魔法少女リリカルなのは〜竜の軌跡〜 (komokuro)
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第1話

今、僕は夢を見ているのだろう。そう考えるのは目の前で繰り広げられている光景が非現実で有るからだろう。

目の前に映る場所はよく父さん達とよく行く森に似ていた。そこで、何処かの民族衣装を着た僕と同じくらいの男の子が黒い毛玉と戦っている。

最近見たアニメの影響かなと考えているうちに決着がついた。男の子に毛玉が飛びかかると、彼の手から放たれた光の壁にはじかれどこかに逃げていった。

男の子もそれで、力を使いきったのかその場に倒れた。

すると姿がイタチのような動物に変わった。

 

「だれか・・・僕の声聞いて・・・力を・・・」

 

イタチに変わった男の子から悲痛な声が聞こえた。そこで、僕は目を覚ました。

開いた空色の瞳には、いつもの天井が映る。

 

「・・・」

 

いつもは夢なんて目が覚めたらほとんど覚えていないのに、この夢だけは何故かはっきりと覚えていた。

胸騒ぎがする。

 

何かが起きると予感がした。

 

と、そんな事を思いつつまずはやることがある。

 

「にゃ~~~リュウ~~~」

 

「・・・はぁ」

 

二段ベッドの上の主である。姉が僕を抱き枕の様に抱え幸せそうに眠っていた。

まあ、いつものことなので驚きはしない。とりあえず姉を起こさないように魔の手から逃れ、代わりに自分の枕を抱かせる。

ベッドを出てカーテンを開けると、日が登り始めていた。外に広がる町並みが徐々に明るくなっていく。

窓を開けると春先で少し肌寒かったが、鳥のさえずりが心地よかった。

 

「よし・・・今日も1日がんばろ」

 

次第に明るくなる空を見上げながら高町家次男・・・高町リュウは小さく意気込んだ。

なお、リュウを抱き枕にしたいた人物は、高町家次女・・・高町なのはである。

 

 

 

寝ているはのはを起こさないように静か部屋から出る。まあ、はのはは低血圧ぎみで朝が弱いので、少し物音を立てたぐらいではなかなか起きないのだが。

洗面所で顔を洗い鏡を見つめる。空色の髪と瞳が特徴的な少年が映る。くせっ髪のせいで寝癖がひどかった。

リュウは自分の髪に触れた。

 

「・・・やっぱり、変だよねこの色・・・」

 

「まだ気にしてるの?」

 

「うん。だって誰もこんな色の人いないもん」

 

いつの間にかなのはと同じ茶髪の女性・・・母親の高町桃子が後ろにいた。

 

「いつも言ってるでしょ。人にはそれぞれ個性があるの。そ・れ・が・大事なのよ。それに私は好きよ、リュウの髪の色」

 

リュウの肩にそっと触れる。

 

「もう少しわかりにくのがよかった・・・」

 

「いつまでも気にしてちゃだめよ。ほら、寝癖直してあげる」

 

「そうだね・・・ありがとうお母さん。」

 

リュウの髪の色は自然にはぜったに現れない空色だ。そのせいでリュウは周りから奇異の視線で見られていた。

そのせいか、リュウは今年で小学3年生になるが友達があまりいない。何度か染めようともしたのだが、姉達の反対に遭い断念している。

桃子の言葉を胸に秘めながら、優しくリュウの髪を梳かす姿を鏡越しに見ていた。

 

 

 

ジャージに着替え、深々と帽子を被り道場に入るとすでにジャージに着替えた兄たちがいた。

 

「リュウおはよう」

 

「おはようリュウ」

 

「おはよう、恭也にぃ、美由希ねぇ」

 

兄の高町恭也と美由紀に元気よくあいさつをする。兄の恭也は大学一年生で姉の美由紀は高校2年生だ。恭也はクールで寡黙だが優しく長身でリュウの目標でもある。美由希は三つ編み眼鏡がトレードマークだ。美由希のことは好きなのだが、そろそろ一緒にお風呂に入るのはやめてほしい。もう、人並みの羞恥心は持っているのだから。

 

「今日も元気だなリュウ」

 

「おはよう、お父さん」

 

父親・・・高町士郎は、この家に伝わる古流剣術「小太刀二刀御神流」の継承者だ。別に道場が仕事というわけではなく。

家で喫茶店「翠屋」を開いている。桃子はそこのパティシエをしている。桃子の作るケーキは近所でも評判で喫茶店はなかなか繁盛している。従業員はいるのだが、手が足りないときは家族総出で手伝ったりもする。リュウは髪のせいで人見知りがちだが、おどおどしながらもなかなか頑張っている。その姿がどうやら近所の奥様の嗜虐心を駆り立てるのか、裏では結構人気者になっていた。

 

「なのはは相変わらずかい」

 

「うん。最初は上で寝てるんだけど、僕が朝起きたらいつも隣で寝てるんだ」

 

「いやなら部屋を別々にするかい?」

 

士郎はそう切りだした。

実を言うとこの提案は前から何度もあった事だった。リュウはもう9歳だ。さすがにそろそろ異性を意識する年齢でもある。部屋を別にするべきだという話になるのは当然だった。

だが、なのはが頑なにそれを拒んだ。特に最初にこの話が出た時のなのはの変わりようはすごく、高町家の歴史に残る家族会議になった。

いろいろあり、せめてベットだけは別にしようということになり、なのはも部屋を別にするよりはいいということで二段ベットで妥協するということになった。

だが、いつの間にかリュウの場所に入り込んでくるためあまり意味はなかったが。

 

「ん~~なのはねぇが悲しむし。それに別にいやじゃないから大丈夫」

 

「そうかい。リュウはやさしいな」

 

そう言って士郎はリュウの頭をなでた。

 

「よし。それじゃあ準備体操して走り込み行くぞ」

 

「「「はい」」」

 

かけ声とともに4人は外に出て行った。

 

 

 

いつものランニングコースを一時間ほどで走り終え道場へ帰ってきた。

 

「それにしても、リュウはすごいな」

 

「ん?なんで恭也にぃ」

 

「いや、俺はリュウくらいの頃はこのペースについていくのも大変だったからな」

 

「そうなの?」

 

「そういえばそうだったな。それよりも、早くシャワーを浴びないと朝食の時間が無くなるぞ」

 

士郎の言うとおり時計を見ればそろそろ朝食の時間だった。

 

「私は時間かかるから後であとでいいよ。恭ちゃん達から先に浴びてきて。あ、リュウ久しぶりにお姉ちゃんと浴びる?」

 

「い・いいよ。恭也にぃたちと入るから」

 

リュウは顔を赤くし、家族からは笑いが起きた。

 

 

 

 

シャワー浴びてリビングに戻るとすでに朝食が並び初めていた。

 

「リュウそろそろくれないなのはを起こしてきてくれない」

 

「うん、わかった」

 

桃子に言われ部屋に入ると案の定ぐっすり眠っていた。先ほど抱かせた枕をリュウだと思ってしっかり抱きしめている。

近づくと幸せそうな寝言が聞こえる。

 

「はぁ~~、ほんとこれじゃあ二段ベットの意味がないよ」

 

「なのはねぇ~もう朝ごはんだよ。起きて」

 

「にゃ~~もうちょっと~~」

 

リュウが幸せそうに眠るなのはの体をゆするが起きる気配がない。

 

「はぁ~~~しかたない」

 

リュウはすでにこういう場合の対処の仕方を心得ていた。

なのはの耳元に近づくとそっと囁いた。

 

「なのはねぇ。僕、今日から部屋移るから・・・」

 

「だめ!」

 

なのはは突如目を見開き飛び起き、リュウに力一杯抱きついた。

 

「いやだよリュウ、お願いだから何処へもいかないで」

 

「うん・・・わかった・・から。何処へもいかないから・・ちょっと・・ちょっと・・・なのはねぇ・・苦しい」

 

「わ、ごめんねリュウ」

 

なのはは苦しそうにもがいているリュウを慌てて離す。リュウはいつもこの力は何処にあるのかと思っている。なのはは運動音痴で体育も平均以下だ。でも、こういうときだけリュウすら組み伏せる力をだす。俗にいう火事場の馬鹿力なのだろう。なお、リュウの体育の成績は学年トップで、体力測定では学年新記録を出したりもしている。おかげで様々なクラブから声がかかっているのだが、あまり目立ちたくないリュウは全て断っている。

 

「とりあえず、なのはねぇもう朝ごはんだよ」

 

「あ、ほんとだ。早く着替えないと」

 

二人はクローゼット開け制服に着替える。二人が通う私立聖祥大付属小学校は私立だけあって制服がある。白を基調とした制服で、下は男子はズボン女子はロングスカートになっている。そして、胸元は男子はネクタイ女子はリボンだ。

リュウは棚からネックレスを取り出し身につける。それには紫色に輝く水晶のような石がついていた。

二人は洗面所まで降りて、身だしなみを整える。

 

「リュウまた髪の毛はねてるよ。あと、ネクタイも曲がってる。直してあげる」

 

「ありがと。なのはねぇ。朝、お母さんに直してもらったのになぁ~シャワー浴びたからかな」

 

「リュウどう、私はおかしなとこない?」

 

「うん。大丈夫だよ」

 

なのはいつもどうり、短い髪を両脇で結んでツインテールしていた。

 

「じゃあ、行こっか」

 

「うん」

 

リビングに着くと、すでに家族が座っていて朝食も並んでいた。高町家の朝食は洋食が基本だ。

きょうのメニューはパンにポテトサラダにスクランブルエッグとデザートにフルーツとバランスとれたものだ。

 

「なのはおはよう」

 

「おはようお母さん」

 

「なのは、そろそろ一人で起きないとダメだぞ。いつまでもリュウに起こしてもらう訳にはいかないんだぞ」

 

「にゃはは。わかってるんだけどなかなか起きれなくて」

 

新聞を読んでいた士郎がなのはに言う。リュウもこの事については早く出来るように切に願っていた。

毎日、締め上げられてはたまったもんじゃないからだ。

 

「さあ、それじゃあみんなそろったからご飯にしましょう」

 

桃子の声とともに朝食が始まる。

 

 

 

朝食を食べ終えるとそろそろ登校の時間だ。

二人は桃子から昼のお弁当をもらうと鞄にしまった。

 

「じゃあ行こう!なのはねぇ」

 

「うん」

 

「「じゃあ行ってきます」」

 

二人は元気に手を繋いで家を出た。今日の空は晴れ、リュウの髪と同じ色が続いていた。

 

 

 

 

 

 

 



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第2話

どこまでも続く青い空の下、二人は仲良く手を繋ぎいつもの場所でバス待つ。二人が通う私立聖祥大付属学校には生徒用の通学バスがあるのだ。

しばらくすると学校名の入った青いマイクロバスがやってきた。二人がバス乗ると、一番後ろの席に座っている二人組の女の子が手を振った。

 

「なのはちゃん。リュウくんおはよう」

 

「はぁ~相変わらず、仲いいわね、あんたたち」

 

紫色の髪をした少女・・・月村すずか と金髪の少女・・・アリサ・バニングス が座っていた。

 

「にゃははは。二人ともおはよう」

 

「すずか、アリサおはよう」

 

すずかは自分の鞄をどかし席を空けリュウを見つめた。リュウがすすがの隣に座ろうとすると、すかさずなのはがそこ座った。リュウは仕方なくなのはの隣に座る。

 

「む~~なのはちゃん」

 

「ん?なのかなすずかちゃん?」

 

すずかの声になのははジト目で返す。リュウは申し訳なさそうにすすがを見た。

 

「はぁ~あんた達はもう」

 

こんな感じだが、二人は一年生からの友達で、三年間ずっと一緒のクラスだ。

二人との出会いは一年生の頃に遡る。

 

 

 

 

 

 

入学当初リュウはクラスになじめず、なのはにいつもついて回っていた。奇抜な髪の性もあったが、なのががあまりにも過保護にしていることも原因の一つだった。

なのはは何処へ行くにもリュウについて回り、なのはにとってリュウが全てという状況だった。

クラスメイトはそんな姉弟の様子に距離を置き、二人にはクラスで友達がいなかった。

あるとき、珍しくリュウが一人で廊下を歩いていると廊下の奥、人目につかない場所で誰かの声が聞こえた。気になって物陰からそっと覗くと二人の女の子がいる。アリサとすすがだ。

どうやらアリサがすずかをいじめているようだ。しばらく観察しているとアリサがすずかの髪留めを奪ったことが原因で、奪われたすすがは目尻に涙を貯めながら必死に取り戻そうとしている。

ふと、アリサと目が合う。アリサは一瞬リュウを睨みつけ、すぐ視線をすずかに戻した。

 

「く、」

 

物陰から見ていたリュウはアリサの眼光に少したじろぐが拳を強く握ると、二人の間に割って入った。

 

「や、やめなよ!」

 

「ぐす……た…高町くん?」

 

「な、何よあんた!」

 

アリサはリュウが割って入ってきたことに驚いた。リュウのことは同じクラスなのでよく知っていた。姉の後を付いて回るしかない気弱な少年としか思っていなかった。

すずかもリュウのことをよく知っていたのでまさかリュウが助けてくれるとは心にもおもっていなかった。

 

「何?私に何か文句あるの?」

 

「う……そ、そういうことはいけないと思う……」

 

おどおどしながら言うリュウに、アリサは腕を組みながらリュウを睨みつける。リュウは勇気を出して出てきたものの、その後の事は何も考えてはいなかった。

 

「ふんっだ。何よ男のくせにおどおどして、文句があるならはっきり言いなさいよ!私はこの子そうだけど、あんたも前から気に食わなかったのよ。なによ、いつもいつもあの子のあとをついて回って、それに何その髪の色?もしかして染めてんの?」

 

「う、これは生まれつきで…「え、何!はっきり言いなさいよ!!」

 

アリサの怒号にリュウの声は次第に小さくなっていく。すずかもやっぱりという感じにリュウを見つめている。

 

「「あ!」」

 

その時、リュウとすすがは気づいた。いつの間にか見覚えのあるツインテールがアリサの後ろに居ることに。

 

「どうしたのよ?私の後ろ見て?」

 

少女はアリサの肩を軽くたたいた。

「何よ」とアリサが後ろを振り向くと、満面の笑みのなのはが立っていた。顔は笑ってはいたが瞳だけは笑っていない。

その後の光景をリュウは一生忘れることはないだろうとリュウは語っている。

 

「リュウになにするのよ!」

 

そんな声と共になのは右ストレートがアリサの顔面をきれいに捕らえた。その時、リュウはアリサの口から白いものが飛んだように見たが、気のせいだ。そう、気のせいだ。

リュウはその光景を心の奥深くにしまう。

今の一撃で気を失っなったのかアリサはそのまま床に伏した。

 

「リュウ大丈夫だった」

 

「う…うん…」

 

リュウを優しく抱きしめるなのはを尻目に、倒れたアリサにリュウは黙祷を捧げた。すずかはどうやら状況について行けないのかただ呆然と立ち尽くしていた。

とまぁ、こんな事がありつつもこの後なし崩し的に和解し、その付き合いがきっかけで4人は友達になった。

 

 

 

 

 

 

 

昼の授業が終わり、昼食の時間になった。4人は昼食をとるために屋上へと向かう。最近だと子供達が遊んで落ちてしまうかもしれなからと閉鎖されている学校も多いが、この学校では転落防止のため3メートル近い策でしっかり対策されているため屋上が解放されている。

4人はベンチの一角でいつもの様に昼食を食べ始める。

 

「将来か・・・アリサちゃんとすすがちゃんはもう決まってるんだっけ」

 

なのははきれに盛り付けられた弁当のおかずつつきながら呟く。なのはの脳裏には先ほどの授業の内容が浮ぶ。

内容は将来の仕事についてだった。

 

「ウチはお父さんとお母さんが会社経営だから、ちゃんと勉強して後を継がなきゃ」

 

「私は機械系が好きだから。工学系で専門職がいいなぁと思ってるけど」

 

アリサの海外でかなり有名な財閥の令嬢だ。なぜ日本にいるかといえば、細かいことはいろいろあるらしいが大まかにいうと両親が日本好きだからだそうだ。すずかもこの町、鳴神市で有力な資産家の令嬢だ。もともとこの学校自体がそのような裕福な子供が集まる側面がある。入学するにも入学試験をパスする必要があるなど、レベルは高い。

 

「なのは翠屋の二代目じゃないの」

 

「ん~~それもあるんだけどねぇ」

 

「リュウくんは?」

 

「ん~~僕も特に何も考えてないかな。やりたいことといえば、世界中を見て回りたいってことかな。ほら、僕はどこで生まれたかもわからないし。世界中を見て僕がどこで生まれたのかを知りたいんだ」

 

すずかの問いに胸元のペンダントを取り出し言う。

リュウは孤児だった。4年ほど前に士郎達が修行という名の山ごもりをしていたとき森の中で倒れていたそうだ。一切の衣服や持ち物持たずに倒れていたため、最初は事件性を疑われたが、いくら身元を探してもわからず、しかも未知の言語話し言葉も通じない。このままだと施設に預けられるところを高町家で引き取ったのだ。

 

「じゃあ。私もそれについて行く」

 

「リュウくん!私も手伝うよ」

 

なのはとすずかはリュウの手を取り言う。なのはとすずかの目線が合いうと一瞬火花が散った。

 

(あ、まずい)

 

リュウはこの後どうなるか、身をもっていた。

 

「あれ、すずかちゃんはもう決めてるんじゃなかったけ?」

 

「ふふ、私はまだ決めたとはいてないよ。なのはちゃん」

 

((あ~~また、始まった))

 

リュウとアリサはため息を吐いた。

リュウはすずかが自分に好意を持っていることにうすうす気づいている。昔あったとある事件のことが原因だった。でも、リュウはまだそういうことはよくわからないし、今の友達関係が続けばいいと思っている。

 

(助けて、アリサ)

 

(あんたが悪い!あんたがなんとかしなさい!)

