仮面ライダーアクト (志村琴音)
しおりを挟む

設定集・プロローグ
登場人物紹介


登場人物の紹介です。
挿絵を作成させていただいたサイトに関しては、画像一覧にて詳細をご確認ください。

※ネタバレを含んでおりますので、お読みになる際はくれぐれもご注意ください。


SEASON1

 

 

 

椎名(しいな) 春樹(はるき)

(イメージCV:松岡禎丞)

生年月日:1993年6月18日

出生地:長野県

所属:SOUP

経歴:不明

好きなもの:唐揚げ、焼肉、鍋、家族

嫌いなもの:少年漫画、唐揚げに勝手にレモンをかける人、デートの邪魔をする人、家族を傷つけようとする人

 

 

【挿絵表示】

 

 

SOUPに所属する28歳の男性。仮面ライダーアクトと呼ばれる戦士に変身し、未確認生命体と戦う。

そこまで感情を露わにしない。

 

無断欠勤が多く、他のメンバーからは「SOUPの幽霊班員」などと言われている。

だがいざ仕事に取り掛かるとその腕は確かなため、信頼は厚い。

 

その経歴の一切は不明であり、誰も彼のことを知らない。

 

 

椎名(しいな) (あおい)

(イメージCV:戸松遥)

生年月日:1994年8月19日

出生地:長野県

所属:SOUP

経歴:城南大学文学部、同大学附属考古学研究所を経て現職。

好きなもの:お菓子、おにぎり、焼肉、春樹の作った料理、家族

嫌いなもの:虫、家族を傷つけようとする人

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

SOUPに所属する27歳の女性で、春樹の妻。仮面ライダーリベードという、もう一人の仮面ライダーに変身して戦う。

旧姓は「常田(ときた)」。

 

夫よりも笑顔を見せる回数は多い。

 

デスクでの仕事の時には、春樹と共にコンビニのスイーツを食べながら仕事に取り掛かる。

 

 

グアルダ(GUARDA)

(イメージCV:安元洋貴)

所属:SOUP

 

 

【挿絵表示】

 

 

ライダーシステムに搭載されている人工知能。春樹と碧の端末に姿を現し、指示を出す。

自由人な春樹と活発な碧のストッパーの役割も務める。

 

ライダーシステムの全ての権利を持っており、彼の許可がなければライダーシステムを使用することは出来ない。

 

 

反田(そりた) 深月(みづき)

(イメージCV:梶裕貴)

生年月日:1997年6月7日

出生地:東京都

所属:SOUP

経歴:落合警察署生活安全部を経て現職。

好きなもの:麺類、アイドル

嫌いなもの:トマト、書類にあるような大量の文字列

 

 

【挿絵表示】

 

 

SOUPに所属する24歳の青年。主に作戦立案を担当。

 

右も左も分からない部署に異動になったため、戸惑いながらも懸命に仕事に励む。

ただ、部署の先輩たちが余りにも自由なため、頭を悩ませている。

 

実は、江戸川(えどがわ)ミソラというアイドルの大ファンで、ライブがあれば可能な限り行くようにしている。

 

 

雨宮(あめみや) 圭吾(けいご)

(イメージCV:林勇)

生年月日:1990年5月16日

出生地:東京都

所属:SOUP

経歴:城北大学理工学部、同大学大学院、大手企業を経て現職。

好きなもの:ポテトチップス、アニメ

嫌いなもの:酢昆布

 

 

【挿絵表示】

 

 

SOUPにて物理学者として活躍する、眼鏡をかけた31歳の男性。戦闘の際には物理学を用いて作戦を担当する。

春樹がチームに加わってからは、メモリアルカードの分析や開発を行っている。

 

誰にでも敬語を使う、礼儀正しい人物。

 

「パンダ・プリンセス」というアニメの大ファンであり、主人公のリンのぬいぐるみをいつも持っている。

 

 

橘田(きった) (かおる)

(イメージCV:直田姫奈)

生年月日:1995年8月16日

出生地:岐阜県

所属:SOUP

経歴:マサチューセッツ工科大学理学部、大手研究機関を経て現職。

好きなもの:派手なお菓子、タピオカミルクティー、遺伝子情報

嫌いなもの:実家、パクチー

 

 

【挿絵表示】

 

 

SOUPにて生物学者として働く26歳の女性。戦闘時には分析官として活躍する。

 

ピンク色の髪の毛にピアス、ルーズソックスというギャルのような服装、そして口調だが、根は真面目であり礼儀正しい。

 

因みに実家は代々続く名家であり、それに反発するように現在のような格好に落ち着いた。

 

 

森田(もりた) 光広(みつひろ)

(イメージCV:田中哲司)

生年月日:1978年10月14日

出生地:東京都

所属:SOUP(隊長)

経歴:城西大学法学部、長野県警察地域部、警察庁を経て現職。

好きなもの:チョレギサラダ、家族

嫌いなもの:ゴーヤ、残業

 

SOUPの班長を務める43歳の男性。現場では全体の総指揮をとる。

いつもはぶっきらぼうだが、部下たちのことを何よりも考えているため、部下から慕われている。

 

小学生の娘がおり、休日は家族でスイーツビュッフェで一緒に時間を過ごす。

 

 

岩田(いわた) 将吾(しょうご)

(イメージCV:金田明夫)

生年月日:1965年6月16日

出生地:神奈川県

所属:SOUP(室長)

経歴:城南大学法学部、警察庁を経て現職。

好きなもの:漫画

嫌いなもの:不明

 

SOUPの室長を務める56歳の男性。

 

 

アール(Earl)

(イメージCV:佐藤二朗)

生年月日:不明

所属:不明

経歴:不明

好きなもの:読書

嫌いなもの:不明

 

SOUPの前に現れる、背広を着た顔の大きな中年男性。薄ら笑顔を絶やさない、ひょうきんな性格。

フロワやピカロと常に一緒に行動している。

常にメモリアルブックを持ち歩いており、時折ページを捲りながら笑みを浮かべる。

 

春樹と碧とは面識があるらしい。

 

 

フロワ(Froid)

(イメージCV:遠藤綾)

生年月日:不明

所属:不明

経歴:不明

好きなもの:可愛いもの

嫌いなもの:不明

 

 

【挿絵表示】

 

 

チャイナドレスを着た魔性の女。アールたちの共に行動する。

 

春樹と碧とは面識があるらしく、春樹のことを「坊や」、碧のことを「お嬢ちゃん」と呼ぶ。

 

 

ピカロ(Picaro)

(イメージCV:浪川大輔)

生年月日:不明

所属:不明

経歴:不明

好きなもの:フロワ

嫌いなもの:自分の邪魔をする人

 

 

【挿絵表示】

 

 

ストリートファッションに身を包んだ青年。背格好とは裏腹に、性格は少年のように無邪気。

アールたちと一緒に行動する。

 

二人と同じく春樹と碧のことを知っており、春樹のことを「お兄ちゃん」、碧のことを「お姉ちゃん」と呼ぶ。

 

 

クロト(KUROTO)

(イメージCV:沢城千春)

生年月日:不明

出生地:不明

所属:不明

経歴:不明

好きなもの:面白いもの

嫌いなもの:面白くないもの

 

 

【挿絵表示】

 

 

春樹や碧の前に現れる謎の青年。

 

自らを「天才」と自負しており、子供っぽい一面がある。

 

 

松本(まつもと)康生(こうせい)

(イメージCV:中田譲治)

生年月日:1963年9月5日

出生地:沖縄県

所属:不明

好きなもの:誕生日、ケーキ、派手なもの

嫌いなもの:特になし

 

1980年代後半を中心に活躍した男性歌手。58歳。

 

「誕生」というものに非常に関心が強く、事あるごとにケーキを作っては送る。

 

 

 

────────────

 

 

 

筒井(つつい) あまね

(イメージCV:竹達彩奈)

生年月日:2005年10月31日

経歴:不明

好きなもの:お茶、家、家族

嫌いなもの:パクチー、家族を傷つけようとする人

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

城南大学附属高等学校に通う16歳の女性。椎名夫妻と同居している。

大人びた見た目だが、少女のようなあどけなさが残っている。

椎名夫妻にタメ口で話し、春樹を「パパ」、碧を「ママ」と呼ぶ。

 

 

新井(あらい)不二雄(ふじお)

(イメージCV:岩田光央)

生年月日:1974年9月22日

出生地:鹿児島県

 

「焼肉専門店 ぎゅう」の店主を務める47歳の大柄の男性。

明るい性格でよく客の悩み相談にも乗っている。

 

SOUPのメンバーと仲が良く、たまにサービスをしてくれる。

 

 

新井(あらい)靖子(やすこ)

(イメージCV:愛河里花子)

生年月日:1977年7月18日

出生地:北海道

 

不二雄の妻である、44歳の小柄な女性。

夫同様に明るい性格。

 

 

七海(ななみ)日菜太(ひなた)

(イメージCV:村瀬歩)

生年月日:2004年12月25日

出生地:東京都

 

 

【挿絵表示】

 

 

ぎゅうでアルバイトをしている、中性的な見た目をした16歳の青年。

ぎゅうの招き猫的な存在。

 

あまねと同じ学校の同じクラスで、よく一緒に買い物をしたりするほど仲が良い。

(尚、あまね曰く、まだ付き合っていない模様)

 

 

江戸川(えどがわ)ミソラ

(イメージCV:中島由貴)

生年月日:2002年2月6日

出生地:東京都

好きなもの:いちごのショートケーキ、絵本、爬虫類全般

嫌いなもの:兎、タコ

 

音楽界に彗星の如く現れたアイドル。19歳。

その圧倒的な歌唱力とカリスマ性から、老若男女問わず彼女のファンは多い。

 

 

常田(ときた)海斗(かいと)

(イメージCV:森川智之)

生年月日:1973年5月11日

出生地:神奈川県

所属:不明

好きなもの:鶏肉、遺伝子情報、家族

嫌いなもの:甘いもの

 

遺伝子工学の権威で、碧の実の父。

世界各国をまたにかけて活躍していたが、数年前より消息が途絶えている。

 

 

 

────────────

 

 

 

■■■■■

(イメージCV:山寺宏一、天海祐希)

詳細:一切不明

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SEASON2

 

 

 

常田(ときた) 八雲(やくも)

(イメージCV:宮野真守)

生年月日:1993年5月21日

出生地:長野県

所属:不明

経歴:城北大学理工学部中退

好きなもの:焼肉、研究、モーニング娘。

嫌いなもの:不明

 

仮面ライダーネクスパイに変身をする28歳の青年で、碧の実の兄。

 

自らを「超ナチュラルスーパー天才」と自称していることから、ナルシストとしてあまり良い目では見られていない。

 

しかし、「天才」の言葉を裏切らない確かな頭脳を持っており、ライダーシステムの殆どを独りで作り上げた。

 

また、モーニング娘。を始めとするハロー!プロジェクトの大ファンであり、好きな曲は「恋愛レボリューション21」と「そうだ! We're ALIVE」の二曲。

 

 

リョーマ(RYOMA)

(イメージCV:石川界人)

生年月日:1989年10月19日

出生地:静岡県

所属:不明

好きなもの:研究

嫌いなもの:自身の思想を嗤うする者

 

仮面ライダーデュークに変身する、32歳のフォルクローの青年。八雲を「ボス」と呼んで慕う取り巻き三人のうちの一人。

 

いつも白衣を着ている。

 

八雲や圭吾に負けず劣らずの技術力を持っており、アイテムを独りで作り出すことが出来る。

 

 

ヨーコ(YOHKO)

(イメージCV:小松未可子)

生年月日:1999年12月18日

出生地:秋田県

所属:不明

好きなもの:ボス

嫌いなもの:ボスに危害を与えるもの

 

仮面ライダーマリカに変身をする、22歳のフォルクローの女性。取り巻きのうちの一人。

 

いつもリクルートスーツを着ていて、髪はショートカット。

 

自由奔放なリョーマとシドを制御する役割であるが、たまに彼らに引っ張られてしまう。

 

 

シド(SHIDO)

(イメージCV:小西克幸)

生年月日:1990年8月2日

出生地:北海道

所属:不明

好きなもの:不明

嫌いなもの:不明

 

仮面ライダーシグルドに変身する、31歳のフォルクローの男性。取り巻きのうちの一人。

 

いつも帽子を欠かさない。

 

ベジタリアンを自称しているが、本当のところは分からない。

 

 

大野(おおの)花奈(はな)

(イメージCV:沢城みゆき)

生年月日:1993年4月4日

出生地:東京都

所属:不明

好きなもの:帆立のバター醤油焼き、天体、ロボット、AKB48

嫌いなもの:椎茸

 

八雲と共に研究をしていた28歳の女性で、クロトの実の姉。

 

八雲と同等、というよりそれ以上の頭脳や技術力を持っており、ライダーシステムを制御するグアルダを密かに完成させた。

 

普段は冷静沈着であるが、八雲の話になると何故か取り乱して顔を赤くする。

 

実はAKB48の大ファン。

 

 

リク(RIKU)

(イメージCV:花江夏樹)

生年月日:2006年1月30日

出生地:東京都

所属:不明

好きなもの:楽しいもの

嫌いなもの:楽しくないもの

 

未確認生命体第四号に酷似した姿に変身をする16歳の青年。

 

殺戮を遊びのようなものだと捉えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SEASON3

 

 

 

キュイヴル(CUIVRE)

(イメージCV:岡本信彦)

生年月日:2001年1月2日

出生地:埼玉県

所属:不明

好きなもの:無し

嫌いなもの:ムカつく奴

 

仮面ライダーヘラクスに変身する、21歳のフォルクローの青年。

 

非常に短気。

 

 

アルジェン(ARGENT)

(イメージCV:平田広明)

生年月日:1989年1月3日

出生地:岡山県

所属:不明

好きなもの:無し

嫌いなもの:言うことを聞かない奴

 

仮面ライダーケタロスに変身する、33歳の男性。

 

いつも冷静で、物事を客観的に見ることが出来る。

 

 

オール(OR)

(イメージCV:津田健次郎)

生年月日:1982年1月1日

出生地:神奈川県

所属:不明

好きなもの:青薔薇

嫌いなもの:自身の敵

 

仮面ライダーコーカサスに変身する40歳の男性。

 

異常なまでに無口。




キャラクターのイメージCVを選ぶ際にはこちらのyoutubeチャンネルがすごく役に立ちました。
(https://www.youtube.com/channel/UC5ppVgB9NfoeSoxH247n7rQ/featured)

因みに今回の大学のモデルは以下の通りです。
城北大学:東京大学
城南大学:慶應義塾大学
城西大学:早稲田大学(実在の城西大学とは関係ありません)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

用語紹介

ライダーシステム(RIDER SYSTEM)

アクトとリベードが使用するシステムの総称。その開発者は現時点では不明である。

その詳細は以下の通り。

 

 

メモリアルカード(MEMORIAL CARD)

強大なエネルギーを秘めたカード。全部で162枚存在する。フォルクローを倒すことで手に入れることが出来る。

一枚一枚が絵柄の違う特注品であり、複製等をすることはかなり難しい。

 

 

アシスタンスカード(ASSISSTANCE CARD)

武器や特殊能力を発動させるためのカード。

メモリアルカードとは異なり、大量生産が容易に可能。

 

 

トランスフォン(TRANS-PHONE)

アクトとリベードが変身に使用するスマートフォン型の黒い端末。

上部にはメモリアルカードを挿入するためのスロットがあり、裏側にアシスタンスカードをかざすことでその効果を発動することが出来る。

また、通常の連絡手段としても使われる。

 

 

アクトドライバー(ACT DRIVER)

(イメージCV:クリストファー・ウェールズ)

アクトとリベードの腹部に着いたドライバー。銀色のドライバーの左側にトランスフォンを装填することで変身する。

ドライバーの右側にはステンドグラスのような絵が描かれたプレートがあり、その絵柄は各ライダーによって違う。

また、端末の裏面にアシスタントカードをかざすことで、様々な能力を発動する。

 

 

カードケース(CARD CASE)

ベルト部分の右側にある入れ物。色は赤、青、黄色のグラデーション。

前方と後方にスロットがあり、前方のスロットからはアシスタンスカードを、後方のスロットからはメモリアルカードを取り出せる。

 

 

ディスペルクラッシャー(DISPEL CRASHER)

ライダーシステムの一つである銀色の武器。

通常は銃の形をしたガンモードだが、持ち手のグリップを縦横に差し込むことで、剣の形をしたソードモードに変形する。

鞘の部分にはスロットがあり、そこにメモリアルカードを装填、端末をかざすことで必殺技を発動する。

 

 

アクトチェイサー(ACT CHASER)

ライダーシステムの一つであるオートバイ。緑色と青色のカラーリングになっている。

最高速度は415km/h。

 

 

 

────────────

 

 

 

ヒュージルーフ(HUGE ROOF)

2020年10月31日に突如として現れた高さ約10000mの屋根と、それを支える巨大な約百本の柱で形成されるオブジェのようなもの。

 

それがどのように建てられたのか、何のために造られたのかは一切不明である。

 

 

SOUP

ヒュージルーフの解析をするために作られた政府の専従組織。正式名称は「未確認物質解析班(Special Office for Unknown Phenomenon)」。

 

各関係省庁や一般企業から六人の先鋭たちが集められ、ヒュージルーフの解析を行っていた。

フォルクローが出現してからは、それと同時に仮面ライダーたちのバックアップを担当するようになった。

 

 

フォルクロー(VOLKLORE)

新たに現れた未知の生命体。

倒すことによってメモリアルカードを手に入れることが可能。

出現する際には数分前から数十分前に、ヒュージルーフかの柱が光り、高エネルギー反応を起こす。

また、出現する場所の半径10kmが赤いカーテンのようなものが出現、それら二つを感知してSOUPは出動する。

 

強力な者は人間と同じような容姿をしており、短期間で言語を習得するほどの知能を有している。

さらに戦士のような形態へと変身し、その戦士としての力は進化していく。

 

 

ソルダート(SOLDATO)

フォルクローが創り出す、ペスト医師のような姿をした白い仮面の戦士。集団戦法で戦う使い魔のような存在。

コンバットナイフを振り回し、確実に敵を切り刻む。

 

 

メモリアルブック(MEMORIAL BOOK)

アールが常日頃持ち歩いている書物のような物。

前書きが書かれた薄いページが数ページ、分厚い33ページと後書きで構成されている。

分厚いページには、カードを入れるためのスロットがそれぞれ5つずつあり、そこにメモリアルカードを入れると何かが起こると言われている。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ

東京都 新宿区 四谷

 数ヶ月前、ビル建設のために作業をしていた工事会社が、地面から巨大な遺跡群を発見。

 「四谷遺跡」と名付けられたこの遺跡は、石川(いしかわ)(まさる)率いる城南大学考古学研究室の調査チーム、計六人よって調査が開始された。

 

 しかし、2010年12月25日14時3分。

 「遺跡の最深部に到達した」という本部への報告を最後に、連絡が途絶える。

 

 翌12月26日10時32分。

 城南大学考古学研究室の調査チーム、六人全員が、遺跡前で遺体として発見された。

 

 

 

 司法解剖の結果、遺体にこれと言った致命傷や毒物の検出も無かったため、死因は分からず仕舞い。

 未確認生命体による犯行という可能性も大いに考えられたが、現場付近からは調査チーム以外のゲソ痕(靴裏の痕)は発見されず、また数週間以内に同様の事件が起きなかったことから、その可能性は無くなった。

 

 その後も捜査が進められたが何も物象が出てこなかったため、結局、原因不明の事故死として捜査は終了した。

 

 

 

────────────

 

 

 

2020年10月31日20時00分 東京23区全域

 それは突然の出来事だった──。

 

 ハロウィンで賑わう東京の大部分を激しい揺れが襲い始めた。

 地震かと思った人々は、咄嗟にその場にしゃがみ込んで、持っていた荷物で地震の頭を守る。

 

 だが、実際には地震ではなく、もっと奇怪な出来事が起こっていた。

 

 突然辺りに物凄い高さの黒い円柱が何十本も聳え立った。

 そしてその円柱の先が一枚の超巨大なガラスで結びつけられ、まるで屋根のような形になっていく。

 

 人々は悲鳴を上げることもなく、この世の終わりだと何かに祈ることもなく、ただ高く聳え立っていくものを眺めていた。

 

 

 

 

 

 大都市を囲うように全長10000メートルの巨大な屋根が建つ。

 SFのような出来事に国民は驚愕し、恐怖した。

 

 だがその屋根が経済的、健康的な被害を与えることはなかった。単に聳え立ち、こちらを見下ろしているだけのようだ。

 

 とはいえ、いつどのような被害が出るかは判らない。

 

 そのため政府は「ヒュージルーフ」と名付けられた、その屋根を解析するための組織「SOUP(Special Office for Unknown Phenomenon)」を結成。

 関連省庁や民間企業から

 

 森田(もりた) 光広(みつひろ)

 雨宮(あめみや) 圭吾(けいご)

 橘田(きった) (かおる)

 

 以上三名を収集。ヒュージルーフの解析を始めた。

 

 

 

 

 

 そして、現在───。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 01 青と緑(BLUE AND GREEN)
Question001 Why am I transferred to this team?


新シリーズ「仮面ライダーアクト」の第一話です。
感想等書いていただけると、作者は踊り狂いながら喜びます。



【イメージOP】
PEOPLE1 - 銃の部品

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


 子どものときに僕は、「正義のヒーロー」に会ったことがある。

 

 三歳の頃、両親が得体の知れない何かに殺された。人間が手に負えないようなものに。

 当時の僕には何が起こったのかよく解っていなかった。警察署のソファに座って、来るはずのない両親をずっと待っていた。

 

 でも、いつになっても迎えは来なかった。

 

 そんな時、一人の男の人に話しかけられた。

 その人は僕の隣に座って僕と一緒に何分か話をしてくれた。

 

 しばらくして男の人を誰かが呼んだ。

 はい。と返事をして歩いていく。

 

「またね!」

 僕はなぜかそう声をかけてしまった。

 

 男の人は振り返らなかった。

 ただ左手を上げてサムズアップをした。

 

 今でもその後ろ姿は鮮明に覚えている。

 哀しくも見えたその背中を。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.02 15:37 東京都 落合警察署

「本日付けで、君は異動になる」

「…はい?」

 

 反田(そりた)深月(みづき)はただただ動揺していた。

 警察学校を卒業後、落合署の警備部に配属されてから早五年。落合で行われるイベントの雑踏警備などで、その誘導経路や配備位置を幾つか考案した。交通の便が停滞しないことには自分が一枚噛んでいると、自分でも思っている。

 と言うことは、

 

「もしかして、出世ですか?」

「多分な。ただどうしてお前がここに異動になるのか意味が全くもって分からないんだ」部長が首を傾げながら辞令を渡してくる。

 

 

 

 

未確認物質解析班への異動を命ずる。

 

 

 

「未確認物質解析班?」

「あれ、あるだろ。それの解析をやっているところらしい」

 

 部長は窓の外は指差した。

 上空では巨大なガラスの板が、地面から伸びる何十本もの柱によって支えられている。

 もう当たり前のような光景になってしまったが、改めて見るとこんな歪なものがあるのかと呆気に取られる。

 

「詳しいことは向こうに行ってから訊いてくれ」

「……はい」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.04 08:30 東京都 新宿区 四谷

 深月の見つめる先には、人気(ひとけ)の無さそうな廃ビルがあった。手には幾つかの書類とIDカード入りの吊り下げ名札が入ったクリアファイルが握られている。

 中に入ると、目の前にはエレベーターがあり、その横にはこのビルには釣り合っていない新しい自動販売機が置いてあった。

 

「えぇっと、どうするんだっけ?」

 

 クリアファイルの中の書類を見ながら自動販売機の前に行く。一番上の段の飲み物のボタンを押し、そして電子マネーをかざす部分に自信のIDカードをかざした。

 するとどうだろう。

 

「えぇっ!?」

 

 突然自動販売機が真ん中からパックリと裂けたではないか。

 正確に言えば、自動販売機の中に入っていた何かが、殻を破って姿を見せたのだ。

 

「これって、エレベーター?」

 

 チーン、と音が鳴ってドアが開いた。

 その中に恐る恐る入っていく深月。するとボタンを押さずとも自動的にドアが閉まり、下へと降っていった。

 

 

 

 

 

 ドアが開くと、目の前に一人の男が立っていた。赤色のネクタイをしたスーツの中年男性だ。「Mitsuhiro MORITA」と書かれたIDカードの入った吊り下げ名札を首から下げている。

 

「反田深月くん、だね?」

「はい」

「初めまして。未確認物質解析班、班長の森田です。ようこそSOUPへ」

 

 森田光広は細やかな笑顔を見せて、深月を誘導した。

 そこはわずかな灯りでしか照らされていない、広い地下駐車場だった。歩く度に二人分の靴音が反射する。

 

「ここでは一年前に出現し、瞬く間に東京23区を覆い被した『ヒュージルーフ』の解析を行なっている。メンバーは後で紹介するが、物理学者に生物学者、考古学者、その他諸々の君を含めて計六人だ」

「あの、どうして僕がここに移動になったんですか? 警察の仕事はこの業務に関係はないですし、そもそも僕は理系でもない。僕がこの部署で出来ることは何も無いですよ」

 

「この部署にはもう一つ業務があるんだ。そこで君の力を使いたい。その業務については、彼らが説明してくれるはずだ」

 

 そうこうしている内に二人は一つのドアの前に着いた。

 焦茶色のドアに付いているドアのぶを下げ、ドアを押した。

 その中には今いる通路よりも明るい照明で彩られた部屋があった。

 白い部屋の中には二個ずつ二列に白い机が並べられており、奥には大きな机が一つ置かれていた。

 

 左側の手前には丸眼鏡をかけた男が座っており、奥の席は空席になっている。

 一方の右側の手前の席にはピンク色の髪の毛をした派手な格好の女、奥にはスカジャンを着たポニーテールの女が座っていた。

 

「まずは雨宮(あまみや)圭吾(けいご)くん。物理学者だ」

「よろしくお願いします」

 

 雨宮圭吾は立ち上がると深々とお辞儀をした。深夜アニメのキャラクターが描かれたTシャツがボサボサの頭に異様に似合っている。もし道を歩いていたら不審な目で見られてもおかしくはないどころか、違和感がなさすぎて何とも言われない可能性もある。

 

「次に橘田(きった)(かおる)くん。うちで生物学者として働いている」

「よろしくね〜」

 

 彼女の風貌を端的に説明すると、典型的なギャルとも言うべきだろうか。ワイシャツにスカート、カーディガンをラフに着こなした橘田薫は屈託のない笑顔をし、その顔の横に着いた耳には、幾つかピアスをしている。

 

椎名(しいな)(あおい)くん。大学で考古学を専攻していた」

「よろしく」

 

 椎名碧は茶髪のポニーテールに触覚の着いた髪型。さらにジーパンの上では黒いワイシャツにピンク色のジャンパーを重ね着している。どう頑張っても国の組織に属しているようには見えない三人の中で、最もまともに見えるのが彼女だ。

 

「そしてもう一人いるんだが…」

「今日は来てないですね。昨日は夕方だけ来ていたんですけど…」と圭吾。

「どうせいつもの()()()でしょ。()()()がいるのにすごいよねぇ」薫がポツリと呟いた。

 

「良いのよ。()公認だから」

「え、もう一人の職員って、椎名さんの旦那さんなんですか!?」

「そう。椎名春樹(はるき)さん。ここの幽霊班員。結構なイケメン」と薫。

 

「まぁいい。とりあえず、反田くんはそこに座ってくれ」

 

 森田に指さされた空席に腰掛ける深月。

 

 そういえば、班長の言っていた「もう一つの業務」って何だろう……。

 右隣にいた圭吾に声をかける。

 

「あのすみません」

「ん?」

「SOUPのヒュージルーフの解析以外の業務って何なんですか?」

 

「あぁ。それはその時になったら分かります。今はただ待てばいい」

「そうですか……」

「正直、人生でこんなにもスリリングなことは無いですよ。まぁ、一番大変なのは僕らよりも碧さんと春樹さんですけど」

 

 深月は目の前に座る碧を見つめた。

 碧は今、おにぎりを頬張りながらノートパソコンの画面と睨み合っている。

 正直なことを言うと、深月は圭吾の言った言葉に対して半信半疑だった。「前より具材少なくなった?」と誰に聞かせるわけでもなく呟いている彼女が、どうして一番大変だと言われているのか、彼にはまだ分からなかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

()()()()を受けるのは俺だけで十分だ。これ以上、君を巻き込む訳にはいかない」

「何言ってるの? 私だってこうなることぐらい想定の範囲だった。別に怖くなんてない」

 

 衣服がボロボロで傷だらけの二人の男女が向かい合って話し込んでいる。大量の書類で溢れたこの部屋とはどうも釣り合っていない。

 

「けど」

「それに!」

 

 二人の視線は女の後ろに向けられた。後ろに置いてあったソファの上では、一人の少女が毛布に包まりながら眠っている。

 

「この()を護れるのは、私たちしかいない。だから……一緒に戦おう」

 

 女は男の両手を柔らかく握り、その目を真っ直ぐと見つめた。

 そこから先、言葉は聞こえず、ただ時計の針がチクタクとひとりでに音を鳴らした。

 

 

 

 

 

2021.10.02 11:29 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 お馴染みの音が黒いスマートフォンから流れ始めた。

 モゾモゾと布団から手を伸ばすと、スマートフォンを操作して音を止めた。けれども、彼の操作したものはスマートフォンに似た違う別の端末だった。確かに液晶画面はついているし、電源ボタンや音量ボタンもある。遠目から見れば10以降のiPhoneに見えてしまう。だが端末の上部には、何かを挿れるための細いスロットがある。

 

「11時……」

 

 男はベッドから起き上がると、カーテンを開けた。ほとんど登り切ってしまった太陽がぎろりと睨みつけてくるような感触に襲われる。本来であれば二度寝、と言うよりほとんど昼寝に近い眠りにつこうとしていた。だが生憎にも、この日は10月にも関わらず30度以上を記録した真夏日だ。この後昼寝をするにはあまりにも不向きだ。

 

 仕方なく起き上がると、歯を磨いてシャワーを浴びた。

 着替えた男の服装は灰色の無地のTシャツに黒色の長ズボン、そして緑色のラインが入った黒いシェルジャケット。シェルジャケットは日によって着るか否かは変わるものの、それが暑い日に着るお決まりの服装だ。本当はスティーブ・ジョブズのようにこのセットを100セットは買いたいのだが、「そんなお金はウチにはありません!」と一蹴されたため、3セットをローテーションすることで話はまとまった。

 

 ふと端末を見ると三件、LINEにメッセージが届いていた。

 

「今日、12時に授業終わるから、デートしない?」午前8:01

 

 次に送られてきたのは有名な映画のLINEスタンプで、男性が「Shall We Dance?」と女性を手招きしている。そして最後には何かのURLが添付されていた。

 またか。

 ハァと溜息を()きながら男は白い紐のついた黒いスニーカーを履いて家を出た。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.02 12:45 東京都 新宿区 SOUP

「それにしても、こんなにやること多いんですね」

 

 深月は目の前のお菓子を見つめながら言った。食堂で昼食をとった後、碧からはショートブレッドというスコットランドの焼き菓子を、圭吾からはアニメのキャラクターが描かれたチョコレートバーを、そして薫からは透明な袋に包まれたカラフルな綿飴を渡された。正直全部を一気に食べられるわけではないので、どれから食べようか迷った結果、圭吾から貰ったチョコレートバーを口にした。

 

「そりゃそうよ。あの10000メートルの屋根は、材質、建築方法共に一切不明。それをいち早く解析しないと、対象区域に住む約1000万人にどんな被害が出るのか分からない」

 

 パソコンのキーボードをとんでもないスピードで打ち込んでいく碧。

 

「それに一週間に一度報告書をまとめなきゃいけない。さらに数ヶ国語に翻訳しないといけないから、相当な労力がかかるなり」

 

 圭吾はパンダのぬいぐるみを抱えながら、手で宙に何かを書いていく。

 

「そもそも碧さんと薫さんはどうしてこの部署に?」

「私と碧さんは君がさっき言っていた()()()()()()()が主な仕事かな。正直、ヒュージルーフの解析よりも大変」と薫。

 

「そんなこと言っているけど、ほとんど僕が解析やっているからね。君はヒュージルーフに関しては、マジで何にもやってないからね」

 

 圭吾は思わず何とも言えない笑みを浮かべた。そのまま机上のお菓子に手を伸ばす。

 

「そんなことないですよね! 私の仕事があってこそ、このチームは成り立ってるんです! あと貴方は、まるで報告書の翻訳を自分を含めた全員が担っている風の言い方をしていたけど、全部やっているのは碧さんですからねっ!」

 

 薫が立ち上がって抗議する。

 

「はいはいはいはい。いいから速く、定期報告書仕上げましょ。終わったら焼肉奢るから。班長のポケットマネーで」

「やめてくれ。下手をしたら倫理規定違反だ。というかバッチリアウトだ。もし食べに行くなら絶対に割り勘だ」

 

 手を叩いて4回叩き、二人を宥める碧。奥の席から冷静にツッコミを入れる森田。

 これが彼らの日常なのか。深月は何とも言えない気持ちになった。

 落合署にいたとき、心が休まる時間はなかった。

 だがここにいる者たちは皆、気の抜けたような態度をとっている。そのコントラストに眩暈がしそうだ。

 

 

 

 

 

 その時だった。

 森田のデスクの上に置かれている白い固定電話が鳴いた。受話器をとる森田。

 

「はい、未確認物質解析班」

 

 受話器を置いた。

 

「中央区内で『赤いカーテン』が出現し、2()6()()()()に反応があった。……みなさん、出番です」

 

「よーし」

 伸びをする薫。

「いきますか……!」

 手元のぬいぐるみに話しかける圭吾。

「いっちょやってやりますか!」

 手を2回叩く碧。

「え?」

 何のことか分からず戸惑う深月。

 

 急いで部屋を出る四人。深月もそれを追うように飛び出した。

 

 すると、四人は部屋の扉の前で立ち止まると、全員円陣を組んで手を重ねた。

 何だかよく分からないが、どうやら仕事前の景気付けをするらしい。

 深月は気合いを入れて声を出そうとした。

 

 

 

 

 

 だが、

「「「「うぇーい」」」」

 

 四人が出した掛け声は、とても景気付けとは思えないほど、弱いものだった。

 

 再び困惑する深月を含めた彼らは停められている、パトランプの付いた黒いバン──遊撃車Ⅲ種に乗り込んだ。

 碧以外は。

 

 碧はその横で一つの黒い端末──トランスフォンを取り出した。それはホームボタンの無いタイプのiPhoneに似ているが、上部にスロットが取り付けられている。

 そして一枚のカードを取り出した。そのカードには青と緑のまだら模様のスーパースポーツタイプのオンロードバイクが描かれており、下部には「ACT CHASER」と印字されている。

 そのカードをトランスフォンの裏側の上部にかざした。

 

『ACT CHASER』

 

 男性の声に似た音声が流れると碧の目の前に

「ACT CHASER

 BORROWER IS AOI SHIINA」と書かれたゲートが出現。そこからカードに描かれたのと同じオンロードバイク──アクトチェイサーが現れた。

 

 碧はそれに跨ると、右ハンドルにある赤いスペースに自身の右親指で触れた。

 

『This ACT CHASER can only be used by Aoi Shiina for twenty hours from now.』

 

 ハンドルの上に置かれた黒いヘルメットを被ると、碧はバンと一緒に出発した。

 

 

 

 

 

2021.10.02 13:06 東京都 中央区

 お昼時のオフィス街は、昼食をとりに行く会社員たちで賑わう。

 本来であれば、の話ではあるが。

 人気(ひとけ)は一切無く、その半径10キロメートルが上空から下りてきたカーテンによって覆われている。そしてその中ではバリケードが張られ、警視庁特殊急襲部隊((Special)(Assault)(Team))が誰もいない道路に向けて銃口を向けている。

 そこにSOUPのバンと碧の乗ったバイクが到着した。圭吾と薫は()()()()()()()()を取り出した。

 黒い箱の正体、それは「TOUGHBOOK」という名のパソコンだ。耐久性に優れ、尚且つ軽くて持ち運びやすいのが特徴で、よく自衛隊が重宝している。

 

 森田は遊撃車から出ると、機動隊員の一人に一枚の書類を手渡した。どうやらその隊員は現場の責任者らしい。

 

「未確認物質解析班、班長の森田です。現時刻より我々の指示に従っていただきます」

「了解した」

 

 森田が車内に帰って来たのが、()()開始の合図だった。

 

「さぁて、あと3分ね」薫が背伸びをしながら言った。

「碧さん、今行けますか?」

「大丈夫。グアルダ!」

 

 圭吾の問いかけの後、碧は何かの名前を呼んだ。

 すると碧のトランスフォンによく分からないものが現れた。

 一見するとまるでゆるキャラのような風貌だ。白い猫のようで右耳は緑色で左耳は青色。首からパスケースをぶら下げ、額には「猫封」と書かれた赤いお札が貼られている。

 

『事情は理解している。だが、()()はこれから、あまねと食事をするようだが』

「大丈夫。何とかなると思う」

『了解した。では現時刻より、『ライダーシステム』の使用を許可する』

 

 見た目とは想像出来ないバリトンボイスを発したキャラクターの言葉と同時に碧は車内から飛び出した。

 

「え、ちょっとどこへ!?」驚く深月。

「さぁ、ここからが君の出番だ」

 

 森田は深月の肩にそっと手を置いた。何が起こっているのか解らない深月は、ひとまず目の前のパソコンの画面に集中することにした。

 

 碧は銃を構えている隊員たちの前に立った。銃などという物騒なものを持ったものたちを背に立っているのだ。それ相応の理由がある。

 その理由が、静寂を掻き分けて現れる瞬間がやってきた。

 

 突然上空にまるでブラックホールのような黒い穴が出現した。

 そこから一体の魔物が現れた。青色の肌の上にゴツゴツとした黒い鎧を纏っていて、その右手には刃先の鋭い剣が、左手には盾が握られている。頭部はダビデ王の顔が歪んだように見える。そして腹部には「BLADE」と印字されたバックルが装着されていた。

 

「な、何ですか、あれ!?」

「『フォルクロー』だ」

「フォルクロー?」

「詳しくは後で説明する。今は業務に集中してくれ」

「教えてください! 僕はここで何をすればいいんですか」

 

 森田はただパソコンの画面を指差すだけだ。何が何だか解らない深月には、ただただ画面に映し出されている光景を見ることしか出来なかった。

 

 碧は一枚のカードを取り出した。白い円の中に「KAMEN RIDER REVE-ED」とポップな青い文字で書かれており、「AOI SHIINA」と下部に白く印字されている。

 それをトランスフォンの裏にかざした。

 

『ACT DRIVER』

 

 すると腹部に黒いドライバーが出現した。右側には青い戦士が描かれたパーツがあり、左側には何もない。帯の右側には上下に二つのスロットがあるカードケースが設置されていた。

 

 カードケースの上側のスロットから、カードを取り出す碧。ドライバーのパーツに描かれたのと同じ戦士の絵があり、下には「KAMEN RIDER REVE-ED」と書かれている。

 そのカードを裏返し端末に挿し込んだ。

 

『"REVE-ED" LOADING』

 

 右手に握ってある端末の電源ボタンを押した。

 警戒な音楽と共に、碧の上にゲートが出現した。

「2021

 REVE-ED」と書かれたゲートが開くと、そこから銀色の鎧が姿を見せた。

 それと同時に、碧は端末を持った右腕をゆっくりと上げた。それをすぐさま下ろすと、両腕を大きく広げ、右腕を左肩の前まで持っていった。

 そして叫んだ。自身の役目を全うするための、たった四文字、されど四文字を。

 

 

 

 

 

「変身!」

 

 

 

 

 

 トランスフォンをドライバーの左側に装填した。

 

『Here we go!』

 

 すると碧の身体が突然変異。青色の戦士に姿が変えた。そして宙に浮いている鎧が両腕両脚、胸部に装着。そして仮面が顔面に付けられた。

 青い身体に白いライン。縦に長い菱形の青い目。真っ直ぐに伸びた鋭い銀色の二本の角。

 その姿はまるで、

 

「……四号……!」

 

 深月は思わず呟いてしまった。

 

『I'm KAMEN RIDER REVE-ED!』

 

 仮面ライダーリベード。

 八年越しにこの世に誕生した、戦士の一人が見参した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why am I transferred to this team?

A: To give help to two heroes.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question002 How can kill them?

第二話です。
ついに本作主人公登場です。
感想等書いていただけると嬉しいです。
質問もお待ちしております。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.10.02 13:10 東京都 中央区内

「な、何なんですかあれ!? あれって()()ですよね?」

「落ち着け! あれは()()じゃない」

「え?」

 

 思わず立ち上がり、興奮した状態で話す深月と、それを宥める森田。

 

「あれは『リベード』。この国が保有する最強の兵器にして、最後の切り札だ」

「リベード?」

「君の仕事については追って説明する。今はただ、見ていればいい」

 

 再度モニターを見る深月。

 画面の中では、リベードと呼ばれる得体の知れないものへと姿を変えた碧と、青色の生物が交戦していた。

 

 リベードはカードケースの後方のスロットから一枚のカードを取り出した。銀色の剣と銃が描かれ、「DESPEL CLASHER」と下部に白く印字されている。

 それをドライバーに装着されている端末の裏側にかざした。

 

『DESPEL CLASHER』

 

 リベードが右手を前に出すと、その手の中にカードに描かれていたのと同じ短剣──ディスペルクラッシャー ソードモードが現れた。それをしかと握りしめ、怪物に向かって行く。

 互いの剣が音を立てながらぶつかり合う。その腕は互角なようで、互いに一歩も譲らない。

 

「警察庁より通達。新型未確認生命体第十四号の名称が決定。現時刻より、対象を『スペード』と呼称する」

 現場の責任者が抑揚のない事務的な声で通達した。

 

「あの、これって誰がつけているんですか?」と深月。

「警察庁長官の趣味だって。()()()()()も一緒になってつけてるらしいけど」

 鼻で笑いながら圭吾が答えた。

 

「構造は至ってシンプルですね。それに放射線などの有害物質は検知されません」

 二人を横目に薫がモニターを見ながら報告する。

「だったらこのまま叩いても問題はないですね。倒したとて、次元の歪みだとかは出なさそうですし」

 圭吾のパソコンの右側には「スペード」と名付けられた怪物が映され、左側には計算式がまるで雪崩のように流れていく。

「とのことだ。このまま倒せ」

 

「了解!」

 

 森田の言葉と同時にリベードはスペードを蹴り飛ばした。

 その威力は絶大なものだったらしく、スペードは辛うじて盾で防いだが、20メートルほど後ろに吹き飛ばされた。

 

 それを確認すると、リベードはトランスフォンをドライバーから取り外し、ディスペルクラッシャーの剣鍔の部分にある楕円形の部分にかざした。

 

『Are you ready?』

 

 再びトランスフォンを挿し込んだ。すると刃に青色のエネルギーが溜まっていく。右足を前に出し腰を低くした状態で、構え方でじっと前を見据えていた。

 そこにスペードが走って向かって来た。だがリベードはじっと標的を待つ。

 

『OKAY. "REVE-ED" CONNECTION SLASH!』

 

 標的が目の前にやって来た。

 やっと来た…!

 剣を大きく振った。

 

 スペードはリベードの後ろで足を止めた。そして勢いそのままに、後ろを向いて敵を斬り裂こうと刀を振り上げた。

 

 その刀が床に落ちるのに、一秒も掛からなかった。

 

「グッ…ガァッ……!」

 

 腹を押さえて苦しみだした。その腹部には一文字の傷がついていた。その傷口からは青いエネルギーが漏れ出している。

 そして

 

「グアアアアア!」

 

 リベードの後ろで爆炎が上がった。

 その衝撃が深月たちが乗っている遊撃車の中にも響いてくる。

 

「うわっ!」

 

 あまりの衝撃に驚く深月。

 だがその衝撃を至近距離で受けているはずのリベードは、平然とそこに立っていた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.02 17:37 東京都 新宿区 SOUP

「疲れた〜」

「お疲れ様です碧さん」

 

 深月は得体の知れないものを見るような目で碧を見ていた。

 さっきまで姿を変え、怪物と戦っていた女が、今は自分と同じ形のデスクの前に座り、コンビニのパンにかぶりついている。

 それを全く気にせず、報告書を書くためにパソコンに齧り付く圭吾や、自身の爪をまじまじと見つめる薫、誰かと電話をしている森田の姿に本能的な違和感を覚えてしまっている。

 

「あの」

「「「?」」」

「一から説明していただけませんか? 僕はどうしてここに異動になってですか? あの化け物は何なんですか?」

 

『それに関しては私が説明しよう』

 

 突然、部屋にあるモニターがついた。

 そして映し出されたのは、十人中十人が「可愛い」と答えるであろう見た目をした、猫のようなキャラクターだ。

 

『はじめまして。私の名はグアルダ。このチームに所属している、唯一の人間以外のメンバーだ』

 

 その風貌からは想像出来ない低い声で話し始めたグアルダ。

 

『あの生命体の名は『フォルクロー』。この国に八年ぶりに現れた怪異であり脅威、とでも言おうか。全部で165体いるその怪物は、2000年に現れた未確認生命体同様、通常の兵器は通用しない。それどころか、対未確認生命体専用に開発された神経断裂弾も効かなかった』

「神経断裂弾が……!?」

 

 その発言に深月は絶句した。

 未確認生命体第三号の遺体を解析し生み出された、最強の兵器。今までに一体を倒し、二体にダメージを与えられたというその兵器が効かない。そんな生命体がいるのか……。

 

『そんな彼らに一番効果のある対処方法は、碧たちの使う『ライダーシステム』だ。フォルクローと同等の力を装備し、彼らを倒す。だがそれもいつまでもつか判らない。ライダーシステムという最後の砦が無くとも、フォルクローを倒す方法を導き出し、同時にヒュージルーフの解析を行う。それがこのチームの本当の任務だ』

「そこでだ、君には作戦立案の総括を担当してもらいたい」

「はい?」

 

 森田の言葉の意味がよく分かっていない深月。

 

「橘田君が生物学の観点から、雨宮君が物理学の観点から作戦を提案し、それらを私が総括、椎名君たちに伝えてフォルクローたちを倒してもらう。ここまでが従来の流れだった。だがここは作戦立案のプロに頼むのが一番だと考えたんだ」

「でも…」

「大丈夫だ。いずれ慣れる」

 

 半ば強引に励まされた深月。

 その目にあるのは国を護るという使命感でも、警察官が持っている正義感でもなんでもない。

 ただ戸惑いだけだった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.02 19:01 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 ガチャと音を立てて鍵が解かれ、ドアは開いた。

 碧が家の中に入ると、そこは美味しそうな香りが充満していた。

 手を洗い、なんだなんだとドアを開け、碧は目を見開き嬉しそうな表情を見せた。

 

「うわぁ〜!」

 

 リビングの中央にある丸いダイニングテーブルの上には、大鍋が置かれており、中には赤いビーフシチューが湯気を立てて待機している。

 その周りを二人の男女が囲んでいた。

 

「「おかえり」」

 

 男の方は碧とそこまで歳は変わらないであろう若い男で、茶色いTシャツの下に緑色のジョガーパンツを履いている。

 女の方は碧よりも若く、モコモコのパジャマに柔らかそうなスリッパを着けている。

 

「ただいま〜」

 

 碧はすぐさま椅子に座り、手を合わせて器の中にビーフシチューをよそり始めた。

 

「ところで、何で今日は出動せずに、あまねちゃんとデートしてたのかな?」

 不貞腐れた声で男性に訊く碧。

「別に理由なんてない。こいつに誘われただけだ」

「ちょっと待ってよ。パパ、あの時呼び出されてたの?」

「そうだけど」

「ダメだよ行かないと。税金で食ってる身なんだから」

 

 あまねと呼ばれた少女──筒井(つつい)あまねに強烈な一言を加えられた男は、思わず吹き出してしまった。

 

「言っておくが、お前が食っていられるのは、その税金を俺たちが貰っているからで」

「下手したら私だけでもあまねちゃんと一緒に食べていける額なのに?」

 

 もう何も言えなくなってしまった。無様に天を仰ぐ男。

 

「それに、私たちが戦うのは、この()のためでもあるんだから。それは忘れないで」

「はいはい」

 

 無言でビーフシチューを貪る三人。

 咀嚼音と生き残った鈴虫たちの鳴き声が、三人を包み込み、しばらくして消えた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.10 13:08 東京都 港区 かもめショッピングモール

 休日のショッピングモールは大勢の人で賑わっていた。デートをするカップル、買い物をしに来た家族、お茶を飲みながら何気ない世間話に花を咲かせる人たちもいる。

 何気ない日常。何の違和感もない、悪く言えば退屈な休日だ。

 

 そんな平和なこの場所に、戦慄が走ったのはあまりにも突然の出来事だった。

 

 突然、ショッピングモールに怪人が入ってきたのだ。

 赤い身体の上から鎧を羽織り、両手には拳銃が一丁ずつ握られていた。その顔はジュリアス・シーザーの肖像画が歪んだようになっている。

 

 当初、何かのイベントかと皆んな思っていた。

 だが、投げ飛ばされ、血を流して倒れる警備員や客を見て、思い出したくもない記憶が、教科書で習った知識が頭の中を駆け巡った。

 

 パニックになる館内。悲鳴をあげて皆が一斉に逃げ始めた。

 

 

 

 

 

 そこにSATとSOUPのメンバーが着くのに、そう時間は掛からなかった。

 

「休日なのに出勤ですか。この後、『パンダ・プリンセス』の一挙再放送があるのに」

「好きなアニメを一気見してオタクの尊厳を守るのも良いけど、この国を護る方を最優先にして欲しいね」

 

 ガックリと肩を落とす圭吾の肩に手を置いて、隣の席でドンマイと励ます薫。

 前の席で目の前を見据える森田。

 端末を構えて出動の用意をする碧。

 不安な面持ちで一番後ろの席に座る深月。

 

 それぞれの思いを乗せて、車がショッピングモールの前に着いた。

 いつものように引き継ぎの手続きをすると、パソコンを取り出し、モニターを確認する。

 

「えぇっと、名称は何だっけ?」と碧。

「『ダイヤ』だ」森田が返答した。

「特に空間の歪みや放射性物質の存在は確認されていません。このまま行っても大丈夫だと思います」

「ちょっと待って」

 

 圭吾の発言に間髪を容れずに薫が話し始めた。

 

「あいつの銃から高エネルギー反応が示されています」

「このエネルギーの量だとざっと…」

 

 パソコンの画面を見つめていた圭吾は思わず目を見開いた。

 

「えぇっと、倒した衝撃で、一階が吹っ飛びます。ただ、一階が吹っ飛んだらその影響で二階も三階も崩れて、最悪このショッピングモールごと崩壊します」

「そうか…。どうする作戦立案係?」

「え?」

 

 急に話を振られ、困惑する深月。

 

「じゃぁ…。両手から拳銃を奪った(のち)撃破、とかはどうでしょう?」

 

 精一杯捻り出してみた。

 だが、全員の視線が何となく怖く、一歩後ろに退いてしまう。

 

「それで行こう」

「了解!」

 

 森田がアイコンタクトをすると、碧は車内から飛び出し、中に入っていった。

 何となく安心感を覚えた深月はホッと息を吐いた。

 

 ダイヤの前に立つと、碧はトランスフォンを取り出し、カードをかざそうとした。

 

 次の瞬間

 

 バーン!

 

 一発の銃声が鳴り響いた。ダイヤが引き金を引いたのだ。

 その弾丸は碧の手の中にある端末に衝突。命中した衝撃で碧は吹き飛ばされてしまった。さっきまで碧のいた場所に、黒い端末だけが取り残されてしまう。

 

「やってくれるじゃない…」

 

 何とか立ちあがろうとする碧。だが脚に力が入らず、うんともすんとも言わない。

 

 その様子を見ていた森田が急いで指示を出した。

「すぐにSATを出撃させてくださ」

 

 だがそれよりも早く動いた男がいた。

 

「反田君!」

 

 動けない碧のもとに怪物が詰め寄ってくる。

 その間に反田は立った。両手には拳銃を握り、銃口を標的に向けている。

 

 SOUPの職員には万が一の場合に備え、出動中に限り拳銃の携帯がされている。

 だが、使うとなれば別問題だ。現場の責任者(今回の場合は森田)の許可が必要であり、無許可で発砲すれば処分の対象となってしまう。

 それを深月が知らないわけはない。それでも行かなければならなかった。そんな気がした。

 

 震えた手についている人差し指で引き金を引いた。

 一発、二発、三発、四発、五発、六発、七発目を撃とうとしたところで何の反応も無くなった。

 

 戸惑う深月の肩を、何の痛みも感じなかったダイヤが掴み、左側に放り投げた。

 

「うあああああ!!」

 

 倒れ込む深月。

 無情にも怪物は一歩ずつゆっくりと詰め寄ってくる。

 

 無力だ。目の前で苦しんでいる人を守ることも出来ない。

 こんな自分に一億何千万人という人々が護れるわけがない。

 

 絶望で拳を床に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 遠くからけたたましい音を鳴らして何かが後ろから近づいてきた。

 それは碧が乗っていたのと同じバイクで、黒いヘルメットを被った何者かが搭乗している。

 

 バイクは前輪を上げると、その勢いで後輪も浮かしジャンプ、前輪でダイヤに体当たりした。

 吹き飛ばされる怪物。

 

 バイクを止めると、運転手はヘルメットを取ってバイクから降りた。

 男だ。ペールブラウンのズボンに灰色のTシャツ、その上から緑色のラインが入った黒いシェルジャケットを着ている。

 

「貴方は……?」

「この間さ、映画観たんだよ」

「はい?」

 

「『ジュリアス・シーザー』っていう伝記映画でさ。一緒に観た高校生の同居人がすっごい影響受けたっぽいんだよ。この間のテスト期間の時、その同居人がLINEで送ってきた文章があるんだよ。それがすごく格好良くてさ、俺もコイツら倒したら、試しに送ってみるわ」

 

 突然後ろの碧がお腹を押さえ始めた。だが見たところ痛みで押さえているのではない。

 笑いを堪えていた。

 

「『来た、見た、勝った』ってさ」

 

 ついに堪えられなくなった。吹き出して大声で笑う碧。

 少し不機嫌そうな顔をした男は後ろを振り向くと、碧に向かって右手を差し伸べた。

 

「正義のヒーローが寝転がってどうするんだ。お前も税金で食ってる身だろ。人のこと言えねぇじゃねえか」

「でも無断欠勤を繰り返す君よりかはマシだと思うんだけど」

「はいはい」

 

 右手を掴んで立ち上がる碧。

 二人の間には、互いを認め合う友人同士の友情や、離れたくないという恋人同士の熱でもない、それ以上の何かがあると深月は感じていた。

 

「まさか…。貴方は……」

「え、誰この人?」

「新入りの反田くん。春樹、貴方の後輩」

「ふーん」

 

 椎名春樹。

 幾度となく無断欠勤を繰り返し、一度も顔を見たことのない、言わば幽霊職員。

 そして、碧の夫。

 

 すると吹き飛ばされた怪物が再び動き始めた。

 

「さーて、職務を全うしますか。グアルダ」

【了解した。ただいまより、椎名春樹、椎名碧、両名のライダーシステムの使用を許可する】

 

 春樹はポケットから端末を取り出し、碧は床に落ちていた端末を拾い上げ、カードをかざした。

 

『『ACT DRIVER』』

 

 二人の腰回りにドライバーが形成された。春樹のドライバーの右側は碧と異なり、緑色の戦士が描かれていた。

 すぐさまカードを裏返し、端末に装填する。

 

『"ACT" LOADING』

『"REVE-ED" LOADING』

 

 電源ボタンを押した。

 軽快な音楽とともに春樹の頭上には

「2021 A-CT」と書かれたゲートが、碧の頭上には「2021 REVE-ED」と書かれたゲートが現れ、それが開くと、同じ形状の銀色の鎧が出現する。

 

 春樹は右腕を左肩の方まで持っていき、手の甲を見せるようにする。それを反転、素早く右肩の前へと腕を振った。

 碧も右腕をゆっくりと上げた。それをすぐさま下ろすと、両腕を大きく広げ、右腕を左肩の前まで持っていった。

 

 そして二人は叫んだ。

 春樹の言っていた「職務を全うする」ための言葉を。

 目の前の人々を守る姿へ変わる言葉を。

 

 

 

 

 

「「変身!」」

 

 勢いよく端末をドライバーに挿し込んだ。

 

『『Here we go!』』

 

 二人の身体が一瞬のうちに変身、青色の戦士と緑色の戦士に姿を変えた。そこに宙に浮かんでいた鎧と仮面が装着される。

 

 緑色の身体に白い線が入り、縦長の楕円形の目を輝かせ、二本の銀色の角を輝かせた戦士と、青色の戦士が姿を見せた。

 

『I'm KAMEN RIDER ACT!』

『I'm KAMEN RIDER REVE-ED!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How can kill them?

A: By the system of KAMEN RIDER.




いかがだったでしょうか。
春樹の部屋着は自分の父親の部屋着がモチーフになっています。
あまねの部屋着は「どうせ女子高生ってこういうのが好きなんだろ!?」という自分の偏見です。
女子高生の方がいらっしゃいましたら、どういうのが流行っているのか教えてください。
よろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question003 What is their relationship?

第三話でございます。
一旦一区切りつくかなという感じです。
感想や質問など、募集致しておりますので、よろしくお願いいたします。



【イメージED】
米津玄師 - 恥ずかしくってしょうがねえ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


「あれが…仮面ライダー……」

 

『『DISPEL CLASHER』』

 

 ディスペルクラッシャー ソードモードを取り出すリベード。

 二人とも腰を落とした姿勢で、標的を見つめている。

 

 その姿はまるで、獲物を狩る獣、はたまた狂った連続殺人鬼のようだ。

 仮面の下ではどんな表情なのだろうか。笑っているのだろうか。それとも──。

 

「「READY……GO!」」

 

 ディスペルクラッシャーの刃で地面を軽く叩いたのが合図だった。

 物凄い勢いで走り始めたリベード。

 だがアクトはその場に止まる。

 

 するとドライバーの右側にあるプレートを端末の方に押し込んだ。

 

『Are you ready?』

 

 トランスフォンを上から押し込んだ。

 すると右足に緑色のエネルギーが溜まっていく。

 

 クラウチングスタートのような体勢で身構えるアクト。

 それと同時に、アクトの目の前にアクトと同じ姿をした虚像がいくつも現れた。走り出し、ジャンプをして敵に右足でキックをお見舞いする。それが虚像の紡ぎ出したストーリーだ。

 

 なぞるかのようにアクトは走り始めた。空高くジャンプすると右足を突き出す。

 

『OKAY. "ACT" DISPEL STRIKE!』

「え!? ちょ、ま」

 

 ダイヤと交戦していたリベードは後ろのアクトに気がつくと、右側に逃げた。

 その場には対戦相手だけが取り残されている。

 

「ハアアアアア!」

 

 強烈な一撃をダイヤに食らわせた。

 後ろに吹き飛ばされるダイヤ。

 

 決まった。これで休日を謳歌出来る。ヒーローらしからぬ喜びが脳内を駆け巡った。

 

 だが、待っていた展開は二人の予想を裏切るものだった。

 

 立ち上がったダイヤ。すると銃が光始めた。その後、二人が目にしたのは一体の筈のダイヤが、二体に分裂している光景だった。

 

「は!?」

「増えた!?」

 

 突然の出来事に驚く二人。

 衝撃を受けたのは遊撃車の中にいる、他のメンバーもだった。

 

「どういうことだ。何で増えた?」

「そんなこと言われたって僕には何も…」

「もしかして、プラナリアと同じ原理なんじゃ…」

 

 プラナリア。正式名称はウズムシ。

 細胞の一つ一つに自己修復能力があり、切っても切っても再生し、増えることからほぼ不死身と言っても過言ではない生物だ。

 

「プラナリアって潰すか、お腹一杯の状態で切れば死ぬんですよね? だったら()()()の力で潰すか、何かしらの物質を体内に与え続けた後に、碧さんが斬れば良いんじゃないんですか?」

「とはいえ、あれが完全にプラナリアと同じ原理の生命体かどうかっていう保証はない。変に攻撃して鼠算式に増えていったら嫌でしょ」

「確かに……」

 

 すると

「あの……」

 

 誰かが横から話に割り込んできた。

 深月だ。

 肩を押さえながら千鳥足で歩いてくる。

 

「だ、大丈夫かい!?」

「大丈夫です。それより、アイツが分身するとき、銃が光ったような気がしたんです」

「銃が……?」

 

 モニターを確認する圭吾。

 確かにあの時、銃が光り、その後すぐにダイヤは分裂した。だとすれば…。

 

「そうか! アイツそのものにプラナリアの細胞のような物質があるんじゃない。銃の中にあったんだ。アイツは現れてから今まで、一度も銃を手放さなかった。それはあの中に再生機能を有した物質が入っていて、ここぞという時にそれがダイヤの身体の中に入るメカニズムになっているのか…!」

 圭吾の声から興奮が抑えきれないのが伝わってくる。

「えぇっと、つまり…どういうことですか?」

「君の言う通り、銃を奪った状態で倒せば良いってこと」

 優しい声で薫が答えた。

 

「とわけだ。いけるか? 二人とも」

「それは良いんですけど。おい圭吾」

「はい?」

 

「折角だし面白そうな()()()くれよ、えぇっ?」

「要求の仕方が地方のヤンキーかバカ殿様なんですよ」

「私も欲しいな〜」

「はいはい分かりましたよ!」

 

 圭吾がパソコンを操作すると、二人のカードケースが可愛らしい音を鳴らした。

 後方のスロットからカードを一枚取り出し、絵柄を見てみる。

 

 アクトのカードには青い戦車に乗った赤色の兎の絵が描かれており、「No.150 MIXING BUILD」と書かれている。

 リベードのカードには両手を肩の高さまで上げた肖像画が描かれており、その右半身は緑色で、左半身は黒で塗りつぶされている。その下部には「No.078 SEPARATED DOUBLE」と印字されている。

 

 トランスフォンをドライバーから取り外すと、カードを裏返して装填した。

 

『"BUILD" LOADING』

『"DOUBLE" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと二人の鎧と仮面が解かれ、銀色の角と複眼だけが緑と青の体に残った、いわゆる素体のような姿へとなった。

 上空にそれぞれ「2017 BUILD」「2009 DOUBLE」と書かれたゲートが出現する。

 

 それが開かれると、アクトのゲートからは赤い兎と戦車が、リベードのゲートからは緑と黒のUSBメモリのような2つのオブジェが出てきた。

 端末を挿し込んだ。

 

『『Here we go!』』

 

 するとアクトの周りにパイプのようなものが現れ、その周りを兎と戦車が周回する。周回していた兎と戦車は様々なパーツに分かれ、パイプと合体した。そのパイプがアクトの迫っていき、赤と青の鎧がアクトに装着される。

 右脚と左腕は青いアーマーで、左脚と右腕は赤いアーマーで護られており、右側が青く左側が青い角の着いた仮面が着けられ、計四本の角が姿を見せた。さらに仮面の下から緑色の複眼が見えている。

 

 リベードの周りに竜巻が起こるとオブジェは分解、竜巻の中に吸い込まれていく。その勢いでリベードの体に装着されていった。

 左半身には緑色の、右半身には黒色の鎧が着けられ、同じように左側が緑で右側が黒い仮面が装着された。

 

『Interest, Supposition, Experiment! Let's create our world! MIXING BUILD! Decided the rule to win.』

『Windy, Survey, Extermination! Welcome to our city! SEPARATED DOUBLE! Count the number of your sins.』

 

 仮面ライダーアクト ビルドシェープ

 仮面ライダーリベード (ダブル)シェープ

 

 二つの力を併せ持つ戦士の力を受け継いだ姿が今、誰もいないショッピングモールに現れた。

 

 二体のダイヤ(仮にダイヤA、ダイヤBとしよう)が二人に向けて発砲してきた。

 アクトは右足裏に着いたキャタピラを使って、縦横無尽に滑る。

 リベードも両足に風を纏わせ、それを使って素早く走る。

 

 アクトはダイヤAの前に来ると、何発もパンチをし、両足でダイヤAの胸を蹴り後ろに一回転、着地と同時に右足で回し蹴りを食らわせた。

 後ろに退いたのを確認すると、ドライバーのプレートを右に押し込む。

 

『Are you ready?』

 

 全速力でダッシュし、ダイヤAの前で両足を使って軽くジャンプをした。そして今度はバネの着いた左脚で右手を蹴飛ばし、さらに高く跳ぶ。

 

 するとどうだろうか。

 拳銃がダイヤAの右手からポロッと落ちてしまった。

 

『OKAY. "BUILD" DISPEL STRIKE!』

「ハアアアアアア!」

 

 狩人は拾う間も与えてくれなかった。

 右脚を両腕で抱え込む体勢で落下するアクト。そのまま落下すると、右足裏にあるキャタピラでダイヤAの身体に大きな傷をつけた。

 キャタピラの当たった部分から火花が上がる。

 

 そして怪物は爆炎を上げて消滅した。

 

 ちょうど同じころ、リベードは一閃、二閃とダイヤBに斬りつけ、ついには鋭い剣先でその身体を突いた。

 痛みに悶える標的を前に、リベードはプレートを押した。

 

『Are you ready?』

 

 するとリベードの体からアーマーが外れ、元のオブジェの形に戻った。

 二つのオブジェがダイヤBの両サイドに来ると、それぞれ何か波動のようなものを発し始めた。

 その影響で動けなくダイヤB。

 

『OKAY. "DOUBLE" DISPEL STRIKE!』

 

 刃に緑と紫のエネルギーが溜まっていく。

 その目は真っ直ぐに動かない獲物を見つめている。

 そしてエネルギーが充分に溜まった瞬間、

 

「おりゃああああ!」

 

 思いっきり剣を縦に振った。エネルギーはひと固まりの波となり、ダイヤBに向かって行く。

 そして動かない標的は身体を真っ二つにされ、爆散した。

 

 撃破された二体のダイヤは再び一体のダイヤに戻り、動かなくなった。

 アクトはカードケースの上部のスロットから一枚のカードを取り出した。

 分厚い本を誰かが閉じようとしている絵のカードで、下部には「THE END OF VOLKLOW」と印字されている。

 トランスフォンをドライバーから取り出すと、カードをかざした。

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 端末の画面がスマートフォンのカメラ機能の画面になると、レンズを動かない被写体に向け、シャッターを切った。

 するとダイヤの身体が粒子状になり、端末に吸い寄せられていく。

 

『Have a nice dream.』

 

 端末の中に一枚のカードが現れた。赤い菱形の宝石を角で掴み空を飛ぶ鍬形虫が描かれており、「No.028 DIA GARREN」と白く書かれている。

 

 変身を解除した二人。

 深月はその横顔に何処となく見覚えがあった。

 

 あの時の、()()()と同じだ──。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.10 17:09 東京都 新宿区 SOUP

「はい、森田です」

『どうだ、調子の方は?』

「順調です」

『そうか』

 

 森田は一人の男と電話をしていた。

 電話越しの相手は眼鏡をかけた高齢の男性──岩田(いわた)将吾(しょうご)室長だ。自身のデスクに座り、本棚に置かれた本を見つめながら、森田と通話をしている。

 

『新型未確認生命体は従来の未確認生命体(ミカクニン)とはわけが違う。東京にしか出現せず、しかも出てくるのもヒュージルーフのある東京23区だけだ。早急に二つの関連性を突き止めてくれ』

「分かりました。失礼します」

 

 電話を切った森田。

 

「久々に出勤すると疲れるんだな」

 

 さっきまで戦いを繰り広げていた春樹は完全に疲弊していた。部屋の隅っこにある小さな丸テーブルに身を預けている。

 

「班長、マジで焼肉奢ってくれ」

「何度も言ってるだろ。倫理規定違反だ」

「ケチ〜」

 

 会話を聞き流していた深月は隣の圭吾が気になった。

 パソコンには見たことのない機械が接続されていて、その中に先程春樹が手に入れたカードが入っている。

 

「何やってるんですか?」

「これ? ()()()の解析ですよ」

「解析?」

 

「フォルクローを倒すと、一体につき一枚、この『メモリアルカード』が手に入るの。それらを圭吾が解析して、春樹さんと碧さんの鎧を作ったり、戦闘で使う『アシスタンスカード』を作る。それが圭吾の仕事の一つ」

 

 薫が横から入ってきて解説を始めた。

 俺が解説するはずだったのに…と圭吾が何とも言えない顔で薫を見つめる。

 

「へぇ」

 

 あ、と何かを思い出し、立ち上がった深月。

 スタスタと春樹の前に立った。

 

「初めまして。新しくSOUPに所属になりました、反田深月です。よろしくお願いします」

 

 身体を起こした春樹。

 その瞬間、その場の空気が強張り始めたのが判った。さっきまでの柔らかい雰囲気とは別の、殺伐とした空気だ。

 

「椎名春樹だ。早速質問がある」

「? 何でしょう?」

 

 

 

「お前は、何のために戦うんだ?」

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 荒廃した世界という言葉がこの場所に一番似合う表現なのかもしれない。

 風は吹かず、空を自由に舞う鳥たちは紅い空にはおず、大地を駆ける動物たちも砂漠のような地面にはいない。

 

 そんな中にある、大量の柱で支えられただだっ広い部屋を灯すのは、柱に一つずつ括り付けられたランプだけだ。そのためか、妙な暗さが寂しさを感じさせる。

 

 寂しい部屋の中に三人はいた。

 

「ねぇ、久々に()()()()()が来たって。今度はダイヤが倒されちゃった」

 残念そうに言う少年の格好は、紫色のパーカーの下に灰色のズボンを履き、耳にピアスを幾つも着けたストリートファッションだ。

 

「正直、あのお姉ちゃんだけだったら、僕が本気出せば楽にイケると思ったのに」

()()()。あの二人だけは倒しちゃ駄目でしょ。()()()の為にも」

「はーい」

 

 少年を諫めた黒いチャイナ服の女からは、この世の人間では到底出せないような色香が全面から溢れていた。

 

「折角だし、彼を送るのは、どうでしょう?」

 

 背広を着た顔の大きな男が薄らと笑いながら話しかける。その手には古びた分厚い本があり、表紙には見たことのない文字が大きく書かれている。

 

「良いんじゃないの? 面白くなりそうだし」

 女が嬉しそうに答える。

「お、噂をすれば」

 

 部屋の中に一人の青年が入って来た。

 中世的な見た目をした青年は、グレーのワイシャツの上から黒いジャケットを着、黒いスキニーパンツと茶色いスニーカーを履いている。

 そしてその腹部には、黄緑とピンクのドライバーが着けられている。

 

「何のよう?」

「君が倒せるか倒せないかギリギリのやつがいるんだ。興味ある?」

「僕は天才だよ。勝つに決まってるじゃん」

「そうか、じゃあ頼んだよ。()()()

 

 すると青年はジャケットのポケットから何かを取り出した。

 紫色のゲームカセットのようで、黒いボタンが付いている。

 

 そのボタンを押すと、広い部屋の中で起動音が鳴った。

 後ろに大きなモニターが現れ、ポップな文字と可愛いキャラクターが表示される。

 

 そしてポツリと呟いた。

 自分が「天才」である、と証明するための言葉を──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マイティアクションX』

「変身」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常152体

B群2体

合計154体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is their relationship?

A: Technically, they are husband and wife.




プラナリアの説明では、以下のホームページを参考にさせていただきました。

https://originalnews.nico/174573

少しずつ「アクト」の物語が加速していきます。
お付き合いいただければ幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 02 狂った天才(A MAD GENIUS)
Question004 What do they fight for?


「仮面ライダーアクト」第四話です。
感想等書いてくださると、作者は踊り狂って喜びますので、是非ともよろしくお願いいたします。



【イメージOP】
PEOPLE1 - 銃の部品

【歌詞使用楽曲】
八代亜紀 - 舟唄
(作詞:阿久悠)

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.10.10 18:45 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう

 とある焼肉屋の個室で、SOUPの六人は大量の肉を焼き、そこそこの量の酒を呑んでいた。

 三人ずつ向かい合って掘り炬燵に座っている。

 

 お酒はぬるめの (かん)がいい

 (さかな)はあぶった イカでいい

 

「どうして焼肉屋さんで、魚だとか船だとかの歌が流れてるんでしょうね?」

 一番外側に座る薫は、自身の頼んだ肉を次々と焼き、バクバクと口に運んでいく。

「さぁね。多分、不二雄さんの趣味でしょ。だとしたら相当センスが悪いけど」

 向かい合う碧も同じくらいの肉を頬張る。

 

「いやぁすみません。これ、主人の選曲じゃないんです」

 この店の店主の一人、新井(あらい)靖子(やすこ)が声をかけた。縞模様のTシャツが、ロゴの描かれた赤いエプロンに良く似合う。

「これ、日菜太(ひなた)のやつが選んだんです」

 もう一人の店主、新井不二雄(ふじお)もひょっこりと顔を出した。大柄の身体がこれまたエプロンに似合っている。

 

「じゃあ仕方ないか」

「ね」

 

 二人の視線は厨房にいる中性的な美青年──七海(ななみ)日菜太に向けられていた。肩まで伸びた白髪が特徴的で、それをヘアゴムで縛ってキャップを被っている。

 

 この店の魅力は新井夫妻の人柄の良さだ。全員がそれに惹かれてよく利用している。強いて言うなら、薫が通う理由は日菜太のルックスなのだが。

 

「本当に来ることになるとはな……」

 真ん中に座り、複雑な表情で焼き網の上の肉を見つめる森田。

「良いじゃないですか。割り勘じゃないんですから」

 その前の圭吾は自身の頼んだハラミを、トングで焼き網に乗せ始めた。

 

 さて、外側の席に座る春樹はトングでカルビをひっくり返した。

 ふと前を見ると、深月が下を向いて複雑そうな表情をしている。

 

「お前、お酒苦手なの?」

「いえ、そういうわけじゃ……」

「じゃあどうして?」

 

「…さっきの言葉の意図が分からなくて……」

 

 

 お前は、何のために戦うんだ?

 

 

「特に深い意味はねぇよ。何となく訊いてみたかっただけだ」

「逆に、春樹さんは何のために戦うんですか? この国を護るためですか? それとも、()()()()()()()()()()()、ですか?」

「みんなの笑顔…」

 

 すると、突然春樹が吹き出してしまった。

 

「何が可笑しいんですか!?」

(わり)(わり)ぃ。具体例の内容が想像の斜め上だったからさ」

 

 割り箸で焼き上がったカルビを取ると、タレにつけて口に運んだ。

 食感と味を数秒間堪能した後、飲み込んで返答し始めた。

 

「俺は別に国を護るためとか、何だっけその、みんなの笑顔を守るためとか、そういうので戦ってるわけじゃない」

「じゃあ、自分のためってことですか?」

「そういう解釈で良いんじゃない?」

 

 深月が溜息を一つ吐いたのと同時に、春樹はノンアルコールビールの入ったジョッキに手をかけた。

 だがすぐには呑まず、ポツリと呟いた。

 

「どうすれば、皆んなを守ることが出来るんだろうな」

 

 そのまま一気に呑み干す春樹。

 その言葉の意味が、深月にはまだ理解出来ていなかった。

 

 静かに厨房で作業を進める青年が選んだ曲はサビに入った。

 

 しみじみ飲めば しみじみと

 想い出だけが 行き過ぎる

 涙がポロリと こぼれたら

 歌いだすのさ 舟唄を

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.28 11:44 東京都 新宿区 SOUP

「ハァ…」

 深月が頬杖をつきながら溜息を一つ()いた。

 

「どうしたの?」

 前にいた碧が声をかける。

「いえ、何でも…」

「ここ二週間くらいそんな様子じゃん。悩む暇があるんだったらもう少し報告書速く仕上がると思うんだけどな」

 薫が意地悪そうな顔で深月を見つめる。

「すみません…」

「悩める暇があるだけ良いじゃないか。僕なんて、寝る間を惜しんで色々やってるんだから」

 目をかきながら圭吾が言った。

「その割には、メモリアルカードの解析が遅いように感じるが」

「仕方ないじゃないですか。碧さんが獲ってきた『スペード』のカードは、意外と情報量が多くて解析するのが大変なんですよ!」

 森田の指摘に圭吾が反論する。

 

「それに、こないだの()()のせいで、すっごいやり辛くなりましたよね」

 ハァと思わず全員が溜息を吐いてしまった。

 

 きっかけは10月10日の戦闘だった。

 それまで仮面ライダーとフォルクローの戦いは極秘のものだった。

 ただでさえ未確認生命体による殺戮やヒュージルーフの出現があったのだ。これ以上国民の不安を、悪戯に煽るわけにはいかない。そう判断した政府はSOUPの本来の職務とともに隠蔽したのだ。

 

 だがダイヤの戦闘を100人以上の客が見てしまった。その中の数人がSNSに投稿した影響で、フォルクローの存在が明るみになったのだ。

 すぐに総理はフォルクローの存在を認め、SOUPの本来の業務を公表。それと同時に、仮面ライダーアクト(新型未確認生命体第二号)仮面ライダーリベード(新型未確認生命体第三号)が政府に協力し、フォルクローを退治していることも発表した。

 総理はその次の国会で野党に辞任だ何だと問い詰められ、結果、全国瞬時警報システム(Jアラート)に「新型未確認生命体の出現及び武力攻撃の可能性」が追加することで落ち着いた。

 

 再度溜息を吐く深月。

 そんな深月に碧が優しく声をかけた。

 

「ちょっと、外に出ない?」

「え?」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.28 12:34 東京都 千代田区 皇居前広場

 千代田区の20パーセントを占めるのは、緑で溢れた巨大な空間だ。

 休日とあらば様々な人で溢れるが、木曜日の今日にいる人は一人だけだ。

 税金で食べているサボり魔、椎名春樹である。

 

 柔らかな緑色の大群を寂しげに見つめる春樹は、ベンチの右側に座り、真ん中に置いたコンビニの袋からサンドウィッチを取り出すと、開封して食べ始めた。

 

 すると

 

「今日も、無断欠勤ですか?」

 

 横から誰かが話しかけてきた。背広を着た顔の大きな中年男性だ。薄ら笑顔を浮かべる男はベンチの左側に座って、袋の中をガサガサと漁り始めた。

 

「お前には関係ないだろ、アール」

「まぁ、そうですね。でも、()()を倒そうとしている人間が無断欠勤っていうのは、ちょっと…ね?」

 

 アールと呼ばれた男に指摘され、バツの悪い顔をする春樹。

 

「要件は何だ? 手ぶらで来たわけじゃないだろ」

「やっぱ分かってるな」

 

 袋の中からポテトチップスの袋を取り出し、パッケージを両手で開けた。そして右手で一枚取り出し、口に運んだ。

 

「実は、これから上位のやつらを送り込もうと思ってるんです」

「ふぅん」

「興味無さそうだね!?」

「興味が無いわけじゃ無いけど、そういうのって言って大丈夫なのか?」

「情報を出すことが君たちだけでなく、我々の利益にもなるのは重々承知のはずです」

「そうだったわな」

 

 するとジャケットのポケットに入っている春樹のトランスフォンがバイブレーションを起こした。

 ファスナーを開けて画面を確認する。

 

「お前がいるから一応訊いてみるわ」

「?」

 

 春樹は手にしている端末の画面を見せた。

 ロック画面が表示されており、画面の八割を赤い文字が埋め尽くしていた。

 

出動要請

第71番の柱の反応、及び東京都文京区にて赤いカーテンの出現を確認。

早急に出動してください。

出現予想時刻まで残り

00:08:02

 

7()1()()って、お前の言う()()()()()なのか?」

「……いや、違います」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.28 12:32 東京都 文京区

 首都高速5号池袋線近くのビルの一階にある蕎麦屋で、碧と深月は昼食を摂っていた。

 深月はきつねうどんを啜り、碧はかけ蕎麦を口にしている。

 

「つまり、うちの旦那が言った言葉の意味が解らず、尚且つそれに吐いて訊いて出た答えも意味不明だった、と」

「はい」

「あの人はいきなり突拍子もないこと言い出すから、そんなに気にしなくて良いんじゃない?」

「そ、そうなんですか?」

「うん」

 

 何かを思い出したのか急に嫌そうな顔をしだした碧。お互い麺を啜り終わった。

 店員が碧に蕎麦湯の入った容器を差し出したのと同時に、深月が今まで手をつけていなかった油揚げに手を伸ばした。

 

「碧さんは何のために戦うんですか?」

「え?」

「正直、碧さんの方がまともな理由だと思うので」

「まともって……」

 

 うーん、と頭を悩ませながら()()に蕎麦湯を注ぐ碧。

 並々注いだところで容器を置いて口を開いた。

 

「私は、目の前で苦しんでる人を助けたい。ただそれだけ」

「ま、まともな理由だ……!」

「けど……」

「? けど?」

 

「あの人、自分のために戦ってるとか言ってるけど、本当は誰かのために戦ってるはずだよ。本当に強い人は、それを面に出さずに、ただ行動するだけなの。あの人が自分のことしか考えてないんじゃない。そう見えないだけだよ」

 

 つゆが作り出した水面を見つめるその目が、職場で見せるものとは違うことに深月は気がついていた。

 初めて春樹と会ったあの日、夫に向けたものと同じだ。柔らかな笑顔を浮かべ、慈愛に満ちた優しい目をしている。

 

 その時だった。

 碧の端末が振動を起こした。

 深月のポケットにも振動がきたので、ポケットからスマートフォンを取り出した。「あ違った」とSOUPから支給されたスマートフォンと取り替える。

 そして二人とも画面を確認すると、次のような文字が大半を埋めつくしていた。

 

出動要請

第71番の柱の反応、及び東京都文京区にて赤いカーテンの出現を確認。

早急に出動してください。

出現予想時刻まで残り

00:07:04

 

 端末の文字を押すと、地図が現れ、現在地から出現予定地までのルートが表示された。

 

「ここって……」

「……すぐそこ、歩いて二・三分で行ける!  行くよ深月くん!」

「え!? あ、はい!」

 

 席を立ち上がり伝票を持ってレジに向かう。

 言っておくけど割り勘だからね、と状況と声のトーンと台詞が一致しない碧に押され、割り勘機能のある決済アプリで支払いを済ませた。

 そしてすぐさま店のドアを開け、職務に戻って行った。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.28 12:44 東京都 文京区

 同じ首都高速5号池袋線沿いを走る二人。見上げると左のビルの奥の方から赤いカーテンが見えている。

 大きな道を左に曲がったところで、碧たちは世にも奇妙な光景を見た。

 

 巨大な生物が宙に舞っていたのだ。その生物はまるで海月(くらげ)に黒い蝙蝠のような羽根が着いた白い生命体で、下から鉤爪の付いた何本もの鎖が伸び、身体の真ん中は透明になっている。

 

 信じられない大きさに目を見張る深月。ふと隣を見ると、碧も同じように目を見開いていた。

 すると二人の端末に着信が入った。SOUPの端末にはグループ通話機能が備わっている。それを使っての着信だった。

 

「はい」

「知ってはいるとは思うが、文京区にフォルクローが現れた」

 森田からだった。

「そいつなんですけど、今目の前にいます」

「は!?」

 碧の発言に驚く森田。

「そうか、分かった。警察庁から対象を新型未確認生命体第17号『ベトレイ』と呼称すると通達があった。我々もあと五分ほどで着く。どうにか粘ってくれ」

「分かりました」

 

 通話を切った二人。深月の横で肩をブンブンと回す碧。

 

「行くか……!」

 

 だが束の間、ベトレイの触手が突然動き出した。その触手は真っ先に二人の方に向かって行き、そのまま深月に絡みついた。

 

「うわぁぁぁぁ!」

「深月くん!」

 

 そしてベトレイの体内に持っていかれる深月。透明な部分から深月の姿がはっきりと見える。

 

「な、何なんですかこれ!?」

 内側から壁を叩く深月。だが()()とも()()とも言わない。

 

 まずい!

 このまま体内にいたままじゃ、深月くんの身体に何が起こるか分からない。

 早く助け出さないと…!

 

 逸る気持ちで碧がトランスフォンを取り出した時だった。

 

 

 

 

 

「そのまま倒したらダメだよ」

 

 後ろから若い男の声が聞こえた。

 後ろを振り返ると、春樹と同じくらいの背丈をした男が立っていた。

 グレーのワイシャツとその上から黒いジャケットを着ていて、黒いスキニーパンツと茶色いスニーカーを履いている。

 

「何やってるの!? 早くここから逃げて!」

「71番の身体の中に取り込まれたものは、一時的に身体の一部として一体化している。つまり、あれを今倒せば、あの人は死んじゃうよ」

「じゃあ、どうすれば」

「僕に任せてよ」

 

 青年は碧の前に立つと、あるものを取り出した。ピンク色のレバーが付いたライムグリーンのアイテムだ。そこには何かを入れるためのスロットが二つある。

 それを腹部に着けると、黒いベルトが現れ、一つのドライバー──ゲーマドライバーへと姿を変える。

 

 そして一本のゲームカセットに似た、紫色のアイテム──ライダーガシャットを取り出した。

 

「僕は、天才だから」

 

 ガシャットを大事そうに見つめる青年。

 ガシャットに付いているボタンを押した。

 

『マイティアクションX』

 

 後ろにモニターが現れ、紫色のポップな文字と「マイティアクションX」というゲームに登場する主人公、マイティの色違いが表示される。

 

 そして青年は呟いた。

 自身が「天才」であることを証明するための言葉を。

 誰かに認めてもらうための力を手にする言葉を。

 

 

 

 

 

「変身」

 

 ガシャットを一番目のスロットに挿し込んだ。

 

『ガシャット!』

 

 青年の前に幾つものパネルが現れた。コミカルなキャラクターたちが描かれたパネルのうちの一枚を左手で選ぶ。

 そのパネルが青年のもとに向かって来ると、青年の姿は別のものに変わった。

 

『レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム!?』

 

 モニターに表示されていた、色違いのマイティのような顔立ち、様々なコマンドが書かれたアーマー、2頭身の白い身体。

 その姿に碧は目を張って驚いた。

 

『アイム ア カメンライダー!』

「仮面、ライダー……!?」

 

 仮面ライダーゲンム アクションゲーマー レベル1。

 この世に存在するはずのない戦士が登場した瞬間だった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.28 12:44 東京都 千代田区 皇居前広場

 さて、妻が驚愕している間、無断欠勤している夫はアールと一緒にポテトチップスを貪っていた。

 笑顔を浮かべるアールに対し、春樹は上の空だった。

 

「どうしました?」

「どう考えても解らないんだ。どうしてお前らは今、上位の奴らを送り込もうとしているんだ?」

「というと?」

 

「俺たちがライダーシステムが使い始めて、まだ半年も経っていない。力を十二分に出すことなんていうのは到底不可能だ。なのにお前らは上位の奴らを送ろうとしている。()()が達成される前に俺たちを一網打尽にしたら、メリットどころかデメリットだらけだろ」

「確かにそうですねぇ。だから『絶対に殺すな』と向こうには伝えてあります。でももし()っちゃったらごめ〜ん。今回送り込んだやつは、加減が判らないんです」

 

 アールが春樹の方を向く。

 笑顔こそ変わらないが、その目の奥に潜む感情がまるで違うことに春樹は気がついていた。

 歓びというよりも、神妙な気持ちの方が出ているその目を見た春樹は、すぐに立ち上がり、その場を去って行った。

 

「全く。貴方は碧さんのことになるとすぐにこうなるんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What do they fight for?

A: He said "for myself", and she said "for somebody". However it sounds like these are same.




アールの外見や話し方に関しては、俳優の佐藤二朗さんがモデルです。
「勇者ヨシヒコ」シリーズや「浦安鉄筋家族」でのコミカルなイメージで読んでいただければと思います。
こんな感じです↓
https://onl.la/DT24g1V


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question005 Why is he angry?

第五話です。
前もってお伝えしておくと、クロト=檀黎斗本人ではないですよ。
そっくりさんだとかそういう感じで捉えていただけると有難いです。
でないと、ここから何話後とかの話が訳が分からなくなってくると思うので。

それでは、よろしくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.10.28 12:47 東京都 文京区

「君は……一体……」

()()()。それが僕の名前」

 

 二頭身の戦士、ゲンムは赤と白で形成された目でベトレイを睨みつけていた。

 ベトレイが紫色の標的を見つけた。鉤爪のついた触手たちが襲ってくる。

 それをゲンムは見た目にそぐわない俊敏な動きで避け、前に進んで行く。

 

 雄叫びをあげてさらに狙っていく怪物。

 ゲンムは触手を伝って進んで行き、透明な部分の前まで来た。

 

「ハァッ……!」

 

 その部分に右手で強烈な一撃を食らわせた。

 

 するとどうだろうか。

 ベトレイの身体が突然発光。透明な部分から深月が飛び出してきた。

 そしてゆっくりと地面に着地する。

 

「た、助かった……」

 

 同じように地面に着いたゲンム。

「こうやって分離出来るのは()()()()()()()()だからね」

 

 一瞬、ゲンムの横顔が碧に見えた。

 

 笑っている。

 仮面越しだから実際には見えていない。

 だが彼女も同じ、仮面を着けて顔を隠す者。何となく分かるのだ。

 

 笑うゲンムは呟いた。

 次の形態に進むための言葉を。

 もっと自分を昂らせるための言葉を。

 

 

 

 

 

「グレード2」

 

 左手でレバーを軽く押した。展開されたドライバーから、戦士の姿が見える。

 

『ガッチャーン!  レベルアップ!』

 

 ドライバーからゲンムと同じくらいの高さのモニターが放出された。

 そのモニターがゲンムを通ると、後ろを向いた紫色の戦士が現れた。

 

 振り向いた戦士は先程の二頭身の姿とは異なり、等身大の姿をしており、背中には先程の形態の顔が着いている。

 

『マイティジャンプ! マイティキック! マイティ〜アクショ〜ンX!』

 

 仮面ライダーゲンム アクションゲーマー レベル2。

 この戦い(ゲーム)を次に進めるための姿へ、彼は変身(レベルアップ)したのだ。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.28 12:51 東京都 文京区

 通行止めになった車道を、一台の黒い遊撃車が走って行く。

 あと1分も経たずに到着する。全員が固唾を飲んで、車内で待機する。

 

 その時

 

『マイティクリティカルストライク!』

 

 跳びたった紫色の戦士が右足で、巨大な化け物に強烈な一撃を食らわせている様子が車窓から見えた。

 

「何ですか、あれ?」

「新型未確認生命体第十八号だ。碧くんの話では『クロト』と名乗っていて、人間態もあるらしい」

「そんな奴も出てきたんですねぇ」

 

 現場に到着した。

 すぐに車のドアがノックされ、現場にいた深月が入ってきた。

 

「状況は?」

「ベトレイとクロトが交戦中です。丁度今、ベトレイが倒されたところですね」

 

 

 

 

 

 碧の目の前でクロト、というよりゲンムは巨大な怪物を倒した。

 ゲンムの後ろでは大きな亡骸が置かれている。

 

「後は君の役目でしょ。ほら早く」

 

 碧はカードケースからカードを取り出し、トランスフォンにかざした。

 

『THE END OF VOLOKLOW』

 カメラ機能になると、シャッターを切った。巨大な亡骸が粒子状になり、碧の端末に集まっていく。

 

『Have a nice dream.』

 

 端末の中に一枚のカードが現れた。

 金色の鉤爪の付いた青い両腕を持つ、イエティという白い毛が生えた空想上の生き物が雄叫びをあげている絵が描かれており、数本の鎖が絵を隠すように表示されている。

 そしてその下には「No.072 BETRAY REY」と書かれていた。

 

「次は君の番だよ。リベード」

「……グアルダ……!」

 

『碧、こいつとは戦わない方がいい』

「何で?」

『これまでのやつとは桁違いだ。正直、()()()()()()()()()()()()どちらを使っても勝つのは難しいと思った方がいい』

「じゃあ、一人じゃ勝ち目は無いってこと?」

『そう解釈して一向に構わない』

 

「……それでも、やるしかないでしょ?」

『思った通りの答えが返ってきたな。承知した。これより、ライダーシステムの使用を許可する』

 

 端末をぎゅっと握りしめ、前を向く碧。

 目の前では、仮面のせいで顔が見えない獲物(対戦相手)がこちらをじっと眺めている。

 

 無理矢理にでも笑顔を作った碧は端末にカードをかざした。

 

『ACT DRIVER』

 

 腹部に現れたドライバー。

 端末をカードに装填する。

 

『"REVE-ED" LOADING』

 

 電源ボタンを押し、軽快なBGMの中でポーズを決める。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 端末を挿し込んだ。碧の身体は青色の戦士へと変わり、銀色の鎧と仮面が着けられる。

 

『I'm KAMEN RIDER REVE-ED!』

 

 ディスペルクラッシャーを取り出し、再度前を向くリベード。

 

 それを見たゲンムもまた、何かを取り出した。

 AボタンとBボタンの付いたゲームパッドのような見た目をしている武器──ガシャコンバグヴァイザー チェーンソーモードだ。

 

 右手に装着したゲンムもまた前を見つめる。

 互いの前にいるのは、それぞれ笑顔を作っている獲物(対戦相手)だ。

 じっと標的を見つめ、どちらが先に動き出すかと様子を伺っている。

 

 二人同時に走り出した。

 何度も互いの刃がぶつかり合い、その度に激しく火花が散る。

 

「中々やるじゃん。君、相当なやり手だよね?」

「当然でしょっ。君みたいな()()()()()と私とじゃ、経験値が違うのよ!」

「ふぅーん。でも、そんなのは僕の前では無意味なんだよっ!」

 

 押し返されるリベード。

 その隙に一閃二閃と斬りつけられてしまった。

 

「グッ……!」

 思わず後ろに退いたリベード。

 

 するとディスペルクラッシャーのグリップ部分を取り外し、本体の前と後ろを逆転させると、グリップを剣心の後ろ側に付け、銃のような形状、ガンモードに変形させた。

 

 ゲンムも同じようにバグヴァイザーのグリップを外し、反対側にグリップを装着、ビームガンモードに変形させた。

 

『チュ・ドーン!』

 

 互いの銃口から数弾の弾丸が発射される。

 その弾丸がぶつかり合い、両者の間で再び火花が散った。

 

 するとゲンムはガシャットをドライバーから外し、右側にあるアイテム──キメワザスロットホルダーに装填した。

 

『ガシャット! キメワザ!』

 

 ホルダーにあるボタンを押す。

 同時にバグヴァイザーに付いているBボタンを押した。

 

『マイティクリティカルストライク!』

 再び弾丸を発射すると、二つの銃口から発射された弾丸は、幾つにも分身。リベードに射撃する余裕を与えずにダメージを与えた。

 

「うわぁぁっ!」

 

 ライダーシステムには、装着者の身に危険が及ぶと判断された場合、強制的に変身が解除される場合がある。その機能が今発動した。

 

 倒れ込んでしまう碧。

 すぐに立ち上がるが、その脚は蹌踉めいており、苦しそうな表情を浮かべている。

 

「そんな……」

 モニターで状況を確認していた深月は困惑した。

 同じように戦士の姿をした対象は、これまでの敵とは比べ物にならないほどの戦力を持っている。

 そして、自分たちの最後の砦すらも通用しないのか──。

 

「アイツ、何者なんでしょうね? 解析しても、体内からそれと言って何か特別なものが出てくるわけでもない。じゃああの力は何処から来てるんだろう? それに、どうして人間態になれるんだろう?」

 

「多分、あのドライバーでしょうね。あのドライバーが本来の力を解放するための鍵みたいなものだと思っています。春樹さんと碧さんが使っているライダーシステムとは、また違ったものでしょうね」

 

「どうする、作戦担当?」

「……とにかくSATによる射撃でその場を凌ぎましょう」

「了解した。対象を射撃してください」

 

 森田の合図で碧の後ろで待機していたSATの隊員たちが、短機関銃から何弾も弾丸を発射する。

 だがゲンムにとっては、蚊に刺された、というより埃がついたような感触なのだろう。何の変化もなく、逆にバグヴァイザーで撃ち返されてしまった。

 

「イライラしてくるよ。早く僕を楽しませてくれる人はいないの?」

 

 碧の方に向かって来ると、胸ぐらを掴んで持ち上げた。

 

「君で遊んでも、もちろん楽しいよ。けどね、僕はもっと面白い戦い(ゲーム)がしたいんだよ。こんな初心者コースじゃ満足出来ないんだよ……!」

 

 死。

 その一文字が初めて碧の脳裏を(よぎ)った。

 それと同時に走馬灯のように自身の人生が目の前に浮かび上がってきたようだ。

 

 

 

 

 

 父親の仕事の都合で、海外を転々とした幼少期。

 どうにか周りに着いて行こうと、辞書を読み漁りその国の言語を完璧にマスターしようとした。

 結果として、かつての人類が使っていた言語を知りたい、と考古学の道を志した。

 

 そして、()に会った。

 

 正直、最初はどうも思っていなかった。

 顔は良いけど愛想がない。冷たい。冷酷な人間。

 ()に関わった人全員が抱く第一印象を、私も感じていた。

 

 でも、愛想がないのは変わりなかったけど、世間一般的なイメージと若干違うことに気が付くのに、そう時間は掛からなかった。

 愚痴を聞いてくれたり、解らない課題を見てくれたり、時には家に行って料理も作ってくれた。

 

 冷酷だとかそういうことじゃない。ただ不器用なだけだったんだ。

 

 ()()()()があってから、私と()の距離は一気に近くなった。

 ずっとこの人を守りたい。そしてずっと一緒にいたい。だから私は()と結婚した。

 

 でも、今も昔もずっと守ってもらってばっかりだった。

 私は()の力になれたんだろうか──。

 

 ごめんね。

 私は何も出来なかったよ──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来てるよ」

 

 声が、聞こえた。

 

 さっきまで自身の胸ぐらを掴んでいた標的は、奥の方に吹き飛ばされている。

 そして肩を抱いている男は、剣の鋭い刃先を対象に向けていた。

 

「自分じゃ気付いてないだけで、お前も俺を沢山守ってくれた。だから、そんなこと言うな。少なくとも俺は傷つく。ごめんな、すぐに来られなくて。今改めて気付いたよ。俺は何時(なんどき)もこの人と一緒にいて、守らなきゃならないって」

 

 見たことのない微笑みだった。口角こそ上がっているが、その目は悲しみに満ちている。

 

「折角だし、新人の深月とそこのガキンチョにも教えてやるよ。俺がやられると怒ることは三つある。

 一つ目、唐揚げに勝手にレモンをかけられること。

 二つ目、デートの邪魔をされること。

 そして三つ目は……うちの家族を傷つけられることだ」

 

 標的を睨みつける春樹。

 現場にいた全員、そしてモニターを観ていた車内のメンバーたちですら硬直した。

 いつものように無表情だ。

 だが、その目は先程の悲しみと慈愛で満ちた目じゃない。怒りと憎しみで満ちた目だった。

 まるで一歩でも動けば、殺されるような恐怖で、その場の全員が動けなくなる。

 

「とは言いつつも、あれだったら俺なら5分で方が付くぞ。もっと痩せなさい」

「はい!? 貴方が倒すのに5分かかる相手に、私が敵うわけないじゃない!」

「そんなことないだろ。お前は十分に強いんだから」

「それに私は太ってない。前より1キロ痩せたからっ!」

 

 たわいも無い会話をしながら前に進む二人。

 ドライバーを出現させた二人は、カードを取り出し、裏返して装填した。

 

『"BUILD" LOADING』

『"DOUBLE" LOADING』

 

 電源ボタンを押した。

 ゲートが開くと、碧の後ろに二つのオブジェが現れ、赤い兎はゲンムを自身の足で攻撃、青い戦車は弾丸を発射しそれを援護する。

 

 それぞれがポーズをとり、そして叫んだ。

 

「「変身!」」

『『Here we go!』』

 

 姿を変えた二人に分解した鎧が装着される。

 アクトとリベード。二人の戦士が参上した。

 

 変身した二人はそれぞれ剣を取り出し、標的を睨む。

 その標的もバグヴァイザーを再びチェーンソーモードに変形させ、余裕綽々な様子で見つめていた。

 

「「READY……GO!」」

 

 走り出した三人。

 アクトとゲンムの刃がぶつかり合っている隙を突いて、リベードは風のような緑色のエネルギーを纏った右足で、強烈なキックを横からお見舞いした。

 

 今度はリベードがディスペルクラッシャーをガンモードに変形させると、数発の銃弾を発射。

 リベードの後ろをアクトが高く跳び、その手に握られている剣で一撃を食らわせた。

 

 想像以上の破壊力に怯むゲンム。

 

「おかしいな。さっきまで君は僕の足元にも及ばなかったじゃないか。それがどうして?」

 リベードを指差して問いかける。

「何でだろうね。私にも解らない。でも、これだけは解る。私たち、二人揃えば最強だってことは」

 

 すると

「僕は天才だ。それをも凌駕する力なんて、すでに持っているさ」

 

 ゲンムはもう一本のゲームカセットのようなガシャットを取り出した。

 ゲンムに似たプレイヤーが自転車に乗っている様子が描かれた緑色のガシャットだ。

 

 その黒いボタンを押した。

 

『シャカリキスポーツ』

 

 後ろにモニターが出現した。

 そこからゲーマドライバーと同じカラーリングの自転車が現れ、自動で縦横無尽に辺りを走り回る。

 

『ガッチョーン!』

 

 ドライバーのレバーを閉じたゲンム。

 

 そしてゲンムは呟いた。

 戦い(ゲーム)をさらに白熱させる言葉を。

 

 

 

 

 

「グレード3」

 ガシャットを二つ目のスロットに挿し込む。

『ガシャット!』

 そしてレバーを展開した。

 

『ガッチャーン! レベルアップ!』

 

 ゲンムの前にゲートが現れた。

 ゲートがゲンムを通ると、独りでに動いていた自転車が変形。ゲンムに鎧として装着された。

 車輪が両肩を覆い、ヘルメットのようなものが頭部に着けられている。

 

「何だよ……あれ……?」

 

 テントの中で思わず呟いた深月。

 

『マイティジャンプ! マイティキック! マイティ〜アクショ〜ンX! アガッチャ! シャカリキ! シャカリキ! バッドバッド! シャカっとリキっとシャカリキスポーツ!』

 

 レベル3。

 さらなる壁が二人を襲おうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why is he angry?

A: Because his wife is injured by someone.




何はともあれ、総UA数がまもなく500に届きそうです。
これも読んでくださっている皆さんのおかげです。

本当に有難うございます。
これからも引き続きよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question006 What is "UNITE"?

第六話です。
よろしくお願いいたします。



【イメージED】
米津玄師 - 恥ずかしくってしょうがねえ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.10.28 12:54 東京都 文京区

「何だよ、あのアメコミみたいな見た目」

「いや、アメコミでも自転車をアーマーにするやつはいないでしょ」

 

 レベル3となったゲンムが二人に向かって来る。

 先程よりも強い威力の蹴りを二人に食らわせる。

 

「「グッ……!」」

 

 アクトは左脚のバネを使い、高く跳んだ。

 だがゲンムはその脚を掴んで、無理矢理下ろすと、倒れ込んだアクトにバグヴァイザーで数弾の弾丸を発砲。再び蹴り飛ばした。

 

 リベードはディスペルクラッシャーのグリップを取り外し、銃口に取り付ける。

 ソードモードに変形させたディスペルクラッシャーで緑色の竜巻を起こし、ゲンムにぶつけようとする。

 

 ゲンムは両肩の車輪を取り外すと、竜巻に向かって投げつけた。

 車輪は竜巻の周りをぐるぐると回る。

 すると竜巻は、車輪の回転の影響でみるみるうちに勢力を落としていった。

 そして車輪はリベードとアクトを攻撃した。

 

「「グァァッ!」」

 

 通常形態に戻る二人。

 剣を使って何とか立ち上がる。

 

「『5分で倒せる』っていうのは、完全な誤算だったみたいね」

「だな」

「どうする?」

 

 

 

 

 

「なぁ、折角だし、()()使うか?」

「え、あれ?  ()だよ。()()すっごい疲れるし」

「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないだろ。一回だけ。な?」

 

 ハァと溜息を吐いたリベード。

 

「あの、()()って何ですか?」

「いや、私たちも知らないんだけど?」

「あぁ。班長知ってます?」

「私も知らないな……」

 

『私が解説しよう』

 

 全員が首を傾げる中、低いバリトンボイスが車内を反響し、モニターがこの班のゆるキャラによって支配された。

 

『二人がやろうとしているのは『ユナイト』という技だ。アクトとリベードの端末を重ね合わせることで、ライダーシステムの出力を20秒間だけ最大にすることが出来る。

 但しこれには副作用がある。発動後は10時間変身することが出来なくなる。つまり、状況においては、諸刃の剣というわけだ』

 

 

 

「おいガキンチョ。折角だし本気出してやるよ」

「へぇ。それは楽しみだ」

 

 二人は端末を取り出し、正面を見据えたまま、トランスフォンの裏側を重ね合わせた。

 

『『Let's "UNITE"!』』

 

 電源ボタンを押し、端末を再びドライバーに装填した。

 

『『5(FIVE)』』

 テントの中の全員が固唾をのんでモニターを見つめる。

 

『『4(FOUR)』』

 ゲンムはバグヴァイザーをチェンソーモードに切り替え、身構える。

 

『『3(THREE)』』

 二人はディスペルクラッシャーを握りしめ、腰を落とした状態で待機する。

 

『『2(TWO)』』

 

 

 

 

 

『『READY……GO!』』

 

 ゲンムの視界から、突然標的二人が消えた。

 次にゲンムの目が捉えたのは、剣で自身を斬りつける標的たちの姿だった。

 

 凄まじいスピードで動き、何閃、何十閃、いや何百閃と斬られているのかもしれない。

 とにかく目に見えない速さで彼らは動いていた。

 

 強烈な蹴りを入れられ、吹き飛ばされたゲンム。

 

『『Ten minutes away.』』

 

 ゲンムはバグヴァイザーに白いガシャットを挿し込み、シャカリキスポーツのガシャットをホルダーのスロットに装填した。

 

『ガシャット! キメワザ!』

 

 それと同時にアクトとリベードはトランスフォンを取り出し、剣の鍔の部分にあるリーダーにかざした。

 

『『Are you ready?』』

 

 端末を再びドライバーに挿し込んだ。

 

 二人の剣からは青と緑の凄まじいエネルギーが溢れ、ゲンムの武器と車輪にもライムグリーンのエネルギーが渦巻いていた。

 

『シャカリキクリティカルストライク!』

『OKAY. "ACT" CONNECTION SLASH!』

『OKAY. "REVE-ED" CONNECTION SLASH!』

 

「ハァッ!」

「「オリャアアアアア!」」

 

 ゲンムの両肩から車輪が二人へと向かって行く。

 そしてゲンムが武器を振るうと、車輪と斬撃は一体化、一つの強大なエネルギーとなって襲いかかる。

 

 アクトとリベードも同時に剣を横一文字に振った。

 二人の放ったエネルギーも一つとなり、ゲンムに向かって行った。

 

 二つの強大な斬撃は、ぶつかり合った瞬間、凄まじい爆炎をあげた。

 そしてその衝撃波がテントの中にも来る。

 

 ガタガタと激しく揺れるテント。

 思わず机を掴んで、身を守る。

 

『『Three……Two……One……Time over.』』

 

 爆炎が晴れると、変身の解けた春樹と碧が見えた。

 

 フゥと溜息を()いた二人。

 春樹はカードケースからカードを一枚取り出し、端末にかざした。

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 目の前の爆煙にカメラを向け、撮影をしようとする春樹。

 丁度その時、爆煙が晴れた。

 

「「!?」」

 

 二人の視線の先にゲンムの亡骸はなかった。

 代わりにあったのは、「CONTINUE」と書かれた紫色の土管だ。

 そこから音を立てて何かが出て来た。

 

「やぁ」

 クロトだ。

 さっき倒したはずの男が目の前に立っている。

 

「何で……?」碧が思わず呟いた。

「僕には『コンティニュー』っていう能力があるんだ。例え倒されても、98回まで復活出来る。今一回倒されたから、残りライフは98だね」

 

 クロトの横にはモニターがあり、「GEnM Life Point 98」と表示されている。

 

「また遊びたいなぁ。その時には、もっと強くなっててよ。僕はもっと楽しみたいんだ。じゃあね」

 

 紫色の粒子となって消えたクロト。

 誰もいなくなった場所を見つめ、春樹は拳をギュッと握りしめた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.29 16:20 東京都 新宿区 SOUP

 翌日、彼らは報告書の作成に追われた。

 何しろ、人間と何ら変わらない見た目のフォルクローが現れ、変身し、アクトとリベードの二人を圧倒したのだから。

 

 報告書の作成が一段落付いたところで、口火を切ったのは深月だった。

 

「ていうか、()()()ホントにフォルクローなんですか? (にわか)には信じ難い話ですけど」

「間違いなくフォルクローだ。しかも、人間態を持っているやつは、出現する時に柱が反応しない。その証拠に、今回のケースだと71番の一本しか反応しなかっただろ」

 

 春樹は立ち上がって、碧のデスクの上に置いてあったチョコレートをつまみながら答えた。

 何個か持って帰り、自分のデスクに座って続きを楽しむ。

 

「確かにそうですよね。しかも、相手は変身して、尚且つフォームチェンジを行った」と圭吾。

「うん。人間態を持っているやつの場合、特定の条件をクリアすれば、新たな力を手に入れることが出来る。要するに、あれより強くなる可能性があるってこと」

 

 碧もチョコレートを貪りながら答えた。

 

「一つ、仮説を唱えても()いですか?」

「? 何だ?」

 薫の発言に森田が訊き返す。

 

「恐らく、人間態を持つフォルクローは、あのクロトっていうヤツだけじゃないと思うんです。何せ、相手は161体もいます。ああいうのが何体いても、何ら不思議じゃない。

 それに、春樹さんの言う通り、人間態のあるフォルクローの出現の際には、柱は一切反応しない。

 これがどういうことだか解りますか?」

 

「えぇっと、つまり……どういうことですか?」

 

 

 

 

 

「この東京という街には、人間態のフォルクローが何体も人間社会に溶け込んで、今か今かと機会を待ちながら生活を営んでる、ってことです……!」

 

 その仮説に、その場の全員が絶句したのは、言うまでもないだろうか。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.29 18:09 東京都 新宿区 SOUP

 SOUPの本部で、一人パソコンを操作する深月。

 その他のメンバーは、報告書等を書いた後、定時で帰ったため、今この場にいるのは深月一人だけだ。

 

 フゥと溜息を吐いた深月。どうやら自分の仕事は全て終わったようだ。

 荷物をまとめて帰る準備をし始める。

 

 すると机上のプリントが一枚、風に仰がれ、碧の机の方に行った。

 他の荷物を全てリュックサックにまとめた深月は、碧の机の方に行き、プリントを拾い上げた。

 

 ふと碧の机の上を見ると、一冊の書類が置かれていた。

 そういえば、碧はあの後、ずっと一冊の書類に目を通していたのを思い出した。

 

 それを手に取って、中身を見始めた。

 

 その2ページの書類には、大量のURLがびっしりと書かれている。

 1ページ目のURLは赤く、2ページ目のURLは青く印刷されている。

 

「何だ……これ?」

 

 とりあえず深月はスマートフォンを取り出し、その全てを撮影した。

 そして何事もなかったかのように、その場を後にした。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.29 19:56 東京都 杉並区 ハヤシ荘 206号室

 1DKの部屋に帰ってきた深月。

 シャワーを浴びて冷蔵庫から、生ビールと先程コンビニで買った枝豆を取り出した。

 

 そしてちゃぶ台の前に座ると、ビールの蓋を開けて呑んだ。

 

 枝豆に手をつける前に、思い出したかのようにスマートフォンとパソコンを取り出した。

 先程撮影した写真の中から、赤いURLと青いURLを一つずつ打ち込んでいく。

 

 赤いURLで表示されたのは、ネットニュースのようでタイトルは

「四谷遺跡での変死事件のその後」

 

 青いURLで表示されたのは、2016年に作られた所謂(いわゆる)まとめサイトで、タイトルは

「【悲報】ここ3ヶ月の失踪者、多すぎる。」

 

 まずは青いURLによって出されたまとめサイトを見始めた。

 

 

 

 

 

1:通りすがりの虫 2016/10/29 23:01:12

ていうか最近の失踪なんてどうせミカクニンだろ 

 

2:プロフェッサー 2016/10/29 23:02:56

警察は詳細不明とか言ってたけど、あいつらの発表なんて嘘だろww

信じちゃだめだめ

 

3:ヅラ 2016/10/29 23:05:01

何?

陰謀論?

きっと気のせいだろ

 

6:のび太 2016/10/29 23:08:11

百何人もいなくなってるんだぞwww

陰謀論だとしたら、政府が消したのか?

 

10:J 2016/10/29 23:10:34

それで警察はそれを表沙汰にしないのか?

うそくせーww 

 

 

 

 

 

 何でこんなもののURLを、碧さんはプリントアウトして取っておいたんだろう……?

 この1ヶ月の碧の言動を振り返っても、これと関連したことは何もなかったような気がする。

 ならどうして?

 

 疑問を残したまま、深月は次に赤いURLで表示されたネットニュースを閲覧することにした。

 

 結構長い記事だったので、ここに記すのは割愛させてもらうが、要約すると以下の通りだ。

 

 この記事は、1年前に書かれたもので、内容は2010年12月26日に四谷遺跡前で城南大学の石川(まさる)教授を含めた、考古学研究室の遺跡発掘調査チーム、計6人が遺体となって発見された変死事件に関する新情報や、遺族の動向等だ。

 

 マスコミの情報網というのは、いつの時代もやはり恐ろしい。

 記事には、下手をすれば訴えられるのではないかというところまで、事細かく書かれていた。

 

 その中で、深月は一人の被害者の遺族について気になった。

 

 それはチームのリーダーであった、石川教授の遺族に関してだ。

 

 石川教授は両親がすでにおらず、親戚付き合いも無かった。

 また妻も事件の半年前に病死している。

 唯一の家族は、妻との間に生まれた一人娘だけだった。

 

 だが、その娘の足取りが一向に分からないらしい。

 警察関係者や石川教授の身辺に取材をしても、「全く分からない」という一パターンの答えしか返ってこなかった。

 

 果たして、その少女は何処へ消えたのか?

 我々は今後もその足取りを追う、ということで記事は終わった。

 

 

 

 

 

「へぇ」

 枝豆を食べる手を止めて、思わず見入ってしまった。

 

 碧は何故、この二つの記事を取っておいたんだろう。

 5年前の連続失踪も、11年前の変死事件も、ヒュージルーフやフォルクローとは一切関係ないように思える。

 ただでさえ忙しい部署だ。職務とは関係のない事柄を追求する時間は、はっきり言って無い。

 

「調べてもらうか……」

 

 深月はスマートフォンを取り出し、誰かに電話をかける。

 静かな部屋の中で、一人分の話し声が響いた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.29 20:09 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 さて、後輩が一人寂しく夕飯を食べる中、先輩二人と同居人は三人で楽しく食卓を囲んでいた。

 三人の目の前には、そぼろ肉と卵の二色で彩られた()()()丼、ニラ玉、トマトときゅうりで作ったロミロミサラダ、けんちん汁が並んでいる。

 

「ママ、大丈夫なの? 結構怪我したって聞いたけど」

「大丈夫大丈夫。ダメだったらこんなにご飯作れないって」

 

 あまねの質問に笑いながら答える碧。

 

 あの後、碧は念のためSOUPの内部にある医務室での検査を受けた。

 だが特に異常は無く、検査を終えてすぐに帰宅することが出来た。

 

 翌日である今日も身体に不調は現れなかったため、出勤し、この通り夕飯まで作った。

 今はそぼろ丼を元気よく掻き込んでいる。

 

 碧は箸を止めて、春樹の方を向いた。

 その表情は人によっては真剣な面持ちとも捉えられるし、ニヤニヤしているとも見える。

 

「ねぇ春樹」

「?」

 

「これからは無断欠勤は止めてね。こないだも言ったけど、一応税金で食べてる身なんだから」

「君に出逢った時に言ったよな。俺は組織という概念がそこまで好きじゃない。他人を巻き込んで生活をし、その認識すらも(いず)れ薄れていく。そんな人間たちが集うところに入り込む余地は、俺には無い」

「人間は絶対に他人を巻き込まなければ生きていけない。太古の時代から、()を犠牲にして自分という生命と存在を、人類は確立してきた。だから別に気にすることはないでしょ。それに」

 

 前のめりになって春樹に上目遣いを向ける。

 食卓で繰り広げられるラブコメのような展開を前に、またか、と()()()は静かにけんちん汁を飲んだ。

 

「大切な奥さんが()()()()に遭うのは、もう嫌でしょ?」

 うるうるとした目で春樹に詰め寄る碧。

 だが春樹は表情一つ変えない。それどころか、溜息を吐く余裕まで見せた。

 

「あざとくやっても、俺には通用しないからな」

「こ、こんなに可愛くやってもダメですか?」

「無断欠勤はしないようにするけど、これはお前の上目遣いの影響じゃない。自分の意思だ」

 

 思わず吹き出してしまったあまね。

 いつものような冷たい解答に笑顔を見せる碧。

 二人に釣られて微かに笑う春樹。

 

 これがいつもの風景。

 いつもの夕飯の時間だ。

 

 笑顔で戯れ合っている碧とあまねを、春樹は優しい眼差しで見つめた。

 

 

 

 

 

 自分のために戦う。

 でもそれが、自分自身のためとは、誰も解釈出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常149体

B群3体

残り152体

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is "UNITE"?

A: It's the way of connect their hearts when they're fighting. Nobody knows why it makes the strongest connection for fight.




椎名家の夕飯は、こちらのサイトのレシピを参考にさせていただきました。

https://folk-media.com/3353662

そういえば、「シン・ウルトラマン」の配信が始まりましたね。
お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、今作はその影響を大きく受けています。
「特命戦隊ゴーバスターズ」や「シン・ゴジラ」みたいな作品を創りたいと思っていた矢先にあれを観て、SOUPという設定が出来上がり、そこから「仮面ライダークウガ」の世界観を踏襲したものになりました。

ご覧になっていない方は、是非とも観てみてください。
序盤から度肝を抜かれますよ。

ご視聴はこちらのURLから可能です。
https://onl.bz/bbhkGhK
(何かURLが違くねぇか、と思われたと思いますが、短縮しているだけで公式のURLです)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 03 学校閉鎖(SCHOOL CLOSURE)
Question007 What happened in the school?


第七話です。
バトル少なめの回です。
感想等書いていただけると有難いです。
よろしくお願いいたします。

因みに、あまねの担任の先生はシソンヌの長谷川さんをイメージして書いています。
シソンヌのお二人って、すごく演技がお上手で、コントを観ていると言うより、演劇を観ているような感覚になります。
「ばばあの罠」というネタが本当に面白いので、皆さんにも是非観ていただきたいのです。
https://onl.bz/LMmgZhh (公式の動画です)



【イメージOP】
PEOPLE1 - 銃の部品

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


?????

 だだっ広く、薄暗い部屋の中で、三人は向かい合って椅子に座っていた。

 背広の男は読書に集中し、チャイナ服の女はマニキュアを塗り、少年はゲームに夢中だ。

 

「まさか、クロトがやられちゃうだなんてねぇ。貴重なライフを削られた、ってちょっと怒って帰ってきたわ」

 

 爪の中央から側面へ、徐々にマニキュアを塗っていく女。

 本来、紫色のマニキュアは良く映えるものだ。だがこの部屋が暗いせいで、中々その魅力を醸し出すことは出来ない。

 それでも我が子を見つめる母のような眼差しで、映えることのない爪を眺めていた。

 

「でも楽しそうだったよ。聞いてみたら、もうじき新しい力が手に入るって言ってた」

 

 少年は20年ほど前に販売されていた白いゲーム機で遊びながら答えた。

 ポリゴン状で映し出される主人公が、縦横無尽にステージを動き、前に進んで行く。

 敵も少なくなってきた。後はゴールを目指すだけだ。

 

「へぇ。それは……楽しみだね」

 

 主人公はただ真っ直ぐゴールを目指し、トップコートを塗るだけとなった。

 

 暫し、沈黙が流れる。

 

 すると男は本を閉じ、二人に呼びかける。

 

「そろそろ、()が動き出す頃かな?」

「早くない!? まだ時間はあるよ」

「良いじゃない。早ければ早いほど良いのよ。善は急げって言うでしょ」

 

「あと、私たちも()()に挨拶をしなければならない。少ししたら出かけよう」

 

 丁度、女は全ての爪が塗り終わり、コミカルな音と共に主人公はゴールに辿り着いた。

 

「「はーい」」

 

 二人に対して微笑みを見せる男。

 

 ふと左側を向いた。

 暗い壁の側面に巨大な窓があり、そこから外が見渡せるようだ。

 

 そこに写っていたのは、殺風景な街の姿だった。

 街と言っても、ビルは朽ち果て、ひび割れたコンクリートの上を砂煙が舞う、荒廃した世界。

 人影は一切無く、それどころか生物がいるのかすら判らない。

 

 男は何を思っているのだろう。笑顔は消え失せ、無表情で朽ちた街を見つめる。

 少しだけ口角を上げると、立ち上がってその場を後にした。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.31 19:32 東京都 新宿区 代々木ホール

 生憎(あいにく)の雨だった。

 朝のニュースでは、雨が降っているせいで渋谷に仮装をして行けない、と愚痴をこぼす若者の姿。

 そしてあれ(ヒュージルーフの出現)から一年が経ったことが放送されていた。

 

 一年が経った今でこそ、風景に溶け込み、すっかり日常の一部になった屋根。

 ニュースを見てそんなこともあったな、と空を見上げ思い出す人も多いようだ。

 

 だが、()()が嘆くことも、上を見上げ何かを思い出すこともなかった。

 なぜなら、()()のお目当てのイベントは、屋外ではなく屋内での開催だからだ。

 

 

 

 

 

 色鮮やかな照明と振りかざされるペンライトで照らされる会場内。

 掛け声を出して盛り上がる観客の視線は、大きなステージの上に立つ一人の女性に向けられていた。

 

【挿絵表示】

 

 金髪のボブカットの女性──江戸川(えどがわ)ミソラは、黒い衣装を着、ステージ上で歌って踊っていた。

 

 曲が終わった。

 歓声と拍手が曲の次に響く。

 

「みんなー! アンコールありがとー!」

 

 再び上がる歓声。

 様々な格好をした観客の中である男は目を輝かせていた。

 法被(はっぴ)を纏い、両手にはペンライトを握った男──深月だ。

 この国を護るという仕事の重圧を忘れ、ただ熱狂の渦に飲み込まれながら、屈託のない笑顔を魅せる推しを眺めていた。

 

「実は、今日はみんなにお知らせがあります!」

 

 おおっ、と期待に満ちた歓声が上がる。

 

「私、江戸川ミソラ……」

 

 固唾をのむ観客たち。

 深月もゴクリと唾を飲み込んだ。

 推しの発表ほど緊張するものはない。

 得体の知れないものへの対応と同じくらい、否、それ以上に心拍数が上がる。

 

 

 

 ついに、その瞬間がやってきた。

 

 

 

「誕生日の2月6日に、日本(にっぽん)体育館での、ライブが決定しましたーっ!」

 

 今日一番の歓声が響き渡った。

 

 それもそうだ。

 日本体育館は100年以上の歴史を持ち、これまで名立たるアーティストたちがライブを行ってきた。

 その偉大な歴史に、江戸川ミソラという名前が刻まれるのだから。

 

 その歓声にお辞儀をして応えるミソラ。

 頭を上げると言葉を続けた。

 

「いやぁ。()()()()()があってすぐにデビューして、どうしたらみんなに元気を分け与えられるのかって、ずっと考えていたんです。

 一年近く頑張って、結果ああいう、すごい偉大なステージに立たせていただくことになったっていうのは、とても嬉しいです。

 これからもよろしくお願いします!」

 

 再びお辞儀をしたミソラに拍手をする観客。

 

「じゃあ、あと2曲で、本当にラストです。今日は本当にありがとうございました」

 

 照明が暗くなった。

 会場を照らすのは、思い思いの色になっているペンライトだけだ。

 

 真っ暗なステージの上で、ミソラは口を開いた。

 

「それでは聞いてください。『Be the one』!」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.10.31 21:02 東京都 中野区

 東中野駅周辺の大通りを二人の男女が歩いていた。

 男の方は長い白髪を後ろで束ね、ポスターやらパンフレットやらの入った紙袋を両手に持っている。

 女の方はそういった類のものを持っておらず、背中にリュックサックを背負っている。

 そして二人とも、傘をさしていた。

 

「有難うね。付き合ってくれて」

 白髪の青年──七海日菜太が隣を歩く少女──筒井あまねに話しかける。

 

「ううん。私も楽しかったから」

 

 二人は今日、江戸川ミソラのライブに行っていた。

 ミソラのファンだという日菜太に、あまねが誘われたのだ。正直興味はさらさらなかったが、たまたま予定が空いていたため、同行することにした。

 だが、行ってみれば大満足。数曲しか知らなかったとしても、十数曲あるセットリストを楽しむことが出来た。

 

「最後の曲良かったね」

「『Everlasting Sky』? 良かったよねぇ。中盤にやった『しゅわりん☆どり〜みん』っていうのも良かった。

 でも一番好きなのは、やっぱり『Catch the Moment』だね」

「え待って! 私もその曲大好き! 正直ミソラの曲は分からないけど、その曲が一番好き!」

「ホント!?」

 

 互いを見つめ合い、笑い合う二人。

 暗い夜道を明るく照らす街灯が、二人の両端を静かに囲み、その光は雨によってぼやけていく。

 

 しばらくして、あまねの住むマンションに到着した。

 一階の中に入ったところで、日菜太が上着のポケットに手を入れ、中から何かを取り出した。

 

「あのさ」

「?」

 

 それは一つの長方形の箱だった。緑色の包装紙でラッピングされている。

 

「改めて、誕生日おめでとう!」

「!」

 

 そう。今日は筒井あまねの16歳の誕生日だった。正直、本人もライブが楽しすぎてすっかり忘れていた。

 

 箱を受け取り、包装紙を丁寧に取り外して中身を確認する。

 中に入っていたのは、「A」の形をしたプラスチック製の赤いキーホルダーのようだ。

 

「手作りしたんだ」

「嬉しい……有難う」

 

 笑顔でキーホルダーを見つめるあまね。

 その様子に安堵したのか、日菜太は優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 一方その頃、6階の椎名家。

 春樹と碧は二人だけで食卓を囲んでいた。机上には数本のノンアルコールビールと、柿の種や生ハム等、様々な酒のつまみが置かれている。

 

「今更訊くのもあれだけどさ」

「?」

「あまねは今日何やってるの?」

「あれ? 聞いてなかったっけ? 今日あまねちゃんは、クラスの友達と『みーたん』のライブに行ってるって」

 

「みーたん? 何だそれ?」

「え!? 知らないの? これだよこれ!」

 

 碧は端末の画面を春樹に見せた。

 そこには江戸川ミソラの画像が大量に表示されていた。

 

 「みーたん」改め、江戸川ミソラ。

 去年の11月にデビューし、瞬く間にトップアイドルへと成り上がった新星だ。

 歌唱力やカリスマ性等がずば抜けており、新曲を出せば世界ランキングに必ずランクインする。

 まさに、2020年代のカリスマアイドルといったところだ。

 

 すると、そんなアイドルに魅了された少女が部屋に入って来た。

 

「ただいま〜」

 

 あまねの表情をふと見た春樹は唖然とした。

 普段、あまねは余り笑顔を見せない。いつも冷静沈着で、笑顔と言っても微笑む程度だ。

 そんな少女が、満面の笑みで帰って来たのだ。

 明日は必ず雪やら強風やらの異常気象になる。春樹は内心で確信した。

 

「おかえり〜。デートはどうだった?」

「は!? ででで、デート!?」

 

 碧の爆弾発言に立ち上がって驚愕する春樹。

 ついにこの日がやってきたのか、と、とりあえず冷静になろうとするが、如何にもこうにも出来ない。

 

「ち、違うからね! 日菜太くんとはそういう感じじゃないからっ!」

 慌てた様子で弁明するあまね。

 

「へぇ〜っ。その日菜太くんから、()()をもらったんだ」

 

 碧は自身の右手を見せた。そこには先程あまねが日菜太からもらっていた、包装されたプレゼントの箱が握られていた。

 

「い、いつの間に!?」

「こういうのを知っておくと、私の仕事では役に立つのよ」

「役に立つ機会は無いし、今後も一切やってこないな。あとそれ絶対他所(よそ)でやるなよ。近所の人から変な目で見られるから」

 

 春樹の指摘を聞き流し、碧はラッピングを剥がして中身を開けた。

 

「え? (から)?」

 

 箱の中には製品が入っておらず、完全に空の状態だ。

 フフンとドヤ顔で両腕を組むあまね。

 

「どうせこんなこともあろうかと、前もって抜いておいたのよ」

「それでリュックに付けているというわけか」

 

 春樹の言葉で碧はあまねの後ろに回り込んだ。

 よく見ると、リュックサックの金具に日菜太から貰ったキーホルダーが付けられていた。

 

「何で気がついたの?」

()()()()は、人の些細な言動を気にしなくてはならない仕事だった。だから分かるんだよ、大体、俺は一応お前の保護者だ。大体のことは分かる」

 

「パパ……気持ち悪いよ」

 

 (しばら)膠着(こうちゃく)していた春樹は表情一つ変えずに、後ろを向いて冷蔵庫のある台所に向かって行った。

 その脚が産まれたての子鹿のように震えていたのを、碧とあまねは見逃さず、見つめ合って苦笑した。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.06 10:23 東京都 渋谷区 城南大学附属高等学校 2階 1年6組

 ざっと三十人近い生徒が黒板に視線を集中させている。

 二時間目の今は、担任の先生が物理基礎の授業を行なっている。本来であれば、この黒縁眼鏡をかけた大柄の担任の授業は二・三割が雑談だ。ただの雑談ではなく、物理基礎の授業に直結するタメになる雑談だ。

 だが今はそんな話をする余裕は担任には無く、況してや生徒も気を抜く余裕は無い。

 

 後ろでは大勢の保護者が、自身の子が勉学に励む姿を見守っている。

 

 何故なら、今日は公開授業だからだ。

 保護者の優しい目線が、生徒たちには鬱陶しいものに感じられてしまう。

 

 その鬱陶しい目線の中には、春樹と碧(あまねの保護者二人)のものも混じっていた。

 いつものように春樹は無表情で、碧はニコニコしている。だがあまねは勘づいていた。

 あの二人、ちょっとニヤニヤしている。

 前を向きながら、すごく嫌そうな顔で一つ溜息を()いた。

 

 暫くして、授業が終わった。

 休み時間に入り、各々が自由に動く。

 

 

 

 

 

 その時だった。

 大音量の短い音楽が鳴り、校内放送が始まった。

 

【生徒と保護者に連絡します。只今より、校内の緊急点検を行います。生徒と保護者は、校庭へ集合してください】

「皆さん! 私が校庭に誘導いたします! 着いて来てください!」

 

 担任の誘導に従い、生徒と保護者が教室から出て行く。他の教室でも同じように、教員の誘導に従って校庭に移動しているようだ。

 

「妙だな。不審者なら『体育館に避難してください』っていうアナウンスが入る筈だ。校庭に……?」

「それに、学校の連絡でも、今日は校舎の点検なんて伝えられていないし、尚且つ公開授業の日に点検なんて行う筈がない」

 

「「……まさか……!」」

 

 校舎の中に残った春樹と碧は、ポケットから端末を取り出し、ロック画面を確認した。

 するとそこには、赤い文字が大量に羅列され、画面の大半を覆い尽くしていた。

 

出動要請

第85番・第87番の柱の反応、及び東京都渋谷区にて赤いカーテンの出現を確認。

早急に出動してください。

出現予想時刻まで残り

00:01:29

 

 そして出現場所の位置を確認すると、その周辺に見覚えのある店の名前が幾つか表示されている。

 

「ここに来るってことか……?」

「そうみたいね……」

 

 すぐに端末にカードをかざし、ドライバーを腹部に出現させた。

 そして廊下に出て辺りを確認した。

 

 すると、ピポパポと何か音が廊下の奥から聞こえてきた。次に足音が聞こえ、最後に得体の知れないオレンジ色の化け物が現れた。

 SK-1という旧ソ連がユーリィ・ガガーリンのために作成された宇宙服に酷似した外見をしており、ヘルメットの中には頭部等は無く、上村淳之の「隼」という絵が飾られている。

 そしてそのファスナーの部分には、数十個の小さなスイッチのようなものが着けられていた。

 

 春樹は端末の通話機能を使い、全員へのグループ通話を始めた。

 

【もしもし】最初に電話に出たのは森田だった。

「今丁度、怪物(フォルクロー)が現れました。画像を送ります」

 

 怪物の写真を送り、全員に送る。

 

「要は、新型未確認生命体(ミカクニン)の第二十三号……ですか」

 薫が呟く。

「ああ」

「何というか、そこまで生きてるような感じがしないですよね」

「頭部もよく分からない絵画だし、無理もないよ」

 深月の発言に圭吾が答える。

 

「とにかく、一刻も早くあいつを倒してくれ」

「「了解」」

 

 通話を切ると、春樹と碧はカードを端末に装填した。

 

『"ACT" LOADING』

『"REVE-ED" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、軽快な音楽とともに鎧が出現する。

 各々変身ポーズをとり、そして叫んだ。

 

「「変身!」」

 

 端末をドライバーに挿し込んだ。

 身体が変化し、銀色の鎧が装着される。

 

『I'm KAMEN RIDER A-CT!』

『I'm KAMEN RIDER REVE-ED!』

 

 変身した二人は、剣を取り出すと怪物に向かって行こうとした。

 すると

 

「ねぇ」

「あ?」

 

 突然リベードがアクトに話かけた。

 走っていたアクトは立ち止まり、後ろを向く。

 

「そういえば、あまねちゃんは?」

「?」

「確かあの時、お手洗いに行ってた筈だけど。ちゃんと避難出来たのかな?」

「……」

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

「いやぁぁぁぁぁ!」

 二人の後ろから聞き覚えのある声で、悲鳴が聞こえた。

 そこには腰を抜かしたブレザー姿の少女がいた。

 

「あまね!?」「あまねちゃん!?」

 

 さらに奥の方を見ると、そこにはあまねに向かって来ている数人の異様な集団がいた。

 見た目はパウル・フュルストの描いたペスト医師のように、黒いローブに白い仮面を着けたもので、その右手にはコンバットナイフが握られている。

 

「あれは……」

()()()()()……!」

 

 異様な集団は言葉を発しず、ゆっくりと迫って来る。

 怪物の出す妙な音と、あまねの恐怖に満ちた呼吸音だけが、廊下に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What was happened in the school?

