ようこそ正反対の二人がいく教室へ (ゆうき35)
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1巻
入学①(改定版)


内容更新してます(8/27)


『八幡。チェンジ♪』

 

……

4月。入学式。俺は学校に向かうバスの中、座席に座り本を読んでいた。乗り合わせたほとんどの乗客は、高校生の制服を身にまとった若者たちだ。

 

「席を譲ってあげようとは思わないの?」

 

「実にクレイジーな質問だね、レディー」

 

「君が座っているのは優先席よ。

 お年寄りに譲るのは当然でしょう?」

 

OL風の女性は、優先席を老婆に譲ってやって欲しいと思っているようだ。

 

「あの……私も、お姉さんの言う通りだと思うな」

 

その声の主はOLの横に立っていたようで、思い切って勇気を出した様子で少年に話かける。俺たちと同じ制服だ。

 

「今度はプリティーガールか。

 どうやら今日の私は思いの外、女性運があるらしい」

 

「お婆さん、

 さっきからずっと辛そうにしているみたいなの。

 席を譲ってあげてもらえないかな?

 その、余計なお世話かもしれないけど、

 社会貢献にもなると思うの」

 

パチン、と少年は指を鳴らした。

 

「社会貢献、か。中々面白い意見だ。確かにお年寄りに席を譲ることは、社会貢献の一環かもしれない。しかし残念だが私は社会貢献に全く興味が無い。私はただ私が満足であるならばそれでいい。それともう一つ。このように混雑した車内で優先席に座っている私を槍玉に挙げているが、他にも我関せずと座り込み沈黙を貫いている者は放っておいていいのかい?お年寄りを慮る心があるのなら、そこには優先席か否かは瑣末な問題でしかないと思うのだがね」

 

金髪の言う通りだ。優先座席になんの法的拘束力もない。あくまで同乗者の善意に依るものだ。また、見た目若く健康にみえても内面はわからない。何かしら身体的疾患を抱えている可能性が否定できない以上、他人に指示される謂れもない。

つまり、今、俺一人がこの状況に罪悪感を感じる必要はないと結論づける。Q.E.D。証明完了だ。

 

しかし、少年に真っ向から立ち向かった少女はそれでも挫ける事はなかった。

 

「皆さん、少しだけ私の話を聞いてください。

 どなたかお婆さんに席を譲ってもらえないでしょうか?

 誰でもいいんです、お願いします」

 

少女は臆することなく真剣に乗客へと訴えかけた。

その裏で俺にも目でしっかりと訴えてかけてくる。

 

(八幡。チェンジ♪)

 

これだけの人がいるんだ。まさか俺に気づくはずはないと思っていたが、プリティーガールの笑顔(強制)が俺に向けられる。

 

魔王からは逃れられない。俺は席を立った。

 

「ありがとうございますっ!」

(遅いよ〜。八幡)

 

少女は満面の笑みで頭を下げると、混雑をかき分け老婆を空いた席へと誘導した。老人は何度も感謝しながら、ゆっくりとその席に腰を下ろす。

 

俺の隣にまできた少女なボソッと口にする。

 

「また、一緒だね♪比企谷くん」

 

それから程なくして目的地に着くと、高校生達の後ろについてバスを降りた。目の前にある天然石を連結加工した作りの門が俺を待ち構えていた。東京都高度育成高等学校。

この門をくぐり抜けると3年間外部とは接触できない生活が始まる。

 

「小町……」

 

卒業するまで小町に会えない事を考えると、このまま家に帰りたい思いが強くなる。

 

「退学して帰ってきたら一生口聞かないからね。ゴミいちゃんが東京高度育成高等学校に入学した事友達に自慢しちゃったし。てへっ。あと帰ってくる時お土産忘れないでね。」

 

と言って笑顔で見送ってくれた最愛の妹を思い出す。俺はしぶしぶこれから始まる高校生活に一歩を踏み出した。

 

ええっと俺のクラスは…

 

【Dクラス】

『櫛田 桔梗』

『比企谷 八幡』




比企谷八幡

学力:B
知性:B−
判断力:A
身体能力:B−
協調性:E


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入学②(改定版)

内容更新してます(8/27)


私、『櫛田桔梗』は承認欲求の塊である。

 

同性の中でも恵まれた容姿であることを、私は物心ついたときには理解していた。人よりも記憶力が良かったから勉強だってできた。運動も得意だし、おしゃべりにも自信がある。手先だって器用だし、とっさの出来事に対応する賢さも持っている。

 

じゃあ、私は完璧な人間だろうか?

 

そう問われれば答えはノーだ。

 

私より可愛い子は存在するし、勉強や運動でも1番になれなかった。私は身近な誰かに負ける度、感情が大きく揺さぶられる人間だった。一つ一つのことに負けるたび、私の心には闇がうまれた。激しいストレスで吐いた事もある。

だから私は逃げ道を探した。この苦しみから逃げ出すために。誰にも負けない物が欲しい。尊敬と羨望が欲しい。

 

そんな私が辿り着いた答えは……誰よりも優しく誰よりも親身になる事で、誰よりも多くの『信頼』を得ることだった。感情を押し殺して、偽りの笑顔、偽りの優しさを振りまいた。

そして、私は人気者になった。誰からも好かれる人間になって、他の人には負けない存在になれた。

 

ただ、

今ではそれも人生を彩るためのスパイスにすぎない。

 

中学生の時、心に莫大なストレスを抱えた私はそのストレスを解消するために匿名のブログで吐き出した。それが偶然にもクラスメイトに見つかったが、ある生徒が犠牲になる事でこの件は有耶無耶なまま終息した。

一度拒絶されたクラスメイトと同じ高校に進む気が起きず、担任の勧めるまま東京高度育成高等学校に進学した。

そして、学校に向かうバスの中であの腐り目とアホ毛を見つけた時、私は歓喜した。

 

『比企谷くん……私はあなたの1番になれるかな』

――――――――――――――――――――――――

 

「えー新入生諸君。私はDクラスを担任することになった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの3年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う。よろしく。今から一時間後に体育館にて入学式が行われるが、その前にこの学校における特殊なルールについて説明しよう。今から資料を配布する。」

 

「今から配る学生証にはポイントが振り分けられており、ポイントを消費することによって敷地内にある施設の利用や売られている商品の購入が可能だ。まあ、クレジットカードだと思えばいい。敷地内で買えないものはなく、また学校内でもそれは同様だ」

 

「それからポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。お前たち全員に10万ポイントが平等に支給されているはずだ。なお、ポイントは1ポイントにつき1円の価値がある。それ以上の説明は不要だろう」

 

「意外か? 最初に言っておくが、当校では実力で生徒を測る。倍率が高い高校入試をクリアしてみせたお前たちにはそれだけの価値があるということだ。若者には無限の可能性がある、その評価のようなものだと思えばいい。ただし、卒業後はどれだけポイントが残っていても現金化は出来ないので注意しろ。仮に百万ポイント……百万円貯めていたとしても意味は一切ない。ポイントをどう使おうがそれは自由だ。男子だったら最新鋭のゲーム機が売られているぞ? 女子だったら様々な服屋があるぞ? 自分が使いたいように使え。逆に使わないのも手だな。もしいらないのならば友人に譲る方法もある。……ただし、苛めはやめろよ? 学校は苛めに敏感だから、もし発覚したらそいつには厳重な処分が下る。では、良い学生ライフを過ごしてくれ」

 

茶柱先生はそう締め括って、喧騒に包まれる教室から立ち去った。

 

「ねぇねぇ、帰りに色んなお店見て行かない?

 買い物しようよ」

「うんっ。これだけあれば何でも買えるし。

 私この学校に入って良かったな〜」

 

10万という大金を得た喜びに浸り、浮き足立つ沢山のクラスメイト。その中で俺は先生が言った事を振り返る。要点は3つ。

 

・敷地内で買えないものはなく、学校内でもそれは同様

・ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれる

・当校では実力で生徒を測る

 

ポイントで買えないものはないというのは現段階で未知数だが、この10万ポイントは入学祝であり、これからの生活に必要最低限購入が必要なものの資金として配られたものだろう。普段の生活では3万ポイントもあれば最低限の生活はできる。浮かれて無駄遣いは止めておこうと考えていると

 

「皆、少し話を聞いて貰っていいかな?」

 

やや大きめな声が出された。

スッと手を挙げたのは、如何にも好青年といった雰囲気の生徒だった。

 

「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。

 だから今から自発的に自己紹介を行って、

 一日も早くみんなが友達になれたらと思うんだ。

 入学式まで時間もあるし、どうかな?」



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自己紹介(改定版)

内容更新してます(8/27)


自己紹介……それは俺を代表とするボッチにはただただ自己嫌悪を助長するだけの負け確定イベントであり、できる限り回避すべき事態である。戦略的撤退を考えるも目の前のさわやかイケメン以外クラスメイトの動きはなく、今は機を伺うしかなかった。

 

「賛成ー!

 私たち、まだみんなの名前とか、全然分からないし」

 

一人が口火を切ったことで、迷っていた生徒達が後に続いて賛成を表明する。

 

「僕の名前は平田洋介。中学の時は皆から洋介って言われてたから、気軽に『洋介』って呼んでくれると嬉しいかな。趣味はスポーツ全般だけど、その中でもサッカーが好きで、サッカー部に入部する予定だよ。よろしく」

 

提案者である好青年はスラスラと、非の打ち所のない自己紹介をする。爽やかフェイスにサッカーが合わさることで途端にモテ度が2倍、いや、4倍アップする。平田の隣に居る女子なんて既に目がハートだ。

 

『爆発しろ』

 

「もし良ければ、

 端の方から自己紹介を始めて貰いたいんだけど……

 いいかな?」

 

あくまで自然に、それとなく確認をとる平田。

平田に指名された女子生徒は最初、緊張のあまり上手く喋れなかった。

 

「ゆっくりでいいよ。慌てないで」

 

その声に少しだけ落ち着きを取り戻したのか、はふーっ、ふーっと小さく呼吸を整えようと試みる。そらから暫くして…すらりと自分の言いたい事を言えたようだった。

近くにいた櫛田の助け舟のおかげで、その少女は事なきを得たようだ。

 

自己紹介は続く。

 

「俺の名前は山内春樹。小学生の時は卓球で全国に、中学時代は野球部でエースで背番号は四番だった。けどインターハイで怪我をして今はリハビリ中だ。よろしくう」

 

はいはい。凄い凄い。

 

「じゃあ次は私だねっ」

 

「私は櫛田桔梗と言います。中学からの友達は一人だけなので、早く皆さんの顔と名前を憶えて、友達になりたいと思ってます」

 

中学からの友達は一人だけ?バスで櫛田もこの高校なのを知ったが、他にも俺達のクラスから進学したやつがいるのか。

 

櫛田はさらに続けた。

 

「私の最初の目標として、ここにいる全員と仲良くなりたいです。皆の自己紹介が終わったら、是非私と連絡先を交換してください」

 

「じゃあ次の人──」

 

促すように次の生徒に視線を送る平田だが、その生徒は強烈な睨みを平田に向けた。髪の毛を真っ赤に染め上げた、如何にもな不良少年。

 

「俺らはガキかよ。

 自己紹介なんて、やりたい奴だけでやれ」

 

「僕に強制することは出来ない。

 不愉快な思いをさせたのなら、謝りたい」

 

そう言って平田は頭を深く下げた。

 

菩薩なのか!?

 

「なによ、自己紹介くらい良いじゃない!」

「そうよそうよ!」

「ガキって言うけど、アンタの方がガキじゃない!」

 

さすが平田。あっという間に女子の大半を味方に引き込んだようだ。その反面不良少年をはじめ、男子生徒からは嫉妬に似た怒りを買ったようだった。

 

「うっせぇ。こっちは別に、仲良しごっこするためにココに入ったわけじゃねえよ。」

 

不良少年は席を立ち教室を出ていった。それと同時に数名の生徒も教室をでていく。今がチャンス。この機会を逃さず俺も教室を後にしようとした。

 

「じゃあ次は目が特徴的な君お願いできるかな?」

(逃さないよっ♪)

 

満面の笑みの櫛田さん。またしても魔王からは逃げれないようだ。

 

しぶしぶ自己紹介をする事になったが、奉仕部に入部して、文実・生徒会イベント等を経験してきた俺は可もなく不可もない自己紹介は習得済みである。

 

「名前は比企谷八幡。

 趣味は読書。好きな物はマックスコーヒー。

 これからよろしく」

 

今日は噛むこともなく百点満点の自己紹介を終える事ができた。

 

「えーっと、次の人………

 そこの君、お願いできるかな?」

 

「えー…えっと、綾小路清隆です。その、えー得意な事は特にありませんが、皆と仲良くできるよう頑張りますので、えー、よろしくお願いします」

 

綾小路清隆か。おまえとはうまい酒が飲めそうだw

 

クラスに残った生徒の自己紹介が終わり、入学式に向かおうとすると櫛田から声をかけられる。

 

「比企谷く〜ん。みんなと連絡先を交換してるんだ。

 比企谷くんもお願いしていいかな?」

 

「ほれっ」

 

俺は櫛田に携帯を投げた。

 

「操作方法がわからん。好きにしてくれ」

 

「ふふっ。変わらないね比企谷くん」




始めまして。ゆうき35と言います。
色々な二次創作作品をみさせて頂いて自分なら……という事で投稿させて頂きました。(お酒の勢いで)
想定外に多くの方に見ていただいて感謝感謝です。本サイトの仕様がまだまだわからないので至らぬ所多いと思いますが少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

八幡らしさ・櫛田さんらしさを表現するの難しいですね。既に投稿されている諸先輩方尊敬です。

以下、簡単な設定です。
中学卒業時八幡と櫛田さんは同じ学校に所属しています。堀北さんとの関係ですがクラスメイトすら名前と顔が一致しない八幡は認識していません。
櫛田さんも学級崩壊に至ってないので掘北絶対退学させるガールになってないです。

八幡は奉仕部としてプロム開催まで関わってますが、ゆきのん・ガハマさんと恋仲までは発展してないです。その他の俺ガイルメンバーとは原作どおり。

よう実1巻まではなんとなくストーリーできているのですが、以降八幡らしさを考えると船上試験まで出番がない気が……

よう実の押しは櫛田さん、星之宮先生。俺ガイルはいろはす、はるのんと平塚先生です。(色々拗らせてはないです。きっと)


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八幡くんと桔梗ちゃん①

入学式が終わり、クラスメイトがこれから遊びにいく計画を立てている中、俺はひとり下校した。3年間この学舎で過ごすにあたり重要な施設を確認する為だ。

 

最初に訪れたのはそう書店。国が管轄する施設という事で参考書やおかたい本ばかりではと心配していたが、雑誌・マンガやライトノベルといった娯楽にもしっかりと配慮されているようで安心した。また、品揃えも街の大型書店となんら遜色はないようである。

購入はこの学校の図書館の蔵書を確認してからでも遅くないだろう。無料で借りれる本にポイント使う必要はない。

 

『ない……何処にもないぞ……』

 

次に向かったのは生活必需品購入や夕食準備の為、スーパーやコンビニ。はたまた目につく限りの自動販売機を確認していったが、どこにもマックスコーヒーは見あたらなかった…

 

ポイントがなくなった生徒用の救済処置なのかシャンプーや歯磨き・賞味期限が近づいた食材等無料なものが存在した。食料や消耗品はありがたく頂戴し、フライパンや鍋といった調理器具を中心に購入して寮に向かった。

明日、どこかにマックスコーヒーが売ってないか?先生に確認するしかないか……

 

思っていたより遅く寮の部屋に帰ってきた俺は鍵をあけ扉を開くと驚く事に照明がついており、人の気配がした。

直に部屋番号を確認したが間違いはなく、誰かと相部屋という話も聞いてない。暫く玄関で思考していると中から聞き慣れた罵声が聞こえてきた。

 

「あ……ウザい。マジでウザい、ムカつく死ねばいいのに……山内とか池とかいうヤツなに?初日から胸ばかりジロジロ見てくるなよっ。自己紹介もウケ狙いのつもりなの?あれで女子に相手されるとおもってるのがホント残念」

 

俺は恐る恐る声をかける。

 

「あの櫛田さん?なぜ俺の部屋に??」

 

「あっ。八幡 お帰り〜♪」

 

「た…ただいま……じゃなくて、この状況説明しろ」

 

「うん?」

 

櫛田は可愛く首をかしげる。

クラスの人気者(推定)が男の一人部屋でそういうのやめてもらえますかね。勘違いして告白して、次の日からクラスの晒し者になるまである。ソースは俺。振られるのかよっ!

 

「寮の管理人さんに遠い親戚って言ったら簡単に部屋教えてくれたよ。合鍵もポイント払えば作ってくれるって話だったから作ってもらっちゃた。何か問題ある?」

 

「ここ学校の寮。周り全員同級生。問題大有りだろ」

 

「誰かに見られるようなヘマはしないし、仮に見られても言い訳できる布石はしてるよね。愚痴ぐらい聞いてやるって言ったの八幡だよ。あれ嘘なの?」

 

卒業までのつもりだったのですが……

 

「そんな事より…「そんな事ってどういう意味?」」

無視して続ける

「言い訳できる布石って何の事だ」

 

「自己紹介の時に言ったよね。聞いてなかったの?

 中学からの友達は1人だけって。」

 

「あれって俺の事なのか?」

 

「当たり前でしょ。中学から一緒なの八幡と堀北ぐらいだろうし、堀北はあんなだから友達になれるわけない」

 

全員と友達になる宣言はどうした。

というか、堀北って誰だ。

 

「八幡はどうせ高校でもボッチでしょ。私みたいな美少女と話している所、学校で見られた時、お互いに言い訳は必要だよね?」

 

正論すぎて言い返せん。

 

「分かった。ストレス溜まった時だけだからな。

 そんで、合鍵渡せ。」

 

「やだ」

 

「はぁ〜。ポイントで合鍵作ったらしいけど、来月どれだけ振り込まれるか分からんし、あまり無駄遣いすんなよ。」

 

「えっ!?来月も10万振り込まれるよね?」

 

「誰もそんな事いってねぇだろ。」

 

「だって、今日のHRで茶柱先生が……」

 

「先生が言ったのは『ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれる』ってだけで10万振り込まれるとは言ってない。嘘だと思うなら来月いくら振り込まれるか聞いてみろ」

 

「皆んな10万振り込まれると思っているから、それが本当なら結構ヤバイよね。うん、明日先生に確認してみる。もちろん一緒に来てくれるよね。」

 

「なんで俺「来てくれるよね?」」

 

「はい」

 

マックスコーヒーの確認もあるし、俺は了承した。

 

 

「で、今から夕飯作るけど食べていくか?」

 

「うん!」




「櫛田桔梗」

学力:B
知性:B−
判断力:C+
身体能力:B
協調性:A


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Sシステム(仮)

「1年Dクラス 比企谷八幡です。

 茶柱先生はいらっしゃいますでしょうか」

 

放課後、櫛田と共に職員室を訪れた。

 

「え?サエちゃん?

 えーっとね、さっきまでいたんだけど」

 

振り返った先生は、セミロングで軽くウェーブのかかった髪型の今時の大人って感じの人だ。親しそうに茶柱先生の名前を呼ぶ。年齢も近そうだし友達なのかもしれない。

 

「ちょっと席をはずしてるみたい。

 中に入って待ってたら?」

 

「いえ。廊下で待っています」

 

「私は1年B組の担任、星乃宮知恵っていうの。佐枝とは高校からの親友でね。サエちゃん、チエちゃんって呼び合う仲なんだ〜。凄いでしょ〜。で、比企谷君とそこの彼女は付き合ってるの〜??」

 

「俺と彼女が釣り合うわけないでしょう」

 

(ちっ)

 

「意外かな〜、

 私が学生だったら比企谷くんは放っておかないのに〜」

 

そう言いながら、人差し指で「つんつんっ」とオレの髪の毛(アホ毛)を突ついている。

なぜ俺の周りにいる女性は強化外骨格の持ち主ばかりなんだ。中学時代に鍛えられた結果、このタイプはすぐみわけられるようになった。

 

「あざとい」

 

「あっ…あざといっ!?」

 

(くすっ)

 

「何やってるんだ、星乃宮」

 

茶柱先生が突然現れ、クリップボードの角で星乃宮先生の頭をしばいた。小気味の良い音が鳴り、ちょっとだけ担任に感謝する。

 

「いったぁ!何するのサエちゃん!」

 

「お前がうちの生徒に絡んでいるからだろ。

 悪いな比企谷、

 こいつはこういう奴なんだ、諦めてくれ」

 

「なによ。サエちゃんが不在の間、

 応対していただけじゃない」

 

「放っておけば良いだろ。もう高校生だ、櫛田も一緒にいるだろ。なんのようだ櫛田、比企谷」

 

「茶柱先生、

 来月私達に振り込まれるのは何ポイントですか?」

 

櫛田の問いに職員室の空気が緊張する。

 

「……その質問には答えられない。」

 

「では、ポイントが増減する理由を教えてもらう事はできますか?」

 

茶柱先生は笑みを浮かべながら

 

「それも答えられない。」

 

と回答した。

 

「で、比企谷はなんのようだ。」

 

次は俺の番のようだ。

 

「この学校にマックスコーヒーは売ってますか?」

 

一気に職員室の空気は弛緩し、先生は答える。

 

「マックスコーヒーか聞いた事がないな。

 チエ知っているか?」

 

「私も知らないかな~。売ってないんじゃない?」

 

「では、マックスコーヒーを購入するのに何ポイント必要ですか?」

 

再度職員室に緊張が走る。

 

「説明しろ。比企谷」

 

「昨日先生は『敷地内で買えないものはなく、学校内でもそれは同様』とおっしゃいました。であれば、マックスコーヒーを買う権利も買えると考えたのですが」

 

俺が答えると

 

「はっはっはっ。お前はおもしろい生徒だな。

 マックスコーヒーを買う権利か。

 通常の販売価格で問題ないぞ」

 

「では、ポイントお支払いするので、毎月配達お願いできますか」

 

「わかった。手配しておこう。」

 

「あとこの学校でバイトは可能ですか?」

 

「バイトは認められていない。」

 

「そうですか。わかりました。」

 

「じゃあ〜私のお仕事手伝ってくれるかな〜。頑張ってくれたらおこづかいあげるよ〜。比企谷君おもしろそうだし〜」

 

「いいんですか?では、お願いします。」

 

「チエが初対面の生徒に『あざとい』って言われるなんてな。なかなかおもしろいものを見させてもらった。」

 

「ほんと比企谷君 ひどいよね〜。でも、2人凄いね。たった2日でここまで気づくなんて〜」

 

「Sシステムの全てを理解しているわけではなさそうだがな。及第点だ。」

 

「これはDクラスも侮れないかな。

 下剋上ねらっちゃう?」

 

「そんなわけないだろ」

 

比企谷と櫛田か。大きな期待はしてなかったが、拾いもんかもしれんな。

 

「なんで今日も俺の部屋にいるんですかね?櫛田さん」

 

「作戦会議?

 あと、節約が必要なのもわかったからね。

 ご飯作って♪」

 

「なんで俺が」

 

「専業主夫目指すなら、いい練習になると思わない?」

 

「養われるつもりはあるが養うつもりはない。どうしてもというなら食費の7割と飯が『必要な日』は連絡しろ。それが条件だ。」

 

「う〜ん。八幡なら食材は無料コーナーのものが中心になると思うし……わかった。それでいいよ。ご飯が『いらない日』は連絡するね。」

 

こいつ。毎日来る気か!?

 

「で、八幡はこれからどうするの?」

 

「別に何もしないが」

 

「多分、来月からポイントが減らされる事、知ってるの私達だけだよ?」

 

「支給ポイントが増減する仕組みはわからん。

 他人をあてにするぐらいなら

 節約と小遣い稼ぎで十分だ。」

 

「八幡はそうだよね。私はどうしようかな〜。」

 

「それとなく無駄遣いをしない事。学校生活で気になった事があれば注意していけばいい。仮に来月10万振り込まれても当たり前の事言ってるだけだしな。櫛田なら上手くやれるだろ。振り込まれるポイントが減ってたら、その事に早めに気づいてたけど、確証がなかったから強くは言えなかった。て言えば周りの評価あがるんじゃね。知らんけど」

 

「うん。それがいいな。

 相変わらず悪知恵だけは働くね。」

「実は私より性格悪くない?」

 

「それはない」



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5月1日①

それから3週間。図書館に行き蔵書の確認。かなり充実しており、当面は本を買う必要はなさそうだ。

 

櫛田は毎日のように夕飯を食べにくる。毎度愚痴につきあわされるが、ストレスを溜め込んだ櫛田を相手にするよりはマシだろう。

授業で水泳があった日は愚痴が止まらなかった。正直、男からみても山内・池を含め男性陣に非があるのは明らかだ。この音声を録音して匿名で送りつけたい衝動にかられるが、よくよく考えると櫛田・星乃宮先生の連絡先しか知らないので断念した。

 

星乃宮先生の手伝いは必ずといって二日酔いの時だ。だらしなく机に突っ伏している先生を横目に書類整理等を手伝っている。姉がいたらこんなものなんだろうか。

……

「ちょっと静かにしろー。今日はちょっとだけ真面目に授業を受けて貰うぞ。これから小テストを行う」

 

「え~、ずるいよ佐枝ちゃん先生~」

 

1年D組の生徒たちからブーイングの嵐だ。

 

「そう言うな。今回のテストはあくまで今後の参考用だ。成績表には反映されることさない。ノーリスクだから安心しろ。ただしカンニングは当然厳禁だぞ」

 

問題を確認すると難易度にばらつきはあるが文系科目は楽勝だな。理系科目は知らん。

……

5月1日。今日はポイント支給日だが、端末を見てもポイントは変動していなかった。

 

『まじか』

 

この1ヶ月間クラスメイトを観察していて不安は感じていたが、まさか0ポイントとは思わなかった。俺は普段の生活でほとんどポイントを使用してないのと星乃宮先生の手伝いで余裕はあるが、今日の授業は荒れそうだな。

ーーーーー

《グループチャット:比企谷・櫛田》

 

櫛田:何ポイント振り込まれてた?

 

比企谷:0らしいぞ

 

櫛田:やっぱりか、、、

ーーーーー

授業開始のを告げるチャイムが鳴った。程なくして、手にポスターの筒をもった茶柱先生がやってきた。

 

「これより朝のホームルームを始める。

 が、その前に質問はあるか?

 気になることがあるなら今聞いておいた方がいいぞ?」

 

その言葉を聞き、数人の生徒が挙手した。

 

「あの、今朝確認したらポイントが振り込まれてないんですけど、毎月1日に支給されるんじゃなかったんですか?今朝ジュース買えなくて焦りましたよ」

 

「本堂、前に説明しただろ、その通りだ。

 ポイントは毎月1日に振り込まれる。

 今月も問題なく振り込まれたことは確認されている」

 

「え、でも...振り込まれてなかったよな?」

 

本堂が池や山内に問う。

 

「...お前たちは本当に愚かな生徒たちだな」

 

茶柱先生の纏う空気が変わる。

 

「愚か?っすか?」

 

間抜けに聞き返す本堂に茶柱先生は鋭い眼光を向ける。

 

「座れ、本堂。二度は言わん」

 

「さ、佐枝ちゃん先生?」

 

「間違いなく、ポイントは振り込まれた。

 これは間違いない。

 このクラスだけ忘れられたなんて

 幻想も可能性もない。分かったか?」

 

「はは、分かったよティーチャー。

 このなぞなぞのようなくだらない話の真相が」

 

足を机に乗せ、高円寺が続ける。

 

「要は、今月私たちに振り込まれたポイントは

 0ポイントだった。そういうことだろう?」

 

「は?何言ってんだよ。

 毎月10万ポイント振り込まれるって言ってただろ?」

 

「私はそんな説明を受けた覚えはない。

 どこか間違っているかい、ティーチャー?」

 

「態度には問題ありだが、その通りだ高円寺。

 全く、これだけのヒントをやっておきながら、

 気づいたのが数人とはな」

 

「……あの、先生。質問いいでしょうか。

 腑に落ちない点があります。

 どうしてポイントがゼロだったんでしょうか」

 

クラスのリーダー、平田が手を挙げる。

 

「遅刻欠席、合計98回。授業中の私語や携帯を使用した回数、391回。一月でよくもまあここまでやらかしたものだな。この学校は、クラスの成績がそのままポイントに反映される。この1ヶ月間のお前らDクラスに対する実力を調査した結果、評価は『ゼロ』だ」

 

「ですが先生、僕らはそんな説明は……」

 

「受けた覚えはない、か?」

 

「はい。もし説明を受けていれば、

 誰も私語や欠席なんてしなかったはずです」

 

「それは不思議な話だな平田。お前たちは小、中学校で授業中の私語や遅刻はしてはいけないことだと習わなかったのか? そんなわけがないだろう。その程度のことを説明しないと分からないのか。お前たちが当たり前のことを当たり前にこなしていれば、こんな結果にはならなかった。全てお前らの自己責任だ。大体、高校に上がったばかりのお前たちが、なんの制約もなく1ヶ月に10万もの大金を使わせてもらえると思ってたのか?優秀な人材を育成することが目的のこの学校で?あり得ないだろう。常識を少しは身につけたらどうだ。なぜ疑問を疑問のまま放置しておく?」

 

「このクラスで確認にきたのは

 櫛田・比企谷の2人だけだ。」

 

クラスメイトは一斉に櫛田に目を向ける。

 

「では…せめてポイント増減の詳細を教えてください。

 今後の参考にします」

 

「それは出来ない相談だ。人事考課、という言葉は知っているだろう。ポイントの増減は、この学校の決まりで公開出来ないことになっている。……しかし、そうだな。私も一応お前たちの担任だ。一ついいことを教えてやろう」

 

そう言うと、茶柱先生に一気にみんなの視線が集まる。

 

「お前たちが今後、私語や遅刻を完全に無くし、マイナスをゼロにしても、プラスになることはない。来月も、その次も0ポイントだ。つまり、お前たちが今までやってきた私語も遅刻も、授業中の携帯使用もし放題というわけだ。どうだ、覚えておいて損はないだろう?」 

 

「っ....」

 

話の途中だが、ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

「どうやら、少し無駄話をしすぎたようだ。

 本題に移るぞ」

 

そう言うと、先生は持ってきていた大きな白い紙を黒板に張り出す。そこには、A〜Dクラスの名前が表示されており、その横には数字が書かれていた。

 

「これは各クラスの成績ということ...?」

 

 Aクラスが940。

 Bクラスが680。

 Cクラスが490。

 Dクラスが0。

 

「お前たちは入学してから昨日まで、好き勝手にポイントを使った。もちろん、それを否定する気もない。ただの自己責任だからな。事実、学校側はポイントの使い道に関しては制限をかけなかっただろう」

 

「そ、そんなのあんまりっすよ!

 こんなんじゃ生活できませんって!」

 

「バカが、よく見てみろ。お前たち以外のクラスには1ヶ月生活するには十分すぎるほどのポイントが支給されているだろう。言っておくが、一切不正は行われていない。なぜ、このような差が生まれているのか段々分かってきたんじゃないか?そして、お前たちがDクラスに選ばれた理由が」

 

「え? 理由なんて適当じゃないのか?」

 

「普通そうだよね」

 

「この学校では、優秀な生徒たちとそうでない生徒たちのクラスを順に分けて編成することになっている。優秀な人間はA、ダメな人間はD、とな。つまりお前らはこの学校では最下位。最悪の『不良品』というわけだ。」

「私は逆に感心しているんだ。歴代Dクラスでも、1ヶ月で全てのポイントを吐き出したのはお前たちが初めてだ。立派だよ」

 

 茶柱先生のわざとらしい拍手が教室に響く。

 

「このポイントが0である限り、

 僕らはずっと0ポイントということですか?」

 

「そうだ。だが安心しろ。この敷地内では、お前たちのような不良品のために無料で購入できるものや利用できる施設があるだろ? ポイントがなくても死にはしない」

 

「……俺たちは卒業まで

 ずっとバカにされ続けるってことか」

 

ガン、と須藤が机の足を蹴った。

 

「なんだ、お前にも気にする体面があったんだな須藤。だったら頑張って上のクラスに上がれるようにするんだな」

 

「あ?」

 

「クラスのポイントは、なにも個人に支給されるポイントだけではない。クラスのランクに反映される。つまりお前たちが490より上のポイントを保有していたら、お前らはめでたくCクラス、そしてCクラスがDクラスへと変動する」

 

「さて、もう1つお前たちにお知らせがある」

 

そう言うと、先生はもう一枚の大きな紙を再び黒板に張り出した。その紙には、Dクラス全員の氏名、そしてその右には数字が書かれていた。

 

「いくら馬鹿でも、これが何のことかくらいわかるだろう。先日行った小テストの結果だ。不良品にふさわしい結果だな。お前たちは一体中学で何を勉強してきたんだ?」

「これが本番でなくてよかったな。もし本番だったら、下位7人はすぐに退学になっていたところだ」

 

「は、はあああああ!?」

 

「なんだ説明してなかったか?

 この学校は、赤点を取ったら即退学だ。

 今回で言うと32点未満の生徒は全員対象になる」

 

「き、聞いてねぇよ!退学なんて冗談じゃねえよ!」

 

「私に喚かれても困る。これは学校のルールだ」

 

「ティーチャーの言うように、

 このクラスには愚か者が多いようだねぇ」

 

爪を研ぎながら、机に足を乗せたまま高円寺が微笑む。

 

「なんだと!?お前もどうせ赤点組みだろ!?」

 

「フッ。どこに目が付いているのかね?

 上の方をよく見たまえ」

 

言われて、上の方を見る。

 

すると、高円寺六助の名前があったのは、上位中の上位。点数は90点だ。

 

「そんな、須藤と同じくらい馬鹿だと思ってたのに……」

 

「それともう1つ加えておこう。この学校は高い進学率と就職率を誇っているが、その恩恵を受けることが出来るのはAクラスのみだ。お前らみたいな低レベルの人間が、自由に好きな大学、好きな就職先に行けるなんて上手い話が世の中で通るわけがないだろう」

 

「Aクラスだけ!?そんな話はあんまりですよ!?」

 

そう叫んだのは、眼鏡を掛けた幸村という男子。

テストでは高円寺と同じく90点を獲得している。

 

「みっともないねえ。男が慌てふためく姿は」

 

「お前……不服じゃないのかよ。Dクラスの落ちこぼれに配属されて!しかも、進学も就職も保証されないなんて!納得出来るわけないだろう!」

 

「不服? なぜ不服に思う必要があるのか、私には理解できないねえ。それは学校側が私のポテンシャルを測れなかっただけのこと。私は私自身が誰よりも素晴らしい人間だと自負している。学校が私をDクラスだと判断しようが私には何一つ意味をなさないのだよ」

「それに、私は進学や就職を学校側に頼ろうなんて微塵も考えていないのでね。私は高円寺コンツェルンの後を継ぐことが決まっている。DだろうがAだろうが私にとっては関係ないのさ」

 

将来を約束されている高円寺の言葉に幸村は何も言うことが出来ず、そのまま腰を下ろした。

 

「どうやら、浮かれた気分は払拭されたようだな。中間テストまで残り3週間。精々頑張って退学を回避してくれ。私はお前たち全員が赤点を回避して、退学を免れる方法があると確信している。それまでじっくり考えて、出来ることなら、実力者にふさわしい振る舞いを持って挑むことを期待している」

 

そう言い残すと、扉をピシャリと閉め、茶柱先生は教室を出て行った。




今回システムの説明回になりましたので過去最長になりました。多くの方から評価・感想頂きありがとうございます。

感想に『やらかしてない櫛田がなぜDクラス?』とのコメント頂きました。そーですよね。自分も思ってました。

Dクラスになった経緯ですが

けいじばんに投稿していた事実は変わっていません。サイト発覚後、八幡のおかげでクラス内では犯人がうやむやなまま終息。学級崩壊に至る暴露大会イベントは発生しませんでしたが、学校側(教師)では大きな問題となっており、櫛田さんが第一容疑者と認識されてます。
また、この事件をきっかけに友人との距離感に大きな変化が発生しました。このあたりは今後上手く表現できればと思ってます。

まぁ。普通に考えたらBクラスですけどね。二次創作のご都合主義ということでご理解頂けたらと思います。

一之瀬さん:事件は起こしたが家族を思っての事であり、情状酌量の余地あり。罪の意識を抱えつつ、その後も本質的な善性は変わっていない。

櫛田さん:事件は自身のストレス解消の為であり、発覚後も罪の意識は感じていない。その後の変化により内申点マイナスに


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5月1日②

やっと原作主人公かでてくるらしい。


「なんで教えてくれなかったんだよ。櫛田ちゃん。」

「どういうことか説明してくれるかしら」

「友達なのに内緒にしてたの!?」

 

(はぁぁぁ〜。ウザい。五月蝿い。)

 

茶柱先生が教室をでてから非難と質問攻めだ。

一方、八幡はというと

 

「先生が言ってた比企谷ってこのクラスにいたか?」

「比企谷って誰?」

 

同じクラスで1ヶ月過ごしたにも関わらず全く認知されてない八幡に感心するとともに周りの彼への無関心さに苛立たされる。

 

(人は自分に不都合が起きると簡単に裏切る生き物だ。

 それは親友と言った友人も

 愛を囁いてきた異性も変わらない。

 そんなこと中学時代に実体験を持って学んだ。

 だから私は親も教師も友人も……

 信頼もしなければ期待もしない。

 何がおきても、仮に悪意をむけられても

 何も変わらず接してくれる

 八幡が側にいれば怖いものはない)

 

(茶柱のせいで思っていた流れと変わったが

 システムの一部をこんなクズ共より

 早く把握していたことがバレた時にも

 困らないよう私はこれまで振る舞ってきた)

 

(みんなの櫛田桔梗に綻びがないか確認する)

 

「みんな…少し落ち着いて!

 私は茶柱先生に

 『来月私達に何ポイント振り込まれますか?』

 って質問したの。

 その時、先生の答えは『答えられない』だった。

 嘘だと思うなら先生に確認してもらっていいよ」

 

「確証がなかったんだ…

 だから、みんなを不安にさせちゃいけないと思って

 『無駄遣いはしないほうがいいよ』

 『遅刻は止めようね』

 『授業は真面目に受けよう』

 って伝えてきたつもりだった。

 こんな事になるならもっと強く言うべきだったね。

 私が全部悪いんだね。力になれなくてごめんなさい」

 

私は涙を浮かべて教室をでていった。

今日一日さぼった所で、既にポイント0だしね。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

綾小路side

 

「たしかに何度も櫛田ちゃんに注意されたわ。」

「私も無駄遣いしすぎると後で痛い目みるかもよ。

 って言われた。」

 

ほとんどの生徒が一度は櫛田に注意されていた事を思い出したらしい。その後、教室は櫛田への罪悪感からか誰も声を発する事はなかった。

 

『違和感がある。

 櫛田は社交性に優れており、女子では軽井沢と二分する立場を確立しているし、男子にはその容姿と距離感からアイドル的な人気を得ている。しかし、学校の仕組みに早くから気づき、その事でクラスから非難された時、今のような立ち回りができるタイプには思えない。』

 

茶柱先生はなんて言った。

「このクラスで確認にきたのは

 櫛田・比企谷の2人だけだ。」

 

(比企谷八幡。

 入学して誰かと話をしている所を見た事がない。

 掘北と同様他人を拒絶する人間と思っていたが…

 何度か櫛田と話していた所は見かけた。

 櫛田だからと深く考えなかったが、

 櫛田の裏に比企谷がいるとしたら……)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後、茶柱先生に呼び出され、掘北にAクラスへ上がる為の助力を求められた後、クラスでの話し合いに顔をだした。話し合いは終盤になっており、ちょうど平田が比企谷に意見を求めている所だった。

 

「比企谷君は何かないかな?」

 

「退学を阻止するだけなら簡単だろ」

 

比企谷の発言に興味をもった。

茶柱先生は「退学を免れる方法があると確信している」と言っていた。すぐに思いついたのは、過去問を利用する事。テストの点をポイントで購入する事だ。この短時間で同じ結論に至る生徒がいるとは思ってもいなかった俺は次の比企谷の発言を聞いて唖然とした。

 

「簡単ってどうすればいいのかな?」

 

「クラス全員が0点を取ればいい。おそらく赤点のラインはクラスの平均点の半分だ。全員が0点なら赤点は発生しない。クラスポイントもこれ以上減らないしな。」

 

その答えを聞いて俺は比企谷に強い興味を抱く事になった。



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八幡くんと桔梗ちゃん②(改定版)

櫛田が教室を出ていった後、しばらく経って平田がクラスポイントを獲得する為に放課後話し合いを提案した。

参加するつもりはなかったんだけどな。

 

「比企谷くん、少しいいかな。実は放課後、ポイントを獲得していくために、Dクラスがどうしたらいいか、話し合いを持とうと思ってる。そこに参加してほしいんだ」

 

入学式初日。自己紹介以降、櫛田以外に始めて話しかけられた気がするな。

 

「なんでオレなんだ?」

 

「全員に声をかけるつもりだよ。だけど、一度に全員に声をかけても、きっと半数以上は話半分に聞いて真剣に耳を傾けてはくれないと思うんだ。本当は櫛田さんにも参加して欲しいんだけど…今日はさすがにね。無理に発言しなくてもいいんだ。参加してくれないかな」

 

「わかった」

 

特に放課後の予定はない。俺は平田の提案に了承した。

……

思ったより遅くなったな。結局、櫛田は戻って来なかった。教室から出ていく時の涙……

まぁ。嘘泣きなのはわかっているが、

 

「今日ぐらいは櫛田の好きなもの作ってやるか」

 

そう考えながら下駄箱に向かっていると前から星乃宮先生が歩いてきた。

 

「聞いたよ〜。Dクラス0ポイントだったね〜。

 これから大丈夫?」

 

「いや。先生なんだから知ってたでしょ」

 

「相変わらず八幡くんは細かいな〜。

 でも、櫛田さんと八幡くん早くに気づいてたよね?

 教えてあげなかったの?」

 

「櫛田は注意してましたが、誰も真に受けなかった。

 Dクラスの自業自得ですよ」

 

「八幡くんのポイントは大丈夫?

 厳しかったらお姉さんが援助してあげるよ〜」

 

「最初から節約してましたし、

 バイト分だけで十分です。

 先生に借りをつくると後が怖いんで」

 

「どういうことかな?」

 

「わかってるでしょ?」

 

食材を買い、部屋に帰ると櫛田は俺の部屋で寛いでいた。

 

「遅い。お腹空いた。いつもは学校終わると

 直に帰ってくるのに今日はどうしたの?」

 

「あれがあれでな。色々あった。

 これから飯作るから大人しく待ってろ」

 

料理を作り終え、櫛田と食卓を囲む。

 

「いつもより豪華じゃない?

 食費ほとんど私持ちなんだけど」

 

「今日は俺持ちでいい。」

 

「あれ。もしかして心配してくれてる?」

 

「いや。全く。

 ただ、先生の発言読み間違えたからな。その詫びだ」

 

「気にすることじゃないよ〜。

 八幡のおかげで上手く切り抜けられたしね」

 

「それに入学して1ヶ月たったのに

 みんなから『比企谷って誰?』

 って笑わせてもらったしね。

 私が帰ったあとはどうだった?」

 

「みんな櫛田に注意されてたのを思い出したようだな。

 お通夜みたいだったぞ。

 そのあと平田が話し合い提案して、

 中間テスト頑張ろうって感じで終わったな」

「あと、ついでだ」

 

櫛田の携帯にポイントを送信する。

 

「なにこれ?」

 

「ギャルみたいな女「軽井沢ね」その軽井沢って女がポイント借りてまわってたからな。補填してやれ。それで女子からの評価は取り戻せる」

「男どもは明日謝ってくるから

 笑顔で許してやればいい」

 

「うん。ありがと。八幡は私の事よくわかってるよね〜」

「やっぱり私より性格悪くない?」

 

「それはない。」(よな?)

……

 

「そういえば八幡は中間テストどうするの?」

 

「どうするとは?」

 

「1教科でも赤点なら退学なんだよね。

 八幡が数学で赤点以外なの見たことないよ。」

 

「…………そうだな。」

(小町。お兄ちゃんもうすぐ家に帰れそうだ)



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勉強会①(改定版)

堀北さん登場回です。


「ちょっといいか?」

 

帰り支度をしていた私は綾小路くんに話しかけられた。

(根暗が何のよう?)

私は可愛く見える角度で首を傾げた。

 

「珍しいね。綾小路くんから話しかけてくれるなんて。

 私に何か用かな?」

 

「あぁ。もし良かったら、少しいいか?

 ちょっと教室の外で話がしたい」

 

「この後友達と遊びにいくから

 あんまり時間ないんだけど……いいよ」

(面倒だ。告白とかじゃないよね)

 

嫌がる素振りひとつ見せず、笑顔でついてくる。

廊下の隅に連れて来られた櫛田はわくわくした様子でオレの言葉を待っていた。

(違うよね。違うといってよ。バ〜ニィ〜)

 

「喜べ櫛田。お前は親善大使に選ばれた。」

 

(はへっ?)

 

「これからクラスのために尽力してくれ」

 

「え、えーと?ごめん、どういう事かな?」

 

須藤・山内・池の為に堀北と勉強会を開催する事になったが、本人達の同意を得る事ができなかった。あとで堀北に何を言われるか分からないが櫛田を頼るほかもう術がない。

 

「というわけだ櫛田。協力してもらえないか?」

 

「困っている友達がいたら助けるのは

 当たり前じゃない?だから、手伝うよっ」

(よしっ!八幡の勉強もみてもらおう!)

 

こいつ、良いヤツ過ぎ…。

 

「あ、でも1つだけお願いを聞いてくれる?」

「その勉強会に私と比企谷くんも参加させて欲しいの。

 ダメかな?」

 

小テストの結果を見る限り比企谷に赤点の可能性はなさそうだ。なんで比企谷?と考えていると櫛田が続けた。

 

「比企谷くんとは同じ中学なんだけどね。比企谷くん。中学の時から数学は赤点しか見た事ないんだよ。理系科目だけみると須藤くん達と同レベルか。下手すると下かもしれないんだ」

 

……

 

「ということで、明日から堀北さん達と勉強会ね」

 

「なんで、俺が…「数学?」」

「拒否権あると思う?」

 

「了解した」

 

……

 

「連れてきたよ〜」

 

赤点組(プラスワン)と櫛田がやってきた。

 

「みんながんばろうねっ」

 

「待って、櫛田さんあなたも参加する気なの?」

 

「実は、私も赤点取りそうで不安なんだよね。

 この前のテストも選択問題が偶然解けただけで、

 結構ギリギリで...

 私も参加しちゃダメかなっ...?」

 

「はぁ〜。…わかったわ。

 あと、なぜ比企谷くんもいるのかしら?」

 

櫛田は比企谷の小テストを堀北に渡す。

 

「確かにそうだったわね。失念してた。

 比企谷くん。勉強会に参加しなさい。

 拒否権はないわ。」

 

堀北も以前から比企谷の事、知っているのか??

 

………

「あなたたちを否定するつもりはないけど、

 あまりに無知・無能すぎるわ」

 

「言いたい事いいやがって。

 俺はバスケでプロ目指してんだ。

 勉強なんざ、将来なんの役にもたたないんだよ」

 

「勉強が将来の役にたたない?それは興味深い話だわ。

 けど、実際問題勉強が出来ずに赤点をとり、

 挙げ句の果てには退学になりそうなのに

 これでも関係ないとでも言うつもりかしら?」

 

「っ!」

 

「バスケットでプロを目指す?そんな幼稚な夢が、簡単に叶う世界だと思っているの?この程度の問題もすぐに投げ出すような中途半端な人間は、絶対にプロなんてなれない。今のうちに諦めることをおすすめするわ」

 

「てめえ!」

 

須藤は、堀北の胸倉を掴んだ。

 

「すぐに勉強を…いえ、学校を辞めて貰えないかしら?

 そしてバスケットのプロなんて下らない夢を捨てて、

 バイトでもしながら惨めに暮らすことね」

 

「はっ......上等だよ。やめてやるよこんなもん。

 完全に時間の無駄だ。あばよ!」

 

須藤は勉強道具を片付け始めた。

 

「退学して構わないのなら、好きにするのね」

 

すると、須藤以外の池、山内も片付けを始める。

 

「俺もやーめよ。なんか勉強についていけないのもあるけどさ…正直ムカつく。堀北さんは頭いいかもしんねえけど、そんなに上から来られたらついていけないって」

 

「…堀北さん、あんな言い方じゃ

 誰も一緒に勉強してくれないよ……?」

 

「私が間違っていたわ。ここで赤点を上手く回避できても、またすぐに同じような窮地に追い込まれる。ならば早いうちに退学して貰ったほうがプラスになるということよ」

 

「そ、そんなのって...」

「分かった。私がなんとかする。して見せる。

 皆とお別れなんていやだから」

 

「櫛田さん、あなた本気でそう思っているの?」

 

「...いけない?

 須藤くんたちや池くんたちを助けたいって思っちゃ」

 

「あなたが本心からそう思っているなら構わないわ。

 でも、私にはあなたが、本気で彼らを救いたいと

 思っているようには見えないわ」

 

「何それ。意味分かんないよ。どうして堀北さんは、

 そうやって敵を作るようなこと、

 平気で言っちゃうの?

 そんなの……私、かなしいよ。…じゃあね、三人とも」

 

櫛田までもが立ち去り、とうとう3人だけになってしまった。

 

「勉強会は終了ね。あなたたちはどうするの?

 特別に勉強をみてあげてもいいわよ」

 

「悪いが今日は俺も帰るわ。

 勉強会再開されるなら声かけてくれ。」

 

図書館を後にして、廊下をしばらく行くと後ろから声をかけられる。

 

「比企谷。待ってくれ。」

 

オレは放課後の打ち合わせ以来、比企谷と話してみたいと思っていた。これは良い機会だ。

 

「なんだ……えっと……」

 

「綾小路だ。」

 

「で、綾小路が何のようだ?」

 

「急にこんな事言われても困るかもしれないが、

 俺と友達になってくれないか。」

 

「断る。」

 

こいつもやはり他人と馴れ合わないタイプか。

 

オレは一歩踏み込んでみる。

「それはなぜだ?」

 

「別に俺と友達になりたいなんて思ってないだろ。お前」

 

比企谷は続ける。

 

「お前は他人を見ている時、

 どこか違う所から見ているだろう?

 須藤達といる時も一線引いている。

 そんなやつに『友達になろう』って言われても

 裏があるとしか思えんな。」

 

「もし、俺を利用するつもりなら、

 その時声を掛けてくれれば十分だ。」

「じゃあな。」

 

驚いた。これまで俺と比企谷の接点は全くなかったはずだ。にも関わらずオレの一部を正確に見抜いている。

 

「ちょ…ちょっと待ってくれ。

 比企谷。俺はお前に興味がある。」

 

比企谷は顔を歪めながら

 

「男に興味があると言われてもな………」

 

「いやっ。そ…そうじゃないぞ。

 そういう意味では全くない。」

「お前はオレとは全く違う価値観を持っている。

 俺ができないだろう発想は

 これからクラスに必要と思っている。

 友達じゃなくてもいいから、

 普段から話をさせてもらえないか?」

 

「別に俺は人と会話するのを拒否していないぞ。

 ただ、話しかけられないだけだ。」

 

こうして俺の携帯に始めての男子生徒が登録される事になった。

 

……

「あーウザい。マジでウザい。ムカつく。

 死ねばいいのに…」

「自分がかわいいと思ってお高く止まりやがって。あんたみたいな性格の女が、勉強なんて教えられるわけないっつーの」

 

今日はだいぶ溜まってるなぁ。あれじゃ仕方ないか。

 

「なんとか八幡を勉強会の場に連れ出したのに

 無駄になったじゃないか!」

 

怒ってるのそこ?

 

「ふぅ。すっきりしたー。さて、始めよっか?」

 

「何を?」

 

「勉強に決まってるでしょ。今夜から毎晩やるからねー。

 ぜっったいに退学にはさせないから」




堀北さんと八幡は中学時代接点はありません。堀北さんが一方的に知っている関係です。
堀北さんは中学から成績上位でしたが、八幡に国語・英語の2科目で1位の座を明け渡してしまいます。
それから勝手にライバル視しています。
文系科目は勝ったり負けたりを繰り返しましたが総合評価には全く登場しない為、理系科目は苦手なんだろうと思ってました。


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勉強会②

つなぎの回です。ストーリーだけ進みます。


「正直に言うわ。私はあなたのことが嫌いだったわ、須藤くん」

 

「なっ!?」

 

「最初はあなたのことをロクな努力をせず、バスケに対しても真摯な態度で望むことの出来ない人だと思っていた。けれどあなたはバスケットに情熱を注いでいるのはよく分かったわ。そんなあなたがバスケットのプロを目指す道の厳しさを理解していないわけがない」

 

「あぁ、でもどれだけ厳しい道だったとしても俺はぜってぇあきらめねぇ」

 

「そう。私はあの時、あなたのことを理解しようともせずに頭ごなしに否定したわ。けど今は後悔している。なにも考えずにあなたを否定してごめんなさい」

 

堀北が須藤に謝罪すると、次に池と山内に顔を向けた。

 

「私は、あなた達にもひどいことをいったわ。今さら自分勝手だとは分かってる。けれど私はあなたたちを理解するための努力をしていくつもりよ。だから3人とも私に力を貸してほしい」

 

「...やっぱり俺は参加しねぇ」

 

須藤が立ち上ろうとする。やはり一度プライドが傷つけられたことに納得がいってないようだ。

 

「なぁ櫛田。もう彼氏は出来たのか?」

 

不意に綾小路が櫛田に場違いな質問をぶつけた。

 

「えっ?えっ?いないよ、っていうかいきなりなに!?」

 

「50点取ったらオレとデートしてくれっ」

 

綾小路がしゅばっと手を差し出す。

 

「は!?おま、なに言ってんだよ綾小路!?俺とデートしてくれ!51点取るし!」

 

「いやいや俺だ!俺とデートを!52点取って見せるから」

 

「こ、困ったなぁ......。私、テストの点数なんかで人を判断しないよ?」

 

「ほら、勉強を頑張ったご褒美みたいなものが欲しいんだ。池と山内も乗り気みたいだしさ」

 

「じゃ、じゃあこうしない?テストで一番点数の良かった人と、そのデートするってことでいいなら」

 

「うおおおおおおお!!!やる!やるやる!やります!」

 

「なぁ、須藤。お前はどうする?これはチャンスかもしれないぞ?」

 

綾小路が須藤に向かって言う。

「.......デートか。悪くねぇ。ったく、仕方ねぇな....俺も参加してやる」

 

「覚えておくわ、男子は想像以上に単純でくだらない生き物だということを」

 

【From:櫛田桔梗

 

 必ず一番になれ】

 

【From:比企谷八幡

 

 いや。俺 会話に参加してないけど?】

 

【From:櫛田桔梗

 

 ねじこむから問題ない】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

木曜日。いよいよ、明日はテスト本番だ。ホームルームを終え茶柱先生が教室を出た後、櫛田が立ち上がった。

 

「皆ごめんね。帰る前に私の話を少し聞いて貰ってもいい?実は私、先輩から過去問を貰ったから皆に配ろうと思ってたの」

 

渡された過去問を見る。小テストと過去問を見比べてみるとほぼ同じだ。櫛田曰く、中間テストの内容もこの過去問もほぼ一緒らしい。

 

「スゲーよ!櫛田ちゃん!」

 

「これは他のクラスのやつには内緒にしようぜ!全員で高得点とってびびらさせるんだ!」

 

周りは皆櫛田に感謝し、堀北も素直に礼を言う。これがあればDクラスが他のクラスを出し抜くことも考えられる。



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中間テスト①

テスト本番の日がやって来た。櫛田から貰った過去問の影響か、Dクラスの生徒たちの顔は自信に満ちあふれている。

 

「さて、お前たちに最初の関門がやってきたわけだが、質問はあるか?」

 

「僕たちはこの数週間真面目に取り組んできました。このクラスで赤点を取る生徒はいないと思います」

 

「随分な自信だな、平田。もし、お前たちが夏休みまでに退学者を出すことなく乗りきることができれば夏休みにはバカンスに連れてってやろう」

 

「ば、バカンス?」

 

「ああ。青い海に囲まれた島で夢のような生活を送らせてやろう」

 

「な、なんだこの妙なプレッシャーは...」

 

「皆.....やってやろうぜ!」

 

「「「うおおおおおおおおお!!!」」」

 

全員に問題用紙が配布され、合図とともにテストが始まった。

 

「案外楽勝だな!」

 

「ああ、これなら120点も夢じゃないぜ!」

 

「須藤くんはどうだった?」

 

櫛田は須藤に声を掛けるが、集中しているのかその声は聞こえていないらしい。

 

「須藤くん?」

 

「……あ?ああ、わり、ちょっと忙しい。」

 

「須藤、もしかして過去問やらなかったのか?」

 

「英語以外はやったんだ。でも寝落ちしたんだよ」

 

「「「ええっ!?」」」

 

「くそ、なんか全然頭に入らねえ……」

 

「須藤くん、配点の高い問題と、答えの短い問題を覚えましょう」

 

「お、おう」

 

堀北は少しでも点数をあげるため、配点の高い問題や答えの短い問題を須藤に教えている。が、それでも状況はあまりよろしくない。

 

仕方ないか。

 

「桔梗……頼めるか?」

 

「うん♪分かった」

 

……

 

「な、なぁ大丈夫か?」

 

「わかんねえ……やれることはやったがよ...」

 

池が不安そうに訪ねる。そして答える須藤も不安を感じているようだ。

 

「須藤くん」

 

「……なんだよ、説教か?」

 

「過去問をやらなかったのは完全にあなたの落ち度よ。でも、あなたは部活を休んでまさに全身全霊を込めてあの1週間を乗りきった。自信を持っていいわ」

 

「んだよそれ、慰めか」

 

「私は慰めなんて言わない。事実を言ったまでよ。あなたの苦労は私が一番理解しているつもりよ。だからもう一度言わせてもらうわ、須藤くん。あなたがこのDクラスの中で誰よりも立派だった。それだけは絶対に忘れないで」

 

「私が言いたいことはそれだけよ。...お疲れ様。」

 

「や……やべえ……俺……堀北に惚れちまったかも……」

 

……

 

茶柱先生が教室に入るとDクラスの生徒たちの顔が強ばった。

 

「先生、今日は中間テストの結果が発表されると伺っていますが、それはいつですか?」

 

「お前はそこまで気を張る必要はないだろう、平田。あれぐらいのテストは問題ないだろう?」

 

「......教えてください」

 

「喜べ、たった今発表する。放課後だと手続きが間に合わないこともあるからな」

 

「それは……どういう意味でしょうか」

 

「慌てるな。今点数を発表する」

 

茶柱先生はそう言って、以前の小テストの結果発表の時と同様、大きな紙を五枚張り出した。

 

「正直に言って、感心した。お前らがここまでの高得点を取るなんてな。満点が10人以上いる科目もあるぞ」

 

一番上には100点の文字がずらりと並ぶ。その光景に、生徒たちは歓喜の声をあげる。

 

英語の順位表を上から下に見ていく。

須藤の名前の横には、39点と表示されていた。

 

「っしゃ!!」

 

須藤が立ち上がり、池や山内たちもそれに続くように立ち上がる。

 

「ああ。お前たちが頑張ったことは認めている。ただ、お前は赤点だ。比企谷」

 

(バカ…)



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中間テスト②

ギリギリのラインを狙いすぎたか。もう少し赤点ラインに余裕があると思っていたが、過去問の存在は大きかったのだろう。

結果は結果だ。受け入れて机の整理を始めると綾小路と堀北が教室を出ていった。

 

ちっ。櫛田にメールした後、彼らを追いかけた。

 

【From:比企谷八幡

 

 ポイント貸してくれない?】

 

【From:櫛田桔梗

 

 死ね】

 

……

 

「どうした、綾小路。もうじき1限目が始まるぞ?」

 

「茶柱先生、答えて欲しいことがあります」

 

「今の日本は…社会は平等であると思いますか?」

 

「随分とぶっ飛んだ質問だな、綾小路。答えよう。私なりの見解で言えば、当然、世の中は平等なんかではない。不平等だ。」

 

「はい。オレもそう思います」

 

「何が言いたい?」

 

「オレたちのクラスには一週間テスト範囲変更の遅れがありました」

 

「その件に関しては職員室でも話したはずだが?」

 

「世の中は不平等であるが、平等にあらなければならないとされている」

 

「なるほど、学校に不平等を起こした分の対応を取れということだな?だが嫌だ、と言ったら?」

 

「それが正しいジャッジなのか、然るべきところに確認を取るまでです」

 

「惜しいな。お前の言い分は何一つ間違っていないが、その申し出は受け入れられない。比企谷は退学だ。現段階ではそれは覆らない。諦めろ」

 

やはり含みのある言い方だ。現段階では覆らない。それは他の手段があると暗に示している。ここでも俺たちに何か気づかせようとしているのか。

 

「茶柱先生、単刀直入に聞かせてもらいいます。比企谷のテストの点数を一点売ってもらえませんか?」

 

すると茶柱先生は笑いながら答える。

 

「やはりお前は面白いやつだ。いいだろう。特別に10万ポイントでいいぞ。この場で支払えるなら売ってやろう。どうだ?」

 

「私も出します」

 

背後に振り返るとそこには堀北が立っていた。

 

「いいだろう。比企谷に一点を売るという話確かに受理した。お前達から退学取り消しの件伝えておけ」

「そうだ。お前達に1ついい事を教えてやろう。比企谷は入学2日目でポイントで購入できる事に気づいていたぞ。」

 

堀北とともに教室に戻る途中、比企谷が立っていた。

 

「おい。いくらだった?」

 

「なんの事かしら。」

 

「お前達が俺の点数を買ったポイントだ。」

 

やはり茶柱が言ったようにポイントで点数が買えることは把握していたか。

 

「で、いくらだ。」

 

「10万ポイントよ。」

 

それを聞くと比企谷は携帯を操作した。

 

「今、綾小路に10万送信した。それで、今回の件はチャラだ。」

 

「そんなわけな「いや。確かに10万送信されている。」なんですって!?」

 

「俺は養われるつもりはあるが施しを受けるつもりはない。」

そう言って教室に戻ろうとした。

 

「比企谷くん」

 

「なんだ?」

 

「Aクラスに上がる為、私達に協力してくれないかしら?」

 

「なんで?」

 

「あなたはDクラスのままで不満はないというの?」

 

「ないな。仮にAクラスになったとしても俺の希望は叶えられない。」

 

「あなたの希望って何?」

 

「専業主夫」

 

「えっ?」

 

はっ?専業主夫??

 

「仮にAクラスになっても、俺が専業主夫になる為に国がなんらかの斡旋してくれることはないだろう」

「だから積極的にAクラスを目指す理由がない。」

 

俺も堀北も何も言えず比企谷を見送る事しかできなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あれはどういう事かな?」

 

「なんのことだ」

 

「英語の点」

「バカを助けてやるギリはないし、

 頼まれてたわけでもないよね?」

 

「櫛田が言ったんだろ?」

 

「はぁぁぁ〜??何を「分かった。私がなんとかする。して見せる。皆とお別れなんていやだから」っ!?」

 

「実際、須藤を助けたのは櫛田と堀北だ。」

「俺は少しお前を手伝っただけだ。」

 




食費は無料コーナー&ほぼ櫛田さん持ち。星乃宮先生からの不定期収入で10万ポイントは所持してました。


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祝勝会

「カンパーイ!」

 

中間テストから一夜が明け、その次の夜、勉強会メンバー(比企谷以外)は綾小路の部屋に集まっていた。

 

「どーしたんだよ、そんな暗い顔して。みんな退学にならずに済んだんだぜ?」

 

「それはよかったと思うし、それで祝賀会を開くってのは賛成なんだが、どうしてオレの部屋なんだって思って」

 

「俺の部屋は散らかってるし、須藤と山内も似たような理由。女の子の部屋はさすがにマズいだろ?いや、俺としては櫛田ちゃんの部屋とかがいいけどさあ。……にしても綾小路の部屋は何もないよな」

 

「入学して二月ちょっとだぞ?しかもポイントも0だったんだから何かあるって方が不思議だ」

 

「櫛田ちゃんはどう思う?」

 

「うーん、やっぱり綺麗な方がいいよね」

 

「だってよ!よかったな櫛田ちゃんに褒められて。ははははっ」

 

「それにしても本当に危なかったよな、中間テスト。もしも勉強会を開いてなかったら俺はともかくとして、池と須藤は絶対赤点だったよなあ」

 

「は?お前だってギリギリじゃねーかよ」

 

「いやいや?俺は全力出せば満点だし。マジでマジで」

 

「でも、これも堀北さんのおかげだよね。みんなに勉強を教えてくれたんだもん」

 

「私はただ自分のためにやっただけ。退学者が出るとDクラスの評価が下がるからよ。別にみんなのためじゃないわ」

 

「そこは嘘でもみんなのためって言っておくところだろ。好感が上がるぞ」

 

「まあ……でもよ、案外いいヤツだよな。堀北は」

 

……

 

祝勝会も終わり最後まで部屋の片付けを手伝ってくれた櫛田と2人になった。

 

「うん。これでだいたい終わりかな。綾小路くん他に手伝える事ある?」

 

「十分だ。あとはオレ一人でも大丈夫そうだ。」

 

「わかった。今日は遅くまでごめんね。じゃあ、そろそろ帰るね。」

 

部屋に櫛田と二人。この機会をみすみす逃すわけにはいかない。オレは意を決して櫛田に話かける。

 

「もう少しだけ大丈夫か?櫛田」

 

「うん。大丈夫だけど、何かな?綾小路くん」

 

「櫛田は比企谷と同じ中学だったな。比企谷について教えてくれないか?」

 

「比企谷くん?う〜ん……と言われてもみたままだと思うけど……」

 

「質問を変えよう。今回の英語の点数だが、櫛田は53点だったな。あれはなぜだ?先に過去問は渡していたし、実力というわけではないだろう?」

 

「……別に秘密でもないし……綾小路くんならいいか。比企谷くんに頼まれたからだよ。」

 

「打ち合わせの時には赤点の仕組みに気づいていた比企谷の事だ。須藤を救うために平均点を下げようとするのは分かる。」

「だが普通は間違っても退学にならないよう50点以上は確保するはずだ。」

「普段からクラスに関わろうとしない、須藤とも特別仲がいいわけでもない比企谷がなぜあの点数だったのかが分からない。」

 

「と言われても……比企谷くんだからかな?」

 

「比企谷だから?」

 

「比企谷くんは誰かを助けるために自分が犠牲になる事を厭わない。彼が救おうとしている中に彼は含まれていないんだよ。だから、綾小路くんが動かなかったら退学するつもりだったんだと思う。」

「今回私も綾小路くんに感謝してるよ。」

 

「もう一つ聞かせてくれ。」

「櫛田にとって比企谷は何だ?」

 

「もちろん!1番大事な人だよっ。」

 

そう答えた櫛田の笑顔はいままで見たことのない

[ホンモノ]だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「将来の目標は専業主夫らしいが本当なのか?」

 

「紛れもなく本心だよっ」

 

 

 




この回で1巻完結です。ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございます。
先の回でも書きましたが1巻分のストーリーは思い描いていましたので、休日を利用して一気に投稿してしまいましたが、2巻以降は全くのノープランです。

当初考えていたより多くの人に読んで頂き、様々な感想も頂きましたので続けれるよう努力したいとは思います。


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2巻
暴力事件(一話完結)


幕間(趣味回)を予定してましたが、内容がまとまらず2巻に進みます。


「おはよう諸君。今日は空気が違うな」

 

ホームルームの開始を告げる音とともに、茶柱が教室へと入室してきた。

 

「佐枝ちゃん先生!俺ら今月もまたポイントゼロだったんすか!? 俺たち結構頑張ったと思うんですけど...朝見たらポイントが何一つ変わってなくて....」

 

「勝手に結論をだすな、池。お前たちが頑張ったことは、学校側もしっかり把握している」

 

「では、今月のクラスポイントを発表する」

 

茶柱先生は持ってきていた紙を取り出して、黒板に貼り付ける。それを見ると

「87ってことは……プラスってことだよな!よっしゃあ!」

 

池が歓喜の声をあげ、他の生徒も沸き立つ。

 

「池、2カ月ぶりのポイントで喜ぶのはわかるが他のクラスのポイントを見てみろ。お前たちと同等か、それ以上のポイントを増やしているだろう。今月はテストを乗り切ったお前たちに対するご褒美のようなものだ。全クラスに最低100ポイント支給されただけにすぎない」

 

「そういうことですか。どうりで全クラスのポイントが綺麗に上昇していると思いました」

 

堀北が茶柱先生に向かって言う。

 

「堀北は嬉しくないようだな」

 

「そんなことはありません。この結果から分かることもありましたから」

 

「え、なんだよ分かることって」

 

「私たちに負債はなかったってことよ」

 

「え、負債?」

 

平田が補足する。

 

「これまで4月や5月に重ねてきた私語や遅刻は見えないマイナスポイントにはなっていなかった、ということだと思うよ」

 

「そっか。見えないマイナスがあると今月もゼロのはずだもんな」

 

「あれ?でもじゃあなんでポイント振り込まれてないんすか?」

 

「少しトラブルがあってな。1年全体のポイントの支給が遅れている」

 

「えー、学校側の不備なんだから、お詫びのポイントとかないんですかあ?」

 

「そんなことを私に言われても困る。判断するのは学校側だからな。トラブルが解決され次第、問題なくポイントは支給されるはずだ。ポイントが残っていれば、の話だが」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その夜、いつもより遅い時間に櫛田が部屋にやってきた。

 

「あの赤髪殺す……中間テスト1人の力で乗り切ったとでも思ってんのか!?」

 

部屋に入るなりアクセル全開。ブレーキが壊れているまである。

 

「あの?櫛田さん??」

 

「聞いて!!八幡!!!」

 

放課後、櫛田達は須藤に呼ばれてトラブルの内容を聞かされ、助力を求められたようだ。

 

「で、どうするんだ??」

 

「須藤はどうでもいいけど、ポイントがなくなるのは困る。協力はするつもり。須藤はどうでもいいけど。」

 

「今回の件、相当やっかいだぞ。」

 

「うん……。進展あったら相談するね。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次の日、須藤の意に反して全クラスに先生からトラブルの内容が告げられた。

 

「みんな、少し私の話を聞いてくれないかな?」

 

櫛田が立ち上がった。

 

「確かに須藤くんは喧嘩をしちゃったかもしれない。けど本当は巻きこまれただけなの」

 

「巻き込まれたって、櫛田ちゃんは須藤の言ったことを信じるのかよ?」

 

「改めて聞くよ。もしもこのクラスの中や、友達や知り合いに目撃者がいたなら、連絡してほしいな。よろしくお願いします」

 

そう言って、櫛田は頭を下げた。

 

「僕は信じたい」

 

そう言って立ち上がったのは、平田だった。

 

「他のクラスの人を疑うならわからなくもない。でも、同じクラスの仲間を信じてあげられないのは間違ってると思う。精一杯協力してあげられるのが友達なんじゃないかな?」

 

「私もさんせー」

 

平田の言葉に女子のリーダー格の軽井沢が賛同の意を示した。

 

クラスのリーダーの平田、女子のリーダーの軽井沢。そしてみんなのアイドル櫛田が須藤を擁護する形に回ったため、他のクラスメイトたちもそれに続いた。

 

今後の対応をクラスで話し合ったが、今回の件、できる事は少ない。結果、目撃者探しを手分けして行う事になったらしい。

 

……

それから2日。綾小路はBクラスの協力を取り付けたようだが有力な手がかりは未だ見つかっていない。

 

「はぁ…今月もポイント0かぁ〜」

「事件の目撃者どこかにいないかなぁ……」

 

「目撃者ならいるだろ?」

 

「えっ。どういう事??」

 

「少なくともうちのクラスの地味眼鏡美少女は目撃者だと思うぞ。先生の時も櫛田が皆に呼びかけた時も、目を伏せるようにしてたからな。」

 

「地味……?眼鏡……??美少女……???

