転生したら呪霊だった件について (砂漠谷)
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【悲報】転生したら呪霊だった件について【絶望】

掲示板形式は初投稿です


1:名無し級呪霊

転生担当神「ハイ、というわけでえー今生は残念ですけどもね、前世で助けた人間0人ということで、徳が足りずに呪霊に転生という形になりまスゥゥゥ…」(落とし穴パカー)

 

ころちゅ

 

2:名無し級呪霊

俺が何をしたって言うんだ、せいぜい妊婦に席を譲らなかったり、熱中症で倒れた老人を無視したり、公衆トイレの紙を使い切って交換しなかったりしただけじゃないか!何も悪いことしてないぞ!?

 

3:名無し級呪霊

役満で草

 

俺も似たようなもんだが

 

4:名無し級呪霊

善良な小市民が何でこんな目に合わなきゃいけないんですかね……(困惑)

 

5:名無し級呪霊

善良(すっとぼけ)

まあ殺人強盗強姦放火の類やってたら蠅頭レベルの知能の呪霊にしかなれないらしい(by転生担当神)からまあ多少はね?

 

6:名無し級呪霊

>>5

マ?じゃあここにいる奴は上澄みの方のクズってことでいいのかな

 

とりま現在の状況誰かまとめてくれん?この掲示板能力を最初に覚醒させた>>1が

 

7:>>1

……ふぅ、少し落ち着いてきた

俺に丸投げは腹立つがわかった、とりあえず俺の場合だがまとめてみる

 

前世日本(呪術廻戦が週刊少年ジャンプに大人気連載中の令和時代)でトラックに轢殺され死亡

転生担当神の業務上過失致死だったのだが、そのまま人格消去して魂リサイクルすると世界運営に問題が発生するらしく

辻褄合わせに別世界に転生させて有耶無耶にするという話になり、転生担当神が最近ハマっている「呪術廻戦」世界に転生させられることになるが

漫画の世界とは言ってもチートとか転生特典とか俺TUEEEとかを転生者にやらせるのは問題になるため

この掲示板能力以外は特に転生特典はない、なお原作知識を転生者以外に知らせることも出来ないようになっている

今が原作内でどの時期かは不明

自分の呪力は修行要らずに自然に知覚できた、コントロールも拙いが最低限はできる

俺の今の体は体長1メートル半ほどのカタツムリのようだ。鏡が無いので詳細は不明

転生担当神に言われた通りに掲示板について強く意識すると、掲示板の仕様と使用法の情報が純愛私鉄列車の如く脳内に流れ込んできたのでそれに従って掲示板を開き、誰もスレ立てしてなかったのでスレ立て←イマココ

 

8:名無し級呪霊

サンキューイッチ

近くに電柱が見えるから近現代であることは間違いなさそう これが時をかける掲示板じゃない限り

あと純愛私鉄列車って何だよ(単行本派)

 

9:>>1

パチンコや

原作の話は脇に置いて、今後どう生き延びるか、という生存戦略の話をしよう。ここ見てる奴ってどれくらいいる?ROM勢も挙手してくれ

 

10:名無し級呪霊

 

11:名無し級呪霊

ノシ

 

12:名無し級呪霊

 

13:名無し級呪霊

ノシ

 

14:名無し級呪霊

(‘ω’)ノ

 

15:名無し級呪霊

 

16:>>1

ここまでかな?

俺も含めて今のとこ7人か……それ以外の転生者は掲示板を使える知能が無いか、掲示板の能力に気付いていないか、そもそも掲示板の能力を持っていないか

今後増える可能性もあるな

転生前に掲示板能力については全員説明されたよな?聞いていないってことはないはずだが

 

17:名無し級呪霊

せやな、ちゃんと説明して質問にも答えてくれたで

 

18:名無し級呪霊

呪術廻戦世界に転生するって聞いて舞い上がってほとんど聞いてなかったけどそんなことも言ってた気がする……呪霊へ転生したことに今気が付いて絶望

 

19:名無し級呪霊

>>18

クソワロタ

術師や”窓”に見つかれば即終了のデスゲームだからね、仕方ないね

 

20:名無し級呪霊

考えようによっては老いも身体欠損もない完全生命体だから……(震え声)

なお実質寿命

 

21:>>1

まずは安全な場所を探そう

呑気に情報交換するのはその後だ

近現代ということなので、俺はマンホールから下水道に潜ろうと思う

 

22:名無し級呪霊

衛生観念皆無カタツムリ

てか画面の向こう側の人間、いやもう呪霊か、が死んでも損はないのになんでイッチはそこまでみんなで生き残ろうとする訳?

善人気取り?呪霊に転生してる時点でお里は知れてるわけなんだけど

 

23:名無し級呪霊

うーんこの畜生

でもその疑問は俺にもあった

 

24:>>1

>>22そうだな

単純にみんなが死ぬと情報源が少なくなるってのもあるが、一番は話が通じる数少ない他者だからだな。「弱い奴ほどよく群れる」というが、群れなければ死んでしまうからだよ。肉体的にも精神的にも。

この掲示板が無ければ、呪霊という駆除対象の醜い異形に転生した時点で命を絶っていた。そこはみんなに感謝してる

 

25:名無し級呪霊

はいはいすごいすごい

煽りに反応して唐突なメンヘラポエム、厨二かな?

 

26:名無し級呪霊

いやこれはイッチが正しいわ 一致団結しろとは言わんが、群れても死ぬ、群れなきゃもっと死ぬが低級呪霊の生態だろ 死にたいのか>>25は 匿名冷笑インターネットのノリは前世に置いていけ

 

27:名無し級呪霊

>>26

は?キショ 術式持ちだぞ私は 低級呪霊は勝手に死んでれば笑

 

28:名無し級呪霊

>>27

??? 術式持ちでも容赦無く死ぬのが呪術廻戦なんだが?「なめらかに人が死ぬ漫画」なんだが? いやもはや漫画ではないが

 

29:>>1

待て、>>27さんは術式持ち、つまりは最低でも準一級以上の呪霊なのか?もしかして生得領域の展開(原作で変態前陀艮がやってた奴)とか出来たりしないか?

 

30:水銀妖精

>>29

できるけど? 領域の名前は『煉丹廃毒溝』 まだ六畳一間でクッソ小さいが、お前ら雑魚にとっては天と地の差か笑 ちなカタツムリとは違って私は30cmくらいの全身銀色の可愛らしいお人形 馬鹿共でもわかるようにコテハン付けてやったわ

 

31:>>1

頼む水銀妖精さん、俺たち6人を、いや近場にいる転生者だけでもいいから匿ってくれないか 礼なら何でもする

 

32:名無し級呪霊

俺はこんな奴に匿われたくない 自分の力で生き残る

 

33:名無し級呪霊

最後の手段としてなら検討するがまずは自分ひとりで頑張ってみるわ 何強要されるかわかったもんじゃない

 

34:水銀妖精

だそうです笑

残念無念皆死亡、イッチちゃん可哀想笑

 

35:>>1

……個人の意思を尊重することにする それはそれとして、皆死なないでくれ

 

36:名無し級呪霊

今北産業

 

37:名無し級呪霊

>>36

・徳が足りず呪霊に転生する俺ら

・死なないためにイッチが情報交換するが水銀妖精が嘲笑

・イッチが水銀妖精に俺らの保護を求めるが俺らはこれを拒否

 

今来たってことは、転生者呪霊は今後も来続けるってことで良いのかな

 

38:名無し級呪霊

いや、ちょっと人間に見られて、自己弁護をしてたら時間を食ってしまって掲示板に接続するのが遅れた

 

39:名無し級呪霊

!?!?!? 

 

40:名無し級呪霊

人間に見られた!? 俺らのことまさか喋ってないだろうな!

 

41:>>1

最初に言うことがそれかよ 無事だったか>>38 ?

 

42:名無し級呪霊

大丈夫、ちょっと霊感あるだけの呪術知識ない小学三年生だから騙すのも容易かった というか俺が発生したのがこの娘の部屋でな この娘の感情から呪霊としての俺は生まれたらしい

 

43:名無し級呪霊

小学三年生女子がママになっててワロタ

というか一人で呪霊発生させるとか相当鬱屈ため込んでないか

 

44:子供部屋あくま

コテハン付けた

かなりの被虐待児でな 学校で虐めも受けてて憔悴してる 不思議と欺きたいとも殺したいともとも思わん 相手は人間で俺は呪霊なのだが

誑かしたいとは少し思うが、これは前世由来の性癖だな

 

45:名無し級呪霊

おさわりまんこいつです

 

46:名無し級呪霊

前世で幼女盗撮とかして呪霊になってそう

 

47:子供部屋あくま

俺のことを「あくまさま」って呼んでくれてガチで可愛いんだよな この娘を傷つけた奴、皆拷問の末にブチ殺したい

その可愛い彼女情報だが、今日は1989年12月7日木曜日 平成元年ですな

 

48:水銀妖精

推し(五条悟)の誕生日じゃねーか!!!

 

49:名無し級呪霊

へーそうなんだ……死滅回遊のルールは一言一句覚えてるけどキャラの誕生日とかいちいち覚えてない 水銀妖精ネキの汚名が少しだけ卍解された

 

50:水銀妖精

>>49、それでも呪術廻戦読者か?キャラの誕生日は最重要情報だろうがバカ!!!

そして勝手に私の性別を看破してネキとか呼ぶな!!!ネキだけれども!!!

……ってことは私五条悟と誕生日同じ? これもう運命じゃん 私は五条悟の夢主だったのか

 

51:名無し級呪霊

他のスレ民も五条悟と誕生日同じなんですがそれは……

汚名は卍解するもの

 

52:>>1

というか皆呪術廻戦は読んでるよな?転生担当神は非読者を呪術廻戦世界に転生させるような真似はしないと言っていたが……正直信頼ならん

 

53:名無し級呪霊

アニメは全部履修したけど原作は読んでない

 

54:名無し級呪霊

単行本派

 

55:名無し級呪霊

本誌派です

 

56:>>1

分かった。とりあえず呪術廻戦の大まかな世界観とストーリーの流れだけ伝えておく 補足や誤解釈があったら言ってくれ

 

~~~中略、呪術廻戦という作品についての説明~~~

 

82:名無し級呪霊

DOWNLOADED(完全に理解した)

 

83:名無し級呪霊

石流好き

 

84:名無し級呪霊

鹿紫雲おじいちゃん!

 

85:名無し級呪霊

説明しているうちに来た人(?)も何人かいるな このペースで転生してくるとなると原作開始まで相当多くなるぞ

 

86:名無し級呪霊

>>85

おまえもしかしてまだ 自分たちが死なないとでも思ってるんじゃないかね?

 

87:>>1

>>86

みんなでみんなを死なせない、そのための掲示板なんじゃないかね?

 

88:名無し級呪霊

原作までに大体五、六万人くらい集まる?死者を無視すればの話だが

 

89:名無し級呪霊

まあ、呪霊全体からすると微々たるもんだな

子供部屋あくま情報で、「原作知識」は転生者以外には伝えられないが「転生者の存在」は転生者以外にも伝えられるっぽいし、いずれバレるだろうがバレるのが遅いに越したことはない

 

90:名無し級呪霊

自白に強い術師いないの?(恐怖)

 

91:名無し級呪霊

そん時はそん時だろ。ばれても何とかなる程度に立ち回っていこう

 

92:名無し級呪霊

とりあえず五条悟殺しに行こうぜ 小学生と化したらもう無理だが、流石に乳児なら殺せるだろ

 

93:名無し級呪霊

>>92

つ五条家の護衛

 

94:名無し級呪霊

五条悟、自衛能力を身に着けられるまで家から出してもらえなさそう

 

95:名無し級呪霊

じゃあ夏油傑殺す 呪霊の天敵だし

 

96:名無し級呪霊

>>95

そもそもどこにいるの?そして幼少期の夏油の外見特徴知ってるの?

 

97:名無し級呪霊

そ、それは……夏油高原スキー場の近くでは……

 

98:名無し級呪霊

黒髪黒目日本人なんだから目立たないでしょ 高校生時代みたいに前髪耳たぶじゃあるまいし 教祖時代みたいに袈裟着てるわけでもあるまいし

 

99:名無し級呪霊

じゃあ羂索捜索

 

100:名無し級呪霊

>>99 額に縫い目があるから確かに目立つけど……利用されて搾取されて破滅する未来しか見えない……

 

101:>>1

漏瑚捜索はどうだろう 五条悟を小童呼ばわりしているところからまず確実にこの時代に生まれている その上で呪霊には親和的なので庇護も望める 呪霊は基本的に成長しないので逆に言えばこの時代でも原作のスペックを保持していると思われる

 

102:名無し級呪霊

>>101

それだ!!!流石イッチ!!!!

 

103:子供部屋あくま

>>101

でもそれ渋谷事変に参加する運命決定じゃない?そうでなくても人間絶滅思想に賛同しなきゃいけなくない?流石にそれは嫌なんだが…… 凡百の塵共はどうでもいいけどうちの娘を殺させるわけにはいかん

 

104:水銀妖精

>>101

推し達の健全な成長を見守りたいので原作介入には反対

 

105:名無し級呪霊

>>103

>>104

そりゃあお前らは安全な拠点があるからなぁ!!

俺たちは野に放たれてハンターに追われる逃走者なんだよ!!何とかして呪術師や”窓”の目から逃れる方法をだな!!

 

106:>>1

すまん 軽率に提案したが、そもそも漏瑚がどこにいるかはわからない

原作開始まで息を潜めていたらしいので目立ってはいないだろう

せいぜいが不審死の焼死体の記事を漁るくらいか?

 

107:名無し級呪霊

まず自分がどこにいるかも分からない(多分都内だとは思う)、下手に目立つ場所に出られないから記事どころか地図を探すことも出来ない どうすりゃいいんだ

 

108:>>1

>>107

それなら俺の術式で解決できるかも 窓の外から見える風景とか、とりあえず外の風景の視界画像を貼ってくれ あくまでも「かも」だからな 期待しないでくれ

 

109:名無し級呪霊

>>108

《画像》

 

110:名無し級呪霊

>>108

《画像》

 

111:名無し級呪霊

>>108

《画像》

 

112:名無し級呪霊

>>108

《画像》

 

113:名無し級呪霊

>>108

《画像》

 

114:名無し級呪霊

>>108

《画像》

 

115:>>1

こんなに多く自分の場所が分からない人がいたのか

発展度合いから見てこれ多分全員都内だな

2,3日したら挙動と目つきがおかしい鳥か猫か何かがそっちに来るから、それについて行けば比較的安全なルートで最寄りの人気のない場所まで案内できると思う

多分水銀妖精さんの生得領域が今の時点では一番安全だと思うから、より安全を求める場合は各自水銀妖精さんに交渉してくれ。

 

116:水銀妖精

>>115

鳥か小動物?術式開示しろ

あと勝手に安全地帯扱いするな

 

 

 

定員三名な 条件は示談で

 

117:名無し級呪霊

>>116

ツンデレ乙!

 

118:水銀妖精

>>117

死ねキショ豚

お前の席ねぇから

 

119:子供部屋あくま

まあ2,3日待機ってことで。安全地帯にいる俺はうちの娘を愛でながら情報収集に励むとしますか。

 

120:名無し級呪霊

>>119

多分こいつが俺らの中で一番の勝ち組

 

121:>>1

>>116

俺の術式は自分でもまだ良くわかっていないけど、一応開示しておく。

術式で作った眼球を動物に埋め込み、視界を新しく与える術式。眼球は多分式神みたいなもんだけど、動物の呪力を吸収して自己維持するから一回埋め込んだら呪力供給は不要。新しく与えた視界には任意の事象を見せることが可能で、これを利用して間接的に知能の低い動物の行動を誘導することができる(食べ物の幻覚で釣るとか)。当然こっちから視界の盗み見も可能だし、けっこう遠距離からでも視界を操作できる。多分都内くらいならギリ行けるんじゃないかな?

 

122:名無し級呪霊

>>121

術式名は『眼根授術』とかかな?

 

123:>>1

>>122

いいねそれ。採用。

みんなの術式も見せて♡

 

124:名無し級呪霊

見たけりゃ見せてやるよ



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【呪い】転生したら呪霊だった件について2【呪われ】

呪術熱が収まらないので初投稿です


~~~前回のスレから小トラブル等を解決しつつ情報交換が一週間ほど続く、そしてPart2へ~~

 

1:カタツムリ観光客

前スレ>>1改めカタツムリ観光客です

上から転生後にすべきことをまとめます

・転生した直後はすぐに近くの物陰に隠れて下さい。可能ならばできる限り自分が発する呪力を抑えて下さい。呪力操作のコツはこちらを参照→【呪力】俺達は腹でモノを考えるか?頭で怒りを発露できるか?【操作】

・周囲に警戒しながら、掲示板に自分の外見の特徴と回りの(できれば屋外の)風景の視界写真を貼ってください。

・眼球が無いタイプの呪霊でも視界はあるはずなので慌てずに確認してください。

・物陰の側の見えるところに指定した目印を描くか置くかして下さい。

・1日程したら、目つきが変な動物(鳥や犬猫)が来るはずなので、その動物について行き移動してください。決して動物に先行しないでください。動物は斥候の役割も果たします。

・移動して隠れ家に到着しても大きな音や呪力を出したりすれば呪術師に気付かれます。大人しくしておいてください。

・隠れ家には同居することになる同じ呪霊の転生者がいるかもしれないので、その場合はきちんと自己紹介をして、争いごとを起こさないようにしてください。

 

 

57:名無し級呪霊

ゲロビ猿さん本当草

 

58:ゲロビ猿

ウッキー!今年は申年!

 

59:名無し級呪霊

前スレ>>915です

滅多に人の来ない廃ビルになんとかつきました

 

60:カタツムリ観光客

>>59

お、これでほぼ全員かな?

トラブルや不幸な事故もありましたが、今いる転生者呪霊は把握している限り全員生きて隠れ家に辿りつけました。

何度も言いますが、これからも呪霊はどんどん転生してくるので、一つの隠れ家を複数人で使うこともあり得ます。仲良くとまでは言いませんが争いごとを起こさないようにお願いします。

それと、隠れ家と言っても、あくまでパッと見で術師の残穢が無い(つまり巡回ルートではない)、人気が無いというだけの話であり、絶対的な隠密性を保障するものではありません。

そこを理解して隠れ家を活用して下さい。

 

61:名無し級呪霊

カタツムリ観光客さん乙です!

 

62:水銀妖精

ようやるわ

 

63:子供部屋あくま

お疲れ~

 

64:名無し級呪霊

そういえばカタツムリ観光客さんって下水道住みなんでしょ?どうやって猫や鳥に眼球埋め込んでるの?

 

65:カタツムリ観光客

それは……あんまり言いたくなかったんだけど、つのだせやりだせめだまだせの具合で四つの触角をマンホールからにょーんと伸ばして、そこから触角を使って動物をマンホールに引きずり込む、みたいな感じ

路地裏のマンホールだからできる手です。今は眼球植え付けた動物も駆使して動物を追い込んでる。

 

66:名無し級呪霊

消音・消呪力結界とか降ろせればなぁ 呪術師を気にせずに力を試せるんだが

 

67:名無し級呪霊

>>66

羂索を!探して会おう!

 

68:名無し級呪霊

羂索か漏瑚の捜索がやっぱ安定なんだよなぁ……しかしどうやって術師や”窓”に見つからずに探すか、それが問題だ

 

69:カタツムリ観光客

一応都内の猫や鳥の視点で探してはいるが こっちも情報処理の限界があるのであまり力になれそうもない

眼球植え付けるだけなら初期の呪力消費以外コストもキャパも使わないんだが

 

70:名無し級呪霊

自己防衛。投資。海外移住...日本脱出だよね

 

71:名無し級呪霊

>>70

飛行機や船、そして港や空港。大人口が集まる場所には術師かそうでなくとも”窓”がいると思われ。

憂憂でも脅して海外転移させるんか?まだ生まれてないぞアイツ

 

72:カタツムリ観光客

今のところ東京にしか転生者呪霊はいないっぽいですね(ここが東京専用板で他の地域の人が見れない可能性も微レ存)

 

73:名無し級呪霊

>>72

一定の人口密度が無いと呪霊転生者は生まれない……ってコト?

そうだとしても大阪らへんにそろそろ出てきそう もう七日じゃろ?

 

74:名無し級呪霊

関西にも手を広げなきゃいかんな とは言っても俺は掲示板見て管巻いてるだけでコテハンの人らしか動いていないんだが

 

75:名無し級呪霊

もう40人以上呪霊転生者いるし、そろそろ東京脱出できる上澄みの面々もいるんでは

 

76:水銀妖精

呼んだ?

 

77:名無し級呪霊

でたわね

 

78:名無し級呪霊

うわでた煽りウーマン

でも呪術戦において現状ぶっちぎりで転生者最強なのはたぶん事実なんだよなぁ

転生初日で生得領域の具現化とかお前精神状態おかしいよ…

 

79:水銀妖精

術式の付与は出来てないし元から閉じられた屋内じゃないと具現化できないけどね

まあ凡骨共と比べれば次元が違うか笑

凡骨共の将来のためにアドバイスしておくと、生得領域の具現化は自分のゲロでデカいバケツを満たしてそこに浸かるイメージ

生得領域=自分の心身の一部=臓物の内部=ゲロ

実際には全然違うんだろうけど、感覚的にはこんな感じ

 

80:名無し級呪霊

汚ぇ例えだが、アドバイス助かる

 

81:名無し級呪霊

至急、メールくれや

 

82:水銀妖精

>>81

全身の穴という穴に水銀流し込んで殺すぞ

 

83:名無し級呪霊

領域展開なんて言う夢のまた夢はおいといて……

とりあえず東京とかいう呪いの坩堝から脱出して疎開したい

呪霊がいっぱい湧くってことは術師もいっぱい来るってことじゃん!

 

84:カタツムリ観光客

>>83

これから東京に転生してくる呪霊の救出をもっと効率化・システム化することが優先です

強い術師のいない田舎への疎開はその次の段階です

同胞を見捨てて逃げるわけにはいきません

すみませんが理解をお願いします

 

85:水銀妖精

はいはいいつもの弱者保護同胞擁護

雑魚なんて放っときゃ良いのに。死んでも自己責任でしょ。弱いのが悪い、前世の行いが良くないのが悪い。

私も使えそうな術式持ち数人しか保護してないし

 

86:名無し級呪霊

そういや術式持ち、転生者呪霊は結構多いな

確か三分の一くらいは術式持ちで、残りの三分の二も特殊体質持ってたり、単純に身体能力良かったり感覚鋭かったりと特徴あるもんな 逆に壁抜けできるレベルの低級呪霊はおらん模様

一級下位~準二級下位 くらいかな 水銀妖精ネキを除けば

しかしすっかりイッチもすっかり俺らのリーダーになったなぁ

 

87:名無し級呪霊

まあ命の恩人(恩霊?)だからね、しょうがないね

 

88:子供部屋あくま

俺んちの近所にいる奴にちょっと頼みたいことがあるんだが

 

89:名無し級呪霊

お、どうしたどうした

 

90:子供部屋あくま

うちの娘がちょっと母親の彼氏に襲われかけてな 適当に追い払おうと思ったが、勢い余ってブチ殺しちまった

そんでその男の死体処理と、人間の女児も住める逃亡先探しを手伝ってもらいたい

 

91:名無し級呪霊

オイイイイ!!何殺しちゃってんの!!

 

92:名無し級呪霊

誰にも見られてないか?血痕や残穢はどれくらい付いた?

 

93:子供部屋あくま

残穢は結構べったり 借家じゃない一軒家っぽいから入られない限りは感知されんだろうが

風呂場で襲われた時にこめかみ打って気絶させようとして、力加減間違えて頭かち割って殺した

その後血は水で流したが、それでも風呂のタイルに目視で分かる程度には血痕が残っている

叫ぶ間もなく殺したから周囲に気付かれてはいないと思う うちの娘も叫ばないでくれたし

 

94:名無し級呪霊

殺しはやりすぎだが良く守っt……ん?風呂場で?

お前幼女と一緒に風呂入ってんじゃねーよ!

 

95:名無し級呪霊

子供部屋おじさん、ロリコン、人殺しの三重苦で草

しかし目の前で人が殺されても叫ばないのは相当衰弱してないか……?

 

96:子供部屋あくま

聞くに、親が飯作ってくれないから、このままじゃ死ぬとまわりの視線を顧みずに給食食いだめしてるらしい。

多分それで目立ったのがいじめられた原因

いや~小三でカロリーや餓死の概念に気付くとはうちの娘は賢いな~!

ということで死体処理と証拠隠滅と逃亡幇助に自信ニキネキ、頼む。うちの娘を救ってくれ。

 

97:名無し級呪霊

宮〇事件の直後だからなぁ

報道に触発でもされたか?

 

98:カタツムリ観光客

私は子供部屋あくまさん付近の行けそうな逃亡先を探しておきます

どうか他の方、特に術式持ちの方は少しでもいいので動いて貰いたいと思っています

 

99:名無し級呪霊

しょうがないにゃあ…

僕の胃に収納して運んでもいいけど、呪力と胃酸にその子耐えられる?

 

100:子供部屋あくま

>>99

うちの娘を食う気か?殺すぞ

 

101:ごっくんフェチ

>>100

そうじゃなくてだね……いやある意味ではそうなのか

僕は術式で壁や地面から『巨大な口を開ける』ことが出来るんだけど、それで飲み込んで生得領域内の胃の中に収納することが出来る訳

ただし胃の中は僕の呪力と胃酸で満ちているから、それから身を守る何らかの手段が必要

分かるように一応コテハン付けた

 

102:名無し級呪霊

コテハン卑猥民

 

103:名無し級呪霊

変態しかいないのか……(絶望)

 

104:水銀妖精

水銀の膜で隔離すれば胃酸と呪力から守れそうかな?

流石に泣いてる女の子は放っておけないわ

ブサイクのオスガキなら見捨ててた

 

105:名無し級呪霊

水銀妖精ネキの株が乱高下する

 

106:名無し級呪霊

水銀って毒物でしょ 女の子大丈夫?