 

二人に手を握られたままのリュウはアリサに目線で助けを求めるもそっぽ向かれてしまう。そして、一人黙々と弁当を食べ始める。

 

「えっと、なのはねぇ…すずか…」

 

「ほら、すずかちゃん。リュウが困ってるから手を離したらどうかな?」

 

「なのはちゃんが離したら私も離すよ」

 

結局二人のいがみ合いは、昼休みが終わるまで続いたのだった。

 

「はぁ~ごはん食べれない……」

 

 

 

 

学校が終わり、4人は塾に向かう道を歩いている。日は傾き空は茜色に染まっていた。

余談だが、成績順にアリサ、すずか、高町兄弟はどっこいという感じである。

 

「こっちこっち、ここを通ると塾の近道なんだ」

 

アリサが林の小道を指さした。地面がむき出しで多少歩きにくそうだ。

 

「そうなの」

 

「ちょっと道悪いけどね」

 

リュウは疑問に思いつつも、アリサはずかずかと進んで行く。

夕暮れの木漏れ日がさす小道は幻想的で、道の悪さはあまり気にならなかった。

しばらく歩いていると、

 

(助けて……)

 

突然、リュウの脳裏に声が響く。リュウは驚き立ち止まる。

 

「声が、声が聞こえる…」

 

「どうしたのよリュウ?」

 

リュウの呟きにアリサが振り向いた。

 

「アリサちゃんは聞こえなかったの?」

 

どうやらなのはも聞こえたようだ。

 

「な…なのはもなにいっているのよ。何も聞こえなかったわよ」

 

「アリサちゃん。私も……私も聞こえたよ。助けて」

 

「はは、すずかまで……」

 

 

 

(助けて……誰か……)

 

 

 

「また聞こえた」

 

「うん、助けてって」

 

「うん」

 

三人は口々に言う。

 

「あ~~もう!三人とも何言ってるのよ。まだ、夜にもなってないのよ。冗談もほどほどにしてよね!」

 

アリサは声を荒げて三人を見る。しかし、三人の表情から言っていることが本気なのをアリサは感じた。

 

 

 

(誰か……)

 

 

 

「あ」

 

「リュウ!」

 

リュウは道を外れ林の中に走り出した。なのはの声が聞こえたがそれよりも、悲痛な声を聞きいてもたってもいられなくなった。

草木をかき分けリュウは走る。この先に何があるのかわからない。でも、早く、早く向かわなければならないと思った。

しばらく走ると、小さく開けた場所に出た。

 

「ふう。この……辺かな」

 

草木をかき分けながら走ったため、制服は汚れ、切り傷ができていた。

リュウは息を整えあたりを見回すと、木の下に何がいる。

 

「イタチ?」

 

傷ついたイタチのような生き物が倒れていた。山吹色毛並にはいたるところに切り傷がありとても痛々しい。

首には首輪の代わりなのか、赤いビー玉のようなものがついたネックレスをつけていた。

 

「リュウくん早いよ~」

 

「はぁ、はぁ……相変わらず、足だけは早いんだから。あら、フェレットじゃない。それにしてもひどい怪我ね」

 

アリサとすずかが追いついてきた。なのはは運動音痴のためもう少しかかるようだ。

 

「フェレット?」

 

「そ、まあイタチみたいのものよ。最近じゃペットとして結構人気よ。でも、こんな毛並みのフェレットなんていたかしら?」

 

リュウに追いついたアリサが自慢げに答える。

 

「みんな早いよ~~もうリュウ!お姉ちゃんを置いていかないの!」

 

「ごめん、なのは姉」

 

「ほら、制服汚れてる」

 

「ありがとう。なのはねぇ」

 

なのはハンカチを取り出しリュウの顔を拭う。

 

「それにしても、この子どうにかしないとね」

 

アリサの声に三人はフェレット見た。

 

「誰もいないし、リュウお願い」

 

「そうだよ、リュウくんお願い」

 

辺りを見回し人の気配がしないことを確かめると、なのはとすずかはリュウの方に振り向いた。

 

「うん、そうだね」

 

リュウは周りに人がいないことを確認すると、何か呪文のような言葉を呟く。

その言葉は、聞いたこともない言語だった。リュウ自身、今発しているこの言葉が何を意味するのかはわからない。ただ、なんとなく脳裏に浮かぶ言葉を唱えればいいのだと感じていた。

リュウの声に呼応して次第に手の平にに光が集まっていく。

 

「リリフ」

 

最後言葉をトリガーに集まった光が消え、傷ついたフェレットに降り注ぐ。すると、フェレット傷が次第に消えていく。

最終的には目に見える傷すべてがなくなっていた。

 

「僕の力は目に見える傷しか治せないから、一応病院に連れて行った方がいいと思う」

 

「相変わらず。あんたの力はすごいわね。まるで魔法みたいね」

 

リュウには不思議な力があった。それは、まるでおとぎ話の魔法のような力だ。できることは主に傷を治すこと。このことが分かったのは、リュウが高町家にやってきて間もなくのことだった。ある時、父親の士郎何かの事故で大けがしてしまった。下手をすると、もう目覚めないかもしれないほどの重傷だった。

それを治したのがリュウ力だった。

 

「そんなことないよ。あまり人前で使っちゃいけないって言われてるし。」

 

リュウは顔を赤らめながら言う。

 

「じゃあ、とりあえず動物病院にいきましょう。早くしないと、塾遅れちゃうし」

 

「そうだね」

 

アリサの声にリュウはうなずく、四人はフェレットを抱え病院をめざすために来た道を戻る。

 

「ん…?」

 

なのははふと後ろを見た。その先にはなのはの背丈ほどの草木が生い茂っている。

 

「何か居た気がしてけど、気のせいかな?」

 

「なのはちゃん置いていかれるよ」

 

「あ…まって、待ってよ~~」

 

すずかの声を聞いてなのはは急いで後を追う。

四人が去った後、なのはが見つめた草むらの先で怪しい眼光が光った。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第3話

「特に、病気とかは大丈夫ね。ずいぶん衰弱しているよだけど。きっと、ずっと一人ぼっちだったんじゃないかなぁ」

「院長先生ありがとうございます」

「「ありがとうございます」」

 

夕日の差し込む動物病院で、四人は医師の診断を聞いて胸をなでおろした。

フェレットは診察台に置かれたクッションの上で静かに眠っている。

 

「先生これフェレットですよね。誰かのペットなのでしょうか?」

「フェレット?なのかなぁ?変わった種類だけど」

 

アリサの質問に医師は悩みながら答える。

 

「それに、この首輪に着いているのは宝石なのかな?」

 

フェレットには赤いビー玉のような宝石が着いた首輪をしていた。

そのため、四人は誰かのペットが逃げだしてあそこに居たのではと考えていた。

医師が首輪に触れようとすると、フェレットの目が静かに開く。

 

「あ、目を開けた!」

 

リュウの声とともに、五つの視線がフェレットに集まる。

フェレットはゆっくりと起き上がると、開かれた翡翠色の瞳で周囲を見回した。

衰弱しているためかどこか動きがぎこちなかった。安静にしていればすぐに元気になるだろう。

辺りを見回し終えるとリュウをじっと見つめた。

青と翡翠の視線が出会う。

 

「リュウ?」

 

なのはとすずかはリュウへと振り向いた。

しばらく見詰め合っているとフェレットは安心したのか再び眠りについた。

 

「この子…「あ~~!」

 

リュウの言葉はアリサの叫び声に遮られた。

三人は何事かとアリサの方を向く。

 

「もう、こんな時間じゃない。このままだと塾に間に合わないわよ」

「「「あ!」」」

 

アリサの声に三人は時計を見るとあと、30分ほどで塾の講義が始まる時間だった。

ここから塾まで走ればぎりぎり間に合う時間だ。だが、運動音痴のなのはがいる。

 

「しばらく安静にした方がいいからとりあえず明日まで預かっておくわ」

「「わかりました」」

「では、院長先生また明日来ます。よろしくお願いします」

 

なのはの声とともに四人は急いで病院を飛び出した。

病院を出るとリュウはふと立ち止まり、後ろを振り返えった。

 

「リュウくん早くしないと遅れちゃうよ」

「あ、うん」

 

すすがの声にリュウは意識を戻した。今はフェレットより塾だ。

リュウは三人の後を急いで追った。

 

 

 

 

なのはが体力切れでリュウがおぶって走り、その様子をすすががうらやましそうに見つめていたという事もあったが、塾にはぎりぎり間に合った。

大急ぎで教室に入って来たリュウ達を見て周りは何事かと驚いていた。特にリュウの背中にのったなのはに視線が集まったがアリサの一睨みですぐに視線が消えた。

四人は講義中もそっちのけでフェレットの今後をメモ越しで話し合っている。

 

『誰か預かれそう』

『うちはネコがいるし』

『うちにもイヌがいるしねえ』

 

すずかの家は猫屋敷といえるほど何十匹も猫を飼っていて、アリサに至っては大型犬を飼っていた。

リュウの家はペット禁止とは言われていないが、飲食店ということもあり何も飼わないというのが暗黙了解になっていた。

 

『ウチも飲食店だから、どうしよう』

『お父さん達に聞いてみようよもしかしたらいいって言うかもしれないし。僕もお願いしてみるから』

『そうだねリュウ。ありがとう』

 

結論としてはリュウとなのはが両親に相談してみるということになった。

 

 

 

 

 

「そういうわけで、そのフェレットさんをしばらくウチで預かるわけにはいかないかなぁて」

「なのはねぇと一緒にちゃんと面倒みるからいいでしょ。父さん」

 

塾から帰宅し、家族が集まる夕飯の時間にリュウとなのはは今日起こった事を話した。

 

「フェレットか…」

 

士郎は腕を組みながら神妙な顔で考えている。二人はその姿を静かに見守もった。

しばらく沈黙の時間が続き、士郎は口を開いた。

 

「ところでなんだフェレットって?」

 

「「え」」

 

二人は士郎の言葉にぽかんとなる。

 

「イタチの仲間だよ父さん」

「だいぶ前からペットとして人気の動物なんだよ父さん」

 

横から恭也と美由希が答える。

 

「フェレットってちっちゃいわよね」

「知ってるのか?」

 

桃子が料理を運びながらキッチンからでてきた。

 

「ん~とこれくらい」

「そうそう、それくらい。それくらい」

 

なのはは自分の手で大きさを示す。

士郎は意外と小さいんだなという感じでなのはを見る。

 

「しばらくあずかるだけなら。かごに入れておけて二人で世話できるならいいかも。恭也、美由希どお?」

「俺は特に異存はないけど」

「わたしも」

 

三人は特に異存はないようだ。

リュウとなのはは士郎に視線を移す。

 

「だそうだよ」

「うん、ありがとう」

「やったね。なのはねぇ」

 

二人はうれしさのあまり抱き合った。

 

「ほらほら、早く食べないと冷めちゃうわよ」

「「あ、は~い」」

 

よほど飼えることがうれしかったのか、二人は食事中もずっとフェレットについて話していた。

二人は夕食後、いつものように一緒にお風呂に入り自室に戻るとリュウは自分のベッドの上でメールを打っていた。

 

「『すずかへ、フェレットはウチでなんとか預かれることになったよ』っと。なのはねぇ~すずかにメール送っといたよ」

「あ、ありがとう」

 

二段ベットの上からなのはが顔を出した。

リュウはメールを打ち終え青色の携帯閉じる。

この携帯は最近両親に買ってもらったものだ。機種最新の折り畳み式でなのはとは色違い、リュウが青でなのはがピンク。

リュウは最初髪の毛の色とかぶるから別の色にしようとしたのだが、姉達の意向には逆らえなかった。

でも、今では結構気に入っている。

 

「なのはねぇ、今日はちゃんと自分の場所で寝てよね」

「え~~いいじゃん。それともリュウ……私のこと嫌い?」

 

リュウはベットから降りる。

 

「きらいじゃないよただ……」

「じゃあいいでしょ?」

 

なのはは立ち上がったリュウに後ろから手を回し抱きついた。

同じシャンプーを使っているはずなのに、リュウには違うに匂いに感じた。

甘い、甘い蜜のような匂い。

自分の鼓動が早くなっていることに気づいていた。

 

 

(助けて)

 

 

突然、あの声が脳裏に響く。

 

「リュウ!」

「うん、聞こえた!」

 

リュウの携帯が突然鳴る。相手はすずかだ。

 

「リュウくん!今また助けてって声が聞こえたの!」

「僕たちも聞こえたよ。やっぱり、あのフェレットからだよ」

「私もそう思う」

「僕、今から病院に行ってくるよ!」

「リュウくん私も…「ちょっと待った」

 

横にいたなのはがさっとリュウの携帯を奪う。

 

「すずかちゃんは家で待ってて。ほらすずかちゃんは夜に簡単に外には出れないでしょ?私とリュウ二人で見てくるから。二人で!」

「む~~なのはちゃんずるい」

「それじゃあ、ってリュウ!」

 

リュウはなのはから携帯を取り返した。

なのはが不満そうな目でこちらを見たがとりあえず無視する。

 

「すずかは家にいて」

「リュウくん!なんで!」

「前みたいに誘拐されると大変だもん。僕またすずかが誘拐されるのはいやだよ」

「リュウくん……うん。そうだね。でも、後で何があったか教えてよ。約束だよ。ぜったいだよ」

「うん。ちゃんと教えるから。それじゃあ」

 

リュウは携帯を切る。

すすががかわいそうだが、昔リュウとともに誘拐され大変な目に会ったことがある以上しかたない。

 

「でもリュウ。どうやって出ようか。この時間じゃ外に出してもらえないし」

 

時計はすでに8時を回っていた。

 

「窓から出るしかないか」

 

リュウはちらっ窓を見た。

二階とはいえ子供のリュウ達にはかなりの高さがある。

 

「え~~無理だよ。それにリュウ私が運動音痴なの知っているでしょ」

「大丈夫。僕が抱えて飛ぶから。え~~と確か前履いてた靴があったような」

 

そういいながらリュウはクローゼットをあさる。

 

「え~~ホントにやるの」

「早くしないと、もしかしたら大変な事が起きてるかもしれないし。あ!合った!」

 

リュウは靴を見つけるとすぐに履いた。なのはも渋々従った。

 

