ISを砕く髑髏海賊 (ダメじゃないかキンケドゥ!)
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交差する骨を背負う機械生命体

短編にあるまじき短さのものを書いたのは私です。


地球のとある砂漠に、1人の少女が横たわっており、それを震えながら見つめる名も無き機械生命体がいた。

 

 

「機…の…お兄ちゃ……」

 

─────なぜだ。

 

 

「ごめ……んね?」

 

 

───────なぜだ。

 

 

「さいごに…誰かを泣かせる…なんて…私…………ダメな…ひと…だよね……?」

 

その言葉を最後に少女は何も言わぬ骸となる。

 

───なぜだ なぜだ なぜだ なぜだ なぜだ なぜだ なぜだ なぜだ なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ。

 

「おい、そこのロボット。大人しく捕まれ。そいつみたいにボロボロのスクラップにされたくなければ……な!」

 

悲しみに打ちひしがれている名も無き機械生命体に少女を左手に持つアサルトライフルで撃ち殺したISのパイロットが近接武器であるブレードを振り下ろす。

 

『───さない』

 

ガキィン!!

 

「なっ!? ISのブレードを掴むなんて!」

 

『お前達は許さない』

 

その機械生命体はISのブレードを片手で掴んで止め、自身の得物、『ビームザンバー』を起動させて切りかかるが、ISのブレードに阻まれる。

 

「そんなSFチックなオモチャでISのブレードを壊せるとでも思っている…の…!」

 

そのままビームザンバーとブレードの鍔迫り合いが起こると思われたが、ブレードは大した抵抗も見せずにビームザンバーにより切り裂かれる。

 

(ブレードを切り裂くなんて! でも残念ね! ISのシールドバリアーが攻撃から守ってくれる!)

 

ここで一つ言えることがある。IS乗りは相手がISに乗っていない場合だと、慢心しやすい傾向にあるのだ。自分にはシールドバリアーがある。仮にそれが破られたとしても絶対防御というシステムにより絶対に自分達IS乗りは死なない。それは一種の常識である。

 

その常識が今、破壊される。

 

機械生命体の振るうビームザンバーは無慈悲にISのシールドバリアーをほぼ無抵抗で砕き、咄嗟に構えられた盾を溶けかけているバターのように両断し、最後の壁である絶対防御を薄氷のように容易く貫き、内部にあるISコア(ISの最重要部位)目掛けて振りきる。

 

瞬間、ISコアは砕け散ってただのスクラップへと変貌し、ISは機能を停止して、マルチフォームスーツとは名ばかりの枷へと成り下がった。

 

 

『消えろ』

 

「ひっ!簡単な任務だと思っていたのに───」

 

機械生命体の顔が動き、排熱が行われると同時に、ISが邪魔な枷へと変わり逃げる事も許されないパイロット目掛けてビームザンバーを振り下ろす瞬間、『声』がした。

 

───────だめ。その人を殺しちゃだめ。殺したらお兄ちゃんが同じになっちゃう。

 

ビームザンバーはパイロットの鼻先で止まり、発振されていたビームの刃は霧散した。

 

パイロットは腰が抜けて立ち上がれず、呆然としている間に名も無き機械生命体は少女を抱えてどこかに飛び去った……

 

 

 

 

 

後に、この機械生命体は背中の装備が交差した骨のように見える事から『クロスボーン』と呼ばれた……

 



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髑髏の侵入者

とあるニンジン型の研究室で一人の女性、篠ノ之 束がコア・ネットワークからひとつのISコアが喪失したのを目撃してしまった。

 

「……え?」

 

束は珍しく困惑した。今までISコアはどんな最先端技術を用いた破壊は勿論、解析すら許さない文字通り鉄壁の防御を誇っていた。ISコアへの加工……つまり、ISコアの原材料を知っていてかつ加工の仕方を知っているのは束のみ。そんなISコアの殆どを知っている束だからこそ今回の事件が如何に恐ろしい事なのかが理解出来る。

偶々見つかった奇妙なロボットの捕獲任務を某国から受けていた打鉄が一瞬の内にシールドバリアーを砕かれ、絶対防御をなんの妨害による軽減も無く貫き、ISコアは崩壊しシグナルロストしたと予想される記録が他のISコアにネットワークを介して送られていたのだ。