 

107:水銀妖精

>>106

吸い込まなければ大丈夫でしょ 揮発は抑え込むからモーマンタイ

 

108:ごっくんフェチ

僕の術式なら死体の処理もできると思う

カタツムリさん移動経路の指示たのむー

 

109:カタツムリ観光客

>>108

頼まれました

時間を一日下さい。完璧な、とまでは言いませんが安全性の高いチャートを組んで見せます

 

110:名無し級呪霊

あっ、おい待てぃ(江戸っ子)

一日とか呑気なこと言ってると、娘ちゃん脱出前に母親にその女児レイポォ未遂犯の死亡がバレるゾ

そこから芋づる式にその死が呪霊の仕業だと発覚し、娘ちゃんを側で守っている子供部屋あくま兄貴が呪術師に発見されて脅され、あくま兄貴が俺たち転生者のことを吐いた上で殺されるってのが最悪のパターンゾ

母親に見つかる前にさっさとずらかった方がただの呪霊の仕業としか思われなくていいゾ

”窓”に見つかったとしてもすぐ祓われる訳ではないし、呪術師に見つかるなんてきっと稀だゾ、見つかる危険を冒してでも急ぐ価値はあるゾ

 

111:名無し級呪霊

おっ、そうだな(真理)

 

112:名無し級呪霊

これは知将

 

113:カタツムリ観光客

たしかに >>110 さんの意見は合理的です 母親の存在をすっかり失念してました 文脈からてっきり娘を放って外で遊び惚けているのかと

ちなみに子供部屋あくまさん、娘ちゃんさんの母親は今どちらに?

 

114:子供部屋あくま

リビングで深酒して寝てる

 

115:名無し級呪霊

家に居んのかよ!最悪じゃねーか!

 

116:名無し級呪霊

母親は家にいて夫と子供の帰りを待つべきとはいえ、今だけは外にいるべきだった

 

117:名無し級呪霊

>>116

おっ禪院直哉も呪霊になってたんか

 

118:名無し級呪霊

直哉いて草

 

119:カタツムリ観光客

>>110 さんの意見を踏まえまして、既存の地理知識のみを活用した最短ルートをこちらで指示します。無索敵なので術師と遭遇しても逃げ切れる自信がある方だけを募集します。

今のところ

・子供部屋あくまさん(依頼者)

・水銀妖精さん

・ごっくんフェチさん

が参加予定です。あと一人くらいてもいいですね。ちょうど原作でも二年組が四人でしたし、呪術廻戦世界の最適人数はそれくらいでしょう。

 

120:名無し級呪霊

子供部屋あくま=乙骨、水銀妖精=真希、ごっくんフェチ=狗巻?

変態の狗巻はやだなぁ……

 

121:ゲロビ猿

俺はガンダムで行く(参加希望です)

 

122:名無し級呪霊

ゲロビ猿かぁ……  術式持ってない奴が危険な任務に行けるんか?

 

123:ゲロビ猿

モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを、教えてやる!

 

124:名無し級呪霊

語録しか言えへんのかこの猿ゥ

 

125:ゲロビ猿 

俺もお前も(語彙)弱者なんだ!

 

126:カタツムリ観光客

了解です。では、上記の三名にゲロビ猿さんを加えた四名ということで行きましょう。

集合地点までのルートは時間節約のため概略のみを記した地図画像をすぐ上げます。各自現地で死角や陰になる地点を渡って移動してください。

娘ちゃんさん回収と男の死体処分が終了し次第即時離脱します。そこからいくつかブラフの中継地点や途中解散を経て人間がなんとか暮らせそうな避難所に行きます。

最終地点は世田谷区K沢地域第C隠れ家の付近にある空き家です。

急ぎつつも、くれぐれも術師には注意してください。

 

 




次回、原作キャラとの遭遇


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ゲロビの伝説 Breath of The Wild

彼は勇者だった。同時に猿だった。


「あくまさま、どうしよう……どうしようあくまさま」

 

 その肢体を狙われ、浴室の中で襲われた齢八つの幼女、双佐紀智礼。

 そして手加減に失敗してその不埒者の頭蓋をかち割ったあくまさまと呼ばれる人外。掲示板上でのコテハンは子供部屋あくま。

 

 一人と一体は、浴室で頭から血と脳漿を垂れ流して倒れている死体を目の当たりにしていた。

 

「だ、大丈夫だ智礼ちゃん……、前に話した俺の友達を呼んだから、その人たちが解決してくれる筈だ。その間大人しく出来るな?」

 

「うん、大丈夫。あの人私の前では目つきが変だったし、会うたびに妙にお菓子をくれるから……いずれ何かしてくるかな、とは思ってた。まさかこんなことになるとは思わなかったけど」

 

「あの、智礼ちゃん?智礼さん?目つきで人を判断するのは良くないですよ?そんなことを言ったら俺なんかマイナス(-)型の瞳孔をしてるし……まあお菓子あげるのは餌付けのつもりだったんだろうけど」

 

 子供部屋あくまの外見は、伝統的な西洋風悪魔、と言ったところだろう。捩じれた角が四つ生えている黒山羊の頭、成人男性の腕ほどの長さのコウモリの翼に、毛に覆われた猿の両腕、対称的に毛の生えていない人間の裸婦の上半身、うろこのある爬虫類の尻尾に、股間から爪先まで蛙。

 人型をベースにしたキメラとも言うべきその姿は、しかし全体的に調和しており、恐ろしさはあっても奇妙さ・不気味さは感じない。そしてこのあくまの体を負の感情から無意識のうちに織り成した双佐紀智礼は、産みの母ゆえの愛か余裕か、その姿を全く恐れてなかった。

 

 あくまは掲示板上の質問に答えながら智礼にツッコミを入れる。

 

「えーっと、とりあえず血を水で流してっと。智礼ちゃん、でっかい、例えばクジラの口の中に入るのって怖くない?大丈夫?」

 

「私、食べられちゃうの?」

 

「う~ん、一時的に胃の中に入るだけですぐ吐き出される、多分」

 

「私、反芻されるの?ぐちょぐちょどろどろになるのは、ちょっと嫌かな……本当に必要なの?」

 

 反芻という言葉の意味を、双佐紀智礼は正しく理解している。彼女は小三の子供である。

 

「……ああ、ここから逃げるために必要なんだ。こいつを殺したことをきっかけに俺の存在がバレると、■■■(呪術師)がやってきて……ああ、原作知識は検閲されるんだったっけ。こわ~い駆除業者が来て殺されるんだ。でも智礼ちゃんを置いて死ぬわけにはいかない。俺が死んでも虐めやネグレクトは解決されないし、駆除業者に救けられてここから抜け出せるかもしれないけど、俺みたいなのを見えるだけの君が、駆除業者の集まりでやっていけるとも思わない。だから、一緒に逃げないか?俺みたいな、バケモンでロクデナシだけど根は悪くない奴らがたくさんいる場所に」

 

 智礼は逡巡する間もなく、頷いた。

 

「うん、良いよ。あくまさまが言うことなら、私は従う。だってあくまさまが言うんだもの」

 

「ちょっと心配になるな……人の言うことを聞くことも大事だけど、自分の頭で考えるのも大事だよ」

 

「私、しっかりじっくり考えたよ?あくまさまの言うことだもの。大切に噛みしめて、自分の栄養にしなきゃ」

 

「この間0.01秒!?■■(東堂)かよ……しかしこうなんで俺を崇拝するようになっちゃったんだろう」

 

 小学三年生、現実と空想の区別がしっかりとつく年頃であるが、その区別が数年前まではあやふやだった年齢でもある。

 その、固まってきた現実と空想の区別を、魔法や怪物なんてこの世界にはいない、という常識を、このあくまの出現がブチ壊したのだ。

 そしてさらに、彼女が出会った中で唯一自分を人間として尊重してくれる存在であったのも確かだ。その存在が非人間であることは皮肉にもならない。

 ただし、あくまが智礼を尊重する理由は、乙骨憂太と折本里香の例の如く、彼女が子供部屋あくまの発生原因であるが故に呪霊の本能である『人間を欺き、誑かし、殺す』の対象にならず、代わりに愛着を持たれたからであり、あくまの慈愛や善良性の発露ではないことには注意する必要がある。転生者は理性を持つが、それが必ずしも善性に繋がるとは限らない。

 

「あの人はいつもの通り酔い潰れて寝てるよね。お酒飲んでない時は私のこと殴らないなら、ずっとお酒飲んでればいいのに」

 

「確かにそれは一理あるな。俺は外で友達を待ってるから、脱衣所で体拭いて部屋で外出用の服を着てて。母親を起こさないように、静かにね」

 

 智礼にそう伝えて、あくまは浴室の窓から外に出る。コウモリの翼を用いて羽ばたく……ことはせず、猿の握力を駆使して壁のパイプをよじ登って屋根に上る。彼は転生してから初めて外に出た。智礼の部屋に生まれてからは術師や”窓”の目に怯え、外に出ることが一度もなかったのだ。しかし今や自身と智礼の危機。勇気を出して彼は外に出た。

 

 時刻は真夜中、午前二時。古い言い方では丑三つ時である。東京の夜景を文明の光が照らし、クリスマスシーズンであるからか赤と緑の飾りに彩られた木も散見される。

 

 東京の夜景にしばらく見とれて、少しの間自身の呪力の鎮静化を忘れてしまう。

 

 呪力の鎮静化。体外に自然に発する呪力を抑え込む、術師による呪力感知を防ぐための手法。転生者らが誰に教わるでもなく原作知識を元に試行錯誤し、この一週間で開発したものだ。

 一週間で開発できたことから分かるように使用の難易度は低いが、それにも関わらず効果はかなり高い。コツさえつかめば被感知範囲を半分ほどにして反応感度も約半分にすることが出来る。実は呪術師も使うことがある(重面春太が伊地知潔高を暗殺しようとした際に使用したのだろう、と転生者の中では考えられている)鎮静化技術であるが、呪霊が使うことはまずない。

 何故このような便利な技術を通常の呪霊は使用しないのか。知性が低い呪霊はそのようなことを思いつく程度の知能が無く、知性が高い呪霊の場合は、使用できたとしても術師から逃げ隠れるよりも術師を殺した方が早いし楽だし楽しいから、と自分の力に慢心するからである。また、術式の使用や防御力の向上が不可能となり、さらに技量が低いと体外の呪力だけではなく体内の呪力も無意識に抑え込んでしまうため、呪力による身体強化や呪力感知も困難となる。そのため呪霊は自身の弱体化を本能的に避け、呪力の鎮静化を嫌う傾向にある。

 

 あくまは呪力を鎮静化させたことにより、身体強化が切れてやや力が抜ける感覚を覚え、呪力感知が鈍くなるが、それを気にせずに純粋に視力聴力のみによる警戒に切り替える。東京の夜景に時折見惚れつつ、周囲を見渡し奇妙な音が無いか注意する。

 そんな時間を過ごして十分ほど。屋根を伝って四足で走ってくる猿が近づいてきた。野生動物の可能性も一瞬考えたが、十中八九転生者の呪霊だと判断し、手を振る。

 猿の側も手を振りながら子供部屋あくまの家の屋根に飛び乗る。

 

「もしかして、ゲロビ猿さんですか?本当に猿だったんですね」

 

「あ、えっと、はい。そうですね」

 

 そう言って視線を逸らしながら頷く猿。その猿は、体は白い毛で覆われており、夜中に比較的目立つ色である。だからこそ視線の通りにくい屋根を伝っていたのだろう。そしてその顔は、上顎と下顎がそれぞれ左右二つに分かれており、それぞれ別に動かすことが出来ている。ちょうど口が十字型に裂けているような異形だ。その他の外見は普通の、体長1mほどの猿に見える。

 

「うちの智礼ちゃんを助けに来てくれてありがとうございます。母親がリビングで寝ているので、ゲロビ猿さんにはその監視をお願いします」

 

「あっ、はい」

 

 ゲロビ猿は庭に降りて、そこで窓から母親の姿を監視しながら待機する。

 

「そろそろ他の人も到着するころだと思うけど……ッツ!?!?」

 

 突如として知覚範囲に出現した、かなりの呪力量を持つ何者か。ここ一週間であくまが初めて感知するほどの大きさの呪力の塊であり、おそらく一級上位か、下手をすれば特級。それが一軒家である双佐紀家の地下に全くの予兆なしに(・・・・・・・・)現れたのだ。呪力の鎮静化の解除では説明が付かない程に。

 地下、正確には下水道。そこからマンホールが開き、地上にふわりと現れるのは、銀色の金属光沢を纏った人型の呪霊。体長は30cmほどであり、露出度の高く翅の生えた妖精じみた姿格好をしていたが、体表面が光沢のある銀色をしているためにエロスはあまり感じられない。顔のパーツは細部が書き込まれておらず、突起と窪みだけで造形されている。

 銀の呪霊、すなわちコテハン:水銀妖精である。彼女は翅を使って飛び立ち、双佐紀家の屋根の上に降り立つ。

 

「よ。子供部屋あくま、でしょ?」

 

「水銀妖精さん抑えて、呪力抑えて!」

 

 あくまは術師に感づかれることを恐れ、妖精に要請する。彼女ほどの実力を持たないあくまにとっては洒落にならない危険を引き起こしているのだ。

 

「うん?ああ。私、呪力の鎮静化使えないんだよね。なんつーか、呪力量が多すぎる?ってゆーか。まあ私はコレ(・・)があるから困らないんだけど」

 

 と言って、自分が出てきたマンホールを指さす。そこから、どろり、と僅か1Lほどの銀色の液体が這い出てきた。それは球体になって浮かびあがり、妖精に引き寄せられてその周囲を衛星のように回転し始めた。

 

「『流銀創装』、水銀を呪力で具現化して操る術式。具現化初期コストにクッソ呪力を消耗するけど維持コストは当社比で僅かだったり、百斂みたいな圧縮や穿血みたいな高速射出、被付着物の操作が出来なかったりする。おおむね赤血操術の下位互換かな?」

 

「その説明でどう呪力を抑え込むんですか!?呪術師に勘づかれますよ!?」

 

「いや、仲間同士でも術式の開示って効果あるのかなって。無いっぽいな。ここからが本題で、水銀って呪力的にもかなり特殊な素材な訳。常温で①外部からの呪力を水銀内部に閉じ込めて外に漏らさず②内部ではクッソ呪力の通りが良い、って特性があるの。それを応用すると、発する呪力を九割九分九厘シャットアウトする、水銀の膜が作れる。あ、視覚的にも聴覚的にも呪力覚的にも封じられるから水銀の触手探りでしか移動できないのでそこは勘弁な。以後の通信は掲示板でそれ用のスレ作るからそこでよろ。じゃあ私は第C隠れ家で先に待ってるから、ヤバければ駆け込んで。『隠装・間遮倶(いんそう・かんしゃく)』……じゃ、また」

 

 妖精は自身を核として、水銀を細胞膜のように形成し、包み、内部の呪力の漏出を封じ込める。アメーバのように蠢き、触手を四方八方に延ばして周囲を探知しつつ、屋根の上を転がり流れ落ちていく。それをあくまはにあっけに取られながら見送った。

(いったい何しに来たんだあの女。無意味に呪力撒き散らして去っていったぞ……まあ一瞬だから術師にバレることも無いだろ。ごっくんフェチさんを待って出発しよう)

 

 数分後、隣家の陰から頭部のない裸の女体が焦った様子で、自分の姿が周囲に晒されることも構わずに走ってこちら側に近づいてきた。あくまの遠視力と暗視力によって見つめると、宿儺ではないが手の甲と足の甲には口が付いている。また、女体とは言っても出るところは出て引っ込むところは引っ込むようなグラビアアイドル体型ではなく、よく言えばプラスサイズ、悪く言えば肥満体型のぶよぶよとした肉付きである。身長は140cm程。頭部が無いので低く見える。体毛は無く、呪霊のため性器も無い。

 そんな首無し呪霊が、子供部屋あくまを見つけてそちらに手を振る。あれがごっくんフェチかと、あくまも手を振り返す。だが首無し呪霊はボディーランゲージでタイピングをするような仕草をする。こちらに音を立てずに何かを知らせたがっているかのようだ。

 

「タイピング……掲示板?」

 

 あくまは掲示板を連想し、片目を瞑って脳裏に幻視される掲示板に接続する。その最新のレスには、こう書かれてあった。

 

217:ごっくんフェチ

帯刀した和装の男をビルの屋上から遠目で見た!おそらく術師!こちらに走ってきている!呪力感知に引っ掛かった模様!

 

218:カタツムリ観光客

こちらでも確認!北北西から接近中!総員、戦闘態勢に!水銀妖精さんは娘ちゃんさん家に戻って!

 

219:ゲロビ猿

何やってんだよ!水銀妖精ァァァァァァァァ!!

 

220:カタツムリ観光客

敵、20秒後にこちらに到達!

 

「クソッッッ!バレたか!智礼ちゃん!」

 

 呪力の鎮静化を解除する。もう隠密だのなんだの言っていられない。

 正面に智礼がいないことを瞬時に確認し、ガラスをたたき割って窓の鍵をこじ開けて智礼の部屋に入る。

 

「智礼ちゃん!不味いバレた!今すぐ逃げる!」

 

「バレたって誰に!?さっき話してた駆除業者さん?」

 

「ああそうだ、細かい話はあとでする!着替えは終わってるな!俺の腹に摑まっててくれ!」

 

 首を縦に振って智礼はあくまの腹部にしがみつく。それを尻目に、智礼が窓ガラスに引っ掛かって怪我をしないように注意を払いつつ、窓から脱出し、コウモリの翼を駆使して羽ばたく。

 

「お、重っも……タンデムは想定外かよこのボディ」

 

 必死に羽ばたくが、速度は出ない。智礼を背負って走った方が良いと考え、アスファルト上に降り立った、その瞬間。路地の陰から、呪具の大刀を持った和装の少女が飛び出し、背後からあくまの首を狩るべしと急襲した。

 

 不意を突かれたあくまは直撃直前に背後の気配に気が付くが、躱すには遅い。もはやあくまの命運は絶たれた……というのは、その一筋の光線が無ければの話だ。

 

「ウウッッッキィーーー!!!!!!」

 

 口腔から放たれる呪力砲撃(ゲロビーム)、その名に、コテハンに恥じない威力と速度の光線が大刀の少女に放たれる。彼女は直撃を回避するも、脇腹が僅かに抉られ、そこから血がどくどくと流れ出す。

 

「ゲロビ猿さん!助かった!」

 

「幸いであります!」

 

「しかし女?報告では男じゃなかったのか?しかも■■■■(禪院真希)にかなり雰囲気が似ている」

 

 あくまを襲撃した彼女の容姿は、一年次禪院真希の見た目から眼鏡を外して和装にしたものによく似ている。しかし目つきはより暗く、目には隈がある。

 

「ぐっ……、流暢に言葉を話す呪霊が二体、ですって!?謎の単語も発している……相当マズいわね」

 

 しかし、彼女に引くことは出来なかった。大刀の少女は呪術師であることにそれなりの矜持を抱いている。呪霊に攫われそうになっている(・・・・・・・・・・・)と思わしき智礼を救うことを諦めて撤退は出来ない。しかし、自分ひとりでは救うことも出来ない。ならば仲間を呼べばいいというのは自然な帰結だった。大刀使いは一人で来た訳ではない。

 

あなた(・ ・ ・)!!!一級相当の呪霊が二体!!子供が捕まっています!!」

 

 双佐紀家を挟んで逆の方角から、男の声が返ってくる。

 

「こっちは穴熊を決められた!おそらくお前の術式なら引きずり出せる!代われ!」

 

 声の主はかなりの速度でこちらに近づいてきた。足音も聞こえる。

 

(あなた、だって?この年で結婚は……出来るな。この時代で16歳だとしたらギリ。呪術師夫婦か?いや、戦闘に集中しろ)

 あくまは余計な思考を振り切り、近づいてくる男の呪術師に対抗するために呪力を練り、戦闘に備える。

 

「ゲロビ猿さん、気を引き締めて!来ますよ!」

 

「覚悟はできているさ…!」

 

 直後。夜闇に慣れた瞳孔を閉ざすかのような、まばゆい光を放つ炎の嵐が現れた。その炎は道路を炙り、アスファルトを融かしながらこちらに迫ってくる。炎の嵐の中心には、日本刀を構えた壮年の男がおり、炎の嵐と同様にこちらに突進してくる。

 あの炎に飲み込まれれば、あくま自身はともかく智礼は確実に重度の火傷でショック死するだろう。瞬時の判断で、蛙の脚を使って後ろに倒れこむようにしながら飛び跳ねる。もちろん智礼を抱え込んだまま。しかしそれでも一秒足らずの時間稼ぎしか出来ない。

 ならば、その一秒足らずを使ってもう数秒、攻撃の届かないところに逃げるまでの時間を稼ぐ。あくまはそういう判断をした。

(初対面ですぐ”命を懸けろ”なんて言う恥知らずな俺を許してくれ!)

 

「ゲロビ猿さん!頼む!」

 

「トゥ!ヘァー!」

 

 ゲロビ猿は戦闘の恐怖と喜びを抑え込むように奇声を上げて、四足で炎熱を食らう面積を減らすように地を這い男の術師に迫る。足に抱き着き、零距離からゲロビームを打ち込もうとする猿。だが抱き着いた瞬間、猿の全身に隠し包丁を入れたかのような呪力による斬撃が襲い、その苦痛で抱き着きを緩めた瞬間に蹴飛ばされ、距離を取られる。

 

「クソ親父がぁ!死ぬほど痛いぞ!」

 

「秘伝『落花の情』……呪霊の妄言にしても不快だな。馬鹿にしているのか?猿が。私に子供はいない……と言っても意味は無いか」

 

 男の術師は呟きながら納刀し、居合の構えを取る。炎の術式を解除し、呪力は鞘に納められた刀身に集中させて動きを止める。後の先、カウンターの構えだ。しかしそれは双方に時間を与えるということでもある。猿は炎の術式がもう一度発動されても問題ない程度に間をあける。あくまはさらにその数倍程離れ、智礼を庇う姿勢だ。

(クソ親……?そうか、和装、打刀、落花の情、炎の術式!あの(・・)禪院扇か!いろいろと違う特徴もあるが、そう見ればそういう風にも見れる……ならあの少女は真希と真依の母親か?)

