


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最終話《序》:甘き死よ、来たれ

メル・ゼナが倒せな~イ。


 見た事も行った事もない、廃城の広場にて。

 

《覚悟は良いかしら?》

 

 またこの子か。一体何なんだ、君は。

 

《悪しき赫耀の死兆星から生き延び、人生を謳歌しているキミなら、もしかしたら勝てるかもね。負けたら人生、それまでだけど》

 

 「勝つ」って……アトラファルクにじゃなくて?

 

《さぁねぇ。どちらに転ぶのか、それは貴方次第。でも、もし勝てた時は、そこへおいでなさい。その時までは開けないようになってるから、大事に取っておくのよ》

 

 ――――――それじゃあ、また何時か。

 そう言って、白い女の子は忽然と消えた。天空に渦巻く異世界への扉が、今か今かと口を開いている。

 そして、

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『………………!』

 

 そして、ボクは目を覚ました。

 ……ああ、うん、ボクだよ。元ゴシャハギの、ユウタだよ。

 

「………………」

 

 隣にはアヤメさん。一晩中、ボクを抱き締めてくれていたらしい。おかげで安心して眠る事が出来た。泣き疲れただけかもしれないが……。

 そう、ボクは寒冷群島での一件後、ずっと泣き続けていた。それこそ、三日三晩くらい。最初の1日は眠気どころか食欲すら湧かず、次の日には涙も枯れ果てて空泣きとなり、昨日は完全に虚無っていた。ああ、そうか、そうだったのか……ボクは所詮、人間じゃないんだってね。

 しかし、どう思おうと、身体には限界が訪れる。昨夕、遂に座っている事さえ出来ず、眼を開けたまま横倒しになってしまった。

 眠らなければ死ぬ。だけど、心がそれを許さない。思い知らされた種族の差が、ボクを絶望の底へ叩き落していたからだ。身体が人間でも、ロジックはゴシャハギだった頃と大差なく、それは絶対に覆らないと。「人間ごっこ」は楽しかったが、結局はごっこ遊びでしかなかったのである。

 だけど、アヤメさんに抱き締められたら、何故か全てがどうでも良くなって、そのまま眠りに落ちてしまった。どうしてなのかは、やっぱり目覚めた今も分からない。ボクは彼女をどう捉えているのだろうか?

 だが、現実は何処までも残酷で、時間とは待ってくれない物だ。

 

 

 ――――――カン、カン、カン!

 

 

 目覚めと同時に、非常警鐘が鳴る。あのリズムは大規模な百竜夜行の発生を報せる物。つまり、第4次「百竜夜行」の勃発を意味している。

 

「アヤメ、居るかい!?」

 

 さらに、何処からともなく不法侵入して来るウツシ教官。今更だけど、忍者かアンタは。

 

「……ッ、ウツシ!? 急に入って来――――――いや、この音は、まさか!?」

「そのまさかだ。第4次百竜夜行……否、それ以上の――――――うぐっ!」

「おい!?」

 

 と、寝耳に水を食らったアヤメさんに事情を説明しようとしたウツシ教官が、膝から崩れ落ちる。よく見ると、全身が傷だらけで、立っているのが奇跡という状態だった。一体何があったのか。

 

「お前、その傷は……!?」

「任務中に、ヘマをしただけさ。それより、早く里長の下へ行け。……これを頼む!」

「おい、おいウツシ!? くそっ、何だってのよ!」

 

 そして、何かの巻物をアヤメさんに託すと、そのまま気絶してしまった。幸い息はあるようで、とりあえず使用済みのお布団に寝かしてあげた。臭かったらゴメンね。

 

『あぅーう?』

「……しっかり手当してやりたい所だけど、仕方ない。里長の所へ行こう。大丈夫、こいつは殺しても死なないさ」

 

 そういう事になった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「ムゥ……」『これはまた……』

 

 巻物を拝見した里長とゴコク様が唸る。

 ……はいはい、アタシだよ。最近いっぱいいっぱいになりつつあるハンター、アヤメだよ。

 さて、早速だけど、ウツシが命懸けで持ち帰った報告書の内容は“こう”だ。

 

 ======

 

 逃亡し潜伏していたイブシマキヒコが、大社跡で覚醒したナルハタタヒメ(おそらく砂原の物とは別個体)と接触し、居合わせたメラルたちを蹴散らし、再度逃亡した。

 両神龍は各地を転々としつつ、無差別に攻撃している。襲撃跡にバルファルクの鱗やサバエナスの物と思われる甲殻が散在していた事から、敵対勢力の弱体化と自身の強かを目的としている可能性が高い。

 ただし、溶岩洞を襲撃した後は方針を変えたようで、海へ向かって移動し、かつての龍宮砦跡を浮上させ、そこを営巣地とした模様。大規模な百竜夜行が発生しそうだというライダーたちの報告も併せて、風雷神龍、衰星龍、闇黒螳螂による三つ巴の戦いが起きる前兆だと確信し、ここに報告する。

 

                                 ウツシ

 

 ======

 

 最早、一刻の猶予も無いって事か。メラルたちが担ぎ込まれているのは知っていたけど、まさかナルハタタヒメと接触しているとは思わなった。

 つーか、それどころじゃ無かったしね。

 ……はぁ、まったく。どうしてこう、何もかもが儘ならないんだ。

 ユウタはまだ気持ちの整理が付いてないだろうし、ウツシはくたばってるし、アタシも万全とは言い難い物がある。誰も何も解決していないのに、最悪の報せが届いてしまった。

 いや、ごたごたしているからこそ、一気に仕留めるつもりなのかもしれない。風雷神龍といい、衰星龍といい、闇黒螳螂といい、どいつもこいつも妙に知恵が有るからね。サバエナスの生態なんて、まさにそう。心を抉り、弱らせ、最後に暴力でしめる。実に効果的な方法である。される方は堪った物じゃないが。

 しかし、起きてしまった物は仕方ない。来ると言うなら、迎え撃つまでさ。

 

「迎撃戦という訳ですね、相方ッ!」

「久しぶりだな、おい」『うるさい』

 

 相変わらず五月蠅い奴だな、ウケツケジョーよ。

 

「おお、編纂者殿、息災であったか!」

「はい、頑張って帰って来ましたッ!」

「「ハーッハッハッハッハッハッ!」」

 

 このやりとりも相変わらずで何より。暑苦しいし、只管に五月蠅い。

 

『……それで、“彼ら”とは接触出来たゲコか?』

「はい、もちろんッ!」

 

 ――――――そう言えばこいつ、この三日三晩何処で何をやってたんだろうか?

 

「ああ、そう言えば、相方には言ってませんでしたねッ! ……実はつい先日、遂に再会出来たのですよ、“相棒”とねッ!」

「ほう、良かったじゃない」『へー』

 

 という事はつまり、彼女ともお別れか。

 

「いやいや、流石にこんな状況でバイバイカムラなんてしませんよッ! 相棒共々、この窮地を乗り切ってみせますッ! ここは私にとっても大切な場所ですからねッ!」

 

 はーん、良い事言うじゃん。

 

「……それで、作戦なんですが――――――」

 

 そこからの難しい話は、ノータッチにさせて貰った。アタシは考えるのが苦手なんだよ。とりあえず、指示さえ貰えれば、それを有言実行してみせる。これでもアタシ、上位ハンターだからね。

 ……ユウタが弱り切っている今、アタシが支えてあげないと。

 

「――――――そして、相方には、とある重大な任務を遂行して貰いますッ!」

 

 だが、ウケツケジョーから告げられた任務は、アタシが考えていた物を遥かに超える、素っ頓狂な物であった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 その後、暫くして。

 

「たった今、偵察のウツシから報告が入った。……遂にイブシマキヒコとナルハタタヒメの繁殖が間近となったらしい」

『「子々孫々、大地へあまねく」。共感したヒノエとミノトの言葉を信じるなら、このままだと新たな風神龍と雷神龍が生まれ、この地は蹂躙されるだろうね』

「もはや猶予は無い! カムラの里……いや、全ての人々の為、奴らとの決着はここで付ける! 気焔万丈! 我らを照らす猛き焔よ! 今こそ災禍を討ち果たすのだ!」

 

 里中の人間が大集合したギルドの集会所に、里長とゴコク様の声が響く。

 

『彼らの活性化に伴い、各地のモンスターたちが一斉に百竜夜行を起こし、今にも里へ雪崩れ込もうとしています。その数は、今までの比ではありません』

『ざっと見ても数千規模……「八百万(やおよろず)禍群(かむら)」とでも申しましょうか。我らはそれらへ対処致します』

 

 さらに、ヒノエさんとミノトさんから告げられる、絶望的な状況。

 まぁ、実態はもっとヤバいのだが、メラルに配慮したのだろう。彼女はこれから相棒と共に龍宮砦という死地へ赴かなければならないのだから。別の事情(・・・・)も有るんだろうけど。

 

『この戦い、かの古龍たちを討ち果たさねば、終わりは見えません』

『本部も増援を派遣し、共に戦ってくれるとの事です。……これは古龍と人類の生存競争。皆で力を合わせ、必ずや生き延びてやりましょう!』

「「「オオーッ!」」」

 

 しかし、誰1人として、恐れる者はいない。それどころか、闘気を漲らせ、眼をギラギラさせている者ばかり。ハンターもライダーも関係ない、完全なる“生存競争”に対して、彼らも活気付いているのだ。一部の人にとっては“復讐”の意味合いもあるしね。

 

「……怖いのか?」

「当然だろ。でも、やるしかない……」

「……そうか」

 

 沸き立つ人集りの端っこで、メラルと相棒の彼が手短な会話をしている。ほんの数分前、アタシに泣き言を垂れ流していた奴とは思えないな。

 

 

 ――――――本当に、あの古龍たちを倒しても良いのかな?