 

「首を洗って待ってろよ鉄クズ野郎……!」

 

こうなればもう犯人は一人……いや、一機しかいない。十中八九、9割9部9厘その奇妙なロボットがやった事だ。ISコアを破壊できるなんてそこら辺のガラクタロボットができる訳が無い。UNKNOWNである以上何をできるのか分からない。

当然束は犯人を探す。こんな素敵な地球(おもちゃ箱)を使えるのは自分だけだ。世界を操れるのは自分だけだ。だが、そんなアドバンテージは今完全に消え去った。だからそいつを消して自分に都合のいい振り出しに戻す。

 

だがここで困った。どうやって追跡する?相手はISでは無いのは分かっているからISコアのネットワークによる探知は不可能。監視衛星による探知も相手がどんな姿か分からないため現実的ではない。

 

「むむむ……あ」

 

……そうだ。ゴーレムを使えばいいのだ。状況的に相手はISに敵意を持っている。奴が狙うなら恐らくISが最も集中しているIS学園。そこにゴーレムを送り込んで返り討ちにすればいいのだ。決行当日まであと数日。ゴーレムに武装を追加するなど容易い事だ。

 

「よし、試作品だけど威力は十分あるビームサーベルを持たせればいいかな……あとビームガトリングも……」

 

ゴーレムは元々ビーム砲で攻撃するように設計しているのでビーム主体に組めば実弾武装のために手を加えなくてもエネルギー源を増やせばいいだけだから問題ない。

 

それが大きな失敗なのを、束はまだ知らない。

 

 

 


 

 

クラス対抗戦。一夏と鈴の戦いの決着があと少しで決まりそうになる。

 

「まさかここまで粘るとは思わなかったわよ、一夏」

 

「もう勝ったつもりかよ?」

 

「あんたの力量もわかったからね……ここからはさらにギア上げていくわよ!」

 

「なら俺も!もっと全力で行くぞ!!」

 

「……ん?」

 

 

鈴と一夏が武器を構える。

──決着は近い。

観客が固唾を呑んで見守る中、2人は同時に動き出し────────

 

 

─────────刹那、黒い影が差しアリーナの上空に貼られていたシールドごとゴーレム I によって吹き飛ばされた。

 

そのゴーレムを見定めるようにクロスボーンはマントを纏いアリーナの上から様子を見ていた。

 

アリーナを貫く衝撃は、爆音と共に観客席を大きく揺るがした。

突然の出来事に生徒の殆どが困惑する中、クロスボーンはスラスターを点火して加速して破壊されたシールドから降りてゴーレムに突撃する。

 

ゴーレムは元々取り付けられていたビーム砲と、腕部に取り付けられた2門のビームガトリングを用いて迎撃するが、クロスボーンはスルスルと回避する。

それでも構わずビームをばら撒いていると、ようやく何発か命中した。

 

だが、ビームはクロスボーンの纏うマントに弾かれてしまい、当のクロスボーンは全くの無傷であった。

 

ビームを受け続けていたマントはやがて溶けて殆ど無くなり、クロスボーンはマントは用済みと判断して脱ぎ捨てて飛び上がる。

 

「なっ!? なんてスピードなの!?」

 

「さっきからなんなんだよこいつら!」

 

鈴と一夏はこの状況が飲み込めずに飛んできたビームを避けるので精一杯だった。

 

ゴーレムはクロスボーンを見失い、その隙にクロスボーンはゴーレムの背中をとり口部の排熱機構を動かして何かを冷却しながらビームザンバーを起動して切りかかる。

 

ゴーレムは慌ててマニュピレーターに仕込まれていたビームサーベルを起動してビームザンバーを防ごうとするが、僅かな鍔迫り合いの後、ビームザンバーがビームサーベルごとゴーレムを真っ二つにした。

 

ゴーレムが動かなくなった後にクロスボーンはISコアを抜き取りビームザンバーで突き刺して砕いた。

 

そして一夏と鈴────いや、2人が乗っているISを見つめてそのままその場で止まる。

その姿はまるで何者かの判断を待っているかのようだった。

 

「助けて……くれたのか?」

 