「リュウほんとに大丈夫なの?」

「大丈夫。大丈夫。このくらい恭也にぃ達とやってるし」

 

リュウはなのはを抱きかかえている。世にいうお姫様だっこという奴だ。

なのははほほは少しを赤らめていた。

窓際に椅子を置き飛出しやすいようにすると、窓を開けリュウは外に勢いよく飛び出した。

そして、静かに着地する。こうみえて、士郎達に鍛えられて身軽なのだ。

 

「リュウすごい!」

「まぁね!じゃあ行こう」

 

二人は手を繋いで動物病院へ向かった。

 

 

 

 

電灯の明かりがともす道を二人は走る。

病院が目に入り、もうすぐ着くというところでリュウは突然立ち止まった。

 

「わ!リュウいきなり立ち止まらないでよ……?どうしたの」

「何かいる!」

「え!」

 

空気が変わった。

街の景色が少し歪んだように感じる。

すると、突然病院から大きな破壊音した。

 

「「え!」」

 

二人は突然の出来事の呆然としている。

空を見ると昼間のフェレットが飛ばされてきた。

 

「あ、フェレットさん!」

 

飛んできたフェレットをなのはが何とかキャッチした。

 

「いったい何が?」

 

リュウは土煙の上がる病院を見た。

土煙が晴れるとそこには黒い毛玉のような化け物がいた。

赤い瞳をたぎらせ、周囲を確認している。

ねらいはこのフェレットのようだ。

 

「なにあれ」

「なのはねぇ逃げるよ!」

 

呆然とするなのはの手を引きリュウは一目散に来た道を引き返す。

 

「なんなのあれ!」

「わかんないけど。この子を狙ってみたい」

 

リュウはなのはが抱きかかえたフェレットを見た。

 

「君たちには資質がある。お願い僕に少しだけ力を貸して」

「「フェレットがしゃべった!」」

 

あまりのことに、二人は脚を止めた。

フェレットはなのはの腕から地面に降り語りだす。

 

「僕はある捜し物のためにここではない世界から来ました、でも、僕一人の力では思いを遂げられないかもしれない

僕は迷惑だとわかってはいるのですが資質をもった人に協力してほしくて。お礼はします。必ずします。

僕の持っている力をあなたに使ってほしいんです僕の力を魔法の力を」

 

「「魔法?」」

「これを」

 

フェレットが首についている赤い宝石を咥えて、リュウに差し出した。

宝石は神秘的な光を発していた。だが、リュウが受け取ると光が消えてしまった。

 

「あれ?光が消えちゃった。」

「え?」

「リュウ上!」

 

なのはの声でリュウが上を向く。

毛玉の化け物が大きな口を開け上空から迫っていた。

リュウは瞬時にフェレットとなのはを抱え裏路地へ飛ぶ。

すさまじい破壊音と土煙が舞った。あと少し遅ければリュウ達は毛玉の餌食になっていただろう。

 

「すいません!この子は使い手を選ぶんです。実を言うと僕もまだ使いこなせていないです!」

「なんでそんなの使っているの!」

「すません」

 

フェレットが申し訳なさそうな声で言う。

 

「じゃあ、今度は君が」

「え!私?」

「でも、なのは姉にこういうことは……」

 

リュウの心配そうな顔が見える。なのはの脳裏に数年前のリュウの悲しそうな顔が浮かんだ。

拳を静かに握る。

 

「リュウ!大丈夫!私はおねえちゃん何だから。弟を守らないとね」

 

なのはは赤い玉を受け取った。リュウの時とは違い玉から発せられる光は消えていない。

 

「大丈夫そうだね。いい、いくよ。僕の言葉を復唱して」

「うん」

 

 

「我、使命を受けし者なり」

「我、使命を受けし者なり」

 

 

「契約のもと、その力を解き放て」

「契約のもと、その力を解き放て」

 

 

「風邪は空に、星は天に」

「風邪は空に、星は天に」

 

 

「そして、不屈の心は」

「そして、不屈の心は」

 

 

「「この胸に」」

 

 

「「この手に魔法をレイジング・ハートセットアップ」」

 

 

 

なのはの声とともに桃色の光が天を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 



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第4話

天を貫いた桃色の光は、夜空を覆っていた雲をかき消した。

 

「う、まぶしい」

 

激しい光にリュウは目を覆う。

 

「なんて魔力だ」

 

リュウの腕に抱かれたフェレットは驚く。

 

「落ち着いてイメージして!君の魔法を制御する魔法の杖の姿を!そして、君の身を守る強い衣服の姿を!」

「急、急に言われても!」

 

フェレットの言葉に赤い宝石・レイジングハートを空に掲げたままなのはは戸惑った。こんな状況で急にそんな事言われても、瞬時には浮かんで来るわけがない。

ふと横を見ると、リュウが心配そうな顔つきでなのはを見つめていた。

 

(リュウ……そうだよ。そうだね。私はお姉ちゃんなんだからしっかりしないと)

 

なのはは目を瞑り静かに息を吐く。脳内がクリアになっていく。

杖は最近見た魔法少女もののアニメから、服はとりあえず自分の制服を

 

「とりあえずこれで、お願い!」

 

レイジングハートが輝くとなのはのイメージ呼応し姿を変える。杖の部品がなにもない空間に呼びだされ、合わさり杖へと姿を変える。

同時に衣服が消え、新たな衣服を身にまとう。

光が収まると、リュウの眼前には小学校の制服に似たデザインの白い防護服と大きな赤い宝石が埋め込まれた杖を持ったなのはが立っていた。

 

「成功だ!」

「え!え!なんなのこれぇ~」

 

なのははオドオドしつつ自分の姿を見回した。

言われた通りにしたものの、まさかこんな結果になるとは思いもしなかった。

だが、混乱している暇は与えてはもらえなかった。

 

「きます!」

「なのは姉来るよ!」

「え?」

 

フェレットとリュウの叫びになのはが反応た瞬間、毛玉の姿が消えていた。

 

「え!消えた?」

「なのは姉!上だ」

 

なのはが上を向くと、いつの間にか空高く飛び上がっていた毛玉がなのはに向かってものすごい速度で落ちてきた。

この程度、リュウならば簡単に避けれるのだが運動音痴のなのはでは無理だ。

 

「なのは姉危ない!」

「きゃあ!」

 

なのはは咄嗟に杖を襲い来る毛玉に向けた。

 

『Protection』

 

杖から電子音を感じさせる声が発せられ、桃色の光の壁がバリアーのように展開された。

毛玉はそれに衝突すると激しスパークが起きた。だが、毛玉の突進ではびくともせず、多数のボール台の黒い塊へバラバラにして周囲にはじき飛ばした。

散弾のように飛び散った毛玉のせいで周囲のブロック壁は戦場の銃痕のように穴がいくつも開き、電柱はぼっきりと折れてしまっている。

 

「あっ…あはは……」

「なのは姉こっち!」

 

この惨状に呆然としているなのはを手をリュウ引き、急いでその場を後にする。

リュウには飛び散った毛玉が微かに動いていることが見えた。

それよりも、今はなのはを冷静にさせる為にここを離れるべきだと考えた。

 

 

 

 

バラバラになった毛玉から遠ざかるように、二人と一匹は夜の住宅地を走る。

リュウはあれだけの騒動を起こしたのに住民が一人も出てこないことを不思議に思いつつ、腕に抱かれたフェレットの説明に耳を澄ませる。

 

「僕らの魔法は発動体に組み込んだプログラムと呼ばれる方式です。そしてその方式発動させる為に必要なのは術者の精神エネルギーです」

「「?」」

「あれは、忌まわしい力の元に生み出されてしまった思念体。あれを停止させるにはその杖で封印して元の姿に戻さなければいけないんです」

「えっと要するに?」

「その杖を使ってあれを倒せばいいってことであってる?」

 

あまりよくわかっていない様子のなのはにリュウが付け加える。リュウ自身もあまりよくわかってはいなが。

 

「そうです!」

 

腕の中のフェレットは肯定する。

リュウは走りながらジト目でなのは見ると、今度は空を仰ぎ見るそして

 

「うん、無理だね」

 

そう断言した。

 

「リュウ!今失礼な事考えたでしょう!」

 

なのははリュウの前に出て静止させると、リュウをジト目で見た。

 

「無理な物は無理!なのは姉!自分の体育の成績よく知ってるでしょ」

「う………」

 

痛いところを突かれたなのは押し黙った。

なのはの体育の成績はお世辞にもいいとは言えない。クラスでも下の方だ。

なお、女子のトップはすずかで男子はリュウである。二人はクラストップであり、学年トップでもある。

反射神経と空間認識はいい線行っているのだが、それ以外の体力等がだめだめなのだ。

リュウの基礎鍛錬に何度か付き合ってみたが、両親たちからの評価は低い。

 

「大丈夫です。さっきみたいに攻撃や防御などの基本魔法は心に願うだけで発動します。より大きな力を必要とする魔法には呪文が必要ですが」

「願うよりも先に攻撃が来たら?」

「一定のサポートもあるので大丈夫です。今着ている服も魔力で出来た特殊な服でダメージをある程度軽減してくれます」

「でも、それを超えるっ痛!」

 

突然なのはがリュウのほほを抓った。

突然のことに涙目になりつつなのはの方を向いた。

 

「もう!リュウ大丈夫。私はリュウのお姉ちゃんなんだから。そんなに心配しなくても大丈夫!」

「でも……!」

 

いやな気配を感じリュウは後ろ振り向いた。

 

「リュウ?」

「来る!」

「え!」

「あいつがまた来る!」

「え~~」

 

確かにリュウの向いた先にから赤い二つの瞳が迫って来ているように見える。

 

「ど、どうしよぉ~」

「ねえ、どうすればいいの!」

 

リュウはフェレットに問いかける。

 

「先ほども言いましたが、あれを停止させるにはその杖で封印する必要があります。

そして、あれを停止させるには呪文が必要になります」

「呪文?」

「はい、心を澄ませて!心の中にあなたの呪文が浮かぶはずです」

「えと…」

 

そう言われてなのは目を瞑った。

心の中に呪文が浮かぶ。

 

「リリカル。マジカル」

 

なのは小さく呟く。

リュウは「え!呪文それ」と心の中で思ったがこれ以上なのはの気を逸らすわけにはいかないため押し黙った。

 

「封印すべきは忌まわしき器ジュエルシード」

 

フェレットは封印すべき対象の真名叫ぶ。

毛玉はあと100メートルほどの位置に迫っている。

 

「ジュエルシード封印」

 

はのはが叫ぶと杖から桃色の光のリボンが放たれ、襲い来る毛玉を拘束した。

毛玉は拘束を解こうともがくがその拘束からは逃れられない。

 

「リリカルマジカル。ジュエルシードシリアル21封印」

 

なのはの呪文とともに杖から毛玉に向かって、桃色の閃光が放たれる。

閃光に貫かれた毛玉は獣のような断末魔とともに光となって飛散した。

飛散と同時に何かがその場に落ちた音が聞こえた。毛玉のいた陥没したアスファルトには青いひし形の宝石が落ちていた。

 

「あれがジュエルシードです。レイジングハートで触れて」

 

なのはは言われた通り宝石に近づき杖を向ける。

すると、宝石が杖の赤い玉の部分に吸い込まれた。これで封印されたと言うことだろう。

封印が終わるとなのはの防護服も光り始め、光が消えると元の私服に戻った。

杖は最初のビー玉台のサイズに戻りなのはの手に収まっている。

 

「あ…戻った」

 

リュウはなのはの姿をまじまじと見つめている。

 

「終わったの?」

「はい。あなたのおかげです。ありがとう」

「ん?」

「どうしたのリュウ?」

 

リュウが向いた方向をなのはがいぶかしげに見ると、今まで気づかなかったが遠くからいくつものパトカーのサイレンが近づいている。

二人はお互いに顔を見合わせ周りを見わたす。あの思念体が大暴れしたおかげで周囲はめちゃくちゃだ。

民家を遮るブロック塀はところどころ砕け、道路には大穴が開き、倒れた電信柱から垂れ下がった送電線はスパークを起こしている。

冷静になって考えてみると、ホントこれだけのことが起こったのに誰一人家から出てこないとはどれだけここに住む住人は図太い神経をしているのだろうと考えてしまう。

 

「もうしかして、私たちここにいると」

「たぶん、大変な事になるね。これ、直したらいくらになるかな?」

 

二人は顔を見合わせ手を合わせると

 

「とりあえず、リュウ」

「うん」

 

「「ごめんなさぁ~~い」」

 

二人は悲痛な声をあげながら現場を後にするのだった。

あと処理は警察がなんとかしてくれると願って。

 

 

 

 

二人はしばらく走るとなのはが息切れを起こしたので、とりあえず夜の公園で一息つくことにした。

夜も更けかかっているためか、公園には人の姿はなかった。

二人がベンチに座るとリュウの腕に抱かれたフェレットが二人に話かけてた。

 

「すいません」

「ん、どうしたの?」

 

リュウは申し訳なさそうに話しかけてくるフェレットを膝の上に置く。

 

「すいません。あなた達を巻き込んでしまいました」

「あ、うん。そうだけど……」

 

申し訳なさそうに頭を垂れるフェレットにどう反応してよいやらと、リュウは言いよどむ。

その雰囲気を察してなのはが話題を変えようと話しかける。

 

「そうそう、自己紹介しないとね」

 

なのはの声にリュウとフェレットはなのはの方を向いた。

 

「私は高町なのは。小学校3年生家族とか仲良しの友達はなのはって呼ぶよ」

「えっと、僕は高町リュウ。なのは姉と同じ3年生、みんなリュウってそのまま呼ぶかな」

「僕はユーノ・スクライヤ。スクライヤは部族名だからユーノが名前です」

「ユーノくんかかわいい名前だね」

「すいません。お二人を巻き込んで」」

「なのはだよ」

 

再び頭を垂れるて申し訳なさそうに言うユーノになのはが言った。

 

「なのはさんとリュウさんを巻き込んでしまいました」

「そんなに気を落とさないでよ。確かに最初はビックリしたけど」

「うんうん。まあ、僕はこういうことは前にいろいろあって慣れてるし」

「ですが……え!」

 

リュウの膝の上に居るユーノをなのはなのはが抱き上げた。

 

「ユーノくん。そんなん顔しないでよ。私たちは大丈夫だから。それよりもこれからのことを考えようよ」

「これからですか?」

 

ユーノは首をかしげた。

 

「そ、これから」

 

 

 

 

立派な武家屋敷の高町家付いた二人は門の前で立ち尽くしている。

出るときは付いていた玄関の明かりがついていない。

 

「さてと、帰ってきたのはいいけれど」

「普通に入るのはやっぱりまずいよね。リュウ」

「とりあえず、僕がまた裏からなのは姉を抱えて塀を登ろうか?」

「それしか、ないかな?」

「それにしても、ここ明かりがついてなかったけ?」

「う~ん。ここの明かりはいつもは消さないんだけどね」

 

「二人で、なにひそひそしてるんだ?」

 

二人の後ろから唐突に聞き慣れた声が聞こえる。

二人一瞬ビクッとしつつ、古いブリキ人形の様に後ろを向くと眉辺りをぴくぴくさせ明らかに不機嫌そうな恭也が立っていた。

 

「にゃはは……お兄ちゃん……」

「あ、はは。恭也にぃ」

「おかえり。こんな時間に二人そろって何処へお出かけだ?」

 

二人の目線にかがみ目を合わせる。

 

「あの…その…え~と」

「夕食の時話したフェレットのところに行ってたんだ」

 

言いよどむなのはにリュウは抱えていたユーノを恭也の眼前に差し出した。

 

「あら~かわいい」

「うん?」

 

門が突然開かれると美由希が現れた。

 

「なるほど、二人はこの子が心配でこっそり抜け出したわけだ」

「「うん!」」

「それにしてもかわいいわね」

 

ユーノをリュウから抱き上げながら、まじまじと見つけている。

 

「気持ちはわからんでもないが。内緒でというのがいただけない」

「まあまあ、いいじゃないこうして無事に戻ってきてるんだし。それにリュウがいれば大抵の事は大丈夫でしょ。それより二人とも言う事あるでしょ」

 

