今一度アシュフォード家に栄光を! (マルルス)
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妄執・執念そして誕生

アシュフォード家を題材としたバイオSSなかったので書きました


アシュフォード家はヨーロッパのとある貴族で初代当主ベロニカは女性でありながら類まれなる知識と美貌で貴族社会に大きく乗り出し貴族としての栄光を歩み始めた。

ベロニカの息子達も優れた才能を見せつけ貴族社会で一目置かれアシュフォード家は名門と称されるの当然の成り行きだった。

そして五代目当主はエドワード・アシュフォードは今や世界的大企業となった製薬会社アンブレラの創設者の一人だった。あのアンブレラの創設者としてアシュフォード家は更なる栄光へと至ったのだ。

 

 

 

 

しかし…

世の中に栄枯盛衰という言葉がある。永遠の栄光は存在しないようにいつか没落が来るのだ。

そしてそれはアシュフォード家にも無縁ではなかったのだ…。

 

1968年 7月

ヨーロッパ某所、アシュフォードの屋敷

 

ガシャーン

 

手に持ったグラスが落ち木製の床で砕け散った。

執事から聞かされた信じがたい報告に男は、アレクサンダー・アシュフォードは唖然していた。

 

「う…嘘だ…そんなはずはない…」

 

アレクサンダーは息を荒くし焦点も定まらず近くにあった椅子に崩れるように寄りかかった。

 

「ハーマン…今何といった…? もう一度だけ言ってくれ…」

 

「エ…エドワード様が()()()()()()()()()()()()になりました…」

 

タチが悪い夢であってほしい…そんなアレクサンダーの願いも空しく執事のスコット・ハーマンから聞かされる絶望とも言える報告を再び聞いたアレクサンダーは放心するしかなかった。

 

「ハーマン…しばらくの間、一人にしてくれないか…。

葬儀の準備は進めておいてくれ…」

 

かしこまりましたと執事のハーマンは部屋から出ていく。

一人残されたアレクサンダーはただ絶望するしかなった。

 

(な…何てことだ…父が…父さんが死んだだと…?

どうすれば良いんだ…! 私の専門分野は遺伝子工学で父が居なければウィルス研究なんて不可能だ…

直ぐに代わりの者を…! いや!駄目だ!父と匹敵する人物なぞマーカス博士ぐらいだ…!

他の有能な人間はスペンサー卿が握っている!

かと言って()()()()()()()()はまだ途中で試験運転すら出来てない…)

 

アレクサンダーは今人生で大きな崖っぷちに立たされていた。彼自身、自分はウィルス研究に関しては父ほどの才能がないと理解しており父の補佐を含めて遺伝子工学に重視していた。

しかもエドワードが研究していたのは始祖ウィルスという未知のウィルスでエドワードの知識なしではアレクサンダーがウィルス研究を継ぐには荷が重すぎたのだ。

 

「あぁ…!どうすれば良いんだ…。」

 

悲観に暮れるアレクサンダーだが無情にも時間は過ぎていくだけだった。

 

 

 

それから日にちは変わりエドワードの葬式が行われた。

前当主のエドワードが亡くなったので息子のアレクサンダーがアシュフォード家の六代目当主なった。

名門貴族の当主の葬式であって多くの著名人が訪れエドワードの死を惜しみ悲しんだ。

 

「父君の事は残念だった…。彼は志を共にした良き友人でもあった」

 

アレクサンダーは式に参加した人々に挨拶してると喪服を着たオズウェル・スペンサーが話しかけてきた。

 

「スペンサー卿… よくぞ来てくれました」

 

目の前に居る人物こそ父エドワードと同じくアンブレラの創設者で世界でもトップレベルの富豪である。

 

「本当に惜しい男を亡くした…。彼の研究は人類の未来を切り開くものだったというのに…」

アレクサンダー… もし困りごとがあったらいつでも相談にきたまえ

この私に出来る事があったら対処しよう」

 

「ありがとうございます…スペンサー卿

その時がきたらお力を貸してもらいます」

 

「うむ」

 

スペンサー卿はアレクサンダーから離れて他の著名人に挨拶をしていく。

それを見ていたアレクサンダーだがその内心ではスペンサーへの怒りが渦巻いていた。

 

(くそ! 何がいつでも相談に乗るだと…よくもヌケヌケと!!

父が死んで間もないうちに父と私が長い時間と資金をかけて築いた研究所やウィルス研究のデータや資料や資材、研究員(スタッフ)、更にはスポンサーまで根こそぎ持っていきおって!!)

 

エドワード死去の報告を受けてから一日経った事の出来事でエドワードの部下から電話が掛かってきてどういう要件なのか聞いたら

 

先程、エドワード博士の研究所はスペンサー卿の管轄になったというものだった。

 

それを聞いたアレクサンダーは仰天し直ぐにスペンサーの屋敷に乗り込み抗議したのだ。

アレは我々が築いたものだというのにこれは一体どういう事なのか!?と問いただした。

 

『アレクサンダー… 君の怒りは当然だが私とてこのような盗人紛いの事はしたくないのだ…

だがエドワードの研究をこのまま消えていくのは余りにも惨い事だ。』

 

父の研究は私が継ぎます!

 

『そうは言うが君の専門分野は遺伝子工学だろう。

エドワードの知識無しで出来るのかね? 出来ないだろう?

何より私自身、彼の研究に多額の資金も提供してるのだよ。

先程も言ったがエドワードの研究を失う訳にはいかぬ。既に彼に代わる研究員を呼びよせている

分かってくれ』

 

そう言われアレクサンダーは半ば追い出されるように屋敷から出ていったのだ…。

 

(スペンサーめ…! 今に見ていろ!

必ず貴様を総帥の座を引きずり落としてやる!)

 

表情には出さずアレクサンダーは葬式を粛々と進め終わらせていった。

 

 

 

 

 

1968年 7月 ヨーロッパ・アンブレラ研究所

 

アレクサンダーは自身が所有する研究所である計画を推し進めていた。

 

(急がなければ! このままではアシュフォード家の名声は地に墜ちるしかない…

私では不可能だがこのプロジェクトならアシュフォード家の栄光を取り戻す事が出来る…!)

 

アレクサンダーが進めているこのプロジェクト・CODE:Veronicaは元々父エドワードと一緒に進めていた計画でありエドワードの死去で頓挫してしまったのだが一刻の猶予もないアレクサンダーは秘密裏にこの計画を憑りつかれる様に復活させ進めていた。

この計画を簡単に言えば、遺伝子中の知能因子という、その名の通り知能を司る部分に手を加え()()()()()()()()()()()()()というもので、この天才児を使い始祖ウィルスを研究させて新型ウィルスを開発させバイオテクロノジーの最先端を掌握させる。

これによりアシュフォード家は名声を取り戻しアンブレラの実権を握るのだ。

 

「知能因子を見つけた…後はこれに手を加えれば偉大なる始祖が誕生するハズだ」

 

しかしアレクサンダーがやろうしている事は生命への冒涜で許されざる行いだ。

だがアレクサンダーは最早、アシュフォード家の栄光を取り戻す事に執着しておりそんな事は気にも留めてなかった。

 

「しかし、いきなり始めるのは危険だ。

やはり試験運転を行った方が良いだろう。

使う素材は私にしよう。母体の方は…」

 

ある意味、狂気に憑りつかれたアレクサンダーは淡々と計画を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

1969年 4月 ヨーロッパ・アンブレラ研究所

 

エドワードが死去してから10ヵ月は経った。

アレクサンダーの予想通りアンブレラ社におけるアシュフォード家の地位は低下の一途を辿っていた。

理由としてはウィルス研究が進んでおらず何の成果も上げてないからだ。当主のアレクサンダーは研究所に籠ってウィルスとは関係のない研究しかしておらず、社内から「アシュフォード家の没落は時間の問題だ」などと言われていた。

そんな蔑みの声を無視してアレクサンダーはCODE:Veronica計画の完成に向けてより一層、研究に打ち込んでいた。

 

 

 

 

研究所の奥で赤子が産声を上げた。

 

「よし…! 無事出産は出来た。他に問題は無いか?」

 

スタッフの女性に金を渡して代理出産させた赤子は同じく金で雇われたスタッフ達によってコットと呼ばれるケースに入れられチューブを始め装置を取り付けられた。

カチャカチャとパソコンのキーボードに指を打ち込み画面を凝視するアレクサンダー。

 

「各部位に問題はないな。知能面は…ふむ、常人よりは高い程度か…」

 

知能を司るデータを見るとアレクサンダーは落胆の表情を出す。

 

「落ち着け…これはあくまで試作体(プロトタイプ)だ。

このデータを元に完成体を作ればいいのだ」

 

アレクサンダーは自分を慰めるように言い、視線を生まれた赤ん坊に合わせる。

 

「試作体だが廃棄するには勿体ないな。

あれは()()()()()()()()()でもあるのだからな」

 

コツコツと足音が響かせながらアレクサンダーはコットへと歩み中でスヤスヤと眠る赤子を眺める。

 

「そうだな…名前は…()()()()()()

決めたぞ。お前の名前はヴァルフレア・アシュフォード

偉大なるアシュフォード家の長男だ!」

 

アレクサンダーは赤子にヴァルフレアと名付けた。

体の動作を確認するためかそれともアレクサンダーの言葉に反応したのか赤子はピクリと動いた。

 

「ヴァルフレア…我が分身我が息子よ…。

お前は大きくなり後から生まれて来る始祖の再来を守り抜き偉大なるアシュフォード家に再び訪れる栄光を守り抜く守護者となるのだぞ」

 

己の代で堕ちてしまったアシュフォード家を再興させるために禁断の門を開けたアレクサンダーは眠る我が子に妄執と執念を託したのだった。




主人公が誕生しました。

気ままで書くので投稿は不定期です。


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ヴァルフレアと双子

お待たせしました。


僕が自分を認識したのはいつぐらいだろう?

 

最初の記憶では僕は透明な箱に入れらており、お父さんと白い服を着た人達が僕を見て声は聞き取れないけど色々とお話をしていた。

 

次の記憶では僕は透明な箱から出されて、いい香りがする木製のベッドに寝かされていた。

そこで女の人が僕に毎日、絵本を読んでくれた。僕はそんな時間が大好きだったのを覚えている。

絵本を読み終わるとお父さんがやってきて、女の人とお話しているのが分かった。

話が終わるとお父さんは何も言わず、ただジッと僕を見つめていた。

 

それから僕は家の皆に見守られながら育っていった。

始めて手を付かずに自分の足で歩いてみせたら皆驚いて、直ぐに笑顔になって僕を抱きしめてくれた。

父さんも僕を見て笑顔になってくれた。

それが何よりも嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Sideアレクサンダー

 

1970年 6月

 

ヴァルフレアが誕生してから早一年経った。

半年は研究所で異常がないか見てきたが特に異常は見られず、自宅で育てる事にした。

この時期の赤ん坊は何でも吸収する天才だ。この時こそが最も重要な瞬間だと言えよう。

私は家のメイドに朝と夜に必ず絵本をヴァルフレアに読み聞かせるようにと命じた。

これによって赤ん坊は想像力、洞察力、言語能力などを発達させるので極めて重要な事だ。

ヴァルフレアはCODE:Veronica計画の試作体だがそれでもアシュフォード家の一員なのでアシュフォード家の恥となる育て方をするわけにはいかない

 

 

ヴァルフレアは一歳になった。

何も問題なく成長している。ヴァルフレアは常人より高い知能があるため、通常の子供より早く言葉を習得していった。

ハーマンを始めとした使用人達はそんなヴァルフレアを可愛がり、ヴァルフレアも使用人達に懐いてる。

更に通常の子供ならまだ手足を使って動いている時期だが、ヴァルフレアはそれらより早く二足で歩き出している。

あの子はあくまで試作体で本命は別なのだが…今、私自身はヴァルフレアの成長を楽しみ喜んでいる。

私に向かって歩いて来るヴァルフレアがとても愛らしく感じる…。

こんな私にもこのような感情がまだあったとは驚きだ…。

 

 

 

1970年 10月

 

現在、私はヨーロッパの自宅ではなくアンブレラ南極基地の()()()()()()でいよいよ()()()()()を果たすべくその準備に追われている。

ヴァルフレアで得た実験データを元に、より完璧に近づけていく。

私の手元にはアシュフォード家の初代当主にして偉大なるベロニカのDNAがある。

これがアシュフォード家の栄光を取り戻す切り札であり希望なのだ。失敗は絶対に許されないのだ…!

母体もより優秀な人間が良いだろう。不安になる要素は全て排除しなければならない。

始祖が再来した時、ヴァルフレアもここに呼び寄せよう…。誕生した妹とも仲良くなって欲しいものだ。

 

 

 

 

1971年 8月

 

遂に誕生した! アシュフォード家の栄光を取り戻してくれる存在が!

予想外だったのは何と生まれたのは男女の双子だった事だ。

男児の方はヴァルフレアと同じく知能は常人より高い程度で天才ではなかったが、妹の方は私の想像を超えた高い知能を持っていた!

名前も既に決めてある。

男児はアルフレッド

女児はアレクシア

と名付けた。

しばらくしたらヴァルフレアもここに呼び三人を育てる事にしよう。

 

 

 

1972年 10月

 

アルフレッドとアレクシアが誕生して一年経った。

二人共、特に体の異常はなく育っている。

もうじきヴァルフレアもここにやって来る。

これから三人を育て上げ、アシュフォード家の栄光をもたらす為の教育もしっかりとやらなければならない。

特にアレクシアは最も重要な存在だ。

ヴァルフレアとアルフレッドも大切な存在だが、アレクシアはアシュフォード家の次期当主としてだけではなくあのスペンサーを追い出し()()()()()()()()として君臨しなければならないのだ。

そしてヴァルフレアとアルフレッドはアレクシアと共にアシュフォード家の再興に力を尽くし、彼女を支え彼女を守り抜く守護者となる。

我らアシュフォード家の栄光は近い。アシュフォード家は永遠なのだ!

 

 

1972年 11月

 

今日、ヴァルフレアもようやくこの南極基地に到着した。

執事のハーマンも始めとした使用人達も一緒だ。

ヴァルフレアとアルフレッドとアレクシアの三人を育てるのに、私やハーマンだけでは難しい。

また、ヴァルフレアもいきなりヨーロッパから南極で暮らす事になるため、環境変化によるストレスの影響も考えて今までの使用人達もここで暮らす事にした。

使用人達は流石に南極で暮らす事に難色を示す者が多数居たが、ヴァルフレアの為に彼らの給料を上げて説得した。

また教育も疎かにするわけにもいかないので家庭教師も雇う事にした。

やはりと言うべきか、南極に来たがらない者が多かったが通常の倍の金額で何とか説得した。

例のプロジェクトで家の財産をかなり使ったので、正直これ以上の出費は避けたかったが仕方あるまい…。コレも未来の投資として考えよう。

全てはアレクシアに掛かっている。

 

広間にヴァルフレアがやってきた。

ここ二年間、私はプロジェクトの為にこの南極で過ごしていたものだからこの子を見るのは二年ぶりだ…。

ヴァルフレアも三歳となった。最後に会った時はまだ小さかったのに随分と大きくなったものだ。

言葉も舌足らずだったが、今は丁寧でハッキリと発音できている。身なりもしっかりしてる。

順調にアシュフォード家の男児として成長してるを見て私も頬が緩む。

この南極基地の地下にある屋敷は、かの有名な建築家ジョージ・トレバーが手掛けており、実家の屋敷と似た出来になっている。広間には秘密の研究所に通じる道があるが、そこは仕掛けを解かない限りは入れない様になってる。

実家と同じ造りになってるのでヴァルフレアも直ぐに構造を把握したようだ。

そして私は子供部屋にヴァルフレアを連れていく。

そこにベットに仲良く眠る双子…ヴァルフレアの弟と妹を会わせた。

私は「長男として兄としてこの二人を守るように」と言いつけた。ヴァルフレアもしっかりと頷き暫くの間、アルフレッドとアレクシアを見つめ続けていた。

 

 

 

1973年 6月

 

ヴァルフレアが南極(此処)に越してから半年が経った。

アルフレッドとアレクシアも特に問題なく育っている。

やはりと言うべきかアレクシアの成長ぶりは驚く他ない。

まだ一歳だというのに歩き出し言葉を次々と習得していき、何が欲しいとか自分の意志をハッキリと他者に伝えている。

アルフレッドはまだ言葉は覚えたてで上手く喋れないが、ヴァルフレアはそんなアルフレッドを甲斐甲斐しく世話をしている。アルフレッドもまたヴァルフレアに懐いてる。

気のせいかもしれないがヴァルフレアはアレクシアを避けているような気がする…。

 

 

自室に戻りレポートを纏めていると、ハーマンが使用人達はどうもアレクシアを気味悪く感じていると私に伝えてきた。

まだ一歳児だというのに歩き出し言葉を上手く喋る姿が不気味に映るそうだ。

そして母親の存在も気になりだしているそうだ…。

やはりこうなるか…。 無理もない。

この私ですら、自分がそうなるように作ったにもかかわらず、アレクシアの成長ぶりに少しの恐怖を感じてるのだから…。

母親、アルフレッドとアレクシアの母体の女性は既にこの世にはいない…。二人を生んだ時に亡くなってしまったのだ。

スペンサーを始めとしたアンブレラの連中に感づかれる前に遺体は既に()()してあるが、アルフレッドとアレクシアにもいつかは母親はもう居ないと伝えなければならないだろう…。

 

 

 

 

1974年 9月

 

アレクシアは二歳となったがその頭脳の成長ぶりは最早凄まじいとしか言えない。

アレクシアは既に専門学の本を次から次へと読み始めその内容をどんどん吸収していく…。

言葉も二歳児でありながら綺麗に発音するだけではなく外国の言葉すらも次々と覚えていく…! 何も知らない者が見たら恐怖するしかないだろう。

私は今更ながら自分が創り出した存在に震えている。アシュフォード家の栄光をもたらす少女に歓喜の震えと…同時に恐ろしい存在を創り出してしまった恐怖にだ…。

使用人達も今やアレクシアに恐怖してしまい、彼女には呼ばれる以外は近づこうとしない有様だ。アレクシアはそんな使用人達の態度に、気にするどころか興味すらないようだ。

彼らはアレクシアよりヴァルフレアとアルフレッドの二人を可愛がってる。

ヴァルフレアは四歳でアルフレッドは二歳だ。ヴァルフレアはアルフレッドと共に使用人達と毎日戯れている。勉学の時間となれば真面目に取り組み教えられた事はしっかりと覚えていく。

着々とアシュフォード家の男児として成長していく息子に私は安心していく…。

 

 

 

 

 

 

 

sideヴァルフレア

 

父さんが家に帰ってこなくてどれぐらいたっただろう?

ある日突然父さんは帰ってこなくなった…。

 

父さんが居なかったから寂しかったけどハーマンやジーナやマイケルやヨウコが、他の皆が居たから寂しくは無かった。

ずっと父さんは家に居なかった。ハーマンに聞いても「旦那様は今、とても大切な事をしてるから暫く会えませんが、私共が付いておりますので心配なさらないでください」としか言わなかった。

だから父さんと会えるまで立派な男の子になれるように勉強を必死に頑張った。いつか父さんに会えても大丈夫のように。

ある日、ハーマンが来月から住む場所が変わるから準備するように僕に言ってきた。何処に行くの?と聞いたら地図を出して「ここです若様」と指を当てて教えてくれた。

そこは南極と言ってとても寒い場所だと言った。そこに父さんがいてコレからは一緒に暮らせると聞いて僕は嬉しかった。

やっと父さんと暮らせるんだと胸が高鳴った。

僕は大喜びで荷物を纏めてその日を待った。

 

 

 

遂に引っ越しの日がやってきた!

僕は父さんに会えるとずっとワクワクしていた。

家から出ると車に乗って、ヒコウキという空を飛ぶ乗り物のある場所に行って、それに乗った。

始めて空を飛ぶ感覚に僕は興奮していた。窓を見ると人や建物がドンドン小さくなっていくの見ていて楽しかった。

少し経ったら、あとはずっと海が広がっていた。最初はずっと見ていたけれど、だんだんつまらくなって見るのを止めた。

使用人のジーナがおやつのクッキーを持ってきて、それを食べながらジーナと一緒にトランプをやって楽しんだけど今度は眠たくなって寝てしまった。

 

 

どれぐらい寝てたのかな?

ハーマンに起こされて外を見たら真っ白な世界が広がっていたんだ!

そうか…此処がナンキョクって場所なんだ。雪が降っててとても寒そうだ…。

それからまた窓の外を眺めていたけど大きな建物が見えてきてヒコウキはそこに降りた。

ハーマンが「到着ですよ若様」と言うからカバンを背負って建物に中に入っていた。

何か色々なキカイ?みたいなものがあってよく分からなかった…。

動いてる人もしゃべらずに淡々と静かに仕事をしていた。

 

 

エレベーターで下に降りていくとそこには家があった!

今まで住んでいた家と同じだった。

広間に行くと父さんが居た!

僕はカバンを捨てて父さんに抱き着いた。父さんも抱きしめてくれて「今ままで家にいなくて済まない」とか「私もお前に会いたかった」とか言ってくれた。

僕は父さんに色々と話がしたかったけど父さんは「ヴァルフレア、付いてきなさい」と言った。

一体何だろう?とついていくと二階に上がって部屋に入るととてもキレイな赤ちゃんが二人いた。

父さんは「これはお前の弟と妹だ。 名前は男の子の方はアルフレッド 女の子はアレクシアと言うんだ」と言った…。

僕に弟と妹が出来たなんて…何だか実感が湧かなかった…。

「お前は長男だ。これからこの二人を守るのだぞ」と言った。僕は父さんの言葉に強く頷いた。

アルフレッドとアレクシア… 僕が守るんだ!

スヤスヤ眠る二人を僕はずっと見つめていた。

 

 

 

僕が南極にやってきて半年が経った。

南極に来ても変わらず僕は勉強に励んでいた。

言葉の使い方やマナーなど新しく教えられながらも上手くやっている。

アルフレッドとアレクシアはもうベッドを出て屋敷を歩いている。

 

「お兄様、お早うございます」

 

声を掛けたのはアレクシアだ。僕もお早う、アレクシアと挨拶した。

アレクシアはまだ一歳なのにあんなに綺麗に喋れるんなんて驚きだ。アルフレッドも喋れるけどまだ上手く喋れてない。

 

「アレクシア また図書館に行くの?」

 

「ええ、お兄様。今日は生物学の本を見ますの。

お兄様は行きますか?」

 

「いや、僕は良いよ。そんなの分からないし…

今日もアルフレッドと遊ぶよ」

 

「そうですか。それではまた」

 

アレクシアはそのまま図書館に向かっていった…。

 

「アレクシア… お前は本当にまだ一歳なのか…?」

 

アレクシアは凄い勢いで勉強を覚えていく…。僕がやってる所なんてとうに終わらせて難しい事が書かれた学本を毎日見ている。今じゃ僕が逆に勉強を教えられている状態で正直兄としての立場がないよ…。

彼女は僕の妹だから守ってやらなければ存在なのに…だけど僕はそんなアレクシアを尊敬している。あんな綺麗な子が僕の妹なんだな…でも同時に僕は時々アレクシアが…怖く感じるんだ…

何だか彼女だけ別の世界の人って感じがして怖いんだ…。

そんなアレクシアのことを、父さんはとても期待してる。アレクシアは既に()()()()()()()()()()()ほどだしね。

正直アレクシアが次期当主なのは僕も賛成している。悔しい気持ちはあるけれど長男の僕よりも彼女(アレクシア)の方がずっと才能があるしアシュフォード家を良くすることも出来るだろうし。

 

「にいさま…おはよう」

 

「お早うアルフレッド 今日は何して遊ぼうか?」

 

目の前にいる男の子は弟のアルフレッドだ。さっきも言ったけどアルフレッドはアレクシアと違ってまだ上手く喋れない。

そんな弟が僕は好きで毎日アルフレッドと遊んでいる。

アレクシアも誘ったけど彼女はずっと「図書館に行くからいいです」と断ってばかりなのであまり誘わなくなった。

父さんも勉強に頑張るアレクシアをそれでいいと思っている。

 

「ぼく…かけっこがいい!」

 

「はは、アルフレッドは本当にかけっこが大好きなんだな」

 

そう言って僕はアルフレッドと一緒においかっけこに興じた。

 

 

 

僕が此処に来て二年となった。僕も四歳となった。

アルフレッドとアレクシアは二歳だ。

 

「兄さん、今日はキャッチボールしないか?」

 

「よし。今日は百回まで続けていくぞ!」

 

アルフレッドもすっかり言葉を喋れるようになった。

今日は広間の二階の廊下でキャッチボールをすることにした。

 

「あッ! アレクシア! 兄さんと僕で遊ばないか?」

 

「あら、アルフレッド兄さん。ごめんなさい…でもこれから自室に戻りますので

結構ですわ。先ほど読みたかった本が届きましたので」

 

「ア…アレクシア…」

 

アルフレッドの誘いを断りアレクシアはさっさと自室に戻ってしまう。

 

「はぁ… アレクシアは相変わらずだな…」

 

彼女の勤勉ぶりには溜息しか出なくなる。持っていた本をチラッと見たけど「世界の言葉」やら「人体のすべて」やらと難しいものばかりだ。

本当に住む世界が違いすぎる…。

 

「兄さん…アレクシアは僕達の事が嫌いなのかな…?」

 

心配そうな表情をするアルフレッド。

 

「そんな事は無いと思う… ただ勉強がしたいだけなんだと思う」

 

「でも、僕は今まで一度もアレクシアと遊んだことがないよ…。

誘っても本が読みたいからと断ってばかりだよ…」

 

最近のアレクシアは図書館ではなく自室に籠る事が多くなった。

どうも図書館の本は全部見てしまったようで、今は読みたい本があったら取り寄せてそれを読んでいることが多い。

 

「父上にも言ったけど「余計な事はしなくていい。お前とアルフレッドは自分の事に集中しなさい」とか言われたしな…」

 

「アレクシアは次期当主だから僕や兄さんはアレクシアを支えてやりなさい

父さんに僕はそう言われたよ」

 

ボールを投げながら僕とアルフレッドは語り合った。

しかしアレクシアは幾ら頭が良いからってアレは異常だ…。

ジーナを始めとした使用人達はアレクシアには全く近づかないしむしろ怖がってる有様だ。

アレクシアもそんな事はどうでもいいばかりの態度で本を読み漁ってる。

何というかアレクシアは()()()()()()()()()()()って感じだ。

僕やアルフレッドでもだ…。

アルフレッドは何度もアレクシアと遊ぼうとしてるがその度に断られているがそれでも嫌わずにアレクシアを慕ってる。

 

「きっとその内、僕達と遊ぶようになるさ」

 

「そうだと…いいんだけどね…」

 

今日もこうしてアルフレッドと遊んで終わっていく。




使用人の日記

1/3

私がアシュフォード家に使える事になったのは4年前でした。
丁度その頃、長男であるヴァルフレア様がこの家にやってきました。
私は旦那様からヴァルフレア様の世話を頼まれました。
必ず昼と夜には絵本を読むようにと言われそうしました。
始めて事ばかりでしたがハーマンさんを始めとしたベテランの方々に助けらながら何とか業務をこなしていきました。


2/3

アシュフォード家に仕えてから一年が経った頃でした。
ヴァルフレア様は一歳となりハイハイから自分の足で歩くようになりそれを見た私は嬉しさもあって涙がでました。
ヴァルフレア様の成長は早く言葉も覚えはじめ喋り出す様になり私に向かってきたり
とても愛らしく思います。
ヴァルフレア様のは私に懐いているのか頻繁に私の元へ歩いてきます。
それを見た先輩達から「母親のようでいいじゃないか。若様もお前の愛情がわかっているんだ」と言われました。

3/3

今日もヴァルフレア様のお世話をしていてふと気になったのはヴァルフレア様の母親です。普通ならあっても明かしくない奥様の写真が一つもないのです。
一度先輩に聞いてみましたが「自分達も知らない」とのことでした。
ヴァルフレア様を生んだ奥様…一体どのような方だったんでしょう?

                               ジーナ・ポルゾ









少女の日記

1/3

私が自分が特別な存在だと気づいたのはいつだったろう。
どんな問題も簡単に解くことが出来た。
どんな難解な問題でも同じだ。
私は知識を求めた。ここにある図書館に行きあらゆる分野の本を読み漁りその知識を自分に吸収していく。
次々と知識を取り込んでいく中、私は自分以外の存在が愚図にしか見えなくなった。

2/3

私には兄が二人いるがそれすらも愚図な下等な存在にしか見えなくなった。
長男は次男は私に一緒に遊ぼうというがなんて下らない…。
このような愚図と関わる時間などこの私にはない。
知識を蓄える事が最優先なのだから。

3/3

父も兄も使用人共も皆等しく屑だ。
私は確信している。私はこの世界の頂点に立つ存在なのだと!
しかしそれには力がいる…この世界の女王として君臨する為の力が…!
今はあの愚かな父の前では期待に添えられるよう態度を取っておこう。
今は雌伏の時だ…。


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成長そして別れ

アシュフォード家の男児として日々勉学に励むヴァルフレアだったが…

運命が動き出す…。


1976年 10月

 

この南極に来てから三年が経ち僕は七歳となった。

ずっと南極(ここ)いるわけではなくたまに故郷のヨーロッパに帰ったりしてた。

最近アルフレッドとアレクシアも付いてきて故郷の実家に過ごしたりした。

変わった事と言えばアレクシアが来年、欧州で最難関で名門と呼ばれる有名な大学に行く事になった。

アレクシアの頭脳は成長を続けて今や高名な学者やら専門家とも対等に話が出来たりと周りから「神童」と呼ばれたり「始祖ベロニカの再来」だとか持て囃されてる。

長男として妹が喝采されてるのは素直に嬉しいし同時に嫉妬もしてる。ここ数年で僕がどんなに頑張ってもアレクシアには届かないと分かってしまった…。

だけどアレクシアの事が嫌いにはなっていない、アレクシアは父さんの期待に応えようとずっと頑張ってるんだ。長男として彼女を支えないといけない。

僕も来年から学校に行く事になって実家から車で通う事になっている。それにしても学校か・・・南極でも家庭教師がついてずっと勉強してきたけど知らない子供達と一緒に勉強するのは初めてだな…。

でもアレクシア程ではないけど僕も勉強が得意だと自負してる。何とかなるだろう。

ちなみに僕が通う学校は所謂、上流階級の子供達が通う学校でその多くがアンブレラ社に務めている人達…それも幹部の子供だそうだ

父さんもアンブレラの幹部だから僕もこの学校に行く事になったのかな? 父さんからは「アシュフォード家の男児として恥ずかしくないように」と言われた。

まぁ、とにかく父さんの言う通りアシュフォード家の男児としてしっかりと頑張らないと。

 

 

 

 

 

1982年

 

その後、暫くして弟のアルフレッドもヴァルフレアと同じ学校に入学した。

ヴァルフレアとアルフレッドが学校に入ってからあっという間に六年が経った。

ヴァルフレアは13歳、アルフレッドは11歳となり二人は競い合いながらも仲良く過ごし友人を作りながら充実した学校生活を送っていた。

ある日、ヴァルフレアとアルフレッドの二人は使用人達と囲まれながら朝食を食べていつもの一日を過ごそうとしてた時だった。

 

ジリリリ!!

 

「こんな朝早くに何だろう?」

 

「珍しいね…誰からかな?」

 

ヴァルフレアとアルフレッドはジーナが用意した朝食を食べてる最中、電話が鳴り響いた。

 

「私が行ってきます。

はい、こちらアシュフォードです

これはハーマン様、どうされましたか?

えっ? はい、ヴァルフレア様はアルフレッド様と一緒に今朝食を…はい、分かりました。直ぐに代わります」

 

ジーナは電話を取り内容を聞く。

 

「ヴァルフレア様、お食事中失礼します。

ハーマン様がヴァルフレアに代わって欲しいと」

 

「ハーマンが?」

 

電話の相手はアシュフォード家の使える古株で執事長のハーマンだった。

 

「もしもし?ヴァルフレアだ」

 

「あぁ! ヴァルフレア様! 大変です! アレクサンダー様が…お父上様が…!!」

 

「…! 父さんがどうしたんだ…?」

 

胸に嫌な予感が沸き上がる… あのハーマンがここまで狼狽えてるなんて只事ではないのだろう。

 

「ア…アレクサンダー様が()()()()()()()()()()()…!」

 

「なっ!? 父さんが!! 一体どうしてだ!何があったんだ!!」

 

執事長ハーマンから聞かされた余りにも衝撃で残酷な言葉にヴァルフレアは冷静をなくし叫んだ。

ヴァルフレアの叫びにアルフレッドやジーナを始めとした使用人達はざわめき出した。

 

「兄さん…? どうしたんだ? 急に大声を出して」

 

心配し声を掛けたアルフレッドだがヴァルフレアは放心し唖然とするしかなかった…。

 

「兄さん…?」

 

「父さんが…死んだ…」

 

「えっ!?」

 

ヴァルフレアから出た言葉にアルフレッドや使用人達は驚愕する。

 

「と…父さんが! どうして!」

 

「詳しい事は分からない… 何か爆発事故に巻き込まれたみたいだ…」

 

「そ…そんな…」

 

足から力が抜けて尻もちをつくアルフレッド。

あまりにもショックだったが何とか自分を落ちつかせたヴァルフレアは使用人達に飛行機の準備をするように指示した。

南極研究所に行き詳しい事を知るためだ。

あそこには大学を首席で卒業し若干11歳で()()()()()となったアレクシアがいる。

彼女なら詳しい事を知ってるはずだ。

ヴァルフレアの指示に使用人達は大急ぎで各方面に連絡しアシュフォード家が所有する飛行機の準備を急いだ。

 

 

 

 

 

ヴァルフレアとアルフレッドは空港から飛行機で南極に向かった。

六年ぶりに見る南極の大地を眺めながら二人は一言も話さずに静かに座っていた。

長いフライトを終えようやく見るアンブレラの南極基地に到着した。

 

「お久しぶりです…。ヴァルフレア兄さま、アルフレッド兄さま」

 

飛行機に降りて基地に入ると妹であるアレクシアが二人を出迎えた。

 

「アレクシア…久しぶりだね…」

 

「アレクシア…大丈夫かい…」

 

さっきまで泣いていたのかアレクシアの目が赤かった…。

流石の彼女も父親の死には堪えたのだろう。

ヴァルフレアとアルフレッドが彼女に会ったのは六年ぶりになった。

アレクシアは6歳でヨーロッパの有名大学を入学しその天才的な頭脳を発揮して僅か10歳で首席卒業する快挙を成し遂げただけではなく始祖ウィルスからT-Veronicaという画期的な新型ウィルスの開発にも成功した。

その結果、10歳ながらアンブレラから幹部として入社しこの南極研究所の主任研究員として迎えられる事になった。

 

「こちらです…」

 

アレクシアに案内され冷凍室に入ったヴァルフレアとアルフレッドが見た物は…

 

 

 

 

 

 

所々焼け焦げた右手だった…。

 

「こ…これは…!」

 

「ま…まさか! これは父さんの…!」

 

それはかつて父親だった一部だった。

アレクシアによると父アレクサンダーは爆発の至近距離にいたため肉体は爆散してしまい辛うじて残った右手にはめてある指輪とDNA検査の結果、アレクサンダーのものと判明した。

 

「父さん…! う…うぁぁぁぁっ!!!