 

 ――――――知ってるでしょう、メラルが普通じゃないって事は。

 

 ――――――あいつは、大社跡の奥地から、蘇った死人のような姿で現れた。中身は命を何とも思わない、悪魔みたいな奴だったしね。

 

 ――――――そう、サバエナスとそっくりに。

 

 ――――――もしあいつが、何かの力で蘇った“ナニカ”なのだとしたら、あの古龍たち……いや、どれか一勢力を滅ぼすだけでも、死体に戻っちゃうんじゃないのか?

 

 ――――――そんな気がして、怖いんだよ。俺は、どうすれば良んだよ、アヤメさん……。

 

 そんな彼に対する、アタシの答えは……ビンタだったね。

 

 

 ――――――アンタがあの子を信じないで、誰が信じるのさ。男なら、自分の女くらい、守ってみせな!

 

 

 ま、只のカッコつけだけど。お前が言うなって話だし。

 だけど、気持ちは分かるよ。ユウタも同じだったからさ。

 

「……行くか」

 

 だからこそ、アタシは自分に出来る事をする。……あの時に(・・・・)味わった絶望を(・・・・・・・)、何度も繰り返して堪るか。

 

「……行って来るわね、ユウタ。また会いましょう。必ずね」

『あぅい!』

 

 彼には無理をさせるけど、この戦いが終わったら、目一杯優しくしてあげるから、今は許してね。

 

「頼むよ、ヨッちゃん」『おちゃま!』

 

 さぁ、行こう。果てしなき闇の彼方に。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「……あの時は、本当に悪かった! 考えなしに八つ当たりするなんて、最低だったよ、あの時の俺は! こんなタイミングで言うのも何だけど、お前とは友達だと思ってるんだ! だから、許してくれとは言わないけど、せめて俺の気持ちは受け取って欲しい! 本当に……本当にごめん!」

 

 装備を整えていたら、セイハクくんにスライディング土下座されたでござる。

 ……ハーイ、ボクだよ、ユウタだよ。不意打ち過ぎてちょっと笑ったのは内緒だよ。滑り込みで謝られてもねぇ……。

 

『いーよ』

「ユウタ……」

 

 でも、ボクは許すよ。虫の居所が悪い事は誰でもあるだろうし、悪かったのはボクだしね。

 ――――――こんな人外を友達だと思ってくれていた、それが分かれば充分である。

 

『まもる、いっしょ』

「……ああ!」

 

 だから、これ以上の言葉はいらない。……ボクたちは、人間同士じゃないけど、友達なんだから。

 

『リベロ!』

『グルヴォッ!』

 

 行くぞ、最後の砦へ!

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 「八百万の禍群」。

 風雷神龍、衰星龍、闇黒螳螂の巻き起こした、カムラの里史上最大の災厄。全方位から押し寄せる百竜の群れと、それを追い立てる異形の物たち。これを迎え撃ち、全てを滅ぼさなければ、里に未来はない。

 作戦としては、“こう”だ。

 

●四方の砦でモンスターを邀撃、風雷神龍の下へ衰星龍と闇黒螳螂を向かわせないようにする。

●迎撃している間に、別動隊であるメラルたちが風雷神龍を撃破、衰星龍と闇黒螳螂の完全変態を阻止する。

●頃合いを見計らい、“最終兵器”を起動して衰星龍と闇黒螳螂を撃滅する。

 

 ……ようするに、アトラファルクとハバエナスを通せんぼをしつつ、裏でイブシマキヒコとナルハタタヒメを退治するという、至ってシンプルな物である。理想としてはアトラファルクとハバエナスを撃破してからメラルたちを援護するのが一番だが、そこは流動的で構わない。どれか1つでも押し通してしまえば、全てがお終いなのだから。

 そして、ここ第2砦では、第3砦と連携しつつハバエナスの軍勢を阻止するのが役目となる。

 戦力としては、カムラの住民とライダーの他、中央ギルドから派遣されたハンターたちが加わっている。彼らとしても、生態系を完全に破壊するモンスターたちを見過ごせないのだろう。

 連絡はライダーのオトモンと、フクズクが務める。これにより、迅速な対応といざという時の撤退を行うのだ。

 

 

 ――――――ピィイイッ!

 

 

「来たか……!」

 

 百竜の群れが到達し、交戦を始めてから約半刻。遂にその時は来た。フクズクが、ハバエナス出現の報せを齎したである。

 

『ギカァアアアヴォッ!』

 

 さらに、闇を纏い、地を鳴らせ、断末魔に似た甲高い声を上げながら、威風堂々と迫る巨大な物体が、砦の守り人たちの眼に映る。闇黒螳螂、ハバエナスの登場だ。名前に反して美しい白金の甲殻を持っているが、なるほど、あれならしっかりと“闇黒”である。

 

「撃て、撃てぇ!」

「喰らいやがれ!」

「ヒスイの仇ィ!」

 

 そして、第1関門のバリスタや大砲に速射砲が、一斉に火を吹いた。

 

 

 ――――――カン、カン、ガァン、ガキキキキィイイン!

 

 

 だが、無意味だ。まるで効き目がない。掠り傷どころか焦げ目さえ付かない。シュヴァルたちの証言を聞いた時は信じ難かったが、これは紛れもない事実であると認めざるを得なかった。

 

「クソッ! 撃龍槍、発動!」

 

 これでは埒が明かないと、撃龍槍を発動させた守り人たちだったが、

 

 

 ――――――バキィイイン!

 

 

 本当に僅かな掠り傷を負わせて、撃龍槍がへし折れた。同時に放った、3本全てがだ。

 

「嘘……」

「そんな、馬鹿な事が……」

 

 一瞬にして、絶望に包まれる第1関門。

 

『キィアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 そんな彼らを嘲笑うかのように、ハバエナスの胸郭が展開、破滅の光が宿る。

 

 そして、

 

「……ヒスイ。今、お母さんもそっちに行くわね」

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 カムラの里、作戦会議場。

 

「ハバエナス、寒冷群島方向より出現! 第2・第3砦への到達予測時間は、1時間後です!」

「アトラファルク、水没林方面より進行を開始! 大社跡を経由しつつ、第4砦方面へ向かっています!」

 

 誰も彼もが、慌ただしく動いている。多方面を同時に防衛するという無茶苦茶な作戦を実行している為、司令部はてんてこ舞いである。

 

「始まったな」『そうでゲコな』「………………」『武者震いしてきたニャ』

 

 その中心に座すは、かつての伝説たち……里長のフゲン、ギルドマスターのフゲン、加工屋のハモン、アイルー頭領のコガラシ、3人と1匹だ。これ程までに纏め役に向いた面子も、そうはいまい。

 

「――――――禍群の第1波、第2砦へ到達! 交戦を開始!」「分かった。ライダーの飛行部隊を上げろ!」

「第1砦、第1関門に多数の奇しき赫耀が飛来! 無差別に攻撃を行っている模様!」『……モンスターを操竜して、奇しき赫耀にぶつけるでゲコ』

「第4砦にサバエナスの別動隊が出現! 被害甚大! 援護を向かわせます!」「……“例のハンター”に行かせろ。大口を叩くだけの働きをして貰わねばな」

「第3砦にサバエナス本隊が到達! 応戦しています!」『アイルーたちを援護に回し、ガルク隊を前に出すニャ。動きの速いサバエナスを撃ち落とすには、機動力が居るニャ』

「第2砦にハバエナス再出現! 里守隊、邀撃中!」「「「『気焔万丈! 我が里の力を見せ付けろ!』」」」

 

 4者が見守る脇で、戦況は刻一刻と変化し、その都度指示が為されていく。

 

『ピュィイイッ!』

 

 そんな慌ただしい中、1羽のフクズクが危急の報せを持って来た。

 

「第2砦より入伝! ……これは」

 

 しかし、内容を読み上げようとする、通信役の言葉が詰まる。

 

「どうした、何があった?」

 

 訝しんだ里長が続きを促すと、彼はカタカタと震え、絶え絶えに言葉を紡ぐ。

 

「……だ、第2砦……第1関門、及び……里守部隊、“蒸発”……ッ!」

「「「『………………!』」」」

 

 ――――――戦いは、始まったばかり。




◆撃龍槍

 皆大好き決戦兵器。これを発動させると、大抵の場合は「英雄の証」が流れる。禁忌の古龍にすら大ダメージを与える、文字通りの必殺武器である。機構としては所謂「パイルバンカー」なのだが、如何せんサイズが違い過ぎる為、中々にエグいダメージを叩き出す。
 ちなみに、これ自体は新発明とかではなく、滅んだ古代文明の頃から使用されていた模様。古代文明の科学力ってすげー。
 あと、ライズでは英雄の証のトリガーが別になっている為、有力なダメージソース以上の役割を持てていなかったりする。破龍砲の方が強いしね。


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最終話《破》:魂のルフラン

何とか1回だけ倒せたよメル・ゼナ……二度とやりたくねぇ!


