不老少女、海に出る。 (千樹 星百)
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第1章 無人島編
第1話


 


 何もかもが白く、どこまでも果てしなく白が広がる空間、通称〝神域〟。

 そこは、神が世界を管理するための仕事場。

 

 そのような場所に、人影が二つ。

 

 一人は、黒原(くろはら) (ゆたか)、十九歳、日本人大学生。

 名前からよく間違われるが、歴とした女性である。

 髪は日本人らしく漆黒で、うなじ辺りでバッサリと切ったショートヘアにしている。目つきは鋭いが、何となく、冷たいというよりも、カッコいいという印象を与える。

 百七十センチ半ばと日本人女性としては高い身長を持ち、胸部の豊かはあまり無いが、スラリと引き締まった体をしている。  

 

 そして、もう一人は、足元まで伸びた豊かな金髪に、綺麗な蒼穹の瞳。頭の上には神々しい光輪が浮かび、また、その背中からも神々しい純白の翼が一対生えている、ザ・天使と言える姿をしたナイスバディな美女。

 

 二人は、お互い向かい合うように、椅子に座っている。

 豊は深く考え事をしているかのように、目を瞑って腕と脚を組んでおり、天使のような美女は真剣な眼差しで豊を見ている。

 

 そして、暫くして、豊は目を開いて、言った。

 

「ごめんなさい、申し訳ないけど、さっきなんて言ったかもう一回言ってくれない?」

「はい。貴女は不幸にも亡くなってしまいました」

 

 豊は静かに宙を仰ぐ。

 

「マジなの………」

「残念ながら、マジ、です」

 

 豊は、天使を名乗る女性から聞く、二回目の台詞に、ガクリと項垂れる。

 

「心中お察ししますが、時間が押してるので話を進めても宜しいでしょうか? 本当に申し訳ないのですが」

「あ、はい。どうぞ」

「こほん。ではまず、貴女の亡くなったときのことですが………」

「………晴天なのに何故か雷が落ちてきたのは覚えてるわ」

 

 豊の言葉に天使は流れるように土下座をし始めた。

 

「本当にごめんなさいっ………!! 私の上司のヲタクな神がっ、本当にごめんなさいっ!!」

「いや、何があったの!?」

 

 豊は、なんとか土下座をやめさせ、天使から詳しく話を聞くと、

①天使の上司は、地球を含めた複数の世界を管理する神である。

②最近、その神が隠居し、猫被りや演技が非常に上手い日本のサブカルチャーにどっぷりと嵌まってヲタクと化している天使が新しい神になった。

③そのヲタクの神は、特に『ONE PIECE』という作品を気に入っており、時折、この〝神域〟で『ONE PIECE』に登場するキャラクターの能力や技を再現している。

④神が「〝神の裁(エル・トール)〟ッ!!」と叫んで再現した技が、誤って下界に落ちてしまう。

⑤その落ちた先に丁度いたのが豊。

 

 その話を聞いた豊は、

 

「よし、天使さん。ちょっとその神とやらに会わせてくれないかしら? 一発、いえ、千発殴るから」

「申し訳ありませんが、神は既に反省用の独房におりまして、貴女が直接会うことは出来ません」

「チッ」

「………時間がないので話を進めますね」

「さっきから時間が押してるって言ってるけど、なんの時間?」

「貴女が転生するまでの時間です」

「は?」

「本来であれば死者の魂はこの〝神域〟に来るのではなく、直接輪廻の輪にのります。しかし貴女の場合、こちらの不手際で本来とは違う死に方をしてしまったため、すぐに貴女の魂をこの〝神域〟で保護し、世界の認識を歪めるなどをして蘇生させるというのが本来の流れです」

「私、死んだままなんですけど?」

「ええ、あの神、もとい、あの馬鹿は私たち天使にバレるのを恐れて、貴女の死を隠蔽してまして」

「……………」

 

 ピキッと豊の額に青筋が浮かび上がる。

 

「その後、貴女の死が発覚したわけですが、適切な処理をするのも不可能なほどの時間が経っていたのです」

「……………」

 

 ビキビキッと豊の額に青筋が増す。

 

「貴女の魂を保護したのはいいものの、貴女の魂が輪廻の輪に完全に乗るのも時間の問題でして」

「……………」

 

 ビキビキビキッと更に数を増す青筋とは逆に、口角が徐々に上に上がる。

 

「しかも、その処理をあの馬鹿が変に拗ねて、私たち天使だけですることになったせいで余計に時間がかかってしまい、もっと取れるはずだった時間が更に短く」

「ごめんなさい、やっぱりちょっとその馬鹿に会わせてくれない? マジで殴り殺すから」

 

 ブチィッと豊の何かが遂にキレた。

 椅子から立ち上がり、手の甲に青筋が浮かぶほど拳を強く握りしめる。

 表情は笑顔としか言いようのないものであるが、目が笑っていないせいで凄みを感じさせる。

 

「お気持ちはほんとッッッッによく分かりますが、これ以上は本当に私たち天使の頑張りが無駄になりかねないので、話を進めさせてくださいお願いします」

「……………チッ」

 

 豊は怒気を治め、不機嫌そうにドカッと乱暴に椅子に座り直す。

 天使は、豊のその様子に一先ず安堵し、話を進める。

 

「では、黒原 豊様。貴女には、このまま輪廻の輪に乗るとはまた、別の選択肢が存在します」

「と、言うと?」

「元の世界とは別の世界、つまり、異世界に転生するというものです」

「……………何故、異世界転生なの?」

「いえ、その、あの馬鹿曰く、『こういう時は、異世界に転生させてあげればいいんだよ!!』などと自信あり気に言っておりまして……………」

「まあ、つまるところ、『元の世界にはもう蘇生出来ないから、別の世界で人生の続きをして』ってことでしょ?」

「ええ、おそらく」

「私としては、馬鹿をぶん殴れないのは不満だけど、人生に続きが貰えるっていうなら、ありがたくもらうわ」

「ありがとうございます。では、転生する世界はこちらの資料の中からえら―――」

「ちょおおおおとまったあああああああッ!!!!」

「うわっ」

「きゃっ」

 

 天使が豊に、転生先の候補の世界の資料を渡そうとしたとき、銀髪の天使のような少女が二人の間に突っ込んできた。

 それに、豊と天使は短く悲鳴をあげる。

 その隙に、その少女は天使の手から資料を奪い取り、びりびりと破り捨ててしまう。

 

「なっ!? 貴女はお仕置き部屋にいるはずじゃっ!?」

「ふっふーん、あれくらい抜け出せなきゃ神の名が廃るってものさ!!」

 

 豊は今のやり取りで――まあ、自分で「神」といったのだが――乱入してきた少女の正体」を把握する。そして、コッソリと(馬鹿)の後ろに移動する。

 

「ていうか、なんで資料破り捨てたんですか!?」

「この子の転生先はボクの独断と偏見によって決まったからさ!!」

 

 豊は神に勝手に転生先を決められたことに、眉をピクリとさせるが、(馬鹿)の背後に回り込むことに成功する。

 

この馬鹿っ!!