 

父親の余りにも無残な姿にアルフレッドは号泣しヴァルフレアもアルフレッドに寄り添い大粒の涙を流し続けた…

その後…アルフレッドは使用人の一人に付き添われながら基地にある自分の自室に籠ってしまった。

ヴァルフレアもまだ精神的なショックは大きいが何とか持ち直しアレクシアから事故の詳細を聞いた。

 

「私も詳しい事は分かりませんが…」

 

アレクシアは自身の研究の際、必要な機材が無くアンブレラからその機材を送ってくれるように依頼した。

それから何日経った後、その機材が届いたのだが丁度アレクシアは実験で手が離せなくなり代わりにアレクサンダーがその機材を見に行くことになったのだが突如、その機材が入った箱が爆発したのだ。

さらに運が悪い事に近くに可燃性が高い資材が入ったケースが多くあってそのせいで被害が拡大してしまい大惨事になってしまったのだ。

 

「爆発の原因はなんだ?」

 

「分かりません…それは今調べている最中です」

 

「そうか…」

 

まだ事故の詳細には時間が掛かるらしくヴァルフレアはアレクシアにその間は休んだ方が良いと言われそれに従う事にした。

 

 

 

 

 

基地に有る自分の部屋に久しぶりに入るヴァルフレア。

 

「久しぶりに入ったな… 懐かしい…」

 

学業の為に六年間、空けていた部屋だが使用人がキチンと清掃しているおかげか埃などは見受けられなかった。

ヴァルフレアはベットに腰掛けると今までの事を思い出す。

 

「父さん…僕は父さんの言う通りアシュフォード家の男児として恥ずかしくない学校生活を送ってきたよ

勉強だって一番で首席で卒業したんだよ…見て欲しかったな…」

 

ヴァルフレアが頑張ってきたのは父であるアレクサンダーに恥ずかしい思いをさせたくなかったからだ。

勉強もそうだ…いい結果を出すとアレクサンダーはヴァルフレアの頭を撫でて「流石、私の息子だ」と言ってくれるのが大好きだった。

だけどその父はもう居ない…。ヴァルフレアはこれから何を目指して頑張ればいいのか分からななかった。

 

「僕はどうすれば良いんだ…」

 

憂鬱に沈む中、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

 

「ヴァルフレア様…ハーマンです。宜しいでしょうか?」

 

「ああ…入って良いよ」

 

許可を得たハーマンは部屋に入ってきてヴァルフレアの近くまで歩いて来る。

 

「ヴァルフレア様… お父上様の事は誠に残念であります…」

 

「…」

 

「実は…アレクサンダー様からお預かりしてる物があります」

 

そう言いハーマンは懐から箱を出しヴァルフレアに手渡した。

 

「これは?」

 

「先週、アレクサンダー様はこれを貴方に渡そうとしたものです。

何があった時は私が渡す様に仰せつかりました」

 

「父さんが? ごめん…一人にしてくれるか」

 

「はい」

 

ハーマンは部屋から出ていきヴァルフレアは丁寧に包まれた紙を外すと手紙があったがそれを横に置き箱の空けるとそこには大きな黄色に輝くペンダントにされた宝石が入っていた。

美しい輝きを放つ宝石に見惚れるが手紙があった事を思い出し広げて読んでみる

 

『ヴァルフレアへ

卒業おめでとう。

箱に入ってるのは私が特注に加工を依頼した宝石が入っている。

私とアルフレッドとアレクシアにはそれぞれピアス・指輪・チョーカーに宝石を身に着けているが、お前にはまだ渡してなかったのでこの世にも珍しいイエローダイアモンドという宝石をお前へのプレゼントとして受け取って欲しい。

正直、私はお前に父親としてやるべき事をしてやれなかった…。教育も育児もハーマンを始めとした使用人達に任せっきりだった。プレゼントもあまり送ってやれなかった…卒業式すら出てやれなかった…。

そんな私をお前はいつも慕ってくれた。お前の笑顔はいつだって勇気づけられた。

お前は私の自慢の息子だ。

今度、休暇が取れたら親子四人で旅行に行こう。楽しみにしてくれ

 

アレクサンダー・アシュフォード』

 

手紙を読んだヴァルフレアは大粒に涙を流し暫く泣き続けたのだった…。

 

 

 

 

 

南極に到着して一週間が経った。

ヴァルフレアの自室にはアルフレッドとアレクシア、ヴァルフレアがいた。

ようやく事故の詳細が分かったのでアレクシアがアルフレッドと一緒に部屋に入ってきたのだ。

 

「それで…原因は何だったんだ?」

 

ようやく来た詳細にヴァルフレアはアレクシアに質問する。

アルフレッドもアレクシアを無言で見つめる。

 

「簡潔に言えば…管理と教育の不徹底です…」

 

「どういう事だ?」

 

アレクシアが言うには爆発の原因なのはLC-196という爆発性が高く慎重な取り扱いが要求される液体で本来は特殊な容器に入っていなければならない代物でLC-196用に開発された対爆性に優れたケースに入れておかねばならないのだが…どういう訳かそれがに他の資材のケースに混じっていたらしくソレに気づかない作業員が乱暴に荷下ろしした結果爆発したのだ。

もっと言うとLC-196はつい最近この南極基地で使われる事になった物で作業員全員に通達したが()()()()も相まって完全な教育にはなっていなかったそうでそのためLC-196の理解が少ない作業員が誤って通常のケースに入れてしまったのだ。

 

「な…なんて事だ…そんな下らないミスで父さんが…」

 

ヴァルフレアとアルフレッドはアレクシアに聞かされた事故の詳細に怒りを通り越して呆れるしかなかった。

 

「申し訳ございません…! これは責任者である私の責任です!

私がお父様を殺したのも同然です…!!

私がもっとしっかりやっていれば…!」

 

アレクシアは涙を流し二人に深々と頭を下げた。

 

「アレクシア…! 君が謝る事じゃない…!」

 

アルフレッドはアレクシアを宥めた。

確かにアレクシアにも責任はあるのだが…彼女はまだ11歳の子供なのだ。

彼女の一人が悪いと言ったらそれは違うだろう。

 

「アレクシア…頭を上げてくれ

悪いのはそのLC-196というそんな危ない代物を碌な社員教育しなかったアンブレラ社の方が責任は大きいんだ」

 

「お兄様…」

 

真っ赤に腫らした目を見るとアレクシアは今回の出来事でどれだけ自分を責めてるのか分かる…。

 

「取り敢えず…これからの事を考えよう…」

 

三人は葬儀を含めてこれからの事を話し合った。

 

 

 

 

 

その後…ヨーロッパの自宅でアレクサンダーの葬式が行われた。

親交があった著名人達が訪れ粛々と進み終わった。

 

 

葬儀が終わるとヴァルフレアはアシュフォード家の()()()()()となった。 本来なら才能があり実績も持つアレクシアが当主になるはずだったが彼女は当主になることをヴァルフレアとアルフレッドの反対を押し切って自ら辞退したのだ。

理由は研究に重視するためとやらなければならないことがあるとの事だった…。

アレクシアの強い意志にヴァルフレアは長男としてアシュフォード家の当主になる事を受け入れ弟のアルフレッドも賛成した。

ヴァルフレアがアシュフォード家の七代目当主になった事を見届けたアレクシアは再び南極に戻りヴァルフレアとアルフレッドは父の遺品をそれぞれ受け取り形見として持つ事にした。

当主となった事で執事長のハーマンからアシュフォード家の伝統の宿品として陶器の壺が贈られた

その後、暫く喪に服した後は二人は父の悲願だったアシュフォード家の再興のために学業に力を入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年

 

ヴァルフレアは14歳となり学業を並行して当主の仕事はアルフレッドやハーマンを始めとした使用人達に助けらながら何とかこなしていった。

しかし当主としての仕事をこなしていく内にヴァルフレアはアシュフォード家を懇意していた者達が次々と去っていく事に心を痛めていた。

アシュフォード家の現状はハッキリ言って酷いものだった…。

かつてはアンブレラ社の創設に関わった名門貴族として周囲から羨望の眼差しを受け取っていたが今は嘲笑を向けらている…

 

無惨なものだ…エドワード卿は優れた当主だったのに

長女のアレクシアは優れた人物だというのに長兄と次男の方は…

今のアシュフォード家には価値がない。さっさと切り捨てた方が良い

 

アシュフォード家はもう終わりだな

 

現在通っている学校で陰ではこのように嘲笑う者、失望する者がいてヴァルフレアも物陰からそのような言葉を何度も聞いてしまったのだ。

 

(くそ…! 前までは我らアシュフォード家に媚びへつらっていたくせに…! 何度も資金を提供して助けてやったのは誰だ!)

 

恩知らずな連中から聞いた言葉にヴァルフレアは歯を食いしばり拳をギリっと握りしめる。

だが同時に今の自分は当主として最低限な事しか出来ておらず未だに学生の立場だ…

 

「見ていろ…! 必ずアシュフォード家を私と弟と妹の三人で再興して見せる…!」

 

今は耐える時だ… そう自分に言い聞かせ勉学に励んだ。

 

現在、ヴァルフレアは主に政治学・法律学や経済学など中心に力を入れている。

当初は祖父や父のように科学者として歩もうとしたが自分にはそういった事の才能が無い事に気づき断念したのだ。

それに化学の分野はアレクシアが専門としており学んでも意味がないからだ。

ならば当主として資金の扱いや政治の場として活躍ができるようにしようと思ったからだ。

ちなみにアルフレッドも科学者のとしての才能がなかった為、兄の補佐が出来るように同じ学科を学ぶことにしたようだ。

ただそれとは別に軍事学も学んでいるようだ。

余談だがヴァルフレアもアルフレッドに勧められて軍事学を学ぶ事にした。

 

 

今日もヴァルフレアは屋敷の当主の部屋で仕事に勤しんでいた。

ようやく当主の仕事に慣れたがアシュフォード家は零落する一方だった…

この状況に歯嚙みしながらもどうすことも出来ない自分に情けなくなる思ってしまう。

 

「アレクシアが居るから何とか持ちこたえてるが…彼女ばかりに負担をかけるわけにはいかない…」

 

アシュフォード家が零落してるが何とかギリギリで抑えているのはアレクシアのおかげだ。

とはいえ何時までもアレクシアばかりに頼るわけにはいかない。

将来に備えて何かプランを考えないといけない…そう考えていた時だった。

 

「ヴァルフレア様!! 大変です」

 

突如ジーナが真っ青な顔で部屋に入ってきた。

 

「どうしたんだジーナ?何かあったのか…?」

 

途端にヴァルフレアは嫌な予感が頭に響く…まさかとは思うが…

 

「アレクシア様が…アレクシア様がお亡くなりになったと今、電話が…!」

 

それを聞いたヴァルフレアは何も言えずただ放心するしかなかった…。

 

アレクシア…お前まで…逝ってしまうのか…。

 




少女の日記2

1/5

ここ最近、私はアリ塚を作りその生態と社会を研究してる。
アリの社会は一匹の女王アリを頂点とした社会で他のアリは兵隊として奴隷として女王に服従してる…女王には一切逆らず自分の命を女王アリに捧げている。女王アリの為に生き女王アリの為に死んでいく。
これは正に私が望む世界…!これこそが私が求めるものだ!
脳内で朧げながら描いていた世界がこの時完成したのだ。
後はこれを成し遂げるの道具と力があればいい。


2/5

私は女王アリの遺伝子をスペンサーが見つけてきた始祖ウィルスに組み込んだ。
少し手間がかかったものの理想的なウィルスの試作体が完成した。
とは言えこれはまだどのような作用を生み出すが分からない。
実験が必要だ。

3/5

私は部下の研究員に何か実験体を探してくるようにと命じた。
私が此処に来てから私に崇拝する者がいて手駒が直ぐに手に入ったのが幸いだった。
戻ってきた部下は実験するには都合が良い`モルモット`の資料を見せてくれた。
全員は身寄りが居らず消えても問題がない者達だ。
適当に選んだモルモットを使って明日から実験するとしよう。

4/5

適当に選んだモルモット共で実験してみたがやはり問題が発生した。
それは死亡率が高すぎる事だ。
6人のモルモットに試作ウィルスを注入したがウィルスのよって血液が発火する性質をもったようで5人が数秒程度で焼死してしまった。
残る一人は相性が良かったのか焼死はしなかったが急激な細胞の変化に付いていけず
怪物化してしまった。拘束具は破壊しかねないので直ぐに処理した。

5/5

手間はかかったが試作ウィルスの改良が終えることが出来た。想像以上の力を秘めたこのウィルスをT-Veronicaと名付けた。
これこそが私の研究の集大成であり夢の結晶だ。
世界が私にひれ伏す日は近い。


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失意

父であるアレクサンダーを失いながらもヴァルフレアは周囲の嘲笑に耐えながら
アシュフォード家の再興に向けて努力してる中、またしても悲劇が彼を襲うのだった…。


「アレクシアが…死んだ…?」

 

嘘だ!

ウソだ!

うそだ!

そんな訳がない!

ジーナはきっと嘘を言ってるんだ…。ただ嘘にしても度が過ぎるじゃないか?

もしかしてコレは悪い夢なのだろうか? だったら早く目を覚まさなければ…

起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ…

 

「…ま!」

 

何かが聞こえる…何だろう?

 

「…様! ヴァルフレア様! どうか気を確かに!!」

 

私の肩を掴み呼びかけるのはジーナだった。

 

 

 

1983年

 

アレクシアが実験中にウィルスの感染してしまい亡くなった。

これは各地のアンブレラ研究所で騒がれた。

アレクシア・アシュフォードは12歳だというのにその早逝は多くの人に惜しまれた…。

彼女の死に最も激震したのは当然ながらアシュフォード家だった。

当主であるヴァルフレアとその弟のアルフレッドはすぐさま南極研究所に向かったが二人が待っていたのは大勢の警備員だった。

ヴァルフレア達は身内が亡くなったのでせめてその亡骸に対面させてくれと言ったが警備員は規則の為、亡骸でも処理が終わるまで関係者以外は見せる事は出来ないと無情に言い放った。

この言葉にヴァルフレアはアルフレッドは激怒した

 

「ふざけるな!! アレクシアは我が妹だぞ! 身内が遺体に対面するのに何の問題がある!!」

 

「そこをどけ!!」

 

しかし警備員はその二人の怒りなど気に留めることは無くこれ以上騒ぐなら拘束すると銃を突きつけた。

煮えたぎる怒りを抑えてヴァルフレア達はハーマン達に宥められながら案内された部屋で待機する事になった。

 

それから待つこと数時間…。

 

「お待たせしました。現在、この研究所の主任代理のカルド・ゼンド―です

今回の事は誠に残念です…」

 

白衣を着た男性はそう自己紹介しヴァルフレア達に頭を下げた。

ようやく終わったのか…ヴァルフレアはアレクシアの亡骸に合わせて欲しいと言ったが

 

「残念ですがそれは出来ません」

 

「何故だ…! もう処理とやらは終わったのだろう! 会ってもいいだろう!」

 

アルフレッドはカルドに食ってかかったがカルドは動じる事もなく静かに口を開いた。

 

「無理です。何故なら既に遺体は焼却いたしました。

文字通り骨一つもありません」

 

「何だと!!」

 

カルドの言葉にヴァルフレアは椅子から勢いよく立ち上がりカルドに睨みつけた。

 

「お気持ちは分かりますがアレクシア主任は危険なウィルスに感染してしまった為に安全の為に汚染された遺体は焼却するのが規則なのです。一刻も争うので例え関係者の身内の許可がなくとも急いで処理しなければなりません。それが会社に与えられた私の権限ですので」

 

「貴様…!! さっきからふざけた事をばかり!!」

 

「アレクシア様のご遺体を勝手に焼いただと!!」

 

「なんと無礼な!!」

 

カルドの淡々とした言い方にハーマンを始めとした使用人達は激怒しアルフレッドは激昂しカルドの白衣を強く掴み壁に押し当てた。

今にも絞め殺そうとするアルフレッドを止めたのはヴァルフレアだった。

 

「やめろ! アルフレッド!

この男に何を言っても無駄だ」

 

「だが兄さん…!」

 

「皆も落ち着くんだ。この男は規則に従っただけだ…。

それにこんな事をしてもアシュフォード家の名誉を汚すだけでアレクシアは帰ってこないんだ…」

 

ヴァルフレアの言葉に使用人達は冷静になりアルフレッドは渋々ながらカルドから手を離した。

 

「理解に感謝します」

 

カルドは乱れた服を直しながらヴァルフレアに感謝する。

 

「遺体の対面は出来ないのは残念だがアレクシアの遺品などは持っていていいか?」

 

「それは構いません。お部屋に案内いたします」

 

「結構だ。彼女の部屋は知っている。

貴方は自分の仕事に戻るといい」

 

「では失礼いたします」

 

カルドは頭を下げ部屋から出ていく。

ヴァルフレアはアルフレッドと使用人達を連れてアレクシアの部屋に向かった。

 

 

 

「ここか…」

 

南極研究所の奥…ヴァルフレア達はアレクシアの部屋の前で立っていた。

ヴァルフレアとアルフレッドがアレクシアの部屋に入るのは実はこれが初めてである。

理由としては彼女はもっぱら本を読む事が大事で部屋に籠ってる事が多くヴァルフレアはアルフレッドと毎日遊んでいたが彼女とは最後まで一緒に遊ぶことは無く知識を蓄え続けたためヴァルフレアとアルフレッドは次第に彼女を遊びに誘うことがなくなったのだ。

それにアレクシアは他者を自分の部屋を呼ぶこともなくヴァルフレアとアルフレッドも女児の部屋に入るのは抵抗があった。

 

(だから今までアレクシアの部屋に入る事は無かったが…)

 

だがもうこの部屋の主人はいない… 意を決したヴァルフレアはドアを開け部屋に入った。

 

 

「これは…」

 

 

 

部屋には無数の本と何かの研究資料がズッシリと丁寧に保管されていた。

部屋の奥にはケースに収められた()()()があった。

 

「何というか…アレクシアらしい部屋だな」

 

専門学や研究資料やケースに収められたアリ塚…それ以外は何もなかった。

女子に必須な化粧もなければ貴金属もない。部屋の主人を現した部屋だった。

 

「あの、兄さん…遺品としてどれを持っていけばいいのかな…?

本にするのかい? それともこのよく分からない研究資料やデーターを…?」

 

「そうだな…こう言ってはなんだけどアレクシアは本当に研究一筋だったんだな…」

 

自分の人生を全て研究に捧げてると言ってもいいレベルだ。

しかし貴金属もなければ化粧も無いとは…自分を着飾る気は全くなかったようだ。

皆、どれを遺品として持っていこうかと考えたが中々纏まらずジーナとハーマンの提案でこの部屋自体を遺品として保存することに決めた。

 

 

南極から戻ったヴァルフレアは直ぐにアレクシアの葬儀に始めた。

父であるアレクサンダーの葬儀と比べて彼女の葬儀はアンブレラ幹部が勢揃いしておりどれだけアレクシアの早すぎる死去が惜しまれているか分かる。

 

「アレクシア嬢の事は大変残念だ…

彼女の死はアンブレラの大きな損失でしかない」

 

「貴方は…?」

 

アシュフォード家の当主として弔問客に相手をしていたヴァルフレアに大柄な男性が話を掛けてきた。

 

「失礼、私は()()()()()()()()()()()という者だ。

ソビエト軍の大佐を務めさせている」

 

「ソビエト連邦…ですか?」

 

ヴァルフレアは目を見開く。

何故なら自分が居る国はソ連とは敵対してる国なので目の前にいるセルゲイ大佐は敵国の人間なのだ。

しかし何故、そのような人物がアシュフォード家の葬儀に参加しているのか?

 

「私はスペンサー総帥と少し仲が良くてね。今回は総帥が来れないので代わりに私が葬儀に参加してほしいと仰られてので来たのだが構わないかな?」

 

「いえ、スペンサー卿の代わりならばどうぞ。」

 

どうやらこのセルゲイ大佐はスペンサー卿の信頼がある人物のようだ。

アンブレラはソビエト連邦にも展開しておりソ連軍だけではなくモスクワのクレムリンにも顔が広いのだ。セルゲイ大佐もその一人という訳だろうか?

ならば敵国の人間とはいえ丁重な扱いをしなければならない。彼はスペンサー卿の代理で来てるのだから彼への非礼はスペンサー卿の非礼とも言えるのだ。

 

「それにしても君は強いな。ヴァルフレア君」

 

「えっ?」

 

「14歳でありながら耐え難い痛みを受けてなお君の眼は強くあり続けている」

 

「あの失礼ですがどういう意味ですか?」

 

この褒められてるのかよく分からない言葉にヴァルフレアは戸惑ってしまう。

 

「去年は父君が亡くなり今度は妹君を失うという痛み、そして周りの嘲笑に君が耐え続けている事に感服してるのだよ」

 

「…」

 

確かに去年は愛する父が無惨な最期を遂げ今度は己よりずっと優れた才能を持っていたアレクシアが実験中の事故で失ってしまった。

そして周囲の嘲笑う目つき…。

そんな中でヴァルフレアは耐え続けていた。むしろより一層、アシュフォード家の再興を強く決意した。

その在り方がこのセルゲイ・ウラジミールという男を興味を持たせたのだろうか?

 

「痛みは恐れるものではない…受け入れるものなのだ。それが人間をより強くするのだ。

ヴァルフレア君 もしも私に何か協力出来るのなら何時でも相談してくれたまえ」

 

セルゲイはヴァルフレアにそう告げて葬儀の奥に消えていった…。

その後は特に問題はなく葬儀は終わった。

 

 

 

 

 

 

アレクシアの葬儀が終わって暫くして…。

 

「待ってください! それでは約束が違います!

お言葉ですが貴社の倒産の危機の際、銀行に融資出来るようにしたのは誰です! 我がアシュフォード家です!」

それなのにそんな一方的に! ……!!そうですか…!分かりました。ではもう結構です」

 

ガチャリと電話機を置くヴァルフレア。

 

「ヴァルフレア様… 今のお電話は?」

 

執事長のハーマンはアレクシアが亡くなったのでヨーロッパのアシュフォード家に戻ってきたのだ。

現在、彼は当主であるヴァルフレアの補佐をしているのだがヴァルフレアが電話で相手に怒りを見せていたので何事なのか聞く。

 

「ダンリール社が我がアシュフォード家への資金援助を断ると言ってきた…!」

 

「そうですか…」

 

アレクシアが亡くなると急速にアシュフォード家は零落していった。

その証拠に研究に資金援助していたいくつの企業や財閥がアシュフォード家から手を引き始めたのだ。

 

「クソ…! 今まで何度も助けてやったのにその恩を忘れるとは…! 何て恥知らずな連中なんだ!」

 

ダン!と机に拳を叩きつけるヴァルフレアにハーマンはどうする事も出来なかった。

悔しいがアレクシアが居たからこそアシュフォード家は資金援助を貰えたのだがそのアレクシアは亡くなったのでアシュフォード家を援助するのは無駄だと感じたのだろう。

もしもヴァルフレアまたはアルフレッド、アシュフォード家に近いものがアレクシアの研究を継ぐことが出来たのならまだここまで危機的な状況にはならなかっただろう。

 

(どうすれば良いんだ… このままではアシュフォード家の再興なんて夢のまた夢だ

私にもアレクシア程ではなくてもそれなりの化学の才能があれば…)

 

どれだけアレクシアに頼り切っていたのか身に染みていく…。今はまだアシュフォード家には特許があるから資金面は問題はないがそれもいずれ尽きるのは明白だった。

そうなればアシュフォード家で働く者達の給料も払えなくなるどころか家の維持も不可能になる。

ヴァルフレアは現在、大学に進学していて卒業すればアンブレラ社の幹部になる事に決まってはいるが所詮、()()()()()()()()()()()()()というおこぼれで自身の才能で幹部になった事ではないのだ…。

だから他の幹部と違って給料だって大したものではない。

家の再興どころか存続すら怪しい将来にヴァルフレアはただ頭を痛めるしかなかった。

 

 

 

 

 

1987年

 

四年後、ヴァルフレアは18歳になった。

無事、大学を卒業したヴァルフレアはアンブレラ本社に入社し幹部として迎えられた。

 

「何とか幹部として迎え入れられたな…。 首席で卒業出来てよかった…」

 

アレクシア程ではないがヴァルフレアも常人よりは優れた頭脳の持ち主なので成績は常にトップだった。

大学も首席で卒業したおかげかアンブレラ社から「幹部として迎え入れたい」と声がかかった。

勿論、これは最初から決定事項だったが今は幹部としてアンブレラ社に入れたのは大きい。

 

(とにかく、幹部として成績を収めていけば給料も多く手に入るだろうし、他の人達もアシュフォード家に注目してくれるかもしれない

そうやってコネを築いていけば将来は明るくなるはずだ…!)

 

そうしてヴァルフレアは勤め先のアンブレラヨーロッパ支部に向かい指定された場所にエレベーターで昇っていく。

上層部に「会社に来たらここにくるように」と言われたからだ。

ヴァルフレアは指定された場所…そこはアンブレラ上層部が集まる会議場だった。

一体自分は何処に配属されるのか…?

呼吸を整えたヴァルフレアはノックをして入室する

 

「突然呼び出して申し訳ないヴァルフレア君。此処に呼んだのは他でもない幹部である君の配属する場所についてだ」

 

(やはりか。さて一体何処に配属されるのか…?)

 

広い部屋には身なりを整えた初老の男性が待っていた。この男性こそこのヨーロッパ支部の上位に入る幹部だ。

アンブレラの幹部は皆、能力に応じて適切な部署に配属される。

年齢も関係なく米国のアークレイ研究所の主任として若干18歳、16歳で研究所の主任となった者が二人もいるし亡くなった妹のアレクシアも10歳で南極研究所の主任となったのだから。

流石にヴァルフレアは今挙げた三人程の実力などないがそれでもそこらの連中よりは使えると自負している。

そこそこ良い所に配属されればいいなと思っていたが…

 

「早速だが君は一週間後にビラ島にある研究所の所長と基地の司令官として着任してもらう。

何か質問はあるかな?」

 

「えっ?」

 

上司の目の前だがヴァルフレアは間抜けな声を出してしまった。

しかし彼が困惑するのは当然で配属される場所は聞いた事もない島だったのだから。

 

(ビラ島…?何処だ?聞いた事もないぞ?)

 

 

「失礼ですが…ビラ島というのは何処にある島でしょうか? 聞いた事もないのですが…?

それに所長は分かりますが司令官とは?」

 

そのビラ島という場所にはアンブレラ社の研究所があるのだろうか? そして自分はそこの所長に任命された訳だ。

しかし司令官…? 何か軍事基地があるのか?

 

「ビラ島は南米大陸の太平洋側にある島でつい最近だが南米で新しく作られた場所でまだそこの責任者が決まってないんだ。

そこで君はそこの所長になってもらう。あと研究所の他にわが社が保有する保安部隊のUSSとUBCSの訓練所もあってね、君は資料を見ていたら軍事学も学んでいたそうじゃないか

だから君が適任だと思い司令官も任命した。

あとそうだね…近い国はチリ共和国だね。

まぁ詳しい事はそこの資料に書いてあるから読んでおきなさい」

 

「待って下さい。急に言われても…何故、自分はここに配属されるのですか…?」

 

「君の資料を読んだ上で皆で慎重に議論した結果、君はそこに配属することが良いと分かったんだ」

 

「お言葉ですがこんな場所で何が出来るんですか…! 別の場所に配属はしてもらえないのですか?」

 

上層部の指示でも流石にヴァルフレアは納得できなかった。こんな僻地で何をやればいいのだ? 木でも数えていればいいのか?

どう見ても左遷か厄介払いとしか言えなかった。皆で慎重に議論したというが絶対に嘘だ。

 

「残念だが他の場所は既に埋まっていてね。君はもうソコしか配属出来ないんだ。

無理ならば残念だが君を幹部としてはではなく通常の社員として働いてもらうしかないな」

 

「(そ…そんな…) わ、分かりました…。ビラ島に着任いたします」

 

「結構。現地には君の部下が居るから上手く活用したまえ」

 

最早、何言っても無駄だと感じたヴァルフレアは渋々ながらビラ島に着任する事になった。

折角、アンブレラ社に幹部として入社したのに一般社員なんて嫌だった。

給料だって他の幹部よりは少ないだろうが平社員よりはずっと高級取りだし家の存続のためには金が必要なのだ

 

(こうなったら意地でも成果を出すしかない! そしていつか本社(此処)に戻ってやる!)

 

そうして家に帰ったヴァルフレアはハーマン達使用人に今回の事を話した。

 

「なんて酷い…。こんなの無視すべきです!」

 

ハーマン達はアンブレラ社上層部に怒りを露わにしてヴァルフレアに自分達が支えますのでそのような指令は断るべきだと言ったがヴァルフレアは首を縦に振らず現地で結果を出せば本社に戻れると説得した。

ヴァルフレアの決意にハーマン達は最後の最後までアシュフォード家を支えると誓いビラ島にはチリ出身のジーナを始めとした南米生まれの使用人がヴァルフレアと一緒に着いていく事になりハーマンを始めとした残った者達は現在、大学に通っているアルフレッドの世話をするためにヨーロッパに残る事になった。

 

こうしてヴァルフレアは島流しとも言える配属に不満を持ちながらもアシュフォード家の再興の為にビラ島に向かったのだった。




少女の日記3

1/6
T-Veronica…。
私が作ったこのウィルスは調べれば調べる程、その凄まじいポテンシャルに驚く。
部下が用意したモルモット共を使った実験で私は遂にこのウィルスを制御する方法を見つける事が出来た。
後はその為の機材が必要だ。本社に頼んで取り寄せて貰おう。

2/6
近頃、無能な父が煩くなってきた。
施設の人間の失踪に疑問を持ち始めたようだ。T-Veronicaの実験体に使ったのはまだバレていないが正直目障りだ。
近いうちに処理する必要がある。

3/6
再びT-Veronicaの実験を行った。
部下にモルモットが少なくなったので父を連れてこいと命じ確保した。
やかましく叫ぶこの無能に改良したウィルスを打ち込むがやはり急激な細胞の変化に脳組織が破壊されてしまった。
体内から鋭利な触手が生えてきてそれを使って拘束具を破壊しようとしたが強力な
ガスで眠らせた。
今までの変化とは違うので処理せずに地下の独房に閉じ込めるように命じた。

4/6
父アレクサンダーは失踪として片付けようとしたがそれだと兄二人に感づかれる可能性がある。
そこで怪物となった無能の右手を切り落として爆発事故として片付けるようにした。
部下に命じ荷物に細工をして爆発させて無能の右手を捨てておいた。
更に父に変装させた者に爆発した場所に居たように細工しておいたのでこれで誰の目には父が爆発事故で死んだだと思うだろう。
後は兄達を騙すだけだ。

5/6
結果を言えば愚かな兄二人はいともたやすく騙された。
これで邪魔者はいなくなった。
そしてウィルスを制御するだけだ

6/6
ウィルスを制御し力を手にするには低温でウィルスの活動を押さえ、緩やかに細胞を変化させればいいのだが問題はウィルスに対する免疫を持ち、共存できるようになるまで15年も掛かる事だ…その間は私は全くの無防備なのだ。
そのため我が部下で忠実な兵隊アリであるゼンド―に私を守り抜く事を命じた。
この男はそれなりに優秀なので心配はしてないが力を得るためなら多少のリスクを受け入れよう。
目覚めた時、私はこの世界の頂点に立つ存在になっている。


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配属

大学を首席で卒業したヴァルフレアはアンブレラ社の幹部として入社したのだが
待っていたのは聞いた事もない島の配属だった…。


大西洋上空…。

 

現在、ヴァルフレアはヨーロッパから南アメリカのブラジルへと向かっていた。

 

ヴァルフレアが配属されるビラ島に行くには一旦ブラジルに行き別の飛行機でチリに向かいチリに着いたら今度は車で数時間掛けてとある漁村に行きそこでビラ島に行くボートに乗って更に数時間という相当心身に負担が掛かるものだった。

 

 「分かっていたがなんて不便な場所にあるんだ…。南極基地に行くのは特に負担はなかったがこれはキツイな」

 

ヨーロッパから目的地に行くのにあまりにも負担が掛かるので現地に着いたら移動の手間を減らす事が出来るように何か考えなければならない…。こんなの毎回やるなんて絶対に嫌だ。

 

「そう言えばビラ島に関する場所の資料が渡されたな…まだまだ時間はあるし見ておくか」

 

上司から渡された資料を取り出し早速見てみる。

 

 

 

 

 

ビラ島

 

南アメリカ大陸の太平洋側に浮かぶヴィレーネ国に属する島である。

1983年にヴィレーネ島南部に浮かぶ小島にアンブレラ社は新たに研究所とアンブレラ社の保安部隊であるUSS(Umbrella Security Service)と即応部隊のUBCS(Umbrella Bio Hazard Countermeasure Service)の訓練所を設立する事を決定し1987年3月29日に研究所と訓練所が完成した。

ビラ島には多くの薬草が生えていることからそこから化粧品や傷薬といった薬品を主に開発している。

訓練所は最新鋭の技術で作られた機材が使われておりアンブレラ社の要人を守護を目的のため隊員には最高の訓練が用意されている

 

 

 

ヴィレーネ国

 

太平洋に存在する島で人口は1300万人。

かつてはチリ共和国の一部だったが独立を求める勢力とそれを阻止する政府側と激しい内戦が起き10年以上続き1930年にチリ政府はヴェレーネの独立を認めた。

その後、ナチスドイツやイタリアといったファシスト勢力の多大の支援を受けて1939年にはファシスト政権が誕生する。

それに対して共産主義勢力が決起し政権側と内戦に突入してしまう。

しかし1945年に枢軸国が連合軍に敗北してしまい支援が失ったファシスト政権は弱体化しソビエト連邦の支援を手にした共産勢力が勢いづき各地で政府軍はヴィレーネ各地で敗戦を繰り返し1953年には共産軍は首都ヴィレネを制圧し総統を始め政府の要人を処刑しヴィレーネ国の実権を握る。

新たに発足した共産政権はヴィレーネ国の企業を次々と国有化し土地も接収し国有化する。

しかし急すぎる政策は国民の生活を何かも変えてしまい反感を強く買ってしまう。1956年には首都ヴィレネで大規模なデモが勃発しまい政府は警察だけではなく軍隊を出動させ武力でデモ隊を鎮圧してしまい多数の死者が出てしまう。

その結果ヴィレーネ各地で反政府軍が結成され共産政権の打倒を掲げ武力闘争を開始して第二次ヴィレーネ内戦が起きる。

折しもアメリカを盟主とする資本主義勢力の西側とソビエト連邦の盟主する社会主義勢力の東側で世界が二分される冷戦時代でヴィレーネもこの冷たい戦争に巻き込まれていく。

その結果、第二次ヴィレーネ内戦はアメリカは反政府軍に多くの援助を行いソビエト連邦は政府側に多大な援助を行うという代理戦争となっていった。

1968年には再びファシスト勢力が勢力を拡大していき戦いは反乱軍と政府軍とファシズム軍の三つ巴になり戦いは終わらず今に至るまで終結していない。

 

更にヴィレーネは未だに世界から国家として認められていない未承認国家である。

 

 

 

 

 

 

ざっと資料を読み終えたヴァルフレア。

 

「これは酷いな… 独立からずっと戦争ばかりじゃあないか…。

こんな酷い国に行くのか…。」

 

ヴィレーネ国は独立以降、ずっと内戦を繰り返してる国で平和だった時が一つもない有様だ…。

完全な失敗国家として歩んでるこの国に配属されたヴァルフレアは深いため息を吐いてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、機内で就寝していたヴァルフレアは使用人に起こされてブラジルの空港に付き別の飛行機に乗りチリ共和国の空港へ行き降りたら車に乗って小さな漁村に向かった。

 

インフラが整っていない道路に揺らされながらやっとことで目的の漁村に到着したが辺りはすっかり夜になっていた。

流石に夜では目的地のビラ島にはいけないので仕方なく村のただ一つの小さな宿に泊まる事にした。

 

「はぁ…疲れたな…。」

 

何十時間のフライトに数時間の悪路に振り回されてヴァルフレアはクタクタだった。

 

しかしベッドは家のベットと違って粗末なベッドで座るとギシギシなるししかも固い…。

 

トイレだって悪臭漂い便器には誰かの排せつ物がこびりついてる有様だ…。

 

ヨーロッパで綺麗な環境を過ごしてきたヴァルフレアには余りにも過酷な宿でだった。

 

「ウェ…何かも最悪だ…。研究所とかはちゃんと綺麗なトイレだといいな…」

 

朝まで我慢するしかない…そう考えてヴァルフレアは使用人のジーナにもう寝ると言って就寝に付いた。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

寝心地が悪いベッドだったが朝まで熟睡していたヴァルフレアはジーナが用意した朝食を食べて直ぐに宿をチェックアウトしてビラ島に行くボートへと向かう

しかし…

 

「何だと! 今日は出せない!?」

 

「申し訳ありません… ボートが故障でして直すには1日程必要です」

 

「冗談じゃない…! またあの宿で過ごせと言うのか!」

 

ヴァルフレアはボート小屋に入ってさっそくビラ島に向かおうとしたが不運にもボートが故障を起こしてしまい行けなくなったのだ。

修理には1日掛かると言われたがヴァルフレアはもうあの不衛生な宿でもう一泊するのは勘弁したかった。

 

「そうだ! 研究所に電話して迎えに来られるか聞いてみよう」

 

そこでヴァルフレアは資料を開いて研究所の電話番号を見つけてまた宿に戻って電話を掛けた。

 

「もしもし? こちらアンブレラ・116ビラ研究所です」

 

「もしもし。私はヴァルフレア・アシュフォードだ。

 

本社からそちらの研究所の所長に任命された」

 

 

「!? これは失礼しました…!

