TS転生セシリアが『原初』のリンクスになるようです (相川翔太)
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0・国家のオワリ

始めまして、お酒を飲みながらAC4をプレイしていて思いついたネタです。
二次創作の投稿は初めてですが頑張って投稿していこうと思います。



それはある日、唐突に起こった。

 

世界有数の軍事企業達が各国に対して大規模なクーデターを起こし、全面戦争を開始したのである。

 

本来なら“白騎士事件”に匹敵しうるこの大事件に対して各国政府は驚きつつも楽観視していた。

 

なぜなら最強の兵器である“インフィニット・ストラトス”、通称IS467機の大半は各国が所有しており、企業達が所有している物はせいぜい技術研究用のISが十数機程度だったからである。

 

「企業共の反乱など三日で鎮圧してみせる!」

 

某国の将軍は作戦本部でそう息巻いた。

 

――しかし、その予想は開戦早々に裏切られた。

 

企業がこの日の為に秘密裏に開発していた新技術を盛り込んだ最新鋭兵器、『ネクスト』を実戦投入したのである。

その性能は凄まじく、国家の最強の兵器であったISすらも軽く凌駕するその姿は正に、『次世代(ネクスト)』の名に相応しい物だった。

 

――このネクストの登場により、各国の戦線は僅か五日で崩壊した。

 

あまりの事態に各国政府は恐慌状態に陥り、企業側のネクストに対抗する為に国家保有のISを根こそぎ送り込むだけでなく、国際条約を無視してIS学園の保有するISや代表候補生、教員、生徒を強制的に徴用し各戦線に投入する事態となる。

 

しかし、そんな国家の努力も焼け石に水であり、戦況は悪化の一途を辿っていた。

 

 

――そして開戦から三週間が経った・・・。

 

 

「何処だッ!何処に居るんだ、セシリア!!」

 

あちこちから砲撃や爆発の音が響く戦場で、()()()2()()()に発見された男のIS適正者、“織斑一夏”は()()()()()()()()()()()を駆り一人の少女を探していた。

 

その少女の名は“セシリア・オルコット”。

 

今回、国家に反乱した企業の一つに所属していた少女であり、開戦前にIS学園から去り、一夏の前から突然姿を消した少女である。

 

普通に考えればセシリアは企業のスパイとしてIS学園に潜入しており、世界に二人しかいない男のIS適正者である一夏に接触してきたと考える方が自然である。

 

――しかし、それでも一夏はセシリアを信じたかった。

 

物心つく頃から天才である姉と弟と比較され続け、すっかり荒んでいた一夏の心を癒やしてくれたのはセシリアだったのだ。

 

セシリアは一夏に、一人の『人間』として、そして一人の『男』としての『自信』と『誇り』を与えてくれた。

 

もしセシリアがただのスパイだったらそんなことまでする必要は無い。怪しまれない様に当たり障りのない関係を維持しようとするはずだ。

 

 

なのに、セシリアはこんな自分に親身に寄り添ってくれたのだ。

 

 

――セシリア自身に、そんな()()()()()()()()()()の余裕などなかったと言うのに・・・・・・。

 

 

だから一夏は戦場でセシリアを探した。

 

もう一度、一目でも会いたくて、想いを伝えたくて・・・・・・。

 

一夏はネクストが出現したという報告が来たら、たとえ怪我の治療中であろうとも即座に出撃した。

 

国家の為でも、他の誰かの為でもなく、ただセシリアに会う為に。

 

ブリーフィングで聞いた情報によれば、現時点で世界で確認されている企業のネクストの数は26機。その中にセシリアがいるはずである。

 

そして今日もネクスト出現の情報を得た一夏は出撃し、戦場を駆けていた。

 

――企業の戦車や戦闘機、車両や歩兵を吐きそうになりながらも撃破しながら・・・・・・。

 

開戦から三週間、ずっと戦い続けていた一夏だったが、セシリアとの交流によって元来の優しさを取り戻していた一夏にとって“ヒト”を殺すという不快感と罪悪感は慣れなかった。

 

(セシリアもこんな思いをして戦っていたのか・・・・・・)

 

一夏は戦場にいるであろう心優しい少女に思いを馳せ、心を痛めた。

 

その時である。一夏の体に悪寒が走り、一夏は咄嗟に回避行動を行った。

 

その判断は正しく、さっきまで一夏がいた場所をレーザーキャノンの砲撃が通過した後、地面に着弾し巨大なクレーターを作った。

 

一夏は砲撃の飛んできた方を見て敵を視認した。

 

そこにいたのは特徴的な皿の様な頭部を持つ、軽量型のネクストだった。肩にはオーメル・サイエンス・テクノロジー社のエンブレムが取り付けられている。

 

(セシリアじゃない・・・・・・)

 

セシリアはレイレナード社に所属していると言っていたのを一夏は覚えていた。つまりこのネクストはセシリアではないと言う事だった。

 

その事に若干落胆しつつも一夏は目の前のネクストとどう戦うか頭を巡らす。ISではネクストには勝てないということは既に証明されている。一夏はセシリアに会うという目的の為に、この死神からなんとしてでも生き延びなければならないのだ。

 

一夏が生き延びる為の作戦を考えているとネクストが回線を開いた。

 

「へぇ・・・、今のを避けるか・・・。興味アリ、だな」

 

その声を聞いて一夏はセシリアが言っていたとある人物を思い出し、慌てて目の前のネクストと回線を繋ぐ。

 

「お前、“セロ”だろッ!オーメルの天才のッ!!」

 

突然の一夏の通信にセロは怪訝な様子で返答する。

 

「なんで僕の名前を知って・・・。ああ、セシリアが喋ったのか。おしゃべりな女だ。と、言う事はお前がセシリアの言っていた織斑一夏、か・・・」

 

「俺の事はどうでもいいッ!なあ、お前なら知ってるんだろッ!セシリアの居場所をッ!」

 

「それを聞いてどうする?」

 

「セシリアと会って、会って話がしたい・・・。そして、そして・・・・・・。」

 

セロの問いに一夏は言葉を詰まらせながら答えようとする。

 

するとそんな一夏の様子を見たセロは静かに()()()

 

「ふふふふ・・・」

 

「!?、何が可笑しいッ!!」

 

セロの自分を馬鹿にする態度に一夏は激昂した。そんな一夏を気にすることなくセロは口を開いた。

 

「いや、あまりに滑稽だったものだからつい、ね・・・。嗤ったことは謝るよ。そして、ああ、セシリアのことだったか・・・。残念だけど、レイレナード陣営の事は僕は知らないよ。この戦闘区域はオーメルの担当だしね」

 

「そ、そうなのか・・・」

 

セロならセシリアの事を知っていると思っていた一夏はセロの言葉に落胆した。しかし、すぐに頭を切り替えセロを睨む。

 

するとセロはそんな一夏を嘲る様に言葉を続けた。

 

「まあ、でも、セシリアは今回の戦争には出撃していないんじゃあないかな?お前が知ってるか知らないけれど、『()()』はもう、壊れかけだ・・・。そんな『()()』を僕がレイレナードだったら出撃させないね。それに・・・」

 

「それに・・・・・・?」

 

「今回の戦争が終わったら『アレ(セシリア)』は僕が貰う事になっているんだ。・・・残念だったね?」

 

「え・・・・・・」

 

――セロの言葉に一夏は頭が真っ白になった。

 

セロの言葉が真実ならばセシリアは、あの優しい少女は、文字通り全てを捧げて尽くした『企業(レイレナード)』に売られたことになるからだ。

 

知らず知らずの内に一夏は両手を力強く握りしめ、俯いた。

 

そんな一夏の様子に気を良くしたのか、セロは上機嫌に続けた。

 

「まあ、心配しなくてもセシリアは幸せにしてやるさ・・・。僕は自分の『()()』は大切に・・・・・・」

 

「・・・じゃないんだぞ・・・・・・」

 

「うん?」

 

俯いていた一夏は勢いよく顔を上げ、吠えた。

 

「セシリアは『()()()()』じゃないんだぞおぉおおおおお!!!!!!」

 

そう叫びながら一夏は機体を瞬時加速させ、セロに突っ込んだ。

 

――そして一人の少女を巡った激しい戦いが繰り広げられることになる。

 

 

そんな二人の戦いを、カナダにある特徴的な構造をしているレイレナード本社、『エグザウィル』の作戦司令室の大型モニターで眺めている少女がいた。

 

一夏とセロ、二人の戦いの元になった少女、セシリア・オルコットである。

 

セシリアは愛用の杖を突きながらモニターをジッと眺めていた。

 

周囲の人間はそんなセシリアの様子を痛ましげに見ていた。

 

それはそうだろう。周囲の人間はセシリアが一夏、セロ両方の男と懇意にしていたことを知っていた。

 

そんな二人が殺し合っているのだ。セシリアの心中はいかばかりか。

 

そんな周囲の様子を尻目に、セシリアはまったく違う動揺をしていた。

 

 

 

 

 

 

(なぁにこれぇ・・・)




プロローグはこんな感じになりました。

登場するネクストの大きさはISと同じくらいの大きさです。

ご意見・ご感想、誤字・脱字報告よろしくお願いします。


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世界観、用語解説・企業、人物紹介
世界観設定・用語・企業解説


とりあえず簡単に世界観と用語、企業開設を作りました。
人物紹介は長くなるのでまた後日投稿します。

もし、アレはどうなの?みたいなのがありましたら質問を頂けたら追加したいと思います。


【世界観設定】

 

人口爆発とそれに伴う慢性的な食料、エネルギー不足、ISの登場により女尊男卑思想の広まりによる宗教や男女の思想面の諸問題、さらにIS保有国と非保有国間などの南北問題の激化により国家の統治能力が失われつつある世界。

 

それらの諸問題によりテロや紛争などが頻発しているが、国家戦力はIS関係の戦力に予算を振り分けたため通常戦力の不足から国家は民間軍事会社などの企業戦力にこれらの鎮圧を委託するようになり、企業に依存をし続けた結果、経済面、軍事面で企業の力が強まることとなった。

 

これらのことから力を得た企業達は既存の経済システムが崩壊するのは時間の問題として国家を見限っている、そんな世界。

 

 

【用語】

 

・ネクスト

 

正式名称はアーマード・コア・ネクスト

 

企業の力の象徴であり、新物質『コジマ粒子』による恩恵を軍事転用したものの最高峰。コジマ粒子によって得られた機能は通常戦力は勿論だがISすらも陳腐化させるのに至るものである。

 

基本シャーシ部であるコア(胴体パーツ)を中心にユニット化された各パーツや武装を任務や戦況、戦術に応じて換装して機体を構成しており、各企業間で共通規格を行っているので他企業のコアと腕部や脚部を組み合わせて使用することも可能。

 

ただ、ネクスト技術は各企業の切り札であるため基本的に協力関係を結んでいる同陣営企業間の使用に留まっている。

 

 

・AMS

 

アレゴリーマニピュレイトシステムの略称。

 

ネクストを操縦するのに必須の機構であり、脊髄や延髄を経て脳とネクストの統合制御体が直接データをやりとりをするマシン・生体制御システム。

 

このシステムにより従来の技術では非常に高い連携が取れた10数人のチームが必要だったネクストを人間一人で運用出来るようになった。

 

ちなみに元々AMSは障者の社会復帰を目的として開発されていた技術であったが適正や負荷の問題などが解決出来ず、民生技術としては完全な失敗作だった。

 

 

・AMS適正

 

簡単に言うとAMSを扱うために必要な『才能』

 

この適正が低いとネクスト運用の際に強い精神負荷による凄まじい苦痛を伴う。

 

当然ながら機械から脳へ送られる信号を情報として処理できるというのは特殊な才能であり、AMS適正がある=先天的な才能を持つ『天才』であるということである。

 

AMS適正はもちろん高ければ高いほど良いが、あくまで「ネクスト操縦士」としての優秀さであり、実際の戦闘能力に関しては個人の経験やセンスによるものが大きく、必ずしもAMS適正が高い=戦闘能力が高いではない。

 

なので適正が高くても戦闘能力はイマイチだったり、低くても極めて高い戦闘能力だったりする。

 

ちなみに、とある『裏技』を使うことで適正が低くても限界以上の能力を発揮することもできる。

 

 

・リンクス

 

AMS適正を持ち、ネクストに搭乗する事が出来る者達の総称

 

スペルは“Links”で『繋がれた者』を意味する。また発音が“Lynx”(ヤマネコ)と同じであるため、山猫と呼ばれることもある。

 

現在、全企業で27名が存在する。

 

 

・コジマ粒子

 

コジマ博士により発見された新物質

 

アクアビット社、レイレナード社、オーメル・サイエンス・テクノロジー社の3社により軍事方面への技術研究が進められた。

 

ネクスト能力の多くはコジマ技術が由来している。

 

軍事的に有用な物質である反面、広範かつ長期にわたり環境を汚染する性質があり、生態系への重大な悪影響が懸念されている。

 

実際にAC4では自然のあるステージがあったが、数十年後のfaの時代では砂漠のようなステージばかりだったことから、まぁ、そういうことなんでしょう・・・。

 

 

・クイックブースト(QB)

 

ネクストの前後左右のブースタに備わる特殊推進機構の呼称

 

コジマジェネレータによる膨大なエネルギー供給と、AMSによる超精密制御があって初めて実用化を成しえた、ネクストを特徴付ける機能の一つ。

 

上下以外の任意の方向に瞬間加速させるその出力は極めて高く、僅か0.2~0.8秒で800km/h、機体によってはそれ以上の亜音速、音速突破が可能である。

 

 

・プライマルアーマー(PA)

 

機体周囲に散布したコジマ粒子を球状に安定還流させて機体の全方位に粒子の壁を作り、機体ダメージを軽減・無効化する完全粒子装甲のこと。

 

特に実体弾に対して高い効果を示し、生半可な攻撃ではネクストにダメージは与えられない。

 

対策としては高出力のエネルギー兵器や高速ないし大口径の実体弾、強力な爆装による攻撃で強引に突破、多数の攻撃を命中させて減衰・解除するといった方法がある。

また、PAに対して高い干渉力を持つコジマ粒子兵器は非常に有効。

 

ただし、被弾による減衰はコジマ粒子はジェネレーターで常に生成されているため、時間経過により完全回復するため短時間で上記のことを行わなければならない。

 

ちなみにその性質から有毒のコジマ粒子を周囲にばらまくことになるため、作戦によっては使用を制限したり、されたりする。

 

 

・アサルト・セル

 

IS発表以前、当時宇宙開発に進出した各国家、企業が、他勢力に対して優位に立つための手段として、無差別攻撃をするように設定し衛星軌道上にばらまいた自律兵器。

 

宇宙開発競争が激化するにつれ、地球の衛星軌道上におけるアサルト・セルの数量は増加し、ついには国家も企業にすらも手の付けられない状況に陥ってしまう。

換言すれば、アサルト・セルによって人類は自ら、宇宙へ進出する道を完全に断ってしまった。

 

こいつがなければ現在の人口問題やエネルギー問題などの問題は解決できたかも・・・

 

国家と企業の『罪』であり『恥』であるため、知る者は僅かであり、その事実をどんな手段を使ってでも秘匿・隠蔽しようとしている。

 

 

【企業紹介(六大企業グループ)】

 

・『レイレナード社』

 

六大企業の中では新興のエネルギー産業企業。超高密度水素吸蔵合金や実用燃料電池の開発元でもある。

 

コジマ技術のリーディングカンパニーであるアクアビット社とは密接な提携関係にある。

 

軍事面ではネクスト戦力に特化しており他企業を圧倒しているものの、新興であることとアサルト・セルを破壊し人類の未来を切り開くという悲願成就のために、とあるものの開発にリソースを割いているため通常戦力や軍事インフラなどは協力関係を結んでいるBFF社に依存している。

 

そのためレイレナード社単独では強襲や短期決戦には強いが長期戦や消耗戦、多方面作戦などには弱いなどの弱点がある。

 

 

・『アクアビット社』

 

北欧系のエレクトロニクス系軍事企業で、ネクストの運用で重要な要素となるコジマ技術のリーディングカンパニー。

レイレナードとは非常に密接な協力関係にあり、GAヨーロッパ(GAE)とも提携している。

 

丸っこいデザインが好き。

 

現在レイレナード社と共にとあるものを開発中。

 

 

・『BFF社』

 

正式名称は『Bernard and Felix Foundation』

 

積極的な吸収・合併を行うことで欧州第一位の規模を持つに至った総合企業

 

本拠地はイギリスで極端な中央集権体制を採っている。

 

ローゼンタール社とは友好関係を築いているがGA社とは化石資源市場を巡って対立中

 

レイレナード陣営の軍事インフラを担い、かつ優秀なリンクスも擁している。

 

レイレナード社とは協力関係ではあるが一人勝ちは許さないとばかりに関係が壊れない程度に妨害活動も行っている。

 

 

・『インテリオル・ユニオン』

 

レオーネメカニカを盟主として、メリエス、アルドラ(アルブレヒト・ドライス)の三社からなる欧州系のグループ企業。

 

レイレナード社とは早い段階から友好関係を築いており、積極的なネクストパーツの共有などを行っている。

 

腹黒企業だけどやり方が雑な感じがする。

 

 

・『オーメル・サイエンス・テクノロジー社』

 

西アジアを拠点とする総合軍事企業でありローゼンタール社を傘下に置き、同グループを構成している。

 

本当だったらこの時はまだローゼンタール社を傀儡にして仮の盟主にしているのだが、作者の都合で本作では最初からオーメルが盟主として活動している。

 

歴史的経緯からイクバール社と協力関係にあり、コジマ技術においてもアクアビット、レイレナード以外で独自開発に成功するなど高い技術力を誇る。

 

政治的能力に優れ、現在、国家解体へ向け色々と暗躍中

 

企業全体としては間違い無く優秀なのだが、それ故に他企業を見下す傾向もある。

 

そちらにとっても、悪い話では無いと思いますが?

 

 

・『ローゼンタール社』

 

財閥系巨大資本グループに属する統合軍需産業。

 

パワードスーツ等の開発において確固たる地位をものにしている。

 

極端な少数精鋭主義でも知られ、選び抜かれた人材を擁する。

 

BFF社とは民族的な背景から協力関係にある。

 

企業名からして恐らくドイツ系。

 

 

・『イクバール社』

 

南アジア経済圏を拠点とする工業系総合企業。

ロシアの国営企業テクノクラート社を傘下に置いている。

 

食糧問題でGA社と対立しているが現在は国家解体に向け協力体制を採っている。

 

また、歴史的経緯からオーメル・サイエンス・テクノロジー社と協力関係にある。

 

皆大好き射突型ブレード、通称『とっつき』を開発している唯一の企業でもある。

 

 

・『テクノクラート社』

 

ロシアの国有企業が母体となる軍事企業

 

技術不足からイクバール社におんぶに抱っこ状態だが開発、販売している無誘導のロケットに関しては圧倒的なシェアを誇り、他企業の参入も許さないなど有澤重工以上の一芸特化企業であると言えるかも知れない。

 

 

・『GA社』(グローバル・アーマメンツ社)

 

GAアメリカを中心としてGAヨーロッパ、有澤重工、クーガー、MSACインターナショナルなど複数の企業で構成される企業グループ。

 

企業グループとしての規模と勢力は共に最大級でスタンダード・ミリタリー・カンパニーを標榜する多くの産業や兵器開発に手を出している。なのでIS『アラクネ』の開発に携わるなどIS関係事業にも積極的であったが、肝心要のネクスト開発・コジマ技術開発においては他企業グループの後塵を拝している状態になってしまい、リンクス確保にも出遅れるなど国家解体後の勢力争いを考え、現在色々と暗躍中。

 

 

・『GAアメリカ』

 

GAグループの本家とも言える環太平洋域で最大規模の総合軍事企業。

 

実弾系の兵器を主に開発している。自グループ内でネクストのパーツは全て製作可能だがコジマ技術開発はかなり遅れている

 

 

・『GAヨーロッパ』

 

GAアメリカの子会社的企業で、GAの欧州法人。GAグループ内では比較的進んだコジマ開発技術を有しており、GAグループ内の異端者とも呼ばれる。

 

レイレナード陣営のアクアビット社と提携関係にある。

 

 

・『有澤重工』

 

日本を本拠とする、伝統ある重工業系総合企業。

 

厳密にはGAグループではないが、関係が深いため実質グループの一員として扱われる。

軍用車両やグレネードなどの製作に定評があり、軍用車両は10年間整備をしなくても動くと言われるほど。

 

現在の社長は42代目。社員旅行は温泉旅行。一夏が就職活動を行った企業で採用試験と面接を受けれていれば問題無く採用された模様。

 

番外編で『有澤重工新入社員一夏』みたいな出世物語のシリーズも書いてみたいなぁ・・・。

 

 

・『クーガー』

 

ロケットエンジンの開発に優れた技術を発揮する軍事企業。主にブースターを製作している。

頑張ってコジマ技術をモノにした努力家。

 

某世界三大兄貴の一人とはまったく関係ありません。

 

 

・『MSACインターナショナル』

 

電算機やセンサーなど電子系分野の技術に秀でるハイテク企業。

特にミサイル兵器に関してはリーディングカンパニーと呼べる勢力を誇る。

 

電子レンジなど民生品も販売している。どんなんだろ・・・。



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イギリス時代
セシリア日記1


お疲れさまです。

感想を三つもいただいて嬉しい限りです。
感想を頂けるとモチベーションがムンムンと湧いてきますね。





12月24日 雪

 

五歳の誕生日プレゼントに日記帳を貰ったので今日から英語の練習の為にも日記を付けていこうと思う。

 

――突然だが俺には前世の記憶がある。

 

前世は日本人で、いい年をしてアニオタだった男である。

 

よくある神様にチートを貰って転生!、みたいなのでは無く、今日みたいに雪の降る日に職場に向かっている途中に事故って死んだんだと思う・・・。

 

思う、と言うのは最後に見た光景が車のタイヤがスリップした反対車線の車が突っ込んで来た瞬間だったからだ。

 

そして気がついたとき、俺は赤ん坊になっていた。それも元気な『女の子』に・・・・・・。

 

ナンデッ!?と思ったが、転生しなかったらそのままくたばってたのでこの幸運に感謝することにした。

 

そして俺の“セシリア”としての第二の人生が始まったのだった・・・。

 

 

○月×日 雨

 

俺が生まれたのはファンタジー世界などではなく現代のイギリスだった。それも名門貴族の生まれである。

 

最初それを知ったとき“勝ち組だ、やったぜ!”と思ったのだが貴族としての知識や教養、マナーなどを徹底的に教え込まれた。

 

日本人から見たら優雅そうに見えた貴族だったが、実際にはこんなに地味な努力をしているんだなぁ・・・と現実を思い知らされた。

 

 

△月×日 晴れ

 

今日テレビを見ていたら緊急速報が入った。

 

なんと、日本に向かって2341発ものミサイルが発射されたというのだ。

 

前世の故郷が火の海になるとあっては流石の俺も気が気じゃなかったのだが、ミサイルは日本に着弾することはなかった。

 

一月前、うさ耳を着けた、なんとか束とかいう女が発表したISとか言う機動兵器が全て迎撃したのだ。

 

その後、各国がその兵器をとっ捕まえようとしたみたいだが失敗したようだった。

 

俺は現代に転生したと思っていたけれど、未来に転生してたんだな~と暢気に思った。

 

 

 

12月24日 雪

 

 

七歳になった。

 

――この二年で世界は変わった。

 

二年前の『白騎士事件』によって・・・・・・。

 

最強の兵器であるISは女しか使えないということで、世界は『女尊男卑』の世界になったのだ。

 

正直、俺は疑問しか浮かばなかった。

 

だってそうだろう?石器時代じゃあるまいし、強い武器を使えるから偉いってなんだよ!!

 

前、俺は未来に転生したと日記に書いた気がするが、どうやら人類の精神的には過去に転生してしまったらしい・・・。

 

女尊男卑の世界になってしまったおかげで、元々婿養子で肩身の狭かった親父がますます縮こまってしまった。

 

あのお袋から俺を生ませたんだからもっと自信を持ってもいいのになぁ・・・。

 

しゃーない、また慰めてやっかな!

 

 

◎月□日 くもり

 

ISの世界大会『モンド・グロッソ』が閉幕した。

 

総合優勝したのは日本の織斑千冬と言う人だった。まだ若いのにすごいなぁと思った(小並感)

 

でも優勝した称号名が『ブリュンヒルデ』は厨二全開すぎてまったく関係ない俺が何故か恥ずかしくなった。

 

女になってから結構経つが女の感性は慣れないなぁ・・・。

 

 

12月24日 雪

 

今日、俺は記念すべき十歳の誕生日を迎えた。

 

実は一週間前から俺は今日を楽しみにしていた。

なぜなら今日は日本食レストランでラーメンを食べに行く日だったからだ。

 

一週間前にお袋が「セシリア、誕生日に外食に行くけど何が食べたい?」と聞いてきたので、俺は迷わずに「ラーメンが食べたいッ!」と言った。

 

転生してから十年経ってイギリス料理にも慣れてきていたが、元日本人の俺としては日本食が恋しかった。それも高級な日本食じゃなくて庶民の味であり、俺の大好物だったラーメンが食べたかったのだ。

 

俺の発言を受けてお袋はやはりと言うべきか「そんなモノ、私たちが喰うモノじゃない」と言って反対してきた。

 

「やっぱり駄目か~」と俺ががっかりしていると意外なところから援護が飛んできた。

 

――親父である。

 

親父は「セシリアの十歳の誕生日だし、セシリアの食べたいものを食べさせてあげよう」とお袋に意見したのである。

 

親父がお袋に意見するのは俺が十年間生きてきて初めての事だったので俺は驚いた。

 

お袋はもっと驚いたらしく、ポカンと口を開けて親父を見ていた。そんなお袋の姿を親父はまっすぐに見つめていた。

 

そのまま十秒ほど時間が経ったかと思うとお袋が折れ、俺はラーメンを食べに行けることになった。

 

俺は親父にお礼を言うと親父は「僕はセシリアの“父親”だよ?当然じゃないか!」と何かスッキリした顔で言った。

 

親父に何があったか知らないが、親父のおかげでラーメンが食べられるのだ。俺は親父に心から感謝した。

 

そして今日、家族三人でラーメンを食べてきた。

 

十年ぶりのラーメンは想像を絶する旨さで俺はおかわりもした。

 

お腹がいっぱいになり、帰りの親父の運転する車でついウトウトして眠ってしまった。

 

目が覚めたのは家に着いてからだった。目が覚めるとなんとなく親父とお袋の距離が近くなったような気がする。

 

俺が寝ている間に何かあったんだろうか?

 

疑問は尽きないが夫婦仲がいいことは良いことだと俺は思った。

 

 

親父side

 

家族三人でラーメンを食べに行った後セシリアは眠ってしまった。

 

その姿は普段の大人びた姿ではなく、年相応のものの様に見えた。

 

――セシリアは聡明な子だった。

 

幼いころから我が儘も言わず、妻の方針で淑女としての教育も文句を言わずに受けていた。

 

・・・・・・本当は子供らしく、もっと遊びたかっただろうに・・・。

 

何度か妻にセシリアの教育について意見を言おうと思ったが、自分の婿養子という立場に萎縮してしまって結局何も言う事は出来なかった。

 

我ながら父親として恥ずかしい姿だったと思う。

 

しかし、そんな父親の姿を見ながらもセシリアは決して自分を軽蔑したりしなかった。むしろ妻が家にいない時などは積極的に自分に甘えてきてくれた。

 

それが嬉しくもあり、情けなくもあった。自分はこんな小さな娘にさえ気を遣わせてしまっていたからだ。

 

ある日、ポロッとセシリアに聞いてしまった。

 

「こんな父親でセシリアは嫌じゃないのか?」と・・・・・・。

 

僕のこの疑問に対してセシリアは一瞬驚いた顔をした後、僕をまっすぐに見つめて言った。

 

「お父様は私のお父様だよ?どんなにかっこ悪くたって嫌いになんかならないよ?」

 

その言葉を聞いた瞬間、僕は泣いてしまった。そして泣きながらセシリアを抱きしめて、何度も“ありがとう”と言った。

 

相変わらずかっこ悪い僕だったが、そんな僕をセシリアは静かに抱きしめ返してくれたのだった・・・・・・。

 

 

そんな昔の事を思い出しながら車を運転していると後部座席の妻が話しかけてきた。

 

「ねぇ、あなたどうしたの?」

 

「どうしたって、何がだい?」

 

「この間のことよ。あなたが私に何か意見を言うなんて結婚前も後もなかったじゃない?何かあったの?」

 

「何にもないよ。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「セシリアにちょっとでもかっこ良くて、頼れる父親の姿を見せたかった・・・。それだけさ」

 

僕の回答に妻は一瞬呆けた顔をした後、笑いながら言った。

 

「あっはっは。あなたからそんな言葉から出てくるなんてね、驚きだわ」

 

「悪いかい?」

 

「まさか。ようやく私に相応しい男になったわね、褒めてあげるわ」

 

「光栄だね」

 

「ねぇ、結婚前に一回だけあなたの運転でドライブデートしたでしょ?今度予定を開けるからもう一回どう?」

 

「いいね、夫婦水入らずで楽しもう」

 

「エスコートお願いしますわね、旦那様?」

 

そんな会話をしながら家までの帰路に着くのだった。




いかがだったでしょうか?
色々考えた結果、テンポを良くする為にセシリア視点は基本的に日記形式にしていくことにしました。

後、セシリアの親父の名前って原作で明らかになってましたっけ?
作者の原作知識は7巻までしかなく、現在手元にない状態なのであやふやです。
もし親父の名前があったら修正しますので現時点では申し訳ありませんがこれでお願いします。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。




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セシリア日記2(チェルシーの独白)

お疲れさまです次話ができましたので投稿します。


◎月×日 くもり

 

ラーメンを食べに行った日から親父とお袋の仲はすごく良くなった。

 

前まではお袋と話す時におっかなびっくりだった親父は堂々と話す様になり、今では冗談を飛ばしたり、一緒に晩酌をしたりするようになった。

 

何があったか本当に分からないが本当の夫婦って感じがして俺は嬉しくなった。

 

今日は久しぶりにお袋が休みを取って親父の運転で二人でドライブに出かけた。

 

帰りが遅い気がするけど、良いムードになって二人でよろしくヤッてるのかな?(ゲス顔

 

もし親父とお袋が新しく子供を作るなら俺は弟がいいなぁ・・・。

 

 

×月×日 雨

 

親父とお袋が・・・、死んだ・・・・・・。

 

 

 

 

何故だ?何故だ?何故だ?何故だ?何故だ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?ナゼ?ナゼ?ナゼ?ナゼ?ナゼ?ナゼ?ナゼ?ナゼ?

 

ナゼナンダ?

 

 

 

(後は意味不明な文字が書き殴られていて読めない・・・・・・。

 

 

×月△日 雨

 

親父とお袋の葬儀も終わって、ひとまず俺の精神も落ち着いたので久しぶりに日記を書く。

 

まず、親父とお袋の死因は交通事故だった。相手は飲酒運転のトラックで親父とお袋の車に猛スピードで突っ込んだらしい。

 

俺は怒り狂い、犯人をぶっ殺してやりたかったが、そんな事をしても親父とお袋は戻ってこない・・・。戻ってこないのだ・・・・・・。

 

俺は前世を含めて一番泣いた。ただ、泣いた・・・・・・。

 

ひたすら泣いて、涙を出し尽くした後、俺はオルコット家の新当主として親父とお袋の葬儀を執り行った。

 

だが、その葬儀で俺は人の悪意と欲望を垣間見せられた。

 

 

――親族共は親父とお袋の遺産や利権、権利のことしか話していなかったのだ。

 

 

言葉では「お悔やみ申し上げます」などと俺に言い、二人の死を偲んで見せたが、俺の見ていないところで集まってひたすら金の話をしていた。

 

中にはストレートに、「養子にならないか?」とか「私が後継人になりましょう」などと言ってくるヤツもいた。

 

――巫山戯るな!!!

 

誰がお前らなどに1ポンドでもくれてやる物か!!!

 

俺がッ!セシリアがッ!!この『()()()()()()()()()()』がッ!!!絶対に、親父とお袋が俺に残してくれた家を守護ってみせる!!!!!!

 

俺はそう親父とお袋の眠る墓の前で誓った。

 

 

△月◎日 晴れ

 

俺は誓いを立ててから直ぐさま行動に移った。

 

イギリスでも有数の弁護士を雇ったり、比較的良心的な親族のところへ行き協力を要請したり、取れる手段はひたすら取った。

 

しかし悲しいかな、俺は当主と言っても成人もしてなければ後ろ盾も、権威も無い小娘であり状況は厳しかった。

 

日に日に悪化していく状況に焦燥感に襲われる。

 

何か、何か手はないか・・・。

 

そう悩んでいると、幼なじみであり、専属メイドのチェルシーが「ISの適正試験を受けたらどうか?」と提案してきた。

 

「そんなもん受けてどうすんの?」と言う俺の疑問にチェルシーは「適正試験で高ランクを叩き出して遺産の保護を条件に国家代表候補生になればいい!!」と言ってきた。

 

――チェルシーの提案は無茶苦茶だった。

 

まず大前提として俺に高ランクのIS適正がなければならない。さらにそれをクリアし、国と交渉を行い、こちらの条件を飲ませなければならないのだ。

 

しかし、現状これしか手がないのも事実だった・・・。

 

――やってやる、やってやるぞ!!!

 

俺は親父とお袋がくれたこの『身体』を信じることにした。

 

そして気合いを入れてIS適正試験の応募書類を記入し、郵送した。

 

後は神に祈るのみである。

 

 

×月△日 雨

 

結果から書く。

 

――駄目でした。

 

適性試験を受けて結果をドキドキしながら待っていたのだが今日、結果が郵送で届いた。

 

結果は『()()()()』だった。

 

終わった・・・。終わってしまった・・・・・・。

 

結果を見た瞬間、一気に無力感に包まれた。

 

 

 

そうか、これが絶望か・・・・・・。

 

 

 

○月○日 晴れ

 

IS適正試験作戦失敗を受けていよいよ追い詰められた俺は、それでもなんとかしようと他の道を探していると家に男が訪ねてきた。

 

今日は誰ともアポはなかったので不審に思いながら対応すると、男は『レイレナード社』の者だと名乗った。 

 

――レイレナード社

 

確かカナダに拠点を置く新興のエネルギー産業企業だった気がする。

 

そんな俺と全く関係のない企業が何の用だと思っていると男は俺に人払いをさせ、部屋に二人きりになると開口一番に「いやぁ、今回のIS適正試験は残念でしたね」と言ってきた。

 

――嫌みか、貴様!!!

 

と、俺が内心怒り狂っていると男はそのまま言葉を続けた。

 

要点をまとめると以下の通りだった。

 

①現在レイレナード社はとある兵器とそれを運用する為のシステムを研究、開発している。

 

②俺にそのシステムの適正があるらしく、被験者兼テストパイロットになって欲しい。

 

③俺の現在の状況を把握しており、今回の話を了承した場合、財産の保証及びレイレナード社が俺の後ろ盾になる。

 

と言う物だった。

 

正直に言うと俺としては諸手を挙げて大歓迎したかったが、今日まで散々騙されそうになってきたことを思い出し、男を警戒した。

 

よくよく考えたらこの話、俺に都合が良すぎるからだ。

 

俺がその考えに至り、懐疑的な目を向けると男は真剣な顔で口を開いた。

 

曰く、スカウトしているのは俺だけではなく他にも適正のある者をスカウトしているのだが、俺はその中でも桁違いの適正を持っていること、レイレナードは今は言えないが、ある目的の為に社運を賭けてこの計画に取り組んでおり、俺がいれば一気に計画が進むのでこの条件を提示したとのことだった。

 

そう俺に語りかける男の目を見て俺は息を呑んだ。

 

――男の目は『()()』と『()()』に満ちていた。

 

こんな目をした『大人』は・・・、いや『男』は今も昔も一度だって見たことがなかった。

 

いたのか!こんな『男』が!!この世界に!!!

 

俺はこんな男を擁し、交渉に派遣したレイレナードを信じることにした。

 

俺は男にお礼を言ってこの件を了承することを伝えた。

 

俺の了承の言葉を受けると男は立ち上がり、頭を下げると俺に手を差し出してきた。

 

俺も立ち上がり男の手を握った。

 

男の手は大きく、ゴツゴツしていたが嫌じゃなかった。

 

その後、部屋の外で心配していたチェルシーに今回の件とそれを了承したことを伝えて二人で男を見送った。

 

男が帰った後、チェルシーは今回の件について心配していたが、俺は「レイレナードは信じられる」とチェルシーに笑いかけた。

 

俺の言葉を受けてチェルシーは安心したらしく、「じゃあ今晩はお祝いですね」と他のメイド達と夕食の準備を始めた。

 

そして豪華な夕食を皆で食べた。美味しかったなぁ・・・。

 

 

レイレナード社、交渉人side

 

幼い少女、セシリアとそのメイドに見送られ二人が見えなくなった後、交渉人の男は憂鬱な気分になり、ため息を吐いた。

 

それはそうだろう。レイレナードの目的の為に、両親から残された家を必死に守護ろうとする僅か十歳の少女の純粋な思いを利用するのだから・・・。

 

――現在、レイレナードで進められている“ネクスト開発計画”は行き詰まっていた。

 

プロトタイプは完成していたものの、まだ起動さえ出来ていなかったのだ。

 

なぜなら、プロトタイプ・ネクストを起動させようとした三人ものテストパイロットが起動させた瞬間、頭に流れ込んでくる情報量に耐えきれず一瞬で発狂死したからだ。

 

そのため、ネクストを起動させる為のAMSに問題があるのか、それともパイロットのAMS適正が低かったのか、あるいはその両方に問題があるのかさえ分からなかったのだ。

 

これ以上貴重なAMS適正を持つ人間を使い捨てにする訳にはいかず、開発チームは頭を悩ませていた。

 

そんな時に朗報が入った。

 

オーメルが確保した天才に匹敵しうるAMS適正を持つ少女、『セシリア・オルコット』を発見したのである。

 

それは偶然だった。

 

今年度イギリスで行われたIS適正試験にオブザーバーで参加していたレイレナードと協力関係を結んでいる企業『BFF』から、桁外れのAMS適正を持つ少女を発見したと言う情報が入ったのである。

 

レイレナードは歓喜し、直ぐさまその少女を確保しようとしたのだが問題が発生した。

 

なんとその少女、セシリアはIS適正も『()()()()』だったからである。

 

このままではISの国家代表候補として国にセシリアが確保されてしまう・・・・・・。

 

焦ったレイレナードはセシリアを被検体とした際に得られるネクスト関連技術、及びAMSの研究成果の一部をBFFへの優先提供を条件にBFFに工作を要請し、セシリアのIS適正値を改竄させ、試験から落選させた。

 

そしてセシリアの身辺調査を徹底的に行い、今回の交渉に臨んだのだった。

 

我ながらにあまりにも卑劣な手段だったと思う。

 

――しかし、もう『我々(レイレナード)』は止まれない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・・・・。

 

「許しは乞わない・・・。むしろ恨んでくれ・・・・・・」

 

男の呟きは風の音にかき消された・・・。

 

 

○月○日 晴れ

 

カナダにあるレイレナード本社に向かう飛行機の中で日記を書いている。

 

契約を交わしてからレイレナードの動きは早かった。

 

あっという間にクズ共を黙らせ、オルコット家は安泰になったのだ。

 

それを見た俺は正直、“今までの俺の努力ってなんだったんだ?”と思ったが、レイレナードがしっかり約束を果たしてくれたことに俺はただただ感謝した。

 

次は俺がレイレナードに義務を果たす番である。

 

 

チェルシーの独白

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

お嬢様はそう言って、綺麗な笑顔で家を出ました。

 

私はその姿を笑顔で見送りました。

 

しかし、数年後、私はその時のお嬢様の姿を、もっとしっかりと目に焼き付けておくべきだったと後悔しました。

 

 

なぜなら、その時のお嬢様の姿が『ヒト(人間)』としての最後の姿だったからです。




いかがだったでしょうか。

レイレナードの覚悟を見てセシリアも腹をくくりました。

原作ではセシリアの両親の死は数年前だったので恐らく十二~三歳のときだと思いますが、流石にレイレナードでも二、三年でアレサからアリーヤの開発は無理だと思ったので両親の死は原作から五年前ということにしました。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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レイレナード時代
セシリア日記3


お疲れさまです、次話出来ました。
前回投稿からいっぱい評価をいただきありがとうございます。

これからも頑張って投稿していきたいと思います。


○月×日 晴れ

 

レイレナード本社『エグザウィル』に着いた。

 

本社は湖の上に建っていて通勤に不便そうだし、建物を支える支柱がむき出しになっていたので(地震とかに弱そうだなぁ・・・)と俺は思った。まぁ、日本と違ってカナダだから地震とかあんまり起こんないのかもしれんけど。

 

本社に着いてから内部を一通り案内してもらった後、応接室に案内された。

 

そこでしばらく待っていると白衣を着た、いかにも「私、科学者ですッ!」というような四十歳くらいの男が入ってきた。

 

お互いに簡単な挨拶を交わした後、男はレイレナードの開発している新兵器『ネクスト』とその運用システム『AMS』について俺に説明した。

 

正直、難しくてよく分からなかったが、ネクストは超高性能な機動兵器で、AMSは脳みそとネクストを直接接続して精密な動作を行う為の物だということは分かった。

 

「脳みそと機械繋いで大丈夫なの?」という俺の素朴な疑問に対し、男は笑顔で「君のAMS適正値なら大丈夫!」と笑顔で言い切った。

 

・・・正直、不安だったが専門家が言うんなら大丈夫なんだろうと自分を納得させた。

 

その後、精密検査を行い、用意された部屋に案内された。

 

用意された部屋はすごく良い部屋で、VIP待遇だなぁと思った。

 

明日はAMSを埋め込む手術を行うらしいので、今日はそろそろ寝ようと思う。

 

おやすみ・・・。

 

 

×月×日 雨

 

 

 

 

 

痛い・・・、いたい・・・、イタイ・・・・・・。

 

 

 

 

 

△月×日 くもり

 

手術から一週間が経って、痛みも無くなったので日記を書く。

 

正直に言うと手術、ナメてました。

 

手術が終わった後、麻酔が効いている間は問題なかったのだが切れた後は地獄だった。

 

例えるなら、背骨に焼けたヤスリを突っ込んでゴリゴリ削る様な痛みがAMSを埋め込んだ背中に走り、鎮痛剤を打ってもらったのだが痛みが全然引かず、俺はベッドの上でもがき苦しんだ。

 

あまりの痛みに(このまま死ぬのかなぁ・・・)と、親父やお袋、チェルシーの顔を思い浮かべていると、突然、背中の激しい痛みが引いていき、恍惚感に変わったかと思うと痛みが無くなったのだ。

 

きっと、苦しんでいる俺を親父達が守護ってくれたんだろうと俺は思い、これからも頑張っていくことを改めて誓った。

 

 

○月○日 晴れ

 

検査した結果、埋め込んだAMSが正常に定着したのでいよいよ明日ネクストの起動実験を行うことになった。

 

大変だったけど実験が上手くいくように頑張るゾイ!

 

 

×月△日 くもり

 

今日、ネクストの、正確に言うとプロトタイプ・ネクスト『00-ARETHA(アレサ)』の起動実験を行った。

 

本社地下の実験場で初めてアレサを見たのだが、テレビで見たISの二倍くらい大きかった。

 

見た目も全然違くて、生身を晒しているISとは違い、こいつは全身装甲。さらに頭部は胴体と一体化してるし、肩部は異様な大きさだった。

 

――そんなアレサの姿に俺は『()()』の念を抱いた。

 

例えるならISが子供用のおもちゃの銃だとしたら、こいつは本物の軍用銃。純粋なヒト(人間)を殺す為の兵器の姿だったからだ。

 

俺がそんなを考えを抱いている間にも実験の準備は進められ、俺はゴツい椅子に座らせられた後拘束され、背中のAMSとアレサがケーブルで繋げられた。

 

「アレサに乗らないの?」と俺が質問すると、万が一事故が起きたときにすぐに対応出来るように、今回はアレサに搭乗しないで起動実験を行うとの事だった。

 

そして実験開始の合図と共に研究員が端末を操作した瞬間、俺の頭の中に知らない情報が一気に流れ込んできた。

 

――それはアレサの情報だった。

 

どうすれば動くか、機能をどう使うか、どう性能を完全に引き出せるか。それらの情報が考えなくても分かるという不思議な感覚が俺を襲った。

 

そして研究員が「アレサ、起動!実験は成功です!!」と興奮した様子で報告すると、実験場に歓声が上がった。

 

俺は実験が無事に成功してよかったとなぁ・・・と安堵した。

 

今日は疲れたのでもう寝る。

 

 

開発主任side

 

いよいよこの日が来た・・・・・・。

 

失敗し続けていたアレサの起動実験の日が。

 

この日の為に出来ることは全てやった。セシリア・オルコットという最高のAMS適正者を用意し、そのセシリアには今までの被験体には一つだったAMSを三つ取り付け、万が一にも失敗が起こらないようにした。(少々無茶な施術だったためセシリアは術後、相当苦しんでいたようだったが・・・・・・)

 

そしてセシリアとアレサを繋ぎ、部下に緊張しているのを悟られないようにしながら指示を出した。

 

「アレサのプログラムを起動させろ!」

 

「了解!プログラム起動させます!」

 

私の言葉を受け、部下が端末を操作してプログラムを起動させる。

 

今まではこの瞬間、脳に流れてくる情報に耐えられず被検体が絶叫して発狂死したが、今回は違った。

 

セシリアは脳に流れ込んでくる情報に不思議そうにはしていたが、発狂するような様子は無かった。

 

「素晴らしい・・・・・・」

 

そんなセシリアの姿に思わずそう言葉が漏れた。

 

「アレサ!システムオールグリーン!起動に成功しました!!」

 

「セシリア・オルコット、バイタル正常です!」

 

モニターでアレサ、セシリア両方の状態を確認していた部下達が興奮した声で報告する。

 

その報告を部下達が共有すると実験場に歓声が上がった。中には抱き合いながら喜んでいる部下もいた。

 

私はそんな喧噪といっていい実験場の中を歩き、椅子に拘束されているセシリアの元へ向かった。

 

「セシリア、気分はどうだ?」

 

「不思議な感覚ですけど・・・、悪くはないです」

 

「そうか」

 

「実験は成功ですか?」

 

「ああ、成功だ。これで計画は一気に進むことだろう」

 

「そうですか・・・。それは良かったです・・・。」

 

セシリアはただ安心したという様子だった。

 

「祝福しよう、セシリア・オルコット。今、この瞬間、君は『原初』のリンクスとなった」

 

私はそうセシリアを祝福したのだった。




いかがだったでしょうか。

今回はタイトル回収回となりました。

セシリアの搭乗機はアレサとなるのでセシリアは割と苦難な道を歩く事になると思います。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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セシリア日記4(閲覧注意)

沢山の評価、閲覧ありがとうございますっ!

皆さんのご期待に応えられるように少しでも良い作品を作っていこうと思います。

それでは駄文ですがよろしくお願いします。


○月○日 晴れ

 

アレサを起動させて『リンクス』となった俺だがまだ実際にアレサには搭乗していない。

 

主任が言うには、とりあえず起動実験の時と同じように外部でアレサと接続してAMSの調整とデータ収集を行うとの事だった。

 

なんでも俺に埋め込んだAMSは初期型の上、それでアレサを起動させたのは初めての事らしく圧倒的にデータが足りないらしい。

 

俺は“研究とか開発ってデータ取るのとか大変そうだなぁ・・・”と思った。

 

 

×月○日 くもり

 

今日も椅子に座ってアレサと繋がってデータ取り!

 

周りの研究員が忙しそうに働いてるのを椅子に座りながらぼけっと見ていた。

 

こんなに楽して給料貰っていいのかなぁ・・・。

 

 

△月×日 雨

 

問題が発生した。

 

“今日もデータ取りか~”と暢気にしていたのだが、主任が難しい顔で「確認したい事があるので今日は実際にアレサに搭乗してもらう」と言ってきた。

 

俺は“いよいよか!”と内心ウキウキしながらアレサに搭乗したのだが、うまく動かせなかった。

 

具体的に言うと手足の動作が上手くいかず、腕部は少ししか動かないし、脚部に至っては直立することさえ出来ずに転んでしまったのだ。

 

――俺は混乱した。

 

なぜなら俺の頭に流れてくる情報では何も問題は起こっていなかったのだ。なのにアレサは上手く動かない。これはおかしい・・・。

 

俺が混乱していると主任は俺をアレサから降ろして「データをまとめ直す」と眉間にしわを寄せながら研究室に戻ってしまった。

 

とりあえず俺には何も分からないので主任が原因を見つけてくれることを祈るのみである。

 

 

×月×日 雨

 

先日の原因が判明した。

 

原因は俺に埋め込んだAMSがアレサの駆動系に情報を上手く伝えられていないという事だった。

 

「AMS手術をやり直すの?」と俺が聞くと主任は首を振った。

 

主任曰く、本来一つだったAMSを三つ埋め込んだため摘出が出来ないこと、仮に摘出出来ても俺に埋め込んだAMSは現時点で最高の物で、これ以上の物を短期間で用意することは出来ないとのことだった。

 

“それじゃあ実験できないじゃん・・・”と俺が不安に思っていると主任は「安心して欲しい。方法はあるッ!」と力強く言った。

 

どんな方法だろうと俺が主任の言葉を待っていると主任はとんでもないことを口にした。

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

主任の言葉に流石に暢気な俺も絶句した。しかし、同時に他に方法がないというのも主任の血走った目と焦った顔を見て理解させられた。

 

・・・・・・レイレナードは協力者にして俺の恩人である。

 

家を守護ってくれた。絶望していた俺に希望をくれた。そんな恩人が今、窮地に立たされているのだ。ならば、俺は俺に『()()()()()』で恩を返そう。

 

――俺は覚悟を決めた。

 

俺は主任に「手足を切って良いよ」と言った。俺の了承の言葉を受けて主任は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になって俺に手術の日程を告げた。

 

賽は振られた。()()()()()()()()()()

 

 

△月×日 あめ

 

 

 

 

しゅじゅつ、せいこー。ぎしゅ、れんしゅうちゅう。

 

 

 

 

○月○日 晴れ

 

手術も無事に終わり、貰った義手と義足にもだいぶ慣れてきた。

 

ただ、義手は練習したら物も掴めるようになったし日記も書けるようになったのだが義足の方は問題だった。

 

具体的に言うと、立つことは出来るのだが歩こうとするとバランスが取れずにすぐ転んでしまうのだ。幸い杖があれば歩くことはできるのでなんとかなったがもっと練習して杖なしで歩けるようになれればいいなと思った。

 

 

×月○日 くもり

 

今日アレサに再び搭乗して起動実験を行った。

 

この為に手足を切断したのに“もし上手く動かせなかったらどうしよう・・・”と不安に思っていたのだがその心配は杞憂に終わった。

 

俺の手足と接続したアレサは前回の実験が嘘のような挙動をした。

 

問題なく直立できるし、歩くことは勿論走ったりジャンプしたり俺の考えた通りに動いてくれたのだ。

 

実験が終わりアレサから降ろしてもらうと主任が興奮した様子で俺のことを褒めてきた。親父とお袋が死んでから誰かに褒められるということはなかったので俺は嬉しくなった。

 

やっぱり人間って他の人に褒めて貰うとうれしくなるなぁ・・・。

 

 

開発主任side

 

先日のアレサ起動実験成功を受けて研究を加速させた。

特に重視したのはAMSの関連技術で、アレサを起動させたのは今回が初めてだったので早急に稼働状態や不具合の洗い出しを行った。

 

――そこで問題が発生した。

 

初期型ゆえの不具合か、はたまたアレサの要求スペックの高さの問題かセシリアに埋め込んだAMSがアレサの駆動系に情報を上手く伝達していないことが分かったのだ。

 

実際にセシリアをアレサに搭乗させて実験を行って確認したのだが結果は予想通りで、アレサは直立すら出来ないという有様だった。

 

――このままでは不味い・・・。

 

アレサを動かす為にAMSを改良している時間的余裕はないし、そもそもセシリアのAMSはかなり無茶をして埋め込んだのだ。取り替えることなどを最初から考慮していない。

 

どうするか・・・。

 

私は研究室で今までの実験で得られたデータを洗い直し、一つの結論に達した。

 

AMSから情報が伝達されないならば四肢に直接アレサの駆動系を接続すればいいッ!

 

そう結論づけセシリアに状況を伝えた。

 

私の言葉にセシリアは絶句した後、何か考え込んでいるようだった。

 

私がセシリアを説得するために社の上層部と交渉して得た今回の件で得られる報酬のことを話そうとするとセシリアが口を開いた。

 

()()()()()()

 

私はその言葉に驚き、セシリアの顔を見た。

 

セシリアの顔は少女の物とは思えない『()()』に満ちていた。

 

(追い詰められて仕方なくではない・・・、この少女は自ら決断したのだ!)

 

そう内心の動揺をセシリアに悟られないように私は慌てて笑顔を浮かべ、セシリアに手術の日程を告げたのだった・・・・・・。

 

 

そして手術を行い、セシリアの容体が安定した後、さっそく実験を行った。

 

――結果は驚愕の一言だった。

 

立つことさえ出来なかったアレサが、まるで人間と変わらない、いや、それ以上の挙動で動作したのだ。

 

そして実験が終了し、部下達の手でアレサから降ろされたセシリアを私はただただ賞賛した。

 

「素晴らしいよ、セシリア。君は名実ともに最高の『繋がれた者(リンクス)』だ!」

 

「っ!はいっ!ありがとうございますっ!」

 

私の賞賛の言葉にセシリアは年齢相応の笑顔を浮かべながら喜んでいるようだった。

 

その笑顔に釣られて私もしばらく浮かべたことのなかった自然な笑顔を浮かべたのだった・・・。

 




いかがでしたか?
少し短いですがキリが良かったのでここでいったん区切って投稿します。

0話で杖をついていた理由は義足だったからです。
ちなみにどのくらい切断したかというと腕は二の腕の半分、足は太ももの半分くらいです。

今回の件でアレサをまともに動かすことが出来るようになりました。
ただ、戦闘機動とは別なのでセシリアの身体は今後も調整されることになります。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします


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セシリア日記5(閲覧注意)

沢山の感想ありがとうございます。

前も書きましたが感想を頂けるとモチベーションが全然ちがいますね。

今話はもしかしたら前話以上の描写が入っているので苦手な方は閲覧をお控え下さい。


○月○日 晴れ

 

名実ともに“()()()()”となった俺は今日もアレサに乗り込んで実験を行った。

 

内容は歩いたり、物をマニュピレータで掴んで運んだりなどの地味な実験だ。

なんでも、AMSとアレサの駆動系への情報伝達不良改善の為のデータ取りのためにしばらくはこの地味な実験を続けるとのことだった。

 

実験をやってて思ったんだが、正直、アレサと繋がってた方が生身だった時よりも手足が自由に動くんだよなぁ・・・。

 

もっと義手と義足の練習をしてアレサに乗っている時と同じように動かせるようにしたいなと思った。

 

 

×月×日 雨

 

手術が終わったので日記を書く。

 

なんで手術をしたのかと言うと、盲腸からの腹膜炎と虫垂炎のコンボが発生して危うく死にかけたからだ。

 

こんな状態になるまで何故気付かなかったかと言うと、『痛覚』が死んでいたからだった。

いや、正確に言うと死んでるのではなくて神経は無事らしいのだが、俺の脳みそがその情報をシャットダウンしているとのことだった。

 

「なんか心当たりある?」と医者が聞いてきたので俺はAMS手術の後に起こったこと思い出しそれを伝えた。

 

医者は「あー・・・」と言うと俺の体に起こっていることを俺に伝えた。

 

医者が言うには、どうやらAMS手術の際の激痛が俺の脳の許容量を超えたらしく、防衛手段として痛みを感じないようにしているらしかった。

 

「それ治るの?」と俺が聞くと、医者は渋い顔で「なんとも言えない・・・」と言った。

 

医者曰く、ただでさえアレサと繋がって膨大な情報を処理している俺の脳が痛覚という情報の処理量を増やす様なことをするかどうか分からないとのことだった。さらに今後も実験を続ける内に脳が『()()()()』と思った情報をシャットダウンするかもしれないと言われた。

 

とりあえず痛覚に関しては治療は続けるとのことだったが「あまり期待はしないほうがいい」と言われた。

 

正直ショックだったが、手足がなくなるよりはまだ不便じゃないと自分に言い聞かせて我慢することにした。

 

 

○月×日 くもり

 

しばらく実験はお休みなので歩く練習をした。

なのだが、全然うまくいかないで転んでばかりだった。

 

自由に動くアレサの脚部をくっつけたいなぁ・・・。

 

 

△月○日 くもり

 

明日から実験再開!

 

いよいよ戦闘機動の実験を行うそうなので味の薄い病院食を食べながら気合いを入れた。

 

頑張るゾイ!

 

 

◎月◎日 晴れ

 

またまた病室で日記を書いている。

 

なんでまた病室にいるのかというと戦闘機動の実験が原因だ。

 

実験当日、クイックブースト(以下QB)と呼ばれる、簡単に言うと瞬間的に高出力でブースターを噴かし、前後左右への短距離ダッシュと高速旋回を行うものの実験を行った。説明とシュミレーターである程度理解していたつもりだったが、実際にアレサに搭乗してQBを行ったらびっくりした。

 

具体的にいうと短距離ダッシュとか高速移動とかの比じゃなくて、正に瞬間移動というような感じだった。

 

――そこで問題が発生した。

 

一回、二回とQBを行い“さぁ次だ!”と思っていると「実験中止ッ!中止だッ!!」と悲鳴のような主任の声と共にアレサを強制的に機能停止させられた。

 

その後、研究員と救護班がやって来てアレサから降ろされたと思ったら何かが喉元を込み上げてきてそのまま吐き出してしまった。

 

俺が“何だ?”と思って吐き出したものを確認するとそれは血だった。

“え!?なんで!?”と俺が思う間もなく担架に乗せられてそのまま病室送りとなった。

 

その後、主任がやって来て俺に状況を説明した。説明によると俺は痛みを感じないので分からなかったのだが、QBの際の強烈なGに俺の内臓が耐えきれずに損傷して吐血したらしい。

 

“じゃあ今後の実験どうするのかな?”と俺が思っていると主任が前みたいな目で「安心してくれ、方法はある!」と言ってきた。

 

“またとんでもない方法なんだろうなぁ・・・”と俺が思っていると主任はその方法を説明した。

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

やっぱりと言うべきか主任の提案はとんでもなかった。

 

だが他に方法がないのも事実なので、“まぁ、仕方ないか・・・”と主任の提案を了承しようとした俺だがふと、あることに気付いて主任に質問した。

 

――内臓を交換した後、子供は産めるのか?