 なに勝手なことしてるんですか!?」

「こ、こいつ、遂にドストレートに罵倒したな!? ていうか、ボクが勝手なことするなんて、もう今更じゃないか!!」

「なに開き直ってんですか!? はっ倒しますよ!! って、あら?」

「え、なに、どうし――」

 

 ゴチンッと、(馬鹿)の後頭部に豊の拳が突き刺さる。

 

「いっっっっ!?」

 

 痛がる神を豊は仰向けに倒して、マウントポジションをとる。

 神の目が豊と合う。

 そして、神はダラダラと汗を流し始める。

 

「えっと、は、初めまして、ボ、ボクは神だよ!」

 

 豊はそんな神ににっこりと微笑んで、

 

「そう、初めまして。そして、死ね♪」

 

 神は現状を理解したのか、サッと、顔を青くする。

 

「た、たすけ…」

 

 そして、一縷の望みをかけて、天使に助けを求めようとすると、

 

「~~~♪」

 

 物凄く上機嫌そうに、豊たちとは逆方向を向いて鼻歌を歌っていた。

 

「……………」

 

 神は一周回って無表情になった。

 そして、視線を豊に戻す。

 

「♪」

 

 拳を振り上げて、凄くいい笑顔をしてらっしゃる。

 目が笑ってないのと、力いっぱい握りしめているであろう拳で、その分、滅茶苦茶怖いが。

 

 神は思った。

 

(あっ、おわた)

 

 その後、豊の拳が神の顔面や頭に何発もぶち込まれたのは、いうまでもないことだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「で、神様(笑)が選んで下さった(・・・・・・・)世界は、どんなせかいなのかしら? ん?」

 

 〝神域〟では、青あざやたんこぶを大量に作った「ボクは馬鹿です」と書いてあるホワイトボードを首から紐で吊るす神(笑)と、それに対してメンチを切っている豊、そして、心底スッキリしたようなとても清々しい表情をした天使の姿があった。

 

「ボ、ボク的には、と、とてもいい世界だよ、うん」

「貴女の感想はどうでもいいから、どんな世界か教えてくれない? 出来るだけ簡潔にね?」

「ア、ハイ」

 

 神(笑)、豊の凄みに一瞬で敗北する。

 

「簡単に言うと、『ONE PIECE』の世界です!!」

「……………ごめんなさい、私『ONE PIECE』全然読んだことないから、それだけじゃ分からないの」

「…………ゑ?」

「正直、麦わら帽子を被った男の子が主人公くらいしか知らないわ」

 

 豊の台詞に、神はとても驚いたように目を見開き、口をガン開きしている。

 

「え、じゃあ、なに? もしかして、漫画とか読まなかったタイプ?」

「別にそう言う訳じゃないけど………」

 

 豊はこれまでの十九年間、漫画を読まなかった訳ではない。

 漫画ならば人並みには読んでいた。ただ、その中にジャンプ作品が少なく、読んだのは『BLEACH』と『僕のヒーローアカデミア』くらいである。

 

「う~ん、『ONE PIECE』の世界を簡単に説明すると、広大な海に多くの島が点在して、その海に無法者の海賊とか、治安維持の海軍がいる、的な?」

「なんで疑問型なのよ」

「じゃあ、もっと詳しく説明すると」

「遠慮しておくわ。時間がないって聞いたし」

「「あ゙」」

 

 豊の一言に、神と天使がとても重要なことに気がついた。

 

「や、やややヤバいですよ!? じ、時間がもうあとちょっとしかないです!?」

「え゙!? 特典とかまだ決めてもらってないんだけど!?」

 

 豊は『ONE PIECE』の説明を長々と聞かされそうだったので、それを断るために言ったのだが、予想以上に時間がないようで、顔をひきつらせる。

 

「時間がないなら、特典は『ONE PIECE』の世界で無難に生きれるものをそっちで選んで頂戴。『ONE PIECE』の知識のない私が選ぶよりかは、マシでしょ?」

「そ、そうか! その手があったか!!」

 

 豊の一言に神が急にイキイキし始める。

 豊は少し早まったかと、後悔する。

 なんせ頼んだ相手は技を再現したときに、うっかりで雷を落とすような奴である。

 今更だが、そんな奴に頼んで大丈夫かと、不安になった。

 

「よし。これで特典は終わり!! あとは転生するだけだね!!」

「はい。あと数十秒後ですね」

「思ってたより時間なかったのね!?」

 

 豊がそう言うと、神と天使はスッと佇まいを正す。

 一体何事かと、豊は困惑する。特に神、それが出来るなら最初からやれ、とも思った。

 豊は、そんなことを考えていると、豊の体が光に包まれ出す。

 

 

「それでは豊ちゃん」「豊様」

 

「「良き人生を!!」」

 

 

 豊は二人のその言葉を聞くと同時に、光に完全に包まれ、浮遊感を感じるとともに、〝神域〟から消えた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 神と天使の二人は、豊の転生を見届けた。

 

「ふー、一時はどうなるかと思ったよ」

「そうですね。特典についても、貴女にしては大分まともなようですし」

「ひどっ……でも、まあ、一仕事終わった後だから特別に許してあげよう!」

「それはそれは、ありがとうございます」

 

 神は「遊ぶぞ~!!」と、その場から立ち去ろうとして、ガシッと、とても良い迫力のある笑顔の天使に手首を摑まれる。

 

「……………えっと、何?」

 

 神は何故摑まれているのか分からず、天使にそう聞くと、天使の笑顔の迫力が増す。

 

「フフ、面白いこと言いますね? 貴女はここに来る前に一体何をして、どうしたんでしたっけ?」

「あっ」

 

 神の顔が、先ほどの豊のときとは比べられないほど、青くなる。

 

「さ、行きましょうか。お仕置き部屋♪

「ヒエッ」

 

 「嫌ぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」と叫びながら、天使によってお仕置き部屋()に連行される神の姿があったとか、なかったとか。

 



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第2話

 ザァーン、ザザァー、と波が寄せては返る音が繰り返される砂浜に豊は仰向けの状態でいた。

 

「んっ……………」

 

 豊は、波の音と潮の香りで、目を覚ます。

 

(ここは?……………って、ああ。『ONE PIECE』の世界に転生したんでしたっけ)

 

 豊は体を起こして、グッと体を伸ばす。

 周りを見渡すと、前には広大な海、左右は広い砂浜、後ろには鬱蒼としたジャングル。

 そして、足元には謎の宝箱。

 

(この中に特典が入っているのかしら?)

 

 宝箱には、鍵が掛かっていなかったようで、豊はすんなり開けることができた。

 その箱の中には、サーベルが一本、拳銃が一丁、長い鎖が五本、そして、折りたたまれた一通の手紙が入っていた。

 豊は手紙を手に取る。

 宛て名には「黒原 豊様」と書かれているので、豊はそれを広げて読んでみる。

 そこには、綺麗な字でこう書いてあった。

 

『豊ちゃんへ

 

 そちらには、無事に転生できたかな?

 『ONE PIECE』について何も知らない人が行っても問題のない場所にランダムで送った訳だから、無事に転生出来たことを前提に書いていくね』

 

(一応、そんな気遣いは出来るのね)

 

 豊は(馬鹿)とは思えない気遣いに、少し驚きながらも、手紙を読み進める。

 

『取り敢えず、まずは世界について話していくよ。

 まず、一つ目に、この世界には多くの島々があって、島と島の行き来は基本的に船だよ。

 だから、頑張って船とか用意してね!