「何言ってるのよ!? 相手はISコアを『破壊』したのよ!? 敵意はともかく敵対されたら私達に勝ち目は無いわよ! あいつはシールドバリアーも絶対防御も貫通していた!私達のブレードだってあの無人機の剣でISの守りを無視して切られる!」

 

『そこの所属不明機! 今すぐ武装を解除して投降しろ!』

 

二人が警戒していると、ブリュンヒルデと呼ばれている織斑 千冬のアナウンスがアリーナに響いた。

 

それを聞いてしばらくするとビームザンバーのビームの刃は霧散し、地面に転がされてクロスボーンは両手を挙げた。

 

 



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拘束と観察と『声』

◇◇応接室◇◇

 

「……まずは貴様が何者か聞こう」

 

応接室で織斑 千冬とクロスボーンが対面しており、クロスボーンには拘束用の太い重厚な鎖が巻かれていた。もっとも、クロスボーンにとってこの鎖はたこ糸と大して変わらないが。

千冬が質問をすると、少ししてからクロスボーンは電子音声を響かせる。

緑色に光るツインアイが千冬を見定めるように見つめる。

 

『……私は地球外生命体であり、機械生命体でもある。名前は……持っていない。だが、最近貰ったものならある。クロスボーンだ』

 

「巫山戯るのも大概にしろ! 宇宙人だと? そんなものはいそうですかと信じられるか!」

 

『……信じる信じないは関係ない。事実なのだから』

 

苛立つ千冬に対してクロスボーンは冷静であり、次の質問を待つ。

 

「だが、証明するものは何も無い。どうやって貴様が宇宙人なのかを証明するんだ?」

 

『簡単だ。無いことを証明すればいい。情報とは必ず痕跡が残るもの。隅から隅まで情報を探せばいい。地球人はIS……と言ったな?文化から見るに、一部の人間があれを作れるのならばハッキングなど容易い事だ』

 

「……」

 

千冬はそのつてがある。だが、出来ればその人物に頼りたくなかった。何せISの生みの親なのだから。しかも彼女の性格からしてISを破壊したクロスボーンを許すはずがない。良くて操り人形に、最悪塵一つ残さず消すだろう。

 

『……宛がないのならばそれで構わない。私の目的はあくまでも人殺しに使われるISの根絶だ』

 

「……なぜだ。何故、そんなにもISを目の敵にするんだ?」

 

千冬は何故クロスボーンはここまでの執念でISを狩るのかが分からなかった。

 

『1人の少女が死んだ。私のせいで……目の前で撃ち殺された。……人によってはそれだけの理由と言うかもしれないな』

 

「……そうか」

 

そう言いながらクロスボーンは応接室の窓から空を眺める。

千冬には痛く分かった。自分も同じような経験をしたのだ。自分のせいで危うく愛する弟を失いそうになったあの事件を1秒たりとも忘れるものか。だが、それでもひとつだけ分からなかった。

何故、クロスボーンは誰も殺さなかった?

 

「……何故、貴様はその時目の前で殺したIS乗りを殺さなかった。言葉に表せないほど憎かった筈だ。……何故なんだ?」

 

『……『声』がした。少女にとてもよく似た、ただの声。その声が私をすんでの所で止めてくれた。あの子は……同じようなやつになってほしくない。それだけ言って、しばらく聞こえなくなった』

 

「……何故、IS学園を狙った。貴様の目的なら紛争地帯にでも行けばいいではないか」

 

『……また『声』が聞こえた。1人の人間の我儘を止めてくれと。そこに行けと理解した……もう声は聞こえない。恐らくここにいればいいという事だろう。その声は正しかった。もし私が行ってなかったら、誰かの我儘で沢山の命が散ったかもしれなかった』

 

「……そうか。

 

 

 

 

 

 

 

……しばらくの間、貴様はこのIS学園で保護観察処分とする。異論は?」

 

『無い。……そう言えば君の名前を聞いていなかったな。……聞かせてくれないか?』

 

「……織斑 千冬だ。だが、生徒を傷つけるようであれば貴様が殺される者の名前になるな」

 

『……そうか』



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髑髏、颯爽に登場!