 

俺のこの質問に対して主任は一瞬、ギョッとしたあと沈痛な顔になり、口を開いた。

 

――()()()()()()()

 

その言葉は流石の俺も許容できなかった。

 

俺はレイレナードには恩がある。しかし元を辿れば俺はオルコット家を守護る為に協力しているのであって、協力した結果お家断絶に繋がるのであれば本末転倒だからだ。

 

俺はそれを主任に告げると主任は少し考えた後、俺に「生理は来ているか?」と質問してきた。

そのデリカシーのない質問に俺は少し顔を赤くしながらも「来てる・・・」と答えた。

 

すると、俺の答えを受けた主任は嬉しそうに笑いながら「なら手術の前に卵子を取り出して冷凍保存すれば問題ない」と言った。

 

・・・あんまりにもあんまりな主任の言葉だったが、その方法なら俺もレイレナードも目的を達成できるので俺はそれで妥協することにした。

 

 

 

 

俺の子供は母親の温もりを感じないで生まれてくるのか・・・・・・。

 

 

 

 

 

・・・・・・すまない。

 

 

 

 

○月○日 雨

 

手術完了!

 

卵子も冷凍保存してもらったし、これでオルコット家は安泰だなッ!

 

 

×月×日 雨

 

術後、容体が安定したのでアレサの実験が再開。

 

手術の効果はてきめんで、連続でQBを吹かしても血を吐いたりはしなくなった。

それにしてもアレサのこの機動性はヤバイな。相手からしたらアレサの巨体からは想像もできないほどのスピードで動くんだから悪夢でしかないだろうな(小並感

 

 

◎月△日 くもり

 

最近食事の味付けが薄く感じる。

 

匂いもあんまりしないし、風邪でもひいたかなぁ・・・。

 

でも昨日の検査では問題なしだったんだけどなぁ・・・。

 

 

○月×日 雨

 

簡潔に書く。

 

――()()()()()()()()()()()

 

正確には前、医者が言っていた通り、俺の脳みそが味覚と嗅覚を『()()()()』情報と判断してシャットダウンしているらしかった。

 

一応、味覚と嗅覚がなくなっても食べ物を食べることは出来るのだが、食べてる途中で身体が異物だと判断してしまうらしく途中で吐き出してしまうようになってしまった。

 

おかげで固形物は食べられず、スープのような液状のモノか流動食しか食べられなくなってしまった。

 

俺はもう大好物のラーメンを食べることが出来ないという事実に悲しみに暮れた・・・。

 

だから親父とお袋と一緒に食べたラーメンの味を忘れない様にしようと心に誓った。

 

 

×月×日 くもり

 

今日の実験が終わった後にシャワーを浴びて鏡の前で髪をとかしていたのだが、最近何だが白髪が増えてきた気がする。

 

俺の身体は苦痛を感じないようになっているんだけど、ストレスは別なのかなぁ・・・。

 

 

○月△日 雨

 

髪が全部白髪になりました。

 

杖をついて白髪って某学園都市最強みたいでかっこいいなと思いました。

 

 

 

 

・・・・・・そう思わなきゃ、やってらんないよ。

 

 

 

 

12月24日 雪

 

12歳になりました。

 

今日は実験はお休みで、自室で小さいけどケーキを用意して貰ってささやかながら誕生日を祝った。まぁ、食べられないんだけどね。

 

それにしても、レイレナードに来てから一年と少し経ったが色々なことがあったなぁ・・・。

 

俺がこの一年のことを思い返しているとお世話をして貰ってる女性職員さんに「辛くない?」と聞かれた。

 

・・・正直、辛くないといったら嘘になる。

 

――()()()()()()()()()()()()()

 

自分の選んだ道で自分を哀れんだら、それこそ訳が分からない。

 

だから俺はその質問に「辛いけど耐えられるし、頑張れる」と答えた。

 

すると職員さんは「仕事が残ってるから席を外します」と言って部屋を出て行った。

 

クリスマス・イヴなのに大変だなぁ・・・。

 

 

 

 

 

レイレナード女性職員side

 

何が“()()()()?”だ、巫山戯るなッ!

 

私は自分の浅はかさに吐き気がした。

 

社の最終目的の為とはいえ、年端もいかない少女に普通の『ヒト(人間)』としての人生を捨てさせた者がする問いではなかった。

 

――セシリア・オルコットは強く、そして()()()少女だった。

 

あの化け物(アレサ)を動かす為に手足を切断した際にも不満を漏らさなかった。代わりに与えられた万が一の逃走防止の為に()()()()()()()()()()()()にも文句を言わないどころか「ありがとう」と礼を言って、うまく動かす為の練習に励む姿は涙を誘った。

 

そればかりか美しかったブロンドの髪は白くなり、味覚、嗅覚、痛覚も失い、身体を弄くり回して愛する者の子供を産むという女の幸せすらも奪った。

 

にも関わらず彼女は恨み言の一つも言わずに笑顔で実験をこなしている。

 

・・・私の馬鹿な問いに微笑みながら答えた彼女の言葉が頭を離れない。

 

「辛くないといったら嘘になります。でも私も貴女たち(レイレナード)も一蓮托生の『仲間』です。楽しいことも辛いことも一緒です。だから頑張れます」

 

私は堪らず部屋から抜け出し、薄暗い廊下で嗚咽を漏らした。

 

――どうか彼女に幸せが訪れますように・・・。

 

そんなことを願う資格が無いと知っていても、私はそう願わずにはいられなかった・・・・・・。

 

 




いかがだったでしょうか?

セシリア日記3で起こったことや義足の秘密などが明かされました。

一回限りの出撃では無くて継続的にアレサに乗せ続けた結果、最高のAMS適正を持つセシリアでもかなりの不具合が出てきてしまいました。

とりあえずセシリアの身体に関しては今回でひとまず終わりになります。
今後は物語を進めていく中で追加していくかもしれません。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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セシリア日記6

次話ができましたので投稿します。

今回はAC世界の恒例回となります。

それでは駄文ですがよろしくお願いします。


〇月×日 晴れ

 

今日はアレサの防御機構である完全粒子装甲“プライマルアーマー”(以下PA)の説明を主任から受けた。

 

なんでもPAは機体周辺に『コジマ粒子』を安定的に環流させて各種攻撃によるダメージを軽減・無効化させるのだそうだ。

理論上は核爆発にも耐えられると説明を受けて俺は“滅茶苦茶便利じゃん!”と思ったのだが割と重大な欠点があった。

 

コジマ粒子は広範かつ長期に渡って生体活動に深刻な悪影響を及ぼす環境汚染原であるらしく、それを大量に放出し続けるために環境汚染がハンパないらしい。

 

“そんなもんの実験、本社の地下でやっていいの?”と俺が疑問に思っていると本社から離れた実験場の閉鎖空間で実験を行うとのことだった。

武装の試験も平行して行うらしく、提携している『アクアビット社』から武装が届きしだい実験場に移動するらしいのでそれまで体を休めて備えておいてくれと言われた。

 

最近働きっぱなしだったのでこの休暇は嬉しかった。

 

久々にチェルシーに手紙でも書こうかなぁ…。

 

 

×月〇日 くもり

 

部屋でテレビを見ていると生放送中に篠ノ之博士が失踪して大騒ぎになった。

 

俺は“自由だな~”と思ったけどよく考えたら“無責任じゃね?”と思った。

 

 

△月×日 雨

 

先日の篠ノ之博士の失踪を受けて各国政府からレイレナードを含めた企業達にも探索の協力の依頼が来たと職員さんから話を聞いた。

 

「なんでそんな依頼が企業に来んの?国がやればいいじゃん」という俺の質問に職員さんは苦笑いしながら答えた。

 

曰く、元々人口増加やエネルギー不足で国家の統治能力が低下し始めているところにISの登場で国軍の通常戦力の予算が削られて紛争やテロの鎮圧などにも四苦八苦しており、それがさらに国力を圧迫。そのため国家の予算は色々削られてしまい、今回の探索予算も結構無理をしているらしく企業にも協力を求めてきたとのことだった。

 

世の中お金じゃないって言う人もいるけどお金がないと何も出来ないのも事実だよなぁ…と俺は自分の経験もあってそう思った。

 

 

〇月〇日 晴れ

 

チェルシーから手紙の返事が届いた。

手紙には他のメイド達と一緒に家をしっかり管理していることや、俺が元気にやってるか心配だったけど手紙を貰えて嬉しかったことなどが書かれていた。

 

その内容に俺は安心したが、これまでの実験の報酬で家の資産が増えたことやあわよくば俺の後ろ盾であるレイレナードと接近するためにオルコット家にすり寄ってくる輩が増えてきているということも書かれていたためクズ共はやっぱりクズだなと俺は頭にきた。

 

チェルシーにも苦労を掛けっぱなしだし、早く実験を終わらせて家に帰って当主として頑張りたいと思った。

 

 

×月×日 くもり

 

第二回モンド・グロッソが開幕して決勝戦をテレビで見ていたのだが前回優勝の織斑千冬が棄権して優勝を逃していた。

 

何があったか知らないが残念だなぁと思った。

 

 

×月△日 雨

 

先日のモンド・グロッソの件について『ローゼンタール社』から情報を貰った。

なんでも千冬選手の双子の弟の片方が『亡国機業』とかいうテロリストに攫われてそれを助けに行った結果、決勝戦を棄権という形になったらしい。

 

あれ?でも攫われたのは双子の()()()だったはずなのに記録だと()()()になってるみたいだ。まぁ、双子だから誤認でもあったのかもしれない。

 

それよりも俺は亡国機業とかいうのに興味を持ったので職員さんに聞くと、第二次大戦中に設立し五十年以上裏で暗躍しており、今は各国のISを強奪などをしている組織らしい。

 

その説明を受けて俺は疑問を持った。

 

―何でそんなことまで知ってんの?

 

俺の疑問に対して職員さんは悪い笑顔で、レイレナードを含む六大企業グループで資金提供など活動を支援してるから連中の情報は筒抜けだと答えた。

 

俺は『()()』の企業の力に恐怖を覚えると同時に、世の中って知らないほうがいいこともあるんだなぁと思った。

 

 

〇月〇日 晴れ

 

アクアビットから武装が届いたので本社からアレサと一緒に実験場を移動した。

武装はまだ見せてもらっていないが主任曰く既存の武装とは一線を画す武器らしい。

 

届いた武装に関してはまだ調整が必要らしいので先にPAの実験を先に行った。

 

実験内容はアレサにPAを展開させて既存の兵器やIS用の武装を防ぐといったものだった。

PAの性能は事前に説明を受けていて大丈夫だということは分かっていたのだが自分に向かって弾丸が飛んでくるということに俺は内心ビクビクだった。

 

しかしそんな俺の不安は実験を開始してすぐに吹っ飛んだ。

 

なぜなら展開したPAは攻撃の一切を通さずに全て防ぎ切ったのだ。

 

俺はPAが説明通りの性能を発揮したのに安堵すると実験場の除染が終わるまでアレサの中でホッと胸をなでおろした。

 

 

×月×日 雨

 

今日は武装の試験を行った。

アレサの武装は三つ。その内二つの試験を行ったのだがこれがヤバかった。

 

一つは右腕に装備する五連装ガトリング。もう一つはアクアビットが開発した左腕に装備するコジマキャノンだ。

 

どちらも大きさがアレサ並みに巨大でその威力も大きさに比例するようにすごかった。

 

ガトリングの方はバカじゃねぇのってくらいの口径の砲を五つ束ねているため凄まじい瞬間火力を誇り対象を一瞬で粉々にしてしまった。

 

コジマキャノンはチャージに時間がかかるがその威力は脅威の一言に尽きた。発射した瞬間、射線上の対象を文字通り消滅させ着弾場所に巨大なクレーターを作ったのだ。

 

後で主任に聞いたら直撃すればアレサでさえもただではすまない代物らしい。

 

その話を聞いて俺はある疑問を持った。

 

―レイレナードは()()()()()()()()()でこれらを開発したんだ?

 

主任に聞こうかと思ったが好奇心は猫をも殺すという言葉を思い出し、いつか主任の方から説明してくれるだろうと思いやめた。

 

すこしモヤモヤするが今日は疲れたしそろそろ寝ることにする。

 

 

△月×日 雨

 

武装のデータも取り終わり実験もいよいよ大詰めとなった。

 

最後の実験として実戦テストを行うことになったのだ。

実戦の相手は現行最強兵器ISだということだった。

 

最初その話を聞いたとき俺は驚いた。

だってISは国家が保有しているのだ。ISと戦うということは国に戦争を吹っ掛けるつもりなのかと主任に尋ねると「そうじゃない」と言われた。

 

焦る俺に主任は安心させるようにゆっくりと説明した。

 

主任が言うには前に聞いた亡国機業が国から強奪したISを所持しており、そいつにこの実験場を襲撃させて返り討ちにするとのことだった。

 

国に喧嘩を売る訳じゃないと聞いて俺は安心したのだが、亡国機業の連中がそんなに都合良く襲撃なんてしてくんの?という疑問を持った。

俺の疑問に主任はレイレナードと友好関係にある『インテリオル・ユニオン』に協力してもらい亡国機業に偽の依頼を出して襲撃させるつもりだと笑いながら言った。

 

……あまりの黒さに正直俺はドン引きした。

 

それにしても、()()()()()、か……。

 

俺はこれから人を殺すことになる。

 

アレサの武装は手加減なんて出来ない威力だ。相手は確実に死ぬ…。俺が殺すのだ…。

 

……相手はテロリスト。死んでも良い存在、死んでも良い存在なんだ……。

 

そう言い訳することしか俺には出来なかった…。

 

 

×月×日 雨

 

実戦テストが終了した。

 

はっきり言って、これは戦闘なんて呼べるものじゃなかった。

 

敵IS撃破までにかかった時間は約三十秒。まさに圧倒的と言って良いものだった。

 

だからだろうか…。人を一人殺したと言うのに俺は何も感じなかった。感じなかったのだ…。

 

もしかしたら俺の脳はそういった罪悪感とか後悔とかも感じないようになってしまったのだろうか…。

 

いや、違う。

 

レイレナードに協力すると決めたのだ。手足を切断すると決めたのだ。内臓も痛覚も味覚も失ってでもやると決めたのだ。

 

―『ヒト(人間)』であることを()()()()()

 

全部、全部、()()()()()()()()

 

自分で決めた道で、自分で選んだ道で、後悔してどうする!自分を哀れんでどうする!!

 

……これからも俺は誰かを殺すことになるだろう。

 

だが目は背けない。今日のことを俺は忘れない。今日殺した奴も、これから俺が殺すことになる奴らも、俺の事を忘れないのだから……。

 

 

 

 

 

亡国機業side

 

亡国機業幹部会にスポンサーの一つである企業、インテリオル・ユニオンから一つの依頼が届けられた。

 

『ミッションの概要を説明します。

 ミッションターゲットは北米カナダの無人地帯に存在するレイレナード社実験施設で開発されているという機動兵器です。

 この施設は厳重な警備体制と防護システムで守られておりますが、唯一地下施設につながる通風孔からISで侵入し、この兵器の捕獲、もしくは破壊がミッションプランとなります。

 開発されている兵器の詳細は不明ですがISに匹敵する性能を有するとの情報もあります。戦力はなるべく整えた方が良いでしょう。

 なおユニオンは今回のターゲットの捕獲にボーナスを設定しています。状況しだいですが、なるべく捕獲を優先した方が良いでしょう。

 ミッションの概要は以上です。ユニオンはこのミッションを重視しています。成功すれば、あなた方の評価は更に高いものとなるはずです。よいお返事を期待していますね』

 

幹部会はこの依頼に対して会議を行い、先日のモンド・グロッソでの失敗の挽回、成功報酬の高さ、欧州第二位である軍事企業インテリオル・ユニオンとの関係の強化などの得られるメリットからこの依頼を承諾。

人選として前回の失敗の挽回を望んでおり、最新鋭IS『アラクネ』の搭乗者でありオータムを派遣することを決定した。

 

 

 

 

それが『企業(レイレナード)』の思惑とも知らずに……。

 

 

 

 

(ここまでは情報通り…。楽勝だな)

 

オータムはインテリオルからの情報通り外部と唯一繋がる通風孔から目的地である地下実験場を目指し機体を操作していた。

 

この依頼を受ける事を決定した際、唯一スコールだけがこの依頼に対して不信感を感じ反対していたが幹部会の決定であることとオータムの希望もあってスコールは折れた。

しかしオータムが出撃する際に危険だと判断したらミッションを破棄してすぐに離脱しろとスコールは命令した。

 

(スコールも心配性だな。まぁ、こんな簡単な任務さっさと片づけて…、ふふっ)

 

しかし元々短気で直情的なオータムにその言葉は届かなかった。その代償をオータムは数分後に支払うことになる…。

 

 

 

 

 

(提供されたマップだとそろそろだが…。おっ、光が見えてきた)

 

長い通風孔をひたすら降りていたオータムの目に照明の光が見え、オータムは機体を加速させ目的地である実験場に降り立った。

 

(さぁて、どんなもんか…)

 

「は?」

 

思わずオータムは間抜けな声を出した。

 

オータムが見たものは異形の機体だった。

 

ISの二倍はある体躯。胴体と一体化した頭部。肥大化した肩部。それに対して細く、長い手足。両手には自身の全長を超える武器を持っている。

 

既存の兵器はもちろん、ISともまったく違う姿をした()()はオータムを視認すると機体の周囲に何か膜の様なものを展開し、左腕の武器を持ち上げ地面に叩きつけた。

 

―それが開戦の合図だった。

 

「おらぁ!!!」

 

オータムは先手必勝とばかりにアラクネの八本の砲門をソレに向けた。

 

(何なのか分からねぇがあれだけのデカさだ。固定砲台と変わらねぇハズッ!)

 

しかしオータムの予想はあっさりと裏切られた。

 

オータムの目の前にいたはずのソレは一瞬にして視界から消えたのだ。

 

「なッ!ぐぁあああ!!!」

 

驚く暇もなく轟音とともに機体に衝撃が走る。

ソレの右腕のガトリングの攻撃で一瞬にしてシールドエネルギーが八割も削られたばかりか砲門が三門も破壊された。

 

「て、てめぇ!やりやがっ、がぁああああああああ!!!」

 

いきなりの被害で激昂したオータムだったが次に見たものは再び一瞬で接近したソレの巨体だった。ソレが接近してきたと思うと腹部にとてつもない衝撃が走り、そのまま壁に叩きつけられた。

 

―蹴られたのだ。

 

質量と速度の合わさったその一撃は凄まじく、絶対防御が発動しシールドエネルギーはゼロになった。

 

オータムは壁に背をつけ、荒い息を吐きながらソレを見る。

 

ソレは左腕の砲を向けた。淡い緑の光が収束し始める。

 

「何なんだよ…。お前は何なんだよおおおぉおおおお!!!!!」

 

オータムは狂った様に叫びながら残った砲門を向けソレに弾丸を放つ。

 

しかしその攻撃はソレの周囲に展開されていた膜のようなものに阻まれ完全に無効化された。

 

「こぉのッ!化け物がッ!!」

 

それでもオータムは攻撃を続けた。例え無意味でもそれしか出来なかったのだ。

 

そして化け物(アレサ)のチャージが終了し、オータムへ向けて砲撃を放った。

 

「スコールッ!!わたッ……」

 

オータムは最後まで言葉を紡ぐことも出来ず、緑の光に包まれアラクネごとこの世から消滅した……。

 

 




AC4シリーズの騙して悪いがでお馴染みのインテリオルさんです。
インテリオルのミッション説明は本当に概要しか説明してくれないしAFを差し向けてくるしで本当に腹黒い企業だと思います。
ちなみにオーメルはイラッとしますけど説明は分かりやすいし、ちゃんと段取りしてくれてるしで本当に優秀です。

今回原作キャラが初死亡しましたが国家解体戦争勃発時にはかなりのキャラが死亡すると思いますので今のうちに報告しておきます。

今回の実戦テストでアレサとセシリアは称賛されますが同時にレイレナード上層部に不安と恐怖を抱かせることになるでしょう。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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第39次報告書

実戦テスト後の報告書です。

すこしセシリアの現状などにも触れています。


・役員、幹部及びBクラス職員、研究員以上のみ閲覧可

 

これまでの実験及び先日の仮想敵であるISとの実戦テストの終了を持ってプロトタイプ・ネクスト『00-ARTHA(アレサ)』の全ての評価を報告する。

 

結論としてアレサの性能は設計段階で予定したデータ以上のものであると言える。

 

・搭載したコジマジェネレータの圧倒的出力による機体パワーの増加及びAMSによるアクチュエータ複雑系の制御精度の向上による機体の積載量の増加に伴う大火力兵器の運用

 

・メインブースタ6基、サイドブースタ10基から繰り出されるQBの圧倒的機動性

 

・前述した大出力コジマジェネレータから展開されるPAによる鉄壁ともいえる防御力

 

これら駆使したアレサは『GA社』も開発に携わったアメリカ製第二世代型IS『アラクネ』を実戦テストにおいて26.53秒で撃破。撃破するのに使用したコジマキャノンのチャージ時間も考えれば実際の撃破時間は更に短くなるためまったく驚異的と言わざるを得ない。

 

この結果によりアレサは既存の全ISの性能を圧倒的に上回り、今後の技術革新によるISの性能向上を考えても性能的優位は揺るがないと考える。

 

しかし同時にアレサは複数の欠陥も内包している。

 

①全力戦闘時に放出される大量のコジマ粒子による深刻な環境汚染

 

②性能を追求した結果情報量の増大によるリンクスに与える致命的ともいえる精神負荷

 

③QB使用時に掛かる圧倒的Gによる肉体負荷

 

どれも問題だが特にリンクスに与える致命的な精神負荷は大きな欠陥であると言える。

 

現に最高のAMS適正を持つ『セシリア・オルコット』を確保するまで起動実験の際に貴重なAMS適正者が発狂死し、そのセシリアでさえ負荷によって白髪化、五感の損失等異常が発生してしまっている。

 

以上のことから現在計画中の正式量産型ネクスト『03-AALIYAH(アリーヤ)』はアレサの各種機能をデチューンして搭載し搭乗リンクスの安全性を確保することが急務だと言える。

 

アリーヤに関しては基本シャーシ部であるコアを中心に各パーツのユニット化や武装を任務や戦況、戦術に応じて換装して機体を構成し汎用性を確保。さらに他企業と規格を共通化し必要であればパーツの流用も視野に入れ交渉していくべきだと愚考する。

 

リンクス・セシリアに関しては埋め込んだ初期型AMSの交換が出来ずアリーヤに搭載される予定の最新型AMSに対応出来ないためアレサと共にレイレナードの『鬼札(ジョーカー)』として運用していくべきである。

 

しかしセシリアはアレサの運用のために行った改造によりかなりの不具合が出ており、耐用年数は()()()()()()だという報告が医療チームから入っている。

この年数は現時点でのものであるため、運用回数が増加すれば更に減少することは確実なため慎重な運用を求める。

 

また今回の戦果から現状ではセシリアはレイレナードの意向に従順だが、万が一アレサ搭乗時に命令違反や逃走、反逆行為を行った場合それを制止するのは困難であるため何らかの対策を打つ必要性があることをここに提言する。




簡単に報告書を書きました。

アレサとセシリアの戦果は上層部にセシリアに反逆されるかもという不安と恐怖を与える結果になってしまいました。

これにより上層部はセシリアを何らかの手段で縛ることになるでしょう。

企業がリンクスを縛るといったら“アレ”しかないですが…


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セシリア日記7

沢山の閲覧、感想、ありがとうございます!

モチベーションが上がると同時にプレッシャーもかんじますね!

これからも皆さんのご期待に応えられうように頑張ります!


○月○日 晴れ

 

先日の実戦テストを持ってアレサの実験が終了になった。それに伴いテストパイロットとしての俺の仕事も終わった。今後は新しく辞令が出されるらしいが、ひとまず俺の仕事は終わったのだ。

 

それを聞いた時、俺はとてつもない充足感に満たされた。

 

だって、()()()()()()()()()()()

 

家を守護れた。財産も今までの報酬で倍近く増えた。跡取りである子供もいずれ生まれてくる。オルコット家の未来は安泰だ。

 

――だから、()()()()()()()()()()()

 

そう思ったのだが同時にある考えが頭によぎった。

 

――俺は今後、()()()()()()()()()()()()()()()

 

正直、この二年間前世も含めて一番頑張ってきたきたのだが、それが終わった今、何を目標にすればいいか分からなくなってしまったのだ。

 

そうか、これが燃え尽き症候群ってやつか・・・。

 

 

○月×日 くもり

 

今日新しく辞令をもらった。

それによると俺をアレサを正式な搭乗機としてレイレナード社所属の“最初”のリンクスとするということだった。

 

と言っても現在開発中の正式量産型のネクストと他のリンクス候補達が揃うまでの繋ぎみたいなもので“ここぞ”という場面でしか出撃させないとのことだったが・・・。

 

と言うわけでアレサとはしばらくお別れという形になった。俺は長らく実験で乗り続けてそれなりにアレサに愛着を持っていたので少し寂しくなった。まぁ、勘を忘れないようにするため定期的に搭乗はさせてくれるということだったのでそれは嬉しかった。

 

あと社の方から“首輪”を貰いました。

 

職員さんはチョーカーと言っていたがデカくてゴツいので明らかにこれは首輪だった。

なんでこんなもん着けなきゃいけないのかと思っていると、俺の身体と身の安全の為だとのことだった。

なんでもこの首輪は常時俺のバイタルをチェックする機能と発信器が組み込まれているらしい。

現在レイレナードにいるリンクスは俺だけなので体調不良や誘拐などで万が一にも損失をさせないための処置とのこと。

 

“でも首輪なんてなぁ、そんな趣味ないんだけど・・・”と思っていたのだが実際に首輪を嵌めた自分の姿を鏡で見ると存外似合っていたのでまんざらでもない気分になった。

 

 

×月×日 雨

 

『オーメル・サイエンス・テクノロジー社』との取引に俺も同行することになった。

 

六大企業グループ間での量産型ネクストの規格統一やそれに伴うネクスト及びAMS関連技術の交渉をレイレナードは行っていたのだが、その企業の内オーメルが俺を交渉の席に連れてきて欲しいと言ってきたのだそうだ。

 

なんでかな?と思っていると職員さんがオーメルに所属しているリンクス候補の『セロ』が俺に直接会いたいと希望したということを教えてくれた。

 

ふーん、と思って聞いていた俺だが、その俺に会いたいというセロについて興味が湧いたのでセロについて職員さんに聞いた。

 

職員さんによるとセロは俺より五歳年上で、桁外れのAMS適正を持つ“天才”であり“オーメルの寵児”とも呼ばれている男らしい。

ただ、甘やかされているせいか気質は幼いらしく、「精神年齢は君の方が年上かもよ?」とも冗談っぽく言われた。

まぁ、前世も含めれば四十年以上生きてるのでそれに関しては苦笑いした。

 

明朝オーメルの本社に出発するので今日はそろそろ寝ることにする。

 

 

○月×日 くもり

 

オーメルの本社に着いた。

 

エグザウィルが独特な建築だったので“オーメルの本社はどんなのかな~”と思っていたのだが大企業らしく巨大ではあったが社屋自体は至って普通だった。つまらん!!

 

とりあえず交渉は明日からで一週間ほどを予定しているらしいので今日は用意された部屋で旅の疲れを癒やすことにする。

 

 

△月○日 晴れ

 

レイレナードの交渉団と一緒にオーメル側の役員達と会った。

 

お互いに挨拶を交わしたのだがオーメルの役員達の顔を見て俺は“優秀そうだけど、なんか胡散臭ぇな”と思った。

 

俺がそんなことを思っているとドアが開き全体的に色素が薄い少年が入ってきた。

 

役員達は俺達にその少年、『セロ』を紹介した。

 

俺も自己紹介を行うと役員達はセロに俺のことを任せると言い部屋から退出させた。

 

すると社内をセロが案内してくれると言うので一緒に行動した。とりあえず同じリンクスになる者同士だし仲良くしようと思い、俺はセロに色々話しかけた。

なのだが、セロはなんだか不機嫌なのだかなんだか知らないがあまりフレンドリーじゃなかった。“お前が会いたいって言ったんじゃろがい!”と思ったが俺は大人なので許すことにした。

 

そんなことをしているとお昼になり社内食堂でセロと食事をすることになった。

 

俺は普通のご飯は食べられないのでレイレナードで用意して貰ったチューブ入りの栄養食をラーメンの味を思い出しながら食べているとそれを見ていたセロが「お前、僕が羨ましくないの?」と聞いてきた。

質問の意味がよく分からなかったので「何?ご飯のこと?」と聞き返すと「もういい」と言って黙ってしまった。謎だ・・・。

 

その後もセロに色々話しかけたのだが、セロは心ここにあらずといった感じだった。

 

なんか悪いことしたかなぁ・・・。

 

 

○月×日 くもり

 

今日もセロと一緒かな~と思っていると、オーメルの職員さんがやって来て今日は職員さんが俺のお世話をするとのことだった。

 

昨日のセロの様子がおかしかったことをそれとなく職員さんに伝えると職員さんは少し困った顔をして俺に礼を言った。

 

・・・セロに何かあったんだろうか?

 

 

×月×日 雨

 

ちょっと間が空いたがこの二日間で起こったことを書く。

 

まず、セロがリンクスになりたくないと言って自室に引きこもったのだ。

 

これには職員さんも役員も大慌てしていて俺に何があったか聞いてきた。

正直、俺も良く分からなかったが俺のせいであることはほぼ間違い無いので、このままでは“オーメルから訴訟を起こされるのでは?”と焦った俺はセロの説得をやらせてくれと頼んだ。

 

オーメル側は最初渋ったが、自分達よりも俺の方が適していると判断したらしく俺の提案を了承した。

 

そして案内されたセロの部屋に入るとセロは明かりも付けないでベッドの上で体育座りをし、顔は寝ていないないのか目の下に酷いクマを作っていた。

 

そんな状態のセロに驚きつつも俺はとりあえずベッドに腰掛け、セロにどうしたのか聞いた。

 

するとセロは重々しく口を開いた。簡単に言うとリンクスになることで俺みたいになりたくないということだった。

 

その言葉を受けて俺は「ちゃんとデータを取って安全だから俺みたいにならないよ」と言ったのだがセロは中々信じようとしなかった。

そんなセロに内心「このヘタレがッ!」と思ったがオーメルの訴訟に怯える俺は強硬手段に出ることにした。

 

昔、親父にしていたようにセロを抱き寄せ、年の割に豊満な胸に頭を顔を埋めさせて「俺が大丈夫って言ってんだから大丈夫なんだよ!」と言った。

 

するとセロは黙り込んだかと思うとそのまま寝息を立てだした。

 

セロが眠ってしまったのでどうしようか俺も迷ったが、とりあえずセロを起こさないように抱きしめたまま俺も横になり一緒に眠った。

 

そして俺が起きるとセロの方が先に起きており、俺に礼を言ってリンクスになることを俺に告げた。

 

俺は訴訟を回避できたことに安心しつつ、その言葉を祝福したのだった。

 

 

○月○日 晴れ

 

交渉も無事に終わりエグザウィルに帰る飛行機の中で日記を書いている。

 

あれからセロは元気になり初日の態度が嘘の様に積極的に俺に話しかけてくれた。

 

目もなんとなく生気に満ちて生き生きとしている感じがしたので俺は安心した。そして帰り際に見送りにまで来てくれたので聞いてた話より良い奴だなと思った。

 

年も近いしこれからも仲良く出来ればいいなぁと俺は思いながら帰路に着いたのだった。




いかがだったでしょうか?
今回はセロとの出会いとなりました。

少し長くなるのでセロ視点は分けることにしました。2,3日中には投稿したいと思います。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想


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オーメルの『天才』

遅れてすみません。
前話のセロ視点となります。
セロの設定に関してはかなりのねつ造と独自設定が入っていますので“こんなの俺の知ってるセロじゃねぇ!”となるかもしれません。

それではどうぞ。


セロは昔、母親と二人で暮らしていた。

 

貧しいながらも幸せに暮らしていたがある日母親が病死し、セロは孤児院に預けられた。

 

「“良い子”にしていればお父さんがきっと迎えに来てくれるからね・・・」

 

病床に伏せる母が最期に遺した言葉を信じ、セロは孤児院で“良い子”であろうとし勉強も運動も必死に頑張った。

 

――しかし、何年待っても父親はセロを迎えに来ることはなかった。

 

ある日、職員達がセロの母親は富豪の父親の愛人であるということを話しているのを聞いてしまった。

 

その時に感じた屈辱をセロは忘れない。そしてセロは誓った。

 

(僕は偉くなる。偉くなってやる。偉くなって、何もかも見返してやるッ!!)

 

セロがそう誓いを立て一層努力をしていたある日、孤児院にオーメル・サイエンス・テクノロジー社の男が訪ねてきた。

そしてセロに「君は神に選ばれた『天才』であり是非我が社に協力して欲しい」と言いセロをリンクス候補として引き取った。

 

――セロは紛れもない天才だった。

 

桁外れのAMS適正を持ち、実験を行えば毎回驚異的な記録を叩きだした。

 

その度にオーメルの役員も職員も研究者も皆セロを賞賛した。そしてセロが望めば何でもセロの望む物を与えた。

 

最初は喜んでいたセロだったが、次第にその周囲の声も当たり前になり飽きてきた。

 

そんなある日の事、研究員達からネクスト及びコジマ関連技術のライバル企業であるレイレナード社が天才である自分に匹敵するAMS適正を持つ少女を確保し、『原初』のリンクスを誕生させたという情報を聞いた。

 

その情報を聞いたとき、セロはその称号は本来なら自分が得るはずだったのにと悔しがった。それと同時に自分が長らくそんな感情を抱いていなかったことにセロはハッと気付いた。

 

そして自分にそんな感情を抱かせた存在、“セシリア・オルコット”に興味を持ったのだった・・・。

 

 

 

 

 

原初のリンクス・セシリアに会えたのはそれから二年後だった。

 

レイレナードが開発したネクスト・AMS関連技術の商談にセロはセシリアを同行させることをオーメルに望み、それは実現した。

 

――セシリアは“白い”少女だった。

 

真っ白な髪、白い肌、白を基調とした服に白い手袋を嵌めたその姿は神秘的な印象をセロに与えた。

それと同時に首に嵌められた首輪と歩行補助用の杖がその神秘的な姿に違和感を与えていた。

 

お互いに簡単な挨拶を交わすとセロはセシリアを連れオーメルの社内を案内した。

 

セシリアは足が悪いらしく、それについて聞くと実験でこうなったのだとセシリアは言った。

 

(まぁ、初期型のAMSは不具合も多かったという話もあったからな・・・)

 

セロがそんなことを思って歩いているとセロの背後でバタンッ!と音が鳴った。

振り向くとセシリアが転んでいた。

 

「何をやってい・・・!?」

 

転んだセシリアを見てセロは驚愕した。

 

なぜならセシリアの履いていたロングスカートから()()()()()()()()()()()()()

 

「お前・・・」

 

「あぁ・・・、すみません。義足が外れてしまいました。着け直しますので少し後ろを向いてもらっていてもいいですか?」

 

「あ、あぁ・・・」

 

セシリアの言葉を受けセロは後ろを向く。その背後でカチャカチャと音が数秒するとセシリアは義足を着け直し立ち上がっていた。

 

「はい、すみませんでした。どうやら今日は義足の調子が悪かったみたいでして・・・」

 

セシリアは恥ずかしそうに笑いながらそう言った。

 

そんなセシリアを見て嫌な予感がしたセロは“まさかな・・・”と思いながらも聞いた。

 

「お前・・・、もしかして両腕ともう一本の脚も・・・」

 

セロの問いにセシリアは笑顔で答えた。

 

「はい、()()()()()()()()()

 

セロは目眩がした。

 

 

 

 

 

その後、歩きながらセシリアから話を聞くと驚くことばかりだった。

 

AMSの不具合でプロトタイプ・ネクストを動作させることが出来ず四肢を切断したこと、AMS手術の際の激痛で脳が情報をシャットダウンするようになり痛覚、味覚、嗅覚がなくなったこと、戦闘機動のGに耐える為に内臓を人工物と交換したこと、神秘的だと思っていた白い髪も元はブロンドだったことなど聞けば聞くほどセロは混乱した。

 

そんな話をしていると食事の時間になり二人で社内の食堂で食事を取った。取ったのだが大企業オーメルの社食らしく豪華な食事を取るセロに対してセシリアはチューブに入った栄養食を相変わらず笑顔で食べていた。

 

そんなセシリアを見てセロは聞いた。聞いてしまった。

 

「お前、僕のことが羨ましくないのか?」

 

同じ『天才』であるにも関わらずオーメルの寵児として賞賛と寵愛を受ける自分と実験動物やネクストのパーツとして扱われているとしか思えないセシリア。当然扱いの差に何か思うところがあるだろうと思い、セロはセシリアにそんな質問をした。

 

しかし、そのセロの問いにセシリアは何を言っているのか分からないと言う感じでキョトンとしていた。

 

――セロは絶句した。

 

セシリアのセロを見る目は『嫉妬』だとか『羨望』だとかそんな負の感情が一切こもっていなかったのだ。

 

そして、さらにセロを混乱させたのが今までも不幸な話をセシリアは何でもないように笑顔で話しているということだった。

 

セロは政治的能力に優れ、策略、謀略、腹芸が当たり前のオーメルの役員達と普段から接していたから分かる。分かってしまった。

 

セシリアは本気で自分のことを()()()()()()()()()()()()。むしろ言葉の節々から()()()()()だとすら思っているようだった。

 

(何なんだよ・・・、こいつ・・・)

 

セロはセシリアのことが分からなくなった。残りの時間、セシリアが色々話しかけてきたが混乱していたセロの頭の中には入ってこなかった・・・。

 

 

 

 

その夜、セロは夢を見た。それもとびきりの悪夢を・・・。

 

セロは夢の中でAMS手術を受け、リンクスとなった。しかし、リンクスとなった自分の姿は皆が言っていた選ばれた存在などではなかった。

セシリアのように四肢を切断されネクストに組み込まれる、ネクストを動かす為だけの()()()()()。それが自分の姿だった。

 

そこまで悪夢を見てセロは飛び起きた。

 

(違う!違う!!違う!!!僕は選ばれた存在なんだッ!!あいつ(セシリア)とは違うんだッ!!!)

 

頭でそう否定するも同じ選ばれた存在であるハズのセシリアの姿がセロの頭から離れなかった・・・・・・。

 

そして恐怖に耐えきれず、セロはリンクスにはならないと職員に言うと自室に引きこもった。

 

職員や研究員、役員達は大慌てしながらセロを説得してきたがそれらの言葉はセロには響かなかった。

 

そして二日が経った。

 

悪夢を見てからセロは一睡もしていなかった。また、あのおぞましい夢など見たくなかったから・・・。

 

すると自室のドアがノックされ誰かが入ってきた。

 

また研究員共が説得に来たかとセロは思ったが入ってきたのは予想外の人物だった。

 

入ってきたのはセシリアだった。

 

セシリアは杖をつき、よたよたと歩きながら自分のいるベッドに腰掛けると自分に話しかけてきた。

 

「話は職員さんから聞きました。セロ、どうしてリンクスになりたくないんですか?」

 

「・・・なりたくないんだよ・・・・・・」

 

「え?」

 

「お前みたいな『()()()』になりたくないって言ったんだよッ!」

 

それは完全な八つ当たりだった。

 

だがセロのそんな子供じみた八つ当たりの言葉を受けてもセシリアは言葉を続けた。

 

「セロ、落ち着いて下さい。私は黎明期の技術でリンクスになったからこうなりましたが今はデータも揃ったので安全にリンクスになれますよ?私みたいには決して・・・」

 

「どうしてそれが保証できる?実際にお前みたいなのが存在するのに?」

 

セロの否定の言葉を受けるとセシリアは何か決心した表情になると、セロの側まで寄ってきた。

 

そしておもむろにセロの頭を抱きかかえるようにして自分の胸へ抱き寄せた。

 

トクン、トクンとセシリアの心臓の音が聞こえる。その音を聞くとセロは何故か分からないが安心感に包まれた。

 

(ああ・・・、そういえば心臓だけは自前だって言っていたな・・・)

 

そんなことをセロが考えているとセシリアは幼子に言い聞かせるように優しく口を開いた。

 

「大丈夫ですよ・・・。セロ、大丈夫。私が頑張ってデータを集めたんです。だから、絶対に大丈夫・・・」

 

そのセシリアの言葉は研究員達の説明なんかよりもセロの心に響いた。

 

(ああ、そうだな・・・。こいつがこんな()()になってでも集めたんだものな・・・。なら・・・)

 

そう考えている途中でセロは疲れと安心感からセシリアの胸の中で眠ってしまった。

 

そしてセロは夢を見た。しかし、それは悪夢などではなかった。

 

幼いころ、貧しいながらも母親と二人で幸せに暮らしていた頃の夢だった。

 

夢の中でセロは母親に抱きしめられていた。そして母親がセロに()()()()()()()()()所で目が覚めた。

 

(夢・・・、か・・・)

 

目が覚めたセロだったが夢の中と同じように誰かに抱きしめられていることに気がついた。

 

――セシリアだった。

 

セシリアはセロの頭を抱きかかえるようにして眠っていた。

 

自分よりも年下の少女に抱きしめられながら添い寝されているという状況にセロは若干気恥ずかしさを覚えるも嫌ではなかった。

 

そして無意識の内にセシリアを抱きしめ返していた。するとセシリアが目を覚ました。

 

「んむぅ・・・。セロ、起きたのですね。すみません、私も眠っていました」

 

「いや・・・、大丈夫だ・・・。起こしてすまない・・・」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

セシリアは少し寝ぼけているのか眠そうに返した。

 

「セシリア・・・」

 

「はい、何でしょう?」

 

「僕は・・・、リンクスになるよ。お前と同じ存在に・・・」

 

「そうですか・・・」

 

「ああ、お前が僕や他のリンクスの為に集めたデータ、無駄にはしない・・・。だから、ありがとう・・・」

 

「くすっ、どういたしまして。祝福しますよ、セロ」

 

「あ、ありがとう。・・・もう少し、このままでもいいか?」

 

「はい、いいですよ」

 

そしてしばらくの間二人は抱きしめ合いながら時を過ごしたのだった・・・。

 

 

 

 

 

そして予定されていた商談の日程が終わり、セシリアはレイレナードの交渉団と一緒に帰って行った。

 

セシリアを見送ったセロは心にぽっかりとした喪失感を感じていた。それに気付いたセロは自分が勘違いしていたことを思い知った。

 

セロは選ばれた存在である自分は『孤高』の存在だと思っていた。しかし違った。自分は『孤高』ではなく『孤独』の存在だったのだ。

 

(ああ、そうか・・・。僕は、一緒にいてくれる存在が欲しかったんだ・・・・・・)

 

それに気付くとセロの心の中に欲望の炎がメラメラと燃え広がった。

 

(欲しい・・・、あの女が、セシリアが欲しい・・・)

 

今まで望むモノは何でも手に入れることが出来たセロだったが今回ばかりはそう簡単にはいかないことは分かっていた。

 

しかし、それでもセロはセシリアを手に入れたかった。

 

(セシリアは僕の『モノ』だッ!僕だけの『モノ』だッ!!レイレナードだろうが何だろうが関係無い・・・。絶対にアレ(セシリア)を手に入れてみせるッ!!!)

 

これ以降、セロは今まで抱くことのなかった他者への執着と野心を抱きながら過ごすこととなる。

 

これがオーメルとレイレナード、そしてセシリアとセロにどのような結果をもたらすことになるのかは誰にも分からなかった・・・・・・。




以上セロ視点となります。
セシリアは見事にロックオンされました。今後どうなるかは神のみぞ知るといったところですね。

ちなみに作者はリンクスの中でセロはかなり好きですね。
ゲーム本編だとかませですが未使用音声などを聞くとかなり興味深いキャラだと思います。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくおねがいします


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セシリア日記8

お疲れ様です。

お気に入り1000突破ありがとうございますっ!
これからも精進して頑張っていきたいと思いますっ!


○月×日 晴れ

 

レイレナード社製標準ネクスト『03-AALIYAH(アリーヤ)』と逆関節脚部を使用した『04-ALICIA(アリシア)』の開発・製造が完了した。

 

俺もロールアウトした機体を見せてもらったのだが感想は“か、かっけぇ・・・”だった。

 

アリーヤは要らぬものをそぎ落とし、入りきらない機構は潔く剥き出しにするところに「F1マシン」を、特異な状況に馴染むためにあえて歪んだ美しさを選択するところに「深海魚」を、鋭く尖ったコアに「ハシボソガラス」のイメージを俺に感じさせた。

 

性能についても聞くと、単純な機体スペックはアレサの機構をデチューンして搭載したのでアレサに劣るらしいが、汎用性・安全性・整備性・継戦能力などを総合したスペックはアレサよりも上らしい。

 

俺もアリーヤに搭乗してみたいと思ったのだがこいつに搭載されている最新型のAMSと俺の背中のAMSは規格が合わないらしく俺は搭乗出来ないとのことだった。ちぇっ!

 

若干悔しさを感じながら廊下を歩いていると正式にレイレナードのリンクスとなった『ベルリオーズ』と『アンジェ』に会った。

 

二人はリンクスになったのは最近だがスカウト自体は俺よりも前に行われていて、以前はベルリオーズはフランス軍特殊部隊に。アンジェも同じくフランス軍、それもISの教導隊に所属していたというエリート中のエリートの経歴を持つスゴイ人達である。

 

これからシュミレーターで訓練を行うというので俺も一緒にやらせてもらったのだが、フルボッコにされました。

搭乗機がアレサだったら違ったのかもしれないけど同じ機体で戦ったらやっぱり戦闘経験がまったく違い二人に勝てる気がしなかった。

 

AMS適正が高い=強いではないのは分かっていたつもりだったけどこの結果は悔しかった。

俺はもっと訓練を積んでいつか勝ってやると思った。

 

 

×月×日 くもり

 

体の成長に合わせて人工内蔵の交換の為の手術が終わったので病室で日記を書いている。

 

日記を書きながら俺はこの前ベルリオーズとアンジェとした会話を思い出していた。

 

シュミレーターの訓練が終わった後、俺とは違い将来安泰のエリートだった二人が何でレイレナードのスカウトに答えたのか気になったので聞くとレイレナードの目的に共感した為だと答えた。

 

その答えに俺はショックを受けた。

 

――だって俺はレイレナードの目的を未だに()()()()()()()()()()()()のだから・・・

 

俺の年齢や被検体だったこともあるのかもしれないが俺だって“リンクス”なんだ!“リンクス”になったんだ!!

 

――俺にだって知る『権利』があるハズなんだ!!!

 

いつか教えてもらえると思って今まで自分から聞くことはなかったが、容体が安定したら絶対にレイレナードの目的について聞こうと思った。

 

 

△月×日 雨

 

容体が安定した俺のところに主任がやって来た。

 

俺が主任にレイレナードの目的について聞こうとすると主任は手で俺を制し、「まず話さなければならないことがある」と言い主任の研究室へ俺を招き入れた。

 

そして椅子に俺を座らせるとまず俺の今までの功績に対して礼を言った。俺は“礼はいいから早く教えてくれ”と思ったが主任の目を見て息を呑んだ。

 

主任の目はかつて俺をスカウトした交渉人の男と同じ目をしていたからだ。

 

俺がそのことに驚いている間に主任はまず俺の身体について説明した。

 

それによると俺の寿命はアレサに乗り続けた精神負荷と手術の影響で残り十年もないということだった。

 

・・・正直に言って、ショックといえばショックだったがそれは()()()()()()()()()

 

だって、俺は本来だったら何十年もかけてやらなければいけないことを()()()()()()でやったんだ。ならば何かしらの対価が必要になるのは当たり前で、むしろ後十年も生きられるなら十分に過ぎるほどだとさえ思った。

 

俺がそんなことを思っていると主任は俺に選択肢をくれた。

 

一つはいくつか制約があるがレイレナードから離れ、残りの余生を過ごすこと。もう一つはレイレナードの目的を知り、真の同志として最期まで歩むことだった。

 

・・・この選択肢は間違いなく俺の残りの人生の分水嶺になる。

 

前者を選べばレイレナードの目的は知れないがチェルシー達と穏やかに過ごすことができるだろう。後者を選べばレイレナードの目的を知れるが恐らく戦いとは無縁とはいかないことになるだろう。

 

――なら、迷うことなどなかった。

 

俺は()()()()()()()ことを主任に告げた。

 

前者を選べば確かに残りの時間を平穏に暮らすことが出来るだろう。だが、俺には『原初』のリンクスとしてネクストとその関連技術を確立させた『責任』がある。そんな俺が安易にその道を選ぶことは『無責任』であり絶対に後悔すると思ったのだ。

 

俺の言葉を受け主任は「そうか・・・」と呟き、明日レイレナードの役員会に俺に出席するように告げると俺を退出させた。

 

その時の主任のなんとも言えない顔を俺は忘れはしないだろう。きっと、俺の思い違いでなければ主任は俺にレイレナードから離れて欲しかったんだと思う・・・。

 

でも、これは俺が決めたことなのだから、悔いは無い・・・。

 

 

開発主任side

 

セシリアが部屋から出て行くのを見届けた後、主任はため息を吐きながら天を仰いだ。

 

(彼女の性格上、レイレナードから離れるということはないと予想していたが、今回ばかりは出来れば外れて欲しかった・・・)

 

本来ならば主任がセシリアに与えたレイレナードから離れるという選択肢などなかった。役員会はセシリアの思考調査及び現場の声、アレサ以外のネクスト戦力とリンクスの存在。さらに安全策として首輪を嵌めさせたセシリアにレイレナードの目的を教え、そのまま協力させることを望んでいた。

 

そこに主任は待ったをかけた。

 

役員会にセシリアがネクスト開発とレイレナードの目的の為に上げた功績。さらに所属リンクスがセシリア以外に既に四名いることを引き合いに出して交渉し、今回の選択肢をセシリアに与えることを了承させたのだ。

 

社の目的の為にセシリアを利用したことを主任は後悔していなかった。そうしなければレイレナードはここまで来れなかったのだから。

 

セシリアの献身によりレイレナードは他企業を圧倒するネクスト戦力とそれを操る優秀なリンクスを揃えることが出来た。今ここにセシリアを加えなくても計画に支障はないはずだった。

 

だからセシリアに対して“もう十分だろう”という気持ちが出来てしまった。

 

以前までの自分だったらそんな感情など抱かなかっただろう。しかし実験を通してセシリアの健気に献身を捧げる姿を見る内に染まってしまったのかも知れない。

 

この自分の行為が偽善以下の行動であり、今までの経験からセシリアがどんな選択をするかも分かっていた。

 

分かってはいたが、せめて選択肢を与えてやりたかった。与えてやりたかったのだ・・・。

 

主任はしばらく天井を見上げていたが感傷を振り払うように頭を振ると役員会に報告の電話を入れるのだった・・・。

 

 

○月○日 晴れ

 

役員会が終わった。

 

その場で俺は六大企業グループの目的とレイレナードの悲願を聞いた。

 

まず企業の目的は統治能力を失いつつある国家に見切りをつけ、全世界でクーデターを起こし企業による新秩序『パックス・エコノミカ(経済による平和)』の構築を目論んでいるらしい。

 

これだけでもとんでもないことだがレイレナードはさらにとんでもなかった。

 

――レイレナードの目的は国家と企業の『罪』の清算

 

具体的に言うと宇宙開発に進出した各国家と企業が他勢力に対して優位に立つための手段として、衛星軌道上に無差別攻撃をするように設定してばら撒いた自律兵器『アサルト・セル』を破壊し宇宙へと進出する道を創るというものだった。

 

本来だったら「何言ってんの?」と笑い飛ばすような信じられない話だったが役員達の真剣な顔とある事実がこの話が本当のことだと俺に理解させた。

 

何故宇宙空間での活動を想定したISが発表当時()()()()()()()()()()()()

 

何故軍事方面でのみISは利用され一つも()()()使()()()()()()()()()()()()

 

答えは簡単だ。宇宙への道は既に閉ざされていて()()()()()()()()()()()()・・・。

 

そんな秘匿されていた世界の真実に俺は驚愕すると同時にレイレナードが途方もないことをやろうとしている事実に震えた。

 

だってレイレナードが悲願を達成出来ても、出来なくてもレイレナードは()()()()()()

 

失敗した場合は勿論だが成功しても他企業と争うことになるのだ。新興であるレイレナードの企業体力は大きく失われ、宇宙への道を切り開いたとしても経済活動を続けることは難しくなる。

レイレナードが今まで積み上げてきたモノを全て失って手に入れるのは人類の道を切り開いたという()()()()だけなのだ。

 

でも役員達は・・・。いや、今思えば、主任も交渉人の男も職員さんもベルリオーズ達も皆、皆、()()してソレをやろうとしていたんだ・・・・・・。

 

()()()()()()()()()()()とか、()()()()()()()()()()とかじゃなくて自分達がやるのだと()()を決めて行動していたのだ。

 

 

 

 

 

――俺、決めたよ。

 

 

 

 

 

前、日記で残りの人生何をして生きていこうか悩んでるって書いていた気がするけど、決めた。

 

俺の残りの寿命、全部、(レイレナード)の為に使おう。そして俺の子供やチェルシー達に絶対に()()()()()()()()()()

 

――全身全霊を尽くそう。




レイレナード編が少し長くなってきたので少し駆け足になりました。

レイレナードの目的が明かされました。
アサルト・セルはfaが初出ですが存在自体は4で既に示唆されてたのでfaをやった後に4をやると視点が色々変わって面白かった記憶がありますね。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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セシリア日記9

お疲れ様です。

仕事のシフトが変わって投稿が遅れました。

今回は日常回となります。
それではよろしくお願いします。


○月○日 晴れ

 

今日はベルリオーズとアンジェが休暇なので『ザンニ』と『オービエ』とシュミレーターで訓練をした。

 

ザンニはレイレナード所属リンクスで唯一のアリシアフレームの使い手で、独特な三次元機動をしながらレーザーレイフルと突撃銃で地味ながら堅実に戦う冷静沈着な男で、対照的にオービエは両手のマシンガンによる圧倒的な瞬間火力を武器に戦う陽気な兄ちゃんだ。

 

二人と戦ってザンニの戦い方はすごく参考になったのだがオービエの方は確かに強いのだが無茶苦茶にマシンガンを連射する姿を見て俺はなんとなく“こいつ、もしかしてトリガーハッピーなんじゃね?”と思った。

 

 

○月×日 くもり

 

ベルリオーズとアンジェの休暇が終わったので今日は五人で共同訓練を行ったのだが問題が発生した。

具体的に言うとオービエが味方を誤射しまくるのだ。

 

その様子に俺がオービエ=トリガーハッピー疑惑を深めているとベルリオーズがオービエを矯正するということで今日の訓練はとりあえずお開きになった。

 

・・・大丈夫かなぁ?

 

 

×月×日 雨

 

大丈夫じゃなかった!!

 

ベルリオーズがオービエを矯正しようとすればする程オービエの誤射は逆に磨きが掛かり、あの冷静なザンニがマジギレするという事態にまで発展してしまった・・・。

 

数時間の話し合いの末、ベルリオーズはオービエの矯正を諦めて“独立遊撃隊”として単独で作戦行動をさせることを決定。まぁ、オービエの実力なら問題ないかもしれんけど・・・。

 

当のオービエ本人は独立遊撃隊の名前の響きが気に入ったらしく「やったぜ!セシリア!!」と俺に嬉しそうに話しかけてきた。

 

それに対して俺は苦笑いを返すしかなかった・・・。

 

 

△月○日 くもり

 

各企業のネクストのロールアウトとリンクス集めが一段落したので今後の方針を話し合う為、六大企業を全て集めて会議を行いたいとオーメルから通達が来た。それに伴い各企業所属のリンクスをそれぞれ数名同行させ顔合わせも行いたいとのことだった。

 

最初同行するリンクスはベルリオーズとアンジェの二人の予定だったのだが俺に会いたいという企業やリンクスが結構居たらしく、アンジェに変わって俺がベルリオーズと一緒に行くことになった。

 

レイレナードグループのリンクス以外ではセロくらいしか他企業のリンクスを俺は資料でしか知らなかったし、俺を含めて27人のリンクスの内の約半数が集まるというので俺はワクワクした。

 

出発の日が楽しみだなぁ・・・。

 

 

×月×日 晴れ

 

会場であるオーメル本社に着いた。

 

出発前に主任から「GA社には気をつけろ」と言われた。何でか聞くとGAはネクストは開発したものの根幹になるコジマ技術で他社にかなり遅れをとっており性能に難がある可能性があるらしく、その上リンクスも企業で最大資本を誇るにも関わらずグループと子会社を含めて三人しかおらず、AMS適正も高いとは言えないらしい。なのでアクアビットと子会社である『GAE』の提携を押し進めたり、執拗にレイレナードに対して俺をGAに出向させるよう要請してきていたりしてたらしい。

 

まぁ、今回の会場はオーメルだし、他企業も来ているのでGAもムチャはしないだろうと俺は暢気に構えていた。

 

オーメル本社に着くと会議に出席する役員達と別れ、俺は各社のリンクス達の懇談会が予定されてる会場にベルリオーズと一緒に案内された。

 

その時に俺達を案内してくれたのがローゼンタールの『レオハルト』だった。

 

レオハルトは極端な精鋭主義によるエリートなのだが俺がよたよた歩いているのに気付くと手を引いてエスコートしてくれた。

超絶エリートにも関わらずそんな気配りも出来るイケメン好青年のレオハルトに俺は好感を持った。

五年前の俺だったら惚れていたかもしれん・・・。俺がそんな事を思っていると会場に着く直前でレオハルトは手を離した。俺が不思議に思いレオハルトを見るとレオハルトは何故か苦笑していた。・・・なんだったんだろ?