 

 二つ目に、〝世界政府〟っていう地球でいう国連みたいな組織があるんだけど、それとは違って、大きい軍事力と加盟国に対する大きな影響力を持っているんだ。

 世界政府には〝海軍〟とか〝サイファーポール〟なんて言う下部組織もあるけど、それは後で書くね。

 で、先に世界政府のトップについて話すと、〝五老星〟っていう〝世界貴族〟と呼ばれる人たちの最高位にいる五人のおじいちゃんたちだね。

 この世界貴族にいてなんだけど、通称として〝天竜人〟って呼ばれることが多いかな。それでこの人たちなんだけど、先祖が原作が始まる八百年前に世界政府を作った二十人の王の末裔らしくてね、凄い権力を持ってるんだ。その権力は加盟国の王族でさえ従うしかないほどなんだけど、問題は、基本的に天竜人って人間のクズだから。人を人とも思わない、ぶっちゃけ奴隷としか見てないようなやつらだから。

 五老星の人たちはずっとマシだけど』

 

(『ONE PIECE』の世界って意外と殺伐としてるのね……………)

 

『三つ目に、海軍について話すね。

 海軍は、世界政府の指揮下にある軍事組織だね。基本的には、海上での治安維持が主な仕事だね。

 他にも、天竜人や王族の護衛とかもするかな。

 海賊とかになったら、基本的に追いかけられるよ!

 まあ、たまに見逃してくれるルーズな人もいれば、「悪は絶対殺す」っていう感じのクレイジーな人もいるけどね。

 

 四つ目に、サイファーポールについて話すね。

 サイファーポール、通称〝CP〟は世界政府の指揮下にある諜報機関だね。

 天竜人直属のCPー0と、CP1からCP8、そして、市民の暗殺を許可された非公開の暗躍部隊でCP9があるね。

 たまに、長官が腐ってたりするよ』

 

(うわぁ……………)

 

 豊は想像以上の世界のヤバさに軽く引いた。

 

『五つ目は、それぞれの海について話すね。

 この世界の海は、「赤い土の大地(レッドライン)」と「偉大なる航路(グランドライン)」で東西南北に分割されているんだ。

 それぞれ〝東の海(イーストブルー)〟〝西の海(ウェストブルー)〟〝北の海(ノースブルー)〟〝南の海(サウスブルー)〟って呼ばれているよ。

 

 「偉大なる航路」は、「赤い土の大地」と垂直に交わる天候や海流、磁場が超でたらめな海域で、東の海(イーストブルー)南の海(サウスブルー)に面している前半の海を「楽園(パラダイス)」、西の海(ウェストブルー)北の海(ノースブルー)に面している後半の海を「新世界」って呼ぶんだ。

 島々にある特殊な鉱石で磁場が狂ってるから、「記録指針(ログポース)」とか「永久指針(エターナルポース)」がないと、次の島に行けないから気を付けてね。

 

 「偉大なる航路」に入る方法は二つ。

 一つは、全ての海に接する山、リヴァース・マウンテンの斜面を駆け上がる海流に乗ること。

 これは、入口があるんだけど、入り損ねると、船ごと沈むよ。

 もう一つは、「凪の海(カームベルト)」っていう「偉大なる航路」を挟む無風の海域を渡ること。

 ただ、この海域には、海王類っていう馬鹿デカい海の化け物が住んでるから、この海王類を上手く躱す方法か、海王類を倒せるだけの力がないと、全くおススメ出来ないね。

 

 「赤い土の大地」は、世界を分かつ超巨大で、両端がほぼ垂直な崖でできた壁のことだよ。

 天竜人が住む「聖地マリージョア」はこれの上にあるんだ』

 

(地形が明らかにおかしいでしょ……………)

 

 豊はこの世界の地形や海域に戦慄しながらも、手紙を読み進める。

 

『六つ目は、悪魔の実について話すね。

 これは、とても不思議な果実で、一口でも食べると、その実に宿っている特殊な能力を手に入れることが出来るんだ。外見も、明らかに普通の果実じゃないし、滅茶苦茶不味いらしいよ。あと、泳げなくなる。

 そして、同じ悪魔の実は同時に存在しないし、一つの実からは一人の能力者しか生まれないんだ。あ、能力者っていうのは、悪魔の実を食べた人たちの総称ね。

 因みに、能力者が死ぬと、その人が食べた悪魔の実は復活するらしいよ。

 

 特殊な能力は、大別して「超人(パラミシア)系」「動物(ゾオン)系」「自然(ロギア)系」の三つに分けられるんだ。

 まず、「超人系」は、特殊な体質や能力を持つことが出来るんだ。一番数も多くて、特殊だから、相性によっては下克上を起こしやすいね。

 次に、「動物系」は、動物への変身能力を持つことが出来るんだ。人型、獣型、その中間形態の人獣型の三種類に変形出来て、鍛えれば鍛えるほど身体能力が上がるっていうことから、純粋な白兵戦では一番だね。

 最後に、「自然系」は、身体を自然の物質そのものに変化させることが出来るんだ。弱点を突いたり、海楼石の武器や覇気による攻撃じゃないと、基本的に攻撃が通らないし、三種類の中では最も希少とされる悪魔の実だからか、最強種って呼ばれてるんだ』

 

(悪魔の実、ねぇ。強いんだろうけど、泳げなくなるなら、海に落ちたらお終いだし、別に無敵って訳じゃないなら、正直、いらないわね。あと、海楼石と覇気って何かしら?)

 

『七つ目は、海楼石について話すね。

 これは、「偉大なる航路」の一部の海域で採れる鉱石でね、「海と同じエネルギーを発する」っていう特性を持っているんだ。言わば、海が固形化したようなものなんだ。

 その特性から、能力者はこの石に触れると、海に落ちたのと同じ状態になる訳で、力が抜けて、能力が使えなくなるんだ。だから、対能力者の切り札としては結構有用なんだけど、ダイヤモンド並みの強度を持つから、加工が凄く難しいから、そんなに出回ってないんだよね。強いて言うなら、海楼石製の手錠とか檻かな。

 因みに、これを船底に敷き詰めると、海中の生き物たちからは海水と同じように認識されるから、「凪の海」を渡るんだったら、そうした方がいいと思うよ』

 

(やっぱり、悪魔の実の能力者って、弱点多くないかしら? 悪魔の実は見つけても食べないでおきましょう。まあ、売れば好事家とかが買ってくれるでしょう)

 

 原作での悪魔の実の強力さを知らない豊には、「悪魔の実=デメリットがあり過ぎるもの」と認識しているらしく、売れば、最低でも一億ベリーはするのだが、悪魔の実に価値を感じていないようだ。

 

『あとは、お金の単位が「ベリー」で大体「1ベリー=1円」くらいとか、通信手段として〝電伝虫〟っていうカタツムリみたいなのがいたり、他には、手長族とか足長族とか魚人とか巨人がいるくらいかな~。

 まあ、今上げたのは、興味があったら自分で調べてみてね』

 

(まあ、金銭の単位が違うのは当たり前だとして、価値が大体日本円と同じなのは、普通に楽でいいわね。それにしても、カタツムリでどうやって連絡を取るのかしら? 種族とかは純粋に気になりますし、自分で調べましょう)

 

『そして、漸くお待ちかねの特典についての説明に入りたいと思いまーす!!』

 

「……………」

 

 そして、手紙の終盤に近付いてきたころ、遂に豊が不安視していた特典の説明がきた。

 

(こちらも、せめて手紙の用に気を遣えてるといいんだけど……………)

 

『特典その1、絶対に壊れないサーベル!!

 この手紙が入っていた宝箱に一緒に入っているはずだよ。

 そしてなんと、切れ味は、最上大業物クラスだよ!!

 銘は「ワイバーン」!!

 あ、刀剣の位階についての知識はまた後でね。

 

 特典その2、絶対に壊れないピストル!!

 これも、手紙やサーベルと同じく宝箱に入っているはずだよ。

 ちゃんと、弾丸もたくさんあるから、頑張って射撃の練習をしてね!!

 

 特典その3,純海楼石製の鎖!!

