金剛杖物語~雄鬼のまつりの章~ (仲村大輝)
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始まり始まり

この話からでも読めるようになっています。
ぜひこの話からでも読んでみてください。


月の光に照らされて、十字架と火をを囲み、何者かが宴会をしている。

「今回も立派な人間が取れた。これもすべて月のおかげだ。」

「月に勝利を捧げよ!」

そう誰か言うと、太鼓がドンドン!笛がピーヒャラ。鐘がチャキチャキ鳴る。

「やめてくれ!」

十字架の人間が叫ぶ。

「さわげさわげ!さわげば、月が我々を見てくれるぞ!」

十字架の人間は力の限り叫ぶ。

叫べば叫ぶほど周りが喜ぶ。

「くっ…」

人間は無理して騒ぐのをやめる。

「騒がないか。ならば、己から出る臓物を見たらどうかな?」

どず!

と囲む一人が腹にパンチ。

普通ならこれで穴は開かないが…どうやら、餓鬼か地獄道のモノだったらしい。

腹から腸が出てくる。

「うわぁ!」

「叫べ!泣け!そして我らの声を届けたまえ!」

囲むモノは叫び、踊り、音を立てて騒ぎ立てた。

朝方。

十字架の人間は死んでいた。

ただ、ただ死んでいただけでない。

骨だけになっていた。

肉と内臓はなくなっていた。

周りではモノどもが疲れ果てて寝ていた。

なにか食べながら。

なんなのかは暗くて分からなかった。

 

 

さて、何日か後のある河原の土手で赤いマントを着た女の子が、フラフープをしたり、ヨーヨーをしたり、縄跳びをしたり竹馬をしている子供達と混ざって遊んでいる。

「よーし、まつりちゃん。次は私だからね!」

「次は負けないよ!」

青髪で杖を持った女の人も近くの土手で寝転んでいる。

子供たちに話しかけられて、起き上がってみるが、すぐに泣きそうな顔になって、寝っ転がってしまうもんだから、子供たちももうなにも言わず、赤いマントの女の子と遊んでいる。

ちなみに、午前中にここを赤マントと青髪が通りかかって、もう夕方である。

遠くに見える山に太陽が沈もうとしている。

もっと驚くことを言うとこの二人、昨日は山寺まで、ある赤ん坊を届けたところである。

その赤ん坊もほぼ青髪が大事にしてきた赤ん坊だった。

山寺から離れるにしたがい、段々と足取りが重くなり、やっとの思いで、山寺から大きな川を隔てた対岸までやって来たが、力つきるし、もしあの赤ん坊と旅を続けていたら、こういう風にあの赤ん坊と遊べたのではないかと思ったら、妙な寂しさを覚えて、青髪は寝てしまったのだ。

しかし、この青髪。

寝ているふりをしているだけであることに気がついていた。

この子どもたち、体力がありすぎる。

おまけに体にどっかしら、アザやケロイドみたいなのがある…

もっとも、朝からずっと同じもので遊んでる。

なにか子どもなら飽きて違うのをするはずなのに、ずっと同じのをしている。

遊び道具を交換してるのは、まつりばっかりだ…

「海美。どうかしたの?」

赤マントが、寝ている青髪のところへやってきた。

「いや。もう夕方だから、どこに泊まろうかな?って思って…」

「そうだね。」

「みんなにさようならしてきて。」

「分かった。」

赤マントはさっと、子どもたちのところに走っていった。

 

「もう帰っちゃうの。」

「うん。私たち泊まるところを探さないとだから。」

「そっか。じゃあ、これあげる。今日はありがとう。」

そう言うと、天狗の面をつけていた女の子が面を外して赤マントに突き出した。

「これあげる。マントに似合うと思うよ。」

「ありがとう。」

そう言うと、赤マントは頭に巻いてみせた。

「似合う?」

「似合うよ!」

「そう。ありがとう。じゃあ行くね。」

もう遠くに青髪が杖をついて待っている。

沈む夕日と、青い髪、爽やかな柄の服が美しいシルエットになっている。

赤マントも走り出す。

「お姉ちゃん!」

子どもたちが赤マントの後ろから叫ぶ。

まつりは振り返る。

みんな遊んでいた道具を持っている。

「また遊んでね!」

「いいよ!」

そう言い返し、青髪の海美のところに走っていった。

子どもたちもどこかへ帰っていった。

ただ、まつりと違い、足取りが重そうだった。

もっと遊びたいというより、まるで家に帰るのがしんどい感じだった。



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第一章第一部 地下の相撲

お久しぶりです。
みなさんも6月になり、五月病ではなくなにかよく分からないもやもやが生まれているのではないかと思い投稿を再開します。
新型コロナウイルス感染症の心配がまだまだ続いていますが、楽しんでいただけたらと思います。

さて、また海美がお天道様の下を歩けないモノたちと大げんかのようです。


その日の夜

ある賭博場でえらいことが起きていた。

飛び入りで参加した杖をついた青い髪の女が、親を破産させる一歩手前まで来ていた。

当初、髪を青いカンザシでまとめた青髪と、天狗の面を被った赤いマントを着たキレイな女の子はお茶汲みやマッサージをして、ちょっとしたお金を遊び人、いや、モノから集めていたのだが、赤マントの女の子が、賭博場の飯盛女から

「どうぞ。」

と出されたおにぎりと饅頭に手をつけてしまったのだ。

「どうぞってのは、賭けてるモノに対してだ!」

賭博場のモノに言いたてられて、急遽青髪が代理で儲けた金、全額で賭けをやることになったのだが、強いこと強いこと。

トランプの数字を21にするブラックジャックで戦っているのだが、チャレンジャーが全員賭け札チップを奪われ、青髪の女の子の目の前に山積みになっている。

お陰で、女の子がチップの山に隠れて、青い髪の毛が少し見えているだけだ。

しかも、あと一歩のところまで親を追い詰めている。

「お嬢さん方。」

奥から偉そうなモノが出てくる。

背は海美と同じぐらいなのに横幅が三倍ぐらいありそうで、口の下歯が牙みたいになって鼻の横ぐらいまで伸びている。おそらく畜生道と人間道の混血みたいなモノだった。

「どうやら、ここに出てるドル箱で打ち止めでございます。どうでしょう、上られては?」

座りながら親分がしゃべる。

「…あと一息なので頑張らせてください。」

青髪は取り合わない。

「うーん…ならこれに変更しませんか?」

親分はコインの山を寄せて、青髪を木札からから出してやる。

「先生!」

奥から刀を2本差した侍風の男が出てくる。

「このモノ。人間と阿修羅の混血で居合がとてもはやい。みていらっしゃい。」

その侍の目の前にコインを投げる。

シュバ!

と目も止まらぬ速さで日本刀を抜き、コインを真っ二つにした。

「おぉ!」

見ていた観客がビビる。

侍はゆっくり納刀する。

これは親分の脅しで、普通ならコインも置いて客は逃げ出すのだが、青髪の女の子は眉ひとつ動かさない。

親分は恐怖で動けなくなったのではないか?と思った。

「どうだいお嬢さん方。お引き取りを…「じゃあ、その勝負、私が勝てば私のこのコイン倍にしてくださるのね。」」

親分をさえぎって、海美がしゃべった。

「なっ!?」

ザワザワと周りが互いに話し合う。

あんな技を見せられてそんなことを言うのか!?

青髪も結構な腕なのか?

と,言い合っている。

「…も、もちろんだ。」

親分が言ってしまった。

「先生。よろしいですか?」

侍はじっと海美を見つめたまま、海美の目の前で正座した。

「ようし…」

親分が羽織を抜いて、二人の上座に座る。

親分が懐からコインを出す。

侍が、長い刀に左手を添えて、青髪も左手で杖を持つ。

面白い戦いが見れるぞ。

と、お客さんたちがワッと集まる。

まつりは弾き出されて後ろの方から、しゃがんでみた。

意外と、足ばっかりなので見通しが効いた。

ただ、侍は見れるが、海美は木札の塔に囲まれていて見れない。

「勝負!」

親分がコインを投げた。

「もらった!」

侍は左手を添えた長い刀ではなく、もう一本の短い刀を、サッと抜き、コインめがけて投げた。

「まさか落ちてきたところを斬ると思ったろ!」

と言わんばかりだった。

しかし、青髪も驚く行動を取った。左手の杖でなく、右手で髪をまとめていたかんざしを引き抜くと、天井に投げたのだ。

天を舞うコインに小刀が刺さる直前で、互いの小刀とかんざしがぶつかり、かんざしと刀がもつれながら落下を始める。

「あっ!」

親分が声を上げる。

周りの観客も声を飲む。

そして、侍も目を見張ってしまった。

コインは落ちてくる。

そうだ!斬らないと!

侍が刀に右手をまわす。

しかし、青髪の女の方が早い。

杖を掴んでいる左手を、コインに向かって突き出す。

一瞬、杖の先がキラッと光った。

杖先を重力に任せて落とす。

落とした先には、侍の右腕が、

ドス!

と畳に杖が刺さる。

いや、杖から鎌の刃みたいなものが出て、侍の右腕と胴体の間の畳に突き刺してある。

二人の間に割れたコインがボタ。ボタ。と二つ落ちた。

もちろん真ん中でスッパリ斬られて半円のコインだ。

「おぉ!」

親分も観客も声をあげた。

海美は侍を見つめる。

「………。」

「………。」

「…まいった。」

侍がつぶやく。

相手の強さを認めて、プライドを砕かられた「まいった。」

であった。」



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第一章第一部 地下の相撲 第二話

ここも座頭市であった場面をパロディしました。
恐れ多くも、若山富三郎と勝新太郎兄弟対決のシーンです。



 

青髪はゆっくり畳から鎌を抜くと杖に刃を戻して言った。

「…親分さん。」

「………。」

「親分さん!」

「おっ!おう。おい!あれ…あれもってこいだ。」

自分も目の前で起きたことが信じられないのと、冷静になってもこの青髪は強すぎると思い、親分は動けなかった。

そして我に戻った彼は子分にすぐ財宝を持ってくるよう指示したのだ。

よいしょよいしょと子分数人で千両箱を持ってくる。

「親分、どうぞ。」

子分が親分の前に千両箱を置く。

「おう!お嬢さん。これを…」

子分がやっとこさ持ってきた千両箱を親分はヒョイっと持ち上げて、海美の前に置いた。

「それじゃ。」

そう言うと海美は、千両箱を開けた。

黄金に輝く大判小判、金の塊などがぎっしり入っていた。

それを海美は一掴み。そしてもう一掴み。手ぬぐいに置くと、パタンパタンと手ぬぐいでくるんで懐に入れた。

「まつり。行こう。」

海美は赤鬼に話しかけると立ち上がった。

「ちょっとお待ち。」

親分に話しかけられる。

「はい?」

「これはなんじゃい?」

まだたっぷり残っている千両箱を指さす。まだどっさりと黄金がある。

「あぁ。おにぎりと饅頭代です。」

「一個だけでこんなにかかるわけないだろう。」

親分が自分の太ももを叩く。

バシン!

と良い音がする。

「しかし…そんなに貰っても。」

「…ちょっとお待ちなさい。…だったら、とっとと上がれば良かったものを…これじゃ、私の面目が立たないではないか。」

周りの観客も親分に不振の目を向けている。

「だって、そうすれば、あなたが不正に儲けることが出来なくなるでしょう?良いことだけじゃない。」

「なんだと!」

「こいつ!」

たしかにそういう声が上がることは予想ついた。

しかし、変わったことがあった。

その声をあげたのは、まさかの観客だった。

あれ? 空気がおかしい。

海美は、こういう場をこういう空気にするのが好きだ。

悪趣味かもしれないが、賭博などいかに相手をだまくらかして儲けるかの場所だ。

真っ当に生きている人間がスッて自殺などするのはとんでもないと思っていたので、海美はこんなことをやって賭博場を仕切るモノの信用を削ぎ落とし、その街にモノをいられなくすることもやっているのだ。

そして、親分と子分が狼狽して、一般の人がポカンとしているカオスな状況で出て行くのが通例だが、今回は違った。

親分子分が冷静で、一般の方の方が我々に怒っているようだった。

お客さんたちに壁際に追い詰められて、親分と子分が困ったようにそれを見て、ソワソワしている。

「どこが気に障ったんでしょう?」

まつりが海美の服を掴む。

ガリガリ!

親分が後頭部を掻く。

「…じゃじゃじゃあ。こうしましょう。」

親分が言う。

一同、親分を見る。

「あんたにはこのままあることをやってもらう。それに勝ったら、このまま立ち去ってください。ただ、負けたら。この千両箱は全部あなたのもんで、どうでしょう?」

「…それなら、」

「言いましたね?」

「…なにをするんですか?」

「逃げたら、千両箱はあなたのものですからね。」

「…はぁ?…い。」

「………。



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第一章第一部 地下の相撲 第三話

このモデルになった地下は、信濃善光寺の胎内めぐりです。
またコロナが落ち着いたら行ってみたいです。

みなさんは新型コロナが収まったら行ってみたいところはどこですか?
私はこの小説を「水曜どうでしょう」を見ながら投稿予約しているので、北海道が良い。
ただ、今見ているどうでしょうは道ばたでテントを張っているのでヨーロッパも面白いかもしれません。


さほど賭博場から離れていないお寺の本堂の地下。

海美とまつり。親分と数人の子分。そして、その場にいた観客一同がどしどし降りる。

胎内巡りのように真っ暗な空間を降りていくと、急に明るくなった。

地下なのに明るくなった。

「ここは…」

「本来なら、あの侍に出てもらうつもりだったんだが、あれに出てもらうぞ。」

明るくなった大きな空間で、土俵のようになった空間でなにか戦っている。

動物の仮面やオカメひょっとこで顔は見えないが、おそらく人間が戦っている。

しかし、刀というわけではなさそうだ。

なにやら、自分が飛んで回って、手に持つ物をぶつけたりしている。

「これに優勝したら、このまま立ち去って良い。どうする?」

土俵を囲む観客はみんな人間でない。

畜生、阿修羅、餓鬼、地獄道のモノモノばっかりだ。

「………。」

「海美。こんなんじゃ、大人しくお金もらったら?」

まつりが袖を引っ張りながら言う。

「……いや、この親分の慌てようなら、このお金は貰っちゃいけない気がする。それに…」

海美は土俵の奥を見る。

一段高くなったところで、女を囲って酒を飲んでいるモノがいる。

人間に見える。しかし、顔や手が猿のように毛むくじゃらなのである。

「…こんなに人を殺し合わせるアレ。あれを殺して、戦いをやらされてる人間を解放する。」

異性を囲い、首を動かせば両脇から口に甘い食べ物を放り込まれているモノ。

そして寺という神聖な場所でこんな殺生をさせている。

親分の賭けよりも、こんなことをさせているモノに、頭にきていた。

「だけど、どうしてこのお寺の中でモノがこんなことが出来るんだろう?」

「それはの…」

まつりは海美に話しかけたつもりだったが、親分が話し始めてびっくりしている。

「それはの、天狗のお嬢さん。ここは寺のふりをしたあやつの住処だからだよ。」

親分は駅の雄鬼を知らないのか、まつりが頭に巻いている天狗を触りながら言った。

「えっ?」

「あいつは頭が良くてな。ここは寺に見えるが、やつが新しい宗教を初めてな。こうすりゃ、天人も仏も調査しないって思ったんだろう。調査されたとしても、仏像だか御神体だかを、お祀りしてるおかげで、ここは誰にも睨まれることなく人間をいじめることが出来るって訳だ。」

親分がぺらぺらと説明した。

ただ、海美はある一点を見つめている。

あの毛むくじゃらの猿だ。

「…分かった。やるわ。」

「海美…」

まつりが袖をギュッと引っ張るのが分かる。

「そうこなくっちゃ。」

親分の口角が上がるのが分かる。



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第一章第二部 お遊戯

投稿作業をやっている日にあったテレビの決め台詞を書いておきます。

仁田忠常「やれば、できる!」


猿の部下がどこから盗んできたのか、寺の鐘をガンガン鳴らして、観客を静かにしている。

「さぁ皆さま、本日はこれで終わりません。なんと飛び入り参加者の入場です!」

「おー!」

「いいぞいいぞ!」

「待ってました!」

「人間の飛び入り参加、ここにいるものを全て倒せば賞金はあなたのものです。では、ご紹介しましょう。チャレンジャーの海美さんです。」

海美がゆっくり土俵にあがる。

女であることを隠しているから誰からも文句をされない。

「おー!」

「おい。チャレンジャー!お前さんにうんと賭けたんだ負けるなよ!」

「チャレンジャーのほうが配当が良いんだ。負けるなよ!」

「天狗面負けるなよ!」

言い忘れたが、後頭部にまつりから借りた面をつけている。

土俵の向かいには三人上がっている。

ただ、1人は竹馬、1人はヨーヨー、1人はフラフープを持っている。

そして各人、猫、犬、猿の面をつけて素顔は見えなくなっている。

「はじめ!」

呼び出しが叫び、鐘をバシン!と一回鳴らす。

「行け!チャレンジャー!」

「飛び道具を使え!」

「バカ!そう言ったら敵にバレちゃうだろ!」

海美は、しまった!と思った。

本来出る予定だった、早切りの侍は、小刀を投げることが得意だったのに、私はなにも持ってないじゃん!

そんなことを考えている暇はない。

真正面からヨーヨーが飛んでくる。

「危な…」

慌てて杖でかわ…

いや、

無理なほど上体を反らして避けた。

杖を頭の上から地面に刺して、体はイナバウワーのようになった。

「なんだあの避け方は!」

「面白いチャレンジャーだ!」

杖を軸にして、もう一度構え直す。

アッハハハ

アッハハハ

と海美は笑われた。

一番後ろの観客席では赤鬼が震えている。

「………。」

「赤鬼のお嬢さん。怒ってはいけないよ。」

「えっ?」

「あのヨーヨーな。糸もメチャクチャ強くての。まともに巻き付かれたら、切るのはほぼ不可能だ。だからあれで良い。」

チャレンジするはずだった侍もコクコクと頷いている。

「…なんで私が女だと気づいたの?」

まつりは、海美と違い、刀とマントで自分が女だと気づかれないように工夫しているのだが、それが見破られた。

女だと気づかれるとは、忌みものにされることを意味しているのは、まつりは知っている。

経験があるからだ。

「それはの。俺が猪とのハーフで鼻が効くからな。六道の男女どちらかわかるよ。…鬼のお嬢さん。」

「………。…!」

今、鬼と言った。

わざと?

それとも本当?

私、鬼なの?



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第一章第二部 お遊戯 第二話

鎌倉殿の13人の北条もですが、最近、YouTubeで後北条の北条氏綱の動画を見ています。
これが、どうしてこの行動を行動を氏綱が行なったのか丁寧に書かれていてとても興味深い。
ひとつ例をあげれば、当時、氏綱は「伊勢」と名乗っていた。(父早雲は北条を名乗ったことはない)
また、関東は群馬に「山内上杉」、東京埼玉に「扇谷上杉」、茨城に「古河公方」、千葉に「小弓公方」という、偉い人が乱立している状況だった。
ここで、鎌倉時代の執権と同じ「北条」と北条氏が持っていた「従五位」という位を得ることで、関東を制圧しようとしたわけである。
ただ、この「北条」と「従五位」は献金で手に入れたため、早雲氏綱親子が執権北条氏と関係はまったくない。

名字や位はお金で買えたんですね。


猿の面がフラフープを腕で回しながら、一気に距離を詰めてくる。

フラフープでどういう風に戦うんだ?

その時、フラフープが光った。

「あれは、鉄かなにかだ!」

身体で受けてもフラフープならと思っていたが慌てて杖をぶつける。

あんなのが当たったら体がちぎれてしまう。

杖は体の右前に立てて、フラフープにぶつけたが、その時、左脇腹に衝撃。

右方向に吹っ飛ぶ。

杖がギュッと土俵に突き立たったので、土俵から落ちることはなかったが、左の脇腹の衝撃は驚いた。

ヨーヨーだと思ったが、ヨーヨーなら巻き付けてくる作戦じゃないかと思った。

衝撃のあった方向を見る。

そこにいたのは猫の面…竹馬だ。

「竹馬で突いたのか?」

猫面は竹馬に乗っているのではなく、降りて、片膝を付いて普通に突いてきたのだ。

猫が頭を下げた。

「なんだ?…飛び道具か!」

まさにその通り。

横向きにヨーヨーが目の前に飛んでくる。

しかも今度は、刃みたいなのが生えている。

「この杖と同じで収納式なのかな。」

今度はフラフープが頭の上から振り下ろされてくる。

杖で抑える。

「て、言うか、どうすれば勝ちなの?」

「そりゃ、チャレンジャー、その面を取られれば負けさ。」

「えっ?」

土俵下から声がした。

「……誰?」

「いいから。面を剥がせば勝ちだ。土俵から降りても、ひっくり返っても大丈夫。しかし、一つ忠告がある。面を剥がす時は、相手の生死問わずだ。それに気をつけろ。」

「殺した後、剥がすってことも相手はしてくるってことね。」

猿面の足を払う。

竹馬の打突が来ると思い、杖を軸に、ダンスポールよろしく逆立ちをして避ける。

真下に、こちらを見上げる猫と、アドバイスをしてくれたであろうモノいや?ひ…いや、モノが見える。

「あの人、骸骨?」

右腕を畳のヘリだか、布だかを紐状にしたものを巻きつけ、懐に手をやって、あぐらをかいている。

顔の右半分はものすごいイケメンなのだが、顔の左半分が青白く、目の当たりに穴が空いている。

よく道に転がっている髑髏に見えた。

逆立ちして避けられない状態で、下から上に向かってヨーヨーが飛んでくる。

もちろん刃か出ている。

「ここまでおいで。」

海美は杖に足を置くと、手を離し、上体を反らして、上に向かって杖を蹴り飛ばし、天井にぶら下がった。

「「おー!」」

観客がため息を吐く。

「だけど、どうやって降りるんだ?」

猿がじっと海美を見る。

フラフープをビュンと投げる。

「よっ!」

フラフープが当たる直前、屈伸。

フラフープの中に片足を入れて、足でフラフープを始める。

「「おぉ!?」」

「いいぞ!いいぞ!」

「が、頑張れ、チャレンジャー!」

杖のダンスポールから見事なジャンプ、さらにフラフープまでと、観客みんなが興奮している。

「ふざけるな!」

猫面が片足で竹馬に乗り、もう一本の竹馬を振りかざして、海美に迫る。

「思ったんだけど、」

海美は片足でフラフープに加速をつけて、猫面に向かって蹴り投げた。

「どうして、」

手に持つ竹馬でフラフープを猫面が弾いた。

勢い余ったのと、竹馬が重いのと、片足でケンケンしている関係で、よろめいた。

「順番に攻撃してくるのかな?」

海美は体を振って、竹馬に飛んだ。

「なにするんだ!退け!」

海美は竹馬に抱きつくと、ロデオよろしく乗りこなし始めた。

海美は犬面を見る。

ヨーヨーを投げたいのだが、猫面に当たるのが怖いのか、タジタジオロオロしている。

もう1人、猿の面に目を送る。

フラフープを回収しただけでなく、杖を持とうとしている。

「杖に触れちゃだめ!」

海美は叫ぶ。

「うるさい!」

猿面は、言い返すと杖を掴んだ。

その瞬間、猿の面の両足から血が噴き出した。

「えっ?」

急なことだったので、バランスを崩してその場に倒れ込む。

猿面の目の前に、立ってる足だけ見える。

自分の足を触れる。

 

足がない。



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第一章第二部 お遊戯 第三話

このヨーヨーのモデルは「Gのレコンギスタ」に出てくるカバカーリーという機体のビームリングという武器です。
大きさは全然違いますが…
フラフープは戦国BASARAの毛利元就です。


「足が…足が…」

また、杖が動く。

杖の頭、いや、今は地面についてるので尻かな。

尻についている赤い玉から、なにかどす黒く光るものが飛び出したかと思うと、猿面を斬り裂いた。

猿面が脳天から顎へ見事に斬られて、中の人の顔が現れた。

子どもに見えた。

「「あっ!」」

「「おぉ!」」

「チャレンジャーか猿面を割ったぞ!」

「あれはチャレンジャーが割ったのでいいのか?」

「自分で転んで割れた場合も敵の点なんだからいいじゃないか」

観客が騒ぐ。

ただ、静かな一団が一つ。猪の親分と、子分とまつりは固唾を飲む。

「なんてこった…あの杖は自我があるようだ…」

「あんな、自分で動くようなことの出来る杖を扱っていたのか…」

子分たちはまるで、さっき詰め寄った時、自分達があの杖の餌食になっていたのではないかと思ったら、背筋が凍る思いだった。

「嘘だ…」

1人、子分と違う意味で冷や水を被ったような表情のがいる。

「あの子…さっき…」

まつりである。

「子ども…まつり…」

竹馬の上から猿面が割れるのを見ていた海美も目を張った。

まさか、あのまつりと遊んでた子どもたちがこんなことをする羽目になっていたとは…

「だから、未練ある感じで帰ってったんだ…」

「どけ!」

海美は下を見る。仮面を取ろうと、猫の面の手が伸びている。

「まずい…」

慌てて、猫の面の手を払い除ける。

けど、よくよく考えたら、首に飛びついているのだから、猫の面が目の前にあった。

「そうだ!」

慌てて、猫の面を掴むと、そのまま竹馬から飛び降りる。

竹馬が派手に倒れる。

猫面も倒れる。

海美は綺麗に着地する。

ただ、驚くことに、猫の面が顔から外れない。

手から伝わる、とても重い感覚。

海美が猫の面を引きずっているように周りからは見える。

猫の面が慌てて立ちあがろうとする。

「…まつり、ごめん。」

立ちあがろうとする足を海美は蹴り、立ち上がらせない。

足を変な方向に踏みつけるということもする。

「「チャレンジャー!いいぞ!そのまま攻めろ!」」

「いいぞ!いいぞ!」

「負けるな!猫面、犬面!まだ勝てるぞ!」

観客が熱狂する。

その時、まつりの声が聞こえた気がした。

「海美!前!」

「犬面!いまだ!」

前を見る。

犬面がヨーヨーを振り回して、まさにこちらに投げる瞬間だった。

「行け!」

伸ばしきったヨーヨーが左側から飛んでくる。

糸が長すぎてかわし切れない。

バキン!

と人に当たったというより、なにか重いものに当たった音がした。

ヨーヨーが止まり、その場に落ちる。

海美は慌てて、猫の面の足からそのヨーヨーに踏みつけるものを変えた。

猫の面はというと、面が割れている。

観客がさっきの熱狂はどこへやら…シーンと静まり返った。

ぼそっと誰かしゃべる。

「…猫の面で受け止めた。」

「すげえ…」

「…まつりに顔向けできない。」

海美は、出来れば子どもたちだと分かっているのだから、子どもたちをこんな使い方はしたくなかった。

だけどあのヨーヨー、そのまま食うと猫の面か自分どっちかは確実に死ぬと分かった。

だから、やった。

当たる瞬間に、盾代わりにヨーヨーに面をぶつけた。

ほぼ勘の位置だった。

しかしありがたいことに猫の面がパッカリ割れて、ヨーヨーも顔を傷つけることなくその場にボタっと落ちた。

ヨーヨーは足で押さえてるけど、犬の面から目線を外さず、ゆっくり猫の面だった女の子をゆっくり横にした。

一瞬下を見る。

猫の面の内側と猫の面だった女の子の顔を見る。

海美は嫌な予感はしたが、やっぱりな。と思う事があった。

猫の面の内側に突起がついていた。

そして、女の子の輪郭に沿って何かが食い込んでいたような跡がついていた。

「あのお面、外れないように顔に食い込んでたんだ…」

 



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第一章第二部 お遊戯 第四話

なんで竹馬がいるのかというと、もともとこの子は槍を二本持っていたのですが、隠すために竹槍にして、遊具に見せかけるために馬がついたわけです。

ウマが流行っているからではない。


そっと、猫の面だった女の子から手を離す。

次に杖を見る。

ちょっと離れてる。

足を踏んだままとはいきそうにない。

ヴィーン!

と、足の下でなにか振動がする。

また下を見る。

ヨーヨーから刃物が出て回転している。

「チャレンジャー!飛び道具を使え!」

また、観客が声をかける。

さっきの、面を割った動きにみんな息を殺したが、展開が進み、また声を上げ始めた。

「………。」

海美は踏んでいない足をヨーヨーの糸の上に置いた。

犬の面は糸を引っ張る。

糸を引っ張るビン!ビン!とした感覚が糸を踏む足に伝わる。

海美は目線をそらさずグググっと前傾姿勢になって踏んでいる足の糸を右手で持った。

犬の面が左手を下ろす。

手で持ち、またグググっと状態を戻す。犬の面はすごい力で引っ張っているのが分かる。

左の腕で糸を上から抑える。

目だけで足元のヨーヨーを見る。

刃物がなくなりただのヨーヨーに戻っている。

ヨーヨーから足を外す。

ヨーヨーは動かない。

左腕から、左手に糸を持ち替えて、右手を素早く左手付近に移動させて、糸を掴み、一歩前進して、また左腕で糸を引っ張る。

ヨーヨーは動かない。

「おっ…」

「…ゴクン。」

観客がまさに固唾を飲んで見守る。

スッと一歩、杖の方向に海美が寄る。

ヨーヨーが引っ張られて海美の身体に完全に隠れる形で犬の面と海美の真後ろに隠れる。

「勝ったな。」

馬鹿な観客がフラグを立てた。

犬の面がいきなり左手を振ったかと思うと、もう一つヨーヨーが海美の右側に飛んだ。

左手を下ろしたのは、予備のヨーヨーを探すためだったのだ。

右側からヨーヨーが迫る。

「ちっ…」

海美は持っている糸を前方の犬の面に向かって投げた。

上手いことヨーヨーが犬の面に向かって飛んでいく。

しかし、首に予備のヨーヨーの糸が海美に巻き付いた。

なんとか右手も巻き込んだから首が締まることはない。

しかし、何周かされたら頭にヨーヨーの刃が突き刺さる。

しかし、思い出してもらいたいのが犬の面に向かってヨーヨーが飛んでいる件だ。

海美が投げたヨーヨーはいきなり犬の面の言うことを聞くようになったからか、刃物が高速回転しながら犬の面に戻ってきたのだ。

びっくりした犬の面が左手にギュッと力を込めたものだから、しっかり締まらず、また刃物も引っ込んで、海美にゴチン!と当たっただけだった。

そのままさっと、杖に寄る。

杖からまた刃が出る。

しかし、さっきと違って全然刃が出ない。

カッターの一枚ぐらいだ。

それが首と右手に出来た糸の間を刃物が通り、ヨーヨーの糸が切れた。

素早く杖を持つ。

犬の面を見る。

予備の予備のヨーヨーを取り出して、海美の肩上の左右に向かって二つ投げた。

「んっ!」

海美が杖を前方に突き出す。

今度はカッターとは比べ物にならないほど長い刃が出て、槍が出てくる縦回転ではなく、傘のように横回転させた。

高速回転がヨーヨーの糸をとらえる。

ブチん!

と糸が切れて、ヨーヨーが全然関係ないところへ飛んでいく。

「えっ!?」

「んっ!」

横回転から縦回転へ

犬の面

犬のお面だけが空中に飛ぶ。

犬の面をつけていた子どもはその場に立っている。

海美の杖を持つ左手が犬の面をつけていた子どものお腹に添えた。

「……負けた…」

「私の勝ち。」

犬の面が土俵にパタリ。と落ちる。

「…終わった。」

「…チャレンジャーが勝った……」

「チャレンジャーが勝った…」

「…すげえ戦いだった。」

発狂熱狂な声援が起こるまでの、奇跡的な静寂な時間だった。



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第一章第三部 表彰式

前回投稿していた辺りは、閃光のハサウェイが流行っていましたが、いまは「シンウルトラマン」が流行っています。


「千客万来。私の好きな言葉です。」


「海美…それと、」

「赤鬼のお嬢さん…もしあれだったら、犬、猫、猿の面の控室を見てきたらどうだい?」

猪の親分は熱狂する観客の声援に消されないよう、まつりの耳元で話しかけた。

「あなたは?」

「わしは、表彰式を見てくる。もし表彰式を見たけりゃわしの部下に聞けぃな。」

誰かついていってやれ。

と、部下に檄を飛ばした。

「行きましょう。」

と、部下の1人がまつりに声をかけて、まつりも、「うん。」とついていった。

海美は、格闘技場が見下ろせる中二階みたいな空間の部屋に通された。

海美は土俵を背にして、正面に、向かいで異性を囲って甘いものを食べていた猿みたいなモノと、その部下っぽい、モノにお菓子をあげていた女の人がいる。

モノの背には、鉄で出来ているのか、黒い装飾がついた大きな扉がある。

「やあやあ。よく勝ってくれました。お陰で観客も大盛り上がり。今回の興行も大成功です。お陰で次回もますます盛り上がることでしょう。」

典型文みたいな褒め言葉をもらった。

これが少しでもカッコいい顔ならまだ嬉しいが、猿のように長い髪の毛、長い髭を振り乱し、清潔なら良いが、お菓子の破片などが髭や髪の毛についているから汚い。

「さぁ、遠慮はいりません。ここから半径1km以内にあるものならなんでも差し上げますよ。」

「半径1km以内のなんでも?」

「ええ。なんでも。……生首千個でも、人皮人衣千枚でも、人骨で出来た家千棟などなど。なんなら、人間を放ちますから、納得するまで殺しまくるでも。逃げられないように柵はしますし、その杖以外の武器ならなんでもお貸ししますよ。」

「………。」

海美はある呪いを食らっているため、このモノと同じ種族に見えているらしい。

海美は人間をそんな風に捉えているモノと同じように見られているのが悲しかった。

しかし、ここで慌ててはこいつを殺すことは出来ない。

グッと我慢してこう答えた。

「…なら、今回賭けられた全金額を。」

「…なに?……」

「私と、あの動物の面に賭けられた懸賞金額を。用意できないの?1kmどころか、100m以内にあるものなのに。」

「……し、してやるわい。おい!」

モノが言うと、女の人が土俵際に降りて、なにやら袋を持ってきた。

サンタクロースや大黒様が持っているような大きな袋だ。

それが三つもある。

「ひ、一口は紙幣一枚でやるんだ…今回はこれで全額だ。」

「…払い戻しは済んだの?」

「………。」

なにかイラついたのか、ブツブツなにか言った。

ガツン!と、杖で床を突いた。



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第一章第三部 表彰式 第二話

ここを書いているときに「水曜どうでしょう」のヨーロッパリベンジを見ているのですが、一番有名なのは「ここをキャンプ地とする。」でしょうが、個人的にはその次の回でボルボに乗って、「たくさんボタンがあるからいじってみよう。」とディレクターが言って、
「あんまりいじらないほうが…」と鈴井貴之が言った瞬間に、大泉洋の座席シートが手前に倒れてツッコムシーンです。


良い音がなり、空間がドゴん!と反響する。

「…払い戻しはやった。持ってるはずだ。」

海美が後ろを見る。

何人かが音にビビったのか、お金をヒラヒラさせている。

「分かった。それじゃ。」

そう言って海美は一番近い袋を片手で探ると、一掴み懐にいれた。

そして土俵から降りようと歩きました。

「待て!」

もちろん猿が止める。

さっきも見た展開だ。

「この袋はなんだ?」

「あぁ、言い忘れました。これはあのお面の三人にあげてください。特に、猿の面の子の治療に使ってあげて。」

「ふざけるな。なんであいつらの心配をお前さんにしてもらわにゃならんのだ!」

急に声が大きくなる。

「私は1km以内で出来ることを言っただけですよ。」

「俺の持ち物にとやかく言わないでもらいたい。」

「なぜ?」

「あいつらは俺の人間だ。俺の奴隷だ。お前さんに俺のものについて言われたくないね。」

「ものね…」

海美は小さい声で答える。

「俺のものは、俺のやり方で処分を決める。貴様になにか言われたくないね。」

「そう…じゃあ、このお金は返すから一つ教えてくれない?」

杖で袋を指して言う。

「なんだ?」

「猫の面、内側に突起がついていて、女の子の顔に食い込んでいたんだけど、あれはあなたの指示?」

「そうだ。」

「…そう……」

「それじゃ。」

そういうと、猿は立ち上がる。

「どこ行くの?」

「俺のものを見にだ。悪いか?俺のものを俺が見て悪いか!?」

「……あんなに傷だらけにしておいて、『労を労う。』とは言えないの?」

「貴様…」

猿は、口では怒っているが手を出すことはない。

従者の女も動かない。ドアノブに手を当てて、早く出ていけよ。って雰囲気しか出してない。

「近づいて、服とか掴んでたから分かるけど、あのアザや皮膚の変色は、あなた、拷問かなにかさせてるでしょ?」

「…だから、何度も言うようだけど、俺のものに何をどうしようが関係ないだろ。第一、拷問していたからどうって言うんだ?」

「そんな無駄なことはやめなさい。」

「説教か。だから、何度も言うが、俺に歯向かうやつは半径1kmにいないんだ。それでも俺に歯向かうならいつでも相手してやる。だが、おめぇさん…たかが、あんな三人にあんだけの苦戦で俺に勝てるかな?俺に勝てるんなら、あいつらはとっくに反乱を起こしてるに決まってるだろ。それぐらい分かるだろ?」

そう言うと、猿は扉に近づく。

重厚感のある装飾がゴテゴテくっついた大きな扉に従者の女の人が手をかける。

猿がこっちを首だけ向ける。

「ほら。お前はなにも出来てない。」



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第一章第三部 表彰式 第三話

今は、BS12で「寧々 おんな太閤記」を見ていました。
仲間由紀恵さんが豊臣秀吉の正室の役でした。
綺麗すぎて、徳川家康役の高橋英樹さんがどんどん白髪が増えるのに最終回のシーンまで美しく、八百比丘尼かと思いました。

さて、話はクライマックスです。
ぜひ、この猿がどうなるか見ていってください。


「………。」

(そうね。わたしには。)

ドアノブを女の人が回した瞬間、

ベガン!

と、扉が音を立てた。

立てただけでなく、扉からなにか生えて、猿の左胸になにか突き刺さっている。

「ぐっ…」

猿は慌ててその生えたものに手をつける。

ただ、掴んだ指がポタリポタリと落ちた。

「…刀!」

刀だ。しかも長い。

扉と猿に1mぐらい間があったが、刀は猿の毛を貫通して、背中から剣先が出ている。

ギュイン、ギュインと扉が下に切れていく。

同時に猿の体も切れていく。

「…なんと……お前らなに見てるんだ、はやく刀をとれ!」

猿も慌てる。

自分の命がなくなっているところを見ているのだ。

「………。」

「………。」

ふたりの女の人は動かない。

ドアノブに手をかけていた人もビックリして一歩下がっているから傷つかない。

刀が止まり、今度は右側に切れ始めた。

「チッ…誰か!誰かいないか!?」

猿が声をあげる。

誰も傍観してるだけで動かない。

意図して動かないのか、怖くて動けないのかは分からない。

刀がある程度、身体を横に切ったら今度は真上に刃が上がり始めた。

「誰か!誰かいないか!俺は、この辺を治めるファミリーなんだぞ!早く助けろよ!」

誰も動かない。

いや、動こうとした人はいた。

ただ、そう言ったのが悪かったのか癪に触ったのか、一歩下がってしまった。

「と、言うか、誰だ…こんな…俺に向かって…こんなこと許されると思ってるのか!?…」

結局、上半身を四角に切断された。

刀がニュルンと身体から抜けて、キリキリキリと鉄の扉からも抜けていった。

「あぁ…」

猿が膝から崩れ落ち、前に倒れた。

その時、鉄の扉がドタン!と外れて、猿の上に落ちた。

水の入った風船が撥ねたように赤い水がブシャ!と広がった。

「……あ。」

「死んだ…」

観客が呆気に取られている。

「………。」

海美が猿だったモノの上、いや、鉄板の上を歩いて穴の空いた扉に向かう。

「…まつり?」

初めて出会った時のように頭の上からすっぽりマントを被り、顔は見えない。

ただ、マントの左下に刀の剣先が覗いている。

猪の親分が後ろに立っている。

「あなたが焚きつけたのね?」

「…これで良かったのだ。これであの子たちは自由だ。ただ、鬼のお嬢さんに辛いことをさせてしまった。」

「…楽屋だか、医務室かを見せたのね?」

「そうだ。」

猪の親分が正座をする。

「気に入らなくてワシを殺したいなら好きにしろ。お嬢さんの苦しみ、受けてあの世に行く。」

海美は猪の親分から目を外し、まつりに話しかける。

手のひらを見せてからゆっくり頭の上に持っていく。

小さく震えている。

「…ありがとう。みんな助かった。泣いていいよ。私がここにいるから。」

そう言うと見えない顔から鼻水をすする音が聞こえてきた。

「猪の親分さん。みなさんを家に帰して、近くのお寺からお坊さんを呼んできて葬儀をして。みなさんが圧政に苦しんでいたなら天人が助けに来ると思いますよ。」

「ワシも救われるのか?」

「…まつり?ひどいことをしたのは猿の男?それとも騙した猪の親分?」

「…猿だけ。猪の親分さんは、悪くないと思う。」

「猪の親分があなたに教えなければこんなことしなかったんじゃない?」

「…あの子たちが可哀想。」

「そうね。」

海美は猪の親分を見る。

「猪の親分さん。まつりはあなたを悪者だと思ってないみたい。あなたが今後は半径1kmを守ったら?」

「ワシが?」

「だって、この子たちを助けたらやりたいことあったんでしょ?」

「ま、…まぁ。お…いや、海美さんが言ったように天人を迎えようかと、それはもちろん、子分たちにも言ってあることだが。」

「…私は、手助けをしただけ。これからが大変よ。」

「覚悟はしてあるさ。そうでもなきゃ、こんなところでヤクザ行為はしてないよ。まずやるのは…選挙だな。指導者が必要だ。ワシは選挙管理委員じゃ。」

「「えっ!親分がやらないんですか?」」

子分たちが親分を囲む。

「考え直して、出馬してください親分。」

「いや、ワシは新しい指導者を監視せにゃならん。」

「親分なら誰も反対しませんよ。」

「いや、ワシはいままで日陰や夜を渡ってきた。ワシはふさわしくない。ワシが出来るのは道理を通すだけじゃ。お前たち、出たいなら自由にしろ。」

「「そんな…親分!」」

子分たちが親分を囲み、思いとどまるよう説得をしている。

海美はまつりを抱き寄せる。

まつりは肩で息をしている。もう泣いてはいないようだ。

「まつり。…子どもたちのところに連れってて。謝りたい。」

「うん。」

まつりは歩き始めた。

これからの希望や戸惑い、明日に希望を持っている後ろに比べて、元気がなく、真っ直ぐ、今を絶望して歩くまつりが、哀れだと思った。



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第一章第三部 表彰式 第四話

それと、おんな太閤記で印象的だったのが、尾上松也さんの小早川秀明。
彼は関ヶ原の戦い当日に裏切り、西軍に攻めかかった裏切り者のイメージがありますが、ドラマでは、「自分は一度は豊臣姓になり、秀吉の後継者候補になったが、豊臣秀頼が生まれたことで、小早川家に養子に出されたため、豊臣家にも、石田三成にもついていきたくなくった。」
「ただし、自分が寧々の甥であり、小早川家も西軍の大将毛利輝元の分家であるから、東軍につき、加藤清正や福島正則に味方するのができない。」
といったような趣旨の話をするシーンがある。
このようにみると、小早川秀明の見方も変わっておもしろいと思った。


先程のアリーナと違い、まつりはジメジメした水が腐ったような臭いが充満した廊下を歩く。

急に止まり、外れてるドアを引っ張る。

ドアがバタン!と倒れた。

中は教室みたいな箱みたいな部屋になっている。

そこには、覇気のない子どもたちがぎっしりまさに詰まっている。

お前ら、何しに来た?