 

俺はレオハルトの様子に不思議に思いながらも会場に入ると早速俺に歩み寄ってくる人物がいた。

 

――セロである。

 

セロと会うのは久しぶりだったので俺も嬉しかったのだが一緒にいるベルリオーズを完全に無視して俺に話しかけてきたので俺は“いや、まず初対面で年上のベルリオーズに挨拶しろよ・・・”と思った。

 

そんなスゴイシツレイなセロの様子に苦笑しながらも大人なベルリオーズは気分を害した様子はなく「開始まで時間もある。二人でゆっくり話すといい」と言って俺達から離れていった。

 

俺は心の中で“すまぬ”とベルリオーズに謝りながらセロとお互いに近況などを話しながら懇談会開始まで時間を潰したのだった・・・。

 

 

 

 

 

そうこうしている内に他のリンクスや関係者達も集まり懇談会が始まった。

 

懇談会は立食パーティー形式で豪華な食事が用意されていたが俺は食べれないし、この場にまさかチューブ入りの栄養食を持ち込む訳にもいかず俺は若干手持ち無沙汰な状態だったのでとりあえず会話を楽しむことにした。

 

最初に話しかけたのがインテリオル・ユニオン盟主企業『レオーネ・メカニカ』所属の『サー・マウロスク』と『霞スミカ』だった。

 

話かけたはいいが、スミカの方は問題無かったがサーは問題だった。

 

サーは開口一番に俺に対して「あぁ、貴様が例のレイレナードの()()()()()か」と見下したように言い放ち、その後も嫌みと小言で俺をネチネチと言葉責めしてきた。

サーによる言葉責めを受けて俺は“なんだよこいつ・・・Mr.自尊心かよ・・・”と思いつつ「へへ・・・、そうですね。すいやせん・・・」と、ひたすら下手に出ることにした。こういうヤツには下手に反論すると面倒くさくなるのである。

 

そんなサーに対してスミカは注意するのだがサーは気にする様子もなく、ひたすら俺を言葉責めした後、満足したのか一人で去って行った。

残された俺にスミカは「すまなかった」とサーのことを謝罪してくれた。ええ人や・・・。

 

スミカが言うにはサーは実力はあるのだが野心家で自信家らしく社の方でも問題視しているとのことだった。

 

その説明を聞いて俺は“もしかしたら、サーはある意味すごい大物なのかもしれん”と思った。

 

スミカと別れ俺は次にBFFの女帝『メアリー・シェリー』に話しかけた。

 

メアリーは同社の遠距離射撃の戦術を確立し、BFF軍部に君臨する凄い人である。

 

BFFとレイレナードは協力関係を結んでいるので色々話が盛り上がったのだが最後に「懇談会が終わったら私の部屋に来ない?可愛がってあげる」とお誘いを受けた。

“え!?この人、女もイケる人!?”と俺が混乱していると「冗談よ」と言って去って行った。

でも目がマジだったのでガチだったと思う。

 

あーあ、男だったときにあんな美人からお誘いを受けたかったなぁ・・・。

 

そんなことを思っていると後ろからどことなく怪しげな雰囲気の男に話しかけられた。

男は『イクバール社』所属の『サーダナ』と名乗った。

 

サーダナは前々から俺に興味を持っていたらしく「実際に会えて光栄だ」と挨拶してくれた。

最初俺はサーダナはその雰囲気から変人かと思ったのだが実際に話してみると面白い人だった。サーダナはリンクスではあるが本業は数学者で、また敬虔な宗教家でもあるらしい。最後に「お前は面白い素材だと聞いている。来たるべき時には期待しているぞ」と言って去って行った。

 

・・・ちょっと変人っぽいけど期待されると嬉しいな。

 

最後にGA社のメノ・ルーと話した。

 

主任に「GA社には気をつけろ」と言われていたが彼女は経営陣ではなくてリンクスだし問題無いだろうと思って話しかけた。

 

話していて思ったのだが、メノはどことなく幸薄そうな人だった。そして何処か不安げな様子だった。

 

・・・多分、自分がGAという巨大企業の最高戦力であるということにプレッシャーを感じているんだと思う。

 

俺にはベルリオーズやアンジェ、ザンニにオービエという本当に頼れる仲間がいるけど彼女にはそんな存在はいないのだ。GA上層部からの期待と圧力も凄まじいものだと思う・・・。

 

俺はメノに“頑張れ”と言おうかと思ったが止めた。

 

だって彼女が頑張っているのは間違いないのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

だから無言でメノの手を握った。

 

メノは最初驚いたようだったが「ありがとう・・・」と言って俺の義手を両手で握り返してくれた。

 

そんなこんなで懇談会も終わり俺は用意された自室に戻った。

 

それにしても実際に会ってみてリンクスって個性的な人が多かったなぁと俺は思った。

 

・・・良い人もムカツク人もいた。最終的に全員と戦うことになるかもしれないが、今はまだ仲良くしていきたいなぁ・・・・・・。

 

 

○月○日 晴れ

 

会議も終わりエグザウィルに帰ってきた。

 

なのだが、帰ってきて早々に社の方から俺に指令が出された。

 

内容は来年度IS学園に入学せよとのことだった。

 

・・・なんでさ。




以上セシリア日記9になります。

予定ではチェルシー回にする予定だったのですが一回リンクス紹介回を挟まないと後で困ると言う事に気付いてこんな感じになりました。

申し訳ありません。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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第57次報告書

お疲れ様です。

会議で決定したの報告書です。本当は議事録形式的にしたかったのですが難しかったので諦めました。


・役員、幹部及びBクラス以上職員、研究員、リンクス・ベルリオーズのみ閲覧可

 

先日の全六大企業を集めた方針会議において主に以下のことが話し合われた。

 

 

①他社が開発したネクストパーツ及び武装を使用する際の契約内容について

 

②リンクス・セシリアの各企業への期限付きでの出向要請(GA社より提案)

 

③各社が不定期で受けているクラッキング攻撃について

 

④篠ノ之束の探索結果の報告及び来年度IS学園並びに入学予定の篠ノ之箒に対する諜報活動について

 

 

①に関してはこれまでの交渉結果の確認という形でスムーズに取り決めが行われた。ただし情報漏洩が確実に起こるため各社での使用となっているが実際には我々レイレナード陣営(レイレナード、BFF、インテリオル・ユニオン)とオーメル陣営(オーメル・GA・イクバール)間内での使用に留まると思われる。

 

 

②に関しては最早呆れとしか言いようがない。

 

セシリアの出向に関しては前々から我が社にGA社から要請があったが、今回はGA社単独への出向ではなく『各社』とした所からセシリアに興味を持つ他社を巻き込んで出向を認めさせようという浅はかな考えが透けて見える。

 

GA社曰く、現在各社の保有リンクスの数と質に明らかに差が有り、このままでは来たるべく国家解体の際に各社の連携に問題が発生するとして更なるリンクス確保の為にAMS適正が低い者にも対応するAMS開発のためにもセシリアを使用しての実験が必要とのことだったが、これは完全な詭弁である。

 

まず、セシリアを被検体にしたAMSのデータは現時点で出尽くしており、これ以上実験を行っても新たなデータは出てこない。さらにGA社が子会社であるGAEを通じてアクアビットから破棄予定だった()()()()()()()()()()初期型AMSを取り寄せたという報告もありGAが何を企んでいるかは明確であり、事前にBFFとインテリオル、イクバールと協議していたこともありこのGA社の提案は賛成1反対5により棄却された。

 

しかし事前に協議を行っていない()()()()()()()()()()()ことに関しては留意が必要だと思われる。

 

 

③についてはクラッキング攻撃が開始されたのはアレサによるIS『アラクネ』の撃破後から行われており、最初は我が社のみだったがその後協力関係を結んでいるBFF、インテリオルに行われ、現在は全ての企業で同様の攻撃が確認された。

 

攻撃が始まったのがアラクネ撃破後なこと、攻撃対象となった企業の順番、クラッキングの方法が高度化されている点などからISコア解析の際に確認された情報ネットワークによりアレサの存在を確認した篠ノ之束によるものと判断。

 

実戦テストの際には可能な限り妨害手段を取ったのだが流石と言うべきか完全な情報の遮断は出来なかったようである。しかしクラッキングという手段で情報収集を行っている点を考えるとアレサの完全な性能やコジマ技術の詳細まで情報は漏れていないが、最低でもISを破壊しうる兵器が開発されたことを把握したのは確実である。

 

この一連の攻撃に関しては当初の予測通りであり各社24時間体勢で対応。また各社ネクスト及びコジマ関連技術に関してはデータ化せず書面で処理、漏洩しても問題ない情報はダミーと合わせて渡すなどの対策が取られているが、このまま攻撃が続けばいずれ何らかの機密が漏れるのは時間の問題である。

 

篠ノ之束の今までの行動、思考パターンから国家に対する忠誠心は皆無であり情報を国家に報告するということはないと思われるが、同時に()()()()()()()()()()()()という行動、思考の不気味さがあり野放しにしておくのは危険と判断。

 

――よって篠ノ之束の『()()』を全会一致で可決した。

 

 

篠ノ之束の排除の決定に伴い、現段階での探索結果についてオーメルから報告がされた。

 

まず衛星軌道上には『アサルト・セル』の存在があるため地球上に潜伏しているのは確実であり、篠ノ之束も『()()』で有り、無から有は生み出せない以上、生活インフラの維持や研究設備の維持管理などに定期的な物資の補給が必要になるため各企業で不審な物資の流れがないか探索した結果、いくつかの候補地が上がった。

 

その内の一カ所に亡国機業を使い威力偵察を行わせたが無人機と思われるISに迎撃され損害を負ったようである。

 

このことから中途半端な戦力の投入は悪手であり、排除の際にはネクスト戦力を最低でも二機は投入することを決定。

さらに情報漏洩を防ぐことと、排除を確実なものとするため篠ノ之束の潜伏場所を確定するために来年度IS学園と妹である篠ノ之箒に対する諜報活動を行うことを確認。

 

篠ノ之束が妹に執着している点、篠ノ之箒自身が年齢や現在日本政府から監視、聴取などが行われ精神的に不安定かつ篠ノ之束の妹であるという特別な立場などから閉鎖的なIS学園内で()()()()()()()()()が発生する可能性が高く、その際に何らかの形で二人の接触が発生する可能性が高いと判断。

 

人選としては新年度の人員交換の際に一定数の諜報員を潜入させることと、インテリオルが現在国家代表候補生として政府に潜入させているリンクス候補を生徒として入学させ篠ノ之箒と接触させることで進んでいたが会議に同席していたBFF所属リンクス『王小龍』の提案で事態は一変した。

 

本命のインテリオル諜報員の露払いとして()()()()()()()()()()()学院の注意とリソースをセシリア及びレイレナードに向けさせ、諜報活動を円滑に行えるようにするというものである。

 

一見、諜報活動の成功率を高めるための提案と思われるが我が社のネクスト戦力を()()()()()()()()という『陰謀屋』の考えは明白である。

 

しかし現在レイレナードは作戦遂行に必要な軍事インフラをBFFに頼っているのが現状で有り、企業全体の目的を考えると妥当な提案でもあるためこの提案を断ることは出来ず、セシリアの身体の状態から医療スタッフを諜報員に加えることを条件に不本意ではあるがこの案を了承する形となった。

 

セシリアに関して身体の状態とその性格から諜報活動を行うのは不可能なので、直接的な諜報は行わせず、潜入させる諜報員の情報も与えず、篠ノ之箒とも積極的な接触は控えさせ、本来の意味でのおとりとして入学させるべきである。また我が社が保有している技術研究用のISコアを情報漏洩しても問題ないレベルで専用機として改修して与える予定であるが、セシリアの本来のIS適正は『Aランク』なものの四肢の切除と身体の大半の機械化により恐らく現在のIS適正は『Cランク』相当まで()()()()()()()()()があるため、現在主流となっている特殊兵装は搭載せず、基礎スペックの向上とネクスト用の兵装をISに搭載しても問題ないレベルまで性能を落とす形で装備させ、現在のセシリアでも運用出来るものとするべきである。

 

また公式記録ではセシリアは我が社のIS関連技術のテストパイロットということになっているためIS学園に入学する以上、最低でも同学年の国家代表候補生と戦闘を行い勝利するだけの技量が必要になる。そのため入学までの間に教導隊出身であるアンジェに教導と教育を行わせ主席が狙えるレベルまでを目指させることとする。




お疲れ様です。

簡単にセシリアがIS学院へ入学する経緯を説明するためにこんな形になりました。
新興であるレイレナードの脆弱性が現れた場面でもあるかもしれませんね。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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セシリア日記10

お疲れ様です。

職場でコロナの濃厚接触が発生してそれに伴うシフト変更で休みが取れず投稿が遅れました。
皆様もコロナにはお気を付け下さい。

後書きに今後についてお知らせがあります。




○月×日 晴れ

 

突然のIS学園入学指令を受けた俺は戸惑いながら主任に話しを聞きに行くと主任は経緯を説明してくれた。

 

なんでも先日の会議で現在失踪中の篠ノ之博士をとっ捕まえることを決定したらしく、居場所を突き止めるための情報収集の手段としてIS学園に入学予定の篠ノ之博士の妹に対して諜報活動を行うことを決めていたのだが、本来なら人員交換で諜報員を潜入させるのとインテリオルがスパイ活動をさせている代表候補生を入学させて行う予定だったところをBFFの王小龍の横やりによって俺をおとり役として入学させることになったことを苦々しい顔で説明してくれた。

 

その話を聞いて俺は“う~ん、流石は陰謀屋。アクアビットのリンクス『テペス=V』が「あいつ(王小龍)嫌い」と言っていた理由が分かる気がする・・・”と思った。

 

まぁ、決まってしまったものはしょうがないので俺はどうすればいいのか聞くと「とりあえず社が保有しているISコアを専用機として渡すから適当に学園生活を送ればいいよ」と主任は言った。

 

“えっ!?そんな適当でいいの!?”と思ったが、よく考えたら俺は身体はこんなんだし、そもそも諜報活動の教育とかされてないしでまともな活動は出来ないので本当におとりとしてしか役に立たないので諜報活動は餅は餅屋ということで他の人に任せることにした。

 

・・・それにしても仕事とはいえIS学園に入学、か・・・・・・。

 

人生に『もしも』はないけれども・・・。いや、よそう・・・・・・。

 

 

×月○日 くもり

 

IS学園入学に向けて勉強開始!

 

俺は表向きはレイレナードのIS関連技術のテストパイロットとなっているので俺の成績があんまりだとレイレナードが馬鹿にされるので、そんなのは嫌だから主席目指して勉強頑張るゾイ!!

 

 

△月×日 くもり

 

勉強ムズかしいなこれ・・・。

 

でも楽しいな。勉強ができるって贅沢だよなぁ・・・。

 

 

○月○日 雨

 

勉強と平行して今日から実際にISに搭乗して訓練することになった。

それに伴い訓練前にIS適正をもう一回調べて貰ったのだが結果は変わらず『()()()()』のままだった。残念!

一応IS適正はAMS適正とは違い変化することもあるとあったので“ワンチャン上がってないかな?”と期待していたが世の中そんなに都合良くないよね!

 

まぁそんなこんなで早速アンジェの指導の下ラファール・リヴァイヴに搭乗したのだがこれが中々に良い機体だった。資料で操縦しやすく汎用性が高いことと、それにより操縦者を選ばないことは知っていたが初搭乗でIS適正も低い俺でも結構動かせたのだ。

ちなみにこのラファールはインテリオルが国からメンテと整備を頼まれていた二機をこっそりこっちに回してくれたものである。

 

・・・これバレたら怒られるよね。大丈夫だと思うけどさ・・・・・・。

 

 

×月×日 くもり

 

アンジェ強すぎワロタ。

 

教導が始まって結構経ったのだがアンジェは熱?、いやスイッチが入ったのか教導隊時代を思い出したのか分からないが「痛くなければ覚えませぬ」と言わんばかりに遠慮無く俺のことをボコボコにしながら教導してくれた。

 

痛みを感じないとはいえボコボコにされるのは嫌だったので俺は必死に訓練を行った。おかげで最初の時よりはだいぶマシ?になった・・・、と思う。

 

この調子で明日も訓練頑張るゾ!!

 

・・・あ、青アザ出来てら・・・・・・。

 

 

○月○日 晴れ

 

俺の専用機が完成したそうなので主任に機体を見せて貰った。

 

その機体を見て俺は驚いた。だって見た目がまんまネクストだったからだ。

 

その機体『002-B』(長いので2Bと呼ぶことにする)は全身装甲でアレサとアリーヤの中間みたいな見た目をしていた。

 

主任曰く、開発期間短縮の為に元々アレサを基に開発していた自律型ネクストのデータを流用して開発したとのことだった。

 

主任の説明を受けて俺は「それって機密的に大丈夫なの?」と聞くと「ネクストやコジマ関連の技術は一切使ってないから大丈夫」とのことだった。

 

その後2Bの性能に関して主任は説明してくれた。

 

この2Bは現在主流である特殊兵装は搭載せず、純粋な基礎スペックの向上を目指して開発したとのことで、元々エネルギー系に強いレイレナードらしくシールドエネルギーは従来機の三倍以上を誇るらしい。

 

そしてその豊富なシールドエネルギーを使用して両肩のシールドバリアー発生装置兼用のブースターユニットで擬似的なQBなども行えるとのことだった。

 

武装に関しては本来だったら武器腕だった腕部を通常のマニュピレーターに変更したのでIS用に性能を落としたネクスト用兵装を使用可能にして汎用性を確保したとのことだった。

 

短期間でこんなに凄い機体を造ってくれた主任に感謝していると主任は俺に「渡したいモノがある」と言って何やら取り出した。

 

――それは義手と義足だった。

 

俺がいつも使っているメカメカしいものではなく()()の手足に近いものだった。

 

俺が不思議に思っているとIS学園で生活する以上、今のままだと支障を来たす可能性があるから性能を向上させた義手と義足なのだそうだ。

 

主任曰く、着けてすぐに自由に動かせるそうなので俺はありがたく受け取った。

 

よ~し頑張るぞ~!

 

 

×月△日 雨

 

あたらしいぎしゅ、うまくうごかせない・・・。ぎそくも、だめ・・・。かんど、よすぎ?いわかん・・・。

 

だめだ、こりゃ・・・。

 

 

○月×日 くもり

 

主任に貰った新しい義手と義足なのだが感度が良すぎるのかなんなのか分からないが練習しても上手く動かすことが出来なかったので泣く泣く主任に返却した。

 

俺から義手と義足を返却された主任はどこか悲しげだった・・・。

 

せっかく用意してくれたのにすまぬ、すまぬ・・・。

 

 

○月△日 晴れ

 

2Bに搭乗して今日もアンジェと訓練!

 

途中から自分の訓練が終わったザンニも加わってくれて俺に色々アドバイスをくれた。

 

2Bの武装とか機体性能はザンニの搭乗ネクストである『ラフカット』に近いのでザンニのアドバイスはとてもありがたかった。

 

これからもザンニは時間をがあるときに手伝ってくれるそうなので俺は“やっぱり持つべきは仲間だよなぁ・・・”と思った。

 

 

×月○日 くもり

 

勉強と訓練を開始してからだいぶ経ち、とりあえず主席を狙えるレベルになった。

 

まぁ、アンジェからは俺が2Bの性能に頼っているところもあるから入学ギリギリまで訓練は続けるぞと厳しい言葉も貰ったが・・・。

 

“それにしてももう十二月かぁ・・・。あっという間だったなぁ・・・”と思っていると上層部の方から三日間の休暇を貰った。その休暇を使って実家に一時帰宅していいよとのことだったので俺は喜んだ。

 

何しろ五年ぶりの帰省である。チェルシーは元気かなぁ・・・。

 

と、思ったのだが俺は重大なことに気がついた。

 

――()()()()()()()、どう説明すればいいんだ?

 

どうすればいいか聞くと、アレサやネクストのこと、国家解体、レイレナードの悲願については話しては駄目だけど、身体の状態については話してもいいらしい。ただしその場合、今後のチェルシーの行動に制限を付けることになるとのことだった。

それが嫌な場合、俺の身体は表向き実験中の事故ということになっているので、そう説明すれば良いとのことで判断は()()()()()とのことだった・・・。

 

きっついなぁ・・・。

 

チェルシーには、俺のことを知る『()()』があると思うんだ・・・。

 

でも、チェルシーにはチェルシーの『()()』がある訳で、こんなことで制限を掛けたくないという思いもある・・・。

 

どうしよう・・・・・・。

 

 

12月23日 雪

 

五年ぶりの我が家は全然変わってなかった。

チェルシーやメイド達がしっかり管理してくれていたのでとても嬉しかった。

 

でも、俺を出迎えた皆の反応は予想していたとはいえキツかった・・・。

 

チェルシーはすっごく美人さんになっていて、昔、お袋が言っていた理想の淑女といった感じだったが、俺の姿を見た瞬間、分かりやすいくらい狼狽していた・・・。

 

とりあえず俺は皆に今までのことについて感謝の言葉を掛けた後、人払いをしてチェルシーと二人きりになった。

 

チェルシーは俺に何があったのか気が気でない様子だったが俺はそれを制し、チェルシーに今後の行動に色々制限が付くけど俺について聞きたいか聞いた。

 

するとチェルシーは怒りながら「自分は従者として主について知る『()()』と『()()』があるッ!!」と言った。

 

――本当に・・・、俺には勿体ない従者だよ・・・・・・。

 

俺はチェルシーの言葉を受け、身体を見せながら『ヒト(人間)』を辞めたことを教えた・・・。

 

俺の話が終わるとチェルシーはガタガタと震えながら「自分のせいですか・・・?」と聞いてきた。

 

どうやら自分がIS適正試験を受けることを俺に提案したせいで俺がこうなったのだと思ったらしい。

 

その問いに俺は笑いながら「違うよ」と答えた。

 

俺が『ヒト(人間)』を辞めたのは()()()()()()ことだし、そもそも俺が高ランクのIS適正を持っていなかったことが原因なのである。だから「チェルシーは何も悪くないし、全部()()()()にして良いんだよ」と言うとチェルシーは子供みたいにワンワン泣き出してしまった。

 

俺は泣き出したチェルシーを抱きしめて謝ることしか出来なかった。

 

チェルシーを抱きしめながら俺は思った・・・。

 

実はさ、昔ふと考えたことがあるんだ。

 

もし、俺に高ランクのIS適正・・・、例えば『()()()()』とかの適性があったらなとか、アレサの情報量も全部処理出来るくらいの()()()()()()が脳に備わってたらとか、何にも負けないくらいの()()()()()があったらな、とか考えたことがあるんだ。

 

でも、どっかのクソ犬が言っていたみたいに人間は()()()()()()()()()()()()しかなくて、俺にはそんな夢みたいなカードは配られてなくて・・・。

 

――手持ちのカードで精一杯勝負した結果がこれなんだ・・・・・・。

 

だから、チェルシー・・・、ごめんね・・・、ごめんよ・・・・・・。

 

 

12月24日 雪

 

今日はめでたい俺の十五歳の誕生日!!

 

なのだが、やっぱり盛り上がらなくて・・・・・・。

 

なんとか盛り上げようとしたのだけど、皆、俺が無理をしてると思ってるみたいで全然駄目でした・・・。

 

そして寂しい誕生会が終わった後、チェルシーと二人で語り合った。

 

レイレナードの悲願について話せたら違ったのかもしれないけど、チェルシーに理解も納得もしてもらうことは出来なかった。

 

・・・まぁ、聡明なチェルシーのことだから悲願のことを話しても大義に()()()()()()()()だとバッサリ切り捨てられるかも知れないけど・・・・・・。

 

 

12月25日 雪

 

休暇も終わり、エグザウィルに帰ることになった。

 

俺を見送るチェルシーの泣きそうになりながら笑う姿を見て、俺は泣きそうになった。

 

昨日、チェルシーは俺に言った。

 

――切り開いた未来の先に()()()()()()()()()()()

 

その通りだ・・・。俺に()()()()()・・・・・・。

 

――でも、()()の未来は守れるのだ。

 

そして、その()()の中にはチェルシーや俺の子供も入っているんだ。

 

だから、俺はレイレナードの悲願に賛同したのだ。例え、それが勝手な()()()()に過ぎないとしても・・・・・・。

 

いつか、必ず全部話すから・・・。その時は・・・・・・。

 

 

○月×日 くもり

 

IS学園入学も間近になったときにとある情報が入ってきた。

 

なんと本来なら女しか起動させる事が出来ないISを起動させた男が現れたのだ。

 

情報によると起動させたのはブリュンヒルデの弟の片方“織斑秋二”という男らしい。

 

そして協議の結果、保護の為にIS学園に入学させることで話が進んでいるらしい。

 

このイレギュラーに対してどうすればいいか主任に聞くと「いまさら男がISを使えたところで()()()()()()し、むしろリソースをそちらに割いてくれるなら好都合」とのことだった。

 

まぁ、ネクストとリンクスがいる以上どうでもいいわな。

 

・・・でも、なんでISを起動出来たんだろう?

 

 

○月○日 晴れ

 

またまたイレギュラーが発生!!

 

前回の男のIS装者が発見されたことから世界で男に対してISの適正検査が行われたのだが再び男の適正者が現れたのだ!!

 

そいつの名は“織斑一夏”。そう前回発見された織斑秋二の双子の兄である。

 

その情報を受けて俺は出来すぎじゃないか?と思ったが、双子なので遺伝的、先天的なものもあるのかもしれないのでとりあえず納得させた。

 

――でも、疑問を抱くなといったって無理があるだろう?

 

とりあえず企業全体としては当初計画通りで進めるとのこと。

 

・・・こんなにイレギュラー要素がいる状態で大丈夫なのだろうか?

 

まぁ、いまさらジタバタしてもしかたない。俺は俺の仕事をしよう。

 

目指せ!主席!!

 




今回のセシリア日記10でレイレナード編は終了になります。
次話でチェルシー視点。
幕間でオリ弟の秋二視点、束視点を書いてIS学園編へと突入したいと思います。

それに伴いお知らせなのですが、まず作者はIS原作を移籍前の7巻までしかもっていないので7巻までの情報で書いていきますので人間関係や設定で“あれもあるよ”みたいなのがあるかもしれませんがご了承ください。

次にIS学園編を書く前にもう一度原作を読み返してメインキャラの性格や口調などを確認してから書こうと思いますので、IS学園編は投稿が少し遅れますのでご了承下さい。

最後にIS学園編は日記形式をやめようと思います。IS原作イベントがかなり過密スケジュールなので日記形式にすると描写したいところが描写出来なくなる恐れがある為です。そのため文字数の増加が予想されますので、今までは週一投稿を目指していましたが投稿ペースが空くかもしれません。申し訳ありません。

結末までのプロットは考えていますので必ず完結はさせたいと思いますので、どうかよろしくお願いします。


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チェルシー・ブランケットの『咎』

お疲れ様です。

感想欄で二、三日で投稿しますといってこんなに間が空いてしまいました。

申し訳ありませんでした。


「ええ、申し訳ありません。現在当主は不在でして、いつお戻りになられるかは・・・。はい、お戻りになられましたらお伝えします。はい、はい。それではまたのご機会に・・・」

 

カチャンと受話器を置くとチェルシーは疲れたように“ふぅ”と息を吐いた。

 

(こちらが協力を求めた時には碌な支援をしなかったのに今になってから恩を着せて関係を深めようとしてくるとは・・・)

 

チェルシーはここ数年で圧倒的に増えた親族や金の亡者達からの対応に苦慮していた。

 

しかし、それも仕方が無いことかと思う。

 

現在、オルコット家はセシリアの()()()により絶頂期と言えた。

 

圧倒的に増えた資産。新興企業でありながら六大企業の一角であるレイレナード社という後ろ盾。さらにそのレイレナード社は欧州第一位の規模を誇りイギリスを本拠地にするBFF社とも協力関係を結んでいるのだ。オルコット家を介して彼らとのパイプを繋ごうと考える輩が出てくるのも当然であるが・・・。

 

(最初から敵対していた存在が掌を返して媚びを売ってくるのにも腹が立ちますが、雀の涙のような支援しかしなかったのに多大な見返りを要求してくる輩はもっと腹が立ちます)

 

お家騒動の際協力を求めた比較的良心的だと思っていた親族達も今では完全に金の亡者になっていた。彼らは「あの時協力してあげたのだから謝礼を寄越せ」や「レイレナードやBFFに我が家を紹介しろ」など要求を上げたらキリがなかった。中には「我が家の息子を婿養子にしてはどうですか?」など縁談を求める家もあった。

 

――()()()()()と思った

 

今のオルコット家が在るのはお嬢様が()()()()おかげであり、断じてお前達のおかげではないっ!!

 

「まったく・・・、お嬢様が五年ぶりに帰省されるというのに・・・・・・」

 

先日、レイレナードで生活をしているお嬢様から手紙を貰った。そこには“三日間の休暇を実家で過ごそうと思うので誕生日に合わせて帰省する”ということが書かれていた。

 

その手紙を読んだときチェルシーを含めメイド達全員が喜んだ。

 

――なにしろ五年ぶりに愛しい主と会えるのだ。

 

チェルシーはこの五年で淑女へと成長しているであろうセシリアの姿を楽しみにしていたのだが金の亡者との電話で台無しになった。

 

「お嬢様が帰省することを彼らが知ったら間違いなく招待もしていないのに押しかけてきますね・・・。情報が漏れないようにしなくては・・・・・・」

 

そう呟きながらチェルシーは必要な仕事をしながらセシリアが戻ってくる日を待った。

 

――チェルシーは気付くべきだった

 

オルコット家の資産はこの五年で増えた。それはセシリアへ多額の報酬が支払われたということだが、それだけの報酬が支払われるということはセシリアは()()()()()()()()()()()過酷な環境に置かれていたということに・・・・・・。

 

 

「え・・・・・・」

 

――それは誰の声だったのか

 

お嬢様を出迎えるために並んでいたメイド達の誰かかも知れないし、私自身の声だったかも知れない・・・。

 

車から降りたお嬢様の姿はこの五年で確かに成長されていた。

 

――しかし・・・・・・

 

なぜ、杖をつきながらよたよたと歩いているのか?

 

なぜ、奥様譲りの美しかったブロンドの髪が真っ白になっているのか?

 

――なぜ?どうして?

 

私が変わり果てたお嬢様の姿に驚愕し言葉を失っている間にお嬢様は私達の前まで歩いてくると微笑みながら口を開いた。

 

「皆、ただいま戻りました。五年間私が不在の間、本当にありがとうございます」

 

「は、はい・・・。このチェルシー含めオルコット家のメイド全てお嬢様のお帰りをお待ちしていました・・・。し、しかしお嬢様・・・、そのお姿は、い、一体・・・?」

 

「・・・あぁ、それはね?ちょっと二人でお話をしよっか・・・・・・。ね?」

 

なんとか言葉を紡ぐことが出来た私にお嬢様はそう言った・・・。

 

 

 

 

 

「さてと、どこから話そうかな?」

 

屋敷の中に入り、私と二人きりになるとお嬢様はそう切り出した。

 

「お嬢様・・・。一体、何があったのですか?その、そのような・・・」

 

明らかに異常な姿のお嬢様に気が気でなかった私はお嬢様に詰め寄ろうとするが、お嬢様は苦笑しながらそれを手で制した。

 

「うん、そのことなんだけどね・・・。チェルシー、()()()()()?」

 

「どうしたい、とは?」

 

「私の身体のこと・・・、社の方からチェルシーにだけなら話しても良いって言われたのだけど、その場合チェルシーの今後の行動に色々制限が掛けられちゃうんだ・・・。でも、チェルシーにはチェルシーの()()があるから、だから・・・」

 

「お嬢様!!馬鹿にしないで下さい!!!」

 

私の怒声にお嬢様はビクッと身体を震わせ驚いた。

 

「私は、チェルシー・ブランケットはお嬢様の専属メイドです!ならば私にはお嬢様について知る『()()』と『()()』があります!!行動に制限が掛けられる?その程度のことに臆する私ではありません!!!・・・だから、どうか教えて下さい。一体、何があったのですか・・・・・・?」

 

「そう、だね・・・。分かった。口で説明もするけど、実際に見てった方が分かりやすいから、チェルシー、よく見てね・・・・・・」

 

私の言葉を聞くとお嬢様は悲しそうに微笑みながらそう言って、嵌めていた白い手袋を外した。そして露わになったのは少女の手ではなく、無骨な()()()()()()()()だった。

 

「え・・・・・・?」

 

そのあまりの事態に私が間抜けな声を出している間にお嬢様は右足の太ももに両手を当てたかと思うとガチャリと音がし、そのままズルリとスカートの中から同じく()()()()()()を取り出した。

 

「そ、そんな・・・!?お、お嬢様・・・・・・!?」

 

――もう止めて欲しかった

 

だが、お嬢様は止まらない。

 

お嬢様は上着のボタンに手を掛け外すと上着を脱いだ。

 

お嬢様の白い肌が晒される。その肌には()()()()()()()()()()()()刻まれていた。

 

――呼吸が上手く出来ない

 

あまりの事態に私が絶句しているとお嬢様が口を開いた。

 

「チェルシー・・・、私ね、『ヒト(人間)』で在ることを()()()()()()()()()()()・・・・・・」

 

そう言うとお嬢様は自分の状況について説明を始めた。

 

実験の為に手足を切断したこと、内蔵を人工物と交換しお嬢様本来の臓器は心臓くらいしか残っていないこと、痛覚、味覚、嗅覚といった五感の損失、数々の実験による精神負荷とストレスによる白髪化。

 

――そして、()()()寿()()()()()()()()という事実だった

 

お嬢様が私に事実を告げる度に私の身体は震え、歯をガチガチと鳴らした。

 

――『()()』をしていたつもりだった

 

しかし、甘かった。お嬢様の説明を聞きそんなものはどこかに吹っ飛んでしまった。

 

――なぜ、()()()()()()()()()

 

私は頭の中で原因を探った。

 

レイレナードが悪い?金の亡者共が悪い?それともお嬢様を残してこの世を去った旦那様と奥様が悪い?

 

そんなことを考えていると、ある事実に気付いた。気付いてしまった。

 

――そもそも、レイレナードは何処でお嬢様のことを知り、接触してきた?

 

「あ・・・・・・」

 

()()()()()()。それをお嬢様に進言したのは()()

 

――ワタシノセイダ・・・・・・

 

「わ、私の、私のせいですか・・・?わた、私がお嬢様に、て、適正、IS適正試験を・・・・・・」

 

まるで小さな子供が怒られている時のような私の言葉を聞いたお嬢様は一瞬驚いた顔をした後、笑いながら言った。

 

「チェルシーはなにも悪くないよ?この身体になったのは私が()()()()結果だし、IS適正試験を受けるのを決めたのは私だし、その結果落選したのも私が原因だし・・・。だからね、チェルシーは何も悪くないんだよ。だからね、自分を責めないで()()()()()()にしていいんだよ?」

 

「うぁっ、うわぁあああ!うわぁああああぁあん!!!」

 

私のことをまったく責めず、全て自分のせいにしていいと言うお嬢様の言葉を受けて私は幼子のように大泣きしてしまった。

 

そんな私をお嬢様は「ごめんね、ごめんね・・・」と言いながら抱きしめてくれた。

 

――違うのです、お嬢様

 

私はお嬢様にそんなに優しくしてもらっていい存在ではないのです。

 

お嬢様が私を責めず、全部自分のせいにして良いと言った瞬間、私は()()()()()()()()のです。()()()()()()()()()のです。

 

――自分の『()』から逃げた()()()()()()なのです

 

そんな自分に対する嫌悪感とお嬢様への罪悪感から私は泣き続けることしか出来なかったのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

今日は記念すべきお嬢様の十五歳の誕生日・・・。

 

本来なら盛大に祝う日にも関わらずまるで通夜のようだった・・・・・・。

 

お嬢様の身体の事実について知っているのは私のみで他のメイド達には公式な記録になっている実験中の事故ということで説明したのだが皆やはりというべきか納得しておらず、そんな状況で誕生会を開いても盛り上がる訳がなく・・・。

 

――お嬢様は努めて明るく振る舞っていたが、私を含め皆、無理をしているようにしか見えなかった。

 

そして誕生会が終わり、私はお嬢様と二人きりになると口を開いた。

 

「お嬢様、今回のレイレナードの蛮行、政府に訴えましょう!いくらなんでもこれはあんまりです!!国家が動くとなればいくら六大企業の一角と言えども・・・」

 

私の言葉にお嬢様は何を言っているか分からないという風に答えた。

 

「訴える?何を言っているの、チェルシー?私とレイレナードはお互いに()()()()()()()()だよ?」

 

「っ!?た、確かにレイレナードは()()()()()()()()ッ!オルコット家は()()()()()()ッ!!しかしっ、これはあまりにも・・・、あまりにも・・・・・・」

 

再び泣き出しそうになる私にお嬢様は幼子に言い聞かせるように語り出した。

 

「チェルシー、私、『ヒト(人間)』を辞めたこと、後悔してないよ?それにやりたいことも出来たしね?そのために私はレイレナードと『()()』まで一緒に行くよ」

 

――お嬢様は()()()()()()()()()

 

お嬢様を()()()姿()にしたレイレナードと一緒に行く?お嬢様が騙されているとしか思えなかった私は矢継ぎ早に言葉を吐き出した。

 

「お嬢様!お嬢様は騙されているのですッ!!」

 

「違うよ、チェルシー。私は・・・」

 

「こんな『()()』なことをしなければならないことを必要としているのですッ!()()()()()()じゃないッ!!」

 

「違うよ、違うんだよ・・・・・・」

 

「こんな『()()』と『()()』を犯しているのですッ!所詮レイレナードもオルコット家に群がってきた金の亡者達と同じで・・・・・・」

 

「違うッ!!!」

 

お嬢様の怒声に思わず身体がすくみ上がる。お嬢様がこんなに怒気を露わにしたのを初めて見た私が驚いているとお嬢様が口を開いた。

 

「大きい声を出してごめんね・・・。でも、レイレナードはあんな奴らと全然違うんだ。違うんだよ・・・。・・・チェルシーが信じれないのは仕方が無いけど、私は信じてるんだ・・・」

 

「なら、私にも教えていただくことは出来ないのですか?レイレナードが、いえ、お嬢様が何をしようとしているのかを・・・」

 

私の問いにお嬢様はしばらく悩んだ後、「このくらいならいいか・・・」と教えてくれた。

 

「・・・未来を切り開こうとしてるんだ」

 

「未来・・・、ですか・・・・・・?」

 

「うん、未来・・・」

 

「それは・・・、誰のですか?」

 

「人類の、だね・・・」

 

――意味が分からなかった

 

人類の未来とやらを切り開くのになぜお嬢様が『人間(ヒト)』を辞める必要があるのか?いや、そもそも営利企業であるレイレナードがなぜ1ポンドの得にもならないことをやる必要があるのか?私には分からなかった・・・・・・。

 

仮にそれが本当のことだとしても、お嬢様は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・それが本当かどうか私には分かりかねますが、お嬢様、分かっているのですか?」

 

「・・・なにが?」

 

「その切り開いた人類の未来とやらに、()()()()()()()()()()()・・・?」

 

私の問いにお嬢様は儚げに微笑んで答えた。

 

「・・・確かに、私はいないね。私に()()()()()から・・・。でもね・・・・・・」

 

「・・・でも?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

そう言ったお嬢様の顔と目を見て私は悟った。

 

――私が何を言おうと、何をしようと、もうお嬢様は()()()()()()・・・・・・

 

そう悟った私が泣き出すと前日のようにお嬢様は私を抱きしめたのだった・・・

 

 

 

 

 

翌日、お嬢様はレイレナードに戻った。

 

私はせめて笑顔で見送ろうと思ったのだが、お嬢様の姿を見ると涙が溢れ出しそうになり上手く笑うことが出来なかった・・・。

 

お嬢様とレイレナードが何をしようとしているのか私には分からない。

 

・・・本当だったらどんな手を使ってでもお嬢様を止めるべきだったんだろう。

 

だけど、お嬢様が『ヒト(人間)』を辞める切っ掛けを作った私にそんな資格はなく、ただ見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

――それが私、チェルシー・ブランケットの『咎』なのだから・・・・・・




以上、チェルシー視点になります。

ちょっと報告なのですが勤め先が新店舗開店に伴ってシフトが滅茶苦茶になってて原作を読む時間が中々取れず、IS学園編が少し時間が掛かりそうです。申し訳ありません。

次話予定のオリ弟視点と束視点はなるべく早く投稿しようと思います。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想、よろしくお願いします。


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幕間
世界“初”の男性IS適正者『織斑秋二』


お久しぶりです。

右顔面マヒで目が閉じられなくて中々更新が出来ず申し訳ありませんでした。

あんまり期間が空くと楽しみにしている方に悪いなと思い頑張って執筆しました。

幕間なので物語としてはあまり進んでいませんがよろしくお願いします。


(ふふふ・・・、遂に、遂に始まるんだ・・・。()()がッ!!!)

 

世界で初めて発見された男のIS適正者でありブリュンヒルデの弟、“織斑秋二”は日本政府が用意したホテルのベッドに寝転がり、端正な顔の口元を歪ませながらそんなことを考えていた。

 

――織斑秋二はセシリアと同じ()()()だった

 

しかし、転生した経緯はセシリアと大きく異なっていたが・・・・・・。

 

 

 

 

 

「ねぇ、××××。いい加減に働いて欲しいんだけど・・・」

 

「あ!?うるせぇんだよババァ!!お前ら親は俺を産んだんだから最期まで俺を養う義務があんだよッ!!!」

 

俺の正論にババァは泣きながら「どうしてこんなことに・・・・・・」と呟きながら部屋を出て行った。

 

「けッ!なにが“こんなことに”だよッ!!それを言いたいのは俺の方だっつーのっ!!」

 

 

――そうだ、本来なら()()()()()じゃなかったんだ。

 

 

生まれた国ガチャも、親ガチャも、才能ガチャも全部ハズレでこんな世の中に産み落とされて、可哀想なのは俺の方なのだ。

 

 

受験に失敗したのも、就活に失敗したのも、恋愛一つ出来ない人生を送っているのも、全部、全部お前達が悪いのだッ!!

 

「あー、神さまチートで転生して人生やり直してぇなぁ・・・。そしたら俺の本当の人生が始まるのになぁ・・・・・・」

 

そんなことを呟きながら俺はパソコンでチート物のネット小説を読みふけるのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

「はぁッ!?どういうことだよッ!?」

 

「どうもこうもない。お前には家を出て行ってもらう。これは母さんと相談して決めたことだ・・・」

 

「××××・・・。ごめんね・・・。でも、もう限界なの・・・・・・」

 

「ふざけんなッ!?お前ら親は・・・」

 

「お前を養う義務があるというんだろう?だがな、父さんは今年で定年で後は年金暮らしになるんだ。退職金があるといっても母さんと二人で暮らしていくだけで精一杯で、とてもじゃないがお前のことも今までの様に養っていくことは出来ない、出来ないんだ・・・。理解してくれ」

 

「そんな無責任が許され・・・」

 

「私達のことを無責任とお前は言うが、お前はどうなんだ?大学を卒業してから8年も就職せず、かといって何かに本気で取り組むことも無く、毎日だらだらとパソコンやゲームや漫画ばかりでたまに口を開いたと思えば社会が悪い、親が悪い・・・。お前の人生の責任を取れるのはこの世で()()()()しかいないんだぞ?それなのに・・・」

 

「う、うるっせぇ!うるっせぇ!!クソ親父!!!お前に言われるまでもなくこんな家、出てってやるよ!!!」

 

クソ親の垂れる能書きを聞きたくなかった俺はたまらず家を飛び出した・・・・・・。

 

 

 

 

 

(くそっ!くそっ!!何が“責任を取れるのはお前だけ”、だ!!碌な才能も何も寄越さず誕生させといて、まずてめぇらが責任をとりやがれよっ!!)

 

俺はひたすらクソ親共に心の中で悪態を吐きながら大通りを歩いていた。

 

(あーあ、ここで転生トラックでも突っ込んできてチート転生できねぇかなぁ・・・)

 

そんなことを考えながら歩いているとちょうど大型トラックが走ってくるのが見えた。

 

――そこで俺は閃いた。

 

(そうだ、何もトラックが突っ込んでくるのを待つんじゃなくて、自分から飛び込めばいいじゃないか・・・)

 

どうせもう詰んだ人生である。そのまま死んでも問題ないし、ワンチャンでチート転生が出来たら儲けものである。

 

そう判断した俺は車道に飛び出しトラックの前に躍り出たのだった・・・。

 

 

 

 

「うっ!?ここは・・・?」

 

次の瞬間、俺は真っ白い空間にいた。そこから推測するにこれは・・・。

 

「やった、やった!!これはテンプレだけど転生前の神さま空間だろっ!!これで俺はッ・・・!!」

 

「あー、君ねぇ、困るんだよなー」

 

俺が一人で感動していると後ろから心底面倒臭そうな声が掛けられた。振り向くとこれまたテンプレのような如何にも神というような姿をした老人が居た。

 

(やった!これで確定したッ!!これから俺はこの神にチートを貰って転生を・・・)

 

俺がそんなことを考えていると神?は口を開いた。

 

「君ねぇ、困るんだよ。最近君みたいに直ぐに“人生に絶望したッ!”って言って自殺する人間が増えててさ、天界の人口が増えすぎて困ってるんだよ。挙げ句の果てには生まれ変わりを拒否してずっと天界に居座るんだから本当に迷惑しているんだ。だから君は天界に招待しないでこのまま生き返らせるからね?申し訳ないけど現世で人生を・・・」

 

――こいつは何を言っているんだ?

 

生き返らせる?あんなクソみたいな()()に?巫山戯るなッ!!

 

堪らず俺は抗議した。

 

「ちょっと待てよ!あんた神さまなんだろッ!!だったらこういう時は能力を与えて転生させるとか・・・」

 

「あー、確かに儂は神だし、それも出来るんだけどねぇ・・・。それをやると他の神に甘やかしすぎって責められるんだよね。だから、悪いんだけど・・・」

 

「ふざけんなっ!!だったら俺は生き返ってなんてやんねーからな!?このままその天界ってやつに乗り込んで“無敵の魂”として大暴れしてやるぞッ!!」

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ!?そんなことされたらますます儂の立場ってやつが・・・」

 

「だったらとっとと俺をチート転生させやがれッ!!」

 

俺の言葉を受けて神はため息を吐いたかと思うと諦めたような顔で口を開いた。

 

「もう、しょうがないなぁ・・・。天界で暴れられるよりはマシだから転生させてあげるよ・・・。はぁ・・・、また会議でどやされるのかぁ・・・、嫌だなぁ・・・・・・」

 

()()()()()()()()”神のその言葉を受けて歓喜した俺は早速神に注文を出した。

 

「よしっ!!じゃあ、まず転生先は“ISの世界”で織斑千冬の弟として転生させてくれ!それから千冬並の身体能力と篠ノ之束と同等の頭脳、それと『Sランク』のIS適正を特典として・・・」

 

ISの世界を選んだのは魅力的なヒロインが沢山存在し、グッズを買いあさる程のファンだったのと(まぁ、移籍関係のゴタゴタがありラノベ版は最期まで読むことが出来なかったが・・・)家を追い出される前にIS系のチート転生物のネット小説を読んでいたからだった。さらに千冬の弟として転生するのを望んだのは原作開始前に天災である束さんとコネを作ったり、原作ヒロインである箒や鈴と事前にフラグを建てられると思ったからだ。

 

俺が自分なりに“頭が良いな”と思いながら注文を終えると神は呆れたように口を開いた。

 

「はぁ・・・、随分と欲張りさんだねぇ・・・。まぁ、天界で暴れられるよりはマシだから良いけどさ。あっ!でも、一つだけ注意があるから良く聞いてね?」

 

「なんだよ?」

 

「君のいうISの世界ってラノベ?って言うのかな?その世界を想像してるんだろうけど、それはあくまで君が現世で見た創造の世界だよね?いくら儂が神でも創造の世界には転生させてあげられないから、あくまで君が転生する世界はIS?っていうのが存在する『現実』の世界になるからそこは了承してね?」

 

「はぁ?それじゃISの世界じゃないじゃねぇかよ!!」

 

「いやいや、君の言う束?って存在がISってやつをちゃんと発明するし、君の思い浮かべている人物もちゃんと存在しているよ?でも『現実』だから彼ら、彼女らも自らの意志を持って大なり小なり()()()()生きてるから原作通り?に行かないことも往々としてあるだろうから君の知っているように物事が進まなくて怒らないでねってことだよ。分かる?」

 

神の言葉に俺は考え込む。『原作』という未来知識を知っているというアドバンテージを失う可能性があるのは由々しき事態だが、俺という『オリ主』が存在する以上それは仕方が無いと妥協することにした。

 

「オーケー、分かった。じゃあ、その世界に転生させてくれ」

 

「分かったよ。じゃあ・・・」

 

神が俺を転生させようとした時、俺の頭にある『存在』がいる可能性が過ぎり慌てて神に質問した。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!これから転生する世界に俺以外の『()()()』はいないよな?」

 

俺の質問に神は驚いたように言った。

 

「なッ!何を言ってるんだい!?生きてるモノは皆『()()()』だよ!?例えば前世が動物だった人間もいるだろうし、人間だった動物もいるだろうし、そうやって皆生まれ変わって生きているんだよ?」

 

「違う、違う、そうじゃない。俺が言いたいのは・・・。あー、俺みたいに『()()()()()』した『()()()』はいるのか?ってことだよ」

 

「あ、そういうことか。それなら()()()だよ?」

 

「そうか・・・」

 

神の言葉に俺は安堵しつつ少し落胆した。

 

こういった転生モノには俺の存在を際立たせるテンプレ踏み台転生者の存在があった方がいいとも思ったからだ。

 

(まぁ、他の転生者がいないなら原作主人公である一夏を踏み台にすればいいか・・・)

 

俺がそんな考えに至り改めて神に向き直り言った。

 

「よっしゃ、今度こそ大丈夫だ。転生させてくれ!」

 

「大丈夫かい?じゃあ転生させるね?()()()()生きるんだよ?」

 

そう言って神が杖を振るうと俺の身体がまばゆい光に包まれた・・・・・・。

 

 

 

 

 

「・・・・・・()()()()()()()()()()?って言ったけど、今まで『()()』も『()()()』もしなかった人間が転生したからっといって()()()()のかなぁ・・・・・・?」

 

神の呟きは白い空間に虚しく木霊した・・・。

 

 

 

 

(多生のアクシデントはあったが、ここまではほぼ原作通り・・・。なんだよ、余裕だったな)

 

千冬の弟として、正確に言えば千冬と一夏の弟として転生した秋二の人生は正に順風満帆だった。

 

転生特典として貰った身体能力と頭脳は少し本気を出せば運動では全国大会を優勝出来る程だったし、教科書を一回読めば全て暗記出来て全国模試では毎回一位だった。

 

それらの結果が出る度に秋二は転生前に抱いていた劣等感がなくなり、代わりに自尊心と優越感がどんどん大きくなっていった。

 

――しかし、いくつか問題もあった。

 

まず原作イベントとしてあった『一夏誘拐事件』だったが誘拐されたのは一夏ではなく秋二の方だったのだ。

 

秋二の能力なら本気を出せば自力で脱出することも出来たのだが、なるべく原作知識というアドバンテージを崩したくなかった秋二は大人しく捕まり、原作通り千冬が助けに来るのを待った。そして後は原作通りに進んだので秋二は安堵した。

 

・・・まぁ秋二としてはラウラフラグの為の事件だったのでむしろ一夏ではなく自分が誘拐されたことを内心喜んでいたが・・・・・・。

 

そして次のイベントが問題だったのだが、一夏が高校受験の会場を間違えISを起動させるイベントが崩壊しかけたのだ。

 

なぜなら中学卒業後の進路で原作とは違い千冬に説得されても「高校には行かず、家を出て働いて自立する」と頑固に言い張ったのである。

 

原作イベントが崩壊すると思った秋二は説得しようとしたのだが大喧嘩になり、一夏は家出を決行し行方を眩ませたのである。

 

焦った秋二は仕方なく自分がISの起動イベントを行い、なんとか原作イベントが崩壊するのを防ぎ今に至るのであった。

 

(ちなみに秋二のIS起動後に一夏は日本政府の探索により身柄を確保された)

 

「さてさて、箒と鈴は一夏より先回りしてフラグを建てたし、やっぱり最初のイベントはチョロかわいいセシリアだよな~?適当に倒して男らしいところ見せれば惚れてくれるだろうし、俺、元オルコッ党で好きな『()()()』だったし楽しみだな~。その次はあざと可愛いシャルにラウラ。さらに更識姉妹・・・。本当に良い世界だぜ・・・」

 

秋二は脳内で好きだった『()()()』達を思い浮かべ夢を膨らませる。

 

「そう言えば、俺の専用機ってどうなるんだろうな?原作通りなら『白式』か・・・。あっ!?もしかしたらオリジナルISを束さんが造ってくれてくれているかも・・・。夢が広がリングだなぁ・・・、ふふふ・・・」

 

秋二はひたすら夢を膨らませる。

 

 

――秋二は失念していた

 

 

神はこの世界は創作の世界ではなく、あくまでISの存在する『()()』であると言っていたのを・・・・・・

 

 

これまで多少アクシデントがあったものの原作通りにイベントが起こったためすっかり秋二はそれを失念していた。

 

 

・・・秋二がもう少し慎重で賢かったなら、世界情勢について調べ原作世界との差異に気づけただろう。

 

 

世界の安定は綻びかけており、国家以上の力を持つ『企業』という存在があることに・・・・・・

 




以上、オリ弟の秋二くんの情報開示になります。

ちなみに作者は神さま転生チ-レムものは好きですよ。

自分がそんな存在になりたいかって言われたら拒否しますが・・・。

報告ですが現在も顔面マヒは続いていますので次の投稿も間が空くと思いますので申し訳ありませんがご了承下さい。

少しでも早く完治させて投稿を再開できるように頑張ります。


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『天災』うさぎ

お疲れさまです。

皆様からのたくさんの暖かい励ましの言葉を貰って元気づけられた作者です。

何とか両目だったら目を閉じれるようになりました。
完治までまだまだですが、頑張って行きたいと思います。

あと、感想欄で結構あったんですがオリ主の秋二くんは一夏と双子で、一夏が“兄”、秋二くんが“弟”になります。


 

――カタカタカタカタ、カチャカチャ、カタカタ、カチャチャ・・・・・・

 

 

 

某所に存在する秘密ラボで大量のモニターに囲まれながら機械仕掛けのうさ耳を着けた女性、『篠ノ之束』は一心不乱にキーボードを叩いていた。

 

そしてしばらくモニターを見つめていたがモニターに出された結果を見て、吠えた。

 

「うっがぁあああッ!これも防がれたぁあああッ!!本ッ当にムカツクぅううう!!!」

 

そう、束が行っていたのはレイレナード社に対してのクラッキング攻撃だった。もっとも束が攻撃対象にしているのはレイレナードだけではなく、オーメルやBFFといった()()()()()()に対して攻撃を行っていたが、結果はまさかの全て失敗という悲惨なものだった。

 

いや、正確に言うといくつかの情報を手に入れることは出来たのだが、それは束の欲しい情報ではなかった。

束が手に入れた情報は各企業が研究しているIS用の武装や機能、国家から要請されたと思われる次世代型ISの要求仕様や開発状況などI()S()()()()()()ばかりだったのだ。

 

それは、まるで『企業』にとって「ISなど、()()()()()()()()()」と言われている様で束の神経を逆撫でした。

 

「あ~、もう今日はや~めた~。てか、何人体勢で束さんの攻撃防いでんの?確実に100人以上でやってるよね?んで、24時間体勢でしょ?あ~、嫌だ嫌だ。これだから『()()』は大変だね~、毎日スーツ着てさ、馬ッ鹿みたい」

 

そんな負け惜しみの言葉を吐きながらすっかり冷めたコーヒーを一気飲みすると端末を操作し、ある映像を再生させた。

 

再生されたのはアラクネのISコアの情報ネットワークから収集された『化け物(アレサ)』の戦闘記録だった。

 

もっとも()()()()が施されていたらしく、再生時間は10秒にも満たず、あちこちにノイズが走り、途中途中で映像が途切れてしまうという様な状態だったが・・・。

 

 

この映像を入手したのは1年前だった

 

 

束が管理するISコアの一つが反応を消失し、不審に思った束が反応を消失する直前までの情報を確認するとこの映像が記録されていたのだ。

 

この映像から『天才』である自身が造り出したISコアが有象無象に『解析』されたばかりか『破壊』されたことを認識した束は怒り狂い、直ぐさま五機もの自律型ISを戦闘が行われたと思われるレイレナード社の実験施設へと送り出したのだが、すでにその施設は一切の証拠を残さないと言わんばかりに完全に破壊されており、データはおろか破壊されたISの残骸すら残っていなかったのだ。

 

そのままレイレナード本社であるエグザウィルに襲撃を仕掛けようかとも思ったが、束は頭を冷静にし、“ここまで徹底的に証拠を隠滅する相手が()()()()()()()()()()()()()()”と思い直しクラッキングによる情報収集に方針を切り替えたのだ。

 

「せめてどんなジェネレーターを搭載してるかくらいは知りたかったんだけどね~。流石の束さんでもこの映像だけじゃちょっとな~。コイツと戦ったISも搭乗者も()()()()だったのを考慮しても、もうちょっと粘って欲しかったなぁ・・・」

 

映像を見ながらそんなことをぼやく束。そこには死亡したであろう『IS搭乗者(オータム)』への憐れみなどは一切なかった。在るのは相対したであろう『化け物』に対する科学者としての()()()()()だけだった。

 

「う~ん、大きさとこの()()()()()()からしてこいつはプロトタイプ・・・。それも恐らく現時点で到達できる機動兵器の()()()()()()()()()()()()()()ってところなんだろうけど・・・。ちょ~っと『()()』だねぇ・・・」

 

束がそう思うのも無理はなかった。

 

映像で検証すればするほどこの機体は()()()()()()

 

自身の全長を超える大型兵器を両手に携行しながら問題無く挙動出来る機体パワー。

映像が途切れてしまい実際の速度は分からなかったがブースターの噴射炎から計算するとその速度はISの瞬時加速を()()()に上回る機動力。

 

――そして何よりかにより

 

「これ、()()()()()操作してるんだろうね?」

 

挙動から見るに『人間』が操作しているのは間違いないハズなのだ。なのだが、これだけの機体である。既存のシステムでは制御が追いつかない。もし既存のシステムで制御しようとすれば遠隔入力で非常に高い連携が取れた10数人のチームが必要になってしまうだろう。

 

「まぁ、そんなことする訳ないよね。いや、社畜さん達だったらやってるかもね~。アハハッ!

 

 

・・・・・・うん?」

 

冗談を口にしながら映像を見ていた束は今まで見逃していたあることに気づき、慌ててその場面を拡大してもう一度再生した。

 

それはこの機体とISが相対した瞬間だった。

 

ISを視認した瞬間、この機体のカメラアイの赤い発光が()()()()()()

 

 

――まるで『人間』が()()()()()()()()()()・・・

 

 

その考えに至った瞬間、束は笑顔になり口を開いた。

 

 

「あっ!な~るほど~、そう言うことか~。搭乗者の()()()()()()()()()して操作してるって訳か!!で、敵を確認したときに搭乗者が目を細めて~、それにセンサーが連動したと・・・。確かにそれなら『人間』一人で操作できるね。謎が解けたよ!!

あっはっはっはっは!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――()()()()()()、こいつら・・・・・・」

 

 

謎の一つを暴き、笑顔だった束は急に真顔になり、そう呟いた。

 

 

「確かに()()()は可能だよ?でも、そこら辺の()()ができる訳じゃないし、それなりの『才能』が必要になるでしょ?んでぇ~、『才能』のあるソイツでもこれだけの機体の情報を処理するとなると()()()な精神負荷が掛かって死ぬでしょ・・・。

えっ?何?つまりこいつら、この一回の戦闘の為に搭乗者を使()()()()にしたワケ?いや~、色々コストとか度外視してるのは分かってたけど、まさか『()()』も度外視してるとは思わなかったわ・・・。脱帽ですッ!」

 

こう言う束だが束自身もまともな『()()()』など持ち合わせていない。

 

単純に束はこれだけの機体のデータを脳で情報として処理するという『才能』の持ち主を一回の搭乗で使い捨てにするという所業に呆れていたのだ。

 

 

――だが、()()()()()()()()()()・・・・・・?

 

 

束は考える。

 

 

本当にこれだけの機体を起動させたのはこの時だけだったのか?

 

 

確かに設計段階のデータやシュミレーターである程度の予想は付く。しかし、これだけ用意周到にものごとを進める『こいつら(レイレナード)』がぶっつけ本番で実戦テストなど行うだろうか?