 第2砦、第2関門。

 第1関門が狭き門だったのに対し、こちらは入り組んだ迷路が山なりに設けられた城塞のような構造であり、通路には幾多の爆弾や撃龍槍が仕掛けられ、小高い塀の上にはバリスタや大砲、速射砲に加えて破龍砲が設置された、難攻不落の関門となっている。コンセプトとしては、第1関門で弱らせた外敵を確実に排除する、と言った感じだろうか。

 しかし今、この日の為に改築と増設を重ねて来た、この決戦のバトルフィールドが、たった1体のモンスターによって蹂躙されようとしていた……。

 

「撃て撃て撃てぇ! 絶対に突破されるなぁ!」

「「「うぉおおおおっ!」」」

 

 第2関門のそこかしこで、怒号が飛び交い、砲弾が撃ち出されていく。

 

『キカァアアッ! キガァアアヴォッ!』

 

 そして、通常のモンスターであればとっくに息絶えているであろう弾幕に晒されながらも、何事も無かったかのように悠然と闊歩する、巨大な影。闇黒螳螂、ハバエナスである。

 ゾラ・マグダラオス級の巨躯を誇る「アトラル・ネセト」と完全融合した有様は、まさしく“動く島”であり、バリスタも速射砲も大砲も、全てが無意味であった。唯一、破龍砲に対しては、胸郭の襟飾りに生えている節足部から放たれる電磁場の障壁によって防いでいるが、早々何度も撃てる代物でもない。通路に絨毯が如く埋め込まれた大タル爆弾Gの地雷原も、大した効果は認められなかった。

 つまり、何をしても無駄無駄無駄なのだ。

 だが、やらねばならない。これはハバエナスとカムラの里、モンスターと人間の生存競争なのだから。

 

『キィァアアアアアアアッ!』

 

 と、ハバエナスの胸郭が展開し、第1関門を里守隊諸共に蒸発させたビームをチャージし始める。

 

「撃たせるなぁ!」『ギュヴァアアアッ!』

「全竜、攻撃開始!」『キュァアアアッ!』

 

 それに待ったを掛けるのは、繰り上げられた飛竜ライダー隊。筆頭はリュート&レウスとシュヴァル&レイアで、主に飛行能力に特化した飛竜たちによる混成部隊である。

 

『キカァアアヴォッ!』

 

 しかし、彼らの放つ火球や雷弾、氷結晶は、その悉くがハバエナスの電磁壁に阻まれてしまう。これだけの火力を以てしても、彼女に手傷を負わせる事が出来ないのだ。

 

「俺たちの攻撃に、意味はあるのか!?」

「十二分にある! 奴は攻撃と防御で形態が違うから、防御姿勢を取らせれば無理矢理にでも攻撃を中断させられる!」

 

 ただし、悪い事ばかりではない。一見、難攻不落の移動要塞に思えるが、やはり身体は1つである為、出来る事には限界がある。

 ようするに、防御を強要させられれば、あの理不尽なビーム兵器を封じるのが可能という事だ。

 さらに、防御反応をするという事は、せざるを得ない事も意味している。

 

「あいつはデカくて硬いだけで、属性攻撃全般に弱いって事だよ!」

 

 つまりは、そういう事である。流石に雷属性は大して通らないだろうが、その他は概ね通るものと思われる。

 

「だけど、ああも壁が厚くちゃ、そもそも当たらないぞ!?」

 

 問題は、その隙が全く見当たらない事だ。

 

『ギカァアアアアヴォッ!』

「クソッ、触手で攻撃して来るぞ! レウス!」『ギャォオオオッ!』

「全員散開ッ! 先端の撃龍槍からビームも撃って来るから、そっちも注意するんだ!」『キュァン!』

 

 その上、ハバエナスは発射に時間の掛かる胸郭ビームを止め、触手による波状攻撃に切り替えて、群がる蠅を打ち払わんとしてくる。これでは益々反撃する暇が無い。

 

「ライダーたちばかりにやらせるな! こっちも援護するつもりで行くぞ!」

「「「うぉおおおおおおおッ!」」」

 

 ならばこちらもと、里守隊が大砲を釣る瓶打ちしつつ、破龍砲も発射する。バリスタや速射砲では全く意味が無いので、僅かな隙に兵器を全て入れ替えたのだ。これぞ天才ハモンが発明した、「昇降式狩猟設備」。カラクリ式のエレベーターにより、用途に合った兵器と素早く入れ替える事が出来るのである。

 

「喰らいやがれぇっ!」

『グヴゥウウウ……!』

 

 そして、破龍砲を囮にした、1区画に存在する全ての撃龍槍を一斉展開。流石に物理的な攻撃は電磁バリアでは防げないので、不意を突かれたのも相俟って、その全てが直撃する。

 

「クソッタレが! 所詮は掠り傷かよ!」

 

 それでも、付けられたのは極僅かな傷であり、逆に殆どの撃龍槍が使用不可能となってしまった。

 

「いいや、男の勲章だ! “癇癪コロガシ玉”一斉投下!」

 

 だが、無駄では無い。飛竜ライダーが、予め捕まえておいたコロガシ系の環境生物による、“属性やられ投下”を繰り出す隙を生み出したのだから。

 

「……弱点は、「火」と「氷」か」

 

 属性のやられ具合からして、弱点は火属性>氷属性で、龍属性は普通、水属性はあまり効かず、雷属性は一切通らないようだ。見事に通常種のアトラル・カと耐性が反転している。

 とりあえず、通用する属性は分かった。環境生物による“やられ攻撃”が有用である事も。そちらに関しては、隙を突かないと電磁バリアに阻まれてしまいそうだが……。

 ともかく、属性やられになっている今がチャンスである。

 

「撃て撃て、撃ちまくれぇ!」

「飛竜隊、編隊を組んでオールレンジ攻撃!」

「頼むぞ、レウス!」

 

 里守隊と飛竜ライダー隊の一斉掃射がハバエナスを襲う。この圧倒的な手数と火力を前にしては、如何にハバエナスと言えど――――――、

 

『ギカァアアアアアヴォッ!』

 

 しかし、倒せない。ハバエナスが、倒せない!

 確かに少しずつダメージを与えられてはいるが、まるで怯む様子が無く、悠然と闊歩し続けている。一体どうすればこいつを斃せるのだろうか。

 

『ギギカカカギギキキッ!』

 

『オギャアッ!』『アギャヴヴッ!』『アブゥッ!』『キチチチッ!』『オギャァヴヴヴン!』『キシャアアア!』『ギャヴォギャヴォッ!』『キャァ!』『カァアアォッ!』『クァアアッ!』『キシィィッ!』『クルァッ!』『アハハハ!』『イヒヒヒ!』『アォヴヴ!』『ヒキャアアッ!』『クルル!』『クァァッ!』『アバブゥ!』『ブヴァァォッ!』『クキャアアッ!』『ギャギャギャゥウッ!』『ピキャァォ!』『ウキャァッ!』『アヴヴヴッ!』『グブゥッ!』『アヒャォオオッ!』『ピシャアアッ!』『キリリリッ!』『ヒラララ!』『ビシャァーン!』『バギュバァッ!』『パルパルゥッ!』『ギゴガゴーゴォーッ!』『クヴァグムグムッ!』『パラァーン!』『ビリリリッ!』『ヒペァアアッ!』『キシャアアアヴォッ!』『カァアアアッ!』『クルァッ!』

 

 さらに、ハバエナスの一鳴きで、巨大な腹部から無数のサバエナスが排出され、黒い雲となって押し寄せる。

 

「クソッ、分断された!」

 

 この一手により実質的に地上と空中が分断され、

 

『お父さ~ん』

「あっ……!」

 

 更なる悪夢が里守隊を襲う。

 とある里守の前に降り立ったのは、彼の娘に擬態したサバエナス。その姿は生前と何ら変わらず、温かい微笑みを向けて――――――、

 

『お父さん!』

「アオイ……」「馬鹿野郎!」

 

 頭をバクリと行かれる前に、米穀屋のセンナリが里守を殴り飛ばした。すぐ傍で、ガチンという鋭い音が鳴る。危ない所だった。

 

『お父さぁ~ん!』

「この悪魔がッ!」

『きゃあああっ!』

 

 そして、持ち前の里守用堅守鉄剣で迎撃し、娘面したサバエナスを切り伏せる。センナリも昔は腕の立つハンターだったので、これくらいは朝飯前だ。

 

『痛い、痛いよ、お父さん! 助けてよぉ!』

「黙れ! 今止めを――――――」

「止めてくれぇ! 娘を斬らないでくれぇ!」

 

 だが、止めを刺そうとした瞬間、横槍が入る。里守が後ろからしがみ付いて来たのである。その表情はクシャクシャに歪み、眼は完全に正気を失っているた。

 

「……ハァッ!」「ぐぅっ!」

 

 仕方がないので、肘鉄を鳩尾に叩き込み、里守を沈黙させるセンナリ。

 

「行かせない! 絶対に行かせないぞぉっ!」

 

 しかし、里守の執念は凄まじく、脚にタックルをかましてまで、再度センナリを妨害する。さっきまでの勇猛ぶりが嘘のような、情けなくも鬼気迫る顔だ。

 

「馬鹿、放せ! アオイちゃんは、死んだんだ! 目の前のコイツのせいでな!」

「違う! 娘は……アオイは帰って来たんだぁあああああああああああああっ!」

 

 こいつはもう駄目だ。戦えない。

 

「いい加減にしろ!」「ぐがぁっ……!」

 

 話が通じる状態ではないと判断したセンナリは、申し訳ないと思いつつも、先に里守の方を切り捨てた。割と重傷だが、このままでは共倒れになる。お互いに助かる為の、所謂コラテラル・ダメージという奴である。

 

「ハァ……ハァ……ハッ!?」

 

 と、その時。

 

 

 ――――――キァアアアアアアアアアアアッ!