 敵に能力者が現れたら是非とも活用してね!!』

 

(私、サーベルも銃も使ったことなんてないのだけれど。後、鎖は相手を縛るのにでも使うのかしら……………ていうか、弾丸なんて何処に――)

 

 豊には、これが全部ではないとは言え、神のチョイスには趣味が入っているようにしか見えない。

 閑話休題。

 弾丸の在り処には、一瞬何処にあるか分からなかったが、宝箱の底が妙に厚かったのを思い出し、宝箱の底を弄ってみると。

 

「やっぱり」

 

 宝箱の底には、びっしりと鉛玉が大量に敷き詰められていた。しかも、ご丁寧にも製造方法の書かれた紙と一緒に。

 豊は少しそれを読んでみる。

 

「…………………………道具と材料があれば、私でも作れそうね」

 

 豊は、少し驚きつつも、一旦、弾丸のことは置いておいて、手紙の続きを読む。

 

『特典その4、覇気と六式!!

 これに関しては、豊ちゃんがこの手紙を読み終わり次第、自動的に豊ちゃんの脳に、知識と使い方の感覚を刻み込むから、あとは知識と感覚を頼りに頑張って取得してね!!

 

 特典その5、高い身体能力!!

 豊ちゃんの身体能力を地球にいた頃と比べて、大幅に強化してあるよ!!

 ついでに、回復力とか免疫能力とか、『鬼滅の刃』の隊士みたいになってるけど、大丈夫!! 気にするな!! 『ONE PIECE』の世界なら、そういう奴が絶対そこそこの数いるから!!

 

 特典その6、不老長寿!!

 人類の夢を半分、神様パワーで叶えてみました!!

 年はそれ以上取らないし、寿命で死ぬこともない。永遠の現役だよ!! やったね!!』

 

「…………………………はっ」

 

 自身の脳に知識と感覚が刻み込まれるという情報と、自身の体が『鬼滅の刃』の隊士化しているという情報。そして、不老長寿になったという情報。

 ちょっと情報量が多すぎて、豊は思考が完全に遠いところに旅立ちかけるが、なんとか自力で現実世界に帰還する。

 

「鬼滅ボディ…………悪いことはないけど、自分が知らないうちに身体が人間辞めてるって、何か複雑ね…………」

 

 豊は、凄い身体を手に入れて嬉しいような、人間辞めてて悲しいような、そんな複雑な表情をしながらも、手紙の最後を読む。

 

『以上、神様からの『ONE PIECE』世界の紹介と特典の説明でした!!

 それでは、良き人生を!!

 

・追伸

 原作の五十年前に転生させようと思ったら、桁一つ間違えて、二百年前にしちゃった(汗)』

 

(まあ、別に原作と関わるつもりはないから、原作の何年前でも――)

 

「痛っ!?」

 

 そこまで考えたところで、頭に激痛が走り、豊はそのまま気を失った。

 



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第3話

「うう、頭痛い………」

 

 豊はこの世界に来て初めての気絶から目覚めた後、無事に(・・・)覇気と(・・・)六式の(・・・)知識と(・・・)感覚を(・・・)刻み込(・・・)()()()頭を手で押さえながら、人里を求めて、砂浜を歩いていた。

 この世界では、島の行き来に、主に船を使うと手紙に書いてあったので、海沿いを進めば、そのうち、港に辿り着けるだろうと、考えたためだ。

 豊は砂浜を歩きながら、ただ港探しをしているだけでは時間が勿体無いと考え、脳に刻み込まれたときに一度は理解した覇気と六式について復習する。

 

(覇気って凄いわね。

 視覚を封じても相手の攻撃を躱せたり、自然系の悪魔の実の能力者の実体を捉えてダメージを与えられたり、威圧だけで相手を気絶させられるとか。

 神からの知識には、私にも〝覇王色の覇気〟の素質はあるってあったけど、今のところ全然使えないのよね……………やっぱり、危機的な状況とかにならない限り、〝武装色の覇気〟と〝見聞色の覇気〟を鍛えないと駄目なのかしら?)

 

 実は、豊は砂浜を歩きながら、感覚にある通りのことを再現しようとしているのだ。

 が、今のところ、〝武装色〟は指先を数秒ほど黒く出来、〝見聞色〟は半径数メートルの範囲の気配を十数秒ほど探れる程度である。

 

 六式に関しては、まだ再現は出来ていない。

 再現することができだけの身体能力はあるのだが、強化された身体を運用する経験が足らないので、再現するにはまず、今の身体に慣れなくてはならないのだ。

 そのため、今は保留となっている。

 寧ろ、豊は、知識に超人体術とある六式を使えるだけの基礎があることに驚いている。

 

(六式は正直言って頭おかしいんじゃないの? 地面を十回蹴って高速移動するとか、空中を蹴って移動するとか……………本当になんで身体能力が足りてるのかしら?

 て、そう言えばこの身体は鬼滅ボディだったわね)

 

 豊は、鬼滅の隊士たちにちょっと引いた。

 神の知識の補足で、自分の身体能力が実は鬼滅の隊士たちを超えてるって知ってても、引いた。

 別にやり場のないもやもやを、鬼滅の隊士たちに当たっているわけではない。ないったらないのだ。

 

 さて、そんな感じで、豊は港を探すが、全く見当たらない。

 太陽の位置が目を覚ましたときと比べて、かなり動いていることから、それなりの時間が経っているのは確実だ。

 宝箱が置いてあった場所には、目印をつけておいたため、一目見れば分かるので、まだ島を一周はしていない。

 島全部を周ってないから港が見つからないのか、それとも、そもそも港なんてないのか。

 

「ここが無人島だったら私、しばらくはサバイバル生活になるのよねぇ…………」

 

 本当にはそうあって欲しくない、そう思いながら、覇気の消耗でへばった身体を一旦休めた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「なんでこうなるのかしら……………」

 

 転生から二週間後、豊は最初に目を覚ましたあの場所で三角座りをし、太陽の光を反射して綺麗に光る海を眺めながらそう呟いた。

 

 豊の言う〝こう〟とは、この島の人里探しの結果である。

 豊は、最初の数日ほどで島の砂浜を覇気の練習をしながら一周した結果、港は見当たらず。

 次に、島の中を十日ほど掛けて探索し、結果として、人里は見当たらなかった。

 つまり、人里探しで確定したのは、この島は無人島であり、人の乗った船が流れ着くまで自給自足のサバイバル生活であることだ。

 

 しかも、この島は、砂浜を除けば、ほぼ全てジャングルであり、この島での食事は、野生の動物や植物が主になる。勿論、ここは地球でないので、似てるが異なるものや、全く知らないものであふれており、豊は運が良かったのか、今のところ、身体に異常をきたすようなことにはなっていない。

 仮に、毒性のあるもの食べてしまった場合は、鬼滅ボディのタフネスに期待するしかない。あるいは、何故か知識と感覚におまけとしてあった「生命帰還」を修得するしかないだろう。

 

 しかも、問題はそれだではない。

 

 この島のジャングルに生息する野生動物であるが、一応、普通の強さを持つ動物が主である。ここ二週間の食料になったのも、それらの動物である。

 しかし、ジャングル探索では、それらではない異常な動物たちがちらほらいるのだ。

 その動物たちの異常な点は三つ。

 一つ目の異常な点は、身体の大きさだ。

 一般の動物たちはいっても精々二メートル半だが、そいつらは十メートルは余裕であるのだ。

 二つ目の点は、身体能力だ。

 図体の大きい野生動物と人間だから当たり前だと思われるかもしれないが、豊は異常な身体能力の持ち主である。今の身体能力に多少であっても慣れてきた豊を上回る身体能力をしているのだ。十分異常に分類されるべきだろう。