という目で鬼と青髪を見つめている。

海美は目を見開いてじっぃと、部屋を見る。

怯えたような目をしたのもいる。

なにもしないでくれという目である。

海美は目を見開くことを辞めた。

いつもの目の大きさにして、少し口角を上げた。

部屋の中の子どもたちが、「なんだ?なにがしたいんだ?」という目になった。

まつりに話しかける。

「猫の面の子は?」

「あっち。」

まつりが隣の部屋を指す。

海美は隣の部屋に入る。

女の子が中央のベットで横になっている。

足元でなにや誰かがなにかしている。

向こうを向いているのでなにをしているか分からない。

その人、後ろから見るとなにかおかしい。

左腕が無いように見える。

しかも、頭の左側が青白い。

右側は黒々としている。

ただ、左側が青白い人は見覚えがある。

さっき見た。

「おっ?」

向こうを向いていた人が振り向いた。

「さっきのチャレンジャーか。」

「あなたは、私にアドバイスしてくれた…」

「そうそう。勝てて良かったね。」

「…その子は?」

「まぁ、君というか、君の杖が斬った猫の面だよ。」

「…大丈夫ですか?」

「…まぁ、足をまるっきし切断してしまっているが止血したのであとは大丈夫だ。ただ、血がおかしいんだ。見たことない。」

「?」

「…はっきり言って、止血前に血が止まってた。こんな大怪我でそんなことはあり得ない。」

「ちょっと良い?」

「どうぞ。こうなったらヤケクソだから。」

その後ろを向いていた人がこっちを見た。

やっぱり、顔の半分は普通なのに半分骸骨になっている。

しかも、服の左腕がない。

だけど、悪い人には見えない。

「………。」

割れた猫の面を枕元に置かれた女の子は、目をつぶっている。

目をつぶっているのか、寝ているのか、はたまた死んで…いや、治していたのだから死んではないだろう。

「死んじゃないよ。麻酔で寝てるんだ。俺と同じ麻酔でな。

「…あなたは?」

その男は、右手で左側の骸骨を何回か撫でる。

歯も剥き出しになっているので、歯もいじっている。

「俺は、なんとか仏様に助けていただいたので生きているのだが、本来なら死んでいる。麻酔で痛みも消しているが、麻酔が切れた時、激痛が左半身が襲うんだ。それが、俺が生きることを代償に受けた呪いだな。」

「それでも、生きてる方が良い。死んだら、おしまいじゃない。」

「うーん…たしかに、あなたの様な綺麗な人はあの世にいそうにないし…いや、天道に上がれれば天女様もいるだろうが…いやいや、この呪いのせいで、天道に上がるのは無理…そんなことより、この子猫ちゃんに何するんだい?」



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第一章第三部 表彰式 第五話

大河ドラマではないにせよ、ある人物の生涯を書く時代小説は「星野仙一」さんはどうでしょうか?
もっとも、巨人と病気に挑んだ男です。
しかも毎週乱闘が見れます。


「ちょっと…」

海美は、杖を足に乗せた。

杖の先の赤い玉から、赤い水が溢れて、ない足を濡らす。

ベットがビシャビシャと赤く濡れていく。

「…青髪のお嬢さん。」

「髑髏さん。この子の足は?」

「ど……」

ベット下から、ビニール袋を出す。

ビニール技術は失われたか、作る量が少なくなったか、珍しい。

「足の辺りに置いて。」

「へい。」

右手だけで、もたもたと足を出して、足首の下に置く。

赤い玉からは水が出続けている。

フッと、足から杖を外す。

「うん?」

髑髏の男が見える右目を見開いて足首を見る。

「まさか…」

赤い水を手で振るって、水を退ける。

すると、なんと足がくっついている。

「おぉ!足がくっついている…」

見えないいや、無い左目も海美を見る。

見えない左目になにか当たる。

柔らかい

ナデナデ

右手が遠ざかるのが分かる。

「なんだ、触られたのか。」

海美は右手で、シーっとしている。

「私はもう行くわ。」

海美は、青い髪をなびかせて振り返り、一歩歩き出した。

「待って。」

海美の左手を杖ごと、右手で掴む。

「なに?」

「いや…お…あ、あの赤い水…俺の右手だけじゃ…」

「大丈夫よ。」

「えっ?」

振り返る。

赤い水でベットは濡れてない。

乾いた綺麗なシーツになっている。

「…なんで?」

「じゃあ。」

「いや…」

その時、骸骨は嫌なことを思い出した。

この杖、自己意志で、主人を守ろうとするんだった。

だけど…

「………。」

「…大丈夫よ。別に、隣の部屋に行くだけだから。」

「あっ……そうお。」

右手を慌てて引っ込める。

部屋から廊下に出る。

やはり青髪が美しい。

青髪が見えなくなる。

また、歯をいじる。

「あっ!そうだ!」

顔を上げる。

青髪がこっちを見てる。

「その子、目を覚ましたら、青髪と戦ったのは夢だったって言っといて。」

「あっ…あぁ。」

「じゃあ。」

「ぁつ!あっ!あの…」

「うん?」

「…その杖…良い杖ですね。」

「ありがとう。あなたの左目も素敵よ。ただ、歯をいじる癖はやめた方が良いよ。女の子や天女様に嫌われちゃうよ。」

「なっ…」

ぱっと、青髪は消えた。

「ちょっと…もう少し話だけでも…」

一歩、右足を踏み出す。

二歩目、なにやら、足とは言えないなにか鉄のような黒い筒状のものが体を支えている。

「うん?…足…」

「!」

右耳が女の子の声を捉える。

左足?を止める。

廊下に出れば、俺を怖がることなく、いや、この骸骨を触ってくれる女性がまだいるかもしれないのに…

「…大丈夫かい?嫌な夢でも見たか?子猫ちゃん。」

彼はベットに戻った。



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第一章 閉幕

ここで、日本で一番有名だけどどうしてそう言うのか分からない林家木久扇師匠のネタが炸裂します。


海美は、とりあえずまつりを置いて賭博場に戻った。

あそこは子供たちのトリカゴであった。

自由を束縛する場所か、はたまた、自由を保障する場所か。

とにかく、猪の親分やまつりが説得しても、夜の間は絶対にあそこから動きたくないと言われたのだった。

まぁ、あんだけの騒ぎだったからもう東の空が明るくなりそうだった。

明るくなれば、猪の親分の部下が朝の光と共に天人を連れてくるはずだ。

そうすれば、ここもモノの支配から解放される。

「いや、海美さんのおかげで助かりました。」

屋敷の大黒柱の真下に座り、親分がしゃべる。

親分の前には大きな火鉢があり、なにか鉄瓶が湯気を出している。

その湯気が、大黒柱の上にある神棚に直撃してもやもやしている。

その神棚にはいつ載せたのか、鏡餅が上がっていて、カビが生えて変な色になっている。

海美はそれを見上げて、凝視してしまった。

「あぁ。そういえば、もう正月も終わってしばらく経ちますよね。あれを鏡割りにして食べますか。おーい!」

と、猪の親分が呼んだ。

すると、小さい子分が出てきた。

訳を話して、鏡餅を神棚から下ろすと、小刀で、ガリガリ削り始めた。

ただ、手つきがおかしい。

刃の前に手を置いているから、手元が狂ったら自分を突いてしまう。

猪の親分が海美にこれからのビジョンを話そうとするのだが、子分が気になって、話どころではないし、海美が話している時は完全に子分を見ている。

だから、海美もそのうちしゃべらなくなり、小刀でゴリゴリ削る音が響くようになった。

「………。」

ゴリゴリ

ゴリゴリ

「………。」

ゴリゴリ

ゴリゴリ

「………。」

黙っているとなにかしゃべりたくなるもので、子分がこう言った。

「親分、もうすぐ終わりそうです。ところで、なんで餅はカビるんですかね?」

 「それは、空気中にカビの菌があるから、それが付着して、表面だけカビるからだよ。」

と、海美は答えようと息を吸い込んだ。

しかし、それより早く猪の親分がこう答えた。

「そりゃ、はやく食わないからよ。」

もう、この早さったらない。

しかも集中して見てるのだから、この猪の親分は本当にそう思っているらしい。

子分と海美が大きく目を見開いて、驚いている間にもカビ取りが終わり、子分が台所に餅を持って行った。

さぁ、餅が食べられると思った時、2人は、周りが明るくなっていることに気がついた。

2人が慌てて外に出ると、寺の方から子供たちとまつりが歩いてくるのが見えた。

あの不思議な骸骨の男もいた。

子供たちは自分達の得意な遊びをしているから、パレードのような騒ぎである。

「みんな、夜が明けたから出てきたようだな。」

「…夜になれば帰っちゃうわ。」

「安心しろ。あの地下室は封鎖して、土俵もぶっ壊す。土俵がなければあいつらは戦う理由がなくなる。戦うことでしか自分が保てないのであれば、治す。あの男と一緒にな。」

「あの男って、半分骸骨の?」



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第一章 閉幕 第二話

いま、また水曜どうでしょうのヨーロッパリベンジを見ています。
ムンクさんが出てきたところです。


「そうだ。あいつもワシの子分だが、猿の動きと、子供たちの治療をさせるんで、猿の部下もやらせてた。内情は良く分かってるだろうよ。」

「…あの人は良い人なの?」

「人間らしいし、モノを倒すのも御手のものらしい。ワシを殺しに来たらしいが、ワシのこの考えを言ったら二重スパイをやってくれたんだ。ただ、あの猿はただのモノではないって言っていたな。詳しく聞いてみたらどうだ?」

「…そうします。」

骸骨は子どもたちを気遣いながら歩いている。

悪い人ではないと思うが、なんであの人は私の左手を持ったのだろうか?

杖を奪おうとしたのではないと思う。

杖から剣が出なかったから。

じゃあ、なんで彼は私の手を取ったの?

いろいろ考えて、ある仮説を立てたとき、一団が目の前までやってきた。

「みんな。これからは、自由に好きなところに行きなさい。もしなにか心配事があるなら、ワシの手伝いをしてもらいたいんだ。」

猪の親分がなにかみんなに指示出している。

骸骨の男も子どもたちの近くにいるが、なにかソワソワしている。

骸骨の男は、なにか、なにか、気が変になりそうだった。

あの左頬の感覚がやけに気になる。

もう一度、話が出来ないものだろうか?

「あの…」

左肩を、ポンポンと叩かれた。

振り返る。

青い髪の女の人だった。

「あっ…」

「ちょっと、2人で話せませんか?」

「えっ…あっ!良いでしょう。久しぶりに…」

「同じくらいの人と話せそうで良かった。」

「…あっ、はい。」

少し、親分の屋敷から離れる。

裏が坂になっていて、そこを登り切ると静かな森のある神社があった。

本殿、社務所、神楽殿まである。

ただ、管理する人も、神様もどっかに行ってしまったのが、埃だらけになっている。

海美は、本殿の階段に腰掛けようとした。

「待って。」

と骸骨の男が止めて、左腰に吊るしてあった手ぬぐいで、海美が座ろうとしたところを拭いてやった。

海美は不思議そうに彼の顔を見た。

骸骨の男はまた手拭いを左腰に突っ込みながらしゃべる。

「女の人に対して、いつもやってたことだ。こんな顔になる前は普通にやっていたんだ。」

この骸骨の男。

たしかに顔は美形だ。

右手で左側の顔を隠す癖みたいなのがあるが、本当に隠すとかっこいい。

右腕もおかしなことに気がついた。

「…あなた、右手にロープが。」

「あぁ、これ?これは、これと繋がっているんだ。」

左腰にナタが差してある。

それを撫でてみせる。

そのナタも持ち手(つかがしら)にロープだか、手拭いの切れ端だかで結んである。

その結んだ端が右腕に巻いてある。

「俺は片腕しかないから、このくらいの長さのナタで充分だ。最悪投げても、これなら腕を振り回せば、回収出来るしね。」

ツカを撫でてみせる。

「あなたはなんであそこにいたの?」

海美は話しやすいだろう話から始めた。

「実は、あの猿を殺そうとしてて…」

骸骨の男は座って足をゆっくり組みながらこっちを見ないで言った。

「あの猿は、『人間だったモノらしい』」

「人間なの?」

「人間ではない。だからって、モノでもない。」

「どういうこと?」



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第一章 閉幕 第三話

この話から読み始めたかたは、海美とまつりの関係はこんな感じだとお考えください。
また、これを順番で読んでいる人は、海美が想像以上にまつりの面倒を見ているとお考えください。


「話は30年ぐらい前から始まってたらしいが、猿の親ってのが、行きながら地獄道へ落ちたらしいんだ。だから、子どもが人間道ではない。だからと言って、他の道のモノも殺すし、生まれた時にその道の親じゃない。

すなわち、他のモノからすると人間だが、天道や人間道からするとモノであると判定されているんだ。」

「…じゃあ、あれは殺しても人間じゃないのね。」

「そうだ。」

「良かった。」

「うん?」

「私が手をかけたんじゃなくて、まつり…赤鬼が手をかけたから気になってたの。」

「………。」

「「あっ…」」

2人で一緒にしゃべってしまった。

「どうぞ。」

骸骨が遠慮した。

「うっ……あなた、お名前は?」

「コーラと呼ばれている。あなたは?」

「私は、海美」

「海美さんか。」

「あなた、言いかけたことは?」

「っあ…はい。あの…ね。」

右手を顔に持っていった。

歯を掻こうとしたみたいだが、はっと思い、右頬を掻いた。

「いや…あの…どうして、俺が怖くないのかな?と思って…」

「なぜあなたを怖がるの?」

「俺の、左側…気持ち悪いだろ?」

「さっき親分さんに聞いた。気持ち悪くない。あなたは人間よ。」

「……じゃあ、なんで、さっきの病室で俺に触ったんだ?」

コーラがこっちを見る。

「あの時は、まだ俺が人間だか分からなかったろ?」

「あなた、私が戦っているとき話しかけてくれたでしょ?アドバイスを。少なくとも敵じゃないと思った。それと…」

海美はコーラの膝を触る。

ゾワァと鳥肌が広がる感覚がある。

また、布の上からでもわかる手の柔らかいや、皮膚が固まったマメだかタコだかを触る感覚。

「ゴミがついてるように見えたの。」

海美がピピピピと目線を下に落とし、膝上の手をびっくりしたように引っ込めた。

そして、すぐ、コーラの前髪を撫でてやる。

「こういうこと。」

たしかに木片みたいなのが海美の手についていた。

「…そういうことか。」

ちょっとしょんぼりしていた。

「あなたは?」

「うん?」

海美は手を叩いている。

「あなたは、みんなにもこの距離感なのですか?」

「まぁ…そうかも。」

「そうかぁ…」

コーラは、自分だけなんじゃないかと期待したが、そうでもない答えでガッカリした。

ただ、海美はまつりのことを考えていたので、余計に距離が近いのではないかと思う。

 例えば、さっき赤ん坊を寺に預けた後の動きを考えてみれば、海美はまつりの手を引いて移動した。

まぁそれぐらい同性でもあるかもしれないが、川の土手で少し休むことになったときは、木陰にまつりを先に座らせて、水を飲ませてやり、まつりを膝で少し寝かせてやり、起きたら海美は手拭いでまつりの顔を洗ってやるし、髪もとかしてやった。

出発前に荷物もいちいち確認してやるし、座っていたところを絶対振り返って確認した。

親分の宿の交渉も海美がしたし、海美も食べた飯も先にまつりに食べさせた。

まつりがまんじゅうに手を出したのはその後だった。



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第一章 閉幕 第四話

とりあえず、これで第一章を終わります。

このあと、今回の話の大軸が、あることがらの二次創作だということが分かります。
それまであと少々お待ちください。


そんな感じなので、「他の人も同じ距離感なのか?」という問いには「YES」だった訳である。

コーラは明らかにしょんぼりして空を見上げた。

「もう一つ聞いて良い?」

「い、いいよ。うん?」

海美はぐいっとコーラを引き寄せると、頭を膝の上に置いた。

「えっ?」

「…たぶん、まつりにもこうするから。」

「……そう。で?」

コーラが上を見る。

頭を海美が触っている。

髪の毛があろうが、骸骨だろうが関係なしに。

「あの猿なんだけど、あの猿の家族は怒らないかしら?」

「それは大丈夫だと思う。あの家族ってのは自分達のテリトリーがあって、それを守るのが精一杯で敵討ちなんて考えても動けないと思う。

ただ、自分のテリトリー拡大を仕掛ける可能性はあるけどね。」

「じゃあ、攻めこられても逃げちゃえばいいのね。」

「まぁ、そうだ。俺は…俺は、隣のファミリーを殺しに行こうと思う。君は?」

コーラは、上半身を海美に預けていたが、下半身もベンチに乗せて、仰向けになった。

「私は、お金を貰いたくないから戦っただけで、もう手を引くわ。」

「……そっか。」

そう言うと、コーラは海美の手を頭から外させると、地面側に寝返りを打ちつつ、華麗に立ち上がった。

フーっと息を吹く。

「よし。俺も決めた。これから、ファミリー第三位を狙う。」

「………。」

「あっ、ちなみに猿は三十位な。」

「…いきなりそんなに強くして大丈夫なの?」

コーラは左の骸骨を触る。

「なーに。今の俺はなんにだって負ける気はしないね。…」

(別にこのまま死んじゃっても後悔はないし。)と呟いた。

「……あなたは無理しようとしてる。」

「ギクっ!?…」

「だけど、あなたは人として死にたいのね。」

「!…そうだ。人として、俺は死にたいと思う。あなたが人にしてくれた。この顔じゃ、人間にはなれないと思っていたが、海美さんは人間だと言ってくれた。これは絶対的な俺の力だ。」

「うん。」

「…俺は事実上、最強の一位、『長男』を狙う。」

「うん。」

海美も立ち上がる。

「私、もう行ってみる。」

「そうか。」

「ありがとう。いろいろ話だったりこんなんで触らせてくれて。」

「いやぁ…」

すすすすっと右手が歯にのびる。

「また、手!」

「あぁ、そうだ!」

慌てて手を引っ込める。

「じゃあ、海美さん。またどこかで。」

「さようなら。コーラさん。また色々話をしましょう。」

コーラは、早足に境内から出て、来た小道を走って行ってしまった。

海美もゆっくり親分の家に戻っていった。

シーンとした境内。

「なぁ、なあ。聞いたか?」

「聞いた聞いた。聞いたどこじゃなく見た。」

石で出来ている狛犬が喋り始めた。

ところどころ治されないものだから欠けている。

「あの骸骨、人としてとか言ってたけど、本当は青髪が好きだろ。」

「まったく。で、青髪も分かっているんだか分かっていないんだか分からないのがほんとおかしくって笑いそうになったわ。」

「だけど、あの骸骨可哀想だな。」

「あぁ、あの青髪、ある術がかかってる。強力な術だ。ちなみに性別はどっちに見えた?」

「私は女。あなたはさっきも言ったけど、男に見えたの?」

「そうだ。なんで、男同士膝枕なんかしてるんだって思った。ちなみに、何道に見えた?」

「もちろん、人間と畜舎よ。畜生に甘えるなんて珍しい人間だと思ったわ。」

「まったくまったく。ちなみに、立ってる木や草たちはなんに見えた?」

サワサワと木が枝を震わせて答える。

「なに?自分達と同じ木に見えたと言うのか。それはすごい術だ。アッハハハ。あれでは、あの骸骨も女の子ではなく、同性の人間に見えていたのであろうな。ただ、あんなに強い術がかかっているのも珍しい。あの杖のせいではなさそうだしな。」

「あの女の子、まだまだ隠してることがある感じだったね。」

「…動けないのがなんとっも歯痒いな。」

そんな話を狛犬と木がしていた。

人が通った後、風が木を震わせたら、狛犬とその人を噂しているのかもしれない。

狛犬が言った。

「あれ!?骸骨が戻ってきた。」

みんな動かなくなった。

「いないか…」

コーラは走って戻ってきたが、息を整える必要もない感じで辺りを見渡した。

「…海美さん、金を『貰わないために』戦ったってどういう意味だったんだ?」

コーラを吹き飛ばすほど強い突風が狛犬と木を揺らした。



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第二章第一部 頼まれものを持っていく

お久しぶりです。
受ける試験が終わりましたので、投稿を再開いたします。
また受ける試験が見つかればまた受けますが、またよろしくお願いします。


天人が猿の領地に現れ、六道を自由にしたのはその日の午後一番であった。

即日、親分が選挙管理委員長の選挙が行われることになった。

親分の手前完璧な選挙になると予想された。

海美とまつりは、天人が到着する直前に出発した。

新緑の美しい出発であった。

「そういえば、あのリング、土俵だったけど、私乗って大丈夫だったのかしら?」

急に海美がまつりに言った。

「どういうこと?」

まつりは貰ったお面をつけている。

「いや、お父さんから聞いたことがあるんだけど、あの四角くて、藁で円形に囲った土のフィールドを『土俵』って言って、そこで裸の男の人が『相撲』っていう力比べをしてたらしいんだけど、土俵は女の人は乗っちゃいけなかったんだって。」

「なんで?」

「もともと、相撲は神事として、男の人が行っていたかららしいし、大昔から女の人が乗らなかったからそれをなあなあで守ってきちゃったかららしいよ。」

「………。」

「もしかしたら、モノ達の方が差別なんか考えてない人間より優れた生き物かもね。」

「………。」

まつりはなにも答えなかった。

ただただギュッと海美の服の裾を掴むだけだった。

 

『頼まれ物を持っていく』

 

2人は、下り坂の左カーブを曲がる。

正面に橋がかかり、下に沢が流れている。

ただ、その橋になにかいる。

まつりが海美の真後ろに隠れる。

海美が杖を右手に持ち直すと、勢いよく坂を降り始めた。

坂を降りながらよく見ると、橋の上のものは動いている。

「なんだ?」

自分達と同じ方向に動いている。

その何かは橋の左側の欄干に捕まりながら動いている。

2人は橋の右側からそのものを追い抜こうとしたら、海美がなにかに気づいた。

「人間だ。」

それは10人ぐらいの人間の集団だった。

前の人の肩に捕まり、もう片方の手に杖を持っている。

笠を被り、大荷物を背負っている。

いまは欄干を掴んでいる人もいる。

みんな布切れを張り合わせた汚れたような身なりをしている。

そして、みんな背中に三味線を背負っている。

「これは、瞽女さんだわ。」

「瞽女さん?」

「この女の人たちは目がほとんど見えてないの。だけど、あの三味線を演奏して旅している人たちよ。」

「目が見えないのにどうやって旅しているの?」

「見て。」

海美はその一団を追い越した。

今度は橋の先にある急坂を上がって瞽女の集団を見下ろせるところから杖を突き出し説明を始めた。

「あの先頭の人はちょっと見えている「メアキメクラ」って言うの。その人が先導してくれているの。また、目が見えている人を雇ったり、瞽女さんが産んだ子供が引っ張っていく場合もあるみたいよ。」

「この人たちはどこに行くんだろう?」

「おそらく、私たちと同じ、この先のお寺でしょうね。」

「おーい!」

急に上から声が聞こえた。

振り返り、坂の上を見る。

右側に馬頭観音の石碑とお地蔵様が見える。

そこより左、道の真ん中に大八車を引っ張っているシルエットが見える。

「お嬢さんたち、どうなさった?」

太陽と重なり、よく顔が見えない。

「あそこに瞽女さんがいるので見てたの。」

海美はその大八車の男に近づく。

「それは大変だろう。俺らで助けてやろう。」

そう言うと、男は大八車を前にして上り坂を降り始めた。

それと驚いたのが、大八車になにか乗っていた。

「お嬢さんたち、それを見といてくれ。」

男が振り向いて言った。

「それってこの石碑?」

まつりが馬頭観音の石碑とお地蔵様を指差す。

「違う。後ろの、道の真ん中にある金の大仏。」

「大仏?」

2人は後ろを振り向く。

なんとそこには金ピカの螺髪(大仏様のつぶつぶの髪型)の大きな顔があった。



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第二章第二部 大八車の子

前回は、水曜どうでしょうが、ヨーロッパに行っていましたが、いまは富山に行って安田顕さんが蜃気楼の勉強をしています。


「な…なんだこれ?」

「俺が運んでいる途中だったんだけど、瞽女の集団が気になってな。助ける途中だったんだ。」

2人は大仏様の頭に釘付けになっている。

「へぇ。あなた優しいのね。」

2人は振り向く。

なんと、男は瞽女全員を乗せて坂の八分目を登っていた。

「あの短時間で…」

「文字数や時間をショートカットさせてもらった。」と男は言った。

とにかく、瞽女さんたちを乗せてその大八車の男は上がってきた。

なんと、男は大八車に大仏の頭も乗せた。

大八車の梃子の原理で器用に乗せると、頭の周りに瞽女さんたちを乗せて、お寺に向かって歩き始めた。

こんな大荷物で動くのか?とまつりは思ったが、辺りにギイィと音を立てて大八車が動き出したときは「おぉ!」とため息が出た。

「…大変じゃないの?」

まつりは男に話しかける。

「俺は大丈夫。お二人を歩かせて申し訳ない。」

「いいよ。そんなに疲れてないし。」

「と、言ってももうあの森の奥が寺だし、この住宅地はもう寺の敷地内だよ。」

「ここが?」

まつりは辺りを見渡す。

確かに今歩いているまっすぐな道。後ろの奥の方、さっき合流した交差点よりもっと奥まで真っ直ぐに続いている。

その奥の方の交差点らしいところに赤い建物がある。

「あれは?」

「あれは、お稲荷さんよ。」

男ではなく、男のすぐ後ろの荷台部分にちょこんと腰掛けている女の子がしゃべる。

「あなたは…」

「アヤ。鬼さんは?」

「…まつり。あなたは目が見えるの?」

「アヤは俺と旅しているから見えてるよ。」

男が答える。

アヤがしゃべる。

「あの赤いお稲荷さんよりこっちにはモノは入ってこれないんだよ。狐さんが守っているから。」

「なるほどねぇ。」

「まつりちゃんは人間だね?」

「ギクっ…なんで分かったの?」

「お稲荷さんが怒ってないから。」

「…そうだった。」

ちなみに、土俵の話を海美がしているとき、まつりが黙って海美の袖を引っ張ったのは、話が難しいのもあったが、なにかに見られている気がしたからだ。

「お姉ちゃんも今日一緒だね。」

「うん。」

「悪いね。相手してもらって。」

男の人がしゃべる。

「いいえ…」

まつりは急に海美に掴まりたくなったが、近くにいなかった。

「あれ?」

立ち止まり、大八車をやり過ごすと、後ろに回り込む。

海美か誰かと喋ってる。

一番後ろの真ん中に座っている女の人だ。

海美より歳が上みたいだ。

この女の人だけ茶色いマントみたいなのを着て、杖一本を足に絡めて、三味線の弦をいじっている。

海美はその目の前で大八車を押しながらなにかしゃべっている。

まつりは走って海美の腕に抱きつく。

「危な…どうしたの?」

「ううん…なんでもない。」

「そう…」

「どうしたの?」

女の人がしゃべる。

「いいえ、一緒に旅をしてる子が抱きついただけ。」

「そう。」

「で、さっきの続きなんだけど、」

「いや…後にしよう。この大八車の男もなにかありそうだ。」

「そう。」

謎の会話があったあと、

「ところで、その腕に抱きついてきた子はどんな子なの?」

という話になってしまった。



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第二章第三部 庫裡

そういえば、鬼滅の刃を大急ぎで見まして、善逸と伊之助が仲間になりました。
しかし、事前に那田蜘蛛山と蝶屋敷は見ておいたので今度は無限列車になります。
もっと詳しく言えば、四人が見た夢まで見てます。


大八車は住宅地を抜けると、林の中に入った。

西の空に太陽が沈みかけているもんだから西日が厳しかった。

林の中にはいると木陰になり気分が良かった。

しかし、50mもしない内に林が終わり、左手に墓場、右手に石で出来た公園みたいなのがあった。

そこも真っ直ぐ進むと寺の正面に着いた。

寺の境内に入ると、正面に瓦が敷き詰められた巨大な本堂と、右手にこれまた大きな庫裡がドカンとあった。

庫裡に声をかけるとお坊さんが現れた。

「あのう、今日公演やる予定の瞽女衆でごぜえますが…」

「あぁ、ちゃんととってありますよ。10名様でしたね。」

「えぇ。ただ、今日急遽泊まりたいという方が2名いるのですが…」

「なんです!?」

お坊さんは頭の数をパパッと見た。

「ありゃ…これは困った…実は、近くで天人が降臨なさり、その土地で一旗あげようとするもの、天人を見ようとするもの、が続々と泊まっており、元々予約であった瞽女様10名の部屋と、運送のスピカ殿の2名の部屋しか残っておりませんで…」

「私たちは床下でも物置でも」

「いやいや、ここは寺です。人間にそのようなことをさせて、お疲れさせる分にまいりません…しかし…相部屋なら…」

まつりが素早く海美の袖をひっぱり、顔を近づけさせて聞く。

「相部屋って他の人と?」

「うん。」

「………。」

急に震え出した。

「他の人が怖いの?」

「うん。」

「やはり、お坊さん…」

海美は一歩前に出た時、杖でドン!と音を立ててしまった。

お坊さんはじっと杖を見た。

「すみません。」

海美は自分が出した音に驚いた。

そのタイミングでお坊さんに高圧的と見られる態度はまずい…

「…その杖。もしかして、猿を追っ払ったという。」

「「えっ?」」

大八車の男と、目の見えない海美と話していた女の人が声をあげた。

「本当はわたしではありません…こちらの赤鬼です。」

「………もし、よろしければわしの部屋はどうかな?」

「良いんですか?」

「良いんじゃが……」

「では、お坊さんが…」

「わしは大丈夫。ただ、お二人にご迷惑かと…」

「………?」

なんか話が矛盾してるというか、ぐるぐる回っているというような、ここは一回仕切り直したい。

「なにか不安なことがあると思いますが…」

「うーむ…実はそうなんです。」

「それでしたら、他の方々をお部屋に通されてからでも…」

「そうですか。では、」

お坊さんは、瞽女衆を部屋に通した。

段差が無くしてある部屋だった。

アヤとスピカの部屋は本当に小さい部屋だった。

真四角な四畳半ではなく、長方形である四畳の部屋だった。

廊下かと思った。

で、問題のお坊さんの部屋だが、別に普通の部屋だった。

てっきりブッ散らかった畳も腐っているような部屋を想像していた。



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第二章第四部 僧侶のお化け

大泉洋さんの入試必勝コーナーはバカにせずきちんと見るとだいたい勉強になる。
特に、砂浜海岸と、火山。歴史は縄文と弥生。(ぶっちゃけ縄文と弥生の勉強はこれだけでも大丈夫かもしれない。)


そんなことはない。

綺麗な部屋だった。

板間で、部屋の中央に立派な囲炉裏があり、上を見ると、鍼が黒々としていた。

「お〜!」

まつりは上を見上げて溜め息をつき、ぼぉっと見上げている。

海美も見渡す。

「…とても綺麗な部屋だと思いますが。」

お坊さんに話しかける。

「そうなんですが…」

「今は私しかいません。どうか聞かせてくれませんか?」

「…はい。実は、お化けが出るのです。」

「お化け?」

「はい。」

「どんなお化けですか?」

「顔を隠せるほど大きなキノコの笠みたいな網代笠を被り、身体は白細く、ただ、足が巨大です。」

「それなら…「ただ、」はい。」

「…1人じゃないんです。」

「と言いますと?」

「…夜更けから朝まで行列になって現れるのです。」

「そんなに。」

「我々は、持ち込んでくださる食糧とわずかに山菜を取るのみで、畜生道に迷惑はかけていません。また、餓鬼道に施し、地獄道には法要を行なっています。なぜそのような化け物が出るのか…」

「他に…なにか対策は?」

「そいつら、『シオトミソオッカネ』と言っています。おそらく、オッカネはこちらの地方の意味で恐ろしい、怖いを意味しますから、塩と味噌が怖いのだろうと思い、全ての部屋には塩と味噌を四隅に置いてあります。おかげで、化け物が出たという話は泊まっている人から聞いたことはありません。」

「なるほど。」

まつりはスルスルっと梁に登った。

彼女は駅の時計台の裏に潜み住んでいたので、木登りは生きるための呼吸に等しい。

「ただ、この部屋は何をしてもダメです。なぜか塩と味噌を怖がりません。塩と味噌を備えてもお経を唱えても全然やめません。」

「なにかしてくるのですか?」

「なにもしません。ただ、シオトミソオッカネと言いつつ、壁を突き抜けてどこかへ言ってしまうのです。」

「そうですか。」

お坊さんは天井を指差す。

「しかし、なにかあると困ります。お二人には梁の上で寝ていただきます。」

なるほど。たしかに布団みたいなのが敷いてある。しかも落ちないように縄が何本も天井と布団を固定してある。

「そんなことなさらずとも…ではお坊さんはいつも梁の上で?」

「はい。ですが今日は下で。」

お坊さんは天井に通じるハシゴをおろす。

いつもは上げて隠してあるし、細いハシゴだ。化け物が上がってきても踏み外すのを狙っているのか。

「さぁ、こちらから上へ。」

「…お坊さん。私に考えがありますので、私が下で寝ます。」

「えっ!?ですが…」

「なにもしてこないのでしょ?」

「まぁ…はい。」

「なら。」

「いえ、それは…」

「もしかしたらあの化物の正体を暴けるかもしれないんです。」

「本当ですか?」

「うまくいけばですが…」

「………。」

「なら、作戦を伝えます。とても長い糸と針を一本お願いします。金属の、服を縫い合わせるはりです。」

「長い糸と針を…」

「その糸はその化物の住処まで続くほど長く。」

「なるほど!化物に糸をくっつけてそのまま家まで追いかけようということですね。…なら、私が……」

「それは危ないです。」

「それはあなたとて同じことです。」

「…私たちは猿を倒したのです。しかもあなたはここで人間たちを泊めてやるという重要な仕事があります。あなたは危険を犯すわけにいかないでしょう。」

「ですが、お客様に危険な目にあわせるわけには…」

「…なら。」

海美は杖を右手で構え直すと、懐からジャラジャラと小銭を鳴らした。

そして数枚をバッ!とお坊さんの頭の上に投げた。

「わっ!」

お坊さんは小銭を見つつも受け身を取る。

すると、お坊さんの視界に海美の杖がニュウと伸びるとお坊さんの頭の上の小銭をスパスパスパンと斬った。

杖の先端から刃が出て、小銭を切ったのだ。

お坊さんの周りに真っ二つになった小銭がバラバラと落ちた。

「おぉ…」

「いかがですか?」

「…分かった。」

まつりは海美の隣に来た。

足元や手の周りが煤だらけになっていた。

「ちゃんと洗わないとね。」

海美はマントを脱がそうとまつりの顔を覆うマントをグイッと下げた。

「さっきのお坊さんの周り、綺麗だった。」

「そうね。今度はもっと美しいものを見に行きましょう。」

ワイワイとどっかで声がする。

「すみません。」

スピカの声がした。

「瞽女衆が仕事に行くと申しております。」

「そうですか。ご案内します。」

お坊さんが出て行く。

「綺麗なものを見に行きましょう。」

海美はまつりの汚くなったマントをもう一度着させると2人で外に出た。



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第二章第五部 瞽女歌

はっきり、瞽女歌ではないのですが、イメージしやすいのが、演劇だろうと思い、瞽女の仕事を視覚的にもわかりやすくするため、このような演劇も同時に行う集団にいたしました。
なので、彼女らは本当の瞽女ではありませんが、雰囲気だけでも瞽女を出したかったのです。


瞽女の三味線の響きを蚕が聞くと負けじと良い糸を吐く。

養蚕が盛んな地域で盛んに言われた伝承である。

瞽女が来る家というのは決まってきて、そこの家の蚕はたくさん、高値で取引される繭をつくる。

今はというかこの世界では、蚕を応援するというより、人間を応援するすなわち、娯楽になっている。

迎える家では、周辺の人間たちが集まっている。

この迎える家を「瞽女宿」と言い、瞽女がくる季節前には瞽女用の布団を干して準備するという光景もあったらしいが、ここは寺に泊まるので、段差をなくすスロープをつけるとか、人がたくさん上がれるようにふすまや障子を外し、ゴザを準備するといったことをしている。

瞽女宿は客間が舞台で、奥の部屋が支度室になる。

三味線を持ち、女の人が手を引かれて出てくる。

さっきとは違い、綺麗な着物、整えられた髪の毛、軽くお化粧をしている。

瞽女の歌は不思議だ。

祝い歌という、めでたいことを調律に乗せて歌う歌

他のジャンルの歌をレパートリーとして取り入れて自分達のものにしたもの。

そして、口説きという長唄を披露する。

その多彩な唄の量

そして、三味線の荒々しい響き、その場の空気に合わせた即効性が求められる高度で奥深い芸能だと思った。

ただ、今回はそんな瞽女とはちょっと違うっぽい。

なにせ、その世界はモノがいるのだから。

 

「あッぱれ、大将軍や。此人一人(いちにん)うち奉(たてま)ッたりとも、まくべきいくさに勝つべきやうもなし。又うち奉らずとも、勝つべきいくさにまくる事もよもあらじ。小二郎がうす手(で)負うたるをだに、直実は心苦しうこそ思ふに、此殿(このとの)の父、うたれぬと聞いて、いか計(ばかり)かなげき給はんずらん。あはれたすけ奉らばや」と思ひて、うしろをきッと見ければ、土肥(とひ)、梶原(かじはら)五十騎ばかりでつづいたり。」

すかさず、

「ああ、立派な大将軍だ。この人一人をお討ち申したとしても、負けるはずの戦に勝つこともなかろう。又お討ち申さなくとも、勝つはずの戦に負ける事もなかろう。小次郎が軽く傷を負ったのでさえ、直実は心苦しく思ったのに、この殿の父上は、討たれたと聞いて、どれほどお歎きになるだろう。ああ、お助け申さなくては」と思って、後ろをさっと見たところ、土肥、梶原が五十騎ばかりで続いて来ていた。」(訳出典: https://roudokus.com/Heike/HK141.html)

 

と、ハリセンのようなものを持った後ろの1人がしゃべる。

 

まつりとアヤはその寺周辺の子どもたちと一緒に前に乗り出してこのあとどうなるのか見ている。

なぜ見ているのかと言うと、劇も一緒にやっているし、これは三味線だけでなく笛や太鼓、鐘の音もたてて、臨場感たっぷり演じられている。

一番前が子どもたちが寝っ転がっている。次に椅子、後ろに立ち席がある。

海美は、最初立っていたが敦盛の最後は大体分かるので、団子を持って縁側に座っていた。

ちなみに、お寺のお坊さんが作ってくれた雑炊が振る舞われ、食べ放題になっているほか、寺内に住んでいる人たちがつくった甘いものやせんべい、団子も食べ放題となっている。

年に一回のお祭りのようだ。

お坊さんの雑炊も、自然の恵みに感謝した野菜の入った雑炊になっている。

庭には大きなコウロギと小さなカマキリがいた。

カマキリは熊谷直実のように鎌を扇のように振っている。

コウロギは何を思ったのかそのカマキリに近づいている。

スピカは海美に気がつくと、海美の隣に座る。

 



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第二章第六章 敦盛の最期

みなさん、お分かりと思いますが、鎌倉殿の13人とアニメ平家物語から着想を得て、源平の戦いから引用しました。
ちなみに、この時期なので畠山重忠の像のある重忠公史跡公園で書いてます。


「どうしたんだい?」

「ううん。こっから先はどうなるか分かるし、かわいそうで見てられない。」

「綺麗なものを見せるんじゃなかったのか?」

「…まつりはいまとても楽しんでるから。」

「そっか。」

「そういえば、あなたとアヤちゃんは家族なの?」

「いや。俺はアヤを預かってるだけだ。家族は別にある。俺とはたまたま一緒にいるだけだ。」

「そう。」

「あなたは?」

「まつりは私を頼りにしてるわ。どこへでもついてくると思う。だからって私も彼女の面倒をみてるのは苦じゃないし。」

「時代を恨んでもしょうがないが、どうしてあの子たちはあんな苦労をしないといけないんだ。」

「………。」

海美はカマキリを見る。

コウロギがカマキリに捕まっている。

コウロギはコロコロと鳴いている。

「盛者必衰。人間が負けたからよ。」

「この世界をいじめすぎた代償か。」

「振り返っても仕方ないわ。彼女たちの幸せを考えるしかないわ。」

「…君だって若いだろうに。」

「…私はまだ未来を諦めてないわ。」

「そのいきだ。」

コウロギはもう鳴いていない。

死んだのか、羽をもがれたのか。

ドン!

ドン!と海美スピカになにか突っ込んできた。

2人が振り向くと、海美にまつり、スピカにアヤが体当たりしてきていた。

「敦盛が直実に負けたのね。」

「…うん。」

海美はゆっくり、まつりを撫でる。

「だけど、直実はこれを悔やむんだ。彼は武士を辞めるからな。」

スピカはアヤに言い聞かせる。

どうも泣いているらしい。

「敦盛は、なんで戻ったんだろう?」

まつりが聞く。

「…もしかしたら敦盛は戻りたくなかったかもしれないわ。下手したら今の段階でその武将に殺されることが分かってて戻ったのかも。」

「えっ?」

「仮に、その熊谷直実に勝ったとしても追ってきた直実の仲間に殺されてたかもしれない。」

「じゃあなんで?」

「彼が、平敦盛だったからよ。平家一門だったのよ。」

「…平家だと死ぬと分かってて戻らないといけなかったの?」

「…そう。」

「じゃあ、敦盛は…敦盛は結局死んじゃう…」

「そう。だけど、そうすることによって、敦盛は後の世に残ったわ。」

「………。」

まつりは海美に抱きついたしゃべらなくなった。

スピカも動けなくなっている。

さっきまでカマキリのいたところを見る。

コウロギの残骸しかない。

カマキリはどっかに行ってしまったらしい。

ただ、いままでいなかった蛍がたくさん飛び出していた。

秋の虫も、コロコロ、リンリンと鳴いている。

「スピカ。世界は残酷ね。」

「だけど、美しい。どうして人間はこんなにも世界に嫌われてしまったんだろう。」

「……私はまた世界が戻ることを信じてるわ。私はまだなにもやってないんだから。」

「そうか。」

「…ところで、スピカはなんでこの寺にいるの?」

「それは…帰りながら話すか?」

「そうね。」



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第二章第七部 イチの杖

この回は完全に座頭市です。
ちなみに、最近は剣客商売と、里見浩太朗さんの水戸黄門を見てます。


スピカはアヤを抱っこして、海美はまつりを抱えて歩きだした。

秋の虫がやかましい。

月が雲に乗っかっている。

2人は寺に向かって歩く。

「で、スピカはどうしてここにきたの?」

「あぁ。実は、この寺の先の山の上に関所があるだろう。」

「うん。たしかモノが人間から物品を奪うために復活させたんだよね。」

「しかし、そこに変な家族が住み始めたらしい。」

「…家族。」

「なんでも、モノを追い出して、人間からだけでなく、その周辺の村まで支配し始めたらしい。モノはそんなことしてなかった。」

「…村ではなくそこに住んでいるの?」

「防衛に優れているからな。村に住む気はないらしい。」

「…そう。」

「それで、その家族を殺しに行くんだ。」

「なんで?あなたに関係ないでしょ?」

「なんでとは?…そのあたりの生き物が困っているんじゃ助けないと。」

「あなたは優しいのね。」

「…それが人間だろう。困ってる人やことがあれば助けないと。」

「…そうね。…2人で?」

「そのつもりだが、もしかしたら寺にアヤは置いていこうかと。」

「…死ぬ気なの?」

「死ぬことはないだろうけど、その家族は容赦なくアヤに手を出すだろうからな。」

「…私も手伝うよ。」

「なに?」

「猿は、家族の三十位の強さだったらしい。あれが三人でも面倒なのに、下手したら猿より強い可能性もある。」

「だけど、良いんかい?」

「私も人間だから。」

「…そうか。」

「そのさくせん。」

後ろから声がした。

2人は振り向く。

月が隠れててよく見えない。

「誰?」

「わたしよ。」

月が雲から顔を出した。

「ここよ。」

「「あ!あなたは。」」

さっき、平家物語を歌っていた1人だけマントを着ていた瞽女さんだ。

三味線を左手で担ぎ、右手に杖をついている。

「あなた…」

「へへへ。私も連れてってください。」

「…そう言っても、遊びに行くんじゃないし。」

「そんじゃ…」

そういうと、地面の石を右手で拾い、上に投げた。

ガサガサ!と音がする。木が上にあるらしい。

どうもあの参道の林まで歩いてきていたらしい。

枝がパラパラと落ちてくる。

「ふぐぅ」

杖を左脇で抱える。

そして杖を引っ張るとキラリと光った。

「仕込み杖…」

そう声に海美が出した時、

月の光をわずかに浴びる仕込み杖が落ちてくる枝を払う。

刀の刃を逆手持ちで戦うというより、新体操やフィギュアスケートのような華麗な動きだった。

「…音を聞いたのか。」

瞽女さんは前屈みになりながら杖を閉まった。

「どうです?」

「…他の瞽女さんが承知しないだろう。」

「いいえ。逆に私たちの道を邪魔するものならどんなものにも容赦しません。私たちは帰りたいところがあるんです。」

「でも、」

「どうかお願いします。」

「…ちなみにこの声は海美と言うんだけど、あなたは?」

「わたしは、イチともうします。」

「イチさん。さっきも話したけど、いま、モノじゃない凶悪ななんだか分からないものがいるの。その訳の分からないものには関わらないほうが良いわ。なんだか分かってきてから触れたんでも…」

「うみさん。わたしたちはね。見えないからとても損をしているとおもうの。」

イチは海美じゃなくスピカを見る。

「そんな中でも、優しくしてくれる人がいるからこういうふうに旅がつづけられるの。」

いや、スピカを見ているんじゃない。耳を海美の正面にむけているんだ。

「わたしたちはそんな期待に応えたいし、その土地でいきるひとを応援したい。そのなんだかわからないもので、わたしたちを歓迎してくれるひとたちが困っているなら、わたしたちはいって励ます義務があるし、恩返ししたいの。」

「イチ…」

「おねがい。わたしにも手伝わせて。というか、関所が封鎖されてるなら、結局私たちは戦って通る羽目になったんだけど…」

「…そう。」

「…海美さん。イチさん。ここまで戦力が増えたんじゃなんとかなるんじゃないですか?今日は戻ってなにか考えてみますよ。」

「戻って…あぁ!そうだ!」

「どうしました?」

「今日の夜、お坊さんとやることがあるんだった。早く戻らないと!」

「じゃあ、各々、明日の朝…」

「あっ!…朝はだめ。」

「なぜ?」

「朝からやることがあるの。」

「そうですか…じゃあ、イチさんと瞽女衆のみなさんで作戦を考えます。」

「すみません。」

「いえいえ。」

「ところで、イチさん。他の方は?」

「もう先に戻っているわ。若い子の指導だって。」

「そう。」

「そういえば、さっきから海美さん。杖で地面を突いたりはなしたりしてますが…」

「すみません。もうまつりが限界みたいで…」

「そうですか。じゃあ早く戻りましょう。

まつりを海美はイチの力も借りて寺まで持ってきた。

イチは目が見えないのに手際良く海美を手伝った。

そして、各々自分の部屋に引き上げたとき、寺の奥の山からドシン!ドシン!と音が迫ってきていた。



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第二章第八部 化け物のすそ

最近見た映画だと、浅見光彦シリーズの映画を見ました。
石坂浩二さん、加藤武さんなどなど、金田一耕助シリーズを彷彿させる俳優だけでなく、役者の演技、カメラワーク、OPまで、金田一耕助シリーズに似てるなあと思ったら、監督が市川崑監督で、
角川春樹さんが、「金田一を超える作品をつくろう!」と監督に話を持って行って実現した作品らしいです。


「いいですか、海美さん。」

お坊さんが梁の上から覗く。

「大丈夫ですよ。」

海美は布団をかかり、上を向いてお坊さんと話す。

隣にはまつりが寝ている。

敷布団と掛け布団を重ねて2人で寝ている。

もちろん杖を抱き枕代わりに、まつりは服装を乱さずそのままにしてある。

「なにかあれば私も塩と味噌で…」

「ありがとうございますお坊さん。じゃあおやすみなさい。」

「ありがとうございます。おやすみなさいませ。」

フッと火が消えて真っ暗になる。

いや、月明かりが障子にあたりそんなに暗くならない。

 

しばらく、する間もなく、

ドシン!ドシン!