 

 

 何時の間にか、ハバエナスの触手の先端が、こちらを向いて光り輝いていた。傷付き動けないサバエナス諸共、里守隊を全滅させようとしているのだろう。所詮、ハバエナスにとってサバエナスは便利な手足でしかない。

 

「チクショウ……!」

 

 ここまでかと思われた、まさにその瞬間だった。

 

 

 

 ――――――ギュルルルル、ガァアアンッ!

 

 

 

 柄を繋げてダブルブレード状態となった「ゴシャガズバァ」が、ブーメランのように飛んで来て、ハバエナスの触手を弾き飛ばした。

 

『ヴォオオオオオオヴッ!』

 

 さらに、戻って来たゴシャガズバァをキャッチ&分離して、ドリルのように螺旋を描きながらサバエナスの群れを突っ切る、小さな影が1つ。

 

「ユウタか!?」

『ァヴォオオオオオオオオオオオン!』

 

 正体は、悪鬼羅刹の如きオーラを纏った、新米ハンター:ユウタ。

 だが、何処か様子がおかしい。鬼人薬や硬化薬、粉塵と言ったバフは勿論だが、それだけでこれ程までに禍々しい波動を放ちはしないだろう。至る所に血管が隆起し、口から涎を垂れ流す様は、どう見ても健全ではない。

 

「……お前、まさか“アレ”を使ったのか!?」

 

 その姿を見たセンナリが、ある事に気付く。ユウタの腹に突き刺さっている、白銀の破片。それはまさしく、先日回収されたサンプルの1つ……“アトラファルクの鱗”の一部であった。

 

「馬鹿野郎が!」

 

 すっかり常連となったウケツケジョーから聞かされていた話を、センナリは思い出していた。

 

 ――――――これはある種、「狂竜ウイルス」と似たような物なんですよッ! 基本的には害しか齎しませんが、体力のある内は強力なドーピングになりますし、打ち勝つ事が出来れば極限化も、おそらくは可能ですッ!

 

 ――――――まぁ、この「龍気ウイルス」はマガラ種のウイルスとは比べ物にならないくらいに強力なので、基本的に克服は無理でしょうけどねッ!

 

「死ぬつもりか、ユウタ!」

 

 本気で古龍の力に打ち勝てるとでも思っているのか、お前のような子供が!

 

『ヴゥゥ……いきるッ!』

「………………!」

 

 だが、ユウタは狂いながらも、力強く答えた。“生きるつもりさ”と。ならば、最早センナリから言える事は無い。

 

『ゴヴァアアッ!』『グルヴッ!』

『『『オギャァアアアアッ!?』』』

 

 そして、後を追って来たリベロを駆り、サバエナスの雲海に風穴を開けていく。

 

「……お前ら、しっかりしろ! 大人としての意地を見せやがれ!」

「「「おっしゃぁっ!」」」

 

 その姿に触発された里守たちはサバエナスの悪辣な精神攻撃に打ち勝ち、反撃を開始した。空中との連携を取り戻す為、サバエナスを優先して砲撃を食らわせる。

 

『ガガギギガガキキッ!』

 

 しかし、ハバエナスの指令電波により少数の編隊飛行を取る事で、サバエナスの5体に1体は弾幕をすり抜けていく。

 

「こいつら、関門を上から突破する気か!」

 

 さらに、今度は方針を転換し、里の奥へ向かって突き進み始めた。別動隊と合流して、里を一気に攻め落とす気だろう。そろそろ残弾が心許なくなって来た里守隊では食い止められないし、飛竜ライダー隊は半数近くが殉職している。何よりハバエナスが全く止まらない。完全にしてやられた形だ。

 

『グヴォオオオオッ!』『ギカアアァヴォッ!』

 

 だが、誰も諦めていないし、ユウタは勇気に満ち溢れていた。散開したサバエナスを自分1人で殲滅するのは無理だと見切りを付けたユウタは、敵の頭であるハバエナスへ真っ向から勝負を挑む。

 

『ギカアアアッ!』

 

 ハバエナスの巨大な鎌が振るわれる。

 

『ヴォオオッ!』『グルル……!』

 

 対するユウタは跳び上がり、リベロは急降下する事で回避した。

 

『ゴヴォルァアアアアアアアッ!』『ギカァァォツ!?』

 

 そして、大鎌の上を鬼人空舞で滑るように突き進み、触手による横槍を朧翔けで躱し、最後に胸郭手前でゴシャハギよろしく大ジャンプ、ハバエナスの電磁バリア発生を担う節足の1本を叩き斬った。その後は上昇して来たリベロに跨り、1度距離を取る。

 

『ギゴカカガカカカッ!』

『ヴォッ!?』『グルヴ!?』

 

 しかし、無慈悲な事に、斬られた節足はすぐさま新品に生まれ変わってしまった。指令電波で呼び寄せた一部のサバエナスが寄り合わさり、節足が再生したのである。

 こんなの、あんまりだ……。

 

『ギカァアアアヴォッ!』

『『グヴォオオ……!』』

 

 一瞬だけ絶望に染まったユウタとリベロを、虻でも払うからのように、ハバエナスが打ち落とす。

 

『クォオオオォ……!』

 

 その後、大地へめり込みピクピクと痙攣するだけとなった彼らを捨て置き、ハバエナスは進攻を再開した。結局、どんな武器も無理も無駄となり、最後の砦に到達されてしまう。ここを突破されたらカムラの里は丸裸となる。

 

「「「くそぉおおおおおっ!」」」

 

 皆、必死に追い縋るが、もう間に合わない。手遅れだ。

 

 

 ――――――ギィィイイイイ!

 

 

『キカァッ!?』

 

 だが、いよいよ以て死ぬが良いとばかりに、ハバエナスが胸郭を展開した瞬間、何故か最後の砦が自ら口を開いた。

 

 

 ……グポォオン! ギギギギギギ……ッ!

 

 

 さらに、その奥から現れる、機械仕掛けの巨大なナニカ。

 河童のような頭と甲羅に、両生種の胴体を持ち、ハバエナスと同程度の体躯を誇る、黄緑色の怪物。それ即ち、

 

「行くよ、皆! 最終防衛決戦兵器「百式からくり蛙」、起動!」

『『『『『『『ワンニャーッ!』』』』』』』

 

 こんな事も有ろうかと、アヤメから巨大ヨツミワドウの話を聞いたその日から、密かに建造していたハモンの最高傑作にして、百体目のからくり蛙――――――「百式からくり蛙」が、文字通り“最後の砦”として、ハバエナスの前に立ちはだかったのであった。

 ちなみに、パイロットはイオリと、オトモ広場のオトモたち全員である。百式からくり蛙は巨体故に複雑な機構をしている為、コントロールするには完璧に息の合ったチームプレイを必要としているのだ。

 

「右ッ!」『『『ウニャニャー!』』』『『『ワオォーン!』』』

 

 胸奥のコクピット内部にて、チャアクを突き立て陣頭指揮を執るイオリが掛け声を出し、右腕担当のオトモたちが一斉に動く。

 すると、百式からくり蛙の右腕が突っ張りの形で前に出され、

 

 

 ――――――ドワォッ!