ゴーレム・クロスボーン事件の目撃者には箝口令が敷かれたものの、クロスボーンの正体に皆興味津々であり、身内限定ではあるものの、その噂でもちきりであった。

 

だが、目の前でその脅威を目の当たりにした織斑 一夏と凰 鈴音は違った。

あれは強さで言えば正真正銘の怪物だと。ブリュンヒルデに迫るのは確実。もしあれで本気でないのならば本当に誰も勝てなくなってしまう。

 

「あれは一体何者なの……?ISですらないのに、ISの絶対防御を貫くなんて……」

 

「しかもISコアを抜き取った後に突き刺して壊してたんだよな……?ISコアは零落白夜でも壊せないって千冬姉は言っていたし……あだぁ!?」

 

廊下で鈴と話していた一夏がその痛みによって振り返ると、そこには呆れ顔の千冬が立っていた。

 

「だからここでは織斑先生と呼べと何度言えば分かるのだ馬鹿者……今日は1組に転校生が来る。……耳栓の準備でもしておくんだな」

 

「また!?」

 

「いいから早く席につけ」

 

「は、はい!」

 

 

「諸君、おはよう」

 

「「「「おはようございます!」」」」

 

その声が聞こえた瞬間、生徒達はここは軍隊なのかと聞かれるほどのスピードと正確さで挨拶の言葉が出る。

誰もが恐れ、敬う1組の担任、織斑 千冬先生の登場だ。よく見ると服装に変化がある。

 

色は黒でタイトスカートと見た目は大して変化していないが、少し生地が薄くなっていて涼しそうだ。学年別のトーナメントが今月下旬で、それが終わると生徒もそこから夏服に替わるらしい。

 

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。忘れた者は代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それも無い者は……まあ下着で構わんだろう」

 

大問題である。男性の前で下着姿になろうものならそいつは痴女扱い確定になるだろう。これは遠回しな警告でもあるのかもしれない。

 

「では山田先生、ホームルームを」

 

「は、はいっ」

 

連絡事項を言い終えた織斑先生が山田先生にバトンタッチする。その時ちょうど眼鏡を拭いていたらしく、慌てて掛け直す姿がワタワタとしている仔犬のようであった。そこも好かれる理由なのかもしれない。

 

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも2名です!」

 

「「「えええええっ!?」」」

 

いきなりの転校生紹介にクラス中が一気にザワつく。そりゃそうだ。この三度の飯より噂好きの10代のうら若き乙女、そんな彼女達の情報網をかいくぐっていきなり転校生が現れたのだから驚きもする。しかもそれが2人ときたのだから、当然驚きも2倍、いやそれ以上だろう。

 

クラスに入って来た2人の転校生を見て、ざわめきがピタリと止まる。

なぜなら、その内の1人が──中性的な見た目ではあるが──男子だったのだから。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

転校生の1人、デュノアはにこやかな顔でそう告げて一礼する。

呆気にとられたのは一夏を含めてクラス全員がそうだった。

 

 

「お、男……?」

 

誰かがそう呟いた。

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を──」

 

人なつっこそうな顔。礼儀正しい立ち振舞いと中性的な顔立ち。髪は濃い金髪。黄金色のそれを首の後ろで丁寧に束ねている。華奢な体格は簡単に折れてしまいそうなほどスマートで、『あれは女子だ』などと言われれば納得できてしまうほどだ。

 

印象としては、誇張抜きで『貴公子』といった感じで、全く嫌味の無い笑顔が眩しい。

 

「きゃ……」

 

「はい?」

 

 

「「「きゃああああああーーーっ!!!」」」

 

一夏は嫌な予感がして耳を塞ぐことに成功。だがデュノアは突然の事に対応できずにモロに食らってしまい、クラクラとしている。

 

 

「男子! 2人目の男子!」

 

「しかもウチのクラス!」

 

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

 

「地球に生まれて良かった~~~!」

 

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

面倒くさそうに織斑先生がボヤく。仕事がどうこう……というより、こういう10代乙女の反応が鬱陶しいのだろう。

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

2人目であるデュノアのインパクトが強すぎて影に隠れているようだが、転校生はもう1人いるのだ。

 

輝くような銀髪。ともすれば白に近いそれを、腰近くまで長く下ろしている。綺麗ではあるが整えている風はなく、ただ伸ばしっぱなしという印象のそれ。しかし何より目を引いたのが、左目の眼帯だった。医療用の物ではない、本物の黒眼帯だ。そして開いた方の右目は瞳に赤い色を宿しているが、その温度は限り無くゼロに近い。下手したらマイナスに突入している。