という音が聞こえてきた。

「来た…」

お坊さんがしゃべる。

「よし!」

海美は頭まで布団をかぶった。

まつりにもきちんと布団をかけた。

「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。」

お坊さんがお経を唱えてくれる。

ドシン!ドシン!

という音と共に壁をすり抜け、なにか出てきた。

お坊さんに言われた通り、笠を被り、白い服を着ている。

そしてあのでかい足。

「これか…」

海美はお坊さんからいただいた道具を取り出す。

凧揚げに使う糸どころじゃなく長い糸と、先端に針がついている。

そしてその針を杖の上にある赤い球にくっつける。

「これで準備完了。」

その時、女の人の声でなにか聞こえる。

「………ぅカネ」

しゃべるモノだな。

「うーん…」まつりが唸った。

「いまはやめて!」

まつりの口を覆う。

「うーん!?」

声が発せず、まつりが唸る。

「しー!…いまお化けが来てるの。」

海美は素早くまつりに耳打ちする。

「ウワゥ!」

まつりはうまくしゃべれないが、顔を上下させる。

「シオトミソオッカネ」

明らかに近づいてきた。

布団の隙間から海美が見る。

「よし。」

海美は自分の杖を構える。

「シオトミソオッカネ。」

明らかにこいつらから声が聞こえた。

「今だ。」

海美は布団から杖を突き出す。しゃべってる化け物に向かって針のついた杖が伸びる。

服の裾にパシっと針が刺さり、裾が赤くなる。

杖が猫の面に使ったくっつく能力だ。

海美は素早く布団の中に杖を回収する。

針についた糸がシュルシュルと出ていく。

壁を通り抜け、寺の外に出たようだ。

シュルシュルシュルシュルと糸が出て行く。

「海美…」

まつりが手を払い退けてしゃべる。

「もう大丈夫。なに?」

「……びっくりしただけ。」

「………。」

海美はまつりの頭を撫でた。

「明日、この糸を手繰らないといけないからもう寝て。」

「うん。」

なにげに、この足音は怖さがなければ心地よい。

まつりはすぐ寝てしまった。

「……。そう…」

なんかまつりがモゾモゾしゃべった。

なにか夢でも見ているようだった。

ちなみに、お坊さんは一生懸命お経を唱えてくれている。

あたりが明るくなってきたかな?

と思ったら、化け物が来なくなり、足が遠ざかっていった。

遠ざかると、糸も動かなくなった。

「終わった…」

海美も力尽きて寝た。



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第二章第九部 化物の正体その一

安田さん、惨敗。
ただ、水曜どうでしょうの最新作が発表されたのは嬉しい。
今度はなにをつくるのか。


「海美!」

「海美さん。」

布団がバサっと剥がされる。

「はっ!」

まつりとお坊さんがいる。

「もう8時をまわったよ。」

「ごめん…朝方まで起きてたから…」

「でしたら、もう少しお休みしたら。」

「いいえ。逆に行ってきてから休めば…そういえば、お坊さん。塩と味噌は?」

「準備してあります。」

唐草模様の風呂敷にふたつの壺が置いてある。

「ありがとうございます。」

そう言うと海美は糸車を持って起き上がり、唐草模様の風呂敷に塩と味噌を包み、まつりの肩に背負わせた。

2人は泥棒みたいな格好で出発した。

足元に糸が落ちているのでそれを糸車にたぐっていく。

海美もまつりもいざとなれば、塩と味噌をぶつければ勝機はあると思っている。

ちなみに、お坊さんが玄担ぎのため、2人はお坊さんから借りた鉢巻を巌流島の宮本武蔵よろしく、結び目が前の「向こう縛り」をしている。

2人は寺の裏の古い墓場、城跡を抜けて、誰も来たことがないような林の方に歩いて行った。

歩き出して2時間ぐらいたったところで、ある切り株があった。

ただの切り株ではない。

人が三、四人手を繋がないと一周出来ないような大きな切り株だった。

その切り株を回り込むように糸は繋がっていた。

「おぉ!」

まつりは思わずつぶやいた。

切り株の裏にはなんと、しめじが生えていた。

一本、二本、一株というレベルではない。

もう切り株の裏が山の斜面になっているのだが、その面全体であった。

切り株の裏で見えなかったのだが、2人の目が届く限り、全体的にしめじが、生えているのだ。

そして、そのなかの一本に、糸のついた針が刺さっていた。

「海美…」

「…これが、化物の正体。だけど、なんで…」

海美とまつりは、針の刺さったしめじ一株を持ってお寺に戻った。

本堂に泊まった客全員が集まり、お坊さんが紙の上に置かれた針の刺さったしめじを見た。

海美とまつりは見てきたことを説明した。

「お坊さん。なぜしめじは塩を味噌が怖かったのでしょうか?」

「うーん…」

宿泊した人たちの近くにはもう火鉢が出してあった。

お坊さんはポン!と手を叩いた。

「そうか。分かったぞ。」

お坊さんは針の刺さったしめじを手に持つと、手拭いで針を巻いた。

そして火鉢でしめじを炙り始めた。

「しめじは、わしらに謎かけをしていたんだ。」

お坊さんは塩をちょっとしめじにかけて、味噌をつける。

「『塩と味噌』で食べるものそれは、せんぼんしめじじゃ。」

そういうと、しめじをパクッと食べました。

「うっ!」

目をガッ!と見開き、上を見上げた。

「「お坊さん!」」



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第二章第九部 化物の正体そのニ

新作で言えば、ガンダム の最新作の特番が放送されました。
みんなが驚いていたのは、ガンダム seedは新しくはなく、20年前の作品というところ…


スピカやまつりがお坊さんになにかあったのかと、座っていた体勢から立ちあがろうとしました。

しかし、

「う…うまい。」

お坊さんはゆっくり残りのしめじを見ました。

「これは…なんとも美味い。…みなさんも。」

そういうと、宿泊客みんながしめじを炙り、塩をかけ、味噌をつけて食べ始めた。

「うまい!うまい!」

「まるで涙が出るようだ。」

みんなが口々に感想を述べながら食べた。

何人もいるのに、ちょっとしか持って来なかったのですぐなくなってしまった。

「海美さん。このしめじはこれだけだったのですか?」

「いえ、山の面一面に生えていました。」

「早速、取りに行きましょうよ。」

「アヤ、そう言ってはいけないよ。」

スピカが止める。

「しかし、美味しかったですね。」

あっちらこっちで声があがる。

「お坊さんどうでしょう?」

お坊さんはなにやら腕を組んでなにか考えていた。

「あぁ!?ええ、まぁ…」

「どうしました?」

「しかし、なんで化けて出たんでしょう?」

「……きっと、」

まつりが声を出した。

「うん?」

「きっと、お坊さんが優しいし、自然に感謝して生活していたから、しめじが食べて欲しかったんじゃないかな。」

お坊さんは、「そうか。」「そうか。」という顔をしていた。

最初はハッとした顔、次に申し訳なさそうな顔をした。

「みなさん、しめじを取りに行ってみましょう。それをしめじも望んでるはずです。ただ、全部取ってはいけません。来年も出るよう残しておくのです。分かりましたね。」

「おー!」

「はーい!」

そういう時動けるものは、立ち上がった。

お坊さんはまつりに近づいた。

「まつりさん。」

「………。」

まつりは海美の影に隠れる。

「ありがとうございます。あなたのおかげで、私もなにか迷いがなくなりました。これからはいままで以上に自然に感謝して、また人間にも感謝してこの宿を続けます。」

「…こちらこそ。」

まつりはなにか言って怒られるんじゃないかと思っていたらしい。

ただ、海美が目を見張っていた。

「………。」

そうか、なにかまつりがしゃべっていたと思ったのは、もしかしたらあのお化けしめじと会話していたんだな。

と思った。

ただ、まつりが本当に会話したのかは分からなかった。

アヤやスピカ、目の見える泊り客とお坊さん、海美とまつりはもう一度切り株のところまで行き、しめじを取った。

そしてわざと残して寺に戻った。

そして、生で食べられる分はまた雑炊にして、食べきれなかった分は天日干しにして長く持たせることにした。

そして、雑炊より、水の量を減らして炊き込み飯にした「きのこ飯」を開発した。

のか、どうかは分からない。

ただ、田舎の民宿や、料理屋さんできのこの炊き込みご飯が出たら…

もしかしたらそのお店の人は心が清らかな人だから、きのこが食べてもらいたくてやってきているのかもしれない。




第ニ章 裏山の化物(異説:キノコ飯セット誕生物語) 完結


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第三章 第一部 陸送

スピカは、大八車を使って寺から寺に宝物を運び、人をモノから守る仕事をしている。
現在は、元々どこかにあった大仏様の首を峠の向かいまで運ぶことになっていた。
その寺から寺に運ぶ仕事をしている時、アヤと出会った。
スピカの友人が結婚して生まれた子供だった。
2人は遠くに行かねばならなかったが、アヤを連れて行くには危険な旅だった。
だから、スピカに任せた。
捨てた訳ではない。
仕事の途中、モノではないなにかと戦わなければいけないことになったのだ。
アヤを危険な目に遭わせるわけにはいかない。
なので、タックを組むことにした。
秋で、山々の木々が紅や黄色に葉っぱを変えて、冬に備えている山道をゴトゴトと大八車が行く。
大八車や大仏様の頭に乗っている人物達。
目の見えない瞽女衆もいるが、一番戦力になると目論んでいるのは、大仏様の頭の上に乗っている赤いマントの鬼。
まいったことに赤い鬼はアヤと仲良くなってしまったため、2人で大仏様の頭に乗って足をふらふらさせている。
あと2人、戦力と踏んでいるのは大八車の一番後ろの真ん中に乗っている2人、青い髪の毛の女の人と、目の見えない杖を持ってマントを着た女の人だ。
仏様の顔の周りにたくさんの女の人がいる訳である。
「うーん。男の人にとっての天国はこんなようなところかもしれないなぁ。」
この男は煩悩にまみれた一言を言った。


さて、この大八車がどこに向かっているのかと言うと、山の中腹にある関所である。

この世界の関所は、モノが人間奴隷を逃さないようにするため、また、旅人の人間からお金を巻き上げるためにモノどもが大昔に見た関所を復活させたのだ。

ただ、ここのところ少し違うことが起きていた。

モノが追い出されたのだ。

代わりになんだかわからないものが関所に入っていた。

ただ、これがおかしい。

モノが取り返そうと関所に行ったのだが帰ってこない。

それどころか、モノがどうなったのか調べるモノが行ったのにそれも帰って来なかったのだ。

そして、関所を使うモノも人間もいなくなっていたのだ。

そんななか、変な大八車が関所に向かって行ったのだ。

 

関所は山道の街道に面するようにある総二階建ての建物だった。

もっとお城のような大きな建物だと思っていただけに面食らった。

それだけでなく、いままであった山道の集落にあった建物とさほど違いがない。

昔超えた、箱根の関所を想像していただけにスピカは黙って辺りを見渡してしまった。

ただ作戦は続行しないといけない。

渓谷が、山がまるでなにかに引っ張り込まれているように谷をつくっている。

大八車が関所の敷地にはいる。

すると、瞽女衆と青髪、赤マントも降りてくる。

スピカを先頭に玄関から声をかける。

「こんにちわ!」

「はいぃ。」

なにかいるようだ。

「いかがしたかな?」

目の見える人は驚いた。

猿ではないにせよ、今度は羊みたいな顔のものが出てきた。

「いかがしたかな?」

「あぁ、実は、この関所を通りたいと思い、あいさつにあがりました。」

「なに?ここを通りたいと?…少々お待ちを。」

なにやらいそいそと羊の顔は下がった。

「海美。」

スピカが青髪に話しかける。

「なに?」

「さっきの羊、なにか笑ってなかったか?」

「…そう?」

「口元も。『また獲物がかかった。』と言うふうに動いている気がした。気をつけろ。」

「はい。」

「お待たせしました。」

「うっ…」

目の見える人はまた驚いた。

人間の頭にもう一つ頭みたいなのがある。

しかも赤くてブヨブヨしている。

まるで鶏の鶏冠のようだ。

「1人づつ見ますので、奥の間へどうぞ。」

コブの男が言う。

「はい。」

スピカが入っていく。それに続いて、目の見えないイチ、青髪の海美、赤雄鬼のまつり、アヤ、そして瞽女衆が続く。

玄関に入ると左側に部屋があり、そこに着物を着たさっきの羊とこぶがいる。

「……。」

スピカはゆっくり部屋を見渡す。

あと1人いるはずだが…

「では、通行手形を出せ。」

羊が言う。

「あの、お二人の他の方はいらっしゃらないのですか?」

「ただいま来客中じゃ。」

「そうでしたか。妻に持たせていますので少々お待ちを。」

そう言うと、海美は持ち物をゴソゴソいじりだした。



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第三章 第ニ部 開戦

第二章で、現れた化物、それは日本昔話に出てきた化物です。
宮城県に伝わる伝説で、まんが日本昔ばなしでやっていたのを鮮明に覚えていたためオマージュしました。


ここは作戦通り、海美がファミリーに偽物の通行手形を差出したら、行動開始だ。

けど、全く手形を出さない。

「…ちょっと目が悪いもので、、すみません。」

そう言うと、海美に近づき、海美の持ち物を物色するふりをした。

「なにしてる?」

スピカは小声で海美にささやいた。

「作戦は中止しましょう。来客中では作戦が崩れるわ。」

「そんなことはない。あなたには迷惑をかけない。その最後の1人と客は俺がやる。あなたはここから瞽女衆を連れて外に出ていただくだけで良いのです。」

「客を見てからでも遅くないかと…」

「そうかもしれんが、目の前のファミリーだけでも倒してくれ。」

「………。」

「なにをしておる!」

コブが怒鳴る。

「あぁ、すみません。今見つけました。」

海美から通行手形を奪うと、かかげてみせた。

「よし、こちらへもってこい。」

「へい。すぐに。」

そう言うと、また海美の方を向く。

「大丈夫だ。光のように二体倒す。」

「…分かった。」

そう言うと、海美は通行手形の入ったのし袋を持って、イチとコブの前に座る。

机の上にのし袋を置き、一本下がり、頭を下げ続げる。

イチがコブと向かい合うように座る。

イチも頭を下げる。

ただ、イチは頭をゆっくりひねり、なにか聞いている。

待たされてイライラしたのか、コブが乱暴に袋を開けて、蛇腹折になった通行手形を開けた。

しかし、そこにはなにも書いてない白紙。

 

「    書いてないじゃないか

  なにも

     書いてないじゃないか  」

 

右側の口と左側の口がしゃべる。

イチが斬ったのだ。

イチは左側に杖を置いておいた。

「なにも」

としゃべった瞬間に、杖の仕込みを引き抜き、

白紙

股下から頭

コブ

を斬り上げた。

だから、

「書いてないじゃないか」

は二つの口が二つの声を発したのだ。

「なんだね?」

羊はどうしたのかというと、イチが斬り上げたのを見たら、なにが起きたのか分からず、そのままポカンと見てしまった。

一番前にいたスピカが襖を勢いよく良く開けると、音もなくどっかへ行くのも見た。

それが命取りだ。

「なんだね!?」

目の前の青い髪の女の人が持っている変な赤い球のついた杖を自分に突き出したのまでは見ていた。

ただ、まばたきした瞬間、身体がグッと無理やり浮かされた。

そしてそのまま羊は天井に身体を打ちつけた。

身体が畳を見ている。

「なに?…なにが起きている?…冷た?ら、痛!」

シャーっと身体が畳に向かって落ちる。

内臓がねじれているようだ。

畳に身体が叩きつけられる。

「だから、なにが…」

足で踏みつけられる。

「なんで…」



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第三章 第三部 兄貴

今回は、地元にある関所をモデルに、いよいよファミリーと戦いだします。


「あなたには悪いんだけど、あなたはこの世にいてはいけないのよ。」

「そんな…うぇ…」

腹の中になにかある。

冷たい。

痛い。

刃物が動き回っているようだ…

青い髪の女の子は、そのまま乱暴に杖を貫通した羊をそのまま杖の先にくっつけたまま、庭にぶん投げた。

まるでほうきで掃き出されるように羊は庭に転がった。

青い髪の女の子の持つ杖の先に、刃物が付いている。

刃のついている方向から見るに、あの刃、冷たく、ぐるぐる自分の内臓を引っ掻き回していたのは、あれか…

青い髪の女の子がこちらを見ている。

頭からすっぽり赤い毛布を被った鬼もいる。

鬼がもっと小さい女の子の手を引いている。

あのコブを斬った瞽女さんもこっちに耳を傾けている。

「ちくしょ…あ、兄貴…」

羊の首がガックリ下がった。

ボソッとこう言った。

「助けて…」

ドタン!バタン!

ドサン!

となにか海美たちの目の前に降ってきた。

スピカがボロボロ、鼻血だらけで落ちてきた。

「なに?」

まつりとアヤが手を握り合う。

「やっちまった…強すぎる…」

スピカがしゃべった。

アヤがスピカに寄ろうとする。

「行っちゃだめ」

海美が刃物を閉まった杖で止める。

海美はギロっと天井を睨みつける。

「まつり。」

海美はまつりを手招きで呼ぶ。

まつりは海美に近づく。

「敵をこの部屋に誘き寄せるから、みんなを避難させて。」

「うん。」

そう言うと、海美から離れて、

「みんな、そっとゆっくり外に出ましょう。」

と声をかけてまわった。

「イチ。」

「はいはい。」

イチは、海美の腕を組むと海美の顔に自分の顔を近づけた。

「多分、上の敵が降りてくる。あなたはどうする?」

「戦うことは出来る。だけど、庭の男も助けないと。」

「敵はスピカを使って、助けに来る人を殺そうとしてると思う。私がここに二階の敵を引きつけるから、まつりやアヤちゃんとスピカを助けて。」

「分かった。」

「だけどその前に。」

「うん?」

「天井を破壊し尽くすのを手伝って。」

「………。」

チッチッチッとイチは声を出した。

耳で聞いている。

「分かった。高さもわかった。やろう。」

「よし。」

イチは仕込み杖をさっきの逆手持ちでなく、通常の順手持ちで天井を斬りつける。

海美も天井に杖の赤い物体を押しつけて部屋中走る。

赤い球から刃が回転して、天井を破壊する。

イチがよろけて、柱にぶつかる。

「…柱か。…天井を落とすならちょうどいいか。」

素早く逆手持ちにして、全身全力で柱を斬る。

勢いをつけるため、全身でグルリと回転しながら斬った。

柱が斜めに斬れて、天井がグランと歪む。

バキっ!

と足が見えた。

大きな黒い足だ。



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第三章 第四部 スピカ空を駆ける

ファミリーは、別にファミリーが流行っているからファミリーではなく、〇〇一家だと〇〇の苗字を考えないとなので、ファミリーと読んでいます。


海美がすかさずその足を斬りつけてやろうとした。

しかし、足どころじゃない。

全身がバキバキと天井を破り落ちてきた。

「なにしていやがる…しかも俺の弟を…」

足は黒かったが、顔は青白く、オッドアイだ。

しかも、口周りが赤く血のようなものが付いている。

「…なんだ?」

「俺の弟になにしてるんだ?って聞いてるんだ。」

「ファミリーだから死んでもらった。」

海美はその男に構える。

「……フフっ。ファミリーだから殺すか。まぁ正しいなぁ。だけど青髪よ。なんでファミリーは死なないといけないんだ?」

「う…」

「…まぁ、いいよ。お前はここでおしまいだからな。ファミリーの初孫たる俺が…7位の俺が殺してやる。」

「7位…か……コーラ…」

「男の名前かな?」

「………。」

「…なんだ?……まつりちゃん、アヤちゃん!」

イチは何か異様な物が来たと思い、杖を乱暴に突き刺しながら転がるように庭に出た。

まつりとアヤがスピカを看病している。

スピカがボソボソしゃべる。

「二階にいた弱っちいやつは倒せたんだが…あいつは異常だ。」

 

スピカはさっき、襖を開けて飛び出すと、自分の武器を展開した。

スピカの武器は、手にはめる手甲、脛当て、鉄草鞋である。

ただこの草鞋、足の外側に円盤状の刃物がついており、それを壁や柱に食い込ませることによって地上に降りず、ジャンプで移動出来る。

手甲と脛当ても鋭利になっており、当たるだけでも木が削れ、肉が裂ける。

それを使い、パンパンパンと柱を伝い、二階に駆け上がると、一番手前の襖を体当たりで開けて、目の前にいたファミリーを蹴り飛ばした。

脛当てのお陰で首がボカン!とすっ飛んだ。

首が二階から外に飛び出す。

一撃で倒した。

ただ、驚いたのがもう1人のほう。

どうして、他人の男女が旅しているのか疑われぬように偽造婚約した海美が言っていたから、警戒はしていた。

ただ、あんなに強いと予想しただろうか。

首を蹴り飛ばして、身体が空中にある間に、その客は、スピカの身体を殴ってきたのだ。

スピカも空中を走れるだけの身体能力があるから、右手の手甲で拳を受ける。

「おっと!…」

空中でくるくるっと回転して受け身を取り、畳に着地する。

しかし驚いた。

2つ

一つ目、そのもの、髪が白く、目も右左の色が黒赤と違い、唇が裂けてウサギみたいになっている。

二つ目、当てた手甲。

なんと、鉄でできているのにベコっと凹んでいる。

肘側の結んである紐が緩んだらしく、それがはねっ返った影響なのか腕や骨は痛くないが、咄嗟にしたパンチでこの破壊力である。

「あんた…客か…」

手甲からその白い髪の毛に目を移しながらスピカはしゃべる。

「ふん。だから…なんだ。」

うまくしゃべれてない。



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第三章 第五部 問答

この空を飛ぶシーンは花の慶次で、沖縄の敵のキャラがやったことがあり、それを真似しました。


しゃべりにくいのか?

「あんたには悪いが、この連中がいたんじゃ六道の者どもがみんな困るんだ。許してくれ。」

「ろ、六道。が困る。」

「そうだ。ここはみんなが通る道だ。人やモノ、仏様を食らうやつがいるとみんな困る。そしてこの首の外れたものは困るものだ。」

「………。」

スピカは、しゃべるのがだるいのかと思い、続ける。

「まぁ、こいつらは、他のもの人に迷惑をかける存在でしかなかったから、因果応報ってやつだ。あんたもこんなのに付き合うのはやめたほうがいいですよ。」

「………。」

「それと、こいつらは、他のものや人を見境なしに食べますから、あんたも食べられてしまったかもしれないですから、よかったではないですか?」

「よ…よかった?…お、おでの、弟なのにか?」

「えっ?」

その瞬間、ぶん殴られて一階に落ちたのだ。

そのあと、その客は首がもげた身体を両手で掴むと、首からかじり始めたのだ。

「…弟よ。」

弟の亡骸を抱きながらのセリフならなんと美しいとなるが、骨や内臓をものともせず食べて、血をすすっている訳だからなんとも薄気味悪い。

そして、食べるのに夢中になってるもんだから、海美とイチの攻撃で、一階に落ちたのだ。

 

「青髪よ…な、なぜ、ふ、ファミリーは死なねばならぬ。ざ、三人はなにもしておらぬぞ。」

「………。」

たしかに。と海美は思った。

海美はそれまで、自分のことを狙ったモノから命を守るために戦ってきた。

もしくは、考えに共感して、モノ共の重要な席を襲撃したことはある。

「三人は、ひともモノも食べていると聞いた。」

「み、見たのか?」

「いいえ。」

「なっ…なら、なんで弟たちが殺したと分かる?」

白い髪の毛は、今まで食べていた亡骸をドサンと落とすと、次は背中を向けて、真っ二つになった身体を食べ始めた。

「骨ごと食べて美味しいのでかしら?」

「余計なことを言うんじゃねぇ。青髪!こらは、おらなりの、お弔いじゃ!邪魔すんでねぇ!」

そういうとまた食べ始めた。

「………。」

海美はすぐ杖を構えると、背中に向かって切った。

皮膚が裂けて血が噴き出す。

「お!…お前!」

「………。」

海美はおかしいと思っている。

普通なら殺せる位置にいた。だけど首が落ちなかった。

「も、問題を棚に上げて、おれ、俺を殺せば問題が先延ばしに出来るってか?そんなことはさせん!」

「あ、青髪よ。お、我々はなにをした?教えてくれ。わわしらはもとよや」

「…なに言ってるんだ?」

「わ、俺たちは、被害者だほ。」

「…知ってる。コーラとイチに聞いた。」

「なに?」

「コーラが、あなたの一族は人間だったのに生きたまま地獄道に落ちたと聞いた。そして、イチから、」

庭のイチが頭を振っている。

あのことか。という感じだ。

まつりがなにか恐怖を感じて海美に抱きついていた時、こんな話をしていた。

イチとまつりはもうスピカを安全な場所に運んでいる。

「…生きながら人間道から落ちた理由。それは、あなたが、近親相姦で生まれたから。」

「バレてんのかよ!」



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第三章 第六部 あの時の話

ファミリー…
鎌倉殿の13人の善児、トウ、一幡の暗殺ファミリー


ちょっと前、

大八車が、寺に着く前の、瞽女衆を車に乗せた直後、まつりはアヤといたが、海美は、一番後ろで、一人で座っている女の人に興味を持っていた。

仲が悪いという訳ではなさそうだったが、一人で杖に寄りかかっていたので気になったのだ。

海美は大八車を押しながら、その女の顔が見えるところに近づいていた。

「もし、なにかあっしにようですか?」

「ごめんなさい。目が見えないから、顔を見てもバレないかと思って。」

「そうですか。こんな顔で良ければよく見てやってください。」

「ありがとう。……けど、あなた。ただ、歌を歌う瞽女ではないわね?」

ちょいと首をかしげる。

わざとらしく。

「なぜそう思うんです?」

「…いくら杖が大事でも、三味線を持った状態なのに両手で持たないでしょ?」

「…バレましたか。いかにも、」

そう言うと女の人は、杖を両手で持つと、両手の隙間からキラリとなにか光った。

「…その杖はどこで?」

「旅に出る時、親に持たされたもので、なんとも…」

「…けれど、あなたはそれでモノが斬れるのね。」

「モノ…そうなんでしょうね。耳や肌では人と違うなにかは分かります。それで杖を振るうとドサン!と倒れる音がして、みんなに褒められます。」

「あなたは、いろいろなところを旅しているのであれば、ファミリーを知ってる?」

「ファミリー?…あぁ、家族。なんか、人様だけでなく、天人様ですら、暗殺して食べてしまうものがいるという噂は聞いたことあります。しかも。」

「しかも?」

「しかも、家族というだけあって、自分達の力だけで一族を広げてきたと聞いたことあります。目の分、耳が働いてくれてます。」

「…ファミリーのなかで、男と女がいれば、「一年でファミリーが1人増えます。」か?」

海美がしゃべっているあいだにイチが重ねた。

「おっしゃる通りです。」

「…だからファミリーって言われるのね。」

「ファミリーです。結束…血束(けっそく)はヤクザなみです。手を出せば死ぬまで追いかけてきますよ。」

「ですよね…」

まつりは走って海美の腕に抱きつく。

「危な…どうしたの?」

「ううん…なんでもない。」

「そう…」

「どうしたの?」

女の人がしゃべる。

「いいえ、一緒に旅をしてる子が抱きついただけ。」

「そう。」

そして、お寺に向かうわけである。

 

「だから、あなたたちファミリーは人間道から追放された。」

「…やめろ。それ以上しゃべるな。」

「…あなたも被害者なのよ。」

「しゃべ…なに?」

「あなたの髪の毛も目も、口もしゃべりかたも、人間道を落ちたバツではないわ。近親相姦の子どもはそういう病気にかかる確率が高いの。だから、あなたは。」

「やめろ!」

やめろと言ったと思うが、ほぼ叫んでいる。



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第三章 第七部 大八車の必殺技

この間、坂戸市にある「聖天宮」に行ってきました。
道教の施設というのは、横浜の関帝廟しか行ったこと無かったので、とても興味深かったです。
なんでもコスプレが出来る施設で、アリナミンのcmの孫悟空編が撮影されたそうです。
…アリナミンのcm、見なくなりましたね。


しかも鼻がしっかりしていないのか、鼻水がからんでいるのだか、なんなんだか、叫び声のようだ。

しかも、海美の杖を掴むと、身体をひねって外に投げた。

海美は離さなかったから、一緒に外に飛び出した。

「なんの!」

足から見事に着地。

すぐ後ろにまつりがいた。

「まつり、下がって…」

「………。」

まつりはなにか、海美に耳打ちをする。

耳打ちの内容を聞き、海美は大八車の置いてある方を見る。

アヤが大八車の後ろに向かって走っている。

イチが、大八車にスピカを乗せようとしている。

「分かった。合図はまかせる。」

「うん。」

「なんだ?」

黒い目と赤い目をキョロキョロさせながら、客が出てくる。

「…さぁ、終わらせましょうか。」

「ふぅえ。そんな、後ろに鬼1人増えたところで、俺に、かなうとでも思ってんのか?」

「やってみる価値はあるわ。」

「ホザけ。ズズッ」

鼻をすすりながら、客は出てくる。

「そうそう。さっきの続きだけど…」

「だがら、やめろっで…」

また、手を杖に伸ばしてきた。

「…ふっ。」

海美は今度、杖を離した。

客が、持ち上げようとした瞬間、重くなり、動かなくなる。

「きさ…痛え!」

赤い玉の近くを持ったことが問題だった。

赤い玉から刃物が現れ、杖を掴んでいる右手の肘から、人差し指と親指の間まですっぱり斬られた。

「ちっ!」

指4本が外側に、親指が内側にベロンと肘を軸に垂れ下がった。

「お前…」

使える左手を前髪に持っていく。

ミチミチミチっと、髪の毛を引き抜く。

指の間にびっしりと髪の毛がからまっている。

「うぅぅうううぅ」

髪の毛を握りしめる左手が震える。

「ふえうらぁ!」

客は杖を殴る。

すると、バギ!と杖が折れて、赤い玉と刃の部分が関所の中に飛んでいった。

「…あんた、手が。」

「うるぜぇ!」

鼻が出て呼吸しづらそうだ。

それ以上に、杖をぶん殴った拍子に、手が潰れたのか、拳が変形して、血が骨が、滲み出している。

骨が滲み出るように、ぼたぼたと落ちる。

「うりやぁ!」

今度は、右腕を頭の上で振り回す。

ぶん回して、自我のない腕が、鞭のようにまつりを狙う。

「危ない!」

海美がまつりを抱きしめる。

「死ねえ!」

バチっん!と綺麗な音が出た。

モロに海美の身体に親指、人差し指、中指、薬指、小指が襲う。

「ま、…まつり。」

海美は痛さに耐えかねてまつりに体重をかける。

「海美…海美?!」

まつりも慌てて海美を支える。

ただこれだと、自分が戦おうにも刀が抜けない。

自分の正面に覆いかぶさるように倒れられたら、股の間に挿してある刀は抜けない。

「ぶだり…あわぜで、あの世へ送ってやる…」

また、客は頭の上で腕を回転させ始める。

「………。」

まつりは、頭から赤毛布をすっぽり被っているので、どこを見ているのか分からない。

「次ごぞわ!」

また、右腕を回し、鞭のようにまつりを狙う。

ひゅぁぅん!

「あぁ?」

右腕が空を斬る。

手応えがなかった。

しかし、

ばたん!とまつりは仰向けに倒れる。



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第三章 第八部 決着

この間、BS日テレの時代劇で、「のぼうの城」をやってました。
埼玉の歴史は知れば知るほど面白いですね。


「なんだ?」

客は倒れた鬼を見る。

青い髪の女の子をしっかり抱いている。

赤いマントと、青い髪のコントラストが美しいと思った瞬間、

どぅぐゎあぐぢゃん!と、

腹部からなにか出てきた。

金属の槍のようだ。

振りかぶって振り回した右手。

それが良くなかった。

身体がひねっていたもんだから、

背中から、心臓、右腕の人差し指側が貫通した。

血もドバドバ出てくる。

「なんだ?…」

倒れる身体を反転させて、この槍が飛んできた方向を見る。

大八車の運転場所に2階から落としたあいつが立っている。

その大八車の左の持ち手の左側から煙が出ている。

後ろ側に小さい女の子が悲しそうな顔をし、イチとか言われてた目の見えなさそうな女の子もいた。

「…あの支柱から発射されたのか。」

どしゃん!と客は倒れる。

心臓に刺さったもんだから、血がジュワジュワと、かポカポと出て行く。

「…みんな…弟妹たち、ごめ」

 

 

しゃべらなくなった。

 

 

「海美、海美!」

まつりの身体がぎゅっっと締まる。

「大丈夫…だと思う。」

すごく痛そうだ。

だけど、しゃべった。

生きてはいる。

「…杖!」

痛って…と言いながら、起き上がり、関所の中に折れた杖を取りに行った。

「まつり!」

「アヤちゃん。」

まつりは体を起こし、グイッと毛布を顔下まで下ろす。

「大丈夫?」

「大丈夫。合わせてくれてありがとう。ずっと見てたよ。」

「うん。」

そう。まつりは、客の黒と赤の目に睨まれてもアヤを見てたのだ。

海美に耳打ちしたときも、アヤから指示があり、必殺技を使うから、合図があれば知らせるというものだったのだ。

「あの、大八車って、あんなのまでついてるの?」

「そう。2人じゃないと撃てないんだけどね。」

アヤがまつりの手を引っ張り、立たせると、大八車に近づく。

動かなくなった客に刺さっている槍も見る。

金属で出来ているようだ。

海美も杖の割れて飛んでいった部分を持って出てきた。

槍は、パイプを押しつぶした状態で、鋭利になっているから、それで貫いたようだ。

また、槍の反対は、真っ黒に焦げている。

海美は、客の目の前にある折れた杖の突き刺さったほうに近づき、杖をくっつける。

すると、赤い玉から赤い水が流れて、杖の持つ部分を濡らした。

ちょっとすると、海美は杖を抜いた。

すると、折れて、地面に突き刺さっていた部分もくっついて、そのまま抜けた。

海美が改めて、グッグッと力を込めて杖を地面に押し込んでも、折れることはなく、しっかりしていた。

杖が治ったようだ。

さて、大八車だが、荷台の上にスピカが寝ている。

イチが慌てて看病している。

ただ、スピカは意識が戻っているので、多分大丈夫。

「イチ。もう大丈夫だよ。」

「でも。」

「実はな。やられたフリをしただけだよ。客人。結構強いことが分かったからわざと外に投げられて、受け身を取ったのに動かなかったんだ。追撃されたら飛び上がるつもりだったんだが…」

そう言うと、スピカは上半身を起こす。

「まさか、イチと海美さんが戦い出すとは思わなかったし、アヤが瞬間的に槍を使うと思わなかったからな。だったら動かない方がいいと思っただけだ。」

イチの手を取り、「大丈夫」と言うように動かす。

「奴を出し抜くには、みんなの力を合わせた方が強いと思っただけよ。」

イチの手を一回ギュッっと強めると離した。

「で、アヤ。俺たちはこの後どうする?」

「るぇつ?」

アヤはまつりと大八車の後ろに回り込んであれこれこういう仕掛けで発射されたと話している。

「うーん…次のを探すか、お寺を目指すか。」

 




その時、歩いてきた道が風を切るような変な音がした。
「なんだ?」
スピカが手に手甲をはめながら道を見る。
海美もまつりやアヤより道側に出る。
「人間だ。だけどなんだ?」
黒い格好をして、10人ぐらいが全速力で走っていった。
「あれは…郵便屋だ。旗を持って走っていった。」
海美がつぶやく。
「郵便屋?」
まつりが聞く。
「遠くの人に、用件や手紙を届ける仕事。一分一秒を争うと言われている仕事。」
アヤが説明する。
「だけど、あんな大人数は珍しい。」
「いや、ここを通るからだろう。仮にあのファミリーに見つかっても1人だけでも通れれば良いっていう。」
またなんか変な気配。
「なんだ?」
生垣があり、その奥に一段下がったところに道があるのだが、その道になにかある。
木が組んである不思議がものだ。
スピカが言う。
「ハシゴが立ってる。」
海美がまた、自分の後ろにまつりをアヤを隠しながら言う。
「どういうこと?」
アヤが空に指を指す。
「上!」
「「「………なんだあれ!」」」
一同、声を上げた。
ハシゴの上になにかいる。
いや、誰かいる。
そしてその誰かもこう言っている。
「なんで生きている?」


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第四章 第一部 郵便屋

関所の広間に、海美、まつり、スピカ、アヤ、イチ、他の瞽女衆、ハシゴの男、走っていった10人が集まる。
集まって、お茶を飲んでいる。
縁側になぜか、顔面から上半身が真っ二つになったコブ頭の男の左半分だけ。
お腹に穴のあいた羊の頭がぐったりしているが、そのお腹の穴に無理やり違う頭が突っ込まれて座っている。
そして、もう1人。槍で心臓を貫かれた髪が白く、口が裂けている。
この人間たちが倒したファミリーである。
ちなみに、このファミリー三人、4人か。
4人の前にもお茶が注がれ、湯気が立っている。


「さて。話も盛り上がってきたが…一回いろいろ整理するか。」

スピカが言う。

「よし。」

「そうじゃそうじゃ。」

あっちこっちで、そんな小さい声がしたと思うと、みんなシーンとして、スピカに注目した。

「その縁側でお茶を飲んでる4人。まぁ別に飲んでるから生きているわけでなく、死んでるんだけど。」

そんなジョークを踏まえながらしゃべるから、目の見えない瞽女衆もニコニコしている。

「死んでるのに、お茶を飲むんだって。」

そんなことを小さい声で言っている瞽女もいる。

「その4人、そしてこちらにいる雄鬼…こちらも、本当は雄ではないし、ましてや鬼でもない観音様のような女の子です。」

また瞽女衆がくすくす笑う。

「その女の子が倒した1人、現時点で5人のファミリーを倒すことが出来たわけだ。で、」

「で、」と言った時、両指を立てて誰と言うわけでなくなにか空中を指差す。

そして、手のひらをある人物に向ける。

その先には、ハシゴの上にいた忍者みたいな人間がいる。

走っていった10人のリーダーみたいなのが立ち上がる。

「はじめまして。みなさん。私たちは郵便屋です。郵便屋と言っても手紙も郵便物も持っていません。我々は記憶を運ぶんです。」

2人目が立ち上がる。

「人間は、文字を読むことが出来ますが、紙をモノどもは燃やしたり破ったりします。ですから、紙ではなく、記憶したことを運んでいるんです。」

3人目が立ち上がる。

「そして、今回は緊急速報があったため、ここでモノや人間が次々に殺されていることを承知の上、決死の覚悟で突っ込んだのだ。」

4人目

「誰か死んでも1人生き残り、情報を伝えることが出来れば良かったわけです。」

5人目

「生存確率を上げるために、このハシゴの男を雇ったんです。」

6人目、これは、ハシゴの上にいた男

「はじめまして。私は郵便屋ではなく、護衛の人間です。ブーツと申します。」

そう言って座った。

7人目が立つ。

「ですが、みなさんがここの関所のファミリーを倒してくれたおかげで1人もかけることなく通れそうです。」

最初の男がしゃべる。

「みなさんのおかげです。」

11人全員立つ。

「「「ありがとうございます。」」」

8人目を残して全員座る。

「で、運んでいた内容だが、人間たちだけでなく、モノも含めて全ての六道のものモノに教えて良い内容なので話させていただきます。」

9人目とリーダーが立ち上がる。

「実は、ファミリー討伐を仏様だけでなく、地獄の十王様も認められたのてす。」

「おいおい…」

思わずスピカがしゃべった。

「どういうこと?」

まつりがアヤに聞く。

「いままでは、ファミリー討伐は仏様が公認してたんだけど、今後は地獄の王様。すなわち、地獄の鬼たちや阿修羅道の戦士たちもファミリー討伐を敢行するって宣言したの。」

「すると?」

まつりはアヤに聞いたが、リーダーがしゃべる。

「ファミリーは、いままで、向かってくる少数の人間だけと戦っていれば良かったのだが、これからはこの世の全ての六道と戦わなければならなくなったんだ。」

「…じゃあ、みんな仲良くなったの?」

「仲良くなったんじゃない。ファミリーがいなくなればまた争い合うし、ファミリーがいなければ潰し合う。

ファミリーがいればファミリーを倒すのが先で、いなくなれば、ファミリーがいたところを実力でぶんどる。」

「………。」

まつりは黙った。

みんなが仲良くなったのなら良かったと思った。




また章が新しくなります。
ちょっと会話が続きます。


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第四章 第二部 関所の秘密

また昔話が出てきます。
また怖い昔話です。


10番目がしゃべり始める。

「で、現状、倒されたファミリーだが、一人で街を支配していた20位の猿みたいなのを誰かが、」

まつりがニコニコしている。

「で、ここにいた。36位、コブのある40位、羊みたいな45位そして、客として来ていた7位を討ち取った。」

ここで11人目(郵便屋の10人目)がしゃべろうと立ちあがろうとした。

しかし、リーダーが立ち上がってしまった。

11人目はとりあえず立ち上がり、話が終わるのを待つ。

「これは幸先の良いスタートだ。モノもファミリーも追い出せば人間の支配できる範囲が増えるわけだ。人間たちよ。これは人間の主権を回復することにもつながるんです。頑張りましょう!」

11人目がしゃべる。

「…ということだ。」

座った。

「なんだ?最後のは?」

瞽女衆がくすくす笑い合っている。

 

 

夕方。

郵便屋は関所を1人もかけることなく走り出した。

ブーツは梯子を高跳びの選手のように使い、飛んでいった。

瞽女衆はスピカとアヤと一緒に、昨日の寺と、その先、すなわちまつりたちがお世話になった猪の親分のところを目指し、出発して行った。

まつりと海美は関所でダラダラしていた。

海美の鈍痛が止まらないらしい。

言われてみれば、郵便屋がしゃべっている時も黙って脇腹をさすっていた。

7位からくらった一発がこんなことになるとは思ってもみなかった。

さいわいにも、関所には布団も薪もあったので、一晩関所で過ごし、ファミリーと関わらない方へ行こうとなった。

その日の夜。

夕食を取って、海美は早々に寝てしまった。

まつりは囲炉裏の灰に絵を描いて遊んでいた。

すると、急に奥の座敷から女の人が現れた。

歳はまつりとそうは変わらないぐらいだ。

この女の人、一歳ぐらいの子供を抱いている。

「こんばんわ。」

女の人がしゃべる。

まつりはいじっていた火箸を握りしめる。

自分の刀は自分の左側に丁寧に置いてある。

一瞬隙をつくれば抜くことも出来る。

しかし、女は音もなく、すぅと囲炉裏のそばに座ると、子供を床に置いた。

「この子と遊んでやってください。」

「………。」

まつりが答えるより早く、女は懐よりでんでん太鼓を持ち出すと、でんでんビャンビャン鳴らし出した。

怖くなったまつりは慌ててマントを着込む。

しかし赤ん坊はお構いなしにまつりに乗ってくる。

そして妙な踊り見たいな動きを始めた。

遊んでいるわけでもなさそうな、手をグルグルっと回している。

まつりは火箸を掴んで震えていたが、すぐ赤ん坊は女の元に戻った。

女もでんでん太鼓をやめた。

「今日はもう遅いので帰ります。」

そういうと女の人は赤ん坊を抱き抱えて、元来た方へすぅっと足音を立てずに出ていった。



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第四章 第三部 関所の化物

鮮明に覚えている昔話の一つです。
でんでん太鼓が恐怖心を煽ります。


気味が悪くなったまつりは、大刀をいつも通り股下に縛ると、マントを着たまま、海美の隣に寝てしまった。

ただ、横になって目はつぶったはいいが、でんでん太鼓の音が耳に残っていて、どうも寝られない。

でんでんでんでん

でんでんでんでん

そして、思い起こしてしまうあの赤ん坊の顔。

目が離れて口が小さく、変な踊りをしてまとわりついてきていた。

でんでんでんでん

これは困ったと思っていたら、運悪くトイレに行きたくなった。

「海美が起きないかな?」

と思っていたが、そんな都合よく海美も起きはしないだろう。

ふっと目を開けると変なことに気づいた。

海美の顔と同じあたりで寝たのに、海美の足が見える。

海美が寝ながら反転したのか、それとも自分がゴロゴロしてたら反転したのか…

「どうしたのかな?」

そう言いながら、上半身を起こした。

すると、

体が海美から離れるように引っ張られた。

「えっ?」

布団の上に大の字で広がる。

ただ体は海美から離れるように。

そしてなにかに引っ張られるように離れていく。

「えっ…あっ。海美!」

海美は起きない。

そうとう疲れているのか…

そうこうしている間にも体は引っ張られて、さっきの部屋に引っ張られて、囲炉裏の脇を通り、女が引っ込んでいった方へ引っ張られていく。

「なに?」

まつりは、持っていた火箸を床に突き刺す。

体は止まる。

しかし、なにかすごい力で引っ張られている。

「あっ!」

力がすごくて火箸の手を離してしまった。

そのまま廊下に転がる。

すると、今度は廊下をつつーっと滑るかたちで引っ張られていく。

「どこへ連れて行かれるんだ…」

廊下は暗く、どこへ繋がっているか分からない。

しかし、ある瞬間、まつりは刀を抜くと壁に突き刺して、自分の体を止めた。

絶対に引っ張られてはダメだと理解した。

でんでんでんでん

と音が聞こえていた。

 

…このままだと、あの女に引き摺り込まれる。

もう必死に刀にしがみついた。

しかし、壁がポロポロ崩れ始める。

「このままだと結局あの女に負ける…あの赤ちゃん…私になにをした?…あぁ、眠くて頭が動かない…」

太鼓の音が大きくなったような気がした。

それと、なんか声が聞こえる。

引っ張られると一緒に、

「「よいちょ!よいちょ!」」

と声が聞こえる。

「あの、赤ちゃんか…」

引っ張られるタイミングと違いこんな声も聞こえる。

「あの訳の解らぬコブと羊に母を殺された悲しみ。ここで晴らしてくれる。」

「…あの女の声。」

また力が増した気がする。

壁がポロポロからボロボロ崩れる。

「……そうだ、あの赤ちゃん、私の上に登ったっけ。」

まつりは片手を刀から離して、マントに手をかける。

しかし、手が止まる。

このマントはとても大切なものだ。

自分が駅の屋根に潜んでいた時、優しそうな母子を殺してしまったとき、母親が着ていたものだ。

あの親子のものであり、申し訳ないという気持ちと、親のいない自分を満たしてくれるものだ。

しかし、あの女の声がまた聞こえる。

「あの訳の解らぬコブと羊に母を殺された悲しみ。ここで晴らしてくれる。」

幻聴なのか、本当にまた言ったのかは分からない。

ただ、あの女も苦労しているのではないか、もっと甘えたかったのではないか。

理不尽に身内が何者か分からぬものに殺されることにイライラがつのっていたのか。

「分かったよ。」

まつりはマントを止めるボタンを外す。

するとマントは、ブワッと広がりながら廊下の奥に飛んでいった。

ひらひらと誰かの肩に乗っているようだった。



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第四章 第四部 脱出

ここからまた違う昔話が始まります。
お楽しみに


でんでん太鼓の音も聞こえなくなった。

「よいちょ。よいちょ。」

という声も聞こえなくなった。

「…海美。」

まつりは、刀を引き抜くと、一目散に海美のところへ戻った。

引っ張られている最中も暴れたため、囲炉裏から灰がこぼれて、火箸で床が傷だらけになっている。

海美はまだ寝てる。

「海美!」

まつりは海美の肩を叩く。

「冷たい!」

服を触ったのだが、絞った雑巾みたいな感じだった。

寝汗だ。

「……父さん…」

「?」

なんか寝ながらしゃべってる。

まつりは海美の口元に耳を傾ける。

「父さん…にぃ…そら…」

息が浅く苦しそう。

「海美!」

また肩を叩く。

「わたしも、一緒に…」

「………。」

このまま寝かせといたほうが良いのではないか?