 もしかして佐倉さんの事?」

 

「名前は知らん」

 

「ううん。きっと佐倉さんだよ。明日聞いてみる。」

 

「やめといたほうがいいぞ。」

 

「はっ?何で??」

 

「本人が今まで申し出ていないのは、理由があるんだろ。他人がとやかく言う事じゃない。」

「それに、この段階でDクラスの生徒が目撃者でした。って言っても信憑性は低い。やるだけ無駄だ。」

 

「じゃあ…八幡ならどうするの??」

 

「そもそも櫛田はどうしたいんだ?」

 

「クラスポイントを守りたい♪」

 

「それは無理だ」

 

「なんでよっ」

 

「みんなは須藤がはめられた事を証明するために目撃者を探しているが論点がズレている。」

 

「どういう事?」

 

「仮に須藤が嵌められた事が証明できてもCクラスの生徒を殴ったことは認めちまっている。この時点で負けは確定だ。今すべき事は真実を明らかにする事ではない。

どうすれば減刑になるかを考えるべきだ。」

 

「そういうこと……八幡は手伝ってくれないの?」

 

「今回に関して、俺にできる事は何もない。」

 

「じゃあ…仮に嵌められたのが須藤じゃなく八幡だったらどうするの。」

 

「呼び出されても行かないが??」

 

「仮にだよっ」

 

「高円寺か綾小路に頼んで、山内と池をぼこぼこにする。」

 

「っ。なんでっ?!」

 

「で、Cクラスの女子にキモいって言われて殴られました。と訴えさせる。」

 

「いや。キモいのは事実だけど、他は嘘だよね?」

 

「誰も嘘だと証明できんだろっ。今回の件と同じだ。」

 

「でも、また嫌がらせされるかもよ?」

 

「かまわん。同じ事を繰り返すだけだ。どうせなくなるポイントなんて微々たるものだ。Dクラスはずっと貧乏ぐらしだからな。失うものなんてないだろ?そのうち勝手にCクラスが白旗あげてくれる。」

 

「ワタシ……何があっても八幡を敵にしないようにするよ」

 

……

 

その後、2回目の裁判前にCクラスが訴えを取り下げたらしく、この件はお咎めなしで終わった。

 




【From:櫛田桔梗

 さっき綾小路から連絡がきて
 佐倉さんが目撃者なのか
 確認させられる事になった】

【From:比企谷八幡

 ご愁傷様(笑顔)
 で、佐倉って?】


【From:櫛田桔梗

 地味眼鏡美少女】


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幕間①
八幡くんと桔梗ちゃん③


「デートいつにする?」

 

「はぁ?デートって何のことだ??」

 

「中間の時に約束したよね。」

「テストで一番点数の良かった人とデートするって。

 八幡が1番だよね?」

 

「3バカとデート回避する為の方便だろ。本当にする必要はない。それに櫛田と俺が休日一緒にいたら困るのおまえだろ」

 

「大丈夫だよ。じゃじゃ〜ん」

 

と言って取り出したのは眼鏡ケースとヘアワックスだった。

 

「八幡の見た目は腐り目8割・アホ毛2割でできてるんだよ!」

「だから、これを使えば誰も八幡ってわからない。」

 

「そんなわけないだろっ。」

 

「………残念だけど、そんなわけあるんだよ。」

 

……

 

デート当日櫛田に渡されたワックスで髪を整え、眼鏡をかけて待ち合わせ場所に向かった。鏡で自分の姿を確認したが別に何も変わらんだろう

 

【小町の教え①

 必ず女の子より早く待ち合わせ場所に到着する事】

 

少し早く寮を出て、待ち合わせ場所で待っていると、普段と違い周りの女生徒から視線を感じる。

 

「この学校にあんな生徒いたっけ?」

 

「超タイプ。声かけてみよっか?」

「あ……あの………「ごめ〜ん。待った??」」

 

今、誰かに話しかけられた気もするが、ようやく櫛田が現れた。

 

「少しだけだな。」

 

「もう。そこは『俺も今来たたところ』って言う所だよっ。」

 

「そっ。そうなのか」

 

「でも、待っててくれたのはポイント高いよっ」

「今日はこれからどうする??」

 

「櫛田が行きたい所でいいぞ。俺は勝手についていくから」

 

「えっ?何も考えてきてないの?」

 

「無いな。」

 

「はぁぁぁ〜八幡だから仕方ないか。あと、今日は私の事『桔梗』って呼んでくれるかな?」

「いつも通り櫛田だと会話を聞かれた時に八幡ってバレるかもしれないでしょ?」

 

「そんなもんか?」

「そうだ。くし…「桔梗!」き…桔梗さんっ。1つお願いがあるんだが………途中でいいから、桔梗のジャージ買いにいかないか?」

 

「いいけど。なんで?」

 

そう聞くと八幡は遠くを見ながら答えた。

 

「たまに目のやり場に困る」

「特別に俺の部屋に置いてもらっても構わない。」

 

櫛田はからかうような目をこちらに向けながら

「私は気にしないけど?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『八幡くんと清隆くん①』

 

「今度の日曜日遊びに行かないか?」

 

「??誰と??」

 

「オレと比企谷でだが?」

 

「なんでお前と?」

 

「前にも伝えたが、オレは比企谷に興味をもっている。もっと比企谷の事知りたいんだ。」

 

男に言われてもうれしくないんだが……

 

……

 

「よう」

 

「おう」

 

結局、次の日曜日綾小路と遊びに行くことにした。

 

「「…………………」」

 

綾小路と合流してから10分お互いに動きがない。

 

「これからどうするんだ?」

 

「普通どうするものなんだ?」

 

「知らん。」

 

「「…………………」」

 

「はぁ〜。綾小路は何か得意なものあるのか?」

 

「基本的にできない事はないんだが……」

「あえてあげるなら『チェス』だな。」

 

「なら『チェス』を教えてくれ。」

「チェス盤はお前が買え。この前10万渡したからポイントはあるだろう?」

 

「それは構わないが、なぜチェスなんだ」

 

「相手の事知るならテーブルゲームがちょうどいいだろう。あと、お互いしゃべらなくていいしな」

 

 

 



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3巻
無人島試験①(改定版) ※特別試験説明回①


説明回① よう実読書の方は後半読み飛ばしてもらって大丈夫です。次回も説明回続きます。


常夏の海。広がる青空。澄み切った空気。そよぐ潮風は優しく体を包み込み、真夏の猛暑を感じさせない太平洋のど真ん中。そう、ここはまさにシーパラダイス。

 

今すぐ寮に帰りたい。夏休みは部屋から極力でないと決めていたんです。プリ○ュア達も待っています。無理なら千葉まで連れ帰って下さい。集団行動なんて拷問と変わりません。お願いします。

 

「諦めろっ!比企谷くん♪」

 

「他人事でもないだろ。櫛田こそ無理だろ」

 

「う〜ん…表面上は大丈夫じゃない?」

 

「いや…後から怖いんだが…」

「それになんで普通に俺の隣にいるんだ?」

 

「一学期の間考えたんだ。別に問題なくない?」

 

「いや。問題だろっ」

 

「さて、問題です!」

 

「急になんだ」

 

「前提条件は櫛田桔梗の評価が落ちない事」

 

「…………」

 

「山内もしくは池と2人でいる所をクラスメイトに

 見られました」

 

「おう」

 

「櫛田桔梗の正しい対応は?」

 

「男性側から誘いがあった。特に深い関係ではない」

 

「そうだね」

 

「その時の櫛田の評価は…」

 

「お疲れさま☆もしくは趣味悪い?」

 

「間違いじゃないね」

「では、次の問題です。

 比企谷八幡と2人でいる所をクラスメイトに

 見られました。

 櫛田桔梗の正しい対応は?」

 

「中学のクラスメイトだ。昔話してた。」

 

「その時の櫛田の評価は…」

 

「あっ。そうなんだ。それに隣の人誰?」

 

「ダメージが大きいのは?」

 

「多分…山内・池だな。」

 

「そう言う事だよっ」

 

「そうなのか?」

 

「それにしても夏休みにバカンスに連れていってくれるって学校側もふとっぱらだね〜。ご飯や施設も一流だし、流石国営?」

 

「そんなわけないだろ」

 

「えっ?」

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まりください。程なくして島が見えてまいります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧にいただくことができるでしょう』

 

突然そんなアナウンスが流れた。『意義ある景色』か。別に必要ないな。

 

「はぁ…部屋戻るわ」

 

「景色見ていかないの?」

 

「いらん」

 

……

 

【From:櫛田桔梗

 

 池に下の名前で呼ばれる事になった。

 死ぬの?私】

 

【From:比企谷八幡

 

 ヒキガエルよりマシだろ?】

 

……

『これより、当校が所有する孤島に上陸いたします。生徒は全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかり確認した後、携帯を持って30分後にデッキに集合してください。それ以外の一切の私物の持ち込みを禁止します。また、暫くお手洗いに行けない可能性がございますので、忘れずに済ませてください』

 

「ではこれより、Aクラスから順に船を降りてもらう。それと敷地内への携帯の持ち込みは禁止だ。各担任にしっかり提出するように」

 

拡声器をもった教師の声に従い、生徒たちが順番に降りていく。

 

「ではこれより、本年度最初の特別試験を行う」

 

Aクラスの担任、真嶋先生からの特別試験の開始を宣言する言葉が発せられる。

 

「期間は今から一週間。8月7日の正午に終了となる。これから1週間、この無人島でクラスメイト全員と集団生活することが試験となる。なお、これは実在する企業研修を参考にした現実的なものであることをあらかじめ伝えておく」

 

「無人島で生活って……この島で、寝泊まりするってことですか?」

 

「そうだ。試験中の寝泊まりする場所はもちろん、食事の用意まで全て自分たちで考える必要がある。試験実施中、正当の理由なく乗船することは許されない。試験開始時点で、各クラスごとにテント2つ、懐中電灯2つ、マッチを一箱支給する。また、歯ブラシに関しては各生徒に1セットずつ配布。日焼け止めと女子生徒の場合に限り生理用品は無制限で支給する。各クラスの担任に願い出るように。以上だ」

 

「先生、今は夏休みですし、我々は旅行という名目で連れてこられました。企業研修ではこんな騙し討ちのような真似はしないと思いますが」

 

「なるほど、確かにそういう点では不満が出るのも納得できる。だが安心してもらっていい。この1週間、君らは何をしようと自由だ。海で泳いだりバーベキューをするのもいいだろう。キャンプファイヤーで友人と語り合うことだって悪くない。この特別試験のテーマは『自由』だ」

 

「この無人島における特別試験では、まず、試験専用のポイントを支給する。各クラスに300ポイント支給され、このポイントを上手く使うことでこの島を1週間旅行のように楽しむことが可能だ。今から配布するマニュアルには、ポイントで購入できるすべてのもののリストが載っている。生活必需品、飲料水や食糧、バーベーキューをするための道具や海で遊ぶための道具など幅広く取り揃えている」 

「集団生活を送る上で必要最低限のルールは試験に存在するが難しいものは一つもない」

「この特別試験終了時には、各クラスに残ったポイントをそのままクラスポイントに加算し、夏休み明け以降に反映する」

 

「今から各クラスに1冊ずつマニュアルを配布する。紛失などの際は再発行も可能だが、ポイントを消費するのでしっかり保管しておくように。また、試験中に体調不良などでリタイアした生徒がいるクラスは30ポイントのペナルティを受ける決まりになっている。今回はAクラスに欠席者がいるため、Aクラスは270ポイントからのスタートとなる」

 

その後、各クラスごとに自分たちの担任の元に集まり、補足説明を受けることとなった。

 

「今からお前たちに腕時計を配布する。試験中この腕時計は常に身に付けておくように。許可なく腕時計を外した場合にはペナルティが課せられる。」

 

「でも身につけたまま海とか入って壊れたりしないんですか?」 

 

「完全防水なので問題ない。万が一故障した場合は早急に代替品と交換するようになっている」

 

「大丈夫だって!食糧は適当に魚とか果物を見つけてさ。寝床も足りないテントは葉っぱとかで作ろうぜ!最悪体調崩しても頑張るぜ」

 

「残念だが池、お前の目論み通りにはいかない。マニュアルの最後のページを見ろ」

 

最後のページには以下のマイナス査定が記されている。

 

『著しく体調を崩したり、大怪我を負い続行が難しいと判断された者がいた場合、マイナス30ポイント。及びその者はリタイアとなる』

『環境を汚染する行為を発見した場合。マイナス20ポイント』

『毎日午前8時、午後8時に行う点呼に不在の場合。一人につきマイナス5ポイント』

『他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合、生徒の所属するクラスは即失格とし、対象者のプライベートポイントの全没収』

 

「お前が無理をするのは勝手だが、もし10人の生徒が体調不良となったらマイナス300ポイント。強行するときはそれを覚悟するんだな」

 

「つまりさ、ある程度のポイント使用は仕方ないんじゃない?」

 

「最初から妥協するのは反対だぜ。やれるとこまで我慢すべきだ」

 

「茶柱先生、仮に300ポイントを全て使用してしまった後にリタイアする者が現れたらどうなるんでしょうか」

 

堀北が質問する。

 

「その場合リタイアするものが増えるだけだ。ポイントは0から変動しない」

 

「つまりこの試験ではマイナスに陥ることはないということですね」

 

「僕からもいいですか先生。この点呼とはどこで行うんですか?」

 

平田が質問する。

 

「担任は自分のクラスと共に試験終了まで行動を共にする。お前たちでベースキャンプを決めたら、私はそこに拠点を構え点呼を行う。一度ベースキャンプを決めたら正当な理由なくベースキャンプの変更はできないからよく考えるんだな」

 

「先生、トイレなどはどうすればいいんですか?」

 

クラスの女子が質問する。

 

「トイレか。それならクラスに支給される簡易トイレを使え。1つしかないから大切に扱うように」

 

そういうと茶柱先生は1つの段ボールを取り出す。

 

「もしかして、私たちもそれをつかうんですか!?」

 

「男女共用だ。だが安心しろ。着替えにも使えるワンタッチテントがついているから誰かに見られるような心配はない」

 

「そういう問題じゃなくって!段ボールなんて無理です!」

 

「なに、これはただの段ボールではない。災害時などによく使われるものだ」

 

茶柱先生は慣れた手つきでトイレを組み立てて、青いビニール袋を設置し白いシートのようなものをその中に入れる。

 

「このシートは吸水ポリマーシートと言って、汚物を固めるものだ。ビニールに吸水ポリマーを重ねる。これを繰り返すことで1枚のビニールで5回前後使用可能だ。なお、このビニールとシートは原則無制限に支給する」



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無人島試験② ※特別試験説明回②

説明回② 前回同様よう実読書の方はほとんど読み飛ばしてもらって大丈夫です。
無人島試験始まりました。正直、1年生編で1番まとまってません。さらっと飛ばすわけにもいかず……次回以降は少々お時間頂くかもしれません。


「やっほ〜」

 

後ろから間の抜けた声が聞こえた。星乃宮先生だ。

 

「何をしてる、

 他クラスの情報を盗み聞きするのは言語道断だ」

 

「もう、私だって教師のはしくれよ?仮に情報が聞こえたとしても絶対に教えたりしないわよ。だけど、運命みたいなもの感じちゃったていうか。私たち二人が揃ってこの島にくるなんて信じられなくって。そう思わない?」

 

星乃宮先生はこの島のことを前からしっているような口振りで茶柱先生に話しかける。

 

「あっ、比企谷くんだ~。」

 

「うっす」

 

星乃宮先生は俺に気づくといつも通りアホ毛をツンツンしてくる。

 

「せっかくこんな素敵な島に来たんだからもっと開放的にならないと。好きな子がいるならガンガンアタックするチャンスだぞっ!」

 

「ひと夏の恋なんて破局前提ですよ。」

 

「あはは、たしかに〜そのとおりかな~」

 

「これ以上は問題行動として報告するぞ。

 早く自分のクラスに戻れ」

 

「う、わかったわよぉ。

 比企谷くん、また、お手伝いお願いする時は

 連絡するからね〜」

 

二日酔いではない時もお願いします。

 

「ではこれより追加ルールを説明する」

 

「え?まだ何かあるのかよぉ...」

 

①スポットを占有するためには専用のキーカードが必要である。

 

②1度の占有につき1ポイントを得る。占有したスポットを自由に使用できる 

 

③他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合、マイナス50ポイントのペナルティを受ける。

 

④キーカードの使用権はリーダーとなった人物のみに限定される

 

⑤正当な理由なくリーダーを変更することはできない。

 

「そして7日目の最終日に、点呼のタイミングで他クラスリーダーを言い当てる権利が与えられる。もし、当てることができれば的中させたクラスにつきプラス50ポイントが支給される。ただし、自分たちのリーダーが当てられた場合はマイナス50ポイント。つまりハイリスクハイリターンということだな」

「例外なくリーダーは必ず一人決めてもらう。リーダーが決まったら私に報告しろ。その際にリーダーの名前が刻まれたキーカードを支給する。今日の点呼までに決まらなかった場合はこちらで勝手に決める。以上だ」

 

「ねぇ平田くん。トイレのことも早めに決めない?あ、ほら!マニュアルにも仮設トイレも20ポイントで買えるって!」

 

「はあ!?たかがトイレに20ポイントは高いって!今は節約しないとまずいっしょ!」

 

「あんたが勝手に決めないでよ!意見をまとめてるのは平田くんなんだから!ね?平田くん」

 

対立する池と篠原

 

「あーもううっさい。軽井沢さんもなんとか言ってよ」

 

「や、そりゃきついけどさ。ポイントは欲しいし...あたしは我慢する。お風呂だって川とかあれば何とかなるかな?」

 

「そんな......軽井沢さん!」

 

トイレを巡っての争いは幸村や佐藤も巻き込んでいよいよ収集つかなくなってくる。

 

「やばっ!こんなことやってる場合じゃないって!キャンプ地とスポットを探しにいく。幸村!勝手にポイント使わせるなよ」

 

池は山内と須藤を連れて森の中に入ろうとする。

 

「……三人とも絶対に一人で行動しないでね。迷うと大変だから」

 

「わかってるって。んじゃ色々見つけてくんぜ!」

 



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無人島試験③(改定版)

「凄いよ池くん!きれいな水に日光を遮る日陰。地面も整備されているみたいだしここならベースキャンプにするのに理想的だよ!」

 

「だろ!」

 

「ここをベースキャンプにしようか。占有するなら8時間に一度更新しないといけないね。その場合リーダーはどうしようか...」

 

「私、色々考えたんだけど堀北さんはどうかな...?平田くんや軽井沢さんなら目立っちゃう。でも、リーダーを任せるなら責任感を持ってる人じゃなきゃダメでしょ?堀北さんならその両方を満たしてるって思ったんだけど、どうかな?」

 

「僕も櫛田さんの意見に賛成だよ。

 堀北さん、どうかな?」

 

「わかったわ。私が引き受ける」

 

その言葉を聞いた平田はすぐに茶柱先生のもとにいき堀北の名前を伝える。程なくしてカードを受け取って戻ってくると堀北にそれを託す。もちろん誰かに見られている可能性を考慮し、全員がそれとない動作で装置に触れて誰がリーダーかを分からないようカモフラージュした。

 

「よーしこれで風呂と飲み水の問題は解決したな」

 

爛々と目を輝やかせ、池はポイントの節約を訴える。

 

「はぁ?川の水飲むとか正気?」

 

篠原達女子には川の水を飲み水や風呂に活用するつもりは無かったらしく、呆れたように川を一瞥した。

 

「なんだよ、全然いいじゃんか?綺麗な水だろ?」

 

「そう、だね…。確かに飲めそうだけど…」

 

池とアホが口論してる中、おもむろに八幡が川の水を飲んだ。

 

「とりあえず試しに飲んでやる。これで体調に問題があれば川の水は使用しない。問題がなけれは、川の水を利用する。問題なかった場合、希望者はポイントで水を購入してもいいが節約してもらうぞ。何日かは風呂なしのつもりでいてくれ」

 

「うわマジドン引き。

 無理無理、そんなの飲むなんて」

 

(も〜う。しょうがないな〜)

 

「大丈夫なの。比企谷くん?」

 

「川の水に問題があった時、犠牲者は一人でいいだろ。それにその時はリタイアできるから俺にとっても好都合だ」

 

「みんな〜。比企谷くんが川の水試してくれたから少し様子みよっ。問題なさそうなら積極的に川の水を利用するのはどうかな?私も…少し抵抗はあるけど…この環境でお風呂なしもイヤだしね。食事に関しては、煮沸して使うって事でどう?」

「どうしても無理だったら、

 あとで私に相談してくれないかなっ」

 

………

 

「比企谷く〜ん」

 

「なっ…なんだ?」

 

「こっちで料理手伝ってくれないかな?」

(他に何か役にたてる?)

 

「あ〜分かった」

(おっしゃるとおりで)

 

櫛田に呼ばれて調理班に加わった。ポイントで購入したものと島で見つけた食材なので手の混んだものを作る必要ないしな……

ちょっと待て。食堂で0ポイントの山菜定食だが、実はこの無人島試験を示唆していたのか?日々の食事を通して、食べられる食材を教え、素材の味を活かす事で味付の検討を促す。間違いない。謎は全てとけた。小町の名にかけて

 

「アホな事考えているでしょ?」

 

やばっ。顔に出てたか。

 

「野菜まだまだあるから、これもカットお願いね」

「それにしても、もう少し空気読もうよ」

 

「?」

 

「川の水の件。普段しゃべらない比企谷くんが

 急に発言しても伝わらないよっ。

 もっと、クラスメイトに知ってもらわないとだね」

 

40人分になると簡単な料理でもそこそこの量だ。

櫛田のとなりで、マシンのように野菜をカットしていると他の女生徒から声がかかる。

 

「へ〜。手際いいじゃん。普段料理してるの?」

 

(ほら、早速練習♪)

 

「まっ……まあな。」

(ほぼ毎日櫛田のご飯作ってます)

 

「ポイント少ないからね。私もいつも自炊だよ。

 え……え〜と。。。」

 

「比企谷くんだよ。長谷部さん。

 同じクラスメイトなんだから名前覚えてあげてねっ」

(お前もだぞ)

 

……

 

山内がCクラスの伊吹って女子生徒を連れてきた。

 

「少し時間いいかな?伊吹さん」

 

「私は邪魔だろ。世話になったな」

 

伊吹は話を聞こうとせず立ち去ろうとする。

 

「ちょっと待って!これは試験だから君を疑う生徒がいるのも仕方がない。だけど怪我をしてクラスに戻れない君を追い出すなんてできないよ。だから事情を聞かせてほしい」

 

「別にいいって言ってるだろ。スパイかもしれない私を助けても得なんてないだろ」

 

「きみがスパイだったら自分から追い出されるようなことは言わないよ。それに損得なんて関係ない。困ってる人を放り出せないだけさ」

 

「クラスのある男と揉めた。それでそいつに叩かれて追い出された。それだけだ」

 

「わかった。君が困ってることは理解したよ。他の生徒にも事情を話して君がここにいられるように頼んでみるよ。」

 

そう言って平田は事情を説明しにいった。

 

「伊吹さん皆から許可もらったよ。ただ一応不用意に装置に近づかないと約束してほしい」

 

どうやらDクラスは伊吹を受け入れることにしたようだ。

 

「わかった」

 

伊吹の存在に反対するものもいたがCクラスが点呼の度にポイントを吐き出すことを伝えると最終的に納得した。

 

……

夕食を食べていると綾小路が近づいてきた。

 

「隣りいいか?」

 

俺の答えを待たずに座る。

 

「伊吹についてだが、どう思う?」

 

「Cクラスのスパイだろ」

 

「なぜ、そう思う?」

 

「クラスメイトと揉めて追い出されたなら、

 さっさとリタイアすればいい。」

 

「クラスメイトと顔をあわせたくないらしいが」

 

「いまさらだ。どうあれ7日たてば試験は終わる。

 先の事を考えれば、わざわざ島に残る必要は無い。」

 

「やはりそう思うか……比企谷!お前に頼みがある。」

 

「いやだが?」

 

「オレは訳あって、

 今回の試験で結果を残さなければならない。」

 

続けるのかよ……

 

「比企谷と櫛田に伊吹の監視をお願いしたい。

 お互い調理班だからな。

 キャンプを離れる事も少ないだろう」

 

「はぁ〜。どうしても?」

 

「どうしてもだ。」

 

「分かった。ただ、俺達がするのは監視だけだ。何かあればお前に連絡する。あと、四六時中見張るのは無理だ。見逃しがあっても責任とれん。それが条件だ」

 

「問題ない。それで頼む」

 

「櫛田には俺から伝えておく。じゃあな」

 

空になった食器をもって洗い場に向かった。



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無人島試験④(追加)

1話から見直しているのですが桔梗ちゃんがどんどんフリーダムに…。今回は無人島試験の追加エピソードです。


「…………という事になった。悪いが付き合ってくれ。」

 

櫛田は急に目を伏せ

 

「急に「付き合ってくれっ」て言われても…私困るよ……」

 

「ばっ……ち……違う。話聞いてたか?」

 

「ははははっ。冗談だよ。そんな焦んなくてもいいのに

 それぐらいなら大丈夫だよ。

 どうしても男子には目が届かない所もあるしね。」

 

櫛田に協力をとりつけた所で無人島1日目が終わった。

 

……

次の日、朝の点呼を終えた俺達は自由行動に移った。平田は頼れるクラスメイト達に指示を出し、ポイント節約のための作戦を開始する。

 

俺は暑さを避けるため、木陰で休んでいると櫛田がやってきて小声で話しかけてきた。

 

「八幡!すぐにCクラスのとこ、行こっ!

 青い海。白い砂浜。肉だよ!牛さんだよ!」

 

「後半、肉のことしか言ってないが?

 まず落ち着け。意味がわからん」

 

「さっき、Cクラスの小宮と近藤がきたんだけど

 龍園からの伝言で夏休み満喫したかったら

 浜辺に来いって」

 

「ただの嫌がらせだろ」

 

「そうだと思うけど、

 もし一緒に遊べたらラッキーじゃない?」

 

「他クラスとか気まずいだろ」

 

「私は誰?」

 

「櫛田桔梗」

 

「気まずく感じると思う?」

 

「……ないな」

 

「あなたは?」

 

「比企谷八幡」

 

「同じクラスの生徒といても?」

 

「気まずいな」

 

「なら、ここにいてもCクラスに混ざっても

 一緒だよね?という事で、

 平田くんに許可もらってくるね」

 

……

 

「クククッ。鈴音の次は桔梗か。うしろのは誰だ?」

 

「う〜ん。背後霊っ!」

 

「おいっ」

 

「まあいい。俺に何か用か?」

 

「龍園くんの伝言聞いたんだ。夏休み満喫したかったら

 浜辺に来いって。あーあそこでバーベキューしてる!

 私達も混ざっていいかな?いいよね?」

 

「あぁ。構わないぞ。せいぜい楽しんでいけ」

 

「そうだ!お土産無しだとクラスのみんなに

 何言われるかわからないんだ。

 余りそうなものでいいから持って帰ってもいいかな」

 

「ククッ。思っていた以上に面白いな。桔梗。

 食料なら好きなだけ持っていけ」

 

「ありがとう龍園くん。じゃあ。今日はよろしくね」

 

そう言って俺達はバーベキューをしている場所に移動した。

 

「美味しいそう!」

 

「あれっ?櫛田ちゃん?どうしてここにいるんだ?」

 

「私達もバーベキュー参加してもいいかな。石崎くん」

「龍園くんにはさっき了解もらったよ」

 

「龍園さんがOKなら大丈夫だ。

 櫛田ちゃんなら歓迎するぜ」

 

「ありがとね。

 そうだ。Dクラスへのお土産も欲しいんだ。

 あれとあれとそれ。少し分けて貰ってもいい?」

 

「それは…」

 

櫛田は上目遣いで石崎を見ながら交渉する。

 

「ダ…ダメかな…?

 龍園くんは好きなだけもっていけって…」

 

……

 

「美味しかったね。比企谷くん

 お土産もいっぱい貰っちゃったしね。大漁大漁」

 

「遠慮ないな。お前」

 

「え〜。向こうから誘ってきたんだし

 好きなだけ持っていけって言質もとったよね?」

 

「まぁ…そうだな…」

 

「さて、戦利品でクラス黙らせないとだね」

 

「フォロー宜しくね。背後霊さん」

 

「誰が背後霊だ!」

 

……

 

「みんな〜。Cクラスからいっぱい食料もらったよー」

 

「おおっ。すげえぜ桔梗ちゃん」

 

「肉だ。肉がある!」

 

「ちょっと櫛田さん『Cクラス』から貰ったって

 どういう事かしら」

 

「言葉のままの意味だけど…」

 

「あなたはCクラスの罠とは考えないの?」

 

「大丈夫だよっ。

 みんなの為に毒味もしてきたんだ」

 

「そういう事ではないの」

 

「堀北。食料に問題があればCクラスを訴えればいいだけだ。仮にCクラスが白をきったとしても、これらはポイントで購入した食材だ。それが原因で体調を崩したとなれば学校側の管理責任じゃないのか」

 

「Cクラスほどじゃないけど、

 簡単なバーベキューぐらいはできると思うんだ。

 折角の夏休みだしね。

 みんなはどうかな?」

 

 



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無人島試験⑤(追加)

無人島試験の追加エピソード2です。


「八幡!本気だして!」

 

……

結局昨夜の夕食はクラスメイトの賛成多数でプチバーベキューになった。育ち盛りの高校生だ。肉の魅力には勝てなかったのだろう。男子生徒になるとなおさらである。

Dクラスに食材を届けた櫛田は大半の生徒に感謝されている。堀北も最後まで抵抗していたようだが、食の安全が確認できると箸を伸ばし始めたようだった。

 

櫛田がゲットした食材は思ったより多く一部は今日以降の食事に充てる事となった。

 

「思ったより残ったね。

 これで今日以降も少し楽ができるかな?」

 

「ああ。そうだな。朝食も少し豪華にできそうだ」

 

「…………」

「…………」

 

「八幡!本気だして!」

 

「急になんだ?」

 

「私気づいたんだよ。夕食は作ってもらってるけど

 比企谷くんの朝食はまだ食べてない!」

 

「まぁ。そうだな」

 

「今がチャンスだと思うんだ。これを逃すと

 次はいつになるか分からない!」

 

「諦めろ」

 

「え〜なんで〜」

 

「調味料が足らん。

 生野菜。果物。焼いた肉・魚のアレンジが限界だ」

 

「うぅぅぅ。仕方ないか…」

 

「はぁ。多少は手を入れてやるから付き合え。

 流石に全員分をひとりで作るのは無理だからな」

 

「はーい。あとから来た人にも手伝ってもらうよ」

 

今日の朝ごはんはみんなにも好評だった。この試験を通じて徐々にクラスメイトに比企谷くんが認知されていく。これは本当に喜ばしい事だ。

 

「今日はどうするの?」

 

「実質、昨日はサボったからな食料確保でも

 手伝うつもりだ。1日中釣りでもしようと思う」

 

「そっかぁ。私も1日クラスから離れたわけだしね。

 さすがに今日はクラスメイトの相手しなくちゃね」

 

「人気者は大変だな」

 

「まっ。趣味みたいなものだよ」

 

……

 

さて、始めるか。釣りはいい。自然との対話だ。人と話す必要はなく、むしろ話さないほうがいいまである。釣り糸をたらし、今日は1日のんびりとすることにしよう。

 

「…………」

 

「なんだ綾小路。お前は文王か?」

 

俺がそういうと綾小路は隣に腰をおろした。

 

「釣れてるか」

 

「ぼちぼちだな」

 

「昨日櫛田とCクラスの所に行ってたんだな。

 比企谷からみてどう思った」

 

「思い切った作戦だな。まぁ。あれも答えのひとつだろ」

 

「そうだな。全員リタイアすると思うか?」

 

「それはないな。確実にブラフだろ。

 伊吹がうちのクラスにいる意味がない」

 

「本命は誰だと思う」

 

「さっきから質問ばかりだな。龍園とかいうやつだろ。

 あいつはおそらく自分で動くタイプだ。

 ここ一番を他人に任せられるやつじゃない」

 

「あぁ。そうだろうな。

 そう言えばお前と櫛田は付き合っているのか?」

 

「そんなわけないだろ。

 あいつと俺ではそもそも釣り合わん」

 

「櫛田に聞いたんだが…」

 

「なんだ?」

 

「一番大事な人らしいぞ」

 

「ぶっ…」

 

「じゃあな。太公望。これからも期待してるぞ」



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無人島試験⑥

それから4日目まで、慣れない集団生活に皆ストレスを溜めながらも何事もなく過ぎた。

 

その夜、

俺はいつも通り独り外で眠気がくるのを待っていると

 

ガサガサ

 

「うん?」「なんだ櫛田か。」

 

「今日もここだね。」

 

「どうしても複数人と一緒にいるのは慣れない。

 今日はどうしたんだ?」

 

「報告。伊吹が動いたよ。」

 

「わかった。綾小路を呼んでくる。少し待っててくれ。」

 

……

次の朝 朝食を作る為に移動していると声をかけられる。

 

「比企谷くん おはよ〜。今日早いね。」

 

「あぁ」

 

【小町の教え②

 

 料理ができる男子はポイントアップ】

 

この4日間調理班として働いてきたが、その結果女性陣の好感度があがったらしく、たまに声を掛けられるようになった。小町の教えに間違いはないらしい。

 

遠目に伊吹の姿が見えたが、いつも通りのDクラスの姿に困惑している所だろう。

 

あの後、櫛田から話を聞いた綾小路は

「感謝する。あとはこちらで対応する」

と言って去っていった。

 

「結局、綾小路君どうしたんだろね?」

 

昨夜の事を思い出していると、いつのまにか櫛田が隣にたっていた。

 

「そこまでは依頼の範囲外だ。

 気にする必要ないだろう。」

 

「それもそうだね」

「さて、今日も料理頑張ろっ!」

(八幡が!)

 

櫛田さんも手伝って下さい………

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『ただ今試験結果の集計をしております。しばらくお待ちください。既に試験は終了しているため、各自飲み物やお手洗いを希望する生徒は休憩所をご利用ください』

 

やっと終わったか。

この7日間振り返ると俺、料理しかしてなくないか。

 

キィン、と拡声器のスイッチが入る音が砂浜に響くと、真嶋先生が姿を見せる。

 

「そのままリラックスしてもらって構わない。既に試験は終了している。まず結果に関する質問は一切受け付けていない。自分たちで結果を受け止め、分析し次の試験へといかしてもらいたい」

「ではこれより特別試験の順位を発表する。

 最下位はCクラス。0ポイント」

 

「だははははは!!やっぱ0ポイントかよ!!

 笑わせんな!!」

 

「......0だと?」

 

龍園は事態が理解できない様子だった。

 

「続いては3位Aクラスの120ポイント。

 2位はBクラスの140ポイント」

「そしてDクラスは...」

 

一瞬だが、真嶋先生の動きが硬直した。しかしすぐに結果発表を続ける。

 

「......225ポイントで1位となった。

 以上で結果発表を終える」

 

「うおおおお!!!やったぜ!!」

 

須藤の叫び声と共に、Dクラスの生徒たちは一斉に集まりだす。

 

「どういうことだよ葛城!」

 

Aクラスの生徒が葛城を取り囲んでる。

 

「何かがおかしい......どういうことだ...」

 

こうして、俺たちの無人島試験は終了した。

 

……

「ああ〜づがれた〜。」

 

「あの?櫛田さん??色々残念な感じですが??」

 

「ずっっっとみんなの櫛田桔梗でいるの辛いの。苦しいの。八幡にならわかるよね?」

 

「いや。全く分からんが。」

 

「こんな私になったの八幡のせいだよっ!」

 

7日間のストレスは相当溜まっていたらしく一周まわっておかしくなっているらしい。

 

その後、少し落ち着いたのか

「で?全部堀北の戦略ってなってるけど、

 実際どうなの?」

 

「それはないな。」

 

「だよねっ!あの高飛車女ができるわけないだろ。

 何もしてないくせに目立ちやがって」

 

「試験前から体調崩してたみたいだからな。

 あの状態でここまで頭まわらんだろ」

 

「えっ。堀北体調崩してたの?」

 

「えっ?」

 

「なに?」

 

「リーダーに推薦したの、

 分かってて嫌がらせしてたんじゃないのか?」

 

「私を何だと思ってる?」

 

「堕天使??」

 

「そんな天使だなんて♪」

 

「褒めてないが?」

「話は戻すが、今回の件、綾小路が動いたんだと思う。」

 

「だよね。伊吹さんの件も根暗からの依頼でしょ?」

「八幡 根暗と仲いいんだ。」

 

「いや。休日お互いに暇なときにチェスしてるだけだが」

 

「八幡と根暗 休日ずっと暇だよね?」

 

「……………」

 

「はぁ。それはいいや。綾小路って何もの?」

 

「知らん」

 




暴力事件編と無人島試験編両方とも
八幡は特に何もしておりません。

暴力事件に関わろうとするとどうしても目撃者になるしか思いつかず八幡がわざわざ暑い特別棟に足を踏み入れるイメージが湧きませんでした。
無人島試験編も綾小路くんを出し抜く必要性を感じられず……。
次回、優待者試験は八幡にも活躍してもらおうと思います。
そして、体育祭はまたしても何もできない気がします。
主人公なのに……

次から櫛田さんの暗躍が無い為、少しづつ原作から離れる場面でてくると思いますが、上手くおさまるよう頭悩ませたいと思います。


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4巻
夏季グループ別特別試験① ※特別試験説明回


説明回 よう実読書の方はほとんど読み飛ばしてもらって大丈夫です。
今回から船上試験が始まります。ルールと結果に間違いがないよう気をつけてますが、誤りありましたらご報告頂けると幸いです。


「桔梗。何があっても俺を信じられるか?」

 

「うん。もちろんだよ。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

無人島での特別試験が終わってから3日。高度育成高等学校の生徒をのせた豪華客船では、何事も起きることなく、平穏な時間が保たれていた。

 

『生徒の皆さんに連絡します。先ほど全生徒に連絡事項を記載したメールを送信いたしました。各自確認次第、その指示に従ってください。なお、メールが届いていない場合はお近くの教師まで申し出てください。繰り返します───』

 

届いたメールを開くと次のような内容が書かれてあった。

 

『間もなく特別試験を開始します。各自指定された部屋に、指定された時間に集合してください。10分以上の遅刻をした者にはペナルティを科す場合があります。本日20時40分までに2階206室まで集合してください。所有時間は20分ほどですので、お手洗いなどは済ませた上、携帯をマナーモードか電源オフにしてお越しください』

 

特別試験まだあったのか……

 

20時35分 俺は指定された部屋に入る。既に平田・堀北・櫛田が座っていた。

 

「これから特別試験の説明を行う。こちらから質問の有無を尋ねたとき以外は黙って聞くように。尚、質問の内容によっては答えられないこともあるのでそのつもりでいろ」

 

俺たちに試験の説明をするのは茶柱先生のようだ。

 

「今回の試験は一年生を干支になぞらえた12のグループに分け、そのグループ内での試験を行う。試験の目的はシンキング能力を問うものとなっている。」

 

そう言って先生はハガキサイズの紙を配った。

 

「今配ったのはこのグループのメンバーリストだ。お前たちのグループは『辰』。この紙は退室時に回収するので、必要であれば今覚えておけ」

 

 Aクラス;葛城康平 西川亮子 的場信二 矢野小春

 

 Bクラス:安藤紗代 神崎隆二 津辺仁美

 

 Cクラス:小田拓海 鈴木英俊 園田正志 龍園翔

 

 Dクラス:櫛田桔梗 比企谷八幡 平田洋介 堀北鈴音

 

「今回の試験では、大前提としてAクラスからDクラスまでの関係性を一度無視しろ。そうすることが試験をクリアするための鍵になるからな」

「今から君たちはDクラスとしてではなく、辰グループとして行動することになる。そして試験の合否はグループ毎に設定されている」

「この試験の結果は4通りしか存在しない。例外は存在せず、必ず4つのどれかの結果になるように作られている。分かりやすく理解してもらうためにそこに結果を記してある。この紙に関しても退出時に回収するのでこの場で確認しておくように」

 

書かれてある基本ルールは以下の通りだった。

 

『夏季グループ別特別試験説明』

 

本試験では各グループに割り当てられた『優待者』を基点とした課題となる。

定められた方法で学校に回答することで、4つのうち1つを必ず得ることになる。

 

・試験開始当日午前8時に一斉メールを送る。『優待者』に選ばれた者には同時にその事実を伝える。

 

・試験の日程は明日から4日後の午後9時まで(1日の完全自由日を挟む)。

 

・1日に2度、グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行うこと。

 

・話し合いの内容はグループの自主性に全てを委ねるものとする。

 

・試験の解答は試験終了後、午後9時30分から午後10時までの間のみ優待者が誰であったかの答えを受け付ける。尚、解答は1人1回までとする。 

 

・解答は自分の携帯電話を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける。

 

・『優待者』にはメールにて答えを送る権利はない。

 

・自身が配属された干支グループ以外への解答は全て無効とする。

 

・試験結果の詳細は最終日の午後11時に全生徒にメールにて伝える。

 

以上が基本的なルールとして書かれていた。

 

・結果1:グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、グループ全員にプライベートポイントを支給する。ポイントの内訳は優待者に100万ポイント、優待者以外の者に50万ポイントである。

 

・結果2:優待者及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、一人でも未解答や不正解があった場合、優待者には50万プライベートポイントを支給する。

 

「この試験の肝は言わずもがな『優待者』の存在だ。グループには必ず1人優待者が存在する。その優待者が誰かを見極めることが試験の行く末を左右する。例えば、平田が優待者だとしよう。この場合、解答は『平田洋介』となる。後はこれをグループ全員で共有すればいい。試験終了後の解答時間の間に全員が平田の名前をメールで打ち込めばそれで結果1が確定する。平田には100万ppt、他のメンバーは50万pptを手に入れる」

 

「結果2についてだが、これは優待者がその情報を明かさなかった場合。あるいは嘘の情報を広めるなどして最後まで正体を隠した場合に起こる。文面にある通り、この場合は優待者のみがポイントを得ることができる。尤も、半額の50万pptだがな」

 

「先生、残り2つの結果はどんなものなんですか?」

 

「それについては今から説明する。全員裏面を見ろ」

 

そう促され、紙を捲って裏面を見た。

 

以下の2つの結果に関してのみ、試験中24時間いつでも解答を受け付けるものとする。

また試験終了後30分以内であれば同じく受け付けるが、どちらの時間帯でも間違えばペナルティが発生する。

 

・結果3:優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ正解していた場合。

 

 答えた生徒の所属するクラスはクラスポイントを50ポイント得ると同時に、正解者にプライベートポイントを50万ポイント支給する。

 

 また、優待者を見抜かれたクラスにはマイナス50クラスポイントのペナルティが課せられる。

 

 及びこの時点でグループの試験は終了となる。尚、優待者と同じクラスメイトが正解した場合、解答を無効とし試験は続行となる。

 

・結果4:優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ不正解だった場合。

 

 答えを間違えた生徒が所属するクラスはマイナス50クラスポイントのペナルティが課せられる。

 

 またその場合、優待者は50万プライベートポイント得ると同時に、優待者の所属するクラスはクラスポイントを50ポイント得る。

 

 答えを間違えた時点でグループの試験は終了となる。

 

尚、優待者と同じクラスメイトが不正解した場合、解答を無効とし試験は続行となる。

 

「今回学校側は匿名性についても考慮している。試験終了時には各グループの結果とクラス単位でのポイント増減のみ発表する。優待者が誰だったか、解答者が誰だったかについては公表しない。クラスポイントは結果発表後に反映される。プライベートポイントについても基本的には同じだ。だが結果3と4についてのみ、結果確定直後に学校から受け取り方法についてのメールを送ることになっている。受け取り方法だが、一括で受け取るか分割で受け取るかなど生徒が要望すれば好きにすることができる。仮IDを発行してそこにポイントを振り込むなんてことも可能だ。つまり本人さえ黙っていれば、試験後に発覚する恐れはない。もちろん隠す必要がなければ堂々と受け取っても構わん」

 

「ここまでで理解したと思うが、3つ目と4つ目の結果は他の2つとは異なるものだ。グループ内でよく話し合い、どの結果を選ぶかよく考えて決めろ。以上で試験の説明は終了だ」

「お前たちは明日から午後1時、午後8時に指示された部屋へ向かえ。当日は部屋の前にそれぞれグループ名の書かれたプレートがかけられている。初顔合わせの際には室内で必ず自己紹介を行うように。室内に入ってから試験時間内の退室は基本的に認められていない。そのためトイレ等は事前に済ませておくように。万が一我慢できなかったり、体調不良の場合はすぐに担任に連絡して申し出るようにしろ」

 

「それからグループ内の優待者は学校側が公平性を期し、厳正に調整している。優待者に選ばれた、もしくは選ばれなかったに関係なく変更は一切受け付けない。また、学校から送られてくるメールのコピーや削除、転送、改変などの行為は禁止だ。発覚次第ペナルティを課す場合もあるから注意しておけ」

 

その後、先生から退室を命じられ、部屋を後にした。



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夏季グループ別特別試験②(改定版)

『厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれませんでした。グループの一人として自覚を持って行動し試験に挑んで下さい。本日午後1時より試験を開始いたします。本試験は本日より3日間行われます。辰グループの方は2階辰部屋に集合して下さい』

 

どうやら俺は優待者ではないらしい。

 

「そっちはどうだ?」

 

櫛田に確認すると、メールを見せてきた。

 

「まあ。櫛田なら問題ないだろう?」

 

「どういう意味かな?」

 

「演技は得意だろ。」

 

「死ね♪」

「それで、今回の特別試験。八幡はどうするの?」

 

「優待者ではなかったからな。流れ次第ではあるが【俺の試験】は初回で終わらせる。話し合いは得意ではないからな。」

 

……

『ではこれより

 1回目のグループディスカッションを開始します』

 

「えっと、学校からの指示通りに自己紹介でもしようか」

 

平田が声をあげた。

 

「確かに。やれと言われたことを無視した結果、

 全員にペナルティがあるかもしれないからな。

 ここは指示通りに事を済ませた方がいいだろう」

 

続けてBクラスの神崎が発言した。

 

「そうだな……

 簡単な自己紹介くらいは済ませたほうがいいだろう」

 

「チッ、面倒くせぇ」

 

Aクラスの葛城とCクラスの龍園がとりあえず応じる姿勢を取った事で彼らと同じクラスの生徒も応じるような態度を取る。その後、提案者の平田を皮切りにぐるりと一周する形で自己紹介が行われた。

 

「これで学校からの指示は果たしたと思う。

 あとはこのグループの方針を話し合おうよ。

 僕としては全員で協力して

 結果1を目指したいと思うんだけど、どうかな?」

 

「4つの結果のうち、最もメリットが大きいのが

 結果1だからな。

 全員に巨額のプライベートポイントが行き渡れば

 メリットがある」

 

「確かに平田の言う通り、

 結果1が最も望ましい結末であることは明白だ。

 だが、俺たちAクラスは

 全員沈黙させてもらうことにする」

 

平田に同意する形を取りながらも、葛城は余計なことは話さないという方針を取った。

 

「それはどういう意味かな?」

 

「余計な話し合いをせず、

 試験を終えるべきだということだ」

 

そう言うと葛城は立ち上がり、室内の生徒全員を見渡す。

 

「この試験で避けなければならないこと。

 それは裏切り者を生み出すことだ。

 裏切りが成功しようと失敗しようと、

 どちらにせよ敗北だ。

 だが、それ以外の答えの場合はどうなる?」

 

「マイナスになる要素は存在しない、ってことかな?」

 

葛城の問いに平田が答える。

 

「そうだ。残りの2つの結果にはデメリットがない。クラスポイントが詰まることも開くこともない。その上大量のプライベートポイントが手に入り潤う。学校側しか負担を負うことはないということだ。ならば、わざわざ優待者を見つける必要はない。話し合ってしまうことで、周囲の面々を優待者だと疑い、過ちを犯してしまう方がよっぽど危険だと俺は思う」

 

その主張は尤もらしいものだった。

しかし、その葛城に堀北が異を唱える。

 

「尤もらしいことを言っているようだけど、それってつまりクラスポイントのボーナスを他のクラスに取られたくないってことでしょう?結果1と結果2によって発生するボーナスはどちらもプライベートポイントのみ。それを目指す方針を取れば他のクラスに出し抜かれることもない。先の特別試験での失態を取り繕っているつもりなのかしら? だとしたら滑稽ね。私たちDクラスは勿論、BクラスもCクラスも、いつまでも今の位置で留まるつもりはないわ」

 

「それは──」

 

「俺も堀北と同意見だな。あと何回特別試験が行われるかも分からない今の現状で、みすみすチャンスを棒に振るつもりはない。昨日も言ったが、いつまでもAクラスに居座れると思ってほしくはないな」

 

堀北の主張に神崎が続く。

 

「なら反対というわけか。先に言っておくが、既にAクラスの方針は固まっている。それはどのグループでも同じだ。如何なる理由があっても話し合いには応じない事を覚えておけ。お前たちが結託して話し合うなら好きにすればいい」

 

どうやらAクラスは葛城を中心としてとことん守りに入る方針らしい。

 

「ハッ、なんだよ。

 前回の試験でビビっちまったってのか?」

 

葛城の方針が可笑しくてたまらないのか龍園が挑発する。

 

「……好きに捉えてもらって構わない」

 

「穏健派もここまでくるとただのヘタレだな。

 それじゃあ坂柳には勝てねぇぞ?」

 

「……」

 

こわっ。なんだこのグループ……。

 

一瞬の沈黙。発言するには今しかないな。これを逃すと最終日までしゃべらないまである。あれっ。それって理想じゃないか?ただ、次回以降巻き込まれる可能性もあるしな。ここで終わらせるか。

 

「俺はAクラスの方針に賛同する」

 

「あなたっ。何を言ってるかわかっているのかしら?」

 

「あぁ。Aクラスは話し合いに応じないんだろう。

 俺はそれを支持する。

 これ以上の話し合いはゴメンだ」

 

「話を聞いていなかったの??

 それだと、Aクラスとの差は変わらない。

 せっかくの機会を不意にするのよ?」

 

「それに何の問題がある?堀北は差が縮まる事を

 前提に話をしているが、

 差が広がる可能性もあるだろう。

 そうなった時、責任とってくれんのか?」

 

「なっ!?

 あなたはAクラスになろうとは思わないの?」

 

「前に言ったはずだが?それに『俺個人は』Aクラスに賛同すると言ったまでだ。別にお前や平田、櫛田に強要するつもりもない。Aクラスを目指すと言うならお前達や他グループでやればいいだろ」

 

「っ!?」

 

「あぁ、ついでだ」

 

俺は携帯を操作して葛城に投げる。

 

「なっ。なんだ」

 

「学校から届いたメールを表示してるだろう?

 見てのとおり俺は優待者ではない。」

 

「「「「「えっ」」」」」

 

参加者全員が葛城に注目する。

 

「あぁ…。確かに優待者ではないな。」

 

「俺は優待者を見つけるつもりはない。

 これで話し合いに参加する意味もなくなっただろ?

 葛城と言ったか。Aクラスに優待者がいないなら

 全員開示したらどうだ?

 そうすれば、このグループでは話し合いに

 参加する必要がなくなるぞ。」

 

「くっくっくっ。

 Dクラスにこんなおもしろい奴がいたとはな。

 おい。腐り目」

 

「なんだ?」

 

「オレと手を組まないか?」

 

「「「「っ」」」」

 

「条件次第では構わんが?」

 

「「「「えっ!」」」」

 

「ちょっと。比企谷君。

 この男がこれまで何をしてきたか。

 知らないわけないでしょう」

 

「無人島試験で食料分けてくれた?」

 

「ぷっ!?」

 

櫛田が吹き出しそうになるのを我慢している。

なぜだ?

 

「須藤君の件、黒幕は間違いなく龍園くんよ。

 それに無人島の時も私達を陥れようとした。」

 

「言ってる意味がわからん。それの何が問題なんだ?」

 

「「信用できない。」と言ってるの。」

 

「それがどうした?

 所詮、どこまでいっても他人は他人だ。

 自分以外本当に信用できるやつなどいないだろう?

 それに、俺は条件次第と言ったはずだが」

 

……

綾小路Side

 

特別試験が始まった1日目の夜、俺は自動販売機近くのバーで奇妙な3人組の背中を見つけた。茶柱先生にBクラスの担任の星乃宮先生。Aクラスの真嶋先生だ。気分転換のつもりだったが何か面白い情報を拾えるかもしれない。気配を殺し、ギリギリまで近づく。

 

「なんかさー、久しぶりよね。

 この3人でこうしてゆっくり腰を下ろすなんてさ」

 

「因果なものだ。

 巡り巡って、結局俺達は教師という道を

 選んだんだからな」

 

「よせ。そんな話をしてもなんの意味もない」

 

「あーそう言えば見たよ?この間デートしてたでしょ?

 新しい彼女?真嶋くんて意外に移り気なんだよね。

 朴念仁ぽいくせにさ」

 

「チエ、お前こそ前の男はどうした」

 

「あはは。2週間で別れた!

 私って関係深くなっちゃうと

 一気にさめるタイプだから。

 やることやったらポイーね」

 

「普通それは男側のセリフなんだがな」

 

星乃宮先生は空いたグラスに自分でウイスキーを注ぐ。ストレートでガブガブ飲む酒豪ぶりだ。

 

「それにしても八幡くんが辰グループかぁ。

 面白い選択だね。サエちゃん」

 

「どういう意味だ?」

 

「通例では辰グループに

 クラスの代表を集める方針だろう」

 

「一見目立たないけどね〜。

 私の中で今年の1年の男子では八幡くんが

 ピカイチなんだよね〜。

 辰グループの結果楽しみにしてるんだ」

 

「チエがそういうなんて珍しいな」

 

「サエちゃんは綾小路くんだよね〜。

 八幡くん。Bクラスにくれないかな?

 もし、移籍してくれるなら色々配慮するよ〜」

 

「モラルは守ってくれ。

 同期の失態を上に報告するのは避けたいんでな」

 

「も〜信用ないなぁ。冗談だよ?」

 

この試験の情報は殆ど得られなかったが、そろそろ引き返そう。星乃宮先生は冗談って言ってたが、あれは本気だな…。

 



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夏季グループ別特別試験③

3回目のディスカッションが終了した後、一之瀬と綾小路が辰部屋に現れた。

 

「よう。わざわざ偵察に来たのか?遠慮せず座れよ」

 

「随分面白い組み合わせだね。

 時間外で何を話し合ってたのか興味あるな」

 

「クク。そりゃそうだろうさ。本来ならお前が神崎とこの場所にいると思っていたからな。ところが蓋を開けてみればお前は別のグループ。それも、箸にも棒にも掛からないチンケなチームに振り分けられるなんてな。それとも、お前はそこまでの人間だったか?」

 

「やだな龍園君。戦略もなにも、学校側が決めたことだし詳細は分からないよ。ただ、私たちは与えられた状況、情報をもとに戦うんだよ。その言い方だと順序が逆になっちゃうじゃない。学校は意図してグループ分けしたってこと?」

 

「Bの筆頭であるお前が外れたのは

 一体どういうわけなんだろうな」

 

「さぁ。私には理由なんて分からないかな」

 

「フン、まぁ惚けるならそれでいい。

 ところで一之瀬、お前良いところに来たじゃねぇか」

 

「どういうことかな?」

 

「Aクラスを潰すための提案だ。

 悪い話とは思わないんだがな。

 鈴音と神崎は反対らしい。」

 

「俺は既にCクラスの優待者を全て把握している。

 3クラスで情報を共有する、

 全優待者の情報をな。

 そして学校側のルールを看破する」

 

「なかなか大胆なアイデアだけど、

 それって現実的な話とは思えないな。

 そもそも、龍園くんがCクラスの優待者を全て把握した

 って話は本当なの?」

 

「信用できないのは当然だ。だったら今回に限り誓約書でも作ればいい。Aクラスに3人いる優待者を分け合うって話でな。これでAを除く3つのクラスが上に迫れる。おまえらBならAに上がれるだろう」

 

「どんな内容の誓約書を書いたとしても、誰がどう裏切ったのか分からない以上無意味よ。Cクラスが裏切って終わりね」

 

堀北の言うことはもっともだ。既に龍園が優待者の法則を見抜いているなど思いもしないだろうから、龍園のやり方など突っぱねてやるという強い意志を感じた。

その後も話し合いが続いたが、一之瀬も提案を受けなかった。

 

「ククッ。後悔しない事だな。

 オレはもうすぐ法則に辿り着く。

 それまで指をくわえて待っていればいい。」

 

そう言い残して、龍園は部屋を出ていった。

 

……

「龍園の言ってた事どう思う?」

 

「優待者の法則の件か?事実だと思うぞ。」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「『優待者は学校側が公平性を期し、厳正に調整している』と言っていた。そして、試験の目的はシンキング能力を問うものだ。試験の本質な優待者の法則を話し合いの中で探し出す事。おそらく龍園は早々にそれに気づいたんだろう。」

 

「シンキング能力だけなら八幡も得意だよね。

 龍園より先に見つけてよっ」

 

「だけは余計なんだが……無理だな。

 法則を考える事はできるが肝心の答えが特定できん。

 それが龍園との違いだ。

 だから、俺はこの試験を放棄した。」

 

「なるほどね~。

 そうなると私けっこうヤバイよね。」

 

「そうなるな」

 

「どうしよう……」

 

「櫛田はどうしたいんだ?」

 

「裏切り者で指名されるのは、ぜっったい嫌。

 あと、せっかくだからポイント欲しい♪」

 

はぁぁぁ〜。俺は大きくため息をついて

 

「桔梗。何があっても俺を信じられるか?」

 

「うん。もちろんだよっ」

 

「わかった。あとはまかせておけ」

 



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夏季グループ別特別試験④

22時45分。深夜の海を船は進む。

 

「……お待たせ」

 

遠慮がちにやって来たのは、軽井沢恵。その表情はどこか今までとは違うようにみえた。

 

「遅い時間に呼び出して悪かったな」

 

「ううん、それはいい……」

 

「あ、えっと……本当に上手くいったのかなって思って」

 

「大丈夫だ。間違いなくAクラスの人間がオレの名前を書いてメールを送っている。」

 

「どうしてそう言い切れるわけ?」

 

「試験お疲れ様二人とも。座ってもいいかな?」

 

背後から近づいてきた存在に軽井沢は肩を飛び跳ねさせるように驚いた。先日別れると怒鳴ってしまった平田だったのだから。

 

「もちろんだ。」

 

「そろそろ時間だね。堀北さんはまだなのかな?」

 

「あ、きたみたい。」

 

「待たせたわね。」

 

「これで全員かしら?」

 

「まだだ。もう少し待ってくれ。」

 

少しして比企谷と櫛田があらわれる。

 

「……帰っていいか?」

 

「あっ。みんな揃ってるんだ〜。試験お疲れ様♪」

 

「なぜ、あなた達がここにきたのかしら?」

 

「オレが呼んだからだ。比企谷も少し付き合ってくれ。」

 

「はぁ〜。分かった。」

 

「やっぱりここにいたのか」

 

「龍園……」

 

「お前と結果を楽しもうと思ってな。分かりやすい場所にいてくれて助かったぜ。」

「もうすぐ結果発表だが、手応えはあったか?」

 

「それなりにね。あなたの方も随分と余裕そうね。」

 

「クク。そうでなきゃわざわざ出向いたりしないさ。」

 

堀北が龍園の言葉に反応しようとすると

 

「やめておけ鈴音。今余計なことをすれば恥をかくのはおまえだぜ。俺はグループの優待者が誰だかわかっていたんだからな」

 

「それは良かったわね。結果が楽しみね。」

 

「結果を待たなくとも、辰グループの優待者が誰だったか教えてやってもいいぜ。」

 

「……だったら教えてもらいましょうか。辰グループの優待者は誰だったのか。」

 

「櫛田桔梗」

 

その瞬間、櫛田がわずかに驚きの表情を見せる。

丁度そのとき時刻が23時を迎え、生徒の携帯が一斉に鳴った。

 

 子(鼠)―――裏切り者の正解により結果3とする

 

 丑(牛)―――裏切り者の回答ミスにより結果4とする

 

 寅(虎)―――優待者の存在が守り通されたことにより結果2とする

 

 卯(兎)―――裏切り者の回答ミスにより結果4とする

 

 辰(竜)―――試験終了後グループの全員の正解により結果1とする

 

 巳(蛇)―――優待者の存在が守り通されたため結果2とする

 

 午(馬)―――裏切り者の正解により結果3とする

 

 未(羊)―――優待者の存在が守り通されたため結果2とする

 

 申(猿)―――裏切り者の正解により結果3とする

 

 酉(鳥)―――裏切り者の正解により結果3とする

 

 戌(犬)―――優待者の存在が守り通されたため結果2とする

 

 亥(猪)―――裏切り者の正解により結果3とする

 

以上の結果から本試験におけるクラス及びプライベートポイントの増減は以下とする。

 

cl、prという単位がポイントの後ろについてあるが、これはそれぞれのクラスポイントとプライベートポイントの略称でもあった。

 

 Aクラス……マイナス200cl プラス200万pr

 

 Bクラス……変動なし     プラス250万pr

 

 Cクラス……プラス150cl  プラス550万pr

 

 Dクラス……プラス50cl   プラス300万pr

 

「Cクラスが……トップ……」

 

結果に愕然とする堀北たち。

 

「いいな、その表情。なかなか色っぽいぜ。」

「腐り目。優待者の情報感謝するぜ。」

 

「っ!比企谷君!!」

 

「別に口止めはしてないしな。事実だ。」

「それより龍園。これで契約は成立した。約束通りポイント振り込んでくれ」

 

「あぁ。今後もよろしく頼むぜ。」

「鈴音。次はお前の番だ。楽しみに待っておけ」

 

そう言って龍園は去っていった。

 

「比企谷くん!どういう事か説明してもらえるかしら?クラスを裏切ってたの?」

 

「裏切ったつもりはないが?」

 

「龍園くんへ優待者の情報渡したのでしょう?」

 

「その結果、Dクラスに何か不利益があったか?ないだろう?辰グループに至っては結果1だ。平田も最初に目指したいって言ってたじゃないか。」

「俺からみれば優待者を間違えた池のほうが裏切り者だろう?池がお咎めなしで俺が糾弾される謂れはないはずだ」

 

「それは結果論よ。」

 

「結果が全てだろ」

「綾小路悪い。俺いくわ。」

 

「あぁ。来てくれてありがとう。」

 

「櫛田。帰るぞ。」

 

「うん。分かった。じゃあ、皆また明日ね♪」

 

……

綾小路side

 

「堀北。比企谷の件、どう思う?」

 

「龍園くんと取引をするなんて常識を疑うわ。クラスを裏切ったのも同然ではないかしら」

 

「意図がどうあれDクラスにマイナスは生じてない。また、辰クラスが結果1なのも龍園と比企谷のおかげだろう」

「今回、お前はこれ以上の結果を残せたのか?」

 

「わっ。わかっているわ。」

 

「Aクラスになる為に比企谷と櫛田の協力を得ることは必須だ。そのことは理解しておけ。」

 

「っ。」

 

この試験彼らの動きは全くの予定外だった。比企谷と龍園か。

オレに『面白い』という未知の感情が芽生え始めていた。

 

……

比企谷side

 

「は〜ち〜ま〜ん!!!」

 

「なっ……なんですか?櫛田さん??」

 

「説明してくれるよね??」

 

「え……えっと……信じてくれるのでは?」

 

「もちろん何があっても八幡の事は信じているよ。」

「でも、信じる事と説明を求める事は矛盾しないよね?」

 

「で、どこから聞きたい?」

 

「最初から♪」

 

「優待者である事を堀北と平田には話しとけ。と言ったが、あれが最初だ。」

 

……『休息日。俺は龍園と会っていた。

 

「なんだ?腐り目。オレに何のようだ?」

 

「話し合いの時に言ってただろ?この試験、手を組もう。」

「こちらから提示できるのはDクラスの優待者1名分だ。それでこの試験Dクラスへの敵対行為をやめてもらいたい。」

 

「話になんねえな。そんな条件、俺が飲むと思ってんのか?」

 

「今なら可能性あるだろ」

「無人島試験の結果、お前は失敗した。1度の失敗ぐらいでは立場は揺らがんだろうが、早めに挽回しておいて損はない。」

「現状、AクラスとBクラスは優待者の法則を探そうとはしていない。Dクラスに至っては優待者を共有する事すらできていない。存在をアピールしつつ一人勝ちする。そんな機会、次にいつあるかわからん。俺はお前が法則に気づきつつあると考えている。答え合わせにサンプルはひとつでも多いほうがいいはずだ」

「それに今Dクラスを攻撃しても面白くないだろ?」

 

「……優待者2名分それが条件だ。」

 

もう一人かぁ。あいつに聞けばわかるか。

 

「分かった。それでいい。

 あと、教えた情報に誤りがあった場合、俺は退学を条件にする。そちらも裏切った場合は相応のペナルティにしてもらうぞ。」

 

「ちっ。わかったぜ。」

 

俺たちは星乃宮先生立ち会いのもと誓約書を交わした。なぜ、星乃宮先生か?は単純に俺が頼みやすかったからだ。

 

 

「さて、次だ。」

 

「なんだ?まだ、あんのか?」

 

「何、簡単な相談だ。俺とお前で辰グループ 結果1を目指さないか?」

 

「説明しろ」

 

「辰グループの優待者はDクラスだ。

 俺達は既にBクラスとは協力関係にある。Bクラスの説得は俺がする。

 お前にはAクラスを担当して欲しい。

 報酬は『結果1』。ペナルティはなし。悪い話ではないだろ?」

 

……というわけだ。』

 

「Bクラスはどうやって説得したの?」

 

「Bクラスだぞ。「間違っていたら退学してもいい」と言ったら無条件で受け入れてくれたぞ。なんのデメリットもないしな」

 

「一之瀬さんならそうなるか」

 

「これで全てだ」

 

「比企谷君」

櫛田は珍しく真面目な顔で話しかけてきた。

 

「1つ約束してくれないかな?今後は退学するって簡単に言わないで」

 

「なんでだ?今回はそれが効率的だったってだけだろ」

 

「比企谷君の為に言ってるんじゃないよ。私の為。」

「ダ…メ…かな?」

 



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4.5巻?
八幡くんと桔梗ちゃん④


豪華客船でのクルージングからようやく解放された日。

 

「やっと寮に戻ってこられたー。」

 

「もしもし?ここ俺の部屋なんですが???」

 

「う〜ん…旅行から帰ってきて、お茶漬けとか食べるとホッとするよね。そんな感じ?」

 

「全くわからん。俺も疲れているんだ。さっさと部屋に戻れ。」

 

「うっ……じゃあ、ご飯食べたら帰るよ。」

 

「ポイント十分にあるだろ?」

 

「ずっと外食みたいな感じだったからね。久々に八幡のご飯が食べたいんだよ。」

 

「買い物にも行ってないからな。簡単なものしか作れん」

 

「それがいいのっ!」

 

断りきれん。このままベットに飛び込むつもりだったが、仕方ない。何か作ってやるか。

 

「へいへい」

 

「八幡は残りの夏休みどうするの?」

 

「ポイントに余裕ができたからな。本棚や買えなかった本を買いにはいくつもりはあるが、あとはいつもどおりだ。」

 

「じゃあ!服買いに行こう!!いつにする?」

 

「いや……聞いてましたか…櫛田さん?」

 

「読書時々綾小路だよね?」

「間違ってる?」

 

「はぁ〜。そのとおりだな……。分かった。都合の良い日連絡くれ」

 

「なら、この日がいいかなっ。」

 

「少し先だな。何かあるのか?」

 

「プールが開放される日なんだよ。たぶん、そこだと思うんだ。」

 

「なにがだ?」

 

「そのうち分かるよ」

 

そう言った櫛田な晩ごはんを食べ終わり帰っていった。

さて、俺も風呂はいって寝るかな。

 

……

「チェックメイト」

 

「あ〜また負けた。ホント強いなお前」

 

別の日、綾小路に誘われてチェスをしていた。最初は綾小路の部屋でやっていたが、3バカに無断で合鍵を作られたらしく最近は俺の部屋に訪れるようになっていた。

 

「昔からやってただけだ。別にたいしたことはない。

 それに比企谷も最初に比べるとかなり成長している。」

 

「まだ、一回も勝っていないんだが?あ〜少し休憩すっか。」

「何か飲むか?」

 

「いや。遠慮する。比企谷の部屋にはアレしかないんだろ。」

「持参したから大丈夫だ。」

 

俺の部屋でしか飲めないアレはもちろんマックスコーヒーである。何度か綾小路にもすすめたが口に合わなかったらしい。

疲れた頭にはこれが1番なのにな。

 

少し休憩していると綾小路が話しかけてきた。

 

「この前の試験だがお前何をしたんだ?」

 

こいつには優待者を教えてもらったしな。

特に内緒にしておく必要もない。俺はあらましを説明した。

 

「龍園と取引か。大胆な事をしたもんだ。裏切られるとは思わなかったのか?」

 

「何もしなくても結果は変わらんだろう。」

 

「どういうことだ」

 

「俺からの情報がなくても龍園は法則に気づいただろう。これがAクラスの……」

 

「葛城か?」

 

「そっ…そいつなら100%の確証がないと動かんだろうが龍園はそういうタイプではない」

「確信に至らずとも動いたはずだ。今回、俺はそれを後押ししてやったにすぎん。」

「それにだ。優待者の共有・Aクラスへの攻撃はそもそも龍園が最初に言い出した事だ。3年生の後半なら分からんが、今、それもDクラス相手に裏切るメリットよりデメリットのほうが大きい。」

「龍園とは……そうだな。悪魔と契約すると思えばいい。契約に問題があれば付け込んでくるが、それなりに誠実だと思うぞ。」

 

「結果1の件は…?」

 

「単純に立場の違いだ。Bクラスに龍園が持ちかけても信じんだろう。逆に俺がAクラスに持ちかけてもだ。」

 

「適材適所というわけか」

 

「Cクラスは俺との誓約で裏切れなかったからな。」

「失敗しても誰にもデメリットはない。乗ってくる可能性は高いと思っていた。」

 

「やっぱり面白い奴だな。」

 

「はぁぁぁ?いきなり何言ってるんだ。」

 

「そういえば、池がプールに櫛田を誘ったらしいが先約があると断られたらしい。何か知らないか?」

 

「……知らん」

 

「そうか。なら、八幡も一緒にいかないか?」

 

「いつだ?」

 

「明日なんだが」

 

「…………悪い。その日は俺も予定がある。」

 

「そういう事か。了解だ。」

 

……

「お待たせ〜。今日も早いね。」

 

「利用しただろ?」

 

「利用なんてしてないよ〜。たまたま、3バカに誘われた日が一緒だっただけだよ?」

「クラスのみんなとなら行くけど、あのメンバーと行くメリットないよね?赤髪は高飛車狙いだし、山内は佐倉さん。佐倉さんは根暗だから、残ったのは池だけ。いや。ホント無理……」

 

「き……桔梗さん??」

 

「あっ。ごめんね。じゃっ。早速行こうか♪」

 

櫛田に連れて行かれたのは予想に反して男性物の店だった。

「桔梗?今日は服みるんじゃなかったのか?」

 

「そうだよ。あなたの服だけどね。」

 

「どういうことだ?別に服装なぞ気にせんが?」

 

「夏はTシャツで誤魔化してるけどこれからの時期には必要だよ?」

「ポイントに余裕があるうちに何着か揃えておくべきだよ。」

 

そんな会話をしていると店員が話しかけてきた。なんで、おしゃれな店はわざわざ客に声かけてくるんだ。話し掛けられる気配感じると逃げたくなる。いや、逃げよう!