 

 

――否、だと思う

 

 

例えシュミレーターで問題なしでも万が一、戦闘時に不具合や搭乗者が発狂して暴走などが起きれば全てが()()()になるのだ。そんなことをするとは思えない。そこから考えるに・・・。

 

 

「・・・つまり搭乗者は死亡せずに『こいつ(アレサ)』に複数回搭乗して、データを集めたってことになるねぇ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、あははっは、っははぁっ!!!」

 

 

束は笑った。それは久々の心の底からの笑いだった。

 

「あっはは!!面白い、面白いよ!!!『こいつ』の情報量を脳で処理して精神負荷で()()()()なんて束さんくらいしかいないよっ!?

ほんで、あの機動性からくる()()()()に耐えられるのなんて束さんと、ちーちゃん(織斑千冬)、あぁ、あとあの『()()』がいたっけか?ぐらいだよ!?

つまり『こいつ』の搭乗者は束さんと同じ『()()』か、あるいは『()()()()』ってことになるね!!

あっははははは!!!」

 

 

束は笑う、狂ったように笑う、嗤う、わらう、ワラウ

 

 

「男かな?女かな?若いのかな?それとも、結構年寄りなのかな?

 

『天才』なのかな?『人でなし』なのかな?

 

どっちかな~、どっちかな?『こいつら(企業)』のことだから『人でなし』の可能性が高いけど、もし万が一、ううん、()()()、束さんと『()()存在(天才)だったなら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

いっぱい、い~っぱい『()()()()()()()()()』!!うふふ、あっはは!!っははぁあ、ははは!!」

 

 

そうしてラボにはしばらく束の狂笑が響いた。

 

 

これ以降、束はまだ見ぬ『搭乗者』の情報を得るために思いを馳せながらさらに過激にクラッキング攻撃を続けることになる。

 

 

――この行動により束の運命が決定するとも知らずに・・・




以上、束さん視点になります。

時系列的には原作開始二~三年前になりますかね。

本当はもっと書きたかったんですけどテンポが悪くなりそうなので今回はこんな感じになりました。

もしかしたら加筆するかもしれません。

もしくは『天災2』みたいに続きを書くかもしれないです。



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『天災』うさぎの考察

お疲れ様です。

筆が乗ってきたので前話で書き切れなかった束さん視点をもう1話投稿します。

頭の良いキャラを描写するのって難しいなと思いました(小並


 

「ふんふふん、ふんふんふ~ふん、ふんふふふ~ん♪」

 

束は今日も今日とてクラッキング作業を行っていた。

 

尤も攻撃対象にしているのはいつもの六大企業ではなくISを保有、配備している国家や国連機関、六大企業傘下ではない企業群に対してだった。

 

攻撃はあっさり成功し、六大企業への攻撃を防御され続けて溜りに溜ったフラストレーションを発散し、気分が良くなった束は鼻歌を歌っていた。

 

――この歌は昔、ラジオを聴きながらISの基礎研究を行っていた際に偶然耳にした歌である。

 

束は流行歌などには一切興味を持ったことなど無かったが、何故かこの歌だけは束の()()()()()()、それ以来一人のとき、かつ気分が良いときだけ鼻歌でその歌を歌うようになっていた。

 

――カチャカチャカチャ、カチャチャ、ッターン!

 

そんなご機嫌な気分でキメポーズを決めながら力強くエンターキーを叩くとモニターに表示される大量の情報に目を通していく。

 

そして全ての情報を頭の中で処理し終えると口を開いた。

 

「うん、これで確定!そうだろうとは思っていたけれど、やっぱり『アレ』は国家に売りつけるために造ったんじゃなくて()()()()使()()()()に造った兵器だね!!」

 

束はそう結論付ける。

 

プロトタイプであるあの機体の実戦テストが行われてからだいぶ時間が経ち、束は企業達がそのデータからすでに正式機をロールアウトさせているだろうと踏んでいた。

 

――だからこそ、束は企業の目的を知るために今回のクラッキングを行った。

 

最初、束は今は様々な分野に進出しているとはいえ、六大企業は軍事系企業が多いことから対IS兵器として国家に売りつけるために開発を行ったと考えたが直ぐに考え直した。

 

理由としてはまず、神経接続を前提とされIS以上に乗り手を選ぶあの機体は仮に全ての国家に採用されたとしても総機体数は多くとも()()()()()になるだろうと束は予想していた。

 

まちがいなく正式機はあの機体の機能をデチューンし、『普通』の人間でも搭乗出来るものにするだろうが、それを考慮しても脳でデータを情報として処理するという『才能』がある人間はそう多くはないのだ。

 

そんな僅かな数の機体を売りつけ、武装や整備、メンテナンスなど市場を独占したとしても()()()()()()()()()兵器を自分達の利益に貪欲な企業達がわざわざ開発するハズがないのだから。

 

次の理由としては現在の世界情勢だ。

 

ISの登場以降、世界は女尊男卑の世界になり、世界各国で能力の有る無しに関わらず女がISという兵器の力を笠に着て他分野に渡り進出し、様々な権利や利権を手に入れてきた。

 

当然、進出した先には政界も含まれており、自分達の力の源であるISの立場を脅かす可能性のある兵器の登場など、例え()()()()()()()()()の『政治屋』でも歓迎などせず不採用の方向へと持っていくだろう。どんなに性能が良い兵器でも議会で承認され、採用されなければ意味がないのだ。

 

最期に、というかこれがほぼ答えなのだが、実戦テストの相手が国家保有のISではなく『社会のゴミムシ(亡国機業)』のISだったということだ。

 

もし国家に売りつけるためだったとしたらわざわざそんなことをする必要はない。適当な量産機でも専用機でもいいから()()()()()()()()()に多数の目があるところで叩き潰せば良かったのだ。

 

そうすれば反対の声は大いにあるだろうが世の冷や飯を食っている多数の男の声を味方に付け無理矢理にでも採用の話に持っていくことは十分に可能だっただろう。

 

 

――だが、『企業』はそれをせず、徹底的に『()()』した・・・。

 

 

以上の理由から束は自分の考えを立証するために世界各国に対して今回の攻撃を行ったワケだが結果は()()()()だった。

 

世界各国の何処の議会、軍、研究所など関係するであろう施設に、あの兵器の情報やデータ、開発を要請した記録などは()()なかったのだ。

 

(クラッキング対策で全部書面で処理している可能性もあるっちゃあるけど・・・。これだけガバガバなセキュリティで満足している連中がそこまで徹底的に情報を管理してるってことはないでしょ。・・・ないよね?)

 

束は熱いコーヒーを飲みながらそんなことを考えた。

 

「さてさて、自分達でアレを使うことは確実みたいだけど何のために使うんだろうね?まぁ、初めから対IS戦を想定しているあたり()()()ないことなんだろうけどさ」

 

常識的に考えればアレの運用方法としては現在、世界の紛争やテロを国家からの委託で鎮圧を行っている企業が効率化のために開発したと考えるべきなのだろうが、その可能性はないと言えた。

 

通常戦力を相手にするには過剰すぎる性能。そして国家が四苦八苦しながらもほとんど解析出来ていないISコアの機能に関してそれを解析した企業が一切国家にそれの()()()()()()()()()ことから考えるに・・・。

 

「もしかして、『世界(国家)』と戦争でもするつもりなのかな?」

 

その考えに至ると束の口が例えようもないくらいに歪んだ。

 

普通に考えれば『企業』が『国家』に戦争を仕掛けることなどあり得ないし、束自身も決定的な情報を入手したわけではない。しかし、今回のことで元々国家と()()()()の力を持っていた企業はこれで確実に国家の力を()()()()のだ。

 

 

――『企業』はやるね、()()()・・・。

 

 

「いいね~、いいよ~。『宇宙』に行けなくて()()()()、本ッ当~に退屈してたんだけどさ、ここ最近、()()()が沢山増えて本ッ当に束さんは嬉しいよ。その調子でもっともっと束さんを楽しませてね♪」

 

あんまりにもあんまりな言い草だが、今まで()()()()()、これからもそうするつもりの束ならではの言葉と言えた。しかし、だからと言って企業を()()()()()()ワケでもない。

 

 

――当然だ。

 

 

()()』も『()()』も()()()()()に自分で自分の『()()』を殺した存在なのだ。

 

 

――せいぜい『()()』殺し合えばいい。

 

 

「さてと、そうと分かれば束さんも()()()準備しなきゃね~。ま・ず・は、やっぱり情報収集かな~。この間の()()は失敗しちゃったから次の手を考えないとね」

 

 

この間の作戦とはダミーの隠れ家を企業に襲撃させ、敵の正確な戦力調査を図るというものだった。

 

散々企業に喧嘩を売った束は連中が遠からず自分の『()()』に動くだろうと予測していた。

 

なので、()()()痕跡を連中にしか分からないように残し、排除のために投入されるであろう正式機の正確なデータを集めようとしたのだ。

 

 

――作戦は()()()()()()()()()という結果に終わった。

 

 

襲撃はあった。あったのだが投入された戦力は束の望んだものではなく、企業から指示を出されたと思われるゴミムシ達のISだったのだ。問題なく撃退はしたのだが期待していただけに束は落胆した。

 

「連中って狡猾だね~。自分達は一切手を汚さずに必要な情報を集めて、そんで今回のことでゴミムシ達とも縁を切るつもりなんでしょ?本ッ当に、()()()()()()()()()()()()・・・・・・、

 

 

 

 

 

――ムカツクくらい『()()』な連中だよ」

 

企業に対してそんな『()()』と『()()』の言葉を呟きながら作業を再開しようとした束はふと壁のカレンダーを見た。

 

「あっ!?そ~いえば、来年に箒ちゃんがIS学園に入学するんだったけか?いや~、最近忙しくて束さんとしたことがうっかり忘れちゃってたよ。不覚、不覚♪」

 

()()()()()()()()な束にとって例外である自分の妹のことを思い出し、束は顔をほころばせた。

 

正直にいうとそんな特別な妹の現在の日本政府の扱いに関してはムカツクこともあったが、あの『ゴミ(織斑秋二)』から強制的に引き離してくれたことに関しては()()()()()()ではあるが『感謝』もしていた。

 

「う~ん、と、いうことは間違いなく()()()()()()で連中は束さんの情報を探ろうとしてくるだろうね。まぁ、連中のことだから手荒なことはしないでさりげない形でやってくるんだろうけどさ・・・。やっぱり面白くないよね~。――()()()()()()()()()()()?」

 

そう言って束は必要な作業を始めた。

 

――様々な勢力の思惑、()()()()()()達の入り交じるIS学園での物語が始まるまであと僅か・・・・・・




以上になります。

次話からいよいよIS学園編に突入になります。

今回は幕間だったので早く投稿ができましたが、次話は少々時間がかかると思いますのでご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

あと、今になって思ったんですが本編とは別に企業や機体、リンクスの紹介や解説、説明欄って必要ですかね?

今まで必要ないかな?って思っていたのですが良く考えたら登場企業もリンクスもかなり多いことに気付いてそっちのほうが親切なのかな?という気もしてきました。どうしよう・・・。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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IS学園編
入学


お疲れさまです。

IS学園編スタートです。

本当はもう少し早く投稿する予定だったのですが、職場でコロナ感染者が2名も発生して時間が中々取れませんでした。

コロナがまた流行だしたみたいなので皆様もお気を付け下さい。


さぁ、やってきました『IS学園』!!

 

入学試験やら寮への引っ越しやらが終わり、今日は沢山の新入生の新しい『世界』の幕開けである入学式である。

 

俺は他の新入生達とは違い、囮役ではあるが建前上、レイレナードの方から試作機及び武装のテストの為に入学ということになっているからちょっと違うけど、最低限その『役目』を果たしていれば学園生活を楽しんで良いと言われていたので正直に言うと俺はワクワクしていた。

 

へへへ・・・、実を言うとですね・・・、転生してから同年代の子達と交流する機会ってちょっと年上のチェルシーとかセロとかとしかなかったから、女子校でIS学園っていう、ちょっと『普通』とは違うけど今回の学生生活という機会は楽しみだったのだ。

 

 

――まぁ、寮は二人部屋なのに()()()()()()()()早速出鼻を挫かれて少しがっかりしたのだが・・・・・・。

 

 

詳細は教えてもらえなかったが、多分、俺の入学試験以降にレイレナードをコソコソ嗅ぎ回っている勢力がいるらしく、今年度は篠ノ之博士の妹の篠ノ之箒や男性IS装者の織斑兄弟の存在があるので、もしかしたら学園上層部の方でレイレナード所属の俺のことを警戒しているのかもしれない。

 

 

とは言っても囮役の俺は現在IS学園に潜入している諜報員が誰かも人数も知らないので学園の方から俺に探りが入ったとしても一切情報は漏れないので“まぁ、大丈夫だろ”と暢気に構えていた。

 

 

そして行われた入学式では最後に“今年は男性のIS搭乗者が二人も入学されましたが、新入生も在校生も皆、仲良くISについて学んでいきましょう!!”みたいな訓示が生徒会長から行われて各教室で授業となった。

 

 

「全員揃ってますねー。それじゃあSHRはじめますよー」

 

黒板の前で実技試験の際に俺の試験管だった女性、『山田真耶』先生がにっこりと微笑みながらSHRの開始を宣言した。

 

この山田先生、試験の時も思ったんだがやっぱり胸が大きいな。

 

俺も胸の大きさには自信があったが、山田先生の胸はさらに大きく、下手をしたら一番大きいと思っていたメノよりも大きいかもしれない・・・。

 

「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

俺がそんなことを考えている間に山田先生はそう挨拶をしたが、教室の中は変な緊張感?みたいなものに包まれていて誰からも反応がなかった。

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 

この空気に若干うろたえていた山田先生だったが新入生重大イベントの一つである『自己紹介』の開始を宣言した。

 

 

――たかが『()()()()』と侮るなかれ

 

 

この自己紹介の際にクラスメート達に好印象を与えられるかによって一年間の人間関係に大きく影響を与える重大な儀式なのだ。

 

 

そして『あ』から始まった自己紹介は『お』である、世界で『二番目』に発見された男性適正者『織斑一夏』の番になった。

 

 

なったのだが、ここで問題が発生した。

 

 

なんとここで一夏は自己紹介しようとせず、頬杖を突きながら窓の方をぼんやりと眺めていたのである。

 

 

「お、織斑一夏くん。織斑一夏くんっ」

 

 

そんな一夏に山田先生が大きめな声で呼びかけると、一夏は山田先生を心底面倒くさそうに一瞥すると舌打ちをしながら立ち上がり、名乗った。

 

「・・・織斑一夏です・・・・・・」

 

(態度悪っ!声、ちっさっ!)

 

俺がそんなを感想を抱いていると、なんと一夏はそのまま座ろうとしていた。

 

(アカン)

 

いやいやいや、一夏くんよぉ!それはマズい、マズいぞっ!

 

人間関係において第一印象はかなり大事だ。ここで悪印象を持たれると挽回するのは結構大変なのだ。

 

IS学園に入学が決まった際にかなり暴れたみたいな情報もあったからマジでここに居るのが嫌なんだろうが、嘘でも表面上だけでもいいから友好的にしないとマジでヤバい、ヤバイぞっ!

 

「ねぇ・・・、なんか態度悪くない?」

 

「うん、イライラしてるっていうか、なんというか・・・」

 

ほら~、クラスメート達がヒソヒソ話始めちゃったよ~。面倒なことになっちゃうよ~。

 

俺はクラスのそんな空気にハラハラしていたが、とある人物の登場によりそんな状況は一変した。

 

――パァンッ!

 

「挨拶もまとも満足に出来んのか、お前は?」

 

そう言い一夏の頭を叩きながら登場したのは一夏の姉である、ブリュンヒルデこと『織斑千冬』先生だった。

 

クラスメートが織斑先生を視認した瞬間、クラス中に黄色い声援が響いた。

 

「キャ――――!千冬様、本物の千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした!」

 

「素敵!抱いて下さ~い!」

 

そんな風に熱狂に包まれるクラスだったが、実験やら仕事やらでIS学園への入学が決まるまでIS関連のことについてあまり勉強してなかった俺は正直に言うとクラスメイト達のこのテンションにはついて行けなかった。

 

ただ、織斑先生は皆にとって『()()』の存在なんだな、ということは分かった。

 

そんな皆を織斑先生はうっとうしそうな顔で見た。

 

「・・・まったく、毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。まぁいい、SHRを続ける。織斑『兄』は座れ。次、織斑『弟』だ」

 

「はいっ!」

 

織村先生の言葉を受け、一夏の弟で世界『初』の男性適正者『織斑秋二』が元気良く返事をして立ち上がった。

 

 

う~ん、双子だから当たり前だけど一夏と秋二はそっくりだな。違いとしては秋二の方が一夏より少し髪が長くて、目付きが若干鋭いってくらいかな?

 

 

俺は六大企業グループ間で行き来しなきゃいけなくて、偉い人の顔を覚えなきゃいけないことが沢山あったからアレだけど、慣れてない人だと多分間違えちゃうね、コレ・・・。

 

俺が双子の容姿について考えていると秋二が自己紹介を始めた。

 

「一夏の双子の『弟』の織斑秋二です。中学では色々なスポーツをやっていましたが、主に剣道を中心にやっていました。体力には自信があります。これから一年間よろしくお願いします!」

 

一夏とは違い、元気にハキハキ喋る秋二に俺は好印象を持った。持ったのだが、何か()()()も感じた。

 

なぜなら秋二の言葉からは女子しかいないIS学園に入学している『特殊』な状況下にいるというのに『()()()』や『()()()』というものが一切感じられなかったのだ。

 

アレかな?姉兄の織斑先生や一夏、幼なじみである『篠ノ之箒』が居るからかな?それとも資料だと昔から『()()』だったみたいなのもあったから自分にすごい『()()』があるのかな?

 

俺はそう考え、感じた違和感を納得させた。

 

秋二の自己紹介が終わり、他の女子生徒の自己紹介が進められていった。

 

そして金髪、縦ロールの生徒の番になった。

 

彼女の姿を見て俺はどこか()()()()を覚えた。

 

実は俺も昔は彼女ほどではないが髪にロールをかけていたのだ。まぁ、ロールにするのって結構大変なので義手になってからはロールをかけることはなくなったが・・・・・・。

 

そんな昔のことを思い出しながら彼女の自己紹介を聞いていた。

 

「イギリス代表候補生の『グレイス・ファロン』ですわ!わたくしは・・・「えっ!?」な、なんですの!?」

 

縦ロールの彼女、グレイスが自己紹介で名乗った瞬間、なぜか秋二が驚いた声を上げた。

 

――どしたんやろ?

 

「どうした、織斑弟?ファロンがどうかしたのか?」

 

「え、いや、千冬姉・・・、いや、織斑先生、なんでもないです・・・」

 

そんな秋二に織斑先生が問いかけるが、秋二はなんかモニョモニョしていた。

 

あ、アレかな?昔どっかで彼女と会ったことがあって、それで実は彼女が代表候補生だったから驚いたとかそんな感じかな?

 

でも、彼女、グレイスの反応を見る限り初対面って感じなんだよなぁ・・・。

 

まぁ、考えても分かんないし、いっか!

 

そんなことを考えている間にグレイスの自己紹介が終わり、いよいよ俺の番になった。

 

俺は気合いを入れて机を両手で支えて立ち上がり自己紹介を始めた。

 

()()()()()()()()()の『セシリア・オルコット』で・・・「はぁッ!?」

 

――うわっ!?ビビったっ!またかよっ!なんなんだよ、お前っ!?

 

俺が名乗った瞬間に秋二はグレイスの時よりもデカい声で驚きの声を上げたので俺も驚いてしまった。

 

――パァンッ!

 

「いっ――!?」

 

すると織斑先生が秋二の頭を強くひっぱたいた。うわ!?痛そ~。

 

「さっきからなんなんだ、織斑弟?そんなに他人の自己紹介の邪魔をするようなら教室から叩き出すぞ?」

 

「いや、違、ちょっと、ちょっと驚いて、その・・・」

 

あ~、そういうことね。多分、俺みたいな学生が六大企業の一つのレイレナードに所属してることに驚いたってことね。まぁ、俺も逆の立場だったら驚いたと思うし、しゃーない、フォローしてやるか。

 

「あの、織斑先生。時間もあまりないことですし、続けてもよろしいですか?」

 

「む、すまない、オルコット。この馬鹿には後で説教をしておく。続けてくれ。」

 

「はい、大丈夫です。では改めまして。私は・・・」

 

そうして俺は自己紹介を再開した。ただ、本当だったら()()()()()()()を挟んだ自己紹介をする予定だったのだが雰囲気的にそんな感じじゃなかったので無難な感じの自己紹介になってしまった。残念!!

 

 

色々あったSHRが終わり、1時間目のIS基礎理論授業も終わって今は休み時間。

 

――だけど、これ、なんとかならんのかね?

 

廊下にはこのクラスにいる二人の男子生徒を一目見ようと他クラスの女子や上級生達が集まっていたのだ。

 

いや、確かに気持ちは分かるよ?分かるけどさ、()()()じゃないんだからもうちょっと、何?気遣いというかさ・・・。

 

俺がそんなことを思っていると諜報対象の篠ノ之箒が秋二を連れてどこかに行ってしまった。

 

確か、昔、篠ノ之家と織斑家って交流があったんだっけか?でも、どうせ連れて行くなら秋二だけじゃなく一夏のやつも連れていってあげればいいのに・・・。

 

――あ、しまった。色々あって忘れてた。今、何時だ?

 

俺は胸元から懐中時計を取り出し時間を確認する。

 

この懐中時計は前のリンクス懇談会の際にセロから貰ったものである。

 

今時珍しいアンティークの懐中時計でデザインが気に入った俺はそれからずっと愛用していた。セロって趣味いいよな~。

 

――おっとと、やっぱり『手を洗い』に行く時間だ。行かなきゃ(使命感

 

そうして俺は席を立ったのだった。

 

 

あ~、思い出して良かった・・・。

 

俺はここ1~2年で生理現象が来ているかの感覚もいくつかなくなったちゃったから決められた時間にトイレに行かなきゃいけないんだよね。

 

・・・うっかり忘れでもしたら学園生活が終わるので割と死活問題なのである。

 

そんなことを考えながら教室に戻ろうとしていると曲がり角で人にぶつかって後ろに倒れてしまった。

 

「きゃっ!?あぁ・・・、すみません、大丈夫ですか、()()()()さん?」

 

そう言って俺はぶつかった相手、一夏に謝罪した。

 

俺の言葉に一夏はなぜか目を見開いて驚いているようだった。なんでさ?

 

というか驚いてないでお前も“すみません”ぐらい言えや!

 

まぁ、俺は心が広いので“謝罪しろ”とは言わないで立ち上がろうとした。

 

俺が体勢を変えて立ち上がろうとしていると、モタモタしている俺の姿にイラついたのか一夏は舌打ちした。

 

ちょっと、舌打ちするの止めて!前ならすぐに立ち上がれるけど、後ろだと時間がかかるの!!

 

「・・・ほら、手伝ってやるから手、出せよ・・・・・・」

 

そう言って一夏は俺に手を差し出した。

 

なんだよ・・・、お前、ツンデレってやつか?良い奴じゃん!!

 

一夏の評価を上げた俺は礼を言ってその手を握った。そして一夏はそのまま俺を引っ張り起こしてくれた。

 

「ありがとうございます、一夏さん。おかげで助かりました。」

 

「いや、俺も悪かったから・・・。その、すまん・・・・・・」

 

「いえ、大丈夫ですよ。あ、そろそろ休憩時間が終わりますね。一夏さん、教室に戻りましょう!」

 

「あ、あぁ・・・」

 

そして俺達は二人で教室に戻った。当然、俺の方が歩くのが遅いので一夏に「先に行っていいよ?」と言ったのだが一夏は「大丈夫」と言って俺に合わせてくれた。

 

アレかな、俺がまた転んだら大変とか思ったのかな?

 

そーゆー気遣い出来る人、俺は好きよ。

 

 

さて、教室に戻って2時間目がスタートしたのだが、またまた問題が発生した。

 

具体的にいうと一夏の授業放棄としか思えない態度に織斑先生が説教をかましたのだ。

 

・・・正直、俺は他の人が怒られたり、説教されたりしているところを見るのって好きじゃないから内容はあまり聞かないようにしたんだけど、事前に渡された参考書を読まずに捨てた、みたいな話をしていて、一夏は織斑先生に対してずっとふて腐れた態度だった。

 

多分、一夏は他に『()()()()()()』とか、『()』とかがあったんじゃないのかな?

 

でも、IS適正があったからIS学園に強制的に入学させられちゃって、色々と()()()しかなくなっちゃて、本当に『ここ(IS学園)』にいるのが嫌なんだろうなぁ・・・。

 

・・・辛いわな。

 

 

「オルコットさん、少しいいかな?」

 

色々あった2時間目の授業が終わり、席で水分補給をしていると俺に話しかけてきた人物がいた。

 

――織斑秋二だった。

 

俺に何の用だろう?と思いながらも俺は対応することにした。

 

「えぇ、大丈夫ですよ、織斑秋二さん?」

 

「秋二でいいよ。あ、セシリアって()()()()()()()()?俺、セシリアとは仲良くしていきたいんだ!」

 

そう笑顔でグイグイくる秋二に俺は少し引いた。

 

え、何、こいつ?なんでこんなに馴れ馴れしいの?分からん・・・

 

色々不思議だったが皆に注目されている秋二を否定すると今後の学園生活に()()()()()()と思った俺はとりあえず名前呼びを了承することにした。

 

「え、えぇ、それはかまいませんが・・・。あの~、秋二さんは私にどのようなご用件でしょうか?」

 

俺の言葉に秋二は一瞬驚いた顔をすると再び笑顔になった。いや、なんで驚くのさ?変なこと言ってないよ?

 

「いや、大した用事じゃないんだけどさ、セシリアの自己紹介の時に俺、邪魔しちゃっただろ?それを謝ろうと思って・・・」

 

そう言って秋二は右手を差し出してきた。

 

あ、なるほどね、わざわざ謝罪に来てくれたのね。素直に謝罪できる人は好きよ?

 

「いえ、大丈夫ですよ。わざわざすみません」

 

そう言って和解の握手をしようとすると・・・

 

「おいおい、()()()()は手袋をしたまま握手するのかよ?それって失礼じゃないか?それとも、()()()直接握手できないかな?」

 

そう煽るように言ってきた。

 

 

――なんなんだよ、こいつッ!?

 

 

何いきなりサーみたいなこと言ってんの!?てか、なんで俺が()()()()()()()()()()!?つーか、仲良くしたいって言ったのお前なのになんで喧嘩売ってきてんの!?

 

――俺、なんかした!?

 

突然の事態に混乱して固まった俺を秋二のヤツはニヤニヤして見ていた。

 

それにムカついた俺はこの喧嘩を()()()()()()()

 

「・・・失礼しました。少々お待ち下さい」

 

そう言って俺は右手の手袋を外し、()()を露わにして差し出した。

 

「はぁ!?」

 

俺の義手を見た秋二は驚きの声を上げ一歩後ずさった。

 

そんな秋二の姿を確認した俺は薄く笑いながら言った。

 

「どうしました?世界『初』の()()()()()()は『身障者』とは握手出来ませんか?」

 

キンコーンカーンコーン

 

そこで3時間目開始のチャイムがなった。

 

「あ、授業開始ですね。・・・早く席に戻られた方がよろしいんじゃあないですか?」

 

「あ、あぁ・・・」

 

そう言うと秋二はブツブツと何やら呟き、ふらつきながら席に戻っていった。

 

そんな秋二の姿に溜飲を下げた俺は心の中で叫んだ。

 

ざまーみろッ!!!




とりあえずこんな形になりました。

秋二視点も入れようかと思いましたが投稿スピードと読みやすさを考慮してそれぞれの視点は後日投稿しようと思います。

ご意見・ご感想、誤字・脱字報告がありましたらよろしくお願いします。


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秋二の『困惑』

お疲れさまです。

前話の秋二視点となります。

秋二はアホなので話が考えやすくていいですねw

それではどうぞ


「新入生、在校生の皆さん。今年は男性のIS搭乗者が二人も入学されましたが、新入生も在校生も皆、仲良くISについて学んでいきましょう」

 

(いや~、やっぱり楯無会長は美人だな。早く会長のフラグを建てて会長の水着エプロン姿を・・・、ムフフ)

 

IS学園入学式で壇上で挨拶を行う生徒会長『更識楯無』の姿を見ながら秋二はそんなことを考えていた。

 

そして入学式が終わり自分のクラスである1年1組に移動した。自分のクラスが1組だったことに秋二は安堵した。なぜなら1組は箒、セシリア、シャルロット、ラウラとヒロインの大半が所属するクラスなのだ。

 

1組に所属出来ないと各ヒロインとフラグを建てるのに秋二は手こずると思っていたので無事に1組に所属出来たことに安堵した。

 

(しかし、一夏のヤツもやっぱり1組か。出来れば別のクラスに・・・、いや、下手に2組や4組になって鈴や簪とフラグを建てられたら堪らないし、同じクラスの方が俺の()()()()()になってくれるだろうし良いか・・・)

 

そう考えながら秋二はクラス内を見渡した。

 

(うん、ちゃんと箒も同じクラスだ。おっ!目をそらした。この反応は問題なしだな・・・。あとはセシリアだけど・・・、金髪で縦ロールで、あっ!いたいたっ!!

 

・・・・・・うん?)

 

クラス内を見渡しながらヒロイン達の存在を確認していた秋二は違和感を持った。

 

箒は問題ない。最後に見た去年の剣道の全国大会の時とそう変わらない姿だった。

 

しかし、問題はセシリアだった。

 

(セシリアってこんな感じだったけ?)

 

秋二が確認したセシリアと思われる少女は秋二の記憶にある金髪で縦ロールだった。

 

だったのだが細部が違っていた。

 

秋二の記憶のセシリアは確か髪にロールをかけていたがあそこまでロールはかけていなかったハズである。そしてセシリアの魅力の一つでもあったタレ目でもなかったのだ。

 

(本当にあの子セシリアか?いや、でも作中の文には直接タレ目って書かれてなかった気も。くそ、メインやサブイベントは覚えてるけど流石に細かいキャラ描写までは覚えてないぞ・・・)

 

そんなことを考えた秋二は軽く頭を振った。

 

(いや、落ち着け。彼女は『セシリア』なんだ。大丈夫だ、ちゃんと『原作通り』に・・・、うん?)

 

そう考え、気分を落ち着かせた秋二はとある少女に気がついた。

 

 

――その少女は、白い少女だった。

 

 

白い髪、透き通ったブルーの瞳でタレ目。頭には黒いヘアバンドをしていた。髪にロールはかかっておらず細部に違いはあるものの、彼女の姿は秋二の記憶にあるセシリアに酷似していた。

 

(まさか、この子がセシリア?いや、流石にない、それはないだろう・・・。多分、俺というオリ主が入学したことで追加された『()()()()()』だろ・・・、しかし・・・)

 

そう思いながら白い少女を観察する秋二。

 

(やっべ、めっちゃ可愛いし、胸も大きい。よっしゃ、決めた!この子も俺のハーレムの一人にしよう!原作と少し違うが()()()()もオリ主の特権だもんな!!)

 

そんなことを考えていると山田摩耶が教室に入ってきて挨拶をし、そのまま自己紹介の流れとなった。

 

「・・・織斑一夏です・・・・・・」

 

そして始まった自己紹介で原作主人公である一夏の番になったのだが一夏のそれは秋二の目から見ても酷いものだった。そんな一夏を見て秋二は内心()()()()()

 

(ぷぷ・・・、態度も悪いし、声も小さい。皆の印象も悪いようだし、これなら『()()()()』が働いて箒やセシリアが一夏に惚れるってことはないだろ・・・。あっ!でもこのときのセシリアって『女尊男卑』思想だから俺じゃなくて一夏の方に突っかかる可能性があるな・・・)

 

そう今後に起こるであろう展開を考えていると千冬が登場し、クラスが熱狂に包まれた。

 

原作通り千冬はそれをうっとうしそうに見ると秋二に自己紹介を促した。

 

「・・・まったく、毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。まぁいい、SHRを続ける。織斑『兄』は座れ。次、織斑『弟』だ」

 

(おっと、俺の番か。まぁ、その時は一夏を『()()()』フリをして接触すれば良いか・・・)

 

「はいっ!」

 

そう考えながら秋二は自己紹介を始めた。

 

「一夏の双子の『弟』の織斑秋二です。中学では色々なスポーツをやっていましたが、主に剣道を中心にやっていました。体力には自信があります。これから一年間よろしくお願いします!」

 

一夏の『弟』であるということを強調しながらそう挨拶をする秋二。これは一夏と秋二は『双子』で同じ『男』だが良い意味で自分は一夏と違うのだということを皆に印象付けるためだった。

 

「へ~、兄弟なんだ~」

 

「お兄さんと違って雰囲気良いね」

 

「そうだね。明るくって仲良く出来そう!」

 

秋二の思惑は成功し、一夏の時とは違いクラスメート達の反応は上々だった。

 

(これで良し!あとは原作イベントを上手く消化して・・・)

 

作戦が成功したことを喜びながら、これから起こるイベントのことを考える秋二。

 

 

――しかし、その思惑は早々に()()()()ことになる。

 

 

それは秋二がセシリアだと思っていた金髪、縦ロールの少女の自己紹介の時に起こった。

 

「イギリス代表候補生の『()()()()()()()()()』ですわ!わたくしは・・・「えっ!?」な、なんですの!?」

 

思わず秋二は驚きの声を上げてしまった。

 

それはそうだろう。『原作』ヒロインだと思っていた少女がそうではなかったのだ。いきなりの『()()()()』に秋二は焦った。

 

(え、えっ!?どういうことだ!?イギリス代表候補生がセシリアじゃない!?なんで?どうして?)

 

「どうした、織斑弟?ファロンがどうかしたのか?」

 

「え、いや、千冬姉・・・、いや、織斑先生、なんでもないです・・・」

 

なんとかそう返した秋二だったが脳内は混乱していた。

 

(どうする!?ハーレムが崩壊したのも痛いが『原作』開始早々に『()()()()』が使えなくなるのはもっと痛いぞ!?どうする、どうする!?)

 

そんな心配をしている間にグレイスの自己紹介が終わり、秋二がハーレムに加えようとしていた白い少女の自己紹介の順番になった。

 

 

――そしてその少女の自己紹介が秋二をより混乱に陥れた。

 

 

()()()()()()()所属の『()()()()()()()()()()』で・・・「はぁッ!?」

 

先ほどのグレイスの時よりも秋二は驚愕の声を上げた。

 

――パァンッ!

 

「いっ――!?」

 

すると千冬が秋二の頭を叩いた。その一撃はチートボディを持つ秋二でも思わず声を上げる程の衝撃だった。

 

「さっきからなんなんだ、織斑弟?そんなに他人の自己紹介の邪魔をするようなら教室から叩き出すぞ?」

 

「いや、違、ちょっと、ちょっと驚いて、その・・・」

 

千冬に睨まれ、なんとか誤魔化そうとするが混乱の極みに陥った秋二は上手く喋ることが出来なかった。

 

(あの子がセシリア!?なんで白くなってんの!?まさかアルビノ?いや、目は普通だから違うよな?なんで!?っていうかなんで代表候補生じゃないんだ!?いやいや、それ以前に『レイレナード社』ってなんだよ!?そんな『企業』原作に登場してなかったぞ!?まさか、俺が持ってなかった続巻で登場した企業なのか!?セシリアに何があったんだ!?どうする、どうする!?)

 

頭をフル回転させながらそんなことを考えているとセシリア?が口を開いた。

 

「あの、織斑先生。時間もあまりないことですし、続けてもよろしいですか?」

 

「む、すまない、オルコット。この馬鹿には後で説教をしておく。続けてくれ。」

 

「はい、大丈夫です。では改めまして。私はレイレナード社の試作ISと武装のテストを行うためにIS学園に派遣されました。私は身体に少々『()()()』がありまして皆様にご迷惑をお掛けすることがあるかもしれませんが皆様に付いていけるよう頑張りたいと思います」

 

そう自己紹介するセシリアの言葉を聞きながら秋二はひたすら思考した。

 

(落ち着け、セシリアが存在するなら問題ない・・・。多分、お家騒動の際に代表候補生じゃなくてレイレナード?とかいう企業に所属したとか、もっと単純に両親が死ななかったとか理由は色々ある・・・。とりあえず情報を収集しないと・・・)

 

そう思考を巡らせる秋二だったが、ここで彼は一つミスを犯した。

 

それはあまりの事態に思考を巡らせていたためセシリアが自己紹介の際に「()()()()()()()()()」と言っていたことを深く考えなかったことだった。

 

 

――もし、秋二がそのことを少しでも考えていればまた()()()道もあったのかもしれない・・・

 

 

 

(よし、とりあえずセシリアと同じイギリス人のグレイスに話を・・・)

 

1時間目の授業が終わり秋二はセシリアについて情報収集を行おうとしていた。

 

最初はセシリアについて知っているであろう千冬に聞こうと思ったのだが、他人の自己紹介を邪魔をしたとして説教を受けてしまいセシリアについて聞くどころではなかったので千冬から聞くのは諦め、セシリアと同じイギリス人であり代表候補生であるグレイスなら何か知っているだろうと思い彼女の所へ行こうしていたのだが・・・

 

「・・・・・・秋二、ちょっといいか」

 

そう箒に話かけられた。

 

「あ・・・、箒・・・」

 

「廊下でいいか?」

 

(しまった。箒のイベントがあったんだ。くそ、今はそれどころじゃないって言うのに・・・)

 

そう思った秋二だが原作イベントの一つを無視するワケにもいかず大人しく箒に付いていった。

 

「・・・秋二、お前は剣道を続けていたんだな」

 

「え、あ、あぁ、そりゃあ、なぁ・・・」

 

「そ、そうか・・・。いや、去年の全国大会でお前を見たのだがな、本当は話しかけたかったのだが、その、色々あってな、話しかけられなくて、すまない・・・」

 

「いや、俺も箒に話かけられなくてごめんな?」

 

(ふむ、この様子なら箒は問題ないな・・・。やっぱり今はセシリアを・・・・・・)

 

箒と会話しながらそんなことを考える秋二。そんな秋二に気付かず箒は言葉続ける。

 

「い、いやっ!大丈夫だっ!・・・な、なぁ、秋二。わ、私はなっ!お前の隣に立てるように()()()()・・・・・・」

 

キンコーンカーンコーン

 

箒が話し終わる前にチャイムが鳴った。

 

「お、2時間目開始だ。箒、戻ろうぜ」

 

「あ、あぁ・・・」

 

そう言って秋二と箒は教室に二人で戻った。心なしか箒が残念そうにしていたがセシリアのことで頭がいっぱいだった秋二は気付かなかった・・・。

 

 

2時間目の授業中、秋二は気が気でなかった。

 

なぜならこの授業が終わったあと、本来ならセシリアイベントがあるのだが現段階ではそのイベントが確実に起こるか分からなかったからだ。なので、最悪の場合『修正』が必要になるため、それをどうするか考えながら授業を過ごした。

 

そして授業が終わり、授業中に考えた作戦を実行するかしないか考えていると・・・

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

「え?あ、あぁ・・・」

 

グレイスに話しかけられた。

 

(やっぱりセシリアイベントが発生しなかったか・・・。まぁ、まだ修正出来るし、とりあえず情報収集をしておくか・・・・・・)

 

そう秋二が考えている間にグレイスは言葉を続けた。

 

「初めまして、織斑秋二さま。わたくし、イギリス代表候補生のグレイス・ファロンですわ、以後お見知りおきを」

 

「う、うん。よろしく、ファロンさん?」

 

秋二の返答に微笑みながらグレイスは返した。

 

「グレイスでいいですわ。秋二さまはイギリス本国でも有名ですのよ?『()()』でありながら最高ランクのIS適正を持つ『()()』と・・・。流石はブリュンヒルデのご姉弟ですわ」

 

「そ、そうかな?」

 

「そうですわ、不安もあるかもしれませんが自信をお持ちになって?」

 

(よかった、もしかしたらグレイスがセシリアの代わりにイベント要員なのかと思ったけど違ったみたいだ。っと、そうだった。グレイスからセシリアのことを聞くんだった)

 

もしかしたら、セシリアの代わりにグレイスイベントなのかな?と思っていた身構えていた秋二は友好的かつ自分を賞賛するグレイスに好感を持った。そしてセシリアについて聞いても大丈夫だろうと思い、グレイスに質問した。

 

「グレイス、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「ええ、わたくしに答えられることなら構いませんわ」

 

「そう?じゃあ、グレイスってオルコットさんのことについて何か知ってるかな?気になっちゃって・・・」

 

――そう質問した瞬間、秋二は息を呑んだ。

 

なぜなら今まで笑顔で話していたグレイスが()()()()な顔になったのだ。

 

「ぐ、グレイス・・・?」

 

「・・・・・・あぁ、申し訳ありません。質問にお答えしますわ」

 

そう言ってチラリとグレイスはセシリアの方を見た。その目は『()()』と『()()』に満ちていた。

 

「・・・『()()』は我が祖国(イギリス)の『()()()()』ですわ。秋二さまの様な御方が気にするような『()()』ではありませんことよ?」

 

「そ、それってどういう・・・」

 

「・・・アレは金のために『企業』に身を売った『()()』ですわ。本来なら専用機を与えられるどころかこの学園に通うことすら()()()()()()ですのよ?・・・まったく、あんな『C()()()()』の適正しかないアレが『()()』とは、いったいいくら学園に()()()()()()()()()?」

 

グレイスから語られたセシリアの情報に秋二は驚いた。

 

(ど、どういうことだ?セシリアの適正がC!?セシリアは原作だとAだろ!?いや、落ち着け・・・、情報を整理するんだ・・・)

 

まず、金が云々と言っていたのでお家騒動があったのは確実なようである。そしてセシリアの適正が原作のAランクではなくCランクということは、恐らく国家代表候補生を選出するIS適正試験で落選してしまい企業に所属することになったのだろう。ならば・・・

 

(まだ修正は可能か・・・?よしっ!!)

 

そう思い立つと秋二は授業中に考えていた作戦を実行するためにセシリアの元へ向かった。後ろからグレイスが何かを言っていたが気にしなかった。

 

「オルコットさん、少しいいかな?」

 

自分の席で水色のラベルのペットボトル飲料で水分補給をしていたセシリアに秋二は話しかけた。

 

「えぇ、大丈夫ですよ、織斑秋二さん?」

 

セシリアは秋二に気が付くとペットボトルを置き、微笑みながらそう返答した。

 

(う~ん、原作セシリアも可愛かったけど、この白いお嬢様言葉じゃないセシリアもいいな・・・。いやいや、それよりも作戦実行だ!)

 

「秋二でいいよ。あ、セシリアって名前で呼んで良い?俺、セシリアとは仲良くしていきたいんだ!」

 

(馴れ馴れしいだろう?さぁ、怒れ!!)

 

――秋二の考えた作戦は簡単だった。

 

原作だとセシリアは婿養子の父親の情けない姿に憤りを持っており、男に対して否定的な態度だった。なので、そんな男が馴れ馴れしく話しかければセシリアは怒り、この後に起こるクラス対抗戦代表を決める際に『原作』通りイベントが起きると考えたのだ。

 

――あまりに浅はかな考えと言わざるを得ないだろう

 

セシリアは『企業』から派遣されたと言っていた意味を秋二は理解していなかった。例えセシリアが秋二に対して怒りを覚えたとしても、『原作』のような自分の所属する企業に悪影響を与えるような言動をするはずがないということに・・・。

 

そんな秋二の馴れ馴れしい言葉を受けてセシリアは・・・

 

「え、えぇ、それはかまいませんが・・・。あの~、秋二さんは私にどのようなご用件でしょうか?」

 

困惑しながらもそう返した。

 

(あれ、怒らない?おっかしいな~、挑発が足りなかったか?それにしても・・・)

 

改めて秋二はセシリアをじっくり観察する。

 

(なんで『()()』なんて嵌めてるんだ?あと、胸、原作よりもデカくなってないか?)

 

そう、今までは気付かなかったがセシリアの首には首輪が嵌められていた。そして胸も先ほど話して確認した箒よりも大きかったのだ。

 

(秋二もセシリアも知らないことだったがセシリアの胸が原作よりも大きくなったのは四肢を切断したため本来なら手足へいく栄養が胸へ集中したためである)

 

そして上目遣いで自分を見るセシリアを見て秋二は白いサモエド犬を連想した。

 

(決めた。セシリアは絶対に俺のハーレムに加えて『調()()』して『()()()()()』にしてやるぜ!)

 

脳内でゲスいことを考えながらそれを表に出さず、秋二は言葉を続けた。

 

「いや、大した用事じゃないんだけどさ、セシリアの自己紹介の時に俺、邪魔しちゃっただろ?それを謝ろうと思って・・・」

 

そう言って秋二はセシリアに右手を差し出した。

 

「いえ、大丈夫ですよ。わざわざすみません」

 

するとセシリアは白い手袋を嵌めた右手を出した。

 

(ここだッ!!)

 

「おいおい、貴族サマは手袋をしたまま握手するのかよ?それって失礼じゃないか?それとも、男とは直接握手できないかな?」

 

秋二の言葉にセシリアはピタッ!と止まった。

 

(ふふふ、怒ってる怒ってる・・・)

 

動きの止まったセシリアを自分の作戦が決まったと思った秋二はニヤニヤしながら見ていた。

 

――しかし、次の瞬間に秋二は()()()()ことになる。

 

「・・・失礼しました。少々お待ち下さい」

 

そう言ってセシリアは手袋を外して差し出した。

 

その差し出されたセシリアの右手を見て秋二は驚愕した。

 

「はぁ!?」

 

そう、差し出されたのは無骨な()()()()()()()()だったのだ。

 

思わず秋二は差し出していた自分の手を引っ込め、後ずさった。

 

すると今度はセシリアが薄く笑いながら秋二を煽るように言った。

 

「どうしました?世界『初』の男性装者サマは『身障者』とは握手出来ませんか?」

 

キンコーンカーンコーン

 

そこで秋二にとって救いとなるチャイムが鳴った。

 

「あ、授業開始ですね。・・・早く席に戻られた方がよろしいんじゃあないですか?」

 

「あ、あぁ・・・」

 

セシリアの言葉に秋二はそう返すだけで精一杯だった。

 

(義手?セシリアが?なんで?お、落ち着け。とりあえずこれで原作通りに・・・)

 

あまりの事態に脳が爆発しそうにながらも、原作通りに修正出来たと考えることで秋二は精神を保つことにした。

 

 

 

 

 

――だから秋二は気付かなかった。

 

 

 

 

 

秋二とセシリアのやり取りを能面の様な顔で見つめていたグレイスの存在に・・・・・・。




以上、秋二視点になります。

書いてて思ったんですけどお嬢様口調って難しいですね・・・

下手をすると『そうわよ』みたいになるのでこれから気をつけていきたいと思いますw

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくおねがいします。


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一夏の『出会い』

お疲れさまです。仕事で色々ありまして投稿が遅れました。

作者はサービス業に勤めていますので年末年始にあまり時間がとれないので今話が今年最後の投稿になります。今話のあとに解説や設定などを投稿したいと思います。

少し早いですが皆様良いお年を


望まぬIS学園への入学。また、姉と弟と『()()』されるであろう未来に俺は絶望していた。

 

そんなIS学園で出会った白い少女。

 

『天才』である弟と『出涸らし』である俺を間違えず、名前を呼んでくれた少女

 

こんな俺に『ありがとう』と言ってくれた少女

 

彼女、『セシリア』との出会いは間違いなく俺の人生で『()()』で、短い間だったが一緒に過ごした日々は『()()』だった。

 

彼女との出会いがなければ、『今』の自分は存在しなかったのだから・・・。

 

 

――だが、だからこそ思ってしまうのだ。

 

 

俺にとって、彼女、セシリアとの出会いは『幸福』で『幸運』だったのだが・・・・・・

 

 

 

 

 

セシリアにとって俺との出会いは『()()』で『()()』でしかなかったのではないのか?

 

 

 

 

 

 

「一夏、進路指導の先生から話は聞いた。進学せずに就職を希望したそうだな?」

 

「・・・あぁ、そうだよ・・・・・・」

 

一夏は姉の千冬と弟の秋二と机を挟み家族会議を行っていた。

 

内容は一夏の中学卒業後の進路についてだった。千冬の確認の問いに一夏はそれを認めた。

 

一夏の回答に千冬は短く口を開いた。

 

「理由は?」

 

「今は姉貴に喰わせて貰ってるけど、申し訳なく思ってて、自立して少しでも姉貴の負担を減らしたくて・・・」

 

――嘘だった

 

もちろん、一夏と秋二、二人の弟達を養っている千冬に対して()()()している。だが、本当の理由は違った。しかし、本当の理由を話せば千冬の性格上、絶対に反対するだろうと思い一夏は嘘を吐いたのだ。

 

すると千冬は小さくため息を吐くと口を開いた。

 

「・・・とりあえず話を進めるために()()()()()()()しておく。その上で一夏には問うが、今のご時世で中卒の『男』にどんな仕事があると言うんだ?」

 

「・・・そりゃあ、内装屋なり左官工なり選ばなきゃ仕事なんて色々あるだろ・・・・・・」

 

一夏の答えを聞くと千冬は目をつむり少し考えたかと思うと一夏を諭すように語り出した。

 

「なぁ、一夏よ、良く聞け・・・。お前の言うとおり、選ばなければ仕事はあるのだろうし、仕事に貴賤があるとも私は思っていない。私自身、今でこそ高給取りだが昔は苦労したしな。

その経験から言わせて貰うが、一夏、お前がなんらかの仕事に就いたとして本当に自立していけるのか?一人暮らしが出来るのか、という意味ではないぞ?現実問題として中卒ならば当然、雇用条件は悪くなるだろう。お前が例えば“もっと給料が欲しい”と転職を考えたとしても中卒という学歴が確実に足を引っ張ることになる。

よしんば自立出来たとしても、だ。将来、お前が()()を考えた時に相手を養って・・・・・・」

 

「・・・俺みたいな『能無し』と一緒にいたいなんて思う『女』、いるわけないだろ・・・・・・」

 

千冬の言葉の途中で一夏はそう言葉を零した。

 

一夏の言葉に千冬は少しだけ悲しげな表情になるが、一夏に気付かれない内に普段の表情に戻し口を開こうとしたところで・・・

 

「千冬姉の言うとおりだぜ、一夏。中卒じゃ碌な仕事なんてないだろうし、大人しく就職率の高い高校にでも進学した方が・・・」

 

――ぶちッ!!

 

空気の読めない秋二の言葉に一夏の中でなにかがキレ、叫んだ。

 

「うっせぇよ!!姉貴ならともかく、家事もしねぇ、バイトで金を稼いだこともねぇ『天才』さまが俺の人生に『()()』するんじゃねぇ!!!」

 

「なッ!!てめぇッ!!!」

 

一夏の言葉に秋二は激昂し、勢いよく立ち上がった。一夏の言葉は秋二の忘れていたはずの()()()に見事に突き刺さったのだ。

 

「あぁ!?かかってこいよっ!!」

 

一夏も立ち上がり、あわや殴り合いの喧嘩が始まるというところで千冬が二人の間に入った。

 

「二人とも止めろッ!!秋二!お前は部屋へ戻れ!!すまん、一夏。とりあえず今日は皆、頭を冷やして明日改めて・・・」

 

「もういいッ!もう沢山だッ!!」

 

そう叫ぶと一夏は自分の部屋へ飛び込み、通帳と数着の衣服を適当に鞄へ詰め込むと自分を制止する千冬と秋二の声を無視して家を飛び出したのだった・・・。

 

 

家を飛び出したものの特に行く宛ても、頼れる存在もいない一夏はとりあえず身分証明が必要なく利用料金も安い夜の休憩所に潜伏した。バイトで貯めていた貯金はそれなりにあるがなるべく節約しなくてならないからだ。

 

そして求人雑誌とスマホで企業の求人情報を集めながら就職先を探していた。

 

しかし、千冬の言ったとおり中卒でさらに男ともなれば中々良い企業はなかった。

 

(選り好みしているわけじゃないけど、この条件だと流石に喰っていけないもんなぁ・・・)

 

そんな現実の厳しさを感じながら求人雑誌を見ていた一夏は“副業が可能な企業を探すか”と考えながらスマホで新しい求人情報が更新されていないか確認すると、とある企業が求人を出していることに気付き、思わず目を見開いた。

 

「え、嘘だろ!?『有澤重工』!?なんで有澤が中卒者用の求人に求人票なんて出してんだよ!?」

 

一夏が驚いたのも無理はない。有澤重工と言えば日本を本拠に置く伝統ある重工業系総合企業だ。どのくらい伝統があるかといえば現在の社長で42代続いていて、日本に限らず世界でも有数の大企業なのだ。そんな企業が中卒者向けに求人を出している。たとえ一夏でなくても驚いただろう。

 

「いやいや、待て、落ち着け。有澤みたいな大企業が中卒なんて採用するわけないだろ・・・。多分、大卒者向けの求人を間違ったとかそんなんだろ・・・」

 

そう言いつつ、一夏はその求人票をしっかりと確認し、有澤のこれまでの採用実績を調べるなど情報収集を開始した。

 

その結果・・・

 

「マジかよ・・・、本当に中卒を採用してる・・・」

 

そう、有澤重工は本当に中卒者を採用していたのだ。

 

採用実績を調べると元々有澤は中卒者を大卒や高卒に比べると人数は少ないが採用していて、最近は軍用車両などの製品の売り上げが()()()()()()()こともあり、今回の求人は例年よりも採用枠を増やしているとのことだった。

 

「中卒枠とはいえ雇用条件は当然良いッ!社員寮有りッ!社食有りッ!年二回の社員旅行有りッ!業務内容の火薬を使った『軽』作業?はちょっと不安だが・・・、俺には()()()()()()()!!!」

 

そう断言すると一夏は必要書類を用意した後、履歴書を書き出した。採用枠が例年よりも多いとはいえ有澤ほどの大企業ならば当然採用倍率は高くなるため一夏は必死で印象に残る履歴書を書いた。

 

「これで良しっ!!もう今日は遅いから郵送するのは明日だな・・・。よっしゃ!腹も減ったし、前祝いにちょっと豪華な飯でも喰いに行くか!!」

 

そう言って気分良く外に出かけた一夏だったが街頭モニターのニュース速報を見て一気に気分を悪くした。

 

 

『速報です。先日、世界で『初めて』発見された男性のIS適正者『織斑秋二』さんですが協議の結果、異例ではありますがIS学園へ入学のこととなりました。また、今回男性のIS適正者が発見されたことから日本政府は全国で全ての男性に適正試験を・・・』

 

 

――びきり・・・

 

 

一夏の中で()()()が軋む音がする。

 

 

「・・・俺には()()()()、もう、関係ないんだ・・・・・・」

 

そう呟きながら一夏は食事に向かった。楽しみにしていた食事は美味しくなかった・・・。

 

 

「君が『織斑一夏』くんだね?我々は日本政府の者だ。申し訳ないが、ご同行を願いたい」

 

翌日、必要書類を郵送し郵便局から出てきたところを一夏は日本政府の者だと名乗る数人の男達にそう話しかけられた。

 

「・・・政府の人間が俺なんかに何の用だよ・・・・・・」

 

不機嫌さを隠さない一夏の問いに男は気にせず答える。

 

「なに、既に知っているだろうが君の双子の弟が男にも関わらずISを起動させただろう?つまり、『()()』双子なら君もISを起動させることが出来るのではないかと政府関係者は考えていてね。ここまで言えば、あとは分かるだろう?」

 

――なにが『同じ』だッ!!!

 

そう心の中で激昂する一夏だったが多勢に無勢に加え就活中のため揉め事を起こすわけにもいかず、『自分にIS適正がなかったら今後一切自分に関わらない』という条件を出すことで男達の指示に大人しくしたがった。

 

この『()()』を一夏は後悔することになる・・・・・・

 

 

「ふむ、適正は『B』か・・・。弟の方は『S』だったからもしや、と思ったのだが・・・。いや、それでも新たな男の適正者が現れたことには感謝すべきだろう」

 

「・・・はぁ!?」

 

連れて行かれた施設で適正を調べられ、その結果を知った一夏は驚愕した。

 

『才能』がないと思っていた自分にIS適正という男なら誰もが羨む、確かな才能があったのだ。驚くのも当然だった。

 

しかし、その事実を認識した一夏が抱いたものは『()()』などの正の感情ではなかった。

 

(止めろよ・・・、ふざけんなよ・・・。確かになにか“才能の一つでもありゃなぁ”、とか思ったり探したりしたけれど、()()()。これは駄目だ・・・、だって・・・・・・)

 

 

 

 

 

「あなた、本当にあのブリュンヒルデの弟?」

 

「不出来な身内を持つとは彼女も大変ですね」

 

「秋二なら出来たぞ?」

 

「そうか、秋二に負けないように頑張るんだぞ?」

 

「助っ人って一夏かよ・・・。秋二のヤツを呼んで来いよ」

 

「織斑一夏?あぁ、ごめんなさい、双子だから間違えちゃった。本当は秋二くんの方だったんだ」

 

「これ、秋二に渡してくれない?」

 

「姉にも弟にも似てるのは顔だけだな~、はははっ!!」

 

 

 

 

 

――また『()()』されるじゃないかッ!!!