 

 

『ギカァアアアヴォッ!?』

 

 ハバエナスの頭を爆破した。百式からくり蛙の右掌には破龍砲が16門内蔵されており、発破と同時に炸裂する仕組みである。

 

「左!」『『『ミャンミャー!』』』『『『キャィーンズ!』』』

『ギガァアアヴォッ!?』

 

 むろん、左手にも同じ機構が備わっている。ハバエナスが大きく仰け反り、大きく後退した。

 たった2発だが、されど2発。あの無敵要塞も同然な闇黒螳螂を、百式からくり蛙は押し戻したのだ。まさに最終防衛決戦兵器と呼ぶに相応しいパワーである。

 しかし、欠点が無いでもない。あくまでチームの息が合わなければ起動も儘ならず、大きさ故にかなり鈍重である為、殆ど砦から動けないのだ。ついでに言うと、起動そのものも滅茶苦茶時間が掛かる。その癖燃費は非常に悪い為、実質的に短期決戦以外の戦法を取る事が出来ない。

 だが、最後の壁としては充分であるし、何よりウケツケジョー(・・・・・・・・・・)の用意した(・・・・・)切り札がまだ残っている(・・・・・・・・・・・)

 

『ゲコァアアアアアアヴァッ!』「ユウタぁあああっ!」『おちゃまーっ!』

 

 ほら、丁度良く現れた。

 それは鉄蟲糸で繋がり合った、巨大ヨツミワドウとアヤメ&ヨッちゃんだった。ヨツミワドウの背中にヨッちゃんが大翔蟲で連結し、その上でアヤメが操竜している形になる。

 そう、これぞウケツケジョーがアヤメに託した、最後の切り札。絶大な馬火力を有しているであろうヨツワミドウを参戦させ、百式からくり蛙と共に敵を討とうというのである。

 

『ギコァアアアアヴヴヴッ!』

『ゲコァアアアアアアアッ!』

《ケロニァアアアアアアッ!》

 

 そして、カムラの里史上、最大最高の最終決戦が始まった。




◆百式からくり蛙

 元々は趣味から始まった、からくり蛙の100体目にして完成形。アヤメから伝え聞いていた、巨大ヨツミワドウを超える機体を作ろうとした結果、最終防衛決戦兵器になってしまったハモンの迷作。コクピットは胸部の奥にあり、イオリとオトモたちの絶妙なチームプレイによって起動する。つまり、彼の専用機体である。
 武器は両腕の破龍砲32門、口腔内のブレス機構(コロガシ系を使った属性やられの息吹)、背甲の炸裂式撃龍槍108本、腹部の特大焼夷砲1門、そして剛健な機体そのもの。ゾラ・マグダラオス級の超巨大古龍と戦う事を念頭に置いた、カムラ最大最後の切り札だ。
 ……お前のような蛙が居るか。


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最終話《急》:心よ原始に戻れ

『オ前ハ一体何ダ?』

 始祖ナル龍ガオ尋ネニナルト、ソレラハ答エタ。

『我ガ名ハ“ニンゲン”。本当ノ悪魔デアルガ故ニ』

 ソシテ、世界ハ闇黒ニ閉ザサレル。

                ――――――「闇黒の章」、最終章第弐節ヨリ。


 時は少し遡り、第4砦の第2関門。

 

『ガヴォオオオッ!』『アォオオオオン!』

「うひぃー、アンジャナフがウザいよー!」「何でバゼルギウスが居るんだぁ!」

 

 溶岩洞側から来た八百万の禍群――――――即ち、無限大数のモンスターを相手に、里守たちは苦戦を強いられていた。物量が今までの比ではない上に“追い立てる側”の数も尋常では無いので、どう足掻いても手数が足りないのだ。

 

『ギャヴォオオオオス!』『オギャヴウウウウウッ!』

「クソッ、奇しき赫耀と悪螳螂の出現を確認!」

「邀撃しろ! 奴らにモンスターを食わせるなぁ!」

 

 さらに、餌を求めて奇しき赫耀と悪螳螂の大群までも飛来。戦場は完全に混沌と化した。

 

「はぁっ! てぁっ! フゥゥゥゥン!」

『ギャヴォオオッ!?』『アブヴヴヴッ!?』

 

 しかし、それくらいではカムラの灯は消えたりしない。貿易商(自称)ことロンディーネが、太刀を手に暴れ回っている。

 

「こんな所で油を売っている暇は無い! 私にとって一番の顧客が、命を賭して戦っているのだ! 往く手を阻むと言うなら、全てを蹴散らすのみ!」

「うぉーっ! ロンディーネさんに続けぇ!」「商売繁盛!」「気焔万丈な!?」

 

 その雄姿は里守たちの士気を大いに高め、昂らせ、雪崩れ込む災厄の群れを押し留めた。

 

「いよっ、流石は王国騎士!」「バラさないであげて!?」

 

 ヨモギとイオリも、己の武器を振るい、奮闘している。

 だが、やはり数が違い過ぎる。1体に対して数人掛かりだと言うのに、湯水の如く湧いてくるのだから、堪った物ではない。せっかく少し押し返しても、それ以上の大津波が圧し潰しに掛かって来るのだ。やはり圧倒的な物量差を覆す事は、不可能に近いのである。

 ……そうやって、少しずつ人々の心が焦りと絶望に染まり始めた、その時。

 

『ギャヴォオオッ!』『コォルァッ!』

 

 幾多のモンスターを吹き飛ばしながら、激昂したラージャンとボルボロス亜種が現れる。目に付く敵を千切っては投げ、掴んでは殴り、モンスターの荒海をかち割る様は、まるで神話の1シーンだ。

 

「「「………………!」」」

『グルルルル……グヴァアアアヴォオオオオッ!』

 

 そして、第4砦の里守たちは目撃した。変わり果てたディアブロスの新亜種――――――ヴェノブロスの姿を。

 

『カァアアアアッッ!』『ギャヴォオオス!』『キャァアアヴォッ!』

 

 突如、戦場に割り入って来た、閻魔もかくやという恐ろしい怪物に、奇しき赫耀たちが一斉に襲い掛かる。本能的に“彼”がとてつもない脅威だと感じ取ったのだろう。鳥葬の如く群がり、至近距離から龍気光線を浴びせ掛けた。

 

『……グヴァアアアアアアアッ!』

『『『ギャァアアアアアア!?』』』

 

 しかし、撃龍槍ですら容易に切断する破断の光を食らったにも関わらず、ヴェノブロスは堪えるどころか全くの無傷で、自身を中心に大規模な爆発を起こして、奇しき赫耀たちを纏めて吹き飛ばした。

 

『オギャアアッ!』『アバブァッ!』『キシャアアアッ!』

 

 さらに、恐れを為したサバエナスたちもプラズマ弾で強襲するが、これもまた効果が無い。当たって砕けた傍から、傷という傷が完治してしまうのである。奇しき赫耀の龍気光線も、先程の自爆攻撃も、この異常な再生能力で全回復したのだろう。

 最早どんな敵も敵わない。何をしても無駄だ。奴を止める事は出来ん!

 

『グヴォオオァアアアッ!』

 

 その後、殆ど全てのモンスターを鏖殺したヴェノブロスは、里守たちには一切目もくれず、激昂したラージャンやボルボロス亜種と共に、ある一点を目指して過ぎ去った。

 

「……龍宮砦跡の方角か」

 

 “彼”の行き先は、何となく察しが付いていた。ロンディーネは太刀を鞘に納め、関門に背を向ける。

 

「悪いが、私は行かせて貰う。そろそろ決着が近いようだからな」

「分かりました」「気を付けて」

 

 イオリたちも彼女がそうするであろう事は予想出来ていた為、素直に見送った。とりあえず第4砦の脅威は無くなったのだから、ここで止める程野暮ではない。ロンディーネはあくまで、顧客(メラル)の味方なのだ。

 

「……なら、僕たちもすべき事をしよう」「了解!」

 

 そう、戦いはまだ終わっていない。それぞれの出来る事をしよう。

 

「皆、行くよ!」『了解ニャー!』『アォン!』

 

 そして、カムラの里が誇る、最終決戦兵器が起動する。闇黒螳螂を討つ為に。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 一方その頃、寒冷群島では、

 

「頼む、アタシらに力を貸してくれ」『ちゃま!』

『………………』

 

 超巨大なヨツミワドウとアヤメたちが相対していた。

 

「お門違いなのは分かってるけど、アタシたちにはもう時間が無いんだ。このままだと、皆死ぬ。カムラの住民も、そこで生きるこの子たちも」『おちゃまー』

『………………』

 

 正直、何を言ってるんだこいつは、とヨツミワドウは思った。

 人間なんてどうなろうと知った事じゃないし、ましてやハンターを助ける義理など一欠けらも無い。誰が滅ぼうが、彼女には何の関わりも無い事である。

 

『おちゃままー』

『………………』

 

 だが、ヨツミワドウは見てしまった。我が子が人と寄り添う姿を。それにより、思い出す。過去の自分を。

 ――――――彼女が“こう”なったのは、何十年も前の事。

 当時、寒冷群島には殆ど生物がおらず、吹き荒ぶ北風が生んだ極寒の地獄が在るだけだった。

 しかし、ある日人類に追い詰められたゾア・マグダラオスが骸となった時、膨大なエネルギーがばら撒かれ、その力に引き寄せられたモンスターの蔓延る闇黒の凍土となった。

 その時の彼女はまだオタマジャクシだったが、偶然にも「熔山龍の宝玉」を呑み込んでしまい、激しい拒絶反応に打ち勝った末に、体内器官の一部とする事が出来た。他のヨツミワドウでは、こうはいかなかったであろう。彼女は成るべくして巨大になったのだ。

 だが、強大な力と山のような巨躯、莫大な寿命を獲得した事と引き換えに、彼女は生物として致命的なデメリットを負ってしまった。長命と巨体が故に、子を成せなくなったのである。宝玉を克服した時点で通常種の最大金冠を遥かに超えていたし、遺伝的にも変化したのか、同種同士の交尾であるにも関わらず、産卵に至らなくなっていた。色々と積極的にやってもみたが、駄目だった。