ユーノを片手で抱きながら、二人に美由希は指を指す。

 

「内緒で出かけて心配かけてごめんなさい」

「ごめんなさい」

 

二人は素直に謝った。

 

「はいこれで解決~~」

「おまえな~」

「さっもう遅いんだから家に入る入る。さて、この子お母さん達にも見せてあげないとね」

「おい。美由希」

 

恭也は呆れつつ美由希の後を追った。

抱かれたユーノが驚きつつ連行されるのを見てリュウは頑張ってと手を振る。

 

「ふぅ~~なんとかなったね」

「うん。よかった」

 

この後、二人は両親にも多少怒られはしたが、ユーノの可愛さに虜になった桃子のおかげで何とかなったのであった。

 

 

 

 

「ここが私たちの部屋だよ。ユーノくん」

「二人一緒なんですね」

「うん。まぁね」

「今日はまだケージとか買ってないから、このクッションで寝てもらうことになるけど。大丈夫?」

 

なのは部屋に置いてあった赤色のビーズクッションを机の上に置きユーノを乗せた。

ユーノはクッションを確かめるように、何回かそれで飛び跳ね頷く。

 

「はい。大丈夫です」

「ふわ~~とりあえず今日はいろいろあったから早く寝よっかな。なのは姉」

 

リュウは大きなあくびをしつつ、目を擦る。

 

「うん。そうだね。私もいろいろあって疲れちゃった。また、明日詳しい説明してもらっていいかなユーノくん」

「はい」

「とりあえずお風呂入んないとね。さ、いくよリュウ!」

「は~い」

「二人は一緒に入浴してるんですか?」

「う、うん」

 

ユーノの疑問にリュウは少し気まずそうに答えた。

 

「当たり前だよ。私たち姉弟なんだから!あっ、ユーノくんも一緒に入る?」

「い、いえ、僕はまだ怪我が治り立てなので遠慮しておきます」

 

ユーノはなのはの問いに驚き、やんわりと断った。

リュウが何かを訴えるような瞳でこちらを見ていたがすっと視線をそらした。

すると、ドアのノックが聞こえる。

 

「あ、は~い」

「あら?二人だけ?おかしいな~~何かもう一人誰かの声が聞こえたような?」

「き、気のせいだよ。美由希姉」

「そう?なんか男の子の声が…」

「そ、それより。お、お姉ちゃん何かよう?」

 

なのはとリュウは必死に話題を変えようと奮闘する。美由希は細めで二人を疑い深く見つめる。

ユーノと言うとはすでにクッションの上でたぬき寝入りを決め込んでいた。まあ、このタイミングで出来ることはないのでしょうがないが。

 

「二人ともまだお風呂まだでしょ。早くお風呂入りなさいって母さんが言ってたよ」

「今から入ろうってなのは姉と話してたところだよ」

「うん。うん」

「そっか。ん!」

 

美由希は人差し指でほほをつきながらリュウに目線を向ける。

リュウは即座にいやな予感がした。

 

「じゃあ、久しぶりに三人で入ろっか」

「え!」

「あれ、お姉ちゃん。もう入ったんじゃないの?」

「ま~気にしない。気にしな~い」

 

美由希はにんまりしつつリュウの頭をなでる。

 

「ま、ま~いいか」

「え!」

 

(リュウ今は我慢して!)

(そんな~~)

 

なのははリュウに視線を送る。リュウは渋々納得するしかなかった。

別にリュウは美由希と入浴することが嫌いな訳ではない。確かに最近異性の違いについて思うところもある。

だが、美由希と入ると何かとリュウにちょっかいを出してくることが嫌なのだ。

そしてそれを明らかに楽しんでやってくる。

 

「じゃあ行こう~~」

「行こう~~」

「う~~」

 

美由希に首元を捕まれたリュウは、悲痛な声を出しながら連行されて行く。

 

「ふ~~なんとかなった。なんか、すごい家族だね」

 

ドアが閉まり、足音が聞こえなくなっ事を確認するとユーノは片目を開けた。

 

(とりあえず僕は休んで魔力の回復にあてないと)

 

この家の人達はあまり男女差を気にしないのだなぁと考えつつも、ユーノは目を瞑り今度は本当に眠りに入る。

しかし、リュウは大事なことを忘れていた。ユーノの横。リュウのベッドに投げ出された携帯に着信を知らせる緑のランプが点滅しいたことを、ある人から一定時間ごとに着信が入っていたことを。

 

 

 

 

「ん~~?」

 

シャンプーのいい香りの立ち込める浴槽につかりながらリュウはふと何かを思い出した。

体を洗っていた泡だらけのなのは手を止めてリュウへと振り向いた。

 

「リュウどうしたの?」

「なんか大事なことを忘れてるような~~!美由希姉あ、あたってるから」

「も~~リュウは恥ずかしがりやね~~ほら、ちゃんと肩まで浸からないと」

「う~~」

 

湯船から離れようとするリュウを美由希は無理矢理引きよせる。

ウチの姉達はこういうときだけ何でこんなに力が強いのかと考えつつ、抵抗することをあきらめた。

美由希に抱かれ顔を真っ赤にしつつ湯船に浸かるリュウはとりあえず思い出す事を止めたのだった。

 

 

 

 

ところ変わって、月村家。

 

「う~~リュウくんから連絡がこないよ~~」

 

携帯を見つめつつ、すずかは連絡が来るのをずっと待っていた。

律儀に30分ごとにメールを送りながら。

 

「すずかお嬢様もうお休みにならないと、明日の学校に寝坊してしまいますよ!」

 

月村家のメイドのノエルが扉を開けて入って来た。

自問しているすずかの声は扉の外まで聞こえていたらしい。

 

「う~~リュウくん明日絶対何があったか教えてもらうんだからね!」

 

すずかの悲しい叫び声とともに夜は更けていくのだった。

 

 

 

 



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第5話

「う、う~~ん」

 

いつもの寝苦しさを感じつつリュウは目を覚ました。

 

「はぁ~~いつものことだけど」

 

今日も抱き枕の様に自分をがっちり拘束する姉を起こさないように抜けだし、代わりに枕を抱かせる。

相変わらず幸せそうな顔にため息をつきつつカーテンを開けた。

差し込んだ朝日にリュウは目を瞑り、薄っすらと目を開けると雲ひとつない青空が広がっている。今日もいい天気だ。

朝日を感じたのかユーノが目を覚ました。前足で器用に目をこする姿にものすごく人間臭さを感じ笑みをうかべる。

 

「ふぁ~~リュウおはよう~~リュウは起きるのが早いんだね~~」

「うん。えと、ウチは~古武術ってユーノはわかる?」

「格闘技のことですよね」

「そ、そんな感じ。ウチには昔から代々伝わる剣術の流派があって、恭也にぃたちは父さんからそれを習ってるんだ。なのはねぇを除いて。

まぁ、僕はまだ本格的な稽古はつけてもらってないけどね」

「そうなんですか。ん?なのはは教わってないのですか?」

「うん。なのはねぇは運動音痴だからねぇ~」

 

リュウのベッドのなのはを見ると、リュウ~~と寝言を言いながらほほを緩ませていた。

リュウはため息をつきユーノに視線を戻した。

 

「とりあえず、一時間半ぐらいで戻ってくるからそれまで寝てて良いよ」

「それまでになのはを起こした方がいいかな?」

「ん~~なのはねぇは寝起きが悪いからなぁ~~それにいろいろあるし。僕が戻ってきたら起こすから大丈夫だよ」

「大丈夫。寝起きの悪い子を起こすのは慣れてるから」

 

ユーノは腕を組みつつ自信満々に言う。

 

「いや。う、う~~ん。ユーノなら大丈夫かなぁ。ん~~じゃあお願いしていいかな」

「はい」

「ふわ~~と。じゃあよろしく~~」

 

欠伸をしつつ眠い目をこすりながらリュウは手早く着替えると部屋を後にした。

ユーノは時計を見てあともう少し眠れるなということで丸くなり二度寝の体制に入った。

 

 

 

 

 

リュウは日課のジョギングを終へ、シャワーを浴び自室へ戻る階段を上る。

すると、何かが落ちたような大きな音が聞こえた。

 

(はあ~~やっぱりダメだったか)

 

リュウはため息をつき、自室のドアを静開けた。

 

「リュウ!」

 

悲痛な声を出し、なのはがリュウの胸に飛び込んだ。

あらかじめ予想していたリュウは冷静になのは抱きしめる。

抱きかかえたなのはの目尻には涙が溜まっていた。

 

「ぐす、ぐす、リュウぅ~~」

「あ~~ごめん」

「う、う~~居なくなったかと思ったよぉ~~」

 

なのはの頭をなでつつ自室に目を向けると、なのはがやったのだろう。

本は落ち、クロゼットから服が投げ出され、まるで強盗に入られたかの様に散らかっていた。

これを片付けるのかとため息をつきつつユーノの姿を探すと、机のクッションの上で震えていた。

ふと、視線を感じ階段の下を見ると、心配そうにこちらを見つめる両親達と目が合った。

リュウは軽く頷くと、両親は何か察したのかため息つき去って行く。

抱きついたなのはを抱えつつリュウは部屋に入りドアを静かに閉めた。

 

「ユーノ大丈夫」

「リュ!リュウ!」

 

ドアの向こうに誰もいないことを察っし震えているユーノにやさしく声をかける。

ユーノはリュウの声にビクっと反応して此方に振り向いた。

ユーノの目は潤んでいった。

 

「ごめん、驚いたよね」

「は、はい。なのはを起こしたら急に。リュウがいないと暴れだして。僕が何を言っても聞かなくて」

「う~~ぐす」

「よしよし。なのはねぇはちょっといろいろあってね。最近は落ち着いてきたからもう大丈夫かな~と思ったんだけど」

 

なのはの頭をなでつつリュウは言う。

 

「うう。リュウ~~」

「うん。うんごめんね。はぁ~やっぱり僕が起こせばよかった。ユーノなら大丈夫だと思ったんだけどなぁ~」

「はぁ?」

 

よくわからないという顔をするユーノを見つめつつ、この散らかった部屋をどうしようかと悩むリュウだった。

 

 

 

 

 

なのはの癇癪を何とかなだめ、朝食取る。

朝食の時も、なのははリュウの服を右手でしっかりと掴んでいた。

両親はそのことに何も言わない。この状態のなのははとても不安定だと知っているから。

いつもは和気藹々としている朝食は、今日に限っては痛いほどの静けさに満ちていた。

朝食を食べ終え、二人は静かに学校へ行く準備を進める。

ユーノは何も言わずに二人を見つめている。

部屋の片付けはとりあえず帰ってからすることに決め、準備が終わるとリュウがなのはに言う。

 

「なのはねぇほら」

「ユーノくん……さっきは怖がらせてごめんね…」

「い。いえ。大丈夫。気にしてませんから……」

「………」

「………」

 

二人の会話は続かない。

リュウはため息をつき

 

「じゃあ僕たちはこれから学校に行かないといけないから、帰ってきたら詳しいお話を聞かせてよ」

「あ、はい。あっ、離れていても話はできるよ」

「「え!」」

 

ユーノの答えに二人は驚いた。

 

『二人とも聞こえる』

「「!」」

 

二人の脳裏にあの時と同じ声が響いた。

 

「なのは、レイジング・ハートを身に着けたまま心で僕に話しかけてみて」

『こう』

『そう簡単でしょ』

 

なのはは机に置かれた赤い玉レイジング・ハートと手に取る念じる。

その声がユーノに届いたらしくすぐに返答が帰ってきた。

 

「すご~~い」

「これで、学校でも話すことが出来きるよ」

 

うれしそうに話すなのはとユーノの雰囲気に、先ほどの重い空気は消えていた。

だがリュウはふと思った。

 

 

「僕は?」

 

 

「「あ!」」

「そ、そうでした。すいません」

「それって、そのレイジング・ハートがないと使えないの?ユーノは代わりをもってる風には見えないけど」

「レイジング・ハート。デバイスですね。残念ですがそれは一つしか持ってきてないんです。

僕らの世界のは魔法は前回話しましたがプログラムで出来ています。

この魔法『念話』事態は簡単な術式なので覚えることは可能ですが、一から理論を説明してとなると」

「時間が掛かる」

「はい。基礎を一から覚える必要がありますから。それに人によっては理解出来ない場合もあります」

「はぁ~しょうがない。やっぱり学校から帰ってからでお願いしていいかな」

「はい。わかりました」

「そういえばリュウ。すずかちゃんのことどうしよう」

「あ、そうだった」

 

なのはの言葉にリュウは忘れていたすずかの事を思い出した。

ユーノは首を傾け不思議そうに二人を見た。

 

「すずかさんとは?」

「僕のクラスメイトで、実を言うとユーノ声を聴いた一人なんだ」

「そうなのですか!」

 

リュウの答えにユーノは驚いた。

この世界に魔法の素質を持つ人間はいず、いても非常に希だと知っていた。

まさか、近くに3人も素質がある人間がいるとは。

 

「すずかにも説明しないと」

「で、ですがこれ以上無関係の人を巻き込むのは」

「そうだよ。リュウ!すずかちゃんを巻き込むのは私も反対だよ。ただでさえいろいろあるのに」

 

いや、なのはねぇが反対なのは別の理由もあるんじゃないかなと思いつつ、リュウは携帯を取りだし二人に見せた。

そこには、すずかのメールの履歴が映し出されていた。

その数80件。しかも昨日の着信から10分ごとに来ていた。

最初の方は通話だったが、その後繋がらないことからメールに切り替えようだ。

内容は単純に状況の説明を求める者だったが、後になるにつれ文章が荒れ反応がない事への怒りがにじみ出ていた。

リュウは気まずそうに携帯を閉じ、視線をなのは達に向ける。

ユーノは此方の文字が読めないので、なのはに説明して貰っていた。

 

「ね…」

「にゃはは……これは無理だね。うん。はぁ~すずかちゃんものすごく怒ってる」

「うん。これから憂鬱だよ。どうしよ」

「もう!しょうがない。ユーノくんこういうことだから、帰ったらみんなにお話お願い」

「はぁ~これ以上巻き込みたくないのですが。わかりました」

「ちょうど今日はあの日だからその時に話せばいいんじゃないかな」

「ああ、そういえばそうだね」

 

リュウはカレンダーを見た。そこには赤い丸が書かれていた。

 

「あの日とは?」

「あ~ちょっとね」

 

なのははユーノの問いに気まずそうに言いよどむ。

そのとき、外から桃子の呼ぶ声が聞こえた。

 

「なのは~~リュウ~~そろそろ出ないと遅刻するわよ~~」

「は~~い。じゃあ行くねユーノくん」

「ユーノ留守番よろしく」

「はい。わかりました」

 

二人はユーノにそう言うと、急いで鞄を手に学校へ向かった。

 

 

 

 

 

 

バス停に来たスクールバスに乗ると、後ろの席をいつものように陣取る二人の友人がいた

明らかにすずかはご機嫌斜めだった。

隣のアリサはげんなりした顔で座っている。

アリサは二人が乗って来るのを確認すると睨みつけた。

 

(なんかアリサまで怒こってるんだけど)

(にゃはは…)

 

二人がすずか達に近づくとすずかが口を開いた。

 

「さあ、リュウくんなのはちゃん!昨日何があったか全部教えてもらうんだからね。

それに、リュウくん酷いよあんなに連絡したのになんで何も返してくれないの!」

「はぁ~朝からすずかがこんな調子なんだけど。で、昨日何があったのよ。

すずかをなだめるのすっっっごい大変だったんだからね。この埋め合わせはして貰うわよ」

 

不機嫌そうに言うすずかとジト目で見つめるアリサに言い寄られ、二人は気まずそうに答える。

 

「いや~~」「話せば長くなるというか」

 

「もう~~リュウくん。全部教えてくれるって約束したよね!!」

 

すずかはリュウの襟元を掴み引き寄せる。

二人の瞳が合う。

後ろで、他の生徒がおもしろそうに痴話喧嘩を見ていたが、誰も止めるそぶりは見せようとしていない。

 