 

身長はデュノアと比べて明らかに小さく、一夏の胸辺りぐらいの高さしか無い。小柄な体格をしてはいるが、その身に纏う雰囲気は、まさに『軍人』だった。

 

「………………」

 

当の本人は未だに口を開かず、腕組みした状態で教室の女子達を至極下らなそうに見ている。しかしそれも僅かな事で、今はもう視点をある一点……織斑先生にだけを向けていた。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

いきなり佇まいを直して素直に返事をする彼女に、クラス一同がポカンとする。対して、異国の敬礼を向けられた織斑先生はさっきとはまた違った面倒くさそうな表情を浮かべた。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒の1人に過ぎん。私の事は織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

そう答えてピッと伸ばした手を体の真横につけ、足を踵で合わせて背筋を伸ばす少女。その佇まいはどう見ても軍人か軍関係者にしか見えない。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「「「………………」」」

 

クラスメイト達の沈黙。続く言葉を待っているのだが、名前を口にしただけで、ボーデヴィッヒはその後は一言も話さない。

 

「あ、あの、以上……ですか?」

 

「以上だ」

 

空気にいたたまれなくなった山田先生ができる限りの笑顔でボーデヴィッヒに訊くが、返ってきたのは無慈悲な即答だけ。そんな彼女の冷たい反応に山田先生は今にも泣きそうな表情を浮かべた。

 

「──っ! 貴様が……!」

 

ふと、一夏と目が合ったボーデヴィッヒは目尻を吊り上げてツカツカと彼の元へと歩いて行き、右手を振り上げた。誰が見ても握手が目的などでは無いのが分かる。あれは……一夏の頬に平手打ちしようとしているのだ。

 

「っ!?」

 

遅れて気付いた一夏が慌てて身を引こうとしているが間に合わない。

 

パシンッ!

 

「……織斑 一夏、貴様にこれだけは言っておく。貴様があの人の弟であるなど、私は断じて認めない。よく覚えておけ」

 

「な、なんだよいきなり!」

 

その言葉を言ったきりボーデヴィッヒは自分の席に座って腕を組んで目を瞑った。

 

 

「はぁ……ボーデヴィッヒ、初日から問題を起こすな。では、これで朝のHRを終了する。この後、すぐにISスーツに着替えてから第二グラウンドに集合するように。今日の午前はまず、隣りの二組と合同でISを使った訓練を執り行う。以上だ」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「それでは、これより実際に訓練用のISを用いた実践訓練を始める」

「「「「「はい!」」」」」

 

 

織斑先生の一言で午前の授業が開始される……前に一言あるようだ。

 

「その前に、貴様らには覚悟の準備をしてもらう。何が来ても大丈夫なようにしろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああ~っ!? 織斑く〜ん!! そこをどいてくださ~い!!」

 

「上から聞こえてくる聞き覚えのあるこの声は…ってっ!?」

 

声に反応した一夏達が上を向くと、第二世代ISであるラファールを装備した山田先生がこちらに落下している光景だった。

 

─────このままじゃぶつかって大怪我する!

そう思って受け止めようとした瞬間、髑髏の彗星が空を駆けた。

 

「きゃっ!?」

 

『……間一髪だったか』

 

「ふむ……丁度いい。自己紹介をしろ」

 

『……クロスボーンだ。これから君達の模擬戦の相手になる者だ。よろしく』

 

「「「えええええっ!?」」」

 

「これから山田先生とクロスボーンで模擬戦をしてもらう。先ずは一対一での戦い方を目に焼き付けろ。いいな?」

 

「「「……えええええっ!?」」」

 

とんでもない驚愕は2度来る。織斑先生が何故忠告したのかその身をもって理解した生徒達であった……



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模擬戦 髑髏 対 山田先生

「はぁ…山田先生。本気で気を付けていただきたい。あと少しで怪我人が出るところだった」

 

「すみませ~ん……」

 

ラファールを纏ったまま弱々しそうに立ち上がる山田先生。クロスボーンはマントの中で腕を組んで待っていた。

 

「クロスボーンは君達の戦い方を見てもらう。模擬戦こそ”まだ”しないが、実力は折り紙付きだ」

 