 

 

 

 

 

過去の記憶がフラッシュバックした一夏はその場から一目散に逃げ出した。

 

「な!?捕まえろ!逃がすな!!」

 

後ろからそんな声がするが一夏は気にせず必死に走った。

 

しかし、建物から脱出する直前で追ってきた男達に取り押さえられた。

 

「止めろッ!離せッ!!俺は、俺はもう嫌なんだッ!!!」

 

「なにが嫌なんだッ!?君は世の男達の希望の一人なんだぞッ!!」

 

「知らねぇよッ!そんなこと知ったこっちゃねぇよッ!!俺は・・・、俺はもう嫌なんだ!!『比較』されるのも、()()()のに『努力』するのも、もう嫌なんだ!!!だから、だから俺を・・・」

 

「錯乱しているぞっ!おいっ!早く鎮静剤を持ってこいっ!!」

 

 

――俺を、『自由』にしてくれ・・・・・・

 

 

 

 

「・・・・・・夏くん。織斑一夏くんっ」

 

窓の外を眺めながらIS学園へ入学するまでの経緯をぼんやりと思い出していた一夏は自分を呼ぶ声に意識を引き戻された。

 

チラリと声に目を向ければ眼鏡を掛けた女教師が心配そうに自分を見ていた。

 

「一夏くん!?お、怒ってる?怒ってるかな?ゴメン、ゴメンね!でもね、『自己紹介』で一夏くんの番だから・・・」

 

「チッ!」

 

女教師のオロオロした態度にイライラした一夏は舌打ちしながら立ち上がり名乗った。

 

「・・・織斑一夏です・・・・・・」

 

そう一言で自己紹介を終わらせ、座ろうとした。

 

・・・自分でもあんまりにもあんまりな態度だと思うが、一夏はそれで良かった。

 

――皆、自分に友好的なのは最初だけで、あとは皆、自分から離れていくのだから・・・

 

どうせ同じ結果になるなら最初から嫌われていた方が効率がいい生き方だ。

 

そう思いながら座ろうとすると後頭部に衝撃が走った。

 

「挨拶もまとも満足に出来んのか、お前は?」

 

姉の千冬だった。千冬が現れた途端・・・

 

「キャ――――!千冬様、本物の千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした!」

 

「素敵!抱いて下さ~い!」

 

教室中が熱狂に包まれた。

 

 

――びきり・・・

 

 

一夏の中でナニカが軋しんだ・・・。

 

 

1時間目の授業が終わり、一夏は自分の席で相変わらず窓の外を見ていた。

 

するとチラリと一夏の目に幼なじみである箒が秋二をどこかに連れて行くのが見えた。

 

・・・自分に一瞥もくれずに秋二の元に行ったのは少し悲しかったが、それは仕方がないと思う。

 

――だって、自分は箒が困っているときに()()()()()()()()のだから・・・

 

だから、()()()()。仕方ないのだ・・・。

 

「ねぇ、誰か話しかけてみてよ~」

 

「え~、でも怖いよ~」

 

「でも、やっぱり双子だよね~。本当にそっくり」

 

そんなセンチな気分に浸っていた一夏に自分を遠巻きに見つめていたクラスメート達の声が聞こえた。

 

「チッ!」

 

一夏は舌打ちをすると立ち上がり、教室から出た。

 

仲良くするつもりは元よりなかったが、動物園の珍獣扱いをされるのは許容できなかったのだ。

 

そして廊下をずんずん歩く。いっそのこと、このままサボるのはどうだろうか?と思いながら歩いていると・・・

 

「どこへ行く?織斑『兄』」

 

「姉貴・・・」

 

「ここでは『織斑先生』と呼べ。もう一度言う、どこへ行くつもりだ?」

 

「別に・・・、俺はただトイレに・・・」

 

「男子トイレはこちらには無いぞ?」

 

千冬の問いに咄嗟に嘘を吐いた一夏だったが、その嘘はあっさりと千冬に見破られた。

 

「ふぅ・・・、織斑兄。お前のことだろうから授業をサボろうなどと考えていたのだろうが、悪いことは言わん、教室へ戻れ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「お前は自覚がないかもしれないが、お前の・・・、いやお前『達』の立場は()()()ものだ。()()()()()にも教室に戻って授業を受けろ」

 

「・・・そうだな、俺の『()()』だもんな・・・・・・。分かったよ・・・」

 

そう言って一夏は踵を返して歩き出した。

 

自分に背中を向けて歩き去って行く一夏を見送りながら千冬はぽつりと呟いた。

 

「すまない、一夏・・・」

 

 

千冬と別れた一夏だったが教室とは逆の方向へ向かおうとしていた。

 

千冬には授業を受けると言ったが一夏はそのまま授業をサボる気だったのだ。

 

そして屋上など人のいないところに行こうとして廊下を歩いていると曲がり角で人にぶつかった。

 

ぶつかった相手は白い少女だった。

 

クラスの自己紹介は聞き流していたので名前は覚えていなかったが、その特徴的な容姿からクラスメートの一人だということは覚えていた。

 

そして、その少女はぶつかった衝撃で後ろに倒れていた。

 

(チッ、面倒なことになった・・・)

 

女尊男卑のこのご時世である。いかにIS学園へ入学する女子生徒が思考的に世間一般の女よりマシだとしても罵倒の一つくらいは飛んでくるだろう。

 

一夏は飛んでくるであろう罵倒に対して返す謝罪の言葉を考えていると少女が口を開いた。

 

 

「あぁ・・・、すみません、大丈夫ですか、()()()()さん?」

 

 

――その言葉に一夏は驚愕した。

 

 

罵倒ではなくて謝罪の言葉があったからではない。この少女は・・・

 

 

(!?、俺と秋二を()()()()に俺の名前を呼んだ・・・)

 

 

そう、この少女は一夏と秋二を間違えずに自身の名前を呼んだのだ。

 

一夏と秋二は双子である。当然、二人の見た目はそっくりだ。IS学園へ入学前にも天才の弟と散々間違われた。さらに先ほどのクラスでの自己紹介の一夏と秋二の内容の差を考えれば、まず初見では好印象だった秋二の方だと思うだろう。

 

――なのに、この少女は初見で自分と秋二を見分けたのだ。

 

あまりの事態に驚き、少女に対して何も言うことが出来なかった一夏に対して少女は特に何かを言うこともなく立ち上がろうとしていた。

 

していたのだが、様子がおかしい。

 

普通の人間ならとっくの昔に立ち上がっているハズだが、少女はまだ立ち上がれていなかった。どうやら後ろに倒れている状態から身体を反転させようとしているらしい。

 

“なんでそんなことを・・・”と思った一夏だったが少女の脇に転がる歩行補助の杖に気づき、少女は身体にハンデがあるということを理解した。

 

そんな少女を見て一夏は一度舌打ちをすると・・・

 

「・・・ほら、手伝ってやるから手、出せよ・・・・・・」

 

――手を差し出していた。

 

すると少女は一夏の手を握ってくれた。しかし、一夏は握った少女の手に()()()を覚えた。

 

(ん?なんだ、この感触・・・。固い?まるで・・・)

 

そう疑問を持ちながらも少女を引っ張り起こした。

 

すると・・・

 

()()()()()()()()()()、一夏さん。おかげで助かりました。」

 

少女は微笑みながら一夏に感謝の言葉を告げた。

 

「いや、俺も悪かったから・・・。その、すまん・・・・・・」

 

少女の言葉を受けて一夏をそう返した。

 

「いえ、大丈夫ですよ。あ、そろそろ休憩時間が終わりますね。一夏さん、教室に戻りましょう!」

 

「あ、あぁ・・・」

 

教室に戻ろうと明るく言う少女に授業をサボろうと思っていた一夏だったが、大人しく従うことになった。

 

少女と一緒に教室に戻りながら一夏は先ほどのことを思い返す。

 

 

――ありがとうございます、一夏さん。

 

 

(・・・『ありがとう』なんて最後に言われたのって、いつだったけか・・・・・・)

 

 

そんなことをを考えながら一夏は少女と一緒に教室に戻るのだった・・・。

 

 

「――であるからして、ISの基本的な運用は・・・」

 

教室へ戻り始まった2時間目の授業だったが、相変わらず一夏はぼんやりと窓の外を眺めていた。

 

(そういや、俺、あの子の名前も知らないんだよな。・・・自己紹介、ちゃんと聞いてりゃ良かったかなぁ・・・・・・)

 

「い、一夏くんっ!、一夏くんっ!!」

 

先ほどの白い少女のことを考えていた一夏の意識は女教師、摩耶の自分を呼ぶ声で引き戻された。

 

その声に自分の思考を邪魔された一夏は摩耶を睨むように目を向けた。

 

「ひ、ご、ゴメンね?でもね、せめて教科書ぐらいは開いて欲しいなぁ~って先生は思うんだけど・・・。あ、もしかして分からないところとかあるのかな?だったら質問してもらえれば・・・」

 

「・・・全部分かりません」

 

「え・・・・・・、ぜ、全部、ですか?え~っとですね・・・・・・」

 

一夏をフォローしようとした摩耶だったのだが、その一夏の回答に言葉を詰まらせる摩耶。すると見かねた千冬が助けに入った。

 

「織斑兄、山田先生を困らせるな。・・・一応聞くが、織斑兄。入学前に渡された参考書は一度は読んだか?」

 

「あぁ、あれか・・・。()()()()古い電話帳と間違って『捨て』ました」

 

千冬の問いに悪びれずに“うっかり”を強調して捨てたと答える一夏。

 

その一夏の回答に千冬はため息を吐くと口を開いた。

 

「織斑兄、お前は『自分は望んでここにいるわけではない』と思っているのだろうし、実際にそうなのだろう」

 

「・・・・・・」

 

「だがな、望む望まざるにかかわらず、人は集団の中で生きなくてはならない。それすら放棄して『自由』に生きたいのなら、まず『ヒト(人間)』であることを辞めるのだな」

 

「・・・辞められるなら、俺だって辞めてぇよ・・・・・・」

 

千冬の言葉に一夏はそう返した。

 

千冬は一瞬、悲しげな目をしたがすぐに普段の目に戻した。

 

「・・・とりあえず、参考書は再発行して渡す。一週間以内に覚えろ。山田先生、授業の続きを」

 

「は、はいっ!!」

 

そうして授業は再開された。しかし、再開されても負ける『努力』はしたくなかった一夏は一度も教科書を開くことはなかった・・・。

 

 

2時間目の授業が終わり、一夏は机に突っ伏していた。

 

遠巻きからクラスメート達のヒソヒソ声が聞こえたが一夏は気にしなかった。

 

しかし、なんとなくだが、あの白い少女のことが気になり体勢を変えずに器用に彼女の方を見た。

 

彼女は弟の秋二となにやら話しているようだった。

 

 

――びきり・・・

 

 

一夏の中でまたナニカが軋む音がした・・・。

 

 

(関係ない、俺には関係ないんだ・・・)

 

 

そう言い訳しながら一夏は再び机に突っ伏すのだった・・・。




今話を書いていて思ったのですが、なんで作者は創作で就活の話を書いているんだろうなぁ・・と疑問に思いましたw

あと前回のセシリアの胸の下りや、今話の有澤重工の話などは感想欄で頂いた感想で作者が面白そうだと思ったアイディアをアレンジしながら採用させていただきましたw

素晴らしいアイディア、ありがとうございます。

今後も面白そうだと思ったアイディアなどは丸々とはいきませんが積極的に本編に反映できたらなと思います。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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クラス代表選出

新年明けましておめでとうございます。

今年も稚作ですがよろしくお願いします。


さて、無事に意味☆不明な秋二のやつを撃退した俺だが少々()()()事態になっていた。

 

具体的に言うと、さっきの俺と秋二のやり取りを見ていたクラスメートの何人かが俺のことを心配そうっていうのかな?そんな顔でチラチラと見てくるのだ。

 

多分だけど自己紹介の時に俺は()()()()()()ってしか言ってなかったから俺が義手ってことが分かって驚いたんだろうなぁ・・・。

 

 

う~ん、やっぱり自己紹介の時にオービエが絶賛した俺の義手と義足のことを『ネタ』にした()()()()を言って“俺は全然平気だよッ!!”ってことをアピールしとけば良かったかもしれん・・・。

 

 

そんなことを考えていると3時間目の授業が始まった。

 

 

3時間目の授業は山田先生ではなくて織斑先生が担当らしく教壇に立っていた。

 

クラスの皆は憧れの織斑先生が直接教鞭を執ることに目を輝かせ興奮しているようだった。

 

そんな皆の視線にうんざりしながらも織斑先生が口を開いた。

 

「この時間では実践で使用する各種装備の特性について説明するが、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出場する代表者を決めようと思う」

 

 

――クラス対抗戦

 

 

知ってるぞ!確か入学時点での各クラスの実力推移を測るために行われてて、その様子は各国関係者や企業が見に来るってヤツだ!!

 

ただ、これに出場するってことはクラス代表になるワケだから生徒会の開く会議や委員会へ出席しなければならないという『義務』が発生するとのことだったな・・・。

 

正直、生徒会の会議云々に関してはしんどいと思うが試作機と武装のテストのために入学したという『目的』のためには絶好の機会だと思ったのでクラス代表に立候補しようと手を上げようとしたのだが・・・。

 

 

「はいっ!私、織斑秋二くんが良いと思いますっ!!」

 

 

そう元気いっぱいに秋二を推薦するクラスメートに遮られてしまった。

 

 

――しまった!!このクラスには『男』の装者である秋二と一夏がいたんだった!!!

 

 

「私も賛成ッ!!」

 

「そうだよね、せっかく男の子の装者がいるんだもんね~」

 

「それが良いよッ!」

 

クラス中から次々に賛同の声が上がる。

 

 

――まずい、まずいぞ・・・

 

 

俺も一般女子生徒の一人だったら“せっかく男の装者がいるんだから~”って賛成してしまうだろうからこの展開は仕方ないが、俺にも『仕事』があるのだ。

 

なんとか()()()()皆を説得して俺が代表にならなければ!!

 

そう思い再び立候補するために手を上げようとしたところで・・・

 

 

「織斑先生、よろしいですか?」

 

「なんだ、ファロン。立候補か?」

 

 

――グレイスが手を上げていた。

 

 

そうだ、代表候補生のグレイスがいたんだったっ!!

 

チャンスだっ!確か、グレイスの専用機の『ブルー・ティアーズ』は試作・実験機の意味合いが強い機体だったハズだからグレイスもデータ収集やイギリスの技術力の高さを示すためにこの機会を生かしたいはずだ。

 

と、いうことは間違い無くグレイスは立候補するハズッ!!

 

そしたら俺も便()()と言う形にはなってしまうが立候補して・・・

 

そんな俺の思惑はグレイスの発言により()()()()()()

 

 

「いえ、立候補ではありませんわ。わたくしは一つ、クラスの皆様に『提案』がありまして」

 

「提案?」

 

勿体ぶったように言うグレイスに織斑先生が訝しげな目を向ける。

 

「はい、皆様、お忘れですか?このクラスには秋二さまの他に一夏さまという『名誉』ある男性のIS装者がいらっしゃいますわ。

そこでわたくしからの提案と言うのは、秋二さまと一夏さま・・・、お二人に模擬戦を行っていただき、より高い『実力』を示した方をクラス代表に選出したい、と、いうものですわ・・・」

 

 

――なに言ってくれちゃってんの?

 

 

「あ~、そうだよね~、一夏くんもいるもんね~」

 

「そうだね、秋二くんだけ推薦するんじゃ『不公平』だもんね」

 

「私は賛成~」

 

「私も、私もッ!!」

 

「あれ?でも、確か秋二くんの適正はSで一夏くんはBじゃなかったっけ・・・」

 

 

やばいッ!!グレイスの案にクラスの皆は賛成っぽいぞっ!!

 

 

まずい、まずいぞッ!!この状況で俺が立候補なんかしたら「空気読めよ、この野郎ッ!!」となるのは必定ッ!!!

 

学園生活を取るか、仕事を取るかの二択になってしまったぞ・・・

 

落ち着け、考えろ、考えるんだ・・・・・・。

 

ってか、何か知らんけど秋二のヤツがハラハラした感じで、グレイスはグレイスで何か勝ち誇ったような目で俺を見ているし、秋二といい、グレイスといい、お前らはマジで何なんだよっ!!!

 

そんな風にパニック状態に陥っていた俺の思考は怒号により中断された。

 

「巫山戯んなッ!クラス代表だのなんだのはそこの『()()』さまがやればいいだろッ!!俺を巻き込むなッ!!!」

 

今まで机に突っ伏していた一夏がそう吠えながら立ち上がっていた。

 

 

え、恐っ!!どうした、一夏!?ツンデレっぽかったお前がどうしたんだ!?

 

 

怒りを露わにする一夏に不覚にもビビってしまった俺とは対照的にグレイスは涼しい顔で一夏を煽るように口を開いた。

 

「あら?秋二さまを『天才』とおっしゃりますが、本来男性では適正を持たないIS適正を持っている貴方も秋二さまと()()『天才』ですことよ?そこをお間違えなく・・・」

 

「・・・なにが『同じ』だッ!!」

 

アカンッ!!一夏の怒りのボルテージがみるみる上がっているッ!!!

 

「二人とも止めろ」

 

するとそんな二人を見かねた織斑先生が止めに入った。

 

織斑先生はため息を吐くと喋りだした。

 

「ひとまず確認するが・・・、ファロンの提案に賛成の者は挙手をしろ」

 

織斑先生の言葉にクラスの大半が挙手をした。

 

それを確認した織斑先生は・・・

 

「分かった、それでは一週間後の月曜。放課後の第三アリーナで織斑兄と弟の模擬戦を行うこととする」

 

「姉貴ッ!!」

 

「ここでは()()()()、だ。そして話は最後まで聞け。

・・・実際のところ()()男の装者と言っても織斑兄と弟では()()に適正の『差』がある。

そこで、だ。明日から当日までの一週間の間、織斑兄には訓練機とアリーナの()()使()()()を与える。これは織斑兄にとっては間違い無く『有利』なアドバンテージだ。

・・・『チャンス』をふいにするのではないぞ?」

 

「・・・・・・」

 

織斑先生の言葉を俯きながら黙って聞き終えたは一夏は力なく座った。

 

 

――そんな一夏の姿を見た織斑先生は一瞬だけ悲しげな目になった。

 

 

けど、すぐに普段通りの目に戻して授業の開始を宣言した。

 

 

一瞬だったけど、多分、俺の()()()()ではなかった、と、思う・・・。

 

一夏と秋二、織斑先生の『家族』の間に何があったかは分からないし、()()()()()()()()けど、辛いんだろうなぁ・・・、っていうことは分かった。

 

 

――いかんいかん、()()()()()()()()()()()

 

 

とりあえず、一夏か秋二のどちらかが代表になるのは決定してしまったワケだが、俺も『最低限』()()をしなければならないワケで・・・。

 

どうすっかなぁ・・・。

 

 

 

 

 

――あっ!?良いこと思いついた!!

 

 

 

 

 

そうと決まればまずは一夏と()()()()をしなければ・・・。

 

 

そして俺は授業を受けながら頭の中で計画を立てていくのだった。

 

 

シャアアアアアアアアアァ

 

 

う~ん、駄目だなぁ・・・。

 

 

今日の全ての授業が終わり、俺は自室に戻ってシャワーを浴びながら今日のことを振り返っていた。

 

俺が計画を立てた後、一夏に話しかけようと思ったのだが肝心の一夏は授業が終わった瞬間に脱兎の如くどこかへ行ってしまったのだ。

 

仕方が無いので次の授業が終わったら話しかけようと思ったらそのまま一夏は全ての授業が終わるまで教室に戻ってくることは無かった。

 

お昼に食堂にならいるかな~、と食堂も探したのだがそこにもいなかったのでマジでどっかに行ってしまったようだった。

 

まぁ、IS学園から脱出は不可能だから明日には会えると思うけど、多分・・・。

 

何にしても俺の計画には一夏の『協力』が絶対条件だからなんとかして・・・って、あ、しまった。

 

考えごとをしながらシャワーを浴びてたから替えの下着を持ってくるのを忘れてた・・・。

 

 

――まぁ、どうせ()()()()()()()から裸のまま取りに行っても問題無いんだけどね。

 

 

そんなこんなで全裸でシャワー室から出た瞬間、部屋のドアがガチャリと開き、誰かが入ってきた。

 

 

――入ってきたのは行方を眩ませていた一夏だった。

 

 

俺は『全裸』だった。

 

 

え・・・、何?どゆこと・・・。何で一夏が?あっ!でも、()()()()()()()、探す手間が省けたわ、良かった良かった。

 

 

そう思ったのだが、俺は全裸だった。

 

 

別に今まで実験や手術で裸を見られていたので今さら男に裸を見られることに()()()()()()()が、流石に全裸で“ちょっと話そうや・・・”と言っても「頭おかしいの?」と思われると思ったので、とりあえず一夏に「服を着るからちょっと待っててくれ」と言おうとしたところで・・・

 

 

「!?、わ、悪い!!」

 

 

そう言って一夏は勢いよく部屋から出て行ってしまった。

 

 

一瞬の出来事に俺は唖然としたが、冷静になってあることに気が付いた。

 

 

 

 

 

――ま~た探しに行かなくちゃならんやんけ!!




活動報告で書きましたがプロットで秋二と一夏が戦うことになるのは決定していたのですが、二人が戦うことになる経緯とそれに対してセシリアがどう対応するかで3種類ほど考えていたので少し投稿に時間がかかりました。

他の案としてはセシリアが立候補し、理詰めで自分が選出されようとするがグレイスによる妨害、及び首席の座を金で得た発言が飛び出るなどがありましたが、それだとグレイスの頭が悪い感じになるのでボツにしましたw

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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一夏の『驚愕』

お疲れ様です。

今回は早く投稿することができました。
出来ればこのくらいのペースで投稿していきたいなぁ・・・


IS学園での生活初日、『自由』に生きたかった俺はやる気もなく反抗的な態度だった。

 

そんな俺にIS学園の教員だった姉は言った。

 

 

「『自由』に生きたいのなら、まず『ヒト(人間)』であることを()()()のだな」

 

 

その姉の言葉に対して俺は――

 

 

()()()()()なら、俺だって辞めてぇよ」

 

 

そう返した。

 

 

・・・今にして思い返せば、まだ十五歳の『ガキ(子供)』で、()()()()()()俺はもちろんだが、()()世界最強で『大人』だった姉もこの『世界』について、あまりにも()()だったのだと思う・・・・・・。

 

 

 

 

 

なぜなら、『ヒト(人間)』であることを辞めることなんて『簡単』に出来るし、例え辞めたとしても『自由』に生きることなんて出来ないということを知らなかったのだから・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この時間では実践で使用する各種装備の特性について説明するが、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出場する代表者を決めようと思う」

 

3時間目の授業が始まっても机に突っ伏していた一夏は授業開始早々にそう口にした千冬の言葉を他人事の様に聞いていた。

 

 

――当然だ。

 

 

そんなモノに立候補するつもりなど一夏自身にもさらさらなく、このクラスにはSランクのIS適正を持つ『天才』である弟の秋二がいるのだ。

いくら自分が世界に二人しかいない男の適正者の一人だとしても適正値の差や今までの態度もあり、物珍しいからといって万が一にでも推薦されるなどということはないだろう。

 

 

そう考えていると女子生徒の一人が元気よく発言した。

 

 

「はいっ!私、織斑秋二くんが良いと思いますっ!!」

 

 

――その声を皮切りに次々にクラスから賛同の声が上がる。

 

 

「私も賛成ッ!!」

 

 

 

「そうだよね、せっかく男の子の装者がいるんだもんね~」

 

 

 

「それが良いよッ!」

 

 

一夏の予想通りクラスの女子達は秋二がクラス代表とやらに次々と推薦しだし、一夏は安堵した。

 

 

しかし・・・、

 

 

――びきり・・・

 

 

なぜか一夏の中で()()()が軋む。

 

 

それが『ナニ』なのかも『ナゼ』なのかも一夏は分からなかったが、このまま秋二で決まるというところである女子生徒の発言で状況は一変した。

 

 

「織斑先生、よろしいですか?」

 

「なんだ、ファロン。立候補か?」

 

「いえ、立候補ではありませんわ。わたくしは一つ、クラスの皆様に『提案』がありまして」

 

「提案?」

 

「はい、皆様、お忘れですか?このクラスには秋二さまの他に一夏さまという『()()』ある男性のIS装者がいらっしゃいますわ。

 

そこでわたくしからの提案と言うのは、秋二さまと一夏さま・・・、お二人に模擬戦を行っていただき、より高い『実力』を示した方をクラス代表に選出したい、と、いうものですわ・・・」

 

 

千冬にファロンと呼ばれた生徒がそんなことをのたまった。

 

すると・・・

 

「あ~、そうだよね~、一夏くんもいるもんね~」

 

「そうだね、秋二くんだけ推薦するんじゃ『()()()』だもんね」

 

「私は賛成~」

 

「私も、私もッ!!」

 

 

そんな『無責任』な賛同の言葉が次々と上がる。

 

 

――巫山戯るなッ!!!

 

 

「巫山戯んなッ!クラス代表だのなんだのはそこの『天才』さまがやればいいだろッ!!俺を巻き込むなッ!!!」

 

 

そう怒声を上げながら一夏は勢いよく立ち上がっていた。

 

 

突然の一夏の激昂にクラスメート達が驚く中、当のグレイスは涼しい顔だった。

 

 

「あら?秋二さまを『天才』とおっしゃりますが、本来男性では適正を持たないIS適正を持っている貴方も秋二さまと同じ『天才』ですことよ?そこをお間違えなく・・・」

 

そう丁寧な口調で一夏も秋二も同じ『天才』なのだと言うグレイスだったが、一夏はグレイスの自分を見る目を見てそんなことを微塵も思っていないことを一瞬で理解した。

 

 

――なぜならグレイスの目は『嘲り』に満ちていたからだ。

 

 

「・・・なにが『同じ』だッ!!」

 

そんなグレイスに一夏がそう返したところで・・・

 

「二人とも止めろ」

 

千冬が止めに入り、ため息を吐くと口を開いた。

 

「ひとまず確認するが・・・、ファロンの提案に賛成の者は挙手をしろ」

 

千冬の言葉を聞いた一夏は思わず振り返り教室を見渡す。

 

そこには休憩時間に出会った白い少女を含む数名を除き、クラスメートの大半が挙手をしているという一夏にとって絶望的な光景が広がっていた。

 

(止めろよ、本当に止めてくれよ・・・。俺は、俺は、もう・・・・・・)

 

一夏の心が絶望で染まっていく・・・。そして一抹の望みにかけて難しい顔で目を瞑って考え事をしている様子の千冬を見た。

 

 

――しかし・・・

 

 

「分かった、それでは一週間後の月曜。放課後の第三アリーナで織斑兄と弟の模擬戦を行うこととする」

 

千冬はそんな『()()()』なことを口にした・・・。

 

「姉貴ッ!!」

 

溜らず一夏はそう叫んでいた。

 

「ここでは織斑先生、だ。そして話は最後まで聞け。

・・・実際のところ同じ男の装者と言っても織斑兄と弟では明確に適正の『差』がある。

そこで、だ。明日から当日までの一週間の間、織斑兄には訓練機とアリーナの優先使用権を与える。これは織斑兄にとっては間違い無く『有利』なアドバンテージだ。

・・・『チャンス』をふいにするのではないぞ?」

 

 

――『コイツ(姉貴)』はナニを言っているんだ?

 

 

確かに『普通』なら素人同士で片方が一週間も優先的に経験を積めれば有利だろう。

 

 

――だが、秋二は『普通』ではないのだ。

 

 

それは家族を養うために家を空けることが多かった千冬で()()()()()()ハズなのだ、()()()()()()ハズなのだ。

 

 

それなのに・・・。

 

 

もはや反論する気力もなくなってしまった一夏は気が付かない内に座り込んでいた。

 

 

 

 

 

そして授業が開始されたが一夏の耳には何も入ってこなかった・・・・・・。

 

 

「鳥は良いよなぁ、鳥は・・・。『自由』で・・・・・・」

 

学園の屋上で寝転び、『自由』に空を飛ぶ鳥を見ながら一夏はそんなことを呟いた。

 

千冬にサボるなと言われていた一夏だったが最早そんな言葉を守るつもりはさらさらなく、授業が終わった後に教室から逃げ出して現在絶賛サボり中だった。

 

誰もいない屋上で青空を見上げていると幾分か一夏の気分は良くなった。

 

 

・・・まぁ、現実逃避と言われればそれまでなのだが、それでも一夏は良かった。

 

 

しばらくそうしていた一夏だったが天気の良い春の陽光を浴びている内についつい眠ってしまった。

 

 

 

 

 

――そして一夏は夢を見た。

 

 

 

 

 

夢の中で一夏は鳥になっていた。

 

鳥になった一夏は市街地の上を飛んでいた。しかし、その市街地は『普通』ではなかった。

 

 

――そこは戦場だった。

 

 

あちこちから立込める黒煙、響く爆音や砲撃音、破壊される建物の音。

 

その戦場を駆け回り殺し合う、見たこともない無骨な『兵器』達。

 

 

そんな戦場の上を通り過ぎて一夏は『何処』かへ向かっていた。

 

しばらく飛んでいると何かが見えてきた。

 

 

――それは巨大な建造物だった。

 

 

それが何なのか一夏には分からなかったが、例えるならば『塔』だろうか?

 

 

そしてその『塔』にさらに近づこうとしたところで・・・・・・

 

 

「・・・・・・兄。起きろ、織斑兄ッ!!」

 

 

一夏を探しに来たのだと思われる千冬の声に起こされた。

 

 

一夏が目を開けると青かった空は紅く染まり始めていた。どうやらかなりの時間眠ってしまっていたらしい。

 

一夏が上体を起こすと千冬は怒り半分、呆れ半分といった顔で一夏を見ながら口を開く。

 

「・・・織斑兄、私は自分の『ため』にも授業はサボるなと言ったはずだが?」

 

「・・・・・・・・・」

 

千冬の言葉に一夏は答えなかった。

 

それでも千冬は言葉を続ける。

 

「・・・私の立場上、詳細に話すことは出来ないがお前達兄弟は現在、世界中から()()な意味で注目されている。

お前達に良い感情を持っている者もいれば当然良くない者もいる・・・。

分かるか?お前の今後の行動しだいで良い感情を持っていた者達も『敵』になる()()()があるのだ。お前が今の状況を『望んでいない』し『不満』を持っていると言うのは分か・・・、いや、私にそんなことを言う『資格』などないのだろうし、お前は私を『信じる』ことなど()()()()のだろうが、今の自分の置かれている状況だけは『理解』してくれ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

千冬の言葉に一夏は答えない。

 

「・・・今日のサボりに関しては『特別』に見逃す。だが、明日からは許さん。お前がサボっているのを見つけたら()()()()で教室に連れ戻す。・・・お前の寮のカギだ受け取れ」

 

そう言って千冬から渡された寮のカギを黙って受け取ると一夏は立ち上がり千冬を一瞥することなく屋上から出ていった。

 

 

そんな一夏の背中をなんとも言えない顔で千冬は黙って見送った。

 

 

千冬と別れてから一夏は途中に購買に寄った後、渡されたカギの部屋番号の部屋を目指して歩いていた。

 

歩きながら先ほど千冬に言われた言葉を思い返す。

 

(要は俺を研究所にでも送りたいヤツがいるってことだろ?幸いなことに『貴重』な男は『二人』いるもんな・・・。クソッ!!!」

 

 

――あまりにも『理不尽』だった。

 

 

もし、男でISを動かせる『才能』を持つのが一夏のみだったら喜んだかもしれない。だが、その才能は秋二も持っていた。

 

今までの様に当然『比較』される。さらにただ『比較』され見下されたり、馬鹿にされるだけではなく下手をすると自身の命にも関わるのだ。

 

 

――『好き』に生きることも出来ず、『理不尽』に死ぬ。

 

 

『力』も『才能』もない『人間』の人生なんてそんなものと言われたらそれまでだが、あまりにも惨めだった。

 

 

(どうせ『理不尽』に死ぬんだったらもっと『好き』に生きてりゃ良かったなぁ・・・)

 

 

そんなネガティブな思考に陥りながら歩いていると用意されていた部屋に着き、ドアにカギを差し込んだ。

 

「あれ?開いてる・・・」

 

不思議に思いながらも一夏はドアを開けた。

 

 

――開けた瞬間、一夏は驚愕した。

 

 

部屋の中には今日出会った白い少女がいた。

 

 

――それも『全裸』で・・・。

 

 

少女はシャワーを浴びた後だったらしく、頭の上にバスタオルを乗せながら杖をついて立っていた。

 

 

・・・男だったら驚きつつも興奮する場面なのだろうが一夏は驚愕するばかりで興奮などしなかった。

 

 

――だって彼女の身体は・・・。

 

 

すると、突然の男の乱入者に一夏と同様に叫び声などは上げずとも驚いていた彼女が口を開こうとしたところで一夏はハッと我に返り・・・

 

 

「!?、わ、悪い!!」

 

 

そう言って慌てて部屋を出た。

 

そして荒く息を吐きながらカギとドアの部屋番号を確認する。番号は合っていた。

 

そのことに安堵すると一夏は近くの壁に背中を付け座り込んだ。

 

(ど、どういうことだ!?ここ、俺の部屋なんだよな?なんであの子が・・・。まさかとは思うがあの子と同室って訳じゃないよな・・・、ないだろ?)

 

一夏は混乱しながらそんなことを考えた。

 

 

 

 

 

――それは一種の逃避だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

なぜなら、一夏の見た少女の身体は『異常』だった。

 

両腕は二の腕、両脚は太ももの半ばから可憐な少女に似つかわしくない無骨な金属の『義手』と『義足』だった。

 

そして少女の白い肌にはびっしりと大量の『手術痕』が刻まれていたのだから・・・・・・。




以上、一夏視点になります。
基本的に一夏は重要人物なので単独投稿という形にしていきたいと思います。

IS学園編は登場人物が多いので視点切り替えをどうしてこうかなぁ・・・と頭を悩ませていますが頑張って描写していきたいと思います。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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秋二の『焦り』

お疲れ様です。
沢山の閲覧、評価、お気に入り登録ありがとうございますっ!

二月に入ってから仕事のシフトが変わって投稿が遅れました(汗

二時間早く帰れる代わりに二時間早く出勤することになり生活習慣とか体内時計の調整に時間が掛かってしまいました。

だいぶ慣れてきたのでなんとか投稿ペースを週一くらいに出来たらいいなぁ・・・


3時間目始まりのチャイムが鳴り自分の席に着いた秋二の頭の中は『原作』ヒロインの一人のハズのセシリアについて一杯だった。

 

イギリスの代表候補生ではなくレイレナードという自身の『原作知識』にない()()()()()()()()()

 

原作だとAランクのハズのIS適正が()()()()()()()()()()

 

髪型も違う上に()()()()()()()

 

口調が()()()()調()()()()()

 

極めつけには『右手』が()()ときたからには例え秋二だけではなく原作知識という『神』の様な知識を持ち『本来』のセシリアの姿を知っている存在が他にもいたら同じように驚愕しただろう。

 

(本当にどうなってるんだ?セシリアが義手?・・・原作だと両親が事故死だったからこの『世界』だとセシリアも一緒に事故に巻き込まれて負傷して()()()()()とかか?それなら辻妻が合うが・・・。そうだったとしたら・・・。()()()()!!)

 

原作開始早々に原作知識が使()()()()()()()()しれない、ハーレム計画が()()()()()()しれないという焦りから『修正』を行った秋二だったが少し冷静になった今はそれがとんでもない『悪手』だったと後悔した。

 

よくよく考えればもしあのセシリアが初登場時のセシリアと同じく『女尊男卑』思想の持ち主だったら、世界『初』の男のIS適正者とはいえ初対面の男が馴れ馴れしく話しかけた上に名前呼びをさせろなどとほざけば怒り狂っているはずである。なのにセシリアは困惑はすれど名前呼びを『許可』したのだ。

 

そこから考えるに・・・・・・。

 

(まだ確定じゃないが、セシリアは『女尊男卑』思想じゃない()()()()()()()!!クソッ!それさえ分かっていれば『原作』より()()()()()()()だったかもしれないのに・・・)

 

そう後悔する秋二だったが頭を軽く振った。

 

(いや・・・、落ち着け・・・・・・。まだ確定じゃない。とりあえず次はセシリアイベントのクラス代表イベントが始まるんだ・・・。その様子を見てからでも()()()()()、遅くはないんだ・・・)

 

そう思いながら秋二はイベントの発生を待った。

 

そして秋二の記憶通りクラス代表選出のイベント『は』発生した。

 

 

――したのだが・・・、

 

 

「はいっ!私、織斑秋二くんが良いと思いますっ!!」

 

「私も賛成ッ!!」

 

「そうだよね、せっかく男の子の装者がいるんだもんね~」

 

「それが良いよッ!」

 

 

クラスメート達の自分を推薦する声を『当然』のことと思いながら秋二はセシリアを観察していた。

 

するとセシリアはそんなクラスの熱狂に驚きと困惑しながらも恐らくだがクラス代表のために立候補しようと手を上げようとしているようだった。

 

そんなセシリアの様子を見て秋二は確信した。

 

(!?、やっぱりだッ!!『この』セシリアは根本的に『原作』と性格が違うッ!!」

 

もし『原作』通りならセシリアはこの時点で『首席』である自分ではなく自分のことを『挑発』してきた『男』が推薦された事に激怒しヒステリックに男や日本を蔑視しながら抗議したハズだが、この白いセシリアはそんな様子は見られない。

セシリアの様子を見るにあくまで推薦されるのを待つのではなく立候補しようとしていることからクラス代表に()()()()のは間違いないようだが・・・・・・。

 

(どうする!?こんなの想定の『範囲外』だ!?)

 

入学前に原作イベントの際に自分がどう行動を起こすか色々シミュレーションを行っていた秋二だったが、それは()()()()ヒロイン達の性格や行動パターンが大筋で()()()()()()()ことが前提だった。

 

その前提がセシリアという存在によって一気に()()()()()()()のだ。

 

しばらく会っていなかった箒がほぼ原作通りだったので油断していた秋二は、後から入学してくる鈴やシャル、ラウラなどのヒロイン達も性格が大幅に変わっている可能性も・・・、いや、下手をすると()()()()()()()可能性すら存在することに今さら気付いたのだった。

 

(そういえば、神の野郎も()()()()()()()()()こともあるとかなんとか言ってたが、だからってここまで違うなんて・・・)

 

そんなこと思っている間にも『現実』は待ってくれない。

 

気付けばグレイスがせっかく『男』の適正者が二人もいるのだからと一夏と秋二が戦ってより『優秀』な方をクラス代表に選出すればいいと提案を行い、それが千冬によって了承されてしまった。

 

一夏もクラス代表選出戦で戦うことも想定していた秋二だったが、それはあくまでセシリアが参加していることが前提で、『実力者』のセシリアが一夏に勝利し、そのセシリアをIS搭乗経験では『素人』の自分が倒すということで自分の()()()をセシリアに示すというものだったが、素人同士、それも適正が『B』の一夏と『S』の自分だけが戦うのでは、例え秋二が一夏を()()したとしても自分の挑発により悪印象を持っているであろうセシリアには精々「そんなの当たり前」と思われて終わってしまうだろう。

 

――それでは不味い。

 

しかし時既に遅く、今さら秋二がセシリアを推薦するなどの行動を起こすわけもいかず、秋二はただ状況を見守るより他に無かった・・・。

 

 

クラス代表選出の議題が終わった後の授業中、秋二はずっとセシリアへの今後の対応の仕方をモンモンと考えていた。

 

とりあえず、手袋で義手を()()()()()ということはセシリアは自身の『身体』について()()()()()()ことは間違い無いだろうと考え、気付いていなかったとはいえセシリアを()()()()しまったことを謝ろうと思い、授業が終わった後にセシリアの元へ向かおうとしたのだが、謝罪しようとしていたセシリアの元には数人の生徒が先ほどの授業の内容のことでセシリアへ質問などを行っており、普段は空気を読むことなどしない秋二でもそのやり取りの間に割って入ることが出来ず傍観することしか出来なかった。

 

ならば昼休みに話しかけようと考えたのだが、思わぬ『邪魔』が入ってしまった。

 

 

――箒である。

 

 

お詫びにセシリアに昼食でも食堂で奢りながら謝罪とセシリアの情報収集の計画を考えていた秋二だが、その計画を実行する前に箒に「一緒に昼食を食べよう」と誘われてしまったのだ。

 

最初は適当な理由を付けて断ろうかと思った秋二だったが、セシリアがああなっている以上、箒も何か原作と違いがある『可能性』があると思い直し、箒の状態を確認するためにも一緒に昼食を食べることにした。

 

そして一緒に昼食を食べている際に色々話をしたのだが箒に関して()()()()()()()。原作よりも若干しおらしくなっているように感じたが、セシリアのように根本的に変化していているようには秋二は感じられず、秋二はひとまず安堵した。

 

箒が離ればなれになる前のことや、転校した後に勉強や剣道などを()()()()()()ことなどを話し、秋二がその話に相槌を打ちながら聞いていたところで食堂に杖をつきながらセシリアがやって来たのが見えた。

 

チャンスとばかりに秋二はセシリアに話しかけようと思ったが、当のセシリアは()()()()()()()()のか軽く食堂を見渡すと少しがっかりとしたように食事も取らずに直ぐに出て行ってしまった。

 

その様子を見た秋二は唖然とした。

 

(おいおい、教室だと座っているところしか見なかったから気付かなかったけど、もしかして右腕以外にも『何か』あるのかよ・・・。てか、誰かを探しているみたいな感じだったけど、まさか一夏のヤツじゃあないよな?)

 

杖をつきながらよたよたと歩いていた以上、恐らくセシリアは足も悪いのだろうということは分かった。

 

原作では色々な意味で()()()()()セシリアの姿を『知っている』秋二はショックを受けたが、あれだけ『身体』が()()()()()()()ハーレムの一員にした際にギャグ描写だったとはいえ、ヤキモチから自分にIS用の武装をぶっ放してくるなどの暴力行為を行うことはないだろうと思うことで相殺した。

 

問題は『誰か』を探しているような様子だったことだが・・・

 

(・・・もしかして、原作で鈴がやっていたみたいに一夏のヤツと関わろうとして一夏を探しているとかか?それなら・・・)

 

セシリアがクラス代表に立候補しようとしていたことからその可能性は極めて高かった。と、言うよりも仮にセシリアが一夏を探しているとしたらそれしか()()()()()()

 

(なんだよ、形は違うけど『展開的』には問題なしだったってことか。焦って損したぜ・・・)

 

そう安堵した秋二は考え事の間少し黙っていたことに心配していた箒に微笑みながら安心するように言った後、一緒に楽しい昼食を続けたのだった・・・。

 

 

さて、昼休みも終わり午後の授業が開始された後、とりあえずセシリアと戦う展開になるであろうことに安堵していた秋二だったが『今後』のことも考えセシリアについての情報収集をしようと考えていた。

 

展開的に問題なくてもセシリアの状況がまったく違うため、セシリアに『勝利』したとしても原作通りにいかない可能性も()()()()()、少しでも情報が欲しかった。

 

そこで間違い無くセシリアについて知っており、姉である千冬に話しを聞こうとしたのだが千冬は仕事が忙しいらしく、実際に話せたのは放課後になってからだったのだが・・・。

 

 

「千冬姉・・・、いや、織斑先生!!少し聞きたいことがあるんだけど・・・」

 

「む、織斑弟か。なんだ?寮のことに関してなら山田先生に・・・」

 

「いや、そうじゃなくて・・・。聞きたいことっていうのは()()()()()()()()なんだけど・・・」

 

すると千冬の眉がピクリと動いたが秋二は気付かなかった。

 

「・・・オルコットがどうかしたのか、織斑弟?」

 

「いや、どうってわけじゃないけど・・・。えっと、右手が義手だったし、杖をついて歩いていたからどうしたのかなって心配になって・・・・・」

 

そう言う秋二の言葉に目を険しくしながら千冬は口を開いた。

 

「・・・オルコットが自己紹介の時に言っていただろう?()()()()()()、と。つまり、そういうことだ」

 

「え、いや、それは分かるけど、そうじゃ「なぁ、織斑弟」な、なんだよ」

 

「何故、オルコットが義手だと()()()()()?今日は実技もないし、オルコットは手袋をしているから義手かどうかなど()()()()()()()だが?」

 

自分の言葉を遮りそう質問してくる千冬の目を見て秋二は思わず息を呑んだ。

 

 

――千冬の目に明らかに怒気が込められていたからだ。

 

 

驚きのあまり言葉を発せないでいた秋二をそのまま数秒見つめていた千冬だが、怒気を納めると普段通りの目に戻し、ため息をつくと口を開いた。

 

「・・・オルコットの身体に関しては『一応』事情は()()()()()()。しかし、それを私の口から教えることは出来ん。デリケートなことであるからな・・・。知りたければオルコットが『自分から』教えてくれるのを待つのだな。・・・だが、織斑弟。お前に一つ『忠告』しておこう」

 

「ちゅ、忠告?」

 

「お前のことだから、オルコットに対して何か()()()()()()()()などと考えているのだろうが、それは止めておけ。やるにしても『常識的』な範囲で、オルコットから()()()()()()()()()()にしろ。・・・相手の『ため』だと自分勝手な『善意』の言動が、その相手にとっては『悪意』でしかないことなど多々あるのだからな・・・・・・』

 

「そ、それって、どういう・・・」

 

「それは()()()()()()。・・・私はこれから会議があるので話はこれまでだ」

 

そう言うと千冬は秋二を置いてその場を立ち去った。

 

「善意が悪意?は?意味わかんねぇ・・・」

 

千冬の言葉の『意味』が分からず、唖然としていた秋二に背後から声が掛けられた。

 

「秋二さま?」

 

振り返るとグレイスが立っていた。

 

「あ、あぁ、グレイスか・・・。何か用?」

 

そう訪ねる秋二にグレイスは優雅に微笑みながら答えた

 

「いえ、秋二さまがお困りのようでしたので声を掛けさせていただきました。秋二さまは、()()・・・、いえ、『オルコット』について知りたいようですね?どうです?もしよろしかったらわたくしが『知っている』範囲で教えて差し上げましょうか?」

 

そのグレイスの提案は千冬にセシリアのことを()()()()()()()が出来なかった秋二にとって願ったり叶ったりだった。

 

(流石に千冬姉よりも詳しくはないだろうけど、グレイスなら何かしら知っているか・・・。セシリアに聞くにしても前情報はあった方も良いしな・・・。あ!?ついでだからレイレナードとかいう企業についてもグレイスに教えてもらうか!!)

 

そう考えた秋二は先ほどの千冬のセシリア『自身から』という言葉も忘れ、グレイスの提案を了承することにした。

 

「ありがとう、グレイス。じゃあ、悪いんだけど『セシリア』について教えてくれないか?ついでだからレイレナードとかいう『企業』についても教えてくれると助かる」

 

秋二がセシリアと名前を呼んだ時、ほんの僅かにグレイスの目元がピクッと動いたが秋二は気付かなかった。

 

「・・・えぇ、教えて差し上げますわ・・・・・・。立ち話もなんですから、良い茶葉もありますし、わたくしの部屋でお茶でも飲みながらお話ししましょう・・・・・・」

 

「え、いいの?

 

「えぇ、大丈夫ですわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他ならぬ秋二さまの『ため』ですから・・・」




以上になります。

大変申し訳ありません。実は活動報告で今話で千冬視点、及びIS学園側も書くみたいなことを報告していたのですが流れが分かりづらい形になってしまったので今話は秋二視点のみになってしまいました。

千冬視点などを楽しみにしていた方がいたら申し訳ありませんでした。

これからは進捗や内容についての活動報告を行う際は確定してから行うようにしたいと思いますので再発しないようにしたいです。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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千冬の『後悔』

お疲れ様です。

なんとか二日の連休が終わったので頑張って書きました。
すこし短いかと思いましたがキリが良かったので一回投稿して、今月中にあと1、2話投稿しようと思います。


屋上で自分を一瞥もせず去って行く一夏の背中を見送った千冬は、自分の言葉が一夏にさして響いていないのを理解し、ため息を吐いた。

 

(なにを感傷に浸っている?織斑千冬。全ては『お前(自分)』の()()()()だろう?)

 

そう自嘲しながら千冬は一夏との関係が決定的になった出来事を思い返す。

 

 

それは三年前。当時中学一年生だった一夏達の期末試験が終わったあたりの頃だった。

 

 

『千冬姉、千冬姉ッ!見てくれッ!!俺、期末の数学で満点だったんだっ!!』

 

休暇で久々に家に帰っていた千冬に一夏が目を『期待』に輝かせながら赤字で100と書かれた答案用紙を見せてきた。

 

 

・・・この時の一夏は恐らく、いや、間違いなく千冬に『褒めて』欲しかったのだろう。

 

 

――すごいじゃないか、一夏!()()()()()()()!!

 

 

そう言って欲しかったのだろう・・・。

 

 

だから千冬の発した言葉にあんな顔をしたのだ・・・。

 

 

「そうか、秋二に負けないように()()()()()()?」

 

 

そう千冬が言った瞬間の一夏の顔を千冬は今でも忘れない。

 

 

 

 

 

――あの『絶望』した一夏の顔を・・・・・・。

 

 

 

 

 

千冬には一夏に対して『悪意』などなかった。ただ『期待』して、『激励』をしたつもりだった。

 

・・・今にして思えば千冬は感覚がマヒしていたのだろう。

 

 

――千冬は世界最強で人々から認められる『天才』だった。

 

 

だからといって千冬自身、驕っているわけではなかったし、自分と他人には一部の人物を除いて明確に『差』があることを分かっているつもりだった。理解しているつもりだった。

 

 

――しかし、『双子』の弟達の存在がそれを狂わせた。

 

 

双子の弟の秋二は幼いときから()()()()いて、我が儘などもあまり言わなかった。

 

兄の一夏の方は世間一般で言うところの年相応の、『普通』の子供の我が儘を言ったり癇癪などを起こした。

 

二人が成長すると秋二の方はどうやら『才能』があったらしく、剣道を初めとした様々な競技で日本記録を塗り替える成績を残し、勉強の方も毎回全国模試で一位だった。

 

では兄の一夏の方はどうかというと、ごく『普通』だった。

 

いや、正確に言うと世間一般の平均よりも間違いなく上ではあったが、勉強もスポーツも弟の秋二には当然及ばなかった。

 

だからといって千冬は一夏のことを“出来が悪い”、“才能が無い”と秋二と差を付けて接するということはなく、『()()』に接した。

 

 

――当然だ。

 

 

一夏も秋二も千冬にとって『大切』な弟で『家族』なのだから・・・。

 

 

だがこれが大きな間違いだった。

 

 

千冬は確かに二人に『平等』に接し、片方を『優遇』することはなかった。

 

 

二人の『能力』がほぼ『()()』ならそれで良かった。

 

しかし、一夏と秋二の二人には明確な『差』があった。

 

そんな二人を『平等』に扱ったら()()()()()

 

必然、『優秀』な秋二の方が褒められることが多くなる。さらに一夏にとって不幸だったのは千冬が二人を『平等』に扱う以上、一夏が千冬に褒められるためには秋二と『同等』のことをしなければいけないということだった

 

 

それが一夏にとってどれだけ『大変』で『苦痛』だったかのか千冬は理解していなかったのだ。

 

 

――『(織斑千冬)』の弟なのだから、双子の()()()()()()のだから、頑張れば()()()()()()はず・・・。

 

 

そんな勝手な『期待』が、『善意』の『激励』が大切な家族を傷つけた。

 

 

・・・その夜に一夏と話そうと思い一夏の部屋に入った千冬は己の罪を再確認することになった。

 

一夏は既に眠っていた。

 

起こすのも忍びないと思った千冬は一夏を起こさない様に部屋から出ようとしたが、ふと一夏の勉強机を見た。

 

机には付せんが沢山貼られた各教科の教科書に参考書、そして山積みにされたノートがあった。

 

 

――一夏は間違いなく頑張っていたのだ。精一杯努力していたのだ。

 

 

そんな頑張っていた一夏に千冬は「まだ足りない。()()()()()()」と言ったのだ。

 

 

千冬は堪らず部屋から飛び出した。

 

 

次の日から一夏は変わった。

 

千冬のことを今までの『千冬姉』呼びから『姉貴』と呼ぶ様になった。

 

そして両親がいないという理由で学校から許可を貰いバイトをするようになった。

 

今まで勉強に充てていた時間をバイトに費やしたため当然一夏の成績は下がった。(それでも平均ぐらいは維持していたようだったが・・・)

 

一夏が何を考えているか千冬は察したがそれを指摘することは出来なかった。

 

それでも千冬はなんとか関係を改善しようとして“なにか切っ掛けになれば”と第二回モンド・グロッソに一夏と秋二を現地に招待した。

 

 

――これがとんでもない『悪手』だった。

 

 

結果、関係改善どころか『最悪』だと思っていた一夏との関係はさらに下へ突き抜けることになってしまったのだ・・・。

 

 

そして()()()と言わんばかりに今回のクラス代表選出だ。

 

 

・・・実を言うと、クラス代表選出が今回の流れになるのは事前に想定されており、()()()()()から秋二が戦うことになるのは決定していたのだ。

 

想定外だったのは秋二の対戦相手が一夏()()になってしまったことだった。

 

もし参加者に専用機持ちのオルコットなりファロンなりが居ればそれを理由に一夏を外すことも出来たが、二人が参加せずクラス中をあの様に『煽動』された中でそのようにすれば不自然になるため千冬は動けなかった。

 

結局、千冬に出来たことは一夏に一週間の訓練機とアリーナの優先使用権を与えることだけだった。

 

千冬はつくづく自分が情けなくなった。

 

(何が『天才』だ、『世界最強』だ、『ブリュンヒルデ』だ、笑わせる・・・。お前など、ただ『権力』に従い、傷つけた弟をさらに苦しめるとんでもない悪女ではないか・・・)

 

そう自虐しながら千冬は屋上を後にしたのだった・・・。




なにをもって『平等』とするかって難しい・・・

2023/09/14 過剰強調修正

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千冬の『苦悩』、楯無の『義務』

お疲れさまです。
お気に入り登録2000突破ありがとうございますっ!
これからも頑張って少しでも良い作品を投稿できるように頑張りますっ!!


屋上を後にした千冬は憂鬱になった気分を表情に出さないようにしながら会議室へと足を進めていた。

 

途中、千冬の姿を見た新入生達が黄色い声を上げる。

 

「きゃ~、本物の千冬様を見ちゃった!!」

 

「凜々しいお顔がやっぱり素敵よね!!」

 

そんな彼女達を無視しながら歩く千冬は表情こそ変えなかったが心の中で大きなため息を吐いた。

 

(何も知らない者達が羨ましいよ。・・・彼女達が本当の『私』を知ったらどう思うのだろうな・・・・・・)

 

千冬は心の中でそう愚痴る。

 

自分を『憧れ』の目で見つめる彼女達の千冬は天才で世界最強、容姿端麗で高潔無比、地位や権限もある完璧超人なのだろう。

 

――だが、『現実』は違うのだ。

 

いや、全てが違うと言う訳ではない。いくつかは正しい。

 

自慢ではないが容姿に関しては客観的に見て優れているのだろう。単純な戦闘、身体能力も他の者に遅れを取ることはないだろうし、つもりもない。伊達に世界最強の『称号』を与えられている訳ではないのだ。

 

――だが、()()()()()

 

千冬も『ヒト(人間)』なのだ。完璧超人などではなく、人並みなところも劣っているところも、出来ること、出来ないことがある『ヒト(人間)』なのだ。

 

心身ともに疲れるし、眠くもなる、腹だって減る。自分の無神経さで大切な弟のことを傷つけ家族関係は最悪と言っていいし、家事だって苦手だ。

 

世界最強と言っても、ただ直接的な『力』が強いだけで石器時代ならいざ知らず、現代社会の一員である以上、むやみに振れるものではなく、さらにその『称号』が千冬の『自由』を縛り、例えば、何か嫌なことがあって居酒屋でヤケ酒をして酔い潰れたくなったとしても世間のイメージする『千冬像』を崩さないためにも千冬は()()()()のだ。

 

地位や権限だって確かに発言力や有力者との繋がりもあるが、それはあくまでISに関係する場合であって、そのISを国家や国連が管理・運用している以上、千冬は立場上その意向に内心で()()()()()があっても()()()()()()()()()()のだ。

 

 

――それが彼女達の憧れる『織斑千冬(世界最強)』という存在なのだ。

 

 

あぁ、それにしても・・・・・・

 

 

(出来ること、出来ないことがある、か・・・。それを私は()()()()()()()()()()のに、この『ザマ』だ。結局は私も、()()()と同じだったと・・・・・・)

 

 

「千冬姉・・・、いや、織斑先生!!少し聞きたいことがあるんだけど・・・」

 

千冬がそんなことを考えていると後ろから秋二に話しかけられた。

 

「む、織斑弟か。なんだ?寮のことに関してなら山田先生に・・・」

 

そう言えば一夏には千冬が寮のカギを渡したが、秋二の方は真耶に任せていたのでそう言おうとした千冬だったがそれを遮って発せられた秋二の言葉はまったく違う物だった。

 

「いや、そうじゃなくて・・・。聞きたいことっていうのはセシリアについてなんだけど・・・」

 

秋二の口からこれから行われる会議の議題となる少女の名前が出たとき、一瞬反応しそうになった千冬だったがなんとかそれを押し込めた。

 

「・・・オルコットがどうかしたのか、織斑弟?」

 

「いや、どうってわけじゃないけど・・・。えっと、右手が義手だったし、杖をついて歩いていたからどうしたのかなって心配になって・・・・・・」

 

ふむ、なるほど。確かに『普通』の感性がある『ヒト』ならばオルコットの身体のことを知れば心配の一つはするだろう。

 

――だが、秋二よ。お前に一つ問いたい・・・。

 

「・・・オルコットが自己紹介の時に言っていただろう?()()()()()()、と。つまり、そういうことだ」

 

「え、いや、それは分かるけど、そうじゃ「なぁ、織斑弟」な、なんだよ」

 

自然と目が険しくなっていくのに気付きながらもそう返した千冬の言葉に反論しようとした秋二を遮り、千冬は問いを掛ける。

 

「何故、オルコットが()()()()()()()()()?今日は実技もないし、オルコットは手袋をしているから義手かどうかなど()()()()()()()だが?」

 

――そうなのだ。

 

セシリアは手袋を嵌めている。

 

事前の面談でセシリアと会話した際本人が言っていたのだが、自身の身体についてセシリアは気にしていないそうだが、他者が義手を見た際に()()()()()()()可能性もあるため極力手袋を嵌めて見えない様にしていると言っていたのだ。

 

そして今日は実技がないためセシリアが手袋を外す機会などない。つまり秋二がセシリアが義手だと知るためにはセシリアが手袋を外しているところを見る、握手などで実際に触れて違和感を感じる、セシリア本人が自身の身体について秋二に話すなどになる。

 

偶然見た、触れて義手だと気付いた、ならばまだ良い。

 

しかし、学園生活初日で特に接点のない秋二にセシリアの方から話す可能性は()()()()。と、言うよりも話していたら秋二が千冬に聞きに来る必要など無いのだ。どのようにセシリアのことを秋二が知ったか分からないが、場合によっては秋二は勿論、現時点で目的が不明とはいえセシリアにも()()()()()()()()()。なので千冬は確かめるために秋二に問いを投げかけた。

 

千冬の問いに対して秋二は答えようとせず、()()()()()()

 

そんな秋二の様子を見て千冬は大体の状況を察した。

 

――それはまずい。

 

セシリアは下手をすると男の適性者である秋二と一夏よりも()()()()()

 

これからのためにも中途半端に情報を与えて変な先入観を持たせない方が良いと判断していたのだがそれが裏目に出たようだった。

 

その事実に千冬は頭を痛めながらも口を開いた。

 

「・・・オルコットの身体に関しては『一応』事情は把握している。しかし、それを私の口から教えることは出来ん。デリケートなことであるからな・・・。知りたければオルコットが『()()()()』教えてくれるのを待つのだな。・・・だが、織斑弟。お前に一つ『()()』しておこう」

 

「ちゅ、忠告?」

 

「お前のことだから、オルコットに対して何か()()()()()()()()などと考えているのだろうが、それは止めておけ。やるにしても『常識的』な範囲で、オルコットから()()()()()()()()()()にしろ。・・・相手の『ため』だと自分勝手な『善意』の言動が、その相手にとっては『悪意』でしかないことなど多々あるのだからな・・・・・・』

 

「そ、それって、どういう・・・」

 

「それは自分で考えろ。・・・私はこれから会議があるので話はこれまでだ」

 

そう言うと千冬は会議室へ向けて歩き出した。

 

しかし、内心は穏やかではなかった。

 

(()()()()言っているのだろうな。私にそんなことを口にする『資格』などないと言うのに・・・・・・)

 

だが、言わなければならなかった。

 

千冬から見た秋二は『優秀』ではあるが、家族会議の際にもあったように空気を読まない、いや、空気が読めないことがあった。

 

千冬も気付いたときには注意していたが中々治らず、頭を悩ませたこともあった。

 

今まではなんとかなったが、この調子で最悪、何かセシリアと・・・、いや、その背後にいる『企業(レイレナード)』との間に問題が起こった際に現時点でどの国家にも所属していない秋二を()()()()()とは情けないことだが()()()()()()こと、そして、なによりかにより・・・・・・。

 

 

 

 

 

大切な『家族』に()()()()()()なって欲しくなかったのだから・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「すみません、聞き間違いでしょうか?」

 

IS学園の生徒会長室でIS学園最強であり生徒会長の『更識楯無』は普段の飄々とした態度とは違い真剣な様子で通話を行っていた。

 

『聞き間違いではない。弟の方には()()()()()()専用機で戦ってもらう』

 

「・・・それは対戦相手が専用機持ちの場合の話ではなかったのですか?今回の場合、その条件ではあまりにも公平性に欠けると思いますが?」

 

楯無は通話相手に苦言を呈す。

 

『人間も社会も()()()()()()()()()()。それは君がよく()()()()()()のではないかね?』

 

――ギリ・・・

 

その言葉に楯無は唇を噛みしめる。その間にも相手は言葉を続けた。

 

『とにかく決定は覆らない。公平性が大事だと言うならば兄の方に一週間の訓練期間を与えたのだろう?ならばその時に、君でもブリュンヒルデでも良いから教導を行えば最低でも『公平感』は与えられるのではないかね?