「ちょっとすずか」

「何アリサちゃん?」

「ごめん、何もないわ。何も」

「すずかちょと苦しい。わかった。わかったから今日はすずかの家に行く日だからその時詳しく教えるから。

ほら、みんな見てるから」

「あっ。ごねんリュウ。約束ね。絶対だよ」

 

リュウから手を離し、今の状況を理解して恥ずかしそうに小さくなった。

後ろで運転手はようやく終わったかとため息をつきつつ、バスを発信させた。

今日に限ってはなのははリュウをすずかの隣に座らせた。

 

 

 

 

 

二人は学校から帰ると、すぐに自室へ向かった。

ドアを開けると階段を上る音でなのは達に気づいたのかユーノが起きていた。

 

「ユーノくんただいま!」

「ユーノただいま」

「二人ともおかえり」

「それじゃあユーノくん行こっか」

「どこに行くんですか?」

 

なのはの言葉にユーノは首をかしげる。

 

「すずかちゃんの家だよ。ユーノくんに朝話した友達の家」

「なのはねぇ。ぼくシャワー浴びて来るね」

「何でリュウはシャワーを浴びに?というかその子の家に行くんですか?」

「にゃはは」

 

 

 

 

 

 

シャワーを浴び終えたリュウはなのはとユーノとともにすずかの家に向かう。

ユーノの疑問をかわしつつ、すずかの家の門に付くとユーノは目を見開いた。

それもそうだろう、目の前にはテレビの富豪の豪邸紹介で出てきそうな高さは5メートル以上はある鉄の門があり、

屋敷に至っては門の先には見えず、広大な中庭があるだけだった。

 

『すごい……ですね』

『すずかちゃん家はお金もちだからね~』

 

すずかの家はこの街でも有名な資本家で、広大な敷地の庭に煉瓦造りの宮殿の様な屋敷が建っている。

初めて来たリュウはあまりの広さに中庭で迷子になったほどだ。

 

『そういえばリュウのその格好はなんですか?』

 

リュウの格好は、髪が見えない様にフード深々とかぶり、色つきの眼鏡を欠けていた。

 

『にゃはは…リュウは自分の髪の色が好きじゃないからね。私はその色好きなんだけどね』

『そうなんですか?』

『そう、生まれつき青い髪の人なんていないから。おかげで学校じゃ一人ぼっち』

『僕の世界では普通にいますよ。青い髪の人は』

『そうなの?』

『はい、そこまで珍しい色ではないですよ』

『後でリュウに言ってあげて、きっと喜ぶと思うから』

 

視線を感じたのかリュウはなのは達に振り向くと不思議そうな顔をした。

インターホンを押すと聞きなれた声が聞こえる。

すずかの家のメイド長のノエルの声だ。

 

「はい、どちら様でしょうか」

「リュウです」

「なのはで~す」

「ようこそいらっしゃいました。今門を開けますので」

 

ノエルの声とともに門が重い音を立て静かに開いた。

リュウ達は広大な中にはへと進み、しばらく歩いているとすずかの屋敷が見えて来た。

入り口にリュウと同年代位のメイド服のの少女が手を振っていた。

ノエルの妹のファリンだ。

ファリンに連れられ、通された部屋にはアリサが椅子に座ってお菓子を食べていた。

未だに朝からの不機嫌さは消えていないようだった。

 

「遅いわよ。二人とも」

「アリサちゃん。ごめ~~ん」

「ごめんアリサ。ちょっと手間取って」

「ん?あら、この前のフェレットじゃない。やっぱり、その子が関係あるのね」

「ユーノくんていうの」

「ふ~~ん」

「じゃあ私ここで待ってるから。早く済ましてきてよね」

 

アリサはパタパタと手を振り、視線をお菓子に戻した。

 

「ユーノくんはちょっとここで待っててね。アリサちゃんユーノくんの相手お願いね」

「はいはい」

 

机に伏したまま手を上げるアリサになのは気まずそうな視線を向けつつユーノに念話で言う。

 

『ユーノくんごめん。少しの間アリサちゃんと一緒にいてくれない。私たちこれから大事な用があるの』

『え、ええ~!』

『すぐ、終わるから待っててね』

『は、はい~~?』

 

なのははユーノをアリサのいるテーブルに置くと、リュウと一緒に部屋を出て行った。

二人が出て行くとアリサは起き上がり、隣で固まっているユーノを抱き上げじろじろと見回した。

ユーノは冷や汗を出しながらじっとしている。

 

「やっぱり。なんか普通のフェレットと違う感じがするよね~~」

 

『う!』

 

 

 

 

 

二人はファリンに連れられある部屋の前まで来た。

この部屋の扉は他の物より明らかに重厚感がある。

リュウとなのはは気を引き締める。

ファリンが二回のノックをして、扉が重そうに開いた。

部屋の中は薄暗く、窓が一切なかった。そして部屋に調度品とすらなくあるのは三つの椅子だけ、

一つの椅子にはすずかが妖艶な座っていた。

 

「待ってたよ。リュウくん」 

 

 

 



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第6話

 

押し込められた煌びやかな衣装が一枚、また一枚と宙を舞う。

 

「はぁ〜どれにしよう 」

 

少女 …すずかは絶賛悩み中だった。

 

かつて、すずかにとって週に一度の今日という日は最も嫌悪する日だった。

だが、その日もあのときを境に全てが変わった。切っ掛けはあの青色の髪の男の子

 

「すずかちゃんそろそろ、みんなが来るよ」

 

ドアの外からファリンの声が聞こえた。

 

「ファリンもうちょっとだから。よし、決めた!今回はこれにしよう」

 

 

 

 

 

妖艶に椅子に座るすずか見て、なのははため息をついた。

すずかの服装は俗に言うパーティードレスだった。色は髪に合わせたのか黒を基調としていた。

髪にはこれまた黒い花飾りをつけている。

薄暗い部屋と相まって何処の夜の王女様だろうといった感じだ。

 

「すずかちゃん今回はそれ?あのさ、そうやってウチのリュウを誘うの止めてくれないかな」

「何言ってるのなのはちゃん?これは普段着だよ。ねえねえリュウくんどう。に、あ、う?」

「う、うん。似合ってるよ」

「いや、けばいよ。すずかちゃん」

 

すずかは椅子から降りてリュウの前まで来ると、ゆっくりとバレイの様に回った。

微かな、花の匂いから香水をつけていることにリュウは気づく。

 

「ありがとうリュウくん。あのね。あのね下着も服に合わせてみたんだ。ほら」

 

すずかはリュウの目の前でドレスのスカートをたくし上げる。

リュウはまるでわかっていたかの様に瞬時に後ろを振り向いたが、リュウの並外れた動体視力はそれを見放さなかった。。

瞳に映ったものは黒いレースの下着。明らかに子供の穿くものではない。

最近すずかのアプローチが露骨になってきていることを感じていて、このまま行くとそのうち襲われるのではと戦々恐々している。

なお、前回は青いワンピースだった。補足で言うと下着は白だった。

なのはは再びため息をつきつつ、大事な弟に迫る痴女に腕を振り上げる。

 

「てい!」

「痛!もう何するのなのはちゃん!」

「ウチのリュウに変なもの見せないで!」

「変なって酷いよなのはちゃん。なのはちゃんだっていっつもやってるでしょ」

「私はいいのおねいちゃんだから!」

「む~~」

 

言い争いを続ける二人にリュウはため息をつきつつ割って入る。

 

「二人ともまあまあ。それより早くしないとアリサがまた怒りだすよ」

「う、そうだね」

「うん。そうだねリュウくん。これ以上アリサちゃんの機嫌が悪くなったら大変だしね」

 

リュウの静止に二人は言い争いを止める。

そしてなのははストップウォッチを取り出し、リュウは慣れた手つきで静かにパーカーを脱ぐ。

そして、下着代わりのTシャツを脱ぐと上半身裸になった。

程よく筋肉がつき同年代の少年たちよりもがっしりとした肉体が露わになった。

その姿をみてすずかは頬を紅らめる。

 

「じゃあ」

「うん」

 

すずかはリュウに前からやさしく抱きついた。

香水の香りにリュウは少しドキドキした。

 

「いただきます」

 

すすがはガブっとリュウの首筋に噛みついた。リュウはうっと小さく嗚咽漏らす。

すずかは『夜の一族』という吸血鬼の一族で定期的に血を吸わなければならない。

吸血鬼だからと言って、物語の様に日光に弱いや血を吸った相手が吸血鬼になるといったことわない。

血に関しては輸血パックでも良いらしいのだが、異性の血が一番いいらしい。

なのはは隣でストップウォッチじっと見つめて座っている。

時が一刻一刻と過ぎなのはは時を止めた。

 

「はい、ストップ!スト~~プ!」

 

なのははリュウからすずかを無理やり引きはがす。

 

「え~~なのはちゃんもうちょっと。もうちょっとだけ」

「そうやって前、リュウが貧血で倒れちゃったじゃない。また倒れたらどうしてくれるの」

「ぶ~~」

「ぶ~垂れてもダメ!」

 

なのはの声で終わったことに気づいたノエルと忍が入ってきた。

 

「リュウ君どうぞ」

 

ノエルがリュウにタオルを渡す。

 

「ノエルさんありがとう」

「リュウくんいつもいつも悪いわね」

「いえ、大丈夫です」

 

リュウは首筋の血の跡を噴きながら礼を言う。

なのはとすずかは此方には気もくれず、言い争っている。その光景にリュウは再びため息を付いた。

 

「ホント、。すずかはリュウくんに夢中ね。ねえ、リュウくん前も話したけど。リュウくんが良ければすずかの婚約者にならないかしら」

「い、いえ「ダメ!」

 

ものすごい力でリュウは肩をつかまれたのを感じた。

あ、やばいと感じつつぎりぎりとブリキの様に振り向くと、なのはがいつも立っていた。

 

「なのは姉、こういうときだけ力強い!痛い!爪食い込ん出るから」

「だめだからねリュウ。私そんなの絶対に許さないから」

「痛い!痛い!わかったから」

「リュウはね。ずっと私の隣にいるの。ずっと。前約束してくれたよね」

 

光のない瞳がリュウをいぬく。

 

「う、うん」

「リュウは何処へも行っちゃいけないの」

「うん」

 

痴話げんかというか一方的な脅迫をする二人を楽しそうに見つめる忍に、すずかが近寄ってきた。

 

「相変わらず中が良いわね」

「そうだよね。どうにかしてあのじゃまものを……」

「すずか?」

「は!おねいちゃん何でもないよ。なのはちゃんは私の大事な友達だよ」

 

忍は顔を引きつらせつつ、すずかを見る。

昔はおとなしかったすずかが今では肉食獣である。

まあ、人のこといえないが。

 

「そういえば、すずか一度で良いから。私もリュウ君の血をのんでみたいんだけど」

「いつも言うけど。いくらおねいちゃんでも。それはダ~~メ。リュウくんの血は私のもの」

「そんなにおいしいの」

「うん。あれののんだら。輸血パックなんてただの泥水だよ。のんだことないけど」

「そんなに?」

「そんなに!」

 

二人は会話を続けながら、前で続けられる。痴話げんかが終わるのを眺めていた。

 

 

 

 

 

長い痴話げんかの末。部屋に戻り言われた一声は

 

「遅いわよ!」

 

というその辺の子供が泣いて逃げ出すほどドスの利いたものだった。

ユーノはというとなぜかやつれているように感じられた。どうやら、待ている間にいろいろあったらしい。

なのは達は空いている静かに席に座った。

 

「で、昨日何があったの?」

「リュウくん。約束どうりちゃんと話してね」

「わかったよ。なのはねぇ」

「うん。ちょっと待ってね」

 

二人の追求になのははユーノに念話を送った。

 

『ユーノくんなんかやつれてるけど大丈夫?』

『大丈夫。ちょっと緊張しただけだから』

『じゃあ説明よろしく』

『はい。一応消音結界をはります』

『消音結界?』

『はい。特殊な防壁をこの部屋に張って、音を外に聞こえなくする物です。これ以上、話が広がる大変だからね』

『へ~~魔法ってすごいんだね』

 

 

「えと、なのはあんた大丈夫?いつまでそのフェレットと見つめ合ってるのよ。話してくれるんじゃないの?」

 

ユーノと念話をしているとアリサが心配そうな顔でなのはに語りかけた。

まあ、ずっと無言でフェレットと見つめ当ていればそう思われるのは仕方ないだろう。

 

「ごめんねアリサちゃん。もう大丈夫だから。じゃあ。ユーノくんお話お願いね」

 

なのはの答えに二人は不思議そうな顔をした。

ユーノはアリサとすずかの方へ向き。

 

「えっと、みなさん初めまして。僕はユーノ・スクライヤと言います」

 

 

 

 

「「フェレットがしゃべった!」」

 

 

 

 

「あっやっぱりみんなこういう反応するだね」

「にゃはは。そうだね~」

 

時の止まった後からの反応に、なのはとリュウはお互いに見つめ合いながら二人の月並みの反応をしみじみ感じていた。

 

「なっなんなのよこのフェレット」

「アリサちゃん。ユーノくんだよ」

「どっかにスピーカーとか。あるんじゃないの」

「あの。ちょっと!」

 

アリサはユーノをつかみ上げ、体中をまさぐる。シッポをひっぱたり、逆さまにしたり、回してみたりとユーノは突然の事で抵抗も出来ずされるがままになっている。

すずかはというと、リュウに必死に説明を求めていた。

 

「リュウくん!リュウくん!これホントにしゃべってるの」

「うん。信じられないだろうけど。ホントなんだ。最初は僕も驚いたよ」

「じゃあ、あのときの声はこの子からだったんだ」

「そう。昨日はホントに大変だったな~~」

「何があったの?」

「それがね…」

 

リュウとすずかは冷静に話し合っていた。

ユーノからは助けを求める念話が引っ切りなし届いていた。

 

『リュウなんで冷静に話してるの!なのは!助けて!。あっそこ触らないで。ちょっちょっと!』

 

「ア、アリサちゃん。ユーノくん困ってるから。そろそろ離してあげて」

「待って。絶対どこかにスピーカーがあるはず」

「いや!ないから離して~~」

 

結局。全員が落ち着くまでかなりの時間が掛かった。

まだ、青かった空はすでにあかね色を帯びていた。

 

「僕は故郷で遺跡発掘を仕事にしているんだ。そしてある日、古い遺跡の中でジュエルシードを発見して、調査団に依頼して運んで貰ったんだけど

運んでいた時空間船が事故か何らかの人為的災害に遭ってしまって、21個のジュエルシードがこの街に散らばってしまった」

「ジュエルシードはこれね」

 

なのはは青いひし形の宝石を取りだした。

 

「ジュエルシードは僕らの世界の古代遺産で、本来は手にした者の願いを叶える魔法の石なんだけど、力の発現が不安定で単体で暴走して使用者を求めて周囲に危害を加える場合もあるし、

たまたま見つけた人や動物がまちがって手使用してしまってそれを取り込んで暴走することもある。何とかしようと努力したけど僕一人の力ではどうすることも出来なくて、

昨日はなのはの力を借りる事で何とかなったんだ」

「昨日は黒い毛玉の化け物が襲ってきて大変だったよ。なのはねぇは変身するし」

 

ユーノを話を二人は静かに聞いていった。

途中途中、なのはとリュウによる補足を交えながら。

ユーノの話が一段落つくとアリサが口を開いた。

 

「で、解決に言うと。あんたは「ユーノくん!」ユーノは魔法世界の住人でこの街に散らばった宝石を集めていると。

で、ユーノ一人では力が足りないから魔法が使えるなのはに協力を仰いだと。で、その石はほっといても独りでに暴走して暴れ回ると」

「はい。そうです」

「何よ、そのアニメみたいなテンプレは」

 

アリサはため息をつきながらクッキーをほおばった。

隣ではすずかが目を輝かせている

 

「でも、ユーノくんはすごいんだね。一人でそんな事をしてて」

「うん。ユーノはすごいんだね」

「へ~~遺跡発掘か、小さいのにすごいね」

「はいちょい待ち。バカ三人が毒されてるけど。私は毒されないわよ」

 