 

「いらっしゃいませ〜。かわいい彼女さんですね。」

「あちらに試着室もありますので、気に入ったものがあれば試してくださいね。」

 

「秋冬物見に来たんですが、オススメってありますか?」

 

「そうですね。ではこれとか……」

 

俺の意思に関係なく店員と櫛田の会話は続いていく……。

そもそも『彼女さん』否定せんのか?

その後、着せ替え人形のように何着か試着させられ、言われるがまま服を購入した……。

 

「はぁぁぁ〜。疲れた。みんな服買う時、こんな苦労してるのか?」

 

「君だけだと思うよ?」

 

「でも、女の子はもっと時間かかるかなー。」

 

「マジで?桔梗なら元がいいんだし、何でも似合うだろ。悩む意味がわからん。」

 

「え…えっ?」

 

「??」

 



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夏休み最終日

「八幡くん。今日はよろしくね〜。」

 

夏休み最終日。俺は星之宮先生から連絡があり、保健室を訪れていた。

 

「うっす。今日は珍しく素面なんですね。」

 

「そんな〜。いつも二日酔いなわけじゃないでしょ?」

 

小首を傾げて、そう言う先生。だが、これまで手伝いに呼ばれる時はもれなく二日酔いだった。たまに泥酔の時まである。

 

「まぁ。いいです。それで今日の要件はなんですか?」

 

「信じてないな〜。今日はね。2学期に向けて備品が届いたからお片付けをお願いできるかな。男手があると早いからね。」

 

視線の先を見ると大量の段ボールが積まれていた。

 

「お小遣い弾むからね。お願いっ!」

 

「分かりました。どこから手を付けていきますか?」

 

星之宮先生の指示に従い片づけを開始した。

 

……

「少し休憩しましょう。」

そう言うと手に持っていた飲料水を渡してきた。

 

「ありがとね~。八幡くん。で?何か気付いたかな??」

 

「包帯や消毒液がやたら多いっすね。体育会系のイベントでもやるんですか。」

 

「やっぱり気付いたかぁ〜。う〜ん……ね?Bクラスに来ない?」

 

「いやです。というか分かるように誘導してましたよね。」

 

入学して5か月。既にクラスの人間関係は固まっている。そんな中にわざわざ飛び込めばボッチ確定だ。ソースは中学時代の俺。

あれ?今もあまり変わんないんじゃね?

 

「え〜。Aクラスで卒業したくないの?Bクラスのほうがチャンスあるよ」

 

「ないですね。」

「仮にAクラスで卒業できても専業主夫になれないでしょう?」

 

「じゃあ、私が養ってあげるよ。」

 

「……………………」

 

「ちょっ……ちょっと八幡君。じょ……冗談だよっ。」

 

「真面目に考えてありな気がしてきました。」

 

「なっ……なんで〜」

 

「星之宮先生。公務員ですよね?」

 

「そっ……そうだけど」

 

「その時点で安定した収入は約束されています。また、福利厚生にも問題はない。」

「それに先生は家庭を顧みないタイプですよね?」

 

「ど…どういう事?」

 

「俺は月々生活費さえもらえれば問題ありません。」

 

「は…はい…」

 

「どんだけ飲んでこようが、仮に先生が浮気しても大丈夫です。今まで考えた事なかったですが、俺たち上手くやっていけるのではないでしょうか?」

 

「ひ……否定はできないかも……。」

 

「一般的に見て、容姿も申し分ないです。俺がこれ以上条件が揃った女性と出逢う事はないかもしれない。」

 

「ちょっ……ちょっと待って〜。私達教師と生徒だよっ。」

 

「卒業すれば問題ないと思いますが」

 

「その時は…30歳超えてるけど……」

 

「それが??」

 

「そっ…それより移籍の話はどう?承諾してくれたら色々教えてあげるよ〜。実は龍園君との誓約に立ち会った時から考えていたんだ。八幡くんからはBクラスどう見える?」

 

「他クラスの事。全く分からないんですが。」

 

「イメージでいいよ。」

 

「特にこれといったイメージないですね。仲がいいクラスぐらいは聞いた事ありますが」

 

「Bクラスはね〜。一之瀬さんを中心によく纏まったクラスなんだ。みんな真面目な子ばっかりなの。」

「でも、正攻法しかできないから龍園君みたいな搦め手には弱いと思うんだ。そこに八幡くんみたいな子がいたら心強いんだけどな〜」

 

「それこそいらんでしょう」

 

「なんでそう思うの?」

 

「なんだかんだ言っても正攻法を続けるのが1番強いと思います。事実Bクラスはこれまで大きなマイナスはないじゃないですか?裏ワザや搦め手を使うのは正攻法で勝てないからですよ。」

 

「でも、どこかで躓くと思うの」

 

「躓いても何があっても正攻法を貫ける。それが本当の強さだと俺は思いますけどね。」

俺はそういうやつを知っている。

「クラスが本当の強さを身につけるようサポートする。それが先生の役目ですよ。」

 

「比企谷君。ホントに高1?」

 

「どういう意味ですか?」

 




船上試験では書きたい事が多かったのですが、勢いのまま進めた結果、ダイジェスト版のようになってしまいました。
反省と練習を兼ねての日常回です。キャラクターらしさ表現するの難しいです。
次回から体育祭にはいっていく予定です。


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5巻
体育祭 準備編 ※ルール説明回


今回……オリジナルな内容ほとんどありません。
『よう実』読書は読み飛ばし推奨です。


「今日から改めて授業が始まるわけだが、9月から10月初めの1ヶ月間は体育祭に向けて体育の授業が増えることになる。新たな時間割を配るため各自しっかりと保管するように」

 

「先生、これも特別試験の一つなんですか?」

 

「どう受け止めるのはお前たちの自由だ。どちらにせよクラスポイントに大きな影響を与えることには違いないがな」

 

「今回の体育祭は全学年を二つの組みに分けて勝負する方式を採用している。DクラスとAクラスが赤組。CクラスとBクラスが白組だ」

「まずは体育祭がもたらす結果に目を通せ。何度も説明する気はないからしっかり聞いておくように」

 

配られたプリントに目を通すと体育祭についての事項が載せられている。

 

・全員参加競技の点数配分(個人競技)

 

1位15点、2位12点、3位10点、4位8点が組に与えられる。5位以降は1点ずつ下がっていく。団体戦の場合は勝利した組には500点が与えられる。

 

・推薦参加競技の点数配分について

 

1位50点、2位30点、3位15点、4位10点が与えられる。5位以降は2点ずつ下がっていく。

(3学年合同の競技に関しては3倍の点数が与えられる)

 

・組の結果が与える影響

 

全学年の総合点で負けた組は全学年等しく100クラスポイント引かれる。

 

・学年別順位が与える影響

 

各学年、総合点で1位を取ったクラスには、50クラスポイントが与えられる。

2位を取ったクラスのクラスポイントは変動しない。

3位を取ったクラスは、クラスポイントが50引かれる。

4位を取ったクラスは、クラスポイントが100引かれる。

 

「先生。勝った組はポイントを貰えるんですか?記載がないみたいですが」

 

平田からの素朴な疑問に対して茶柱先生はこう答えた。

 

「何もない。マイナスという措置を受けないのみだ」

 

「えー!そんなの何もおいしくないじゃないっすか!」

 

この言葉を聞いて教室内は騒然となった。

 

「安心しろ池。個人競技で結果を残したものには報酬が与えられることになっている。もう一度紙によく目を通せ」

 

茶柱先生の言葉を聞いて、俺たちはもう一度紙に目を通す。

 

・個人競技の報酬

 

各競技で1位を獲得した生徒には5000プライベートポイント、もしくは筆記試験における3点分の点数が与えられる。

 

2位を獲得した生徒には3000プライベートポイント、もしくは筆記試験における2点分の点数が与えられる。

 

3位を獲得した生徒には1000プライベートポイント、もしくは筆記試験における1点分の点数が与えられる。

 

各競技で最下位を獲得した生徒は、1000プライベートポイントのマイナスを受ける。所持ポイントが1000ポイント未満である場合、筆記試験における点数を1点減点する。

 

なお、筆記試験の点数に関しては次回の中間テストのみ適応され、他人に譲渡することは出来ない。

 

・反則事項について

 

各競技のルールを遵守すること。違反者は失格同様の扱いを受け、悪質な者については退場処分や、それまでの獲得点数を剥奪する場合もある。

 

・最優秀生徒報酬

 

全生徒の中で最も高い得点を獲得した生徒には10万プライベートポイントが与えられる。

 

・学年別最優秀生徒報酬

 

最も高い得点を獲得した学年別3名には、それぞれ1万プライベートポイントが与えられる。

 

「せ、先生!この上位に入った生徒が筆記試験の点数を得るってなんすか!?」

 

学力が乏しい生徒も茶柱先生に期待の目を向ける。

 

「お前の想像通りだ池。体育祭で入賞するたびに次回の中間テストに限り補填できる点数を得る」

「だが、うまい話には当然裏もあるぞ」

 

再び紙に目を通すと、厄介そうな文面がある。

 

・全競技終了後、学年内で下位10名にペナルティを科す。

 

ペナルティの詳細は学年毎に異なるので担任教師に確認すること。

 

「先生、このペナルティってなんなんですか?」

 

「お前たちに科されるペナルティは次回筆記試験におけるテストの減点だ。なお、ペナルティに科されたものはテストで10点の点数を引かれることになっている」

 

「一通り結果についての説明は終わった。では、次は競技についての説明をしよう。お前ら、プリントに目を通せ」

 

・全員参加競技

 

①100メートル走

②ハードル競争

③棒倒し(男子限定)

④玉入れ(女子限定)

⑤男女別綱引き

⑥障害物競争

⑦二人三脚

⑧騎馬戦

⑨200メートル走

 

・推薦参加種目

 

⑩借り物競争

⑪四方綱引き

⑫男女混合二人三脚

⑬3学年合同1200メートルリレー

 

「ちょ、ちょっとさすがに多すぎっすよ!こんなの1日じゃ無理ですって!」

 

「それは学校側も当然考えている。本来体育祭と言えば、応援合戦やダンス、組体操などが花形だが、今回は一切存在しない。あくまで今回は体力、運動神経を競い合うものだからな」

 

なっ……なんて素晴らしい学校だ!ダンス・組体操…トラウマしかない。比企谷菌なめんなっ。

おっ…おっと、横道に逸れた。うん。体育祭にそんなのいらない!

 

「次の時間では第一体育館で他学年との顔合わせになる。それにまだ20分ほど時間が残っているから雑談するもいいし、体育祭について話し合うのもいい。自由にしろ」

 

……

2時間目のホームルーム。そこでは体育館にて全学年による顔合わせが行われていた。

 

「今回は協力関係だ。出来れば仲間同士で揉め事を起こすことなく力を合わせられればと思っている」

 

「僕も同じ気持ちだよ葛城くん。こちらこそよろしく」

 

葛城と平田が握手を交わす。せっかく普段敵対してる俺たちがこうして手を結ぶことになったんだ。

 

こうして俺たちの戦いは始まった。   完

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで閲覧頂き、ありがとうございます。
もちろん打ち切りにはならない(はず)です。

今回、ほとんど原作から変更ありませんので、人物評を少し。


櫛田桔梗 八幡への好感度10 ※10点満点
中学時代のトラブルを収拾してくれた事よりも、トラブルの事実を知っても。素の櫛田桔梗を知っても変わらない八幡は特別な存在と考えています。反対にその他の人に執着はありません。承認欲求の強さに変わりはないですが、不都合があれば掌を返す。あくまで、一時的な欲求を満たす存在と考えています。

堀北鈴音 八幡への好感度3
八幡の行動に一定の評価(←綾小路の入れ知恵)をしてはいるが上昇志向が感じられず低評価。ここまで協力関係ではないが、そこまで相性は悪くなく、堀北の成長次第で関係改善の余地あり

綾小路清隆 八幡への好感度6
予想外の行動をとる人物の1人であり関心は高い。休日よく一緒にチェスをしているが定石から外れた一手に実はニヤニヤしている。無駄な会話を求めてこないことも好感度高。
好感度6は低く見えるが、綾小路の5〜6の間には途方も無い壁が存在している。
堀北・軽井沢も好感度5以下です。

3バカ 八幡への好感度1
一学期一緒に勉強会に参加していたが特に関わりは深くない。中間テストで唯一赤点だった八幡を自分達より下と認識している為、須藤君の暴力事件の時にも声を掛けられなかった。
桔梗ちゃんが『山内』『池』と普通に呼んでいるのは
「バカ。アホ。八幡!」と同様に既に名前が悪口として定着している為

星之宮知恵 八幡への好感度8
最初、Sシステムに入学当初気づいた事から興味をもつ。現在は定期的にお手伝いを依頼しており、本人は気付いてないが二日酔いの姿や色々あってそこそこボロボロな姿もみせても問題がないぐらい心を許している。龍園との取引をみて、再評価中。


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体育祭 準備編②

週に1度設けられることとなった2時間のホームルームの時間で平田を進行役に話し合いが始まる。

 

「まず練習を始める前に決めなきゃいけないことがあると僕は思うんだ。それは競技の参加順と推薦競技。それをどうやって決めるかだと思う」

 

「クラスで運動神経の良い人が優先的に推薦競技に参加できるのはもちろん全員参加の競技は勝てるように速い人は遅い人と戦うべきよ。」

 

「ちょっと待ってよ。堀北さん。その作戦って運動が苦手な私達は切り捨てられるって事!!!」

「納得できないんだけど!運動が苦手だからって強い人と勝負だなんて……絶対に勝てないし」

 

「仕方がないわね。それがクラスのためよ。篠原さん」

 

「それはそうだけど」

 

「どう考えても能力で決めるべきだろ。自分の事は自分でわかってんだしよ。」

 

「須藤くん……むかつくけどそうかもね」

 

「俺は運動が苦手だ。だから須藤が推薦競技を一手に引き受けてくれるなら賛成だ」

 

眼鏡男子も須藤達に賛成のようだ。

 

「平田くん。ちょっといい??」

 

「なにかな軽井沢さん」

 

「あたし反対なんだけど」

「篠原の言う通り運動できない子が泣きをみるってどんな訳?それでクラス一丸となって戦っていけるっての?」

 

「一丸になるということはそういうとこなのよ。わかるかしら?」

 

「全然よくわからないんだけど?」

「比企谷はどう思う?」

 

なっ…なんでこの流れで指名されるんだ。ギャルみたいな女とは接点ないはずはんだが…

 

「うん。私も比企谷君の意見聞きたいなっ♪」

 『楽しみにしてるよ!』

 

櫛田まで乗っかかってきやがった……はぁ〜

「順番なんて何でもいいだろう。なんなら籤で決めてもいいと思うぞ。恨みっこなしだ。推薦競技もでたいやつがでればいい。定員が足らんかったら、じゃんけんで決めたらいいんじゃないか?知らんけど」

 

「ふふっ」

櫛田さん?楽しそうですね。

 

「なっ。何を言ってるのあなたは。やる気がないのかしら?」

 

「堀北の言う通りだせ。やる気ないなら意見すんなっ」

 

いや。やる気ないから意見する気なかったのだが……

 

「どういう事かもう少し説明してもらえないかな?」

 

ひ……ひらた……お前もか……これ以上話したくないんだが…

 

「速い人は遅い人と戦うべきって言うが、そもそも他クラスの順番分かるのか?」

 

「それはこれから調べていくわ」

 

「今回の試験。参加順は重要だ。他クラスが教えてくれると思っているのか?」

 

「そっ……それは各クラスの戦力を分析して」

 

「所詮予想レベルだろ?なんの確証もない。」

 

「つっ……」

 

「どんだけ考えた所で全員参加競技は各クラスのポテンシャルに集約していく。順番なんてものに時間を費やすぐらいなら各自のレベルアップと戦略に時間をあてるべきだと思うが?」

 

「戦略って例えばなにかなっ?」

いい笑顔で聞いてくる櫛田さん…知ってますよね?

 

「俺たちは赤組だ。棒倒しや玉入れのような全クラス参加の競技は頭怪我したといって鉢巻のうえに包帯をまけばどっちのチームかわからんだろう。騎馬戦とか鉢巻に滑る素材も染み込ませてもいいと思うが?」

 

「ぶふっ」楽しそうですね。櫛田さん!

 

 

「…………」

 

櫛田の反応を除いてクラスに静寂か訪れる。

 

「そっ…そんなことルール違反だわ。」

 

「別に誰も傷つけてないだろ。ルールの範囲内だと思うぞ。」

 

「………」

 

「まぁ…まぁ…クラスとしてどうするか平等に多数決で決めよう。」

 

平田の提案の結果、Dクラスは堀北の案を採用することになった。

 



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体育祭 準備編③

「……私に送ったメールこれはどういう事?」

 

誰もいない階段の踊り場で軽井沢がオレに聞く

 

【From:綾小路清隆

 

 どんなものであれ

 堀北に反論しろ

 

 その後、

 比企谷に意見を求めろ】

 

 

「オレのすることの意味をいちいち気にしてたらキリがないぞ」

 

「ふーん…つまり理由を聞かずにおとなしく指示に従えってことね。わかったわよ」

 

「比企谷の意見どう思った?」

 

「最初は『何言ってんだこいつっ』てかんじだったけど、よくよく聞くと『なるほどなっ』と思わせられた。」

 

「………比企谷の意見を聞いて堀北が気付けばよいが、もし気づかなかった場合、イヤな役目をさせるかもしれん。」

 

「はぁ…いいよ。それぐらい。その代わり何があっても守ってくれるんでしょ」

 

「あぁ。約束する。」

 

……

「推薦競技はどうするの?」

 

「出るつもりはないが?」

 

「八幡。運動そこそこできるよね。」

 

「そこそこしかできん。平均かそれ以下ぐらいだ。運動部には全く敵わん。」

 

「借り物競争とかはどう?運動能力あまり関係ないよ」

 

「無理だ。絶対にゴールできん。」

「お題に友達という言葉があれば、その時点で終わりだ。それ以前に俺が人に話しかけられると思うか?」

 

「ご…ごめん。」

「そっ…そうだ。なら私と二人三脚にでよう!」

 

「それも無理だ。」

「二人三脚に櫛田がでるとなったら、他の男どもが殺到するはずだ。その中でペアが俺になるとかありえんだろう」

 

「う〜ん……じゃあ、八幡とのペアが成立したら参加してくれるのかな?」

 

「成立できたらな。」

 

「約束したからね。」

そう言うと櫛田は携帯を取り出し、クラスメイトにメールや電話を始めた。

 

「そういう事だから協力してくれないかな?」

「この二人なら運動能力もぴったりと思うんだ。参考にしてくれるとうれしいよっ」

「…くんは借り物競争がいいと思うなっ。かっこいい所期待してるね♪」

「うん。うん。二人だけの秘密だね。」

・・・・・

 

 

「な…何をしているのかな?櫛田さん。」

 

「根回し。どんな事しても必ず成立させてみせるからね♪待っててね。八幡くん♪」

 

し…しまった。櫛田の影響力忘れてたわ。

これは腹くくるしかないのか?

 

……

堀北や須藤を中心に体育祭に向けての準備は順調に進んでいる。推薦競技の二人三脚(男女混合)に櫛田が立候補した時、これは荒れるかと思ったが、スンナリ比企谷とのペアが決まった。あいつら何をしたんだ……。

 

このまま行けばDクラスはそこそこの結果で終われるだろう。龍園の動きは気になるが、このままで良いのか?

オレは今回堀北に敗北を味あわせたいと考えている。

比企谷の発言で相手のメンバー表を手に入れる事の有用性。また、相手に渡ることへの危惧に気づけばと思っていたがその兆候はない。

 

やはりいずれかの方法を実行するしかないのか?

 

次の土曜日。オレは比企谷とチェスをしていた。やはり面白い。実力ではまだまだ及ばないが、時より思いがけない一手を打ってくる。一見意味のない手に見えるが、場が進むことで比企谷の意図がみえてくる。最近はこの時間を楽しみにしているオレがいる。

 

「比企谷。一つ頼みがあるんだが。」

 

「なんだ?」

 

「体育祭。このまま龍園が動かないって事あると思うか?」

 

「ないだろうな」

 

「オレは比企谷に接触してくると考えている。その時にDクラスのメンバー表を渡してくれないか?取引の報酬は好きにしてくれて構わない。」

 

「綾小路が何を考えているのか知らんが断る。」

 

「なんでだ?フォローは必ずするぞ。お前にも悪い話ではないだろう?」

 

「俺は積極的に協力するつもりもあんまりないが、クラスの足を引っ張るつもりはない。」

「お前にも理由があるんだろうから詳しくは聞かんが、今回の場合、どんな結末になるか不確定要素が多すぎる。」

 

「すまんな。比企谷。変な事を言った。」

 

「大丈夫だ。この事は誰にも言うつもりもない。話す相手もいないしな。」

 

やはり比企谷を動かすのは無理か。こうなればCクラスの真鍋達を動かして、軽井沢からCクラスに渡るよう調整するしかないな。

今回真鍋達の動きが大きくなるのは心配だが仕方ない。

 

「そういえば…」

 

「なんだ?」

 

「二人三脚の櫛田とのペアの件、何したんだ?」

 

「俺が聞きたいわっ!!」

 

 



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体育祭 午前の部

体育祭当日ーーーーーーー

「いいとこ見せて桔梗ちゃんに猛アピールだぜ!」

 

「おー!!」

 

(お前らじゃ無駄。下の名前で呼ぶな。)

 

あれっ?今……何か聞こえたか??

 

『次のプログラムは100M走です。』

 

午前中は全学年全員参加競技というのもあり、たんたんと進んでいく。我らDクラスはと言えば、いつも通り高円寺は欠席しており、須藤はイライラしている。Cクラスのアルベルト?あれには勝てん。

 

俺?俺は無難に4〜6位あたりを獲得している。

 

それにしても……確実にメンバー表漏れているな。堀北が狙いうちされているのが、ここまででもわかる。

綾小路……何を考えているんだ。

 

そして、障害物競走

 

「うおっ。結構凄いことになったぞ!?」

 

堀北が倒れている。Cクラスの生徒と接触したようだ。

 

「……」

 

「どうしたんだい?綾小路君」

平田が声をかけた。

 

「次も同じ「偶然」が起こるようなら、「偶然」ではないかもしれないな。」

 

どの口が言ってんだ……

 

堀北は他生徒に支えられて、ようやく歩けている状態だ。

 

「やっぱり君もそう思う?多分他の生徒も感じ始める頃だと思う。」

 

「ああ」

 

「でも、こうなったって事は状況は悪いほうへ動いているって事だよね」

 

……

「堀北さん……大丈夫かな……」

 

「あのかんじだと難しいんじゃねぇか。

 堀北の性格考えると競技には参加するとは思うが」

 

「次は私との二人三脚なんだ。

 (足引っ張られないか)心配だよっ」

「それに推薦競技も…もし出られないってなると

 (ポイント的に)影響大きいよね……」

 

「…………」

 

「どうしたの?」

 

「幻聴が聞こえるんだが?」

 

「(八幡にしか聞こえないから)大丈夫だよっ」

 

櫛田と堀北の二人三脚は最下位に終わった。

続く騎馬戦も堀北が集中的に狙われ、散々な結果だ。

 

男子の騎馬戦。龍園の戦略により、須藤のイライラは頂点に達していた。俺言ったよね。。。滑りやすい素材染み込ませたらって……

 

「比企谷少しいいか?」

 

「なんだ。綾小路」

 

「体育祭。なにがあっても手を出さないでもらえないか?」

 

「なんの事だ?」

 

「これはこれからのDクラスに必要な事だ。」

 

「わかった。ただ、見過ごせない状況になったら約束できんぞ」

 

「あぁ。それで構わない。」

 

……本当に何を考えてやがる。

 

綾小路との話が終わり、クラスメイトのもとへ戻ると須藤の怒声が聞こえてきた。

 

「マジでボコボコにしてやる、あの野郎!」

 

「須藤くんの言いたい事は分かるよ。でも、少し冷静になる必要があるんじゃないかな。君が龍園くんに暴力を振るったらどうなるか結果は分かるはずだよ」

 

悪い流れだ。周りからも須藤への批判があがりだした。

口論が続くと須藤はとうとうキレた。

 

「俺はクラスの為に必死になってんだろうがっ……」

 

ちっ。

 

ゴッ、と鈍い音がして平田の代わりに俺は後ろに吹き飛んだ。

 

(あ…あいつ…絶対潰す!)

 

「やってられっか。勝手に負けてろよ雑魚ども。体育祭なんてクソ喰らえだ」

 

いやいや。お前から運動とったら何が残るんだ。

 

「比企谷くん!!」

 

「ど…どうして、」

 

「急に割り込んですまない。」

 

「どうして僕を庇うような事したんだ!」

 

「平田はこの後も競技控えてるだろう。堀北・須藤が戦力になりそうもない今、お前に退場されたらDクラスは本当に終わりだ。」

 

「だ…大丈夫??」

櫛田がやってきた。

 

「あぁ。大した事じゃない」

 

「そんな事ないよ。赤くなってるし、先生に診てもらわないと。」

 

「いらん」

 

「そうだよ。何にもなくても一度診てもらうべきだ。あと、さっきはありがとう。」

 

……

「俺が勝手に割り込んだだけだ。自業自得だな。」

 

「それで?」

 

「だから、抑えろよ。」

 

「なんの事かな?」

そういった櫛田は全く笑っていなかった。

 

「いっらっしゃ〜い」

 

保健室に入ると星之宮先生の気の抜けた声に出迎えられる。

 

「八幡くんと櫛田さんかぁ〜。どうしたのかな?」

 

「じつは…「コケて顔打ちました。」」

 

櫛田を遮るように言う。

 

「ホントかな〜。普通そうはならないよ?」

 

「世の中不思議な事があるみたいですね。」

 

「まぁ〜いいかっ。ちょっと診るからこっちに座ってね。」

俺が座ると、いつも通りつんつんとアホ毛の状態を確認してくる。

 

「先生?ナニヲシテイルンデスカ?」

櫛田さん。怖いです。

 

「ごめん。ごめん。ちょっとした冗談だよ〜。うん。少し赤く腫れてるけど、それ以外は大丈夫そうね。競技に戻っても問題ないよ〜。もし、この後で気持ち悪くなったりしたら直に保健室にきてね」



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体育祭 午後の部①

考えていたより長くなりそうなので前後編にしました。


チャイムが鳴り、体育祭後半戦が開始。推薦競技の時間を迎えた。残された4つの競技はクラス内から選ばれた精鋭たちが出場することが予想される。

俺は櫛田と二人三脚(男女混合)に出場する。

普段気にしていなかったが、櫛田の影響力舐めてたわ。

 

「そういえば綾小路は借り物競争にでるんだったな」

 

「出来れば参加したくなかったんだけどな……」

じゃんけんで勝ってしまったのだから仕方ない。

「ポイント俺が出すから変わらないか?」

 

「お題に友達って書いてあったら、そこで終わる。

 他をあたってくれ」

 

「問題は不在の須藤君だね……」

平田が参加してきた。

 

「もし、良ければ君達の意見を聞かせてもらえないかな。堀北さんに意見を伺いたいところだけど、そうはいかないみたいだからね。」

 

須藤だけでなく堀北も陣営には戻ってきていないようだ。

 

「オレに頼らなくても平田なら正しいジャッジが下せるんじゃないか?」

 

「代役をたてるしかないだろ」

 

「僕個人としても代役は必要だと思っている。ポイントの方は僕がなんとかする。代わりは山内君か池君がいいかなと思っているんだ。」

 

「もし、1位をとった時、テストの点が得られるから、だな?」

 

「うん。そのメリットを生かすほうが得策だと思うんだ」

 

「あいつらに運があるとは思えんが……」

 

山内と池の一騎打ちでのじゃんけんの結果、池が代役となった。

 

借り物競争2レース目、オレたちのスタート合図がなる。

 

「さて、何が書かれてあるんだか……」

 

『友達10人を連れてくる事』

 

「……嘘だろ?」

友達ってだけでハードルが高いのに、10人?ふざけているのか?頭の中で考えても10人なんて浮かばない。

 

「何ボケっとしてんだよ!早くしろよ綾小路!」

 

オレにはどうしようもない。お題をチェンジしようとした時、不意に比企谷の言葉を思い出した。

『お題に友達って書いてあったら、そこで終わる。』

あいつの事だ。もしかすると解決策も思いついているかもしれない。ここは賭けてみるか。

 

「比企谷!これを見てくれ」

 

「ま…まじか……」

 

「なんとかならないか?」

 

「ならんこともないが恥ずかしいぞ」

 

比企谷がどう対処するか楽しみが勝ったのか深く考えず

「構わない。頼む!」

と言ってしまった。

 

「はぁ〜。後で恨むなよ……」

 

「頼みがある。」

比企谷は櫛田にそう言うと何やら耳打ちした。

 

「うん♪わかったよっ。」

 

二つ返事で了承した櫛田はクラスメイトに向かって大きな声で話し始めた。

 

「綾小路君のお題なんだけどー。友達10人みたいなのー。あと8人。綾小路君の事、友達って思っている人は集まってもらえないかなー?」

 

そういうと平田や軽井沢、佐倉に続き、何度か話した事があるクラスメイトが名乗りをあげてくれた。

オレが唖然としていると

「10人集まった。行くぞ」

比企谷に促される。結果2位でゴールする事になった。

 

「ど…どういう事なんだ…」

俺が混乱していると比企谷はこう言って陣営に戻っていった。

 

「俺達が考えているより、友達のハードルは低いらしいぞ。知らんけど。」

 

……

「ようやく私達の出番だねっ」

 

二人三脚(男女混合)が始まろうとしていた。櫛田とペアという事でDクラスだけではなく男子からの視線がイタイ。胃…胃が…このまま体調不良で……

 

「どうしたのかなっ?」

『もう逃げられないよ?』

 

魔王からは逃げられん。

 

「知ってると思うが期待すんなよ」

 

「二人三脚は単純な足の速さよりも息のあったプレーだと思うよっ。(だから、負けられないよ?)」

 

「やっほー比企谷君。それに桔梗ちゃんも。私達一緒の組みたいだねー」

 

そう言ってきたのはBクラスの…………名前なんだっけ?

 

「わー強敵だね。帆波ちゃんと柴田君が一緒に組むなんて……」

 

「柴田君はそうだけど、私は別に大した事ないよ?」

 

二人の会話は続く。どうやらBクラスは即席のペアのようだ。これはチャンスあるのか?

 

「柴田くん、もう結んじゃってもいい?」

 

「オッケー」

 

仲良く紐を結び始めたBクラスのペア。

 

「そろそろ(八幡が)紐を結ぼうか?」

 

「へいへい。ちょっと強めに結ぶぞ。」

 

「須藤くんはともかく堀北さんもまだ戻ってこないね」

 

「そうだな。」

 

「何か知ってるの?」

 

「詳しい事は知らん。多分、綾小路の仕業だ。余計な事しないように釘もさされたからな」

 

「う〜ん…綾小路君何考えてるんだろう…」

 

「Dクラスには必要な事らしいぞ」

 

「……まっ。いいか。」

「さ〜て!準備も整ったし、行こっか?目指すは1位だよっ♪」

 

純粋に競技を楽しもうとしている櫛田。たまにはこういうのもいいかもしれない。せいぜい足を引っぱらんよう頑張りますか。



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体育祭 午後の部②

あっ。予約投稿するつもりが…そのまま…
一瞬順番おかしくなってます。すいません。

予定外に2話連続投稿ですorz


「はぁ、はぁっ、悪ぃ待たせた!今どうなっている!?」

 

息を切らせた須藤と、そして少し遅れて堀北も戻ってきた。

 

「須藤君戻って来てくれたんだね」

 

「…悪ぃな、ちょっとウンコ長引いた」

その顔には、どこか晴れ晴れとした様子が見受けられた。

 

「悪かった。オレがキレたせいで士気をさげた。それにDクラスが負けそうなことも俺の責任だ。」

誰かに責められる前に、須藤はそういって深々と頭を下げたのだ。

 

「リレーの代役がまだ決まってねーなら、俺を走らせてくれ」

 

「っつ」俺は何かを言いかけた櫛田を止める。

(な…なんで……)

 

「須藤君以外にまかせられる生徒はいないよ、ね、みんな」

 

「私は代走をお願いできないかしら……。この足では満足な結果残せないから」

須藤の話がまとまったところで、堀北が申し訳なさそうに申し出る。堀北の代わりとして繰り上がりで櫛田がでる事が決まった。

 

「待ってくれ。悪いんだけどさ……俺も棄権させてくれないか?」

そう言ったのは男子で参加予定の三宅だ。少し右足を引き摺っているようにみえた。

 

「となると、男子からも一人代わりに出てもらう必要がありそうだね」

そう言い平田はあたりを見渡す。

 

「じゃあ、オレが走ってもいいか。もちろん代走のポイントはオレが払う」

 

「僕は賛成だよ。今まで皆を見てきたけど、しっかりと結果を残してくれる人だと思う」

 

こうして、須藤が1番手。2番手は平田。櫛田を含む女子3人をいれ、アンカーは綾小路となった。

 

スタートの合図とともに須藤は好スタートをきる。そのまま15M以上のアドバンテージのまま平田にバトンタッチした。

平田は差をほとんど詰められることなく小野寺へ。

そのリードか確実に詰められていく。前園に渡るときにはリードはほぼなくなり、走り出した所で2年A組の男子に抜き去られてしまう。5番手の櫛田にバトンが渡る頃には7番手にまで落ちてしまっていた。

3年Aクラスのアンカーにバトンが渡ると異変がおきた。受け取った眼鏡先輩はその場で立ち尽くしている。

櫛田から綾小路がバトンを受け取ると二人のレースが始まった。

 

「すげぇな。あいつ。」

以前できない事はほとんどない。って言ってたがホントだな。俺は二人の一騎打ちを眺めていた。

 

二人の驚異的な追い上げに慌てたのか前の走者が転び、綾小路の目の前の進路が塞がれてしまった。避けたもののその僅かなロスは大きく、眼鏡先輩に前に行かれてしまった。

 

こうして、俺たちの体育祭は幕を閉じる事になった。

 

1位 1年Bクラス

2位 1年Cクラス

3位 1年Aクラス

4位 1年Dクラス

 

……

「…なるほど、なるほどなるほど。なるほどなぁ。クク、面白いじゃねぇか。これがどういうことか分かるか?裏切者がCクラスにいるってことだ。そして、そいつは影でおまえだけじゃなく俺も手の平で転がしていたって事だ。鈴音が俺の前に敗れる事を計算していたってことさ。クハハハ!面白れぇ!面白ぇなオイ!おまえの裏で糸引いてやがる奴は最高だぜ!」

 

間違いない。どうやったかは分からないけれど、綾小路くんがCクラスの誰かを利用して龍園くんの作戦を録音させた。それだけは確信がもてた。

 

「今回はこれで終わりだ。このメールの差出人もこれ以上は追求してこないだろうさ」

「鈴音からポイントと土下座を引き出す事には失敗したが収穫があっただけ良かったとするか」

 

……

「あの赤髪〜。ぜっっったいに許さない。なにをしても潰す!」

 

あぁ〜ダメだわこれ。いつも通り愚痴を聞くだけだと本当に須藤を退学まで追い込みかねん。

 

ふぅぅぅ~。よしっ!

 

「少し俺の話聞いてくれないか?」

 

「なにっ!」

 

「桔梗。言ったはずだぞ。今回の件は俺が勝手に割り込んだだけだ。須藤に俺を害する意思はなかった。」

 

「そんなの関係ないっ。比企谷くんを傷つけた。私にはそれで十分」

 

「あそこで殴らせるわけにはいかなかった。怪我をさせる可能性はもちろんだが、女子に絶大な人気のある平田を殴る影響は…わかるだろう?」

 

「それでも殴っていい理由にはならない!」

「戻ってきた時も比企谷くんには一言の謝罪もなかった。絶対に許さない。」

 

「桔梗。俺の行動を無駄にするつもりか?」

 

「……そんな事はないよ。……それでも……」

 

「何度も言うが今回は俺が勝手にやった事だ。」

 

「………」

 

「なっ?」

 

「……わかった……でも、次はない。それは覚えておいてね。八幡」




体育祭編はこれで完結です。八幡は身体能力に優れているわけではないので、さらっと終わる事も考えたのですが、櫛田さん中心に構成してみました。今回、色んな表情が伝われば幸いです。
さて、次回から二学期後半にはいっていきます。なんとか1年生編は最後まで続けたいと思いますので応援頂けると頑張れます。


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6巻
ペーパーシャッフル① ※ルール説明回


ルール説明回です。『よう実』読者は読み飛ばしてもらっても大丈夫です。


某日。クラス内は重い空気につつまれていた。

 

「席につけ。随分と事前準備が出来ているようだな」

「揃いも揃って真剣な顔つきだ。

 とてもあのDクラスとは思えないな」

 

「だって、今日は中間テスト結果発表の日っすよね?」

やや緊張した面持ちで池が言う。

 

「早速だが中間テストの結果を貼り出す。自分の名前と点数を間違えないよう確認しろ」

「今回の中間テストによる退学者は見ての通り0だ。無難に試験を乗り越えたな」

「さて、おまえたちも分かっていると思うが、来週、二学期の期末テストに向けて8科目の問題が出題される小テストを実施する。既にテストに向けて勉強を始めている者もいると思うが、改めて伝えておく」

 

「げぇっ!中間テストが終わってホッとしたばかりなのに!またテスト!」

 

「つか小テストまであと1週間だったっけ!聞いてないッスよ」

 

「聞いていないは通用しない。そう言いたい所たが、安心しろ池」

「まず第一に、小テストは全100問の100点満点なっているが、その内容は中学3年レベルになっている。更に1学期の小テスト同様成績には一切影響しない。0点だろうと100点だろうと取って構わない。あくまで現状の実力を見定めるものだ。」

「だが、もちろん小テストの結果が無意味なわけではないことを先に伝えておく。何故なら次の期末テストに大きく影響を及ぼすからだ」

 

「なんだよ、その影響ってのは。もっと分かりやすく言ってくれ」

 

「お前に分かりやすく説明してやれるといいんだがな須藤。まず前提として、次回に行われる小テストの結果を基に、クラス内の誰かと2人1組のペアを作ってもらうことが決まっている」

 

「ペア、ですか?」

 

平田が疑問で返す。

 

「そうだ。そして、そのペアは一蓮托生で期末テストに挑む事になる。行う試験科目は8科目100点満点。各科目50問の合計400問。そして取ってはならない赤点が2種類存在する。1つは今まで通りに近いが、全科目に最低ボーダーの60点が設けられており、2人の合計を合わせて一科目でも60点未満の点数があれば二人とも退学が決定する。例えば池が0点でも平田が60点を取ればセーフということだ」

「そして今回新たに追加される基準は、総合点においても赤点の有無を判断されるという点だ。仮に全科目が60点以上であっても、ボーダーを下回れば不合格になる」

 

「それに関してもペアの総合点ということでしょうか」

 

「その通りだ。総合点はペアの合計で定められる。求められるボーダーはまだ正確な数字はでていないが、例年の必要総合点は700点前後といった所だ」

「肝心のペアの決定方法は小テストの結果が出た後伝える」

 

「それからもう一つ。期末テストでは別の側面からも課題に挑んでもらう」

「まず期末テストで出題される問題をお前たち自身に考え作成してもらう。そして、その問題は自分達以外3クラスの内一つへと割り当てられる。他のクラスへ攻撃をしかけるということだ。自分達のクラスの総合点と、相手のクラスの総合点をくらべ、勝ったクラスが負けたクラスから50クラスポイントを得ることが出来る」

 

「作り上げられた問題は私たち教師が厳正かつ公平にチェックする。指導領域を越えていたり、出題内容から解答できない問題がある場合はその都度修正してもらう事にだろう」

 

「肝心のクラスはどこなのかだが、それに関しては単純明快だ。希望するクラスを生徒側が1つ指名し私が上に報告する。その際に希望が被っていた場合には、代表者を呼び出し、くじ引きで決定する。どのクラスを指名するかは来週行う小テストの前日に聞き取る。それまでに慎重に考えておくことだ。」

 

「例年この特別試験……通称ペーパーシャッフルでは一組か二組の退学者を出している。そしてその脱落者の大半はDクラスの生徒だ。」

 

そう茶柱先生は締めくくり、今日の授業は全て終了となった。




ペーパーシャッフル説明回です。内容も原作から違いがないので、次回は早めに投稿したいと思います。

感想で要望を頂きましたので現時点の好感度を下記に

八幡→登場人物

櫛田桔梗 八幡からの好感度8 ※10点満点
中学時代からの腐れ縁。普段の偽っている姿を当初警戒していたが、行動原理が自分の欲望に忠実なだけという事を知ってからは普通に受け入れている。櫛田の行動でドキッとする事はあるが勘違いしないよう理性を総動員中。

堀北鈴音 八幡からの好感度5
本作で対立する場面は多いが、普段積極的に関わってくる事もないので、他人の内の一人レベル。
体育祭を経験して堀北が成長したことにより、今後は上昇する可能性はあり。

綾小路清隆 八幡からの好感度6
普段から話し、休日に遊ぶ仲である唯一の男子生徒。あまり会話を必要としない為、居心地は悪くないと思っている。綾小路の能力には疑念をもっており、警戒は怠っていない。

星之宮知恵 八幡からの好感度6
定期的にバイトをさせてもらっているが、呼ばれる日はいつも二日酔いで、手のかかる姉ぐらいの感覚。

登場人物→八幡

平田洋介 八幡への好感度7
普段クラスと関わりはないが、打ち合わせ等には(断れず)参加してくれるし、意見を求めると(内容はアレだが)自分の意見をしっかりと発言してくれる。非常にわかりにくい性格だが、よくよく考えると大きな瑕疵もなく、クラスの為に協力してくれる仲間と考えている。

龍園翔 八幡への好感度3
Dクラスの中では面白い存在と考えているが、クラスへの影響度が皆無の為、全く警戒はしていない。
堀北との接点が無い事から、Xである可能性は低いと考えている。他クラスで好感度5を超えると攻撃対象に……


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ペーパーシャッフル②






かなりピンチなんじゃないか?総合点では中の上ぐらいではあるが、理系科目は相変わらず。ペア次第では退学確定だ。

 

そう考えているうちに教壇にたった平田が今回の試験について、堀北に意見を求めていた。

 

「…まず始めに。過ぎた事ではあるけれど一つだけ謝罪させて欲しいの。私は体育祭で不甲斐ない結果を出してしまった。強い態度で臨んだにも関わらず、Dクラスの為に何も出来なかった事を謝らせて」

そう言い、堀北は一度だけ深々と頭を下げた。

 

正直驚いた。堀北は決して自分の非を認めるやつではなかった。体育祭が終わった後の須藤といい……綾小路……何をすればこうなるんだよ…。

 

そんな感想を抱いているとさらに堀北は続けた。

 

「けれど謝罪はここで一度終わり。次の小、期末テストに向けて全力で挑みたい。クラス全員が一丸になって闘わなければ乗り越えられないと思っているの」

「ペアの法則は既に解明されたも同然。上手く運べばここにいる生徒全員に理想的な相手をつける事も可能よ。平田くんお願い」

 

指示を受けた平田は黒板にペアの法則を書き始めていく。

 

ペア決めの法則 

 

・クラス全体で見たとき、最高得点と最低得点の所持者がペアを組む

 

・次に二番目に成績の良い生徒と悪い生徒、次が三番目の〜という法則に沿っていく

 

例:100点の生徒は0点の生徒と、99点の生徒は1点の生徒とペアになる

 

「これが小テストが行われる意味とペアの法則。シンプルでしょう?」

 

「良く気づいたな堀北!すげぇぜ!」

 

「これから確実で的確なペア分けをするための戦略を説明するわ」

 

堀北が話した戦略は成績順にクラスメイトを10人毎のチームに分け、例えば最も成績が優秀なチームは85点以上、最も成績が悪いチームは0点のようにチーム毎に小テストの点数を調整していくものだった。

 

これだと俺は神に祈るしかないな。

 

「比企谷君は今度の小テストで0点を取ってもらうわ。」

堀北がそう言った事に、成績下位の生徒から声があがる。

 

「山内や池ならわかるが、なんで比企谷なんだ?」

「成績も平均ぐらいだよね?」

この学校に入学してから約半年。どうやらクラスメイトに認識はされたらしい。

 

「比企谷君。前回の中間テスト。国語と数学の点数を教えてもらえないかしら?」

 

「なんで皆の前で「私も聞きたいなっ。ダメかな?」」

 

…知ってますよね?

 

「国語は98点。数学は46点だ。」

 

「実力で数学50点以上を取ったことはあるかしら?」

 

「ないな。」

 

「大なり小なり得意・不得意はあるけれども、おそらく比企谷君がこのクラスで一番極端なはずよ。理系科目が不得意な生徒とペアになれば退学の可能性は高くなるわ」

 

堀北が言い終わると理系科目が得意でない生徒は押し黙った。俺とペアになった時の事を想像したようだ。

 

「その代わりあなたには国語の問題を作成してもらう」

 

「なっ…なんで俺が!」

 

「不本意ではあるけれども国語だけをみれば私と同レベルよ。今回の試験は与えられた条件の中で、どれだけ捻くれた問題を思いつくかが重要になるわ。あなた以外に適任者がいるかしら?」

 

「そうだね。比企谷くん以外思いつかないよっ。

 私も手伝うからお願い出来ないかな?」

 

「僕も比企谷くんになら任せられると思う。」

 

堀北・櫛田・平田の推薦がある以上逃れられる可能性は低い。一縷の望みをもって、綾小路を見ると首を横に振られた。

 

……

ふっふふ〜ん。

 

「どうしたんだ?」

 

「なにが?」

 

「いつもより機嫌が良さそうだが?」

 

「あの高飛車女が謝ったんだよ。八幡も意外に思ったよね?」

 

「それはそうだが…」

 

「それに『国語だけみれば私と同レベルよ。』って、さっすが八幡♪」

 

「いや…数学に関しては貶められてるんじゃ…」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「茶柱先生!」

 

「めずらしいな。どうした櫛田?」

 

「次の試験!ペアを指名する権利は何ポイントで買えますか?」

 

「残念だが受け付けられない。」

 

「例えば0点が複数人いて、その中から選択する場合は?」

 

「今回、ペアの選定は学校側に一任される。また、決定後の変更も認められない」

 

ちっ!



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ペーパーシャッフル③

「これから小テストを行うが、その前にひとつ報告をしておく。今回おまえたちが希望してきた期末テストでのCクラスへの指名だが他クラスと被ることがなかったため承認された。」

 

今回の戦いは

Aクラス対Bクラス

Cクラス対Dクラス

に決まった。

 

それから少しして、返ってきた小テストの結果が貼り出されていく。堀北鈴音と須藤健、平田洋介と山内春樹、櫛田桔梗と池寛治そして幸村輝彦と比企谷八幡。

 

(ちっ!)

 

何か聞こえた気が……

 

そして、Dクラスでは期末テストの点を高める為に一部堀北。二部平田で勉強会が開かれることになった。

 

「…少し相談したいんだがいいか?」

困ったような、申し訳ないような顔をしている。

 

「三宅くん?どうかしたの?」

Dクラスに所属する三宅明人。それから美人と男子にも話題になる長谷部の2人だ。

 

「2人は確か今回の期末テストでペアを組むことになってるよね?」

 

平田が聞くと

 

「俺たち試験でペアを組むことになったんだけどな、どっちもテストの得意不得意が被ってるんだよ。それでちょっと困ったからアドバイス貰いたくてな」

そう言い、中間テストと小テストの答案用紙を平田に差し出した。二人の不正解の傾向はあまりにも類似していた。期末テストでは1科目60点が必須になる。危ない橋になるだろう。

 

「比企谷くん以外にもいたのね。他のペアも後で確認しましょう」

 

「悪いな平田、また頼って」

 

「謝ることないよ。困ったときはお互い様だからね」

 

堀北・平田・櫛田を中心に対応を話し合っていると長谷部がやや不服そうに視線を外した。そして背を向けて歩きだす。

 

「どこ行くんだよ」

 

「みやっちー。誘ってもらって悪いんだけどさ、やっぱ私には向いてないやり方かな」

 

そう断り長谷部は一人教室を出ていってしまった。

 

「悪いな堀北」

 

「私は構わないわ。あなただけでも櫛田さんに混ぜてもらう?」

 

「…パスだ。女だらけのなかで勉強する気にもなれない。自分でやってみる。」

 

そう言い三宅も引き下がり教室を出ていった。

 

「あの二人だが俺が面倒をみる」

 

そう話に入り込んだのは幸村だった。

 

「ただ1つ問題がある。俺は勉強は教えられるが三宅や長谷部と繋がりがない。2人を説得して勉強会に連れ出す方法はそっちで考えてもらいたい。」

 

「分かった。二人を連れ出す方法はこちらで考えておくわ」

 

……

放課後、綾小路にパレットへ呼び出された。そこには綾小路と幸村・三宅、長谷部の4人がいた。

 

「助っ人って比企谷の事か?」

「やっほー。比企谷くん。」

 

「何のようだ?ただでさえ、堀北のせいで国語の試験問題を考えなきゃならん。手短にすましてくれないか。」

 

「期末テストに向けて、このメンバーで勉強会を開く事になった。比企谷も参加してくれないか?」

 

「なんで俺が?」

そう言うと綾小路は幸村が作成した文系問題10問の解答を渡してきた。俺の理系科目よりはマシだが、なかなかにひどい。それに間違え方も全く一緒だ。双子なのか?この二人。

 

「見ての通りだ。協力してくれないか?基礎的な所は幸村が底上げしてくれると思うが、今回試験問題を作るのはCクラスだ。どうしてもイレギュラーな設問に準備が必要になる。」

 

「ちょっと待ってくれ。俺だけでは不足なのか?」

 

「比企谷。思いつきでいい。何問か問題を出してくれないか?」

 

「あー例えば……」

俺は考えていた問題をいくつか提示した。

 

「………………」

 

あれ?皆黙ってしまった。八幡何か失敗した?

 

「あ…綾小路のいう通りだ。俺にはこんな問題は考えつかない。堀北と櫛田の意見は正しかったんだな…」

 

「ねぇねぇ。どうやったら、そんな問題思いつくの?」

長谷部が面白いものでもみつけたかのように聞いてくる。

 

「試験では作者の考えや登場人物の気持ちを問われるが、あんなの全部嘘だろ?実際に作者に聞いたわけでもなければ、登場人物の気持ちなんぞ誰にも分からん。そこに悩むより出題者の意図を読み解くべきだ。」

「であれば、今回出題者である俺に都合よく考えればいいだけだろ?」

 

「はははっ。うん。私は比企谷くんが参加するの賛成だよー。」

 

「俺も異存はない。」

長谷部に続き三宅も賛成した。

 



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ペーパーシャッフル④

幸村たちと勉強会を共にするようになって5度目の機会が訪れた。

 

「やっぱりな。想像以上に騒がしい。」

 

「そんなことないって。

 こっちのほうがやり易いやり易い。ねえみやっち。」

 

「そうだな。

 静かな張り詰めた空気は、弓道の時だけで十分だ。」

 

「勉強をするのはお前らだ、

 集中できるというなら信じるさ」

そう言って幸村は今日の課題を二人に渡す。

「それから比企谷。今日からはお前にもやってもらうぞ」

 

「問題作りで忙しいんだが?」

 

「嘘を言うな。もうほとんど終わっていると櫛田から聞いている。俺とペアだから退学の心配はないが、せっかくだ。少しでも理系科目の実力をあげておけ」

「理系科目なら俺だけでなく、そこの二人でも十分教えられる。環境も申し分ないだろう」

 

裏切ったな櫛田…。勉強会に参加する事を伝えた時の態度から警戒はしていたが、まさか幸村を使ってくるなんて……。

 

「それとも英語の問題も作るよう俺から推薦しておこうか?」

 

「やりなよ比企谷くん。そして一緒に死のう?」

長谷部が幽霊のように俯いて前髪を垂らし、井戸にでも引きずり込むような手で俺を掴んだ。

「いらっしゃ〜〜い」

 

背筋がゾクッとするような冷たい声に引きづられるように、俺は理系問題の闇に飲み込まれた。

……

「お代わり取って来ようかな。」

 

「また砂糖マシマシか?あんな激甘よく飲むよな」

 

「私からすれば、ブラック飲む方が理解に苦しむけどね。

 それに、比企谷くんのほうが砂糖多くない?」

 

「そう言われれば…」

 

「比企谷の部屋にある

 『なんとかコーヒー』はもっとだぞ」

 

「綾小路。『なんとかコーヒー』って何だ。

 ちゃんと小一時間素晴らしさを説明したはずだが?」

「『マックスコーヒー』だ。

 人生は苦いからコーヒーぐらいは甘くていいんだよ。」

 

「え〜なにそれー?どこで買えんの?」

 

「売ってない。

 ポイント使って特別に届けてもらっている。」

 

「じゃあじゃあ、今度、そのコーヒー飲ませてよ」

 

おっ。これまで櫛田にすら拒否された布教活動がここで日の目を見るかもしれない。これは今すぐにでも寮に戻って1ダース持ってこなければ!

そう考えていると外野から声がかかる。

 

「随分と楽しそうだな。俺らも混ぜてくれよ」

 

「何よあんたら……」

 

警戒心を一気に強め、龍園を鋭く睨みつける長谷部。

 

「お前に用はない。

 綾小路と幸村の二人に興味があるんだよ」

「贈り物は届いたか?」

 

「一体何の話だ……」

 

「さあ……」

オレは合わせるようにしらを切る。

 

「どうだ。何かひっかかることはないか?ひより」

龍園は唯一同行していた女子生徒に意見を求めた。

 

「どうでしょう。

 現段階では何とも申し上げられません。」

どこか焦点のあっていない目で二人を交互にみる。

「どちらも印象の薄い顔で、すぐ忘れてしまいそうです」

 

「ククク、そう言うな。

 今後長い付き合いになるかも知れない相手だからな。」

 

「そんな事より……」

「そこにいらっしゃるのは比企谷くんですよね?」

えっ…俺?何かしたか??

 

「いつも図書室にいらっしゃるので、一度お話してみたかったんです。その目、人違いはありえません!図書室ではミステリーをよくお読みですが、お好きなんですか?私もミステリーが好きで古典から最新のものまでだいたいは読んでいます。今度お勧めの作品お教えしますので連絡先交換して頂けないでしょうか?あっ。申し訳ありません。いきなり連絡先を交換して欲しいなんて、非常識でしたね。では、読書会などから始めるのはいかがでしょう?私は茶道部に所属しておりますが、部活がない日はいつでも問題ありません。曜日と時間を決めてお互いにお勧めの本を持ちよりましょう。放課後が難しければお昼休みでも大丈夫です。私はどんなジャンルでも問題ないですよ。あぁ…今から楽しみです。私からのお勧めは何にしましょうか…。教室でもいつも読書されているので、色々なものをお読みかと思います。少し奇を衒ったもののほうが…」

 

「し…椎名さん?」

 

「なんですか石崎くん。今、比企谷くんとお話しているので邪魔をしないで下さい!」

 

「申し訳ありません。Cクラスはこのような方ばかりで、ろくに本も読まないんです。読んだ本の感想がいい合える。そんな関係を私はいままでずっっっと心待ちにしておりました。では…」

 

「おいっ!ひよりをすぐに連れて行けっ!」

 

「なっ!何をするんですかっ。まだ、話は終わってません!」

ひよりと呼ばれていた女子生徒は引き摺られるように連れて行かれてしまった。

 

「腐り目っ!」龍園は俺を呼ぶと小声で

「迷惑かけた」そう言ってその場を立ち去った。

 

「結局、何しに来たかよく分からなかったが凄かったな。」

 

「龍園くん……謝る事あるんだね……」

 

……

 

【From:櫛田桔梗

 

 説明求む】

 

【From:比企谷八幡

 

 何のことだ?】

 

【From:櫛田桔梗

 

 龍園が腐った目の男子生徒に謝っていたと

 1年の中で噂になってる】

 

【From:比企谷八幡

 

 orz】



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結成!綾小路グループ

勉強会の帰り

5人でコンビニの外に立って、アイスを食べる。

 

「そもそもコンビニは単価が高い。少しいけば同じ商品でも数十円違う。もう少し効率の良い買い方をしたらどうだ?」

 

幸村はアイス以外に日用品を買い込んだ長谷部の買い物袋をみて指摘する。

 

「もしかしてゆきむーって原価厨?」

 

「ずっと気になっていたんだが、ゆきむーってなんだよ」

 

「幸村くんだからゆきむー。私仲良くなるとあだ名から入るから。みやっち、ゆきむー、ひっき「すまん。それだけは止めてくれないか」」

 

「あだ名嫌だった?」

 

「いや。ヒキガエルよりはマシだが、昔を思い出す。

 今、言おうとしたもの以外にしてくれないか?」

 

「う〜ん……」

 

「比企谷八幡だ」

 

「じゃあ、ハチ君?」

 

「それなら構わない。」

 

「あらためてハチ君それからあやのん。

 んー、なんかあやのんってしっくり来ないけど」

 

「ゆきむーとかもやめろ。恥ずかしいから」

 

「嫌なの?」

 

「……そうは言ってない。

 公衆の面前でゆ、ゆきむーはちょっとな…」

 

そう言って止める幸村だが、長谷部は割と真顔で幸村に返してきた。

 

「悪くないかもって思い出したわけ、こういう関係も」

「私もみやっちもさ、

 結構一人でやってきた系じゃない?」

 

「ま……そうだな。否定はしない」

 

「いざメンバー組んでみたら、思いのほか居心地が良いって言うか。ゆきむーもあやのんもハチ君も基本的には友達が少ないわけだしね。二学期も半ばになっちゃったけど、この勉強会を通じて新しいグループを作りたいって思った。だから時間を取り戻すって意味じゃないけど、早く打ち解けるためにあだ名とか下の名前で呼びたいと思った。みんなはどう?」

 

そう提案してきた。俺達が答えられないでいると三宅がそれに続いた。

 

「そうだな。悪くない、というか驚くほどこのグループに馴染んでいる気がする。須藤たちとは馬があわない。平田は少し別枠って感じだしな。基本女子に囲まれているし」

 

「でしょでしょ?ほかはどうなわけ?」

 

「元々俺は二人の勉強をみるために一緒にいる。それが終わったらこのグループはお終いだ。けど…テストは今回で終わりではない。三学期はもちろん。卒業するまで続く。なら、効率化の為にも認めて構わない。」

 

「なにそれ、わかりにくっ。でも…ありがと」

 

「ふ、ふん。退学者をだしてこれ以上クラスの評価を下げない為だ。」

 

あぁ。これが俺が言われている捻デレってやつか。

客観的に見ると恥ずかしいな…。

 

「ハチ君は?」

 

「普段の生活に義務や制約が発生するなら断る。」

 

「うんうん。私もそういうの嫌だからね。集まれる時に集まれる人だけでいいんじゃない。みやっちは部活もしてるしね。そのほうが私達らしいでしょ」

 

「後はあやのんだけだね。あ、でも堀北さんとはグループだから難しい?それに池くんや山内くんともよく遊んでるしさ」

 

「クラスメイトに優劣はつけないが、少なくともオレとはタイプが違って合わせられない面があった。ここにいるメンツは無理をしないでいいというか、楽だな。正直。堀北とは特別グループって訳でもない。」

「それに一番親しいのは比企谷だ。

 比企谷がグループに所属するなら否もない。」

 

「そうなの?いつから?

 そんな素振り全く見えなかったけど…」

 

「一学期の後半ぐらいからか?」

 

「そうだな。だいたい俺の部屋でチェスをしていて、外には出んからな。誰かに見られる事もなかったんだろ。」

 

「それで助っ人が比企谷だったんだな」

 

「ハチ君がきた時、

 連絡先を知っている人がいた事に驚いたよ。」

 

「じゃあ、これで決まりって事で。

 これから私達は綾小路グループってことでヨロシク」

 

「待て。なんでオレ中心なんだ?」

 

「俺達に異議はない。」

 

俺に続き三宅・幸村も同調する。

 

「それからグループ発足にあたってひとつ。

 堅苦しい名字は禁止にしようよ」

 

「禁止するのは勝手だが俺はみ、みやっちとか…あ、あやのんとは呼べないぞ。恥ずかしい。それ以前にバカみたいだろう」

 

俺達が『みやっち』と呼ぶのは確かに違和感がある。

 

「名字があだ名じゃダメなのか?既に『山内』『池』なんてあだ名みたいなもんだろ。」

 

「ダ〜メ。じゃあせめて下の名前ね。ちなみに私は波瑠加。呼びたいように呼んでくれていいよ。」

 

「じゃあ…キュアフロー「チェンジで」」

今、呼びたいように呼んでっていったよね?