 そうして悠久の時を孤独に過ごして来た彼女だったが、272回目の交尾により、ようやく1個だけ受精卵を成す事が出来た(今世紀最大級だったその雄は枯れ果てて死んだ)。それが今目の前で自分を見上げる、このオタマなヨツミワドウだ。彼女に似て大きく、幼生の時点で成体を遥かに超えている。見間違う筈も無い。

 

『ゲコァアアアアッ!』

 

 この子を生き残らせる為ならばと、ヨツミワドウは覚悟を決めた。古龍の力により全てがグレードアップした彼女は、種の限界を超えた“母”となったのである。

 

「……ありがとう」『おちゃまー!』

『ゲコヴァアアアァアアアアォッ!』

 

 人間の為でなく、愛しき我が子の為に、ヨツミワドウは動く。共通の敵を滅ぼす為に。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 そして、時は戻り出す――――――。

 

『ギカァアアアヴォッ!』

 

 禍群の元凶が1体、闇黒螳螂ハバエナスが吼える。今までの吹けば消し飛ぶゴミとは違う、明確な強敵たちの出現に、彼女も本気で相手取るつもりのようだ。

 

 

 ――――――グゥヴォン……ガビビビビビビビッ!

 

 

 さらに、触角を前で合わせて、強力な破壊光線を発射。胸郭展開時の物よりも威力は劣るが、隙無く放てるのが特徴であり、油断ならない相手に対して使う、謂わば“決戦兵器”である。

 

「うわぁっ!?」『ウニャーッ!?』『ワィーン!?』

 

 あまりに唐突だった為、百式からくり蛙は防御も(元から無理だが)回避も出来ず、腹部に直撃して大爆発を起こす。

 

 

 ――――――パキュァアアァァッ!

 

 

 更には、ハバエナスがサバエナスも使うプラズマ弾を目から連続発射。徹底的に百式からくり蛙を痛め付ける。古龍の力を取り込んだヨツミワドウと違って再生出来ないと踏んで、先に潰そうとしているのだろう。

 

「こっちを見ろォッ!」『おちゃまー!』

『ゲゴヴァァアアアヴォォオオオオン!』

『ギギャァアヴォ!? ……ギキキキキ!』

 

 しかし、そうは蛙が卸さない。アヤメの駆るヨツミワドウが爆炎弾を三連打しつつ、蛙飛びボディプレスを食らわせ、ハバエナスの動きを止めた。それでも装甲に傷は付かず、逆にヨツミワドウを寄り切ったが、流石に衝撃までは殺せず、大きくバランスを崩す。

 

「右! 左! ブレス発射!」

『『『ニャンパース!』』』『『『パルスワーン!』』』

『キャァィアアアアッ!?』

 

 そして、そこへすかさず百式からくり蛙の反撃。左右の爆裂突っ張りで怯ませ、火属性やられを付与するブレスを零距離で浴びせ掛ける。これだけ密着されては、電磁バリアも無意味だ。

 

「今だ!」『ちゃましー!』

『ゲコァアアアアアアッ!』

『ギガァアアアアヴォッ!?』

 

 さらに、ヨツミワドウの爆炎ブレスが直撃。蓄積していた爆破やられが一気に作動し、大爆発を起こした。

 

『……ギカァアアヴォッ!』

「クソッ、何て硬さだ!」「いい加減にして欲しいわね、まったく!」

 

 それでもヒビ1つ付いていない辺り、ハバエナスの装甲厚が窺える。普通は消し炭も残っていないと思う。

 

『カァアアッ! ギカァアォッ! キカアァッ!』

「うわっ!?」『ぐへにゃぁ!?』『グヴヴゥ……!』

 

 しかも、鎌に雷属性を宿して、元気に反撃して来る始末。百式からくり蛙の腹にXXの文字が刻まれた。

 

『ピキャアヴォッ!』

『ゲコァアアアッ!?』「くぅっ!」『おちゃんまー!』

 

 その上、触手から龍属性ビームを撒き散らし、ヨツミワドウに大打撃を与える。熔山龍の宝玉を取り込んでいるが故に、彼女は通常種よりも龍属性に弱くなっているのである。

 

『ギコカカギキカカカ!』

 

 そして、何だかんだでダメージが蓄積し始めた装甲を更新する為、サバエナスたちを呼び寄せ始める。

 

「そうは行くか! ライダー隊、全力で阻止しろ!」

「里守隊の意地を見せてやれぇ!」

 

 だが断る。自分だけが有利になろうとするいけ好かない奴らに、ライダー隊と里守隊が「NO」を叩き付けた。

 

『ギカァアアアッ!』

 

 怒ったハバエナスが胸郭を展開し、全てを薙ぎ払おうとしたが、

 

「「それも断る!」」

『ギャヴォオオァ!?』

 

 百式からくり蛙とヨツミワドウのダブルブレスがお断り申し上げた。当たった場所が展開していた胸郭と節足部だったせいか、今度こそ部位破壊が達成される。即ち、右側の胸郭が節足部ごと爆砕したのだ。やはり無意味な攻撃など、無かったのである。ビームを発射直前だったので、自爆の可能性もあるが、それはそれだろう。

 

『ギィイイイッ!』

「2度は無い! 旋回!」

『ギカァヴォッ!?』

 

 まさかの事態にハバエナスが焦って鎌で反撃したものの、クルリと回った百式からくり蛙の撃龍槍だらけの甲羅で弾き返されてしまった。

 

「食らいやがれ!」『おっちゃーっ!』

『ゲコォオオッ!』

『キャァアアッ!?』

 

 さらに、仰け反った所に、ヨツミワドウの全力爆破掌底が炸裂。ハバエナスの左胸郭も破壊した。徹底的にそこばかりを狙って来た甲斐があったという物だ。

 

『ギカァアアァ……ォォ……ッ!』

 

 誕生して以来、最大級のダメージを負ったハバエナスが、複眼の明りを消して、倒れ伏せる。

 

「「やったか!?」」

 

 それは言ってはいけない禁句。

 

『――――――ギィグヴヴゥゥゥッ! ガヴォァアアアアアアッ!』

 

 案の定、ハバエナスは復活した。全身の白金部分を闇黒に染め、複眼を紅蓮に滾らせながら……。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『……ハッ!?』

 

 と、ユウタは目を覚ました。

 

『うささ~!』

 

 足元を見れば、小さな小さなウルクススが一生懸命に己を背負い、

 

『キキキ……』『『ホヴァォッ!』』

 

 気絶したままのリベロに至っては、何故か居るイソネミクニ亜種と紅白なフルフルたちに運ばれていた。彼女たちが、自分たちを助け起こし、一先ずの安全圏まで下がらせたのだろう。

 しかし、避難させてくれたのに悪いとは思うが、このまま戦線離脱する訳にはいかない。戦いはまだ終わっていないのだから。

 

『ガヴォオァアアアアアアアッ!』

『ゲコアァッ!?』《ケコァォン!?》

 

 それどころか、まさしく闇黒螳螂となったハバエナスが、力任せにヨツミワドウと百式からくり蛙を痛め付けているではないか。怒り状態となったハバエナスのパワーと火力は尋常では無く、疑似的に風雷合一したビームの刃を触手から発生させ、ありとあらゆる物を切り裂き、刺し貫いていた。マシマシになった高出力の光刃には如何なる装甲も耐えられず、ヨツミワドウは甲羅ごと全身を穴だらけにされ、百式からくり蛙は左半身を完全に破壊されている。

 

『……グルヴォオオオァアアッ!』

 

 だが、そんな所に今更自分たちが駆け付けて何になる……とは、ユウタは考えなかった。只我武者羅に、ウルクススやイソネミクニ亜種たちが止める間もなく、怒れる闇黒螳螂へ突っ込んで行く。

 そう、唯々皆を守りたかったから。この後、自分が死ぬとしても。自分は里の一員なのだと、自身が一番信じたくて。

 

『……ゴギャヴォオオオオオオオッ!』

 

 その無謀極まる遮二無二な特攻劇は、ハバエナスの複眼に僅かな傷を付けるだけで終わりを迎え、

 

『ガヴォァアアアアアアアアアアッ!』

『……、…………、………………ぁ!』

 

 そして、ハバエナスの無慈悲な反撃がユウタを襲った。先ずは左右の大鎌、続いて全ての触手が殺到し、小さな小さな彼の身体を粉微塵にする。夜空に、真っ赤な曼殊沙華が咲いた。

 

「ユウタぁあああっ!」

 

 

 