 

どのような用件でしょうか?」

 

 

電話の相手が自分達の上司だと知った研究員は慌てながらも要件を聞く。

 

「昨日、この漁村に着いたが夜だったので一泊して今からそちらに向かおうとしたがボートが故障してそちらに行くことが出来なくてな…。

それで済まないが迎えに来てくれるか?」 

 

「分かりました。今からヘリでそちらに向かいます。

村の酒場でお待ちください」

 

「ありがとう。では酒場で待ってるぞ」

 

そう言って電話を切り一息ついたヴァルフレア達は村の酒場に行き迎えを待つことにした。

 

「良かったですね。正直あの宿にまた一泊は私達も嫌だったので…」

 

「全くだ…。それにしても本当に不便な場所にあるな…。行くだけでこの有様だ」

 

「南極基地では飛行機に乗って着くまで時間はかかりますがここまで大変ではありませんから…」

 

ヴァルフレアは何度目かの溜息は吐く。今更ながら本当にとんでもない場所に配属されたものだ…。

ヴァルフレア達は昼間から酒を飲むわけにはいかないのでジュースや水で喉を潤いながら待つこと一時間…。

 

酒場の前でジープとトラックを含めた数台の車が止まりその一台からガタイの良い男性が降りてきた

 

「お待たせいたしました。

貴方はヴァルフレア所長ですか? 向こうにヘリを用意いたしましたのでこちらにどうぞ」

 

「そうか…ようやくかそれじゃ早速案内してくれ」

 

話を聞くと彼はUBCSのヘリパイロットで上官の指示で大急ぎで急行したの事だった。

荷物をトラックに詰め込み、ヴァルフレアと使用人達はそれぞれ車に乗りヘリの着陸場所へ向かう。整備されてない道路にまた体が揺らされながら向かうと大型輸送ヘリのCH-47 チヌークがあった。

車から降りた一向は荷物を下ろして今度はヘリに詰め込みそれに乗った。

 

「出発いたします。

揺れが起きますので捕まってて下さい」

 

パイロットはヘリのスイッチを次々と押してエンジンを掛けてローターが回り出して浮かび出した。

 

 

 

 

それから一時半…

これといったトラブルに見舞われず順調に進んでいく

 

「Mrヴァルフレア! アレがビラ島です」

 

「あれがビラ島か…。」

 

ヨーロッパから出発して二日目で遂にビラ島に到着した。

ようやくか…ヴァルフレアは何とか島に着けた事に安緒しヘリから降りた。

ヘリポートには白衣を着た数人の研究員が待っていた。

「ようこそ。お待ちしておりました。

私はここの主任研究員を任されてますゼネルティーノ・イデンジと申します」

 

「こちらこそ世話になります。

ここの所長と訓練所の司令官に任命されたヴァルフレア・アシュフォードです」

 

ペコリと頭を下げた男、ゼネルティーノを見てヴァルフレアも挨拶する。

これから長い付き合いなるので悪印象を与えないようにしなければならない。

 

「それと今回の不備に関しては申し訳ありません…。

こちらからヘリを予めご用意しておくべきでした…」

 

「いや、もう済んだ事だ。

それじゃ早速この研究所の案内と説明を頼む。

あとジーナ達…私の使用人達を休めさせたいから部屋の案内も頼みたい」

 

「分かりました」

 

ゼネルティーノは傍に居た研究員に指示を出してジーナ達を部屋へ連れていく。

 

「それではご案内いたします」

 

ゼネルティーノに着いていくヴァルフレア。

エレベーターに乗り下の階に案内された。

 

「ここはこの研究所のメインと言える場所です。

ご存じだと思いますがここでは主に島で取れる薬草を元に薬や化粧品など開発しております。

新しい薬草の発見や薬草同士を配合し新たな薬草を栽培などしております」

 

ここは資料に書いてある通りだった。

ここではビラ島に生えている天然の薬草を元に新たな薬を開発したり薬草同士の配合でより効果が高い薬草を栽培するなどがメインだ。

 

「とは言えまだ試作段階なものばかりで実用化まではまだ時間が掛かります。

それとお恥ずかしい話ですが資金が他の研究所と比べて少ないのでそこら辺のやりくりに四苦八苦しておりまして…」

 

「そ…そうか

その辺りは何とか出来るようにしよう」

 

「あ…ありがとうございます…!

資金面で思うように研究が進んでいなくて困ってたものですから…」

 

(やっぱりか…。

見た目はお金を掛けているように見えるけど中身は他と違って大した設備がない…

南極研究所やヨーロッパの研究所と比べてその差は大きいな

分かってたけど…完全な窓際部署だぞココは。

上の連中が私の事をどう思っているのか分かるな…)

 

幼い頃から過ごしてきた南極の研究所を見てきたヴァルフレアはこのビラ島の研究所が本社からどのような扱いされてるか分かってしまう。

それにアンブレラが最も重視してるのはウィルス研究であり化粧品や薬開発など二の次なのだ。

だから本社の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのがよく見えてる。

とてもではないがこの研究所には出世街道なんて無縁もいいとこだ。

ここで成果を上げて出世するにはお世辞でもなく妹のアレクシアと同等の実力なければ無理だろう。

 

「あの…? ヴァルフレア所長…どうかされましたか?」

 

「ああ…大丈夫だ。続けてくれ」

 

「はい。ではここは…」

 

ゼネルティーモの説明を受けながらヴァルフレアはここからどうすべきか思案していく。

 

 

 

 

「当施設の説明は以上です。

それとこの研究所の東にヴァルフレア様の為に私邸が建ててありますので仕事が終わったらそこでこの島ではそこで暮らすように聞いております」

 

「ありがとう。私邸は後で見に行こう。

では次は訓練施設を見に行くから貴方は仕事に戻って下さい」

 

「分かりました。

分からないことがあれば何時でもこのゼネルティーモに」

 

ヴァルフレアに頭を下げて持ち場に戻るゼネルティーモを見送ったヴァルフレアは次に訓練所を見に行くことにする。

 

 

 

 

入口に戻ると軍服を着た男性が待っていた。

 

「お初にお目にかかります。

私はヴァルフレア司令官の補佐など担当する副官のリドリオ・ファン・ラバルと申します。

本日ヴァルフレア司令官の訓練所の案内を務めさせてもらいます」

 

「そうか。よろしく頼む」

 

ヴァルフレアに敬礼をするリドリオに挨拶しジープに乗り込み島の北部へ向かう。

 

「既にご存じかと思いますがこれから向かう施設はアンブレラ社の保安警察USSと即応部隊UBCSの訓練所です。

主に各国の軍隊の訓練マニュアルを元にした訓練を施し非常時に直ぐに対応できるようにするためです

まぁUSSと違ってUBCSは元軍人やゲリラ、戦争犯罪者を軸に構成された傭兵部隊で銃器の扱いやヘリの操縦など優れた奴らばかりで特に教える事はありませんが勘を鈍らせない為に毎日訓練を施してあります」

 

「は…犯罪者だと? UBCSはそんな連中を受け入れてるのか?」

 

リドリオの言葉にヴァルフレアは動揺する。

てっきりUBCSは傭兵で構成された連中だとは知っていたがまさか犯罪者まで受け入れてるのは知らなかった。

 

「ええ、UBCSは即応部隊でもありますが所謂()()()()()()()()()真っ先に送り込まれる為に損耗率が高いのです。

それで隊員の多くはもとゲリラや犯罪者や死刑囚で主に刑を軽くするとか死刑を取り消すとか犯罪歴を不問とするとかで会社と取引して入隊してるんです」

 

「そんな危険な連中を雇うなんて大丈夫なのか?

もし反乱が起きたら不味いだろう…」

 

「確かに危険ですが連中にはアンブレラ社が開発した追跡チップが埋め込まれてますので反乱を起こしても直ぐに鎮圧されるのがオチですよ。

奴らもソレは分かっていますし何より金を問題なく払っていればそんな事はしませんよ」

 

「そうか…なら安心していいな」

 

とりあえず反乱の危険性はないようだ。

しかし死刑を取り消しが出来て即席軍隊を所有出来るなんてアンブレラ社の権力は凄まじいものだ。

絶対に敵に回しては駄目な組織だ…。

アンブレラ社の力を改めて思い知ったヴァルフレアだがそうこうしているうちに訓練基地に到着した。

中に入り各施設の部屋の説明を受ける

射撃部屋や室内戦闘の訓練に使うキルゾーンハウスなど食堂や隊員達の寝床など隅々まで説明を受けるヴァルフレア。

 

「そしてここはヴァルフレア司令官の部屋であります」

 

最後に司令官の部屋に案内され中に入るとアンブレラ社の社旗が立ち豪華で機能美が優れたデスクがあった。

バルコニーに出れる扉などあり外に出ると海が広がり遠くにボンヤリだが島が見える。

 

「リドリオ、アレは…?」

 

「はい。アレがヴィレーネ国です。時々ですが政府軍が反乱軍とかち合ってる時があります」

 

遠くに見えるのあの島がこのビラ島が所属する本島であるヴィレーネ国…。

独立以来、内戦が続く国家である。

 

「質問だがこのビラ島はあのヴィレーネに属する島だと聞いたが本島から政府の者が来たりするのか?」

 

このビラ島には世界的大企業のアンブレラ社の研究所と訓練施設が備えた軍事基地があるのだ。

ヴィレーネ国から何らかの干渉があるのでは?とヴァルフレアは思うが

 

「それに関しては問題はありません。

この島には政府の連中は来ませんし住民が迷い込む事もありません」

 

「何故? 言っては何だが一企業が研究所ならともかく軍事基地を立ててるのだぞ?

連中からすれば脅威に見えるだろう」

 

研究所なら問題はないだろうがここには企業とはいえ外国の軍事基地があるのだから連中からすればあまり面白くないハズだ。

なのにここには来ないとはどういう訳だろう?

 

「実はこの島はアンブレラ社がヴィレーネ国から正式に租借した島でして外部から特に何も言われませんし

それに…政府の連中はこの島には価値を見出せてないのです。租借する際も大した額でもなかったそうです」

 

「なるほど…だから軍事基地を立てても何も言ってこないわけか

それにしてもリドリオは詳しいな。私は司令官でありながら何も分からなくってね…」

 

「いえいえ、司令官を支えるのが副官である私の役目ですのでお気になさらずに

それに私はこう見えてもかつてヴィレーネ国の人民軍にいたのでそこら辺の事情を知ってるという事もありますので」

 

「なんと…そうだったのか」

 

リドリオはかつてはヴィレーネ国の軍隊であるヴィレーネ人民軍に所属してて最終階級は大尉だったそうだ。

 

(せっかくだし彼にこの国の事を聞いてみるか)

 

この国も事は資料で読んだが現地の人間にも聞いた方がいいと思いヴァルフレアはリドリオにヴィレーネ国の事を話してほしいと頼む。

リドリオも承諾しこの国のついて説明をしてくれた。

話の大半は資料通りだったが一つ気になったのは最近はファシズム軍が勢いづいてるそうだ。

 

「このヴィレーネは元々ファシズムというか国家社会主義者が独立を先導し建国にも関わっていますから信奉者が意外と多いですよ

共産主義者の粛清の際、彼らを匿った程ですからね

そして50年代の共産政府が行った社会改革で家や土地を奪われたりしたもんですから益々ファシズムの信奉者が増えたですよ

反乱軍として立ち上がったのもそいつらなんです」

 

元々独立意識が高かったヴィレーネだが当時、欧州で盛んだった国家社会主義(ファシズム運動)に感化された者達が一気に独立へ向けて武力闘争に始め独立を勝ち取ったのだ。

独立後でもアドルフ・ヒトラーの思想や彼が唱えた社会主義、所謂ナチズムが一気に広まった。ドイツが敗戦して多くのナチ党の高官や武装親衛隊の隊員や将軍がこぞってこのヴィレーネに亡命したそうだ。

その後、共産主義者が国家の実権を握ったが国内にいるファシズムの信奉者達は反共として立ち上がり亡命してきたナチス達と共に政府軍に銃を向けたのだ。

 

「しかし時に経つと反乱軍の中にも派閥が出来始めましてね。

彼らは西側と協調してヴィレーネを自由主義経済、民主主義国家の樹立を考えていまして国家社会主義者達と徐々に相成れなくなっていきまして

その結果、ファシズム側は反乱軍から抜けてファシズム軍を結成したんです。

その結果このように一気に泥沼に陥っていったんです…」

 

「……」

 

これまた良くあるような話だ。

味方同士でも思想の違いで一気に殺し合う関係になるのは珍しい事ではない。

 

「説明をありがとう。この国の事が良く分かった。

話は変わるが私は司令官として具体的に何をすればいいのかな?」

 

「ヴァルフレア司令官は平時は主に訓練内容を作ったり訓練に使う資材の調達をするといったところでしょうか。

そしてこの基地が攻撃されたなどの緊急時は司令官として作戦を立てたり兵の指揮を執ります。

大雑把ですがこのような感じです。

それとこの基地にはUBCSが120人いますがそれらはヴァルフレア司令官の直属の兵となります」

 

「つまり…それは」

 

「司令官が好きに動かせるという事です。

USSは本社から許可がなければ動かせませんがUBCSは好きに動かしていい傭兵ですので何があった際は彼らを使って事態の収拾に動いてください」

 

ヴァルフレアはUBCSを自身の私兵として好きに動かしていいわけだ。

とはいえ何かやろうとしてしてる訳ではないが…

 

(私はまだ18歳だぞ…司令官とはいえ命令を聞いてくれるのだろうか…

まぁそれが私の権限なら何があった際は活用するとしよう)

 

司令官として説明が終わり明日からは研究所の所長と基地の司令官として働くことになる。

とはいえ研究所はゼネルティーノがメインで基地はリドリオがメインとして動かしていくのでヴァルフレアはその二人が上手く仕事が出来るように補佐に動くつもりだ

 

「気が重たいけど何とか頑張っていくしかないな…

何か手柄になるものが無いか探さないとな」

 

基地の外に出てヴァルフレアは車に乗り島にある私邸に向かったのだった。



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難局

ビラ島の責任者となったヴァルフレアはアシュフォード家の再興の鍵となる物を見つける事が出来たが…?


1987年 11月

 

次の日、ヴァルフレアは所長として研究所に訪れどのような製品を作っているのか見る事にする。

ゼネルティーモからは聞かされたがこの研究所は主にビラ島で採れる薬草を元に薬を開発してるのだが今現在、どの様な製品を開発してるのか知らないので尋ねる事にしたのだ。

 

「今、開発を重視してるのはガン治療薬でございます

世界中多くの人々がガンで命を落としております。

そこで我々はこのビラ島で採れる薬草でガン治療に役立つ製品を開発しておるのです。

その他には頭痛薬や胃薬と言った物です」

 

「ガン治療薬か。

確かに多くの人々はガンによって命を落としてるし現在の医学では手に負えないガンもあるからな

画期的なガン治療薬を開発できれば大勢の人々も救われるだろう」

 

ゼネルティーモの説明を聞いてヴァルフレアはガン治療薬の必要性が強く感じた。

もしもガンの進行を抑制または消す事が出来る治療薬が出来たらどれだけの成果だろうか?

 

(今の医学にはそんな治療薬など存在しないし

もしもそんな画期的な治療薬が開発出来れば大きな手柄になるしアシュフォード家の再興に繋がるはずだ…!)

 

早速アシュフォード家の再興に繋がる手がかりを見つけたヴァルフレアはゼネルティーモに今どこまで開発が進んでるのか聞いてみる。

 

「…お恥ずかしい話なのですが…

実を言うとまだ開発に取り掛かっていないのです…」

 

「えっ?」

 

ゼネルティーモの言葉にヴァルフレアは目を丸くする。

開発をしてるのではないのか?

 

「正確には鍵となる薬草を見つけることが出来たのですが…

それを研究する為の資金や機材がないのです」

 

彼が言うには最近、新しい新種の薬草を見つけラボに持ち帰って調べてみるとガン細胞に対して効果がある成分があることが分かったのだがそれを研究する資金や機材がないのだ。

ゼネルティーモ始めとする研究員達はアンブレラ本部に資金と機材を入れて欲しいと要請したのだが「検討する」と言ってそれから何の音沙汰もないという…。

 

「えっと…それを頼んだのはいつだ?」

 

「かれこれ三か月は経っております

どうも上層部は我々の研究など興味が無いみたいです」

 

「馬鹿な…。ガン治療薬なんて最も研究すべき代物だろうに…。」

 

「上層部はどっちかというとウィルス研究に躍起になっておりますからな…」

 

アンブレラ社はスペンサー会長の意向で主にウィルス研究を重視しておりアンブレラ社の天才科学者ジェームス・マーカス博士は始祖ウィルスというウィルスを寝食を忘れて研究してると聞いた事がある。

その為にそれ以外の研究を上層部は見向きもしていないのだ。

 

(何故そこまでウィルス研究に重視するんだろうか?

スペンサー卿は一体何を考えてるんだろうか…)

 

ヴァルフレアとしてはウィルスよりガン治療薬の方がよっぽど世界の為になるし会社の利益にも繋がると思うが…。

 

「そのせいで思うように開発が進んでおらず困っているのです…。

上層部の連中はこの研究の重要性を分かっておらんのです!まったく腹立たしい!」

 

怒るゼネルティーモを宥めヴァルフレアはこのガン治療薬研究に大いに興味が注がれた。

そこでヴァルフレアはゼネルティーモの研究資金を出すパトロンになると言った。

勿論最初に会社に報告して資金と機材を出すならそれでいいが出さないならヴァルフレアの判断でアシュフォード家の金庫から資金を出す事にした。

 

「おお…! ヴァルフレア所長は我々の研究の価値を分かって下さるなんて感激でございます・・!!」

 

「あぁ…君達の研究は人類に必要な研究だからね。出来る限り支援をするよ」

 

大の大人が号泣する姿に若干引くがヴァルフレアはゼネルティーモの研究に投資する価値がある判断する。

必要な資金と資材を聞いたヴァルフレアは一旦研究室を後にし所長室に向かい部屋にある電話でアンブレラ本部に連絡する。

 

「それでこのビラ研究所に資金と資材をお願いしたいのですが…」

 

『その件に関しては以前にもゼネルティーモという者に検討すると伝えたはずだが?』

 

電話に出た相手は資金と資材を提供する部署のリーダーだ。

しかしその態度は悪くこっちの事はどうでもいいみたいな感じだった。

 

「お言葉ですがもう三か月も過ぎているのですよ?

いい加減に返事をもらいたいのですが?」

 

「いいかね? 多くの研究所が資金と資材を求めているのだよ。

我々はその中でわが社に利益を齎す研究所を見極めているのだよ

だから直ぐには返事は出来ない事を理解して欲しい」

 

「…分かりました。

ではこちらが何とかしますので出来るだけ早く解答をお願いします」

 

ガチャリと電話を切りヴァルフレアは思案する。

 

「やれやれ…あの様子ではこの研究所に資金と資材が回ってくることはなさそうだな…」

 

本部は残念ながらあてにならない。

やはり資金などの問題は自力で何とかするしかない。幸いアシュフォード家の財政はまだ余裕があるから当分の間は何とかなるだろう。

ただしもしも失敗したら取り返しが付かない危機に陥るが家の再興にリスクが付くのはやむを得ない。

 

(失敗は許されない…必ず成功させなければ!)

 

取り敢えず資金を用意するためにヴァルフレアの一日が終わった。

それから三日後アシュフォード家はゼネルティーモの研究のパトロンになり資金と資材といった設備の用意をした。

ゼネルティーモ達研究員は多いの喜び早速発見した薬草を元にガン治療薬の開発に取り掛かったのである。

 

 

 

 

 

 

1988年4月

 

ヴァルフレアは19歳になった。

この島に配属されて半年が経過しその間に本部からは資金と資材が届いたが微々たるものだった事と本部からこのビラ島の最高責任者として統治を任された事だった。

とは言えやる事は変わらず研究所ではゼネルティーモのチームが一丸となってガン治療薬の開発を急ぎ基地では司令官として副官であるリドリオに支えられながら運営していった。

最初の頃と違って大分仕事に余裕が出来たのだがちょっとした問題が起きていた

 

「暇だな…」

 

そう暇が出来たのだ。

正直、ヴァルフレアがこの島で出来る事は研究所と基地がアレコレが欲しいと言ったらそれを本社と支社と連絡して調達する。

逆に本社と支社がアレコレが欲しいと言ったらそれを送るとかいうものだ。

研究に関してはゼネルティーモ達の領分で自分が入れるものではなく基地に関しては知識はあれど、リドリオと比べれば劣るものだった。

研究所はゼネルティーモが、基地はリドリオがメインに動いてるのでヴァルフレアは下手に自分が指揮するよりは経験豊富な彼らをメインして自分は縁の下の力持ちとして動くことにしている。

そしてそれが上手く行っているのでヴァルフレアは暇が出来たわけだ。

 

「ロバート。

この後の予定は?」

 

「はい。

この後のスケジュールはありませんし明日の予定もありません」

 

「そうか…」

 

ヴァルフレアは最近雇った秘書のロバート・ドーソンに今日のスケジュールを聞くが何もない事に溜息をつく。

 

「閣下はここ最近は働きづめでしたしこのような事は寧ろ良い事だと思います」

 

「そうだけど何も無いのはかえって苦痛だな…」

 

忙しすぎるのは苦痛だが何もないのも苦痛だった。

 

「ならば趣味に興じるのはどうでしょうか?」

 

「趣味か…そう言えば私はこれと言った趣味がないな…。」

 

今思えばヴァルフレアはコレと言った趣味が無かった事に気付く。

アシュフォード家の長男として勉学に励んできたが他の者達と違ってあまり遊んでこなかったからだ。

そのせいか趣味といったものは育たなかった。

 

「なら今からでも遅くはありません。

何か趣味を見つけましょう」

 

「そうだな…ロバートは何が趣味だ?」

 

「私は釣りが趣味でございます

閣下もどうですか?」

 

「釣りか…それならやってみるか」

 

ロバートから勧められて私邸に釣り道具があった事を思い出したヴァルフレアは早速私邸に戻ってロバートに教えられながら釣りを楽しんだ。

大きな魚が4匹も釣れたのでヴァルフレアはジーナと使用人達、秘書のロバートと一緒に魚料理で賑やかな食事をしたのだった。

 

 

 

数日後

 

ヴァルフレアは考え事をしながら私邸の周りを散歩していた。

 

「ふぅ…。ガン治療薬の開発は進んでるが実用化にはまだまだ掛かるそうだし

何か他の開発にも手を入れてみた方がいいだろうか…?」

 

アシュフォード家の資産からガン治療薬の開発は進んでるが実用化にはまだまだ時間が掛かると言われたヴァルフレアはガン治療薬の開発以外にも何か新しい製品の開発をするべきか悩んでいた。

ガン治療薬の開発には本社からは微々たる資金しか提供されず資金と機材はほとんどがアシュフォード家が出していた。

当然ながらかなりの出費で今のアシュフォード家には大きな痛手になりつつあった。

 

「ゼネルティーモ達が開発するガン治療薬は間違いなくアシュフォード家の再興の切っ掛けになるのは間違いない。

だけど資産がな…。」

 

今はまだ問題はないが二年ぐらいになると厳しくなるだろう…。

その為には何か新しい製品を開発して資金を調達しないといけないだろう。

だけどそんな都合の良い物なんてあるわけがなくヴァルフレアは大きな不安を抱えていた。

 

「参ったな…。我がアシュフォード家に融資してくれる銀行などあるだろうか…?

とにかく早いうちにに探さなければ…!」

 

ヴァルフレアは部屋に戻ろうと私邸の玄関まで歩いて行くとふと人影が見えた。

 

「♪~♪~」

 

鼻歌を歌いながら何やら鉢に水を掛けてるジーナが居た。

気になったヴァルフレアはジーナに近づき鉢を見てみるとハーブだった。

 

「これはヴァルフレア様。おはようございます」

 

背後にヴァルフレアが居る事に気付いたジーナは礼をして当主であるヴァルフレアに挨拶する

 

「お早うジーナ。今、散歩から戻ってきたところでね。

君が何やら作業してたもんだから気になってね」

 

「そうですか。今ハーブに水やりをしてる最中でして今日の夕飯に使おうとおもいまして」

 

「そうか。それは楽しみだ

所でそのハーブは?」

 

「これですか? これはラクーンシティにいる友人から送ってもらったものでして

先日ようやく届いたのです。種子も送ってもらったので栽培もしようと思います」

 

ジーナは嬉しそうに話す。

彼女の料理は絶品で食事に薬草といった香味料などを使うのだ。

 

「このハーブは先ほど話したラクーンシティに生えてる天然の薬草で町の人々はこのハーブを使った料理を作ったり時には薬として粉上にしたりと色々と応用が出来る優れたものなんです。」

 

「ふむ…薬か…。

こんなハーブにか」

 

このハーブはラクーンシティでは人々に広く使われてるらしい。

そしてこのハーブが薬になると聞いたヴァルフレアは興味を持ち幾つか研究用に貰いたいとジーナに告げて彼女は喜んでいくつかの緑・赤・青といった色が違うハーブを渡してくれた。

色が違うハーブはそれぞれ効果が違うらしく緑ハーブは傷薬として効果があり青は解毒作用、赤は他のハーブと組み合わせると効果を高めたり出来るそうだ。

それを聞いたヴァルフレアはこのハーブには何か大きな力があると思い始めた。

ジーナから受け取ったハーブを研究所に持っていきゼネルティーモにハーブの効果を話すと彼もまたハーブに何やら強い興味を持ったようだ。

 

「フム…。このハーブにこのような効果があるとはにわかに信じがたいですが調べてみる価値はありますな」

 

「そうかソレは良かった。

所で例のガン治療薬に関してはどこまで進んでる?」

 

「はい。ヴァルフレア様の支援のおかけで順調に進んでいますがまだ未知の成分の調整がありますので実用化まではまだ掛ります。」

 

「分かった。吉報を待ってるよ」

 

ゼネルティーモは研究室の奥に戻っていくのを確認したヴァルフレアは研究所を後にして私邸に戻って資金調達の為に銀行に電話しようと考えていた時だった。

部屋に備えてある電話がなったのだ。

 

「もしもし ヴァルフレアだ」

 

『ヴァルフレア司令官。

リドリオです。実は厄介な事がありまして…』

 

電話の相手は副官であるリドリオだった。

何やら問題が起きたようだ。

 

「どうしたんだ?

何か事故でも起きたのか?」

 

『いえ…事故ではなく先ほどヴィレーネ政府の関係者から電話がありましてヴァルフレア司令官と話があるとの事です』

 

「政府の者が?

何の用件だ」

 

『何の用件かは分かりませんが今から五日後にここに来るとの事でした

至急この基地に来てくれますか』

 

「分かった。直ぐに向かう」

 

ヴァルフレアは電話を切り運転手に基地に向かうように告げて訓練基地へ向かった。

 

 

アンブレラ・ビラ島訓練基地

 

 

「お待ちしておりました司令官。

どうぞこちらに」

 

出迎えたリドリオはヴァルフレアと共に司令官の自室に向かい先ほどの件で話し合う。

 

「リドリオ。

以前貴方はヴィレーネ政府はこのビラ島には来ることはないと聞いたがどういう事だ?」

 

「私も今回の事は初めてでして…連中は今までこの島に関しては何も言ってこなかったので…」

 

「そうか。それにしても一体何の用件で来るのだろうか?

我々はヴィレーネ政府に医療品は送っているが反乱軍に対して何の手出しもしてないと記憶してるが…」

 

「恐らくですがこのこの基地にUBCSを軍の応援として借りたいのではと思っています」

 

「UBCSを?何故だ?」

 

「実はこのところ政府軍である人民軍は反乱軍の勢いに押されていて先月に首都ヴィレネと同等の大きさを誇るバレシティがファシズム軍に占領されたのです。

人民軍はバレを奪還しようとしたそうですが逆に返り討ちにされました。

それだけではなく人民軍の士気は下がり続ける一方で脱走が相次いでいます。中にはファシズム軍に投降して人民軍に銃を向ける有様です」

 

リドリオが言うには人民軍は各地で反乱軍に押され続けており多くの兵士と兵器を失ってるそうだ。

友好国のソ連や中国、東側諸国の支援があるものの兵士達の士気は低く政府に対して嫌気が差しており脱走が相次ぎ反乱軍に投降してしまっているほどだ。

 

「ヴィレーネ政府、人民共産党は国民から支持も低いです。

国民の食料といった生活用品の支給も上手くいってない中、共産党の幹部連中や軍の高官達は豊かな生活を続けています。

そんな状態で無理やり徴兵してますからますます支持を失ってるそうです」

 

「政府側の戦況は悪いとは聞いていたがそんな有様なのか…。」

 

ヴィレーネ政府の旗色の悪さが自分の想像以上だったことにヴァルフレアも驚いてしまう。

国民の支持が無い政府は脆い。遠からず共産政府が崩壊するのが目に見えていた。

 

「それで我々が持つUBCSを戦力として欲しいわけか…。

とはいえ言う事は決まってるが」

 

「それは?」

 

「勿論、拒否する。

そんな泥船とも言える政府と協力しても一緒に沈むだけだ。

例えUBCSを提供しても今の共産政府ではどの道敗北するに決まっているしUBCSは傭兵部隊だがアンブレラ社の資産だし彼らを犬死させるわけにもいかない。」

 

負けが見えている政府に協力しても価値が無い。

ヴァルフレアの判断にリドリオも賛成するが…。

 

「しかし、断ったら連中が何をしでかすか分かりません。

何しろ連中は今や崖っぷちですからね…」

 

「そこだな…。」

 

ヴィレーネの共産政府は追い詰められてる状態だ。そんな中であまり刺激を与えると逆上してこの島に攻め込んでくるかもしれないのだ。

 

「何とかのらりくらりと躱していくしかないないな。

リドリオ、貴方に頼みたい事がある」

 

「何でしょうか?」

 

 

 

 

 

 

五日後。

 

ビラ島・アシュフォード家の私邸

 

「お忙しいところありがとうございます。

ヴィレーネ政府の使いのソモラと申します」

 

「いえいえ。

どうぞおかけになって下さい」

 

当主の部屋でヴァルフレアはヴィレーネ政府の要人と会談をしていた。

昨日の連絡通りヴィレーネ政府の要人はビラ島に訪れた。

政府の要人なので無下にはせず丁重に持て成し私邸で会談することにしたのだ。

 

「では回りくどい話は抜きにして早速要件に入りましょう。

ヴァルフレア殿、我々ヴィレーネ政府はこの島にいるUBCSという傭兵部隊をお借りしたいのです」

 

要人のソモラは単刀直入にUBCSを借りたいと告げた。

 

「UBCSをですか?

お言葉ですが彼らは私の兵ではなくアンブレラ社の兵ですので私の一存で勝手に貸し与えるのは出来ません…。どうしてもというならまず本社にお伺いしなければなりません。」

 

「貴方はこの島における最高責任者と聞いておりますが?

それなら貴方個人で判断しても良いはずです」

 

「まぁ確かにそう言われてますが私自身、まだ二十歳にもなってない若造ですよ。

責任者と言われてますが名誉職なものです。ですから勝手に私の一存で判断するわけには参りません

UBCSは傭兵部隊ですがそれでも立派なアンブレラ社の資産です」

 

ソモラは無表情でヴァルフレアを見つめるが気にせずにその後のソモラの要請をそれと無く躱していく。

 

「何度言われようと無理です。我々はあくまで研究をしてるだけです。

UBCSもビラ島の警備のためで他国の政治の問題に関与など出来ません」

 

「…このビラ島は我が国の領土ですが?」

 

「以前はです。

現在、ビラ島は我がアンブレラ社が租借しております。

確かに主権はそちらにありますが実質な統治権は我々アンブレラ社です。

そしてこのビラ島に如何なる行使は禁じると我々は貴方方の政府と契約もしております

何ならその契約書を今から持って来ましょうか?」

 

「……」

 

「アンブレラ社はその見返りに貴国に多大な援助もしました。

首都の開発の資金にその他のインフラ作成と整備の資金も出しました。

医薬品だって無料で提供しました。」

 

アンブレラ社はビラ島の租借の見返りにヴィレーネ国に多大の資金を提供してる。

長い内戦でボロボロになった首都を始めとした都市の復興費にインフラの為の資金の提供。

アンブレラ社の工場もあちこちに建てて大勢の労働者達の働き口も用意した。

事業の展開の為に投資した。

 

「貴方方アンブレラ社はこのヴィレーネ国の発展の為に途方もない援助をしてくれたのは存じております

しかし反乱軍がその努力を無に帰そうとしてるのです。

西側の()()()()()に毒された謀叛人共やファシストの亡霊共によってです」

 

「お言葉ですがそのような状況を招いたのは()()()でしょう?

あんな国民の意志に反した政治などすれば反発されるのは当然では?」

 

「…アレは必要な処置でした。

()()()の為に行った事です。」

 

「その結果が内戦(コレ)ですか?

先程も言いましたがこの状況は貴方方が招いた事です

貴方方が対処するべき問題です。」

 

「タダでUBCSを貸してほしいとは言いません。

同士書記長は高額な給料を払うとの事です」

 

(ここまで言ったのにまだ言うか…。)

「何の紙幣で払うおつもりですか?紙屑同然のヴィレペソですか?

ドルだって無いでしょう?」

 

「そ…それは」

 

始めてソモラの表情が強張る。

ヴァルフレアはチャンスと見た。

 

「(ここだ…!)無礼は承知ではっきりと申し上げます。

仮にUBCSを借りたとしても貴方方の敗北は決まってるのも同然ですよ

同士書記長を始めとした幹部達の逃亡の時間稼ぎの為に大事な社の資産を貸すなど出来ません」

 

「な…!?いくら何でも無礼ですぞ!!」

 

「事実でしょう。

我々が知らないと思っていますか?

書記長や幹部連中が他国の援助金を()()してる事を

それと我がアンブレラ社の援助金もですが」

 

「ゥ…」

 

ソモラは息を詰め小さく唸った。

ヴァルフレアはリドリオに頼んで徹底的に調べてもらったのだ。

彼は政府に顔が広いので直ぐに連中の()()()()()が分かった。

だが流石に度が過ぎる小遣い稼ぎにはヴァルフレアは呆れたが…。

 

「だけどセニョール・ソモラ、貴方は違う

幹部だった時、貴方は援助金を全て国の為に有効に活用してた。

他の幹部達と違って国家の為に尽力をしてきた事も知っています」

 

「!?」

 

「貴方は小遣い稼ぎに勤しむ幹部達が許せずにそれを正そうとしたがその行動に同士書記長に睨まれて幹部職だったのに窓際の閉職に回されたこともです」

それに貴方は分かってたハズです。私が拒否する事にもです。

これはあくまで私の考えですが書記長を始めとした幹部達は私との()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()したいから交渉人として貴方をここに送ってきたのではないでしょうか?」

 

「…。

…その通りですヴァルフレア殿

連中は目障りな私を始末したいからここに送り込んだのですよ…。どうあがいても失敗するこの交渉で…。

例え成功しても難癖をつけて私を極刑にするでしょう…。私はもう死んでるも同然なのですよ」

 

観念したのかソモラは乾いた笑いをしながら淡々と告げた。

彼はただ長い内戦でズタズタになった愛する祖国を立て直そうとしただけだった。

私欲に溺れる者達を正そうしただけだった。

しかしソレが報われずに人民の敵という謂れもない汚名を残して死ぬという結末が待っていた。

 

「セニョール・ソモラ

貴方程の愛国者が謂れもない理由で死ぬなんてあまりにも無念のはずです」

ですから私と()()しませんか?」

 

「はっ?」

 

「ソモラ殿 アンブレラ(我々)側に着きませんか?

共産政府が長くない事は貴方も存じておるはずです

この内戦を終わらして貴方が愛するこのヴィレーネを立て直すべきです」

アンブレラの力なら間違いなくヴィレーネを良くすることが出来ます

「…」

 

いきなりの事の無言になるソモラだが少し考え、

 

「…分かりました。

最早共産党に未来などありません

私などの力が必要なら喜んでお貸ししましょう」

 

「これからもよろしくお願いします

セニョール・ソモラ」

 

こうしてソモラは政府に見切りをつけてアンブレラ社もといヴァルフレアに着くことを選んだのだった。

ヴァルフレアは何とかして一つの難局を乗り越える事が出来た。

 

 




ソモラ

ヴィレーネ出身の50歳の男性。
かつてヴィレーネ人民共産党の幹部で内戦で疲弊した国家を立て直す為に他国の援助金を上手く活用し首都を始め次々と復興させた手腕の持ち主。
そんなある日、偶然幹部達が援助金の着服を目撃しそれを正そうとしたが同じく援助金を着服していた書記長に謂れもない理由を付けられ幹部職を剥奪され閑職に追いやられた。
閑職に追いやられても愛する祖国の為に尽力するがそれを目障りと思った書記長に幹部達に悉く無下にされてしまう。
内戦で日々壊れていく祖国を見て歯嚙みする中、書記長に呼び出されビラ島に存在する傭兵部隊(UBCS)を自軍に引き入れろと命じられるが「ビラ島はアンブレラ社の租借地なので拒否される」と説得したが聞き入れらず渋々と交渉人としてビラ島に向かうがこの任務は自分を処刑するための謀略だと分かっていたが今更どうすることもの出来なかった。
当然ながらヴァルフレアに拒否され己の最期を悟ったがヴァルフレアは彼の人柄と手腕を気に入りアンブレラ側に着かないかとの取引され共産政府に未来が無いと分かっていたソモラは政府に見切りをつけてヴァルフレア側に着いた。


ヴィレーネ人民共産党

1919年に設立された政治組織。
当時ヴィレーネはチリから独立運動が高まっており設立から一年後の1920年には独立戦争が始まり共産党も独立戦争に参戦するようになった。
しかしその頃はファシズム主義を掲げるヴィレーネ国家社会主義戦線が勢いがあり独立戦争はファシズム派が盟主になり共産党も思想の違いがあるものの独立のためにファシズム派と共同戦線を張った。

そして1929年に独立派が戦争に勝利したが今度はファシズム派との国家運営と思想の違いで徐々に仲違いするようになり1939年にファシズム派は共産主義を全面禁止とした。それに反抗して共産党は武力決起しファシズム派率いる政府軍と全面戦争となる。
当初は豊富な支援を受け取った政府軍が有利だったが第二次世界大戦で枢軸国が敗戦すると一転政府軍は弱体化していく。それを好機と見た共産党はソ連の支援を受け取り各地で政府軍を撃退していき1953年には首都ヴィレネを制圧し国家の実権を握った。
実権を握った共産党はソ連や中国を参考に企業を次々と国有化や土地の接収、資産家から財産を没収し財閥も解体する。しかしその結果、各地で国民のヘイトを買ってしまい思うように政策は進まないようなっていく。
1963年には国家発展の為に中国の大躍進政策を元にした政策を行ったが技術不足や知識不足によって大失敗してしまいヴィレーネ国は多くの数千人規模の餓死者を出してしまう。
この一連の政策で共産党は支持率を失い国民は政府に対して反乱を起こしてしまう事態となった。
また汚職の問題も大きかったのも一因である。


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ヴィレーネ

ソモラとの会談を終えたヴァルフレアだったがビラ島は未だにヴィレーネ政府に目を付けられてる事に気づき次の一手を考えていた。


ソモラとの会談及び取引を終えたヴァルフレア。そんな彼は自室に戻り、椅子に座って大きく息を吸っては吐き出すのであった。

 

「ふぅ…何とかなったな…。これで暫くはヴィレーネ政府はこのビラ島には目を向けないだろう」

 

ヴァルフレアの取引をしたソモラは一旦、本島に戻り政府にアンブレラ社との取引は継続という事を伝えるとの事だった。

しかし本島に戻るのは危険だとヴァルフレアは引き留めたがソモラは「こちらに関しては心配はいらない」を言われれて仕方なくソモラを見送る事にした。

 

「ソモラは政府に都合の良い事を伝えると言ったが大丈夫だろうか? 明日には連絡するとは言ったが…」

 

心配だがソモラの人間性を考えると彼は我々に味方になってくれたのだ。自分の直感を信じて今は連絡を待つことにしよう。腹の探り合いに疲れたヴァルフレアはベッドの横になって就寝するのだった・

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

 

何時も通りに朝食を終えたヴァルフレアに電話が来た。

 

「もしもし? ヴァルフレアだ。」

 

『お早うございますヴァルフレア殿。ソモラです』

 

「あぁソモラさん。ご無事ですか…!」

 

『ご心配をおかけしました。

要点だけを伝えます。書記長を始めとした連中には上手くごまかしておきました。

暫くはビラ島は安泰ですがまだ予断は許さないのでご用心してください』

 

「分かった。貴方はどうするんですか?