 

「手札はそれで全部か?炎、斬撃、居合。それになんでうちの娘を巻き込もうとした?」

 

「ほう……そちらの呪霊はまともにしゃべれるのか。手札は言う訳が無かろう。そしてお前の娘かどうかは知らんが、その娘を救うことを代償にお前たちを祓い逃すようなことが出れば、より多くの人死にが出る。最悪を避けた結果だ」

 

 それを聞いた智礼が、あくまの背後から口を開く。

 

「待って!あくまさまは人殺しなんかしない!駆除業者さん、話を聞いて!」

 

「駆除業者……?呪術師のことか。それに様付け。洗脳の術式でも持っているのか?術式の発動条件は接触か、目を合わせることか。呪言かもしれん。厄介だな……」

 

 智礼の言葉から情報を拾い上げ、扇は視線を地面に向け、耳から脳に掛けてを呪力で覆って防護する。そして呪力感知に神経を集中させた。

 

「ちぃ。見ざる聞かざる、ってか。それならそれでいい、ゲロビ猿さん、ごっくんフェチさんと合流して逃げよう……ゲロビ猿さん?」

 

 ゲロビ猿は、禪院扇に、正確にはその鞘に込められた呪力と殺意に対し”動くと斬られる”という意志を感じ取り、一瞬動くのを躊躇ってしまった。呪霊は負傷した部位の呪力による再生が可能であり、ある程度の怪我なら無視できる。そんなことも人間時代の癖で忘れ、達人から振るわれる刃物に、その威力に怯えてしまったのだ。

 

 扇はその感情の揺らぎを呪力感知で読み取り、隙に気付き、その瞬間何ら躊躇うことなく抜刀。間合いの外にいた筈のゲロビ猿に、居合の要領で呪力により加速され延長された(・・・・・)刀を振るい、その頸を両断せんと刃が迫る。

 猿は咄嗟に尻もちをつき、致命の直撃は回避したが、目を切り潰された。

 

「ぐぅっ!」

 

「ッ!ゲロビ猿さん!大丈夫ですか!」

 

「たかがメインカメラをやられただけだ!」

 

「眼ッ!■■■■■■■■■■■■ (目の底に呪力を集中させて)■■■■■■■■■■■■ (肉体を再生させて下さい)!」

 

 あくまの発言、これも原作知識の一つであり、転生担当神の検閲により意味不明の別言語に変換される。しかしその検閲は、転生者の間では意味を為さない。猿はアドバイスを聞き入れ、眼窩底部に自身の呪力を集中させ―――それが命取りとなった。

 

 正面からの相手にとって、居合以上に間合いとタイミングが読みにくい技、すなわち突きが放たれる。

 腰だめから体の捻りを加えて威力を増して放たれたその技により、ゲロビ猿の額は貫かれた。

 

 二の太刀は尻もちをついて無様に避けることすら出来なかった。肉体の強化に用いる呪力を再生に回し、反射神経が衰えたことを扇が三十路の術師の勘で見抜き、攻撃に繋げたことが猿の敗因だ。刀身の延長と剣閃の加速に呪力を分散した一の太刀よりも、純粋な身体強化に呪力を回した二の太刀が結果的には本命となった。扇の意図するしないに関わらず。

 

 だが所詮は致命傷。呪霊にとっては即死ではない(・・・・・・)。混濁した思考、そして再生した眼球。彼の命は無意味には終わらなかった。

 

「頭ァ、ハッピィイイイセェット!!!」

 

 目の前の男が、自分を死なせる。ゲロビ猿は欠損した脳で奇跡的に正しく理解し、その口から吐き出された言葉は前世からの魂にこびり付いた思考だった。

 猿は腹から可能な限りの呪力を捻りだし、放出する直前に口を閉じ、コントロールを放棄した。密閉された口腔内で呪力が行き場を無くし、暴発する。ゲロビ猿の頭は呪力爆弾と化し、爆ぜ、頭蓋骨や歯、さらには刀が砕けた破片がその威力を高めた。

 

 爆発と破片が禪院扇に直撃する。扇は咄嗟に刀を手放して後ろに跳び、頭と胴体の前面のみに呪力を集中させ、肋骨と指のそれぞれ複数本骨折を代償に凌ぎ切った。

(ぐぅ……何とか治療可能な負傷に抑えられるか)

 爆発に耐えながらゲロビ猿の死亡を確信する扇。

 

 しかし、何度でも言うぞ。彼の命は無意味には終わらなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 時系列は数秒前に遡る。ゲロビ猿が視界を失った直後、扇の背面方向の遠くから、宙を浮く銀色の球体が、すなわち水銀を纏った妖精が高速道路を走る自動車と同程度の速さで近づいてくる。当然妖精の視界は銀色に染まっており、外界が見えていない。

 それにあくまは気付き妖精に援護を求める眼差しを向けるも、妖精は自ら視界を封じているため伝わらない。扇はあくまと目を合わせまいとしているため、あくまが自分の背後に視線を投げかけていることに気付かない。

 

 注意して夜空を見上げる者はいないが、もしいたとしたらそこには烏がいることに気付くだろう。さらに注意してその鳥の腹部をよく見れば、白目の無い人間サイズの真っ黒の瞳が二つ埋め込まれ、ギョロギョロと地上を見渡していることが分かる。その眼球は、コテハン:カタツムリ観光客により創られたものだ。この異形は非術師にも知覚することが可能であり、そのため露見の可能性を抑えようとカタツムリは他生物の眼窩以外の部分に眼球を埋め込むのを奥の手としていた。

 そして今が奥の手を切る時とカタツムリは判断したのだ。腹に埋め込まれた眼により、飛行しながら烏は地上を見下ろすことが出来る。一秒毎にこの眼球から得た写真を彼は掲示板に上げ、妖精と遂次共有することで彼らは疑似的な鳥瞰視が可能となった。水銀アメーバ触手による目隠し手探りの前進ではなく、指示に従って流銀創装の最高速度が出せる球形で扇に迫る。

 禪院扇がゲロビ猿の額を貫いた写真が掲示板に上がる。それを見た直後、妖精はゲロビ猿の命を諦め、禪院扇の制圧に目的を変更した。

 

(あー、ゲロビ猿ちゃんこれは死んじゃったかな?まあ雑魚だったし、しゃあないか。ごめんね、真希ちゃんが生まれなくなっちゃうから復讐は出来ない。けどまあ痛い目は見てもらおうか)

 

 彼女は水銀の形状を球形から細い円錐形に変更した。扇を狙って最高速度、ノンストップで衝突するつもりだ。水銀の比重は鉛よりも重く、いくら液状とは言え呪力で具現化・強化された物体がこれだけの速度でぶつかればただでは済まないだろう。さらに円錐状にして衝突面を小さくすることで威力を底上げする。しかし殺意は無いため、円錐の先端は鈍くなっている。

 妖精の意図しないことだったが、殺意を持たないことで水銀から漏れ出す僅かな呪力すら薄れ、禪院扇レベルの術師に対しては完全なステルス性能を得ることが出来た。

 

 ゲロビ猿の頭が爆発する。扇の防御行動は、妖精の攻撃に対して完全に裏目に出た。後ろに跳ぶことで円錐形の水銀との相対速度を加算し、さらに呪力防御を前面に集中させることで背面からの攻撃に無防備となる。

 その結果、禪院扇は背後から高速度で迫りくる水銀塊に気付くことすらなく、それに下腹部をブチ抜かれた。尾骨や恥骨が粉砕され、膀胱・直腸・前立腺等の内臓がぐちゃぐちゃのミンチになる。

 

 彼の、ゲロビ猿の命は無意味には終わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 




水銀妖精「ああああああああ!種がぁ!真希真依の元になる子種がぁ!死ぬ……!死んでしまうぞ汚い杏寿郎の汚い杏寿郎!呪霊の内通者になると言え!」
子供部屋あくま「殺した……俺がゲロビ猿さんを殺したようなもんだ……だからあいつにせめて弔いの復讐を!」
カタツムリ観光客「次回、『めくら種無しクソ親父』ルールを守って楽しくデュエル!」

定期試験なので次の更新はしばらく後になります。


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払われた対価、祓われる代償

定期試験前ですが、初投稿です。
勉強出来ねぇええええ!
単位落とすぅうううう!


「あっが、ぐぁああああ!」

 禪院扇の呻き声が、夜の東京に響き渡る。

 それも当然、彼は水銀妖精の術式によって具現化された水銀で、尻から腹にかけて貫通されているのだから。当然内臓はぐちゃぐちゃ、骨も粉砕されているものが幾つかある。

 妖精は、術式から伝わってくる感触を奇妙に思い、水銀の膜を一部解いて、外界を確かめる。そこには、無惨な現状があった。

 

「えぇええ!?■■■(禪院扇)死にかけじゃん!死んだら■■■■(真希真依)がァ!マズい、これはマズいぞ!」

 

 妖精は慌てて体液に溶けたり血管に入り込んだりしないように水銀を制御する。失血死に繋がると考えて円錐状となった水銀を体外に排除することは行わず、逆に水銀で大きく千切れた血管や破れた内臓を覆って塞ごうとする。

 これらを完全に塞ぐことは非常に困難であり、妖精の今の術式精度では及ばなかった。だがどうやら出血量を減らすことには成功しているようだ。

 

 腹部貫通の上、さらに体内で水銀を蠢かされ、扇はもだえ苦しむ。だが術師として、最期まで呪霊を祓おうと後ろを振り向き、妖精の姿を目にする。小人の翅の生えた銀色妖精。水銀を操るそれが自分の腹をブチ抜いた張本霊(?)であることを扇は理解した。

 

「ぐゥ、貴様は、一体……一体何だ?何をしている?」

(この呪力量、術式の威力、そして先ほどまでの気配隠蔽!一級最上位、下手をすれば特級だぞ!?クソ、呪力反応が急に出たからと言って、手柄を焦って事前調査無しに突撃すべきではなかったか……!)

 

 そもそも、扇が功を焦っているのには事情があった。跡目争いである。

 このままでは兄が禪院家当主になり、自分が当主になるのは絶望的だと気付いた扇。子供の出来で争おうとするも、術師の家系で身近で見目の良い女はほとんど兄のお手付きであり、そして()()()と穴兄弟など反吐が出る。三十路を過ぎてようやく、呪術高専京都校の学費支払いを対価に年齢が半分ほどの娘と婚姻に漕ぎ着けた。そして結婚後しばらくして多少の情が湧いたところで、冬休みついでに東京旅行に連れて来たのだ。東京は呪いの坩堝、旅行合間に何体か低級呪霊を祓うこともあるだろうと呪具を持参してきたのが幸か不幸か、武器を持つ自分に自信を持ってしまい等級の高いと思われる呪霊にも突撃してしまった。その結果がこの惨状である。

 

「ん?私の名前は……水銀妖精ってあんまセンスいい名前じゃないよな。今やってんのはアンタの止血。死んでもらっちゃ困るんだよね。アンタには価値がある。腐っても■■■■■(原作キャラ)だからね」

 

 その謎目線の慈悲に、扇は冷静さを失って激高し、術式を再度発動させた。

 

「止血?ふ、ふざけるなぁ!私は、次期禪院家、当主候補だぞぉ!その程度、呪霊如きに、施されなくとも、自分でぇ、こなせるわぁ!『焦眉之赳』!!」

 

 自身の危機と負傷に比例して熱量が上がっていく炎の術式『焦眉之赳』によって、扇は熱で水銀を蒸発させて熱風で体内から排除し、負傷部分を焼き潰して重度の火傷を代償に無理やり止血する。内臓を自分で炙ったショックで気絶しないよう苦痛に耐えながら、その炎の()()を妖精の方に指向性を持たせて放出しつつ。

 しかし妖精は、余りとは言え威力の上がった炎がまるでサウナのロウリュであるかのように、目を細めて難なく耐え過ごす。それどころか呆れ顔でこう呟いた。

 

「あ、バカ……水銀に炎ってさぁ。水銀蒸気は毒って知らないかなぁ?」

 

 妖精の指摘の通り、術式により具現化した水銀であっても、その蒸気は人体に吸収されれば毒物として振る舞う。気体と化した水銀を吸えば、即座に呼吸器系の障害を引き起こし、一定量吸い込めば死に至る可能性もある。無論、流銀創装は構築術式とは違い、蒸気と化して術式の制御から離れた具現化水銀はいずれ消失するが、術式や水銀自身の特殊性により、消失までは数十秒から数分程掛かる。その間に致死量の水銀蒸気を吸い込んで死亡する危険性だってあるのだ。

 

「ガッハ、ゲェッホゲェッホ、コヒュッ!」

 

 扇は水銀蒸気の有毒性に思い当たらず、口を塞がずに蒸発した水銀を深く吸い込んでしまった。激しくせき込み、その勢いで焼き潰した傷口からも血が再度あふれる。酸欠により意識障害も発生し、扇の脳は回らず、ふらついて地面に突っ伏し、そのまま気絶した。

 

(ま、一応止血も酷い内臓火傷と引き換えに最低限出来たし、体内の水銀蒸気も数分で消失するから、術師の生命力なら多分生き残るでしょ)

 

 扇の監視をしながら、妖精はコテハン:ごっくんフェチに掲示板越しで連絡する。

 

818:水銀妖精

ごっくんフェチちゃーん、死んでる?

 

825:ごっくんフェチ

生きてます。敵の女術師は生きたまま僕のお口で捕獲しました。

 

831:水銀妖精

おっ、ごっくんフェチちゃん術師を捕獲できる感じ?じゃあこっち来て。禪院扇が死にかけ。

あと禪院扇の処遇に関しては別個にスレ立てるわ

 

 

 

 

 

 

 一方、ゲロビ猿が額を貫かれたこととその頭が爆発したことを受け入れられずに茫然としていた子供部屋あくまが、扇が水銀の円錐体に貫かれた直後、ようやく我に返って頭を無くしたゲロビ猿に駆け寄る。だがその身体に触れる前に、猿の胴体は塵となって消失した。

 

「え、ゲロビ猿さん?ゲロビ、猿、さん……ああ、あぁ……。ああああああ!」

 

 あくまは猿の死という現実をようやく認識し、津波のように押し寄せる自責の念に駆られた。猿に「戦え」と言ったのは彼だ。猿に「眼の再生に呪力を回せ」と言って隙を作ってしまったのも彼だ。少なくとも主観的には、完全にゲロビ猿の死はあくまの責任だった。

 転生者の呪霊として同じ境遇だった。掲示板上で何度か語り合った仲だった。自分と智礼のために命の危険を冒して集ってくれた仲間だった。

 

 それが、死んだ。こうもあっけなく。前世の日本では、あくまは、命の重さを教える道徳の授業は受けても、命の軽さを知る経験はしたことが無かった。「もはや前世ではない」「もはや人間ではない」、つまり「もはや平穏はない」のだ。それをまず最初に、否応なしに噛みしめさせられることになったのがあくまだった。

 

「あくまさま、大丈夫?涙拭く?」

 

「……ああ、ありがとう智礼。大丈夫だ」

 

 双佐紀智礼のやさしさで、感情の高ぶりをやや和らげたあくま。少し冷静になり、今やるべきことを考える。それは―――

 

■■■(禪院扇)、俺はお前を、殺さなければならない」

 

 

 

 

 

 

 

 

【殺猿】襲撃術師禪院扇の処置と処遇について【事件】

1:水銀妖精

ああああああ!禪院扇が死ぬぅ!

尻から腹にかけて穴が開いてて水銀で触った感じ直腸と膀胱と前立腺がお亡くなり、尾骨恥骨も南無三

自爆して腹の穴に重度の火傷、さらには水銀蒸気を吸い込んだ模様

このままじゃ真依真希ガァ

 

2:名無し級呪霊

(半分以上)お前じゃい!お前の責任じゃい!

 

3:名無し級呪霊

そうだよ(便乗)

ゲロビ猿の件についても、呪力の鎮静化を習得せずに乗り込んできた水銀妖精が戦犯だってはっきりわかんだね

 

4:名無し級呪霊

淫夢厨共、気楽過ぎんか?

ゲロビ猿さんが死んだんだぞ?茶化していい場合じゃないだろ。

 

5:水銀妖精

次期禪院家当主候補(笑)と真希真依ママを捕獲できたんだし、プラマイで考えればプラスじゃん。

扇の方はだいぶんボロボロだけど。

 

6:名無し級呪霊

扇のぽんぽんブチ抜いたのはわざとなん?

 

7:水銀妖精

>>6

ンな訳ないwそもそも『隠装・間遮倶』で外部見えないから掲示板の写真頼りだしwどこに衝突するかもわからなかったはwww

まあ呪力で防御固めれば死にはしないだろう程度の威力のハズだったんだが、内臓貫通……?頭に当たってたら死んでたのでは……?

 

8:名無し級呪霊

ゲロビ猿さんの最後っ屁じゃない?一秒毎の写真しか見てないからよくわからんが、頭が爆発してその防御に全力を注いだように見える。動画も掲示板に貼れればなぁ。

 

9:名無し級呪霊

ゲロビ猿さんの最期の一撃は(将来の)特別一級術師にすら隙を作るレベルの攻撃だったということ……

惜しい人材だった……合掌

 

10:名無し級呪霊

まぁ掲示板での反応を見るに、ゲロビ猿レベルの呪霊が転生者の中央値っぽいけど。掲示板住民が虚偽申告してない限り。

平均値は術式持ちとそれ以外の呪霊の差が激しすぎるのでノーコメント。

 

11:カタツムリ観光客

ゲロビ猿さんがお亡くなりになりました。今回の死亡は私の計画力不足や警戒不足が原因の一つです。ゲロビ猿さんに最大級の謝罪と追悼をさせていただきます。

また、転生者呪霊発生から一週間、この件で呪霊はぽんぽん死ぬということが分かってきたと思います。

自己研鑽と慎重な立ち回り、そして何より生き残る覚悟をしてください。同胞を救いたい想いはあっても、私の力は微力ですし、間違った方向に導いてしまう可能性も多くあります。

第二の人生に後悔が無いように、最終的には適切な判断を自分で下してください。

 

12:名無し級呪霊

てか前スレ  >>110 の知将(笑)出て来いよ。水銀妖精の呪力漏出ガバもあるが、お前のクソガバ指摘が主因でゲロビ猿さん死んだんだろうが。

何が『呪術師に見つかるなんてきっと稀だゾ』だ。見つかってんじゃねぇか。責任取れや。

 

13:名無し級呪霊

匿名掲示板でそんなこと言っても出てくる訳ないんだよなぁ

>>11

カタツムリ観光客さん、大変な役目を一人に押し付けてしまってすいません。俺もビビリの役立たずではありますが、何か出来ることがあればしようと思います。

あと匿名の人の意見は話半分に聞いておいた方がいいですね。全く聞かないのもどうかと思いますが。

 

14:カタツムリ観光客

>>13

ありがとうございます。

掲示板を見る人数が増えれば、集合知の精度も高まっていくと思います。指摘も、指摘に対する指摘も積極的にお願いしたいです。特に命に係わるものは。

また、今回のような作戦行動においては、興味本位での参加はご遠慮ください。『生き残れる自信』『仲間を危機にさらさない実力』『仲間に迷惑を掛けない性格』がある人のみお願いします。

具体的には、水銀妖精さんはしばらく出禁です。戦力としては特級ですが、価値観が致命的に違うということが今回で分かりました。

 

15:ごっくんフェチ

真希真依ママイントゥビッグマウス、飲み込んで、別口から吐き出して、で移動させたよ。

何か変な挙動したら首を噛み千切れるように、首だけ外に出してます。

禪院扇も、地面に()()()口を作ってブチ込んでる。

今はこんな感じ

《画像》

 

16:名無し級呪霊

>>15

この後頭の皮でも剝がされるのか?みたいな画像

ルージュをべっとり塗ったような真っ赤な唇から生えてる首、キモッ

 

17:水銀妖精

>>14

仕切り屋カタツムリ、うっぜー--!!!このスレ立てたの私なんだが??????

そして何勝手に出禁とか言ってんの??????死んだのはゲロビ猿が弱いから。私に何責任を押し付けようとしてんだ??????

もうええわ。お前らザコのクズが一丁前に生き残ろうと思ってんじゃねーよ。『生存派』共が。私という『原作派』はお前らの言うことに従わねぇ。

私はカタツムリが用意した隠れ家棲みじゃねぇから大家の言うこと聞く道理もねぇ。他に『雑魚は嫌いだ』『原作キャラや原作のストーリーを守りたい、愛でたい』って気概の奴がいたら隠れ家を抜け出して私の『領域』に来い。ちょっと狭いがタコ部屋よりはマシだぞ。呪霊に呪力由来の毒は基本効かねぇし。

 

18:名無し級呪霊

『生存派』『原作派』ねぇ。新用語出てきたな。

 

19:カタツムリ観光客

いいでしょう。多数派の総意に従わない者は出て行ってもらって構いません。去る者追わず、来るものを護る。それが『生存派』の信条です。みなさんもそれでいいですね?

 

20:名無し級呪霊

水銀妖精、元々カスだったしな

 

21:名無し級呪霊

俺も術式持ちだが、流石に責任転嫁するようなのにはついて行けん。

 

22:名無し級呪霊

なんかこの流れ一週間前に見たな。今回はカタツムリ観光客が「出て行けぇ」って言う側だが。

 

23:ごっくんフェチ

僕は水銀妖精ちゃんとこに行こうかな?そっちの方が面白そうだし。

というか禪院扇と真希真依ママ(JKのすがた)の処遇どうすんの?話ズレてない?

 

24:水銀妖精

禪院扇は私が倒したから私が預かって禪院家との交渉材料にする。真希真依ママはごっくんフェチのものだけど、原作の流れが変わるといけないからできるだけ禪院家に帰してくれるとありがたい。

 

25:名無し級呪霊

原作派総取りじゃねぇか。ラストアタッカーが全部分捕るクソゲーはやめろ

 

26:カタツムリ観光客

禪院扇を交渉材料にするのには賛同します。しかし、扇を倒したのは亡きゲロビ猿さんの助力もあってこそです。また、私の視界サポートが無ければ水銀妖精さんは扇にたどり着くことも出来なかったはずです。

『生存派』を代表して私も交渉に参加することを要求します。

 

27:子供部屋あくま

ちょっと待ってくれ

扇はゲロビ猿さんを殺したんだぞ?それを……生かすどころか何の罰も受けさせずに帰すのか?

あり得ないだろ

 

28:名無し級呪霊

そこはしゃあない

呪詛師じゃなくて御三家の術師だからなぁ

殺したらこっちが根切りまで持ってかれる

 

29:名無し級呪霊

>>28

これ

むしろこれを切っ掛けにこっちの地位を呪術界に認めさせた方がいい

もう隠れ家で怯えながら暮らすのは嫌や……まだ一週間やけど

 

30:水銀妖精

私ら『原作派』が禪院扇殺害を許さないので。

子供部屋あくまは第C隠れ家付近の空き家に娘ちゃん連れて帰っとけ。

あ、歯向かうなら相手になるよ?w

 

31:ごっくんフェチ

とりあえず扇が目覚めるまで、真希真依ママをぺちぺち尋問するでー

 

 




次回、交渉回かも?


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メルクリウス・タイム・ラバー

お待たせしましたァ!17000文字ボンバァ!


画像生成AIに水銀妖精・銀蠅の外見イメージを入力して描いてもらいました。これもあくまで似ているというだけで微妙な差異はあります。(銀蠅は凹凸だけであるが表情を表すことはでき、のっぺらぼうではない等)
AIの規約的に直接二次創作の挿絵として貼るのはグレーだと思ったので、pixivへのリンクだけ貼っておきます。


https://www.pixiv.net/artworks/100204581


【殺猿】襲撃術師禪院扇の処置と処遇について【事件】

 

202:カタツムリ観光客

という訳で、禪院扇を人質とした返却交渉は、禪院家とではなく、禪院直毘人”個人”と秘密裏に行うということでよろしいですね。

こちらの交渉材料は

「禪院扇および禪院希依子(けいこ)の身柄」

「未来知識(原作知識以外の前世知識は検閲されない模様、原作知識の検閲も伝え方次第でなんとかできる可能性アリ)」

「転生者呪霊の戦力的支援」

が主になります。

そして要求は

「我々転生者呪霊の秘匿、可能であれば保護(主に生存派の要求)」

「何らかの呪物や呪具、可能であれば宿儺の指(主に原作派の要求)」

「双佐紀智礼の保護(子供部屋あくまさんの要求)」

「オーダーメイドの義体(水銀妖精さんの要求)」

となります。優先順位は上から順です。

 

203:名無し級呪霊

禪院家が呪霊と交渉とかよく考えたら出来る訳ないしな

あのプライドと凝り固まった価値観で

 

204:名無し級呪霊

その点直毘人なら原作で呪詛師(伏黒甚爾)とも交渉出来てるし、安心だな!

次期当主と交渉すれば実質的に禪院家と交渉してるようなもんやし!

 

205:名無し級呪霊

>>204

つっても年齢的に考えて最盛期の禪院直毘人特別一級術師殿だぞ……?交渉する前に祓われないか?

いくら転生者呪霊目下最強の水銀妖精とは言え、ギリギリ特級に届くかどうかなんやろ?すくにゃんの言う虫と同じじゃん。

 

206:水銀妖精

そこは交渉場所をこっちが指定できるし、どうにでもなるでしょ。事前にハリボテの領域に誘い込んで人数集めていざとなったらタコ殴りよ。

まあ原作派に協力してくれる転生者は少ないみたいだけどね?雑魚はこっちからお断りだけど。

 

207:名無し級呪霊

弱者生存、それがあるべき掲示板住民の姿ですよ

 

208:ごっくんフェチ

>>207

その生き方だとメンタルぶっ壊れるって原作が証明してる定期

弱者は強者のお情けで生き残るくらいが丁度いいと思うよ 妖精ちゃんみたいに雑魚は死ねとまでは言わないけど

 

209:名無し級呪霊

それにしても原作知識の検閲が、非転生者から情報を入手することで該当部分は解除されるとは……流石に原作知識伝達全縛りはキツいと思ったらこういう仕組みだったのか

 

210:名無し級呪霊

妖精「アレ!あの指のヤバい奴あるでしょ?あれなんて言うんだったっけ」

扇「……宿儺の指のことか?なぜ呪霊如きが知っている?」

はい検閲解除

流石にガバガバ過ぎない?

 

211:水銀妖精

>>210

「すごいスマホ」セオリーだね。検閲は迂回することで回避できる。ただ検閲にはセキュリティレベルの違いがあるようで、「四人の義妹がいるアルバイト」は伝えられても、「額に縫い目のある経産婦」は検閲された。どっちも呪術用語を使わずに呪術廻戦キャラを表現しているのにね。

すごいスマホと言えば、検閲回避のやりすぎでペナルティーとかありそうで怖いけど、転生担当神からは特に言われてないし。

 

212:名無し級呪霊

今のところ、扇と真希真依ママから一般的呪術知識は引き出せたっぽいな。個人の術式内容や御三家秘伝の技術は口をつぐんだけど。

 

213:名無し級呪霊

しっかしロリ婚とは、扇の株が原作以上に下がったな

確かに原作の真希真依ママと扇、けっこう年の差があるように見えたけど。

 

214:名無し級呪霊

>>213

16歳は2018年でも合法ですヨ!!!

 

215:名無し級呪霊

>>214

それよりも「学費肩代わりするから儂と結婚しろ」とかいう最悪の求婚文句がだな……

 

216:名無し級呪霊

禪院扇の一人称がいつの間にか儂になってしまう不具合、やはり半天狗の影響が強い

 

217:子供部屋あくま

やっぱり扇殺しません?後継者争いの敵ですし、始末すればこっちはむしろ感謝されますって。

ロリ婚のカスとか死んで当然でしょ

 

218:名無し級呪霊

>>217

ブーメランを全力で投げていくスタイル お前も幼女と一緒に風呂に入るタイプのロリコンだろ

むしろお前の方がアウト

 

219:名無し級呪霊

>>217

原作ファンブックから考えても、次期当主候補なんて名ばかりで、直毘人で最初からほぼ確定してたようなもんだし、実の弟を殺した恨みの方が怖いわ。

禪院家的にも、家の人間を殺して舐められたままとも思えない。確実に禪院家VS転生者呪霊の全面戦争に突入する。

 

220:名無し級呪霊

そもそも術師と呪霊は年がら年中絶滅戦争をしているようなものでは?というツッコミは置いておいて、扇殺すのはありえん。まああの怪我で放っておいたら死ぬ可能性もあるが。

 

221:水銀妖精

>>219

術師がやっているのは戦争じゃなくて害虫駆除です。呪霊に正義なんて一片たりともありません。ペラッペラですらありません。

 

222:名無し級呪霊

アッハイ

 

223:名無し級呪霊

呪霊差別をやめよう

 

224:名無し級呪霊

相変わらず水銀妖精は呪霊に厳しいなぁ

俺らが呪霊なんだから呪霊なりの正義を求めていくべきでは

真人の正義は本能に寄りすぎだし漏瑚の正義は妥協を知らなさすぎだが

 

225:カタツムリ観光客

扇殺害については却下します。

我々転生者呪霊の生存こそが我々にとっての正義です……と言っても水掛け論にしかならないでしょう。

 

では最後に交渉にあたり直毘人氏と直接接触する方を選出しましょう

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「クックック、あの負けず嫌いの扇が、まさか助けを求めてくるとはな。人質に取られた、ねぇ。禪院家の人間なら潔く自害すれば良いものを」

(ま、面白そうだから助けに行ってやるがな。他の術師、特に禪院家の人間にはこのことを伝えずに一人で来いということだが、禪院家の呪具を持ってくるな、とは言われていない。出来る限りの想定と対策はしておくか。何しろ()()()()()を助けるためだし、な!ククッ!)