と思った。

しかし、どこからともなく、いや、幻聴かもしれない。

てんてんてんてん…

あの音が、まつりに聞こえる。

本当に女が追いかけて来て鳴らしているのか、耳に残っているのが鳴っているのかは分からない。

「海美!」

意を決して、まつりは海美を強く揺さぶる。

「ふぇ!」

海美がガッと目を開ける。

「そら?…まつり?」

「海美!ここにいちゃダメだ。早く逃げよう。」

「逃げる?」

「関所にいたのはファミリーだけじゃない。先住者がいた。しかも怪物。」

「モノ?」

「分からない。ただ、糸みたいなので引っ張られて、どこかへ連れて行かれる。」

「…分かった。すぐ出発しましょ。」

海美は提灯を準備する。

まつりも荷物を持つ。

夜中なので灯りが重宝される。

囲炉裏の間にとりあえず雪洞をつけようと海美が試みている。

とりあえず一つ付く。

まつりは、ついた光で隣の部屋の海美の布団を見る。

なんと、人型に布団がべっとり濡れている。

「まつり。」

「海美!」

2人同時にしゃべる?

「なに?」

「いや、先に。」

「いいよ。なに?」

「本当に大丈夫?汗とか…」

「…ここが安全じゃないなら、ここで寝るべきじゃないわ。起きてたあなたも引きずられたんじゃ。」

「うん…」

なにか言ってやりたかったが、言ったところで海美が無理するだけだと思ったのでやめた。

「ところで、まつり。この床は?」

「ああ、これが糸で引っ張られた証拠。」

「だいぶ強い力ね。」

まつりは床と海美を交互に見る。

「……詳しくは外でしゃべるから行こう。」

「えぇ。」

そう言って2人は関所を後にして、先、まだ行ったことのない方向へ歩き始めた。

関所は、もうでんでん太鼓の音は聞こえない。

すすり泣く、悲しげな音が虫が鳴くように聞こえていた。



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第四章 第五部 蛇の腹がへっこんだ話

今度は昔話というより落語かもしれません。
ただ、まだオチはなく、今後オチが来ます。


真っ暗闇の山道中を提灯が一つゆらゆら揺れている。

月が出ているはずだが、曇っているのか木のせいか暗い。

「海美、頑張って。これを超えると集落があるってアヤが言ってたから。」

「うん。ありがとう。」

提灯も大荷物もまつりが持ち、海美の手をひいている。

いつもは海美がひいているのに、今はまつりがひいている。

よーく見ると、海美は目をつぶって歩いている。

「海美、ちょっと広くなってるから、ちょっと休もう。」

「う、うん。」

ありがたいことに峠のすっ天井についたらしい。

倒れた木が腰掛けて休憩出来る様になっている。

ここで呼吸を整えさせればあとは降りだ。

海美が腰掛けた瞬間、

「「助けて!」」

と、進行方向から大声が聞こえた。

「なに!?」

まつりは前方を見る。

海美は、…驚いた。

足をちょっと上げて、杖を掴んで震えている。

通常であれば、すぐ立ち上がり、木の影に隠れるかすぐ進行方向に走っていくのに。

「!まつり。」

それを思い出したのか、すぐまつりの手を引いて、木の影に隠れた。

「助けて!誰か…」

「だれ…」

複数人声がする。

まつりが様子をうかがう。

月が雲から出た。

なんと、頭が人間の身長よりある大きな蛇(ウワバミ)が人間らしき影を追いかけているのが分かる。

しかも蛇の口から舌ではなく、人の足みたいなのが飛び出している。

足が出ていることもお構いなしに、2番目の人間にかぶりつき、足とその人間を一飲みにした。

先頭の人間、いや、あれはモノだ。

ファミリーかもしれないが、それは峠の一本杉を無理やり登っていく。

しかし相手は蛇。

木に体を巻き付けると、スルスルスルっと登っていく。

海美とまつりも木を見上げる。

なにか追われている人間みたいなものがしゃべった。

「やい!俺はファミリー50番目だぞ!お前のようなケダモノでも聞いたことあるだろう。」

偉そうなこと言っているが、逃げ場がなくなり、木の真上にジャンプしている。

「俺の兄弟や父さんを怒らせたらどうなるか…」

バクン!

食べられてしまった。

空中にいたのが悪かった。

ジャンプすれば真下に落ちるのだから、蛇が真下にいたのだ。

木から飛び降りた方が助かったかもしれないのに。

しかしもう後の祭り。

蛇はゆっくり降りてくる。

ただ様子がおかしい。

お腹が膨らんで、ビール瓶だか、ツチノコみたいになっている。

しかも膨らんだ部分はなんか動いているようにも見える。

さすがファミリー。中で暴れているのだろう。

蛇も手があれば腹をさすりたいだろうというような顔をしている。

すると、なにか思い出したのかのように、海美とまつりが隠れている木の方に来てしまった。

木を挟んで反対側に蛇がいる。

海美は、震えている。

まつりも身を隠し、刀に手を当てているが、蛇は襲ってこない。

「…どうしたんだろう?」

まつりが見ていると、蛇は、木の皮を剥がして食べ始めた。

まだ食べられるのか。

とまつりが見ていると、みるみるうちに、蛇のお腹がへっこみ、通常の太さに戻った。

「あれは…」

蛇は満足したのか、海美やまつりを見つけることもなく、山を下っていった。

「海美。」

返事はない。

「海美?」

海美を見る。

なんか杖を持ってぐったりしている。

目も瞑っている。

「だれ…」

だめだ!

蛇に見つかってしまう。

それどころか、今まで人が食べられていたのだから人間なんかいるわけない。

「どしたら…」

そのとき、かすかに、

テンテンテンテンテンテン

と、締め太鼓を叩くような音が聞こえた。



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第四章 第五部 蛇の腹がへっこんだ話の続き

ここからまた違う昔話が始まります。
これも悲しい話です。


「………。」

耳を澄ませる。

バクン!バクン!

木の塊がぶつかり合う音がする。

「まさか…」

まつりは隠れていた木の上に立つ。

蛇が歩きやすいのか、道を下っていく。

テンテンテンテン

太鼓の音がする。

もしかしたら自分の心臓の音かもしれない。

「ナポレオン!いるの?」

蛇が止まった。

 

蛇が止まった。

こっちに首を向けたのが分かる。

まつりも刀に手をかける。

蛇に睨まれた蛙という言葉があるが、蛙になった気分だ。

だけど、まつりは蛇に向かって叫ぶ。

「ナポレオン!?私に力を貸して!海美が大変なことになってるの!」

…はて、ここまで読んできて分かったであろうが、まつりは初めて大声を出している。

前作もなかったが、まつりは本当に大声で叫んでいる。

カッカッカカカカ!

と太鼓のフチを叩く音がする。

蛇が止まる。

バクン!バクン!

木がぶつかる音がする。

蛇が首を下げる。

まつりの目の前に蛇の頭がくる。

「誰が俺のことを呼ぶんかと思ったら、まつりちゃんか。」

蛇の頭の上になにか立っている。

フェイスカバーハットのように獅子頭を付けている。

布で身体を隠しているが、腰に太鼓をつけている。

右手に太鼓を叩くバチ、左手に六月を過ぎたというのに鯉のぼりと竿を持っている。

閉じていた獅子頭の口が開くと、中の人間の顔が見える。

「初めて会った時は殺されそうになり、今回は助けを求められるとは…さぁ、なにかな?」

蛇の頭をトントンと渡り、まつりの登っている木に飛び移った。

 

 

「そりゃ大変だな。」

まつりと獅子頭の男、ナポレオンは海美を大蛇に乗せると、大蛇を操り、大急ぎで峠を越えていく。

蛇は障害物などなんのその、まるで水面を泳いでいるようにすごいスピードで進む。

「…で、ナポレオンさん。この蛇は?」

海美はまつりに膝枕をしてもらっている。

「あぁ。最近仲間にした蛇でな。この峠に住んで旅人を襲うもんだから、話を聞いてやって、人間は人間でも盗人や山賊などを襲うよう教えているんだ。」

ナポレオンは蛇の首元に立ち、進行方向を操っている。

「さっき、最後の人を飲み込んだとき、ファミリーって言ってたけど。」

「あぁ、人間だか獣だか分からないやつな。まぁどんなやつかは知らないし興味もないけど、俺たちの仲間を殺しただけじゃなく、いただきますも言わずに食べていたもんだから、逆にいただきますを言わずに食べてやったんだ。」

「…この蛇、お腹が。」

「あぁ、あれな。あれは、」

ナポレオンが服の中を探す。

さっき蛇が食べていた草を出す。

「これほ、ジャガンソウと言って、蛇の腹の消化を助けると言われている。しかし、これは胃薬の一種じゃない。どっちかというと毒だ。扱いを失敗すると人間が溶ける。昔、これを食べた人間が溶けたという記録もある。正座をしてしゃべる人から聞いた。」

「人を溶かす草。」

まつりがおののく。

「まぁ、胃液と作用して、溶かすものだから、人間は口に含まなければ大丈夫と言われてる。蛇の胃袋は耐えられるらしいが…あっ!蛇よ。ストップ!」

右と左に行く道に分かれていたところを右に進んだら、ナポレオンが止めた。

ザザーッと蛇が止まる。

「蛇よ。この道は危ない。もう一つの方の大回りする道を行ってくれ。」

蛇は少し戻ると、左側の道をまた走り始めた。



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第四章 最終部 次の舞台へ

「なんでこっちの道なんですか?」

「うん?うん。実は、そっちの道は化け物が出るんだ。」

「うん。」

「………。」

「それで?」

「…!あぁ。しゃべるのね。はいはい。化物ってのが、谷に響く変な鳴き声をさせてるんだ。ただ、正体は表さない。だから危ないってんで、誰も近づかないようにしてるんだ。」

「そうなの。」

「しかも、これから行く村の吉作って一人暮らしの男が一週間ぐらい前から行方不明だ。きっとその化け物に食べられたんだ。ってみんな噂してる。」

「ふーん。」

大きな蛇はそんな話をされている間もものすごい勢いで進んでいる。

海美はまつりの膝枕で横になっている。

なんだか落ち着いて静かにしている。

「でもまぁ、この海美をここまで弱らせるとは、ファミリーってのはそんなに強いので?」

「…全員じゃないと思うけど、強い人は強いと思う。」

まつりは海美の髪をゆっくり撫でる。

ふわふわしているが髪の毛の流れの一定方向に指が絡みつく感覚がある。

「なるほど。で、何人ぐらい倒した?」

「えっと…私が、土俵のところにいた猿みたいなのと、海美をこうした白髪だけど、大八車のアヤちゃんが倒したようなもので、私はアシストだと思ってる…あっ!目が見えないイチさんがコブ頭を真っ二つにして、海美が角のある羊みたいなのを倒して、アヤちゃんと一緒にいるスピカって人が2階にいた一人を倒してる。だけど、郵便屋さんの話だともっとたくさんの人たちで倒しているみたい。」

「そうか。なら、もっとファミリーは減ってるか。…だけど、まつりちゃん。すごいじゃん。君だけ二人倒して、しかも1人はめちゃくちゃ強かったんだろう?」

「う、うん。」

だけど、不意打ちだったし、ほぼあやちゃんが倒したし…

と言おうとしたが、それより先に、

「これならこれから行く村でも歓迎されるぞ。」

と言われてしまい、黙っていることにした。

「なにより、村には医者がいる。その人に見せれば海美さんもきっと良くなる。」

「ほんと!」

「治療はいるだろうけどね。」

それを聞いてまつりはほっとした。

なにげに、峠の海美は本当に苦しそうだった。

今は自分の膝の上で静かにしてるから安静に見えるが、出来れば海美に手を引っ張ってどこまでも行きたいと思っていた。

「他にももっとすごい人たちがいるぞ。なにせ、人間たちの自治区。すなわち、自分達で縄張りを持っているんだ。元々人間はこう生きていたんだってのがわかる。」

「そうなの。」

「ん?」

「なに?」

「大蛇、止まれ。」

大蛇が止まる。

「なに?」

「静かに…聞こえる。化物が叫ぶ声。」

「えっ?」

「………。」

「………。」

なるほど、たしかになにか叫んでいる。

うぉーとも、ぐぉーとも聞こえる。

「さぁ、無視していくぞ。あんだけ遠ければ追いつかれることもないだろう。」

そういうと、また大蛇は動き出した。

大蛇は夕暮れの綺麗な山を越えて、村に進んでいった。

 

かすかに聞こえていた叫び声は、その夕暮れに消えた。



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第五章 第一部 入村

お久しぶりです。
またいくらか書けましたので続きを投稿します。


「ここは、「来るものは拒まず気持ちよく、去る者は追わず気持ちよく。」をモットーにいているんじゃ。」

ホームセンターの壊れた自動ドアを人力で開けてもらい、台車で海美を運び入れてもらう。

これを行うのは、木の面をつけた人たちだ。

男が女か年寄りか若い人か分からない。

海美はホームセンターの一角に緊急搬送になってしまった。

ベットが並んでいて、そこに寝ている人たちも呼吸が浅かったり、包帯でぐるぐる巻きになっている。

どうやら負傷したり病気の人を治療しているようだ。

「まつりちゃん、このままだと死ぬまで放置されそうな雰囲気だけど、ここには医者も逃げ込んでいるし、薬屋もある。最悪、大工道具で手術もしていたよ。」

ノミ、ノコギリ、カナヅチなどで行うというから驚きである。

 

さて、ここにどうやって入ったかだが、森を抜けたら、バリケードが張り巡らされて、ホームセンターに向かうには川上か川下に回り込む必要があるとナポレオンに言われた。

蛇は急いで川上を目指した。

すると、バリケードの内側から3人ぐらい、洋服?いや、洋服の上から一枚布を着込んだ人間に追いかけられた。

手には銃のようなもの、顔は上記の通り、木の仮面をつけている。

その数は川上の堤防に向かうにつれだんだん増えていく。

堤防までやってくると、堤防とバリケードの間に錆びた鉄で仕切られたドアいや、門があった。

その門は、一度、トンネルのようなところに入らないと門を開けさせない。

イメージ的に、ねずみ取りの中に一度入らないといけない。

まつりは、トンネルに向かって蛇が進んだ時、無数の傘に狙われた時は度肝が抜かれたが、ナポレオンがお腹の太鼓を鳴らして味方と分からせてくれたら急に手を振ったり、踊ってみせてきたとき、ものすごい力で海美を抱きしめていた。

 

 

ホームセンターから離れて、トンネルを抜けた先にあった、アスファルトの庭を通り、そのアスファルトの庭にへばりつくように半円状になっている建物に入る。

この建物は、庭側が2階部分までがコンクリートの階段のようになっていて、3階以上がガラス張りになっている。

いや、いまはガラスではなく、木の塀で補強して、敵を狙える狭間や小さい窓がついている。

庭に面している半分がそんな造りだと、残りの半分だが、巨大な廊下みたいになっている。

その廊下の中央あたりに教室みたいな部屋がこれまた細長くあり、上から見ると、

庭、コンクリの階段、廊下、教室、廊下で、反対側に出るといったような造りだ。

しかし、この教室、両方の廊下に向かって小窓がついており、これも立て篭もることに特化しているように感じる。

海美とナポレオンは2階に通される。

前を歩くのは、変わった木の仮面をつけた男。

いや、女かもしれない。

洋服を着ているが、一番上に淡い青い反物を羽織り、たすき掛けにしている。

 

階段は踊り場がコンクリートの階段に接続されるように外に出ている。

その踊り場の下で、食事を提供している軽食屋みたいなのがあった。

廊下に椅子と机を持ち出して、食事をする者の他、武器の手入れ、地図を元になにかしゃべってる、本を読む、体を休めるなど、自由に過ごしている。



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第五章 第二部 村民

大人の階段を登りまして、オートレースの賭け方を覚えました。
村のモデルです。


「アバジャ、ルッコラちょっといいかい?」

地図を元に相談している人と、数人で武器(さっきの傘)の手入れをしている人に、仮面の男が声をかけた。

2人は立ち上がると、こちらではなく、空いている机、椅子に並んで腰掛けた。

向かい側にナポレオンとまつりが座る。

「なんだ?なんだ?」

2人以外に話し合ってた人たちがグルリと集まる。

「さて、ここに来てもらったのは、こちらにいらっしゃるナポレオンさんとまつりさんから妙なことを聞いたからだ。」

連れてきた仮面の人は座らず、机に手を置いて演説するように話し始める。

「妙なこととは?」

「ルッコラ、ちょっと待て。まず自己紹介させる。まぁ、こっちに座っているのはナポレオンだが、奥の…」

左手を前に出しながらペラペラしゃべり、まつりに手を向けた。

「………。」

どうしよう。

まつりは困った。

第一、マントも海美もいないので、みんなに注目されるのが恥ずかしい。

いつもマントの隙間や海美の後ろというフィルターをかけていたから。

困って困って、思わず、頭に巻いてあるお面を前に回した。

「「!?」」

相手がびっくりしているのが分かる。

どうしよう…どうしよう…

「じゃあ、俺から。」

ナポレオンだ。

「彼女はどうも恥ずかしがり屋なんで、聞いた話を。」

そういうとナポレオンは話し始めた。

太鼓を手で鳴らし音頭をとっている。

ナポレオンは小気味良く、

地獄の右手王を3人で倒したこと

最近、人間、仏、モノ問わず襲っている「ファミリー」の存在

それを2人は旅しながら倒して回っている

1人は、7位の攻撃を食らって内臓がおかしくなっている

ことをしゃべった。

「こんなとこかな?」

「…倒して回ってる訳じゃ。」

「けれど、現段階で仏、モノ、人間の総掛かりで「ファミリー壊滅」に向けて動いているのに、倒したファミリーの強さも数もこのまつりさんが一位だ。」

「それはすごい味方ですなぁ。」

「………。」

さっきから気になっていたまつりの目の前の人、いや、人か?化粧がすごい。

身体中に七夕の飾りのようなものをびっしりつけている。

顔は化粧で鬼のような顔をしている。

どういうことかというと、目の周りに目の化粧があり、頬に牙のような髭のような化粧がある。

口が裂けているように大きいが、それもお化粧な訳である。

「どうやらこの顔で驚かしてしまっているようだな。」

目の前の鬼は手を振ってみる。

「おじさんはこんなに優しいんだよ。」

「おいおいルッコラ。いくら君の邪気を払う化粧だと分かっていても、なにも分からないおとなしい女の子に絡むのはやめなよ。」

後ろに立っている人たちが話しかける。

「やっぱりそうか。俺にはそれこそ、「赤鬼」ぐらいがちょうどいいか?」

「「「ワハハハ」」」

周りが笑う。

しかしまつりは笑えない。

そして赤いマントがなくて良かったと思った。

もし赤いマントを来ていたら、鬼だと思われて、この恐ろしい顔の人と結婚させられてしまうかもしれないと思っていた。

「…そのファミリーってのは、いったいなに?」

白鬼の隣に座る、赤いヘッドバンド、赤とオレンジの組紐で装飾した人?女性?がしゃべる。

なんかモフモフしているようにも見える。

「アバジャ。それは俺からでもいいか?」

「もちろん。」

「おほん。では、」

仮面の男が手を机について話す。

「では、ファミリーってのは、行きながら地獄道に落ちた人間たちのことだ。」

「なに?」

アバジャではなく、立っている人たちの中から声がした。

「驚くことも無理はない。」

ちょっと待ってろ。

そう言うと、仮面の男は自分のスペースにしてあるロッカーから巻物を持ってきた。

巻物を30cmぐらい出す。

ある男と女が写っている。

写真ではない。絵だ。



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第五章 第三部 ファミリーの秘密①(人間道から畜生道へ)と、戦闘準備

この巻物は、信濃善光寺で見た地獄絵図が頭に浮かんでいました。
みなさんもぜひ地獄絵図を見てから、お読みください。
あるいは、進撃の巨人のエンディング、「夕暮れの鳥」もイメージしています。
ゆっくりお楽しみください。


「昔々、ある人間の家族の兄妹が恋に落ちた。」

男と女が手を繋いでいる絵だ。

シュルシュルっとまた30cmぐらい出す。

「どうしても結婚したかった2人は家を飛び出すと捕まらないように途方もない距離を離れつつ結婚した。」

また30cm出す。

二人の周りに2人子どもが増えた。

男の子と女の子に見える。

「するとまぁ、起こることがある。子どもが生まれる。」

「だが、」

また、30cいや、60cm出す。

神々しい、後光が指す仏様と、その家族の手足や頭に動物の耳や角がついた絵が出てきた。

「それを仏様は許さなかった。『身内同士で子供をつくるなど、動物のやることだ。』と、生きているのに畜生道に落とされたのだ。」

60cmを巻き取ると、続きの30cmを出した。

今度は子どもがたくさんになっている。

「ただ、畜生道に落ちたからといって、家族は反省もしなければ、仏様に助けを求めることもしなかった。それどころか、親の真似を子どもがして、親子でもそんなことをするようになった。」

また巻物が進むと思ったとき、

「ここからはグロいぞ。」

と言った。

その瞬間、なにかピコン!ピコン!ピコン!と音が鳴った。

 

「ひっ!」

完全に巻物語に入り込んでいたまつりは悲鳴を上げた。

「おや?どうやらここまでか。」

机の周りの空気が変わる。

みんなグググッと上を見て耳をすませている感じだ。

「来たな。」

仮面の男は素早く巻物を巻き、ロッカーにしまう。

そして、傘のような物を取り出した。

また、頭、いやおでこにある木のお面を下に下げて、目を覆った。

目や眉毛を守るぐらいで、鼻や口は見えている。

「みんな。状況は?」

「………」

誰も返事しない。

まつりも別に自分に言われたと思ってないから返事しない。

「なるほど。馬鹿正直に真正面からか。」

薄い、いや、古ぼけて色の抜けた膝ぐらいまである布を羽織る。

紐で腰あたりを巻いて、布を暴れないようにしながらまだ指示を出している。

「さっきの大蛇のようにやれば大丈夫だ。なに?人影が見える?」

 

 

ピロリン!ピロリン!

また音が鳴り、今度はさっきの音楽のスピードが上がった。

「だいぶ迫ってるな。アバジャ。」

「うん?」

赤い組紐と赤いヘッドバンドを口と右手を使い、器用に結び直している人?は答える。

「悪いが指揮所に行ってくれ。」

「私よりあなたのほうが指揮に向いてるんじゃ?」

「全体を見渡して、適所への連絡はあんたのほうが向いている。俺は自分の部下を直接鼓舞するほうが向いてる。」

「はいはい。」

赤いヘッドバンドを外しながら答えた。



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第五章 第四部 モノの好きなもの

今度は是非、花の匂いを嗅ぎながら読んでください。
出来れば春に咲く花がいいかな。


「まつりちゃん!」

鬼のような動く七夕飾りみたいなルッコラに呼ばれる。

手に竹を持って、頭に三角の紙を巻いている。

と、思ったら、そうじゃない。

そんなよう化粧をした人がまだいる。

「よし。みんな頼むぞ。」

「「おぉい。」」

そういうと、その場にいた化粧をした人は散っていった。

「まつりちゃん、こっちだ!」

ルッコラだけ残っていたが、竹ではなく、木の枝を持っている。

枝だけでなく、青々とした葉っぱもついている。

そして、その枝にはなにか紙があり、そこにもなにか書いてある。

「悪病退散 将鬼大明神」

と書いてあるが、読めないので、あとで海美に読んでもらおうと思っていた。

「まつりちゃんはこれを使ってくれ。」

なんか箱を渡された。

いや、箱じゃない。

被るようになっているところから布が垂れているから、箱に見えただけで、正面が見えない箱みたいな形になっている。

そして、その上の部分には花が植えてあり、いい匂いがする。

「これは、花笠と言って、モノを呼び寄せるんだ。」

「へぇ…呼び寄せ?」

「大丈夫。いまはこれを持っているが、俺も花笠を振る。まつりちゃんはこれを頭から被って、俺についてきてくれ。」

「ちょっと待て。」

ルッコラがまつりに花笠を被せようとするのをナポレオンが止める。

「俺も花笠をやる。1人じゃ心配だ。」

「…頼むぜ。」

ナポレオンは獅子頭を後ろに下げて、背中で支えるようにすると、花笠を被った。

獅子が花を吸っているようだ。

「じゃ、行くか。」

ルッコラに連れられて、2人は建物を出る。

アスファルトの庭に出る。

耳を澄ますと雑多な音が聞こえている。

しかし、それより音楽が鳴り響いている。

気がつけばもっと音楽が早くなっている気がする。

「来たな。見てみな。」

枝で斜め上を指す。

建物の3階部分がガラス張りになっているのだが、そこに赤いアバジャがいるのが見える。

そのアバジャが赤い旗を掲げて、入ってきたトンネルの方向を旗で指している。

「あっちから敵が来るっていう合図だ。」

「そこから来るなら我々はどうするんだ?」

ナポレオンはいつもの風車も持っている。

「馬鹿正直にトンネルに突っ込んでくるよう誘導する。」

「どうやって?」

「そので、まつりちゃん。君の出番だ。これを鳴らしてくれ。」

「これは?」

「これはサザラっていう楽器だ。これを鳴らすとモノにとっていい匂いがしてモノが寄ってくる。これを使えば、頭のいいモノ供も匂いに惹かれてトンネルに突っ込んできやがる。そうなりゃハチの巣だ。」

「なるほどな。まつりさん。やってくれるか?」

「はち。」

そんなこと言いながらまつりは渡された竹を構える。

左手で竹を持ち、右手でバチを持つ。

この竹、音が通るようにギザギザになって音が出るようになっている。

「まず、竹をゆっくり叩いてみて。」

カチャリ!

叩くと竹が小さい音を立てた。

すると、なにか甘く、春っぽい、ピンク色のような匂いがあたりに広がった。

「これが、やつらの好きな匂いだ。」

ナポレオンは驚いたように何回もまばたきして、そのあと匂いを目で追うように嗅ぎ始めた、

「人間はこの程度だが、モノどもは飛びつきたくなるほど良い匂いに感じるらしい。まつりちゃん。もっと何回も叩いてみてくれ。」

カチャリ!カチャリ!カチャリ!

なんだかどんどん匂いの空気みたいなモヤがドンドントンネルの方向に向かっていった。

ピンク色の優しい匂いだ。

すると押し寄せるモノどもの野太い怒号や歓声が大きくなり、それに負けないようにか対抗する銃撃の音も大きくなっているように感じる。



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第五章 第五部 激戦

いまこれは、m-1の録画を見ながら書いてます。
音符で戦う音楽家をつくるか


「あっ!」

ルッコラは、また三階を見ていた。

アバジャが旗を上下に振っている。

「突破される可能性がある。まつりちゃん、ナポレオン。すぐ脱いで。…ナポレオン!」

ナポレオンは狂ったように匂いを追いかけている。

ルッコラがナポレオンの鼻を摘み、匂いを嗅がせないようにした。

すると、

「あれ?」

すぐ元に戻った。

慌てて花笠を外し、そこに置いた。

途中、絡まった紐はナポレオンが素早く懐の刀で切ってくれた。

三人は大慌てで建物に逃げる。

「こっちに来てみろ!」

まつりは奥に逃げようとしたが、ルッコラに2階に上がるよう言われる。

「なんでですか?」

「まつりちゃん、すまないが、この後の展開で突破されたかここで食い止めるぞ。」

「…はい。」

花笠を置いたコンクリートの庭から、半円になっている建物に入った訳だが、コンクリートの庭を向くかたちで、いすがずらっと並び、段々の観客席になっている。

その観客席から建物の内側に入るには、階段を使うわけだが、その階段の前にはコンクリートで塀が出来て、正面から直進出来ないようになっている。

元々、なにかから階段を防ぐように造られていると思うが、それがなにかは分からない。

ルッコラは半円の建物に一番近いところにあったコンクリートに隠れて、まつりとナポレオンもそのコンクリートに隠れた。

「モノどもら、あの花笠に集まるから、おやっつぁんがなんとかしてくれるだろう。」

そうルッコラが言った瞬間、チャチャチャチャチャチャチャーン!と音楽が鳴った。

「あのトンネルのところの退去命令だ。来るぞ。」

5秒もしないうちに、モノどもが走って花笠に到達し始める。

人間を襲うわけではなく、ナポレオンのように匂いを嗅いでいる。

ナポレオンが獅子頭を元の頭の上に戻しながらしゃべる。

「あれはもうサザラを鳴らしてないのだから、まさに残り香を楽しんでいる訳だ。」

「………。」

「……。」

まつりはまさにその通りだと思っていたが、ルッコラはお前が言うな。と思いつつ、ナポレオンの鼻を摘んだ人差し指、中指、親指を擦り合わせた。

ボーン!

太く、腹に響く鈍い音が聞こえたと思うと、軽い「カーン!」という音と共に、花笠に群がるモノどもの真上でなにか爆発した。

その爆発したものは、無数の線になり、花笠に群がるモノどもに降り注ぐ。

「なに?」

まつりは肩をすくめて驚いた。

しかし、すぐ腹に響く音が鳴り出す。

その音は絶え間なく、連続して音を出している。

まつりはコンクリートの裏側に隠れているのでなにが起きたのか分かっていない。

「まつり!」

ナポレオンに呼ばれる。

「これは?」

「銃で反撃してるんだ。この音を立ててるのは味方だ。」

「味方。」

まつりはコンクリートからグラウンド方向を見ているルッコラを見る。

ルッコラの後ろから覗き込むようにグラウンドの方向を見る。

すると、グラウンド側を向いていた座席のありとあらゆるところから、花笠のところにいるモノどもに向かって、明るい光が吸い込まれている。

「おやっつぁんが、またあれを撃つぞ。」

ルッコラがグラウンドを見つつ、左手でまつりを隠そうとした。

また腹に響く音。

そして、その爆発したものは、花笠の牛ではなく、入口付近で、また白い線が降り注いでいる。

その線に触れるモノは動きを止めたり、逆にこちらに向かってきているモノもいる。

「あれは?」

「あれは、おやっつぁんの最終兵器、爆発すると、ねばねばした紐状の状態になる爆誕だ。

あれを浴びるとネバネバして自由に動けなくなる。

そこを、おやっつぁんの部下たちが攻撃するっていう戦法だ。」

「うん。」

「二発目は、逃げそうだったから逃げないようにしたんだ。今回はおやっつぁんは、ご機嫌だな。」

まつりは左の、椅子の下に隠れている2人を見る。

傘に見える銃を構えている。

狙いを定めて撃つ。

2人一組らしく、片方に撃った傘を渡して、もう1人が持っていた傘を借りて撃つ。

またその繰り返し。

敵がいても強いが、敵がいなかったら飽きそうだと思った。

そうこう考えている間に、さっきまで流れなかった爽やかな曲が聴こえてきた。

「どうも危険が去ったようだ。」

ルッコラがつぶやくと、まつりはあたりが暗くなり始めて、花笠が夕日でオレンジなのか、モノの血なのか分からなくなっていた。



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第五章 第六部 直会

m-1を録画していたということですが、日曜のリアタイは鎌倉殿の13人の最終回を見てました。

ご苦労様でした。小四郎


「まさかまつりちゃんにこんな大勝利を見てもらえるなんてな。」

2階の、巻物を読んでもらっていたスペース。

いっしょに敵を誘き寄せたルッコラとナポレオン、全員に旗で指示を出したアバジャ、花笠に集まったモノどもを足止めしたおやっつぁん、そのおやっつぁんが席に座り、おやっつぁんの部下で、モノどもを倒した人たちがそのテーブルを囲む人たちの外がに椅子を持ってきて座っている。

みんな何かしら食事をしている。

まつりの前にもなにかどんぶりがあるが見たことない食べ物だ。

「………。」

赤くて濡れててツヤツヤしている。

「…まつりちゃん、食べないの?」

赤いアバジャが声をかけてくれた。

「えぇ!?いや、あの…」

海美から箸の使い方は習っていたが、海美ほどうまく使えないから一回の食事で何回かこぼすし、何個も

「それはやっちゃだめ。人前でやると馬鹿にされる。」

というルールがある。

やれ、取りにくい食べ物を突き刺してはいけない。

取られないように小皿に取ってから、また大皿の食べ物を取るのはダメ。

視点と箸を合わせていろいろこれを取ろうかあれを取ろうか迷うのはダメだとか覚えることが多すぎて、海美が近くにいないと心配で箸が使えない。

白米だったら良いかもしれないけど、それだけならまだしも、赤い見たことないものを食べろと言われてもどうせまたこの食べ方のルールがあるだろうから、食べられない。

「こっちのほうが良い?」

アバジャは黒い筒のようなものを食べている。

「それは?」

「この鉄火丼を海苔で巻いたようなもの。鉄火巻きと言うのよ。」

「作り直してあげましょう。」

料理を作ってくれた人がどんぶりを持っていってくれた。」

あれなら自信がある。

だってアバジャはその鉄火巻きを手づかみで食べている。

「はい。お待ちどう。」

その黒い筒のものが届く。

「いただきます。」

手づかみにする。

意外と黒い筒はツルツルしていると思った、

一口食べてみる。

そんなに感じなかったが、生臭いと思った。

これは魚か。

食べた断面をみる。

赤い。

赤くドス黒い。

だけど、美味しい。

「これは…」

「これは、鉄火巻き。美味しい?」

「うん。」

うなずく。

「それは良かった。」

料理した人が安心したように笑う。

「ここは博打場だったらしいから、まぐろを食べるんだ。」

そう言いながらもう一本、黒い筒を持ってきた。

「………。」

「これはカツを巻いたものだ。食べてみな。」

出されたものを掴む。

なるほど、さっきのと似ているが、中には魚じゃなく、黄色いパリパリしたものと、肉が入っている。

「カツ、勝つってことらしい。まぁ、敵さんが来た時にパワーが出ないといけないから、みんなに食べてもらうんだ。」

食べてみる。

口の中が痛いが肉がうまい。

これがまた米に合う。

「こっちのほうが気に入ったかな?」

うん。とうなずく。

「じゃあまた出してあげるよ。今度は牛や鶏にしてみようね。」

「はい!みんな注目!」

急に号令がかかる。

「食べている人はそのまま続けて。モノが来て、説明できなかったところをとりあえず区切りつけるぞ。」

そうに聞いて、女の人や食べている人が一階に移動していった。

やっぱりあの絵は食事中は気持ち悪いんだろう。

まつりはそんなこと気にせず座ってカツ寿司を食べている。

「いいかな?」

おやっつぁんは周りを見渡すと

「では。」

と言ってさっき、畜生道に落ちたところを広げた。



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第五章 第七部 ファミリーの秘密② 畜生道から餓鬼道へ

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
25日に投稿を最後にしてしまい申し訳ございません。
年末にかけて大忙しだったもので、投稿が遅れました。
とりあえず、五章まで終わらせるよう頑張ります。


絵は、

一番最初の親らしき男が黒々と光り、最初の子どもの男の手が刃物のようになっている。

2人は、なんと妹であり、母親である女をバラバラに解体している。

その様子を仏様が見て、後光の光が当たっている部分が防具や武器に変化していた。

「ある時、父親は気づいたんだ。あれだけ美しく、手に入れたかった妹が、自分の娘たちに劣っている。それどころか醜くなりつつある。それに怒ったのか、困ったのかは分からないが、第一の子供と結託して自分の妹を殺してしまったらしい。

すると、また仏様が現れて、『畜生とはいえ、傷ついたものは助ける。貴様らは畜生より劣る阿修羅だ!』と言われて、阿修羅道へ落ちたのだ。」

みんな息を呑む。

また30cm出す。

母親の死体が正面にあるとすると、それに寄り添う子どもと、そこから去ろうとする女たちがいる。

「ここで、母親が殺されたのを見た長女は逃げることを思いついた。長女についていく子供たちが一斉にアジトみたいな住んでいたところから逃げ出したんだ。それがこの絵だ。ただ、逃げたのもいれば残るのもいた。それが泣いているやつらだ。」

またシュルシュルっと30cm出す。

今度は、その死んだ母親ともう1人似たようなのか死んでいる。

それは人間とは思えない骨をしている。

その骨を取り囲むように骸骨や骨がバラバラと散らばっている。

みんなでこの巻物を見ているが思わず女の人は後ろに下がる。

「だから見るなって言ったろ。まつりさんは平気なようだが、」

まつりはなんとも思わない。

カツが食べきってしまった。

駅舎の上に潜んでいれば、殺人列車の荷台に、あんなのが積んであるのは何回も見た。

「まぁ、じゃあ、なにかっていうと、これは、実は、ファミリーでは前々から食料問題が発生していたんだ。アジトに潜んで、山や川で手に入るぐらいのものを食べているだけではネズミのように増えるファミリーを食べさせるだけの豊かさはない。だから、夜な夜な峠や周辺の村を襲撃した。

それはまぁ、人間道だった時からやってきていたが、ここでついに1番の父親が禁断のことをする。

自分のひ孫を殺して食べたんだ。」

「………」

「………」

「ひでぇな…」

「………」

みんな黙る。

一人、赤い人がしゃべったのみだ。

「ぅうん。」

咳払いをしながら仮面の男はまた巻物を取り出す。

今度は60cm出した。

また仏様が後光の光をさしている。

さしているのは、二番の母親の死体と、食べられた男の子を取り囲んでいる家族たち。

「仏様はその男の子が不憫に思ったのと、『阿修羅は戦いの神としての信仰がある。それにも関わらず貴様らは、殺した相手に敬意も払わず、餓鬼のようにむさぼり食いおった。貴様らは餓鬼道でも目に余るわ!』と言い、餓鬼道に落とされてしまったのだ。」



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第五章 第八部 アバジャの秘密

年末は友人が地元に来たり、ふるさと納税の書類を作成していました。
今年は、日本酒の
「金玉」
「万古」
「珍宝」
を買いました。
読み方は、
「きんぎょく」
「ばんこ」
「ちんぽう」
です。


「今日はここぐらいで止めとくか。もう遅いし、まつりちゃんを見ろ。」

話を聞いていた人たちはみんな不満そうだがまつりを見てしょうがないと思った。

目が半分しか空いてないし、何度も目をつぶる。

首も重そうだ。

「続きはまた今度な。さぁ寝る当番のものは寝て、深夜警戒のものは準備だ。」

おう!と言う声と共に、寝る準備をするもの、武器の手入れをするものに別れていった。

「まつりちゃん、行こう。」

「うん…」

アバジャに連れられて、ホームセンターの方に移動して行った。

元々ホームセンターだった場所は医療室と、休眠室になっている。

ホームセンターの資材はまだまだあるから、二段ベットだったり、仕切りだったり、快適な空間に改造されまくっている。

もちろん、医者もいるから治療も出来る。

「ここに寝なさい。私は上だから。ね。」

「うん…」

そのまんまの格好で、二段のベットの下に入れられる。

鉄パイプで器用に作られたベットだが、いまのまつりはそんなこと気にしてない。

眠くてしょうがないのだ。

「もし起きたら、上に私がいるから…」

「………。」

「と、言ってももう無駄みたいね。」

まつりは崩れるように寝てしまった。

アバジャも片腕で器用に梯子を登るとマントを脱いだ。

アバジャの五つ道具を隠したマントがジャラジャラと音を立てて布団の上に降りる。

アバジャは無い右腕をさする。

アバジャは、モノどもが地獄から攻め入った時、人間側というか天道側で必死に戦った。

彼女は生まれながら、地上に吸血鬼がいたぐらいのとき、人間道と畜生道のハーフとして生まれた。

もちろん、モノが暴れる前だから人間からも畜生からも追い出され、ある山奥で天道の人々と暮らしていたのだ。

人間側が負けた後は、人間の救援を行う救助隊の副隊長として活動し、多くの人々や天道に味方するモノを助けていた。

もちろん、救援隊も人員が増え、大隊となり、もう一度モノと戦争になっても勝てるんじゃないかと言われるほどの救援隊を率いていた。

だが、あるとき、

そんなに難しくない救助ミッションを終えて、懸賞首のかかったモノが潜伏しているはずのアジトに乗り込んだ時、いつも背中を預けている隊長がアバジャの右腕に斬りかかったのだ。

アバジャはそのまま倒れ込み、隊長が自分の荷物と右腕、懸賞首を持って出て行くところが見えた。

すぐさま隊員に救援信号を出したが誰も来なかった。

たまたま、独立を手伝ってやった元隊員の部隊が通りかかり助けてもらったのだ。

アバジャは基地に運ばれたが、なんと基地が破壊され、備品も備蓄もなくなっていたし、隊員の詰所も破壊されていたのだ。

なにがあったのかわからぬまま、アバジャは1人になってしまったのだ。

その後、客員としてその部隊に世話になり、マントと必要な持ち物を手に入れ、隊長から真意を聞くこと、右腕を取り返すために旅に出たのだった。

もちろんここにも長居するつもりはない。

「マントを見るとこんなこと思い出してダメね。」

そう言うと、右側を下にして寝てしまった。



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第五章 第九部 夜戦

一月になったので、餅の食べ方も研究しました。
昨日作ったのは、ネギを千切りにして、それにごま油と塩、胡椒を振ったものを餅に乗せて食べるという方法です。
これは、餅の表面が焼けていたほうが美味しいので、フライパンで餅を炙るのがいいとおもいます。


 

「トイレ…うん?」

まつりは起き上がったが、どこだここは?