確か連中には睨まれてるはずでしょう?」

 

『今はまだ大丈夫ですが暫くしたら言い掛かりをつけてきて私を亡き者にするでしょう。

とは言え簡単には殺られませんがね。

申し訳ありませんが通話を切ります。また連絡いたします』

 

ガチャリと電話が切れてヴァルフレアは安緒した。

 

「良かった…。だけどまだ予断は許さないか…。本島の情報収集は欠かさずにやらないといけないな」

 

いつの間にか政府軍が上陸してきたなんて御免だ。

リドリオには引き続き本島の情報収集に勤しんでもらおう。

 

 

 

 

アンブレラ・ビラ島研究所

 

ゼネルティーモの連絡を受けて研究所に訪れたヴァルフレア。

 

「おはようございます!閣下。

以前、閣下から渡された例のハーブですが…とんでもない代物だったので連絡させていただきました。」

 

「あのハーブが?

ふむ、一体どんな代物なのかな?」

 

「まずグリーンハーブなのですか今まで我が社が開発してきた傷薬など比べ物にならない効能でした。それも単体でです!

単体だけでこの効能なのに、二つ三つを同じグリーンハーブを混ぜ合わせるだけで、更に効能が上がるのです!

これだけで我が社にどれだけの利益を齎すのか想像つきません…! 更に凄いのはレッドハーブを混ぜるだけで、もっと効能が上がります。

解毒作用があるブルーハーブも、自然界の猛毒ですら無害な成分に変えてしまうのですから、科学者としてこのハーブ達のポテンシャルには戦慄するばかりです」

 

「まさか…そんなに凄いハーブだったというのか…!」

 

ゼネルティーモから聞かされるハーブの力にヴァルフレアも唖然としてしまう。

正直、ガン治療薬のオマケというか軽い資金稼ぎのつもりだったこのハーブが、まさかのダークホースだったとは…!

ヴァルフレアはこのハーブに強い関心を持った。もしかしたらこのハーブは世界に大きな影響を与えるのではないかと!

 

「閣下…現在我がチームはガン治療薬に力を注いでいますが……このハーブを研究する為にも、新たなチームを作るための資金と機材を投入をお願いしたいのですが…宜しいでしょうか…?」

 

ゼネルティーモはハーブが持つポテンシャルに魅了され、ガン治療薬の開発と並行してハーブの研究の行いたいと打診して来たのだった。

 

「勿論だ! 所長として、君達にこのハーブの研究を許可する!

全力で君達を補佐しよう! 資金も必要な限り用意する」

 

「あ…有難うございます…!

このゼネルティーモ! 全力を尽くします!」

 

研究の許可が下りたゼネルティーモは歓喜した。

ヴァルフレアはジーナが持ち込んだこのハーブに無限の可能性が秘めている事に気づき全力で支援する事を約束した。

 

(もしかしたら…このハーブがアシュフォード家の再興の鍵なのかもしれない

資金に関してはキツイが…ゼネルティーノなら間違いなく実用化に持っていけるだろう。

借金をしてでも彼らの研究を成功させなければならない!)

 

その後、私邸に戻ったヴァルフレアは資金の調達の為に各地の銀行を奔走した。おかげで借金した額は莫大な物になりそうだったのだが……それでも何とか、資金を作り出す事に成功したのだった。

 

 

 

 

 

1988年 8月

 

その日、秘書のロバートからある報告を受け取った。

 

「なに…? ジェームス・マーカス博士が亡くなっただと?」

 

「はい…。博士は実験中、ウィルスの漏洩が起きてしまい博士はそれに感染してしまい治療の努力も空しく…。」

 

「そうか…。あのマーカス博士が…。」

 

ジェームス・マーカス博士。彼はアンブレラが誇る天才科学者であり、ヴァルフレアの祖父であるエドワードと同じく、スペンサー会長と共にアンブレラ社の創設に関わっている人物だ。

近年ではスペンサー会長の意向でラクーンシティの幹部養成所の所長を務めアンブレラの人材育成にも大きく貢献している。

マーカス博士はアンブレラ社が重視してるウィルス研究の第一線を率いていたが亡くなったしまったらその研究はどうなるのか…?

 

「ロバート。マーカス博士の研究はどうなるか聞いてるか?」

 

「その事なんですが……生前、マーカス博士が教育した()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という二人の研究員が引き継ぐとの事でした」

 

「ウィリアム・バーキンって確か…十六歳でラクーンシティのアークレイ研究所の主任になった少年だったかな? 噂ではアレクシアをライバル視してたとか…

同じくアルバート・ウェスカ―もバーキン少年と同じく主任研究員になった人だな。

その二人がマーカス博士の研究を引き継いだわけか。」

 

「そう聞いております。

それでマーカス博士の葬儀が行われるますがどうされますか?」

 

「そうだな…」

 

マーカス博士とは祖父と同じくアンブレラ社の設立に関わっている人物だがヴァルフレアは博士は会った事がなく話したこともない…。

そもそも住む世界が違い過ぎたのもある。

そんな自分が葬儀に行っても正直、場違いだろう。

 

(だけどアンブレラ社の幹部だけではなく、アシュフォード家の当主として何もコメントがないのも体裁が悪い…。

ただ、今はヴィレーネの動向が怪しい上に、ガン治療薬やハーブの研究も気になるからあまり此処(ビラ島)から離れたくはないな…。)

 

「葬儀に出席したいのは山々だが……今は手が離せない。だから、一先ず弔電を送ろう」

 

「分かりました」

 

取り敢えずヴァルフレアは葬儀への出席せず、弔電を送る事にした。

 

(アレクシアもマーカス博士も、研究中のウィルスの漏洩で亡くなってしまった…。

今更だけど一体アンブレラ社は始祖ウィルスを何の為に研究をしてるのだろうか?)

 

祖父であるエドワードと天才科学者の二人(アレクシアとマーカス博士)が研究してた始祖ウィルスという未知のウィルス…。

ヴァルフレアは今まで専門外として、ウィルス研究には関わってこなかった。三人が研究してた始祖ウィルスという研究対象に、少し気になり始めるヴァルフレアなのであった……。

 

 

 

 

1989年 4月

 

ヴァルフレア 20歳

 

ビラ島 アシュフォードの私邸

 

パァン パァン パァン パァン パァン

 

私邸の中庭では大勢の人々が集まっていた。そこには豪華な飾りつけで中庭がより華やかに彩られ……祝いのクラッカーが爆ぜては、無数の風船が空へと舞い上がっていた……。

豪華なのは飾り付けだけじゃあない。中央付近に鎮座する大きなテーブルには、これまた贅の限りを尽くしたかのような……豪勢な料理がズラリと並んでいたのだ。肉に野菜、スープにデザート……説明を始めたら一夜を明かしてしまいそうな程の多種多様な料理がそこにはあったのである。

 

「皆さん! 今日は私の誕生日パーティにお越し頂き、心から感謝致します!

貴方方の協力もあって、私は今日まで頑張って来られました。その感謝として……今日はゆっくりと、此処に並ぶ数々の料理や美酒を楽しんでいって下さい」

 

マイクを持ちヴァルフレアはそう語っては一礼をする。その一礼を合図に、パーティの参加者達は料理と酒を楽しみ始めるのであった……。

 

「兄さん! 誕生日おめでとう!」

 

「アルフレッド! よく来てくれたな!

久しぶりだな。学業はどうだ? 問題は無いか?」

 

「大丈夫だよ兄さん。心配はいらないよ

アシュフォードの男児として一切疎かにしてないからさ」

 

ヴァルフレアは二年ぶりに弟のアルフレッドの顔を見てほほ笑んだ。

 

「ハーマン達がしっかりと支えてくれたからね。

それと兄さん! 僕も来年、アンブレラ社の幹部になるんだ!」

 

「何だって! 良かったじゃないか!

それで何処に配属されるんだ?」

 

「アハハ…まだそれは決まって無いよ。

でも僕もアンブレラの幹部になるなんて夢に思わなかったよ。大学を卒業したら僕も此処に来て、兄さんの補佐になると決めていたからさ」

 

「そうか。お前も幹部になるのか。本当に嬉しいよ。

また兄弟揃ってアシュフォード家の再興に向かって頑張ろう」

 

「勿論! アシュフォード家再興は僕達の使命だからね!」

 

アルフレッドもアンブレラ社の幹部になる…。ヴァルフレアも彼が必死に努力してきたのは覚えているからこそ、この報告は嬉しかった。

自分はこのビラ島に配属され……一時は途方に暮れたが、今は違う。

 

「アルフレッド。実は家の再興は近いかもしれないぞ」

 

「えっ?」

 

「何も私の誕生日だからこのパーティを開いたわけじゃないさ。

むしろ私の誕生日より()()()()()()()()()()からだ」

 

アルフレッドは兄の言葉に意味が分からなかったが……一体何なのだろうか?

 

「ゼネルティーノ! 此処に来てくれ!」

 

ヴァルフレアは少し離れた男性を呼び寄せた。

 

「ヴァルフレア様! お誕生日おめでとうございます!

つまらない物ですがこれをどうぞ!」

 

「あぁ有難う。

アルフレッド、紹介するよ。

彼はゼネルティーモと言って()()()()()()()()()()()だ」

 

「いえいえ! これもヴァルフレア様が我々に援助してくれたお陰です!

初めまして、ビラ島研究所の主任を務めております。ゼネルティーモで御座います」

 

「こちらこそ初めまして、弟のアルフレッド・アシュフォードです」

 

二人は握手し互いの自己紹介をした。

 

「アルフレッド、彼こそがアシュフォード家の栄光の光を差し込んでくれた研究員だ。

彼があのB()G()()0()0()1()を開発した研究員だ」

 

「貴方があのBG-001を開発した…!」

 

「先程も言いましたが……全てはヴァルフレア様が我々の研究を認めてくれたお陰です。

ヴァルフレア様が居なければ、我々はこの島で誰にも認められず憂鬱しながら細々やっていたでしょう」

 

BG-001

昨年の12月にアンブレラ社の新製品として現れた画期的な傷薬だ。

ゼネルティーモがグリーンハーブを始めとした各種ハーブを組み合わせた薬になる。その効果はとても高く、それでいて驚く程に価格が安いのだ。それもただ安価(チープ)なんてもんじゃあない。その質の高さも相まって……瞬く間に世界中で()どころかメガヒットを記録して、直ぐにアンブレラ社の主力製品として扱われる程になったのだ。

ヴァルフレアはBGー001の特許を持っているので、アシュフォード家には莫大な財が雪崩れ込んで来たのだ。

おかげで積もり積もった多額の借金を返しても、アシュフォード家には余裕があった。それが例え、別荘として新たに島を丸ごと一つ(・・・・・・・)買おうとしても……お釣りどころか、まだまだ十分過ぎる金が残る程なのである。

 

「おかげで次の研究の投資が出来るからな。

イチイチ銀行屋共に頭を下げる事が少なくなったから、それが一番嬉しいけどな」

 

ヴァルフレアはそう言って笑いゼネルティーモも合わせて笑った。

 

「とは言え、まだまだアシュフォード家を栄光には程遠い…だからこそ次の研究も成功させなければならない」

 

「それでも兄さん! これはかなりの大戦果だよ! アンブレラ社も兄さんの評価を改めた思うよ!」

 

「そうだと良いな…これで給料がアップしてくれたら…」

 

「何を言ってるんだ兄さん?

BG-001であれだけ儲けたのに?」

 

毎月とんでもない額の金が払われるのに、給料の事を言うヴァルフレアにアルフレッドに呆れてしまう。

 

「そうは言っても、コレからこの島にBG-001の生産の為に新たに工場を立てないといけないからな……。それに、研究所や訓練基地だとか……そういった施設の増築もしないといけないんだ。

特に研究所はこれからもっと高度な研究をしないといけないから、機材の調達も必要だからね。まだまだ投資もしなければならないから、もっと資金が必要なんだ」

 

予想を上回る売り上げをしたBG-001。だが、ヴァルフレアはBG-001の開発はあくまで資金調達の為でもあった。

本命は未だ開発中のガン治療薬だ。ゼネルティーモは、BG-001とはまた違うハーブを元にした薬を開発していた以上、まだまだ資金はアシュフォード家が出す必要があった。

 

「えっ? 工場を立てるとか、施設の増設とか……そういうのは本社がお金を出してくれるじゃないのかい?」

 

「そうか…お前は知らないんだよな

本社は私とこのビラ島には価値がないと思ってるんだ。

事実、本社から送られる資金なんて微々たるもので、ほとんどは我がアシュフォード家がお金を出してるんだよ」

 

「何だって!?」

 

ヴァルフレアから告げられる事実にアルフレッドは驚愕するしかなかった。

 

「BG-001の開発の資金だって銀行から何とかして工面したからな。

だから本社の連中には当てにしてないんだ」

 

BG-001のヒットにも関わらず、アンブレラ本社からは何の言葉も貰ってなかったヴァルフレア。そのためか、自分の評価は変わらないと思っている。

 

「そんな…兄さんが会社に齎した利益は相当なハズなのに…」

 

「まぁ私は別にもう気にしてはいないけどな…。

何だか湿っぽい雰囲気なったな。アルフレッド、話は終わりだ。

お前もパーティを楽しんでくれ」

 

「う…うん…」

 

力無い笑みながらも、話を終わらせたヴァルフレア。そんな兄の心情を汲み取ったのか……アルフレッドはこれ以上何も追求せずに従っては、パーティを楽しむ事にしたのであった……。

 

 

 

 

 

 

PM 22:00

 

誕生日パーティはその後、何の問題もなく……皆がドンチャン騒ぎをしては賑やかに時が過ぎていった……。そうして気づけば、いつの間にか辺りが暗くなっていて、そこでパーティはお開きとなったのである。

使用人達はパーティー会場の後片付けをしている。

アルフレッドは明日にはヨーロッパに戻り大学での学業に入る。

そしてパーティの主役のヴァルフレアは自室で会談をしてた。

 

「お誕生日おめでとうございます。パーティーに参加出来なかった事を謝罪いたします」

 

「気にしてはいないから安心してください」

 

ヴァルフレアが会談してるのはこちら側(アンブレラ)についたソモラだった。

 

「さて今のヴィレーネ政府の様子は?」

 

「相変わらずです。書記長と幹部達は現実から目を背きたいのか、毎日酒を煽っては意味のない命令を繰り返してます」

 

「やれやれ… 終わりが近づいてるのに呑気なものだ」

 

ソモラは今のヴィレーネ政府の現状をヴァルフレアに伝える。

戦況は何とか膠着に持ち込んでるが、人民軍の士気は下がり続けており相変わらず脱走が相次いでいた。そんな中……ファシズム軍ことヴィレーネ統一戦線(通称VUF)は、制圧したバラシティで戦力を整えていた。ただし、如何せん支援が薄いために思うように進んでいないとの事だった。

他の反乱軍はVUFと比べ、戦力は薄くあまり期待できないそうだ。

 

「ふぅむ…。

やはり()()()()()()()V()U()F()の方が手堅いか…?」

 

「私もそう思います。

他の反乱軍は弱小ですので」

 

「なら早く連中に恩を売った方が良いな…。

彼らと手を組んでヴィレーネを手に入れなければならない

 

ヴァルフレアはソモラとの会談で、ビラ島は本島によって危機に晒されており何とかならないかと考えていた。

そこでヴァルフレアは、ヴィレーネを支配する共産党を打倒するように支援。その後、自分達に都合が良い連中にヴィレーネを統治してもらおうと思い付いたのだ。

そうすればビラ島は本島から余計な茶々を入れられずに済み、思うように研究が捗るだろう。

それにソモラによれば……ヴィレーネは石油やコルタン、レアアースといった希少な資源が眠っているとの事。ただし、現政府は技術不足と資金不足が相まっては、全く開発が進んでいないという。

ならばそれを手に入れれば、アシュフォード家に大きな利益を齎してくれるかもしれないのだ。

 

「ソモラ殿。

VUFと接近したいのだが……何か伝手はあるか?」

 

「それならば何人か知っておりますので、私が彼らにコンタクトを取ってみましょう。

連中は今自分達を支援してくれる存在を望んでいます。よって、ヴァルフレア閣下が支援すれば彼らは喜んで飛びつくでしょう」

 

「分かった。出来る限り早く頼む」

 

「それでは失礼します」

 

ヴァルフレアの指示を受け取ったソモラは、部屋から出ていく。

一人となったヴァルフレアは部屋の窓から美しい満月を眺める。

 

(此処に配属されて未来は果てしない暗闇に包まれていた……。だけど、今は晴れて進むべき道が見える…!

上手く行けば、私は国家を手に入れられるかもしれない…。

国家を手中に収めれば、アシュフォード家の栄光は必ず取り戻せる!)

 

当初は不安しかなかった配属だった。だが今は……ここに配属されたのは、運命と受け取っている。

このビラ島…いや、ヴィレーネはアシュフォード家の栄光を齎せてくれる存在だと感じてる。

家の再興と栄光……その二つの野望を胸に抱き、ヴァルフレアは静かな決意するのだった……!

 

 

 

 

 

 

1989年 6月

 

ソモラとの会談を終えて2か月後…。

 

ジリリリリ!!

 

ヴァルフレアの自室から電話がけたましく鳴り響く。

 

「もしもし?」

 

「ヴァルフレア閣下 ソモラです。

VUFとようやく繋がる事が出来ました」

 

「…! そうか。遂に来たか

彼らとはいつ会える?」

 

「閣下が望むなら何時でもです」

 

「それなら来週辺りでセッティングしてくれ。

どこか一目が付かない場所で会おう」

 

「分かりました。決まり次第、また連絡いたします」

 

ガチャリ…

電話を置きヴァルフレアは心臓が高鳴っていく。

 

「いよいよだ…。VUFと友好関係を築いてヴィレーネを手に入れる…!」

 

この一件でアシュフォード家の未来が変わるのだ。

絶対にしくじる事は許されない…!

 

来週に向けてヴァルフレアは準備を勤しんで時は流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後…

 

現在ヴァルフレアはリドリオを始めとした、十人のUBCS兵と共に大型ヘリに乗って指定された場所へと向かっていった。

 

「閣下…本当に大丈夫でしょうか?

VUFもそんなに信用が出来る奴らではありません」

 

「信用が出来なくても私には彼らが必要なんだ。

心配するな。絶対に上手く行く」

 

心配するリドリオにヴァルフレアは大丈夫だと告げる。

ヴァルフレアも内心、不安が大きかった。だが、目的の為にはある程度のリスクを受け入れなければならないと自身に言い聞かせてもいた。

 

(ソモラによれば、VUFのリーダーはとても豪胆な人物だと聞いているが…。何とか取引を成功させなければ…)

 

もしも今日ヴァルフレアの行動がヴィレーネ政府に知られる事になんてなれば……!? 恐らく、奴らは激怒するだろう……ビラ島に軍隊を送り込んでくるのは、明白だし確実だ。

アンブレラ社もそうなれば、何の躊躇もなく自分を切り捨てるだろう。

だからこそ……今回の会談は、絶対に成功させなければならない死活問題でもある。

 

(やっぱり危ない橋を渡るべきじゃあなかったかもな… 今更言っても手遅れだが…)

 

内心では、自分の決断は間違っていたのではないかと……不安に押し潰されそうになっていたヴァルフレア。だが、そんな苦しそうな表情を簡単に出す気は毛頭なかった。

 

「閣下… そろそろ着くようです。

あそこが向こうが指定した会談場所です」

 

「アレか…」

 

窓から見えるのは、ヴィレーネ本島から離れた小さな孤島だった。

大きな広場が見える中、VUFの兵士がヘリを誘導している。

 

「全隊、油断するな。ヴァルフレア閣下の身を必ず守り抜け!」

 

「「「了解!」」」

 

ヘリは島の広場に着陸する。先行役のUBCS兵が先陣を切り、周囲の安全を確認する。

 

「よし。行け!」

 

残っていた他のUBCS兵もヘリから次々と降りていき、彼らに守らつつもヴァルフレアはヘリを下りていく。

そんな彼がヘリから降りたのを確認したのか……年若い兵士がヴァルフレアの前に立つ。

 

「お会いできて光栄です。

セニョール・ヴァルフレア。我らの司令官は既に中に居ますのでご案内いたします」

 

案内役の兵士の着いていき洞窟の中に入っていく。

 

(随分と入り組んだ洞窟だな… 案内が無ければ迷うぞコレは…)

 

用心を考えてこの孤島に会談場所にしたのだろうか?

 

「ここです」

 

ようやく目的地に着いたようだ。

 

(この先にVUFのリーダーがいるのか…。

さていよいよだ)

 

ヴァルフレアは意を決して扉の奥に入っていく。

 

「よくぞおいで下さったセニョール・ヴァルフレア」

 

「貴方が…?」

 

「私がヴィレーネ統一戦線の司令官であるゾラーノ・バルザールだ」

 

部屋にいた大男はヴァルフレアに自己紹介したのだった。

 

これこそ後の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。




ヴィレーネ統一戦線 (Virene unificación frente)

共産党政府に敵対する反政府組織で旧政権の要人や軍人が設立した。
国家社会主義、所謂ファシズムを掲げている。
第一次ヴィレーネ内戦で共産軍に敗北したファシズム政権の総統を始めとした要人達は共産党によって処刑されたが一部の者達はファシズムの信奉者の市民に匿まわれて危機を脱し共産党に復讐を誓いながら身を潜めた。
その後、共産党政府は多くの政策を実行したがどれも大失敗してしまい国民から見放されてしまう。それを見たファシズム派は現政権に不満を持つ国民達を先導して一気に見方に引き込み共産党政府に対し反政府組織として立ち上がった。
ヴィレーネの第二の都市であるバラシティを本拠地として政府軍と優位に戦ってるものの支援が薄いために大きな攻勢に出れずにいる。


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ヴィレーネ 2

共産党政府を打倒すべくヴァルフレアは反政府組織の最大勢力であるヴィレーネ統一戦線(VUF)の指導者との会談を決意する


ゾラーノ・バルザール

 

今、最も勢いがあるVUFの指導者である。

 

「初めまして。アンブレラ・ビラ島の責任者を務めておりますヴァルフレア・アシュフォードと申します。」

 

まずは互いに自己紹介をして椅子に座りこれからの事を話し合う。

 

「セニョール・ヴァルフレア。

ソモラから聞いているが我々の大義に手を貸してくれるそうですな」

 

椅子にドカリと座り葉巻を吸いながらヴァルフレアを見つめてる。

武装組織のトップとしての威圧感にヴァルフレアは呑まれそうになるが何とか気を取り直して椅子に座りゾラーノと向き合う。

 

「はい。今のヴィレーネはゾラーノ司令官ではなければこの先ずっと混乱するだけです」

 

「ハッハッハッハ!

随分と俺を買ってくれるな。まぁまずは一杯といこうか」

 

ヴァルフレアの言葉に気分を良くしたのかゾラーノはラム酒をコップに注ぎヴァルフレアに渡す。

酒を渡されたヴァルフレアは毒が入っているのかで恐怖するが殺す気ならとっくにやってるだろうと考えグイっと酒を呑んだ

 

「ふぅ…」

 

「ガッハッハッハ!! 良い呑みっぷりだったぞ!

我が祖国が誇るこのスパイスが効いたラム酒は絶品だろう。

共産野郎どもを片付けたら国中に造酒所を造って世界中に輸出してガッポリ稼ぎたいものだ」

 

ヴァルフレアの呑みっぷりを気に入ったゾラーノは更に気分を良くした。

 

(情報ではゾラーノ司令官はかなりの酒好きだから一気に飲んだのは正解だったみたいだな…。

おかげでこちらを気に入ってみたいだ)

 

度数が高い酒にヴァルフレアはふらつきそうになるがゾラーノの機嫌が悪くするわけにはいかないので何とか堪えた。

 

「旨い酒をありがとうございます。

それでは司令官、早速取引と参りましょう」

 

「そうだなヴァルフレア。

それで? 俺にどんな事を望むんだ? 何を齎してくれるんだ?」

 

「先程も言いましたが我々アンブレラ社は貴方にこのヴィレーネを統治してもらいたいのです。

ご存じでしょうが人民共産党は最早このヴィレーネを率いていくのは不可能です。

私が所属するアンブレラ社はこの国に多大な援助をしましたが共産党、書記長を始め党の幹部達は自分達の私腹を肥やす事だけしか考えていません。その証拠に彼らはアンブレラ社に更に資金を出せと言っています。

このような連中に任せておけばヴィレーネは崩壊するだけです。そんな事になったらわが社の投資は全て無駄になります。そのような事は望んでおりません。」

 

「だから共産党の屑共に代わって俺がヴィレーネを導いて欲しいという訳か。」

 

「はい。VUFは勢いがあり司令官自身も国民から人気が高い。次のはゾラーノ司令官の他にありません

我々アンブレラ社は慈善団体ではありません。わが社の利益も考えており相手との信頼関係を壊すような(共産党)には取引する価値がありませんから」

 

ヴァルフレアはゾラーノの機嫌を損ねないように慎重に言葉を選びながらも自分達を敵に回すのは危険だとも伝える。

 

「……」

 

ゾラーノは考える。

アンブレラ社は世界に君臨する巨大企業でかのアメリカもアンブレラ社にはあまり強く言えない影響力を持っている。

 

(ヴィレーネの再興にはアンブレラ社の援助があれば大いに助かる・・・!

連中の協力があれば憎きあの共産主義者共を打倒することもできる。

それに奴ら(アンブレラ社)の後ろ盾があれば俺は絶大な力を手にすることが出来る…! 何としてでもこの取引を成功しなければならん…!)

 

アンブレラ社の後ろ盾があれば自身が理想とする国家社会主義をこのヴィレーネで作る事が出来る。

 

(共産主義はゴミだが民主主義もゴミである! 国家社会主義、すなわちこのゾラーノの理想こそ全てなのだ!)

 

ゾラーノが作り上げるヴィレーネは人々が軍隊がゾラーノに従い餓えや病に苦しむ事がない楽園といえる国家

もう一つは世界が、特にアメリカ合衆国がヴィレーネに手出しが出来ない程の強大な軍事国家に作り上げる事だ。

そんな国を作り上げるのは途方もない資金が必要だろう。

勿論、福祉を始めとした医療やその技術も必要だ。

アンブレラ社はその両方を持っている。ゾラーノにとっては正に渡り船とも言える今回の会談は絶対に成功させなければならない。

 

「勢いがあると言っても人民軍と比べると支援が薄いのでアンブレラ社が我が軍に支援してもらえるのは有難い。

そして我々がヴィレーネを手に入れたらその見返りは何を望むのだ?」

 

「我が社としてはまずビラ島の租借と不可侵の条約をこれからも続けてもらう事と本島における我がアンブレラ社の市場を優先的に取引してもらう事です。

この二点を守ってもらえれば我々はVUFの支援を行いゾラーノ司令官が()()になっても政府に支援を行う事を約束いたします」

 

「それならば守っていこう。その代わりに我々が政権の座に就いた際は貴殿らアンブレラ社の資金と技術をこのヴィレーネを優先的に使ってほしい。

特効薬や治療などいったものだ。そして資金の援助も行ってもらいたい。」

 

「分かりました。」

 

「有難い。現在我が軍は武器を始め物資が不足している。

以前は今までの支援者の支援で何となったが今はVUFは大勢力になったので全体に回らなくなった。

そのおかげで我々は政府軍に対して有効な戦略が打ち出せないでいる。

セニョール・ヴァルフレア。これらの問題を何とか出来ないだろうか?」

 

ヴィレーネ統一戦線が今悩ませてるのが武器・弾薬や医療品といった物資が不足している事だ。

いまや大勢力なったヴィレーネ統一戦線は今までの支援では到底賄いきれなかった。

そのためどこかが自分達に大きな支援ができる者を探していたのだ。

 

「分かりました。

現在必要な物のリストを渡してもらえば有難いです」

 

「それなら既に用意してある。

最も必要なのは医療品や銃弾だがな」

 

ゾラーノは側近が持っていたリストをヴァルフレアに渡す。

読んでみると医療品と弾丸がとても不足しているようだ。

 

「分かりました。出来るだけ早めに用意いたしましょう」

 

「おお! 引き受けてくださるか!

本当に有難い。」

 

「では取引成立ということで宜しいと?」

 

「勿論だとも我々を支援してくれるというのなら貴方方が望む取引もやろう

では新たな同盟を祝して一杯いこうか」

 

トクトクとゾラーノは自分のコップとヴァルフレアのコップにラム酒を注ぎ乾杯する。

 

「これからも良き関係を」

 

カチンとコップを当てて酒を呑み干した。

 

こうしてヴァルフレアはVUFと同盟関係を築いてヴィレーネを手中に収める計画が着々と進んだのだった。

 

 

 

 

取引を終えたヴァルフレアは直ぐにビラ島に戻りVUFに必要な物資を送るためにある人物に電話した。

 

「・・・という訳でVUFに支援を送るために力を貸してもらえないでしょうか? ()()()()()()。」

 

『ヴィレーネか…。

ふむ…クレムリンはもうあの島国には愛想が尽きてるが…しかしファシストを支援するのは我々の立場上難しい。』

 

「確かに国家としてならそうです。なら()()()()()()()()()()()()()()()()のでは?

大佐の伝手で誰かいませんか?」

 

ヴァルフレアが電話してる相手はソビエト連邦の大佐でありアンブレラとの関係が深いセルゲイ・ウラジミール大佐である。

アレクシアの葬式で何か力を貸してほしい時は連絡をしてくれと言われたのでソ連軍で高い地位にいるセルゲイ大佐に電話したのである。

 

『確かに私には伝手はある。だがファシスト共を支援して我がソビエトに何の価値があるのかね? 』

 

「勿論、利益はあります。」

 

『それは?』

 

「大佐、ヴィレーネはまだ数多くの資源が眠っていることはご存じでしょうか?」

 

『勿論、知ってるとも

ソビエトはその資源を手にしようと多額の支援を行ったが現地の共産党の懐に入ってしまったがね』

 

ソ連はヴィレーネに眠る豊富な資源に目を付けてヴィレーネ政府に多額の援助を行ったが政府の連中はその資金を自分の懐に納めてしまっただけではなくソ連に勝手させないとアメリカはヴィレーネの反政府軍に資金援助をして資源採掘を妨害した。

そのせいで共産党政府は資源開発をしてる場合ではなく各地で暴れる反政府ゲリラの対処に追われる事になりソ連もヴィレーネ政府に内心怒りがあるもののアメリカにヴィレーネを渡すわけにはいかないので渋々ヴィレーネ政府に軍事援助をしなければならなかった。

しかし共産党政府の無能ぶりにソ連は愛想が尽きてしまい支援も以前と違って大幅に減らしてるので政府はそのせいで四苦八苦してる。反政府軍に反撃が思うように出来ない状態なのだ。

 

「ならばそんな連中を切り捨てて思想が違えども扱いやすい連中のほうがソ連にとっても助かるでしょう。

VUFの司令官のゾラーノは大の反米で民主主義を嫌ってはいます。

アメリカに対抗するためと自分の理想実現の為にならソ連だろうがアンブレラだろうが手を組む男です。」

 

「そうか。だが使える男なのかね?そのゾラーノという男は」

 

「少なくとも今の政府よりはずっと使えるでしょう。少なくとも彼は私腹を肥やすよりは自身の理想を叶える事と祖国の発展を重視してますから」

 

ゾラーノは自身の考えこそが正しいと思っている。自己中心的な男で権力の座に付けば典型的な独裁者になるだろう。

だが馬鹿ではないのでこちらを最大限利用しようと考えており同時に自分に出来る見返りも用意する男だ。

ゾラーノとうまく付き合っていけば必ず利益が大きいとヴァルフレアは考えてる。

 

「……君がそこまで言うならそのゾラーノとやらの援助を行おう。」

 

「本当ですか!?」

 

「勿論。ただし…その見返りに君は()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

「えっ…? 失礼ですがその意味は?」

 

「フフ、いずれ分かる。

では連中が必要とするもの近々送ろう」

 

意味深な言葉と共にセルゲイは電話を切った。

 

それにしてもアンブレラの頼み…?

一体どういう事だろうか?

 

(私はアンブレラの一員だから会社の指示は守るつもりだが… 大佐は一体何を伝えたいのだろうか?)

 

疑問が晴れることは無かったがセルゲイ大佐、つまりソ連の支援を受け取る事が出来たのだから良しとしよう。

ヴァルフレアはそう考えていつもの仕事に戻った。

 

しかし彼はまだ知らない…。

セルゲイが言ったアンブレラの頼みの意味を知る事になったのはそう遠くないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

1989年 12月

 

ゾラーノとの会談から半年…

 

ソ連の息のかかった武器商人によって大量の軍事物資を受け取ったゾラーノ率いるVUFは攻勢を開始した。

次々と政府の支配地域を奪取していきその勢いに人民軍にはもう止められず各地で敗走した。

そしてVUFは遂に首都ヴィレネの目前まで迫っていった。

共産党政府の要人達は人民軍に首都を死守するよう厳命し自分達は逃げ出す準備を行っていた。

 

1989年 12月10日 午前8時

 

VUFは首都ヴィレネに攻勢を開始する。後にヴィレネの戦いと呼ばれる戦いが始まった。

人民軍は建物や地下通路を駆使してVUFに対抗しVUFはそれらの攻撃に多数の死者を出しながらゆっくりだが確実に敵を殲滅しながら首都を支配していった。

 

1989年 12月 30日

 

VUFが国会議事堂を制圧。

同日、人民軍は全面降伏し戦いは終わった。

そして逃げ出そうとする政府の要人達はアンブレラからの情報を受け取っていたVUFによって逃走ルートを全て制圧されて次々と捕縛された。

国のトップであった書記長も首都から逃亡しようとしたが周囲にはVUFに囲まれており最早逃げ切れないと悟り絶望した書記長は議事堂から離れたセーフルームに自身と共に避難してた妻子を銃で殺害し自室に戻り手にした拳銃で自身の頭部を撃ち抜き自殺した

残った側近達も自分達に待ち受ける運命に絶望しており書記長に続くように自殺した。

後に残ったのは護衛と書記長達を世話をしていたメイド達で彼ら彼女は書記長達の自殺から一時間後セーフルームに来たVUFに保護された。

 

こうして21年に渡る内戦は反政府軍のヴィレーネ統一戦線(VUF)の勝利に終わったのだった

 

 

 

 

 

1990年 1月3日 ビラ島・アシュフォードの私邸

 

「そうか。ゾラーノ司令官は遂に勝ったんだな」

 

『えぇ。首都ヴィレネを完全に制圧して市民達はゾラーノ司令官を始めVUFを大喜びで迎え入れてます。

そして旧政権の書記長はセーフルームで妻と子供を殺した後自室で自分の頭を撃って死んだそうです。

政権の幹部達もVUFに捕まったりまたは自殺したとの事です』

 

ヴァルフレアはソモラから電話で戦いの結果を聞いて胸を撫でおろした。

 

(良かった…。これでビラ島は安泰だ。

後はゾラーノを怒らせないように立ち回らないとな)

 

同盟関係であるゾラーノが勝利したことでビラ島は本島に攻撃される危険性はほぼ無くなったと言える。

しいて言うならビラ島が再び危機に晒されるのはゾラーノと決別した時だろう。

 

『それでゾラーノ()()は二日後に新政府の発足を国民に発表するのですが…』

 

「何かあるのか?」

 

何か言いよどむソモラにヴァルフレアは何かあったのか?と気になる。

 

『そのゾラーノ総統はヴァルフレア閣下にも政権を支える一人として内閣に入って欲しいとの事で…』

 

「えっ…!」

 

ソモラの言葉にヴァルフレアは混乱する。

内閣に入ってくれ? それって政治家としてこのヴィレーネを支えて欲しいという事か?