 

 適当に口実を作って禪院家の忌庫から幾つか嵩張らない一級呪具を持ち出し、そのついでと言わんばかりに特殊な術式効果を持つ特級呪具も黙って持ち出した直毘人は、非術師の専属運転手を使って自家用車で京都から東京に移動する。適当なところで自身を降ろさせ、呪具を入れたキャリーバッグを転がしながら目的地に向かう。

 

「……ここか」

 

 夕暮れ時。何の変哲もない、古ぼけたアパート。その扉の前で禪院直毘人は立ち止まり、感覚を研ぎ澄ませる。

(内部の呪力が感知できない。指定された場所は無人無霊か……もしくは領域が内部で既に展開されているか。窓とカーテンが閉め切られている、おそらく後者だな。ならば……)

 

「ダイナミックエントリーと行くかぁ!」

 

 キャリーバッグから取り出したのは、人間のものと思われる足首から、螺旋の溝が彫られている金属の円柱が生えている、奇妙なドリル。足首部分には西洋宗教的な意匠が入れ墨されており、ドリルの付け根には狂気に満ちた表情の人面瘡が大口を開けている。

 特級呪具、日本での銘は『心螺(しんら)』。海外産の呪具であり、とある特級呪霊の死体を特殊な方法で消滅させずに加工したもの。その術式効果は―――

 

(”領域”を含む、ありとあらゆる結界の穿孔!)

「ブチ抜く!」

 

 人面瘡の目を押してドリルを延長させて呪具の全長を人間の片腕ほどの大きさにし、アパートの玄関ドアに『心螺』を押し当て人面瘡の舌を引っ張って回転させ始める。すぐにドアの鋼板は貫通されるが、その板越しに、ザリザリと呪具の術式効果と領域が衝突する音がした。しかし、直毘人はその手応えに違和感を覚える。

(……?妙だな。結界に孔を空けるときの岩盤を掘削するような感覚ではない、砂や泥をかき混ぜているかのような手応え。術式効果が空転している訳ではなさそうだが)

 実際に、この領域は呪力による結界内ではなく、既存の建造物の屋内に展開されることで成立している。孔を空けるまでもなく、外部からの侵入はそこまで難しくない。

 

「まあいい、覗き穴が空いたのは事実だ、これで領域に入らずに内部の様子を……お?」

 

 ドリルの回転を止めてドアから引き抜き、覗き穴を通して直毘人が見たのは、濃青色やオレンジ色、赤褐色などで濁った、いかにも化学物質で汚染されていそうな複数の人工河川と、その川の排水溝から垂れ流されている銀色の液体。まるでぱっとしない芸術家が絵画で工場公害による水質汚濁を問題提起しようと試みたような風景だ。

 その領域の内部、河川間のコンクリート地面からこちらに視線を向けている何体かの呪霊、そしてその地面から生えた見覚えのある人間の()()が男女一組分目に入った。それを見た直毘人の判断は早かった。

 

「……フン、人質返還など嘘八百という訳か、呪霊共ォ!」

 

 額に青筋を立てつつ、しかし表情からは感情が抜け落ちた彼は、孔の空いたドアを蹴飛ばして破壊。視界を確保して瞬時に自身の術式、投射呪法を発動し、但し書きが未だ付いていない”最速の術師”としてのスペックを最大限発揮して、『心螺』を片手に領域に跳び込み駆け抜ける。

 

 領域の入り口の扉から生えてきた呪具を警戒していた転生者呪霊たちは三体。一体は当然水銀妖精、一体はごっくんフェチ、そして最後の一体は子供部屋あくまだった。カタツムリ観光客は鼠に眼球を植え付けて、あくまの肩からその視界情報をリアルタイムで取得している。結界術を用いていないため、呪術的通信も可能という訳だ。

 

 三体は扉を蹴飛されたと知覚し、事前に準備しリハーサルすら行った手順を反射的にこなす。水銀妖精の指示が耳に入る前に子供部屋あくまは術式を発動した。

 

「プランC!あくまァ!」

「『失楽園(ファラウトブペリダイ)』!」

 

 子供部屋あくまの術式、『失楽園(ファラウトブペリダイ)』。領域入口を中心にあくま自身の血でコンクリ上に塗られた、長半径十数メートルの楕円状の魔法陣が刹那の間に呪力で満たされた。その部分がそっくりそのまま、底に光が届かないほどの深い落とし穴に置換される。踏みしめるべき大地が消失し、術式を発動中の直毘人の脚は宙を掻く。

 そう、術式を発動中なのである。投射呪法は単なる加速術ではない。視界を画角として一秒を24分割し、その中で物理法則にぱっと見で従っているかのような動きを事前に確定させ、それをなぞるように身体を動かす術式である。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。失楽園の発動が終了した時、既に直毘人は楕円の縁に右の爪先を触れさせていたが、しかし重心の置かれていない爪先では重力に逆らう術を持たず、落とし穴の縁、断崖に手を伸ばすことも出来なかった。物理法則に従い、自由落下が開始する。

 

 だがその自由落下はすぐに終了した。直毘人は疾走する前傾姿勢のまま、股間の会陰部、つまりヨーガの世界では第一チャクラとも呼ばれる部位から呪力を噴射した。それにより一瞬の浮力・推進力を得る。投射呪法により確定させた『動き』とは、肉体の運動のみを指し、呪力による外力の生成は制限されない。そのまま左足を落とし穴の縁に掛け、事前に確定させた足の動きを利用して体を持ち上げ、右足で落とし穴の外、コンクリの地面に触れた。

 そうして地面をしっかり踏み込んだ作用の反作用でうんたらかんたら、という過程を省略して、地面を軽くでも踏んだという事実のみによって運動量を()()()()()()()直毘人は加速する。

 物理法則からの僅かな逸脱、言い換えれば、ベクトルを含む物理量のちょろまかし、エネルギー保存則の粉飾決算。これが投射呪法による加速の正体だ。物理法則を厳守するよりも、24分割したコマ打ちを厳守することを肉体が優先する、それが投射呪法の世界である。

 

 直毘人が速度を一歩毎に――物理法則から見れば不正に――加算し続けて五歩、ごっくんフェチと子供部屋あくまを左の手のひらで叩く。ごっくんフェチはそれに反応すら出来ず、子供部屋あくまは僅かに体を逸らしたが回避には不十分だった。投射呪法の強制によって秒間24のコマ打ちに二体は挑戦させられ――当然そんな慣れていない作業は不可能である。二体は一秒間、身動きが出来ない二次元空間に閉じ込められる。あくまの肩に乗っていた鼠は、戦闘の気配に怯えて逃げていった。

 加算した勢いでホバリングしている水銀妖精にも触れようとするが、妖精は空気の流れをその翅で鋭敏に察知して、直毘人の手のひらで叩かれる直前に来る風圧から逃れるように回避して距離を取った。

 

 直毘人が投射呪法を発動して最初の一秒が経過した。

 彼は背後の呪霊らを振り返って視界に入れ、再度のコマ打ちを行いながら、水銀妖精をこの場で自分にとって最も厄介な敵だと判断しながら、『心螺』のドリルを再度回転させながら、呪霊共の殲滅手順を練りながら、一言毒づく。

 

「銀蠅は叩き潰すのが面倒だなァ!」

 

 意外なことに、呪霊はそれに反応した。それも凹凸だけの銀一色の顔に喜色満面の笑みを浮かべて。

 

「銀蠅!()()()()()し、結構良い名前!あなたが私の名付け親ね!」

 

「……は?」

 よくある呪霊の戯言と切り捨てるにはあまりにも知性的で、文脈に沿っていて、しかも害意ではなく歓喜に満ちていた。その言葉に直毘人は一瞬思考が止まり、気が抜ける。その間隙を縫って、地面の生首が声を発した。

 

「ま、待ってくれ、兄上!私の命より呪霊の祓除を取るのか!」

 

「ん?んん?」

 

 想定外の方向からの想定外の言葉、戦場で致命的だと知りつつも、直毘人の思考はいよいよ本格的に一時停止した。呪霊二体の投射呪法によるフリーズはこの時解ける。

 子供部屋あくまは二次元空間に閉じ込められている一秒の間に思考を整理し、直毘人の誤解とそれを生んだ原因について思い当たった。原作の東堂葵を基準にすれば単純計算でIQ530に換算できる思考速度だ。

 その推測に基づいて、あくまは口を挟む。

 

「あ~、誤解させたようですまないが、禪院扇も、禪院希依子も生きてるよ。どっちも重傷で扇の方は死にかけって感じだが、昨日の夜よりは状態が安定しているから今すぐどうなるって問題はない筈だ」

 

 直毘人はまず、そう言ったあくまの方に視線を移し、次に生首がある、と自分が思い込んだ場所に目を向けた。

 

 そこには、地面にあんぐりと開いた二つの真っ赤な唇の大口と、その口にそれぞれ首から下を咥えられている自分の弟と義理の妹がいた。首には口相応の大きさの前歯が掛けられ、下手に暴れれば首の骨をその大口で嚙み砕かれるという状況が一目で分かる。

 

「……先ほどの、落とし穴の術式か?」

 

 思考がようやく回り始めた直毘人。咄嗟に出た疑問はそれであった。地面に穴を空ける、という点では同じだが、そもそも呪力の質の違いをよく見ればすぐに分かる問題である。まだ脳が本調子ではないようだ。

 その質問に答えたのはごっくんフェチである。

 

「違うんだよね~、地面にお絵描きして穴を開けるって点でだいぶカブってるんだけど、僕のは、この『唇紅深淵(ディープルージュ)』。この口紅で地面に唇を描いてお口を具現化させる術式」

 

 と言ってごっくんフェチは右手の甲に開いた口腔に左手を突っ込み、口紅……というより深紅色をした人参のような形状の物体を引きずり出す。おそらく術式の触媒であろう物体を見せびらかしつつさらに続けた。

 

「僕の術式、いろいろ応用が効くらしくて。胃酸の攻撃性ばかりに目が行って気付かなかったんだけど、唾液には生命保全能力があるっぽいんだよ。怪我ややけどを和らげることが出来るみたい。反転術式みたいに部位や内臓欠損の再生や急速な治癒は出来なくて、あくまで『保全』の範疇だけどね。呪霊には効果ないからわかんなかった」

 

 自身の術式を自慢げに語るごっくんフェチ。それを聞いている内に直毘人は徐々に冷静になっていき、術式の開示を記憶の片隅に置きつつ、現状の理解と自分がどういう態度を取るべきかの思索をしていく。

 

「扇が死にかけ、とはどういうことだ?そこの、山羊頭の呪霊よ」

 

 今までの反応から、比較的話が通じそうな子供部屋あくまに尋ねる。

 

「ああ、今のところは下腹部に大きな穴が開いててその中身が結構酷いことになってるな。穴の中は火傷も酷いらしい。希依子の方は脇腹が抉られてるが臓器に別状はなし、だよな?水銀妖精」

 

「うん、下腹部貫通創による前立腺、直腸、および膀胱深部複雑性……というのすらおこがましいレベルの損傷、恥骨および尾骨文字通り粉砕骨折、ついでに下腹部内部に深達性Ⅱ度熱傷ってとこかな、確認した昨日の時点でだけど。あの熱量でⅢ度行かないの、ヤバいね~。流石は特別一級術師?」

 

(医者?)(医者?)(医者?)

 

 水銀妖精以外の全員が疑問に思うが、口には出さない。視線の質が一瞬変わったことを気にせず、妖精は続ける。

 

「そんな感じの容態なんだけど。流石に野生の呪霊の身じゃあ医療器具や施設は手に入らないしね。輸血すらできない。だからまあ扇の身柄を渡すことに()()は無いわけだけど……ただ渡すだけだと私たちにとっての()()も無いわけ」

 

「ふむ、続けろ」

 

「それで、二人の身柄と引き換えに欲しいものがあるんだけど」

 

「それで?」

 

 直毘人は呪霊とそもそも交渉に応じてくれるのか。他の術師よりは話が通じると思われるが、そうであっても呪術師の一人だ。呪詛師とはともかく呪霊と交渉するのは言語道断、という価値観の持ち主の可能性もある。

 そういった考慮に考慮を掲示板上で重ね、しかし転生者呪霊らは直毘人と交渉することを選んだのだ。その意思に今回ばかりは水銀妖精も従った。不適格であると言われながらも、"強さ"の一点だけを理由に交渉者代表に選ばれた彼女は慎重に言葉を選ぶ。琴線に触れないように、相手の僅かな挙動を見逃すまいと相手の顔を見つめつつ。『原作派』と言っても、原作の人間になら殺されてもいいと思っている訳ではないのだ。

 

(最初はなるべく情報を渡さない、そしてある程度強気で行く)

「宿儺の指……を二本。現物で」

 

「フン、渡すと思うか?取り込ませただけでそこらの呪霊が特級呪霊と化す特級呪物だぞ?……口を割ったな、扇」

 

 実際に『心螺』の先端を向けたわけではないが、矛先が扇に向く。扇は冷や汗を流しながら言い訳をした。

 

「ち、違う!こいつら、元から概念は知っていたみたいで。『例の指』の正式名称をしつこく聞いてきただけなんだ!信じてくれ!」

 

 口を挟む扇に反応し、ごっくんフェチは地面の大口の歯を扇の首に食い込ませ脅す。

 

「いつお前も話に加わって良い、と言った?」

 

「ヒッ……」

 

 直毘人は扇の怯え具合を、そしてその顔をよく観察して気付いたことがあったようだ。

 

「俺から話を振ったんだ、許せ。――そして扇よ。その怯え様、その、白黒反転した眼。何をされた?」

 

 三十路の禪院扇、その瞳は以前まではただの三白眼であった。だが今は、原作でのキャラデザと同じように白目が黒目、瞳孔と虹彩が白色という特殊な眼をしている。

 

「両目を、潰された。殻の渦の中心に付いた巨眼でこちらを睨む、人間大の蝸牛の呪霊、その触角に抉り取られた。そして盲目になった私に対してこの呪霊共は尋問をしたのだ」

 

「なら、なぜ今眼がある?もしや――」

「ああ、そうだ。俺達の内の一人が新しく眼球を植え付けた。人質にむやみに後遺症を与えるようなことはしない。一時盲目にさせたのは尋問に必要だったからだ」

 

 直毘人が想定を口にするのに先んじて、子供部屋あくまが説明をする。望ましくはないが気付かれること自体は想定内だ、しかしそれが直毘人の交渉拒否に繋がるリスクを避けなければならない。

 

(十中八九ここにいない呪霊の術式によるものだろう。正のエネルギーのアウトプットなどという高度な技術を使える可能性も低い、それに理論上呪霊が反転術式を扱うことには多大なリスクが伴うはずだ。眼に寄生系の術式効果がある可能性もあるか?)

 

「一つ聞くが、領域や特定の地域の外に出た途端に扇の眼が腐り落ちる、なんてことは無いだろうな」

 

「ああ、東京都内から外に出ても問題ない。動物実験で検証済みだ、安心してくれ」

 

(ふむ、眼は人間以外の動物にも植え付けられる、そして東京都内が区切りの一つ、という訳か。恐らく術式効果は――訊くのが早いか)

 

「領域の外に持ってきた一級呪具が幾つかある。俺の立場なら失くしても誤魔化せる程度の物だ。それらの内一つを対価として、俺と”縛り”を結べ。他者間との縛りは分かるな?内容は、」

 

「ちょ、ちょっと待って。えっと……まず”縛り”を結ぶ方法が分からない。それと、対価は扇の解放じゃなくても良いの?」

 

 水銀妖精はいきなり進んだ話に反応して疑問をぶつけつつ、現在の交渉状況をあくまに目配せして掲示板に書き込ませる。質問には掲示板の反応を待つ時間稼ぎという意味合いもあった。

 

「まず話を聞け、呪霊よ。”縛り”は俺が主導して行い、お前たちは受け入れるだけで良い。そして内容についてだが。一つは『交渉に際して嘘を言わない』ということ。二つ目は『交渉中、人質も含めて関係者に回復不可能な負傷を負わせない』ということ。最後に最も重要なのが『最終的に決まった約束を反故にしない』ということだ。これらの条件は互いに守らなければならず、この”縛り”が人質返還交渉の前提となり、交渉内容によっては最終的約束を”縛り”として再度形にする。”縛り”に必要なのは自分自身の名前、つまり真名だ。お前らの名前を教えろ」

 

「う、うん。とりあえず、一級呪具?にどんな種類のものがあるか教えてもらっていい?」

 

「ああ、まずはだな……」

 

 かくかくしかじか、まるまるうまうま。直毘人が持ってきた一級呪具の形状や特徴についての説明を耳に入れつつ、水銀妖精は戦略を練る。

 

(相手は冷静で誠実な印象、だけど、何か引っかかる……そう、そうだ。二つ目、『交渉中、負傷を負わせない』ということは、交渉後には私たちを殺せる、ということだ。それに注意して、私たちを傷つけない、傷つけさせないことを最終的約束の内容に、絶対に入れなきゃならない)

 

「……これらが、俺が持ってきた呪具だ。さて、俺の名前は禪院直毘人。お前の名前は?」

 

「水ぎ――じゃなくて、銀蠅。あなたが決めてくれた名前。それで良い?」

 

「気色悪いが、まあ構わん。山羊頭と首無し、お前らもだ。名前が無いなら今決めろ」

 

「僕はね、路啼!道路のロに、啼くな小鳩よ、のナくでロナク!イゴローナクのロナク!」

 

 ごっくんフェチは即答した。あくまは、しばらく沈黙し、悩んだ末に答えた。

 

(あくま、悪魔、大アルカナの15番目、バフォメット……魔女の守護者、サバトの主催者。智礼の敵を、裁いて屠る。俺の名前は――)

 

「裁屠。裁いて屠る、裁屠だ」

 

「良し。銀蠅、路啼、そして裁屠よ。俺と先ほど言った内容の”縛り”を結ぶか?」

 

「ええ」

「うん」

「ああ」

 

 呪霊たちが頷いた瞬間、細く微かな、呪力覚を凝らさないと感知できない呪力の糸が直毘人から延び、三体と接続する。糸を通して三体から直毘人に、直毘人から三体に、交流電流の如く呪力が行き来する。

 数秒してその波は収まり、呪力の糸は役目を果たして掻き消えた。

 

「……これで縛りは結んだ。さあ、交渉(ネゴシエーション)の時間だ。まず、扇に眼を植え付けた呪霊と、お前たち三体の術式の詳細を教えろ」

 

 直毘人は不敵な、それでいてどこか勝ち誇るかのような笑みを浮かべ要求をする。水銀妖精改め銀蠅は、その笑みと要求に自分が何か見逃したのだと悟るが、具体的に何を見逃したのかはまだ理解できなかった。

 

「対価は?一級呪具をもう二つ、というのはどう?」

 

「自分たちの術式の情報にそれほどの価値があると踏むか、傲慢だな」

(ゴネられても困る。少し()()()()()おくか)

 

「何をッ――!」

 

 銀蠅が反応するよりも早く、直毘人は加速度を優先するために『心螺』を手放し、それと同時に術式を発動して高速移動。ごっくんフェチ改め路啼と子供部屋あくま改め裁屠の懐に入り、その体に両手で触れる。

 コマ打ちチャレンジ――二度目の失敗。二人は当然の帰結として二次元空間に閉じ込められた。裁屠は蹴りやすい位置に平行移動させられ、二次元空間を砕いて銀蠅の方向に蹴飛ばされる。

 ひらりと飛ばされた裁屠を躱す銀蠅ではあるが、それはあくまで牽制に過ぎない。躱した隙を狙い、蚊を叩き潰す時のように直毘人は両手で銀蠅を捕えようとする。

 銀蠅は翅を羽ばたかせて後方に避け、直毘人の速度で踏み込まれてもギリギリ反応出来る程度に距離を取る。同時に大量の呪力を消費して水銀を即時に具現化し、数十もの細長く先端がやや膨らんだ触手、否、鞭を形成した。

 

「『懲装・点多繰(ちょうそう・てんたくる)』!触れられてッ、たまるかァ!」

 

 数十本の水銀の鞭を叩き込まれる直毘人、しかしその鞭たちは、直毘人が纏う呪力に触れた瞬間に弾かれるためダメージは無かった。

(『落花の情』は、何も斬撃だけが能ではない。応用すれば打撃に打撃をぶつけて跳ね返すことも出来る)

 

 弾かれながらもなお水銀の鞭の数を増やして振るい続けながら、銀蠅は直毘人に攻撃の意図を問いかける。

 

「”縛り”はどうしたッ、交渉中は停戦するんじゃなかったのか!」

 

 焦った口調の銀蠅に対し、直毘人は攻撃を防ぎながら余裕をもって答えた。この間に裁屠は立ち上がり、路啼の硬直は解けたが、二体は状況判断が追い付かず、まだ動けていない。

 

「不戦とは一切言っていない。『関係者に回復不可能な負傷を負わせない』だ。お前ら呪霊は『治る』だろう?引っ掛からなくてもやりようはあったが」

(術式を使えば『落花の情』の精度が著しく鈍る。なら、この攻撃が途切れるまでしばらく様子見だな。先ほどの水銀(?)具現化で随分と呪力を消耗したようだし、このまま防ぎ続けてもこちらに分がある)

 

「ッーー!そういうことか!」

(こっちは相手に深い怪我を負わせることが出来ず、相手は殺さなければ何をしてもいい、ということだ、あの”縛り”の本当の意味は!しくじった!もっと内容を精査すべきだった!)

 

「呪霊にも痛覚はある。このまま無様に負けて四肢を引きちぎられたくなければ扇と希依子を解放しろ」

 

 その言葉に、銀蠅は顔に青筋ならぬ銀筋を立てて怒りをあらわにする。

 

「私がッ、負けることを、前提にするなァ!名付け親でも許さんッ」

 

 銀蠅は鞭に割り当てる水銀の量を半分以上減らし、減らした分の水銀を一つにまとめ、球体に形成する。回転を掛け、さらに余剰の呪力を込め強化する。

 半径5cm程の砲弾。だが水銀の密度故に、重さは男子砲丸投に使われる砲丸以上にある。

 

(まあそう来るだろうなぁ、呪霊なら!)

「名付け親ではないと、言っている!」

 

 直毘人は鞭を適当にあしらいつつ、両手の手のひらを前に出して構え、水銀の球体に備える。

 射出。水銀の砲弾は、時速約150kmで直毘人に向け発射された。

 

 約半秒後、着弾。十数メートルの距離は僅かな時間で埋まり、胸部を狙って放たれた砲弾は直毘人の手のひらに衝突した。だがそれは投射呪法によってその動きを止め、二次元空間に閉じ込められる。

 そう、投射呪法の他への強制、それは相手に自我が無くても、たとえ液体であっても可能なのだ。そして自我が無い相手は当然、コマ打ちに失敗し、確実にその動きを一秒間止める。

(チィ、空間に固定したのは良いものの、両腕の骨に軽く罅が入ったか。『落花の情』と術式に呪力出力を割き過ぎて肉体強化が疎かだったか?だがもう――終わりだ)

「安心しろ、殺しはしない」

 

 半分以上に減った水銀の鞭による衝撃に顔をしかめながら『落花の情』を中断し、呪力を全て投射呪法による加速に費やす。十数メートルを瞬時に踏破する直毘人、呪力残量からして銀蠅はこれ以上水銀を具現化することは出来ないだろうという想定の元に決断し、その想定は当たっていた。

 銀蠅の顔前に表れた直毘人は、呪力により強化され斬撃と化した手刀によって銀細工の人形のような身体を切り裂き、右肩から袈裟斬りにした。

 

「ああッ……ぐっふ、がぁ」

(痛い痛い痛い痛い!誰か、助けて……!)

 

「妖精ちゃんから、離れろぉ!」

 

 首の無い肥満体の女がどすどすと走ってくる。どうやら体当たりを試みているようだ。だが、あまりにも……”最速の術師”と比べれば、悲しいほどに鈍重だ。

 

「鈍いな、不快な程に」

 

 背後に表れた直毘人に気付かないまま、路啼はその巨体を蹴り飛ばされ、領域内にある汚染河川にドボン。脂肪によって沈むことはないが、それでも岸に上がって復帰するのにはしばらく掛かるだろう。

 蹴飛ばした直後に、裁屠の鰐か蛇のような尻尾による刺突が直毘人を襲うが、その尾を握られて止められる。そのまま振り回して同じく汚染河川に投擲する。翼があるため、上に投げるのではなく振り回した勢いで直下に投げ捨てた。

 

 改めて直毘人は銀蠅の方を振り返った。銀蠅の胴体は完全に切断されていた。胸から腹に掛けて紫色の血が流れ、苦痛によって羽ばたくこともままならず地面に這いつくばっている。

 

「これ以上傷つけられたくないなら、扇と希依子を解放しろ」

 人間に対する視線とは思えない――事実人間ではないのだが――眼で銀蠅を見下す直毘人。

 

(冷静になれ、私。交渉中、相手を怪我させることは出来ない、けど交渉終了条件は設定されていない。なら、両者のどちらかが拒否すれば交渉というのは中止するのが一般的な筈だ。でも、今中止したところで勝ち目があるとは思えない?いや、違う。勝ち目は()()()()()ものじゃない、()()ものだ。視点は近く、視野は広く。脳は冷やして、腹の底を熱く。呪霊は成長しない、なんてことはない。そう、真人のように)

 

「交渉は中止だ――今ここで、限界を超える」

 

 風景が銀蠅に吸い込まれ、呑み干される。僅か数秒の間、呪霊と術師のみがそこにおいてきぼりとなり、重ねられた疑似空間が引きずり戻され、代わりに現実空間の、アパートの屋内の空気が満ちていく。

 同時に、袈裟斬りに切断された胴体と下半身を、残りの呪力の殆どを用いて再生させる。彼女の呪力は最初と比べればもう残り僅かであった。

 

(呪力はもう底を突いたようだな)

「ならば殺す」

 

 その数秒を見逃す直毘人ではない。瞬く間に距離を詰め、瞬速の張手で銀蠅にコマ打ちを強制させながら背後を取り、固定した相手の後頭部に貫手を放とうとして、相手が()()()()()()()ことに気付く。だが彼の動きはコンマ数秒前に既に確定させた動きであり、変更は利かない。銀蠅は、後頭部にかすり傷を負いつつも、頭を傾けて貫手を躱し、その腕を呪力で強化した自身の翅で斬り付けた。腕の筋を深く切り付けられた直毘人は、術式の一秒が終了し、再度のコマ打ちを行って銀蠅から距離を取る。

 

(術式の強制が効かない!?)