A: A monster that looks like an astronaut and a mysterious group appeared in there.




まともな恋愛をしたことが無いので、結構そういう場面は荒く書いてしまっています。
ご容赦ください。

因みにミソラのライブシーンに関しては、
・米津玄師 2022 TOUR / 変身
・DAY1 Roselia 「Flamme」
・DAY2 Roselia 「Wasser」
こちらの三つを参考にさせていただきました。
米津玄師さんのこのライブは生で拝見させていただきまして、非常に感銘を受けました。
チーム辻本の皆さんがめちゃめちゃ格好良かった……!
RoseliaのライブはBlu-rayで拝見しまして、笑いあり涙ありの格好良いライブでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question008 Why did three envoys show up?

第八話です。
今回は戦闘というよりも、会話メインです。
長ったるしい駄文なので、お時間のある時にお読みください。
よろしくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.11.06 10:32 東京都 渋谷区 城南大学附属高等学校 2階

「どうしてすぐに逃げなかったっ!?」

 アクトが「ソルダート」と呼んだ怪人たちと戦いながら、あまねに訊いた。

 

「何でって、お手洗い行ってたから……」

「そりゃぁ仕方ないか」

「あまねちゃん! とりあえず教室の中に入って!」

「分かった!」

 

 リベードの言葉であまねは教室の中に入り込んだ。

 それを確認するとリベードとアクトは、ディスペルクラッシャーを振り回し、ソルダートを斬り裂いていく。

 

「「はあっ!」」

 

 横一文字に剣を振ると、エネルギー波が一気に集団を斬り裂いた。

 爆散する兵士たち。

 

 次は大物だ。

 走ってオレンジ色の化け物に襲いかかる。

 

 すると化け物はファスナーの部分にあるスイッチの一つを押した。そうすると右脚に四つ穴の空いた青色のアタッチメントが現れた。

 そこから数本の白い筒が火を吹いて飛び出して来た。

 

「あれミサイルだよね!?」

「ああ……。ヤバいな」

 

 すぐさまディスペルクラッシャーをガンモードに変形させると、端末をかざした。

 

『『Are you ready?』』

 

 端末を再びドライバーに装填すると、銃口を前に向けた。

 

『OKAY. "ACT" CONNECTION SHOT!』

『OKAY. "REVE-ED" CONNECTION SHOT!』

 

 引き金を引いた。

 緑色と青色のエネルギー弾が全てのミサイルを撃ち抜き、激しい爆発が起こる。

 

「今よ! この高さだったら飛び降りても骨折しないから!」

「どんなアドバイスだ!? お前娘に何言ってるんだ!」

「オッケーママ!」

「オッケーじゃない! パパはオッケーじゃないからっ!」

 

 あまねは教室の窓を開けて、指示通りに飛び降りようとする。

 やけくそに頭から行こうとした。

「うおおおおお!」

「ステェェェイっ!」

 

 だが

 

「痛っ!」

 

 アクトとリベードが教室に入って目にしたのは、床に転がっているあまねの姿だった。

 

「お前、何してるんだ?」

「それが、出られないんだけど」

「は?」

 

 試しに窓から手を外に出そうとする二人。

 だが何も遮るものの無いはずなのに、何故か向こう側に手が届かない。

 

「どうなってるんだ、これ?」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.06 10:40 東京都 渋谷区 城南大学附属高等学校 校庭

 生徒と保護者の避難は終わり、敷地内に残ったのは警察関係者のみとなった。

 今、校庭の外にある通路には数台の警察車両が停車し、緑色の人工芝の上には白いテントが置かれている。

 そのテントの中に、春樹と碧以外のSOUPのメンバーたちが入って行く。

 森田が引き継ぎを終わらせると、四人はパソコンを立ち上げ、早急に作業を始めた。

 

「第二十三号『スイッチング』は胸のスイッチを押すことで、様々なアタッチメントを出現させるみたいです。大体30個くらいですかね」

 圭吾がパソコンを見ながら言う。パソコンのモニターには、先程のアクトとリベードの戦闘の映像が映っていた。

 

「あと、体表がオレンジ色なのは、エネルギーが身体中に充満しているからでしょうね。倒したら校庭(ここ)ごと吹っ飛びます」

 薫が机上のお菓子を食べながら続けた。薫のパソコンには、スイッチングを赤外線解析したものが表示されている。

 

「要はあいつを外に放り出して、爆破しても大丈夫な場所に誘導すれば良いってことですか?」

「そうだな。21年前の、『ゴ』のミカクニンと同じ対応だ」

 

 21年前の未確認生命体には「ゴ」と呼ばれる階級があった。

 グロンギ族の中でも上位にいる彼らを倒した際、その爆発は凄まじいものとなってしまい、警察庁が四号(クウガ)を危険視したことがあった。

 そこで、爆発による被害を最小限にするため、特定の場所に誘導し、そこで撃破することで事は収束したのだ。

 

「この近くだと、明治通り沿いに廃ビルがある。そこの地下だったら何とかなるだろう」

 

 

 

 

 

『そうか分かった。改訂マルエム法に基づき、渋谷区に非常事態宣言を発令、その廃ビル周辺の半径1キロを48時間封鎖するよう連絡する。事務作業は任せろ。君たちは誘導の方法を早急に考えてくれ』

「「「「了解」」」」

 

 岩田室長への報告が終わった丁度その時、一本のグループ通話が入ってきた。

 

「もしもし」

 電話に出る森田。

『椎名です』

 春樹からだった。

 

 

 

 

 

『今……学校に閉じ込められています』

「……は?」

『いや、だから学校に閉じ込められてるんです。試しに全ての教室、及び非常口等と含めた出口からの脱出を試みましたが、何故か出ることが出来ません』

 

 閉じ込められた……?

 ドアが開かない……?

 想定外の報告に戸惑う四人。

 

『試しに正門の窓ガラスを撃ってみてください。この学校の窓は強化ガラスでできていて、撃ってもまるで効かないですけど、どうなることやら』

「分かった。SATに連絡。試しに正門への射撃をしてくれ」

 

 森田の指示で警察官の一人がSATに通達をする。

 すると銃器対策警備車から二十人近くの隊員が出現。正門前で銃口を向ける。

 そして、一斉に引き金が引かれた──。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.06 10:46 東京都 渋谷区 城南大学附属高等学校 2階 1年6組

 ドドドドド。

 絶え間ない銃声と同時に目の前で火花が散る。

 普通、このような状態であれば、人は怖気付いてその場にしゃがみ込んでしまう。

 だが

 

「あー……全然(ぜんっぜん)びくともしないわ」

「ホントだね〜。これじゃ今日一日出るのは無理かな〜」

「えぇー。19(しち)時から『WOW! ウチらの動物園』2時間スペシャルなのに……」

 

 この三人だけは違かった。

 これ以上に怖い場面を経験しているからでも、怖いもの知らずなだけでもない。

 どうにもこうにも攻撃が無意味になってしまうからだ。

 

 結局のところ、正門のガラスは全く割れなかったため、今度は三人のいる1年6組の教室の窓ガラスを直接攻撃することにした。

 だが、これも何ともならない。様々な種類の弾丸を使っても、本来ヒビの入って壊れるものが全く壊れないという事実に、熟練の先鋭部隊も困惑せざるを得なかった。

 

 そしてついには

 

「ん? あれ何持ってるの?」

「え? どれ?」

 

 ほらあれ、とあまねが指差す方では、SATの隊員の一人が小さな()()をモゾモゾと手の中で動かしている。

 その隊員以外の全員が後ろにはけると、()()をいきなり春樹たちの方に投げてきた。

 

 

 

 それが深緑の手榴弾であることに三人が気がついたのは、それが窓の目の前に来た時だった。

 

「「「ああああああ!」」」

 

 流石にその場にしゃがみ込む三人。

 

 その瞬間

 

 ドーーーン!

 

 けたたましい音と共に、激しく炎が舞った。

 これなら窓ガラスは木っ端微塵になり、容易に脱出出来る──。

 

 

 

 はずだった。

 

「あれ?」

 

 起き上がってみると、何ともなっていない。

 本来であれば、窓の近くにいた自分たちには大量のガラス片が刺さるはずだ。だが何かが刺さった様子もない。

 数秒前と変わらない光景が広がっていた。

 

「これでも駄目なのーっ……!?」

 

 もうどうしようもないと感じたのか、あまねは自分の席に着席した。

 

「これもアイツの力なの……?」

「……分からない。現状ではそれしか言うことがない」

 

 二人は廊下に出てその様子を確認する。

 

 先の戦闘の影響で床は歪んで焦げ付いており、窓ガラスにはヒビが入っている。廊下を照らしている照明も点滅を繰り返していた。

 

 そんな中に、アイツ(スイッチング)は立っていた。その体表はオレンジから白に変化しており、元々血の気を感じなかったがさらに失せたような気がする。

 

「あれ、さっきはオレンジだったよね? 何で白くなってるの?」

 いつの間にか後ろに立っていたあまねが二人に訊く。

「『ホメオスタシス』って知ってるでしょ? アイツの身体には大量のエネルギーが蓄えられていたの。ただそれが、さっきの戦闘で殆ど使い果たしちゃったから、今は身体を休めているってわけ」

 

 ホメオスタシス(恒常性(homeostasis))とは、W・B・キャノンによって提唱された生物学の用語で、自律神経、内分泌系、免疫の三つによって身体の状態を一定に保とうとする現象のことだ。

 実際、21年前に出現した未確認生命体第二十一号は、超高温の体液を口から吐き出す際、体内温度が約280度になっていた。そのため、身体を冷やすために定期的に水の中にいることと、腹部の蒸気口から余分な蒸気を排出する必要があった。

 まぁ、その蒸気口か内臓と直結していた弱点で、四号にそこを貫かれて倒されたのは周知の事実だと思うが。

 

 

 

「明日の朝までは動かないみたいだから安心して。とりあえず、脱出の方法考えましょうか」

 碧の合図で三人は後ろ側に歩き始めた。

 見渡す限り、ソルダート(異様な集団)や怪物は特にいなさそうだ。他の教室の中も探してみたが、脅威もなければ、手を差し伸べてくれるものも何も無い。ありふれた午後の学校だ。

 

「そういえば()って二本反応があったんだよね? しかもここに現れるって」

「ああ。ということは、何処かに潜んでいる可能性が高いな」

 

 後ろを振り向いたあまね。

 少女の親代わりは窓の外を見ていて、もうまもなく南中する太陽の影響でできた影が二人だけを覆い隠している。

 

「どうしたの?」

「……脱出の前に、ご飯とかどうしようかと思って」

「ああ……そっか……うん…………え、今?」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.06 20:03 東京都 渋谷区 城南大学附属高等学校 校庭

「三人が学校に閉じ込められているのは、()()()()()()()()()()()()ということか?」

 想定外の事態に現場に駆けつけた岩田室長とその他四人は、外に出て話していた。

 手元のパソコンの画面を見せながら、室長の質問に薫が答える。

 

「ええ。しかもフォルクローの能力でそうなっているとかっていうわけじゃありません。()()()()()()()()()()()()()()()んです」

「どういうことだ?」

 森田が訊いた。

 

「恐らく第二十四号は、身体の形状を自由自在に変化することができるんです。現在ゲル状になっている二十四号は、巨大な壁となって校舎を覆っているんです」

「だから柱に反応があっても、一切姿が見えなかったのか」

 

「そうなると問題は、いつどのタイミングで脱出するかですね。簡単に状態や形状を変えてくれるとは思いません。何か体質を強制的に変化させることが出来る条件があれば()いんですけど……」

 

 圭吾の発言に、その場にいたメンバー全員が黙り込む。

 

 次に話を切り出したのは深月だった。

 

「あの、ずっと気になっていたんですけど、『ソルダート』って何なんですか?」

「フォルクローが出現させる、言わば戦闘員みたいなものだ。フォルクロー程の戦闘力は有していないし、神経断裂弾を数発撃ち込めば泡になって消滅する。比較的倒すのが簡単なやつだ」

 

 深月の質問に森田が答えた。

 ここで再び全員は二十四号改め、サマウントの対策について協議を再開した。

 だがゲル状とはいえ壁のようにため、固く何をしても検体を採取出来ないことや、そもそも形状変化を行う相手にどのように対応して良いのか分からず、結局全員お手上げ状態になった。

 

「もう何なんですかね。分身するやつとか、海月みたいな巨大なやつとかいましたけど、今度は身体を自由自在に変化出来るやつって……」

「そうね。生物学が根本から揺らぐ可能性があるね、これ」

 

 深月と薫が同時にペットボトルに入った水を飲む。もう中の残量は残り僅かになってしまった。

 

 すると後ろからはゴソゴソと何かを漁る音と、煙草の匂いが迫ってきた。

 

 何だ何だと後ろを向く五人。

 そこには──

 

 

 

「皆さんは、まだ善処している方だと思いますよ」

 背広を着た男がニコリと笑顔を向けて立っていた。その右側では少年がポテトチップスを食べ、左側では女がキセルを吸っている。

 何処から入ってきたのか分からない侵入者に、その場の全員が驚愕した。ええ

 

「誰だ!」

「失礼。驚かせるつもりはなかったんです。私の名はアール。ポテチを食べているのがピカロ、キセルを吸っているのがフロワです」

 

 

 

 

 

「貴方方が『フォルクロー』と呼んでいる生命体と同族の存在ですよ」

 

 その発言に再び驚く一同。

 その他の警察官らは、腰から拳銃を取り出し、銃口を三人に向け始めた。

 右手を挙げる三人。まるで「自分たちは抵抗する気はない」と伝えるかのように。

 

「何処から入ってきた!」森田が強い語気で問う。

「超ひも理論*1を応用した方法だよ。余剰次元を通過して僕たちの世界から君たちの世界(こっち)に来たんだ」

 ピカロがポテトチップスを口に含んだまま答えた。

 

「本当に、フォルクローなんですか?」

 深月は三人に対して懐疑的なようだ。

「ええ。これまで貴方たちに怪物を送り込んできたのも、私たち」

 フロワが答えた。

 

「本当にそうなのか確証を持ちたい。出来れば何か見せていただきたい」

「いいよー。はい」

 

 森田に応えるかのように、ピカロは右手を空で振った。

 するとただでさえ暗い空の中に、それよりも黒い穴のようなものが出現した。それはさながら、フォルクローが出現する時に現れるものと同じようである。

 

 そこから顔を覗かせたのは、黒装束に白い仮面をした怪人──ソルダートの集団だった。

 

 思わず全員、声を出してしまった。

 ニッコリと微笑むと、ピカロは再び右手を振り、穴を隠した。

 

「これで、満足でしょ?」

 鼻で笑うフロワ。

 

「マジかよ……」

 圭吾は目の前で起こったことが今だに信じられない。

 否、全員がそうだった。

 

「肝心なことを尋ねたい。君たちがここに来た理由は何だ?」

 岩田室長が問いかけた。

 それに答えたのはアールだった。

 

「貴方方が私たちの同族を倒す手助けをしたい、ただぁ……それだけですよ」

 妙に溜めたアール。剽軽(ひょうきん)な様子と癖のある喋り方が何となく気持ち悪い。

「手助け?」薫が聞き返す。

 

「我々としても一刻も早く彼らを倒していただきたい。そのために皆さんにお力添えをさせていただければと」

「だが君たちがあの化け物と同族という認識を、我々はついさっき持ってしまった。そんな相手に享受された情報を、そう簡単には信用出来ない」

「でしょうね。それを承知の上ですので、信じるかどうかは皆さん次第です」

 

 ゴクリと唾を飲む全員。

 ニヤリと微笑みアールは続けた。

 

「まず、第二十四号には一つだけ弱点があります。それは『光を浴びると固まってしまう』ということです。裏を返せば、『暗がりでは固体の状態を維持出来ない』。

 今、外は数台の照明車*2の灯りが校舎に当たっていますが、それでは逆効果です。数分間暗くした後であれば簡単に脱出出来ますよ」

 

 確かに外には数台の移動照明車が配置されており、白い光が強く校舎を照らしていた。

 それが逆効果とは……。

 

「それから、皆さんにお渡ししたい物があります。フロワちゃん、お願い」

 

 アールの合図でフロワが何かを取り出し、岩田室長に差し出した。

 それは黒いUSBメモリで、表面に貼られた白いラベルには「SMALLER」と油性ペンで書かれていた。

 

「これは?」

 

「アクトとリベードの追加データよ。()()たちが私たちの仲間を倒した時に、とんでもない爆発で周囲に被害を与えるんじゃないか、ってちょっと怖いでしょ?」

「このデータをグアルダに送れば、爆発の規模を最小限に抑えることが可能になる、ってこと。もちろん、クラッキング*3なんかをするようなウイルスは入ってないから安心して」

 

 フロワは妖艶な笑みを浮かべ、ピカロは少年のような無邪気な笑みを浮かべながら言った。

 

 岩田室長がUSBメモリを圭吾に渡すと、すぐにパソコンに挿し込んで中身を確認した。

 その中にあったPDFファイルを展開すると、常人にはさっぱり解らない文字の羅列が何十、何百ページと映し出された。

 どうやら本当に問題の無いデータのようだと圭吾は報告する。

 

「では、私たちはここで」

 

 一礼をしたアール。そして三人は後ろを向いて歩き始めた。

 フロワちゃんここ多分禁煙、と恐る恐る声をかけているその背中に、一人声をかけた者がいた。

 

「あの!」

 深月の呼びかけに三人は足を止めて振り返る。

 

「皆さんは何のためにこんなことをするんですか? ただ理由も無くこんなことをしているようには、僕には思えない」

 

 すると、三人の表情がガラリと変わった。

 さっきまで余裕綽々だったのに、今は少しゆとりの無くなったように感じる。

 そしてその目は、まるで憎き誰かを睨みつけるように鋭くなった。

 

 アールは話し始めた。先程のような剽軽な話し方ではなく、もっと何か心の奥底に抉り込むような、優しい話し方で。

 

 

 

「私たちは、()()()()のためにフォルクローを送り込んでいます。貴方方で言う、『リーダー』『(おさ)』……『神』と呼べる存在です。ただ、()()()()は力の殆どを失ってしまっています。その力を取り戻すためには、165枚のメモリアルカードを、この……『メモリアルブック』に納める必要があるんです」

 

 アールは手元に持っていた()の表紙とその中身を見せた。

 古びた分厚い赤黒い本で、表紙には見たことのない文字が白く書かれている。

 中のページは真っ黒で、文字の羅列や挿絵があるわけではなく、円形に5つのスロットが並べられていた。

 前書きが数ページとスロットのあるページが33ページ、後書きのようなものが数ページあるその本を、アールは我が子のように大切に持っている。

 

「貴方方は、これを単なるとてつもなく規模の大きな迷惑行為と捉えるでしょう。でも、私たちにはこうするしかないのです。失礼します」

 

 再び後ろを向いて、そのまま姿を消した。

 誰も止めることはなく、その三種三様の後ろ姿を見つめている。

 残された者たちの身体を、何処からか入ってきた十一月の冷たい風が冷ました。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.06 20:31 東京都 渋谷区 城南大学附属高等学校 2階 1年6組

 外からの大きな光だけで灯される教室の中、三人は席に着いて食事を摂っていた。

 (かろ)うじてあまねの鞄の中にお菓子が入っていたので、昼にはそれを食し、今は春樹と碧がいつも携帯している梅昆布で飢えを凌いでいる。

 

 梅昆布が残り僅かになったところで、二人の端末がポップな短い音を鳴らした。確認すると深月からLINEにメッセージが届いていた。

 

「今からあの照明が消える。それから5分したら、ここを脱出出来る」

「ホント!?」

「うん。ようやくお風呂に入れるよー」

 

 すると端末の画面を、バリトンボイスのゆるキャラことグアルダが突然ジャックした。

 

「? どうしたの? 急に出てきて」

『それが、圭吾からデータが送られてきた。見る限りフォルクローの撃破による爆発と衝撃波を和らげるためのデータっぽいな』

「そんなデータを圭吾が作ったのか!?」

『いや、これはアール、フロワ、ピカロ(例の三人組)からの贈り物らしい』

 

 その瞬間、二人はハァと溜息を吐いて天を仰いだ。

 え、そんな嫌な人たちから送られてきたの!? と、あまねはあまり見たことのない両親(仮)の姿に困惑している。

 

「どうする? ダウンロードするの?」

『危険性は一切感じられない。今後のためだ。ダウンロードしておこう』

 

 グアルダは画面上から消え、何処かへと行ってしまった。

 

 そこから若干の沈黙が続く。

 完全に疲れ切っているのだ。何せ何もない学校に閉じ込められ、食糧も僅か、しかも廊下には怪物がいるという最悪な環境の中で10時間近く過ごしていたのだから。

 

 再び話を切り出したのは春樹だった。

 

「なぁ」

「「?」」

 

「もし、自分の身の回りに、得体の知れない化け物が人間の(つら)をして生きているとしたら、お前は大切な人を信じられるか?」

「どうしたの急に?」

「いや、何となく訊いてみただけだ……」

 

 キョトンとするあまね。

 だが碧だけは、その質問の真意を理解していた。

 

 フォルクローの一部が人間の姿をして、この東京という街に潜伏している。

 もしかしたら自分の信じている人がそうかもしれない。

 そうなった時、自分と春樹はまだしも、あまねは耐えられるのだろうか──。

 

 

 

 

 

「大丈夫でしょ」

 あまり考えることもなく、間髪入れず答えた。

 

「昔、()()()()が言ってたんだ。『他人に裏切られたって思っても、それは相手の知らなかった部分を知っただけだ』って。なんか、この前どっかの女優さんが言ってたけど、多分()()()()のパクリだね。

 ……だから……大丈夫! 私は大切な人のことを、最後まで信じ続けるから」

 

 屈託の無い笑顔で言い切った。

 握られた右手は二人に向けて親指を見せている。

 自分の心配が杞憂だと気づくのに、これ以上に材料は要らなかった。

 

 思わず二人も微笑んでしまう。

 閑散としていた教室に三人の笑い声が微かに響き、影が少しだけ動いた。

 

 すると外からの灯りが全て消えた。

 それが全ての合図だった。

 端末のタイマー機能で5分を測りながら、荷支度を済ませる。

 

 そしてタイマーが鳴ると、急いで廊下を走って行く。

 1分も経たずに正門に辿り着いた。

 そしてドアに手を掛け、押してみると、びくともしなかった扉が軋みながら開いた。

 

 ようやく外へ出られた。

 いつの間にか深呼吸をし、空気をこれでもかと吸い込んでいた自分に、三人は少々驚いている。

 

 すぐに数人の機動隊員がこちらに向かって来た。

 あまねを保護してもらい、春樹と碧は仲間たちのいるテントへと向かう。

 

 向こう側へ歩いて行くあまねの後ろ姿を見ながら、春樹と碧は先程の言葉を思い出していた。

 

 

 

 私は大切な人のことを、最後まで信じ続けるから。

 

 

 

 再び大きく息を吸い込み、そして吐き出す。

 息は白くくっきりと姿を現し、風はもうすでに止んでいた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.06 20:43 東京都 渋谷区 城南大学附属高等学校 校庭

「つまり、日の出る前にアイツらをやれば良いってことだな?」

「ええ。スイッチングが再び動き出すのは、計算上明日の6時1分頃となっています。日の出の時間は6時6分ですから、5分でカタをつけなくてはなりません」

 

 圭吾の解説に頷く春樹と碧。

 遊撃車の中で二人は頷きながら、近くのハンバーガー店で売っていた、一番大きなサイズのものに食らいついている。

 

「5分でカタをつけるなんていうのは初めてのことだ。イケるか?」

 森田が全員に問いかけながら、その右腕を前に出した。

 

「当然……」

 春樹はその上に手を重ねる。

「任せてください」

 碧もそれに続く。

「なら全力でサポートします!」

 深月が気合いを入れた声をかけて、その上に手を重ねる。

「良いねー。威勢が良い」

 圭吾は思わず微笑みながら同様の手順を踏む。

「いっちょ、やってやりましょう!」

 薫も同様だ。

 

 全員がその手を重ね終わった、のように思われたが、一人忘れていたのを思い出した。

 そして森田が声をかける。

 

「室長もいかがでしょう?」

「え……私も? 良いのか?」

「どうぞ」

 

 渋々部下たちの手の上に自信の掌を重ねた。

 これでようやく全員が一つになった。

 そして、森田の言葉と共に勝鬨(かちどき)を上げるための掛け声を上げた。

 

 

 

「皆さん、出番です」

「「「「「「「うぇーい」」」」」」」

 

 その様子にいつもは現場にいない者が、若干の戸惑いを覚えたのは言うまでもないだろうか。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.07 06:01 東京都 渋谷区 城南大学附属高等学校 2階

 太陽がまだ姿を見せない時間に、眠っていたものの真っ白な肌がオレンジ色に染まっていく。

 頭部のヘルメットが僅かに光り、怪物は目を覚ました。

 

 下を向いていた怪物が顔を上げると、そこには一組の男女(春樹と碧)が立っていた。

 その腰にはベルトが巻かれていて、手には端末とカードが握られている。

 

「おはよう。良く寝られた? まぁでも、今からまた眠ってもらうからね」

「ホント、閉じ込められた借りは返してもらうからな……!」

 

 カードを端末に装填し、春樹と碧はポーズをとり、そして叫んだ。

 

「「変身!」」

 

 四文字の言葉が廊下に反響する中で、二人はそれぞれ異形の姿に変わっていった。

 後ろから鎧が現れ、二人に装着されていく。

 

 二本の角を持った二人の戦士は、各々武器を携えて標的に視線を向ける。

 まるで獲物を狩る獣のように、被害者を狙う快楽殺人鬼のように、セール品を狙う主婦のように熱い視線を向ける。

 

 そして青色の戦士(リベード)が刃で地面を叩いたのを合図に、二人は走り出した。

 

 

 

「「READY……GO!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why did three envoys show up?

A: To say hello to their enemies.

*1
素粒子は1種類のひも(弦)の振動によって、17種類のものに分けられるという理論。

*2
正式名称「移動照明車」。防災活動等に使用する簡易的な照明設備、及び発電装置を設置した車両。

*3
ハッキングの中でも、システムへの不正侵入やデータの破壊・改竄等、悪質なものを指す。




超ひも理論、及びそれを応用した移動方法に関しては、日本経済新聞の以下の記事を参考にさせていただきました。

シン・ウルトラマン、「究極の物理学」が作る世界観
(https://onl.la/Saa6E9G)

皆さんの中にはこう思われている方もいらっしゃるでしょうか。
「最後に未確認生命体が現れてから8年後が2021年って、20年後だろっ!」と。

実は小説版(詳細はこちら: https://onl.la/N5v89mH)にグロンギが出ているんです。
しかも小説の世界線は2013年なんです。なので8年後と表記しています。

後書きでは毎回、裏話を小出ししていますね。
これからもダラダラと書いていきますので、本編が読み終わってお時間がありましたら読んでいってください。
よろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question009 Why is she investigating about those?

第九話です。
Twitterでご報告いたしました通り、第一話から第八話まで、大きな変更をいたしました。
なので第一話から一通り読んだ上で、今回の話を読んでいただければと思います。
よろしくお願いいたします。



【イメージED】
米津玄師 - 恥ずかしくってしょうがねえ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.11.07 06:03 東京都 渋谷区 城南大学附属高等学校 校庭

 機動隊員が少し離れたところから、校舎に向けてライフルを向け待機をしている。

 まだ陽の光が出ていないため、中々照準を合わせることが出来ないのが欠点だ。

 

 不安な思いを持ちながら固唾を飲んで見守る中、バリンと音を立てて()()は飛び出してきた。

 

 窓ガラスを割って2階から落ちてきた戦士たちと怪物は地面に落ちると、再び臨戦態勢に入った。

 二対一で向かい合っているところに、もう一体来客が来た。

 

 校舎の周りが突如歪み、その歪みが液体となってスイッチングの隣にやって来る。

 そしてそれは、透明な水色の人形(ひとがた)──サマウントとなった。

 

「さて、折角だし(なん)か面白いもの使おうよ」

「そうだな。グアルダ、どれが良い?」

『では、この状況に最適なカードを用意しよう』

 

 二人はドライバーの右側にあるカードケースの後方のスロットから、1枚のカードを取り出した。

 

 アクトのカードは、ビルの窓に赤い龍が映った様子が描かれており、下部には「No.008 FLAME RYUKI」と白く印字されている。

 一方のリベードのカードには、ドーナツを食べながら赤い魔法陣を出現させる、魔法使いを横から見た構図になっており、白い文字で「No.094 MYSTERIOUS WIZARD」と下の方に書かれている。

 

 二人は端末を取り出すと、カードを挿し込んだ。

 

『"RYUKI" LOADING』

『"WIZARD" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、警戒な音楽と共に、二人はそれぞれ鎧の無くなった素体と化し、上空には「2002 RYUKI」「2012 WIZARD」と書かれたゲートが出現する。

 

 それが開くと、アクトのゲートからはカードに描いてあった赤い龍が、リベードのゲートからはドーナツのような形の赤いオブジェが姿を見せた。

 

 赤い龍が咆哮し威嚇をする中で、二人は端末をドライバーに装填した。

 

『『Here we go!』』

 

 龍とオブジェが分解、二人の体に装着されていく。

 

 アクトには甲冑のような鎧が胸部と両肩、両脚に着けられ、龍の頭部の部分が左腕の前腕を覆い隠すような形で装着される。そしてその顔には鉄仮面が着けられ、その奥から緑色の目が覗く。

 

 リベードにはルビーを(かたど)ったものの付いた鎧が装着され、背中からは膝下まである長さのローブが伸びている。その顔には赤いダイヤのような仮面が着けられ、青い目の上から白い目の形のようなラインが入っている。

 

『Come across, Participate, Fight each other! You cannot survive without fighting! FLAME RYUKI! I will never die.』

『Witchcraft, Activate, Bibi de bob de boo! I’ll be your last hope. MYSTERIOUS WIZARD! It’s showtime.』

 

 仮面ライダーアクト 龍騎(りゅうき)シェープ

 仮面ライダーリベード ウィザードシェープ

 

 龍と共に戦う赤い戦士の力を受け継いだ姿を、惜しげもなく晒した。

 

 二体の怪物が二人に襲いかかってくる。

 

 アクトに襲いかかったスイッチングは右腕にロケット、左腕にレーダー、右脚にミサイル砲を出現させた。

 右腕を上に挙げると、ロケットから煙が噴出する。その勢いで怪物は上空へと飛んで、ミサイル砲から大量のミサイルを噴出させた。

 

 するとアクトはカードケースの前方のスロットから、1枚のカードを取り出した。

 そこには龍の腹部が描かれ、「GUARD VENT」と印字されている。

 

 そのカードをドライバーに挿し込んである端末の裏側にかざした。

 

『GUARD VENT』

 

 両手を前に出すと、目の前に絵に描かれていたのと同じ形状の巨大な盾──ドラグシールドが二つ現れた。

 手にそれぞれ一つずつ、ギュッと握りしめた丁度その時、ミサイルが盾を直撃した。

 

 凄まじい爆煙の中から現れたのは、両手に盾を握りしめた戦士の姿だった。

 

「さて、()()()()が送ってくれたデータを試す時だな」

 

 アクトは盾を放り投げると、ディスペルクラッシャー ガンモードを取り出した。

 そして端末を銃にかざし、もう一度端末をドライバーに挿し込むと、もう1枚カードを取り出した。

 そのカードには龍の頭部が描かれ、「STRIKE VENT」と白く書かれている。

 

 それを端末にかざした。

 

『OKAY. "RYUKI" CONNECTION SHOT!』

『STRIKE VENT』

 

 すると前腕にあった龍の頭部は、今度は左手を隠すように移動した。

 それを確認すると銃口を上空のスイッチングに向け、左腕を肩の高さまで挙げ後ろへ引く。

 

 そして引き金を引くのと同時に、左腕を思いっきり前に突き出した。

 

「オリャアアア!」

 

 炎に似たエネルギーが物凄いスピードで上空の怪物に向かって行く。

 スイッチングは慌てて回避しようとしたが、もう遅かった。

 気がついた時には炎に巻き込まれていた。

 

 これだけのエネルギーを浴びたのだ。自分自身も多量のエネルギーを溜め込んでいるのであれば、その爆発は想像を絶するだろう。

 

 だが、その爆発は想像していたよりも小さなものだった。まるで小さな花火が上空に上がったようだ。

 

 その亡骸が静かに地面に落ちていく。

 すぐに端末を取り出し、カードをかざした。

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 自動的にカメラアプリが起動した。照準を遠くにある死体に合わせシャッターを切ると、端末の中に1枚のカードが現れた。

 飛んでいるオレンジ色のロケットを、月面の上から宇宙飛行士が眺める絵が描かれており、「No.088 SWITCHING FOURZE」と下部には白く書かれている。

 

 アクトは溜息を一つ()くと、その場にしゃがみ込んでしまう。

 そしてその勢いでその場に倒れ込んだ。

 

 

 

 一方のリベードはというと、サマウントに対して苦戦していた。

 

『"BIND" please』

 

 怪物の周りにいくつか赤い魔法陣を出現させると、そこから鎖が飛び出してきた。

 その鎖がサマウントに巻きつき、体を縛っていく。

 

 だが、何せ相手は身体の形状を自由自在に変えることが出来るのだ。

 身体を液体に変化させると、するりするりと鎖をすり抜けていった。

 再び人形に戻る怪物。のっぺらぼうのような顔が若干笑っているように見え、リベードは段々イライラしてきた。

 

 その時、ふと脳裏に昨日の会話が()ぎった。

 

 

 

 陽の光に当たれば、やつの身体は固まります。

 

 

 

 すぐにリベードはカードケースの前方から1枚のカードを取り出した。

 白い円の中で龍の目が光る様子が描かれており、「LIGHT」と印字されている。

 そのカードを端末の裏側にかざした。

 

『"LIGHT" please』

 

 リベードの前に、掌ほどの大きさの赤い魔法陣が現れた。

 すると、それが突然発光。眩い光が怪物を襲った。

 

 光が収まったところで、サマウントは再び形状を変化させようとする。

 

 だが、体はびくともしない。ずっと人形の固体のままで状況は何も変わりはしない。

 

 占めた!

 もう1枚のカードを取り出すと、それを端末にかざす。そして端末をディスペルクラッシャー ソードモードにかざし、再度ドライバーに装填した。

 

『"BIG" please』

『OKAY. "WIZARD" CONNECTION SLASH!』

「はああっ!」

 

 リベードの前に赤い魔法陣が現れた。

 二人は剣を横と縦にそれぞれに振りかざした。炎のような十字の斬撃は魔法陣を通り抜けると、それはさらに大きなものに変化していく。そしてただの透明な塊となった怪物を襲った。

 起こる爆発。だがその爆発は想定していたよりも遥に小さいものだった。

 

 端末を外してカードケースから取り出した1枚のカードをかざす。

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 カメラを起動し、シャッターを切った。

 

『Have a nice dream.』

 

 端末の中にカードが現れた。水上バイクに乗った青い服の人間が、颯爽と海を駆け抜ける様子が描かれており、下部には「No.86 SURMOUNT AQUA」と書かれている。

 

 伸びをすると、目の前に人工芝の上で寝そべっているアクトの姿が見えた。

 

「何やってるの? こんなところで」

「シンプルに疲れた」

「……私も」

 

 手を差し伸べるリベード。

 やれやれとその手を握ってよろよろと立ち上がった。

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

『お二人とも! まだ疲れるのは早いみたいです!』

 深月からだった。

 

(なん)で?」

『校舎の上空に次元の歪みを確認。あと10秒で穴が開きます!』

 

 すぐに上空を見上げる二人。まだ夜も明けていない暗い空の中に、それよりも黒い穴が開いた。それもこれまでの大きさとは違い、校舎の半分程の大きさだ。

 

 そしてそこから巨大な緑色の化け物が現れた。

 まるで闘牛を模したロボットのような化け物は、脚を前後させて闘争本能を剥き出しにするわけではなく、ただそこに立ちすくんでいた。

 

 だがその代わり、やつは隠し玉を持っていたようだ。

 背中や両脚、頭部が突如開き、そこから大量のミサイルが発射されたのだ。

 

「「またミサイルかよーっ!」」

 

 再びドラグシールドを二つ出現させ、その攻撃を防ぐ。

 だが流石に威力が強すぎた。盾は完全に破壊され、二人とも後ろに吹き飛ばされる。

 

 

 

「まずいですよ。二人とももう体力がありません。次攻撃を食らったら確実にまずいです」

 遊撃車の中で、薫は頭を抱えた。

 巨大な化け物、仮称「トルク」の出現は想定外だった。尚且つとてつもない火力の攻撃まで繰り出してくる。

 薫だけではない、全員が頭を抱えた。

 

「もうユナイトを使うしかないですよ……!」

「もし使えば、かなりの体力を消耗してしまう。20秒も体がもたないだろう。何か即効性の高く、効率的な戦力はないのか?」

「そうは言われてもそんなの……」

 

 圭吾の言葉が詰まった。

 どうした、と声をかける森田。

 

「あります。即効性の高く、効率的で、尚且つ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が……!」

 

 

 

 上から降ってくるミサイルの雨から二人はとにかく逃げていた。

「グアルダ! 何か良いカード持ってるでしょ? 早く渡してっ! じゃないと私も春樹も限界!」

『丁度良いタイミングだ。良いカードが二人にプレゼントされたぞ』

 

 立ち止まってカードケースの前方のスロットからカードを取り出した。

 

 アクトが取り出したものには、「RYUKI」のカードにも描かれていた龍の全体像が表示されており、「DRAGREDER」と書かれている。

 リベードのカードには、白い円の中にオレンジ色の龍が描かれており、「DRAGORISE」と印字されている。

 

 それぞれ端末の裏側にカードをかざした。

 

『ADVENT』

『"DRAGORISE" please』

 

 すると二人の前に巨大な赤い魔法陣が現れ、そこから巨大な銀色の龍──ウィザードラゴンが現れた。

 さらに校舎の窓ガラスから大きな赤い龍──ドラグレッダーが姿を見せる。

 

「あぁ、これなら一歩も動かずに何とかなりそうだな」

「うん。後は彼らに任せよう」

 

 突如現れた二匹の龍に、トルクは再度ミサイルを発射する。

 だがウィザードラゴンは自身の両翼を羽撃(はばた)かせ、その時に起こった強風でミサイルを自爆させる。

 さらにドラグレッダーは尾に着いている刀で斬り裂いていく。

 

 すると二匹は二人の周りに来た。ぐるぐると周り何かを伝えようとしている。

 

「まさか……仕上げは飼い主、ってこと?」

「めんどくせぇ……。でも仕方ねぇか」

 

 ドライバーの右側のプレートを押し込む。

 

『『Are you ready?』』

 

 端末を押し込んだ。

 それと同時に咆哮を上げた二匹の龍と共に、二人は上空へと飛んだ。

 

 ドラグレッダーはアクトの周りを動き回り、後ろについた。

 ウィザードラゴンはその形状を変化させ、リベードの右足に装着される。

 

『OKAY. "RYUKI" DISPEL STRIKE』

『OKAY. "WIZARD" DISPEL STRIKE』

 

「「ハアアアアアッ!」」

 

 ドラグレッダーの炎の勢いに乗って、アクトは凄まじいスピードで右足を食らわせ、その身体を貫いた。

 それに続くように合体したことで巨大化した右足は炎に包まれ、巨大な身体を押しつぶした。

 

 巨大な右足の下で起こる爆発。

 二匹の龍が飛び去った後のグラウンドは、人工芝が燃え巨大な右足の跡が残っている。

 

「「ふぃ〜っ」」

 

 変身を解除した二人。

 互いの目を見つめ合い、微笑んで互いの掌を音を鳴らして叩いた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.09 19:56 東京都 渋谷区 SOUP

 席にて伸びをして、再びパソコンを動かす深月。

 ドアが開くとコンビニの袋を持った薫と圭吾が入って来た。

 

「まだ残業してるの?」

「もう報告書は書き終わったんですから、もう帰ってゆっくりしたらどうですか?」

「それとも、何か気になることでもあるの?」

 

 二人は席に座り、レジ袋の中の物を取り出した。

 薫のにはおにぎりが二つとサラダ、圭吾のにはアニメのキャラクターが描かれたポテトチップスが入っていた。

 それぞれ封を開けて貪り始める。

 

「実は……」

 

 深月は二人に話し始めた。

 碧のデスクで妙な書類を見つけたこと。そこに書かれていた二つのURLの内容が気になり、自身の知り合いに調査をしてもらったことを。

 

 

 

「なるほど……。確かに、あのお二人はよく分からないことが多いですからね」

「そうね。プライベートのことは全く分からないし。ただ、一昨日二人と一緒に保護された、筒井あまねちゃんっていう女の子、一緒に住んでるみたいよ」

「そ、そうなんですか!?」

 

 うん、とマグカップに注がれたコーヒーを飲む薫。

 同時に圭吾はポテトチップスの袋の後ろに付属している、カードの中身を見てみた。好みの絵柄ではなかったらしく、苦い顔をする。

 

「それで、何か分かったんですか?」

 

 深月は自身のリュックサックからA4サイズの封筒を出し、その中身を取り出した。

 中に入っていた書類を見ながら話を始める。

 

「まず、2016年に三ヶ月に立て続けに起こった失踪事件ですが、被害者は年齢も性別も職業も出身地もバラバラ。これといった共通点もありませんでした。ただ……」

「ただ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その行方不明者の中に、碧さんのお父さんが含まれているんです」

 

 目を見開いて驚愕する二人。

 深月は書類のうちの1枚を二人に手渡した。グラフの中で一行だけボールペンで(しるし)がつけられている。

 

(氏名)
(フリガナ)
(性別)
(生年月日)
(失踪推測日)
常田 海斗
トキタ カイト
男性
1973年5月11日
2016年8月19日

 

「じゃあ、碧さんは、失踪したお父さんを今も捜しているということですか?」

「恐らく。ただ、これは僕たち全員が解っていることだと思いますが、僕たちは報告書なり出動なりでかなり忙しい。他のことをする余裕なんて無いんです。まして前線で戦っている碧さんなら尚更です」

「そうよね……」

 

 深月は封筒からもう1枚、白い書類を手渡した。

 

「それからもう1枚。これが一番わけが解らないんです」

 

 それは亡くなった石川大教授の一人娘に関する調査報告書だ。

 

「石川教授の娘さんの戸籍なんですが……消されていました」

「え?」

「戸籍ごと抹消されていたんです。今、石川教授には娘がいなかったことになっています」

「そんなことって、可能なんですか?」

 

 すると部屋のドアが開いた。

 先程の二人のようにコンビニのレジ袋を両手に抱えた森田が入って来た。

 

「戸籍から消すことは法律上可能だが、その場合には20歳以上という条件が必要だ」

「石川教授の娘さんは、現在16歳。自ら戸籍を消すことは不可能ですね……」

 

 じゃあ、どうして……?

 明るい部屋の中で重い空気が全員にのしかかってくる。

 

「班長は何も知らないんですか?」

 

 とりあえず薫が訊いてみた。

 だが森田は横に首を振るだけだ。

 うーん、と全員が頭を悩ませるだけで、結局今日のところは何も進展がなかった。

 

 全員が無意識に碧のデスクを見つめる。

 何種類かの書類とノートパソコンしか置かれていない机上に、大きな影が覆い被さった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.09 21:00 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

「自宅学習も悪くないね。こうやってみんなでゲームが出来る」

「勘違いするなよ。遊ぶための時間ってわけじゃないからな」

「そんなことぐらい、あまねちゃんは解ってるよ。ね」

「うん。パパにお節介されるほど落ちぶれちゃいないよ」

 

 城南大学附属高等学校は休校になった。無理もないだろう。校舎はボロボロ、人工芝は焼け焦げ、校庭には巨大な穴が開いたのだから。全ての修理が終わるのは5月頃となるそうで、それまではオンラインで授業等を進めるらしい。

 

 三人は今、ソファに座ってレーシングゲームで遊んでいた。

 あまねは大型のコントローラーを持ち、春樹と碧は小型のコントローラーを操作している。

 

 そして黄色いバイクに乗ったレーサーが1着でゴールした。

 ファンファーレと共に「GOAL!」と表示される。

 

「よっしゃー1位!」

 どうやらあまねのアバターだったようだ。

 

 続けて青色のゴーカート、緑色のバイクの順にゴールしていった。

 

「やったー2着だー!」

「……俺は多分、ゲームの才能が無いんだろうな」

「そう落ち込まないで。私と良い勝負だったから」

 

 順位とタイムがテレビに表示された時だった。

 春樹の端末が軽快な音楽を鳴らした。

 画面を確認すると、部屋の外に出て電話に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしもし。……あぁ、元気だよ。さっきも三人でゲームをしていたところだ。意外と強いな。子どもの時から上手かったのか? ……そうでもなかったんだ。へぇ。

 そっちはどうだ? 買い出し以外はずっとこもってたら、気が滅入(めい)るだろ。……だよな。

 ……え、もうすぐそっちに来る? そうか。じゃあいよいよ終わりが近づいてるってことか。

 ……こっちは何も分かっていない。速く尻尾を掴まないと、取り返しのつかないことになるよな。

 ……また連絡する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常142体

B群6体

合計148体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why is she investigating about those?

A: A reason of investigating one of those is to search her father. But the other cannot be understood by us.




登場キャラクターの名前のほとんどには規則性があります。
苗字はミュージシャンから、名前は作家からとるようにしています。
例えば椎名春樹は、苗字は「椎名」林檎から、名前は村上「春樹」からきています。
例外もありますが、それはただ単にネタが無いんです。字画とかもあるので……。

感想を書いてくださったり、評価をつけてくださると、筆者の励みになります。
やっぱり読んでくださった皆さんの生の声が一番嬉しいので……。
よろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 04 迷えるギャル(A GAL WHO LOST HER WAY)
Question010 What was stolen by what?


第十話です。
Twitterでも報告いたしました通り、投稿時間が変わりました。

旧:土曜日21:30
改:火曜日・木曜日・土曜日 いずれかの21:30
※不定期投稿に変わりはありません。

でないと、毎週投稿したとしても、完結まで三年かかってしまうので……。
よろしくお願いいたします。



【イメージOP】
PEOPLE1 - 銃の部品

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.11.11 20:27 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう

「で、デートは楽しかったか?」

「は、はい。すみません。ご報告が遅くなって……」

 

 いつもの焼肉屋の個室にSOUPのメンバーはいた。

 個室の入り口の前で申し訳なくなっている日菜太を、外側の席に座る春樹が見上げる。

 

「で、二人は付き合ってるの?」

「い、いえ! まだっ!」

「「ふぅ〜ん」」

「やめておけ。いくら娘の彼氏候補とはいえやりすぎだ」

 

 焦る日菜太を揶揄(からか)う春樹と碧を森田が止める。

 森田にも娘がいる。まだ小学生とはいえ、何となく気持ちは解るのだろう。

 

「いつかこの気持ちが解る時がきますよ、室長」

 人生、というより父親としての先輩に何故か偉そうな態度をとる春樹。

 

「娘のこと、よろしくね」

「は、はい! ごゆっくり!」

 

 再度頭を下げると、日菜太はそそくさとその場を後にした。

 そうして春樹は目の前にある焼き網から、焼けたカルビを取り、タレをくぐらせて口の中に運んだ。

 同じように碧も葱の置かれたタンを畳み、何もつけずに食べた。

 

「やっぱり心配ですか? もしかしたら娘さんと結ばれるかもしれないから」

 深月はグラスに入ったレモンサワーを呑みながら二人に訊く。

 

「当然だろ。一応保護者だから」

 春樹もノンアルコールビールを呑み干した。

 

「とはいえ、モンスターペアレントにはならないでくださいね」

「そうだな。それで何かしらの騒動になったら色々大変だ」

 

 圭吾と森田はサラダを食べながら二人に釘を刺す。

 クルトンが入りザクザクと音の鳴るサラダを、ビールで流し込んだ。

 

「大丈夫ですよ。春樹はともかく、私はなりませんから」

「おいちょっと待て。それどういう意味だ」

 

 個室に響く笑い声。

 全員が笑顔の中、薫の顔は浮かばれないようだった。

 肉を焼いて出る煙がその顔を覆い隠す。

 

 微かに見えるその顔を、碧は見逃さなかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

 橘田薫は岐阜にある名家に生まれた。

 父は大手証券会社の社長、母は大学の教授。厳格な両親だった。

 幼い頃からバレエや水泳、茶道に華道等、様々な習いごとをやらされた。

 全ては、橘田家に見合う人間になるために。

 それはある種の調教のようなものだったと、薫は思っている。

 

 彼女に転機が訪れたのは、5歳の時だった。

 長野県にて目覚めた未確認生命体が、東京で殺戮を繰り返していた。しかも、相手は通常の兵器が通用しない相手。国民のほとんどが絶望に浸っていた。

 

 だが薫だけは違った。

 見たことのない生命体の存在。それが彼女の心を掻き立てた。

 その構造を解明したい。その目標を胸に、ひたすらに勉学に励んだ。

 

 そんな彼女の行く末を阻もうとしたのは、母親だった。

 恐らく父親の会社を継がせようとしたが、正反対の道を行こうとする娘が許せなかったのだろう。

 最後まで反対し、理学部に入るのであれば学費は出さないとまで言ってきた。

 

 薫はさらに勉学に励んだ。

 そして大学に二番目の成績で合格し、特待生として入学した。すなわち、学費は自分でどうにかしたのだ。

 

 これが、薫の最初で最後の反抗となった。

 

 それ以来実家には帰っていない。

 誰かに阻まれることはなく、ただ目の前の研究に没頭出来る。

 昔から好きだった派手な服や食べ物を、思う存分堪能出来る。

 そして今は、自身の夢であったフォルクロー(得体の知れないもの)の解析を、思う存分出来ている。

 これ以上幸せなことはない。

 もう実家に帰る気はない。というより、存在をすっかり忘れ去っていた。

 

 だが、もう行かなければならないのかもしれない。

 ここを去らなければいけないのかもしれない──。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.12 14:53 東京都 大田区

 蒲田駅東口の前にある区役所前本通りは現在、大勢の警察車両によって封鎖されていた。

 機動隊が停車されている車以外何も無い道路に銃口を向け、その後ろにはSOUPを乗せた遊撃車が配置されていた。

 

「百二十五番と百四十八番ですか」

「ああ」

 

 パソコンのモニターを確認する全員。

 機動隊員が向けている銃口の先では、赤いカーテンが揺らめき、まるで誘っているかのようだ。

 

「さて、今日も職務を全うしますか」

「うん。グアルダ!」

『了解した。ただいまより、椎名春樹、椎名碧、両名のライダーシステムの使用を許可する』

 

 すぐに遊撃車の中を飛び出す春樹と碧。

 車外に出たタイミングで、ふと後ろを振り向いた。

 

 ひたすらにモニターを見つめる森田と深月。

 パソコンを(せわ)しなく動かす圭吾。

 

 だが薫だけ、何処か浮かない表情を見せていた。

 いつも仕事に真剣に、かつ笑顔の薫がそんな顔を見せること自体珍しいことだ。

 

 訊くは野暮だろう。

 敢えて音を立てずに扉を閉めて、春樹の後を追った。

 

 

 

 銃を持った隊員たちの壁を背に二人は前を向く。

 そして空に穴が開き、二体の怪人が現れた。

 

 左側にいる怪人は、シルクハットを被りマントを着けた紳士のようで、全身に色とりどりで大きさの異なる宝石のようなものが付いている。その右手には金色の拳銃が握られていた。

 右側の怪人は、歌舞伎の獅子物のような見た目をしており、顔には 喝食(かっしき)という能面の一種が着けられ、背中には様々なコードが刺さっている。そしてその手には二本の日本刀が握られていた。

 

『警察庁より通達。二体の名称が決定。以降、左を新型未確認生命体第二十六号『ロブ』、右を第二十七号『イングルフ』と呼称する』

 

 ロブとイングルフは突然前に走り始めた。

 すぐにドライバーを出現させると、カードを裏返して端末に装填する。

 

『"ACT" LOADING』

『"REVE-ED" LOADING』

「「変身!」」

 

 変身した二人はディスペルクラッシャー ソードモードを取り出し、二体と交戦を始めた。

 

 リベードはイングルフが縦に振り落としてきた二本の刀を、自身の刀で受け止め、上に振り上げて相手の両腕を上げさせた。

 そして左から右に刀を振った。

 

「はぁっ!」

 

 だが怪人は後ろへと宙返りをする。攻撃を避けるのと同時に、剣を持ったリベードの腕を振り上げさせ、攻撃を中断させる。一石二鳥の攻撃というわけだ。

 着地をすると、一瞬の隙をついて両刀で胸を突いた。

 

「ぐあっ……!」

 

 思わず何歩か後ろに退いてしまう。

 だが体勢を立て直し、再び前を見据えた。

 

 すると突然、イングルフの背中のコードが微かに発光を始めた。

 そして()()()()()()()()()()()()()

 

「面白くなってきたわね……!」

 

 リベードはカードケースから1枚のカードを取り出した。

 端末をドライバーから取り外すと、そのカードを裏返して装填した。

 

『"WIZARD" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、ゲートから赤いドーナツの形をしたオブジェが目の前に現れた。

 端末を挿し込んだ。

 

『Here we go!』

 

 鎧が解かれ、分解されたオブジェが鎧として装着されていく。

 

『Witchcraft, Activate, Bibi de bob de boo! I’ll your last hope. MYSTERIOUS WIZARD! It’s showtime.』

 

 ウィザードシェープへと姿を変えたリベードはもう1枚、カードケースの前方のスロットから1枚のカードを取り出した。

 ドラゴンが何体もいるオレンジ色のカードで、「COPY」と書かれている。

 

 そのカードをドライバーに挿し込まれている端末の裏側にかざした。

 

『"COPY" please』

 

 赤い魔法陣がリベードの左側に現れる。

 するとそこから刀を握りしめた()()()()()()()()()()()()()

 

「そっちは6体ぐらいだよね? だったら2人いれば余裕だと思うんだけど。どうだろうね?」

 

 二人の戦士(分身したリベード)は刀を握りしめ、数体の怪人へと向かって行った。

 

 

 

 一方のアクトは一歩もその場を動いていない。

 ロブが拳銃から発射した銃弾を、その剣で一つずつ斬り裂いていった。

 

 ひと段落つくと、標的に迫って行く。

 その間にも銃弾は発射されたが、それも全て真っ二つにして距離を詰めていった。

 

 そしてその間が剣心の長さとほとんど同じくらいになったところで、剣を振り上げ攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 その時だった。

 突然ロブがアクトのカードケースに触れた。

 そのまま何も抵抗することもなく、アクトの攻撃をモロに受けた。

 

 火花が散り、敵は後退した。

 

 すると背中に何かがのしかかってきた。

 ふと後ろを見るとリベード(自身の妻)だった。

 

「そっちはどうだ?」

「ダメだね。何人も分身して襲ってくる。私も負けじと分身したけど、全部倒された。そっちは?」

「妙なんだよな。何というか、全てが上手くいきすぎている。きっと何か隠してるな」

「そう。じゃあ本気でいこう」

「俺はいつだって本気だ」

 

 二人は背中を合わせてカードケースの後方のスロットに手をかけ、カードを取り出そうとした。

 

 

 

 だが、一向にカードは出てこない。

 叩いたり振ったりして何度も試したが、(ほこり)一つ出てこない。

 

「グアルダ。どうした? 反抗期か?」

「AIに反抗期があるわけないでしょ。どうしたの?」

『私にも分からない。今ストレージには、()()()()()()()()()んだ』

「つまり、()()()()ってことか?」

『恐らくそうだ』

「「!?」」

 

 その時、微かに宝石が日光によって光った気がした。

 

 

 

「どういうことだ!?」

 遊撃車の中の四人も当然のように焦っていた。

 

「そもそも、盗むなんてことは可能なんですか?」

 深月が先輩たちに訊く。

 回答をしたのは圭吾だった。

 

「場所は知らないですが、現物はSOUPの本部に保管してあります。しかも日本、いや世界最高峰のセキュリティで厳重に守られています。取り出す際はデータ化をして、カードケースの中に転送をする。

 なので現物を直接盗むことは不可能なんです。ただ……」

「? ただ?」

 

「そのデータを盗み取ることは、もしかしたら可能かもしれません。橘田さんはどう考えますか?」

 

 だがすぐに薫の返事は返ってこない。

 その表情はまさに上の空と言ったところだろうか。

 

「薫さん?」

「え、あぁ、はい」

 

 ようやく気がついたようだ。

 自身の顔を両手で二度叩き、モニターに食らいつく。

 

「恐らく、ロブの右手には何かスキャニングするための体内器官が備わっているんでしょう。それでデータを盗んだ……。そう考えるのが妥当でしょうね」

「何のために?」

 今度は森田が部下たちに問いを投げかける。

 

「先日来たあの三人は、メモリアルカードを何かの目的のために必要としていました。

 その目的のためにカードの回収を始めた。というのはどうでしょう?」

 

 深月が自身の推理を話した。

 納得したのかそれ以上の考察はなくなる。

 

「とにかく打開策を考えよう」

「「「はい!」」」

 

 再びモニターに集中をする四人。

 薫の表情は晴れないままだった。

 それが今の状況によるものなのか、それ以外のせいなのか。

 誰にも、というより本人にも判らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What was stolen by what?

A: Their cards were stolen a force that a monster looks like a complex of jewelries uses.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question011 What did she say to her junior?

第十一話です。
今年最後にもう一作品投稿出来ました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。



【歌詞使用楽曲】
モーニング娘。 - ハッピーサマーウェディング
(作詞:つんく)

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


?????

「しかし、この子を作って正解だったわね。まさか全部のカードを持ってきてくれるだなんて……」

 

 フロワは目の前にいるボアを見つめながら言った。

 そしてまるで我が子を愛でるように、装飾されている宝石を撫でる。

 

「ホントだね。あとは、()()を回収するだけだもん」

「だったらあの()を脅して教えてもらえば、早く回収出来るのに」

「そんなことしても彼女が口を割らないことは、君たちも知っているでしょう?」

 

 ピカロは宝石をコンコンと叩き、アールはメモリアルブックのページをめくっていく。

 

 ふと三人は同じ方を向いた。暗い部屋の中に1つだけつけられた、大きな窓だ。

 そこから見える景色はいつも同じ。荒廃した都市群だ。白を軸に様々な色が入り混じった、明るく不気味な空が外を覆う。

 

()()()()()()も、もうすぐ()()()みたいになるのかな?」

「えぇ。少なくとも、()()()()が目覚めないと事は始まらないですね」

「そのために、()()が必要なのよね……」

 

 じっと外を見つめる三人。

 様々な色の光が窓から差し込み、暗い部屋の中を照らし始める。

 そして三人はふと笑みを浮かべた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.12 17:04 東京都 新宿区 SOUP

 SOUPの部屋の奥には室長用のスペースが用意されている。

 基本的に警察庁本部で仕事を済ませる岩田室長はたまにしか来ないが、この日だけは違った。

 岩田室長が席に座り、机の前で春樹、碧、森田が立っている。

 

「メモリアルカードの保管場所を確認した。……アクトとリベード以外の2枚が全て盗まれていた」

 

 やっぱりか、と三人は頭を抱えようとする。だがこの厳かな場で実際に頭を抱えることなど出来ない。

 

「この(チーム)が設立されて約1年。前代未聞の出来事だな」

「「「申し訳ありません」」」

 

 頭を下げる三人。

 頭を上げなさい、と岩田室長は静かに声をかけられ、その言葉に甘えて頭を上げた。

 

「仕事のミスは仕事で取り返すしかない。何としても、カードを取り返せ」

 

 再び頭を下げて、三人はその場を後にした。

 

 

 

「結構(しご)かれたみたいですね」

 気を遣ったのか、いつも以上に優しい口調で話しかける圭吾。

「ええ。かなりやられました」と碧。

 

「とにかく、カードを奪取するための(すべ)と、あの2体の対策について考えましょう」

 

 深月が声をかけると、全員は自身の席に着き、森田の席の両脇にある巨大なモニターに目を向けた。

 そこには先程の戦闘の映像が映し出されている。

 話を切り出したのは薫だった。

 

「まずはイングルフについてです。映像から見て分かる通り、背中にあるコードが光った後に突如分身しました。

 多分、何かの分泌液をコードを介して身体に充満させているんでしょう。コードを切れば分身は出来なくなるかと」

 

「その場合、あのコードをディスペルクラッシャーで斬り裂けば()いんですが、ただ奴は相当素早いです。どうやって仕留めれば……」

「それに今はカードが無い。何か動きをストップ出来るものがあれば良いんだけどな……」

 

 頭を悩ませる圭吾と春樹。

 

「それだったら、ロブの方をどうにかするのが先決じゃないですか?」

「そうだな。奴をどうにかしない限り、カードも元に戻って来ない。有効な対策手段を立てるには、それが一番だ」

 

 全員が薫の方を見る。

 だがその顔は下を向いており、まるで集中出来ていないようだ。

 

 そんな薫に碧が声をかける。

 

「どうしたの? こないだから、ずっとそんな感じだけど」

「実は……」

 

 薫は話し始めた。

 自身の両親が厳格であったこと。

 逃げ出すようにして東京に出、今に至るということを。

 

「それで……両親が勝手に結婚相手を決めてきたんです。証券会社に勤める杉元さんという背の低い方で、お父さんと同じで釣りが趣味なんです」

「どっかで聞いたことのある人物像だな」

 

 思わず森田が突っ込む。

 

「アー、父さん母さん」

「それ以上歌うな」

 

 (ひと)フレーズ歌ったところで春樹に静止され、自身の口を押さえる碧。

 

「もちろん、私はもう成人した大人です。親が私の将来を決められる権限なんてものは存在しません。

 ……けど、怖いんです。もしまた自分の行く道を阻まれたらって……」

 

 机の上に置かれた2つの拳をギュッと握りしめる薫。

 目の前の景色がぼやけて消えていく。

 

 

 

 すると誰かが薫の肩に手を置いた。

 後ろを見ると、隣に座っていた碧が後ろに立っていた。

 

「大丈夫だよ。きっと」

 

 屈託のない笑顔で答える碧。

 深月はふと、かつての自分を思い出していた。

 

 先の見えない不安に押し潰されそうだった時、()は同じような笑顔を見せ、自分を励ましてくれた。

 そして彼女もまた、同じように誰かを励まそうとしている。

 何処か懐かしさを覚え、無意識のうちに大きく息を吸って吐いた。

 

「無責任な言い方ですけど、なんとかなりますよ」

「そうですよ。きっと」

 

 深月と圭吾も続けて薫に声をかける。

 声をかけない森田は、そんな部下の姿を見て微笑ましくなり、口角を上げた。

 

「有難うございます、皆さん……」

 

 薫は顔を上げ、目の周りを白いハンカチで拭いた。

 その様子で安堵した他のメンバーは、笑みを浮かべる。

 

「さて、会議に戻るか」

 

 森田の号令で再び業務に戻るメンバーたち。

 吹っ切れた薫もじっと目の前のモニターを見つめる。

 

「どうやってカードを回収しましょうかね?」

「あぁ。問題は、カードのデータをどうやって取り返すかだ」

 

 深月と森田が再び頭を抱える。

 

「ねぇ春樹。どういう経緯で無くなったんだっけ?」

「確か……カードケースを触られて、そっからいきなりカードが無くなった、って感じだったな……。

 そういえば、盗まれた瞬間、全身の宝石が光ったような気がしたんだけど、あれは陽の光のせいか?」

「多分そうじゃない?」

 

 

 

 

 

「いや、そうじゃないかもしれません……!」

「「「「「?」」」」」

 

 薫が全員に自身の考えを話し始めた。

 その一部始終を聞いた全員が、思わず感嘆の声を上げる。

 

「なるほど! その手があったか!」

「よし……! これならいけますよ」

 

「今度こそ失敗は許されない。いけるか?」

 森田が自身の右腕を前に出す。

 

「上等だ。やってやるよ」

 

 春樹がその上に自身の右腕を重ねる。

 続いて碧、深月、圭吾、そして最後に薫が重ねた。

 そして全員が勝鬨(かちどき)を上げるための、気怠そうな声を上げた。

 

 

 

「「「「「「うぇーい」」」」」」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.14 11:03 東京都 板橋区

 とある公園の中。

 春樹と碧の見つめる先から、2体の怪人がゆっくりと歩み寄って来る。

 

 それを確認すると、二人は端末にカードをかざし、ドライバーを出現させた。

 そしてすぐさまカードを装填した。

 

『"ACT" LOADING』

『"REVE-ED" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、上空にゲートが現れ、それが開くと銀色の鎧が姿を見せた。

 それと同時に春樹と碧はポーズをとり、そして叫んだ。

 

「「変身!」」

『『Here we go!』』

 

 端末を挿し込むと、二人の姿が異形のものへと変化し、そこに先程の銀色の鎧が装着される。

 

『I'm KAMEN RIDER ACT!』

『I'm KAMEN RIDER REVE-ED!』

 

 アクトはディスペルクラッシャー ガンモードを、リベードはディスペルクラッシャー ソードモードを出現させると、勢いよく飛び出して行った。

 だがその標的は2体ではなく、銃を持った鮮やかな怪人──ロブだけだった。

 

『『Are you ready?』』

 

 端末を武器にかざし、再び端末をドライバーに挿し込んだ。

 

『OKAY. "ACT" CONNECTION SHOT!』

『OKAY. "REVE-ED" CONNECTION SLASH!』

 

 ロブが自身の拳銃から何発も銃弾を発射するが、それをアクトは滑り込むことで回避。

 

「ハッ!」

 

 ロブの前に来るとその胸に向けて強烈な一撃を食らわせた。

 

 思わず後ろに下がるロブ。

 その胸の宝石には微かにひびが入っていた。

 

「ハァッ!」

 

 今が絶好のチャンスだと、今度はリベードが跳び上がり、そのひびに向けて鋭い剣先を突き刺した。

 

 するとどうだろうか。

 剣先を引き抜くと、そこから粒子状の何かが飛び出し、それが二人のカードケースへと収まっていった。

 

『良かった。ようやく戻ってきたぞ』

 ホッと息を吐くアクトとリベード。

 

「じゃあ、反撃開始ね」

「ああ」

 

 リベードはカードケースから1枚のカードを取り出し、ドライバーから外した端末に装填した。

 

『"DOUBLE" LOADING』

 

 電源ボタンを押し、端末をドライバーに挿した。

 

『Here we go!』

 

 自身に着けられていた銀色の鎧が解かれると、上空から現れた2つのオブジェが体に身につけられ、緑色と紫色の戦士へと姿を変えた。

 

『Windy, Survey, Extermination! Welcome to our city! SEPARATED DOUBLE! Count the number of your sins.』

 

 (ダブル)シェープに変身したリベードはもう一度端末を取り外すと、自身の剣にかざした。

 

『Are you ready?』

 

 再度端末をドライバーに装填すると、後ろに振り向いた。

 そこには臨戦態勢で身構えているもう一体の怪人──イングルフが立っていた。

 剣先をそちらに向けると、イングルフの周りに竜巻が発生。それが怪人を飲み込み、身動きがとれない状態になった。

 

『OKAY. "DOUBLE" CONNECTION SLASH!』

「ハァッ!」

 

 そして剣を縦に振るった。

 すると緑色と紫色の混ざった一発の斬撃が怪人の背中を襲った。

 

 その一撃は、見事に背中のコードを全て斬り裂いた。

 斬られたコードからオレンジ色の液体が漏れ出ていく。

 

 

 

「折角だし、新しいカード使おうぜ」

「そうだね。じゃあ、これで」

 

 二人はカードケースからそれぞれ1枚のカードを取り出した。

 アクトが取り出したカードの絵には、兜虫の身体に赤いスペードのマークが描かれており、「No.026 SPADE BLADE」と下に印字されている。

 リベードの取り出したカードには、木に()っているオレンジが描かれており、下部には「No.099 ORANGE GAIM」と白く書かれている。

 

 それらをドライバーから外した端末に装填した。

 

『"BLADE" LOADING』

『"GAIM" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、二人の後ろにゲートが現れる。

 アクトのゲートからはスペードの形をした銀色のオブジェが、リベードのゲートからは紺色の茎と枝のついたオレンジが姿を見せた。

 

 そして端末をドライバーに挿し込んだ。

 

『『Here we go!』』

 

 アクトの体にはオブジェが分解してできた銀色の鎧が装着される。胸部の鎧には赤くスペードのマークが描かれていて、そしてその頭部の中心にはまるで剣のように鋭い、透明なパーツが取り付けられた。

 

 リベードの頭部を隠すように、オレンジが覆い被さった。紺色のパーツが分解し、両腕両脚に装着されていく。そしてオレンジが展開。胸部を隠す甲冑となった。その頭部には兜のようなオレンジのパーツが被されている。

 

『Shut up, Turn up, Slash the undead! Take the joker of your destiny! SPADE BLADE! I’ll fight my destiny and win.』

『Dancing, Compete, Open the crack! I will never forgive you! ORANGE GAIM! It’s time to start my stage.』

 

 仮面ライダーアクト ブレイドシェープ

 仮面ライダーリベード 鎧武(ガイム)シェープ

 

 自身の運命を掴み取るため、剣を振るった戦士の力を受け継いだ姿の参上だ。

 

 二人は腰を落とし、標的2体をじっと睨みつける。

 そして自身の剣でそれぞれ床を叩き、走り出して行った。

 

「「READY……GO!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What did she say to her junior?

A: "It's gonna be alright."




とりあえず、新学期までには第1クールの執筆は終わらせたいですね。
第4クールまであるので……。
こんな駄文ですが、最後までお付き合いいただければと思います。
よろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question012 How did she use two blades?

新年明けましておめでとうございました。
昨年は大変お世話になりました。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。



【イメージED】
米津玄師 - 恥ずかしくってしょうがねえ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.11.14 11:06 東京都 板橋区

「「READY……GO!」」

 

 前へ走り出して行く2人の戦士。

 

 ロブはアクトに向けて、自慢の拳銃で何発も弾丸を発射する。

 だがそれを次々に斬り裂いていき、自身の剣でロブの体に一閃、二閃と斬りつけていき、そして鋭い剣先で突いた。

 後退する怪人。

 その姿を確認すると、ドライバーの右側のプレートを押し込んだ。

 

『Are you ready?』

 

 端末を押し込んだ。

 足にエネルギーが溜まっていき、頭部のパーツが赤く発光する。

 

『OKAY. "BLADE" DISPEL STRIKE』

「テリャァァァ!」

 

 上空に跳び上がると、右足を前に出し、強烈な一撃を怪人に食らわせた。

 後方に吹き飛ばされ、爆炎を上げるロブ。

 それを確認したアクトは、1枚のカードを端末にかざした。

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 端末をドライバーから取り外し、カメラ機能を機動させると、まだ上がっている火の方へシャッターを切った。

 

『Have a nice dream.』

 

 すると端末の中に一枚のカードが現れた。

 煌びやかな夜景の中にある道路の上を、一台の黄金の車が走って行く様子が描かれており、「No.125 ROB LUPIN」と書かれている。

 

 

 

 

 

 アクトが背伸びをして暫し休憩をしている一方、リベードはイングルフと剣をぶつけ合っていた。

 先程、背中のコードを全て斬ったのが効いたのだろう。素早く動くことはなく、リベードと同等のスピードに堕ちた。

 

 だがそれでも、2本の刀にたった1本だけで立ち向かうのは無理があるようだった。

 いくら剣術が長けているリベードでも、相手の武器が1つ増えれば圧倒的に不利な状況になってしまう。

 

 徐々に押されていく戦士。

 一瞬の隙を突かれ、2本の日本刀で斬りつかれてしまった。

 

「グァッ……!」

 

 後退したリベードは遊撃車にいる他の班員に連絡を入れた。

 

「あのさ、アイツに対抗出来るカードはないの?」

『ありますよ。目には目を、歯には歯を。二刀流には、二刀流です……!』

 

 薫の言葉と共に、カードケースに1枚のカードが転送されてきた。

 前方のスロットからそのカードを取り出す。

 そのカードにはオレンジの断面のような柄の刀身のある刀が描かれており、下部には「GIJI DAIDAI-MARU」と白く印字されている。

 

 そのカードをドライバーに挿し込まれている端末の裏側にかざした。

 

『GIJI DAIDAI-MARU! It'll come.』

 

 すると左手の前にカードに描かれていたのと同じ刀──擬似大橙丸(だいだいまる)が現れた。

 それをぎゅっと握りしめるリベード。

 

 ようやく互角になれた。

 元々真っ直ぐしていた背筋が、さらに伸びていく。

 

 2本の刀を持った戦士は怪人に向かって行き、凄まじい勢いで襲いかかる。

 イングルフは想定外の勢いに押されるばかりだ。

 そして勢いにたじろぐ隙に怪人の両刀を弾き、横一文字、いや横二文字に斬りつけた。

 

 後退する怪人の様子を確認したリベードに圭吾から着信が入った。

 

『碧さん。その刀、()()しますよ』

「……ん?」

 

 試しに二本の柄の端を合わせてみる。

 すると両端に鋭い刃の付いた薙刀(なぎなた)のような形状──ディスペルクラッシャー ナギナタモードへと変化した。

 

「え!? すごい! よーっし……輪切りにしてあげる!」

 

 端末をドライバーから取り外すと、ディスペルクラッシャー本体にある楕円形の部分にかざした。

 

『Are you ready?』

 

 端末を再度挿し込むと、まるでチアリーディングのバトンのように振り回す。

 すると立ち上がり始めたイングルフの周りを巨大なオレンジ状のエネルギーが取り囲み、その体を拘束した。

 

『OKAY. "GAIM" DISPEL SLICER!』

「セイハーっ!」

 

 そしてブーメランのように薙刀を投げた。

 薙刀はオレンジ状の拘束具の周りを一回転。持ち主の元に帰ってきた。

 

 その刀をキャッチした瞬間、オレンジ状の拘束具は輪切りではなく櫛形(くしがた)切りの形になり、そのまま怪人は爆発した。

 

 それを確認すると前方のスロットからカードを取り出し、端末にかざした。

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 端末を取り出し、カメラ画面のシャッターを押した。

 

『Have a nice dream.』

 

 端末の中に1枚のカードが姿を見せた。

 長い白髪の忍者が1人の少女を連れて江戸と思わしき夜の町を駆け抜ける姿が描かれており、「No.148 ENGULF FUMA」と書かれている。

 

「お前、それは輪切りじゃねぇ」

 

 シーッと口に人差し指を添えるジェスチャーをするリベード。

 仮面の下で微笑むアクト。

 

 その様子をモニターで見ていた薫も、少し頬を緩めた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.14 16:54 東京都 新宿区 SOUP

 そういうわけで、私は帰らないから。

 うん……。うん……。分かった。

 

 

 

 電話を切った薫は自身のデスクに戻った。

 その表情は今までにないほど晴れやかなものだ。

 

「で、どうだった?」

 碧が薫に訊く。

「好きにしろ、ですって。まぁ結果オーライじゃないですかね」

 

 薫は書類を自身のショルダーバッグに入れて、帰る準備を進める。

 だがそれよりも先に碧と春樹が支度を済ませた。

 

「お疲れ」

「お先ー」

「「お疲れ様です」」

 

 先にその場を後にする春樹と碧。

 

 それを見届けた深月たち他のメンバーは、再び作業に取り掛かる。

 一ヶ月近く経った今でも、人間態を持つフォルクローへの対応法がまだ固まっていなかった。

 官邸から早急な対応が求められているため、こうやって残業せざるを得ないのだ。

 まぁ、全員残業が嫌いなので苦虫を噛み潰したような表情でパソコンに向かっているのは、言うまでも無いが。

 

 するとそんな最中、森田がデスクの引き出しからA4サイズの茶封筒を取り出した。

 そして他のメンバー全員に声をかける。

 

「ちょっと()いか?」

「「「?」」」

 

「先日の反田君の話で、少し気になったことがあったんだ。君たちをSOUPに配属させたのは岩田室長であって、私はその決定に関わっていない。つまり、君たちがどうして配属されたのか分かっていない。

 雨宮君と橘田君は研究の功績を讃えられて、深月君は戸塚署での功績を讃えられて、そして春樹君と碧君はライダーシステムの使用権を有しているためだ。

 だが、椎名夫妻が所属になったのは、他に何か理由があるのではないかと思って、古巣に探ってもらったんだ」

 

 森田は立ち上がると、封筒の中に入っていた書類を三人の机上に置いていく。

 それに目を通しながら、森田の話の続きを聞いた。

 

「まずは碧君に関してだ。椎名碧、27歳。旧姓は常田(ときた)。長野県出身。

 父・海斗(かいと)は遺伝子工学の権威として、弱冠30歳で城南大学の名誉教授として勤務。5年前に行方不明になったのは、先日の反田君の言う通りだ。

 母の夏美(なつみ)は23歳で海斗と結婚。だが、2001年に未確認生命体第0号の起こした、連続発火事件の餌食となり殺害された。

 そして1つ上の兄・八雲(やくも)。城北大学理工学部を1年で中退。その後忽然と姿を消した」

 

「お兄さんも失踪したんですか!?」

「お父さんだけじゃなく、お兄さんもだなんて……」

 

 驚愕する一同。

 

「僕と同じだ……」

 

 深月は一人呟き、何処か納得した。

 あの時の笑顔が、()()()と同じだったのは、そういうことだったのか……。

 自身の悲しみを胸に、これ以上誰かを悲しませないようにするために、あえて笑顔で取り繕う。

 そうでもしないと、人は救えない。

 

「次に春樹君だ。椎名春樹、28歳。長野県出身。

 長野県警所属の両親の間に生まれたが、6歳の頃、その両親が突如襲撃してきた未確認生命体第一号によって殉職。以来、親戚家族を転々としていた……。

 ()()()()()()()()()()()

 

「「「!?」」」

 

「県内の高校を卒業してから、碧君と結婚するまでの記録が一切残っていないんだ。

 つまり、2011年から2020年までの約10年間の記録が何処にも無い」

 

「誰が……何のためにそんなことを?」

「これだと調べようにも調べられないですね……」

「まさに八方塞がりか……」

 

 全員が溜息を()いて肩を落とす。

 

 深月は呆然と天井を見上げる。

 胸の中に何かが引っ掛かり、頭の上から何かがのしかかっているような感覚が襲ってきた。

 

「ここで悩んでても仕方ないですよね……」

「そうだな……」

 

 同じように森田と圭吾も頭を悩ませていた。

 その状況を打破しようとしたのは、薫だった。

 

「折角だし、呑みに行きませんか?」

「え!? でも、報告書がまだ」

「大丈夫だ。明日急ピッチで仕上げて、碧君に提出すれば何とかなる」

「よし。じゃあいきましょうか」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.14 17:43 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう

「あれ? 今日は3人だけなんですか?」

「皆さんお揃いじゃないんですね」

「あぁ。今日は、折角だし家族サービスしないとと思って……」

 

 いつもの個室で新井夫妻に話しかけられる椎名家の3人。

 机上には新井夫妻の運んで来てくれたご飯とタン、ドリンクが並べられる。

 

 ごゆっくり〜、と二人が部屋から離れると、奥に日菜太の姿が見えた。

 笑顔で手を振る日菜太。あまねも少しだけ口角を上げて右手を振り返す。

 そしてまた自身の職務へと戻って行った。

 

「やっぱり仲良いんだな。お前ら2人」

「え? あ、うん。まぁ……」

「何処まで進んだの? 手繋いだ?」

「そ! それは、まだ……」

 

 赤く染まった顔を両手で隠すあまね。

 そんな自分の娘の姿を見て、ニヤニヤと笑みを浮かべる春樹と碧。

 

 すると再び新井夫妻が声をかけてきた。

 

「皆さんいらっしゃいましたよ」

「「「え?」」」

 

 個室に入って来たのは、自分以外のSOUPのメンバーたちだった。

 お邪魔しまーす、と言ってドカドカと部屋に入って来る。そのため三人は奥に追いやられてしまった。

 

「報告書はどうしたの?」

「明日の朝、急ピッチで仕上げることになりました」

「なので今日は呑みまくります!」

「なので手伝ってください春樹さん!」

「頼んだぞ、春樹君」

「勘弁してくれ! 俺は戦闘専門だ!」

 

 それぞれ飲み物を注文しながら和気藹々と話す。

 

 そんな中、深月はあることが気になった。

 向かい側の奥の席に座るあまねのことだ。窮屈そうな顔をしながらちびちびと烏龍茶を飲む。

 いきなり見知らぬ大人たちが入ってきたから?

 いや。そんな表情をしているのは、それだけじゃないと直感していた。

 確証は無い。けど、これまでの自分の経験がそう言っているのだ。

 

 少女の殺伐とした表情を肴にするように眺めながら、深月は運ばれてきたレモンサワーに口をつけた。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 一方その頃、()()()()()()で三人は一喜一憂していた。

 というのも、奪ったカードが取り返され沈んでいたところに、喜ばしい知らせが入ったからだ。

 

「ねぇ。()()が74番と158番のカードを手に入れたって……!」

 

 ピカロの報告に、驚きのあまり立ち上がってしまうアールとフロワ。

 アールに至っては、驚きすぎて口をパクパクと動かしたまま、しばらく言葉を発せられなかった。

 

「ほ、ほほほ、本当ですかそれ?」

「うん」

「やってくれるとは思っていたけど、これほどとはね……」

「でも、かなり力が強大で、そのまま使うと制御が効かなくなるから、調整が必要だって」

 

 報告を終えたピカロは、ポケットから携帯ゲーム機を取り出して遊び始める。

 遊び始めたのは恐竜同士を戦わせる、昔流行ったアーケードゲームのゲーム機版だ。

 ピカロが選んだのは一番人気のティラノサウルス。対戦相手であるNPC*1が選んだのはスピノサウルスというティラノサウルスよりもやや大きな恐竜だ。

 

 対戦が始まったのと同時に、アールはメモリアルブックを開き始めた。フロワはアールの後ろに周って一緒に眺める。

 

「あと、何枚だっけ?」

「……さぁ。もう覚えていませんよ」

 

 自虐的な笑みを浮かべるアールを、フロワは静かに見つめる。

 するとピカロの対戦も決着がついたようだ。流石は「恐竜の王」と呼ばれたティラノサウルスだ。スピノサウルスの首筋に素早く噛みつき、そして瞬殺した。

 

「年明けくらいには、僕たちも本格的に動けるね」

「えぇ。楽しみね」

 

 暗い部屋に合うニヤリとした笑みを浮かべ、三人の顔は影に隠れて見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常140体

B群6体

合計146体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How did she use two blades?

A: By connecting them and be one sword.

*1
Non Player Characterの略。ゲーム上にてプレイヤーが操作しないキャラクターのことを指す言葉。また、オンラインゲームではゲームのコンピューター側が操作しているキャラクターのことを指す。




次に投稿を始めるEPISODE05と、その次のEPISODE06は、自分がどうしても書きたかった回なので、乞うご期待ください。
読了報告等していただきますと、筆者はとんで駆けつけますので、よろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 05 戦えない者(A PERSON WHO CANNOT FIGHT)
Question013 What is these monsters' characteristics?


第十三話です。
冬休み中は時間があるので、執筆に集中出来るのがすごい良いところですね。
そろそろスピードを上げていきます。
よろしくお願いいたします。



【イメージOP】
PEOPLE1 - 銃の部品

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.11.19 12:10 東京都 新宿区 SOUP

 報告書をなんとか書き終えた彼らは、安らかに休憩をとっていた。

 外部に情報が漏れ出るのを防ぐために、本部に入れるのはSOUPのメンバー、遊撃車の運転手、医務室の人間のみに限られている。

 なので昼食を買いに行く際には一度、入り口となる雑居ビルを出て、歩いて3分程のところにあるコンビニに行かなければならない。

 毎回行くのは面倒なので、じゃんけんで一番負けた人が必要な分の昼食を買いに行くことになっている。

 

「お待たせしましたーっ」

 

 深月(この日の当番)が帰って来た。

 コンビニ袋から一つずつ弁当を出して手渡していく。

 

「いつもじゃんけんに負けていますよね、深月さん」

「昔から弱いんですよ」

 

 圭吾が弁当を開けながら言ったことに、深月も同じように弁当を開けて答える。

 

「これで3日連続ね。トータルで20日くらいかな」

「運が悪いのは、戦闘以外の時だけにしてほしいがな」

 

 唐揚げ弁当を大口で頬張る薫。森田はコンビニの弁当を頼んでおらず、家から持ってきた弁当に食らいつく。

 

「僕に出来ることなんて、このくらいですから……」

 

 自虐的な笑みを浮かべる深月。

 いつもよりも暗いその表情に、その場の全員が違和感を覚えた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.19 14:58 東京都 新宿区 SOUP

「報告書とかの作業が無いと、本当に暇だな」

「まぁ、私は翻訳作業が残ってるけどね。あとは、ヘブライ語とエスペラント語だけ」

「因みに言うと、僕も()()()()()が残っていますからね。データの解析が終わったので、後は科警研と大手民間企業に成形してもらうだけです」

 

 春樹に話しかけられている碧と圭吾は、パソコンに齧り付いている。

 凄まじい勢いでキーボードを打っていく碧と、ゆっくり慎重にモニターに書かれた文字を指差し確認していく圭吾。

 

 圭吾の画面には大量の文字と何かの設計図が表示されており、一番上にはでかでかと「BLAST POINTER」と書かれている。

 その形状は小さな槍のようで、持ち手はバイクのハンドルのようにブレーキのようなものが付いている。

 

 

 

 その時、森田のデスクの上に置いてある固定電話が着信音を鳴らした。

 電話に出た森田は、受話器を置くと全員に通達した。

 

「第五十番と第百三十九番の柱に反応あり。あと40分程で出現します。

 皆さん、出番です」

 

 すぐに荷物を持って部屋の外に出るメンバーたち。

 

 春樹と碧はカードを使用してアクトチェイサーを出現させた。

 

『This ACT CHASER can only be used by Haruki Shiina for twenty hours from now.』

『This ACT CHASER can only be used by Aoi Shiina for twenty hours from now.』

 

 乗ろうとした深月はふと、バイクに跨ろうとしている二人の姿を横から見ていた。

 しばらく何かを考え込んでいると、薫に声をかけられる。

 

「何してるの? 行くよ」

「あ、はい!」

 

 急いで車に乗り込む深月。

 だがその表情が晴れることはなかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.19 15:31 東京都 港区

 芝浦埠頭にあるコンテナ置き場に、数台の警察車両が停まっていた。その前では機動隊員が誰もいない海辺の方に銃口を向けている。

 

 その後ろに遊撃車とバイクが停まると、春樹と碧は機動隊員の前に立ち、春樹は指をポキポキと鳴らし、碧は屈伸などのストレッチをしながらその時を待つ。

 

 そして目の前に黒い穴が開いた。そこから今まで以上に(いびつ)な形をした怪物が現れた。

 一体はマゼンタの大玉のような姿をし、もう一体は兜虫の幼虫を模した四足歩行の銀色の怪物だ。

 

『警察庁本部より入電。新型未確認生命体第三十二号、及び三十三号の命名完了。以降、銀色の方を『シェディング』、ピンクの方を『ストラテジー』と呼称する』

 

 機動隊長からの着信に「いや、マゼンタだよ」と内心ツッコむ春樹と碧。

 

「今までにないタイプの奴らだね。なんか、あの銀色のやつはちょっとキモい……」

「同感だ。不快なものは早く取り除くぞ」

 

『ピンク色のやつ、あの大きな図体(ずうたい)だと、いくら小規模に爆発を防げるとしても、かなり大きなものになることは間違いないです。

 撃破するときは、二体とも必ず海の中に放り込んでください』

「「了解!」」

 

 深月からの提案を聞いた二人は、腹部にドライバーを出現させる。

 右側に着いているカードケースの後方のスロットから、それぞれ1枚ずつカードを取り出し、端末に装填した。

 

『"RYUKI" LOADING』

『"WIZARD" LOADING』

 

 電源ボタンを押す。

 ゲートから龍とドーナツ状のオブジェが現れ、龍が口からエネルギー弾を発射して怪物を攻撃する。

 だがその体表は異常に硬いらしく、びくともしない。

 

「「変身!」」

【【Here we go!】】

 

 ポーズをとり、端末をドライバーに挿し込んだ。

 それぞれが素体へと変化すると、鎧が次々と装着されていく。

 

『Come across, Participate, Fight each other! You cannot survive without fighting! FLAME RYUKI! I will never die.』

『Witchcraft, Activate, Bibi de bob de boo! I’ll be your last hope. MYSTERIOUS WIZARD! It’s showtime.』

 

 変身した二人はそれぞれ怪物に向かって行き、その拳で怪物に右手で一発お見舞いした。

 だが

 

「「いっ……たっ!」」

 

 逆に自らの手に痛みが走る。

 ビリビリと痺れる手を払うと、リベードは剣を出現させシェディングに斬りつけた。

 刃先を右手で押さえ込むと、怪物は左手でアッパーを繰り出し、リベードを吹き飛ばす。

 

「グァッ……!」

 

 

 

一方のアクトはというと

 

(なん)でこっちに来るんだよっ!」

 

 転がってくるストラテジー(マゼンタの大玉)の対応に困っていた。

 体表が硬く、攻撃しても止まることがないため、とにかく逃げ回るしかない。

 

 

 

「どうする? マジでまずくないか!?」

「そうだね。まずは強烈な一撃をお見舞いするしかないよね」

 

 二人はカードケースの前方から1枚ずつカードを取り出した。

 アクトが取り出したカードには、赤い龍の頭部が描かれており、「STRIKE VENT」と印字されている。

 リベードのカードには、龍の後ろに巨大な影が現れる絵が描かれており、「BIG」と白く書かれている。

 

 それらをドライバーに挿し込んである端末の裏側にかざした。

 

『STRIKE VENT』

『"BIG" please』

 

 アクトの左の前腕にあるパーツが移動。左手を覆い隠すような形になる。

 一方のリベードの前には巨大な魔法陣が発生した。そこに右手を入れると、なんと手が巨大化した。

 

「「ハァァッ!」」

 

 アクトは左手のパーツから炎を吹き出し、シェディングの体を火炙りにする。

 リベードはその巨大な右手を振り落とし、ストラテジーに凄まじい一撃を食らわせた。

 

 続けて必殺技を繰り出そうと、ドライバーを操作しようとしたその時、遊撃車の中の深月が何かに気がついた。

 

 

 

「何ですかね……? あの、()()()()()()()

「?」

 

 よく見ると、二体の体には微かにヒビのようなものが入っていく。

 何だ何だと熟考する四人。

 

「ちょっと待ってください。すごく嫌な予感がします……」

「同感だ。自分の人生の中で3・4番目くらいに不幸なことが起こる気がする」

 

『その予想当たっているかもしれません……

 二体の身体から高エネルギー反応! すぐに退避してくださいっ!』

 

 だが時すでに遅し、と言ったところだろうか。

 全身に行き渡ったヒビから眩い光が吹き出している。

 同じように嫌な予感がしたアクトは、2つの盾──ドラグシールドをリベードに手渡す。

 

「逃げろ碧っ!」

 

 

 

 遊撃車の中にいる全員を襲ったのは、目も開けられないほどの眩しい光だ。

 思わず目を塞ぐと、車内が信じられないほど揺れる。

 揺れが治ったところで目を開けると、次に見えたのは物凄い爆炎だ。

 

 急いで車から出る。

 目の前に見えたのは……

 

 

 

 

 

「春樹っ! 春樹っ!」

 

 変身を解いた碧が、倒れ込んだ春樹の体を揺すっている。

 春樹の顔は擦り傷や黒炭があり、衣服はボロボロになっている。

 

 そんな春樹の姿を見たことのない彼らは、ただ茫然と立ちすくむしかない。

 

 碧はふと、爆炎があった方を見た。同じように他のメンバーもその方を見る。

 

 そこに立っていたのは、今までとは違う2体の怪人だった。

 全身がマゼンタの怪人は、ドレッドヘアに銀色の鎧を着けている。

 もう一体は兜虫のような赤い怪人だ。

 

 それは言わば、怪人たちの()()()()

 これまでと全く異なる形状の化け物たちを、碧はひたすらに睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is these monsters' characterics?

A: It's being able to be second form.




文章書くのって難しいですね。
でも楽しいので、やっていけます。
次回もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question014 Why is he to worry?

第十四話です。
まさか3日連続投稿になるとは──。

よろしくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.11.19 19:58 東京都 中野区 トキワヒルズA

 すっかり暗くなったマンションのエントランスに、あまねが溜息を()きながら入って行く。

 物理基礎の小テストの点数が振るわず、放課後に再テストとなった。

 通常はこんなことないため、何か不吉なことの前兆なのではないかとほんの少し怯えている。

 

 エレベーターで6階に上がり、自分の部屋に入っていった。

 

「ただいまー。……?」

 

 まだ部屋の電気が点いていない。

 いつもこの時間であれば、春樹と碧のうちのどちらかが帰って来ているはずだ。

 二人の業務を考えれば、どうせ残業だろう。

 そこまで深く考えず、手を洗ってリビングに入った。

 

 その時、スマートフォンが可愛らしい音を立てて震え始めた。

 何だ何だとブレザーのポケットから取り出し、画面を確認する。

 碧からだ。

 

「もしもし」

『あまねちゃん? 今何処にいる?』

 

 電話越しの保護者は、今までにないくらい焦った声で自分に話しかける。

 すぐに只事ではないと悟った。

 

「どうしたの? そんなに焦って」

『……落ち着いて聞いてね。春樹が……春樹がっ……!』

 

 その後の言葉は続かず、嗚咽だけがその後についてきた。

 急いでスクールバッグを再び持ち、靴を履いて部屋を飛び出した。

 

「今何処にいるの!?」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.19 20:39 東京都 品川区 品川中央病院 5階

 あまねが廊下を走ると、幾つかある病室のうちの一つの前で、碧と森田が立っているのが見えた。

 すぐにそこに駆け寄る。

 あまねが近くに来たところで、森田が話し始めた。

 

「第三十二号と三十三号が起こした爆発に巻き込まれて、それで……」

 

「ごめんね……。私が守ってあげれば……」

 

 椅子に座り込んだ碧をあまねが優しく抱きしめる。

 

「大丈夫。ママはなにも悪くないよ」

 

 廊下に啜り泣く音が反響する。

 白く輝く廊下はやけに眩しかった。

 

 

 

 

 

 1階のカフェテリアでは、深月、圭吾、薫の三人が同じテーブルを囲んでいた。

 こんな遅い時間に客が来ることはそこまでないため、灯りは半分しか点いていない。

 その中途半端な光だけが三人を照らしている。

 

「高エネルギー反応があって、何かくると思ったら、まさかの自爆アンド第二形態への変身……。想定外中の想定外でしたね……」

「しかもシェディングが逃走した際の飛行速度は時速300キロ。どうやって倒せば……」

 

 ふと二人は深月の方を見た。

 今まで見たことのない暗い顔が、灯りの少ないこの場所によく似合っている。

 

「なんか……こういうときに、どうして戦えないんでしょう……」

「……え?」

 

「春樹さんと碧さんみたいに直接戦うことの出来たら、どれだけ皆さんを助けられるだろうって。

 いつも前線に立っているお二人に、やらせてばっかりじゃないかって……」

 

 深月は机上に置かれている自身の左手をギュッと握りしめる。

 歯を噛み締め、苦悶の表情を見せていた。

 

 

 

 すると、圭吾がその上に自身の右手を重ねた。

 

「それは僕たちも同じですよ」

 

 圭吾の言葉に思わず顔を上げる深月。

 

「どうしてあの人たちみたいに戦えないんだろう。どうしてもっと貢献出来ないんだろう。そんなことしょっちゅう考えます。

 でも、僕たちは僕たちに出来ることをやるしかないんです。それがきっとあの人たちを助けることになるんですから……」

 

 笑みを浮かべながら、薫もその上に自信の左手を重ねる。

 

「大丈夫ですよ。ていうか、あの人たち、ぶっちゃけ私たちがいなくても何とかなる人たちですから。

 そう考えすぎないでください。ね?」

 

 もやのようなものが取れたのだろうか。

 表情が(ほころ)び、一番上に自分の手のひらを重ねた。

 下がっていた顔は上がり、目をまっすぐと向いている。

 

「はい!」

 

 動いた影響か、影が小さくなる。

 何故か灯りがより一層強くなったような気がした。

 

 

 

「さて、どうやって倒しましょうか?」

 話を切り替える薫。

 

 すると森田がカフェテリアに現れた。そして空いている席に座る。

 

「どうでした? 春樹さんの容体は?」

 

「目立った外傷も無ければ、内部にも何も無い。ライダーシステムを装着していたおかげだな。今は気絶しているだけだから、すぐに起きるはずだ。

 ただ、医者からは絶対安静が言い渡されている。しばらくは戦闘に参加することも、そもそも病院を出ることも出来ないだろうな」

 

「そうですか……」

 

 深月は何かを熟考している。

 だが何かが引っ掛かるようで、眉間に皺を寄せている。

 

 森田はそんな深月を横目に、圭吾に話かけた。

 

「ところで、新型の武器はどうだ?」

 

「はい。槍型の武器ですが、3つのパーツに分裂してディスペルクラッシャーと合体。ライフルのような形状になります。

 ライフルモードには敵を15秒間だけ静止させる能力があり、その射程距離は10000メートルを超えます」

 

「良いですねー。1つの武器でそんな2つの能力が使えるだなんて……。

 自分もそんな器用な人間になりたいですよ」

 

 薫が独り言を呟いたその時、深月が自身の両手をパンと叩いた。

 突然のことに驚く三人が音の方を向くと、頭の中に突如衝撃が走ったようで、目を見開いている。

 

「どうした作戦担当? 何か思いついたか?」

 

「はい……。思いついたんです。

 春樹さんが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が…………!」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.20 09:05 東京都 品川区 品川中央病院 5階 513号室

 ゆっくりと目を覚ます。

 右側から差し込む光と、天井の灯りがやけに眩しい。

 

 次に視界に入ってきたのは、スーツを着た若い男──深月だ。

 

「おはようございます。調子はどうですか?」

「……まぁまぁかな。強いて言うなら、ちょっと腰が痛い」

 

 ゆっくりと上半身を起こす春樹。

 すると深月はスマートフォンを取り出し、その画面を病院用ベッドのテーブルの上に置く。

 

 そこに映っていたのは、ここにはいないメンバーたちだった。

 

『もしもし春樹? 元気?』

 碧の顔が全面に出ている様子に、春樹は苦笑してしまう。

 

「まぁ、なんとか」

 

《いいか春樹君。今から反田君が作戦を説明する。その通りに実行してくれ』

「ちょっと待ってください。俺は今、腕も脚も腰も痛い、まさに満身創痍の状態だ。戦うことは──」

「大丈夫です。これから説明します」

 

 深月が春樹に作戦の概要を説明し始めた。

 聞いている間、何回も目を見開いて驚愕する。

 

「お前、よくそんな作戦思いついたな……」

「まぁ。こういうの真面目にやってきましたから。……行きましょう」

「ああ」

 

 深月と春樹がスマートフォンの画面に、自分の手のひらを見せる。

 同じく画面越しの碧、圭吾、薫、森田も手のひらを重ねた。

 

 そして六人は気怠い声をあげて、戦闘態勢に入った。

 

 

 

「「「「「「うぇーい」」」」」」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.20 12:01 東京都 北区

 紅葉橋の上で、碧は仁王立ちをしながら来客を待っていた。

 その手にはアンパンと牛乳が握られており、すごい勢いで貪る。

 

 完食したところで、ようやくお出まししたのは、ドレッドヘアのマゼンタの怪人──ストラテジーだ。

 

 すると碧は端末で何処かに電話をかける。

 

「もしもし。違う方が来た。こっちに来るのは2分後みたい。

 来たら班長から連絡がくるから、準備しておいて」

 

 通話を切ると、端末にカードをかざした。

 

『ACT DRIVER』

 

 腹部にドライバーが出現する。

 その右側に付いているカードケースの、後方のスロットから1枚のカードを取り出した。

 

 そのカードには青空の中を駆け抜けて行く赤いスポーツカーが描かれており、下部には「No.121 DRIVING DRIVE」と白く印字されている。

 

 それを端末の中に装填した。

 

『"DRIVE" LOADING』

 

 電源ボタンを押す。

 後ろにゲートが出現すると、赤いスポーツカーのようなものが現れ、碧の周りを走り回る。

 その中央でポーズを決め、そして叫んだ。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 端末をドライバーに挿し込むと、その体は青い素体へと変化する。

 するとスポーツカーは分解。鎧として装着されていった。

 

 両腕両脚に赤い鎧が着けられ、両足にはタイヤのような小さな部品がある。

 上半身にも赤い鎧があり、両肩にそれぞれ1つずつタイヤが着けられ、胸には2つのタイヤがクロスをしながらそこに存在していた。

 そしてその口にあたる部分に、エンジンを模したマスクが着けられ、上にはスポーツカーの羽根のようなものがついたものが着いている。

 

『Running, Searching, Exchange! Start your engine! DRIVING DRIVE! Will you drive with me?』

 

 仮面ライダーリベード ドライブシェープ。

 猛スピードで駆け抜ける戦士の姿を受け継いだ瞬間だ。

 

 

 

 ストラテジーはかなり飛距離のあるジャンプをし、ひとっ飛びでリベードのもとに来た。そして大きなハンマーを出して、リベードに襲いかかる。

 

 だがそこにリベードの姿はない。

 困惑し始めたところで、誰かに背中を叩かれた。

 後ろを向くと、そこに標的が立っていた。

 

 ハンマーを横に振るうが、素早く避けられ、右足で蹴られた。

 後ろに転がる怪物。

 

 するとリベードはカードケースの前方のスロットから、1枚のカードを取り出した。

 オレンジ色のタイヤが描かれており、「MAX FLARE」と書かれている。

 

 そのカードを、ドライバーに挿し込まれている端末にかざした。

 

『Exchange tires! "MAX FLARE"!』

 

 その瞬間、リベードに装着されている4つのタイヤの形状が変化を始めた。

 

「てりゃっ!」

 

 まるで炎のような形状へと変化すると、リベードはストラテジーに向けて何発もパンチを食らわす。

 

 続けて1枚、カードをかざした。

 

『Exchange tires! "FUNKY SPIKE"!』

 

 再び形状が変わる。サボテンのように刺々しい見た目へと変化した。

 

「はっ!」

 

 気合いを入れると、タイヤから棘のような鋭い弾丸が怪物を攻撃した。

 火花を散らして後退する怪物。

 

 三度(みたび)カードをかざす。

 

『Exchange tiers! "MIDNIGHT SHADOW"!』

 

 今度はまるで手裏剣のように、刃の付いた形になる。

 

 するとリベードは突如分身を始め、4人になった。

 4人の戦士が怪物を囲むと、タイヤから手裏剣の形をした紫色のエネルギー弾を発射。ストラテジーの体に火花を散らした。

 

 分身が一つに戻ると、ドライバーに付けられているプレートを横に押し込んだ。

 

『Are you ready?』

 

 端末を下に押し込む。

 すると、リベードから鎧が離脱。再び赤いスポーツカーの形に戻った。

 

 そのスポーツカーはストラテジーの周りを高速で回り始めた。

 目にも止まらぬ速さのため、残像がくっきりと見える。

 

 素体となったリベードはその中に飛び込むと、右足でスポーツカーを蹴り飛ばした。

 するとどうだろうか。リベードはその勢いで反射。ストラテジーを蹴る。もう一度車体を蹴って再び反射、怪物を蹴る。その繰り返しが続いた。

 

「オリャァァ!」

 

 そして最後に一発、右足で強烈なものを食らわせ、そして貫いた。

 

 着地をしたリベードに鎧が再び纏われる。

 立ち上がったタイミングで、後ろで爆炎が上がった。

 

 前方のスロットから1枚のカードを取り出し、端末にかざす。

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 端末を取り外して、シャッターを切る。

 すると端末の中に1枚のカードが出現した。

 

 「マイティアクションX」という人気のアクションゲームのパッケージと全く同じ絵が描かれており、「No.139 STRATEGY EX-AID」と書かれている。

 

「よし! あとは……」

 

 その時だった。

 後ろに何かの気配を感じた。

 振り返ると、上空に黒い穴が開いている。

 そこから赤い化け物(シェディング)が美しい翅を羽ばたかせて飛び出して来た。

 

「来たーっ!」

 

 すると怪物は攻撃をするわけでもなく、猛スピードで飛び去って行った。

 

 飛び去った後から、風が吹いてくる。

 その後ろ姿をリベードはまじまじと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why does he to worry?

A: Because he cannot fight like them.




因みに、イメージOPの歌詞は碧目線、イメージEDの歌詞は春樹目線だと思っています。
それを踏まえて聴いていただくと、今後の展開も見えてくるのではないかなと思っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question015 Where was he shooting?

第十五話です。
1日1話のペースで書いているので、もうアドレナリンが出まくっています。
多分冬休みが終わったら、週一に戻ると思います。

そんなわけでよろしくお願いいたします。



【イメージED】
米津玄師 - 恥ずかしくってしょうがねえ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.11.20 12:04 東京都 品川区 品川中央病院 屋上

 優しく風の吹く屋上に、深月とセパレートタイプの病衣を着た春樹が立っていた。

 

 すると深月のスマートフォンに着信が入る。

 通話を切ると、春樹は深月に声をかけた。

 

「そろそろ時間です」

「了解」

 

 端末にカードをかざす春樹。

 

『ACT DRIVER』

 

 腹部にドライバーが出現する。

 カードケースの後方のスロットから1枚のカードを取り出した。

 

 銀色のメタリックな鮫から赤い電波のようなものが出ている様子が描かれたカードで、下部には「No.021 GUARD FIZE」と白く印字されている。

 

 そのカードを端末に挿し込もうとしたその時、春樹は深月に話しかけられた。

 

「すみません。自分はこんなことしか出来なくて……」

 

「は? 何言ってんの? それがお前の仕事だろ?

 お前がこうやって作戦を練ってくれるおかげで、俺と碧は上手く戦えてる。今は与えられたもので満足していれば()いんだよ。

 ……俺もそうだから」

 

 最後の言葉を言い放った時、春樹の表情は何故か悲しそうだった。

 何処かにやりきれない思いを抱えているような、そんな気がしてならない。

 

 深月の若干の戸惑いを他所に、春樹はカードを端末に挿し込んだ。

 

『"FIZE" LOADING』

 

 電源ボタンを押す。

 するとゲートから何かが飛び出し、病院のすぐ横にある川へと落下していく。

 

 その正体は、絵に描かれていたのと同じメタリックな銀色の鮫だ。

 水中を優雅にスイスイと泳いでいる。

 

 ポーズをとって、そして静かに言った。

 

「変身」

 

 ドライバーに端末を装填した。

 

『Here we go!』

 

 素体へと身体が変化すると、川の中から鎧が飛び出し戦士に装着されていく。

 

 両腕両脚に装着された黒いパーツ、胸に着けられた銀色のパーツには血管のように赤い細い線が脈々と書かれている。

 頭部には中央から伸びる赤い2本の触覚と、複眼の上に覆い被さる2つの黄色い半円のパーツが装着されていた。

 

『Given, Stolen, Fight for somebody! Open your eyes for the next! GUARD FIZE! Standing by complete.』

 

 仮面ライダーアクト ファイズシェープ。

 持ち主の運命を翻弄する力を受け継いだ瞬間だった。

 

 アクトは2枚のカードを前方のスロットから取り出し、ドライバーに差し込まれている端末の裏側にかざした。

 

『DISPEL CLASHER』

『BLAST POINTER』

 

 ディスペルクラッシャー ガンモードが右手に現れ、左手には新たな武器──ブラストポインターが出現した。

 形状は圭吾が見ていた設計図のものと同じ、槍のような形をしており、銀色の表面に赤いラインが入ったものだ。

 

 するとアクトはブラストポインターの縁頭(ふちがしら)を押し込んだ。

 

『COMBINE』

 

 ブラストポインターが自動的に持ち手、中央部分、先端部分の3つに分解されていく。

 そのうち、先端部分は銃口に、中央部分は銃の上部に装着されていく。

 そして残った持ち手を、下部の引き金より先の部分に付けた。

 

『READY』

 

 こうしてディスペルクラッシャー ライフルモードは誕生した。

 

 射撃態勢に入ると、スコープの役割を果たす槍の中央部分を覗き込む。

 だがその先には敵と思しきものは目視出来ない。

 

 そんな何もないところに向かって銃口を向けるアクトは、ハンドルのような持ち手の、言わばブレーキ部分を押す。

 

『CHECK』

 

 すると目に見えないほどの赤い針が、凄まじいスピードで発射された。

 宙空を舞う針。

 そして、ついに標的に激突した。

 

 それは、猛スピードで上空を飛行していたシェディングだった。

 その動きが急に止まり、まるで等身大のフィギュアが上空に浮いているような状態となった。

 

 

 

 これが深月の狙いだった。

 あえてシェディングを逃し、ここぞというタイミングでライフルで撃破する。

 ここまで全てが計算通りに事が進んでいる。

 改めて深月の作戦立案の凄さを、他のメンバーは見せられたのだ。

 

 

 

 アクトは端末を取り出し、ライフルにかざす。

 

『Are you ready?』

 

 端末を戻す。

 再度スコープを覗いて、狙いを宙空に浮く怪物に定めた。

 

『OKAY. "FIZE" CONNECTION BLAST!』

 

 引き金を引いた。

 銃口から一発の弾丸が飛び出して行く。

 

 その弾丸が怪物を貫くと、その体からクリムゾンのエネルギーが吹き出し、そして爆散した。

 

 フゥと一息()いて後ろに歩いて行く。

 深月の肩に手を置いて、その場を去って行った。

 

 その後ろ姿を深月はじっと見つめ、いつもよりゆっくりと息を吐いた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.21 20:10 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう

「え!? もう退院したんですか?」

「だから碧さん、今日は飲み会にいらしゃらなかったんですね」

「あの人、すっごい旦那さん大好きですよね……」

 

 乾杯をして各々が飲み物を飲み始める。

 いつもの個室にいるのは、深月、圭吾、薫、森田の四人だけ。

 

 春樹は入院していたのだが、奇跡的に何事もなかったため、今日の夕方に退院となった。

 夫を迎えに行くため、碧も昼頃に早退して行った。

 

 これはむしろ、この四人にとって好都合だった。

 

 肉を焼きながら、四人は話し始めた。

 最初に話を切り出したのは森田だった。

 

「あの、筒井あまねさんについてなんだが……」

「ああ。春樹さんと碧さんと一緒に住んでいらっしゃる娘さんですよね?」

 

「ああ。埼玉県で生まれ、地元の中学に通っていたが、中学校3年生の時に両親が交通事故で他界。椎名夫妻に引き取られ、現在に至る。というのがあの娘の経歴なんだが……」

「? どうしました?」

 

 三人がそれぞれ肉を焼こうと、トングでそれぞれ皿の上に乗っている生肉を挟み持ち上げた。

 

「埼玉県警にいる同期に筒井家を訪ねてもらったら、当時同居していた祖母と会うことが出来た。

 話を聞けば、確かに筒井家の両親は亡くなっているが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その事故であまねも一緒に亡くなっていた」

 

 トングを持っていた手が緩み、肉が焼き網の上に落ちてしまう。

 広げようと思ってたのに〜、と慌ててトングで肉を広げ始めた。

 だがそれ以上に森田の発言が気になってしまう。

 一息置いて、続きを語り始めた。

 

「これがその証拠だ」

 

 森田は自身のスマートフォンの画面を見せた。

 そこに映っていたのは1枚の写真で、仏壇の上に男性、女性、そしてセーラー服を着た女の子の笑顔の写真が立っている。

 だが女の子の見た目は、深月たちの知っているあまねとは全く異なる顔をしていた。

 

「祖母の話によれば、本人確認の後に死亡届を書こうとしたら、()()()()が『私が記入します』と言ってその作業を引き受けたらしい。

 特に断る理由も無かったため、その人物に任せたそうだ」

 

「誰なんです? その人」

 

 圭吾が聞くと森田は一旦、自分のノンアルコールビールを呑み干し、そして答えを言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うちの岩田将吾室長だ」

 

 次の瞬間、バリンと何かが割れる音が聞こえた。

 どうやら厨房の奥で日菜太がグラスを割ってしまったらしい。

 

 三人の箸を持つ手が止まってしまう。

 そして肉やサラダが小皿の中へと落ちていった。

 

「つまり、今のあまねさんは、室長が奪った他人の戸籍を乗っ取った別人ということですか?」

「そういうことだ」

「どうして、うちの室長がそんなまねを……?」

 

 深月は下を向いて、何かを考え始めた。

 

 

 

 今は与えられたもので満足していれば()いんだよ。

 ……俺もそうだから。

 

 

 

 あの悲しそうな目は、一体何によって作られたものなのだろう。

 自分たちには想像もつかないようなものを抱え込んで、それを表面には出さず、着々と業務を遂行する。

 何となく悪寒が走ってきた。

 

 その悪寒をどうにかしようと、焼きたての自分の肉を口の中に次々運んでいく。

 ふと前を見ると、陽気な音楽の流れる店内の個室で、全員が黙って肉を黙って頬張っていた。

 

「そもそも、フォルクローって何なんですかね?」

「そうね。アールたちのいる別空間から現れることは間違いないんだけど、どうやってあの生命体が生まれたのか全く検討がつかない」

「まさに、未知の生命体ですね。身体つきも個体差がありますし、人間態を持っているのもいる。不思議ですね……」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.11.21 20:49 東京都 品川区 シナガワスーパー

 春樹たちがここにいるのは、春樹の要望だったからだ。

 碧から「退院してやりたいことは何?」と訊かれた春樹は、何故か「食料品が買いたい」と言い始めたのだ。

 何故だと碧とあまねが驚愕したが、本人のやりたいことなので止めることは出来ない。

 退院祝いに回転寿司に行った帰りに、ここに寄ったというわけだ。

 

 カートを押していた春樹が急に立ち止まると、後ろの二人に話しかけた。

 

「ごめん。トマト缶買いに行ってくるわ」

「え? 結構遠いよ」

「大丈夫? 病み上がりの体で」

 

 二人の言う通り、今いるレジ付近の場所から、トマト缶のある棚まではそこそこ距離がある。

 病み上がりの体を心配する気持ちも無理はないだろう。

 

「大丈夫。だからカート頼んだ」

「オッケー。私たちも買いたいもの入れたらそっち行くから」

「気をつけてねー」

 

 

 

 トマト缶のあるコーナーに着いた春樹。

 棚と棚の間にできた通り道には、眼鏡をかけたスーツの男しかいない。

 その男の隣に立って、棚を物色し始めた。

 すると

 

「仲良く買い物ですか?」

 

 スーツの男に話しかけられた春樹。

 ニヤリと微笑み、手を止めずに言葉のラリーを始める。

 

「ああ。ていうか、お前がここに呼び出した結果、家族みんなで仲良く買い物するはめになったんだろ」

「そうでしたそうでした」

 

 男も買い物かごの中に数種類の香辛料を入れていく。

 それ以外には何も入っておらず、小さな瓶がかごの中で音を鳴らして揺れる。

 

「進展ありました? もう一ヶ月経ちましたけど」

「あったら早急に報告するだろ。何の連絡も入っていない。

 ()からも特にこれといった報告はない。今は待て」

「……分かりました」

 

 すると遠くから碧とあまねが近づいていた。

 それを確認した男は、また来ます、と言い残してその場を後にした。

 

 その場に取り残された春樹の表情はやや曇っている。

 その異変に碧とあまねはすぐに気がついた。

 

「どうしたの?」

「……いや、何でもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常134体

B群6体

合計140体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Where was he shooting?

A: The roof of the hospital where he was hospitalized.




交通事故に遭われた方がお亡くなりになった際の手順については、以下のサイトを参考にさせていただきました。

https://onl.la/QzRFE6X

もう第1クールも折り返しです。
きちんと伏線回収出来るように頑張りますので、今後もよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 06 エクソシスト(AN EXORCIST)
Question016 Why is that girl frightened?