 

「いやちょっと待ってくれ…。

私はまだ20歳になった若造で政治のイロハなんてないし何より外国人だぞ…。

ヴィレーネの人々は不審がるだろう…。」

 

確かに自分はヴィレーネの安定の為にゾラーノ氏を支援したがそれはあくまでビラ島に侵攻される危機を防ぎたかったためで政治には特に口出しする気がない。

 

『私もゾラーノ総統を説得したのですが…ヴァルフレア閣下には政治アドバイザーとして自分と共に国家を支えて欲しいとの一点張りで…』

 

「待て待て…! そう言うが私は外国人だぞ…。 ゾラーノ氏が納得しても他の者が納得しないだろう…」

 

『その点ですが総統はヴァルフレア閣下を【国家特別選出議員】としてと迎え入れるそうです』

 

「・・・その【国家特別選出議員】というのなんだ?」

 

『国家特別選出議員というのは国のトップが身分関係なく有能な人材を政権に入れるための制度です。

相手が外国人でもまだ年若い人物でも国のトップが決めたならそれらは関係なく国家の議員として活動できます』

 

「なるほど…。

ゾラーノ総統は自分を目に付く場所に置いておきたいという事か」

 

ヴァルフレアはゾラーノがどうして自分を内閣に入れたいのか何となくだが分かってきた。

簡単にいえばゾラーノは自分を監視しておきたいのだ。アンブレラがゾラーノに敵対する組織に援助出来ないようにするだけではなくアンブレラからの出資もスムーズに行えるようにする為だ。

 

『総統も我々が好き勝手に出来ない様に監視するわけですね…。

それでどうされますか?』

 

「已む得ない。ゾラーノ総統の要請に答えよう。

せっかくビラ島に迫る危険性を排除したのに彼の機嫌を悪くするわけにもいかない。

内閣を発足するのは二日後だな。ゾラーノ総統に伝えてくれ。貴殿の要請に答えると」

 

『分かりました』

 

そうして電話が切れヴァルフレアは大きく溜息をついた。

 

(やれやれ…思ったより大事になってきたな…。)

 

まさか内閣に組み込まれる事になるとは流石にヴァルフレアもこれは予想が出来なかった。

とは言えゾラーノが自分に頼む事と言えば恐らく金に関するものだろう…。

 

「ならこっちは島の資源開発に一口噛ませて貰おう。それぐらいは要求したっていいはずだ」

 

ヴィレーネは資源が豊富なのに今まで碌に開発されてこなかったので手付かず状態なのだ。この資源開発にアシュフォード家にも関わらせてもらって実利を手にしようと考えてる。

 

「とにかく準備を終わらせておくか…。」

 

ヴァルフレアは二日後に備えてスケジュールを立てて着ていく服も選ぶ事にしたのだった。

 

 

 

1990年 1月5日

 

首都ヴィレネ

 

首都ヴィレネの戦いが終わって一週間が経過した。

都市のあちこちが瓦礫と化しておりそれを復興しようと建設会社が汗水流して作業している。

 

「町中、滅茶苦茶だな…。コレを元通りするのに何年掛かるだろうか…」

 

国会議事堂に目指して車の窓から見るヴィレネに残る傷跡を見てヴァルフレアはぼやく。

このヴィレネだけではなく国中が内戦によってズタズタにされてしまった。全てを元通りにするのに途方もない時間が必要だろう。

 

(内戦はゾラーノ総統が率いるVUFが勝利したけど各地にはVUF以外の反政府組織がいるけど彼らはゾラーノ総統に従うだろうか?)

 

この国の反政府組織はヴィレーネ統一戦線(VUF)だけではない。名前は知らないが大小含めた反政府組織がおり中には思想との違いでVUFと決別した組織もある。

それぞれが己が思想の為に戦ってきている…そんな彼らが反政府組織の中で最も大きく力があるVUF、ゾラーノに大人しく従うと思えない…。

ゾラーノがこの国の実権は握ったが内戦は未だに終わってはいないのだ。

 

「っと…考えていたらもう国会議事堂に着いたか…。

さて…いよいよ新政府の樹立がされるわけだ」

 

議事堂の前には大勢の市民が集まっておりゾラーノの声援が響き渡る。

ヴァルフレアは車に降りると兵士が来て案内すると言われたので大人しく着いていき関係者しか入れない通路を渡り議事堂の中に入る中は大忙しだった。あちこちで人が歩き渡り軍の将軍らしき人達が何やら話し合っている。

兵士に案内されて二階に上りドアの前で兵士がノックすると「入って良い」という声が聞こえた。

兵士はヴァルフレアにどうぞと言いヴァルフレアは部屋に入室する。

 

「待っていたぞ。ヴァルフレア」

 

部屋に居たのはゾラーノだった。

 

「ゾラーノ総統。本日お呼びしてもらってありがとうございます。」

 

「そう畏まらなくていい。私と君は最早兄弟同然だろう」

 

「いえ…()()()()に対してそのような無礼な対応は出来ません…」

 

「その国家元首が畏まらなくて良いと言ってるんだ。

私が此処にいるのは君が私に多大な援助をしてくれたからさ」

 

ニカニカと笑顔を浮かべながらゾラーノはヴァルグレアの肩をパシパシと叩く。

フレンドリーな対応にヴァルフレアは愛想笑いを浮かべながら対応する。

 

「挨拶はこれまでにして、早速本題に入ろうか?

今日私が君を読んだ理由は既に知っているな?」

 

「ソモラから聞きましたが私が政権に入って欲しいとの事でしたね…? 国家特別選出議員として。

失礼を承知ですが本当に私を政権に入れるのですか? 私はまだ二十歳の若造ですよ?」

 

「勿論本気だ。私自身は君は優れた才能の持ち主だと思っているからこそ国家特別選出議員として君を政権に迎え入れたいのさ

あと年齢を気にしてるが私自身、まだ32歳だぞ。世間から見れば私だって若造だ。だから気にすることは無いさ」

 

「はぁ…」

 

ゾラーノは笑いながら年齢など気にするなと言う。それにしてもゾラーノがまだ32歳なのは驚きだった。

 

(確かに若干30代で国家元首になるのは今時珍しいな…。)

 

「何より君はかのアンブレラ社の幹部であり太いパイプの持ち主だからな。

アンブレラの協力が欲しい時に君がすぐ近くに居てくれるのも有難い。さらに言えば我が革命に協力してくれた礼でもある」

 

「そうですか…。つまり私にも国家の利権に噛ませてくれるのですか?」

 

「勿論だとも。例えば資源開発の多くの利益を君を与えるつもりだ。

そしてヴィレーネを楽園にするには君の力も必要だ」

 

「・・・」

 

ヴァルフレアは考える。ゾラーノが自分を内閣の一員に迎える理由は監視の為だろう。

自分の不利益になるかもしれない存在を監視しておく・・・。だけど同時に自分の味方に居てもらいたいという考えもあるのだろう。

そして内閣の一員になるという事は未だに存在してる反政府組織の標的にもなるという事だ…。

だけど島の利権に噛ませてくれるのなら大きな利益にもなるしアシュフォード家に莫大な財を齎せてくれるかもしれない。

そう考えるとリスクはあるがメリットがかなり大きい…。断るほうが今後の不利益の方が大きい。

 

「分かりました。このヴァルフレア・アシュフォード

ゾラーノ総統とヴィレーネの為に尽力いたします」

 

「おお! 引き受けてくれるか!

有難う! 共にこのヴィレーネを楽園に導こうじゃないか!!」

 

ゾラーノはヴァルフレアの手を掴んで大きく振り喜びを見せた。

 

こうしてヴァルフレアはアンブレラ社の幹部の肩書だけではなくヴィレーネ政府の内閣の一員としての肩書も手に入れたのだった。




ゾラーノ・バルザール

1958年に首都ヴィレネで誕生

32歳

VUFの指導者であり現在はヴィレーネ国の総統。
バルザール家はヴィレーネ独立の為に戦った名門でありファシズム政権でも総統と強い結びつきが強かった。
父親は総統の盟友であり軍の最高司令官でもあった。
しかし共産党率いる人民軍に敗戦し息子であるゾラーノの目の前で首を斬り落とされ市街にその首を晒された。
その出来事でゾラーノは共産主義を激しく憎悪し父親の支持者に匿られるながら復讐の時を待ち続けた。
そして共産党政府の失政で各地で反乱軍が結成していく中、ゾラーノのまた1978年にファシズム派のヴィレーネ統一戦線に入隊する。この時ゾラーノは20歳だった。
一兵士として実戦を積んでいき徐々に指導者としての才能が開花していき更に10年後の1988年にVUFの司令官・指導者となる。
そして1989年にヴァルフレア(アンブレラ社)の支援を受け取って遂に憎き共産党政府を滅ぼす事に成功した。


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ゾラーノ内閣 アンブレラ社の思惑

ヴァルフレアはヴィレーネ統一戦線のゾラーノを支援してゾラーノ軍は共産党政府を打倒に成功する。
その事がゾラーノに気に入れられたのか外国人でありながら国家特別選出議員として内閣の一員として迎えられる。


1990年 4月13日

 

ヴァルフレアは21歳になり内閣の一員となって数か月が経った。

現在ゾラーノ内閣が力を入れてるのはヴィレーネの復興だ。

知っての通りヴィレーネは長い年月による内戦で国中が荒れ果てていた。ヴィレーネは独立して以来、内戦に次ぐ内戦を繰り返してきた国家で平和だった時期など殆んどなかった。

その為に国中が内戦によってズタズタにされており国家の中枢である首都ヴィレネですらインフラが何十年もボロボロで汚染された水道や電力が足りず頻繁に停電が起きる、市民だって今日の食い扶持を得るだけで精いっぱいで都市中にホームレスがいる。そのせいでヴィレネは頻繁に強盗や殺人が起きるといった事が跡を絶たずギャングと麻薬組織といった犯罪組織が幅を利かせやりたい放題なのだ

都市部すらこうなのだ…。農村といった地方などは国民の90%があばら小屋や掘っ立て小屋といった家に住み貧困に喘いで餓死者が続出していた。

インフラは壊滅しており国民の大半は生水で飲んでソレが原因で酷い下痢に襲われたり亡くなったりせっかく作った作物が国に回らなかったりと問題点が多すぎた。

そのため首都の復興は最低限に各地の復興が優先された。

その中でヴァルフレアはアンブレラ社からアンブレラ・ヴィレーネ支社の代表になるように言われ、そのままヴィレーネ支社の代表となった。

支社の運用する全権を任されたのでヴァルフレアは早速、アンブレラ社とアシュフォード家のコネを使って資金を始め医療品や食料支援、ゼネルティーモが開発したBG‐001を国内に無償で提供しBG-001で得た資金もヴィレーネ復興の為に使用した。

莫大な資金と物資は部下であるソモラが効率よく運用してくれたので少しずつだがヴィレーネの復興は進んでいき市役所や学校、診療所や病院といった施設をヴィレーネ各地で建てた。

そのおかげかゾラーノ政権を始めアンブレラ社に支持する声と感謝する声が沸き上がっていった。

 

ただ良い事だけではなかった…。

やはりというかゾラーノ政権を快く思わない反政府ゲリラ達が攻撃を始めたのだ。彼らは()()()()()()()()()()と名乗り修復した列車の線路や道路を破壊したり学校や診療所、市役所や警察署や軍の基地を襲ったりと復興支援の妨害や政府施設を標的にしたのだ。

彼らの言い分は「ゾラーノは独裁を強めヴィレーネ人の自由と言論を奪い挙句の果てに外国勢力の言いなりになってヴィレーネを私物化している!」というものだった。

確かにゾラーノは野党の活動を禁止したり自身の歯向かう者を投獄したり追放するなどとしているが・・・だからと言ってせっかく修復したインフラや施設を破壊するのはどうかしているだろう。

それらの行いのせいで人民解放軍は国民に支持されるどころか逆に毛嫌いされ疎まれる存在になってしまっている。

勿論、ゾラーノは人民解放軍の行いに激怒し新しく設立されたヴィレーネ国防軍を出動させた。

ヴァルフレアも国防軍の支援として自身の指揮下に入っている傭兵部隊U.B.C.S.とアンブレラ社保安警察であるU.S.S.を送り込んだ。

 

(※これはヴァルフレアがアンブレラ本部から指示された事で仕方なく配下であるU.B.C.S.とU.S.S.を出動させた。)

 

国家から豊富な援助を受けてる国防軍とアンブレラ社の私兵軍はあっという間に人民解放軍のゲリラ達を蹴散らし連中は散り散りとなってジャングルの奥地に逃げ去った。

これで当分の間は安全になったので政府とアンブレラ社は国家再建へと再び動き出したのだった。

 

 

 

 

 

1990年 5月20日

 

内閣の一員として目まぐるしい日々を送ってあっという間に一月が過ぎた。

現在ヴァルフレアは久しぶりに休暇を取りビラ島の私邸にノンビリしていた。

 

「お休みの中、失礼いたします

閣下、アルフレッド様がお越しになられました」

 

「何? アルフレッドが?」

 

ソファから起き上がりヴァルフレアは玄関まで歩いて行く。

 

「兄さん! 久しぶりだね!」

 

一年ぶりに再会する成長した弟のアルフレッドがいた。

 

「アルフレッド! 久しぶりだな。

来るなら茶菓子を用意してたのに…」

 

「ゴメン兄さん。

ビックリさせてやろうと思って連絡せずに来たんだ。」

 

アルフレッドは一年ぶりに再会する兄を驚かせようと秘密でこのビラ島に来たという。

ヴァルフレアはそんな弟の茶目っ気に呆れながらもいつまでも玄関に居るのはアレなので自室に移動した。

 

 

 

 

 

「えっ!! この国の政府の一員になっただって!!

でも兄さんはその・・・外国人だよね…?」

 

自室に入った二人は互いのこれまでの事を話した。

その中でヴァルフレアはアルフレッドに自分はヴィレーネの政府の内閣の一員なったと聞いてアルフレッドは仰天する。

アルフレッドの驚きも当然だった。 一年前の兄はこの島のアンブレラ社の研究所と訓練基地の統括する責任者だったはずだったのにいつの間にかこの国の政治家になってるのだから。

 

「いや・・・確かに今の内閣の連中に多くの援助はしたけどまさか政治家になるとは自分でも驚いてるよ・・・。」

 

「だ…だけどこれは凄いよ! 最初の頃と比べると大出世じゃないか!

国家の利権とか絡めるんだから家の再興は目と鼻の先だよ!!」

 

「そうだな…。

言われてみれば私も凄い出世したもんだな…」

 

アルフレッドに言われてヴァルフレアは初めてこの島に来た事を思い出す。

 

「あの頃は・・・正直に言えば家の再興は諦めてたんだ…。

こんな島で何をやればいいんだ?ってな…」

 

この島に来て直ぐに思ったのは自分はアンブレラ社に期待されてないと残酷な現実を思い知らされた。

たいした設備がない研究所に出世と無関係な訓練基地にヴァルフレアは最早アシュフォード家の再興は諦めてた。

しかしゼネルティーモの研究を聞いて微かな希望の光が見えた。彼の研究が成功すれば自分の評価が良くなるじゃないかと思った。

だから少なくない自費を出してヤケクソ気味だったが何とか成功させようと手間暇を惜しまなかった。

それでも日に日に少なくなっていく資産を見て恐怖に震えていた。何せ失敗したら破産は確実で絶望しかなかったのだ。

 

(だけどあのハーブの出会いで全てが変わった)

 

あの日ジーナが見せてくれたあのハーブ・・・。

凄まじいポテンシャルをもったハーブがヴァルフレアは破産の恐怖の日々から救ってくれた。

ゼネルティーモとそのチームが開発したBG-001によってアシュフォード家に莫大な財を齎してくれた。

 

「本当にハーブ様々だよ」

 

ヴァルフレアは紅茶を飲んで一息をつく。

 

「私の事はこれぐらいだな。アルフレッドはどうだ」

 

「僕は・・・実はアンブレラ社から声が掛かってある研究所の所長になってくれと言われたんだ」

 

「本当か! 何処に行くんだ?

アークレイ研究所か? それともヨーロッパの研究所か?」

 

アルフレッドの言葉に喜びを隠せないヴァルフレア。

一体何処の研究所なんだろうか?

自分は左遷同然でこのビラ島に配属されたが弟のアルフレッドは良い場所に配属されたなら兄としてとても嬉しい。

そんなヴァルフレアの喜びを見たアルフレッドは気まずそうな表情で自分が配属される研究所を言う。

 

「僕が配属されるのはロックフォート島にある研究所なんだ…。兄さん知ってるかな…?」

 

元気が無さそうにに言うアルフレッドだがそれを聞いたヴァルフレアは・・・。

 

「・・・えっとそれは何処にある島なんだ…?」

 

サッパリ分からなかった…。

 

ロックフォート島・・・? えっ?何処?

 

「うん…。()()()()()()()()()()()()()

 

兄の反応に予想してたアルフレッド。

 

「私が知らないって当たり前だろう? 聞いた事もないぞ…?」

 

ヴァルフレアは自身の記憶から探ってみるがロックフォート島なんて聞いた事がない…。一体何処にある島なんだろうか…?

 

「アンブレラ社から渡された資料がコレなんだけど」

 

アルフレッドから資料を受け取りそれを読んでみる。

まずロックフォート島とは太平洋に南にある孤島でそこにはアンブレラ社が保有する研究所とUSSの訓練所に刑務所があるようだ。

ロックフォート島の正確な位置を割り出してみると・・・

 

「これは・・・! ヴィレーネからそう遠くない位置にあるじゃないか!」

 

船で行けば30分ぐらいだろうか。意外と近い場所にそんな孤島があったとは…。

 

「実は上層部から兄弟二人で頑張って会社に利益を齎してくれとか言われたんだ」

 

「私と?」

 

「うん…。僕をロックフォート島に配属したのはそういった理由みたいだ」

 

「そうか…」

 

兄弟で頑張ってくれか…

言葉は綺麗だが実際は違う・・・。自分と同じくアルフレッドも会社から窓際に追いやられたんだ。

 

お前達兄弟には用はない

 

暗にそう言ってるに等しい…。

アルフレッドは口にはしてないが自分は窓際に追いやられたという自覚をしてるはずだ。

兄としてなんて言うべきだろうか…。

 

「兄さん心配しないでくれ。

僕だってアシュフォード家の男だ。逆に成果を上げてやるさ」

 

ヴァルフレアの気持ちを読んだのかアルフレッドは何ともないように胸を張った。

逆に慰められたヴァルフレアは恥ずかしくなりながら済まないと謝る。

 

「アルフレッド…いいか

何かったら直ぐに私に相談してくれ。私は金はあるし軍隊すら動かせる」

 

アルフレッドはヴァルフレアにとって最後の肉親である。父母は亡くなり妹のアレクシアも非業の死を遂げてしまった…。

家族が失うのはもう御免だった。

 

「分かった。兄さん有難う」

 

アルフレッドも兄も気持ちを理解しており感謝する。

同時に自慢の兄なら自分も必ず助けてくれると確信してた。

 

アルフレッドだけではない。ジーナやハーマンを始めとした使用人達も必ず守り抜く・・・!

そうヴァルフレアは決意した。

 

 

 

 

 

 

 

1991年 8月15日

 

国会議事堂 ヴァルフレアの部屋

 

VPLA(ヴィレーネ人民解放軍)がまた動き出しただと?」

 

「はい。工作員によれば連中はデア・イテナ地方で大規模な攻撃を目論んでいるそうです」

 

「あれだけ痛め付けたのにまだやる気か…」

 

休暇が終わりヴァルフレアは再び政府の一員として動いていた。

そんなある日、部下から以前蹴散らしたVPLAが再び動き出すとの報告を聞く。

 

「どうも連中が早く立ち直った理由(ワケ)自由ヴィレーネ革命軍が支援したとの事だそうです」

 

「なに? 革命軍が人民解放軍を支援したというのか?」

 

報告を聞いてヴァルフレアは耳を疑った。

 

自由ヴィレーネ革命軍は独裁からヴィレーネを解放し選挙といった民主主義で国家を良くしていこうという思想のもと米国を始めとした西側諸国の援助を受け取って旧政権である共産党政府との闘争を繰り広げていた組織だ。

革命軍はヴィレーネ統一戦線(VUF)と同時期に設立された組織だったが支持者が多く大戦力が誇ったVUFと比べて戦力の少なさからあまり勢いがなく注目度を含めて影に隠れてしまった。

最後まで勢いがなく最終的にゾラーノ総統率いるVUFが政府に勝利したが民主主義を掲げる革命軍にとってゾラーノ政権は決して認めるわけにはいかなかった。

革命軍はゾラーノ総統の呼びかけに一切応じずにそのまま山奥に身を潜めていたのだ

そんな彼らが民主主義の敵である共産主義者が数多くいる人民解放軍を援助するなんて驚く他ない。

 

「革命軍は未だに小規模の勢力ですがヤンキー(米国)から結構な軍事援助を受け取っていますから人民解放軍を支援して我々の政権を打倒しようと考えているわけです」

 

「敵の敵は味方か…。」

 

革命軍は物資は豊富だが戦力は少ない。それに対して人民解放軍は戦力はあるが物資が少ない。

互いに不俱戴天の相手だがゾラーノ政権とアンブレラ社を打倒するためにはいがみ合ってる場合ではなく共通の敵だからこそ協力しようとなったわけだ。

 

「まったく・・・ヴィレーネはようやく再建へと進んでいるのに何で悉くそれを邪魔するんだ…。」

 

思想というのは本当に手に負えない…。

ゾラーノ総統は確かに独裁者ともいえる人物だが彼は何もヴィレーネを滅茶苦茶にしたい訳ではない。むしろヴィレーネを良くしようと毎日奮闘してるのだ。

ヴァルフレアもアシュフォード家の利益のためでもあるがヴァルフレアもヴィレーネを滅茶苦茶したいとは考えてない。むしろこの国に愛着を持ってしまった。

だから外国人である自分もヴィレーネを再建しようと頑張っているのだ。

革命軍も人民解放軍も同じだ。彼らもヴィレーネを愛しており自分達の思想で国家を再建しようとしてるのだ。

 

ヴィレーネを良くしたい

全員が同じ気持ちなのだがそれが上手くかみ合わず殺し合いになってしまっている・・・。

 

「だからと言って何もしないわけにもいかない」

 

革命軍と人民解放軍はせっかく建てた施設や修復した道路といったインフラを破壊しアンブレラ社に関わりある建物を攻撃しているのだ。

国家再建を進めていくためにも連中を野放しするわけにはいかない。

 

 

 

「・・・以上のように人民解放軍と革命軍は同盟を組んで我々への攻撃を開始してます。

政権が発足してからまだ半年ですが国家の再建は着々と進んでいます。それなのにまたヴィレーネを以前のような暗黒時代に戻すわけにはいきません!

至急手を打つべきです!」

 

部下から情報を聞いたヴァルフレアはゾラーノ総統を始めとした政権の幹部達を総統の執務室に集め部下から得た情報を全員に伝える。

 

「ううむ・・・まさか革命軍が人民解放軍と手を組むとはな・・・。

流石に予想出来なかった。」

 

重い表情をするゾラーノ。

ヴァルフレアから聞かされる衝撃的な情報に驚きが隠せない。

 

「連中は思想の関係で犬猿の関係でしたのでほっといても勝手に潰し合うと思っていたが・・・」

 

軍の大将を初めとした将軍達も革命軍と人民解放軍の同盟は予測出来なかった。

 

ガヤガヤとこれからの動きと対処を皆で考える。

意見は二つに分かれた。

一方は人民解放軍と革命軍の連合軍を徹底的に殲滅すべきという意見。

もう一方は連合軍との和平をすべきという意見。

 

まず殲滅は問題の解決に一番手っ取り早い方法だが連合軍とぶつかり合えば兵士も含めて国民に多くが犠牲になってしまい国内の動乱を見据えて他国(特に米国)が介入してくる可能性が高かった。

また殲滅に失敗すれば以前のような泥沼な状況に陥り、せっかくの国家再建の道が絶たれてしまう危険性もある。

 

和平は上手く行けば連合軍と政府軍の内戦を避けられて国家再建に安心して取り掛かれるのだが問題はどうやって連中と和平を結ぶべきなのかだ。

和平を結ぶためにはそれ相応の条件を出さねばならず、向こうがゾラーノ政権の解散などと言いだせばもやそこに交渉の余地はない。武力衝突待ったなしである。

仮に和平を結んで連合軍とともに新しい政権を発足したとしよう。まず言えるのは間違いないくグダグダな政権になるだろう…。

 

現在ゾラーノ政権(VUF)は良くも悪くも政権に対抗できる政党が存在しないという事で国家再建や改革がスムーズに進んでいるのだ。

しかしそこに革命軍や人民解放軍の連中が政界に入ればその一強は消えて連中の顔色を窺っていかなければならず国家運営がスムーズに行かなくなるだろう…。

勿論それが民主主義国家ならばそれが健全なのだろう。様々な意見を出して互いに譲歩したり引かなかったりして国家をより良い方向に進めていくのだから。

だがそれはその国が時間と余裕があるからこそ出来る事である。

それらの国に対してヴィレーネは政権・権力争い(そんな事)をしてる余裕などはない。

一刻も早く国家再建をしなければならない状況だからこそVUF一強が望ましいのだ。

 

「皆が言いたい事は理解した。

我が決断は…」

 

ゾラーノはそれぞれの意見を聞いて決断を下す

 

連合軍を殲滅する

 

ゾラーノの決断に和平派は声を上げる。

 

「総統閣下。それは危険です! 確実に奴らを殲滅出来るか保証はありません!」

 

「大規模な攻勢に出ればアメリカ人共が介入してくるかもしれません!」

 

和平派は殲滅作戦の危険性をゾラーノに諫言する。

 

「言いたい事は理解できる。

和平をし互いに手を取り合えるならそれも良いと私は考えている…。

だが今のヴィレーネは一刻も早く再建しなければならならない中、連中の顔色を窺ってる場合でも言い分や思想を聞いてる暇もない。

だからこそ国家の安定を、再建を成す為に不当分子は排除する」

 

それを聞いて和平派は黙り込む。彼ら自身もヴィレーネの現状を理解してるのだ。

 

「将軍。国防軍を動員しろ。

必要な物は出来る限り用意する。手早く任務をこなすのだ。

時間を掛ければ他国が介入してくる可能性が高くなるからな」

 

「はっ! 直ぐに動き出します」

 

将軍たちはゾラーノの意を聞いて部屋から退出していく。

 

(ヴィレーネの現状を考えると殲滅の方が理に適ってる…。

UBCSも直ぐに動けるようにしておくか)

 

 

ヴァルフレアと残った者達も軍事作戦に備えて退出していく。

 

 

 

 

1991 9月8日

 

ゾラーノ総統は連合軍殲滅を発令しヴィレーネ国防軍が動き出した。

各地で動員され大きな軍勢となり連合軍が支配してるデア・イテナ県に進軍する。

AK74突撃銃やPMマカロフ拳銃を持った兵士達がトラックや輸送ヘリに乗り込んでいく。

アンブレラ社の私軍であるUBCSも動員されてトラックとヘリに乗り込んでいった。

 

(遂に始まったな…。

これでこの国の命運が決まる)

 

議事堂の自室で現場に行くために準備をしながらヴァルフレアは、窓から兵士達が戦地に向かう所を眺めていた。

そして()()()()()()()()()()()

 

「それにしても本部はこの攻勢に関わりをもとうとしたのは何故だ

これは国家の内戦でアンブレラ社が出る幕はないと思うのだが…?」

 

実は攻勢が始まる前…先月の事だ。

ヴァルフレアはアンブレラ本社に反乱軍に対しての政府軍の攻勢を報告したのだが本部はその攻勢にアンブレラ社(こちら)も深く関わりたいと言ったのだ。

それを聞いたヴァルフレアはこれは国家の問題なので自分達はあくまで支援に徹してあまり関わらない様にした方が良いと告げたが「これは命令だ。ヴィレーネの支援にセルゲイと共に協力してやっただろう。君に拒否する資格はない」と強引に押しのけられヴァルフレアもセルゲイからアンブレラの頼みを断らない様にと言われたのでやむを得ずにと受け入れる事にした。

そして作戦開始の一週間前にアンブレラ本部に所属する幹部数名と研究者と思われる者数名がUSSに守られながらこのヴィレーネに到着したのだ。

彼らは何か大きな鉄のコンテナを持ってきておりそれを戦場まで運ぶらしい。

 

スーツから迷彩服の戦闘服に着替え現場までヘリコプターで行くのだが…

 

「やぁヴァルフレア君。今日はよろしく頼むよ」

 

これから戦場に行くというのにスーツ姿の幹部と研究者にヴァルフレアは苦笑する。

ヘリには彼らが持ってきた大型のコンテナを鎖で括りつけている。

 

「ええ、よろしくお願いします。

所でそのコンテナには何が入っているのですか?」

 

「これか? まぁいずれ分かるさ」

 

このようにはぐらかされてしまいコンテナの中身は教えてくれなかった。

 

(まったく… ピクニックに行くんじゃないんだぞ…。

ほら、国防軍の兵士達が不機嫌な目で見てるじゃないか…。)

 

ヘリコプターの中にはヴァルフレアとアンブレラの()()()がいる。彼らには護衛として国防軍の精鋭と彼ら(ヴァルフレアと幹部達)直属のUSS隊員を含めた20人以上が付いているが国防軍の兵士達は幹部達と研究者達を不満げな…というより不機嫌な表情で見つめている。

彼らからすれば祖国の為に命を懸けて戦いに行くと言うのにまるで遠足にきたようなアンブレラ社の客人達にイラついて仕方ないだろう…。

それに対してUSS隊員達の表情はマスクしてるせいで見えないが彼らも内心ではいい気分ではないかもしれない。

 

そんな居心地が悪い雰囲気の中数時間が経ち、ようやく目的に着いたようである。

 

「あぁやっとか…乗り心地悪いヘリだ…」

 

ウンザリしながら幹部達はヘリに降りていく。

ヴァルフレアも護衛の兵士に守られながらヘリに降りていく。

周りにはテントが張られており国防軍の兵士達が指揮官に命じられながらアチコチ動き回っている。

遠くから砲撃音が響きヴァルフレアは今自分は戦場に居るのだと思い知らされる。

 

「ヴァルフレア代表。我々のテントは何処だ?」

 

幹部の中で不遜な態度をとる中年の幹部に言われてヴァルフレアは予め知らされていたテントに幹部達を案内する。

そこのテントは他のテントより大型で大勢がすっぽり入れる大きさだ。テントに入った幹部達は着いてきた部下に命じてカメラやらパソコンやら色々な機材をセットし始める。

 

「ヴァルフレア代表。今の戦況はどうだ?」

 

先程の不遜な態度の中年幹部に現在の戦況をヴァルフレアに聞くがヴァルフレアはまだ着いたばかりで戦況はどうなのかは分からなかった。

 

「ならさっさと聞いてきたまえ!」

 

子供の使いみたいな言い方にヴァルフレアはイラッと来るが表情に出さず「分かりました 少々お待ちください」と言いテントの外に出る。

 

(全く!本部から来たからといって何様のつもりなんだ!)

 

立場的には向こうが上だからあまり大事にするわけにはいかないので深呼吸して落ち着く。

 

「さて…戦況を聞こうにも皆忙しそうだな…」

 

現場はバタバタしており誰か指揮官とか話を聞けないか辺りを見回すとUBCSのマークが付いてるテントを見つけた。

UBCSも現在、前線で国防軍と共に戦っているので詳しい事を聞けるかもしれないと思いテントに入っていく。

 

「リドリオ! 貴方も此処に来ていたのか」

 

「代表! お久しぶりです。」

 

中に居たのは訓練基地の教官を務めていたリドリオだった。

 

「久しぶりですね。一年以上は会っていなかったからな」

 

ヴァルフレアはアンブレラ・ヴィレーネ支社の代表になって基地の司令官を信頼できるリドリオに任せて自身は会社の運営と政治家として多忙な日々を送っていたので暫くリドリオとは顔を合わせてないかった。

 

「ヴァルフレア代表もお変わりなく。

私も司令官として新しい教官を呼んだりと大変でしたよ」

 

「そうか。ところで貴方が此処にいるという事は…?」

 

「ええ。私はUBCSの司令官として前線にいる兵士を指揮しているのです。

かつて人民軍で部隊を指揮してた実績があったので本部から前線に行けと命じられまして…」

 

「そうだったのか。丁度いい、現在の状況を教えてくれないか?

本社の人間に戦況を聞いてこいと言われてね…」

 

ヴァルフレアの言葉にリドリオは彼の置かれてる状況が分かった。

 

「今の所はこちらが優勢ですね。戦車隊の攻撃で敵の前線は崩れて味方は進撃してますが…しかし」

 

「しかし…何です?」

 

「連合軍は根城にしてた山一帯を要塞化してましてアチコチに巧妙にカモフラ―ジュしたタコ壺や砦を築いていてそれらを利用してこちらを攻撃してきてます。

山岳ですから戦車も思うように動きませんし、歩兵中心の戦いになっていくでしょう」

 

「つまり…ヴィレーネ軍は戦車といった強力な兵器が使えないために苦戦するということか?」

 

「そうですね… 勝てるにしても大きな被害は免れないでしょう」

 

「そうか…教えてくれてありがとう

それを向こうに伝えるよ」

 

「それではまた」

 

テントから出てヴァルフレアはリドリオから聞いた戦況に苦い表情になる。

 

(厄介だな…この戦いは長引かせるわけにはいかないのに…)

 

短期で決めないといけないのだが相手は山一帯を要塞化してるので一筋縄ではいかないだろう…。

憂鬱な気分で自分のテントに戻ったヴァルフレアはアンブレラ社の幹部達に戦況を報告した。

 

「成程…ご苦労だった」

 

「ならば例の商品の性能を確かめることが出来ますな」

 

「はい、既に()()()()の準備を整えています

投下する場所は…此処と此処で宜しいかと…」

 

戦況を聞いた幹部達は研究員達と何やら話している。

 

商品? ハンター?

 

一体何の話をしているのだろうか?

 

「あの…先ほどから一体の話をなさっているのですか…?」

 

気になったヴァルフレアは幹部達に聞こうとするが

 

「いずれ話してやる

今は黙っておきたまえ」

 

結局、答えてくれなかった。

ヴァルフレアは連中に怒りが沸くがここで争っても意味が無いのでグッと耐える。

仕方がないのでヴァルフレアは自社の薬といった補給に問題はないか確認することにして時間を潰す事にした。

 

 

 

 

 

一方テントの中では…

 

「ふむ…ハンターの性能ならこの程度の起伏があっても問題は無いのだな?」

 

「はい。ハンターはこのような場所でも性能は落とすことは無く任務を実行できます」

 

「いよいよですな ようやく商品の能力を見ることが出来る

()()()()()()()があって助かった」

 

「我々アークレイチームがBOW開発の一歩先にいくわけです」

 

「よし準備が整い次第今夜の12時にハンターを投入するぞ。ぬかるなよ」

 

ヴァルフレアの知らない所でアンブレラ社の幹部は着々と準備を進めていた。




次回 生物兵器


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アンブレラ社の暗部 生物兵器

ヴィレーネのゾラーノ政権を打倒を目的に反乱軍達は手を組んで連合軍と名乗り政府に武力闘争を開始したことでゾラーノ政権は国防軍を出動させた。
またヴァルフレアも政府の要請で私兵部隊のUBCSも出動させるがアンブレラ社本部から幹部達がヴィレーネにやってくきたのだった


この日、政府軍は敵の防衛線を破ったが連合軍は要塞化した山に立てこもり政府軍に対抗する。

山岳なので戦車の機動が奪われてしまい、歩兵を中心とした部隊が進撃するが…

 

「クソ!!何処から撃ってきているんだ!!」

 

「ガァ! ゴボォ…」

 

「しっかりしろ!! 衛生兵!!衛生兵!!!」

 

国防軍は巧妙にカモフラージュされた連合軍の陣地によって多数の犠牲が出ていた。

敵はタコ壺や洞窟やヤシの木の上から猛攻撃を行い不利になったらすぐに別の場所から攻撃してきたり少数でありながら兵力を圧倒する国防軍を翻弄する。

国防軍もカモフラージュされた陣地や洞窟を破壊したり埋めたりして進撃するがその度に数多くの犠牲が出てしまっていた。

 

「司令部!! これ以上進めば全滅する!! 撤退の許可を!」

 

『了解した。撤退を許可する』

 

「全隊! 撤退するぞ!!負傷者を運べ!!」

 

多くの部隊が大きな損害を出てしまい国防軍は撤退しヴァルフレアと政府にとって頭が痛い結果となってしまった。

 

 

 

 

PM9:35

 

「そうか… かなりの犠牲が出てしまったか…」

 

「はい…我々UBCSも国防軍程ではありませんが戦死者・負傷者あわせて結構な犠牲が出ています

この戦争に勝つことは出来ますが長い時間と相当な犠牲は覚悟しなければなりません…」

 

「それは困るな…。下手に長引かせたら今のヴィレーネの経済に悪影響が出る上にアメリカ人共が介入してくるかも知れない…」

 

ヴァルフレアはリドリオから今日の戦闘の結果を聞いて暗い表情になる。

今はヴィレーネにとって大事な時期であり、内戦で大事な時間を消費させるわけにはいかない…。

明日から大砲と戦闘機で辺り一帯を砲撃・ナパーム弾で爆撃を行い焼き払う事になったそうだがそれで連合軍は壊滅するわけがなく陸軍がトドメを刺さなけばならないだろう。

陣地だって全てを潰すことは不可能だ…。

 

「くそ…何かいい考えないだろうか…?」

 

ヴァルフレアは焦る…。

せっかくヴィレーネが復興と成長の目途が立ったというのにこんな戦いで貴重な時間を浪費してしまい歯嚙みする

リドリオも考えるが現状効果的な戦術が思いつかなかった。

ヴァルフレアとリドリオが頭を悩ませてる中、パサリとテントの入り口が開いた。

 

「あぁヴァルフレア殿。此処に居ましたか」

 

テントに入ってきたのはアンブレラの幹部だった。

 

「あの何か在りましたか?」

 

()()()()()主任が来てほしいとの事です。 リドリオ司令官も来てくれますか?」

 

「分かりました」

 

一体何用だろうか?今は連合軍への対抗策を考えたいというのに…

内心不満を持ちながらヴァルフレアはリドリオを連れて幹部達がいるテントまで移動する。

周囲はUSSが巡回しているのが見えた。因みにUSSは戦場には出ておらず被害はない。

彼らの任務はアンブレラ幹部達の護衛なのだから戦場に出撃するのは可笑しい話なのだが。

 

(このまま戦争が長引くなら彼ら(USS)にも出てもらわなければならないかも知れないな…)

 

戦争が長引けば優秀な兵士は必要になる。敵に対抗するためにアンブレラが誇る保安警察であるUSSにもこの戦争に出撃する事になるかもしれないと考えるヴァルフレア。

そう思案してるといつの間にか幹部達がいるテントに着いたようだ。

 

「どうぞお二人共」

 

「失礼します」

 

ヴァルフレアとリドリオはテントに中に入ると中は慌ただしい様子だった。

 

「忙しい中、済まないなヴァルフレア君にリドリオ司令官」

 

二人を迎え入れたのは幹部達にリーダー格のマーレッド主任だ。

 

「呼んだのは他でもない。実は今から三時間後にアンブレラが誇る商品の性能テストを始める。

君達もアンブレラ社の関係者だから参加してもらう」

 

「え…? 商品の性能テストですか…?」

 

主任に告げられた言葉にヴァルフレアは混乱する。

商品の性能テスト? 一体なんの商品なのだろうか…何かの薬品だろうか?