パイプ棒で囲われた檻みたいなところに寝かされている。

「…あぁ、アバジャさんか。」

なんか分からないけど、みんなで絵の話を聞いてたけど、アバジャさんに連れられてどこか連れてこられたのは覚えている。

「とりあえず。」

と、いろいろ歩いてトイレに行ってみようと思った。

ありがたいことにあっという間に見つかった。

ホームセンターだったわけだから、トイレの矢印は天井からぶら下がっているし、建物の出入り口の近くだからすぐ見つかるわけだ。

すぐ終わって、戻ろうとした。

戻るのもなんとなく分かる。

海美が寝かされてるはずの病棟を突っ切れば良い。

ついでに海美も見ていこうと思う。

病気やけがの人だから静かに通らないといけない。

海美も峠や大蛇に乗せられているときは辛そうだった。

ただ、ここに来た時は楽そうだった。

もう治ってすぐ普段の生活に戻れそうな人から、手足が吹っ飛んで義手義足を抱いて寝ている人、毛布にくるまってガタガタ震えている人などいろいろいた。

包帯でぐるぐる巻きになっていた特徴的な人の近くに海美はいたはずだが、海美がいない。

「あれ?」

と思い、もう一度包帯の人を中心に見て回るがやはりいない。

それだけじゃなく、たしかにいないのだが、全部ベットが埋まっている訳ではない。

乱雑に掛け布団が乱れているベットがあり、そこには誰もいない。

それともう一つ、丁寧に畳まれた掛け布団のあるベットが一つ。

そして、他のベットには人が寝ている。

「…ということは。」

その時、寝る直前にだれかから言われたことを思い出した。

 

 

もし起きたら、上に私がいるから…

 

 

わたしゃ おんがくか

やまの こりす

じょうずに バイオリンを

ひいてみましょう

キュキュキュッキュッキュッ

キュキュキュッキュッキュッ

キュキュキュッキュッキュッ

キュキュキュッキュッキュッ

いかがです

 

やまのおんがくか

作詞:水田詩仙

作曲:ドイツ民謡

 

「音楽に合わせて歌ってる場合じゃ無い!」

ルッコラがおやっつぁんに小突かれている。

「だって、この緊急出動の音って元々これだったんだろう?」

「まつりさんのことも考えてやろうぜ。」

「あいよ。」

まつりは、吹っ飛んで戻り、アバジャに相談した。

アバジャはマントを持ち、飛び起きると医療室のベットを確認すると、患者移動のカルテを読む。

今日も明日も海美を移動させる予定はないと分かると、緊急放送を流して幹部を収集し、厳戒態勢を敷いた。

また、絵について話し合った二階にみんな集合する。

まつりは困ったような顔をしている。

ルッコラもふざけているが、まつりを和ませようとしてる残念な親父ギャグである。

おやっつぁんはそれこそ親父のように部下たちに「着替えたものから、索敵で探して、なにかあれば報告しろ。」と指示をしている。

「そういえば、ナポレオンは?」

「誰も見てないぞ。」

「2人でいなくなったのか?」

「それはない。」

アバジャが長い足をテーブルに上げて威嚇する。

馬鹿なことを言うな。

と、訴えているようだ。

「もう1人いなくなっているから、海美さん、ナポレオン、そして、海美さんの近くで寝ていたモノ…いや、もの。」

「それも含めてか…そのいなくなったモノは?誰だ?」

「それが、夕方に飛び込んできたものです。」

「「なんだと?」」

ルッコラとおやっつぁんが声を上げて互いに顔を見合わせた。

「おやっつぁん、なにか?」

アバジャが聞く。

「あれは、何者じゃない。モノだったんだ。」

「と、言うことは…」

海美は拉致られたということだ。

「総員、村の外を探せ!なにかあったら知らせろ!」

おやっつぁんが叫ぶ。

部下たちに無線でつながるほっかむりで全員に伝わる。

 



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第5章 第十部 激戦

なんとなく録画しておいた水星の魔女、めちゃくちゃ話題になった12話、撮れてなかった…


ことの経緯はこうだ。

まつりがアバジャとベットに向かった後、ナポレオンは大蛇を山に返しに村から外に出た。

そして、蛇を山に連れて行って、離すと、正門近くまで戻って来たのだが、トンネルから少し離れたところになにか人影が見えたので声をかけた。

「こんな時間に…」

そのとき、異常さに気がついた。

なにかその者は背負っている。

しかも髪の毛が長いから、女性だと思った。

そして、すぐ風車で攻撃を仕掛けた。

人間の言葉でない言葉で、

「ちくしょう。」

と言ったのがわかったからだ。

こいつがすばしっこい。

人を背負っているのにこちらに向かって走ってくる。

「このやろ!」

ナポレオンは慌てて伸ばした風車を巻き戻すと、今度は横に払った。

しかし今度はしゃがみ、ジャンプして、かわす。

あっという間に左手前1mぐらいまで詰められてしまった。

「ま…まずいか?」

ナポレオンはいつも太鼓を鳴らすのだが、今回は違う。

実は、獅子頭に日本刀が隠してあるのだ。

口から素早く逆手に抜くと、突き立てようとした。

襲ってくるモノはかわされる。

ただし、後ろの背負われている人は傷つけられたくないだろう。

と、攻撃を続けようとした。しかし、辞める。

まさか、モノのみに与えられた選挙制度を崩壊させて、今度はファミリーを殺そうとしている海美を殺せる人間などいない。

それが甘かった。

向かってくるモノは、ナポレオンの体重のかかった左足を引っ掛けると、ナポレオンを転ばせて、引っ掛けたのと逆の足で背中を蹴り上げた。

「ぐぇ!」

っと、ナポレオンが声を出す。

思わず前傾になる。

その顔面(この場合、獅子頭だが)に今度は膝蹴り。

獅子頭が吹っ飛び、獅子頭についている顔を隠す布もなくなり、ナポレオンの素顔が敵に見られる。

「強い…けれど!」

ナポレオンは刀を口で咥えると、そのモノに抱きついた。

顔を曲げて、口で咥える刀で斬りつけようとする。

「危ねえなぁ!」

このモノもなんとか首を曲げて刺されないようにする。

しかしそうもいかない。

剣先が口の中に入った。

(今だ!)

ナポレオンは無理矢理ぐっと刀を押し込む。

「あががが」

モノの右頬から刀が出てくる。

(背中の人を落とせ!)

「ぐごっ!」

驚くことが起きた。

右頬から刀が出てるから抜こうと逃げるのが普通だが、なんと向かって来た。

右頬から刀がジュリジュリ出てくる。

血もダクダク出る。

その時、頭同士がゴズっとぶつかる。

ナポレオンの歯が飛ぶ。

刀を咥えてるもんだから、根元からや、途中からかけて、歯が何本か飛ぶ。

「おぇっ…」

刀を上手く咥えられず、刀が右頬に刺さった状態でモノが奪う。

「あっぶねぇ」

モノが左下を大きく見る。

そうすれば右頬から出た刀がナポレオンの目のあたりを向く。

「危ねえ!」

ナポレオンが手を離した。

「馬ー鹿!」

ピョン!とモノが下がり、左手で刀を無理矢理引き抜こうとしている。

「ちくしょう…」

ナポレオンが倒れ込みながら風車を拾う。

そんなもんだから、一瞬モノから目を離してしまったのだ。

「あれ?」

モノが刀を抜いていたあたりに、海美が倒れ込んでいるだけだ。

「しまった!」

「もう遅い。」

背中から声をかけられる。

まるで耳に氷を押し付けられたようだ。

いや、本当に冷たいもの(刃)を左後ろに突きつけられたのだった。

ナポレオンの衣装の正面は防御出来ているが後ろは防御出来ていない。

「おま…」

「だが、お前に死なれては困る。」

モノがそう言うと、ナポレオンを突き飛ばし、足を踏んづけて、変な方向に向けた。

「お前は人質だ。」

そういうと、モノは大声で何かしら叫び始めた。

すると、すぐに暗闇から出るわ出るわのモノどもの群れ。

「お前を盾にして、入村させてもらう。悪く思うなよ。」

「ぐっ…」

ナポレオンはそれでも風車を構えようとした。

しかし、あっさり、餓鬼か阿修羅に止められてしまい、磔にされて、村の入り口に向かわされてしまった。

「ふぅ。」

モノは右頬を抑えながらゆっくりする。

「さて、ここで見ていても良いが…」

周囲を見渡し、さっきの女を探す。

しかしどこにもいない。

「モノに連れて行かれたか…まぁいいや。モノに捕まれば、助かる見込みもない。あぁ。」

口を大きく開けたり、閉じたりする。

「鉄みたいな味がするな。」

モノの先鋒がトンネルを進んでいくのを見る。

空を飛べるモノもレース場に回り込んで行く。

「まぁどっちにしろこれで、あの村の人間どももモノどもに攻められておしまいだ。ざまぁみろ。」

そう言うと、そのモ…いや、ファミリーはどこかへ行ってしまった。

これが、長男である。

ついさっき、郵便屋を襲い、自分達がどんな立場にいるのか分かっている。

しかし、海美を知らなかったのは最大の誤算だった。

まさかこんな綺麗な女の人が自分の家族を殺した人だと思わなかったのだ。

ただ、知っていればその場で海美は殺されていたはずだ。



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第5章 最終部 退村

とりあえず、これで五章は終わります。
ありがとうございました。


とか、なんとかいった感じだが、ナポレオンがわかるのは正門に連れて行かれたとこほまでなので、ナポレオンは海美がファミリーに連れてきた行かれたと思っている訳だ。

「ナポレオン。ありがとう。もうしゃべらなくて良い。辛そうで見てられない。あとは任せて。」

おやっつぁんがしゃべる。

「まつり。ごめん…」

そう言うとナポレオンは泣きながら黙った。

「さて、」

おやっつぁんは立ち上がる。

医療班が緊急で刀の摘出手術を行うからと、みんな追い出されてしまった。

「最悪な状況だ。だが、全然諦めてない。だろ?ルッコラ?」

「もちろん。」

そう言うとルッコラは出ていった。

「アバジャ。今回は俺が指揮を取るぞ。」

「分かってる。まつり、来て。」

「うん。」

アバジャはマントを着てまつりと外に出る。

アリーナもレース場もモノで溢れている。

「状況は?」

おやっつぁんが部下に確認する。

「人がいなかったので三階は制圧されました。二階が撤退戦中なのと、一階はレース場から入ってくるモノで激戦になっています。」

「了解。アバジャ、ルッコラ。あれを使う。使ったら総員突撃で、押し返す。」

「了解。準備する。」

ルッコラが一階に入っていく。

「分かった。まつり。」

そう言うとアバジャは正門と逆の方向にまつりを連れていった。

モノは正門トンネルの方向に殺到しているからこっちはガラ空きで、明かりも人もモノもいない。

「あなたは海美を追いかけなさい。」

「えっ?」

「ぼやぼやしてると海美さんが殺されちゃうかもしれない。あなたは追いかけて。」

「アバジャは?」

「私はここを死守する。みんないるから。あなたは、あなたの大切なものを守りに行きなさい。」

アバジャがまつりに目線を合わせる。

遠く、建物の中で銃撃戦になっている音、モノを集める太鼓の音が聞こえる。

「いっしょに行くことが出来なくてごめんなさい。代わりに、これを」

アバジャは頭に巻いてある額当てを取るとまつりに巻いてあげる。

「これは、頭を守ってくれるだけじゃなく、力も湧いてくる防具だから。あなたを守ってくれるわ。」

「…ありがとうアバジャ。じゃあこれを。」

まつりは頭に巻いてあるお面をアバジャに渡す。

「これは、穴が空いてるけど、頭に巻くと良いかも…」

「!…ありがとうまつり。大事にするわ。」

アバジャは受け取ると、お面を額に巻きつけた。

「どう?」

「似合ってる。そっちのほうが好き。」

「そう。」

「じゃあ、行きます。」

「いってらっしゃい。足場が悪いけど、すぐ明るくなるから、明かりを目当てにすぐ進んでね。それと大きい音が鳴るけどそれも無視して進むのよ。」

「分かった。」

「じゃあ、行って。」

「うん。」

まつりは真っ暗闇の土手みたいなところに走り出した。

アバジャは暗闇でも見える。

アバジャの道具の一つ、透視メガネの影響だ。コンタクトのようにしているため、アバジャの目は赤く見えるのだが、実はアバジャは暗くても、霧でもずっと遠くが見えているのだ。

それで、ここぐらいまで逃げれば大丈夫だと思うところまでまつりが逃げたら、建物に戻った。

建物は二階、三階が制圧されて、おやっつぁんが最前線にいる。

モノは、アリーナ側から一階に押し寄せようとしているが、それを死守している。

「おやっつぁん。」

「アバジャか。まつりちゃんは逃げたか?」

「えぇ。」

「良し。実はもう、敵さん、主力っぽいものがレース場にいるんだ。ルッコラ!」

おやっつぁんは、ほっかむりで連絡を取る。

「応よ。」

「やれ!」

「了解!」

5秒ほどすると、火薬によるドカン!ドカン!という音がレース場から聞こえてきた。

高いピューピュー!という音も聞こえる。

モノが後ろを振り向く。

鮮やかな閃光が目に入っているのだろうか、足が止まっている。

「総員、一斉発射だ!」

おやっつぁんが言うと、鉄砲ではない、バレーボールほどある黒い玉がモノどもに飛んで行く。

そのバレーボールも爆発して綺麗な色を発射させている。

「みんな、絶対顔を出すなよ!」

おやっつぁんが必死に叫ぶ。

そりゃそうだ。

顔出したら人間もモノも死ぬ。

モノも死ぬ。

モノに隠れる場所はない。

バレーボールみたいな球の攻撃とレース場の火薬の爆発は15分近くぶっ続けで行われ、モノの大半が巻き込まれた。

うまく隠れたモノもいるが、こちらにはルッコラの集合フェロモンと、おやっつぁんと死を恐れぬ勇者たち、そして一騎当千いや一騎当万のアバジャがいるので、この花火の後、攻略するのは不可能である。

建物の中の花火に参ったモノは一気にレース場に撤退した。

アバジャとおやっつぁんは追いかける。

レース場の生き残ったモノも急いで正面に逃げていくが、おやっつぁんの部下たちが逃がすわけがない。

少しでも動けばどんどん傘で撃たれていく。

「………。」

「どうした?アバジャ?こいつらか?」

おやっつぁんが、傘を振りかぶりながら聞く。

「いや、まつりちゃんが…」

「うまく逃してやったんだろう?」

「多分、あそこまで逃げれば大丈夫。しかも彼女は強いから。」

「じゃあ、信じてやるんだな。この村は…」

もう一回花火が上がる。

色もなく、ただ光ってバチバチバチバチ!と音がするのみだった。

「去る者は追わず、気持ち良くだろ?」

「そうね。また今日も忙しくなるわね。」

考えてみればいまは朝の4時近く。

全体的に青みがかった風景が訪れつつあった。



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第6章 第一部 夢の世界

お久しぶりです。
また溜まりましたので投稿します。
よろしくお願いします。


謎のでかい音と不規則に光る地面、その地面は、赤、紫、黄色という自然界にない色。

まつりはアバジャに言われたように後ろを見ずに夢中で走る。

大体、建物の位置が分かるので大きく迂回して自分達の来た森に向かおうとした。

幸い、モノに遭遇することもなく、森に入れた。

蛇に乗っていたときのルートで森に入れたから、道はある。

道を歩い…いや走っている。

出来るだけ早く海美に会わないと殺されるというのが彼女を動かしていた。

今の彼女は、いつもの大太刀を足の間に挟み、顔はアバジャからもらった額当てをつけ、マントもなく、肩から、ここに来る時持っていた風呂敷を巻き付けている。

中には、まつりの必要最低限のものが入っているだけで、地図も、食糧も水も持ってなかった。

それは海美が持っている係だったのだ。

「はやく海美に会いたい。」

それだけで走っていくが、人間限界はある。

水でも飲めばまだ違うかもしれないが、水はない。

まつりは全速力からジョギングになり、歩き…歩き、四つん這いになってしまいました。

そのまま数歩歩くと、仰向けにひっくり返ってしまった。

ひっくり返った場所が悪かった。

森は森でも平坦な場所ではなく山道のようなところであった。

正面三方向が山になり、正面の山にはトンネルが抜いてある。

歩いてきた道から脇道に逸れて、急坂を50mぐらい上がったところにお寺があるが、今は廃寺になりお坊さんや仏様もいない。

実は、このトンネルを抜けた先には寺があるのだが、まつりは知らないし、いま、寺のすぐ手前で人が倒れていることをそのお坊さんが知るわけもない。

「………。」

「………。」

「はぁ、はぁ、はぁ。」

「………。」

まつりの呼吸音だけが周囲に響くほかはは、音はしない。

一つポッと光がついた。

左側の山の中腹あたりだ。

一つの小さい小さい蝋燭の火のようなものだ。

蝋燭みたいで綺麗だねという感じだ。

またもう一つ灯がついた。

今度は右側の山の中腹からだ。

また同じぐらいの明るさだ。

すると、もう一つ、もう一つとどんどんどんどん、灯が増えていく。

もうすぐ夜が明けるのか、それともこの灯が増えているから明るいのか分からないぐらい周囲が明るくなっていく。

まつりは見えてないのか、見えていても疲れて動けないのか。動きもせず、丸くなっている。

カチャリ。

竹みたいな乾いた音がした。

その竹みたいな音もまた、あちらこちらから聞こえて来る。

その音がだんだん早くなり、花笠のサザラというより、カタカタカタと高速で竹と竹が当たる音になる。

夜が開けてくる。

この場所が段々と分かってくる。

なんと、この三方向の山、中腹まで全部お地蔵様が祀られている。

お地蔵様の前には、蝋燭と風車が供えてあり、その蝋燭が灯り、風車が回っていたのだ。

まつりに見えていたかは分からない。

まつりは寝込んでいる。

そのまつりを蝋燭の火と風車の音が包み込んでいた。

カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ



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第6章 第ニ部 夢の世界へ

この時期は、おそらく年末から年始にかけて書いていたと思います。
となると、半年…
待ってくださった皆様には感謝します。


「しずか。しずか。起きて。」

まつりは目を明ける。

見たことないほど真っ白な天井が見えた。

そして見たことない女の人がいる。

しかし、とても優しい感じがする。

「大丈夫?」

「うん。」

「じゃあ、起きて。今日はお父さんと出かけるんでしょ?」

「うん?」

「忘れたの?今日はお父さんが学会に出るからついていきたいって言ったのはあなたなのに。」

「うん?」

「はやく準備して。」

なにを着ればいいんだと思ったけど、身体が勝手に動く。

どこになにが入っているのか分かる。

クローゼットを開ける。

みたこともないような綺麗な服が入っている。

「お嬢様。どうぞ私をお選びください」

と服が言っているようだ。

「どうすればいいの?」

口では言っているのに体が動く。

落ち着いた色の服を選び、着たことないのに着る方法が分かる。

頭がキョトンとしている間に支度が整ってしまった。

「で?」

口では言っているのにまた体が動く。

「おはようございます。」

部屋を出たらさっきの人と違う女の人がいた。エプロンをつけている。

「おはよう。」

(あの人は誰だ?)

目では追ってみるが、誰かは分からない。体は勝手に動く。

「あぁ、おはよう。」

今度は男の人がいる。

「おはようございます。お父さん。」

えっ?

今、お父さんって言った?

ついに口まで勝手に動くようになった。

しかし、変なことを疑われず楽だとまつりは思った。

「しずかったら、すこし寝ぼけて、今日何するのか忘れたみたいなの。」

さっき起こしてくれた女の人だ。

「お母さん、それは言わないで。」

えっ?お母さん…この人が?

前、賭博場で鏡や、風呂の時の水面で自分の姿を見たことあるがたしかにこの2人は要所要所自分に似ている。

「そうか。じゃあまた説明するよ。」

お父さんは説明し始めた。

なんと、私は大炊御門(おおいのみかど)という貴族の娘だったらしい。

そしてお父さんは、武家政権崩壊のために活躍して、今は議員をやっているとのことだ。

「今日はSDGsの推進のための会議があって、行ってみたいって言ったのはしずかだったろう?」

私、そんなこと言ったの?

しかし、口はしゃべる。

「そう。日本は、ジェンダーの問題、エネルギーをクリーンにする。気候変動、海山の豊かさを守る。平和をもとめるってのは意欲的なのに、一番の貧困をなくそう。に取り組んでいるように感じられないから、有識者の方々に直接お聞きしたいと思っていたの。」

私はなにを言っている?

「今回の会議で出席する方々は貴族院の方が多いため、多分困って黙るだろうな。ハハハ。」

お父さんは笑って見せた。

笑ったりするような人じゃないと思ってた。

「たかちゃんは、本当に人をおちょくるのが好きね。」

「そう言わないでよふじさん。」

この2人、堅そうだなあと思ったけど意外と笑ったりするんだ。

「さて、行ってみようか。」

手伝いの人もいるけど、この親、なんと自分で車を運転する。

考えてみれば、食事もほぼ手伝いはいなかった。

予定の確認をしたらすぐ引っ込んで、朝食の片付けも三人でした。

貴族院では、変な家だと言われてるらしいが、この父、

「普通の言 家は別に家族でやっているのだから、普通のことも出来ないお前らが言うな。」

と言い、また黙らせたらしい。

また、貴族院の会議でおおっぴらに女性に意見を求めるというのも変わっているらしい。

 



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第6章 第三部 夢の世界で

年末年始にかけては、あるゲームにハマりました。
どのくらいかというと、そのヴァイスシュヴァルツを買い、カードショップでデッキ強化し、余ったカードはファイリングするところまで行きました。(まだまだか)


大概、女の人はいるが、それはしゃべる手伝いや世に言うジュエリー感覚で自慢のタネに連れて行くのだが、尊正は「女性だとどう思う?」とすぐ藤乃にしゃべらせるのだ。

大炊御門家であるとは言え、他の貴族院の人は家長制男尊女卑の考えが強い人ばかりなので面白くない。

しかし、世間の流れや民衆はそれをぶっ壊してほしいと思っているため、民衆の支持は貴族院出身者にも関わらず、尊正の支持はめちゃくちゃあるらしい。

ただ、彼はもっと高みを目指すつもりはないらしい。

どちらかと言うと、妻や子どもに議員になって、ジェンダーや、格差社会をぶっ壊したいと思っているらしい。

ただし、「これ以上忙しくなるのは困る。」と藤乃は興味ないし、「子どものやりたいことをやらせないとだしな。」と、しずかに、議員になってほしいとは言ってはいない。

とにもかくにも、この世界の私は、私は貴族院議員のお嬢さんだったらしい。

「着いた。ここだ。」

お父さんの運転が止まる。

見たことない大きな建物。

「こっちだ。」

綺麗なふわふわする床。

これが絨毯ってもの?

大きな扉

大きな部屋

綺麗な服を着た女の人

黒い服を着た男の人

火や蝋燭どころじゃない綺麗な灯り

真っ白なテーブルクロス

あれが、夢?

こっちが夢?

「しずか。あそこにいる方々が、伊藤、黒田、山縣、松方、大隈、桂、西園寺、山本、寺内、原、高橋、加藤智三郎、清浦、加藤孝明、若槻、田中、浜口、犬養、斎藤、岡田、広田、林、近衛、平沼、阿部、米内、東條、小磯、鈴木という、偉い方々だ。話しかけてみたらどうだ?」

「うん。」

これもこれで面白い。

自分は分かってないのに口がしゃべってくれる。

質問が鋭いのか、男の人たちが困っている。

お父さんは楽しそうに笑っている。

これはこれで楽しいわ、

だけど、

じゃあ、あれ…あの人は?

あの人はどこ?

あの人?

名前が飛んでいる。

私に名前をくれた、あれ?なんて人?私の他の、 名前。

「しずか?」

「うん?」

頭がシャキッと戻る。

いつのまにかお父さんと席についてなにか食べていた。

「大丈夫?疲れた?」

「大丈夫…いや、ちょっと疲れた。」

「まぁ、歴代総理大臣の前に連れていかれて疲れない方がおかしい。けど、勉強になったか」

「それはなった。」

「それは良かった。じゃあ、レポートも頑張って提出しろよ。」

「うん。」

「尊正さん。」

お父さんが、誰かに呼ばれる。

「家正さん。お久しぶりです。」

お父さんは立ち上がるとその人と話すべく離れていってしまった。

ちょっと1人になる。

使ったことのないナイフとフォークの使い方が分かる。

「いつもこうに勝手に体が動けばあの人に怒られずに…あの人…」

そうだ、あの人だ、誰だっけ?

忘れてはいけないのに忘れている。

私の大事な人が分からなくなっていく。

カラカラ…

なんだ?

聞こえるはずのない、風車みたいな音が聞こえる。

カタカタカタ

音よ。鳴るな。あの人が、まだ面影があるあの人が薄くなっていく。

カタカタ

私の名前がわからなくなっていく。

耳を塞ぐ。目も閉じる。

だけど音は止まない。

「もうやめて!」

「しずか?」

「お嬢さん!」

「危ない!」





目を閉じているのに、ぱぁっと明るくなる。
しかし、今度は真っ暗になる。
恐る恐る目を明ける。
なぜか暗い。
いや、誰かに抱きかかえられているみたいだ。
上を見る。
また男の人がいる。
今度はどちらかというと日焼けをしてゴツゴツして、髭を生やしている。
ちなみに、尊正は青いスーツの似合う爽やかな感じのおじさんという感じだった。
おじさんはなにかを睨みつけていた。
いや、待て、私今、浮いていない?
下を見る。
お地蔵さんたちが下に見える。
私の足が浮いている。
「危ないところだった。」
おじさんがしゃべる。
まつりは上を見る。
おじさんと目が合う。
おじさんが驚いたような顔をしている。
「おや?…俺の大切な人かと思ったら、違う方の大切な方だったか。」


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第7章 第一部 紘我

まさか、こんは早く6章が終わると思ってなかったので自分でも驚いています。
(夢から覚めるのが早かったので、そのまま後書きに続けました。よろしくお願いします。)


8月16日

地獄の釜の蓋が開き、人間の世界が滅んだ。

しかし、その釜の蓋を無理矢理閉ざした人たちがいた。

そこは広大な盆地で、その盆地のいつくかの場所が開いたのだが、その釜の蓋を閉じることを行っている人たちがいる。

その窯を全て閉じることが出来れば、モノがこれ以上増えることはなくなる。

その盆地には各地から続々と義勇隊が集まった。

その人たちの活躍でどんどんモノどもが這い出す地獄の釜の蓋は塞がれつつある。

ただ、モノどもも黙って見てる訳ではない。

閉ざされた釜の蓋を外してやろうと無理矢理攻めてくる。

その攻防が繰り広げられているのがこの盆地だ。

そして、まつりを助けたおじさん。

これこそ、この盆地で義勇隊と共にモノどもの侵略を食い止め、地獄の釜の蓋を閉ざしている人たちの隊長。

 

「紘我(こうが)という。まつりさん。あなたを歓迎しますよ。」

紘我は、まつりをそのまま自分達の基地まで運んだ。

元々街の中心にある神社だった場所を要塞化させて、そこを基地にしている。

神社は立派なものだ。

神社の彫刻は日光東照宮を造る大工達が試作で造ったとされ、左甚五郎作の『子育ての虎』を始め、見ざる言わざる聞かざるの逆である、よく見て、よく聞いて、よく喋る『お元気三猿』、夜な夜な動き、農民を苦しめたため、鎖で繋がれた『つなぎの龍』を筆頭に、さまざまな彫刻で彩られている神社である。

また、本殿の隅を囲むように四箇所お寺みたいな施設がくっついている。

本殿の裏には末社が30社近く壁伝いに祀られている。

末社だけでなく、仏像や羅漢像も祀られている。

敷地も、外側を柵で囲まれ、広場があると、もう一段高くなった場所は塀で囲まれている。

敷地に着くと、「隊長!」と、周りの人達が走ってきた。

走ってきて、紘我の武装を受け取る。

紘我は、一片に10本の矢が撃てる弓、秘密の能力を持った刀で武装して、神木を切り出したという木刀を差しているが、その木刀は差したままだ。

防御としては、これも神木を切り出して作ったという着る盾

あの人と賭博場で見た甲冑とは少し違う。

2枚の板を右肩左肩から吊るし、足まで隠れるようになっている。

それが背中側にもついている。

まつりはその板の中に匿われていた。

拝殿に上がると、紘我の格好がもっと分かる。

左足がおかしい。

生足ではなく、金属みたいなのが動いている。

そして、腰の左後ろにも機械がついている。

ラジオみたいなつまみが付いている。

「俺の格好が気になるかい?」

「い、いえ。」

「大丈夫だよ。子どもが一度は妄想するような機械で武装してるんだ。」

こちらを向く。

右手にはなにか巻き取るリールみたいな機械がついている。

「あっ!」

「ほらね。で、ここへ。」

紘我は正面ではなく、拝殿の右側に座った。

まつりは訳が分からず、紘我にあい向かいになるよう目の前に座る。

神様の真正面に対して、左を向いて座っている形だ。

「!…まつりさん。すこし近いな。その畳ぐらいまでちょっと離れて。」

畳まで下がる。

神様の前からいなくなった。

まつりに「信用できない人には近づいてはいけない。とくに、初めて会った人には。」とか、「まつりは美人だから男の人はあなたを売り飛ばすかも知れないし、女郎蜘蛛のように踏み潰したり、男の人しか飼っていない白い蛇を女の人のお腹の中に入れてこようとするかもしれないから近づいてはダメだ。」

と、言われていた気がするが、この人は大丈夫な気がした。

なんかあの人に似ている。

だけど、誰だ?

そういえば、記憶にはある甲冑とか言葉とかあるけど、誰が教えてくれたんだっけ?

「で、なんで「親父、またなにか拾ったのか?」」

誰かが建物の外から声をかける。

周りから、「ソラさん。」「リクさん。」

と言われている。



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第7章 第ニ部 陸と海と空

実は、この建物、ほかの小説に出てきます。
なんでしょう


「なんだ、宇宙(そら)と陸人(りくと)か。入ってこいよ。」

2人もどかどかと入ってきて、紘我の左側に2人が座る。

陸人と言われたのは、赤い髪の毛と赤い眼をしている。

宇宙と言われたのは、黒、いや、青みがかった黒だ。綺麗な夜みたいな髪と眼をしている。

「拾ってきたんじゃない。助けたんだ。」

「そんなこと、猫拾ったときも言ったろ。」

「今回は猫じゃない。人間だ。拾ったんじゃなく、助けたんだ。」

「2人とも、いいかい。」

「「はい…」」

「すみませんね。…えっと、俺は陸人と言います。あなたのお名前は?」

「…まつり。だと思う……」

なんか夢の中だと違う名前だったけど、こっちの世界ならまつり。

「だと思う?」

「きっとあれだ。」

紘我がしゃべる。

三人が注目する。

「いや、まつりさんは、水子地蔵のところにいたんだ。」

「あんな山奥に。」

「うん。しかも、あそこは、地蔵だけじゃなく、こんな世界になった影響で、付喪神や座敷童といった家に寄生する妖怪も集まって水子どころじゃないよくないものの吹き溜まりになってるんだ。」

「…つまり、」

「思うと言うのは、夢で見せられたことが強すぎて混乱してるんだ。水子や座敷童は家や子どもの無念もはらそうとして怨霊化してるから、記憶ごと人間を廃人にさせるらしいぞ。」

「そんなんなっちまったのか、あのあたり。」

「座敷童は幸せな家に寄生するのに、幸せな家がなくなってしまった。

だから、それが余計にショックで、座敷童自体が楽しい夢を見せるようになって、本来ならあり得たかもしれない世界の夢を見せるらしい。」

「本来?」

「そう。つまり、この世界にならず、みんなが生活していたら送ったであろう世界。違うかい?まつりさん。いや、まつりという名前じゃない、あなた。」

「はい。…私はまつりじゃない名前で夢の中で呼ばれてました。」

「悲しいけど、その夢が、君が本来進む予定だった世界だ。しかし、残念なことにこっちが現実だ。悲しくても、苦しくても人間はこっちで頑張らなければならない。」

「………。」

「………。」

「けど、なんで私は記憶が混乱しているんですか?」

「おそらく、それは水子の力だと思う。この世に生まれなかった魂がなにか生きている人に邪魔しようとしたのかもしれない。しかもその人はあなたにとってとても大切な人なんじゃないか?例えば…名前が夢で違ったのならこの世界の名前をくれたとか。」

「…そうかもしれないです。」

「じゃあ、その大事な人を早く思い出さないとだな。」

紘我は目線を隣に向ける。

「宇宙、悪いが今から、まつりさんと、水子地蔵に向かってくれ。」

「寝させられたら?」

「すぐ助ける。まつりさんの記憶を逆探知するだけだ。起きたらモノが来るからまつりさんを連れて全力で空に逃げろ。」

「分かった。」

「陸人、30分集められるだけ人を集めて…」

懐から紙を出して、見せる。

「この作戦の通り、ここの釜の蓋を襲撃してくれ。モノどもを水子地蔵に引っ張り込んで、ついでに蓋を閉じる。」

「分かった。」

「まつりさんの記憶は俺が解析する。みんな頼むぞ。」

「「おぉ。」」

そういうと、陸人は出て行った。

「まつりさん、行こう。」

そう宇宙に言われて、まつりもついて行った。



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第7章 第三部 また夢の世界へ

この間にあった出来事は、ゲームにハマったことと、シン仮面ライダーを見たということでしょう。
あるおじいさんとしゃべって、
「いまの若い人はなにを映画で見るんだ?」
と言われて、
「この間、…ウルトラマン見て、今度仮面ライダー見に行きます。」
と言って
「それは子どもが見るもんじゃないのか?」
と言われたのが懐かしい


まつりは元来たところに戻ると、宇宙から渡された睡眠薬でまた寝てしまった。

ちなみに、宇宙のほうが先に寝た。

カタカタカタカタとうるさい風車の音がしばらく響いていたら、意識を失い、また目が覚めた。

今度も寝てる天井からだった。

しかし、天井が違う。

「しずか。」

また、あの男の人の声だ。

「お父さん?」

「どうしたんだい?ソファで寝て。」

「いえ、別に…疲れただけで。」

「そりゃそうだな。あんな大きな声を出して倒れたんだからな。」

「えっ?…わたし…」

「?…ここじゃ疲れも取れないだろうから自分の部屋に戻ったらどう?」

「う、はい。」

しずかは立ちあがろうと足をソファから下ろす。

ただ、いまは誰もいないから、この男の人のことを詳しく聞けるんじゃないかと思った。

「お父さん。」

「なに?」

「わたし…」

「ちょっと。」

そう言うと、近くの椅子を持ってきて、目の前に座った。

「なんだい?」

「…わたし、……変わった夢を見て…それが、あまりにもリアルで…」

「ほぅ。どんな?」

「…私には、お父さんもお母さんもいなくて、長い刀と赤い毛布しか持っていなくて、駅の屋根裏に住んでるの。」

「駅の屋根裏に…」

「そんな私を、ある人が助けてくれて…その人はたしか…青い髪の毛で…赤い杖を持っているんだけど、杖から刀が出て、めっちゃ強くて、私を守ってくれるの…」

よくよく考えてみれば、こんなことを信じるわけがない。

「…ひとつ、嘘みたいな話をしようか。」

いや、この男は違う。

「お父さんも夢を見る。恐ろしい夢だ。片田舎で斬り殺される夢だ。」

「えっ?」

「しずかは生きているだけいいかもしれないが、お父さんは殺されてしまう。」

「それは、誰に?」

まさかモノ?

モノだったら、話は早いんだけど…

「いや、人だ。同じ人間だ。」

それは残念。

「どうも…その記憶の私は20代前半で、しずかのおじいさんに言われて、その片田舎へやってくるのだ。

今、お父さんは貴族院議員だが、ちょうど、しずかが生まれる頃までは、ほぼ独裁のような幕藩体制を敷いていた。

平民も、貴族も政治に参加できないから、平民の苦労も、貴族の大変さもあまり伝わりづらい政治だった。

それに反対した新政府が戦争をしていたのだが、その片田舎の藩は、幕府の中心的な藩。まぁ、殿様だな。

片田舎の殿様は、将軍様に忠誠を誓っていたから、田舎とはいえ、めちゃくちゃ強かった。

「これは、内部から崩壊させるしかない。」

「新政府の人間とはいえ、平民。我々貴族はまた政治に参画出来なくなるぞ。」

ありがたいことに、この世界は平民も、我ら爵位の人間も一緒に政治を行えているが、そうにはならないんじゃないかという恐ろしさがあった。

しずかのおじいさんもそう考えた一人だ。

だから、お父さんをその殿様の治める土地に派遣して内部から崩壊させようとした。

お父さんもお父さんなりに頑張ったのだが、どうしてもうまくいかなかった。

その片田舎では、まさかそんな高貴な方が来ると思っていなかったんだ。

「あれは偽物だ。」

そういう噂が流れて、自分に不利になる分子の排除を殿様も命じて…

お父さんの記憶は雪の中突っ伏しているところで無くなっている記憶がある。

まるで一度死んだようだ。」

「………。」

しずかは驚いた。

まさかお父さんが信じてくれると思っていなかったし、まさかお父さんも違う記憶がある。

違う記憶どころか、まるで一度殺されているではないか。

「あの…「しかし。」

二人はしゃべり始めが被った。

「なんだい?」

「あの、記憶は、たまに鮮明に思い出すの?」

思いだませればもしかすると大事な人も思い出すかも…

「…私の場合は、思い出す。従って、その片田舎まで来てくれた人全員な。」

「なら、私も。」

「ゆっくりになるかもしれないけど、待ってみるのもいいかもしれないよ。」

「う、はい。」

お父さんは足を組んでみせた。

「あの…お父さん。」

「なに?」

「さっき。なに言いかけたの?」

「?あれか。…実は、その記憶でも、お母さんと会っているんだ。」

「えっ?」

「しかも、ちゃんと結婚してた。」

「……。」

「もっと言うと、この世界でお母さんを見つけた時、震えた。まさか生きていると思わなかった。だけど、どうもお母さんはお父さんを知らなかった。記憶がある人とない人がいるみたいだ。」

「…そうなんだ。」

残念だ。もし、自分がお母さんのように大事な人を思い出せなかったらどうしよう…

「もし、自分がお母さんのように大事な人を思い出せなかったらとても悲しい。だから、今のしずかの気持ちが分かる。」

お父さんは時計を見た。

立派な時計だ。

時間になると人形がくるくる踊る。

「もう寝るね。」

しずかは立ち上がった。

「…あぁ。」

お父さんは足をつけて立ち上がろうとした。

だけどやめた。

「しずか。」

「なに?…いや、なんですか?」

「いや、別に、おやすみ。と言おうとしただけだよ。」

「お、おやすみなさい。」

「おやすみ。」

そう言って、しずかは廊下に出ると、青いスーツを着た男の人と、白衣を着た女の人3人が立っていた。

「あっ!忘れてた。しずか、すまん。ちょっとこっちへ。」

お父さんが慌てて椅子から立ち上がり、しずかはお父さんが座っていた椅子に座らされた。

「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。尊正さん。」

「いえ、寝ようとしていたものですから…」

そんな話と、お父さんと、一番背の高い女の人が話す。

「しずかさん。いつもの検診ですよ。」

残りの2人になにかされる。

目の前の女の人が耳にチューブを入れて、その先端に丸い金属の板がついていて、お腹に押し付けられた。

変な感じだ。

お腹の中が動いているみたいだ。

今度は口に入るぐらいの金属の板を持ち出すと、

「口を開けて、『アーン』としゃべってください。」

と言われる。

「あー!」

と言うと、金属の板を口に入れられた。

「おえっ!」

元の世界でなら良いかもしれないが、この場にはふさわしくない声が出てしまった。

なにせこの身体は慣れているかもしれないが、私は初めてなのだ。

「!…じゃあ、次は採血をします。」

これは参った。

まさか痛い目に遭うとは思わなかった。

大刀を持っていなくて良かったと思った。

持っていたら、この白衣の3人を斬り伏せているところだった。

「今日は…しずかさん、ちょっと…」

「しずかは、今日出かけたので疲れているんです。」

お父さんが話に割って入ってくれた。

「そうでしたか…」

「もうしずかは大丈夫ですか?」

「はい…どっちかと言いますと、本日は尊正さんに話がありましたので…」

「分かりました。しずか、もう部屋に戻っていいよ。」

「…はい。」

しずかは3人の動きが見えるような不思議な動きをしながら、外に出た。

外に出ても用心しなければならない。

なにかあって追いかけてくるかもしれない。

また血を取られては大変だから。

部屋の中の音を伺う。

扉が厚いのか音はあまり聞こえない。

「まぁ、本当にお父さんに用事があったのかな?」

そう思いながら、まつりいや、しずかは部屋に戻った。



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第7章 第四部 また夢の世界で

そういえばこんなこともあった。
定時になったので帰ろうとしたら、仕事でお世話になってるひと(前回の話に出た人と同じぐらいの歳の人)が来て
「もう帰るのか?」
と言われたので、
「私をこのまま帰すか、この前見た仮面ライダーと水戸黄門の話を一方的に聞かされるのどっちが良いですか?」
と聞いたら、
「速攻でお帰りください。」
と言われた w
みなさんも仮面ライダー見て、プライベートを充実させてください。


「しずかは二十歳の誕生日に死ぬというのはなんとかならないのですか?」

「尊正さん。落ち着いてください。」

 

まさかそんな話を中でしているとは思いもせず。

 

 

 

しずかは、寝巻きという寝るためだけの服に着替えて、さぁ、寝ようかと思って布団にかかったとき、あることが思いついた。

いま、寝ている状態なのに、寝たらどうなるのか?