「何をした!」

 

「『領域展延』、領域を水の如く纏う技術。領域同士の必中効果の打ち消し合いに着目して、領域を”中和する性質”に特化させたもの」

 

 手を大きく広げ、演劇のように語る銀蠅。展延を成した自らに酔っているのか。それとも時間を稼いでいるのか。

 直毘人は術式の他への強制が効かないことを意識し、銀蠅が隙を晒すのを待つ。

 

術式の開示(タネ明かし)ご苦労。『領域展延』、か。聞いたことも無い。その知能、その技量、どこぞの呪詛師に教えを乞うたか?誰と繋がっている?」

 

「ああ、実際にやって見せても検閲は解除されるの。それでそう、呪詛師と繋がっているかどうかなら、否。私たち、色々知ってるから。”生まれる前から”ね」

 

「術師が呪霊に転じた類か?ならばなぜそこまで自我が残る?」

 

「チッチッチ、今流行りの逆行転生って奴だよ……ああ、今は流行ってないんだっけ。EU、2000年問題、9.11、ISIL、って聞こえる?謎の異言語に変換されてない?」

 

「英字略語に数字、意味ありげだが知らん言葉だな。逆行?未来から来た、と、そう主張するのか?」

 

 話題の核心に直毘人が踏み込む。それを聞いた銀蠅は喜色満面の笑みで首を縦に振り、答えようとする。

 

「そう!そうなんだよ――ッたァ!話してる途中に何すんの!」

 

 だが首を振って相手の視線がブレたと考え、瞬間直毘人は三角跳びで死角と思われる斜め後ろから銀蠅に蹴りを入れた。当然術式による加速を用いてだ。だが、まるで見えているかのように銀蠅は回避し、すぐさま回復するかすり傷に終わる。

 

「交渉中止だと言ったのは――お前だろう!」

 

 直毘人は構えて銀蠅と対峙し、拳の乱打を繰り出す。否、拳だけではない。手刀、掌底、貫手や掴みを組み合わせ、論理ではなく経験によってそれらのフェイント交じりの最適解を見つけ出し、叩き込もうと腕を振るい続けた。

 だが不思議なことに、銀蠅は全ての攻撃に反応することが出来た。ホバリング状態から、蠅がハエ叩きを躱すように、蝶が虫取り網からひらりひらりと逃れるように。フェイントにも無駄に反応しているものの、それに釣られた上で本命の攻撃も回避する。無論完全に回避しているわけではないが、それでもかすり傷程度に抑えることが出来ている。

 銀蠅の体表にかすり傷が増え続けるが、致命傷は決して負うことなく高速で翅を振動させ、ハチドリの倍以上の速度で空を舞い避け続ける。

 

(加速が"重ね"られていないとはいえ、秒間24回の攻撃を躱すとは。フェイントにも反応していることを見るに、読心や未来予知の能力は持っていないようだな。だがこれだけの立体高速機動、呪霊の体力でもある呪力が持たないだろう?傷の再生に呪力が回っていないぞ?)

(私には眼球が無いのに、人間と同じような視界を持っていた。だが、眼が無いのに見えるのならば、なぜ人間と同じだけの視野しかないと言い切れる?本当は、360度視界に収められる方が”自然”じゃないか?それに、私の翅は空気の流れを読む感覚器官としての機能も持っている。いままで術式によって水銀から伝わる感覚を重視していたが、この翅も十分に私の能力だ)

 

「我がスタンド、マンハッタン・トランスファーに、弱点は、無ぁい!」

「フッ、それでその、マンなんとやら、あと、何秒、持つ?」

(8秒です直毘人さん!)「乙女の秘密ゥ!」

 

 直毘人は他の要素を捨象し、連打の組み立てに、そのためのコマ打ちに深く深く集中し、その精度と密度が上がっていく。それに伴い、銀蠅の傷はかすり傷とは言えない程に深く、多くなってゆく。

 

 そして、6秒が経過した時、直毘人は右脚に鋭利なものが深く刺さる痛みを感じた。想定外の方向からのダメージに一瞬動きが止まり、それに伴い投射呪法による加速が中断される。その隙を縫って銀蠅は相手との距離を取り、窓をぶち破ってアパートの外に逃れた。

 直毘人の脚には、すぐに回収するつもりで領域内で手放した『心螺』が刺さっており――それを持っていたのは、地面を這いずる水銀から生える触手であった。

 直毘人は未だ知らぬことだが、領域展延と生得術式は同時には使えない。直毘人が術式対象を自分に絞ってコマ打ち強制を諦めたタイミングで、銀蠅はこっそりと領域展延を解除し、感知されないように僅かずつ術式を行使したのだ。

 

()()()()の再利用か!)

「フン、手癖が悪いなぁ、はぐれメタルが!」

 

 1987年発売のドラクエ2に出てくるモンスター、はぐれメタルに水銀を例え、脚から『心螺』を引き抜いたのちその特級呪具を水銀製の触手から奪い取る。

 『心螺』は特級呪具である故に、特別一級術師による無意識の呪力防御程度ならまるでちり紙を破くように貫ける。だが特級呪具にしての性能を術式効果に割り振ってしまったのか、対人武器としての格そのものは大して高くない。水銀触手の膂力が使い手になれば、右足の骨には到達するものの脛骨に小さい穴が出来る程度で貫通することもなかったのだ。のろのろと近づいてくるこの液体に物理攻撃は恐らく効かないだろうと、直毘人は足の穴から血を僅かに垂れつつ水銀から距離を置いた。

 しかし彼が呪具を抜いているタイミングで、外に飛び出た銀蠅が叫ぶ。掲示板経由の指示に従い、領域解除後にこっそりとアパートの外に逃げ出した裁屠が準備していた()()を発動させるために。

 

「堕とせ、あくまァ!」

「『失楽園(ファラウトペリダイ)』!」

 

 声の直後、ぐらりと床が傾き、その傾きはすぐに壁が地面に、床が壁になる90度回転へと化した。そして同時に無重力現象も起こる。

 

(回転、無重力!?これは!)

「落下か!建物ごとの!」

 

 このままでは建物に圧し潰される、と判断して、直毘人は『心螺』を持ってから術式を発動させ、天井になった扉に向けて跳躍し、壁を蹴って駆け、開いた扉から外に出た。

 外に出てもなお、彼は落下していた。彼は直径30mほどの大穴の中で落ち続けていたのだ。既に穴の出口との距離は垂直で30、いや40mか。

 そもそもこの穴に底などあるのか、という考えが頭を過りつつも、墜落死を避けるために穴の側面――見た目は密度の高い土の壁――に向けて跳び込む。

 土の壁に指をめり込ませ、自身の落下を止めようと考えて手を伸ばした直毘人。しかし土に触る数mm手前で、大理石かガラスにでも触れたようにつるりと滑ったため、落下は止まらない。

 

(穴の側面が結界で覆われている!おそらく生得術式によるものだろう、呪霊がゼロから結界を構築できるとは思えん)

 

 投射呪法を用いていたため、事前に作った動きを修正できず、直毘人は壁に跳び込んで1秒間は次の手を打つことが出来ない。

 ようやく次の行動が可能になるころには地下60mにまで落ちていた。

 

「結界ならば。『心螺』!」

 

 穴の側面の結界向けて、直毘人は斜め下に特級呪具『心螺』を突き出す。先ほどの指とは違ってきちんと突き刺さり、『心螺』を壁に突き刺さった棒のように見立てて自らを支え、ぶら下がる。

 ようやく落下が止まった。直毘人は一呼吸置いて、自身の現状を客観的に捉える……が、この現状が指し示すのは敗北の二文字であった。

(落下は止まったが、俺はあの蠅のように空を飛ぶことも、60mも跳躍することも出来ない。壁は尋常の方法では掴めず滑るし、二本の『心螺』の内一本しか持ってきていないから交互に突き刺して上るようなことも不可能。そもそもこの穴がいつ閉じるかわからない。この穴の術式を解除したらどうなる?地下60mの土の中に埋まるのか。別の場所に飛ばされるのか。跡形もなく消滅するのか。そしてこの状態だと、銀蠅と戦いにすらならない。手数が多い飛行可能な呪霊と、速さが取り柄だった棒にぶら下がって動けない術師だ。火を見るより明らかだろう……これは、負けたな)

 

「あとは、どう()()()()()()()か」

 

「おーい、直毘人さぁん!聞こえるぅ?こっちの要求を聞いて欲しいんだけどぉ!おぉい!パパァ!」

 

 銀蠅の猫撫で声が穴の外から響き渡り、直毘人は負けを認めたとは言え機嫌は悪くなる。

 

「誰がパパだ気色悪い!渾名を付けただけだろう!」

 

「もう本当の名前になっちゃったもーん!”縛り”もそれで結んじゃったし!」

 

 名付け親は血縁ほどではないが、呪術的にもそれなりの意味を持つ……ということを思い出し、自分の言動に後悔をするが遅い。直毘人は諦めて最も重要な疑問を投げかけた。

 

「扇と希依子はどうした!無事か?」

 

「あくま――裁屠と路啼に指示を出して、路啼の口から繋がってる”一つの胃の中”を通して魔法陣の外にある口に移したから問題無し!ついでにアパートの住人は何人かいたけど、直毘人さんを呼ぶ前に追い出しておいたよ!」

 

「なら良い!『俺の負けだ』!俺個人は、今後一切お前ら三体を傷つけない!縛りを結んでも構わん!」

 

「うーん、私たち三人から殺されそうになっても抵抗しない?それに他人に私たちを害する指示を出すこともしない?不利益になることもしない?」

 

 直毘人は過大な、しかし敗者に対しては当然の要求に、一つ一つ嘘偽りなく答える。自分が最初に”縛り”にトラップを仕掛けたのであり、疑念を持たせた原因であるからだ。

 

「抵抗はしない!だが非当事者を巻き込む”縛り”を俺は使えん!不利益になるというのは曖昧で範囲が広過ぎてこれも”縛り”に組み込めん!”縛り”の内容は『俺個人はお前ら三体を傷つけず、殺されそうになっても暴力を用いた抵抗はしない。他の奴が俺を護ったりお前らを害する分には知らん』だ!そして対価は『禪院扇を生かせ』、この一つだけだ!」

 

「人間を永遠に生かすことは出来ない、けど、希依子さんも含めて12年間は生かすつもりだよ!それで良いよね!?あくま、いやもう裁屠だっけ。異論は認めないから」

「……ああ、分かった」

 

「ではそれで”縛り”を結ぶぞ!三体とも姿を見せろ!扇の姿もだ!」

 

 穴の縁に立つ銀蠅、裁屠、路啼、そして路啼の術式の口から引きずり出され顔を穴の縁に晒される扇と希依子。それらを視認し、二人と三体に呪いの糸/意図を繋いで縛りを結ぶ。ただでさえ高等な技術である”複数人・他者間の縛り”を60mもの距離で行うのは困難だったが、最期の一仕事のつもりでプライドを持って直毘人は成し遂げた。

 

 その後、空を飛ぶ裁屠によって運ばれ、現実の地面に直毘人は足を付け、そのままどさり、と地面に倒れ込んだ。

 

「兄上!?大丈夫か!?」

 直毘人が犠牲になって命を救われた扇は、今までの負の情念を横に置き(捨てるまでには至っていない)、純粋に兄を心配する気持ちだった。

 

「銀蠅、お前前世職業医療関係だろ?」

「あ、バレた?彼は寝てるだけだよ。死が隣にある戦闘の緊張から解放され、弟を救えた安堵ってとこか。実質死刑宣告の”縛り”を結んでるのに安心して眠りこけるなんて器がデカ過ぎなんだよねぇ」

 

 直毘人は浅く背中を上下させており、よく見たら呼吸していることが分かる。銀蠅が言ったことに加え、負傷によって身体が休息を欲していたことも挙げられる。

 

 彼、禪院直毘人に敗因を求めれば、それは五条悟爆誕以前の、言ってしまえば生ぬるい呪霊を、”最速”としての圧倒的な実力で迅速・大量に処分し続けた結果、”格下狩り”に慣れきってしまったことと言えるだろう。事実、知能の高い術式持ちの呪霊を複数体相手取るという経験はこの時代のどんな呪術師も持っていない。そんな相手に対し、そうせざるを得なかったとはいえ一人で来たという油断。本来ならば禪院扇を見捨ててでも一級術師を複数人招集し事に当たるべき事態だった。

 慢心もあった、油断もあった。だが彼は、禪院直毘人は彼なりの最善を尽くした。どちらが勝ってもおかしくない戦いだった――原作知識という情報戦における絶対的なアドバンテージが転生者呪霊側になければ。

 転生者呪霊側に勝因を求めると、原作知識と、読者としての客観視がそれにあたる。特に銀蠅は転生者呪霊の中でもその傾向が強く、舐め回すように一語一句読み、トンチキ仮説を含めてあらゆる視点で解釈・推測を行う全国レベルの呪術廻戦読者であった。それが領域展延のぶっつけ本番発動や、直毘人の投射呪法への理解に繋がっている。

 戦闘巧者であり対呪霊の玄人である禪院直毘人に、呪霊としての”人間を害する”本能を多少持つとはいえ戦闘初心者である転生者呪霊側が勝利したのは、これらの二つが原因である。

 

 そんな事後諸葛亮を綴る地の文を放置して、銀蠅たち三体は掲示板に接続し、勝利の報告と今後の相談をするのであった。

 

 




登場したオリジナル特級呪具『心螺』の見た目は漫画版化物語に出てくる呪具「ハート・アン・ドリル」がモチーフです。
あくまでモチーフなんだからねっ!

前回の話、低評価多くてけっこう気にしてたんですが、読み返してみるとマジでつまらなかったですね……

次話、地盤固め回。やや時間が加速するカモ?

11/23追記 今更気づいたんですが、一度術式を解除して展延すれば具現化した水銀は消失しますね (()()()()の再利用か!)は直毘人の誤解、無い呪力を振り絞って造ったということにしておいてください。


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次章、水銀妖精死す!

水銀妖精をここまでクソ女郎にするつもりはなかったのだが、いつの間にこんなことに……
次回じゃなくて次章なのでぇ、次回までには殺せない可能性も高いですねコレ(ノリで書いてプロット皆無の言い訳タラタラ、物書きの屑がこの野郎……)


 敗れ、重大な"縛り"を負い、しかし生き残った。生き残ってしまった。直毘人の人生は、これよりあの奇妙な呪霊共の首輪付きとなった。

 しかし。救えるものは救えた。彼らに支払った対価は、自己の生殺与奪権の放棄。ぼったくりと言えるほどに大きかったが、腐っても血を分けた兄弟を彼の手で助けられた。ついでにその嫁も救えた。

 今後自分が果たすことが出来なくなる術師としての責務は、この二人とこれから生まれる二人の子供に背負わせてやろう。それが、俺の呪術師としての生命を終わらせた代償だ。そのような考えが脳裏に煌めく。

 京都の禪院家本家への帰り道。希依子を側に、応急処置を終わらせた扇を背負ってタクシーを待つ時。直毘人は閉じていた口を開いた。

 

「扇、希依子、俺は禪院家を出る。こんな縛りを結んだ人間を家の中に置いておくのは危険すぎる」

 

「兄、上……私のせいで。何と謝ったら良いか……」

 

「ああ、確かに、貴様のせいだ。貴様が功を焦り、敗北したのがこの有様だ。だが……俺もお前も、お前の嫁も生きている。そうだろう?これから汚名は返上すれば良い。死者にはその機会すら与えられない」

 

「……私の責任でもあります。私が主人を止めなかったから」

 

「希依子、お前はまだ若い。術師としての実力も経験も上である扇の意見に異を唱える立場にもなかっただろう。責任を感じるというのなら、禪院の女としての責務を果たすことだ」

 

 直毘人は、唐突に扇を地面に投げ捨てた。呻き声をあげる扇に顔を近づけ、告げる。

 

 

「扇、お前が次の当主だ。分かっているな?」

 

「な……!私の今の実力で当主になれば、禪院家の格が下がりかねない!確かに当主にはなりたいが、このような形では……甚壱ではダメなのか!」

 

「あいつはやや短絡が過ぎる。今回のお前も性に合わずやや性急だったが、甚壱は禪院家の術師、特に炳や灯に対する情が深すぎるのもある。あれは当主の器ではない、お前の方が幾分マシだ」

 

「しかし……!」

 

「お前、自分の強みを分かっているか?」

 

「それは……居合の腕と術式の組み合わ」

 

「違うな。お前の強みは他人を陥れる所にある。戦闘であっても、戦術レベルでも、そして戦略レベルでもだ。札を揃え、策を練り、それを相手の思考を読んで罠を伏せる。それがお前は異様に得意だ。術師、つまり呪霊駆除業者としては御世辞でも準一流と言ったところだがな」

 

「術師としての強みではないなら、もはや強みとは……」

 

「これからの時代。呪詛師は増えるぞ、頭の回る呪霊は湧くぞ。その時に既存の呪術師としての枠に拘っていたら、禪院家は滅びる。術師にあらずんば人間に非ず。それは良い。だが、何が術師で、何が人間なのか?それを碌に考えない奴に未来はない。お前もそうなりかけていたからな。代償は大きすぎたが、まあいい機会だ。今俺が孕ませてる女がガキを生むのに立ち会ったら、二度と禪院家に踏み入らん。俺のガキが男だったらお前が育てろ。女だったら連れて行く。いいな?」

 

「……ああ、わかった」

 

 返答する前に、直毘人は扇の目の前から消えていた。

 

(さて、これからは呪霊共の首輪付きの人生だ。東京は今後、奴ら知性ある呪霊共の巣窟になるだろうし、あまり居たくはないが、奴らは俺を使い倒そうとするだろう)

 

 術式を使い、演出じみて扇から離れた直毘人だったが、その後は呪力節約のために、術式を使わず通常の肉体強化だけで東京郊外の夜を駆ける。指定された地点に向かっているのだ。

 走っていると背中から声が掛かる。

 

「ぱーぱ♡」

 

 ぞわり。呪霊特有の扇風機を通したような声とともに、吐息が首筋からかかる。反射的に術式を用いて声の主から距離を取り、その姿を見て警戒の度合いを薄紙一枚だけ下げる。

 そこには銀の玉から這い出た銀人形がいた。

 

「お前か、銀蠅。俺をそう呼ぶのはやめろと言ったはずだが」

 

「でも私の名付け親はパパだしぃ♡」

 

「気色悪いな……で、何しに来た?俺を殺しにでも来たのか?」

 

「ああ、うん。お願いというか命令なんだけど。私が人間型の呪骸に擬態できるような義体、無い?水銀を通して自力で操るから人工筋肉とか関節モーターとかは要らないんだけど、呪術的な擬装がしたいなって」

 

「無いな。が、作れそうな知り合いはいる。禪院家の財産はもう使えないから俺のポケットマネーを空にして依頼するが、構わんな?」

 だが銀蠅は、その口を表現する顔の凹みを広げて驚きを表す。

 

「え?禪院家の財産使えないって、禪院家抜けたの?なんで?がっつり禪院家次期当主様の権力使うつもりだったんだけど」

 

「使わせる訳がないだろう。死んでも俺は禪院家に戻らんぞ。それに次期当主は扇だ。扇を殺すなよ?"縛り"だからな」

 

 銀蠅は一瞬苦虫を嚙み潰した表情を銀の顔に浮かべ、その後笑顔に戻る。

 

「まあいいか。義体を手に入れたら色々こっちで暗躍するからね。協力してね?」

 

「ああ、全力で協力させてもらおう。致命的な失敗を引き起こすかもしれないが、な」

 

 縛りによる絶対的な立場の違いにも動じず、禪院直毘人は、銀色の矮小で強大な怪物と駆け引きをする。

 

 

 

 光陰矢の如し。約4年がたち1994年。彼らの暗躍に気づいているものは、未だに禪院家の上層部、ごく一部のみである。

 

 

 

【五条悟】転生したら呪霊だった件について73【誕生日】

 

370:名無し級呪霊

新規の転生者呪霊ももうずいぶん見かけねぇなぁ

頭打ちか?

 

371:名無し級呪霊

どんどん増えていくと思ったんだが、増加量は逓減していったなぁ。

 

373:名無し級呪霊

大体今いるのは500人ぐらいかな?

 

376:カタツムリ観光客

572名ですね。現在の転生者呪霊のうち現在の生存者は。

そのうち禪院家極秘部隊に就職したのが12名、呪詛師と契約して保護してもらってるのが6名。水銀妖精さんの『殲罰究命同盟』に所属してるのが29名、あとは私たち『呪霊互助会』に所属してもらってます。

互助会所属以外の呪霊は全員術式持ちです。術式持ちは判明してる時点で総勢100名くらいですので、術式持ちのおよそ半数は互助会に所属していないことになります。

 

379:木工用アホ

術式持ちはわかりやすい力があるせいか、イキって加害欲を抑え込まずに表の人間を襲ったりする奴らがそこそこいるから互助会と同盟総出で処分しなきゃいけないのがクソ面倒

俺ら互助会の術式持ちはそのせいで肩身が狭いんだよ!

 

381:名無し級呪霊

人間なんかどうでもいいけどさ、知性持ち呪霊の正体がバレる危険があるから闇に潜んでなきゃいけないのが辛い。

隠匿結界を作ってくれたという一点だけは同盟どもに感謝してもいい。

 

382:名無し級呪霊

俺らも一般呪霊みたいに大手を振って出歩きてぇなぁ

 

384:名無し級呪霊

>>382

んなことしたら即死ゾ

それはともかく、羂索捜索と呪霊操術使い暗殺、まぁ~だ時間かかりそうですかねぇ

 

387:名無し級呪霊

羂索は海外にでもinじゃねーの!?

夏油に関しては……ナオキです。

 

390:水銀妖精

来た!見た!奪った!

五条悟の遺伝子情報ゲェェエエエエット!

詳細は同盟の研究部のスレで!今だけ全員見れます!

 

392:名無し級呪霊

>>390

五条悟の遺伝子?ショタチ〇ポでもしゃぶったのかな?

 

393:名無し級呪霊

>>392

五条悟の年齢から考えればショタどころかペドなんだよなぁ……

やめてクレメンス……

 

394:水銀妖精

>>392

>>394

やめろ!ワシはペドじゃない!抜け毛漁っただけだ抜け毛!

冤罪を吹っ掛けられたけど、ま、機嫌がいいし許したる

 

395:名無し級呪霊

研究部のスレみたけど、五条悟クローン化計画って、えっ、何、これは……

 

397:名無し級呪霊

おまえたち、よくもこんなキチガイ計画を!

 

400:名無し級呪霊

てか五条悟クローンしても六眼はクローンできないでしょ 意味なくね?

 

402:名無し級呪霊

>>400

知らんのか

六眼をクローン出来なくても一卵双生児は呪術的経験値を等分されるし、一卵双生児とクローンは遺伝子的には同一。五条悟弱体化とクローン悟強化に繋がるんだよ

 

404:名無し級呪霊

一卵双生児ってそーなのー?

 

407:名無し級呪霊

倫理的にまずいでしょ(恐怖)

 

410:ミミクリスカイツリー

>>407

何が倫理ですかぁあああああ!!

こんな呪霊のたまり場に倫理なんてありませぇええええん!

どうせこれからも裏社会の人間や逃亡中の犯罪者食べ食べするんだからこれ以上のことしたって大して変わりませんよぉおおおお!

 

413:名無し級呪霊

>>410

でも人間食べ食べめっちゃ楽しいし……この息苦しい隠れ家生活を耐えるためには必要な行為なんだ泣

 

416:ケンズルー

逃亡中の犯罪者なんて殺した方が世間の皆さまの為になるだろ

裁判を受けていない?疑わしきは爆しろ

 

417:サッラーバーブ

>>417

疑わしきは爆しろ!と言って上十二単村大量神隠し計画提案した奴はいうことが違う

疑わしきというかあれはほぼ確定だったので社会貢献と実利を兼ねて俺も賛同したが

 

418:水銀妖精

閉じたコミュニティで強く崇拝されている非術師の呪力構造、だいぶ特異で研究が捗った

産土神タイプの呪霊の姿形や能力を推察する参考になったぜ

はぁ~ それにしてもさっさと羂索と会って呪力の本質についての答え合わせしてぇ~

 

420:名無し級呪霊

というかクローン作成ってどういう術式で出来るん?

 

421:ミミクリスカイツリー

>>420

呪術なんてつかいませぇええええん!

 

424:名無し級呪霊

え?

 

427:水銀妖精

2022年から持ち込んだ未来知識にきまってんだろうが、言わせんな///

 

429:ミミクリスカイツリー

私がIPS細胞から受精卵を作る研究分野が専門でぇえええええ!

 

432:水銀妖精

私の博士論文は人工子宮の実用化について、ということだ

いや~、前世にあった機材とかないからパパをパシらせて機材の材料購入して組み立てるとこからがスタートなのはビビった

実験体確保もそうだが、ズルー君にはいろいろお世話になったし、この作戦が成功したら、今度義体をプレゼントしよう!

 

434:ケンズル―

>>432

いやあれ、俺のサイズだと頭だけにならなきゃ義体に入れないじゃないですか

しかも銀蠅さんと違って操術系術式じゃないから動けないし

 

437:水銀妖精

>>434

私が車いすを押してあげるから安心して首だけになってくれたまえ!