第十六話です。
比較的長いです。
よろしくお願いいたします。



【イメージOP】
PEOPLE1 - 銃の部品

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.12.08 15:57 東京都 新宿区 大泉ビル 204号室

 森田奈緒美(なおみ)は雨の日が苦手だった。

 休日に雨が降れば両親と一緒に出かけることが出来なくなる。

 ただでさえ父親の仕事が忙しく、三人一緒になることが中々ないため、一日一日が惜しいからだ。

 

 だから今日が平日で良かったと心から思っている。

 何も用事が無かったため、クラブ活動が終わってすぐに家に帰ってきた。

 母親も仕事で17時頃まで帰って来ないため、雨の音が五月蝿い中、部屋のテレビで刑事ドラマの再放送を観ていた。

 母親が用意しておいてくれた煎餅をバリバリと貪り、推理に脳を働かせる。

 

 

 

 雨の音、テレビの音、煎餅を貪るときに出る音。

 この三つのせいで、彼女が気が付くことはなかった。

 

 何かの気配を感じ、ふと後ろを見る奈緒美。

 見たことのない光景に声も出せない。

 ただ歯軋りをして怯えるだけだ。

 

 

 

 そして、静かに事件は起こった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.08 15:54 東京都 新宿区 SOUP

 数分前。

 春樹たちSOUPの一行は、部屋の外にある駐車場の蛍光灯の照らす長い道路の上にいた。

 春樹と碧が他のメンバーの方を向き、圭吾は自身のパソコンを片手に持っている。

 

「では、只今より、新しいメモリアルカードの試用を行なっていただきます。よろしくお願いします」

「「はい」」

 

 二人はドライバーを腹部に出現させると、各々1枚ずつカードを取り出した。

 碧が取り出したのは、先日手に入れた「STRATEGY EX-AID」のカード。

 一方の春樹が取り出したものには、朝日の前に聳え立つ東京タワーの周りを赤い兜虫が飛行している様子が描かれており、「No.50 SHEEDING KABUTO」と下部に白く印字されている。

 

 それを端末に装填した。

 

『"KABUTO" LOADING』

『"EX-AID" LOADING』

 

 電源ボタンを押す。

 ゲートが出現し、そこから何かが飛び出して来た。

 春樹の後ろからは赤い大きな兜虫が、碧の後ろからは「マイティアクションX」の主人公、マイティが飛び出して来た。

 

 ポーズをとり、試用を始める二文字を放った。

 

「「変身!」」

『『Here we go!』』

 

 端末をドライバーに挿し込んだ。

 素体へと姿を変える二人。

 二人の後ろから飛び出して来たものたちが分解を始めた。

 

「よし……!」

 

 圭吾がパソコンの画面を確認する。

 そこに表示されているのは、言わばアクトとリベードの新しい姿の設計図だ。

 アクトは赤いアーマーが体に装着され、顔の中央からは兜虫のものに似た角が伸びている。

 リベードにはマゼンタのアーマーが着けられたポップな姿で、胸には様々なデータが表示されたモニターが装着されている。そして複眼の上から白いゴーグルのような部品が装着されていた。

 

 いよいよ新しい形態が御目見(おめみえ)する時だ。

 全員が固唾を飲んで見守る中、ついに鎧が装着された。

 

 

 

 だが、想定外の事態というのは、いつでも起こるようだ。

 装着され変身が完了した次の瞬間、突然その上から何かが覆い被さった。

 

 そうして出来上がった姿を見て、全員が絶句した。

 

「な……何じゃこりゃあっ!?」

 

 まずリベードに関しては、胸部にモニターの付いたパーツがあることと、複眼の上から白いゴーグルのようなものが着いていることは設計図通りだ。

 だが着けられた鎧は白く、尚且つその姿は()()()だ。

 

 アクトに関しては、複眼以外のほぼ全てが銀色の鎧で包まれているという、設計図とは全く違う見た目になっていた。

 

「どういうことだ!? 設計図と全く違うじゃないか」

「分かりません。何が何だかさっぱり……」

 

「可愛いーっ!」

「すっごい奇抜な見た目ですね」

 

 圭吾と森田が慌てふためく一方、深月と薫は楽しそうだ。

 おまけに薫はスマートフォンで写真を連写している。だが使っているのがSOUPが支給したものだというのが、薫の真面目さを表している。

 

「ちょっと! そんなに撮らないでっ!」

 

 リベードがふざけて大きな右手で薫の胸を叩く。

 すると叩いたところで、思い出した。

 ライダーシステムは人間の身体能力を何十倍、下手すれば何百倍にも引き上げる。そんな状態で叩いたら、薫の体はただじゃ済まない。

 

 だが

 

「あれ?」

 

 まるで効いていない。薫は自身の身体を触るが、特に異常は無さそうだ。

 

「大丈夫? 痛くない?」

「大丈夫です。ていうか、前より元気かもしれません。

 体から悪いものが抜けていった気がします」

 

「あのすみません。僕もちょっと風邪気味かもしれないので、お願いしても良いですか?」

「え、あ、うん」

 

 先程のように優しく叩いてくれると思った深月。

 だが食らわされたのは、強い蹴りだ。

 

「えぇっ!?」

 

 吹き飛ばされた深月は、蹴られた腹部を押さえながら立ち上がった。

 

「あれ? なんか、治った?」

「え!? すごい!」

 

 三人はわちゃわちゃと新しい能力に喜ぶ。

 だがその他の三人はそうはいかない。

 

「これでは敵を回復させるだけだな」

「ああ。ところで、こっから足が一歩も動かないんだけど、どうすればいい……?」

 

 若干の静寂。

 

 圭吾は見るからに落胆していた。

 この部署に入ってから自身の思った通りにいかなかったことは無い。

 もちろん失敗することは百も承知だ。だがその失敗は、体が2頭身になったり、敵を回復させてしまうような能力であったり、足が一歩も動かなくなったりと、想像の斜め上をいったものだ。

 落胆することは無理もないだろう。

 

 すると森田のスマートフォンが着信音を鳴らした。

 画面を確認して、通話に出る森田。

 

「はい。…………え?」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.08 16:11 東京都 新宿区

 閑静な住宅街の中にある、とあるマンションの前には数台のパトカーが停まっており、近隣住民が何事かと覗き込んでいる。

 そこに2台のバイクと1台の遊撃車が到着した。

 

 バイクから降りた春樹と碧は車の中に乗り込む。

 それと同時に、車の外から機動隊長が報告を始めた。

 

「状況は?」

15時(午後3時)57分に百三十三番の柱の反応を確認し、我々が急行しました。

 その道中、()()()()()()()()()()()通報が」

「班長の娘さんから!?」

「それで、何と?」

 

「『怪物が私の中に入り込んだ』、と」

 

 全員がその言葉を理解出来ず、首を傾げる。

 その中でも森田は気が気でない。

 自分の娘に何かあったのかもしれないのだから、当然のことだろう。

 

「どういうことですか、それ」

「今現在、隊員数名が確認を行なっています」

 

 

 

 すると次の瞬間

 

「うわーっ!」

 

 マンションの方から叫び声が聞こえた。

 春樹と碧が車を降りると、一緒に森田も飛び出して行った。

 

 念の為にドライバーを出現させ、待機する。

 

 聞こえてからすぐにマンションの入り口から、拳銃を構えた数名の隊員が後ろ歩きで出て来た。

 

 そして隊員たちが銃口を向ける標的が姿を見せた。

 それは──

 

 

 

「奈緒美っ!」

「え!?」

 

 そう。森田奈緒美だ。

 だが何かがおかしい。

 

 着ている衣類は緑色で染められており、指先から緑色の液体が出ている。

 その液体が地面に落ちて、コンクリートが音を立てて煙を出すのを、春樹と碧は見逃さなかった。

 

「離れてっ!」

 

 碧の言葉で先程の機動隊員は、別の隊員が盾で作った横長の壁の後ろに隠れる。

 

 すると突然、奈緒美は自身の両腕を交差し大きく開いた。

 緑色の液体が指先から飛び散り、盾に付着した。

 

 その液体は頑丈な盾をドロドロに溶かしていく。

 想定外の攻撃に、隊員たちは退避せざるを得なかった。

 

『あれは見た感じ、強酸性の液体ですね! 当たったら一溜りもないですよ!』

 

 薫の言葉で、全員はあることを思い出した。

 21年前。未確認生命体第四十三号は同じように、爪から白金をも溶かす強酸性の体液を出して、快楽殺人(ゲーム)(いそ)しんでいた。

 最終的には科警研の開発した中和弾によって、体液が中和されて倒された。

 

 

 

「今すぐ科警研から21年前と同じ中和弾を用意してください!」

 

 深月が急いで伝達する。

 だがそれを静止したのは圭吾だった。

 

「待ってください! 相手は一応、人間です。無闇矢鱈に中和弾を打ち込んで、彼女に被害が出たらどうするんですか」

「しかし、このままではいつ誰が被害に遭うか分かりません。絶対に撃たせませんが、用意だけしておきましょう……!」

「……分かりました」

 

 

 

「行くぞ。グアルダ!」

『了解した。只今より、椎名春樹、椎名碧、両名のライダーシステムの使用を許可する』

 

 それぞれ1枚のカードを手に取り、端末にかざす。

 ドライバーが出現したのを確認すると、二人はカードをカードケースから取り出した。

 だがすぐには装填せず、コソコソと何かを話し始めた。

 

「どうする? 人間態を持ったフォルクローではなさそうだし」

「そりゃそうよ。だって班長の娘さんよ」

「お前忘れたのか? 大学生の時に起こった、()()

 

 碧は何も言えなくなってしまう。

 

 「あれ」とは、2013年に未確認生命体が起こした事件だ。

 その事件にはこれまでのものと明らかに違った点が一つあった。

 それは、ナカケンパルプ製造所の社長・中田(なかた)孝市(こういち)、当時の人気アイドル・伽部(ときべ)(りん)(本名・山野(やまの)愛美(まなみ))、そして元国土交通副大臣・郷原(ごうはら)忠幸(ただゆき)の3人の成り済まし、人間社会で暗躍していたことだった。

 伽部と郷原は大衆の認知度が高かったことや、特に郷原は未確認生命体への対処法がまとめられた、通称・マルエム法の改定に携わったことから、世間に大きな衝撃を与えた。

 

「うちの娘に限ってそんなことはない……」

「そうですよね。どうしたら()いか……」

 

 すると遊撃車から着信が入った。

 

『私に考えがあります』

『今、データを送ります』

 

 着信の後、グアルダが突然端末の画面上に姿を現した。

 

『なるほど。ウィザードシェープで使用するアシスタンスカードのようだ。基本的にどんな相手であっても、12時間睡眠状態に出来る』

「よし。それでいこう」

「オッケー!」

 

 碧は取り出したカードをカードケースに戻し、別の一枚を手に取る。

 そして二人はカードを端末に装填した。

 

『"ACT" LOADING』

『"WIZARD" LOADING』

 

 電源ボタンを押し、ポーズを決める。

 

「「変身!」」

『『Here we go!』』

 

 変身すると、二人は奈緒美の方へとゆっくり近づいて行く。

 奈緒美はどうやらパニックを起こしているらしく、息を荒くしている。

 様子のおかしい自分の娘に、森田が後ろから呼びかける。

 

「奈緒美! 今助けてやるからな!」

「お父さん……。助けてっ!」

 

 その時、奈緒美の後ろから、緑色の管のようなものが何本も出てきた。そこから再び液体が噴出される。

 

 それを軽々と避け、リベードは彼女の左手に1枚のカードを持たせる。

 そして端末をドライバーから外し、そのカードを読み取らせた。

 

『"SLEEP" please.』

 

 すると、カードの効果が効いてきたようだ。

 目を閉じたのと同時に、後ろの管がゆっくりと下がっていく。

 

 リベードは彼女を抱き抱え、すぐに機動隊員に受け渡した。

 

『すぐに病院に運んでください。その後、今から送る場所までお願いします』

『了解』

 

 機動隊員によってストレッチャーに運ばれると、その体を何重にもロープで固定される。

 そして救急車に乗せられた。

 その中に森田も入って行く。

 

 サイレンを鳴らしてその場を去って行く救急車を、二人が見送っていたその時だった。

 

 

 

「ねぇ、彼女とはもう遊び終わったの?」

 

 後ろから声がした。

 振り返ると、そこにはラフにジャケットを着こなす1人の青年──クロトが立っていた。

 その腹部には蛍光色に光るドライバーが着けられている。

 

「残念だけど、今は貴方に構っている暇は無いの」

「そうだ。上司のお嬢さんの一大事だ。今日は帰ってくれ」

「なんで〜。少しだけ遊んでよ」

 

 クロトはポケットから1本のガシャットを取り出し、ボタンを押して起動した。

 

『マイティアクションX』

「グレード2。変身」

 

 ガシャットをドライバーに挿し込む。

 

『ガシャット!』

 

 レバーを引くと、目の前に等身大のモニターが現れる。

 それがクロトを通ると、1人の戦士が姿を見せた。

 

『マイティジャンプ! マイティキック! マイティ〜アクショ〜ンX!』

 

 仮面ライダーゲンム アクションゲーマー レベル2と同時に、後ろからソルダードたちが現れた。

 兵隊がコンバットナイフを振り回しながら、静かに二人に向かって来る。

 

「こんなタイミングで……」

「空気読めないよね」

 

 端末を取り外し、別のカードを装填する。

 

『"BLADE" LOADING』

『"GAIM" LOADING』

 

 電源ボタンを押し、端末を挿し込んだ。

 鎧が解かれ、新たな鎧が装着される。

 

『Shut up, Turn up, Slash the undead! Take the joker of your destiny! SPADE BLADE! I’ll fight my destiny and win.』

『Dancing, Compete, Open the crack! I will never forgive you! ORANGE GAIM! It’s time to start my stage.』

 

 アクトはカードケースの前方から1枚のカードを取り出した。

 赤い猪が描かれており、下部には「TACKLE BOAR」と書かれている。

 そのカードを端末の裏側にかざした。

 

『TACKLE』

「おらぁぁっ!」

 

 カードを読み取らせたアクトは、怪人の大群に向かって走り出して行った。

 その物凄い勢いに押され、怪人たちが次々と吹き飛んでいく。そしてあっという間に半分ほどが倒された。

 

「ハァッ!」

 

 一方のリベードは、ディスペルクラッシャー ソードモードと擬似大橙丸を振り回し、次々と斬り裂いていく。

 まるで舞うかのようなその姿は、可憐という言葉が良く似合う。

 

 二人の攻撃により、瞬く間に敵の軍勢は減少。残るはゲンムだけとなった。

 

 するとゲンムは緑色のガシャットを取り出し、そして起動した。

 

『シャカリキスポーツ』

 

 後ろにモニターが出現し、そこから緑色の自転車が現れ、ゲンムの周りを走り始める。

 

「グレード3」

 

 2つ目のスロットにガシャットを挿し込んだ。

 

『ガシャット!』

 

 レバーを展開した。

 自転車は変形をすると、鎧として胸部と頭部に装着される。

 

『マイティジャンプ! マイティキック! マイティ〜アクショ〜ンX! アガッチャ! シャカリキ! シャカリキ! バッドバッド! シャカっとリキっとシャカリキスポーツ!』

 

 スポーツアクションゲーマー レベル3。

 かつて二人が苦戦を強いられた相手が、再び姿を見せた。

 

 

 

 スロットに白いガシャットを装填したガシャコンバグヴァイザー チェンソーモードを右手に装着し振り落とした。

 リベードは2本の刀で避け流していく。

 だがゲンムが武器を振り落とした時には、咄嗟に対抗したが、やはりそのパワーには敵わない。

 

 隙をついてゲンムを蹴り飛ばし、ジャンプをする。

 そしてその勢いで横に回転。その鋭い刃で斬りつけた。

 

 その反動でゲンムは、自身の右手に着いていた武器を失った。

 

 するとゲンムは両肩に着いている車輪に手をかけ、二人の方に投げつけた。

 それをどうにかしようと、リベードはアクトを目の前に持っていく。

 

「おい! 夫を盾にするな!」

「良いからなんとかして!」

 

 夫を盾にしようとしている自分の妻に衝撃を受けながらも、冷静にカードケースから2枚のカードを取り出した。

 

 そのうち、三葉虫の絵が描かれ「METAL TRILOBITE」と印字されているカードを端末にかざした。

 

『METAL』

 

 アクトの全身が銀色に変化する。

 そこにゲンムが投げた車輪が激突した。

 

 だがアクトの体はびくともせず、それどころか車輪は跳ね返され、ゲンムの肩へと戻って行った。

 

 それを確認したリベードはドライバーのプレートを押し込む。

 

『Are you ready?』

 

 端末を下に押し込む。

 そしてゲンムのもとに走って行き、高く跳んだ。

 

「セイハーっ!」

 

 地面に落ちていく勢いを利用して、2本の刀で敵に斬撃を食らわせた。

 

 さらに着地してその場にしゃがみ込むリベードの後ろを、今度はアクトが跳んだ。

 その手に握られている「BEET LION」という文字と、ライオンの絵のあるカードを端末にかざした。

 

『BEET』

 

「はぁっ!」

 

 右手で強烈なパンチを顔面にお見舞いする。

 標的は吹き飛ばされ、そして紫色の粒子となって消滅した。

 

 だが油断大敵だ。

 何せ、敵の最大の能力は復活出来ること(コンティニュー)なのだから。

 

 

 

 すぐに二人の目の前に、紫色の土管が現れた。

 そこから姿を見せたのは、案の定ゲンムだった。

 

「強くなったね。でも、僕も強くなったんだ」

 

 すると目の前からゲンムが消えた。

 

 慌てて辺りを見渡す二人。

 だが時すでに遅しと言ったところだろうか。

 目の前にゲンムが現れ、手元のチェーンソーで二人に攻撃を始めた。

 

「「グァッ……!」」

 

 すぐに応戦しようと、各々が刀を握りしめて斬りつけようとする。

 だが武器を振るったところで、結局敵はそれよりも速く動き、反撃を開始する。

 

 流石に限界が近づいてきたのだろうか。二人とも息が荒くなっている。

 

 ゲンムが傷ついた二人の戦士に向かって、足を走らせる。

 対抗しようとするが、体が思うように動かない。

 思わず身構えたその時の出来事だった。

 

 

 

 ゲンムが突然足を止めた。

 そして顔を左に向け、何かを凝視する。

 

 同じ方向を二人が向くと、マンションのベランダが見える。

 幾つかあるベランダの中の1つに、1人の女性が立っていた。花柄のシャツに白いズボンを履いた年配の女性だ。

 

 女性は雨の日にもかかわらずベランダに出て、目の前に広がる光景を物ともしない様子で眺めている。

 

 すると、ゲンムは一つ溜息を吐いた。

 そして体を再び分解させ、その場を後にした。

 

 女性はアクトとリベードの目線に気がついたのか、慌てて部屋の中に入って行く。

 

 二人は変身を解除する。

 誰もいなくなった濡れたベランダを、春樹と碧はしばらく見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why is that girl frightened?

A: Because her body is parasitized by a monster.




奈緒美ちゃんが観ていた刑事ドラマの再放送は、テレビ朝日で平日のお昼頃にやっているものです。
僕も小学生の頃、帰ってそれを観るのが唯一と言っていいほどの娯楽でした。
今でも学校が終わると必ず観ています。

第1クールも折り返しですよ、もう。
ラストには怒涛の伏線回収をしなければならないという義務のようなものがあるので、頑張ります……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question017 Why did he panic?

第十七話です。
もうすぐ冬休みが終わってしまう……。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.12.08 21:21 東京都 新宿区 SOUP

 SOUPの部屋の中には、メンバー全員がいた。

 全員の洋服は微かに濡れており、表情は暗い。

 

 それもそうだ。

 

 「ハイジャック」と名付けられた新型未確認生命体第三十四号。

 その性質はこれまでのものと全く違うものであり、しかも自身の上司の娘の身体に寄生をし始めたのだから……。

 

「それで、検査結果は?」

 

 春樹が森田に訊く。

 森田はモニターに、人間の上半身を横向きに見たモノクロの画像を表示した。その身体の中では、背中から何本もの管のような異物が上に向かって伸びている。

 

「MRI検査の結果、奈緒美の脊髄に異常なパイプのようなものが絡みついていた。恐らく、これを軸にハイジャックに憑依しているんだろう。

 このまま脳幹に辿り着くと、意識がだけじゃなく呼吸をもコントロールされ命に関わる。早急に切除しないと……」

 

「しかし、この検査結果を見ると、手術とかで切除するのは無理ですよ。脊髄が損傷する可能性がありますから……」

 

 薫が深刻な顔で補足をした。

 

「強酸性の体液によるこれ以上の被害拡大を防ぐために、奈緒美さんは今、大田区の廃工場に移しています。

 経過観察のために機動隊員が見てくれていて、何かあればすぐに連絡がきます」

 

 深月の表情もまた深刻なものだ。

 

 全員が押し黙ってしまい、若干の沈黙が流れる。

 破ったのは、森田だった。

 

「頼む……。娘を救ってくれ……!」

 

 深く頭を下げる森田。

 初めて見るその姿に、他の班員たちは何とも言えなくなってしまう。

 

 白髪の交じる黒髪を、白い灯りが艶やかに照らしていたその時、部屋の中に誰かが入って来た。

 

「調子はどうだ?」

 

 岩田室長だ。

 すると岩田は森田のもとに寄り、その肩に手を置いた。

 

「娘さんのところに行ってあげたらどうだ? 後のことは彼らが何とかしてくれる」

「いや、しかし……」

「行ってあげてください。それが奈緒美さんのためにもなりますから」

「……すまない」

 

 立ち上がった森田は再度頭を下げると、足早に部屋から退出して行った。

 それに続くように岩田も部屋の外に出る。

 すると深月はそれを追いかけた。

 

 

 

「あの!」

 

 エレベーターに向かおうとしている岩田に、深月が部屋のドア付近から大きな声をかけた。

 それに反応して岩田は振り返らずに立ち止まる。

 

「春樹さんと碧さんについて、何か知っているんですか?」

 

 その瞬間、岩田の背中から何か強烈なものを感じた。

 何と言えば良いか検討がつかないが、まるで岩田将吾という人間の、心の底から湧き出てくるマグマのような何か。

 

「君は、何故椎名春樹が常田碧と結婚したのか知っているか?」

「……いえ」

 

「それが、全ての真相だ」

 

 それだけ言い残し、岩田はエレベーターに乗ってその場を後にした。

 

 蛍光灯が照らす暗い道路の上で深月は一人、前を見つめる。

 何も分からず仕舞い。飲み込めるのは自身の唾だけだ。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.08 23:09 東京都 新宿区 SOUP

 部屋の灯りは半分しか点いていない。それもそうだ。

 この後、いつ出動要請が出るか分からない。そのために仮眠室で休養をとっているのだ。

 

 だが圭吾だけは、他の全員が休んでいる間もパソコンに齧り付いている。

 

 すると森田の席のモニターが点き、画面上にグアルダが姿を現した。

 

『まだ作業をしていたのか? 少し休んだらどうだ』

「いえ、もう少しやりたいんです。というより、やらなきゃいけないんです」

 

 キーボードを動かす手が止まる。

 目線は下を向き、苦しそうに声を出す。

 

「……正直、なんか変な感じっていうか……。

 どれだけ科学が進んだとしても、それを凌駕する脅威が現れる。はっきり言って、すっごい疲れるんですよ

 今回も、現代医学ではどうしようもない事例で、対応策も検討がつかない。どうすれば()いんでしょうねっ……!」

 

 顔を両手で覆いながら天を仰ぐ。

 両手を下げて頭を机に置くと、大きな溜息を一つ吐いた。

 

『それはそうだ。そうやって科学は歴史を紡いできたんだ。今焦る必要はない』

 

 圭吾は顔を上げ、モニターを見つめた。

 多少は気持ちが晴れたのか、顔つきが変わっていった。

 

 もう一度パソコンに食らいつく圭吾。

 それを見ると安堵したのか、グアルダはモニター上から姿を消した。

 

 

 

 キーボードを素早く動かし、画面を凝視する。

 そこには今朝のと同じ設計図が表示されており、下部には大量のデータの羅列があった。

 

 だが手を動かして早々、煮詰まってしまったようだ。

 頭を抱えて熟考する。

 何かないか。どうすれば良いか──。

 

 

 

 その時、圭吾はあることを思い出した。

 それは、今朝の実験で深月が言っていたことだ。

 

 

 

 体から悪いものが抜けていった気がします。

 

 

 

 またキーボードを打ち込み、エンターキーを押し込んだ。

 

 そして表示されたものを見た圭吾の顔は、晴れやかなものとなり、両腕を上げてガッツポーズをとった。

 

 

 

 

 

2021.12.08 23:12 東京都 大田区

 廃工場の中には、当然のことながら電気が通っていない。

 そのため、警察の用意してくれた大きな間接照明で照らすしかない。

 だが今は、睡眠をとる者が中にいるため、照明の光は弱くしている。

 

 簡易ベッドの上で寝息を立てる娘の様子を、森田は眺めていた。

 優しい目で少女を見つめ、両手を握りしめる。

 

 そんな中でも少女の背中は緑色に染まっていき、ベッドからこぼれた右手からは緑色の液体が垂れてきた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.09 11:45 東京都 品川区

 大崎駅には都道317号線の上を跨る連絡口がある。その先にある商業施設の2階の大広場に春樹は立っていた。

 まっすぐと前を見据えるその先には、黒装束の兵隊(ソルダート)笑顔の青年(クロト)が立っていた。

 

「あれ? もう一人は?」

「残念だが別件でいない。大人は忙しいんだ」

「ふーん。残念」

 

 するとクロトは白いガシャットの挿さったバグヴァイザー ビームガンモードを右手に装着する。

 そして後ろを向くと、その勢いで大量の光弾を発射。兵隊を殲滅した。

 

「ちょっとイライラしてきたよ。暇つぶしに付き合ってくれないかな」

「上等だ。俺も同僚から頼まれたものがあるから、丁度良い」

 

 春樹とクロトはドライバーを腹部に装着した。

 春樹は1枚のカードを端末に装填。一方のクロトは2本のガシャットを起動した。

 

『"KABUTO" LOADING』

『マイティアクションX』

『シャカリキスポーツ』

 

 二人は各々の動作をし、そして対戦開始のための言葉を発した。

 

「「変身」」

 

『Here we go!』

『ガシャット! ガッチャーン! レベルアップ!』

 

 春樹の体が緑色の素体に変化。赤い鎧が装着されようとするが、やはりその上から銀色の鎧が着けられてしまう。

 クロトの前にゲートが現れ、それがクロトを通過。変身した姿にライムグリーンの鎧が装着された。

 

『Changing, Wearing, Flying away! I’m the justice! SHEDDING KABUTO! Going on the way to the heaven, and rule all.』

『マイティジャンプ! マイティキック! マイティ〜アクショ〜ンX! アガッチャ! シャカリキ! シャカリキ! バッドバッド! シャカっとリキっとシャカリキスポーツ!』

 

 仮面ライダーアクト カブトシェープ。

 仮面ライダーゲンム スポーツアクションゲーマー レベル3。

 

 銀色の戦士と紫と緑の戦士が向かい合ったその時、戦いのゴングは鳴った。

 

 

 

 ゲンムがエネルギー弾を飛ばしながら、アクトに向かって来る。

 対するアクトもディスペルクラッシャー ガンモードで対抗する。

 

 それを物ともせず、バグヴァイザーを変形させ、その刃でアクトに斬りつける。

 だがその硬い体表には全く効かず、びくともしない。

 

 戸惑うゲンムにアクトは左手で重い一撃を食らわせた。

 

「のわぁっ!」

 

 思いっきり吹き飛ばされるゲンム。

 

 立ち上がったゲンムは明らかに苛ついていた。

 右の爪先を動かして、音を鳴らしながら首を回している。

 

 するとゲンムは昨日と同じように、目にも止まらぬ速さで動き始めた。

 アクトの周りを縦横無尽に動き回り、硬い体に次々と斬りつけていく。

 何度も何度も攻撃しているからか、徐々にダメージを与えられ、最後の一撃で今度はアクトが後退した。

 

 

 

「こうなったら、これを使うしかないか……」

「何使うの? 僕を楽しませてくれるんだろうね?」

「……もちろんだ」

 

 アクトはカードケースの前方のスロットから1枚のカードを取り出した。

 そのカードには鎧を脱ぎ捨て、羽を付けた人が天に羽ばたいて行く様子が描かれており、「CAST OFF」と印字されている。

 

 それを端末にかざした。

 

『CAST OFF』

 

 するとアクトに着けられた銀色の鎧が浮き出ていく。

 その中でもゲンムは再び高速で向かって行き、右手の刃を振りかざした──。

 

 

 

 次の瞬間、ゲンムは何かにぶつかった。立ち止まって前を見ると、先程まで銀色の重厚な鎧を身に纏っていた戦士は、赤いシャープな姿に変化していた。その頭部からは兜虫のような赤い角が上っている。

 

『Change to the next shape.』

 

 言わば第二形態。

 真の姿に変身した瞬間だった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.09 11:45 東京都 大田区

 同時刻。廃工場。

 所々破けた天井から覗く日光だけが照らす室内で、碧は少女を見つめていた。なんとか立ち上がったようだが、呼吸は荒くその苦しみに悶えているようだ。

 目は充血し、背中から伸びる管の数は前よりも増えている。

 

「何か解決策が見つかったのか?」

「はい。こうするんです」

 

 すると碧はカードを端末にかざして、ドライバーを出現させた。

 何をするのか皆目見当がつかない森田は、黙ってその様子を見つめる。

 

 

 

 

 

「奈緒美ちゃん。ちょっと一発殴らせてね」

『"EX-AID" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、後ろのゲートからマイティが飛び出し、碧の前に立った。

 コミカルなダンスを踊っている最中、碧はポーズをとって、廃工場中に響く声で叫んだ。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 端末を挿し込んだ。

 青い素体に変身したその上にマイティが分解してできた鎧が装着される。だがやはり白い鎧が着けられ、2頭身の体になった。

 

『Examine, Playing, Level up! I’ll change patient’s destiny! STRATEGY EX-AID! I’ll clear this game with no-continue.』

 

「どういうことだ……!?」

「まぁ、見ててください」

 

 エグゼイドシェープに変身したリベードは、カードケースの前方のスロットから1枚のカードを取り出した。

 様々なメダルの描かれたカードで、「ENEGY ITEM」と印字されている。

 

 そのカードをドライバーに挿し込んでいる端末にかざした。

 

『"ENEGY ITEM"』

 

 すると地面や空中に、チョコブロックのようなものがランダムに出現した。

 寂れた廃工場の中は、まるで「マイティアクションX」のゲーム画面のようになる。

 

 

 

「あああああああ!!」

 

 発狂した奈緒美の背後から管が襲いかかっていたのが、戦闘開始(ゲームスタート)の合図だった。

 それを軽々と避けると、地面にあるチョコブロックを叩き割った。

 中から出てきたのは黄色いメダルだ。

 それを取り込むと、リベードは目にも止まらぬ速さで動き始めた。

 攻撃をする管の大群を潜り抜けて奈緒美のもとへと駆け出して行く。

 

 その時、1本の管が空中のチョコブロックを壊した。

 

「チャンス……!」

 

 急いでそっちの方にジャンプ。中から出てきた赤いメダルを取り込んだ。

 

 そして奈緒美の前に立つと、一応は生身の人間である奈緒美に強烈なパンチを食らわせた。

 

「おい! 何しているんだ!?」

 

 すると突然、奈緒美の身体から()()()()()()()()()()

 それは黒いパーカーを着た白い怪人で、同じように緑色の管が全身から伸びている。

 その瞬間に奈緒美の身体から管は無くなり、意識を失っている。

 

 

 

 そう。これこそ逆転の切り札だ。

 エグゼイドシェープの真の能力は「分離」。有害物質等を安全に処理するための力だったのだと、圭吾はあの時気がついた。

 そして、エグゼイドシェープとカブトシェープにもう1つ能力を付け加えた。

 それは──。

 

 

 

 彼女を森田に預けると、リベードは怪人──ハイジャックに対峙する。

 

「さてと、これを使うか……」

 

 リベードは前方のスロットからもう1枚のカードを取り出した。

 「LEVEL UP」という、2頭身の体が等身大の姿に変わっていく様子が描かれたカードを、端末にかざした。

 

『LEVEL UP』

 

 すると白いアーマーが飛び出し、2頭身だった頃の顔のパーツが背中に装着されると、設計図にあったのと同じ等身大の姿となった。

 

『Being the next level and get high.』

 

 

 

 

 

 第二形態(真の姿への変身)

 それこそ、圭吾の用意したもう1つの能力。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why did he panic?

A: Because he cannot find a way to solve this problem.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question018 How did they solve this problem?

第十八話です。
正直、ちょっと手を抜きました。時間が無かったんです。
すみませんが、読んでいただければと思います。
よろしくお願いいたします。



【イメージED】
米津玄師 - 恥ずかしくってしょうがねえ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.12.09 11:48 東京都 大田区

 ディスペルクラッシャー ソードモードを取り出し、逆手持ちするリベード。

 それに向かってハイジャックは大量の管、というより触手を伸ばしてきた。

 

 湿気で濡れた土の上を走るリベードは、剣を逆手に持つと触手を一本一本斬り裂き、身軽な動きで前に向かって行った。

 

 そして標的まであと一歩の距離まで来たところで、ドライバーに付けられているプレートを押し込む。

 

『Are you ready?』

 

 端末を押し込んだ。

 

『OKAY. "EX-AID" DISPEL STRIKE』

 

 宙空にジャンプ、一回転をして両足で標的に何度も交互にキックをする。

 後退して行くハイジャック。

 そして胸部を両足で一度蹴ると、再度一回転。その右手に持った剣を順手に持ちかえて、相手を一刀両断した。

 

「テリャァァァ!」

 

 爆散するハイジャック。

 辺りに緑色の液体が飛び散り、地面の土から音を立てて煙を吹き出していく。

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 シャッターを切る。端末の中に1枚のカードが現れた。

 電球の中で緑色のラインが入った黒いパーカーが舞っている様子が描かれ、「No.133 HIJACK NECROM」と白く印字されている。

 

 変身を解除すると、遠くで救急車のサイレンが聞こえてきた。

 振り向くと、娘を抱き抱えた上司が出口にゆっくりと向かって行っている。

 

 大きく吐いた息の音は、地面が出す音によって掻き消され、それを聞いた者は誰もいなかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.09 11:48 東京都 品川区

 アクトはカードケースから1枚のカードを出した。

 残像を残しながら移動をする戦士の姿が描かれており、「CLOCK UP」と白く書かれている。

 

 そのカードを端末の裏側にかざした。

 

『CLOCK UP』

 

 ゲンムが弾丸を放つ。

 するとアクトの姿は突然消え、弾丸は後ろの花壇にある一輪の花に当たった。

 

 だがその花はすぐには地面に落ちない。

 それどころか、宙空で舞うこともなく静止していた。

 

 そうではない。

 静止しているかのように見えるほど速く、二人は動いていたのだ。

 

 高速でパンチやキックを繰り出す。

 ゲンムは食らいつくように一発一発を放つが、それをアクトは軽く受け流し、逆に何度も攻撃をして距離をとった。

 

 見るからに苛ついているゲンム。

 バグヴァイザーに無地の白いガシャットを挿し込むと、紫色のガシャットをドライバーの横に付いている、ホルダーのスロットに装填した。

 

『ガシャット! キメワザ!』

 

 それまで以上の速さで迫って来る。

 だがアクトはそれを横目に、焦ることなくドライバーのプレートに手をかけた。

 

『Are you ready?』

 

 端末を押し込んだ。

 するとドライバーから稲妻のようなエネルギーが流れ、角を経由して右足に集まる。

 

『マイティクリティカルストライク!』

『OKAY. "KABUTO" DISPEL STRIKE!』

 

 剣が横一文字に振られた。

 それを真上に跳ぶことで避けると、振られた左手を蹴り飛ばして再度跳躍。

 そして胸部に右足でエネルギーの籠った一撃をお見舞いした。

 

「グハァッ!」

 

 時が再び動いたと言うべきか。花は宙を舞い、地面に落下する。

 強烈な攻撃を食らった者は、紫色の粒子となって消えていった。

 

 地面に着地すると目の前に土管が現れ、そこからジャケットを着た青年(クロト)(しか)めっ(つら)で姿を見せた。

 出てくるや否や溜息を吐いてくる。

 

「ホント、イライラするなぁ」

 

 だがすぐに笑顔を見せる。

 何が何だかと心の中で首を傾げるアクト。

 

「でも、お陰で()()()は手に入れられた。面白くなるから、また遊んでね」

 

 再び粒子となって姿を消した。

 

 変身を解除して春樹の姿に戻る。

 端末を操作して左の耳元に当てると、誰かと通話を始めた。

 

「もしもしお疲れ。どうなった?」

『うん。上手くいったよ』

 

 相手は碧だ。

 声のトーンがいつもと同じように明るいため、ホッと一息吐く春樹。

 

「なら良かった」

『ねぇ、折角だし班長たちと今夜呑みに行こうよ』

「あぁ。そうしよう」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.09 19:08 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう

「えー。皆さん、有難うございました」

「「「「「「うぇーい」」」」」」

 

 ジョッキで乾杯して、飲み物を飲む六人。

 そして各々焼き網で肉を焼き始めた。

 

「まさか第二形態があるとは、想定外でしたね」

「ああ。雨宮君が見つけ出してくれたおかげで、娘も救われた」

「いえいえ。僕は何もしてないですよ」

 

 謙遜をしながらも照れが隠しきれていない。

 そんな圭吾と森田の皿に、深月と碧が焼けた肉を装っていく。

 それを美味しそうに食べていると、酔ってきた薫が大声で独り言を呟いた。

 

「あーあ! 私も早く結婚して、あんな可愛い子供が欲しいなー!」

「うるせぇぞ。だったら婚活しろ」

「やってますよー! でも上手くいかないんですよーっ!」

 

 ジョッキに入ったビールを勢いよく呑む薫。

 何故か春樹は溜息を吐いてしまった。

 

 

 

 そこで深月はふと思い出してしまった。

 

 

 

 君は、何故椎名春樹が常田碧と結婚したのか知っているか?

 

 

 

 春樹と碧は側から見ると、どこにでもいる仲睦まじい夫婦だ。

 だが3ヶ月近くこの二人と一緒にいて気がついた。

 

 この二人は、ただの仲睦まじい夫婦ではない。

 確かに碧が春樹を見る目はキラキラと輝いている。所謂「ゾッコン」と言うやつだ。

 碧を見る時の春樹の目にも確かに輝きがあるが、碧ほどではない。

 本人の性格上、そこまで表に出さないのもあるだろうが、そういうわけでもなさそうだ。

 

 試しに訊いてみるとしよう。

 

 

 

「因みに、春樹さんと碧さんはどうして結婚したんですか?」

「確かに、聞いたことないですね。お二人の馴れ初め」

「どうしたらこんなイケメンな男と出会えるんですか、碧さーん!」

「五月蝿いぞ橘田君」

 

 話始めたのは碧からだった。

 明らかにニヤついているのは、お酒のせいだけではないだろう。

 

「あのねぇ、大学2年生の時に出会ったのよ。

 大学の図書室でずっと本読んでいたのね。それで気になって声かけて、そっから付き合うようになって、それで去年の3月7日に結婚したの……!」

「因みにどこが好きなんですか?」

「ん? 全部」

 

 何故か起こる拍手。

 そして他のメンバーが期待の目を向けるのは、惚気る妻の亭主だ。

 面倒くさそうに溜息を一つ吐いて言った。

 

「俺は……。何だったっけな。忘れた」

 

 逆に今度は野次が個室の中に響く。

 それに対して春樹は笑って誤魔化そうとする。

 

 だが、その目が笑っていないのを、深月は見逃していなかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 大きな部屋の暗い室内で、カタカタと音が聞こえる。

 クロトは椅子に座って、パソコンに目をやっていた。パソコンには何かの機械が接続されており、そこに白いガシャットが挿さっている。

 その様子をアールたち三人が後ろから眺めている。

 

「ねぇ、何してるの? 帰って来てからずっとあんな様子だけど」

「なんか、()()()()()作ってるんですって」

「へぇ」

「それで、あんなにパソコンに齧り付いているわけですか……」

 

 そしてエンターキーを押すと、ガシャットを取り出して思わず立ち上がった。

 突然の行動に驚く三人。

 その顔はこれまで以上に喜びに溢れ、荒い息が口から漏れている。

 

「やっぱり……僕は天才だ……!」

 

 白いガシャットのボタンを押して起動する。

 前に現れたモニターに表示されるのは、ガスマスクのようなものを着けた白い戦士。

 そして禍々しい文字で記されたそのタイトルは──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DANGEROUS ZOMBIE

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.09 19:46 東京都 新宿区 SOUP

 SOUPにある室長室の中で、岩田はパソコンと睨み合いをしていた。

 ひと段落ついたのか、手を止めてコーヒーを飲む。

 

 すると、パソコンに一件のメールが入った。

 何かと確認をする岩田。

 

 しばらく見ていた岩田は、メールを見るや否や左手に持っていたマグカップを落としてしまった。落ちたカップからコーヒーが零れ落ちていく。

 そしてすぐさま固定電話で電話をかけ始めた。

 

「森田か? 緊急事態だ。すぐさま戻ってきてくれ」

 

 通話を切った岩田は頭を抱えて、溜息を一つ吐いた。

 再度メールを確認する。

 そのメールには、こう書かれていた。

 

 

 

 

 

We've succeeded to produce MEMORIAL CARDs ourselves.

We'll bring them to you tomorrow.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常133体

B群6体

合計139体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How did they solve this problem?

A: To be the next shape.




一応、第1クールはEPISODE12で終わる予定です。
学期末までには書き上げたいなぁ。
どうぞお付き合いください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 07 蝿が翔ぶ時(WHEN A FLY FLIES)
Question019 Why is he in high spirits?


第十九話です。
EPISODE07ではアクトの、EPISODE08ではリベードの強化形態が登場します。
乞うご期待ください。
それから、今回より後書きに参考文献を記載いたします。
たった一話を書くのに、これだけ見ているんだなぁと思っていただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。



【イメージOP】
PEOPLE1 - 銃の部品

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.12.10 10:27 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 授業と授業の間にある休み時間。だがあまねが休み時間を過ごしているのは教室ではない。自宅の自室だ。

 

 学校がフォルクローとの戦いでボロボロになってしまったため、オンラインで授業を行わざるを得なくなったのだ。

 とは言え授業は時間通りに進んで行くため、気休めを出来るのはこの時間たちだけだ。

 

 そんな束の間の休息の中で、あまねは日菜太に電話をかけていた。

 

「ねぇ。今日の放課後、お店に寄っても()い?」

『もちろん良いよ。お父さんとお母さんも一緒?』

「ううん。私一人。今日は二人とも、大事な仕事があるらしいんだ」

『へぇ……』

 

 日菜太からの応答が無くなった。恐らく何かを考え始めたのだろう。

 椅子に座りながら本を読んでいたあまねは一先ず釘を刺しておく。

 

「何ニヤニヤしてるの?」

『に、ニヤニヤなんてしてないよ!』

 

 突如として慌て始める日菜太。まさかとは思うが、電話越しに表情が読み取られたからではないだろうか。

 だがあまねは満更でもない様子だ。

 

 そろそろ時間になりそうなので、あまねは通話を切って授業に戻って行く。

 耳にかかった髪をかき上げようと右手が髪の毛に触れた時、ふと耳に触れた。

 仄かに熱い。

 

 まさか。

 

 気がつけばパソコンの画面が切り替わり、授業が始まってしまった。

 それに気がついたのは、あまねが自身の呼吸を忘れていることに気がついた時だった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.10 10:38 東京都 千代田区 永田町 首相官邸 2階 小ホール

 首相官邸は和をモチーフにした空間となっている。竹林の美しい中庭。目の前に緑の広がるホワイエ。

 その中でも、2階にある小ホールは静かに和を体現している。大ホールが光の壁や桜の絨毯で鮮やかになっているからであろう。2階には特にそういった類のものはないため、やや暗い印象があるからだろうか。

 

 今、室内には円卓の周りに椅子が8脚並べられており、そのうちの四つにSOUPのメンバーは座っていた。

 

 森田は腕を組んで静かに待ち、深月はパソコンで何かを確認している。

 圭吾と薫は二人ともスマートフォンをいじっていたが、見ていたものは全く違かった。薫がイギリスの生物学者が書いた海牛に関する論文を読んでいるのに対し、圭吾はワイヤレスイヤホンを両耳に着け、インターネットTVでアニメの一挙放送を観ている。

 

 その中に春樹と碧の姿はない。

 いつもであれば、春樹はスマートフォンでゲームをし、碧は後ろの方で軽く筋トレをしているはずだが、部屋の中に二人はいない。

 

 この状況を説明するためには、時を13時間程前に戻さなければならない。

 

 

 

 

 

2021.12.09 19:58 東京都 新宿区 SOUP

「それはつまり、米国が()()()()()()()()()()()()()()()()、ということですか?」

「そうだ。明日、向こうの研究所から使いが来る。首相官邸の2階にある小ホールで受け渡しの予定だ」

 

 飲み会の最中、岩田に呼び出された一同。

 酔っ払って千鳥足の薫を支えながら着いて、聞かされたことがこれだ。

 流石の薫も一気に酔いが覚めたようだ。

 

「そもそも、メモリアルカードって作成とか複製って可能なんですか?」

 

 深月が全員に訊いてみる。

 答えたのは圭吾と薫だった。

 

「無理無理。データ化こそなんとか出来るけど、複製するにはロックを解除する必要があって、1枚だけでも解除するのにスパコンでも90年以上はかかるんだよ」

「だから僕が解析しても、本物のデータじゃない、それらしきものしか知ることが出来ない。本物のデータは僕たちが知る(よし)も無い、未知の領域なんですよ」

 

「じゃあコピーも出来ないそんな難解なものを、どうやって新しく作り出したっていうんですか?」

「第一、技術的なことは差し置いても誰が頼んだ? メモリアルカードの存在は、俺たちSOUPの人間しか知らないトップ・シークレットの一つだろ」

 

 春樹の言う通り、確かにフォルクローと仮面ライダーの存在こそ公表しているが、メモリアルカードのことは一切公表されていない。

 そのため、知っているのは春樹たちSOUPのメンバーと、政府の高官たちしか知らないはずだ。

 だがどうして……?

 

 

 

「依頼したのは私だ」

 

 春樹と碧の質問に答えたのは岩田だった。

 

「強力になっていくフォルクローに対抗するために、米国を始めフランス、ドイツ、ロシアの研究室に極秘で依頼した。

 最も構造がシンプルなアクトとリベードのカードを基に製作を依頼したが、どうやら米国の研究所に協力者が現れたらしい。

 まさか完成されるとは、夢にも思っていなかった……」

 

 岩田の声には静かな中に響めきがあった。

 聞いたことのない声に押し黙ってしまう全員。

 

「椎名夫妻には、研究員たちが乗る車の護衛に当たってもらいたい。万が一フォルクローが攻めて来る場合もあるからな」

「「了解」」

 

 これで話は終わり、全員が荷物をまとめ始めた時、今度は岩田が質問を投げかけた。

 

「ところで、ヒュージルーフの解析はどうだ? 順調か?」

「ええ。しかも、もう全部分かったも同然です」

「? どういうことだ?」

 

 森田の言葉に驚く岩田の前で、圭吾は再び席に着くと、パソコンを操作し始めた。

 すると森田の席の隣にあるモニターに何枚かの写真が表示された。

 それはヒュージルーフの屋根や柱を撮ったものだ。柱が光ったものや赤いカーテンが垂れる様子を撮したものもある。

 

「もっと早く気が付くべきでしたが、アールが現れた時にようやく分かりました。

 ヒュージルーフはただフォルクローを感知するための装置じゃない。その根幹は、フォルクローを出現させるための、言わば『次元転移システム』だったんです!

 恐らく、フォルクローはアールたちのいる世界から、あの屋根を通してこちらの世界に移動しているんだと思います」

 

「だから屋根のある東京23区にしか出現しないのか……」

 

「ただ撤去方法に関しては、全く検討がつかないですね。

 まずサンプルを取ろうとしても、あまりにも硬すぎてチェーンソーでも切れませんでした。

 それにもしバラしたとしても、埋め立てる場所は無いですし、爆破するにしても1000万人以上を非難させることは、現実的に考えて不可能です」

 

 再び沈黙の流れる室内。

 何故か白い蛍光灯が暗く見えてきた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.10 10:40 東京都 港区

 都道415号線の上を黒いレクサスが走る。

 その前では春樹の、後ろにはリベードのアクトチェイサーが走っていた。

 

 羽田空港から都心環状線に乗り、飯倉で下りたため、もう少しで首相官邸に到着する。

 ここまで特に変わったことはない。通常そのものだ。

 

 

 

 ここまでは、の話だが。

 

 

 

 もうまもなく都道412号線との合流というところで、何者かが前に立ったのだ。

 慌てて道路脇に止まる3台の乗り物。

 

 そこに立っていたのはジャケットを着た青年、クロトだった。

 

 ヘルメットを取ってクロトと対峙する春樹と碧。

 

「何しに来た? 今日も俺たちは忙しいんだ」

「だろうね。なんか面白そうなことを今日するんでしょ?」

「!? 何でそれを知っているの?」

「さぁ。でも、何があるかは知らないし、僕は君たちと遊べればそれで良いんだ」

「……。場所を変えようか」

 

 

 

 レクサスの中には、万が一に備えて護衛が3人乗車している。

 彼らに警護を任せ、春樹たち三人は近くにある駐車場に場所を移した。

 

『彼らはどうする?』

「俺らを置いて先に官邸に向かうように言ってある。聞いた限りでは何を運んでいるのか全く分かっていないから、襲われる問題は無いだろう」

「それに、私たちが遊べばどうせ帰ってくれる。だから少しばかり付き合って早く帰らないと。深月くんの通訳を担当されてるからね」

『了解した』

 

 春樹と碧は端末を使って腹部にドライバーを出現させる。

 そして端末にカードを装填した。

 

『"FIZE" LOADING』

『"DRIVE" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、各々のアーマーたちが出現する。

 赤いスポーツカーは駐車場を走り回り、銀色の鮫は体を使って跳ね回る。

 その中で二人はポーズをとり、そして叫んだ。

 

「「変身!」」

『『Here we go!』』

 

 素体に変身すると、その体には鎧が着けられていく。

 そして二人の戦士が参上した。

 

『Given, Stolen, Fight for somebody! Open your eyes for the next! GUARD FIZE! Standing by complete.』

『Running, Searching, Exchange! Start your engine! DRIVING DRIVE! Will you drive with me?』

 

「君たちに一つ、見せたいものがあるんだ」

「「?」」

 

 するとクロトはバグヴァイザーをグリップの付いていない状態──パッドモードと黒いバックルを取り出し、それらを一つにまとめた。

 そして自身の腹部に装着するとベルトが巻かれ、新たなドライバー──バグルドライバーが現れた。

 

 ポケットから1本のガシャットを取り出す。ガスマスクを着けた戦士が描かれた白いガシャットだ。

 そのガシャットの起動ボタンを押した。

 

 

 

『デンジャラスゾンビ』

 

 後ろにモニターが現れた。ガシャットに描かれたのと同じものが表示され、「DANGEROUS ZOMBIE」と毒々しい文字もともにある。

 ガシャットを持った右腕を肩の高さまで挙げ、右手を裏返す。

 そして発した。次のゲームを遊ぶための言葉を。

 

 

 

「グレード(テン)。変身」

 

 ガシャットをスロットに挿し込む。

 

『ガシャット!』

 

 左手の親指で、ドライバーの上部にある赤いボタンを押し込んだ。

 

『バグルアップ!』

 

 目の前に白いゲートが黒い煙を撒き散らしながら現れた。

 それら二つがクロトの姿を完全に覆ってしまう。

 

 だがヤツは、そのゲートを破って姿を見せた。

 現れたのはただのゲンムではない。

 ガシャットやモニターに描いてあったように、白い装飾が大量に着けられた姿で、胸のモニターに表示されているゲージは全く無い。

 

『デンジャー! デンジャー! ジェノサイド! デス・ザ・クライシス! デンジャラスゾンビ! Woooo!!』

 

 仮面ライダーゲンム ゾンビゲーマー レベル(10)

 「ゾンビ」の名のもとに相応しい力を宿した、禍々しい戦士が誕生した瞬間だった。

 

 

 

「ますますアメコミっぽくなったな……」

「ね。昔映画でああいうの見たことあるんだけど」

 

 奇怪な動きを続けるゲンム。だがその動きが治まると、ピタリと動かなくなる。

 

 若干の疑問を抱きつつも、チャンスとばかりに二人は武器を取り出す。

 アクトはディスペルクラッシャー ライフルモードで標的を撃った。

 

『CHECK』

 

 ゲンムの体に赤いマーカーが刺される。

 アクトはライフルを投げ捨て、ドライバーのプレートを押し込む。

 同じくリベードもプレートを押し込んだ。

 

『『Are you ready?』』

 

 端末を押した。

 

 リベードの体からスポーツカーが分離。周囲を走り回る。

 二人は上空にジャンプ。アクトは前から、リベードはスポーツカーを蹴って後ろから強烈なキックをお見舞いした。

 

 その衝撃でゲンムの上半身は吹き飛び、その場には下半身だけが残っている。

 

「やったか?」

 

 後ろを振り向いた二人。

 これで1つライフが削れたはず。

 そう思った。

 

 

 

 だが、現実は時に想像を凌駕するようだ。

 

 ゲンムの上半身がみるみるうちに修復されていくではないか。

 肩を押さえて首を回して、何事も無かったかのように立っている。

 

「最高だよ……! これが新しい力か……!」

「……どういうこと?」

 

 困惑する二人。

 その間でゲンムは仮面の下で高らかに笑う。

 

「この『デンジャラスゾンビ』の最大の能力は『不死身』。

 例えどんな攻撃を与えられたとしても、このガシャットがある限り、僕がライフを削られることは二度と無い」

「そんな馬鹿な……」

 

 

 

 今度はゲンムが仕掛けた。

 ゲンムはドライバーのAボタンとBボタンを同時に押した。

 そして再度Bボタンを押した。

 

『クリティカル・デッド!』

 

 するとアクトとリベードに、夥しい黒い幻影がまとわりついていく。

 なんとか引き剥がそうとするが、数が増大過ぎて対処のしようがない。

 

 完全に姿が見えなくなったとき、幻影たちは一気に爆発した。

 

「「グアアアッ!」」

 

 変身が強制的に解除される。

 想定外の能力だ。脳よりも先にその体がその強さを分かったような感覚だ。

 

 倒れ込んだ二人を確認した化け物(ゲンム)が次の行動を起こそうとしたその時、ゲンムの身体から白い煙が上がった。

 苦しんだ様子を見せるゲンム。

 

「やっぱりまだ未完成の状態か……。今日のところはこのくらいにしておくよ。じゃあね」

 

 紫色の粒子となってその場を立ち去ったゲンム。

 宙空には微かに白い煙が上り、そして消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why is he in high spirits?

A: Because he got a new force. Name of that force is DANGEROUS ZOMBIE.




【参考】
「仮面ライダーエグゼイド」第12話『クリスマス特別編 狙われた白銀のXmas!』
(脚本:高橋悠也, 監督:山口恭平, 2016年12月25日放送)
東京の過去の天気 2021年12月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20211200/)
1階・2階|首相官邸ホームページ
(https://www.kantei.go.jp/jp/guide/guide02.html)
公用車とは?センチュリーやテスラなど、都知事や首相、全国47都道府県の車種|2022最新情報
(https://car-moby.jp/article/car-life/useful-information/official-car/)
変身ベルト DXバグルドライバー|仮面ライダーおもちゃウェブ
(https://toy.bandai.co.jp/series/rider/item/detail/4891/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question020 What was the transaction that was suggested by this man like?

第二十話です。
今回、前半はほぼ全て会話文です。しかもほとんど英語です。
読みにくいかもしれませんが、よろしくお願いいたします。

因みにEric Conrad McCarthyという名前は、後書きに記載した「欧羅巴人名録」というサイトのランダムに名前を決める機能で作成しました。
後、英語文はほとんど自力ですが、確認のためにGoogle翻訳を使っています。
実際にはこんな名前は無いし、文法的に違ったりするかもしれませんが、その時は無礼講ということでよろしくお願いします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.12.10 11:09 東京都 千代田区 永田町 首相官邸 2階 小ホール

 春樹と碧が着いた頃には、新しいカードの入ったアタッシュケースの受け渡しが完了していた。

 その後、カードを運搬した米国・サンフランシスコ国立情報研究所のEric Conrad McCarthy(エリック・コンラッド・マッカーシー)研究員との会食が同部屋にて行われた。

 ここまでゲンムの襲来以外では何もトラブルは無い。ただ強いて一つ挙げるとすれば、この場で深月だけが英語を話せないということだろうか。完全に話せないというわけではないが、何しろ相手は研究員だ。専門的な用語までは解らない。そこで流暢な碧に通訳を頼んだというわけだ。

 

 今、円卓の上には色とりどりの具材が入ったお弁当が並べられている。エリック研究員は慣れない手つきで箸を進めながら、圭吾と薫と会話を始めた。

 

「So, how's HUGE ROOF analysis going?」

「It's going alright. We found that it's a device with dimentional transition system, too, not to with only a system for sensing VOLKLOW. So we'll only to find how to remove it.」

 

「Then we'll have to unravel what kind of living things VOLKLOW is, because we've never found how that creatures have borned, and how have been to wear strange force.」

 

 一応なんとか聞き取れ、意味まで理解したが自信は無い。

 碧が耳元で言う翻訳が自分の解釈とあっていたので、深月はホッとする。

 

 深月の隣では、春樹がつまらなそうな顔をしながら海老を口の中に運ぶ。

 春樹の目の前にいるエリック研究員は、鮪の刺身に山葵を付けて食べる。だが山葵は食べ慣れていなかったのだろう。辛さに咳き込みながら悶絶し、コップに入った水を一気に飲み干した。

 

「Okay, I’m totally changing the topic now, but I was wondering that I'm impressed with information regulation for SNS in US.」

「I'm with you. Because information about VOLKLOW was found out by someone's tweet.」

 

 自虐的に笑う森田。釣られて岩田とエリック研究員も笑みを浮かべる。

 

「I don't know about that because I'm not umprofessional. I think maybe people in US cannot tweet because of fear by the government.」

 

 

 

 おぼつかない箸使いで焼き鮭を摘んだその時、今度は深月が話を切り出した。

 

「あの」

「?」

「そちらに来た、協力者って誰なんですか? 複製も出来ないものを一から作り上げるには、相当な技術力が必要だと思うんですけど……」

 

 碧が深月の発言を通訳する。

 それらを聞いたところで、エリック研究員は箸を持った右手を、口の前で止めて答えた。

 

「I can't tell you about him. On the contrary, I don't know his name etc. at all.」

「Him? Is the engineer male?」

 

「Yes. He is a very talented……like such as, your father, older brother, and you.」

 

 エリック研究員が碧を指差したその時、何か鋭いものが空を切った。

 1膳の箸が壁に刺さる。

 

 再度前を向くと、春樹が物凄い剣幕でエリック研究員を見つめていた。

 

 鋭く見つめるその目に、SOUPのメンバーは見覚えがあった。

 初めてクロトが現れ碧が傷つけられた時、クロトに同じような目線を送っていた。

 何故、彼は今同じものを送っているのか。

 ただ失踪した父と兄の話をしているだけなのに……。

 

「Sorry. For some reason, my words were enough to make him very angry.」

「No problem. Maybe he's a quick temper.」

 

 Maybe(多分)

 つまり、妻である碧もそれ相応に困惑しているということだろうか。

 恐らく、エリック研究員の次に。

 

 

 

「お取り込み中すみません」

 

 声が聞こえた。

 SOUPのメンバーにはその声に聞き覚えがあったため、驚きすぐに声の方を向いた。

 

「お前ら……!」

 

 やはり立っていたのはアール、フロワ、ピカロの三人だった。

 セキュリティの頑丈な首相官邸に入るには、やはり次元転移システムを使ったのだろうか。

 だとしたら、かなり恐ろしい輩だ。

 

「Hah!? Who are you? How did he go in here?」

「Sorry. I'll make you asleep to be quiet.」

「And I'll take your sashimis in the lunchbox.」

 

 フロワがエリック研究員の顔に手のひらを向けると、突然目が重くなってきた。

 そうして倒れ込んでしまう。

 

「エリックさん!」

 

 岩田がエリック研究員の元に行き、呼吸等を確認する。

 

「大丈夫。気を失っているだけだから」

「そうそう。2日すれば目を覚ますよ」

 

 二人はエリック研究員が手をつけていた弁当箱の中を物色し始めた。

 フロワは切り干し大根に、ピカロはスモークサーモンを頬張り、その美味しさに幸せそうな声を上げる。

 

「一体、何しに来たんですか?」

 深月が恐る恐る訊いた。

 

「実は、取引をしようかと思いまして」

「取引? 何のだ?」

「えぇ。二人とも、お願い」

 

 するとフロワとピカロは春樹のもとへ来た。

 フロワがいきなり腹部を蹴りつけると、ポケットから端末が落ちる。

 それをピカロが手に取って、アールにオーバースローで投げた。

 

 キャッチしたアールは何処かからアタッシュケースを取り出した。

 表面は透明になっており、そこから見えるのは20個の独特な絵柄だ。

 

「我々としては、その中に入っているものが欲しい。

 そこで、貴方方が今受け取ったカードたちと、我々が持っているうちの20枚のメモリアルカード。そして春樹君の端末を交換。

 そういうことで、いかがでしょうか?」

 

 アタッシュケースの表面を見せるアール。

 その中に入っていたカードは以下の通りだ。

 

 No.019 REVERSE RYUGA

 No.025 EARTH ORGA

 No.030 SABER GLAIVE

 No.031 SPEAR LANCE

 No.045 HATED KABUKI

 No.061 DEPENDANCE DEN-O

 No.063 CRUNCH GAOH

 No.073 REVIVER ARK

 No.081 CONK SKULL

 No.082 EXIST ETERNAL

 No.086 EXPEND BIRTH

 No.092 FALLING NADESHIKO

 No.098 MAYOR SORCERER

 No.102 MELON ZANGETSU

 No.112 APPLE MARS

 No.126 SON DARK DRIVE

 No.136 HUNDRED EXTREMER

 No.145 MONITOR POPPY

 No.156 ABSORB BLOOD

 No.163 BLACK BARLCKXS

 

「そんなことが現実的に可能だと思っているんですか?」

「多分、私たちは応じませんよ」

 

 圭吾と薫の言葉に、アールは人差し指を振って言葉を続ける。

 

「そうでしょうね。一応我々の扱いはきっとテロリストですから。

 もし取引に応じれば、日本は()()、テロに屈したことになる。

 しかも今回は人命が天秤にかけられていない」

 

 

 

 1977年9月28日に日本赤軍によって起こされた「ダッカ日航機ハイジャック事件」。

 乗客乗員151名を救出するために、当時の福田赳夫内閣は10月1日に超法規的措置として、身代金600万ドルの受け渡しと刑務所に収監されていたメンバー9人の解放を行った。

 いくら人命がかかっているとはいえ、テロリストたちに屈したとも取れる対応には、国内外から賛否の声が相次いだのは言うまでも無い。

 

 今回に関しては、人命が全くかけられていない。もし要求を飲めば、なんて仮定の話をするまでもないのは当然のことだ。

 

「明日また来ます。返答を楽しみにしていますよ」

 

 先にフロワとピカロがアタッシュケースを持って、その場を後にする。

 続けてアールも消えようとしたが、何かを思い出したようで、ジャケットのポケットの中を探し始めた。

 

「そうだ。これは前金です」

 

 机上に置かれたのは2枚のカードだった。

 1枚にはベルゼバブという禍々しい蝿の王が描かれており、「No.074 DESTROY DECADE」と白く印字されている。

 もう1枚には時計の山の上で、ティラノサウルスの化石が咆哮を上げる様子が描かれ、下部には「No.158 KING ZI-O」と書かれている。

 

「では、これで」

 

 残された者たちは、机上に残されたカードと、受け取ったアタッシュケースを見つめ、静かに立ち尽くしていた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.10 14:51 東京都 新宿区 SOUP

 本部に戻ってきた一同。

 全員が当然のように頭を悩ませていた。

 

 もちろん、要求に応じるつもりはない。

 だが、端末が1つ奪われているということは、戦力が半減してしまうということだ。何とか取り返さなければならない。

 そのため、揺らぎが生じていたのだ。

 

「そもそも、どうやってカードが輸送されることを知ったんでしょうね?」

「確かに。カードが輸送されることは、俺たちしか知らなかったはずだ」

「でも、彼らは中身がカードだって一度も言わなかった。恐らく、中身がカードだと知らず、何かが輸送されるということしか知らなかった……?」

 

 深月、春樹、碧の三人が悩んで頭を抱える。

 森田も対応に頭を悩ませる中、圭吾と薫はパソコンの画面に齧り付いている。

 話を切り出したのは、圭吾だった。

 

「カードの解析が終わりました。正直、このまま使っても使い物にならないですよ」

「? どういうことだ?」

「辛うじてアシスタンスカードのデータは起こせましたけど、データ量が大きすぎて使おうとしても処理し切れないと思います。

 何かでそれを簡素化しないと……。使っても体に負担がかかるかと思います」

 

「後、クロトが新しく使ったアイテムを見てふと思ったんです。どうやってあれを作り出したんだろう、って。

 これはあくまで仮説ですが、生体の一部を使って精製しているんじゃないかと」

「つまり、誰かが作り出しているわけではなく、自分自身の身体からできていると」

「ええ。もし人型のフォルクローが他にもいるとしたら、同じようなことが出来ると思います」

 

 深まる謎に全員が頭を抱えた。

 自身の身体からものを作り出すことは、生物界においてあり得ないことだ。

 しかも、その性能は人間の作り出したものを優に超えてくるとは……。

 

 

 

「どうする? 明日の9時に取引だ。渡すか否か、今日中に決めないとな……」

「もしこれを渡した場合、どうなるんですかね?」

「悪用されるのがオチだろ。ただでさえ1体倒すだけでも大変なのに、もっと大変になる」

「ですよね……」

 

 深月の問いは言語道断の愚問だった。

 今度は圭吾が質問する。

 

「じゃあ、渡さなかった場合は?」

「それは分からない。きっと攻撃されるだろうし、奪われた春樹の端末は戻って来ない」

「それに、もしクロトとの戦闘になったらかなり厄介です。ただでさえ強いのに、碧さん一人でだなんて……」

「そうか……」

 

 すると春樹が手を挙げた。

 そして言葉を紡いだ。

 

「詳細は敢えて話さない。というか話せない。けど、これしか方法は無い」

「? 何だ?」

 

 

 

「……。そうか。それが我々の選択か」

「……。どうする? これで行くか?」

 

「行きますか……」

「行きましょう!」

「やるしかないですよね」

「そうそう。やってやろう」

 

 全員がそれぞれの手を重ね合わせる。

 そして気の抜けた言葉を呟き、心は一つとなった。

 

「「「「「「うぇーい」」」」」」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.11 09:00 東京都 千代田区 皇居前広場

 枯れた葉と青い空が囲むこの場所で、コートを着た者たちと異形のものたちが向かい合っていた。

 アール、フロワ、ピカロ、クロト、そしてソルダードたちの前に立つSOUPのメンバーは、誰もアタッシュケースを持っていなかった。

 

「どういうことですか?」

「交渉は決裂だ。例え何があっても、この国がテロに屈することは無い」

「……。それが貴方方の答えですか……。分かりました。クロト、後は頼みます」

 

 クロトが前に出ると、それと同時に何故か春樹が前に出た。

 交渉は決裂させる、ということしか教えられていなかったメンバーたちは困惑する。

 

「え、ちょっと……。何するつもり?」

「碧。お前の端末を貸してくれ」

「え?」

「いいから早く」

 

 その時、碧は何かに気がついたようで、目を見開いて驚く。

 

「まさか、こんな人前で()()をやるの?」

「背に腹は変えられないだろ」

「……分かった」

 

 碧は春樹に自身の端末を手渡す。

 するとクロトはバグルドライバーを装着。ガシャットを起動した。

 

『デンジャラスゾンビ』

「グレード(テン)。変身」

 

 ガシャットをドライバーのスロットに挿し、そしてボタンを押した。

 

『ガシャット! バグルアップ!』

 

 ゲートと黒い霧が出てきた。

 姿の見えなくなったクロトはそれを突き破り、異形のゲンムとなって姿を見せた。

 

 

 

 春樹は端末にカードをかざした。

 

『ACT DRIVER』

 

 腹部にドライバーが出現したのを確認すると、端末にもう1枚のカードを装填した。

 

『"ACT" LOADING』

 

 電源ボタンを押す。軽快な音楽と共に、ゲートから鎧が現れた。

 その前で春樹はポーズをとり、挙げた右手を裏返してそして叫んだ。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 ドライバーに端末を挿し込むと、身体が緑色の素体へと変化。そこに銀色の鎧が装着され、アクトへと変身した。

 

 互いに見つめ合う二人。

 異形の者たちは仮面の下でどんな表情をしているのだろう。

 

 考える間も無く、二人は駆け出して行った。

 

 

 

 ゲンムは2本の鎌──ガシャコンスパロー 鎌モードを取り出した。

 2つの刃がアクトの剣を襲う。

 

 ただ単に不死身の力が加わっただけではないようだ。

 手応えが全く無い。

 

 その最中、アクトはゲンムに問いかけた。

 

「素朴な疑問なんだけどさ、お前何で戦うんだ?」

「え? 僕はただ遊びたいだけだよ。意味なんてない」

「へぇ。因みに今、楽しいか?」

「……。全然」

 

 なんとかアクトは相手の鎌を払い、白い体に斬りつけたが、全くダメージを与えられない。

 それどころか左手で刃を持たれ、蹴飛ばされてしまった。

 

「グッ……!」

 

 ゲンムはドライバーからガシャットを外すと、鎌のうちの1本にあるスロットに装填した。

 

『ガシャット! キメワザ!』

 

 2つの刃に徐々に白と紫のエネルギーが溜まっていく。

 そしてここぞという時に振った。

 

『デンジャラスクリティカルフィニッシュ!』

 

 白と紫、2つの斬撃がアクトを容赦なく襲った。

 

「グアアアアッ!」

 

 強制的に変身が解除される。

 衝撃で吹き飛ばされ、倒れ込んでしまった。

 

「つまらないなぁ……。もっと面白くしてよ」

 

 いかにも退屈そうに呟くゲンム。

 それもそうだ。

 目の前にいる男は、これまでに何度も自分に立ち向かい、そして勝ってきた。

 ライフが一つ削れていく度に、自分よりも強い者と戦えるという最高の快楽に身を投じることが出来た。

 

 強すぎる故の悩み。

 それに耽っていたその時だった。

 

 

 

 

 

「じゃあ、もっと面白くしてやろうか?」

 

 倒れていた春樹が立ち上がった。

 おぼつかない足取りで2歩程進むと、1枚のカードを取り出した。

 

 それは、アールが手渡してきた「DESTROY DECADE」のカード。

 

 その場にいる全員が、これから何が起こるのか分からず首を傾げる。

 だが、碧はじっとその光景を神妙な面持ちで見つめ、アールたち三人は何かに気がついたようで目を開いて驚く。

 

 すると次の瞬間、カードが突如として発光。

 カードの形状が変貌した。

 

 カードの前には、カードと同じくらいの大きさのパーツが付けられている。全面を液晶画面が占め、上部にはカードを入れるためのスロットがある。そして左上にはレバーのような突起が付けられていた。

 

 

 

「な、え、どういうことですか、あれ!?」

「分からない……。こんなことは初めてだ」

「どういう原理でやったんだろう……」

「碧さん何か知ってますか?」

「……。いや、何も」

 

 碧の様子は明らかにおかしい。

 違和感にどころか、いつもと全く違う言動に戸惑いを覚えた。

 

 

 

「これから面白くなるんだよね?」

「ああ。めちゃくちゃ面白くなるぞ」

 

 春樹は端末にカードを装填した。

 端末の液晶画面のほとんどが、カードのパーツによって覆い隠される。

 

『"DECADE" LOADING』

 

 電源ボタンを押した。

 すると後ろにゲートが出現。

 そこから姿を見せたのは、色こそマゼンタで違うが、カードに描かれていたのと同じ巨大な蚊だった。

 翅を羽ばたかせて出る音が、軽快な音楽をかき消していく。

 

 正直言って耳障りの悪い音の中で、春樹はポーズをとる。

 そして、端末を握る右手を裏返して叫んだ。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 再び緑色の素体に戻る。

 後ろの蚊はバラバラに分裂。マゼンタの鎧が戦士の体に装着されていった。

 

 胸部のアーマーには黒い十字が2つあり、顔や肩には翅でできた黒いバーコードのようなパーツが着けられている。

 

『Mimicry, Control, Destruction! I understood most of it! DESTROY DECADE! Destroy all and connect all.』

 

 仮面ライダーアクト ディケイドシェープ。

 全てを破壊し全てを繋ぐ旅人の力を継いだ戦士の力を受け継いだ瞬間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What was the transaction that was suggested by this man like?

A: It was swapping new cards that has been developed by US, his device and his new card.




【参考】
ザ! 世界仰天ニュース
(2022年9月20日放送)
適当に命名|欧羅巴人名録
(https://www.worldsys.org/europe/random/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question021 What is that card’s greatest function?

第二十一話です。
よろしくお願いします。

小吉と中吉の能力は、ほとんどカメンライドと同じだと考えていただければと思います。
(厳密には違うので、また改めて詳細を書こうと思います。)



【イメージED】
米津玄師 - 恥ずかしくってしょうがねえ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.12.11 09:05 東京都 千代田区 皇居前広場

「面白そうだね。楽しめそうだ」

「だろ」

 

 ディスペルクラッシャー ガンモードを取り出すアクト。

 ゲンムも2つの鎌を1つの弓──ガシャコンスパロー 弓モードに合体させ、身構えた。

 

『OKAY. "DECADE" CONNECTION SHOT!』

『マイティクリティカルフィニッシュ!』

 

 マゼンタの弾丸と紫色の矢が激突。爆煙が上がり、二人の姿が全く見えなくなる。

 

 その煙の中から二人が飛び出して来た。

 それぞれ剣と鎌を持ち、互いに攻撃を繰り出す。

 鎌を避けると剣の持っていない左手で胸部にパンチ。ゲンムを後退させた。

 

 ゲンムは戸惑いながらも興奮していた。

 先程とは打って変わり、自分と同等、いやそれ以上の力で自分に向かって来てくれる。

 まさに至福の時だ。

 

 

 

「さて、ちょっと()()()だ」

 

 するとアクトはカードケースから「SWITCHING FOURZE」のカードを取り出した。

 そのカードを「DESTROY DECADE」のスロットに装填した。

 

『"FOURZE" LOADING』

 

 付いているレバーを下に下げた。

 下げた瞬間、アクトの周りに長方形の虚像が何枚か現れ、周りをぐるぐると回り始める。

 

『What's coming? What's coming? What's coming?』

 

 いつもよりテンションの高い声が、テンポ良く繰り返されていく。

 ここぞというタイミングで、アクトは再度レバーを下げた。

 

末吉(SUE-KICHI)

 

 目の前に現れた残像に書かれていた文字は「末吉」。その残像から何かが現れた。

 オレンジ色のロケットは右腕に、ドリルのような部品は左脚に装着される。

 

『You got a future lack.』

 

 ロケット、ドリル、剣。3つの武器を持ったアクトは、ロケットを使って上空に飛び立つ。

 ゲンムは弓を作り出し、何発もの矢を標的に向けて発射する。

 だが左脚のドリルで全て討ち落とされてしまう。

 そしてロケットとドリルを仕舞うと、落ちる勢いを利用して、ゲンムの体に強烈な斬撃を繰り出した。

 

「ハァッ!」

「……ッ!」

 

 続けてアクトはカードを挿し込む。

 

『"BLADE" LOADING』

 

 レバーを押した。

 周りに何枚かの虚像が現れる。

 

『What's coming? What's coming? What's coming?』

 

 ゲンムは弓矢で攻撃を仕掛けるが、虚像がバリアとなって防ぐ。

 その隙にアクトは再度レバーを下げた。

 

小吉(SHO-KICHI)

 

 虚像に表示される文字は「小吉」。

 そこから青いプレートのようなものが出現。それがアクトの体を通り抜けると、アクトの姿は全く別のものとなった。

 

『You got a small luck.』

 

 仮面ライダーアクト ディケイドシェープ 小吉ブレイド。

 銀色の鎧を身に纏った、兜虫を模した戦士と同じ姿をした戦士が参上した。

 

 再び矢を射るゲンム。

 アクトはゲンムの元に走って行きながら、自身の剣で一本ずつ折っていく。

 そして前に立つと、剣先で腹部を突いた。

 

 後退するゲンム。

 想像以上の強さに、さすがにイラついてきた。

 恐らく彼は、強い敵と戦えるのは嬉しいが、あまりに強すぎるのは駄目という(たち)なのだろう。

 

『"DOUBLE" LOADING』

 

 そんなゲンムの様子などいざ知らず、さらに1枚カードを装填。レバーを下ろした。

 

『What's coming? What's coming? What's coming?』

 

 レバーを押し込んだ。

 

中吉(CHU-KICHI)

 

 「中吉」と書かれた虚像が無くなると、熱風がアクトの周りを吹き荒れる。

 塵のような部品が次々とアクトの体に着き、赤色と銀色の体に変化させた。

 

『You got a good luck.』

 

 仮面ライダーアクト ディケイドシェープ 中吉ヒートメタル。

 熱と闘志の記録を宿した戦士と同じ姿をした戦士が誕生した。

 

 背中にある棍棒──メタルシャフトを取り出すと、それを振り回しながらゲンムの元へ走る。

 ゲンムは弓を2本の鎌に分離させ、応戦する。

 

 鎌を振り下ろすが、刃がアクトに当たる前に、棍棒によって1本ずつ振り落とされてしまう。

 その隙を突い一突き。後ろに吹き飛ばされた。

 

 それを確認すると、アクトは元の姿へと戻っていった。

 

 

 

「流石にイライラしてくるなぁ……」

 

 奇怪な動きをしながら体を起こすゲンム。

 語気が荒く、溜まっていた何かがもう吹き出してしまったようだ。

 

「確かに強いのと戦えるのは楽しいけど、負けるのだけは嫌なんだよ……!」

 

 子供のように幼稚なことを言いながら、ドライバーの2つのボタンを同時に押した。

 流れる待機音。

 Aボタンをもう一度押すと、突如としてゲンムの体が宙に浮いた。

 その右足には黒いエネルギーが次々と溜まっていく。

 

『クリティカル・エンド!』

 

 そしてエネルギーが溜まりに溜まった強烈なキックをお見舞いした。

 その威力はあまりに凄まじく、アクトの体は貫かれ、大きな穴が開く。

 

「春樹っ!」

 

 思わず碧が叫んだ。

 

 仮面の下でニヤリと笑うゲンム。

 怒りは治ったようだ。ハァと吐いた息は、これまでにないほど晴れ晴れとしたものになっている。

 

 これにて、ゲームエンド。

 

 

 

 

 

 とはならなかった。

 

「……え?」

 

 突然、アクトの体が灰色の虚像のようなものになって姿を消した。

 その場にいる一同は、何が起こったのか分からず混乱する。

 

 すると

 

 

 

「おい、何処見てるんだよ」

 

 ゲンムが後ろを振り向くと、そこには自分が確かに貫いたはずのアクトが立っていた。

 

「ど、どういうことだ!?」

「お前、ゲーム好きなら分かるだろ。()()だよ。()()

 

 

 

 そう。ある意味、アクトは()()を使ったとも言っても良いかもしれない。

 

 使ったのは、圭吾の解析の結果作り出された「ILLUSION」というカード。

 このカードの能力は「分身」。

 アクトは、銃撃と矢がぶつかってできた爆煙の中で、分身を1体作り出し、自身とすり替えていたのだ。

 万が一、自分がゲンムにやられた時のために──。

 

 

 

「さて。そろそろゲームセットにしようか」

 

 アクトはドライバーにあるプレートを押し込んだ。

 

『Are you ready?』

 

 宙空に浮いていくアクト。

 端末を押し込むと、上昇は止まり、目の前に灰色の大きなプレートが現れる。

 同じようなものがゲンムの周りにも何枚も現れ、まるで挑発するかのようにくるくると回っている。その後ろにも1枚、静かに現れた。

 

 同時に右足にマゼンタと緑の毒々しいエネルギーが溜まってきた。

 

『OKAY. "DECADE" DISPEL STRIKE!』

「ハァァァァ!」

 

 右足を出して前に突っ込んで行く。

 するとアクトの姿がプレートの中に吸い込まれ、姿が見えなくなった。

 

 と、次の瞬間。

 

「グアアアッ!」

 

 ゲンムの周りを回っていたプレートから、いくつかの強烈なエネルギーが流れ出し、ゲンムを攻撃した。

 後ろのプレートからアクトが姿を現したところで、後ろでゲンムは爆散。爆炎が後ろから上がっていた。

 

 

 

 だが、当然これでは終わらない。

 ゲンムの体の欠けた部分が次々と修復され、何食わぬ顔で復活をしたのだ。

 

 しかし流石に限界がきたようで、ゲンムの身体から白い煙が音を立てて出ている。

 若干苦しそうな様子を見せ、変身を解除した。

 

「やめたやめた。もっと強くなってから出直すよ。じゃあね」

 

 そしてそのまま紫色の粒子となって、その場を立ち去った。

 アールたちもいつの間にか姿を消している。

 

 変身を解除する。

 先程までクロトがいた場所を見つめる春樹。

 その様子を他のメンバーたちは、いつもと変わらないように見つめようとするが、心の奥底では戦々恐々としてしまっていた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.11 09:39 東京都 新宿区 SOUP

 春樹と碧は雑居ビルの中にある自動販売機で、何本かのペットボトル飲料を購入した。

 作戦が成功ある意味成功したので、全員を労おうと購入しているのだ。

 

 エレベーターで下り、暗い道路を通ってドアを開けると、席に着いているメンバーたちの顔は、何故か神妙な面持ちになっていた。

 理由が分からず、少々戸惑う二人。

 

「え……。どうしたの?」

 

「……。()()、何だったんですか?」

「あれ?」

「春樹さんがやった()()ですよ」

 

 ようやく理解出来た。

 春樹がカードに未知のパーツを創り出したことだろう。

 それはそうか。

 いきなり何も無いところから創造を始めたのだから。

 既存の物理法則を十分なほどに学習してきた彼らにとって、それは奇跡以外の何物でもない。

 

 すると春樹と碧は突然、小さな声でじゃんけんを始めた。

 春樹が出したのはパー。碧が出したのはチョキ。春樹の負けだ。

 

 貴方言ってよ、と碧。

 え、俺!?、と春樹。

 

 碧に背中を押されて一歩前に出る春樹。

 負けた者に課されるペナルティは何なのか、全員がひとまず見守ってみる。

 

 そして、春樹は口を開いた。

 

「言い忘れてたんだけどさ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺たち、フォルクローなんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常113体

B群6体

合計119体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is that card's greatest function?

A: It's a function similar to Omikuji.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 08 ハッピーバースデイ(HAPPY BIRTHDAY)
Question022 Who is that loud man?


第二十二話です。
因みに、歌詞を使用した「Good Morning to All」という曲は、皆さんご存知「Happy Birthday to You」の原曲です。下書きに添付したWikipediaのページで原曲が聴けますので、是非聴いてみてください。
よろしくお願いします。



【イメージOP】
PEOPLE1 - 銃の部品

【歌詞使用楽曲】
Good Morning to All
(作詞:Mildred J. Hill, Patty Smith Hill)
久保田早紀 - 異邦人
(作詞:久保田早紀)
Happy Birthday to You

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.12.12 20:01 東京都 新宿区

 その室内には最低限の家具しか置かれていない。

 テレビ台の上に置かれたテレビからは、懐かしい歌謡曲を紹介する番組が流れていた。

 派手なスーツを身に纏った男性が歌う8年程前の映像が映されており、テロップには「松本康生(当時50歳)」と書かれている。

 

 派手な衣装に身を包んだ彼のことを無表情で見つめる老年の女性。

 虚な表情でテレビを見ていた彼女はテレビを消すと、後ろにある棚を見つめ始めた。

 

 棚の上には数冊の本と写真の入った写真立てがあった。

 写真に写るのは、3人の人物。左には学生服を着た青年。真ん中には今写真を見つめている女性。そして右にはリクルートスーツに身を包んだ若い女性。三人とも屈託のない笑顔で写っている。

 

 写真の頃とは似ても似つかないほど老けた女性は、立ち上がって写真立てを手にとる。

 

「何処にいるの……? 二人とも」

 

 絞り出すような声で呟く。

 

 番組が次に出したVTRでは、女性歌手がオルガンを弾きながら切ない声で歌う様子が放送されていた。

 周りを取り囲むコーラス隊の美しいハーモニーに乗せて放たれる歌声が、静かな部屋の中で響いていた。

 

 

 

 サヨナラだけの手紙

 迷い続けて書き

 あとは哀しみをもて余す異邦人

 

 あとは哀しみをもて余す異邦人

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 いつもの暗く広い室内に、何故か大量のカーテンが吊り下げられていた。

 赤色。黄色。緑色。灰色。青色。

 色とりどりのカーテンの中、男は熱心にケーキを作り続ける。生クリームを塗り終え、後は装飾を加えるだけだ。

 

 その様子を不思議そうに見つめるアールたち三人。

 当然だ。今ケーキを作っているのは、可愛い女の子でも、コック帽を被った料理人でもない。

 赤いスーツを着た老年の男性なのだから。だがその腰はまっすぐに伸びており、側から見れば30代か40代にしか見えない。

 

 全ての装飾が終わったようだ。

 満足そうな顔を見せてケーキを眺める男性。

 

 すると突然、後ろに置かれていたレコードプレーヤーを点けた。

 円盤がくるくると回り、荒い音質の音が部屋中に流れ始めた。

 

 大音量の好きな曲に囲まれ、さらに笑みを浮かべる男性。

 一緒に口ずさみながら、余韻に耽っていった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.13 06:00 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 Good morning to you,

 Good morning to you,

 Good morning, dear children,

 Good morning to all.

 

 あまねのスマートフォンから柔らかいピアノの音と、力強いテノールの声が聞こえてきた。

 一周目が終わり、二周目に入り始めたところで目を覚ますあまね。

 だが体が重く、動くことが出来ない。

 

 それもそうだ。

 ()()()に訪れたあまねは、折角ならと賃金をもらうことなく店を手伝った。接客業など初めての経験であったが、店主である新井夫妻や日菜太が優しく指導してくれたため、なんとかやり遂げられた。そして夫妻の厚意で、店に泊まらせてもらったのだ。

 そして翌日。学校が終わり家に帰ると誰もいなかったため、再び店に赴き手伝いをした。

 そしてその翌日も同じように手伝いをし、夕方に春樹と碧が迎えに来たので、三人で夕食を食べて帰ったというわけだ。

 だが、ここに来て皺寄せがきた。慣れない接客業。しかも数時間立ちっぱなしだったため、脚がパンパンなのだ。

 

 モゾモゾと布団の中を動き、なんとか起き上がると寝室を出た。

 

 リビングのドアを開けると、春樹と碧が食卓を囲みながらテレビを観ていた。

 この時間、テレビでは朝のニュースがやっている。ポップなスタジオの中で女性キャスターが情報を伝えていた。

 

 右上に書かれていた見出しは、

「都内マンションで夫婦死亡

 冬の脱衣所で注意しなければならないこと」

 

『昨日午前、東京・千代田区のマンションで、マンションに住む会社員の神田(かんだ)一郎(いちろう)さん・37歳と、妻の圭子(けいこ)さん・34歳が死亡しているのが見つかりました。

 警察によりますと、二人は脱衣所で心肺停止で倒れているところを同居していた圭子さんの母が発見し、119番をしましたが、すでに亡くなっていたということです』

 

 画面が切り替わった。

 次に映し出されたのは第一発見者である母親で、顔から下しか撮られていない。

 

『二人とも、音楽が好きで……。今度もなんか、好きなアイドルのライブに行ってくるとか言ってましたね……』

 

 声を絞り出して取材に応じた母がテレビに映し出されたのは、僅か数秒であった。

 その後は死因の原因となったと思われるヒートショック*1について、専門家の解説とコメンテーターの薄いコメントが続く。

 

 何処かやるせないような気持ちを抱えながら、あまねは食卓に来た。

 

「おはようあまね」

「おはようあまねちゃん」

「おはよう」

 

 軽く挨拶を済ませると、机上には春樹の作った朝ごはんが乗っているのが見えた。

 お茶碗に装われたご飯。白い器の上に乗っかる焼き鮭。小鉢の中にある焼き海苔。葱と豆腐の入った味噌汁。小皿に入った人参と何かの和物(あえもの)

 

 手を合わせて目の前の食事に手をつけていく。

 一口口に入れただけで舌鼓を打ってしまう。春樹と碧の作る料理は絶品であるが、特に春樹の作るものは格別であった。いつも退職したら料理人にでもなってよ、とよく分からない勧誘をしているのだが、いつも断られるためもったいなく思ってしまう。

 

「そういえばさ」

「?」

()()、カミングアウトして良かったの?」

「別に()いんじゃないのか? 問題無さそうだし」

 

 何のことだか分からないあまねを他所に、春樹と碧は神妙な面持ちをする。

 朝っぱらからするものではない顔をするのには、理由があった。

 

 

 

 

 

「言い忘れてたんだけどさ……。俺たち、フォルクローなんだよ」

 

 SOUPの全員に自身らのことを白日のもとに晒したのは、昨日のことだった。

 その言葉に全員が驚愕したのは言うまでも無いだろうか。誰も言葉が出ず、暫く沈黙が続いた。

 

「ど、どういうことですか、それ……?」

「そのままの意味だよ。私たちはクロトみたいな()()()()()()()()()()()()ってこと」

 

 ますます理解が出来ない。

 自分たちが異形の化け物と戦うための最大の戦力であり、信頼出来る仲間のうちの二人が、同じ異形の化け物である。

 その事実を簡単に受け入れることが出来ないのだ。

 

「だから()()()()()を作り出すことが出来たんですね……」

 

 薫の言葉に全員がハッとする。

 クロトのような人形(ひとがた)のフォルクローには、自身の身体から物体を生成することが可能である。

 確かにクロトは新たなガシャットを作り出し、春樹もカードにいきなり謎のパーツを生成した。

 

 これで全ての合点がいった。

 何故、彼らが仮面ライダーに変身出来るのか。

 何故、深傷(ふかで)を負ってもすぐに回復出来たのか。

 何故、怪物を倒した時にあんなに悲しそうな目をしているのか──。

 

「じゃあ、その端末はお二人の身体で作ったということですか?」

 

 恐る恐る圭吾が二人に訊いてみる。

 

「いや。この端末は人工的に作られたもの。ただ誰が作ったのか全く分からないんだよね」

 

 端末を眺めながら答える碧。

 そんな碧を春樹は不思議な眼差しで見ていた。後ろめたさのようなものを感じる目をしながら、息を一つ吐いた。

 

 

 

 すると次の瞬間、春樹が突然咳き込んだ。同時に口を右手で押さえたため、飛沫が飛ぶことはない。

 

 手の中を確認すると、その手には()()()()()()()()()()()。血を吐き出した口の周りにも赤い細かい点が付いている。

 目の前で起きた現象に、春樹と碧以外の全員が驚愕する。

 

 そんな中で、春樹は冷静に語りを始めた。

 

「こんな風に、俺たちのような人間態のあるフォルクローが物体を生成する時、こんな代償が生じる。

 その代償は生成する物質の持つ力が強大であれば強大であるほど大きくなる。

 ()()()()()を生成したら、多分俺は死ぬだろうな」

 

 端末を血の付いていない左手で握りしめる。

 何とも言えない顔で端末を見つめる春樹と、その横にいる碧に今度は森田が質問をする。

 

 

 

「肝心なことを尋ねたい。君たちは生まれつきフォルクローだったのか? それとも、何かのきっかけでそうなったのか?」

 

 その時、二人の様子が突然変わった。

 二人とも唇を噛み締め、拳を力強く握りしめている。

 何かへの後悔、懺悔、そして怒り。二人の表情からはこれらで埋め尽くされていた。

 

「……。それはまだお伝え出来ません」

「……。そうか」

 

 これ以上何も訊くことは出来なかった。

 流れる重い空気。

 なんとかしようと、深月が話題を切り替えた。

 

「ところで、輸送の情報を流したのって、誰なんでしょうね」

「さぁな。カードを輸送していることだけを知らなかったのであれば、ここにいる以外の班員の可能性があるな」

 

 SOUPのメンバーは、ここにいる六人と岩田室長だけではない。民間企業から厳選された科学者たちや技術者たち等が見えないところで活躍している。実際、新たな武器の開発やメンテナンスは彼らが行なっていて、また遊撃車の運転手も陰で動いてくれている。言わば春樹たちが戦う上で欠かせない縁の下だ。

 そんな彼らを疑うことは、どうしても出来ない。

 だがあり得る可能性を一つずつ潰していくしかないのだ。

 

「念の為、審査委員会*2が今後調査を行うらしい。このことはくれぐれも内密に頼む」

「「「「「はい」」」」」

 

 

 

 

 

「え、じゃあ話したの?」

「別に隠すことじゃないからな」

「それで、大丈夫なの? 気まずくならない?

「分からない。でも早めに話した方が楽だし」

 

 食事ももう終盤にきていた。春樹は冷蔵庫から全員分の牛乳を取り出し机上に置く。

 全員が飲み干したところで、あまねは手を合わせてその場を後にした。

 

 

 

 見届けた碧は台所へ行く。

 そろそろ今日のあまねのお弁当を作らなければならない。幸い昨日、新井夫妻から焼肉を貰ったため、それを弁当箱に詰めれば良いだけの話だ。もちろん毎日の弁当作りを苦に思っているわけではないが、圧倒的に楽なので思わず鼻歌が出た。

 

 だがその必要は無さそうだ。

 すでにあまねがいつも使っているピンク色の弁当箱にはすでにご飯と焼肉、サラダが入っていた。白、黒、緑の三色だけという単調な中身にも関わらず、全くそれを感じさせないほど鮮やかになっている。

 

「え!? これ、春樹が作ってくれたの?」

「? 何を?」

「このお弁当、春樹が作ったんでしょ?」

「え。お前が作ったんじゃないのか? 俺が起きた時にはもう用意されてたぞ」

「え?」

 

 春樹でも碧でもない。ましてや、あまねはさっき起きたばっかりだ。作る余裕はない。

 じゃあ、誰が……?

 

 軽いホラーのような現象に、若干背筋が凍る二人。

 だが結局、どっちかが作ったものの、疲れて記憶が飛んでしまったということで話は落ち着いた。

 

 

 

「あ! お弁当ありがとね」

 

 制服姿に着替えたあまねが弁当箱を風呂敷に包んで、自身のスクールバッグの中に入れた。

 バッグの中には今、筆記用具と弁当箱に水筒という最低限の荷物しかない。

 

「行ってきまーす!」

 

 いつもより軽いバッグを肩にかけ、あまねは元気良く部屋から飛び出して行った。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.13 08:51 東京都 新宿区 SOUP

「あの、一昨日のことなんですけど……」

 

 突然薫が話を切り出した。

 まだ春樹と碧が来ていないことが好都合だと考えたのだろう。

 

「皆さんは、どう思いますか?」

「と言うと?」

 

 森田が逆に薫に訊く。

 

「私たちはフォルクローと戦うことが仕事です。けどじゃあ、もし春樹さんと碧さんが私たちの敵になった時、皆さんはあのお二方と戦えますか?」

 

 暫く流れる沈黙。

 その沈黙は流れて当然のものだった。

 自分が信頼し、仲間として共に助け合ってきた二人を、自分たちはいつか倒さなければならなくかもしれない。

 その事実が彼らの胸を締め付け、簡単に答えることが出来ないようにしている。

 

「私は君たちの意見を最大限に尊重するだけだ。……どうする?」

 

 森田が優しい声で三人に声をかける。

 それが森田なりの最大限の配慮であった。

 

「私は……もしそうなったら、覚悟を決めるつもりです」

 薫は迷ったが、まっすぐな目で答える。

 

「僕は……考えたくもないですね。多分無理だと思います」

 圭吾も同じく迷い、そして頭を抱えた。

 

 回答し終えた三人は残る深月に目線を配った。

 彼はかつて、異形のものによって家族を殺された。

 そして今は、同じような異形のものと戦っている。

 

 そんな彼は一体、どんな結論を出すのだろう──。

 

 

 

「大丈夫ですよ。きっと」

 

 至って単純な答えだった。

 

「僕だって本当は怖いですよ。いつかあの二人と戦わなくちゃならないかもしれないって考えると。

 ……でも、あの二人がそんなことになるはずないですよ。……僕たちが信じないと」

 

 深月は異形のものによって家族を殺された。

 それと同時に、彼は異形のものに守られた。

 だからこその答えであった。

 

「きっと大丈夫ですよ。ね」

 

 深月は三人に向かってサムズアップを向ける。

 その表情はこの場に不相応なほどに爽やかだったため、思わず三人も笑みをこぼす。

 

 すると部屋のドアが開いた。

 

「おはようございまーす」

 

 春樹と碧が入って来た。

 本来、話の話題に上がっている張本人が来た場合は、気まずくて反応に困るはずだ。

 だが今室内にいる四人の顔は晴れやかなものだ。

 

 いつもと変わらない表情。だがどこかが違う。

 その微妙な違和感に春樹と碧は首を傾げた。

 

「? どうしたの?」

「いえ、なんでも」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.13 10:24 東京都 渋谷区 恵比寿国立博物館 第1棟

 JR恵比寿駅から徒歩数分のところには、3棟からなる博物館がある。

 第1棟が日本の資料、第2棟が世界の資料、そして第3棟が特別展示コーナーのためのものとなっている。

 

 その博物館にいる客の大半を、学生服を着た学生が埋め尽くしていた。

 今日、城南大学附属高等学校の1年生は社会科見学の一環として、この博物館に来ていた。

 だが殆どの生徒は特に興味が無く、すぐに第2棟へと足を運ぶ。

 

 その中であまねと日菜太だけが第1棟に止まっていた。

 目の前にある大量の史料をまっすぐに見つめる。

 

 二人がいるのは最初の方にある、旧石器時代から弥生時代にかけての史料が展示されたコーナーだ。

 打製石器や土偶にマンモスのレプリカ。石包丁や弥生土器にドングリのパンのレプリカ。

 

 様々な史料の中で一際目を引くのは、最も巨大な一つの壁画だった。正確に言えばそのレプリカだ。

 まるで西洋の油彩画のようなその絵は、とても古代のものとは思えない。

 繊細なタッチで描かれているのは1組の親子だろうか。手を繋いで歩く父親と小さな姉弟。手を繋いで三人仲良く前に歩いて行く様子が描かれている。

 キャプションボード*3によれば、これは11年前に四谷遺跡の入り口で発見された壁画のレプリカらしい。

 

 それをじっくりと見るあまねと日菜太。

 そしてもう一人、その絵を見つめる着物を着た老年の女性がいた。

 

 自然と目線が合ってしまった二組。

 軽い会釈をすると思わず微笑んだ。

 

「貴方たちも、この絵が好きなの?」

 

 女性が優しい声であまねに声をかける。

 

「え、ああ、はい」

「好き、というか何というか……」

 

 突然話しかけられ、すごく驚いてしまった。

 慌てふためく二人の様子に笑みをこぼす女性。

 

「私もね、この絵が好きなの。孫がそばにいないから……」

「……独り立ちされたんですか?」

 

 日菜太の問いに首を横に振った。

 

「実はね、5年前に孫が2人ともいなくなったのよ。突然いなくなっちゃったから、もうびっくりして。

 それでずっと待っているんだけどね〜」

 

 明るく振る舞う女性だが、その目の奥が笑っていないことくらい、若輩者の二人にも理解出来た。

 どう対応すれば良いのか分からず押し黙ってしまう。

 その様子を見ていた女性は笑みを崩さずに、ごめんなさいと謝罪した。

 

「だからね、自分の宝物は大切にしておきなさいよ」

「「……はい」」

 

 二人に優しく微笑んだ女性はその場を後にした。

 不思議そうに後ろ姿を見つめるあまねは日菜太に問いかけた。

 

「因みにあまねちゃんの宝物って何?」

「え!? それは……日菜太くんだけど」

 

 頬を赤らめながら答えるあまね。

 問いかけた本人は特に照れることもなく、隣の横顔に優しい目線を送った。

 

「そういう日菜太くんはどうなの?」

「え? 僕は……そうだな……」

 

 暫く考える日菜太。

 空いていく間の中で、あまねの心臓の鼓動がどんどん速くなっていくのが分かった。

 

 そして横の人物は、回答を出した。

 

「あるよ。でも今は手元に無いんだ」

「へぇ……」

 

 なんだか残念そうな顔をして落胆するあまね。

 その様子を笑顔で眺める日菜太に、あまねはもう一つ質問した。

 

「因みにそれって、どんなものなの?」

「そうだね……。詳しくは言えないけど、君も見たことのあるものだよ。どんなものか見たら、きっと驚くよ」

「ふぅん」

 

 

 

 

 

 それから1時間が経過した。

 

 この博物館は3つの棟で成り立っており、その中央には大きな庭園がある。

 いつもであれば昼食を摂る学生たちで溢れているのだが、今日は何故かいない。強いて言うのであれば、大きな池の中で鮮やかな鯉が踊るように泳いでいるだけだ。

 

 今、庭園を埋め尽くしているのは、重厚な服装に身を包んだSATの面々だ。

 後ろには黒い遊撃車と2台のオートバイが置かれており、前線には2人の男女が前を見据えて立っている。

 見つめるその先には赤いカーテンがゆらゆらと揺れていた。

 

 現在、入場客は身の安全を守るために全員が屋内待機となっている。無闇矢鱈に外に出すのではなく、全員を室内に残した方が安全だと考えたのだ。

 

 そして上空に黒い穴が開き、標的が現れた。

 

 だが現れたのは1体だけではない。

 全身がオレンジ色の宝石のような人形(ひとがた)()()は、右手に大きな槍を持っており、左手首にはバングルのようなものが着けられている。

 その中でも一体だけ、黒い軍服を着た個体があり、全員がそれに従っているかのような所作を見せる。

 

「もしかして、アイツがリーダー格か?」

「多分ね。一先(ひとま)ず先に倒した方が良い」

 

 すると遊撃車の中の森田から連絡が入った。

 

『奴らの命名が決まった。全員まとめて、新型未確認生命体第三十九号『シチズン』とする』

『でも全員が『シチズン』だと面倒(めんど)くさいですよね』

『そうですよね。せめてあの服装が違うのだけでも区別しないと……』

 

 薫の言葉に圭吾が悩む。

 若干の沈黙があり、そして深月が口を開いた。

 

『じゃあ、軍服のやつを『市長』、それ以外のやつを『市民』って呼ぶのはどうですか?』

 

 市民(citizen)だけに、か。

 屋内待機を要請したのも賢い選択だったと今に分かることだろう。

 反田深月とはそういう男だ。

 

 全員がそれを承認したところで、春樹と碧が端末と1枚のカードを取り出した。

 

「行くよ、グアルダ」

『了解した。ただいまより、椎名春樹、椎名碧、両名のライダーシステムの使用を許可する』

 

 カードを端末にかざし、ドライバーを出現させる。

 

『『ACT DRIVER』』

 

 そしてもう1枚ずつカードを取り出し、端末に装填しようとした。

 

 

 その時だった。

 

 Happy birthday to you,

 Happy birthday to you,

 

 何処からか耳馴染みのある歌詞が、低音のアカペラに乗って聞こえてきた。

 その場にそぐわない光景に、全員が辺りを見渡す。遊撃車の中にメンバーたちもパソコンのモニターを何度も確認し始めた。

 

 怪人の軍隊たちが、まるでモーゼの伝説のように道を開け、突如として真ん中を向いてその場に跪いた。

 

 Happy birthday, happy birthday,

 

 そこから現れたのは紫色の派手なスーツを着た老年の男性だ。

 押している金色のワゴンの上には、大きな白いケーキが乗せられている。

 

 

 

「あれは……?」

「誰ですかね……?

「何で、ケーキ?」

 

 突如として現れた男に困惑する遊撃車のメンバーたち。さらにその両手は、ケーキの乗ったワゴンがあるため、さらに意味が分からない。

 だが森田だけは、それとは別のことで困惑していた。

 それに気がついた三人が声をかける。

 

「? どうしました?」

 

 

 

 

 

「あれ……歌手の松本(まつもと)康生(こうせい)じゃないのか?」

「え? ……誰ですか、それ」

 

 

 

 殆どがキョトンとする一方、対峙する春樹と碧はそんなことを気にも止めず、目の前の標的を睨んでいた。

 

 Happy birthday to you.

 

 歌い終えた松本は、満足そうな顔で二人に笑みを見せる。

 二人も理解が追いつかないのか、思わず身構えてしまう。

 

「やぁ。二人とも」

「おい。今日は誰の誕生日でもないぞ」

「分かっているよ。けれど誰かの誕生日ということに変わりはないだろ?」

 

 笑みを崩さずに前に出た松本。

 

 すると松本はポケットから黒く細長い物体を取り出した。

 それを腹部に装着すると、ベルトが腰に巻きつき、まるでドライバーのような状態となった。

 

 

 

「……まさか……」

 

 

 

 深月の予想はどうやら当たりそうだ。

 

 松本はドライバーの右側に付いたケースから、赤色、黄色、緑色の3枚のメダルを取り出した。

 ドライバーにある3つのスロットに、右側から1枚ずつ装填していく。

 

 そしてドライバーを斜めに傾けると左側にある円形のスキャナーを取り外し、事を起こすために必要な、()()()()()を威勢良く叫んだ。

 

 

 

「変身!」

 

 スキャナーをドライバーに通しメダルを読み取らせる。

 読み取らせたスキャナーを胸に当てると、松本の周りを円形のオーラが取り囲んだ。

 

『タカ! トラ! バッタ!』

 

 その中から3つが選択されると、それは一つとなって松本の体に重なる。

 その瞬間、松本の体が突如として変化。目の前に残ったのは異形のものだけとなった。

 

 赤い頭部。黄色い両腕。緑色の両脚。

 凛とした佇まいを醸し出す()()は、真っ直ぐに正面を見ていた。

 

『タ・ト・バ、タトバ、タ・ト・バ!』

 

「ハッピーバースデイ! ……私」

 

 仮面ライダーオーズ タトバコンボ。

 三色の王は誰がためでもなく、自分のために祝福の言葉を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Who is that loud man?

A: He is the king of medals.

*1
短時間の気温の変化によって、血圧が上下することによって、心臓や血管に疾患が起こること。これによって心筋梗塞や脳梗塞といった症状が出、最悪の場合には命の危険もある。

*2
警察官が何かしらの不正や公務員としての規約に違反したとされる場合、その審議をするために設置される委員会のこと。

*3
博物館等で作品を紹介する際に使用される説明文のこと。




春樹と碧が観ているニュース番組は「ZIP!」がモチーフです。そして女性キャスターは日本テレビの水卜麻美アナウンサーがモデルです。
毎朝観ているのでモチーフにしました。
それから、恵比寿国立博物館のモチーフは国立科学博物館です。
子供の時に何度も行ったので、もとにしてみました。



【参考】
「仮面ライダーオーズ/OOO」第1話『メダルとパンツと謎の腕』
(脚本:小林靖子, 監督:田崎竜太, 2010年9月5日放送)
ハッピーバースデートゥーユー - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%83%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%87%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%A5%E3%83%BC%E3%83%A6%E3%83%BC)
Happy Birthday to You - Wikipedia
(https://en.wikipedia.org/wiki/Happy_Birthday_to_You)
冬場に多発! 温度差で起こるヒートショック|済生会
(https://www.saiseikai.or.jp/medical/column/heatshock/)
【ホームメイト】警察組織内を審査する審査委員会
(https://www.homemate-research-police.com/useful/12930_facil_033/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question023 Why did he kidnap them?

第二十三話です。
元々腕のない私ですが、最近さらに腕が落ちたなと思っています。
そんな私の駄文でございますが、どうぞよろしくお願いします。

また、感想や評価等を下さると作者のモチベーションになりますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.12.13 11:36 東京都 渋谷区 恵比寿国立博物館 大庭園

「へ、変身した……!?」

 

 遊撃車の中のメンバーがモニターに目を見張っている。

 それもそうだ。

 突如として現れた人物が、いきなり変身をしたのだから。

 

「自分で自分を祝うとか、お前なんか可哀想だな」

「うん。ホントに可哀想だけど、行こう」

 

 春樹と碧が端末にカードを装填した。

 

『"ACT" LOADING』

『"REVE-ED" LOADING』

 

 電源ボタンを押す。

 先程の歌とは打って変わり、軽快の音楽が流れる中で二人はポーズを決める。

 そして同時に言葉を放った。

 

「「変身!」」

 

『『Here we go!』』

 

 素体へと姿を変えた二人に、それぞれ銀色の装甲が装着されていく。

 あっという間に変身を遂げた二人は、目の前にいる標的を睨みながら剣を取り出した。

 そして腰を落として、臨戦態勢に入る。

 

「「READY……GO!」」

 

 走り出した二人。

 だがオーズと市長は走り出すことは無く、代わりに市民たちが二人に襲いかかって来る。

 

 彼らと戦い始めて二人は思った。

 この怪人は、まるで鰯のようだ、と。

 はっきり言って、市民一人一人の戦闘力はソルダートと同じくらいに大したことがない。誇張した表現でもなんでもなく、片手間で倒せるようなくらいだ。

 そんなのでも、数が集まれば力が結集され強敵にも敵うようになる。

 この集団は、それを体現するのに打って付けであったのだ。

 

 刃先の鋭い槍を幾つも剣で弾いては、持ち主の体を斬り裂いていく。

 たったの一振りで塵となっていく市民たち。

 だがキリのない群れの攻撃に、流石に二人に疲労が溜まってきた。

 

「これだけあると、疲れるね……」

 

 2体の市民の槍を1本の剣で支えながら、リベードが後ろのアクトに話しかける。

 

「そうだな。一先ず、市長を倒そう」

「オッケー!」

 

 アクトとリベードは自身の剣に、ドライバーから取り外した端末をかざした。

 

『『Are you ready?』』

 

 再び端末をドライバーに挿し込む。

 

『OKAY. "ACT" CONNECTION SLASH!』

『OKAY. "REVE-ED" CONNECTION SLASH!』

 

 それぞれの刃に緑と青のエネルギーが籠められていく。

 周りの市民たちが襲いかかってきたところで、一気に斬撃を放った。

 

「「ハァァッ!」」

 

 斬撃が一気に周りの市民たちを蹴散らす。

 殆どが爆炎と共に塵となって消滅していった。

 

 だがそれでも増え続けていく怪人の群れ。

 

 するとリベードがあることに気がついた。

 

「ねぇ! あれ!」

 

 リベードの指差した方向にあるのは、海外の史料が展示されている第2棟だ。

 その中に数体の市民が入って行こうとしている。

 

「まずいっ!」

「私行くね!」

 

 リベードが全速力で第2棟に向かう中、アクトは目の前にいるオーズに対象を決めた。

 一息ついたところで、すぐに剣を握りしめて対象に向かって行った。

 

 

 

2021.12.13 11:38 東京都 渋谷区 恵比寿国立博物館 第2棟

 第2棟は世界70を超える国と地域の史料を展示するため、その広さは尋常ではない。

 大勢が避難するとしたらここが最適。深月の考えは正しいようだ。

 

 ただ一つだけ誤ったことがあるとすれば、この棟、と言うより博物館全体のシャッターは老朽化のため古くなっており、いとも簡単に破壊されてしまう、ということだろうか。

 

 結果として十数体の市民が中に侵入。

 中に避難していた来場客はパニックとなりながら、非常口に向かって一気に走り出す。

 

 その中にはあまねと日菜太の姿もあった。

 急いで非常口に向かおうとするが、人が溢れており中々奥に進むことが出来ない。

 

 市民のうちの2人が左手を向けると、腕輪が微かに光った。

 すると何故かあまねは目を閉じ、その場に倒れ込んでしまう。

 

「え!? あまねちゃん?」

 

 日菜太があまねを揺さぶる。だが応答することは無く、ずっと目を瞑ったままだ。

 

 ふと横を見ると、同じように倒れている女性が1人いた。

 それは、先程二人に話しかけた老年の女性だった。

 

 その様子が見えた瞬間、日菜太は市民に突如として蹴飛ばされた。

 

「うっ……!」

 

 通路の案内が書かれた大きな柱に背中からぶつかり、倒れ込む日菜太。

 そこで日菜太の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 さて、大庭園ではアクトとオーズが火花を散らしていた。

 アクトの剣に対抗するために、オーズは両腕から長い鉤爪を展開する。

 

 アクトが剣を縦に大きく振るが、オーズは両腕の鉤爪でそれをブロック。

 一回転をして右足で回し蹴りを食らわそうとするが、オーズは飛蝗のように凄まじい跳躍力を持った両脚を使って跳躍。相手と距離をとった。

 

「君に見せてあげよう。相性の()いコンボはこれだけではないことを」

 

 するとオーズは両サイドのメダルを取り外すと、メダルケースから2枚の黄色いメダルを取り出した。

 それを開いたスロットに挿し込むと、再びドライバーを変形。スキャナーを取り出し、メダルを読み込んで胸に当てた。

 

『ライオン! トラ! チーター!』

 

 オーズの周りを硬貨のようなオーラが取り囲むと、その顔と両脚が黄色いものへと変化した。

 ライオンや向日葵のような顔で、両脚はまるでチーターの模様がついている。

 

『ラタラッター! ラトラーター!』

 

 全身が黄色い猫類系の力を得た形態──ラトラーターコンボに変身したオーズが再度鉤爪を展開すると、突然姿が見えなくなった。

 

「グアッ……!」

 

 突如として痛みが襲ってきた。

 体から火花を出しながら、思わず倒れ込んでしまうアクト。

 後ろを見ると、そこには先程まで目の前にいたはずのオーズが立っている。

 

「なるほど。高速移動か……」

 

 チーターは獲物を追跡する際、僅か2秒で時速72キロメートルに達する場合がある。

 そんなチーターを模したオーズの両脚は走ることに特化した形状へと変化しているため、尋常ではないスピードで走ることが出来るというわけだ。

 

 それに対抗するため、アクトは1枚のカードを取り出し、ドライバーから取り外した端末に装填した。

 

『"KABUTO" LOADING』

 

 電源ボタンを押した。

 ゲートから出現した赤い兜虫が高速移動をしながら攻撃を仕掛けるが、オーズも同じように目にも止まらぬ速さで動いて応戦する。

 

 そして端末がドライバーに挿されると、兜虫が分解し装着されようとするが、さらにその上から銀色の鎧が重なった。

 

『Changing, Wearing, Flying away! I’m the justice! SHEDDING KABUTO! Going on the way to the heaven, and rule all.』

 

 カブトシェープに変身をしたアクト。

 だが変身はこれだけでは終わらない。

 すぐに2枚のカードを取り出して、そのうちの1枚をドライバー上の端末にかざした。

 

『CAST OFF』

 

 銀色の鎧にひびが入り、アクトの体から分離をする。赤い体になった戦士の頭部から角が展開した。

 

『Change to the next shape.』

 

 第二形態に変身すると、もう1枚を使用した。

 

『CLOCK UP』

 

 オーズが自身の鉤爪でアクトを攻撃しようとする。

 だがそれをすんなりと避けられてしまい、逆に右の脇腹を蹴飛ばされてしまった。

 

「ノアッ!」

 

 すぐに態勢を立て直し、再度襲いかかるオーズ。

 今度は真正面からではなく、地面をスライディングしながら胸部に斬りつけた。

 

「ガッ……!」

 

 咄嗟に防ぐことが出来ず、もろにダメージを負ってしまう。

 

 そこからは片方が攻撃をすれば、もう片方がまた仕掛けるというイタチごっこだった。

 

 流石に決着を付けなければ……。

 

 アクトは剣を銃へと変形させ、ドライバーから端末を取り外すと銃にかざした。そして再び端末をドライバーに装填する。

 同時にオーズもスキャナーを右手に持ってドライバーに滑らせた。

 

『OKAY. "KABUTO" CONNECTION SHOT!』

『スキャニングチャージ!』

 

 銃の周りに赤色のエネルギーが溜まっていき、発射態勢に入る。

 オーズの前には黄色い円形のアーチが連なり、まるで1本の道のように続いていく。

 

 その時、オーズの黄色い顔が突如として強く発光した。

 

「……ッ!」

 

 あまりの眩しさに思わず目を閉じてしまうアクト。同時に右手で構えていた銃を地面に落としてしまった。

 

 今がチャンスと言わんばかりに、オーズが全速力で作られた道の上を激走。走った時の摩擦でコンクリートが次々と削られていく中、アクトの前まで来たオーズは鉤爪で胸部を思いっきり引っ掻いた。

 

「ハァァァァッ!」

「グァァァッ!」

 

 爆炎が上がると同時に変身が解除されてしまう。

 吹き飛ばされ倒れ込む春樹を見たオーズは、先程リベードと市民たちが入って行った第2棟に目を向ける。

 

「上手くいった、かな?」

「? どういうことだ」

 

 なんとか立ち上がった春樹がオーズに問う。

 それにオーズは鼻で笑いながら答えた。

 

「今、君の娘。いや、()()()の娘が中にいるはずだ。その()と私たちの持っているカード、そして君たちが持っている新しいカードを交換しよう」

「! そのために今日、この場所を襲ったのか!?」

「そうだ」

 

 しまったという顔で驚きを見せる春樹。思わず右手で頭を抱えてしまい、上に滑る右手で前髪が上げられていく。

 遊撃車の中の四人には、何故春樹がそのような表情と慌てようを見せるのか全く持って理解をすることが出来ない。

 

「ん?」

 

 オーズは突如、ドライバーを横に直すと全てのメダルを外し、メダルケースの中を物色し始めた。

 そして取り出したのは緑色の3枚のメダルだ。それをドライバーに装填し、再び斜めに倒してスキャナーで読み取らせた。

 

『クワガタ! カマキリ! バッタ!』

 

 三度オーラが取り囲む。1つにまとまったものがオーズと一体化した後、見えた姿はまた別物になっていた。

 鍬形虫(くわがたむし)のような2本の角。両腕に着けられた蟷螂(かまきり)のような刀。飛蝗(ばった)のような両脚。

 

『ガータ ガタガタ キリバ、ガタキリバ!』

 

 昆虫類の力を得た緑色の姿──ガタキリバコンボに変身したその時、突如として()()()()()()()()

 

「は!?」

 

 驚く春樹を他所に、分身したオーズたちもその両脚の跳躍力を活かして第2棟へと跳んで行った。

 

「おい、待て……!」

 

 すぐに追いかけようとする。

 が、斬りつけられた胸からの強い痛みが襲いかかってくる。思わず胸を押さえて、その場に倒れてしまった。

 

 

 

 さて、それよりも少し前のことである。

 

 第2棟に到着したリベードが見たものは、市民の大群のうちの2体が2人のぐったりとした女性を抱えて連れ去ろうとしている光景だった。

 一人は着物を着ており、顔の皺と白髪から年配であることが推測出来る。

 そしてもう一人は、見たことのあるセーラー服を着ている。後ろ姿しか確認することが出来ないが、一体誰なのか確かに判った。

 

「! あまねちゃん!」

 

 すぐに剣を握りしめて大群に向かって行く。

 それに気がついた他の市民が槍を持って掛かって来る。

 

 正面に突かれてきた槍を左手で持ち、右手の剣で腹部を斬り裂く。

 横から来る槍を避けると、槍を回し蹴りで蹴飛ばし、その勢いで再度回転。仕掛けてきた市民の顔面を蹴った。

 

 それでも全く人数が減ることはない。

 それに対する嫌気と二人を取り返さなくてはならないという焦りから、リベードはカードケースから3枚のカードを取り出した。

 うち1枚をドライバーから外した端末に装填する。

 

『"EX-AID" LOADING』

 

 槍を避けながら電源ボタンを押すと、ゲートから出現したマイティが次々と市民を自慢の大きな両手と両足で蹴散らしていった。

 その最中、リベードは数体の市民を倒しながら端末をドライバーに挿し込んだ。

 

『Here we go!』

 

 鎧が解除された素体の体に、マイティが分離したことによって出来たアーマーが次々に装着されていく。

 さらにその上から白いアーマーが覆い被さり、まずは2頭身の第一形態へと変貌を遂げた。

 

『Examine, Playing, Level up! I’ll change patient’s destiny! STRATEGY EX-AID! I’ll clear this game with no-continue.』

 

 続いて残った二枚の中の一枚を、ドライバーに取り付けられている端末にかざした。

 

『LEVEL UP』

 

 白い装甲が外れ、等身大へと戻ったリベードの背中には第一形態の際の顔が取りつけられている。

 それがある意味、背中を守る盾のようなものなのだろう。市民が背中を目掛けて突いた槍は、一切標的の体を傷つけることが出来ず、逆に後ろを向いたリベードに折られてしまう。その持ち主も、アクロバティックな動きで剣を振るリベードに斬り裂かれてしまった。

 

 それを片付けてすぐに最後の一枚を端末に読み取らせた。

 

『"ENEGY ITEM"』

 

 するとただでさえ多種多様な展示物の置かれた室内に、様々な色のメダルが自動的に置かれていく。

 不思議な出来事に戸惑う輩を、リベードは華麗な舞で魅せるように剣で捌いていく。

 四方八方を囲まれたとしても、彼女は高く跳躍し、両足でその頭をどんどん踏み潰していく。

 

 そして爆発が起こり、市民は殲滅されていった。

 

 急いで辺りを見渡すリベード。

 だが何処にもあまねと老女を抱えた市民二人はいない。

 

「あまねちゃん!」

 

 ただ彼女の声が広い館内にこだまするだけだ。

 今この場に彼女たちはいない。その状況を理解しているはずだが、リベードは再度叫んだ。

 

 

 

 

 

()()()()()っ!」

 

 その時、館内に何かが壊れる鈍い音が反射した。

 音の聞こえた方を向くと、そこにいたのは全身が緑色の戦士、オーズだった。

 

「残念だが娘さんとあの女性はもういない。交渉の取引として使わせてもらうよ」

「……貴方っ!」

「全く。腹が立つよね」

 

 怒りで声が震えているリベードの横から、今度は男性の声が聞こえてきた。

 

 立っていたのはクロトだった。

 その表情はいつもの戦い(ゲーム)を楽しむ笑顔ではない。引きつった、無理矢理に作り上げた笑顔だ。

 

 その場にいた全員が感じた感情は、怒り、だ。

 顔や握りしめた拳だけではなく、彼の奥底にある感情がマグマが噴き出るように全身から出てくる。

 

「リベード、今だけで()いから協力してよ」

「え?」

「お願い。僕も取り返したいんだ」

「……よく解らないけど、分かった」

 

 答えを聞いたクロトは、着けられているドライバーにバグヴァイザーを取り付け、バグルドライバーを完成させる。

 次に白いガシャットをジャケットのポケットから取り出し、黒いボタンを押して起動させた。

 

『デンジャラスゾンビ』

 

 ガシャットを持った右腕を肩の高さまで上げると、持ったものをドライバーのスロットに挿し込んで赤いボタンを押した。

 

「グレード(テン)。変身」

『ガシャット! バグルアップ!』

 

 目の前にゲートが現れるとその中から黒い煙が立ち込めてくる。

 それを破り捨て姿を現した白い体表の戦士、ゲンム。

 両手に持っている黄色い鎌をギュッと握りしめたゲンムは、目の前にいる緑色の大群に走って行った。

 

「うおおおおお!」

 

 今まで見たことのないゲンムの様子に戸惑うリベード。

 それを他所に、ゲンムは立て続けに緑色の戦士たちを斬っていく。

 だがざっと50体近くいるオーズから食らってしまう。ある個体からは両腕の刃で斬撃をお見舞いされ、ある個体からは頭部の角から電撃を放たれた。

 

「グッ……!」

 

 ダメージが効いてきている。

 一部始終を見ていたリベードは我に帰ると、ショーケースの方へと走って行き、その上に置かれている緑色のメダルに触れた。

 

「これ、効くと良いな」

 

 するとリベードの身体が突如として青色のゲル状となった。

 そして変身した彼女は数あるうちの1体にまとわりついた。

 

 昆虫全般の弱点は火や寒さ等、様々なものがある。

 その中でリベードが瞬時に思い出したのは油、もしくは石鹸のような油との親和性があるものだ。

 昆虫の体表や気門*1はワックスのような固体の油で覆われている。そのため、少量の油や石鹸水が身体に触れると、その液体が身体全体を覆ってしまい気門の奥深くまで浸透。結果として呼吸が出来なくなり死亡してしまうのだ。

 

 やつは見る限り昆虫のような姿をしている。もしかしたらある程度の効果があるやもしれない。

 だが

 

「残念だが、私は昆虫じゃない。()()()()()

 

 やはり効果は無さそうだ。

 自身にまとわりつくゲル状の液体に集中的に稲妻を走らせるオーズ。

 

「ギャッ!」

 

 液体は電気を通しやすい。その点をつかれた攻撃にリベードは吹き飛ばされ、身体ももとに戻ってしまった。

 

 人間態を持つフォルクローはより強力な力を持っている。

 それをひしひしと感じている間に、オーズたちはスキャナーを取り出してドライバーのメダルを読み取らせた。

 

『スキャニングチャージ!』

 

 するとオーズの大群は天井のスレスレまで高く跳び、そして2人の戦士に向かって一気にキックを食らわせた。

 

「グァァァァッ……!」

 

 強制的に変身が解除され、その場に倒れ込む碧。

 真横のゲンムに至っては、攻撃のせいで上半身が吹き飛んでしまい、下半身だけが立った状態で残っている。

 

 とはいえ「デンジャラスゾンビ」を使うゲンムの再生能力は凄まじいものだ。すぐさまゲンムの上半身は再生され、何事も無かったかのように首を回し始める。

 

「さっさと返してもらうよ」

 

 その時だ。ゲンムの体から白い煙が噴き出てきた。

 以前にも起こったことだ。今使っているガシャットにまだ順応出来ていないという証拠であるこの光景に、碧は何も驚かない。

 

 それ以上に驚愕したのは、突如としていつもの紫色ではなく白い粒子となって消滅した、ということだ。

 

 すぐにクロトへと姿を戻らせたゲンムが紫色の土管から再び姿を見せる。

 その横に現れたモニターに書かれていた文字は、「GEnM Life Point 95」。

 以前よりライフが1つ減っている。

 

「いくら調整を行なったとはいえ、やはりまだ順応出来ていないようだな。これまでのツケがきた、ということか」

 

 土管から出て来たクロトは胸を押さえて苦しそうに悶える。

 それを遠くから見ていたオーズの大群は一体となり、後ろを向いてその場を立ち去ろうとするが、一旦立ち止まった。

 

()にも言ったが、彼女たちを返して欲しければ、君たちの持っている新しいカードを明日の12時までにこの住所まで持って来てくれ」

 

 オーズは1枚の紙切れを倒れている碧に投げた。

 立ち上がりながら紙切れを確認すると、何処かの住所が書かれていた。

 

「それじゃあ」

「! 待って!」

 

 碧の静止も聞かず、オーズは再び高く跳んで姿を消した。気がつくとクロトもその場から去っている。

 

 天井に穴が開き、そこから瓦礫が降ってくる。

 まるで雨が降るようなその光景を、碧はただ見つめながら右手を強く握りしめていた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.13 16:37 東京都 新宿区 SOUP

「どうします? 前回は問題無く行きましたけど、今回は人質がいます。無闇矢鱈に結論は出せませんよ……」

 

 深月の言葉にその場にいる全員が険しい顔をして考える。

 

 前回の取引は物と物の取引であったことから、取引は否決であっても問題は無かった。

 だが今回は人と物が取引される。慎重に結論を出さなければならない。

 

「それに、あの人型のフォルクロー。春樹さんと碧さんの二人でも倒せるかどうか判らないのに、まさか春樹さんが倒れるだなんて」

 

 圭吾の言葉の通り、春樹は今、医務室のベッドの上で眠っている。

 本来であればあの程度の傷は休めばすぐに治るはずだ。だが春樹の傷は快方に向かわないどころか、それ以前に意識が戻らない。

 想定外の事態に全員がさらに焦っているのだ。

 

「やっぱり、アイテムを形成するために()()()()()()から、回復までの時間が長くなっているんでしょうか?」

「いや、『身体を削る』っていう言い方はちょっと違うかな」

 

 薫の発言に碧がすかさず訂正を入れる。

 首を傾げながら話を聞く全員に、碧は詳細を話し始めた。

 

「身体を削っているっていうよりも、エネルギーを消費しているって言った方が良いかな。詳しくは私にも説明が難しいから敢えてそう言うしかないんだよね。今は急激にエネルギーを消費して間もない状態だから、ああなるのも無理はないね。

 さっきクロトがいきなりゲームオーバーになったのも、自分のライフを削りまくってアイテムを作り出すっていう超強硬手段を行なったからツケが回った、ってところかな」

 

 やはりフォルクローは人間とは違う。しかも自身についての説明をすることも困難なほどに難解である。

 そのことが今のでひしひしと伝わった。

 

 そんな中、森田は話を展開させるために全員に声をかけた。

 

「さて、現在の状況を色々と整理するか」

 

 

 

 モニターに表示されているのは、大庭園に設置されている防犯カメラの映像だ。市民の大群と市長が映っている。

 最初に話を切り出したのは薫だった。

 

「まず、あのシチズンの大群ですが、市長と命名された個体を倒さない限り鼠算式に増えていくかと思われます。

 ただそれを防ぐにしても、市民がそれを守るために大量に襲いかかって来ます。至難の業かと」

 

 続いてモニターに映し出されたのは、松本康生と彼の変身したオーズの3つの形態の計4枚の写真だ。

 次は圭吾が話を始める。

 

「次にあのフォルクローのことですが、どうやら赤が1枚、黄色が3枚、緑が3枚の計7枚のメダルを組み合わせて姿を変えるみたいです。黄色が猫科、緑色が昆虫、そして3色全部混ざったものが最強とみて間違いないでしょう」

「うん。メダルしか有効な対策手段は無いかもね……」

 

 碧たちがオーズへの対抗手段を考える中、深月がそこから話を展開させた。

 

「あの、ところでその、松本康生って誰なんですか? すごく有名な人っぽいですけど」

 

 深月の発言に頷く一同とは対照的に、森田は今までに見たことのない驚きに満ちた表情でパソコンを操作する。

 するとモニターに表示されたのは、先程まで自身らが戦っていた男が派手な照明の中で歌っている、十数年前の歌番組の一部だった。

 

「松本康生。君たちは知らないだろうが、私が学生の頃に流行った歌手だ。だが5年前に忽然と姿を消している。手がかりも何も無く、全く音沙汰の無かった」

 

 だからあれだけ驚いていたのか……。

 失踪していた人気歌手が怪人として戻って来たのだから。

 しかし、どうして彼はあんな怪人になったんだ……?

 

 考えている隙に、今度は深月がモニターに映るものを変えた。

 画面に映し出されているのは先程の老婆の顔写真だ。恐らく運転免許証の写真なのだろう。背景は見たことのある青色で、写真写りが妙に悪い。

 

「あまねちゃんと一緒に(さら)われたのが、大野(おおの)美徳(みのり)さん。65歳。新宿区のスーパーでパート職員として働いています。

 息子夫婦は現在海外在住。2人のお孫さんと一緒に住んでいたそうですが、彼らもやはり5年前に突如として行方不明になっています。

 ただ……」

「? ただ?」

 

 不思議そうに尋ねる碧に声をかけられ、渋々と言った顔でパソコンを操作する深月。

 するとまたモニターに表示されるものが変化した。

 

 3人の人が桜が散る中で笑顔で写真に写っており、左側にある看板には大きく黒い文字で「入学式」と書かれている。

 真ん中にいるのは着物を着た美徳。左にいるのは学生服を着た青年。右にいるのはリクルートスーツに身を包んだやや年上の女性。三人ともカメラに向けて屈託の無い笑顔を見せている。

 

 だが、それを見たSOUPの面々が微笑みを見せることは無かった。

 それどころか、春樹と碧は無表情でモニターを見つめ、それ以外のメンバーはまるで戦々恐々とした面持ちで画面を見つめている。

 何故ならば──。

 

 

 

 

 

「これは……。クロトなのか……!?」

 

 学生服を着て笑顔で写っている青年が、自身の知っている怪人へと変身する者と全く同じ顔なのだから。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.13 20:54 東京都 文京区 聖イユ教会

 この教会の名前のもととなった「euil」には、フランス語で「開けた土地」という意味がある。

 初代の神父が誰おも受け入れるという覚悟を持って、この名前をつけたのだと入り口の掲示板に貼られていた。

 

 だがこの時間でも開いているはずの教会は現在、完全に締め切られている。

 内部には大量の市民たちがまるで警備をするかのようにじっと立っている。

 そして別棟にあるクレメンスホール*2には、両手両足を鎖で縛られた状態で座っているあまねと美徳がいた。

 

「ねぇ、貴女」

 

 灯りの点いていないため視界は真っ暗なままだが、幸いにも口元は塞がれていないためこうして会話をすることが出来る。

 

「貴女、家族は? 家族はいるの?」

 

 こんな時に、と一瞬思ったが、こんな時だからこそ他愛も無い話をして気を紛らわしたいのだろう。

 仕方なく乗るしかない、か。

 

「いますよ。でも、本当の両親じゃないんです」

 

 その言葉に美徳は気を遣ったのか、ごめんなさいと一つお詫びをした。

 だが、気にしないでください、と笑顔で答えるあまね。

 

「慣れてますから。こういうやりとり」

 

 精一杯優しく言ったつもりだ。

 別にこのやりとりに関してはどうも思っていない。本心からそうだ。

 いや、そうだと自分に言い聞かせているだけかもしれない。

 何回。何十回とこんなテンプレートを繰り返してきたのだ。もうどっちが本当の自分の気持ちなのか判らず、考える余裕も無くなってきた。

 

()()()ご両親は……?」

 

「母は病気で亡くなって、父は11年前に……何者かに殺されました」

「……そう」

 

 これ以上何も言えなくなってしまった二人。

 

 しばらく続く沈黙。

 灯り一つ灯っていない部屋の中で、この沈黙は自分たちが用意した最大の拷問とも言うべきだろうか。

 気を遣った結果、逆に自分たちの精神を徐々に削る結果となってしまう。

 

 

 

 すると、突如として何かが引かれる音が聞こえ、目の前から少しずつ光が差し込んできた。

 今まで暗闇にいた彼女たちは、その眩しさに思わず目を細めてしまう。

 

 目が慣れてきたところで再び状況を確認すると、大体のことが見えてきた。

 どうやらクレメンスホールの入り口の扉が開かれ、そこから松本が入って来たのだ。後ろにはまるでSPのように市民たちが静かに立っている。

 

「元気かい? 二人とも」

 

 松本を睨みつける二人。

 そんな中でも松本は笑顔を絶やさない。

 

「すまないね。君には用は無いんだ。あるのは……彼女だけだ」

 

 松本が今度は笑顔を崩さずに睨みを効かせたのは、あまねに向けてだった。

 一瞬戸惑ったあまねだったが、何かを察したのか、再び松本のことをじっと見る。

 

 あまねに近づく松本。

 彼女の目の前に来た松本はその場にしゃがみ込み、目の前の相手の目をよく見て、そして言葉を発した。

 

 

 

 

 

()()、何処にある?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why did he kidnap them?

A: To get cards and to find out something from her.

*1
昆虫の身体の表面にある空気の出入り口のこと。

*2
教会内にある、各種行事や地域の催し物で使われる広いホールのこと。




【参考】
第8講 展示室の構造
(https://nodaiweb.university.jp/muse/text/gairon2021/gairon2021_8-1.pdf)
チーター - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC)
アイテム・その他図鑑|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/items/mode/categories?utf8=✓&item%5Bkamen_rider_id%5D=18)
昆虫の弱点はなんですか? - Quora
(https://jp.quora.com/%E6%98%86%E8%99%AB%E3%81%AE%E5%BC%B1%E7%82%B9%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%99%E3%81%8B)
それっぽい名前ジェネレータ - 西洋ファンタジー用語ナナメ読み辞典「Tiny Tales」
(http://tinyangel.jog.client.jp/Name/NameGenerator.html)
教会内部と装飾物
(https://catholic-tc.jp/pages/25/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question024 Whose force has she borrowed?