そう思ったら怖くなって寝れなくなり、天井を見つめたり、右を見たり左を見たりしていた。

そして、また正面の天井を大の字で見ていた時、天井が揺れた気がした。

「おやっ?」

と思った時にはもう、部屋にあるアクセサリーやこもの類がガチガチ、ぎちぎち音を立てていた。

「なに?」

しずかは上体を起こす。

「お嬢様!」

外から女の人の声が聞こえる。

「なに?」

「失礼します。テロ攻撃です。すぐに逃げる準備を!」

お手伝いの人だ。

まだ仕事をしていたのか、昼と同じ服装をしている。

しずかもベットから降りると、明日着ようと思っていた服に手を伸ばす。

「攻撃?モノ?」

「はい。おそらくこの爆発はソラからだと思われます。」

「ソラ…そら?宇宙(そら)?」

「急いでください。また爆発するかも…」

急いで着替える。

その間にも、2回ぐらい家が揺れた。

「さぁ、こちらへ。」

お手伝いさんは、なにやら棒を持っている。

部屋の外に出ようと思った時、

「私の武器は?」

「大丈夫です。私が守ります。」

「1人より2人の方がいいよ。」

「ダメです。お嬢様になにかありましたら、私はクビです。」

「じゃあ、私が私を守る防具みたいなのはないの?」

その時、また攻撃があった。

しずかの寝ていた部屋の外辺りが爆発した。

部屋の小物や窓ガラスが派手に割れて、廊下の柱もバリバリ吹き飛ぶ。

「「危ない!」」

2人揃って、互いを抱き合い、2人で相手を庇い合う形になった。

また爆発が遠ざかる。

「大丈夫ですか?」

「お手伝いさんも大丈夫?」

「はい。」

「私も大丈夫。」

「いえ!血が…」

「えっ?」

左腕のところがすりむけている。

あの人なら、多分放っておけば治ると言いそうだ。

「大丈夫だよ。」

「ダメです。」

お手伝いさんは懐から、真っ白な布と開けてないペットボトルの水を取り出し、応急処置をした。

「これじゃ、あなたは…もしだったら、これは防ぎきれなかったし、私があなたを庇ったってお父さんに言おうか?」

「…いや、もうそろそろ、旅に出たかったから、良いよ言わなくて。」

「?」

急に口調がおかしいぞ。

「私ね。旅人なの。たしかに夜遅くまで仕事はあるけれど、朝は遅いし、給料は良いし、お付きでいろんなところに連れてってもらえるから、この仕事は気に入っていたんだけど、もうそろそろ自由に旅に行きたかったし。あなたもどう?」

「…私は、人を探しているの。旅に出たら、余計分からなくなりそう。」

「そうね。たしかにこの屋敷のお嬢様なら、人とたくさん知り合えるからね。」

また爆発。

「…それより、生き残らないと人探しも旅も出来なくなっちゃう。早く逃げましょう。」

また、お手伝いさんは棒を持ち出す。

「さっきも言ったけど、私の武器は?」

「お嬢様なのに戦えるの?」

ちょっと考える。

しかし、その言葉に動揺したわけじゃない。

「…ある人に言われたの。自分の身は自分で守りなさい。って。」

その人の名前が出てこなかったのだ。

「そう。」

「あなたのそういう棒みたいなのを貸してくれない?」

「…ちょっと待ってて。」

そう言うと、お手伝いさんは部屋に入り、私の寝ていたベットをひっくり返した。

ベットもさっきの爆発に巻き込まれてボロボロでまっ茶色になっている。

すると、その下にベットの枠がある訳だが、その枠の中に、銀色の1メートルぐらいある刀みたいなのが出てきた。

「これは、本当に有事の際に使用するよう頼まれていたもので、しずかさんを守るよう設計されています。」

お手伝いさんは、その刀みたいなものの先端を両手で摘むと、左右に開いた。

裂けたのではなく、刀が横に広がって、幕が張られたように見える。

中には綺麗な絵が書かれている。

「これは、尊正さんが吸血鬼からいただいたマントでお作りになられたと聞いています。」



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第7章 第五部 芭蕉扇

ちなみに、そのおじいさんとは仲は良いです。
(なにかと気にかけてくださってます。)
また、シン仮面ライダーは同級生と見たのですが、おじいさん誘ったら断られてます。
今度は、もっと分かりやすいドラえもんを誘おうと思います。


「吸血鬼?」

「はい。今から、17年前、政治の体制が変わり、尊正さんも国政で仕事をなさり始めた頃、吸血鬼がこのマントを着て、尊正さんの前に現れたそうです。

なんでも、なんでも、我々が人間界に現れることを許してもらえないか?という交渉だったそうです。

人間界や、一政治家としてはそのようなことは無理だとおっしゃられたらしいですが、「父親になる人間が、そんな逃げるようなことを言ってどうする?」

と、言われたそうです。

その時、尊正さんは父親になれると分かっていなかったらしく、激しく動揺され、国会にその吸血鬼を招待されて、今のように妖しもこの日本で生活するようになったのです。

そのお礼と出産祝いとして、贈られたのがこのマントと聞いております。」

 

…叶わなかった世界。

この世界の吸血鬼は、心臓を刺されず、地獄のモノに頼らず、吸血鬼も、人間も、モノも、私も幸せに暮らしている世界。

 

「どうぞ。この芭蕉扇を使って。」

綺麗な絵を閉じると、銀色に輝く棒状のものになり、それをしずかに差し出す。

「…どうして、こうならなかったんだろう?」

しずかはゆっくり受け取る。

「えっ?」

「その吸血鬼は、人間と楽しく過ごしているの?」

「妖しは、見た目は怖いけど、優しい方ばかりで、最初、怖がっていたり、偏見を持っていた人たちも、今はごく少数らしいよ。」

「私は…「まただ!」」

私はうまくいかなかった世界から来たんだ。

そう言ったのに、お手伝いさんの耳に入る前にまた近くに爆発が起きてしまった。

 

急いで2人は建物の外に向かう。

しかし、広いし、爆発に巻き込まれて、封鎖されてしまっていたりする場所もある。

「なんで、こうめんどくさい設計なんだこの家は!もっと小さい家に住めばいいのに!」

お手伝いさんが言う。

「とにかく、一階に降りないと、どこからでも出られないよ。」

「たしかに!」

2人で階段を目指す。

「階段よりこっちはどうだ?」

床が抜けて、一階が見える。

なるほど。さっきまでお父さんとしゃべっていた部屋だ。

テーブルがあるからあそこに降りれば、痛くなく降りれそうだ。

「じゃあ、私から。」

「ちょっと待って。なんで、お嬢様が先なの?」

「いや、危ないかどうか見てくる。」

「それは私の仕事なの。まだ、怪我すれば、労災降りるし。」

そう言うと、お手伝いさんは飛び降りた。

テーブルじゃなく、床に降りた。

「別に大丈夫だと思うけど。」

「私は、テーブルに降りようと思ってたんだけど…」

「その方が足が痛くなさそうね。」

お手伝いさんはテーブルを真下まで引っ張って来てくれた。

「伏せて!また爆発が来る!」

「えっ!?」

今度はもっと上の方で爆発が聞こえた。

天井に大きなヒビが入る。

「危ない!崩れる!飛べ!」

「死ぬ!」

しずかはその場にしゃがみ込んでしまった。

天井が落ちる。

その時不思議なことが起こった。

しずかが抱き抱えていた芭蕉扇が、しずかの腕をすり抜け、しずかの頭の上に飛び出したかと思うと、バッと広がり、しずかを覆った。

天井がドカドカ落ちてくるがしずかには当たらない。

芭蕉扇が全て受け止めていく。

天井が崩れるのが止む。

芭蕉扇が閉じて、しずかの背中にくっついた。

刀を背負っているような感じだとしずかは思った。

「大丈夫?」

お手伝いさんは、崩れる天井から身を隠すため、テーブルの下に入ったのか、テーブルから出てきた。

「うん。よっと!」

しずかはテーブルに降りた。

天井が崩れたのが溜まっているので、楽に降りられた。

「足を怪我するよ。」

「そんなこと気にしてたら頭が潰れちゃう。早く外に出ないと。」

お手伝いさんの言うことも聞かず、出口を探そうとする。

「待って。」

お手伝いさんが、しずかの腕を持ち、割れたガラス戸を杖で指しながら言う。

「あそこからぶっ壊して出ちゃおう。」

たしかに、この建物はもう復旧不可能なぐらい壊れているし、わざわざ玄関まで行くのも危険だし、もうガラスも割れているんなら…と言うことで、2人はヒビの入ったガラス戸を大きく割り、外に出た。

「ところで、お手伝いさん、あなたのお名前は?」

「…やっと聴いてくれた。いつ言われるのか気になっていたけど、こんなタイミングで聞くのね。私はアヤ。よ。」

「アヤ…」

あの人ではない…アヤは、もっと小さくて、大八車に乗っているのだ。

こんな大きいわけ…いや、私だってこんなお嬢様だと思わなかった。

まさか、アヤも時代が時代ならここにいてもおかしくないんじゃないか?

そう思いながら外に出た。



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第7章 第六部 宇宙

断られた。

やっぱり、スーパーマリオのほうが良かったか


「しずか。アヤ。大丈夫だったのか?」

外に出ると、そこは屋敷の広場みたいになっているところで、お父さんがいた。

「申し訳ございません旦那様、しずかさんが…」

「この爆発からよく2人とも大怪我もなく外に出られたな。」

「原因は?」

「ソラの攻撃だ。」

「そら…」

さっきもアヤから聞いたけど、そらってのが気になる。

「また来るぞ。みんな伏せろ!」

お父さんの指示で2人はしゃがむ。

上を見る。

たしかに、白みがかった空をなにか翼の生えたようなものが飛んでいる。

その飛んでいるものは、盛んにこれまたアヤが持っているような棒を屋敷に投げつけている。

それが建物に当たり、1秒ぐらいすると火薬による爆発が起きている。

「爆発が止むのは、ソラが旋回して、攻撃体制を整えるからだったのか…」

この建物がどんな場所にあるのか説明をしていなかった。

なんと、この建物は街の中にある。

この屋敷に塀や門、木々があるだけで、近くには、住宅地があった。

「あんなのが、これ以上暴れたら、市民を守りきれない。」

尊正の一声で、花火のようなものが集められて、天空に打ち上げられる。

オート村から逃げる時、後ろで光っていたのはこういうものか?

と、しずかは思った。

だが、空に浮かんでいるやつは強い。

花火の爆発をわかっているかのように、火花を避けて飛行する。

「結局、また来るぞ!」

「俺が狙いなら、俺はここだぞ!」

尊正さんは、庭の方に走り、花火を一発あげる。

飛行物の目の前で花火が爆発したが、それは関係なしに、建物を攻撃した。

「どうやら、建物に御用のようだ。市民を逃さないと!」

尊正さんは手伝いの人、集まった警察、消防団に事情を説明して、市民を逃す方向にシフトした。

「おじょ…しずかさんも早く!」

アヤが呼ぶ。

「待って。」

空に浮かんでいるものをじっと観察する。

「間違いない、ソラ、ソラってみんな言ってたけど、空からの攻撃じゃなくて、本当に、ソラが攻撃している。」

アヤから、棒をひったくると、

「ちょっと言ってくる。」

と、言った。

「ちょ…なにを…」

しずかは、背中の芭蕉扇を撫でる。

「私を、あそこまで連れてって。」

芭蕉扇が動く。

今度は背中についた状態で扇が開く。

しずかを前から見ると、仏様のように、頭の裏から後光がさしているように見える。

芭蕉扇が、急に下に向かってあおがれる。

すると、しずかの体は浮き上がり、目にも止まらぬ速さで、天空に打ち上がった。

「「あっ!」」

尊正やアヤの驚く声より早くしずかは、その攻撃対象と同じ位置まで上昇した。

驚いたのは攻撃しているほう。

また体制を立て直し、屋敷を攻撃しようとしたら目の前に空を飛ぶ人間が現れたのだ。

「やめなさい!」

しずかは言う。

芭蕉扇は、常に仰がれていることにより、天空でも止まっている。

攻撃していたものは、しずかの周りをぐるぐる回る。

止まれないらしい。

「お前は何者だ?」

「私はしずか。」

「知らないなぁ…」

「もしくは、まつり!」

「まつり……」

なにか沈黙があった。

「あなたは?」

「俺は天空のそら。宇宙と書いてソラだ。」

やはり、宇宙だった。

アヤちゃ…アヤさんや、お父さんの言ってたのは上空からの攻撃という意味で行ったのかもしれないけど、宇宙(そら)の攻撃だった。

「あなた、まつりなら分かるんだね?なんでこんなことするの?」

「まさか、俺は…天才の俺はこんなことをしていたのか…」

宇宙は、武器を思わず落とす。

火がついていなかったので、おそらく爆発はしない。

「なにをしていたの?」

「こっちの俺には、居場所がなかった。」

「えっ?」

「親父もお袋も、兄貴も姉さんも健在で家族だった。だけど、親父は俺の天才性に気づいてるのに、無視していた…それに嫉妬した俺は、ここに俺たちの魂が来る前から、こういう風に政治家や宗教を狙ったテロ行為をしていたらしい。」

「あなたが来たのなら、辞めればよかったじゃない?」

「そうもいかない。俺は組織の上の方の立場らしい。」

「テロリストや革命家も大変なのね。けど、下を見なさい。これはどうするの?」

「この世界の俺は、俺を認めない連中に復讐するために、こんなことをしているらしい。

こっちの俺の都合は知らないが、こんなテロ行為は良くない。

だから、このテロ組織を壊滅させてやろうと思ったわけだ。

大炊御門尊正氏は公正公平な政治を目指されている方だ。この方を攻撃したとなれば、テロ組織も名声は落ちる。そうすれば、こっちの世界の俺もこの組織に居場所がなくなって、親父たちのところに戻るだろう。」

「とはいえ、私は死にかけたし、大勢避難してるのよ。」

「いや、実は、組織としてもここは攻撃したがっていたんだ。俺がやらなくてもそのうち誰かやったはず。」

「どういうこと?」

「すなわち、問題はここの屋敷の地下深くだ。」

ソラはもう一本、棒を取り出す。

「この屋敷の地下には、封印された怪物がいるはずだ。」

棒に火をつける。

「それを復活させる。」

ソラが屋敷に向かってスピードをあげる。

「やめなさい!」

しずかも追う。

だけど、翼と芭蕉扇では話にならない。

「これで、復活しろ!」

右手に持った棒を思いっきり引いた。

もう投げる。

「芭蕉扇!なんとかして!あの棒を叩き落として!」

また驚くことが起きた。

背中に背負っていた芭蕉扇が畳まれて、背中を抜け出し、一直線にソラに向かっていった。

しかし、しずかは落ちる。

「きゃあ!」

「あっ!お嬢様!」

「しずか!」

屋敷が燃えて、人々が逃げ回っているなかを尊正とアヤは警察官と共に誘導していた。

もちろん、しずかが、ソラを足止めしているのをチャンスと見ていたから、素早く、周囲から人を遠ざけていった。

あとは、警察官が背負って逃げられる人しかいなくなったとき、しずかが落ちてきたのだ。

後ろでなにが起きてようが関係ない。

ソラは棒を投げた。

芭蕉扇は止まらない。

芭蕉扇は、扇を開くのではなく、扇の骨が一本ずつ前に出るかたちで、一本の長い棒になってゆく。

長さとしては、ソラが使っている棒を爪楊枝とすれば、菜箸のように長い。

屋敷に、ソラの棒が当たる寸前、芭蕉扇が、ソラの棒を上から叩き落とした。

爆発したが、建物脇の地面が爆発しただけで被害などないような感じだった。

「なに!」

ソラは、しずかと棒の直線上から退避していたため、叩き落とされることはなかったが、その様子を見て、唖然としてしまい、気が抜けてしまった。

それが、芭蕉扇にとっての好奇だった。

細長くなった芭蕉扇は、その状態のままソラの方向に回転して、また叩き落とそうとした。

「あっ!」

流石の天才ソラ

迫り来る芭蕉扇を宙返りで避ける。

しかし、すごい風圧を発生させている。

うまく風をとらえきれず、そのまま低空飛行に入った。

芭蕉扇は素早く棒から扇子に戻ると、一直線にしずかに飛んで行った。

「しずか!」

尊正さんがしずかの真下に入る。

とはいえ、受け止めても、2人とも大怪我するはずだ。

「お父さん逃げて!」

「だめだ!」

芭蕉扇がしずかの背中に到着する。

芭蕉扇がバッ!と開く。

するとしずかは空気抵抗で落下速度が下がる。

「…しずか!」

尊正は冷静に落下点に入るとゆっくりしずかを受け止めた。



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第7章 第七部 大炊御門尊正

大炊御門尊正は実在した人物です。
ただ、戊辰戦争に巻き込まれて亡くなられた上に、ほぼ暗殺に近い形だったために資料ほぼ残っていない人物です。
けれどこれは小説なので、書かせていただきました。
もちろん、尊正にまつりやしずかという子どもはいませんでした。


「………。」

「………。」

尊正は2人とも無事に受け止められると思っていなかった。

思わず、声を失ったが、

「…いってくると言ったから、おかえり。」

「た、ただいま戻りました。」

「とはいえ、まだ安心は出来ない。ソラの言ったことは本当だ。この屋敷には化物がいる。」

「けど、地下じゃ…」

「惜しいな…地下じゃない。みんなで逃げるぞ!」

尊正はしずかの手を引いて走り出した。

アヤも警察も消防も走り出して、みんな逃げた方向へ走っている。

「なに?」

「家の怪物が動き出す。平和への使者か、破壊の使者が…」

屋敷が動き始める。

壊れ出したのではない。

下に崩れるというより、形を整えながら、上へ。上へ向かって伸び始めた。

最後に、ソラが放った一撃は屋敷の手前に着弾した訳だが、それに反応したらしい。

屋敷だと思っていたそれは、屋敷ではなかった。

自己意志で動かない時ものだったのだ。

その屋敷は、船にも、鯨にも見える形をしていた。

甲板が屋敷で、大半が地中に埋まっていたのだ。

だから、「地下になにかある訳ではない。」

と言ったのだ。

地上と地下の中間に体を休めていたのだ。

「お父さん。あれ…」

「あれは、18年前に現れた怪物の使者だ。」

「どういうこと?」

 

 

「こういうことだ。

 

しずかの生まれるちょっと前。

尊正は屋敷の場所に、日本家屋の屋敷を持っていた。

明治になったとはいえ、元々日本家屋が好きだったのか、洋風の屋敷ではなく、曳屋で移築したものだった。

屋敷を構えたら、周辺の土地を格安で提供し、屋敷を中心とした街づくりをしてしまった。

そして、倒幕を共に達成した藤乃と結婚して、同行したメンバーたちと政治に一生懸命となっていた。

そんなとき、吸血鬼が現れた。

吸血鬼は真夜中に尊正の寝室で天井からぶら下がり、尊正を眺めていた。

「そんなところに、逆さまにぶら下がってなにをしている。」

尊正は人の気配を感じて冷静に起きるとともに、その、ぶら下がっている吸血鬼に質問した。

「私は攘夷派のように気に入らないやつをいきなり斬りつけて排除する野蛮なことはしない。交渉に参った。」

「この、現代日本においては、太陽が出ている間に、玄関から入り、出てきたものに要件を言って、その用事のある者が空いていれば、応接間で会えるものだ。このように用事のあるものに断りもなく、しかも寝室に来るとは、攘夷派と違いがないように思われる。」

「これはこれは失礼した。では、今回は夢の中で出会った客として話は出来ないか?もちろんそのまま寝ている体制でいい。」

「……いいだろう。なんだ?」

もちろん、尊正は布団の中に日本刀を隠し持っている。

「実は、今回、私は交渉人としてこの裏世界へやってきた。」

「交渉?裏世界?」

「そうだ。我々表世界にいたモノたちは、天上から地の果て、天道から地獄道まで治めていた。それなのに、人間道のモノたちが自由勝手に過ごすうちに、人間道も六道の一つだということを忘れているモノが多くなってきた。だから、もう一度裏世界である人間道のモノたちにもっと謙虚になれと言いに来たのだ。」

「それはわかった。だが、どうする?法律でもつくれというのか?」

「法律で守ってほしくて来たのではない。それは建前だ。本音はこっちだ。君たち人間諸君の技術革新は素晴らしい。ただその技術を支えているのは科学。全ては説明できるものだから造られているものばかりだ。他の六道のモノたちも興味津々だから、我々表世界のモノが紛れ込むこともある。それを人間たちは興味本位で追い回す。たとえ、理解ある人間と巡り会えたと思っても、人間同士でその理解ある人間をペテン師、嘘つき呼ばわりして、表世界のモノたちを認めようとしない。

それをやめてほしい。」

「…すなわち、六道のモノたちが地球上を自由に出歩けるようにしてほしいと?」

「そういうことだ。」

「…もし、これが現実だとしたら、本来、そんな大掛かりなことなら使者を立てて、要件を先に伝えるべきだな。」

これなら引っ込む…

「そうだな。なら、一週間後のこの場所に使者を送ろう。」

そういうと逆さまのまま、懐からなにか投げて、尊正の枕元になにか落ちた。

尊正は布団になにか落ちたのを感じただけで目も開けずに応える。

「…これは?」

「使者の使者だ。慎重なあなたならそのくらいしないと信用しないだろう?ただ、今は夢だから、朝起きたら正夢とでも思ってくれ。」

「…正夢ということならそれで処理する。ただ、もっと証拠がほしい。」

「そうか…それなら、明日の朝起きたら、町中に赤い着色で塗り固めよう。ちょうどそこに使者が落ちてくる。」

「落ちてくる?」

「そうだ。まさに夢のような話だろう。だが本当だ。五日前から大風が吹き始め、三日前からは石が降り、二日前から大雨と雷が鳴り、当日の朝晴れる。石は使者の体から剥がれ落ちたもの。晴れるのは、使者が雨雲を吹き飛ばすからだ。そして、その赤い着色の上に見事に降りてみせる。」

「…雨と石が降るというのはそんなに広範囲なのか?」

「恐れることはない。お前さんのこの屋敷がすっぽり埋まるぐらいだ。ただ、あなたの配偶者…藤乃さんだったっけか?あの方は早く逃げさせたほうがいい。しかもお腹を冷やさないようにな。」

「なぜだ…なぜ藤乃さんが妊娠してると分かる?」

「落ち着いて。藤乃さんには手を出していませんよ。けど、こんなことか容易に出来るのが表世界のモノです。分かりましたか?まぁ、目を合わせて言ってるんだから分かってるか。」

「………。」

尊正は思わず、その逆立ち、いや逆さまのままぶら下がっているモノを睨んでしまっていた。

「まぁ、今日のことは覚えておいて、朝起きたら、赤い着色の確認と、藤乃さんを遠くへ逃すことを忘れないでくださいね。では。」

そう言うと、逆さまの男は消えた。まるでコウモリのように羽ばたいて消えた。

尊正はいなくなった梁を見ていた。

寝たのだか、寝てないのか分からないまま明るくなった。

そしたら、朝から近所中が大騒ぎになっていた。

なんと、屋敷を中心に500mぐらい、なにで着色されたのか分からない赤い色で、塗りつぶされていた。

家だろうが、道だろうが、畑だろうが関係ない。

とにかく赤い色で塗りつぶされていた。

周辺の人々は急いで尊正のところへ駆けつけて事態を報告した。

それに伴い、尊正は昨日の出来事は本当だと信じざるを得なくなってしまった。

これから起こるであろう非科学的な現象を、500m圏内の全ての住民に説明した。

ありがたいことに新時代になったとはいえ、信じて待避を始める人が多かった。

尊正自身も、自分の妻をはじめ、使用人たちや私財をどんどん別荘へ移し始めた。

妊婦さんであったため、屋根付きの輿を探して、それで移動させることにしたが、その輿を見て尊正は思いついた。

やたら行列を長くして、その日に合わせて藤乃と使用人たちを引っ越させた。

それを見て、「本当に大変なことになった!」と慌てる者も多かった。

とにかく、街には移動が面倒という人しかほぼ残らなかった。

避難先も、尊正は大慌てで整備してやった。

使用人たちにも小屋やテントを張る指揮を取らせた。

五日前。

やはり大風が吹きはじめた。

移動が大変だと言っていた一部の人たちも本当に風が吹きはじめて驚き、つくった小屋やテントに移動を始める者もで始めた。

三日前。

石が降りはじめた。

赤い着色が分からなくなるほどの石だ。

赤い着色がされた家や畑、道路は落ちてきた石でボコボコになり、とても住める状態にならなくなってしまった。

とても住めないということで、赤い着色のあった地域の人たちは全員退避に成功した。

そして、一週間後、

晴れた。

尊正は屋敷が見える小高い崖に来ていた。

穏やかな海に面した港町。

三方向を山に囲まれた現代には住みやすいところだと思っていた。

しかし、いまは自分の家を中心に石だらけになっている。

日が晴れて、穏やかな日差しと共に、使者は落ちてきた。

降りたその使者はものすごく巨大な鯨に見えた。

体は白く、そして苔生して、傷だらけになっていた。

そして音だ。

降臨したというより、ただ落下して地面に叩きつけられた感じだったものだから、地面が揺れ、海が揺れ、山の木々が一瞬空に飛び上がったようにも見えるほどの衝撃だった。

衝撃波で港町が吹き飛んだ。

ただ、その鯨は見事に、赤い着色の真上だけ押しつぶしたのだった。



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第7章 第八部 六道の使者

ちなみに藤乃さんはいたと言われていて、尊正公が殺されたあと、農家にかくまってもらい、京都出身だったことを生かして、書道の先生をやっていたそうです。
そして、明治になって裁判所がつくられたら、その農家の人の力を借りて、尊正暗殺に加担した人物(代官)を訴えて、殺人罪で有罪をもぎ取りました。
その後、藤乃さんは京都に戻ったとされています。
そして、その時かくまった農家にはお礼として、藤乃さんから送られた硯が残っているそうです。


次の日、日本中に整備されたばかりの電話が、尊正の別荘に鳴り響いた。

そして、その鯨を退かすのに軍隊が使われることになった。

名目としては、この大地震(鯨が起こしたもので、自然災害ではないが…)の復興支援のため、出来たばかりの陸軍と海軍が動くことになったのだ。

 

鯨は鯨でこんなことを言っている。

「私は息子を人質に取られてここに来た。使者としての手紙を渡すから、母になるもの。もしくはなったばかりの者をここへ連れて来い。痛みを知らぬ男などと交渉出来るか!」

鯨は人間の言葉をしゃべった。

しゃべるというより、鯨から音が聞こえている感覚ではあったが、こちらから話しかけると、

「貴様ではない。同じ母となら話をする。」

と、聞こえてくるばかりだった。

尊正は心配だったが、藤乃に相談した。

「まだ体調が安定してるから、私が行きます。」

まぁ、この女性なら言うだろうと思ったことだった。

港町の妊婦や母親はたくさんいただろうが、こんなことを頼めるのは権力者の身内以外いないということも藤乃は分かっているし、その鯨に会ってみたかったらしい。

尊正は鯨との交渉で、なんとか輿の担ぎ手は男性で武装させることを了解させた。

鯨と藤乃の謁見が始まり、藤乃は鯨から手紙を受け取った。

対して鯨は娘を返してほしいと言ってきた。

藤乃は出発直前に、尊正から、あの逆さまになっていた男から受け取ったという、小さな巻き貝を渡されていたので、それを見せた。

見せた拍子に、巻き貝から小さな鯨みたいなのが出てきた。

「ママ!」

「坊や!」

白鯨は大口を開けた。

武装した男たちが吹っ飛ばされ、海にゴロゴロ転げた。

藤乃の輿は動かなかった。

「私は息子を返してもらいにきた。息子を返してもらおう。」

「どうぞ。」

藤乃は腕を伸ばす。

「動けないのか?」

「なにか…苦しい。」

「そうか。なら」

白鯨が潮を吹く。

鯨の頭の上に住んでいる住民(モノ)が降りてきて、藤乃の輿を取り囲む。

藤乃の巻き貝を受け取るとじわりじわりとモノたちが藤乃の輿に近づく。

「おやめなさい!」

白鯨がまた口を開ける。

今度はモノどもが海にゴロゴロ転げた。

「彼女はこれから地獄を見て天国に上がるから、水先案内をしなさい。」

モノたちは雄叫びをあげながら、丁寧に輿を担ぐと、揺れもなく尊正のところに戻した。

藤乃は本当に赤ちゃんを産むため、産屋に入った。

 

「さて、これからどうするつもりだ?」

尊正は白鯨に聞く。

子どもを返してもらったら、この尊正と藤乃夫妻に仲良くしてもらったことを聞いた白鯨は尊正ならと、話を聞いてくれるようになった。

「どいてもらわないと、この港町の人々が困る。」

「その書状の返事を持っていかないと私は帰れないのだ。なんとかしなさい。」

「…脅しではないが、こちらに陸軍と海軍の軍艦が向かっている。どかなければ殺されるぞ。」

「そんな人が造ったもので私が殺せるかしら?それと、仮にその陸軍が到着したら、あなたの別荘で指揮を取るのでしょ?」

「まぁ、そうだ。…さっき連絡があった。」

「藤乃さんはどうしたの?」

「別荘は広いから…」

「だけど、男の人がウロウロソワソワしていたら彼女も気が気じゃないはず。彼女は人の上に立ち、人の心配が出来る人だから絶対気にする。」

「どうするつもりだ?」

「私の実力を見せつけてあげれば、陸軍も海軍も逃げ帰って、それと同時に返信が届くでしょ?」

「ペリーと同じことをするつもりか?」

「いいえ。私はあなたたち港町の人たちのためにもここを退くわけにはいかないわ。」

「なぜ?」

「私の存在を認めさせないと、あなたたちは訳もなく逃げ出したか、化け物に騙されたと勘違いされるわ。だから、私は表世界のためだけじゃなく、あなたたちのためにも戦う。」

「………。」

なにも言い返せなかった。

実際、赤い着色がついた次の日から、騙されていると誹謗中傷が酷かったのは事実だ。

だったら、鯨は実際にいることを見せて、我々の誹謗中傷を収めようとしたのだ。

1日たち、藤乃は産屋から出てこない。

代わりに陸軍の先陣が別荘に到着して、応接間に司令部を構えた。

なんと最新式の榴弾砲を動かしているというのだ。

海軍も軍船を5隻も出して、「救助」に来てくれるらしい。

荷台や食べ物よりも、大砲と砲弾が多い変わった救助隊である。

次の日、なにやら産屋でバタバタしているが、「男に出来ることはない。」

と尊正は追い出され、別荘も出来ればいないで欲しいと言われるしまつなので、あの高台に来ていた。

高台には、スーツを着た新聞記者から、和装で片手の撮影機材を持つユーチューバーまでさまざまな人がいた。

この鯨の戦いが現実だと分からせて、我々が狂ったのではないと証明させるためだ。

知り合いの新聞記者が話しかけてきてくれた。

「尊正さん、なにかこれから起こることでお話ししておきたいことがあれば話していただけますか?」

「………。」

他の人たちもとても注目している。

「…私が望むのは、これから起こることが現実であることをみなさんに受け止めてほしい。これから起ることは真実であり、現実であり、これからの人間の分岐点に当たるはず。だから、見てほしい。

そして、この鯨を信じてほしい。

そして、我々港町の人間は本当のことを言っているから、誹謗中傷をやめてほしい。とりあえず、以上…」

その時、ボゥー!ボゥー!

と蒸気の警笛が聞こえた。

みんなでそちらを見ると、四隻の軍艦が日本の旗を掲げて一列に並び、湾を縦断している。

鯨は海を向いているから、鯨に横っ腹を見せている形だ。

距離も場所も我々に砲撃が当たる訳はなさそうな位置だ。

軍艦の方針が全て港の方を向いている。

もしや、と、時計を見る。

9時30分を回ったところだ。

進んでいる一番前の軍艦の砲身から煙が出る。

その後ろ、その後ろ、その後ろの軍艦の砲身からも白い煙が出る。

そして、鯨に、白い光が当たる。

それが束になって4回。

そして、爆音!

4回連続で爆音が響く。

一斉発射だから、その四つの音のうち一回も数回に分かれて聞こえる。

また、軍艦から煙が出て、光が鯨に集まり、爆音が響く。

「これなら、鯨は実在するが、軍艦が勝って、手紙も渡さず…」

尊正がそう独り言を言っていたとき、鯨の頭の上あたりに光が集まり、光が一直線に、進んでいる2隻目の主砲の少し上あたりを飛んで、光自体は海に落ちた。

水柱が立ち、軍艦を揺らし、波打ち際が大波にさらされた。

2隻目の主砲はさっきまで白い煙だったのが、黒い煙があがっている。

「なっ…」

「なんだ?」

記者やユーチューバーがザワザワし始める。

また鯨の頭が光る。

光が打ち出される。

今度は最後尾についていた軍艦のこれまた船尾に光が直撃、しかも、その光は船体を貫くと、海に落ちてまた大波を起こした。

4隻目は黒煙を上げて、港町に背を向ける形になると、沖に向けて動き始めた。

3隻の艦隊はその場で向きを180度変えて元来た方へ引き返し始め、逃げ出した4隻目を隠す動きを始めた。

3隻目が先頭になる訳だが、また鯨の光が2番目の軍艦を襲った。

さっきは船の前方にある主砲が狙われたが、今度は後方の主砲が狙われた。

2番目軍艦も沖に向けて逃げ始めた。

その時、さっきから砲撃の準備をしていたさっきまで先頭を走っていた軍艦の、主砲。

たしか、横幅が32センチある砲弾を打ち出すことが出来る主砲であると聞いていたが、それが鯨に向かって打った。

あまりの打ち出す強さに、船が反動で進行方向がずれるほどだ。

打ち出された弾は見事に鯨の額より少し下の口あたりに当たった。

鯨が咆哮する。

口を大きく開けて。

尊正の目が大きくなった。

あの母鯨が咆哮したということはなにもかも吹き飛ばすかもしれない。

しかも今度は藤乃がいないから、本気だ。

尊正は聞こえるはずもないが、後ろの軍艦に叫ぶ。

「逃げろ!殺されるぞ!」

その声か、はたまた鯨の咆哮か。

後ろの軍艦に向かって不思議な空間が進んでいく。

地が割れ、海が割れ、空気の砲弾のようなものがその32センチ砲を吹き飛ばす。

根本から抉り出し、32センチ砲が宙に舞った。

一人のユーチューバーがそれをしっかりと映してしまった。

日本国営のプロパガンダに使おうと思っていたテレビ局のカメラもそれを映してしまった。

最悪なことに、生放送で。

鯨は空に向かって叫ぶ。

雲が今度は裂けて、消し飛んだ。

体を仰け反らせて、空に向かって叫んだ訳だから、身体を元に戻しつつ、3番艦の方向をわざわざ向き直った。

3番艦は攻撃を辞めた。

元来た方へ全力で戻っていった。他の2.4番艦も遠くへ逃げたが、主砲をえぐられた1番艦はまだ砲弾の届くであろう距離にいた。

鯨は1番艦も見ているであろうが、特になにもせず、見守っていた。

それどころか、なんと、我々の方を見ているようだった。

「………。」

「………。」

「………。」

誰もしゃべらない。

尊正はみんなを安心させようとこんなことを言った。

「大丈夫。おそらく、鯨には私が見えているはずだ。」

鯨を太陽が照らす。

本来なら夕日が照らすほうが良いのだが、艦隊が沈められたのが…

いや、そうでもない。

鯨の身体が爆発していく。

先程の攻撃を食らったかのように。

今度は山の方からなにから、またさっきのような爆発音が聞こえた。

「…陸軍の大砲?」

山の向こう。我々にも見えないところから、砲撃している。

別荘とは違う方向だ。

だが、位置的に、我々の至近距離を砲弾が飛んでいく。

鯨に次々と着弾しているから、砲撃はされないだろうが、勘違いされたら、一貫の終わりだ。

「みんな、この高台から…」

尊正が叫ぶと同時か、少し早いくらいに、次々と人々が高台から走り降りていく。

もちろん実況中継されている。

陸軍が勘違いで砲撃していると思われる。

「鯨が!」

鯨はまた伸びをすると、向きを山の方に向ける。

「高台を降りるな!鯨が攻撃する!」

今度はまた高台に向かって人々は走る。

もちろん、実況中継されている。

「鯨が!」

その時、実況中継を見ていた人類は絶望した。

もう、「この鯨には勝てない」と本能が言った。

鯨は海を泳ぐように、ヒレを動かす。

すると、身体がふわりと浮き、尾ヒレを動かして、山に向かって進んだ。

「奴は、動けないはずじゃ…」

尊正は鯨のいた自分の家を見る。

よく凝らして見る。

「いた…吸血鬼…」

自分が愛用していた椅子に腰掛けて、棒のようなものを拭いている。

足を組み、なにか飲んでいる。

鯨は山に前進すると、山の上を通過して、反対側を見渡す。

なるほど、陸軍の大砲の部隊が見える。

すると、鯨はぐるりと上下逆さまになった。

そして、人間は驚いた。

「鯨の背中に町がある。」

「いや、違う、あれは船の司令所や砲台にも見える。」

中継している人々は口々に叫ぶ。

「…あれは、鯨じゃない。鯨のフリをした船だ。」

「えっ?」

たしかにそんなような要素はあった。

鯨と話す時、口が動かないのは船の裂け目だったからで、違うところに拡声器でもあったんじゃないか。

そして、船の裂け目から空気圧で攻撃すればさも、口からなにか空気圧を発射した感じにもなるし、藤乃を運んだ連中が頭の上にいたのも船員だったからだとなる。

それなら、あの使者の使者…あの巻き貝の中にいた子どもは…まぁ、船員のうち誰かの子供だろう。

兎にも角にも、鯨船は、横転した形で砲撃を始めた。

と、言っても一発撃っただけで、すぐ引き返して、元の屋敷の瓦礫の上にフワリと降りた。



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第7章 第九部 条約

つまり、ここはほぼ空想です。
小説らしくなってきました。


まだ、昼前だというのにあたりが静かになった。

昼になったため、尊正と知り合いの新聞記者達は別荘に戻るかという話になった。

すると今度は鯨がみんなを別荘まで送る。

と言った。

あの得体の知れない船員達に会うのは恐ろしかったが、逆らったら逆らったで日本国がなにされるか分からない。

尊正は、それでも乗りたいという記者と共に鯨の背中に乗った。

驚くことだらけだ。

頭の上には都市があった。

船の不安定な砲台かと思ったら、備え付けの大砲ほど足場がしっかりしていた。

しかもその大砲専用の爆薬貯蔵施設は、日本の全ての爆薬、いや、軍の貯蔵品、食料、そして軍事車両全てが格納出来るほど大きいものだった。

しかし、なぜそんなに大きな倉庫があの小さな屋敷分しか身体がない鯨に乗っているのだろうか?

「訳の分からないことは多いだろ?尊正さん。」

夢の中で聞いたことある声だ。

振り返ると吸血鬼が今度はきちんと足で立っていた。

「あなたは…」

「律儀だな。どうしても夢の中で会ったことにしたいんだな。」

そう言うと、吸血鬼は襟を正し、ネクタイを正しく付け直した。

「初めまして。大炊御門尊正氏。私は、表世界から参りました、吸血鬼○○○。この国と国交を結ぶために使者をお送りしました。」

「…お名前を聞き直しても良いですか?」

「○○○と申します。難しければ、吸血鬼とお呼びください。」

名前をなんと言ったのかよく分からない。

「申し訳ないが吸血鬼と呼ばせていただく。ミスター吸血鬼。使者を送ったにしては、私の屋敷を壊すとは、使者のすることとは思えませんが。」

「たしかに、あなたの住処を壊したことはお詫びします。ですが、我々がその前にも多くの使者を送っていたのです。

一昔前前…明治に維新する前は交渉どころではなく、我々を神のようにもてなしてくれました。

ただ、維新したら、我々の存在は否定され、それても我々を信じてくれる人間はおかしな人だとされた。

このまま海上に現れただけで、この日本国が我々のことをきちんと考えてくれるのか疑問だったのですよ。」

「…そうか。なら、補償もしっかりするのだな。」

「ご安心ください。我々の力で集落の方々の家や畑は元通りにします。ただ、あなたは別です。」

「なんです?」

「あなたは政府の人間。やすやすあなたが困っているところに漬け込まないバカはいないでしょう。」

「要求は?」

「…おそらく今日のことで、陸海軍は手が出せないと言うことが分かるはずなので、閣議で素早く国交を結ぶよう尽力しなさい。国交を結べたら、ここを船は去ります。」

「…ほぼ脅しか。ペルリと変わらないぞ。」

「彼は使節で、上の命令を実行したまで。私もそう。あなたも政治家なら分かるでしょう?それでもあなたは部下に迷惑をかけていないと言い切れるのですか?」

「………。」

「誘導だって、避難指示だってあなた一人でやりましたか?」

「分かった。なんとか、議会には今日の話と、使者の手紙を出そう。」

「そう言ってくれると思っていました。ささっ、もう別荘の上空ですよ。」

船は、別荘の上空にたどり着いた。輿が庭に出ている。

輿の中の藤乃が見える。

なにか白いものを抱えている。

巻き貝もある。

「おやおや、人の親になれたようですね。尊正さん。」

その時、吸血鬼が尊正の腕を掴んだ。

 

 

 

恐怖

 

 

 

 

なんだ、この恐怖は。

血の気が引き、サッと鳥肌が立つ。

触られただけなのに、無数の恐怖や怖さが襲いかかる。

「さぁ、お父さん。子どもを守るためビシバシ仕事をしましょうね。」

藤乃は静かにこの船を見上げている。

巻き貝が言う。

「ママ!パパ!」

藤乃の手の中で眠る赤ちゃん。

もちろん、大炊御門静

 

 

次の日、帝国議会は大荒れになった。

というか、陸海軍が撤退したというニュースが午後に報道されてから、議会は荒れていた。

とにかく、手紙が到着している以上、そして陸海軍が撤退した以上、取り扱わなければならない問題であったが、物事はあっさり、次の日の午後には決まりかけていた。

なぜならば、議員の大半が外国の脅威から国を守るため外国を選択した議員なものだから、外交は小村寿太郎や陸奥宗光に任せれば、また不平等条約を結ばれてもなんとかなると深層心理が働いていた。

次の日の議会の夕方には、国交を結ぶことが承認された。

そして即日公布になった。

なぜなら、吸血鬼が議会の傍聴席に、鯨船が国会議事堂上空にいたのだから。

 

半年後、施行



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第7章 第十部 夢とはいえ

この宮中志は、ほかの小説のことでもあるし、ないかもしれない。
そもそも夢の世界なので、こういう世界線に宮中志がいてもおかしくないでしょう。
と、思いまして書きました。



それから3ヶ月後

とくに何も変わっていなかった。

それどころか共生していた。

それは池袋に行けば分かる。

その時期に池袋に行き、様子を記録した宮中志民俗学者が、まだ学生時代の日記を見てみよう。

 

2月18日(土)

久しぶりに池袋に着く。

友達の●●(個人情報保護)と、サンシャインシティに向かうが東急ハンズから地下を通るのを忘れて、交差点へ出る。

同じく信号待ちをしていたコスプレイヤーを見かけたので、「追いかけたら、なにかイベントをしてるかもしれない。」

ということで、後をついて行くことにする。

信号の向いを見ると、こちらに向かう予定のレイヤーもいた。

後をついて行くと、東池袋中央公園に出た。

たくさんのコスプレをした人と、その知り合いらしい普通の格好をした人、カメラを持った人などがたくさんいた。

巷では謎の風邪が流行っているが、お化粧をした自慢の顔が隠れないようにしている人が多い印象だった。

池袋は女性向けのアニメや漫画で街おこしをしているから、大半のコスプレがなんのアニメか漫画かゲームか分からなかったが、●●にいくつか教えてもらった。

その後、スペイン階段方向に公園を突っ切り、サンシャインシティに入った。

建物の中もたくさんのコスプレイヤーが歩いていた。

この感覚は実際に行かなければ味わえない。

また、このコスプレの中には確かに人間は多かったが、実際にモノもいた。

モノを忌み嫌う人間も多いと聞くし、迫害や抗争もあるらしいが、ここではそんなことはなかった。

好きなことや好きなものをただ楽しむ集団。

そこに種別も性別も主義も主張も関係なく、ただ、コスプレが好きな集団がいた。

(その後なにをしたかなので中略)

そして、最後に面白いものを見た。

先程のコスプレイベントが終わって人間たちが着替えて、街中に戻って行ったのにモノたちといっしょになって歩いていたのだ。

人間とモノが共生していた。

この世界は今後こうなっていくこと◼️◼️◼️◼️(強制校閲)

 

4月1日

また池袋に行く。

友人に会って、昼飯を探しているとまたコスプレをした人がいたので、食べてからまた東池袋中央公園へ向かう。

参加者の数が先月と比べて倍近く増えていた。

多分暖かくなったので出てきた人やモノがいるのだろう。

今回は、スペイン階段を登る。

階段の上は通路だが、写真を撮ろうとあちらこちらで列になっていた。

友達が好きな◼️◼️◼️◼️◼️(著作権)も見つけたが、恥ずかしいということで近づかなかった。

ちなみに今回もどんな漫画か分からないのが多いので分かるのを見つれるのが面白い。

広場を突っ切ると、建物に入る。

イベント会場が荷物置き場と更衣室になっていた。

これならレイヤーもモノも安心して着替えることが出来る。

建物に入り、エスカレーターを降ると人だかりが吹き抜けに出来ていた。

下を覗くと、コスプレをしている人がショーをやっていた。

なんの漫画だか分からなかったが、友達がVチューバーの格好をしていると教えてくれた。

その吹き抜けの一階でショーをしていたが、二、三、四階も人間、モノ、そしてコスプレをした人がわんさかと見ていた。

このように◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️(強制校閲)

 

という感じだった。

 

そして、屋敷だが尊正はこの鯨船を屋敷にして表世界の研究が出来ないかと思い、吸血鬼に交渉した。

吸血鬼も詫びをしたかったので欲しいと言われたらすぐに住めるよう鯨船を埋めて、周りの土地の高さと、建物の建つ高さを同じにしたのだ。

なので、この屋敷は鯨船の司令部であり、鯨船の一部だった訳である。

さて、船を失った船員だが、人間界に来たかったモノばかりだったので、困ったモノはいないようだった。

巻き貝の親だというモノも藤乃から受け取ると、そそくさとどこかに消えてしまった。

しかし、不思議なことに鯨船に魂はないはずだったが、なんと、鯨船が自分の力で動き出したのだった。

これには元船員も吸血鬼も慌てた。

そして、吸血鬼は打開策としてあることを行うことにした。

吸血鬼は、二人の出産祝いにと、自分のマントで、自分のマントをプレゼントしていた。

マントを宮参りの時にも使用したが、マントなもので、成人式では使えないと思い、藤乃はあるものを作らせた。

それが、芭蕉扇であった。

それこそ、マントに骨を指したようなもので、大人になったとしても大きすぎるようであった。

「凧じゃあるまいし。」

と周りは言い合ったが、まさか本当に飛べるようになっていたとは驚いた。

とにもかくにも、その芭蕉扇、吸血鬼はそれを尊正から借りると鯨船に乗り込み、芭蕉扇を突き刺した。

すると鯨船は地震が鎮まるように暴れるのを辞めた。

そして吸血鬼は尊正と藤乃に言った。

「このマントはしずかさんのために与えたものだから、しずかさんがこの屋敷にいられなくなるのは約束に反すると思ったためこうさせてもらった。

もう突き立てておく必要はなく、ただ屋敷に置いておけば鯨船は動けないよ。

ただ、しずかさんが大きくなり、ここを出て行くことになったらこれを与えてほしい。

あのマントはしずかさんのものだ。」

「分かった。しずかに渡そう。」

「ただし、マントは鯨船から離れるとまた暴れ出すぞ。」

「その時は?」

「その時は、鯨船をそのまま天空に帰すか、完膚なきまで壊すかのどっちかだ。」

「きゅう…いや、表世界ではどちらが良い?帰ってきてもらいたいのか?」

「仮に、しずかさんが最低でも10年はこの屋敷からは出て行って生活をしないとして、10年あれば鯨船は旧式になるから、とても天上界では活躍出来ない。だからと言って、壊すとなっても、人間の技術革新でもなければ最新式の武器でもこのあいだのようになるぞ。」