 

「みやっちって、下の名前なんだっけ」

 

「明人だ」

 

「…テンカ「普通に呼べ!」」

 

「明人かそれならなんとか。綾小路は清隆だったよな」

幸村は下の名前を覚えていてくれたようだ。

 

「仲太「誰にもわからん」」

 

「確か幸村の下の名前は輝彦だったよな」

 

すると何故か途端に幸村の表情が曇る。

 

「下の名前て呼ぶのは承諾した。けど、俺を輝彦と呼ぶのはやめてもらえないか。その名前が嫌いなんだ。俺としても出来ればこの場の空気を壊したくない。だからもし不都合がなければ、今後は啓誠と呼んでほしい。これも小さい頃から使っている名前だ」

 

「嫌な呼び方するのは私も本意じゃないし、

 別にいいんじゃない?」

 

「そうだな。それじゃあ改めてよろしくな啓誠」

 

長谷部の言うように、気にせず希望する名前のほうで呼んでいく事を決める。

 

「悪いなわがまま言って。

 ……清隆、明人、八幡。それに波瑠加」

幸村から全員が改めて下の名前で呼ばれる。

 

「それにしても清隆かあ」

 

波瑠加はなにやら引っかかったらしい。

 

「あやのんじゃなくてきよぽんかな。

 うん、そっちのほうがしっくりくるし確定。

 ゆきむーも一緒にそう呼ぶ?」

 

「呼ばない。清隆に決まってるだろ恥ずかしい」

 

「ハチ君はどうする?」

 

「きよぽんでいいぞ」

 

「頼むから清隆にしてくれ」

 

「じゃあ、全員名前も把握したところで改めて。5人でグループってことで……」

 

「ああ、あぁ、あのっ!」

ソレと同時に立上がる一人の生徒。カチコチに緊張した状態で歩きだすと、ロボットのような動きで俺たちの傍らにまでやってきた。

 

「佐倉?」「地味眼鏡美少女?」

一人を除いてほぼ同時に名前を呼ぶ。

 

「わた、わたし、私も綾小路くんのグループに入れて!」

 

「グループに入りたいという事は

 赤点の不安があるということか」

努めて冷静に啓誠は佐倉の来訪を分析する。

「俺としては堀北のグループに参加するべきだと思う」

 

「ち、違うの…私も、純粋に綾小路くんのグループに、入りたくって!」

顔を露骨に赤くなっており、視点も全く定まっていない。

 

俺は周りのメンバーを見渡す。

あっ?あれ?これって普通に告白なんじゃないのか?え…えっ?違うの??危ない所だった。もし、俺がきよぽんだったらそのまま「じゃあ。付き合うか」とか勘違い発言をして、「何言ってるの。きもっ」ってフラレたあげく、次の朝、号外で全校生徒に配られるまである。

 

「いいんじゃないか?佐倉が加わっても。

 なんか合いそうだしな」

 

こ…これが正解だったのか…。わからん。

 

「いいのか。そんな簡単で」

 

「1人増えてもそんなに変わんないだろ。クラスのはぐれもの同士、ちょうどいいと思ったんだが。違ったか。」

「はぐれもの同士、か。そうかもな」

 

はぐれもの同士…かっこいいな。

 

「啓誠もいいか?」

 

「反対する理由はない。

 けど、これ以上増やすのはやめてくれ」

 

「あ…ありがとう、三宅くん…幸村くん…」

 

多少条件派ついたものの、啓誠も承諾した。残るは波瑠加だ。一番楽に迎え入れてくれそうな印象だったが、その表情に笑顔はない。

 

「悪いんだけどさ佐倉さん。このままじゃ納得できないんだよね。このグループに参加する以上、下の名前で呼ぶかあだ名で呼ぶことを義務付けるつもり。つまり佐倉さんあらため、え……っと、下の名前なんだっけ」

 

「愛理だ」

清隆が補足する。

 

「皆から愛理って呼ばれることになるし、他のメンバーも呼んでもらう事になる。大丈夫なの?」

 

『義務や制約があるなら断る』って言ったはずなんだが…

 

「え、ぇっと…」

「け…啓誠くんに明人くん、八幡くんに波瑠加さん」

 

「呼び捨てにする必要はないだろ?」

 

「そうだね。下の名前なら合格かな。

 さ、あとはきよぽんだけだね」

 

「き…清隆くん。宜しくお願いします」

 

「うん。合格。私も愛理が入ってくる事に賛成」

これで満場一致?佐倉の加入が認められる。

 

佐倉はあだ名じゃないのか…。基準がわからん。

 

「じゃあ、もう一度改めて。

 この6人がきよぽんグループってことでヨロシク」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「いつ誘ってくれるのかな?」

 

「なんにだ?」

 

「八幡がはいったグループにだよ。

 私もいいよね?」

 

「啓誠がこれ以上増やさないと言ってたぞ。

 それにどこかのグループにはいるタイプじゃないだろ」

 

「確か…幸村くん、三宅くん、きよぽんに

 長谷部さんと佐倉さんだったよね」

「…………………」

 

そう言うと櫛田は何か考え出した。

 

「ふふふふっ」

しばらくすると不敵に笑みを浮かべた。

 

「よしっ!今度遊びに行こう。八幡♪」

 

※櫛田桔梗がアップをはじめました。




ゆきむー……あやのん……危うくユキペディアさんが召喚される所でした。


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ペーパーシャッフル⑤

今日から期末テストが始まる。ペア2人で取るべき総合点は692点。想定よりは低かったが油断はできない。勝負は試験前半、初日で決まると断言していいだろう。お互いの問題文のレベルにどこまで迫れるかという勝負だ。

期末テストの初日の内容は現代文、英語、日本史、数学の4科目。初っ端から比企谷が考えた問題だ。オレも最終稿をみせてもらったが、おそらくCクラスの士気はこれで下がるだろう。

あの問題が解けるのはある意味龍園以外思いつかない。それでいて、30点以上は確実にとれるバランスは素晴らしかった。

 

「綾小路君に伝えておきたい事があるんだ。

 椎名ひよりさんって知ってる?」

登校途中そう声をかけてきたのは平田だった。

 

「Cクラスの生徒だよな。先日あった。

 啓誠の勉強会にあらわれたんだ」

 

「僕のところにも来たよ。

 堀北さんの裏で動いている人を探しているみたいだ」

 

「(想定はしていたがやはり)そうなのか」

 

「堀北さんの裏で動いている人物は君の事だよね?

 綾小路君」

 

「ありがたい忠告として受け取っておく」

 

「否定しないんだね」

 

「今否定したって信じないだろ」

 

「それは、うん。そうかもね」

「だけど、大丈夫?

 Cクラスの動きは活発になってきている。

 必要なら僕は協力を惜しまないよ」

 

ありがたい平田の申し出だが、今の所必要ない。

 

「椎名って生徒には八幡という御守りがあるからな。

 こっちでなんとかする。もしもの時は頼む」

 

「よくわからないけど…、わかったよ。

 何かあれば遠慮なく言ってくれ」

 

……

「これより期末テストを行う。1時間目は現代文だ。開始の合図まで用紙を表にひっくり返すことは禁止されている。注意するように」

 

程なくして、チャイムが鳴り、試験の開始を告げる。

 

「では始めっ」

 

テスト用紙をひっくり返す。上から下へと問題を斜め読みした私はテスト中にも関わらず「ふふっ」と笑みを隠すことができなかった。

 

ひと目見ただけでも分かります。この問題を作ったのは比企谷くんですね。授業で学んだ作品ではありますが、内容の理解が教科書や先生のものとは全く違う。比企谷くんにはこんな世界がみえているんですね。今から読書会が楽しみです。あっ!?そっ…そうなんですね。わかりました。クラスが分かれた事でなかなか交流ができない私のためにテストという形でエールを送ってくれているのです。間違いありません。それなら私の全力をもって、期待に応えなければ失礼ですね。

 

 

椎名ひより 現代文100点




6巻ペーパーシャッフルは次回で終了です。


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ハチ君ときょーちゃん⑤

「八幡。約束通り予定空けてくれてるよね?」

 

「ああっ。後が怖いからな。

 それでどうするんだ?」

 

「新作映画が上映開始するの。

 前から楽しみにしてたんだ。明日はつきあってね。」

「あと眼鏡とヘアセットは必ず忘れないでね。

 服装は前買ったやつね。」

 

「へいへい」

 

そう言えば波瑠加達も映画に行くって言ってたな。まぁ。上映時間も色々だし出会う事もないだろう。

 

深く考えずに了承した事を、俺は直に後悔する事になる。

……

「ふっふふ〜ん。お待たせ。今日は楽しみだね♪」

 

いつにも増して櫛田の機嫌がいい。

 

「上映時間にはまだ早いけど、もう映画館にいこっか。

 ぎりぎりだと人も多くなるし、八幡もイヤでしょ」

 

悪い予感がする。いつも櫛田に振り回されて終わるのに今日はこちらを気遣ってくれている。そう感じながらも断る理由はない為、早めに映画館に入った。話題の作品らしく開始前には全ての席が埋まっていた。しばらくすると周りが暗くなり、俺達は粛々と映画を鑑賞した。

 

上映が終わり、映画館から出ようとした時、

俺達に声がかかる。

 

「あっ。きょーちゃんだ!おーい」

 

ヤ…ヤバイ…。そう思い櫛田の顔を見ると、いたずらが成功した子供のような笑みを浮かべていた。

こ…孔明の罠か

 

「波瑠加ちゃん達も映画見に来てたの?」

そこには俺を除いた綾小路メンバーが揃っていた。

 

「そうなんだ〜。

 私達グループ作ったんだけど結成記念かな?

 残念ながら1人欠席しちゃったけどね。」

 

汗が止まらん。

 

「は…八幡くん…もこれたらよかったのにね…」

 

(へ〜。八幡くんね〜)

 

だらだら

 

「仕方ないだろう。先約があったらしいからな」

 

「そうだな。

 強制するのは、このグループの意義にも反する」

 

「…………」

 

清隆は不思議そうな目でこっちをみてくる。

 

「そうそう。ハチ君は残念だったけどね。」

 

(残念だね?ハチ君♪)

 

なんだ…浮気がばれた時って、こんななのか…。

いやいや、そもそも彼女いたことないが

 

「それより隣の男の子は誰かな〜。

 きょーちゃんの彼氏??」

 

「え〜。違うよー。」

 

「怪しいなぁ〜。見た事ない男の子だけど、他のクラス?

 それとも先輩なのかな?」

 

マジで言ってんのか?

 

「う〜ん…」

 

波瑠加はまじまじとこっちを見てくる。

 

「知的って感じで、かっこいいね〜。

 きょーちゃんにお似合いだね♪」

 

「そ…そんな…お似合いだなんて…」

 

「おいっ。そのくらいにしておけ。

 櫛田も困っているだろう」

そう言って波瑠加の首根っこを摑む。

ナイスだ。みやっち。今のうちに退散しよう。

 

「え〜。きょーちゃんが一人の男の子といるの始めて見たんだよ。色々聞きたいじゃん。」

「そうだ!私達これからお茶しようって言ってたんだけど

 二人も一緒にどうかな?」

 

「え…え〜と」「迷惑だろ。」「………」

 

そうだ。みんな頑張れ!

 

「きょーちゃんなら大丈夫でしょ?

 それに実はみんなも気になってるよね?」

 

櫛田の固有スキル「みんな仲良し」が発動する。

 

「う…うん。櫛田さんなら…」

 

「櫛田が迷惑でなければ問題ない」

 

「…………」

清隆なんかしゃべれ!

 

「こう言ってるけど、どうかな?」

 

波瑠加に聞かれて、意見を求めるように俺を見る櫛田。

 

(断って下さい。お願いします。何でもします。)

 

そうすると櫛田は可愛く小首を傾げると

 

(ダ〜メ♪)

 

「う〜ん。どうしようかな〜。

 本当は秘密にしておきたいんだよっ」

 

おっ!?

 

「でも、このメンバーなら大丈夫かな?」

 

「き…桔梗!」

 

「そうだ!

 私からのお願いも聞いてくれるなら

 一緒してもいいかな」

 

「うんうん。きくきく!」

波瑠加は好奇心が勝ったのか深く考えず同意した。

 

「じゃあ、ここだと何だから移動しよっか♪」

 

俺達は少し広めの個室があるカフェを訪れた。みんなの注文が終わると早速波瑠加が切り出した。

 

「で?で?本当は二人付き合ってるの??」

 

「そんなんじゃないよ。たまに休日に遊んでるだけだよ。」

 

「そうは見えないけどな〜。

 さっきもきょーちゃんの事、『桔梗』って呼んでたよ」

 

あっ。しまった。

 

「それに…何クラスの誰なのか紹介してよ〜」

 

「……………」

今日の清隆は使えんな。

 

「え〜。まだ気づかない??」

 

「「「??」」」皆一様に疑問顔だ。

 

そう言うと櫛田は少し乱暴に俺の髪をがしがしと乱した後、眼鏡を外した。

 

「じゃ〜ん」得意げな櫛田。

 

「う…嘘っ」「ハチ君なの?」「八幡だったのか?」

 

「なにすんだ。櫛田」

 

「八幡くんだ。」「ハチ君だね。」「八幡だな。」

 

唯一発言のない清隆は幽霊でもみたかのように目を見開いて驚いている。

 

「髪型セットして、眼鏡かけただけだ。

 普通すぐにわかるだろ」

 

「「いやいや。無理」」

 

「言ったよね?比企谷くんの見た目は腐り目8割、アホ毛2割で構成されてるんだよっ。って、これでも信じられない?」

 

みんなが櫛田の意見に頷いている。

 

「八幡の先約って櫛田とだったのか。」

 

「でもでも、ハチ君ときょーちゃんが何で一緒だったの?」

 

「比企谷くんと私は同じ中学のクラスメイトだったんだよっ。どうしても女の子だけだと行きづらい所とかときどきお願いしてるんだ。目立ちたくないっていうから変装してもらってね。」

 

「以前、櫛田に聞いた事あるから中学のクラスメイトは本当みたいだ。ちなみに堀北も同じ中学らしい」

 

やっと綾小路が起動した。

 

「そうだったんだな。全く知らなかった」

 

「だよね。みやっち」

「なんで内緒にしてたの?」

 

「別に内緒ってわけでもないんだけどね。あまり言い触らしてもらいたくはないかな。」

「あと、私からのお願いなんだけど、たまにでいいから今みたいにみんなの集まりに参加させてもらえないかな?」

 

「きょーちゃんなら別に良いかな」

「わ…わたしも大丈夫です」

「別に断る理由もないからな、

 たまにであればいいんじゃないか」

「俺もたまにであれば問題ない」

 

こ…こいつ…これが俺を売った狙いか?

 

「みんなありがとう♪」

「波瑠加ちゃんに愛里、明人くんに啓誠くん、清隆くんに八幡♪」

「これからよろしくね。私の事も桔梗でいいよっ」

 

普段八幡って呼ぶ大義名分も手に入れやがった……

これ以上は危険だ。

 

「今日はもういいだろ。帰るぞ。櫛田」

 

「桔梗」

 

「ちっ。帰るぞ。桔梗」

 

「うん♪じゃあ、みんな、また学校でね」

 

八幡と櫛田は先に店から出ていった。

……

 

「な…なんか色々驚いたな。」

「あぁ」

「八幡の変装。あんなの誰にも気づけないだろう」

「すっごい格好良くなってたしね。ね。愛里」

「う…うん」

 

「でも、きょーちゃんがねー。意外かな?」

 

「何の事だ?」

 

「男子には分からないかぁ」

 

「どういう事だ?」

 

「ハチ君に手を出すなって牽制だったでしょ?

 私はきょーちゃんを敵にまわす勇気ないかな」

 

「そうだったか?」「わからん」

 

「女の子だけに分かるコミュニケーションかな」



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7巻
存在X


12月も半ばを経過した。放課後のケヤキモールの一角。休憩スペースに集まったのは綾小路グループの明人を除く5人。

 

「結局どこのクラスからも退学者は出なかったんだな。そろそろCクラスあたりがやらかすんじゃないかと思ってたんだが。」

「こっちの作った問題は簡単じゃなかった。それに最初が八幡のやつだろ。出鼻は挫けたはずなんだがな。」

 

「Cクラスとか私達以上に勉強できなさそうだもんね」

携帯を弄りながら波瑠加は即答する。

そして報告を入れた。

 

「もうすぐみやっち来るって。今部室出たみたい」

 

「でも試験で勝てたからよかったんじゃないかな…?

 別のクラスでも退学する人がでるのは嬉しくないな」

手荒な事を好まない愛里は、素直な気持ちを口にする。

 

「例えばさ、裏技的な方法ないの?最後の試験でクラスポイントが全て一緒になるとか。それでめでたく全部がAクラスで卒業。なんてことになったりして」

 

「残念だがそれは無理だと思うぜ。部の先輩が言ってたがクラスポイントが一緒の場合、クラスを決めるための特別試験が行われるらしい」

そう答えながら明人が合流した。

 

「話を変えるようで悪いんだが少し気になる事があった」

 

その口調はやや苛立ちを含んでおり、周囲を睨みつけるようにこう口にした。

 

「最近Cクラスの様子おかしくないか」

 

「Cクラスの様子?

 いつもおかしいけど、なに、どういう事?」

波瑠加が不思議そうに首を傾げる。

 

「ここ数日、俺達をつけまわす連中のことか…」

俺は読んでいた本を閉じ、そう答えた。

 

それから少しCクラスについて話をすると啓誠はちょっかいを出してくる理由をこう分析した。

 

「Dクラスの成長に関係があるんじゃないか?今回のペーパーシャッフルの結果もあって、3学期からはついに俺達がCクラスにあがるかもしれない。相当焦っているはずだ。」

 

「そういえばそうだね。あれだけ馬鹿にしていた私達に追い抜かれそうだとね!」

 

「クラスの変動はこの学校にとって避けては通れない問題だが、そう頻繁に起こるものではないと思う。と、なれば最初大きく転んだDクラスが成長してきたことはCクラスにとって焦る理由になるし、成長してきた理由を探ろうとしていると考えれば頷ける」

 

「なるほどな。あいつらの必死さも分からなくないか。」

少し溜飲を下げたのか、明人も同意した。

 

そして、話題は次に移行する。

 

「折角集まったんだし、皆で晩御飯食べて帰らない?」

 

特に反対意見がでる事もなく、俺達はグループとして移動する。その後、なぜか桔梗が合流していたのは言うまでもない。

 

……

「あの猿達何が目的なんだよっ、遠くからチラチラと!

 あ〜うっとおしい。」

 

「苛つかせるのが目的なんだろ。無視しておけ。無視。」

 

「どうしても人目は気になるよね?私それ命じゃない?」

 

「あーそうなるのか?」

 

「八幡も人の視線苦手だよね。というか死活問題?」

 

「俺はXの候補から外れてるからな。問題ないぞ」

 

「え〜八幡明らかに怪しいよね?ずるくない?」

 

「夏休みの試験で龍園と取引しただろ。

 俺がXなら直接交渉はせん。

 それに目の前で堀北とやりあってるからな」

 

「あったね。そんな事。」

「結局…Xってきよぽんだよね?」

 

「多分な」

 

「猿達うっとおしいから売っちゃう?」

 

「あいつ敵に回したら学校にいれなくなるぞ」

 

「そんなになの?」

 

「そうとうヤバイぞあいつ。底がみえん。」

「櫛田はCクラスに何か対策してるのか?」

 

「みんな知ってる子だからね〜。

 私からオハナシしたらすぐにいなくなるよ。」

 

「お前も十分ヤバイな…」

 

……

 

それからもCクラスからの嫌がらせは続き、龍園と高円寺との対決?もあったが学校行事としては大きなものはなく二学期の終業式の日を迎えた。

それにしても、高円寺は無いだろう。あいつがXなら無人島試験があの結果にならないのは明白だ。リタイアの時点であそこまで先読みできるのは神か転生者ぐらいだろう。そんなのここにはいない。

 

教室では茶柱先生から冬休みの注意事項が説明されていた。

 

「冬休み中、校内の一部は改修のため立ち入り禁止となる。その点を忘れないように。それから今日は終業式で部活も休みだ。出来る限り早く帰宅するように」

 

必要なことだけを説明し終えた先生。しかし、今日はそれで終わらなかった。

 

「既に把握している生徒も多いと思うが、おまえたちのCクラス昇格はほぼ間違いないだろう。よくやった」

「だが、油断はしないことだ。冬休み中に大きな問題をおこせばクラスポイントに影響を与えることもある。長期休みでも学生としての本分を忘れないようにしろ」

 

そう告げ、茶柱先生は二学期を締め括った。

 

「ケヤキモールによっていこうって話になっているんだが、どうする?」

 

帰り支度を整えた啓誠が近づいてきて、俺にそう言った。

 

「今日はパスだ。」

 

「そうか。櫛田か?」

 

「別件だ。悪いな。また、声をかけてくれ」

 

そう言って、みんなより先に教室を後にした。

 

14時30分になり俺は指定された場所で待っていると綾小路がやってきた。

 

「待たせたか?」

 

「いや。大丈夫だ。

 わざわざ呼び出すなんて何のようだ。」

 

「…………」

清隆は出会った頃のような無機質な目をこちらに向ける。

 

「今頃屋上で龍園が軽井沢を呼び出して

 ショーを始めている」

 

「…龍園が軽井沢を?ショーって何の事だ?」

 

「八幡は知らないだろうが、

 軽井沢は過去壮絶な虐めを受けてきた」

「そして、恐らく明日以降この話は学校中に蔓延する。

 そうなれば軽井沢は自ら殻に閉じこもり

 退学を選択するかもしれん」

 

ガンっ!気づけば俺は綾小路の胸ぐらを掴み壁に押しつけていた。

 

「それを知っていてお前は何をしている!!」

 

「まだ、準備が整っていない。

 それに今助けるのは非効率だ」

 

「こんな時に効率とか関係ねぇだろ!」

 

「…………」

 

「ちっ。」そう言って俺は綾小路から手を話した。

 

「助けにいかないのか?」

 

「俺が行っても役にたたん事ぐらい分かっている。

 何を考えているか知らんがお前の邪魔をするだけだ」

 

「やはり比企谷を選んで正解だったようだ」

 

「で、わざわざ俺を呼び出したのはなぜだ?」

 

「さっき、石崎がバケツに大量の水を汲んでいったのを見かけた。床に落ちている水滴から何度か往復したんだろう。」

 

「おっ…おいっ!」

 

「お前と櫛田には戻ってきた軽井沢の介抱をお願いしたい。」

 

「ばっ。もっと早く言え!」

 

俺は慌てて櫛田に電話した。

『電話してくるなんて珍しいね?』

 

『桔梗すまん。緊急だ。タオルと簡単でいい着替をもって来て欲しい。頼めるか?』

 

『もちろんだよ。どこにいけばいい?』

 

俺が櫛田と電話している間に眼鏡先輩がやってきたようだ。二人が何度か会話を交わした後、

「10分か20分か。それくらいで戻ってくる。」

そう言って綾小路は屋上へ向かった。

 

「はぁ。はぁ。八幡間に合った?」

 

「あぁ。大丈夫だ。」

 

「よかったぁ。で、堀北先輩もいるけど、どういう状況?」

 

「かくかくしかじかまるまるばつばつだ。」

「実際の所、俺が軽井沢にできる事はないからな。

 全てまかせることになるがいいか?」

 

「もちろんだよ。クラスメイトのピンチだしね。

 でも、綾小路くん何考えているんだろう」

 

「知らん」

 

少しすると軽井沢がボロボロの姿で戻ってきた。

軽井沢のケアは櫛田に任せ、俺は綾小路を待った。

 

「比企谷 待っていたのか?」

 

「あぁ。一つ聞き忘れた事があったからな」

「なんで俺と桔梗を巻き込んだ?今回、俺達がいなくても対処できたんじゃないか?」

 

「オレの目的のため、お前達二人は早めにこちら側にしておきたかった。オレの実力とクラスメイトの秘密の共有。対価として十分だと思うが?」

 

「前にも言っただろ。俺を利用するのは構わん。だが、桔梗には危害を加えるな。」

 

……

 

「こんな所で寝て、寒くないのか?」

次の日の朝、石畳で寝ている龍園を見つけた。これどういう状況?

 

「腐り目か。綾小路にやられた俺を笑いにきたのか」

 

「いや。この状況誰にも想像できんだろ。

 それに龍園は龍園だろ?それ以外の何もんでもない。」

「ほれっ」

そう言って、手を差し伸べる。

 

「なんの真似だ」

 

「寒空の下で知り合いが倒れてるんだ。手ぐらい差し伸べるだろう。うん。八幡的にポイント高い。」

 

「ふざけた野郎だ」

 

「…………」

「…………」

 

腐り目の手を借り、ベンチに座った俺達は特に会話もなく冬空を眺めていた。

 

「あいつの事知ってたのか?」

 

「あぁ。あそこまでとは思わんかったがな」

 

「…………」

「…………」

 

「俺は退学する。もうどうでもよくなった。」

 

「そうか。

 そう決断したんなら別にいいんじゃないか。」

 

「クククッ。お前がCクラスだったら面白かったのにな。

 最後だ。連絡先教えろ」

 

龍園に連絡先を教えるとポイントが送られてきた。

 

「これからの迷惑料だ。受け取っておけ」

 

「これからの迷惑料?」

 

「俺がいなくなれば、誰もひよりを止められねぇ。

 かなり我慢させてきたからな。

 これからよろしく頼むぞ。」

 

「おっ…おい!龍園。いや龍園さん!た…頼む!!退学撤回して、Cクラスの王に復権して下さい。お願いします。綾小路はなんとかします。お願いします。」

 

「クククッ。じゃあな。腐り目」

 

そう言って笑いながら龍園は学校に向かっていった。

 

その後、どうやら龍園は退学を思い止まったらしいが、表舞台からは一時姿を消した。

 




7〜9巻はこんな感じで進むと思います。

途中経過
7.5巻:没になりそう。
8巻:迷走中


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7.5巻?
冬休み(追加)


追加エピソードです。


12月26日。終業式の日以降、俺と櫛田、清隆と軽井沢の4人が初めて集まった。なぜ?26日だって。クリスマス(24日・25日)はクラスメイトが集まってのパーティーだとか、デートとか俺を除いた全員は予定があったらしい。

櫛田曰く、「クリスマスみたいな特別なイベントはなるべく女友達と過ごすのが大事なんだよ。女の子のネットワークは早いからねっ。その代わりに26日は空けてるから、パーティだよ。料理楽しみにしてるからね」

綾小路曰く、「今後の事で櫛田も含めて一度集まって話がしたい。都合の良い日を教えてくれないか」

との事で今日少し遅れたクリスマスパーティも兼ねて俺の部屋に集まる事となった。

 

「きよぽん、軽井沢さん。いらっしゃ〜い。

 もうすぐ料理の準備できるから適当に待っててね」

 

「おい!全部こっちの仕事だろっ。

 まるで自分で準備したように言うな」

 

「え〜。でも、部屋の飾りつけは私だよっ」

 

「綺麗に仕上がってるよね?きよぽん」

 

「あ…ああ、そうだな」

 

「こんなものいらん。後片付け面倒だろっ」

 

「雰囲気だよっ!雰囲気♪」

 

「こっちの料理できたから持っててくれ」

 

「は〜い」

 

部屋に入ってから5分と経っていないが、オレと恵はその場で硬直していた。というのも屋上での出来事を知られた事で恵は過去を打ち明ける覚悟をもって今日に臨んでいた。また、こんな八幡と櫛田はいままで見た事がなかった。

 

「なあ…櫛田って女子の中ではこんな感じなのか?」

 

「全く…私も始めて…

 それに比企谷ってしゃべる事あるんだね…」

 

「準備できたね〜。

 あれ?ふたりともいつまでそこに立ってるの?

 ささっ。座って座って」

 

「あ…ああ…」

 

「みんな座ったね。

 それでは!メリークリスマス!」

 

「既に終わってるぞ」

 

「そうだな」

 

「相変わらず空気読まないなー。

 じゃあ、とりあえずかんぱーい!」

 

「今日は悪かったな。

 オレ達ふたりが参加してもよかったのか?」

 

「大丈夫だよっ。人が多いほうが色々料理食べれるしね。

 冬休みもなんだかんだ予定入ってるから、

 ゆっくりと時間取れるの今日ぐらいなんだよ」

 

「で?で?

 きよぽんと軽井沢さんは付き合ってるの?」

 

「軽井沢には平田がいるだろう?」

 

「え〜。あんなの嘘だよね。八幡はどう思う?」

 

「そうだな。平田はみんなの平田洋介だからな。

 特定の相手をつくるのは違和感しかないな」

 

「でしょー。私も似たようなもんだからね。

 彼氏役をやらざるを得ない理由がある。

 とか、単に他の女避け?」

 

「恋愛感情よりビジネスパートナーみたいなもんだろ」

 

「それに佐藤さん。きよぽんに振られたって聞いたよー

 軽井沢さんが本命なのかな?」

 

「……何。この二人?……清隆何か話した?」

 

「いや。それに関しては全くだ。

 ただ、これで二人を引き入れるのに納得したか?」

 

「…せざるをえないね…」

 

「早速なんだが、

 お前達ふたりにはオレに協力してもらう」

 

「断る」「面倒」

 

「少しぐらい話を聞け」

 

「はははっ。まぁ、話聞いて考えるよ」

 

「目的は単純。オレが退学にならない事。

 それだけだ」

 

「いらんな」「そうだね」

 

「……」

 

「清隆が本気で動いたら退学なぞならんだろ。

 それでも退学になるなら、俺達では役にたたん」

 

「オレがお前たちに頼みたい事は2つだ。

 1つ目はオレと敵対しない事。

 2つ目は俺からの依頼に応えてくれる事」

 

「……」

「……」

 

「1つ目だが対等な同盟関係が前提だ。

 俺達も綾小路を敵にまわしたいとは思わんからな。

 2つ目は依頼を受ける受けないは

 こちらの最終判断に委ねる。それでよければいいぞ」

 

「わかった。こちらも異存はない。

 あと軽井沢だが…」

 

「あ〜それはもういいよー。

 軽井沢さんは何があってもきよぽんを裏切れない。

 だよね?恵ちゃん♪」

 

「そ…そうね」

 

「私と八幡は?」

 

「無理っ」

 

「それが分かれば十分だよっ。

 誰しも言いたくない過去はあるからね。

 ヒキガエルとか?比企谷菌とか?」

 

「桔梗さん?」

 

「ごめんごめん。じゃっ!パーティ続けよう!

 そうだ!ゲームしよ。ゲーム♪」

 

……

「ちょっとわざとらしかったかな?」

 

「あれぐらいでいいだろ。協力関係になるなら

 一度桔梗のイメージを壊す必要があったからな。

 清隆程ではないが、

 こちら側も隠し玉がないと不利だ」

 

「私はこっちのほうが楽だからね〜。

 きよぽんとも恵ちゃんとも

 長い付き合いになりそうだし、ちょうどよかったかな」

「じゃっ!パーティの続きだ!」

 

「えっ。まだ、帰らんの?」

 

「サンタコスもあるよ?」

 

「いらん」

 



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8巻
混合合宿① ※ルール説明回


ルール説明回です。『よう実』読者は読み飛ばしてもらっても大丈夫です。
今回いつも以上に見切り発車です。


3学期か始まって間もない木曜日の朝、高速道路を複数のバスが連なって走行する。バスには1年生だけでなく、2年生や3年生も乗車している。つまり全生徒の大移動だ。この学校に入学して2度目のバス移動。今の段階でわかっている事は、全員がジャージを着用するよう指示されている事。また、出発前には予備のジャージや替えの下着も複数用意することを強く推奨された事だけだ。しかし、少なくとも旅行というわけではないだろう。

 

「盛り上がっている最中に悪いが、静かにしろ」

ハンド形のマイクを手にした茶柱先生がクラスメイトに向かいそう声をかけた。

 

「このバスがどこに向かっていて、これから何をするのか、そろそろ知りたい頃だと思ってな」

「これから新たなる特別試験を行うことになっている。だが安心してくれて構わない。無人島試験に比べれば生活そのものは極めてイージーなものだ」

「これからお前達Cクラスの生徒に行ってもらう特別試験の概要を説明する」

「これからお前達をとある山中の林間学校へと案内する。恐らくあと1時間もしないうちに目的地にたどり着くだろう。説明に割く時間が短いほど、お前達にあたえられる『猶予』も大きいことになる」

「普段の学校生活では上級生と触れ合う機会…特に部活をしていない生徒は接触が少ないだろうが、今回の林間学校では学年を超えての集団行動を7泊8日で行ってもらう。行われる特別試験と名称は『混合合宿』。口頭だけの説明では不安が残るだろうから、これから資料を配っていく」

 

茶柱先生が自ら歩き出し、席の先頭に資料の束にして渡す。資料は比較的厚く20ページほどにも及んだ。特に先行して見てはいけない指示もなかったので、パラパラとめくってみる。資料には合宿地と思われる場所の写真もしっかり掲載されていた。

程なくして全員の下に資料が行き渡ったようだ。それを確認し終えた茶柱先生が話を再開する。

 

「混合合宿について説明を始める。資料はバスを降りるときに回収するので、ルールはしっかりと把握するように。質問は最後に受け付けるので黙って聞くこと。もう理解できているな?」

「今回の特別試験は、精神面での成長を主な目的とした合宿になる。そのため、社会で生きていく上でのイロハを始め、普段関わることのない人間とも円滑に関係を築いていけるかを確認し、そして各自、それを学んでいくこととなる。」

 

(終わったな。ここで退学か…)

(バカ)

 

「まず、お前たちには目的地に辿り着き次第、男女に別れてもらう。そして、学年全体で話し合いを持ち、そこで6つのグループを作ってもらうことになっている」

「一つのグループには人数の下限と上限が決められていられる。手元にある資料5ページに書かれてある人数パターンにしっかりと目を通しておけ」

 

『1つグループを形成する上で、その人数には上限と下限が定められている。その人数は学年及び男女を分けた総人数より算出される。仮に同一学年の男子生徒が60人以上であれば8〜13人。70人以上であれば9〜14人。80人以上であれば10〜15人。ただし、60人を下回る場合は別途参照』

 

「もう分かっていると思うが、男女別で6つということは、他クラスの生徒が混合した中でグループを作るということだ。そして、林間学校の間はそのグループで特別試験を乗り越えてもらう事になる。一蓮托生ということだ。」

「また、1つのクラスだけでグループの形成をすることは『ルール上』認められていない。グループは人数の範囲内であれば、どのクラスの誰と組んでも自由だが、最低でも2クラス以上の混合でなければならない。何より、グループの結成は話し合いにより満場一致の、反対者のいないものでなければならない。」

茶柱先生の発言は、しっかりと人数分けの項目の下に書かれてある。

 

『グループ内には最低でも2クラス以上の生徒が存在することが条件である』

 

「グループの人数が多いい方がいいのか、少ない方がいいのか。それはこれから説明する『結果』の項目に大きく影響を与えてくれるものだ」

 

「グループは、謂わば林間学校だけの臨時クラスのようなものだ。ただし、臨時とは言えその内容は濃い。グループのメンバー達で一緒に授業を受けることを始めとして、炊事や洗濯、入浴から就寝まで、様々な日常生活を共にすることになるだろう」

 

風呂や寝る所も一緒である事を知り、男女ともに悲鳴があがる。

 

「他所のクラスの連中と共同生活なんて出来る気がしねー…」

 

(いやいや。自クラスでも無理だわ。)

 

「特別試験の結果をどのように求めるかだが、それは林間学校の最終日に行われる総合テストによって決められる。大まかなテスト内容は資料7ページに記載してある。一読しておけ」

そう言われたら、必然全員がチェックする。

 

『道徳』『精神鍛錬』『規律』『主体性』

 

「詳しいスケジュールについては、林間学校に着き次第発表される。最終日にどんな特別試験をどのような順番で行うかも、今の段階では教えることはできない。」

 

「一年生の中で6つのグループを作り終えた後は、時を同じくしてグループを作っている二年生三年生と合流することになる。つまり、最終的に一年生〜三年生を合わせた約30〜45人で構成された6つのグループが出来上がるということだ」

「分かりやすくいえば、同学年で作るグループを小グループ、全学年で作るグループを大グループと考えてもらうといいだろう」

 

「肝心の結果だが、それは6つに分けられた大グループのメンバー全員の試験結果の『平均点』で評価される。他学年の良し悪しも大きく影響すると言うことだ」

 

「ある程度概要は伝わっただろう。それでは最後に一番重要なことを説明する。それはこの試験の結果がもたらすものだ。」

「平均点が1位から3位の大グループには生徒全員にプライベートポイントを支給するとともに、クラスポイントが与えられる。4位から最下位の大グループになった場合には減点されると思ってくれればいい」

 

『基本報酬』

 

・1位:プライベートポイントを1万ポイント

 クラスポイントを3ポイント

・2位:プライベートポイントを5000ポイント

 クラスポイントを1ポイント

・3位:プライベートポイントを3000ポイント

 

以上の報酬を、生徒1人1人に配布する

 

・4位:プライベートポイントを5000ポイント

・5位:プライベートポイントを1万ポイント

 クラスポイントを3ポイント

・6位プライベートポイントを2万ポイント

 クラスポイントを5ポイント

 

以上のポイントを1人1人失うものとする

 

「小グループ内でのクラス数に応じて報酬が倍に増えていく仕組みだ。更に小グループを構成する総人数が多いと、更にその後倍率が増加する。これらは1位〜3位までに適用されるルールであり、4位以下のマイナスには適用されないので安心しろ」

 

「それから最下位になった大グループには、大きなペナルティがある」

 

「ペナルティ…ってまさか」

 

「そうだ。『退学』だ」

 

「とは言え、最下位のグループ全員を退学にするわけではない。退学となるかの基準は、学校側の用意した平均点のボーダーラインを小グループの平均点が下回ってしまった場合に限る」

「ボーダーを下回った時には、小グループの『責任者』に退学してもらう事になる」

 

「その責任者はどのように決められるのですか」

 

「予め小グループで話し合ってもらい、選任しておく。それだけだ」

 

「んなの、退学するかもしれないのに誰が好き好んで責任者なんてするんだよ」

 

進んでやらせてくれと申し出る生徒がどれだけいるんだろうか。

 

「大きなメリットもある。責任者と同じクラスの生徒は報酬が2倍となる仕組みだ」

「責任者は小グループ結成後、そのグループ内で話し合いをもってもらい明日の朝までに決めてもらう。もし、グループ内で責任者を決めることが出来なかった場合、その小グループは即失格。つまり全員強制退学してもらうことになるだろう。もちろん、過去責任者を決めれず退学になった間抜けなグループなど存在しないがな」

「また、責任者が退学することになってしまった場合、グループ内の1人に連帯責任として退学を命じることができる。道連れとも言えるな」

「もちろん誰でも好き勝手連帯責任に出来る訳ではない。ボーダーを下回った原因の『一因』だと学校側に認められた生徒しかその対象にすることは出来ない。わざと赤点をとったり、試験をボイコットしなければ問題はおきないということだ」

 

「以上で説明を終わる」

 



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混合合宿②

「質問があれば受け付けよう」

 

即座に平田が手を挙げる。

 

「もし、退学者が出てしまったとして………」

 

混合合宿に向け先生との質疑応答が始まると俺の携帯が震えた。

 

ーーーーー

《グループチャット:比企谷・綾小路・櫛田》

 

櫛田:今回の試験勝ちにいこうと思う。

   アドバイス下さい。

 

比企谷:クラスで?個人で?

 

櫛田:もちろん個人♪

 

比企谷:グループ分けが全てだ

    そこさえ間違えなければいい。

    あと責任者になっとけ

    退学のリスクなんてほとんどない

 

櫛田:りょ!

 

櫛田:きよぽんはなにかない?

 

綾小路:グループに堀北の確保。

    坂柳・一之瀬への積極的不干渉

    上級生は旧生徒会役員は避けておけ

 

櫛田:りょ!あと、軽井沢さん貸してくれない?

 

綾小路:俺からの指示に影響がない範囲でだ。

    あとこちらからもいくつか頼みたい。

 

櫛田:わかったよ。きよぽんからも伝えておいてね~

 

綾小路:詳細は恵から伝える

 

比企谷:恵?

 

綾小路:忘れてくれ

ーーーーー

 

「僕ら男子が手を貸せない状況になる以上、女子から明確なリーダーを一人決めておくべきだと思うんだ。引き受けてもらえないかな、ほ「平田君!」」

 

平田が堀北を指名する前に桔梗が割って入る。

 

「この試験は私にリーダーさせてもらえないかな?

 いつも堀北さんに頼ってばかりだから、たまには私も頑張らないとと思うんだ。どうかな。軽井沢さん?」

 

「櫛田さんなら問題ないでしょ」

 

「うん。ありがとう♪平田君、今回は私でもいいかな?」

 

櫛田と女子を二分する軽井沢が賛成した時点で形勢は決している。

 

「ありがとう。

 櫛田さんにやってもらえるなら僕に異存はないよ。」

 

「みんな〜。些細なことでも全然構わないよっ。

 何かあったら遠慮なく相談して下さい。

 全員でこの試験乗り越えようね。」

 

……

全学年の男子生徒が、体育館に集められた。肩身の狭い一年はすぐに集まり指示を待つ。程なく他学年の教師と思われる男性が壇上にたつとマイクをもって生徒達に声をかけた。

 

「これより、小グループを作る為の場、時間を設けさせてもらう。各学年、話し合いのもと6つの小グループをつくるように。また、大グループを作成する場は、本日の20時から設けている。以上だ」

 

それぞれ学年別に距離をとられ、体育館内でのグループ分けが始まった。

 

さて、グループ分けであるが、いつもは余った俺をどのグループが引き取るかで決定する。そこに俺の意志は介在しない。今回、おそらく綾小路グループの誰かが声をかけてくれると思うが…。

 

Aクラスの戦略は相変わらずだ。船上試験の時もそうだが学校側の意図を完全に無視している。勝つための戦略と言えば聞こえがいいが、特別試験は生徒が成長する為の場でもある。その機会を放棄しているのも同然なのだが理解しているのか。効果は今のCクラスを見れば、明らかなのだが…。

それにAクラスの的場というやつは上から話をしているが、この作戦、既に破綻してないか?

 

「なあ。清隆?」

 

「なんだ?」

 

「あいつら、さも自分達が有利みたいに話しているが

 そもそもの作戦破綻してないか?」

 

「どういう事だ」

 

「1名の募集枠だろ?大勢になんの影響もない。

 Aクラス14人がいなくてもB〜Dクラスで

 残り5グループ作れるんじゃないか?」

「Aクラスは上から「いれてやる」っつってるが

 「入って下さい。お願いします。」

 の間違いじゃないか?」

 

「あ…あぁ…そうだな…」

 

「作戦にのるにしても、平田達は人選に悩んでいるが

 龍園一択だろ。何を悩んでんのかわからん。」

 

「やはり。面白いな。八幡は」

「提案しないのか?」

 

「あの場にはいる勇気はないぞ」

 

最終的に池・外村とのじゃんけんに勝った山内がAクラスのグループに参加する事に決まった。

その後、B〜Cクラスを中心としたグループが形成されていく。

 

「清隆と八幡はどうするつもりだ?」

 

啓誠と明人が、そんな確認をしてきてくれた。

 

「2人は?」

 

清隆が悩んでいる様子を見せながら聞き返す。

 

「俺は啓誠に合わせようと思ってる。頭を使って考えるのは得意じゃないしな」

 

「…Cグループの固まるグループは魅力的だ。ただ、正直平田のやり方には不満がある」

 

「というと?」

分からない明人が聞き返す。

 

「平田は勝つことよりも仲間を守ることを優先している。それが悪いことだとは言わないが、確実に勝つ確率も下げることになる」

 

「まあ、それはそうか……」

 

ほぼ全ての生徒が各クラスの代表格の思惑通りにチームを形成する中、そうはいかない生徒も存在した。

その代表格は間違いなく龍園翔だろう。龍園の処遇について、平田が声をかけるもチームメンバーの反対もあり、なかなか決まる事はなかった。

 

「ひとつ提案させて欲しい。龍園がどこに入るかでグループの結成が揉めているんだろう?だったら、龍園を引き受ける代わりに俺がそのグループの責任者になってもいい」

そう発言したのは静観していた明人だった。

 

「あ…明人?何を考えているんだ?」

横にいた啓誠が疑問を口にした。

 

「簡単な話だ。見返りに1位をとった時の成功報酬も多くもらいたい。」

 

反発の声がなかったわけではないと思うが、龍園を抱えるリスクが高い事は全員分かっている。ただ、明人の場合報酬目当ての行動には思えなかった。誰も龍園を引き受ける生徒がいない以上、何かしら引き取る理由を付けただけのようだ。

 

「どういう提案だ。もし責任を取らされることになったとき、誰か道連れにする気なんじゃないのか」

 

「露骨に足を引っ張らなきゃ、そんな事しない。そもそも出来ないルールだろ」

 

明人のハッキリとした物言いに仮グループのメンバーは黙り込んだ。こうして紆余曲折あったが、ついに1年男子が6つのグループに分かれる事になる。

そして、俺のグループも同様に決定する。

 

Cクラス:『綾小路』『高円寺』『比企谷』

Bクラス:『墨田』『時任』『森山』

Aクラス:『戸塚』『橋本』

Dクラス:『石崎』『アルベルト』




グループ分けは原作と違い啓誠が外れて八幡が参加となりました。色々悩んだのですが、明人が「啓誠にあわせる」と言っていたので、これが一番無理がないかな?と考えました。
啓誠は「龍園だけはイヤ」って言ってますけどね。なんだかんだで明人に付き合ってくれると思います。

混合合宿…全くストーリー定まってませんが、少しづつ物語進めていきたいと思います。


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混合合宿③

「もう少し時間がかかると思っていたが

 意外に早かったな」

 

2年や3年もほぼ全ての小グループを結成し終えたようだ。

 

「お前達1年に提案がある。

 これからすぐに大グループを作らないか?」

 

「南雲先輩。

 それは今日の夜に決めることじゃないんですか?」

 

「それはすぐに小グループがまとまると思っていなかった学校側の配慮。偶然にも全学年が小グループを作り終えたんだ。このまま移行してしまったほうが得だろ?」

「構いませんよね。堀北先輩」

 

「ああ。こちらもそのほうが都合がいい」

 

「ドラフト制度みたいなので決めるのも面白くありませんか。1年の小グループから代表者6人がじゃんけんして、指名順を決める。勝った順に2年と3年の小グループを指名していけば、大グループの完成です。公平かつ短時間で決まりますよ」

「1年はどうだ?このやり方に不満があるならいってくれ」

 

言い返せないと分かりながら、南雲先輩はそう聞いてきた。

 

「異論はありません」

Aクラスの的場が、1年を代表するように答えた。

2年生と3年生が分かりやすく6つの小グループに分かれると1年生のなかで5つの小グループから責任者が話し合いの場にでてくる。

 

「あとはそこのグループだけだ」

 

『ドン』清隆に背中を強く押され、俺は話し合いの場まででてきてしまった。

「あ…あいつ…。もっと方法あるだろう」

 

「代表者はお前でいいのか?」

南雲と呼ばれている先輩が聞いてくる。俺は所属する小グループに振り返ったが、皆一様に顔をそらした。

 

「はぁ。それでお願いします」

 

代表者6人が集まり、ジャンケンを始める。

結果俺達は2番目に指名する事になった。ここでの問題は俺が全く上級生の事を知らん事だ。やはり人選おかしいだろう…。

指名1番目はAクラスの的場が中心のグループ。彼らは迷わず3年生堀北兄が所属するグループを選んだ。

 

次は俺達の番だ。

「すまんが、上級生の事は全く知らん。

 誰か希望はないか?」

 

「別にどこでもいい。というか俺もわかんねーしな」

石崎以下Dクラスは同意見のようだ。

 

「南雲先輩のグループを選択してくれ」

Bクラスのメンバーが考えた末に結論をだした。

 

「他に意見のあるやつはいないか?

 いなければ指名してくるが?」

他に意見も出なかったので、南雲先輩のグループを指名した。その後も話し合いは続き、やがて6つの大グループが完成した。

 

……

「先輩達はいなくなったが、少し時間をもらおうか。お前たち責任者が決まってなかったみたいだからな」

 

南雲先輩の指摘に戸塚が少し慌てるように応対する。

なお、俺はこいつを戸塚とは認めない。

戸塚は大天使戸塚エルただ一人だ。

 

「責任者は後で決めても問題ないそうなんですが」

 

「そうだな。

 だが1年の責任者が誰か俺達も把握しておきたい。」

 

「……どうする?」

 

なんとか塚はグループのメンバーに声をかける。

 

「八幡でいいんじゃないか?

 この試験、退学のリスクはほとんどないんだろ?」

 

「お…おまっ」

 

「へ〜。どういう事か俺達にも教えてくれよ」

Aクラスの橋本がニヤニヤしながら聞いてきた。

 

「今回の試験『道徳』『精神鍛錬』『規律』『主体性』がテーマだ。どれも個人の能力に起因しないだろ。真面目に取り組むだけでいい。また、退学の基準は10人以上のグループの平均点だ。どうしても総合点は平準化する。個人で優劣はあるかもしれんが、グループ間で大きな差がつくとは考えにくいんじゃねぇか。知らんけど。」

「それに今回は3年生も参加している。卒業を間近に迎えたこの時期に退学のリスクが高い試験を準備するとも思えん」

 

「よしっ。お前、このグループの責任者やれ。

 これは命令だ」

 

「なっ…なんで俺が!?」

 

「決まりだ」

南雲先輩はそう言うとこの集まりの解散を指示した。

 

「なんというか…運が悪かったな」

その後、なぜか石崎から慰めの言葉をもらった。

 

……

「おいっ。清隆。これはどういう事だ」

 

「何のことだ」

 

「惚けんな。俺に責任者押しつけただろう」

 

「堀北兄との約束でな。今後、南雲と対峙するかもしれん。今は少しでも警戒されるわけにはいかないんでな。八幡が一番確実だ。悪いが隠れ蓑になってもらうぞ」

 

「見返りは?」

 

「この試験で取得するプライベートポイントでどうだ」

 

「わかった。だが、俺は俺のやり方しかできんぞ」

 

「あぁ。それで構わない」

 

……

初日の食事、つまり朝、バスを降りてから始めて女子たちと接触できる時間が来た。清隆も誘ったが1人で食事をとりたいとの事で食堂に一人腰を下ろす。

 

「ハチ君。ここにいたんだー。」

波瑠加が隣にやってきた。

 

「グループ決め。ハチ君達はどうだったの?」

 

「いつもは最後にどこが俺を引き取るかで揉めるんだがな。今回は龍園がいるからな。明人と啓誠が引き受けてくれたおかげでなんとなく決まったぞ。あと清隆とは同じグループだ。」

 

「へ〜。みやっちとゆきむーがねぇ〜。みやっちはなんとなく分かるけど、ゆきむーはちょっと意外かな」

 

「啓誠は明人に引き摺られた感じだな。

 そっちはどうなんだ?」

 

「女子はもっと揉めると思ったんだけどね。案外すんなり決まったかな。ほとんど、きょーちゃんのおかげだけどね。」

「Dクラスのリーダーって話だったけど、完全に全クラス把握してるんじゃない。それに1年女子のグループは私達きょーちゃんのグループが1位有力だと思うよ。」

 

波瑠加から桔梗のグループを聞いたが、どうやったらこのメンバーが集まるんだ?おそらくあいつ以外まとめられん。

 

Aクラス:『元土肥』『六角』

Bクラス:『一之瀬』

Cクラス:『櫛田』『堀北』『松下』『篠原』『佐藤』

     『長谷部』『佐倉』『王』『井の頭』

Dクラス:『椎名』『伊吹』『西野』

 

「あっ。八幡と波瑠加ちゃんだ。一緒していいかな?」

 

桔梗と愛里が遅れてやってきた。

 

「桔梗のグループ凄いな。

 それにしても一之瀬と椎名か。よく引き込めたな」

 

「なんかAクラスが帆波ちゃんを孤立させようとしてたからね〜。引き抜いちゃた。てへっ」

「ひよりちゃんは八幡を話題に出したら来てくれたよー。

 一度ゆっくりお話してみたかったんだ」



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混合合宿④

朝6時過ぎ。室内に軽快なBGMが鳴り響いた。起床を告げる合図だ。グループ分けされた各学年の生徒が一つの教室に集まる。その後、清掃と座禅が行われた。

 

朝7時を迎えたところで朝食の時間となった。

 

「今日のところは学校側が提供するが、明日から晴れの場合、朝食は全てグループ内で作ってもらう事になる。人数や分担方法は全体で話し合って決めるように」

 

明日以降の調理方法など説明をうけながら朝食の準備が進められていく。献立は決められており、作り方などは資料が配られるようだ。食事内容はシンプルな、日本の朝、一汁三菜を基本とした内容だった。

 

俺はこの学校を過小評価していたかもしれない。朝の清掃もそうだ…。俺の夢、専業主夫を目指すために何の役にも立たないと思っていたが、こうして、主夫に必須なスキルを教えてくれる。これだけでもこの試験十分な価値があるんじゃないか?俺はこの学校に進学して正解だったようだ。

 

「平等にやるなら、

 各学年が一回毎に交代というのはどうだ?」

食事の最中、3年生の責任者らしき男が、南雲先輩に向けて朝食のローテーションを提案する。

 

「そうスね。こっちは異存ありませんよ。

 1年生からってことでお願いします。」

「どうだ1年。異論はあるか?」

 

「提案があるんですが、いいっすか?」

 

「なんだ比企谷?」

 

「朝食の準備ですが、俺と清隆で全て引き受けますんで

 1食1人2000ポイントでどうっすか?」

 

「6日間で一人12000ポイントか。

 俺達はそれでも問題ない。」

3年生の責任者らしき男が答える。

 

「早起きする事を考えたら、俺達も問題ないぞ」

南雲先輩も賛成してくれた。

 

「おいっ!俺達からもポイントとる気なのか?」

1年を代表して石崎が聞いてくる。

 

「条件次第だな」

 

「なんだ条件って?」

 

「正直、俺達はさほど成績もよくなければ、運動も並だ。これぐらいでしかグループに貢献できん。そこでだ。1年生分の朝食は無料で準備してやる。その代わり特別試験中の授業は真面目に取り組んでくれ。対価はそれだけでいいぞ。

あぁ…忘れていたが、真面目に取り組んで無いやつは次の日の朝食準備しねぇからな。自分でやってくれ。」

 

「そもそもお前は料理できんのかよっ」

 

「できるぞ。専業主夫を目指すにあたって料理は必須だからな。今回も良い修行だと思っている。」

 

最初は難色を示したが、そもそも日頃料理しないメンバーが多い事もあり、俺の条件をのむことになった。

 

「お前もだぞ。高円寺。本気でやれとは言わんが、マイナスになる行為は慎んでくれ。」

 

「はっはっはっ。私も朝食抜きはいやだからねぇ〜。

 承知したよ。ボーイ」

 

……

授業内容は初日ということもあってか、持久走の練習こそ体力的に大変であったが、その他の授業はこの学校の説明やこれから1週間行われること。そういった類の説明に大半を費やされた。その中でこれから学んでいくのが『社会性』を身につけるための授業であることも明白になった。

 

その夜、消灯時間の午後10時まであと1時間に迫った共同部屋では、各自特に話をするでもなく静かな時を過ごしていた。

そんな時、扉がかるくノックされる。来客らしい。

 

「こんな時間に誰だ?」みんなが不思議そうに扉をみる。

 

「まだ起きていたか?」

 

「南雲先輩。なにかようっすか?」

 

「同じグループとして様子を見に来たのさ。

 入っていいか?」

 

「やっぱり部屋のつくりは先輩達と同じようですね」

南雲先輩はにこやかに石倉に話しかける。

 

「そうみたいだな。それで1年の部屋にまで俺達を連れてきてどうやって親睦を深めるつもりだ?」

 

南雲はジャージのポケットから小さな箱を取り出した。

 

「トランプ、ですか」

 

「今どきトランプなんて思うなよ。

 こういう合宿じゃあ定番中の定番だ。」

 

そう言って、トランプを始めようとする先輩達。

 

「すんません。俺と清隆はパスさせて下さい。

 明日からの朝食準備の為に早く休みたいんで」

 

「お前たちとの対戦も楽しみにしてたんだがな。」

 

「付き合わせた結果、

 朝食の準備が間に合いませんでしたとなったら

 困るのは俺達全員だ。仕方ないだろう」

 

石倉先輩がフォローしてくれたおかげで、俺達2人は先に休ませてもらうことになった。後で聞いた所、トランプの結果は1年生が惨敗だったらしい。

 

……

試験2日目から5日目までの4日間特に大きなイベントもなく終わった。途中、清隆が『Tレックス』と須藤達に呼ばれていた事ぐらいだ。

 

5日目の夕食。この試験が開始されて始めて綾小路グループが集まった。

 

「ここ数日、きよぽんが妙に見つけにくいところにいて苦労したんだから。ハチ君に聞いても知らないし」

 

「…悪い。ちょっと広い食堂で、どうしていいか勝手がわからなかった」

 

「な…なんか久しぶりだね。清隆くん」

 

愛里がもじもじとしながら言う。確かに1週間近く言葉を交わさないのは珍しい。

 

「それよりみやっちとゆきむーの方は大丈夫なわけ?

 龍園と一緒なんでしょ?」

 

波瑠加が明人に問いかける。

 

「ま、なんとかな。俺達も警戒しているが特に変わった様子はない。授業だって真面目に取り組んでいる。」

 

「むしろ下手なやつよりよっぽどしっかりしている。この試験では特に体力面で俺のほうが足をひっぱっているぐらいだ」

 

「喧嘩に負けたショックで、

 どこかおかしくなっちゃった感じ?」

 

「さあ、どうだろうな。

 あいつの場合、これまでがこれまでだからな」

 

「俺よりおまえはどうなんだよ。

 他の連中と上手くやれてんのか?」

 

「こっちは平和だよね?愛里」

 

「う…うん」

 

「きょーちゃんとほなみんが細かな所まで気遣ってくれるからね。最初は堀北さんと伊吹さんがぶつかってたけど、きょーちゃんに煽られて、今はどちらが良い成績とれるか競ってる感じ?松下さんも急に篠原さん達をフォローしてくれるようになったし、私達孤独組はひよひよが応対してくれるから、みんな良いバランスで試験に挑めているかな」

 

「きよぽん達は?」

 

「可もなく不可もないな」

 

「清隆達のグループには高円寺がいるだろ?」

 

「あぁ。八幡が全ての朝食の準備を申し出たからな。俺達のグループはサボったら朝食抜きなんだ。高円寺も朝食抜きはイヤらしい。あと清掃とか身の回りの事もすすんでやってくれる。俺達は試験や自分の事に集中すればいい環境だ。まだ大きな問題は発生してないぞ」

 

「ハチ君。お母さんみたいだね。」

 

「最高の褒め言葉として、受け取っとくわ」



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混合合宿⑤

どうしてこうなった。。。
混合合宿最終回です。


林間学校での生活も6日目の火曜日を迎えた。ともなると、男子からはちょっと変わった声が聞こえるようになっていた。

 

異性が恋しい。

 

そんな声だ。その他にも慣れないメンバーとの共同生活でストレスが限界に近づいているのか、些細な事で衝突が起こるようになってきた。その中心はDクラスの石崎だ。

グループの雰囲気が少しづつ悪化しているのを感じながら夜を迎える。入浴を終え、部屋に戻ってきても室内の雰囲気はこれまでで一番険悪だった。やがて、消灯の時間が近づいたことを確認した弥彦が、部屋の電気を落とした。早く一日を終わらせるために。

 

「なぁ石崎。ちょっといいか」

 

真っ暗な中、沈黙を破ったのは橋本だった。

 

「よくねーよ」

 

石崎は拒絶する。

 

「このままだと多分このグループは結果を得られない」

 

「っせえな。知るか」

 

「やれやれ…」

 

諦めたように橋本はため息をついた。

 

「ふー…」

「俺は小、中とサッカーをやっていた。」

 

橋本はいままでの人生を語り始めた。名門と言われる学校でレギュラーだった事。煙草を吸ってた時期があり、全国を目指すチームに馴染めずサッカーを辞め勉強に専念した事。世渡りは上手いと自覚しているが、平田達をみるとサッカーを辞めた事に後悔している事。それは嘘偽りのない率直な橋本の思いだと感じた。

 

「おまえは?どんな幼少期だったんだ、石崎」

 

「は?なんで俺に振るんだよ」

 

「なんとなくな」

 

「は…俺は何もねえよ」

 

語るものはないと、話す事を拒む。

 

今の橋本の発言だが、紛うことなく本物だろう。グループの為に語ってくれたにも関わらず、このまま見過ごすのか?それは違うだろう?八幡。

橋本の思いに応えるべく、俺は口を開いた。

 

「俺の両親は共働きでな。世間でいう社畜そのものだ」

 

「八幡?」

 

「物心ついた頃にはいつも家では妹の小町と二人きりだ。小学校に通いだして少したった頃だったか、相応に友人を作りたいと考えた俺は小町より友人との付き合いを優先するようになった。結果、寂しさに耐えられなくなった小町は家を飛び出した。それ以降、俺は友人を作らないと決めた。」

「中学2年になった時、中学生活を振り返ってという作文の課題があってな。俺は『青春なんて欺瞞だ。リア充爆発しろっ!』って書いたんだ」

 

「それはなんというか…」

 

「その結果、担任に『奉仕部』というよく分からん部活にいれられた。俺を含め最初は2人だったが、最終的には3人プラス1か。色々と問題だらけだったが、俺はその場所、その関係を気に入っていた。友人なんぞいらんと思っていたが、人との関わりも悪くないんじゃないかと今では思っている」

「俺は人より優れた人間ではない。むしろ欠点だらけだ。本来なら(そう。雪ノ下のように)グループの模範となるべき責任者なのにその責務が全うできてない事は理解している。すまん」

 

「ざけんな、んなので謝んなよ…」

「そもそも誰もやろうとしない責任者にお前がなったんだったな。それに朝食の準備を含め色々と世話になっている。」

 

南雲先輩が一方的に決めたとは言え、それを引き受けた八幡の誠意やこれまでの働きに石崎は気づいたのだろう。

 

「それは違いない」

 

笑いながら橋本は言った。

 

勉強ができる生徒、できない生徒。運動ができる生徒、苦手な生徒。そんな十人十色の生徒が集まって、一つのグループやクラスができる。そこには敵とか味方とか以前の問題があるだろう。

ぽつりぽつりと他の生徒も語り始める。

この日、この夜、俺達のグループが初めてグループらしさを見せた。

そんな気がした。

 

……

7日目、俺達は明日のテストである駅伝について話していた。

 

「俺達は10人しかいない、だから1人1人に大きな負担になるが、場合によっては逆に優位に運ぶかもしれない」

 

簡単に説明すると運動が得意なメンバーに多くの距離を担当してもらう事が可能だ。石崎、橋本といった運動に自信があるメンバーが名乗りをあげてくれ、加えて清隆もある程度カバーしてくれるらしい。

 

「高円寺は信用していいのか?」

弥彦がグループの懸念点を指摘する。

 

「あぁ。問題ないぞ」

 

「全く信じられないんだが根拠はあるのか?」

 

「色々と思う事はあるだろうが、退学になる可能性が少しでもあれば高円寺は協力してくれる。本気で取り組んでくれるかはわからんがな」

 

「仮にこのグループが最下位になっても、私が退学するわけではない。責任者である君が退学するだけだ。同じクラスメイトである私を名指しで道連れにするような非道な行為を君がするわけがない。そうだろう?」

 

「いや。指名するが?俺が退学した後なんぞ知らん」

「それに今回、堀北先輩と南雲先輩の勝負もあるだろ?あきらかに手を抜いた結果、負けましたとなったら俺が指名せんでも南雲先輩に目をつけられるぞ。それだけでかなり学生生活窮屈になるんじゃないか?」

 

「はははっ。必要以上の事はするつもりはないが、必要最低限の事はこなしてみせようじゃないか。私にも流儀はあるからね」

「もっとも私の場合、最低限でもそれなりに優秀な結果を取ってしまうだろうが、まぁそれは君達にとって朗報だろう?」

 

……

林間学校最終日、つまり特別試験によってグループの優劣を決める日がやってきた。

 

「とりあえず、やることはやった」

 

「俺もそう思うぜ。

 1週間責任者をやってくれてありがとよ比企谷」

 

「結果はどうあれ全力を尽くそう」

 

「よろしくな」

 

メンバーはそれぞれ称え合い、握手を交わす者も。

その後、俺達は指定された教室へ向かった。

 

これから『禅』『駅伝』『スピーチ』『筆記試験』が行われる。俺達1年はまず、座禅から始まる。そして、次に筆記試験。それから駅伝、最後にスピーチという流れだ。

 

【座禅】

特に大きな失敗はなく終える事ができた。それにしても、清隆・高円寺の2人は非の打ち所がない。おそらく満点だろう。

 

【筆記試験】

特筆すべき点はない。この林間学校で学んだ事が、そのままテストに出題された。ほとんどの生徒が高得点を得るだろう。

 

【駅伝】

とにかく後半の石崎、橋本、清隆の3人にかかっている。高円寺は手を抜いたか直にわかるようアンカーに配置した。

結果は全体で2位となり、期待以上の結果となった。

 

【スピーチ】

駅伝で激走後のスピーチは地獄!以上

 

こうして1日がかりの長い特別試験を終える。当初想定はしていたが駅伝を除き、優劣に大きな差がでる内容ではなかった。真面目にさえ取り組めば退学は免れるだろう。

 

「林間学校での8日間、生徒の皆さんお疲れさまでした。試験内容は違えど、数年に一度開催される特別試験。前回行われた特別試験よりも全体的に高い評価となりました。ひとえに皆さんのチームワークがよかったのが要因でしょう」

 

初めて見る初老の男性が終始笑顔でそう報告する。

どうやらこの林間学校を取り仕切っている人物のようだ。

 

「先に結果に触れる事になりますが、男子生徒の全グループが学校側の用意したボーダーを越えており、退学者は0というこれ以上ない締めくくりとなりました。」

 

『男子生徒』はか…まぁ桔梗達は問題ないだろう。

 

「それでは、これより男子グループの順位を発表します」

 

男子生徒の総合1位は堀北兄が所属する大グループだった。南雲先輩が率いる俺達のグループは一歩及ばす2位という結果に終わった。

 

「次に女子グループの発表をしたいと思います。1位のグループは3年Cクラス、綾瀬夏さんの所属するグループです」

 

桔梗が所属するグループが1位になった。クラスとして、かなりポイントを稼げた事だろう。

 

南雲先輩の策略らしく女子は3年生の二人が退学となったが、どちらもクラスに救済され、8日間の混合合宿は終了した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

綾小路Side

 

今回の件でオレは比企谷八幡の評価を上方修正した。

最初に興味をもったのは中間テストに向けての打ち合わせの時だ。その後、八幡とは友人関係となり、休日をともに過ごすようになったが、常に自然体で、会話も多く必要としない関係はオレには心地よかった。

これまでの特別試験を通じて八幡を観察してきたが、オレや龍園に近しい発想をもつが、その影響範囲は比企谷個人に留まる存在と考えていた。

だが、今回はどうだ。このグループが良い成績をおさめたのは確実に八幡のおかげだろう。責任者ではあったが、平田のようなリーダーシップをもっていたわけではない。そして、最後まで誰かに何かを強制することもなかった。

状況把握の正確さ、グループの空気を察する能力、それに『自身の弱さ』を武器にする事はオレには絶対に真似できないだろう。

 

比企谷八幡と櫛田桔梗か…。一見、正反対のふたりだが

仮にあいつらと相対することがあれば面白くなりそうだ。

 




混合合宿はこれで終了です。
最後に気づいたのですが、この試験で個人が獲得できるプライベートポイントの最大値は90000ポイントなんですね。八幡ときよぽんが朝食の準備で稼いだ分より少ないという罠…。労働の対価としては時給1000ポイント未満で妥当だと思ったのですが…反省中。

そう考えると船上試験の100万・50万は破格です。プライベートポイントだけみると龍園の戦果は圧倒的ですね。

さて、1年生編も佳境になってきました。
40話を超えても、まだ登場していない坂柳さんの出番がそろそろやってくるかもしれません。


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9巻
帆波ちゃんと桔梗ちゃん


「ば〜ぢ〜ま〜ん〜」

「私、ちょー頑張った!

 プライベートポイント90000ゲットだぜ!」

「そっちはどうだった〜」

 

「う〜ん?128000ポイント?」

 

「な…なんで…」

 

「朝食の準備をポイントで請け負ったからな」

「それに清隆分のポイントをゲットだぜ!」

 

「ずるーい」

 

「クラスポイントは桔梗のグループのほうが断然上だろ?クラスへの貢献度で言えば、一番だ。」

 

「えへへへへ〜」

「でも、合宿中、八幡のご飯おあづけはしんどかったの。

 今日は期待してるよ♪」

 

「へいへい。ちょっと待っとけ」

 

「それにしても、帆波ちゃん大丈夫かなー」

 

「あぁ。例の噂か…」

 

「私、この空気イヤだよっ。中学を思い出すんだ」

「なんとかならない?」

 

「あの時と一緒だ。噂の出処を特定させ…」

 

「それはダメ。」

 

「なんでだ。一番効率的だろ」

 

「それは絶対に許さない!」

「でも、帆波ちゃんなんで否定しないのかな?