感心する三人にアリサは待ったをかけた。

 

「アリサちゃんどうしたの」

「おかしいじゃない」

「何が?」

 

なのはは顔を傾けた。隣の二人も首をかしげている。

今の話に何が疑問に思うんだろう。

 

「あんたそのなりで遺跡発掘を仕事?まずそこからおかしい。まあ、魔法がある世界なんだからサイズはや種族は関係ないと思うけど。

でも、ホントに出来るの?」

 

ビシッとユーノに指を指す。

アリサはこの年の子供ではあまり考えない。物事の裏を読むことに長けていた。

これも、有名財閥の娘だからだろうか。

 

「この姿は仮の姿で、魔法でこの姿になっているだけで、本来はなのは達とおんなじ人間です」

「はぃ!」

「そうなの!」

「ほんと!」

「え~~!」

 

四人は驚いた。

 

「あれ、二人とも元の姿を見てませんでしたっけ?」

「うん」

「最初っからフェレットだったよ」

「じゃあ今すぐ元に戻りなさいよ」

「すいません。まだ魔力が回復していないので、もう少し回復するまでは元に戻れないんです。」

 

ユーノの答えに怪しそうな目つきが、アリサに追加された。

アリサは実はユーノがなのは達を騙してジュエルシードを集めているのではないかと考えていた。

 

「ふ~~ん。ユーノ歳は?」

「9歳です」

「はいぃぃ~!同い年じゃない。あんた学校には行ってないわけ。それともあんたの世界にはないっての。それに子供が仕事って」

「ありますが僕たちの一族は遺跡発掘が仕事で子供は大人が勉強を教えるんです。それに僕くらいが仕事をするのは結構普通ですよ。

魔法の技量があれば仕事に年齢制限はありませんから。此方で言う公務員にも少なからず子供もいますし」

「おかしいでしょそれ」

 

アリサは今度は呆れていた。とりあえず、本当だとしてもどうやら此方とかなりこちらと常識が違うようだ。

確かにこっちの世界にも子供で仕事をしている子供はいる。だが、それは発展途上国などに限られる。

まさに魔法主義。力さえあれば義務教育もなしに大人かいと。

それに、変身を解かなければ本当に同い年なのかもわからない。

だが、アリサはなんだかこのフェレットが言っていることが本当に感じていた。なにより瞳が嘘をついていない。

というより、明らかに純粋な瞳をしている。悪く言えばバカだと。

 

「まあ良いわ。あと聞きたいんだけど。この事はあんたの世界の誰かはしってるの?」

「いえ。知ってるのは僕だけです」

「な!バカじゃないの。あんたの世界には警察はいないの!子供一人で何が出来るていうのよ」

「そういう組織はあるのですが。今回の事はジュエルシード見つけた僕の責任です。だから、僕が何とかしないと!」

「あのね~~あんた。あんたが言うとおりならまだ私たちと同じ子供なのよ」

「ですが…」

「結局。他人を巻き込んで。責任うんぬんじゃないでしょ!」

「う、すいません」

 

アリサの的を射た言葉にユーノは頭を垂れた。

 

「そういや。何か黒い化け物が出たとか言ってたけど。どうやって倒したのよ。その魔法は素質があってあんたがいればアニメみたいに山一つ吹っ飛ばせたりでも出来るの?」

「いえ。そうじゃありません」

「これを使うの」

 

なのははポケットからレイジング・ハートを取りだした。

 

「ビー玉?」

「違うよすずか。これでね。変身するんだ」

「まさにアニメじゃない」

「へ~~すごい。ねえなのはちゃん。ちょっと変身して見せて」

「うん。いいよ。じゃあいくよ」

「あっ!なのはちゃん。ちょっとまって」

 

すずかはなのはを制止すると、壁に足を向けた。

四人は不思議そうにすずかを見ている。すずかは壁の前で立ち止まると腕を振り上げた。

 

「えい!」

 

かわいい声とはとは裏腹に、壁から放たれた音はまるで車の衝突音の様だった。

音ともに微弱な衝撃が伝わり、天井からは誇りが落ちる。ユーノは瞬時に三人に振り返ると、三人は形容しがたい笑みを浮かべていた。

すずかの拳は壁にめり込んでいる。

 

「は~~やっぱりあった!もう、おねいちゃん。心配性なんだから。見られたダメだものね」

 

すずかが壁から拳を引き抜くと、一緒に細いコードの様な物も一緒に出てきた。

 

「なっなんですか!いったい!」

「すずか。それいつもの?」

「そう」

 

すずかは振り向いて掴んだ物を見せた。

 

「隠しカメラ。おねいちゃんがしかけたみた。でも、声は聞こえちゃったかも」

 

すずかはそういうと、それを踏みつぶした。

 

「ユーノ。気にしちゃいけない。気にしちゃ」

 

何かを訴える瞳のユーノにリュウは言う。

吸血鬼であるすずかは普通の人よりも力が強いのだ。

まあ、リュウもなぜかそれについていけるのだが。

おかげで、前回学校で行われたドッチボールは、まさに地獄絵図だった。

 

「ユーノくんが言うには、魔法で声が漏れないようになってるらしいよ」

「魔法さまさまね」

「たぶん。おねいちゃんのことだからまだあるかな」

 

すずかは壁や調度品を調べると、結局3つの隠しカメラが発見された。

 

 

 

 

 

薄暗い部屋に、ノイズが映ったモニターが並んでいる。

それを腕を組んだ状態で見つめる忍の姿があった。

隣にノエルが呆れた顔で立っている。

 

「バレましたね。いったい何を考えているんですまったく」

「いやね今日のみんなの会話は聞いておいた方がいいって、私のゴーストがささやいたのよ」

「アニメの見過ぎです」

「マイクも音を拾わないしおかしいわね。まあ良いかしら。昨日の謎の事件について何かわかった?」

「今のところは不明です」

「そう。それにしても珍しいわね。すずかがこんなことするなんて」

「むしろ今まで何も言ってこなかった事が私は不思議です。すずかお嬢様はすでに気づいていたと思いますよ」

「これもすずかのためよ。私はすずかの姉よ。妹を応援する義務があるわ。」

「は~~私は何も言いません」

 

 

 

 

 

別の部屋で二人がなにやら悪巧みをしているのを尻目に、なのははレイジンング・ハートを掲げた。

 

「レイジング・ハートセットアップ」

 

なのは声にレイジング・ハートが答え桃色の光とともに姿が変わる。

光が収まると、杖と服装の替わったなのはがいた。

 

「うわ。ホント変わった。まさに魔法少女ね。はぁ~~」

「うわ~~なのはちゃんかっこいい~~」

「これで。魔法が使えるの?」

 

アリサの疑問にユーノが答える。

 

「攻撃も防御もデバイスが、ほぼオートやってくれます。運動能力が低い人でもサポートがありますから」

「昨日は杖からリボン見たいのがでたよ」

「以外と科学的ね」

「ねぇねぇ。なのはちゃん私にも貸して」

「え~~」

「私もその魔法の素質あるんでしょ」

「はい。あのとき僕の声が聞こえたなら」

 

すずかの問いにユーノは答える。

 

「なのはねぇ。ちょっと貸してあげたら」

「うっリュウが言うなら」

「ありがとうリュウくん」

 

なのはは元の姿に戻り、すずかにレイジング・ハートを手渡した。

すずかは意気揚々とそれを掲げる。

 

「レイジング・ハートセットアップ……あれ?なのはちゃん何にも起きないよ」

「すずかも無理か~~」

「どういうこと?」

 

レイジング・ハートはすずかにも反応を示さなかった。

それに、対してアリサは疑問の声を上げる。

そして、ユーノは目を細め気まずそうに口を開いた。

 

「実は、これはけっこう人を選びまして~~」

「……ねぇ。あんたは使えるのよね」

 

アリサのジト目の追求に、ユーノは冷や汗を掻いた。

 

「すいません」

「あんた、一人で来たのよね。これ持って」

「はい」

「一人でなんとかしようと考えてる人間が。持ってきた物がこれ」

「はい」

「変わりはないんでしょ」

「はい」

 

ユーノの声は次第に小さくなっていく。

なんだか、ユーノ自身も小さくなっていく様に見える。

 

「あんた、実はバカでしょ」

「はい」

 

とどめの一撃でユーノの涙腺は決壊した。

 

「あのアリサ。ユーノがかわいそうだから」

 

リュウはユーノに助け船を出したのだが、

 

「リュウ。だまれ」

「はい」

 

ドスの聞いた声に撃沈した。

 

「あんたね…」

 

だが、思わぬところから助け船は出た。

 

「みなさ~~んそろそろ帰らる時間ですよ~~」

 

ドアの向こうから、ファリンの声が聞こえた。

時計を見ると、既に18時を回っていた。

 

「はぁ~~とりあえず今日はここでお開きよ。続きは明日ね」

「明日も?」

「当然でしょ。これからの事をどうするか話合わないとでしょ。最悪。誰か大人の力を借りないきゃいけないし」

「ですが、これ以上…」

「ユーノだまれ」

「はい」

 

そんなこんなで、今日はお開きになった。

今回の成果はユーノがぼろくそに言われたことだろうか。

 

「う~~怖かったよ」

「大丈夫ユーノ」

 

ユーノの心にはアリサがトラウマとして深く刻まれたのだった。

 

 

 

 

満点の星空の下、ビルの屋上から街を眺める少女がいた。

なびいた金髪が、月明かりに輝いている。

 

「ここに。あるんだ」

 

 

 



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第7話

説明会という名のユーノお説教会の帰り道で、アリサに詰められたユーノはずっとしょぼくれていた。

なのはが念話で元気づけようとしたのだが全く効果はなかった。

家に着いてからは、いつの間にかユーノ専用になったクッションの上でため息交じりで突っ伏していた。

ユーノとは話してまだ一日しかたっていなが、以外と打たれ弱かったようだとリュウは思った。どうにか慰めようと二人はあれこれしたのだが効果はなく。

まぁ、一晩寝れば元に戻るのではないかとうことで放置とう結論が姉弟で決まった。こんなので明日も大丈夫かなぁと二人は思ったがまあしょうがない。

アリサとすずかを怒らせることになったら大変だ。

自分たちの保身のためになんとしても、ユーノにはなんとか元に戻ってほしいと考える二人だった。

 

 

 

 

 

そんなこんなで朝が来た。

晴れた昨日とうって変わって、今日はどんよりと曇っている。

 

「う…う~~ん。おはようございます」

 

毎度のごとく、なのはに抱きつかれリュウは寝苦しそうにいつもの時間に目を覚ます。

姉の魔の手から静かに抜け、カーテンを開ける。

 

「ふぁ~~おはようリュウ」

 

差し込んだ光に、寝ていたユーノが目を覚ました。

昨日と同じ反応に元に戻ったかなっとリュウは思った。

 

「おはよう。ユーノ。昨日はさんざんだったね」

 

目をこすり、のびをしながらリュウは言う。

 

「はい……」

 

「アリサも別に悪気があったわけじゃないから。あんまり気にしないで」

 

「いえ……。もとはと言えばすべて僕の責任です……僕がもっとしっかりとしていればこんなことにならなかったんです!」

 

「いや……え、と…ユーノ?」

 

「冷静に考えればあの時点で管理局に通報するべきだったんです。はぁ~~なんであの時後先考えずに行動してしまったんだろう。

せめて、はじめに長老に相談していればなぁ~~」

 

(やばい!なんかスイッチ入った。なんか話題変えないと!)

 

だがすでに遅し、ユーノは止まらない。

 

「これじゃあ死んだ父さんや母さんもに僕は顔向けできない。せっかくあの遺跡の調査団に任命されたのに」

 

「お~~い。ユ~~ノ。ユ~~~ノってなんか今大事なこと言わなかった!」

 

「これでもし次元震なんか起こったら。あ~~どうしよう。そんなこと起こったらスクライヤ一族の名前に傷が」

 

「……ユーノ。はぁ~」

 

リュウの呼びかけにも応えず、ぶつぶつとユーノの自問自答は続く。

 

「え~~と……じゃあ!僕は今日もランニング行ってくるから、なのはねぇのことお願いね!」

 

「はぁ~~」

 

帰ってきたら今度こそ元に戻っていてほしいと願いつつ、リュウはいつものフード付きのジャージに着替えるとそそくさと部屋を後にした。

今日も大変そうだ。

 

 

 

 

 

背に朝日を受けつつ、四人はいつものランニングコースを走る。

街はいつもとかわらず、早朝の静けさを保っていた。

 

あの場所以外は。

 

リュウは走りながらそこを見た。

今は立ち入り禁止の黄色いテープが貼られたそこは、なのはがジュエルシードの思念体と戦った場所だった。

昨日は朝から警察がせわしなく現場検証をしていた用だが、今は舗装用の機械だろうか。それらを積んだ黄色いトラックが止まっていた。

あと、数日で何もなかったかのように舗装去れ直されるのだろう。

ランニング中この道の話題になった時、リュウは冷や汗が止まらなかった。受け答えが怪しいリュウに、士郎と恭也は何か考えた様だったが特に追求はなかった。

ただ、士郎からは頭を撫でられた。

 

(あと、20個か……)

 

視線を戻しリュウは考える。たった一つが暴走しただけであれだけ被害が出たのだ。あのときはなぜか人がいなくて人的被害は出なかったが。 もし同時に暴走したら、いったいどれほどの被害になるのだろうか想像できない。しかも、封印できるデバイスは一つしかないのだ。

 

(ユーノにどうしたらいいか相談しよう。どうにもならないなら,ユーノには悪いけど父さんか忍さんにやっぱり相談しなとなぁ。はぁ~~僕にもデバイスがあればなぁ~。それか、恭也にぃみたいに剣術が使えればなぁ~。父さんもせめて前みたいに稽古くらい見せてくれればいいのに)

 

と、難しそうな顔をしつつリュウは走っていた。

その横でうんうんうなるリュウを士郎たちは不思議そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

「よし、今日はこの辺で切り上げるぞ!」

 

「ん?」

 

士郎かけ声にリュウがはっと気づくといつの間にか家の前についていた。どうやらずいぶん長いこと考え事をしていたらしい。

深く考え事していたせいかなんだか走った実感がない。

 

「ねぇ、僕もう少し走ってきてもいいかな。なんだか物足りなくて」

 

「リュウ、もうすぐ朝食だよ」

 

「もうすぐって言ってもあと一時間以上あるし。それまでには戻るからさ!」

 

美由希にそう言われたが、どうせ稽古はつけてもらえないのだ。このまま戻ってもいつもと同じようになのはを起こして朝食まで時間をつぶすだけだ。

時間があるならこれからのこと考えて、なのはを少しでもサポート出来るようにせめて体力だけでも上げておこうとリュウは考えていた。

 

「それに、リュウにはなのはを起こすっていう仕事があるんだから」

 

「なのはねぇなぁ~~~そろそろ一人で起きてくれないかな………」

 

「まあいいじゃないか美由希。リュウ、時間までには戻ってくるんだぞ」

 

「はい!」

 

士郎はリュウの両肩に手を置いて言い聞かせる。

リュウは元気よく返事をすると、街へと駆けだしていった。

 

 

 

 

 

リュウが見えなくなると美由希は無不満げに口を開いた。

 

「父さん。そろそろリュウにも剣術を教えてあげてもいいんじゃないかな。リュウは何も言わないけど本心ではけっこう不満に思ってるよ……たぶん。

せめてさ!前みたいに稽古ぐらいは見せてあげるとかさ」

 

「ん~~そうそう言うがなぁ」

 

リュウは最近稽古の様子でさえ見せてもらえない。以前はそうでなかったのだが、ある時を境に士郎に禁止されてしまった。

本人は不満に思っているようだが、そのことを口に出すことはしていない。

 

「もう!恭ちゃんも言ってあげてよ。別にうちの流派はそこまで血筋とか関係ないんだし」

 

「美由希。父さんにも何か考えがあるんだろう。そこをわかってやれ」

 