 三つ目の点、豊的には、これが一番の異常性である。

 それは、その動物たちは、覇気を使う(・・・・・)という点である。

 現時点の豊のような未熟な覇気ではない、鍛え上げられた覇気である。

 何で覇気を使えるのかとか、その図体で覇気を使うのはないだろうとか、色々と豊的に物申したい気分ではあったが、それはそれとして、その動物たちは、〝武装色〟は勿論のこと、〝見聞色〟も鍛えられているため、今の豊であれば、〝見聞色〟の効果範囲に入れば、視界に入らなくても見つかる。そして、〝武装色〟を纏った前足で叩き潰されるのがオチである。

 

 と、以上のことから、豊は浜辺でちょっとした現実逃避をしていたのだ。

 

「まあ、ここで現実逃避しても仕方ないっていうか、普通に時間の無駄なのよねぇ」

 

 豊は、なんでこんな島で無期限のサバイバルになってしまったのかと、溜め息を吐きながらも、立ち上がり、グッと身体を上に伸ばして、身体を解す。

 

「さて、まずは何をしましょうか?」

 

 豊は、そう言って、今後やるべき最低限のことを考える。

 

「まずは、今の身体に慣れることが先よね」

 

 身体を鍛えても、覇気を鍛えても、まず自分の身体能力に振り回されているようでは、この先やっていけないだろうと考えて。

 

「次は、やっぱり覇気の修得と上達よね」

 

 この先、海に出るのであれば、悪魔の実の能力者との戦闘があるとして、その戦いで覇気は有用だし、何より、覇気を使う大型の生物がいるこの島においては、覇気が使えるようにならなければいつかは死ぬだろうと考えて。

 

「取り敢えず、〝見聞色〟を使いながら、砂浜でも走りましょうか」

 

 豊はそう言って、〝見聞色〟で周囲を索敵しながら、砂浜を走り始めた。

 

 こうして、豊の無人島での修業とサバイバルが本格化した。

 



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第4話

 豊の転生からおおよそ一年が経った。

 

 その一年間の豊の修業の成果と言えば、当初の最優先して取り組むべき課題である〝自身の身体に慣れる〟というものはおおよそ達成したと言えるだろう。

 事実、六式を未完成であるものの、ある程度は再現出来ているのである。これも、六式の「ろ」の字も使えないような一年前と比べれば、大分進歩したと言えるだろう。特に〝(ソル)〟と〝月歩(ゲッポウ)〟、〝嵐脚(ランキャク)〟の再現は順調と言える。

 

 そして、二番目に優先すべき課題である覇気の鍛練では、〝武装色〟は十回中三、四回は硬化出来るようになったとはいえ、維持時間もあまり延びておらず、あまり進んでいないが、〝見聞色〟は大きく進歩していた。

 〝見聞色〟は今や、半径数百メートルの気配をほぼ常時感知出来るようになっていたのだ。

 

 まあ、そうなったのには、豊の得意な色が〝見聞色〟と言うのもあるのだろうが、それ以上に、普段の行動の方が大きいだろう。 

 具体的には──

 

 

 ◇◇◇

 

  

 ドゴーンッ……ドゴーンッ……

 

 ジャングルの奥からいつものように(・・・・・・・)、大地を揺らす破壊がたてた音が鳴り響く。

 そんな中、豊は。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ」

 

 息を切らしながら、破壊が行われているジャングルの奥を走っていた。

 

 何故、そのような危険な場所にいるのか?

 理由は二つある。

 

 一つ目は、食料調達だ。

 豊のサバイバルでの食事は、基本的に野生動物の肉と野生の果実である。

 このジャングルでは、奥に行くほど動物の体が大きくなり、一つの木に実る果実の数が増えるという特性がある。

 豊は、何故かは知らないが、胃袋の許容量が以前の何十倍にも増えていることから、出来るだけ多くの食事を摂ることにしていた。

 そのことから、ジャングルの奥に住んでいた方が、食料調達が楽だからだ。

 

 二つ目は、修業のためだ。

 このジャングルでは、奥に行くほど動物たちの体が大きくなる。つまり、ジャングル最奥に〝異常な動物〟たちがいるのだ。

 彼らは、豊にとっての覇気の先達であり、自分を喰らおうとする(捕食者)である。

 そんな者たちが、毎日のように顔を合わせれば、どうなるか。

 それは、

 

「グオォォォォォオンッ!!」

 

「うっさいわよッ!!」

 

 豊と〝異常な動物〟との鬼ごっこである。

 つまり、「豊が危険な場所にいる」というのは半分間違っており、正確には、「豊が危険な場所で、危険な状況を生み出している」といった方が正しい。

 

 何はともあれ、おおよそ九ヶ月前から毎日のように、豊は〝異常な動物〟にわざと見つかって、今のように〝異常な動物〟――今日はライオン型と――鬼ごっこをしているのだ。

 勿論、ただ走り回って逃げているのではない――と言うか、覇気を使ってる相手からそんなことで逃げれる訳がないのだが。

 豊は鬼ごっこの際、〝見聞色〟を使って、周りを索敵しながら逃げているのだ。

 走っている場所は当然ジャングルの中。近くにある岩や木を目眩ましにしたり、追い駆けてくる〝異常な動物〟に、別の〝異常な動物〟を押し付けたりしながら、逃げる。

 これを毎日、一日二回、数時間ぶっ通しで行う。

 この鬼ごっこでは、豊には、〝見聞色〟による感知と、高い走力を生み出すための脚力が必要になってくる。

 しかも、一日の訓練では、これが一番時間が長い。

 そうなれば、自ずと〝見聞色〟と脚力が特に鍛えられ、〝見聞色〟は上達し、脚力が重要な〝剃〟〝月歩〟〝嵐脚〟の三つの六式も上達するというものだ。

 六式の〝剃〟と〝月歩〟をこの鬼ごっこで使えればよいのだが、生憎と、完成度もまだ完全ではないし、たまに失敗するので、ちょっとしたミスで死ぬかもしれないこの鬼ごっこでは、流石に豊でもその失敗したときが恐ろしいので、使っていなかった。

 

 そうして、今日の鬼ごっこ(午前の部)開始から数時間後、〝異常な動物〟が豊を追い駆けるのに飽きて、漸く鬼ごっこは終わった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 鬼ごっこ(午前の部)が終わった後、豊は決まって、ジャングルの中心から少し外れた場所にある岩山にいた。

 この岩山は、ジャングルとは違い、生き物がほとんどいない。いるとしても、精々普通サイズの猛禽類やネズミ程度だ。

 

 豊は、岩山に転がっている、自分よりも二回り大きな岩に海楼石の鎖を縛り付ける。

 そして、

 

「フッ………!!」

 

 その岩を背負い(・・・・・・・)そのまま腕立て伏せの(・・・・・・・・・)体勢に移った(・・・・・・)

 豊がこの場所で行うことは、主に三つ。

 一つは、この岩を使った筋トレだ。

 岩を縄代わりにして自分に縛り付け、岩を重しとして身体を鍛える。

 腕立て伏せでは、地面に着けるのは、手のひらだけでなく、指先でやるときもある。当然、六式の一つ〝指銃(シガン)〟の再現のためである。

 行うのは、腕立ての他にも、スクワットや上体起こしもする。

 

 これら全てで、海楼石の鎖を使っている訳だが、どの海を探しても、海楼石の鎖を縄扱いするのは、後にも先にも豊くらいだろう。

 きっと、豊に海楼石の鎖をプレゼントした神も、愕然としているか、一周回って笑い転げていることだろう。

 

 閑話休題。

 

 筋トレで一定の数をこなした後は、海楼石の鎖を仕舞い、代わりに、最上大業物クラスの位階なし・サーベル「ワイバーン」を取り出す。

 そう、狩った動物の皮を剝いだり、肉や果物を食べやすい大きさに切れるので、未だ一度も使ったことのないピストルよりも活躍している「ワイバーン」である。本来の用途とは違う使い方をされているが。

 「ワイバーン」に人格があれば、きっと滂沱の涙を流しているだろうが、今、取り出されたのは、単純に素振りのためである。

 流石に豊も、刀剣の最上位クラスの性能を持つ「ワイバーン」を包丁や解体ナイフ代わりで終わらせるつもりは毛頭ない。

 寧ろ、ある程度戦えるようになったら、本格的に使わせてもらう気満々である。

 そして、豊は「ワイバーン」を上段からの振り下ろし、袈裟斬り、振り上げなど、様々な振り方をしつつ、自分のフォームを感覚で試行錯誤を続ける。

 

 これが、一定の回数を終えた後は、「ワイバーン」を仕舞い、岩山を降りて、昼食の狩りに出掛ける。

 

 

 ………さて、お気付きだろうか?