 

「ふむ…どういう商品なのか実際に見てもらってほうが良いだろう

着いてきたまえ」

 

ヴァルフレアの疑問を見たかのように主任はヴァルフレアに着いて来るように告げヴァルフレアは訝しげながらもリドリオを連れてマーレッドに着いていく。

外に出るとテントからそれなりに遠くに離れた場所に大きなテントが張られていた。

 

「ここだ。入りたまえ」

 

マーレッドに言われるままヴァルフレアとリドリオはテントの中に入っていった。

そこには…

 

「これは…檻にコンテナか…? 随分と大きいようだが?」

 

中には大型の動物をいれるのに使う檻と何やら不気味な雰囲気を出しているコンテナ…。一体何なのだろう?

コンテナの近くには白衣を着た科学者達が何やらパソコンを始めとした機材で作業をしていた。

 

「お待ちしていました主任」

 

「うむ では早速だが出してもらおうか」

 

「はい」

 

主任が告げると研究員は手にしたリモコンでピッピッピと操作する。

するとガゴンとコンテナのドアが開いていく。

 

「ふふ…よく見ておくと良いヴァルフレア君」

 

マーレッドは愉快な表情を浮かべている。

コンテナのドアが開き中から何やらユラユラと動いているのが見えた。

 

(生物か…? 暗くて良く見えないな…)

 

奥に()()が居るのは分かる。

そして奥に居る生物らしき影はライトの光に誘われるようにゆっくりと出口に近づいて来る。

ノソリノソリと動きながら遂にその姿を見せる。

 

「な…! なんだコイツは!」

 

ヴァルフレアは驚愕する。

 

一瞬、ゴリラかと思った…。

しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

口にも鋭い牙が生えていて噛みつかれたその個所はあっという間に噛み切られそうだ。

こんな生物…自然界の生き物だとは思えなかった。

 

(まさか…別の星の生き物だとか…?)

 

地球外の生き物だろうかと想像するヴァルフレア…。

そんな彼を面白がるようにニタニタするマーレッド。

 

「どうだね? 初めて見るB().()O().()W().()は?」

 

B.O.W.…?」

 

聞きなれない言葉にヴァルフレアは戸惑う。

 

Bio Organic Weaponの略称でその名の言う通り生物兵器だよ」

 

「せ…生物兵器…!」

 

生物兵器という言葉にヴァルフレアは戦慄する。

そして主任から更に驚愕する言葉が出る。

 

「このB.O.W.こそが我がアンブレラ社の真の主力製品なのだよ」

 

「なっ! アンブレラ社は製薬会社のはずでは…!」

 

「表向きはそうだ。まぁそれも主力製品だがね

だが今も言ったがB.O.W.こそがアンブレラ社の真の製品なのだよ」

 

「…!」

 

「ヴァルフレア君。本来なら君はこの事(生物兵器)について知る必要も無かったが君はBG‐001の開発を始めとした治療薬やヴェレーネ国の活動でアンブレラの幹部として社に多大な功績を残してる

だからこれを機に君にこの事(生物兵器)を明かす事にした」

 

「…」

 

マーレッド主任から告げられた驚愕の事実にヴァルフレアは困惑する。

アンブレラ社は世界で活躍する製薬会社だと信じておりヴァルフレア自身も幹部として人々の為にガン治療薬を開発に多大な投資もしている。

そんな中、突如告げられたB.O.W.(生物兵器)の存在にヴァルフレアはどう受け止めたらいいのか分からなかった…。

 

「驚いてる最中に悪いが此処に君を連れてきたのは理由があってね

単刀直入に言うが今夜の12時にこのB.O.W.…ハンターを連合軍の陣地に投入する」

 

「投入ですか!?

しかし…その味方に襲い掛かるとかは大丈夫なのですか?」

 

「その点については安心したまえ。

このハンター達にはコンピューターで脳に直接指示を下して行動範囲と任務内容をインプットしている

任務時間が終わり次第こちらに戻って来る寸法だ」

 

「そうですか…しかし…」

 

「ふむ…何か言いたいそうだね?」

 

「聞きますがこのハンターとやらはその…どうやって()()()()ですか?

自然界に存在などしない生き物ですし…何かゴリラなどの猿人類を使ったのですか?」

 

一息ついて冷静になったヴァルフレアはB.O.W.もといハンターはどうやって作ったのか気になった。

少なくとも真っ当に作った物ではないと分かるが…。

 

「あぁ…人間の遺伝子を操作して他生物のDNAを組み込んで作ったと聞いている

製造の詳しい事は知らないがね」

 

「なっ!」

 

あっけらかんと答えるマーレッドにヴァルフレアは恐怖する。

自分が想像以上に最悪の答えだった。つまりはこのハンターという生物は元は人間だったという事だ。

 

「お…お言葉ですが!それは余りに非人道的では!」

 

幾らなんでも人間を使ってこんな恐ろしい生物を作るなど許される所業ではないだろう。

というよりこんな大それた事が外部にバレたらそれこそアンブレラ社は終わりだ。

 

「非人道的か…。

フフ…ヴァルフレア君もまだまだ甘いな」

 

「えっ?」

 

「ヴァルフレア君。この地球上で約60憶人が生きており今も増え続けている

しかし選ばれた存在または役に立つ人間はほんのわずかだ。殆んどは人間は才能ある存在に噛り付き時間を無意味の消費する無価値な存在だ

そのような屑共に存在価値があるのか?

むしろそういう存在が素体になって価値が出るなら人類の為にならないかね?」

 

「マーレッド主任!! いくら何でもそれは言い過ぎです!!」

 

マーレッド主任から発せられる言葉は選民思想丸出しの理論だった。現代なら淘汰される思想だ。

 

「そう言うが君自身も経験があるんじゃないかな?

アシュフォード家に、そして君に噛り付き困ったら今までの恩を忘れてさっさと逃げ出す連中を見てきたハズだ」

 

「そ・・・それは・・・」

 

マーレッド主任の言葉にヴァルフレアは思い出す。

父と妹が亡くなって困窮するアシュフォード家に対して嘲笑し恩を仇に返す連中をヴァルフレアは散々見てきた。

だからこそそんな連中を見返す為にヴァルフレアは弟のアルフレッドと共に家の再興の全力を注いできた。

 

「ヴァルフレア君、君はそのような屑と違い選ばれた存在だ

そんな君が奴らに同情する必要性などない。」

 

「・・・」

 

「まぁ君もいずれ分かるだろう。

話はここまでにしよう。先ほども言ったが今夜12時にこのハンターを投入する

君もそれを見ていくと良い」

 

そう言ってマーレッド主任はヴァルフレアの肩を叩いて外に出ていく。

残ったヴァルフレアはただ静かに立ちすくんでいた。

 

「代表・・・。大丈夫ですか?」

 

心配になったリドリオが声を掛ける。

 

「! 済まない

急にとんでもない事が知らされたものだから困惑してしまったよ」

 

生物兵器・・・アンブレラの暗部を知ってしまったヴァルフレアは何とも言えない感情に支配されていた。

世界を股に掛ける製薬企業だと思っていたのに裏では非人道的な実験を行っていたとんでもない事実にヴァルフレアは上手く受け入れるのが出来なかった。

 

「それにしても生物兵器だとは…まさか本当にあったとは…」

 

ボソリと呟くリドリオ。

 

「!? リドリオ司令官・・・貴方は知っていたのですか?」

 

「あくまで噂ですが・・・

アンブレラは裏では恐ろしい実験をやっている事は小さい所から声があったんです。

私としては何らかの新薬の実験をやっているのかと思っていましたが・・・まさか生物兵器とは…」

 

てっきり危険な新薬の実験だと思っていたリドリオだったが檻に居るハンターを見ながらまさか生物兵器の開発だとは思いもしなかったようである。

 

「そうか…」

 

光があれば闇がある

どんな会社でも裏があることは知っているがアンブレラ社のは光すら呑みこむ程のとびっきりの闇があったとは・・・。

今思えばヴァルフレアはアンブレラを利用してアシュフォード家を再興しようとしてるが、こんなとんでもない事が外部に知られたらアシュフォード家は巻き添えを食らうのでは・・・?

 

(そもそも私の祖父であるエドワードは()()()にアンブレラをスペンサー卿とマーカス博士と共に設立したのだろうか?

もしかして最初から生物兵器開発の為の()()()としてアンブレラを設立したのだろうか?

つまり()()()()()()()()()()()()この事(生物兵器)を知っているのか?

私の(アレクサンダー)もこの生物兵器を知っていたのか?)

 

考えれば考える程、次々と疑惑を浮かび上がっていく。

 

(やめよう・・・。今は目の前の問題(戦争)に集中するんだ…!

出来るだけ早くアルフレッドにこの事を知らせて今後の事を考えよう)

 

考えてもキリがないのでヴァルフレアは一旦この事は保留にして目の前の問題である連合軍の対策を取る事にした。

 

「確か主任は今夜の12時にこのハンターとやらを投入すると言っていたな」

 

「はい。」

 

「リドリオ司令官・・・貴方はこのB.O.W.が戦争に役に立つと思うか?」

 

「・・・何とも言えません…。

そもそもコレらがどこまで使えるのか未知数ですから」

 

「それもそうだな・・・

確か今夜の12時だったな。あと一時間程か…」

 

右手首に着けている時計を見ると11時になっていた。

考えても仕方ないのでヴァルフレアとリドリオはテントの外に出てアンブレラ幹部達がいるテントに一旦戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

そう言ってヴァルフレアとリドリオはテントの中に入っていく。

中には大きなモニターやパソコンがズラリと並んでおり白衣を着た研究員達は画面を注視していた。

 

「あぁ来たか。

此処に座りたまえ。共にショーを眺めようじゃないか」

 

マーレッドはヴァルフレアに手招きして椅子に座らせて自身も隣に座る。

リドリオは二人の後ろに座る。

 

「マーレッド主任。地上ルートの10体のハンターを設置が完了しました。

空路は後40秒で投入されます」

 

「そうか。ハンターの調子はどうだ? 目標のインプットは問題は無いか?」

 

「はい。全ての個体のバイタルに異常はりません」

 

「よし。この実験はとても貴重なものだ。どんな小さい事でもひとつ残らず記録を取るんだ。

それが次の結果に影響するからな」

 

「了解しました。」

 

「空路からケースの投下されました。

ケースと10体のハンターに異常は無し。パラシュートも問題ありません」

 

「降下完了。ハンター達の意識が覚醒に入ります。

覚醒まで18秒です。」

 

「報告します。ケースの着地地点に約16人のゲリラが集まってきます」

 

「ソレは丁度いい。ケースを解放しろ」

 

「了解しました。ケースを解放します」

 

マーレッドの指示を受けて研究員がキーボードを叩き解放の入力を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

連合軍は互いに勝利を祝っていた。

 

「やったな。国防軍とアンブレラの傭兵共に一泡吹かせてやったぜ」

 

「第一防衛線は破られたけどこっちにはまだこの要塞があるんだ。食料や弾薬・武器だって山ほどある

この辺りの地形だってもう俺達の庭も同然だ。地の利だってあるんだ」

 

「その通りだ! 国防軍の奴らだってそう簡単にこの要塞を落とす事なんて出来ないんだ! 自慢の戦車だってこの山では動かせない。

俺達が有利なんだ!恐れることは無い!」

 

「それに時間を掛ければ掛けるほどゾラーノの野郎の立場が悪くなるんだ。

国の景気が悪くなれば人々はゾラーノ打倒に動くはずだ。奴を追放して俺達がこのヴィレーネを改革するんだ!」

 

「もう独裁はうんざりだ…。ヴィレーネは民主主義国家にして国民の自由と権利を取り戻してアメリカや他の南米諸国との関係を築いて平和の国にしよう」

 

連合軍のゲリラ達はそれぞれの思いを口にして缶詰やベーコンを食べて水を飲む。

第一防衛線は国防軍に突破されたが自分達には長い時間を掛けて築いたこの要塞と化した山々がある。

食料や武器だってある。

そのおかげか連合軍のゲリラ達は第一防衛線が破られても士気が高かった。

 

来るなら来い! 返り討ちにしてやる!

 

ゲリラ達は絶望などしてなかった。

 

「そろそろ寝るか… 明日も国防軍の奴らがやって来るだろうからな」

 

「はッ! また返り討ちにしてやるよ!」

 

「その意気だ。おやすみ・・・」

 

食べ終えたゲリラ達は明日に備えて就寝にしようとした時だった。

 

「!? 待て・・・! 何か聞こえないか…!」

 

耳を澄ませると遠くからヴゥゥゥゥと何か聞こえる。

 

「まさか…爆撃機か!」

 

「ヤバい!! 皆、壕に隠れるんだ!!」

 

「こっちに来てるのか!!」

 

ゲリラの一人が外に出て夜空を見上げる。

今夜は月が出ているので夜でも辺りが良く見えた。

 

「クソ・・・! 何処に来ているんだ?」

 

国防軍から奪った暗視装置付きの双眼鏡で見る。

 

「アレだ! うん…?あれは爆撃機じゃないぞ…」

 

彼は爆撃機の形状を知っているので空に飛んでいる飛行機は爆撃機ではないと分かった。

 

「あれは・・・輸送機だ! 国防軍か?」

 

双眼鏡を見ているとその輸送機は()()を投下した。

しかしそれは国防軍の陣地ではなく自分達の陣地に投下している。

 

「?? おいおい・・・こっちは俺達のテリトリーだぞ…。

間抜けな奴らだ。」

 

ゲリラは輸送機のパイロットを小馬鹿にする。

味方のテリトリーを知らないのか?

 

「ありゃ軍法会議のもんだな・・・お気の毒に」

 

パイロットに少し同情してゲリラは仲間達に今の事を報告する。

 

「はい。了解しました。回収に向かいます

聞いてくれ。司令部は投下された物資の回収に行けとの事だ」

 

連合軍の司令部は投下された物資を回収するように命じた。要塞には物資は大量にあるが手に入れられるなら手に入れておこうという考えだった。

ゲリラ達は投下された場所へと警戒しながら向かっていった。もしかして国防軍も来るかもしれないからだ。

 

「あった・・・! アレだ」

 

「デカいな・・・何が入っているんだ?」

 

「酒とかあったらいいな・・・」

 

計16人のゲリラ達は軽口を叩きながらコンテナに向かっていく。

 

「いいか…出来る限り素早く中身を回収するぞ。国防軍も向かって来てるかもしれないからな」

 

「分かった。よし・・・開けるぞ」

 

ゲリラの一人がコンテナを開けようとするがここである事に気付く。

 

「うん? これ…取っ手が付いてないぞ?

どうやって開けるんだ…」

 

反対方向にあるのか?と思い向こう側に行くが同じく取っ手が付いていない。

 

「どうした? 早く開けろ・・・!」

 

「分かっているよ。だけどどうやって開けるんだこれ・・・?」

 

ゲリラ達はどうやってコンテナを開ければいいのか分からなく途方にくれる。

面倒だが基地に戻って何か道具を持ってこようと考えていた時だった。

 

ピッ

 

何か電子音が聞こえたと思ったら突如コンテナのドアが上に上がっていく。

もしかしたらスイッチで開くものだったのかもしれない。

誰か押したかは知らないが開いたならさっさと中身を出して基地に戻ろう・・・。

そう思いコンテナに近づくゲリラ達だったがここで何かおかしいと気づく。

 

「なぁ…何か動いてないか? あれは・・・生き物か…?」

 

ゲリラの一人がそう呟いたその時だった。

 

ブゥン!

 

「うぉ・・・な・・・なんだ?」

 

自分の横に一瞬何かが通り過ぎたのだ。

風を切るような重い音も聞こえた。

 

「・・・? どうしたんだ?」

 

自身の左側にいる仲間がユラユラと小さく動いていた。

何かあったのだろうか? 返事が無い…。

 

「おい・・・どうし・・・」

 

どうしたんだ?だと言おうとした時・・・

 

ボトン

 

仲間の頭部が地面に墜ちたのだった…

 

「えっ・・・?」

 

余りにも現実離れした光景にゲリラ達は呆気に取られてしまった。

首から夥しい血が流しながら頭部を失った仲間のゲリラの体は地面に吸い込まれるように斃れた。

 

「■■■・・・」

 

近くから何か獣のような低い唸り声が響く。

声が聞こえた場所に全員が目をやる。

そこにいたのは月の光に照らされてゴリラのような生き物がいた・・・。

しかし両手には鋭い鉈のような爪が生えており左手の爪には血が滴り落ちていた。

 

「な…なんだコイツは!!!!!」

 

「撃て!撃てェェェ!!!!!!」

 

突然現れた異形の生物にゲリラ達は半狂乱になり銃を乱射するが・・・

 

「グェ!」

 

「!? ま…まだいるのか!!!」

 

「ひぃ!!! そこら中にいるぞ!!!」

 

周りにはモンスターがゲリラ達を取り囲んでいた。

 

「■■■■!!!」

 

相手に向かって唸り声を出して生物兵器であるハンター達はゲリラ達を一方的に虐殺する。

耳をつんざく悲鳴と銃声がなり鳴り響くが少し経つと何も聞こえなくなった・・・。

暫くすると今度は連合軍の陣地に銃声と悲鳴が鳴り響いたのだった。




傭兵の日記

1/6

1990年 2月27日

この国に来てから早一年が経つ。
私はある国の軍人だったが革命で社会主義だった祖国が崩壊し軍の特殊部隊にいた私は謂われもない罪状で死刑判決が下され私は不衛生な牢獄に叩き込まれたのだ。
余りにも理不尽な出来事に嘆きながら銃殺される日を待っていた時だった。
それは唐突に訪れた奇跡だった。
何とあの世界的な大企業であるアンブレラ社が私は拾ってくれたのだ。
私は助かりたい一心でアンブレラ社の部隊であるUBCSに入ることに契約した。
そしてほんの数分で私の死刑は無くなり全面免責となって刑務所から出る事が出来たのだ。



2/6

アンブレラ社と契約した私は南米のヴィレーネという島国に配属され本島から少し離れたビラ島にあるUBCSの基地でカンを取り戻す訓練の日々を送った。
同僚達も色々と訳アリな連中が揃っていたが気さくな連中ばかりだったので特に問題はなく過ごした。
同僚から聞いたのだがアンブレラは企業テロや要人誘拐に対抗するため独自部隊を所有している。危険な任務では我々UBCSが直ぐに送り込まれるそうだ。
そういった事でUBCSの隊員は大半は戦争犯罪者やら死刑囚が占めてるそうだ。
つまり死んでも問題がない人間が集まってるということだ。



3/6

訓練と巡回ばかりの日々を送っていた矢先、我々に出動命令がきた。
任務の内容は本島で暴れまわってる人民解放軍というゲリラ共の掃討するというものだ。
久しぶりの実戦だ。心して掛かるしよう・・・。



4/6

1990年 6月31日

ゲリラ共は数こそ多い物の戦い方が杜撰の一言に尽きる。
我々はUBCSはヴィレーネの正規軍である国防軍と共にゲリラ共を掃討作戦を開始した。
装甲車や強力な戦車と攻撃ヘリを持つ国防軍が付いてるので簡単に人民解放軍を蹴散らすことが出来た。
久しぶりの実戦だったが訓練のおかげで問題なく動けた。

その後、アンブレラから多額の報酬を貰えたので休暇を取ってバカンスに乗り出すとしようか。



5/6

1991年 9月8日

一年ぶりの出動命令がきた。
各地の反政府組織が同盟してファシスト政権に立ち向かってくるそうだ。
UBCSは国防軍と共にヴィレーネ北部のデア・イテナ地方に向かい連合軍と名乗った反乱軍を殲滅を命じられた。
また蹴散らして報酬をたっぷりと貰うとするか。



6/ 6

1991年 9月10日

散々な目にあった…。
予想外の事に反乱軍は去年と違って練度も装備も段違いだ。
奴らの最初の防衛線は突破出来たが奴ら長い時間をかけてこの辺りの山々を巨大な要塞に作り替えたようだ。国防軍は大きな損害を出してしまいUBCSも少なくない犠牲が出てしまった…。
あの守りが固い要塞を突破するのは骨が折れそうだ・・・。
今度ばかりは生きて帰れないのか…?


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生物兵器 そして終戦

「■■■■!!!」

 

「何なんだコイツらは!!!」

 

要塞のあちこちに悲鳴と銃声が轟く。

連合軍の兵士達は突如現れた未知の怪物(ハンター)達によって次々と血祭りに挙げられていた。

 

「畜生…!!食らいやがれ!!!」

 

兵士の一人が設置されていたPKM軽機関銃を持って襲い来るハンターに乱射する。

 

「■■■…!!!」

 

狭い通路だったおかげか発射された弾丸はハンターの肉体を貫通し夥しい血を流しながら息絶えた。

 

「やった…!! ざまあみろ!!!」

 

怪物を倒した兵士は歓喜し大声で勝利の勝鬨をあげるが…

 

このバカ野郎が!!!!」

 

仲間の兵士に顔面を思いきり殴られた。

 

「!? いきなり何しやがるんだ…!?」

 

殴られた彼は口から血が流れていた。

そして怒りの表情で睨みつけて怒鳴った。

 

「お前は…何て事をしたんだ!!このバカ野郎!!」

 

「何がだ!! バケモンを殺したんだぞ!!」

 

「…!! まだ分からないのかよ!! 見てみろ!!」

 

仲間の兵士は機関銃を乱射した仲間の首根っこを掴んで彼が乱射した通路を見せた。

そして彼が自分が何をやらかしたのかようやく気付くのだった。

 

「あ…」

 

「ようやくわかったか…! お前は俺達の仲間を…化け物ごと殺っちまったんだぞ」

 

怒りに震えながら仲間が指を差す方向には自分の部隊にいた怪物と兵士達の亡骸だった。

数えると7人も死んでいた。

 

「そんなつもりは…!」

 

未知の怪物に襲われていたとはいえ友軍の確認もせずに機関銃を乱射してしまい7人も殺めてしまった事にショックを隠せなかった。

 

「■■■!!」

 

再び怪物の咆哮が響く…。そう遠くない場所からだ。

 

「…! 話は後だ! 早く来い!」

 

呆然とする仲間を掴んで急いでその場から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェレーネ軍 野営陣地・アンブレラ社のテント

 

「ハンターD2 死亡しました」

 

「ふむ…流石に機関銃に使われる弾丸には耐えられないか」

 

「拳銃弾や散弾ならともかく流石に大口径ではハンターの皮膚でも分が悪いので…

死亡したハンターは実験が終わり次第、回収いたします」

 

マーレットは研究員と映像を見ながら生物兵器であるハンターについて語っている中、ヴァルフレアは映像越しに見られるハンターの凄まじさに戦慄していた。

 

(これがB.O.W.(有機生命体兵器)…! 何という強さだ…。

あの強固な要塞をいともたやすく蹂躙するとは!)

 

敵も生物兵器という未知の怪物を相手にするのは初めてという事もあるだろうがそれでもハンター達の強さは目を見張るものだった。

映像ではハンター達は一切の慈悲もなくゲリラ達を殺戮している。

この有様ではもうあの要塞は陥落するのは時間の問題だろう。朝になったら無人となった要塞をこちらが占領すれば連合軍もこちらに手出しする事は難しくなる。

 

「リドリオ。貴方はB.O.W.についてどう見る」

 

「凄まじいものです。我々があの要塞を陥落するためには夥しい犠牲が必要になったでしょう。

だが12体のハンター達によってあの要塞は陥落したも同然です。

例え生き残りがいても要塞は機能しません」

 

リドリオは兵士としてハンター達も強さを分析する。

連合軍が籠るあの要塞は強固な物だった。落とすにもそれこそヴィレーネ軍とUBCSが総力を上げても数年はかかるだろう。

しかし僅か12体の生物兵器によってあっという間に落とされてしまった。

 

「しかし同時に不安も残ります。

あの生物兵器は本当に完全に制御されてるのか…もしも()()()などが起きて我々に牙を剥けたらどうなるか…

想像するだけで震えが止まりません」

 

リドリオはハンターの兵器としての価値を正確に表現するが同時にアレは完全に制御下に置いておけるのか…何らかの理由で暴走などしたら周囲にどれだけの被害をもたらすのか…。

想像するだけで寒気が走る。

そしてヴァルフレアもリドリオの意見に賛成だった。

確かに強力な兵器になるだろうが生物を完全な制御下に置けるのかと言えば怪しいものだった。

 

(私としてはこの(ヴィレーネ)にそんな危険な物など置いておきたくない…。

とはいえ…このゾラーノが賛成したらどうしようもないな…)

 

ヴァルフレアとしては正直、このヴィレーネには生物兵器なんて運用したくないと思っている。

この国に大きな災いをもたらしかねないからだ。

だが最高責任者で指導者であるゾラーノが良しとしたらそれを止めることは出来ない…。

 

(全く…とんでもない一日になってしまったな…)

 

ハンター達の殺戮を映像越しに見ながらヴァルフレアは周りに聞こえない様に溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

その後、数時間にわたるハンター達の狩りが続いた。太陽が昇って朝になるころには生き残った連合軍の兵士達は要塞を維持することが出来ず放棄することとなり、他の部隊と合流するために奥地に撤退した。

その進軍したヴィレーネ国防軍(VDF)とUBCSによって要塞は瞬く間に占領して膨大な物資と武器を手にする事になった。(ちなみに要塞の中はハンター達の狩りによって辺り一面血の海と化しておりに吐き出す兵士が続出して後始末にかなり時間がかかった)

 

一方、要塞が陥落した事に連合軍で激震が走る。

長い年月をかけて築いた要塞がいともたやすく陥落してしまった事に衝撃と失意を隠せず士気も大きく下がってしまった。

何しろあの要塞には数年は余裕で戦えるほどの物資と武器を配置していたというのにそれが全て敵である政府軍に渡ってしまったのだ。

あの難攻不落と思われた要塞がたったの二日で陥落してしまった事に連合軍の上層部はヴィレーネ政府に降伏または和平をするべきだと出張する者達と徹底抗戦を掲げる者達の二つに分かれてしまい味方同士の足並みも揃わなくなっていった。

軍を指揮する将軍達がこのような状態なので当然ながら兵士達の士気は下がっていくばかりであり、進撃する政府軍に成すすべもなく各地で敗走していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

1991年 11月20日

 

戦争開始から二か月…。

 

ヴィレーネ国防軍 武装列車の一室。

 

 

 

室内は重苦しい雰囲気に満たされていた。

長い長方形のテーブルの一方には政府軍であるヴィレーネ国防軍の将軍達とその端に座るヴァルフレア・アシュフォード。

もう一方はヴィレーネ政府と国防軍に敵対していた反政府勢力である連合軍の指揮官達だ。

そして国防軍の司令官でありヴィレーネ国の総統であるゾラーノ・バルザールと将軍達は威圧するように無表情で相手を見つめていた。

そして連合軍の指揮官達は悲痛の表情と耐え難い苦しみの空気を漂っていた。

 

「ゾラーノ総統…。我々は互いの思想の違いで長い間、血を流し合ってきました。

しかし…これ以上の戦いは…このヴィレーネをただ傷つけるだけです。

そしてこの国の未来を背負う多くの若者が傷つき斃れました」

 

苦しそうに声を出すのは連合軍の司令官である将軍だ。

一体なにが行われているのか?

 

「それで? 何が言いたいのだ?」

 

ゾラーノは暗にさっさと要件を言えと相手に告げる。

 

「では…単刀直入に申し上げますゾラーノ総統…。

今日はヴィレーネの平和の為に停戦講和を結びたいのです」

 

停戦と講和…。

今日連合軍の上層部はゾラーノ率いる政府に対して降伏をしてきたのだ。

 

要塞の陥落後…連合軍は勢いを失ってしまい脱走兵は後を絶たずまともに戦う事が出来ない程に落ちぶれていった。こんな事になったのは彼らを支援していた最大の支援者もといパトロンであるアメリカ合衆国、その諜報組織であるCIAが突如連合軍の支援を打ち切ったのだ。

いきなり最大の有力者を失ってしまった連合軍の上層部は、最早戦況を覆す事が出来ず自分達は敗北したという現実を受け入れるしかなかった。

これ以上の武力闘争は無意味と悟った彼らは使者を送り停戦と講和を政府に申し入れたのだ

 

「随分と勝手ですな…。ゾラーノ総統は以前から寛大な心で貴殿らに戦いを辞めようと呼びかけたというのに貴殿らはソレを無視してきた

なのに戦況が危うくなったらいきなり降伏をしてくる…。貴方方は恥という概念を知っておられるのか?」

 

国防軍の将軍は煽るように連合軍の将軍達に非難の言葉をぶつけそれを聞いた連合軍の将校たちは怒りを見せたが司令官がそれを諫めた。

 

「その言葉に対して反論しようがありません…。」

 

怒れる同胞を必死に諫めながら連合軍の司令官は対話を続ける。

 

 

 

 

 

 

(まさか本当に支援を打ち切らせるとは…かのアメリカですらアンブレラに頭が上がらないと言うのか…。)

 

両者の話を聞きながらヴァルフレアは思案する。

実はこの戦争の幕引きにアンブレラ社が絡んでるのだ

 

あの日…連合軍の要塞攻略に生物兵器、ハンターが投入された日だ。

ハンターの実戦データを多く得られて主任のマーレッドを始めアンブレラ幹部達と研究者達は大喜びで上機嫌だった。

マーレッドはヴァルフレアに今までの無礼の謝罪を含めて何か褒美を上げたいと言ってきたのだ。

その時、ヴァルフレアは今までのぞんざいな扱いのちょっとした仕返しのつもりで「資金を貰いたいですが、一番の望みはこの戦争を終わらせて欲しいですね」と言ったのだ。

流石にそこまでは無理だろうと思っていたヴァルフレアだったがマーレッドはニッコリとした表情で「良いだろう。ひと月程の時間を貰うよ」と言った。

その言葉の意味が分からずポカンとした顔になったヴァルフレアだがマーレッドはそれを気にせず「今日は素晴らしい日だ。君も飲みたまえ。フランスから取り寄せた最高級のワインだぞ」とグラスにワインを注ぎそれをヴァルフレアに渡したのだった。

 

それからマーレッドは配下のUSSに命じて死亡したハンターの回収をさせた後、撤収の準備を終えて幹部達と研究者達と共にヴィレーネから去っていったのだ。

そして一月後、アメリカは連合軍の支援を打ち切ったのだった…。

 

 

その後…アメリカの支援が失った連合軍は軍を立て直す事が出来ず現地の協力者も連合軍を見限りヴィレーネ政府に寝返ってしまった。

そんなゲリラなど国防軍の敵ではなく各地で敗走していきヴァルフレアも戦力の足しになるようにUBCSだけではなく自身の配下のUSSも前線に投入した。

そして限界を超えた連合軍はヴィレーネ政府に降伏したのだった。

 

 

 

 

「分かりました…貴方方の要求と条件を全て受け入れます…。」

 

ふと周りを見渡すと話し合いが終わったのか連合軍の司令官がゾラーノに渡された紙に何か書いている。恐らく署名文書だろう。

司令官が書き終えてその紙を内容を見たゾラーノは頷く。

 

「現時刻を持ってこの戦争が終結した!」

 

そうゾラーノは高らかに声を上げた。

それを聞いたヴァルフレアは安緒の息を吐いた。

 

(何とか終わったか…数年はかかると覚悟をしていたけど二か月程度で済んで良かった。

これなら他国がこの国にちょっかいをかけてくることは無いだろう。

ただ…改めてアンブレラ社の力を思い知ったな…)

 

世界中に展開するアンブレラは表向きは製薬会社なのだが裏では生物兵器を開発している軍産企業であり各国に太いパイプを持っている。

それはアメリカですらアンブレラ社に手出しが出来ずアンブレラ社がアメリカに対して武装組織の支援を辞めろと言ったらアメリカはそれに従ってしまう…。

 

(そしてこれは()()()()()だ…。

決して裏切るな。裏切っても世界中に逃げ場はない…そう言ってるんだ…。)

 

実はヴァルフレアはマーレッドにアンブレラ社の裏の顔と生物兵器の存在を知らされた時、頃合いを見てアンブレラ社から離反しようと考えていたのだが今回の件でそれは得策ではないと悟った。

例え証拠を持っていようとアンブレラはその権力を使って簡単に無に帰す事も出来る上にヴァルフレアの言葉など誰も信じないだろう…。

 

(ようやくアシュフォード家の復興に目途が立ってきているのにここで軽率な事をすれば家が没落…いや滅亡だ…!

絶対にそれは避けなけば…!)

 

ヴァルフレアはアシュフォード家の再興という大きな目的がある。そのためにはアンブレラ社の存在も必要でもある。

今後の事を考えて弟のアルフレッドに相談しなければならない。

周りは戦後に向けて動き出す中、ヴァルフレアもまた戦後の利権や復興に思案するのだった。




傭兵の日記2

9月12日

あの忌々しい要塞は正に難攻不落だ。
周囲は頑強な岩肌に覆われ坂は険しい…。国防軍の自慢の戦車もあの要塞の前では効果を発揮出来ず三両の戦車が破壊された。
結局、一日攻撃して我々は犠牲を出しただけで終わった。
同僚も四人も失ってしまった…。
次は私の番だろうか…?





9月13日

先程この場所で白衣や洒落たスーツを来た連中を見かけた。
友人のシビーに聞いたらアンブレラ社の幹部連中らしい。
ここは戦場だというのにあんな恰好で来るなんて能天気な奴らだ。
それとあのバカでかいコンテナは何だ…?

気になったから夜にコッソリあのコンテナの近くに行ってきた。
中から何か唸り声が聞こえきたが猛獣でも連れてきたのか?






9月15日

朝早く急に叩き起こされて最悪な目覚めだった…。
だが要塞を攻撃を掛けると聞いて一気に目が覚めた。
とうとう自分の命日を来たか…。





敵の攻撃が全くなく私達は拍子抜けしながら入り口までやってきて仲に入ったら辺り一面血の海だった…!!
あちこちにあるゲリラ共の死体はズタズタに切り裂かれていて原型が留めない肉塊になっていた…。
血に沈んだ薬きょうが至る所に落ちているからここで”何か””と戦っただろうか?
震えが止まらない…! 一体何がここであったんだ!