「ん~~そうかもしれないけど、やっぱりかわいそうだよ。私が思うにリュウには才能があると思うんだけどなぁ~~」

 

恭也の指摘に腕を組みながら美由希は言う。

 

「……才能か……」

 

「ん?恭ちゃんなんか言った?」

 

「いや、何でもない。それより稽古を始めるぞ」

 

「はいはい」

 

恭也ボソっとつぶやいた言葉ごまかしつつ、そそくさと道場の方へ歩いて行った。

その後を美由希は追いかけていく、そんな二人を見ながら士郎は口を開いた。

 

「才能ね。確かにリュウには才能がある。恐ろしい才能が……」

 

士郎はそうつぶやくと、リュウが消えて行った先をじっと見つめた。

 

 

 

 

 

リュウはいつもよりペースを上げて走っていた。

見なれた商店街を通り抜け、市内を走る。

途中リュウを知るおばさんに声をかけられたり、嫌いな犬に追いかけられたりとしながら30分ほど走りリュウはランニングを切り上げることにした。

これだけ走ったが、リュウに息を切らした様子は全くない。昔から体力がある方だったが、ここ最近化け物じみてきていると本人も思っている。

学校のマラソンでは常に一位だし、ほかの競技でもリュウにかなう子供はすずかを除けばいなかった。まあ、彼女を普通の子供のカテゴリー入れていいか微妙だが。

そんなことを考えながら帰り道のとある公園で立ち止まった。

この公園はランニングで通る通ることもあるのだが、人通りから少し離れているせいかいつも人がいない。街中に大きな公園があることも原因の一つだろう。

たまに誰かいたとしても数人の老人が井戸端会議をして居るぐらいだったが、さすがにこの時間帯はそんな姿も見受けられない。

そんな閑散とした公園に今日は誰かがいる。

 

「ん?」

 

こんな時間に珍しいなとリュウは思った。好奇心に駆られたのか公園の人物に焦点を合わせた。

 

少女だった。

 

 

黒いワンピースを着て、膝まであるのだろう長い金色の髪を両サイドでツインテールにしている。

年齢は… リュウと同い年位だろうか。

 

「!!」

 

どうやらリュウの視線に気づいたのか、少女がこちらを振り向いた。

長いツインテールが揺らぐ。整った顔立ちと朝日に反射して光る金色の髪がとても幻想的に見えた。

だが、それよりもリュウは少女の表情に目がいった。

空っぽ。そう思えるほど彼女からは何も感じなかった。

 

空と赤の瞳が合う。

 

「「………」」

 

お互いに固まっている。

もともとコンプレックスのため友達が少なく、少し内気なリュウにこの状況は辛い。

 

(えと。え~~と、どうしよう。とりあえず)

 

リュウは意を決してフードを脱ぐ。青い癖っ髪が表れる。

そのアクションに驚いたのか少女は一歩引いた。どうや怖がられた様だ。

 

「……お…おはよう…?」

 

小さな声であったがとりあえず挨拶をする。が、向こうに特に反応はない。

どうやら聞こえなかったようだ。リュウと少女の距離が10メートルほどあるためか、それともリュウの勇気の一声が小さかったせいかわからないが。

しかたない。リュウはとりあえず少女に向かって一歩足を踏み出した。

 

そして、少女は一歩下がった。

 

 

「「………」」

 

 

沈黙が痛い。

 

とりあえず前に出る。

 

一歩下がる。

前に出る。

一歩下がる。

前に出る。

一歩下がる。

 

 

以下繰り返し。

 

 

ここは人気のない公園。端から見れば、少女に寄る不審者である。

まあ、お互い子供だが。

 

(て、これ。完全に怪しい人だ!あ~~僕こう言うの苦手なんだよなぁ~~)

 

どうやら本人も、理解したようだ。

だがこのままではらちがあかない。リュウは勇気を振りしぼって口を開く。

 

「えと、僕の名前は高町リュウ!君の名前は?」

 

「…… …」

 

初めての会ったらまず自己紹介からと言うことで挨拶してみたが。

少女は応えない。

ますます、気まずくなる。昔を思い出して泣きそうだ。

 

「え~~と……日本語通じなのかな?え~~と」

 

「……フェイト。フェイト・テスタロッサ」

 

無表情の少女がぼそっと呟いた。どうやら言葉は通じるらしい。

 

「えと。こんな朝早くにどうしたの?お父さんやお母さんは?もしかして迷子?」

 

「………」

 

矢継ぎ早に話して見たがまたまた沈黙。

リュウははぁとため息を吐いた。

本当に昔の自分を見ているようでいたたまれなくなってきた。

 

「んとさ、とりあえず座らない… かな~~なんて」

 

リュウはそう言うと木陰のペンチを指さした。

なぜ、このフェイトという少女にここまで自分が固執するのかはわからなかった。

ただ、最初に見た少女の表情にリュウはいい表せない何かを感じていた。

 

 

 

 

 

リュウがベンチの右端に座り、その反対側にフェイトは座った。

 

(さて、こうなったけど……どうしよぉ~~)

 

とりあえず座ってもらったはいいが、その先は何も考えていなかった。このままでは痛い沈黙の時間がまた始まってしまう。

 

「さっきも聞いたけど、こんな早く一人でどうしたの?やっぱり迷子?」

 

「…………」

 

「はぁ~~」

 

沈黙にリュウのため息が漏れる。

もう、これでは本当にらちがあかない。

リュウは頭をかきむしる。

 

「ぼくも昔はそんな感じだったからわかるけど、だまっていても言葉で話さなきゃ伝わるものも伝わらないよ。最初は難しいかもしれないけど。

でも、え~~となんて言ったらいいかな」

 

「迷子じゃない。父さんは…… いない。母さんは今仕事中。今はアルフと一緒…… 」

 

フェイトの突然返答に、リュウは振り向いた。

相変わらずの空っぽな表情だったが、リュウにはうれしかった。

 

その後、リュウが質問しフェイトが少しずつ答えるという形で話が弾んでいた。

 

どうやら、最近親の仕事の事情で越してきたが、母親は泊まり込みで仕事をしなければならないほど忙しく。フェイトは飼い犬のアルフと二人で家にいるらしい。

学校も、まだ手続きの関係で行ってはいないそうだ。

それよりもリュウはフェイトが同い年であることに驚いた。

雰囲気から年下に感じたからだ。

 

(なんか、ほんの少し聞き出しただけなのにすごい疲れた…… )

 

ふと、公園を時計を見るとたったこれだけのこと聞き出すのに40分も時間が過ぎていた。

瞬時にこれから起こるであろうことが脳裏をよぎった。

 

リュウのいないことになのはがまた癇癪を起こす。

その対応追われるリュウ。

重い雰囲気での朝食。

 

波乱だ。この前の焼き回しだ。

朝から精神に負担が。

リュウの顔が青ざめい行く。

 

「あ、あ、まずい!」

 

「え!!」

 

リュウはベンチから勢いよく飛び出した。自分に似た雰囲気の少年の変貌にフェイトは驚いた。

 

「ごめん。ぼく今すぐ帰らないと」

 

「え?え?うん」

 

「それじゃあ」

 

リュウはそう言うとすぐさま出口へと足を進めた。

だが、数歩進むとピタリと立ち止まる。

 

「あのさ」

 

「?」

 

リュウは振り向かずにフェイトに言う。

 

「また、会えるかな」

 

「え………。うん」

 

「ぼく、いつもこのくらいの時間にこのへん通るから」

 

「うん」

 

「それじゃあ!」

 

そう言うと、リュウは土煙を巻き上げながらフェイトの目にもとまらぬ早さで走って行った。

一人残されたフェイトはリュウの走って行った方を見つめていた。

 

「リュウ。高町リュウ」

 

フェイトは胸に手を当てつぶやいた。

空っぽの表情に少しだけ笑みが浮かんでいた。

 

 

 

その後,全速力で家に帰り着き、なんとかいつもどうりなのはを起こすことができた。

その時に

 

「あれ?なんか知らないにおい」

 

「な、なに言ってるの。さっきシャワー浴びたからシャンプーのにおいだよ」

 

「そうかなぁ」

 

「そ、そうだよ。それより早く着替えないと朝食に遅れるよ」

 

ということがあり、リュウは姉のなぞの嗅覚に恐怖した。

あと、ユーノは元に戻っていた。

 

 

 

 

 

放課後、憂鬱そうなユーノを片手に二人は再びあの場所に立つ。

目の前の扉からなんだか禍々しさを感じるのは気のせいだろうか。

 

ドアを開けると金髪の鬼が笑みを浮かべて立っている。

 

「さあ!昨日の続きよ!知っていることは全部話してもらうわよ!」

 

腰に片手を当ててビシッとユーノに指をさす鬼に。

ユーノは顔を青くする。

 

(帰りたい)

 

ユーノ再び試練の時。

 



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第8話

 リュウは青い顔をしたユーノをそっと机の中央に置き、全員がユーノを囲むように座った。

ガチガチに緊張して震えているユーノを見て少し不憫に思ったがしょうがない。

 

「さあ、昨日の続きよ!」

 

「はい!」

 

「それじゃあまず、昨日聞けなかったあんたのいる世界のことについて話してもらおうかしら」

 

 ビシッ!と直立したユーノに対してアリサがあれこれと質問していく。向こうの文化に始まり、生活水準やら法律、歴史に至るまで聞いた内容は多岐にわたった。

それを、メモ帳に逐一書き留めていった。リュウがちらっと覗くと、誰が見てもわかりやすいように要点ごとにまとめられ、重要な所は色分けされていた。

 だんだんと白熱する二人の会話に取り残された三人は苦笑いを浮かべながら 、ずっと黙っていた。ユーノの話を聞く限り、向こうの世界は文化的にはこちらとあまり変わらないようだ。

ただ、科学は遙かにすすんでいるようだ。

 次元を渡る船の話が出てくると、すずかとリュウが露骨に反応したが、アリサに睨まれ詳しく聞けなかった。

 そして、話がジュエルシードやロストロギア関係に移り、昨日より深い話になっていった。

ロストロギアに関しては、古代の遺産であったり、下手をすれば世界そのものがなくなってしまう危険性があること、かつてあるロストロギアのせいで本当に世界が消えてしまったことがあるなど。

質問の結果を聞くたびに、だんだんとアリサの顔が青くなっていった。

さすがのリュウ達も、想像していたよりも大変なことになっていることに表情が強ばっていった。

 あらかた質問を終えたあとには、アリサはテーブルの上に覆い被さるように突っ伏していた。その様子を三人は苦笑い浮かべながら見つめていた。

そして、アリサはゆら~と起き上がるとキリっとユーノを睨んだ。

 

「あんたはもう!!………はぁ~~もう、いいわ……。はぁ~もうさぁ~~この事件。時空管理局って言ったかしらあんたらの警察機構、そこに連絡した方がいいんじゃない。さすがに私たちだけじゃ荷が重すぎるでしょ。あんただって、実際にはわかってるんじゃない?」

 

「……う、今さらですが、確かにそうですね……そうですよね 」

 

 一瞬怒られると思い、毛が逆立ったユーノはだったがアリサの物言いに同意する。

頭痛を押さえるように頭を撫でるアリサはジト目で言う。

 

「で、まさか連絡取れないわけないでしょうね」

 

「いえ。さすがにそこは大丈夫です。向こうと連絡が取れないと僕も帰れませんからね。なのはレジング・ハートをここに置いて下さい」

 

「あ、うん」

 

「ん?なんでレイジング・ハートがいるの?」

 

 リュウはユーノの言葉に疑問を持った。

魔法で瞬間移動でもして帰るのかと思っていたからだ。

 

「レイジング・ハートを使って管理局のゲートを管理する部署部署に連絡を取るんです。今回は違う部署に連絡しますけどね」

 

「リュウ。あんた今までの私と話聞いてのなかったの。このことはちゃんよ話してたわよ」

 

「ははは……」

 

(アリサが怖くて頭にぜんぜん入ってませんでした)

 

 なのははレイジング・ハートをポケットから出すとユーノの目の前に置いた。ユーノが前足で触れながら目を閉じる。

すると、レイジング・ハートが微かに光始めた。

 だが、

 

「あれ?おかしいな?そんなはずないんだけど…… 」

 

「どうしたのユーノ?」

 

「いえ、何かがおかしいんです」

 

「何がよ?」

 

 難しい顔をしたユーノにアリサとリュウは言う。

 

「この世界以外への通信が出来なくなってる。これじゃあ、管理局に連絡ができない!!」

 

「ジュエルシードのせいなの?」

 

 すずかは首をかしげながら言う。

 

「いえ、それはありえません。ジュエルシード自体は単に所有者の願いを叶えるもの。通信単体に影響を与えることは出来ないはず……

まさか誰かがジャミングをかけている?」

 

「ジャミング?」

 

「なのはちゃん。よく映画とかで無線がつながらない~~とかいうシーンあるでしょ。

それをするのがジャミングって言うんだよ。あ!私のウチにもあるよ。お姉ちゃんと私で作ったやつ」

 

「へ~~すずかちゃん。詳しいね」

 

 リュウとアリサは、なんだか最後に不穏なことを言ったことを気すると思いつつもユーノに意識を向ける。

 

「どう?」

 

「どうなの?」

 

「だめです……どうやっても向こうと一切通信出来ません。ですが、ジャミングをするにしてもいったい何の目的で」

 

「あんたねぇ~~。そんなの決まってるじゃない。タイミング的にあんたが回収しに来たジュエルシードでしょ」

 

「そんな!」

 

 ユーノの疑問にアリサがあきれながら言う。

 

「そういえばさ。さっきあんたが言ってけど、ジュエルシードがこの世界に散らばったのは搬送中の原因不明事故なんだっけ?」

 

「はい……」

 

 先ほどの受け答えで、アリサはなぜジュエルシードがこの世界に表れたのか原因を聞いていた。

ユーノが回収したジュエルシードを保管場所の別次元に運送する途中に輸送船に事故が起きたのだ。

 

 事故原因は不明。

 

 ジュエルシードの行方もわからなくなってしまった。

自分で発掘した責任からか、ユーノはなんとか飛び散った次元を特定し今に至る。

 

「もしかすると事故は故意に起こされたものかもしれないわね」

 

「そんな……… 」

 

「ジュエルシードには暴走の危険性があるけど、使った人の願いをかなえる力があるんでしょ。それって、要するに暴走さえなんとかしちゃえば、願い叶え放題の超便利アイテムじゃない。

どっかの願をかなえるのに七つ集める必要がある玉や、七人の従者で勝ち抜きしないといけない物より全然楽じゃない」

 

「後半意味がわかりませんでしたが、確かにそうですね」

 

「ん~~下手をすると、映画見たいに謎の組織が参上。工作員と激しい争奪戦がなんて……笑えない状況になりそうね」

 

「う……」

 

 もしかすると大規模な組織が関わっているかもしれないと言われたユーノは臆してしまう。

確かにいろいろと考えて見ると、裏に何かがいるのではないかその影が見えるような気がした。

 

「だ、か、ら、そこの二人!状況わかった。とくになのは!あんたよあんた!」

 

「にゃ!」

 

 アリサに突然話を振られたなのはは驚いてアリサに振り向いた。

 先ほどからすずかとの話に熱中していたおかげでぜんぜん聞いていなかったようだ。

なのはとすずかの恥ずかしそうに薄ら笑いをする姿をみていると、なんだかさらに頭が痛くなる。

 

「まったく、今の段階でなんとか出来る力を持ってるのはあんただけなんだからね。しっかりしてよね!もう」

 

「ぼくは、なんかもっとすご~~く大変なことになりそうな予感がする」

 

「まったくね。こっちで手をつけられないと思ったら、問答無用で士郎さんと忍さんに相談するわよ。いいわね」

 

「ですが…こり以上巻き込「あん!!」 いえ何も」

 

 アリサは三人と一匹に確認する。さすがに今回は異論は出なかった。

ただ、能天気に返事をするなのはとすずかに、アリサとリュウはお互いに顔を見合わせると大きくため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、一息ついたそのとき。

世界が灰色に染まり、一瞬時が止まったような感覚を感じた。

 