 豊は普通に、海楼石の鎖や「ワイバーン」を仕舞っているが、それが何処に(・・・)仕舞われているだろうか。

 

 答えは、豊の腰にあるポーチにである。

 

 いや、ポーチに鎖やサーベルが入るか!! と、思う人もいるだろう。

 だが、入るのである。

 神様パワーによる代物故に。

 

 ことの発端は、今日より約十一ヶ月前、つまり、豊の転生一ヶ月後のことだ。

 この日、就寝した豊の夢に、神が干渉して、豊の夢と〝神域〟を繋いだのだ。

 神がそんなことをしたのには、勿論理由がある。それは、

「マジでヤバい無人島に転生させちゃってごめんなさい(土下座)」

 である。

 なので、豊が神に対して説経し、神を涙目にさせた後、何処からとなく天使たちが現れて、何故か豊に次々と感謝を述べてきたのだ。

 どういうことかと、豊が天使たちに聞くと、どうも、あの時の一件から神が大分反省し、真面目に仕事をするようになったのだとか。

 前は真面目に仕事してなかったんかいと、思った豊だが、真面目にやってれば、私が死ななかったか、と言うことに気付いた。

 豊は、天使たちに優しく労いの言葉をかけた。

 天使たちは、豊の言葉に涙を流した。

 尚、神は優しい豊を見て、不気味がっていたので、イラッとした豊から拳骨を一発食らった。

 

 その後、豊にとても感謝している天使たちは、神に、

 

「豊様の夢の中で、豊様に感謝するパーティーを月一で開きます。いいですね?」

 

 と、命r──もとい、提案し、神もそれを承諾し、夢の中ではあるが、豊は月一でサバイバル飯ではない料理にありつけることになったのだ。

 

 そして遂に、神が、謎ポーチが豊の手にあることの直接的な原因を言った。

 

『豊ちゃん、ボクからのお詫びとして、月一のこのパーティーで、豊ちゃんからのお願いを遣り過ぎない範囲で何でも叶えるよ』

 

 と。

 

 その結果として、何回目かのこのパーティー、「豊様に感謝する会」(天使たち命名)のときのお願いで、謎ポーチ、もとい、「マジックポーチ」(神命名)が豊の手に渡ったのである。

 

 

 閑話休題。

 

 

 昼食が無事終わると、豊の午後の修業一つ目、鬼ごっこ(午後の部)が始まる。

 尚、これは、午前にやったのと変わらず、〝異常な動物〟との鬼ごっこである。

 

 それが終われば、少し休憩した後に、何か漂流でもしてないかと、砂浜を〝見聞色〟を使いながら、ランニングである。

 

 それも終われば、あとは、夕日が射し込むジャングルで夕食の狩りをして、夕食を無事食べて、就寝である。

 

 豊は、今日も無事、無人島での修業とサバイバルを終えた。

 





「マジックポーチ」
:豊がお願いを複数回使って強化した、神様パワーによって作られた特殊なポーチ。
 尚、入るのは無生物のみ。

・容量:10㎞×10㎞×10㎞(強化済み)
・重量の軽量化(十億分の一)(強化済み)
・絶対に壊れない
・防水機能付き(海の中に入っても、中身は濡れない)
・物の大きさに関係無く、入り口に触れさえすれば、何でも入る。


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第5話

 豊が転生してから、おおよそ十年が経った。

 

 つまり、転生一年目から九年が経っている訳だが、豊はあれからどれだけ成長したかと言えば―――

 

「喰らいなさいッ!!」

 

 ドゴンッ!!

 

「ゴアァァァァアッ!!」

 

 ―――〝異常な生物〟と真っ正面から殴り合えるまでに成長していた。

 ……………成長し過ぎではないだろか。

 

 現在の豊は、六式の〝剃〟〝月歩〟〝嵐脚〟を完全に修得し、更に〝指銃〟〝鉄塊(テッカイ)〟〝紙絵(カミエ)〟の三つも修得しており、所謂、六式使いとなっており、現在、六式の応用技を習得中である。

 

 覇気に関しては、〝異常な動物〟と真っ正面から殴り合っている時点でお察しだろうが、かなり上達している。

 実はこれで、二年前、つまり、転生から八年目時点では、〝武装色〟は精々及第点レベルで、〝見聞色〟は「未来予知」に二、三歩及ばないレベル、と当時三、四年ほどの間、停滞気味だったのだ。

 最早、この二年間に一体何があったんだ、という思わず言ってしまいそうな現状だが、勿論その何かがあったのである。

 

 それこそ、〝覇王色の覇気〟の覚醒だ。

 

 二年前のある日、豊はいつも通り〝異常な動物〟と鬼ごっこをしていた。

 そして、鬼ごっこで〝異常な動物〟の気を逸らして、逃げ道を確保するときの常套手段の一つであった「〝異常な動物〟に〝異常な動物〟をぶつける」というやり方をやったら、その日は何があったのか、二体の〝異常な動物〟が共闘して、豊に襲い掛かってきたのである。

 そこから、当たり前のように豊は、あっという間に追い詰められた。

 そんなときである、〝覇王色の覇気〟が覚醒したのは。

 無論、覚醒したところで、当時の豊は〝異常な動物〟よりも格下としか言えない相手だ。だが、この無人島には今まで〝覇王色〟を使える者がいなかったのだろう。当時の豊の〝覇王色〟でも少し怯む程度ではあったが、隙を作ることが出来た。豊はその隙をついて、何とか逃げ出したのだ。

 

 だが、前述にもあった通り、これが一つの転機になったのだ。

 

 この〝覇王色〟の覚醒で、豊は「何かのピースがピタリとはまって、覇気のコツが分かった」らしい。

 

 それからの豊の覇気の上達速度は凄まじく、それから二年経った今となっては、原作の四皇の最高幹部に勝らずとも劣らない実力となっている。

 

 〝武装色〟は、サーベルの「ワイバーン」やピストルの弾丸に纏わせる武装硬化は勿論のこと、触れずに相手を弾き飛ばすことが可能な段階に来ており、内部破壊まではあと一歩と言ったところ。

 

 〝見聞色〟は、「未来予知」の段階にとっくに上がっており、現在は動揺していても、ある程度正確な「未来予知」が出来るように、その精度を更に高めているところである。

 

 〝覇王色〟は、全方位への発散から特定の方向への発散、そして、物理的な破壊も可能となっている。「纏う〝覇王色〟」は取っ掛かりは掴めているが、習得には至っていない、という状況だ。

 