 根も葉もない噂だよね?」

 

「それはお前が1番分かってるだろ?」

 

『一之瀬帆波は犯罪者である』

『暴力沙汰をおこした過去がある』

『援助を受けて交際していた』

『窃盗、強盗を行った』

『薬物の使用歴がある』

これが今1年で噂されている内容だ。

 

「なるほどね…。少なくとも一つは真実なんだね」

 

「そうだ。だから完全に否定もできんのだろう」

「おそらく本命は窃盗だと思うがな」

 

「なんで?」

 

「暴力沙汰なんていまさらだろ。龍園と須藤でお腹いっぱいだ。それ以外は現実的ではない」

「今回の件、手助けはできるが

 俺は直接的には関われんぞ」

 

「え〜。なんで〜。」

 

「『比企谷八幡は犯罪者である』」

 

「なるほど!違和感ないね♪」

 

「桔梗はどうしたいんだ?噂を薄める事だけならできる。

 だが、それだと一之瀬は救われんぞ」

 

「どうすればいいのかな?」

 

「一之瀬には共犯が必要だ」

 

「共犯?」

 

「過去に犯罪もしくは大きな事件を起こしたとかだな。」

「それを乗り越えて

 今があるという姿をしっかり見せつけてやることだ」

「今俺が知る限りでは桔梗にしかできん」

 

「つまりどういう事?」

 

「桔梗の本当の姿。

 それに中学時代の話を一之瀬に話せるかどうかだ」

「それができるなら、俺は今回の件、全力をつくすぞ」

 

「…………」

「ちょっと時間もらっていい?」

 

「当然だ。

 別に俺達が一之瀬を救わなくちゃならん理由はない」

「桔梗の判断に委ねるぞ」

 

「うん…。ありがと。八幡」

 

……

数日がたった。噂はますます広がり、当人の一之瀬は体調を崩したらしく学校を休んでいるらしい。

Bクラスの雰囲気は殺伐としたもので、犯人探しにやっきになっていた。

 

「ねぇ…。比企谷くん…」

「比企谷くんは私の味方だよね…」

 

「はぁ。別に桔梗は桔梗だろ?それ以外何があるんだ?」

 

「う…うん!八幡はそうだよね。私決めたよ。

 この雰囲気がキライ。帆波ちゃんを助けてあげたい!」

 

「後悔はないんだな?」

 

「もちろん♪」

 

「分かった。桔梗にも少し手伝ってもらうぞ」

 

次の日から、一之瀬の噂だけではなく、全クラスに様々な噂が流れだした。Cクラスは以下のような内容だ。

 

『本堂遼太郎は肥満の女性しか興味がない』

『篠原さつきは中学時代売春をしていた』

『佐藤麻耶は小野寺かや乃を嫌っている』

『比企谷八幡は櫛田桔梗に好意を寄せている』

 

そんな噂を聞いて不謹慎ながら内心にやにやしていた。

『比企谷八幡は櫛田桔梗に好意を寄せている』か…

 

「おいっ!比企谷!!

 俺の桔梗ちゃんに好意があるってどういう事だ?」

 

山内が八幡に詰め寄っている。

 

(そもそも、いつからお前の桔梗ちゃんになった?)

 

「ただの噂だろ?」

 

「俺の許しなく桔梗ちゃんに

 ちょっかいだしたら絶対に許さないからな」

 

(なぜ?山内の許可がいる?というか名前で呼ぶな)

 

山内はその後も噂になっている当事者にちょっかいを出していた。クラス内での好感度はストップ安だ。

 

直接的にではないにせよ、どのクラスにも噂を煽る生徒は一定数存在しているようだ。噂はどんどんと広がっていく。あとの事は八幡がなんとかしてくれるだろう。

 

次は私が帆波ちゃんを立ち直らせる番だ。

 

……

放課後、私は帆波ちゃんの部屋に訪れた。

 

ぴんぽ〜ん

 

「あっ。帆波ちゃん?学校休んでいるって聞いたからお見舞いにきたんだ。少しだけ大丈夫かな?風邪でも食べやすいものをいくつか買ってきたから、少しだけ部屋にいれてくれないかな?」

 

帆波ちゃんの体調は少し回復してきたようで、部屋に招き入れてくれた。私が他クラスというのもよかったのだろう。

 

「急にごめんね。帆波ちゃん」

 

「いやいや。私こそ心配させちゃったかな」

 

「ううん」

「早速で申し訳ないんだけど

 『一之瀬帆波は犯罪者である』

 『窃盗、強盗を行った』

 これって事実なんだよね?」

 

「えっ…」

 

「全ての噂が嘘なら否定すればいい。

 でも、帆波ちゃんにはできなかった。

 そういう事だよね?」

 

「…………」

 

「別に責めるつもりはないんだよ。

 少し私の話を聞いてもらえないかな」

「帆波ちゃんは私の事どう思う?」

 

「桔梗ちゃんは凄く気も効くし、みんなにとても優しいよね」

 

「ありがと♪でも、それは全部嘘」

 

「う…嘘…?」

 

「私はね。何でも1番になりたいんだよ。最初は勉強も運動も1番になれたけど、私より凄い人はいっぱいいた。」

「承認欲求っていうのかな?私はその状況に満足できやかったんだ。それで思いついたのが、誰よりもみんなに信頼される櫛田桔梗。私はね。それを演じてるだけなんだよ」

「中学の時なんだけど、それで溜まったストレスを掲示板にね。クラスメイトの悪口を書いて発散してたら、それがみんなにバレたんだ。それからは酷かった。今まで親友って言ってくれた友人は離れていった。好きだと言ってくれた男の子もいなくなった…」

「今みんなが知っている櫛田桔梗は全部嘘なんだよ」

 

「な…なんで…そんな話…」

 

「私にはそんな状況でも、私の本性を知っても変わらず接してくれる人がいたんだ」

「今、私はその人のように帆波ちゃんを支えたいと思ってる。私じゃ不足かな?」

 

そういうと一之瀬さんは目に涙を浮かべ過去の過ちを打ち明けてくれた。それを聞いた私の正直な感想だ。

 

あれ?私の話と釣り合ってなくない?

 

帆波ちゃんの話は入院していたお母さんを気遣い、そして妹さんの為に万引を犯してしまったとの事だ。もちろん、万引は絶対にダメだが、お母さんの説得もあり、お店に謝罪。世間的には既に許されている。帆波ちゃんは良い子のままだ。

 

「ごめんね。辛かったのにね。

 話してくれてありがとう。」

「でも、この事実を聞いても

 Bクラスの人達は帆波ちゃんを責めないと思うよ」

 

お人好し軍団のBクラスだ。全てを打ち明けても何の問題もないだろう事は簡単に想像できる。

 

「もし、受け入れられなくても私達は秘密を共有した仲だからね。ずっと帆波ちゃんの味方だよ」

 

帆波ちゃんが泣き止むまで私はその場で寄り添っていた。

 

次の日、登校した帆波ちゃんは過去の過ちをクラスメイトに話した。その上でいままで通りBクラスの為に頑張りたいと素直な思いをぶつけた。

途中Aクラスからの妨害はあったらしいが、そこは『帆波ちゃん至上主義の教室』だ。あらためてクラスの信任を得られたようだ。

 

また、1年に広まった各クラスの噂は学校側が動いた事により徐々に終息していった。

……

「八幡くん。今回はありがとね〜」

星乃宮先生が感謝の意を伝えてきた。

 

「なんの事っすか?俺は自分の噂が広がるのがイヤだったんで相談させてもらっただけです。」

 

「またまた〜。」

「一之瀬さんが危なかったのは分かってたんだけどね〜

 私達教師は生徒間の争いに自発的には動けない。

 今回、他クラスの君から

 相談してくれて動きやすかったよ〜」

 

「たまたまっす」

 

「ふふっ。そう言う事にしておいてあげる」

……

 

「で?で?桔梗ちゃんを支えているのは誰なのかな?」

 

「うざい。黙れ」

 

「にゃー」



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10巻
クラス内投票①


3月2日火曜日。朝のホームルーム。

教壇に立った茶柱先生の様子はいつもより格段に厳しい。

 

「あの、何かあったんですか」

 

「……お前たちに伝えなければならない事がある」

「1年度における最後の特別試験が、3月8日に始まるのは昨日伝えたとおりだ。この特別試験を終えることで、2年生への進級を完了とする。通例の話だ」

「しかし今年は、去年までと少し状況が異なる」

「学年末試験を終えても尚、本年度は退学者が一人も出ていない。この段階まで進み、退学者が出なかった事はこの学校の歴史上一度もなかった事だ」

「学校側はおまえたち1年生から退学者が出ていない事を考慮し……」

 

一度、言葉を止める。

喉の奥に下がりそうな言葉、それを絞り出している。

 

「その『特例措置』として、追加の特別試験を今日より行うことになった。」

「特別試験の内容は極めてシンプルだ。そして、退学率もクラス別に3%未満と高いモノとは言えない」

 

「特別試験の名称は……『クラス内投票』だ。」

「ルールを説明する。おまえたちは今日から4日間で、クラスメイトに評価をつけてもらう。そして、賞賛に値すると思った生徒を3名、批判に値すると思った生徒を3名選択し、土曜日の試験当日投票する。それだけだ」

 

追加試験・クラス内投票

試験内容

 

ルール1

 

賞賛票と批判票は互いに干渉しあう。

賞賛票ー批判票=結果

 

ルール2

 

賞賛、批判問わず自分自身に投票することはできない

 

ルール3

 

同一人物を複数回記入すること、

無記入・棄権などの行為も一切不可

 

ルール4

 

首位と最下位が決まるまで試験は繰り返し行われ、

最下位は退学処分。

首位はプロテクトポイントが与えられる

 

ルール5

 

他クラスの生徒に投じるため専用の賞賛票も

各自1票持っており、記入は強制

 

……

昼休み、綾小路グループは昼食ついでにカフェで話し合いの場を設けていた。

 

「……週末にはこのグループの中から誰かが消えているかもしれないわけね。」

 

言葉を発さず、不安そうにする愛里が小さく首を振った。

 

「黙って試験を迎える以外に、

 やれることはあるはずだよな?啓誠」

 

不安を払拭してくれることを期待して、明人か啓誠に聞く。それに合わせるように、啓誠は一度頷きメンバーを見渡した。

 

「明人の言う通り、退学しない為にやれる事はある。そこで提案なんだが、俺達で組んで投票しあわないか?」

 

「投票しあうって事は、

 賞賛票の名前を書きあうって事?」

 

「ああ、別に俺達の誰かが首位を取れるとは思ってない。ただ、万一の最下位を避けるためにも協力し合っておいた方がいい」

 

「少しいいか?」

 

「なんだ。八幡」

 

「グループでカバーしあうのは賛成だ。ただ、みんなに平等に賞賛票を投票するよりは退学の可能性が高いやつに集中するべきだ。この場で投票先を決めてしまうと思考が停止する。思わぬ自体に見舞われた時にフォローが遅れる心配がある」

 

「八幡の言う通りだな。それでいこう。

 投票前日に誰に投票するべきか決定しよう。」

 

「決まりだな」

 

グループの満場一致を受け、啓誠が頷く。

 

「いや、待ってくれ。ちょっと聞きたい事がある」

「俺達のグループより

 大きいグループを作られる事もあるよな?」

 

啓誠の作戦に同意する明人だが、気になる点もあるらしい。

 

「もちろん作られるだろうな。

 むしろ、その可能性が高い」

 

「私達も早めに手を打って、他の子に声かける?」

 

「それができるならこのグループにいないだろ?」

 

「まーそうね」

 

「俺達は、とにかく試験が終わるまで事を荒だてないようにする。クラスの誰相手であろうともいざこざだけは絶対に起こさないようにするんだ。」

 

「つまり…狙い撃ちされないために、目立たないようにするってわけね」

 

これで綾小路グループの戦略はある程度決まった。

 

「賞賛票はこれでいいとして、批判票はどうしよう」

 

「俺は各人の判断にまかせるべきだと思う」

 

「批判票も協力したほうがよくないか?」

 

「俺達が協力した所で最大6票だ。全く無駄というわけではないが、退学者を決定づけるには至らないだろう。であれば、わざわざ結託する必要もない。それに誰が退学者になっても後味が悪くなる。」

 

「まぁ…そうだな。」

 

……

【From:櫛田桔梗

 

 20時に八幡の部屋にいく

 きよぽんに声かけといて

 夕食は4人分よろ】

 

櫛田から連絡があった20時俺達が部屋で待っていると時間通りに呼び鈴がなった。部屋に招き入れると櫛田と一之瀬がやってきた。

 

「巻き込みたい人って、綾小路君と比企谷君なの?」

 

「そうだよ。晩ごはん食べながら話しよっか」

 

「このご飯。比企谷君が作ったの?凄くおいしい!」

 

バシッ

 

「にゃっ」

 

「いいから本題にはいれ」

 

「きょーちゃん痛いよ。」

 

「きょーちゃん言うなっ!」

 

意外だ。櫛田と一之瀬って、こんなに仲良かったのか…

 

「で?俺と清隆になんのようだ?」

 

そして、八幡。何故当然のように話すすめてる?

 

「今回の試験について、帆波ちゃんから相談があってね。おそらく私だけじゃ解決できないと思うんだ。だから巻き込もうかと思って。」

 

「巻き込むな。で、相談って何だ?」

 

「それは私から話すね。今回のクラス内投票…退学者を出さない方法はないかな?」

 

「「2000万」」

 

「はやっ。」

 

「他にないだろ」

 

「そうだな」

 

「にゃははは…や…やっぱり…そうだよね…」

 

「で?あといくらだ?」

 

「クラス全員分を集めても

 1600万前後かな…やっぱり難しいよね…」

 

「私は100ぐらいかな?八幡は?」

「200ちょい」

 

「えっ?えっ?なんの事?」

 

「俺と桔梗のプライベートポイントだな。

 合わせて300万までだせる」

 

「清隆?」

 

「オレだけではないが70万ぐらいだ。」

 

「えっ…なんでそんなに…」

 

「「船上試験?」」

 

「船上試験と龍園からの慰謝料?」

 

「なにそれ。聞いてない。」

 

「あっ…」

「と…とにかく。あと30万だ。なんとかなりそうだな」

 

「それは悪いよ…。Dクラスの為に使うべきだよ」

 

「う〜ん…トイチでおっけー♪」

 

「といち???」

 

バシッ

 

「いた〜い。何すんの八幡」

 

「冗談はおいといて

 一之瀬。5月のクラスポイント0舐めんな」

「そうだな。全員のクラスポイント集めても

 1000万もいかないな」

「残念だけど、それが現実だよ。帆波ちゃん」

 

「一つ提案がある」

 

「なんだ?清隆」

 

「Bクラスの不足分だが、なんとかなる可能性はある。ただ、不確定要素が大きいのも事実だ」

「保険として、一之瀬・櫛田・八幡は残り30万の確保をお願いしたい。あとはオレに任せてくれないか?」

 

「りょ!」

「分かった」

 

「え…え〜。誰か説明して〜」

「な…なんで、みんなが元Dクラスなの?」

 

「腹黒?」

「陰キャ?」

「コミュ障?」



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クラス内投票②

《グループチャット:比企谷・綾小路・櫛田》

 

櫛田:今日も相談がある。20時に八幡の部屋に集合

 

比企谷:一之瀬の件か?

 

櫛田:別件。Cクラスについて

 

綾小路:わかった。軽井沢も連れて行っていいか?

 

櫛田:大丈夫だよ

 

櫛田:八幡 今日も4人分よろ

 

比企谷:金払え

ーーーーー

 

「へ〜。ここが比企谷の部屋かぁ。本ばかりだね」

 

「まぁ。ゆっくりしててくれ。

 もうすぐ飯もできる」

 

「きよぽんも軽井沢さんも急にごめんね」

 

「いや。大丈夫だ」

 

「さぁ、準備出来たぞ」

 

「今回の試験なんだけど、

 みんなどう動くか確認しておきたくてね」

 

「詳細は言えんが、オレと軽井沢は個別で動く」

「目標はオレ達2人の退学阻止とプロテクトポイントの獲得だ。櫛田には悪いが、櫛田に賞賛票が集中しないようにしてもらっていいか?お前が本気になったら恐らく厳しい戦いになる」

 

「問題ないかなっ。

 別にプロテクトポイントいらないしね」

 

「俺は何もせん。なるようになるだけだ」

 

「私は…実は山内にきよぽんが退学になるようみんなを説得して欲しいって頼まれたんだ。ほら、みんなの櫛田桔梗ちゃんでしょ?頼まれると断われなくてね~」

 

「なっ!なにそれ!!」

 

「………………」

 

清隆は何か考えているようだ。

 

「でも、違和感があるんだよ。山内にこんな事思いつくとは思えないんだよね。相手がきよぽんなのも不自然。頼む相手も限定してきてるしね。多分裏に誰かいるはずなんだ」

 

「………………」

 

「どうする?きよぽん。

 表面上取り繕うだけもできるけど?」

 

「………………」

「櫛田。感謝する。そのままオレが退学になるよう動いてくれ。そのほうが都合がいい」

「あと、おそらくだが山内は自分の立場が悪くなるとお前を売ろうとする。準備はしておいたほうがいい」

 

「まっ。そうだろうね。そこは大丈夫だよ」

 

「櫛田自身はどうするんだ?」

 

「私もいまの所、自分の意思では何もしないつもりだよ。

 私が動くと退学者決まっちゃうからね」

 

……

投票前日の放課後。

 

「少し時間をもらえるかしら」

 

声をはった堀北が、そう言って教室の生徒に呼びかけた。何事かと、当然注目は集まる。

 

「皆、申し訳ないけれど、

 暫くこの場に残ってもらいたいの」

 

茶柱先生もまた、堀北の様子が気になったのか一度足を止める。

 

「どうしたのかな、堀北さん」

 

「明日の特別試験に関して、

 どうしても話しておくことがあるの」

 

「明日の試験に関して?」

 

「なんだよそれー。俺これから寛治と遊びに行く予定があるんだけどさ!」

 

「そ…そうだよな」

 

そう言って山内たちが、時間がないことをアピールする。

 

「随分と余裕なのね2人とも。明日には誰かが退学するかもしれないのに、遊びにいく予定をしているなんて」

 

「それは……ジタバタしてもどうにもならないから、覚悟を決めたって言うか」

 

「そう、立派な心がけね。だけど、悪いわね、全員があなたのように立派なわけじゃない。この話は全員に残ってもらわなければ意味のないことなの。協力してもらえる?」

 

「一体なんの話なんだよ」

 

「明日の試験、そして退学者について。

 大事な話がしたいの」

 

そう言って堀北は話出す。

票のコントロールにより、本来残るべき優秀な生徒が退学になる危険性。そして、堀北の意見は山内が退学になるべきとの事だった。理由はこれまでの貢献度の低さ、そして、この試験での山内の暗躍が暴かれいく。

 

「あなたは綾小路くんを退学させるために、櫛田さんを使って色んな生徒に口利きをしていたわね」

 

ざわっと、教室がどよめく。

 

桔梗に山内の助力を許可したのは、この流れを作る為だったのか。これで清隆は同情されるべき被害者になった。

 

堀北は山内をさらに追いつめていく。

 

「……寛治、寛治から聞いたんだよ!なあ!?」

 

「いやっ、え?俺は違うって!」

 

当然池は否定する。

 

「そうなの?池くん」

 

「いやいやいや、違う違う。俺は……」

 

そこで言葉に詰まる池。

 

「答えられないという事は、

 山内くんの言う通りあなたが首謀者なのかしら?」

 

「違う、違う!だから、えっと…その助けてくれって頼まれたんだ…ある人が困っているから綾小路に批判票をいれてくれって」

 

「そ、そうだ!俺、桔梗ちゃんに誘われたんだよ!綾小路退学にさせようって!」

 

一つの嘘から始まった連鎖は留まる事を知らない。

 

「まさか、あなたが首謀者なの?櫛田さん」

 

あくまで堀北は一人ずつ辿っていく。

そして、ここまで沈黙を守っていた桔梗が始めて口を開いた。

 

「ひ…ひどいよ…。山内くん。堀北さん…」

「私は何もしていないよ?

 みんなに聞いてもらってもいい」

 

「「「えっ!?」」」

 

堀北・山内は当然として、綾小路も驚いている。

桔梗の言う通り直接的な口利きは誰にもしていない。

 

「う…嘘だ。ちゃんと桔梗ちゃんと契約もしている。

 そ…そんなはずはない」

 

(これでポイントゲットかな?)

 

「山内くんに相談されたのは事実だよっ。凄く悩んだんだけど…、私にはどうしてもクラスメイトを陥れる事はできなかったの。力になれなくてごめんね。山内くん」

 

「納得いかねぇって!なんかもう、納得いかねー!」

 

そして、次の言葉が発せられた時、

綾小路グループのメンバーはこう思った。

 

「「「「「あっ。終わった」」」」」

 

「そっそうだっ!俺なんかより比企谷のほうが退学すべきだろっ!今まで唯一赤点とったのは比企谷だ。それに一人も友達はいない。退学になっても誰も困らないはずだ!!」

 

「経緯はどうあれ元凶が山内くんである事は間違いのない事実のようね。」

 

「ま、待てって堀北。俺は違うんだって……」

 

その後、堀北の説明で山内がAクラスの生徒と繫がっており、今回その指示で動いていた事が明らかとなる。

 

「以上が私の見解よ」

 

そう言って締めくくろうとする堀北。

 

「待ってほしい堀北さん」

 

「……何かしら」

 

挙手し、立ち上がったの平田だ。

クラスにとって不要な生徒は切り捨てるべきであると主張する堀北と誰も退学にさせたくない平田。

 

話は平行線を辿る。

 

最後は茶柱先生の介入により、この場は解散となった。

 

 



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クラス内投票③

多くの感想頂きありがとうございます!

ネタバレさせてしまいそうなので、クラス内投票終わりましたら返信させて頂きたいと思います。
感想 いつも楽しく読ませてもらってます。


【綾小路グループ】

 

「念の為、賞賛票はきよぽんに集める。

 他は均等に配分で問題ないかな?」

 

「あぁ。問題ないだろう。本人は気づいてないがな。

 山内は致命的なミスを犯した。

 おそらく結果は覆らないだろう。」

 

「そうだな」

「だよねー」

「う…うん」

 

【平田洋介と綾小路清隆】

 

「今回の特別試験。お前はオレ、そして山内。

 それから堀北の名前を書けばいい」

 

「判断を他の生徒に委ねろってことだね」

「やっぱり君は凄いよ綾小路くん」

 

「別に凄くない」

 

「話せてよかったよ。

 僕も少し答えが見えそうな気がした」

 

「そうか」

 

平田が立ち上がる。おまえは自分なりに、この試験のクリア方法を見つけたんだよな。だが、それを容認するわけにはいかない。

 

「帰ろうか」

 

【BクラスとDクラス】

 

「お邪魔しま〜す」

 

オレ達の前に姿を見せた一之瀬に石崎と伊吹は当然驚いた。

 

「利害の一致ってわけね」

 

「そうみたいだね。伊吹さん」

 

「うん。私が皆に呼びかけて、Bクラスの持つ40票の賞賛票、その全部を龍園くんに入れるようお願いする。その代わり、伊吹さんは私たちに足らないプライベートポイントを穴埋めしてくれる」

 

「2人が手を組めば、

 Bクラスから退学者はでず、

 Dクラスには龍園が残る」

 

「うん。私は異存ないよ。交渉成立だね」

 

【比企谷八幡と櫛田桔梗】

 

清隆と軽井沢が帰っていった後の事だ。

 

「きよぽんはああ言ってたけど、

 実際どうしよう?」

 

「清隆の言ってた通り、そのほうが都合がいいんだろう。なら協力してやればいいんじゃないか?」

「その代わり、桔梗は直接動かないほうがいい。実際、直接的な口利きをせんでも誘導できるんじゃないか」

 

「う〜ん…確かにそうだね。誰にでも絶対に裏切れない。もしくは裏切りたくない人がいるからね。上手く話がまわるよう動いてみるよ」

 

「あとは念の為、山内と契約しておけ。内容は山内から櫛田への依頼もしくは契約の存在を口外しない事。依頼の遂行有無は言及するな。違反した場合は所有するポイントを全て譲渡でどうだ?」

 

「うん。わかったよ」

 

【櫛田桔梗】

 

『俺なんかより比企谷のほうが退学すべきだろっ!今まで唯一赤点とったのは比企谷だ。それに一人も友達はいない。退学になっても誰も困らないはずだ!!』

 

だって♪

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ついに試験当日、土曜日の朝がやってきた。

 

「皆聞いてほしい」

平田だった。

 

「僕なりに昨日の堀北さんの話を、他の皆の話を聞いて、一つの結論を出した。今回の試験…批判票を誰にするか、それが最大の焦点だよね」

「まずは、僕が昨日堀北さんに批判票を投票するといった件、あれを謝罪したい」

 

「謝る必要なんてないはずよ。一体どういうつもり?」

 

「君はクラスに必要な生徒だ、そう判断しただけだよ」

 

「なら、あなたは誰が不要だと思うか見えたの?」

 

「うん。見えたよ」

 

言い切った平田に、堀北が息を飲む。

 

「……それが誰か聞かせてもらえるのかしら?」

 

「今から言うよ」

 

ゆっくりと自分の席から移動し、平田は教壇にたった。

ちょうど昨日堀北がしたように。

 

「僕はこのクラスが大好きだ。全員が必要な存在だと思っている。誰に言われても、その結論は変わらない。だけど、それじゃあ解決しない事も、もう分かっている」

 

「僕の名前を……批判票に書いて欲しい」

「僕は退学になってもいい。

 それだけの覚悟を、今はもてているつもりだよ」

 

「何を言い出すかと思えば……あなた正気?」

 

もはやCクラスの中は無茶苦茶になっていると言ってもいい。そんな中だ。意外な所から声が上がる。

 

「平田。少しいいか?」

 

(あのバカ…)

 

「平田に批判票をいれるぐらいなら、俺にいれてくれ。

 どうせ一度退学になった身だからな」

 

「比企谷君!なに言ってるんだ。

 僕はそんな事望んでいない。」

 

「お前と同じ事をしているだけだ」

「少なくともお前だけは否定しちゃダメじゃないのか?」

 

「それでもだ!僕は認めない」

 

「別に認めてもらう必要はないんだけどな…」

「自分を犠牲にして、

 誰かを救った気になっているようだが

 それはただの自己満足だぞ。平田」

「お前がクラスメイトを守る為に退学する事で

 近い将来必ずCクラスは崩壊する。

 お前が大好きだったクラスがなくなるんだ。

 そろそろ現実を受け入れろ」

 

「僕がいなくても堀北さんや櫛田さん、

 綾小路くんがいれば…」

 

「無理だろ?誰も平田の『代わり』はできん」

 

俺は名指しされた3人に目を向けると静かに頷いた。

櫛田さんが…こわいです…

 

「だから、俺がお前の『代わり』に退学してやる」

「俺が望んだ退学だ。誰にも迷惑かけんだろう?」

 

「比企谷……ちょっと黙れよ」

平田が冷たく言い放つ。

 

「はぁ〜。本当にクラスメイトを守りたいと願うなら、

 何があっても…

 例え最後の一人になっても…

 お前が残るべきなんだ。」

「ちゃんと背負えよ。責任も退学になった生徒の思いも」

 

「退学になった生徒の思い…」

 

「今後も退学になるクラスメイトは出るかもしれん。そのクラスメイトの思いを継げるのは最後までクラスの為に動けるお前だけだ。他の誰にもできん」

 

「………」

 

「俺は平田が残ってくれるなら安心して退学できる」

 

「比企谷くん…」

 

「俺は…俺は比企谷にいれる!」

 

叫んだのは山内。

 

「クラスの為にも、俺はそうするべきだと思う!」

 

その後、茶柱先生が教室にやって来る。

 

「ではこれよりクラス内投票を始める。名前を呼ばれた生徒から順に、投票室に移動してもらう」

 

さあ結果はどうなるか……

 



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クラス内投票④

カタカタと貧乏ゆすりをする山内の音が、

やけに耳に障った。

 

「おい…ちょっと静かにしろよ春樹」

 

小声で注意する池。

 

「う、うるせえな。わかってるよ」

 

「フフフ。どうせ君の敗北は決まっているようなものだよ。違うかい?」

 

「……へっ」

 

そんな高円寺に対し、山内が鼻で笑う。

 

「もういいか、話しちゃってもさ……。

 退学するのは俺じゃないんだよ」

 

「ほう?理由を聞こうか」

 

「いいぜ。教えてやるよ」

 

「このクラスで退学候補なんて、数人じゃん?そいつらって何票賞賛票が取れるんだろうな。心配だよ俺は」

 

「まるで君は、賞賛票が沢山とれるような言い回しだね」

 

「そうさ。事実取れるんだよ」

「俺はさ、Aクラスから賞賛票を20票もらうって約束してるんだよ。だから何票批判票があっても無駄なんだよ……俺はAクラスに守られているんだ!」

 

「なら、なぜそこまで不安になる必要があるのかな?」

 

「それは…」

 

「敵と約束するなら、しっかりと契約を交わしたのかい?

 交渉の基本だよ?」

 

「い、いや、だからそれは…」

 

「口約束なんて、反故にされるのが落ち。

 Aクラスはそれほど優しくない」

 

「わかっているんだよそんなこと!

 でも、大丈夫なんだよ!」

 

「静かにしろ山内。廊下にまで叫び声が聞こえてきたぞ」

 

そのタイミングで、茶柱先生がCクラスにやってきた。

 

「待たせたな。これからCクラスの結果発表を行う。

 全員席につけ」

 

ついに審判の時がきた。

 

……

 

「あ〜〜〜。死にたい。いや、誰か俺を殺してくれ」

 

俺は自室で頭を抱えていた。

 

「何してんの?八幡?」

 

「なにが『俺は平田が残ってくれるなら安心して退学できる』だ。退学になると思ってたから厨二病よろしく説教した結果がこれだ。どんな顔して明日学校に行けばいい?」

 

「………八幡って、自分の事になると時々バカだよね?」

「本気で退学になると思ってたの??」

 

「??」

 

「投票前から

 八幡が退学になる可能性ほとんどなかったよね」

 

「??」

 

「今回批判票は1人につき3票だった。

 ここまでオッケー?」

 

「おう」

 

「下位3人に山内が入らない可能性は?」

 

「須藤、池ぐらい?」

 

「Aクラスは除いて、賞賛票がはいる可能性は?」

 

「須藤、池ぐらい?」

 

「Aクラスが山内に賞賛票をいれる可能性は?」

 

「ない。清隆がプロテクトポイントを取りに行くと言ってたからな。交渉の余地があるのはAクラスだけだ」

 

「結果、批判票がはいる可能性は35票前後になる。

 オッケー?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、八幡が下位3人に入らない可能性は?」

 

「桔梗、清隆、啓誠、明人、波瑠加、愛里…

 あと軽井沢と堀北?」

 

「賞賛票が入る可能性は?」

 

「桔梗、グループから2〜3票ってとこか」

 

「綾小路グループが裏切る可能性は?」

 

「多分…ないな」

 

「つまり、八幡の批判票は30票未満は確実だよね。不確定要素はあるにしても綾小路グループに所属するかぎり退学の可能性は低いんだよ」

「あとは山内くんの問題だけど、きよぽんに批判票を集めようとしたけど、自分が批判票から外れる努力怠ったからね。批判票1人につき1票でない時点で退学はほぼ確定」

 

「あぁ…そうだな」

 

「あとは保険として、ひよりちゃんに八幡へ賞賛票をお願いしてたからね。Dクラスからも何票かはいってるはずだよ。この時点で退学の可能性はほぼ0だよ?」

 

「……」

 

「話は戻るんだけど」

 

「なんだ?」

 

「退学になると思ってたって、どういう事かな??」

 

「あっ…」

 

「私、前に言ったよね?私の為に退学って簡単に言うなって。しかも退学する気だったってどういう事?平田と私なら平田を取るってことでいいのかな?いいんだよね?」

「平田が退学したらクラスが崩壊するって言ってたけどクラスメイトが八幡を退学にしたら分かってるよね?自覚はあるのかな?」

 

「き…桔梗?」

 

「いっぱいオハナシしようね♪」

 

「りょ!」

 

「はぁ?」

 

「分かりました。宜しくお願いします」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

賞賛票1位

Aクラス 坂柳有栖

Bクラス 一之瀬帆波

Cクラス 綾小路清隆

Dクラス 金田悟

 

退学者

Aクラス 戸塚弥彦

Bクラス なし

Cクラス 山内春樹

Dクラス 真鍋志保

 




今回でクラス内投票は完結です。
Cクラスの退学者は山内になりました。まぁ。そうですよね。桔梗ちゃんを敵にまわした時点で遅かれ早かれです。
今巻は桔梗ちゃんの立ち回りに頭を悩ませました。山内の依頼を受けるのか?きよぽんに早期に情報を与えてもいいのか?
あれ?っと思った方もいるでしょうがご容赦下さい。

さて、次回から1年生編最後の特別試験になります。ルール説明だけで心が折れそうです。


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11巻
選抜種目試験①


「では、これより1年度の最終試験の発表を行う」

「1年度を締めくくる最後の特別試験は、これまで学んできた事の集大成を見せてもらうことになる。知力、体力、連携あるいは運。ともかくお前たちの持つ様々なポテンシャルを発揮する必要があるだろう」

「特別試験は、各クラスの総合力で競い合う『選抜種目試験』。ルールに従って対決クラスを決めて行なわれる事になる。ペーパーシャッフルの時と同じようなものだ」

 

特別試験

 

3月8日  特別試験発表日。同日対決クラスの決定

 

3月15日 10種目の確定。

     対決クラスの10種目及びそのルールの発表

 

3月22日 選抜種目試験当日

 

 

選抜種目試験、種目を決める際のルール

 

・マイナーすぎる種目、複雑すぎる種目、

 及びそのようなルールの制限

 極めて細かなジャンルなどは不許可とする場合がある。

 筆記問題などを種目にする場合、学校側が問題作成を

 行うことで公平性を保つものとする。

 種目において基本ルールを逸脱し改変する行為は

 禁止とする。

 

・使用できる施設に関して

 

 試験当日は、多目的室にて司令塔が種目進行を行う。

 また、体育館、グラウンド、音楽室や理科室など

 学校内の施設は基本的に使用可能であるが、

 一部例外も存在する。

 

・種目制限、時間制限に関して

 

 同じ内容と判断される種目は各クラス1つまでしか

 採用できない。

 また種目の消化にかかる時間が長すぎる場合や、

 時間制限のない種目などは採用が

 見送られるケースがある。

 

・出場人数に関して

 

 種目に必要な人数は、交代要員を除き申請する10種で

 全てが違っていなければならない。

 最小人数は1人であり、最大人数は20人まで

 (交代要員も含め20人を超えてはならない)

 1クラスの出場する人数が交代を含め

 10人を超える種目は最大2つしか登録が出来ない。

 

・参加条件に関して

 

 各生徒が出場できる種目は1つであり2つ以上の種目に

 参加することは出来ない。

 ただしクラスメイト全員が種目に参加した場合に限り

 2つ以上の参加を可能とする。

 

・司令塔に関して

 

 各クラスは司令塔を1人用意しなければならない。

 司令塔は種目には直接参加できない。

 クラスが勝利した際は

 個別にプライベートポイントが与えられる。

 クラスが敗北した際は退学となる。

 

・司令塔の役割に関して

 

 司令塔は7種目全てに関与する権利を持つ。

 どのように関与するかは種目を

 決めるクラスが定めること。

 学校側が承認して初めて関与の採用となる。

 

「今回の特別試験…

 オレが司令塔に立候補してもいいか?」

 

清隆がそう切り出す。

 

「前回のクラス内投票で、オレがクラスに不信感を持たせたのは事実だ。なら、この試験で人柱になる事で、その疑念を払拭したい」

 

「綾小路…」

 

少し驚いた様子で、須藤がオレを見る。

 

「それいいじゃん。これなら誰も退学しないで済むし、

 綾小路も疑われなくなるし!」

 

退学者を出さずに済むならと、池がオレの立候補に賛成を表明する。

 

「や、ちょっと待ってよ。

 私は綾小路くんが司令塔になるのはちょっと反対かも」

 

この話に口を挟んだのは思わぬ生徒、篠原だった。

篠原は勝つ確率を少しでもあげる為に優秀な生徒が司令塔を担うべきと主張する。その戦略も間違いではない。司令塔を希望する生徒がいればだが…

 

「私は清隆くんが司令塔でいいと思うよ?

 不満なら篠原さん司令塔やる??」

 

オレの意図を察して櫛田がフォローをいれてくれる。

 

(バカがいらないこと言い出す前に

 きよぽんに押し付けよっ♪)

 

「……」

 

「平田くんもどうかな?清隆くんで問題ないよね?」

 

「…あ…あぁ…そうだね。綾小路くんなら僕も賛成だ」

 

「じゃあ、決まりだねっ!」

 

「司令塔とは言っても、事前に念入りな準備はできる。当日はその指示、パターンに従って行動してもらえれば、誰が司令塔になってもそれほどの差はないはずよ。」

 

平田が本調子でない今、堀北がクラスのまとめ役を担う事になりそうだ。

 

ーーーーー

 

《グループチャット:比企谷・綾小路・櫛田》

 

綾小路:お前たちが選ぶならどのクラスだ?

 

櫛田:どこでもいい

 

綾小路:なぜだ?

 

櫛田:勝つも負けるもきよぽん次第でしょ?

 

比企谷:Dクラス以外

 

綾小路:なぜだ?

 

比企谷:運動系特に格闘技になったら勝てん

 

比企谷:あと確実に龍園がでてくる。

 

綾小路:龍園?

 

比企谷:あいつはあぁ見えて義理堅い

 

比企谷:今回、退学にならなかった代償に

    退学かけて出てくるはずだ。

 

比企谷:背水の陣の相手と戦う必要はない



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選抜種目試験② 八幡くんと洋介くん

対戦相手は以下のようになった。

 

AクラスVSCクラス

BクラスVSDクラス

……

 

「隣いいか?」

 

「……………」

 

「比企谷くんは何も言わないんだね」

 

「……………」

 

「あれからずっと考えていたんだ。

 比企谷くんに言われたこと」

 

『「本当にクラスメイトを守りたいと願うなら、

 何があっても…

 例え最後の一人になっても…

 お前が残るべきなんだ。」

「ちゃんと背負えよ。

 責任も退学になった生徒の思いも」』

 

(すまん!忘れてくれ)

 

「比企谷くんの言う通りだ。

 僕は綺麗事だけ言って覚悟が足らなかった」

「聞いて…もらえるかな…」

 

平田は過去の話を語りだした。杉村という友人がいた事。その友人がイジメにあい平田の目の前で飛び降り自殺を図った事。一命はとりとめたが今なお意識は回復してない事。にも関わらずクラスではイジメが続いた。結果、平田は暴力で学校を支配した事…。

 

「凄いな。平田は」

 

「何も凄くないよ…」

 

「行動を起こしただけで十分だ。

 それにお前は一つ勘違いをしてる」

 

「勘違い?」

 

「その友人は別に平田を恨んでいない」

「俺もイジメられていた側の人間だ。

 イジメられている人間が縋るものはなんだと思う?」

 

「…………」

 

「守って欲しい、助けて欲しいって気持ちはあるが

 それが無理なのも分かっている」

「そんな時に縋れるのは楽しかった思い出

 もしくは些細な優しさだ。

 その友人にとって平田との思い出は

 変え難いものだったんじゃないか?」

 

「…………」

 

「友人が目覚めた時にここでの色んな話を聞かせてやれ。

 それが今、杉村くんに平田が出来る事だ」

 

俯いた平田の顔から零れ落ちる沢山の涙。

男は特別な時以外には涙をみせられない。

厄介で面倒な生き物だ。

 

「ありがとう…比企谷くん…いや八幡…」

 

……

「皆、おはよう!」

 

昨日までが嘘のように晴れやかな、爽やかな笑顔で登校してきた平田。

 

「平田くん?」

 

「僕はもう大丈夫。もう、大丈夫だから」

 

そして、全員に対して頭を下げる。

 

「いまさら謝っても遅いかもしれないけど…皆さえよければ今日からまた、クラスのために貢献させてほしい」

 

頭をあげないまま、そう言う平田。

 

「平田くんっ!」

 

まず数人の女子たちが平田に駆け寄ると、男子も女子も多くがそれに続いた。平田の復帰に喜ばない生徒はいない。

 

「おはよう堀北さん」

 

「え、ええおはよう」

 

思わず、その平田を眩しいと思ったのか

堀北が動揺した。

 

「失った信用を取り戻すために全力を尽くすよ。

 後で特別試験の詳細を教えて欲しい」

 

「分かったわ。状況の把握、そしてあなたが本当に使いものになるのかどうか、そのテストさせてもらうけど、構わないわね?」

 

「うん。もちろんだよ」

 

手を差し伸べる平田。和解を求める握手を堀北は真正面から受け止めた。それからも、再び次々とクラスメイトから声をかけられる。

 

「おはよう八幡」

 

((八幡?))

 

始業ぎりぎりに登校した八幡に平田から声をかけた。

 

「そうだ。

 僕の事も『洋介』って呼んでくれないかな?」

 

「はぁ〜。洋介。これで満足か?

 眩しすぎて消えそうだから、あっちにいってくれ」

 

その状況を遠巻きに見ていた堀北がオレに聞いてくる。

 

「これはどういう状況かしら?」

 

「いや。さっぱりわからん」

 



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選抜種目試験③

司令塔としての役目について考える。思えば、こうして学校の試験に面とむかって挑むのは始めてのことだ。今回の試験はクラス全体を指揮するという戦い方。クラスのもつ力の範囲でしか戦う事はできない。

誰が誰を好きか嫌いか、何が得意で不得意か。その組み合わせを理解せずして、勝ちへの道筋は開けない。

そして、その情報収集力や統率力という意味では、オレはクラスの中でも下から数えたほうが早いほどに不足している。なら、まずは何をすべきなのか。

決まっている。クラスの事をよく知っている人物に聞く。シンプルだが避けては通れないことだ。

 

それができるのは

『恵』『平田』そして『櫛田』の3人だろう。

 

…普通に聞けるな…

それからオレは3人をそれぞれ部屋に招き、

情報収集を行った。

 

……

2度目のクラス会議が行なわれる。

 

「今日は長い時間拘束するつもりもないわ」

「この場にいる全員に課題を出させてもらう。明日の放課後までに『自分が得意な種目』そして『絶対に負けない種目』があればそれを考えてきて欲しいの。個人戦チーム戦に関係なくね」

「ああ。比企谷くんは不要よ」

 

「なんでだ?」

 

「司令塔から直々にご指名よ。

 あとで綾小路君に聞いてもらえるかしら」

 

「清隆が?承知した」

 

 

「で、俺を指名した理由はなんだ?」

 

「八幡には今日からオレとチェスの特訓をしてもらう」

 

「なんでチェスなんだ?」

 

「Aクラスは必ずチェスを種目にいれてくる。

 今回のルールでは司令塔が関与できるにしても

 限定的なものになるだろう。

 おそらくは序盤戦が鍵だ」

 

「ちょっと待ってくれ。それは確実なのか?」

 

「あぁ。間違いない。

 今までは遊びだったが、本格的に教える事にした」

 

「わかった。清隆に従おう。」

 

……

それから数日がたった。クラスでは堀北・平田・櫛田の3人が中心となり、種目の選択やルールの設定を検討している。俺は綾小路の特命に従っているが、あいつ鬼だな…。ここ数日睡眠や授業を除いたほぼ全ての時間がチェスに費やされている。もちろんまだ一回も勝てていない。

 

放課後の訓練が終わり、

部屋に戻るとそこには桔梗と一之瀬がいた。

 

「なんか大変そうだね…。お邪魔したら悪かったかな?」

 

「全く気にしなくていいよー。

 ここだと周りに聞かれる事もないし、

 落ち着いて話ができるでしょ?」

 

「お前が答えるな」

「で、なんで俺の部屋にいるんだ?」

 

「帆波ちゃんが愚痴聞いてほしいって言うからね。

 せっかくだしご飯に誘っただけだよ」

 

「はあ〜。で、愚痴って?」

 

「簡単に言うと、ちょっとDクラスから

 強い嫌がらせを受けてるみたいなんだよね」

 

「バカの一つ覚え?」

 

「にゃはは。でも笑い事でもないんだ」

 

BクラスはDクラスの連中を追いかけ回したり、追い詰めているようだが物理的被害はまだないらしい。

 

「金田くんが指示するとは思えないし、

 石崎くんかな?」

 

「龍園に決まってるだろ」

 

「えっ。龍園くん?

 でも、リーダーから外れているよね?」

 

「一之瀬だから分かると思うが、噂通り石崎が龍園を

 ひきずりおろしたとして、

 大量のプライベートポイントを使ってまで

 石崎が龍園を救う必要がどこにある」

 

「……リーダーから外れたのはフェイクって事?」

 

「そこまでは知らん。ただ、今回のやり口といい

 何かしら龍園の関与は視野にいれておくべきだ」

 

「……うん……きっとそうだね」

「ごめん。きょーちゃん!作戦練り直す必要が

 あるからこれでいくね」

 

「忙しいやつだな」

 

「帆波ちゃんらしいけどね。八幡このあとは?」

 

「知ってるだろ。飯食い終わったら、鬼教官の登場だ」

 

「はははっ。ご愁傷さま♪」

 

……

長い準備期間を経て、

ついに1年度最終の特別試験を明日にむかえていた。

 

俺?俺はチェスしかしてないが?

 

桔梗に聞くと準備や戦略はばっちり。

あとは当日のきよぽん次第らしい。

 

「はぁ…はぁ…」

 

頭が痛い。眼もかすんできやがった。

あらためて盤面に目を落とす。そして、読みに間違いがないか確認作業を行う。

 

「これでチェックメイトだ…」

 

「ぎりぎりなんとか及第点だな。

 あとはゆっくり休め」

 

「死ね…」

 

俺はその一言をはきながら、深い眠りに落ちていった。

 

「あとは任せたぞ櫛田」

 

そう言って綾小路君は八幡の部屋を出ていった。

 

「…がんばったね。比企谷くん」



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選抜種目試験④

ついに1年度最終特別試験の当日がやってきた。

 

カンカンカン

 

「お〜き〜ろ〜!」

 

はっ。俺はあのまま寝てしまったのか…。

 

「ようやく起きたかな八幡」

 

「な…なんで桔梗がいるんだ…」

 

「きよぽんに頼まれたからね〜。

 それより急がないと遅刻だよっ」

「じゃあ、あとで学校でね」

 

時計をみると本当にぎりぎりだ。急いで準備しないとな。

 

……

 

オレは特別棟に足を踏み入れ、目的の場所へ。すると一足先に到着していた坂柳と一之瀬が雑談していた。どうやらまだ多目的室は開場されていないらしい。

 

「おはようございます綾小路くん」

 

「おはよ、綾小路くん」

 

2人同時に声をかけられ、オレは軽く手を挙げて答える。

 

「あとは金田だけみたいだな」

 

「だねー」

 

振り返る。金田の姿はまだ見えないが、流石に遅刻することはないだろう。

 

「それにしても一之瀬さんはラッキーでしたね」

 

「え?ラッキー?」

 

「今のDクラスなど赤子も同然。彼らでは万に一つもBクラスには勝てませんし、あとは何勝積み重ねる事が出来るかという部分だけでしょう」

 

「きっと、そんな簡単な試験にはならないよ」

 

一之瀬に対して坂柳が面白そうに笑う。

 

「あれ、私変なこと言ったかな」

 

「一之瀬さんには何か…

 私にみえてないものがみえているのでしょうか」

 

「にゃはは。そんな大した事じゃないよ。」

 

5分ほど経っただろうか。そろそろ遅刻を意識しなければならなくなる頃。ようやく廊下の先から、歩いてくる足音が微かに聞こえ始めた。

 

「遅刻、あるいは怖気づいての棄権ではなさそうですね」

 

オレたちは間もなくやってくる金田と合流し、全員で多目的室に入る。そのビジョンを勝手に思い描いた。

 

だが……

 

ここで予想外の人物が姿をみせる。

その人物が視界に入った途端、

一之瀬は気を引き締め直した。そんな表情をみせた。

 

「やっぱり龍園くんが来たんだね」

 

「なるほど。これは想像してませんでした。一之瀬さんが

 先ほどおっしゃってたのはこの事なんですね」

 

「クククッ。もっと驚いてくれると思ったんだがな」

 

「ある人が龍園くんが出てくるってアドバイスくれたからね。その後、クラスのみんなで検討したんだけど、最後まで否定できなかった。なら、その可能性も考慮して準備してきただけだよ」

 

きっと八幡だな

 

「Bクラスはクラス内投票で龍園くんを救う事になったけど、この試験で引導を渡してあげるよ」

 

「クククッ。ハッハッハ。いい女になったじゃねぇか一之瀬。今のお前なら俺の女にしてやってもいいぜ。どうだ俺の所にくるか?」

 

「お断りだよ」

 

「どうやら

 BクラスとDクラスの対決も面白くなりそうですね」

 

「さて全員揃ったことですし、参りましょうか」

 



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選抜種目試験⑤

坂柳を先頭に多目的室に入ると、初日には無かった壁が作られていて、丁度室内の半分で区切られていた。即席にしてはしっかりとした壁になっていて、防音性も高そうだ。1年を担当する4人の教師が並んで待機している。

 

「BクラスとDクラスの生徒は

 あちら側に移動するように」

 

真嶋先生の指示と共に、2人は隣の部屋へと姿を消していった。それに茶柱も続く。オレ達AクラスとCクラスの進行役はDクラスの坂上先生とBクラスの星乃宮先生。それぞれの試験につく担当教師は受け持つクラス以外になるってことらしい。

 

「やっと…やっとこの日がやって来ました。

 昨夜は正直眠れなくて、朝寝坊するところでしたよ」

「普通なら、お手柔らかに…

 と申し上げるところですが…」

 

その目は少女のモノではなく、獲物を狩るハンターのような鋭さをみせていた。

 

「全力で向かってきてくださいね」

 

「はーい。そろそろ試験を始めまーす。席について」

 

 

「特別試験の進行を担当する坂上です。早速ですが1年度最終の特別試験を始めたいと思います。各クラス、5種目を選択し決定ボタンを押すように」

 

Cクラス

『弓道』『バスケット』『卓球』

『タイピング技能』『テニス』

 

Aクラス

『チェス』『英語テスト』『現代文テスト』

『数学テスト』『フラッシュ暗算』

 

 

【1戦目 バスケットボール】

24対16 勝利:Cクラス

 

できれば須藤は温存しておきたかったんだがな。

Aクラス相手では難しいか

 

「まさかCクラスが先勝するなんて、

 勝負って分かんないな!」

 

独り言のように、星乃宮先生が感心したように呟く

 

【2戦目 タイピング技能】

Cクラス 外村秀雄 90点

Aクラス 吉田健太 83点

勝利:Cクラス

 

「少しながら届きませんでしたか。

 簡単にはいかないものですね」

 

【3戦目 英語テスト】

Cクラス 合計443点

Aクラス 合計651点

勝利:Aクラス

 

「こちらの平均点は81点。Cクラスが総力戦を仕掛けてくれば拾える目もありました」

 

【4戦目 数学テスト】

Cクラス 合計631点

Aクラス 合計655点

勝利:Aクラス

 

「危ないところでした。堀北さんや高円寺くんを

 投入しておけば勝てたのではありませんか?」

 

「……そうかもな」

 

【5戦目 フラッシュ暗算】

 

「1位は10問中8問を正解し最高点を出した葛城耕平。

 Aクラスの勝利です」

 

【6戦目 弓道】

 

明人の奮闘によりCクラスの勝利

 

順当に自分たちの選んだ種目を取り合っての

3勝3敗で並ぶ。

 

……

 

AクラスとCクラスが第3戦目の英語テストの集計を行っている最中。Bクラス対Dクラスは早くも4戦目の決着がつこうとしていた。

 

「集計の結果、Bクラス601点。Dクラス409点。

 4戦目はBクラスの勝利とする」

 

真嶋先生による結果発表を受け、

一之瀬はホッと息を吐いた。

 

「ハッハッハ。想像以上だぜ一之瀬」

「クラス全員が万全の状態で今日を迎えるとはな」

 

「龍園くんには盤外戦で苦しめられてきたからね。

 私達も成長しているって事だよ」

「これで私達の3勝。瀬戸際だよ龍園くん」

 

「はっ。言ってろ。次だ。次」

 

第4戦目『空手』

第5戦目『柔道』

とDクラスの種目が続き3勝3敗となる。

 

「さて、最後の勝負だ。天に祈るんだな。」

 

「随分と余裕だね。」

 

「ククッ。オレは悪運だけは強いからな。

 最後は必ずこちらの種目になる」

 

 

「あぁあ〜。負けちゃったかぁ。

 最後に伊吹さんは反則だよっ」

 

「なかなか楽しませてもらったぜ。じゃあな」

 

Bクラス対Dクラス 4勝3敗 Dクラス 勝利



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選抜種目試験⑥

最後の第7戦目。

 

『チェス』 必要人数1名 時間1時間(切れ負け)

 

ルール・通常のチェスルールに準じる

    ただし41手目以降も持ち時間は増えない

司令塔・任意のタイミングから持ち時間を使い

    最大30分間、指示を出す事ができる

 

「3勝3敗で最後の7戦目に挑める。これほど嬉しいことはありませんね。しかもこの種目が最後に選ばれるなんて……。やはり残り物には福があるようです」

「この第7戦目は司令塔の実力に大きく左右される戦いになる」

 

「生憎と、オレはチェスが得意なんだ」

 

「それはそれは…奇遇ですね。

 では私の選んだチェスは失敗だったかも知れません」

 

坂柳が選んだ生徒は橋本正義

 

「なっ」

 

対戦場に入ってきたCクラスの生徒をみて坂柳は驚いた表情をみせた。そう、オレはここまで堀北鈴音を使っていない。坂柳は当然堀北が現れる事を想像していたのだろう。この程度の揺さぶり坂柳には通用しない。ただ、この後の展開を考えると、何もしないよりマシだ。

 

「驚きました。最後は堀北さんだと思っていたんですが。浅はかな奇襲でしょうか?それとも彼は堀北さんに並ぶ実力者なんでしょうか」

 

「さあな」

 

「準備が整ったようですね。

 では、これから第7戦のチェスを始めます」

 

『お願いします』

 

両者、八幡と橋本がゆっくりと頭を下げる。

いよいよ最終戦が始まる。

 

……

 

「よろしくな比企谷」

 

そう気安く声をかけてくる。

 

「あぁ。よろしく頼む」

 

「それにしても、まさか比企谷がでてくるとはな」

 

「同感だ」

 

「チェスを覚えて数カ月だからさ。手加減してくれよ?」

 

「残念だが俺も変わらん」

 

「それではこれより、第7戦目の種目、チェスを始める」

 

先生からの指示に従い、席につく。

 

「先攻後攻の決め方は分かるよな?」

 

「左手」

 

開かれた手には白の駒。つまり俺が白の先手だ。

 

初手はポーンE4

返しの手はポーンE5

すかさずナイトを動かし、黒のポーンを狙っていく

 

「俺も色々坂柳から教えてもらったからな。ここで黒が不利になるようなオープニングにはしないぜ」

 

……

「いいか八幡。序盤は正攻法でいけ。すぐに圧倒するな」

 

「いや。できんが?」

 

「決定的な1手がくるまでとにかく我慢しろ」

「あと持ち時間は極力使用しないように気をつけろ」

……

 

序盤はお互いに長考することなくすすんでいく。

 

「捻くれた戦い方だろ?」

 

「坂柳も一緒なのか?」

 

「ああ。坂柳も俺と一緒だからな。教えた時に1番フィーリングがあったんじゃないか?そっちは、こっちと違って手堅いみたいだが…独学か?」

 

「そうか…それは良いことを聞いた」

 

そろそろか。俺はこの盤面で考えられる最善の1手をさす。

 

(なっ!)

 

この1手で白に一気に形勢が傾いた。

橋本の手が止まる。初めての長考にはいった。

 

……

モニターに映し出された両者の対決。

 

「このまま終局まで見ていたくなるような

 面白い勝負ですね」

 

「賛成だ。このまま最後まで見届けよう」

 

「フフ、そうですね…と言いたいところですが、そうもいきません。今の1手このまま任せていたら取り返しがつかなくなります。なかなかやりますね彼」

 

坂柳から司令塔としての関与がパソコンに表示される。

 

……

「坂柳がでてきたら可能なら10分耐えてくれ」

「不利な状況から挽回するためにある程度

 本気でくるはずだ」

「その間にできるだけ坂柳のうち方を把握してくれ」

 

「いやいや無理だろ」

 

「次だ」

 

「無視かよっ」

……

こいつもバケモンだな。こんな奴相手に綾小路の指示無茶苦茶じゃないか。

 

「オレが変わるまで、正攻法で貫いてくれ。

 もちろんノータイムだ」

 

ちっ。綾小路とやってなかったら瞬殺だったぞ。

1手進む事に形勢が逆転していく。

 

もうそろそろいいだろう…清隆

 

「さて、これでやっと…私達の勝負になりましたね」

 

「……」

 

持ち時間30分と限られているが終局までには十分足りるだろう。

 

『おいおい、

 お前らどんな異次元の戦いしてんだよ……!』

 

『……………………』

 

「どうですか綾小路くん。

 私の1手は、あなたの心に届いていますか?」

 

「ああ。痛いほどにな」

 

「心配していませんよ。

 綾小路くんは些細なミスなど絶対にしない」

 

「だったら、諦めてくれてもいいんだけどな」

 

「それはできない相談です。ミスがないのであれば実力を上回り正面突破するだけです」

 

『……………………』

 

「ああ、なんと楽しい時間でしょうか。もう、ギャラリーへの気遣いなんてどうでもいい。私はただ、この一戦を人生で最高のモノにしたい。そう強く願っています」

 

『……………………』

 

「あなたはその程度で終わる人ではありませんよね。

 綾小路くん。見せて下さい」

 

清隆から次の手の指示がくる…。おかしい…。これまでノータイムで指示がでていたが一瞬の逡巡。有り得んだろ。あの綾小路が…

 

……

「仮にオレの関与が始まっても絶対に思考を止めるな」

「次の一手八幡ならどう打つか考え続けるんだ」

 

……

清隆から指示があった一手。なにか違和感がある。

考えろ。八幡。

今まで何十何百局と清隆とチェスをしてきただろう。清隆の打ち手・思考を全てをトレースしろ。それに坂柳の思考もだ。

 

「あ〜。頭が割れそうだ」

 

そうだな。清隆。

次はここだ。

 

坂柳はその一手を見て、焦燥を感じでいる。

そして、オレは生まれて初めて微笑んだ。

 

オレはその一手を確認して関与を終わらせる。

 

「何故ですか?勝負を諦めたのですか」

 

「お前は比企谷を舐め過ぎだ。

 この勝負…オレに固執しすぎた。それがお前の敗因だ」

 

……

「最後は八幡にまかせる。その覚悟をしておけ」

 

「おいっ!」

……

 

八幡にミスはない。これで勝負は決まるだろう。

 

「はぁ…はぁ…」

「これでチェックメイトだ」

 

Aクラス対Cクラス 4勝3敗 Cクラス勝利




「あ〜疲れた。一年分働いた気がする」

対局が終わり、
特別棟から出ようとすると桔梗が待っていた。

「なっ。おっおま…」

【挿絵表示】


……
これで1年生編完結です。後書き?の後に前半部分を改定していく予定です。ここまでお付き合い頂き、ありがとうございます。

ののんさんに支援画像頂きましたので、
エピソード追加してみました。


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あとがき?他

拙作『ようこそ正反対の二人がいく教室へ』を

ご覧頂きまして誠にありがとうございます。

 

投稿を始めた時は

「あまり読まれる事もないだろう」

「低評価多数の時はとっとと辞めてしまおう!」

と軽い気持ちで始めましたので、1年生編最後まで描けたのはみなさんの応援のおかげです。あらためて感謝申し上げます。

 

最初の構想では桔梗ちゃんは裏櫛田メインにするはずでしたが、回を重ねる毎に浄化されてしまいました。このへんは好き嫌い分かれる所かな?と思っています。裏櫛田が好きなかたには申し訳ありません。

途中からは割り切って、好きに学校生活過ごしてもらいました。

 

あと予定外だったのがひよりさん…。

書いている時は『読書愛』があふれてしまったぐらいに思ってたんですけどね…。なぜかヤンデレ化してしまってたようで、後に引けなくなってしまいました…。

 

さて、2年生編ですが、今の所、続けるのか決めておりません。正直きよぽんが主人公でない時点で難しい…。八神君も完全に桔梗ちゃんに利用されますね。

当面は入学〜夏季グループ別特別試験までは書き直したいと思ってたり、ストーリーを追いすぎている部分も強いので挿話作成等ぼちばちやっていこうかと思っています。

タイトルに『工事中』っとあったら優しく見逃して下さい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【人物紹介】 ※1年度終了時

比企谷 八幡 1年Cクラス

 

学力 :B+

知性 :B

判断力 :A

身体能力:B−

協調性 :E

 

Cクラスでは綾小路グループに所属。その他は桔梗ちゃんを除き交流関係は特になし。最近ちょくちょく平田からの誘いはあるが、全てお断り中。

チェスはこれまで清隆とリトルガールとしか対戦した事がないのでそこそことしか思っていないが、アマの大会ぐらいなら無双できるレベル。チェスの相手としてきよぽんにリトルガールへ売られそうになっている事には、まだ気づいていない。

夕食時は桔梗ちゃんに加え、なぜか一之瀬分が増加。

食費は桔梗ちゃん。料理を作る対価は一之瀬と無事?専業主夫の道を歩んでいる。

 

登場人物→八幡の好感度

 

櫛田 桔梗 八幡への好感度10 ※10点満点

 

言わずもがな

 

綾小路 清隆 八幡への好感度7

 

きよぽんとしては好感度ほぼ最高レベル。選抜種目試験で理事長代理の関与をくぐり抜け勝利できた事で上昇。また、龍園が復活する事は予見していなかった為、自身の戦略を補完するために有用な存在と考えている。

ただし、クラス内投票時の平田と言い争う姿等未だ理解できない事多数で、面白がってもいるが、不確定要素として危惧もしている。

 

堀北 鈴音 八幡への好感度5

 

一般的なクラスメイトレベル。最初はぶつかる事もあったが、堀北成長後は指示に異論を挟んでくることもなく関係は改善中。綾小路に特別扱いされている生徒との認識。

 

平田 洋介 八幡への好感度10

 

クラス内投票での言い争い。その後、立ち直らせてくれた事で好感度MAXへ。本人は仲良くなりたいと思っているが、タイプが正反対のために八幡からは逃げられている。

 

綾小路グループ 八幡への好感度6

 

グループの集まりには極力参加しているが、基本的に読書をしており会話には参加する事は稀。それでも話かけると応えてくれるし、何かあった時は意見してくれる為、それなりに重宝はされている。

 

軽井沢 恵 八幡への好感度3

 

イジメられていた過去を知られているが、これまで関わりもほとんどない為、警戒は怠っていない。清隆は自身よりも八幡を優先する事が多い為、嫉妬に似た感情を抱いている。

 

一之瀬 帆波 八幡への好感度7

 

一見好感度は高いように見えるが好感度5を下回るのは龍園ぐらい。八幡の事は親友の大事な人ぐらいの感覚

なお、きよぽんとの恋愛フラグは未成立

 

龍園 翔 八幡への好感度4

 

Dクラスの中では面白い存在と考えているが、警戒はしていない。混合合宿での動きやチェスで綾小路とともに坂柳に勝利した事によりDクラスへ引き抜きを検討中。現時点で葛城より高評価。

 

椎名 ひより 八幡への好感度7

 

一時期は読者仲間への愛で暴走していたが、混合合宿で桔梗ちゃんが懐柔した事で八幡への執着は低下している。原作の綾小路よろしく大切な読書仲間に落ち着いている。

 

櫛田 桔梗

 

学力 :B

知性 :B−

判断力 :B

身体能力:B−

協調性 :A+

 

入学当初より、その容姿と献身的な姿勢からクラス内のみならず全クラスから信頼を獲得。一之瀬も手中にしてしまった為、坂柳包囲網を作ろうと思えばできちゃうレベル。八幡・清隆・一之瀬と素で接する事ができる人物が増えた事と学年内の信望を確立してしまった為、今ではノンストレス状態に…。Aクラスへの執着はなく、八幡と一緒に卒業できれば良いと考えている。

八幡へ害意がある、恋愛的な意味で障害になる場合、敵になるので扱いは要注意。

 

登場人物→櫛田桔梗の好感度

 

一之瀬 帆波 櫛田への好感度10

 

過去の共有。自身を立ち直らせてくれた人。学校内で1番の親友と考えている。普段みせない素の姿をみせてくれるのも嬉しく思っている。現在、八幡のご飯で餌付け中。

なお、桔梗ちゃんはそこまで深く考えてない模様…。

 

綾小路 清隆 櫛田への好感度6

 

自身の弱点を補ってくれる存在。有用な情報機関の認識。軽井沢と違い裏切る可能性は否定できない為、現在は今の関係を堅持予定。

 

椎名 ひより 櫛田への好感度7

 

桔梗ちゃんは八幡への執着が読書仲間である事は理解していたが恋愛に発展しないよう混合合宿で懐柔される。

桔梗ちゃんは八幡の部屋で食事ができるまで暇な為、部屋にあるほとんどの本は読破済みの模様。

 

 



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11.5巻
春休み① 八幡くんとひよりちゃんプラス?


どこかで…ひよりエピソードは書かないと…
という事で登場頂きます。


「流石にBクラスには届かんか」

 

3月下旬の暫定クラスポイント

 

Aクラス 971ポイント ※坂柳

Bクラス 590ポイント ※一之瀬

Cクラス 527ポイント

Dクラス 448ポイント ※龍園

 

選抜種目試験は大方の予想に反して、C・Dクラスの勝利に終わり、全体のポイント差が縮まる結果となった。

 

「毎月5万だよ。5万!

 これで少しは贅沢できるようになるね」

 

「俺は生活変わらんがな。好きな時に本を買えるように

 なるのはありがたいな」

 

「八幡だいぶ溜め込んでいるよね?

 今いくらぐらい持ってるの?」

 

「秘密だ」

 

既に俺のプライベートポイントは300万に近くなっている。船上試験と龍園からの慰謝料が大きいが、その他にも星乃宮先生の手伝い。一之瀬の夕食準備のポイントで基本的にポイントが減る事がない。

 

「何にせよ。Cクラスで2年を迎えるとは

 思わなかったよっ。来年度もよろしくね」

 

「ああ。クラス替えないからな」

 

「一言多いよ?」

 

……

卒業式、そして終業式も恙無く無事に終わり、ついに春休みに入った。学生達は競争を忘れ、つかの間の休みを得ることになった。春休み初日、俺は私服に袖を通し、出掛ける準備を済ませる。

 

予定よりも早い集合時間にも関わらず、その生徒は既に待機していた。

 

「悪い。待たせたか?ひより」

 

「呼び出しておいて、

 お待たせするわけにもいきません。

 それに待ってる時間も楽しい時間ですから」

 

……

あれは混合合宿が終わってすぐくらいの事だ。

 

「八幡。次の土日予定ないよね?」

 

「ああ。あっても清隆と会うぐらいだな」

 

「じゃあ。土曜日予定空けてくれないかなっ?」

 

「構わんがなんだ?」

 

「ひよりちゃんがね。

 どうしても八幡と話したいらしいんだよ」

 

「……」

 

「最初がアレだったからね〜。

 でもひよりちゃんいい子だよっ?」

 

「女同士の良い子は信じるなって親父の遺言だ」

 

「八幡のお父さん、まだご健在だよね?