飽きたら放置する

 

438:名無し級呪霊

放置、こいつならマジでやるぞ

 

 

 

 

 

 

 禪院家極秘部隊、"仄"。それは、禪院家が呪霊を調教するための実験部隊、ということに表向きはなっている。

 無論、その『表』ですら本来は裏の裏。呪術総監部でもごく一部しか知らない単語だ。

 

 そしてその実態は、知性ある呪霊による、人間にはこなせない任務の遂行部隊。唯一所属している術師であり隊長でもある当主の妻、禪院希依子も、呪霊の調教師とは名ばかりの、気休めの監視係に過ぎなかった。

 

 仄副隊長、裁屠。最も力のある仄の呪霊は、齢12の少女、双佐紀智礼を横に座らせ、禪院家当主、禪院扇と裏当主部屋で対面していた。

 

「必ず殺す……その決意を胸にしてから何年経ったか。もう忘れたよ。よく考えればあれは銀蠅がお前を誘引したのがそもそもの原因だ。だが、お前をどうしようもなく殺したい欲求は魂からあふれ出てくる。銀蠅に対する憎悪と同程度にな」

 

「フン、私を殺せぬどころか、『生かす』――つまり守護する縛りを結んだ口で何を言う。せいぜい私を生かしてもらうぞ」

 

「その縛りになったのも銀蠅のせいだ。あのクソアマ……お前も銀蠅も、8年後、生きていられると思うなよ」

 

 大人しく座っていた智礼が口を挟む。

 

「あの、あくま様……今日は私の話じゃなかったの?」

 

「ああ、そうだったね!ごめんね智礼ちゃん!……という訳でだ。今日はこの子の養子縁組についての話だ。とりあえず術師として俺たちで育てて4年で"炳"並みになったのは良いが、ここは女児を育てる環境じゃない。15なら高専に通わせればいいんだが……呪術師に理解があってかつ呪術師稼業を押し付けない家、どこか無いのか?」

 

 扇は額に青筋を浮かべて、子供の頭をなでる山羊頭の怪物に怒鳴る。

 

「そんなもの、私が、知るか!!」

 

「では上司殿。希依子さんはどこか知らないか?」

 

 扇の隣に立っていた希依子にも尋ねる山羊頭。

 

「いえ、私も特に……、あ、そういえば。東北の田舎の方にそんな家があったようななかったような」

 

「田舎か……田舎はあんまり良いイメージないんだよな……ちなみに、その家の名前は?」

 

「確か、釘崎家とか…古典的な術式を使っていて楽巌寺先生から絶賛されていたのが記憶に残っていました」

 

「そ れ だ。最強の女児育成環境に間違いない。俺が言うんだから間違いない。そこに今すぐ打診してくれ。いやしろ」

 

「は、はぁ……了解しました」

 

 

 

 

 

 

 光陰矢の如し。時が過ぎていく。

 

「あぁああああ!!!生年月日まで一致させねぇと呪術的同一人物にはならねぇのか!!!クソ!どうすりゃいいんだよこの産廃共……殺すのも勿体ないし……」

 

「『失楽園(ファラウトペリダイ)』の本質はただの奈落の落とし穴じゃねぇ。異戒(ディバージェント・シラ)への接続にあったんだ」

 

「みなさんへのお目々の配布も終わったことですし。そろそろ公に我々を認めさせなければなりません」

 

 

 

 そして、1999年7月。かの予言の実現と同時に、堰き留めた運命が、決壊する。

 




ケンズルー→ハンタのゲンスルー
ミミクリスカイツリー→ペニクリスカイツリー→AMEMIYA→アマミヤ先生
上十二単村→察せ

修正
野薔薇家→釘崎家


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いのちのかがやき

(ほぼ)オリ術師三人程登場します
あとツイッター始めました
@EliElilema2
久々の執筆&一週間で書き上げたのでクオリティ低下注意
改行の塩梅を忘れた


 1999年、5月。御三家当主会議。

 現当主三人とも着物を着て、薄暗い和室で話をしている。

 

「想定される特級呪霊の大規模祓除部隊の一人に五条悟を、だと!?六眼とは言え、まだ9歳の子供だぞ!?正気か貴様、何を企んでいる」

 

 弥生人のような髪型をしている男が言う。

 

「ああ、正気だ。9歳だからこそ、特級呪霊の力をその目で見ることは貴重な経験になることだろう。強さの天井を見ることは、今後に大きな影響を与える」

 

 髪を後ろに結び、刀を佩く男が言う。

 

「薄っぺらい建前を……ウチの、大切な大切な孫をどうする気だ?ここ十年で成長しているとはいえ、六眼が生まれたという意味を軽く見すぎではないか?」

 

 白髪の美壮年が言う。

 

 三者三様、喧々諤々。論と論が、要求と要求がぶつかり、妥協をし、それを覆す。

 

「……ふむ。なるほど。ウチの"仄"。それを特級呪霊討伐部隊の別動隊として動かす、という条件でいいんだな?良いだろう」

 

「……その条件なら良いだろう」

 

「仕方無い……!」

 

 刀を佩く男が言った言葉で、意見のぶつかり合いに終止符が打たれた。

 彼らの腹の内は、方向性は違えど同じ。「潜在的敵対勢力である他家の手札を見たい」それだけだ。

 しかしそれだけの、欲の少ないとも言える思惑によって、運命は転がり、他者を巻き込み、大きくなってゆく。

 

 

 

「で、そんな上の人間の都合で楽しい夏休み中の俺の予定を潰されたわけだけど、どう思う?」

 

「はい悟坊ちゃま。上層部の人間は人間の屑にございます!5年前坊ちゃまのお部屋に侵入した変質者も見つかっていないというのに……」

 

「その話はもう良いよ、累。まだ若いのにボケちゃったのかよ」

 

「悟坊ちゃまはあの事件の重大性を理解しておりません!白昼堂々、防御結界には穴が空き、呪力感知にも引っかからず、誰にも気づかれずに坊ちゃまの部屋にたどり着き逃げおおせたのですよ!どれだけ異常なことか理解しておいでですか!」

 

「でも五年前の話だろ?今の俺だったら負けないよ。もう術式が使えるんだ。この俺の無敵バリア、無下限呪法様が、な」

 

「しかし坊ちゃま、400年前には同じ六眼持ちの無下限使いが禪院の」

 

「それももう聞いた。同じ話何度も繰り返さないでよ。家の人間はボギャ貧で困る」

※ボギャ貧は1998年の流行語大賞

 

「受け継がれた話というのは最近の流行よりはるかに価値が……」

 

 そのような話をしている五条悟とその乳母を少し離れた場所から一瞥する集団があった。

 

「ケッ、ガキの見学会かよ……俺たち術師はお守りかよ、特級呪霊の祓除だってのに、あんなの守る余裕あんのか?」

 

「俺たちの累様があんなクソガキのお守りだなんて……いくら出世だとしても祝えねぇよ」

 

「ま、半隠居してた特級術師様が来てるんだろ?そいつに任せとけばいいじゃねぇか」

 

「おいおい、知らんのか。野菊様は基本裏方だぞ?前衛は俺たちだからな」

 

「ゲェッ、マジかぁ」

 

 御三家の術師、それも若い術師だ。

 自分の手の内を他家に晒したくないという御三家幹部の意図。そしてチームワークに支障が出ない範囲でしか家の確執に染まっていない若さ。その二つが理由となって御三家からは若い術師の即席チームが派遣された。

 そのチームの中には、分家や遠縁の人間も含まれている。当然、呪術高専の生徒の一部も、だ。

 

「おい、冥!お前は釣られて湧いてくる有象無象共の索敵!まだ学生なんだから野菊様のとこに下がっとけ!」

 

「了解です、雇い主様の部下様……ですが、そろそろ来ますよ」

 

 ここは東京、"帳"の降ろされた新宿御苑。日付が変わるころ。昏く淀んだ負の情念が、終末思想を核にして凝集し、積み重なって形を成す。

 

「予測的中、御苑の西側に特級呪霊が発生しました。四乃様御手柄、とお伝えください」

 

 冥冥が通信機を使って野菊のいる特級呪霊討伐部隊本部に連絡する。

 

「ええ、はい、なるほど……四乃様からの伝言です。まずは"仄"をぶつけさせるから様子を見よ、とのこと」

 

「呪霊には呪霊をぶつけて削るっつーことだな」

 

「ええ、それで特級呪霊が祓えたら御の字、祓えなくとも削れれば良し、ということになります……来ましたね。"仄"、そしてその管理長、禪院希依子」

 

 "仄"らが吠える。叫ぶ。啼く。山羊頭の、西洋悪魔を彷彿とさせる二足歩行の呪霊を筆頭に、時計が埋め込まれた蠢き拍動する心臓の集合体、長い首と美女の顔を持つ大型人面犬、など7体の呪霊が現れる。後ろから監視する、というよりついてくるといった方が的確だろうか、薙刀を持つ女性、集団唯一の人間が最後に現れる。

 

「行きなさい、あなたたち」

 

 その言葉を皮切りに、"仄"が動き始める。呪力を練り始めるもの、特級呪霊に近づくもの、周囲を警戒するもの。各々任務を全うすべく行動し始めた。

 

【仄】禪院家特務部隊、特別作戦【特級討伐】

1:子供部屋あくま

という訳で人間の前でたわごと以外の人語喋ったらまずいので、掲示板で連携を取ります。

必ずハンネを明記しなさい

 

2:ワン・ロク・ロック

先手撃つで、騒音注意。

 

3:チクタクボム

チィ、アレうるせぇンだよな

 

4:ゴリラ六臂

ワンロクさんの音波攻撃命中、近接行きます。

 

5:馬面ライダーどしたん

同じくいくで~

 

6:ゴリラ六臂

ん?なんかデカい門が出てk

 

7:馬面ライダーどしたん

やばい座れr

 

8:子供部屋あくま

退避

 

9:子供部屋あくま

それと今後は基本はハンドサイン

バレる可能性もあるが掲示板会話まどろっこしすぎ

細かい説明の時のみ掲示板を使う

一応総合掲示板の方にも詳細を連絡しておく

 

10:チクタクボム

了解

 

11:ワン・ロク・ロック

おけ

 

 

 

 

 強風、否、暴風とすら表現できる風が新宿御苑に吹き荒れる。御苑中心に向かう風で木の枝や落ち葉は浚われ、中心部では根っこごと木が抜けて"門"に吸収されている。

 そう、門である。ダンテの地獄門を彷彿とさせる意匠と、金属光沢のある水色を持つ高さと幅が20mほどの門が現れていた。

 遠目からも分かるその巨大な門。その奥には赤い荒野が見える。

 

 裁屠が希依子に目配せし、希依子は他の術師に告げる。

 

「アレが特級呪霊『恐怖之大王』!おそらく火星を模した領域と地球を接続する門を作り、気圧差による暴風を引き起こしています!吸い込まれると帰ってこられなくなると推測!全員帳の端まで退避!」

 

 "仄"らが退くのに一瞬遅れて、五条累に抱えられた五条悟と若い術師らは、暴風の影響が少ない御苑外縁部に避難する。

 

「へぇ~、アレが特級か。惑星間転移はすごいけど、それ以外はショボいな」

 

「坊ちゃま?あれはあくまで火星を模した領域であって火星そのものではなく……もしや、本当に、火星に繋がっているのですか?」

 

「見てわかんないのは不便だな。この帳はパッと見空気を遮断するタイプ、火星に空気を吸われてすぐに窒息するよ?」

 

 累は冷や汗をかき、聞き耳を立てていた冥冥にその旨を本部に伝えさせ、呪力を練り始める。

 

「冥殿。少し坊ちゃまを預けます。追加給金は100で。くれぐれもお怪我をさせないよう」

 

「承知しました」

 

 累は懐からのど飴ほどの大きさの白い塊を数十とりだし、それに一つ一つ呪力を籠めては、一歩ずつ歩きながら地面に埋めていく。

 五十個ほど地面に埋め込み、それが終わったら印を組んで呪力をさらに高める。数秒ほどでピークに達した呪力は、そのすべてが地面に流れ込み、

 

「竜牙兵団、極の番。"竜骨"」

 

 囁くように呟かれた宣言と共に、白い塊を埋めた地面周囲の土が木々を巻き込んで隆起する。

 

「皆さん、下がりなさい」

 

 土や木々が体長30mほどの、翼のない西洋型の竜――大きさも相まってまるでゴジラだ――を象っていく。その首の部分に自分を首だけ出して体を埋め込ませ、土の竜と一体化した累は門に突進する。

 

 吸い風を追い風に変えて加速し、尾の一撃を門に食らわせるが門には僅かにしか傷つかなかった。むしろ尻尾の方が爆散する始末であった。

 

「ッウ~!硬すぎんだろ!どんな"縛り"で硬度上げてんだよ!」

 

 攻撃が失敗し、背中から門に吸い込まれそうになる土の竜。しかし土の竜は門よりやや大きく、吸い込まれずに済んだ。

 

(これで多少の時間稼ぎにはなるか?この門の硬さの種も調べなければ……)

 

 五感を研ぎ澄ませる累。そしてその耳に、暴風の轟音の中で声を耳にした。

 

「我ラガ偉大ナル王、終末ヲ望ム諸王ノ王ヲ迎エルタメノ門ニ、ヨクモ傷ヲ付ケテクレタナ」

 

 門の裏からしたかすかな声が耳に入った。その内容はほとんど累にはわからなかったが、それでも問題はない。

 

(門は呪霊ではなく術式!術者が門の裏にいる!)

 

「そこかァ!」

 

 累は竜の首を門の裏側に回し、体内の手頃な石を呪力で強化して射出する。

 

 だがその石は1m²ほどの門を開かれてその中に吸引された。しかし、土の竜は門をつかんで何とか裏に回る。門の裏は暴風ではなく強風と言える程度に風は収まっており、累も全力を出せそうだ。

 

「潰れて死ね!」

 

 土の竜はバオバブの木ほどの太さの足で恐怖之大王を踏みつぶそうとするが、それも縦横4mほどの門を開いて吸い込む。足が門に嵌った。

 即座に門は消失させられ、土の竜の足は引きちぎられる。"縛り"によって痛覚が累にフィードバックした。

 

「ッツ、アアア!私は!悟坊ちゃまを守るために!この年で総入れ歯になった女ァ!この程度で……ゼェ、ハァ」

 

 空気が薄くなり、息がかなり苦しいことを累は痛みによって冷や水を掛けられた頭で理解する。

 冷静になった頭で恐怖之大王を見据える。剥げた頭に三つ目、王冠のように頭に角が生えている矮躯の人型の呪霊だ。

 

(まずい!すぐに祓わないと酸欠で気絶して、そして死ぬ!無下限の内側に空気を貯めこんでいる坊ちゃま以外、全員!)

 

「……これで決める」

 

 累が選択したのは低空タックル。門で頭をはめ込んで防がれ、その門も消失し、累の頸部と脳内含む頭部に激痛が走る。

 

「ッッッ~~!!!アアアアアアアアアア!」

 

 ショック死してもおかしくない、どころか、非術師や経験の浅い術師なら確実にショック死している痛み。

 それでも彼女は生きて、走り続けている。入れ歯は瞬時に砕け、歯茎と歯茎で噛みしめている状態だ。

 首を失っても、本体である累が死なない限り、土の竜、"竜骨"は止まらない。

 累は大量の鼻血を垂れ流し、右目の視界が欠損――激痛に脳が耐え切れず視床の細胞の一部が破壊された――して、それでも竜を走らせる。

 

 恐怖之大王は、怯えた目で累を見つめ、しゃがんで上下左右前後六方を火星に続く小さな門で覆った。一見、完全なる防御に見える。

 

 だが。

「|すぐに゛じっぞくずる!もんのあいだにすきばをあげればわたじがづちをながじこぶ!《すぐに窒息する!門の間に隙間をあければ私が土を流し込む!》」

 

 土の竜はその門の匣を抱きしめ、一片の隙間もないように塞ぐ。核である累本人は消し飛ばされた頸部断面に移動する。

 

「カヒュー、ゼェ、ハァ、これで……」

 

 その直後。

 ぞわり、と。最初に開いていた大きな門から、圧倒的な呪力の気配が溢れ出す。今まで気づかなかったのが不思議な位の悍ましさ。

 

『だいぶ門が小さくなっているな。使いすぎたか?恐怖の奴……まあ良い』

 

 それと同時に、帳が上がる。酸欠に耐えかねた術師の一人が帳に触れたのだ。新鮮な空気が新宿御苑内に流れ込む。

 

 門から一歩、その特級呪霊が出て、それが腕を振るうと出てきた門が砕けた。

 

 

 

 中心部から離れていた術師や呪霊、また本部の術師らもその悍ましい呪力に気づき、逃げる多数と駆け付ける少数に分かれる。

 

 当然、冥冥と五条悟は「逃げる多数」側に分類される……と冥冥自身はそう思っていた。

 

「悟様、逃げますよ」

 

 だが、五条悟は六眼で五条累の著しい衰弱を知覚する。

 

「いや、俺は行く。累がヤバい」

 

「ひゃくま……悟様!困ります!私の任務は」

 

「わかってる、それでも行かなきゃ。俺ならどうにか出来るかもしれない」

 

 ここに累がいれば、初めての任務で特級は無理だ、と諭したのだろう。だが冥冥と五条悟はこれが初対面である。そこまでの仲ではなく、故に止める説得方法を持たなかった。

 

 五条悟はその足で冥冥を振り切って駆ける。彼はまだ術式順転"蒼"を使えない。当然それによる疑似的瞬間移動もだ。だからこそ、ただの呪力で強化した足で駆けるしかない。

 

 その五条悟を追い抜く術師がいた。駆け付ける少数のうち二人と一体。特級術師釘崎野菊と、一級術師湊千尋とその式神。それぞれ、近い将来とある人物の祖母となる術師である。

 

「おい!五条の坊!乗るか?」

 

 湊千尋の式神は人間の腰ほどの体長で、一頭身の太い両腕を持つ鬼のような見た目であり、五条悟が湊の問いかけにうなづくと攫うように鬼はその腕で悟の襟首をつかみ、そのまま走っていく。

 

「私のひゃくまんえん……行っちゃった……」

 

 置いてけぼりになった冥冥は、せめて烏だけでもその後を追わせる。

 

 

 

 五条悟と二人と一体は、門から出た特級呪霊を視界にいれる。

 

 土の竜が変化した丘の上にいるその特級呪霊は、五条累を踏みつけにしていた。

 

 体長は二メートル半ばほどの筋骨隆々とした人型。首はなく、真球にアンテナのような棘をはやした物体が胴体の垂直上に浮いている。体色は銀灰色で、夜光塗料のような色合いの緑の紋様が刻まれている。

 

 それを視界に入れた瞬間、悟は走り寄る。大人二人に静止されかけるが、無下限で弾いて駆ける。

 

「思いとどまれ!あんたは呪術界の希望、たかが一級術師の命より大事なんじゃ」

「自分の価値を認識しろ!五条の坊!」

 

「そんなこと俺が知るかよッ、オオオオ!」

 

 彼は特級呪霊に吶喊する。

 

『ほう、向かってくるか、幼き子よ。我は終末の使者、黙示録の具現。アンゴルモアである。世界の終わりに歯向かう覚悟があれば、それもまた人間の勇気であろう。そなたは勇者なりや?』

 

「下らねぇ御託並べて、俺の付き人を足蹴にしてんじゃねぇぞ、無礼者がァ!」

 

 "蒼"には至らなくとも、無下限を広げて自身の体積を疑似的に拡張し、突撃する五条悟。だが、アンゴルモアは避けず、両手を突き出して五条悟の無限と衝突した。

 

 五条の無限と呪霊の膂力が競り合う。だが、その競り合いにアンゴルモアが退くまいと踏ん張ることで、その足で踏みつけられている累の骨には呪力で強化しても罅が入る。

 

 それに気づいた悟は無下限の出力を弱めてしまい、その隙にアンゴルモアは累を空高く放り投げる。

 

『これで邪魔はなくなった。さて、勇者よ。アンゴルモアの魔王が相手をしよう。正々堂々、一騎……どこへ行く?』

 

 五条悟の溢れる怒りと呪力を無下限呪術が吸収し、彼を宙に浮かせる。地面と彼の距離を確保しているだけのため、前後左右の移動は出来ないが、それでも宙高く舞い、空中で落下し始めた五条累に手を伸ばす。

 アンゴルモアは五条悟の上昇を防ごうとするが、無下限に遮られ、湊千尋の式神の体当たりを食らう。無論、一頭身の式神の突進程度ではアンゴルモアはびくともしない。

 

 自由落下と等速上昇、横方向の変位は5mほど。そのままではすれ違うだけで悟の手は届かない。

 そのため、死に体の累は術式を励起させ、丘から生やした土の腕で悟と累を掬おうとする。

 

 だが、アンゴルモアの頭部のアンテナから放たれた光線に累は触れ、その瞬間、土の腕が崩れ落ちた。

 

『ああ、言い忘れていた。私の放つ光は生得術式や術式効果の一部を変異させ、欠陥(バグ)を生む』

 

 湊千尋の式神をその場から一歩も動かず軽くあしらいながらアンゴルモアはそう言い放った。

 

 術式のバグにより呪力が乱れ身体強化もうまくいかない五条累は、自分の死を悟り、五条悟とすれ違う瞬間に囁いた。

 

「忘れないで」

 

 自由落下により加速した累は、自由落下を始めた悟よりも圧倒的に早く、頭から地面に衝突した。土とは言え、累自身の術式で圧縮された硬い地面を、術式の欠陥により柔らかく戻すことが出来ず、頭蓋骨が割れて脳漿がはみ出ている。

 

 地面に触れる直前に自身の速度を0に戻した悟は落下によりダメージを負うことはなく、累の遺骸に駆け寄ろうとするも、湊千尋の式神を粉砕したアンゴルモアが立ちふさがった。

 

『どうした。魔王と勇者の、世界の命運を決める一騎打ちはまだまだこれからだろう?』

 

「何が、世界だ。何が、勇者だ。何が、希望だよ。全部、全部腐ってんだよ。……だから」

 

 壊してやる、その言葉を紡ごうとして。 突如颶風が目の前を通り過ぎる。

 

「よっと……おい。着いたぞ」

 

 颶風の正体は、かつて禪院直毘人と呼ばれていた男。やせ細り、しかし目の輝きは研ぎ澄まされている。

 男は手に持っていたスーツケースを開いてその場に置き、再度颶風と化して消えた。

 

 あまりにも奇妙な状況にアンゴルモアも五条悟も一瞬思考と動きが止まる。

 

 スーツケースの中に入っていたのは、頭髪の無い裸の女の人体。それも、物理学上は可能だが医学上誤った形で折りたたまれていた。

 その人体が自らスーツケースから這い出し、自分の体を数瞬のうちに医学的に正しく展開していく。そして滑らかな銀の長髪を()()し、裸体も分泌した銀の液体で覆う。

 

 アンゴルモアに背を向け、銀色の悪魔は笑みを浮かべる。

 

「助けて、あげようか?」

 

 




銀色の悪魔、一体何蠅さんなんだ……

恐怖之大王の術式、「煉獄門」
火星への直通ゲートを開く。直通ゲートには最大面積が決まっており、二つ三つと出せばその使用した面積分小さくなる。一度使用した面積は門を消しても二度と回復しない。

アンゴルモア 終末思想やら2000年問題やら核戦争への恐怖やら世界的不況やらがごっちゃになって「人類これマジで将来的に絶滅するんじゃね?」っていう危惧の感情が呪霊となって具現化した存在。術式については次回解説

五条累
「五条悟を甘やかす会」創設者。術式は「竜牙兵団」、自分の歯を埋め込んだ物質(自然の地形に限る)を、歯を核にした人間大の呪骸の素材として転用する呪術。傀儡操術の派生だったりじゃなかったり。極の番、"竜骨"は乳歯+永久歯の手持ちのすべてをぶっぱして一つの呪骸を作る。核は分散されており、3つの核どころか50以上の核をすべて潰さなければ完全には停止しない。ただし術者本体と所詮は土なので圧縮しようが強度に欠けるというところが弱点なので特級にはなれず(国家転覆できない)。竜骨は呪骸に憑依する的な逆イタコ要素も含んでる。

五条悟(9)
無下限バリアしか使えない幼児的万能感の溢れるクソガキ。六眼のため「一応」特級。格闘センスもその矮躯では活かせない。

ばーちゃん二人は次回解説。


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銀蠅:オリジン&裁屠:ライジング

冒頭に政治思想的表現、また陰謀論的表現が若干含まれます。
これらに耐性の無い方はブラウザバックをお願いします。
前世銀蠅の思想に対して筆者は(少なくとも作中では)肯定も否定もしていないつもりです。他人の褌(二次創作)でそんな真似できるかっての。

お気に入り200件越えありがとうございます。


 水銀妖精、銀蠅の前世は産婦人科医だった。

 それも、かなり裏の稼業としての、堕胎専門の医者。免許の剥奪は免れていたため闇医者ではないが、やっていることは違法そのもの。

 父親に無断での堕胎は当然、違法である受精23週以降の堕胎や、生まれた後に障害を持つ嬰児を縊り殺すことすら請け負っていた。

 安価な料金で堕胎を請け負っていたからか、秘密を厳守するという噂故か、少なくない数の女性が彼女の元にやってきて、違法な堕胎や嬰児殺しを依頼し、感謝の言葉を口にして去っていった。

 依頼する理由は様々。経済的な理由、学業や仕事に支障が出るから、性被害を公表できない、知識不足で合法的な堕胎の時期を逃した、気が変わった、など。理由を問わず、銀蠅の前世は依頼を受けた。

 自己決定権原理主義者(過激派プロチョイス)教義(ドグマ)にこういうものがある。

 『胎児は自分の肉体の一部に過ぎない。盲腸と同じ価値しかない』

 当時の彼女はこの教えを本気で信じていた。そしてその教えに基づく行動を起こせる知識と技術と度胸があったため、裏の世界の人間になったのだ。

 

 当然保険も適用できず、安価な依頼料しかとらずにやっていける筈もない。銀蠅は苦渋の決断として、胎児と嬰児の遺骸を食人愛好者(カニバリスト)に秘密裏に売却することにした。

 最初から狂っていたのは事実かもしれない。しかし、食人愛好者の影響によって彼女の狂気は進行していった。

 彼女と取引する食人愛好者のグループは上流階級の人間に占められており、彼らは選民思想モドキとも言える富裕層至上主義を持っていた。

 医師であり常人以上の知能を持ち、接するうちに彼らのロジックを深く理解してしまったのが致命的だったのだろう、彼女は一つの結論に至った。

 『私の行為は社会にとっての害や悪や弱さの種を取り除く聖なる選別である』と。

 そしてより大規模に、より効率化させた堕胎組織を作ろうと画策し、食人愛好者らのコネクションでその構成員がそろった夜。

 彼女は組織結成パーティーで胎児の肉を初めて口にした。胃の中にそれが入った直後、唐突に正気と罪悪感が彼女を襲う。いや、彼女にとっては一時の気の迷いに過ぎなかったのだろうが。