「…分かった。」

「とにもかくにも、鯨船からしずかさんが出て行くまでに腹を決めておくんだな。」

 

というのが、この屋敷の正体であり、君の芭蕉扇だ。」

 

さて、ここで、現代に戻る。

そして、しずかは大きくなり、今ここにいる。

芭蕉扇を、吸血鬼のマントを背負って屋敷から出て、尊正の前にいる。



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第7章 最終部 夢から覚めるとき

とりあえず、過去編の本編はほぼ終わります。
日本昔話をモデルにしていないから余計に難しかったです、
しかし、まだこのまま続き投稿します。


「…じゃあ、私が芭蕉扇を持って家から出なければ。」

「そうでもない。宇宙の攻撃から逃げようとしたんだから、全て宇宙の責任だ。」

「そうだな!」

急に違う声が聞こえた。大人の男性の声だ。

聞いたことある。

「宇宙!まつりちゃん!起きろ!」

目の前が暗くなる。

立っている足元がなくなる。

宙に放り出され、さっき芭蕉扇もなくなり落ちている感覚になる。

誰かに抱きしめられている感覚はある。

怖くなり、ギュッと目を閉じる。

 

「なんだ!」

 

改めて目を開ける。

木の壁が見える。

だけど、大きな腕に抱き抱えられている。

腕の反対を見ると、宇宙も見える。

「大丈夫か?二人とも。」

尊正さんじゃなく、紘我さんだった。

紘我は二人を抱えたまま浮かんでいる。

「どうなっとんだ?」

「なに言ってる。作戦はうまくいったんだ見ろ。」

「ほんとだ!」

紘我さんの木のマントの間、下を見ると多くのモノどもが、水子地蔵に見つめられながら次々に眠りについている。

「まもなく、天人の結界と人間の足では越えられないよう壁をつくって、ここは半永久的な眠りにつく。」

紘我は基地の方向に向けて飛び始める。

「水子地蔵や座敷童の欲望を満たし、この周辺のモノは永遠に夢を見て、活動しなくなることで、人間は助かる。二人のおかげだ。」

「だけど…これで…」

「なにか?」

「あの夢の続きはどうなる?あの記憶は?」

「詳しく聞こう。」

「あちらの世界の俺はグレているらしい。」

「それで?」

「各地でテロ行為をすることで、親父に認めてもらおうとしてた。それで、このしずかさんの家を攻撃してた。」

「しずか?…あぁ!まつりさんの本来の名前か。なんでまた?」

「まつりさんのお父さんは政治家の大炊御門尊正氏」

「なに?…大炊御門尊正。…そうか。…そうか…」

「なにかあるのか?」

「……あるっちゃ、ある。」

「なんだ?」

「…言いづらい。」

「…おそらく、」

まつりがしゃべる。

尊正の名前を聞いてから、紘我さんの手が強く握り痛い。

「…おそらく、私は駅で一人でいた記憶しか無いので、言ってください。この世界で尊正さんに会っても親だと思わないと思うので。」

「…尊正氏はもう亡くなられている。これは確定している。だから、このことはまつりさん。気に止むことはない。これを前提に聞いてほしい。」

「なんでしょう?」

「尊正氏は、モノどもからは英雄視され、人間たちには売国奴とされている。けして、君は君で、その罪はない。」

「…なんで?あの世界では、みんなから。」

「…その世界ではあなたは何歳ぐらいでしたか?」

「…さほど変わらなかったはず。」

「……では、あなたが生まれてから数年たったぐらいですね。

ある事件が起きたんです。

吸血鬼が、ある村に住んでいたら、心臓をある人間に取られて、地獄に逃げたんです。

地獄のモノたちは怒り、そして大義名分が出来たということで、モノどもによる侵攻が起きた。

だから、大炊御門尊正は、まず、モノが地上で生活することを許す足がかりをつくったということで英雄に、その時毅然とした態度で、モノ共の要求を飲まなければこんなことにはならなかったと、人間からは売国奴よばわりされているんよ。

そして、最後は…おそらく、人間によって殺されてるはず…

モノが殺したという風に報道されたが、モノも負けじと、尊正の遺体を盗むと、盛大な葬式と墓までつくって祀ったと言われている。

そして、俺たちは、その墓と骨を奪還している最中だ。」

「そんな…だって、あのときは、鯨船の前に、軍艦も戦車も、なにも、敵わなかったから、仕方なく…」

「軍艦や戦車を使って対抗したという記録はこの世界にない。その世界の方が報道も自由だったみたいだな。」

「そんなこと。…そんなこと許させるの?お父さんは、…お父さんは人間たちがあのままだと皆殺しにされそうだったから…」

「まつりさん!」

急に取り乱し、暴れる。

「それが、人間が殺したなんて…なんで!」

「まつりちゃん!危ないから…落ち着い…」

「お父さんは、人間たちのために活動してたのに、なんで!」

「落ちる!」

「ちっ…」

紘我が手を滑らせた。

「あっ!」

まつりが落ちる。

「あっ!やば…」

「待て。」

紘我はまつりを持っていた左手を左眼に持っていく。

手で押さえてこう言う。

「左眼よ。俺の分身になり、モノやファミリーから彼女を守り、彼女の記憶を正して、俺の元に帰ってこい。」

そう言い、なにか左手で包むと、下に向かって投げた。

「親父、俺に行かせろ…」

「宇宙。悪いが、前方にお客さまだ。」

「なに?」

空を飛べるモノが大移動している。

「方向的に、あのオート村の方だ。俺たちにも気がついているのがいる。」

「…あれと戦うしかないか。」

「陸人はうまくやったから、宇宙いや、天才の見せ場だぞ。」

「分かったよ。」

「さあ、行け!」

宇宙は、紘我の肩に立つと、翼を広げて、爆発する槍を準備した。

「…あの世界の俺は、こういう親父に会えば、グレなかっただろうに。」

「多分俺は変わらない。それこそ尊正氏のやり方も変わってない。悪いのは環境だったはずだ。この最悪な世界はある意味、宇宙の行きやすい世界だったのかもな。」

「最悪だ。」

「だけど、このステージ」

目の前に広がる真っ黒な物体軍団

「最高だろ?」

「あぁ、最高だ。」

 

それから2時間後のオート村上空。

「ルッコラ、どうだ?」

「おやっつぁんか。おかしいぞ。空襲しに来たのになんであんなにヘトヘトなんだ?」

「しかも数が…10体もいない。少ないな。なんだ?」

「あれ?」

「………。」

「………。」

「全部落ちたな。」

「死んだのか?」

「そうっぽいな。」

「なんだったんだ?」



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第8章 第一部 夢の続き

さて過去編もこれで終盤です。
まつりはどうなる?どうする?


落ちる。

私は落ちる。

尊正の娘の私は落ちる。

人間の反逆者である尊正の娘の私は落ちる。

人間を脅かすモノに崇められ、人間の反逆者である尊正の娘の私は落ちる。

 

「そのぐらいで辞めておけ!マイナスに考えるのは。」

紘我さんの声がする。

落ちる身体が急にゆっくりになる。

目を開ける。

すると目と合った。

ものすごく大きな目だ。

「えっ?」

目みたいな風呂敷が落下傘のように広がっている。

そしたら、目がなにか言った。

「まつりさん。君の父上はこの世界にはいないんだろう。あなたは駅で育ったんだから。」

「………。私はどうしたら?」

「尊正公が亡くなられて、奥方は京都へ去ったと聞く。その時、子どもは行方不明になったんだろう。そうだとすると、この世界には君のお母さんと、あの芭蕉扇はあるはずだ。少なくとも芭蕉扇は破壊できるような柔なものじゃない。芭蕉扇を持ち歩くことが、全ての世界で君のお父さんとお母さんが望んでいることだろうから、それを目指しなさい。」

目玉の落下傘はゆっくり地上に降りた。

目玉の落下傘もフワフワ。へニャン…と地面にシオシオに広がった。

すると、だんだん落下傘が小さくなり、最後には目玉と、玉が円になっている数珠が残った。

「紘我さん…」

「大丈夫だ。これはお呪いで動けるだけだ。またくっつくことは出来る。悪いが持って移動してくれないか?自分で動けないんだ。」

「はい。」

まつりは、そっと持ち上げる。

普通は気持ち悪いはずだが、もっと気持ち悪いところは見てきたし、なにより知ってる人なのでそんなに怖くはない。

というか、どこか懐かしさのある目玉だと思った。

「でも、今日は…」

「俺と、宇宙はモノどもを倒さないとだから君を見つけるのは明日になる。だから、なんとか明日まで目立つところに移動しないとだ。」

と言っても、ここがどこなのか分からない。

峠道のようだが、もっと高い山が囲み、盆地の中にぽつんと山があるような峠だった。

日が落ちるのも早く、月が上がるのも遅そうだ。

しかし、ここは小説。

都合よく木でできた祠があった。

しかも板張りで、人が中に入れるようになっている。

「ここの情報を紘我の本体に送るから、明日には迎えが来るぞ。」

やれやれと思ったら、あれだけ寝ていたのに急に眠くなってきた。

眠って、脳が疲れたのでまた寝たいらしいが、そんなことはまつりには分からない。

「まつりさん、数珠を手にはめなさい。」

紘我は、いや、紘我の目玉はしゃべった。

「なぜ?」

「その数珠はあの水子地蔵を少し削ってこつこつつくったものだ。

あれだけ強力な呪いの温床だったから、このくらいなら、安眠グッズぐらいにはなると思っていたんだが、これでも結構精神的に影響を与える。すなわち、これだけ呪いから離れていても多少の影響を与えるということは、またまつりさんじゃなく、しずかさんの世界に行けるんじゃないかと思っててね。」

「……けど、あの世界は?」

「大丈夫だ。君はその世界で生きるし、宇宙もその世界で生きる。

こっちでもあっちでも人の生きる道は変わらない。その人の生きる道が早くなったり遅くなったり、脇道にそれたり、穴に落ちたりするだけだ。

…尊正氏の人生は長く続き、世界が平和のままになった世界。

しずかさんが親の愛情を受けて、立派な御令嬢になった世界。

宇宙がグレて、世界を終わらせようとしている世界。

私も救世主などにならず、普通に生活したであろう世界。

その世界を覗いただけだ。

その世界の秩序を自分が壊してしまったとしても、その世界では本当に起こる予定だったかもしれない。

非常に良く似た、まつりさんが行かないとどうなったのかという世界もあったかもしれない。

そうであれば、ここで夢を見るのをやめてしまっても全然大丈夫だ。

ここから先は自分で…」

まつりはすぐ数珠をつけた。

「…いいじゃないか。さすがまつりさんだ。俺は起きてるから安心して寝なよ。良い夢を。」

 



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第8章 第ニ部 目覚め

なので、祠の裏側に隠れてウトウトし始めた。

 

 

 

「しずか!」

誰かに呼ばれて起きる。

起きるというか、立ったまま、目をつぶっていた状態から、揺さぶられて目を開けたようなもんだ。

「鯨船は?」

「まだ浮かんでる。」

アヤが芭蕉扇を背中につける。

「しずか。」

「お父さん。…」

大炊御門尊正

「また、別の記憶があるしずかと入れ替わったのかい?」

「はい。…」

「一つお願いがある。」

「なに?」

「私をあの鯨船まで連れて行ってくれ。」

「えっ?」

「実は吸血鬼との話には続きがあって、鯨船のコントロール方法を吸血鬼から教えてもらっていたのだ。これを制御すれば鯨船は暴れるのをやめる。」

「それは本当?」

「本当だ。吸血鬼もその方法で国会議事堂まで船を動かした。」

「…分かった。」

「よろしく頼む。」

周りの人の力を借りて、尊正はしずかを背負う形で体を固定させた。

空に飛んだら、しずかが尊正をひっぱり上げるというより、尊正がしずかを押し上げる型になるよう、準備が進められた。

「よし、みんな下がってくれ。」

尊正が指示を出す。

みんなが下がる。

みんなが注目している。

不安そうな人

これでなんとか被害を食い止めて欲しいと思っている人

なんとかなるという自信がある人

アヤもいる

しかし、ふと、しずかは、こう思った。

この作戦に失敗したら、この世界の尊正は、悪者になってしまうのではないか。

そう思ったら急に怖くなった。

「しずか。」

「はい。」

尊正さんが笑ってこっちを見た。

すごい優しい顔だ。

「やめるかい?」

「………。」

なんで分かった?

「急に足をグッと締めたろ。なにか不安があると、しずかは小さくなるからな。」

「だけど、このままだとお父さんが。」

「気にするな。また、この騒ぎも吸血鬼がどっかで見てるんじゃないか?」

「…だけど、このままだとお父さんが、悪者に。」

「政治家はいつだって悪者扱いだよ。いくら良いことをしても2割ぐらいの人には賛同されないからね。」

「違う。」

そんな次元の話じゃない。しずかいや、まつりが生きている世界は、2割どころか、2人も尊正氏を良く言う人はいない。

「いやぁ、しかし、自分の娘のことになるとこうにも甘くなるのか尊正よ。」

尊正さんが独り言を言う。

そのとき、

「世界を壊して、親父を振り向かせてやる!」

草むらからなにかいや、宇宙が飛び出した。

まだあの竹竿を持っていたらしいし、まだあの飛行道具は生きていたらしい。

「あの野郎!」

尊正としずかを取り囲んで見ていた人たちのうち、動きが早そうだった人たちが、落ちていた石を宇宙に投げ始めた。

「世界を平和にするのを邪魔するな!」

石どころか、持っていた手拭いや、縄、枝などとにかくみんな空にいや、宇宙に投げる。

宇宙も宇宙で真っ直ぐ飛んで行かない。

あっちへこっちへフラフラしている。

「多分、飛行道具がやられて真っ直ぐ飛べないんだ。」

「お父さん、行こう。」

「いいのかい?」

「いまやらないとみんな不幸になる。」

「分かっ…」

尊正が言い終わるより早く、しずかはまた飛んだ。



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第8章 第三部 朝

さっき、歴史を教えてくれる90歳のおじいさんから
「地元にかつてあった遊郭のお店の名前が載っている地図が手に入ったから取りに来い。」
って電話があり、
「今、吉原神社で、吉原の変遷をまとめた地図見てるんで、無理です。」
と、言って一週間後にアポを取った。


宇宙とは違う。

真っ直ぐ、力強く、安定して飛んだ。

「あっ!待て!」

あっという間に宇宙を抜き去る。

「このやろ!」

宇宙が竹槍に点火させる。

「世界を滅ぼすのは、このおれだ!」

投げた。

「この!」

しずかはクルッと向きを変える。

宇宙を見下ろす。

「あなたのお父さんは、いや、お兄さんとお姉さんは。」

扇が開いて背中にくっついていた状態から、扇が閉じる。

「まただ…」

宇宙がつぶやく。

「あなたを心配してるし、気遣っているに」

扇が空に向かって一直線状に伸びる。

原理は分からない。

どうしてそう動いたのかもよく分からない。

ただ、あれを止めようと思っただけだ。

「ちっ…」

 

「決まってるでしょ!」

扇を振り下ろす。

竹槍はあっけなく叩き落とされ、そこで爆発した。

宇宙の頭の上にも扇が迫る。

「ちくしょう!」

宇宙は無理矢理体をひねる。

翼がバッキリ破れる。

「そのまま、」

扇は、素早く伸びた状態から畳まれた状態に戻り、また開くとそのまま宇宙に向かって飛んだ。

尊正は特になにも言わない。

恐怖はあるが、有権者そして、なにより娘の前でカッコ悪いことは出来ない。

「家族のところに帰れ!」

開かれた芭蕉扇で、回し蹴りの要領で思いっきり宇宙を叩き飛ばした。

きりもみの状態で森の中へ吸い込まれていった。

「よし!」

しずかは上を向き、鯨船の位置を確認すると、また真っ直ぐ飛び上がった。

そして難なく鯨船の上まで飛び、屋敷の2階テラスに着地した。

「よし、行ってくる。」

尊正は、装備を慌てて外すと走って中に入った。

するとまもなく、尊正が出てきた。

「うまくいった。まもなく、船はゆっくり地上に降りる。」

「………。」

「しずか。」

良かった。

この世界のこの人は少なくとも悪名が轟くことはないだろうと思った。

そしたら、この芭蕉扇はこんなにも重いものだと感じた。

思わずよろけた。

それをお父さんが支えてくれた。

「お父さん、わたしは、あなたを助けに」

「分かってる。助けに来てくれてありがとう。こんな未来もあるんじゃないかと思っていたよ。」

鯨船がゆっくり地上に降りる。

「…ところで、しずかはどうして何度もこの世界に来たんだい?」

「そこまで分かっているの?」

「おそらく、今のしずかはいつもと違って快活だからそうだと思ったんだ…君は、こんなにも身体が強くなる未来もあったんだね。」

尊正はなんか遠い目をした。

「…それは、なんとか。」

「…医者は、もうサジを投げている。かわいそうだけど。」

「…「けれど、」」

尊正の目に輝きが戻る。

「けれど、その瞬間が来るまで、私はしずかを大切にしたいと思っている。君の世界の私はどうだい?」

「………。」

しずか、いや、まつりは答えられない。

私は気がついた時には駅の屋根裏にいました。

と言ったらショックを受けるかもしれない。

「……とても、大切にしてもらいました。」

「本当は?」

「えっ?」

間髪入らなかった。

「自分の娘が嘘をつく時の癖を知らないと思う?」

「…実は分かりません。私の世界は。(以下略)」

「なるほど。多分、私もそうすると思う。それは、なにがなんでもし…君に生きてほしいからだ。」

「…あんな地獄みたいな世界でも?」

「地獄みたいな世界でも、地獄よりかは楽しいことや喜ばしいこと、そしてなにより大切な人と出会う経験が出来る。だから、私も生きてほしいから逃すと思う。」

「私は、愛されていたの。」

「当たり前だ。だって、私は君が生まれた時、「この呪われて、理不尽で、最悪で、幸福で、美しく、最高の世界へよく来てくれた。君が最高の人生を送れるように頑張るからね。」と誓ったんだから。それは、どの世界線の私でも言っていると信じている。」

まつりは、ずっと思っていたことがある。

果たして、自分は生きていてもいいのか。

駅の屋根裏で強盗みたいなことをしていたのなら、さほど自分は必要なかったのではないかと思っていた。

しかし、この尊正のことで救われた。

自分は、生きて欲しくてあの屋根裏に隠されたのだ。

そう思えば、感情がぐちゃぐちゃになり、泣いた。

「…そりゃ泣くよな。」

尊正もなにも言わなかった。

鯨船はゆっくり空を泳いだ。

そしてゆっくり、ゆっくり地上に降りた。

もう朝になってしまっていた。



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第8章 第四部 二十三夜

ちなみにその後もまた電話があり、
「この間よりもっと大きな地図が見つかったけど、今日はどこにいる?」
「見返り柳の真下です。」
「毎週毎週、どこへ何しに行ってるんだ?」
というのがあった。
(「今日は浅草の三社祭りですよ。」で、納得してもらった。)


鯨船が地上に降りて、尊正も地上に降りたら歓声が上がった。

それはもちろんだが、しずかにも注目が集まった。

数多くの人から祝福の言葉が送られた。

尊正は一人一人丁寧に対応していった。

しずかにも人が集まり、尊正の後ろに隠れたかったが、引き離されてしまっていた。

さて、困った。

見たことない人に囲まれるのは緊張してしまう。

そんな時、

「大丈夫?緊張してるの?」

アヤじゃない。

大荷物を背負い、探検家が被るアドベンチャーハットとバンダナを首に巻いた女の人に声をかけられた。

「…あれ?」

なんか見覚えが、

帽子から見える青い髪

綺麗な優しい青い目

そして、細いのに強く握られる手。

「…どうかしたの?」

「私は、あなたに…」

「えっ?私はたしかにあなたと同じ大学だけど、話したことは…」

「あなたのお名前を教えて。」

はやく。

なにかいやな予感がする。

身体が多くの人に揺さぶられる。

まずい、このままだと目が覚める。

「私は、」

「まつりちゃん!…まつりちゃん!」

紘我さんの声。まただ。

早く言って!

「うみ…宮中海美」

「うみ…うみ!」

「まつりちゃん!」

ふわぁ!?

と起きる。

目玉がしゃべってる。

「まつりちゃん。なにか入って来たぞ。」

「…うみ。」

なんか忘れそうだ。

石碑の表を見る。

この小屋の入り口から土足で誰か入ったみたいで、入っただけならまだしも、石碑に向かって土下座している。

「オサンヤ様!助けてください!オサンヤ様!」

となにかしゃべっている。

そしてなにより、上だ。

屋根の上からなにか音がする。

なにかが移動するから、屋根がきしむ音。

それだけでなく、猫がニャーゴ、ニャーゴと鳴いているが、その音がでかい。

耳元で鳴かれているようだ。

「うみ。」

まつりは壊れたのか?

いや、忘れちゃいけないと、つぶやいて覚えているのだ。

「まつりちゃん、このままだと小屋が潰れるぞ。」

目玉の紘我さんは言う。

「うみ。」

「…さっきからとうした?うみとつぶやいて。」

この小屋、古いもんだから、天井が歪んでくる。

埃が落ちて、月の光があちらこちらから刺すように降り注ぐ。

ニャーゴ。

猫の大きな目が満月のように覗いている。

「私は、うみという人を探していたんです。」

「うみか…俺の娘と同じ名前だ。」

「………。」

「オサンヤ様!」

まつりは、表へ回り込む。

石碑に向かって土下座している大人を踏みつけ、抜刀。石碑の上に飛び乗る。

そのまま、見下ろす目玉に飛び込む。

深く突き刺さる手応え。

猫はニャーともギャーとも聞こえる耳に残る気持ち悪い声をあげた。

猫は後ろに反り返りおののく。

まつりはまた石碑の裏に飛び降りる。

まつりはしばらく天井を睨みつけていたが、猫はいなくなったようで、小屋がきしむこともなかった。

「ふぅー…」

まつりは天井を見ながら刀を納めた。

「ありがとうございました。オサンヤ様。」

またあの男の人が拝んでいるようだ。

「大丈夫ですか?」

まつりは石碑の表に出た。

「ひっ!…おやっ?あなたは?」

まつりはなんでこの人は私の姿を見ても驚かないのか?

と思ったが、なるほど、赤いマントがないから、ただ、長い刀を差した女の人だと思っているらしい。

まさか赤鬼には見えない。

「私は、まつり。ここに泊まっていたらあなたが入ってきたの。」

「えっ?…ということは、あの化け猫を退治したのはあなた?」

「そう。」

「失礼をいたしました。本当にありがとうございました。」

「気にしないで。だけど、こんな夜遅くになんでここに?」

「はい。実は、私は行商をしていて、久しぶりに子どもたちに会おうと帰っていた途中だったのですが、峠の途中で子供に買った風車を壊してしまいまして、夢中で直していたらとっぷり暮れてしまい、あの化物に追いかけられたのです。」

「…そう。そうなの」

まつりはこの人も誰かの父親なのかと思った。

今はなんだか、誰でもいいから父親を守れたのは良かったと思っていた。

「なにかお礼をしたいのですが…」



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第8章 最終部 ファミリーナンバー4

ちなみに、この化け猫退治も昔話にありました。
(それは月自体が退治したことになっていました。)
そしてこれで、過去編が完全に終わり、いよいよナンバー4との決戦に入りますが、まだ書けていませんので、またしばらくお待ちください。


「……じゃあ、教えてほしいんだけど。」

「はい。」

「青い髪の女の人を見たことないかしら?」

「青い髪?」

「本当に青なの。黒が薄くて青に見えるんじゃなく。」

「それは珍しい。けれど、見たことないなぁ…すみません。」

「そうですか…」

「その人はお一人?」

「…いえ、実は連れさらわれて。」

「えっ?じゃあ、モノ?」

「ファミリーって知ってますか?」

「ファミリー…そっちか…」

「ファミリーで知ってることは?」

「行商をしている人たちの間でも話題になっていて、なんでも、六道はみな奴らに食べられてしまうとか。」

「なので、急いで助けないと食べられてしまうかもしれないんです。」

「なるほど……いや、でも…」

「なにか知ってるみたいだな。」

紘我の目がしゃべった。

「男の人が?」

父親は見渡す。

「この目玉です。」

まつりは手の上の目玉を見せる。

「害がなさそうなものは怖くないですよ。あの化け猫の目は怖かったてすけど。」

「なにを知っている?」

「はい…ここからすぐにある高篠山…」

「…あの山か。俺も教えるのか迷ってはいたんだが。」

「高篠山?」

「………。」

「教えて良いですか?」

「まぁな。」

「ここから、すぐの山で、高篠山という山があり、その中腹に、地元の人たちは女長者と呼んでいる長者…いや、ファミリーが住んでいます。

その女長者は、命令一つで、夏祭りをやめさせ、命令一つで、雪降る真冬に夏祭りの続きをやれと命令するんです。」

「地元の人たちは?反抗しないのですか?」

「昔はしたようですが、その女長者、ものすごく体が大きく、人の大きさほどある芭蕉扇を持っているんです。」

「人の大きさほどある芭蕉扇。」

なんか聞き覚え見覚え、使い覚えがある。

「その芭蕉扇を使い、不思議な術を使って、反抗する人たちを全員やっつけて服従させたんです。」

「…それが、ファミリー」

「たしか…噂によると、ファミリーは50人いるけれど、ナンバー4の強さとか。」

「「なに?」ですって?」

まつりと紘我は声をあげた。

ナンバー4ということは、最初の兄妹の最初の妹で、独立したが、帰ってきたという最強の女。

「そんな女が高篠山にいるのか…」

「しかも、しょっちゅう家族を呼び、宴会をしているとか。」

「…それは。」

「それは。」

「「ビックチャンスじゃないか」」

まつりと紘我はまた一緒に声を上げた。

「え?」

「ファミリーを実質操っているナンバー4、いつか倒さなくてはと思っていた相手だ。こんな近くに潜んでいたとは。しかも、その家族が集まるとなれば一網打尽にできる。」

目玉は目玉だが喜んでいる。

「あの…」

「もしかしたら、手柄をお姉さんに見てもらいたくて、海美もいるかも。」

「あの!」

「「?」」

「…恐ろしくないのですか?」

「怖くないと言ったら嘘ですが、それより海美に繋がるかもしれないというのが嬉しいです。」

「………。」

父親は、「まだその人がいるとは分からないですよ。」

と言いたかったが、この元気さが伝わって言わなかった。

たしかに、高篠山の麓はえらいことになっていた。

いつ、山の長者が無理難題を押しつけて、無理だと自分達をいじめて喜ぶのだ。

そしていじめられてものはその長者が飽きると捨てるように山から転げ落ちてくるのだ。

その体でまともな体のものはいないという。

しかも、老若男女問わず、長者はいじめるのだ。

父親もその里を通ったことはあるが、全員が全員、いじめの対象な訳で、みんなビクビクしている異様な感覚だった。

もしかしたら目の前の人がそれを解決するんじゃないか?

父親は出来るだけ、この女性と目玉に有益な情報を話すことにした。

「あと、言われているのが…」

「なに?」

「そのナンバー4は、もう結構な歳なので、たしかに人間をかっさらうのに、美しい男女から連れて行くと言われてます。それは年齢に関係なく。」

「なるほど。」

「あと、よく宴会をしていると聞きました。」

「宴会を?誰と?」

「その高篠山のほかに、山を要塞化させて近くの里を襲撃して生きているという一族がたしか…5人ほど。」

「ますます大チャンスだ。うまく呼び出せば6体倒せる。」

「その5人がそれぞれ住んでいる里にも行きましたが、これも美しい男女をさらい、帰ってこないとのことでした。」

「なるほど。」目玉はしゃべる。

「ちなみに、参考だが、君から見て、この女性は綺麗か?」

「は?」

「俺は綺麗だと思っていて、うまくいけば囮に使えると思っているが、君はどうだ?」

「…き、このままそう答えると、彼女は囮にされてしまのでは?」

「では決まったな。」

「はっ?」

「だから、囮作戦でナンバー4とその仲間を倒す。」

「そんな…」

「慌てるな。囮というより、取り合いに巻き込ませるだけだ。」

「でも…」

「仮にあなたが言わなくても他の誰かが綺麗だと言えばこの作戦はやったさ。」

「………。」

「大丈夫だ。だって彼女の強さは知っているだろう。」

「それはそうですが。」

「もし心配なら、…あなたはこれからずっと23夜の化け猫の目とこの女性の冥福を祈ってやってくれよ。」

「…はい……」

「それじゃ善は急げだ。まつりちゃん、小屋を出たら左だ。」

「はい。」

まつりは歩き出す。

「ちょっと待ってください。」

父親は持っていた風車を差し出した。

「なんだかんだ、この風車で遅れたために化け猫に襲われ、あなたに助けられ、あなたを危険な目に遭わせているのです。なにも渡せる物がないので、せめてこれを。」

父親は息を吹きかけてみせた。

風車がシャコシャコ回った。

「いいの?」

「もちろんです。」

「ありがとう。じゃあお礼に。」

そういうと、頭のお面を外した。

「これあげます。」

「そんな」

「もらったんですから。」

「これは助けていただいたお礼です。」

その時、風車が回転しながらまた留め具が吹き飛び、車がただの切り込みのある紙に戻った。

「あっ!すみません…これじゃ…」

「…じゃあ!」

まつりは、留め具の部分にお面の目を突っ込んでみた。

見事にぴったりだった。

「これから、目の部分を切り取ってまた差し上げます。そうすればお返しになるでしょう?」

「でも…」

「いいからもらっておけば良いじゃないですか。」

目玉が言う。

「お礼をしたいひとがそうしたいのなら、それを受け入れましょうよ。」

「はい。」

そんなことを親父たちが言ってる間にもまつりはお面の目を斬って、風車を直し、父親に返した。

「これからも、オサンヤ様を敬い、あなた方も思い出します。」

「それだけでも嬉しい。例え、もう合えなくてもそれなら、私は…」

大炊御門尊正に、父に会ってまつりもこう思った。

この世界の尊正。例え、その人がいなくなっても、反逆者呼ばわりされてしまっている。

それは、尊正がどれほど日本のためを思って起こした行動だとしても、結果的に後々の世界が崩壊してしまったのだから、叩かれ続けてしまうのだ。

しかし、行動一つで、彼は、あの世界の尊正さんは英雄になっていたのだ。

「私は、相手に、この人は良かった。と思われたいの。」

「…分かりました。では。」

父親は風車を受け取った。

「では、急ぐとするか。月が出ている間なら、化け猫も来ないはずだ。あんたも家に帰れ。」

「そうさせていただきます。」

父親は風車を回しながら出ていった。

まつりと目玉の紘我も出ていった。

 

後、月齢23夜の宵越しには風車を回し、悪いものを吹き飛ばすという風習が出来たとか出来なかったとか、もうその山には化け猫が出なくなったとか言うとか言わないとか。

 

 

みなさんはお気づきになられたてしょうか?

あれだけ海美の後ろにいなければなにも出来なかったまつりがベラベラほとんど知らない人としゃべっているんです。



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第9章 第一部 5人のファミリー

また完成した部分まで投稿します。


ファミリーナンバー4 最初の子どもの長女 おやっつぁんや、紘我の巻物では、ナンバー2が親と兄に殺されたことで恐れをなして一度逃げたが、また戻ってきたファミリーとされ、もう一度なぜか逃げ出し、ファミリーを分裂させたと言われている。

まぁ、このナンバーのおかけで本部である父と兄の力は半減し、六道のモノたちも優位にファミリー狩りが出来ている部分もある。

しかし、実態は違う。

 

巻物は空想で書かれた部分が多い。

本当は、ナンバー4は、父や兄より先に母を殺そうと思っていたのだ。

妹はナンバー1になりたかったのだ。

せめても女性のナンバー1になりたかった。

だから殺害してナンバー2になりたかった。

しかし、先を越されてしまった。

ただ、なぜ父と兄が母を殺したのかは分からなかった。

そのわりに私はナンバー2と呼ばれず、そのままナンバー4だった。

どうやら、ナンバー4とは名前だったらしい。

それに気づいた時、ナンバー4はアジトを抜け出した。

自分一人で生きていればナンバー1だ!

たしかにそうであった。

たしかにナンバー1であったが、オンリー1でもあった。

人間にも、動物にも、モノにも相手にされず、誰も敬わない。誰も愛さない。それどころか命を狙ってくる。

ナンバー4は逃げ回り、ある時入り江にある大きな船の残骸を漁ると、中から、自分の手にちょうど良さそうな扇子(芭蕉扇)を見つけた。

その芭蕉扇はただあおぐだけでなく、長い棒に変化して、叩く武器になったり、

対象に向かって飛んでいって打撃を与える武器にもなる不思議な扇であった。

それを持ってからナンバー4は早かった。

痛みと恐怖で人間やモノどもを支配できる事に気づいた。

誰もが彼女に頭を下げた。

みんながみんなご機嫌をうかがってきた。

誰でも自分に歯向かうものがいなくなった。

「もう一度だ。」

ナンバー4は父兄のところに戻った。

父も兄もなにも言わなかった。

この二人はそれこそ、「母親の次は自分が殺されると思って、妹が逃げた。」

と思っていたからだ。

そこは当たっていた。

しかし、ナンバー4は、「圧倒的な力を得たから、それで父と兄を超えたい。」

と、思って帰ってきたのだが、父も兄も、歯向かうことも、殺そうとすることもなかった。

ナンバー4は、オンリー1ではなく、実質ナンバー1になれた。

 

 

ただ、ナンバー1は面白くなかった。

みんなを支配して、ちやほやされなかった。

逆に、みんながどうすれば腹を空かさずに済むのか、父と兄から相談されてばっかりだった。

そして、自分が学んだ、「人間を食べるのではなく、人間に貢がせて、それを食べる。使えない人間は食べるというのはどうだ?」

と、提案した。

父は確かにと言った。

しかし、兄は、「それはいい案だが、このアジトの近くには人間が住んでいない。捕らえてきて、住まわせるとなっても人間を養うのに食料がかかる。それはどうする?」

と、言われてしまった。

なので妹は、「もう一度、アジトから出て、人間の住んでいるところを支配して、貢ぎ物をさせるから、それを送るのはどうだ?」

と、提案してみた。

父と兄は、「それは大変じゃないか?」

と言った。まるで、ナンバー1の扱いじゃないかと思った。

しかし、ナンバー1は、ナンバー2.3を守ってやらねばならない。

多少面倒でも…

「大丈夫だよ。」

そう言ってしまった。

しかし、父と兄は、負担を考慮して、妹に似ているファミリーや、いうことを忠実に聞きそうな何人かも選び、ナンバー4と一緒にアジトから出した。

これが、妹の2回目の離反の真相である。

ただ、正しくは、離反というより、分担や独立であった。

 

そして、ナンバー4が住み着いたのが高篠地域にある高篠山のかつて人が住んでいた場所と言われる長者屋敷であった。

それをもじって、高篠女長者と周りの人間から言われていた。

しかし、人間たちも必死になった。

それまでよりキツく、厳しく貢ぎ物や略奪を女長者は繰り返すようになっていた。

その本人だけじゃなく、似たような仲間だけでくることもあった。

高篠の人たちは疲弊しきってしまっていた。

そんな村に、一匹の赤鬼いや、女の子が現れた。

 

高篠地域は、取れるものは何でも取られていた。

ただ、人が生きるのに最低限の衣食住のみがあるだけで、自堕落に生活していた。

 

なにやら、広場になっているところで、何か燃え落ちた跡がある。

そこら辺で、ぼぅっとしている人に女の子は聞いてみた。

「これは、夏祭りの残骸だ。」

「…けれど今は春で、煙も出たましたが。」

「昨日終わったんだ。」

「昨日?夏祭りが?」

「そうだ。例年通り、去年の夏に櫓を組んで、焚き火を燃やして夏祭りをしていたのに、女長者が再び現れて、焚き火をかき消すと、夏祭りを無理矢理中止させやがった。

そして、そのまま中止で、真冬にもう一度再開させられた。

その一日だけかと思ったら、そのまま夏祭りが延長されて、昨日やっと終わったんだ。」

祭りというか、そこまでいけば修行である。

「女長者は?」

「屋敷にでも戻って寝てるんじゃないか?1秒でも体を休めないと…」

これ以上この人に関わるとなんだか可哀想だし、怒って怒鳴られそうだったので離れた。

「作戦は一刻を争うといった感じだな。」

目玉はしゃべる。

「けど、どうやって助けるの?」

「俺を耳元に隠せ。」

「うん。」

まつりは目玉を耳元の髪の毛に隠した。

「いちいち指示する。それまでは絶対にしゃべるな。分かった?」

「分かった。」

そう打ち合わせると、またあることを指示して、高篠山に向かった。

 

 

高篠山は、わらびの名所である。

高くはない山にファミリー、ナンバー4が現れるまでは、集落中の人たちがピクニックにちょうど良い山だった。

そんな高篠山の中腹に、ナンバー4は屋敷を構えている。

今は、昨日で終わった夏祭りの体力回復のために昼寝の最中であったが、なんとなく起き出していた。

「人間が近くにいる。」

ナンバー4はつぶやく。

「なんだって?」

ナンバー4じゃないファミリーが出てきた。

これはいったい。

「大体、こんな時に訪ねてくるなど、命知らずもいいところだ。旅人でも迷い込んだんであろうから、食ってやろう。」

ナンバー4は、芭蕉扇をピシャリ!と閉じるとそう言った。

地獄道に堕とされたファミリーとはいえ、屋敷はとても立派であった。

純和風の畳敷の部屋は、いぐさの良い匂いがして、お香からも良い匂いがしている。

襖の絵も、梁の彫刻も今に動き出しそう。

まつりは静かに座敷の真ん中に正座している。

しばらくすると、ナンバー4が現れた。

「あなた…」

まつりは人が入ってきたらすぐ頭を下げろと言われていたから、すぐ頭を下げた。

正座から綺麗に頭を下げたから、ナンバー4は教養のある…自分より教養のある人間が来たと思った。

悔しい。

「頭を上げてください。」

違う声。

「まつり、頭を上げて元に戻れ。」

紘我の声に従う。

ナンバー4だけじゃなく、男の人がいた。

男に見える人もいた。

男の子も、女の人も女の子もいた。

五人いたのだ。

「………。」

「………。」

「………。」

「………。」

「………。」

「………。」

みんな黙る。

まつりは、紘我が指示しないから黙っているが、ファミリーは、また違った理由で黙っていた。

こんなに美しい人を見たことがない。

互いに顔を見ることや、村を襲って顔は見るが、こんなに美しく整ったなり顔は見たことない。

ファミリーには芸術も信仰心もないから、似顔絵やグラビアを見て、美しいと思うことも無ければ、仏像やタペストリーを見て綺麗と思うこともなかったのである。

とにもかくにも、こんなに美しい人を見たことがなかったのだ。

五人のファミリーは嫉妬し、羨み、見惚れ、憧れ、恐怖し、そして、五人全員がこの人を手に入れたいと思った。

「よく来てくれた。早速だが、ここで暮らさないか?」

芭蕉扇を閉じたまま、ナンバー4はまつりを指した。

「ここよりもっと良いところがあるから、こっちに来なさい。」

「いいや、うちがいい。」

次々としゃべった。

「まつり、こうしゃべれ。」

いままで黙っていた紘我がまつりに指示した。

「では、」

「「「「「!!」」」」」

なんと美しい声だと思った。

こんな美しい声は聞いたことない。

まるで○○○○のようだ。(まつりの声優の名前が入る。)

「では、1番小さいあなた。」

「はい!」

子供でいえばまだ10歳ぐらいのファミリーが答える。

「あなたは、この近くにある村があり、その村の1番背の高い女の人が被っている帽子を私にプレゼント出来たら、あなたのものになるわ。」

「わーい!」

まつりは隣の女の人を見つめる。

「そしてあなたは、あるものを食べて。」

「私?」

「大丈夫。手助けを手取り足取りするから。」

「…なら」

なんか照れている。

「そして、あなたは。」

「えっ?俺?俺にも。」

「あなたは、私がここに来る時、大事な赤い毛布を取りに行って欲しい。」

「なんだ。そんなもんか」

「そしてあなた。」

「待ってました!」

「!…あなたは、オート村の近くにある謎の声の正体を暴いて。」

「よっしゃ!そいつを捕まえて、その首をネックレスにしてプレゼントしてやろう。」

「そして、あなたは…」

最後にナンバー4を見た。

「いや、あなたはやらない方が良いわ。私の出すお題が出来なさそうだから。」

「なに?」

部屋の中の空気がグニャんと歪む。

本気で怒らせたようだ。

他の四人は怯えている。

しかし、まつりは冷静である。

「なにを言おうとしたんだ?」

「た…いや、やめましょう。やらない方が良い。」

「言った後で、出来るかどうか決める。言ってみろ。」

「…そうですか。なら…太陽が上がってから沈むまでの間に、高篠山のわらびを一本残らず収穫してください。」

「…なんだ、そんなことか。…そんなこと、私が出来ないとでも思っていたのか?」

「はい。」

「馬鹿にするのも良い加減にしないと、」

芭蕉扇を伸ばす。

本当に、手元から伸びて、まつりの目の前の畳に突き刺さった。

「今度はあなたが畳のようになりますよ。」

「………では、追ってその宝ややることを指示します。帽子と、毛布と、オート村の手前の調査のファミリーはこちらへ。」

そういうと、ゆっくりまつりは立ち上がり、三人と外に出た。

「………。」

「………。」

「綺麗な人だったね。」

「わたしだけ馬鹿にしやがって…私が手に入れて、奴隷にして…あいつの皮を剥いで私が成り代わってやる…」

ナンバー4は芭蕉扇が破れるほど握りしめた。



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第9章 第二部 貴公子へのお題

いよいよ、日本昔ばなしをモデルにまつりがファミリーを倒し始めます。
お楽しみに


まつりは、早々と3人と出かけた。

3人はなんとかまつりと話そうとしたが、紘我が絶対反応するなと言っていたので、まつりにとっては快適な移動になった。

オート村の近くにある、あの時は大蛇に乗っていたあの別れのところに来た。

「この近くに変な音が聞こえるから、調べて欲しいの。」

「おうよ!」

「で、ここが良いんじゃないかって場所があって。」

で、連れてこられたのは、その分岐点が見える崖。

だいぶ離れているが見晴らしが良く、遠くには地平線も見える。

「もしかしたら、長期戦になるかもしれないから、この崖に生えているイワタケを取ったらどうかしら?」

まつりは適当な長さの縄を差し出した。

「そうしよう!」

男は縄を近くの木に繋げると、するする降りて行った。

「じゃあお願いね。」

ファミリー2人とまつりは去った。

「俺のためにこんな縄まで用意してくれるなんて、やっぱり俺のこと…」

そんなのを考えて降りていったら、急に縄が軽くなった。

「わっ!」

慌てて男は崖にしがみついた。

ずるずる降りて、ちょっとした横になれるかなれないかの崖っぷちになんとか降りられた。

「なんじゃ?」

上を見る。

なんと、さっきのまつりが見下ろしている。

そして、手には縄と見たことないほど長い刀を太陽の反射でキラキラさせている。

「チッ!」

舌打ちが聞こえる。

「ちょっ…ちょっと!なにするんだ!?まつりちゃん、助けてくれ!」

「………。」

「どうしたんだ?助けろ!俺はファミリーだぞ!」

「………。」

「はやく縄をおろせ!」

「…。」

まつりは縄を伸ばし出した。

「言うことをきちんと聞けば良いんだ!俺のものになるんだからな!」

ある程度縄が降りてきたところで、また伸びるのが止まった。

「おい!まだ足りないぞ。なにやってんだ!」

まつりは出てこない。

「はやく縄をおろせ!俺を引き上げろ!そしてお前がなにかやったんだろ!それを謝れ!」

まつりは出てこない。

「謝れ!俺を上げろ!」

まつりは出てこない。

彼は29位

まつりは出てこない。

29位は叫ぶ。

まつりはでてこない。

まつりはでてこない。

まつりはでてこない。

 

 

「あっ!来た来た。」

まつりが2人のところへ戻った。

「すみません、縄の結びが甘いと思っていたので特殊な結び方に直してあげてました。」

「そうか。まぁ、勝つのは俺だけどな。」

「じゃあ、小さいあなた。」

「うん。」

「あなたはここから先の村に行って、1番大きい女の人の帽子を取ってきて。」

「分かった。」

「ただし、ここにお地蔵様があるけど、絶対ここよりこっちに来てはダメ。私が迎えに行くから、必ず出るの。私を手に入れたいなら、私の言うことを聞くよね?」

「うん。」

「じゃあ、いってらっしゃい。」

「はーい!」

男の子は、村の中に入っていった。

男の子とはいえ、ファミリー。

近くの二階建ての家をあっという間に奪い、家の人たちを隷属化させた。

「村で1番大きな女の人の帽子を取って来い。」

と、命令して、探しに行かせたあと、自分は家の縁側でダラダラしていた。

縁側からは、2mぐらいある生垣と、玄関に通じる門が見えた。

自分がまつりを手に入れたらどんなことをやってもらおうか考えていた。

すると、生垣の上になにか現れた。

真っ白な帽子だ!