・・・私からは以上だ。生徒を大事にするのも良いが君は君の『義務』を果たしたまえ』

 

そう言って通信は切れた。

 

通信が切れた後、楯無は持っていた通信機を床に叩きつけようと腕を振りかぶったが、そんなことをしても意味がないと思い直しゆっくりと腕を降ろし、大きなため息を吐いた。

 

(やはり、政府に追加予算と人員を要請すべきではなかったかしら・・・。いえ、しかし・・・・・・)

 

楯無は心の中でそう独りごちる。

 

楯無が通話を行っていたのは日本政府の関係者だった。

 

本来なら学園側から政府に対して予算や人員の追加を要請することなど()()()()()のだが今年度は違った。

 

去年の段階でISの生みの親である束の妹の箒が入学が決まった際に箒の安全のために例年の予算よりも多めに組んでいたのだが、()()()()()の入学が決まったため更に予算を追加することになった。

 

そして予算が議会で通過しホッと一息ついたのも束の間、とんでもないイレギュラーが発生した。

 

――男のIS適正者が()()()現れたのである。

 

男のIS適正者が現れたのは別に良かった。問題は二人も現れたことでる。

 

こんなことを楯無は思いたくはなかったが、現れた適正者が()()()()()()()()()()()()元々余裕をもって組んでいた予算と人員でなんとかなったのだが、二人ともなればそうはいかなかった。

 

なので不足分の予算と人員を調達する必要があったのだが、政府へ要請した結果、追加は認められたのだが『条件』を出されてしまった。

 

それは“織斑秋二に『倉持技研』が開発した第三世代機を専用機として与えるので戦う場を設けよ”と言うものだった。

 

その条件を提示されたとき、自身の考えていた以上に日本政府が焦っていること思い知らされた。

 

だが、それは仕方が無いかも知れない。

 

(去年、米国議会で通過したあの法案、そして彼女の『機体』・・・。『企業』は予想以上に力を付けている。焦るのは仕方がない、仕方がないけれど・・・)

 

そう考えた楯無は軽く頭を振ると苦笑した。

 

(なにを考えているの?『私』は()()()()()()『更識家』17代目当主『楯無』なんでしょう?なら、例え誰から()()()()()()()()()()()()『義務』を果たしなさいっ!!)

 

そう自身に喝を入れると予定されている会議へ向かうため部屋を後にするのだった・・・・・・。

 




会長は口調が場面によってコロコロ変わるから喋らせるのが難しい・・・。

個人的に会長の設定が原作で一番ぶっ飛んでるような気がするなぁ・・・。

2023/09/14 過剰強調修正

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IS学園会議

お疲れ様です。

なんとか今月終わりまでに投稿出来ました。
次話からセシリア視点になります。長かった・・・。


学園内にある防諜対策のされた会議室に複数の人間が集まっていた。

 

集まっていたのは教員側は世界最強『織斑千冬』を筆頭に他数名。生徒側は生徒会長『更識楯無』を中心とした生徒会メンバーと、そうそうたるメンツだった。

 

「すみませんっ!遅れましたっ!!」

 

そこへ慌てた様子で1年1組副担任の『山田真耶』が入ってきた。

 

「いえ、大丈夫ですよ、山田先生。・・・それでは全員揃いましたので、これから定例会議及び報告会を始めます。まず、お手元の資料をご確認下さい」

 

真耶の入室を確認すると楯無はそう宣言した。

 

そして各々が資料を確認すると、資料を読んでいた千冬が静かに声を上げた。

 

「・・・更識、これはどういうことだ?」

 

「どう、とは?」

 

「とぼけるな。織斑弟が専用機を使用するのは専用機持ちと対戦する場合のみだったはずだが?」

 

声色こそ普段通りだが、明らかに怒気が込められた千冬の言葉を受けても楯無は表情を崩さず、至って冷静に答える。

 

「それにつきましては政府の・・・、いえ、正確に言えば政府と倉持技研の意向ということになるでしょう。資料を読んでいただければ分かりますが、両者ともに『不安』と『焦り』を抱いています。政府は去年、米国議会を通過した企業に対する法案に先進各国が追従する流れを、倉持技研は自身が旧『デュノア社』の二の舞になることを・・・」

 

「・・・それで、その『不安』と『焦り』とやらを解消する方法が織斑兄を弟の()()()にすることだと?」

 

「はい、端的に言うと()()()()()()

 

そうきっぱり答える楯無に対して千冬の目が鋭くなる。

 

(覚悟をしていたとはいえ、やっぱりきついなぁ・・・)

 

そう内心で思いながらも楯無は説明を続ける。

 

「織斑先生、今回のことに関しては私としても本意ではありません。しかし、現在、織斑先生もご存じでしょうが、国際IS委員会の一部強硬な委員が秋二くんの身柄を研究所に引き渡すように頑なに主張しています。

調査の結果、この委員達はGA社から法の範囲内とは言え多額の献金を受け取っていたことが分かっています。

・・・当然のことながら表になっていない部分でも受け取っていることでしょう。そして、その引き渡しを主張している研究所も()()()()()()()()()()()()研究所であることが分かっています。

・・・現在は中道派、穏健派の委員が強硬派を押さえていますが、彼らも一枚岩ではありません。中には適正で劣る一夏くんの方を、いっそのこと『平等』に()()()()などと言う声も上がり始めています。このままでは強硬派が、いえ、()()()()彼女達の切り崩しを測れば、最悪二人にとって良くない結果になります」

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

「・・・去年、米国で通過した企業が所有する独自戦力の制限の緩和、いえ、()()()()()()に各国が同調する流れがある以上、米国を本拠地とするGA社のみではなく六大企業の力は更に強まることでしょう。

そうなれば、現在二人の男性IS搭乗者をデータ収集などの形で日本に所属させようとしているものの、六大企業の本拠地となっていない日本政府の発言力は弱まってしまいます。

そうなってしまってからでは遅いのです。・・・『納得』はし難いと思いますが、『理解』して下さい」

 

 

楯無の言葉を受けて千冬は目を瞑り考える。

 

 

(つまり、政府と倉持技研の考えとしては、あくまで試合という形ではあるが、実際は日本製第三世代機と秋二の優秀性をお披露目する舞台に過ぎないと言うこと、か・・・。適正値が全てではないが、二人が戦って一夏が秋二に勝利、いやある程度食い下がっての敗北すらも()()()と言える。一夏が敗北しても適正値に差があり、相手は専用機だから負けても『仕方がない』と言い訳は出来る、出来るが・・・)

 

 

――それではあまりにも一夏が・・・・・・

 

 

「更識、一つ、いや、二つ聞きたい」

 

「なんでしょう?」

 

「一つは今回の勝敗の如何に関わらず、政府は二人を日本所属に動くと考えていいのか?」

 

「・・・内容にも依りますが、一人は日本所属に、もう一人は政治的判断もありますから日本ではないでしょうが別の国家所属に動くと思います。少なくとも研究所へ引き渡しとはならないでしょう」

 

楯無の回答に千冬は軽く頷くと何か決心した顔になった。

 

「分かった。もう一つなのだが、・・・織斑兄の一週間の訓練期間に私が教導を行うことは可能か?」

 

その千冬の問いに楯無は・・・・・・

 

「・・・可能か不可能かで言えば可能ですが、それは止めた方が良いでしょう・・・・・・」

 

「・・・理由は?」

 

楯無の言葉に千冬は不服そうに訪ねる。

 

「理由としては、勝っても負けても一夏くんのためにならないからです。・・・織斑先生は『特別』な存在です。そんな先生がマンツーマンで教導を行うとなれば生徒達の間で不公平感が確実に出ますし、仮に一夏くんが勝利した場合は織斑先生の教導のおかげ、負けた場合は織斑先生に教導してもらったのに、という意見が()()()()()ことになります。

それは仮に私が教導を行った場合にも言えるでしょう。

個人的には教導を行うにしても上級生の専用機持ちか山田先生にお願いしたいと思っています。秋二くんが使用することになる機体はかなりピーキーな性能ですから、それで一夏くんの()()()な敗北、とはならないかと・・・」

 

 

(とは言っても、当の本人にやる気がないとどうしようもないのだけれど・・・・・・)

 

 

そんなことを表情に出さないように楯無は考えた。

 

 

「・・・そうか、分かった。教導の人選に関しては私も加わりたいが、構わないな?」

 

「はい、構いません。申し訳ありませんがよろしくお願いします」

 

「いや、私も少々私事が過ぎた」

 

そう返した千冬だが胸中は複雑だった。

 

(家族を養うために必要だったものが、家族を助けるのに邪魔になるとは・・・。全く・・・)

 

顔をほんの僅かに暗くした千冬に()()()()()()()()()()楯無は気が付いたものの見なかったことにして次の議題に移った。

 

「さて、次の議題ですが・・・。例の彼女、セシリア・オルコットとレイレナード社に対する調査報告になります」

 

楯無の言葉に各々が手元の資料に目を通し、顔を歪めていく。

 

「あ、あのっ、楯無さんっ!こ、これって・・・」

 

真耶が堪らずといった風に声を上げる。

 

それに軽く頷くと楯無はゆっくりと語り出した。

 

「はい、彼女の義手と義足ですが、スペアを含めて確認したところ、()()()()()()()()()()造られていることが分かりました」

 

その言葉に会議室にいる人間達は悲壮な顔をする。

 

当初、IS学園側としてはセシリアを『企業』からの諜報員として見ていた。しかし、レイレナードから提出されたセシリアと言う少女の資料を確認すると不自然なところが多すぎた。

 

まず、セシリアはレイレナードのIS関連事業のテストパイロットとしてスカウトされたということだったが、彼女のIS適正は『Cランク』と低い数値だ。

なら、第三世代機特有の特殊兵装を扱う為の何らかの適正があるのかと思えば、セシリアの専用機は機動性やシールドエネルギー出力や容量などの基礎スペックは既存機を圧倒しているものの、兵装自体は特別な才能を必要としないモノだっため、なぜレイレナードはわざわざ()()()()()()()()()()()()()()()()()?ということだ。

 

次にセシリアの身体と容姿についてだ。

 

――セシリアには四肢が無く、頭髪は白い。

 

しかし、レイレナードにスカウトされる前のセシリアは『普通』の身体で頭髪もブロンドだったのだ。

 

このことについて指摘するとレイレナードは、

 

「四肢は試験中の事故により損失。頭髪はその際の精神的ストレスによるもの」

 

の一点張りだった。

 

その回答を聞いて「はい、そうですか」と当然納得など出来なかったものの、相手は新興とはいえ六大企業の一角であるため、それ以上追求は出来なかった。

 

楯無としては正直なところ、ここまで「疑って下さい」と言わんばかりのセシリアとレイレナードが諜報活動を行っているとは思っていなかったが、放置するにはあまりにも()()()()()

 

なので、もしかしたら義手や義足に何か仕込まれているのではないか?と思い、“故障した際に学園内で修理が出来るようにするために少し義手と義足を調べさせて欲しい”とセシリアに要請した結果が()()である。

 

 

――セシリア・オルコットは間違いなく、『企業』に()()()()()()のだ。

 

 

楯無には『良心』がある。ちゃんとした『倫理観』もある。

 

 

――しかし、同時に暗部としての『義務』がある。。

 

 

(セシリアちゃんが『企業(レイレナード)』に利用され食い物にされた()()()『被害者』ならこちら側に引き込んで企業を糾弾。

全て同意の上で企業に協力しているなら目的を突き止めて企業を糾弾。

・・・私がやることは変わらないわ・・・・・・)

 

 

この場では()()()()()()()()()()ことを考えながら楯無は千冬に話しを振る。

 

「織斑先生。まだ初日ですが、彼女。セシリアちゃんの様子はどうでした?」

 

「・・・増長することなく、空気も読めるし、気遣いも出来る。物腰も柔らかく、まぁ、皆が想像する名家のお嬢さま、と言ったかところか・・・。正直、アレが演技だとしたら世界でも有数の名女優になれただろうな・・・・・・」

 

「そうですか・・・。山田先生は?」

 

「・・・・・・こんなこと、教師として私は思いたくありませんが、私は、オルコットさんが『怖い』です・・・・・・」

 

真耶のセシリアが『怖い』と言う発言に楯無と千冬は驚く。

 

それに気付いた真耶は慌てて口を開く。

 

「あ、いやっ!別に今日なにかがあったとじゃないんですっ!!

・・・オルコットさんに何があったのか私は分かりません。目的も分かりません。でも、オルコットさんは楽しそうにしているんです。休憩時間にクラスメートから授業内容の質問を受けても、嫌な顔をしないで()()()()()教えて上げて、交流を楽しんでいるように私には見えました。

だからこそ、私は怖いんです。

・・・教室で笑っているオルコットさんと、戦っているオルコットさんのどちらが本当の彼女なんでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

――私には、まるで彼女が『分裂』しているように感じてしまって・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

『本社から連絡とは、どうした?』

 

『報告です。来週、()()()()が模擬戦を行うそうです』

 

『ふむ、そうか。他の対戦相手は?確か、『原初』が同じクラスだったな。彼女も戦うのか?』

 

『いえ、どうやら兄弟同士で戦うことになったようです』

 

『む、そうか。・・・その模擬戦、私も見ることは出来るか?』

 

『は、戦闘記録は公開されるそうなので模擬戦が終わり次第・・・』

 

『いや、直接見ることは出来るか?』

 

『直接ですか!?倉持技研が現地入りするそうなので、我々も可能ですが・・・。よろしいのですか?GAと共同訓練中なのでは?』

 

『大丈夫だ。予定では前日までには訓練は終わる。終わり次第、そちらへ向かうとしよう』

 

『分かりました。しかし、無理はなさらないで下さいね、『隆文』様・・・』

 

『今は『ワカ』だ。・・・さぁて、どんなものか・・・・・・』




お茶会形式にしようか、報告書形式にしようか悩みましたが、多人数の心情を描写する練習のためにこんな形にしましたw

2023/09/14 過剰強調修正

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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お茶会①

お疲れ様です。
皆さん、ガチタンと有澤大好きですねw

作者もですw


さて、再びどっかに行ってしまった一夏を追いかけようと俺は準備を始めた。

 

下着を着け、髪を乾かし最低限整えて、クローゼットから新しい制服を取り出し着替える。

 

 

――えっ、ずいぶんのんびりしてる?すぐに追いかけなくて良いのかって?

 

 

それはしゃーない。

 

『淑女』たるもの身だしなみはしっかり整えないといけないのである。

 

これでも結構妥協してるんだぜ?本当だったらもっと髪とかもしっかりと整えないといけないんだからね?

 

さて、そんなこんなで準備が完了したわけだが、仕方ないとはいえ結構時間が経ってしまった。

 

しかし、俺は慌てていなかった。

 

だってさ、なんで一夏が俺の部屋に入ってきたかは分からんが、多分、部屋を間違ったとかそんなんだろうから隣の部屋とかが一夏の部屋ってことだろ?

 

つまり周囲の部屋を確認すれば一夏がいるってワケだ。問題なし!!

 

あっ!でも、一夏には弟の秋二がいるわけだから『普通』に考えたら男同士で二人一緒の部屋にするよな?

 

ってことは俺が部屋を訪ねたら秋二のヤツもいる可能性があるのかぁ・・・。

 

あいつ訳分からんから正直苦手なんだよなぁ・・・。面倒なことになりそう・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・。

 

ま、まぁ、その時はなんか適当な理由をでっち上げて一夏だけ引っ張り出せば良いや!

 

もしかしたら俺みたいに一夏も一人部屋かもしれないし、気楽にいこう、気楽にさっ!!

 

そう思いながらドアを開けると・・・、

 

「うわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

一夏がいた。

 

うっわ!?びっくりした!!

 

どうやら一夏はドアの真ん前にいたらしく、俺がタイミング良くドアを開いたので驚いたようだった。

 

俺もびっくりしたので少し悲鳴を上げてしまった。

 

いかんいかん。貴族たるもの、どこぞの顎ヒゲのMr.うっかりも言っていたが、『余裕』を持って『優雅』でいなくてはいけないというのになんたるザマだ。

 

なので俺は落ち着いて一夏に話しかけることにした。

 

「驚かせてすみません、一夏さん。大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ、大丈夫だけど。その・・・」

 

?、なんか歯切れが悪いな・・・。あ、そっか!!

 

「あ、先ほどの件でしたら私は気にしてないですよ?一夏さんは部屋を間違ってしまったんですもんね?それなら仕方ないですよ。私の方こそ申し訳ありません。本当でしたらすぐに追いかけるべきだったんですが・・・」

 

あれだろ?事故とは言え俺の裸を見ちゃったからどう対応したらいいか分かんないんだろ?

 

大丈夫。平気、平気、平気だから。むしろ俺の方こそごめんね?多分だけど俺が身支度している間ずっと部屋の前いたんだろ?すまぬ、すまぬ。

 

「あ、お、おるこっ、オルコットさんは悪くないよ・・・。俺が悪かったんだ、その、すまん・・・」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。あ、言いづらそうなのでセシリアで良いですよ?一夏さんはずっと外で待っていたんですよね?わざわざすみません」

 

「あ、いや、俺は別にずっと待っていた訳じゃないから大丈夫なんだ。ちょっと職員室に行っていて・・・」

 

「?、職員室に?」

 

「あぁ、ちょっと確認のために・・・。って!?おるこ、セシリアは()()()()んじゃないのか!?」

 

「?、聞いている、ですか?」

 

はて?何のこと?

 

一夏の言葉に俺が不思議そうにしていると一夏が重々しく口を開いた。

 

「いや、その、『一緒』だって・・・」

 

「一緒・・・、ですか?」

 

え、なに?本当に何のこと?怖いんですけど・・・

 

「だから、俺とセシリアが、その・・・、()()()()()だって・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・なぁにそれぇ?

 

 

 

 

 

 

ハ!?いかんいかん!!

 

落ち着け、余裕を持って優雅たれだッ!!

 

むしろ計画のために一夏とじっくり話し合いたいと思っていたからチャンスじゃないか!!

 

俺は胸元から懐中時計を取り出し、時間を確認する。

 

――うん、時間もちょうど良いッ!

 

ならばやることは一つッ!!

 

「そ、そうですか。とりあえず、その件について詳しく一夏さんのお話も聞きたいですし、立ち話もなんですから部屋の中で・・・・・・・」

 

 

 

 

 

――『お茶会』だ。

 

 

 

 

 

「さ、どうぞ座って下さい。今、お茶の準備をしますので」

 

「いや、俺も手伝うよ?」

 

「いえいえ。IS学園で初めての『お茶会』なので私にもてなさせて下さい。まぁ、少々急なので十分とはいきませんが・・・」

 

一夏と部屋に入り、お茶会用に持ち込んだテーブルセットに一夏を座らせ、同じく持ち込んだ茶器(ローゼンタール社製)や電気ケトル(BFF製)、茶葉などを用意していく。

 

そしてお湯を沸かしている間にお茶請け用のビスケットを用意しようとしたのだがここで問題が発生。

 

――ビスケットの入っている金属製の箱の蓋が開かないのである。

 

ありゃりゃ、今回のは()()()だな、などと思いながら蓋を開けようと俺が四苦八苦していると・・・、

 

「・・・ほら、開けてやるから貸せよ」

 

そう言って“ひょい”と一夏が俺の手から箱を取ると蓋を開けてくれた。

 

――サンキュー、一夏!!

 

「ありがとうございます、一夏さん。助かりました」

 

「いや、それ程のことじゃないし・・・」

 

う~ん、謙虚やな~。

 

俺は謙虚な一夏に感心しながら手袋を外してからビスケットをお皿に並べていく。

 

お、ちょうどお湯も沸いたな。

 

ティーポッドにお湯を入れ温度計で温度を測り、96℃で茶葉を入れ蒸らす。

 

蒸らしている間にカップにミルクを入れているとそれまで黙って見ていた一夏が少し驚いたように口を開く。

 

「え、ミルクを入れてもいいのか?」

 

あ~、初めてだと驚くよね~。

 

「はい、英国では紅茶と言えばミルクティーなんですよ?紅茶にミルクを入れるようになったのは英国の水が硬水なので紅茶に薄い膜のようなものが浮かんでしまうのでそれを防ぐためとか、昔は良い茶葉が手に入らず粗悪な茶葉を誤魔化すためなど諸説があるようですね」

 

「へ~、そうなのか・・・」

 

ふふふ、俺の軽快なトークで一夏の緊張もほぐれているようだな~。

 

「あ、一夏さんはお砂糖はいくつ入れますか?」

 

「えっと・・・、初めてだからおまかせで・・・」

 

「分かりました」

 

気分が良くなった俺はルンルン気分でカップにお茶を注ぎ、砂糖を小さじ二杯入れティースプーンで音を立てない様にそっと混ぜ、はい、完成!!

 

「はい、出来ましたよ一夏さん。入れる度に味が変わるので保証はできませんが、どうぞ召し上がって下さい」

 

某猫の男爵の男前なセリフをパクリながら一夏に紅茶を差し出す。

 

・・・まぁ、俺は味も香りも()()()()()から『ガチ』で味の保証は出来ないんだけどね?

 

気分よ、気分。

 

 

 

 

 

――さぁ、楽しい楽しい『お茶会』の始まりだっ!!




う~ん、短いっ!!

キリが良いから切ったんですがもっと長く展開を進めるべきだったかなぁ・・・

連休があれば、連休があればッ!!

楽しみにしていた方々申し訳在りませんッ!!
次回はもっと話しを進められるように頑張ります!!

2023/09/14 過剰強調修正

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。




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お茶会②

お疲れ様です。

投稿がかなり遅れて申し訳在りません!!

肉親の結婚式で県外に行ったりGWが仕事の繁忙期だったり、インフルになったりで投稿が遅れました!!

それではお茶会②よろしくお願いします!!






さて、お茶を一夏に出し、『お茶会』が始まったのだが、何故か一夏はお茶に手を付けようとせず、俺と出されたお茶をチラチラと不安そうに見てきた。

 

どしたんやろ?

 

「あの、一夏さん、どうかしましたか?」

 

「あ、いや、ごめん。俺、マナーとか知らないから、どう飲んだらいいかと思って・・・」

 

ははぁん、そういうことか。

 

あれだろ?一夏のイメージする『お茶会』って3段ケーキスタンドとか使うやつだろ?

あれはね~、主に社交の場でやるやつだから普段もそうだし、学生同士でやるやつじゃないんだよね~。

俺も最後にやったのが2年前くらいだったかな?BFFの『フランシスカ』と『ジーン』の姉弟の実家にお呼ばれしてやったのが最後だしね?

 

だから安心しなさいな。

 

「フフ、安心して下さい、一夏さん。この『お茶会』は『会話』を楽しむためのカジュアルなものですから作法などは気にしなくて良いんですよ?さ、どうぞ、一緒に楽しみましょう?」

 

「あ、あぁ、ありがとう・・・。じゃあ、いただきます・・・」

 

俺の言葉に安心したのか一夏はカップを取り、俺の入れたお茶に口を付けると・・・、

 

「・・・美味い・・・・・・」

 

そうポツリと呟くように言った。

 

――あ~、良かった。

 

IS学園に入学する前は主任とかベルリオーズ達とかにお茶を入れて感想を貰えてたんだけど、学園に入学してからは誰かにお茶を入れるのは初めてだったから、どんなもんかは分からなかったんだけど、そうか、美味いかっ!!

 

「そうですか、それは良かったです♪」

 

俺はもう、お茶を飲んでも味も香りも温度も分かんないから、正直、一人でお茶を入れても楽しくないんだよね。だからさ、誰かにお茶を入れて美味しいって言って貰えるとやっぱり嬉しいよね~。

 

気分が良くなり、俺がお茶請けのビスケットも一夏に勧めようとしたところで一夏が口を開いた。

 

「あ、セシリア・・・。その、部屋のことについてだったんだけど・・・」

 

 

――は!?そうだった!?ついつい忘れてたわ・・・。

 

 

「あ、そうでしたね。すみません、一夏さん。私としたことがついうっかりしてました。え~と、その、私と一夏さんが同室、と言うお話しでしたね?」

 

「そ、そうなんだ!あ、あの後、俺に渡すカギを間違ったのかと思って姉貴・・・、いや、織斑先生と話そうと思って職員室に行ったんだけど、先生はいなくて・・・。仕方がないから他の先生に聞いたら、その、セシリアと同室だって言われて、それで・・・」

 

「そうでしたか・・・。何か理由とかはお話されてましたか?」

 

「いや、なんか、男の装者が二人も現れると思ってなくて、部屋が余ってないから部屋割りを変更したとか、後は・・・」

 

「後は?」

 

「・・・俺と秋、いや弟の仲が()()()()()()()から、そこを考慮して男同士で同室にしなかったとか、まぁ、色々と・・・・・・」

 

「はぁ、そうですか。・・・ちなみに秋二さんも同じで()()()()()()()()と同室ということでしょうか?」

 

「!?、・・・あぁ、そう言ってたよ・・・・・・」

 

一夏の話しを聞きながらお茶を飲みながら考える。

 

う~ん、これ、理由としては確かにそうなんだろうけど、他にも理由はあって、それは()()()()()()()()()って感じだねぇ・・・。

 

いや~、だってさ、『普通』に考えて、身内ならともかく赤の他人の年頃の男女を同室にして共同生活させるとか有り得んでしょうよ・・・。

 

ほんで、その有り得ないことをさせるにしては一夏が説明した理由じゃ明らかに弱いし、()()()()ね、これ・・・。

 

 

――まぁ、いくつか理由は思いつくんだけどさ・・・

 

 

確証はないし、一夏の様子から一夏が学園側から全部説明をされてる訳じゃないっぽいし、一夏は知らなくて良いって判断されたカタチになるのかな?

 

 

まぁ、理由はどうであれ、俺的には一夏とじっくり話せるなら別にいいんだけどさ。

 

 

俺がそんなことを考えていると、一夏が申し訳なさそうに口を開いた。

 

「その、ごめん・・・。俺、抗議したんだけど“もう決まったことだから”って聞き入れてもらえなくて・・・。

あ!?もしかしたら、セシリアが言えば男と同室なのは仕方ないかもしれないけど、()()()()じゃなくて秋二のヤツと変わってもらえるかも・・・」

 

 

――ハァ?

 

 

まさかの一夏の言葉に俺は驚いた。

 

馬鹿ッ!()()()()駄目なのっ!!()()()()()()()駄目なのっ!!!

 

普通の身体だったら飲んでたお茶が変なところに入ってむせてたかもしれないがそんなことはなく、俺は慌てて一夏に返答する。

 

「あ、あの~、一夏さん?その、落ち着いてくださいね?別に私は男性の方と同室なのも、お相手が一夏さんでも問題ないですよ?まぁ、最初は驚きましたが、むしろ同室だったのが()()()()()()()()()と言うか・・・」

 

「はぁ!?なに言ってんだよっ!?」

 

――うっわ!?びっくりしたっ!?

 

急にデカい声出すなや!?驚くだろうがっ!!話は最後まで聞けっ!!!

 

「ですから落ち着いてください、一夏さんっ!!理由はちゃんとお話しますから・・・」

 

「うっ!?わ、悪い、つい・・・」

 

俺の一喝でとりあえず一夏が黙ったので理由を説明していく。

 

「ふぅ、では、理由をお話ししますね?まず、男性の方との同室についてですが、これに関しては当事者の一人である一夏さんが抗議を行っても聞き入れられない、さらに私に対しては事前説明がされていないことから、これは学園の()()()()であるということです。

つまり、仮に私が一夏さんと同じように抗議をしたとしても、変更はないと思って良いでしょう。ここまでは良いですか?」

 

「あ、あぁ・・・。だけど、いくら学園の決定だからってセシリアは、それで良いのか?男と、それも俺となんかと同室で・・・」

 

 

――だから『平気』だってば・・・。

 

 

って言うかさ、さっきから思ってたんだけど、な~んか一夏さ、俺が男と同室云々じゃなくて()()()()()とか嫌だ~とか思ってない?

 

俺は全然OKよ?

 

俺の目的もあるんだけども、少なくとも初対面で、友好的かと思ったらいきなりイチャモン付けてきた意味不明の秋二よりは一夏の方が断然良いわ。

 

・・・まぁ、ちょっと情緒不安定気味かな?とは思うけど、そこは全然許容範囲内よ?

 

しゃ~ない、そこら辺も説明してやっか!!

 

流石に“お前の弟、訳分かんねーよ”とは直接言えないからオブラートには包むけどさ・・・。

 

「はい、問題ありません。それと、先ほどから一夏さんは、なんと言って良いんでしょうか・・・、私が一夏さんではなく、弟さんの秋二さんの方が良かったのではないのか?と思っている節があるようですが、私としては同室だったのが一夏さんで良かったと本当に思っていますよ?

秋二さんとは今日、少しお話をさせていただいたのですが、お恥ずかしい話、私では少々、馬が合わないかな?と思っていまして・・・。

逆に一夏さんとは()()()()()のかな?と思っていますよ?転んだ私を助け起こしてくれましたし、先ほどは箱の蓋も開けてくれましたし・・・」

 

「え、あ、俺は、そんなんじゃ・・・。いや、その、あ、ありがとう・・・・・・」

 

ふむ、とりあえずは納得してくれたかな?そんじゃ次は・・・、

 

「いえいえ。それでは、そういう訳で、これからよろしくお願いしますね、一夏さん?」

 

――友好の『握手』だ。

 

「あ、あぁ。よ、よろしく、セシリア・・・」

 

 

そう言って、俺の出した右の義手を一夏は握り返してくれた。

 

 

――良し、これで同室云々は解決だなっ!

 

 

あとは早速本題に入りたいんだけど、いきなり代表選抜の話題を出すと一夏の授業中の態度の感じだと今までの良い感じの流れを完全にぶっ壊すから、話しの取っかかりを掴むためにも、もう少し会話してこうかね?

 

 

――時間がないわけじゃないし、焦る必要もないしね?

 

 

「では、一夏さん。お茶会を続けながら今後のお話しもしましょうか?もう一杯お茶を入れますが、お砂糖はどうしますか?」

 

「あ、じゃあ、同じく二杯で・・・」

 

「分かりました。待っている間、お茶請けのビスケットも食べてくださいね?そのビスケットはですね・・・」

 

 

そう一夏にお茶請けのビスケットの説明をしながら二杯目のお茶を入れ始めるのだった。




う~ん、話しが進まない(汗)

同室云々はサクっと終わらせても良いかとも思ったんですけど冷静に考えたら例え、原作の様に知人であっても年頃の男女同室で過ごせっていわれてあんなにアッサリいくわけないよなぁ・・・と思ったらこんなになってしまいました。すいません!!

あとはセシリアがガチでむせて心配した一夏が背中をさすって感触から違和感を感じるイベントを入れようかな?と思ったんですけど、これは後回しにした方が良いと思ってボツにした結果、文字数も短いという、ね・・・。

2023/09/14 過剰強調修正

このくらいの文字数なら出来れば今月中にあと一回は投稿したいなぁ・・・。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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お茶会③

お疲れ様です。

ちょっと先輩社員さんが退職してかなり忙しい作者です。

二人くらい新入社員入社しないかなぁ・・・。


さてさて、二杯目のお茶を入れ終えた俺は改めて一夏に自己紹介を行うことにした。

 

「それでは、『レイレナード社』所属のセシリア・オルコットです。既にご存じとは思いますが、改めて自己紹介させていただきますね、一夏さん?」

 

「あ、あぁ、ありがとう・・・。その、セシリアの所属してるレイレナード?って言う『企業』はニュースとかで名前は知ってるよ?

・・・まぁ、何の企業かは知らなかったけど、IS学園にセシリアがいるってことはIS関連の企業だったのか・・・」

 

あ~、あるあるだよね~。世間的には有名企業だから名前は知ってるけど事業内容とかは全然知らない~、みたいなの。俺も経験あるから分かるわ~。

 

「いえ、ISは事業の内の一つですが、元はエネルギー産業企業ですね。例えば、水素吸蔵合金や燃料電池の開発や供給などがメインになるんでしょうかね?

近年は提携や協力を行っている企業がIS関連に力を入れていたのもあってか我が社も参入したという感じですかね、はい」

 

そう俺はレイレナードの事業内容などについて説明した。

 

自分で言ってて思ったんだけどさ、IS関連の下りって、嘘ってわけじゃないけど、結構、詭弁に近いよねコレ・・・。

 

実を言うとね?最初、レイレナードの方ではあくまでIS関係の事業に関してはISコアを合法的に手に入れたり、国家側のIS技術の発展具合を把握したりするために始めた感じで、インテリオルとかBFFに比べたら規模は全然小さかったんだけど、ネクストやコジマ技術が確立してからは国家解体までに企業側では不要になったISの武装やらパーツやらを国家に高値で売りつけられるだけ売りつけて稼いでいこうって感じになって、今ではそれなりの規模になった感じなんだよね~。

 

だから囮役とはいえ自社製品の宣伝のためにも俺もそれなりに『仕事』をしなくちゃいけないワケで・・・。

 

 

――え、なんかズルいって?

 

 

それは仕方ないね。だって・・・・・・、

 

 

 

 

 

――レイレナードの『最終目的』を考えたらお金は()()()()()()()()()()()から、ま、多少はね?

 

 

 

 

 

俺がそんなことを考えていると一夏が口を開いた。

 

 

「そうなのか・・・。て、あれ?そう言えば職員室で聞いたけど、セシリアってイギリスの『貴族』なんだろ?確か、レイレナードってカナダにある企業じゃなかったっけ?

なんでイギリス人の、それも貴族のセシリアがレイレナードに所属してるんだ?」

 

あ~、確かにそうだよね~。不思議に思うよね~。

 

普通だったらレイレナードじゃなくてイギリスを本拠地にしてるBFFとかだと思うよね~。

 

てか、一夏も俺が『貴族』って知ってるんだな。自分から言うのもなんだかひけらかしてるみたいでアレだから自己紹介とかでは言ってなかったんだけどさ。

 

・・・もしかしたら秋二のヤツも事前に織斑先生とかから教えてもらってたのかな?

 

――まぁ、別にいっか!!

 

「ふふ、一夏さんが不思議に思うのも仕方ないですね。私の場合は実家で『いろいろ』ありまして、お恥ずかしい話ですが早急にまとまった金銭や公的な立場などが必要でして・・・。

まぁ、そこで()()()()あってレイレナードに所属することになったカタチになりますね、はい」

 

一夏の質問に所々を()()()()()()俺は答えた。

 

いやね?別に全部正直に答えても俺は全然良いんだよ?

 

けどさ、普通に考えて「両親が事故死したら周りに財産を奪われそうになって家が無くなりかけました~」なんて話をされたら一夏が反応に困るし、空気が重くなるだろ?

 

だからぼかした方が良いのよ、ぼかした方が。

 

「?、『いろいろ』って?」

 

「『いろいろ』ですね♪」

 

『いろいろ』は『いろいろ』だ、察しろ・・・。

 

「そ、そっか、そうだよな!俺も『いろいろ』あるし、セシリアにもそりゃ『いろいろ』あるよな!!」

 

「はい、『いろいろ』ありますね」

 

「そうだよな『人間』、人生『いろいろ』だもんな!」

 

「はい、人生『いろいろ』ですね♪」

 

「はは、あはははは!」

 

「ウフフ、フフフフ!」

 

 

う~ん、重い空気にはならなかったけど、何か変な空気になっちゃったぞ・・・・・・。

 

――ちょっと空気を変えるか。

 

「あ、一夏さん、カップが空ですね。もう一杯お茶を入れますね?」

 

「ははは、あぁ、ごめん、セシリア、ありがとう」

 

「いえいえ。あ、お茶請けのビスケットもどうぞ。あまり高価なモノではないですがお茶に良く合うと評判なんですよ?」

 

「あぁ、ありがとう。あ、本当に美味いな、コレ・・・」

 

「ふふ、お口に合って良かったです。お砂糖はまた二杯でいいですか?」

 

「あ、じゃあ今度は一杯で・・・」

 

「はい、分かりました」

 

よしッ!良い感じに空気が変わったぞッ!!あとはタイミングを見て話を切り出さなきゃな・・・。

 

 

 

 

 

――模擬戦で一夏に俺が持ち込んだ武装を使用してもらう案を・・・

 

 

 

 

 

え?そんなことしなくても一夏のヤツはクラス代表云々は嫌がってたから変わってもらえば良いんじゃないかって?

 

それは俺も考えた。

 

だけど、よく考えたらクラスの多数決で決まったことを勝手に変えたら大ひんしゅくを買うのは確実だし、仮に認められて俺と秋二が戦っても、搭乗経験の差は明らかだから仮に秋二のヤツを()()したとしても評価はされないだろうし、あんまり意味ないなって思ったんだよね~。

 

それで考えたんだけど、確か一夏の適正がBで秋二がSでしょ?

 

適正が全てってわけじゃないのは分かるんだけど、一週間の訓練期間があるっていっても一日中訓練出来るわけじゃなくて、授業が終わってからだから一日に訓練できる時間は精々、三時間から四時間くらいでしょ?

 

つまり実際の訓練時間は24時間にも満たないのよ?

 

それじゃあ、いくら一週間優先的に経験を積めるっていっても、1ランクならまだしも2ランクも差があると一夏が明らかに『不利』なわけだ。

 

だからその差を()()()()()()っていうカタチにして、訓練期間に出来れば武装の使用方法とかで俺が一夏に教導させてもらって、それで模擬戦で出来れば『勝利』してもらえれば一番良いんだけど、ちょっとそれは『高望み』だから、()()()()()()から秋二のシールドエネルギーを六割くらいかな?削ってもらえればいいなぁって思ってるんだよね。

 

そうすればさ、

「レイレナードの武装を使えば適正が2ランクも低くても僅かな訓練期間でここまで戦えますッッ!!!」

 

みたいな感じで()()()()になると思うんだよ。

 

・・・出来れば事前に織斑先生に提案出来れば良かったんだけど、タイミングを逃しちゃったし、俺だけで提案するよりも一夏の同意もあった方がより効果的かな?ってのもあるから一夏には出来れば同意して欲しいんだよね。

 

 

――まぁ、断られたら仕方ないんだけどさ。

 

 

でも、俺としては当然、断られたくないからこうやってタイミングを見計らってるんだけどね?

 

 

そう思いながら俺は新しく入れたお茶に砂糖を一杯入れるのだった・・・。

 

 

さて、お茶会開始から結構時間も経ち、俺の『手を洗う』時間が来たりして中々タイミングがなかった俺にやっとチャンスがやって来た。

 

「じゃあ、一夏さんは有澤重工に就職希望だったんですか?」

 

「あぁ、そうなんだ。でも、履歴書を送ったところで政府の人間に見つかってさ・・・」

 

「それは、災難でしたね・・・」

 

「あぁ、本当に災難だよ・・・」

 

ほうほう、一夏は有澤に就職したかったのか~。

 

有澤はすごい企業だもんね。あのベルリオーズが武装を欲しがるくらいだもん。

 

・・・一夏も本当に災難だよな。多分、いや、間違いなく『ここ』(IS学園)にいるよりも採用されたかは分からないけど、()()()()()を考えたら・・・・・・。

 

――いや、よそう・・・。

 

それよりも模擬戦の話に持ってくチャンスだ。

 

世界に二人しかいない男の装者の模擬戦ってことだから多分、情報は公開されるだろ?

 

て、ことは国家だけじゃなくて企業にも情報が公開されるわけだから、もしかしたら有澤も模擬戦の様子を見るかもしれないだろ?

なら、レイレナードと同じことを有澤も考えてるかもしれないから、一夏は有澤に強い繋がりがあるって程ではないけど、模擬戦の内容によってはもしかしたら一夏に接触してみようかな?とか思うかもしれないじゃん!!

 

て、ことは一夏が模擬戦でそれなりの結果を出せれば、ワンチャンあるんじゃね?みたいな感じで話を持ってこう、そうしよう!

 

「あはは、本当にそうですね。あ、そう言えば一夏さん、話は全然変わりますが、その、来週の秋二さんとの模擬戦のことについてなんですが・・・」

 

俺がそう話を切り出し提案を行おうとしたところで一夏はどこか()()()()()()()()()口を開いた。

 

「ん?あぁ、あれか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あれは別に()()()()()()()()。俺、()()()()()()

 

 

 

 

 

・・・・・・え?どゆこと?なに言ってんのこいつ?

 




セシリアの作戦が明かされました。

確かAC2だかで企業の広告塔として新パーツを装備してアリーナで戦うレイヴンがいたなぁ・・・。

捻くれている一夏がいやにフレンドリーに感じるかもしれませんがそれは一夏視点で描写したいと思います。

2023/09/14 過剰強調修正

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地雷

お疲れ様です。

一日300~400文字くらい少しづつ書いてなんとか仕上げました。

月に2~3話くらい投稿出来たらなぁ・・・と思っています。


まさかの一夏の『戦わない』宣言に俺はぶったまげた。

 

――え?なに?どゆこと?

 

もしかして、授業中に一夏がどっかに行っていた間に織斑先生とかと話し合って“模擬戦をしない”ことにしたってこと?

 

だったら俺の計画がパーじゃん・・・。

 

いやっ!待て待て、落ち着けっ!!

 

まだそうと決まったわけじゃないっ!!!

 

話を聞くんだ、話を・・・。

 

「た、戦わないですか?あの~、一夏さん?それは、どういうことでしょうか?模擬戦を辞退したと言うことでしょうか?」

 

「ん?まぁ、結果的にはそうなるのかな?」

 

なに、その言い方?

 

なんか嫌な予感がしてきたぞ・・・。

 

「結果的に、ですか?あの、一夏さん。その、それは織斑先生や他の先生方と相談などをされて決めたということでしょうか?」

 

「相談?いや、してないな。無駄だし・・・」

 

・・・相談をしてない?

 

え?何、つまり、こいつ・・・

 

 

――バックレるつもりだなっ!!

 

 

いやいやいや、一夏くん?一夏クン?一夏くぅぅううんッッ!!!

 

 

それはマズいって!本当にガチでマズいってば!!

 

一夏になにがあったか知らないけどもそれはヤバイってッ!!!

 

そんなことしたら、今日の一夏の様子を見てたクラスメート達から間違いなく総スカンを食らうし、いや、今日見た限りだと学園での男の装者の注目度を考えるに学園中で一夏の『評価』が悪い意味で高くなるのは『必定ッ』!!

 

 

――そうしたらお前の学園生活は地獄だぞ?

 

 

そんなこと考えていた俺だったが、俺は()()()()に気が付いた。

 

 

――なんで俺は一夏のことをここまで()()()()()んだ?

 

 

俺の計画が破綻するから?

 

それはある。間違いない。でも、俺は断られないようにはしようとしてたけど最悪、一夏の説得に失敗することも想定していたからそれだけじゃない、と、思う・・・。

 

一夏が『()()()()』だからなのかな?

 

・・・確かにさ、一夏はかな~り捻くれてて、態度とかは悪いんだけど、今日、いろいろとやり取りしてて思ったんだけど、根っこは良いヤツ?だとは思うんだよ。

 

――だからなのかねぇ・・・。

 

って、それよりも相談が無駄ってなんだよっ!

 

『企業』に就職希望だったのに報連相の大事さを知らんのかっ!!

 

「無駄、ですか?あの、一夏さん?余計なお世話かもしれませんが、それ程重要なことならば、やはり織斑先生に相談した方が・・・」

 

「いや、いいんだ。本当に無駄だから。セシリアも教室で『姉貴』が俺の抗議を無視したの見てただろ?

・・・だから話しても仕方ないんだよ」

 

いや、例えそうでも一回話しとかないと織斑先生とか学園側もいろいろ対応とか出来ないでしょ~よ?

 

「ですが・・・」

 

「いや、大丈夫だから!本当に大丈夫だからさ!!・・・それに俺、気付いたんだ。()鹿()()()()時間がかかったけど・・・・・・」

 

いや、大丈夫じゃねぇだろ・・・。それに気付いたって何よ?

 

「気付いた、ですか?あの~、一夏さん?それは、一体、何に?」

 

「いやさ、ほら、セシリアなら分かると思うんだけど、世の中って『()()()』だろ?」

 

「?、まぁ、そうですね」

 

確かにそうだけど、それがどうしたよ?

 

俺の同意の言葉に満足したのか一夏が得意げに持論を語る。

 

「だろ?だからさ、俺、気付いたんだ。どうせ『()()()』な目に遭うなら『()()』に生きた方が得だって」

 

 

?!?×○?!!//○×!?

 

 

ごめん、ちょっと何言ってるか分からない・・・。

 

 

「い、一夏さん?申し訳ありません、意味が良く分からないのですけど・・・」

 

俺の困惑の声に一夏は苦笑しながら喋りだした。

 

「いや、だからさ、そのままの意味だって。ほら、『人間』ってさ、頑張ろうが、努力しようが、やりたくないことをやって真面目に生きようが『理不尽』なことってほぼ・・・、いや、確実に起こるだろ?」

 

「それは、そうですが・・・」

 

――それは同意。

 

「だろ?だったらやりたくないことやって『理不尽』な目に遭って死ぬより『好き』に生きて『理不尽』に死んだ方が全然良いなってこと」

 

ほうほう、なるほどねって・・・、馬鹿っ!

 

意味は分かったけど『理不尽』に死ぬって何よっ!!

 

今回のは模擬戦なんだからマジで死ぬワケじゃない》でしょうよっ!!!

 

「あの、一夏さん?意味は分かったのですが今回は模擬戦ですし、たとえ敗北しても実際に死亡するワケではないですよ?

・・・まぁ、一夏さんは今回の模擬戦を嫌がっていたので一夏さんにとって『理不尽』な出来事なのは事実ですが・・・・・・」

 

「・・・あぁ、セシリアは()()()()()()()()仕方ないか・・・・・・」

 

 

――なんだよ、その反応。

 

 

「確かに模擬戦では死なないさ。でもさ、今回の模擬戦は俺を秋二の()()()にして最終的に研究所にでも送る口実を作るための()()なんだよ」

 

 

――んなわきゃねぇだろっ!!!

 

 

本当に研究所送りになんなりにするなら最初からIS学園に入学なんかさせないで適当に“織斑一夏くんは悲しい事故で死にました”みたいに偽装して送るわいっ!!!

 

 

「一夏さん、流石にそれは早とちりが過ぎませんか?仮に、仮にですよ?

本当に口実を作るためでしたらファロンさんからの提案からの多数決というカタチにしないで織斑先生が最初から一夏さんと秋二さんの二人から模擬戦で決めましょうと言うはずですし、そもそも一夏さんに一週間の訓練期間を与えることなど無いと思いますが・・・」

 

それに一瞬だけ見た織斑先生の目からすると・・・・・・。

 

俺の言葉に心底不満げに一夏は口を開く。

 

「・・・じゃあ、なんで()()()()専用機なんだよ・・・・・・」

 

それは、ほら、ISコアの数には限りがあるし、秋二は世界『初』の男のIS適正者だから囲い込みとかプロパガンダとか高度な政治的判断とかで・・・、ん?

 

「ちょ、ちょっと待って下さい、一夏さん!?秋二さんだけ専用機というのは、まさかとは思いますが模擬戦で()()()()()()()()()()使()()()()ということですか!?」

 

 

――『不公平』ってレベルじゃねーぞ!?

 

 

「・・・職員室に行ったときに、“弟くんは専用機を貰えるそうだからあなたも頑張ってね”って言われたんだよ・・・・・・。つまり、そういうことだろ?」

 

 

あ、な~んだ、びっくりした。

 

 

それって、「秋二が専用機を貰えるから一夏も貰えるように頑張ってね」って意味じゃん。模擬戦で使用云々は一夏の思い込みじゃん!!

 

俺がそう考え、「それ、一夏の思い込みだよ?」と言おうとしたところで・・・、

 

「だからさ、俺、こんな『理不尽』で『不公平』な茶番に付き合うつもりなんてないんだ。だから訓練もしないし、模擬戦も当日はどっかに隠れる。

・・・俺の『人生』なんだ。『好き』に生きてそれの何が悪いんだって話さ。

 

 

 

――セシリアもそう思うだろ?」

 

一夏が同意を求めてきた。

 

う~ん、拗らせとんの~。

 

・・・ぶっちゃけ言うとね?一夏の言ってることも『理解』出来なくはないんだよ?

 

世の中が『理不尽』っていうのは()()()()()()()()

 

その『理不尽』な世の中を『好き』に生きて『理不尽』に死ぬって在り方も、まぁ、アリじゃないか?とは思うんだ。

 

 

――でもさ、()()()()()じゃん。

 

 

一夏の場合はさ、『好き』に生きた結果『理不尽』な目に遭うんじゃなくてさ、どうせ『理不尽』な目に遭うから好き勝手するっていう、なんていうのかな?『逃避』ってやつじゃないかな?

 

いや、別に逃げること自体は俺は否定しないんだ。

 

 

――逃げた方が『身体』や『心』を守れるって場合もあるから。

 

 

ただ、それは逃げた先に自分の安全を確保出来てないと意味がないわけで、一夏の場合は確保出来てないわけでしょ?

 

しゃ~ない、そこら辺を指摘してやるか。

 

「あの~、一夏さん?私は一夏さんどう生きるかは否定しないんですが・・・」

 

「!?、だろっ!!セシリアなら分かってくれると思ってたんだっ!!」

 

 

――うわっ!?びっくりした!?

 

 

いや、まだ話の途中なんだけど・・・。それに全肯定したわけじゃないからね?

 

 

「いや~、そう考えると俺って今までの『人生』、かなり無駄にしてたんだな~。勝てもしない相手に張り合って無駄な努力してさ、もっと『好き』に生きてりゃ良かった。本当に馬鹿だったよ」

 

――ん?

 

その一夏の言葉に俺は()()()を覚え、俺は今日一日の一夏の様子や今までのやり取りからあることに気付き、思わず口を開いた。

 

「あの、一夏さん?少しよろしいですか?」

 

「ん?どうした、セシリア?」

 

 

ニコニコしている一夏に俺は・・・、

 

 

「怒らないで聞いて下さいね?もしかして、なんですが一夏さんは単純に・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

俺がその言葉を発した瞬間、

 

 

 

 

――ビキリッ!!

 

 

 

 

一夏の顔と空気がそう音を立てて凍った。

 

 

 

 

 

・・・・・・やっべ、地雷踏んだッ!!??




好きに生きた結果、理不尽に死ぬ。理不尽に死ぬから好きに生きる。

全然意味合いが違うなぁ・・・。

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一夏の『確認』

仕事中ぼく「今日はこの商品が一杯出るな~。そうだ!今のうちに多めに材料を用意するぞ!」

数時間後ぼく「あれ?お客さんはくるけど誰も注文しないぞ・・・」

???「身構えているときには注文は来ないものだ・・・」


「クラス対抗戦に出場する代表者を決めようと思う」

 

姉のその言葉にクラスの女子の一人が『天才』である弟を推薦し、次々に賛同の声が上がった。

 

そこに異を唱える者が現れた。名前は・・・、もう覚えちゃいないが、確か旧イギリスの代表候補生だった気がする。

 

そいつ曰く、「男の装者という『天才』が二人もいるのだから模擬戦を行い、より『優秀』な方を代表にしよう」とのことだった。

 

その言葉に当時の俺は憤慨したのだが、今になって冷静に考えるとそいつの言っていることは決して間違いではなかった。

 

IS適正という、『男』なら本来持ち得ず、努力ではどうにもならない先天的才能を持っている時点で『天才』であることは間違いないのだから・・・。

 

 

・・・結局、そいつの言葉は受け入れられ、俺は弟と望まぬ模擬戦をすることとなってしまった。

 

 

それが決定した授業の後、その事実を受け入れられなかった俺は姉にサボるなと言われていたその日の授業を全てサボった。

 

まぁ、最終的には夕方に姉に見つかり軽い説教を受けたのだが・・・。

 

その後、寮のカギを渡され自分の部屋へと向かったわけだが、その部屋で俺は()()()なモノを見た。

 

 

――『全裸』のセシリアである。

 

 

セシリアの『身体』は『普通』ではなかった。

 

両手、両脚は義手と義足。胴体には大量の手術痕が刻まれていたのだから。

 

 

 

 

 

・・・『人生』に()()()()()()、とセシリアはよく言っていたが、それでも俺は、そのもしもを考えてしまうのだ。

 

 

 

 

 

俺はこの時、全裸のセシリアを正面から見てそれらの『異常』を見たのだが・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――もし、この時、セシリアの『背中』を見ることが出来ていたら、ナニカが違ったのではないのか?、と・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しの間座り込んでいた一夏だったが頭を軽く振ると立って歩き出していた。

 

向かう先は千冬がいるであろう職員室である。

 

そう、一夏は千冬が自分に渡した寮のカギを間違ったと思い、確認をするためだ。

 

本当なら悪気がなかったとはいえ裸を見てしまった白い少女(セシリア)にちゃんと謝罪してからの方が良いと思ったのだが、彼女が服を着るまで廊下でずっと待っているのも不審であるし、なにより一夏自身が頭を冷静にする時間が必要であると思ったのだ。

 

 

――それだけ一夏の見た彼女の姿は衝撃的だったのだ。

 

 

彼女の身体にハンデがあるというのは今日、ほんの少しのやり取りではあるが()()()()()()()()()だった。

 

しかし、まさかアレ程とは一夏は、いや一夏だけでなくても普通の人間は想像出来ないだろう。

 

 

(何をどうしたらあんな風になるんだ?生まれつき?事故?病気?・・・やっぱり事故か?)

 

 

歩きながら先ほど見た少女について考える一夏。

 

正直、勝手にこんなことを考えるのは失礼だと一夏は思ったが、一切考えるなというのは無理というものだった。

 

そうして悶々と考えていた一夏だったが頭を軽く振って苦笑した。

 

(いや、別に俺があの子に何があったかなんて考える必要ないだろ・・・。俺には()()()()()()()()・・・・・・)

 

そう頭の中で独りごちる一夏。

 

実際問題、一夏と白い少女は特に深い関係があったわけではない。

 

たまたま同じクラスになり、たまたま少女とぶつかり、少女が起き上がるのを手伝っただけ。

 

大別すれば間違いなく赤の他人である。

 

 

――なのに、なぜこんなに彼女のことを考えているのだろうか?

 

 

「っと、職員室はここか・・・」

 

 

そんな自問自答をしている内に目的の職員室に着いた一夏はノックをすると中へ入った。

 

「・・・失礼します・・・・・・」

 

そう言って中へ入った一夏に職員室内の教師達の視線が集中する。

 

(予想はしていたけど、やっぱり教師も女しかいないんだなぁ・・・)

 

そんなことを考えてた一夏に教師の一人が歩み寄り話しかけてきた。

 

「あら、どうしたの?え~と、ごめんなさい。あなたは秋二くんだっけ?一夏くんだっけ?双子だからまだ()()()()()()()()()・・・」

 

 

――びきり・・・。

 

 

「・・・織斑一夏です。あの、姉、いえ、織斑先生はいますか?」

 

秋二と見分けが付かないという女教師の言葉に一夏の中でナニカが軋むが、ソレを押し殺し一夏は努めて冷静に用件を伝える。

 

「あ、一夏くんね?ごめんなさい。織斑先生は今会議中で席を外してるの。織斑先生に何か用事?」

 

「・・・織斑先生から寮のカギを渡されたんですけど、カギを間違えたみたいなのでその確認に・・・・・・」

 

「え、本当?じゃあ、そのカギ貸してね?」

 

持っていた寮のカギを渡す一夏。

 

するとカギの番号を確認した教師の口から驚くべき言葉が出てきた。

 

 

 

 

 

「あれ、一夏くん?寮のカギ、これで()()()()()?」

 

 

 

 

 

「・・・・・・はぁ!?」

 

 

教師の言葉に思わず一夏は驚きの声を上げた。

 

 

(あってる?合ってる!?ど、どういうことだ?え?つまり、合ってるってことはあの

子と・・・。い、いや、そんなわけないだろッ!?)

 

 

「あ、あの!?本当に合ってるんですか?だって、部屋にはもう他の子が・・・」

 

「他の子?他の部屋の子が一夏くんと同室の子と一緒にいたってこと?」

 

「い、いや、そうじゃなくて・・・。って、同室!?あ、あの俺、あの白い子と同室なんですか!?」

 

 

まさかの同室発言に慌てて一夏は聞き返した。

 

「白い子?あぁ~、オルコットさんのことね?そうよ、セシリア・オルコットさんが一夏くんのルームメイト。()()()()()()()()()?」

 

「仲良くって・・・。あの、いくらなんでも『普通』男女一緒の部屋にしないんじゃ・・・」

 

一夏の当然の疑問に教師は少し困ったように「あ~・・・」というと理由を説明しだした。

 

「それなんだけどね?実は男性のIS適正者がこんなに短期間で二人も現れると思ってなかったみたいで、部屋も余ってないし急遽部屋割りを変更することになったみたいなの。

だったら一夏くんと秋二くんを()()()()()()二人一緒にすれば良いのにって私も思ったんだけど・・・」

 

()()、なんですか?」

 

「事情は知らないけど、その、一夏くんと秋二くんって()()()()()()()()()()()()()()?だからそこら辺も考慮したって話らしいよ?だから一夏くんはオルコットさんと。秋二くんは()()()()()と同室にしたみたいだね」

 

 

――秋二くんは篠ノ之さんと同室。

 

 

「・・・その、秋二と同室の篠ノ之さんっていうのは、『()()()()』のことですか?」

 

「そうだよ~。あ、ご、ごめんね?そう言えば篠ノ之さんは()()()()だったんだもんね?ちょっと複雑だよね?でも上が決めたことだから私もどうも出来ないんだ、ごめんね?」

 

――イラッ・・・。

 

教師の言葉に一夏の神経が苛立つ。

 

「・・・いえ、箒とも仲は()()()()()()()()()ので平気です・・・・・・」

 

「そ、そう?あ、そうだ!一夏くんと同室のオルコットさんなんだけどね?あの子、イギリスの『貴族』ですんごい『大企業』に所属してるからこの機会に仲良くなれれば『将来』逆玉を狙えたりするか「教師がそんなこと言っていいんですか?」・・・冗談だよぉ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

――沈黙が場を支配する。

 

 

すると沈黙に耐えられなくなったのか教師が口を開いた。

 

 

「あは、あはは、気分を悪くさせちゃってごめんね?でも、オルコットさんと()()()()()()()()っていうのは本当なんだ・・・。

ほら、一夏くんは同じクラスだから知ってると思うけど、彼女、身体にハンデがあるでしょ?だから、一夏くんには彼女のことを()()()()()()()()()んだ・・・」

 

 

()()()?俺が?」

 

 

――自分のことだけで精一杯なのに?今まで()()()()()()()()()()()()()()のに?