 パーティーを抜け出し、自分の所業を一切合切世間に暴露したい衝動に駆られ、警察署に駆け込もうとして走る道で、トラックに撥ねられ……彼女は水銀妖精となる。

 

 転生担当神と呼ばれる存在は彼女に伝えた。

 

「あなたは多くの人を救った。そして多くの悪をも為した。それを対消滅させればちょうど善人にも悪人にもなれない凡骨のクズと同程度の業になるでしょう。対消滅で発生したエネルギーはあなたの来世の力に転換してあげます」

 

 転生後も、彼女は多くの禁忌に手を染め、多くを殺した。人間を誑かし、騙し、殺す呪霊の本能に忠実に。死の直前に正気に目覚めたのは一時的な症状だったのか、それとも呪霊になったことで元に戻ったのか。

 しかしその片手間で、呪術師の真似事もしていた。呪術廻戦が彼女の心の癒しだったこともあり、呪術師という存在に憧れていたことも理由としてはあるのだろうが、前世の「社会にとっての害や悪を取り除く」と一致する呪術師の仕事を前世の自分に重ねていたのだろう。転生者を含む危険な呪霊を祓い、呪詛師を殺し、非術者の重犯罪者も攫って他の呪霊に食い殺させる。今世でも食人者の手助けをしているのは皮肉な運命だと半ば自嘲していた。

 

 そんな日々を送りながら、自分のポテンシャルの引き出しと呪術の研究に時間を費やしていた彼女が、10年の月日を経て遂に五条悟に対面する。

 

「助けて あげようか?」

 

「誰、いや何だお前。お前の助けなんか要らねぇよ。こいつは俺が祓う(ころす)

 

「9歳で特級討伐なんていくら五条悟でも……いや、出来るかもね?でも危険だよ?」

 

『貴様は何者だ。魔王と勇者の対峙の邪魔をするな!』

 

「お前こそ、10年来の運命の出会いを邪魔するなよ、アンゴルモア。()()()()()()()

 

 アンゴルモアと五条悟の間に銀蠅が立ち、背を向けながらアンゴルモアを煽る。

 

『邪魔をするなら、容赦はしない』

 

 アンゴルモアは頭のアンテナを光らせ、そこから光線を発射する。だが発射直前に銀蠅は水銀の盾、否、鏡を生成して防御した。

 

「事前に予想は出来てたけど、やっぱりか。分厚い重金属によって遮られるみたい。あなたの術式のモチーフは『核』、現代で世界の終わりといえば核戦争のことを指すからね」

 

『むぅ、ならば直接殴ッ』

 

「肉の盾~」

 

 腰から銀色の翅を生やし、空を舞って五条悟の後ろに隠れる。五条悟はアンゴルモアの拳を無下限で受け止めた。

 

「と、相性抜群みたいだけど、どうする?」

 

「お前、呪骸、いや呪霊か?ともかく人間じゃねぇだろ。信用できねぇんだよ。俺とババア二人でやる」

 

「うーん、そっかそっか。じゃあ私は引っ込んでるね」

 

 やけに素直に引っ込み、空を飛んで身を引く銀蠅と入れ替わりに、壮年の女性二人がアンゴルモアと五条悟の間に割って入る。

 

 湊千尋が叫ぶ。

 

「ガキの身代わりになるのはジジババの使命なんだよ!引っ込んでろ五条悟!」

 

 釘崎野菊が呟く。

 

「娘が結婚したばかりでな。死ぬ気はさらさらないが、六眼を守るためならこの婆の腕の一本や二本、惜しくはないわ」

 

 五条悟が吼える。

 

「身内を殺されて黙ってられるかよ……!俺もやる、防御は任せろ。重金属で防げるなら無限で防げない道理はねぇ」

 

 湊千尋が式神を復活させて、拳を頬に当て、手の甲を相手に見せる。ピーカブースタイルのファイティングポーズ、というよりは。

 歴史上数少ない西洋呪術師の一人にして体系的オカルトの伝道師、アレイスター・クロウリーのポーズである。

 

「"闇より出でて闇へと帰れ 全ての男女は星である"」

 

 "帳"――に似て非なる結界が降ろされる。それを黙って見つめるアンゴルモア。

 その結界は、夜の星空を再現したものに見える。しかしその夜空は、既存のどの星図にも当てはまらない星の配置をしていた。

 

「"幻夜守鬼"、星辰の配置によってどんな姿にも変身する変幻自在の式神。そしてその配置は"星帳"によって再現することでも有効」

 

 術式の開示。さらに呪力を増した湊千尋は、式神を変身させる。

 

『オオオォオオ!』

 

 式神、幻夜守鬼の足は根に、頭は幹に、腕は枝葉に変化する。それは一本の肉の塔。三つの瞳で全方位を睨む、鬼というより邪神の化身がそこにはいた。

 

「幻夜守鬼・砲撃特化形態"燃え上がる三眼"。全力で制圧射撃!」

 

 術者の呪力だけではなく、大気に漂う呪力、地中深くに流れている呪力も吸い上げ、呪力の砲撃に変えてアンゴルモアに向けて射出していく。

 

 その間、釘崎野菊は五条悟に注射針のような小さな針を渡していた。

 

「この針を体に刺して、針から流れてくるエネルギーを受け入れるんじゃ。そうすれば肉体が再生する」

 

「大した呪具じゃないな。術式か?」

 

「ああ、古典的な芻霊呪法じゃよ。繋げた縁を通して遠くに呪力を流し込む。私が流し込んどるのは呪力ではなく反転術式で作ったエネルギーじゃがの。幻夜守鬼にもサイズ違いを持たせた、あれをアイツに刺せばザ・エンドじゃ」

 

 遠隔で行う反転術式。つまり、不死身の兵隊を作れるということ。

 単なる呪力を流し込むこともできるため、首輪としても機能する針。本来は針を心臓の近くに埋め込み、生かした呪詛師を奴隷として同時に複数特攻させる手法で数多くの一級・特級呪霊を祓ってきた。

 その力と行動を危険視した日本政府と呪術総監部によって特級指定された彼女は、所有する奴隷部隊を奪われ、純粋な治癒要員としてのみ運用されることになる。

 

 アンゴルモアは呪力の砲撃に目を細める程度でダメージを受ける様子はなく、一歩ずつ様子を見るように近づいている。反転術式に気づいた様子はない。

 

『さて、そろそろ逝こう』

 

 アンゴルモアが、地面を蹴って三人に向かう。

 

 

 

 

 

 

 一方帳の外。銀蠅は帳が下りる前に脱出し、その周囲を浮遊している。

 

 そこに現場に来ていた"仄"のうち、一級呪霊クラスの三体と禪院希依子が姿を現す。

 

「よう、水銀妖精。殺しに来たぜ」

「……、何しにきたの?あくま君。それとこっち(リアル)では銀蠅って呼んで欲しいなぁ」

 

「殺しに来たと言ってんだろ。■■■■■(原作キャラ)に名前付けられるだけじゃ飽き足らず、首輪まで付けて喜びやがって。お前ら『同盟』どもの鬼畜の所業は自分から晒してるじゃねぇか。それで許されると思ってんのか?」

 

 裁屠はじりじりと退く。言葉とは裏腹に、怯えるように体を震わせながら。

 

「へぇ~……呪霊に成り下がったクズのくせに、あくま君もそういうの気にするんだ。じゃあ今私がしようとしてることも分かってるってことかな?」

 

 銀蠅は水銀を精製し、腹を裂いて義体の内部から眼球ほどの大きさの黒く奇妙な球体を一つずつ取り出しつつ、裁屠を追う。

 

「五条悟にアンゴルモアをぶつけて、消耗した隙に何かしようって魂胆だろ?その程度で五条悟が削れるかどうか知らないがな」

 

正解(エサクタ)!消耗した五条悟と縛りを結んで無敵奴隷を作るんだよォ!ぐへへ、自由で最強な推しは原作でもう見たし、味変で隷属して怯えた推しを愛でたいんだよねぇ」

 

「屑が……。悪質さでは■■(羂索)以上だな。お前は今日、俺が、俺たちが殺す。ゲロビ猿さんが最初の被害者だったよな。お前の犠牲を顧みない態度と冒涜的な我儘が原因で何人の同胞が死んだと思ってる。実戦経験を積むために理性のある呪霊を誑かして暴走させてから殺してるのも知ってる。今じゃ五百人と少ししかいない同胞をこれ以上減らしてたまるか」

 

「えぇ~?そんなこと言われても困るなぁ。それに君だって智礼ちゃん以外の人間は死んでも構わないと思ってるでしょ。私のこと批判できる立場にない。」

 

(ハマった!)

 地面に円状の呪力が突如発生し、裁屠の術式が発動する。それから逃れようとした銀蠅にナイフ型の一級呪具を複数投擲して回避を妨害する。義体の重りによって速度が落ちている銀蠅はどちらかを食らうことを選択しなければならない。

 銀蠅は一級呪具の未知の術式効果を警戒し、既知の裁屠の術式を選ぶ。

 

「人間は人間が守ればいい。俺たちは俺たちで守る。そして俺たちの害となるお前を許さない!『失楽園(ファラウトペリダイ)』、拡張術式『昇獄(ライジンヘル)』」

 

 円の内部の地面が、奈落の底に置換される。それと同時に拡張術式によって、穴の側面の結界が地面の上にも拡張されて銀蠅を閉じ込める筒状の結界となる。ナイフは躱され、結界にぶつかりそのまま落下する。

 

「何が『許さない!キリッ』だよ。落とし穴は飛行タイプには効かないって……落とし穴だけじゃないね。出られない結界?10年前のとは少し違うな」

 

(あの黒い石が何かはわからない。だが油断してこれを食らってくれた。これで、あと数分待つだけで終わりだ)

 

 その数分を早めるために術式を開示する。

 

「『失楽園』の底はどうなっている?どこと繋がっている?俺はそれをずっと疑問に思っていた。試しに低級の呪物や呪具を底に落としてみたら、穴の底から飛んできたのはどこか神々しさをもつ複数の小人だった。最初は呪霊だと思ったが、適当に傷つけても再生しないし、その癖どうやら呪力切れや体力切れという概念が無いらしくいつまでも俺に襲い掛かろうとしてきて厄介だったよ。これは何だ?と思って色々検証して、一つの結論に至った。これは一種の異戒存在(ディバージェント・シラ・ワンズ)だってな。俺の術式は、穴の底に落とした呪力のあるモノを代償にして、異戒からそれ相応の異戒存在を呼び寄せる能力」

ABRACADABRA

ABRACADABR

ABRACADAB

ABRACADA

ABRACAD

ABRACA

ABRAC

ABRA

ABR

AB

A

『ABRACADABRA summon from abyss 異戒天将(divergent sila heavenly general)華流螺(garuda)

 

 一つ目の鷹頭と四枚の翼に人間の男性の胴体と四肢、そして鏃が暖かな光を放つ弓矢を持つ天将が四体、奈落から羽ばたいてきて、矢を放つ。

 

「決まりだ」

 

 矢は音速を軽く超越し、衝撃波を放ちながら銀蠅に迫る……が、それは突如発生した()()()()に叩き落された。

 

「へぇ……異戒、ね。私以外の転生者呪霊でその結論に至ったのは君だけじゃないかな。見直したよ。私はまだ接続に成功してはいないんだけどね。異戒神将魔虚羅、■■■■(坐殺博徒)の大当たりに、フィジカルギフテッド。知ってる?呪力は魂の汗だから、保存則があるんだけど、この三つは明らかにそれを破ってる。じゃあどこからエネルギーを持ってきたのか。法則が異なる別世界しかないよね。異戒を解明すれば、私は元の世界に戻れるかもしれない。神が許さず、悪魔が許さず、人々が許さなかろうが。待つ人間が居なかろうが。私はこの世界から帰る。さんざん遊んでもう飽きたってのもあるしね。だからこそ、五条悟を手に入れなければならないんだよ」

 

「何を……何を言ってる?何をした?」

 

 筒状の結界には黒い閃光の炸裂によって罅が入っている。さらに黒い閃光がいくつも瞬き、その結果完全に『昇獄』による結界が崩された。

 

 穴から、黒い閃光によって負傷したが、距離があったため生き延びた華流螺が飛び出し、銀蠅と裁屠、そして他の"仄"のメンバーの区別なく弓矢を番え狙って放とうとする。

 

「クソッ!呪霊はアレに当たれば死ぬぞ!チクタクは爆風で逸らせ!ワンロクは最大音量で相手の三半規管を壊しつつ希依子さん背負って逃げろ!」

 

(失敗した失敗した失敗した!あの結界が破られる訳が無いと思っていた!水銀を操る術式で破れる訳が無いと!誤算ってレベルじゃねぇぞ!推しのクローンを平気で作るバケモノがその程度で満足するはずがなかったんだ!)

 

 音速を越える矢を、時計盤が付き拍動する心臓のようなチクタクロックの肉体の部位が投げられ爆ぜた爆風で逸らし速度を緩める。さらに裁屠が蝙蝠の羽に呪力を籠めて羽ばたきその風によって矢を散らす。

 

 もう一度矢を番えようとする華流螺らのうち一体は、黒い塊を投げられそこから溢れた閃光が瞬き消滅する。二体はワン・ロク・ロックの叫び声(シャウト)が直撃し、平衡感覚を崩し地面に墜落。最後の一体はシャウトに耐えて裁屠に矢を放った。

 

「だぁあああ!」

 

 音速とは言え遠距離から来ることが分かっている一撃、一か八か額に手を構え白刃取りならぬ白矢取りを試み、成功した。

 

 矢は呪力で具現化した物質のため消失する。もう一射を番って放とうとする空中の華流螺を無視し、素早く地面に落下した二体の華流螺の喉笛を裂き首の骨を折る。意外と脆いのだろうか。

 

 もう一射が放たれる直前、裁屠は尾の先端を切り地面に血で円を描く。その円の中にいて術式を発動する。

「『失楽園(ファラウトペリダイ)』、『昇獄(ライジンヘル)』……解除」

 

 一瞬だけ筒状の結界を発動させ、矢を弾く。地面も一瞬だけ消失するが、蛙の足で軽く跳んだため落下することはなかった。

 

 その後裁屠も空を飛び、最後の華流螺と空中戦に突入する。

 

「近接戦にさえ持ち込めば!」

 

 距離を取ろうとする華流螺、近づこうとする裁屠。徐々に距離が縮まり、そして。

 

「……捕まえた!『送還(ゲラウトヘヴン)』」」

 

 華流螺の体に血まみれの手で触れ、術式を発動して異戒に送還する。

 目下の敵が現世から消失し、銀蠅の義体の姿を確認するが追ってくる様子はなくこちらを見つめているようだ。

 一瞬張り詰めた体の力を抜き、そして()()()()()()()、黒い閃光が裁屠の右の翼を吹き飛ばす。

 

「こっちもつーかまーえた」

 

「ッ~!!」

 

 皮翼が死角になった背後に、水銀の球体から顔を出した人形大の銀蠅本体がいた。片翼を失い、落下する裁屠に追撃を仕掛けようと、黒い球体を両手で放る。

 

 小さな腕で投げられたそれを何とか片翼で回避しつつ、落下していく裁屠。

 

「なんなんだ、それは。黒閃を封じ込めたとでも言うのか!」

 

「そ、ちょっと違うけど正解。前に言ったよね?私の水銀は『呪力を吸収して閉じ込める』性質を持つ。限界まで呪力を閉じ込めた水銀は金属光沢が失われて白く()()()んだ。それに黒閃をぶつけると、内部の呪力すべてが黒閃エネルギーに変化する。一つの塊におおよそ100くらいの呪力を籠められるからその2.5乗、10万の威力を一つの塊が持つ。変化した後は僅かな衝撃で砕けて内部の黒閃エネルギーを全方位にばら撒くから、水銀で覆わなきゃいけなくって結構保存が大変なんだよね。ああ、名前付けてなかったっけ。『黒装・弐繰弩(にぐれど)』とでも名付けようかな?」

 

「加茂憲倫でも気取ってんのかよ。……だが、良いことを聞いた。それをお前の懐で爆ぜさせればいいんだろ?お前は昔っから無駄に自分の能力をひけらかしたがるもんなぁ!」

 

 翼を再生させ、羽ばたいて相手より位置エネルギーの高い場所を取ろうとする裁屠。だが、水銀塊を背後に浮かせた銀蠅の急制動高機動には及ばず。

 ひらりひらりと翻弄される裁屠。どんどん上昇していき、先ほどとは異なる理由で気圧が少しずつ下がっていく。

 

「私にドッグファイトで勝てる訳ないんだよねぇ。じゃあキャットファイトにでも持ち込む?あ、あくまはこっちがお断りなので智礼ちゃんに代わってもろて」

 

「お前がその名を口にするなよ、水銀妖精ィ!」

 

 一直線。下から羽ばたき拳を振おうとする裁屠に、水銀妖精はにやりとその球鏡面顔に笑みの弧を浮かべる。

 

「ようやく真向から近づいてくれたね。これでノーコンの私でも当てられる」

 

 片手に一つずつの弐繰弩を握り、投げつけた。黒い閃光が二度瞬き、翼で全身を覆い防ぐ裁屠だったが、二つの翼が吹き飛ぶだけでなく骨が数十本、内臓が数個破壊される。

 

「ビンゴォ!」

 

 術式の特異性を除いた地力では未だ特級呪霊に届かぬ裁屠の身では修復するのに時間がかかる。

 落下していく裁屠。しかし、片目を瞑った直後にその口角は上がった。"仄"限定掲示板を閲覧したのだ。

 

「やれ、ワンロク」

 小声でつぶやきつつ、それと同じ内容を掲示板に送信する。

 

 華流螺の消滅を掲示板で知らされ、"仄"ら二体と一人は戦場に戻ってきた。そのうち一体、ハンドルネーム『ワン・ロク・ロック』こと、遠叉(えんさ)は、指向性を持つ共鳴音響を放ち、遥か上空にある弐繰弩を震えさせる。

 遠叉の術式は、その物体の固有振動数を見抜き、音波を放射して破壊する術式。すでに遠叉は弐繰弩を見ている。

 呪霊を含む生物の場合は、組織によって固有振動数が違うため完全な破壊は困難だが、無機構造物は十秒もかからず確実に破壊できる。

 

 ヒィイイイイン、と高音が鳴り、銀蠅と裁屠の耳にも届く。銀蠅はすぐにその現象の意図に気づき、領域を展開して自分ごと領域の中に弐繰弩を引き込もうとするが、発動は間に合わない。

 

 黒閃の光が、銀蠅の背後、ぶどう状に包まれた水銀の中で弾けた。

 十数もの黒い閃光はその大部分が水銀に吸収されたが、水銀膜の薄いところから漏れ出ていく。それだけで、銀蠅の翅と腰から下を消し飛ばすには十分だった。

 

「アッガ、ぐぅううう!」

 

 十年間自身のポテンシャルに向き合った銀蠅は、その呪力量も術式も、十分に特級呪霊として相応しい実力を誇る。

 しかし、その矮躯故に、耐久性だけが致命的に足りていない。それを義体というモビルスーツに搭乗したりすることで補っていたが、その場合は翅による高速機動が生かせず、本気を出すときは殆ど義体を降りていた。

 漏れ出た黒い閃光によって大打撃を受けた理由である。

 

 領域の展開に失敗し、術式が一時的に焼き切れ、水銀の体積が減少する。完全に消滅しない理由は、銀蠅は実際の水銀と具現化した水銀を混ぜて使っていたからだ。

 そして減少した水銀はコントロールを失って飛び散り、銀蠅の手元には砕けなかった三つの弐繰弩だけが残った。

 

 銀蠅も裁屠と同様に落下していく。

 

 それとほぼ同時に。"星帳"が上がった。

 気絶した湊千尋を背負う釘崎野菊。

 そして首だけになったアンゴルモアの頭を持つ五条悟が、そこには立っていた。

 

「呪霊同士でなんか戦ってんな。どっちを倒せば良い?」

 

「どっちかは"仄"のはずじゃが……どうせ禪院家の飼い犬じゃし、五条の坊が味方する道理はなかろう。こんな状況じゃ、背中から撃ったと言われることもあるまい」

 

「そうか、面倒が無くて良いな。アンゴルモア、やれ。野菊さん、頼む」

 

「うむ」

『承知した、我が勇者』

 

 先に落下してくる裁屠にはアンゴルモアの光線を。そしてそれが効かない(と思われている)銀蠅には、釘崎野菊から流入した反転エネルギーを術式に流し込んで、

 

「術式反転"赫"」

 

 無限の急速な発散を秘める"赫"が射出された。

 

 欠損の苦痛に喘ぐ銀蠅は、その紅い光を見て、しかし絶望の涙ではなく、長年の悲願が叶ったような感涙を流す。

 




弐繰弩=賢者の石を作る過程の一つ、黒化・ニグレド と 「二度手間(呪力貯蓄と黒閃への変換)のクロスボウ」のダブルミーニング これが術式が焼き切れても解除されない理由は、すでに水銀ではなくなっているため、術式のコントロールから離れているからです。
つまり『赤』化もある訳ですね。

幻夜守鬼=マクロコスモス・ミクロコスモス。「人体(この場合は式神だが)と宇宙は照応する」という考え方がモチーフ

アレイスタークロウリー=今作ではミゲルや西宮桃パッパと同様海外呪術師(希少)という扱いにします。歴史上の偉大なオカルティストが呪術廻戦世界で呪術師じゃないなんてありえねぇよなぁ!?(異論は認める)



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Divergent Sila

そろそろ風呂敷を畳まなければ……
次回か次々回までには完結すると思います。


 落下する銀蠅はその紅く小さな星を見て、感涙の涙を流した。

 

「ああ、ついに覚醒したのか。初めての共同作業だ、オリジナル」

 

 "赫"が炸裂する直前、三つだけ残った弐繰弩を掲げる。

 

 無限の発散は、全てその物質化した黒い閃光に吸収された。そして、その三つの黒い塊は"赫"い輝きを放ち始めた。

 

「紅装・叡邪(エイジャ)。ハッピーバースデー」

 

 同じく落下している途中でアンゴルモアの光線に貫かれた裁屠は、自身の術式のコントロールが効かなくなっていることを悟る。

 術式を奪われたわけでも消されたわけでもない。ただ、自身の術式が危険な欠陥品になっていることは理解できた。

 

「あのクソガキ……こっちは味方だってんだよ!このままじゃ術式が暴走する!ワンロク!希依子さんに仲介頼んでくれ!俺はこのまま銀蠅を……ッ!?」

 

 極端に冷たい……ような呪力を銀蠅の方から感じる。いや、今まで自分が感じてきた他者の呪力が羊水のようなぬるま湯だったのかもしれない。

 外気、と呼ぶのに相応しい外界、否、外戒の呪力エネルギーが銀蠅の方面から溢れ出る。

 

「水銀妖精ィ、何しやがった!」

 

「ああ、あくま君か。君はもうアウトオブ眼中なんだよ。今から私は」

 

 銀蠅の目の前に、アンゴルモアを手に持った五条悟が現れる。"蒼"による瞬間移動を、彼はアンゴルモア戦でモノにしていた。

 

「今から私は、何だって?」

 

 術式順転、"蒼"。収束する無限は、銀蠅を飲み込もうとするが、瞬時に再生したその翅は今までの気配では考えられない呪力量を噴射し、"蒼"の引力から逃れる。

 

「チィ」

 

「ちょっと五条悟ゥ!俺も巻き込むなァ!」

 

 落下しながら裁屠が文句を言うが、五条悟は釘崎野菊から渡された太い針というより杭を突きつけ、脅す。

 

「お前"仄"の戦力だろ。人語喋れるなんて聞いてねぇぞ」

 

「その話は後!アイツはクソヤベェマッドサイエンティストであんたの」

 

 水銀の触手に叩かれ、地面に叩き落される裁屠。

 

 銀蠅はすでに全身を再生させ、外気のように冷たく、海の水のように大量の呪力を放っている。

 

 五条悟が問う。

 

「なんだその呪力の質と量は。さっきとは随分違ってんな」

 

 銀蠅は、抱え込んだ赤い宝玉を見せつける。

 

「ああ!これはね!君と私の共同作業の成果さ!物質化した黒閃に君の発散する無限をぶつけた。それはね、異戒から無限の呪力を取り出す"孔"を作ったんだ」

 

「異戒……禪院家の異戒神将。あれの出力を再現したのか。だがこっちには特級術師が二人いる。敵う訳が無い」

 

 釘崎野菊を一瞥し、五条悟は言い切る。

 

「叶うよ?無限の呪力の蛇口が三つ。出来ないことなんて、無い。『流銀創装 極の番 二源流素』」

 

 銀蠅の水銀が体積と質量を急速に増大させ、御苑の中心部を満たす。さらにその水銀は色と形を変え、刀や縄、槍や弓に姿を変える。

 

 水銀の泉の上に浮かぶ数多の武具。まるで領域のようで、しかし領域ではない。

 

「昔の偉い人は言いました。『水銀と硫黄を混ぜて加工すれば、あらゆる物質を作れる』と。硫黄が燃える時の青い炎は、呪力が放つ青い光に似ています。硫黄は呪力の隠語であり、水銀は具現化した水銀でなくてはならなかったのです。故に『二源流素』は水銀(術式)硫黄(呪力)を混交して、私が今まで解析したあらゆる呪具を具現化できる術式。呪力が足りなかったから今までは出来なかった。これからは、何でもできる」

 

 黒い縄が五条悟と、湊千尋を背負う釘崎野菊の方向に延びる。五条悟は術式で縄を弾くが、しかし目を顰め縄から逃れる。

 

 釘崎野菊は針を呪力で射出して応戦するが、縄は針をするりと避けて二人を捕らえる。

 

「さて、反転術式使いは要るけど、この式神使いは、もう要ら」

 

『ダァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛イ゛!!!』

 指向性の爆音が銀蠅に向けて響き渡る。ワン・ロク・ロックの攻撃だ。追い打つように、チクタクロックの爆弾が銀蠅に投げつけられる。チクタクロックの体から爆弾をもいで投げているのは禪院希依子だ。

 

「チィ、面倒だな。貫け、釈魂刀レプリカ」

 

 ワン・ロク・ロック、チクタクロックの頭と、禪院希依子の心臓が大刀によって貫かれる。

 

「ガッ……」

 

 呪霊たちの消失反応。同時に、希依子の体が地面に崩れ落ちる。

 

「あ、■■■■(マキマイ)生まれなくなっちゃった。けど元の世界で原作読むからい」

 

 禪院希依子が死亡する。その瞬間、何か形而上的なものが破られる音がした。

 

 衝撃波、超音速の拳が銀蠅の頭に激突する。銀蠅は風圧による感知すらもできず、全身を覆っている呪力防御を貫き拳は銀蠅を吹き飛ばした。

 

「ようやく"縛り"を破ったな、銀蠅!よくやった希依子!」

 

 銀蠅を殴ったのは、直毘人()()()何者かだった。らしき、というのは、迸る呪力の性質も、肉体の強度も以前の直毘人とまるで別人、次元が違っていたからだ。

 

 直毘人は禪院希依子の傍に疑似的に瞬間移動し、遺体に触れるとその状態を保存したまま二次元空間に固定する。固定は手を放しても解除される様子はない。

 

 次に釘崎野菊ら二人を縛る縄を手刀で切断し、その近くに固定された希依子を平行移動させる。

 

「釘崎特級術師殿。希依子の蘇生、頼めるか?」

 

「……死体の損壊が少なく死後一分経ってない、出来るじゃろうて」

 

「わかった。頼んだ。俺は今から……アイツを殴りに行く」

 

 上空を見上げる直毘人。

 

 打撃のダメージから回復し、銀蠅はふらふらと高空に浮く。

 

「あ゛、何が、起こった?」

 

 銀蠅は心の中で混乱し思考が加速する。

(縛りを破った?あ、そういえばそうだ、そうだったんだ。『禪院扇と希依子を生かす対価に直毘人の生殺与奪を握る縛り』だ。それを破ったから、殴られた?ちょっと待て、今の私は投射呪法を使っても簡単に殴れるような反応速度してねぇぞ。他者間の縛りを破ったペナルティはあまりにランダム過ぎてわからなかったが、こういう形もあるの、か?)