「どうしたのよ三人とも」

 

 突然、神妙な顔をした三人と一匹にアリサは不思議そうに顔を傾ける。

 

「また、新たなジュエルシードが発動した」

 

「え!!」

 

 ユーノが静かに口を開く。

 

「うん」

 

「ぼくも感じた」

 

 なのはとリュウはユーノに同意する。

アリサはすずかへ振り向くと、すずかも静かにうなずいた。

 

「はぁ。要するに魔法を使える素質のある人にしか感じることができない訳ね」

 

 アリサはため息をついた。

いままでなかよし四人組でやってきたが、こんなところで自分だけ差が出ることに少しショックだった。

だが、今はそんなことを考えてはいられない。

 四人と一匹はお互いを見つめうなずくとすぐさま準備にかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さぁそろそろ、おやつの時間ですよ~~」。

 

 ファリンは上機嫌でリュウ達がいる部屋に向かっていた。

 今日はファリンが選び抜いた紅茶とスコーン、紅茶の入れ方も今日はうまく出来たと自信が持てる。

なんだか四人が、昨日から秘密の話し合いをしているがいったい何を話しているのだろう。

 面白そうだから自分にも教えてくれないだろうか。

と、一応従者と主人の関係であることを忘れてそんなことを考えているメイドがいた。

 

「ん?…… なんでしょうか?」

 

 なんだか四人の声が聞こえる。

ふと、廊下の先を見ると、四人がすさまじい速度で走ってくる。

そして、一瞬でファリンの横を走り去ってしまった。

 なのはちゃんも、あんなに早く走れるんだなぁ~とふと思ったがなんだかおかしい。

 

「みんな、どこ行くの~~おやつの時間ですよ~~」

 

「ちょっとみんなで外で遊んでくる。すぐ戻るから~~」

 

ファリンの声に気づいたのか、リュウが振り向きながら言うとすぐに向き直り行ってしまった。

 

「え~~~!」

 

「全くどうしたのですかファリン。そんな大声を上げて」

 

 振り返ると、いつの間にいたのだろう。

ノエルがため息交じりで立っていた。

 

「あ!姉様。もう!みんなひどいんですよ。私がせっかくにおやつを持ってきたのに、みんなどっか行っちゃたんです」

 

「はぁ?ですが、お嬢様達はいったいどこへ行くのでしょう?もうすぐ日も落ちると言うのに」

 

「む~~もう。みんな知らない!」

 

 四人の行方を気にするノエルを尻目に、ファリンはぷんすか怒りながらリュウ達に持ってきたスコーンを頬張った。

 

「…… やはり忍お嬢様と相談した方がよろしいですかね」

 

そう、ぼそっとつぶやいたノエルが窓から外を見ると、四人が中庭から外へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 四人と一匹は街内を走る。

 反応があった場所はめざし全速力で走る。

この先にある何が四人とも知っていた。

 

 

 神社。

 

 

 この街にある神社の中でもそこそこ大きい所で、年始にはみんなで初詣に行く場所だ。

 だが、この神社、月村家からそこそこ離れている。

子供が全力で走ったとしても、20分はかかるんのではないだろうか。

なので、

 

「リュウ……わたし… もうだめ…… 」

 

 この中で一番体力のないなのはが悲鳴をあげるのは必然だった。むしろ、ここまで10分近くついてこれただけ頑張った方だ。

 

「あ~~もう。しょうがないなぁ~~」

 

 リュウはため息をつき、よいしょっとなのはを背負い走りだす。

すると、なのははさっきまでの疲れた顔は何だったのか思うぐらい、にやつきながらリュウの背中にほほをすり寄せた。

 

「なのは!あんたもうちょっと体力つけなさいよ。いつもそうやってリュウに頼って」

 

「む~~なのはちゃんずるい!ずるよ!」

 

「にゃはは~~」

 

 そんなことがありつつ、四人と一匹は神社の前まで着いた。

 後は、

 

「はぁ~~さすがに私も堪えたわ。でも、あとはこの階段を上るのね」

 

「はい」

 

 四人の眼前にあるのは神社に向かい、はるか彼方へ続く階段。

大人から見てもかなりの段数がある、子供のリュウ達にとってはかなりの数だ。

 初詣のときはいつもこの階段に苦労させられる。主になのはが。

 

「アリサちゃん疲れてる?乗る?」

 

 すずかは自分の背中を指した。

 

「冗談でしょ!う~~もう!やってやろうじゃない。私ファイト~~!」

 

 その時

 

「キャーーー!」

 

 女性の叫び声が上から響いた。

 

「急ぎましょう!」

 

 ユーノの声に四人は頷くと一斉に階段を駆け上った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 階段を上り終えると、そこには四人待っていたか様に佇むものがいた。

 

 

黒い狼だ。

 

 

 いや狼と言うのはおこがましいかもしれない。

 大きさは大型犬より一回り以上大きく。こちらを見つめる金色の瞳は四つ。体の至る所から鋭利な鎧のような外殻を身にまとっている。

まるで、ゲームの世界から飛び出てきたような狼、というよりモンスターだった。

 

「グルルル ル ル 」

 

 狼の化け物がうなり声を上げ、今にも誰かに襲いかからんと様子でたたずんでいた。

その後ろには、女性が倒れていた。この狼に襲われて気絶してしまったのだろうか?

 すでに犠牲者が出てしまったと、リュウは顔を青くする。

 

「現住生物を……取り込んでいる……」

 

「それって………どういうこと?」

 

 ユーノの焦りに満ちた声に、リュウは相手から視線を外さずに質問する。

 

「簡潔にいうと前回より手強くなってる」

 

「ふぇぇぇ~~」

 

 弱々しく悲鳴を上げるなのはだが。

その横では

 

「なんか、ゲームのモンスターみたいね。実際見ると」

 

「そうだねアリサちゃん。あ!そういえば昨日やったRPGにあんな子が出てたような。でも確か普通のザコモンスターだったかな」

 

「すずか。あんたそれで今日の授業中眠そうにしてたのね。もう!また先生に怒られても知らないわよ」

 

「え~~でも、やっぱりRPGは一気にクリアしたいし」

 

「あんたね~~」

 

 のんきに、談笑するアリサとすすかがいた。

真面目なアリサが、この状況でこんな話をしていることから結構混乱しているようだ。

 

「二人とも!今はそういうことを話している場合じゃ」

 

「そういえばリュウくん。あのゲーム買った?」

 

「へ?い、いや。ん~~今月厳しいから、ぼく買ってないんだよね~~ってそういうことじゃなくて!」

 

「じゃあ貸してあげる。というより、リュウくんにならあげるよ。私もうすぐクリアするし、遅い誕生日プレゼントだと思って!」

 

「いやさすがにそれは……父さんからもそういうのはよくないっていわれてるし」

 

「大丈夫!リュウくんには、あとでおっきく返してもらうから!」

 

「おっきくて…… 何を?」

 

「それは私の口からはちょっと……」

 

「リュウどういうことかな。何を返すのかな?」

 

「うわ、なのはねぇ!」

 

 いつの間にか現れたなのはが、リュウともじもじとするすずかの間に入ってきた。

 すずかに乗せられたリュウも悪いのだが、こういう話には常に入り込むなのはである。

と、そんな和やかな会話に横から気まづそうに入り込むイタチがいた。

 

「あの~~~すいませんが、いまはそういうことを話している場合じゃないですが」

 

「は!私としたことが少し動揺してたみたいね。はぁ~~はいそこの三角関係ズ。乗せられた私も悪いけど今の状況を冷静に考えようか」

 

 ユーノの声にわれに帰ったアリサは、パンパンと手を叩く。

三人はアリサの方を何?という感じで振り向いた。

 何じゃないだろうと思いつつ、アリサは狼を確認すると話は終わりました?という感じでこちらを見つめていた。

しっかりとした犬座りで。

 

「と、とりあえず仕切りな直しよ!」

 

 アリサは狼に指を刺すし叫ぶ。

 

「さあ!行きなさいなのは!リュウ!ユーノ!」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

 なのはとユーノは指された狼に向く。

 狼もやっと始まるのかと起き上がった。

だが、反応が一人足りない。

 

「それじゃあ。なのはねぇ頑張って、ぼく今回はパス」

 

「「え?」」

 

 一人足りないと思っていたら、横にいたはずのリュウはいつの間にか神社の奥に生える木々に隠れてなのは達を見つめていた

 

「ふぇえ~~ちょっと。なんで?一緒頑張ろうって言ったじゃない!!」

 

「あ!そういえばリュウくん犬嫌いだもんね」

 

「あんた。こんな時に何いてるのよ!おばけとかは大丈夫なくせに!」

 

 アリサはすさまじい速度でリュウの元に向かうと襟首をつかんで引き寄せる。

アリサに引き寄せられたリュウは、横を向いて視線を合わそうとしない。

 だが、ボソッと小さくつぶやいた。

 

「犬キライ……」

 

「こなときなに言ってるのよ」

 

「それに、別に戦うのはレイジング・ハート持ってるなのはねぇだからぼくはいなくてよくない」

 

「あんた~~~「ガゥ!!」  !」

 

 アリサが振り向くと、狼がまだなんですかという感じで座り、四つの瞳がこちらを見つめていた。若干潤んで見えるのは気のせいだろうか。

なんだか、いろいろ心配してみたものの、今回の事件は意外と穏便に終わるような気がしてきた。

 

「あ、すいません」

 

 アリサはとりあえず謝ると、掴んでいたリュウを離した。

 

「リュウあんたはもういいから。そこにいなさい……後で覚えてなさいよ」

 

「ええ~~ちょっとリュウ~~私だけじゃ無理だよぉ~~」

 

「すずか!」

 

「はいはい。もう今回だけだよ……リュウくんには後で埋め合わせしてもらおっと」

 

 弱音を吐くなのはの耳元にアリサに呼ばれたすずかがヒソヒソと呟いた。

 

「はのはちゃん。なのはちゃん。今リュウくんにいいとこ見せるチャンスだよ。この中でそれを使えるのはなのはちゃんだけなんだから。

あの、モンスターを倒したらきっとリュウくんはなのはちゃんを見直すと思うよ」

 

「よ~~し来るなら来い!」

 

「単純ね」

 

「まあ、最終的には私が全部もらうんけどね」

 

「すずかあんたも大概ね……」

 

 狼は今度こそ始まるのかと立ち上がる。

そして、一瞬頭を振るとなのはに向かって駆け出した。

 

「よし!とりあずなのは!レイジング・ハートの起動を!」

 

「え、起動。 あ、そうか。ちょ、ちょ待って!」

 

 だが、相手は待ってくれない。

 

「なのはちゃん急いで!」

 

「なのはねぇ!」

 

「ちょと!あんたたち、何もたもたしてるのよ!」

 

「ってアリサちゃんとすずかちゃんもいつの間に」

 

 いつの間にかリュウの横に来ていたアリサとすずかを合わせた三人が叫ぶ。

そんなやりとりをしている間に相手との距離は縮まっていく。

そして、狼はなのはの目前まで迫ると、地面を蹴り上げ飛びかかった。

 

「なのはちゃん危ない!」

 

「はのはねぇ!」

 

 その時

 

「Stand by ready……Set up」

 

 なのはが握るレイジング・ハートから桃色の光が漏れる。

 

「え!」

 

 驚くなのはをよそに、レイジング・ハートは独りでに杖形態へと変化した。

 

「そんは!パスワードなしにレイジング・ハートを起動させた!」

 

 なのははレイジング・ハート見て静かに頷くと、迫ってくる狼に向けた。

桃色の半球の防壁が、飛びかかる狼の一撃を受け止める。

そして、そのまま相手を弾き返した。はじき飛ばされた狼はそのまま境内の石畳に全身を打ち付けた。

ゆっつくりと起き上がろうとしたが、今の反射ダメージが相当効いたのかそのまま気を失った。

 

「あ。一撃。ってなのはねぇ。早く封印を! 」

 

「あ。そっか」

 

 リュウのかけ声で、惚けていたなのはは我に返ると封印作業に入った。

アリサとすずかは一連の状況変化についていけなかったのか、呆然と立ち尽くしている。

 

(無意識での起動、それにあの一撃を受け止めるだけじゃなくて、跳ね返すなんて。やっぱりなのははすごい才能を持ってる)

 

 四人とは打って変わって先ほどの様子をユーノは、冷静に分析していた。

まだ、レイジング・ハートを手にしてから、二回しか変身していない。そして、今回は必要な起動パスワードなしでの変身。

確かに慣れてさえいれば、パスワードを省略可能だ。だが、なのはは今回で三回目それをやってのけた。

 普通の魔導師でさえ難しいことを、難なくやっているそのことをなのはは何も気づいてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「リリフ」

 

 倒され普通の飼い犬(柴犬だろうか)に戻った暴走体に回復魔法をかける。

 犬はすぐに目を開けると、今は木を背に寝かされている女性に走り寄った。

どうやら、彼女のペットらしい。今回の騒動もあの子がジュエルシードを発動させてしまって起きたもののようだ。

女性に怪我がないところを見ると、彼女はペットの姿に驚いて気絶してしまったのだろう。

 

「やはり、リュウのそれは魔法ですね。術式は見たことがないものですが。魔力の反応を感じます」

 

「そうなの?」

 

「はい。リュウはどこでそれを」

 

「わかんない。気づいたときから使えるから ……」

 

リュウは前髪をいじりながら言った。

 

「リリフというのはその魔法の名前でしょうか?」

 

「さあ?なんとなくこれを使おうとするときに頭に浮かんで来るから言ってるだけだけど?」

 

「そうですか…… 」

 

(この次元には魔法文明は無かったはず、未知の文明があったのか……ん!そういえば前未知の魔法術式が見つかったという論文を見たような……)

 

 リュウの答えに腕を組んで考えるユーノ、その様子をリュウは不思議そうに見ていた。

 

「さあ!みんなすずかの家に戻るわよ。あの人は目覚めたら夢かなんかだと思うでしょ………たぶん 」

 

「「は~~い」」

 

「アリサなんか後半へんなこと言わなかった?」

 

「さ~~行くわよ!」

 

 全力でごまかすアリサは先に階段を降りて行った。

その後をすずかとなのはがついて行く。リュウははぁ~~とため息をつくとユーノに向いた。

 

「まっいいか。じゃあ行こうユーノ」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すずかの家に戻ったときにはすでに日は落ち。すでに闇が街を支配していた。

突然出て行ったことに、ファリンに文句を言われたが素直に謝ったらなんとか許してもらえた。

ノエルが少し堅い表情をしていたことに少し気になったが。

そして、三人と一匹が帰る仕度をしようとすると、すずかが言い放った。

 

「リュウくん今日止まってく?」

 

「え!」

 

「は!何いきなり言ってるすずかちゃん。とうとう頭がおかしくなったのかな?」

 

「リュウくんさっき埋め合わせしてもらうって言ったよね?」

 

「え!」

 

 怒るなのはを尻目にニコニコとするすずかはリュウに腕を絡めた。

 

「あ!もう士郎さん達には伝えてあるから大丈夫だよ。士郎さん達もよろしくだって」

 

「いつの間に!そんな時間なかったよね!」

 

「ちょっとすずかちゃん勝手に話しをすすめないでよ。てか、リュウからはなれた!」

 

 リュウを盾にしつつすずかは話を進める。

実は、リュウ用になぜか男子生徒用の制服が置いてあったりする。

 

「あ!なのはちゃんは帰るの?実はなのはちゃんのことは言ってないんだよね」

 

「はぁ!!なに言ってるの!」

 

「アリサ!ヘルプ!ヘルプ!」

 

 リュウはアリサに助けを求めたが

 

「わたし、鮫島が来から帰ります」

 

携帯をパタンと閉じると、荷物をまとめて扉へ向かう。

 

「アリサ~~~ゆ、ユーノ助けて!」

 

「ユーノあんた今日は私の家に泊まる」

 

「はい!ぜひお願いします」

 

「ユーノ~~~」

 

 なにはともわれ、またひとつのジュエルシードを封印出来た。

彼らの戦いはまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 



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