 ――――――ユウタが完全に力尽きました。




◆ユウタ

 元ゴシャハギだった少年。名前の由来は「子供染みたハンター」のスラング。
 不思議で意味不明な夢から覚めると何故か人間になっていて、偶然出会った療養中の上位ハンター:アヤメに保護され、カムラの里で暮らす事になった。元々が牙獣種でも最強格だっただけあって凄まじい身体能力を誇り、大剣を双剣のように扱う規格外の存在だった。
 住民との関係は概ね良好ではあったものの、やはりスペックの差による疎外感を持っていたようで、サバエナスの引き起こした悪夢のような出来事を切っ掛けに爆発、己を傷付けたセイハクを許す事は出来ても、根本的に自分を見失っており、やがて“命懸けで里を守る事で自身の存在を確立する”という狂気に駆られ、龍気ウィルスという禁じ手を講じてしまった。
 そして、最終決戦の際、怒り狂うハバエナスに無謀な特攻を仕掛け、彼の人生は呆気なく、何の意味も無い終わりを迎えた。


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再生話:「泣いた雪鬼」

これにて終了。そしてサンブレイクへ……。


「うぅぅ……!」

 

 轟々と燃え盛り、内部を曝け出した百式からくり蛙のコクピットで、イオリは意識を取り戻した。乗組は大体が脱出したようだが、逃げ遅れた(もしくは攻撃が直撃した)オトモたちが、真っ赤な焔の中で息絶えていた。

 

「クソッ……!」

 

 イオリは憎しみに満ちた表情で、事を起こした張本人を見上げる。

 

『キィィカァアアアアアアアアアアッ!』

 

 そこでは、すっかり名前通りの闇黒螳螂と化したハバエナスが、通常のアトラル・カの物とよく似た鳴き声を上げながら、怒り狂っていた。部位破壊された個所から刺胞動物のように糸の触手を生やし、あらゆる物も焼き切り、破壊している。余波だけで大勢の里守隊やライダーが細切れにされ、巨大なヨツミワドウですら全身を傷だらけにされていた。

 どう見ても、まるで勝ち目が無い。カムラの里が陥落するのも時間の問題だろう。

 

「……ユウタくん」

 

 そんな化け物を相手に、無謀ではあるが、勇気を振り絞って立ち向かった、小さな英雄はもういない。ハバエナスの無慈悲な攻撃に晒され、真っ赤な血花となって散ってしまった。

 

「そうだ、まだ終わりじゃない」

 

 ここで自分が諦めれば、ユウタの……ひいては、殉職して行った者たちの死が無意味になる。それだけは駄目だ。

 

「……ごめん、お父さん、お母さん、お爺ちゃん」

 

 イオリは一言だけ今ここに居ない家族に謝り、

 

「これで最後だ。僕らは、未来へ向かって脱出する!」

 

 そして、百式からくり蛙に隠され、最終兵器を起動した。

 

《ケロァアアアアッ!》

『キェエアアアアッ!』

 

 突如、起き上り小法師の如く起き上った、満身創痍の百式からくり蛙に、ハバエナスは一瞬驚きつつも、すぐさま容赦なく触手を差し向ける。それはまるで光の洪水であり、壊れかけの百式からくり蛙を一気にスクラップへと変えた。

 

「うぁあああああっ!」

 

 だが、百式からくり蛙は止まらない。展開した1度限りのブースト機構によって、ハバエナスの猛攻を受けながらも、その懐に飛び込んで見せた。

 

「気焔万丈ぉっ!」

『………………!』

 

 さらに、ガッツリと四つ身を決めて抑え込み、動力炉を暴走させる。即ち、“自爆”である。

 

 

 ――――――…………ォオオオオオオオオオオンッ!

 

 

 瓦礫だらけとなった第2関門を蒸発させながら、消えていく百式からくり蛙。

 

「イオリくん……!」『おちゃぁ……!』『ゲコァァ……!』

 

 ギリギリで退避していたアヤメとヨツミワドウ親子も、少なくないダメージを負った。

 

『ギャギャギャギャギャ……ッ!』

 

 それでも、ハバエナスはまだ死なない。装甲の大部分が融解しながらも、未だに生きていた。消失したのは、精々40%程度か。これでは致命傷には程遠いだろう。ハバエナスの本体は、中心で脈打つアトラル・カなのだから。

 

「……悪いけど、命を捨ててちょうだい」

『………………』

 

 悔しそうに懇願するアヤメを、巨大ヨツミワドウが一瞬だけ見つめる。

 

『ままぁ……』

 

 それから、己の愛の結晶を。ヨツミワドウは、腹を決めた。

 

『ゲコァアアアアアアアヴァアアアアアアアアアアアッ!』

 

 巨大ヨツミワドウが大気を振るわせる程の雄叫びを上げ、腹部に光を灯し始めた。過去に取り込んだ熔山龍の宝玉に全エネルギーを集中させ、暴走状態に移行したのだ。

 しかし、これは単なる自爆に非ず。腹が破れ、内臓が蒸発し、確実に命を落とす代わりに、“腹の穴”という狭い空間を通る事で、壮絶な破壊力を持つビームとして発射出来るのである。核兵器並みの威力を持つ百式からくり蛙の自爆でさえ致命傷に至らなかったハバエナスを斃すには、最早これしか方法がない。

 

『キァアアアアア!』

 

 だが、エネルギーの充填中に、ハバエナスが復活。

 

『シィィィイイイイイイネェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!』

 

 持ち得る力の全てを込めた、極太のビームを発射して来た。

 

(駄目だ、間に合わない……!)

 

 終焉の威光が、最後の抵抗を試みるカムラの里の勇士たちに襲い掛かる。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

《残念だったわね。キミの人生は、もう終わったの》

 

 いや、まだだよ。今死んで終わる訳にはいかない。里の皆が、アヤメさんがピンチなんだ。

 

《今更のこのこ出て行ってどうなるワケ? そもそも、そんな義理がある? 結局、キミはカムラの里の住人にはなれなかった。幾ら皮だけ人間の振りをしても、所詮はモンスター。本当の悪魔と分かり合える日なんて来ないよ》

 

 例えそうでも、ボクはボク自身の意志で、彼女たちを守りたい。その気持ちに、偽りは無いからさ。

 だから、ボクを行かせてくれよ。このままだと、皆みんな死んじゃうんだ。そんなの、もう嫌なんだよ。

 

《そう。なら、好きにしなさいな、“人間”くん》

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「……えっ!?」

 

 しかし、滅びの光はアヤメたちに到達する事は無かった。

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオッ!』

 

 何時の間にか目の前に立ち塞がった、巨大なゴシャハギに阻まれたのだ。

 

「ユウタ!」

 

 それを見た、アヤメが叫ぶ。

 

「えっ……今、アタシ……ユウタって……?」

 

 無意識の内に、そう呼んでいた。無数の瓦礫と遺骸が龍気ウイルスの粒子で繋ぎ止め形を成しただけの、ゴシャハギのような物体の事を差して。

 

「――――――落ち着け、アタシ!」

 

 そうだ、自分はハンターだ。あるものはすべて使え。利用出来る物は残らず利用しろ。どんな手を使おうが、最終的に勝てばそれでよかろうなのだ。

 目の前の“コレ”が何かは分からないが、守ってくれるというのなら、有難く壁にさせて貰う。

 そして、巨大ヨツミワドウの犠牲を以て、最後の抵抗をする闇黒螳螂を、細胞の一片さえ残さずに消滅させるのである。それが今の自分に出来る、最大にして唯一の役目だ。

 

 

 

《世界よ、今こそ全ての命の時を止めよ! 「天魔開焉星(てんまかいえんせい)」!》

 

「滅鬼刃、零ノ型! 「新月」!」『ブゲァアアアアアアッ!』

 

 

 

 さらに、第1砦の方角で空が赫く染まり、次いで激しい衝撃波と魂の叫びが第2関門まで届く。チラリと見てみれば、オゾンより上から問題なく降り注いだ赫々しい隕石と、蒼い光の矢が激突していた。

 ……アトラファルクと、セイハクたちが最後の決戦をしているのだろう。

 これは、こちらも負けてられない。

 

 

 ――――――ォォォ……!

 

 

『………………』

 

 光が途切れ、残骸の雪鬼が跡形も無く大地へ還り、

 

「行けぇええええええっ!」『おままぁああっ!』

『……ゲォルァアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 そして、無事にチャージを終えた巨大ヨツミワドウが最期の大技を放つ。レンズフレアが発生する程の閃光と、原子を軒並み電離させてしまう極限の熱線が、音すら蒸発させながら、真っ直ぐにハバエナスに発射された。

 

『キェアアアアアッ!?』

 

 ハバエナスは慌てて触手や瓦礫でガードしようとするが、そのどれもが全く効果が無く、完全に無防備な状態で直撃する。

 

『キァアアアアヴォォォォ……ガギグガゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 だが、それでも死なない。ハバエナスは生への執着心だけで、ヨツミワドウの命の輝きを、文字通り身体を張って受け止めていた。

 

『シネッ! シネッ! シネェアアアアアッ!』

 

 さらに、執念で周りに残っていた何本かの撃龍槍を糸で掴み、弾丸の如く撃ち放つ。死なば諸共……否、お前だけ死ねと言わんばかりの、最後の悪足掻きであった。

 しかし、カムラの里もまた終わらない。生き物は最後の瞬間まで、生きる事を諦めないからである。

 

『グヴルヴォオオオッ!』『グキキキキィッ!』

 

 リベロとイソネミクニ亜種が身を挺して弾き、

 