漸くゲリラ共の死体処理が終わった。
アレだけ絶望を感じさせた要塞は陥落して我々は国防軍と共に戦利品を分け合った。
ゲリラ共は既に逃げ出しており明日から追撃するそうだ。
しかし誰がこの要塞で大殺戮を行ったのだろうか?
考えても仕方ないので外に出てもう寝る事にした。この要塞の中で眠りたくないからな。


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多忙の日々

内戦が終結して暫くして…
多忙の日々を送っていたヴァルフレアは久しぶりに弟のアルフレッドを私邸に招いて互いの近況を話し合う。


1992年 4月14日

 

ビラ島 アシュフォード邸

 

ヴァルフレアは23歳になった。

内戦が終わって戦後処理に追われながら半年になった。ヴァルフレアは自室でメイドのジーナが入れた紅茶を呑みながら寛いでいた。

 

「兄さん、遅れて済まない」

 

部屋に入ってきたのは弟のアルフレッドだ。

 

「良いんだアルフレッド。忙しい中よく来てくれた。」

 

兄に言われるままアルフレッドは椅子に座りヴァルフレアと紅茶と菓子を頂きながら共に他愛のない世間話を楽しんだ。

 

「こうやって直接顔を合わせるのは一年ぶりだな。」

 

「そうだね…電話やモニター越しで会っていたけど」

 

二人が最後に顔を合わせてから一年も過ぎていた。

ヴァルフレアはヴィレーネ・アンブレラ支社の代表とヴィレーネ政府の一員として、アルフレッドはロックフォート研究所の所長として多忙な日々を送っていた。

 

「アルフレッド、研究所の様子はどうだ?」

 

「この一年、()()()()()()()B()O()W()の暴走に備えて警備システムを固めたよ。

あと、他の企業と連携して特殊合金の開発とそれを使った武器の実用化も進めている所かな」

 

「安全性を高めるのは間違ってない。なにせ商品が商品だからな…。暴走なんてしたら何が起こるのかは明白だ」

 

この一年、アルフレッドはロックフォート島の研究所と工場のセキュリティを厳重に構築していた。

アルフレッドがロックフォート島の施設の所長と司令官に任命され、暫くしてアンブレラ本社の上級幹部であるマーレッド主任から直々にアンブレラの裏の顔と()()()()の説明を受けたのだ。

マーレッドから聞かされる衝撃の事実にアルフレッドも兄と同じく困惑しそんな彼の気持ちを知ってか知らずかマーレッドは”兄”と共に期待してると言い去っていった。

 

「いきなりあんな事実を聞かされるなんて堪ったもんじゃないよ。」

 

「まさか、アルフレッドにも例の商品の説明をするとはな…。」

 

ヴァルフレアとアルフレッドは溜息をついて今後の事を相談する。

 

「兄さん…それでどうするんだ?

もしも生物兵器とウィルスの事が世間に漏れたら我々アシュフォード家が只では済まないよ…。

せっかく兄さんが再興の兆しを作ってくれたのにこのまま消えるなんて絶対に僕は嫌だ」

 

アルフレッドはアンブレラの裏の顔を知ってしまいアシュフォード家の未来に不安を覚えている。彼も兄と同じくアシュフォード家の再興に尽力しており尊敬する兄であるヴァルフレアが築いたアシュフォード家の再興の兆しが見えているのにそれが消えるのをとても恐れている。

 

「分かっている…。だが下手に動いてもこっちが潰されるだけだ…。

アンブレラの権力の凄まじさを身をもって思い知らされたからな」

 

ヴァルフレアは重い表情で()()()を思い出す。

 

「アンブレラの一声でアメリカは()()()()()()()を辞めたんだ。

アンブレラは合衆国の政府にも深く入り込んでいるのは確実だ。連中の意向を無視すればこの島国(ヴィレーネ)ごと我々を潰すだろう。

そんな事は何としてでも避けなければならない」

 

アンブレラはあのアメリカ合衆国ですら手出しが出来ない存在だ。真っ向勝負ではまず話にならない。

ヴァルフレアの言葉にアルフレッドは黙り込む。

 

「とにかくアンブレラの不振を買うのは得策ではない。

連中の顔色を窺いながらアシュフォード家を再興させるしかない

ビラ島の研究所ではハーブを使った新たな治療薬や化粧品も近いうちに完成するし主力のガン治療薬も一歩ずつ進んでいる。

それらはアシュフォード家を大きな財を齎してくれるだろう。

そしてアルフレッド、お前は」

 

「分かっている。僕はT‐ウィルスのワクチンの開発を進めておくよ

兄さんが回してくれたハーブが大いに役立ってくれるハズだ」

 

アルフレッドはロックフォート島のセキュリティの強化の他にもう一つ進めているのはT‐ウィルスのワクチンの開発だ。

ヴァルフレアとアルフレッドの二人はマーレッドからBOWの開発の要となる道具…T‐ウィルスの事を教えられた。

彼から渡された資料によればアンブレラ社の幹部であったジェームズ・マーカス博士が始祖ウィルスをベースに品種改良を加えたウィルスで異種間での遺伝子交配の成功率を上げる性質があり生物兵器の創造と改良が容易に出来るとの事だった。

 

ヴァルフレアとアルフレッドはウィルス研究の本職ではないので細かい事はよく分からなかったがT‐ウィルスがとてつもなく危険な代物だという事は分かった。

もしも流出などしたら感染した生物の変異を引き起こし人間は食欲に突き動かされた生ける屍、ゾンビになってしまうなど周囲の壊滅的な被害を及ぼすのだ。

二人はウィルスの流出に備えてセキュリティを徹底的に強化にすることに意見が一致したのだった。

 

「しかしあのハーブがまさかT‐ウィルスの浸食を止める程の効果が有るとは驚きだな」

 

「その辺りはゼネルティーモに感謝しないといけないね」

 

半年前。

T‐ウィルスのワクチン、または抗ウィルス剤の開発をするべきという意見も一致したが如何せん二人は専門家ではないのでこの事に関してはどうしようもなかった。

ヴァルフレアは悩んだ末に信頼できる研究者、ゼネルティーモに相談することにした。

彼にはこんなアンブレラの悍ましい裏など見せたくなかったが背に腹は代えられない…。

ゼネルティーモをアシュフォード邸に呼び出し忙しい中、申し訳ないと謝罪した後、ヴァルフレアとアルフレッドはゼネルティーモにアンブレラの裏の顔、生物兵器の存在とそれを可能にするT‐ウィルスの事を一つ隠さずに話した。

ヴァルフレアはこの事でゼネルティーモが去ってしまうかもしれない恐怖を感じていた。

しかし…

 

「そうですか…閣下も遂に()()()を知ってしまわれましたか…」

 

この言葉にヴァルフレアとアルフレッドは目を丸くする。

ヴァルフレアはゼネルティーモに「知っていたのか?」と聞くと彼は静かに頷いた。

 

「機密事項なので今まで黙っておりました。

しかし閣下とアルフレッド様が知った今なら黙ってる必要がなくなりました」

 

そう言うとゼネルティーモは静かに自分の過去を語った。

 

「かつて私はT-ウィルスを使ったBOW研究・開発チームの一員としてアメリカのラクーン地方にあるアークレイ研究所に所属しておりました」

 

今から12年前…。

ゼネルティーモはチリ共和国の首都サンティアゴにある大学で治療薬の研究の日々を送っていた。

そんなある日の事。

ゼネルティーモの才能に目を付けたアンブレラ社が彼をスカウトしたのだ。

 

我々のある研究に貴殿の力を借りたいと…

 

かのアンブレラ社の誘いにゼネルティーモは喜んでその誘いの乗りアークレイ研究所に配属されたのだ。

その場所は正にアンブレラ社の暗部とも言える場所だった。

未知のウィルスにそれを使った人間を素体にした生物兵器の創造が行われておりまともな感性を持つ常人ならこんな所に働けるなど不可能と言える場所だ。

ゼネルティーモは恐怖したがある物に出会う事でそれが消えた。

 

T—ウィルス…私はあのウィルスが持つ無限の可能性の虜になりました」

 

当時のゼネルティーモはこう思った。

 

このT-ウイルスならば不治の病や末期ガンの治療が可能なのでは…

 

ゼネルティーモは世から不治の病を無くしたいという理想を掲げている。

その理想を叶えてくれる存在であるT-ウイルスを研究をしたいゼネルティーモは恐怖と罪悪感を押し殺して研究に没頭したのだった。

 

「しかし…上層部は私の研究に興味を持ってくれませんでした…。」

 

それから二年間ゼネルティーモは幾度なくT-ウイルスを使った治療薬の開発を上層部に訴えたが悉く却下された。

そんなものを作るより生物兵器の開発をしろとの一点張りだった。

それでも治療薬の研究を辞めないゼネルティーモに上層部は彼を見限り始めた。

それから暫くしてゼネルティーモは研究所の所長に呼ばれヴィレーネ国のビラ島の研究所の配属を言い渡された。

要するに左遷だったがアークレイ研究所に嫌気が差していたゼネルティーモは祖国チリから近いという事もあり文句は一切言わず受け入れて二年間のT-ウイルスの研究の資料を詰め込んでビラ島に向かったのだった。

 

「そして今に至るわけです。」

 

「そうだったのか」

 

ゼネルティーモの過去を聞いたヴァルフレアは弟以外にアンブレラの秘密を知ってる者がいる事に安緒してる事に気付く。

 

「ゼネルティーモ…。アルフレッドはロックフォート研究所でT-ウイルスを扱ってる。

だけどそれに対するワクチンや抗ウィルス剤が一切ない。

だから貴方のT-ウイルスの知識を借りたい」

 

「大恩ある閣下のお願いです。このゼネルティーモの知識でよければT-ウイルスのワクチン開発に手をお貸しします」

 

ゼネルティーモは嫌な顔をせずアルフレッドのワクチン開発に全面協力をすると言った。

彼はワクチン開発にグリーンハーブやレッドハーブといった様々な種類のハーブを使いたいという意見を述べた。ヴァルフレアとアルフレッドはその考えを受け入れる事にした。

そしてアルフレッドはゼネルティーモの協力を得ながらワクチン開発を始めたのだった。

 

 

現在

 

「おっと…もうこんな時間か…。

済まない兄さん。そろそろロックフォートに戻るよ」

 

時計を見るとアルフレッドは研究所に戻らないといけない時間になっていた。

 

「そうか…。

忙しい中、済まなかったな。互いに都合が付いたらまた会おう。

連絡と報告を怠るなよ」

 

「分かってる。

兄さんも無理をしないようね」

 

こうして兄弟の休日は終わった。

ヴァルフレアとアルフレッドはまた忙しい日々を送るのだった。

 

 

 

 

1992年 8月1日

 

アシュフォード邸

 

「なに? アークレイ研究所に来てほしいだって?」

 

『うん…。来週、僕はロックフォート研究所の所長として別の研究所の者と一緒に視察するんだけどマーレッド主任が兄さんも来てほしいとの事で…。』

 

ヴァルフレアは電話でアルフレッドの報告を聞いていた。

 

「何故だ? お前はともかく幹部といえど私は例のアレ(BOW T-ウイルス)とは関わっていないし専門外だぞ?

招く理由などないだろう」

 

『それでも都合が付けば来てもらいたいって言ってきて…

マーレッドはどうも兄さんを気に入ってるみたいだね』

 

「…分かった。スケジュールを確認するからまた後で連絡するよ」

 

『それじゃ後で』

 

ガチャリと電話を置く。

アルフレッドから聞かされた最高幹部であるマーレッド直々のアークレイ研究所の招待…。

だけど本音で言えば断りたい。

なにせ今、ヴァルフレアはアンブレラ・ヴィレーネ支社の代表として他社との取引が多く控えているだけではなくヴィレーネ政府の一員として国家の経済開発にかかりっきりなのだ

ヴィレーネは今、急成長をする兆しを見せておりアシュフォード家の利益に繋がる大事な時期なので手を放したくないのが現状だ。

 

「だけどマーレッドの機嫌を損ねたくない…。あの人のヴィレーネへの援助は大きいからな」

 

溜息をついてどうするべきか悩むヴァルフレア。

マーレッドはあの内戦以降、本社に通じてヴィレーネに多額の援助と投資をしてくれているのだ。

この国が早く復興が進み発展しているのはアンブレラ本社もといマーレッドのおかげでもある。

彼の協力が無かったら今みたいな経済発展は無く復興に時間が掛かっていただろう。

 

「仕方ないか…ロバート」

 

「はい閣下」

 

「来週の会談だが全部キャンセルだ。埋め合わせは必ずすると伝えてくれ」

 

「分かりました」

 

秘書のロバートに来週の取引のキャンセルを伝える。

時間を掛けた取引だが已む得ないだろう…。

そしてゾラーノ総統にも来週の会議に出席出来ないと伝えた。

 

(マーレッドは何を企んでるんだ?)

 

ヴァルフレアはマーレッドの意図が読めなかった。

分からないことを考えても仕方がないのでヴァルフレアは気が重いながらも目の前の仕事に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

1992年 8月13日

 

「今週の間、私は留守にするが後は頼んだよ」

 

「はい。ヴァルフレア様もお気をつけて」

 

その日の朝、メイド長のジーナとその夫のゲイルを始めとした使用人達に見送られながらヴァルフレアはヘリコプターに乗った。

アークレイ研究所の視察は今から三日後だがアメリカに行くまでに結構な飛行機の乗り換えと車の移動の時間を考えて三日間早く出発して現地に向かう事にした。

ヴァルフレアは首都ヴィレネの空港からチリ共和国のサンディエゴからアメリカのロサンゼルスまで乗り継ぎそこからアメリカ中西部に向かった。

そして〇〇市から列車でラクーンシティに向かう。

 

PM 6:10

 

辺りは暗くなりつつある中、ヴァルフレアはようやくラクーンシティに到着した。

 

「全く…移動だけで一日も使うとは…」

 

溜息を吐いてスーツを整えながらヴァルフレアはタクシーを呼ぶ。

 

「ホテル・ラクーンまで」

 

「はいよ。」

 

黒人の運転手に予め予約していたホテルに行ってくれるよう頼む。

ホテルに向かう途中、窓からラクーンシティの街並みを眺める。

 

(地方都市と言うが随分と発展しているな…。

ヴィレーネでもこんな都市は首都ヴィレネぐらいなもんだろうな)

 

高層ビルが建ちショッピングモールもある。遠くから古い時計塔といった建物があるがそれが町の歴史を感じさせる。

 

「お客さん。ラクーンシティは初めて?」

 

「えぇ以前から名前は聞いていましたが来るのは今日が初めてです」

 

「そうか。身なりからして仕事かい?」

 

「そうです。南米のヴィレーネ国から来ました」

 

「ヴィレーネ…?

あぁ…確かチリの近くにある島国で最近までは内戦がずっと続いていたとかだったか?」

 

「その通りです。交通が不便な所でしてね…。

朝から出発して飛行機を乗り換えて車で走り続けて電車に乗ってようやく着いたんです」

 

「そりゃあ大変だったな…。」

 

運転手から話しかけられてヴァルフレアは当たり障りのない会話をする。

 

「なぁ…お客さん。

もしかしてアンブレラの方かい?」

 

「…! そうですがどうして分かったんです?」

 

「いやなに…このラクーンシティはアンブレラ社の関連する企業が沢山あるからこの町に仕事に来るという事は大体アンブレラ関係だからな

結構な数のアンブレラ社に人間を運んだから直ぐにピンと来るんだ」

 

「なるほど。」

 

そういえばこのラクーンシティはアンブレラの工場が建設されそこからアンブレラ社に関連する企業が次々と建てられていった結果、町はアンブレラ社の企業城下町となり飛躍的に発展したと聞いてる。

住民の三割はアンブレラ社の関連する企業で働いている。

またアンブレラ社はラクーンシティに多額の投資もしてくれているおかげで次々と新しい建物を建てられるという好循環になってる。

 

「以前は寂れた町だったんだがアンブレラ社の工場のおかげで人口も増えてデケェ町になった。アンブレラ様々だよ」

 

「それは良かった。私も嬉しい限りです」

 

運転手は話が上手くヴァルフレアも楽しく会話が出来た。

そうしてるうちにタクシーが目的地に到着した。

 

「ついたぜ。お客さん」

 

「有難う。楽しい時間だったよ。

これチップです」

 

タクシー代を払いチップも弾んだ。

 

「マジか! こんなにくれるのか!

ありがとよ! 良かったら電話してくれよ。こいつはウチの会社の電話番号だ。

連絡してくれたら直ぐに駆け付けるぜ。

おっと…名前を聞いていいか?」

 

「ヴァルフレア。

ヴァルフレア・アシュフォードです」

 

「アシュフォードさんだな。

俺はロイド・ジェファーソン・ウェイドって言うんだ。

皆からL.J.と言われてるんだ。

もしラクーンシティを観光したいって言うんなら隅々まで案内するぜ」

 

そう言ってタクシーは去っていった。

 

 

ホテル・ラクーン

 

ホテルに入ったヴァルフレアは荷物を置いてこれからの事を思案する。

 

「さて、視察は明後日15日からだが…一日だけ時間あるな」

 

ヴィレーネからアメリカまで行くことから余裕を持って早く出発したヴァルフレアだったが一日だけ空きが出てしまった。

 

「一日何もせずにここで休息をとってもいいが…ラクーンシティを見て回るのもいいな」

 

ラクーンシティはアンブレラから援助で飛躍的に成長した町だ。

ヴィレーネもアンブレラから多額に支援を受けてるのでここでラクーンシティを見て回ればヴィレーネの発展に役立つかもしれない。

 

「町だけではなくアンブレラ社の工場を見てみるか」

 

このラクーンシティに有るアンブレラの工場はどの様な製品を作っているのか見てみよう。

明日はラクーンシティを見て回る事に決めたヴァルフレアは食事をソコソコに早めにベットに横になった。

 

 

 

 




次回

ラクーンシティ


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ラクーンシティ

ヴィレーネからアメリカ・ラクーンシティに到着したヴァルフレアは町を観光しながら
用事を済ませていく。


AM 9:00

 

目覚めたヴァルフレアはモーニングを済ませ昨日、タクシーの運転手に渡された名刺(ジェファーソンズタクシーと書かれている)を見て電話番号を押す。

 

『もしもし~こちらジェファーソンズタクシー。』

 

電話越しに聞こえる陽気な声、間違いなく昨日のタクシー運転手だろう。

 

「おはようございます。昨日お世話になりましたヴァルフレアです。」

 

「!? これは失礼しました…!

ヴァルフレアさん、今日は何の用で?」

 

「今日一日、ラクーンシティを見て回りたいのでその案内役に貴方にお願いしようかと思いまして。宜しいでしょうか?」

 

「えぇ!もちろん!俺で良ければラクーンの隅々まで案内しますぜ。」

 

「ではホテル・ラクーンまで来てください」

 

「分かりました。暫しのお待ちを」

 

電話が切れたのでヴァルフレアはホテルのロビーで待つことにした。

 

 

「Mrヴァルフレア!

お待たせして申し訳ない。」

 

ロビーでくつろぐヴァルフレアに声を掛けたのは昨日のタクシー運転手のロイド・ジェファーソン・ウェイドだった。

 

「いえ…こちらこそ急に電話して申し訳ない」

 

「いやいや! ご指名してもらって有り難いですよ。

さぁどうぞ」

 

そういってロイドはヴァルフレアをタクシーまで案内する。

 

「さて、何処から回ります。

時計塔? それとも国立公園とかどうです?」

 

タクシーの乗ったヴァルフレアはロイドからお勧めスポットを上げられる。

 

「いえ…、まずラクーン市役所にお願いします」

 

「市役所ですか…? 何の面白みもありませんよ」

 

「ラクーン市長と会談する予定なので…」

 

「あぁ…そうだったんですかい。失礼しやした。

では出発しますぜ」

 

タクシーは発進しラクーンの町中に入っていく。

 

 

 

町中に入ってタクシーの窓からラクーンシティの街並みを見る。

 

「数年前まで寂れた町だと聞いていましたがこの街並みを見るとそうは思えませんね」

 

ラクーンシティは数年前まで本当に小さな町だったそうだ。

コレと言った産業はなく強いて言えば町の外に広がるアークレイ山脈を目玉とした観光業が有名だったが交通の便が不便なので町が栄える程の収入を得る事は出来なかった。

当然、ラクーンシティから去っていく者も多く、人口滅に悩まされていた。

 

「当時のラクーンシティは何の面白みがない町でしてね…。仕事も無くて失業者達やらヤク中がそこら中に居たもんですよ

そんな有様だからみーんなこの町から逃げだしたんだ。俺もその一人さ」

 

「貴方も? でも今は戻ってきてる」

 

「えぇ何年かは故郷のデトロイトで溶接工の仕事に付いていたけどリストラ食らっちまってね。

その後、タクシー運転手をやっていたんだ。」

 

「故郷? ロイドさんはラクーンシティで生まれたわけではないのですか?」

 

「いや俺はデトロイト出身さ。ガキの頃に親父が仕事の都合でこのラクーンに来たんだ。

だけど俺が14の頃に親父が勤めていた会社が倒産しちまってな… 満足な退職金も貰えなかった。

親父はショックで酒浸りの日々を送って死んじまって、その後はお袋は俺の為に必死に働いてくれたけど無理がたたってポックリ逝っちまった…。

それで家族がもういないからこの町から出ていったんだ。」

 

寂しそうに語るロイドにヴァルフレアは何とも言えない気持ちになった。

 

「だけどアンブレラ社がこの町に工場を建てたら一気に変わったんだ。

デトロイトでも仕事が無くなったもんだからもう一度この町に帰ってきたのさ

そんで前職を生かして苦労したがタクシー会社を立ち上げたんだ。」

 

「そうだったですか」

 

ロイドは会話が上手く退屈しない。

この会話の上手さが彼が苦労続きの人生を物語っている。

 

「そろそろ市役所に着きますぜ」

 

いつの間にか目的地に近づいていたようだ。

 

「有難う。暫くの間ですが待っててもらえますか」

 

「了解。待ってますよ」

 

目的地である市役所に着いてタクシーから降りたヴァルフレアはロイドを待たせて役所の中に入っていった。

 

 

 

ラクーン市庁

 

役所の入ったヴァルフレアは早速市長とのコンタクトの為に受付に行く

 

「ようこそ。ラクーン市庁へ

御用は何でしょうか?」

 

「私はヴァルフレア・アシュフォードと言います。市長のウォーレン氏との会談を予定しております」

 

「!? 失礼しました!

直ぐにお呼びいたします」

 

受付嬢は知らされていたのか少し慌てるように動き出す。

近くにあったソファーに座り待つこと数分…

 

「大変お待たせしました。アシュフォード卿」

 

速足で現れたのは少し小ぶりの男性。

 

「いえいえ、こちらこそ急なアポを申し込んだので」

 

「いやいや! かのアシュフォード卿の会談など私にとっては大きなものです

早速ご案内いたします」

 

この男性こそ、現ラクーンシティの市長であるマイケル・ウォーレンである。

実はヴァルフレアはビラ島から旅立つ前にラクーン市長であるウォーレンに会談を申し込んだのである。

急なアポなので断られると思っていたが此方がアシュフォード家の者であること申し付けると直ぐに会談に了承したのだった。

 

「どうぞこちらにお座りください」

 

通されたのはウォーレンの執務室だ。

お洒落で気品が漂うテーブルやデスクが設置されてる。

ヴァルフレアは座り込ごちの良いソファーに座り反対方向にウォーレンも座る。

秘書が紅茶を置いた後、一礼して静かに部屋から出ていった。

 

「いかかですか? 英国から取り寄せた最高級の紅茶です。」

 

「これは…何と上手い。」

 

ウォーレンから勧めらえて紅茶を飲むと濃厚な香が口内を見たし程よい甘さと苦みが絶妙なハーモニーを奏でる。

 

「それは良かった! まだまだ有りますのでお代わりをしても構いません」

 

ヴァルフレアの反応にウォーレンは喜びの表情を見せる。

 

「では早速、ラクーンシティの投資の件なのですが」

 

ヴァルフレアは本題に入る。

 

「ええ。アシュフォード卿がこのラクーンシティに投資してくださるとは大変ありがたいです」

 

ヴァルフレアが市長であるウォーレンに会談を申し付けた理由・・・

それはこのラクーンシティの投資だ。

アンブレラがラクーンシティに多大な投資をしてるのは周知も事だがアンブレラ幹部の中に個人で投資している者もおりそれで結構な額のお金を手にしているのだ。

そこでヴァルフレアもこのラクーンシティに投資をしてアンブレラ社の自身の存在感をアピールをしてついでに資金も稼ごうとという考えだった。

 

「資料の中に有りましたが明るいラクーン21計画というのが目に留まりましてその計画に我々アシュフォード家も関わりたいと思いました。出来る限りの投資もお約束いたしましょう。」

 

明るいラクーン21計画とは市長であるマイケル・ウォーレンが発案したラクーンシティの環境整備と市の治安維持及び強化を目的とした政策の数々で市長選挙の際にウォーレンはこれらの政策を元に市民達に支持され市長の座を手にしたのである。

そしてアンブレラ社も、これらの計画に賛同しており多額の出資をするというのだ。またウォーレンとしてもアンブレラ社だけでなく多くの投資と出資を求めておりアシュフォード家の出資も彼からすれば喉から手が出るほど欲しいものだった。

 

「いくつか質問がありますが…

ラクーンシティの治安維持とその強化と謳っていますが具体的にどのような事をするのです?」

 

「それは主にラクーン警察(R.P.D.)の強化です。

これは以前から市民から問題視されていた部分でしてこの町はアンブレラ社の出資と投資で大きく成長いたしましたがその弊害として組織犯罪を始めとした重犯罪などが発生し治安が大きく乱れました。

それらの犯罪に対してRPDは対処が出来ませんでした。町が成長したというのに警察だけは以前と変わらず人員も少なく組織犯罪に対抗できる部署も無い有様です。

そこでRPDの強化です。人員を増やし散弾銃やサブマシンガン、ライフルといった銃器の普及をさせて犯罪組織に対抗できる部署とその部隊の設立を目指します」

 

「ふむ…部隊という事はSWATですか?」

 

「勿論SWATを設立しますが実はアンブレラ社と協力してそれよりもより高度な部隊を設立します。

その名はSpecial Tactics And Rescue Service

頭文字を取ってS.T.A.R.S.です」

 

「S.T.A.R.S.? 一体どのような組織何でしょうか? SWATとどう違うのです?」

 

「S.T.A.R.S.はあらゆる組織犯罪を始めとした事態に対応が出来るためにメンバーは選抜試験を行いそれぞれの分野のエキスパートで構成する組織です

実力や才能があれば警察だけではなく軍人や民間人でも採用いたします。

それだけではなく警察よりも強い権限を持ちます。」

 

「これはまた随分と大掛かりな…」

 

ウォーレンの言葉にヴァルフレアは小さく唸る…。

ラクーンシティは発展してるとはいえアメリカ国内からすればまだまだ田舎町に過ぎない。

ワシントンやニューヨークのような大都市ならともかくラクーンシティという田舎町にS.T.A.R.S.という警察より強い権限と装備を持った組織を設立するのは少々過剰ではないかと思ってしまう。

そしてウォーレンから他の政策についても聞いてみると、医療の向上のための総合病院の設立や警察以外にも民間の警備会社を設立するといった計画があるようだ。S.T.A.R.S.設立については思うところはあるものの、総合的に判断してヴァルフレアは明るいラクーン21計画に援助する価値があると感じた。

 

「なるほど。それならば我がアシュフォード家もラクーンシティの為に多大な援助と投資も約束いたします」

 

「おぉ…!有難うございます。

アシュフォード卿の支援は大変助かります」

 

アシュフォード家が援助してくれる事に大喜びするウォーレン。

ヴァルフレアはその他の明るいラクーン計画を聞いて会談は終わった。

その際にウォーレンから礼として先ほど呑んだ紅茶のセットを貰いラクーン市庁を後にした。

タクシーに向かい寝ていたロイドを起こす。

 

「すみません。お待たせしました」

 

「!? おっと失礼…。」

 

ヴァルフレアが帰ってきて直ぐに眠気が消えたロイドは起き上がる。

 

「ロイドさん。次の目的地なんですがアンブレラ・ラクーン支社までお願いします」

 

「OK」

 

タクシーが発進して町の中央部に向かう。

 

「申し訳ありません…。思ったより時間が掛かってしまいました」

 

「いやいや、これが仕事の一環なんで気にしないでくれ」

 

時間が掛かってしまった事を詫びて二人は他愛もない話をしながら目的地であるアンブレラ・ラクーン支社に着いた。

 

「仕事が終わり次第またここにお願いします」

 

「分かった。それじゃまた後で」

 

そう言ってロイドはタクシーを発進して町中に消えていく。

そろそろ昼時なので食事に行ったのだろう。

 

自分も何か食べていけば良かったと若干後悔するヴァルフレア。

とはいえ此処に突っ立ってるのもアレなのでラクーン支社に入っていく。

 

中に入ると流石は町が誇る製薬会社なだけあって綺麗に掃除されており清潔感が漂ってる。

 

「アシュフォード卿。よくぞ来てくださいました」

 

愛想よく声を掛けてきたのはこのラクーン支部の支社長だ。

ヴァルフレアも愛想笑いを向けて共に歩き出しエレベーターに乗り会議室を向かう。

 

 

 

会議室の中にはヴァルフレアと支社長を始めとした数人の社員がそれぞれ椅子に座っている。

 

「皆様が知っての通りヴィレーネ支部が開発したBG‐001は世界中で売れてる商品です。

しかし…最近ある問題が発生しています。」

 

女性社員がスクリーンからゼネルティーモが開発したグリーンハーブから作り出された傷薬、BG‐001の説明をする。

 

「BG‐001は一般家庭から病院、軍隊などに幅広く使われていますが近年、供給が間に合っていません。

特にヨーロッパ・アフリカ・中東では特にその問題が大きくなっています。

ソ連崩壊に伴い新しく誕生したロシア連邦では旧ソ連の構成国との独立紛争が各地で発生しておりバルカン半島でもユーゴスラビア連邦が崩壊し泥沼の紛争に陥っています。

中東とアフリカも同じで90年代に入って戦争が激化しています。

それらの事からBG‐001の需要が大きく高まりましたが肝心のBG‐001の生産が追い付いていません。

原因は原材料となるハーブの生産が間に合っていないことです」

 

社員は現在、BG-001の供給不足の原因を淡々と説明をする。

冷戦の終結と社会主義陣営(東側)の盟主であったソビエト連邦の崩壊…それに伴いバルカン半島のユーゴスラビア連邦の崩壊…。

アフリカ、中東などの国々も国家間の戦争が起きたり内戦が勃発してしまった。

戦争になれば怪我人も出る。BG‐001はそんな人達の助けになっていたが毎日のように使われればいずれ枯渇する。

アンブレラ社はBG‐001の増産を指示したが材料となるグリーンハーブがその需要に追い付かないのだ。

それもそのはずでグリーンハーブはラクーン地方に自生する植物で外国でも品種改良して栽培しているのはヴィレーネのビラ島だけで以前ならばラクーン地方とビラ島だけでも回すことは出来たが需要の高まりにそのラクーンとビラ島では回す事が不可能になってしまった。

 

「成長が早いハーブでも需要の高まりに着いていけない有様でビラ島でもグリーンハーブの栽培地を大幅に増やしましたがそこから収穫されるのはもうしばらく時間が必要です。」

 

ヴァルフレアはBG‐001の需要がここまで高まると思いもしなかった。

直ぐにビラ島のハーブの栽培地を5倍まで拡大したがそれでも追いつけない…。

更に問題としてビラ島の面積ではこれ以上は栽培地を広げる事が出来ない事だ。

 

「今、私はヴィレーネ国のトップであるゾラーノ総統に本島にハーブ畑の開拓を提案しています。

総統がコレを認めてくれれば需要に追いつけるハズです」

 

今回の出張が終わる頃にはゾラーノも決断してるだろう。

BG‐001の需要を考えればヴィレーネに莫大な財を齎してくれると分かってるハズだ。

 

「しかしそれまでの間、この問題をどう対処するかです。

私としては量産が整うまではのらりくらりと躱していくしかないと思います。」

 

「いえ…それではアンブレラ社の評判に関わります」

 

職員の言葉にヴァルフレアは否定する。

確かに生産が追い付いていないのは事実だが何も対処しないのはアンブレラ社の沽券に関わる。

 

「アシュフォード卿は何か考えが?」

 

「そんな大した内容ではありませんが国連組織やNGOと言った民間組織にBG-001を始めとした医薬品を無償で提供することです」

 

「な、何ですと!? しかし…それでは会社に利益になりませんが…?」

 

「その通りでアンブレラ社に収入は入りません。

これは広告、言わばアピールです。」

 

「アピールですか?」

 

「そうです。先ほど言った通り量産が整うまで何もしないと言うのはアンブレラ社の名に傷がつきます。

しかし紛争地で活動する国連の医療団体やそれを支援する民間組織に医薬品を無償で提供をすればアンブレラ社のモットーである「傘で人類を庇護する」を言葉だけでない事を見せつける事ができ 、「アンブレラは世界の人々を怪我や病から救います」というメッセージにもなる。

アンブレラ社は世界中の紛争地で難民を助ける為に無償で医薬品を大量に提供しているからそれを悪く言う事など出来ません」

 

ヴァルフレアの提案に社員たちは成程と頷く。

彼の言う通りこうすれば批判を躱せる上にアンブレラ社の名が大きく上がるだろう。

株主達だって納得する。本社にも報告してそのように動いてもらおう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではこれにて会議は終了いたします。」

 

会議は粛々と進んでいきそれぞれの解決方法を考えていく中、時間来たのでここで会議は終了した。

その言葉に全員が椅子から立ち上がり部屋から出ていく。

 

「ふぅ…ようやく終わったか…。それにもうこんな時間か…。」

 

ふと窓を見ると夕日が町を照らしていた。

ヴァルフレアはホテルに戻る事にした。明日はアークレイ研究所に向かうので支度を整えて早めに就寝した方が良いだろう。

受付にある電話機でロイドに電話をかけて迎えに来るように頼んだ。

 

「お疲れ様。随分と掛かりましたね」

 

「えぇ…思ったより問題が大きくて会議も長引いてしまいまして」

 

「では何処に向かいますか?」

 

「ホテル・ラクーンにお願いします。

今日は思いのほか激務でしてね」

 

「分かりました」

 

そう言ってタクシーはホテルへと向かい出した。

 

 

 

 

 

 

 

PM:6:50 ホテル・ラクーン

 

ホテルに到着してロイドに別れをつげてヴァルフレアはホテルの自室に入りスーツを脱いで寝間着に着替えて軽めの夕食を取った。

 

(やれやれ…明日はアークレイ研究所に向かうわけだがもう一日は休みたいものだな…)

 

思ったより激務の一日を過ごしたヴァルフレアはクタクタだった。

BG-001が不足している事は知っていたがまさかここまでとは思ってもみなかった。

更に会議から出された課題であるBG-001より効力が強い新薬の開発が求められていた。

 

「ゼネルティーモから新薬の開発に取り掛かってると聞いてはいるが…ヴィレーネに戻った時に聞いておくか」

 

それにしてもBG-001がまさかここまで需要が高くなっているとは驚きだ。

アレはあくまでメインであるガン治療薬の資金調達を目的としたものだが今ではアンブレラのメガヒット商品となりアシュフォード家に多大な財をもたらしてくれた。

アルフレッドもガン治療薬よりBGを重視すべきと言っているほどだ。

 

「さて…まだ早いが寝るとしよう。明日はある意味重要な一日なるだろうな」

 

ラクーンシティ・アークレイ山地に建つ洋館…アークレイ研究所はアンブレラの暗部であるT-ウィルスとそれを元に作られた生物兵器の第一線に立つ場所だ。

それ故に最重要秘匿と言える場所だ。

極秘とも言える研究所にマーレッドは自分とアルフレッドを招待したのだ。彼は一体何を考えてるのか分からないがもしかしたら彼はそこで自分達を試そうしてるかもしれない。

もしそこでマーレッドから見切りをつけられたら大きな経済的損害を受けてしまうだろう。

 

「とにかく・・・慎重に行動をしなければ…。」

 

大きな不安に襲われながらヴァルフレアは明日に備えて就寝するのだった。




次回 アークレイ研究所








日常を書こうしたけど中々納得できる内容が出来ず何度もやり直しをしました…。
そろそろ物語を一気に進めたい…


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アークレイ研究所

ラクーンシティの用事を終えた次の日ヴァルフレアはアンブレラ・アークレイ研究所へと向かう。


「アシュフォード卿。もうじきアークレイ研究所に到着します」

 

現在、ヴァルフレアは社用のヘリコプターに乗ってラクーンシティのアークレイ山地を飛んでいた。

ヘリのローターが風を切る爆音を聞きながら「分かりました」と伝え窓からアークレイの山々を眺める。

 

(しかし何故こんな所(アークレイ山脈)でウィルス研究しているのだろうか?

もしもウィルスが流出などしたらこのような場所では甚大な被害がでるのは確実だ…。)

 

窓の外を見てそんな疑問が沸いてきた。

研究しているT-ウィルス研究は感染力が非常に高く感染した生物を変異させるなどとても危険な代物だ。

それゆえに研究は人気がなく被害を最小限に出来る場所が選ばれる事が多い。亡くなったアレクシアが研究してた場所は南極の僻地だったのはそのためだ。

しかし今向かっているアークレイ研究所はどうだ?

周りは山に囲まれていて沢山の野生動物が生息している。

こんな場所でもし何らかのアクシデントが起きてT-ウィルスが流出などしたらどうなる…?

 

(アンブレラ社もその事は重々分かってる筈だ…。

一体なぜ…?)