しかも女性用のツバが広いやつだ!

生垣は2m以上ある。

明らかにこの帽子のことだ!

帽子はスタスタと門の方へ向かう。

「ちょっと、お前!」

男の子は声をかけた。

しかし、帽子は止まらない。

それどころか、門のところに来たため、正体を表した。

人だ。

これもまた真っ白なワンピースを着た人だけど、帽子を深く被っているので、顔は分からなかった。

その白い帽子の人はそのままスタスタ行ってしまった。

「おい!俺はファミリーだぞ!」

男の子は追いかけた。

しかし、門から外を見ても誰もいなかった。

 

「あのまま一人にしていいのか?」

「…あなたは私が欲しくないの?」

「いや、欲しい。だけど、あんな子供を一人でなんて…」

「なら、あの子と変わる?私は自分の毛布をあなたと」

ギュッと手を握り、目を見る。

「あなたに取り返してほしいんですけど。」

「………。」

まつりと、男はまつりが毛布を取られた関所まで戻った。

もう、辺りが真っ暗だったので、囲炉裏に火を起こし、なにもしゃべらず、じっとしていた。

「あんた…」

「あなたは、どんなものを武器にして獲物を取るの?」

「俺は、この鎌だ。農民が持っていたのをぶち殺して永久に借りた。」

「……それだけ?」

「あぁ、そうだ。」

「そう。」

「あんた…」

「あなたは、子どもは好き?」

「…好きっちゃ好きだ。肉が柔らかいからな。」

「食べるの?」

「きちんと処理してからな。中にはいきづくりを食べるのもいるが、かわいそうで見てられない。」

「……。」

「あんた…」

「私、もう休みます。」

まつりはまた正座し直した。

「ちょ…」

「失礼したします。」

男が止めるのも聞かず、すぐお辞儀すると声をかけられる隙を与えず、さっさと違う部屋へ行ってしまった。

「………。」

男は、なにもこちらが話す隙も与えられずさっさと寝られてしまったことに驚きと、せっかく二人きりなのに話せなかった不満があった。

それなら、さっさと寝てるところを襲って、自分のものにするのも手かと思った時、

「こんばんは。」

ある女の人が入ってきた。

その女の人は赤ん坊を抱えていた。



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第9章 第三部 化け物のすその正体、または、古寺の化け物

前回は三社祭りごろだったようですね。
もう、年の瀬です。


「こ、こんばんわ。」

まつりほどではないが綺麗な人が入ってきた。

なにかの不満がなくなっていった。

「こ、こんな遅くに…」

「実は、道に迷ってしまいまして、一晩泊めていただきたいのですが…」

「別に私の家でもありませんので、どうぞ。」

「ありがとうございます。実はこの子どもは夜、寝る前にうんと遊ばせないと寝ないので、少し遊んでやってください。」

そう女の人が言うと、子どもを床に置いた。

そしてデンデン太鼓を打ち始めた。

デンデンデンデン

それに合わせるように子供が、男の膝の上に上がった。

そして、なにやら謎の踊りを始めた。

デンデンデンデン

「…あの、この子どもは。」

「私の子どもです。器量が良いでしょう?」

「…はぃい。」

多少疑問の残る「はい」であった。

デンデンデンデン

「もう旅は長いのですか?」

「そうですね。

女は話し始めた。

さっき、まつりに逃げられた男は、不満を解消するかのようにたっぷりと話した。

「どうも子どもも眠そうなので、これで勘弁ください。」

子どもが女の腕に帰ったら、女は言った。

「そうですか…」

「もし良かったらまた話をしましょう。」

「ぜひ。」

「ではおやすみなさい。」

「はい。おやすみなさい。」

女と子どもはまた違う別室へ移動していった。

言い忘れていたが、この女、まつりの毛布を着込んでいた。

 

男は火を見つめながら、さっきの子どもを抱えた女と、まつり、どっちを手に入れようか考えていた。

さっきの女の方が話しやすかっただとか、後から来た女の人から自分のものに…とか、

すると、不思議なことが起きた。

囲炉裏の火を見ながら考えていたのだが、ジリジリと火から遠ざかっている。

「あれ?」

座ったまま囲炉裏に近づいた。

しかしまた、少しずつ後ろに動いているのが分かった。

「どういうことだ?……うわっ!」

廊下に引っ張り出された。

「なにぃ?」

そのまま廊下を引っ張られていく。

「なにが起きてる?」

素早く、建物の柱に指をかけたが、自分を引っ張るのはすごい力。

あっという間に引き離されて、廊下を飛ぶように引き摺られて行く。

「ちくしょうめ!」

懐から、まつりに話した鎌を取り出して、建物に突き刺した。

見事に止まった。

「なんだって言うんだよ…おーい!誰か?」

シーン!

 

「誰かいないか?助けてくれ!赤い服の女の人!ま、女の人!いないか?俺のものになる女の人はいないのか!?」

怒鳴るが返答はない。

ガキっ!

と鎌が欠けてまた廊下を引き摺られて行く。

「誰か!俺を助けろ!ファミリーなんだぞ俺は!」

誰も出てこない。

「あの女…」

欠けた鎌をまた、無理矢理家に突き立てる。

両手で力いっぱい突き立てた。

止まる。

両手で鎌の持ち手を力いっぱい持ってやっと止まる。

「おい!女!出てきやがれ!そして俺を助けろ!なにやってんだ!寝るな!起きろ!」

「そんなに大きな声を出さなくても聞こえてますよ。」

まつりが男の後ろ、なにか引っ張られている方向から現れた。

「お前!なにやってんだ?はやく助けろ!」

「ええ。助けます。」

まつりは男の服の後ろの空間を掴む。

服が後ろに引っ張られる。

「これ、大変ですよね。どうなってると思います?」

「しるか!?はやく、はやく楽にしろ!」

「そうですか…そういえば、真後ろの板間が一箇所外れていましてね。

それを覗き込んだら、女の人と子どもがいたんですけど、分かります?」

「…さっ、さっき会った。それが?」

「あの女の人は、女郎蜘蛛、そしてあの子どもは蜘蛛の子どもです。その蜘蛛があなたの服に細工をしたので、それに引っ張られているんです。」

「じゃあ…早く服を脱がせろ!」

「嫌です。」

「なんで?」

「あの女郎蜘蛛の母子はお腹が空いているんです。」

まつりは、股の間に挿している刀を抜いた。

「おい!」

まつりの身長より長い刀を素早く、美しく抜く。

そして抜刀で、鎌を抑える両手首をスパン!と斬った。

「なにを…」

両手首のない男は少し宙に巻いつつ、板間に引きずり込まれていった。

「ぐぁ…」

なにか叫ぼうとしたのか、口を抑えられたのか、すぐ音がしなくなった。

次の日、まつりは両手首のついた鎌を持って、近くの寺のお坊さんたちと一緒に床下を見た。

すると、何人もの人間の白骨が出てきた。

そして、大きな女郎蜘蛛が綺麗に折り畳んだ赤い毛布の上にいた。

「それは、私のものなので返していただけませんか?」

まつりは聞く。

蜘蛛に通じたのか、蜘蛛は降りるとガサガサと子どもたちとどこかへ行ってしまった。

まつりは赤い毛布を取り出してみる。

まさに誰かが直前まで使っていたように、汚れている感じはしなかった。

そして、地下を探すと、昨日の男の服も出てきた。

天道のモノに確認すると17位のファミリーであることが確認された。

 

そして、同じ日に44位のファミリーが、体内の血や内臓が全てなくなって死亡した状態で発見されたことが報告された。

44位は、あの村に置いて行かれた男の子である。



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第9章 第四部 約240cmある女(約30cmは一尺)

男の子は夕方に、腹が減ったので、人間たちを呼び戻すと、夕食にさせた。

とはいえ、人間はみんな黙っていた。

耐えきれなくなって男の子がしゃべる。

「そういえば、さっき、生垣より大きな女の人が通ったぞ。」

「!!」

「!」

「…!」

また静かになってしまった。

しかし少し驚いたようだった。

「なにか知ってるか?」

「……。」

「おい、女!」

「知りません。」

「ちっ…おい、男!」

「…知りません。」

「「…」って間はなんだ?知ってるだろ?」

「…はい。」

男の子は箸を投げる。

「知ってるなら、知ってるって言え!」

「合っているか不安だったので…」

「あれはなんだ?仮説で良いから言え。」

「おそらく、八尺様かと…」

 

「なんだそれは?」

「六道ではないと思います。おそらく怪異。見た…見た者をさらうと言われています。」

「なんでそんな危ないものなのに、黙ったんだ。」

「すみません。しゃべっていいのか迷いまして…」

この人間は四人家族だが、さっきからは父親ばかりしゃべらされている。

子どもは44位の男の子とほぼ同じぐらいの見た目だが、黙りこくっている。

「僕が見たってことは僕がターゲットか…倒したりする方法はあるのか?」

「一応…」

「なんだ?すぐやろう。このままでは僕は死んでしまう。」

「…まず、今日は2階の一室におこもりいただきます。」

「それで?」

「外から出るように妨害されますが、それを無視します。奴はどんな声でも出せますので、それでも無視します。」

「で?」

「そして、朝になったら全力で村の外に出ます。」

「ふーん……嘘ついてないよな?」

「いいえ!絶対に…」

「怪しいなぁ。お前ら、もし黙っていれば連れて行かれたラッキー ぐらいに思うつもりだったんだろ?」

「違います。」

「さぁ、どうだかな…では、お前らの子どもと過ごすことに…」

「余計な子どもがいると、二人とも強制的に連れて行かれますよ。」

「………。」

男の子は子ども達を見る。

恐怖に震えている。

「…親は普通子どもを守りたがるのに、その対応とは……」

「本当のことしか言っていないからです。いま、あなたに嘘をつくのは家族を守れません。」

「そうかぁい。」

男の子は全て食べ終わると、茶碗を投げた。

「ならとっとと俺が生き残るよう準備しろ!」

茶碗が派手に割れた。

 

「では、おやすみなさいませ。」

2階の六畳の部屋に布団が敷かれ、隅にオマルが置いてある。

絶対に外に出てはならないということだ。

しかも、四隅には盛り塩までしてある。

「明日の朝、こちらからお開けします。それまではどんなことがあっても外に自ら出ないでください。」

「はーい。」

「では。」

そう言って、男は出ていった。

男の子は一人ぼっちになった。

「とっとと寝ちまえば、朝になるだろ…」

ビガァア!ゴロゴロゴロゴロ!

「なにぃ?」

庭先に雷が落ちる。

窓にはカーテンがひいてあるが、それが雷の光で白く、ビカビカ光る。

「とても寝れる状況じゃない…」

独り言を布団にくるまって言ったとき。

「私の旦那様!」

外から声が聞こえた。

あの訪ねてきた女の人の声だ。

「ここを開けてください。あなたがしっかりやっているか見に来たのですが、この降りで困りました。開けてください。」

「はいはい。」

(開けてはならない!それは八尺様だ!)

あの男のような声が聞こえる。

「…ごめんなさい。開けることは出来ない。」

「どうかしましたか?」

「君に頼まれた高い背丈の女の人の帽子はどうやら、化物の帽子だったみたいで、僕はその化け物に狙われちゃってるから、ここを開けられない。」

「そうですか…けれど、その勝負、もう型がつきそうですよ。」

「なぜ?」

「これはなんでしょう?」

稲妻がピカッと光り、帽子みたいな影絵が出来る。

「これは…」

「これが、あなたに取って来てといった帽子。もう手に入れたから、あなたに。」

「そ、そこに置いておいてくれ。明日になったら取って、きちんと渡す。」

「けれど、そんな悠長、のんびりしたこと言ってていいの?早くしないと、他のファミリーがクリアして、私はそのファミリーのものになってしまうよ。」

「それは困る。」

「それだし、私は、あなたのものになろうとしているのに、他のファミリーと一緒になるしか…」

「そんな…」

「そもそも、私は声を掛けたら出なさいって言ったのに…村の外に出てはダメだって言ったのに…ひどい。」

「それは…」

「せっかく私はあなたのものになろうとしているのに、その私より、ここにいる他人を信じるのですね。」

「違う!僕は、あなたが欲しい!」

その障子をガラッと開けて、まつりに向かって飛び掛かるように外に飛び出した。

その時また雷が鳴った。

また外にいた女の人に光が当たる。

大きな白い帽子

白いワンピース

そして、2mを超える身長

やっぱりまつりではなかった。

「はい バーカ。」

その男の子が言ったと思うが、その化け物が男の子の声を真似したかもしれない。

 

次の日。

その家の主人が起こしに行っても出てこなかったし、2階が開いていた。

慌てて、村人みんなで調べたところ、村の入り口に、体内の血や内臓が全てなくなって死亡した状態で発見された。




この回があることにより、この物語は大昔の日本ではなく、近未来かもしれないという可能性を入れ込みました。


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第9章 第五部 蛇の腹がへっこんだ話の正体あるいは、そば清

これは、昔話というか落語ですが、古典なので昔話でしょうか


「もう食べられません。」

「頑張ってください。今はどんどんライバルが減っているのですから。」

「ですが…そのままだと負けてしまいますよ。」

 

ファミリーの順位だと13位。ナンバー4の娘である。

まともにぶつかっては、まつり、海美でも勝てない。

なので、紘我はあることをそば畑で考えてあった。

目の前はそば畑

そのところにあるあずまやのようなテーブルでそばの大食い競争をさせている。

なんとも情緒があるものだから、近所の六道のモノモノが集まりおだてている。

紘我はある変わったルールを採用した。

それは、テーブルを隣り合わせにするのではなく、一枚仕切りを作り、食べ終わったそばのザルを相手の机に置くというものだった。

なぜこうしたか?

理由は不正がし放題だからである。

食べる勝負は13位と近所の人間だが、元々マジシャンという人で、食べるふりをしつつ、そばを違う袋に入れていくという戦法を取らせた。

それだけでなく、ザルを相手のテーブルに置く時、食べてない空のザルもいっぺんに置くことで、ザルの量を倍にしている。

だからと言って、それを非難する観客はいない。

みんなこのあづまやに集まる前に入念なチェックをされている。

それに加えて、片方はファミリーと言ってあるから負けさせるのに反対するモノや人はいる訳がなかった。

13位は完全に騙されていたのだ。

しかし、13位も対策はあったのだ。

実は、この勝負がスタートする前に、まつりから、

「やはり、あなたのものになりたいので、あなたにアドバイスがあります。」

と言って、懐から草を出した。

「これは、私が峠を旅していたときに、大蛇が人間を一飲みにしているところを見た時、大蛇が食べたものです。それまでは腹が膨れていたのに、その草を食べたら急に腹が引っ込んだのです。なので消化を助ける効果があります。これを、ココ!と思うところで使ってください。」

そう言われていた。

「すみませんが、トイレに行っても?」

「良いですけど…どんどん突き放されますよ…」

「…構わない。早く行って、早く戻ればいい。」

そう言って、席を立った。

トイレは、厨房棟の中にある。

慌ててトイレに入り、まつりからもらった草を取り出し、丸呑みにした。

特に味はない。

「よし!…これで。」

 

 

「とくにお腹の調子は変わらない!」

こんなことをしている間にもそばの量は突き放されてしまう。

「放って置けば、勝手に効果が聞き始めるだろう。」

そう言って立ち上がる。

しかしなぜか膝や足に力が入らない。

「どした?」

下を見る。

どうした?

足の先がそばになっている。

「は?」

慌ててトイレのドアに手をかける。

しかしドアは開かない。

ドアに触れた指がそばになった。

そばが飛び散る。

「えっ?指は?」

その時、トイレの向こうを誰か通った。

まずい、人間がどんどん食べているらしい。

「誰か!?」

ドン!

とドアを叩く。

拳がそばになり、ドアに当たったそばが飛び散る。

そしたら、衝撃なことが聞こえて来た。

そばの配膳をしているのはこの近所の人間の女性だが、高齢なために声が大きい。

そしたら、

「…いま食べてる人のそばは少しはじいて量を少なくするんだいな!?」

「そうだって、言ってるだんべ!」

なんだと?

食べているそばの量は人間の方が少ない!?

「早く!あけろ!」

ドアに体当たりする。

ありがたいことにドアが外れて外に出られた。

しかし、体当たりした右肩はそばになってしまった。

「きゃ!」

配膳のおばさんが驚いて声をあげた。

「今、人間はそばの量を少なくしているってのは本当か!」

「わわわわ…」

人間たちは驚いている。

それは、ファミリーに聞かれてしまい、自分達が暴力を振るわれるのではないか?

という恐怖ではなく、ただ顔が怖かった。

頬を突き破り、目玉を押し出し、耳から、鼻から、

にゅるんにゅるん

にょろんにょろん

ちょろんちょろん

そばが出てくる出てくる。

「「わっ!」」

配膳と、そばを茹でる係の人が逃げ出した。

「待ってくれ!体が…」

膝下もどんどんそばになり、その場に倒れ込んだ。

その瞬間、人間の肌が弾け飛び、全てそばになった。

事情を聞いたモノや人は厨房棟へ来た。

「やっぱり。」

まつりがつぶやく。

「「どういうことだ?」」

周りが聞く。

「実は、こちらの方には絶対勝てるように仕向けさせていたんです。それであえて、ファミリーにある草を渡しました。これです。」

まつりはまだ残しておいた草を取り出した。

「これは蛇含草(じゃがんそう)と言います。人間を食べた蛇はこれを舐めると腹が引っ込みます。ただし、それは消化を助けるからではなく。人間を溶かすのです。だから、このファミリーは溶けてしまったんです。」

人間もモノもそばになったファミリーを見下げた。

なんともそばが恐ろしく見えた。

ただ一人、違う見え方をしていた人物がいたとかいないとか。

その人は、言葉で人を笑わせることを生業にしているが、師匠より新作を考えてみろと言われていた。

この、腹が減る草ではなく、人を溶かす草というのは面白いと思っていた。

そば清が生まれたとか生まれなかったとか言われていたり言われていなかったりする。



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第9章 第六部 高篠山のわらび女長者

「ということは、私の家族三人は失敗した訳ね。」

春の高篠山の山頂に真っ赤な絨毯を敷いて、重箱にぎっしり詰まった弁当を食べ、読んだ雅楽団に音楽をさせて、人間に舞を舞わせて、ナンバー4は、まつりとしゃべっている。

 

まつりは穏やかに女郎蜘蛛と背の高い女にやられてしまったことと、そばで溶けてしまったことを報告した。

しかし、こんな豪華なのはこの間の夢の中のようだ。

しかし、豪華ばかりではない。

山の中腹では人間たちがせっせとなにか採っている。

「もたもたするな!」

と、ナンバー4に媚びを売っているものや人間がなにか採っているモノや人を叩いている。

まつり…というか、紘我がナンバー4に出した難問は、

この高篠地域のわらびを太陽が出ている間に採り尽くせというものであった。

この時、高篠山はわらびが全然生えていないから、ナンバー4は仲間や自分のファミリーのランキングが低い連中を集めて、悠々とわらびを採り、弁当に舌鼓を打っていたというわけだ。

しかし、他の高篠の人たちは大変です。

高篠は元々わらびがたくさん生えるものだから、採っても採っても全然減りません。

それどころか、採ったわらびは、女長者屋敷に全部運び込んでいるのに、もう蔵も倉庫も屋敷の中にまで運び込まれているのにまだまだ、地区の半分も終わっていない状況です。

しかもそんなことであれこれしているうちに、太陽がもう西の山に少しかかって、今日を終えようとしている。

「まだあんなところにいるのか?」

ナンバー4は、よく働くモノに赤い羽織を着せて、どこにいるのか把握していたのに、まだ下を向いてせっせとなにか採っている。

「なかなか終わりそうにありませんね。」

まつりはゆっくり丁寧にしゃべる。

「これでは、あなたも…」

「いいや!そんなことはさせないわ。見てなさい。」

ナンバー4は大きい体を立たせると、扇をバッ!と開いた。

まつりは、「あの扇、なにか見覚えがある柄だな」と思っていた。

するとナンバー4は太陽に向かって扇を向けると、

「太陽よ!もう一度上がれ!」

と、怒鳴りながら、扇を振り上げた。

それを3回やった。

怒鳴った大声は山々をこだまして消えた。

しかし、見ていた人たちの顔は見る見るうちに紅く染まった。

もう、三日月ぐらいにしか見えなかった太陽がじわじわと見え始めたのだ。

西からおひさまが登り始めたのだ。

そして、頭の上まで太陽が登り、また昼間になった。

「これは…」

人間もモノも呆気に取られていた。

まさかナンバー4はこれほどの能力を持っているとは思っていなかったのだ。

ただ、その太陽のほかにこんなことが起きた。

実は、3回振って太陽があがったが、1回目と2回目でも奇跡が起きていた。

それは、1回目の扇で、屋敷に運ばれたわらびがみんな飛び出し、高篠山めがけて飛んでいったのだ。

蔵から、屋敷の中、庭に積んであったわらびが、籠から飛び出し、宙を舞い、高篠山に突き刺さり、また生えたのである。

「ややっ!?」

高篠山からも、高篠中からも驚きの声が上がった。

しかしすぐ高篠の人たちは喜んだ。

今回の命令は、

「高篠山以外の全てのわらびを取り尽くせ」

だったので、やることが全部終わったわけだ。

それに引き換え困ったのは高篠山をやっていたナンバー4と、ファミリーである。

なにせ他の植物が生える隙間もないほどわらびがみっしりと生えまくっている訳で、とてもとてもナンバー4と数名のファミリーでは追いつかない。

「人間どもは何をしている!?」

ナンバー4は山の下を見た。

なんということだ。

人間とモノが手を取り合いバンザイをして、握手をしてとっとと帰っている。

「ちょっと待て!私を助けろ!」

ナンバー4は怒鳴った。

しかし、怒鳴っても届かない。

さっきは太陽まで届いたはずの声が、山の下にいる人やモノに届かない。

「そんな、他の者に助けを求める前に、あなたがやったらどうですか?」

まつりが正論を言う。

ナンバー4は慌ててわらびを収穫し始めるが、高篠山に小さい籠しか持ってきてなかったからすぐ籠がいっぱいになり、美しい赤い絨毯にバラバラとわらびを乗せ始めた。

「やれやれ、少しゆっくりしますか。」

まつりは、演奏をしている人たちと座り直して談笑し始めた。

「なにやってんだ!まつり!お前も手伝え!」

「人をそうお前呼ばわりする人とは一緒になりたくないので、拒否します。」

「きさ…」

「だって、私、まだあなたのものになるのかは決まってないんですから。」

そりゃそうだ。

いまは赤の他人だ。

ナンバー4は唇を噛み、せっせと作業に戻る。

まつりは雅楽の人たちと談笑する。

麓では人間とモノが遊んでいる。

ちなみに助けにこようとしている人間とモノは一人もいない。

実は、まつり、高篠に戻ってきて、3人が死んだことをナンバー4に報告する前に、3人を殺したことを高篠の人たちに言いまくり、信用を得て、こんなことを言っていた。

「高篠周辺でこれからワラビ取りの指示がナンバー4自らの指示でくる。だけど、なにをしろと指示があってから動け。自発的に絶対に動いてはいけない。なによりナンバー4が指示するまで、どんな天変地異が起きても、屈してはダメです。とにかく指示されたことだけやって、終わったら遊んでください。」

結論から言うとこれは大成功であった。

誰もナンバー4の言うことを聞かず、まつりの言うことを聞いて、みんな遊んでいる。

「誰か、高篠山に手伝いに来るよう伝えなさい!」

ファミリーの順位が下のやつが山を下る。

少しして戻ってくる。

「人間もモノも言うことを聞きません。」

「なぜ?」

「高篠山以外の全てのわらびを取り尽くせとナンバー4様から言われたのに、命令を破ることは出来ません。命令を変えたければナンバー4様の口からお聞きしたい。と」

「ちッ…あいつら…」

ナンバー4が立ち上がる。

「はやく手を動かさないと終わりませんよ。」

まつりがすかさず言う。

「人手を増やします!」

そういうと、ナンバー4は急いで山を下っていった。

またしばらくして人間を引きずるように戻ってきた。

「人間どもは私の言うことを聞いていればいいのだ!」

殴られたのか傷だらけになっている人もいる。

その人たちもせっせと手伝いに始めた。

「まつりよ。これでお前は私のものだな。」

「そうかもしれないけど、太陽を見なさいよ。」

太陽はまた山に沈みそうになっている。

「任せなさい。」

そういうと、ナンバー4はまた扇を取り出して、太陽に向けて構えた。

「太陽よ!あがれ!」

しーん…

「太陽よ!あがれ!」

しーん…

「太陽よ!あがれ!」

しーん…

人も、モノも、ファミリーも、ナンバー4も太陽を見ていたがちっとも動かなかった。

「ほら。もう沈みますよ。」

太陽が、最後の輝きを見せて、山に隠れた。

「太陽よ!そして天の神よ!天人よ!私はファミリーナンバー4だ!私に逆らうことは許されない!早々に太陽を、空に戻せ!これは命令だ!」

そう叫び、また

「太陽よ!戻れ!」

と、怒鳴りながら、扇を振った。

すると、1回目に、女長者屋敷の蔵と庭の木がブゥン!と、天空に飛び去った。

2回目に、振ると、今度は屋敷自体が飛び去った。

そして、3回目。

今度は、ファミリーとナンバー4の体が浮かぶと、山すその、太陽が沈んだ辺りに飛んでいった。

そして、ファミリーナンバーがいなくなった。

すると、天から高篠山に声が聞こえてきた。

「まつりよ。そして紘我、高篠の者たちよ。私は観音菩薩です。」

「観音様のお告げだ!」

人やモノは首を下げた。

「まつりよ。お前は見事、実質ナンバー2の強さであったナンバー4を見事に葬ってくれた。それにともない、4人いや、9人のファミリーも葬ってくれたことを天界を代表してお礼申し上げる。なにか褒美をくれたいところだが、なにかあるか?」

「……。」

まつりはなにも言わない。

紘我の指示を待っている。

「紘我よ。お前の望みも聞くゆえ、まつりに指示するなよ。」

「は、はい!」

まつりが答える。

「これはまつりが望んでいることを答えるんだ。」

まつりが言った。

「紘我、まつりに、私が言うことを全て言いなさい。とでも言ったのですね?」

「そうです。」

まつりが答える。

「よろしい。ならば…」

観音様は目を閉じて、まつりが何を考えているのか探った。

「なるほど。自分を守ってくれた人を探したい。」

「はい。」

「分かりました。…うぅぅ…んと。この紙を使いなさい。地図があるから紘我に聞きなさい。」

「分かりました。」

「紘我、あなたは…」

「俺は、大体わかると思いますが…」

「大体分かります。それでお願いします。」

「はい。」

そんな話と共に、高篠には平穏が戻った。

天人が管轄し、人が戻ってきた。

人は働けば豊かになり、サボれば貧相になる正常な状態に戻った。

そして、女長者屋敷の跡はただの跡地になり、誰からも忘れ去られた。

そして、高篠山はわらびの産地になり、春になると高篠中の人たちがわらび取りに出かける名所になった。

これが高篠山のわらびの話である。




この、太陽を戻すと言う話は中国にもあるし、平清盛が厳島神社で行ったという伝説があるそうです。
ただし、これを行うと滅亡するというのも共通しています。


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第9章 第六部 高篠山のわらび女長者

この話は中国にも


「ということは、私の家族三人は失敗した訳ね。」

春の高篠山の山頂に真っ赤な絨毯を敷いて、重箱にぎっしり詰まった弁当を食べ、読んだ雅楽団に音楽をさせて、人間に舞を舞わせて、ナンバー4は、まつりとしゃべっている。

 

まつりは穏やかに女郎蜘蛛と背の高い女にやられてしまったことと、そばで溶けてしまったことを報告した。

しかし、こんな豪華なのはこの間の夢の中のようだ。

しかし、豪華ばかりではない。

山の中腹では人間たちがせっせとなにか採っている。

「もたもたするな!」

と、ナンバー4に媚びを売っているものや人間がなにか採っているモノや人を叩いている。

まつり…というか、紘我がナンバー4に出した難問は、

この高篠地域のわらびを太陽が出ている間に採り尽くせというものであった。

この時、高篠山はわらびが全然生えていないから、ナンバー4は仲間や自分のファミリーのランキングが低い連中を集めて、悠々とわらびを採り、弁当に舌鼓を打っていたというわけだ。

しかし、他の高篠の人たちは大変です。

高篠は元々わらびがたくさん生えるものだから、採っても採っても全然減りません。

それどころか、採ったわらびは、女長者屋敷に全部運び込んでいるのに、もう蔵も倉庫も屋敷の中にまで運び込まれているのにまだまだ、地区の半分も終わっていない状況です。

しかもそんなことであれこれしているうちに、太陽がもう西の山に少しかかって、今日を終えようとしている。

「まだあんなところにいるのか?」

ナンバー4は、よく働くモノに赤い羽織を着せて、どこにいるのか把握していたのに、まだ下を向いてせっせとなにか採っている。

「なかなか終わりそうにありませんね。」

まつりはゆっくり丁寧にしゃべる。

「これでは、あなたも…」

「いいや!そんなことはさせないわ。見てなさい。」

ナンバー4は大きい体を立たせると、扇をバッ!と開いた。

まつりは、「あの扇、なにか見覚えがある柄だな」と思っていた。

するとナンバー4は太陽に向かって扇を向けると、

「太陽よ!もう一度上がれ!」

と、怒鳴りながら、扇を振り上げた。

それを3回やった。

怒鳴った大声は山々をこだまして消えた。

しかし、見ていた人たちの顔は見る見るうちに紅く染まった。

もう、三日月ぐらいにしか見えなかった太陽がじわじわと見え始めたのだ。

西からおひさまが登り始めたのだ。

そして、頭の上まで太陽が登り、また昼間になった。

「これは…」

人間もモノも呆気に取られていた。

まさかナンバー4はこれほどの能力を持っているとは思っていなかったのだ。

ただ、その太陽のほかにこんなことが起きた。

実は、3回振って太陽があがったが、1回目と2回目でも奇跡が起きていた。

それは、1回目の扇で、屋敷に運ばれたわらびがみんな飛び出し、高篠山めがけて飛んでいったのだ。

蔵から、屋敷の中、庭に積んであったわらびが、籠から飛び出し、宙を舞い、高篠山に突き刺さり、また生えたのである。

「ややっ!?」

高篠山からも、高篠中からも驚きの声が上がった。

しかしすぐ高篠の人たちは喜んだ。

今回の命令は、

「高篠山以外の全てのわらびを取り尽くせ」

だったので、やることが全部終わったわけだ。

それに引き換え困ったのは高篠山をやっていたナンバー4と、ファミリーである。

なにせ他の植物が生える隙間もないほどわらびがみっしりと生えまくっている訳で、とてもとてもナンバー4と数名のファミリーでは追いつかない。

「人間どもは何をしている!?」

ナンバー4は山の下を見た。

なんということだ。

人間とモノが手を取り合いバンザイをして、握手をしてとっとと帰っている。

「ちょっと待て!私を助けろ!」

ナンバー4は怒鳴った。

しかし、怒鳴っても届かない。

さっきは太陽まで届いたはずの声が、山の下にいる人やモノに届かない。

「そんな、他の者に助けを求める前に、あなたがやったらどうですか?」

まつりが正論を言う。

ナンバー4は慌ててわらびを収穫し始めるが、高篠山に小さい籠しか持ってきてなかったからすぐ籠がいっぱいになり、美しい赤い絨毯にバラバラとわらびを乗せ始めた。

「やれやれ、少しゆっくりしますか。」

まつりは、演奏をしている人たちと座り直して談笑し始めた。

「なにやってんだ!まつり!お前も手伝え!」

「人をそうお前呼ばわりする人とは一緒になりたくないので、拒否します。」

「きさ…」

「だって、私、まだあなたのものになるのかは決まってないんですから。」

そりゃそうだ。

いまは赤の他人だ。

ナンバー4は唇を噛み、せっせと作業に戻る。

まつりは雅楽の人たちと談笑する。

麓では人間とモノが遊んでいる。

ちなみに助けにこようとしている人間とモノは一人もいない。

実は、まつり、高篠に戻ってきて、3人が死んだことをナンバー4に報告する前に、3人を殺したことを高篠の人たちに言いまくり、信用を得て、こんなことを言っていた。

「高篠周辺でこれからワラビ取りの指示がナンバー4自らの指示でくる。だけど、なにをしろと指示があってから動け。自発的に絶対に動いてはいけない。なによりナンバー4が指示するまで、どんな天変地異が起きても、屈してはダメです。とにかく指示されたことだけやって、終わったら遊んでください。」

結論から言うとこれは大成功であった。

誰もナンバー4の言うことを聞かず、まつりの言うことを聞いて、みんな遊んでいる。

「誰か、高篠山に手伝いに来るよう伝えなさい!」

ファミリーの順位が下のやつが山を下る。

少しして戻ってくる。

「人間もモノも言うことを聞きません。」

「なぜ?」

「高篠山以外の全てのわらびを取り尽くせとナンバー4様から言われたのに、命令を破ることは出来ません。命令を変えたければナンバー4様の口からお聞きしたい。と」

「ちッ…あいつら…」

ナンバー4が立ち上がる。

「はやく手を動かさないと終わりませんよ。」

まつりがすかさず言う。

「人手を増やします!」

そういうと、ナンバー4は急いで山を下っていった。

またしばらくして人間を引きずるように戻ってきた。

「人間どもは私の言うことを聞いていればいいのだ!」

殴られたのか傷だらけになっている人もいる。

その人たちもせっせと手伝いに始めた。

「まつりよ。これでお前は私のものだな。」

「そうかもしれないけど、太陽を見なさいよ。」

太陽はまた山に沈みそうになっている。

「任せなさい。」

そういうと、ナンバー4はまた扇を取り出して、太陽に向けて構えた。

「太陽よ!あがれ!」

しーん…

「太陽よ!あがれ!」

しーん…

「太陽よ!あがれ!」

しーん…

人も、モノも、ファミリーも、ナンバー4も太陽を見ていたがちっとも動かなかった。

「ほら。もう沈みますよ。」

太陽が、最後の輝きを見せて、山に隠れた。

「太陽よ!そして天の神よ!天人よ!私はファミリーナンバー4だ!私に逆らうことは許されない!早々に太陽を、空に戻せ!これは命令だ!」

そう叫び、また

「太陽よ!戻れ!」

と、怒鳴りながら、扇を振った。

すると、1回目に、女長者屋敷の蔵と庭の木がブゥン!と、天空に飛び去った。

2回目に、振ると、今度は屋敷自体が飛び去った。

そして、3回目。

今度は、ファミリーとナンバー4の体が浮かぶと、山すその、太陽が沈んだ辺りに飛んでいった。

そして、ファミリーナンバーがいなくなった。

すると、天から高篠山に声が聞こえてきた。

「まつりよ。そして紘我、高篠の者たちよ。私は観音菩薩です。」

「観音様のお告げだ!」

人やモノは首を下げた。

「まつりよ。お前は見事、実質ナンバー2の強さであったナンバー4を見事に葬ってくれた。それにともない、4人いや、9人のファミリーも葬ってくれたことを天界を代表してお礼申し上げる。なにか褒美をくれたいところだが、なにかあるか?」

「……。」

まつりはなにも言わない。

紘我の指示を待っている。

「紘我よ。お前の望みも聞くゆえ、まつりに指示するなよ。」

「は、はい!」

まつりが答える。

「これはまつりが望んでいることを答えるんだ。」

まつりが言った。

「紘我、まつりに、私が言うことを全て言いなさい。とでも言ったのですね?」

「そうです。」

まつりが答える。

「よろしい。ならば…」

観音様は目を閉じて、まつりが何を考えているのか探った。

「なるほど。自分を守ってくれた人を探したい。」

「はい。」

「分かりました。…うぅぅ…んと。この紙を使いなさい。地図があるから紘我に聞きなさい。」

「分かりました。」

「紘我、あなたは…」

「俺は、大体わかると思いますが…」

「大体分かります。それでお願いします。」

「はい。」

そんな話と共に、高篠には平穏が戻った。

天人が管轄し、人が戻ってきた。

人は働けば豊かになり、サボれば貧相になる正常な状態に戻った。

そして、女長者屋敷の跡はただの跡地になり、誰からも忘れ去られた。

そして、高篠山はわらびの産地になり、春になると高篠中の人たちがわらび取りに出かける名所になった。

これが高篠山のわらびの話である。



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第9章 第七部 昔話として残る

みなさま。
これで9章は終わります。
良いお年を。


天人がまつりに地図を渡した後、不思議なことが起きた。

天空からなにかふわふわと落ちてきた。

扇だ!

まつりの頭の上にヒラリヒラリと扇が落ちてくる。

取れそうだったので、そのまま扇に合わせてあっちにフラフラこっちにフラフラ扇の下に回り込んでいたら、変わっていたことが分かった。

「大きくない?」

第4位が持っていた時は片手サイズだったのに、まつりと同じぐらい大きさがある。

「うわっ!」

なにかにけつまずいて倒れた。

扇がパサり。

とまつりの上に降りた。

意外と軽い。

扇から這い出す。

「あっ!」

まつりは見覚えを思い出した。

夢だ。

夢の中で私は空を飛んだ。あの扇だ!

「天人さん。これは?」

まつりは紘我の指示がなくしゃべった。

「まつり。これからは自分で決めてしゃべり、行動しなさい。扇もそれに答えることでしょう。あなたが夢の中で使ったことがある使い方はその扇も出来ます。

持ち主のところへ戻っただけなのですから、あなたがあなたの通りに使いなさい。」

「はい。」

そういうと、神々しい光は消えていった。

まつりは高篠の人たちに協力してもらい、背中に扇をかつげるように細工してもらうことにした。

その間にどうしても確かめなければならないことがあった。

慌てて、オート村の近くの崖へ向かった。

 

 

もう何日たったのか分からないが、29位はまだ崖にくっついていた。

食べ物もなく、落ちる恐怖から寝ることも出来ず、心身共に疲れ果てていた。

しかも、これは本人が知るもしもないが、オート村ではまた、

あの峠に化物が現れて、昼夜問わず叫んでいるという噂が立っていた。

化物ではなかった。

この29位が助けを求めて叫んでいる声なのだが、遠いから、化物が叫んでいるように聞こえるだけだったのだ。

「はっ!」

崖の上で29位は居眠りをしてしまったが、すぐに目を覚ました。

その時、崖の一部が欠けて、下に落ちていった。

それが29位にはふわふわゆっくり落ちていくように見えた。

 

29位は立ち上がった。

彼は正常な判断が出来なくなっていた。

いま飛び降りればあのかけらのようにふわふわ降りられるのではないかと思った。

 

空を見る。

太陽が沈みかけて、今日が終わろうとしている、美しい夕日だ。そして美しい森、川。

世界は美しく

なんと残酷なのだろうかと思いつつ。

彼は崖から飛び降りた。

彼の身体は地球に引っ張られてどんどん加速していった。

ふわふわ落ちる訳がなかった。

 

そして森へ消えた。

 

観音様が降りた。

 

そしてあるものを見届けて、天に戻っていった。

 

 

 

 

後書き

観音様は何を見たのか。

29位は崖に背を向けていたのが幸せだった。

美しい空

美しい自然を見ながらいけた訳だ。

後ろを見ていたら最悪であった。

 

崖の上には、

アバジャ

ルッコラ

おやっっあんの部下たち、総勢20数名が見下ろしていた。

そして、空に飛んだ瞬間に20数名は歓声を上げ、拍手を送り、祝福した。

29位はずっと一人だった訳でも、誰かが助けに来てい…いや、一人ではないが、助けてくれる人たちではない。

なにが言いたいかと言うと、29位は死ぬことで多くの人やモノから喜ばれ、祝福され、感謝されたのである。

生きていることが罪であり、死によって感謝される。

それがファミリーである。

なので、この話は後世にも残った。

 

なぜ、一人崖に取り残された29位の最後は語り継がれているのか。

それは、29位が命を無くす瞬間まで多くの目撃者がいて、死ぬことで祝福されたからである。

そして、その死を観音様が注意しなかったいや、出来なかったのは…(それを書くことは出来ない。)



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第10章 第一部 謎の牛

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


高篠からナンバー4を追い出した直後、まつりはオート村に身を寄せた。

観音様からいただいた地図は、まつりに読むのは難解で、紘我が読んで、まつりがそこに向かうというやり方でその場所を目指すことになった。

しかし、それに伴い、あることをオート村から頼まれた。

ある少年を日光東照宮建設中の左甚五郎に届けてほしいとのことだ。

因果かなにか、この少年は甚五と言われ、彫刻が上手く、オート村に来た日に、コンクリート柱を掘り込み、見事な七福神を掘ったことがあった。

オート村で、評判になったが、ここは戦うための村。

彼はもっと安全で伸び伸びと、彫刻において正しいことを言える師匠のもとで励んだ方が良い。となったので、モノが入れない神社を工事している名工左甚五郎に話を取り付けることが出来ていた。

 

少年は後回しでも良いということで、紘我が納得して、その日のうちにオート村の歓声を背にまつりは出発した。

そして、急ぐ道中、変わった街についた。

昼間が忙しく、人やモノがぎっしりいるのは分かる。

ただ、夜。

ぴたっ!

と、人もモノも動かなくなるのだ。

家の中に人やモノはいるのだが、誰もこれも仕切りに念仏を唱えて、震えている。

モノまでもである。

訳を聞くと、

「ここ最近、龍が現れ、池の水を飲み干したら、街の灯りめがけて飛んできたかと思うと、雨や雷で暴れ回り、どこかへ飛んでいってしまうのだ。」

そんな話を聞き、甚五がどうしてもここで一泊して、その龍を見たい。

と、言い出した。

まつりは一刻も早く海美に会いたいと思っていた。

そしたら、ここに泊まるから行ってきてと、言う。

たしかに、オート村からもらったお金はあるから、泊まれないことはないが、どうしてそこまで執着するのかは気になった。

なので、宿の女将さんに話をして、子どもを置いていくことにして、まつりはそのまま歩き始めた。

 

甚五は、彫刻を始めた頃、ふらっと現れた、ある右手のない変わったお爺さんからこんな話を聞いた。

そのお爺さんが、福井というところにいた時、福井でも人々が夜、外に出られず、遊びにも行けず困っていた。

すると、どうやらそこは、毎晩毎晩、なにやらケダモノが暴れているから、危なくて外に出れないし、商品が破壊されるので店も出せない状況であった。

お爺さんは、そのケダモノを見たくなり、見張りに一緒についた。

するとすぐ見ることが出来た。

そのケダモノは八百屋を襲撃した。

美味そうな野菜をガツガツ、ガブガブ食べた。

八百屋に向かって、懐中電灯を向けた。

この八百屋は囮になってくれていたのだ。

ケダモノ。それは大きな牛であった。

見事に大きく、ツヤツヤと整った角

地面をしっかり蹴り上げる爪

そして、黒々と、そして筋肉がモリモリと付いている身体。

品評会に出したら、一位間違いなし。

という感じだった。

しかし、お爺さんは冷静だった。

襲撃が終わり、辺りが静かになったころ、若者たちが八百屋に集まり、片付けとお爺さんからの言葉を待った。

お爺さんは言った。

「あれは、牛だったが、生物としての牛ではない。いくら丁寧に育ててもあんなに毛並みが綺麗になることはないし、どんなに荒々しく育ててもあんなに筋肉がつくわけがない。」

「では、あれはモノですか?」

「そうとも言えそうだし、そうじゃないかもしれない。」

「「………。」」

みんな押し黙った。

お爺さんはすぐ言う。

「一つ、考えられるとすれば、あれは生きていない。」

「「えっ?」」

「このあたりに、牛の看板や彫刻はあるか?」

「そういえば、はずれの薬屋の看板は牛の彫刻だぞ。」

「なぜ、薬で?」

「なんでも、牛の内臓を乾燥させた薬を取り扱っているから、牛の看板をわざわざ買い付けたと聞いている。」

「もしそうなら早く行こう。」

若者達とお爺さんは急いで薬屋に行き、薬屋の主人に話を聞いた。

すると、

「これは、父の代からあるもので、左甚五郎作であると伝わっています。」

「………。」

お爺さんは黙って聞いた。

「爺様。」

若者がお爺さんに話しかけたら、小さい声で答えた。

「…みなさん。今度、牛が暴れたら半鐘を打ち鳴らし、八百屋ではなく、この薬屋の牛を見にきてください。いなくなっていて、帰ってきたらこの看板に飛び乗るはずです。

そうしたら、みなさんで対策を考えてください。目をくり抜けば、八百屋には行けなくなりますが、ところ構わず暴れるでしょう。

足を切ったら走れないですが、見栄えは良くないでしょう。」

そう言うと、お爺さんはそこを離れた。

 

その牛がどうなったのかはお爺さんは知らないらしい。

そんな話を右手のないお爺さんから聞いていた。

甚五はそんなこともあり、不思議なものや動物は是非見たいと

左甚五郎の作品は命を吹き込むことが出来るほど精巧に出来ているらしいから、ぜひ見たいと思っていた。



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