 

「いずれにしたって、今の私に勝てる道理はないはず。呪銃百選、全弾発射(フルバースト)

 

 水銀の湖面に呪具の銃や大砲が大量に生成され、その全てを直毘人に向けて呪力をエネルギーの弾丸に変えて撃ち出す。

 

 しかし弾丸は全て躱され、固定した空気を足場にして直毘人は銀蠅に迫っているようだ。

 ようだ、というのは銀蠅どころか五条悟にすら高速で動く直毘人を見る動体視力は備わっておらず、足場しか見えないからだ。

 

 殴打と蹴打の連打。銀蠅は回避を諦め、全身を"叡邪"から湧き出る呪力で防御するが、それでも数撃喰らえば死ぬ程度のダメージにしか抑え込めない。

 呪力による再生と防御の最適な比率を銀蠅は即座に叩き出して実行するが、しかしそれでも数秒で肉体の欠損が目立つようになる。

 

「クッ、そ、がぁああああ!領域展開!」

 

 水銀面が幾百もの手を象り、それぞれが思い思いの印を組む。

 

『領域展開 煉丹廃毒溝』

 

 水銀が結界の代わりとなり、上空にいる全員を包み込む。

 

 すなわち、直毘人と五条悟、そしてその手に持たれたアンゴルモアである。

 

 

 

 吐き気を催す虹色の人工河川に、煙突から出た煙が雲になる空。

 

 その内部に直毘人と五条悟は放り込まれる。

 

「カァ!五条のガキ!領域対策は!」

 

「近くに!」

 

 直毘人は固定化した空気を足場に五条悟の隣に移動する。領域の必中効果が発動した直後に、直毘人は五条悟の無限の内側に収まった。

 

 禪院の名を失ったただの直毘人は策を練る。10年もの間、銀蠅のパシりとして酷使されてきた彼は、銀蠅の手の内の全てとは言わなくても、八割方知っている。その中には領域の効果も含まれる。

 

(奴の領域の必中効果は、大気中に含ませた水銀蒸気を皮膚や吸気から吸収させ、体内の水銀を操作して急性脳障害を引き起こすものだ。呼吸は止めたが一瞬水銀蒸気に皮膚が晒されたな。この微小量の水銀が脳に到達して悪さをするまで、奴の能力向上と俺の能力向上を相殺して3分と言ったところか。呼吸を止めて無限の外側で活動するなら、今なら20秒は行けそうな気分だ)

 

「五条のガキ。俺は奴が"縛り"を破ったペナルティで術式も肉体も強化されている。この無限の防御と同時に"蒼"は出せるか?それで領域の破壊を試みてくれ。逐次お前の側に戻る、無限を解除するなよ」

 

「わかった。おっさんは?」

 

「俺は、術者を殺る。恨みもあるが、それ以上に義憤がある」

 

 五条悟は"蒼"を結界の縁に向けて発動し、直毘人は加速を始める。

 

 銀蠅は領域の中心で、三つの叡邪から溢れ出る呪力を、防御に回す分を除いて全て領域の術式効果の向上に注ぎ込む。

 

(クソ、10年前の"縛り"なんか持ってきやがって……呪術に時効は無いのかよ。まあいい、どうせ直毘人はもう要らないから処分する。五条悟を捕らえて叡邪を量産する。それをこの領域で、成す)

 

 そこに、直毘人の拳が襲い来る。数瞬で最大速度に到達した拳は、銀蠅の眼前に出現した盾に防がれる。盾は砕かれるがそれにより拳の威力は殺された。

 そのまま直毘人の周囲に具現化した黒縄をゴムのように縮ませて縛ろうとするも、縛られる前に直毘人は抜け出す。

 

(銀蠅の奴、領域内でも極の番を使用できるのか。それもあらゆる場所から呪具を具現化することもできる、厄介だな)

(盾は砕かれること前提の呪具だからそれは良い、あのゴム紐黒縄すら避けるか。速すぎんだろ)

 

 徒手で猛攻を繰り出す直毘人とそれを盾や縄で防ぎ、あわよくば拘束しようとする銀蠅、しかしそれは直毘人にとっても魏蠅にとっても時間稼ぎでしかなかった。

 

 直毘人にとっては五条悟による領域の脱出の時間稼ぎ、そして銀蠅にとっては領域の効果が発揮されるまでの時間稼ぎ。

 強化された肉体を息を止めて全力で動かした直毘人は、体内の酸素を急激に消費したため十秒ほどで息が苦しくなった。防御をくぐり抜けて一撃を銀蠅の右肩に入れ、相手を1秒硬直させた隙に五条悟の無限の中に戻る。

 

 五条悟の無限の中で一呼吸し、再度銀蠅を殴りに行こうとして、直毘人は血反吐を吐く。

 

(何……?まだ肉体に致死量の水銀が蓄積する時間ではないはず……)

 

 吐いた血が、否、血の中に含まれた水銀が無限の内側で()()()()を象る。固定された銀蠅の顔だけが表情を変え、口を動かす。

 

「天逆鉾の欠片・レプリカ。五条悟を撃て」

 

 咄嗟に五条悟は無限の内側にさらに無限の防御を展開するが、その金属片は術式を無効化して無限を貫通し、五条悟の腎臓を貫いた。

 

「がッ……!」

 

「くふふ、ははははは!本体は見つけられなかったが、火山掘り返してでも欠片を見つけて良かったよ!この時のために!あれを解析した!」

 

 だが、五条悟の無限の防御は解除されても、結界を破壊するための"蒼"は解除されなかった。結界の維持に回す呪力を、天逆鉾の欠片を具現化するのに使った銀蠅とは対照的に。

 

「ブチ抜くッ……ああああああ!」

 

 領域によって遮断されているため、反転エネルギーの流入はまだ起こらない。腎臓を治すためにも、いち早く領域を脱出しなければならない。その一心で、五条悟の"蒼"は銀蠅の領域に孔を開ける。

 

(抜いた!)(クソ、抜かれた!)

 

 孔をくぐり、直毘人と共に領域から脱出した五条悟と頭だけのアンゴルモア。

 しかし、そこには、荒らされた新宿御苑という地形の代わりに奈落があり、そこからは"冷たい"呪力が先ほどの銀蠅から放たれていた量とは比較にならないほど溢れていた。

 

「これは……」

「一体どういうことだ?とにかくこの大穴?の外に行かなければならんだろう」

 

(クソ、なんという呪力だ。縛りで強化されていなかったら高専生でも当てられて気絶していたぞ。この分だと、半径1キロの非術師はおそらく死んでるな)

 

 領域から脱したことで、五条悟の首筋に刺さった針から反転エネルギーが流入し、脇腹の傷と腎臓が目に見える速度で癒されていく。

 それを見た直毘人は、釘崎野菊の生存を確信しやや肩の力を抜いた。

 

 空に足場を作って駆ける直毘人と、慣れない瞬間移動を繰り返して直毘人に追いつく五条悟。

 五条悟は瞬間移動に邪魔だとアンゴルモアの頭を両手の無限で挟んで潰す。アンゴルモアは抵抗しなかった。

 

 彼ら二人に、領域を解除した銀蠅が迫る、が。

 

 奈落の底から巨大な、それこそ奈落の穴全てを覆えるほどの大きさの手のひらを持つ腕が上昇してくる。

 

「うお?」

 

「待て、絶対に、五条悟を捕r」

 

 一瞬呆けて、その後全速力で逃げる五条悟と直毘人。銀蠅は気づかずに二人を追う、が。

 

 その腕は、疑似瞬間移動や極限まで強化された投射呪法の速度には劣る銀蠅を握って捕らえ、奈落の中に潜っていった。

 

「一体、なんだアレは……」

「ヤベェな、アレ。大人の俺が20人いてようやく五分に持ってけそうなレベルだ」

 

 逃げるように、奈落の縁にたどり着く。

 奈落の縁には、呪霊が数メートル間隔で並んでおり、それぞれ穴の底を凝視していた。

 そのもう一つ外側には大量の、それこそ見る限りだけでも数千人単位の野次馬が気を失って倒れていた。全員が適当なところに針を刺されており、死んでいるものは2割程度しかいないようだ。

 

 "蒼"で呪霊を一掃しようとする五条悟を直毘人は手で制止する。

 呪霊の中の一体、異様に肥大化した虹色の目を持ち、殻の渦巻き模様の中心に人間の瞳がある合計で四ツ目のカタツムリ型の呪霊は、直毘人を見かけて声を掛けた。

 

「ああ、直毘人さん!ちょっと情報交換しませんか?」

 

「直毘人……たしか、10年前失踪した禪院家の元次期当主だったか?失踪した後呪霊と通じてたのかよ」

 

 やや不信と敵意を含ませた呪力を直毘人に放つ五条悟。

 

「その辺も込み入った話がある、後で話すから今は待て。久しぶりだな、カタツムリ。正直俺の方はよくわからん。銀蠅にタクシー代わりにされたんだが、その途中で相手が"縛り"を破ったようでな。で、銀蠅と戦って領域から出たらこうなってた」

 

「そうですか。こちらは緊急討伐本部を襲って御三家の重鎮を人質に取って我々の権利を認めさせようという"霊権運動"をしてたんですが、人質にとれたところで謎の穴が拡大してきてですね。我々の『眼』の力で抑え込んでいる形です」

 

 直毘人はそれを聞いてため息をつく。

 

「そんなことを……まあ銀蠅の奴よりは億倍マシか。お前の眼にそんな力あったのか?」

 

「私の術式は眼球限定の完全な再現とそれらの支配ですよ。幼稚園児の禪院蘭太さんの涙を核に停止の魔眼を複製して配布させていただきました」

 

「そういや蘭太が数日間迷子になったと扇から愚痴を送られてきたな……涙って、まさか変なことをして泣かせたんじゃあるまいな」

 

 やや殺意が漏れる直毘人に、カタツムリ観光客は笑顔(?)で返す。

 

「ええ、しましたよ。子供包丁でひたすら玉ねぎを切らせる拷問に掛けました」

 

 それを聞いて殺意を収め、直毘人は苦笑する。

 

「クックック、愉快な奴らだな。まあこんな感じで互助会の奴らは気のいい奴らだ、カタギや真っ当な呪術師にはな」

 

 振り返り語り掛けてくる直毘人に五条悟は呆れる。

 

「未成年略取に監禁って、よくはねぇだろ。まあ普通の呪霊よりはマシか……、で、この穴の正体に見当はついているのか?」

 

「それは……」「それは私が説明します」

 

 よたよたと釘崎野菊に支えられて歩いてきたのは禪院希依子である。

 

「希依子!復活したか!」

 

 笑顔で希依子を迎える直毘人。

 

「ええ、義兄様。おかげさまで。私はお飾りとは言え"仄"のリーダーです。彼の術式についても詳細を伝えられました。彼の『失楽園』は『異戒への"孔"を(ひら)ける穴』を開ける術式。ただし、穴の底に何か呪力を持つモノが入った瞬間だけ"孔"が開き、その瞬間だけ異戒からもこちらに入れる、という術式だったはずです。が……おそらくアンゴルモアとやらの術式で穴の無限拡張と終了機能喪失という欠陥(バグ)が発生したのでしょう。そして穴が大きくなりすぎて、"孔"を向こう側から無理やりこじ開けられるようにもなってしまったようです。術式が暴走して、私の目の前で裁屠さんは穴と一体化して……」

 

 瞳を潤ませつつ希依子は詳細を伝えた。

 

「え……あのアンゴルモアの術式って相手の術式を消す術式じゃなかったのかよ……」

 

 五条悟は頭を抱える。だが、釘崎野菊が呟く。

 

「呪霊の術式なら、本体を祓ってしまえば良いのではないか?私は野次馬共の生命維持で手一杯だが……、穴の縁にある血肉の糸を全て潰せば問題ないじゃろう」

 

 その言葉にカタツムリも含めた全員が考え込む。

 

「あくまさんにはいろいろお世話になりましたからねぇ」

 

「裁屠はガキ思いだから少々躊躇うが、やるしかなさそうだな」

 

「智礼さんには恨まれるしかないですね」

 

「やるしかねぇな」

 

 最後の発言をした五条悟に『お前が原因だろ』の視線が集中するが気にも止めない。

 

 穴の拡大を防ぐ呪霊に割く要員を数割ほど削って、減らした分を呪力に当てられた非術師や一部の術師を穴の影響圏外までもっていく。

 呪霊の肉体は呪力で出来ているので、大気が呪力で満ちている環境はむしろ元気だ。

 

 穴の縁にへばりついている血肉で紡がれた紐を五条悟と直毘人で剝がそうとするが、強化された直毘人の筋力や、広範囲に影響が出ない無下限術式を使ってもようやく僅かに剥がせて、しかもすぐに再生する。

 へばりついている地面ごと消し飛ばそうとしても、血肉の紐だけが宙に浮いて穴は維持される。

 

 色々やっているうちに避難が終わったため、釘崎野菊の手がようやく空いた。

 

「うむ、やってみるか。避難中に約1メートル間隔で釘を刺させておいた。これに反転エネルギーを流すだけ……む?」

 

 エネルギーが釘を通して血肉の紐に流し込まれ、反転エネルギーによる対消滅と穴から流れてくる呪力による再生が拮抗する。

 

 刺激された穴から流れ出る呪力がさらに増える。気絶する希依子。

 大気中の呪力量が基準点を越えた瞬間、蠅頭を含む四級呪霊や三級呪霊が空中に瞬間大量発生した。飛行能力を持たない大多数の呪霊は、穴の中に落下していく。

 

「まずい!穴の底に入れたら!」

 

「させねぇ!」

 

 "蒼"を発生させて呪霊を吸収圧壊するが、それで吸い込めたのは呪霊の何分の一かに過ぎない。その他は自由落下し、遥か下の穴の底にたどり着いて、自身と引き換えに"孔"を開けることになる。

 

 同時に多数落下した故か、開いた"孔"はただ一つの巨大なものだった。

 

 そこから、再度、巨大な手のひらを持つ腕が、今度は両腕分、窮屈そうに出てきた。

 

 




銀蠅の領域には実は必中効果は無いです。直毘人にあると伝えたのはブラフで、実際は「本来操れない水銀蒸気も操れるようになる、水銀の三態や二源流素を自在に操れる」という術式の強化(バフ)効果しかないです。

裁屠の自我は今もう完全に術式に飲まれて消化されていて、肉体だけが維持されている感じです。精神的にはほぼメロンパン入れ状態、首がもげたトンボ状態ですね

この後に及んで帳を下ろしても、結界内が呪力でギチギチになって特級呪霊大量生産機になるだけなのでもう下せません。呪術呪霊の存在バレちゃったねぇ。
ん?今までなんで下さなかったかって?下せる人が逃げてたか他のこと(霊権運動への対処)にいっぱいいっぱいだったか、ですね。作者がその描写を入れるのを忘れてた?そんな訳……アルカモネ


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糸を手繰るモノ

(かなり乱雑に)終幕です。


 穴から出てきた巨大な腕。

 その手のひらの、親指の上には、銀蠅の体が()()()()()()()

 

 半ば同化する形で癒着している銀蠅の体は、時折痙攣しており、自らの意志で動く様子はない。

 

「なんだよアレ……」

 

 転生者呪霊と呪術師らはそのあまりの巨大さにあっけにとられ我を失う。

 

「五条のガキ!今出せる最大威力は!釘崎殿!アレに反転術式は?」

 

 直毘人はいち早く我に返り、指示を出す。

 

「反転エネルギーがあるなら"赫"……いや、"茈"を試してみる」

「アレは呪霊ではない、反転術式はおそらく効かんな」

 

「釘崎殿は五条悟に全力で反転エネルギーを!五条はそのムラサキとやらを奴にぶち込め!五条以外は退避!」

 

 五条悟の前面に"赫"と"蒼"、正反対の方向性を持つ二つの無限が生成され、それが衝突することで仮想の質量が発生する。

 発生した仮想の質量を撃ち出し、五条悟はあの手のひらに穴を開けようとしたが、しかし。

 

 五条悟の虚式"茈"は、その手の甲の表面を僅かに焼くことしかできなかった。

 

 皮膚が焼けた不快な苦痛に巨腕は反応し、手のひらをこちらに向けて、右の人差し指一本で叩き潰そうとしてくる。

 

(受け止め……切れない!?)

 

 あまりの巨大質量が自身に迫ってくることを感じ取り、五条悟が走馬灯の状態に入り、体を硬直させる。

 五条の無限で受け止められないと察した直毘人は、五条悟の襟を掴んで放り投げ、自分も別方向に跳躍して逃げる。

 

「五条悟!なんとか威力を高められないか!」

 

「……分かった」

 

 走馬灯によって、五条は何かを思い出したようだ。

 

 五条悟は"赫"と"蒼"を同じ数だけ数十個生成する。まるでその数だけのお手玉をするような所業だが、五条悟は成し遂げた。

 

 さらにそれをぶつけ合わせ、仮想の質量を生成する。だがそれでは先ほどの二の舞になると考え、最大威力の"蒼"を一つ生成し、仮想の質量を吸引圧縮する。

 

「虚式"茈"、"百斂"。これで……穿つ!」

 

 放たれた、圧縮された"茈"。それは巨大な腕の掌に、小さな、本当に小さな穴を開けた。

 それを横に流し、銀蠅の体が癒着している親指を切断した。

 その激痛に、 手のひらは一瞬硬直した後、穴に潜って異戒に戻っていった。

 銀蠅の体と親指は、穴の中に落下していった。

 

 

 

 その後。日本は大混乱に陥っていた。

 

 旧新宿御苑周辺、半径1kmの人間の99%が死亡し、残りの1%が得体のしれない力に目覚めたのだ。

 日本政府はこの事件に対応し、新宿御苑半径3kmの地域に避難勧告を出し、そのまま一時閉鎖。穴は"新宿深淵"と名付けられることになる。

 呪霊の存在が世間に明かされ、大騒ぎとなるも、新宿深淵内部でしか発生しないという虚偽の情報を流し騒ぎは収まる。

 呪術総監部は周囲の呪霊によって穴の拡大が防がれていることを鑑み、3交代制による穴の維持を"仄"経由で依頼。カタツムリ観光客はこれを受諾し、転生者呪霊の多くはこれに従事することとなった。

 ついでに得体のしれない力という名の術式に目覚めた1%の人々は総監部が保護という名の飼い殺しにすることになる。

 

 だが、封鎖するだけでは穴の内部に呪力が澱のようにたまっていくばかりだった。それゆえに1年後、さらに事件が起きる。

 

 呪霊群噴出。数億の蠅頭から、数万の二、三級呪霊、そして数百の一級呪霊、そして5体の特級呪霊。ついでに十数体の"異戒天将"が現れる。

 

 事件の対処に投入されたのは高専生、九十九由基および小学生五条悟と釘崎野菊。そして最近発見保護された小学生夏油傑の四人の特級術師である。

 

 釘崎野菊は対処の終盤に致命傷を負い、「自分の治癒に反転術式を使わない」という縛りを破って自身を治癒して離脱。この縛りを破ったペナルティによって弱体化し、特級指定を解除される。

 夏油傑は"五感を自在に麻痺させる"準一級呪霊を支配下に入れ、味覚と嗅覚に限定して自身に使用させることで大量の呪霊玉の丸呑みに成功。トラウマの形成を回避した。

 他の二人は特筆する事項なく帰還した、が。異戒天将を倒した際に体内から"赤い宝玉"が出てきた。そのうち三つが政府に回収され、残り二つは秘密裏に九十九の懐に入った。

 蠅頭は全世界に散らばったが、二級以上の呪霊の殆どは祓除された。

 

 その後、総監部は定期的に特級術師を穴の内部に派遣して呪霊を祓除させると決定した。

 穴の内部は月日が経つにつれ徐々に変質し、階層が作られ、複層の異空間を持つ地下迷宮のようになっていった。異戒存在から得られる赤い宝玉だけではなく、術式持ちの呪霊から得られる呪具もあることが判明している。

 特級の一人や二人では祓う効率が悪いと判断した呪術総監部は、銀蠅からカタツムリ観光客が保護し呪術総監部に引き渡した五条悟クローン107体を投入することを決定する。だが、存在をオリジナルの五条悟にも秘匿されていた、一級最上位程度の実力を持つクローン五条悟の存在が明らかになった。彼らを呪術総監部の手から奪還するために、五条悟は総監部に反逆した。

 

 呪術総監部は簡単に鎮圧されたため描写は省略する。

 呪術界のトップを掌握した五条悟(中学生)は、その間に独断で呪術と呪霊の存在、そしてその歴史を世間に全面開示する。そして同時に、"施術"を受ければ呪霊に対処する力を得ることが出来ると表明した。

 

 そう、"施術"である。赤い宝玉の粉末を水に溶かし希釈した水溶液を注射し、そしてカタツムリ観光客の術式によって培養された"眼"を移植することで呪力と呪霊を見る眼を得られる。赤い宝玉については九十九の研究成果である。

 

 これを表明し、さらに新宿深淵の開放とそこから得た物資の高価買取を発表した。

 "施術"を受けた多くの市民のうち、一攫千金を狙うものは、命をチップにして新宿深淵に戻ることになる。

 

 発表と同時に、()()()深淵が世界各国の都市で現れ、五条悟率いる新総監部はそこへの術師派遣と"施術"者派遣を行う羽目になった。しかも()()()新宿深淵とは違い、一定半径以上拡大しなかった。

 

 そして時が過ぎ、2018年2月、仙台。虎杖家。

 

 ピンクに近い茶髪の少年が、額に縫い目のある女性に土下座していた。

「母ちゃん、頼む。俺って探索者(シーカー)の才能があると思うから!"施術"を受けて、東京に引っ越して、一番有名な深淵高専に入って!トップ探索者になりたいんだよ!父さんは良いって言ってる!」

 

「悠仁。呪霊は、深淵は危険だよ。母として、君を止めているのさ。だがそうは言ってもその様子じゃ止めても勝手に言ってしまいそうだ。じゃあ、条件を出そうか」

 

「条件って……?」

 

「"術式持ち"の仲間を見つけること。それが出来たら、東京に行くことを許す」

 

 それを聞いて虎杖悠仁の顔つきが変わる。

 

「ああ、分かった。母ちゃん。俺は必ず仲間を見つけて見せる」

 

 といってどたどたと母の部屋から出る悠仁。母はそれを眼を細めて見ると、鍵のかかった引き出しを開ける。

 

 中から取り出したのは、血肉で紡がれたような紐。そしてネックレスのように、眼球が一つその紐に癒着している。

 

「黒い混沌は、私の知らないところで出来ていた。だったら私はそれを世界各地にばら撒くだけ。……一国に一つという決まりは破るけど、悠仁のために仙台に作っても良いかもね」

 

 

 

 次回作。

 虎杖悠仁の迷宮探索!~ママはダンジョンメーカー?~




※始まりません


手のひらの正体について。

手のひらは異戒における人間のような存在です。現世に通じる穴を見つけて偶然手を突っ込んでみたら二回目で親指切られた、という感じですね。

銀蠅の末路について。
 自我は死んでいます。生きているのは深淵の最奥で孔と一体化している肉体だけで、脊髄反射で術式に刻まれた叡邪と二源流素で只管呪具と赤い宝玉を生産する装置になっています。実は深淵の最奥はどの国の深淵でも繋がっており、そこから呪具と赤い宝玉が供給されている感じです。呪具は呪力を供給しなかったら10年くらいで水銀に戻って消失します。

その他何か裏設定で教えてほしいことがあれば感想欄への返信でお教えします。


以下反省文

プロットを作らずに情動と妄想だけで書き連ねた数か月、数万字でした。今後はマジで物語創作のノウハウ本とかを参考にして、ちゃんとプロット作って描こうと思います。徐々に成長していくつもりなので、今後ともよろしくお願いします。


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