第二十四話です。
因みにシーズン1は、今回を含めて後7話で終了します。シーズン2になるとイメージOPとイメージEDは変わる予定です。楽しみにしていてください。
よろしくお願いいたします。
因みに、Twitterに投稿した以下の情報が結構重要(かもしれない)ので、ご一読いただけると幸いです。URLは以下の通りです。
https://twitter.com/KotoShimura06/status/1624334928207876098?s=20&t=KG6B7cRsjeoWa_RaWjnwgQ



【イメージED】
米津玄師 - 恥ずかしくってしょうがねえ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.12.13 21:00 東京都 文京区 聖イユ教会 別棟 クレメンスホール

()()、何処にある?」

 

 松本の発言にあまねは目を見開いて驚く。

 だが何処か心当たりがあるそうで、下を向いて絞り出すように言葉を放った。

 

「……。何の話?」

(とぼ)けないでくれ。君だけなんだよ。()()が無ければ、()()()()()は自由に動くことが出来ない。君が教えてくれないと、何も始まらないんだよ」

「始まらなくて()い。何も始まらないことが、()()()()への弔いだから……」

 

 僅かな光しか届かないこの部屋の中に、再び沈黙が走る。

 その中で自身を睨みつける少女の顔をまじまじと見つめていた松本は、ふと微笑み立ち上がった。

 

「そうか。これでは君を誘拐した意味が無い。残念な結果となった」

 

 そして後ろを向いて、待機をしていた(しもべ)たちと共に部屋の外に出て行った。

 

 先程と違い光の差し込んだ室内。

 だが視界に入ってくる情報が変わっただけで、状況は何も変化することはなかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.14 11:45 東京都 文京区 聖イユ教会

 聖書の中に「神は光である」という内容の一節がある。そのため、陽の光によって光り輝くステンドグラスに拝むことは、神に拝むことと同じであるとされているのだ。

 だが、今日の空一体に白に近い灰色の雲が広がり、中に入ってくる日光は僅かなものとなっている。

 

 今日、神は降りてこないと言うことだろうか。

 

 ステンドグラスを背に松本は、深く息を吸って時間をかけてゆっくりと吐いていく。

 目を瞑っていながらも、目の前に微かに人気を感じた。

 

「来てくれたのか」

 

 目の前に立っていたのは碧だった。右手には、先日米国の研究員が持って来たアタッシュケースが握られている。

 

「交渉は、成立というわけか」

 

 互いの目を見つめ合う二人。

 碧の目は細く眼光が鋭い一方、松本の目も細いが余裕綽々なようで頬が緩んでいる。

 

 碧が自身の持っていたケースを松本の方に投げ渡すと、松本も自身の後ろに置いていたケースを碧の方に投げた。

 中身を確認すると、その中にはそれぞれのお目当ての物が入っていたため一先ず安堵する。

 

 再び互いを見合う二人。

 

「二人を解放して」

「良いよ。出来るものならやってみてくれ」

「……。は?」

 

 

 

 

 

 時を同じくして、クレメンスホールの前には大勢の機動隊員が銃を構えて扉の前で待機していた。

 教会の入り口の前には遊撃車が停車しており、機動隊員のヘルメットに付けられたカメラから送られてくる映像をパソコンで確認している。

 

 慎重に屋敷の前で目と耳を澄ませてその場に待機する。

 そして突入の合図とともに入り口の引き戸を開けようとした、その時だった。

 

 扉に手をかけた瞬間、突如として開かれた引き戸から大量の市民たちが現れた。

 手に持っている槍が次々に機動隊員の持つ盾を貫いていく。

 

 押された機動隊員が後退した影響で教会の敷地外に市民たちが解き放たれてしまう。

 そして市民の中に紛れていた市長(マントを着けた個体)が遊撃車の方に向かって来る。

 

 すぐさま車内にいたメンバーたちと運転手が逃げ出そうとした、次の瞬間。

 

 市長が突如として右側に吹き飛ばされてしまった。

 転がって地面に倒れる市長。

 

 メンバーたちが外に出ると、行動を起こした人物の正体が分かった。

 

「……クロト……!」

 

 すでに腹部にバグルドライバーを装着している青年(クロト)が市長を睨みつける。

 標的にされた自身らの長を守るために、十数体の市民が市長を取り囲む。

 

「僕たち同族が殺し合うことは確かにメリットがあるね」

 

 ジャケットから白いガシャットを取り出す。

 握った右腕を震わせながら、黒い起動スイッチを押した。

 

 

 

 

 

「だって……。()()()()()()(さら)った、お前たちを許すわけにはいかないからっ……! ……変身……!」

 

 腕と同じように震える声を絞り出しながら、クロトはスロットにガシャットを装填。ドライバーに付けられている赤いボタンを押した。

 そして目の前にゲートが出現。黒い煙が遊撃車やシチズンたちの周りだけではなく、教会の敷地内の奥の方まで立ち込めていく。

 

 念の為口元を押さえて目の前を見つめると、現れたのはゲンム レベルⅩだった。

 

 最初から身体から白い煙を出しながら悶え苦しむが、それはすぐに後に放たれた紫色の衝撃波によって掻き消された。

 

 形状はこれまでと何ら変わりはない。

 だが、何処か雰囲気が違うように感じる。

 今まで見てきた中でも特に禍々しいその姿は、姿は変わらずともより強さを身につけたことを表しているように見えてしまう。

 

 レベル(10)

 否。

 レベル(エックス)

 

 

 

 

 

「へぇ。最初から解放するつもりは無い、ってことだったんだ」

「いや。解放するつもりではいたが、君の娘が中々口を割らなかったからね。致し方なかったんだよ」

 

 松本が腹部に装着したドライバーに次々とメダルを嵌めていく。

 そしてスキャナーを取り出して、静かに言葉を発した。

 

「変身」

 

 小さな声が教会内にこだまする中で、松本がスキャナーを滑らせたドライバーから五月蝿い音が聞こえてきた。

 

『タカ! トラ! バッタ! タトバ、タ・ト・バ、タトバ!』

 

 変身の時に発生した光で、背後のステンドグラスが微かに光った。

 僅かな光に照らされるその姿は、まさに「王」。

 「オーズ」の名のもとに相応しい姿だ。

 

「やっぱり、背に腹は変えられないか」

 

 碧は端末にカードをかざしてドライバーを出現させる。

 

 するとカードケースからもう一枚のカードを取り出した。

 それは、アールの持ってきた2枚のカードのうちのもう一枚──「KING ZI-O」のカードだ。

 摘んでいる人差し指と親指の力を強めると、カードの周りに銀色の粒子が集まっていき、()()を形成していく。

 

 そうして出来上がった物は、春樹が「DESTROY DECADE」のカードに装着させたパーツと全く同じ物だった。

 だが色はマゼンタではなく、銀色となっている。

 

 部品が完成したのを確認すると、カードを端末に装填した。

 

『"ZI-O" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、背後に大きなゲートが出現。そこから現れたのは銀色のティラノサウルスの化石のようだ。

 その化石は上げる筈のない咆哮をガラスや鼓膜、様々なものを壊すほどの音量で響かせる。

 

 後ろのものの行動を物ともせずにポーズを決め、咆哮の残響が残る室内をさらに震わせるように叫んだ。

 

「変身!」

 

 そして端末をドライバーに挿し込んだ。

 

『Here we go!』

 

 瞬く間に身体が青色の異形へと変化すると、後ろの化石が分解。鎧として装着されていった。

 

 時計のような銀色の部品が両膝に1つずつ、両腕に2つずつ着けられ、肩と胸部に腕時計のバックルを模したピンクのラインが入る銀色の鎧が装着されている。左耳にダイヤルのような銀色の部品が、額には時計の針のような形状の角が着けられている。そして、青色の複眼には各々に「ライダー」と縦書きで書かれているが、同じく青色で書かれているため凝視して見ないと判らない。

 

『To know, Take time, Get the watch! It’s RIDER TIME! KING ZI-O! I’ll be the best and best king.』

 

 仮面ライダーリベード ジオウシェープ。

 かつて王を目指した普通の人間の力を宿した戦士のその姿は、まるで王ではない未熟な「王子」と言ったところだ。

 

 そして、ステンドグラスが今日の中で一番光り輝いたところで、戦いの火蓋は切られた。

 

 

 

 

 

 さて、ゲンムとシチズンの群れの戦いは敷地内にて繰り広げられていた。

 ゲンムはガシャコンスパローを持つことはなく、槍を持った無数の市民たちに対して素手で戦っている。

 

 武器×数十、対、素手一人。

 それが圧倒的に不利な状況だということは、赤子でも分かることだろう。

 だがそんな状況でもゲンムは槍をへし折り、己の体一つで市民たちを粉砕していく。

 

 その隙に機動隊員たちが館の中に侵入。銃口を室内に向けながら入るが、中には鎖で縛られた人質以外誰もいないらしく、先程とは打って変わってスムーズに事が進んだ。

 鎖をカッターで切ると、両腕を持って立ち上がらせて入り口の方まで誘導する。

 

 入り口から出たあまねと美徳が見たものは、白い戦士が橙色の怪人を無惨に倒していく光景だった。

 あまねは異様な光景を見慣れているため、特に何とも思うことはない。

 

 だが本来目を背けたい筈の美徳は、ただひたすらに凝視していた。

 恐怖で震えるわけでもなく、ただ懐かしそうに、目の前の白い異形のものを見つめていた。

 

 行きましょう、と隊員に誘導されて二人がその場を後にしたのと同時に、事態は終局へと向かった。

 

「レベルXになった僕は、完全に『デンジャラスゾンビ』を制御することが出来る。雑魚の君たちに勝ち目は無い……!」

 

 微かに震える声を出しながら彼はドライバーの2つのボタンを同時に押す。

 そしてBボタンを再度押した。

 

『クリティカル・デッド!』

 

 発動してすぐにゲンムの足元から紫色の液体が流れ始めてきた。すぐに水たまりを形成していき、液体の集合体はすぐに市民たちと市長を飲み込んでいく。

 するとそこから白い腕が何本も伸びてきた。それが足元をすくい、引き摺り込もうと努力している。

 

 そして全員分の両脚を掴み終えたところで、そこに爆炎が上がった。

 赤い炎と黒い灰が白い体をどんどん彩っていく。

 

 炎の止んだ後に残ったのは、橙色の怪人だったものが1つだけだった。

 そちらの方に歩み寄ったその時。

 

 

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 遠くの方から電子音声が聞こえてきた。だが、いつもの低い男性の声ではなく中世的な女性の声だった。

 すぐに死骸が粒子状になり、ゲンムの後ろの方へ流れて行く。

 

 ゲンムだけではない。SOUPのメンバーたちも何処かへ向かう粒の大群を目で追いかけた。

 だがそこにはもうすでに誰もいない。

 

 代わりに、いたはずの誰かの置き土産がポツンと置かれていた。

 拾い上げて確認をする深月。

 

 それは1枚のメモリアルカードだった。

 全身が橙色の人々が広い広場で生活を営む様子がエドワード・ホッパーのようなタッチで描かれており、下部には白く「No.097 CITIZEN MAGE」と印字されている。

 

 細やかなプレゼントを見つめながら、深月は何かを考えることに耽っていた。

 

 

 

 

 

 一方の(オーズ)王子(リベード)の戦いである。

 オーズの両腕の鉤爪とリベードの持つ剣がぶつかり合うことで火花が散ると、互いにやや距離をとって再び攻撃を再開する。それの繰り返しだった戦いに変化が生じたのは、リベードが近づいて来たオーズを蹴飛ばした時だった。

 

 オーズが両サイドのメダルを変えたのと同時に、リベードもカードを取り出して「KING ZI-O」のカードに付いたパーツのスロットに装填した。

 

『"KABUTO" LOADING』

 

 左側に付いているレバーを下まで下げた。

 するとリベードの後ろに銀色のルーレットのようなものが現れた。針がぐるぐるとすごい勢いで回っている。

 

『What's coming? What's coming? What's coming?』

 

 「DESTROY DECADE」と同じく少し鬱陶しい待機音が流れる。

 リベードが再度レバーを下げたのと、オーズがスキャナーを滑らせたのは同時だった。

 

小吉(SHO-KICHI)

『ライオン! トラ! チーター!』

 

 オーズの周りに円形のオーラが現れ、それが一つの塊となって一体化。また別の形態へと変化を可能にさせた。

 

 一方のリベードはと言うと、針が「小吉」と書かれた部分を差した瞬間に、突如として銀色のアーマーが液状に変化。急に形状と色味を変えていく。

 それは天に向かって一直線に伸びる角の付いた赤い鎧──「SHEEDING KABUTO」によって形成される筈の装甲だ。

 

『ラタラッター! ラトラーター!』

『You got a small luck.』

 

 仮面ライダーオーズ ラトラーターコンボと、仮面ライダーリベード カブトシェープ 第二形態。

 それぞれ高速移動に特化した姿へと変貌を遂げた。

 

 リベードはすかさずもう1枚カードを取り出し、端末に読み取らせた。

 

『CLOCK UP』

 

 二人は勢いよく足を走らせ始めた。

 その速さは凄まじく、走るだけで教会の中に旋風が巻き起こる。

 

 行ったり来たりを繰り返しながら、鉤爪と剣が再び火花を散らしていく。

 

 チーターを模した右足で繰り出されたキックを左手で華麗に受け止め、ジャンプをした勢いを利用して右足を左の肩にお見舞いしようとするリベード。

 だが思惑にすぐに気が付かれたようで、オーズは掴まれた右脚を思いっきり振り下ろし、体勢を崩させた。そして左腕の爪で体を受け止めて天井に投げた。

 

「グッ……!」

 

 幸運なことに天井の面に両足の裏が向いていたのだ。

 思いっきり天井を蹴って、オーズの方に向かって落ちて行く。

 

「ハァァッ!」

 

 想定外の攻撃にオーズは戸惑ったのかすぐに対応することが出来なかった。

 落ちて来たリベードが横に振った剣に吹き飛ばされてしまう。

 

「なるほど。君の新たな形態は、私と互角いや、それ以上か……」

 

 立ち上がったオーズは全てのメダルを取り出すと、全てを緑色のものへと変えた。

 同時にリベードも姿を元のジオウシェープに戻し、別のカードを挿れた。

 

『"RYUKI" LOADING』

 

 レバーを下げた。

 

『What's coming? What's coming? What's coming?』

 

 再び姿を変えるために各々が動作を起こした。

 

中吉(CHU-KICHI)

『クワガタ! カマキリ! バッタ!』

 

 再びオーラが取り囲み、今度は王を緑色の形態へと変えていく。

 

『ガータ ガタガタ キリバ、ガタキリバ!』

『You got a good luck.』

 ガタキリバコンボに変身したオーズは、すぐさま十数体に分身。リベードの周りを取り囲んだ。

 

 するとその時、リベードの真上にゲートが出現。それが開かれるとそこから赤い龍が咆哮を上げながら飛び出して来た。

 

 優先順位として龍が上なのだろう。

 オーズがさらに分身をし、飛蝗を模した両脚を使ってジャンプ。赤い龍に飛びかかって行った。

 だが龍も自身の体を動かして次々と振り落としていく。

 

 その隙にリベードは別のカードを装填した。

 

『"GAIM" LOADING』

 

 オーズたちが龍に気を取られているのを確認してレバーを押す。

 

『What's coming? What's coming? What's coming?』

 

 分かりやすく大きなルーレットが出現しているというのに、誰も何も気が付かない。

 やはり生物は一つのものに集中をしてしまうと、周りのものが見えてこないようだ。

 

 そんなことを考えながらほくそ笑み、もう一度レバーを下げた。

 

末吉(SUE-KICHI)

 

 するとリベードの左手に別の剣──擬似大橙丸が現れた。

 

『You got a future luck.』

 

 そして2本の剣を合体させ、ディスペルクラッシャー ナギナタモードを完成させる。

 同時に、赤い龍が自身に襲いかかる緑色の標的たちを全て振り落とした。

 

「セイハーッ!」

 

 リベードはナギナタを思いっきり投げつけた。

 すると一気にオーズの分身たちを斬り裂いていき、ついに本物に当たると分身たちはあっという間に消えていった。

 

「さて、蹴りをつけようか……!」

 

 再びタトバコンボに変身をしたオーズ。

 スキャナーを取り出してドライバーの中のメダルを読み取らせる。

 

『スキャニングチャージ!』

 

 リベードもドライバーのプレートを押し込む。

 

『Are you ready?』

 

 そして取り付けられた端末を押し込んだ。

 

『OKAY. "ZI-O" DISPEL STRIKE!』

 

 二人とも上空に跳び上がった。

 オーズの前には赤色と黄色と緑色の大きな円形のオーラが出現した。

 一方のリベードの前には「キック」という文字の渦が現れる。

 

「セイヤァァァッ!」

「ハァァァァァッ!」

 

 そして二人がそれぞれその中へと入っていき、右足で強烈なキックを互いに食らわせた。

 

 そして教会の中には爆発が起こり、同時に起こった強風の影響で建物は全て吹き飛んでしまった。

 

 

 

 

 

 いつの間にか外には雨が降り出していた。

 崩壊した教会から出る炎を優しく鎮火していく。

 

 廃墟と化したその中にいたのは、変身を解除して佇む碧と、同じく変身を解除してその場に倒れ込む松本の二人だ。そして碧の後ろに他のSOUPのメンバーたちも合流する。

 

「まさか、私が敗北するとは……ね」

 

 自虐的な笑みを浮かべる松本。それに睨みを効かせる碧たち。特に碧の目にあるのは、標的を狩ろうとするための殺気だけだった。

 

 と、その時。

 

 

 

「当然ですよ」

 

 松本の後ろの方から声が聞こえた。

 全員がそちらの方を向くと、そこに立っていたのはアールたち三人だった。

 

「何の用だい?」

「何の用? 決まってるでしょ。貴方を()()しに来たの」

 

 フロワの言葉にその場の全員が驚愕する。

 

「ど……どうして?」

「どうしてって、君のせいで計画が破綻したからね」

「えぇ。君のせいで()()が話さなくなっては困るからね」

 

 今まで余裕綽々の様子を見せていた松本が、戦々恐々とした面持ちで目の前の三人を見ている。

 後退る彼に対してアールが素っ気無く言い放った。

 

「それじゃあ」

 

 すると突然、耳をつんざくような銃声が聞こえてきた。

 SOUPのメンバーたちは突然のことに、思わず耳と目を塞いでしまう。

 

 目を開けた者たちが次に見たのは、先ほどまで動いていた松本()()()()()だけが取り残された惨状だった。

 一切の動きをせず、沈黙を貫いている。

 

 天井の無くなったため、大量の雨が全員に降り注ぐ。

 ただの亡骸と化した敵を見つめていた、次の瞬間。

 

「……ッ!」

 

 突如として碧がその場にうつ伏せに倒れ込んだ。

 

「碧さん!?」

 

 薫が倒れた碧を少しだけ起こして状態を確認する。

 見ると、碧の鼻から二筋の赤い道が出来ており、ぐったりとした様子だった。

 

「すぐに救急車を呼べ!」

「碧さん、しっかりしてください!」

 

 機動隊員に呼びかける森田の大声と、呼びかける圭吾の声が聞こえたところで、碧の意識は途絶えてしまった。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

「あーあ。どうしてあんなことしちゃったんだろうね、彼は」

 

 ピカロが残念そうな声を出しながら、白い角椅子の群の上に寝そべる。

 だがすぐに興味のある事柄が変わったのだろう。パーカーのポケットから携帯ゲーム機を取り出してゲームを始めた。

 

「ねー。どうせ彼らは()()()()()()になるしかないのにね」

 

 フロワは手鏡を見ながら自身の顔を確認して、口紅やらチークやらを使ってメイクを直していく。

 

「まぁ。いずれ殺されるのだから勝手をしようとするのは、同然のことでしょうね〜」

 

 アールがその場で仁王立ちをして笑顔で答えた。

 

 その時だった。

 

「次は僕が行こうか?」

 

 暗い部屋の奥の方から優しい男性の声が聞こえてきた。

 すると三人が驚きを隠せない様子でそちらを向く。

 

「本当ですか?」

「ねぇ、どういうつもり?」

「いよいよかー」

 

 三人の様子を見ながら、男はニッコリと微笑む。

 そして右手に握られた大きな黒い銃を見つめながら、独りポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 今会いに行くからね。

 碧。

 

 

 

2021.12.14 16:32 東京都 新宿区 SOUP 医務室

 ベッドの上に置かれている端末が震えた。

 何だ何だと、隣で眠っている碧を目覚めさせないようにそっと端末を拾う春樹。

 そして寝転びながら受信したメッセージを確認する。

 

 

 

そろそろ、彼が来るそうです。

井川

 

 

 

「いよいよか……」

 

 ハァと一つ吐くと春樹は端末を机上に置き、気怠そうな様子で布団を被った。

 だが頭を布団から出し、カーテンの向こう側にいる碧のシルエットをじっと見つめる。

 寝息を立てながら静かに眠る彼女の影を見て微笑む。

 そして笑みが消えた。

 

 

 

 

 

「もう、お前ともお別れだな。碧」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.14 18:44 東京都 新宿区 SOUP

 春樹と碧以外のメンバーたちが神妙な面持ちで自身の席に座っている。

 全員顔は下を向いており、部屋中に暗い雰囲気が立ち込めている。

 

 すると目の前の扉が開き、誰かが入って来た。

 

「どうした? 急に呼び出して」

 

 岩田室長がドアの前で全員を眺める。

 すぐに何かがおかしいことに気がついたのは、自分を見つめる全員の表情が緊迫したものになっていたからだ。

 

「? ……どうした?」

「全部……話してもらいますよ」

「? 全部?」

 

 何のことかさっぱり分からなそうな岩田に向けて、深月が言葉を紡いだ。

 

「ずっと気になっていたんです。クロトの言葉が」

 

 

 

 だって……。おばあちゃんを攫った、お前たちを許すわけにはいかないから

 

 

 

「確かにクロトは美徳さんのお孫さん、大野玄斗(クロト)さんに見た目が酷似しています。当初僕たちは、あれはフォルクローが行方不明になった人たちに擬態をしている。そう考えていました。

 けど、彼は美徳さんのことを『おばあちゃん』と呼んだ。

 もしかして、彼は擬態したフォルクロー、と言うより、()()()()()()なんじゃないんですか?」

 

 ずっと全員が気になっていたことだ。

 嘗て森田が、元々がフォルクローだったのか、それともいつからかフォルクローになってしまったのか、という趣旨の質問をしていた。

 その時、春樹と碧は判りやすい表情を見せて返答を渋っていたのだ。

 

 指摘に顔を背ける岩田に、今度は薫が続けた。

 

「調べてみたんです。春樹さんと碧さんを除いたフォルクローの総数は165体。そして、5年前に失踪した人たちの人数は……丁度165人です。

 考えたくはありませんが、もしかして、フォルクローの正体は行方不明になった人たちなんじゃないですか?」

 

 気まずそうな顔を浮かべる岩田。

 

「それから、筒井あまねさん。もう亡くなっているはずですよね?」

 

 圭吾の発言に、顔を正面に戻して驚いた表情を見せる。口を少し開け、深く呼吸をし始めた。

 

「どうして貴方は、亡くなった方の戸籍を彼女に与えたんですか?」

 

 岩田は何かを発しようとするが、あと一歩のところで詰まってしまう。

 

「室長。もう、我々に全て話してくださいませんか?」

【将吾。もし君が話したくないのだと言うのなら、私が話そう】

 

 諭す森田に続けて、いつの間にかモニターに現れたグアルダが声をかけた。

 

「……。いや、大丈夫だグアルダ。……分かった。全て話そう。着いて来い」

 

 ようやく腹を括った岩田。

 そして後ろを向くと、扉の外へと出て行った。

 

 

 

 岩田に連れられて全員が歩いているのは、SOUPの中にある車道だ。いつも出動の際に使っているあの車道だ。

 あと数十メートルしたところで右のスロープを上れば、地上に繋がる。

 

「君たちは疑問に思ったことはないか? 何故SOUPの本部が地下にあるのか。そして何故、四谷にあるのか」

 

 スロープのところまで来た。だが岩田の目線はスロープの方ではなく、目の前にある何もない黒い壁に集中している。

 その壁にパスケースの中に入った自身のIDカードをかざす。

 

 すると、何と言うことだろうか。

 突如として壁が開いた。その中にはまた壁。それがまた開いていく。さらに壁。開く壁。

 次々に展開され、壁の層は消えた。そして出来上がったのは両端にある松明のようなもので照らされるだけの暗い道だ。

 

 その中を歩いて行く全員。

 後ろの面子は、目の前で繰り広げられていく光景に気が動転しており、驚きのあまり声を出すことも出来ない。

 

 しばらくして、岩田が突如として立ち止まった。

 どうやらついに目的地に辿り着いたようだ。

 

 一気に灯りが灯る。

 だが先程のような直線上ではなく、大きな円形に灯っていくのだ。

 

 辿り着いた目的地は、学校の体育館ほどの大きさの円形の場所だった。

 壁一面によく分からない壁画が描かれており、中央には岩で出来た棺が3つ、円形に並べられており、さらにその中央に岩で出来た、剥いたゆで卵の殻のようなものが置かれていた。

 

「ここは……?」

「四谷遺跡の最深部だ」

 

 四谷遺跡。

 そこは嘗て、石川大教授率いる城南大学考古学研究室の研究チームたちが謎の死を遂げた、未知の場所だ。

 その最深部の隣にSOUPの本部があったのか……。

 

 けど、何故?

 

「全て話す前に、君たちの質問に答えよう。まずはフォルクローが行方不明者の変貌した姿ではないか、と言うもの。

 結論から言うと……イエスだ」

 

 やはり、フォルクローは行方不明者が怪人になった結果だった。

 その事実に頭が理解出来ない。

 つまり言えば、自分たちが今までに倒したのは、自分たちと同じ人間なのだから。

 言わば、人殺しだ。

 

「そしてもう一つ、あまね(彼女)のことだが……」

 

 何故、彼女は死んだ筈の人の戸籍を利用しているのか。

 何故、彼女はいきなり攫われたのか。

 何故、彼女はフォルクローを見ても何も動じないのか。

 何故、彼女は春樹と碧と共に生活を営んでいるのか。

 

「それを話すためにも、まずは()()()()()()()()を君たちに教えなければならない」

「? 本当の名前?」

 

「ああ。彼女の本当の名前は……ユイ。石川(ユイ)

「石川? ……まさか……!」

 

 

 

 

 

「そうだ。彼女は10年前、()()に殺された石川教授の実の娘だ」

 

 そして岩田は話し始めた。

 彼の知りうる範囲での、全ての真相を──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常110体

B群6体

不明1体

合計117体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Whose force has she borrowed?

A: She has borrowed force of the king who changed his destiny himself.




【参考】
観察力を磨く 名画読解
(早川書房, エイミー・E・ハーマン著, 岡本由香子訳, 2016年)
もう一歩深く知るデザインのはなし〜教会のステンドグラス
(http://www.interior-joho.com/interview/detail.php?id=1312&page=2)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 09 演じていた者たち(THEY WERE ACTING)
Question025 What were they told about?


【イメージOP】
PEOPLE1 - 銃の部品

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


 むかしむかし、とある世界のお話。

 その世界には、幾度となく人々を恐怖に陥れる脅威が襲ってきました。

 人々はその度に恐怖し、恐れ慄きました。

 

 けど、この世界には人々を守る、言わば正義の味方がいました。

 

 人々の笑顔を守るために、悲しみを笑顔で隠して戦った戦士。

 誰かの居場所を守るために、自身を創り出した「神」に抗った戦士。

 馬鹿げた争いを止めるために、最後の一人になるまで戦い続けた戦士。

 人の夢を守るために戦った異形の戦士。

 友のために自らの運命を犠牲にした戦士。

 若き者たちに自身の背中を見せた戦士。

 家族のために復讐に燃えた戦士。

 時の均衡を守るために異形のものと共に戦った戦士。

 異なる二つの種族の架け橋となるために戦った戦士。

 次元を超えて、ただひたすらに旅を続けた戦士。

 ある街を守るために戦った二人の戦士。

 誰かの欲望の暴走を止めるために奔走した無欲な戦士。

 全ての友のために戦った戦士。

 誰かの希望を守るために戦った華麗な戦士。

 自らを犠牲とし、人類の運命を守った「神」のような戦士。

 異形の友と共に高速で戦った戦士。

 偉人の生き様を学び、死して尚も戦い続けた戦士。

 苦しむ人々を守るために、命と倫理を考え続けた戦士。

 三国の愛と平和のために、ひたすらに知恵を働かせた戦士。

 未来をより良いものに変えるために、時空を超えて戦った戦士。

 

 彼らは全てを犠牲にして、戦い続けました。

 

 

 

 しかし、悲劇は突如として起こりました。

 

 

 

 ある日、空から()()が降って来ました。

 まるで卵のようなものは宙空で突如として割れると、人型の()()現れました。

 

 まるで神のような()()は、次々に街を壊し、世界はあっという間に炎と闇に包まれていきました。

 

 当然、この世界を守っていた戦士たちは()()にひたすら抗い続けました。

 けど、()()は圧倒的な強さを持っていて、誰も彼も敵うことはありませんでした。

 

 

 

 そして、たった三人を残して、その世界は終わりを迎えました。

 

 生き残った三人は()()に連れられて、とある別の世界に辿り着きました。

 そこで彼らは、()()の目的を教えられました。

 

 ()()はただひたすらに、生きとし生けるものを根絶やしにするためだけに、誰かに造られたもの。

 いや、誰かに造られたのか、そもそも自然に生み出されたものなのか、自分にも分からないのです。

 自分は何なのか一切を知らないまま、ただひたすらに何かを滅するしかないのです。

 

 辿り着いた世界は、先程自分が壊した世界とは全く違い、ビルも道路も何も無い更地でした。

 その中で人々は静かに慎ましく生活を営んでいたのです。

 

 早速、この世界も壊そうとしました。

 でも、()()は少し疲れてしまいました。

 少しの間休んで、それから壊すことにしました。

 ただ、寝て回復するという単純なものではありません。誰かを養分にして吸収しなくてはならないのです。

 

 それに吸収するのは誰でも良いというわけではありません。

 自分と同じ、とはいかなくてもいいものの、とにかく強大な力を持った者でなければならないのです。

 でも、この世界にいる人々は皆貧弱でした。とてもそんな力を持っているようには見えません。

 

 ()()は考えに考えました。

 

 するとあることを思い出しました。

 それは、自分が先程戦った者たちのことです。

 彼らは超人的な力を持って、自分に立ち向かっていったことを思い出したのです。

 

 となれば、いつか自分が少しだけでも力を取り戻したのならば、この世界の人々を超人に変えるための物を作って、人々をあの戦士たちのような姿にすれば良い。

 

 ()()はすぐさま行動を始めました。

 誰もいないところに大きな祠を作って、壁に自分たちのことを童話のように書いて後世の人間たちに伝えようとしたのです。

 

 そして()()は、自身の腹部に着いたものを取って、連れて来た三人と一緒に棺の中で長い眠りにつきました。

 

 いつか、誰かが自分たちのことを見つけてくれると信じて──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

2010.12.25 14:03 東京都 新宿区 四谷遺跡

「最深部に到達しました。今から調査にかかります。データはそっちに送りますので、確認してください」

 

 僅かな照明で照らされていく中、六人は各々作業を進めていく。全員の頭部にはヘルメットがかぶさっており、一人が目の前に広がる光景をカメラに収めていく。

 

 

 

 事の始まりは2010年10月9日。

 四谷に新しいビルを建設するために工事を行っていた建築会社が、大量の土器を見つけたのがきっかけだった。

 

 すぐに城南大学の考古学研究室が派遣され、調査が始まった。

 当初、大量の土器と鳥居のような建造物が発見されたことで、何かの宗教施設であることは判明したのだ。

 

 だが、それで終わりではなかった。

 

 地中に人がやっと通れるほどの扉があり、そこを開けて通ると何も無い空間に繋がる。しかしながらよく下を見てみると同じような扉があり、さらにそこを抜けると同じように床に扉の付いた空間が広がっていた。

 どうやらただの宗教施設ではない。恐らくは古代エジプトの王家の墓のような仕組みになっているのだろう。

 ということは、全ての扉を抜けた先には必ず棺やらが置かれているはず。

 

 そう考えた調査チームは必要最低限の道具のみを持って中に進み始めた。

 

 扉を開けて入り、また次の扉の先へと入って行く。もうこのやり取りを30回以上は繰り返したところで、ついに彼らは狭い部屋ではなく広い廊下に辿り着いた。

 片手に持った懐中電灯で目の前を照らしながら、奥へと進んで行く。

 

 ついに彼らは、目的地と呼べる場所へと到着した。

 

 そこはまるで大きなかまくらだ。ドーム状の壁一面に細かい絵が書かれており、三つの棺が並べられている。そして棺の中央には、岩で作られた2メートルほどの卵型のオブジェが置かれていた。

 

 これまでの考古学の常識を覆されるような風景に戦きながら、彼らは調査を進めていった。

 

 

 

「やはり、どの時代の文明とも共通点がありません。()してや、()()()()のものともです」

 

 リント族。

 それは長野県の九郎ヶ岳遺跡でその存在が明らかになった、言わば日本人の祖先とも言うべき民族。

 戦士クウガやゴウラムと、今の人類以上の高度な文明を有していた彼らのものでもないこれら。

 

 ということは、新しい文明や部族の発見、と言うことだろうか……?

 

 全員が期待に胸を躍らせる中、大人に混じって遺跡の中を彷徨く少女に、石川教授が声をかける。

 

「唯。あんまり彷徨くなよ。危ないぞ」

「はーい!」

 

 人気のキャラクターが描かれた水色のパーカーに黒いズボンを着た少女──石川唯は父親に溌剌とした返事をして、他の面子の邪魔にならないよう範囲で歩き回る。

 無邪気に走り回る少女は、真剣に調査をする面々とあまりにも空気感が違っている。

 だが、殺伐とした発掘現場での細やかな癒しとなっていることから、全員が黙認している。

 

 いや、黙認していると言うよりも、それに目もくれないほど真剣に調査に取り組んでいると言うことだろう。

 

 今の彼らにとって最大の謎は、棺やオブジェではなく、壁一面に描かれた絵だ。

 これはラスコーの洞壁画のような抽象的な絵ではない。具体名を出すとすれば、ヒエロニムス・ボスのような作風と色味の絵だ。とても超古代に描かれたものとは思えないほどに繊細で、尚且つメッセージ性の無い。

 メッセージ性の無いと言うのは、古代の壁画としては致命的なのだ。古代人は遥か未来の人々に対して、自分たちの存在等を明らかにするために絵を描いていたのだ。伝えるものが何も無いと言う絵は、死んだも同然なのだ。

 

「まさかとは思いますけど、これ、『何かに触ったら呪うぞ!』とかじゃないですよね……?」

「そんなわけないだろ。ほら、手を進めるぞ」

 

 怯えながら作業を進めるメンバーに、優しく声をかける教授。

 だが内心では教授も少しばかり震え上がっていた。

 実際、九郎ヶ岳遺跡でも「死」「警告」と書かれた棺を開けたことでグロンギ族(未確認生命体)は復活し、前任の夏目(なつめ)教授率いるチームは亡くなったのだ。迂闊に油断は出来ない。

 

 皆が慎重に手足と目を動かす中、唯の目に映ったものは岩で出来た小さなテーブルだ。土で覆われた机上には四角い()()が置かれていた。同じように土でコーティングされたものを見た時、唯は目を煌めかせた。

 

 何故なら、置かれていたものは父親が最近持ち始めたスマートフォンに似ていたからだ。

 中々触らせてもらえないものが今、自分の目の前にある。その事実に興奮しているのだ。

 

 すぐに駆け寄って机上の物を取った時、父親の声が聞こえてきた。

 

「しっかし、(なん)なんだろうな? これ」

 

 教授が遺跡の中央に置かれた卵型のオブジェに、軍手越しに触れた。

 

 次の瞬間。

 

 ピキッ。

 

 何かが割れるような音が聞こえてきた。

 音源は先程自分が触れたものだった。徐々に(ひび)が入っていき、割れ目から白い光が差し込んでくる。

 

 何が起こったのか全く持って分からないまま、その場の全員が腕や手で目を覆う。

 

 次に彼らが見たものは、破られて役目を終えた殻と、この世のものとは思えないほどに美しく、尚且つ醜い姿をした人型の()()だった。

 

 この世のものとは思えないほどに衝撃的な光景の数々に、彼らは驚く声を上げることすら許されない。

 いや。許されてはいるのだが、己が拒否をしてしまっている。

 

 そして、その()()は突如として行動を起こしたのだ。

 

 

 

 

 

 私が警視庁から事件の詳細を聞いた時、とにかく理解をすることが難しかった。

 

 遺跡の入口に無造作に置かれていた遺体には一切の外傷が無く、また胃や血液から一切の毒物の検出がされていないことから、死因の一切は不明。

 現場のゲソ痕*1に関しても、調査チーム以外のものは検出されなかった。

 

 事件にしろ事故にしろ、詳細は全くと言って良いほど分からず仕舞い。

 衰弱死と言うしか道は無かった。

 

 だが一つ、有力な手がかりがあった。

 幸い、亡くなった石川教授の娘さんはまだ生きていたそうだ。

 どうやら遺跡の壁に頭を強くぶつけたそうで、まだ意識は戻らないが、直に回復するらしい。彼女から事情を聞く、と言うのが私の役目だった。何せもし、未確認生命体絡みの事件だった場合は慎重に捜査を進めなければならなくなる。その前に警察庁の私が調査しろ、とのことだ。

 

 3日後。娘さん、唯ちゃんの意識が戻った。

 病院の個室で初めて面会した唯ちゃんの顔は、明らかに恐怖で埋め尽くされていた。

 こういう場合、慎重に話を訊かなければ取り返しのつかないことになってしまう。

 

「こんにちは。唯ちゃん」

「……こんにちは」

 

 私の挨拶に素っ気無く返してくれた唯ちゃん。

 

 まずは世間話で話を紡ぐことにした。

 最近幼稚園で流行っている遊びの話。

 好きなキャラクターの話。

 話していくと、徐々に彼女は持ち前の天真爛漫さを取り戻していった。先程とは打って変わり屈託の無い笑顔を見せる彼女に、ついに訊いた。

 

「あの日、何があったのか、教えてもらえるかな?」

 

 そして唯ちゃんは教えてくれた。

 自分たちの身に何が起こったのか。

 

 

 

 あの日、()()は目覚めるや否や、調査チームの全員に襲いかかった。

 ただ襲いかかったと言っても、食ってかかったと言うわけではない。

 全身から管のようなものを伸ばして一人一人にそれを刺していった。

 するとどうだろう。管を刺し込まれた者たちは、あっという間にその場に倒れてしまったらしい。

 

 そして唯ちゃん以外の全員が倒れたところで、()()は3つの棺に管を刺し込んだ。

 刺し込んだ棺が突如として開き、なんと3人の人が出てきたのだ。一人目は中年の男。二人目は美しい女。三人目は若い青年だったと言う。

 

 彼らが目覚めて自身の周りに集まった時、()()は突然唯ちゃんの方を向いた。怯える唯ちゃんの元へと近づいて来る()()

 だが唯ちゃんはあまりの恐怖で足が竦んで動くことが出来ない。

 

 唯ちゃんの目の前に来た()()はその場に跪くと、男性の声と女性の声が混じったような声で彼女に話しかけた。

 

「君が手に持っている物、それは私にとって大切な物だ」

 

 唯ちゃんが持っている物。

 それは先程、岩のテーブルの上から彼女から拝借した物だ。

 

「いつかこれを貰いに来る。気長に待っていてください」

 

 それだけ言い残すと、()()と3人の男女はその場から姿を消したのだ。

 

 

 

 唯ちゃんの証言から、これは未確認生命体による犯行だと言うことが分かった。

 だがただの未確認生命体ではない。遺跡の壁画等から嘗て出現したグロンギ族や、その標的であったリント族とは一切の繋がりが確認されなかったため、出現したものを呼称するのだとしたら、「()()未確認生命体」と言うことになるだろう。

 

 これはすぐに発表を出来るものではない。何せ唯ちゃんの命がかかっている。無闇矢鱈に行動しては、彼女の生命の保障は出来ない。

 

 だから私は全てを動かすことを決意した。

 

 まずは唯ちゃんと全く同じ生年月日、体型、血液型の少女の戸籍を乗っ取ることが出来るその時まで待つことだ。

 戸籍が残っていては、いずれ唯ちゃんの居所がバレてしまう可能性があるからだ。

 念の為、唯ちゃんの戸籍は消し、本来学校で習うような教育は全て私が教えた。

 

 次にあの壁画の解読だ。

 ただ、表向きにはただの変死事件として伝えられている事案なので、下手に外部の者を呼んでしまうのは言語道断だ。

 

 そこで事件から6年経ったところで私が呼んだのが、当時大学4年生だった碧君だった。考古学研究の論文でその権威たちから注目を浴びていた彼女を呼んだことで、その全てをすぐに理解することが出来た。

 

 そしてついにその時が来た。

 一つ目に四谷遺跡の周辺の地下に建設を進めていた設備が完成したこと。

 二つ目に唯ちゃん用の戸籍の候補の一人だった、筒井あまねと言う少女が交通事故で亡くなったこと。

 

 これで全てが揃った。

 後は来る「フォルクロー」と名付けられた新型未確認生命体の出現を待つのみとなった。

 

 だが想定外の事態が起こった。

 それはヒュージルーフの出現であった。

 恐らくはフォルクローの仕業だと思われたその現象の影響で、私の作った組織はヒュージルーフの解析も担うこととなってしまった。

 

 そしてSOUPは、現れたフォルクローに対抗することと、巨大な屋根を解析することの両点が職務となった組織となっていったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上が、私の知っている限りの全てだ」

 

 あまりの情報量に、その場の全員が言葉を発することが出来ない。

 つまりは、自分たちの戦っていたものは元々人間であり、最終的に戦わなくてはならないのは神のようなものである、と言うことだ。

 

「じゃあ、ここで目覚めたものが『零号』であり、その零号が目覚めさせたのが……」

「ああ。アール、フロワ、ピカロ(あの三人)だ」

 

 薫の質問に対する答えの通りであるならば、あの三人はこの世界とは別の世界から来た者たちであり、何故か自身らの故郷を滅ぼした者に忠誠のようなものを誓っている。

 ますます理解が出来ない。

 そんなのに忠誠を誓う必要性など無いはずなのに。

 自らも殺されるかもしれないと言う恐怖からか?

 それとも、また別の理由からなのか……?

 

 岩田は今度は圭吾の質問に対して淡々と答えた。

 

「まさか……彼らがフォルクローを倒させているのは、言わば主人(あるじ)に対しての生贄を作り出すため……」

「ああ。全てのカードを揃えて、それらをアールの持っているメモリアルブックに装填する。そして唯ちゃんの持っている()()を使えば、零号は完全体になる」

 

「あの、室長」

「?」

「石川唯、いや、筒井あまねの持っていた物は一体(なん)なんですか?」

 

「……。残念ながら君たちに教えることは出来ない。()()が何処にあるのかも、だ。

 零号は今も人間態を持ったフォルクローのように、人間社会の中で生活を営んでいると思われる。何処から情報が盛れるかどうか分からないため、詳細を知っているのは私、春樹君、碧君、そして唯ちゃんの4人だけだ」

 

 森田の質問にはより慎重に答えた。

 それほどの代物と言うことだろう。何せそれを言った方が事がスムーズに進みやすくなるのだから。

 

 これより後に誰かが言葉を発することは無く、冷たく暗い遺跡の中で沈黙が重い空気によって沈んでいった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.14 20:41 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう

 賑やかな店内では、仕事終わりのサラリーマンたちが呑んで食っている。

 日頃のストレスを酒で洗い流し、肉が包んで捨ててくれる。

 

 だが彼らの抱えているものは、たかだか飲食物でどうこう出来る話ではない。

 自分たちが戦っているものはこれまでの脅威とは桁違いのものであり、正直なことを言って全容は何も理解出来ていない。

 

 そして何より、自分たちは人を殺した。

 正確に言えば、人であったもの、だろうがそんなことは関係無い。

 殺した事実は変わらないのだから。

 

 個室で彼らは静かに酒を呑んでいた。

 肉も頼まずひたすらに喉を潤すその姿に、新井夫婦と日菜太は違和感を覚えた。

 

「どうしたんですか皆さん? 今日は随分暗いですけど」

「そうですよ。皆さんらしくない」

「うんうん。お肉、サービスしますから、元気出してください」

 

 靖子が机上に置いた皿の上には、大量の肉が盛り付けられていた。カルビにタン、ヒレにトウガラシ*2まで。メジャーな部位から滅多にお目にかかれない希少部位まで。様々な種類が並べられている。

 

 軽く会釈をして森田が受け取ったところで、三人は個室を後にした。

 

 だが個室に残された四人は用意された肉に手をつけることはなく、ひたすらにジョッキやグラスの中の液体を空にしていく。

 

「どうすれば()いんでしょう? 私たちがこれまで対峙していたのは元は人間で、しかも倒せば倒すほど敵のボスは強くなっていく……。自分たちのやっていることに意味なんてあるんでしょうか……?」

 

「それに、アールたち三人も大事なもの、だけじゃなくて世界そのものを奪われた、言わば被害者です。……はっきり言って、彼らを倒すことに対して僕はすごく……躊躇(ためら)いを覚えていますよ」

 

「ああ。21年前の未確認生命体も遺伝子情報の99.9パーセントが人間と全く持って同じだった。とは言え当時は害獣として処理されたがな。だが今回に関しては、わけが違う……」

 

 全員が暗い表情で下を向く中、一人トングで肉を取り出す。

 そして網の上に肉を置いた時の音で、全員が顔を上げた。

 

 脂によって網の上に上がった炎の後ろにいたのは、トングを持った深月だった。

 他のメンバーと同じように悩みに悩んでいる表情、と言うより、目の死んだ虚な表情だ。

 

「もう……やるしかないんですよ……。後戻りなんて出来っこない。だって僕たちは、間接的にも人を殺したんですから……」

 

 嘗て、彼の家族は殺された。

 そして今は、間接的ではあるが彼が人を殺している。

 例え脳が理解出来ずとも、心の奥底は確実に深く傷ついているはずだ。

 

 脂が一滴垂れ、再び炎が立つ。

 ゴクリと唾を飲んだ深月は、炎によって裏返さずとも両面の焼けた肉を箸で摘み、一口で平げた。

 

 今まで見たことのない異様な仕草に、その場の全員は言葉を詰まらせ、再び下を向いてしまった。

 

 すると

 

「なんか……おかしくないですか?」

 

 突如として薫が全員に声をかけた。

 重い雰囲気の中で発し出された声に全員が耳を傾ける。

 

「どうして6年経った後で、壁画の解読を始めたんでしょう? 普通、すぐに解読を進めた方が良かったのに」

 

 確かにそうだ、と森田が頷く。

 続けたのは圭吾だ。

 

「それに、9年後に専門家を呼んでって、対策としてはあまりにも遅すぎませんか? しかも僕たちが赴任してすぐにフォルクローたちが現れた。

 まるでいつ現れるか分かっていたかのようですよね」

 

「……だとしたらどうやって知ったんだ? あっち側の状況なんて、スパイを送り込むなり何なりしないと分からないぞ」

 

 森田の言葉に全員が言葉を詰まらせ、そして考える。

 だがどう頑張っても答えは出ない。

 もう何も考えずに物を口の中に放り込むことしか出来なくなってしまった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.14 21:53 東京都 中野区

 東中野駅付近の都道317号線沿いをゆっくりと歩いて行く春樹と碧。千鳥足と言うわけでもなく、はつらつとした足取りだ。

 

 幸いにも傷は深くなかったため、30分ほど前に起きて帰宅し始めたのだ。

 

「岩田室長が、彼らに全てを話したそうだ」

「……そう。そっか」

 

 春樹の言葉に碧が頷く。碧の白く美しい肌に反射する街灯の光が、碧が頷く度に向きを変えていく。

 その横顔を眺める春樹の視線に気がついた碧が、春樹に話しかけた。

 

「何?」

「いや、何でも」

「あそう。いやぁ、それにしても心配だなぁ」

「え? 何が?」

 

「深月くんのことだよ。自分たちが戦っているのが元は人だったとか、特に彼は傷つくだろうなと思って」

「だろうな。最初は俺もお前も傷ついた、そうだろ」

「まぁ、うん」

 

 深月だけではない。

 彼らもだ。

 彼らも両親を殺された。そして今、人を殺している。

 間接的にではない。彼らは直接的にやっているのだ。

 

 だが彼らはその苦しみを面に出したことは無い。

 出してはいけない。

 誰にも悟られてはいけない。

 理由なんて無い。

 でも、そんな気がするのだ。

 

 すると碧が春樹の深緑のコートの袖を僅かな力で引っ張った。

 気が付いた春樹が碧と同じ方に目をやると、右側に一軒のコンビニが建っていた。

 ちょっと寄ってくね、と碧はコンビニの中に入って行った。

 

 

 

 碧がコンビニで買い物をしている中、春樹は一人店の前で待っていた。

 

 否、二人だ。

 

 春樹の左隣には眼鏡をかけたコートの男が立っていた。右手に持ったキャップ付きのアルミ缶の中のオレンジジュースを少しずつ飲んでいく。

 

「奥さんはお買い物ですか?」

「ああ。ったく、何を買っているんだか。……井川、あのメールどう言う意味だ?」

 

 井川と呼ばれた男は春樹の言葉に鼻を鳴らした。

 

「分かっているんでしょ? 何せ貴方のところにも予兆があったはずだ」

 

 井川がオレンジジュースをまた少しずつ飲み始めた時、春樹が答えた。

 

「焼肉弁当」

「? はい!?」

 

「昨日、(うち)で誰が作ったわけでもない焼肉弁当が出来ていた。()()()の得意分野は料理だったよな? ()()()()()()()

「なるほど」

「その場ではスルーしたが、まさかと思ってな。……で、()()()はいつ来る?」

 

「……12月24日、クリスマス・イブです。全く、最悪なクリスマスプレゼントになるでしょうね」

「ああ。全くだ」

 

 暫く流れる沈黙。

 すると春樹は端末をコートのポケットから取り出して、グアルダを呼び出した。

 

「グアルダ。もし()()()が現れたら」

「ああ、分かっている。碧を変身させなければ良い、だろ?」

「……話が早くて助かる」

 

 グアルダが端末から姿を消したその時、後ろから独特な音楽が流れた。

 同時に、井川は会釈をして退散して行く。

 

 代わりに春樹の右隣に立ったのは、買い物を終えた碧だった。

 両手に握られたレジ袋の中には、パンパンに物が詰まっていた。

 

「お前何買ったんだよ」

「今日の夜ご飯と明日の朝ごはん。ゆで卵にキムチにそれから……」

 

 口頭で買い物の詳細を説明していく碧。

 愛くるしいその姿を春樹はじっと見つめる。

 

「行こうか」

「……ああ」

 

 すると春樹は碧の右手に持ったレジ袋を取って自身の右手で持つ。

 真意を理解出来ない碧だったが、春樹がすぐに行動でそれを示した。

 春樹の左手が碧の右手を繋いだのだ。

 

 笑みをこぼしてギュッと握る碧。

 それに応えるように、春樹も握り返した。

 

 最低気温が約4度の今日、二人の間にだけ熱が生じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから10日後のことだった。

 椎名春樹と椎名碧。

 この二人の関係が崩壊しようとしたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What were they told about?

A: About all of truth he knows.

*1
警察の用語で足跡のことを指す。

*2
牛の肩から前脚から取れる肉。牛1頭につき2キログラムしか取れないため、大変希少な部位である。




【参考】
観察力を磨く 名画読解
(早川書房, エイミー・E・ハーマン著, 岡本由香子訳, 2016年)
東京の過去の天気 2021年12月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20211200/)
1 発掘調査 その道具 と
(http://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000883357.pdf)
「5歳女の子」の人気ファッションコーディネート - WEAR
(https://wear.jp/coordinate/?tag_ids=279460)
焼肉の部位で迷ったら確認!部位の名称と特徴一覧
(https://nikuzou.jp/blog/yakiniku_parts/)
一度は食べておきたい!焼肉で味わう牛肉の希少部位ベスト5
(https://www.daikokusengyu.co.jp/1273/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question026 Who transforms to that blue MASKED RIDER?

第二十六話です。
前回は全ての始まりについて、今回は碧について書くことになりました。
シーズン1も今回を含めて残り5話です。
どうぞお付き合いください。
宜しくお願いいたします。



【歌詞使用楽曲】
Wonka's Welcome Song (From "Charlie AND THE CHOCOLATE FACTORY")
(作詞:John August, Danny Elfman)

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=e369d288687d4266


 Willy Wonka, Willy Wonka

 The Amazing Chocolatier

 Willy Wonka, Willy Wonka

 Everybody give a cheer!

 

 リビングで私が歌を歌うと、必ずお兄ちゃんが乗っかってきてくれた。

 今、ソファに座っている私の隣に座ったお兄ちゃんは、一緒に歌ってくれる。

 

 He's modest, clever, and so smart

 He barely can restrain it

 With so much generosity

 There is no way to contain it

 To contain it, to contain, to contain, to contain

 

 歌いながらお互いの顔を見合って微笑み合う私とお兄ちゃん。

 歌が続いていく度に、声がどんどん明るくなって、二人とも盛り上がっていく。

 すると

 

「楽しそうだね」

 

 お父さんがキッチンから顔を出した。

 茶色いセーターの上から緑色のエプロンを着けたお父さんは、笑顔でこっちの様子を見てくる。

 

「お父さん!」

 

 私とお兄ちゃんが駆け寄ると、お父さんは私たちのことを思いっきり抱きしめてくれた。

 見上げた顔はとても優しそうで、なんだかホッとする。

 

「さぁて、ご飯にしようか」

「「やったー!」」

 

 三人で食卓を囲むように座る。

 テーブルの上に並んでいるのは、鍋の中に入ったビーフシチュー、ボウルの中に入った山盛りのサラダ、皿の上に盛られたバゲット。どれも美味しそうに照明の光を反射させる。

 

 お父さんに頼まれて、私は小皿の上にビーフシチューを乗せて早歩きで移動する。

 

 持って行ったのは別の机の方だ。3段の引き出しがあって、上には写真の入った写真立てが置かれている。

 

 写っているのは、お母さん。

 これがお母さんの代わりだ。

 だってもう、お母さんはいないんだから。

 

 目の前にお皿を置いて手を合わせると、自分の席に座った。

 

 目の前に座るお父さん。

 左側に座るお兄ちゃん。

 写真の中で笑顔を浮かべるお母さん。

 

 こんな生活がずっと続いたら良いのに──。

 

 

 

 

 

 それが続くわけでは無かった。

 大学1年生の時、お兄ちゃんが失踪した。

 突然退学届を提出し、家からも忽然と姿を消した。

 全く連絡も取れず、忽然と姿を消してしまった。

 

 3年くらい前から何かの研究にのめり込んで、中々家に帰って来なかったお父さんの代わりだったお兄ちゃん。

 だから実質、私はもうひとりぼっちだ。

 

 でも、それから3年が経ってそんな状況は変わった。

 

 ある日、私が大学の図書館で調べ物をしていると、1人の男の人に出会った。

 

「あの、本、お好きなんですか?」

 

 突然話しかけられた。曰く、彼は学生以外も利用出来るこの図書館をごくたまに利用しているらしく、そこでいつも調べ物をしている私に興味を持ったらしい。

 どうせナンパだろうの一種だろう。実際、同じような手口で何人かがこれまでに声をかけてきた。まぁ、いつも断ってはいるのだけれど。

 ただこの人は何かが違かった。

 ダメージジーンズに緑色の長袖のシャツを着た彼は、これまで私に言い寄ってきた男たちと雰囲気も何もかもが違かった。

 

 それ以来、私と彼──春樹は定期的に話をするようになった。とは言え図書館の中に学生以外の人が入れるのは月曜日、水曜日、木曜日、金曜日だけと言う制約がある。だから連絡先を交換して、図書館の外でも会うようになったのだ。

 

 最近読んだ本の話や私の大学での話、とにかく沢山話をした。その中でも家族の話題は結構少なかったなぁ。彼のご両親はもう亡くなっていたらしい。お母さんが死んで、お父さんが研究でめったに帰って来ない私と何処か似ているところがあって、さらに距離は近づいていった。

 

 

 

 そして、私が春樹と付き合い出して2年が経とうとしていた頃、全てが動き始めた。

 

 ある日私が大学にいると、一人の男性が話しかけてきた。話を聞くと警視庁の方らしく、来て欲しい場所があるらしい。別に予定も何も無かったので、とりあえず行ってみることにした。

 

 連れて来られた先にいたのは、春樹だった。何故春樹も連れて来られたのか全く検討がつかないと言う。私もそうだ。どうして私たちはこの人に呼び出されたのだろう。

 

 そこはどうやら工事中の地下トンネルのようだ。何人もの作業員たちが様々な工具を使って開いた穴の中を固めていっている。

 

 作業中の彼らの中を潜り抜けて案内された先にあったのは、だだっ広い空間だった。壁に無数の絵が描かれ、中央には円形に並んだ3つの棺。そして真ん中には岩で出来た卵の殻のような残骸が残されている。

 

 そこで私たちは男性──岩田室長から全てを聞いた。未確認生命体に次ぐ脅威がここから現れたこと。早急に対応を行いため、この壁に描かれた絵の解析をお願いしたいと言うこと。

 

 俄には信じ難い事実だったけど、室長の見せてくれた映像で全てが真実で現実であることが分かった。

 

 幸いにも卒業論文は書き終わって、就職も大学に附属している研究機関への内定が決まっていたので、時間を取ることは出来た。

 学校の帰りに遺跡を訪れては、壁画の解析を急ぐ。春樹が珈琲を差し出してその様子を見守る。それが私たちの日常となった。

 

 そこから3年の月日が経った。と言うのも、広いドームの中だけでは無くそこに続く通路に描かれたものまでも解析しなくてはならなかったからだ。1ヶ月でどれか1つの登場人物の解釈が終われば良いくらい、この作業は途方も無いものだった。

 だけど春樹がいるから頑張ることが出来た。何も発すること無く、ただ優しく見守ってくれる彼がいたから。

 

 本当に春樹がいて良かったと思っている。

 8月にお父さんが失踪した。連絡もつかず行方不明。こうして私はついに一人になった。

 その悲しみを抑えるために解読に熱中した私のそばに、いつもいてくれた。

 その時は彼の有難みに気が付かなかったけど、今思えば本当に有難いと思っている。

 

 

 

 そして解読開始から4年が経った、2020年2月1日。

 全ての壁画の解読が終了して暫く経ったその日付を覚えているのは、私の人生を変えてしまう事が起こったからだ。

 

 その日、私が朝のランニングから家に帰ると春樹と室長、そして1人の女の子がいた。春樹は大学を卒業してから同居しているため何ら不思議は無かったけれど、室長と少女がどうしているのかは全く分からなかった。

 

 室長は私と春樹に、この少女──唯ちゃんは四谷遺跡から蘇った零号に狙われているため、事が収まるまで匿って欲しいと頼んできた。どうやら零号たちに対抗するための装備がもう間も無く完成するそうで、私たちには装備の有資格者たちをサポートするためにまた協力して欲しい、とも。

 

 結果として唯ちゃん、いや、与えられた名前で呼ぶならあまねちゃん、か。そのあまねちゃんが我が家に加わったのもその日だった。

 

 

 

 けれど、それ以上の出来事が起きたのは、その日の昼過ぎだった。

 

 あまねちゃんは外食に行ったことが無かった。ずっと身を追われていたため、人が人間社会の中で経験していくことの殆どを、彼女は室長の別荘で完結させていたのだから。

 本人が「蟹を食べたい」との要望を出してきたので、近くの食べ放題の店でたらふく食べた。

 

 その帰り、あまねちゃんが家の中に入った瞬間、まだ玄関の前にいた私と春樹に誰かが話しかけてきた。

 

「どうも」

 

 後ろを振り向くと、そこに立っていたのは奇妙な三人組だった。真ん中にいるスーツを着た中年男性、左側にいる赤いチャイナ服に身を包んだ女性、右側にいるパーカーを着た少年。まるでどうしてこの人たちが集まっているのか検討のつかない集団に、私は思わず警戒する。けれど春樹はそんな素振りを見せず、じっと三人を見つめていた。

 

「石川唯さんを匿っているのは、貴方たちね?」

 

 女性──フロワの言葉で、私は身構えた。

 どうして、それを知っているんだろうか。

 まさか、彼女たちがあまねちゃんを狙っている人たちなのか……。

 

「落ち着いてよ。別にあの()に危害を加えたりしないから」

「じゃあお前らは何しに来たんだ?」

 

 私たち、と言うより身構えている私を宥めようとする少年──ピカロに春樹が問いかける。

 

 するとアールが後ろを向くと、突如として()()()()()()()()()。本来はただの壁しか無い場所に、黒い等身大の穴が出来上がる。

 

「どうぞ」

 

 アールに手招きされるがままに、私たちは穴の中に入って行った。

 

 

 

 

 

 行き着いた場所は、何とも不可思議なものだった。

 暗く広い空間に付いている大きな窓から見えるのは、荒廃した街並み。ビルや道路。私たちが暮らしている世界と何ら変わりは無い。崩壊していること以外は。

 

 そして、室内にあったのは大量の白い棺だ。全長2メートルくらいの棺が200個近く並べられている。

 

 中を覗いて見ると、全ての中に入っていたのは人間だった。全員が白いTシャツと白いズボンを着ていて、死んだように眠っている。

 

「彼らは1年後、我々の(あるじ)の生贄として改造され、そして1年半後に差し出されます。彼らを倒すのは本来、主が行う予定だったのですが……。

 もし唯さんが()()を渡してくだされば、計画は楽に進みます。……いかがでしょう?」

 

 間違い無い。

 彼らは壁画に描かれていた、滅びた世界から来た三人だ。

 だとしたら、もし彼らに()()()()()()()()()()()()()()を渡したら……。

 

「……。答えはNO(ノー)よ。()()を貴方たちに渡しちゃならない」

「俺も同意見だ。どうなるか分からないのに、無闇矢鱈に渡すことは出来ない」

 

「……。そうですか。では一つ、私に良い考えがあります。貴方方が戦えば良いんです」

 

 アールの言葉に言葉を失う私たち。

 

「彼らと同等の力を持って戦えば、唯さんに干渉せずとも我らが主への養分は確保出来ます。……どうです?」

 

 何かを発しなければならない。けれども言葉が喉の奥でつっかえて上手く出てこない。

 

「同じく半年後にまたお伺いします。そこでお返事を聞かせていただければと。ただ……」

 

 するとアールは再び穴を2箇所に出現させた。

 一つは私と春樹の後ろの少し遠くに。もう一つはアールの後ろに。

 

 アールの後ろにある穴は巨大で、そこから黒ずくめの集団が何人も出て来た。良く見るとその手には刃先の鋭いナイフが握られている。

 

「もし貴方方が『戦う』と言う選択をなさった際、誰にも太刀打ち出来ないようでは話になりません。ここでテストさせていただきます」

 

 

 

 そこから先は殆ど覚えていない。

 気がついたら家のリビングにいて、二人とも全身が傷だらけだった。さらに部屋の中には大量の書類で溢れていた。それだけ荒らされたか、それとも慌てていたからか。

 部屋の片隅にあるソファでは、私たちと対照的にあまねちゃんがすやすやと眠っている。

 

「解読とあの人たちの言う通りならば、あの人たちは怪物にされる手術を施されて、そして殺される。全ては彼らが崇拝するもののために……」

「けれどもし俺たちが同じ手術を受ければ、あまねが狙われる可能性は低くなるし、いざという時に俺たちが直接彼女を守ることが出来る……」

 

 暫しの間流れる沈黙。

 すると春樹が突如として口を開いた。

 

「あの手術を受けるのは俺だけで十分だ。これ以上、君を巻き込む訳にはいかない」

「何言ってるの? 私だってこうなることぐらい想定の範囲だった。別に怖くなんてない」

 

 あの壁画の解読を始めた頃から、とんでもないことに巻き込まれたとは思っていた。

 けれどまさかこんなことになるとは……。

 

「けど」

「それに!」

 

 二人とも視線はあまねちゃんの後ろに向けられた。すやすやと眠る彼女の姿を見て、私は腹を括った。

 

「この()を護れるのは、私たちしかいない。だから……一緒に戦おう」

 

 私は春樹の両手を柔らかく握って、その目を真っ直ぐと見つめた。

 

 もう、覚悟は出来ている。

 私を見つめる春樹の目も同じような目をしていた。

 

 

 

 翌日、私と春樹は室長に自分たちの決断を話した。

 当然のように最後まで止められた。

 けど、それでも私たちの決意は揺らがなかった。

 

 それを室長も分かってくれたのだろう。深く礼を一つすると、私たちにそれぞれ銀色のアタッシュケースを手渡してきた。

 中身を確認すると、各々のものの中にスマートフォンのような黒い端末と2枚のカードが入っていた。

 

「後は頼む」

 

 室長の言葉を背に、私たちはその場を立ち去った。

 

 

 

 それから1ヶ月くらい経った、2020年3月7日。

 あまねちゃんを室長の元に預けたその日、私たちは都内の結構高いホテルに泊まっていた。

 何の記念日でも無いこの日にどうして泊まることになったのか、全くもって想像が出来ない私が夜になって部屋に戻ると、部屋の中にある白いベッドの上が大量の赤い薔薇の花びらで彩られていた。

 

 何が起こっているのか分からない私の目の前に立った春樹は、ジャケットのポケットから()()()()を取り出して、中身を私に見せてきた。

 

 入っていたのは、銀色に輝く1つの指輪だった。

 

 涙が出そうになりながら口元を押さえて、私は春樹の言葉を待った。

 けれどいくら待っても春樹は言葉を出さない。と言うより出せない。

 よっぽど緊張しているんだろう。口をもごもごと動かして動きが固まっている。

 

 おかしくなって失笑してしまった私は、彼の持っていた黒い小箱を受け取って、中に入っている指輪を左手の薬指に自分で着けた。

 

 笑顔で左手の甲を見せる。

 すると私の様子を見てガチガチに固まっていた春樹がホッとしたのか笑みを浮かべた。誘われたように私もさらに笑う。

 

 僅かな灯りだけが灯るホテルの一室で、私たちだけの笑い声が静かに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして5ヶ月後。

 私たちは異形の戦士(仮面ライダー)になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.23 21:34 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう

「ところで、あまねはクリスマス予定あるのか?」

「え? どうしたの急に?」

「どうなの、あまねちゃん?」

 

 いつもの個室で肉を焼いていたあまねに、向かい合う碧がニヤニヤと笑みを浮かべながら訊いた。

 するとタイミング良く、個室の中に追加の注文をとりにきた日菜太が入って来た。

 そちらの方を向いて笑みを浮かべる碧。

 何が起こっているのか分からず、あまねと顔を見合わせる日菜太。

 

「そ、そりゃあそこまで話さないパパとママの仕事のこととかを話すのは日菜太くんだけだけど……」

 

 徐々に語気が小さくなっていくあまね。

 その様子を見ながらニヤニヤする碧と、そうでもない春樹。

 

「うん、まぁ。そ、そう言えば! 2ヶ月くらい前にすごい仕事終えたみたいじゃないですか! すごいですよねーっ」

 

 無理矢理にでも話を逸らした日菜太の様子を見て、ついに春樹が少しだけ笑みを浮かべた。

 

「それ言ったのって、日菜太くんだけか?」

「うん。そうだけど」

「ふぅーん」

「折角だしデートでもして来なよ。ね?」

「え、えぇ……」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.24 14:21 東京都 目黒区 目黒グランドプレイス

 クリスマス・イブ。

 高々クリスマスの前日であるだけのこの日、ビルの中にある大きな広場はカップルたちで溢れかえっていた。手を繋ぎ、腕を組み、とにかく仲睦まじい様子をこれでもかと見せつけてくる。

 

 カップルたちが悲鳴を上げて逃げまとい始めたのは、そこにクロトと大量のソルダートたちが現れたからだった。

 

 すぐに機動隊員たちと遊撃車、そして碧の乗ったバイクが到着し、臨戦状態へとなる。

 

「あの、春樹さんは?」

 薫が遊撃車の中で問いかける。

 

「分からない。朝から連絡が取れないんだ」

 森田が呆れた声で答えた。

 

「久々に無断欠勤ですか」

 圭吾が懐かしそうな声で独り呟いた。

 

 その中で深月だけが声を発しない。

 全員がそっちを向くと、深月はひたすらにパソコンの画面を眺めていた。死んだ魚の目、と言うより、目だけでなく死人のような顔立ちだ。

 

 誰も彼に何も言うことは出来なかった。

 

 

 

「クロト、何の用?」

 

 地面にいた碧は階段の上にいるクロトに向けて声をかける。

 

「僕はレベルXの力を手に入れることが出来た。だからその性能はどこが天井なのか確かめたいんだ」

 

 クロトが白いガシャットを取り出して黒い起動スイッチを押した。

 

『デンジャラスゾンビ』

 

「分かった。けど、生憎(あいにく)今日は春樹がいないから、期待はしないでね」

 

 碧は端末にパーツの付いたカードを装填し、電源ボタンを押した。

 

『"ZI-O" LOADING』

 

「グレードX」

「「変身!」」

 

 クロトがガシャットをドライバーに挿し込んでボタンを押したのと同時に、碧も端末をドライバーに挿れた。

 

『ガシャット! バグルアップ!』

『Here we go!』

 

 碧の後ろにいる恐竜が雄叫びを上げるのを終えるのと同じタイミングで、彼らは姿を変え始めた。

 クロトの体が黒い煙で覆われた後に晴れたところから白い戦士が現れる。

 同時に変身した碧の体に銀色の鎧が取り着けられた。

 

『デンジャー! デンジャー! ジェノサイド! デス・ザ・クライシス! デンジャラスゾンビ! Woooo!!』

『To know, Take time, Get the watch! It’s RIDER TIME! KING ZI-O! I’ll be the best and best king.』

 

 変身したゲンムの指示でソルダートたちがリベードに襲いかかってくる。

 

 リベードはディスペルクラッシャー ソードモードを取り出すと、ソルダートを斬り裂いていく。次々と黒い泡となって消えていく戦闘員たち。

 だがそれでも一向に数が減る様子は無い。

 

「流石に一人だと、キツいかなっ……!」

 

 リベードが1体の兵士のナイフを剣でブロックし蹴飛ばすと、カードケースから1枚のカードを取り出して、部品のスロットに装填した、

 

『"DRIVE" LODING』

 

 レバーを下げると後ろから近づいて来たものに回し蹴りを食らわせる。

 

『What's coming? What's coming? What's coming?』

 

 再度レバーを押した。

 

中吉(CHU-KICHI)

 

 するとリベードの上に巨大なゲートが出現。そこから赤いスポーツカーが降り立ち、着陸した。

 

『You got a good luck.』

 

 スポーツカーは自動的にドリフト。次々に兵士たちは轢かれていった。

 そして残る標的がゲンムだけとなったところで、スポーツカーはその場から消えた。

 

「ハァァァァッ!」

 

 リベードは自身の剣を持って階段を駆け上がって行く。そして縦に振って斬りつけようとした。

 だがすんでのところでゲンムはガシャコンスパロー 鎌モードを取り出し、そのうちの一本で防御。もう一本で逆に攻撃を仕掛けた。

 

「ヌァッ……!」

 

 後退するリベード。すると次の攻撃を仕掛けようとするゲンムによろけながらも剣で胸部を斬る。

 だがそれしきの攻撃ではゲンムは狼狽えない。

 

 再度剣を使って激しい斬り合いを始める。けれども徐々にリベードが押されていってしまう。

 

「やっぱり進化したのね。君は強くなった。ムカつくくらいに」

「君もね。手応えが無くなってきた。けど、まだまだだねっ……!」

 

 リベードの剣を鎌で押さえるゲンムは、その隙をついて腹部を蹴り飛ばす。

 そして2つのボタンを同時に押し、そしてAボタンを再度押した。

 

【クリティカル・エンド!】

 

 上空に浮かび上がるゲンム。紫色のエネルギーを纏いながら縦に回転すると、右足でリベードに強烈なキックをお見舞いした。

 

「ハァァァァッ!」

「グァァァァッ!」

 

 変身を解除された碧は、衝撃で階段から転げ落ちてしまう。

 なんとか立ち上がろうとするが、全身が痛く挑戦すればするほどに痛みが増して立ち上がれない。

 

 

 

 退屈そうに上で胡座をかいて見下ろすゲンム。一本の鎌の先で床をカンカンと叩いたその時、鋭い銃声と共に右肩から煙が出た。

 

 誰かが発砲したのか……!?

 その場の全員が困惑する中、全員の目線が碧から見て左側の方に向けられた。

 

 そこには1人の男が立っていた。

 仙斎茶(せんざいちゃ)*1のトレンチコートでジーパンの上部分を隠した格好の中年男性だ。髪の毛は白髪だが、20代と言われれば見えるほどに若々しい見た目をしている。

 そしてその手には黒い銃が握られており、銃口からは白い煙がゆらゆらと流れていた。

 

 じっとゲンムを見つめる男の顔を見て、碧は言葉が出なくなった。

 目を見開いた彼女は言葉を静かに発し、自身の心の奥底からの驚きをようやく表せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さん……!」

 

「え!?」

 

 遊撃車の中で待機をしていた全員が碧の言葉に驚いた次の瞬間、突如として遊撃車のドアが開いた。

 外に立っていたのは、スーツに身を包んだ眼鏡をかけた男だ。

 明らかに関係者では無さそうな男に全員が困惑する。

 

「誰だ!」

 森田が問いかける。

 

「警視庁警備部の井川と申します。現時刻より、指揮権はSOUP(そちら)から()()()()になります。速やかに指示に従ってください」

 

 冷静に言い放つ井川。

 それでも彼らはこの状況を飲み込むことが出来ない。

 

「そもそも、どうして公安がここにいるんですか? 管轄外のはずですが」

「ええ。それをまず教えて頂けないと、協力は出来ません」

 

 薫と圭吾が井川に僅かな抗議をする。

 

「その理由はすぐに分かります。どうぞご協力を」

 

 

 

「どうして君がここにいるんだ?」

「どうしてって、()に会いに来ただけだ」

()? ふーん……。そう言うことか」

 

 コートの男──常田(ときた)海斗(かいと)の言葉に興味を持ったのか、ゲンムは起き上がり、目の前まで飛び降りた。

 だが海斗は後退する様子も無く、ニッコリと笑みを浮かべている。

 

「お前はレベルXの力を試したいと言っていたな。……私が相手になろう」

 

 すると海斗は1枚のカードを取り出した。メモリアルカードともアシスタンスカードとも違うそのカードを手元の黒い銃のスロットに装填する。さらに銃身に当たる部分を引き延ばした。

 

『カメンライド』

 

 待機音の流れる中、海斗は銃を持った右手を上げ銃口を宙空に向けた。

 そして静寂と混乱で満ちたこの場所に響き渡るように言い放ち、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

「変身!」

『ディエンド!』

 

 放たれた銃弾は何かのマークを形成。同時に赤色、青色、緑色の3つの像が辺りを動き始める。その像が海斗に一体化するとその身体がモノクロの戦士へと姿を変わる。

 さらにそこへ上空にあるマークが10枚近いプレートに分解。全てが頭部に刺さると、モノクロの戦士の体にシアンの色が差し入れられた。

 

「そんな……。お父さんも……」

 

 仮面ライダーディエンド。

 神出鬼没の戦士が()()()に降り立った瞬間だった。

 

 

 

「ハァッ!」

 

 ゲンムが2本の鎌を使ってディエンドに襲いかかる。ディエンドは後ろに少し下がることでそれを軽々と避け、両肩に2発ずつ弾丸を撃ち込む。

 再び立ち向かうゲンムだったが、胸がガラ空きであった。そこを左足で蹴り飛ばすとゲンムは後ろに吹き飛んだ。

 

「ノァッ……!」

 

 するとディエンドは黒い銃──ディエンドライバーの銃身を収縮させると、腰に着いたドライバーの右側にある黒いカードケースから、2枚のカードを取り出してディエンドライバーに装填した。さらに銃身を再び引き延ばす。

 

『カメンライド』

 

 銃口を宙空に向けて引き金を引いた。

 

『サソード! サガ!』

 

 銃口から2発の銃弾が飛び出し、それが6つの像となる。それが2つの形にまとまって収まった。

 変わった後の姿は、まさに戦士。

 紫色の気高き戦士──仮面ライダーサソード。

 白銀の美しき戦士──仮面ライダーサガ。

 

「召喚かぁ……」

 

 ゲンムは2本の鎌をギュッと握って向かって行く。

 サソードとサガは1本ずつ剣を持っている。力としては互角と言ったところだろうか。

 

 跳び上がってサソードを左足で蹴り飛ばすゲンム。さらに右側から襲いかかるサガを、右手に持った鎌の柄で殴りつけた。

 今度は左右から同時に斬りかかって来る。ゲンムがリンボーダンスのような体勢をとると、標的を見失った刃は味方を傷つけてしまった。

 

『ガシャット! キメワザ!』

 

 ガシャットを挿し込んだゲンムは上体を起こした。

 

『シャカリキクリティカルフィニッシュ!』

「オリャッ!」

 

 そして両腕を広げて1回転。緑と紫と白の混ざった斬撃を食らわせ、2人の戦士を撤退させた。

 

「やっぱり、君が一番強そうだね」

「当然だ。そいつらは所詮実像。生物じゃないからな」

 

 言葉と共にゲンムの目の前に急激に接近するディエンド。気がついた時には何発も弾丸を撃ち込まれてしまった。

 狼狽えながらも何とか食らいつくゲンムであったが、次々と銃弾が放たれ、徐々にダメージが蓄積されていく。

 

 ダメ押しだろうが、ディエンドはさらに1枚のカードを装填し、銃を操作した。

 

『アタックライド。ブラスト!』

 

 何重にも重複した弾丸が標的を襲い、ゲンムは白い煙を上げて吹き飛ばされた。

 

「さて、そろそろ締めるか」

 

 最後にもう1枚、カードを取り出した。今までのカードとは違う、マークのみが描かれた黄色いカードだ。それをディエンドライバーのスロットに挿し、銃身を伸ばした。

 

『ファイナルアタックライド』

 

 銃口がゲンムの方に向けられる。

 すると銃口の前に水色のカードのようなもので出来たトンネルが出現。標的に向けて伸びていく。

 

 一方のゲンムもバグルドライバーからガシャットを取り出して、弓の形へと合体させたガシャコンスパローに装填した。

 

『ガシャット! キメワザ!』

 

 白と紫のエネルギーが溜まっていく中で、その先をこちらも標的に向けた。

 

『ディディディディエンド!』

『デンジャラスクリティカルフィニッシュ!』

 

 2つのエネルギー弾が互いにぶつかり合い、その瞬間に爆炎と衝撃波が襲いかかった。

 炎の次に壊れた地面のコンクリートが細かい破片となって、大量の煙が巻き起こる。

 

 その中でなんとか立ち上がった碧は顔を両腕で覆い守る。

 煙が晴れたところで、腕を下ろして瞼を開くと、目の前に立っていたのは異形の戦士へと姿を変えた自身の父親だけだった。

 

「逃げた、か……」

 

 呆れた様子で声を出すディエンド。右足の踵を上げては下ろし、上げては下ろし、一定のテンポを刻んでいる。

 

「ねぇ」

 

 碧が声を出す。いつものような溌剌とした声ではなく、震えを抑えることの出来ない。

 

「やっぱり、お父さんもフォルクローだったんだね」

「……」

「教えてよ……! どうしてフォルクローになったの!? どうしてクロトたちはフォルクローにさせられたのっ!?」

 

 響く声。元々の声の振動もあってか、鳴り響く声は第三者の耳に届く頃には殆ど原型を留めていなかった。

 

「……少なくとも、私は自分の意思でなった。人類が次のステージに進むための貴重な機会だ。逃すわけにはいかなかった」

「……何言って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フォルクローを創り出したのは、私だ」

 

 微かに空気が揺れる。強い風が二人の間に吹いて、そして収まった。

 

 すると

 

 

 

「ようやく……」

 

 ディエンドの後ろから声がした。

 振り向くとそこに立っていたのは春樹だった。

 だが様子がどうもおかしい。

 いつもは冷静沈着な彼だが、同じように声を震わせ、荒い呼吸をする度に肩が揺れる。

 

 そして何よりも──。

 

「ようやく見つけた……!」

 

 上げた顔は狂気で満ち溢れており、これでもかと上がった頬と生き生きとした目が気色悪い。

 

 そんな春樹の様子を、遊撃車の外から眺める井川は一人呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です。警視庁公安部、椎名春樹警部補」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Who transforms to that blue MASKED RIDER?

A: Her father does.

*1
黄色みた緑みの暗い灰色。




先に言っておくと、シーズン1は最悪な終わり方をします。
以前、「呪術廻戦」の原作者・芥見(あくたみ)下々(げげ)先生が主要キャラ四人のエンディングについて「誰か一人だけ退場するか、誰か一人を残して全員が退場するか」と仰っていたのですが、この第1クールもそんな感じです。
もう、何が言いたいのかお解りですよね……?



【参考】
講談社シリーズ MOOK 仮面ライダー 平成 vol.10 仮面ライダーディケイド
(講談社, 2015年)
「仮面ライダーディケイド」第10話『ファイズ学園の怪盗』
(脚本:會川昇, 監督:柴崎貴行, 2009年3月29日放送)
東京の過去の天気 2021年12月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20211200/)
Wonka's Welcome Song-歌詞-Danny Elfman-KKBOX
(https://www.kkbox.com/jp/ja/song/GprHobhu-IKc0a2XZi)
警察法の警察階級と役職及び警察組織図-キャリア・ノンキャリア情報
(https://themepark.jp/police/class/)
色の名前と色見本・カラーコード|色彩図鑑(日本の色と世界の色一覧)
(https://www.i-iro.com/dic/)
変身装填銃 ver.20th DXディエンドライバー|仮面ライダーおもちゃウェブ|バンダイ公式サイト
(https://toy.bandai.co.jp/series/rider/item/detail/11348/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question027 Why did he marry with her?

第二十七話です。
ついに春樹の秘密が暴かれます。シーズン1も今回を含めて残り4話です。最後までお楽しみください。
(最後とは言っても、シーズン2以降も続きます。)
そうそう。端末の名称を「トランスフォン(TRANS-PHONE)」にいたしました。が、面倒なので6話くらいまでしか変更をしていません。ご勘弁ください。
何はともあれ、宜しくお願いいたします。



【イメージED】
米津玄師 - 恥ずかしくってしょうがねえ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.12.24 14:32 東京都 目黒区 目黒グランドプレイス

「ようやく……。ようやく見つけた……!」

 

 狂気的な表情でディエンドを見つめる春樹。

 その表情を見た全員から血の気が引いていき、手に力が入らなくなってしまう。

 

「君か。私の娘の婿とかいうのは。挨拶も無しにいきなり結婚するとは、随分と()いご身分だな」

「挨拶しようと思ったけど、その時お前は棺の中だっただろ。そんなこと言われてもこっちが困る」

 

 端末にカードをかざしてドライバーを出現させる。

 そしてマゼンタのパーツの付いたカードを装填した。

 

『"DECADE" LOADING』

 

 電源ボタンを押した。

 巨大なゲートから蝿が飛び出し、煩わしい羽音を響かせながら春樹の後ろで浮いている。

 

「変身」

 

 ポーズをとること無く、静かな声を出しながら淡々と端末をドライバーに挿し込んだ。

 

『Here we go!』

 

 緑色の素体に変身した彼に、蝿が分解して出来た鎧が装着されていく。

 

『Mimicry, Control, Destruction! I understood most of it! DESTROY DECADE! Destroy all and connect all.』

 

 剣を取り出したアクト。

 固く握り締めた彼はゆっくりと足を動かし、徐々にスピードを上げて走って行く。

 そして剣を縦に振り、ディエンドに襲いかかった。

 それを後退されることで避けられたが、左手でパンチを食らわせる。右手で受け止められたとしてもすぐに弾き飛ばし、剣と銃身をぶつけ合った。

 

「どうだった? 自分が化け物になって! 俺と碧たちも化け物に変えてっ!」

 

 

 

「最高の気分だった……。身体が分解されて異形のものに変わっていく。あの瞬間を見て、実際に肌でその感触を味わった時にはもう……! これ以上の快楽は存在しないね……!」

「……!」

「分かっているさ。自分がまるでイカれていることは。だが、怒りで自身がイカれてしまっては何も起こらないっ!」

 

 怪物と戦う者は、自らが怪物と化さぬよう心せよ。

 ドイツの哲学者、ニーチェの言葉の体を成した言葉で軽い説教をして、アクトの腹部を左足で蹴飛ばすディエンド。

 

 するとディエンドはスロットに2枚のカードを挿れ、銃身を伸ばし引き金を引いた。

 

『カメンライド。カイザ! イクサ!』

 

 現れたのは、黒い体に黄色のラインが入った戦士──仮面ライダーカイザと、十字架のような仮面と太陽のマークを持った戦士──仮面ライダーイクサだ。

 二人とも剣を使ってアクトと戦闘を繰り広げ始める。

 

「何が……どうなってるの……!?」

 

 ようやく立ち上がった碧は、今目の前で繰り広げられている光景を頭の中でどうにか整理しようとするが、どうにもこうにも出来ない。

 とにかくトランスフォンを取り出してカードをかざした。

 だがいつものように音声がなってドライバーが出現することが無い。何度やっても結果は変わらない。

 

 画面を確認するとそこには──

 

 

 

Your administrator has restricted your use of this device.

管理者の申し立てにより、端末の使用が制限されています。

 

 

 

「え!? どう言うこと!? グアルダっ!」

 

 画面に表示された文字の群に動揺を隠せない碧。

 すると文字が消えて代わりにグアルダがひょっこりと姿を現した。

 

『すまない。全て春樹に頼まれたことだ』

「! 春樹が……?」

『ああ。今、お前に出来るのはこの状況をただ見守るだけだ』

 

 

 

「どうして碧さん、変身出来ないんですか……?」

 

 当然のように遊撃車の中も動揺していた。ただでさえ相手が強敵にも関わらず、手持ちの戦力の片方しか使うことが出来ないのだから。

 薫の質問に森田が答える。

 

「二人の使うトランスフォンを使用するためには2つの条件をクリアしなければならない。

 一つは『カードで認証をすること』。もう一つは『グアルダの許可を貰うこと』。いくらカードを使ったとしてもグアルダが許可しなければ使用することは出来ない」

 

「じゃあ、つまりは……」

 

「ああ。()()()()()()()()()()()()()()()と言うことだ……」

 

 

 

『アタックライド。クロスアタック!』

 

 ディエンドがカードを使った瞬間、

 

『EXCEED CHARGE』

『イ・ク・サ・ジャ・ッ・ジ・メ・ン・ト』

 

 二人の剣にそれぞれエネルギーが溜まっていく。

 対抗するかのように、アクトもカードケースから1枚のカードを取り出し、ドライバーに取り付けられているトランスフォンの裏側にかざした。

 

『ATTACK RIDE, "SLASH"』

 

 アクトのディスペルクラッシャーの刃にマゼンタのエネルギーが溜まっていく。

 

 そして三人同時に斬撃を放った。

 3つのエネルギーがぶつかり合い、炎の煙を巻き上がらせる。

 

「グァァッ……!」

 

 カイザとイクサの姿が消え、変身の解除された春樹が転がっていく。

 その様子を横から静かに見つめていたディエンドが口を開いた。

 

「君と碧はフォルクローの中でも、零号の養分になることの無いイレギュラーな存在。倒した時にどんなカードを形成するのかすごく興味がある。

 ……だが、私は今日忙しいんだ。()()()()()()()()とのミーティングがある。……また明日会おう」

 

 するとディエンドはディエンドライバーにカードを装填。銃身を操作して引き金を引いた。

 

『アタックライド。インビジブル!』

 

 ディエンドは己の体を透明にして、その場から立ち去った。

 

 なんとかして立ち上がろうとする春樹。

 と、そこに遊撃車にいた筈の井川が春樹の前に現れ、右手を差し伸べる。それを握って春樹は立ち上がった。

 

「どう言うこと……? 説明して!」

 

 碧が春樹に対して大きな声を放つ。鋭い眼光が自身の亭主を睨む中、それ以上に春樹が睨みを効かせていたため、碧はそれ以上に何も言えなくなってしまう。

 

「分かった。後ほど説明しよう。碧。いや、()()碧くん」

 妻である碧のことを捨てた苗字で呼ぶ春樹は、これまでに見たことの無い冷たい表情を見せる。

 飲み込めない事態の連続に、碧は息を吸うタイミングを見失っていた。

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「本日付けで、君は警視庁公安部に異動してもらう」

「……はい?」

 

 室長、いや、岩田さんが俺にそう言ってきたのは俺が19歳、警察学校を卒業してから1年も経っていない頃だった。

 そもそも警察学校を卒業してからは殆どが各都道府県の交番に勤務することになる。実際、俺も目黒区のとある交番で勤務をしていた。

 

 休日を使って都内のお洒落なカフェの中で、五月蝿い雑踏の中から岩田さんの話すことに耳を傾けるが、良く聞こえてもさっぱり意味が解らない。

 

「いや、ただの交番勤務の俺をどうして」

 

「ああ。言いたいことは分かっている。こんなことを頼むのは私も初めてだ。

 ただ、君の洞察力に身体能力は在学中から飛び抜けていた。まぁ、テストの成績はまずまずだったが。

 そんな君の力を借りて、捜査しなければならないことがある」

 

 岩田さんは紺色のブリーフケースからタブレット端末を取り出し、画面を操作すると俺に見せてきた。

 表示されているのは海外の論文のようで、題名は日本語にすると「低刺激性犬」。

 

「常田海斗。アレルギーを持つ人でも触れるよう改良した犬を遺伝子操作で開発した、その手の界隈の言わば奇才だ」

「ほう……」

 

 すると岩田さんはやや前屈みになり、周りを気にしながら小さな声で話を続けた。

 

「実は、この常田博士が違法な研究に手を染めている可能性がある。我々としてはその研究内容の把握と、一刻も早い逮捕を望んでいる。そのために彼の周辺人物に接触して、情報を集めて欲しい」

「だとしたら他の人たちに頼んで研究仲間から情報を集めれば()いじゃないですか?」

 

「いや。研究者と言う者は同業者に手の内を明かすことを殆どしない。だから()()()()()()()()()()と年齢の近い君を選んだ」

「誰です? その人は」

 

 再びタブレットを操作する岩田さん。

 そして再度画面を俺に見せた。

 そこに映っていた人物の名前は──。

 

 

 

 

 

 その2ヶ月後。俺は碧に接触した。

 

 互いに本の好きだった俺たちはすぐに意気投合し、定期的に会うようになった。

 親しくなったとは言え彼女は母親を亡くしている。無闇矢鱈に父親のことを訊くことは野暮だと思った俺は、なるべく訊かないようにしていた。

 

 得られた情報は、今は研究に没頭しており中々家に帰って来ないこと。兄が失踪して実質的に彼女が独りぼっちになってしまったことだけ。

 月に1度の定期報告で何も書くことが無く何とも言えなくなってしまったが、まぁそれは無礼講と言うことで。

 

 彼女に押されて半ば強引に付き合うことになってから暫くして、岩田さんに呼び出された俺と碧は零号に関する全てを聞いた。

 そうして碧による壁画の解析が始まったわけで、それを支えることも俺の職務の一つとなった。

 

 多忙な合間を練って解析を進める彼女の横顔を眺めることしか出来ない俺は、あまりにも無力だ。

 いや、ただの捜査対象にそんなことを思う必要が無い。

 ただ──。

 

 

 

 そしてアールたちが来て、あまねを守ることを目的も()()、否、()()()()目的になった。

 だが肝心の常田教授の手がかりは一向に掴めないまま。本来の目的も達成出来ないまま、新たな課題が次々とのしかかってくる感覚に嫌気をさしながら、ついに「人間」と言うものを捨てる時がきた。

 

 フォルクローになれば、何事も無い限りは半永久的に生き続けることが出来る一方で、生殖機能の一切を失う。

 要は人間と言う道から外れるため、人間として種を残すことが出来ないと言うわけだ。

 

 そんなことを良くもまあ了承してくれたなと思い碧の顔を見る。

 拳を握って大きく呼吸をする彼女は俺の視線に気がつくと、ニッコリと微笑んで少し離れた俺に手を振って白い棺の中に入っていった。

 

 続けて俺も棺の中に入ろうとしたその時、フロワが横に来て話しかけてきた。

 

「出血大サービスで教えてあげようか?」

「? 何をだ?」

 

 耳元で色気のある声で囁かれたことが、俺の脳裏にびっしりとへばりついてしまった。

 

 

 

 

 

「この実験を指示したの、常田海斗(貴方の獲物)だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.24 16:28 東京都 新宿区 SOUP

「じゃあ、春樹さんが碧さんに近づいたのって……」

「ああ。全て捜査のためだ」

 

 春樹がドアの前で全てを話した後、室内は沈黙が流れ空気が下へと沈んでいった。

 それ以上に何を言えば良いのか、誰も正解が解らないのだ。

 

「たまたま同年代で、たまたま同じ過去を背負った俺が彼女に接近するしかなかった。それだけの話だ。……ただ」

 

 春樹が言葉を紡ごうとしたその時、碧が突如立ち上がり、無言で胸ぐらを掴んだ。

 そしてドアを開いて春樹を左の方に投げ飛ばす。

 

「何だ? ……怒っているのか? 俺がずっとお前を騙していたから」

「違う!」

 

 下を向いて両手を思いきり握りしめる碧。

 そして顔を上げた。

 両目からは透明な液体が流れ、唇を塩辛い味が染めていく。

 

「悲しいのよ……。どれだけ貴方を愛そうと、どれだけ貴方と一緒にいようと、どれだけ貴方に抱かれようと、全部嘘だったんでしょっ!」

「全部が全部嘘じゃない。お前を愛していることに何ら変わりは無い。これだけは事実だ」

「嘘」

「嘘つきはどっちだ。お前だって、『悲しい』と言いながら優先しているのは『怒り』、だろ」

 

 身体を震わせる碧に対し、ほんの少しだけ口角を上げる春樹。

 

 今の二人の間にあるのは、ただの愛情じゃない。

 

 それが裏返った結果の、言わば怨念だ。

 

「グアルダ、変身を許可して。この感情をどうにか整理したいけど、実力を行使しないとどうにも出来ない」

『……分かった』

 

 二人はカードを端末にかざして、腹部にドライバーを出現させる。

 そして各々カードを取り出した。

 

 碧が取り出したカードの絵柄は、実に奇妙なものであった。

 左側の舞妓と右側の西洋の騎士が向かい合う構図が、エジプトの遺跡に描かれる壁画のようなタッチで描かれており、下部には「No.025 EARTH ORGA」と印字されている。

 

 一方の春樹のカードには、金色の懐中時計を見つめるライダースーツの男が描かれており、「No.163 BLACK BARLCKXS」と白く書かれている。

 

 それぞれトランスフォンのスロットに挿した。

 

『"BARLCKXS" LOADING』

『"ORGA" LOADING』

 

 電源ボタンを押した。

 春樹のゲートからは大きな黒い飛蝗が跳び出し、碧のゲートからは黒い馬が駆け出して来た。

 

「「変身」」

 

 ポーズを決めることも、大声を出すことも無く、静かに声を発して端末を装填した。

 

『『Here we go!』』

 

 素体に変わる二人。そして各々の体に次々と黒い鎧が装着されていく。

 アクトの左肩から襷のように金色のパーツがかかり、額には「ライダー」と書かれた金色のパーツが飾られていた。

 一方のリベードの腰からローブが伸び、頭部には簪のようなパーツが沢山着けられている。

 

『Monitoring, Steal, Reset all! I’m an administrator of history! BLACK BARLCKXS! An era which you were living, is unsightly, ain’t it?』

『Chosen, Betrayed, Cheers sound! This is the force of the caesar of the earth! EARTH ORGA! I wish I hadn’t thought that dream and curse are same.』

 

 仮面ライダーアクト バールクスシェープ。

 仮面ライダーリベード オーガシェープ。

 

 黒と金の鎧に身を包んだ男女は剣を取り出し、そして走り出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常105体

B群7体

不明1体

合計113体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why did he marry with her?

A: To monitor attitude of her father.




書いている時に「龍騎」の第49話を観たんですよ。あれヤバいですね……!
一応石ノ森章太郎先生が描いた「仮面ライダー」の原作通りにしたいなと思っているんです。
フヘヘ。



【参考】
講談社シリーズ MOOK 仮面ライダー 平成 vol.10 仮面ライダーディケイド
(講談社, 2015年)
「仮面ライダーディケイド」第12話『再開 プロジェクト・アギト』
(脚本:會川昇, 監督:長石多可男, 2009年4月12日放送)
「レッドアイズ 監視捜査班」第1話
(脚本:酒井雅秋, 演出:水野格, 2021年1月23日放送)
「劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト」
(脚本:井上敏樹, 監督:田崎竜太, 2003年8月16日公開)
仮面ライダーオーガ|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/kamen_rider_members/133)
木場勇治|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/characters/946)
警察の階級とは?警察官の階級で就ける役職にも違いがある
(https://www.police-ch.jp/keisatsu_kaikyuu.html)
遺伝子組み換えで誕生した最新の生物トップ10|WIRED.jp
(https://wired.jp/2008/04/03/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E7%B5%84%E3%81%BF%E6%8F%9B%E3%81%88%E3%81%A7%E8%AA%95%E7%94%9F%E3%81%97%E3%81%9F%E6%9C%80%E6%96%B0%E3%81%AE%E7%94%9F%E7%89%A9%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%9710/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 10 超超超いい感じ(SUPER GOOD FEELING)
Question028 Do you love each other?


第二十八話です。
シーズン1も今回を入れて残り3話となりました。
因みに今回、シーズン2の伏線を大量に入れました。
にも関わらずかなり手を抜きましたが、どうぞ宜しくお願いいたします。



【歌詞使用楽曲】
モーニング娘。 - 恋愛レボリューション21
(作詞:つんく)

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.12.24 16:33 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう

 正直、クリスマス・イブに焼肉屋に来る人はそうそういないだろう。

 しかもまだ夕方だ。テーブル席とカウンター席を合わせても、合計で10人程しかいない。

 

 その中で、岩田とあまねは真ん中の方のカウンター席に座っていた。両者共に無言を貫いている。

 そこに靖子が大皿を持って来た。

 

「お待たせしましたー! 焼き鳥20セットでーす」

 

 灰色の大皿に乗せられているのは、大量の焼き鳥だ。白と茶色の2色が混在している皿の上の具が、店の照明の光を鮮やかに反射させている。

 

「有難うございまーす!」

「あれ? 今日は初めての方が一緒なんですね」

 

 目の前の厨房にで調理をしていた不二雄があまねに声をかける。

 

「ああ、昔お世話になった岩田さん」

 

 あまねの右側に座る岩田は軽く会釈をする。

 ごゆっくり、と一声かけて靖子は退散した。

 

 岩田は自身の方に寄っている白い肉を、右手と箸を使って器用に外していく。箸で肉を押さえ、串を回して先から取り外す。

 

「素朴な疑問なんだが、どうして君は、いつも私の隣にばかり座るんだ? テーブル席も大量に()いているのに」

「私の前に座ってくれるのはパパとママ(あの二人)だけが()い。それだけです」

「……そうか」

 

 あまねも自身の方に多く盛り付けられているタレのかかったものの中から、ねぎまを選んで同じように串から外していく。だが串を持っていた左手の指が汚れてしまったため、左手に置かれているおしぼりに指を擦り付ける。

 

「うちのパパ、今後はどうなるんですか?」

 

 仕方なく岩田の方に置かれているナンコツを取って頬張る。

 固い咀嚼音が鼓膜を刺激する中で、岩田は話し始めた。

 

「今回の潜入捜査は、常田海斗の居場所を突き止めることと、彼がフォルクローの研究に携わっているかの有無の確認が最終目的だった。

 その二つが達成された今、捜査は終了になる」

 

 咀嚼音は止み、ゴクリと喉が鳴った。

 

「終わるのは、捜査()()()()()()、ですよね?」

 

 若干の微笑み。

 沈黙は時に言葉よりも意味がある。その言葉の意味がようやく解るような気がした。

 

「明日には結果が分かる。……唯ちゃん、折角だし会ったらどうだ?」

「その名前で呼ぶのはやめてください」

 

 互いにジョッキに入った飲み物を流し込んでいく。

 それより後に間を埋めたのは、沈黙だけだった。

 

 

 

 するとテーブル席の接客をしていた日菜太が厨房に戻って来た。

 牛肉の塊を捌いていく不二雄のもとに来る。

 

「すみません。明日のバイト遅れます」

「え、あ、うん、そう。分かった」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.24 16:33 東京都 新宿区 SOUP

「「ハァァァァッ……!」」

 

 2本の剣が火花を散らしてぶつかり合う。蛍光灯だけが灯る廊下の中で荒い呼吸音と、金属の音だけが聞こえる。

 二人とも黄金のエネルギーを溢れさせている剣を振り回して、己を曝け出しているのだ。それ以上に視覚と聴力を刺激するものは必要無い。

 

 一閃。

 リベードの剣がアクトの右肩を斬りつける。

 

 一閃。

 アクトの腹部を突く。

 

 一閃。

 互いの胸部に剣を当てるとそこから火花が散って、二人とも後ろの方へ倒れ込んだ。

 

 なんとかして立ち上がったアクトとリベードは、トランスフォンをドライバーから外して剣にかざした。

 

『『Are you ready?』』

 

 端末をドライバーに再び装填する。

 

『OKAY. "BARLCKXS" CONNECTION SLASH!』

『OKAY. "ORGA" CONNECTION SLASH!』

 

 さらに力が溜まっていく。収まりきらなかったエネルギーは金色に輝く雫となって地面に落ちていく。

 走り出して再び剣で争い合う。

 だが下へと振ったアクトの剣は、リベードが右から左に動かした刃によって弾かれてしまう。

 

 そして武器を失った彼の首元を目掛けて、リベードの剣が放たれた──。

 

 

 

 

 

 だが、首元に刺さることは無く、すんでのところで止まっている。

 握っている右手は震え、今にも剣が落ちそうだ。

 

「どうした? ……どうしてとどめを刺さない」

 

 開いた手から剣が落ちる。地面からカランと音が鳴って反響して何重にも聞こえる。

 

「分からない。……分からないよ。……どうしたら()いんだろうね。

 君のことはさっき嫌いになったよ。これまでに無いくらいに。

 けど……」

 

「けど……?」

「解ってるでしょ……」

 

 気が付いた時には、二人とも変身を解除していた。と言うよりも、解除されていた。

 紅潮した碧は不規則な啜り声を出して春樹の頬に左手を伸ばす。

 

「ごめん」

 

 静かに春樹が言う。

 

「……馬鹿」

 

 消え入るような声で碧が言った。

 

 倒れるように春樹の胸に顔を埋める碧。

 右手でその長い茶髪に触れようとした、その時だった。

 

「春樹さん」

 

 前の方から声がした。

 見るとそこに立っていたのは、自分以外のメンバーたちだ。

 

 その中で深月が言葉を紡いでいく。

 

「以前、僕に訊きましたよね」

 

 

 

 お前は、何のために戦うんだ?

 

 

 

 初めて深月に会った時に春樹がかけた言葉だ。

 本人もすっかりと忘れていた。

 まぁ、本人にとっては所謂形式的な質問に過ぎなかったと言うわけだ。

 

「ようやく分かりましたよ。一体何なのか。

 ……フォルクロー(彼ら)は、()()を奪われたわけじゃ無い。()()を奪われたんだ。自分を、人間としての価値を、尊厳を……!

 だから、僕は……これ以上、彼らが苦しむことの無いように、彼らを倒します……!」

 

「右に同じ」と薫が言う。

「以下同文です」手を挙げて圭吾も続く。

 

「と言うわけで」

 

 春樹の胸元から碧が離れる。

 自身の目元を青色のニットの袖で拭くと、いつものような笑顔を春樹に向けた。

 

「まぁ、本当に、本当に! 大目に見てあげるから、罰として、グラブジャムン*1の詰め合わせ買って来て」

「おい。お前、糖尿病になっても知らないぞ」

「良いじゃん。どうせ明日はクリスマスなんだから。ね?」

 

 いつものような笑顔を見せ、右腕を前に伸ばす碧の顔を見て、つられて笑みが溢れる春樹。

 

 地下の寒い道中が少しばかし暖かくなったところに、全員が集まる。

 

「じゃあ私は竹下通りのあそこのお店のクレープで」

 続けて薫が碧の手の甲の上に自身の左手を重ねる。

 

「僕は『パンダ・プリンセス』のブルーレイボックスをお願いします」

 圭吾も自身の右手を重ねる。

 

「じゃあ僕はみーたんの特典付きCDをお願いします。全然ペンライトが当たらないので」

 深月も私情を惜しげも無く晒した。

 

「あのなぁ、言っておくけど、こう言うのは」

 

「倫理規定違反だろ? であれば、自分で買ったけどいらなくなったからあげたと言えば、ギリギリで乗り切れる。

 因みに、私は遊園地のチケットで頼む」

 

 文句を言いそうになった春樹を上手く丸め包め、森田も乗っかってくる。

 

 全員が微笑みを春樹の方に向けると、春樹も仕方なさそうな素振りで手を重ねた。

 

「「「「「「うぇーい」」」」」」

 

 気怠そうでも芯のある六人の声が、暗い廊下の中に微かに響いた。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 暗く広い部屋の中で、床に置かれたCDプレーヤーからけたたましい音楽が流れる。

 その前にいるフロワとピカロが音楽のノリに乗って踊っている。

 椅子の上に無造作に置かれているCDケースには、カラフルなドレスを着た女性と「恋愛レボリューション21」と言う文字があった。

 

 後ろから二人を見るアールと海斗。

 エコーのかかった低い声が流れている中で踊っている二人の姿は、彼らにとってはまさに異常なものだった。

 

「あれは?」

「それが、()から貰ったCDを聴いたら、ハマってしまったらしくって……」

 

 振り返る二人。

 そこにいたのは背を向けて巨大なモニターを凝視する男だった。

 襟の部分に毛皮の付いたオレンジ色のコートにジーパンを履いた彼が見つめるモニターに表示されている文字は──。

 

 

 

P - 2 - P

RIDER SYSTEM OF NEXT GENERATION

 

 

 

「「超超超いい感じ!」」

 

 ラスサビ前の間奏に合わせてフロワとピカロがコールを送る。

 すると

 

「超超超いい感じ」

 

 男も左の拳を挙げて静かに声を発する。

 

 熱狂する三人は、意図せずとも一つとなったのだ。

 

 超超超いい感じ

 超超超超いい感じ

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.25 13:00 東京都 杉並区

 とある廃工場の中。

 春樹と碧、そして海斗が向かい合っていた。

 外の道路には深月たちの乗った遊撃車、そして銃口を建物の中に向けた機動隊員たちがいる。

 

「昨日ぶりだな。調子はどうだ?」

「絶好調、だな」

「うん。まぁ、ね」

 

 互いの顔を見合う春樹と碧。

 その様子を見て微笑む海斗。

 

成程(なるほど)な。言わば、()()()()()()()、と言うわけか」

 

 その時、碧が何故か目を見開いた。

 そして顔を若干歪ませて海斗を睨みつける。

 

「どうして貴方がそれを……」

「知っているに決まってるだろ。何せ、いや、そんなことはどうでもいい。私も一つ試したいことがあるんだ。

 君たちが使っている()()()ライダーシステムがどれほどまでに力を発揮出来るのか、協力してくれ」

 

 銃を取り出し、カードを装填する海斗。

 

「そんなつもり更々無いんだけどな……」

「……行こう、春樹」

「ああ」

 

 二人も端末を取り出して、ドライバーを腹部に出現させると、カードを端末に挿し込んだ。

 

「「「変身!」」」

 

 互いのデバイスを操作して姿を変えた三人。

 

 余裕綽々と言った佇まいのディエンドに向かい合うアクトとリベードは、剣を取り出して腰を低く落とす。

 仮面の下に隠れるその顔は、狂気に満ちていた。

 獲物を狙う狩人。

 鋭い眼光を持った彼らを形容する言葉は、それだけで十分かもしれない。

 

「「READY……GO!」」

 

 そして、二人の戦士は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Do you love each other?

A: Yes, of course.

*1
インドのお菓子。同量の砂糖と水を煮詰めて作るシロップは尋常で無いほどに甘く、脳天を突き抜けるほどだと言う。




さぁて、シーズン2のお話しをしますと、キーワードは「モーニング娘。」です。
どう言うことなんでしょうね……?
(特に物語に深い関わりは無いのですが、結構面白く読んでいただけるかなと思います。)

【参考】
イラストでよくわかる きれいな食べ方
(彩図社, ミニマル + BLUCKBUSTER著, 2012年)
世界一甘い食べ物はインドにある?!|Sweeten the future
(https://www.kanro.co.jp/sweeten/detail/id=853)
恋愛レボリューション21 - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%81%8B%E6%84%9B%E3%83%AC%E3%83%9C%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B321)
モーニング娘。 恋愛レボリューション21 歌詞 - 歌ネット
(https://www.uta-net.com/song/12754/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question029 How did they strengthen those two cards?

第29話です。
残すところ2話となりました。
超超超良い感じに仕上げます!
宜しくお願いいたします。



【挿入歌】
PEOPLE1 - 銃の部品

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2021.12.25 13:03 東京都 杉並区

「「READY……GO!」」

 

 アクトとリベードが剣を持ってディエンドに接近して行く。

 

 中央から向かってきたアクトの剣を左手で払うと、その隙にリベードが右側から右足で蹴りかかってきた。だがそれをディエンドライバーの銃身で防ぎ押し返す。そして左にいるアクトを左足で蹴り飛ばした。

 さらに左から右へ右腕を動かし、銃弾を放った。

 

「「グッ……!」」

 

 怯んでいる隙にカードを2枚挿すと、銃口を前に向けて引き金を引いた。

 

『カメンライド。ライア! 轟鬼(とどろき)!』

 

 アクトとリベードの前に現れたのは2人の戦士。

 鞭を持った赤い戦士──仮面ライダーライア。

 ギターを構える戦士──仮面ライダー轟鬼。

 

 その姿を見た二人は端末を取り出し、別のカードを装填した。

 

『"DECADE" LOADING』

『"ZI-O" LOADING』

 

 そして端末をドライバーに装填した。

 

『『Here we go!』』

 

 身に纏っていた銀色の鎧が解け、新たにそれぞれマゼンタと別の銀色の鎧が装着される。

 

『Mimicry, Control, Destruction! I understood most of it! DESTROY DECADE! Destroy all and connect all.』

『To know, Take time, Get the watch! It’s RIDER TIME! KING ZI-O! I’ll be the best and best king.』

 

 変身を遂げた二人は、ドライバーの右側にあるカードケースから1枚ずつカードを取り出した。

 

 アクトが取り出したカードには、チェックのシャツを着た青年の周りに、赤色、青色、黄色、紫色のもやがかかっている絵が描かれており、下部には「No.061 DEPENDANCE DEN-O」と書かれている。

 

 リベードの取り出したカードには、銀色のメダルの雨が降り注ぐ中を、赤い鷹と黄色い虎と緑色の飛蝗が駆け抜けて行く姿が描かれており、「No.085 AVARISE OOO」と印字されている。

 

 そのカードを端末に付いているパーツのスロットに装填した。

 

『"DEN-O" LOADING』

『"OOO" LOADING』

 

 パーツに付いたレバーを下げると、アクトの周りにはカード状のオーラが、リベードの後ろにはルーレットのようなものが現れる。

 そしてレバーを再度下げた。

 

小吉(SHO-KICHI)

末吉(SUE-KICHI)

 

 周るカードの絵柄とルーレットの針が固定された。

 そうしてまた姿が変わっていく。

 

『You got a small luck.』

『You got a fair luck.』

 

 アクトの体は、複眼がまるで桃のような形をした戦士──仮面ライダーアクト ディケイドシェープ 小吉電王へと変身。

 一方のリベードの左手には、3枚の銀色のメダルが入った紺色の剣──メタジャリバーが現れた。

 

 ライアは自身の鞭をアクトの方に投げてくる。だがアクトはそれを敢えて己の剣に巻き付け、鞭を持っているライアを自らに引き寄せた。そして目の前に引っ張られてきた目標の腹部を蹴り飛ばす。そうすると投げ飛ばされたライアは鞭を手放してしまい、生身だけになってしまった。

 

 轟鬼はギターを斧のように縦横に振り回す。上から振り下ろされたのを「X」の形に交差させた2本の剣で挟み込み、左下へ受け流す。その勢いを使って横回転。右足、左足の順に頭部を蹴った。武器を手放した状態で轟鬼は後退してしまう。

 

 アクトとリベードが自身の剣にエネルギーを込めていく。

 

「「ハァッ!」」

 

 アクトの剣心から同じ形をしたエネルギーが飛び出し、彼が剣を右から左へ、左から右へ、上から下へ振り回すと、それに連動してエネルギーがライアと轟鬼を攻撃した。

 続けてリベードはメタジャリバーから白い斬撃を繰り出し、二人を斬り裂いた。

 

 召喚した標的を全て蹴散らしたアクトとリベードは、再びディエンドに向かって行く。

 

 ディエンドが銃から何発もの銃弾を発射していく。

 だがそれを二人は自らが持っている剣で次々と弾いていき、ついに眼前へと近づいた。

 

「「セイヤァッ!」」

 

 強烈な一撃を標的に浴びせた。

 体から火花を出して吹き飛ばされるディエンド。

 

 立ち上がる彼を見つめる二人が聞いたのは、ディエンドがせせら嗤うような喉の奥の声だった。

 

「これが()()の底力か……。ならば」

 

 するとディエンドは自身の体色と同じシアンの色をした端末──ケータッチを取り出した。

 

「こっちも本気を出そう」

 

 ケータッチにあるスロットに1枚のカードを挿し込むと、パネルに11個のボタンが表示された。

 そのボタンを順番になぞるように押していく。

 

『G4。リュウガ。オーガ。グレイブ。歌舞鬼。コーカサス。アーク。スカル。ファイナルカメンライド』

 

 それを自身の腹部に着いているドライバーの中央に嵌め込んだ。

 

『ディエンド!』

 

 分厚い胸の装甲に縦に2列、横に4列のパネルが現れ、その中に様々なカードが現れる。さらに頭部にもパネルが現れて、そこには己の顔が描かれたカードが姿を現した。

 

 仮面ライダーディエンド コンプリートフォームに変身した後、1枚のカードを取り出してそれを銃のスロットに挿れると、銃身を引き伸ばした。

 

『アタックライド』

 

 銃口を天井で閉ざされた暗い宙空に向ける。

 そして引き金を引いた。

 

『劇場版!』

 

 ディエンドの後ろに灰色の大きなカーテンが現れる。そこから現れたのは、数々の戦士たちだった。

 

 仮面ライダーG4。

 仮面ライダーリュウガ。

 仮面ライダーオーガ。

 仮面ライダーグレイブ。

 仮面ライダー歌舞鬼。

 仮面ライダーコーカサス。

 仮面ライダーアーク。

 仮面ライダースカル。

 

「こんなのありかよ……」

 あまりの光景に呟いてしまうアクト。

 

「昔はこんなことしなかったのに……」

 寂しそうに呟いたリベード。

 

 驚愕する二人を見て、ディエンドは仮面の下で笑みを浮かべる。

 

「数の暴力と言うものは本当は嫌いなんだが、たまには悪くないだろう……」

 

 

 

 

 

「あれ、まずくないですか……? 8人!?」

「ああ。かなりまずいな。こんなに出されたら」

 

 パソコンの画面を見ていた薫の独り言に答える森田。

 全員がモニターを見つめながら絶句していたのだ。

 

「これまで2人までしか出していなかったのに、まさか一気に8人も……」

 

 ようやく言葉を吐き出した圭吾。

 

「どうします? こうなったら新しいカードを使う他なく無いですか?」

 深月が訊く。

 

「とは言え何をどうする? 無理に強化すると二人の身が()たないぞ……」

 

 森田の言葉に全員が黙り込んでしまう。

 すると薫がまた独り呟いた。

 

「数の暴力ならばもう、運任せの戦いになりそうですよね……」

「そうだな……」

 

 その時、深月と圭吾が何かを閃いたようだ。しばらく互いの顔を見合って頷く。

 何が何だか解らないまま、圭吾はパソコンのキーボードを凄い勢いで叩き始め、深月はパソコンに向かって話しかけた。

 

「グアルダ。一つお願いがあるんですけど」

 

 

 

 

 

 遊撃車の中で何やら作業をしている中、アクトとリベードは10人近い仮面ライダーたちと戦闘を繰り広げていた。

 その場に立っているだけのディエンドの指示で動く彼らは、ただでさえ力が強いのにも関わらず、それに加えて数が多い。ただの「数の暴力」とはまるで違うことは明確だった。

 

 スカルの繰り出す銃弾を剣で弾いた瞬間にアークの槍で吹き飛ばされ、さらに超高速移動をするコーカサスの容赦無き攻撃に翻弄される。

 

 リベードの方はオーガやグレイブ、歌舞鬼の剣のラッシュになんとか食らいつくが、2本対3本と言うのは、いくら剣術に長けているリベードと言えど厳しいようで、剣先で一気に突かれて吹き飛ばされてしまった。

 

『ストライクベント』

 

 さらに追い打ちをかけるように、G4が取り出した4本のミサイルと、リュウガの右手から放たれる黒い炎が二人を襲った。

 

「「グァァァァッ!」」

 

 あまりの衝撃に吹き飛ばされてしまう二人。

 アクトの姿は元のディケイドシェープに戻り、リベードのメタジャリバーは消えていった。

 

「残念だが君たちが使っているものの性能は全て網羅している。どんな手を使ってこようと、君たちのエンジニアがどんな手を使おうとも無駄だ。

 それにもし、君たちがメモリアルカードをこれ以上強化したとしても、君たちの身体は保たないし私に勝つことは出来ない。

 ……どうする?」

 

 なんとか立ち上がろうとするアクトとリベード。

 

「それに私は言わば、君たちの()()()()だ。どれだけの能力を手にしたとしても、偉大なる父を超えることは出来ない」

 

 余裕綽々な様子のディエンド。

 本人の性は勿論のことだろうが、「数」と言うものを手に入れた者はここまでも冷酷になれるのだろうか。

 せせら嗤う彼に対して腹が立って仕方がない。

 

 

 

 と、その時。

 

『お二人とも! 形成逆転のチャンスをお持ちしました!』

 

 深月が無線で声をかけてきた。

 何だ何だと一先ず報告を聞いてみる。

 

『ディケイドとジオウのカードに付いているおみくじみたいな能力に対応するカードを急遽作ってもらったんです』

 

「それで、それを使うとどうなるの?」

 リベードの質問にグアルダが答える。

 

『出る確率の一番低いものが出やすくなる。ただ……』

「? ただ」

 

『確率の一番低いものは『大吉』と『大凶』の二つだ。

 『大吉』が出ればさらに強い力を得ることが出来るが、もしも『大凶』が出ればライダーシステムの仕様資格を失う。

 まさに一世一代の大博打だ。……どうする?』

 

 グアルダの言葉に少し間を置いて考える二人。

 そしてアクトが声を出した。

 

「それ以外に方法が無いなら、やるしかないだろ」

「……」

「裏切ったも同然の俺と、お前を含めた皆んなが一緒に戦ってくれている。そんなアイツらが示してくれた道なら、行かない手は無いだろ」

「……分かった」

 

 立ち上がるアクトとリベード。

 すると今度はリベードが言葉を紡ぎ始めた。

 

「常田海斗。さっき貴方が言ったことだけど、貴方、生物のことが何も解っていないね」

「?」

 

「親のことを超えられなかったら(しゅ)と言うものは滅びる。生物っていうのは、親を超えて生きるものなの。だから、貴方を倒せないことなんて無い……!」

 

 アクトとリベードがカードケースから同じカードを取り出した。

 カードの中の絵では、戦士が二股に分かれる道の前に立ち、左の方の道は光輝いており「EXCELLENT LUCK」と書かれ、右の方の道は暗く「GREAT MISFORTUNE」と書かれている。そして下部には「GAMBLING」と白く印字されている。

 

 それをドライバーに挿さっているトランスフォンの裏側にかざした。

 

『GAMBLING』

 

 端末が発光した。それ以降は何も起こらないが、続けて二人はもう1枚カードをパーツのスロットに装填した。

 

『"FAIZ" LOADING』

『"WIZARD" LOADING』

 

 するとスカルが自身の銃にドライバーに挿さっているメモリを装填。さらにアークが槍の先をアクトとリベードに向け始めた。

 

『"Skull" MAXIMUM DRIVE』

 

 二人はパーツに付いているレバーを下げた。

 

『『What's coming? What's coming? What's coming?』』

 

 銃口と三又の槍の先にどんどんエネルギーが溜まっていく。その間にもルーレットはいつも以上の速度で回っており、二人はギリギリまで引きつける。

 そしてここだというタイミングで、再度レバーを下げた。

 

 

 

 

 

大吉(DAI-KICHI)

 

 

 

 だが放たれたエネルギーが二人に直撃。前で爆炎が上がった。

 

 炎が止んだ場所に二人の姿は無く、何も無いところが熱の影響でゆらゆらと揺れているように見える。

 勝負はついた、と笑みを浮かべるディエンドはゆっくりと前方へ歩く。

 軽快な足取りで一歩一歩前を進んでいた、その時だった。

 

「!?」

 

 3メートル程の大きさを誇るアークの周りに、突如として赤い円錐が次々に出現。尖ったその先が全て巨体へと向けられている。

 それが今度は次々と消え、全てが消えた瞬間にアークは爆散した。

 

 アークのもといた場所に立っていたのは、見たことの無い戦士だった。

 銀色の鎧を両肩に着け、胸の部品が剥き出しになった戦士。

 仮面ライダーアクト ディケイドシェープ 大吉アクセル。

 

 さらに

 

「「ハァァァァッ!」」

 

 リュウガに二人の戦士が飛びかかってきた。銀色の光を纏う剣と赤色に光る剣をそれぞれ握る戦士は、リュウガの体を一気に斬り裂いた。

 

 斬り裂いた一人はジオウシェープのリベード。そしてもう一人、いるはずの無いウィザードシェープだった。

 役目を終えたウィザードシェープは銀色の粒子となって姿を消す。

 

 再び並んだ二人の戦士。

 アクトは両腕を挙げてファイティングポーズをとり、リベードは剣を前の方に向けて標的たちを確認する。

 

「さてと」

「反撃開始ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How did they strengthen those two cards?

A: they increased getting the chance low-magnification with omikujis.




【参考】
仮面ライダー×仮面ライダー×仮面ライダー THE MOVIE 超・電王トリロジー EPISODE YELLOW お宝DEエンド・パイレーツ
(脚本:米村正二, 監督:柴崎貴行, 2010年6月19日公開)
英語で「おみくじ」どうやって説明する?|JapanWonderGuide
(https://japanwonderguide.com/omikuji-english/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question030 What is the end of this battle?

第30話です。
今回でシーズン1が終わりを迎えます。
感想や評価等を頂けますと、筆者の励みになりますので、どうぞ宜しくお願いいたします。



【イメージED】
米津玄師 - 恥ずかしくってしょうがねえ

【歌詞使用楽曲】
モーニング娘。 - そうだ! We're ALIVE
(作詞:つんく)

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


「さてと」

「反撃開始ね」

 

 残りの仮面ライダーたちがアクトとリベードに対して襲いかかってくる。

 

 さらに二人はカードを装填した。

 

『"EX-AID" LOADING』

『"DRIVE" LOADING』

 

 レバーを二度押した。

 

『『大吉(DAI-KICHI)』』

 

 すると突如としてアクトが2人に分裂。二人とも左右対称な青色と黄色の戦士に変身した。

 リベードの左側にはゲートが出現。そこからドライブシェープのリベードが出現した。

 

 青色の大吉ダブルアクションLと、黄色の大吉ダブルアクションRはG4が放つミサイルを俊敏な動きで避けていく。爆炎が上がる中で走りながら、ディスペルクラッシャーをガンモードに変形させ、G4の腹部に2つの強烈なエネルギー弾を至近距離で発射。そのまま爆散させた。

 

 一方、ドライブシェープは自身の鎧を解除して元のスポーツカーのような形状に変形させると、オーガの周りを走らせた。

 

『EXCEED CHARGE』

 

 オーガの剣から巨大なエネルギーが放出される。

 するとリベードは高速で走る鎧が作る壁の中に入り込み、鎧を蹴ってはエネルギーに斬りつけ、さらに蹴ってまた斬る。この連続を繰り返していくと、巨大な刃はボロボロになり、使い物にならなくなってしまった。

 動揺するオーガに今度はドライブシェープが、強いキックをお見舞いし撃破した。

 

 元のディケイドシェープに戻って一つになるアクト。

 ドライブシェープも姿を消すと、さらに二人はカードを挿し込む。

 

『"DEN-O" LOADING』

『"DOUBLE" LOADING』

 

 羽を広げる白鳥のような複眼を持った白い形態──大吉ウイングに姿を変えたアクト。

 一方、リベードの前に出現したゲートの中からはWシェープが現れた。

 

『HYPER CLOCK UP』

 

 コーカサスがリベードの周りを認知出来ない程のスピードで移動し、相手を翻弄し始める。

 するとWシェープは己の周りに緑色の竜巻を起こし始めた。勢いよく吹き荒れるそれの中に、コーカサスは入ってしまい、ようやくその姿を確認出来るようになる。姿が見えるようになった標的をリベードが銀色の斬撃で粉砕した。

 

 一方のアクトには歌舞鬼が長い刀を持って遠くの方から襲撃をしに来た。

 ブーメランと小型の斧を取り出すと、ブーメランを歌舞鬼の方に投げた。だが歌舞鬼に当たることは無く、後ろの方で寂しく舞っている。

 歌舞鬼が刀を振り翳し、それをアクトが斧で防いだ次の瞬間、ようやくブーメランが元の場所に帰ろうとし、歌舞鬼の背中を攻撃した。

 標的が怯んだ隙に斧で胸元に斬りつけ撃破した。

 

『"BUILD" LOADING』

『"GAIM" LOADING』

 

 赤と青の体に白いラインの入った姿──大吉ラビットタンクスパークリングに変身したアクト。

 リベードの左隣には鎧武シェープの姿をした自身が現れる。

 

『"Skull" MAXIMUM DRIVE』

 

 ドライバーの左側にあるスロットにメモリを挿したスカルは上空に跳び上がり、出現した巨大な頭蓋骨をまるでボールのように蹴り飛ばした。

 するとアクトと頭蓋骨の間にまるでワームホールの概念図のような形をしたものが現れた。その中に頭蓋骨が入っていくと何も無かったかのように消滅してしまった。

 今度はアクトが反対側の穴の方に自身の右の拳をパンチの要領で入れると、大量の泡が勢いよくスカルを襲撃。上空の標的は粉砕された。

 

『"MIGHTY"』

 

 目の前に現れた紋章を剣に吸収させ強化したグレイブは、力が沸る剣を握りしめて向かって来る。

 鎧武シェープは2本の剣を合体させて一本の薙刀へと変えると、それを向かって来るグレイブへと投げつけた。

 自身の刀で跳ね除けようとするが、あまりの衝撃に対応が出来ずに隙が生まれてしまう。

 その間にリベードは自身の剣でグレイブを一文字に斬り裂いた。

 

 元の状態に戻るアクトと、姿を消す鎧武シェープ。

 

 こうして残りは司令塔(ディエンド)だけとなった。

 

 目の前で何が起こっているのか分からずに困惑するディエンドはその場でたじろいでしまう。

 

「何故だ……!? 何故……」

「まぁ、全てを知っていると過信しないことだな」

「そうそう、そういうこと」

 

 

 

「碧、()()、やるぞ」

 

 アクトが右手でドライバーからトランスフォンを取り出して、裏側を左側にいるリベードに向けた。

 

「えぇ……。分かった。行こう!」

 

 嫌そうな反応を見せたリベードも腹を括ったのか、自身の端末の裏側を重ね合わせた。

 

『『Let's "UNITE"!』』

 

 電源ボタンを押して、端末を思いっきりドライバーに押し込んだ。

 

『『5(FIVE)』』

 

 拳を前に出してファイティングポーズを気怠そうにとるアクト。

 

『『4(FOUR)』』

 

 剣心に左手を添えて精神を集中させるリベード。

 

『『3(THREE)』』

 

 カードケースからカードを取り出して、銃のスロットに挿そうとするディエンド。

 

『『2(TWO)』』

 

 互いの顔を見合って戦闘態勢になる三人。

 砂が風で吹かれることによって出る音が流れる中、音声が流れた。

 

 

 

『『READY……GO!』』

 

 リベードが凄まじい勢いで走り始めた。

 

 その間にアクトはディエンドの周りと走るリベードの前に、灰色の大きな長方形を召喚した。

 その中に入っていったリベードは、ディエンドの後ろにあったものから突如として飛び出し、剣でディエンドの背後に斬りかかった。

 

 気配にいち早く気が付いたディエンドは左脚で回し蹴りを食らわせようとするが、瞬時に避けられて右肩を斬りつけられてしまう。

 

 そこへアクトが応戦。二人の戦士が目にも止まらぬスピードで剣を舞わせる。

 なんとか防いで反撃の隙を狙うが、二人の攻撃は凄まじく、中々に難しい。

 

 そして二人の剣と銃身がぶつかった瞬間、その衝撃で二人とも後退してしまう。

 

『『Ten minutes away.』』

 

 ディエンドは黄色いカードを銃のスロットに挿し込み、アクトとリベードはドライバーにあるプレートを押し込んだ。

 

『ファイナルアタックライド』

『『Are you ready?』』

 

 銃身を引き延ばして銃口を前に向けると、青いカードのトンネルが出来上がっていく。

 さらに銃口には同じく青色のエネルギーが溜まっていった。

 

 二人が端末を下へと押し込むと、アクトの右足にはマゼンタの、リベードの左足には銀色のエネルギーが溜まっていく。

 そして二人の行こうとする先には、灰色の壁とピンクの「キック」の文字群が現れた。

 

『ディディディディエンド!』

『OKAY. "DECADE" DISPEL STRIKE!』

『OKAY. "ZI-O" DISPEL STRIKE!』

 

 上空に跳び上がるアクトとリベード。力の溜まった足を伸ばして強烈なキックを浴びせようと、壁と文字群の中を通り抜けていく。

 それに対抗するディエンドは彼らの方へ銃口を向けて引き金を引くと、青色のエネルギー弾がトンネルを通過。標的たちのキックと衝突した。

 

「「おりゃああああああああああ!」」

 

 殆ど互角である二つの攻撃。

 最大限の力を籠めて対抗する二人。

 

 そして白い閃光が間から漏れ出し、工場の窓から光が漏れ出したのと同時に、大きな爆発音が鳴り響いた。

 

 

 

『『Three……Two……One……Time over.』』

 

 

 

 目が覚めた時、春樹と碧は傷だらけになっていた。所々に穴の空いた服には砂が付き、顔や手脚には擦り傷が多くある。

 

 ゆっくり立ち上がって目の前を見ると、煙の中から同じような状態の海斗が立っていた。ニッコリと向こう側に笑みを送っている。

 

 海斗は右手に握られているディエンドライバーを見つめる。

 先程の戦いで相当なダメージを受けたのだろう。火花を散らす銃は辛うじて原型を留めているに過ぎず、もはや使い物にはならない。

 

「これを作るのにかなり苦労したのになぁ……。また作り直さなければ……」

 

 残念そうに呟いてやや暗い顔を見せる海斗。

 だがすぐに前を向いて再び微笑みを浮かべる。

 

 すると足音の大群が耳の中に入って来た。

 

 海斗の後ろと春樹と碧の前に機動隊員たちが現れ、銃口を標的に対して向けている。

 さすがにまずいと思ったのか、溜息を一つ吐いた。

 

「残念だが私はここで退散することにしよう。君たちを倒すのは、次の機会になりそうだ」

 

 碧の方を見る海斗。

 父を睨んでいた碧は、何をするのか分からず、思わず身構えてしまう。

 

「碧。私がこうなって辛いだろうが、もっと辛くなる。覚悟しておいた方が()い。……それじゃあ、また」

 

 海斗は自身の真後ろに灰色の大きなカーテンを出現させた。それが海斗を通過すると、カーテンと共に海斗は姿を消した。

 

「別に……辛くなんてないし……」

 

 春樹が自身から見て左にいる碧の方を見る。

 語気に震えは無く、真っ直ぐと向く意味の無くした銃口たちを見つめている。

 

 だが右の拳は固く握られており、鋭い爪によって掌が傷ついてしまいそうだ。

 

 春樹は彼女の右の手首を優しく握る。

 握られた碧は一瞬驚いて春樹の顔を見る。見つめ合うこと無く同じように前を見据える春樹を見て、碧も無言で前を向いた。

 

 沈黙とは言葉よりも多くを語ってくれる。

 それが本当であるのならば、今は何を流暢に語っているのだろう。

 けれどもそれを聞くことは出来ない。

 いやむしろ、耳を傾けてはならないのだ。

 

 同時に、工場の中にあまねが静かに入って来た。

 恐る恐る自分の義両親の後ろ姿を見つめる。

 

 目に留まったのは、母の手首を父が握りしめているところだった。

 ガラスが割れて無くなってしまった窓から差し込む光が、二人をスポットライトのように照らしていく。

 

 沈黙とは言葉よりも多くを語ってくれる。

 それを聞くことは出来ないし、耳を傾けてはいけない。聞くは野暮なのだから。

 でも、何処となく分かってしまうのだ。

 

「パパ。ママ」

 

 後ろから声をかけるあまね。

 聞き覚えのある声に春樹と碧は振り返って驚いた。

 

「え? あまね!?」

「どうしてここにいるの!?」

「岩田さんに聞いたらここにいるって言うから、来ちゃった」

 

 笑みを浮かべるあまね。

 釣られて吹き出してしまった春樹と碧は、娘のもとにゆっくりと歩いて来る。

 

 あと何歩かで三人が合流する。

 何はともあれ、これまで通りの日常は継続と言うことだ。

 その事実に安堵して、ゆっくりと足を運ばせた。

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 その場にいる全員の足が、と言うより身が竦んでしまった。

 遊撃車の中にいるメンバーたちも、突如として動けなくなる。

 

 これは決して何かの効力が働いていると言うわけではない。

 己の本能が、自身の身体にとってのストッパーとなっているのだ。

 

 

 

 全員の頭の中に、ある一つのイメージが浮かび上がった。

 

 何処からか襲ってくる目線。

 混じり気の無い目で誰かが見つめてくる。

 

 最後に脳裏に浮かぶのは

 

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 

 全員の呼吸が荒くなり、逆に空気が吸えなくなってしまう。

 

 自身の身に何が起こるのか分からず、人生で一度も味わったことの無い恐怖が全身を蝕んでいく。

 あまりの壮絶さに涙も出ない。

 

 

 

 そして蝕んでいたものは一瞬にして消え去った。

 

 何が起こったのか分からないままに、やっとの思いで深く呼吸をする全員。

 

 ようやく自身の状況を確認出来る程に余裕の生まれた碧は、自身の髪の毛に違和感を覚えた。

 

 後ろ髪を触ってみると、束ねていた自慢の長い茶髪が無くなっており、途切れた部分からはジューッと音を立てて微かに白い煙を出している。

 

「え……?」

 

 困惑する碧。

 

 前を見ると、あまねの様子が可笑しかった。

 口元を両手で押さえて一歩ずつ後退していく。

 

 得体の知れない恐怖は過ぎ去った。

 それなのに何故……?