『……戦いでは容赦しない……が、ビームザンバーは使わない。死人を出すつもりは無いからな』

 

「ザンバーって……?」

 

『これだ』

 

クロスボーンは腰にマウントしていたザンバスターを持ち、ビームの刃を数秒間発振させた後、霧散させる。

 

『私が今出したビームザンバーはISのシールドバリアーや絶対防御を貫通してしまう。つまり、君達をこれの一突きであっさりと殺せてしまう。もちろんISスーツもこれの前には紙切れと変わらない。事故でそんな事は起こさせる訳にはいかない。だから封じる。だが、射撃武装としてザンバスターは使うからそこは忘れるな。それと、私が持っている近接武器は何もひとつでは無い。君達も近づけば勝てると侮るなよ……?』

 

「そういうことだ。時間も押しているしな……両者、準備が出来たら早速、試合開始だ」

 

『既に準備完了だ。問題ない』

 

「了解です!」

 

 

 

 

「クロスボーンさんが相手でも手加減なんてしませんからね! スクラップにしちゃったらごめんなさい!」

 

『問題ない。私が勝てばいいのだからな』

 

互いに知らぬ間に意図せず相手を挑発してしまっているが、本人達は気づいていない。

 

『クロスボーン 対 山田 真耶、試合開始!』

 

「この間合いなら……!」

 

『少々相性が悪いか……?』

 

山田先生のラファール・リヴァイブから大量の遠距離武装が瞬時に呼び出され、実体弾の弾幕の嵐を巻き起こす。あまりにも高密度な弾幕でクロスボーンもマントを脱いで動きやすくして回避をメインにして、ザンバスターで軽く牽制しているようだ。

 

「あの山田という教師……凄まじいな。相手も大概な実力だが、それを寄せ付けない弾幕の嵐をインターバルなく出し続けている。それも弾薬の無駄もなく最小限の消耗に抑えている……織斑教官が副官に置きたがるのも納得の事だ。……だが、クロスボーンの意図が分からん……ある程度の実弾ならシールドバリアーで防いで近づけばいいのに何故そうしない?」

 

ボーデヴィッヒが皆が思っていた疑問を発すると、織斑先生が答える。

 

「いい所に目をつけたな、ボーデヴィッヒ。クロスボーンはそもそもシールドバリアーを持たない。……ISに属さないロボットだからな。クロスボーンの敗北条件は一定以上のダメージを”本体に”受ける事。当たらなければどうということはないという考えの下回避に集中しているらしいぞ?つい先程通信が入った。どうやら山田先生の武器のリロード中に発生する僅かな弾幕の薄まりを利用してデータを送ってきたそうだ。全く、どれだけ余裕があるのだ?」

 

織斑先生が解説をしていると、遂にクロスボーンが動きだした。

 

『ふむ、彼が使っていた技を使うとするか……』

 

「! 何でしょうか……あれは」

 

クロスボーンが腕のブランドマーカーを外し、腰のフロントスカートからシザーアームが射出されて先端からマゼンタカラーの正方形……いや、テント状のビームが2つ形成される。

 

「!? 実弾を消し去った!?……それなら!」

 

ラファールの放つ中でも上位に入る威力の砲弾がビームに着弾すると、ビームの盾によって弾は蒸発して防がれてしまう。

 

『甘い。そちらも対策済だ』

 

山田先生はビームシールドに守られていない所をピンポイントに狙うが、何かによってまたもや弾かれてしまう。今度はクロスボーンを僅かに傷つけたが、それもかすり傷程度のものであった。

なんとクロスボーンは肩部からビームサーベルを取り出してマニュピレーターを回転させて擬似的な盾を作り出したのだ。

 

「……降参です。この距離まで詰められたらもう勝ち目は無いので……」

 

『……ふむ。そちらの組み合わせは近接武器が乏しいから、私には不利どころか近づかれた時点で負けだからな。いい判断だ。そしてあの弾幕……見事だった。限りなく最適解に近づいているだろう』

 

「きょ、恐縮です?」

 

「あの激戦を見ればIS学園の教師が如何に優秀か分かるだろう?今後はちゃんと敬意を持って接するように心掛けろ。いいな?」

 

「「「はい!!」」」



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