 

「間もなく到着します」

 

パイロットに言葉に思案の海に沈んでいたヴァルフレアの意識が現実に戻る。

窓の外にはヨーロッパ風を感じさせる大きな洋館が見えた。

アレがT-ウィルス研究の第一線を走るアークレイ研究所である。

 

「ヴァルフレア君。遠路遥々よく来てくれた」

 

ヘリポートを着陸してヘリから降りるとマーレットが出迎えてくれた。

 

「いえ…私の方こそ随分と遅くなって申し訳ありません」

 

「そう謙遜しなくて構わんよ。何せ南米からアメリカの中西部まで来るのは大変だっただろう。

私も無理を言った身でもあるから謝るのは私の方だ。

まぁここで立ち話も仕方ない。着いてきたまえ」

 

マーレットはそう言いヴァルフレアを研究所へと案内する。

研究所に繋がる通路はコンクリートで覆われどこか無機質に感じる。

 

「ヘリから見たと思うがアークレイ研究所は廃棄されていた洋館を研究所に改装したものだが、見掛けは古びた屋敷にしか見えない。ときどき一般人が興味単位で来ることもある。」

 

「確かに…。このような屋敷でウィルス研究をしてるとは誰も思わないでしょう。

それで誤って洋館(此処)に来てしまった一般人はどうされるのですか?」

 

「屋敷は入り口を始め窓など施錠しているから大抵はそこで諦めて去っていく。強引に入ってくる者は警備員が捕らえて警察に引き渡す。ただ…」

 

「ただ…?」

 

「時には()()になってもらう事もあるがね」

 

「…! そ、そうですか…」

 

素材

ニヤリと口元を歪めて笑うマーレットを見たヴァルフレアは何の意味なのか理解した。

 

「君以外の者はもうじき到着する。

この部屋で待っていてくれ。

何か必要な物があったらそこの電話を使うと良い。係の者がもってくる」

 

「分かりました」

 

案内された部屋に入り荷物を下ろす。

この部屋は客室用なのか無機質な研究所と違って気品が漂い整えられてる。

 

(外との解離があって逆に居心地が悪いな…。)

 

先程の無機質な空間から一転、整えられた空間に若干の居心地の悪さ感じてしまう。

椅子に座ると喉が乾いてる事に気付き冷蔵庫からミネラルウォーターがあったのでそれを取り出して飲む。

 

(此処でT-ウィルスが開発された訳だがそもそも資料に書いてあった始祖ウィルスというのは何だろうか?

私の祖父もその始祖ウィルスの研究をしていて父もその研究の手伝いをしてたそうだが…?

そう言えばアレクシアも研究していたな…

確かそこからT-Veronicaという新種のウィルスを作り出したのだったな?)

 

当時は余裕がなく考えてなかったのだか妹のアレクシアが開発したT-Veronicaは一体どんなウィルスなのだろうか?

始祖ウィルスをベースにしたそうだが…どのような効力があるのかは誰も知らなかった。

それを公表する前にアレクシアが亡くなってしまったからだ。

 

T-Veronica…一体どのような効果を持つウィルスなんだろうか?)

 

あのアレクシアが開発したウィルスだ。

文字通り人智を越えたものだったかもしれない。

だが…

 

(アレクシアは恐ろしいウィルスを作ったかもしれない…

兄としては受け入れがたいものでもあるな…)

  

おそらくだがアレクシアはアンブレラの暗部を知

っていた可能性が高い。

そう考えるとT-ベロニカはもしかしたらとても危険な代物だったのではないか?

 

(落ち着け! 一体何を考えてるんだ… いくら何でもアレクシアはそんな危険な物を造るわけがない…)

 

ヴァルフレアはアレクシアを悪く考えてしまった事を恥じる。

いくら天才だっとしてもアレクシアはまだ十代の少女だったのだ。

アレクシアもまだそんな恐ろしい事を出来る訳がない。

 

 

 

コンコン

 

「アシュフォード卿。マーレッド主任がお呼びです」

 

「…!分かりました。すぐに行きます 」

 

呼び出しの声に我に返ったヴァルフレアは返事を返す。

アレクシアやウィルスの事は考えるのは止めて部屋から出ていく。

 

 

 

 

職員に案内された部屋に入るとそこには弟のアルフレッドをはじめ、顔を知らない数人の人間がいた。

 

「兄さん。久しぶりだね」

 

 

「アルフレッド。お前は元気そうだな」

 

「そうでもないよ。最近は激務ばかりで中々休みが取れなくてね」

 

よく見るとアルフレッドは目元が少し黒くなっている。

言葉通り十分な休息を取れて無いようだ。

 

「無理はするな。お前まで居なくなるのは私としては絶対に避けたい…。」

 

父と妹を失ったヴァルフレアは家族が居なくなるのはトラウマになっているからだ。

 

 

「兄さん…僕は大丈夫だ。今の仕事が一段落したらゆっくり休むよ」

 

「そうか…頼むから無理はしないでくれよ」

 

心配するヴァルフレアを宥めるように言うアルフレッド。

 

「ところで…あそこにいる者達はだれだ?」

 

話題を変えようとヴァルフレアは先程から気になっている奥にいる見知らぬ人物達に目をやる。

 

「彼等は各地の支部から送られた幹部候補生だよ。此処に来ているという事は恐らく会社の裏の顔も知っている筈だと思う。」

 

「各支部で特に優秀な結果を残した者達ばかりで中には大学を卒業して直ぐにスカウトされたり幹部養成所で見込みが有る者とかだね」

 

「つまりアンブレラ社の期待のホープというわけか」

 

つまりエリートの集まりというわけだ。

よく見るとまだ成人になってなさそうな者もいる。

 

「だけど兄さん…あまりあいつらに関わらない方がいい…

少し話しただけだがどいつもこいつも自尊心が高く他人を見下してるし自分達は選ばれた存在と本気で考えているよ」

 

嫌悪の表情を隠さないアルフレッドは兄に警告する。

 

「それはまた…マーレッド主任が好みそうな人材だな…。」

 

以前ヴィレーネで聞いたマーレッドの選民思想丸出しの言葉を思い出すヴァルフレア。

 

(逆に言えば()()()()()()()()こそ生物兵器(B.O.W)というのを造りだせれる訳だが…。)

 

そういった人間の考えは価値がない人間は()()()()()()モルモット、ただの()()()()だからだ。故に実験で何人死のうが気にも止めないだろう。

 

「あまり関わりたくない連中だな」

 

「同感だね。僕達をさんざん見下してきた奴らを思い出すよ」

 

「そうだな…。」

 

アルフレッドの言葉にヴァルフレアも顔をしかめる。

以前はアシュフォード家に媚びへつらってきた連中が手のひら返して嘲笑う顔を思い出したからだ。

ふと目を向けると何人かこちらを見て薄く嗤っているのが見えた。

 

「…!」

 

「よせアルフレッド。時間と労力の無駄だ」

 

それに気付いたアルフレッドは怒りを滲ませて何か言いに行こうとしたがヴァルフレアは弟の肩を掴んで制止する。

 

「ああいう出合いは相手にするだけ調子づくだけだ

無視しろ」

 

ヴァルフレアもそんな視線を幾度も向けられ続けたせいか相手にするだけ無駄だと考えている

 

「しかし…」

 

アルフレッドは納得出来なかった。彼は名門アシュフォード家の一族としての誇りがとても高くアシュフォードや自分達を侮辱する者を決して許さない性格だからだ。

 

「気持ちは分かる… だが今は抑えてくれ

マーレッド主任の顔があるし我々のスキャンダルを掴みたい奴らもいる」

 

グリーンハーブを使ったBG-001が世界中で大ヒットして成功を収めて以来、ヴァルフレアは各分野でも成功を納めているがそれに伴いアンブレラ社の幹部の中にはアシュフォード家を妬む者が出てきている。

無能と思われていた一族が大成功を収めて影響力が強まったからだ。

一部の人間からすれば今のアシュフォード家は脅威に感じており自分達の権力がアシュフォード家に奪われてしまうのではないかと恐れている。

事実ここ最近、ヴァルフレアは他社との取り引きやアンブレラ社予算との配分などで妙に横やりが食らう事が多くなった。

取り引き相手に謂われもない悪評を流されたり横取りされる、予算を必要以上に持っていかれたりなどだ。

子供のやるような幼稚な嫌がらせや悪質なものなど多種多様だ。

とはいえヴァルフレアも黙っておらずそのような者に相応な報いを受けさせてる(誤解が無いように言うがキチンと社会の法律に沿ったやり方である)

 

因みにアシュフォード家の者をアークレイ研究所に招待するべきではないと反対する幹部もいた。(ヴァルフレアはその件に関しては知らない。なお反対した幹部はマーレッドがやんわりと宥めた)

 

兄の言葉にアルフレッドも冷静になり「分かった…」と言いその場から離れた。

 

「諸君。待たせて済まなかった。

私に着いてきたまえ」

 

その言葉に皆がマーレッド主任に着いていく。

 

(いよいよアンブレラ社の裏の…いや真の姿を見るんだな)

 

僅かな恐怖を押し殺してヴァルフレアはエレベーターに乗り込みアークレイ研究所…生物兵器を開発するアンブレラ社の闇の中心に向き合う事になる。



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アークレイ研究所②

今さらですが明けましておめでとうございます
新年初の投稿です。


エレベーターは下に下にへと降りていく。

アークレイ研究所は洋館の地下奥深くに作られており地上からは見えない様に出来ている。

やがてエレベーターは止まりドアが開く。

 

「途中幾つものセキュリティが有るが今回は特例としていくつか解除してるが妙な行動は控えるようにしてくれ

ここはアンブレラ社の秘匿されている施設だという事を忘れないように」

 

マーレッドは参加者を見て警告する。

彼が言ったようにこの施設はアンブレラ社の一般には知らされてない研究所である。知っているのは会社の幹部を初めとした少数だけだ。

もしもこの施設の事を世間に漏らしたり研究データを盗んだりすればそれ()()()()()という罰を受けることになるだろう。

マーレッドの言葉に何人かは息を飲んだ。

 

「まぁ、そのような人間は此処にはいないだろうがね」

 

そう言い参加者達はマーレッドに着いていく。

階段を降りていくと広い通路があり幾つもの自動ドアがある。

そしてひときわ大きな自動ドアがある部屋に案内される。

 

「この部屋はこの研究所で重要な部屋だ。

中にはアンブレラ社に選び抜かれた優秀な科学者達が日夜研究に励んでいる」

 

中には白衣を着た者達が資料をみて何かを話しておりパソコンにデータを打ち込んでいる。

 

「お待ちしていました。マーレッド主任」

 

「忙しい中、済まないな()()()()()

 

部屋の説明をしているマーレッドの前に一人の男性が声を掛けた。

 

「紹介しよう。この研究所の主任研究員で我がアンブレラ社が誇る天才であるウィリアム.バーキン博士だ」

 

 

(彼があのバーキン博士か…)

 

マーレッドの紹介に反応したのはヴァルフレアだ。

 

ウィリアム・バーキン

 

今、マーレッドが言ったように彼はアンブレラどころか世界でもトップレベルの科学者だろう。

何しろ彼は15歳でアンブレラ幹部養成所に入りその一年後にこのアークレイ研究所に入所して古株の研究員を差し置いて僅か16歳の若さで主任研究員を任せられたほどだ。

ジェームス・マーカス博士が亡くなられて座礁しかけたT-ウィルス研究を引き継ぎその才能で見事完成に漕ぎ着けた。

間違いなく亡き妹のアレクシアに匹敵する天才だろう。

 

(確か資料によればT-ウィルスだけではなく全く新しい()()()()を開発してると書いてあったな)

 

バーキン博士の偉業は何もT-ウィルス開発だけではない。

T-ウィルスを使った生物兵器の提案にT-ウィルスとは全く違う新型のウィルスを造り出してる。

それを考えるとアンブレラ社の最大の功労者と言えるだろう。

 

「それではマーレッド主任。

私は研究の方へ戻ります」

 

「ありがとう。忙しい中時間を取らせて済まなかったな」

 

そう言ってバーキン博士は自身の研究室に戻っていく。

 

「では次にわが社が開発した()()を見せよう」

 

次に紹介するのはこの研究所で造られた商品…生物兵器(B.O.W)の紹介だ。

 

「既に何人かは知っているがもう一度説明しよう」

わが社はバーキン博士が開発したT-ウィルスを用いた生物兵器の製作をしており既に多くの顧客が付いてる」

 

スライドから見せられる生物兵器の写真が次から次へと写される。

 

犬や鮫をベースにした生物兵器や遺伝子組み換えで製作された物などあった。

 

「とは言えこれらは制御面に問題があったり適応出来る場所に問題が有ったりなど実用化までには多くの問題点が存在してる」

 

数多くのBOWが開発されたが問題が多数存在していた。

例えばホオジロザメをベースとしたネプチューン(コードFI-03)は水上では無敵に近い能力を持つBOWだがその性質上、陸上では全くの無力でありまた海水でないと活動出来ないなど問題点が多く失敗作の部類に入ってしまっている。

その他にキメラという人間と(ハエ)の遺伝子を組み込んだBOWが存在するのだが知能が蝿と変わらない為に採用されなかったそうだがヴァルフレアが恐怖したのはその製造方法だ。

簡単に言えば人間の受精卵に蝿の遺伝子を組み込んだ後にソレを()()()()()()()()()()()()()()()()()()という論理感をまるで感じさせないやり方だ…。

あまりにおぞましい方法にヴァルフレアは吐き出しそうになった…。

アルフレッドや他の者も何人かは口元を押さえていたが逆に平然としている者達もいる。

 

辛うじて気分を持ち直しマーレッドの話を聞く。

失敗作が多いが成功またはそれに近い結果を残してるBOWも存在している。

例えば犬種のドーベルマンをベースにしたBOW・ケルベロスだ。

T-ウィルスの影響でゾンビと同じく食欲が暴走していて肉体の外部は腐敗しているが筋肉や運動神経は落ちておらず群れで行動出来たり恐れもないため逃げ出す事もない。

狙った獲物は死ぬまで諦めずトコトン相手を追い詰めていくのだ。

制御面が効きづらい所を除けば完成度が高いBOWと言えるだろう。

そして現在、最も成功しているBOWといえばコードネーム・MA-121、ハンターと呼ばれる存在だ。

 

その姿はヴァルフレアはよく知っている…。

なにせ彼が始めて目にしたBOWでありヴィレーネ内戦で大きく貢献してくれた存在でもあるのだから。

 

「このMA-121はわが社が開発したBOWの中で特に大きな結果を残してくれたBOWだ

高い戦闘能力に簡単な命令なら理解できる知能を会わせて持っているだけではなく低コストでクローンで生産もしやすい

今現在で主力製品と言えるだろう」

 

「それは既に実戦に出ているという事でしょうか?」

 

ヨーロッパ支社から来た研究者は疑問の声をあげた。

 

「勿論。MA-121は君の隣にいるアシュフォード卿の協力のお陰で貴重な実戦データを得ることが出来たのだからね」

 

マーレッドの言葉に全員の視線がヴァルフレアに集まる。

 

「それは光栄です。私の問題解決にも繋がりましたから」

 

居心地の悪さを感じながらもヴァルフレアは感謝の言葉を出す。

今思えばマーレッドとの縁はその頃からだったと思い出す。

理由は分からないが自分(ヴァルフレア)がマーレッドの目に止まった。

あのゲリラの連合軍を片付けられたのも彼の協力があったこそだからだ。

 

「ありがとう。

ハンターの実戦映像に関しては後で見せよう

次が本題だ・・・。これを見たまえ」

 

映像がスライドして次のBOWが写される。

それは人間が見えるが詳細は分からずコードネームはT-001・T-002と書かれている。

 

「今この研究所で最も力を入れて開発しているBOW・・・その名はTyrant(タイラント)だ」

 

タイラント

その意味は暴君を意味をする。

 

「タイラントはT-ウィルスの使ったBOWの頂点であり完成形態を目指して開発している

複雑な命令を遂行する知能とその名に相応しい圧倒的な戦闘能力を持つ人間の姿をした兵器・・・それがタイラントだ」

 

その言葉に周囲はざわめく。

ヴァルフレアもまた小さく唸る。

ハンターだけでもあの戦闘能力だったというのにそれを越えるBOWだというのだ。

 

「とは言え大きな問題を抱えている・・・。

まずT-ウィルスに完全適合する素体の問題だ

ウィルスに完全適合する素体が1()0()0()0()()()()()()ということだ

当然ながらそんな存在はそこらに転がってるものではない。」

 

1000万人に一人という問題はあまりに大きな問題だった。

兵器というのは数を揃える事がとても重要だ。たった一つや二つでは意味がない。

そんなT-ウィルスに完全適合する希少な存在を必要とするタイラントは大量生産に適していない存在だ。

それならまだ戦闘能力が高く量産がしやすいハンターの方が使えるというものだ。

そのためこのタイラント計画は一時期行き詰まったそうだ。

 

「うん? 待ってください。

()()()()()()()()()と言いましたが今は違うのですか?」

 

マーレッドの言葉に違和感を感じたヴァルフレアは質問した。

 

「そうだ。我々は見つける事が出来たのだよ

1000万人に一人という完全適合体という人間をな」

 

その言葉に周囲は大きくざわめいた。

 

「しかしT-ウィルスに完全適合する者は先程仰った希少な存在です。一人や二人ではタイラント製作は出来ても数を揃えなければ兵器としては価値が低いはずです」

 

「その問題も解決してる。

わが社は先進国が持っていない高度のクローン技術の開発に成功しており適合者は対価として自身のクローン十数体をわが社に提供する条件を出して我々もそれを受け入れた」

 

クローン技術

各国も研究しているが人権や論理感などの問題で研究はあまり進んでいないがアンブレラはそんな事は気にせずに研究をして成功を納めていたようだ。

 

「ということはタイラントの大量生産は既に完了しているという事ですか?」

 

「まだだ。調整すべき点があるために十数体だけだ。とはいえ生産を始めるのはそう遠くないがね。

さて長引いたが一旦休憩としよう」

 

説明会は終わり休憩後はタイラントの試作体を見るとの事だった

 

「兄さん。休んでるところ済まないけど少しいいかな?」

 

配膳されたコーヒーを飲んで一息付いてる中、アルフレッドが話しかけてきた。

 

「どうした?」

 

「さっきマーレッド主任が言っていたウィルスの完全適合体なんだけど一体誰なんだろう?」

 

「私もそれが気になった。

その人物は誰でアンブレラにどのような報酬を望んだだろうか?

気になってマーレッド主任に聞いたが機密事項とかで答えてくれなくてな・・・」

 

二人はT-ウィルスの完全適合者は一体何者でどの様な報酬を望んだだろうか気になった。

アンブレラ社の力なら大抵の望みは叶えてくれるだろう。一生大金持ちにだって出きるだろう。

 

「T-ウィルスのワクチン研究に協力して貰いたいがそれは難しそうだな」

 

現在アルフレッドが主導して対ウィルス研究を密かに進めてるのだが如何せんサンプルが少ないために思うように進めてないのだ。

ゼネルティーモも協力してくれてるが彼はガン治療薬の研究があるのであまり手が離せない状況だ。

 

だからこそT-ウィルスの完全適合者に協力して貰いたいのだがアンブレラにとっても重要な存在なのでそう簡単にはいかないだろう。

 

「どうする兄さん? マーレッドにも事情を話して協力して貰おうか?」

 

「いや・・・まだこの事は伏せておきたい。

まだあの人の事は信用出来ないからな」

 

ヴァルフレアはマーレッドという男の狙いが分からなかった。

何故彼はあそこまで自分を買っているのか? 何故ここまで協力してくれるのか?

そこが分からなかった。

 

「アルフレッド。大変だが引き続き研究を内密に続けてくれ」

 

「分かった。ただ今のままでは進展が無いことは覚えていてほしい」

 

「私も出来る限りは協力する。頼んだぞ」

 

そう言い話が終わったアルフレッドはヴァルフレアから離れていき他の研究者と会話を始めた。

 

(今のままでは進展はないか・・・。

こちらも独自に適合者を探すしかないか?

だが1000万人に1人だ・・・。砂漠のど真ん中でちっぽけな針を探すようなものだ・・・どうすれば良い?)

 

何しろアンブレラですら適合者を探すのに相当な苦労をしている中で幸運にも見つける事が出来たがアシュフォード家だけではほぼ不可能に近い・・・。

迂闊に動けばこちらが適合者を探してる事がバレてアンブレラ社が不信感を持ってしまう。

例え見つけてもアンブレラ社に適合者を持っていかれるのが目に見えている。

こちらは拒否できる立場ではないのだ・・・。

 

「諸君。ゆっくり休めたかね?」

 

考え事をしていたらマーレッドは部屋に入ってきた。

時間を見るともう休憩時間は終わっていた。

 

「ではいよいよ諸君にタイラントを見せよう

付いてきたまえ」

 

そう言われ全員が部屋から出ていきマーレッドに着いていく。

 

 

 

 

 

マーレッドに着いていき巨大なエレベータに乗り更に地下深く降りていく。

そして目的地に着いたエレベーターは止まる。

 

「こっちだ」

 

通路から多数の靴音が響く。

そして電子ロック式の扉に暗証番号と指紋と角膜のロックを解除して部屋に入っていく。

 

「ここはB.O.Wを保管する部屋だ。

研究中の物も入ってるがな」

 

巨大な容器には何らかの液体とB,O.Wが詰められている。ゴポゴポと気味が悪い音が部屋中に響く。

 

「よし。開けてくれ」

 

マーレッドの指示に従い部下がコンピューターを操作する。

 

「いよいよだ。刮目したまえ」

 

プシュ-と音が響き渡りケースのシャッターが横にゆっくり開いていく。

 

光に照らされてケースの中身を見えてくる・・・。

まず見えたのは巨大な人影で二メートルは有りそうな巨体だった。

 

左胸に心臓が露出しておりドクンドクンと脈打っていて左腕は巨大で鋭利な爪が指と一体化している。

頭部を見れば指ぐらいの太さの血管が顔を覆っていて唇は無く剥き出しの歯が見える。

 

まさに異形の怪物だった…。

 

「如何かな諸君。これがタイラントだ」

 

マーレッドは回りに声をかけるが全員がタイラントに圧倒されていた。

 

「とはいえまだ実戦段階に入っていないが数値上では今までのBOWを上回る性能を誇っている」

 

「その実戦の試運転はいつ頃です?」

 

「残念ながらまだ未定でね。まだ調整がすんでいない部分もあるからだいぶ先だな」

 

研究員の言葉に答えるマーレッド。

 

タイラントの鑑賞が終わりゾロゾロと部屋から出ていく一行。

 

「さて・・・今回の研修会はこれにて終了する

休憩室に食事を用意してあるので迎えが来るまでゆっくりしたまえ」

 

ようやく長い研修が終了する。

休憩室にはこれまた豪勢な食事をテーブルに乗っておりそれを頂いていく。

 

「お疲れ様兄さん

大丈夫かい?」

 

椅子に座って休んでいたヴァルフレアにアルフレッドが心配そうに声をかけた。

 

「今日は刺激的な一日だったからな…。

正直に言えばかなりまいってしまった」

 

グロテスクな怪物にその製造方法にヴァルフレアにとってはキツすぎる内容だった。

彼は支社の代表として経営だけではなく政治の世界にも関わっているが今回のようなアンブレラの裏の顔を知っていても中身までは見ていないので今日のようにいきなり見せられると精神的に来るものがあった…。

 

「お前は大丈夫なのか…」

 

「僕はロックフォート島の責任者だからね

日頃からああいうのを見てるから…」

 

「そうだったな…」

 

弟のアルフレッドはロックフォート島の研究所の所長としてBOWを日頃から見ているのでそれなりに耐性があったようだ。

弟の逞しさに感心する。

 

「あと少しで帰れるな…。ヴィレーネが恋しくなった」

 

何だかんだであの国に愛着を持ってしまった。

精神的にきつい()()ももう終わりだ。

帰ったらラクーン市長から貰った土産を食べようかと考えてると

 

「ヴァルフレア君、少しいいかな?」

 

マーレッドに呼び掛けられてゲンナリするのだった。




次回 G-ウィルス


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G-ウィルス

「ヴァルフレア君、少しいいかな?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

狂気と悪意にまみれた観光が終わってやっと帰れると喜んでいたヴァルフレアだがマーレッドの呼び掛けに内心ウンザリしながらも顔には出さず返事をする。

 

「ここではなんだ。外に出ないか」

 

そう言われマーレッドに着いていくヴァルフレア。

 

「アルフレッド、また後でな」

 

兄の言葉にアルフレッドは頷き二人から離れていく。

 

「それでなにか?」

 

部屋から出てヴァルフレアはマーレッドに何の用事なのか聞く。

 

「それを説明するためにまずは私に着いてきてほしい」

 

そう言われマーレッドの後に着いていく。

エレベーターに乗り下へ降りていく。

 

「ヴァルフレア君。今から連れていく場所はこの研究所で最重要秘匿に分類される研究をしているところだ

そして今回、君をアークレイ研究所(ここ)に呼んだ真の目的でもある」

 

その言葉にヴァルフレアはやはり…と確信した。

そもそも今回の研修はBOWの開発に関わる者ならともかく自分のような裏の商品に関わってない者には意味がない内容だからだ。

それなのにマーレッドは自分をこの研究所に招いたのは何らかの目的があったと考えるのが当然だった。

 

「先程のタイラントでは無いようですね」

 

「タイラントも秘密に部類に入ってはいるがもうじき量産体制に入るのでね。いずれ全ての研究所の耳に入るから今回の件を利用して見せることにしたのさ」

 

「ではいったい私に何を見せるのです?」

 

「すぐに分かる」

 

エレベーターが止まり二人は通路に進んでいくと厳重にロックされた扉が待ち受けていた。

 

『名前を言ってください』

 

「マーレッド・ギャンドマン」

 

『暗証番号を言ってください』

 

「M3701G1100」

 

『照合中・・・確認が取れました』

 

ガコンと分厚い扉のロックが外れていく。

 

「では行こうか」

 

マーレッドに言われてヴァルフレアは着いていく。

 

部屋に入ると一人の女性がいた。

 

「お待ちしておりました。マーレッド主任」

 

「出迎えご苦労、アネット

ウィリアムは?」

 

「奥で研究しています

こちらへ」

 

アネットと呼ばれる女性はマーレッドとヴァルフレアを案内する。

 

「紹介しておこう。彼女はアネット。

ウィリアムの妻で彼の助手でもある」

 

「お会いできて光栄です。アシュフォード卿

アネット・バーキンと言います」

 

「初めましてヴァルフレア・アシュフォードです」

 

軽く自己紹介して彼女に着いていく。

奥に進むとこれまた広い部屋があり中に白衣を着用した一人の男性がいた。

 

(あれは…ウィリアム・バーキン?)

 

つい数時間前に紹介されたアンブレラが誇る天才科学者だった。

何か熱心に顕微鏡で覗いて目を離せば手元の資料を見たりパソコンでデータを打ち込んでいた。

どうやらこちらに気付いていないようだ。

 

「我々が来ることは伝えたのかね?」

 

マーレッドは少し不機嫌な声でアネットをジロリと見る。

 

「は…はい。ちゃんと伝えたのですが…。」

 

少し御待ちください

そう言ってアネットは部屋に入っていく。

 

「あの男はとても優秀なのだか研究ばかりに集中して用事を忘れるのが問題でね」

 

「そ…そうですか…。」

 

マーレッドは苛ついてるのが分かる。

恐らくだがバーキン博士は何度もこういうことを繰り返してるのだろう。

アネットがウィリアムに話し掛けると慌てて椅子から立ち上がってこちらを見ている。

 

「申し訳ありません…。どうぞこちらへ…」

 

アネットに言われるままに部屋に入る。

 

「ウィリアム…何度同じ事をやれば気が済むのかね?」

 

「すみません…。Gに集中してしまいまして」

 

「言い訳はなどいい。君は研究者だがここの責任者でも有るのだぞ。上に立つ者がそんな事でどうする?」

 

 

マーレッドの言葉に黙り込むバーキン博士。

流石の彼でもマーレッドに怒らせるの不味いと分かっているようだ。

 

「次こそ気を付けたまえ・・・。私も我慢の限界というのがあるのでな」

 

「はい・・・。申し訳ありません・・・

ところでそこにいる彼は?」

 

話を切り替えようとバーキンはヴァルフレアを見る。

 

「数時間前にあったと思うが改めて紹介しよう。

彼はヴァルフレア・アシュフォードといってね。見込みあるので彼にも例の・・・Gーウィルスを見せることにした

 

()()()()()()()・・・!?

それにGを見せるとはどう言うことです! アレは極秘機密だ!

主任とはいえそんな勝手は!? 」

 

「安心したまえ。ヴァルフレア君は部外者に言いふらしたりはしない。私が保証しよう」

 

「信用出来ない! この男は()()()()()()()()の人間なのでしょう! Gは私の研究だ! 誰にも渡さないぞ!!」

 

バーキン博士は癇癪を起こしてヴァルフレアを睨み付ける。

その目は憎しみが籠っていた。

 

(博士のこの目・・・。私が知らないところで何かアシュフォード家に確執が有ったのか?)

 

身に覚えがない憎しみをぶつけられたヴァルフレアは戸惑うばかりだ。

何か言葉を出そうと思案していると

 

「いい加減にしろウィリアム。誰に向かって口を聞いてる?」

 

先に言葉を発したのはマーレッドだった。

静かな口調だが怒りを籠っているのはすぐに分かった。

 

「確かにGはお前の研究だがその()()()()()()()()()()()のは誰のおかげだと思っている?

本来ならお前はTーウィルスを始めBOWの開発に専念しなければならない身だぞ」

 

「・・・」

 

「そのお前にGーウィルスという不確かな物に予算を出し専念出来るようにしたのは誰だ。新たにこの研究室を作りお前専用したのも誰だ? 言ってみろ」

 

「貴方です。マーレッド主任」

 

「そう私だ。

なのに貴様は子供の様に癇癪を起こし私が信頼する人間に暴言を吐き挙げ句の果てに感謝すら忘れてる…。

私を見くびっているのか…? どうなんだウィリアム?」

 

殺意すら感じる静かな言葉にバーキンは冷や汗が流れる。

 

「失礼いたしました・・・お許しを・・・」

 

「私ではなくヴァルフレア君にいいたまえ」

 

「大変失礼しました・・・Mr.アシュフォード」

 

「いえ・・・お気になさらずに」

 

ヴァルフレアもマーレッドの怒りに震えてバーキンの謝罪を受けとる。

やはりマーレッドを怒らせてはいけない存在だと感じた。

 

「それでいい。ではヴァルフレア君にGを見せたまえ」

 

「分かりました」

 

バーキンはそう言って部屋の奥に設置してある棚に向かい

暗証番号を入れてロックを外す。

ケースから試験管を一本取り出し此方に持ってくる。

 

「Mr.アシュフォード。これがGだ」

 

「これがGウィルス・・・」

 

机に一本の試験管が置かれて中には紫色の光る液体が入っていた。

 

 

「それでいったいどの様なウィルスなのですか? Tーウィルスと何か違うのですか?」

 

目の前にあるGーウィルスは一体何なのか?

ヴァルフレアは疑問でいっぱいだった。

 

「G-ウィルスはTーウィルスを越える可能性を持ったウィルスだよ」

 

バーキン博士はヴァルフレアにGーウィルスについて説明をする。

 

「Tーウィルスは感染させた生物を大きく変化させるがその変化には限界がある。

たとえば昆虫や爬虫類とかはTーウィルスに感染しても体の巨大化などはするが進化の袋小路なのか・・・それ以降は一切の変化は起きない。これがTーウィルスの限界とでも言える」

 

だが・・・!

一呼吸を入れてバーキン博士は続ける。

 

「Gーウィルスはその進化の袋小路をたやすく突破出来る力がある!

常に進化を続けて限界を越えてくる!

Gは正に無限の可能性を持つ途轍もないポテンシャルを秘めている! アレクシアも悔しがってるだろう!」

 

「アレクシア・・・?」

 

Gの説明に熱が入ったのかバーキンはアレクシアの名前を出した。

ヴァルフレアは何故、今は亡き妹のアレクシアの名が出るのか理解出来なかった。

先程の憎しみの目はもしかして過去にアレクシアと何かあったのだろうか?

 

「そこまでだウィリアム」

 

混乱するヴァルフレアを置いてマーレッドはバーキンにストップを掛けた。

 

「簡単に言えばGーウィルスは終わりなき進化を続ける物だと思えばいいわ」

 

夫のウィリアムに変わって妻のアネットはヴァルフレアに解りやすく説明をする。

 

「なるほど・・・確かにTーウィルスと違って強力なウィルスだと理解できました

しかし・・・いくつかお聞きして宜しいでしょうか?」

 

一旦アレクシアの事は置いといてヴァルフレアはGーウィルスについて気になったことがあった。

 

「何が聞きたいの?」

 

「このようなTーウィルスを越える強力なウィルスを何故バーキン博士だけで研究を? 他の研究員とかと一緒に研究した方がよろしいのでは?」

 

話を聞く限りだとGーウィルスの研究はバーキン博士と助手のアネットを含めても二人で研究をしてるようだ。

流石にこの人数だけでは研究速度が遅いはずだ。

 

「いくつかあるわ。Gは研究はマーレッド主任から聞いてると思うけど極秘の研究だということよ。アンブレラ上層部でこの研究を知っているのは今のところ総帥のスペンサー会長とここにいるマーレッド主任含めた少人数。

何よりGーウィルスはとても扱いが難しくて研究に着手出来る人はウィリアムだけなのよ」

 

アネットの説明である程度は理解出来たヴァルフレアだがまだ気になる部分があった。

 

「差し出がましいようですが何故極秘にするのです?

何か理由があるのですか?」

 

 

何故Gーウィルスの開発をそこまで秘密にしておきたいのか?

いったいどのような理由なのか分からなかった。

 

「それは・・・」

 

「そこは私が説明しよう」

 

言葉に詰まるアネットの変わりにマーレッドが答える。

 

「Gの開発を秘匿する理由はいくつかある

まずスパイの存在だ」

 

「スパイですか?」

 

「ライバル会社から内部情報を奪われる危険性があってね。特に”裏の商品”がライバル会社に渡るのは何としてでも防がないとならない。

事実、ここ最近ライバル社に雇われた産業スパイが活動していた痕跡があってな」

 

「・・・」

 

産業スパイの活動・・・ヴァルフレアは納得する。

自分も会社の極秘情報(BGー001を始めとしたハーブを使った各種治療薬の配合方法)などに関してはプロを雇って強固なセキュリティシステムを作って対策しているからだ。

 

「そしてもうひとつは面倒なもので()()()()()()()()()()()()()の問題だよ」

 

「政治ですか・・・?」

 

「うむ。このBOWの開発に関しては各支部に派閥があってそれぞれ成果を出して出世しようと必死になっている。

最近はヨーロッパ支部が勢いがあってアメリカ支部であるこの研究所を出し抜こうとあの手この手で策謀を張り巡らせてる程だ」

 

「もしかしてBOW開発している各支部は仲が悪いのですか・・・?」

 

「研究者同士ではそうでもないがその支部を担当している幹部連中は特に仲が悪いな。何しろ上に昇るほど椅子の数は限られているからな」

 

組織というものは必ず権力争いがあるがアンブレラも例外ではないようだ。

特にアンブレラの幹部の地位はそこらの企業なんかとは比べ物にならない価値がある。

そうなれば何としてでも出世しようと躍起になるのは当然だと言えるかもしれない。

 

「そして先程話した企業スパイが関わってくるのだよ」

 

「? いや・・・まさか」

 

「気がついたようだな」

 

ヴァルフレアは先程の話である幹部達の椅子取りの話である事が分かってしまった。

 

「アンブレラの幹部がアンブレラ社の研究所にスパイを送り込んでいるという事ですか?」

 

「正解だ」

 

幹部達はライバルを蹴落とすために相手の不祥事を掴んだりもしくは相手の研究成果を横取りするために自身の手駒からスパイを送り込んできてるのだ。

 

「ということはこのアークレイ研究所も・・・?」

 

「断言は出来ないがその可能性はあるな」

 

「だからGの研究は極秘扱いな訳ですか」

 

Gウィルスの力を考えると他の研究所が横どりを考えても可笑しくない。

だから極秘にしているのだろう。

 

「そうだ。ここ最近は本社の幹部達は視察と表して頻繁にこの研究所に訪れようと躍起になっていてな。

今日来ていた他の支部の研究員達は君と君の弟以外は皆、本社の息が掛かった者達だ」

 

「まさか・・・彼らの本当の目的はGウィルスだったと?」

 

「かもしれないな。

全員ではなく中には本当に研修に来てる者もいるだろう」

 

「・・・」

 

アンブレラ社の規模を考えるとそれなりの権力争いがあると思っていたヴァルフレアだったがまさかここまでとは予想していなかった。

 

もしも本社勤務だったら成果を挙げても間違いなく横どりされていただろうしアシュフォード家の再興も儘ならなかっただろう・・・。

そう考えると数年前、本社ではなく南米のヴィレーネに飛ばされたのは自分にとって幸運だったかもしれない。

僻地だからこそ本社の幹部達に邪魔されずに済んだしアシュフォード家の再興も進みそれなりの影響力を持つこと出来た。

 

(あの時は絶望しかなかったが今だとヴィレーネに飛ばされたのは明るい道筋だったかもしれないな・・・)

 

「Mr.アシュフォード。

他に何か聞きたいことは?」

 

バーキン博士の言葉に思考から目が覚めたヴァルフレアはGウィルスの効力に気になった事があった。

 

「Gウィルスは予測不能な進化をもたらすと聞きましたがそれはつまり()()()()()()ということでは?」

 

ヴァルフレアが気になった事はGウィルスの力である無限の進化の事だ。

聞く限りでは常に進化していき強力な力を持つ生物が誕生するというのだがそれはつまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだった。




次回 Gの価値


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