 身体能力の方も大分上がっている。それはもう、「その細腕の何処にそんな力があんの!?」とか、「あれ? コイツもしかして動物系の能力者?」とか、正直思われても可笑しくないレベルだ。

 勿論、悪魔の実は何も食べていない。

 尚、豊が少し疑問に思って神に聞いてみたところ、神曰く、「身体のスペックを超上げたときの副作用みたいなものじゃない?」とのことだった。

 

 「ワイバーン」を使った剣術やピストルの狙撃に関しては、まともな実戦が、ここ二年間だけであるにも関わらず、剣術では飛ぶ斬撃を八割の確率で飛ばし、狙撃はピストルの射程のこともあり、距離は短いが、だとしても、百発百中に近い精度である。

 

 

 さて、ここまで成長した豊であるが、サバイバルと修業の生活の内容は、かなり変わった。

 

 まず、朝。

 転生一年目では、〝異常な動物〟との鬼ごっこ(午前の部)だったわけだが、今は〝異常な動物〟とのステゴロなタイマンになっている。

 このように変えた当初こそ、ボロ負けした挙げ句に逃走という散々な結果ではあったが、それも回数を重ねる内にメキメキと実力が上がり………二年経った今では、冒頭のように、互角以上に殴り合えるレベルになっている。

 

 次に、昼近く。

 転生一年目では、岩山での筋トレだったわけだが、今でもそれは変わらない。

 但し、重しにしている物が、岩山の岩から、神様パワーによる巨大且つ、超重量のダンベルに変わったが。

 尚、ダンベルの重りの部分には、「5t」の文字が……………。

 因みに、神はこれについて、「ゴリラかよ…………」と呟いたのを豊に聞かれ、ガツンッと音が出るほどの拳骨を喰らった。

 

 そして、正午。

 転生一年目では、「ワイバーン」の素振りだったわけだが、今ではそれに加えて、ピストルの狙撃訓練も行っている。

 「ワイバーン」の素振りでは、フォームの試行錯誤だけでなく、直接岩を斬ったり、飛ぶ斬撃で岩を斬ったりしている。

 狙撃訓練では、岩の上にジャングルで採った果物を置いて、それを撃ち抜いたり、岩山付近を飛び交う猛禽類の動きを〝見聞色〟で「未来予知」して撃ち落としたりしている。

 因みに、「ワイバーン」の素振りの後に行っていた昼食の狩りはなくなり、現在では、週一で大量の動物を狩って、それを、神へのお願いで〝時間経過なし〟や〝保管空間の拡張〟などの更なる魔改造を施した「マジックポーチ」に保管してあるため、それを飯時に調理して食べている。

 尚、神へのお願いで、解体ナイフや果物ナイフ(神様パワーで絶対壊れない)を貰っているので、「ワイバーン」涙目なことには、もうなっていない。

 

 さて、それも終わって、昼過ぎ。

 転生一年目では、〝異常な動物〟との鬼ごっこ(午後の部)だったわけだが、今では、〝異常な動物〟とのタイマンになっている。

 こちらは、午前のとは違い、豊は素手でなく、「ワイバーン」とピストルを装備して行う。

 こちらも、変えた当初は午前のと同じく、ボロ負けからの逃走であったが、現在では、互角どころか、勝率百パーセント。

 〝異常な動物〟たちにも、ある程度の個体差はあるため、勝ちとは言っても、辛勝から圧勝まで、様々ではあるが。

 

 そして、夕方の少し前。

 転生一年目では、〝見聞色〟を使用しつつの砂浜をランニングしていたが、現在では、〝見聞色〟を使いつつ、無人島周辺の海を泳いでいた。

 因みに、この無人島周辺の海には、五十メートルから百メートルクラスの海王類がそこそこの数生息している。

 なので、そこを泳ぐ豊は、海王類にとって良い餌のように思われる訳だが、

 

 ドバァァンッ

 

 と海が大きく水飛沫を上げ、そこに海王類の首が切られた死体が、プカァーと浮かび、同じくそこに上がってきた豊によって「マジックポーチ」に保管され、その日の夕食となる。

 

 夜は、夕食を食べ、神へのお願いで貰ったテント(神様パワーで絶対壊れない)の中で、これまた神へのお願いで貰った布団で就寝する。

 

 以上、強キャラへの道を順調に進みまくる転生十年目の豊であった。

 

 

 ☆☆☆

 

 ~〝神域〟サイド~

 

 神は、いつものように、豊の一日の様子(ダイジェスト版)を見て思った。

 

「豊ちゃん、強くなりすぎじゃない?」

「あの世界においては、戦闘力はあるに越したことは無いと思いますけど」

「いや、まあ、そうなんだけどさ」

 

 神の台詞に、豊の転生を担当した天使がそう返す。

 神はそれに、少し困ったように返す。

 

「でもさぁ、豊ちゃんがこのままのペースで成長していったら、原作が始まるどころか、ロックス時代の時点で世界最強になってそう。ロックスの詳しい強さは知らないけど」

「ロックス………確か、原作の数十年前の最強格の海賊でしたっけ? それに勝てるなら、その時代では安泰ですね」

「う~ん、でも原作ファンとしては、ロックスとは最高でも互角であってほしい……」

「…………………」

 

 天使は、原作ファンとして悩んでいる神に呆れた視線を送りながら、仕事に戻っていった。 

 




 おかしい、主人公の台詞が殆ど無い。主人公なのに。

 
 誤字報告であったんで、修得した六式の部分を書き直しました。


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第6話

 
 時間、めっちゃとばします。
 


 豊が転生してから、おおよそ百三十年が経った。

 

 〝異常な動物〟と同等以上の強さになってから、百年以上の月日が流れたわけである。

 さて、現在の豊は一体どれほどにまで成長しているのだろうか。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「グラァァァッ!!」

「グオォォォンッ!!」

 

 無人島のジャングルの奥地にて、二体の〝異常な動物〟、熊型と獅子型が、取っ組み合いの喧嘩をしていた。

 二体の側には、大きな鹿の死体もあるため、おそらくは餌の取り合いだろう。

 

 二体は、お互いに覇気を使って殴り合う。その衝撃波で周囲の木や地面は吹き飛び、二体の咆哮に普通の動物を怯えさせて、その二体から離れ、他の〝異常な動物〟も巻き込まれぬよう、その二体から離れる。

 二体の間に入るものは、誰もいなかった。

 

 一人を除いて。

 

「貴方たち」

 

「「ッ!?」」

 

 二体のところに現れた例外、豊は静かではあるが、何故か耳に入る声で二体に話し掛ける。

 

「───ちょっと五月蝿いわよ?」

 

 豊がそう言うと同時に、二体に強烈な殺気が降りかかる。

 二体は、獲物であった大きな鹿の死体を置いて、即座にその場から逃げ出した。

 何せ、この島、否、この島一帯の絶対強者(・・・・・・・・・・)からの警告である。逆らえば、待っているのは「死」のみである。

 

 豊は二体の〝異常な動物〟が逃げ出す様にフンッと鼻を鳴らし、二体が置いていった鹿の死体を「マジックポーチ」に回収し、その場から立ち去る。

 

 現在の豊は、〝異常な動物〟たちを軽い〝覇王色〟だけで撃退できるほどになっていた。

 

 〝異常な動物〟とタイマンで()り合えるようになってからも、更なる鍛練をしてきた豊。

 

 六式は、原作に登場したCP9のメンバーである、ジャブラが使っていた「鉄塊拳法」や、カクのような様々な〝嵐脚〟、クマドリのような「生命帰還」、フクロウの「獣厳(ジュゴン)」、ロブ・ルッチが使っていた「剃刀(カミソリ)」や「飛ぶ指銃〝(バチ)〟」、「六王銃(ロクオウガン)」などを修得していた。