 

 

「あ、あ、勘違いしないで欲しいんだけど、何も手取り足取り全部が全部手助けしてあげてって言うワケじゃないんだ。

・・・オルコットさんは今までは一人部屋だったから大体のことは一人で出来るんだけど、例えば彼女が転んだときに起き上がるのを手伝ってあげるとか、杖を手から離しちゃったら拾ってあげるとか、そういう、()()()()()()()()のことでいいんだ。嫌かもしれないけど、お願い出来ないかな~、なんて、あはは・・・・・・」

 

 

 

 

 

――ありがとうございます、一夏さん。

 

 

 

 

 

「あはは、ごめんね?一夏くんも不安だし大変なのにね?私が今言ったことは忘れ・・・「いいですよ」・・・へ?」

 

「そのくらいのことならいいですよ、別に・・・」

 

一夏の返答に教師は驚いた顔をする。

 

(別にそのくらいなら俺には()()()()()()し、俺はあの子の裸を見たから、あの子が俺に悪印象を持ってるのは確実だし、同室な以上、俺が過ごしやすいようにポイントを稼がないといけない。

・・・ただそれだけ、それだけだ・・・・・・)

 

そんなことを考える一夏を余所に教師はぱぁっと笑顔になり心底嬉しそうに捲し立てる。

 

「本当?ありがとうね、一夏くん!いろいろとか不安とか疑問もあるかもしれないけどお願いね?もし困ったことがあったら私でよければ相談に乗るからね?」

 

「あ、いえ、大丈夫です。・・・じゃあ、俺はとりあえず部屋に戻ります。挨拶とかもしなくちゃいけないし・・・・・・」

 

(挨拶云々の前にまずは謝罪なんだけどな。結構時間も経っちゃたし、急がないと・・・)

 

 

そう言って職員室から出ようとする一夏だったが最後の最後で思わぬ『()()』が投下された。

 

 

「うん、そうだね、そうした方がいいよ。あ、そうそう、秋二くんは『専用機』が貰えるって話もあるらしいから一夏くんも()()()()()!応援してるからね!!」

 

教師の放った言葉が一夏の脳内をグルグル駆け回る。

 

 

(専用機?応援してる?頑張ってね?()()()()?)

 

 

――ビギリッ!!!

 

 

突如()()()()()()()一夏に心配した教師が慌てて声を掛けるが、

 

 

「ど、どうしたの一夏くん?あ、私、また変な「()()()」 っひ!?」

 

 

先ほどまでとは全く違う、底冷えするような声で言葉を遮られると・・・、

 

 

 

 

 

 

「茶番はもう沢山だ」

 

 

 

 

 

 

そう言いながら振り返った一夏に睨み付けられ絶句し、そのまま床に座り込んだ。

 

その様子を一瞥した一夏はそのまま職員室を後にするのだった・・・・・・。




クロスは4なのにV系のセリフが多くなってしまう・・・。

V系はセリフが使いやすい上にゲーム上で会話が多くて語録がたくさんあるから仕方ないかもしれないけどなるべく4系のセリフを使いたいなぁ・・・

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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一夏の『お茶会』①

更新が遅れて申し訳在りませんっ!!!

世間の長期休暇が作者にとっての繁忙期で連日の暑さで体力的にもキツク、こんなに遅くなってしまいました。

今後は涼しくなり、リアルの方もだいぶ落ち着きましたのでなんとか以前の投稿ペースに戻れるように頑張りたいと思います。


衝撃の光景を目にした俺は姉が俺に渡したカギが間違っていると思い職員室へ確認に行った。

 

普通に考えたらいくら男のIS適正者が二人も現れるというイレギュラー要素が発生したとしても年頃の男女を同室にするのはあり得ないと思ったからだ。

 

だが確認の結果、俺とセシリアは同室だった。

 

 

・・・確認の際に一悶着があったが、それは置いておく。

 

 

その後、俺は部屋に戻り、セシリアに改めて謝罪をしたのだが、セシリアは特に気にした様子もなく許してくれた。

 

しかし、俺と同室であるということはセシリアも知らなかったらしく驚きつつも「お茶を飲みながら話をしよう」と茶会を開いてくれた。

 

 

――そこで出されたお茶は美味かった。

 

 

思い出補正や『今』の俺の稼ぎでも現在の『企業』統治下の世界じゃ良い茶葉が中々手に入らないこともあるが、セシリアが入れてくれたお茶は本当に美味かったんだ。

 

 

・・・なんでこんなに美味く感じたのか気付いたのはだいぶ後になるのだが、気付かない方がよかった。気付くべきじゃなかった。

 

 

 

 

 

俺がこんなに『醜い』心を持っていたなんて、知りたくなかった。

 

 

 

 

 

――決して、知りたくなかったんだよ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

職員室を出て廊下を表面上は平静を装って歩いていた一夏だったが内心は荒れ狂っていた。

 

(秋二に専用機?頑張ってね?応援してる?どの口が言いやがるっ!全部、俺を踏み台にするための茶番なんだろうがっ!?巫山戯んなっ!!)

 

先ほど職員室でのやり取りで女教師の言葉を思い出しながら一夏は心中でそう吐き捨てた。

 

そう、一夏は女教師の「一夏も専用機を貰えるように頑張れ」という、あくまで激励の言葉を「模擬戦で秋二が専用機を使用するので頑張れ」と曲解していたのだ。

 

本来ならこんな考えには至らないはずなのだが、今までの一夏の人生の経験や過去のとある出来事、直前での千冬とのやり取りなどで一夏は冷静に考えることが出来ていなかった。

 

そうして心の中で激昂しながら廊下のど真ん中を歩いていると、どうやら内心の怒りが表面に出ていたらしく一夏の姿を見た女子生徒が「ひっ!?」と短く悲鳴を上げ後ずさる。

 

 

その様子にますますイライラする一夏。

 

 

いっそ、このまま大昔の流行歌よろしく、学園中の窓ガラスをたたき割って試験の際に使用したISを盗み出してやろうか?などど物騒なことさえを考え始めたところで立ち止まり、窓から外を眺めた後、深く長いため息を吐いた。

 

同じ遺伝情報を持つ双子のはずなのに『凡才』の(一夏)と『天才』の(秋二)。それはIS適正値にも如実に表れているというのだから、もう笑うしかなかった。

 

さらに、弟には専用機が用意されているという。鬼に金棒どころの話ではない。

 

そんな『天才』相手に『凡才』の自分がたった一週間の訓練期間で戦えと言うのだ。

 

 

――結果は既に見えていた。

 

 

そして、その後の周囲の反応も・・・・・・。

 

 

 

 

 

(あぁ、本当に・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――世の中『理不尽』だよ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな諦観の境地に至りながら一夏は再び歩き出すのだった。

 

 

 

 

(だいぶ遅くなっちまったな。きっと、怒ってるだろうな、怒ってるよなぁ・・・)

 

一夏は用意された自分の部屋、いや、正確に言えばセシリアと同室の自分の部屋の前にいた。

 

正直なところ、一夏としてはこんな場所(IS学園)から今すぐにでも逃げ出したかったのだが、残念なことにIS学園はその立地上、身一つでの脱出は不可能であり、それは早々に諦め(まぁ、仮に脱出出来たとしても、その後どうするのかまでは考えていなかったが・・・)、当初予定通りにセシリアに謝罪を行うことにしたのだ。

 

そうして一夏は部屋の前でノックをしようとしていたのだが、最初の予定からずいぶん時間が経ってしまっていたので、一夏は間違いなくセシリアが自身に対して怒っているだろうと思うと中々踏ん切りが付かず二の足を踏んでいた。

 

(なにやってんだよ、俺は・・・。例え、不可抗力でもセシリアが怒っていたならそれは俺が悪いんだろ?・・・だったら自分のやったことくらい、自分で『責任』なり『ケジメ』なり取れよっ!!)

 

何回か拳を上げ下げしていた一夏は覚悟を決め、二、三回浅めに呼吸をした。

 

 

(南無三っ!!!)

 

 

そう意を決してノックをしようとしたところで・・・・・・、

 

 

――ガチャリ、とドアが開いた。

 

 

「うわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

急にドアが開いたため驚きの声を上げる一夏。その一瞬の後に短い悲鳴が上がる。

 

 

悲鳴の主はセシリアだった。

 

 

どうやら一夏がノックをしようとしたのと同じタイミングで部屋から出てきたらしい。

 

咄嗟のことで声が出せなかった一夏よりも先にセシリアが口を開いた。

 

「驚かせてすみません、一夏さん。大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ、大丈夫だけど。その・・・」

 

なんとかそう返し、一夏は続けて謝罪の言葉を述べようとしたのだが突然のハプニングで事前に考えていた謝罪の言葉の内容をド忘れしてしまい、なかなか言葉が出せなかった。すると、そんな一夏の様子を見てセシリアはなにか納得したような表情になり喋りだした。

 

「あ、先ほどの件でしたら私は気にしてないですよ?一夏さんは部屋を間違ってしまったんですもんね?それなら仕方ないですよ。私の方こそ申し訳ありません。本当でしたらすぐに追いかけるべきだったんですが・・・」

 

(なにか勘違いしてるッ!?い、いや、なにやってんだよ俺は!謝んなきゃいけない相手に謝らせてどうする!!俺も謝んないと・・・。あれ?セシリアの名字ってオルコットだっけ?ウォルコットだったっけ?ええぃ、ままよ!!!))

 

「あ、お、おるこっ、オルコットさんは悪くないよ・・・。俺が悪かったんだ、その、すまん・・・」

 

なんとかそう言った一夏だったが、そのあんまりにもあんまりな自身の言葉に内心、“失敗した”と後悔した。

 

しかし、その一夏の言葉に対して当のセシリアは気分を害した様子はなく、にこやかに言う。

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。あ、言いづらそうなのでセシリアで良いですよ?一夏さんはずっと外で待っていたんですよね?わざわざすみません」

 

(あれ?なんだ、この反応?怒ってないどころか気にしてない、のか?)

 

罵倒や嫌みの言葉があっても甘んじて受け入れるつもりだった一夏にとってセシリアの反応は拍子抜けだった。

 

どうやら男に自身の裸を見られたにも関わらずセシリアは本当に気にしてないようだった。

 

その事実に内心、ほっとする一夏だったが、ふと疑問に思う。

 

すなわち・・・・・・、

 

 

 

 

 

――年頃の少女が異性に裸(それも傷だらけ)を見られて気にしないということがあるのだろうか?

 

 

 

 

 

そう疑問に思った一夏だったが、セシリアの労いの言葉に一度思考をカットし、慌てて返答する。

 

「あ、いや、俺は別にずっと待っていた訳じゃないから大丈夫なんだ。ちょっと職員室に行っていて・・・」

 

「?、職員室に?」

 

「あぁ、ちょっと確認のために・・・。って!?おるこ、セシリアは聞いてたんじゃないのか!?」

 

「?、聞いている、ですか?」

 

焦った様に確認する一夏の言葉にセシリアは「なんのことか分からない」と首をかしげていた。

 

(おいおい、本気かよ・・・。勘弁してくれよ・・・・・・)

 

セシリアの反応を見て一夏は目眩がした。

 

なぜなら、セシリアは一夏とセシリアが『同室』であるという事実を知らないということが分かったからだ。

 

職員室でのやり取りで、てっきりセシリアには既に通達があり同意しているものだと思っていた一夏にとってこの事態は正に青天の霹靂だった。

 

(なんで俺が・・・。これは学園の仕事だろっ!給料分は働けよっ!!)

 

心の中でそう毒づきながら続きを待っているセシリアに一夏は気まずそうに言葉を濁しながら告げる。

 

「いや、その、『一緒』だって・・・」

 

「一緒・・・、ですか?」

 

一夏の言葉に再び首をかしげるセシリア。

 

いよいよ覚悟を決め事実を告げる一夏。

 

「だから、俺とセシリアが、その・・・、一緒の部屋だって・・・・・・」

 

そう言った瞬間、セシリアの特徴的なタレ目が見開かれ、驚愕しているということが一夏には一瞬で分かった。

 

(そりゃあそうだよなぁ・・・)

 

そんなセシリアの様子を見た一夏は心の中でそう呟いた。

 

この世の何処に好き好んで見ず知らずの男と同室だと言われて喜ぶ女子がいるというのか。

 

 

いや、百歩譲って男と同室だということを許容したとしても、(秋二)ではなくて自分(一夏)では・・・・・・、

 

 

そこまで一夏が考えたところで驚いていたセシリアが胸元から年代物と思われる懐中時計を取り出し時間を確認すると困惑しながらも口を開いた。

 

「そ、そうですか。とりあえず、その件について詳しく一夏さんのお話も聞きたいですし、立ち話もなんですから部屋の中で・・・・・・・

 

 

 

 

 

――『お茶会』をしましょう」

 

 

 

 

 

 

セシリアに案内されながら部屋に入る一夏。軽く部屋の中を確認すると、なるほど、流石はIS学園と言うべきか良い部屋だった。

 

目に入ったのは二つある大きめのベッド。その内一つには枕元に青いリボンを付けたクマのぬいぐるみが置いてある。恐らく、そちらがセシリアの使用しているベッドなのだろう。後は部屋の隅に大きめのダンボールが数箱置いてあった。

 

そして空きスペースに白いテーブルクロスが敷かれたテーブルセットが設置されいる。

 

「さ、どうぞ座って下さい。今、お茶の準備をしますので」

 

そう言いながらセシリアはお茶会の準備を始めていた。

 

「いや、俺も手伝うよ?」

 

杖をついているため片手でテーブルにティーカップなどの準備をしているセシリアを見て手伝った方が良いと思った一夏はそう声を掛けるが・・・、

 

「いえいえ。IS学園で初めての『お茶会』なので私にもてなさせて下さい。まぁ、少々急なので十分とはいきませんが・・・」

 

やんわりと断られてしまった。

 

仕方がないので椅子に座りセシリアの様子を観察していたのだが、流石、英国人と言うべきか手際が良い。

 

この様子だけ見ると自分が見たセシリアの姿が何かの見間違いだったのではないかと思ってしまうくらいに。

 

そんなことを一夏が思っているとセシリアがビスケットのイラストが描かれた金属製の箱を開けようとしていた。

 

 

――しかし、一向に開かない。

 

 

「・・・ほら、開けてやるから貸せよ」

 

四苦八苦しているセシリアを見た一夏はそう言ってセシリアに代わって箱を空けることにした。

 

(よっぽど固いのかな・・・。て、あれ?)

 

一夏が特に力を入れずともあっさりと箱は開いた。

 

その様子を見たセシリアが初めて一夏に出会った時の様に礼を言う。

 

「ありがとうございます、一夏さん。助かりました」

 

 

――ドクン

 

 

一夏の心臓が高鳴る。

 

 

「いや、それ程のことじゃないし・・・」

 

そう謙遜して誤魔化す一夏。

 

(・・・『ありがとう』って言われるのってこんなに・・・・・・)

 

そんなことを思っている間にセシリアは右手に嵌めている白い手袋を外しビスケットを皿に並べ始める。

 

・・・手袋を外したセシリアの右手は一夏の見間違えなどでなく『義手』だった。

 

(あぁ、本当に義手なんだな・・・)

 

そうこうしている内にセシリアは1枚、2枚と皿にビスケットを並べ、9枚まで並べたところでセシリアは箱に蓋をした。

 

(あれ、なんで9枚なんだ?そう言う作法とかなのか?)

 

人数は二人なのに9枚という中途半端なビスケットの枚数を用意するセシリアに一夏は若干困惑したものの、そう言う作法なのかもしれないと思い黙っていることにした。

 

するとセシリアはカップにミルクを入れ始めた。

 

「え、ミルクを入れてもいいのか?」

 

一夏のイメージする紅茶はストレートティーだったのでつい言葉が漏れた。

 

「はい、英国では紅茶と言えばミルクティーなんですよ?紅茶にミルクを入れるようになったのは英国の水が硬水なので紅茶に薄い膜のようなものが浮かんでしまうのでそれを防ぐためとか、昔は良い茶葉が手に入らず粗悪な茶葉を誤魔化すためなど諸説があるようですね」

 

一夏の素朴な疑問にセシリアが豆知識を交えてミルクを入れる理由を教えてくれた。

 

「へ~、そうなのか・・・」

 

「あ、一夏さんはお砂糖はいくつ入れますか?」

 

セシリアの分かりやすい説明に素直に感心する一夏にセシリアがそう質問してきた。

 

「えっと・・・、初めてだからおまかせで・・・」

 

こんなに本格的な紅茶は初めてだったので、とりあえず一夏は専門家に任せることにする。

 

「分かりました」

 

一夏の言葉を受けセシリアは二杯の砂糖を入れ、冗談を言いながら紅茶を一夏に差し出す。

 

「はい、出来ましたよ一夏さん。入れる度に味が変わるので保証はできませんが、どうぞ召し上がって下さい」

 

 

差し出された出された紅茶を前に一夏は思案する。

 

 

(・・・普通に飲んで良いんだよな?でも、なんかのテレビでは下皿を持って飲むのがマナーみたいに言っていたような・・・・・・)

 

 

そんなことを考える一夏。

 

別にこのお茶会は格式張ったものではないので普通に飲めば良いのだが、目の前の少女に「作法がなっていない」と呆れられたくないというちっぽけなプライドが飲むのを躊躇わせてしまったのだ。

 

そんな一夏を見てセシリアが心配した様に声を掛けてくる。

 

「あの、一夏さん、どうかしましたか?」

 

「あ、いや、ごめん。俺、マナーとか知らないから、どう飲んだらいいかと思って・・・」

 

恥ずかしかったが素直にそう話す一夏に微笑みながらセシリアが口を開いた。

 

「フフ、安心して下さい、一夏さん。この『お茶会』は『会話』を楽しむためのカジュアルなものですから作法などは気にしなくて良いんですよ?さ、どうぞ、一緒に楽しみましょう?」

 

「あ、あぁ、ありがとう・・・。じゃあ、いただきます・・・」

 

セシリアの言葉にほっとした一夏は礼を言いながらゆっくりと紅茶を飲む。

 

ミルクで程よく冷まされ飲みやすい温度。なんの茶葉かは分からないが香りとコク?と言うのだろうか、それも良い。そして砂糖のほんのりとした甘さ。そしてなによりも誰かが自分なんかに紅茶をいれてくれたという事実がなによりも嬉しかったのだ。

 

だから、

 

「・・・美味い・・・・・・」

 

そう呟く様に一夏の口から感想が漏れた。

 

一夏の心からの感想だった。

 

「そうですか、それは良かったです♪」

 

一夏の感想を聞いてセシリアが嬉しそうに笑う。

 

そんなセシリアを見て一夏も嬉しく思うと同時にこれからセシリアに『同室』のことを説明しなければならないということに憂鬱を感じるという複雑な気持ちになるのだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏はセシリアの入れた紅茶を確かに美味いと感じた。

 

紅茶自体が美味かった、他の誰かが自分にお茶を入れてくれたという事実。

 

これらの『正』の感情が理由の大半を占めているのは事実だった。

 

 

 

 

 

ただ同時に、一夏自身は気付いてないが・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ほんの僅かに『負』の感情もあったのも、また事実だった。

 

 

 

 

 

 




AC6発売されましたね

作者はまだ未プレイですがかなり評判が良いようですねw
あ~、早くプレイしたいなぁ・・・

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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一夏の『お茶会』②

お疲れ様です。
本当にAC6人気ですねw
作者は諸事情によりまだ未プレイでなるべく初見プレイをしたいので情報をカットしているのですがハーメルンに沢山のAC6小説が投稿されていて読みたいのに読めないというジレンマに陥っていますw

一日でも早くAC6をプレイして読むぞ!!


「一夏さん、よろしかったらそのビスケットもご一緒に・・・」

 

一夏が職員室で聞いた話をどう切り出そうかと考えている間にセシリアがそう話し始めた。

 

正直に言うと、このままセシリアとお茶会を楽しみたいという思いもあったが、説明が後になれば後になるほど自分が辛い思いをすると思い、一夏は同室であることについての説明をすることにした。宿題や課題は早めに済ますに限るのである。

 

とはいえ、内容が内容なので遠慮がちに一夏は口を開いた。

 

「あ、セシリア・・・。その、部屋のことについてだったんだけど・・・」

 

「あ、そうでしたね。すみません、一夏さん。私としたことがついうっかりしてました。え~と、その、私と一夏さんが同室、と言うお話しでしたね?」

 

「そ、そうなんだ!あ、あの後、俺に渡すカギを間違ったのかと思って姉貴・・・、いや、織斑先生と話そうと思って職員室に行ったんだけど、先生はいなくて・・・。仕方がないから他の先生に聞いたら、その、セシリアと同室だって言われて、それで・・・」

 

「そうでしたか・・・。何か理由とかはお話されてましたか?」

 

「いや、なんか、男の装者が二人も現れると思ってなくて、部屋が余ってないから部屋割りを変更したとか、後は・・・」

 

「後は?」

 

「・・・俺と秋、いや弟の仲があまり良くないから、そこを考慮して男同士で同室にしなかったとか、まぁ、色々と・・・・・・」

 

そう職員室で言われたことをセシリアの反応を覗いながら話す一夏。

 

話していて改めて一夏自身「なんでそうなる?」と思ったが、この話を聞いていたセシリアは最初の驚愕は何処へやら、至って冷静なようだった。

 

そして、ここまで話を聞いたセシリアが口を開いた。

 

「はぁ、そうですか。・・・ちなみに秋二さんも同じで他の女子生徒の方と同室ということでしょうか?」

 

「!?、・・・あぁ、そう言ってたよ・・・・・・」

 

(あぁ、やっぱりな、そうだよな・・・。俺なんかより秋二の方が良いよな・・・)

 

セシリアの問いになんとかそう返した一夏だったが内心では過去の経験からダメージを受けていた。

 

今まで一夏と親しかった異性の存在がいなかった訳ではない。

 

箒や中国からの転校生(凰 鈴音)、かつての悪友の妹(五反田 蘭)などがいた。

 

しかし彼女達と親しく出来たのは最初だけで、最終的には皆、秋二の方へ好意を向けるようになったのだ。

 

よくよく考えれば目の前のセシリアも秋二となにやら会話をしていたようだし、秋二に対して興味なり好意なりを向けていたとしていたも何ら不思議ではない。

 

なので、セシリアの口から直接、「秋二だったら良かったのに」などの言葉を言われたくなかった一夏は口を開く。

 

「その、ごめん・・・。俺、抗議したんだけど“もう決まったことだから”って聞き入れてもらえなくて・・・。

あ!?もしかしたら、セシリアが言えば男と同室なのは仕方ないかもしれないけど、俺なんかじゃなくて秋二のヤツと変わってもらえるかも・・・」

 

そう一夏が自虐の入った提案をすると紅茶を飲んでいたセシリアが驚きの言葉を発した。

 

「あ、あの~、一夏さん?その、落ち着いてくださいね?別に私は男性の方と同室なのも、お相手が一夏さんでも問題ないですよ?まぁ、最初は驚きましたが、むしろ同室だったのが一夏さんで良かったと言うか・・・」

 

 

――この子(セシリア)はなにを言っているんだ?

 

 

秋二ではなくて()()()()()()?なんで?どうして?

 

 

「はぁ!?なに言ってんだよっ!?」

 

 

セシリアの言っている言葉の意味が理解出来ず、動揺した一夏は咄嗟にそう叫んでしまった。

 

すると・・・、

 

「ですから落ち着いてください、一夏さんっ!!理由はちゃんとお話しますから・・・」

 

「うっ!?わ、悪い、つい・・・」

 

 

――セシリアに一喝された。

 

 

今までの印象とは全く違う迫力に驚いた一夏だったが、そのおかげか冷静になることが出来た。

 

一夏が黙るとセシリアが理由を話し始める。

 

「ふぅ、では、理由をお話ししますね?まず、男性の方との同室についてですが、これに関しては当事者の一人である一夏さんが抗議を行っても聞き入れられない、さらに私に対しては事前説明がされていないことから、これは学園の決定事項であるということです。

つまり、仮に私が一夏さんと同じように抗議をしたとしても、変更はないと思って良いでしょう。ここまでは良いですか?」

 

 

――そこまでは良い。

 

 

理由は知らないが学園のお偉いさんが決めたこと。

 

一夏はもちろんだが、今日まで知らされていなかったセシリアが抗議なり文句なりを言っても意味はないだろう。

 

問題は「なぜ一夏で良かったのか?」と言うことだ。

 

「あ、あぁ・・・。だけど、いくら学園の決定だからってセシリアは、それで良いのか?男と、それも俺となんかと同室で・・・」

 

そう内心を悟らせないように急かす一夏にセシリアは何でもないように説明を始めた。

 

「はい、問題ありません。それと、先ほどから一夏さんは、なんと言って良いんでしょうか・・・、私が一夏さんではなく、弟さんの秋二さんの方が良かったのではないのか?と思っている節があるようですが、(!?バレてた!?)私としては同室だったのが一夏さんで良かったと本当に思っていますよ?(だから、なんで!?)

秋二さんとは今日、少しお話をさせていただいたのですが、お恥ずかしい話、私では少々、馬が合わないかな?と思っていまして・・・。(え!?)

逆に一夏さんとは相性が良いのかな?と思っていますよ?(はぁ!?)転んだ私を助け起こしてくれましたし、先ほどは箱の蓋も開けてくれましたし・・・(そんなことで!?)」

 

セシリアの説明に所々でツッコミを入れる一夏。

 

一夏がそう思うのも無理はない。

 

一夏が今日、目の前の少女にしたのは過去に秋二が二人の幼なじみが『悪意』に晒されていた際に行った行動に比べるべくことでもない、『誰でも』出来る些細なこと。

 

 

――なのにセシリアはそんなことで一夏の方が秋二よりも良いと言っているのだ。

 

 

「え、あ、俺は、そんなんじゃ・・・。いや、その、あ、ありがとう・・・・・・」

 

 

混乱しつつもなんとかそう返した一夏に対しセシリアは・・・。

 

 

「いえいえ。それでは、そういう訳で、これからよろしくお願いしますね、一夏さん?」

 

 

――そう言って手を差し出してきた。

 

 

「あ、あぁ。よ、よろしく、セシリア・・・」

 

 

そう言いながら差し出された手を一夏は握り返した。

 

手袋が外され、むき出しの金属で出来た義手は固く、冷たいはずなのに一夏には・・・・・・。

 

 

 

 

 

――とても暖かく感じられた。

 

 

 

 

 

「では、一夏さん。お茶会を続けながら今後のお話しもしましょうか?もう一杯お茶を入れますが、お砂糖はどうしますか?」

 

「あ、じゃあ、同じく二杯で・・・」

 

「分かりました。待っている間、お茶請けのビスケットも食べてくださいね?そのビスケットはですね・・・」

 

手が離され、そのことに若干、名残惜しく思う一夏にそう言いながらセシリアは二杯目の紅茶の準備を始めるのだった・・・・・・。

 

 

二杯目の紅茶を入れ終わった後、改めてセシリアは自己紹介を始めた。

 

「それでは、『レイレナード社』所属のセシリア・オルコットです。既にご存じとは思いますが、改めて自己紹介させていただきますね、一夏さん?」

 

朝のSHRの際の自己紹介を聞き流していた一夏にとってセシリアのこの配慮は有り難かった。

 

「あ、あぁ、ありがとう・・・。その、セシリアの所属してるレイレナード?って言う『企業』はニュースとかで名前は知ってるよ?

・・・まぁ、何の企業かは知らなかったけど、IS学園にセシリアがいるってことはIS関連の企業だったのか・・・」

 

セシリアの所属していると言う企業、『レイレナード社』について聞き覚えがあった一夏はそう返した。

 

確か、何年か前にテレビのバラエティ番組の特集か何かで『世界の不思議建築物』みたいなコーナーで本社の外観が紹介されていたことや、朝のニュース番組で名前が挙がっていたことがあったので業務内容などは知らなかったがその存在は知っていたのだ。

 

「いえ、ISは事業の内の一つですが、元はエネルギー産業企業ですね。例えば、水素吸蔵合金や燃料電池の開発や供給などがメインになるんでしょうかね?

近年は提携や協力を行っている企業がIS関連に力を入れていたのもあってか我が社も参入したという感じですかね、はい」

 

一夏の言葉にセシリアは簡単に業務内容などを説明してくれた。

 

その説明によるとIS関係の事業に関してはメイン事業ではなく、変な言い方ではあるが片手間でやっているらしい。

 

(天下のISの事業をそんな風に出来るって、どんな企業だよ・・・。あ、でも、いつだったか、どっかのIS一辺倒の企業が経営難で倒産だか合併しただのってニュースも見たからIS関係の商売って競争が激しいからそうした方が良いのかもしれないな・・・)

 

「そうなのか・・・。て、あれ?そう言えば職員室で聞いたけど、セシリアってイギリスの『貴族』なんだろ?確か、レイレナードってカナダにある企業じゃなかったっけ?

なんでイギリス人の、それも貴族のセシリアがレイレナードに所属してるんだ?」

 

そこで、ふと疑問に思った一夏がそう質問する。

 

現代日本で生活している一夏にとって貴族が企業に所属にしていると言うのはイメージとしてピンと来ず、仮に所属しているとしても自分の国の企業ではないのか?と思ったからだ。

 

「ふふ、一夏さんが不思議に思うのも仕方ないですね。私の場合は実家で『いろいろ』ありまして、お恥ずかしい話ですが早急にまとまった金銭や公的な立場などが必要でして・・・。

まぁ、そこで紆余曲折あってレイレナードに所属することになったカタチになりますね、はい」

 

一夏の質問に対してセシリアはそう答えたが、どこかフワフワとした回答だった。

 

 

――だから、つい一夏は聞き返してしまった。

 

 

「?、『いろいろ』って?」

 

「『いろいろ』ですね♪」

 

そう即答された一夏は焦った様に言葉を紡ぐ。

 

「そ、そっか、そうだよな!俺も『いろいろ』あるし、セシリアにもそりゃ『いろいろ』あるよな!!」

 

 

(――俺は馬鹿かッ!!そんなのセシリアのことを見りゃ分かんだろうがッ!!!)

 

 

「はい、『いろいろ』ありますね」

 

「そうだよな『人間』、人生『いろいろ』だもんな!」

 

「はい、人生『いろいろ』ですね♪」

 

なんとか誤魔化そうと自分でもおかしなことを口走ったがセシリアがそれに乗ってきてくれたようだった。

 

「はは、あはははは!」

 

「ウフフ、フフフフ!」

 

(ヤバい、変な空気だ。どうする?)

 

そう内心、まだ焦っていた一夏だったがセシリアが助け船を出してきた。

 

「あ、一夏さん、カップが空ですね。もう一杯お茶を入れますね?」

 

(!?、すまない、セシリア、助かるッ!!)

 

「ははは、あぁ、ごめん、セシリア、ありがとう」

 

「いえいえ。あ、お茶請けのビスケットもどうぞ。あまり高価なモノではないですがお茶に良く合うと評判なんですよ?」

 

「あぁ、ありがとう。あ、本当に美味いな、コレ・・・」

 

「ふふ、お口に合って良かったです。お砂糖はまた二杯でいいですか?」

 

「あ、じゃあ今度は一杯で・・・」

 

「はい、分かりました」

 

そう言ってセシリアは二杯目の紅茶を入れ始めたのだった。

 

 

セシリアが紅茶を入れている間に一夏は心を落ち着かせるために勧められたビスケットを食べていたのだが、つい一人で複数枚食べてしまったことに気付いた。

 

(あ、しまった。食べ過ぎた・・・)

 

それに気付いた一夏は自分ばかり食べるのはどうなのかと思い、紅茶を入れ終えたセシリアにもビスケットを勧めることにした。

 

「あ、ごめん、セシリア。二人分なのに俺一人で何枚も食べちゃったからセシリアも食べなよ?」

 

「え?・・・あぁ、そうですね。それでは、いただきますね?」

 

そう言うとセシリアはビスケットを一枚手に取ると食べ始めた。

 

 

――食べ始めたのだが・・・・・・。

 

 

(ん?なんだ、この食べ方?いや、これ、()()()()()って言うより・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリアのビスケットの食べ方を見た一夏はそんな感想を抱いた。

 

具体的に言うとセシリアはビスケットを自分の紅茶に浸した後に口に入れ、そこまでするのか?と思うほど咀嚼し、紅茶で飲み込んだのだ。

 

一瞬、こう言う作法なのかと一夏は思ったが、このお茶会はセシリアがカジュアルなものだと言っていたことを思い出し、変ではあるが単純にセシリアがこの食べ方が好きなのだろうと思うことにしたのだった・・・。




とりあえず情報は小出ししていくスタイル。

なんとか今月中に『地雷』までの一夏の心情を一夏の『お茶会』③という形で投稿して来月初めまでに物語を進められたら良いなぁ・・・

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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一夏の『お茶会』③

お疲れ様です。

大体は9月30日までには出来てたんですが、投稿直前であれもいれたいなぁ・・・とかやっていたらズレてしまいました(汗




セシリアに新しい紅茶を入れて貰いお茶会が再開された。されたのだが一夏は困っていた。

 

何に困っていたかというと、同世代の少女が楽しめるような話題を一夏自身が全く持っておらず、何を話したら良いのか分からなかったのだ。

 

――しかし、それは仕方ないかもしれない。

 

個人的な事情で交友関係は壊滅的だった上に、中学時代はバイト漬けで学校行事や部活動などで一夏本人も望んでいなかったとはいえ、異性との交流など皆無だったのだ。

 

・・・まぁ、一応、一夏にも異性、それもIS学園に入学するような少女が喜びそうな話題はあるにはあるが、それは一夏は話したくなかった。

 

何か、何か話すことは無いか・・・。

 

必死で頭を働かせる一夏にとある名案が浮かび、口を開いた。

 

「あ、セシリア、聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「せっかくだからイギリスについていろいろ教えてくれないか?正直、俺、今日、セシリアに会うまでイギリスって紅茶の国ってイメージしかなかったから・・・」

 

そう、一夏の思いついた名案とはごく単純。

 

ズバリ、「何を話したら良いか分からないならセシリアに『いろいろ』質問して場を持たそう」

 

である。

 

・・・本当はセシリア自身について聞きたいことは山程あったが、先ほどの件もあり、まずは当たり障りのない質問からすることにしたのだ。

 

すると、

 

「ふふふ、一夏さん?本当は違うんじゃないですか?」

 

一夏の「イギリスについて聞きたい」という質問を聞いたセシリアは悪戯っぽく笑いながらそう言った。

 

「えっ!?」

 

自分の心をセシリアに読まれたのかと思った一夏は驚いた。

 

「紅茶の国もそうですが、食事が美味しくない・・・、所謂メシマズの国というのもイメージしていませんでしたか?」

 

どこか得意げにそう言うセシリアに身構えていた一夏はガクッと力が抜けそうになるが、なんとか踏ん張り、笑いながら答える。

 

「は、あはは、実を言うと思ってた。あ!?でも、馬鹿にしてるわけじゃ・・・」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。私の知人も“僕の口には合わない”と言っていましたし、“イギリス人は働く為に仕方なく食べる”なんてジョークもありますしね?ですが、そうなってしまったのには理由があってですね・・・」

 

自身の祖国がメシマズの国だと思っていると言われてもセシリアは特に気分を害した様子はなく、ジョークを交えながら説明してくれた。

 

曰く、イギリスという国自体の土地が痩せていて食材に乏しかったり、大陸国家と度々敵対していて他国の食材や食文化などが入ってこなかったり、産業革命時の劣悪な労働環境でとにかく滅菌のために食事の加熱を行うようになったなどなどの理由を聞き、イギリス=メシマズのイメージはあったが、なぜメシマズになったのか?までは考えたこともなかった一夏はセシリアの説明に素直に感心した。

 

その後もイギリスの説明は続く。

 

サッカーなどのメジャーなものからクリケットなどの日本ではマイナーなものまでいろいろなスポーツの発祥の地であること(その中でセシリアはクリケットが好きなこと)

 

イギリス人はギャンブルを合法化するほど賭け事が好きなこと(セシリアも昔ホースレース(競馬)に連れて行ってもらったことがあるらしい)

 

イギリスでは貴族は上流階級とされているが大体の貴族はなんらかの職に就き家を維持していること

 

有名なロンドン塔には鴉が飼育されていて、その鴉を世話をするレイヴンマスターなる役職があること(ただ、今年は飼育している鴉が病気や檻に猫が侵入して襲われたりして一羽を残して全滅したためその責任を取らされて全員解雇されたのだという)

 

などなど、当たり障りのない質問をしたはずだったのにセシリアの話題のチョイスが上手いのか気付けば一夏は最後まで飽きることなく聞き入っていた。

 

だがセシリアの話が終わった後、問題が発生した。

 

セシリアに日本のことについても教えてくれと聞き返されたのである。

 

自分にセシリアの興味を引くような話が出来るか焦りながらも一夏も日本の話を始めた。

 

内容としてはどこかで聞いた事のあるようなものばかりになってしまったが、逆にそれが良かったのかセシリアも楽しそうに一夏の話を聞いてくれた。

 

そうして会話を続けている内に一夏はお茶会の準備中に疑問に思ったことをセシリアに質問することにした。

 

「そう言えば、セシリア。このビスケットなんだけど、なんで9枚だったんだ?中途半端な数だけど、そういう作法かなにかなのか?」

 

「いえ、作法とかそう言うのではないですよ。単純に私が9という数字が好きだからですね。知っていますか、一夏さん?9はですね、『幸運』の数字なんですよ?」

 

「幸運の数字?」

 

9が幸運の数字だと言うセシリアの言葉に一夏は疑問を持つ。

 

普通、世間一般で言えば幸運の数字と言えばラッキーセブンと言うように7ではないのだろうか?

 

そう一夏が不思議に思っているとセシリアが説明を始めた。

 

「“うまくいく”、と言う言葉がありますよね、一夏さん?意味はそのまま“万事何事も上手くいく”なのですが、この“うまくいく”を漢字で書くと・・・、今は書くモノがないので口で説明しますが、“9頭の馬が行く”になるんですね。昔からこの9頭馬というのは勝負運や金運、健康運など九つの運気を表すと言われていて、縁起が良いとされてきたことから9は幸運の数字なんですよ?」

 

「は~、そんな意味があるんだな・・・」

 

その語呂合わせとも験担ぎとも言えるような話を面白いと一夏は感じると同時に、9が『幸運』の数字と言うことにはあまり説得力を感じなかった。

 

 

――だって、それを語る当の本人が・・・。

 

 

そう思っていると、セシリアが何かに気付いたように胸元から懐中時計を取り出し、時間を確認する。

 

(・・・あぁ、結構時間も経ったし、お開きか・・・・・・)

 

セシリアの様子を見た一夏はお茶会が終わるのだと思い名残惜しさを感じた。

 

それだけこのお茶会は一夏にとって楽しかったのだ。

 

用意された紅茶もビスケットも美味しかったし、こんなに誰かと会話するのも久しぶりだった。

 

そしてその会話の間にセシリアが千冬や秋二のことを一夏に聞いてこなかったことも嬉しかった。

 

今まで一夏に親しげに話しかけてきた女達は一部を除いて、やれ、「千冬さまは家ではどんな風に過ごしてるの?」だ「秋二くんは彼女いるの?」だの、「そんなことは本人に聞け!」と言うようなことを一夏に聞いてくる者が大半だった。

 

なので、もしかしたらセシリアもそうかもしれないと思っていた一夏だったが、セシリアはお茶会が始まってから二人のことを話題に上げることも一夏に聞いてくることもなかったのだ。

 

 

――それが一夏にとっては堪らなく嬉しかった。

 

 

だからもう少しセシリアと話していたかったのだが、最初にセシリアが言っていたようににこのお茶会は急に決まったので、セシリアもこの後予定があるのかもしれないのでお開きも仕方ないと残念に思っていると時計を仕舞ったセシリアが口を開いた。

 

「一夏さん、話の途中で申し訳ありませんが手を洗いに行ってきますね?」

 

「?、手を洗いに?・・・あ!?どうぞどうぞっ!!」

 

セシリアの「手を洗いに行く」の意味を最初は理解出来なかった一夏だったが生理現象の言い換えだとすぐに気付き慌ててそう言った。

 

一夏の言葉を受けセシリアは「では」とテーブルに立て掛けていた杖を取って立ち上がろうとしたのだが・・・、

 

 

――かちゃん・・・

 

 

と、杖を倒してしまった。

 

するとセシリアは「あらら・・・」と言いながら座っていた椅子を支えにしながらしゃがみ込んで杖を拾おうとし始めたので一夏は立ち上がり、杖を拾いながらセシリアを立たせた。

 

「本当にありがとうございます、一夏さん。でも、申し訳ありません。なんだか今日は一夏さんに助けてもらってばかりですね?」

 

「・・・いや、大したことじゃないから別に良いよ。それよりも、手、洗いに行くんだろ?」

 

一夏の言葉を受けて「そうでした」と杖を突きながら歩いて行くセシリアの後ろ姿を一夏はなんとも言えない顔で見送ったのだった・・・。

 

 

「じゃあ、一夏さんは有澤重工に就職希望だったんですか?」

 

「あぁ、そうなんだ。でも、履歴書を送ったところで政府の人間に見つかってさ・・・」

 

「それは、災難でしたね・・・」

 

「あぁ、本当に災難だよ・・・」

 

その後、戻ってきたセシリアとお茶会を再開した一夏はIS学園に入学前のことを話していた。

 

切っ掛けはセシリアの所属している企業であるレイレナード社を初めとした六大企業グループの話になり、その内の一つに一夏が就職希望だった有澤重工が含まれていたことだった。

 

共通、と言うにはちょっと違うかもしれないが、せっかくの話題なので一夏はあまり思い出したくもない出来事をセシリアに話したのだ。

 

まぁ、自分で話しておいてなんだが若干空気が悪くなってしまい、それを察したのかセシリアが別の話題を振ってきた。

 

「あはは、本当にそうですね。あ、そう言えば一夏さん、話は全然変わりますが、その、来週の秋二さんとの模擬戦のことについてなんですが・・・」

 

正直、この話題も本来なら一夏にとっては嫌な話題だったが、『今』は違った。

 

「ん?あぁ、あれか・・・。あれは別にどうでもいいんだ。俺、戦わないから」

 

そう一夏が言うとセシリアが困惑したように口を開く。

 

「た、戦わないですか?あの~、一夏さん?それは、どういうことでしょうか?模擬戦を辞退したと言うことでしょうか?」

 

「ん?まぁ、結果的にはそうなるのかな?」

 

どこか適当さもある一夏の口ぶりにセシリアが当然の疑問を口にする。

 

「結果的に、ですか?あの、一夏さん。その、それは織斑先生や他の先生方と相談などをされて決めたということでしょうか?」

 

「相談?いや、してないな。無駄だし・・・」

 

「無駄、ですか?あの、一夏さん?余計なお世話かもしれませんが、それ程重要なことならば、やはり織斑先生に相談した方が・・・」

 

「いや、いいんだ。本当に無駄だから。セシリアも教室で『姉貴』が俺の抗議を無視したの見てただろ?

・・・だから話しても仕方ないんだよ」

 

千冬に相談したのか?と心配してくるセシリアに「無駄」と断言する一夏。そんな一夏の言葉に納得出来なかったのか尚もセシリアは言葉を続けようとするが・・・、

 

「ですが・・・」

 

「いや、大丈夫だから!本当に大丈夫だからさ!!・・・それに俺、気付いたんだ。馬鹿だから時間がかかったけど・・・・・・」

 

セシリアの言葉をそう遮る。

 

「気付いた、ですか?あの~、一夏さん?それは、一体、何に?」

 

一夏の言葉にセシリアが不思議そうにそう尋ねてきた。

 

「いやさ、ほら、セシリアなら分かると思うんだけど、世の中って『理不尽』だろ?」

 

 

――そう、世の中は『理不尽』なのだ。

 

 

一夏自身の今日までの経験もそうだが、目の前の少女がそれを『証明』していると言って良いだろう。

 

「?、まぁ、そうですね」

 

一夏の世の中は『理不尽』発言に不思議そうにしながらも同意してきた。

 

 

――やっぱりセシリアは分かっている。

 

 

セシリアの同意の言葉に満足した一夏は物心ついてから今日まで生きてきて遂に到達した持論を述べる。

 

「だろ?だからさ、俺、気付いたんだ。どうせ『理不尽』な目に遭うなら『好き』に生きた方が得だって」

 

そう言った瞬間、セシリアが分かりやすく困惑し、焦った様に聞き返してきた。

 

「い、一夏さん?申し訳ありません、意味が良く分からないのですけど・・・」

 

(ちょっと、分かりづらかったかな?)

 

そう反省しつつ一夏は説明を始める。

 

「いや、だからさ、そのままの意味だって。ほら、『人間』ってさ、頑張ろうが、努力しようが、やりたくないことをやって真面目に生きようが『理不尽』なことってほぼ・・・、いや、確実に起こるだろ?」

 

「それは、そうですが・・・」

 

セシリアが再び同意する。

 

そうなのだ。今日のこともそうだし、IS学園に入学することになったのもそうだし、その前からもそうだった。

 

目の前のセシリアだってそうだ。

 

話していて分かったがセシリアは間違いなく恵まれた少女だった。

 

貴族の家に生まれ、とんでもない大企業に所属。容姿端麗で教養も高く、性格も穏やかだ。

 

――完璧と言ってもいい。

 

だが、セシリアには致命的とも言える問題があった。

 

チラリと一夏はティーカップを持つセシリアの右手(義手)を見る。

 

そう、セシリアは右手、いや、四肢がないのだ。

 

普通の『ヒト(人間)』になら『当たり前』に出来る、転んだら立ち上がる、ビスケットの蓋を開ける、杖を拾う、などもセシリアは簡単に出来ないのだ。

 

世の中の嫌な女達、例えば、今日、一夏が模擬戦をするハメにさせたあの女(グレイス)など比べるまでもないくらいセシリアは良い子なのに、アイツは五体満足でセシリアは()()なのだ。

 

――『理不尽』としか言い様がない。

 

・・・何があってこうなったのかは流石に聞けなかったが間違いなくセシリアに『理不尽』なことがあったのだ。

 

それはつまり、生まれや環境がどんなに良くっても、本人に問題がなかったとしても『理不尽』なことは『確実』に起こるということのだ。ならば・・・、

 

「だろ?だったらやりたくないことやって『理不尽』な目に遭って死ぬより『好き』に生きて『理不尽』に死んだ方が全然良いなってこと」

 

そう語る一夏。すると一夏の言葉を聞いたセシリアが口を開く。

 

「あの、一夏さん?意味は分かったのですが今回は模擬戦ですし、たとえ敗北しても実際に死亡するワケではないですよ?

・・・まぁ、一夏さんは今回の模擬戦を嫌がっていたので一夏さんにとって『理不尽』な出来事なのは事実ですが・・・・・・」

 

そう一夏を諭すように話す、何も知らないセシリアに一夏は語り出す。

 

「・・・あぁ、セシリアは何も知らないから仕方ないか・・・・・・」

 

その一夏の言葉に若干訝しげにするセシリアを無視して一夏は言葉を続ける。

 

「確かに模擬戦では死なないさ。でもさ、今回の模擬戦は俺を秋二の踏み台にして最終的に研究所にでも送る口実を作るための茶番なんだよ」

 

実際はそんなことはなく、一夏の思い込みであったし、千冬を初めとしたIS学園上層部でも想定外の出来事であったが今までの経験と過去のとある出来事から一夏にとってはそれが事実になっていた。

 

「一夏さん、流石にそれは早とちりが過ぎませんか?仮に、仮にですよ?

本当に口実を作るためでしたらファロンさんからの提案からの多数決というカタチにしないで織斑先生が最初から一夏さんと秋二さんの二人から模擬戦で決めましょうと言うはずですし、そもそも一夏さんに一週間の訓練期間を与えることなど無いと思いますが・・・」

 

すると、一夏の話を聞いたセシリアがまるで千冬を擁護するような発言を行ったため、少し一夏は不機嫌になりつつ反論する。

 

「・・・じゃあ、なんで秋二だけ専用機なんだよ・・・・・・」

 

一夏のその言葉にセシリアは、

 

「ちょ、ちょっと待って下さい、一夏さん!?秋二さんだけ専用機というのは、まさかとは思いますが模擬戦で秋二さんだけ専用機を使用するということですか!?」

 

そう焦ったように質問してきた。

 

「・・・職員室に行ったときに、“弟くんは専用機を貰えるそうだからあなたも頑張ってね”って言われたんだよ・・・・・・。つまり、そういうことだろ?」

 

そう答えた一夏に対してセシリアが何か言おうとする前に一夏は言葉を続ける。

 

「だからさ、俺、こんな『理不尽』で『不公平』な茶番に付き合うつもりなんてないんだ。だから訓練もしないし、模擬戦も当日はどっかに隠れる。

・・・俺の『人生』なんだ。『好き』に生きてそれの何が悪いんだって話さ。

 

 

 

 

 

――セシリアもそう思うだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――目の前の少女が『肯定』してくれると信じて・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな一夏の言葉に対してセシリアは・・・、

 

「あの~、一夏さん?私は一夏さんどう生きるかは否定しないんですが・・・」

 

「!?、だろっ!!セシリアなら分かってくれると思ってたんだっ!!」

 

 

一夏がどう生きるかは『否定』しない。

 

 

そんな一夏が望んでいた『回答』をセシリアの口から聞いた一夏は興奮気味に捲し立てる。

 

「いや~、そう考えると俺って今までの『人生』、かなり無駄にしてたんだな~。勝てもしない相手に張り合って無駄な努力してさ、もっと『好き』に生きてりゃ良かった。本当に馬鹿だったよ」

 

 

――あぁ、本当に馬鹿だった。

 

 

それでも、それでもと。いつかは、いつかはきっと。と、「どうせ勝てないのに」と馬鹿にされ嗤われ、惨めな思いをしながら無駄な努力をして、頑張って、十年近くを無駄にした。

 

 

けれども、それももう終わりだ。

 

 

短いかもしれないし、こんな場所(IS学園)だが、これからは好きに・・・。

 

そう思いながら少々喋りすぎて渇いた喉をセシリアの真似をして砂糖を入れていない紅茶を飲んで潤していると申し訳なさそうにセシリアが口を開く。

 

「あの、一夏さん?少しよろしいですか?」

 

「ん?どうした、セシリア?」

 

「怒らないで聞いて下さいね?もしかして、なんですが一夏さんは単純に・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――負けるのが嫌なんじゃないんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、一夏が決して言われたくなかった言葉を口にした・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ビキリッ!!!

 

 

 

 

 

 




前回アンケートを入れたのですが沢山の回答ありがとうございます。偏ると思ったんですが拮抗していてびっくりしましたw
セシリアの制服がロングスカートなので足を開くおんぶが出来ない事に気付いて一夏の体格ならどっちにしろ出来るなぁ・・・と思って入れてみましたw
今後本編で描写していきたいなぁと思います!!

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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提案

お疲れさまです。
今話からセシリア視点になります。
それではよろしくお願いします。


思い返すと一夏は「俺なんかじゃなくて秋二の~」みたいなことを言ってたし、今も「勝てもしない相手云々」とか言ってたから、つい口に出ちゃったんだけどさ?

 

――やらかした・・・。

 

「負けるのが嫌なんじゃない?」と言う言葉で動きの止まった一夏を見て、地雷を見事に踏み抜いたことを理解させられた。

 

どうすっか・・・

 

俺が一夏にどう言葉を掛けようか悩んでいると一夏が若干声を震わせながら口を開いた。

 

「は、ははは・・・。セシリアは面白いことを言うなぁ。俺は負けるのが嫌なんじゃないんだ。俺はただ好きに・・・、『自由』に・・・」

 

そう口にする一夏の目を見てあるヒトのことを思い出した。

 

 

――親父である。

 

 

いつだったか・・・、親父が「こんな親父で嫌じゃないか?」と聞いてきた時があったが、その時の親父の目と今の一夏の目が似てるんだ。

 

今の俺の知っている男達は良くも悪くも強い男ばっかりだったから、すっかり忘れてた・・・。

 

もしかして、一夏はあの時の親父と同じで『肯定』して欲しかったのかな?

 

仮にそうだったとしたら、一夏には悪いんだけどそれは出来ないよ?申し訳ないけど・・・。

 

いや、だってさ、親父と俺は親子だけど、一夏は良いヤツだとは思うけども他人なんだ。

 

それでさ、これが一番大事なんだけど親父と違って俺はさ、一夏のこと殆ど知らないのよ?

 

一応、レイレナードの方でも情報は集められてたんだけど、俺とは直接関係ないからって詳しくは教えて貰ってなくて、世間で公表されている情報に毛が生えた程度の情報くらいしか知らないんだわ。

 

だから俺がここで一夏を『肯定』することが一夏にとって良いことかどうか分からないんだ。

 

・・・ただ、俺の言葉が一夏の触れられたくないことだったのは確かだから予定変更。

 

 

――『計画』は破棄。一夏のフォローに回る。

 

 

ぶっちゃけ、こっから提案なんて不可能だし、こんな目をした一夏はほっとけんよ・・・。

 

「あ、あはは、そうでしたか。すみません、一夏さん。どうやら私の勘違いだったみたいで・・・「!?、そう、そう!勘違い、勘違いなんだよっ!!」きゃっ!?」

 

俺の言葉が終わる前に一夏がデカい声を出したので驚いてしまった。

 

 

――てか、これで確定。

 

 

お前さ、好きに生きるだの、理不尽に死ぬだのなんか格好いいこと言ってたけどさ、ただ単に(秋二)に負けたくないから逃げたいってだけじゃん・・・。

 

いや、別にね?一夏の人生だから一夏が逃げようが、好きに死のうが、理不尽に死のうがどう生きても俺は別にいいよ?

 

でもさ、一夏が明らかな地獄に向かって全力疾走しようってんなら流石にそれは止めなきゃいかんでしょうよ・・・。

 

そう思った俺は口を開く。

 

「・・・一夏さん、私の話を聞いて貰っても良いですか?」

 

「!?あ、あぁ・・・」

 

「一夏さん、正直に言いますと、専用機ですとか、研究所ですとか一夏さんの置かれている正確な状況を私は分かりませんが、これだけは言えます。一夏さん、あなたは今回の模擬戦を・・・、

 

 

 

 

 

――戦わなければいけません」

 

 

 

 

 

――ビキリッ!!

 

 

 

 

 

俺の戦えと言う言葉に再び空気が凍る。

 

「は、はは・・・。戦えって・・・・・・。俺は・・・」

 

「嫌、なのでしょう?ですが一夏さん、『ヒト(人間)』は戦わなければいけない時が・・・」

 

俺がそう言ったところで・・・、

 

「――せぇよ・・・」

 

 

――ガチャンッ!!!

 

 

一夏が右手に持っていたカップをそのまま机に叩きつけて割ったのだ。

 

馬っ鹿!利き手は止めろ!!カップを割るのは良いけど利き手は止めるんだ!!

 

俺がそんなことを思っていると一夏は勢いよく立ち上がり怒声を上げる。

 

「うるせぇんだよッ!何が戦わなきゃいけないだよッ!!巫山戯んなッ!!!」

 

「一夏さ・・・」

 

「黙れよッ!お前が俺の何を知ってんだよッ!!えぇッ!!」

 

「・・・名前とか、家族構成ですとか、一般公開されて・・・・・・」

 

「!?、それは知ってるって言わないんだよッ!!」

 

 

――はい、おっしゃるとおりで・・・

 

 

回答が癪に障ったらしくますますヒートアップする一夏。

 

「お前に分かるか?ずっと『お姉さんは天才なのにね?』とか『弟くんはすごいのに』とか『比較』される人間の気持ちが分かんのかよッ!」

 

「・・・いえ、分からないですね・・・・・・」

 

「ああ、そうだろうなッ!お前は貴族のお嬢さまだもんなッ!!戦え?何にも知らねぇくせに、しれっと言ってんじゃねぇよッ!!!」

 

う~ん、いろいろ言いたいことはあるけど、迂闊に口を挟むと火に油を注ぐ感じになるから一夏が落ち着くまで黙ってた方が良いね、これ・・・。

 

そう思い、黙っている一夏が自分の過去を怒鳴りながら語り出す。

 

曰く、

一夏がようやく自転車に乗れるようになったら秋二は曲乗りをやっていた。

一日掛けて英単語を二、三個を覚えているあいだに秋二は教科書をパラ読みして全部覚えた。

野球の助っ人に行ったら秋二の方が良かったと面と向かって言われた。

朝、時間が無くてタッパーに適当にご飯と残り物を詰めた弁当を自分が一人で食べているときに秋二は他の女子生徒に作って貰った弁当を一緒に食べていた、などなど・・・。

 

 

――こりゃひどい・・・。

 

 

いや、なにがひどいってこれ、一夏のプライドズタズタじゃん・・・。

 

織斑先生に関してはまぁ、言い訳は出来るよ?

 

年齢差もあるし、織斑先生は『女』で一夏は『男』だから~、みたいな感じでね?

 

でも秋二に関してはね~。

 

同じ『男』で、『双子』で、しかも一夏が『兄貴』なんでしょ?

 

そりゃ、「アイツはすごいヤツだから!」で自分も周りも納得させるのって無理じゃん・・・。

 

 

――あぁ、マジでやらかした・・・。そりゃ負けるの嫌だわ・・・。でもな?

 

 

そう思っていると一夏は怒りの矛先を俺に向けてきた。

 

やれ貴族だから、お嬢さまだから、そんな身体でも大企業に所属云々・・・。

 

・・・流石にちょっとカチンと来たけど、一夏の最初に触れて欲しくなかった『傷』に触れてしまったのは俺だし、俺が一夏のことを知らなかったのと同じで一夏も俺のことを知らない訳だから仕方ないし、この一夏の怒りを俺は甘んじて受け入れるしかないのである。

 

まぁ、そんな訳で黙って一夏の言葉、と言うより罵倒?を聞いていたのだが、それが一夏は面白くなかったらしい。

 

「おい、聞いているのかよッ!!」

 

そう怒鳴ってきた。

 

「・・・聞いていますよ?」

 

「はっ、どうだか!どうせお前も俺のことを心の中で馬鹿にしてるんだろ?自分だって戦ったことなんてないクセ・・・「戦いましたよ?」・・・は?」

 

俺の言葉に驚いた一夏にもう一度言う。

 

「戦いましたよ?」

 

戦ったよ? いろんな意味で戦ったよ?そして、

 

 

――これからも戦うよ?