「させませんッ!」『ゴバアアアアアアアア!』

 

 主を失い、ウケツケジョーに駆られる事を選んだ、オトモンのイビルジョーの極太な龍属性ブレスが壊し、

 

「タイガの仇ィイイイイッ!」「アヤメぇええええっ!」

 

 タイシとウツシの師弟コンビが打ち落とした。

 ……最早、ハバエナスに打つ手は無い。

 

 

 

『ガ、グ、ギ……キ……チィクショォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

 

 

 遂に耐えられなくなったハバエナスが、怨嗟の断末魔を残して、闇黒の光に還った。

 

『ゲコォ……』

 

 と、全てを出し切ったヨツミワドウが、どうと倒れ伏す。それきり、二度と再び動く事は無かった。

 

「ありがとう」『ちゃま……』

 

 そんな彼女に、アヤメとヨッちゃんが黙祷を捧げる。共に戦ってくれて、ありがとうと。

 

「……ならば、残るは――――――」

 

 だが、まだ終わりではない。

 第1砦上空の光は消えているが、龍宮砦跡の燈火は未だに燃え盛り、狂飆と霹靂を逆巻かせている。

 

「行こう。これが最後だ」

 

 皆それが分かっているのか、生き残った全ての者が傷付いた身体に鞭を打って、地獄のような戦場へと向かって行く。たった2人の最終戦争をしている、猛き焔たちを援護する為に。

 

「行って来るわね、ユウタ」

 

 何も残らぬ虚空に一言だけ、行ってきますの挨拶を送って……。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『うさうさー』

「……う、ん……朝か」

 

 と、アタシはウサラ(極小ウルクスス)に揺さぶられて目を覚ました。

 ……はいはい、アタシだよ。いい加減ゆっくりしたいと、叶わぬ望みを夢見る最上位ハンター、アヤメだよ。

 あれから数ヵ月の時が経った。色々と問題もあったが、どうにか里も復興しつつある。埋葬やお通夜も済んだし、建物の修繕も終わった。逝ってしまった彼らも、今頃は草葉の陰で笑みを浮かべている事だろう。

 余談だけど、ヨッちゃんは母親に似て馬鹿デカくなったので、里周りの河川で暮らしており、室内のペット枠はウサラになっている。こいつもすっかり野性を失くしてるなぁ……。

 

「あ、アヤメさん。おはようございます」

「……おはよう、イオリくん」

 

 家から出た所で、イオリくんにご挨拶された。

 閃光の中に消えたと思った彼だったが、大爆発する直前まで気絶していたオトモたちに咥えられ、ギリギリで真下に開いていた“大穴”に飛び込み、どうにか助かったそうな。

 まぁ、爆風から逃れる為、わざと入り口を崩落させたせいで、暫くの間、地下生活を営む破目になったらしいけど。

 

「それじゃあ、また後で」

「はいはい……」

 

 アタシはイオリくんと別れると、船着場へ向かった。今日は色んな奴らが里を旅立つ日だからだ。

 

「今までお世話になりましたッ! 機会が有れば、また会いましょう、“相棒”ッ!」

 

 先ずはウケツケジョー。無事に記憶を取り戻し、仲間との合流も果たした今、何時までも居座っている程暇ではない彼女は、やって来た時と同じように、彗星の勢いで出立した。

 もちろん、エヴァも一緒なのだが……そのイビルジョー、何処で手に入れたんだよ。どうでも良いけどさ。

 

「……また会おう」「それじゃあね」『また遊びに来るからよー』『最後まで騒がしいわね……』

 

 続いて、シュヴァルたちライダー御一行様。元々救援で来た彼らも、里に留まる理由は無い。

 今回の1件で世間的なライダーへのイメージが変わった為、一部の人は新天地を求めて故郷と別れを告げた者も居たようだが、それはそれだろう。

 是非とも偶には観光に来て欲しいね。

 

『そんじゃ、行くぬー』

 

 お次は、風来嬢のクスネ。コイツに関しては昔からだから、全然寂しさは無かった。早く行け。

 

「アヤメさん、今度来る時は異国土産を持って来ますね!」「もちろん、貰う物は貰うがな!」『バイバイにゃ~』『ぐぇ~ん♪』

 

 最後はメラルたち交易組。彼女たちはロンディーネさんと共に、これから世界を巡るのである。

 里長によれば、メラルはハンターが居なくなる事を危惧していたようだが、何故かアタシの名前を上げて送り出したらしい。何でや。

 ちなみに、王国へは“彼”が行くようだ。

 

「さてと……」

 

 見送りも済んだ事だし、集会所にでも行くか。

 

「おや、アヤメじゃないか」

 

 何か嫌な奴に会っちゃった。言うまでも無く、ウツシである。

 

「これからクエストかい? 精が出るね」

「……働かざる者、食うべからず、だよ」

「別にニートでも問題ないくらいにお金は有るじゃないか」

「人を穀潰しにさせようとするなよ」

 

 この男は……。

 

「――――――そんな事になったら、ユウタに顔向け出来ないでしょうが」

「………………」

 

 アタシの言葉に、ウツシは何も答えなかった。

 ……まぁ、気持ちは分かる。

 しかし、おかしくなった訳ではない。ここはユウタの帰って来る里で、アタシの家は彼の家だから、守って行きたいと、そう思っただけだ。

 だが、何時かユウタが戻って来るんじゃないかとも思っている。確信は無いけど、そんな気がしてならないのである。

 だから、今日もアタシは儚い希望を信じて、狩りに赴く。

 何時の日か、あの楽しかった日々がやって来ると、自分に言い訳しながら……。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「………………」

 

 ここは何処だろう?

 

「キキキ、目が覚めたかぁ~?」

「おお、目覚めたか、ご主人!」

 

 あと、この少女たちは誰だろう?

 

「誰……?」

「おいおい、オレの事を忘れたのか? オマエに散々痛い目に遭わされた、イソネミクニ亜種だった(・・・)女だよ」

「酷いです、ご主人! わたしです、貴方のオトモ、リベロです! しかし、酷い貴方も嫌いではありませんよ!?」

「………………」

 

 色々と突っ込見所はあるが……女の子だったんだね、君ら。よく見ると、それっぽい装備付けてるし。

 

「――――――じゃあ、ここは何処?」

 

 ついでに私は誰、とも聞きたい。消失した筈の人間としての肉体が有るし、普通にぺらぺら喋れてるし。マジでどういう状況なの、これ?

 

「……招待状、持ってるだろう?」

 

 ミクネ亜種に促されて手元を見ると、確かに白い女の子から貰った、あの招待状が握られていた。試しに開いてみると、

 

 =======================

 

 うふふ、あなたハンターなんでしょ?

 ある場所まで一緒に来て欲しいの……素敵な所よ。

 白い光が綺羅星のように舞い散って……。

 退屈なんてさせないんだから……♪

 

 =======================

 

 いや、デートかよ。何考えてんだ、あの人。

 

「……で、結局ここは何処なの?」

「さぁね。そこの人たちに聞いてみれば?」

「………………!」

 

 ミクネ女子に言われて振り返ると、悪魔の2本角と天使の翼を生やした、2人の男女が居た。彼らの背後には地獄のような門が、貝よりも硬く口を閉じている。

 

『僕らは満足してるけど、君たちはもっと生きたいんでしょ?』

『なら、この門を潜ってお進み下さい。“彼女”が待っています』

 

 すると、閉じ切っていた門が急に開き、潜った先には天国へ至れそうな長い長い階段が続く。

 

「「「………………」」」

 

 言われるがまま、1段1段、只管に上って行くと、非常に見覚えのある廃城の広場に出た。空には闇黒が渦巻き、異次元へのゲートが展開されている。

 さらに、そのど真ん中に例の白い女の子が、恋人を待ち侘びたような笑みを浮かべて立っていた。

 

《ようやく来たわねぇ、ユウタくん。……さぁ、始めましょうか、“人間ども”。退屈なんて、させないんだから》

 

 しかし、瞬きする間に姿を消し、

 

《フォオオオォォォォォン!》

 

 ゲートの向こうから、赫い稲妻を纏った白き龍が現れた。自分が知っている、どの古龍とも違う、神々しくも触れてはならない危うさも併せ持つ、独特な雰囲気のモンスターだ。

 何だか良く分からんけど、そんな物は何時もの事。ハンターは常に未知との戦いを迫られているのである。

 

 ――――――ボクの人生に立ちはだかると言うなら、お前は敵だ。

 

「はぁあああああああああああッ!」

「行くぜ行くぜ行くぜオラオラァ!」

「一生ついて行きますよ、ご主人!」

 

 そして、ボクたちは己が武器を手に、白き龍へ挑み掛かった。思わず涙を浮かべながら。

 

 

 

 ……ボクたちの人生は、これからだ!




◆「泣いた雪鬼」

 カムラの里に伝わる昔話。
 内容は“人間になる事を夢見た雪鬼が、ある日人間の姿となり、カムラの里で暮らし始め、後に降り掛かった災厄の数々を命懸けで守った”という物。
 その後、命を賭した雪鬼がどうなったのかは描かれておらず、誰が何時書いたのかも釈然としていない。


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