 

 次いで、覇気。

 〝武装色〟は、内部破壊の段階を超え、現在では飛ぶ斬撃に纏わせることが可能になっている。

 勿論のこと、その練度も凄まじく、軽く纏った〝武装色〟であっても、百メートル級の海王類を一撃で殺し、本気で纏った〝武装色〟であれば、小さい島くらいなら、一撃で海に沈められるほどである。

 

 〝見聞色〟は、範囲が半径数百キロメートル以上に及び、島一帯どころか、島の遠海の気配も感じられるほどになっていた。

 更に、相手の思考を表層ではあるが、ある程度読めるようになっていた。

 それに加え、気配のカモフラージュも修得しており、〝異常な動物〟たちでさえ、豊から声を掛けねば、全く気付かないほどである。

 

 〝覇王色〟は、効果範囲が馬鹿みたいに広くなっており、且つ、纏わせることが可能になっていた。

 

 最早、天地を吹き飛ばす準備は既に出来ているようだ。まあ、おそらくはやらないだろうが。

 

 覇気の次は身体能力だ。

 こちらも六式や覇気同様に、かなり成長している。

 百と二十年前の時点で、動物系の悪魔の実の能力者と思われるような身体能力であったが、今では素の状態で「あれ、〝武装色〟でも纏ってるんですか?」みたいな感じになっている。〝見聞色〟を使っていれば、原作のレイリーと同様に光の速さに対応することも可能だ。それに加えて、回復力が異常な領域に達している。覚醒した動物系の悪魔の実の能力者でもないのに。

 更に今現在は、身体中の血管や内臓を〝武装色〟で強化した上で、「生命帰還」で身体中の毛細血管や心臓、肺を操作して、原作の主人公・ルフィの「ギア(セカンド)」と『鬼滅の刃』の「全集中の呼吸」を足して二で割ったようなものまで編み出しており、六式や覇気を使わなくても、物理無効な相手でなければ大体はどうにかなるようなことになっている。

 

 そして、武術関連。

 まずは剣術であるが、斬鉄(鉄は神に貰った)や飛ぶ斬撃を完全に修得し、〝柔〟の剣も修得していた。試しにと、〝武装色〟を纏わせ、「黒刀化」させた「ワイバーン」を縦に振り下ろして、島を横断する亀裂を作っていた。剣術の腕前は、原作の二年後のゾロにも確実に勝てるレベルであり、世界最強の剣士であるミホークにも劣らないのではないだろうか。

 次いで狙撃であるが、こちらは早撃ちを覚えた。しかも、普通の猛禽類や〝異常な動物〟たちだけではあるが、必中である。しかも、神へのお願いで、狙撃銃(神様パワーで絶対壊れない)を貰っており、これでなら数キロメートル先の目標にも届く上、日々の努力で三キロメートル内であれば、〝見聞色〟も併用してほぼ必中である。たまに海中の海王類を、〝武装色〟を纏わせた弾丸で狙撃して、ご飯にしている。

 更に、豊は神に「鎖は武器にだってなるんだよ!!」と言われて以降、鎖を使った戦闘を想定して修業したところ、現在では鎖を手首のスナップなどで自由自在に操れるようになっている。たまに度が過ぎた〝異常な動物〟のことを海楼石の鎖を操って捕縛していたりする。

  

 

「はあ、やっと来たのね」

 

 このように強くなった豊は、鹿を慣れた手つきで解体していると、この無人島の近くの海で、漂流していた船が無人島の砂浜に着いたことを〝見聞色〟で感知する。

 その船は、つい先日無人島を通り過ぎた嵐が不幸にも直撃して、そのまま流されていたのだ。

 豊はそれを、範囲の広すぎる〝見聞色〟で感知していた。

 豊は自分から泳いで接触するのも面倒臭かったので、向こうがこの無人島に着くのを待っていた。

 

 その船が漸く来たので、豊は〝剃刀〟で船が着いた砂浜まで移動する。

 

 その途中で見えた船の帆には髑髏が描いてあった。

 どうやら、この無人島に言われて漂流して来たのは、海賊船のようだ。

 

(この世界に来て初めて会う人間が海賊なんて、私運が悪いのかしら)

 

 豊は、そもそも運が良かったらこの世界に来てないか、と考えつつ、海賊たちに近づく。

 海賊たちの中に、指示を飛ばしている男がいたので、彼がこの船の船長だろうと当たりをつけて、豊はその男に話し掛ける。

 

「ねぇ、少し良いかしら?」

「ッ!?」

 

 すると、その男は地面を蹴って、豊から距離を取り、海賊たちは突然自分たちの前に現れた豊にざわめき出す。

 船長らしき男は、豊に忌々しそうな視線を向けながら、口を開く。

 

「誰だてめぇ」

「あら、人に名前を聞くときは自分からって、教わらなかったのかしら?」

「はっ、俺を知らねぇたあ、よっぽど世間知らずみてぇだな!!」

「へぇ、貴方ってそんなに有名なの?」

 

 豊がそう言うと、男の後ろにいる海賊たちが騒ぎ出す。

 

「おおよ、うちの船長はこれまでありとあらゆる首を狩ってきた男だ!!」

「その名も〝首狩り〟のルルーバ!!」

「懸賞金3億4000万ベリーの大物海賊だぜ!!」

「そして、俺たちはルルーバ海賊団!!」

「全員が賞金首の少数精鋭!!」

「「偉大なる航路」じゃ知らねえ者はいないぜぇ?」

 

 海賊たちは、豊を脅そうとでもしているのか、自分たちのことを、べらべらと話す。

 豊は海賊たちの自慢を一通り聞いて一言。 

 

「で、ルルーバさんとやらは何で私にそんな視線を向けるのかしら?」

 

 豊に忌々しそうな視線を向ける男、ルルーバは口をニヤリと歪め、

 

「俺はなぁ、自分の背後に立たれるのが嫌いなんだよッ!!」

 

 そう言い放つと、豊に急接近し、腰に下げていた剣を豊の首目掛けて振り抜く。

 そして、

 

 バキィッ

 

「グガッ!?」

 

 豊の裏拳がルルーバの頬に突き刺さり、ルルーバは手下たちの所まで大きく吹き飛ぶ。

 それを見た手下の海賊たちは、情けない声を上げて騒ぎ出す。

 豊はその光景に、失望の溜め息を吐く。

 

「あれだけ言っといて、その程度で実力なんて…………貴方たちって、本当に大物海賊なの?」

「な、てめぇっ!!」

 

 海賊たちは、船長を倒された上に、自分たちを馬鹿にされたことから、自分たちの武器を手に取り、豊に襲い掛かろうとするが、

 

 ドンッ

 

 豊から放たれる〝覇王色〟に戦意をあっさり喪失し、顔面蒼白になった。中には、白目を剥いて気絶している者もいる。

 

「手加減したのにこの有り様だなんて、修業が足りないんじゃないかしら?」

 

 豊はそう言って、ルルーバの腹を蹴って、気絶しているルルーバを無理矢理起こす。

 

「ぐっ、がはっ、てめぇ何しやが──ひっ」

 

 このまま騒がれても面倒だ、と思い、豊はルルーバに〝覇王色〟を気絶しない程度にぶつけながら、お願い(・・・)をした。

 

「ねえ、今ここで死ぬのと、私を人のいる近くの島まで運ぶの、どっちが良いかしら?」

 

 ルルーバは、その願いを了承した(その脅しに屈した)

 




 
 感想で「少女か?」というのがあったんですけど、作者にとって十九歳はギリギリ少女です。


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