 

 

だからこそ言わせて貰う。一夏、お前は戦うべきだ。

 

一夏が黙ったので俺は一夏の目を見ながら言葉を続ける。

 

「一夏さん、少し、昔話を聞いて貰えますか?」

 

「・・・昔話?」

 

「はい、私がレイレナードに所属するまでの話です」

 

そして自分の過去を話し始めるのだった・・・。

 

 

「――以上になります。運が良かった部分も勿論ありますが、戦ったからこそ、私はその運を引き寄せることが出来たと思っています」

 

「・・・・・・・・・」

 

昔話を聞いた一夏はさっきまでの興奮状態は何処へやら、椅子に黙って座って俯いていた。

 

まぁ、聞いていて気持ちの良い話じゃないから仕方ないけど、悪いことしたなぁ・・・。

 

でも、俺の言葉に説得力を持たせるためには話すしかなかった訳で・・・。

 

「・・・・・・ごめん」

 

ん?

 

「ひどいこと言って、ごめん・・・。俺、俺の方こそ、何にも、セシリアのこと何にも知らないのに・・・、ごめん・・・・・・」

 

一夏が声を震わせながら謝ってきた。

 

「いえ、大丈夫ですよ?むしろ謝罪しなければならないのは安易に一夏さんの『傷』に触れてしまった私の方です。申し訳ありませんでした」

 

知らないのなら仕方ないし、実際問題、『ヒト』の触れられたくない部分に先に触れてしまったのは俺で、下手すりゃぶん殴られても仕方ないことやらかしたわけだしね?

 

「・・・なんで?いや、でも、でも・・・・・・」

 

だからいいってば・・・。いや、てか、マジでごめんよ・・・。

 

今は時間がないから話を進めるけど、落ち着いたら改めて謝罪はするから、すまぬ・・・。

 

「・・・とりあえず、今回の私達のことは後日、ということにして・・・。一夏さん、何度も言うようですが今回の模擬戦、あなたは戦わなければいけません」

 

「・・・・・・・・・」

 

「一夏さんの今までの経験からそれが苦痛なのかもしれませんが、もし、ここで逃げれば、間違いなく一夏さんは戦って負けるよりも辛い状況になります。

・・・そして、一度逃げた者に手を差し伸べる人間はそう多くはありません。悲しい話ですが・・・」

 

また逃げると思われちゃうからね・・・。

 

でも、戦えば内容にも依るだろうけど、一夏のことを評価してくれる人達が出来るかもしれない。

 

もちろん、あくまで『可能性』に過ぎない訳だけど、それでも逃げるよりは間違いなく可能性も希望もあるんだ。

 

一夏にとっては戦っても戦わなくても地獄かもしれないけどさ、だったら、せめてマシな方の地獄を選ぼうよ?

 

「・・・でも、相手は『天才(秋二)』で、『専用機』で・・・・・・」

 

だから専用機云々は一夏の、いや、そう思っちゃうのも仕方ないか・・・・・・。

 

 

――ならば、

 

 

「一夏さん、いくつか『提案』があります」

 

「・・・提案?」

 

「はい。しかし、これはルームメイトのセシリアからの提案ではありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――『レイレナード社』所属の『セシリア・オルコット』からの提案です。

 

 

 

 

 

 




一夏が何を言ったのか、セシリアがどんな過去話をしたのかは一夏視点で描写しようかなと思い端折りました。

ここ最近の投稿を見直して、これだと視点を分けて投稿しても意味ないかな?と思い、ちょっと今回はこんな感じにしてみました。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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選択

お疲れ様です。

職場での人間関係で少々問題が発生して、今話は短いので先週中に投稿予定だったのですが遅れてしまいました。




「?、『レイレナード』のセシリアとして?それってどういう・・・」

 

俺の言葉に一夏が不思議そうに言う。

 

まぁ、分かりづらいよね?だから分かりやすく言うね?

 

「言葉を飾っても仕方がないので単刀直入に言いますね、一夏さん。要は一夏さんを『企業(レイレナード)』のために『利用』したい。

そして、そのために今回の模擬戦において一夏さんを『支援』したいと言うことです」

 

「利用、支援・・・」

 

俺の一夏を利用したいと言う言葉に一夏がそう呟いた。

 

 

いや、本当はさ、一夏の話を聞いちゃったから、あんまり企業云々は抜きにしたかったんだけどね?

 

 

だけど俺と一夏は出会って数時間しか経ってなくてさ・・・。

 

さっきの件もあるし、そんな俺が「お前に協力してやるぜ!!」って言っても『信用』も『信頼』も出来ないでしょ?

 

だから一夏に協力するのはあくまで「俺のためだよ~」って言った方が一夏も受け入れやすいと思ったんだ。

 

「支援の内容を具体的に説明しますと、私は試作ISと共に同じく、いくつかの試作武装を持ち込んでいます。

試作ではありますがその性能は既存の武装よりも上です。その武装を一夏さんに貸与したいと考えています。

仮に秋二さんが専用機だとしても見劣りはしないでしょう」

 

・・・一番良いのは俺の『2B』を一夏に貸すことなんだけど、流石に一週間で2Bを一夏が使いこなせるとは思えないし、織斑先生とかのIS学園側が納得しないだろうから最初に俺が考えていたこの提案が限界なんだよね・・・・・・。

 

「貸与・・・」

 

「もちろん、ただ武装を貸与するだけではありません。明日から模擬戦当日までの訓練期間に私が一夏さんに対して教導を行います」

 

「・・・セシリアが?」

 

俺が教導するという言葉に一夏がちょっと不安そうな声を出すが、安心しなさいな?

 

「はい。自慢ではありませんが、私はこう見えても『首席』なんですよ?それにIS学園に入学にあたって『その道』のプロに教育を受けていますから、より実戦的な戦術を一夏さんに教えることも出来ます」

 

「・・・でも、それで負けたら・・・・・・」

 

 

――戦う前から負けること考える馬鹿がいるかよッ!!!

 

 

って言うのは簡単なんだけどさ・・・。

 

一夏の場合はねぇ・・・。

 

今まで一回も(秋二)に勝ったことが無いわけで弱気になるのも仕方ないわけで・・・。

 

せめて勉強とかスポーツとかメジャーなのだけじゃなくて、読書感想文とかで賞を取ったとか何でも良いから一回でも勝ってたら話はまた違ったんだろうけどね・・・。

 

ならば、

 

「ではこうしましょう、一夏さん。私からの最後の提案です。

 

 

 

 

 

――『敗戦処理』をしましょう」

 

 

 

 

 

 

「敗戦処理?」

 

俺の敗戦処理という言葉に一夏が聞き返す。

 

「はい、敗戦処理です。一夏さん、今回の模擬戦で一夏さんにとって『最悪』の負け方とは何だと思いますか?」

 

「・・・そりゃあ、始まってすぐに瞬殺されるとか・・・・・・」

 

「はい、そうなりますね?なので、その最悪の負けを回避して()()()()()負け方をしよう、と言うことです」

 

「?、評価される負け方?」

 

あ、ピンと来てないね?

 

「具体的に説明しますと、一夏さんの適正は『B』で秋二さんは『S』ですよね?

ここからさらに秋二さんが専用機を使用するとなれば、一夏さんが思ったような結果になるだろうと大半の人間が思うでしょう。ですがここで一夏さんが奮闘し、例えば、秋二さんの機体のシールドエネルギーを半分ほど削ることが出来れば敗北したとしても一夏さんに対して一定の評価を行うと思いませんか?」

 

「・・・まぁ、多少は・・・・・・」

 

俺の説明に一夏に自信なさげに答える。

 

本音を言うとね?

 

俺は一夏には勝って欲しいし、勝たせてやりたいんよ?

 

だけど今の一夏に「勝てる」とか「勝たせてやる」って言ったら「そんなの無理ッ!」って言うだろうし、一夏の実力も秋二のヤツの実力も未知数な上、簡単にそう言って一夏が負けたら一夏の心に『致命的』なダメージを負うのは必然だからこう言うしかないわけで・・・。

 

「以上が私からの提案です。一夏さん、

 

――どうしますか?」

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

・・・出来れば一夏には俺の提案を呑んで欲しい。

 

断言するけど、今の一夏にとって俺の提案は『破格』と言ってもいいと思うんだ。

 

だって、一夏の手札に新しいカードが何枚も配られたんだ。

 

これを破格と言わずして何て言うんだって話だよ。

 

それに一夏には言わなかったけど俺の提案を呑んだ場合、一夏は模擬戦で敗北して、仮に誰かに馬鹿にされたとしても最悪・・・、

 

 

――俺の『せい』に出来るんだぞ?

 

 

本来なら学園の教員なり上級生なりが一夏の教導を行う予定なんだろうけど、一夏の立場上その人達のせいにするのは難しいけれども、俺の場合はそのまま、「あいつ(セシリア)の教導が悪い」、「試作品の武装がポンコツだったから」みたいに言い訳が出来るんだ。

 

・・・まぁ、そんな状況にさせるつもりさらさらないんだけどね?

 

 

――『選択肢』は一夏に与えた。

 

 

あとは一夏次第。

 

さて、一夏の『答え』は?

 

「・・・セシリア、一つ、聞きたいんだけど、いいか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

いいぞ、何でも聞け。

 

「なんで、俺のためにそこまでしてくれるんだ?俺、セシリアにあんなひどいこと言ったのに・・・」

 

あ~、それは確かに疑問に思うよね?

 

その一夏の問いに対する俺の『回答』は決まってる。

 

「一夏さん。こう言ってはなんですが、今回の私の提案は一夏さんのためでありません」

 

「・・・俺のためじゃない?」

 

「はい、最初にも言った通り、あくまで私の提案はレイレナードの利益ため・・・。

具体的に言うと適正で劣る一夏さんが秋二さんに健闘することで我が社の製品の宣伝をするためで、結果的に一夏さんも利益を得ることが出来ると言うものなんです。

なので、決して一夏さんのために今回の提案を行ったわけではないんです。

・・・ご不快に思うかもしれませんが・・・・・・」

 

俺は最初に計画していた理由を述べる。

 

一夏はさ、もしかしたら俺になんだかんだ言って「一夏のためだよ?」って言って欲しかったのかもしれない。でもね?最初にも考えたけど、いきなり出会って一日も経ってない俺がそう言うよりも、あくまで企業のために一夏に協力することでお互いに利益が得られるって言った方が一夏も俺がレイレナードのために『全力』で支援してくれるって安心出来るし、受け入れやすいと思うんだよ。

まぁ、若干不快に思うかもしれんけど・・・。

 

すると、俺の言葉を受けて一夏は、

 

「ハッキリ言うなぁ・・・」

 

と苦笑していた。

 

そんな一夏を見て内心、失敗したかな?と思っていると一夏が口を開いた。

 

「なぁ、セシリア。俺はどうすればいい?」

 

それは俺に聞いちゃ駄目だよ?

 

「それは一夏さんが決め・・・「いや、そうじゃないんだ」と、言うと?」

 

一夏のその言葉に不思議に思い俺が聞き返すと一夏は真剣な顔になり答えた。

 

「セシリアの『提案』、俺、受けるよ。

 

 

――俺も戦うよ。

 

 

セシリア、今から俺はどうすればいい?」

 

 

その一夏の『答え』を聞いた俺は頷くと、

 

 

「私の提案を聞き入れてくれてありがとうございます、一夏さん。では、まず・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「右手、怪我してませんか?」

 

 

 

 

 

一夏の右手の確認をするのだった。

 

 




原作をちょくちょく読み返して思ったんですけど、付き合いが長い訳でもないのに原作シャルはよく一夏の提案を受け入れたなぁ・・・。
それだけ追い詰められていたのかもしれないけども

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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交渉

お疲れ様です。
投稿に間が開き申し訳ありません!!
リアルが忙しかったり、アレも入れたい。これも入れたいとかやって五回くらい書き直したりしてたら間があいてしまいました(汗


「さ、一夏さん、入りますよ?」

 

「あ、あぁ、うん・・・」

 

一夏の右手が怪我をしてないかニギニギして確認した後、俺は一夏と一緒に職員室に行く事にした。

 

理由は簡単、織斑先生に俺が一夏にした提案の『許可』を貰うためだ。

 

いや~、一夏には「レイレナードのセシリアの提案でっす!!」みたいに格好付けちゃったんだけど、実際問題、ちゃんと織斑先生・・・、というか学園側に許可を貰わないと意味が無いんだよね~。

 

一夏曰く、織斑先生は会議かなんかで一夏が職員室に行った時はいなかったらしいけど、結構時間も経ったからもう戻ってるかもしれないし、まだ戻っていなかったら何処の会議室で会議をしているかを教えて貰って最悪、出待ちをしようという訳だ。

 

そう俺が言うと一夏が若干渋った。

 

理由を聞くと、お茶会の前に一夏が職員室に行った際、教師の一人と少し揉めてしまったらしく気まずいとのことだった。

 

何があったのかあえて詳しくは聞かなかったが、「俺も一緒だし、大丈夫」と言ったらとりあえず納得してくれた様だった。

 

そんなこんなで職員室には無事到着。ノックをして一夏と一緒に中に入る。

 

「失礼します」

 

「・・・失礼します」

 

「あら、どうし・・・、あ!?い、一夏くんと、お、オルコットさん!?ど、どうしたのかな~?な、何か問題とか・・・」

 

え、なんだ、この先生、なんか変なんだけ・・・。あ!そっか、この人が一夏が言ってた揉めたっていう先生か!

 

てか、声と肩が震えてるんだけど・・・。

 

・・・一夏はちょっと揉めたって言ってたけど、本当に『ちょっと』だったの?

 

そう思って一夏の方をチラッと見るとばつが悪そうに目を逸らした。

 

ま、まぁ、とりあえず用件を伝えよう!

 

「いえ、問題とかではないのですが、織斑先生はいらっしゃいますか?」

 

「え、え、あ、お、織斑先生!?ご、ごめんね?織斑先生はまだ会議から戻ってきてないんだ・・・。あ!?もし、部屋割りのことだったら織斑先生に話しても無理だよ?申し訳ないんだけど・・・」

 

「いえ、部屋割りに関しては問題ありません。別件ですね」

 

「そ、そう?」

 

別件だと言う俺の言葉に安心したらしく先生はホッと胸を撫で下ろした様だった。

 

「先生、織斑先生が会議をされている会議室を教えて貰うことは可能でしょうか?なるべく早急にお話をしたいと思っていまして・・・」

 

「え、う、うん、大丈夫だよ!あっ、でも、まだ会議中だったら邪魔はしないようにね?」

 

「はい、勿論です」

 

「場所は・・・」

 

ふんふん。

 

「分かりました、ありがとうございます。では、一夏さん行きましょうか。一夏さん?」

 

先生から場所を聞いてお礼を言った後、一夏と一緒に目的地へ行こうとしたのだが一夏が動かない。

 

どしたの?

 

俺が疑問に思っていると一夏が口を開いた。

 

「・・・あの、先生・・・・・・」

 

「!?、な、何かな、一夏くん?あ、もしかして私、またまた何かやっちゃったかな~?あは、あはは、はは・・・」

 

「いえ、そうじゃないんです」

 

そう言うと一夏は一瞬、俺の方を見たかと思うと・・・、

 

「あの、さっきはすいませんでした」

 

 

――頭を下げ、先生に謝罪をしたのだ。

 

 

すると、一夏の謝罪を受けた先生は一瞬驚いた顔をすると早口で喋りだした。

 

「い、一夏くん、頭上げて!?大丈夫、気にしてないから、私、全然気にしてないから!!私の方こそごめんね?私、気付かないで一夏くんが嫌なこと言っちゃったんだよね?本当にごめんね?」

 

「いや、俺が・・・」 

 

「ううん、私の方が・・・」

 

・・・何があったか分からないけど、二人のやり取りを見て俺は思った。

 

なんと言うか・・・、

 

 

 

 

 

――いいね、こういうの!!

 

 

 

 

 

 

さて、いろいろあった職員室を出た俺達は先ほどのことなどを話しながら目的地を目指していたのだが、どうやら運が良かったようだ。

 

なぜなら、ちょうど会議が終わったらしく織斑先生達が会議室から出てきたのである。

 

う~ん、しかし、すごい顔ぶれだなぁ・・・。

 

会議室から出てきたのは織斑先生を筆頭に山田先生などの教師数名、さらに更識生徒会長と他生徒数名・・・、多分、生徒会メンバーなのかな?

 

・・・これ事実上、IS学園のトップが全員集合してたってことじゃね?

 

何を話し合ってたんだろ?

 

考えても分かんないし、ま、いいや!

 

そう思い織斑先生の元へ向かおうとしたのだが隣の一夏がピタッと足を止めてしまった。

 

不思議に思い一夏を見ると明らかに緊張している様子だった。

 

どうやら一夏も目の前の集団がIS学園のすごい人達と感じ取ったらしく、気圧されてしまったらしい。

 

――しゃーない。

 

俺は一夏の手を取った。

 

「え、ちょ、せ、セシリア?」

 

「私が一緒だから大丈夫ですよ、一夏さん。さ、行きましょう」

 

そう言って一夏の手を引っ張って歩く。

 

「い!?あ、ちょっ!?」

 

一夏がちょ~っと戸惑った声を上げるが気にせず、真っ直ぐに織斑先生の元へ向かい声を掛けた。

 

「織斑先生、お忙しいところ申し訳ありませんが、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「オルコットに、・・・織斑兄、か。構わんが、なんだ?お前達が同室なことについてか?」

 

う~ん、職員室でもそうだったけど、やっぱりそのことについてだと思うよね~。

 

だけど違うんだな、これが。

 

俺が口を開こうとすると・・・、

 

「うふふ、どうやら違うみたいですよ、織斑先生?ほら、二人で()()()手を繋いでいますもの。まだ初日なのにこんなに仲良くなれちゃうなんて、おねーさん妬けちゃう~」

 

近くにいた更識会長が茶化すようにそう言った。

 

おっとと、しまった、手を繋ぎっぱなしだった・・・。

 

慌てて手を離す。

 

「あぁ、すみません、一夏さん。手を繋ぎっぱなしでした」

 

「・・・いや、いいよ、別に・・・・・・」

 

「あら、離しちゃうの?そのままでもいいのに・・・」

 

いや、ナチュラルに混ざってこないでくださいよ、会長・・・。

 

てか、会長ってこんな感じだったんだね?もっと真面目な感じかと思ってたわ・・・。

 

 

――て、そんなことはどうでもよろしいッ!!

 

 

本題に入ろう、本題にッ!!

 

「えぇっと、すみません、織斑先生。話と言うのは、一夏さんと秋二さんのクラス代表選出の模擬戦についてです」

 

「・・・模擬戦がどうかしたか?」

 

「はい、その前に確認だったのですが・・・。実は、一夏さんと親睦を深めるために『お茶会』をしたのですが、その時に一夏さんから秋二さんが『専用機』を受領されると言うお話を聞きまして・・・、それは事実ですか?」

 

「事実だ」

 

「そうですか。ちなみに一夏さんには?」

 

「・・・議題には挙がっているが、コアの数に限りがある以上、現時点ではまだ確約されていない、とだけ言っておこう」

 

 

――ですよね~。

 

 

「そうなのよ~。もしも国が企業に譲渡したコアがあったら()()()()()()専用機を用意出来たんだけどね?・・・世の中ってままならないものよね~?」

 

 

だから会長は混じってこないでよ・・・。

 

てか、世の中もしもなんてないんだからさ、そんなこと言われても、その、なんだ、困る。

 

会長はほっといて話を続けよう。

 

「そうですか、分かりました。すみません、織斑先生、もう一つ確認したいのですが・・・」

 

「なんだ?簡潔に言え」

 

「はい、では、単刀直入に聞きますね?今回の模擬戦、まさかとは思いますが秋二さんのみがその受領した専用機を使用する・・・、

 

――なんてことはありませんよね?」

 

俺のこの問いに対して織斑先生は目を閉じ、軽くため息を吐くと重々しく口を開いた。

 

「・・・いや、そのまさかだ・・・・・・」

 

・・・うん、予想はしてたけど、そうあっさりと肯定されると、なんだかなぁ・・・・・・。

 

まぁ、その方が俺も提案しやすいし、織斑先生の反応から分かったこともあるからいいんだけどさ・・・。

 

「そうですか。では、織斑先生。ここからが本題なのですが・・・」

 

「・・・なんだ?まさかとは思うが、織斑兄の代わりに自分が戦いたいなどと抜かすつもりではないだろうな?」

 

違うよ。てか、睨まないで欲しいんですけど・・・。織斑先生みたいな美人が睨むと怖さが増すんだから・・・・・・。

 

「いえ、違いますね。一夏さんには既に提案済みなのですが、模擬戦の際に一夏さんに私が持ち込んだ試作兵装の使用と、それらの運用と戦術の教導をこの一週間で私が行いたいのでその許可をいただきたいのです」

 

「なに?」

 

俺の言葉に織斑先生が少し驚いた声を上げる。すると会長が口を開いた。

 

「あら、セシリアちゃんは面白いことを言うわね~。でもセシリアちゃん、ちょっと質問してもいいかしら?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「うん、ちょっ~と意地悪な質問なんだけど、多分、セシリアちゃんのその提案って一夏くんを『利用』して武装とかの宣伝をしたいってことなんだろうけど、わざわざそんなことしなくても織斑先生が言ったように一夏くんの代わりにセシリアちゃんが戦った方が良いんじゃない?って、おねーさんは思うんだけど、そこはどうなのかな?」

 

まぁ、普通はそう思うよね?けどね?

 

「それはですね、仮に私が一夏さんの代わりに戦った場合、一夏さんが私の提案通りに戦うよりも効果薄いからですね」

 

「それはなんで?」

 

分かってて聞いてるでしょ?まぁ、答えるけども・・・。

 

「簡単に言いますと、例え専用機を使用したとしたとしても、現時点で秋二さんと私とでは経験の差で戦いにならないからですね。

それでは意味がないので一夏さんを利用したい、と言うことです。あとは、まぁ、今回の模擬戦はクラスの決定ですので、それを勝手に覆すのもどうかと思ったということもありますね」

 

「あら、すごい自信。そして一夏くんを利用したいということは否定しないのね?」

 

「はい、()()()()()()一夏さんには説明して一夏さんにとっても悪い話ではないということで同意をいただいていますので・・・」

 

「へぇ~、そうなんだ~」

 

「はい、そうですね」

 

会長の探る様な目に俺はそう返す。

 

すると黙って俺達のやり取りを聞いていた織斑先生が口を開いた。

 

「オルコット、お前の話は分かった。だが、内容が内容だ。この場で即答は出来ん」

 

「はい」

 

「ひとまずこの話は審議にかける。回答は・・・、明日のHRまでにはするとしよう。それでいいか?」

 

「分かりました。織斑先生、申し訳ありませんがよろしくお願いします。では、一夏さん、戻りましょうか」

 

「え、あぁ、うん・・・」

 

とりあえず回答待ちと言うことで、一夏と一緒に部屋に戻ろうとすると・・・、

 

「いや、待て。・・・織斑兄は少し残れ」

 

「・・・なんでだ、いや、なんでですか?」

 

織斑先生の一夏に対する居残り宣言に一夏が不満そうな声を上げる。

 

「当事者であるお前の口からも話を聞きたい。オルコットが居ては話しづらいこともあるだろうからお前は居残りだということだ」

 

あ~、しまった。そういや俺ばっか話してたわ。

 

一夏にも話を振るなりなんなりして喋らせれば良かったなぁ・・・。

 

 

――そういうことなら仕方ない。

 

 

「分かりました。そういうことらしいので一夏さん、私は先に部屋に戻っていますね?」

 

「でも・・・」

 

別に取って食われるわけじゃないんだからそんな不安な目をすんな。

 

「大丈夫ですよ。ではまたあとで」

 

そう言って一夏の背中を二、三回叩いたあと俺は先に部屋へ戻ることにした。

 

まぁ、大丈夫と言いつつ、心配だったから何回か一夏達の方を振り向いちゃったんだけどね?

 

 

 

 

 

一夏、一人で大丈夫かなぁ・・・・・・。

 

 

 

 

 




以上になります。
本当は入れたかったイベントがもう一つあったんですが今話には入れませんでした。
あと、セシリアの寝間着アンケートに沢山の回答ありがとうございます。
感想欄で病院着やラップ巻きなどの意見もいただけて嬉しかったですw
アンケートは次話投稿時に締め切りたいと考えていますので投票を考えている方はお早めにお願いします。

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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初日終了

明けましておめでとうございます。

年末までに投稿出来ればと頑張っていたのですがリアルが忙しくて年明けになってしまいました。申し訳ありません。

稚作ですが本年もよろしくお願いします。


何回か振り返って一夏が織斑先生と山田先生、会長と一緒に会議室に入っていくのを見届けた後、俺は部屋へと歩き出した。

 

う~ん、一夏は大丈夫だろうか・・・。

 

一夏の話を聞いた限り、織斑先生とは微妙な関係だし、今にして思えば会長も俺と話した感じだと、どことなくオーメル臭がするし・・・。

 

まぁ、匂いなんて分かんないからガチのヤツじゃなくて雰囲気がってことなんだけどね?

 

せめて山田先生が主体で一夏から話を聞いてくれるって感じだったら一夏もちゃんと喋れると思うんだけども・・・。

 

 

・・・・・・・・・。

 

 

だ、大丈夫さ!きっと大丈夫、大丈夫!!

 

一夏を信じるんだ!そう、信じるんだ!!信じなさい、信じなさい・・・。

 

そう自己暗示のように頭の中で一夏のことを考えながら寮の方まで歩いて来たのだが、ちょっち出会いたくないヤツらと出くわしてしまった。

 

 

「それでは秋二さま、よろしければまた二人でゆっくりと・・・」

 

「ああ、ありがとう、グレイス。またいろいろと話を聞け・・・、って、セシリア!?」

 

 

――そう、グレイスと秋二である。

 

 

二人は何やら廊下で会話していた様だが俺に気付いた秋二がグレイスとの会話を打ち切り俺に近づいてきた。

 

いやいや、秋二くん?それはちょっとグレイスに失礼でしょうよ・・・。

 

ほら~、グレイスが俺のこと睨んでんじゃん。これ、絶対面倒なことになるやつじゃん・・・。

 

「えぇっと、秋二さんにファロンさん、ごきげんよう。それでは、私はこれで・・・」

 

そう言って面倒なことになる前に適当に挨拶をしてやり過ごそうとすると、

 

「い、いや、ちょっと待ってくれ!」

 

「きゃ!?」

 

 

――がちゃっ!ずるりっ!!どすんっ!!!

 

 

秋二の横を通り過ぎようとした俺の左手(義手)を秋二が咄嗟に掴み、結構勢いがあったらしく俺はバランスを崩し転んでしまった。

 

さらに運が悪いことに、転ぶ際に俺の体重と勢いが重なった結果、義手のジョイントが上手い具合?に外れてしまい、義手がなくなった俺は受け身が取れずに背中から盛大にぶっ倒れることになってしまった。

 

まぁ、痛みは感じないし、不幸中の幸いと言うべきか()()()()()頭は地面にぶつけなかったから別に良いんだけどね?

 

さて、結果的にとは言え俺の左腕をもいでしまった秋二はと言うと・・・。

 

「わ、悪いセシリ・・・、うっわぁ!?」

 

倒れた俺の心配をしたかと思ったら、自分が俺の外れた義手を丸々一本握っていることに気付くとたまげたらしく義手を放り投げるようにして手放した。

 

いや、うん・・・。

 

状況が状況だから驚くのは仕方ないけど、人のモノをそんな風にされるとあんまり気分良くないよね・・・。

 

そんな気分になりつつもいつまでも倒れている訳にいかないので、とりあえず仰向けの状態から身体を反転。はいはいをしながら外れた義手を回収して装着する。

 

そして指を一本づつ動かして動作を確認。

 

 

――うん、問題なし!!

 

 

義手の動作確認も終えて杖を支えにして立ち上がろうとすると、

 

「あ!?ご、ごめん、セシリア!?手伝うよ!!」

 

「え、ちょ、し、秋二さん!?きゃっ!?」

 

秋二が背後から俺の両脇に手を通してそのまま持ち上げてきた。

 

いや、ちょっと秋二くん?お気遣いありがたいんだけど、いきなりは止めてくれ。

 

この持ち上げ方だと俺も身動きが取れないし、俺の見た目よりも重い全体重がお前の腕とか腰とかにかかって下手すると傷めるよ?

 

・・・まぁ、立ち上がらせて貰ったのは事実なので礼を言おうとすると、これまでのやり取りを静観していたグレイスが口を開いた。

 

「・・・秋二さま。あなたがお優しいのは分かりますが、あまり『弱者』を甘やかすのは良くありませんことよ?オルコット、さんも秋二さまのご厚意を当たり前だと思わないように気を付けなさい?」

 

――ははは、おもしれぇこと言うなぁ、グレイス(この女)は・・・。

 

俺は別に秋二に自分から助けなんて求めてないし、ちゃんと秋二にお礼も言おうとしたよ?

 

なのにその言い方は無いでしょうよ?

 

グレイスのあまりに失礼な物言いに内心、(はらわた)が煮えくりかえったがここで俺が怒ると図星だと思われると思ったので努めて冷静に返答することにした。

 

「・・・えぇ、そうですね。以後、気を付けようと思います。ご指摘ありがとうございます。秋二さん、立ち上がらせていただきありがとうごうございました。それでは、本当に私はこれで・・・」

 

「え!?ちょっと待ってくれセシリア、話を・・・」

 

秋二が何か言っているが気にしないで自分の部屋へ足を進める。

 

後ろから何やら言い合う声がするが気にしない。

 

 

――気にしないったら気にしないんだからねっ!!

 

 

 

さて、そんなことがあり部屋へ戻って来た俺であるが、何かしないと内心のイラつきが収まらず、戻ってきてから一夏と二人で片付けようと言っていた割れたティーカップやテーブルクロスの片付けを一人で行った。

 

片付けが終わってもまだモヤモヤしていたので、自分のベッドで横になり枕元にあるクマのぬいぐるみをもみもみしたり抱きしめたりしていた。

 

ちなみに、このぬいぐるみはアクアビットの女性リンクス『P.ダム』がIS学園入学前に俺にくれたものである。

 

しばらくそうしているとだいぶ気分も落ち着き、時間を確認するともう夕食の時間だったので、ダンボールから栄養食のチューブを取り出し、明日からの予定を考えたり、もうこんな時間だけど一夏は夕食どうすんのかな?などいろいろ考えながら食べた。

 

そしてちょうど食べ終えたところで"コンコン”とノックの音が聞こえた。

 

お、一夏が帰ってきたかな?

 

チューブをゴミ箱に捨てドアへ向かう。

 

そうしてドアを開けると一夏が若干疲れた顔をしながら立っていた。

 

――もしかして・・・、結構()()()()()()したのかな?

 

そんなことを思いながら一夏に声をかける。

 

「お帰りなさい、一夏さん。あの、かなり遅かったですけど大丈夫でしたか?」

 

「あ、あぁ、うん。・・・ただいま、セシリア。話が終わった後に参考書を取りに行ったりしてたから遅くなったんだ。心配させてごめん」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ?とりあえず、中に入ってゆっくり休んで下さい」

 

いや、本当に今日はいろいろあって疲れたっしょ?

 

――ゆっくりしな?な?

 

あ、そうだった・・・。

 

「そう言えば、一夏さんは夕飯はどうしますか?」

 

もう時間的に食堂は閉まっちゃってるだろうし、下手すると飯抜きになっちゃうぞ?

 

まぁ、お茶会用の菓子があるから最悪、それで明日の朝まで持たせるって手もあるけども・・・。

 

「うん?あぁ、それは大丈夫。お茶会の前に購買でパンとか買ってたから」

 

あ、そーいや、最初部屋に一夏が入ってきた時になんかビニール袋持ってたっけか。

 

――なら一安心。

 

「あ、そうでしたか。なら、食べながら明日以降のことについて少し話しましょうか?」

 

「お、おう・・・」

 

 

その後、一夏が夕食を食べている間に今後のことを話し合い、今日は疲れただろうからシャワーを浴びてもう寝た方が良いということになり、一夏をシャワールームへ送り出した。

 

そして一夏がシャワーを浴びている間に寝間着に着替えようと思ったのだが、問題発生。

 

 

――俺の寝間着、ネグリジェしかないじゃん・・・。

 

 

IS学園に引っ越しの時、一人部屋だって聞いてたから、楽だからこれでいいやってネグリジェにしたんだけど、これは思春期真っ盛りの男の子には刺激が強いか?いやいやいや、それ以前に・・・。

 

 

・・・・・・・・・。

 

 

いや、よくよく俺の身体について考えたら、こんなのに欲情するヤツはいない、とは言い切れないけども、少なくとも一夏は違うだろうから大丈夫でしょ・・・。

 

大丈夫だよな?

 

そう考えながら一夏が出てくる前に寝間着に着替え、右腕以外の義手と義足を外す。

 

すると一夏がシャワールームから頭をタオルで拭きながら出てきた。

 

「どうです、一夏さん?すっきり出来ましたか?」

 

「あぁ、だいぶ・・・、うぉ!?」

 

あ、この反応は大丈夫そうですね。『正常(ノーマル)』です。

 

「あはは、驚かせて申し訳ありません、一夏さん。ご不快かも知れませんが今、私はこの寝間着しか持っていなくて・・・。後日、別のモノを用意しますのでそれまでは・・・」

 

「!?、い、いや、いや、いいよ!?そのままで良いって!?俺は気にしないから、全然気にしないから!!」

 

――本当ぉ?

 

めっちゃガン見してるじゃん・・・。また変な空気になっちゃってるじゃん・・・・・・。

 

あ、良いこと思いついた!!

 

「そ、そうですか。あ、一夏さん、私があんまりにも魅力的だからって手を出しちゃ駄目ですよ?文字通り手も足も、いえ、私の場合は義手も義足も出せないんですからね?」

 

場を和ませようと俺は渾身のジョークを披露したのだが・・・。

 

「・・・ごめん、セシリア。それ、ジョークのつもりかもしれないけど全然笑えないんだけど・・・・・・」

 

――盛大にスベった。

 

あれ~、おかしいですね~?何がいけなかったんでしょうかね~。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

はい、止め止め!もう寝よ、寝よう!!

 

「・・・とりあえず、明日から忙しくなりますし、もう寝ましょうか?」

 

「・・・そうだな、寝るか・・・・・・」

 

 

それじゃあ、

 

 

 

 

 

――おやすみ、一夏。また明日・・・。

 

 

 

 

 




セシリアの義手ジョークの元ネタはスペースオペラの某提督さんですw

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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一夏の『選択』

お疲れさまです。

リアルが確定申告やらなにやらで忙しく投稿が伸びに伸びました。
本当に申し訳ありませんっ!!


――『好き』に生き、『理不尽』に死ぬ。

 

 

セシリアとの初めてのお茶会で俺が口にしたこの言葉・・・。

 

あの『英雄』やレイレナードの『断頭台』、BFFの『女帝』。イクバールの『魔術師』にレオーネの『騎士』、GAの『切り札』。

 

・・・そして、オーメルの『天才』やセシリアとの邂逅を経てからずいぶん経った今ならいざ知らす、理不尽な『現実』と戦わず、逃避したいだけのガキが口にして良い言葉ではなかった。

 

それに気付いたからこそ、セシリアは口にしたんだろう。

 

――負けるのが嫌なんじゃないんですか?

 

そして続けてこう言った。

 

――あなたは今回の模擬戦を戦わなければいけません。

 

これらのセシリアの言葉に当時の俺は激昂して、セシリアに対して酷いことを沢山言った。言ってしまった。

 

あの時の俺があそこまで感情を爆発させたのは図星だったのもあるが、それだけではなかったんだ。

 

要は俺はセシリアのことを・・・・・・。

 

 

・・・・・・・・・・・・。

 

 

そして俺の罵倒の言葉に反論しないセシリアに俺は言った。

 

 

『自分だって戦ったこともないクセにッ!!』

 

 

・・・俺は馬鹿だった。自分が賢いと思い込んでいた、ただのガキだった。

 

 

だって、セシリアを初めとした『企業』側の人間はもちろんだが、姉も、かつての幼なじみや転入してきた留学生達も、最後まで好きになれなかった生徒会長など『国家』側の人間も・・・・・・。

 

 

 

 

 

――『誰もが生きるために戦っている』という、この世の当たり前の事実にさえ気付いていなかったのだから・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

――負けるのが嫌なんじゃないんですか?

 

 

セシリアが発したその言葉を理解した瞬間、一夏の中でナニカが『ビキリ!!』と今までの比にならない程の音を立てて軋み、一瞬で頭に血が上る。

 

 

ナンデソンナコトヲイウ?ソンナヒドイコトヲキケル?オレハオマエニイロイロキキタカッタケドアエテキカナカッタンダゾ?ヒドクナイカ?オレヲヒテイシナインジャナカッタノカ?オレデヨカッタンジャナイノカ?オレノホウガヨカッタンジャナイノカ?オマエモケッキョクホカノヤツラトオンナジナノカ?オレヲミクダスノカ?オマエニソンナシカクガアルノカ?オマエナンテ――

 

 

頭の中を様々な考えが巡り、心の中に負の感情が沸々と溢れ出す。

 

そんな一夏の内面を察したのかセシリアの表情が固まったのを認識した一夏はこれまでのセシリアとのやり取りを思い出し、爆発しそうになる感情を抑え、口を開いた。

 

「は、ははは・・・。セシリアは面白いことを言うなぁ。俺は負けるのが嫌なんじゃないんだ。俺はただ好きに・・・、『自由』に・・・」

 

声は震え、自分が今どんな表情をしているかさえも分からなかったが、気力を振り絞り、なんとか言葉を紡ぐ。

 

そんな必死な一夏の『言葉』にセシリアが今までとは違い、ぎこちなく笑いながら答える。

 

「あ、あはは、そうでしたか。すみません、一夏さん。どうやら私の勘違いだったみたいで・・・「!?、そう、そう!勘違い、勘違いなんだよっ!!」きゃっ!?」

 

自分の勘違いだったと言うセシリアに一夏はセシリアが喋り終わる前にそう言葉を畳み掛ける。

 

あまりの一夏の勢いにセシリアが驚き悲鳴を上げるが、直ぐさま真面目な顔になり、数秒一夏を見つめたかと思うと口を開いた。

 

「・・・一夏さん、私の話を聞いて貰っても良いですか?」

 

「!?あ、あぁ・・・」

 

今までとは違う真剣な口調のセシリアに驚きつつも返事をする一夏。

 

すると、

 

「一夏さん、正直に言いますと、専用機ですとか、研究所ですとか一夏さんの置かれている正確な状況を私は分かりませんが、これだけは言えます。一夏さん、あなたは今回の模擬戦を・・・、

 

 

 

 

 

――戦わなければいけません。

 

 

 

 

 

セシリアはそんな残酷な言葉を口にした。

 

 

 

 

 

――ビキリッ!!

 

 

 

 

 

空気が軋む、心が軋む。

 

「は、はは・・・。戦えって・・・・・・。俺は・・・」

 

うわごとの様になにか言葉を口にしようとする一夏にセシリアが追撃をする。

 

「嫌、なのでしょう?ですが一夏さん、『ヒト(人間)』は戦わなければいけない時が・・・」

 

 

――ぶちッ!!

 

 

「――せぇよ・・・」

 

 

――ガチャンッ!!!

 

 

セシリアのその言葉で遂に一夏はキレ、右手をカップを持ったまま机に叩きつけた。

 

当然、カップは割れ、破片や中に残っていた紅茶が白いテーブルクロスに飛び散るが一夏は構わず激情のままに立ち上がり怒声を上げる。

 

「うるせぇんだよッ!何が戦わなきゃいけないだよッ!!巫山戯んなッ!!!」

 

「一夏さ・・・」

 

そんな一夏にセシリアは怯まず声を掛けようとするがそれは一夏がさらに怒鳴って遮った。

 

「黙れよッ!お前が俺の何を知ってんだよッ!!えぇッ!!」

 

「・・・名前とか、家族構成ですとか、一般公開されて・・・・・・」

 

「!?、それは知ってるって言わないんだよッ!!」

 

別に一夏自身、セシリアからのしっかりとした回答を求めた訳ではなかったが、真面目に答えられ一瞬驚くもののすぐにそれは怒りに変わる。

 

理由は簡単。

 

 

――セシリアは一夏のことを何も知らないのだ。

 

 

いや、正確に言えばニュースや新聞などで公表されていることは知っている様だが、今まで一夏がどのような人生を生きてきたのかは知らないのだ。

 

 

――だから『戦え』などと巫山戯たことが言えるのだ。

 

 

そう思ってからは早かった。

 

 

「お前に分かるか?ずっと『お姉さんは天才なのにね?』とか『弟くんはすごいのに』とか『比較』される人間の気持ちが分かんのかよッ!」

 

部屋に一夏の怒声が響く。

 

「・・・いえ、分からないですね・・・・・・」

 

「ああ、そうだろうなッ!お前は貴族のお嬢さまだもんなッ!!戦え?何にも知らねぇくせに、しれっと言ってんじゃねぇよッ!!!」

 

そう言い切った後、一夏は自分の過去について怒鳴りながら語り出す。

 

「お前に分かるか?俺がガキの時にあっちこっちすり傷作りながらやっと自転車に乗れる様になった時には秋二のヤツが皆の前で曲芸を披露してて“すごい、すごい”って言われているのを見る気持ちがッ!!」

 

「・・・・・・」

 

セシリアは答えない。

 

「俺が何ページもノートをびっしり埋めて英単語を覚えている隣で教科書をパラパラ読んでただけの弟が全部覚えてて、挙げ句“一個覚えるのにどんだけ時間かけてんだよ?”って煽られる気持ちがッ!!」

 

「・・・・・・」

 

セシリアは答えない。

 

「野球部がスタメンに欠員が出て“試合が出来ない”って言うから困ってるって思って助っ人に行ってやったのに“助っ人って一夏かよ。秋二を呼んでこいよ”って目の前で落胆される気持ちがッ!」

 

「・・・・・・」

 

セシリアは答えない。

 

「俺が自分で作ったタッパーに適当に白米と晩飯の残り物の弁当を一人で貪り食ってる時にアイツは他の女子に作って貰った弁当をにやけながら喰ってるのを眺める惨めな気持ちがッ!」

 

 

 

 

 

――お前に分かるのか?

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

セシリアは何も答えない。

 

ただ悲しげに、一夏を見ながら黙って一夏の話を聞いていた。

 

 

 

 

 

――それが一夏の逆鱗に触れた。

 

 

 

 

 

「そういや、お前は貴族のお嬢さまだったもんな?生まれつきの勝ち組だもんな?俺みたいな苦労してる平民の気持ちなんか貴族さまには分かんないよな?

 

あ、というか、よく考えたらごめんな?

 

 

 

――お前、腕も足もないもんな?

 

 

 

自転車とか擦り傷とか野球とかの話をされても分かるわけないもんな?

 

あ~あ、良いよなお前は。そんな身体でも、親に愛されて、周りにもチヤホヤされて、そんで苦労せずに大企業に所属も出来んだもんなッ!

 

ああ、本当に羨ましいよッ!生き易そうでッ!!」

 

そう一気に暴言、煽り、羨望、嫉妬、皮肉など様々なモノが混ざった言葉を吐き出した。

 

・・・『本来』の一夏だったら決してこんな言葉は言わなかっただろう。

 

しかし、『今』の一夏にそれを求めるのは酷というものだった。

 

幼いころから姉と弟と比較され続けたこれまでの人生。

 

一夏としても、現在の女尊男卑の世の中の価値観や年齢差などで姉である千冬は仕方ないと言えたかもしれないが弟の秋二は問題だった。

 

一夏と秋二は同じ遺伝子を分けた『双子』の『兄弟』で一夏は『兄』だった。

 

一夏にだって『誇り(プライド)』がある。

 

――『兄』として、そして『男』としての誇りがある。

 

同じ男である弟に対して『仕方がない』などと言いたくなかった。言える訳がなかった。

 

だから耐えた。

 

耐えて、耐えて、耐えて、限界を迎え、今日、この瞬間決壊した。

 

そして決壊した結果がこれだった。

 

一夏のこれらの言葉をセシリアは目を閉じ、先程と同じように黙って聞いていた。

 

そのセシリアの余裕がある様な態度に一夏はイラつき、追撃を行う。

 

「おい、聞いているのかよッ!!」

 

「・・・聞いていますよ?」

 

一夏の言葉にそう返すセシリアを馬鹿にするように一夏は口を開く。

 

「はっ、どうだか!どうせお前も俺のことを心の中で馬鹿にしてるんだろ?自分だって戦ったことなんてないクセ・・・「戦いましたよ?」・・・は?」

 

一夏の戦ったことなんてないクセにと言う言葉に対して「戦った」と言うセシリア。

 

思わず間抜けな声を出す一夏にセシリアは再び同じ言葉を口にする。

 

「戦いましたよ?」

 

そう言い切るセシリアの目を見て思わず一夏は息を呑んだ。

 

 

――『力』のある目だった。

 

――そして()()()()()()()()()()()()が混じった目だった。

 

 

(なんだ、この目?こんな目をした人間、見たこと・・・。いや、一度ある。昔、たば・・・)

 

 

セシリアの目を見て昔のことを思いだそうとする一夏にセシリアが口を開いた。

 

「一夏さん、少し、昔話を聞いて貰えますか?」

 

そう口にするセシリアの目は楽しくお茶を飲んでいた時のモノに戻っていた。

 

「・・・昔話?」

 

「はい、私がレイレナードに所属するまでの話です」

 

そして、セシリアは自身の過去を語り出すのだった。

 

 

一夏さんも知っての通り、私はイギリスの貴族として生を受けました。

 

IS登場前から女性で当主の強く、厳しい母と、婿養子という立場もあったのでしょうが情けなかったりかっこ悪かったり、なのに時々頼もしかったりする不思議な父。

 

二人とも私のことを愛してくれましたし、私もそんな二人が大好きでした。

 

自慢?

 

ええ、私の自慢の両親ですよ?そりゃ自慢しますよ。しますとも。

 

話を続けますね?

 

まぁ、そうして幸せに生きてたんですが、私が十歳の時に起こった出来事が良くも悪くも私の人生を変えました。

 

 

――両親が事故で亡くなったんです。

 

 

一夏さんのおっしゃる通り、世の中って本当に『理不尽』ですね?

 

さて、両親の死により私は十歳にしてオルコット家の当主となったのですが前途は多難でした。

 

当面の問題は両親が私に残してくれた家をどうやって存続させるかでした。

 

え、私が生きてるし、遺産なんかもあったのだろうから問題無いんじゃないかって?

 

普通ならそうですね。ふふ、でも一夏さん、よ~く考えてみてください。

 

今のご時世、僅か十歳の『子供』が大金を持っているという状況を・・・、

 

 

――周囲の『大人』が放っておくと思います?

 

 

はい、放っておくわけがありません。

 

彼、彼女達はあの手、この手で遺産を奪いに来ました。

 

もちろん、私も手をこまねいていた訳じゃないんですよ?

 

国内でも有数の弁護士を雇ったり、比較的良心的な親族に協力を要請したり、いろいろやりました。

 

でも結果は振るいませんでした。

 

え、なんでかって?

 

う~ん、いろいろあるんですが、大きく分けると二つになるんですかね?

 

一つは私の年齢、もう一つは私に協力してもメリットが少ない、でしょうか?

 

一応、法的には私が全ての遺産を相続することは問題がなかったのですが、常識的に考えると大人の後見人や保佐人、補助人を立てるべきで、このまま裁判を行っても勝てる可能性は低いということで弁護士からはその方向で和解を進められました。・・・負けが濃厚な裁判を担当して評判を落としたくなかったんでしょうね。

 

親族の方もまったく協力を得られなかった訳ではありませんでしたが、最終的には私から離れました。まぁ、貴族は縦にも横にも繋がりがありますから、下手に私に肩入れして私が敗北した際に周囲から睨まれたくなかったんだと思います。

 

さて、状況がどんどん悪化していくので流石の私も焦り始めたのですが、その時にチェルシー・・・、あぁ、私の専属メイドの名前です。そのチェルシーが私に“ISの適正試験を受けたらどうか?”と提案してくれたんです。

 

あ、“それ意味あるの?”って顔ですね?ふふ、私もそう思いました。

 

まぁ、簡単に言うと“適正試験で高ランクを叩き出して遺産の保護を条件に国家代表候補生になろう”作戦ですね。

 

え、無茶?はい、私も無茶苦茶だと思いましたね。ですが例え無茶でも・・・、

 

 

――他に手がないというのも事実でした。

 

 

それで適正試験を受けたのですが結果は・・・、まぁ、残念な結果に終わりました。

 

・・・終わったなと思いましたよ。本当に終わってしまったと思いました。

 

それでも、私は諦めたくありませんでした。

 

 

――そこで奇跡が起こりました。

 

 

私の元にレイレナード社からスカウトがやって来たんです。

 

実は適性試験の際にレイレナードと協力関係を結んでいる企業のBFFがオブザーバーとして参加していBFF経由で私をスカウトに来たそうなんです。

 

 

 

 

 

――私は『未来』を掴んだんです。

 

 

 

 

 

 

「――以上になります。運が良かった部分も勿論ありますが、戦ったからこそ、私はその運を引き寄せることが出来たと思っています」

 

「・・・・・・・・・」

 

一夏は椅子に力なく座り、俯いていた。

 

目の前の少女の顔を見ることが出来なかったからだ。

 

それだけ一夏は自分のことを大いに恥じたのだ。

 

セシリアが一夏の過去を知らなかったのと同様に一夏もセシリアのことを知らなかった。

 

だからあんなことが言えた。

 

まるで自分が世界で一番不幸なのだと思い込み、そんな不幸な自分にひどいことを言うセシリアは『敵』なのだと決めつけ、言った。言ってしまった。

 

目の前の、自分などとは比べるまでもないくらい壮絶な人生を送り、戦った少女に対して。

 

・・・恐らく、ただセシリアは自身の経験からチャンスを逃すべきではないと言いたかったのだろう。

 

なのに最後まで話を聞かずに自分が過剰反応してこのザマである。

 

 

――ただ、やらなければいけないことは分かる。

 

 

「・・・・・・ごめん」

 

 

――謝罪だった。

 

 

「ひどいこと言って、ごめん・・・。俺、俺の方こそ、何にも、セシリアのこと何にも知らないのに・・・、ごめん・・・・・・」

 

例え許されなかったとしても、罵倒されるのだとしても、一夏は謝罪をした。

 

言い訳をしようと思えば出来た。

 

お前が先に嫌なことを言ってきたから。お前が自分の過去を先にちゃんと話さなかったから。

 

だが、そんな恥の上塗りは一夏は出来なかったし、したくなかった。

 

だから言葉に詰まりながらも心から謝罪した。

 

すると、

 

「いえ、大丈夫ですよ?むしろ謝罪しなければならないのは安易に一夏さんの『傷』に触れてしまった私の方です。申し訳ありませんでした」

 

一夏の謝罪の言葉を受け、セシリアは許してくれた。いや、許すばかりかセシリアも一夏に謝罪したのだ。

 

「・・・なんで?いや、でも、でも・・・・・・」

 

流石にこれは一夏も困惑した。

 

許されないと思っていた。罵倒されても仕方ないと思っていた。

 

――見放されてしまうと思っていた。

 

なのにセシリアは一夏のことを許してくれたばかりか、自分も悪いのだと言ってくれたのだ。

 

 

――その言葉に安堵すると同時に一夏は安堵する自分に嫌悪した。

 

 

するとセシリアは若干困ったな顔をした後、真面目な顔になり口を開いた。

 

「・・・とりあえず、今回の私達のことは後日、ということにして・・・。一夏さん、何度も言うようですが今回の模擬戦、あなたは戦わなければいけません」

 

「・・・・・・・・・」

 

「一夏さんの今までの経験からそれが苦痛なのかもしれませんが、もし、ここで逃げれば、間違いなく一夏さんは戦って負けるよりも辛い状況になります。

・・・そして、一度逃げた者に手を差し伸べる人間はそう多くはありません。悲しい話ですが・・・」

 

セシリアの言うことは正しかった。

 

それは一夏も分かっていた。分かっていたが、しかし・・・、

 

「・・・でも、相手は『天才』で、『専用機』で・・・・・・」

 

そうなのだ。

 

相手は適正『S』の秋二で専用機を使用するのだ。

 

いくら一週間のアドバンテージがあるとはいえ、そんな相手と戦えばどのような結果になるかは想像に難くない。

 

なにより自分のそんな姿を・・・。

 

するとそんな一夏を見かねたのかセシリアが真剣な口調で言った。

 

「一夏さん、いくつか『提案』があります」

 

「・・・提案?」

 

「はい。しかし、これはルームメイトのセシリアからの提案ではありません」

 

 

 

 

 

――『レイレナード社』所属の『セシリア・オルコット』からの提案です。

 

 

 

 

 

「?、『レイレナード』のセシリアとして?それってどういう・・・」

 

セシリアの言葉の意味が分からずそう返す一夏にセシリアは説明を始める。

 

「言葉を飾っても仕方がないので単刀直入に言いますね、一夏さん。要は一夏さんを『企業』のために『利用』したい。

そして、そのために今回の模擬戦において一夏さんを『支援』したいと言うことです」

 

「利用、支援・・・」

 

ますます意味が分からなかった。が、かろうじて分かった単語を口にする。

 

セシリアの説明は続く。

 

「支援の内容を具体的に説明しますと、私は試作ISと共に同じく、いくつかの試作武装を持ち込んでいます。

試作ではありますがその性能は既存の武装よりも上です。その武装を一夏さんに貸与したいと考えています。

仮に秋二さんが専用機だとしても見劣りはしないでしょう」

 

「貸与・・・」

 

「もちろん、ただ武装を貸与するだけではありません。明日から模擬戦当日までの訓練期間に私が一夏さんに対して教導を行います」

 

「・・・セシリアが?」

 

 

――セシリアが教導を行う。

 

 

その言葉に思わず一夏が聞き返す。

 

セシリアの身体のことや、セシリアの話の限り、セシリアはIS適正試験に落ちている。そしてなにより、一夏はセシリアに負い目があるのだ。

 

聞き返すのも無理は無かった。

 

「はい。自慢ではありませんが、私はこう見えても『首席』なんですよ?それにIS学園に入学にあたって『その道』のプロに教育を受けていますから、より実戦的な戦術を一夏さんに教えることも出来ます」

 

自信満々そう言うセシリアに頼もしさと眩しさの様なものも一夏は感じた。

 

しかし、一夏は不安だった。自信が持てなかった。

 

セシリアの言うように武器を借り、教導を行ってもらったとして、散々な結果になったとしたら、今度こそセシリアに・・・・・・。

 

「・・・でも、それで負けたら・・・・・・」

 

その不安から口にでた一夏の言葉にセシリアは最後の提案を行う。

 

「ではこうしましょう、一夏さん。私からの最後の提案です。

――『敗戦処理』をしましょう」

 

「敗戦処理?」

 

セシリアから出た敗戦処理というまさかの言葉に思わず一夏は聞き返す。

 

てっきり今までの話の流れからセシリアは「勝て」と言うと思っていたからだ。

 

するとセシリアは一夏に質問をしてきた。

 

「はい、敗戦処理です。一夏さん、今回の模擬戦で一夏さんにとって『最悪』の負け方とは何だと思いますか?」

 

最悪?そんなの決まっている。

 

「・・・そりゃあ、始まってすぐに瞬殺されるとか・・・・・・」

 

「はい、そうなりますね?なので、その最悪の負けを回避して評価される負け方をしよう、と言うことです」

 

「?、評価される負け方?」

 

――負けて評価されることなどあるのだろうか?

 

少なくとも自分は今までそんなことはされたことがない。

 

「具体的に説明しますと、一夏さんの適正は『B』で秋二さんは『S』ですよね?

ここからさらに秋二さんが専用機を使用するとなれば、一夏さんが思ったような結果になるだろうと大半の人間が思うでしょう。ですがここで一夏さんが奮闘し、例えば、秋二さんの機体のシールドエネルギーを半分ほど削ることが出来れば敗北したとしても一夏さんに対して一定の評価を行うと思いませんか?」

 

「・・・まぁ、多少は・・・・・・」

 

今までの経験上、そう上手くいくのか?という疑問はあったがセシリアの説明は確かに説得力があり、一夏は同意する。

 

「以上が私からの提案です。一夏さん、

 

 

 

――どうしますか?

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

――どうするか?

 

このセシリアの問いに一夏は即答出来なかった。

 

普通に考えればこのセシリアの提案は『破格』で二つ返事で了承すべきなのだろ。

 

ただ、一夏には疑問があった。

 

「・・・セシリア、一つ、聞きたいんだけど、いいか?」

 

その疑問を解消するために一夏はセシリアに質問する。

 

「はい、なんでしょう?」

 

「なんで、俺のためにそこまでしてくれるんだ?俺、セシリアにあんなひどいこと言ったのに・・・」

 

そうなのだ。

 

仮に自分がセシリアの立場だったらここまでしない。する訳がない。

 

なのに、なぜセシリアはこんな自分にここまでしてくれるのだろうか?

 

するとセシリアはどこか申し訳なさそうに答える。

 

「一夏さん。こう言ってはなんですが、今回の私の提案は一夏さんのためでありません」

 

「・・・俺のためじゃない?」

 

「はい、最初にも言った通り、あくまで私の提案はレイレナードの利益ため・・・。

具体的に言うと適正で劣る一夏さんが秋二さんに健闘することで我が社の製品の宣伝をするためで、結果的に一夏さんも利益を得ることが出来ると言うものなんです。

なので、決して一夏さんのために今回の提案を行ったわけではないんです。

・・・ご不快に思うかもしれませんが・・・・・・」

 

――セシリアはハッキリと一夏のためではなくレイレナードのためと言い切った。

 

「ハッキリ言うなぁ・・・」

 

そう苦笑しながらも一夏は不快には思わなかった。

 

むしろストンと納得できたし、安心した。

 

確かにセシリアの言うことは事実なのだろう。しかし、それを告げるセシリアの表情からそれだけではないのだということが分かったからだ。

 

よしんばそれが勘違いだったのだとしても、この提案を受ければ少なくともその間セシリアは一夏のことを・・・。

 

だから一夏は選択した。

 

「なぁ、セシリア。俺はどうすればいい?」

 

「それは一夏さんが決め・・・「いや、そうじゃないんだ」と、言うと?」

 

勘違いしたセシリアの言葉を遮り、一夏は『答え』を言う。

 

「セシリアの『提案』、俺、受けるよ。

 

 

 

 

 

――()()戦うよ。

 

 

 

 

 

セシリア、今から俺はどうすればいい?」

 

一夏の『答え』を聞いたセシリアは笑顔になり満足げに頷くと口を開く。

 

「私の提案を聞き入れてくれてありがとうございます、一夏さん。では、まず・・・」

 

さあ、なんだ?と身構える一夏に対してセシリアは・・・

 

 

 

 

 

「右手、怪我してませんか?」

 

 

 

 

 

そう心配そうに一夏の右手を手に取った。

 

その言葉に思わず椅子から転げ落ちそうになる一夏だったが、大人しくされるがままになるのだった・・・・・・。

 




活動報告で今話でひとまとめにすると書いていたんですが、リアルの状況や書いていてこっちの方がきりが良いかなと思いこんな感じになりました。

楽しみにしていた方がおりましたら申し訳ありません

誤字・脱字報告、ご意見・ご感想よろしくお願いします。


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