 

 ……まさか!

 

 恐る恐る自身の右隣を見る碧。

 

 

 

 自身の旦那にこれと言った異常は無かった。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!」

 

 あまねが悲鳴を上げたのと同時に、春樹は仰向けに倒れ込んだ。

 口と消失した部分から多量の血が滲み出ていて、目は開いているが照準が合っていない。

 

 急いで駆け寄る碧とあまねは、しゃがみ込んでどうにかしようとする。

 

 するとその時、突如として春樹が二人の頭を掴んで引き寄せる形で上体を起こした。

 そして丁度耳元にある彼の口から、微かな大きさの声で言葉が紡がれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気をつけろ。零号は、すぐそばにいる」

 

 

 

「「……え?」」

 

 それだけ言い残すと、二人の頭を掴んでいた手が地に落ちた。

 目を開いたまま、僅かな呼吸も止まった。

 

「春樹っ!」

「パパっ!」

 

 室内に碧とあまねの悲痛な声が響く。

 だがそれ以外には何も聞こえない。

 

 窓から差し込む光は、次第に弱くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SEASON 1 is finished.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????

 大きなモニターに映るのは、人を模った何かの設計図。

 大量の文字群が滝のように流れては消えていく。

 

 床を足で蹴飛ばすことによって、座っているオフィスチェアーを転がした男は、四角い椅子の上に置かれているCDプレイヤーを操作し始めた。

 

 CDをスロットに挿れて再生ボタンを押すと、何人もの女性の声で形成される声の大群が聞こえてきた。

 

 努力 未来 A BEAUTIFUL STAR

 努力 Ah HA A BEAUTIFUL STAR

 努力 前進 A BEAUTIFUL STAR

 努力 平和 A BEAUTIFUL STAR

 

 コールの部分で口をへの字に曲げた男は再び元の場所に戻ると、モニターの前に配置されている長机の上に置かれているものに手を伸ばした。

 

 それはまるで時計のような黒い物体であるが、文字盤の部分に白い円があるだけで、それ以外には何も付いていない。

 

 手に取って眺めながらニヤリと笑みを浮かべる男。

 上機嫌になったのか、サビに入った曲に合わせて歌い始めた。

 

 (しやわ)せになりたい

 あなたを守ってあげたい

 本当の気持ちはきっと伝わるはず

 GO! GO! GO! GO!

 We're ALIVE

 

 

 

 どうして「し()わせ」じゃなくて「し()わせ」なの?

 

 

 

 ふと思い出してしまった声が脳裏に響く。

 

五月蝿(うるさ)いなぁ……」

 

 思わず呟いてしまった男は、手に持っていたものを机の上に戻し、再度モニターを向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常105体

B群7体

不明1体

合計113体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is the end of this battle.

A: The end is injured him by anyone.




さて、シーズン2では一体どんな展開が待ち受けているのでしょう……?
暫く更新が出来ないのでお待ちください。

感想やシーズン1を終えての考察等を書いてくださると本当に嬉しいのです。
喜びのあまり踊ってしまうかもしれません。

何はともあれ、今後ともお付き合いください。
宜しくお願いいたします。



【参考】
劇場版 仮面ライダー(ブレイド) MISSING ACE
(脚本:井上敏樹, 監督:石田秀範, 2004年9月11日公開)
仮面ライダー電王 ウイングフォーム|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/forms/385)
ワームホール - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB)
そうだ! We're ALIVE - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9D%E3%81%86%E3%81%A0!_We're_ALIVE)
songdream onlinestore|【家具の基礎知識】チェアーの種類と役割について
(https://songdream.jp/html/page17.html)
モーニング娘。 そうだ! We're ALIVE 歌詞 - 歌ネット
(https://www.uta-net.com/song/15168/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 11 (SO)(U)(DA)! WE'RE ALIVE
Question031 Who are those three people who have appeared?


第31話です
今回からシーズン2が始まります。
イメージOPとイメージEDがシーズン2から変わりますので、是非ともお聴きください。
感想等を書いてくださると、筆者の励みになります故、宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
Roselia - 閃光

【歌詞使用楽曲】
モーニング娘。 - そうだ! We're ALIVE
(作詞:つんく)

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


 (しやわ)せになりたい

 あなたを守ってあげたい

 平凡な私にだって出来るはず

 

 リュックサックに様々な書類を詰めながら、男は上機嫌に歌を口ずさむ。

 その様子に碧も思わず笑みをこぼした。

 

「ねぇ。最初のさ、『しーやわせになり たい』ってやつ」

「そうじゃない。『し っいや うわ せ になり たい』だから」

「……はいはい」

 

 少しばかり呆れた様子を見せた碧が言葉を続けた。

 

「どうして『し()わせ』じゃなくて『し()わせ』なの?」

 

 突拍子の無い質問に、男は腕を組んで考える。

 

「……大阪弁、とか?」

「ああ……」

 

 納得したのか、それ以上は何も訊かなかった。

 

 荷物を入れ終えてチャックを閉めたリュックサックを背負う男。

 玄関に座って靴を履くと、立ち上がってドアノブに手をかけた。

 だがすぐには外に出ず、その場に立ちすくしている。

 

「いつも歌っているけどさ、好きな歌詞と嫌いな歌詞があるんだよ、俺には」

 

 何のことだか分からず、首を傾げる碧。

 

「嫌いな歌詞は?」

「『努力 未来 A BEAUTIFUL STAR』」

 

 初っ端じゃん。

 と言うツッコミを口から出すのを抑えて、もう一つ訊いた。

 

「じゃあ、好きな歌詞は?」

 

 

 

「『(しやわ)せになりたい』」

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.01.06 12:44 東京都 港区 城南大学

 

 ゆっくりと目を開いた。

 

 一瞬何が起こったのか分からずに混乱する。

 何せ住み慣れた玄関の前にいた筈なのに、次に目に映ったのは木の木目なのだから。

 

 ゆっくりと上体を起こすと、ようやく自身の置かれている身を理解し思い出した。

 

 全ての壁がガラス張りとなっているこのカフェテリアの天井には、外から降って積もった白い雪が垣間見える。

 自分よりも少しだけ若い人々がゆったりと食事を楽しんでいた。

 

「夢、か……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 懐かしい夢を見た、と椎名碧は少しだけ頬を緩める。

 

 ふと横を見ると白い楕円形の器に入ったカレーライスが、湯気がほんの少し立たせていた。器が乗っているお盆の下部には包装されたお手拭きが、右側には木製のスプーンと水の入ったコップが乗っかっている。

 

 そう言えば、自分は数分前に注文をした……。

 

 碧は目を擦ってお盆を自分の方に寄せると、暖房の効いた部屋の中で昼食をとり始めた。

 

 

 

「なぁ、あれ誰だよ?」

「さぁ。すごい顔良いよな」

「あぁ。それにスタイル良いし」

 

 少し離れたところから、3人組の男が席に座りながら話している。

 話題の中心にいるのは、当然碧だ。

 そこそこに顔は良いし、メリハリのある身体は年頃の男子にとっては、言わば「目の保養」になる。

 

「お前、話しかけて来いよ」

「え!? 俺が?」

「いけいけ」

 

 その中で金髪にタンクトップを着た軟派な雰囲気の男が碧の前に座った。

 

「こんにちは」

 

 話しかけてきた男に申し訳無い程度の会釈をしてスプーンを進める碧。

 自分が目の前の男と同じくらいの歳の頃、何度も声をかけられていたため、正直慣れているのだ。

 

「お姉さん一人?」

「声をかける相手を見抜くためにも、観察力を身につけたら?」

「……は?」

 

 碧はスプーンを持っていない左手の甲を目の前に見せた。

 薬指に着けられているのは、V字にカーブしているように見える銀色の指輪だ。真ん中のダイヤモンドが照明の明かりを優しく反射しているが、男にとっては眩しいくらいのものだった。

 

「え!? ひ、人妻!?」

「そう。それに」

 

 すると碧は椅子にかけていた赤いコートのポケットの中から、自身のトランスフォンを取り出して操作をすると、画面を男に見せつけた。

 

 映っているのは仲睦まじい様子の三人の様子だ。

 左側の春樹はトナカイの着ぐるみを着てなんとも言えない顔で、サンタクロースの衣装に身を包んだ右側の碧と真ん中のあまねは笑顔で、ピースサインを作って写真に写っている。

 

「私、()()()だから」

 

 勝負あり、と言ったところか。

 

 自分と同い年くらいの見た目をした人間が既婚者で、尚且つ同じくらいの歳の子供を持っている。

 彼からしてみれば信じられないことの連発だった。

 

「それじゃあ」

 

 いつの間にか昼食を食べ終わった碧は食器を返すと、椅子にかけていた赤いコートを左腕にかけ、白いハンドバッグを持ってその場を立ち去った。

 

 

 

 廊下を歩く碧は、歩く脚をそのままに小さく右手でガッツポーズをした。

 

 何せ数年振りにナンパをされたのだ。しかも年下から、自分と同年代だと思われてだ。一人の女性としてよっぽど嬉しかったのだろう。

 だが、そんな反応が出来るのは自分に春樹(ただ一人の想い人)がいるからだ。

 そうでもなければ、親鳥を追う雛鳥のように後をついて行ってしまうだろう。

 

 ウキウキな様子の碧は、とある部屋の前で足を止めて上にある表札を見上げた。

 書いてある文字は──

 

 

 

考古学研究室

 

 

 

 3回ノックをしてドアを引いて中に入った。

 

 すると奥の方から1人の女性が現れた。白いニットにジーパンを着たミディアムヘアの女性だ。

 

沢渡(さわたり)先生!」

「! 碧ちゃん!」

 

 沢渡桜子(さくらこ)は碧のもとへ駆け寄ると、笑顔で来客を迎え入れてくれた。

 

「ご無沙汰しています」

「久しぶりだね〜。元気?」

「はい!」

 

 笑顔で会話を広げる二人。

 

 桜子は大量の書類の中からA4サイズの茶色い封筒を碧に手渡した。

 右下には城南大学のロゴマークや連絡先が緑色で書かれており、封をした部分にバッテン印が黒いボールペンでつけられている。

 

「はいこれ。頼まれていたもの」

「有難うございます!」

 

 笑顔で封筒の中身を見つめる碧。

 そんな彼女の様子を見た桜子は微笑んで彼女に話しかけた。

 

「でもどうして今更九郎ヶ岳(くろうがたけ)遺跡の報告書なんて欲しがったの?」

「仕事で使うんですよ。仕事で」

 

 突然クスッと笑った桜子。

 何が起こったのか分からずに前を見る碧。

 

「? どうしました?」

「ううん。ごめんね。その髪型、大学にいた時と同じだと思って」

 

 碧は自身の髪の毛を封筒を持っていない左手で触る。

 そういえば去年訪ねた時はポニーテールだったが、今は大学生の時と同じボブカットになっていた。

 

 少しだけ苦い顔をする碧。

 それもそうだ。自分から進んでこの髪型になったわけでは無いのだから。

 

「それに、その笑顔見ると、なんだか懐かしくなるから……」

 

 桜子は何か思い出に耽ったようで、少しばかり笑みを浮かべる。

 自身の目の前の人間が何を思い出し微笑んでいるのか、碧には検討がつかなかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.01.07 15:20 東京都 新宿区 SOUP

 碧たちはパソコンを睨みつけて作業を進める。

 そこに会話は殆ど無く、全員が静かだ。

 

「なぁ、少し休まないか?」

 

 森田が全員に声をかけると、各々が行動をとった。

 圭吾は机上に置かれたぬいぐるみを持って目を閉じ、深月はスマートフォンを見て何かを検索し始めた。薫と森田はまだ手元の書類を確認して、碧はただ天を仰ぐ。

 

 バラバラな行動。

 だが、全員の表情は共通して曇っていた。

 

「春樹さん、どうやったら目覚めてくれるんでしょうね……?」

「……そうだな……」

 

 圭吾と森田が呟いた。

 

 そう。

 春樹は今、SOUPの中にある医務室で眠りについている。

 心臓は止まっていないため、なんとか生きながらえている状態だ。

 

「右腹部は完全に消失。自己修復機能によってなんとか修復はしましたけど、目覚めるかどうかは別問題ですね……」

「あんな芸当が出来たのは……。それにあの殺気……」

 

 その時、全員がある名前を脳裏に思い浮かべた。だが誰もそれを口に出そうとしない。決して出してはいけないわけでは無いのだが。

 

「零号……!」

 

 深月の口から出てしまった。

 

 全員の顔が青ざめてしまう。

 

 つまり、最終的に自分たちが戦わなくてはならないのは、あれほどの強大なものだということだ。

 あの時に感じた尋常ではない殺気を思い出すだけで、今にも体が固まってしまう。

 

 なんとか話を逸らそうとする全員。

 するとこの空気を作ってしまった張本人が話を切り出した。

 

「ところで、(なん)でお父さんはフォルクローを作り出したんだろう。まぁ結構な変人だったけど、あんなもの作るような人じゃなかったからなぁ……」

 

 独り呟いたところ、他のメンバーが会話に参加をしてきた。

 

「何か大切なもののため」と森田。

「誰かに脅されたため」と圭吾。

「お金のため」と薫。

 

「うわぁ。皆さんの人生観がモロに出ますね……」

 少しばかり嫌そうな顔をする深月。

 

「お金と言えば、そもそも研究資金は一体どうしていたんでしょう……?」

 

 新たな問いを薫が投げかけた。

 想定外の方向からの質問に、全員が首を傾げる。

 

「え、だって、あんな世紀の研究、国家プロジェクトレベル、いやそれ以上のお金がかかるでしょ!」

「確かにそうですね。とは言え、厚生労働省には彼が国から資金提供を受けたという記録は一切無かったんです」

「と言うことは、そんな額を払えるような個人がいた、と言うことか」

 

 深月の報告によって謎はさらに深まってしまう。

 休憩をするどころか、彼らはさらに己の身を削ってしまったのだ。

 

 

 

2022.01.07 17:06 東京都 新宿区 四谷

 この日は仕事始めの日であった。幸運にも出動の要請は無かったため、全員が定時で帰ることを許された。

 

 入り口であるエレベーターのある廃ビルの入り口で、碧は深月に話しかけた。

 

「そう言えばさ、深月くんがこないだ言っていたのって何?」

「え? ……ああ……!」

 

 

 

 じゃあ僕はみーたんの特典付きCDをお願いします。全然ペンライトが当たらないので。

 

 

 

 それが深月が春樹に頼んだ最後の品物だ。

 その意味が全くと言って良いほどに解らないのだ。

 

「実は2月6日に日本体育館で行われる江戸川ミソラ(みーたん)のライブでは、限定のペンライトが入場者に配られるんです。

 でも、CDに付いてくる応募券を使えば、抽選でそれよりも前に手にすることが出来るんです。確か一次が1人、二次が2人、三次が4人、次の四次が16人です」

 

「へぇ……」

 

 それを話す深月の表情はいつにも無く明るいものだった。

 彼の表情を見た碧はなんだか微笑ましくなったのと同時に、何かが起こりそうな予感を感じて身が震えた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.01.07 17:30 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

「ただいまーっ」

「お帰りー」

 

 碧がリビングのドアを開けると、あまねは何かを見ていた。

 縦に四つ折りにされたパンフレットで、ページのうちの一枚には老年の男性の顔写真が載っている。

 表紙に大きく書かれた文字は、「平井ホールディングス」。

 

「そうか。月曜日から職業体験ね」

「うん。もう何年かで私も社会人だよ〜」

 

 面倒くさそうに言い放つあまね。

 その後ろ姿を微笑みながら見つめていた碧は、あまねの隣に座って鞄の中の整理を始める。

 

「しかしまぁ、まさかこんな大企業に職業体験出来るだなんてね」

「うん。正直、学校で言われた時はびっくりしたよ」

 

 平井ホールディングスは社長の平井(ひらい)勝司(かつじ)が1992年に創業した企業グループだ。

 元々は不動産会社であったのだが、それが急成長して様々な事業へ参入。日本のトップ企業のうちの一つとなった。

 

「パパ、目、覚めるよね?」

 

 パンフレットを見ていたあまねが唐突に呟いた。

 じっと下を向くその顔はなんとも言えない顔をしている。

 

「……うん。きっとね」

 

 碧は敢えてあまねの方を見ずに答えた。

 見ることが出来ないのだ。何せ無責任に答えることなど出来ないのだから。

 

 この部屋は十分なくらいに暖房が効いている。部屋全体が満遍なく温められているために、コートを脱いだとしてもやや暑苦しい。

 だが二人にとっては足りないくらいだ。何かを羽織って殻に籠る貝のようになりたい。

 無意識に吐いた冷たい息は熱と共に何処かへ消えていった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.01.10 13:52 東京都 杉並区

 碧が運転するアクトチェイサーに先導をされて、黒い遊撃車は走る。

 車内で乗員たちは、各々が気を引き締めていた。

 

 そんな中

 

「あの、今丁度思い出したんですけど」

 

 深月が話を切り出した。

 

「米国が開発した新しいメモリアルカードを運搬する際、クロトはどうやって情報を掴んだんでしょうか?」

「確かに、運搬する日時や品物の詳細は私たち以外は知らないはずです。……まーさーか」

 

 薫の言葉で最悪の可能性が浮かび上がる。

 

 

 

「私たちの誰かの中に、言わばスパイのような存在がいる、と言うことですか?」

 

 圭吾の言葉に全員が前を向いた。

 そして自分以外のメンバーの顔をじっくりと見る。

 

 この日は曇り空のため、カーテンを閉めた車内の中には光が入ってこない。そのため車内は尋常ではないほどに暗い。

 誰かがカーテンを開けるのを全員が待ったが、誰も開ける様子は無かった。

 

 

 

 そうこうしているうちに、目的地に着いてしまった。

 場所は大きなコンサートホールにある広場だ。両端には入り口に広がる大きな階段があり、様々な垂れ幕が僅かな風に靡いている。

 

 奥の駐車場に繋がる道からソルダートたちが迫って来る。

 それに向かって先に到着をしていた機動隊員たちが弾丸を放っている。

 

 とは言え、絶大な威力を誇る弾丸だったとしても、彼らにとっては後ろに後ずさるだけの力であり、あくまでもその場しのぎにしかならない。

 

 オートバイから降りた碧は機動隊員たちの前に立つと、トランスフォンを取り出してカードをかざした。

 

『ACT DRIVER』

 

 腹部に銀色のドライバーが出現する。

 それを確認すると、カードケースからもう1枚取り出して、自身の持つ端末に装填した。

 

『"REVE-ED" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、待機音と共に上空にゲートが開いて、そこから銀色の鎧が姿を見せる。

 

 端末を持った右手をゆっくりと宙空へと挙げてぶらりと下げる。勢いそのままに両腕を肩の高さまで挙げて、左手を右肩の方まで持っていった。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 端末をドライバーに装填する碧。

 身体が青色の素体となった彼女に、銀色の鎧と仮面が次々に装着されていく。

 

『I'm KAMEN RIDER REVE-ED!』

 

 仮面ライダーリベードに変身を遂げた碧は、剣を取り出して兵隊たちの方へ向かって行く。

 

「ハァァァァッ!」

 

 

 

 

 

 と、その時だった。

 

 ズガーーーン!

 

 突如として上空から現れた二本足の何かが、兵隊たちを踏み潰したのだ。

 四角い体に長い脚が2本だけと言う、何ともアンバランスな構造の()()は、手にひらに収まるほどの大きさと形状まで縮小。左の階段の方へと向かっていく。

 

 そしてそれを階段のところにいる3人の男女のうち、左側にいる男が手に取った。

 

 その左側にいる男は、白い花柄の入った黒いワイシャツに同じような黒いズボンを履いており、頭には黒いシルクハットを被っている。

 

 真ん中の男は、白いワイシャツにペールブラウンのジャケット、薄緑の半ズボンを履いたロン毛の男だ。

 

 右側にいるリクルートスーツの女は、腕を組んでリベードの方を見ながら笑みを浮かべている。

 

「誰?」

 

 リベードの問いに、左側にいる男が答える。

 

「俺はシド。で、真ん中のロン毛がリョーマで、俺から見て奥にいる女がヨーコだ。以後知っておいてくれ」

 

 少しヘラヘラとしている態度に、リベードは若干の苛立ちを覚える。

 

「どうしてここにいるの?」

「それが、()()()()()()が貴方に会いたいって言ってるのよ。その付き添いみたいな感じ」

「ボス?」

 

 高圧的な態度でヨーコが言う。

 

「ああ。だが、ボスは今忙しい。来る前に私たちとお手合わせ願いたい」

 

 すると三人はまるで家電のように洒落た見た目をした、赤いものを取り出した。

 それを腹部にかざすと、帯が発生してドライバーが完成した。

 

 さらに懐から透明なアイテム──ロックシードを手に取った。

 全員の絵柄が異なっており、リョーマのものは黄色、ヨーコのものはピンク、シドの色は赤色となっている。

 

 各々が右側に付いているスイッチを押した。

 

『レモンエナジー!』

『ピーチエナジー!』

『チェリーエナジー!』

 

 錠前に似た形状のアイテムの上部のパーツが展開すると、突如として三人の頭上に銀色のチャックのようなものが現れた。

 それが開くと、レモン、桃、さくらんぼを模したものが姿を見せる。

 

 それぞれがポーズを決めて、そして叫んだ。

 

 

 

「「「変身!」」」

 

 手に持つロックシードをドライバーの中央に取り付け、ロックシードの上部のパーツを押し込んだ。

 

『『『ロックオン!』』』

 

 全員、ドライバーの右にある取手を掴んだままに、左側のレバーを内側に押し込んだ。

 

『『『ソーダ!』』』

 

 ロックシードが展開をした。

 手を離したレバーが元の位置に戻ろうとするのと同じ速度で、下部のタンクへと何かの液体が溜め込まれていく。

 

 完全にレバーが戻り切ったところで、上空の果物たちが主の頭部に被さる。

 体が異形のものへと変わると果物が変形。鮮やかな色をした鎧となった。

 

『レモンエナジーアームズ! ファイトパワー! ファイトパワー! ファイファイファイファイファファファファファイト!』

『ピーチエナジーアームズ!』

『チェリーエナジーアームズ!』

 

 リョーマの変身した、仮面ライダーデューク レモンエナジーアームズ。

 ヨーコの変身した、仮面ライダーマリカ ピーチエナジーアームズ。

 シドの変身した、仮面ライダーシグルド チェリーエナジーアームズ。

 

 赤い弓を構えた戦士たちは、鎧が持つ鮮やかな色を魅せること無く戦闘態勢に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Who are three people who have appeared?

A: They are VOLKLOW who use items, which look like fruits.




【参考】
講談社シリーズ MOOK 仮面ライダー 平成 vol.15 仮面ライダー鎧武
(講談社, 2014年)
小説 仮面ライダークウガ
(講談社, 荒川稔久著, 2013年)
小説 仮面ライダー鎧武
(講談社, 砂阿久雁著, 鋼屋ジン著, 虚淵玄監修, 2016年)
「仮面ライダー鎧武 / ガイム」第15話『ベルトを開発した男』
(脚本:虚淵玄, 監督:諸田敏, 2014年1月26日放送)
モーニング娘。 そうだ! We're ALIVE 歌詞 - 歌ネット
(https://www.uta-net.com/song/15168/)
米津玄師「KICK BACK」をきっかけに振り返る、「努力 未来 A BEAUTIFUL STAR」のフレーズが生まれた理由。 |つんく♂
(https://note.tsunku.net/n/nff15e1bc0c9b)
東京の過去の天気 2022年1月 - goo 天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220100/)
結婚指輪の種類は?相場から選び方まで、いろはをまとめました!|カップルに人気の婚約指輪,結婚指輪はI-PRIMO(アイプリモ)
(https://www.iprimo.jp/columns/cc_3/239.html)
仮面ライダー鎧武 / ガイム - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%AE%E9%9D%A2%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%80%E3%83%BC%E9%8E%A7%E6%AD%A6/%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%A0)
米津玄師 Kenshi Yonezu - KICK BACK - YouTube
(https://www.youtube.com/watch?v=M2cckDmNLMI)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question032 Why have they appeared in front of her?

第32話です。
新キャラの初登場回です。
宜しくお願い致します。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.01.10 14:05 東京都 杉並区 杉並区民ホール

「一気に3人も上級のフォルクローか……。面倒なことになったなぁ……」

 

 リベードが面倒くさそうに呟く。

 その間にデュークたちは赤い弓──ソニックアローを手に取って身構えた。

 

 するといきなり、シグルドが矢の形をしたエネルギーを発射してきた。

 それを剣で弾き落とす。

 

 デュークとマリカが接近して襲いかかってきた。

 

 弓に付いた刃でデュークが斬りかかるが、リベードが剣で防いでその勢いのままに左脚で蹴りを入れようとする。

 だがマリカが左脚を左手で掴み、振り下げて二人が胸部を斬った。

 

「グッ……!」

 

 後退するリベード。

 だがその間にも標的たちは迫って来る。

 

 走って来る間に、リベードはカードを取り出して、ドライバーから取り外したトランスフォンに装填した。

 

『"WIZARD" LOADING』

 

 すぐさま電源ボタンを押して、ドライバーに挿し込んだ。

 

『Here we go!』

 

 再度デュークとマリカが弓で斬りかかってくる。

 後ろに宙返りをして避けた瞬間、銀色の鎧は解け、代わりに赤い鎧が装着されていく。

 

『Witchcraft, Activate, Bibi de bob de boo! I’ll be your last hope. MYSTERIOUS WIZARD! It’s showtime.』

 

 ウィザードシェープに変身を遂げたリベードに対し、デュークの左足とマリカの右足が正面から襲いかかる。

 だがリベードはそれらを蹴飛ばし一回転、宙空にてカードをかざした。

 

『"COPY" please』

 

 するとリベードの着地地点のすぐ横と、シグルドの隣に赤い魔法陣が出現。そこからリベードと全く同じ姿をした分身たちが飛び出して来た。

 これで3対3。互角の勝負と言えよう。

 

 リベードとデュークは同等の剣舞を魅せる。互いの剣が弾かれてはぶつかり合うのを繰り返して、いくつも火花が舞っていく。

 

 マリカは主に脚技を得意としていた。なんとか強烈な攻撃たちを両腕で防いで反撃を繰り出していく。

 

 シグルドは左利きだ。右利きのリベードとの戦いではやや不利になってしまう。それでもリベードは上手く食らいついていた。

 

 そしてそれぞれの個体が行き着いた先は、ホールの駐車場の方にある森の中だった。夏になれば樹木は緑で溢れるのだが、1月の今は一切の葉っぱが付いておらず、寂しく思えてくる。

 

 戦闘の結果、リベードたちは3人の標的たちによって囲まれた。高い戦力を持った相手が束になってかかって来たのだ。無理も無い。

 

 囲んだ張本人たちはソニックアローに、ドライバーに付けられたロックシードを取り付けた。

 

『『『ロックオン!』』』

 

 弓を引いて焦点をリベードたちに合わせる。次々に色とりどりのエネルギーが溜まっていった。

 

『レモンエナジー!』

『ピーチエナジー!』

『チェリーエナジー!』

 

 矢が放たれた。

 黄色、ピンク、赤色の矢が的に向かっていく。

 

 するとリベードたちは1枚ずつカードを取り出して、端末にかざした。

 

『『『"CONNECT" please』』』

 

 矢の前に1つずつ赤い魔法陣が現れて、その中へと矢が吸い込まれていった。

 

「「「?」」」

 

 と、次の瞬間。

 

「「「!」」」

 

 デューク、マリカ、シグルドの背中に強い衝撃が走った。

 倒れる衝撃で後ろが見えた三人が見たのは、同じような赤い魔法陣だった。

 

「まさか……!」

 

 そう。

 先程の矢は魔法陣を通して彼らの背中に移動したのだ。

 これで不利な状態は完全に打破出来た。

 

 そしてリベードたちは、トランスフォンを取り出してディスペルクラッシャーにかざした。

 

『『『Are you ready?』』』

 

 端末をドライバーに再度挿し込む。

 

『『『OKAY. "WIZARD" CONNECTION SLASH!』』』

 

「「「テリャァァァッ!」」」

 

 炎を纏った斬撃を三人にそれぞれ食らわせるリベードたち。

 

 ダメージを負ったのか、後退した三人は変身を解除されてしまう。

 それを確認したリベードは再び一人に戻った。

 

「ねぇ、ボスって誰? ……まさか!」

 

 一人、思い当たる節があった。

 自身の最愛の人を襲った人物……。

 

「所謂『零号』だろ? 残念だけどそれは違うな」

 

 シドがリベードの中で組み立てられた仮説を否定した。

 

「言っておくけど、別人だから。あとボスって呼び方は正直嫌」

 

 ヨーコもそれに乗っかる。

 

「私の趣味だ。良い呼び方だろ?」

 

 リョーマが笑顔でヨーコに軽く反論をする。

 彼ら三人の言っている意味が解らず、戸惑うリベード。

 

「じゃあ、一体誰?」

 

 

 

 その時だった。

 

『CREATE MY FAV ZONE』

 

「ようやく()()()()()のお出ましだ」

 

 中性的な女性の音声と同時に、突如としてリベードたちの周りの風景が変化を始めた。

 巨大な樹木が数多くあったこの場所は、いつの間にか真っ暗になり、樹木は全て消えていた。

 

 

 

「え? 何だこれ!?」

 

 遊撃車の中にいた深月が突如として声を上げた。

 全員がパソコンの画面を見て混乱している。

 

 本来、彼らのパソコンには各々様々なものが表示されている。その中で共通しているのは、アクトやリベードの仮面に取り付けられているカメラから、リアルタイムで映像が転送されている。そこから送られてくる映像は、例え地下数十メートルであろうが、宇宙空間であろうが、理論上は途切れることが無い。

 

 だが、今表示されているのは赤い文字でこうとだけ書かれている。

 

ERROR

回線が遮断されました。

 

 なんとか圭吾が対応をする。

 だが何ともならず、音声も入ってこない。

 

 目の前で繰り広げられている光景に、全員が唖然とするしかなかった。

 

 

 

 突然、音と共に少しばかり明かりが見えた。

 どうやら壁の一面は巨大なスクリーンになっているらしく、そこに文字が映し出される。

 

 

 

Welcome To My Presentation

Aoi Shiina

 

 

 

 何が何だか全く解らない。

 ここは何処なのか。

 何故自分が歓迎されているのか。

 

「ようこそ! 俺のプレゼンテーションへ、碧」

 

 耳馴染みのある声が耳の中に入ってきた。

 

 まさか……!

 

 前を向くと、そこに立っていたのは1人の男だ。

 襟の部分に毛皮の付いたオレンジ色のコートにジーパンを履いた、茶髪の男だ。

 

 リベードの息が先程よりも荒くなり、震え始めている。

 何とか声を絞り出して、言葉を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん……!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 変身を解除するリベード。

 次に見えたのは、碧の言葉に微笑みを向ける男──常田八雲(やくも)の姿だった。

 

「久しぶりだね。ざっと8年ぶりくらいか」

「う、うん……。そんなことより! どうしてここにいるの? ていうか、ここは何処なの!?」

 

 碧に向けて左の掌を見せる八雲。

 どうやら、やんわりと「私語を慎め」と言っているようだ。

 

「まぁまぁ。(いち)から話すから」

 

 八雲は説明を始めた。

 

「ここは『ファブゾーン』。自分の好きな空間を創造することが出来る。そして、どうして俺がここに来たかと言うと、()()()()()()()()()のためだ」

()()()()()()()()()……?」

 

 すると、八雲の隣に突如としてモニターが現れた。そこに表示された文字は

 

 

 

P - 2 - P

RIDER SYSTEM OF NEXT GENERATION

 

 

 

「『Purification To Perfection』、通称『P-2-P』システム。新世代のライダーシステムで、()()()()の中でも最高傑作と言っていい出来具合だ」

「? ちょっと待って。『俺の作品』ってどう言う意味……?」

「あれ? 知らなかったっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライダーシステムを作ったのは、俺だよ」

 

 父親に似たニッコリとした笑みを浮かべる八雲。

 頭の中を行ったり来たりする言葉を理解することは出来るが、信じたく無いのか何処かで拒否している。

 

「作った……? これを?」

 

 手元のトランスフォンを見つめる碧。

 

「そう。言わば一連のものは全て父子(おやこ)の血と涙の結晶と言うわけだ。良いでしょ」

 

 ようやく頭が追いついてきた。

 自身の父が異形の怪物(フォルクロー)を創り、兄が究極の兵器(ライダーシステム)を作った……。

 

「まさか、米国のメモリアルカードの研究に加担した研究者って!」

「そう。俺だ。まぁ、作った本人が参加したんだから、質は良い筈だよね」

「嘘……」

「……。話を続けよう」

 

 八雲の隣にあるモニターの画面が変化し、別の文字群が姿を見せる。

 

 

 

 1. Can be used for mankind

 2. Separation

 3. Summoning

 4. Adhesion

 

 

 

「これら三つが、このP-2-Pシステムの特徴さ。まぁ、お前の場合は口頭で説明するよりもボディランゲージで説明した方が早い。出血大サービスだ」

 

 改めて八雲の全体像を見ると、左腰にアクトやリベードが使っているのと同じカードケースが着けられている。

 

 その後方のスロットから八雲は1枚のカードを取り出した。

 白い円の中に「KAMEN RIDER NEX-SPY」とポップなオレンジ色の文字で書かれており、下部には白く「YAKUMO TOKITA」と印字されている。

 

 カードを自らの左手首に着けられている黒い腕輪の丸い部分にかざした。

 

『NEX CHANGER』

 

 先程と同じような女性の声と同時に、腕輪の上に銀色のパーツが設置された。

 手首の方にはカードが入る程のスロットがあり、もしもスロットにカードを装填すればカードの全体像が見えるようになっている。更に腕輪とパーツの間に若干の隙間、と言うよりスロットがある。

 パーツの手首の方の側面には、ピンポン玉と同じくらいの大きさの黒いダイヤルがあり、その側面は上から時計回りに黒色、赤色、青色、オレンジ色に色分けされている。尚、現在スロットの方に合っているのは黒い面だ。

 

「これが、要となる『ネクスチェンジャー』だ」

「ね、ねぇ。ちょっと待って。もしかして……お兄ちゃんも、フォルクロー(私と同じ)なの……?」

 

 なんとか声を絞り出す碧。

 ライダーシステムを使えると言うことは、彼も異形のものに変わってしまったと言うことになる。

 

「いや。俺は()()だよ」

「え? どう言うこと?」

 

「それがP-2-Pシステムの第一の特徴さ。フォルクローだけでは無く人間も使用出来る。使用する権利を持つ者に、種族も糸瓜(へちま)も無いからね」

 

 すると八雲はカードケースの前方のスロットから、もう1枚カードを取り出した。

 左を向いた橙色の戦士が銃を構える姿が描かれており、下部には「KAMEN RIDER NEX-SPY」と書かれている。

 

「まぁ、いいから黙って見ててよ」

 

 上の方のスロットに、裏返したカードを装填する。

 

『"NEX-SPY" LOADING』

 

 更に親指、人差し指、中指の三本でダイヤルを90度回し、オレンジ色の面に合わせた。

 

『CHANGE』

 

 金属がぶつかり合うような重苦しい待機音が流れる。

 同時にオレンジ色の四角い枠が八雲を覆った。

 

 八雲が両腕を大きく回し、3本の指が伸びたままの右腕が縦になると、その外側に腕輪を着けた左腕が横に付き、十字が出来上がった。

 

 そして八雲は叫んだ。

 己の成果を妹に見せつけるための四文字を。

 

 

 

 

 

「変身」

 

 右の掌でダイヤルを押し込んだ。

 

『Let's go!』

 

 両腕を下げると、枠の中に白い煙が発生。八雲の姿が見えなくなる。見えるのは、人と宙空に浮かぶ鎧らしき幾つかのパーツの黒い影だけだ。

 パーツが人の形をした黒い影に合わさった瞬間、突如として枠が破裂。白い煙は辺り一面に撒き散らされ、戦士の姿が初めて見えた。

 

 橙色の体に銀色の鎧が両腕両脚、胸部や両肩に着けられている。同じ色の三角形の2つの複眼が光る頭部には、ヘッドフォンのような形の耳や、2本の鋭い角が着けられており、口元は銀色のパーツでマスクのように隠されている。そして腹部には銀色のベルトが着けられており、アクトやリベードと同じようにカードケースが取り付けられている。

 

『This is RIDER SYSTEM of next generation. I’m KAMEN RIDER NEX-SPY! I hate grind and future.』

 

「仮面ライダーネクスパイ。それが今現時点での俺の名前だ」

 

 ネクスパイに変身した八雲は自身の両腕を挙げてじっと見つめる。

 どうやらかなり満足している様子だ。

 

「始めようか。愛する妹(一般のお客様)に向けた、()()()()()()()()()()を……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why have they appeared in front of her?

A: To do her brother’s demonstration of RIDER SYSTEM of next generation.




P-2-Pシステム(SYSTEM)
(イメージCV:ermhoi)

正式名称は「Purification To Perfection system」。
次世代型のライダーシステムであり、それまでのものとは比べ物にならないような性能である。



────────────



常田(ときた) 八雲(やくも)
(イメージCV:宮野真守)
生年月日:1993年5月21日
出生地:長野県
所属:不明
好きなもの:焼肉、研究、モーニング娘。
嫌いなもの:不明



────────────



「P-2-Pシステム」の語源は言わずもがな、金子勇氏が発展させた「Peer to Peer」システムです。
これでP-2-Pシステムがどのようなものだか、ざっと予想出来るかと思います。



【参考】
幻想世界13ヵ国語ネーミング辞典
(コズミック出版, ネーミング委員会編, 2019年)
https://rider.b-boys.jp/gaim/pdf/dx_07.pdf
米津玄師 Kenshi Yonezu - KICK BACK - YouTube
(https://www.youtube.com/watch?v=M2cckDmNLMI)
Peer to Peer - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/Peer_to_Peer)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question033 What has he showed to her?

第33話です。
春休みなので火曜日・木曜日・土曜日以外でも投稿して参ります。
P-2-Pシステムの力が、大体明らかになります。
因みにシステムのイメージCVはermhoiさんでございます。
宜しくお願いいたします。



【イメージED】
AI - 最後は必ず正義が勝つ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.01.10 14:11 Yakumo Tokita's FAV ZONE

「始めようか。愛する妹(一般のお客様)に向けた、()()()()()()()()()()を……!」

 

 仮面ライダーネクスパイに変身を遂げた八雲。

 目の前で繰り広げられる光景に、碧は驚きが隠せない様子だ。

 

「グアルダ。今すぐに変身を解除して」

 

 ライダーシステムに関する全権はグアルダが握っている。変身は勿論のこと、根本的なカードの使用についてもだ。

 なので、グアルダが干渉することによって、八雲の変身を強制的に解除することが可能と言うことだ。

 

 だが

 

『駄目だ。彼の使っているデバイスに干渉することが出来ない……!』

「? どう言うこと!?」

 

 困惑する碧とグアルダに対して、ネクスパイは鼻を鳴らして解説を始めた。

 

「これが第二の特徴だよ。このP-2-Pシステムの場合、全ての権限は装着者が掌握している。つまりお前には俺を止めることは出来ない」

 

 即ち、碧が彼のことを止めようと思っても出来ないのだ。

 

「こんなにも天才的な俺の発明を今からプレゼンするわけだが、きっとお前は今、動揺し過ぎて手が動かないだろ。なーのーでー」

 

 すると暗い部屋の中にゲートが2つ、姿を見せた。

 開かれた先にある白い光の中から姿を見せたのは、2体の怪物だった。

 

 一体目はガゼルが二足歩行になったような容姿であり、茶色い身体をよく見ると一万円札の模様になっている。

 二体目は右手に剣を、左手に盾を持った銀色の甲冑の騎士で、何故か手には青色の手袋と口元には青いマスクが着けられていた。

 

「お前らはフォルクローのことをコードネームで呼ぶんだろ? じゃあ今からあの札束の擬人化みたいなのは『クラウド』で、中途半端な騎士の方は『サージェン』としようか」

 

 勝手に命名を始めたネクスパイ。

 

「ボス。もう帰って良いですか?」

「ああ。もう大丈夫だ」

 

 シドの提案が可決された。

 部下である三人は目の前に出現したゲートの中に入り、その場を後にした。

 

 すると残ったうちの一人である碧は、突如として現れた四角い枠の中に閉じ込められた。

 両手で叩いて脱出を試みるが、あまりにも固いため太刀打ち出来ない。

 

「販促なのにお客に危害が加わっては大問題だ。暫くここにいてくれ」

 

 所詮、この戦いと言うのはセールスのうちの一つに過ぎないと言うわけだ。

 

 そんな彼は首を時計回りに一周させて軽く3回程跳ぶ。

 これが彼のルーティンのようなものらしい。

 

「さて、これがP-2-Pシステムの三つ目の特徴だ」

 

 ネクスパイはカードケースの後方のスロットから1枚のカードを取り出した。

 小さな青い幽霊たちが紫色、水色、青色のパーカーを吟味している様子が描かれており、「No.132 THROB SPECTOR」と書かれている。

 

(なん)で貴方も持っているの?」

「これが完成されてすぐに、実験的にメモリアルカードの回収を行ったんだ。全部で何十枚かある」

 

 ネクスチェンジャーのスロットに入っているカードを取り出すと、そのカードを上のスロットに挿し込んだ。

 

『"SPECTOR" LOADING』

 

 ダイヤルを時計回りに180度回して、青色の面に合わせた。

 

『WEAPON』

 

 ダイヤルを押し込んだ。

 

『Summon its!』

 

 するとネクスパイの右手に青色の武器が現れた。

 先の方が開いた手のようになっている棍棒──ガンガンハンド ロッドモードだ。

 

 サージェンが剣と盾を握りしめて走って来る。重そうな見た目に反して、意外とすばしっこい。

 

 ネクスパイは跳びながら時計回りに横回転。

 その勢いを利用してガンガンハンドで勢いのある打撃をお見舞いしようとした。

 

 左手の盾で攻撃を防ぐが、サージェンの持っている盾はより強い攻撃によって崩壊してしまう。

 

 標的が怯んでいる隙に、ネクスパイはダイヤルを90度回して赤色の面を正面にした。

 

『Are you ready?』

 

 ダイヤルを押し込むと、ガンガンハンドに付いているレバーも押し込んで鉄砲のような銃モードに変形させ、銃口を隙が出来てしまった相手の腹部に押し込んだ。

 

『OKAY. "SPECTOR" BORROWING BREAK!』

 

 銃口に次々と青いエネルギーが溜まっていく。

 引き金を引くと、硬い鎧を放たれた弾丸が貫通。瞬時に確認をしたネクスパイが左足で蹴り飛ばすと、サージェンは壁に衝突して爆散した。

 

 だがこれでひと段落ついたとは言わない。

 もう一体、標的がいる。

 

 後ろからクラウドが跳びかかって来た。

 気配を察知したネクスパイが後ろを振り向きながら、背中の向く方へ一歩下がる。

 

 ネクスパイは持った鉄砲を投げ捨て、肉弾戦に持ち込んでいった。

 クラウドはざっくりとしたキックボクシングのような捌き方をしてきた。一定のリズムで両腕両脚を繰り出してくるが、一切ファイティングポーズをとっていないと言う、まさに自殺行為だ。

 

 そんな攻撃に屈することが無いと言うのは、新装備の性能だけでは無く本人のセンスもあるのだろう。

 否。そもそも相手のスペックが弱いのか。まぁ、そんなことはどうだって良い。肝心なのは、現在の状況はネクスパイの方が有利だと言うことだ。

 

 攻撃を躱しながらネクスパイは再度、1枚のカードを取り出した。

 夕暮れの中で鎖の巻きついている十字架を着けた女性が祈りを捧げている様子が描かれており、下部には白く「No.069 CLERGYMAN IXA」と書かれている。

 

 クラウドが両手を束にして頭部に攻撃を炸裂させようと仕組む。

 だが相手は軽々と左手で押さえ込みながら、カードを上のスロットに装填した。

 

『"IXA" LOADING』

 

 ダイヤルを時計回りに回していって、青色の面を正面に合わせる。

 

『WEAPON』

 

 ダイヤルを押し込んだ。

 

『Summon its!』

 

 クラウンを蹴り飛ばしたネクスパイの右手に新たな武器が装着された。

 金色のパーツが付いた白いナックル──イクサナックルだ。

 

 クラウンが再度攻撃を仕掛けてくる。

 ネクスパイは相手の右の手首を掴んで、背負い投げの要領で地面に叩きつける。

 そして地面にいるクラウンの腹部を左足で踏みながら、ダイヤルを操作する。

 

『Are you ready?』

 

 ダイヤルを右手の親指の付け根と人差し指の付け根の間のスペースで押し込んだ。

 

『OKAY. "IXA" BORROWING BREAK!』

 

 突然、クラウンをイクサナックルから放たれた衝撃波が襲った。

 その結果、クラウンから起こった爆発でネクスパイの姿が隠れてしまった。

 

 

 

「……あれ、大丈夫だよね……?」

 

 薄暗い部屋の中で起こった爆発に唖然としてしまう碧。

 変身した兄が爆発に巻き込まれたのだから気が気でないのだ。

 

 突如として、碧を囲っていた枠が姿を消した。

 何が起こったのか分からないままに、前に少しずつ進む碧。

 

 すると

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 爆炎が晴れると、先程爆発に巻き込まれていたネクスパイが姿を見せた。

 手には2枚のカードが握られている。恐らくは先程のフォルクローのカードなのだろう。

 

「元来、従来のライダーシステムではメモリアルカードの能力を引き出すために、アシスタンスカードの存在が不可欠だった。

 だがこのP-2-Pシステムではアシスタンスカードの使用の手間とコストを80パーセント削減することに成功した。……良いだろ?」

 

 まるで自分の宝物を眼鏡の少年に紹介する某漫画のキャラクターのようだ。

 反応を見るに恐らく大丈夫だろう。

 

「ねぇ。どうしてお兄ちゃんは()()を作ったの……?」

 

 碧が問いを投げかける。

 

 うーん、とネクスパイが悩み込み始めた。

 暫し流れる沈黙。

 

「さぁ。何でだろうね? まぁ、いずれ教えるよ。超ナチュラルスーパー天才の俺の気持ちは誰にも解らないだろうから」

 

 かなり抽象的な答えのみが帰ってきた。

 具体的な答えを見出そうと碧は己で考えてみるが、形を捉えることすら出来ない。

 

 それ以上に、ネクスパイのナルシストな態度が若干腹立たしい。

 10年以上一緒にいた家族であるのだが、数年ぶりに会うとその態度に寛容では無くなってしまったみたいだ。

 

「どうする? もうこのままお帰りいただいても良いけど、折角だし手合わせしないかい?」

 

 ネクスパイの提案に少し考える碧。

 

「どうする?」

 

 碧が端末の画面を持って尋ねる。

 

『私が接触することの出来ない彼の戦力は未知数だ。視覚的な情報だけでは無く、実戦でデータを取る必要がある』

「……分かった」

 

 グアルダ、正確には間接的にネクスパイの提案を呑み込んだ碧は、トランスフォンにカードをかざした。

 

『ACT DRIVER』

 

 出現したドライバーに取り付けられているカードケースからカードを1枚取り出すと、そのカードにパーツが自動的に取り付けられる。

 それを端末に装填した。

 

『"ZI-O" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、後方に出現したゲートから巨大なティラノサウルスの化石が出現。

 咆哮を上げる中で碧はポーズをとった。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 トランスフォンをドライバーに挿し込むと、青色の身体へと変化した碧に鎧が装着されていく。

 

『To know, Take time, Get the watch! It’s RIDER TIME! KING ZI-O! I’ll be the best and best king.』

 

 変身をしたリベードは剣を取り出して兄のもとへと走って行った。

 

「ハァァァァッ!」

 

 縦横無尽に剣を振る。だが軽々と全ての攻撃が避けられてしまい、ダメージを与えられない。

 攻撃の中で逆手持ちに変更したリベードは胸部に突き刺そうと、勢いよく腕を振った。

 それすらもネクスパイは刃を左手で掴んで制御する。

 

成程(なるほど)。旧式()()()()()()()()()()のに使いこなしている。中々やるなぁ」

「素朴な疑問なんだけど、本気出してる?」

「……いや。まだ10パーセント程しか出していない」

 

「じゃあ、30パーセントくらいまで出してみてよ。そんな逃げるような戦術じゃ無くてさ」

 

 その言葉が何か彼の心に触れたようだ。

 

 剣を握る左手を大きく上に挙げると、右手で強烈な一撃を食らわせた。

 

「のわっ……!」

 

 少しばかり後退するリベード。

 

「お客様の要望に最大限応える。それが(いち)社会人としての常識だ」

 

 するとネクスパイはダイヤルを時計回りに回し、青色の面に合わせた。

 

『WEAPON』

 

 ダイヤルを押し込んだ。

 

『Summon mine!』

 

 ネクスパイの右手に一丁の銃が現れた。

 銃身が角の丸い長方形であるその銃は長方形オレンジ色と青色のコラージュのような柄であり、右側面にはカードを挿れるためのスロットがあって、やはりカードの全体像が見える設計となっている。グリップも同じような形状であり、何故か斜めに付いている。そしてグリップの先には黒い円形のスイッチが上手く同化している。

 

「これがP-2-Pシステム専用の武器、『インディペンデントショッカー』だ」

 

 取り出された武器──インディペンデントショッカー マグナムモードの紹介を済ませたネクスパイは、銃口をリベードの方に向けて引き金を引いた。

 2つある銃口から何発か放たれた銃弾が全て命中。リベードの鎧から火花が散る。

 

 さらにネクスパイは彼女に近づきながら、グリップを銃身と一直線になるような形態──スタンガンモードに変形させる。

 

 前に向かおうとするリベードの胸部に先程の銃口に当たる部分、つまりは今電極に当たっている2つの部分を押し当てる。

 そこから放たれる電撃によって、再度火花が散ったリベードは後ろに吹き飛ばされて倒れた。

 

「ギャッ……!」

 

 左の方を向いて再びマグナムモードに変形をさせるネクスパイ。

 インディペンデントショッカーを左手に持ち替えると、ネクスチェンジャーに挿し込まれているカードを取り出しスロットに装填した。

 

『Are you ready?』

 

 右手に戻した銃のグリップに付いたスイッチを押すと、次々と銃口たちに橙色のエネルギーが溜まっていく。

 

『OKAY. "NEX-SPY" DISPEL BULLET!』

 

 なんとか立ち上がったリベードが走って向かって来る。

 横から来るリベードの方には目線を合わせず、銃口を彼女に向けてすぐに引き金を引いた。

 

 銃口から放たれた2つの弾丸が一つに纏まり、エネルギー弾となってリベードを襲撃した。

 

「グァァァァッ!」

 

 爆発が起こった。

 炎と煙が収まったところで見えたのは、変身を解除された碧の姿だった。着ていた赤いコートが中央から黒く焦げており、顔には擦れて出来た傷から血が見えている。

 

 そしてその場に倒れ込んだ。

 

「これでもまだ30パーセントの力だ」

 

 ネクスパイが左の指をパチンと鳴らす。

 するとそれまで展開されていた暗い部屋は無くなり、元の木が沢山生えた駐車場に戻った。

 同時にネクスパイも変身を解除して八雲の姿に戻る。

 

「本来であれば、これを売るには数億でも足りないくらいの金額を要求するんだが、一応家族と言うことで出血大サービスだ」

 

 八雲はコートのポケットから何かを取り出して右手で中身を投げた。

 投げた物が倒れた碧の前に落ちる。

 それは黒いUSBメモリであった。貼ってあるラベルには「For You」と書かれている。

 

「君の掛かり付けの技術者たちでも設計がしやすいようにしたデータだ。自由に使ってくれ。それじゃあ」

 

 八雲が後ろを向いて足音を少しだけ立てて去って行く。

 だが碧は声をかけることは無く、静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常98体

B群10体

不明1体

合計109体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What has he showed to her?

A: He has showed performance of new.




【参考】
https://www.kk-kernel.co.jp/qgis/HALTAK/FEBupload/nakamotosatoshi-paper.pdf
ガンガンハンド|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/items/1705)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 12 幸せになりたい(I JUST WANT TO BE SATISFIED)
Question034 What happened in that office?


第34話です。
事件が起こります。
宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
Roselia - 閃光

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.01.10 18:00 東京都 新宿区 SOUP

 碧は頬に出来た傷口に、水を染み込ませたガーゼを当てていく。いたた、と声を少しばかり上げながら正方形状の絆創膏で傷口を隠した。

 

 その間、他のメンバーたちはかなり焦っていた。何せただの人間が変身したのだ。しかもライダーシステムの開発者であり、尚且つ失踪した碧の兄であるのだ。はっきり言って対応に困ってしまっている。全員がパソコンの画面にのめり込んで手を動かしていた。

 

「そもそも、『ただの人間でも使える』ってどう言うことなんですか? 僕みたいな人間だと使えない代物ってことですか?」

 

 深月が一旦手を止めて、特定の誰かにと言うわけでも無いが訊いた。

 

『それについては私が説明しよう』

 

 答えたのは碧の端末の中にいたグアルダだった。

 

『碧や春樹が使っているライダーシステムでは、変身の際に装着者の細胞を活性化させる物質が全身に流される。フォルクローには(なん)の問題も無いが、君のような人間にとってはかなり有害なものだ。

 もし人間が接種すれば、使用して10分足らずで死に至る。なので人間にライダーシステムを使用させることは出来ない筈だ』

 

「けれども新しいものだと私たちでも使うことが出来る、ってことですね? ひやー、恐ろしいですね〜」

 

 薫が補足をする。

 

「もしあれが世界中に出回ったら、世界中で軍事利用される可能性がある。相当危険な代物だ」

 

 森田が書類に目を通しながら深刻そうに言った。

 

 すると圭吾がキーボードを叩くのを止めた。

 

「解析が終わりました」

 

 前のモニターに何かの設計図が表示される。オレンジ色の画面に白い線で描かれたのは、ネクスチェンジャーと全く同じ形のものであった。

 

「途轍もなく良く出来ています。あんなに性能が凄いのに、造りが単純で生産がしやすい。信じられないですよ、全く……」

 

 圭吾も八雲と同じ一人の技術者だ。

 自分がこれまで作り上げてきた物の開発者が現れて、その男が新たに開発した新型が自分では考えられない程に高度であると言う事実が到底受け入れられない。

 

 モニターから設計図が消えて、元のSOUPのロゴマークだけになった。

 

 流れる若干の沈黙。

 

「あれ? 今碧さんが使っているものも常田八雲が開発した物なんですよね?」

 

 静寂をすぐに切り裂いたのは深月だ。

 

「碧さんはどうやってトランスフォンを受け取ったんですか?」

「私はお兄ちゃんからじゃなくて岩田室長から受け取ったの。春樹と一緒にね」

 

「じゃあ、その岩田室長はどうやって手に入れたんだ?」

 

 森田の質問に頭を抱えてしまう碧。

 自身はあくまで受け取っただけであったため、その仕入れ先に関しては考えたことも無かった。

 

 結局のところ、何も答えを出すことの出来ないまま、この日は終わった。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

「妹さんとは再会出来たんですか?」

「ああ。お陰様でな」

 

 椅子に座った八雲は振り返って笑みを浮かべる。それを見てアールも微笑んだ。

 再び前を向いた八雲は、再び目の前に置かれたパソコンを操作し始めた。

 

 画面に表示されているのは、正方形の何かだ。それが春樹たちの使っているドライバーの右側に装着されていく様子を描いたアニメーションもだ。

 

「良いなぁ。君も変身出来るようになるだなんて」

「ホントよねぇ。私たちも変身したいのに……」

 

 羨ましそうに言うフロワとピカロ。

 背中を見せてフッと鼻を鳴らした。

 

「そのうち、ね」

「しかしまぁ。君には助かっているよ。ライダーシステムを開発してくれたお陰で、()()()()の復活のための準備が着実に進んていっている。これほどまでに嬉しいことは無い」

 

 横から姿を見せたのは海斗だった。右手には先の戦いで壊された自身の銃が握られていて、未だに黒焦げたままだ。

 

「俺のやりたかったことがここでは出来る。そんな環境を作ってくれた、言わば恩返しだよ」

 

 パソコンを動かす手を止めることは無い。ましてや父親に目を向けることもだ。

 だが海斗はそんな息子の様子を見守りながら笑みを浮かべる。

 

 

 

 すると

 

「なぁ、もう俺ももう出て良いか?」

 

 向こうの方から低い男の声が聞こえてきた。

 後に暗い中から現れたのは赤色の怪人だった。目元と胸元には緑色の透明のパーツが着いていて、まるで蛇のようだ。

 

「出ているも何も、貴方は自分が勝手に始めた()()()の真っ最中でしょ?」

「気晴らしだよ、気晴らし。(いず)れ戦う相手の下見も兼ねて、な」

 

 フロワの言葉に怪人は言い返す。

 

「じゃあ、()()()は100パー成功するって言うことで良いんだね?」

「ああ。構わない」

 

 ピカロの質問にも動じない。

 邪険に思っているような態度を取る彼らからの言葉を、寧ろ楽しんでいるようにも見える。

 

「だったら俺も行こう。俺も一つ、やらなければならないことがあるんだ」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.01.11 11:08 東京都 品川区 平井ホールディングス本社 1階 フリーオフィススペース

 広い室内の中には、10人程の人が座る座席にプレゼン台、そして大きなスクリーンが設置されている。座っているのは言わずもがな、あまねと日菜太を含めた城南大学附属高等学校1年6組の生徒たちだ。

 

 彼らが熱心に見ているのは、プレゼン台の上で繰り広げられている平井勝司社長の熱弁だ。50代後半には見えない程に若々しい彼が台の上を横に歩き回りながら話すその姿は、まるで昔の偉大な実業家のプレゼンを生で見ているようだ。

 

 この会社が一軒の小さな不動産会社から始まったこと。

 事業が成功して、製薬や食品にも事業を展開。不動産ほどでは無いがそこそこ上手くいっていること。

 中でも製薬の方に関しては、6年前に娘のうちの一人が亡くなってから心血を注いでいること。

 

 包み隠さず熱弁を振るう彼だが、正直自慢話にしか聞こえない大人の話など高校生にとっては耳障りの悪いことに過ぎない。

 

「じーつーはー、製薬事業の方に関しては今後良い発表が出来ると思います。皆さん、楽しみにしておいてください」

 

 

 

 最初のプレゼンテーションが終わった後は、社内の探索と言うことになった。

 最初に訪れた場所はオフィスのエントランスだ。全体がガラス張りとなっていて、すごく開放的である。

 今日が晴れた日であるのであれば、爽やかな陽の光が入る筈なのだが、今日は生憎雨だ。外が暗いために台無しになってしまう。

 

 気怠そうに列になって辺りを見回す生徒たち。

 

 と、その時。そのうちの後ろの方にいた女子生徒が立ち止まった。

 

「ねぇ、あれ、何?」

 

 女子生徒が指を指す方を見る全員。

 指は外を指しており、そこにはマスクを着けた黒装束の集団が迫って来ていた。

 

 警備員たちが彼らを静止しようと傘を差しながら駆け寄り声をかける。

 

 だが、警備員たちは集団たちが持っていたコンバットナイフによって斬りつけられ、その場に倒れ込んでしまった。持っていたビニール傘も同時に落ちるが、雨の音によって人と傘が落ちる音はかき消されてしまう。

 

「早く逃げてっ!」

 

 繰り広げられることの衝撃とあまねの叫びによって、全員が悲鳴を上げながら逃げて行く。

 

 黒ずくめの集団──ソルダートたちは自動ドアのからオフィスの中へと侵入して来た。

 幸いにも全員が非常口から避難をすることが出来たが、あまねだけは受付のカウンターの裏に隠れて状況を見ていた。

 

 待機をしていた他の警備員たちが駆けつけて応戦するが、やはり人智を越えた存在だ。あっという間に容赦無く蹴散らされてしまう。

 

 その惨状を見ていたあまねの呼吸がどんどんと荒くなっていく。

 目の前で血が流れようが、人が死のうが、正直何も感じることは無かった。

 だが、今の彼女が感じているのは何かの圧力だ。零号が現れた時とは違う、また別の。

 

 覗き込んでいたあまねは身を下げて姿を隠し、この惨状が見えないようにする。

 それでもまだ、呼吸が緩やかになることは無かった。

 

 

 

 

 

 暫くして碧たちが着いた時、爽やかで近代的な白いオフィスの床は、血と死体で白が見えなくなってしまった。警備員たちが倒れ込む中を、ドライバーを装着しながら中に入ろうとする。

 

「やぁ、碧」

 

 横から声をかけられた。

 そこにいたのは八雲たち四人と、もう一体怪人がいた。

 

()()は?」

「俺の名はブラッドスターク。ちょっと暇になった怪人だ」

 

 ご丁寧に自己紹介をしてくれた怪人。

 

「暇ってことは、普段は忙しいってこと?」

「ああ。仕事が忙しくてな。今日は久々のオフだ」

 

 草臥れた声でスタークが言った後、八雲たちは変身するための準備を始めた。

 碧もカードを取り出して臨戦態勢に入ろうとする。

 

 すると

 

「なんだか面白そうだね」

 

 彼女の後ろからもう一つ声が聞こえた。

 声の方から現れた青年──クロトは碧の右横に立った。

 

「何しに来たんだ?」八雲が訊く。

「今ここで僕のお気に入りの玩具(おもちゃ)を壊されては困るから、僕が止めに来た、ってこと」

 

 クロトが余裕綽々な様子で受け答えをする。

 

「それに、正直言って僕は()のようなのが嫌いなんだよ」

 

 クロトが右腕を前に伸ばして指を指す。

 指した先は、八雲だった。

 

「天才は僕だけなのに……。君を倒せば、天才は僕一人になるんだ」

「五月蝿いなぁ。天才はこの世でただ一人、超ナチュラルスーパー天才のこの俺、常田八雲様だけだからな」

 

 なんて不毛な争いなのだろう。

 とても雨と血で濡れるこの場でやるような会話ではない。

 

「とりあえず貴方は今、私の味方ってことで良いんだよね?」

「うん。問題無いよ」

 

 もし信じなければ、自分は1対6と言うすごく不利な状況になってしまう。

 ここで手を組むのは、この状況では暗黙の了解に過ぎないと言うことだ。

 

『レモンエナジー!』

『ピーチエナジー!』

『チェリーエナジー!』

『"NEX-SPY" LOADING』

『デンジャラスゾンビ』

『"ZI-O" LOADING』

 

「「「「「「変身!」」」」」」

 

 そして各々が操作をし、それぞれの形態に姿を変えた。

 武器を取り出して標的たちを睨みつける。

 

「あの果物みたいなの被った奴らは僕に任せて」

「分かった」

 

 リベードとゲンムがその場限りではあるが阿吽の呼吸を出し始める。

 そんな彼らは、目の前に立ちはだかる目標に向けて走り出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What have happened in that office?

A: Monsters have come there.




ブラッドスターク(BLOOD STALK)
(イメージCV:金尾哲夫)
生年月日:不明
出生地:不明
所属:不明
好きなもの:不明
嫌いなもの:不明



────────────



【参考】
東京の過去の天気 2022年1月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220100/)
傷・化膿した傷の対策|くすりと健康の情報局
(https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/symptom/25_kanou/index2.html)
ブラッドスターク(ぶらっどすたーく)とは【ピクシブ百科事典】
(https://dic.pixiv.net/a/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%89%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%AF)
米津玄師 Kenshi Yonezu - KICK BACK - YouTube
(https://www.youtube.com/watch?v=M2cckDmNLMI)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question035 What was despised by her?

第35話です。
ついに出したかった形態を出せます……!
宜しくお願いいたします。



【歌詞使用楽曲】
モーニング娘。 - そうだ! We're ALIVE
(作詞:つんく)

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.01.11 12:11 東京都 品川区 平井ホールディングス本社前

 雨の音で戦いの音が掻き消されることは無かった。

 

 ゲンムとデューク、マリカ、シグルドの三人がソニックアローを持ってゲンムに攻撃を仕掛ける。対するゲンムもガシャコンスパロー 鎌モードで迎え撃つ。

 

 突如、シグルドが目にも止まらぬスピードで移動を始めた。ゲンムの周りに赤い円形の軌道が浮かび上がる。

 その中にデュークとマリカが入り込み、中にいるゲンムに斬りつける。2つの刃がゲンムのもとに来るが、ゲンムは2本の鎌で押さえ込んで防御する。

 

 だが彼はシグルドの存在をすっかりと忘れていた。

 後ろから何本かの矢を放たれ、全てが背中に命中してしまった。

 

 隙を突いて、ゲンムの胸部を攻撃したデュークとマリカ。さらに二人の後ろからシグルドが跳んで、もう1本矢を当てた。

 

「のぁっ……!」

 

 不死身と言うのは、別に痛みを感じないと言うわけではない。

 後退するゲンムの前に立ちはだかる3人の戦士。

 

「どうすれば良いかなぁ。分身すれば良いだけなんだけど、それだと退屈だしなぁ……」

 

 こんなに不利な状況であっても、楽しむことを忘れない。

 敵ながら天晴れと言ったところだ。

 

「退屈だぁ? ふざけやがって!」

 生意気な態度に苛つくシグルド。

 

「ホントね。ホントにムカつく」

 シグルドの気持ちに共感するマリカ。

 

「で、キミは何を魅せてくれるんだい?」

 ゲンムに問うデューク。

 

 するとゲンムはドライバーに付いた2つのボタンを押し、再度Bボタンを押した。

 

『クリティカル・デッド!』

 

 三人の足元に黒い影が現れた。何だ何だと戸惑う三人。

 そこから白い腕が何本も生えてきて、彼らの脚を掴む。

 

「結構面白いでしょ?」

 

 ゲンムは仮面の下で笑顔になりながら、ガシャコンスパローを鎌モードから弓モードに変形させる。

 そしてスロットにガシャットを挿し込んだ。

 

『ガシャット! キメワザ!』

 

 紫色と白色の2色のエネルギーが溜まっていく弓の先を上へと向けた。

 

『デンジャラスクリティカルストライク!』

 

 1本の矢が放たれた。それが宙空で破裂。無数の矢となって三人を襲った。

 

「「「グァァァァッ!」」」

 

 ダメージを受けて変身を解除される三人。

 

「一旦退()こう」

 

 リョーマの提案を受け入れた残りの二人は立ち上がると、何も無い空間に突如としてチャックのようなものが現れる。

 それを開くと、三人はその中へと入って行き、姿を消した。

 

「なんだかなぁ……」

 

 両腕をぶらんと降ろして、退屈そうにゲンムは呟いた。

 

 

 

 一方のリベードたちである。

 やはりネクスパイの攻撃力と言うのは絶大で、到底一人で太刀打ち出来るものではない。

 

 尚且つ、相手にはスタークがいる。

 そのスタークは身軽な動きでリベードを翻弄し、その隙にネクスパイがインディペンデントショッカー スタンガンモードで攻撃をした。

 

 持っているスタンガンは一撃でも後ろに吹き飛ばされるほどの威力を持っている。

 なので慎重に避けてリベードも攻撃を仕掛けようとするのだ。

 

 するとスタークはバルブの付いた剣──スチームブレードを取り出し、レバーを上げてボタンを押し込む。そしてバルブを時計回りに1回回した。

 

『アイススチーム!』

 

 何かの危険を察知したリベードは上空に跳び上がろうとする。

 スタークは自らを液状化させて、リベードの前で実体化。彼女を蹴り飛ばして床に叩きつけた。

 

「!」

 

 立ち上がったリベード。

 だが、時すでに遅し、と言ったところだ。

 立っているその脚が氷で床と繋げられており、身動きが全く取れない状態となっている。移動することが出来なくなってしまったのだ。

 

 チャンスと言わんばかりに、ネクスパイがインディペンデントショッカーにカードを装填した。

 

『Are you ready?』

 

 グリップのスイッチを押す。

 2つの電極に橙色のエネルギーが溜まっていく。溜まっていったところで、色が全く見えなくなった。

 

「まずい……!」

 

 リベードはディスペルクラッシャーをガンモードに変形させ、端末をかざした。

 

『Are you ready?』

 

 すぐに端末をドライバーにもう一度挿し込んだ。

 

『OKAY. "NEX-SPY" DISPEL HIT!』

『OKAY. "ZI-O" CONNECTION SHOT!』

 

「ハァァァッ!」

 

 ネクスパイが走って来る。

 リベードに電極を当てようとした瞬間、今まで溜めていたエネルギーが一気に溢れてきた。

 そこに向けてリベードは銃口を向けて引き金を引いた。

 

 そして爆発が起こり、二人共々吹き飛ばされた。

 飛ばされるも形勢は変わらず、二人とも立ったままである。

 

「こうなったら……!」

 

 リベードはカードケースから1枚のカードを取り出して端末にかざした。

 

『GAMBLING』

 

 端末が発光した。

 これでジオウのカードに搭載されている機能にて、「大吉」か「大凶」しか出なくなる。

 一発逆転のチャンスだが、危険な賭けだ。

 

 するとネクスパイもカードケースから1枚取り出した。

 銀色に輝くサイがゲーミングチェアに座りながらテレビゲームをする様子が描かれており、「No.014 RUSH GAI」と下部に白く印字されている。

 

 そのカードをスロットに装填する。

 

『"GAI" LOADING』

 

 ダイヤルを回して赤色の面に合わせた。

 

『Are you ready?』

 

 ダイヤルを押し込むと、腕輪の着いている左手をリベードの方に向けた。

 

『OKAY. "GAI" BORROWING BREAK!』

 

 リベードの周りに透明な布のようなものが何枚も現れる。だがその布は何も危害を加えることは無く、自然と消えていった。

 何が起こったのか分からないままに、リベードはカードをパーツに挿し込んだ。

 

『"BUILD" LOADING』

 

 レバーを押し込む。

 

『What's coming? What's coming? What's coming?』

 

 リベードの後ろでルーレットが凄い勢いで回り始める。

 何処で止めるか……。

 「大吉」と「大凶」が出る割合は同じ。はっきり言ってどちらが出るか判らない。それでもやるしか無い。

 

 意を決して、レバーを再度押し込んだ。

 

 

 

大凶(DAI-KYO)

「……え?」

 

 天は彼女に味方をしなかったようだ。

 

『You got a great misfortune.』

 

 突然、変身を解除されてしまった。

 ドライバーも腹部には着いておらず、手に握られている端末だけが戦士であることの証明だ。

 

「何で……? 私ってこんな肝心な時に運悪くなるっけ……?」

「お前のせいじゃない。俺がやった」

 

 同じく変身を解除したネクスパイが碧に話す。

 

「このカードの能力は『無効化』。それを使って、『大吉』が出る機能のみを停止させ、『大凶』しか出ないようにした。ただそれだけだ」

 

 要は天が彼女に味方をしなかったのではなく、その前に彼が誘導したと言うわけだ。

 

「これでお前はもう、ライダーシステムを使うことは出来ない」

 

 「大凶」を引いた代償は、ライダーシステムの使用資格の剥奪。それがついにも発動してしまった。

 

「まぁ。寧ろこれが君のためにもなる」

「……何言ってるの?」

(いず)れ解るよ」

 

 すると八雲の方に横から1本の矢が飛んできた。

 それをスタークが掴んで刺さるのを防ぐ。

 

「言っておくが、俺は明日もオフで明後日もオフ。この3日間はゆっくりしたいんだよ……!」

 

 スタークは小型の銃──トランスチームガンを取り出し、スロットに紫色のボトルを挿し込んだ。

 後に自らの左腕から管のようなものを伸ばし、ゲンムの方へと急速に向かわせて行く。

 そしてそれがゲンムのドライバーに挿さっているガシャットに直撃。白いガシャットは割れて、ただのがらくたへと成り下がった。

 

「そ、そんな……!」

「どうだ? 面白いだろ?」

 

『スチームブレイク! コブラ!』

 

 ゲンムの方へと引き金を引いた。

 紫色のエネルギー弾が戸惑うゲンムに直撃。ゲンムは霧となって消えていった。

 

 その場に紫色の土管が現れ、そこからクロトが飛び出して来た。

 手には先程までガシャットだった物が握られており、白い煙を出している。

 

「残りライフ94か……」

 

 流石にまずいと思ったのか、クロトは再び紫色の粒子となって、その場を後にした。

 

「それじゃあ。俺はこれで失礼するよ」

「俺も、多分明日くらいに会えるかもしれねぇけどな」

 

 二人のことを睨みつける碧。

 だが土砂降りの雨とそれによって前に垂れてきた髪の毛によって、良く見えなくなってしまう。

 

「チャーオー」

 

 二人は白い煙に包まれてその場を立ち去って行く。

 残された碧は一人で端末を見つめながら、深く息を吸い込んだ。

 

 

 

 

 

 その様子を、オフィスの上層階から平井勝司が眺めていたことは、誰も気付かなかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.01.11 12:50 東京都 品川区 平井ホールディングス本社 1階 エントランスホール

 エントランスホールでは鑑識課たちが現場検証が行われていた。カメラで写真を撮り、遺体を運んで行く。

 

 碧はタオルで衣服や体に付いた水滴を拭き取り、奥の方へと入って行く。

 すると目の前に見慣れた後ろ姿が見えた。

 

 それは制服を着たあまねだった。

 

「あまねちゃん」

 

 駆け寄って声をかける碧。

 振り返ったあまねの顔を見て、碧は笑顔を崩した。

 見たことの無い、何かに抑えつけられたような顔。恐怖だとかそう言うのではない。そうではない何かに。

 

「あまねちゃん?」

「ママ。ちょっと来て……」

 

 

 

 連れて来られたのは少し歩いたところにあるフリーオフィススペースだった。誰も使っていないため、スクリーンには何も映っておらず全体的に暗い。

 

 幾つかあるうちの2つの席を選び、碧が左側に、あまねが右側に座った。

 暫く口を開くことは無かった。拳を膝の上で握り締め、歯を食いしばっている。

 

「どうしたの?」

 

 あまねをなるべく刺激をしないように碧は優しく声をかける。

 

「……あのさ」

「?」

 

「もし私がいなかったら、こんなことにはならなかったのかな?」

 

 声を絞り出した。ようやく出た震える声の内容は、聞き手の予想を超えるものだった。

 

「……え?」

「私がいなかったらさ、あの人たちが死ぬことも無かったし……パパだって、あんなことには……」

 

 顔を下に向けてさらに拳を握り締める。

 目元は良く見えないが、見えないところから何粒かの水滴が垂れ、それがスカートの上に落ちていく。

 

 聞いたことの無いあまねの言葉に戸惑いながらも、あまねが握っている右手に自らの左手を重ねる。

 

「あまねちゃんのせいじゃないよ」

 

 あまねは拳を握る力を少しだけ緩める。けれども下を向いたままで暗い表情には変わらない。

 

「あまねちゃんのせいじゃない」

 

 再度念を押して言う。

 口が少しばかり開いて浅い口呼吸をするあまね。

 

「去年のクリスマスからずっと考えてたんだ。もしも私があの時、()()を私が渡していたら、どれだけ良かったかって」

 

 それでも状況は変わらなかった。

 暗い部屋のせいで彼女のもとに光が差すことは無く、僅かな光だけが彼女のシルエットだけを際立たせている。

 

 それ以上、碧が何か言うことは出来ず、あまねの横顔をひたすらに見つめていた。

 

 

 

 

 

「まさか、碧さんが変身出来なくなるだなんて……」

 

 想定外の事態に遊撃車の中の全員が頭を抱える。

 圭吾が物凄い勢いでキーボードを打ち込んでいくが、すぐに手が止まった。

 

「やっぱり駄目ですね。ライダーシステムの使用資格が剥奪どころか消去されています。グアルダから何をどうしようとしても、無駄でしょうね」

 

 従来のライダーシステムではグアルダが全ての主導権を握っている。

 そんなグアルダですらどうにも出来ないと言うことは、もうトランスフォンを使っての変身は不可能に等しいと言うことだ。

 

 

 

「本当にそうなの?」

 

 声を出したのは、薫だった。

 

「どう言う意味ですか?」

「誰かが言ったよね。この中に奴らのスパイがいるかもしれない、って」

「? 何が言いたいんですか?」

 

「もしも貴方がスパイだったら、プログラムを書き換えてシステムに接続出来ないようにすることだって出来ますよね?」

 

 薫の口から放たれた言葉の衝撃に、全員が反論も出来なくなってしまう。

 

「な、いきなり何を言い出すんですか!?」

「だって、これまでの流れを考えると、それ以外に考えられることは無いじゃないですかっ!」

「だからって、そんなことをしたって、私には何のメリットも無いですよね?」

 

「碧さんのお兄さんが仮面ライダーに変身した。これがどう言うことだか解りますか?」

「……?」

 

「今まではメモリアルカードを手に入れるためには、春樹さんと碧さんの力を借りる他無かった。

 けど、彼らがカードを手にすることが出来るようになった今、二人が仮面ライダーにならない方が得策。

 だからあんたは! 今ここで細工をして、碧さんが変身出来ないように」

 

「もう止めてくださいっ!」

 

 深月が声を荒げて立ち上がった。

 見たことの無い深月の様子に、薫も黙り込んでしまう。

 

「僕たちはチームですよ。こんな時に(うたぐ)り合ってどうするんですかっ!」

 

 正論ではあるが、同時に暴論でもある。

 それでも、声を出さなければならない。

 でなければ、彼らのこれまでを全否定し、これからの自分たちを潰してしまうような気がした。

 

「すみません……。つい」

「いや。もし私が君の立場だったとしても、同じようになってしまう」

 

 森田が薫のフォローをする。

 本音か建前か、誰にも判断は出来ない。

 だが言ったことにきっと意味があるのだと思う。

 

 それ以降、誰も言葉を発することは無かった。

 

 

 

 

 

「碧さん!」

 

 ビルを出た碧に、目の前にいた深月が話しかけると、そっちの方へと深月が駆け寄って行った。

 

「1つだけ、碧さんが変身出来る方法があります」

「え? ホント!?」

「はい。それで、1つお聞きしたいことがあるんですけど」

「? 何?」

 

「碧さんの、好きなフレーズとかありますか? 曲の歌詞とか誰かの言葉とか」

 

 深月の想定外の質問に一瞬考えが止まってしまう。

 何か無いかと腕を組んで考える。

 

 その時、彼女の脳裏に2つの事が浮かんだ。

 

 一つは先程のあまねの姿。

 

 もう一つは、少し昔の出来事。忘れたくも無い、兄との最後の会話。

 

 

 

 好きな歌詞と嫌いな歌詞があるんだよ、俺には

 

 

 

 そして碧は、深月に自身の希望を伝えた。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

「もう撤収しても良い? 別に明日でも良いですよね? 結構なサプライズになりますから。……じゃ、そう言うことで。はい」

 

 電話を切った八雲は溜息を一つ吐いて自身の椅子に座る。

 

 すると横にある1つの段ボールの中に机の上にある私物を次々と入れていく。パソコンに数少ない洋服、そして大事なCDたち。

 

「何をしているんだい?」

 

 後ろから海斗が話しかけてきた。

 

「荷造りだよ」

 

 やはり振り向くことも手を止めることも無く答える。

 それを見てやはり海斗も微笑みを浮かべた。

 

「何やら仕組んでいるようだが、何を魅せてくれるのかな?」

「そのうち分かるよ。まぁ、もう勘付いているとは思うけど」

「まぁね」

 

 詰め込みが終わった。箱を閉じて茶色の養生テープで梱包を終わらせる。

 立ち上がった八雲は膝から身を下ろして、箱を持って起き上がる。

 そして何処かに行こうとする彼に対して、海斗が再び話しかけた。

 

「なぁ」

「?」

 

 

 

 

 

「君は、()()に会いたくないかい?」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.01.12 15:00 東京都 杉並区

 団地の中にある広い公園の中で、スタークと2体の怪物が暴れ回っていた。

 

 1体目は細長い黄色い物体が集合して出来た胴体に、同じ形の緑色の集合で出来た両腕両脚が付いた怪物で、右手にはスピアが持たれている。

 2体目は白いボロボロの毛布で全身を包んでおり、頭部には2本の角があって顔には液晶が着けられ様々な模様が浮かび上がる。そして右手にはやはり大きな剣が握られていた。

 

 そんな異形の3体から逃げる人々とは対照的に、その中を掻き分けて碧がゆっくりと歩み寄って来る。

 

「よう。昨日ぶりだな」

「えぇ。そうね」

 

 じっと三体を見つめる碧。

 あるかどうかは分からないが、もしスタークに仮面の下の素顔があるのだとするならば、きっと再会の細やかな喜びに笑みをこぼしているのだろう。あくまでも碧の想像に過ぎないが。

 

『警察庁より通達。目標の名称が決定。以後黄色の対象を新型未確認生命体第四十八号『バナナ』、白い対照を新型未確認生命体第四十九号『キャラクター』と命名する』

 

 通達を聞き終わった碧は、大きく息を吸って吐いた。

 

「お前はもう変身することは出来ない。……どうする?」

 

 挑発するスターク。

 すると碧は笑みを浮かべて、突如として着ている青色のコートに手をかけた。ボタンを一つずつ外していき、脱ぐと中にある白いセーターのおかげで自慢のスタイルが顕になる。

 そしてコートをジャングルジムにかけて、左の袖を捲った。

 

「さぁ、どうするんだろうね?」

 

 左の手首にあるのは、八雲が着けていたのと同じ黒い腕輪だった。

 そこに碧がいつもドライバーを出現させるために使うカードをかざす。

 

『NEX CHANGER』

 

 碧の腕輪に大きなパーツが現れ、ネクスチェンジャーが完成した。

 

 その上側のスロットに、今度は変身の際に使用するカードを装填する。

 

『"REVE-ED NEX" LOADING』

 

 ダイヤルを右手の掌で回し、黄色い面に合わせた。

 

『CHANGE』

 

 ネクスパイの時と同じ、金属のぶつかるような待機音が流れる。

 同時に青色の枠が彼女の周りを覆った。

 

 その中で碧は右腕を天高く挙げて下げる。下げた勢いのままに両腕を開いて左腕を右肩の方へ持っていく。

 そしてダイヤルのところに右手の親指を設置して叫んだ。もう一度、姿を変えるための言葉を。

 

 

 

「変身!」

 

 設置した親指でダイヤルを押し込んだ。

 

『Let's go!』

 

 両腕を下げると枠の中に白い煙が発生して、碧の姿が見えなくなる。幾つかの黒い影だけが見える中、パーツが人の形をした黒い影に合わさった瞬間に枠が破壊され、白い煙は辺り一面に撒き散らされて、新しい戦士の姿が初めて見えた。

 

 リベードの素体に、新しい銀色の鎧が胸部と肩、両腕両脚に着けられる。

 鋭く細い2本の線はそのままに、口元はネクスパイと同じ銀色のパーツで隠され、顔の右半分には透明な水色のパーツが装着されている。複雑な形をしたパーツのその先端は、まるで3本目の角のように鋭く尖っていた。

 

『This is RIDER SYSTEM of next generation. I’m KAMEN RIDER REVE-ED NEX! I just wanna be satisfied.』

 

 仮面ライダーリベード ネクスシェープ。

 

 全く新しい力を手に入れた彼女は、下の方のスロットにカードを通り抜かせて読み取らせる。

 

『DISPEL CRASHER』

 

 右手に馴染みのある銀色の剣が現れる。

 

 そして標的の方へゆっくりと歩き始めた彼女は、昨日深月に言ったフレーズの入った歌の一部分を歌い始めた。

 

 

 

 

 

 (しやわ)せになりたい

 愛情で包んであげたい

 いくつになっても WOW 青春だよ

 GO! GO! GO! GO!

 We're ALIVE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What was despised by her?

A: She despised herself.




【参考】
「仮面ライダービルド」第4話『証言はゼロになる』
(脚本:武藤将吾, 監督:上堀内佳寿也, 2017年9月24日放送)
東京の過去の天気 2022年1月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220100/)
変身ベルト DX バグルドライバー|仮面ライダーおもちゃウェブ|バンダイ公式サイト
(https://toy.bandai.co.jp/series/rider/item/detail/4891/)
仮面ライダーエグゼイドの登場仮面ライダー - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%AE%E9%9D%A2%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%82%B0%E3%82%BC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%81%AE%E7%99%BB%E5%A0%B4%E4%BB%AE%E9%9D%A2%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%80%E3%83%BC)
バルブ回転 DX スチームブレード|仮面ライダーおもちゃウェブ|バンダイ公式サイト
(https://toy.bandai.co.jp/series/rider/item/detail/5160/)
https://toy.bandai.co.jp/assets/products/rider/documents/4549660168089000.pdf
変身煙銃 DX トランスチームガン|仮面ライダーおもちゃウェブ|バンダイ公式サイト
(https://toy.bandai.co.jp/series/rider/item/detail/5161/)
モーニング娘。 そうだ! We're ALIVE 歌詞 - 歌ネット
(https://www.uta-net.com/song/15168/)
米津玄師 Kenshi Yonezu - KICKBACK
(https://www.youtube.com/watch?v=M2cckDmNLMI)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question036 What is his shoes?

第36話です。

詳しい方はお気づきかと思われますが、章タイトルにもなっている"I just want to be satisfied"は「そうだ! We're ALIVE」の歌詞の一部「(しやわ)せになりたい」と言う歌詞の英訳です。訳は米津玄師「KICK BACK」の公式が出した英訳を基にしました。KICK BACKの英訳は本当に良い英訳なので、是非とも見ていただきたいのです。

では、急展開を迎える36話です。
宜しくお願い致します。



【イメージED】
AI - 最後は必ず正義が勝つ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.01.12 15:03 東京都 杉並区

 ディスペルクラッシャー ソードモードを持ったリベードが、2体の怪物に向かって来る。

 何か危機感を感じたのか、標的たちも同じように剣を握って走って行った。

 

 キャラクターが自身の剣を下へと振りかざした。だがリベードはそれを自らの剣で受け止める。

 すると突如としてリベードの身体が原型を保ったままに水色の粒子状となって、素早く左の方へと移動する。

 そして目標を何度も斬りつけ、後方へと蹴飛ばした。

 

 キャラクターの転がった方にいるバナナは、地面にスピアの先を突き刺した。

 その瞬間、目の前に次々と黄色い大きな棘が地面から突き出、リベードの方へと迫って来る。

 

「これは厄介だね。……でも、私には関係無いか」

 

 リベードはネクスチェンジャーのダイヤルを回して、赤い面に合わせた。

 

『Are you ready?』

 

 ダイヤルを押し込んだ。

 

『OKAY. "REVE-ED NEX" DISPEL BREAK!』

 

 再び身体が青い粒子へと変化すると、目の前に迫って来たトゲとトゲの間を高速で潜り抜けて行く。

 そしてバナナの目の前で実体化し、銀色の剣を横一文字に振るった。

 

「ハァァァァッ!」

 

 青色の斬撃がバナナとキャラクターを襲う。

 その威力に体が耐えられなかったのか、2体とも爆発した。

 

 炎が収まり、自身の手元に先程まで怪物だった2つの骸があることを確認したリベードは、下のスロットにカードを読み取らせた。

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 すると自動的に死骸が粒子状に変化。彼女の手元に2枚のカードが現れた。

 一枚には高い木に熟したバナナが生っている様子が水彩画のように描かれており、下部には「No.100 BANANA BARON」と刻印されている。

 もう一枚には一昔前のゲーム機が描かれており、画面には懐かしいドット絵で白色の騎士が表示されていた。そして下部には「No.147 CHARACTOR TRUEBRAVE」と印字されている。

 

「後は、貴方だけね」

 

 リベードの照準はスタークの方へと向けられた。

 準備万端なのだろう。左右の肩を左、右の順番で回してゆっくりと歩いて来る。

 

 が、その時。

 

「待ってくれスターク」

 

 スタークの行手を阻む者が現れた。

 もう見慣れた色のコートを着た男──八雲だった。

 

「何の真似だ?」

「折角妹が新しい姿になったんだ。性能を確認したい」

「……はいはい」

 

 スタークが呆れた声を出して後退する。

 その様子を見てニヤリと微笑んだ八雲は、ネクスチェンジャーを左手首に出現させた。

 

「さて、何パーセント出して欲しい? こないだが30パーセントだから……今日は40パーセントくらいにしておこうか」

『"NEX-SPY" LOADING』

 

 妹の方を笑みを崩さずに睨みながら、ダイヤルを回していく。

 

『CHANGE』

 

 出現した透明な枠の中でポーズを決める八雲。

 

「変身!」

『Let's go!』

 

 ダイヤルを押し込んだ瞬間、枠の中に煙が立ち込めてきた。

 黒い影たちが一つになった瞬間に枠が破裂し、煙が外に飛び出していく。

 そして姿を見せた八雲の姿は、まるで変わっていた。

 

『This is RIDER SYSTEM of next generation. I’m KAMEN RIDER NEX-SPY! I hate grind and future.』

 

 ネクスパイに変身を遂げた八雲は、インディペンデントショッカー スタンガンモードを取り出して、リベードの方へと走って来た。

 

 それが、戦闘開始の合図だった。

 

 ネクスパイのスタンガンがリベードの胸部に迫ってくる。

 それを剣心で受け止め押し返そうとするが、武器はスタンガンだ。体に強い電流が流れていく衝撃に身体が強張り、その瞬間に顔面をノックアウト。さらに腹部にスタンガンを叩かれ、回し蹴りを食らわされた。

 

「グァッ!」

 

 後ろに吹き飛ばされるリベード。

 

「俺のものは開発者特権で自分専用にチューンアップされている。お前に渡したデータだけで作った並のものでは、俺には勝てない」

 

 スタンガンをクルクルと右手の中で回す。

 自身の勝利を確信しているのか、余裕のある様子だ。

 

「さぁ、それはどうかな?」

 

 立ち上がったリベードは剣を地面に突き刺し、カードを1枚取り出した。

 青空が映える崖の上で、茶色い線が身体に入った黒い鬼がギターを掻き鳴らす様子が描かれており、「No.036 MENTOR ZANKI」と印字されている。

 

 そのカードを腕輪の上の方のスロットに装填した。

 

『"ZANKI" LOADING』

 

 スロットを青い面に合わせる。

 

『WEAPON』

 

 ダイヤルを押し込んだ。

 

『Summon its!』

 

 左手に新しく現れたのはギター型の武器──音撃真弦 列斬だ。

 ディスペルクラッシャーの代わりにそれを握り、ダイヤルを赤い面にセットする。

 

『Are you ready?』

 

 ダイヤルを押し込む。

 

『OKAY. "ZANKI" BORROWING BREAK!』

 

 押し込んだ瞬間、彼女の右手に小型のアイテム──音撃震 斬撤が出現した。

 それと列斬を合体させ、完全なるギターの形に変える。

 

 するとリベードは突如、列斬を上空に投げた。

 

 その瞬間、ネクスパイの目の前にディスペルクラッシャーを手にしたリベードが現れた。

 突然のことに頭が追いつかない彼に対して、リベードは剣で猛攻撃を食らわせる。

 

 丁度、列斬が己の真上に来たところで、リベードはディスペルクラッシャーを投げ捨てる。

 そして列斬を両手に持ち、刃をネクスパイの腹部に当てると、設置されている斬撤の弦をダウンストロークで震わせた。

 

「のぁっ!」

 

 激しい衝撃で後ろに吹き飛ばされるネクスパイ。

 

「そんな馬鹿な……? こんな……」

 

 ネクスパイはただただ驚いていた。

 自分専用にチューンアップしている自らのシステムは、他のどのものも寄せ付けない程の性能を持っている。

 だが、彼女はそれをも凌駕している。

 その理由がまるで分からないのだ。

 

『君が自分専用にしたように、我々も碧専用に改良した』

 

 リベードのネクスチェンジャーからグアルダの声が聞こえてきた。

 だがP-2-Pシステムではグアルダは一切介入出来ない筈──。

 

「は? どうして君がそれに」

『確かにP-2-P(このシステム)の最終決定権は碧にある。だが、彼女のサポート役として私は搭載された。

 最適な攻撃手段を提案し、彼女がそれを吟味して戦う。それが彼女専用のものの特徴だ』

 

 想定外の事実に驚きながら立ち上がるネクスパイ。

 

「本来、僕が一番やりたくなかったヒトとその他(多種族同士)の共存が旧式の最大の特徴だ。

 それを排除してこのP-2-Pを作ったのにどうして、どうして君たちはそれを繰り返すんだい!?」

 

 初めて感情的になって彼は言葉を発した。

 身内とは言え初めてそんな姿を見たのか、リベードは少し驚いたがそれでも冷静になろうと努める。

 

「だったらどうして、グアルダを作ったの?」

 

 

 

「……作ったのは、()()()()()

 

 矛盾した事実に対する質問への答えに、意味が解らないと困惑するリベード。

 

「ねぇ、それどう言う意味?」

()()が勝手に搭載したんだ。納品の直前に!」

「彼女……?」

 

 あまりにも唐突な登場人物に新登場に、何も言えなくなってしまう。

 

「何せ、ヒトじゃ無い者に、俺たちの母さんは殺されたんだからっ!」

 

 ネクスパイは激昂しながら、1枚のカードを取り出す。

 それは、リベードのトランスフォンの使用を停止させた時に使ったガイのカードだ。

 

『"GAI" LOADING』

 

 するとリベードもカードケースから1枚のカードを取り出した。

 重厚な装備を身に付けた兵士が、オルゴールとナイフを持って戦場を歩いていく様が描かれ、下部には「No.82 EXIST ETERNAL」と印字されている。

 

 そのカードをネクスチェンジャーの上のスロットに挿し込んだ。

 

『"ETERNAL" LOADING』

 

 互いにダイヤルを赤い面に揃える。

 

『『Are you ready?』』

 

 そして奥へと押し込んだ。

 

『OKAY. "GAI" BORROWING BREAK!』

『OKAY. "ETERNAL" BORROWING BREAK!』

 

 これでガイのカードの効果で、リベードの変身能力は無くなる筈。

 それがネクスパイの狙いだった。

 

 だが、何も起こることは無い。

 ネクスパイは何度も操作をするが、やはり何も起こらない。

 

「どう言うことだ……!?」

「私が使ったカードには、そのカードと同じ『無効化』の能力があるの。それでそのカードの効果の発動を一時的に無効化したってわけ」

 

 ハァと溜息を吐くネクスパイ。

 

 仕方なく再び武器を握り締め、リベードのもとへと走って行った。

 

 

 

 と、その時。

 

『エレキスチーム!』

 

 突然、リベードとネクスパイの間に銃弾が撃ち込まれ、そこから激しい電流が流れて二人を襲った。

 

「「!」」

 

 横を見ると、そこに立っていたのはスタークだった。

 トランスチームガンとスチームブレードを合体させた、トランスチームライフルを右手に持っている。

 

「お前こそ何の真似だ? スターク」

「流石に退屈になってきたんだよ。俺とも、遊んでくれ」

 

 するとスタークの胸元から、蛇を模した巨大な水色のものが現れた。

 そして威嚇のための咆哮を上げて、蛇はリベードへと襲いかかって来た。

 

 咄嗟に身構えた、次の瞬間。

 

 

 

『レモンエナジー!』

『ピーチエナジー!』

『チェリーエナジー!』

 

 3本の矢が蛇に命中。

 蛇はそのまま爆散した。

 

 矢の飛んで来た方向を見ると、マンションの屋上に弓を構えたデューク、マリカ、シグルドの三人の姿が確認出来る。

 そう。紛れの無い、彼らの放った矢だ。

 

「は? どう言うことだ?」

「こう言うことだよっ!」

 

 状況を呑み込むことが出来ないスタークに対し、ネクスパイは変形させたインディペンデントショッカーで攻撃を仕掛ける。

 撃たれた弾がスタークの体に直撃して、火花が散った。

 

「お前、裏切ったのか!?」

「『裏切った』? 俺は一言も、『お前らに協力する』なんて言った覚えは無いぞ」

 

 仮面の下で笑みを浮かべるネクスパイ。

 彼を睨むスターク。

 

 スタークは舌打ちをすると、赤黒い液状に突如として変化。素早くその場を後にした。

 

 変身を解除するネクスパイ。同時にリベードも解除をする。

 

「説明して。一体何がどうなってるの……!?」

 

 碧が八雲に対して説明を求める。

 何から話そうか、と八雲口を噤んでいると──。

 

 

 

「私がご説明いたしましょう」

 

 後ろから声が聞こえた。

 声の主は、スーツを着た眼鏡の男だ。

 

「井川さん……!?」

 

 彼は警視庁公安課に在籍している春樹の同僚だ。

 自身らの父親で、フォルクローの開発を行なっていた海斗が姿を現した際に現れたきりだ。

 

「どうして井川さんがここに!?」

「今日は、奥様にご用があるのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 先日の流れで言うと、まさか八雲を捕らえに来たようにしか思えない。

 当然と言えば当然だ。

 何せライダーシステム(こんな兵器じみたもの)を開発した張本人なのだから。

 

 だが、井川の放った言葉は、想像を遥かに超えるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ。今まで、捜査へのご協力、誠に有り難うございました」

 

「……?」

 

 言っていることの意味が解らない碧に対し、八雲は不敵な笑みをこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常95体

B群10体

不明1体

合計106体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is his shoes?

A: Maybe, his shoes is our ally.




【参考】
講談社シリーズ MOOK 仮面ライダー 平成 vol.6 仮面ライダー響鬼
(講談社, 2015年)
仮面ライダー×スーパー戦隊 超スーパーヒーロー大戦
(脚本:米田正二, 監督:金田治, 2017年3月25日公開)
バナナ - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%8A%E3%83%8A)
トランスチームライフル|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/items/27)
蛇の鳴き声の科学者の6つの秘密 - 論文
(https://ja.triniradio.net/25-things-hiding-sports-logos)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 13 恥ずかしくってしょうがねぇ(I AM SO EMBARRASSED)
Question037 Why did he stay with them?


第37話です。
二日連続投稿です。
millennium parade × 椎名林檎の「W●RK」があまりにも格好良くて一日中聴いていました。
感想等頂けますと、大変嬉しく思います。
宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
Roselia - 閃光

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


?????

「残りのフォルクローの数は、幾つになった?」

「もう、70とかそのくらいじゃないでしょうか?」

「……そうかい」

 

 海斗が椅子に座りながらアールに訊く。

 

 海斗の手に握られているのは、嘗て海斗が使っていたディエンドライバーと同じ形状をした武器だ。だがその色は白く、塗装も何もされていない。

 

「もうそろそろ一気に片付けたいな」

「えぇ。そのために、我々には2つの策があります。上手くいけば3つになるかもしれませんが」

 

 アールが満面の笑みで言う。

 目線をそちらに向けることは無く、同じように微笑みで返した。

 

 すると海斗は、着ている白衣の内ポケットから1枚の写真を取り出した。

 その中に写っているのは、左側の白衣を着た今よりも若い海斗と、右側の碧に姿が似ている女性で、右下には「89.01.21」とオレンジ色で書かれている。

 

 じっとその写真を見つめながら深く息を吸って、ふと独り呟いた。

 

 

 

 

 

「もうすぐ会えるな、夏美」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.01.12 16:07 東京都 新宿区 SOUP

「潜入捜査ー!?」

「ああ。八雲君にはその役割を担ってもらった」

 

 岩田室長から、事の顛末について話したいと言われて待機をしていた全員に向けて、本人の口から出た言葉だ。

 

 狭い室内の壁面沿いにて、八雲は隅にある机に前から身を預け、リョーマとヨーコは立ちながら読書に勤しみ、シドは白いハンカチで自らのロックシードの手入れをしている。

 

「つまり、彼はフォルクロー側の動向を探るために潜り込ませた、と言うことですか?」

 

 森田の質問に対して、岩田は首を縦に小さく振るった。

 

 あっち側の状況なんて、スパイを送り込むなり何なりしないと分からないぞ。

 

 嘗て己が言った推論は事実だったと言うわけだ。

 

「そう。俺は逐一状況を春樹(碧の婿殿)に送っていたと言うわけさ」

 

 八雲は上半身を起こして、碧の方を見ながら発言をする。

 腕を大きく広げて言うその姿には、余裕という言葉が一番良く似合う。

 

「まさか! 岩田室長に私たちのトランスフォンとカードを送ったのって……」

 

 リョーマたち三人が八雲(自分たちのボス)を指指す。

 その方向にいる八雲の顔は、ドヤ顔だった。

 

「じゃあ、米国が開発したカードの情報を横流しにしたのって」

「いや。それは俺じゃない」

 

 薫の言葉を否定する八雲。

 

「それは別のどっかの誰かだろ。俺は開発に参加しただけで、運搬のことに関しては何も知らなかった」

 

「そう言えば、クロトは私たちが何をやっているか全く知らなかったわね」

 

 八雲の発言で、碧はクロトの何気ない一言を思い出した。

 

 

 

 なんか面白そうなことを今日するんでしょ?

 

 

 

 もし知っているのであれば、このような発言はしない筈。

 カードのことについて言及をする筈だ。

 だがそれをしなかったと言うことは、何も知らなかったと言うことになる。

 

「じゃあ、この中にスパイはいなかった、ってことですか?」

「そう、なりますね」

 

 どうやら薫があそこまで感情を露わにした必要は無かったらしい。

 

 SOUPのメンバー全員がふと圭吾の方を見る。

 圭吾は何も言わず、何もせずにじっと下を向いている。

 いつもと違う彼の様子に、全員が引っ掛かったが特に何も訊くことは無かった。

 

 すると

 

「ところで、君たちは今後どうやって生活するつもりだ?」

 

 森田が八雲たちに訊いた。

 だがそこまでは考えていなかったのだろう。八雲が碧の方を向いてじっと見つめる。続いてリョーマたちも碧を見た。

 

「言っておくけど、私ん()は2LDKだから、もう貴方が入り込む余地は無いけど」

「「「「え……」」」」

「それとも何? 家賃肩代わりしてくれるなら、玄関で寝ても良いけど」

 

 碧の容赦無い攻撃に怯む八雲たち。

 そんな彼らに岩田が助け舟を出した。

 

「安心しろ。彼らの生活拠点はもうすでに我々が確保している」

 

 四人はホッと胸を撫で下ろした。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.01.12 17:46 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 あまねちゃんのせいじゃないよ。

 あまねちゃんのせいじゃない。

 

 その言葉が何度も頭の中を回っていく。

 

 けれども、彼女が自分を責めることは止められない。

 止めてはいけないのだ。

 

 それが、自分に対する戒めなのだから。

 

 すると突然、ビー、と大きな音が鳴った。

 何処から声がするのかと音のした方を探していると、音源が見つかった。

 

 音源は、あまねのバッグに付いたキーホルダーだった。誕生日に日菜太から貰った「A」の形をした赤いプラスチック製の物だ。

 だが今までと違うのは、側面の部分が同じ濃さの赤色に光って点滅している。

 

「え? 何これ……?」

 

 その場から離れて、あまねはリビングにある棚の中から、キーホルダーに付いてきた取扱説明書を広げて読み始めた。

 

 

 

 当製品はバッテリーが切れかけると、ブザー音と共に赤く点滅します。

 タイプCのケーブルで充電してください。

 

 

 

 良く見てみると、このキーホルダーは押し込むと音が出る、言わば防犯ブザーのような役割も担っているようだ。

 帰りが時折遅くなるあまねに対する、日菜太なりの思いやりなのだろう。

 だが今まで説明書を注意深く読んでこなかったあまねは、その思いやりに気づくのが貰ってから数ヶ月経ってからとなってしまった。

 

 急いで充電口にケーブルを挿し込んで、充電を始める。

 そうすると、点滅は収まってただ赤く光るだけになった。

 

 それを見ながらハァと溜息を吐くあまね。

 ただ赤い光を見つめて、それ以上動くことは無かった。

 

 

 

 

 

「ねぇ」

「? 何だい碧」

 

「支給された物件が何でここなの!?」

 

 碧の叫び声がマンションの廊下にこだまする。

 そんな彼女に八雲は笑みを浮かべる。

 

 そう。

 八雲たちが入居するのは、碧たちが住んでいるトキワヒルズAだった。

 しかも、彼女が住んでいる601号室の隣の602号室に、だ。

 

「折角だしお前の家で今日ご飯食わせてくれよ」

「は?」

「良いだろ別に、な?」

 

 呆れた様子で溜息を吐く碧。

 久々に会った家族の面倒臭さに、参っているのだ。

 

 

 

 結局。

 

「こっちにももっと肉をくれたまえ! これ以上白菜ばかり食べるのは嫌なんだ!」

五月蝿(うるさ)いわね! もっとボスと妹さんに肉を献上しなさい!」

「俺は遠慮無く渡すぜ! 何せ、俺はベジタリアンだからな!」

「だとしたらお前、これ、鶏鍋だぞ」

 

 五月蝿い四人衆と共に食卓を囲むことになってしまった。

 6人で囲む食卓はかなり狭く、足と足とがくっつきそうになってしまう。

 

 そんな中で彼らは鶏鍋を囲んでいた。

 黄土色の鍋の中に入った白いスープの中からは湯気が立ち込め、そこから次々と具が持っていかれる。

 

 白く変色した鶏肉がお玉を通して碧と八雲の取り皿の中へと入っていく。

 だが野菜が一向に入っていかないため、鍋の中には人参やエノキ等の野菜だけが残っていった。

 

「みんなちょっと静かにして! 近所迷惑になるでしょ!」

 

 その中であまねだけが一言も喋らずに黙々と口の中に食べ物を入れていく。

 彼女に八雲が笑顔で話しかけた。

 

「君が碧と婿殿の娘か。挨拶が遅れて申し訳ない」

「……どうも」

 

 素っ気無い態度を取るあまね。

 

 すると今度は碧が八雲に話しかけた。

 

「一つ訊きたいんだけど」

「?」

 

「グアルダを作ったのって誰なの? 『彼女』って言っていたけど」

 

 八雲が箸を持っていた手を止めた。

 そして話し始める。

 

「彼女は天才だよ。この世で天才は俺だけだと思っていたけど、彼女は俺と同等の天才だよ」

「ふぅん」

「ただ、グアルダを旧式のライダーシステムに搭載した判断は、ハズレだと思いたいけどね」

 

 左手で取り皿を持って中に僅かに入ったスープを飲む。

 鶏の旨みと野菜のだしが混在する液体が喉を伝っていくのを確かめると、八雲は取り皿を置いてもの寂しげな顔で取り皿の中を見つめた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.01.14 11:02 東京都 杉並区

 都道427号線のT字路にて、スタークがソルダートたちと2体の怪物を引き連れていた。

 

 1体目は立方体の身体をした金色の生命体で、宙空に浮かび上がっている。

 2体目はライオンのような顔をした二足歩行の金色の生物で、右肩には鷲、左肩には海豚、そして胸には牛を模した彫刻が飾られている。

 

 幸いにも赤いカーテンが降りてからフォルクローが出現するまでに1時間程かかったため、現在はパトカーが道路を塞いで交通規制を行い、目の前には八雲たちが立ち塞がっていた。

 

「よう。裏切り者」

 

 スタークが皮肉を込めた挨拶をする。

 

「五月蝿いなぁ。別に良いだろ。何度も言うけど、俺は一切協力していないんだからっ!」

 

 八雲はネクスチェンジャーを取り出してカードを挿し込んだ。

 

『"NEX-SPY" LOADING』

「変身!」

 

 ネクスパイへと変身を遂げた八雲。

 

「さて、SOUP(お前たち)の持っているカードを使わせてもらおうか」

 

 ネクスパイはカードケースのスロットからカードを取り出そうと手をかけた。

 

 だが、一向にカードが出てくる様子が無い。

 

「? あれ?」

 

 何度か叩いて状況を打破しようとするが、何も変わることは無い。

 

「おい! これどうなってるんだよ!?」

 

 

 

「どう言うことだ!?」

 

 遊撃車の中で森田が動揺した。

 口には出さないが、他のメンバーたちもそうだ。

 

 すると

 

「無駄ですよ。()()()()()()()()()

 

 突然のカミングアウトに全員が一斉に圭吾の方を向いた。

 

 発言者は向き合うことは無く、じっとパソコンの画面を見つめている。

 画面に映っているのは、カードを取り出せずに戸惑っているネクスパイの姿だ。

 

 その姿を見つめながら、圭吾はギュッと拳を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why did he stay with them?

A: Because he was a spy who snoops about them.




【参考】
東京の過去の天気 2022年1月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220100/)
色の名前と色見本・カラーコード|色彩図鑑(日本の色と世界の色一覧)
(https://www.i-iro.com/dic/)
IKAROS - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/IKAROS)
ビーストキマイラ|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/phantoms/1410)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question038 Why did he make RIDER SYSTEM?

第38話です。
すみません。やらかしました。
宜しくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.01.14 11:02 東京都 杉並区

「無駄ですよ。私が止めましたから」

 

 圭吾の言葉に全員が驚愕する。

 一応、ネクスパイたちは自分たちの味方になった。

 そんな彼らの行動を邪魔すると言うことは、同志として考えられない。

 

「どう言うことですか!? どうして!?」

「私はねぇ、気に食わないんですよ!」

 

 圭吾の怒声が車内に響き渡る。

 今度はお前か、と内心思ったが、それ以上に見たことの無い圭吾の姿に度肝を抜かれている。

 

「例え人を護るために作ったものだったとしても、あれはただの兵器に過ぎない!

 だがそれを開発した彼はその危険性を認知しているにも関わらず能能と生きている。

 そんな彼にどうして協力出来るんですっ!?」

 

 ぐうの音も出ないような正論だった。

 反論しようとしたが、全員が口を噤んでしまった。

 

 

 

「マジかよ……。何で出てこないんだよ!?」

 

 一方のネクスパイは現場で混乱していた。

 使いたいカードたちが全く出てこないのだから、無理も無い。

 

 しかも使えないのは、SOUPが元々持っていたカードだけでは無い。

 ネクスパイのカードケースもSOUPの物と連携されている。

 そのため、ネクスパイは一切のカードを取り出すことが出来なくなってしまったのだ。

 

「よし、コイツらはお前たちに任せた!」

「「「了解!」」」

 

 デューク、マリカ、シグルドが「クラッシュトゥ」と名付けられた立方体と、「イーティング」と名付けられたライオンの怪物に立ち向かって行く。

 

 デュークがイーティングに斬りつける。火花を散らして後退していく怪物。

 そして胸を蹴り飛ばそうとしたその時、イーティングは突如としてオレンジ色の翼を2枚展開。上空に飛び立とうとした。

 

 だがマリカがその左脚を左手で掴み、下の方に叩きつけようとする。

 そして地面に衝突する寸前、右足で左側に蹴り飛ばした。

 

 吹き飛ばされる怪物。

 すると突然、地面の下に消えていってしまった。

 

 一体何処に行ったのかと警戒する二人。

 

 そんな二人の後ろから、イーティングは勢い良く迫って来た。

 

 が、突進を仕掛けて来る怪物の左肩を右手で強く掴み、左足に右足を引っ掛けて、顔面に右手の裏拳を食らわせた。

 

 再び吹き飛ばされるイーティング。

 占めた、と思った三人が一気に怪物に掛かって行く。

 

 だが彼らは忘れていた。

 もう一体の怪物がいたことを。

 

「「「!」」」

 

 背中に痛みが走った。

 

 何が起こったのかと後ろを確認する。

 そこにいたのは、立方体の怪物、クラッシュトゥだった。

 

 そのうちの1面にある1つの穴からどうやらエネルギー弾を放ったらしい。

 

 さらに連続して弾丸を発射した。

 回転しながら放つために、辺り全面に被害が齎される。

 

「ちっ! キリが()ぇな!」

 

 三人はロックシードをソニックアローに装填。

 それぞれが斬撃をクラッシュトゥに放った。

 

「「「ハァァッ!」」」

 

 直撃した瞬間、目標は攻撃を止め、回転を止める。

 そして白い光を放って、まるで限界を超えたように爆発を起こした。

 

 金色だった立方体は、黒く焦げて地面に落っこちる。

 

 後はイーティングだけだ。

 

 だが辺りを確認しても、動物の顔を着けた怪物はすでにその場にはおらず、周りには三人しかいない。

 

「逃げたわね」

「……ああ」

 

 三人は変身を解除し、全員が溜息を吐く。

 そしてある一方向へ並んで向かって行った。

 

 

 

「全く! 何でこうなるんだよ!」

 

 ネクスパイは愚痴を溢しながら、リベードと共にスタークに立ち向かって行く。

 別のカードを使うことが出来ないため、仕方無くインディペンデントショッカーから銃弾を放ってスタークを襲う。

 

 だが弾丸をスチームブレードで斬り裂かれ、全ての攻撃が無駄になってしまう。

 

 リベードもディスペルクラッシャーでスタークに攻撃を仕掛けるが、剣で防がれて逆に蹴り飛ばされてしまった。

 そんなリベードを右手で受け止めるネクスパイ。

 

「本当であれば、俺の目的は裏切り者であるお前の始末、なんだが……」

 

 するとスタークは1台のスマートフォンを取り出した。

 低い声や赤い体には似合わないピンク色のスマホカバーで包まれ、表面には兎のキャラクターのステッカーが貼ってある。

 

「あれ、何処かで……?」

 

 リベードには何か見覚えのあるようだ。

 だがどう頑張っても思い出すことが出来ない。

 

 スタークがスマートフォンで観ていたのは、インターネットテレビ局でやっているニュース番組だった。

 男性のニュースキャスターがニュースを読み上げていて、見出しにある文字は──。

 

 

 

 新橋の居酒屋で4人が死亡

 「突然苦しんで…」心不全か

 

 

 

「これからもっと面白くなるから、今はそれどころじゃない。チャオ〜」

 

 突然、身体を液状にしてその場から退散した。

 

 変身を解除する二人。

 碧は何かを考え始め、八雲は明後日の方を向いて爪先を浮かしては地面につけるのを繰り返す。

 

 そして八雲は何処かへ向かい始め、碧はそれを追いかけるように着いて行った。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.01.14 11:08 東京都 杉並区

「どうしてこんなことをしたんだ!」

 

 遊撃車の中から圭吾を連れ出した八雲は、圭吾を遊撃車の壁に叩きつけ、胸ぐらを掴んで叫んだ。

 怒りに震える八雲に、そんな彼を真っ直ぐと見る圭吾。

 

 だが怒っていたのは八雲だけでは無い。

 

「おい。何睨んでるんだ、テメェ!」

 

 八雲の後ろにいるシドもだ。

 

「ホントだねぇ。どうしてこんなことを」

 

 リョーマも笑顔を崩さずとも、眉間に皺が寄っており、若干の恐怖を感じる。

 

「こうなったら、実力行使しか無いわね……!」

 

 ヨーコが八雲の横から出て来て、右腕を圭吾に食らわせようとした──。

 

 

 

「ストップ!」

 

 横から声が聞こえた。

 声の主は、薫だった。

 

 薫が四人に取り囲まれた圭吾の腕を引っ張る。

 

「班長。ちょっと圭吾さんのこと借ります」

「え、あ、ああ……」

 

 そしてそのまま、薫は圭吾を引っ張って何処かへと向かって行った。

 

「お兄ちゃん、私について来て」

「?」

 

 さらに碧も八雲に声をかけて、反対側へと向かって行く。

 

 残された者たちは、感情の対象がいなくなってしまったために、ただ茫然と互いの顔を見合わせていた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.01.14 11:17 東京都 杉並区 HOTEL PILLOW 荻窪店 203号室

 暗い部屋の中でピンク色の照明が光るが、逆に暗さを際立たせて妖艶な雰囲気を演出している。

 白く丸い大きなベッドが、暗い部屋の中で唯一存在感を持っていた。

 

 その大きなベッドの上では、圭吾の上に薫が跨っていた。

 先程と同じ長袖のTシャツ姿の圭吾に対し、薫は洋服を脱いで白い下着姿になっている。胸に着けたブラジャーからは程よい大きさの胸が見えており、もう少しで先が見えそうになっている。

 

 そして

 

「教えて。何であんな真似し、た、の、か」

 

 欲を掻き立てるような声で圭吾に話しかける薫。

 だが

 

「あの、こんなことしなくても普通に話しますけど」

 

 圭吾は一切の理性を失ってはいなかった。

 それどころか、薫のとった行動に対して鼻で笑っている。

 

「ちぇっ。色仕掛けだったらすぐに口を割ると思ったのに」

「またどうしてこんなことを?」

「だって……。こないだあんな酷いこと言っちゃったから……」

 

 思い当たる節は一つだけ。

 遊撃車の中で、薫が圭吾に対して強く問いただしてしまったことだ。

 あの時の薫は、七つも年上である圭吾に対して、圭吾を忘れて激しく口から言葉の暴力を浴びせてしまった。

 

「だから、こう言うやつの方が、話してくれるんじゃないかって」

 

 今にも泣きそうな顔を見せる薫。

 いや、もうすでに目から涙を流している。

 

 すると圭吾は起き上がって、彼女の涙を右手の親指で拭う。

 そして笑顔で頭を優しく撫でた。

 

「大丈夫ですよ。ああなる気持ちも分かります。だから、もう気にしないでください」

「……ごめんなさい……!」

 

 圭吾の胸に顔を当てて泣きじゃくる薫。

 

「それに、こんなことしなくても話しますから。ね」

 

 顔を上げた薫。

 マスカラが剥がれてまつ毛が少しだけ下がっている。

 

「私と彼は同じ技術者です。技術、(もとい)その基盤となっている科学は、時に人を傷つけます。だから、私たちは誰かを傷つけてしまうと言う覚悟を持たなければならない。

 けど、彼は……」

 

 それが感じられない。とでも言いたいのか。

 紡ごうとした言葉の続きは想像に容易かった。

 

 すると今度は薫が圭吾の頬に手を触れた。

 微笑みを浮かべてじっと圭吾の目を見つめる。

 

「彼には彼で、きっと思うことはあると思いますよ。知らないですけど。だから、あまり彼を責めないであげてください。ね」

 

 圭吾が深く息を吐いた。

 

「薫さんが言うなら、信じますよ、私は」

 

 互いの顔を見合って笑みを見せる二人。

 

 次第に息が荒くなっていった。

 そして心臓の鼓動が確実に速くなっていく。

 

「ところで、いつ離れてくれるんですか? もう全部話しましたけど」

「……離れたくないです」

「……え?」

 

 薫の言葉に戸惑いを覚える圭吾。

 

「こんな体勢になったのが原因かもしれないですけど、暫く一緒にいたいです」

 

 薫の頬は赤く火照っているが、その目は真っ直ぐと圭吾を見つめていた。

 

「いや、でも……」

「大丈夫です。班長には暫く帰らないって報告してあります。それに、圭吾さんを自供させるための術とでも言っておけば、なんとかなりますよ。

 ……だから…………」

 

 それ以上、暫く声が聞こえることは無く、そして何かが弾けたように小さな音が次々と鳴っていった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.01.14 11:16 東京都 新宿区

 遊撃車が新宿の道路を走って行く途中で、赤信号になったために止まった。

 車窓に付いたカーテンを開けると、小田急百貨店が見えた。9階にある大きな電子時計が、薄汚い室外機たちに背後を取られながら時刻を知らせている。だが人々はそれに目を留めることは無く、手元の腕時計や携帯で時刻を確認する。

 

 意味が無いじゃん……。

 

 内心そう思いながら、深月は外の景色を眺めていた。

 

 すると

 

「なぁ、一つだけ教えてくれ」

 

 森田が後ろを向いて、そこにいるリョーマたちに話しかける。

 

「君たちはどうして、八雲君に協力しているんだ? 別に君たちは公安からの協力要請を受けていたわけでは無い筈だが」

 

 すると暫し沈黙があった後で、三人は語り始めた。

 

「うちのボスに連れられて来たんだ」

 

 最初に口を開いたのは、リョーマだった。

 

「我々は、ただ零号(彼らのボス)の栄養分として消費されることに、違和感と嫌悪感を覚えていたんだ。そんな時に彼が我々に声をかけてきてくれた」

 

「あの人は、突然連れ去られて、身体を改造された私たちに、何も言わずにただ寄り添ってくれた。だから私たちは、彼に着いて行ったの」

 

 リョーマに続けてヨーコも言葉を放つ。

 

「しっかしまぁ、どうしてアイツに着いて行ったのかなぁ。分かんねぇけど、なんか着いて行ったら良い気がしたんだよなぁ……」

 

 シドは両腕を頭の方に持っていって、呟くように言った。

 

 三人の目線が行く先はバラバラだ。

 だが、それでも行き着く先は同じだった。

 同じ、慕う自分たちのボスに向けて。

 

 深月と森田はそれ以上は何も訊かず、窓の外を眺める。

 百貨店沿いの歩道を歩く通行人の中で、一人の老人が電子時計を眺めた。

 

 その瞬間、車は前へと走り出した。

 

 

 

────────────

 

 

 

 なぁ碧、覚えているか?

 

 俺たちが小さい時、母さんが0号に殺されたこと。

 

 あの時、全国で何万人も火炙りにされてさ、そりゃあもう地獄絵図だったらしいぜ。

 人が内側から焼かれて、助けようとしてもその助けようとした人が今度は焼かれる。

 

 しかも4号ですら太刀打ちが出来ない。当時最強と言われていた金と黒のクウガでも、だ。

 

 

 

 そんなやつに、母さんは殺されたんだ。

 ただ、アイツが笑顔になるためだけに。

 

 

 

 俺も碧も父さんも泣きじゃくったよな。

 例え俺たちの大切な家族でも、側から見てみれば3万人のうちの一人に過ぎない。

 ただの数字として、母さんは殺されたんだ。

 

 4号がいたから、0号も、その後に出てきた奴らも相手に出来た。

 

 けど、じゃあ人間側は……?

 

 人間はただ4号に頼っているだけだった。

 殺傷能力の高い兵器が完成したとしても、その関係性が何も変わることは無かった。

 

 

 

 だから、こんな状況は変えなきゃいけないと思った。

 

 俺が機械工学を学んだのもそのためだ。

 

 全ては、4号がいなくても、誰かを守れるようになるために──。

 

 

 

 

 

2022.01.14 13:00 東京都 杉並区 ホットバーガー 阿佐ヶ谷店

「それが、貴方がライダーシステムを作った理由……?」

「……ああ。そうだ」

 

 角の席にて、八雲と碧は向かい合っていた。

 

 テーブルの上には大量のプレートが重なっており、その上には包装紙に包まれたハンバーガーやフライドポテト、大きな紙コップの中に入ったコーラが置かれていた。

 

「俺が開発したライダーシステムによって、ようやく対抗出来るようになった。

 ……けど、その代償としてお前をアイツらと同じ化け物にしてしまった。お前の婿殿もそうだ。本当にすまない……」

 

 深々と頭を下げる八雲。

 先程のような余裕綽々なものではなく、暗く沈んだ表情が顔に浮かんでいる。

 

「やっと、やっとP-2-Pシステムが開発出来て、誰も苦しまずとも力を手に入れることが出来るようになった。とは言え、今の科学力ではどこまで零号に対抗出来るかどうか分からない。

 どれだけ知恵を絞ったとて、俺たちに勝ち目は無いのかもしれない」

 

「だから、『努力』も『未来』も、嫌いになったの……?」

 

 努力をしたとて、掴める未来には限界がある。

 

 それが彼の思いだと言うことだ。

 

 すると

 

 

 

「何言ってるの?」

 

 碧が声を絞り出した。

 

 八雲が前を向く。

 目の前にいる碧の目には一筋の涙が走り、頬をきつく斜めに上げている。

 

「だったら、その未来を掴むために、私たちがいるんでしょ!? 別に貴方一人で無理に掴む必要は無い。

 だから……諦めないでよ、お兄ちゃん……!」

 

 ハッとする八雲。

 そう言われてはもう、何も言うことは出来ない。

 

「……」

 

 八雲のスマートフォンが鳴ったのは、口を噤んだのと同時だった。

 画面を確認をして、発信者を確認する。

 「非通知」と表示されているため一応警戒はしたが、念の為に出てみる。

 

「はい」

「雨宮です。さっきはどうもすみませんでした」

 

 電話の相手は圭吾だった。

 警戒を解いて、頬を緩ませながら会話を進める。

 

「いや、別に怒ったりとかはしてないから。で、どうした?」

「実は……八雲さんにお願いがあるんですけど……」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.01.18 14:32 東京都 板橋区 板橋みどり公園

 公園の敷地面積の7割は、土で出来たグラウンドが占めている。

 その上でスタークは体を回し、横でイーティングが獣のように右足を揺すっている。

 

 この日は風が強く、グラウンドの砂は風に持っていかれてしまう。

 そんな中

 

「あーあ。何で今日はこんなに風が強いんだろうな?」

「知らないよ。あーもう! 目の中に砂が入るっ!」

 

 目の前から碧と八雲が歩いて来た。

 二人とも目元を腕で押さえて、襲いかかってくる砂から目を守る。

 

「よぉ。こないだみたいなアクシデントはもう起こらないんだろうな?」

「当然だ。なんだったら、()()()()()()()()もセットで持って来たぜ」

 

 売り言葉に買い言葉。

 表面上は冷静を装っているが、静かに二人の中には熱が生まれていった。

 

 二人がカードを腕輪にかざす。

 

『『NEX CHANGER』』

 

 それぞれの左手首にネクスチェンジャーが現れた。

 その上のスロットにカードを挿し込む。

 

『"REVE-ED NEX" LOADING』

『"NEX-SPY" LOADING』

 

 ダイヤルを回して、黄色い面に合わせる。

 

『『CHANGE』』

 

 金属がぶつかるような音の流れる中で、二人はポーズを決める。

 そして、二人同時に言葉を発した。

 

「「変身!」」

『『Let's go!』』

 

 二人の周りにそれぞれ枠が出現。中に煙が充満していく。

 

『『This is RIDER SYSTEM of the next generation.』』

 

 煙の中で、人の影と鎧が一体化した瞬間、枠は破壊されて煙が外へと逃げていった。結果、煙が勢いよく飛び出していったために、砂塵は止んで視界が良好になった。

 

『I'm KAMEN RIDER REVE-ED NEX! I just wanna be satisfied.』

『I'm KAMEN RIDER NEX-SPY! I hate grind and future.』

 

 現れた二人の戦士。

 それぞれが武器を持って、目の前の標的を睨む。

 

「行くよ、お兄ちゃん……!」

「ああ。行こう、碧!」

 

 そして、ようやく兄妹が並んで、戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why did he make RIDER SYSTEM?

A: In order to not make a sad person like him.




【参考】
つまり、アレ。 4
(小学館, 横山真由美 著, 2021年)
山手線の路線図・地図 - ジョルダン
(https://www.jorudan.co.jp/time/rosenzu/%E5%B1%B1%E6%89%8B%E7%B7%9A/)
King Gnu - Vinyl - YouTube
(https://www.youtube.com/watch?v=RLAw8Ct9k48)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question039 What is new function of her system?