 龍園と私でガス抜きはしてるけど

 これ以上先延ばしするほうが面倒だよ」

 

桔梗の説得もあり、次の土曜日にひよりに会う事にした。ひよりは一見かなりの美少女だ。変な噂にならないようヘアセット&メガネスタイルで待ち合わせ場所に向かった。

 

「だいぶ早く来たつもりだったんだがな。

 待たせたか椎名さん」

 

「今日はお時間を頂き、誠にありがとうございます。

 どうか私の事は『ひより』とお呼び下さい」

 

そう言えば、この姿で直ぐに俺って気づかれたの初めてな気がするな。やはりみんなが大げさなだけで、これが普通なのだろう。

 

「ああ。俺も八幡でかまわないぞ」

 

「さて、これからどうしましょうか。桔梗ちゃんから連絡頂いてから、ずっと考えていましたが、なかなかこれだ!と言うプランが思いつきません。図書館でも良いのですが、せっかくの機会ですので八幡くんとは色々と語り合いたいと考えています。そうなるとカフェになるのでしょうか。ただ、カフェはカフェで雑音が大きいので、悩み所です。あっ。忘れておりました。今日はいくつかオススメの本をお持ちしたんです。既に既読のものも含まれているかもしれませんが、何度読み返しても飽きないものに限定させて頂いたつもりです。それから…」

 

「ストップ。ストッ〜プ」

 

「ああ。申し訳ありません。

 今日と言う日を待ち焦がれてましたので…つい…」

 

「とりあえずカフェで問題ないだろう。

 今日は1日空いてるからな、

 好きなジャンルはミステリーだったか?

 有名どころは読んでるから、色々と話を聞かせてくれ」

 

その日は結局日が落ちるまでひよりに付き合った。この子は好きなものには饒舌になる典型だな。色々な本の感想を聞いたが、素直に面白かった。俺はミステリーなどは特に捻くれた読み方をしてしまうが、ひよりは作者の思いをそのままに自分の解釈へと昇華しているようだ。ひよりも俺みたいな目線はなかったのか興味深く話を聞いている。それでいて、お互いに『騒がしい』というわけでもないので相性もなかなか良さそうだ。

 

「今日は1日お付き合い頂き、ありがとうございました。

 この学校に入学してから

 こんなに楽しかった休日は初めてかもしれません。

 ご迷惑でなかれば、またお誘いしてよいでしょうか」

 

「俺も楽しかったからな。その時はまた連絡くれ」

 

「はい!ありがとうございます。八幡くん」

 

……

時間は春休みに戻る。

 

「今日は突然のお誘いで申し訳ありません」

 

「特に予定はないしな。

 気にしないでくれ。それで?」

 

「昨日やっと図書館に新しい本が入荷しまして

 1日も早く八幡くんと情報の共有をと思ったんです。

 早速なんですが…何冊かお持ちしたので

 見てもらえますか?」

 

そう言って嬉しそうに本を取り出そうとする。しかし、その直前、手を止めて思い出したように顔をあげた。

 

「そうでした。本の話を始めると

 きっと止まらなくなるので、

 その前に少しよろしいですか。

 学年末試験のことで、

 八幡くんにお聞きしたかったことがあるんです」

 

「俺に?」

 

「もし、私の推測が間違っていたらごめんなさい。

 単刀直入にお聞きしますが

 一之瀬さんに龍園くんの復活を伝えたのは

 八幡くんですか?」

 

「隠すことでもないからな。その通りだ。

 悪い。軽率だったな」

 

「いえ。私はこの結果はDクラスにとって良かったと

 考えています。龍園くんの戦略は知っていますか」

 

「いや。Bクラスにつきまとってプレッシャーを

 与えていたぐらいだな」

 

ひよりは龍園の戦略を話始める。

 

「なるほど龍園らしいな」

 

「体調不良を促すような真似は明らかに失策です。

 一之瀬さんに看破されてよかったと思います。

 話が逸れましたね。

 私達Dクラスの生徒でも今回龍園くんが

 指揮をとるとは最初誰も考えていませんでした。

 八幡くんはどうして龍園くんが

 出てくると考えたのですか?」

 

「それがわからんのだがな…

 どう考えても

 龍園がでてくる姿しか想像できん」

 

「なぜそう思うのですか?」

 

「龍園自身で帝王でも世紀末覇王でもなく王と名乗ってた

 だろう。やり方は乱暴だし、悪辣だがな。

 今までも配下は決して見捨てていない。

 それはクラスの裏切り者でもだ。

 そんな王様が配下に助けられたんだ。

 出てこないわけないだろう」

 

「ふふふっ。

 龍園くんの事よくご理解されているのですね」

 

「そんなんじゃない」

 

「これからも龍園くんの良いお友達でいて下さい」

 

「友達じゃないが…」

 

こうしてひよりとの学年末試験の話を終える。

 

「それでは今日の本題ですが…」

 

さて、今日も長い1日になりそうだ。

 

……

 

????

 

「ようやく4月から高校生ですか。

 思ったより1年の月日は長かったですね。

 退学したとも聞きませんし、

 やっと会えますね。先輩♪」

 




最後なにかフラグたてていますが2年生編はまだ未定です。まず最新刊まで読破しないと…
Cクラスの暫定クラスポイントは混合合宿で桔梗ちゃんが稼いだ分が上乗せ。その割をBクラスがかぶった感じです。


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春休み②

春休みも終盤になったある日。今日の夕食は桔梗に加え、清隆・一之瀬が参加していた。

 

「ふぅ、やっぱり比企谷くんのご飯は落ち着くよ。

 あっ、今日の分のご飯代送信しておくね」

 

「無理せんでいいぞ。ツケでも大丈夫だ」

 

「厳しかったら貸してあげるよっ」

 

「この前Aクラスの子にヘヤドライヤー買ってもらったから少しは大丈夫かな?Bクラスのみんなも我慢してるし私だけズルできないよー」

 

「バレなきゃ問題ない?」

 

「リーダーとしてのケジメかな」

 

「相変わらず良い子なんだから。そんなだと色々損だよ」

 

「にゃははは。でも、もうすぐ二年生か〜。

 あっという間だったけど、色々大変だったね」

 

「そうだよっ。

 5月から0ポイントとか0ポイントとか」

 

「それだけなのか」

 

「それ以外に何があるの?」

 

「八幡達は他クラスの事、どうみているんだ?

 まずはAクラスからだ」

 

「坂柳さん中心にまとまったクラスだね。Aクラスだけあって所属している生徒のスペックも高いし強敵だよっ。今は葛城くんの立場が悪くなっているけど積極的に坂柳さんと協力始めたら厳しい戦いになりそう」

 

「あんま知らんからな。銀髪ロリ?」

 

「八幡…抹殺されるぞ…」

 

「ドSと下僕達?」

 

「まあ…間違ってはいないが…。

 では、Dクラスはどうだ」

 

「龍園くんが復帰したからね。侮れない相手だよ。選抜種目試験で負けちゃったけど、運動面それも格闘技系だと学年一じゃないかな。金田くんや椎名さんのように頭がまわる生徒もいるし侮れない相手かな」

 

「「龍園と愉快な仲間達!」」

 

「息ぴったりだな…」

 

「他にあるのか?」

 

「ないよね?」

 

「はぁ…真面目に聞いているんだがな。

 じゃあ、一番戦いたくないクラスはどこだ」

 

「Cクラスかな?これまでは協力関係だったわけだしね。それに3人見てたら隙がないよ〜。前の試験もAクラスに勝っちゃったんだから」

 

「でも、私達以外は隙しかないよ?」

 

「にゃはは。

 それでも桔梗ちゃんがいるしやりづらいよ…」

 

「も〜う。本当にかわいいなー。

 帆波ちゃんは〜」

 

「櫛田はどうだ?」

 

「私?私はどこでもいいよ〜。

 勝ち負けなんて興味ないしね」

 

「八幡は?」

 

「Bクラスだ」

 

「あれ〜。意外だよっ。

 帆波ちゃんに絆されちゃった?」

 

「そう言うわけでは無いがな。相性の問題だ」

 

「比企谷くんに警戒されているのか〜。

 これは来年度から気を引き締めないとだね。

 あっ、思ってたより長居しちゃったよ。

 明日もあるから私は先に失礼するね。

 ご飯美味しかったよ。ごちそうさま」

 

そう言って一之瀬は帰っていった。

 

「話を続けるが、今後オレはAクラスを目指す事にした。

 二人にも協力してもらいたいと考えている」

 

「前にも言ったがお断りだ。

 俺にAクラスを目指す理由がない」

 

「私も一緒かなっ」

 

「来年度からBクラスとの協力関係は解消した。

 お前達はBクラスをどう見る?」

 

「その前に疑問なんだが、それを誰が決めたんだ?」

 

「堀北だ」

 

「まあ、そうしておいてやる。Bクラスとポイント差も小さくなったからな。協力関係を見直すにはいい機会だろう。ただ、以前にBクラスと協力関係を結んだ時もそうだ。お前達は他人を蔑ろにしすぎだ」

 

「どういう事だ」

 

「そもそも堀北にそれを決める権限があるのか?例えばだが、この後、桔梗が一之瀬にあらためて協力を申し出たら、お前たちはどう対処するんだ」

 

「………」

 

「清隆が堀北に肩入れしているのは知っている。入学当初に比べれば格段に成長したのもわかる。将来性も他クラスのリーダー格に引けは取らないだろう。ただ、現状のCクラスは堀北一人が指揮をとっているわけではない。独断専行でクラスの外交をするやつがいる時点で俺は積極的にクラスに関わる事を拒否させてもらう。その権利も当然認められるはずだ。そうだな…俺がAクラスを目指すのに協力する最低条件は清隆がクラスのリーダーになる事だ」

 

「………」

 

「ただ、勘違いしないでくれ。

 以前交わした約束を反故にする気はないぞ」

 

「オレである必要があるのか?」

 

「当たり前だろ?お前からの依頼だ。

 であれば、清隆にも責任が発生するのは当然だ」

 

「わかった。この話は一旦忘れてくれ。

 確認だが、これまで通りの関係は維持できる。

 そう考えて問題はないか?」

 

「ああ。それは問題ないぞ」

 

「なら、あらためて聞かせて欲しい。

 お前達はBクラスをどう見る?」

 

「帆波ちゃん!頑張れ?」

 

「臨時収入が減って残念?」

 

「真面目に聞いているんだが」

 

「良くも悪くも帆波ちゃん次第でしょ。

 でも、プライベートポイント吐き出した分不利だよね」

 

「一番警戒すべきクラスはどこだと思う?」

 

「どういう見かたでだ?」

 

「Cクラスが上位にあがるため障害になるクラスだ」

 

「う〜ん…やっぱりAクラスかな?八幡は?」

 

「…言わなきゃダメか?」

 

「できれば教えてくれ」

 

「……Cクラス…俺達自身だ」

 

……

「さっきの答え。Cクラスってどういう事?」

 

「この1年。イベントで貢献した生徒をあげてみろ」

 

中間テスト:綾小路清隆

無人島試験:綾小路清隆

夏季グループ特別試験:高円寺六助・比企谷八幡

体育祭:該当者なし

ペーパーシャフル:堀北鈴音

混合合宿:櫛田桔梗

選抜種目試験:綾小路・須藤・外村・三宅・比企谷

 

「う…ん?」

 

「クラスの力を合わせて勝利した事はないんだ。全て個人の力量に依存してるだろ。特に清隆の貢献が大きい。結局、上がるも下がるも清隆次第だ。」

 

「なるほどね。

 じゃあ、戦いたくない相手でBクラスを選んだのは?」

 

「全ては一之瀬次第だがな。この学年で一番団結力があり、他クラスからも信用度は高い。みんなが何があっても一之瀬は裏切らないと思っているだろう?試験によっては全てのクラスから力を借りる事もできる。桔梗を巻きこめばさらにだ。どんなに能力が高くても個では集団に敵わないからな。あと、一之瀬は反対するだろうが最後の最後ここ一番で裏切るという手も使える」

 

「なるほどね」

 

「奇策や暗躍は戦略としては目立つからな。評価されがちだが、最後まで正攻法を貫くほうが難しいんだ」

 

……

※没ネタになる可能性あり※

 

1年Aクラス 一色 いろは

 

総合力:A

 

学力:A

身体能力:B

機転思考力:A

社会貢献性:A

 

面接官コメント:

入学試験では上位の成績を獲得。中学校では1年生から生徒会長として、学校内外を巻きこんだ企画をいくつも成功に導き、その手腕に疑問を挟む余地もない。面接試験でも模範的な対応であった。よってAクラスへの配属が妥当と判断する。なお、面接試験時に当校への志望動機は「ホンモノを見つける為」との事。当校での生活で彼女の本物が見つかる事を期待する。

 

一色いろはの師匠達:

 

学力 雪ノ下雪乃。

ゆきのんに頼み込み2年間みっちり家庭教師をしてもらう

 

機転思考力 雪ノ下陽乃

ゆきのんに勉強を教わる際に仲良くなる。全ての面で粗がみえないはるのんを参考に立ち回りを勉強

 

社会貢献性 由比ヶ浜結衣

人との距離感。主に同性への対応を参考にしている

 

八幡特攻スキル 大天使戸塚エル

ただいま勉強中。色々と試行錯誤しているが修得には至っていない




原作ではそれほどですが、Bクラスはポテンシャル高いと思ってます。結局は一之瀬が他者を切り捨てられるか?が課題ですけどね。


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ニ年生編 1巻
特別試験①


完全に見切り発車ですか、はじめた限りは最後まで…


始業式が終わってから数日が過ぎた。

 

「全員揃っているな?」

 

チャイムが鳴るとほぼ同時に、教室に姿をみせる茶柱先生。朝のホームルームが始まって教壇に立つ先生の顔つきは真剣そのものだった。

 

「先生、特別試験ですか?」

 

「気になるところではあるだろうが、話をすすめて行く前にやってもらう事がある。これは今後の学校生活をおくる上でとても重要なことだ。全員、携帯を取り出し机の上に置くように。もし、忘れた生徒がいれば、すぐにとりに帰ってもらうことになるが…流石に忘れた生徒はいないようだな。ではまず、各々学校のHPにアクセスし、新しいアプリケーションをインストールしてもらう」

 

新しくいれたアプリは『OAA』と呼ばれるものだった。このアプリは全学年の個人データが入っており、個々の成績を数値上で把握できる代物らしい。個人情報保護法仕事してくれ。OAA導入の話題冷めやらぬまま、2時間目の授業が始まる。

 

「これから特別試験の概要を説明する。肝心のその内容だが、新入生である1年生と、おまえ達2年生がパートナーを組み行う筆記試験となっている。今回の特別試験では筆記試験とコミュニケーション能力が大きく問われる」

 

○学年別におけるクラスの勝敗

 

クラス全員の点数とパートナー全員の点数から導き出す平均点で競う。平均点が高い順から50,30,10,0ポイントのクラスポイントを報酬として得る

 

○個人戦の勝敗

 

パートナーとあわせた点数で採点される。

 

上位5組のペア:10万プライベートポイント

上位3割のペア:1万プライベートポイント

 

合計500点以下の場合:2年生は退学。1年生は3ヶ月間プライベートポイントの支給は行われない

 

意図的に点数を操作、下げたと判断された生徒は学年に関係なく退学とする。同じく低い点数を第三者が強要した場合も同じく退学とする。

 

「パートナーはお互いの了承で成り立ち、OAA内で登録することにより完了となる。今日この瞬間から組むことは可能になるが、一度パートナーを許諾した場合には、その後如何なる理由があろうともペアを解除する事はできない。以上が4月に行われる特別試験の概要だ。気を引き締めて挑むように」

 

さて、余り物に期待するしかないな。学力ではそれなりの評価をされているはずだ。流石に退学って事にはならんだろう。それにしてもこの試験あまりにもA・Bクラスが有利じゃないか?学力での総合力を考えたらC・Dクラスに勝ち目はないな。まあ、学生の本分は勉強と言われればそれまでか。

 

……

その後の昼休み。クラスメイトが食堂に向かう準備を始めるなど動き出そうとした時だった。

 

ガラガラガラ

 

「やっと見つけましたよ。せぇ~んぱぁ~い!」

 

そこに現れたのは一人の女生徒だった。見られる事に慣れ、その上で求められるキャラクター性を発揮する。男子生徒にとって理想の後輩像。亜麻色の髪の美少女がそこには立っていた。その女生徒は別のクラスにも関わらずある人物の前に迷う事無くすすんだ。クラスメイトの全員が呆気にとられたのか動けないままだ。

 

「先輩。入学してから何日がたったと思うんですか。先輩のことですから感動的な再開を考えてくれてたかもしれませんが時間かけ過ぎです。小町ちゃんも女性は待たせたらダメと言っていたじゃないですか。お久しぶりですが、先輩が変わっていなくて安心しました。それにしてもOAA便利ですね。先輩の事だからDクラスかと思っていたんですが、まさかCクラスとは思いませんでした。見つからないはずですね。あっ。感動の再開だからといって、口説かないでくださいね。ごめんなさい。二人きりの時にあらためてお願いします」

 

よくわからないが、どうやら?八幡は振られたらしい。

 

「お…おまっ…なんでここに」

 

「忘れてました。今回の特別試験。先輩とペアになる為に来ました。どうせ先輩の事だから余り物でいいかって考えてたんですよね。携帯貸して下さい。」

 

「おっ…おぅ」

 

思いがけない一色の登場に思わず携帯を渡してしまう。

 

「これで登録は完了ですね。

 それでは末永く宜しくお願いします。」

 

「おっ…おまえ。そんなに簡単に決めていいのか?」

 

「なに言ってんですか?

 私のペアは先輩以外ありえないですよ?」

 

「いろはちゃん。久しぶりだね〜」

 

「げっ!櫛田先輩。なぜここにいるんですか…」

 

「『八幡』と同じクラスだからだよっ。

 そんなに軽率にペア決めて大丈夫なの?」

(八幡もだぞ!)

 

「これでもですか?」

 

そう言って一色は自分のOAAを表示した。

 

『1年Aクラス 一色 いろは

 

 総合力:A

 

 学力:A(92)

 身体能力:B(74)

 機転思考力:A(91)

 社会貢献性:A(94)』

 

「私もこの1年で成長したんですよ?」

 

(ちっ)

 

「じゃ…じゃあ

 なぜここにいるのか説明してもらえるかなっ?」

 

「……」

 

一色は少し考えたうえで人差し指を顎に当て小首を傾げながら櫛田に答えた。こいつのあざとさレベル上がってないか?

 

「う〜ん…。私は別に構いませんが、

 櫛田先輩は大丈夫ですか?」

 

「どういう事かなっ?」

 

「…………」

 

一色はそのまま何も言わず上目遣いで桔梗を見つめる。

 

「わかったよっ」

 

…っ!?桔梗(櫛田)が折れただと

 

「では、今日先輩の部屋で再開を祝しませんか?先輩の部屋番号あとで連絡下さい。あっ。夕食はハンバーグでお願いします。これから昼食ですよね?食堂で一緒に食べましょう!オススメとか教えて下さいね。Cクラスのみなさんお騒がせして申し訳ございませんでした。さっ。先輩行きますよ〜」

 

そう言って八幡はひっぱられて教室を出ていった。

 

「綾小路くん」

 

「なんだ?」

 

「綾小路くんには今の状況が理解できているのかしら?」

 

「さっぱりだ」

 

「そう…少し安心したわ」

 



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特別試験②

「なぜ?今日の夕食はハンバーグなのかな?」

 

「一色のリクエストだからな。

 これぐらいは構わんだろう」

 

「私今日の食費ださないよ」

 

「えっ!?ちょっといい肉買ったんだが…」

 

「知らない」

 

桔梗と話していると部屋の扉が開き、一色が入ってきた。

 

「あらためまして、お久しぶりです。先輩♪」

 

「おい。なんで当たり前のように鍵開けて入ってきた」

 

「この前管理人さんとお話していたらポイントで合い鍵作れるよって教えてくれたんです。今日、先輩の部屋番号分かりましたからね。早速作っちゃいました!」

 

「没収」

 

「いやですよ。なんで櫛田先輩に言われなきゃいけないんですか?どうせ櫛田先輩も持っているんでしょう?私が没収されるなら櫛田先輩の分も先輩に返して下さい」

 

「ぐぐぐっ」

 

「はあ…、とりあえず準備はできてるから飯にするか」

 

「リクエスト通りハンバーグなんですね。先輩のそういう所、好きですよ。あっ。いまのいろは的にポイント高いっ」

 

俺達は食卓に座り、夕食を開始した。

 

「で、いろは。

 何でここにいるか説明してもらえるかな」

 

「えっ?先輩に会うために決まっているじゃないですか。この1年間そのためだけに頑張ってきたんですよ。まさか櫛田先輩もいるとは思ってませんでしたが。リサーチ不足でしたね」

 

「邪魔って言ってんの」

 

「櫛田先輩がそれを言いますか。私は中学の時の件、許してないですからね。先輩を犠牲にして救われた。それを傍で見ていた私がどんな気持ちだったか?今の櫛田先輩には分かりますよね?それに先輩との付き合いは私のほうが長いんですよ?」

 

「1年間のブランクあるだろっ」

 

「う〜ん…そうですね。では、こうしましょう!去年1年先輩を独占してたんですから、今年は私の番ですね。で、最後の1年は先輩に選んでもらいましょう!いい案だと思いませんか」

 

「却下。うー八幡も何か言ってよー」

 

「そのへんにしといてやれ。桔梗の件は俺が勝手にやったことだと言っただろう?」

 

「先輩は相変わらす甘いですね。それも魅力のひとつでもありますが。私も少しだけ大人気なかったのは認めます。櫛田先輩、申し訳ありませんでした」

 

「う…うん」

 

「先輩はあげませんけどね。それにしても、先輩?いつから『桔梗』って呼んでるんですか!ずるいです。今から私も『いろは』って呼んで下さいっ。じゃっ!練習してみましょう。はいっ」

 

「い…いろは」

 

「まあ、最初はこんなものですね。ご飯も冷めちゃいますし、食事続けましょう。櫛田先輩。去年のお話伺ってもいいですか?」

 

「えっ。私なの?」

 

「先輩だと話続かないじゃないですか」

 

「…………」

 

「そうだねっ」

 

「今日はギスギスしてしまいましたが、私にとって櫛田先輩も尊敬する先輩の一人なんです。ライバル?は変わらないと思いますが、それ以外では親しくしていただけると嬉しいです。ダメでしょうか?」

 

一色…1年間で成長しすぎじゃないか…。誰が教えたんだ。下手するとこの学校より優秀じゃね。

 

(尊敬する先輩!新鮮かもっ!)

「ううん。私こそいきなり喧嘩腰でごめんね」

 

「ありがとうございます。仲直りのお礼にひとつ情報提供させて頂きます。先輩のクラスに綾小路先輩っていますよね?1年生の中心となりそうな生徒が理事長代理に呼ばれたのですが、その綾小路先輩を退学にすると2000万ポイントくれるらしいですよ」

 

「「えっ!?」」

 

「清隆に伝えても問題ないか?」

 

「とくに口止めされてませんからね。

 先輩のお役に立てるなら問題ないですよ」

 

「助かる。今から清隆を呼ぶがいいか?」

 

「問題はありませんが……櫛田先輩?

 櫛田先輩の事知ってるの誰がどれくらいですか?」

 

「八幡・いろは 10

 Bの帆波ちゃん 7

 清隆・軽井沢 5

 他は0と思ってくれれば間違いない」

 

「分かりました。では、それで対応します。

 後日、帆波ちゃん?も紹介頂けると助かります」

 

ピンポーン

 

それから程なくして、清隆がやってきた。

 

「はじめまして。私は1年Aクラスの一色いろはといいます。今日のお昼休みはお騒がせして申し訳ありませんでした。先輩達とは中学の時に出会いまして親しくさせて頂いてます。綾小路先輩もこれからよろしくお願いしますねっ」

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む。

 で、急な話という事だかなんだ?

 一色の紹介ってわけじゃないだろう」

 

「ああ…いっし「い・ろ・はですよ」いろはからの情報なんだが…」

 

「なるほどな。そこにいた生徒は分かるのか?」

 

「ちょっと待って下さいね」

 

そう言って、いろははOAAを起動する。

 

「この子とこの子と……この子。

 これで全部だと思います。」

 

「わかった。正直助かる」

 

「これからどうするんだ」

 

「ここまで分かれば十分だ。あとはオレの問題だ。

 こちらで対処する」

 

そう言って、清隆は帰っていった。

 

オレは思わぬ情報を手にいれる事はできたが、心の中では頭を抱えていた。八幡と櫛田だけでもやっかいなのに一色か…二人に、しかも他学年の正統派優等生が加わるとか想定外にも程がある。

 




次回から原作に戻ると思います。


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特別試験③

翌日の昼休み終盤の事だ。

 

「お、おい1年生が何人かこっちに来てるぞ!」

 

そう叫んだのはクラスメイトの宮本。その1年生の男子生徒が2年生のフロアの真ん中を堂々と歩く姿が印象的だった。通りがかった2年生のほうが端に避けるという逆転現象。少し後ろを歩く女子生徒。それが単なるパートナーを求めての行動ではない事に気付いた堀北が立ちふさがるように男子生徒の前にでる。須藤もそれについていく。

 

「コイツの名前は?」

 

「少し待って下さい。……出ました。」

 

少しの間携帯を操作していた少女は、程なくして携帯の画面をみせる。

 

「2年Cクラス、堀北鈴音。学力はA−か」

 

「須藤健……ハッ」

 

「私は1年Dクラスの七瀬と申します。

 こちらは同じDクラスの……」

 

「宝泉だ」

 

そこから堀北と宝泉の交渉という名のバトルが始まる。お互いにもう少し言葉を選べんのか…。

 

「うおっ!?」

 

宝泉の大きな手が須藤の胸を押した。その瞬間バランスを崩し尻もちをつくように床に手をついた。

 

「デカいのはタッパだけか。軽く触っただけだぜ?」

 

「てめー」

 

「何やってんだ!」

 

そこに飛び込んできたのは2年Dクラスの石崎だった。Dクラスそれも龍園を巻き込み加熱していく状況。本格的な喧嘩が始まるかもしれない。そんな中、終始見守っていた七瀬が口を開く。

 

「宝泉くんやめてください」

 

「何か言ったか?」

 

「これ以上無駄な事をするようでしたら、こちらにも考えがあります。この場で「アレ」を周知させることも視野にいれます」

 

「上等じゃねえか七瀬。だが、俺の期待に背いたら、女でも容赦しないぜ?」

 

「その時は受けて立ちます」

 

「止めだ。目的は果たしたことだし、帰るぞ七瀬。

 それじゃあ、またな堀北」

 

わざわざ堀北を……

いや2年Cクラスを名指しした宝泉。

 

「お騒がせしました」

 

最後に七瀬が頭を下げ、この場はなんとか治まる事に成功する。そして、入れ替わるようにして落ち着きをみせた男子が2年生に対して頭を下げた。

 

「同級生の宝泉くんが、先輩達を困らせたようで、改めて1年を代表して僕が謝罪します」

 

先ほどとは打って変わって、話が通じそうな生徒のようだった。

 

「僕たち1年生は、まだ特別試験というものをよく理解できていません。お手数をおかけしますが、どうぞ先輩方よろしくお願いします」

 

謝罪と挨拶を兼ねた言葉を終え、その生徒も引き上げを示唆する。と、その時何かに気づく。それは丁度お昼から帰ってきたと思われるCクラスの女子数名。松下、櫛田、佐藤、みーちゃんの4人。その中の一人である、櫛田を見て驚きの表情を浮かべた。

 

「なんだか随分と騒がしいね。

 何かあったの?堀北さん」

 

「あの…もしかして櫛田先輩、ですか?」

 

「え?えっと?」

 

「僕です。分かりませんか?

 といっても無理ないですけど。八神拓也です」

 

「八神…あ!え、あの八神くん!?」

(誰?こいつ?)

 

「そうです。あの八神です。お久しぶりですね!」

 

「八神くんもこの学校だったんだ。

 すごい偶然だねー!」

(どの八神だ?)

 

「まさかここで櫛田先輩に再開するなんて思っても見ませんでした」

 

「知り合いなの?」

 

不思議そうに佐藤が聞くと、櫛田が頷く。

 

「うん。といっても接点はほとんどなかったんだけど。八神拓也くん。物凄く頭がよかった印象が残ってる。学年が違ったから、挨拶くらいしかした事なかったんだけど」

(全く知らん。うちの学校にこんな子いなかったはずだけど。後でいろはに確認するか…。八幡は堀北同様役にたたん)

 

「憧れだった櫛田先輩と、またこうして同じ学校になれるなんてラッキーですよ」

 

「そんな…」

(あっ。これ嘘のやつだ)

 

「いきなりですが先輩なら文句ありません。

 僕とパートナー組んでもらえませんか?」

 

「私なんかでいいの?八神くんだったら、もっと勉強のできる人と組んだほうがいいよ」

(別にパートナー探し困らないしね)

 

「右も左も分からないですから。それなら信頼のおける人をパートナーにしたいですね」

 

「えっと、少しだけ考えさせてくれる、かな…?」

(別にいいんだけど、一回八幡にも聞いとこ)

 

「もちろんです。僕はしばらく誰とも組まずに、櫛田先輩の返事を待つ事にします」

 

……

 

その夜、俺といろはは清隆に呼び出され、部屋にいくとそこには堀北が待っていた。

 

「今日は二人にお願いがあって来てもらったわ。早速だけれども、まずは一色さん。Aクラスの生徒を紹介してもらえないかしら?」

 

「申し訳ありませんが、それはできません」

 

「なぜ?理由を教えてもらえるかしら」

 

「Aクラスの生徒もしくは私にメリットがありません。既に学力の高い生徒は2年AクラスとDクラスからポイントでの交渉を受けています。堀北先輩はそれ以上のメリットを提示頂けるのでしょうか」

 

「今回、私達Cクラスはポイントで交渉するつもりはないわ。でも、貴方に声をかけてもらえれば何人かは話を聞いてもらえるんじゃないかしら?」

 

「私にはデメリットしかありません。先輩に頼まれたのならやぶさかではありませんが」

 

「デメリットってどういう事かしら」

 

「堀北先輩がメリットを提示しない以上、私がクラスメイトに借りを作るだけで終わります」

 

「わかったわ。時間を取らせたわね」

 

「次に比企谷くん。

 明日の放課後は空いているかしら?」

 

「いつもどおりだ」

 

「あなた性別は男よね?」

 

「何を言っている?」

 

「ただの確認よ。作れない料理はあるかしら?」

 

「だいたいは作れるが…何を聞かれているんだ」

 

「大事な事よ。

 最後にあなたの部屋の合い鍵はあるかしら?」

 

「あるにはあるが…」

 

「明日1日綾小路くんに貸してもらえないかしら?」

 

「それは構わんが何をするつもりだ」

 

「明日の放課後、あなたの部屋に綾小路くんが一人の生徒を連れて行くわ。その生徒が指定した料理を作ってもらいたいの。お願いできるかしら」

 

「それはいいが、なぜ俺なんだ?」

 

「Cクラスで料理が得意な男子生徒なんてあなたぐらいよ。比企谷くんでダメなら諦めもつくわ」



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特別試験④

後悔はない(と思いたい)。


堀北・清隆との打ち合わせが終わった後、今度は桔梗から連絡があり、自然と俺の部屋集合となった。あれっ?俺働きすぎじゃない?

 

「いろはに確認したいんだ。

 1年Bクラスの八神って、中学にいた?」

 

「あの八神はいませんね。

 同姓同名の人物はいましたが全くの別人です」

 

「えっ?なんでそんな事分かるんだ?」

 

「仮にも生徒会長でしたからね。全校生徒の顔と名前ぐらい一致します。というのは建前ですが、雪ノ下先輩もできたじゃないですか。真似しておぼえました」

 

「う〜ん…

 それだとなんで私に近づいてきたのかな?」

 

「今の段階だと考えても分からんだろう。

 向こうからのアプローチ待つしかないな」

 

「今回の試験、

 パートナーに誘われたんだけどどう思う?」

 

「そいつは学力高いのか?」

 

「OAAだとAだね。調べたらわかるよね?」

 

「見とらん。人を数値で表すなんてナンセンスだ。自分のも知らんぞ。八神とかいうやつの意図は知らんが候補にこだわりないんなら便乗しておけ」

 

「りょ。なにかあったら相談するねっ」

 

「私も八神について調べておきます」

……

 

次の日の放課後、綾小路はギャルっぽい見た目の女子生徒を連れてきた。軽井沢といい、こいつギャル好きなのか?そういえば佐藤にも告白されてたらしいな。佐倉…先は長いぞ…

 

「おじゃましまーす。って、誰かいる!?

 それに部屋に本しかない!?」

 

「料理はこいつに作ってもらう」

 

「え〜先輩が作ってくれないんですか?」

 

「男子だったら、誰でも問題ないんだろ?」

 

「確かに言いましたけど〜」

 

「遅くなる前に早速始めたい、作る料理は?」

 

「もー強引ですね。じゃあ発表しまーす。

 先輩に作ってもらう料理はー

 トムヤムクンです!」

 

「トムヤムクン……か」

 

「出来るかなー?お願いします。せぇんぱい」

 

「いけそうか。八幡?」

 

買ってきた食材を確認する八幡。

 

「この食材だけだと最低限のものしか作れんぞ。

 それでも問題ないか?」

 

「作れるのか?」

 

「??世界三大スープだろ?基本じゃないのか?

 あと泡だて器やベティナイフはいらんだろう。

 なんであるんだ」

 

「後でお願いしようと思ってたんだけど、リンゴ剥いてもらおうかなって。余った食材は、先輩達がこの後美味しく頂いちゃってね。」

 

「まじか!助かる!」

 

「おい!それオレのポイントなんだが」

 

「知らん。そろそろ始めるからできるまで、

 本でも適当に読んで待ってくれ」

 

さて、引き受けたからには本気でやらせてもらおう。

特級厨師の力みせてやろう(嘘)

……

 

「うん。こんなものだな。

 そろそろできるから準備していてくれ。

 リンゴは剥いて持っていけばいいのか?」

 

「剥いている所、

 確認したいからこっちでやってね」

 

生意気なガキだ。

 

「はいはい。これでいいのか」

 

俺は手慣れた手つきてリンゴの皮を剥いていく。

 

「わー凄い凄い。包丁さばきは合格って事で」

 

「さて、次は本命のトムヤムクンだな。

 清隆の分も作ったから食べていってくれ」

 

「ちゃんとここに座って審査員の判定をまってね」

 

ホント生意気なガキだ。

 

「それじゃ頂きまーす」

 

熱々のトムヤムクンを、ゆっくりと口に運ぶ。

 

「うまっ!?」

 

「美味いな。流石八幡だ」

 

「ところで、結局なんなんだ?これっ」

 

「須藤のパートナー探しだ。パートナーになってもらう条件が指定された料理で満足させる事だったんだ」

 

「はあ、そんな事に巻き込んでんじゃねぇよ」

 

「堀北も言ってただろう。八幡以外料理ができる男子に心当たりがなかったんでな」

 

「で、結果はどうなんだ」

 

「そうだねー。そろそろ発表しないといけないよね。

 迷うなぁ」

 

なんて考える素振りを見せながら、右側のリボンの位置が気に入らなかったのか、自分の携帯の反射を鏡に見立てて利用し、一度外して付け直し始めた。

 

イラッ。なんでこの茶番につきあわなくちゃならん。そう思って発した1言を俺は後悔する事になる。名前聞いてなかったから仕方ないよね?

 

「おいっ!メスガキ。さっさと発表しろっ」

 

 【ぞくっ】

 

「…………」

 

「な…なんだ?」

 

「も…もう1回言ってくれる?」

 

「さっさと発表しろ」

 

「違うっ。そこじゃないっ!」

 

「メスガキ?」

 

 【ぞくぞくっ】

 

「いい…なんかぞくぞくする…」

 

恍惚な表情を浮かべながらそう言う。

 

「おっおい…」

 

「あなた名前は?」

 

「比企谷八幡だ」

 

「八幡さん!わっ…私、1年Aクラス天沢一夏と言います。料理が上手い男性が好きといいましたが嘘ではありません。今後、私の事はメスガキと呼んで頂けませんか?」

 

「…………」

 

「あぁ…その腐った目で

 見下されるのもいいかもしれません」

 

「…………」

 

「放置ですか?これが噂に聞く放置プレイなんですね。綾小路先輩より素敵かもしれません」

 

「おいっ。清隆。なに変態連れてきてんだ」

 

 【ぞくぞくっ】

 

「こいつ最強か?」

 

「そんなに…褒められると…恥ずかしいです…」

 

「で?結果はどうなんだ?」

 

「何、無かった事にしてんだ!」

 

「OKする事で八幡さんは喜んでくれますか?」

 

「ああっ。もちろんだ」

 

「勝手に話すすめんな!」

 

「やります!やらせて頂きます!」

 

「では、ここで須藤に申請してくれ」

 

「わかりました」

 

それからすぐ携帯の画面をこちらに見せながら操作を始め、須藤にパートナー申請を行った。これでこの日の内に須藤が対応するのなら確実に契約は成立だ。

 

「おいっ。何をいい感じで終わろうとしている。

 責任とれよっ。清隆〜」



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特別試験⑤

『いろは。すまん。助けてくれ』

 

先輩から来たメーセージは簡潔な3文。

なんなんですか。どんなトラブルでもなんでもなかった顔で解決してきた先輩が助けを求めてくる。これがギャップ萌というやつですか。でも、ごめんなさい。この流れでというのもやぶさかではありませんが、告白されるなら弱っている時ではなく、いつもの先輩でお願いします。

そんな事を考えながら、求めに応じて先輩の部屋を訪れると同じクラスの天沢さんいた。

 

「話せば長くなるんだが…同じクラスだろ。

 こいつ引き取ってくれないか」

 

「……なにがどうなったらこの状況が生まれるんですか?説明してもらえないと私も対応のしようがありません。とりあえず櫛田先輩も呼びますので、その後、説明をお願いします。そうですね…。場を少しでも和ます為に夕食は準備しておいて下さい」

 

「ちょっ。桔梗も呼ぶのか?」

 

「何言ってんですか先輩。完全に厄介事ですよね?すぐに櫛田先輩に話をしておかないと後々大変ですよ?」

 

「…だな。食材は揃っているから任せろ」

 

「八幡さん。私もお手伝いするよー!」

 

「いらん。そのまま待っとけ」

 

「これが…おあづけ…」

 

「いや。違うだろ。

 すまん。いろは。そいつの相手も頼む」

 

「あの天沢さんがこんなになるなんて

 少し目を離したうちになにしたんですか」

 

「とりあえず桔梗が来てからだな…」

 

『あっ…もしもし、櫛田先輩ですか?今すぐ先輩の部屋に来れますでしょうか。はい。はい。そうですね。緊急です。分かりました。では、お待ちしておりますので宜しくお願いします』

 

……

桔梗・いろは・天沢と夕食を囲みながら、今日の出来事を説明した。

 

「とりあえずきよぽんを退学にしたらいいのかなっ?」

 

「それはやりすぎですが

 何らかの制裁は必要ではないでしょうか?」

 

「八幡さんのご飯!やっぱり美味しいです。わたしの専属料理人になりませんか?色々サービスしますよ?」

 

「黙れっ!ガキ」

 

「桔梗さん。その子喜ぶのでほどほどに…」

 

「そんなー

 誰にでも反応するわけないじゃん」

 

「「「えっ?」」」

 

「櫛田先輩のは少し殺気混じってましたけど、そんなのは慣れてるんですよね〜。私こういう性格じゃん?悪口言われる事なんて日常じゃない?そんなの別にどってことないよー。八幡さんのはなんというか…厳しい中にも愛があるっていうか?表現は難しいんだけど、なんか特別ってかんじ?」

 

「非常に遺憾ではありますが、

 分からない事はないですね」

 

「……うん。決めたよ。天沢さんはペットだ!」

 

「いきなり何言ってんの?」

 

「いやに決まってんじゃん」

 

「八幡の♪」

 

「おっ…おい!」

 

「八幡さんのペット……いいかも♪」

 

「天沢。何を言っている?」

 

「八幡には絶対服従。夕食は八幡が作るから食費は天沢さん持ち。もちろん二人分だけじゃなく、八幡が作る全員分ね」

 

「なんでですか!」

 

「じゃあ!無し♪」

 

「仕方ないですねー」

 

「八幡の部屋に入る時は私かいろはに必ず連絡する事。この部屋以外では私達の関係は何もないように振る舞う事。これでどうかな?」

 

「多すぎませんか〜」

 

「で、最後なんだけど…」

 

「まだあるんですかー」

 

そこまでのやりとりとは打って変わって桔梗といろはから殺気が漏れる。

 

「八幡に(先輩に)手を出したら潰す」

 

「へぇ〜…嫌いじゃない。想像してた以上かも。ただの地雷女と優等生かと思ってたけど、ふたりともそんな表情もできるんだ〜。ヤりあってみたくなるじゃん。でも、それだと八幡さんに迷惑かけちゃいますね〜。わかりました。ご褒美に情報提供でーす。1年の一部に櫛田先輩の過去が周知されてますよ〜」

 

「はあ?それが何?なんの問題もないよっ。私はこの一年で揺るぎない立場を獲得してきた。いまさら過去を持ち出したって罅ひとついれさせないよっ」

 

「あ〜やっぱり良いです。櫛田先輩♪あいつもアテが外れたかな〜。あと、綾小路先輩への制裁ですが、今回は私に任せてもらえませんか?計画してた事があったんで」

 

「別に制裁とかいらんだろ」

 

「「許す!」」

 

「いやいやいやいや」

 

「大丈夫ですよ。ちょっとしたテストみたいなもんですし、綾小路先輩なら切り抜けられないわけがないですよー。このナイフちょっと借りていきますね〜。『桔梗先輩』『いろは』またね〜」

 

そう言って天沢は嗜虐的な笑みを浮かべ帰っていった。

 

「おいっ!ホントにいいのか?」

 

「たまには痛い目あえばいいんじゃない?」

 

「あそこまでとは思ってませんでした。

 天沢押し付けられたほうが厄介です」

 

「はあ〜。いまさらだが、いろはは俺がパートナーでよかったのか?お前ならかなりのポイントで交渉できただろ」

 

「上位5組に入れば10万ですから、それで十分じゃないですか?というわけで明日から数学と化学特訓ですね」

 

「はっ?」

 

「櫛田先輩もお願いします。

 報酬ですが5万で大丈夫ですか?」

 

「ふふっ。ただで大丈夫だよっ♪」

 



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特別試験⑥

いまさらですが中間テストじゃないですね…


週が明けた月曜日。どうやら堀北達は1年Dクラスと対等な協力関係を結ぶ事に成功したようだ。火曜日には全157組のペアができあがり、全員が筆記試験へと集中する形に移行した。清隆の左手の怪我は気になる所だが…

 

「八幡。少し話がある。時間いいか?」

 

「ああ。かまわないぞ」

 

「できれば、人に聞かれたくない。

 八幡の部屋でもいいか?」

 

俺達は寮に戻り、少しして清隆が部屋にやってきた。

 

「次の中間試験だが、八幡には国語で100点をとってもらう。難しいことではないはずだ。仮に何もしなくても80点以上は取れるだろう。あとは残りの期間で徹底的に鍛えさせてもらう」

 

「すでに数学と化学で手一杯なんだが…」

 

「なに。時間なんて作ろうと思えばなんとでもなる」

 

「それ以前になんで俺が100点をとらなきゃならん」

 

「今回のテストだが、堀北と賭けをしている。どの教科になるかは当日まで未定だが、なにを指定されてもオレは100点をとるつもりだ。テスト結果が発表される日、少しでもオレから注目をそらしたい」

 

「いやいや。俺に関係ねぇだろう」

 

そう言うと怪我をした左手を俺の目の前に掲げた。

 

「この左手は俺が天沢と購入したベティナイフで刺されたものだ。あのナイフは八幡の部屋にあったはずだな。ここで拒否すればお前達が宝泉と組んでオレを排除しようとした。そう判断する」

 

あいつ…懸念はしていたが、やりすぎだろう…

これは説教だな。いやいや。天沢には通じん。

どうしたもんか…

 

「はあ〜。俺達に清隆と敵対する意思はない。それを証明するために協力しろという事か。だが、100点を取ることは確約できんぞ」

 

「国語・英語の90点以上で合格だ」

 

「科目増えてるじゃねぇか!」

 

……

そして…今日、5月1日。今回の特別試験、その結果を知る時がやってくる。一日の終わりとなる最後の6時間目に、その発表の場は設けられた。

 

「これから特別試験の結果発表を行う。黒板にも表示するが、手元で細かくみることができるようお前たちのタブレットにも一斉表示を行う」

 

わざわざ黒板を凝視しなくとも、手元で好きな箇所を拡大して確認できるようだ。生徒達の多くは他の数字に目もくれず、まずはと自分の点数確認に向かった。周囲から安堵のため息や喜びの声が次々と聞こえてくる。退学はどうやら上手く回避できたようだ。

 

歓喜に満ち足りたクラスだったが、徐々にざわめきへと変わっていくのが分かった。

 

「これ、マジで?」

 

オレは自分の点数を探すこともせずクラス内の状況を把握する。ふふっ。半ば嫌がらせのつもりで八幡に条件を出したが、予想以上の結果だ。

 

パートナーとの合計点 1位

比企谷八幡

一色いろは

 

国語 比企谷八幡 96点

英語 比企谷八幡 92点

数学 綾小路清隆 100点

   堀北鈴音  87点

 

「あ…あぶねぇ。

 なんとか清隆の条件はクリアだよな」




Aクラスの平均725点って強すぎません?

見切り発車でニ年生編始めましたが、なかなか難しい…。という事で2巻に続くのは少しお時間頂いて原作読み直そうと思います。
読み直しが終わるまでは幕間とか感想でご指摘頂いた体裁の見直しをちょこちょこ進めていきたいと思います。


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ニ年生編 2巻
無人島サバイバル① きよぽん数学100点問題


次は少々時間あくと思っていたのですが…


その日、2年Cクラスはこれまでにない奇怪な状況を迎えていた。小刻みに右足を貧乏ゆすりさせながら、啓誠は繰り返し教室の入り口をみる。

 

「ちょっと落ち着いたら?まだきよぽんが出てって5分も経ってないし。先生に呼び出されたんでしょ?もう暫くかかると思うけど」

 

クラスメイトで親しい友人である波瑠加は、そう啓誠に声をかけた。そんな波瑠加に付き添うように愛里と明人も同席する。

 

「落ち着いているさ…心配ない」

 

一度はそう答え貧乏ゆすりを止めた啓誠ではあったが、再び落ち着きをなくすまでそう時間はかからなかった。静かに右足が上下しズボンが擦れる音がする。啓誠は放課後をむかえるなり清隆に話しかけようとしたが、堀北の登場により一度断念した。その後も茶柱先生に呼び出されたとの事で教室でその帰りを待っているところだった。どこか諦めるようにため息をつき、波瑠加は別の話題を提供することにした。

 

「お〜い!ハチ君」

 

下校しようとしていた八幡に声をかける。

 

「なんだ?」

 

「今回の試験すごすぎない?

 ペアで1位だし、国語も学年1位じゃん」

 

「ペアは一色…この前クラスに突撃してきたやつのおかげだ。理系科目は少し点数はとれるようになってきたが、お前たちに全く及ばん」

 

「またまたー、謙遜しちゃって〜」

 

「八幡はもともと文系科目だけみれば、俺と同等か上だからな。ただ、出題された問題は高校生で習う範囲を大きく逸脱してた。つまり本来なら解けるはずもないような問題だ」

 

「何それ?学校もおかしくない?テスト範囲外なんてレベルじゃないじゃん」

 

清隆に徹底的にしこまれました…。とは、流石に言えんな。

 

「理系科目と違い知識量の問題だからな。国語に関しては、今回たまたま知っていた所が出題されたとしか言えん」

 

「ともかく…取れるなずのない満点を綾小路が取った。俺は…手品を見ているようだ」

 

あえて苗字で呼んだ事からも、啓誠の怒りが窺える。当たり前だな。清隆は明らかに実力を隠していた。それに問題があるとは言わんが、ペーパーシャフル以降、啓誠は綾小路グループの学力の底上げに尽力してきた。今になって、実は不要でしたとなれば怒るのも頷けるだろう。なお、俺は文系科目は一切教わっていない。質問があれば答える程度だが啓誠とともに教える側だ。

 

「そ、そんな問題が解けちゃうなんて、清隆くん凄いねっ」

 

重苦しい場の空気を少しでも変えようと、愛里が賢明な笑みとともに油をそそぐ。仕方ない。フォローしてやるか。

 

「今回の試験も堀北とコソコソやってたみたいだからな。実際の所は清隆に聞かんとわからんだろう?このグループから退学者はでなかった。まずはそれを喜んだらどうだ?」

 

「し…しかし…」

 

「そうだね。なんと言ってもハチ君!10万ポイント振り込まれるんでしょう?何奢ってもらおうかなー」

 

「いや。奢らないが?」

 

「愛里。どこがいいかな〜」

 

「えっ…え!?」

 

「なんの話をしてるのかなっ?」

 

そこに桔梗や軽井沢達も加わる。なぜだか俺が奢ること前提で女子達の話が盛り上がる中、清隆が教室に戻ってきた。

 

「さっきは声をかけてもらったのに悪かったな」

 

放課後になったばかりのタイミングで啓誠はオレと話をしたがっていた。それを堀北の登場で遮ることになったため、まずはそのことを謝罪する。

 

「そんなことはいいんだ。それより時間は大丈夫だよな?幾つか聞きたい事がある。おまえ…数学の100点はどういう事なんだ。OAAで2年生を一通り調べたみたが、一之瀬も坂柳も満点は取れていなかった。学年でたった一人おまえだけだ」

 

「そのことについてだか……」

 

オレは視線を泳がせ、教室前方の席の主である堀北に助けを求めた。

 

「ええ、私から説明するわ」

 

分散している視線を集めるため、堀北は席を立ちわざわざこちらに歩いてくる。

 

「俺は…清隆に聞いているんだ」

 

「そうね。けれど幸村くん、あなたの疑問に対する回答を正しく持っているのは私なの」

 

「……どういうことだ」

 

堀北はこれまでの戦略を説明する。入学当初、学力において綾小路が非凡なものをもっており、それは堀北以上である事を把握した。綾小路の戦力の温存、切り札とするために他クラスから注目を浴びないよう手を抜くよう依頼していた事。クラスの団結力や実力が向上したことにより、一部の実力を今回開示した事。そして、他クラスを牽制するために綾小路の本当の実力はこれからも秘匿する事だった。

その話に洋介も助け舟を出した事で一定の信憑性を獲得していく。

 

(あ〜これダメなやつだ。

 堀北もきよぽんもまだまだだよっ)

恵や篠原のフォローも入り、話は纏まりつつあるが、私はこの後の事を予測し、口をつむぐ事にした。あっ。録音の準備忘れないようにしないとね。

 

欺瞞だ。啓誠が聞きたい事はこれじゃない。

 

「これが綾小路くんの数字満点に対するカラクリよ。驚かせて悪かったわね」

 

オレは感心していた。やり直しのきかない状況下で、見事に堀北はやり遂げきった。だが、悠長にこの場に生徒たちをダラダラさせていれば、疑念が再び芽吹くとも限らない。

 

「ひとまず、この話は…」

 

平田が締めくくろうとした時、思わぬ横槍がはいる。

 

「なあ堀北。その説明では全く納得ができん」

 

「比企谷くん、なにか説明が不足していたかしら?」

 

「俺は納得できんと言ったんだ。理解できんとは言ってない」

 

「言葉遊びに付き合う程、暇ではないの。

 説明してもらえるかしら」

 

「はあ…」

 

その場に残っていた生徒達は二人に注目する。

 

「堀北が清隆の実力を把握していて、これまでクラスの為に温存していたのは分かった。そして、これからも秘匿したいというのもいいだろう。でも、実力の一部はクラスで共有するべきじゃないのか?」

 

「なぜかしら?このままのほうが得策よ」

 

「得策かどうかなんぞ関係ない。お前たちの戦略が誰にも迷惑をかけてないなら、俺は何も言わん。この学校は常に退学のリスクを有しているだろ。例えば、今回のテストだ。清隆は単独で400点近く獲得している。これが実力なら、このテストどの1年と組んでも退学にはならん。お前たちが実力を秘密にするのは構わんが、常に清隆の退学を心配してきた生徒や退学を回避するために力を尽くしてきたクラスメイトがいるだろ。まずはその生徒に対して謝罪すべきじゃないのか?あと、今後は学力であれ、運動能力であれ、退学の危険がないレベルかどうかぐらいは開示してくれ。啓誠が憤るのも当たり前だ。気をもむだけアホらしいからな」

 

「…そうね。私はクラスの勝利に固執するあまり、思慮がかけていたようね。ごめんなさい幸村くん。今思えばペーパーシャッフルの前にあなたには一部でも打ち明けておくべきだったわ」

 

「今回のことで啓誠が憤慨する気持ちはよく分かる。誰よりも親身になってグループに、そして俺に対して勉強を教えてくれてたからな。すまなかった」

 

「長い間同じグループでいたから分かることだってある。清隆が悪いヤツじゃないってことだけはな。クラスのためを思って隠してたなら、誰にも話さないのも納得できる。勉強が必要ないと断る事ができたとしても、口下手な清隆が言い出せなかったってのも理解できる。ただ…そう、ただ…心の整理をするのに時間がかかっているだけだ。」

 

それを見届けた愛里が、勇気をだして1言を発した。

 

「な、仲直りの握手…とかどうかな?」

 

「いいじゃん。仲直りの握手」

 

愛里の提案を受け、波瑠加も同意した。重苦しい空気が霧散していくのを感じ、啓誠が首を左右にふる。

 

「よせよ。恥ずかしい」

 

拒否する啓誠の手を波瑠加が素早く手を掴んだ。そして、清隆の手もほぼ同時に掴む。

 

「はい!仲直り。

 握手するまで押さえつけてるからね?」

 

「わ、分かったて……!」

 

そして、お互い握手をする事で、正式な和解の合図とした。

 

……

「あれ?櫛田先輩からメッセージなんて珍しいですね。しかも音声ファイルがついています」

 

送られてきた音声を再生すると先輩の声が聞こえてきた。

 

「私のいない所でなにやってんですか先輩。次回は是非私の前でお願いします。それにしても、櫛田先輩ずるいです。これが学年の差なんですね。どうにかポイントで飛び級できないんでしょうか」

 



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無人島サバイバル② ルール説明は割愛

6月も中旬が近づいた。2年生である俺たちにもいつ特別試験が発表されてもおかしくない。そんな覚悟を決めていた時期だろう。その覚悟を試すかのようにいつもと違う朝のホームルームが始まる。

 

「全員揃っているようで何よりだ。おまえたちとの付き合いも長くなってきた。何となく察しているだろう。この後特別試験に関する話を行うことになっている。だが、そのお楽しみは長くなるためあとに取っておこう。まずはおまえたちに、一足早い夏休みのバカンスについて説明する。8月4日から8月11日までの7泊8日、おまえたちはこの豪華客船で自由に夏休みを満喫できる。そして、船上で特別試験を行うような事も一切しない。しかし、この船旅を満喫するには、次の特別試験を無事に終えなければならない。次回の特別試験は夏休みに行われる。おまえたちには『無人島サバイバル』に参加し競い合ってもらう」

 

『無人島サバイバル』

 

○報酬

 

・1位のグループ

300クラスポイント、100万プライベートポイント

1プロテクトポイント

 

・2位のグループ

200クラスポイント、50万プライベートポイント

 

・3位のグループ

100クラスポイント、25万プライベートポイント

 

・上位50%に入賞したグループ

5万プライベートポイント

 

・上位70%に入賞したグループ

1万プライベートポイント

 

※上位3グループが得るポイントは下位3グループの学年から移動される。クラスポイントに関しては人数に関係なくクラス数で均等に分配される

 

○ルール

 

複雑かつ多岐にわたるので割愛します。

ごめんなさい。

 

「今回の説明では全てを理解できなかった者もいるだろうが、昼休みまでには自動的にタブレットに特別試験マニュアルが配布されるため、そこで確認可能だ。どういったグループ戦略を立てていくかゆっくりと考えることだ。時間はある」

 

アドバイスを残し、茶柱先生は教室を後にする。

 

……

翌日の朝。俺は身支度をすませた後、携帯を開いた。個人のメールに学校からの通知が届いている。そしてそこには『半減』と書かれたアイテムが与えられた事が記載されていた。

 

「よしっ」

 

誰もいない部屋の中でガッツポーズをした。もし、これ以外のカードが与えられた場合、桔梗に頼んででもなんとか入手するつもりだったが、手間が省けた。俺の特別試験の立ち回りが決定した瞬間だった。

 

・半減:ペナルティ時に支払うプライベートポイントを半減する。このカードを所持する生徒のみ反映する。

……

 

「来てくださったようですね、櫛田さん」

 

「坂柳さんが私に用なんて珍しいね」

 

「お時間は大丈夫でしたか?急なお願いでしたので断られることも覚悟してました」

 

「全然大丈夫だよっ。で、話って何かな?」

 

「単刀直入に申し上げます。今回の試験。櫛田さんに私の邪魔をして欲しくないのです。その代償として櫛田さん分の保証金を出しても構いません。100万ポイントお貸しします」

 

「う〜ん…いらないかなっ」

 

「残念ながら交渉は失敗ですか」

 

「そんな事言ってないよっ。坂柳さんはAクラス以外が連携する事を危惧している。もっと言うと私が帆波ちゃんを引き入れる事かな?」

 

「続けて下さい」

 

「私はそもそもこの試験で他クラスに働きかけるつもりはないんだよっ。そ〜だな。報酬はいらないから坂柳さんへの『貸し』ひとつでどうかな〜」

 

「ふふふっ。そもそも動く気がないのなら『借り』も必要ないのでは?」

 

「私はそれでも構わないよっ。坂柳さんが『私を信じられる』ならね」

 

「これは痛い所をつかれました。分かりました。それで手を打ちましょう。思ったより高い買い物になったかもしれませんが致し方ありません。契約書は必要でしょうか?」

 

「『友達の』坂柳さんのお願いを聞くだけたからね〜。そんな大層なものは不要だよっ。坂柳さんも『友達』としてお願いを聞いてくれればいいよっ」

 

「ふふっ。あなたとは良い関係になれそうです」

 

「こちらこそだよ」

 

……

「比企谷八幡だろう?難問の国語と英語で高得点をとった」

 

夕食の準備の為、買い出しをしていた俺はベンチに座った三年生の女生徒に話しかけられた。その女生徒は足を組み両手を広げ、ベンチの背においてリラックスしているようだった。

 

「…こんなに綺麗な人、俺の知り合いにいたか?」

 

「おいおい。容姿に優れている事は自覚しているが初対面のそれも一言目に言われたのは初めてだな」

 

やべっ。油断して声にでてたか

 

「どうした。こっちに来ないのか?」

 

なんだろう…アホ毛レーダーが反応している。この人と関わるとろくなことにならない。そう予感する。

 

「立ち話もなんだ。ベンチにでも座って話そう」

 

「はぁ…それで俺とどんな話を?

 というか、失礼ですが誰ですか?」

 

「この学校内で名前は知られているほうだと思っていたのだがな。私もまだまだと言うことか。3年Bクラスの鬼龍院だ。話はなんでもいい。君がどんな人間であるか探求できればそれで十分だ。」

 

「はあ…」

 

「これでも私はOAAでは高い得点を得ている。他学年の成績優秀者などチェックはしないのか?」

 

「OAA自体見てないです。自分の評価も知りません」

 

「ほぅ。それはなぜだ?」

 

「人を数値で表しても意味ないでしょう?聞いていると試験ひとつでも大きく変動するらしいですから。数値を通して他人をみるときっと見誤る。ただ、それだけですよ」

 

「他人の採点など、何の意味も持たないものだ。そんなくだらないものに振りまわされる生徒が大半なのは嘆かわしいな」

 

「君は今度の無人島サバイバルでは1位を狙うつもりなのか?」

 

「全くありませんね。今の俺にAクラスを目指す意思はないです。ポイントもそこそこありますので現状維持で問題ありません」

 

「この学校はAクラスで卒業できれば、どこにでも進学、就職ができるというのが最大の売りのようだが?」

 

「3年生の鬼龍院先輩だから聞きますが、最難関の大学に進学する事とAクラスで卒業する事。どちらが難易度が高いと思いますか?」

 

「面白い事を聞く。私個人ならAクラスで卒業する事だ」

 

「そういう事です。それに将来の目標は専業主夫ですからね。Aクラスに拘る必要が全くありません」

 

「専業主夫か。それはいい。君と話すのが楽しくなってきたが、今日はこれくらいにしておこう。また、会えるのを楽しみにしておくよ比企谷」

 

……

『無人島サバイバル』に向けて各クラスの戦略は加速していく。坂柳率いるAクラスと一之瀬率いるBクラスは協力関係が結ばれ選抜チームで上位を目指す。龍園率いるDクラスはAクラスの葛城を引き抜きクラス体制の強化を図る。我らCクラスは…あれっ?どうするんだ??

 

「もうすぐ夏休みだね。私はいつものメンバー。無難に退学回避に努めるよ。結局、八幡はひとりだよね」

 

「ああ、運良く『半減』カードがひけたからな。ポイント300万以上あるから退学の心配もない。人と関わるよりは一人のほうが気が楽だからな。ある意味今までで1番向いているかもしれん」



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ニ年生編 3巻
無人島サバイバル③ 無人島試験開幕


※注意※
無人島サバイバルですが、物語を成立させる為にかなりのご都合主義になります。「そんな都合よくいくか!」って事も出てくるかもしれませんがご容赦下さい。全面的に私に想像力がないのが問題なのですが…
八幡ですが、指定されるテーブルは原作綾小路のものになります。綾小路は別テーブルになりますが重要なイベントは場所を変えて原作どおり推移します。宝泉・七瀬と天沢は別グループになります。では、本編開始です。


「これより無人島における特別試験のルールを説明したいと思う」

 

去年と同様、説明を担当するのは2年Aクラスの教師である真嶋先生。スクリーン前に立つと、マイクを持って説明を始める。

 

○ルール

 

複雑かつ多岐にわたるので割愛します。

ごめんなさい。

 

無人島試験で個人に与えられるポイントは5000ポイント。まずはこのポイントで何を購入するか決める所から始まる。俺は無人島マニュアルから必需品をピックアップしていく。『一人用のテント』『モバイルバッテリー』『鍋』『懐中電灯』『ライター』『十徳ナイフ』『調味料各種』あとはポイントぎりぎりまで携帯食と水を購入し、無料で配布される最低限のアメニティ用品をバックパックにつめることで準備は完了した。

 

次に今回の試験を進めるにあたり、行動の指針を決める。大前提は決して目立たず他グループからの攻撃対象にならない事。その上で第一目標はリタイアする事なく完走だ。指定エリアの『到着ボーナス』を確実に得る。『課題』は理系科目と身体能力系は全て捨てる。『到着ボーナス』と『課題』いづれかを天秤にかける際は『到着ボーナス』を優先する。とした。正直これでどのあたりの順位になるかは分からんが、あとは臨機応変に対応するしかないだろう。

 

無人島試験の初日。下船順を待っていると桔梗に声をかけられる。

 

「おはよ〜。今日から特別試験が始まるねっ。

 高円寺君の件は聞いた?」

 

「ああ、1位なら卒業までの免罪符を得るやつだろ」

 

「高円寺君。単独グループだよね?

 1位なんてとれるのかな?」

 

「高円寺と清隆以外なら誰もとれんだろ。あいつら二人なら可能性はありそうだがな。おかげで俺は少し気が楽になった。高円寺が本気になった時の実力のほどがわからんが、あの二人でも上位が難しければ、成績がふるわんでも咎められる事はないだろう」

 

「あっ、そうだ」

 

そう言って桔梗はトランシーバーを渡してくる。

 

「今回、私達はクラスの連絡係になろうと思うんだ。先行カードもあったからね。ポイント多めにそれに使ったから、八幡も持っていって」

 

「悪いな。助かる」

 

「ううん。全然だよっ」

 

1年生たちがほぼ下船を完了し、そろそろ2年生の順番が回ってくるかという頃。時間は朝の9時を迎え腕時計から最初のアラートが鳴る。俺だけじゃなく、周囲の生徒全員がタブレットを取り出して一斉に詳細を確認し始める。俺が向かうべき最初のエリアは【D7】。スタート地点からは北になる。

 

「じゃっ、いってくるわ」

 

「いってらっしゃ~い」

 

さて、最初の指定エリアだが、先に下船した1年生が既に向かっている。俺の運動能力では今から逆転する事は難しいだろう。まずはこの無人島を観察しつつ、確実に指定エリアに到着することだな。俺は砂浜に向かって一歩を踏み出した。

 

平坦な道は程なくして終わり、うっそうとお生い茂る木々が近づいてきた。去年の無人島のように果物や野菜等があれば助かるんだがな。それ以外にも自生して食料となるものや水のありかを確認しながら進んでいく。予想はしていたが都会ぐらしの俺にとって、慣れない自然の道を歩くのはそれなりに体力の消耗が大きい。長い無人島生活だ。序盤で息切れしないようにせんとな。

 

それからゆっくりと歩き続け、最初の指定エリアに到着する。程なく腕時計が小さく音をたてて鳴る。無事到着ボーナスとして、1点あたえられたようだ。さて、そろそろ『課題』が解禁される。どんな『課題』があるのか少しわくわくしながら待っていると10時ちょうどにそれは発表された。まあ。これだな。俺がいる【D7】の左上に一か所赤い点が出現しており、距離としては一番近い。表示されている課題は『火おこし』。特定の道具を用い、いち早く火を起こす事が出来たグループに5点が付与されるものだ。今まで林間学校などで、こういう地味で一人でやる作業は俺の専売特許だった。参加さえできれば負ける気はしない。

 

『課題』が行われる場所に到着すると茶柱先生が待ち構えていた。

 

「比企谷か。まだ、参加は受け付けているがどうする?」

 

「もちろん参加させてもらいます」

 

近くでは『英語テスト』や『握力測定』が実施されており、学力や運動能力の高い生徒はそちらに流れたのだろう。始めての課題に俺は無事参加することができた。まあ報酬も微妙だからな。

 

『火おこし』の課題は原始的な摩擦熱を利用するものだった。特に問題はない。同じ参加者が力まかせに火をつけようとするが最初は一定のリズムで行うことが肝心だ。摩擦により発生する木くずが黒色に変われば火種ができたと考えて問題ないだろう。あとは枯れ草等に包み酸素を供給してやれば完成だ。俺はこの『課題』を1番でクリアすることができた。

 

さて、『課題』はクリアできたが次の指定エリア発表まで十分時間はある。続けて同じエリアが指定される事はないだろうから少しは移動したほうがよいだろう。今後を考えると海に出る機会も増やしたい。そう考え、隣のエリア【C7】の中心あたりまで進む事にした。1時間程で目的に到着。次まで1時間以上あるな。俺は一旦ここで休む事を決めた。

 

次に指定されたエリアは【B7】。これは幸先がいい。今の移動が無駄にならなかったのはもちろんだが海に面したエリアというのが素晴らしい。知識さえあれば、魚や貝、海藻など食料の入手が可能だ。エリア到着後は一旦『課題』をスルーして少し遅い昼食にする事を決めた。【B7】では到着ボーナスのみであったが手持ちの食料を消化することなく一食を確保。本日、最後のエリアは【D7】となり、1日目の活動は到着ボーナスを獲得する事で終了とした。

 

基本移動を終え、明日に備える為、テントをはる場所を探していると天沢に声をかけられた。

 

「八幡さ〜ん。どうしてこんな所にいるの?

 もしかして〜。わたしを探してたっ?」

 

「お前から話かけてきたのに、

 俺が探してたってどういう理論だ」

 

「運命だ!」

 

「たまたまだ」

 

「も〜連れないんだから〜。今日はどうだったの?」

 

「合計8点だ。ソロならこんなもんだろ」

 

「八幡さんも最後のエリア【D7】なんだよね…。

 もしかして【D7】【B7】【D7】ですか?」

 

「まあそうだな」

 

「なら、わたしとおんなじテーブルですよ。きっと!

 やっぱり結ばれるうんめ…」

 

「それはないな」

 

「え〜。じゃあじゃあこれから一緒にいきましょう!