第39話です。
ついに、アイツが登場します。
宜しくお願いいたします。



【イメージED】
AI - 最後は必ず正義が勝つ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.01.18 14:35 東京都 板橋区 板橋みどり公園

 武器を持ったリベードとネクスパイが、スタークとイーティングに向かって行く。

 対するスタークもスチームブレードとトランスチームガンを取り出し、イーティングは両腕に鋭い鉤爪を出現させた。

 

 リベードの剣がイーティングの両手の鉤爪で防がれる。

 剣が弾かれた勢いを利用して逆手持ちに変えると、鉤爪が退いた隙をついて、胸部を刃先で斬りつけて右足で蹴り飛ばした。

 

 一方のネクスパイはスタンガンをスタークの体に当てようとするが、やはりスタークの動きは素早く、なかなか当たらない。

 ようやく当たりそうになったところでも、スタンガンのボディを両腕で固定されて、これ以上動かせなくなってしまう。

 

「ようやく本領発揮してくれるのか?」

「いや。まだ3、40パーセントだ。これだけでも十分なんだよ」

「そうか。それは……舐められたもんだなぁ!」

 

 両腕を急に挙げ、ネクスパイが攻撃を仕掛けられない間に、強烈なパンチを連続で繰り出されてしまった。

 

「ごあっ!」

 

 後退をする。

 だがそれでもネクスパイは立ち向かおうと、カードを取り出してスロットに挿し込む。

 

『"PSYGA" LOADING』

 

 ダイヤルを青い面に合わせる。

 

『WEAPON』

 

 そして押し込んだ。

 

『Summon its!』

 

 するとネクスパイの背中に巨大なユニット──SB-315F フライングアタッカーが出現。

 右手にインディペンデントショッカーを持ったまま、レバーを持って上昇を始めた。

 

 上空にいるネクスパイを撃ち落とそうとするスターク。

 だが標的の動きはかなり素早く、銃弾はなかなか当たらない。

 

 そして地面スレスレのところで飛ぶと、猛スピードでスタークに迫ってスタンガンの電極をぶつけた。

 

「!」

 

 攻撃の勢いで吹き飛ばされてしまうスターク。

 

 同じ頃、リベードもイーティングをもう少しで追い詰めることが出来るところまで来ていた。

 

「さて、仕上げと行こうか」

「うん!」

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「待ちなさい」

 

 声が聞こえた。

 男性の声と女性の声が混ざったような声だ。

 

 その瞬間、全員の動きが止まった。

 まるでマネキンのように、指一本動かせなくなってしまう。

 

 この圧を、恐怖を、リベードは知っていた。

 

 全員が恐る恐る声のする方を向く。

 

 そこに立っていたのは、摩訶不思議な風貌をした人物だった。

 黒いチノパンツ*1にチャックを閉じた黒いパーカーを羽織り、頭部を完全にフードで覆っている。

 そして、そんな黒ずくめで全身を覆われたその顔に着けられていたのは──

 

「鉄腕……アトム……?」

 

 そう。鉄腕アトムのお面だ。

 一見ユーモラスな格好であるが、全身から出るオーラはそれに似合わない程に、禍々しい。

 

 そして何よりも、この場に似つかわしくない風貌である。

 

「誰だ? お前……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君たちは私のことを、『零号』と言っているんだろう?」

 

 全員が凍りついた。

 

 今目の前にいる相手が、最終的に倒さなければならない者。何れ自分が生贄に捧げられる者。

 そして、自分の夫を傷つけた者──。

 

「じゃあ、春樹をあんな風にしたのは……」

「ああ。その節はすまなかった」

 

 あっさりと認めた。

 本来であれば怒りを露わにしたいが、身体が強張って動かない。

 

「それで……何の用だ……?」

 

 震える声でネクスパイが問う。

 

 すると零号を名乗る黒ずくめの人物は、スタークの方を向いた。

 

スターク(百五十四番)。私は君のやりたいようにやらせている。当然、他の生贄たちにもだ。

 だが、もういい加減早くしてくれ。私は待ち遠しいんだ」

「……分かったよ」

 

 うんざりとした声で受け答えるスターク。

 それを確認すると、零号は後ろを向いて去って行こうとする。

 

「待って!」

 

 リベードが声をかけると、零号は前を向いたまま足を止めた。

 

「貴方……普段何処にいるの……?」

 

「……娘さんは、元気ですか?」

「! どうしてそれを……!?」

 

「いえ。なんとなく……」

 

 それだけ言い残し、零号はまるで霧のように消えていった。

 まるで幻のようだ。夢のようでもあった。

 

「はぁ。めんどくせぇな……」

 

 するとスタークは銃と剣を合体させ、トランスチームライフルを完成させた。

 そしてレバーを上げてボタンを押し込むと、バルブを時計回りに3回回し、銃口をイーティングへと向けた。

 

『デビルスチーム!』

 

 引き金を引いた。

 銃弾はクネクネと動き、行った軌道には煙で跡が出来ている。

 

 その銃弾がイーティングに命中した時、身体に変化が起きた。

 まるでライオンのような形状であり、オレンジ色の右翼と紫色の左翼が付いて、右肩には鷹、左肩には海豚、胸には牛を模したオブジェが付けられている。

 

「じゃあ、俺はアイツに言われた通り急がなくちゃいけないから、もう帰るぜ。チャオー」

 

 するとリベードが突然、逆手持ちにした剣を投げた。

 そしてその刃は、スタークの左腕に突き刺さった。

 

「グッ!」

 

 赤いスーツにより濃い色の赤が染み込んでいく。

 ゆっくりと剣を外して投げ捨てるスターク。

 

「どういうつもりだぁ……?」

「ちょっと、確かめたいことがあって」

 

 鼻を鳴らしてそのままスタークは立ち去った。

 

 スタークを追いかけようとしたリベードだが、巨大化したイーティングの足によって吹き飛ばされてしまった。

 

 なんとか立ち上がって、先程スタークが投げ捨てた剣を持って立ち向かって行く。

 だがイーティングは羽が生えた影響で素早く動けるようになっており、なかなか手をつけられない。

 それにこの巨体だ。そもそも攻撃が通用しない。

 

 すると

 

「碧! 俺が時間を稼ぐ。早くコイツを倒せ!」

「でも、こんなデカいのどうやって!?」

「俺が時間を稼ぐ。そしたらお前のネクスチェンジャーに新しく付けた機能を使え!」

「え? 何それ!?」

 

「あの雨宮とか言う奴に頼まれたんだよ! お前のの機能をもっと拡張してくれ、って。いいからそれ使え!」

 

 ネクスパイは上空でスタンガンを投げ捨てると、1枚のカードを取り出した。

 

 それは先日、倒されたクラッシュトゥから精製したカードだった。

 ピーテル・ブリューゲル*2が描いた「イカロスの堕落のある風景」の右半分が描かれており、大きな船と何故か海中から両脚が見えている。

 そして下部には「No.093 CRASHED ICAROS」と白く印字されている。

 

 そのカードをネクスチェンジャーの上のスロットに装填した。

 

『"ICAROS" LOADING』

 

 ダイヤルを赤い面に合わせる。

 

『Are you ready?』

 

 そして押し込んだ。

 

『OKAY. "ICAROS" BORROWING BREAK!』

 

 するとイーティングの頭上に、カードに描かれていた船を模した巨大なエネルギー現れた。

 それはゆっくりと落ちていき、やがてイーティングに直撃した。

 

 衝撃で怪物は砂を撒き散らしながら両脚が地面にめり込まれてしまう。

 

『成程な。そう言うことか』

 

 突如としてグアルダが発言をした。

 

「どうしたの?」

 

『圭吾がプログラミングした新たな機能のことだ。ネクスチェンジャーの下方のスロットにトランスフォンを装填することで、殺傷能力の高い技を使うことが出来る』

「へぇ。どんな?」

 

【簡単に言えば、相手の体を分子レベルで分解しバラバラにする、と言うことだ】

「……!」

 

 考えただけでも恐ろしい。

 絶対に助かることは無いだろう。

 まさに「必殺技」と言うわけだ。

 

「物は試し、ね」

 

 リベードは持っている剣を左手に持ちかえ、ダイヤルを赤い面に合わせた。

 

『Are you ready?』

 

 さらに、説明の通りにトランスフォンをネクスチェンジャーの下のスロットに装填した。

 

『SUPER CONNECTION!』

 

 軽快な音楽が腕輪から鳴っていく。

 その間、刃には着々とエネルギーが溜まっていき、みるみるうちに重くなっていった。

 

 そしてダイヤルを思いっきり押し込んだ。

 

『OKAY. "REVE-ED NEX" CONNECTION BREAK!』

 

 するとイーティングの周りが辺が青色の小さな立方体で埋め尽くされていく。

 いや違う。

 怪物の身体が立方体に変換されていっているのだ。

 コンピューターでは、一つの画像を表示する際に小さな正方形に分け、それを再構築することによって表示する。

 それと同じようなことだと思えば良い。

 

 リベードが剣を右手に持って刃を上に向けると、青色の大きなエネルギーが伸びていく。

 

 腕を伸ばして大きく振った。

 その瞬間、青色のエネルギーが斬撃となって怪物を斬り裂く。

 そして立方体はバラバラに崩れ落ちて、その場に爆発が起こった。

 

 やはりその巨体のために、爆発の勢いは凄まじく、強風で上空のネクスパイも地上のリベードも吹き飛ばされそうになる。

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 ネクスパイの手元に、1枚のカードがやってきた。

 

『Have a nice dream.』

 

 ギュスターヴ・モロー*3の描いた「キマイラ」が可愛らしいアニメーションのキャラクターのように描かれており、キマイラは「I LOVE MAYONNAISE」とピンク色で書かれた白いTシャツを着ている。

 そして「No.095 EATING BEAST」と書かれていた。

 

 二人は上空と地上で溜息を吐く。

 そして、ふと炎の上がる方を見て、その場を後にした。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.01.18 17:23 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう

「それでは皆さん、お疲れ様でした!」

「「「「「「うぇーい」」」」」」

 

 いつもの個室の中で、メンバーたちは飲み物が入った容器をぶつけ合う。

 そしてそれを飲んで、細やかな祝杯をあげ始めた。

 まぁ、一番の目的は八雲の歓迎会ではあるのだが。

 

「どうなることかと思ったよ。あの時は」

「ホントすみません。これ、奢りです」

 

 圭吾は自分が焼いたカルビを箸で、八雲の取り皿の中へ入れていく。

 軽く会釈をして口の中に運ぶ八雲。

 

「ところで、どうやってあのシステム思い浮かんだんですか?」

 

 深月が烏龍茶の入ったコップを置いて訊く。

 だが

 

「「え、えぇっとその……」」

 

 何故か気まずそうに、圭吾は口を噤み始めた。それだけでは無い。何故か薫もだ。

 下を向いてゴニョゴニョと呟くその様子に、深月と碧と八雲は顔を見合って戸惑う。

 

 すると

 

 

 

「「「コイツら()()()()()したんだ!」」」

 

 突如として個室の扉が開いて、リョーマにヨーコ、シドが顔を見せた。

 何故か怒りに震えた顔を見せながら叫ぶ三人の声で、圭吾と薫は一瞬顔を上げたが、再び気まずそうに下に向けてしまう。

 

「これは……え?」

「大丈夫だ。うちには椎名夫妻と言う前例がいる」

 

 答えを見出せない深月と、優しくフォローをする森田。

 だがそれは帰って逆効果になってしまった。

 

「もういいや! 経験無い俺らはカウンター行くぞ!」

「はーい」

「了解」

 

 そのまま三人は席に座ることは無く、向こうのカウンター席に座って注文をし始めた。

 

 一気に構築されていった関係性に笑いながらも戸惑う碧。

 

「なぁ碧」

「?」

「ちょっといいか?」

 

 突如として八雲に声をかけられた。

 何用かと思うと、八雲に手招きをされて、店の外へと連れ出されていった。

 

 コートを着忘れてしまったがために、夜の風に体が吹かれて寒い。

 そんな中で、八雲はスマートフォンして画面を見せた。

 

 そこに映っていたのは、見覚えのあるCDのジャケット。

 

「え、『LOVEマシーン』?」

 

 そう。モーニング娘。の名曲「LOVEマシーン」のジャケットの画像だった。

 スクロールをしていくと、今度は見たことの無いジャケットが2つも出てくる。

 

「『シャララ!やれるはずさ』、『女と男のララバイゲーム』……。何これ?」

 

「米国と開発したメモリアルカード、その3枚を基に作った」

 

 八雲の発言に驚愕する碧。

 まさか、ハロプロの曲をベースに作った……!?

 

「どんな能力があるの?」

「いや、()()()()()よ」

 

 今度は混乱をさせるようなことを言ってきた。

 

「意図的に空白を残して完全には完成させなかった。だからそのまま使うことは出来ないし、その空白も俺みたいな、超ナチュラルスーパー天才じゃないと埋めることは出来ない!」

 

 要はガラクタに過ぎないと言う話だ。

 意味を理解して納得と共に安心をする碧。

 

「ただ」

 

 だが八雲の放った接続詞に安心が薄れそうになる。

 

()()なら、解き明かすかもしれない。下手したら、もうすでに……」

 

 先程のような余裕そうな表情から一転、雲行きが怪しくなってきた。

 

「ねぇ、私からも一つ質問良い?」

「何だ?」

 

「『彼女』って、誰なの?」

 

 ずっと気になっていた。

 こんなにも自分を天才として崇める八雲が、これほどまでに恐る女は一体誰なのか。

 

 

 

「名前は……大野花奈(はな)

「大野……?」

 

 何処かで聞き覚えのある苗字であった。

 だが肝心なところで思い出せない。それが自分の欠点であることは重々理解しているのだが。

 

 なので、そんな彼女に八雲は正解を教えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのクロトとか言うやつの、姉だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常71体

B群10体

不明1体

合計82体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is new function of her system?

A: It is to connect two devices.

*1
チノクロスと呼ばれる綿やポリエステル、麻などでできたパンツのこと。

*2
Pieter Bruegel(1930頃 - 1569.09.09):オランダの画家であり、主な代表作に「バベルの塔(The Tower of Babel)」「雪中の狩人(The Hunters in the Snow)」等がある。

*3
Gustave Moreau(1826.04.06 - 1898.04.18):フランスの画家であり、主な代表作に「イアソン(Jason)」「オルフェウスの首を運ぶトラキアの娘(Jeune fille thrace portrait la tête d'Orphée)」等がある。




【参考】
講談社シリーズ MOOK 仮面ライダー 平成 vol.4 仮面ライダー555(ファイズ)
(講談社, 2015年)
講談社シリーズ MOOK 仮面ライダー 平成 vol.14 仮面ライダーウィザード
(講談社, 2015年)
「パンツの種類ってどんな種類があるの?」今回はパンツまとめます! - LOCONDO MAGAZINE
(https://www.locondo.jp/shop/contents/note/apparel_pants_type151216/)
https://toy.bandai.co.jp/assets/products/rider/documents/4549660168089000.pdf
イーカロス - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%AD%E3%82%B9)
ピーテル・ブリューゲル - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%83%AB)
ブリューゲル?「イカロスの堕落」を超解説!この絵の異様さにアナタは気づける? - アートをめぐるおもち
(https://omochi-art.com/wp/landscape-with-the-fall-of-icarus/)
【美術解説】ピーテル・ブリューゲル「オランダルネサンス絵画の代表的画家」 - Artpedia アートペディア / 近現代美術の百科事典・データベース
(https://www.artpedia.asia/pieter-bruegel/)
ピーテル・ブリューゲル-主要作品の解説と画像・壁紙-
(http://www.salvastyle.com/menu_renaissance/brueghel.html)
ギュスターヴ・モロー - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AE%E3%83%A5%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%83%AD%E3%83%BC)
キマイラ ギュスターヴ・モロー 絵画解説
(https://artmuseum.jpn.org/mu_kimaira.html)
リリース詳細|ハロー!プロジェクト オフィシャルサイト
(http://www.helloproject.com/release/detail/EPCE-7339/)
モーニング娘。 女と男のララバイゲーム 歌詞 - 歌ネット
(https://www.uta-net.com/song/104895/)
モーニング娘。 LOVEマシーン 歌詞 - 歌ネット
(https://www.uta-net.com/song/12080/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 14 偶像(IDOL)
Question040 What means "idol"?


第40話です。
今回、戦闘シーンがありません。
かなり書くのに手こずりました。
宜しくお願いいたします。

※本作品では、2020年より新型コロナウイルスの感染が拡大しなかったフィクションの世界が描かれております。そのため史実と異なる記述がありますが、ご了承頂けますよう宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
Roselia - 閃光

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


?????

 いつもの部屋の中に配置されていたのは、先日まで八雲が使っていたのと同じセットだ。同じ椅子に同じデスク、同じモニターや同じパソコン。何から何まで同じだ。

 

 その椅子に座っているのは、一人の女性だった。

 柄の無い白いTシャツに紺色のジーンズと、まさにシンプルと言う言葉が良く似合う格好だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 そしてセンター分けになっている黒いボブカットから、水色の触手と呼ばれる髪周りにある短い髪の毛が生えている。

 首元には黒いヘッドフォンが掛かっていて、頭頂部には赤いカチューシャが着けられていた。

 

「お姉ちゃん」

 

 後ろから声をかけられた。

 女性──大野花奈が振り向くと、そこに立っていたのはクロト(彼女の弟)だった。

 

「何?」

「お願いがあってさ。僕のガシャットが壊れちゃったから、新しいのを作ってくれないかな?」

 

「そのくらい自分でやりなさい。他の誰かを犠牲にするか、それとも自分の身を削ってやるか」

 

 冷たく言い放ち、花奈は椅子から立ち上がった。

 そしてデスクの端っこに置かれているコーヒーメーカーの方まで歩いた。

 

「そんなこと言わないでよ! 僕だって戦いたいんだよっ!」

「私は忙しいの! 作らなきゃならない物が2つもあるの!」

 

 二人の声が部屋の中に響き渡る。

 だがクロトはニッコリと再び笑った。

 

 何となく嫌な予感がしたが、どうせ杞憂であると思ってコーヒーメーカーからサーバーを取り出して、置かれている白いマグカップの中にコーヒーを注ぎ始めた。

 

「……それは、()()()()()()()()()()()()のために作るの?」

 

 動きが止まった。

 止まってしまったがために、コーヒーを入れる手が動かなくなってしまい、マグカップからコーヒーが溢れて白一色だった表面は茶色で覆われてしまう。

 それに気がついた花奈は、慌ててサーバーを置いて、布巾でデスクの上を拭いた。

 

「違う! それじゃないし、()はそんなんじゃ無い! ……そんなんじゃ無いから……」

 

 最後の言葉は殆ど聞き取ることが出来ない。

 見れば花奈の頬は紅潮している。

 

 そんな姉の様子を見て、クロトはニヤニヤと微笑んでいた。

 だが彼の目線に気が付くことは無く、花奈は静かに椅子に腰掛けた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.03 08:57 東京都 新宿区 SOUP

 始業時間の10分前。

 室内には全員が集まっていた。

 

 八雲はスマートフォンでゲームを行い、圭吾は同じくスマートフォンでアニメを観ている。

 薫は机上にあるポテトチップスを食べ、碧はパソコンと睨みっこをしている。

 

 そして深月は、スマートフォンで何かをじっと見つめていた。

 ゴクリと唾を呑んで、親指で画面をスクロールする。

 その先にあった画面を親指で押した。

 

 そこに書かれていた文字は──。

 

 

 

落選

抽選の結果、チケットをご用意することが出来ませんでした。

 

 

 

「嘘だぁぁぁぁぁっ!」

 

 深月の大声が響き渡る。

 何事かと全員が深月の方を見た。

 

「何何何?」

 薫が驚く。

 

「朝からどうしたんですか?」

 圭吾も訊いた。

 

「あの……その……」

「「「「「?」」」」」

 

江戸川ミソラ(みーたん)のライブ……全落ちですよ……。本会場も駄目でしたし、芝浦パークでやるパブリックビューイングも駄目でした……」

 

 パブリックビューイングとは、街頭にて大型スクリーンを使って観劇をするサービスだ。

 2年前の2020年に行われた東京オリンピック・パラリンピックでも、同じ仕組みで多くの国民が一緒に観戦を楽しんだ。

 それを江戸川ミソラのライブでもやると言うことだ。

 

「それ何人が集まるやつ?」

 碧が訊く。

 

「ざっと250人です」

「その、パブリックビューイングは?」

 八雲も続いた。

 

「大体、65000人です」

 

 それでも当たらないのか。

 全員がミソラの人気に驚く他無かった。

 

 すると、森田のデスクの上の固定電話が鳴った。

 深月が落胆する中、森田は電話に出る。

 

「はい未確認物質解析班。……え?」

 

 普段、森田は電話で受けた内容には全てイエスを出す。生粋のイエスマンだ。聞き返すなんてことなまず無い。

 だが聞き返したと言うことは、それだけとんでもない内容と言うことだ。

 

「……分かりました」

 

 それでもイエスを出す。

 流石は生粋のイエスマンだ。

 

 そして電話を切ると、全員にいつものように声をかけた。

 

「皆さん、出番です」

 

 全員が準備を始める。

 こうなれば何処かの現場に行って、化け物退治をするのが彼らの仕事だ。

 

「で、今回は何処に現れるんです?」

 

 碧が訊くと、何故か森田は苦い顔をした。

 

「それが……」

「「「「「?」」」」」

 

 

 

「事故死の捜査、だそうです」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.03 09:20 東京都 千代田区 警視庁 17階

「お待ちしておりました。捜査の指揮をとっております、桜井(さくらい)と申します。宜しくお願いします」

 

 桜井(つよし)警部はもうすでに40代も後半に差し掛かる年齢の筈だが、それを感じさせない程に若々しかった。

 嘗て未確認生命体に前線で戦った桜井。その後は池袋署に勤務をしていたが、警部に昇級する際に警視庁本部に移動となり現在に至る。

 当時は正義に燃える熱血漢であったが、今はその面影は少なくなり、落ち着いた様子となっている。

 

 そんな彼によって案内をされたのは、広い会議室のような場所だった。

 椅子が大量に置いてあり、その前には大きなスクリーンがある。

 

 それぞれのメンバーが椅子に座り、桜井はモニターの横に立った。

 そして手元にあるiPadを使って、モニターに画像を表示した。

 

 表示されたのは、居酒屋らしき店内の写真だ。美味しそうな枝豆や鯵の開きが乗った器の前で、ぐったりとした人々が写っている。

 

「先週の土曜日、港区の飲食店で11人が亡くなる事故が起こりました。死因に関しては、全員が窒息死です」

「窒息死!? 11人もの人が一斉に窒息なんてするんですか?」

 

 あまりにも現実離れした出来事に深月が思わず声を上げてしまった。

 

 それもそうだ。

 同じ飲食店内で11人もの人間が一斉に死亡する。これが何かのテロならばさておき、その死因が窒息死と言う現実離れした現象が起きたのだから。

 

「えぇ、あり得ませんよ。ただ、もっとあり得ないことがありまして……」

「?」

 

「彼らは、どうやらパソコンを使って八戸、名古屋、徳島、福岡にいる計5名とビデオ通話をしていたらしいんですが……その方々も、ほぼ同じ時間に亡くなっています。死因は、やはり窒息死でした」

 

 想像の範囲を優に超えているため、誰もリアクションをとることが出来ない。

 どれだけ知識を蓄えた者でも、考えられない事象に対しては太刀打ちの仕様がないと言うわけか。

 

「フォルクロー、ですか?」

「我々はそう考えています。そのために、皆さんにご意見を頂きたいなと」

 

 そうは言われても、何をどうすれば良いのか分からない。

 手探りにでも始めるしか無かった。

 

「八雲君に訊きたいんだが、そんな能力を持ったフォルクローはいるのか?」

 森田が早速訊く。

 

「いや。遠距離から人を同時刻に殺す能力を持ったやつはいない」

 

 八雲の発言でこれから進む話は、振り出しどころかマイナスの方に進んでしまった。

 

「実は、これと同様の事が去年の11月から起こっているんです」

 

 さらなる爆弾発言に、全員はまた驚く。

 そんな彼らを他所に、桜井は画面を切り替えた。今度表示されたのはスーツを着た男性のバストトップだった。

 

「去年の11月30日。東京駅の中で出張に行く予定だった男性が突然倒れ、その後死亡しました。原因は同じく窒息死です。

 防犯カメラの映像を確認しても、特に何も以上は無く、結局原因は分からず仕舞いでした」

 

 次に表示されたのは、タキシードを着た男性とウエディングドレスに身を包んだ女性が笑顔で並んで立っている写真だ。

 その二人の顔に、全員見覚えがある様子だ。

 

「次に、12月12日。有楽町近くのマンションで男女の遺体が自宅の浴槽から見つかりました。これも窒息死です」

「それは、ヒートショックが原因だと発表があった筈ですが」

 

 確かにそうだ。

 ニュースでは、ヒートショック現象による心筋梗塞が原因だと報道されていた。

 

 冬場の風呂場では、暖かい風呂場と寒い脱衣所の急激な温度変化によって血圧が急変するために、心筋梗塞や脳卒中が起こりやすい。これが所謂ヒートショック現象だ。

 年間で14000人がこれによって亡くなっており、誰にでも起こり得ることだ。

 

「それが司法解剖の結果、内臓に鬱血(うっけつ)が見られたことや、背中に死斑が多く見られたことから、窒息死と判断されたんです。

 ただ、何故か翌日の報道ではただの心筋梗塞として報道された。はっきり言って、我々も全く分からないんです」

 

「つまり、誰かの圧力がかかった可能性がある、と言うことですか?」

 

 深月の発言に、桜井が静かに頷く。

 ますます意味が分からなくなってきた。

 

「3件目が先月の13日。新橋駅からすぐの居酒屋で、同じように窒息死で4人が亡くなっています。ただこれも、何故か心不全で公表された……」

 

 そんなことをして、誰の何の徳になるのか。

 まるで見当が付かない。

 

「窒息の原因は?」

 今度は碧が訊いた。

 

「横隔膜が麻痺したことによる、呼吸困難だそうです。ただ麻痺の原因は分かっていません」

 

 横隔膜は肺の中にある板状の筋肉で、呼吸をする際にその横隔膜が要となる。

 もしもこれが麻痺を起こせば、正常な呼吸が難しくなり、最悪の場合は自発呼吸が出来ずに死に至ってしまう可能性があるのだ。

 

「横隔膜麻痺の原因は神経障害や筋肉の障害、感染症などが考えられるが」

「それも全て違いました」

 

 森田の考えはもうとっくに調べられていた。

 だがそれも空振りだったらしい。

 

「となると、考えられるものだったら……神経毒?」

 

 薫の発言に全員がハッとする。

 確かに、横隔膜に付いている神経を麻痺させるような毒を使えば……。

 

「それは無いですよ。遺体を念入りに調べても何も出てこなかったんですから」

「いや、あり得る話ですよ」

 

 否定した桜井だったが、圭吾は肯定する。

 

「毒物の検査装置は、それまでの毒物のデータを基に毒物を見分けます。つまり、もしどれにも引っかからない新種の毒物の場合は、検出することは不可能と言うことです」

 

 流石はその手の機械を造ってきた男だ。

 説得力がまるで違う。

 

「じゃあ、フォルクローの犯行じゃない可能性もある、ってことですか?」

 

 深月が一先ずホッとした様子で言う。

 だが

 

「それはあり得ないな」

 

 今度は八雲が否定する。

 

「通常、神経毒は血液中に入ることでしか機能しない。けど、資料を見る限りは、どの遺体にも毒が入ったと考えられそうな穴は無かった」

「じゃあ、飲んだって言う可能性は?」

 

 今度は圭吾が答える。

 

「飲んでも死ぬことは無いですよ。胃酸で溶かされるか、溶けなくても浄化されて尿として排出されるかの2択しか無いですから」

 

「と言うことは、やっぱりフォルクローの犯行ですね……」

 

 結局、自分たちが来て良かったと言うことだ。

 

「もしフォルクローの仕業だったら、そのモチーフは何が考えられる?」

 

 森田の問いに、薫が暫く考えて発言した。

 

「うーん……。例えばテトロドトキシン*1を持っているフグやバトラコトキシンを持っているヤドクガエル科。または……コブラ?」

 

 すると八雲が何かを思い出したようだ。

 

「コブラ……?」

「? あるのか?」

 

 

 

「ああ。あのブラッドスタークがそうだ」

 

 全員が驚くと共に、納得した。

 奴は今までの戦いで、ずっと何かを気にしていた。そしてその度に戦いの途中に退散していた。

 その原因はこの殺人にあったのか……。

 

 と、その時。

 

 コンコン。

 ドアが2回ノックされた。

 

 そして開けられたドアの中から入って来たのは、井川だった。

 

「失礼します」

 

 想定外の男の来室に全員が混乱する。

 

「何をしに来た!?」

 

 桜井が訊くと、井川はまるで宥めるかのように左の掌を見せる。

 そうしながら何故か碧の方に近づいた。

 

「え? 何?」

「奥さん、この前私に依頼しましたよね? 常田海斗が何処から研究資金を調達したのか調べて欲しい、と」

「うん。……でも今!?」

 

 あまりにもタイミングが悪過ぎる。

 ただでさえ混乱している彼女たちをさらに混乱に陥れかねない。

 

「私だって忙しいんです。あと10分で次の現場に向かわなければならないですから」

 

 その言葉が本当かどうかは怪しいが、一先ず全員は井川の話を聞いてみることにした。

 

「調べてみたらそれっぽいのが1社ありましたよ。存在しない架空の会社に6年間も巨額の寄付をしていた企業が」

「それ、何処なんです?」

 

「平井ホールディングスです」

 

 再度驚きが走った。

 平井ホールディングスは日本有数の大手企業だ。不動産業から始まり、製薬業や自動車産業、その他様々な分野で幅広く活躍をしている。

 そんな企業があんな怪物創りに加担していた可能性があると言うのだ。

 

「それは、本当ですか?」

 

 森田が井川に訊く。

 

「えぇ。それで代表の平井勝司について調べてみたんです。そしたら、娘が2人いることが分かったんです。

 長女の亜美(あみ)は6年前に交通事故によって死亡。

 一方の美空(みそら)は……」

 

 

 

 

 

「あのアイドルの江戸川ミソラです」

「え、えぇっ!? みみみ、みーたんが!?」

 

 深月が本日2度目の大声を上げた。

 何せフォルクローの秘密に絡んでいるのが、「推し」の父親なのだから。

 

「ちょっと待って。平井ホールディングスって色んな番組のスポンサーになっているよね? だとしたら、多少の圧力をかけることは可能なんじゃない?」

「つまり、スポンサーのハードパワーで報道を操作したと言うことか?」

 

 森田の言葉に碧が頷く。

 

「あれ?」

 

 黙って発言を聞いていた桜井が声を出した。

 

「江戸川ミソラと言えば、2件目、3件目、そして今回と、被害者が同じ物を所持していたんです」

 

 そう言って桜井はモニターに写真を表示した。

 よくあるペンライトの写真だ。全体は白くブレードは透明で、柄の部分には丸いスイッチが設置されている。

 

「あ! これ! 今度のみーたんのライブで配られるペンライトですよ! ただ抽選で、ライブよりも前に送られてくる場合もあるんです」

 

 碧は思い出した。

 そういえば、深月が年明けにこのペンライトを仕入れるためにCDを買って欲しいと言っていた。

 なんとなく流していた情報が、ここで活かされることになるとは──。

 

「と言うことは、このペンライトに何か仕掛けがあって、それで全員殺されたってことですか?」

 

 

 

「なんか、まるでゲームみたいですね」

 

 圭吾の言葉に続いた薫の言葉で、その場の全員の背筋が凍りついた気がした。

 

 「ゲーム」。

 嘗て未確認生命体たちも、そう称して殺戮を繰り返してきた。

 ある者は特定の学校のクラスの生徒たちだけを襲い、ある者は自分と一緒に電車に乗った者を殺害。またある者はフレデリック・ショパンの「革命のエチュード」のメロディラインの音に合わせて殺戮を行った。

 それと同じことを、彼はしていると言うことだ。

 

 ようやく全貌が見えかけてきた。

 彼はどうやらゲームのようにペンライトを持った人間を殺害していっている。

 

 だが、どうして……?

 

「碧君と八雲君はその平井勝司に、深月君は念のために江戸川ミソラのところへ、話を聞いてきてください。

 で、薫君と圭吾君はペンライトを作った製造会社の方へ。三者のところには、私が話をつけておくので」

 

 そして一旦、全員が解散をした。

 何か、嫌な予感を感じながら。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.03 09:50 東京都 中野区 トキワヒルズA 602号室

 さて、一方その頃、八雲の言わば部下である三人は、家の中で待機をしていた。

 

 八雲と同じくSOUPの仲間となった彼らだが、正式な仲間では無い。

 何せ八雲が非公式に連れて来た者たちなのだ。

 先方も迂闊に信用することは出来ないと言うことから、出動が出るまでは自宅待機と言う形になったのだ。

 

 そのため、彼らは今、非常に暇なのである。

 

「なぁ」

「ん?」

「流石に暇じゃねぇか」

 

 シドがソファに寝転びながら言う。

 

「同感。もう3日も家出てないからね」

 

 キッチンにいたヨーコもシドと同じ意見のようだ。

 

「私は別に悪くないと思うがね。作りたい物が作れる」

 

 対して食卓を囲む椅子に座るリョーマはノリノリだ。

 手元には三人が使っているのとはまた別の、赤い果実のオブジェが付いたロックシードが握られている。

 

「この先、私たちどうなるのかしらね?」

「どうなるって?」

 

「決まってるでしょ。もし零号を倒したとして、その時には私たちは必要なくなる。そうなったら、どうなるのかって」

 

 ヨーコの指摘に、二人とも俯く。

 暗い表情を浮かべた三人の間に、暫く沈黙が流れた。

 

 すると

 

「まぁなんとかなるさ。気にしない気にしない」

 

 リョーマが脳天気に言った。

 その場の沈黙を掻き消す言葉に、ヨーコとシドは笑みを浮かべる。

 

「そうだな。ま、俺は全部終わったら豪遊しまくるぜ。何たって、世界を救ったナイスガイなベジタリアンになるんだからな」

 

 シドが同じく脳天気に言う。

 

「生きていたら、の話でしょ。そうね、私は普通に就職するかな。行く当て無いけど」

 

 ヨーコも頭の中に何かビジョンを浮かべて発言をした。

 

「私は……まぁ、ゆっくり考えるとしよう」

 

 リョーマは手に持っているロックシードを食卓の上に置いた。

 

 束の間の休息。

 全て忘れて今後のことについて考えを膨らませていた時、ふとヨーコが話を切り替えた。

 

「そう言えば、スタークっていつもどうしてるんだろう?」

「? どうしたんだよ急に」

 

「いやだって、スタークの姿があれしか無いとは思えないし、怪人態だけのフォルクローが人の言葉を話すなんてありえないし……」

「確かに。なんか人間態はあるとか言ってたけど見たことねぇし、会おうとしたら『仕事が忙しい』とかで全然会ってくれねぇし」

 

 シドが釣られて彼に対する愚痴を溢す。

 そのせいで、先程までとは一転し、部屋の中に嫌な雰囲気が立ち込めてくる。

 

 自覚してはいたが、敢えて全員がそれを無視し、その後は普段通りの生活を営み始めた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.03 13:49 東京都 港区 中央テレビ 7階 Cスタジオ

「それでは、また明日お会いしましょう。良い午後をお過ごしくださーい!」

 

 番組のMCを務める中年の男性は挨拶をすると、他の出演者たちと一緒にカメラに向けて手を振る。それに合わせて観覧している者たちが拍手で応え、番組は終わった。

 

 ディレクターの合図で生放送は終わり、全員が観客たちに一礼をして今日の収録は終わった。

 

 舞台袖に去って行く出演者の中に、江戸川ミソラの姿もあった。

 トレードマークの金髪と赤いリボンはそのままに、白いロングTシャツの上からオーバーオールを履いている。いつも華やかな格好をしている彼女とは程遠い格好ではあったが、それでも確かに華があった。

 

「ミソラちゃん。ちょっといい?」

 

 横から眼鏡をかけた男性が話しかけてくる。どうやらマネージャーのようだ。

 ふと疑問に思ったミソラであったが、一先ず彼に着いて行くことにした。

 

 

 

 楽屋で待っていたのは深月だった。

 目の前に推しがいると言う奇跡のような状況を堪能しているからか、異様に浮き足立っている彼であったが、職務中であるために全力で隠す。

 

 そして互いに向かい合うように座って、深月の話を聞いた。

 

「そうは言っても、私は何も知りませんからねぇ……」

 

 まぁ、それもそうか。

 何せいくら自分のグッズから毒物が出た可能性があると言っても、当の本人はそれに関係していないのだから。

 

「そうですよね。有り難うございました」

 

 これ以上訊いても何も出てこないだろう。

 そう思った深月は立ち上がって一礼すると、楽屋の引き戸を開けた。

 

「あ、そうだ」

「?」

「あの……ライブ、応援してます」

「! 有り難うございます!」

 

 屈託の無い笑顔でミソラが礼を言う。

 その笑顔に昇天をしそうになりながら、深月はゆっくりとその場を後にした。

 

 

 

 それから少しして、ミソラは廊下の角にある自動販売機で飲み物を買っていた。

 

 すると

 

「ミソラちゃん」

 

 横から声をかけられた。

 見るとそこに立っていたのは、先程共演していた男性アイドルだった。ツーブロックの黒髪で結構ガタイの良い。

 

「この後、飯行かない?」

「いや、結構です」

 

 毎週欠かさず声をかけて来るこの男。はっきり言って迷惑だ。

 

「そんな硬いこと言わずにさぁ」

 

 軽々しく右腕を掴んできた。

 恐らく、体格差で勝てると思っているのだろう。

 

「……じゃあ、ちょっと来てくれませんか?」

 

 

 

 

 

 テレビ局の地下駐車場では、多数のロケバスや事務所の車が置かれている。

 だがこの時間は、ロケに行くスタッフが少ないことから、人気は特に無かった。

 

 その中で、ガタイの良い男の荒い息の音が響いた。

 車に身を預けながら倒れ、口と鼻からは多量の血が流れている。

 

 そんな彼のことを、ミソラは見下していた。

 睨みつける彼を笑顔で見つめる。

 

「駄目ですよ、私に手ぇ出しちゃ」

 

 いつもの可愛らしい声を出しながら、ミソラは膝立ちになって男の目線に合わせる。

 

 そして、男が意識を失う寸前に聞いた声は──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何たって()は、みんなのアイドルだからな」

 

 その可愛らしい見た目では想像がつかないような、低い男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What means "idol"?

A: It means who is admired and respected by everybody. But, it has the other meaning.

*1
所謂フグ毒のこと。




【参考】
小説 仮面ライダークウガ
(講談社, 荒川稔久著, 2013年)
東京の過去の天気 2022年1月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220100/)
Tamaki Matsumoto(@tamaki0207matsumoto)・Instagram写真と動画
(https://www.instagram.com/tamaki0207matsumoto/)
コーヒーを淹れる|おいしいコーヒーの淹れ方|知る・楽しむ|コーヒーはUCC 上島珈琲
(https://www.ucc.co.jp/enjoy/brew/drip.html)
山手線の路線図・地図 - ジョルダン
(https://www.jorudan.co.jp/time/rosenzu/%E5%B1%B1%E6%89%8B%E7%B7%9A/)
警視庁と警察庁の内部、ホントのところ
(https://www.fbijobs.jp/police/keisityou-keisatutyou)
警察の階級とは?警察官の階級で就ける役職にも違いがある
(https://www.police-ch.jp/keisatsu_kaikyuu.html)
2023年版 警視庁と捜査一課管理官
(https://www.fbijobs.jp/police/keishityou/kanrikan)
冬場に多発! 温度差で起こるヒートショック|済生会
(https://www.saiseikai.or.jp/medical/column/heatshock/)
窒息 - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e7%aa%92%e6%81%af)
死斑 - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e6%ad%bb%e6%96%91)
ヘビ毒 - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%93%E6%AF%92)
横隔膜麻痺について|メディカルノート
(https://medicalnote.jp/diseases/%e6%a8%aa%e9%9a%94%e8%86%9c%e9%ba%bb%e7%97%ba)
神経毒 - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e6%af%92)
劇中放送局一覧表 - テレビ資料室 - テレビる毎日
(https://cozalweb.com/ctv/shiryo/broadcaster.html)
IDOL|意味, Cambridge 英語辞典での定義
(https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/idol)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question041 Why did she do that?

第41話です。
スタークの真の力を見せる時が来た……!
感想等書いてくださりますと、筆者の励みになります。
宜しくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.02.03 13:10 東京都 品川区 平井ホールディングス本社 19階 社長室

 さて、平井に話を聞いている碧と八雲であるが、平井は一向に話をしない。

 ただでさえ忙しい彼だ。もしこの機会を逃せば、いつまた事情を聞けるかどうか分からない。

 なんとかして話を引き出さなくては──。

 

 すると

 

「お二人は、誰か大切な方を亡くされたことはありますか?」

 

 突然平井が口を開いた。だが出た内容は全く関係の無いことである。

 

「「え?」」

「……ありますよね? 私には分かります。同じですから」

 

 平井は突然立ち上がって自らのデスクの方へと向かい、自身の席に着席した。

 何をするつもりかと碧と八雲も立ち上がってそっちを向かおうとする。

 

 その時、壁に付けられているテレビに映像が映った。

 

 そこに映っているのは、眠っている女性の顔だった。だが撮っているカメラのレンズに霜らしきものが付着しており、やや見にくくなっている。

 映っている女性の顔に、二人は見覚えがあった。

 

「これって……」

 

 

 

「娘の亜美です」

「「!?」」

 

 衝撃的な言葉に二人は声を出せなくなる。

 何せ平井亜美はもうすでに亡くなっている筈なのだから」

 

「え、でも」

「言いたいことは分かります。亜美はもうすでに事故で死んだ。けど、こうして遺体を保存しています」

 

 この発言で、碧と八雲の脳裏にある一つの言葉が浮かび上がった。

 

 コールド・スリープ。

 それは様々な理由で未来に身体を残す必要がある人々が、身体を急速冷凍することによって半永久的に保存する技術のことだ。

 

「娘をこうして冷凍保存し、未来で蘇生させる。そのためにこうしているんです。けど……もし今の技術で生き返らせることが可能ならば、それは素晴らしいことでしょうね……」

 

 そう言う平井の顔は良く見えなかったが、表に出ていく時の笑顔は消えているような気がした。

 

 そして、平井勝司への聞き取りは終わったのだ。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.03 18:49 東京都 新宿区 SOUP

「これが、現場にあった物と同じペンライトです。製造会社から持ってきました」

 

 薫の手に握られていたのは、白いペンライトだった。彼女の言う通り、現場にあった物と同じである。

 

「設計図を見てみても、特に妙な部品は無かったですね。何処から毒が入ったのか……」

 

 圭吾が頭を抱えながら言う。

 彼がそう言うのだから、本当に見当たらないのだろう。

 

「なんだったら、私、押してみようか?」

「いや、ちょっと待ってください! いくらなんでも危険過ぎますよ!」

 

 碧の提案を、深月が全力で止める。

 だが碧はその警告を無視して、ペンライトを右手に取る。

 

 そして、ペンライトのボタンを押した。

 

 しかしながら何も起こらない。

 試しに振ったりもしてみたが、身体に異常が起こることは無かった。

 

「何も起こらないですね」

 圭吾が呟く。

 

「そうですね……」

 薫も同調した。

 

 ペンライトを自身のデスクに置いて着席をする碧。

 何も起こらずに全員がホッとした。

 

「話を戻すと、平井社長はやっぱり()()か」

「ああ。間違い無くそうだな。フォルクローに改造出来るような技術力で娘を蘇らせようとしているんだろうな」

「そのために常田海斗に出資をした……」

「恐らく、そうだと思います」

 

 これで平井がフォルクローの開発に関わっていたことは、ほぼ確定と言うことだ。

 全ては娘のために。

 

 暫く流れる沈黙。

 

 すると突然、八雲が声を発した。

 

「待てよ……。『ゲームみたい』とか言ってたけど、ゲームに与えられた条件はペンライトだけか?」

 

 八雲の発言に全員が首を傾げる。

 

「だって、最初の被害者は1人。2件目は2人。3件目は4人。そして今回は、計16人。殺害人数が規則正しくなっている。これって、ただの偶然か……?」

 

 頭の中で考えてみる。

 最初の1人、その次の2人は除いてみても

 

 $4=2^2$

 $16=4^2$

 

 前の被害者人数を2乗した数が、次の殺害人数と言うことになる。

 その規則性に、やはり全員が22年前の「殺戮(ゲーム)」を思い出してしまった。

 

 と同時に、碧と八雲、深月は怒りを覚えた。

 そんなゲームに、彼らの親は殺されたのだ。そして今もまた、ゲームが実行されている。

 

「それに場所もだ」

 

 今度は森田の解説が始まった。

 

「まず1件目は東京駅。2件目の被害者たちの最寄駅は有楽町駅。3件目の事件が起こった居酒屋は新橋駅の近く。そして4件目は浜松町の居酒屋。

 東京駅を最初に、山手線の外回りの駅の順番に殺害されていっている」

 

 全員が言葉を失った。

 ここまでも徹底しているとなと、最早感心さえしてしまう。

 

 恐らくは、これ以上の犯行は行われない筈だ。

 後はスタークを叩けば良いだけ。

 

 すると

 

「お待たせしましたーっ!」

 

 突然後ろから深月の声が聞こえてきた。

 振り向くと、その両手には何か大きな物が入った大量のビニール袋がある。

 

「どうしたの? それ」

「え? だって今日は泊まり込みになるかもしれないから、いつものお店にお弁当作ってもらうことにしたじゃないですか」

 

 そう言えばそうだった。

 捜査が難航する可能性があるために、()()()に弁当を作るように依頼していたのだ。

 だが、結局謎は殆ど解けてしまった。

 

 とは言え食べないのも勿体無い。

 深月から手渡された弁当を全員手に取り、自身の机で食べ始めた。

 

 そして深月は突然、モニターのリモコンを持って電源を点けた。

 表示されたのは夕方にやっているニュース番組だった。

 

「どう言うことだ?」

「この後やる番組にみーたんが出てくるんです。みーたんに事件が関わってるんだから、折角だし観ましょう」

 

 この際だ。

 折角だし観ることにしてみよう。

 

 時刻は19時になった。

 ニュース番組は終わり、次の番組が始まった。

 

 タイトルは「中テレ系 バラエティ大集合! 生放送3時間スペシャル」。

 司会はベテランのお笑い芸人で、アシスタントは中央テレビの女子アナウンサーだ。そしてひな壇には多くの出演者たちが座っていた。

 

 よくあるバラエティ特番に変わりは無い。

 

 暫くスタジオでのトークがあって、その後に司会の合図で何処かと中継が繋がった。

 そこに映っていたのは

 

「あ、みーたんだ!」

 

 江戸川ミソラ(渦中の人物)であった。

 どうやら着ているのは、6日のライブで着る予定の衣装らしい。黒いゴシック調のドレスで、頭部のリボンが輝いている。

 

 彼女はテレビの前の視聴者とスタジオの共演者に向けて、右手を挙げてを手を振った。

 

『みーたん。今日、番組の企画でスマホを使うんだけど、みーたんも協力して貰える?』

『勿論です!』

 

 ミソラよりも先に深月がスマートフォンを取り出す。

 そんな深月を横目に、他の全員が箸を進ませながら見ているモニターの中では、ミソラが鞄の中からスマートフォンを取り出した。

 

 

 

 と、その時。

 

「あーーーーーっ!」

 

 突然碧が立ち上がって叫んだ。

 

「ど、どうしました?」

「あれっ!」

 

 碧が指差した方は、ミソラのスマートフォンだった。

 表面に兎のキャラクターのステッカーが貼ってある、ピンクのスマホケースが付けられている。

 

 

 

「あれ、スタークが使っていたスマホと同じじゃない?」

 

 碧の言葉に驚いた深月が、自身のパソコンに先日の戦いの時の映像を表示する。

 

 そこに出ていたのは、今テレビに出ているスマートフォンをスタークが持っている様子だった。

 

 それに碧以外の全員が絶句する。

 そして一つの仮説が浮かび上がってきた。

 

 

 

「まさか……彼女がスターク……?」

 

 八雲が口に出してしまった。

 

 しまった、と全員が思った。

 深月はミソラを推している。彼の前でそんなことを言うのは、以ての外とも言うべきだ。

 

 だが、当の本人は、テレビの画面が映っているモニターをじっと見つめて言った。

 

「みーたん……。いつもは両手で手を振っているんです。けど……今日は右手だけで手を振っていた……。

 確か、碧さんはスタークの左腕に剣を突き刺していましたよね……?」

 

 震える声で言った深月。

 

 そして、全ての点が繋がったような感覚に全員が襲われた。

 

 平井勝司がこの事件について情報操作を行ったのは、犯行を行ったのが自身の娘だったから。

 

「じゃあ、平井はそのために娘を改造させたってことですか?」

 圭吾が訊く。

 

「そう考えるしか無さそうですね」

 薫が全員の考えを代弁した。

 

 本当であれば、常軌を逸した行動であろう。

 実の娘のために、実の娘の人生を犠牲にする。

 通常では考えられないことだからだ。

 

 

 

「これで終わりですかね……?」

 

 深月が呟いた。

 

「どう言うことだ……!?」

 

「仰っていましたよね? 『殺害人数は前の被害者の数の2乗になっている』って。

 前回が16人だから、その2乗で256人。その次はさらに2乗して65536人。

 ……これ……256人がパブリックビューイング、65536人が次のライブの集客数に近いんですよ……」

 

 その言葉に絶句する。

 まだ、終わってはいなかったのだ。

 しかも今度は、今まででは考えられない程の人数が犠牲になる。

 

「すぐに江戸川ミソラを任意同行する。警視庁本部に問い合わせておく」

 

 森田が急いで固定電話で連絡をとり始める。

 その間、他の全員はモニターに釘付けだった。

 画面ではミソラが笑顔で受け答えをしている。

 だが彼女が人を殺しながら笑顔を浮かべていると思うと、背筋が凍ってくる感覚がしてきた。

 

「一刻も早く、彼女をどうにかしな」

 

 何故か碧の言葉が止まった。

 

 

 

 そして、突如として床に倒れ込んでしまった。

 

「碧っ!」

 

 八雲が碧の方に駆け寄る。

 

 彼女の身体を確認すると、首や顔にまるで血管のように紫色の線が不規則に浮かび上がっている。

 その線をかき消そうとするかのように、首を両手で押さえながら苦しんでいる。

 

「大丈夫か!?」

「……成程ね……」

 

 すると碧が荒い息の中で、何かを呟き始めた。

 聞き漏らさないように耳を傾ける八雲。

 

「すぐに毒が回るわけじゃ無いんだ。

 ……多分、ペンライトのボタンを押した時に、気が付かない程の穴を開けられて、そこからすごく少量の毒が回るんだ……。

 だから、押してから10分くらい時間がかかったんだ……。グァッ!」

 

 また苦しみ始めた。

 もう声を出すことは出来ず、ただ喘ぐことしか出来ない。

 

 その時だった。

 

「「あれ?」」

 

 薫と圭吾がテレビを観ながら呟いた。

 

 見るとミソラが何処かのスタジオの中におり、ドラムの目の前に立っている。

 そしてミソラはスティックを持つとドラムを叩き始めたのだ。

 

「どうした?」

「いや、この叩き方、なんかおかしくないですか?」

 

 よく観てみると、叩き始めたその位置は椅子の上ではなくハイハットシンバル*1の前で、尚且つハイハットだけを叩き始めた。

 それはクラシックや吹奏楽では決して珍しいことではない。曲によってはトム*2やキック*3を使わないことがあるため、ハイハットシンバルを単体で使うことがあるからだ。

 

 だが、おかしいことではなかった。

 明らかにビートを刻めてはいないし、オープンとクローズもまるで規則性等が無い。

 ただ単にリズム感が無い初心者と言えばそれまでだが、二人は何か引っかかるようだ。

 

 

 

「これは……モールス信号じゃ無いのか……?」

 

 森田が画面を観ながら呟いた。

 そしてリモコンでモニターを操作して、もう一度演奏を聴き、メモ用紙にボールペンで一つずつメモをしていく。

 

 その結果が以下の通りだ。

 

 

 

 タカナワ

 アス、ナナ

 

 

 

「それ、どう言う意味だ?」

 

「『タカナワ』……。高輪ゲートウェイ駅のことか?」

「じゃあ、明日の7時に高輪ゲートウェイ駅に来い、ってことですか?」

「でも何のためですか? ただの罠かもしれないですし……」

 

「兎に角行くしか無い。念の為、碧君も連れて行く」

 

 森田を最後に、この日は終わった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.04 06:58 東京都 港区 高輪ゲートウェイ駅

 この駅は、まさに「日本の玄関」を印象づけるように折り紙が屋根のモチーフとなっている。

 全体がガラス張りで開放感のあり、晴れたこの日には打って付けの場所だ。

 

 中にあるホームの上のスペースで、八雲とその下っぱ四人、そして深月は辺りを見渡していた。

 そして外の道路には、救急車と遊撃車が停まっており、救急車の中では碧が苦しみながらストレッチャーの上に横たわっている。

 

 早朝に通勤する人たちで溢れる駅の中。

 その中に、必ず彼女は現れる。

 

 

 

 と、その時だった。

 

「おはようございまーす」

 

 目の前から可愛らしい声が聞こえてきた。

 

 声のする方に立っていたのは、江戸川ミソラだった。

 八雲たちの方は向いておらず、右腕を上へ大きく挙げている。

 

「みんなのアイドル〜、みーたんだよ!」

 

 両手を顎に当てて可愛くポーズを決める。

 

 マスクやサングラス等、顔を隠すことを全くしていないために、通行人はすぐに彼女に気がついた。

 何故、人気アイドルの彼女がここにいるのかは皆目見当つかないが、目の前に繰り広げられた光景をスマートフォンで撮影し始める。

 

「今日は、みんなにお願いがあるんだ」

 

 するとミソラの言葉と共に、野次馬の後ろに黒装束の集団が現れた。

 

「ソルダート……!」

 

 彼らの手元にコンバットナイフが握られていることが分かると、野次馬たちは悲鳴を上げながら一目散に逃げていった。

 だがミソラは野次馬たちと逃げ出すことは無く、少し離れたところにいる八雲たちの方を見る。

 

「とうとう気が付きましたか」

 

 ニッコリと笑みを浮かべる。

 テレビで観ているのと同じ笑顔であるが、怖さを感じてしまう深月。

 

「みーたん……。どうしてこんなことを……」

 

 

 

 すると、ミソラはハァと溜息を一つ吐いた。

 

()は言わば、利用されたんだろうな」

 

 ミソラの口から出て来た声は、スタークと全く同じものだった。

 可愛らしいルックスの者から、低い声が放たれることに驚く全員。

 

平井勝司(あの男)は、死んだ娘のために()()()を改造した。その技術を使って、娘を生き返らせることが出来るかを検証するための研究材料としてな」

「ん? ちょっと待てよ」

 

 八雲がミソラの発言に引っ掛かった。

 

「『この女』って、お前、自分のことだろ? 何でそんな言い方するんだ?」

 

 確かに、自分のことを第三者のように表現することはかなり不自然だ。

 

 八雲の発言を聞いたミソラは手を1回叩いて、両手の人差し指で八雲を指差しながらニヤリと笑う。

 

「流石! よく気が付いたな。

 俺はこの女を操っているだけに過ぎない。この女は改造された時のショックで自分の意志を失った。それを埋め合わせるために、俺が寄生させられた、ってわけだ」

 

 要は今喋っているのも、犯行を繰り返していたのも「江戸川美空」本人では無く、作られた「江戸川ミソラ」と言う別の人間だった、と言うわけだ。

 

「さて、アンタの妹がペンライトを押すのは想定外だったから、大サービスで毒は消しておいてやるよ」

 

 次の瞬間、彼女の目が赤く光った。

 それと同時に、八雲たちの無線に着信が入る。

 

『椎名碧から突如として毒素が消失。急速に快方に向かっていっています……!』

 

 どうやら彼女が行ったサービスは本当らしい。

 

 するとミソラは徐にトランスチームガンと、1本の紫色のボトルを取り出した。紫色のボトルの全面には、コブラを模様したものが貼られている。

 

 ボトルをトランスチームガンに挿し込もうとしたその時、乾いた音と共にミソラの左手に衝撃が走った。

 見ると左手に握られていたボトルが粉々に割れ、破片が手から落ちていく。

 

 そして目の前では、深月が拳銃の銃口をミソラの方へ見つめていた。

 その目は真っ直ぐと標的の方を睨んでおり、再度引き金に指をかけようとしている。

 どうやらもう、迷いは無くなったようだ。

 

 ボトルを破壊されたミソラは顔を下に向ける。

 その間に深月は銃口を向けながらゆっくりと近づいて行く。

 

 

 

 だが、徐々に何かが聞こえてきた。ミソラの方からである。

 何だ何だ、とじっとミソラの方を見る全員。

 

「フハハハハハハ!」

 

 顔を前に向けた。

 彼女が向けた顔は、明らかに満面の笑みであった。

 

「まさか、俺がもう変身出来ないとでも思っているのか? だったら、見当違いだな」

 

 するとミソラはトランスチームガンを放り出し、何かを取り出した。そしてそれを腹部に装着すると、1本のドライバー──エボルドライバーになった。

 全体が赤いドライバーで、右側には2つのスロットが、左側には青色のレバーと天球儀のような丸いパーツが付いている。

 

 そして彼女は2本のボトルを取り出した。左手に握られているのはコブラの頭部を模したオブジェの付いた真紅のボトルで、反対にはプレス機を模したオブジェが付いた黒いボトルが握られている。

 

 ボトルのキャップの部分を正面に合わせてスロットに挿し込んだ。

 

『コブラ! ライダーシステム! エボリューション!』

 

 レバーを回し始めると、オブジェが交互に上下運動を始め、聴き覚えのある声が聞こえてきた。

 それはベートーヴェンの「歓喜の歌」をサンプリングしたもので、原曲の荘厳さは無くただ歪にしか聞こえない。

 

 その間、ミソラの周りにプラモデルのようなものが現れ、前と後ろには人の体の半分側を模した形のパーツがそれぞれ付いている。

 

『Are you ready?』

 

 そして腕を胸の前でクロスし、笑みを浮かべながら静かに言った。

 

 

 

「変身!」

 

 腕をまるでこの空間を掌握するかのように広げた瞬間、前後にあるパーツが身体に貼り付き、ミソラの身体は異形の者へと変貌を遂げた。

 

 赤い体に金色の鎧が着いており、その額と胸にはドライバーにあるような天球儀を模様したパーツが着けられている。

 禍々しくも、そのフォルムにあっと言わされるような見た目であった。

 

『コブラ! コブラ! エボルコブラ! フッハハハハハハハハハハ!』

「エボルト、フェーズ1、完了」

 

 仮面ライダーエボル コブラフォーム。

 嘗て宇宙の全てを喰らおうとした者が、再び現れた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why did she do that?

A: All for her happiness.

*1
スタンドに2枚のシンバルを重ね合わせるようにして設置した、打楽器の一種。ドラムセットではビートを刻むために使用する。

*2
様々な口径のものが存在する打楽器の一種。

*3
ドラムセットの中で、足で演奏をするバスドラムのことをこう呼ぶ。




【参考】
「仮面ライダービルド」第34話『離れ離れのベストマッチ』
(脚本:武藤将吾, 監督:柴崎貴行, 2018年5月6日放送)
Easy Copy Mathjax
(https://easy-copy-mathjax.nakaken88.com)
山手線の路線図・地図 - ジョルダン
(https://www.jorudan.co.jp/time/rosenzu/%e5%b1%b1%e6%89%8b%e7%b7%9a/)
ほぼ完成の高輪ゲートウェイ駅 気になる内部を公開|鉄道ニュース|鉄道チャンネル
(https://tetsudo-ch.com/9897261.html)
噂の新駅ってどんな感じ?開業間もない高輪ゲートウェイ駅に降りてみた! - Tripa(トリパ)|旅のプロがお届けする旅行に役立つ情報
(https://www.nta.co.jp/media/tripa/articles/D04ZG)
変身ベルト DX エボルドライバー|仮面ライダーおもちゃウェブ|バンダイ公式サイト
(https://toy.bandai.co.jp/series/rider/item/detail/5617/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question042 What did her spirit make?

第42話です。
ちょっと、ね。
結構辛い回になると思いますが、宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
Roselia - 閃光

【イメージED】
AI - 最後は必ず正義が勝つ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.02.04 07:00 東京都 港区 高輪ゲートウェイ駅

 八雲たちがいる場所の下にある、山手線のホーム。上で非常事態が起こっているからなのか、誰もいない。

 彼ら以外は。

 

 今まさに変身を遂げようとしているミソラの様子を、平井勝司とアールたち三人が眺めていた。

 

「本当に、あれで良かったんですか?」

 アールが平井に話しかける。

 

「? どう言う意味だ?」

「貴方は片方の娘さんのためにもう片方を改造し、尚且つ自我を失った彼女に二十九番を憑依させることで生きながらえさせた」

 

「それを提案したのは君たちだろ」

「けどそれを受理したのは貴方よ。変身出来る彼女の能力は素晴らしいからね。けど、もう私たちには手がつけられなくなっちゃった」

 

 フロワが釘を刺すように言った。

 それ以降、平井は何かを言いたそうにしていたが蓋をされたように言葉が出せなくなってしまう。

 

「とにかく、私は君たちに自分でも信じられない程の金額を注ぎ込んできた。後は、分かっているね?」

「はいはい。分かった分かった。だからおじさん、ちょっと黙っててね。期待に沿う形にはなると思うから」

 

 期待に沿う形。

 人間をフォルクローに改造する技術を使って、死んだ娘を甦らせる。

 そのために彼は多額の投資をし、自身の会社がスポンサーを務めるニュース番組に圧力をかけて、情報を操作してきたのだ。

 だからこそ、このクライアントから失敗は許してもらえない。

 

 だがアールたちは戦々恐々とすることは無く、ただニヤリと微笑んで上で繰り広げられる光景を見つめていた。

 

 

 

「エボルト、フェーズ1、完了」

 

 上では、江戸川ミソラが「エボル」と呼ばれる形態へと変貌と遂げていた。

 

 新たな姿になった彼女に驚きを隠せない五人。

 だがすぐに深月を遊撃車の方へと帰した他の四人はドライバーとそれぞれのアイテムを取り出した。

 

『"NEX-SPY" LOADING』

『レモンエナジー!』

『ピーチエナジー!』

『チェリーエナジー!』

 

「「「「変身!」」」」

 

 同じように姿を変えた八雲たち。

 各々が武器を取り出してエボルへと立ち向かって行った。

 

 まずはシグルドの左手に持たれた弓の刃がエボルの体に当たろうとする。

 だがエボルはその刃を右手で受け止め、ゆっくりと前へ押し出す。

 そして空いている左手でシグルドを押し返した。

 

「ノッ!」

 

 飛ばされるシグルドをしっかりと掴んで立て直すネクスパイ。

 代わりにデュークとマリカが同じ武器を持って敵に立ち向かって行った。

 

 2つの刃がぶつかろうとしたその時、エボルの身体が突如として液状化。攻撃は空振りに終わってしまう。

 お返しとして、いつの間にか背後に立っていたエボルに、掌から放たれた衝撃波で吹き飛ばされてしまった。

 

「「グァッ!」」

 

 今度はネクスパイが自身のスタンガンでエボルに攻撃を仕掛ける。

 その攻撃が胸部に当たり、若干たじろいだのだが、やはり明確なダメージは与えられていないようであった。

 

 続くようにデューク、マリカ、シグルドが武器でエボルに攻撃をしようとした。

 

 するとエボルは左の掌に赤黒い球を作り出した。

 そしてそれをバウンドのように自身の足元に叩きつけると、辺りに衝撃波が走って向かって来た四人は吹き飛ばされてしまった。

 

「行っておくが、フェーズ1の今の俺は2パーセントしか力を出していない。それで言えば、お前たちは、俺にとっての1パーセントにも満たないと言うわけか?」

 

 余裕そうな声を出すエボル。

 その態度に苛ついたのは全員であったが、その中でも特にシグルドが苛ついていたようだ。

 

「舐めやがってっ!」

 

 シグルドが再び剣を握り締めて向かって行こうとする。

 そんな様子を見ていたエボルは、一つ溜息を吐いた。

 

 

 

「仕方ない。じゃあ、()()()()()()

 

 

 

 

 

 丁度同じ頃、()()()()()()では花奈と海斗が向かい合って話をしていた。

 海斗は黒い線の入った青色のマグカップで、花奈はいつもの白いマグカップでコーヒーを飲み干す。

 

「それにしても、よくあんなにパトロンから資金を取れましたね」

「あぁ。はっきり言って、簡単だったよ。彼から取るのは」

 

 花奈のデスクにあるコーヒーメーカーからサーバーを取り出して、中のコーヒーを注いでいく。

 もう少しでサーバーの中身は無くなりそうだ。あと一杯分があるかどうかも判らない。

 

「ところで、エボル(百五十四番)になった江戸川美空の最大の能力って何?

 貴方は、『もう手をつけられない』って言っていましたけど」

 

 すると海斗はサーバーの中の僅かな中身を、自身のマグカップの中に入れ始めた。

 どうやら中をいっぱいにするだけの量はなかったらしく、半分程しか貯まらない。

 

「それは、見れば分かるよ」

 

 そして海斗はそれを一気に飲み干し、ニヤリと笑みを浮かべた。

 その笑みに、花奈は何か底知れぬものを感じ取りながら、ゆっくりと他所を向いた。

 

 

 

 

 

 さて、話の議題に上がった本人は向かって来るシグルドの方を見つめながら、ドライバーの青いレバーに手をかけて回し始めた。

 変身の際と同じく、歓喜の歌をベースとした音楽が流れ始める。

 

『Ready go!』

 

 右足を後ろにして腰を落とす姿勢をとるエボル。

 すると後ろの右足の周りに、まるで宇宙のような色をした円形のものが浮かび上がり、それが彼の右足へと集約されていく。

 

『エボルテックフィニッシュ! チャオ!』

 

 大きな赤い複眼が光った瞬間、全員に嫌な予感が走った。

 

「逃げてっ!」

 

 だが走り出してしまったシグルドは急には脚を止められない。

 そのため、声を出したマリカがシグルドのもとへ走り出し、シグルドを横にはね飛ばしてその立ち位置についた。

 

 と、次の瞬間、力の籠った右足がマリカを襲った。

 

「ギィァァァァッ!」

 

 吹き飛ばされることは無く、彼女は爆発に巻き込まれた。

 

 止んだ後に見えたのは、変身を解除されたヨーコが膝から崩れ落ちていく姿だった。

 

「ヨーコっ!」

 

 ネクスパイの悲痛な叫びが駅の中にこだまする。

 その叫びに気がついたヨーコがゆっくりと、声がした後ろの方を向いた。

 

 何かを言っているようであるが、口がパクパクと動いているようにしか見えず、何を言いたいのかが全く分からない。

 

「折角だし、お前たちに教えてやるよ」

 

 エボルの声によって、見なければいけない対象は2つになった。

 

「俺たちフォルクローがアイテムを作り出す方法は3つある。

 一つ目は自分の身体、と言うよりエネルギーを削って精製すること。

 二つ目はシンプルに自分で開発をすること。

 そして三つ目は……」

 

 するとエボルは一つのアイテムを取り出した。

 歪な形をした砂で汚れた石のような色味をしたものだ。

 

 それを突然、ヨーコの方へと向けた。

 

 その瞬間、突如としてヨーコの体は徐々に粒子状に崩れていく。粒子は徐々に右手に握られたアイテムの中へと吸い込まれていく。

 

 徐々に粒子が生まれ出してきた時に、ネクスパイたちはヨーコの口からどんな言葉が出ようとしていたのかを悟った。

 

 

 

 

 

 たすけて

 

 

 

 だがそれに気がついた時にはもう遅く、助けを求めていた当の本人は消えてしまっていた。

 

 あまりのことに誰も声を出すことが出来ない。

 何かを放とうとするが、唇が震えて上手くいかない。

 

 そんな彼らを他所に、エボルは言葉の続きを教えた。

 

 

 

「他のフォルクローを養分にすることだ」

 

 するとエボルが突然アイテムを左手にかざした瞬間、彼の左の掌に1本のボトルが生み出された。

 白くマークが描かれた青いボトルで、下部には青龍を模したオブジェが付けられている。

 

 ドライバーの赤いボトルを取り出して、手元のボトルを挿し込む。

 

『ドラゴン! ライダーシステム! エボリューション!』

 

 青いレバーを回すと、ボトルのパーツがそれぞれ上下運動を始めた。

 前と後ろに、最初の変身と同じくプラモデルのようなパーツが前と後ろに現れ、2つのパーツを繋げるパイプが両端に見える。

 

『Are you ready?』

 

 再び両腕を前の方に出した瞬間、パーツが一気に一体化し、エボルを新たなる姿へと変えた。

 

 他のパーツや胸の天球儀に何ら変わりは無いが、新しいボトルのパーツと同じく、青龍のような複眼と顔を新たに手に入れたのだ。

 

『ドラゴン! ドラゴン! エボルドラゴン! フッハハハハハハハハハハ!』

 

 仮面ライダーエボル ドラゴンフォーム。

 まずは1人、自分の中に取り込めた。

 

「フェーズ2、完了」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常68体

B群10体

不明1体

合計79体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What did her spirit make?

A: It made force which contain force of a dragon.




【参考】
「仮面ライダービルド」第33話『最終兵器エボル』
(脚本:武藤将吾, 監督:諸田敏, 2018年4月29日放送)
変身ベルト DXエボルドライバー|仮面ライダーおもちゃウェブ|バンダイ公式サイト
(https://toy.bandai.co.jp/series/rider/item/detail/5617/)
https://toy.bandai.co.jp/assets/products/rider/documents/4549660236108000.pdf


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 15 みんなは養分(EVERYONE IS MY NOURISHMENTS)
Question043 What do their new items contain?


第43話です。
余談ではありますが、今作品に登場するキャラクターたちの日常を描いたスピンオフを書こうと思っています。
そこで皆さんが読んでみたい話を募集させていただければと思います。
詳細はこちら↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=296171&uid=306946

辛い展開が続きますね。
今後も続きますよ。
感想等くださると、筆者は大変嬉しいため、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
Roselia - 閃光

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


?????

「江戸川美空の最大の能力は『吸収』だ」

 

 新しいコーヒーフィルターを用意して、その中に挽いたコーヒー豆を入れる花奈に海斗が話しかけた。

 突然のことに思わず海斗の方を見る花奈。

 

「吸収、ですか? それだったら私や貴方でも出来る筈じゃ」

「ああ。確かに私たちでも容易に出来る。ただ……格が違う」

 

 スイッチを押すと、コーヒーメーカーの上部からお湯が出てフィルターを通過すると、サーバーの中に次々と出来上がった珈琲が溜まっていく。

 

「通常、上級のフォルクローが1つのアイテムを作り出すのに、最低でも3体のフォルクローを犠牲にする必要がある。

 だが彼女の場合は、1体だけでとてつもない威力の物を生成することが可能だ。

 だからアールたちは自我を失った彼女をすぐにカードにはしなかったんだ」

 

 どうやらコーヒーが完全に出来上がったようだ。

 各々マグカップを手に取って、再びコーヒーを注いで飲み始めた。

 

「ところで、君は一体何を作ろうとしているんだい?」

 

 いきなりの話題の切り替わり。

 花奈は手元のマグカップをデスクに置いて、海斗の後ろの方を向いた。それに合わせて海斗もその方を向く。

 

 そこにあったのは、人の形をした銀色のロボットのようだ。

 指は綺麗な円柱形をしており、顔はまるで(からす)のようだ。

 

「私が今まで培ってきたロボット工学、AI工学の知識と経験と、下級フォルクローの力を使って、あれを完成させます」

「名前は、もう決めているのかい?」

「……え?」

 

「息子から聞いた話だと、君は天体観測が趣味らしいが、それに関する名前だろうか」

 

 ふと花奈の方を見る海斗。

 彼女の目は我が子を見守る母親のようで、何とも言えなくなってしまった。

 とは言っても、自身よりも身長が10センチメートル以上も高いそれを子供と言うのは、あまりにもおかしな話ではあるが。

 

「そうですね……。『Arided(アリデッド)*1』とかどうですか?」

「Arided……。良い名前だが、可愛げが無いね」

 

 命名しようとしている母親に、第三者がダメ出しをした。

 

「じゃあ、こう言うのはどうですか?」

「ん?」

 

 

 

Deneb(デネブ)

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.04 07:04 東京都 港区 高輪ゲートウェイ駅

『ドラゴン! ドラゴン! エボルドラゴン! フッハハハハハハハハハハ!』

「フェーズ2、完了」

 

 嬉しそうに自身の両手を挙げて見つめるエボル。

 

 自身の仲間を失った喪失から抜け出せない彼らが次に覚えた感情は、怒りだった。

 ギュッと拳を握り締めて標的の方を見つめる。

 

「テメェっ!」

 

 真っ先にシグルドが武器を持って向かって行った。

 

 弓を振り下ろして刃の部分を当てようとする。

 だがエボルはそれを軽々と避けた。

 

 絶対に当てる。

 その一心で猛スピードで武器を振り回すが、エボルはまるで香港映画に出てくる格闘家のように、左腕で刃を受け止めて避け流していく。

 そして右手で強烈なパンチを食らわせた。

 

「ゴァッ!」

 

 辛うじて武器で防いだが、あまりの威力に少しばかり後退してしまう。

 

「俺たちの仲間を殺したお前を! 許すわけにはいかないんだよっ!」

 

 するとシグルドはドライバーのレバーを何回も押し込んだ。何回も、何回も。

 

『ソーダ! チェリーエナジースパーキング!』

 

 全身に赤色のエネルギーが充満し、同じく赤いオーラが全身から滲み出ている。

 そして彼は目にも留まらぬスピードで、エボルの周りを走り始めた。

 あまりにも速いために、赤い円が出来上がっていく。

 

「成程な。だったら、こっちにも手がある」

 

 エボルはトランスチームガンを取り出すと左手に持ち、そのスロットに自身の青いフルボトルを挿し込んだ。

 

『フルボトル! スチームアタック!』

 

 さらに1本、ボトルを取り出した。

 全体がメタリックグレーで、蓋には「T/G」と書かれたラベルが貼られている。

 

 そのボトルをドライバーの空いたスロットに挿し込んだ。

 

『機関砲! ライダーシステム! クリエーション!』

 

 レバーを余裕そうにゆっくりと回していく。

 

『Ready go!』

 

 するとドライバーから同じメタリックグレーの色をしたパイプが右手の方へ伸び、それが変形して1丁の銃──ホークガトリンガーとなった。

 

 同時に、高速で移動を続けるシグルドの弓にエネルギーが溜まっていく。

 どうやら技を放つ準備段階らしい。

 

 それを見たエボルはホークガトリンガーのダイヤルを回し始めた。

 

10(テン)! 20(トゥエンティ)! 30(サーティ)! 40(フォーティ)! 50(フィフティ)! 60(シックスティ)! 70(セブンティ)! 80(エイティ)! 90(ナインティ)! 100(ワンハンドレッド)! フルバレット!』

 

 ホークガトリンガーの銃口を上に向ける。

 そしてシグルドは矢を放ち、エボルは銃口を引いた。

 

 赤い矢が周りから一気に放たれるが、上から降ってきたオレンジ色の弾丸が矢を撃ち落としていく。

 残りの銃弾は走るシグルドを一気に攻撃した。

 

「!」

 

 集中的な攻撃に足が止まってしまった。

 これでようやく姿が目に見えるようになる。

 

 そんな彼に向けて今度はトランスチームガンの銃口を向けると、エボルの後ろに大きな青い龍が現れ、シグルドを睨みつけた。

 

 そして標的の方を見ること無く、エボルは引き金を引いた。

 引いた瞬間に黄色いエネルギー弾が放たれ、弾丸がシグルドに命中。さらに龍がシグルドを噛んで駅の外へと放り出した。

 さらに姿が見えなくなったのと同時に、大きな爆発音が聞こえ、その次に僅かではあるが外から悲鳴が聞こえた。

 

 穴が空いた方に再びアイテムを向けると、赤色の粒子がアイテムの中へと入っていく。

 それが何を意味しているのかは、もはや暗黙の了解であった。

 

「悪いが、疲れたから俺はもう帰らせてもらうぜ。チャ〜オ〜」

 

 軽い挨拶をしたエボルは自身の身体を赤いゲル状にして、その場を後にした。

 

 残された二人は誰もいない目の前をただ見つめることしか出来ず、少しも動くことが出来なかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.04 08:30 東京都 新宿区 SOUP

「江戸川ミソラは、新型未確認生命体第四十七号として処理される。明後日のライブも中止だ」

「そう、ですか……」

 

 遂に彼女にも番号が振られた。

 森田から教えられた深月は、声を絞り出して下を向いた。

 

 部屋の中には暗い空気が充満していた。

 それもそのはず。何せ大切な仲間が一気に2人も消されたのだ。

 

「江戸川ミソラの能力は計り知れないですね。他のフォルクローの取り込んで進化していく。恐らく、今後も進化を続けますよ……」

 

 薫の報告に全員が絶望をする。

 これ以上に強くなる。どれだけ恐ろしいことか。

 

「倒し方は分かりませんが、進化を止めるにはあのよく分からない道具を破壊するしか無いですよ。でもどうやって……」

 

 圭吾が頭を抱える。

 考えても考えても、攻略法が浮かんでこないのだ。

 

 圭吾の発言を最後に、部屋の中で会話が行われることは無かった。

 

 

 

 少し離れたところにある医務室では、碧が椅子に座って一点を見つめていた。

 彼女の見る方にいたのは、春樹だった。口元には酸素マスクが着けられ、目を瞑りながら安らかに眠っている。

 

「ねぇ春樹。お兄ちゃん、大丈夫かな?」

 

 話しかける碧。

 だが眠っている相手は返事を返すことは無い。

 

()だな。これ以上、大切な人を失うのは……」

 

 それでも懲りずに声をかける。

 返事が返ってくるかどうかではない。

 声をかけることが重要なのだ。

 

 それ以降に聞こえるのは、心電図に合わせて鳴るピコピコと言う音と、二人の呼吸音だけだった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.04 19:44 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう

 いつも行く店のカウンター席で、八雲はじっと座っていた。

 何を頼むわけでもなく、何かを飲み食いするわけでもない。ただサービスで出された水を飲むだけだ。

 

 ふと左の方を見る。

 そこは嘗て、リョーマたちが座っていた席だ。自分は他のメンバーたちと一緒にテーブル席に座り、彼ら三人はカウンター席で仲良く食事をしながら、よく八雲に話しかけていた。

 

 だが、そんなことはもう無い。

 何度何処かの誰かに頼もうとも、出来るわけが無い。

 

 願うだけ無駄だと頭の中で理解をしながら、八雲は再び前を向いてコップの水面を見る。

 

 その時、突然八雲は何かを思い出した。

 

 ヨーコがやられ、シドもやられた。

 と言うことは次は──。

 

「……リョーマ!」

 

 急いで立ち上がって店の外に出る八雲。

 

 その様子を新井夫妻は不思議に思いながら見、日菜太はふと笑みを浮かべながら見ていた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.04 19:58 東京都 北区

 寂れた廃工場の中で、リョーマは虚な表情を浮かべていた。

 彼がいる工場の中は暗く、工具は全て埃や砂を被っている。

 

 すると

 

「こんばんはー」

 

 後ろから女性の声が聞こえた。憎くて憎くて仕方の無い声だ。

 

「ようやく来てくれたね、江戸川ミソラ」

 

 振り向くことはせずに話をするリョーマ。

 

「そんな声じゃなくて、地声で話してはどうだい?」

 

 指摘されたミソラは喉を鳴らしてチューニングをする。

 そしてもう一つの声で話を続けた。

 

「待っていたのか? 俺のことを」

「ああ。どうせ君は私のことを狙いにくると思ったからね。でもボスに迷惑をかけるわけにはいかない」

 

「だから一目につかないここにいたのか」

「そうだ」

 

 ようやくリョーマは振り向いて、ミソラの方を見た。

 彼女の腹部にエボルドライバーが着いているのを確認すると、リョーマも同じようにゲネシスドライバーを装着する。

 

「二人を殺した君を私は許せない。だから、ここで葬らせてもらう」

 

 するとリョーマは新しいロックシードを取り出した。

 赤い果実が描かれ、正面には「E.L.S.-HEX」と黒く印字されている。

 

『ドラゴンフルーツエナジー!』

 

 スイッチを押すと宙空にクラックが現れ、開いた空間から赤い果実が現れる。

 

「そうか。なら、俺もその気でやらなくちゃな。この、フェーズ3の力で」

 

 同じくミソラも2本のボトルを取り出した。

 左手のボトルはいつも使っている黒いボトルだが、右手のボトルは新しい赤色のボトルで、下部には兎の形をしたオブジェがある。

 

 二人はそれぞれのアイテムをドライバーに装填した。

 

『ロックオン!』

『ラビット! ライダーシステム! エボリューション!』

 

 レバーを回すと、ミソラの前後に鎧が現れて両端のパイプで繋ぎ止められる。

 そして彼女が両腕をクロスすると、各々が同じ言葉を言った。

 

『Are you ready?』

「「変身!」」

『ソーダ!』

 

 ミソラが両腕を上げた瞬間、彼女らは姿を変えるための過程が始まった。

 

 鎧がリョーマの頭部に被されると彼の体は変化し、鎧は実用的な形へと変形する。

 

 一方のミソラには前後の鎧が着けられ、2つの複眼が兎を模した形態になった。

 

『ドラゴンエナジーアームズ!』

『ラビット! ラビット! エボルラビット! フッハハハハハハハハハハ!』

 

 仮面ライダーデューク ドラゴンエナジーアームズ。

 仮面ライダーエボル ラビットフォーム。

 

 新たに完成した形態は共に赤い。

 デュークのものは炎のように明るく、エボルのものは血のように暗い。

 だが暗い室内ではどちらの赤も全く同じに感じてしまう。

 

 そして二人は、静かに足を進め、戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What do their new items contain?

A: His item contains the force of a dragon fruit; Her item contains the force of a rabbit.

*1
白鳥座で最も明るい恒星である「デネブ」の別名。現在ではあまり使われていない。




【参考】
「仮面ライダービルド」第35話『破滅のタワー』
(脚本:武藤将吾, 監督:柴崎貴行, 2018年5月13日放送)
デネブ- Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e3%83%87%e3%83%8d%e3%83%96)
DXチェリーエナジーロックシード|商品情報|仮面ライダー鎧武/ガイム|バンダイ公式サイト
(https://rider.b-boys.jp/gaim/products/els_01/)
https://rider.b-boys.jp/gaim/pdf/els_01.pdf
仮面ライダービルド - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e4%bb%ae%e9%9d%a2%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%83%80%e3%83%bc%e3%83%93%e3%83%ab%e3%83%89)
エボルドライバー 音声集 - YouTube
(https://www.youtube.com/watch?v=Df5UyqXcN2A)
百発連射 DXホークガトリンガー|仮面ライダーおもちゃウェブ|バンダイ公式サイト
(https://toy.bandai.co.jp/series/rider/item/detail/5134/)
DXドラゴンフルーツエナジーロックシード|商品情報|仮面ライダー鎧武/ガイム|バンダイ公式サイト
(https://rider.b-boys.jp/gaim/products/ls_pb06/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question044 What has she learned to form?

第44話です。
もう何回連続で投稿しているんだ俺は……。
感想等書いてくださると、筆者のモチベーションになります。
宜しくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.02.04 20:01 東京都 北区

 デュークとエボルはゆっくりとしていた足を急激に進めた。

 肉眼では捉えられない程の速さで動く二人。

 

 デュークはソニックアローから矢を放ったり刃で斬りつけたりする。

 一方のエボルは動きながら華麗な足技を繰り出して攻撃を仕掛ける。

 

 エボルが右のパンチを繰り出そうとすると、デュークはそれを軽々と左手で受け止めて、右手の武器で斬りつけようとする。

 だが彼女も身体を後ろに反らすことによって避け、左足で腹部を蹴った。

 蹴られて後退する寸前に、今度はデュークが弓から矢を飛ばして攻撃した。

 

 互いに一歩も譲らない。まさに互角だ。

 

 一旦足を止める二人。

 

「まさかな。能力が60パーセントまで伸びた俺に着いてこれるとは。中々良い物を作ったな」

 

 エボルが笑みを浮かべて言う。

 ファイティングポーズは崩さず、デュークも武器を離さない。

 

 するとデュークはソニックアローのスロットに、ドライバーのロックシードを装填した。

 

『ロックオン!』

 

 同時にエボルは再び高速で移動を開始。デュークの方に向かってパンチを繰り出そうとした。

 

『ドラゴンフルーツエナジー!』

 

 だがデュークは近づいてきた標的の肩から斜めに斬りつけた。

 さらに怯んだ彼女の胸部に弓を押し付けて引くと、矢を放った。

 

 派手に散る火花。

 散った瞬間にデュークは再びロックシードをドライバーに着け、レバーを2回押し込んだ。

 

『ドラゴンエナジースパーキング!』

 

 跳び上がると赤いエネルギーが炎のように纏われていく。

 そしてそのエネルギーが右足に溜まると、右足を彼女に思いっきり当てた。

 

「セイハァァァッ!」

 

 後ろに飛ばされるエボル。

 飛ばされた先では爆発が起こり、彼女の姿が見えなくなる。

 

 あれだけの威力の攻撃だったのだ。ひとたまりも無いだろう。

 

 荒い呼吸音だけが響く室内で、デュークはホッと息を吐いて仮面の下で笑みを浮かべた。

 

 これでようやく、仇が取れた──。

 

 

 

 筈だった。

 

「中々やるじゃねぇか。ただ、まだまだだな」

 

 平然と立っているエボル。ただ少しばかり効いていたのか、首や手首に足首をぐるぐると回す。

 

「そんな……」

 

 これだけやっても全く効果が無い。

 その事実はデュークを落胆させるには充分だった。

 

「さて、反撃開始だ」

 

 エボルはそんな彼にゆっくりと歩み寄りながら、ドライバーのレバーを回し始めた。

 

『Ready go!』

 

 

 

 

 

 同じ頃、2台のオートバイが廃工場の方へと走っていた。

 乗っているのは当然、碧と八雲だ。アクセルを回して徐々に速度を上げていく。

 

 とその時、バリンと言う大きな音と共に、遠くの方で何かが上がっていた。

 良くは見えないは、恐らくは人の形をしている。

 

 まさか──。

 

 それが落ちていくのを確認した瞬間、二人の間に嫌な予感がした。

 

 落ちていったと思われる建物の前でオートバイを停め、急いで中に入って行く碧と八雲。

 

 そこにいたのは、赤いマントを着けた戦士──デュークだった。

 うつ伏せで倒れた彼の変身がすぐに解除されてしまう。

 

「リョーマっ!」

 

 八雲が叫んで彼の(もと)へと駆け寄ろうとした瞬間、彼の身体は黄色い粒子へと変化。何処かへ行ってしまう。

 

 粒子の飛んでいった先にいたのは、エボルだった。

 彼らが見たことの無い形態に変身をした彼女が、アイテムの中に粒子を閉じ込めていっている。

 

 そんな中で、八雲は何故か脚を動かすことが出来ない。

 目の前で失ったものがあると言うのに。

 

 前を見ると、奪った者は仮面の下でニヤリと笑い、余韻に浸っていた。

 

「……お前っ!」

 

 ようやく脚が動いた。

 

 八雲はネクスパイに変身しながらエボルの方へと走り、攻撃を仕掛けようとする。

 だがエボルはそれを軽々と避け、逆に右脚で蹴り飛ばした。

 

「ッ!」

「お兄ちゃん!」

 

 碧の方へと吹き飛ばされたネクスパイだが、すぐに立ち上がり再び臨戦態勢に入った。

 

「折角の機会だ。お前たちに見せてやろう。新しい力を」

 

 そう言うとエボルは突然変身を解除し、元の江戸川ミソラの姿に戻った。

 

 するとミソラの右手に握られていたアイテムが突如として発光。全体が白と黒の2色で統一されたエボルトリガーへと変化する。

 その上にある赤いボタンを親指でそっと押した。

 

『オーバーザエボリューション!』

 

 エボルトリガーをエボルドライバーの上部の左側に挿し込む。

 そして2本のボトルをドライバーのスロットに挿し込んだ。

 

『コブラ! ライダーシステム! レボシューション!』

 

 レバーを回すと3つの銀色の円が彼女の周りで複雑に絡み合い、上中下に分かれて配置される。

 さらにその周辺に黒い立方体たちが紫色の稲妻と共に周回を始めた。

 

『Are you ready?』

 

 いつものように両手をクロスして言った。

 

「変身!」

 

 両腕を広げた瞬間、立方体がミソラの周りを取り囲むようにして一つの箱と化し、突然姿を消した。

 

 何が起こったのか分からず困惑する碧とネクスパイ。

 

 だがすぐに何も無い空間から姿を見せた。

 その姿はフェーズ1の時と大差は無いが、色は新しいアイテムと同じ白と黒で統一されている。

 

『ブラックホール! ブラックホール! ブラックホール! レボリューション! フッハハハハハハハハハハ!』

「フェーズ4、完了」

 

 新たなる形態の名前はブラックホールフォーム。

 所謂、完全態である。

 

 その姿を見た時、嫌な予感と言うのはこれの前兆だったのかと気が付いた。

 だが止まっているわけにはいかない。

 碧も変身を遂げると、二人は立ち向かって行った。

 

 するとエボルは二人の方に右手を向けると、人を追い返す時に使うジェスチャーをした。

 次の瞬間、リベードとネクスパイの前で爆発が起こり、二人は足止めされてしまう。

 

「「!?」」

 

 異常な火力に怯む二人。

 

 火が止んで前が見通せるようになったのと同時に、二人はカードを取り出した。

 

 リベードが取り出したカードには、仮果(かか)*1の中から核果がちらりと見えた様子が描かれており、下部には「No.106 WALNUT KNUCKLE」と書かれている。

 ネクスパイのカードには、信号が青になった歩道を骸骨が歩いている様子が、ザ・ビートルズの「アビイ・ロード」のジャケットのように描かれており、「No.123 LEARNING CHASER」と白く印字されている。

 

 そのカードをネクスチェンジャーのスロットに挿し込んだ。

 

『"KNUCKLE" LOADING』

『"CHASER" LOADING』

 

 ダイヤルを操作すると、二人にそれぞれ武器が支給された。

 リベードの両手には巨大な手甲──クルミボンバーが装着され、ネクスパイの右手には信号機のようなオブジェが付けられた斧──シンゴウアックスが握られる。

 

 リベードは手甲を着けた両手で強烈なパンチを食らわせようとする。

 だがエボルは軽々と両手で受け止め、外側へとゆっくり広げていく。

 そして瞬時に離して左手の掌を腹部に押し込んだ。

 

「アァァッ!」

 

 腹部に衝撃が走り、後ろに吹き飛ばされて倒れ込み、変身が解除されてしまう。

 

「碧!」

 

 うつ伏せで倒れた碧は両腕と両脚を使って立ち上がろうとするが、力が入らず上手くいかない。

 

 今度はネクスパイが斧を振るって攻撃をしようとする。

 縦に横に振るが、エボルは余裕に避けられてしまう。

 

「お前だけは! お前だけは! 絶対許さねぇ! 俺の大事なものを奪ったお前だけはっ!」

 

 ようやく斧の刃が彼女に当たりそうな距離になった。

 そこで一気に上から下に振り下ろした。

 

 するとエボルは左手で刃を掴んで、これ以上の攻撃が出来ないようにしてしまった。

 

「だから何だよ。俺のゲームを邪魔したお前も同罪だろ? 俺の最大の娯楽を奪ったお前を、俺は許さねぇからなっ!」

 

 そして右足で思い切り蹴り飛ばした。

 

「グァァァッ!」

 

 変身を解除された八雲は碧のそばまで飛ばされて、仰向けで倒れ込んだ。

 

「これで、終わりだ」

 

 そう言うとエボルはドライバーのレバーをゆっくりと回した。

 

『Ready go!』

 

 そうして上の方に両手を挙げた。

 

『ブラックホールフィニッシュ! チャオ!』

 

 すると寂れた屋根が突如としてガタガタと揺れ始めた。

 何だ何だと倒れたまま見上げる二人。

 

 次に見えた光景は、屋根が粉々に破壊され、宙空にある大きな黒い穴の中に吸い込まれていく様だった。

 

「ブラック、ホール……!?」

 

 碧が呟いたその名称が、その黒い穴を例えるのに最も適していることは当然であった。

 

 屋根が破壊されたことによって、工場の中にあった様々な工具や毛布等が穴の中に凄まじい勢いで吸い込まれていってしまう。

 

 まさか、自分たちも──。

 

 残念ながら、それは杞憂ではなさそうだ。

 もはや何も考えることも出来ず、ただ呆然と上の方を向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What has she learned to form?

A: Black Hole.

*1
実を守るためにつけられている固い殻のこと。




【参考】
「仮面ライダービルド」第38話『マッドな世界』
(脚本:武藤将吾, 監督:田崎竜太, 2018年6月3日放送)
ロックシード音声まとめ - 仮面ライダー鎧武/ガイム ロックシードコンプリート @wiki - atwiki(アットウィキ)
(https://w.atwiki.jp/gaimu/pages/49.html)
DXエボルトリガー|仮面ライダーおもちゃウェブ|バンダイ公式サイト
(https://toy.bandai.co.jp/series/rider/item/detail/5633/)
https://toy.bandai.co.jp/assets/products/rider/documents/4549660236139000.pdf
クルミ - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e3%82%af%e3%83%ab%e3%83%9f)
仮面ライダー鎧武 / ガイム - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e4%bb%ae%e9%9d%a2%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%83%80%e3%83%bc%e9%8e%a7%e6%ad%a6/%e3%82%ac%e3%82%a4%e3%83%a0)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question045 What is his bad ending?

第45話です。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
AI - 最後は必ず正義が勝つ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.02.04 20:07 東京都 北区

「お兄ちゃん! これ本当にまずいよ!」

 

 碧がなんとか立ち上がって、仰向けで倒れたままの八雲を揺する。

 だが八雲は呆然としてしまっており、身動きをとることが出来ない。

 

 もうすでに建物は原型を留めておらず、壁だったものが無惨に残されているだけに過ぎない。

 あと少しすれば、自分たちも呑み込まれるに違いない。

 この危機から逃れようとするが、肝心の男は身動きをとることが出来ないのだ。

 

 そんなことをしているうちに、時はすでに遅くなっていた。

 

「え!?」

「!?」

 

 碧と八雲の体が徐々に浮き始めたのだ。

 地面に着いていた碧の両脚と八雲の背中はもう離れてしまっている。

 

 もう終わりだ。

 頭の中が真っ白になってしまった彼らのことを、エボルはニヤリと笑いながら見つめていた。

 

 

 

 だが

 

「はいストーーーップ」

 

 後ろから男性の癖の強い声が聞こえてきた。

 ふと後ろを向くと、そこに立っていたのはアールたち三人だった。

 

「何の用だ?」

「止めてください。その物騒なもの」

 

 何故そんなことを言うのか解らないエボル。

 ただ、アールたちの目線がいつもと違う雰囲気を纏っていることから、仕方なく黒い穴を消失させた。

 

 その影響で、穴に入りきらなかった物体や碧と八雲は地面に叩き落とされてしまう。

 

「あの()()の指示。その二人は絶対に殺さないで、だって。特に()()は」

 

 フロワは見つめながら言っていたが、何故か途中で倒れている碧の方を向き始めた。

 どうして自分の方を向き始めたのか分からず、碧は少しばかり首を傾げる。

 

「そう言うことだから、一旦今日は帰ろうよ。早く帰らないと()()()に叱られちゃうから」

 

 ピカロの言葉にエボルは思わず舌打ちをする。

 そしてアールたちが消えたのと同時に、エボルも自身の後ろに発生させた穴の中に、吸い込まれるようにして姿を消した。

 

 暫く動くことも声を出すことも出来ない碧と八雲。

 誰もいなくなった目の前をじっと見つめるだけだ。

 

 すると突如として、八雲がゆっくりと起き上がった。

 表情は暗く、ずっと下を向いている。

 そしてゆっくりと足を進めて行く。

 

「ねぇ、何処に行くの?」

 

 碧も痛みを生じながらも立ち上がって、右手で八雲のコートの右の袖を掴む。

 

「決まってるだろ。アイツを倒しに行く……」

「無茶だよ! そんな体じゃ!」

 

 袖だけでは無く、兄の左手で右手を掴む。なんとかして彼を止めたいようだ。

 だが彼は妹の両手を振るい落とした。

 

「それでもやらなくちゃいけないんだよ!」

 

 叫びが響いた。工場が跡形も無くなったとはいえ、もう夜になっていたのだ。声を響かせる環境としては十分だ。

 

「アイツは、俺の大切な仲間を奪った……。だから、アイツを倒さなきゃ……。そのためには、俺はどうなったっていい……」

 

 再び足を進め始めた八雲。

 虚な目で前を見据えて、一歩ずつ一歩ずつ。

 

 

 

 その時だった。

 

「ねぇ」

 

 碧が八雲の後ろ姿に話しかけた。

 だが当然の如く、八雲は足を止めない。

 

「本当にそう思ってるの?」

 

 足が、止まった。

 そして後ろを振り向く。

 

「え?」

「自分がどうなってもいいって、本当にそう思ってるの?」

「……」

 

「ふざけたこと言わないでよ!」

 

 今度は碧の怒号が響いた。

 

「そうなったとして、残された私はどうすれば良いの? もう……大事な人を失うのは()だよ……」

 

 碧の声は震え、目からは涙が次々と零れ落ちていく。二つの拳をギュッと握りしめて、頬を強張らせていた。

 

 その姿を見て、八雲はハッとした。

 自分の発した一言が、彼女をどこまで傷つけたのか、見れば一目瞭然であった。

 

「……すまない。あまりにも無神経だった」

「……ううん。解ってくれたなら良かった」

 

 八雲が碧の方に近づいて行く。そして互いに顔を見合った。

 

「協力させて。江戸川ミソラ退治」

「ああ。頼む」

 

 そして崩壊した夜の工場の中で、ようやく二人の顔に笑みが浮かんだ。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.04 21:02 東京都 中野区 トキワヒルズA 602号室

 いつもなら軽く開ける筈の部屋の扉が、いつもよりも重く感じてしまう。

 

 なんとかして扉を開けた。

 部屋の電気を点けてリビングの様子が見えるようになった。

 

 食器棚の中にある4人分の食器。

 ハンガーに干されて部屋干しをされている、リョーマの使っていた白衣たち。

 食卓の上に乱雑に置かれている、ヨーコの読んでいた様々な資格の参考書。

 帽子立てに引っかかっている、シドの着けていた黒い帽子のスペア。

 

 どれももう、使い道を無くしてしまった。

 どれだけ祈ろうと、自分が使うことの無い物達は、もうどうすることも出来ないのだ。

 

 その事実に、徐々に目から何かが溢れてきた。頬を伝って冷えた床の上に落ちていく。

 元から握られていない手から、力が抜けていってしまう。

 

 すると、彼のコートの左ポケットの中に入っていたスマートフォンが音を鳴らした。

 冷め切った部屋とは不釣り合いな「サメのかぞく」*1のメロディが流れる。

 

 画面を見ると着信元は「非通知」である。

 心当たりは無かったが、念のために通話に出た。

 

「もしもし」

『よう。元気か?』

 

 声の主は低い男性のものだった。

 忘れられない、憎たらしいあの声。

 

「何のようだ?」

『お前を招待しようと思ってな』

「は?」

 

『明後日の17()時に日本体育館に来い。そこで決着をつけよう』

「おい。どう言うことだ」

 

『俺のゲームはそこで終わる筈だった。だから決着をつけるのはそこが良い。ただそれだけだ。待ってるぜ。チャ〜オ〜』

 

 

 

 電話を切ったミソラはステージの上に立っていた。

 ステージはただの骨組みだけで構成されている。組み立ての途中でライブの中止が決まったために、中途半端な状態になってしまっているのだ。

 

 ステージ上を右へ左へうろうろと歩きながら、自慢の低い声で鼻歌を歌う。

 いよいよ明後日、全てが終わる。自分のゲームがどうやって終わるのか決まるのだ。

 それが楽しみで楽しみで仕方がない。

 

 左手にボトルを取り出した。変身に使っている赤いボトルだ。

 鼻歌を高らかに歌いながら、ボトルを宙空に投げた。

 このままいけば、ボトルはすぐに自信の手元に真っ直ぐに戻る筈。

 

 

 

 だが、ボトルは彼女の手元には戻らず、床に落下をした。

 受け皿になる筈の左手が動かなかったのだ。

 

 何が起こったのか分からず、困惑するミソラ。

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

「もう、止めてよ……」

 

 ミソラの意思を無視して、声が出た。しかも低い声ではなく、江戸川美空本来の声でだ。

 それどころか体が鉛のように重く、上手く動かない。

 

 まさか──。

 

「お前……何で出てきたんだ……!?」

 

 元の男性の声で驚くミソラ。

 だがすぐに体の主導権は返されたようだ。

 今まで動かなかった分の反動で前の方に押し出されてしまう。

 

「まさか、こんなことがあり得るのか……」

 

 ミソラはその場にしゃがみ込んで、顔を上に向け大きく息を吐いた。

 見上げる先には何も無かった。

 目に映る以上に、空っぽに思えてしまった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.06 16:54 東京都 港区 日本体育館

 日本体育館は7万人近い観客を入れられるためにかなり大きい。

 それは当然なのだが、その大きさは実際に目の当たりにして改めて驚かされる。

 

 幾つかあるドームの出入り口では、機動隊員達が固唾を呑んで扉を見つめている。

 

 そして少し離れたところにある遊撃車の前では、碧たち六人が立っていた。

 どうやら作戦の最終確認をしているらしい。

 

「お二人のP-2-Pシステムを出来る限り強化しました。最大限能力を引き出せる筈です」

 

 圭吾が碧と八雲にそれぞれ黒い腕輪を差し出す。

 差し出された腕輪を受け取った二人は腕輪を着けると、カードをかざしてネクスチェンジャーを召喚した。

 

「でもどうして圭吾さんが改造したんですか? 開発者の八雲さんがすれば良いのに」

「確かに俺は開発者だけど、その分頭が固まって純粋なアイデアが浮かばなくなる。だからコイツに頼んだんだ」

 

 薫の質問に八雲は答えながら、左手に着けられた腕輪をまじまじと見つめる。

 

 すると碧の前に深月が出て来た。

 何だ何だと少しばかり首を傾げる碧。

 

「お願いします……。みーたんを、助けてください……!」

「勿論。そのつもりだから」

 

 頭を下げる深月の肩に手を置いて、笑みを浮かべながら碧は声をかけた。

 

「かなり手強い相手です。いつも以上に気合を入れていきましょう。皆さん、お願いします」

 

 森田が自身の右腕を差し出した。

 そして全員が各々、掌を重ねて気の抜けたような声で決意を固めた。

 

「「「「「「うぇーい」」」」」」

 

 

 

 ステージの上で可愛らしい声で鼻歌を歌うミソラ。

 少しばかり手を抜いた感じに踊りを踊りながら、自身の曲を口ずさんでいる。

 

 だが突然、ミソラは歌うのを止めた。

 理由はただ一つ。客が来たからだ。

 

「よう。やっと来たな」

 

 もう一つの声で来客を歓迎するミソラ。

 

「いや。時間ぴったりの筈だが」

 

 ステージから少し離れたところに立つ八雲が反論する。

 返答に鼻を鳴らしながら、ミソラは3メートル程の高さがあるステージから飛び降りた。それでも痛そうな素振りを見せないのは、やはり改造された者だからだろう。

 

「さて、ゲームを始めるか」

「ああ。けど、お前の想像した終わり方じゃないかもしれないな」

「は?」

 

「俺たちがお前を倒す、って終わり方だよ……!」

 

 するとミソラは少しばかり笑い声を上げて八雲たちの方を見る。

 

「そんな結果は想定内だ。このゲームは、俺が勝つか、お前らが勝つか。その二択だろ?」

 

 ミソラも腹部にドライバーを出現させた。

 

「碧、行くぞ」

「うん。お兄ちゃん」

 

 それぞれがアイテムを取り出して、デバイスのスロットへと装填していく。

 

『コブラ! ライダーシステム! レボリューション!』

『"NEX-SPY" LOADING』

『"REVE-ED NEX" LOADING』

 

 ミソラはレバーを回して、自身の周りに3つの銀色の輪と大量の黒い立方体を出現させる。

 一方の八雲と碧たちは腕輪に着けられたダイヤルを回した。

 

 三人はそれぞれがポーズをとり、同じ言葉を叫んだ。

 

『Are you ready?』

「「「変身!」」」

『『Let's go!』』

 

 各々が独特なシークエンスで姿を変えていく。

 そうして完成した三人の戦士は、互いの姿を見合って一気に戦闘態勢に入る。

 

 そして誰かが合図するわけでもなく、戦いの火蓋は切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常68体

B群8体

不明1体

合計77体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is his bad ending?

A: To be alone and to be happy without his buddies.

*1
原題は「Baby Shark」。作詞者・作曲者共に不明。元々はドイツの伝承民謡と言われており、欧米でキャンプでの定番曲として伝えられてきた。




【参考】
東京の過去の天気 2022年2月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220200/)
サメのかぞく - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e3%82%b5%e3%83%a1%e3%81%ae%e3%81%8b%e3%81%9e%e3%81%8f)
日の出入り@東京(東京都)令和4年(2022)年02月 - 国立天文台暦計算室
(https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/dni/2022/s1302.html)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 16 幕引き(THIS SHOW ENDS)
Question046 How did she surprise to them?


第46話です。
どうして名言っぽいことを書こうとしても、薄っぺらくなってしまうのか。
きっと人間として薄いんだろうな、自分が。
感想や読了報告等くださると、筆者の励みになりますので宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
Roselia - 閃光

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.02.06 15:02 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう

 16時開店をするこの店では、新井夫妻と日菜太が店内を掃除していた。不二雄は厨房のまな板を、靖子はテーブルやカウンターを布巾で拭いている。

 日菜太はモップで床を掃くが、二人とは違って業務には集中出来ていない様子だ。

 

 ふとロゴの描かれた店の赤いエプロンのポケットから、自身のスマートフォンを取り出した。電源ボタンを押してロックを解除すると、LINEを開いて届いたメッセージを見た。

 

「今日開店前に来てもいい?」午前11:55

「いいよ」午後0:02既読

 

 突然、今朝にあまねから送られてきたものだった。意味が分からなかったが、あまねから連絡がくることは基本的に無いため、何かあったのだろうと心配になっていた野田。

 

 すると店の引き戸がノックされた。

 新井夫妻は間違って開店前にやって来た客だとでも思っているのだろうが、日菜太だけは心当たりがあった。

 すぐに鍵を解いてドアを開けた。

 

 そこに立っていたのは、やはりあまねであった。

 

「こんばんは……」

 

 消えていくような声で挨拶をするあまね。

 思っていた通り、どうやらただ事では無いようだ。

 

「どうしたの、急に」

 

 日菜太が呼びかけるが、あまねはそれを無視して店の中に入って行った。

 

「ちょっと……二人だけで話したいんだけど……」

 

 幸い、開店まではまだ時間がある。

 なので個室の中からまだ掃除をしていない一室を選んで、日菜太はあまねをその部屋に招き入れた。

 

 靴を脱いで掘り炬燵の上にあまねを座らせると、日菜太は畳の上に正座をしてあまねの横に座る。

 

「話って、何?」

 

 日菜太が優しく訊く。だがあまねは下を向いたまま顔を動かない。

 彼女の顔には部屋の灯りによって作られた影が入っていて、ギュッと結ばれた口元だけが見える状態になっている。

 

 ようやく彼女は口を解いた。

 

「あのさ……」

「?」

 

 

 

「私って、いない方が良いのかな……?」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.06 17:02 東京都 港区 日本体育館

 リベードとネクスパイは標的の方へと走って行き、自らの右の拳をぶつけようとする。

 またか、とエボルは思った。どうせ何をしてもこの二人は自分に敵わない。そう思っていた。

 

 だが彼らの拳を己の掌で受け止めた時、彼女は何故か手応えを感じられなかった。これまでの戦闘では、どんな状況であったとしても自分が必ず勝つと感じられた筈なのに……。

 

「そうか。かなりシステムを強化したと言うわけかっ……」

「ああ。そんでもって、お前を倒すための計画も立ててあるっ!」

 

 ネクスパイの言葉と共に拳を押し込もうとする二人だが、2つの右手と相手の両手の位置が動くことは無い。

 しかしそれは、裏を返せば互いの力は互角だということだ。

 

「どんな作戦なんだぁ?」

「すごく単純よ……。とにかく攻撃をしまくるっていうねっ!」

 

 エボルの両手、そしてリベードとネクスパイの右手が同時に前に進もうとした。その影響によって三者共に後退する。

 エボルが体勢を崩さないのは流石のことだが、リベードとネクスパイもぶれていない。

 

 至極単純な作戦が開始したのと同時に、リベードとネクスパイはそれぞれカードを取り出した。

 

 ネクスパイの取り出したカードはファイズのカード。

 リベードのカードには畑の中に栽培されているメロンの実が描かれており、下部には「No.102 MELON ZANGETSU」と白く印字されている。

 

 それをスロットに挿し込んだ。

 

『"FIZE" LOADING』

『"ZANGETSU" LOADING』

 

 ダイヤルを操作して押し込んだ。

 

『『Summon its!』』

 

 ネクスパイの右手には銀色のナックル──ファイズショット ナックルモードが、リベードの左手には華やかな装飾がされた緑色の盾──メロンディフェンダーが装着される。

 

 それを見たエボルはふと、ドライバーにセットされているエボルトリガーの赤いボタンを押した。

 

『オーバーオーバーザレボリューション!』

 

 だが特に何も起こることは無い。

 

 再び立ち向かっていく二人。そんな二人にエボルは左の掌を向けて、衝撃波を流し辺りを爆発させた。

 だが先頭にいるリベードの盾が爆炎や爆風を防いでおり、止めることは出来ていない。

 

 そしてネクスパイがリベードの後ろから飛びかかり、ナックルを着けた右手で一発お見舞いした。

 

「テリャァッ!」

「グッ!」

 

 攻撃はエボルトリガーに命中した。

 その攻撃の影響からなのか、エボルはそれ以降上手く体を動かせない。

 

 絶好のチャンスを作ることが出来た。

 この好機を逃すわけにはいかない。

 

 再び二人はカードを取り出した。

 

 リベードのカードには、水色の鮫、青色の鯨、赤色の狼魚(おおかみうお)が海中を悠々自適に泳いでいる様子が描かれており、下部には「No.089 SUCTION POSEIDON」と書かれている。

 一方のネクスパイの方のカードには、灰色の背景の中に開いた状態の松笠が水彩画のタッチで大きく描かれており、「No.114 OUTWIT KUROKAGE SHIN」と印字されている。

 

 そのカードをネクスチェンジャーのスロットに挿し込んだ。

 

『"POSEIDON" LOADING』

『"KUROKAGE SHIN" LOADING』

 

 ダイヤルを操作すると、リベードの手元には柄の先が青い赤色の槍──ディーペストハープーンが、ネクスパイの手元には黒い三叉槍──影松・真が現れた。

 

 ネクスパイが影松・真をエボルの上から振り下ろす。それをエボルは軽く左手で受け止めた。

 だがそれが狙いだった。リベードはその隙に長い赤い槍で彼女の足元を掬い、体勢を崩させた。

 さらに無防備になった彼女を、ネクスパイはゴルフの要領で遠くに飛ばした。

 

 壁面に激突したエボル。エボルトリガーを攻撃され、さらにそこに攻撃を受けた影響なのだろう。立ち上がるだけでも精一杯の状態になった。

 

「これで終わりだ!」

 

 リベードとネクスパイはインディペンデントショッカー マグナムモードを取り出し、そのスロットにカードを装填する。

 

『『Are you ready?』』

 

 柄にあるスイッチを押した。

 

『OKAY. "REVE-ED NEX" DISPEL BULLET!』

『OKAY. "NEX-SPY" DISPEL BULLET!』

 

 次々と銃口にエネルギーが溜まっていき、一つの塊となっていく。

 そして固まり終えた瞬間、二人は引き金を引いた。

 その瞬間、塊は銃弾としてエボルの方へと猛スピードで進んでいき、エボルに激突。一気に爆発が起こった。

 

 改造の結果として威力が増した弾丸の威力は凄まじく、壊しかけのステージや2階席の座席が爆風でガタガタと強く震える。

 

 大きく息を吐いた二人。

 これでようやく仇が取れたのだ。幸福が心を埋め尽くすと思っていた。

 

 だがネクスパイの心の中に残ったものは、何も無かった。

 幸福も罪悪感も何も残らない。空っぽな状態だ。

 

 これが、復讐ということなのか。

 なんとも言えない気持ちになった思わず振り向いて、先へと進んで行く。

 

「? どうしたの?」

「なんでもない。後処理は頼んだ」

 

 目の前にいるリベードに後のことを頼み、何処かに向かおうとした──。

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

『Ready go!』

 

 爆炎の中から突如として音声が聞こえてきた。

 

 まさか──。

 

 だが音声のした方には誰もいない。

 対象は一体何処に行ったのか、辺りを見回す。

 

 すると

 

「ガハッ……!」

 

 リベードが突如として地面にうつ伏せで倒れた。倒れた場所には広くひびが入っている。

 ネクスパイは何が起こったのか分からなかったが、当の本人は大体理解が出来た。誰かに高く持ち上げられて落とされたのだ。それも一瞬のうちに。

 

 さらに

 

「グァッ……!」

 

 彼も誰かに蹴り飛ばされ、壁にめり込んでしまう。

 

 二人は自分たちに攻撃をした者を見ようと、なんとか前を向いた。

 

 そこに立っていたのは見たことの無い化け物だった。ドライバーはそのままだが、体表は白黒から紅色の変わっており、両肩には半円のオブジェが付いている。さらに顔は説明するのに億劫な気持ちになるほど変貌していた。

 

『フィーバーフロー! フハッハッハッハハハハ! フハッハッハッハハハハハハ!』

 

 エボル。

 否。

 エボルト。

 

 紅色の悪魔は、静かに二人の方を見つめた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.06 15:05 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう

「私って、いない方が良いのかな……?」

 

 あまねの発言に、日菜太は面食らった。だがその驚きを顔に出すのは彼女にとって逆効果かもしれないと思い、平静を保っている。

 

「それ、どういう意味?」

 

「詳しくは言えないんだけどさ、私がいるとみんなに迷惑がかかる気がして。それだったら、私がいない方がみんなのためになるんじゃないかって……」

 

 あまねが震えた声で訴える。膝の上の両手は強く握られており、顔はよく見えないが口元はきつく結ばれていた。

 

「だから、私……」

 

 そんなあまねを見た日菜太は居ても立ってもいられなくなり、言葉の続きを言わせるよりも先にあまねのほうに近づいて彼女を抱きしめた。

 突然のことに驚くあまね。

 

「そんなこと言わないでよ……」

 

 消え入るような声であまねの耳元で言う日菜太。

 

「それじゃあ、自分のことをどうでも良いと思ってる僕はどうすれば良いのさ……。僕だけじゃない。春樹さんや碧さんも……」

 

 その言葉にあまねはハッとした。自分が一体何を言ってしまったのか。

 

「お願いだから、君のことを愛してくれている人がいるんだったら、その人の前だけでも良いから、自分を愛してみてよ……!」

 

「……ごめん。ごめんね……」

 

 あまねは日菜太の背中に腕を伸ばし、自身も彼を抱擁する形となる。

 暫くその状態が続いて、あまねが日菜太から身を引いた。

 

「言いたいことは、それだけ?」

 日菜太が訊く。

 

「うん。でもなんか、それが一番良いなって思えた」

 

 そう答えるあまねの顔に室内の明かりが差す。

 優しい光が照らす彼女の表情は、ぎこちなくも晴れやかなものとなっていた。

 

 

 

 あまねを見送った日菜太は、二人が使っていた部屋の清掃と床のモップがけを行っていた。開店前の忙しい時間に時間を割いたのだ。これくらいはしておかなければならない。

 

 だが、もっとやらなければならないことがある。

 彼女と同じように、あまり人には話したくないのだが。

 

「不二雄さん」

 

 厨房で牛ロースの塊を捌いていた不二雄に声をかける。

 

「どうした?」

「1時間半くらいしたらちょっと出て行きます」

 

 今から1時間半後は幸いにもそこまで忙しい時間ではない。この店の店主は二つ返事で彼の外出を許した。

 

「有り難うございます」

 

 いつもと同じような笑顔で礼を言う日菜太。

 整った顔から放たれる笑みであったが、上手く証明が届かない死角に立ってしまっていたのか、その顔はよく見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How did she surprise to them?

A: She surprised them by being crimson figure.




【参考】
講談社シリーズ MOOK 仮面ライダー 平成 vol.12 仮面ライダーオーズ/OOO
(講談社, 2014年)
講談社シリーズ MOOK 仮面ライダー 平成 vol.15 仮面ライダー鎧武/ガイム
(講談社, 2014年)
メロン - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e3%83%a1%e3%83%ad%e3%83%b3)
DXエボルトリガー|仮面ライダーおもちゃウェブ|バンダイ公式サイト
(https://toy.bandai.co.jp/series/rider/item/detail/5633/)
https://toy.bandai.co.jp/assets/products/rider/documents/4549660236139000.pdf
松かさ - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e6%9d%be%e3%81%8b%e3%81%95)
アーマードライダー黒影・真|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/kamen_rider_members/157)
エボルト(怪人態)|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/phantoms/31)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question047 What does that pop-star want to?

第47話です。
ちょっとだけ辛い展開になります。
宜しくお願いします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.02.06 17:05 東京都 港区 日本体育館

「お前、何で進化出来たんだよ……!?」

 

 ネクスパイが壁面から脱出し、自力で立ち上がり始めながら問う。

 これまでエボルトは他のフォルクローを吸収することで進化を続けてきた。だが今回は誰も吸収をすること無く進化をした。一体何故──。

 

「フェーズ4になった俺は同族だけじゃなく、相手の攻撃のエネルギーを吸収して進化することも可能になった。今の俺にとっては、どんな攻撃も養分になる」

「そんな……!」

 

 つまり彼女に何をしたとしても、もう無意味ということだ。

 先程のような凄まじい攻撃力だけではなく、その能力。彼らは絶望をする他無かった。

 

「じゃあ、お前らも、俺の養分になってもらおうか」

 

 エボルトは突如としてその場から消えた。またこの瞬間移動か。すぐに態勢を整えて警戒をする。

 だが警戒しても想定外のスピードで奴は接近して来るのだ。対策のしようが無い。

 

 ようやく立ち上がったリベードの眼前に彼女が現れた。すぐに自身も攻撃を仕掛けようとするが、その前にエボルトが両手両足を使って、リベードの全身にとてつもないスピードで打撃を加えていく。

 

「ッ!」

 

 そして右足で思いっきり蹴り飛ばした。

 

「グハァッ! ……ゴフッ……!」

 

 ステージの下の壁に激突したリベード。尋常ではない痛みに仮面の中にある自身の口からは、多量の血が吹き出す。血を吐き切った彼女はぐったりとしてしまった。

 

「碧っ!」

 

 碧のところに駆け寄ろうとしたネクスパイの左肩をエボルトは掴み、顔面に強烈な打撃を与える。

 

「ガッ!」

 

 後退するネクスパイ。だが怯む隙を彼女が許してくれる筈も無く、エボルトは攻撃を繰り出していった。

 リベードの時とは違い、ゆっくりと重い一撃を食らわしていく。

 そのため攻撃を仕掛ける時間はあるものの、何も出来ないのだ。

 

「これで、終わりだ……!」

 

 エボルトの右手が振り上げられる。

 だが肝心のネクスパイは左膝をついた状態で動けなくなってしまい、遠くにいるリベードも上手く体が動かない。

 

 そして、動けなくなったネクスパイに向かって、エボルトの右手が振り下ろされた──。

 

 

 

 

 

 筈だった。

 

「……あ?」

「「……?」」

 

 何故かエボルトの右手は振り上がられたまま止まってしまっている。

 攻撃の対象であるネクスパイや静観するしか無いリベードが戸惑うことは勿論だが、どうやら彼女本人も驚いているらしい。

 

 すると

 

「……して」

 

 彼女の口から声が聞こえてきた。先程まで聞いていた低い声ではない。テレビからいつも流れていた声だ。

 どうやら断片的にしか自身の耳に届いていないらしく、二人は耳を傾けた。

 

 

 

「……殺して」

 

 想像もしていなかった言葉だった。

 そんな言葉を江戸川()()()が吐くわけが無い。

 ということは、今話しているのは──。

 

「江戸川……()()……?」

 

「もうこんなことしたくないよ……。誰かを傷つけて、悲しい顔にさせるのは。私はみんなに、笑顔でいて欲しいのに……。だから……」

 

 だがそれ以上、彼女が言葉を紡ぐことは無かった。

 次に聞こえてきたのは低い溜息だった。

 

「また出てきたか……。最悪だなっ!」

「グァァッ!」

 

 エボルトが腹いせとしてネクスパイを左足で蹴り飛ばした。

 質量の軽い風船人形のようにステージまで飛ばされ、その上で仰向けに倒れてしまう。

 

「どうするの? このままじゃ私たちに勝ち目は無いけどっ……」

 

 ステージの下でしゃがみ込みながら、リベードは上にいるネクスパイに訊く。

 

「……お前がヤツのエボルトリガーを攻撃した時、アイツの動きが鈍った。その隙にけりを付ける」

 

 確かにリベードがエボルトリガーを攻撃した時、10秒近く動きが止まった。それを利用すれば良い。

 尚且つ、エボルトリガーを破壊すれば彼女の進化は止まると圭吾が言っていた。要はあれを破壊すれば一石二鳥というわけだ。

 

「私が破壊する」

「良いのか? そんな体で」

「大丈夫。それに、とどめはお兄ちゃんが刺したいでしょ?」

 

 リベードは少しだけ力を振り絞ってなんとか立ち上がる。

 同じようにステージの上でネクスパイも起き上がった。

 

「いや。あの()のためだ。……もう復讐は止めだ」

 

 自身らを見る標的をじっと見つめるネクスパイ。

 先程まで空っぽのように感じていた彼の心に今、何かが少しずつ埋まっていくような気がしてならなかった。

 

『DISPEL CRASHER』

 

 リベードの右手にディスペルクラッシャー ソードモードが現れ、左手には攻撃の影響で落としてしまったインディペンデントショッカー スタンガンモードを握る。

 

 それが、最後の作戦を開始する合図だった。

 

 リベードは一旦剣を地面に刺し、腕輪のダイヤルを回して、下の方のスロットにトランスフォンを装填した。

 

『SUPER CONNECTION!』

 

 再び剣を握り締めて、右手の小指球で押し込んだ。

 

『OKAY. "REVE-ED NEX" CONNECTION BREAK!』

 

 ネクスチェンジャーから青色のエネルギーが大量に吹き出し、剣心とスタンガンの電極に吸収されていく。

 そして目を青色に光らせると、目にも留まらぬスピードで移動を始めた。

 

 エボルトの眼前に現れ彼女に向かって剣を振り下ろそうとするが、エボルトは左手で軽々と受け止めた。だが攻撃の威力が予想以上に強いのか、思わず両手で受け止めた。

 

「そんな満身創痍の状態のお前らに、今更何が出来る!?」

「そうね……。こういうことなら出来るっ!」

 

 この時、エボルトは思い出した。

 彼女が持っている武器は、右手の剣だけではないことを──。

 

「! まさか!」

「ハァァァァァッ!」

 

 次の瞬間、リベードは左手に持っていたスタンガンを突き出した。狙いはただ一つ、エボルトリガーだ。

 スタンガンの電極が当たった瞬間に蓄積されたエネルギーが流れ出し、許容量を超えてしまったエボルトリガーは粉々に砕け散ってしまった。

 

「グァァァァッ!」

 

 後退するエボルト。肝心のアイテムを破壊されてしまったがために、その姿は紅の怪物から初期のフェーズ1へと戻ってしまう。

 

「今よ! お兄ちゃん!」

 

「オッケー!」

 

 立ち上がったネクスパイはダイヤルを回して赤い面に合わせる。

 

『Are you ready?』

 

 ダイヤルを押し込んだ。

 

『OKAY. "NEX-SPY" DISPEL BREAK!』

 

 ダイヤルを押したのと同時に、エボルトの周りの上に4つの茶色いバケツが現れた。それが傾くと一気に中からオレンジ色の液体が溢れ落ち、彼女の腕や足元に集中してかかると、急速に固まり出した液体のせいで身動きが取れなくなってしまう。

 さらに2つの複眼がオレンジ色に光ったのと同時に、ネクスパイの後ろに同じく茶色い放水機のようなものが幾つも出現した。

 

 ネクスパイは前へと全速力で走り出した。縦に20メートル程のステージの端まで来たところでネクスパイは跳び上がり、右足を前に出した状態になると、後ろの放水機たちから大量のオレンジ色の液体が勢いよく噴射。それらがネクスパイに当たって、彼を猛スピードで押し出す形となった。

 

 さらにネクスパイを送り出す役目を終えた液体たちは、なんと彼の右足に吸収されていって、キックをより強力にするためのエネルギーに再利用される。

 

「オラァァァァァッ!」

 

 そして右足がエボルトの胸部に当たった。

 当たっている足をなんとか外そうとするが、そもそも両腕が動かないために防御の仕様が無い。

 

 ダメ押しではあるが再度右足に力を籠めてエネルギーを流し込もうとした瞬間、彼らのところで爆発が起き、会場中がその炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 目が覚めた時、碧は仰向けの状態だった。そういえばさっきの爆発で吹き飛ばされ、床に叩きつけられて変身を解除された。確かその筈だ。

 

 ゆっくりと上体を起こす碧。

 はっきりとしない視界が鮮明になった瞬間に見えたのは、ほんの少し離れた場所で(うずくま)る自身の兄の姿だった。両手を前に出して顔を下に向けながら大きく息を吸っている。

 手に握られているのは3枚のカードだった。それぞれに違った種類の果実が描かれたメモリアルカードだ。

 

 それが誰のカードなのか、すぐに分かった。

 

 カードをギュッと握り締めてぶつぶつと呟く八雲。何を言っているのかは分からなかったが、逆に何も分からなくても良いとも思えた。

 

 そんな八雲の表情は晴れやかなものになっており、彼の表情を見て碧も笑みを浮かべた。

 

 だが二人がふと前を見た時、その笑みは消えることとなってしまう。

 

「お前……何でまだ生きてる……!?」

 

 彼らの目の前にミソラが立っていたからだ。衣服は所々破れており、口元や右腕からは血が流れている。

 だが流れているのは赤い血だけでは無い。緑色の液体も一緒にだ。

 

「ただお前らと同じ満身創痍の状態になっただけだ。ただ、おかげでもう進化出来なくなってしまった。最悪だな……」

 

 これまでに無い程、顔を歪ませて二人を睨むミソラ。まだ戦闘が続くのかと二人は立ち上がってカードを取り出した。

 

 けれどもその必要は無さそうだ。

 突如としてエボルドライバーが破裂。砕け散った破片が音を立てて地面に落ちた。

 

「……は?」

 

 もう、彼女は変身をすることが出来ない。

 勝負はついた。これ以上は何をする必要は無いと、碧と八雲はカードを仕舞った。

 

 

 

 その時。

 

「君にはがっかりだよ」

 

 ステージの上から声がした。聞き覚えのある男女の声が混ざったものだ。

 

 後ろの方を振り向くと、そこに立っていたのは鉄腕アトムのお面を被っていた黒ずくめの男──零号だった。気をつけの姿勢でじっと彼らの方を見つめている。

 

「何のようだ?」

「決まっているだろ。君を処分しに来た」

 

 零号の発言に首を傾げるミソラ。

 

「君を他の者たちより自由にやらせていたのに、結局ゲームは成功出来なかったね。それが私は許せないんだ。だから、私は君を殺す」

 

 シーンと静まり返る会場内。爆発によりスポットライトの殆どが破壊された影響で少しの灯りしか点いていない中で、会話だけがその場の雰囲気を掴むものだったがために、何故だが若干の恐怖が襲ってくる。

 

「君が選んだ死因は、横隔膜の麻痺による呼吸困難だったね。本来であれば溺死でもさせたいが、残念ながらここには水が無い。なので、私の自由にさせてもらおう」

 

 すると何故か破壊された筈のスポットライトが点き始めた。地面に落っこちたものも光るため、不規則に並ぶ光の筋が地面に出来上がる。

 そしてその怪人は、静かに判決を下した。

 

 

 

 

 

「火に呑まれて死ね」

 

 次の瞬間、ミソラは火だるまとなった。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」

 

 声にならない悲鳴を上げるミソラは、苦しみながら辺りを動き回る。だが炎は何処かに引火すること無く彼女だけが苦しみ(もが)いている。

 碧と八雲が何もすることが出来ずにただ炎を見つめていると、ミソラはバタリとその場にうつ伏せで倒れてしまった。

 

「後は、貴方たちにお任せします。ご自由にどうぞ」

 

 それだけ言い残し、零号はステージの上から姿を消した。

 だが彼らは振り向いて見送ることは無く、暗い部屋の中で鮮やかに上がり続ける炎をじっと眺めていた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.06 17:14 東京都 品川区 平井ホールディングス本社 19階 社長室

 社長室の壁はガラス張りになっている。そのため日が暮れた夜の街の影響で、部屋の明るさが際立っている。

 

 その中で平井勝司はパソコンの画面を眺めていた。画面に表示されているのは火だるまになっている娘の様子だ。それを遠くの方から撮ったものらしい。

 

 パソコンの画面を閉じて前を見ると、海斗が笑みを浮かべながら立っていた。目の前の男の娘が大変な状況だというのに、なんとも不謹慎な様子である。

 

「娘さん、残念でしたね。ご愁傷様です」

 

 深く頭を下げる海斗。その言葉に悔やむ気持ちが入っていないことなど誰でも分かる。

 頭を上げた彼の顔を見つめながら、平井は引き攣ったような笑みを浮かべた。

 

「だが、美空のおかげでフォルクローの技術の可能性を見せてもらえた。この技術があれば、亜美を完璧に甦らせることが出来るやもしれない……」

 

 そんな彼の笑みを見て、海斗は笑顔を浮かべるのを止めた。

 いきなり表情を変えた海斗に違和感を覚える平井。

 

「その件なんですが実は、お伝えしていなかったことがあるんです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平井勝司がオフィスのあるビルの屋上から飛び降りたのは、それから約20分後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What does that pop-star want to?

A: She wants to rest in peace.




【参考】
手のひらの母指球ってどこ?第一関節、第二関節ってどこ?:ポジタリアン イエロー
(http://coolum.sblo.jp/article/104035439.html)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question048 Why did he suicide?

第48話です。
この話で極悪だったのって、一体誰だったんでしょうね?
感想や読了報告等くださると筆者の励みになりますので、どうぞ宜しくお願いします。



【イメージED】
AI - 最後は必ず正義が勝つ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


 江戸川ミソラ改め新型未確認生命体第四十七号が倒されたことにより、事件は幕を閉じた。

 死者は合計して23人。嘗ての未確認生命体の死傷者数に比べれば少ないように感じ取れてしまうが、新型のものでは最多である。

 

 彼女は大人気アイドルであったために世間には衝撃が与えられた。7年前に伽部(ときべ)(りん)が同じような犯罪を犯したがためにそれを超えることは無かったが、当然彼女のファンは荒れに荒れた。自身の推しが異形の怪物として殺人を犯していたのだから。何かの陰謀だとか、実は警察の捜査ミスではないのか、とにかく彼らは事実を受け入れたくは無かった。

 

 ただ詳細を全て知っている者からしてみれば、彼女も無理矢理身体を改造され、挙げ句別のフォルクローに人格を乗っ取られたという点ではある種の被害者だ。ただの猟奇的な怪物として葬られることが何よりの被害であるのだろうが。

 

 だが世間を騒がせたのは、ミソラがフォルクローであったことではない。その裏で警察が起こした不祥事についてだ。

 平井勝司は娘の犯行を隠蔽するために、メディアに対して虚偽の報道をするように圧力をかけた、というのが碧たちの考えだったが、それは大きな間違いだった。

 

 隠蔽に加担していたのはメディアではなく、警視庁の上層部だったのだ。

 上層部の一人が平井の大学の後輩であり、彼に頼んでマスコミへの発表の際に異なる死因を発表していたのだ。

 

 結果、その大学の後輩や他数名の幹部たちが辞職する運びとなった。

 

 そして肝心の平井勝司その人は、オフィスの入ったビルから飛び降りた。17時30分頃のことだった。

 すぐに病院に搬送されたが、即死だったらしい。

 

 こうして、一連の事件はどちらも被疑者死亡ということで幕引きとなった──。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.13 12:20 東京都 渋谷区 SHIBUYA LAND 8階 natcita SHIBUYA LAND店

「全く。怖い話だねぇ」

 

 そう言うと海斗は白いティーカップに入ったコーヒーを飲んだ。

 

 この日は雨が降っており、海斗たちが座る席の隣にあるガラス張りの壁には大量に雨が打ちつけては水が下へと流れていく。

 

 優雅にコーヒーを飲んで前を見据える海斗の前に座っているのは、碧と八雲だ。窓側に座った海斗の前にいるのは碧で、その隣に八雲が座る形となっている。

 「ランチをしよう」とこの店に誘われた二人は笑顔でコーヒーを飲む父親の顔をじっと睨んでいた。元はと言えば諸悪の根源の一人は彼なのであるのだから。

 

「一つ聞いても良い?」

「? 何だい?」

 

「本当に、フォルクローの技術で死んだ人は蘇るの?」

 

 平井は多額の寄付を海斗たちにしてきた。全ては亡くなった娘を甦らせるために。その成果を見る前に彼は屋上から飛び降りたのだ。しかも防犯カメラの映像を確認しても、自分自身の意志で飛び降りたことは間違いないのだ。

 その動機として考えられることは、ただ一つだけだった。

 

 

 

 

 

「無理に決まっているだろ」

 

 海斗は変わらず笑顔で答えた。

 やっぱり、と二人は思ったが、自分たちが思っている以上にその事実が強烈なもので何も考えられなくなってしまう。

 

「そもそもフォルクローは、人間の遺伝子を操作することによって誕生する生命体だ。死人の遺伝子をいじったところで、死んでいる事実に変わりはない。出来ることなら、私も甦らせてみたいよ」

 

 人の不幸は蜜の味。いや、蜜を吸ってその甘美を堪能しているわけではない。まるで玩具が壊れたのを楽しむ()()の悪い子供のようだ。口角が上がりきった彼の顔を見た二人に湧き上がる感情は、怒りだった。

 

「……騙したのか?」

 八雲が震えた声で訊く。

 

「私は彼に一言も『死者を甦らせることが出来る』なんて言った覚えは無い。彼の思い過ごしだよ」

 

 筋は通ってはいるが、それではまるで詐欺師のやり方だ。子供の頃に見た笑顔は、どうやら汚れたもので裏側が汚染されているようだ。ここまで来るともう腹の中は煮えきり、後は冷めるだけだ。

 

「それじゃあ、私はこれで失礼するよ」

 

 海斗がテーブルの端に置かれた伝票を持って席を立とうとする。

 

「ちょっと待って。まだ訊きたいことがあるの」

「俺からも質問がある」

 

 碧と八雲に呼び止められ、仕方なく海斗は自分が元いた席に着いた。

 

「春樹を目覚めさせるにはどうすれば良いの?」

 

 碧からの質問は、自身の夫に関することだ。彼はもう2ヶ月も目を覚まさない。今も医務室のベッドの上で眠ったままだ。何かのタイミングで目覚めることが出来るのか、将又(はたまた)もう二度と目覚めることは無いのか。それが知りたいのだ。

 

「俺からは、特に碧についてだ。どうしてあの時、江戸川ミソラは俺たちにトドメを刺さなかった?」

 

 江戸川ミソラ──エボルトがフェーズ4となったあの日、何故か彼女がブラックホールで二人を吸い込もうとした時、何故かアールたちによってそれを阻止されたのだ。しかもフロワの発言によれば、どうやら理由は碧にあるらしい。

 

「二つの質問に関してだが、両方を答えるためにまずはフォルクローについて詳しく説明しなければならない」

 

 海斗の答えはどうやらここから長くなりそうだ。

 

「フォルクローは下級と上級に分けられるが、違いは至ってシンプルだ。

 まず異形の姿をした下級は、改造の際に遺伝子操作に身体(からだ)が耐えられないために姿形(すがたかたち)が変わってしまう。おまけに脳組織もやられるために殆ど自我も無くなってしまう。

 一方私や碧のような上級は、遺伝子操作に身体が耐えられるために、姿形が変わることは無い。人間の姿を維持したままに能力を使用出来るんだ」

 

 正直言って、二人はここで初めてその事実を知った。改造された張本人である碧や、海斗と一緒に活動をしていた八雲もだ。

 淡々と事実を話す父の目は輝いており、まるで子供のようだ。

 

「ただ、私の口から話せるのはここまでだ」

 

 だが答えまでは教えてくれない。思わず声が出てしまう二人。

 

「強いて言うなら、碧の質問には答えられる。彼を目覚めさせる方法は1つだけある。ただ、方法が方法だからね……」

「教えて! 一体どうすれば良いの?」

 

 碧は両手で机を叩きながら立ち上がると、他の客にも聞こえる声で叫んだ。その声に他の客が静かに碧の方を見つめる中、父は右手の人差し指を口元に当てて口から音を出しながら注意をする。いくら彼でも流石に気にするようだ。

 

「すまないがこれ以上は何も、だ。彼を甦らせる方法も、碧が襲われなかった理由も」

 

 再び立ち上がった海斗は伝票を持ってその場を立ち去った。伝票を持って行ったことが最低限の愛情だったのだろうが、今の二人はそれに気が付かなかった。

 

 

 

「どうする? うちのお父さんはあんな感じだけど」

 

 海斗がその場を後にしてから少し経って、碧はコーヒーカップに口をつけた。

 だが隣の八雲はずっと顔を下げたまま、何もしようとしない。父親があんな感じになってしまったのだ。無理もないだろう。

 

「……どうしたの?」

 

 念の為に訊いてみた。

 

「一回、あの人にこんなことを言われたんだ」

 

 

 

 君は、母親に会いたくないかい?

 

 

 

「え?」

 

 

 

 八雲から教えられた海斗の嘗ての言葉に碧は理解が出来なかった。それが一体何を意味しているのか。皆目検討がつかなかった。

 

「ねぇそれ、どういう」

「ずっと考えていたんだよ。父さんは20年前に母さんを殺された。俺たちと同じくらい、いや俺たち以上に異形のものを憎んでいた筈だ。そんな男がフォルクローなんて生み出すか?」

 

 確かに言われてみればそうだ。自身の最愛の妻を殺した生物と、同じようなものをどうやって作り出そうというのだろうか。だが自身らが知っている限り、海斗が妻を愛していなかったわけではない。彼女が死んだ時には本気で悲しみ、火葬の直前まで棺桶に抱きついて離れようとしなかった男なのだから。

 

「それに、さっき言っていただろ。『出来ることなら、私も甦らせてみたいよ』って」

 

 その時、碧の頭の中に1つの仮説が浮かび上がった。

 これまで想像もしていなかった、ある仮説だ。

 

「まさか、あの人がフォルクローを作ったのって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。きっと、母さんを甦らせるためだ」

 

 二人の間に沈黙が流れる。碧は何とも言えない表情をしており、八雲はじっと誰もいない前を見つめている。

 

「恐らく、母さんを甦らせる技術を探していた最中(さなか)にアールたちに出会ったんだろう。そこで藁にもすがる思いで研究にのめり込んでいったんだろう。不可能かどうかは関係無しに、だ」

 

 兄の口から語られる父親に関する推理を聞かされる碧は、今どんな気持ちなのだろう。机の上に置かれたコーヒーカップの中にある水面を眺める碧は、先程とは逆に下を向いた状態になってしまった。

 

「俺は父さんの気持ちには同情するが、行動については賛同出来ない。確かに母さんには俺ももう一度会いたいよ。けど、それが誰かの人生を巻き込んで良い理由になって良いわけがない」

「……そうね。私もそう同意見。あんな悲しい思い、もう誰にもさせちゃいけない」

 

 再度碧は前を向いた。ここで二人とも前を向いた状態になり、ふと互いの顔を見合った。視界に入った自身の兄妹の顔は引き締まっている。

 そしてふと笑みを浮かべて、同時にカップの中に入ったコーヒーを一気に飲み干した。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.13 20:11 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 食卓に置かれているのは鍋だ。中には切られた白菜と豚バラ肉がミルフィーユのように敷き詰められており、白菜から出た水分が和風だしの中に溶け出している。

 

 その重なった白菜と豚バラ肉を箸で掴んで、一気に口の中に頬張る碧とあまね。

 すると突然、迷わず箸を動かすあまねの前の碧は箸を置いた。

 

「春樹なんだけどさ」

 

 思わぬ話の出だしにあまねの中で緊張が走り、思わず箸が止まった。

 

「来月、近くの病院に転院することになったんだ。一日でも早く目覚められるように研究するためにね」

「……そうなんだ……!」

 

 その報告を聞いて、あまねは緊張から解き放たれたようで顔から笑みが溢れた。もしかしたら、もう少しで父親に会えるかもしれない。それが嬉しくて仕方がないようだ。そして再び箸を進め始めた。

 

 そんな彼女の表情を碧は笑顔で見つめる。母親の妙な笑顔にあまねは箸を再度止めた。だが緊張した様子ではなく、失笑しながら碧に訊いた。

 

「何?」

「んん? なんか、最近明るくなったなって」

 

「えぇ!? ……ちょっと恥ずかしいんだけどさ……パパとママの子になることが出来て良かったなって」

 

 恥ずかしさからあまねは箸を箸置きの上に置いて、両手で顔を覆い隠す。

 一方の碧は感激のあまり両手で口を押さえると、すぐに立ち上がって娘のもとに駆け寄ると、その場に跪いて彼女の腰に抱きついた。

 

「あまねちゃぁぁぁん! ありがとーーーっ!」

 

 あまねの腹部に顔を押さえて嬉し泣きをする碧。

 

「え、ね、ちょっと! 離れてよぉ……!」

 

 余計に恥ずかしくなるあまねは碧をなんとか引き剥がそうとする。だが嫌なわけではない。むしろ嬉しいのだ。母親が自身のところに飛びついてくれたことが。

 

 引き剥がそうとするのを止めたあまねは、口角を少し上げ左手で碧の頭を撫で始める。

 そして碧もまた満面の笑みを浮かべ、ギュッとあまねに抱きついた。

 

 外ではまだ雨が降っている。部屋の窓に雨が打ち付けられて音が鳴る。だがその音が二人に届くことは無かった。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

「はい。これで完成」

 

 デスクの上で花奈はパソコンのエンターキーを押し、思いっきり背伸びをした。後ろでアールたち三人が彼女に向かって拍手を捧げる。特にフロワとピカロの拍手は大きく、アールは思わず耳を塞いだ。

 

「有り難う! これで思いっきり戦うことが出来るね、お姉ちゃん」

「えぇ。もうあのお嬢ちゃんたちは必要ないわね」

 

 フロワとピカロが満面の笑みを浮かべながら互いの顔を見合う。

 

「そんなこと言わないでください。まだ彼らは必要なんですから」

 

 フロワの発言に軽く注意をするアール。だが彼も満更ではないらしい。それほど喜ばしい出来事のようだ。

 

「で、私たちはいつ出動になるの?」

「まさか、ずっと先じゃないよね!?」

「それは勘弁して。自分の研究ストップして()()を作ったんだから」

 

 三者から質問と意見を浴びせられるアールは、両手を思いっきり前に突き出して止めるように促した。

 

「出てもらうのは来月です。どうしてだかは解っていますね?」

 

 どうやらフロワとピカロは理解しているらしい。だが花奈だけは彼らが何を狙っているのかが分からず、首を傾げてしまう。なので、アールが親切に彼女に教えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狙いが、椎名春樹さんだからですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常67体

B群7体

不明1体

合計75体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why did he suicide?

A: Because he found that he was cheated.




【参考】
東京の過去の天気 2022年2月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220200/)
寒い冬に負けない!食材別⭐︎あったかレシピ特集|レシピ特集|レシピ大百科(レシピ・料理)|【味の素パーク】たべる楽しさを、もっと。
(https://park.ajinomoto.co.jp/recipe/corner/event/dangohan/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 17 ブラックジョーク(BLACK JOKE)
Question049 Why were they glad?


第49話です。
そろそろシーズン2も折り返しになりそうです。そんな中で遂にアイツらが変身します。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いします。



【イメージOP】
Roselia - 閃光

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.14 15:33 東京都 千代田区 警視庁 9階 会議室2

「監察官の一条と申します。本日は宜しくお願いします」

 

 一礼をした一条薫警視正は、警視庁内の不祥事を捜査する監察官である。

 22年前、信頼出来る相棒と共に未確認生命体の脅威に立ち向かった彼は、ずっと現場の一線で勤務をしていた。

 だが丁度先日警視正に昇進した彼に、監察官として異動するように命があったのだ。理由としては、彼が現場で培ってきた観察力や経験を生かして欲しい、とのことらしい。現場一筋だった彼としては不服ではあったが、きっとこれも次に自分に課せられたものなのだと受け入れた。

 

 そんな彼は今、白い蛍光灯によって照らされる室内の中でパイプ椅子に座っている。

 その前には深月が同じくパイプ椅子に座っており、同じように頭を下げた。

 

「まさか、22年前に助けた君と、こんな形で再会するとは思ってもいなかった……」

「僕もですよ……。こんなの初めてですし……」

「私も初めてです。どうか気負わずにお願いします」

 

 22年前、両親を未確認生命体に殺された深月は一条たちに助けられた。その影響もあってか、深月は一条と同じ警察官の道を選んだ。

 そして今まさに自身の恩人と再会を果たしたのだ。最悪な形で。

 

「それで、どうして僕は呼ばれたんでしたっけ……?」

 

 それが愚問だということは彼にも分かっている。だが念のために訊いてみた。

 彼の意図を読み取ったのか、一条は少し間を置いて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「椎名春樹と椎名碧、両名の()()()()についてです」

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.04 11:51 東京都 新宿区 SOUP

 何か不吉な出来事が起こると、近く天変地異のような何かとんでもないことが起こる。古くから日本ではそう信じられてきた。テレビや漫画でも、誰かが命を落としたりする時、その者の家で食器が割れる描写をするのもその名残だろう。

 

 それが今、この部屋の中でも起こっていた。

 

「私が……負けた……!?」

 

 この日、近くの弁当屋にて昼食を買って来る人を決めるじゃんけんで、碧が負けた。

 碧は春樹を含めたメンバーの中で3番目にじゃんけんが強い。負けたことなど10回も無い筈なのに。

 なので全員が起こった出来事に驚き、右腕を出して立ち上がっている碧の方を見ている。

 

 だが目線こそ碧の方を向いているが、驚いているのは碧が負けたということではない。

 

「嘘だろ……。僕が、勝った……!?」

 

 深月が勝った、ということに驚いているのだ。

 深月のじゃんけんの実力はチームの中で最弱だ。勝った回数など片手で数えるほどしかない。

 そんな彼が、勝った。いや、勝ってしまった──。

 

「こんなことが……。確率的にあり得ないことは無いけど、実現するなんて……」

 薫が口元を両手で覆いながら言う。

 

「えぇ。春樹さんが負ける方があり得ないですが、まさか……」

 圭吾は薫と顔を見合わせて一緒に驚いた。

 

「きっと今日は、確実に不吉なことが起こるな……」

 森田はデスクに両肘をつき両手を重ね合わせた状態で俯く。

 

「ちょっと待ってくださいよ! 何で僕が勝っただけでこんな空気になるんですか!?」

 

 立ち上がっている深月が三人に向かって抗議する。自分が勝ち残っただけでこんな状態になるのが気に食わないらしい。

 だが目の前で少し凹んでいる碧の姿を見て、以降は何も言わなくなった。

 

 その凹んでいる本人は黒いセーターの上から、下に履いている黒いカプリパンツにかかるくらいの丈の青いチェスターコートを着た。

 

「じゃあ、買いに行って来まーす」

 

 やや不機嫌そうな顔を見せながら入り口のところに向かう碧。だが何故かドアノブに手をかけたところで手を止め、近くの席に座っている八雲の方を見始めた。丸いテーブルに身を預けていた八雲は、何故自分が見られているのか分からず、思わず上体を上げて姿勢を正してしまった。

 

「そうだ。お兄ちゃんも一緒に来てよ」

「え? 何でだよ。俺外に行く用事は()ぇよ」

 

 すると八雲のスマートフォンが音を鳴らした。何だ何だと画面を確認すると、八雲は両手の甲で顔を押さえて立ち上がり、椅子にかけていたペールブラウンのモッズコートを着始めた。

 

「? どうしたの?」

「ネットでBEYOOOOONDS*1の曲買ったの思い出したわ。コンビニで支払いしねぇと」

「え? クレジットカードで払ったんじゃないの?」

「俺クレカ持ってないんだよ」

 

 そう言われても何ら違和感は無い。10年近く行方不明だったのだ。そもそもクレジットカードの審査が通るかどうかも怪しいのだから。

 

 嫌そうな顔をしながら八雲は、ドアを開けてくれた碧と共に部屋の中から出て行った。

 

 それを見届けると、深月は席に座って他の全員は同時に神妙な面持ちになった。

 

「それで、例の話は事実なのか? 常田海斗がフォルクローを作ったのは自身の妻、つまり、碧君と八雲君の母親のためというのは」

 

 森田が早速切り込んだ。八雲がこの前深月にボソッと話し、今朝に彼が他のメンバーに話したのだ。

 

「八雲さんの話を聞く限り、事実でしょうね」

 

 深月が静かに言うと、全員が大きく息を吐いた。

 

「じゃあ、春樹さんや碧さんたちをあんな風にしたのも、あんな高い屋根を生み出したのも、多くの犠牲を出したのも、全部奥さんのためってことですか!?」

 

 圭吾が驚いた表情を見せる。こんな壮大な計画が、全てただ一人の女性のために行われているという事実が、自らの予想の域を超えていたのだ。

 

「そんなこと絶対にあっちゃ駄目ですよ……。例えどんな事情があったとしても、私情で他人を犠牲にすることが、科学であってはいけない……!」

 

 薫の顔に浮かび上がる感情は、怒りだった。彼が一連の出来事を起こした理由が、彼女の許容量を超えたようだ。

 

「……だが、もしかしたらそんなことは言っていられないのかもしれない。大切な人を失った人の悲しみは、私たちには分からないのだから……」

 

 森田の発言に、誰も何も言えなくなってしまう。

 そして部屋の中で、それ以上に会話が広がることは無かった。

 

 

 

 さて、会話の議題に上がっていた男の子供達は、それぞれの目的のために道を歩いていた。高層ビルが立ち並ぶ中にある歩道を八雲が車道側を歩くことで、内側の碧を走る車から守るようにしている。

 

「そういえば、婿殿はどっかの病院に転院したんだっけ?」

 

 八雲が思い出したように言った。歩いている間、あまり会話が無かったので苦肉の策に出たというわけだ。

 

「うん。私と警備担当者が許可しないと誰も会えないけどね。こないだはあまねちゃんと日菜太くんが来てくれたわ」

 

 そこまで警備を厳重にしたのは春樹がフォルクローである他無い。死体の状態ではなく昏睡状態の彼を連れ去って色々試したいと企む国や組織がいる可能性もある。それらから彼を守るためだ。

 

「……そうか」

 

 後少し歩けばいつもの弁当屋に到着する。その近くにあるコンビニにもだ。嫌々進めていた足ももうすぐ止めることが出来る。各々の目的のために、再度足に力を入れた。

 

 その時だった。

 二人の端末が振動を始めた。まさかと思い画面を確認する。

 

「嘘でしょ……。お昼ご飯の前に出動って……」

「ああ。最悪だな。とっとと片付けるぞ」

 

 

 

2022.03.04 12:39 東京都 品川区

 東品川の埋立地の上に、機動隊やSOUPのメンバーたちはいた。倉庫が集中するこの場所に快晴の空から赤いカーテンが降りてきている。

 報告によれば、後5分程で現れるらしい。しかも、11体もだ。

 

「まさか、11体も出て来るだなんて」

 深月が碧の買ってきたハムとレタスが挟んであるサンドウィッチに齧り付きながら言う。

 

「お二人とも大丈夫ですかね?」

 同じ種類のサンドウィッチを貪りながら圭吾は二人の心配をする。

 

「我々がしっかりバックアップをすれば問題は無い」

 森田は二人の心配と共にペットボトルに入った烏龍茶を胃の中に流し込んでいった。

 

「こんな時春樹さんがいてくれたらな……」

 薫がたまごサンドを頬張って言った。

 

 

 

────────────

 

 

 

「全員が各々の発言を後悔することになったのは、ここから少し経ってからでした」

 

 経緯を話す深月の顔が徐々に暗くなっていく。その表情の変化を一条は見逃さない。

 

「どうされました? 少し休憩されますか?」

「……いえ。続けましょう」

 

 気を遣う一条に取り繕ったような笑顔を見せる深月。

 だがもう幾度となく誰かの笑顔を見てきた一条にとって、それが作り笑いであることなど明確であった。それでも一条は仕事のために続けなければならない。

 

 話は再び紡がれ始めた。

 

 

 

────────────

 

 

 

「10体が何よ。10人相手に戦ったことあるし」

「まぁ確かに。父さんとその仲間に比べたら楽かもね」

 

 顔を見合って笑みを浮かべる二人。最早この二人に怖いものは無いと言ったところだ。

 

 するとその時。

 

「こんにちはーっ」

 

 右の奥から男性の声が聞こえた。見るとそこに立っていたのはアールたち三人だった。アールはいつものスーツの上から茶色いポロコートを着ており、フロワは薄ピンクのファーコートで全身を隠している。最後のピカロは迷彩柄のM-65を上に羽織り、下にはジーパンを履いている。

 

「おい、何しに来た?」

「ちょっと、皆さんにお見せしたいものがありまして」

「「?」」

 

 するとアールの両端にいたフロワとピカロは一歩前に出ると、フロワは左の、ピカロは左の袖を捲った。よく見るとフロワの左手首には碧たちと同じ黒い腕輪が、ピカロの左手首には見たことの無い腕輪が着けられている。

 ピカロの腕輪はネクスチェンジャーと同じくらいの大きさだが、ダイヤルやスロットは付いておらず、ただ黒いだけだ。

 

「それは、何?」

「P-2-Pシステムの完成形。だってまだ貴方、四つ目の機能を紹介していなかったでしょ?」

「だから、僕たちが先に作って見せてあげようと思ったんだ。まぁ、()()()()()()()()()()()()()()けど」

 

 フロワは1枚のカードを取り出した。碧たちが使っているようなものと同じで、ポップな文字で「KAMEN RIDER PEERS」と書かれており、下部には「Froid」と印字されている。

 そのカードを黒い腕輪にかざした。

 

『NEX CHANGER, Peer-to-Peer mode』

『CONNECTED』

 

 フロワの手首にネクスチェンジャーが出現すると、ピカロの腕輪が縁を虹色の発光させながら音声を鳴らした。

 

 そしてフロワはもう1枚のカードを取り出した。左側にはピンク色の戦士が、右側には水色の戦士描かれており、下部には「KAMEN RIDER PEERs」と書かれている。

 そのカードをスロットに装填した。

 

『"PEERS" LOADING』

 

 腕輪を回してオレンジ色の面に合わせる。

 

『CHANGE』

 

 金属がぶつかり合う音に似たものが流れると、フロワの周りをピンク色の、ピカロも周りを水色の正方形が取り囲んだ。見ると天面に付けられたパイプ同士が繋がっている。

 

 その中でピカロは時計回りに一回転し両手を広げるポーズをとる。一方のフロワは左手を口元まで挙げ、ネクスチェンジャーの側面に軽く口付けをした。

 

 そして二人は同じ言葉を発した。

 フロワは静かに。

 ピカロは楽しそうに。

 

 

 

 

 

「「変身!」」

 

 彼女はダイヤルを押し込んだ。

 

『Here we go!』

 

 その後の手順としてはほぼ碧たちと同じだ。まずフロワの正方形の中に煙が充満すると、その煙はパイプを伝ってピカロの正方形の中に入り込んでいく。両方の中に煙が満ちた瞬間、複数の影が人影に合わさって正方形は破裂。煙は外へと逃げていった。

 

 煙の中から現れた2人の戦士の姿は、まるで色違いのアクトだった。同じような楕円形の目を持っているが、目の色はフロワの方はピンク、ピカロの方は水色となっている。さらに鎧の色は銀色から銅色に変色していた。

 

『This is RIDER SYSTEM of next generation. We’re KAMEN RIDER PEERs! It’s reused as like heavy rotation.』

『Connect completely.』

 

「へ、変身した!? しかも、片方は何も操作していない……!」

 

 驚く碧の前で、変身した二人は仮面の下で笑みを浮かべる。

 

「これがP-2-Pシステムの最終形。私が仮面ライダーピアA、ピカロが仮面ライダーピアB。二人合わせて仮面ライダーピアーズ」

 

 フロワ、否、仮面ライダーピアAは高らかに自身らの名前を宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why were they glad?

A: Because they have become being able to transform.

*1
「ハロー!プロジェクト」に所属する日本のアイドルグループ。




【参考】
東京の過去の天気 2022年3月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220300/)
警視庁と警察庁の内部、ホントのところ
(https://www.fbijobs.jp/police/keisityou-keisatutyou)
監察官 - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e7%9b%a3%e5%af%9f%e5%ae%98)
BEYOOOOONDS
(https://ja.wikipedia.org/wiki/BEYOOOOONDS)
【2022-2023年】大人女子のための冬コーデ40選 |ファッション通販 d fashion
(https://dfashion.docomo.ne.jp/static/cont/id_lpCODE08)
色々なパンツの種類(118種)や名前の一覧(イラスト付)|ファッション検索 モダリーナ
(https://www.modalina.jp/kind/pants.html)
【コートの種類】メンズのコート&アウターおすすめ10選|The Style Dictionaly
(https://www.uktsc.com/thestyledictionary/mens_coat_style)
コートの種類を徹底解説!シーン別レディースコートの選び方 - &mall
(https://mitsui-shopping-park.com/ec/feature/ladiescoat)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question050 What is their new force?

第50話です。
宜しくお願いします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.04 12:39 東京都 品川区

「これがP-2-Pシステムの最終形。私が仮面ライダーピアA、ピカロが仮面ライダーピアB。二人合わせて仮面ライダーピアーズ」

 

 突如として変身したフロワとピカロ。その衝撃は碧を掻き乱した。

 

「ねぇ、あれどういうこと?」

「一人がネクスチェンジャーを使用し、もう一方が専用のデバイスを使うことで、1つのネクスチェンジャーで2人が変身出来る。それがP-2-Pシステムの行き着く先だ」

 

 何も知らない碧に八雲が解説を始める。動揺する碧の横で淡々と。

 

「そう。そういうわけで、今から僕たちのデモンストレーションの相手になってよ」

 

 ピアBが楽しそうに言う。

 今から戦闘が始まりそうな雰囲気を察知した碧と八雲は、同じくネクスチェンジャーを取り出してカードを装填した。

 

『"REVE-ED NEX" LOADING』

『"NEX-SPY" LOADING』

「「変身!」」

 

 変身を遂げた二人。

 するとピアBはそれを見て二人の方へと走って行く。そして跳び上がって右足で回し蹴りを食らわせようとした。

 

「オリャァッ!」

 

 だが二人は上体を反らすことで軽々と避け、反撃を試みる。

 着地をしたピアBは左手で目の前のリベードの頬を殴った。右脚で再度回し蹴りをしようとしたがリベードが、右脚を左手で避け流し右手で同じように顔面に一発お見舞いしようとした。だがピアBはそれを左手で受け止め、ゆっくりと外側に移動をさせて、手を離した瞬間に右手の裏拳を彼女の胸部に食らわせた。

 

「ガァッ!」

 

 後退するリベード。

 

『Summon mine!』

 

 出現させたインディペンデントショッカー スタンガンモードを右手に逆手持ちし、ピアBの背面に電極を当てようと振り上げた。

 と、次の瞬間。

 

「ッ!?」

 

 自身の背中に2つの衝撃が走った。実際、彼の背中からは煙の筋が立っている。

 振り向くとピアAがインディペンデントショッカー マグナムモードの銃口を向けていた。その銃口からは同じように煙が立っている。

 

 容赦無く引き金を引いて銃弾を次々命中させていく。その度に白い煙が姿を見せて火花が共に散る。

 

「グハァッ!」

 

 同じく後ろに退いたネクスパイ。

 

 今が好機なのだろう。ピアBは二人の首を掴んで前の方へ投げた。

 投げ込まれた先は大きな倉庫の中だった。大量のコンテナが置かれており、車2台が通れる程のスペースしか通れる道は無い。

 

「結構強いわね」

「ああ。流石は俺が作ったシステムだ」

 

 立ち上がりながらピアーズの能力を誉める二人。同時にリベードはネクスパイの自画自賛に呆れた様子も見せる。

 

「そうね。じゃあ、これは知らないでしょ」

 

 するとピアBと共に倉庫の中に入って来たピアAは1枚のカードを取り出した。

 カードの上には赤い格闘ゲームの、下には青いパズルゲームのスタート画面が描かれており、下部には白く「No.144 SEPARATED PARA-DX」と印字されている。

 そのカードをネクスチェンジャーのスロットに挿し込んだ。

 

『"PARA-DX" LOADING』

 

 ダイヤルを1回転させて再びオレンジ色の面に合わせる。

 

『CHANGE』

 

 するとピアーズの鎧が無くなるのと同時に、二人の後ろにそれぞれゲートが出現。ピアAのゲートからは青色のスライムのような形の、ピアBのゲートからは赤色のボクサーの形をした鎧が前に飛び出してきた。

 

 そしてピアAはダイヤルを押し込んだ。

 

『Here we go!』

 

 目の前の鎧が分解され、二人に装着されていく。

 ピアAには胸部と両肩に青色の大きな鎧が装着され、頭部にはベレー帽のような形をした同じく青色のパーツが着けられる。その全てにパズルのピースを模したカラフルな絵が描かれている。

 一方のピアBの胸部にも赤色の同じような鎧が着けられ、両手には大きな赤色のナックルが装着されているが、内側には両手を動かせるための穴ができている。そして頭部には金色の鉢巻や赤い立った髪の毛のようなパーツが着けられ、それら全てに炎が描かれている。

 

『Infection, Breeding, Playing the game! Let’s enjoy with me. SEPARATED PARA-DX! My heart is moving.』

『Connect completely.』

 

 仮面ライダーピアーズ パラドクスシェープの誕生だ。

 

「そんな馬鹿な……! P-2-Pシステムではメモリアルカードを使った形態の変化は出来ない筈なのに……」

「そう。だから()()が改良してくれたんだよ。良いでしょ〜」

「……『彼女』ってまさか!」

 

 二人の脳裏にある一人の名前が浮かび上がる。だがそれを口に出すのは野暮な気がして敢えて言わなかった。

 

「さて。もうそろそろ()が来るから、そろそろお開きにしましょうか」

「うん! お姉ちゃん!」

 

 ピアBがリベードとネクスパイの方へ走り、二人に両手のナックルで横へと一気に殴り飛ばした。

 

「「ゴハァッ!」」

 

 横にあるうち、上の方のコンテナにぶつかり地面に落ちる二人。あまりに一撃を重かったのか、立ち上がるのがやっとの状態になってしまう。

 

 それを見たピアAは1枚のカードを取り出し、下の方のスロットを通過させた。

 

『"ENERGY ITEM"』

 

 カードの効果が発動し、メダルが倉庫内に現れる。通常、メダルたちはランダムな場所に置かれたままになるのだが、何故かメダルたちが彼女の頭上に集結し始めた。

 そして止めを刺そうと、ピアAはダイヤルを回して赤色の面に合わせた。

 

『Are you ready?』

『Get ready to do deathblow.』

 

 ダイヤルを押し込むと、ピアーズにそれぞれ3枚のメダルが割り当てられる。

 

『OKAY. "PARA-DX" BORROWING BREAK!』

 

 メダルを受け取ったピアBの拳が銀色に発光。同時に目にも留まらぬ速さで移動を始めた。それを目で追おうとするが、その瞬間に腹部に強烈な痛みが走ると同時にリベードとネクスパイは天井近くまで高く打ち上げられてしまった。

 何が起こったのか分からないまま痛みに悶える二人に対して、ピアAは上空へ跳び上がると両足を前に突き出した。すると両脚が突如として伸び、色とりどりのエネルギーが溜まった足が二人を襲った。

 

「「グァァァァッ!」」

 

 蹴り飛ばされた二人は倉庫の外に飛ばされ、変身を解除された状態で床に叩いつけられてしまう。起き上がろうとするが、全身に痛みが走って身体が動かせない。

 

 そんな中、二人の左耳に着けられている黒いイヤホンに深月から無線が入った。

 

『後5秒でフォルクローたちが来ますっ!』

 

 深月が言葉を放った瞬間、赤いカーテンから報告通り10体の化け物が現れた。それぞれが違う武器を持ち、違う体表の色をしているのだが、唯一揃っていることは頭部から2本の鋭い角が生えていることだ。まるで鬼のように。

 

【警察庁より通達。以降対象たちを新型未確認生命体第五十七号郡『デモンズ』と呼称する】

 

 碧と八雲はピアーズとデモンズに挟まれる形になってしまう。上手く身体が動かない今の状態は、まさに危機一髪と言える。

 

「どうする? もう、動ける体力残ってないけど……」

「そうだな……。どうすれば……」

 

「えぇ。結構マズい状態でしょうね」

 

 ピアーズ側にいたアールがニコニコと笑顔を見せている。

 

 

 

 

 

「なので、奥の手を用意させていただきました」

「え?」

 

 刹那。その場にいる全員を強風が襲った。

 一体何が起こったのかと驚く一同。

 

 見ると、碧たちとデモンズの間に()()がいた。楕円形の緑色の複眼が付いた全身が黒い怪人で、その体には大量の棘が付いており、両腕前腕の外側の側面と両脚の裏側には(ひれ)のように棘が集中している。さらに全身にはまるで神経のように緑色の線が入っている。

 そして注目すべきはその腹部だ。装着されているのはアクトドライバーのようで、左側にはトランスフォンが着いている。

 だが右側にあるのは従来のようなプレートではなく、黒い正方形の箱だ。真っ黒な箱の真ん中で「CRACKING」の文字が発光している。

 

 肩幅に開いた両脚と落ちた腰。その姿を例えるための何かが、その時彼らには分からなかった。

 だが今ならば分かる気がする。

 

 比喩を使うのではなく、直球な言葉で()()を表現するのが良さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれはまるで、()()()でしたよ」

 

 そう言う深月の表情は、この取り調べの中で一番暗いものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is their new force?

A: It is the black monster.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question051 Who is the black monster?

第51話です。
もう、今後の展開はお分かりですよね? お分かりだったとしてもどうかお付き合いください。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、どうぞ宜しくお願い致します。



【イメージED】
AI - 最後は必ず正義が勝つ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.04 12:42 東京都 品川区

「何、あれ……」

 

 うつ伏せに倒れている碧が静かに言う。だが八雲はいつものように解説をしようと何故かしない。

 

「まさか……!」

 

 それ以降は何も言わずにずっと黒い怪物を見つめている。

 怪物は両脚を肩幅に開いた状態で腰を落とし、両腕を左右に大きく広げている。腕を広げながら指を不規則に動かしているその姿は、一体何に似ているのだろう。

 

「グルゥゥァァァッ!」

 

 雄叫びと共に怪物はデモンズに襲いかかっていった。

 

 その戦い方は、まさに「黒い獣」と呼ぶに相応しかった。

 

 赤色の鬼が左手に持った盾を怪物が左手で粉々に粉砕し、左手で顔を払って右側にその鬼を飛ばす。

 

 小さな棍棒を両手に持った3体の鬼たちのうち、一体が左手に持ったものを左へと振る。それを右手で掴んで、地面を蹴り上げて鬼の後ろ側に周り、左手の鰭のようなカッターを背中に突き刺した。そして残りの二体が棍棒で繰り出そうとする攻撃を、突き刺さっている鬼で防いで、三体を左足で一気に蹴り飛ばした。

 

 今度は両手に鉤爪を付けた二体が来た。すると怪物は前宙をし、足を地面に着ける寸前に右足の鰭で一体の頭部に切り込みを入れる。残った左足で胸部を蹴って後ろに一回転することで離れた怪物は、二体もろとも左足を使った回し蹴りで蹴り飛ばした。

 

 攻撃を終えた時、左腕に違和感を感じた怪物は右側を向く。そこではライフルを持った黄色い鬼と、ハンドガンを持った紫色の鬼が立っていた。次の標的を見つけた怪物は、猛スピードで二体に飛びかかり両手で武器を握りつぶして破壊した。

 

 さらに斧を持った銀色の鬼と、巨大な棍棒を持った水色の鬼がゆっくりと迫って来る。棍棒を右から左へ振り攻撃をしようとしたが、怪物は武器を持っていた二体を盾にした。盾にされた二体がその場に倒れ込んでしまう。

 後ろから斧を持った鬼が襲い掛かろうとしていた。だが怪物は棍棒を持っている鬼を掴んで後ろに投げた。結果、棍棒を持っていた鬼の背中に斧が刺さる形になる。そして二体共々仲良く怪物に蹴り飛ばされた。

 

 蹴り飛ばされた銀色の鬼は仰向けの状態で吹き飛ばされる。だがすぐに立ち上がると、次の標的に狙いを定めた。

 倒れている碧と八雲である。

 武器も持たずにゆっくりと歩いて行く。だが碧たちは一切動くことが出来ない。このままでは二人とも──。

 

 すると怪物はドライバーに付けられた黒い箱を、トランスフォンの方へと押し込んだ。

 

『Are you ready?』

 

 トランスフォンを下へと押した。

 

『OKAY. CRACKED DISPEL EXPLOSION!』

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」

 

 声と言うにはあまりにも粗末な悲鳴が上がったのと同時に、怪物を中心に赤色の円が地面に浮かび上がっていった。それは徐々に広がっていき、全ての鬼たちを呑み込む。

 

 だがそんなことを知らない銀色の鬼は、大きく腕を上げた。

 

 その時、碧の頬に微かな痛みが走ったのと同時に、鬼の動きが止まった。見ると鬼の腹部を後ろから黒い大きな棘が貫いていた。目の前の鬼だけではない。円の中では大量の棘が地面から生えており、それらが鬼たちの身体を貫通していたのだ。

 

 そして次の瞬間。

 

 ゴオオオオオオオッ!

 

 音と共に突如として大きな火柱が天高く上がった。碧の眼前で起こったその火柱はあっという間に鬼たちを呑み込んでいく。

 

 火柱が止んだ円の中ではいくつもの焼け焦げた骸が落ちていた。碧の前にいた鬼も黒焦げになって後ろに倒れる。

 

 ふと碧は自身の右の頬を触った。横一文字に切り傷が出来ており、血がいくつかの筋となって頬を伝って地面に落ちていく。どうやら先程の棘が当たったらしい。

 

 その場で真っ直ぐ立っている怪物の姿をじっと見つめながら、碧と八雲は共通のことを考えていた。

 

 アレは、誰なんだ──?

 

 

 

「ヤツは一体何者なんだ……?」

 

 すると森田の端末が振動した。画面を見ると岩田室長からの着信である。「室長からだ」と森田が言うと、遊撃車の中にいる他のメンバーたちは左耳にイヤホンを付けた。

 

「はい」

『悪いニュースが2つも届いた。聞きたいか?』

 

 いつもと同じ声色だが、何処か焦りを覚えているようだ。

 車の中は暖房が効いている筈だが、何故か全員の背中には冷たい空気が吹いているような気がした。

 

「? 何です?」

 

 

 

 

 

『春樹君が、病院から姿を消した』

「「「「!?」」」」

 

 岩田の発言に全員が驚愕する。春樹は今昏睡状態で意識が無い。それに警備は厳重で誰も連れて行くことなど出来る筈もない。

 

「どういうことです!?」

『今公安課の井川君から連絡があって、警備をしていた警察官たちは全員重症を負っていた。おまけに防犯カメラは全て壊されていて、誰が連れ去ったのかも不明の状態だ』

 

 部屋の温度がどんどん低くなっている気がする。肝が冷めるとはこういう状態を言うのだろうか。

 

『それからもう一つ。SOUPで保管していた春樹君のトランスフォンが無くなった。君たち全員が出払っている中でこんなことが出来るのは、私以外ではただ一人しかいない』

「……まさか!」

 

 

 

「ねぇ」

 

 怪物が振り返った。目線の先では碧と八雲がなんとか立ち上がってじっと前を見据えている。

 

「貴方、誰なの?」

 

 短く素朴な疑問であった。だが彼女らはそれを知る必要があるのだ。

 

 すると怪物はドライバーから端末を取り外した。黒い身体の棘が縮んでいき、棘の無い姿へと形状が変わっていく。黒いダッフルコートに同じく黒いスキニーパンツを身につけた姿だ。

 

「……え?」

 

 その完成形を見た時、碧は思わず声が出たのと同時に呼吸をすることを忘れてしまいそうになった。

 思い出したように息を吸って吐くのを短い間隔で何度か繰り返した。

 

 そしてようやく、()の名前を呼べるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……春樹」

 

 椎名春樹は自身の妻の顔を見つめる。だがいつものように笑みを浮かべることは無く、死人のような表情を見せていた。

 

 ふと強い風が吹き、碧と八雲は腕で目元を隠す。

 風が止んだところで腕を下げて前を見ると、そこには誰もおらず、黒くなり倒れた鬼たちが地面に転がっているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常53体

B群7体

不明1体

合計61体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Who is the black monster?

A: It is their ally.




【参考】
講談社シリーズ MOOK 仮面ライダー 平成 vol.6 仮面ライダー響鬼
(講談社, 2015年)
アクロバットの技一覧!難易度別に16種類をご紹介||Dews(デュース)
(https://dews365.com/archives/145036.html)
【コートの種類】メンズのコート&アウターおすすめ10選|The Style Dictionaly
(https://www.uktsc.com/thestyledictionary/mens_coat_style)
初心者でも分かる!メンズパンツの種類をシルエット・タイプ別に徹底解説
(https://c-edge.fashion/post/33308)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 18 最悪な復活劇(THE WORST REVIVE)
Question052 Why doesn’t he come back to them?


第52話です。
もうすぐシーズン2も折り返しになる、かも。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、どうぞ宜しくお願いします。



【イメージOP】
Roselia - 閃光

【歌詞使用楽曲】
AKB48 - ヘビーローテーション
(作詞:秋元康)

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


?????

「『ポップコーンが弾けるに好きという文字が躍る。顔や声を思うだけで、居ても立ってもいられない』」

「すっごい良い歌詞だよねぇ。でもまさか、君がこの曲の題名を引用するだなんてねぇ」

 

 フロワは両手に持った歌詞カードをピカロと一緒に見ながら書いてある歌詞を読み上げる。

 表紙に印刷されているのは下着姿の3人の女性だ。そういえば、発表した当時はその艶っぽさから大きな話題になっていた。その艶っぽさを明かりの少ない部屋の暗さが引き立てている。

 

 その曲の題名を引用したという事がなんとも言えないのだ。引用した人物が人物なだけに。

 

「良いでしょ。あの人はモー(むす)。派だけど、私はAKB派だから」

 

 花奈が自身のパソコンと睨み合いながら言う。どうやら今は忙しいらしい。目線を二人に配ることは無く、喋りもしない文字の群勢が注目の的のようである。

 

「ただこれで、我々もカードを精製することが可能になりましたね。碧さんはともかく、少なくとも、八雲さんは用済みでしょう」

 

 右手にメモリアルブックを持ったアールがなんとも恐ろしいことを笑顔で言う。発言と表情が全く一致していないために、彼の顔を見ようと振り返った花奈は失笑した。

 

「それに、()もいるものね」

 

 花奈が目線を配った場所をアールたちも見る。奥の方に簡易ベッドが置かれており、その上で黒装束の男が気持ちよさそうに眠りについている。正体は、言わずもがな、であるが。

 そんな彼のことを見ながら、四人は静かに笑みを浮かべた。微笑ましさからだ。だがその微笑ましさは人としてではない。ただの獣、言わばペットに似ている。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.04 16:33 東京都 新宿区 SOUP

 部屋の中では碧たちが自身の席に座っていた。さらに森田の席の左側には岩田も立っている。いつも警察庁で待機している筈の岩田がここにいるということは、相当な非常事態というわけだ。

 

「結論から言えば、警察庁は彼を駆除対象とすることになりそうだ」

 

 岩田の発言に全員が驚愕する。駆除対象になった、ということは、彼らは春樹を倒さなくてはならない。

 

「そんな……。じゃあ、私たちは春樹さんを……」

 深月は唖然としてしまう。

 

「覚悟はしていたが、まさか現実になるとはな……」

 

 森田の発言で深月、薫、圭吾の三人は思い出した。嘗て春樹と碧がフォルクローだと話した時、彼らは密かに話していた。もしも二人が自身らの敵に回ったとして、倒すことは出来るのか否か。それっぽくふんわりとした結論を出して、それ以降は何も考えないようにしていたのに。

 こうなっては、あの時に結論を出しておけば良かったと思ってしまう。

 

「春樹さんを元に戻すことは出来ないんですか?」

「どうしてああなったかが一切分からないのでなんとも……」

 

 薫が訊くが、圭吾は何も見当がつかないらしい。

 

 全員が途方にくれる中、碧はふと八雲の方を見た。何かを言いたげにしていそうだが、口から出ようとするものを強制的に喉の奥へ戻そうとしているようである。

 

「お兄ちゃん、何隠してるの?」

「……いや」

「何か隠してるなら答えてよっ!」

 

 言葉の最後に碧は自身のデスクを右手で思いっきり叩いた。苛立ちを隠せていない声と大きな音で、その場の全員は固まりながら碧の方を見る。

 

 もう隠すことは出来ないようだ。

 八雲が口を開こうとした。

 

「実は……」

 

『その点については私が説明しよう』

 

 突然グアルダが森田のデスクの右側にあるモニターに、突如としてグアルダが姿を見せた。話すべき人間が自分ではなくなったのだが、表情が暗いことに変わりはない。

 

 すると画面が可愛らしい猫のキャラクターから一変。何かの設計図らしき図面が出てきた。トランスフォンが挿さったドライバーの右側に、四角い何かが付いている。先程春樹が変身した姿の腹部に着いていたものと全く同じものだ。

 それが一体何を示しているのか解らない一同に対し、姿を消した猫は説明を始めた。

 

『春樹のドライバーに付けられていた物体の名は『クラックボックス』。元は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ』

 

 再度驚愕する一同。

 

「え!? じゃあ、あれで春樹さんや碧さんたちは改造されたってことですか?」

 深月が驚くままにグアルダに訊く。

 

『そうだ。元々は生物の遺伝子配列を変えるための装置だったらしい。実際のところは分からないがな。だが、それを大野花奈は上級のフォルクローを怪人態に戻す、或いはその怪人態の強化のための装置に改良をした。春樹が目覚めたのはこの装置の影響だ』

 

「だから春樹さんはアーマーも何も着けてないあの状態に変身出来たんだ。本来であればありえないのに……」

 

 薫の言う通り、先程の彼のようにアーマーを何も着けていない状態での変身は通常は不可能だ。

 そもそも、薬剤が投与された瞬間に変身する素体というのは、言ってしまえば彼らの怪人態だ。だが怪人態だけではあまりにも軟弱であるために、必ず鎧が装着されるようになっている。故に今回のケースは前代未聞なのだ。

 

 今度は圭吾が疑問を呟いた。

 

「そもそも、何で春樹さんはこっちに戻ってこなかったんでしょう? きっと何か理由がある筈ですけど……」

 

『考えられる理由が1つだけある。……私だ』

 

 意味が解らず困惑してしまう。頭の中で色々と考えを巡らすが、答えがどうしても導き出せない。

 

『順を追って説明しよう。変身の際に体内に投与される薬剤の中に、もう1種類別のものを混入させることによって薬剤性(せん)*1を引き起こす。そうすることによってまるで獣のような好戦的な性格に一気に変貌をさせる。と同時に、相手の操り人形のようになってしまう。

 それがクラックボックスを変身に使う際の副作用だ』

 

 答えは先に彼が教えてくれた。だがどうしても引っかかってしまうことが一つある。それを一番知りたいであろう碧が言語化してくれた。

 

「でも、それだったらグアルダが薬剤の投与を阻止出来るんじゃないの?」

「いや、むしろ逆だ。グアルダがいるからこそ投与されてしまう」

 

 八雲の発言のせいで、一つまた一つと晴れていく事柄に再び雲がかかってしまう。だが晴れない雲など無い。ここは彼の意見を聞くことにしよう。

 

「簡単に言えば、彼の存在を感知した瞬間に薬剤が投与される仕組みになっている筈だ。これはグアルダがどうこう出来ることじゃない……」

 

 流れる沈黙。全員が熟考しているのだ。最善の策を。

 

「なんとか彼の意識を元に戻す方法は無いのか?」

「それは──」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.04 18:11 東京都 新宿区 SOUP

「無い……? 無いってどういうこと!?」

 

 全てを聞いたあまねが八雲が訊く。一緒に食卓を囲む碧と八雲の中で、一番詳細を知っている男が口を開いた。

 

「グアルダは婿殿が使っているライダーシステムの中枢を担っている。取り除こうにも方法が見当たらないんだ。そもそも、クラックボックスの仕組みは俺には一切判らない。もしグアルダを取り除いた場合に、どんな影響が起こるのか分からないんだ」

「だからP-2-Pシステムを使うように、私のトランスフォンを使えないようにしたのね」

 

 P-2-Pシステムはグアルダを介さずとも使用出来る仕組みになっている。なのでクラックボックスの影響を受けることは無い。こうなることを見越して八雲は彼女にネクスチェンジャーを勧める行動をしたのだ。

 

「じゃあ……パパはもう……」

 

 あまねが頭を下げて震えた声を出している。啜るような声を後に出しながら、彼女は膝の上で両手をギュッと握りしめている。

 彼女の右手に自身の左手を重ねる碧。だがあまねはそれでも顔を上げようとしない。

 

「大丈夫。私たちが連れて帰ってくる……。どんな方法を使ったとしても……」

 

「……ママの選ぶ方法って、必ずパパとママ一緒に帰ってくる方法だよね……?」

 

 思わず碧はあまねの方を向く。あまねは赤い筋が入った目でじっと母親の方を見ていた。

 何も言わなくても彼女の言いたいことは解る。父親が目が覚めるかどうか分からない状態になった上に、目覚めたら目覚めたで帰ってこないかもしれない。これ以上何かあったらと考えるだけで、胸が痛くなってしまうのだ。

 

「約束して。必ず二人で帰ってきて」

 

 念には念を入れて口にする。

 だが碧は笑みを浮かべるだけで、何も言うことは無かった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.05 08:10 東京都 江東区 キバランド

 通報があったのは早朝のことだった。開演前の遊園地で2体の怪人が暴れている、と。幸いにも開演の準備をしていたスタッフはすでに退避をしており、怪我人や死傷者は出ていないようだ。

 

 碧と八雲が荒れた園内に入った時、メリーゴーランドの前にピアーズの二人、つまり変身したフロワとピカロが立っていた。周りのアトラクションからは炎や煙が出ており、そんな状況でも彼ら楽しんでいる様子であった。碧と八雲の姿を確認すると、嬉しそうにピアBが手を振る。

 

「やっと来たわねぇ」

「待ってたよー」

 

 足を止める碧と八雲。横にある回らないメリーゴーランドが間に入ってくれているようだ。

 

「何で暴れてるの?」

「まるで俺たちを誘き寄せているみたいだな」

 

 ピアAが二人の発言に向けていきなり拍手を向けた。同時にピアBが両腕を使って頭の上で丸を作る。

 

「大正解! 実はもう二人はいらなくなっちゃったからね。僕たちもう変身出来るようになったし」

「そう。だから邪魔になった貴方たちを一掃しようということ。だから来てもらったの」

 

 もうフォルクローを倒しカードを作り出すことが出来るようになった彼らにとって、碧と八雲はもう邪魔な存在に過ぎない。理由はそれだけで十分だ。

 

 臨戦態勢に入ることを予想した碧と八雲は、カードを取り出して腕輪にかざそうとした。

 

 

 

 すると

 

「それは勘弁して欲しいな〜」

 

 メリーゴーランドの方から若い男の声が聞こえてきた。見るとゲーマドライバーを腹部に着けたクロトが回っていない馬に乗ってこちらに手を振っている。そして馬から降りて中を(くぐ)り外に出ると、丁度2つの勢力の間に入るように立って碧たちの方を向き、碧を左手の人差し指で指差した。

 

「特に、彼女をやられるのは()だなぁ。楽しみが無くなっちゃうから」

 

 指差しを止めて今度はピアーズの方に目線を配る。

 

「しないわよ。だって殺すのはきっと最後だから」

「なら良かったぁ。でも折角だし戦ってもらおうかな」

 

 胸を撫で下ろしホッとした様子を見せるが、すぐに表情がただの微笑に戻る。

 

「えぇ〜。勘弁してよ。僕たちも暇じゃないんだよ」

「そう言わずにさ、試させてよ。この──」

 

 するとクロトは灰色のジャケットに付いている右ポケットから1本のガシャットを取り出した。それは以前まで使っていた「マイティアクションX」のガシャットらしいが、色がいつもと違う。いつもは紫色であるのだが、表面が黒くパッケージもモノクロになっている。

 

 取り出し自身の顔の横に出すと、黒色のボタンを押し込んだ。

 

 

 

()()()()の力をさ」

『マイティアクションX』

 

 後ろに出現したモニターの中から次々とチョコブロックが現れては、アトラクションの中や宙空へと配置されていく。

 その中で彼は、ガシャットを半周回転させて自身の前に出し、テストプレイを開始する合図を放った。

 

 

 

「グレード0。変身」

 

 ガシャットを1番目のスロットに挿し込んだ。

 

『ガシャット!』

 

 そして挿した勢いのままにピンク色のレバーを展開し、中のパネルを明らかにさせた。

 

『ガッチャーン!  レベルアップ!』

 

 目の前に紫色のゲートが出現。それがクロトの方へと近づいていき、クロトの体を通過。彼の体を全く違うものに変化させた。

 その姿はゲンムのレベル2と瓜二つであるのだが、微妙に違う。違いと言っても、体表の紫色のラインが白色になっているというだけなのだが。

 

『マイティジャンプ! マイティキック! マイティ〜アクショ〜ンX!』

 

 レベル2とは全くの別物。レベル0の登場である。

 

 変身に成功したゲンムは仮面の下でニヤリと笑みを浮かべると、標的二人の下にゆっくりと踏み出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why doesn’t he come back to them?

A: He doesn’t have will to come back to them.

*1
薬剤によって起こる精神症状。主な症状に意識障害や注意障害がある。




【参考】
AKB48 ヘビーローテーション 歌詞 - 歌ネット
(https://www.uta-net.com/song/100001/)
東京の過去の天気 2022年3月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220300/)
https://www.pmda.go.jp/files/000245311.pdf


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question053 Who appeared in this amusement park?

第53話です。
感想等くださると筆者の励みになりますので、どうぞ宜しくお願いします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.05 08:14 東京都 江東区 キバランド

「ねぇ。今は私たちの味方っていうことで良いんだよね?」

「もちのろん。任せてよっ!」

 

 言葉の最後の方でゲンムは走り出した。ガシャコンバグヴァイザー チェーンソーモードを右手に装着し、ピアAに斬りかかる。だが彼女は攻撃を左側に避ける。今度は横に振ってピアAに攻撃を仕掛けるが、後ろに上体を逸らすことでまた回避されてしまう。

 

 次の攻撃を仕掛けようとするが、ピアBが後ろから羽交い締めにして身動きを取れないようにする。

 しかし

 

「ハァッ!」

 

 ゲンムは前置き無しに上空へとジャンプ。その勢いについていけないのか、ピアBは地面に落下してしまう。そしてゲンムは上空から落ちていくのを利用して右足でキックをピアAに食らわし、さらに彼女を蹴り飛ばしてピアBへと飛び掛かり左手でパンチをお見舞いした。

 

「成程ね……。性能が格段に上がっている……!」

「見た目は全く変わらないのにね……」

「当然だよ。この天才の僕が何度も改良を重ねて作ったんだからね」

 

 両手を腰の横に当てて自信満々な様子を見せるゲンム。圧倒的な自信が今の彼を高揚感に浸らせているようである。

 

「だったら、私たちも手加減出来ないわね」

 

 するとフロワはカードケースから1枚のカードを取り出した。線路の上を骸骨があしらわれた古い列車と無数の独楽が走っている様子が浮世絵のように描かれており、下部には「No.066 SEPARATED YUUKI」と白く印字されている。

 そのカードをネクスチェンジャーの上のスロットに挿し込んだ。

 

『"YUUKI" LOADING』

 

 ダイヤルを一周させてまたオレンジ色の面にセットする。

 

『CHANGE』

 

 同時に二人の上にゲートが出現。ピアAのゲートからは赤色の模様が入った黒い大きな独楽が、ピアBのゲートからはカードに描かれているのと同じ列車が飛び出してきた。汽笛を鳴らしながら列車が走る後ろを、独楽が親を追うように回っている。

 

 もう一度汽笛が大きく鳴り響いたところでダイヤルを押し込んだ。

 

『Here we go!』

 

 列車と独楽がバラバラに分解されて鎧となり、独楽がピアAに、列車がピアBに装着されていく。

 二人に着けられた鎧は同じものだ。牙のような銀色の模様がついた黒色の鎧にマントが着けられており、複眼の上から黒い透明なパーツが装着されている。。だが二人とも少しだけ違っている。

 ピアAに着けられているマフラーは赤色なのに対し、ピアBのものは銀色だ。さらにピアAの頭部の中心には赤色のラインが入ったパーツが着けられているが、ピアBの頭部には先程の列車に付けてあった頭蓋骨のオブジェが装着されている。

 

『Revive. Rally, Start the parade! I’ll get rid of you slowly. SEPARATED YUUKI! Why do you make her sad?』

『Connect completely.』

 

 仮面ライダーピアーズ 幽汽(ゆうき)シェープ。

 独楽使いと海賊の力を使った形態に変身した。

 

『『DISPEL CRASHER』』

 

 カードを下の方のスロットに通すとピアAにはガンモードの、ピアBにはソードモードのディスペルクラッシャーが装備される。

 

 そしてピアBがゲンムの方へと走って行った。二人の武器に付けられた刃がぶつかり合う。彼らの力は互角であり、ぶつかったまま武器がその場を離れることは無い。

 

 すると形勢が動く時が来た。突然背中に衝撃が走ったのだ。体勢が揺らいだ隙にピアBが押し込んで、横に一閃する。

 

「ヤァッ!」

「!」

 

 後ろに退いたことで、先程の衝撃の原因が分かった。

 ピアAの弾丸だ。小さな独楽の形をした弾丸が銃口から放たれると、真っ直ぐ飛ばずに曲がりくねってゲンムに弾丸が直撃する。

 

 当たった場所から次々と煙が上がってくる。

 

 さらに隙が生まれてしまう。

 ピアBは剣で次々とゲンムを斬りつけた。

 

「ッアッ!」

 

 チャンスだと思ったピアAはダイヤルを回して赤い面に回した。

 

『Are you ready?』

『Get ready to do deathblow.』

 

 ダイヤルを押し込むとピアAは白いエネルギーが溜まっていく銃口を宙空に向け、ピアBは同じく白く発行する剣を構えた。

 

『OKAY. "YUUKI" BORROWING BREAK!』

「オリャァァァッ!」

 

 引き金が引かれ、剣が縦に振られた。撃たれた弾丸は分裂。大量の独楽となる。

 白い斬撃がゲンムに当たってからすぐに、上空の独楽たちがゲンムに直撃して一気に爆発を起こした。

 

「グァァァァッ!」

 

 強烈な攻撃を受けたゲンムは紫色の粒子となって消滅した。

 だがこれで終わりで無いことは、その場の全員が解っていた。

 

 ゲンムが消滅した場所に代わりに現れたのは紫色の小さな土管だ。ここが遊園地だからなのか、奇跡的に場に合っている。

 そこから出て来たのは、やはりゲンムであった。

 

「残りライフ84。お姉ちゃんとの戦いで一気にライフ減らしちゃったからな〜」

 

 面倒くさそうに言うゲンムは再びピアーズの方へ向かおうとする。

 

「無駄だよ。確かにスペックは上がったかもしれないけど、僕たちには勝てないよ」

 

 ピアBがゲンムを煽る。だが煽っている意識がまるで無いことが余計に腹立たしい。

 だが、

 

「それは、どうかな」

 

 ゲンムは余裕そうだ。先程の戦いで実力差を知らされても尚、そのような態度をしている彼に、ピアーズの二人は若干の違和感を覚える。

 

「どうしてそんなに余裕そうなの?」

「だって、君たちは僕の能力がコンティニューみたいな『蘇生』()()だと思ってるでしょ」

 

 フォルクローに与えられる能力は基本的に1つだけだ。江戸川ミソラの「吸収」やサマウントの「液状化」のように、その一つ一つが個性的で何度も春樹や碧たちを苦しめてきた。

 それが1つだけではないという事実に、その場の全員が首を傾げている。

 

「じゃあ、見せてもらおうかしら。それをねぇっ!」

 

 ピアAも武器を剣の状態にして、ピアBと共にゲンムには走り出して行った。

 そして二人は剣を上げ振り下ろし、ゲンムに斬りかかった。

 

 

 

「かかったね」

 

 ゲンムが2本の剣を己の手で掴んだ瞬間に、それは起こった。

 

「え? 何これ?」

「どうなってるの!?」

 

 ピアAからはピンク色の、ピアBからは水色の霧がじわじわと出ては上がって消えていく。そうすると徐々に二人の剣を持つ手や立つために必要な両脚から力が出ていっていくような気がするのだ。

 

「僕のもう一つの能力は『弱体化』。触れたやつの能力を弱くする力を持っているんだ。こないだまで上手く使えなかったんだけど、このガシャットを作ったおかげでようやく出来るようになったんだっ!」

 

 力が弱くなった二人の剣をゲンムは押し返し、一人ずつに蹴りを入れた。

 後退するピアーズの二人。だがこれで終わるというわけではない。

 実力がようやく互角になった三人は、再度武器を構えて火花を散らした。

 

 

 

「頑張ってますねぇ、彼ら」

 

 一方、離れたところにあるジェットコースターのプラットホームには二人の男がいた。

 左側のアールは双眼鏡を使って遠くを見ている。見ているのは勿論、戦っている三者である。

 右側にいるのは春樹だ。虚な目でじっと前を見据えていた。

 

「さて、そろそろ貴方の出番かもしれませんね。こっちの隠し球を出す前に貴方も頑張ってもらわないと」

 

 返事は無い。言葉も無く、頷くことも無い。だが代わりにトランスフォンとクラックボックスを出した。右手に持った端末で左手で下から鷲掴みにしている箱の上面をかざす。

 

『CONNECTING US』

 

 いつもよりも低い声で端末が鳴ると腹部にドライバーが現れ、左手の中にあるクラックボックスが本来プレートがある筈のドライバーの右側に自動的にセットされる。

 そしてトランスフォンのスロットに、いつもアクトへの変身に使っているカードを挿入した。

 

『"ACT" LOADING』

 

 電源ボタンを押した。

 すると大音量でイーゴリ・ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」の一部である「ロシアの踊り」をサンプリングした音源が流れ始める。

 その中で春樹は静かに、誰にも聞こえないような声で呟いた。

 

「……変身」

 

 端末をドライバーに挿し込んだ。同時にクラックボックスの真ん中で「CRACKING」の文字が光り始める。

 

『Here we go!』

 

 すぐに春樹の体は緑色の素体へと変化する。従来であればそこに鎧が装着される筈なのだが、そんなものが着けられることは無く、突如として彼の体が黒く塗り潰され、さらには全身に鋭利な棘が生えてくる。

 

『Snatch away, Manipulate, Influence! This KAMEN RIDER is cracked! You are mine.』

 

 黒い獣──仮面ライダーアクト クラックシェープはこうして生まれるのだ。

 

「グルゥゥゥッ……! ガァッ!」

 

 理性の欠片も失ってしまった彼は、プラットホームから飛び出して行った。出来た黒い軌跡が誰もいない遊園地の中で一際目立っている。

 その軌跡を見守りながら、アールはふと笑みを浮かべた。だが口角が上がるだけで目は表情に連動をしていない。彼の腹の内は、彼のみが知るところである。

 

 

 

「「「ハァァァァッ!」」」

 

 3つの刃がぶつかり合っている中、三人の真横に何かが降ってきた。

 

「「「!」」」

 

 衝撃で三人は後ろに吹き飛ばされ、さらにメリーゴーランドの屋根は完全に崩壊をしてしまう。

 なんとか地面に着地をした三人や碧と八雲が前を見ると、そこにいる獣が眼中に入っていった。

 

「春樹……!」

 

 愛する人の名前を呟くが、彼は何も発することは無い。ただ次の獲物となり得るであろうゲンムの方をじっと飢えた目で見ていた。

 

「へぇ。僕とやり合う気?」

「……」

「……じゃあ、始めようか」

 

 するとゲンムはドライバーにセットされているガシャットを外し、ホルダーのスロットに装填した。

 

『ガシャット! キメワザ!』

 

 銀色のボタンを押すと、全身やバグヴァイザーの剣心に紫色や白色のアメコミ漫画のようなエネルギーが次々と溜まっていく。そして右足を後ろにした状態で身構える。

 

『マイティクリティカルストライク!』

 

 するとゲンムは猛スピードで前へと移動を始めた。同時にアクトも彼に向けて走り始める。

 

 黒の線と紫の線が光っているように見える中では、二人が熾烈な戦いを繰り広げていた。

 ゲンムが刃をぶつけようとすると、アクトはバク宙でそれを避けて右手で武器を払った。だがゲンムも甘くはない。払い退けられた勢いを利用して、左脚で思いっきり回し蹴りを食らわせた。

 さらにゲンムは右手でパンチを繰り出そうとするが、アクトはそれを受け止めて押し返した。

 最後にアクトの左手とゲンムの右手がぶつかると二つの間で衝撃が起こり、二人とも吹き飛ばされた。

 

 だがそのやりとりにも終止符が打たれようとしている。

 アクトがクラックボックスを内側に押し込んだのだ。

 

『Are you ready?』

 

 トランスフォンを下の方へと押し込んだ。

 

『OKAY. "CRACKED ACT" DISPEL EXPLOSION!』

「ガア゛ア゛ッ!」

 

 凄まじいスピードで走り出したアクト。その速さは先程までの比にならない程で、ゲンムには対処の仕様が無い。途中で高く跳び上がったアクトは前に一回転をし、ゲンムの右肩に右脚で踵落としを食らわせた。右脚の裏に着いているカッターが深く抉り込み、ゲンムに声も出せないような痛みが襲う。

 

 ダラリと腕や顔を落として、ゲンムは紫色の粒子となってその場から消えてしまう。今度は土管から現れることは無い。恐らくは帰って行ったのだろう。

 

 独り残ったアクトは目線の方向を右側へと向けた。先にいるのは碧と八雲であり、ゆっくりと彼ら迫って来ている。

 自分たちが次の標的だと気が付いた二人はネクスチェンジャーを取り出して、カードを挿し込もうとした。

 

 すると、

 

「ちょっと待ってくださいなぁ」

 

 癖の強い声が二人の後ろから聞こえてきた。心当たりのある声がする方を見ると、そこではアールが相変わらず大きな顔の上で笑みを浮かべていた。こんな緊迫した状況で笑顔とは、まさに場違いであろう。

 

「多分、お二人は瞬殺されてしまいそうですね」

 

 舐めた口を聞いたものである。若干の苛つきを覚えた二人はじっと彼ことを睨んでいた。

 

「実は一人、()()()()()()()()()()()()()()()()()がいるので、まずは春樹君とその人に戦ってもらいましょう」

 

 言葉が終わった時、その場にいる全員の背中に冷たい空気が走ったような気がした。勿論比喩的な表現ではあるのだが、通ったという実感があまりにも生々しく、気味が悪くなってしまう。

 

 ふと碧と八雲は自身の左側を見た。同じようにピアーズの二人やアクトもそちらを向く。

 奥の方から一人の青年がゆっくりと向かって来ているのが分かった。黒いTシャツにジーパンを着た若い青年だ。子供のようにも見える童顔が高身長には似合わない。

 

「お前……誰だ……?」

「……リク」

 

 八雲の呟きに短く答える青年。顔に見合っただけ、子供っぽいらしい。

 

「何、しに来たの?」

「……遊びに来た。まずは、君を倒しに」

 

 リクと名乗った彼は、真っ直ぐとアクトの方を指差した。どうやら次の獲物はこの子供のような男らしいと悟った彼は、腰を落として戦闘態勢に入った。

 どれだけの実力があるのかはまるで知らないが、この青年があの化け物に勝てる筈は無い。誰もがそう思っていた。

 

 この時までは。

 

 するとリクは下の方でゆっくりと手を広げた。何が始まるのかとこの場にいる全員や、遊撃車の中で待機をしている他のメンバーたちは固唾を飲んで見守っている。

 

 その中で青年は静かに言った。

 遊ぶための玩具を見て喜ぶ子供のように、屈託も無い笑顔で。

 

 

 

 

 

「変身!」

 

 彼の周りに黒色と金色の霧が立ち込めてきた。それらは雲のように固まってぐるぐるとゆっくり回っていく。中では稲妻が走って雷鳴を轟かせていた。

 稲妻が光っては消えていく中で、彼は姿を変えていった。両脚、胴、両腕、頭部。

 

 雲が晴れて見えたその姿に全員が唖然とした。息を大きく吸っては吐き、今目の前で起こっている事象を無理矢理にも飲み込もうとする。

 黄金で包まれた姿こそ見たことは無かったが、その黒い目や中心が黒くなった金色のドライバーを見て、一瞬で一体誰なのかは判ってしまった。

 

 その姿はまるで──。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

「まるで、何だったんですか……?」

 

 深月が言葉を詰まらせたので、一条は聞き返した。

 一体何故、彼がそこから先を紡ごうとしないのか、それは解らない。だが自分はこれ以上を聞いてはいけないような気がしてならないのだ。本能的に体が良しとしないのである。

 

「何だったんですか……?」

 

 それでも自分は職務を全うしなければならない。

 再度対象に訊いた。

 

 ようやく深月は重い口を開いた。

 そして、彼の口から放たれた言葉は、久しく聞いていなかった()の名前であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「四号です……。五代雄介が変身した、未確認生命体第四号でした……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Who appeared in this amusement park?

A: A man who transforms to shape of the former hero.




【参考】
劇場版 さらば仮面ライダー電王 ファイナル・カウントダウン - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e5%8a%87%e5%a0%b4%e7%89%88_%e3%81%95%e3%82%89%e3%81%b0%e4%bb%ae%e9%9d%a2%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%83%80%e3%83%bc%e9%9b%bb%e7%8e%8b_%e3%83%95%e3%82%a1%e3%82%a4%e3%83%8a%e3%83%ab%e3%83%bb%e3%82%ab%e3%82%a6%e3%83%b3%e3%83%88%e3%83%80%e3%82%a6%e3%83%b3)
アクロバットの技一覧!難易度別に16種類をご紹介||Dews(デュース)
(https://dews365.com/archives/145036.html)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question054 How did he play?

第54話です。
言い忘れていましたが、後7話でシーズン2は完結します。
感想等書いてくださりますと筆者の励みになります故、宜しくお願いします。



【イメージED】
AI - 最後は必ず正義が勝つ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.05 08:19 東京都 江東区 キバランド

「嘘だろ……!? どうして……」

 

 遊撃車の中でパソコンの画面を見つめていた深月が驚愕していた。今目の前にいる怪人は、嘗て自分のことを守ってくれた異形の戦士に酷似しているからだ。自分の中の英雄が、今は自分たちの敵として現れている。その事実が、彼の心を惑わせた。

 

 彼程ではないが、ここにいない碧と八雲を含めた他のメンバーも同じだった。文献の中でしか見たことの無かった戦士が、こんな形で現れたのだ。

 願ってもいない機会。いや、願ってはいけない機会であった。

 

 誰も声を出せない。

 

 現場では四号がアクトを見ていた。異形になってしまったその顔では判らないが、きっと笑っているのだろう。遊び相手が、目の前にいるのだから。

 

「グラァァァッ!」

 

 アクトがとてつもないスピードで四号に迫って来る。獲物を狙う獰猛な獣は鋭利な鰭を使って身体を切り裂こうとしているのだ。

 

 だがこの四号の実力は想像を超えていた。ただ単に体色が見たことの無い金色になっただけではなかった。

 目にも留まらぬ速さで繰り出されようとしていたアクトの右手を、四号は軽々と自身の左手で止めたのだ。想定外の出来事に驚くアクト。呆気を取られている隙に、四号は掴んだ右手を下に払って、そっと右手を彼の胸に当てた。

 

 その時

 

「ッ!?」

 

 アクトは突如として吹き飛ばされたのだ。直撃されたメリーゴーランドは屋根が倒れて馬は吹き飛び、煙を出しながら完全に崩壊をしてしまった。

 

「春樹っ!」

 

 煙が晴れた先を見ると、変身を解除された春樹が仰向けで倒れていた。馬が彼の背中の下敷きになっており、自らが動いて動かない彼を退かすことは出来ない。

 

 その場の全員が彼の恐ろしさを知った。ただ念を入れただけでもこの威力だ。もしもまともに攻撃を食らいでもしたら、ひとたまりも無いことは簡単に分かってしまう。

 

「とりあえず少しだけ本気を出してみたんだけど、つまらないなぁ。もっと僕を笑顔にしてよ」

 

 退屈そうに春樹の方を見る四号。

 次はピアーズか。それとも自分たちか……。

 

「「変身!」」

 

 どちらにしろ、コイツだけは倒さなければマズイ……!

 すぐさま変身した碧と八雲は変身をした。

 

 リベードが剣を取り出し四号に接近して行く一方、ネクスパイはその場で銃を取り出して弾丸を発射していく。剣よりも先に何発かの銃弾が当たり、左半身の数箇所から煙が出る。

 彼が左に蹌踉めいている隙に、リベードは横に剣を振って腹部を攻撃すると見事に命中した。それから何回も斬りつけた。四号は攻撃のラッシュに退いてなんとか回避をしようとするが、あまりの速さに避けることが出来ない。

 さらにはネクスパイも次々を銃弾を撃ち出して攻撃しているために、形勢としては彼女らの方が有利であった。

 

 そしてリベードが剣を両手に持って縦に振り、怯んだ四号の脳天に刃を当てようとした。

 

 だがリベードの剣を、四号は右手で掴んだ。まだそんな力が残っていたのか、固く掴まれた手は決して刃を離さず、リベードがどれだけの力を込めようともびくともしない。

 

「折角だし見せてあげるよ。()()()()を」

 

 すると四号は空いている左手を伸ばし、掌を奥にいるネクスパイの方へ向けた。まさか先程のような衝撃波が自分を襲うのではないか。そう思ったネクスパイは衝撃に耐えられるように身構える。

 

 しかし繰り出された攻撃は想定外のものであった。

 

「!? グアアアアアッ!」

「!? お兄ちゃんっ!」

 

 いきなりネクスパイの身体が火だるまと化してしまった。嘗て自身が葬った江戸川ミソラの最期のように。

 突然のことに驚愕する一同であるが、一番驚いているのは炎に包まれている当の本人だ。

 

 その場に転がって鎮火しようと試みる。だが炎は治らず、システムは苦肉の策として変身を解除させた。変身の解かれた八雲の服は完全に黒焦げており、顔や手にも炭が着いている。

 

「これが僕の能力さ。望んだだけで物を自由自在に燃やすことが出来る」

 

 それを聞いた時、碧と八雲はあることを思い出した。

 嘗て自身らの母親を殺害した怪物は、同じ手を使って母を殺したのだ。全身を焼き払い、誰なのかも判別出来ないようにした、忌まわしき行為。

 

「貴方……!」

「どうしたの? そんなにボーッとしていると、こうなるよ」

 

 剣を掴む四号の拳が徐々にメラメラと揺れる炎のようなエネルギーで包まれていく。金色や赤色、黒色の炎を見たリベードは何か不味いと思ったのか、すぐに剣から両手を離そうとするが、もう時すでに遅かった。

 

 四号はそれよりも先に刃から右手を離して、色鮮やかに彩られた拳を丁度挙がっているリベードの左腕に叩きつけた。

 

「ハァッ!」

「ッ!」

 

 後ろに吹き飛ばされて地面に転がったリベードは、変身を解除された状態で仰向けに倒れ込んだ。口の右端からは赤い液体が一本の筋を作って、ポタポタと地面に落ちては最後に小さな水たまりを作っている。

 

 なんとか立ち上がろうとした瞬間、左腕に激痛が走った。更には自由に操作出来る右腕と違って動かすことが出来ない。どうやら先程の攻撃で完全に折られたらしい。

 

 だがこれと同等に酷いことが起こった。彼女の左手首に着けられているネクスチェンジャーが破壊されていたのだ。火花を散らすその個体の姿は、誰がどう見てもまともに機能しないことが判る程だ。

 

「こんな感じかぁ……。まぁいいや。僕は一旦帰るね」

 

 すると四号はメリーゴーランドの方へと近づくと、気を失って倒れている春樹を左肩に抱えて碧の方まで歩いて行く。だが何も成す術が無い碧には何もすることは無く、彼女の横を通り過ぎた。

 続けてピアーズの二人とアールもその場を後にしようと足を進めた。

 

 残されたのは左腕の自由が利かない碧と、うつ伏せの状態で倒れた全身に焦げのある八雲のみとなった。

 八雲はただ俯くことしか出来ず、身体を動かすことが出来ない碧はただ茫然と青く澄んだ空を見ている。

 

 そんな残酷なまでに打ちのめされた彼のことを、先程春樹の下敷きとなっていた馬はじっと見ていた。何も言わず、ただ真っ直ぐと。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.05 08:45 東京都 江東区 キバランド

 この遊園地の来場客の多くは子供連れかカップルだ。特に今日のような休日には大勢の客が押し寄せ、園内では子供の声やカップルの惚気で溢れかえっている。

 

 だが今日はいつも聞こえている筈の子供の声は聞こえないし、男女の番いはいない。代わりにいるのは数人の救急隊員とSOUPのメンバーたちだけだ。

 

 救急隊員たちによって八雲は顔や腕に大きな絆創膏が貼られ、碧は折れた左腕を三角巾を使って固定される。

 八雲は変身を早く解除したため軽い火傷で済んだが、碧は上腕を骨折していた。だが碧の再生能力だとボルトやロッキングプレートを使わずとも修復出来ると考え、今は三角巾と添え木を使うのみとなっている。

 

 そして黒い遊撃車の中で、その他のメンバーは向かい合って話をしていた。今は丁度森田が報告を始めようとしていた時である。

 

「あの四号(クウガ)は新型未確認生命体第五十八号と位置付けられた。『彼』と同じ姿をしたものが、我々に牙をむくわけがないと思ったのだろう」

 

 今から8年前。夏目(なつめ)実加(みか)が変身した通称「黒の二号」は自身の憎しみを原動力として暴走。未確認生命体第四十七号を倒すためだったとはいえ、東京タワーを中心に甚大な被害をもたらしたという出来事があったが、それは第四十五号や第四十六号を倒した功績があるために、大目に見られた。

 だが今回に限っては違う。あのリクが変身をしたクウガはフォルクローの側につき、尚且つ碧と八雲に攻撃をして完封負けをさせたのだ。そんな彼を許す手立てなど無い。

 

「えぇ。あれは、僕の知っている四号じゃありません。……ただの、バッタものです……!」

 

 俯きながら震えた声を出す深月。

 彼には許せないのだ。自分を救ってくれた英雄の皮を被った、あの化け物が。

 

「それにしても、どうやって春樹さんを助け出せば良いんでしょうね……。まるっきり見当がつきませんよ、戻し方」

「えぇ。うちの研究チームと僕と八雲さんで研究してますけど、まるで突破口が見つからないんです。一体どうすれば……」

 

 頭を抱える薫と圭吾。何度も春樹と碧の危機をその確かな実力で救ってきた二人だ。彼らがこれほどまでに頭を抱えるのは、それだけ不味い状態にあるということであるのだ。

 

 だがどれだけ頭を捻っても誰も突破口を見出せず、おまけに碧と八雲は満身創痍と言っても良い状態だ。

 まさにどん底。彼らは成す術も無く、ただ狼狽えていた。

 

 

 

 さて、肝心の碧は固定された左腕の痛みを堪えていた。先程よりも痛みは引いてきたが、それでも若干の痛みが襲ってくる。

 この状態では何もすることが無いため、金属製の長椅子に座ってぼうっとしていた。腕を折られたことはさて置いても、肝心のネクスチェンジャーを破壊されてしまった。いくら強化された身とはいえ、仮に生身で戦ったとしたらただの足手纏いになってしまう。痛み以上にそれが耐えられない。

 

 すると自身の右側に置いていたトランスフォンが着信音を鳴らした。誰からなのかと画面を見ると、知らない番号からであった。

 何もやることが無いため、一先ず電話に出てみることにする。

 

「もしもし?」

『椎名春樹さんの奥さん、椎名碧さんですか? いや、仮面ライダーリベード、と言った方が良いかしら』

 

 思わず目を見開く碧。何故電話越しの人物がそれを知っているのか、まるで分からないからだ。

 

「どうしてそれを……!?」

『そんなことはさておき、今、貴女の後ろにいるの』

 

 左肩を通って後ろを振り向くと、中にある電話ボックスの中に誰かいるのが見えた。

 上半身を隠すだけの丈しかない白色のムートンコートに黒いスカートを履いた女性、花奈だ。敢えて公衆電話を使わず、緑色のスマホケースに包まれたスマートフォンで通話を行っている。

 

「誰だか知らないですけど、何の用ですか?」

 

『ご主人を元に戻す方法、知りたくないですか?』

 

 想定外のことに立ち上がってしまった。その勢いで左腕が痛んだが、それは決して問題ではない。

 じっと見開いた目で電話ボックスの中の花奈を見つめる碧。彼女に向けて花奈はふと微笑みを向けて応えた。

 

 その時、何故か碧は昔本で読んだ都市伝説を思い出した。

 小さな女の子が電話をかけてきて徐々に近づいて来ていることを知らせ、最終的には自らの後ろにいることを通達する。そして振り向いた者は女の子によって殺されてしまう。

 

 何故そんなものを思い出したのかは自分にも分からない。きっと本能的なものだ。

 だがそれでも聞かなければならない。思い出したものが何かを暗示しているのだとしても。

 

「あるの……? そんな方法が」

『えぇ。ただ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それやったら貴女、死ぬかもね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常51体

B群8体

不明1体

合計60体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How did he play?

A: He plays burning various things.




【参考】
腕の骨折、骨癒合に時間がかかります。大人の場合は手術が必要です。
(https://www.katahijite.com/forearm)
骨折の応急処置が必要なときに。|知る・楽しむ|三井住友海上
(https://www.ms-ins.com/special/bousai/chiebukuro/chiebukuro_27/)
コートの種類を徹底解説!シーン別レディースコートの選び方 - &mall
(https://mitsui-shopping-park.com/ec/feature/ladiescoat)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 19 あなたのために(FOR MY DARLING)
Question055 What did she decide to?


第55話です。
残り6話でシーズン2も終わりになる中、3話連続で碧推しの皆さんが発狂するような回をお届けいたします。覚悟してください(笑)
感想等いただけると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いします。



【イメージOP】
Roselia - 閃光

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.06 11:31 東京都 千代田区 上田ビル 2階 メイドカフェ CATS

 秋葉原にあるビルの中にあるカフェは、一昔前に大人気であったメイドカフェだ。猫耳のカチューシャを着けたメイド服の女性が配膳やサービスをしてくれる。オタクたちにとっての憩いの場だ。全盛期に比べて人気は落ちたものの、今でも多くの人たちが癒しを求めてやって来る。

 特に今日は休日であるため、多くの客が押し寄せているのだ。

 

 だが今日の店内で主役となっているのは、可愛らしいメイドたちではない。それよりも顔の整っている奥の席にいる二人の女性、碧と花奈だ。

 花奈が奥のソファに座って、碧は手前の椅子に腰掛けている。本来、招いた側である花奈が上座に座るというのは失礼な行為ではあるが、骨折した碧が通りやすいようにという配慮のためだ。決して彼女に社会常識が無いというわけではない。

 

 端っこに座っている彼女たちが客たちの目線を集めている事実は、メイドたちにとって嫌なものであった。そのためオタクたちの温かい目線に対し、メイドたちの目線は非常に冷たいものであった。

 だがそんなことを全く気にする様子は無く、碧と花奈は話をしている。

 

「それで、貴女が言った、『春樹を元に戻す方法』って……?」

「これ」

 

 花奈はポケットから1枚のカードを取り出して、碧の前に置いた。

 カードはメモリアルカードと同じ大きさであるが、文字も書いていなければ絵も描かれていない。無色透明なカードだ。

 

「このカードを使えば、彼の体内に入った毒物を浄化出来る」

 

 春樹が現在暴走しているのは、クラックボックスから注入される毒物の影響だ。おまけにそれは一度使ったら無くなるわけではなく、ずっと体内に蓄積されていくものであるという、かなり厄介な代物である。

 

「へぇ……。でもどうして、『私が死ぬ』だなんて言ったの?」

 

 ただ浄化するだけなのであればそんなことを言う必要は無い。というより、春樹の身体から毒物を取り除くだけで何故碧の身に危険が生じると言うのだろうか。

 

「それは……」

 

 すると、

 

「お待たせしました〜!」

 

 碧の後ろからメイドがお盆を両手で持って、二人の間にある机の横に来た。二人を妬む気持ちを何処かに仕舞い、わざわざ笑顔を作って接客している。

 

「ご注文のスペシャルオムライスで〜す!」

 

 花奈の前に出されたのは、白い楕円形の器に入ったオムライスだ。黄色いトロトロとした卵の膜の上に、大きく赤いケチャップでハートの文字が描かれている。

 

「最後の仕上げをさせていただきますね〜」

 

 メイドは自身の胸の前で両手を使ってハートを作った。そして左、右の順で両手を移動させた後に、ハートをオムライスの方へ向けた。

 

「萌え萌えキュン」

 

 それだけやると、メイドは一礼をして去って行った。こういう店だということは分かっていたが、慣れないサービスに驚いている碧はじっと去って行くメイドの後ろ姿をじっと見ている。

 

「……理由は、今のと同じやり方だから」

 

 表情をそのままに再び前を向いた碧。目線の先では花奈がスプーンを取って左手に持っている。優雅に目の前の黄色い食べ物に食らいつこうとしている彼女の発言の真意が理解出来ないため、碧は花奈の次の発言に耳を傾けた。

 

「このカードは彼の体内で直接解毒をするんじゃなくて、貴女が毒を取り込んで体内で浄化するの。つまり浄化するための装置に一時的になるってこと」

 

 今、メイドがやったのは、自分のハートを相手に差し出すオムライスに注入する、という行為だ。簡単に言えばそれと同じで、まずは碧の身体を解毒するためのものに変換させ、その中に春樹の中にある毒物を流し込んで中和するということだ。

 

 黄色い卵にスプーンを刺し、掬って口の中に運ぶ。卵のまろやかな味と中に入っていたケチャップライスの旨味と程よい酸味を堪能すると、それを呑み込んで話を続けた。

 

「浄化出来るのは貴女が椎名春樹に触れている間だけ。ただ、目に映るもの全てを破壊するマシンに成り下がった彼を、肉体的にも精神的にも受け止める余裕が無ければ、貴女は死ぬかもね」

 

 どんどんと掻き込んでいく。食べ方こそ上品なものであるが、一口の量が量なので瞬く間に少なくなってもう後一口分になってしまった。

 その前で俯く碧の姿を見て、花奈はふと笑みを浮かべた。

 

「どうするの? 愛する人のために、自分の身を犠牲に出来る?」

 

 最後の一口分を掬った。表情を崩さずにゆっくりと目の高さまでスプーンを上げてまじまじと見つめる。

 

 すると碧はスプーンを持った花奈の左手の手首を右手で掴んだ。突然のことに驚く花奈。見えた碧の表情は何故かにこやかなである。いや、ドヤ顔と言った方が合っているのだろうか。

 

「大丈夫。私、ドMだから」

 

 余裕そうに笑顔を見せる碧。

 だが花奈は、自身の左手を掴む彼女の右腕が、微かに震えていることを決して見逃さなかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.05 14:20 東京都 中央区

 東京都と千葉県を繋ぐ都道50号線の途中にある橋の上は完全に封鎖されていた。バリケードが張られた橋の上では機動隊員たちが銃口を前に向け、その前でまだ完全には癒えていない八雲が立っている。

 彼らの前に立ちはだかるのはリクだ。最早八雲一人の手には負えないような戦士である。

 

 どうしたものかと八雲が考えていると、

 

「その状態で大丈夫なの?」

 

 自身の左側に突然クロトが現れた。顔に浮かんでいる笑顔に、若干の苛つきを覚えたがそれは置いておくことにした。

 

「大丈夫だ。ていうか、こっち側についてて良いのか?」

「うん。だってあのリクとか言うの、僕とキャラ被りしてるんだもん」

 

 なんともくだらない理由だ。だがそれでも自分の味方が一人増えるというのは有り難い話である。

 

「アイツの弱点教えてあげようか?」

「何だ?」

「ベルトだよ、ベルト。あれを破壊されると彼の力は半分くらいになる。まぁ、それでも勝てるかどうかは分からないけどね」

 

 確か自身の母を殺した未確認生命体第0号は、四号に腹部のベルトを破壊されたことによる腹部神経断裂によって死んだ。恐らくはそれと同じ原理だろう。もしも彼がその四号と全く同じ身体の作りをしているのであれば、同じようなことをするのは可能な筈だ。

 

 一先ず八雲は左耳に着けられたワイヤレスイヤホンのマイクで遊撃車の中に通達をする。

 

「ベルトが弱点だとよ、あのクウガもどき」

『分かりました。SATにはベルトを銃弾で破壊するように援護させます』

 

 深月から合図があったらしく、後ろの機動隊員たちの銃口はリクの方へと集中され始めた。

 

「じゃあ、ゲームを始めようか」

 

 リクの合図で各々がその()()()とやらを始めるための準備をする。八雲はカードをネクスチェンジャーのスロットに挿し込み、クロトはガシャットを起動させて、リクは己の腹部にベルトを出現させた。

 

「「「変身!」」」

 

 変身を遂げた三人。そしてネクスパイとゲンムは自身の標的に向かって走って行った。

 

 次の瞬間、クウガは二人の方へと左の掌を向けた。その効果で二人は走る火だるまとなってしまう。

 けれども彼らはそれを意に介さず前に向かう。するとどうだろう。走ることによって身体に纏わりつく炎は徐々に鎮火されていく。

 

 そしてネクスパイは右の、ゲンムは左の拳を食らわせようとした。その攻撃は軽々と受け止められてしまうが、二人は何故か余裕そうであった。

 

「かかったね」

 

 するとクウガの後ろから赤色と金色が混ざった霧が滲み出ては宙空で消えていく。それは徐々に彼の力が弱体化していく証拠でもあった。

 それだけではない。待機していた機動隊員たちが一気に引き金を引いて、弾丸を発射させた。狙いはただ一つ。怪人の腹部に着けられたベルトである。だがやはり作りが頑丈なのだろう。たかが弾丸(ごと)きで壊れる筈は無い。

 なので、彼らは次のチャンスを狙うことにした。

 

「「オリャァァッ!」」

 

 受け止められた拳を前に再び押した。徐々に力が抜けていっているクウガは後ろによろめいてしまう。

 その一瞬を、二人は見逃さなかった。

 ゲンムはガシャコンバグヴァイザー ビームガンモードを右手に装着し、標的の胸部にエネルギー弾を食らわせる。未だに止まない機動隊員たちの銃弾と共に発射されているがために、クウガはじわじわとダメージを受けていってしまう。

 その間、ネクスパイはインディペンデントショッカー スタンガンモードを取り出し、そこに腕輪に装填されているカードを挿し込んだ。

 

『Are you ready?』

 

 柄に付いたボタンを押し込む。

 

『OKAY. "NEX-SPY" DISPEL HIT!』

「テリャァァァァァッ!」

 

 そしてネクスパイはエネルギーが溜め込まれた2つの電極を、クウガのベルトの中心に叩きつけた。

 

「グァァァッ!」

 

 その攻撃が、突破口となった。

 見ると彼のベルトに真ん中から金色のひびが入っているのだ。割れかけたベルトを両手で押さえて悶え苦しむクウガ。

 

 これで勝率が格段と上がった。

 

「さて、一気に片付けるぞ」

「オッケー!」

 

 二人は武器を再度身構え、弱った獲物の方へと走り出して行った。

 

 

 

 

 

 その場の全員が気付いていないようであったが、橋の真ん中の方に一人の男が立っていた。黒色のコートを着た男性、春樹である。虚な表情でトランスフォンを右手に、クラックボックスを左手に持っている。

 

 恐らくは加勢するつもりなのだろう。ネクスパイとゲンムと戦うクウガの後ろ姿を見ながら、クラックボックスにトランスフォンをかざした。

 

『CONNECTING US』

 

 ドライバーが出現し、右側にクラックボックスが移動して付けられる。そしてトランスフォンの中にカードを1枚挿し込もうとした──。

 

 

 

 その時であった。

 

「さっきぶりだね、春樹」

 

 後ろから声が聞こえた。振り向くと少し離れたところで碧が立っている。

 左腕を三角巾で固定した痛々しい姿をしたとしても、彼は何の反応を見せることも無い。

 

 すると碧は右手にトランスフォンを、左手に先程花奈から差し出された透明なカードを取り出した。

 その二つを見つめながら、碧は数時間前のことを思い出していた。

 

 

 

────────────

 

 

 

「大丈夫。私、ドMだから」

 

 震えた手で花奈の手首を掴む碧。

 

「……そう」

 

 ゆっくりと碧が右手を離すと、花奈は最後の一口を口の中に入れた。

 咀嚼して味を堪能する花奈に変わって、碧が口を開いた。

 

「でも、今の私はカードを使う術は無いけど……」

 

 ネクスチェンジャーは先程破壊された。トランスフォンもとうの昔にジオウのカードの力で使用出来ないようになってしまっている。使う使わないの前の段階にも立てていないのだ。

 

「じゃあ、貴女のトランスフォン貸して」

「? え?」

「どういう理由でかは知らないけど、私と八雲だったら簡単にロックぐらい解除出来るから。彼がそういうことをしなかったのも、どうせクラックボックスによって洗脳されることを防ぐためでしょうね」

 

 この得体の知れない女の言うことを信じて良いのかは分からないが、「溺れる者は藁をも掴む」というのは正に今のこの状況を言うのだろう。碧は素直にトランスフォンを取り出して、花奈に差し出した。

 受け取った花奈は両肘を机について、左手で持った端末の画面を親指で操作し始める。普通にスマートフォンをいじるような所作に不安を隠すことが出来ないが、一先ずこの場を埋めるために会話を始めた。

 

「ねぇ、お兄ちゃんとどういう関係なの?」

 

 質問を投げかけると透明なコップの中に入った水を飲み始める。

 

「えぇっと……それは……」

 

 何故か口籠もってしまった花奈。頬がほんのりと赤くしながら目線を左下へと逸らしてしまう。

 あからさまなその様子を見た碧の脳裏で一つの言葉が浮かんだ。

 

 元カノ。

 

 突然咽せてしまった。音を立てながらコップを置いてゲホゲホと咳が出てしまう口を右手で押さえる碧。あくまでも想像に過ぎないが、まさかこの謎の女が自分の兄とそういう関係だとは思ってもいなかったのだ。

 

「ねぇっ、まさか、ねぇっ」

「違うからっ! ……まぁ、貴女にそんな性癖があるだなんていうのは初耳だったけれど」

 

 どうして勢いであんなことを言ってしまったんだろうか。今になって後悔が襲い掛かり、顔が赤く変色してしまう。

 恥ずかしさのあまり右手で顔を押さえていたら、花奈が手を止めて端末を出した。

 

「どうぞ。これでもう大丈夫」

 

 顔を押さえていた右手で端末を受け取る碧。

 

「……信じて良いのよね?」

「勿論。()()()の妹さんに変なことするわけ無いでしょ」

 

 まだ疑心暗鬼の碧に微笑みを向ける花奈。純粋さと怪しさの両方を兼ね備えたその笑顔は、碧の判断力を鈍らせるには充分なものであった。

 

 すると花奈は机の上に置かれている伝票を左手に持って立ち上がった。

 

「じゃあ。ここは私が支払っておくから。またね」

 

 そのまま花奈は入り口の前にあるレジカウンターまで歩き会計を始めた。

 彼女の後ろ姿を見ながら碧は大きく息を吸い、再び前を向いてトランスフォンを見ながら大きく息を吐いた。

 

 

 

────────────

 

 

 

 トランスフォンとカードを身構えて春樹の方を見る碧。呼吸は整い表情は崩れていないが、脚や腕が少しばから震えている。

 

──必ず二人で帰ってきて。

 

 何故か頭の中であまねの言葉が流れてきてしまった。あの寂しそうな顔と服を掴んだ時の強さ。その全てが忘れられなかった。

 これ以上娘を悲しませられない。それが母親としての義務だ。

 

 けど──。

 

 

 

 

 

「ごめんね。私、彼のこと愛しているから」

 

 両腕と両脚の震えが止まった。にこやかな笑みを浮かべて春樹の方を見つめる。慈愛で満ちた目をする彼女は、迷わずトランスフォンの中へカードを装填した。

 

『"*****" LOADING』

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」

 

 カードを装填した瞬間、碧の全身に激痛が走った。今までで経験もしたことの無いような痛みだ。全身をもがれるようにも、激しく殴られているようにも感じ取れてしまう。

 痛みに悶える碧はその場にしゃがみ込んでしまう。立てるような状況ではないのだ。

 

 すると彼女の体が青く発光するのと同時に不思議なことが起こった。

 戦闘を止めてネクスパイたち三人とその他の全員が見守る中、突如として折れて動かない筈の左腕が突如として自由の効くようになり、さらには首元までしか無かった髪の毛が腰まで伸び始めるのだ。

 

 そして激しい痛みの次に襲ってきたのは、幸福感だった。何故だかは分からない。けれどもあり得ない程の幸せに身を包まれながら、彼女はゆっくりと立ち上がったのだ。

 

 その瞬間、彼女の身体は異形のものへと変貌を始めた。

 棘の生えた青い全身まるで剣山のようであり、目はリベードと同じ菱形だ。さらに腹部と胸部だけはステンドグラスに似た虹色の模様がランダムに着けられている。

 

 言うならば、リベードの怪人態だ。剣山のように全身は鋭利で冷たささえ覚えてしまうが、それ以上の温かみを感じる。

 美しいその姿を見せるようにリベードは両腕を広げて、ゆっくりと春樹の方へ足を進めた。

 

 

 

「さぁて春樹。……愛し合おう、ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What did she decide to?

A: She decided to be a blue monster for him.




【参考】
【図でわかる!】上座・下座・のマナー<できる大人の食事のマナーvol.3> | ヒトサラマガジン
(https://magazine.hitosara.com/article/931/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question056 Why did she confront with them?

第55話です。
シーズン2終了まで残り5話です。どうやって締めようか……。
感想等いただけると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いします。



【歌詞使用楽曲】
モーニング娘。 - そうだ! We're ALIVE
(作詞:つんく)

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.05 14:24 東京都 中央区

 (しやわ)せになりたい

 愛情で包んであげたい

 いくつになっても WOW 青春だよ

 GO! GO! GO! GO!

 We're ALIVE

 

 いつものフレーズを口ずさみながら一歩ずつ前進をするリベードの姿を、春樹は虚な目を使って見つめていた。

 慈愛に満ち溢れた彼女であるが、今の彼にとっては最早獲物としか認識出来ないらしく、カードをトランスフォンに挿し込んだ。

 

『"ACT" LOADING』

「……変身」

『Here we go!』

 

 黒いアクトに変身を遂げた春樹。彼もリベードと同じくらいの速さで足を進める。

 2体の獣が着々と一歩踏み出す光景を、全員が動きを止めて見守る中で、二人は脚を速めて向かって行く。

 そして、けたたましい雄叫びが上がって戦いは始まった。

 

 リベードの右の拳が前からぶつけられようとしたが、アクトは自身の左手で受け止めながら引き寄せられ、腹部に右膝で蹴りを入れられてしまう。さらに右手で左の頬を殴られ、後ろに倒れ込もうとしてしまうが、地面につく際に体を回転させその勢いで立ち上がる。

 

 今度はアクトが走り出し両腕を振り上げて下ろし、着けられた2つのカッターで切り裂こうとする。するとリベードはなんとその攻撃を何もせずに両肩で受け止めた。減り込んだ刃を外した瞬間、彼女の両肩から赤い血が勢いよく吹き出し、後ろの方に狼狽えてしまう。

 その隙を見逃さず、アクトはリベードを押し倒して馬乗りになり、彼女の顔面を右手で何度も殴打した。首を前から左手で掴んで離そうとするが、それでも攻撃は止まない。

 

 殴られる度に口から赤い霧を出しながらも、リベードは彼が殴る前に一瞬隙が生まれることを見逃さなかった。隙が生まれた瞬間にリベードは右足の踵に鋭利な突起が着けられ、まるでハイヒールのような形となる。それをアクトの腹部に刺し込むと、彼は腹部から血を出しながら後ろに吹き飛ばされた。

 

 地面に着いた両足がブレーキの役割を果たし、暫く滑った後で体を落とす形で停止した。

 だが体を落としたのは止まる為ではない。徐々に力が抜けていっているのだ。先程に比べて込められる力の最大値が低くなっているような気がする。攻撃を仕掛けていた側である自分が、攻撃を仕掛けられた側と同じくらいに弱っている。目の前の彼女の能力に、本能的な恐怖を覚えてしまった。

 

 だが本能は同時に、ここで戦わなければ殺される、と彼を掻き立てた。否が応でも体は動き、前へと全身を始める。

 その場で高く跳んだアクトは空中で一回転、落ちる勢いを利用して右足で飛び蹴りを食らわせようと目論んだのだが、リベードは左手でそれを受け止める。威力が凄まじいために、立った状態のままで後ろに引き摺られてしまうのだが、体勢は一切変わらない。

 そして左手を下に引き落とすと、落ちていくアクトの胸に右手で強烈なパンチをお見舞いし、逆に吹き飛ばした。

 

 ネクスパイとゲンムは二人の戦いを茫然自失として見ていた。死闘ではあるのだが、何も考えていないというわけではないようなのだ。一心不乱に何かを求め合うように見えるその戦いを眺めていた彼らであったが、

 

「何処見てるの!?」

 

 クウガが二人の胸部を叩いたために正気に戻った。こちらの戦いは再び始まろうとしているらしい。

 

 すると、

 

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!」

 

 突然リベードが上を向きながら両手を広げて凄まじい音量の叫び声を響かせた。他の者らは何が起こるのかと再び声の方向へ目をやるが、クウガは目の前の戦いに集中しているらしく、ネクスパイとゲンムを蹴り飛ばした。

 

 雄叫びが上がる間、アクトやクウガたち四人の上に大きな水色の円が現れた。アクトは上空の円に気を取られているが、他の三人は戦いに夢中になってまるで気が付かない。

 

 次の瞬間、その円から()()()()()()()()()()()()。アクトやクウガたちを絶え間ない攻撃が襲うだけではなく、クウガたち三人のいる部分が決壊。三人は下の川に落下をしてしまった。

 重たいコンクリートの塊が落ちたことによって大きな水飛沫が上がり、機動隊員たちは目の前の対象たちがどうなっているのか全く確認出来なくなってしまう。

 

 水が全て落ち、目の前が視認出来る状態までになると、ようやく状況が把握出来た。

 橋の向こう側にいるのはリベードと、変身を解かれた春樹だけだ。所謂お姫様抱っこの状態で春樹のことを抱き抱えている。そっちの方へと向かおうとしたい機動隊員たちであるのだが、彼らが向かうための橋が殆ど決壊しており、大きな溝が彼らの行手を阻んでいる。

 

「彼をこっちに渡してください!」

 

 機動隊の隊長がメガホンを使ってリベードに呼びかける。ゴクリと固唾を飲んで他の隊員たちは銃や盾を握り締める。

 だがリベードは一切の素振りをしない。

 

「彼をこちらに手渡してくれれば、貴女には何も手を出しません」

 

 「貴女には」。その言葉にどうやら彼女は引っかかったようだ。

 つまり自分には手を出さないだろうが、やはり彼は無事では帰さないらしい。

 何か言葉のあやであっても、その発言を彼女が許す筈がなかった。

 

 リベードは春樹を抱き抱えている右手を握り、人差し指だけが前に向いている状態にした。

 すると彼女の前に一本の横に長い青色の線が現れて、そこから何本もの針が飛び出して来た。

 先程起こった橋の決壊を見ていた隊員たちは盾を少し上げて身を防ごうとする。それにどれだけの効果があるのかは定かではないが、こうするしかないのだ。

 

 だが真っ直ぐと迫って来ていた針は彼らの眼前で突如として停止。向きをくるりと変えて、橋の上にぶつかった。

 橋が壊れるまでの威力は今回は無かったが、代わりに煙が起きて再度前が見えなくなってしまう。

 

 淡い煙が晴れた際に見た時、二人の姿は全く無くなってしまった。見渡してもどの方向に行ったかを示す手がかりは無く、曇りきった白い空が一面を覆っているだけに過ぎず、聞こえてくるのはせせりたつ波の音とサイレンだけだ。

 

 全員、目の前で起こったことの全てが現実か否かを疑い始めた。

 自身らの信頼する仲間が二人とも遠ざかっていってしまう。そのなんとも言えない焦燥感が彼らの胸の中に残った。

 

 だがそれはただ負の出来事だったというわけではない。むしろこれからを模索する上で非常に重要な出来事であると、内数人は考えていたのだ。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.05 14:52 東京都 中央区

「いや〜、大変な目にあった」

 

 八雲が首に巻いた白いバスタオルで頭を拭きながら遊撃車の中に入ろうとしたが、自身の体が濡れているのを思い出して、ドアを開けて顔を見せるだけにする。

 あの後、八雲は川の中から発見されて救助されたが、クロトとリクは発見されなかった。きっと隙を見て逃げたのだろう。

 

「それにしても、碧さんはどうしてSATを攻撃したんでしょう?」

「春樹さんを引き渡せば、殺される可能性がある。そう思ったんでしょう」

「まぁ、あそこで逃げたのは得策だろうな」

 

 圭吾と薫がパソコンのモニターを見つめながら言った後に、八雲が発言を加える。

 二人が見ているのは先程のアクトとリベードの戦いを防犯カメラから撮った映像だ。拡大したり何かのデータと照らし合わせたりしているが、どうやら何も有益な情報は得られていないらしい。

 

「……本当に得策か?」

 

 いきなり森田が発言をしたので、全員が森田の方を見る。一体何を言い出したのかと不思議に思いながら次の言葉に耳を傾けた。

 

「春樹君はただでさえ、今警察庁に狙われている身だ。そんな彼を守ったということは、碧君も狙われることになる。……それがどういう意味だか解るか?」

 

 それは、碧も自身らの敵になるということを意味していた。一度想定した最悪な可能性が、2つ同時に現実となってしまったのだ。

 世にも恐ろしい可能性だ。

 

「早急に対策を打たないと不味いですよね……」

「えぇ。本当に、不味いですよね……」

 

 すると深月は自身の端末をポケットから取り出して車外に出た。

 いつもならこういう時に取り乱してしまう彼が、今のような軽やかな行動をとったという事実に、その場の全員がよく分からない不安に取り憑かれる。だがそれを口にすることは無く、ただ茫然と深月の後ろ姿を見ていた。

 

 さて、全員の目線を一身に背負った彼は端末を操作すると左耳に当てて誰かに電話を始めた。

 

「あの、ちょっとお願いがありまして──」

 

 

 

 

 

 このやり取りで功を奏すことになるとは、この時は誰も思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why did she confront with them?

A: To protect him.




【参考】
東京の過去の天気 2022年3月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220300/)
モーニング娘。 そうだ! We're ALIVE 歌詞 - 歌ネット
(https://www.uta-net.com/song/15168/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question057 How has he been restored to original condition?

第57話です。
シーズン2も残り4話となりましたところで、今回は碧推しの皆さん発狂回だーっ!
そんなわけで、感想や読了報告、評価等をくださりますと筆者の励みになりますので、何卒宜しくお願いします。
特に碧推しの方々! 書いてください! というか、書けっ!



【イメージED】
AI - 最後は必ず正義が勝つ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.08 09:13 東京都 台東区 HOTEL PILLOW 鶯谷店 203号室

 ポツポツポツポツ。

 音が大きくなっていくのと同時に、黒一色だった視界に段々と白い光が差し込んできた。

 

 黒から白に変わった次は徐々に様々な色が付け加えられていき、目の前に一つの風景が広がった。

 何か柔らかいものの上に横たわっている自分の目の前には、壁に付けられたカウンターテーブルがあり、その前に椅子に座った者の長く茶色い髪の毛が見えた。

 

「おはよう、春樹」

 

 こちらを振り向くこと無く、優しい声色の声をかける。

 朦朧としている意識の中でもその声が一体誰のものなのか、彼にはすぐに判った。

 

「……碧?」

「今日、3月8日なんだけどさ、昨日何の日か覚えてる?」

「……結婚記念日、だよな?」

「……正解」

 

 ホッと一息を吐いた碧。

 

 そんなに寝てしまっていたのか。春樹はゆっくりと上体を起こすと、まるで項垂れるように頭を下げた。そして再び顔を上げると、この部屋の全貌が分かった。

 黒装束の春樹が座っているのは白いクイーンサイズのベッドで、右側を見ると壁が透明なために内部が見える風呂場がある。怪しげな暗い照明の灯るこの部屋がラブホテルの一室であることは一目瞭然だった。

 

 カウンターテーブルにいる碧は目の前にある鏡越しに自身の旦那の姿を見ていた。愛おしそうに見つめる彼女の目線は鏡に反射し、再度顔を下に向ける春樹に向けられている。

 これからまた、彼と一緒に生活することが出来る。その事実に彼女は笑みが止まらないのだ。だが肝心の春樹はまだ下を向いたままで、何も反応が無い。

 

 すると、

 

「なぁ」

「?」

 

「……もう、お前は俺と別れた方が良い」

 

 春樹の言葉に、碧は笑みを浮かべることを中断した。余りにも予想外の言葉に思わず振り向いてしまう。

 

「どういうこと……?」

「……今の俺がどういう扱いなのかは知らないが、きっと暴走した俺を普通のフォルクローとして処理したいと思うのが上層部(うえ)の考えだろ。そんな俺に着いて行ったら、お前もどうなるのか分からない……」

 

 語尾に近づいていくにつれて、どんどん声が細くなっていく。吐き出された声は下に沈んでいき、彼女の耳に届くのはほんの僅かしか無い。

 

「分かってたの? 自分が何やってたか」

「ああ。でも、体が言うことを聞かなかった……」

 

 春樹の頭の中に流れるのは自身の起こした行動についての記憶だ。体の自由を奪われた自分が意のままに操られ、何体もの異形のものたちを倒し、遂には自身の愛する人にまでも手をかけた。

 後に残ったのは自己嫌悪だけだ。状況が状況とはいえ、自分がしたことを、まず自分自身が許せないのである。

 

「素朴な疑問なんだけどさ、それで私が君の(そば)を離れるとでも思ってるの?」

 

 驚愕した顔から、今度は呆れた様子を見せる碧。

 

「そうかどうかが問題なんじゃない! じゃないと──」

 

 その時、春樹は突然立ち上がって碧の下に近づくと、碧の左手を掴んで引っ張る。そして勢いそのままに自身が横たわっていたベッドに押し倒した。押し倒した碧の上に馬乗りになった春樹は、彼女の首をこれまでに無い程の笑みを浮かべながら両手で絞めている。

 

 力を込めた両手によって一切の呼吸が出来なくなってしまった碧だが、一切の抵抗を見せることは無い。

 そして暫くしたところで気が付いたのか、春樹は両手に込めた力を抜くと、ゆっくりと離した。碧と共に呼吸が荒くなった春樹は怯えたような目で碧を見ると、何度目にもなるだろうが顔を下げた。

 

「……こうなるんだよ……。このままだと俺と一緒に誰かに殺される。況してや、俺にも……。そんなことがあっちゃいけない……。だから──」

 

 すると言葉を待たずして、碧が春樹の両手を掴むと自身の顔の横に置いた。開かれた彼の指の間に自身の指を絡めて、ゆっくりと握る。

 

 ふと碧の顔を見ると、彼女の顔は笑っていた。彼にあんなことをされたにも関わらず、慈愛に満ちた目でじっと目の前の男の顔を見つめている。

 

「大丈夫。私は君のいない世界に興味なんて無いし、誰かに君が殺される前に、君を殺そうとする人たちがいるなら私が先に殺す。……だから、最後まで一緒にいさせて」

 

 怯えた表情を見せていた春樹であったが、徐々に開いた目は細まり、荒く呼吸をしていた口は徐々に閉じていって音も静かになった。

 

「それに、きっと君は私を殺せないよ」

「? どうして?」

「……そんな気がする」

 

 何故か笑いが込み上げてきた。何故だかは分からない。心の繋がりあった彼らであってもだ。だが、彼らですら分からないのにも関わらず、何かを使って言語化することなど出来るわけがない。そもそも彼らは、それを言語化しようとしないのだ。

 

「ねぇ」

 

 笑いがひと段落したところで、碧が春樹に話しかけた。

 

「多分、まだ暴走するかもしれないでしょ」

「……多分」

 

 さっきのようにいつ彼女に危害を加えるか分からない。それに春樹は再び怯え始めたようだ。碧は彼にふと微笑みを向けて優しく語る。

 

「君は知らなかったと思うけど、薬物が抜けるのは、私に触っている間だけ。きっとその効果も、多分後もう少しだけ使える筈。だから──」

 

 碧は春樹の両手を握る自身の手の力を徐々に抜いていき、指を開いた。こうして春樹の両手の自由がきくようにする。

 そして、これ以上無い程の笑みを浮かべて、じっと彼を見つめた。

 

 

 

 

 

「好きにして」

 

 

 

 

 

 その瞬間、春樹の中で何かが外れた。

 それから、男は肉を貪る獣となり、女はただ欲を受け止めるだけの玩具と化したのだ。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.08 11:56 東京都 新宿区 SOUP

「今室長が交渉中だが、上層部(うえ)は春樹君と一緒に碧君も処分の対象にしそうだ。……ますます不味いことになるな……」

 

 森田が自身のデスクで深刻そうな表情を浮かべながら発表をした。

 だが他のメンバーの反応は驚きというよりも、「やっぱりか」という寧ろ納得に近いようである。けれどもその「納得」というのは、二人に対する対応が適当であるということでは全くなく、上層部はそうするだろうとは思っていた、というものだ。

 

「俺が大野花奈から貰った情報が確かなら、碧は別に暴走もしていないし、婿殿ももう正気に戻った筈だ」

 

 実は先程、花奈から八雲に向けてメッセージが届いたのだ。自分が彼女に送ったカードについての説明や設計図に加えて、「後は宜しく」という謝辞も加えて。

 

「ということは、春樹さんと碧さんをどうにかする必要は無いってことですよね。それなら、室長の交渉も上手くいきますよ」

 薫が嬉しそうな声を上げる。

 

「えぇ。ですが、問題はお二人とどうやってコンタクトを取るかです。多分、僕たちの会話も何処かで盗聴されている筈ですから」

 

 圭吾が指摘をした通り、春樹と碧が一番最初に接近をしそうなのは、家族であるあまねか、このSOUPのメンバーたちのいずれかに絞ることが出来る。それを考えた警察庁側が、恐らくは自分たちの会話を盗み聞いているのではないかと考えたのだ。

 

「……僕に考えがあります」

 

 突然深月が挙手をした。昨日の不審な動きを見た彼らにとっては充分に怪しく思えてしまうが、今は頼れるのが彼くらいしかいないのは周知の事実であった。

 

「何だ? その()()って」

 

 

 

 すると、突然深月の端末が震えながら音を鳴らした。木琴が奏でる可愛らしく癒される音楽である。深月が電話に出ると何故だかすぐにドアを開けて外に出て行ってしまった。

 流石に不審すぎるために、森田たち他の班員もそれに着いて行き、一緒にエレベーターに乗車をした。だが深月は嫌そうな反応を一切見せることは無い。これでこちら側の不利益になるようなことではないと悟ったのだが、それでも彼の訝しんでしまう。

 

 エレベーターが地上に着くと、そこで待っていたのは一人の男だった。白い作務衣と和帽子、そして眼鏡を身につけた、いかにもな蕎麦職人の風貌をした男である。その手には桶が握られていて、幾つもの黒い箱が入っている。

 

「出前お持ちしましたー」

「ご苦労様です。これ、お願いします」

 

 深月は男に分厚い茶封筒を渡し、それと引き換えに男は桶に入った箱を深月に渡した。一人で全部を持つのは彼の負担になってしまうと考えた他四名は、一人一つずつ深月から受け取って持つ。

 

 「毎度有り難うございます」と一礼をして、男は去って行ったのだ。一体全体何が起こったのか解らずに混乱する同僚の方を振り向き、深月は言い放った。

 

 

 

「お気づきですか? もう作戦は始まってますよ」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.08 17:21 東京都 台東区 HOTEL PILLOW 鶯谷店 203号室

「「ふぅ。さっぱりした〜」」

 

 バスローブに着替えた春樹と碧が満足そうな顔でベッドに横になる。

 

 あの後、何度も何度も互いを求め合った結果、春樹は完全に正気を取り戻した。さらには一緒に風呂に入って体を洗い合った始末である。

 

「あ、そういえば。お前、着替えとかどうするの?」

 

 春樹の指摘の通り、二人は着替えを持ってきていない。急にこのホテルに逃げ込んで来たからだ。近くのコインランドリーで洗うという手もあるのだが、それで見つかってしまう可能性だってある。

 

「大丈夫。()()()がいるから」

「え?」

「え? 忘れたの? 私たちには、自慢の子どもがいるでしょ」

 

 その時、ドアが3回ノックされた。インターホンがあるのにどうしてとも思った春樹であったが、碧はノリノリでドアの方に向かって開いた。

 

 そこに立っていたのは、あまねだった。赤いコートに身を包んだ彼女は部屋の前で若干震えていたが、母親の顔を見て安堵したようである。

 碧に案内されるままに中に入ると、視界に入ったのは自身の父親だった。

 それを見た彼女は、

 

「! パパーっ!」

 

 思いっきり走ってベッドに横たわっているベッドに飛び込んだ。そして春樹の右腕に抱きつきながら、満足そうな顔を浮かべながらも両目から涙を浮かべている。

 

「良かった……。ホントに良かった……」

 

 すると碧は奥の方で何だか嫌そうな顔を見せると、

 

「あまねちゃんだけズルいっ!」

 

 と同じようにベッドに沈み込んで、春樹の左腕に自身の両腕を絡めた。

 

「……ようやく、家族三人揃ったね」

 

 嬉しそうな声を出すあまね。釣られて春樹と碧も思わず笑みを浮かべた。

 久々の家族の集合。それが何よりも嬉しくてならない。

 碧とあまねは絡める両腕を強くし、春樹は拳の力を適度に抜いていく。

 

 だが、

 

「あ、そうだ」

 

 突然春樹が声を出して上半身だけを起き上がらせると、彼の両腕が離れてしまったために両端にいた乙女二人が不服そうな顔をする。

 

「二人に頼みがあるんだけど」

「?」

「何?」

 

 

 

「ちょっと、やってもらいたいことがあって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【以下、提出されたデータより抜粋】

 あまね:え? パパまた入院するの? しかもママも!?

 春樹 :ああ。再検査で引っかかっちゃってさ。

 碧  :私も、人間ドッグに引っかかったから、検査入院って形。

 あまね:いつ? それ。

 春樹 :俺は16から23までの予定。

 碧  :私は22から31まで。だから家のこととかよろしくね。

 あまね:任せて! それくらいばっちりだから!

 (全員で笑う)

 それ以降は雑談

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常51体

B群8体

不明1体

合計60体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How has he been restored to original condition?

A: Being taken his love by his honey.




【参考】
東京の過去の天気 2022年3月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220300/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 20 混ざる二色(REVE-ED'N'ACT)
Question058 What kind of strategy did he work out?