 一人より二人のほうが楽しいですよ〜」

 

「一人がいいからソロなんだが?」

 

「桔梗先輩といろはに内緒で少しぐらいエッチな事してもいいよ?」

 

「一発で退学だろ。断る」

 

「う〜ん…じゃあ勝手についていくね〜」

……

1日目終了時

比企谷八幡 8点

綾小路清隆 3点

 




無人島サバイバル。実は色々悩んでますので忌憚なき感想頂けるとうれいしいです。


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無人島サバイバル④ 2日目〜3日目

無人島での生活2日目。俺は朝6時に起床した。今日最初の指定エリアが発表されるのが7時。発表があればいち早く出発ができるよう準備を終えた。次のエリアは【E8】。俺がテントを設営した位置から最も近いエリアだ。『着順報酬』を得られるチャンス。俺はすぐにその場を後にした。

 

隣の指定エリアに足を踏み入れた俺の腕時計に、得点の知らせが届く。見事1位を獲得し、10点がグループとして与えられた。できすぎだな。あとは『課題』に参加できればいいんだが。

 

「お〜い。何で置いてってんのー。

 昨日一緒にいこうっていったじゃん」

 

「了承してないだろ?」

 

「朝いちから放置プレイ…。

 嫌じゃないけど、一緒にいこうよー」

 

「はあ。勝手についてくるんだろ?好きにしろ」

 

「もー捻デレさん♪」

 

その後、指定されたエリアは【E6】【F7】。運良く俺は2位の『着順報酬』を得る。

 

「報酬は俺が先で問題ないのか?」

 

「わたしはグループに入ってるんで大丈夫♪いろはに迷惑だけかけなければ好きにしていいって言われてるしね〜」

 

「『課題』だが俺は理系科目と運動系はスルーするつもりだ。もし、参加したい『課題』があれば言え」

 

「あれ〜同行認めてくれるの〜」

 

「聞くだけだ」

 

話しているとタブレットに新たな『課題』が出現した。

 

「【F8】の『課題』にむかう」

 

「『クイズ』かぁ〜」

 

俺たちは『クイズ』の『課題』が見える位置に到着する。既にそれなりの人数が集まっているようだ。

 

「おう!比企谷。あと3組までだから登録急げよ!」

 

こちらの存在に気がついた、須藤が教えてくれる。

 

「らしい。少し急ぐぞ」

 

頷く天沢と駆け足で『課題』に近づき登録をすませた。締め切りまで30分以上。あるいは残り一組が参加確定するまで待機だ。

 

「覇気がないようだが、池は大丈夫なのか?」

 

「ちょっと元気ねぇんだよな。試験前からちょっとおかしかったんだが何もないっつって誤魔化すんだよ」

 

「本人が言わないんならどうしようないな」

 

ふと須藤が、俺のそばに立つ天沢の存在に気がつき視線を向けた。

 

「この前の試験ぶりだよね〜。須藤せぇんぱぁい」

 

「あ…ああ、あの時は助かった」

 

「おかげで八幡さんにも会えたしね〜」

 

「……ちょっと来い。比企谷」

 

「おまえ、あいつと来たみたいだったけどよ、1年だろ?どういうつもりだよ」

 

「勝手についてきてるだけだ。犬みたいなもんだと思ってくれ」

 

(犬…♪)

 

はあ…

 

その直後、最後の一組が登録を終えたのか課題のスタート準備が始まった。時間になると、一斉にタブレットにジャンルが発表される。

 

『ジャンル アニメ全般』

 

俺は組んだ手で口元を隠しこう呟いた。

「勝ったな」

 

俺は難なく正答率100%でグループ1位となった。引きこもりボッチの代表として、これだけは負けられん。2位は須藤グループの正答率95%。なお、天沢は正答率20%程度だった。

 

「問題文の意味もわからないですよ〜」

 

「何言ってる?全て模範的な内容だっただろ」

 

「うー」

 

「わん?」

 

「ワン♪」

 

そろそろ本日最後の指定エリアが発表される時間だ。ランダムで指定されたエリアは【I7】。

 

「けっこう遠いね〜。山越え?迂回?」

 

「迂回ルートだ」

 

「はーい」

 

その後、海岸沿いで食料を確保しながら【I7】になんとか時間内に到着。本日の行動はこれで終了することにした。

 

……

2日目終了時

 

比企谷八幡 40点

綾小路清隆 26点 七瀬と同行。池イベント進行

……

無人島での生活3日目。俺は昨日同様朝6時に起床した。柳の下のどじょうではないが、朝いちが1番労せず周りを出し抜ける気がする。最初の指定エリアは【H7】。幸い隣のエリアであり『着順報酬』2位を獲得する事ができた。今日は朝から天沢もしっかりついてきている。次に指定されたエリアは【J5】。少し距離はあるがたどり着けない距離ではない。

 

その道中、【J6】に到着した時の事だ。慌ただしく大人たちが準備に追われているところに遭遇した。

 

『ビーチフラッグ対決』

 

運動系はスルーするつもりだが参加賞の水500mlは魅力的だ。俺は参加を決めた。

 

「俺は参加する事にしたが、天沢はどうする?」

 

「参加するに決まってんじゃん。

 1位とってくるよー」

 

俺達が課題の開始を待っていると清隆と女生徒があらわれた。清隆がやってくると同時に3年生の男子が登録を終え、男性側は締め切りとなった。あ〜そういう事ね。清隆と一緒にきた女生徒は無事登録できたようだ。

 

「あー!綾小路先輩と七瀬じゃん」

 

「天沢と八幡か…珍しい組み合わせ…でもないか。

 お前たちは参加するのか?」

 

「ああ。ちょうど先生達が準備を始めた所に遭遇したからな。ラッキーだった」

 

「八幡。さっきの動きどう見る?」

 

「戦略としては悪くないが…それで楽しいか?

 さて、そろそろ時間だ。いってくるわ」

 

男子の部1回戦さっそく八幡が登場した。相手は3年生の生徒だ。お互いが仰向けに寝そべり、スタートの笛が吹かれる。3年生の生徒は途中で異変に気づいたが、そのまま全力で走りきり無事フラッグを手中におさめた。一方八幡はというとスタートすらしていない。相手がゴールするのを見届けると参加賞をもらい着替えにテントへ戻っていった。さっきのお前の言葉…「戦略としては悪くないが…それで楽しいか?」をそのまま贈ろう。

 

女子の部が始まると華やかさが格段にあがる。1回戦2回戦の結果、決勝は天沢対七瀬になった。他メンバーと比べてもこの二人が抜きん出ているのは明らかだった。

 

「天沢さんが相手ですか。厳しい勝負になりそうです」

 

「わたしが負けるわけないじゃん」

 

決勝の笛がなる。反射速度に大きな違いはなかったが砂浜を蹴る脚力は天沢のほうが圧倒的だ。結果、女子の部は余裕をもって天沢が勝利した。

 

「八幡さーん。見てくれました?あ…あれっ…?」

 

「八幡からの伝言だ。「次のエリアまで時間に余裕ないから先に行くわ。別においつかんでいいぞ」だそうだ」

 

「ふふふっ。挑戦だよね?直ぐに追いついてみせます!」

 

そう言って天沢はさっさと着替えて八幡を追いかけていった。

 

「なんか八幡達楽しそうだな」

 

「そうですね」

 

次の指定エリア【J5】に到着し、1点を得ることができた。すぐに天沢が追いついてきたが…ビーチフラッグのあとに全力で走ってきて余裕があるって凄くね。

 

次の指定エリア【H5】にも難なく辿りつく事ができ、『到着ボーナス』を獲得。次のエリア指定まで時間がある為、休息をとりつつ参加できる『課題』を探す事にした。

 

「天沢。お前なら次どうする?」

 

「『歴史』の学力テストまで全力疾走?」

 

「それでいく。いくぞ」

 

「はあ…はあ…受付けできますか?」

 

「できます。7組目ですね」

 

俺と天沢で8組の定員が埋まる。

 

「受付は!?」

 

「残念ですが終了しました」

 

「ちっ。間に合わなかったか…。おお、比企谷。久しぶりだな」

 

Aクラスの橋本が俺に気づいたのか声をかけてきた。

 

「暑いし汗かくし、挙げ句に間に合ってないし…最悪……!」

 

「まあ、そう言うなって真澄ちゃん。二宮も来たし、次だな次。またな。比企谷」

 

「比企谷さん。一言も喋ってないよ?」

 

『歴史』の結果だが、1位100点天沢。2位90点比企谷。3位80点3年生グループで終わる。

 

この『課題』に参加する為、全力で走ったので、次の指定エリアが発表されるまで休息をとる事にした。

 

「俺はここで休んでいる。余裕があるなら周りの『課題』にいってきてもいいぞ。少なくても次のエリアが発表されるまでは動く気はないから安心しろ」

 

「う〜ん…じぁあご飯か水もらえるのまわってくるよー」

 

次の指定エリアは【I4】。天沢も時間通り戻ってきたので出発する事にした。

 

「道外れてない?もっと東だよね?」

 

天沢が言う通り今俺は【H4】の中央を目指している。先程、清隆に会った時にもらった情報が理由だ。

 

「ソロのよしみだ。ひとつ情報をやろう。『競争』だが発生する場所と時間に規則性がある。次は…」

 

「水は貴重だからな。助かる」

 

「八幡に脱落されるのはオレにとっても痛いからな」

……

 

「お前は清隆の事どれくらい知っている?」

 

「綾小路先輩?う〜ん、八幡さん以上かな」

 

「そうか。さっき清隆に聞いたんだが『競争』の発生にはパターンがあるらしい。そろそろ【H4】で実施されるはずだ」

 

「ふ〜ん。綾小路先輩がね〜。

 ねえねえ綾小路先輩の事教えてあげよっか?」

 

「完璧超人だろ?それ以外必要か?」

 

「はははっ。やっぱり良いよ〜。八幡さん♪」

 

目的の場所に近づくと坂上先生が設営に勤しんでいた。

 

「ではこれより『課題』の参加を受け付ける。ここは着順によって水を得る課題『競争』だ。1番の比企谷は2リットルと3点、2番の天沢は1.5リットルと2点が与えられる」

 

「ラッキーだったね〜」

 

「そうだな」

 

今日最後の指定エリアである【I5】に到着した。流石に『着順報酬』はなく1点が加算されるのみだった。その後、俺達はキャンプする場所を求め、川辺に移動した。

 

「じゃあ天沢は魚取ってきてくれ」

 

「道具ないじゃん」

 

「手づかみでいけるだろ?」

 

「わたしをなんだと思っているの?」

 

「できないのか?」

 

「できるけど…」

 

……

 

3日目終了時

 

比企谷八幡 55点 ※『歴史』2位3点

綾小路清隆 ??点 小宮達襲撃事件遭遇。天沢なし




なにげに神室初登場!


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無人島サバイバル⑤ 4日目〜7日目

特別試験4日目。この日はこれまで同様特に問題はなく1日を終えた。天沢が食料を確保し、俺が料理をするというルーティンが確立しつつある。

……

4日目終了時

 

比企谷八幡 69点

綾小路清隆 52点 出発地点に移動中

……

 

無人島での生活が5日目を迎えたその日、私は1年グループの1人と会っていた。私は密かに託されていたトランシーバーから連絡をうけ、意図的にある1年生と接触を図った。

なお、これまで八幡からの連絡は一切ない。当然、他のクラスメイトからの情報で天沢と共に行動している事は把握済みだ。

 

「今朝トランシーバーで受けた報告なんだけど説明してくれるかな?八神くん」

 

「ご足労頂きまして、ありがとうございます」

 

「そんなことはいいの。

 私は説明してってお願いしてるんだけどな」

 

「想定外のことはつきものですよ。櫛田先輩」

 

他人事のようなふざけた物言いだ。

 

「なにが想定外よ。あなたのせいで1年生に私の過去知られたって事だよね」

 

「その事については謝罪します」

 

はあ…。もう少し使えるやつかと思ったんだけどな〜。もう要らない♪

 

「うん。わかったよ。4月の特別試験では八神くんには助けてもらったからね〜。これで貸し借りチャラ。協力関係も解消って事でいいかなっ」

 

「なっ…綾小路先輩の退学については…」

 

「私、別にきよぽんに退学して欲しいと思ってないけど?」

 

「…僕はあなたの過去を知っています。協力頂くには十分な理由になるのでは?」

 

「いやいやいや。もう、しゃべっちゃたよね?秘密は誰にも言わないから価値があるんだよっ」

 

「ちっ」

 

八神はそう言うと何か行動に移そうとする。

 

「いろは」

 

後ろで控えていたいろはがやって来る。

 

「はーい」

 

「貴方がた二人で僕に敵うとでも?」

 

「いや。全く」

 

「全然」

 

「でも、二人同時に相手できるかな?いろはと私、どちらかが八神くんに襲われたって訴えたらどうなるかな?想定外の事が想定できないようじゃきよぽんに勝てないと思うなー。じゃっ、今日の事は黙っといてあ・げ・る・ね。あっ。本当に1年生に話しちゃったら、その時は覚悟しててね〜。ばいばい、八神くん」

 

そう言って私達はその場を立ち去った。

 

「なに勝手に巻き込んでくれてるんですか、完全に八神くんないしはBクラスと対立関係になりますよね。先輩と待ち合わせって聞いたから行ったのに嘘ですか?嘘なんですよね」

 

「助かったよ〜、いろは。知ってると思うけど、試験始まって天沢ちゃんと八幡ずっと一緒らしいよ?」

 

「えっ!?」

 

「同じグループなのに知らないんだ〜」

 

「kwsk」

 

……

5日目終了時

 

比企谷八幡 86点

綾小路清隆 ??点 龍園・坂柳と会談

……

 

特別試験6日目。1回目の移動先は【B6】。一直線に南下して1位を獲得。やはり朝は周りの動きが遅いようだ。無人島での生活が始まって丸5日。疲れもでてくる時期だろう。

 

「はちま〜ん。何位だったのぉ?」

 

「1位だな。というか、なんで呼び捨てになった」

 

「こっちのほうがわたしっぽいじゃん」

 

「ツッコむのも面倒だ。いくぞ」

 

その後の2回目が【A5】。近場であったが『到着ボーナス』のみだった。そして、午後1時。本日3か所目の指定エリアは【C3】。

 

「山越えしなきゃすっごく遠いね〜。どうする?」

 

「無理はせん。『競争』に参加しつつ迂回ルートでいくぞ」

 

「は〜い」

 

……

6日目終了時

 

比企谷八幡 103点

綾小路清隆 67点 ルート復帰

……

 

7日目の朝がきた。指定ルートの到着を優先に進めてきたが下位5グループとはそれなりに点差が離れている。これからグループ合流も可能性としてある為、決して安心はできないが方針はこのままでいいだろう。この数日、俺と同様早起きを続けてきた天沢だったが、今日は時間ぎりぎりにテントから出てきた。

 

「いつも早いねっ」

 

「ああ、今後の方針だが、このまま水を確保しつつ指定エリアを目指す。お前はどうするんだ」

 

「……あっ。ごめんごめん。

 もちろん一緒にいくよ〜」

 

昨日までの6日間は天候に恵まれたが、今日からは状況が大きく変わってくる。灰色の厚い雲が空を覆い今にも雨が降り出しそうだ。天気が崩れるまでに最初の指定エリアまでは進んでおきたい。俺達はいつもどおり朝7時に移動を開始する。

 

指定された【C3】と近場だ。タブレットを閉じようとしたところでメッセージが届いていることに気付く。

 

『天候の状況次第では基本移動、課題を休止する可能性がでて参りました。定期的にタブレットを確認して下さい』

 

どうやらこの天候に学校側も判断を迫られているようだ。

 

「おい。今日明日で雨が降る可能性は高いと思うか?」

 

「高いんじゃない?」

 

「……移動はできるだけ急ぐぞ。雨が降り出したらその時点で今日の活動は終了だ」

 

「ペナルティどうすんの?ソロだと痛くない?」

 

「構わん。雨の中、強行するやつは一握りだ。ポイントの差は開かんだろう。それより雨で体力を消耗するほうが問題だ」

 

「りょ〜か〜い。わたしはついて行くだけだしね」

 

今日の天沢はおかしい。歩くペースなどに変化はないが時より物思いにふけっている。何か気がかりの事があるのか…

 

【C3】に到着した俺は『着順報酬』10ポイントを獲得。近場の『課題』を確認したが、天候の兼ね合いもあってか昨日よりも出現する数が少なく参加できそうな場所はなかった。結局余った1時間半ほどの時間を休息にあてる。午前9時、本日2度目の移動となる新しいランダム指摘エリアは【E2】。ランダム指定であることを思えばかなり近いエリアが選ばれた。

 

「山越え?迂回?迂回だよね?」

 

「そうだな。今日は【E2】に到着したらそこでテントをはる。だから、行ってきていいぞ」

 

「えっ?」

 

「このままついてこられても迷惑だ。気がかかりな事があるなら、とっとと解決してこい」

 

「ふ〜ん。ちゃ〜んと見てくれてるんだっ。

 じゃあ、これもよろしくね〜」

 

そう言って天沢はバックパックを押し付けてくる。

 

「はいはい」

 

「中身、見てもらっても全然おっけいだよっ」

 

「誰が見るか」

 

そういって天沢は駆けていった。荷物は増えたが仕方ない。約束どおり【E2】で待たないとな。

 

……

7日目終了時

 

比企谷八幡 115点

綾小路清隆 78点 七瀬撃退&懐柔。天沢登場



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ニ年生編 4巻
無人島サバイバル⑥ 7日目夜〜11目


その日の夜、ずぶ濡れの状態で天沢が戻ってきた。

 

「はちま〜ん。ここにいたんだ。探したんだからね〜」

 

こちらに近づいてくる天沢だが足元が覚束ない。雨の中での移動で体力を消耗しただけというわけではなさそうだ。こちらに向かってくるが、一瞬天沢の姿がぶれた。俺は慌てて天沢に近づくと体を支えるかたちになった。

 

「ちょっと疲れちゃた」

 

「天沢のテントはたててある。

 さっさと着替えて今日はゆっくり休め」

 

「え〜。一緒のテントでよかったのにー。

 着替え手伝ってくれないの〜」

 

「ここに置いてくぞ」

 

「それならそれで♪」

 

「そのへんにしとけ。余裕ないんだろ」

 

「はちまんは誤魔化せないんだね…」

 

天沢をテントにつれていき、俺も今日は休むことにした。

 

……

次の日、大雨が続く中、学校からメールが届く。予測できたことだが、今日の試験は中止となった。基本移動と『課題』が無くなれば、その分逆転が難しくなるが泣き寝入りしないで済むよう補填方法も検討中との事だ。天候の回復が見えないことには、学校も補填内容を確定させられないって事だろう。無人島での生活が始まってちょうど折返しのタイミング。昨日少し無理をしたこともあり、俺にとっては恵みの雨だった。天沢にもいい休息になるはずだ。

 

試験が中止になった事で各グループは状況の再確認と戦略の練り直しができる時間が生まれた。タブレットに表示される上位下位それぞれの10グループ。

 

「はぁ〜。目立たないんじゃなかったの?」

「なにやってんですか。先輩。バカですか」

「ふふっ。思ったより面白い人のようですね」

「にゃー。ソロで神崎君達より上だよっ」

「クククッ」

「確かにアドバイスはしたが…」

 

『上位10組一覧』

 

2年比企谷グループ 115点 9位

 

 

「はちま〜ん。入るよ〜」

 

「せめて確認しろ」

 

「一人じゃ暇じゃない」

 

「一人のほうがいいんだが…」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「何も聞かないんだね」

 

「天沢にとっては必要だったんだろ」

 

「ねぇーはちまんだったら、

 自分の使命と感情どっちをとる?」

 

「そもそも使命を背おわんが?」

 

「た・と・え・ば」

 

「なにが聞きたいか知らんが義理は果たせ。それ以外の事は好きにしたらいいんじゃないか?困ったら桔梗といろはに頼ればいい。あの二人ならなんとかするだろ。知らんけど」

 

「ははっ。はちまんは助けてくれないの?」

 

「できる事しかやらん」

 

「じゃあ出来ることをお願いするねー」

……

明け方近くまで振り続けた大雨は、生徒たちに大きな不安の影を落とした。しかし、朝6時を迎える頃には嘘のように消え去り、一昨日までのような晴天を取り戻し空は青で塗り尽くされた。

 

「準備できたよー」

 

「これからどうするんだ」

 

「え〜とー。もう暫くは一緒にね」

 

「分かった」

 

今日最初の目的地である【E3】に到着。1点を獲得した。タブレットで『課題』を確認するが今から参加できるものはなさそうだ。俺達は次の指定エリアが発表されるまで休息を取ることにした。午前9時、次に指定されたエリアは【E6】。少し距離はあるがランダムエリアとしては近いほうだ。なぜか俺は上位10グループに含まれていた。これからは無理をするより確実に点を積み重ねていく事にする。できれば上位10グループからは名前を消したい所だ。

 

……

8日目終了時

 

比企谷八幡 124点

綾小路清隆 96点 七瀬と別行動開始。堀北と出会う

……

9日目〜11目のハイライト

 

9日目 比企谷八幡 130点 指定エリア踏破中

    綾小路清隆 112点 伊吹と水・干し肉交換

 

10日目 比企谷八幡 142点

ときおり他学年の邪魔がはいるが天沢が蹴散らす。気分は水戸黄門

     綾小路清隆 1??点

白波救出。坂柳との連絡手段確保

 

11日目 比企谷八幡 172点

高円寺と3年生の鬼ごっこを目撃するが華麗にスルー。

     綾小路清隆 1??点

ひより・石崎達に遭遇。七瀬より1年生襲撃の密告あり

……

 

無人島サバイバル終盤12日目。1年生2年生3年生それぞれの思惑が入り混じった戦いが始まろうとしていた。

 



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無人島サバイバル⑦ 12日目〜結果発表

12日目の試験が始まる。非常に残念な状況であるが変わらず俺は上位をキープしていた。想定以上に上位陣の点が伸びてこないのだ。本日最初の指定エリアは【H10】。

 

「そろそろ出発するぞ」

 

「ワン♪」

 

「…………」

 

「その目で蔑まれるのもキライじゃないかも…」

 

この子はホントにどうしてこうなった…。

 

本日の指定エリアも無事まわり終え、夕食の準備をしていると、これまで沈黙していたトランシーバーから声が聴こえてきた。

 

『あ〜やっと繋がったよ〜』

 

聞こえてきた声は桔梗のものだ。

 

『は〜ち〜ま〜ん〜。

 今まで連絡なしってどういう事かなぁ〜』

 

「特に何も問題なかったからな…」

 

『それでもだよっ。定期な報告、報連相は社会人として基本だよ?』

 

「その社会人になりたくないのだが…」

 

『ずっっと天沢と一緒だよね?それも連絡不要かな?』

 

あっ。忘れてた。。。

 

「な…なんで、」

 

『須藤くんとか他のクラスメイトから聞いたよ〜。あと、GPSサーチすれば、すぐわかるよねっ』

 

あっ。忘れてた…。

 

「それより…今日は何のようだ?」

 

『誤魔化そうとしてる?まあ今の所はいっか。おそらくだけど明日1年が連合組んできよぽんと対決すると思うんだ。そうなったら私達も坂柳さんに協力することにしたんだよ』

 

「荒事だろ?俺にできる事なんかないぞ」

 

『八幡には期待してないよっ。

 単刀直入に言うけど天沢貸して』

 

「相手は1年だろ?天沢が動くと問題にならんか」

 

『そのへんは上手くやる。それに天沢ちゃんがそんな事気にすると思う?』

 

「桔梗先輩の言う通りぜ〜んぜん」

 

『という事でお願いできるかな?』

 

「高円寺と3年生の鬼ごっこはまだ続いてんのか?」

 

『まだまだ続きそうだね』

 

「分かった。このトランシーバーも天沢に渡すぞ」

 

『りょ!じゃあ、あと2日。そこそこにね』

 

桔梗はそう言うとトランシーバーの通信は切れた。

 

「聞いてただろ。悪いが頼まれてくれるか?」

 

「綾小路先輩の為だからねー。わたしとしてもケジメにできそうだし。これで無人島試験では、はちまんとお別れかなっ?」

 

「そうなるな」

 

「じゃー。船内に戻ったらあそぼーね〜」

 

こうして、天沢とはここで別れる事になった。無人島試験も残す所2日。リタイアさえしなければ下位グループに落ちる事はないだろう。俺は明日以降の戦略を考えつつその日は休む事にする。

……

12日目 比企谷八幡 184点

     綾小路清隆 1??点

……

13日目。朝7時を迎え指定エリア【C3】が発表される。桔梗の情報ではおそらく1年生と2年生とでなにかしらの衝突がある。また、3年生と高円寺の鬼ごっこも継続中だ。今日から上位下位グループの発表もなくなった。退学を回避する為、安全策をとるなら、この場で腕時計を壊し2日間潜伏するだけでいいが…悩ましいな。

 

ふぅ。覚悟を決めるか。仮にリタイアになっても救済分のポイントはある。おそらく今日1日主要なグループはポイントの獲得には積極的には動けないはずだ。また、明日はポイントが2倍になる為、体力を温存するグループも多い事を考えると今日が勝負の1日になる。ペナルティを覚悟しても『課題』を優先して狙う価値はあるだろう。そうと決めたら、すぐに行動を開始する。タブレットを確認しながら近場の『課題』に片っ端から挑戦していった。

……

12日目 比企谷八幡 2??点

     綾小路清隆 119点

1年包囲網突破。宝泉・龍園退場。バトルモード継続中

椿が単独グループの襲撃を止めた事で八幡生還の可能性UP

……

「どこへ行くの?」

 

「どこ?うーん、とりあえず指定エリアかなー。一応特別試験はやらないとさ。あ、そうだ。綾小路先輩を追いかける必要はもうないと思うけど?」

 

「……どうして?」

 

「もう全てが終わったってこと。

 嘘だと思うなら行ってみれば?」

 

わたしはそう言って今まで戦っていた堀北・伊吹の横をすり抜ける。それからしばらく歩いた後で地面に仰向けに横になった。

 

「あ〜疲れた…」

 

そのまま少しの時間が経つと、不意に顔をのぞき込まれ、一昨日までずっと聞いていた声が聞こえてくる。

 

「おーい。生きてるか〜」

 

「なっ…はっ…はちまん。どうしてこんにゃとこに」

 

焦った私は思いきり噛んでしまう。

 

「なんだ猫か」

 

「な〜」

 

「おいっ。何でそれを知ってる」

 

「なんで?ここに?そんなにボロボロ?」

 

「片言になってるぞ。ただ、指定エリアに向ってるだけだ。昨日ちょっと無理をした。それに最終日だからな。極力人に会わんようにしてる。それより義理は果たせたのか?」

 

「うん…」

 

「そっか。あと一踏ん張りだ。いけるか?」

 

「もちろん♪」

…………

長い長い2週間にも及ぶ無人島試験が終了した。スタート地点での設営地では教員たちが労うように生徒を迎え入れた。そして、夕方の6時過ぎ、参加中の生徒が全員戻った事を受けて船内へと引き上げる作業が完了した連絡がはいる。

 

7時の夕食時間になると、自然と2年Cクラスのメンバーは集まり始め、同じ場所での食事が始まる。なお、八幡は啓誠や明人に無理やり連れてこられたようだが、席につくなり熟睡しだした。ひとりで2週間の無人島生活は相当負担が大きかったのは想像に難しくない。オレ個人としては、12日目まで上位にいたので、少し八幡の順位が楽しみでもあった。

 

「まずは…僕たち2年Cクラスのどのグループも欠けることなく特別試験を終えることができたのは、とても良かった事だと思う。そして、この場にCクラスの生徒全員がいるということは、退学を避けられたという重要な要素だ。本当に良かったよ」

 

クラスメイトを見渡し、平田はただただそのことを本心から口にする。2週間ぶりの豪勢な食事に舌鼓を打つ生徒たちだが、楽しんでばかりもいられない。教員たちが集まり始めると、午後8時の合図とともにマイクがオンになる。なお、八幡が起きる気配はない。

 

「一時食事会話を中断して下さい」

 

そんなアナウンスのあとに教員から労いの言葉と下位5グループが発表される。下位5グループは全て3年生のグループだ。結果15名の退学者が出る事になった。

 

巨大スクリーンに電源がはいり、白い映像が映し出されたところでもう一人出て来る。

 

「では、これから無人島特別試験の結果、上位3組の発表を行います」

 

月城理事長代理だ。

 

『第1位 2年Cクラス高円寺六助。327点』

 

「本当にやり遂げてしまったのね。高円寺くんは」

 

高円寺は一度だけ視線を堀北に向け、分かっているね?と問いかけをする。これには堀北も頷いて答えるしかないだろう。

 

「全く…素直に喜べないというか、呆れてものも言えないわね…」

 

「今は喜んでいいんじゃないか?単独で300ポイントを得たのはAクラスに上がるためには極めて大きなポイントだ。Bクラスへの昇格も確定したんだからな」

 

「ええ、そうね。これで私達は一気に上に詰め寄ることになるのよね」

 

『第2位 3年Aクラス南雲雅グループ。325点』

 

2位は南雲会長のグループとなる。

 

『第3位……』

 

はははははっ。この結果には正直驚かせられた。となりで堀北は唖然としている。また、坂柳のほうに目をむけると無表情を装っているが悔しさが滲みでている。当の本人は起きる気配がないが完全に目をつけられたな。

 

『第3位 2年Cクラス比企谷八幡。268点』




やっと…無人島サバイバル終わりました…。結果は最後まで悩んだんですが、あれっ?普通に勝てんじゃね?という事で、八幡はラスト2日間馬車馬のように働いております。書き出した当初は腕時計壊して潜伏する予定だったのですが
次の試験はあれですね。。。桔梗ちゃんが動く理由がないので原作通りにはならないと思いますが


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ニ年生編 4.5巻
夏休み① 八幡くんと有栖ちゃん


豪華客船は優雅に大海原を航行し、これから暫くの間学生達に夏休みを提供する。無人島特別試験が終了した翌日8月4日の朝になった。今日から8月10日いっぱいまでの7日間、学生達は豪華客船での休日を過ごす。そんな待ちに待った初日、俺は何をしているのかというと……

 

「もう働きたくない…」

 

客室のベッドに横になっている。昨日、無人島試験終了後、眠りこけてしまった俺は睡魔はないものの体を動かす気には全くならなかった。携帯?もちろん電源はオフだ。目覚めた時に啓誠に聞いたのが、どうやら俺の試験結果は3位。1人で100クラスポイントを稼いだ事になる。もう、卒業までのクラス貢献は果たしたのではないだろうか?今日・明日はゆっくりと体を休める事にした。

 

8月6日。携帯の電源を入れると桔梗・いろは・天沢から連絡が入っていた。よし、見なかった事にしよう。3日ぶりに本格的に体を動かしたので、体のいたる所がダルい。午前中はリハビリを兼ねて船内を散策する事にした。午後になると清隆から連絡がはいる。

 

『午後3時、遊戯室で久々にチェスをしないか?』

 

頭のほうもリハビリは必要だろう。俺は了承の意を返信した。

……

 

午後3時になり遊戯室を訪れると思いもよらない生徒達がそこにいた。清隆はいない。そんな状況の中で清隆からメールがくる。

 

『関係者集めといた。あとはまかせた!』

 

よしっ。俺はここには来なかった。帰ろう。

 

「わざわざご足労頂き、ありがとうございます」

「今日まで何してたのかなっ?八幡?」

「やっほ〜」

 

あいつ今度どうしてやろうか…。そこにはAクラスの坂柳と橋本、あとは知らない生徒2名、桔梗、いろは、天沢が勢揃いしていた。

 

「さあ、こちらへどうぞ。一度、比企谷くんとはゆっくりとお話したいと思いまして、綾小路くんにセッティングをお願いしたのです。お呼びしていない方もいらっしゃいますが」

 

「私たちもきよぽんに呼ばれたんだけどな〜。坂柳さんがいるとは聞いてなかったよっ」

 

「まあ、いいでしょう。色々お伺いしたい事もあります。折角の遊戯室ですのでチェスをしながら話ませんか」

 

「あれ?先輩チェスなんてやってましたっけ」

「はちまん、チェスできるの〜」

 

「ふふっ、私は一度比企谷くんにチェスで負けているんですよ」

 

「「「えっ!?」」」

 

「あれは清隆の実力だろ」

 

「あらあら。誰が対戦者だったかお忘れですか?終盤、綾小路くんは指示を止めていました。ほぼ、互角の盤面から私に勝ちきった。それは紛れもなく事実ですよ」

 

「??」

 

「そうですね。1年生のおふたかたは知りませんでしたね。では、少し説明させて頂きましょう。櫛田さんと比企谷くんが所属するクラスはこの無人島試験でBクラスとなり、私達Aクラスに肉薄してますが、去年の5月のクラスポイントはどれくらいでしたでしょうか?」

 

「はあ…ゼロだな」

「ゼロだね」

 

「「え?」」

 

――――――――――――――――――――

無人島試験後のクラスポイント

 

Aクラス 1021ポイント ※坂柳

Bクラス 925ポイント

Cクラス 590ポイント ※一之瀬

Dクラス 468ポイント ※龍園

――――――――――――――――――――

 

「比企谷くんのクラスは1年と少しで900ポイント以上獲得している事になります。私は綾小路くんのおかげだとこれまで考えていたのですが、どうやらあなたも見逃していてはいけない存在と今は考えています」

 

「かいかぶりだ」

 

「そうですか?今回の無人島試験、Aクラスは櫛田さんと龍園くんに『借り』を作っただけで終わりました。あなたのせいでマイナスです」

 

「嘘だな」

 

「というと?」

 

「坂柳が無料で清隆に手を貸すわけないだろ」

 

「あら?女心は不思議なものですよ」

 

「だからこそだ」

 

「ふふっ、思っていたよりも上方修正が必要なようですね。でも、今はあなたとチェスを楽しむ事にしましょう。先手はお譲りします」

 

 

「ねえねえ、いろは。2人何やってるかわかる」

「さっぱり分かりません。なんですか今まで秘密にしてた特技を披露して女心を弄ぶ気ですか、正直チェスをやっている先輩カッコいいですが、ごめんなさい。こんな大勢の前では無理です」

「2人ともつよーい。私でもアブない?」

 

「当然です。綾小路くんの一番弟子ですから。比企谷くん、特別試験の序盤手を抜いてましたね。ふふっ。あなたの打ち筋は私に似たものがありますね」

 

「こんなに楽しそうにチェスしてるお嬢初めて見るな」

「あの子普通に笑えるのね」

「……」

 

「非常に楽しい時間でしたが、ここまでですね」

 

「ああ、俺の負けだな」

 

「本当はもっとお話するつもりでしたが、ついつい集中してしまいました。ですが、多くの会話を交わすより、この一戦のほうがあなたを知る事ができたように思います。また、相手して下さいますでしょうか?」

 

「できればお断りしたいのだが?」

 

「あら、既に比企谷くんが綾小路くんと対戦している時間の半分を譲り受けているのですが、どうしましょうか」

 

「……分かった。その時は連絡をくれ」

 

「綾小路くんより私のほうが比企谷くんにとっては良い師匠になれるでしょう。これからもよろしくお願いしますね」

 

清隆と坂柳は俺をどうしたいんだ。




ようやく5巻まで読み直しが終わりました。最初考えていた流れはどうやら破綻していたようで、考え直してます。
うん。桔梗ちゃんが追い詰められてないと次の特別試験どうにもならない…。


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夏休み② プライベートプール

豪華客船での夏休み生活は、早くも折り返しを過ぎた。

 

水着に着替え扉を開けた先、俺の視界には誰もいない大きなプールが目に飛び込んだ。この豪華客船には無料で誰もが利用できる大型のプール施設があるが、他にもう一つプールが備付けられている。それがプライベートプールと呼ばれる、所謂貸し切りにして楽しむことができるプールだ。

 

「うお、でかいな!」

 

清隆に遅れてプールサイドに姿をみせた明人が興奮気味に言う。

 

「啓誠は?」

 

「トイレを済ませてから行くってよ。女子はさすがにまだまだだな。」

 

そんな話をしていると更衣室へと繋がる扉が少しだけ開かれた。俺達はほぼ同時に振り返るが、そこから人影が出て来る様子もない。その代わりに、話し声が耳に届く。

 

「ちょっと愛理何してんの?早く行きなって」

 

「でででで、でもでも!恥ずかしいよ波瑠加ちゃん!」

 

女子2人の会話は続く。

 

「なんて言うか、見えない良さってあるよな」

 

意外にもそんな事を言う明人。

 

「まあ、そうだな」

 

「女子が聞いたらバカだのなんだの言うだろうけどな」

 

「いつまで経ってもバカでいられるのが男の特権じゃないのか」

 

そんな話をしているのだが女子2人は言いあっているようで、なかなか出てこない。

 

「恥ずかしいよぉ」

 

「あのね!こっちだって同じ気持ちなんだから!」

 

「きゃああっ!」

 

半開きだった扉が勢いよく開いた。そして前のめりに愛理が飛び出してくる。

 

「お、押すなんて酷いよ波瑠加ちゃん!」

 

「あんたがさっさとでないからでしょっ」

 

そういって愛理の登場後すぐに波瑠加も姿をみせた。

 

「お、おいおい…」

 

愕然とした様子を見せる明人と清隆。なるほど普段の2人では想像できない大胆な水着を着ている。

なにか気になった事があるのか明人が言った。

 

「愛理は随分と印象が違うよな?」

 

「そうか?プールなんだ。メガネを外すのは当たり前だろ?」

 

「…………」

 

あれっ?俺おかしな事言ったか?

 

「いやいやいや。明らかに垢抜けた感じだろ?」

 

「ハチ君…なんと言うか流石だね…」

 

「…ちょっと泳いでくる」

 

明人は少し冷静になるためかプールへ飛び込んだ。

 

「ほらほらきよぽん、生まれ変わった愛理はどう?」

 

そう言って愛理を前に押し出した。

 

「わ、ぁっ……。わ、私もプールの中入ろっかなっ!」

 

「ちょっと愛理っ……」

 

「じゃあ、オレもいってくる」

 

そう言って清隆もプールに飛び込んだ。

 

「一応言っとくけれど、このとんでもない水着選んだの愛理なんだからね?」

 

【小町の教え③

 女の子が普段と違う格好をした時はとにかく褒めるべし】

 

「二人ともよく似合ってるな。正直見違えた」

 

「いや〜直球でそう言われると…これはなんと言うか、愛理に付き合ってあげてるって形?」

 

「どういうことだ?」

 

「あの子も必死で変わろうとしてるってこと。それに私だって。自分で言うのもなんだけどさ……ちょっと他の子より目立つところってあるじゃない?気にしなきゃいいった分かっていても、視線が不愉快って言うか。あの子に勇気つけさせるためにちょっと大胆な水着を選んだら、私も着るならいいよって返してきてさ。こっちも愛理改造計画の初手で躓くわけにもいかないからね。意地ってやつよ。それに私も愛理も、向こうのプールじゃこんなの着られないけど、こっちならね」

 

仲のよい男子4人だからこそ、何とか実現にこぎつけたってことのようだ。

 

「…見ちゃう?」

 

「考え方次第じゃないか?波瑠加も愛理も容姿やスタイルは一般的な女子より優れているのは事実だ。異性から見られる事で優越感を持つのか嫌悪感を持つのかは本人の捉え方次第だろ。もちろん気持ちのいいものではないんだろうけどな」

 

まあ、この手の事は散々桔梗に愚痴られている。

 

「私も自意識過剰過ぎるって分かってるんだから。好き好んで見てるわけじゃないことくらいは分かるし。目立つものがあれば視線を集める。何だってそうなのよね。ただ、それが自分だって思うとどうしても良い気分にはなれなくってさ」

 

「波瑠加の場合、人より優れているという事をもっと認識するべきだ。確かに好奇や嫉妬の視線もあるんだろうが、決して悪意や嫌悪のものではないからな」

 

「もしかして、口説いてる?」

 

「なぜそうなる?」

 

「やっぱハチ君って、他の男子より聖人みたいな所があるよね」

 

「??」

 

「表情とか、視線とか、そういうのが他の男子より極端に少ない感じする」

 

俺もれっきとした高2男子だ。人並みに興味はある。ただ、こういうのは正直慣れだと思う。桔梗はいつも俺の部屋ではこんな感じである。

 

 

【挿絵表示】

 

 

嫌でも自制心は養われる。

 

「うお…」

 

遅れてきた啓誠が姿をみせるなり、驚いた声をあげる。全く免疫のない男子のモデルケースだ。

 

「オッスオッス」

 

平常心を保つためか、波瑠加はとぼけた顔と声を出して啓誠に挨拶する。

 

「お、おう……」

 

「さて……俺もちょっと泳ぐかな」

 

一律男子の反応と逃げ方が同じなのがまた、このグループらしさを表している。

 

「愛理だがメガネ外して髪型変えただけだろ?そんなに驚くもんか?」

 

「うん。ハチ君だけはそれを言ったら駄目だね」

 

「??」

 

「ハチ君はハチ君だね」

 

「まあいい。愛理が変わろうとしてるのは清隆のためだろ?」

 

「まぁ…ずっと一緒にいれば分かるよね…」

 

「近い将来きっと精神的にショックを受ける。その時は波瑠加。愛理を支えてやってくれ」

 

「どういう事?」

 

「ただの勘だ」

 

「…分かった。その時がきたらね。で?で?ハチ君はきょーちゃんとはどこまで進んだの?」

 

「何の事を言ってるんだ?」

 

「…………」




頂いた支援画像を組み込んでみました。


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夏休み③ 八幡くんとチエちゃん

既にほとんどの生徒たちが寝静まっているであろう深夜2時過ぎ。本来なら大人だけが利用できる夜のバーラウンジに俺は呼び出された。あの酔いどれ天使。生徒が夜間の外出を禁じられてるの知ってるだろうが。断ってもよかったんだがな…。無駄な努力とは分かっているがメガネ&ヘアセットスタイルで現地に赴いた。そこで待っているのは一之瀬クラスの担任である星乃宮先生だ。

 

「お待たせしましたか?お嬢さん」

 

「はあ?何っ。ナンパならお断りだけどっ」

 

「自分で呼び出したんでしょうが。お呼びでないなら帰ります」

 

「え〜八幡くんなの〜。メガネと髪型で随分変わるもんね〜。その格好なら女の子手当たり次第だよ〜」

 

「何言ってんッスか。それに夜間の外出は禁止されてるの知ってるでしょ。大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫大丈夫っ。教師の見回りは0時までだしね〜。それにこんな時間まで働いてる人なんていないよ〜。っていうか0時まで働かされるってひどくない?」

 

「全くですね。ますます社会にでるのイヤになりました。で、今日はなんですか?」

 

「久々に思っいっきり飲みたい気分なの〜。真嶋くんもサエちゃんも帰っちゃった。1人じゃ淋しいじゃない?」

 

いやいや、いつも思いっきり飲んでないか?

 

「どうせ先生がダルがらみしたんでしょ。はあ…少しだけですよ」

 

「はちま〜ん優しっ」

 

基本的に星乃宮先生はお酒が強い。酔ってるようにみせている時が多いが、今日みたいに本当に酔いがまわっているのはレアだ。何かあったんだな。

 

「じゃあ、マックスコーヒーを」

 

「はははっ。ないよ〜」

 

「ですよね。じゃあ、ペリエをお願いします」

 

「へ〜よく知ってるね〜」

 

「たまたまです。響きがなんかかっこいいじゃないですか」

 

「でわー。八幡くんの3位に乾杯?」

 

「上位陣が勝手に足の引っ張り合いしてくれただけです」

 

「謙遜しちゃって〜。ホントかわいいなぁ。でも、高円寺くんと八幡くんのおかげでAクラスも手の届く所にいる。やっぱりあの時無理やりにでも引き抜くべきだったかな〜。平田、櫛田、堀北、高円寺に綾小路と比企谷…ちょっとズルくない?」

 

「結果論です。去年の5月に同じ事言えました?」

 

「あの頃は全く眼中になかったね〜」

 

「それに一之瀬も頑張ってるじゃないですか」

 

「ここだけの話。八幡くんは私のクラスをどう見る?」

 

「前回の回答と変わりませんが…敢えて付け加えるならそうですね。クラス全体が一之瀬に依存しすぎです。俺は独裁者を否定はしませんがね。ただ、頭脳はいくらあっても困らない。一之瀬は入学早々に学級委員など役割を明確にしたのは共和制にしたかったんだと思うんですが、優秀過ぎたのが仇になってますね」

 

「相変わらず良く見てるね〜」

 

「桔梗の言葉を借りると「帆波ちゃん至上主義の教室」らしいですよ」

 

「はははははっ。上手い事言うね。八幡くんが言うとおり、いい子ばかりなんだけどね。そこ止まり。これから上位に上がるのは厳しいかな〜。もし、八幡くんがクラスにいればどうするかな?」

 

「退学しますね」

 

「ほえ?」

 

「あんな仲良しこよしのクラス耐えれません。…というのは半分冗談ですが、」

 

「半分は本気なんだね」

 

「一之瀬にも他のクラスメイトにも退学者が出たという現実を突きつけますね。それが一番効率的です。その為に犠牲になるなら構いません」

 

「なら、八幡くん引き抜けないね〜。私の看護してくれる人いなくなるのは困るし」

 

「本来、看護する側では?」

 

「ねぇ…。これから話すのはひとり言。もう少し付き合ってくれる?」

 

「ここまでくれば一緒です」

 

「私と佐枝と真嶋くんはこの学校の卒業生よ…」

 

それから彼女達の高校生活。そして、内容はふせられたが3年3学期に行われた特別試験。その顛末を語り出した。

 

「私達はどうすべきだったと思う?」

 

「ひとり言じゃなかったんですか?」

 

「細かい事はいいのっ」

 

「Aクラスになる為にクラスメイトを切り捨てようとした星乃宮先生。1人のクラスメイトの為にクラスを犠牲にした茶柱先生。どちらの選択も間違ってないと思います。間違ったのはそれからですよ」

 

「わかってる。本当はわかってるんだよね〜。私達の時計はあの時から止まったまま。八幡くん1つお願いがあるの」

 

星乃宮先生はお願いの内容を語る。

 

「なんの為にですか?」

 

「復讐♪あとは前に進むためかな〜」

 

「善処はします。『貸し』一つですよ。これまでだいぶ踏み倒されている気はしますが」

 

「何の事かな?まあ、無理強いはできないからね〜。さて、私の部屋で飲み直す?多少のアルコールは大目にみるよ〜」

 

「何言ってんすか、酔いどれ天使」

 

「そんな〜天使だなんて♪」

 

「褒めてないが?」

 

「ふふっ。ありがとねっ。八幡くん」



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二年生編 5巻
満場一致特別試験①


夏休みが明け今日から2年生2学期が始まる。3年間の学校生活と大きく見れば、間もなく折り返しを迎えるということでもある。茶柱先生が1学期と変わらぬ様子で口を開いた。

 

「この2学期は、お前たちにとって幾つか大きなイベントが控えている。まずは去年も行われた体育祭だ。10月に行われる学生たちの身体能力を試す試験になるだろう。去年と異なるルールもあるが、必要とされる能力に大きな違いがない。そして、11月には高度育成高等学校としては初の試みとなる文化祭の開催が決定した。詳細は体育祭同様改めて告知する。これも9月から並行して時間をとっていく。更にこのイベントの合間には、もちろん中間テストや期末テストも行われる。体育祭についてはまた後日詳しい説明をするとして、まずは文化祭から話をする。文化祭は大勢の来賓を迎え入れてのものになる。そして、お前たちは文化祭において全学年全クラスと売上の規模で勝負をしてもらう事になる。出し物は幾つでも申請可能だが、予算は限られている。詳しくはタブレットに目を通してもらおう」

 

【文化祭概要】

 

・2年生には各クラスに文化祭の準備のみで使用できるプライベートポイントが生徒1人に対して5000ポイント与えられ、その範囲内で自由に活用する事ができる

 

・生徒会奉仕などの社会貢献、部活動による貢献などで追加資金が与えられる

 

・1位〜4位のクラス:100クラスポイント

 5位〜8位のクラス:50クラスポイント

 9位〜12位のクラス:増減なし

 

その他、出店できる場所や条件の説明が付け加えられる。

 

「以上が文化祭の説明とルールだ。具体的な準備、設置期間は体育祭が終わった後からスタートするが、今日から話し合いをして催し物を何にするか、どのような予算配分にするか、どのような予算配分にするかは各自の時間を用いて行っていくように」

 

文化祭か、文実を思い出すな。今、思えば、いい思い出…と言うことは全くなく、ロクな事なかったな…。

 

俺達Bクラスはまず堀北か平田に催し物のプレゼンを行う。そして本採用の可能性が生まれれば話を先に進めるという流れで決着が着いた。

……

それから2週間ほど、俺たちの学校生活はいつも通り進んでいた。ある日の放課後、清隆から呼び出しがあり、特別棟の一室を訪れると堀北と清隆の二人が待っていた。

 

「まずはこれに目を通して」

 

堀北から企画書が渡される。考案者は佐藤、松下、みーちゃんの3人。内容はメイド喫茶とありふれたものだが、コンセプトや収支見込み等しっかりと考えられているのが一目で分かった。

 

「で、俺にどうしろと?」

 

「綾小路くんの推薦でね。あなたにこの企画の総合プロデュースを任せたいの。引き受けてもらえないかしら」

 

「分かった。引き受けよう」

 

「そうね。今までクラスに積極的に関わってこなかったあなたにまかせるのは大抜擢だわ。比企谷くんの意に沿わないかもしれないけど、今回はなんとか引き受けてもらえないかしら?」

 

「引き受けると言っているが…」

 

「えっ?」

 

「この企画なら俺は文化祭、学校で1位にしてみせる自信がある。俺のやり方に注文をつけない事。『クラス全員』が協力する事が前提だがな」

 

「クラス全員の協力を得るのは比企谷くんの仕事よ」

 

「ああ、それは構わない」

 

「企画に関して、最終チェックはさせてもらうわ。それ以外ではあなたのやり方に任せる。それでいいかしら?」

 

「了解した」

 

「現時点では、あくまで候補の一つよ。それは理解してもらえるかしら」

 

「あぁ。必ずこの企画通してみせる」

 

「いつになくやる気なのが不安だけど…」

 

佐藤達も良い企画を考えたものだ。接客に関しては桔梗に監修させればまず間違いないだろう。それにBクラスには隠し玉も多い。企画が被っても負けないだけの自信がある。メイド喫茶は材木座と1回行ったきりだが、その魅力はイヤというほど聞いた。俺が必ず東京一のメイド喫茶にしてみせる。



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満場一致特別試験② 修学旅行の行き先は?

満場一致試験の本番は1話にする予定でしたが長くなりましたので分割します。最終試験より長文になったかも…


次の日、教室に入ってきた茶柱先生の固い表情を見て、多くの生徒はすぐに異変に気付く。

 

「10月の体育祭の前に、おまえたちに新たな特別試験に挑んでもらう。素直に認めてしまえば、例年であればこの時期に特別試験が行われるケースは少ない。事実、1年生や3年生たちに特別試験が実施される事はないからな。おまえたちには今回『満場一致特別試験』に挑んでもらう。今回の特別試験は非常にシンプル。特別試験の実施日は明日、内容は名前からも察することが出来ると思うが、複数の選択肢の中から、満場一致になるまでクラス内で投票を繰り返し行ってもらうものだ」

 

それからいくつかの例題を受ける事になった。一見簡単なように思えるが、クラス39人の意見を一致させる事は並大抵ではないようだ。

……

お昼休み。今回の試験対策として、意見がわかれた際の主導役は堀北に、そして、清隆と軽井沢の交際が周知された。愛理はやはり大きなショックを受けているようだ。フォローは波瑠加にまかせるしかないだろう。

 

その日の夜、俺は桔梗を部屋に呼ぶ。桔梗から部屋にくる事は多いが、俺から部屋に招く事は始めてと言ってもいいだろう。

 

「珍しいねっ。八幡からお誘いなんて♪

 何かな?何かな?」

 

「今度の文化祭。佐藤達が考えた企画の総合プロデュースを実施する事になった。この企画が通れば、桔梗にも協力してもらいたいと思っている」

 

「はあ…そんな事だと思った。それは全然大丈夫だよっ」

 

「そして、ここからが本命なんだが。明日の特別試験、仮にクラスメイトを退学にする選択肢が発表された時、○○が○○と言うまで退学者がでる選択肢を選んで欲しい」

 

「なんで?」

 

「野暮用と文化祭の為だ。頼む、桔梗。こんな事頼めるのはお前だけだ」

 

「ふふっ。いいよ。八幡の為なら♪」

……

9月17日。夏休みが明けて3週間と経たず、次の特別試験がやってきた。

 

「これより満場一致特別試験を開始する。ここからはルールに則り進行するため、インターバル以外で席を立つ事や、禁止されたタイミングでの雑談などは容赦なく注意をとっていく。心してかかれ」

 

モニターが切り替わり、カウントが30秒から始まる。やがて、カウントが0になると、文字が切り替わり最初の課題が表示された。

 

【課題1】

3学期に行われる学年末試験でどのクラスと対決するか選択せよ。(クラスの階級の変動があった場合でも、今回の選択が優先される)

※()内の数字は対戦時に勝利することで追加されるクラスポイント

 

【選択肢】

・Aクラス(100)

・Cクラス(50)

・Dクラス(0)

 

第2回目の投票結果でCクラス。つまり一之瀬クラスを全員が選択する事で課題はクリアとなる。順調な滑り出しだ。

 

【課題②】

11月下旬予定の修学旅行に望む旅行先を選択せよ

 

【選択肢】

・北海道

・京都

・沖縄

 

「この投票先も先程と同じようなもので、この1票で確定するわけじゃない。残りの3クラスの状況に応じて結果が変わる事もあるので、その点は理解しておくように」

 

『第1回目投票結果』

 

北海道 16票

京都   4票

沖縄  19票

 

「満場一致とならなかったため、これよりインターバルを行う」

 

「なあなあ、これって特別試験と言えるのか?全然楽勝っていうかこんなの…」

 

インターバルになると、本堂が拍子抜けしたように笑って言った。

 

「思うことがあるのは皆同じだと思う。だけど、まずはこの課題に集中しよう」

 

気がそぞろになる事を警戒し、洋介がクラス全体を引き締め直す。

 

「堀北さん。何かアドバイスはないかな?」

 

「……」

 

「堀北さん?」

 

「ごめんなさい。少し考え込んでしまったわ。複雑でもなんでもない選択肢だけど、意外と満場一致にするのは苦労するかも知れないと思っていたの。修学旅行は私達にとって重要なイベントだし、当然その行き先をわたしの1言でまとめる事もできないわ。とにかく、希望する旅行先の意見を聞かせてもらう所から始めるしかないわね」

 

それを待っていたかのように須藤が手をあげる。

 

「んじゃ、俺から。俺は沖縄にいれたぜ。修学旅行と言ったら海だし沖縄が定番だろう?1番投票数も多いし決まりでいいんじゃねーの?」

 

「ちょっと待ってよ。沖縄が定番の1つなのは認めるけど、それを言うなら北海道だってそうだし。投票数だって僅差じゃない。皆、スキーとかやりたくない?」

 

北海道に投じたと思われる前園が須藤に反対するように言った。その後、収拾のつきそうにない議論を交わし、2回目の投票の時間となった。

 

『第2回目投票結果』

 

北海道 18票

京都   5票

沖縄  16票

 

「仕方ないわね。こうなったら勝負で決める以外にないんじゃないかしら。北海道を希望する人3人、沖縄を希望する人3人、それぞれ代表を選んでじゃんけんをしてもらう。勝ち抜き戦よ。ただし、投票数の少ない京都に関しては1人にさせてもらうわ。厳しい戦いだけれど極力公平性を保つためよ」

 

「誰も出ないなら大将として出させてもらう。俺は必ず京都へ皆を連れて行く」

 

そう強い意志を表明し、厳しい戦いに身を投じたのは啓誠だった。初めて声をあげた京都派の生徒。京都は俺の希望する修学旅行先でもある。俺の分まで任せたぞ啓誠。見事勝ち抜けば、これからの予定をひとつスルーできる。

 

3回目の投票に間に合わせる為、手早くじゃんけんが始められるとあっさりと沖縄チームが先勝する展開に。一瞬で夢破れた京都チームは失意のまま戦場を去った。勝負の結果だが、北海道チーム大将の篠原が崖っぷちからまさかの3連勝を飾り勝利に導いた。3回目の投票になり、全員がタブレットを操作する。

 

『第3回目投票結果』

 

北海道 38票

京都   1票

沖縄   0票

 

「満場一致とならなかったため、これよりインターバルを行う」

 

3回目の投票で残った京都への一票。クラスメイトの視線は自然と啓誠に向けられる。

 

「ちっ…違うぞ。俺は間違いなく北海道に投票した」

 

啓誠は狼狽えながら反論する。

 

「さっきの勝負の結果、北海道に投票する事になったはずだけど…この結果に不満があるなら名乗り出てもらえるかしら」

 

「京都に投票したのは俺だ」

 

「どうしてかしら?比企谷くん」

 

「じゃんけんで決めるってあまりにも安直すぎるだろ。しかも、京都派の意見は一切聞かれていない。明らかに不公平だ。それにこの結果、半数近くは本当はまだ納得してないんじゃないか?」

 

これはただの前哨戦だ。投票先を京都で一致させる。それぐらいはこなしてみせないと本来の目的は達成できん。

 

「では、京都派の意見を聞かせてもらえないかしら?」

 

北海道で決定と思った直後、主張を始める俺に北海道派から少なからず批判の声があがる。反対に清隆と啓誠は期待の目をこちらにむけてくる。なお、桔梗は呆れている模様。

 

「みんなはなにか勘違いをしてないか?」

 

そういって俺は演説を始める。

 

「今回の選択は修学旅行の旅行先を決めるものだ。決して遊びに行く先を決めるものではない。修学旅行は広義では校外学習の場だ。旅行先でなんらかの特別試験が用意されている。そんな可能性もあるんじゃないか?まず沖縄だが代表とされるのはやはり海だ。本島の近くには無人島だってあるだろう。みんな思い出さないか?バカンスといって連れて行かれた無人島でのサバイバル生活を。俺はもうこりごりだ。自分から進んでもう一度味わいたいとは思わない」

 

直近で行われた無人島サバイバルを思い出したのか、沖縄を希望する生徒のトーンが下がる。

 

「じゃあ、北海道でいいじゃない」

 

北海道を最初から選択していた前園から声があがる。

 

「確か前園は北海道でスキーする事を主張していたな」

 

「そうよ。文句あるわけ?」

 

「修学旅行は11月下旬に予定されている。一般的に北海道のスキー場が開くのは12月になってからだ。北海道を選択したところでスキーができる可能性は大きくない。それに仮にスキーが可能だったとしてもだ、10月に体育祭が終わったばかりだ。そこに身体能力を問われる特別試験が行われるかもしれない。それは運動が苦手な生徒にとって不利になるんじゃないか」

 

啓誠を始め、運動が得意ではない生徒は耳を傾け始める。

 

「そろそろ時間よ」

 

「次の投票。今、話した内容を検討して、もう一度自分が良いと思う所に投票してくれ」

 

『第4回目投票結果』

 

北海道 15票

京都  16票

沖縄   8票

 

「なっ」

 

「さて、2回目の投票で京都に投票したのは5人だ。差し支えがなければ投票した人は手を上げてくれないか?」

 

そこで手をあげたのは啓誠を始め、堀北、綾小路の3人だ。予想はしていたが、勝ったな。

 

「須藤、軽井沢それに佐藤もだ」

 

「なんだ」

「なによ」

 

「『堀北』と『清隆』は京都に行きたいらしいぞっ」

 

その時、クラスメイトは声には出さなかったが一同こう思う。

 

(ずるっ)

 

「そうは言ってもよう…」

 

「明人、波瑠加、愛理。俺と啓誠、それに清隆は京都を希望する。特にこだわりがなければ協力してもらえないか?」

 

「別にいいよ〜」

 

波瑠加が代表して応えてくれる。

 

「そうだねっ。うん。

 京都の紅葉見たくなってきたかもっ」

 

ここで桔梗が賛意を示してくれる。

 

 

『第5回目投票結果』

 

北海道 12票

京都  22票

沖縄   5票

 

「さて、ここまで付き合わせてすまない。できれば次の投票で最後にしたい。11月の北海道は札幌で平均気温は5℃を下回る。関東に住んでいる俺たちからすると真冬の気温だ。北海道に旅行をするなら涼しい夏か、雪の降り積もる年明けがいいんじゃないか?時期が中途半端なんだ。さらに札幌・小樽・函館・旭川と言った観光をイメージする都市までどれくらいかかると思う?」

 

「1時間ぐらいじゃないのか?」

 

そんな声がちらほらあがる。

 

「片道で札幌と小樽でも1時間。函館だと4時間だ。北海道は俺達が思っているより遥かに広い。それに比べ京都はほぼ市内で完結できる。当然、修学旅行は限られた日程だ。与えられる自由時間。どちらを選択すれば、より多くなるか考えればわかるんじゃないか。みんな一度想像してみてくれ。紅葉に彩られた古都京都を親しい人と散策する。京都も決して沖縄や北海道に劣るものではないだろう?」

 

「堀北。俺は以上により京都を選択する事を主張する」

 

「そ…そうね。Bクラスは京都を選択する。他に意見がある人はいるかしら?」

 

『第6回目投票結果』

 

北海道  0票

京都  39票

沖縄   0票

 

引き延ばせた時間は約1時間弱か。まずは及第点だな。



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満場一致特別試験③ 最終問題

「ではこれより3つ目の課題に移らせてもらう」

 

様子こそ最初から変わらない茶柱先生だったが、僅かに声のトーンに変化がみられた。ここまでの楽な課題からは、何か流れが変わるかもしれない。

 

【課題3】

毎月クラスポイントに応じて支給されるプライベートポイントが0になる代わりにクラス内のランダムな生徒3人にプロテクトポイントを与える。あるいは支給されるプライベートポイントが半分になり任意の1名にプロテクトポイントを与える。そのどちらも希望しない場合、次回筆記試験の成績下位5名のプライベートポイントが0になる。

※どの選択肢が選ばれても、プライベートポイント没収期間は半年間続く

 

「課題3は以上で終了となる。これより先半年間、プライベートポイントの振り込みは全員が等しく半額となるが、堀北へのプロテクトポイントは今の時点で付与することになる」

 

啓誠の発案が採用され、3回の投票の結果、堀北にプロテクトポイントが与えられる事になった。それにしても優秀な生徒にプロテクトポイントを与える必要はあるんだろうか?成績は優れないがクラスに必要な存在。そんな生徒にこそ必要ではないだろうか。それに、この試験プロテクトポイントは無効化されている。今回同様に学校側が無効にできるなら存在意義は薄れる気もするんだがな。

 

【課題4】

2学期末筆記試験において、以下の選択したルールがクラスに適用される

 

【選択肢】

難易度上昇

ペナルティの増加

報酬の減少

 

筆記試験に自信のある生徒とない生徒の間で熱い議論が行われたこともあり、課題は長引くかと思われたが、次の2回目の投票で『ペナルティの増加』の選択肢で満場一致の結果を導き出した。真面目に取り組めばペナルティを避けることは難しくないとの堀北の強い説得も功を奏したようだ。

 

制限時間5時間の中、俺達は2時間ほどで最後の課題に辿り着いた。

 

「それでは…最後の課題だ」

 

課題が1つ進むごとに、明らかに茶柱先生の顔色は悪い方向に変わっていった。それもいよいよピークに達したのか、青ざめた様子であることは生徒たちの目にも明らかだった。

 

ホントに性格悪いな、あの酔いどれ天使。この後の事を考えると少し心が痛む。

 

「では、最後の課題を表示する。投票の用意を」

 

そう伝え、茶柱は呼吸を整えながら手元のタブレットを操作する。そうして俺達の目の前に最後の課題が表示された。

 

【課題5】

クラスメイトが1人退学する代わりに、クラスポイント100を得る(賛成が満場一致になった場合、退学になる生徒の投票を行う)

 

【選択肢】

賛成

反対

 

なるほどな。これと同様の課題が3年生の3学期にあればクラスは荒れる。俺達はこの時期で助かったな。Aクラスとの点差を考えても今無理をする必要はない。

 

「これから60秒のカウントを始める…全員、投票を始めるように」

 

「…全員の投票が終わったため、その結果を伝える」

 

明らかな異変を抱えながらも、茶柱先生は姿勢を保ったまま進行を続ける。

 

『第1回目投票結果』

 

賛成  3票

反対 36票

 

「…………」

 

結果を読み上げ進行させるべき茶柱先生は、生徒たちと同じようにモニターを見つめたまま動かない。その結果は意外なもの…とまでは至らないような票の割れ方だ。

 

「茶柱先生。進行して下さい」

 

数秒とはいえ時間を垂れ流している茶柱先生を、後方から教師が注意する。

 

「ッ……。すいません。えー…賛成3票、反対36票。満場一致にならなかったためインターバルに入る」

 

「おい誰だよ賛成なんかに投票しやがったのは!ふざけてんのか!?」

 

誰だよと言いながらも、須藤の強い視線は一方的に高円寺に向けられる。

 

「どっちに入れたんだよ高円寺」

 

「応える必要があるのかね?」

 

須藤が高円寺を詰問するがのらりくらりで躱される。また、堀北より事前に清隆と申し合わせて、初回の投票は1番目を清隆。2番目に堀北が投票する事を示し合わせていた事が説明される。つまり1回目の投票で賛成に投じたのは2人という事だった。

 

『第2回目投票結果』

 

賛成  3票

反対 36票

 

「ちょっと待って……これはどういうこと?」

 

須藤を含め、堀北の先程の説明を理解している生徒は清隆を見る。

 

「オレは1回目の投票と今の2回目の投票、そのどちらも反対票を投じた。流石にこの課題は内容が内容だけに、1回目から反対に投じた方がいいと勝手に判断した。その事を伝えなかったのは余計な混乱を招きたくなかったからだ」

 

1回目の投票で賛成が3人いたとなれば、動揺は増える。どうせ高円寺の悪ふざけだろう、ということだけで終わらせる事ができなくなった。ここまで冷静に運んできた堀北も、少しだけ取り乱す。

 

「そう…現状賛成だと考える人が3人はいる、ということね」

 

堀北は賛成に票を投じている見えない3人に対してプレゼンを求める。それに続き洋介が説得を試みた所で高円寺が賛成に投票した事を自白した。高円寺を退学者として、票を賛成にまとめる。そんな意見もでたが…

 

「全員が賛成に票を投じるのは願ってもないことさ。しかし、それで私を退学にさせられると思うのはやめた方がいい。そうだろう?堀北ガール」

 

「…彼の言うとおりよ。高円寺くんを退学にすることはできないわ。私は無人島試験が始まる前に高円寺くんと約束をしたのよ。もし、無人島で1位を取ったなら、今後卒業まで彼を守る、と」

 

『第3回目投票結果』

 

賛成  3票

反対 36票

 

過去2回と同じように高円寺と見えない誰か2人が賛成に投票している。今はまだ高円寺の方に多くの生徒が重きを置いているが。

 

(八幡Side)

高円寺か…俺にとっては好都合だが、考えている事は一緒だな。見方を変えれば退学者がでるかどうかなんて問題じゃない。

 

(清隆Side)

賛成に投票しているのは高円寺を除くとおそらくあの2人だろう。でも何故だ?動機がわからん。

 

堀北は具体的な損得を引き合いに出し、不一致で試験が終わるリスクを説明する。だが、高円寺は態度を軟化させることはなく、微笑だけ。

 

『第4回目投票結果』

 

賛成  3票

反対 36票

 

3度目のインターバルが茶柱先生の合図によって開始される。堀北は客観的な視点から高円寺への説得を試みる。会話の中から糸口を掴んだのか月々堀北が高円寺に1万ポイントを支払う事で高円寺から反対に回ると言質をとる事に成功した。

 

『第5回目投票結果』

 

賛成  2票

反対 37票

 

「おやおや、簡単に物事は進まない様だねぇ」

 

「言ったけれど、反対で満場一致にならない限りさっきの契約は無効よ」

 

「分かっているさ。流れの中で賛成で満場一致になる。あるいは時間切れになってしまった場合にはやむを得ず諦めることにするよ」

 

そのまま賛成に票をいれている人物の手がかりはなく時間だけが過ぎていく。

 

『第6回目投票結果』

 

賛成  2票

反対 37票

 

『第7回目投票結果』

 

賛成  2票

反対 37票

 

 

『第8回目投票結果』

 

賛成  2票

反対 37票

 

何ら変わり映えしない結果が続き、会話はいつしか沈黙が多くなる。次で8回目のインターバルが始まる。残された時間も2時間を切った。ガタ、と一際大きな音をたて茶柱先生は体勢を崩した。突っ伏すように腕を教壇に押し当て、なんとか倒れることを防ぐ。

 

「はあ、はあ…」

 

話し合いが続く中、ずっと教壇に立ち続ける先生の息が荒くなっていた。

 

こんな所で十分だろう。俺は1つ目の用事を終わらせる。船上での星乃宮先生からの願い。それは茶柱先生をぎりぎりまで追いつめる事だった。普段なら了承しない依頼だが、酔っているにも関わらず目は本気だった。詳細までは伺い知れないが、おそらく2人にとっては必要な儀式なんだろう。

 

茶柱先生は高度育成高等学校の出身で満場一致特別試験に挑んだ事がある事。賛成、反対、時間切れ。その結果に対し、後悔しない道を模索するよう説いた。

 

それを受けての9回目の投票。

 

『第9回目投票結果』

 

賛成  2票

反対 37票

 

「あぁもう!頭がおかしくなりそうだぜ!わけわかんねーー!また、お前じゃないよな?比企谷」

 

「おっ。正解だ。やるな須藤」

 

「な…何言ってんだお前」

 

「だから、賛成に投票している2人の内、1人は俺だと言ったんだ」

 

「なんで…」

 

「あなたは何を考えているの」

 

「そろそろ大丈夫だとは思うんだが、念の為だ。あと1回投票した後で、話そう。別にいいだろ?10分なんてすぐだ」

 

「あなたには時間が無いのが分からないの」

 

「もういい。賛成で一致させて比企谷を退学にしようぜ」

 

そんな声も当然あがる。

 

「無駄だと思うがな。やりたければ俺は構わないぞ」

 

「ちょっと待って。次の投票が終わったら話してくれるのね」

 

「ああ、約束しよう」

 

『第10回目投票結果』

 

賛成  2票

反対 37票

 

「これでいいのね」

 

「ああ、俺がしたいのは文化祭の話だ」

 

「何を言っているのかしら?」

 

「佐藤達の案。総合プロデュースを依頼したのはお前だろう」

 

「確かにそうだけど、今関係があるの?」

 

「茶柱先生。試験が終了したクラスは何をしてますか?」

 

「寮での自習になる。外出も認められない」

 

「だ、そうだ。おそらく他のクラスは既に試験を終えている。つまり、今校舎に残っているのは俺達だけだ。しかも、先生の監視つき。クラス全体で内緒話をするのにこれ以上の環境はないだろうからな」

 

「あの企画は検討段階よ。まだ、正式に認めたわけではないわ」

 

「だから、1つ目の要求だ。この場で承認しろ。無駄な努力は俺もしたくないんでな」

 

「なんの事言ってんのかわかんねー。もういい比企谷を退学にしちまおうぜ」

 

気の短い須藤からそんな声があがる。

 

「八幡…」

 

洋介からは信じられないといった声がかかる。

 

「さっきも言ったが無駄だと思うぞ。あと洋介。お前も勘違いしている。俺は誰も退学者を出すつもりはないぞ」

 

「ど…どういう事?」

 

「そうだな。俺の要求が通らなかった時に訪れる結果は時間切れだ。全員が賛成に投票するなら俺は反対に投票する。もちろん読み違える可能性はあるがな。それを期待して回数を重ねてみるか?」

 

僅かだが時間切れという言葉に茶柱先生は反応する。

こんな所ッスかね。星乃宮先生。

 

まあ、桔梗がいる限り読み間違える事もない。

 

(綾小路Side)

なるほど上手い手だ。誰もが時間切れを最悪の結果と考え、賛成か反対かで議論していた。だが、時間切れも選択肢にいれた場合、300クラスポイント。人質には効果的だろう。先程の高円寺もそうだが、自身の要求を通すには最適の場だな。

 

「わかったわ。承認しましょう」

 

「では、次だ。文化祭の企画にあたって俺は『この場にいる全員』の協力を求める。一切の例外は認めない」

 

「あなたの要求がどのようなものか分からない以上、簡単には認められないわ」

 

「それはそうだな。…なら補佐に櫛田をつけてもらおう。みんなへの依頼は一度櫛田が確認する。櫛田が確認して問題ないと判断したものに限定しよう。俺を信用できなくても櫛田なら信用できるんじゃないか。もちろん櫛田が了承してくれる必要はあるがな」

 

「…うん。わかったよっ。みんなのために私、せいいっぱい頑張るねっ。みんなも私の事信用してくれないかなっ」

 

(ずるっ)

(きょーちゃんが断るわけないじゃん)

(出来レースだな…)

 

「それは私も含まれるのかね?比企谷ボーイ」

 

「もちろんだ。ただ、お前が拒否するなら、その分堀北が補填してくれても構わんぞ。お前もこのまま時間切れで終わればさっきの堀北との契約もチャラだ。悪い話ではないだろ?」

 

「何を勝手に…」

 

「はっはっはっ。この試験賛成する生徒など私だけだと思ったのだが読み間違えたようだ。敬意を評してその条件飲もうじゃないか」

 

「一応、高円寺にもメリットがあるプランは考えてある。良ければ一考してもらえると助かる」

 

「投票の時間だ」

 

『第11回目投票結果』

 

賛成  2票

反対 37票

 

(ホント私より性格悪いよね♪)

 

「まだ、俺以外に納得できん生徒がいるみたいだな。そうだな…まずはみんなに謝罪したいと思う。特別試験のこんなタイミングで俺自身の要求を突きつけるみたいは形になってすまん。ただ、堀北と綾小路から渡された企画書。佐藤と松下と王、前園が作ったものなんだが、それを見た時に必ず校内で1番になれる。俺はそう思ったんだ」

 

文化祭の企画をした佐藤たちから声があがる。

 

「比企谷くん…」

 

「みんなが知っての通り、俺の交流関係は広くない。クラス全員の協力を得るためには、こういった手段しか思いつかなかった」

 

次は綾小路グループをはじめとした八幡を良く知る生徒。

 

「ハチ君…」

「八幡…」

 

「俺は必ずこの企画で校内1位をとってみせる。もちろん、俺を信じられなくても構わない。この企画を考えた佐藤達、俺に総合プロデュースを頼んできた堀北に清隆、急な依頼にも快諾してくれた櫛田を信じて協力してもらえないだろうか」

 

そして全体に呼びかける。

 

「堀北。あらためて言うが『例外なく』『この場にいる全ての人間』が協力する。お前が代表して誓約してもらえないか」

 

「みんなに聞くわ。この誓約に異議がある人はいるかしら」

 

「……」

 

「無いようね。比企谷くん、わかったわ」

 

「茶柱先生。この誓約受理してもらえますか」

 

「分かった。受理しよう」

 

『第12回目投票結果』

 

賛成  0票

反対 39票

 

……

「そして、ここからが本命なんだが。明日の特別試験、仮にクラスメイトを退学にする選択肢が発表された時、『茶柱先生』が『受理する』と言うまで退学者がでる選択肢を選んで欲しい」




過去最長になったかもしれません。桔梗ちゃんか追い詰められていない本作ですので退学者は出ませんでした。かなり結末に悩んだのですがどうだったでしょうか。
メイドカフェ?校内で上位になるために覚醒愛理の存在は必要不可欠です。たかが100ポイントではもったいないです。


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二年生編 6巻
佐倉愛里のプロデュース


満場一致で原作ブレイクやってしまったんで6巻の内容が…今回愛里プロデュース回です。

てってってーてってててー


満場一致特別試験が終了した数日後、俺と桔梗は波瑠加と愛里を夕食に招待した。

 

「波瑠加、愛里。いらっしゃ〜い。

 もうすぐ料理の準備できるから適当に待っててね」

 

「デジャヴか?ここは俺の部屋なんだが…」

 

「そう言えばハチ君に料理ふるまってもらうの初めてだね。期待していいのかなー?」

 

「もちろん!バッチリだよっ」

 

「だから、なぜ桔梗が答える?まぁいい。準備ができた。ちょっと手伝ってくれ」

 

今日はパスタをはじめとしたイタリアンにしてみた。もちろんミラノ風ドリアの再現も忘れない。

 

「はーい」

 

(もうこれ新婚じゃん。これで何もないってハチ君バカなの?ねっ。愛里)

 

(う…うん)

 

「おいしっ。無人島で料理できるのは知ってたけど、これは凄いね」

 

「美味しいです!」

 

「まぁ、専業主夫になる為には必須だからな。それにこの学校に入学して機会にも恵まれている」

 

「いつもきょーちゃんの為に作ってるとか?」

 

「ああ」

 

「「えっ。認めるの?」」

 

「あとはいろはと天沢、時々一之瀬と清隆って所だな」

 

「ハチ君…私達の知らない所で何してんの…」

 

「そ…そう言えば、この前の八幡くん。なんか凄かったね…」

 

「そうだねー。ちゃんと人前でしゃべれるんだ」

 

「うるさいっ。で、今日来てもらった本題だ。文化祭だがメイド喫茶をやる。2人にはウエイトレスとして協力してもらいたい」

 

「う〜ん。流れからして、拒否権ないやつ?」

 

「あれは方便だ。無理強いをするつもりはないぞ」

 

「ハチ君からのお願いだから私はいいけど?」

 

「わ…わたしは…」

 

「愛里。前の特別試験だが実は1番危うかったのはお前だ。自覚しているか?」

 

「えっ!?」

 

「どういう事?」

 

「幸い今はAクラスとのポイント差も縮まっている。このタイミングで無理をする必要はなかった。だが、仮に退学者を出してクラスポイントを得る。そんな結論に至った時、愛里が退学者の候補になる可能性は非常に高かった」

 

「ふざけないでっ。私はそんなの認めない」

 

「落ち着け、波瑠加。なら聞くが愛里や綾小路グループ以外の生徒が対象だったらどうだ」

 

「…別に反対する理由ないね」

 

「そういう事だ。今後、同じような試験があるかはわからん。だが、仮に同じような選択が必要になった時、候補にあがらない所まで立場を押し上げておく必要がある。それにはこの文化祭が良いきっかけになると思うんだ」

 

「どうすんの?」

 

「容姿はもっともわかりやすい武器だ。波瑠加と一緒にプロデュースされてみないか?」

 

「そうだね。愛里も変わろうとしてた所だしいいんじゃない」

 

「は…波瑠加ちゃんが一緒なら頑張れるかな…」

 

「まず2人に共通の問題点だが、以前に波瑠加が話してくれたとおり、他人の目を気にしすぎる点だろう。桔梗、対策はあるか?」

 

「慣れだね」

 

「そう。これはもう慣れだ。俺も悪意や侮蔑の視線にはさらされてきたからな。慣れてしまえばどうってことはない」

 

「それはどうかと思うよ…」

 

「この件に関して行動を変える必要はない。少しづつでいいんだ。意識して慣れる事。それに自分は他人よりも秀でている。それを自覚して自信に変えていってもらいたい。いい例がこいつだ」

 

「おいっ」

 

「次に愛里だ。予定していたイメチェンは文化祭まで封印してもらう。プロデュース方針だが当然ビジュアル特化型だ。徹底的に表現力を磨いてもらいたい。すでに自己プロデュースはできているからな。これから一ヶ月あまりで桔梗からどうすればもっと可愛くみられるか?他人との距離感やコミュニケーションの為の技術そういったものを学んで欲しい。目指せ!トップアイドル…突風アイドル?」

 

「文化祭のウエイトレスだけど?」

 

「はっ。いかんいかん。頼めるか?桔梗」

 

「う〜ん。特別だよっ」

 

「わ…私にできるかな…」

 

「なあ、愛里」

 

「は…はいっ」

 

「俺はお前ならできる。そう確信している。俺の事信じられないか?」

 

「そ…そういうわけじゃないけど…」

 

「それにだ。成長した愛里を清隆に見せつけてやれ。愛里じゃなく軽井沢を選んだ事を後悔させてやればいい」

 

「う…うん!私頑張ってみる」

 

「次に学力だが啓誠には愛里を中心的にみてもらおうと思う」

 

「え〜。私とみやっちはどうするの?」

 

「文系科目だろ?俺がみてやる。あとはそうだな。それで不足する分は桔梗手伝え」

 

「私はいいけど…何?何?グループにいれてくれるの♪」

 

「却下だ。お前が特定のグループに所属すると色々とややこしい。勉強会限定だ」

 

「どうだ?波瑠加」

 

「愛里の為だからね。みやっちとゆきむーには私から伝えておく。それにしてもハチ君いつになく積極的だね〜」

 

「文化祭のためだ。校内で1位になるには愛里の成長は必須条件だ。そのためなら、これぐらい安いもんだ」

 

「はあ…どんだけやる気なの…」




八幡はパーフェクトコミュニケーションとれたでしょうか?バッドではないことを祈ります。


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体育祭&文化祭 準備中

「満場一致特別試験が終わり、お前たちは次の戦いに足を進めなければならない。体育祭の詳細、本年度に適用される特殊ルールを説明したい。よく聞くように。生徒会が提言していたこの学校の在り方が、無人島試験を含め認められつつある。個人の実力を重視した案を強く組み込んだ試み、それが具現化した体育祭となる」

 

『体育祭』

 

・クラス別報酬順位

 

1位     150クラスポイント

2位     100クラスポイント

3位      50クラスポイント

4位 マイナス150クラスポイント

 

・個人戦報酬(学年別、男女別)

 

1位 200万プライベートポイント

   もしくはクラス移動チケット(限定的)

2位 100万プライベートポイント

3位 50万プライベートポイント

 

茶柱先生が説明を終え、この場を後にすると一気に教室は沸騰した湯のように慌ただしくなり始める。

 

「よっしゃ鈴音、早速ミーティングしようぜ!」

 

まず大声を張り上げた須藤。ルールを聞いて俄然やる気を増している。洋介も自然と腰をあげ堀北の方へ歩みを進める。ここまではいつもと同じ流れ。満場一致特別試験では大立ち回りをしてしまった俺だが、体育祭に関しては昨年同様自分のノルマをしっかりとこなすだけだ。幸い個人競技も準備されており足をひっぱる事はないだろう。

 

……

今日の夕食時、桔梗・いろは・天沢といういつものメンバーが食卓を囲んでいる。

 

「もうすぐ体育祭かぁ〜。八幡はどうするの?」

 

「幸い個人種目もあったからな。フリースロー対決とリフティングは確定だ。あとの3種目はどれでも変わらんからな…」

 

「先輩、バスケやサッカーできましたっけ?」

 

「1人でやる分には得意だな。体育の時間は基本的に1人だったから黙々とフリースローやリフティングは練習していた。漫画の影響で○ス○ィレクションも習得したんだがな…」

 

「凄くない?」

 

「相手だけなら良かったんだが味方にも認識されん。不要な技術だな」

 

「じゃあじゃあ、私と組もうよー」

 

「今の所、他学年と組めるかはわからんだろう」

 

「はーい!私とテニスの混合ダブルスに出よっ」

 

「テニスか…」

 

「先輩テニスできましたよね?」

 

「大天使に付き合って、それなりにだがな」

 

「じゃあ、決まりね♪」

 

「勝てるレベルじゃないぞ」

 

「別にかまわないよっ」

 

「分かった」

 

「なら、他学年と組める競技があれば私と一夏であと2種目エントリーすると言うことで」

 

「拒否権は?」

 

「あるわけないじゃないですか?もし、逃げたら一夏をけしかけますよ」

 

「逃さないよー」

 

「はあ…了解だ」

 

……

体育祭に向けてクラスの準備は進んでいる。運動能力に優れない俺からすれば、正直どうでもいい。この期間に少しでも文化祭の準備を進めたい所だ。今日はメイド喫茶を開催するにあたり、クラスでも重要な役割を果たすであろう2人と交渉をすることにした。

 

「池、外村。待たせたか?」

 

「櫛田ちゃんに呼ばれたから来たのに、な〜んだ比企谷かよっ」

 

「そういうな。文化祭に向けて2人に協力を依頼したい。堀北はできるだけ内密にすすめたいみたいだけどな。俺が承認させた企画なんだが…」

 

「もったいぶるなよ」

 

「メイド喫茶だ」

 

「「!?」」

 

「なあ外村。うちのクラスの女子が本気でやれば他クラスに圧勝できると思わないか?ちなみにだが、櫛田、佐藤、松下、王、波瑠加は当日メイド姿で接客することは了承済みだ」

 

「「ごくっ」」

 

「しかも当日サプライズも予定している」

 

「比企谷様!ついていきます!!!」

 

「協力してくれる。その理解で問題ないか?ちなみにこの件は『体育祭が終わるまで内密だ。』約束できるか?」

 

「「もちろんだ」」

 

「もし、それまで外部に漏れれば真偽はどうあれお前らの責任と判断する。その場合…外村には当日チェキ係を予定しているが白紙だな。池はこの企画には一切関わらせない」

 

「「なっ!」」

 

「男だけの約束だ。守ってくれるか?」

 

「「当たり前だ」」

 

「そう言ってくれると思った。これが現段階の企画書だ。予算とかは気にしなくていい。これを読んで思った事を指摘して欲しい。あと、外村には別に依頼したいことがある。それは…」

 

「任せてくれ。完璧にこなしてみせる」

……

また、別の日。桔梗に頼んで一之瀬を夕食に誘った。

 

「桔梗ちゃんじゃなく、比企谷くんに誘われるなんて珍しいね」

 

「これは一之瀬だから話をする。そう理解して欲しい」

 

「かしこまって言われると緊張するね。何かな?」

 

「文化祭だがお前たちのクラスの企画次第にはなるが『俺』と協力関係を結んでくれないか?」

 

「どういうことかな?」

 

「まず俺達の企画を一之瀬に伝える。その後でこちらの条件を伝えようと思う。もし、条件が合致するなら協力関係を結びたい。もし、決裂した場合、すまないが一之瀬の心の中にしまってくれないか。手前勝手な話だがな」

 

「…まずは企画を聞かしてもらって、それで判断って事でいいのかなっ?」

 

「そうだ」

 

「わかったよ。まずは話を聞かせてもらえるかなっ」

 

「俺達はコンセプトカフェ。所謂、メイド喫茶で勝負する。その企画の責任者は俺だ。もし、一之瀬のクラスが飲食系、特にスイーツを専門に考えているなら提携してもらいたいと考えている」

 

「…具体的には?」

 

「俺たちがメイド喫茶で提供するスイーツ。準備してくれるならその売上の全てを渡してもいい。そうだな。できれば女生徒が好ましいが1人派遣してもらい、スイーツのオーダーが入ったらその生徒が決済すれば問題はないはずだ。できれば出展場所も俺達の隣にしてくれると助かる。もちろん情報はこちらから提供する」

 

「もし、それを受けたとしてもこっちが貰いすぎかな?」

 

「なら、当日、○○と○○と一之瀬の時間を1時間もらいたい。それでどうだ」

 

「にゃー。私もなの?」

 

「当然だろ?一之瀬以上の戦力はなかなかいない」



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2度目の体育祭

朝、グラウンドに集められた生徒たち。設営された壇上では南雲生徒会長が開会の挨拶をしている。俺達二年生は清隆と坂柳の2名が欠席のようだ。今日の体育祭だが、龍園のクラスとはお互いに干渉をしない契約を結んだらしい。その代償が2人の欠席というのも考えられるな。戦力的に清隆の欠席は痛いが龍園に妨害されない事、それ以上に坂柳の不在は大きい。この体育祭でクラスポイントの逆転も視野にはいることだろう。

 

俺は1種目にエントリーしたフリースロー対決の会場にむかう。何度か練習をしたが腕は衰えてないようで成功率は8〜9割程度だろうか。恥ずかしい結果にはならないだろう。体育館に到着すると既に参加者は揃っているようだ。1人10本。成功数が多い順に順位が決まる。実にシンプルなルールだ。結果は8本の成功で3位となった。まずまずの出だしだろう。

 

次はリフティング。会場に到着すると知っている顔をみかける。

 

「よお、比企谷もリフティングか?」

 

Aクラスの橋本だ。

 

「ああ。お前がサッカーを選ぶのズルくないか?」

 

「まあ、そういうな。こっちは坂柳の欠席でてんやわんやだ。少しぐらいアドバンテージあってもいいだろっ。じゃっ、お互い頑張ろうぜ」

 

経験者には勝てん。善戦はしたが結果は2位で終わった。ちょっとだけ自信あったんだがな…。

 

グラウンドには電光掲示板が設置されており、常時どのクラスがどんな成績をおさめているかを確認する事ができる。スタートこそ龍園のクラスが首位だったが程なくして、一之瀬クラス、俺達、龍園クラス、坂柳クラスの順で落ち着いている。一之瀬クラスは人数面で有利な状況を活かし、得点が高い団体競技で着実に点を稼いでいるようだ。

 

正午の休憩を挟んで後半戦へと体育祭は進行する。幸か不幸か他学年とのチーム作成は認められなかった。俺は2種目を適当に選択。結果?それは聞かんでくれ。そして、最終競技となるテニス男女混合ダブルスの準備をしている。

 

「いよいよだねっ」

 

「須藤と小野寺のペアもでてくるとはな。桔梗が参加する事…堀北に何か言われなかったか?」

 

「止められたけどね。無視?他で十分貢献してるし、これぐらい好きにしてもいいんじゃない」

 

「なら、後で文句言われん程度に頑張りますか」

 

1回戦は無難に勝利したが2回戦で須藤達と対戦、あえなく敗退した。風精悪戯はどうしたって?簡単に風など読めん。俺達はそのまま須藤達を応援する事にする。むかえた決勝の相手は1年の宝泉ペアだ。

 

「なんというか青春だな…」

 

「そうだね…」

 

「いつからこんなスポ根になった」

 

「小野寺さん報われないね…」

 

宝泉の圧倒的なパワープレイの前に徐々に追いつめられていく。執拗な責めにより弱っていく小野寺。冷静さをなくしプレーが雑になる須藤。そんな悪い流れが第3セット、小野寺が負傷した事により変わる。須藤は宝泉に詰め寄ろうとしたが、止める小野寺。完全にヒロインだ。ここで須藤がアンガーマネジメントを覚えた事で覚醒する。試合の結果も見事な逆転劇だった。そして、堀北を探しに行く須藤…

 

1位 2年Cクラス ※一之瀬クラス

2位 2年Bクラス

3位 2年Dクラス ※龍園クラス

4位 2年Aクラス ※坂柳クラス

 

個人1位 男子 須藤 健

     女子 小野寺 かや乃

 

体育祭が終わり、次の日が始まる深夜0時。校内のネットワークに1つのホームページがアップされる。

 

【2年Bクラス メイド喫茶公式ページ】




体育祭楽しみにして頂いた方にはすいません。さらっと終わってしまいました。そして、さらっと坂柳クラスを抜いてます…まだ月中なのでクラス移動はありません。


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二年生編 7巻
文化祭① 事前準備


体育祭が終わった翌日、クラスに登校すると鬼のような形相をした堀北が待っていた。俺にタブレットをつきながら詰問してくる。

 

「これはどういう事かしら?」

 

「メイド喫茶のホームページだな。外村にまかせたんだが良くできている。これがどうした?」

 

「私は内密にと言ったはずだけど」

 

「そんな必要はない」

 

「これで全てのクラスに公になったわ。模倣や対策をとられたらどうするつもり?」

 

「なら聞くが対策って何ができるんだ?」

 

「……」

 

「別に企画がばれた所で大した対策はできん。それに他クラスにバレないように準備をすすめるとなると人や時間の制約が大きすぎる。かえってそっちのほうがマイナスだ。メイド喫茶だが、今日び目新しい企画でもないだろ?公表することで避けるクラスが出てくれば儲けものだ。あと…」

 

「まだなにかあるのかしら?」

 

「メイド喫茶に1番重要な事は接客する生徒だ。仮に真似されたとしても、俺はどのクラスにも負けないと思っている。堀北は自信がないのか?」

 

堀北とのやりとりはクラス中の注目を集めている。ここで自信が無いとはいえんだろ。

 

「わかったわ。必ず1位になる事。これは絶対よ」

 

「ああ、分かった。みんなも聞いて欲しい。俺達はメイド喫茶をやるために準備を進めてきた。今日公開したサイトの目的だが実現に向けて学校中に広く意見を求めたいと思っている。みんなも希望があればどんどん挙げてほしい。当然、中には嫌がらせもあるだろうがな。そのあたりは外村に取捨選択を依頼する」

 

「分かりました」

 

「企画は公開したが本番当日の接客係の姿は最後まで秘匿するぞ。それにはここにいるクラスメイトも含む。だが、どうしても接客するための練習は必要だろう?意見を応募して採用される。もしくは文化祭の準備に大きく貢献した人にお願いしたい。お客役として手伝ってもらう生徒は堀北が決めてくれ。堀北の推薦があった生徒のみにお願いするつもりだ」

 

「俺達は俺達で忙しいんだ。そんな暇あるかよ」

 

今回の提案の意図がわからない生徒からそんな声があがる。

 

「接客面は全て櫛田が監修する。櫛田少し頼めるか」

 

桔梗は立ち上がりクラスにいる男子生徒全てと一度目を合わせた後、徐に礼をする。

 

「お帰りなさいませ♪ご主人様っ」

 

男性陣からは息を飲む音が聞こえてくる。

 

「じゃあ、みんな頼んだぞ」

 

その後、男性陣から歓声があがったのは言うまでもない。

 

……

その日の昼休み、龍園達がクラスにやってきた。

 

「…出迎えるしかなさそうね。あなたたちは大人しく教室にいて」

 

堀北は廊下で出迎える事を決め厄介そうに席を立った。

 

「よう?わざわざ出迎えに来てくれたのか?鈴音」

 

龍園を先頭に、石崎、アルベルト、金田の3人が後ろに続いている。

 

「物騒なメンバーを連れて何をしに来たのかしら」

 

「俺はAクラスを潰す目的で体育祭は契約してやった。だが、お前らは順当に勝ちを積んで来月からはAクラスだ。大したクラスポイントにはならないが、次の文化祭では俺達が勝たせてもらう。おまえらと同じ出し物でな」

 

「それってメイド喫茶って事?」

 

「ま、多少コンセプトは変えるがな。似たような事をさせてもらうつもりさ」

 

「わざわざ同じジャンルの出し物で競い合うってこと?あなたにメリットがあるように思えないわ」

 

「確かに客の奪い合いとなれば、他の出し物よりリスクは高いかもな。だが、それがどうした。こっちはおまえらの売上を抜いたうえで上位にはいる算段があるのさ。っつーことで、もっと熱い勝負をしようじゃねえか鈴音。1ポイントでも多く稼いだ方が相手のクラスから500万ポイントを頂く。面白い勝負になると思わねえか?」

 

500万とはふっかけたな龍園のやつ。この勝負受ける受けないは堀北に任せる事にしている。俺としては受けても負ける気はせんのだがな…。だが、これで龍園は俺の提案に乗ってきたという事だ。坂柳からも文化祭は不干渉の確約は取れた。今回俺が目指す最終型に一歩近づいた事になる。残りは一之瀬だな。

……

数日後、一之瀬から連絡があり、放課後に会うことになった。

 

「まさかこのタイミングで公開するとは思わなかったよ。龍園くんのクラスとの対決も凄く話題になってるよ」

 

「ああ、ここまでは想定どおりに進んでいる。先日の提案は受けてくれる気になったか?」

 

「オッケーだよ。もともとスイーツ系の企画はでてたんだよ。一部のクラスメイトとも相談したけど、こちらにデメリットないしね。あっ。もちろんメイド喫茶が公開されてからだよっ」

 

律儀な所は一之瀬らしい。

 

「なら、少し具体的な話をしたい。俺達は特別棟の二階を会場にするつもりだ。できれば隣の教室を一之瀬達に借りて欲しい。先日も話をしたが俺達のメイド喫茶。そこのスイーツは全てそちらにアウトソーシングする。ここまではいいか?」

 

「うん。大丈夫だよっ」

 

「それに借り受ける生徒に関して、チェキでの撮影等の売上も全て渡す。経費はこちらもちで構わん。あとは作成するスイーツも手解きさせてもらいたいと思っている」

 

「それだとこちらがあまりにも有利だよね」

 

「だな。なので、あと2点付け加えさせてもらう。1つ目だがメイド喫茶が繁盛して行列ができた場合、2号店として一之瀬達の教室を使いたい。その時の売上の配分も喫茶・食事は俺達でスイーツは一之瀬達。これは変えない」

 

「次は……だ。これは俺達の売上とさせてもらう」

 

「わかったよ。でも、最後のは本人次第。交渉は比企谷くんでいいかなっ」

 

「もとからそのつもりだ」

 

「じゃあ、今回は全面協力する事に同意するよ。最後に一つだけ…比企谷くんの目的は何かな?」

 

「せっかくの祭りだ。楽しまなくちゃ損だ。俺の今回の目標は1位から4位『2年生での独占』だな。クラス間の話は後日関係者を集めてやろう。また、こちらから連絡させてもらう」



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文化祭② プレゼンテーション

肌寒くなってきた秋の始まり。11月1日の月曜日。俺達Bクラス改めてAクラスと一之瀬達Cクラスの関係者一同が集まった初めての会合を開いた。Aクラスからはリーダーの堀北、おまけの清隆、発案者である佐藤、松下、王、前園、ブレーンの外村、池、俺から声をかけた桔梗、平田、須藤の計12名、一之瀬クラスからは一之瀬、白波、網倉、安藤、神崎、柴田の6人。これから文化祭当日の段取りについて、このメンバーにプレゼンをする。自業自得であるのだが…誰かに変わって欲しい…。

 

「みんな忙しい所、集まってもらってすまない。今日はメイド喫茶実施にむけたプレゼンを行いたい。途中不明点や改善点があればどんどん言ってほしい。書記は外村にまかせる。さて、早速だが文化祭の当日は朝9時から夕方4時までの7時間だ。一言にメイド喫茶というが時間毎にコンセプトを変えていきたいと考えている。まずは俺のプランを聞いて欲しい」

 

「続けてくれるかしら」

 

「まず最初の2時間だ。ここはAクラスの総力をつぎ込む。ウエイトレス役に櫛田・佐藤・松下・王・波瑠加と堀北が中心となって盛り上げて欲しい。あと当日にサプライズを準備している。ここで一気に流れを掴んで11時には一之瀬のクラスを吸収するつもりだ」

 

「ちょ…ちょっと待って。私もメイドになるの?」

 

「当然だ。満場一致試験での約束忘れてないよな」

 

「くっ。わかってるわよ」

 

「おぉっ。鈴音のメイド姿が見れるのか!」

 

「あなたは屋台の担当よ。須藤くん」

 

「開始2時間って早すぎないかな?」

 

「一之瀬の疑問も当然だ。だが、俺はいけると算段している。むしろ遅いぐらいだ。もし、無理だった場合でも各クラスで続けるだけだ」

 

「わかったよ」

 

「11時以降は昼食も視野にはいる時間帯だろう。ここで2つの会場のコンセプトを分けたい。俺達のクラスは落ち着いたイメージを押し出し昼食が取りやすい環境を提供する。ウエイトレス役で言えば、松下・波瑠加・堀北が中心だ。一之瀬のクラスは親しみやすさを全面に押し出す。そうだな櫛田・佐藤・王・一之瀬が中心となる。さらに希望者がいれば一之瀬のクラスから立候補してもらっても問題ない」

 

「にゃはは。やっぱり私もなんだね…」

 

「帆波ちゃんがやるなら私もやります!」

 

「少し興味はあるかな…」

 

「1時までの2時間はこの布陣で挑みたい。この時間帯が1番負担をかけると思う。できるだけバックアップを準備するからなんとか切り抜けて欲しい。この時間帯をどう乗り切るかは堀北、一之瀬相談にのって欲しい」

 

「わかったわ」

 

「了解だよ」

 

「1時からはアフタヌーンティーを楽しんでもらう。女性客を一気にとりこむ予定だ」

 

「どうするつもりかしら?」

 

「俺達のクラスを執事カフェにする。メンバーは王子様の洋介、ミステリアスな清隆、クールな神崎、親しみやすい柴田、おらおら系の須藤、俺様系の高円寺だ。この時間帯は清隆に取り仕切ってもらいたい」

 

「なぜ、オレが…」

 

「僕もなの?」

 

「聞いてないぞ」

 

「今、言ったが?女性陣に聞こう。問題あるか?」

 

「ないわね」

 

「うん。いけると思う」

 

「ちなみに神崎と柴田だが既に一之瀬の了承済みだ」

 

「「なっ」」

 

「にゃはは。ごめんねー」

 

「でも、高円寺くんは無理じゃない?」

 

「あいつは特別枠だがな。本人の了解はとっている」

 

「えっ」

 

「どうやったのかしら」

 

「今回の来賓は学校関係者だ。将来を見据えて関係を作っておいても良い人物もいるだろう。それにターゲットは年上の女性だ。高円寺が接客するに足ると思う人物に限定した。あいつのみ逆指名制だな。あとは時間内の飲食も自由にしている。女性に囲まれてお茶を楽しむ。あいつの普段の生活となんら変わらんだろ。しかも無料だ。この時間帯に女性陣は順番に休憩をとってもらうつもりだ」

 

「はぁ。さすがというかなんというか…。ここまでは分かったわ。最後の1時間はどうするのかしら」

 

「ラストは俺に任せて欲しい。詳細は当日その時間まで秘密だ」

 

「じゃあ、予算について聞かせて頂戴。男性の服装はどうするの?」

 

「男の服など大したポイントはかからん。今日の追加分でお釣りがくる」

 

「食材に関して予算が少ないけれど問題ないのかしら?」

 

「食事の提供はパスタとオムライスをメインにする。パスタは屋台と共有するんだろ?」

 

「そうね」

 

「この2種類ならソースさえ各種準備してれば最小限でなんとかなる。ソースについては任せてくれ。パンケーキは一之瀬達にまかせる。これもスイーツだけじゃなく食事用にもアレンジするつもりだ。不測の際も卵と調味料があればなんとかする」

 

「飲み物の原価が想定以上なんだけど?」

 

「食材で浮いた分をまわす予定だ。紅茶やコーヒーの原価を下げれば、普段親しんでいる層にはわかる。企画のコンセプトから回転率は期待できないだろう。1顧客あたりの単価をとるためには必要経費だ。それに食事と原価率を比べれば、こちらに予算をまわしたほうが有利だと考える。次に販売計画だ。飲食の提供以外にチェキの販売を行う。この価格設定は強気でいく。一之瀬には事前に話しているが、この売上は被写体でクラス毎の売上にするつもりだ」

 

「龍園くん達の対処はどうするつもりかしら?」

 

「清隆。どうすればいい?」

 

「おそらく『負けたら退学になるかもしれない』等の情に訴える宣伝はしてくるんじゃないか?その時用の対策をしておけば大丈夫だろう」

 

「それを採用しよう。今回は来賓や先生達が顧客だからな。いくらあいつでも直接的な妨害は難しいだろう。さて、外村、池。メイドや執事に必要な心構え説明してもらっていいか?」

 

外村と池はメイドとは?執事とは?を饒舌に語り始める。

 

「他に共有事項はあるか?」

 

「屋台だけど軽食に特化させつつ安価な設定にする予定よ。ここを本命であるメイド喫茶への布石にするつもり。購入者にはメイド喫茶で使用可能な1ドリンク半額のチケットを進呈する」

 

「了解だ。宣伝にも使えるしな。俺に異存はない」

 

「それなら私達のクラスも協力するよ」

 

「正直助かる。ただ、一つ注文してもいいか?その券が利用できる時間だが11時〜午後1時以外にして欲しい」

 

「なぜかしら」

 

「この時間はウエイトレスの負担が大きい。できれば昼食どきは避けたいと思う」

 

「わかったわ」

 

「これで最後だ。現時点でのタスク一覧と完了予定日をまとめている。ここにいる全員分準備しているから後で確認して欲しい。意見があれば遠慮なく言ってくれ。今回の企画はなんと言っても接客係が鍵だ。監修は全て櫛田に任せたいと思う。いけるか?」

 

「まかせて♪」

 

事前にできる準備はこのあたりだろう。あとは本番にむけて粛々と準備をすすめていくだけだ。当日のサプライズをどこまで引き出せるかが勝負だな。




一之瀬に要求した2人は神崎と柴田でした。


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文化祭③ 文化祭前日

月日が経つのは早いもので、11月12日金曜日。文化祭前日の放課後がやってきた。全てのクラスは粛々と準備を進めてきた。今日の放課後は生徒会主導による予行練習の日だ。明日の本番に向けての重要なテストとなる。

 

「参加せんぞ。わざわざ金にもならん生徒をもてなしてやる必要はない」

 

「いい予行練習になるんじゃないの?」

 

「明日最初は失敗してもいい。ドジっ子メイドも確立された属性だ。今日は明日に向けて体調管理も含め鋭気を養ってくれればいい。色々なクラスをまわるのもいいんじゃないか。お客の立場を経験することでみえてくるものもあるかもしれん。設営班だけは今日が仕上げだ。悪いが準備を進めてくれ」

 

さて、設営に関しては堀北にまかせて問題ないだろう。こちらも最後の仕上げを進めよう。

 

特別教室の1階、その1つの教室で着々とコンセプトカフェの準備が進められていた。俺達のメイド喫茶と異なり、龍園クラスのコンセプトは『和装』。食事や飲み物に関しても、和菓子やお茶など、全く方向性の異なるものだ。

 

「よう。ひよりは会計係なのか?」

 

1人座って読者をしていたひよりに話かける。

 

「はい。人と対話するのはあまり得意ではないので…動き回るのも得意ではないですし、トレーで食事を運ぶ練習もしましたが、うまくいきませんでした」

 

「苦手な事をわざわざやる必要はないだろ。ひよりが会計を担当してくれるなら安心できるしな」

 

「ありがとうございます。今日は偵察ですか?八幡くん」

 

「ああ、そんな所だ。俺達のメイド喫茶は洋風だからな。上手く対比になっていいんじゃないか。明日の勝負が楽しみだ」

 

「龍園くんが言ってたのは本当なんですね」

 

「せっかくのお祭りだ。バトル要素があるほうが盛り上がる。王道だろう?」

 

「ふふっ。八幡くんに推薦されていくつかライトノベルも読みましたが、確かにこういった展開も記憶にあります。なんだか物語の登場人物になったみたいです」

 

「ククッ、何の用だ?腐り目」

 

「明日のライバル候補だからな。敵情視察だよ。それにしても和装の衣装は高くついたんじゃないか?どうせコンセプトカフェで競うなら完全に一緒でも良かっただろ」

 

「それじゃあ、おもしろくねぇだろ。あとは単純に俺の好みだ。わざわざお前の提案通り企画ぶつけてやったんだ。何かアドバイスでもしていけ」

 

「堀北に勝負ふっかけたのはお前のアドリブだろ。そこまでしてやる義理はないが…そうだな。せっかく和の雰囲気にひよりがいる。茶を実演でたてたりはせんのか?美少女高校生がたてる茶だ。多少高値でも需要あるんじゃないか?あとは参加料とって子供たちに簡単な体験をしてもらうのもいいだろう。別に場所はこの教室でなくてもいいしな」

 

「ひより。できるか?」

 

「はっ…はい。茶道部ですからその程度なら」

(美少女高校生…)

 

「よしっ。これから一部の予定を変更する。よかったのか?腐り目。敵に塩を贈るような事をして」

 

「これぐらいで負けるつもりはないぞ」

 

「クククッ、お前たちは一之瀬を抱き込んだみたいだが、せいぜい共倒れしろ。鈴音に伝えておけ、明日勝つのは俺たちのクラスだってな」

 

……

その後、色々なクラスをまわりつつ俺は保健室を訪れた。

 

「八幡くん、今日はどうしたの?」

 

「星乃宮先生に質問とお願いがあってきました」

 

「質問なら佐枝ちゃんでもいいんじゃない。ホント佐枝ちゃんあれから変わったよねっ。いまいましいっ」

 

「本音でてますよ。それに先生が依頼したんでしょ」

 

「佐枝ちゃんを追い込んで欲しかっただけだよ〜」

 

「はいはい。そうしておきます。質問ですが、今、茶柱先生に聞くわけにはいきませんので」

 

「う〜ん…で何かな?お姉さん何でも答えちゃうよ?私のスリーサイズとか?」

 

「要りません」

 

「も〜真面目なんだから〜」

 

「明日の文化祭。先生達にご助力頂くには何ポイント必要になりますか?」

 

「なるほどね〜。ちょっと待っててね……1時間10万ポイントよ」

 

「では、ここで2人分お支払いします」

 

「2人分?」

 

「茶柱先生と星乃宮先生分ですが?」

 

「佐枝ちゃんはいいけど、私は他のクラスの担任よ?」

 

「一之瀬達から聞いているでしょう?何の為に一之瀬巻き込んでると思ってるんですか?」

 

「えっ…え〜。もしかして、わたしを巻き込むため?」

 

「それ以外に何かありますか?もちろん一之瀬には星乃宮先生に『俺たちの』クラスで手伝いをしてもらうことは了解とってます」

 

「でもでも、前例ないしね〜」

 

「文化祭自体が前例ないのでは?」

 

「それでも、クラスのみんなに悪いしね〜」

 

「面倒くさい。知恵、手伝え」

 

「はいっ♪あっ…あれ…?」

 

「言質は取りましたからね。星乃宮先生。明日はよろしくお願いします」



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文化祭④ スタートダッシュ

ののんさんから支援画像頂きましたのでいれてみました。画像はあくまでイメージです♪


長い準備期間を経て、ついに文化祭当日がやってきた。開始時刻は朝の9時で8時半までに登校する事が義務づけられている。俺は堀北にそれより少し早い8時にメイド喫茶が開かれる特別教室にクラスメイトを集めてもらった。当然だが高円寺はいない。

 

「比企谷くんの言う通りみんなに集まってもらったけど、これからどうするつもりかしら?」

 

「まあ、見ておけ。櫛田、波瑠加、準備はできてるか?」

 

「もちろんだよっ」

 

「オッケー」

 

「う…うん…」

 

その言葉を確認して、俺はみんなへと語りかける。

 

「文化祭当日の忙しい時間に集まってもらってすまない。今日まで俺は全学年で1位になる為に準備をすすめてきた。ただの1位ではない。ぶっちぎりでだ。色々と無理も言ったが、ここまで付き合ってくれた皆に感謝する。さて、秘策の第一弾をここで発表したいと思う」

 

「なんだなんだ」

「もったいぶるんじゃねえよ」

 

「そうだな。早速お披露目といこうか。櫛田、波瑠加頼む。」

 

「………」あれっ?

 

少し間があいたが、更衣室から前のめりに愛理が飛び出してくる。

 

「押すなんて酷いよ波瑠加ちゃん!」

 

「あんたがさっさとでないからでしょっ」

 

メイド服に身を包んだ愛里をみて、全員が息を飲む。

 

「グラビアアイドル『雫』ことNEW佐倉愛里だ。

 せっかくだ。愛里、1言抱負を語ってくれ」

 

「みんなー。内緒にしててごめんねっ。今日に向けていっぱい桔梗ちゃん、波瑠加ちゃんと練習してきたんだ。足はひっぱらないと思うから今日はよろしくね♪裏方として、頑張ってくれる人も応援してるからね〜。全員で1位目指すよっ」

 

そこには今までのようにおどおどした愛里の姿はなかった。内密に練習をしてきたためか、波瑠加と異なり、なかなか人目に慣れる事が難しかった愛里に俺は1つ提案をした。それは『愛里モード』と『雫モード』を分ける事だ。一種の自己催眠だな。この提案に一日の長?がある桔梗がしっかりと応えてくれたようだが…まぁ…やり過ぎな気もせんではないが…。

 

「あなた…何をすればこうなるの?」

 

「愛里の覚悟と櫛田、波瑠加のおかげだな。俺は何もしてないぞ」

 

まだ、現実味がないのか唖然としているクラスメイトに話かける。

 

「今から秘策第一弾は公開だ。俺たちのクラスに来れば『雫』が接客してくれる。この情報を学校中にばら撒いてくれ。まずは11時までに一之瀬のクラスを吸収する。みんな頼むぞ」

 

「おぉぉぉぉー!!!」

「比企谷様の仰せのままに」

 

男性陣を中心に士気が一気に高まる。そして、なぜか一部の男子の俺を見る目がなんかこわい…。

 

2年Aクラスに引退したはずのグラビアアイドル『雫』がいるという情報はまたたく間のうちに学校中に広がる。9時を過ぎるとその噂を聞いたお客が来店した。

 

「お帰りなさいませ。ご主人さま」

 

そう言って出迎えるAクラスが誇るメイド達。

 

【挿絵表示】

 

最初はみんな慣れない様子だったが、そんな初々しさも彼女たちの魅力になっている。まずまずの立ち上がりだろう。開店からすぐに『雫がいるらしい』という情報は『雫がいた』に上書きされ、1時間を過ぎる頃には行列ができるようになっていた。予定より少し早いが一之瀬のクラスを飲み込んだ。

 

「にゃはは。あれは反則じゃないかな?」

 

メイド姿に着替えた一之瀬が苦情を言ってくる。

 

「何を言っている。愛里もれっきとしたクラスメイトだ。何も問題ないだろ?さて、予定どおり最初のインパクトで売上は稼げたがな。ここからが本当の勝負だ。なに、一之瀬と桔梗が揃えば、あの愛里にも負けんだろ。お前たちには期待しているぞ」

 

「にゃっ。比企谷くん、時々ずるくない?」

 

一之瀬クラスを吸収した事で待たせる時間も少なくなった。学校関係者が中心な為、野次馬根性丸出しのお客が少なかったのも幸いしているな。もし、一般開放していたら…想像もしたくない。

 

さて、そろそろ昼食どき。午後1時までのランチタイムが始まる。俺はここを堀北と一之瀬にまかせて予定どおり料理班を手伝う為、厨房に向かった。



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文化祭⑤ 執事カフェ

「疲れた…。もう働きたくない…」

 

11時から午後1時ランチタイムの2時間。泣き止まない子供の為にサービスで即席のオムレットを作ったのが間違いの始まりだった。無事、その子を泣き止ませる事に成功したが、それを見ていた他の家族から「あれは何?」となり、注文が殺到する事になる。俺以外事前に練習をしていない為、深く考えず午後1時までの限定提供としたのが想定外に購買意欲に火をつけてしまった。最後の1時間はひたすらオムレットを作った記憶しかない。暫くはたまご料理は見たくないな。ジャンルはスイーツの為、一之瀬クラスに売上を渡すつもりだったが、比企谷オリジナルという事で俺たちの売上としてくれた。

 

外野では龍園がAクラスとの対決を大々的に風潮している。卑怯にも一之瀬クラスと組んでDクラスを潰しに来ている。もし、負けると退学にさせられるかもしれない。高額なポイントを賭けた勝負らしい。などなどである。龍園への対策は清隆の意見を参考に練ってきたので問題はないだろう。龍園は俺達が一之瀬クラスを吸収した為、判官贔屓の客を上手く取り込んでいるようだ。また、ひよりが点てるお茶が好評と耳にはいってきた。文化祭が色々落ち着いたら、一度お願いしてみようか…。たまには日本茶もいいだろう。

 

午後1時を過ぎ俺達のクラスは執事カフェへとシフトする。高円寺も無事参加してくれているようだ。それぞれキャラクターが異なる執事に扮装した生徒達にリアル乙女ゲーを想起したのかメイド喫茶と変わらない賑わいをみせていた。

 

「ハチ君〜、ちょっと手伝って〜」

 

波瑠加から声がかかりバックヤードに戻ると

 

「きよぽん、天沢。確保」

 

清隆と天沢に拘束された。過剰戦力すぎないか?あまりにも急な展開にそんな関係ない事を考えていると桔梗は続けた。

 

「いろは準備はいい?」

 

「バッチリです」

 

「なっ…なんでいろはと天沢がいる」

 

「「休憩時間です!」」

 

「違う所で休め」

 

「で、これはどういう状況なんだ。桔梗」

 

「八幡のプランにはどうしても欠けているものがあるんだよっ」

 

「どこがだ。男性陣の人選も問題ないだろ」

 

「はあ、これだから…乙女心がわかってないね」

 

「じゃあ、何が足らんと言うんだ」

 

「「「「知的メガネ」」」」

 

「もし、ゆきむーがいれば、こんな事しなかったんだよ?」

 

「啓誠は引き受けんだろ」

 

「という事で本日のサプライズ第二弾だよっ。きよぽん、天沢、こっちに連れてきて」

 

「はーい。はちまんも抵抗しないでね。あと、終わったらオムレットよろしくね〜」

 

予算に計上した覚えのない執事服と私物のメガネ…。髪型を桔梗といろはに弄ばれた俺はそのまま執事カフェに放り出される。店員、お客全ての視線が集まる。

 

「はっはっはっ。なかなか様になっているじゃないかボーイ。これは私も負けてられないね〜」

 

いち早く俺に気づいた高円寺が声をかけてくる。

 

「ぽ〜…」

 

フリーズしたままの堀北。

 

「しまった…

 あのブラコン。知的メガネの効果がばつぐんだ」

 

「あ…あなたはいったい…?」

 

「「八幡」」

「ハチ君」

「先輩」

 

「そ…そうなのね…まずは友達からお願いするわ」

 

どうやら堀北が壊れたようだ。『執事カフェに謎の知的メガネ登場!』という噂は『雫』以上の早さで学校中に広まる。女子のネットワークは恐ろしい。俺は最後の仕上げがある為、14時30分までの約束でフロアに立った。

 

「本当に比企谷なのか?」

 

「何を言っている。ちょっとメガネかけて髪型セットしただけだ。何も変わらんだろう」

 

「おっ…おぅ。そんなものか?」

 

「須藤。こいつの感覚がおかしい。俺も始めてこの姿を見た時、櫛田にバラされるまで八幡とわからなかった」

 

「何言ってんだ。ひよりと高円寺はすぐにわかったぞ」

 

「逆だ。ひよりと高円寺にしか見破れてないんだ」

 

「そこ〜。いつまでもしゃべってないで、今は目の前の仕事に集中集中」

 

「へいへい」

 

メイド喫茶から執事カフェに変えるのは正直賭けだった。執事役の男性陣はそれぞれのキャラクターを活かした接客を心がけてくれた為、メイド喫茶と遜色のない売上となっている。高円寺は流石の1言だ。紳士としての振る舞い。お客を楽しませる話術。全てが1流だった。チェキの売上も堂々1位の活躍だ。そして、俺が僅差の2位…。解せぬ。唯一の計算外は終始堀北がポンコツだったことだな。

 

「いい勝負だったよ。ボーイ。今度、紳士というものを私直々に教えようじゃないか。なぁに遠慮する事はないよ。はっはっはっ」

 

そう言って高円寺は去っていった。正直迷惑なんだが…。さて、最後の仕上げといこうか



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文化祭⑥ サエちゃんとチエちゃん

ののんさんから支援画像頂きましたのでいれてみました。画像はあくまでイメージです♪


いよいよ午後3時が近づいてきた頃。俺は最後の一手を打つべく、メイド喫茶を後にしていた。

 

「わざわざ呼び出してすみません茶柱先生。プライベートポイントは使い終わりましたか?」

 

「ん?あぁ、残りは80ポイント。使い切ったと言っていいだろう。それがどうした」

 

時間が時間だけに、しっかりと教師として文化祭に貢献を終えたようだ。

 

「約束を果たしてもらう時が来ました。これから1時間茶柱先生に協力を仰ぎたいんです」

 

「待て比企谷。約束?おまえの言っている事が分からないのだが…」

 

「メイド喫茶で売上をたてる為、茶柱先生にメイドになってもらいたいんですよ」

 

「…は?」

「私にメイド?そんな話聞いたこともない…お前は何を言っているんだ」

 

「今、話しましたが?」

 

「何故私がメイドになる必要が。メイド喫茶の評判は嫌というほど聞いた。佐倉の活躍もあり、既に上位は確定だろう。そもそも私は教師だ。そして、クラスの担任でもある。特定のクラスに肩入れするなど許されるはずもない」

 

「先生こそ何を言ってるんですか。俺は既に茶柱先生の口から文化祭に協力してもらう事の同意をとっている。学校側からも今日まで異議申し立てはされていない。もし、ルールに違反するならそれは学校側の過失ですね」

 

「同意などした覚えはないぞ」

 

「忘れたんですか?満場一致特別試験の最終問題で俺が何を要求したのか」

 

「……!?」

 

「そう。俺は『例外なく』『この場にいる全ての人間』が協力する事を要求した。この申し出を先生は受理してくれたじゃないですか。それも他学年の先生がいる目の前でです。もし、この契約自体に問題があれば同席した先生にも問題がありますよね?」

 

「……」

 

「少し意地悪をしました。教師の協力を仰ぐ場合、1時間毎に10万ポイント支払うこと。これが今回学校側が用意したルールです。確認頂いても問題ありません」

 

慌てて茶柱先生は携帯で文化祭に関するルールを読み漁り始めた。

 

「確かにな。だが、1時間に10万ポイントだぞ。安くない案件だが…本当にいいのか?」

 

「いいのかもなにも星乃宮先生に支払い済みです。先生には拒否権はないんですよ」

 

「本当の本当にいいんだな?」

 

「くどいです」

 

「ま、待て。そうだ、チエにお願いしたらどうだ?この手のことはアイツのほうが上手くやる。文化祭では既にチエのクラスとは協力関係だ。しっかり教師としての務めも果たすはずだ」

 

「既に星乃宮先生にはメイドになる事を了承してもらってます。代わりにはできませんよ」

 

「ひ、卑怯だぞ比企谷」

 

「茶柱先生。この前の満場一致特別試験はあなた達にとっても重要な試験だった。最終問題。俺が時間切れを人質にした時、昔を思い出したんじゃないですか?」

 

「チエが話したのか?」

 

「結果だけです。あなたはあの試験の時に過去を乗り越えたのかもしれない。でも、星乃宮先生は未だ引きずったままです。そろそろ過去の呪縛から解き放ってあげてもいいでしょう。協力してくれませんか?茶柱先生」

 

「…そうだな」

 

……

茶柱先生の協力を取り付けた俺は携帯であらかじめ用意していたメールをクラスメイトへ一斉に連絡事項として送信する。ラスト1時間間限定で茶柱先生と星乃宮先生が各クラスでメイドとして働く事、2人にはチェキの売上で対決してもらう事を伝え、手の空いている生徒達に学校中に宣伝して回る事を通達した。

 

「き、来たぞ比企谷。は、早く教室の中に入れてくれ!」

 

「ねぇ〜どうかな八幡くん?

 まだまだ現役JKにも負けてないよね〜」

 

【挿絵表示】

 

「お待ちしておりました。それでは説明させて頂きます。お二人にはこの1時間、チェキの売上で競ってもらいます。注文がはいる度にこちらの表に加算していき、周りにもどちらが優勢か分かるようにしています。池、外村、チェキの在庫大丈夫だろうな?」

 

「もちろん。大丈夫だ」

 

「き…聞いてないぞ」

 

「なので、今説明しています。茶柱先生はそこに立っていてもらえれば問題ありません。あとは池達の仕事です」

 

「勝ったらご褒美あるのかな〜」

 

「ないです」

 

「じゃ〜あ、勝ったらチエって呼んでくれるかな〜」

 

「イヤです」

 

「え〜あの時は呼んでくれたのに?」

 

「誤解を生む言い方止めて下さい」

 

そして、櫛田さん。睨まないで下さい。

 

「なんか比企谷くん。先生の扱い手慣れてるよー」

 

「気のせいだ。一之瀬」

 

星乃宮先生に近づき、俺は先生だけが聞こえる声で話す。

 

「わざわざ茶柱先生と正面から戦える状況をつくったんですから、とっととケジメつけてきて下さい。前回の嫌がらせだけじゃ足りてないんですよね?はぁ…これはサービスです」

 

『応援してるぞ。知恵』

 

「!!!?」

 

「よ〜し、絶対負けないからねー。佐枝ちゃん!」

「行くわよ。一之瀬さん。この勝負にも勝って、直ぐにAクラスも奪ってやるんだから!!」

 

「比企谷…お前チエに何言ったんだ…」

「八幡♪あとでね♪」

 

よしっ。俺は何も見なかった。そうしよう。実際の所、茶柱先生が勝つか星乃宮先生が勝つかは好みの差だ。ギャップという面では茶柱先生が圧倒しているが…。

 

これからの最大の懸念は教室に入りきらない大勢の来客たち。この物理的な問題を解消するにはお客たちにもそれなりの代償を払ってもらう必要がある。俺はこれを見据えて特別等二階にある奥の2教室を確保していた。教室に向かうまでの廊下に入場口を設けて2000ポイント払って入場する変わりに飲み物や食事を無料にした。

 

「メイド喫茶で入場料なんて聞いた事ないよ。それに残っている飲み物や食事は全てセルフサービスって大丈夫なの?」

 

「今はまだ人数制限をしているがな。ここからは先生達が目的の客だ。気にもしないだろう。飲み物や食材が残ってももったいないしな」

 

今後2度と見られないであろう姿見たさに、現役教職員達も興味津々だ。それはケヤキモールで普段働く大人たちにしても同様だ。まるで波のように押し寄せてくる大人、大人、大人たち。

 

「なんか私達の頑張りが霞んでいくような…ちょっと落ち込んじゃうかも」

 

「これまではメイド喫茶。今はパンダがいる動物園。比べられるものじゃないだろ」

 

「ふふっ。ちょっとひどくない?」

 

「事実だろ」

 

「いつからこれ考えてたの?」

 

「佐藤達の企画書を見た時に。朧気だがな」

 

「全く…普段からこれくらいやる気だせばいいのに…やっぱり八幡は敵にまわしちゃダメだね」

 

「そんなことあんのか?」

 

「あっ。なかったよっ」

 

こうしている間にも、先生達の撮影を希望する者は後を絶たない。そろそろ人数制限も限界になってきた。

 

「さて、これで終わりだな。明日からはもう働かん」

 

「まだ、何かやんの?」

 

「並んでいるお客のポイントを根こそぎ刈り取るぞ」

 

俺はスタンバイさせていた男子生徒に合図を送る。すると今まで閉まっていた扉や窓が一斉に開く。入場口からは中が見えるか見えないか微妙な位置取りだ。そして、廊下でのメイド達によるケータリングサービスの準備を整える。

 

「特別に現時点で1ポイント以上残っている方々は全額を支払って頂く事で入場可能とさせて頂きます。飲み物や食事は廊下にも配置させて頂きます。引き続きご自由に楽しんで頂いて問題ありません」

 

こうして午後4時まで先生達の公開は続けられた。チェキの販売数は茶柱先生に軍配は上がったが、終了後の茶柱先生の憔悴した姿を見て、星乃宮先生はどうやら溜飲は下がったらしい。なお、両先生分の売上は俺達Aクラスのものなのは言うまでもない。



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二年生編 8巻
修学旅行①


11月も下旬になり、待ちに待った修学旅行の日が近づいてきた。

 

「修学旅行旅行楽しみだねっ」

 

「………休んでいい?集団生活とか無理です。ごめんなさい」

 

「はぁ…。却下」

 

「まだ京都なら…」

 

「えっ……」

 

「……うん?」

 

「修学旅行は北海道だよね?」

 

「……えっ?」

 

「北海道2票。沖縄1票。京都1票。結果、北海道で決まりだよっ」

 

「聞いてないが?」

 

「まだ、発表されてないからね。でも、他クラスが何を選んだか確認すればわかるよね?他のと違い隠す必要もないし?」

 

「……持病の家から出たくない病が…」

 

「却下♪」

―――――――――――――――――――――――――――――

今日は午前の2時間を使って、修学旅行に関する時間が設けられている。普通の学校ならもう少し早い段階で説明をうけているかもしれないが、この学校の生徒にはその前に期末テストの結果のほうが重要だ。

 

「それではこれより2学期期末テストの結果を発表する」

 

去年の今頃はペーパーシャフルが行われたが、今年はルールもスタンダードで

1位 50クラスポイント

2位 25クラスポイント

3位 マイナス25クラスポイント

4位 マイナス50クラスポイント

純粋なクラスポイントの奪い合いだ。

 

「学年での順位だが、一之瀬クラスの平均点を超え2位を獲得した。よくやったな」

 

1位坂柳クラス、3位一之瀬クラス、4位龍園クラス。やはり単純な学力では、まだまだ坂柳クラスには届かない。

 

「さて、お前達が修学旅行を楽しみにしている事は期末テストの頑張りからもよく分かっている。が、まずは話し合いの前に1つやってもらうことがある」

 

茶柱先生の指示は2年生全体クラス毎に順位づけを行うもの。とは言っても他クラスに俺が知る生徒は少ない。おそらく修学旅行の班決めに使われるんだろうが、誰と組む事になってもあまり変わらないだろう。自由に班決めしてよいと言われるよりは百倍マシである。開始から30分。俺は早々に書き終えた。

 

予定時刻まで残り数分というところで茶柱先生が声をかける。

 

「よし。全員が終わったようなので以上でリスト作成作業の方は終わりとする。こちらの想定よりも少し早いが、これから修学旅行について話を始めよう」

 

行き先は桔梗が言ってたとおり北海道だった。京都…。スケジュールは下記のとおりだ。

 

1日目 移動→講習→スキー

2日目 自由行動

3日目 観光スポット巡り

4日目 自由行動 ※条件あり

5日目 帰路

 

自由行動の時間が多いな。そもそも自由とは何だ。辞書をひけば〚他からの束縛を受けず、自分の思うままにふるまえること〛とあるが、この人間社会にそんな事はありえるだろうか?また、既に重力という枷がはめられて時点で自由と言うのは幻想である。結局何が言いたいかと言えば、ボッチにとって自由行動はただただ地獄の時間だ。そんな事を考えている間にも説明は続く。グループ分けはクラス内ではなく、学年全体で行われる。それにはやはり先程行われた順位づけで決まるようだ。とにかく静かに過ごせれば、それ以上望むものはない。そんな俺のささやかな希望はあっさりと打ち砕かれる事になった。

 

堀北クラス:比企谷八幡、櫛田桔梗

坂柳クラス:鬼頭隼、山村美紀

一之瀬クラス:渡辺紀仁、網倉麻子

龍園クラス:龍園翔、西野武子

 

「よしっ!」

 

「終わったわ…」

 

 



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修学旅行② 1日目 移動中

スキー場にたどり着かないだと…


修学旅行当日の朝、全部で4台のバスが集まり、私服姿の2年生が全員整列する。これから乗るバスは、誰がどこに座るかが決まっていない。全員が座り終え、残った席が俺の指定席になるだろう。幸い堀北クラスは39名と奇数な為、到着するまでは1人バス旅行を楽しめる事だろう。

 

「八幡、ちょっといいかな?」

 

声をかけてきたのは洋介だ。

 

「バスの席の事なんだけど、良かったら僕が空港まで隣に座ってもいいかな?」

 

「断る」

 

いかんな。条件反射で断ってしまった。それより洋介の隣の席なんて特等席だろう。現に女子生徒数名の熱視線が送られているのがわかる。

洋介は目を見て訴えかけてきていた。こいつ席の争奪戦から逃げたな。

 

「はぁ〜。その代わり無駄に話しかけんな」

 

「それは残念だけど…わかったよ。ありがとう、八幡」

 

笑顔で答える洋介。俺を光の彼方へ消し去るつもりか?

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

新千歳空港に降り立った俺達は、空港のロビーで整列を始める。ここからグループ行動の開始である。

 

「グループが全員集まったところから、席決めを行うように。それぞれに割り振られた席を話し合って決めてくれ」

 

「一緒のグループになったねっ。八幡」

 

「なんかしたのか?」

 

「ほんと偶然だよっ!奇跡だよ!今日だけは神様に感謝しないとね」

 

「堕天使なのに?」

 

「そんなぁ~天使みたいだなんて♪」

 

「言ってないし、褒めてないんだが…」

 

そんないつも通り?のやりとりを桔梗としていると

 

「桔梗ちゃ〜ん」

 

生徒達の群衆から抜け出るように、一之瀬クラスの渡辺と網倉が手を挙げた。当たり前のように桔梗は網倉とも仲がよいらしく同じグループになったことを手を取り合い喜び合う。

 

「今日から5日間よろしくな」

 

「おっ…おぅ」

 

「もぅ…。ごめんねー。渡辺君。八幡は極度の人見知りなだけだから仲良くしてあげてね。う〜ん…慣れるまでどれくらいかかるかな?」

 

「5日だな」

 

「修学旅行終わってるよね?」

 

「はははっ。桔梗ちゃんと比企谷君。仲いいんだ〜」

 

「中学からの腐れ縁だ」

 

「腐ってんのは八幡の目だけで十分だよっ」

 

次に姿を見せたのは龍園クラスの西野と少し遅れて龍園。

 

「おはよう西野さん、それから龍園くんも」

 

「……よろしく」

 

女子の西野だが、櫛田や網倉とはそれほど交流がないのか少し気まずそうだ。

 

「ククッ。まさか腐り目と同じグループとはなぁ。修学旅行の期間中、精一杯オレに仕えてくれよ」

 

「嫌だが?」

 

「おっと…手が滑ってひよりに…」

 

「承知致しました。誠心誠意お仕えすると誓います」

 

「ハハハッ。こき使ってやるから楽しみにしとけ。知的メガネ執事さん」

 

「なっ…なんでお前が…」

 

「うちのクラスでも話題になってたからなぁ。みな誰かわからなかったが、ひよりが『比企谷くんですよね?皆さんどうかされたのですか?』だとよ。愛されてるじゃねぇか」

 

「消してくれ。今すぐ全員の記憶消してくれ!」

 

「なんで、渡辺くんが声かけたらキョドってたのに、龍園くんには自然に対応できんの?」

 

「……初対面じゃないからかなぁ…あとは鬼頭くんと山村さんだね」

 

「もう来てるだろっ」

 

「えっ」

 

俺が桔梗の後方を指差すと、静かに合流していた2人が並んでいたことに気づく。鬼頭は姿をみせるなり龍園のほうを無言の圧力を混ぜつつ睨んでいた。「(龍園と)混ぜるな危険」って事か。理解した。

一方の山村は、誰を見ることなく視線を落としながら近づいてきた。かすかに俺のアホ毛が反応した気がする。

 

「全員揃ったみたいだし、早速だけど席を決めないとね」

 

「やっぱり男子は男子、女子は女子で固まるのがいいんじゃないかな?」

 

「皆はどう?異論はないかな?」

 

桔梗と網倉の会話で席決めが進んでいく。他のメンバーから特に反論はない。男子から女子の隣じゃないと嫌だ。とは言えんわな。

 

「俺は龍園の隣でなければ文句はない」

 

鬼頭は1番困るような発言をボソッと呟いて、元の位置に戻ってしまう。

 

「……どうする?比企谷」

 

「俺が龍園の隣が妥当か…。仕方ない。それで問題ないか?」

 

「あぁ。正直助かったよ。鬼頭は普段おとなしいっぽいし。こっちから敵意を向けなかったら何もしてこないと思うんだよ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おいっ。腐り目。てめぇはこれからどうするつもりだ?」

 

「文化祭で力尽きた。もう何もせん。これ以上働きたくない。あとは堀北次第だ。知らんけど」

 

「それはクラスが下に落ちてもか?」

 

「前にも言ったが、Aクラスで卒業する事に興味はない。それに…」

 

「それになんだ?」

 

「俺達のクラスはまだAクラスに実力が見合っていない。いっそ一度Dまで落ちてもいいくらいだ。クラスポイント0は流石に勘弁だけどな」

 

「クククッ。なぁ、やっぱりうちに来ないか?ひよりも喜ぶぜ」

 

「不可能だ」

 

「ポイントの事言ってんのかぁ?だいぶ溜め込んでいるって聞いてるぜ。今なら不足分貸してやってもいい」

 

「4000万」

 

「あぁ!?」

 

「クラス異動するなら桔梗とセットになる。1人だけ異動したら、その後どうなるか俺には保証できん」

 

「だから、不可能か。ククッ。分かった。今の話は忘れろ」

 

龍園とそんな会話をしながらバスはスキー場へと向かっていく。よくよく考えてみるとこのグループは俺にとって最適なんじゃないだろうか。率先してグループの方向性を決めてくれる桔梗と網倉。龍園と鬼頭は混ぜなきゃ問題ないので基本放置でよい。癒し枠の渡辺にボッチの香りがする西野。

それに山村だ。俺のアンテナ(アホ毛)が反応したのであれば同種の人間のはずだ。固有スキル『ステルスヒッキー』とならぶ『ステルスミッキー』を取得しているとみた。この修学旅行。どちらが存在感をより消せる事ができるか、そんな戦いが今始まろうとしていた。

 

「あの雰囲気…。また、馬鹿な事考えてそうね。。。はぁ…」

 



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