第58話です。
残り3話となりました今回、遂に中間形態が登場します!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、どうぞ宜しくお願いします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.08 18:02 東京都 台東区

 夜も更けた鶯谷を何組かのカップルが歩いている。だが彼らの視線は自分のパートナーではなく、一軒のホテルの前に停まっているパトカーたちに向けられていた。「前に」というよりも完全に建物を包囲しており、何人かのスーツを着た者たちと、盾と銃を構えた隊員たちが顔を見せている。

 

「ここは完全に包囲されている! さっさと出て来なさい!」

 

 警察官と思われるスーツを着た男がメガホンを使ってホテルに呼びかけている。その場の全員がホテルの一室に目線を合わせて険しい顔をしていた。

 

 その様子を春樹たち三人は部屋の窓から眺めていた。外の様子を確認するためという名目もあるが、それ以上に暗くなった外の中でパトランプたちが鮮やかに赤く光っているのが、なんとも言えないくらいに沁みるのだ。

 

 窓から離れた春樹と碧はあまねの持ってきてくれた服に着替えを始めた。

 春樹は黒色のTシャツに黒い長ズボン、そしてその上から緑色のモッズコートを身に纏う。一方の碧は黒いワイシャツに紺色のジーパン、さらに上からピンク色のチェスターコートを羽織った。

 これでなんとか外に出るための格好に着替えられたわけだ。

 

 すると、

 

「そういえばさ、ここに来る前に変な男の人から()()貰ったんだけど」

「え? 誰から?」

「なんか、お蕎麦屋さんみたいな格好だった」

 

 あまねが春樹に手渡したのは、分厚い茶封筒だ。封を破って中を確認すると、何枚かの白い紙が重ねて折られた状態で入っていた。取り出して広げ書いてある内容を確認した春樹は、何故かニヤリと笑うと中身を碧に見せた。

 一体何なんだと碧も見てみると、なんとなく全てを悟ったのか同じように笑みを浮かべた。

 

「成程ね」

「そう。そういうこと」

「じゃあ、すぐにここを出ないとね」

「でも、どうやってここを出るの?」

 

 そう言ったあまねの方を見る春樹と碧。絶対に何かを頼み込むつもりだと分かったあまねは思わず身構えた。

 

「何?」

「あまね、めちゃめちゃ危険な手を使うけど良いか?」

「……パパ、ママ、私ね──」

 

 あまねは自身の両親の手を掴んで、意を決した顔を見せて言い放った。

 

 

 

「『ダイ・ハード』とか大好きなの」

 

 

 

 

 

 暫くしてホテルの自動ドアが開いた。一体誰が出て来たのかを確認すると、目的としていた三人であった。あまねを真ん中に、彼女の右側には春樹が、左側には碧が立っている。

 

「彼女を離して、投降しなさい!」

 

 銃口が三人に向けられる。

 「投降」って、別に戦いを挑んだわけじゃないんだけどな、と思いながら、春樹と碧は互いの目を見つめて一つ頷いた。

 

 その時、碧の周りに青色のオーラが纏わりつき、彼女の身体が再び異形のものへと変わっていった。

 突然リベードの怪人態に変身を遂げた碧に驚く一同を他所に、碧はなんとあまねの全身を覆うように針を宙空に出現させた。さらには警察官たちの上にも針を出し、まるで雨が空で止まっているように見える光景を作り出した。

 

「言っておくけど、もし私たちを一度でも攻撃したら、どうなるか分かるよね?」

 

 完全なる脅迫である。本来であれば要求に従うか、狙撃手によって射殺するかの二択に絞られる。だが今回の場合に後者を選べば、間違い無く取り返しのつかない結果をもたらしてしまう。そう思った全員が銃を下ろし、じっと三人を見つめた。

 

 そしてそれを確認したリベードと春樹はいきなりその場から瞬時に姿を消した。同時にあまねの周りと警官たちの上にあった針は消え、脅威は去った。

 

 すぐにあまねが数人の警官たちの保護される。その間、あまねはずっとさっきまで人のいた場所を眺め、ホッと息を吐いた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.08 18:30 東京都 新宿区

 地中深くにある狭い道の中は蛍光灯の白い光で照らされているため、地下とは思えないほどに明るい。

 太い鉄製のパイプが何本かあるこの道の中で、深月たちは立っていた。まるで誰かを待っているように。

 

 すると、

 

「驚いたわね〜。まさかSOUPにこんな抜け道があるだなんて」

 

 彼らの前に現れたのは、追われる身である筈の春樹と碧だ。コートを腕にかけてゆっくりと歩き、彼らの前で立ち止まる。

 

「本当だな。深月、お前かなり成長したな。こんなのを用意するだなんて」

 

 春樹が見せたのは、あまねから貰った茶封筒と中に入っていた紙の束だ。その紙は何枚かの地図であり、赤いサインペンで道がなぞられている。

 自身の上司から貰った褒め言葉に、深月は右手で頭を掻いて笑顔を見せた。

 

「へへ。有り難うございます」

「あまりにも想定外だったからな。まさか、()()()()()()使()()()()()()

 

 恐らくは何のことだか分からないと思うので、ここで深月の考えた作戦の内容を説明しよう。

 

 深月は自分たちが春樹と碧に再び接触出来る方法を模索していた。だが彼らの動きを誰かに監視されていることが考えられるため、無闇矢鱈に行動することは出来ない。さらに警察庁側から通話やメールを傍受されている可能性があるために、二人に電話をかけることも出来ない。

 

 そこで深月が考えたのは、春樹の部下である平井を使うということだ。

 まず蕎麦屋に変装させた平井に、地図の入った封筒を渡す。次に彼があまねに会い、春樹と碧にこの封筒を渡すように頼む。最後に二人が地図を頼りに、抜け道を通ってこのSOUPの内部で深月たちと合流する、という手だ。

 

 かなり回りくどいやり方ではあるが、こうすることで深月たちが一歩も動かずとも、全員が合流出来るというわけだ。

 

「で、そっちの状況はどうなっているんですか?」

 

 碧が訊くとその場に同席していた岩田が答えた。

 

「君たちが人質をとって逃走したと聞いた時はどうなるかと思ったがなんとかなって、事が済むまでは君たちに協力してもらうことになった」

 

 話を聞いている最中は嫌な予感で頭がいっぱいになっていたのだが、結果を聞いて一先ず安堵した全員。中でも春樹と碧は、問題行動を起こした張本人であるがために気が気ではなかった。

 

「碧さんが使っていたカードは今僕たちが解析中で、後もう少しで安全に使えるようになります」

「上手くいけば、お前が怪人態になること無く、クラックボックスを制御することが出来る」

「そうすれば、暴走せずとも凄い力を発揮出来る筈です。『ユナイト』と同じくらい、いや、それ以上の……!」

 

 圭吾、八雲、薫が何処となく興奮した調子で報告をする。

 碧がカードを使った時、グアルダがカードのデータを彼らに送っていたのだ。それと花奈が送ってきたものを照らし合わせて、現在解析を進めているところだが、どうやらもうすぐで終わるそうだ。

 

「みんな……色々と申し訳ない」

 

 春樹が深々と頭を下げる。

 

「頭を上げてください。……チームですから、僕たち」

 

 深月が彼に言う。改めて見ると、彼の顔はこの班に来た半年前に比べてかなり成長したように感じた。頼りなかった青年が、ここまで頼もしくなった姿に春樹は感動し、何故か碧は涙が出そうになってしまっている。

 

「では、次に五十八号が来たときに、一気に仕留めましょう」

 

 森田が自身の右手を前に差し出すと、全員が集まって円の形になって手を重ねていく。

 そして八人全員の手が一つになった時、久々に勝鬨を上げる一言を、気怠そうな声で地下に響かせた。

 

 

 

「「「「「「「「うぇーい」」」」」」」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.10 10:11 東京都 品川区

 燃える。ビルが、車が、人が。発火した車は近くの建物に突っ込み、身体を燃やされていく人はあちこちを歩き回って鎮火しようとする。

 その様子を見てクウガは笑っていた。逃げ場も無いのに逃げまとう人々の恐怖に怯える表情が、滑稽に感じてしまうために笑い出してしまう。

 

「良いねぇ。そうやって泣き叫んで、もっと僕を笑顔にしてよ!」

 

 高らかな笑い声を上げて残虐な行為をする黄金の怪人。黒く塗り潰された目は無邪気な彼の中を表しているようでならない。

 

 するとクウガの前に何台かの車が停まり、その中にある一台のトラックの荷台から次々と防護服に身を纏った機動隊員が現れては盾の壁を作り、隙間から銃口を覗かせている。

 

 そんなものなど自分には一切効かないと分かっているクウガは、ニヤリと彼らを嗤った。

 

「飛んで火に入る夏の虫、っていうのは正にこのことだね。有り難う」

 

 次の獲物に感謝を示し、笑みを浮かべたまま右手を彼らの方に伸ばした。

 これで彼らは後々に燃えるごみと化すものになってしまう。だが隊員たちは一向に逃げ出そうとせずに真っ直ぐに標的を向いていた。

 

 

 

 

 

 すると、

 

『CREATE MY FAV ZONE』

 

 

 

 一瞬のうちに、駅前の道路からいきなり広大な場所に連れてこられた。大きな崖の下にある広い場所で、辺りを見渡そうとする度に足元でジャラジャラと砂が鳴る。

 楽しい玩具たちは消え、青空が澄み渡るだけの殺風景に放り出されたクウガは戸惑った。

 

「ここは……?」

 

「よう。元気か?」

 

 声と共に一歩ずつ前進をして来ているのは、春樹と碧であった。

 黒いズボンに黒色のTシャツとその上からまた同じく黒色のジャケットを羽織る春樹と、黒いワイシャツに紺色のジーパンを着てピンク色のジャンパーを着、うしろ髪をヘアゴムで結った碧。久方ぶりに見る、いつもの格好である。

 

「どうしてこんな場所に連れてきたわけ?」

「決まってるでしょ。これ以上貴方に街で好き勝手されたら困るの」

 

 碧の言う通り、さらなる被害を防ぐために八雲に頼んでこの空間に三人を転送してもらったのだ。ここであれば、どれだけ暴れても何の被害をもたらすことも無い。これで思う存分戦えるというわけだ。

 

「そういうことだ。……ここで仕留めさせてもらうぞ。グアルダ」

『了解した。ただいまより、椎名春樹、椎名碧、両名のライダーシステムの使用を許可する』

 

 グアルダから許可が下りると、二人はトランスフォンにカードをかざして読み込ませた。

 

『『ACT DRIVER』』

 

 腹部に黒いドライバーが出現する。その右側に付いたカードケースの後方のスロットから、それぞれ1枚ずつカードを取り出して端末に装填した。

 

『"ACT" LOADING』

『"REVE-ED" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと軽快な音楽が流れ始め、彼らの上空に現れた2つのゲートが開いて銀色の鎧が姿を見せる。

 

 その中で春樹は端末を持った右手を左の方へと伸ばし、手を裏返して掌が見えるようにする。碧は右腕を上空にゆっくりと伸ばし、一気に下ろすと両腕を横に広げて左腕を右肩の方に持っていった。

 

 そして二人は叫ぶ。本能に任せただけの「怪物」になるのではなく、理性も付け加えた「戦士」になるために。

 

 

 

「「変身!」」

『『Here we go!』』

 

 トランスフォンをドライバーに挿し込んだ瞬間、身体が一気に異形のものへと変化。そこに浮いていた銀色の鎧が着けられることで、彼らは変身を遂げた。

 

『I'm KAMEN RIDER ACT!』

『I'm KAMEN RIDER REVE-ED!』

 

 ようやく、二人の戦士が揃った。

 だがクウガは変身を遂げた彼らを馬鹿にするように静かな笑い声を上げる。

 

「まさか、初期形態で僕に勝てるとでも思っているのかい? 馬鹿にされたもんだねぇ。そんなんじゃ一瞬で殺されるよ!」

 

「えぇ。そうでしょうね。でも──」

 

 すると二人はトランスフォンを何故かドライバーから取り外す。そしてアクトが左手にクラックボックスを取り出す。

 

「多分これなら、なんとかなるでしょうね」

「……なぁ、とは言っても本当に大丈夫なんだよな?」

 

 取り出した張本人であるアクトが小声で自身の右側にいるリベードに訊く。

 

「大丈夫。信じよう、みんなを」

「……そうだな」

 

 一抹の不安を感じたが、リベードの言葉で思い出したのは、今遊撃車の中で自分たちの状況を見守ってくれている班員たちだ。追われていた身である自分たちをなんとかしてくれた彼らの顔が浮かんだアクトは、意を決してクラックボックスの上部に端末をかざした。

 

『CONNECTING US』

 

 するとアクトのドライバーに着けられたプレートが消え、手の中にあった箱がその場所に移動する。同時にリベードのドライバーでも全く同じことが起こった。

 

 さらに二人は同じ1枚のカードを取り出した。

 それは碧が花奈から貰った透明なカードだ。その上部にトランスフォンと同じくらいの大きさをした透明なパネルのある銀色のパーツが付けられていて、カードとパーツの結合部の右側には小さな突起が付けられている。

 パーツの部分を左手で掴み、右手に持っているトランスフォンのスロットにカードの部分を装填した。

 

『『"REVE-ED'N'ACT" LOADING』』

 

 端末の電源ボタンを押した。

 

『『Let's "UNITE"!』』

 

 その時、まずリベードを覆うように縦長の水色の直方体が現れる。さらにアクトの周りに、壁面の内側に大量のパイプが付いた横に長い緑色の円柱形が現れて彼を覆い隠した。その二つは上部に付けられたパイプで繋げられているのだ。

 そしてアクトの上空には「REVE-ED AND ACT」と書かれたゲートが出現。それが開くと銀色の鎧が姿を現した。

 

 いつもよりも派手な音楽が流れる中で、二人は端末をドライバーに再び挿し込んだ。

 刹那、突起がクラックボックスに引っかかることで変化が起こった。カードに付けられたパーツが落ち、端末の画面を覆い隠すようになる。さらにクラックボックスの真ん中から上が上がり、「REVE-ED'N'ACT」の文字が虹色に光り始める。

 

 だが変化が起きたのはドライバーだけではない。

 

 アクトの体がクラックシェープに瞬時に代わり、全身に壁面のパイプが装着された次の瞬間、突如として()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼女が変貌した液体はパイプを伝って円柱の壁面の内側に付けられたパイプを通り、アクトの体の中へ瞬時に入っていく。

 

 彼の体は前腕と下腿は棘の付いた黒い状態、全身の形状もクラックシェープのままであるが、それ以外の体色は緑と青がランダムに入った色をしており、至る所に黒色のラインが入っている。

 

 さらにそこに上空にあった銀色の鎧が胸部、両腕、両脚、両肩、背中に着けられ、口元にもマスクのようなパーツが装着されている他、複眼は二人のものが合体したような形をしており、その下側がアクト、上側がリベードのものになっている。

 

「ん?」

「何これ?」

 

 一人の身体から、二人分の声が交互に発せられる。

 

『Release all and unite us! We’re KAMEN RIDER REVE-ED’N’A-CT!! It’s just the two of us.』

 

 彼らは()()()()、というより()()()()()()()()()()

 アクトとリベードの合わさった姿、仮面ライダーリベードンアクトとして。

 

 本来であれば新しい力を手に入れた時の反応というのは、少し浮かれるか何も反応しないかの二択である。それも

 だが今回ばかりは、現場にいる全員の反応が一致した。

 

「「な……な……」」

 

 

 

 

 

「「「「「「「何じゃこりゃぁぁぁぁっ!?」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What kind of strategy did he work out?

A: That strategy is to meet that couple again.




【参考】
東京の過去の天気 2022年3月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220300/)
【コートの種類】メンズのコート&アウターおすすめ10選|The Style Dictionaly
(https://www.uktsc.com/thestyledictionary/mens_coat_style)
コートの種類を徹底解説!シーン別レディースコートの選び方 - &mall
(https://mitsui-shopping-park.com/ec/feature/ladiescoat)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question059 What is that couple’s new force?

第59話です。
シーズン2は残り2話になりました。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いします。



【イメージ挿入歌】
Roselia - 閃光

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.10 10:11 東京都 品川区

「「「「「「「何じゃこりゃぁぁぁぁっ!?」」」」」」」

 

 当の本人たちと一緒に驚く遊撃車の中のメンバーたち。二人が合体して一人になる。彼らがフォルクローだからこそ出来る芸当であろうが、それでも考えてもなかった光景に思わず声が出てしまう。

 

「え? これ、お二人大丈夫なんですよね!? 合体しちゃいましたけど、問題無いんですか!?」

「うん。モニターで確認出来る限りは大丈夫だけど……。一体どういうことですか!? 圭吾さん! 八雲さん!」

 

 心配になった薫は、自身の想い人とこの状況に一番詳しいであろう者に声をかける。

 だが、

 

「え、いや、え? 何これ……? え、あの、こうなるの? 言いたくないけど、キモっ!」

「想定外中の想定外ですね。まさかこうなるだなんて……。気持ち悪いとは口が裂けても言えないですけど……」

 

 この出来事は彼らの想像の範疇を優に超えていたようだ。モニターを見ながら完全に唖然としてしまっている。

 

「一先ず、ここは彼らを信じよう。なんとかしてくれる筈だ。多分……」

 

 場を仕切る森田が全員を落ち着かせようとする。だが発言者その人の心が乱れていては、そこまでの効果は無い。

 とりあえず全員は静かに様子を再度見始めたが、まだ心臓は速く動いたままであった。

 

 

 

 一方、くっついた張本人である二人はというと──

 

「いやいや何だよこれ!? めちゃめちゃ気持ち悪いんだけど!」

「ちょっと! どうしてそんなこと言うの? いつも夜は合体してるでしょっ!」

「それとこれとは話が違ぇんだよっ!」

 

 もっと混乱していた。

 新たな力を使った結果、訳の分からないことになった。碧は意外と順応しているが、春樹は気持ち悪くて仕方がない。

 

 春樹と碧、言葉を出す者が変更される度に変わる所作を見ながら、クウガはイライラしていた。理由はただ一つ。ほったらかしにされているからだ。

 

「何を言っているのか知らないけど、早くこっちの相手もしてよぉっ!」

 

 クウガが走って来る。

 だがリベードンアクトはそもそもこの状況に対応出来ていない者が片方混じっているため、慌てふためいてしまう。

 

「来た! 来たよ! ほら速く!」

「あぁもう! 分かったよ! 息揃えて行くぞ!」

「オッケー! 行くよ!」

 

「「せーのっ!」

 

 立ち止まって拳を振り上げた彼に、リベードンアクトは逆に胸部に右手でパンチを食らわせた。それで彼は後退してしまう。

 もう一度クウガは右手で拳をお見舞いしようとするが、それを右手で受け止めて左足で後ろに蹴り飛ばした。

 

「ッ!」

 

「お。ヘンテコだけど力は本物だな」

「うん。これなら行ける……!」

 

 勝利を確信した二人は、同時に使っている一つの身体の重心を下に落とす。そしてその複眼で金色の体表をした獲物を睨み、掛け声を発した。

 

 

 

「「READY……GO!」」

 

 

 

 走り出すリベードンアクト。

 

「舐めるなぁぁぁっ!」

 

 クウガは対象に向かってやけくそに両手を伸ばした。そこから放出されたのは、大量の赤い球だ。発火能力を応用したエネルギー弾である。

 

 するとリベードンアクトは突如として姿を消した。何が起こったのかも分からずに、クウガは全身に強い痛みを感じた。

 

「グアッ!」

 

 見ると目の前に消えた筈の戦士がいた。どうやら瞬間移動をし、一気にクウガの前に迫った後、高速で攻撃を仕掛けたらしい。

 たじろぐ彼にさらに攻撃を加えていくリベードンアクト。攻撃をする間も与えず、パンチやキックを食らわせた。

 

「だったら、これでどうだっ!」

 

 だがこれで終わるクウガではない。

 彼は右手に赤と紫と金の色をしたエネルギーを纏わせる。これが凄まじい拳を放つ合図だということは判っているが、何故か動き出そうとはしない。

 その様子に苛立ちがピークに達したクウガは、右手を思いっきり振り、パンチをお見舞いしようとした。

 

 すると次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()。そのため拳は何処にも当たらず、空振りに終わった。

 

 見るとクウガの左側にはアクトが、右側にはリベードが立っている。姿こそ通常形態であるのだが、ドライバーは合体した状態のものが着けているのと全く同じだ。

 

『『DISPEL CRASHER』』

 

 アクトは銃を、リベードは剣を取り出した。

 

「よしっ!」

 

 リベードが走り出し、横からクウガに斬りつけようと剣を上に振りかざす。それを右手で防ごうとした時、アクトが丁度自身の方を向いたクウガの背面に銃弾を何発も撃ち込んだ。怯んだ隙にリベードが胸に斬りかかり、何回も剣を当てる。

 そして二人で思いっきり蹴り飛ばした。

 

「「ハァァッ!」」

「グッ……!」

 

 後退してしまうクウガ。同時にアクトとリベードは再び一つの身体に舞い戻った。

 

「どうしてだ……。どうして僕は君たちに勝てないっ!? 君たちのその力の源は何なんだ!? 最強の僕をも寄せ付けない、その力はっ!」

 

 最早立つのもやっとの状態になってしまったクウガが叫ぶ。先日まで自身の足元にも及ばなかった彼らが、自らを簡単に超えられる程の力を手に入れている。それが何よりも許せないのだ。

 

「え? 何言ってるの?」

「そんなの決まってるだろ」

 

 

 

 

 

「愛情だよ」

 

 一切照れること無く言い放った。

 たったそれだけだ。たったそれだけのことで彼らは強くなった。いや、たったそれだけだったからこそ、強くなれたのだ。

 

 リベードンアクトが装填されているクラックボックスをトランスフォンの方に押し込む。

 

『Are you ready?』

 

 左足を前に出した状態で腰を落とすと、今度は端末を押し込んだ。

 

『OKAY. "REVE-ED'N'ACT" UNITE EXPLOSION!』

 

 するとクウガの後ろの地面と、彼とリベードンアクトの間に小さな赤色の円が出現した。

 それを確認した戦士はクウガの目の前に瞬時に移動をし、攻撃をラッシュし始めた。拳や蹴りが次々とクリーンヒットし、その勢いに押されて後退していってしまう。

 これが彼らの最大の技なのか。クウガはただ攻撃を真に受けて後ろに押されることしか出来ない。

 

 だがこれはまだ序の口に過ぎないことを、彼は知ることとなる。

 

 後ろに下がっていくクウガは誘導されていたのだ。自身の後ろにある円に。

 そこにクウガが着いた瞬間、リベードンアクトは攻撃を中断して後ろに瞬間移動。もう一つの円を思いっきり両足で踏んだ。

 

「「ッ!」」

「!?」

 

 その時、満身創痍になったクウガが上空に突然上げられた。同時にリベードンアクトも、円を踏んだ勢いを利用して同じく上空へと跳んでいく。

 

 宙空に打ち上げられたクウガの周りには、彼を囲うようにアクトとリベードの虚像が大量に出現した。アクトは右足を、リベードは左足を向けている。彼らが足を向けている標的に対して一気に攻撃を食らわせた。

 

「ゴッ……! アッ……!」

 

 そして最後だ。

 リベードンアクトは何も無い宙空で一回転し、緑色と青色のエネルギーが充満した両足をクウガの胸部に押しつけた。

 

「「おりゃぁぁぁぁぁぁっ!」」

 

 胸部に両足が当たると、そのまま膝を曲げて再び伸ばし、対象を後ろの方へと吹き飛ばした。

 

 この空間はどんなものでも再現することが出来るが、広さは無限大ではない。あまりに精巧に作られているがために誰も気付くことが出来ないが、例えそれが外を模したものであったとしても必ず壁が存在するのだ。

 

「グァァァァァァッ!」

 

 その壁にクウガは叩きつけられた。激突した瞬間に大きな爆発が起きて、彼の姿は全く見えなくなってしまう。

 それは彼ら二人の勝利を表していた。轟音を鳴り響かせて上がる、花火のように。

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 端末をドライバーから外すと、銀色のパーツが付いた面を爆発の方へと向ける。すると爆発が徐々に薄れていき、一枚のカードがリベードンアクトの前に現れた。

 

『Have a nice dream.』

 

 左手でカードを手にして絵柄を確認する。大量の古代文字が書かれた「ゴウラム」という、嘗て四号と共に戦った馬の甲冑が描かれており、下部には「No.001 BIGINNING KUUGA」と印字されている。

 

 爆発が落ち着いたところで、二人がいた崖の下の風景は消え、代わりに見慣れた街が現れた。何軒ものビルにアスファルトで出来た道路。元の場所に帰ってきたのだ。

 

 変身が解除される。立ち尽くす春樹の前から、碧が彼の腰に腕を回して抱きついている。顔を彼の左肩に乗せて目を閉じ、ゆっくりと呼吸を繰り返していた。

 

「あの……何で抱きついてるんだ?」

「……『愛情』って言ってくれたの、すごい嬉しかった」

「ああ、そう。……それだけで?」

「それだけ」

 

 彼女の後頭部を右手で優しく撫でる。その感触が心地良く、碧は笑みを浮かべる。繋がることが出来るのは体だけじゃない、というわけだろうか。

 

 すると碧はゆっくりと春樹から離れ、自身の前の方を見た。彼女と同じ方を向いた春樹が見たのは、自分たちに銃口を向ける機動隊員たちの姿であった。一体どうしたものかと思ったが、すぐに理由を察することが出来た。

 

「そういえば、私たちの処分っていうのは──」

「五十八号を倒した後で決めるって話だったな」

 

 一歩ずつ近づいて来る隊員たち。一向に引き金を引く様子こそ無いが、彼らの全身からは緊張感が迸っていた。

 いつも以上の緊迫した空気を察知した二人は、彼らが歩くのと同じくらいの速度で両腕を宙空に挙げる。

 

「ねぇ春樹」

「? 何?」

「……有り難う」

 

 その際、春樹と碧は互いの顔を見合って微笑み合う。幾度となく見続けてきた、愛する人の顔を見つめながら、前から来た隊員たちに体を静かに抑え込まれた。

 

 晴れていた空にいつの間にか雲が増えていき、徐々に光が入らなくなっていく。そして二人の表情は影で隠れ、誰にも判らなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is that couple’s new force?

A: It is to be two into one.




後1話でシーズン2は終わりです。
色々と謎は残っていますが、それはシーズン3にでも明らかにします。最後までお付き合いください。



【参考】
東京の過去の天気 2022年3月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220300/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question060 Why did they cuddle each other?

第60話です。
今回でシーズン2が終わります。シーズン3からも宜しくお願いします。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、そちらも宜しくお願いします。



【イメージED】
AI - 最後は必ず正義が勝つ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.14 16:22 東京都 千代田区 警視庁 9階 会議室2

「以上が、僕の知っている全部です」

 

 深月が告げた後、若干の沈黙が流れた。

 彼の口から発せられたものを頭の中で整理しようと、一条は天を仰ぐ。

 

「つまり、椎名春樹に椎名碧、両名の反逆行為は暴走したことによるものであり、その対策手段はすでに確立されている、ということですか?」

「はい。そういうことです」

 

 もうこれで自分に出来ることは終わった。自分は春樹と碧のために十分人事を尽くした。後は天命を待つのみである。それが自分たちの望む結果となるかは分からないが──。

 

「……あの二人は、どうなるんでしょうか……?」

「あのお二人なら留置所に習慣していましたが、他の班員の皆さんの供述から無罪放免ということになり、今日付けで釈放になりました。ただ起こした事が事なので、明日から22日まで1週間の自宅謹慎です。後、3ヶ月の減俸も」

 

 最悪の事態は避けられたようだ。ホッと息を一つ吐いて胸を撫で下ろす深月。

 

「それから、他の皆さんも1ヶ月の減俸です。一応、彼らの行動に手を貸したことに変わりは無いので、そこはご了承ください」

 

 最低限の覚悟はしていたが、やはりこうなってしまったかと、溜息を一つして顔を下に向けた。だがそこまで憂鬱な気分にはなっていない。それ以上に自分の仲間が1人として欠けなかったことが嬉しかったのだ。

 再び前を向いた顔に付いている目には光が入っている。彼の目を見た一条は微かに笑みを浮かべて、「では」と一言言い残して席を立ちドアの方に向かった。

 だがドアノブに手をかけたところで、一条は動きを止めた。

 

「良かったですね」

「……え?」

「……彼らとまた、一緒にいられることになって」

 

 顔を深月の方に見せること無く、一条はドアを開いて部屋を出て行った。

 音を立ててドアは閉まる。廊下から入った光は扉が閉じられたために入ってこなくなり、外から差し込む日光だけが頼りになる。だがその光は鬱陶しい程に眩しく、深月は思わず目を瞑った。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.14 21:31 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 さて、肝心の彼らはというと、つい先日まで散々な出来事に巻き込まれていたことを忘れるかのように食事を楽しんだ。デリバリーサービスで頼んだスパゲッティやチーズにケーキ、さらに春樹と碧は家のワインセラーに置いてあったワインを開けて嗜む程度に堪能した。

 

 細やかな祝宴も終わり、片付けを済ませた三人は各々自由に過ごしていた。あまねは緑色のソファに寝転がってスマートフォンをいじり、春樹と碧は食卓に座って水を飲んでいた。

 

「はぁ。どれも美味しかった〜っ」

「ね。パパとママの料理が一番だけど、たまには出前も良いね〜」

 

 満足そうに再度コップに口をつけて水を飲み干す碧。飲んだ水のお陰で、徐々に酔いが覚めていく。これでどうやら悪酔いする恐れは無くなった。

 

 すると、

 

「なぁ、碧」

「何?」

「ちょっと、話があるんだけどさ、……来てもらっても良いか?」

「? ……うん」

 

 碧を連れて行く春樹は碧を連れてリビングを出ると、玄関のすぐ近く、廊下の左側にある扉を開けて中に入った。

 そこは夫婦の寝室であった。部屋の大半をダブルサイズのベッドが埋め尽くしており、壁にはクローゼットに繋がる黒色の両開きタイプの扉が付けられている。そしてベッドの右側には木製の和だんすが、左側には丈の長い間接照明が置かれていた。

 

 春樹は碧をベッドの上に座らせる。その前で春樹は立ち尽くすのみである。

 碧が見上げた春樹の表情は、まるで何か覚悟を決めたかのように見えて、碧は胸をざわつかせた。

 

「ずっと後悔してたんだ。勝手に人のプライベートに土足で上がり込んで、君が人並みの幸せを掴もうとする前に選択肢ごと奪ってしまった……。本当に申し訳ない」

 

 深々と頭を下げる春樹。全く予想外のことであったためか、碧はキョトンとしてしまう。春樹は頭を上げて再び言葉を紡ぎ始めた。

 

「謝っても許されないことだっていうのは分かっている。もしかしたら君が、俺のことを恨んでいるかもしれないから……。だから──」

 

 言葉を言い終わる前に、碧は春樹の両腕を引っ張って自分の方に倒した。結果として春樹の顔が碧の豊かな2つの丘の谷間に挟まれる形となる。そして碧はゆっくりと春樹を両腕で抱きしめた。

 

「……恨んでなんかいないよ」

 

 春樹の耳元で溶けてしまうような声がした。

 

「私ね、君に出逢えて本当に幸せなんだよ。大好きな人と一緒になることが出来て、あまねちゃんっていう素敵な娘も出来て、これ以上に幸運なことは無いなって毎日のように思ってるんだ」

 

 部屋の外では車のクラクションの音が短く鳴る。交通量の少ない場所に位置するこの家にとっては珍しいことであるが、今の二人はそんなことなど意に介さない。

 

 碧は春樹を優しく抱きしめながら、笑みを崩すことなく言った。

 

「だからね、そんなに気負わなくて良いんだよ。むしろ君ばかりに背負いこませちゃってごめんね。辛かったよね。……だから今だけで良いから、私の胸で泣いて、ね」

 

 その時、空いていた春樹の両腕が倒れ込んだ碧の背中に回された。同時に胸元ではうっすらと何か呟きが聞こえたようであるが、彼女の体が壁となって上手く聞こえない。

 そして聞こえてきたのは、今まで聞いたことの無い、彼の泣き声であった。今まで自分が溜め込んできたものを呻きとして吐き出していく。

 自身の胸を濡らしながら奥底に溜まっていたものを出していく愛する人を見つめながら、碧はただ優しく包み込んでいた。柔らかな肌を全て使って、彼を癒そうと懸命になっていたのだ。

 

 暫くして声は聞こえなくなった。

 

「……有り難う」

「……どういたしまして」

 

 顔を上げた春樹。充血した目を起点にし、水が乾いて出来た特徴的な線が顔の上で僅かに伸びている。

 

「スッキリした?」

「……ああ」

 

 これ以上邪魔にならないようにと、春樹は碧から体を離す。二人同時に起き上がって共に正座をする形になった。

 

「「……」」

 

 一切言葉を発しないまま、互いの顔を見合う。何故か呼吸を忘れてしまうほどに見入ってしまった。これだけ愛する人の顔は美しいのかと。これだけ愛する人が目の前にいてくれているのだと。

 

 いつの間にか両手を相手の肩に伸ばして優しく掴む。そしてそっと目を閉じ、ゆっくりと互いに引き寄せ合って、もっと深くまで触れ合おうとした──。

 

 

 

 その時、バン! と廊下から乾いたがした。

 ある意味で正気に戻った二人が聞こえた方を見ると、あまねが廊下から彼らの様子をじっと見ていたのだ。地面には何冊もの本が乱雑に配置されている。

 

「あまねちゃん!?」「あまね!?」

「え、あ、ご、ごめん! すぐ部屋戻るからっ!」

 

 気まずくなってしまう三人。素早く床に散らばった本を掻き集めると、あまねは両腕に全てを抱き抱えて退散しようとした。

 が、何かを思い出したようにその場で立ち止まってしまう。

 

「パパとママってさ、もう子供作れないんだっけ?」

「え、そうだけど……」

 

 人間を捨てたが故に、子孫を作る能力を失ったことは、ずっと前にあまねに報告した筈だ。何を今更訊いているのかと疑問に思う二人。

 

「……もしかしたら今日、弟か妹が出来るかもしれなかったのにね……」

 

 一瞬、言葉の意味が解らず固まってしまう。だが「じゃ」と言ってそそくさと立ち去って行ったあまねの顔が赤くなっていたのを見て、全てを察した両親は同じように顔を赤くしてしまった。

 もはや夢物語の一つとなってしまったことへの、彼女の期待を一心に背負ってしまった彼らは下を向いて何も言えなくなってしまう。

 

「えぇっと、その──」

「あのさ」

 

 春樹がお茶を濁そうとした矢先、碧が先に口火を切ったため、春樹は彼女の方を見る。

 

「……いつか、私たちが元に戻れる時が来たら、その時は……あまねちゃんに作ってあげようね」

 

 振り絞って言葉を出した碧が、赤く染まった顔を春樹の方に向けた。

 それがあまりにも愛おしく感じられ、春樹は思わず碧を優しく押し倒した。

 彼の起こした行動が一体何を意味しているのか承知をした碧は、徐々に口角を上げていく。

 

「……こないだみたいに乱暴にはしないから」

「良いよ、君だったら激しくされても。そういうの大好きだし」

「いや、絶対優しくするから……」

 

 若干流れる沈黙。

 

「碧」

「ん?」

 

 

 

 

 

「愛してる」

「……私も」

 

 そして彼らは目を瞑って唇を合わせた。程よく熱せられた唇は柔らかさも相まって、彼らの気持ちを静かに昂らせていく。

 何度か唇を重ね合わせた二人は一度立ち上がり、手を繋いだ状態で足を進め、寝室の電気のスイッチの前で立ち止まる。

 

 もう何度目であろうか。ふと自分の愛する人の顔を見る。何故だか可笑しく思えてしまい、心の底から笑みが溢れた。そして再度前を向くと、繋ぎ合った手を使って、電源を落としたのだ。

 

 それ以降、白く透き通った二人の肌を照らすのは、静かに浮かんでいる月が放つ光だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SEASON 2 is finished.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????

「我々の想定よりも遥に、彼らは強くなっています。現にフロワちゃんやピカロくんが変身したとしても、今のままでは勝てないでしょう」

「……だろうね」

 

 暗い部屋の中でアールが報告をする。彼の右にいる人物は、黒装束にお面を着けた、零号(彼らのボス)だ。

 二人の目線の先にあるのは、戦い合っているピアーズの姿だ。どうやら春樹や碧、八雲に対抗出来るよう、鍛錬に励んでいるらしい。手足や武器が激しくぶつかり合い、火花を散らせながら戦い合っているのだ。

 

 彼らの様子を見ながら二人は深刻な表情を浮かべて会話に花を咲かせていた。

 

「そのためにも、()()()()()()()()を、石川唯、いえ、筒井あまねから取り返さなくてはなりません」

「分かっているよ。けどね、どれだけ私が彼女と親密な関係になろうとも、立場上何も教えてくれないだろうね」

 

 淡白に返す零号。その様子からは一切の焦りを感じることは出来ないが、仮面の下は一体どうなのだろうか。それは誰にも分からない。

 

「なので、すぐさま対策を講じる必要があります」

「……一つ、お願いがあるんだけど──」

 

 

 

 

 

 その様子を、花奈は大きな柱の裏から見ていた。何を話し込んでいるかは距離が空いているために分からないが、大体の察しがつく。

 後ろを向いた彼女はゆっくりと前に進み出し、そして視界の中に入ってきた人型の模型の頭部を優しく撫でて呟いた。

 

 

 

「そろそろ潮時かもね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常51体

B群7体

不明1体

合計59体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why did they cuddle each other?

A: Because they wanted to confirm their love.




【参考】
東京の過去の天気 2022年3月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220300/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 21 あっちとこっち(HUMAN AND VOLKLOW)
Questoin061 Who appeared in the forest?


第61話です。
本日よりシーズン3がスタートします。
感想や読了報告、ついでに評価もくださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。
後、最後に結構長いアンケートも実施しておりますので、そちらも投票していただけると有り難いです。



【イメージOP】
ソナーポケット - GIRIGIRI

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


?????

 暗い室内でアールたち三人は円形に並べた椅子の上に座っていた。アールは膝に両手を着けた姿勢の良い状態で、フロワは左脚を組んだ状態で、ピカロはそもそも座らず椅子の上に立ち、各々様々な姿勢をしていた。

 姿勢こそバラバラの三人であるが、彼らに共通していることは、全員が神妙な面持ちをしているということだ。

 

「色々私たちもやってはいるけど、正直あの坊に及ぶかどうか……」

「うん。だから彼女に色々やってもらう必要があるんだけど……」

 

 ピカロが向いた方を他の二人も見る。目線の先にあるのは、いつも花奈が使っているデスクだ。黒いパソコンや大型スクリーンに椅子はそのまま放置されているのだが、置かれていた大量の資料とコーヒーメーカーが無くなっている。

 

「……いない」

 

 再び目線を前に戻した。

 

「彼らに対抗するためにも、あの御方の本来の力を取り戻す必要があります。ご協力お願いします」

 

 アールの言葉にフロワとピカロが頷く。真っ直ぐと自身の方見つめる二人の姿を見て、彼はふと笑みを浮かべた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.22 12:01 東京都 渋谷区 SHIBUYA LAND 19階 terrasse du ciel Shibuya

 大きな門の前に立つ八雲と碧の間には緊張が走っていた。この門を潜れば、今まで自分たちが経験したことの無いくらいに厳かな空間が待ち受けている。唾を飲み込んで目の前に聳え立つ扉をまじまじと見つめていた。

 

 すると、突如として八雲のスマートフォンが振動を始めた。こんな時に一体何なんだ。その場を一度離れて画面を確認する。

 表示された着信元の名は、「大野花奈」。

 まさかの相手からの着信に驚きながら恐る恐る電話に出た。

 

「もしもし」

『久しぶり。元気?』

 

 口元を押さえて声量を絞りながら応答する八雲に対し、抑揚の無い声で花奈は通話をする。

 

「何だよ急に。今俺は結構大事な仕事をやらなくちゃならないんだよ……!」

『そう。じゃあ簡潔に言うけど、……後でそっち行くから』

「……は?」

『それじゃ』

 

 意図が理解出来ない報告が終わったところで、一方的に通話が切れた。

 首を傾げた八雲であったが、すぐに先程のことを忘れてまた碧の右隣に立った。そして彼女の右腕と自身の左腕を絡み合わせる。

 

「それでは、新婦の入場です」

 

 向こう側から聞こえる声と共に、大きな扉はゆっくりと開いた。

 

 その先に見えた風景は厳かな雰囲気を纏っていながらも、それ以上の幸福で満ちていた。

 中央に設置された木製の長椅子には、正装に身を包んだ圭吾に薫、何人かの婦人たちを初めとした大勢の列席者が八雲と碧の方を向いている。そして道の先には白いタキシードに身を包んだ春樹と、さらにその奥に何故か牧師の姿をした森田が壇上に立っている。その中でも特に異彩を放っているのは、左側でじっと室内の様子を目を光らせて眺めていた。

 

 彼ら全員が視線を配っている先は一つ、碧である。白銀のドレスを身に纏う彼女の顔はベールで隠れているが、幕が薄いがために彼女の端正な顔立ちがよく見える。長い髪の毛を小さくまとめた彼女の姿を見た列席者たちの中で、短く歓声が上がった。

 

 式場の中ではワーグナーの「婚礼の合唱」が流されており、一歩ずつ進んで行く度に管楽器の旋律の中に美しい弦楽器の音が入っていく。

 

 二人が春樹の前に着くと、春樹と八雲は一礼をし、碧は新郎の左隣に立つ。役目を終えた八雲は客席に座って一部始終を眺めることにした。

 

 その後に行われたのは、讃美歌の合唱であった。列席者一同が立ち上がって歌い、次に牧師に扮した森田が聖書の言葉を二人に朗読して聞かせる。

 そしてその次に始まったのは、二人への問いかけであった。まずは春樹の方を見る。

 

「新郎椎名春樹は常田碧さんを健やかなる時も、病める時も、豊かな時も、貧しき時も、彼女を愛し、彼女をなぐさめ、命のある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「……はい」

 

 続けて碧の方を見る森田。

 

「新婦常田碧は椎名春樹さんを健やかなる時も、病める時も、豊かな時も、貧しき時も、彼を愛し、彼をなぐさめ、命のある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「……はい」

 

 森田は正面を向いて、今度は列席者たちに呼びかける。

 

「皆様、お聞きの通りです。それでは、指輪の交換をいたします。リングガールの入場です」

 

 合図と同時に再び扉が開いた。そこから出てきたワンピースを着た一人の少女は、嘗てフォルクローに寄生されて碧に助けられた森田の娘、奈緒美であった。指輪の乗った箱を森田に渡し、そそくさと去って行く。

 その指輪を持つとまずは春樹が碧の薬指に嵌め、次に碧が春樹の指に着ける。

 

「それでは、誓いのキスを」

 

 碧がしゃがみ込むと春樹が彼女の顔を隠しているベールを挙げた。そのお陰で彼女の端正な顔立ちがよく見えるようになった。立ち上がって春樹の方を見ながら微笑む彼女の姿を見て胸をざわつかせる春樹。

 だがもう覚悟は決まった。碧の両肩を掴むと、互いの唇を引き寄せあった。

 

 そして口元に柔らかい感触が起ころうとした──

 

 

 

 その時だった。

 

「ちょっと待ったーーーーーっ!」

 

 門の向こう側から男性の大きな声がした。一体何事かとその場にいた全員が扉を見ると、突如として開いた。

 そこには10人程の男が春樹の方を睨んでいた。世紀末の世界を描いた某漫画のジャンキーのような格好に身を包んだ男たちは、手元にナイフや金属バット、さらには拳銃を握りしめている。

 

「おい椎名!」

 

 真ん中にいる黒髪の男が叫んだ。

 

「お前、こんな美人でスタイルの良い奥さん貰いやがってっ! 彼女は俺たちが貰うぞぉっ!」

 

 すると次の瞬間、

 

「突入!」

 

 壁に付けられた計4つの扉が音を立てて開き、スーツを着た男女が20人程姿を見せた。

 

 ジャンキー姿の集団が室内に乱入すると同時に、スーツの男女のうち15人程が彼らに立ち向かって行った。手元の武器を華麗に避け、効率良く生身の彼らは対象を制圧していく。その隙に残りの者たちが列席者たちや春樹たちを非難するように誘導する。誠に見事な光景であった。

 

 だがそれでも詰めが甘かったようだ。

 拳銃を持った男が一人、碧の前に立って銃口を彼女の方へと向けた。だが今の状況の中で何故か深月は一切助けようとしない。

 

 そして他の者たちが男の存在に気がついたところで、引き金が引かれた。

 放たれた弾丸は目的であった碧ではなく、彼女の前に立った春樹の胸部に命中した。白いタキシードに赤色のしみを付けながら倒れる春樹と同時に、銃弾を放った男が取り押さえられる。

 

「春樹っ!」

 

 碧が彼の下に駆け寄って肩を揺さ振る。仰向けに倒れる春樹は全く反応を見せることは無く、目を瞑ったまま全く動くことは無かった──。

 

 

 

 

 

「そこまで!」

 

 突然深月が声を上げた。そしてそれまでジャンキーたちを取り押さえていた者たちが縦に5列、横に4列の状態で並んだ。その前に深月は立ち、自分の上司たちの前であまり見せたことの無いであろう険しい表情で厳しい言葉を彼らに投げかける。

 

「お疲れ様でした。皆さん……いえ、諸君が今制圧にかかった時間は57秒。時間としては申し分ありませんが、1人が被弾をしたという状況です。民間人に被害を出すなど言語道断! 必ず一人も死傷者を出さないようにしてください!」

「「「はい!」」」

 

 すると仰向けに倒れたままの春樹が自身の右腕を挙げて発言をする。

 

「後、誰か一人花嫁のウエディングドレス踏んづけて突入しただろ。それやると花嫁がすっ転んで全然関係無いところで被害が出るぞ。もし次踏んづけて彼女が転んだりしたらブチギレるからなぁっ!」

「……」

 

 指示の内容の殆どが私情であった。本来であれば誰もそんなもの聞きはしないのだが、あまりの気迫に押されて全員何も言えなくなってしまう。

 

「返事は!」

「「「はい!」」」

 

 もはや圧政である。

 

「では、この後昼食をとっていただいて、45分後にラスト1回行います。各自食べながらミーティングをするなりしてください」

 

 深月の合図で全員が解散をする。者どもの中には何人かで集まって軌道の確認をする者や、先に昼食を済ませようとその場を離れる者がおり、様々な行動をして次回に備えていた。

 

 そう。これは訓練であったのだ。しかもただの訓練ではない。というか厳密に言えば訓練ではない。警察学校の特別授業であった。生徒たちがいくつかあるうちの中から一つ選んで、一日その授業を受けるというものだ。そのうちの一つが今行っている、深月による要人警護の実践授業である。

 

「お疲れ。有り難うな。付き合ってくれて」

「良いってことよ。どうせ今日は稽古無いからな」

 

 起き上がった春樹と話しているのは、ジャンキーたちの先頭に立っていた男だ。先程とは打って変わって仲良さそうに会話をしている。

 彼は春樹の地元の知り合いであった。俳優になるために上京した彼に春樹が「暴漢役として訓練に参加して欲しい」と声を頼んだのだ。すると彼は自身の所属している劇団の団員たちに声をかけ、来られる者を集めてくれたのだ。彼曰く「腐れ縁の結婚式がどういうものか、擬似的なものでも良いから見てみたい」から、参加してくれたそうだ。

 

 一方の碧を囲んでいるのは、列席者として参加していた婦人たちだ。

 

「碧さん綺麗ね〜」

「ホント。私オードリー・ヘプバーンかと思ったわよ」

「有り難うございます」

 

 彼女らは椎名家の近所に住んでいる住民たちだ。

 この訓練の話を一人の所謂ママ友に碧が相談したところ、そのママ友が他の母親たちや近所に声をかけてくれたのだ。

 

 褒められて照れている碧の表情を、列席者役として参加していた薫と圭吾が長椅子に座りながら眺めていた。

 

「碧さん、ホントに綺麗ですね〜。入場して来た時女神かと思いましたよ」

「そうですね。でも……薫さんも似合うと思いますよ」

 

 圭吾の発言に驚いた薫は、思わず下を向いてしまった。発言をした張本人である圭吾も自身の発言が恥ずかしくなってしまったのか俯いてしまった。

 

「……いつか、着させてくださいね」

「……はい」

 

 静かに約束を交わした二人。自身らのせいではあるが居た堪れなくなってしまった彼らは、目線を深月の方に向けた。

 今は自身の端末を使って、先程の訓練の様子を撮影した映像をじっと眺めている。その表情は真剣そのもので、いつもの彼が身につけていないような何者も寄せ付けさせない雰囲気を纏っていた。

 

「それにしても深月さん、すごく成長しましたね」

「えぇ。初め来た時とは大違い」

 

 すると二人の後ろから森田が顔を出した。同じように目線を深月の方に配っている。

 

「というか寧ろ、ああいうのを見越して室長がスカウトしたからな。事実落合署にいた時に彼が練った作戦で、死傷者や渋滞が起きたことは一度も無い。近隣住民から苦情が出たことも、だ。ああ見えて、意外とちゃんと計算しているってことだ」

 

 森田の言葉に、二人は大きく頷いた。彼が作戦を出して死傷者が出たとしても、それは体が丈夫な春樹や碧だけで、民間人から出たことは一度も無かった。

 深月の判断力と同時に、岩田の人を見抜く力に二人が感心をしていたその時であった。

 

 SOUPのメンバー全員の端末が大きな音を立てて振動を始めた。画面を確認した彼らは気を引き締め、式場の中から走って出て行く。

 

「すみません! 今日の授業はこれまででっ!」

 

 深月もそれだけ生徒たちに言って、その場を立ち退いた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.22 12:13 東京都 杉並区 杉並区立杉並公園

 空からしんしんと雪が降り、園内に生えている大量の木の上や地面に降り積もっていく。

 緑色の葉の上に白い化粧がされる中、あまねと日菜太は横一列に並んで歩いていた。茶色の手袋を着けたあまねの手の中には白い紙袋が握られている。

 

 彼らは春休みを利用して、待ち合わせをして買い物をしていたのだ。何ヶ月後かに着るための新しい夏服や、新学期で必要になりそうな筆記用具を買った彼らは、ゆっくりと園内を散策しているのである。

 

 白い世界の中を歩くあまねの顔は赤く火照っている。何故か上手く日菜太の顔を見ることが出来ない。だが頑張って日菜太の顔を見てみた。すると日菜太の頬も赤くなっていた。

 ふと日菜太が横を向いたがために、あまねと目線が合ってしまう。互いの赤くなった顔を見た彼らは笑い合い、再び顔を見合った。笑みの溢れた二人の間を冷たい風が吹き、木からは少しだけ雪が落ちた。

 

 その時であった。

 二人の目の前に空から赤色のカーテンが降りてきた。

 

「逃げるよ日菜太くん……!」

「……うん!」

 

 あまねは経験上、日菜太は報道で知っていたためにそれが一体何を意味するのか理解していた二人。あまねが日菜太の左手を掴んで後ろの方へと逃げ出して行った。

 

 だが今度も彼らの行手に赤色のカーテンが降ってくる。これで前後の逃げる道を阻まれてしまった。

 

「こっち!」

 

 前後が駄目になったとしても、左右がある。

 あまねは日菜太を連れて左側に逃げ始めた。そこは整備されたアスファルトの道ではなく、雪で覆い尽くされた土の道であった。水分を含んだ土は柔らかくなっており、乾いた状態よりも走りづらい。

 

 そして奥の方が見えないほどに大勢の樹木が生えている森の奥の方まで走ったところで、二人は一本の木の根元に座り込んだ。かなり走ったためか二人とも息を切らして呼吸を荒げている。

 

「ここまで来れば……大丈夫だよね……?」

「うん……。きっとそうじゃない……?」

 

 広大な森の中で自分たちは見つけられないと思ったあまねと日菜太は、今度は大きく息を吐いた。

 

 

 

 この時、二人は気が付かなかった。

 魔の手はもうすでに、彼らに追いついていることに。

 

 

 

 

 

 公園に続く道路を、3台のバイクと1台の遊撃車が走って行く。早くしなければ化け物が現れてしまう。しかも、3体も。一刻も早く着こうと可能な限りスピードを上げて進んでいた。

 

 すると、

 

「ウワァァァッ!」「イヤァァァッ!」

 

 横から聞き覚えのある悲鳴がしたのを、全員が聞き逃さなかった。

 すぐに乗り物を停め、バイクに乗っていた三人は森の中に入って行った。

 

 森の中に入って、一番最初に見た光景は、世にも奇妙なものであった。

 全身が黒い怪人が両掌を、しゃがみ込んでいるあまねと日菜太の方に向けている。

 

 すると掌の中にどんどん二人が粒子状になってしまっているではないか。細かい粒になった彼らは掌の中へと吸い込まれていって、あっという間に二人の姿は消えてしまった。

 

「あまねちゃん! 日菜太くん!」

 

 碧の叫びに反応した怪人が三人の方を向いた。

 その怪人を端的に説明すると、全身が黒いマネキンのようだ。特にこれと言った特徴の無い怪人にあるのは、顔にある大きな一つ目の模様である。

 

 さらに怪人の両隣に2体の化け物が現れた。

 左側の怪人はタキシードを着ていて頭部が南瓜になっている。そして背中には黄色の羽根が着けられていた。

 右側の怪人の身体は学校の理科室に置いてある人体模型そのものであった。だがそれは胸部と両腕だけであり、頭部と両脚はまるで神話に出てくるような黒色と金色の龍のものになっている。

 

『あのフォルクローの名前が決まった。左側のが第五十九号『プレイヤー』、真ん中のが第六十号『ウェアリング』、そして右側のが第六十一号『エボリューション』だ」

 

 森田から通達があったものの、今の三人にはウェアリングにあまねと日菜太が取り込まれたことが気になって仕方がない。

 

「どうする? 一応ウェアリング(あの黒い野郎)からあまねちゃんと彼氏を取り除く(すべ)は持っているだろ」

「ああ。碧、頼む」

「オッケー、任せて」

 

 その時ウェアリングは自分が狙われていることを察知したのか、徐々に体を透明にしていき、その姿が完全に見えないようにしてその場を立ち去った。

 これで戦う相手は2人になったことは好都合であったが、それ以上に人質を取られてしまったという最大の不都合が生まれてしまったのだ。

 それでも残りの二体を倒すことが彼らの今の務めだ。三人は戦闘態勢に入るべくカードを取り出した。

 

 すると目の前でエボリューションに変化が起こった。人間と然程変わらないような形状の腕が、いきなり両脚と同じような禍々しいものになってしまう。

 

 その左腕を大きく振るうと、突如として突風が起きた。結果、彼らが手に持っていたカードが風によって遠くに吹き飛ばされてしまう。

 

 これではもうすぐに変身をすることが出来ない。生身で対抗する他無いと見た三人は思わず身構えた。

 

 

 

 

 

 その時であった。

 

 二体の化け物の体から火花がいくつも飛び散り、後退して行った。

 

 後ろの方を見ると、そこにはもう一体の怪人が立っていた。体色と同じ黒色のマントが着けられた怪人は金色の(からす)を模した顔をしており、子供が銃を撃つ真似をする時に作る手の形を両手でしており、前を向く人差し指の先からは煙が上がっている。

 

 そして怪人の左隣に立っているのは、深緑のガウンコートに黒いスカートとストッキングを着込んだ女性だ。右手には変わった形をしたベルトがある。

 

 その女性の顔を見た春樹はキョトンとしているが、碧と八雲は驚きを隠せず、八雲は彼女の名前を呟いた。

 

 

 

 

 

「花奈……!」

「どうしてここに……!?」

 

 女性──大野花奈は無表情で二体の怪人たちを睨んでいた。その冷淡な顔つきが雪の降り頻る森に良く似合っている。

 

「どうしてって、さっき電話したでしょ。『後でそっちに行くから』って」

 

 目線を一切合わせない花奈。碧が八雲の方に目を配ると、八雲は先程の通話を思い出したようで目を見開いた。

 

「ここは私に任せて。この程度なら優に倒せるから」

 

 すると花奈はベルトを腰に巻きつけた。ベルトは真ん中に円形のパーツが付いており、上部にはレバー、左側にはスロット、右側には何かを受け取るための受け皿のような部分がある。

 

 花奈は帯の右側に付いているカードケースの中から1枚の札を取り出して右手に持った。赤い模様の入った黒い札は、まるで切符のように見える。次に彼女はベルトの上部に付いているレバーを左から右へと押した。

 

 和を彷彿とさせる笛の音が鳴り響く中、花奈は平然と力を手に入れるための言葉を放った。

 

 

 

「変身!」

 

 チケットをスロットに装填すると、そのチケットはベルトの内部を通って右側の受け皿へと移動する。さらに円形のパーツが回転をして緑色の線を作り、その線は受け皿の中にあるカードが作った赤色の「Z」の文字に繋がっている。

 

『Charge and up.』

 

 花奈の身体は黒い素体に紅色の部品が両腕両脚に着けられた姿をし、その胸部に同じく紅色の鎧が装着される。そして顔にある2本の線路を1体ずつ牛の頭部が小さく鳴き声を上げながらゆっくりと走行をしている。牛たちは形を変えると、花奈の紅色の複眼と化したのだ。

 

 花奈、否、仮面ライダーゼロノス ゼロフォームはベルトの左側に付いた取手のパーツを取り出すと、右側にある剣心のパーツに合体させ、一本の大剣──ゼロガッシャー サーベルモードを作り出す。

 その剣の先を2体の化け物たちに向けると、冷たい声はそのままにらしくない台詞を言った。

 

 

 

「最初に言っておくけど、私、かなり強いから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Who appeared in the forest?

A: It is his ex-girlfriend and a kind robot.




【参考】
講談社シリーズ MOOK 仮面ライダー 平成 vol.8 仮面ライダー電王
(講談社, 2014年)
東京の過去の天気 2022年3月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220300/)
名探偵コナン「ハロウィンの花嫁」の聖地はどこ?高佐の結婚式場や荻原のお墓まで詳しく紹介!|名探偵コナンの捜査日誌
(https://conan-diary.com/%e5%90%8d%e6%8e%a2%e5%81%b5%e3%82%b3%e3%83%8a%e3%83%b3%e3%80%8c%e3%83%8f%e3%83%ad%e3%82%a6%e3%82%a3%e3%83%b3%e3%81%ae%e8%8a%b1%e5%ab%81%e3%80%8d%e3%81%ae%e8%81%96%e5%9c%b0%e3%81%af%e3%81%a9%e3%81%93/)
【王様に捧ぐ薬指】ロケ地の結婚式場はどこ?実家のかまぼこ店やマンションも調査!|今スグNews
(https://sug-web.jp/ousamanokusuriyubi-roketi/)
【結婚式①】挙式からフラワーシャワーまで!笑いあり涙ありの感動ムービー…ドロップ&フライが綺麗すぎた♡アーフェリーク迎賓館 大阪 - YouTube
(https://www.youtube.com/watch?v=2T_Gept6ZMA)
【2023年最新】ウエディングドレスに似合う髪型 花嫁ヘアアレンジまとめ|ゼクシィ
(https://zexy.net/article/app000101364/)
チャペル結婚式とは?演出例や挙式流れを詳しく解説!|東京のラグジュアリーホテルならホテル椿山荘東京。【公式サイト】
(https://hotel-chinzanso-tokyo.jp/wedding/for-wedding-sub/prepare/ceremony/ceremony02/)
結婚式で神父・牧師のセリフと流れは?【英語版も掲載】
(https://sunkissed-wedding.com/wedding-minister-answer)
コートの種類を徹底解説!シーン別レディースコートの選び方 - &mall
(https://mitsui-shopping-park.com/ec/feature/ladiescoat)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question062 Why wasn’t he cooperate with her?

第62話です。
八雲と花奈の関係を描くのがかなり難しかったです。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになりますので、どうぞ宜しくお願いします。特に評価を頂きたいですっ!



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.22 12:33 東京都 杉並区 杉並区立杉並公園

「最初に言っておくけど、私、かなり強いから」

 

 中々に痛い台詞を言い放ったゼロノスに向かって、プレイヤーが羽根を使って飛びかかってきた。だがゼロノスは自身の大剣で思いっきり腹部に斬りつける。そのために着地に失敗して倒れ込んだ。

 さらにエボリューションが真っ直ぐと走って襲いかかるが、最早武器を使わずに腹部を思いっきり蹴って後ろに飛ばした。

 

 どうやら大口を叩いただけではないようだ。彼女の実力がそれを体現している。

 

 龍の化け物が再度彼女に襲いかかり、今度は両手に着いた鋭い爪で引っ掻こうと試みる。ゼロノスはスキップをしながら後ろに避け流す。

 するとエボリューションの体から先程と同じように火花が散った。見ると横から烏の怪人が人差し指から弾丸を放ったらしい。その隙にゼロガッシャーを使って化け物の体を突いた。

 

 後退したエボリューションは流石に不味いと思ったのか右手を地面に叩きつけると、そこから大きな火柱を立て始めた。火が治ったところでその場所を見ると、龍の怪物は姿を消していた。

 

 消えたか、とその場所を見つめているゼロノスの背中に、これ以上の好機は無いとプレイヤーは飛び上がって背中に蹴りを入れようとした。

 だが彼女は決して甘くない。振り返って怪物の右脚を掴んで投げ飛ばし、自身の方に投げ飛ばされたものを烏の怪人は横に殴り飛ばした。

 

 もうここまで来たら一切の勝ち筋は無くなってしまった。プレイヤーは自身の羽根を大きくして飛び立とうとする。

 

 それをゼロノスは見逃さなかった。

 

「デネブ!」

「了解!」

 

 デネブと呼ばれた烏の怪人は突如として姿を変形させて、ゼロノスの右手に収まった。

 

「「「ええええええええ!?」」」

 

 他の三人は目の前の光景に驚きを隠せない。自身らも先日これと同じようなことを起こしたにも関わらず、だ。

 手の中にあるデネブは今や1丁の銃──デネビックバスターとなっていた。金色の指は10個の銃口となり、上部にはスロットが付いている。

 

 するとゼロノスはベルトにある黒いボタンを押した。

 

『Full charge.』

 

 ベルトの受け皿の中にあるチケットを取り出してデネビックバスターのスロットに挿し込んだ瞬間、プレイヤーは上空へとゆっくり飛び立とうとする。

 それを許さないゼロノスは銃口を怪物に向け、引き金を引いた。10個ある銃口からは怪物に向けて真っ直ぐとビームが飛び出し、標的に命中。宙空で爆発が起こって黒焦げになった死体が地面に落っこちる。

 

「後は、貴方たちの仕事でしょ?」

 

 ベルトを外して変身を解除し花奈の姿に戻ると同時に、手元の銃も元の人型に戻った。

 

 ハッとした春樹がトランスフォンにカードをかざす。

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 死体に向けてレンズを向け、シャッターを切る。

 

『Have a nice dream.』

 

 彼の前に現れたカードを手に取って絵柄を確認する。

 一本のバイオリンの周りを無数の蝙蝠が飛んでおり、その上から数本の鎖がその様子を隠している。下部には「No.068 PLAYER KIVA」と印字されていた。

 

 三人と花奈は互いに見つめ合う。突如として変身を遂げ、その力を見せつけた彼女に驚きが隠せないのだ。

 

「何しに来たんだ、お前」

「……貴方たちに協力しに来たの」

 

 ニヤリと笑みを浮かべた花奈を春樹たちが睨んだ瞬間、木の上にかかっていた雪が落ち、その木は白色を無くして木の枝だけが見えるようになった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.22 13:16 東京都 新宿区 SOUP

「俺はデネブ! で、こっちが俺の開発者の大野花奈! みんな、花奈ちゃんを宜しく!」

 

 あの戦闘力とは裏腹にかなり温厚であるデネブは、手に持った籠の中から何かを取り出して椅子に座る全員に「どうぞ」と言いながら配り始める。

 配られたのは所謂ペロペロキャンディーだった。大きな丸い飴にはデネブの顔と「でねぶきゃんでぃ」の文字が印字されている。

 

 一方の花奈は部屋の角で班員たちを見つめながらペットボトルの水を少しずつ飲んでいく。口から離してふと息を吐くとほんの一瞬だけ笑みを浮かべた。

 

「あの」

「?」

 

 深月がデネブに話しかける。

 

「デネブさん、って、フォルクローなんですか? 怪人態にしてはどうして喋れるのかなって」

「ああ。俺はロボットですよ」

 

 デネブが当たり前のように言った言葉に全員が驚く。特にその手に精通している圭吾と八雲がだ。

 

「いや、でも、あんな小型の銃に変形出来るって、そんなの、ありえないじゃないですか!」

 

 圭吾が自身の想像の範疇を超えていた現象に対する指摘をする。それに答えたのは、同業者でありこのロボットの開発者でもある花奈であった。

 

「メモリアルカードの力を使ったの。あれを吸収させれば既存の物理法則では到底計り知れないような現象を起こせることは、取り扱っている貴方たちも分かっているでしょう?」

「何枚融合させた?」

 

 同じく端に置いてある丸テーブルの前で、八雲と向き合うように座っている春樹が訊く。

 

「3枚。本当は、時空を自由に行き来出来る電車を作るだとか、他のフォルクローの身体(からだ)を乗っ取れるようにするとかっていう案もあったんだけど、流石にどれも現実離れし過ぎていたから却下しちゃった」

 

 そう考えてみれば、変形して小型の銃になる方が浮世離れしてはいないのか、と全員は何故か納得してしまう。長年の経験というものの恐ろしさを改めて理解出来たような気がした。

 

「ところで、あの二体のフォルクローについて、何か分かったか?」

 

 森田がキャンディーの袋を取り外し、牛乳と砂糖の甘さを堪能しながら問う。

 同じくキャンディーを舐め始めた薫が端末を操作すると、モニターに先程の二体の様子を収めた映像が映し出され、それに合わせて解説を始めた。

 

「まずエボリューションですけど、奴は時間が経つにつれてどんどん変化を続けていくので、早めに倒すのが得策です。次にウェアリングなんですけど、見ての通り両手で対象物を何処か別の空間に移動出来るみたいです」

「囚われたあまねちゃんと日菜太くんを取り戻す方法は模索中ですけど、どうすれば良いのかは皆目見当がつかないですね……」

 

 圭吾の言葉で全員が頭を抱える。

 するとここで口を開いたのは、花奈であった。

 

 

 

「だったら、誰かがあの中に吸い込まれれば良いでしょ」

 

 まさかの提案に全員が彼女の方を向く。

 

「おい。お前、今何て言った……?」

 

 八雲が俯きながら言う。

 

「だから、誰かがあの中に入って、取り戻せば良いでしょ。どうなるかは知ったこっちゃないけど」

 

 突然、八雲が立ち上がって花奈の前に立った。そしてその目で真っ直ぐと花奈を睨みながら、右手で壁を殴りつけた。彼女の左耳の真横で大きな音がしたが、表情ひとつ変えることは無い。

 

「ふざけんなよ……。お前、いつもそうじゃねぇか。人のことは顧みずに自分の都合の良いように事を運ぶ。それでグアルダを作った結果どうなったのか分かってるだろっ!」

「分かっているわよ。けど()められないの。……自分にどこまで想像力があって、それを今の技術でどれだけ実現出来るのか、楽しみたくて仕方が無いの」

「! お前……!」

 

 全く自身の姿勢を崩さない花奈に苛立ちが隠せない。

 

「まぁまぁ二人とも、落ち着いて!」

 

 もう少しで手が出そうになったところで、デネブが仲介に入った。左手で彼の右肩を掴んで自身の主から離そうとする。だがその勢いがあまりにも強すぎ、八雲は軽々と投げ飛ばされてしまった。

 その体を春樹は受け止め、彼に呆れた様子で声をかけた。

 

「ちょっと着いて来い」

 

 さらに碧も自身の席から立ち上がって花奈に声をかける。

 

「ちょっと良い?」

 

 

 

 

 

2022.03.22 13:25 東京都 新宿区 Stock Store 四谷三丁目店

 花奈が連れて来られたのは、近くにあるコンビニであった。中に入っているイートインスペースで並び合って座りながら、店内で買った食品で昼食をとっている。碧が食べているのは数種類のおにぎり、花奈が食べているのはベーコンとアスパラガスの入ったペペロンチーノだ。

 

「……どうして貴女は、そんなに研究にのめり込んだの?」

 

 碧が食事をする手を止めて、左隣にいる花奈に優しく問いかける。すると花奈もプラスチック製のフォークを持った左手を止めた。

 

「自分でも分からないの。どうしてあんなに人を傷つけるくらいにやっていったのか。多分、それくらいしか私を満たしてくれるものが無かったから」

 

 再度手を動かして麺をフォークに絡ませて口の中に含む。3種の異なる食感をよく味わってから呑み込み、目線を碧に配ることは無いまま言葉を続けた。

 

「貴女だって腹の底は煮え繰り返っているでしょ? 私が作ったもののせいで、旦那があんなことになったんだから」

 

 テーブルの上に置いてあった小さなペットボトルを取って、中に入った烏龍茶に少しだけ口をつけて机上に置いた。その目は雲で覆い尽くされた空を見ており、それ以外に何の偏屈も無いことに飽き飽きとしているようであった。

 

 だが、

 

「そうね……。でも別に怒ってはいないよ」

 

 想定外の答えに花奈は思わず碧の方を向く。

 

「勿論、春樹をあんな目に合わせたことは許せないけど、なんとなく貴女のことは信じることが出来る。だって、お兄ちゃんが選んだ人だから」

 

 笑顔で言い放つ彼女に、何処か嘗て自身の愛した男の面影を感じてなんだか可笑しくなってしまう。だがそれを上手く顔には出さず、ただ口角を上げるだけにしてじっと碧の顔を見つめていた。

 

「お願い。今だけでも良いから、お兄ちゃんの言うこと聞いてくれない?」

 

 碧の言葉に、花奈はただ頷いた。

 

 

 

 

 

2022.03.22 13:32 東京都 新宿区

 一方の八雲が連れて来られたのは、SOUPの入り口となる廃ビルの1階だった。春樹は自動販売機で缶コーヒーを買って八雲に1本渡し、同時に栓を抜いて一口つけた。

 

「あのさ、どうしてアイツと別れたんだよ」

「どうした急に」

「いや、なんとなく。あれか? さっきみたいな理由か?」

 

 春樹の指摘に口をつぐむ八雲。先程の行動で殆どを表してしまったので何も言うことが無くなった、というよりもそれ以上の何かを隠そうとしているかのようであった。

 誰も何も圧をかけているわけではないのだが、八雲は溜息を吐いてから重い口を開いた。

 

「まぁ、さっきのもあるけど、それ以上に自分と殆どが正反対だった。研究の内容もそうだったけど、例えば、俺がモー娘。派なのに対してアイツはAKB派だったし、俺が好きなものの大体が彼女は嫌いだった……。要は、何もかもが違っていたんだ」

 

 再度コーヒーを飲む八雲。もう半分も無くなった中身のせいで段々と軽くなっていき、その手はまるで空虚を握っているかのようである。

 

「どうすれば、彼女を受け止められるんだろうな……」

 

 俯きながら呟く。彼の横顔を見ながら春樹はふと口角を上げ、彼に言葉をかけた。

 

「……別に受け止める必要は無いだろ」

 

 八雲は思わず彼の方を向いた。だが気にせず春樹は言葉を続ける。

 

「全員の考えや意見を聞き入れる必要性は全然無いだろ。それは別に義務じゃないし。ただ、聞いてやれば良いだけだろ」

 

 春樹も同じように缶コーヒーに口をつけて一気に飲み干した。

 

 すると音を立てながら扉が開いた。見ると碧と花奈が一緒になって入って来ている。

 互いの顔を見合った八雲と花奈はすごく気まずそうな表情を見せた。だがこのままではどうにもならないと思ったのか、先に花奈が口火を切った。

 

「……ごめんなさい。……最大限、誰も傷つかない方法を選ぶから……」

「……いや、こっちも悪かった。いきなりあんなことして……」

 

 申し訳無さを隠し切ること無く出す二人の様子を見て、春樹と碧は微かな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 さて、その他全員はと言うと、デネブが淹れてくれた緑茶を飲みながらゆったりと四人の帰りを待っていた。渋みが殆ど無く甘味だけが感じられる緑茶を飲む班員に対して、入り口の前に立っているデネブが謝る。

 

「本当にすまない!」

 

 突然謝り出したデネブに驚く全員。

 

「あんなこと言った花奈ちゃんだけど、本当はみんなのこと思ってくれる優しい()だから!」

 

 するといきなりドアが開き、デネブに激突した。痛みに悶えるデネブの後ろから、花奈を先頭に四人が入室する。その顔が先程よりも晴れやかなものになっていることを誰も深く追及せず、まずは森田が言葉をかけた。

 

「で、どうやってあの二人を奪還する?」

「あの二人は今、恐らくアイツの体内じゃなくてアールたちの普段いる空間に連れて来られている。そこに頑張って行くしかない」

 

 花奈の発言に全員が焦りを覚えた。言ってしまえば敵の本拠地に彼らは連れて行かれてしまったのだ。下手をすれば何も出来ずに終わってしまう可能性が高い。

 

「そっちに行くことって出来ないんですか?」

 

 圭吾の質問に今度はデネブが答えた。

 

「それは無理だ。あっちの世界に行くことはフォルクローしか出来ないし、アクセス出来る人間は誰かが管理しているから、他の人たちは入れない。ましてや、彼らを裏切ったことになる俺たちもだ」

 

 最早打つ手無し、と言ったところか。

 だがそこに一筋の光を灯したのは八雲であった。

 

「いや、だったらコイツの言う通り、誰かが吸い込まれれば良いんじゃないのか?」

 

 まさかの発言に一同は驚愕する。それを良しとしなかった彼が容認することが何よりの驚きなのだ。最初に発言した花奈ですら彼の方を見て目を見開いている。

 

「それしか方法が無いんだろ。やるしか無いだろ」

「……そうね。じゃあ俺が吸い込まれる」

「私も。娘が囚われたのに、黙って見ているわけにはいかないから」

 

 立候補したのが春樹と碧だったために全員が安堵した。彼らならばなんと無く安心出来るのだ。

 

 すると碧が、

 

「じゃあ、いつものやつ、やっておきますか?」

 

 と言って自身の左手を前に出した。それに春樹と八雲が自身の手を重ね、花奈とデネブも大体察して同じように重ね合わせる。だが他の座っているメンバーたちは「そこに集まると狭いので」と一切立ち上がること無く、その場で腕を前に伸ばすだけであった。

 

 そして全員が息を合わせて掛け声を出した。

 

「皆さん、出番です」

「「「「「「「「うぇーい」」」」」」」」

「おぉーっ! ……?」

 

 いつものように気怠い声で手を下げた全員に対し、デネブは全くそれを予想出来ていなかったらしく、大きな声を出しながら右腕を挙げた。戸惑う彼のことは一切気にすること無く、全員は自身の仕事に取り掛かろうとする。

 

 その時花奈が圭吾の横に来て、彼に話しかけた。

 

「? 何ですか?」

「貴方に作って欲しい物があるの」

「……え?」

 

 その様子を前から薫が睨みつけていたことは、言うまでも無い。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.23 10:10 東京都 足立区

 そこは大きな工事現場であった。コンクリート製の太いパイプや木材が置かれた場所の中で、2体の化け物と4人の人間とその仲間である1体のロボットが睨み合っていた。

 

「それじゃあ、俺が誘導するから、後は頼んだ」

「分かった」「オッケー」

 

 八雲がカードを腕輪にかざし、ネクスチェンジャーを左手首に出現させて一歩前に出る。花奈も腰にベルトを巻いてデネブと共に八雲の隣に立った。

 

「花奈ちゃん、本当に大丈夫だよね?」

「ねぇデネブ」

 

 花奈は自身の僕を睨みながらチケットを取り出す。

 

「私の元カレが、ヘマするとでも思ってるの?」

 

 彼女の発言に思わず吹き出しながらも、八雲もカードを取り出してスロットに挿し込む。

 

『"NEX-SPY" LOADING』

 

 八雲がダイヤルを回したのと同時に、花奈がレバーを押すと音楽が流れ始めた。

 

「「変身!」」

『Let's go!』

『Charge and up.』

 

 二人の体がオレンジ色と紅色の戦士へと変化していく。各々が武器を取り出した瞬間、2体の化け物が彼らに襲いかかってきた。

 

 エボリューションが変貌した両手でゼロノスを引っ掻こうとする。それをデネブが防ぎ、ゼロノスがお返しとしてゼロガッシャーで体に斬りつけた。

 だが今の奴には全く効き目が無いようであり、彼女の大剣を左手で掴んで引き寄せ、右手で彼女の顔面を殴りつけた。

 

「ッ!」

 

 後退するゼロノスの代わりにデネブが前線に立ち、その強固な肉体を使って攻撃を仕掛ける。実力はほぼ互角らしく、互いに一歩も譲らない。

 デネブが両手の人差し指から弾丸を放ち、相手が怯んだ隙にゼロノスがデネブの背中を踏み台にしてジャンプ。思い切り大剣を縦に振った。

 

「ハァッ!」

 

 一方のネクスパイはウェアリングと戦っていた。とは言っても別に倒すためにではない。寧ろ倒してはいけないのだ。

 怪人が出してくる拳や蹴りを避けながら、スタンガンを使ってダメージを徐々に与えていく。致命的なものは与えること無く、あくまでも動きを封じる程度の威力でだ。

 

 すると怪人は両掌を前方に見せた。どうやら彼を吸収しようとしているらしい。

 

 それが合図であった。

 

「今だっ!」

 

 ネクスパイの言葉と同時に後ろにいた春樹と碧が勢い良く走り始めた。そして怪人との距離がかなり縮まってきたところで、二人の体が粒子と化し、姿が消えてしまった。

 

 上手くいった、とホッと一息吐く三人。彼らは先程消えていった二人に期待を寄せて、再び戦いに赴いて行った。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

「グッ……! アァッ……!」

 

 少しの灯りしか灯っていない広大な部屋の中で、日菜太はピアBに首を絞められていた。右手で首を掴まれた彼は上に上げられ、身動きが全く取れなくなってしまう。

 

「日菜太くんっ!」

 

 その様子をあまねはただ見ることしか出来なかった。二人で目覚めた瞬間に日菜太が襲われたのだ。

 本当であれば今すぐにでも駆け出して助けたいが、自身の目の前にはピンク色の目をした怪人、ピアAが立っているために無闇に動けない。

 

「さぁ、教えてください。()()()()()()()の場所を」

 

 横からアールの声がする。嘗て自身の父を殺めた者の側近の姿に恐怖を覚えるが、それ以上に日菜太に手をかけているピアBのことが許せない。

 

「もしも貴女が話さないのならば、彼がどうなろうが我々の知るところではありません」

 

 まさかこのために自分たちを連れ去ったのか。

 駄目だ。『あれ』がある場所は誰にも話してはならない。けどそうすると彼の命はない。

 もう選択肢は一つしかない。

 だって彼は私の──。

 

「……分かった。それがあるのは……」

 

 

 

 その時、あまねが言葉を紡ごうとするのを阻止するかのように、ピアBの腕に火花が散った。走った痛みのために、思わず日菜太を離してしまう。離された日菜太は一気に解放されたことによって気を失ってしまう。

 

 あまねが後ろを向くと、そこには右手に持った銃を前に向けている春樹と、その横に立っている碧がいた。

 

「パパ! ママ!」

「そんな……。どうしてここに……!?」

 

 安堵するあまねであったが、他の者たちは驚くばかりであった。アールたち三人にしてみれば、こちら側に来ることを許していない彼らがここにいるのかが理解出来なかったが、すぐにその答えが分かった。

 

「成程。百三十一番の力を利用したわけね」

「ああ。そういうことだ」

 

 春樹は手に持った銃を床に置く。そして二人はトランスフォンにカードをかざした。

 

『『ACT DRIVER』』

 

「さて、コイツらどうする?」

「そうね。あまねちゃんを怖がらせたからには、徹底的に分からせなくちゃね」

「ハハ……。そうだな」

 

 端末のスロットにカードを装填する。

 

『"RYUKI" LOADING』

『"WIZARD" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、宙空に現れたゲートが開いて、そこから赤いドーナツ状のオブジェと同じく赤色の龍が飛び出して来た。その前で彼らはポーズをとり、室内に響き渡る程の声を放った。

 

「「変身!」」

『『Here we go!』』

 

 ドライバーに端末を挿し込んだ瞬間、二人の身体は素体へと変貌し、そこにそれぞれ先程のものたちが変貌して出来た鎧が着けられていく。

 

『Come across, Participate, Fight each other! You cannot survive without fighting! FLAME RYUKI! I will never die.』

『Witchcraft, Activate, Bibi de bob de boo! I’ll be your last hope. MYSTERIOUS WIZARD! It’s showtime.』

 

 変身を遂げた春樹と碧。

 

 アクトは足元に置かれた銃を変形させて剣にし、リベードは同じものを出現させる。

 そして体勢を低くして標的を睨み、息を合わせて走り出した。

 

 

 

「「READY……GO!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why wasn’t he cooperate with her?

A: Because he couldn’t hit it off with her.




【参考】
東京の過去の天気 2022年3月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220300/)
仮面ライダー電王の登場仮面ライダー - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e4%bb%ae%e9%9d%a2%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%83%80%e3%83%bc%e9%9b%bb%e7%8e%8b%e3%81%ae%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%bb%ae%e9%9d%a2%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%83%80%e3%83%bc)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question063 What is their new weapon which she developed?

第63話です。
因みに今回で作品そのものが折り返し地点に到達しました。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いします。
それからアンケートにも答えてくださると有り難いです。



【イメージED】
フレン・E・ルスタリオ - フラクタル

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


?????

「こうなると結構面倒くさいね」

「えぇ。とっとと終わらせましょう」

 

 ピアAがカードを取り出して、ネクスチェンジャーのスロットに装填する。

 

『"YUUKI" LOADING』

 

 ダイヤルを回してオレンジ色の面に合わせる。

 

『CHANGE』

 

 ゲートから列車と大量の独楽が現れると同時に、ピアAはダイヤルを押し込んだ。

 

『Here we go!』

 

 鎧が二人へと装着され、新しい姿へと変貌を遂げる。

 

『Revive. Rally, Start the parade! I’ll get rid of you slowly. SEPARATED YUUKI! Why do you make her sad?』

『Connect completely.』

 

 幽汽シェープへと変身したピアーズも武器を取ってアクトとリベードに迫って行った。

 

 アクトは自身の剣を使って同じ剣を持つピアBを迎え撃つ。ぶつかり合った刃を一度離してピアBは左足で蹴りを入れた。だがその足をアクトは剣で弾き、武器を持った右手で彼に殴りかかった。攻撃がクリーンヒットし、狼狽えるピアB。だがそれでも彼は武器を握って走って行った。

 

 一方のリベードは剣を逆手持ちにし、体を回転させながらピアAに斬りかかる。それを後ろに退くことで避けると、刃を右手で握り締めて自身の方に引き寄せ、リベードに膝蹴りを食らわせた。だが彼女も甘くはない。握られた剣をすぐさま離し、右足でピアAを蹴り飛ばした。

 

 戦いの様子を眺めていたアールは、左側で日菜太に寄り添っているあまねに目線を配った。そしてハァと溜息を吐いて再び前を向く。

 

「後もう少しだったんですけどねぇ、ここで戦われるのは流石に嫌なので、お帰りいただきましょうか」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.23 10:15 東京都 足立区

 気が付いた時には、春樹と碧は変身を解除された状態で元の場所に戻されていた。あまねと気を失った日菜太も同様である。

 

「あれ? 戻ってきた?」

「そうみたい、だな」

 

「え? じゃあ、もうアイツ倒して良いってことか?」

「そうね。……手っ取り早くやろう。デネブ!」

「了解!」

 

 ゼロノスの合図と共にデネブは自らの姿を変えて、彼女の右手の中に収まる。同時にネクスパイも武器を銃の形に変形させて、共に技を放つための準備を始める。

 

『Are you ready?』

『Full charge』

 

 銃口を黒い怪人に向ける。だが怪人は一切攻撃を防ぐ手段が見当たらず焦ってしまう。

 彼らはそれを待たずに引き金を引いて、大きな弾丸を2発食らわせた。

 

 爆発が起こったところで、春樹がトランスフォンにカードをかざした。

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 レンズを爆炎の方向へと向けてシャッターを切る。

 

『Have a nice dream.』

 

 現れたカードには、白いマネキンたちの間をパーカーの形をした黒い幽霊が浮遊している様子が描かれており、下部には「No.131 WEARING GHOST」と印字されている。

 

 残すはあの龍の怪物のみとなった。後方で待機をしていた機動隊員たちがあまねと日菜太を保護したところで、全員がエボリューションに狙いを定める。今の四人であれば優に倒すことが出来る。全員がそう思っていた。

 

 だがそれはどうやら過信であったかもしれないと、全員が知ることになる。

 

 突如としてエボリューションが大きな雄叫びを上げ始めたのだ。一体何が始まるのかと警戒をされる中で、怪物はその身体を変貌させながら巨大化をしていった。

 曇天の中で現れたその姿は、金色と黒色の龍そのものであった。牙や爪はさらに鋭くなり、胸部の人体模型のようであった部分も禍々しいものへと変わっている。

 

「まさか……また進化した……!?」

「どんだけするのよ……」

 

 ネクスパイとゼロノスが唖然とする後ろで、春樹と碧は端末を取り出した。

 

「碧。もう一回行けるか?」

「うん、勿論。()()で行くよ」

 

 すると春樹はクラックボックスを左手に持ち、その上面にトランスフォンをかざした。

 

『CONNECTING US』

 

 二人の腹部にクラックボックスが付けられた状態のドライバーが装着されると、目の前に現れたカードを装填した。

 

『『"REVE-ED'N'ACT" LOADING』』

 

 電源ボタンを押す。

 

『『Let's "UNITE"!』』

 

 二人をそれぞれパイプで繋がれた箱が覆う。その上にはゲートが現れてそこから銀色の鎧が姿を見せる。

 

 箱の中で春樹と碧はそれぞれのポーズを決める。そして派手な音楽に掻き消されないような声で叫んだ。

 

「「変身!」」

『『Here we go!』』

 

 端末をドライバーに装填すると、カードのパーツとクラックボックスが展開する。

 

 箱の中で春樹はクラックシェープに、碧は素体に姿を変える。碧はさらに体を液体へと変化させ、パイプを伝って春樹の入った箱の中にあるパイプに移動をし、彼の中へと吸収されていく。さらに色が緑色と青色の2色になった彼、というより彼らに上空に浮かんだ銀色の鎧が装着された。

 

『Release all and unite us! We’re KAMEN RIDER REVE-ED’N’A-CT!! It’s just the two of us.』

 

 仮面ライダーリベードンアクトへと変身を遂げた二人。

 流石に2回目であるために、もう張本人たちが戸惑うことは全く無いのだが、今の光景を前から見ていたゼロノスは仮面の下で複雑そうな表情をしている。

 

 だが彼らに構っている時間は全く無い。

 突然エボリューションは口元から黄色いエネルギー弾を放った。それが地面にぶつかると大きな爆発が発生する。

 さらに何発も弾を発射する龍。あまりの威力に全員が後ろに吹き飛ばされてしまった。

 

 ネクスパイは自身の銃で敵を攻撃する。ゼロノスもデネビックバスターから大量の弾丸を発射して応戦するが、殆ど効き目は無いそうで、うんともすんともしない。

 

「どうするの深月くん!?」

『いや、そう言われても巨大化するだなんて想定外でしたので、何もシミュレーションしていませんよぉ』

「だろうな。できていたらお前はもっと出世してる」

『……』

 

 やや引っ掛かることを平然と言う春樹に若干の苛立ちを覚える深月であったが、それどころではないことに気付いて何か無いかと考えを巡らす。

 

「おい花奈! 何かこういう時に無いのかよ!?」

「……あるよ。一個だけ」

 

 すると春樹と碧に圭吾から報告が入った。

 

『春樹さん。碧さん。実は花奈さんから作って欲しいと言われた物があったんです。それ送りますね』

 

 通達が終わった瞬間、二人の手元に突如として青緑の大きな武器が現れた。

 

 それは刃の無いリアハンドル型のチェーンソーであった。持ち手の方から見て上の面に黒色の柔らかい取手が、左側の面には同じく黒いレバーが付けられている。そして持ち手の左側には何かを挿し込むための四角いスロットがあり、その真上には小さな4つのスロットがある。

 

「それが貴方たちの最強の武器、『ディスペルデストロイヤー』」

「「これが……新しい力……!」」

 

 新たな武器、ディスペルデストロイヤー バズーカモードに見惚れるリベードンアクト。

 

 それでも相手は待ってくれない。エボリューションは大きな口から弾丸を発射した。

 するとリベードンアクトは大きな銃口を弾丸に合わせて引き金を引いた。銃口からはまるで炎をそのまま固めたかのような色味をしている丸い弾が放たれ、龍の放ったものと激突し、爆発を起こして強い風が起こる。

 

「お前、すごいの作ったな」

「でしょ。私、貴方と同じくらいの天才だから」

 

 感嘆するネクスパイに当然であろうという反応を見せるゼロノス。やはり選んだ男が男なだけに、選ばれた女も女だ。

 

「じゃ、カードを挿して」

「「え? こう?」」

 

 リベードンアクトはカードを1枚取り出して、一番奥のスロットに装填した。

 

『"ACT" LOADING』

 

 銃口を標的に向けて引き金を引いた。

 

『SINGLE SHOT!』

 

 緑色の丸い弾丸が発射され、エボリューションに激突する。どうやらやや効果があるらしく戸惑いを見せている。

 それを見逃さなかった彼らは続けて二つ目のスロットにカードを装填した。

 

『"ACT" LOADING』

『"REVE-ED" LOADING』

 

 再度引き金を引いた。

 

『TWIN SHOT!』

 

 今度は1つの弾丸が無数に枝分かれをしていくつもの弾丸として攻撃を食らわせた。さらに威力が増していたようで、後ろに退いていっている。

 さらに2枚のカードを装填しようとしたその時、

 

「じゃあ、仕上げやるんだったら、レバーを引いて」

「「え?」」

「いいから、ほら」

 

 言われた通りに、左側にあるレバーを手前に引いた。

 そうすると銃口からチェーンの付いた大きな刃が現れ、ディスペルデストロイヤーはチェーンソーモードへと変形した。

 

「ああ成程。こうなるのか」

「ね。じゃあ、これで行こう!」

 

 装填しようとしていた2枚のカードを残りのスロットに装填した。

 

『"ACT" LOADING』

『"REVE-ED" LOADING』

『"FIZE" LOADING』

『"GAIM" LOADING』

 

 引き金を引いた。

 

『QUADRUPLE SLASH!』

 

 すると刃から色とりどりの果物のようなものが纏わりついている、巨大な赤色のエネルギー刃が伸びてきた。一刀両断しようとチェーンソーを振り上げるが、下ろそうとしたところでエネルギー刃の重さのせいで後ろに引っ張られてしまう。

 それでもなんとか体勢を元に戻し、取手を左手で握って思いっきり振り下げた。

 

「「おりゃああああああっ!」」

 

 巨大な刃がエボリューションの体に一筋の線を入れる。そして怪物は断末魔を上げる暇も与えられること無く、大きな爆炎を上げた。

 

 自身が受け取った武器の実力と、爆発の規模が想像を上回っていたために驚くリベードンアクト。

 息を切らしながら武器を置いて端末をドライバーから外し、変身を解除した。何故か春樹が碧をおんぶする状態になっている。

 

「これ、結構キツいな……」

「うん……。もっと鍛えないとね……」

 

 碧をゆっくりと背中から降ろす春樹。息を切らしながら前を向く二人を、ネクスパイとゼロノスが静かに見つめていた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.23 20:44 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう

「皆さん、お疲れ様でした!」

 

 森田の合図で全員がジョッキをぶつけ合い、中にある飲み物を飲む。それが細やかな祝杯を上げるための必要事項であった。

 

「お待たせしましたーっ! 今日は日菜太くんを助けてくれたお礼に色々用意しました!」

「カルビにハラミに牛タン、それから特大サービスのミスジでーす!」

 

 新井夫妻と日菜太の三人が大皿を持って個室の中に入って来る。盛り付けられた大量の赤い肉を見た全員が、喜びのあまり歓声を上げて拍手をする。

 すると三人はいつもはいない新入り二人がいることに気が付いた。

 

「あれ? 新しい職場の方ですか?」

「結構面白い格好していますねぇ」

 

 不味い。

 花奈はともかく、あのデネブはどう頑張っても良い言い訳が思いつかない。別にどうだって良いことなのだが、正に万事休すだ。

 

「えぇっと、その、次回のコミケにこれで参加するんですよ!」

「そうそう! 結構昔のアメリカのアニメのキャラなんです、これ! ね!」

「え!? あ、はい!」

 

 これが深月と薫に出来る最大限の言い訳であった。無理矢理に考えたものであるために確実にバレたらここでおしまいだ。

 だがこれが意外とハマったらしく、新井夫婦は「ああ、成程」と頷いている。

 全員が予想外の展開に安堵したところで、三人は個室から去って行った。

 

 去り際、日菜太が何かを思い出したように春樹と碧に話しかける。

 

「あれ? そういえば、春樹さんと碧さんって、お二人とも今日は入院されている筈じゃ」

「ん? あ、それがねぇ、別の日になったのよ」

「俺は誤診だった。別に問題は無かった」

「あ、そうでしたか」

 

 良かったですね、と笑顔を見せる日菜太に同じように笑みを浮かべる春樹と碧。何だか気味が悪くなった日菜太はそそくさと帰って行った。

 

 そこから飲み会が始まって暫く経った頃、隣に座っている花奈に八雲が声をかけた。

 

「お前さ、何処に泊まるの?」

「え? どっかのビジネスホテルだけど」

 

 すると、

 

「だったらウチに泊まっちゃえば良いんだよっ!」

 

 ビールを呑んだ影響で()()()()()()()()()()碧が顔を真っ赤にしながら花奈に言う。

 

「でも、貴女たちの部屋は娘さんもいるから、私が泊まるスペースなんて──」

「いや、泊まるのは義兄(にい)さんの部屋だから」

 

 春樹の発言に固まる八雲と花奈とデネブ。別に誰もそこまで言っていないのに、斜め上の想像をしてしまった八雲と花奈は狭い店内の中で思いっきり大声を上げてしまった。

 

「「はぁぁぁぁぁっ!?」」

 

 

 

 

 

2022.03.23 22:04 東京都 中野区 トキワヒルズA 602号室

 

 飲み会が終わり、花奈は碧たちの言う通りに八雲の部屋に運び込まれた。スーツケースを玄関に置き、コートを脱いで白いワイシャツ姿と黒いスカートだけになってベッドの上に横たわる。

 八雲はやるせ無い表情を浮かべているが、仕方ないと腹を括って寝転ぶ彼女を見つめた。

 

「なんか、物が多いね」

 

 寝ながら部屋を見渡した花奈が言う。

 

「……捨てられないからな。()()()()()()は」

 

 八雲の言葉で一気に気まずくなってしまった。本棚の中に入っている参考書も、クローゼットの中にある1つの帽子と白衣も、彼には必要の無い物であるが処分出来ないのだ。それを捨ててしまっては、ここで嘗て四人暮らしをしていたことを忘れてしまいそうでならない。

 

 気まずそうな花奈の様子を察したのか、話題を切り替えるために彼女に訊いた。

 

「そういえば、デネブは?」

「デネブは……今……」

 

 

 

 一方その頃、デネブはと言うと、

 

「「「あ〜〜〜、染みる〜〜〜」」」

 

 泊まり先の三人にしじみの味噌汁を振る舞っていた。湯気を立たせている味噌汁の味が身体中に染み渡り、酒で汚れた春樹と碧だけではなく、散々な目に遭ったあまねさえも癒してくれる。

 

「ねぇ、本当にあの二人一緒にして良かったの?」

 

 唐突に質問を投げかけてきたのはあまねだった。

 

「確かに、花奈ちゃんはちょっと我儘なところがあるし──」

「いや、そうじゃなくて、男女が屋根の下で一緒になったら、することはパパとママが一番分かってるでしょ」

 

 心当たりのある二人は何も返さず、ただゆっくり首を縦に振るだけであった。

 

 

 

 そんなことはつゆ知らず、二人はシャワーを浴びてパジャマに着替えると、就寝の準備に取り掛かった。

 

「え? 貴方、何処で寝るの?」

「何処って、床だけど。……客に床で寝かせるわけにはいかないだろ」

 

 彼の優しさを感じ取った花奈は微笑みを見せると、ベッドの右半分を空けてそこを2回右手で叩いた。

 「こっちに来い」。そう意味していることくらいは分かったが、流石に躊躇をした。けれどもこれ以上彼女を待たせてしまうと何か自分にとって不都合なことが起こるのではないかと思った八雲は、すぐさまそこに移動をした。

 

 二人が一緒の布団に入ったとて、少しの間何も起こることは無かった。二人とも外側を向いて黙ってしまう。

 

「……有り難う。こんな私を受け入れてくれて」

「……あ、ああ。まぁ、別に……」

 

 恥ずかしそうに言葉を交わす二人。灯りを消してしまったために暗くなった部屋の中では、もう何も二人を繋ぎ止めるものは無くなってしまった。

 

 すると突然、花奈が八雲の腰に腕を回してきた。突然のことに驚く八雲だったが、意を決して花奈の方を向き、今度は彼女を正面から抱き締めた。

 

「え、ちょっと……!」

「悪い。このままにさせてくれ」

「……」

 

 そのまま眠りに着いてしまった八雲。

 行動を最初に起こしたにも関わらず、花奈はこれまでに無い程に顔を赤くしながら、目を瞑って腕の力を微かに強め、同じように意識を徐々に無くしていった。

 

 

 

 

 

 翌日、様子を見に行ったデネブの発狂で二人が目を覚ましたことは、言うまでもないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常43体

B群8体

不明1体

その他1体

合計53体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is their new weapon which she developed?

A: It is the greatest chainsaw.




先に言っておきますが、致して無いからなぁっ!



【参考】
チェーンソーの種類と選定ポイント 【通販モノタロウ】
(https://www.monotaro.com/note/cocomite/690/)
一度は食べておきたい!焼肉で味わう牛肉の希少部位ベスト5|大黒千牛・深喜 21 |馬鹿正直な牛肉や 大喜
(https://www.daikokusengyu.co.jp/1273/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 22 黒幕(THE MASTERMIND BEHIND ALL)
Question064 What is the color of new enemies?


第64話です。
今回から、ついに黒幕に近づいていく回に突入します。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いします。



【イメージOP】
ソナーポケット - GIRIGIRI

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.29 07:35 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

「ねぇ、ママ」

 

 春樹と碧が出勤の準備をしている最中、突然あまねに話しかけられた。振り向くと、食卓の前に座っているあまねは俯いており、ただ事ではなさそうな雰囲気に不安になるが、二人は碧だけを呼んだことで恐らく女性にしか話せない悩みなのだろうと思い、春樹は玄関先で待機をすることにした。

 

 碧があまねの左隣に座る。するとあまねが口を開けた。

 

「あのさ……私、好きな人が出来たの」

 

 こういう時、親としてどういった反応をすれば良いのか見当が付かず、固まってしまう。

 薄々勘付いてはいた。

 娘が『彼』を見る時の目。それが、嘗て愛する人のことを思っていても伝えることが出来なかった時と同じであったから。

 

「……うん」

「それでね、どうしたらこの気持ちを伝えられるかな、って……」

 

 一体どうすれば良いのか分からないこの状況に思い悩むあまね。

 人生の先輩として、同じ女性として、そして母親として、一体どんな言葉を投げ掛ければ良いか悩んだ結果、一番単純な答えを出すことにした。

 

「正直に言えば良いんじゃない? ()()()だったら、きっとあまねちゃんの想いを真っ直ぐに受け止めてくれるよ」

「そう……かな……?」

「うん!」

 

 碧の言葉に、あまねは顔を上げて微笑んだ。母の言葉が嬉しく、自身を奮い立たせてくれた。

 

「……分かった。頑張る! 今日、この後新宿の方で映画観て来るから、その後に会って告白する!」

「うん。頑張ってね!」

 

 乙女として決意を固めたあまね。

 彼女の表情を見て安心した碧は、立ち上がってリュックサックを自身の背中に着け、娘に手を振って春樹と共に部屋を出た。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.29 09:02 東京都 新宿区 SOUP

「始業の前に春樹君、八雲君、大野君の三人に聞きたい」

 

 いきなり朝から顔を出していた岩田が、森田の席の右隣に立っている。

 

「? 何ですか?」

 

 一体何についてのことを聞きたいのか分からずに質問をする春樹。

 

「向こうの世界についてだ。一応、八雲君からある程度の情報は提供してもらっていたが、全員に共有しておきたいからな、念の為に」

 

 岩田の言葉に彼ら以外の五人が偶然扉の方に固まっていた春樹たち四人の方に向けられる。

 話す時が来たのか、と八雲とその次に花奈の順番で語り始めた。

 

「報告の通りだよ。あそこはアールたちが住んでいた世界、そして、零号が嘗て滅亡させた世界だ。その中に建っているビルの中の広い部屋で、奴らは過ごしている」

「その外は当に地獄絵図よ。街は跡形も無く崩壊していて、虹色の空のせいで永遠に陽が落ちることは無い。ずっと研究に没頭出来るっていう点では良いけどね……」

「確かに、買い物するときはこっちの世界に戻ってこなきゃ行けないから不便だよね〜」

 

 デネブの脳天気な発言は完全に無視され、次は深月が問いた。

 

「それで、彼らの狙いはやっぱり、メモリアルカードを全て集めて零号を完全に復活させること、ですか? あの、メモリアルブックにカードを全て挿し込んで……」

「ああ。だがいくらメモリアルカードを集めたとしても、ヤツが本来の姿を取り戻さない限りは無意味だ。だからあまねを狙っている」

 

 春樹が質問に答えた後、今度は薫と圭吾が訊く。

 

「あの、零号はどうやって本来の姿に戻るんですか?」

「というか、本来の姿ってどういうことですか?」

「……ノーコメント」

 

 碧から返ってきた答えに納得をすることは出来ない。

 

「どうしてです? 私たちに話してくれれば、何か解決法が見つかるかもしれないのに!」

「そうですよ! チームで大切なのは報告・連絡・相談、通称報連相じゃないですか!」

「それでも駄目なのっ! 話すことは、誰にも出来ない……。すれば、どうなるか分からない」

 

 それ以上、彼らが何かを追求することは無かった。

 

「それだけ不味い代物を隠している、というわけか」

「……俺から言えるのは、元の姿に戻る前に、零号を倒さないと不味いことになる。それだけだ」

 

 碧を森田と春樹がフォローしたところで、暫し沈黙が流れた。

 

 すると突然、春樹と碧のトランスフォンが静かに振動を始めた。

 画面を確認すると、家族三人のLINEグループにあまねから着信が入っている。

 自分たちが仕事をしている時に電話をしてくることはまず無いため、心配になった彼らは部屋の隅に行って電話に出た。

 

「もしもし?」

『パパ? ママ? 助けて! 誰かに追われてるのっ!」

「誰に!? 不審者?」

『違う。あの、化け物と同じ……!』

 

 彼女の言葉に血相を変えた春樹と碧は、すぐさま部屋から飛び出して行った。他の者たちも彼らに着いて行こうと部屋を出る。

 

 最後に部屋にいた花奈が退室しようとした時、彼女の携帯電話もバイブレーションを起こした。

 着信元を確認すると、画面に書いてあった文字は「玄斗」であった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.29 09:13 東京都 新宿区 バルカンビル 屋上

 ヘリポートと広い芝生のある屋上の、大きな室外機の下であまねは座り込んでいた。

 ただ映画を観ようとこのビルに入ったが、得体の知れない恐怖に突如として襲われたのだ。姿こそ見ていない。だがそれでも何かがいて自分を狙っていると察したあまねは、清掃のために開いていた屋上に逃げ込んで来たというわけだ。

 

 荒い呼吸をようやく整えられたその時、目の前にドアが音を立てて開かれた。

 恐怖のあまり立ち上がって目を見開くが、そこから入って来たのは春樹と碧であった。

 

「パパ! ママ!」

 

 二人の元に走り合流した。

 これでもう安心だと、三人が一安心した次の瞬間、

 

 

 

「よう」

 

 春樹たちの前から低い男の声がした。

 

 そこに立っていたのは、二人の男であった。

 左側の男は大体あまねと同年代、右側の男は大体春樹や八雲よりも少し年上の男だ。二人とも赤色のパイロットスーツを身につけており、右の手首には腕輪が着けられている。

 

 姿を見た瞬間、春樹と碧は気が付いた。

 この男たちが、あまねを追いかけていた者たちなのだ。そして、自分たちと同じく人ではもうないのだ、と。

 

「うちの娘に何のようだ?」

「その女が隠している物を貰いに来たんだよ」

 

 若い男が言う。

 やはりそうか。

 

「春樹。あまねちゃんを連れて逃げて」

「おい、お前独りで大丈夫なのか?」

「そうだよ。無理しないで」

「大丈夫。任せて」

 

 碧の言葉を聞いた春樹はあまねを連れて屋上から出て行こうとする。

 だがドアの前に何十体ものソルダートが姿を見せた。その標的は言わずもがな、あまねである。

 

「こっちも駄目か……」

 

 

 

 碧は2人の男と睨み合っていた。自身の娘に危害を加えようとした彼らを許そうとしないのである。

 

「言っておくけど、あまねちゃんには指一本触れさせないから」

 

 そう言ってトランスフォンにカードをかざし、ドライバーを出現させてカードをスロットに装填した。

 

『"DRIVE" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと音楽が鳴るのと同時に、上のゲートから赤色のスポーツカーが飛び出してきた。目の前の敵にクラクションを鳴らして威嚇をしている中で、碧はポーズを決めた。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 端末を挿し、素体へと変身した彼女にスポーツカーが分解されて出来た鎧が装着されていく。

 

『Running, Searching, Exchange! Start your engine! DRIVING DRIVE! Will you drive with me?』

 

 仮面ライダーリベード ドライブシェープに変身をした。

 その姿を見て年上の男はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「そういえば自己紹介が遅れていたな。俺はアルジェン。でコイツが」

「キュイヴルだ」

「そう」

「……ここでぶっ潰してやるよ!」

 

 二人は腕輪の着いた右の手首を肩の前まで挙げた。

 すると突如として宙空に穴が空き、そこから銀色と銅色の兜虫が飛んで来る。そして銀色の兜虫はキュイヴルに、銅色の兜虫はアルジェンの腕輪に合体をした。

 

「「変身!」」

『『HENSHIN』』

 

 二人が碧と同じことを言った瞬間、彼らの周りに小さな六角形が無数に現れ、鎧を形成していく。キュイヴルは銀色、アルジェンは銅色の鎧だ。まるで兜虫のように角を持った彼らは、変身を遂げるとじっとリベードの方を睨む。

 

『『CHANGE BEETLE』』

 

 銀色の戦士──仮面ライダーヘラクスに、銅色の戦士──仮面ライダーケタロス。

 ゼクトクナイガンと呼ばれる武器を握った彼らは、同じく剣を出現させたリベードに向かって襲いかかった。

 

 

 

 一方、春樹もあまねを狙うソルダートに対抗するために、ドライバーを出現させてカードを読み込ませた。

 

『"FIZE" LOADING』

 

 ボタンを押すと、ゲートから現れた銀色の鮫の後ろでポーズを取り、端末をドライバーに装填した。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 銀色の鮫が分解され、生み出された鎧が緑色の素体に装着されていく。

 

『Given, Stolen, Fight for somebody! Open your eyes for the next! GUARD FIZE! Standing by complete.』

 

 仮面ライダーアクト ファイズシェープに変身をした春樹は、ディスペルクラッシャー ソードモードを取り出して、標的たち全員に狙いを定めた。

 

 黒装束の兵士たちが、コンバットナイフを振り回してあまね、というより彼女を守るアクトに攻撃を仕掛ける。

 アクトは四方八方から襲いかかってくる彼らを、あまねに刃が入らないように彼女を守りながら返り討ちにする。ナイフを剣の刃先で弾き、距離を空けて敵の体を剣で突いていった。

 

 だがそれでも敵はまだ何体もいる。ざっと二十体くらいだろうか。

 

「埒が開かないな……!」

 

 嫌そうに呟くアクトはドライバーからトランスフォンを取り出し、ディスペルクラッシャーにかざした。

 

『Are you ready?』

 

 端末を再びドライバーに挿し込んだ。

 

『OKAY. "FIZE" CONNECTION SLASH!』

「あまね! 伏せろっ!」

「え? あ、うん!」

 

 父親の言葉であまねは咄嗟にしゃがみ込む。アクトは剣の先で床を叩いた。すると赤色の円が現れ、その上にいた全てのソルダートたちが宙空に浮かんで動けなくなってしまう。

 

「ハァァァッ!」

 

 一回転をして剣から赤色の斬撃を出し、黒色の敵を全員粉砕した。

 

 起こった爆発を防ぐために両腕で顔を覆うあまね。腕に風が来なくなったところで腕を下げて横を見ると、そこに立っていたのは剣を構えた戦士であった。その姿を見たあまねは、何処となく安心を覚えて微笑んだ。

 

 

 

「「クロックアップ!」」

『『CLOCK UP』』

 

 ヘラクスとケタロスが腹部に着いたベルトに手を触れた瞬間、二人は目にも留まらぬ速さで走り始めた。同時にリベードも両足に着いた小さなタイヤを使って、彼らに追いつくように速く動いた。

 

 ヘラクスが思いっきり縦に振った斧を後退することで避けたリベードに、ケタロスが逆手持ちしているクナイが襲いかかる。

 その刃をリベードが自身の剣で受け止めると、ヘラクスは斧の持ち方を変えて銃のようにすると、その銃口から弾丸を発射した。

 だがリベードはすぐにその気配を察知。ケタロスから距離を取ることで攻撃を回避すると同時に、剣で銃弾を全て真っ二つに斬り裂いた。

 

「チッ! 乳がデケェだけノロマかと思ったら素(ばえ)ぇなっ!」

「五月蝿い男の子ね。ちゃんと筋トレしているから脂肪だけで出来てるんじゃないの!」

 

 癇癪な性格のせいで怒るヘラクスに言い返すリベード。その前でケタロスが静かに狙いを定めていた。

 

 このまま長引かせるのは不味いので一気に勝敗を決めよう。

 そう決心をしたケタロスとヘラクスは、腕輪にくっついている兜虫を半回転させた。

 

『『RIDER BEET』』

 

 腕輪からエネルギーが流れて武器に集まっていく。

 それを見たリベードはディスペルクラッシャーをソードモードからガンモードに変形させ、ドライバーから取り外したトランスフォンをかざした。

 

『Are you ready?』

 

 端末を再び挿し込んだ。

 

『OKAY. "DRIVE" CONNECTION SHOT!』

 

 銃口を上に向けて引き金を引くと、赤色のオーラが纏われている黒いタイヤの形をしたものが現れる。

 

「ハァッ!」

 

 跳んだリベードは右足でタイヤを敵の方へ思いっきり蹴り飛ばした。

 それをケタロスとヘラクスは力を溜め込んだクナイと斧で斬りかかり、タイヤを壊して爆発を起こした。

 

 強風と炎が止んだところでリベードが前を見ると、まだ敵は健在であった。どうやらまだ戦いは続くらしい。

 だがここでアクトが合流した。これで戦況は自身が有利なように働くであろう。そう確信した二人はケタロスとヘラクスに向かって行った。

 

 

 

 その時であった。

 

「「?」」

 

 突然、目の前に青色の薄い何かが現れた。

 それは青色の薔薇の花びらであった。1枚だけではない。何枚も、何枚も。屋上で吹く風によって運ばれてくるのだ。

 

 視界が塞がれる程の花びらが収まったところで前方を確認すると、そこにはケタロスとヘラクスと、それとは別の三人目の男が立っていた。白いパイロットスーツに同じく白いベレー帽を被った、アルジェンと同じくらいの男である。

 

「誰だ……お前?」

「やっと来たのか、()()()

 

 ケタロスにオールと呼ばれた男は、突然右手を上へと挙げた。そこにはケタロスやヘラクスと同じ腕輪が着けられていた。

 

「私の薔薇に彩りを加えましょう。貴方方の血と、屈辱の涙で」

 

 すると何処からか金色の兜虫が現れ、オールの腕輪に接続した。

 

「変身」

『HENSHIN』

 

 右の手首を起点にして次々と変身を遂げていくオール。

 その姿は彼らと同じように鋭利な角がいくつもある金色の戦士だ。だが唯一、ベルトの帯の右側に赤色のボタンが付いた銀色の兜虫型のアイテム──ハイパーゼクターがあることだけ、他の二人と異なっている。

 

『CHANGE BEETLE』

 

 仮面ライダーコーカサス。

 黄金の処刑人は鮮やかに、そして優雅に登場した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is the color of new enemies?

A: Gold, silver, and copper.




【参考】
講談社シリーズ MOOK 仮面ライダー 平成 vol.7 仮面ライダーカブト
(講談社, 2015年)
幻想世界13ヵ国語ネーミング辞典
(コズミック出版, ネーミング委員会編, 2019年)
東京の過去の天気 2022年3月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220300/)
織田秀成|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/characters/2318)
大和鉄騎|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/characters/2319)
仮面ライダー カブト 変身ブレス カブティックゼクター Kamen Rider Kabuto Henshin Brace Kabutick Zecter - YouTube
(https://www.youtube.com/watch?v=126GbxAWNkw)
黒崎一誠|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/characters/2320)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question065 How did they wipe out the enemies?

第65話です。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.29 10:01 東京都 練馬区

 河川敷の下で、花奈とデネブはある一人の青年のことを見つめていた。

 対象は言わずもがな、クロトである。自分たちを呼び寄せたこの男が一体何をしたがっているのか、見当が付かないのだ。

 

「今日さ、どうして呼んだと思う?」

「分かるわけないでしょ。でもいざという時のために彼に来てもらった」

 

 花奈が左側を向いたので、同じようにするクロト。

 河川敷の上では八雲とデネブが立っていた。八雲はもしも片方が倒された時にカードにしてもらうため、デネブは「余計な手出しはするな」と忠告を受けたためだ。

 だが、

 

「別に僕は今日戦うつもりは無いよ」

「じゃあどうして?」

 

 

 

「教えてあげようと思って。()()()()()()()()()()

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.29 09:19 東京都 新宿区 バルカンビル 屋上

 オールが変身を遂げたコーカサス。

 その姿を見た瞬間、アクトとリベードは一気に気を引き締めた。

 ケタロスやヘラクスとは格が違う何かを持っている。戦士としての経験が、怪物としての本能がそう言っているのだ。

 

 だがこれで怯んでいるわけにもいかない。

 リベードは銃を剣に変形させて前線に立ち、アクトはブラストポインターをディスペルクラッシャーに合体させてライフルモードに変形させ、遠くから彼女を援護しようとする。

 リベードがコーカサスに向かって剣を握り、走り出して行った。

 

「ハァァッ!」

 

 するとコーカサスは、ベルトの右側に装着されているハイパーゼクターのボタンを左手で押した。

 

『HYPER CLOCK UP』

 

「ギャァァッ!?」

 

 突然リベードがその場で呻き声を上げ、変身を解除された状態で倒れ込んだ。

 何が起こったのか分からないままに前方を確認すると、そこに立っていた筈のコーカサスが姿を消している。

 

 何処にいるか分からない標的に狙いを定めようとスコープの中を覗いた瞬間、

 

「グァァァッ!?」

 

 自身の腹部に激痛が走り、思わず変身を解除してしまった。

 碧と同じようにその場に倒れ込んだ春樹が後方を見ると、あまねの前に3人の戦士がいるではないか。

 

「あまねっ……!」

「あまねちゃんっ……!」

 

 愛する娘を守ろうと懸命になって這いつくばりながら前進をする春樹と碧。だが体を走る痛みがそれを妨害して、中々上手く進むことが出来ない。

 あまねが目の前から迫って来る者たちから逃れようとするあまねも、恐怖のせいで腰が抜けてしまい上手く後ろに進めない。

 

 

 

 

 

 だが次の瞬間、

 

「「「!?」」」

 

 突然3人の戦士が後方へと吹き飛ばされたのだ。

 一体何が起こったのかとあまねが改めて前を確認すると、そこに立っていたのは黒い服にキャラクターのお面を被った者であった。

 春樹と碧こそ正体を知っているが、あまねは知らない筈である。それでも嘗て自身が経験した忌まわしき経験から、それが一体何なのか察しがついた。

 

「貴方は……」

「……零号……!」

 

「貴方様が何故ここにいらっしゃるのですか?」

 

 自らの主の登場に驚くケタロスに、零号は平然と言い放つ。

 

「誰の許可で彼女に危害を加えようとしているんだい? 私もアールたちも、一切の許可を出していないが」

「……言っておくけど、何されたって私は絶対に『あれ』の場所は言わないから……!」

「だってよ。だから何をしても吐かせるしか無いだろ」

 

 ヘラクスが零号に提案をする。だがやはり許してはくれないようだ。

 

「もし我々に楯突くようでしたら、貴方様であっても容赦はしません」

「そうですか……。では今日はこれだけで済ませましょう」

 

 コーカサスが敵意を表した瞬間、零号は自身の左手を彼らの方に向け、そして呟いた。

 

「浮かんで落ちろ」

 

 すると彼らの体が突如として浮き始めたのだ。なんとかしようともがくが、宙空上では最早何をしようと無意味である。そして浮かんだ彼らはビルの外側へとゆっくり運ばれ、そのまま下に落とされた。僅か10秒にも満たない時間でも話である。

 

「これで死ぬような彼らではないでしょう。では、私はこれで失礼します」

 

 役目を終えた零号はビルの外側に向かって行く。どうやらそこから飛び降りようとしているらしい。

 

「待って!」

 

 そんな零号に向かってようやく立ち上がることの出来たあまねが声をかける。

 

「貴方……何処かで会ったこと、あるよね……?」

 

 彼女の発言に、仮面の下で思わず笑いがこぼれてしまった。

 

「何を言ってるんですか。貴女のご両親を殺めたのは、私なんですよ」

「いや、そうじゃなくて、なんと言うか、こう……」

「……くだらない憶測は勘弁してください。では、これで」

 

 そう言って零号は予定通りに屋上から飛び降りた。

 残された三人は黒い怪人が飛び降りた場所を見ながら、ただ静かに呼吸をしていた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.29 11:45 東京都 新宿区 SOUP

 今、部屋の中には春樹たちだけではなく、先程狙われていたあまねもいた。このまま家に返すのは危険だと判断をしたためだ。

 

「あのアルジェンとキュイヴルの能力は『高速移動』、そしてオールはそれを上回る『超高速移動』ですか……」

「厄介な能力を使う奴らが現れましたね。カードの力を使って倒しますか?」

 

 薫と圭吾が深月の方を向く。

 

「そうですねそれが一番良いんじゃないでしょうか」

「うん。やっぱりそれが簡単な方法よね」

 

 深月のアイデアに碧が賛同してくれた。

 これでなんとかなるであろう。

 

「ところでさ、どうしてあの人たち、私の居所が分かったんだろう……」

 

 突然あまねが呟いた。全員が「確かに」と頷く。考えを巡らせてみるが、誰も考えが思い浮かばない。

 ふと春樹と碧の方を見た者は、二人が自分たちと別のことを考えているのだと直感で分かった。だが敢えてそれを言わないようにし、再度考えを巡らせた。

 

「あああああっ!」

 

 すると突如として圭吾が叫んだ。

 

「どうしたんですか急に!?」

「今日で『パンダ・プリンセス』のオーディオ・コメンタリー無料配信が今日までだったーっ!」

 

 なんだ、いつものアニメの話か。

 

「もうなんなんですか! こんな時に!」

 

 恋人が彼を諌める。それでも圭吾は言葉を続けた。

 

「いやいや! だってあの第23話のコスメ爆弾の裏話とか聞きたいんですよ!」

「ああ。私も同意見だ」

 

 なんと森田までその話に合流してしまった。

 

「娘と一緒に初めて見た時びっくりしたんだ。だってただの日用品が武器になるんだからな!」

 

 その時、春樹が何かを閃いたようだ。その目線はあまねが手に持っているリュックサックに向けられている。「A」の文字の形をした赤いキーホルダーが付いている、水色のリュックサックだ。

 

 すると、

 

「おいあまね」

「ん?」

「お前もう帰れ」

「!?」

 

 いきなり何を言い出したのかと全員が驚愕する。一番驚いているあまねのワンピースを掴んで引っ張ると、部屋のドアを開けた。

 

「おらよ!」

 

 摘み出される。

 そう思ったあまねであったが、追い出されたのは彼女の身につけていたリュックサックのみであり、彼女は部屋に残されたままで扉が閉められた。

 

 一体どういうことなのか解らず戸惑うあまね。春樹は神妙な面持ちで話し始めた。

 

「……今まで隠してたことがあるんだ──」

 

 その時、部屋のドアが大きな音を立てて開き、そこから花奈とデネブ、八雲が入って来た。

 どうしてこんな時に、と全員が不服そうな表情を見せる。

 

「何で今入って来るの、今から良いところだったのにぃっ!」

「……悪い」

 

 妹に謝る八雲

 彼を横目に、花奈が話を始めた。

 

「実は」

「今日花奈ちゃんがクロトくんに会ったんだ!」

 

 彼女の話を遮ったのはデネブだった。想定外の行動に花奈は驚きを隠せない。

 

「ちょっとデネブ!?」

「それで零号のことを『よくは知らないけど、いつもみんなのことを見守っている』って言ってた!」

「デネブ! 私の言いたかったことを全部言わないでっ!」

 

 全部言われてしまった花奈はデネブに思いっきりコブラツイストをかける。頑丈すぎる肉体を持つ彼にとっては蚊に刺されたような痛みしか感じないのだが、恐らく彼女の機嫌をとるためなのだろう。「痛い痛い」と大袈裟にリアクションをした。

 

「やっぱり……」

 

 春樹が呟いた。

 そして彼は取っ組み合いをしている二人を他所に、自身の話の続きを始めた。

 

 

 

 

 

「それ、本当ですか……!?」

「あぁ。間違いない」

 

 春樹の発言で全員が意気消沈とする。全員が大きく呼吸をして気持ちを落ち着かせようとした。

 だがこれで、ようやく道が開けたような気がした。

 

「……分かった。それで、どうやって仕掛ける?」

「……こうするんだよ」

 

 

 

 

 

 あまね:アレを隠しているのは、台東区にある旧台東区立稲荷町小学校っていう廃校。詳しい場所は明日私が案内する。

 森田 :分かった。

 薫  :もし、それが盗まれたらどうするんです!?

 碧  :絶対盗ませないよ。

 八雲 :俺たちが絶対に死守する。

 深月 :そうですね。絶対に守りましょう。

 春樹 :ああ。じゃあ、いつものやつ、やっておくか?

 全員 :うぇーい。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.30 12:54 東京都 台東区 旧台東区立稲荷町小学校

 高く昇った陽に照らされる廃れた廃校の校舎で、夥しい数の黒い怪人たちが蠢いていた。机をどかし、下駄箱の中に手を入れ、まるで何かを探しているような動きであった。

 その様子を取り仕切るのは、砂で出来た広い校庭にいるコーカサスたち三人の戦士である。取り巻きたちと共に何か見つからないかとその時を待っている。

 

 すると彼らの前に春樹たち五人が現れた。内四人の腹部にはドライバーが着けられている。

 

「何しに来たんだぁ? もう俺たちが見つけちまうぜぇ」

 

 ヘラクスが彼らを煽り立てるが、彼らは一切動揺する素振りを見せること無く、それどころか彼らを嘲笑するかのようだ。

 

「残念だけど、ここには無いわよ」

「あ?」

「ここにお前たちの探しているものがあるっていうのは、嘘だ」

「そう。だから無駄足だったな」

 

 その発言に怒りが込み上げてくる。

 

「そうか……。じゃあお前らを叩きのめさないとな」

「えぇ。そうしましょう」

 

「……他の雑魚は任せて。デネブ、行くよ」

「了解!」

 

 春樹と碧は端末に、八雲は腕輪にカードを装填し、花奈はベルトのレバーを動かした。

 

『『"REVE-ED'N'ACT" LOADING』』

『"NEX-SPY" LOADING』

 

 それぞれがポーズをとり、そして叫んだ。

 

「「「「変身!」」」」

『『Here we go!』』

『Let's go!』

『Charge and up』

 

 一体化をしていく春樹と碧。

 箱の中で鎧を装着される八雲。

 赤色の戦士へと変身を遂げる花奈と、その左隣に立つデネブ。

 

 それぞれが変身を遂げたところで、ネクスパイは1枚のカードを取り出した。

 炎で燃やされていく花畑の中を黒い兜虫が飛んで行く様子が描かれており、下部には「No.057 SUBJECT DARK KABUTO」と印字されている。

 そのカードをネクスチェンジャーに装填した。

 

『"DARK KABUTO" LOADING』

 

 ダイヤルを回して赤色の面に揃える。

 

『Are you ready?』

 

 ダイヤルを押し込んだ。

 

『OKAY. "DARK KABUTO" BORROWING BREAK!』

 

 リベードンアクトは両腕をぶらぶらと回して、そして体勢を低くして相手たちを睨みつけた。

 

「「READY……GO!」」

 

 全員が走り出した。その中でも、リベードンアクトとネクスパイは目にも留まらぬスピードで動き始めている。

 

『『CLOCK UP』』

『HYPER CLOCK UP』

 

 コーカサスたちも同じくらいの速度で活動を始め、戦いの火蓋は切られた。

 

 ゼロノスとデネブの二人は大量のソルダートたちと対峙していた。

 大剣を振り回すゼロノスと、指先から放たれる銃弾や強固な拳で粉砕していくデネブ。1体を倒すのに1回の攻撃で済むのは良いのだが、それにしてもこの数だ。まるで埒が開かない。

 

 黒い兵士に突き刺した剣を引き抜いて地面に刺したゼロノスは、

 

「デネブ!」

 

 自らの僕を呼び寄せ、デネビックバスターに変形した彼を右手に持ち、ドライバーのボタンを押した。

 

『Full charge』

 

 チケットを取り出して散弾銃のスロットに挿し込むと、銃口を兵士たちに向け引き金を引いた。

 何本ものビームが彼らを襲って爆発が起こり、大体半分くらいを倒すことが出来た。

 だがそれでも150体近くが残っている。というより、倒しても倒しても増えてくるのだ。

 

「まだこれだけいるの……」

 

 すると突然、装填されていたチケットが塵となって消えていったのだ。

 

「──ッ!」

 

 カードの消えた部分をただ見つめるゼロノス。

 

『花奈ちゃん……』

「……大丈夫。まだあるから」

 

 ゼロノスは同じ形状と柄をしたチケットを取り出し、ドライバーに装填する。そしてデネビックバスターを左手に、地面に突き刺していたゼロガッシャーを右手に持って敵に向かって行った。

 

 

 

 一方、高速の世界で戦いを繰り広げているネクスパイとケタロス、ヘラクスの三人は互いの武器をぶつけ合っていた。

 

 ネクスパイの持つスタンガンがヘラクスの体を掠め、電極に怯んだところで今度はケタロスがクナイで斬りかかって来る。その刃をスレスレのところで避けて、空いた彼の腰の右側に左脚で回し蹴りを入れた。

 

 今度はヘラクスがゼクトクナイガンを銃の形状にし、銃口をネクスパイに向けて発砲した。それをスタンガンのボディで器用に受け止める。さらにヘラクスの方に向けて走ると彼を蹴り飛ばし、その反動を利用して後ろを向いてスタンガンの電極をケタロスに押し付けた。

 

 後退する二人。

 

『『RIDER BEET』』

 

 己の武器に力を溜め込んでいくケタロスとヘラクス。ここだというタイミングで走り出し、左右から強烈な一撃を食らわせようとした。

 

 ネクスパイはスタンガンのスロットにカードを装填した。

 

『Are you ready?』

 

 柄の部分に設置されているボタンを押した。

 

『OKAY. "NEX-SPY" DISPEL HIT!』

「ハァッ!」

 

 スタンガンの電極を校庭に思いっきり叩きつけた。

 するとどうであろうか。電極から出るエネルギー波が地面を伝い、ケタロスとヘラクスを足元から攻撃したのだ。

 

「「グァァッ!」」

 

 体から激しい火花を散らす二人。これ以上進むことは出来ずに、その場にしゃがみ込んでしまった。

 

「一旦退くぞ」

「……クソっ!」

 

 丁度同じ瞬間でネクスパイの使っていたカードの効果が切れ、普段感じる速度の世界に戻ってきた。両端を見るとケタロスとヘラクスの姿は無い。

 

 フゥと息を吐いた彼が見つけたのは、大量の兵士たちに苦戦を強いられているゼロノスの姿であった。

 仕方ないか。

 ネクスパイは武器を再び握り、彼女に加勢することにした。

 

 

 

 そして、さらに時が速く進む世界にて戦闘を行うコーカサスとリベードンアクト。

 

 コーカサスが自身の拳をぶつけようとしたところで、リベードンアクトは上空に跳び、右足で彼の右肩を踏みつけて彼の後ろに回ろうとする。

 だが相手の実力は並ではないことを再度確認させてもらう事態となった。まだ宙空にあるリベードンアクトの右足をコーカサスは掴むと、下に引き摺り下ろして首を掴み、正面に持ってきて左足で蹴り飛ばした。

 

「「グッ!」」

 

 倒れること無く、飛ばされた方で立つ戦士は次の戦略を瞬時に練った。

 結果、真正面から攻め込むというのが最適解だと判断し、実行にうつした。

 

 コーカサスはリベードンアクトの出した左手を避けて、同じく左手でパンチを食らわせようとする。だがそれを右腕で防いで左、右の順番で蹴りを入れた。

 さらに怯んだ隙にディスペルデストロイヤー バズーカモードを取り出し、引き金を引いて銃弾をお見舞いした。

 

「ッ!」

 

 後退するコーカサス。命中した腹部からは白い煙がモクモクと立っている。

 

「……ここは一旦退きましょう。ここで貴方方と戦っても何のメリットも無い」

 

 それだけ言い残し、コーカサスはその場を立ち去った。リベードンアクトは彼を追うことは無く、元の世界へと帰還を果たす。

 

 そこで彼らが見たのは、大量の兵士たちに苦戦を強いられているネクスパイたち三人の姿であった。校舎の中にいたのも全員加勢したであろうから、ざっと300体程であろう。

 

 三人と共に校舎を背にしてソルダートたちを見つめるリベードンアクト。黒一色に染まっている校庭に圧巻されているのだ。

 すると、

 

「そうだ!」

 

 突然碧が声を出した。

 

「? 何だよ」

()()使えば良いんだよ」

 

 これ。それは自身が手に持っているディスペルデストロイヤーであった。

 だが前回のエボリューションとの戦いでかなりの爆発を起こしたこの武器を、ましてや近くに他の施設があるこの場所で使うのに、春樹は難色を示した。

 

「いや、それは──」

『大丈夫です。半径400メートルにいた人たちは全員避難させましたから』

『そういうことだ。思いっきりやれ』

 

 深月と森田からの通信で覚悟が決まった春樹。

 二人は大砲のスロットに奥から4枚のカードを装填した。

 

『"ACT" LOADING』

『"REVE-ED" LOADING』

『"KABUTO" LOADING』

『"BUILD" LOADING』

 

 銃口を夥しい数の敵兵たちへ向けると、銃口の周りに虹色のオーラが何重にも集まってくる。

 それを見た全員が確信をした。

 これは、不味い。

 

 そのことを一番よく解っているリベードンアクトは、一体何が起こるのか分からない恐怖と戦いながらも、一気に引き金を引いた。

 

『QUADRUPLE SHOT!』

「「!」」

 

 発射されたのは白い一筋のビームであった。その勢いは凄まじく、放たれた瞬間にリベードンアクトは後退していってしまう。それを後ろからデネブが支えることによって、なんとか事無きを得ている。

 

 そしてビームが収まったところで爆発が来ると思っていた全員であったが、あまりの火力であったためか、ソルダートたちは爆発すること無くドロドロに溶けてしまう。

 

 自らが使った武器のあまりの恐ろしさにその場に、デネブの元を離れてへたり込んだリベードンアクトは変身を解除する。倒れた春樹の腹部に碧が校庭側を見ながら乗っかる体勢での分離となった。

 

「これ……意外とキツかったね……」

「あぁ……絶対これだけはやらない……」

 

 開発者の前でよくここまで愚痴をこぼすことが出来るなと思う一同であったが、ゼロノスが特に何も言ってこないので、誰も何もこれ以上何もしない。

 

「でも、まだ終わりじゃないんでしょ」

 

 振り向いた碧の言葉で春樹が上体を起こし彼女と向かい合う。

 その目は真っ直ぐと碧の方を見つめており、心の何処かでときめきが走った。

 

「ああ。会わなきゃならない奴がいるからな──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How did they wipe lots of enemies?

A: They used the strongest bazooka.




【参考】
東京の過去の天気 2022年3月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220300/)
東京都内で雰囲気抜群のおすすめ廃墟スポット11選 - おすすめ旅行を探すならトラベルブック(TravelBook)
(https://www.travelbook.co.jp/topic/18805)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question066 Who is the mastermind behind all?

第66話です。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
フレン・E・ルスタリオ - フラクタル

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.30 15:01 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう

 外が曇天になってきた頃、日菜太は独りで店内の掃除を(おこな)っていた。今日は新井夫妻が用事があるからと臨時休業になっており、店の中にいるのはここで住み込みをしている日菜太だけである。

 

 だが、もう独りではなくなる。

 もうすぐあまねが来るのだ。昨日連絡があって、話があるから会いたいとのことである。

 彼は何処となく期待を寄せていた。恐らくは自分の望むことを伝えに来てくれるのだろう。そう思うと意図せずとも顔から笑みが止まらない。

 

 木で出来たカウンターを白い布巾で拭いていたその時、引き戸が2回叩かれた。

 

 やっと来たとノリノリで扉を開く日菜太。

 

 だが、そこにいたのはあまねではなく、春樹であった。自身の端末を右手に持ち、レンズを日菜太の方に向けている。

 

「春樹さん!? どうしてここに……?」

「それがさ、今日あまねが来られなくなったから、俺が代わりに伝えに来た」

「そう、ですか……」

 

 露骨にがっかりした表情を見せる日菜太。だが「ごめんな」と微笑みながら謝る春樹を憎めず、再び笑顔を浮かべた。そして布巾でカウンターを拭きながら彼と話す。

 

「で、何ですか? 用って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前だろ、零号は」

 

 春樹の言葉に日菜太は一旦手を止めて彼の顔を見る。春樹の顔から微かな笑みは一切消え失せ、真っ直ぐに日菜太の方を見つめている。

 何故か吹き出した彼は再びカウンターの方に目線をやって、布巾を持った手を動かす。

 

「何の話ですか。そもそも何です? 零号って」

 

 そんな彼の様子を無視し、春樹は立ちながら話を始めた。

 

「ずっと疑問だったんだよ。どうしてあまねがいる場所にフォルクローたちは出現することが出来たのか、って。一番考えられるのはあまねの素性を知る人物がアイツらに情報を流していることだ。

 まず身内を疑うとすれば、SOUPの全員が怪しいことになるが、俺や碧以外の面子(めんつ)は岩田室長によって決められる。その人本人が交渉をする術も無いわけだから、あるとすれば俺、碧、義兄さん、班長、そして室長の五人に絞られる。

 だがここでもう一人、SOUP以外で最も有力な奴が現れた。それがお前だ」

 

「どうして僕が……」

 

 布巾を動かす手を止めて椅子に座りながら春樹の方を見つめる日菜太。

 

「お前だけなんだよ。SOUP以外であまねが校外学習に行く日と、俺が昏睡状態になっていた時にいた病院の場所を知っているのは。それに碧に聞いたら、関係者以外でお見舞いに来たのはあまねとお前だけらしいからな」

 

 確かにあまねが校外学習で博物館に行った日に、松本康生が彼女を連れ去った。さらには春樹の眠っていた病院もアールに襲われたのだ。しかも民間人の中で病院の場所を知っているのは、お見舞いに行ったあまねと日菜太だけなのである。

 

「いくら何でも捏ち上げですよ……! 単なる偶然でしょ」

「それだけじゃないぞ」

 

 春樹の言葉に日菜太は目を見開く。

 

「3月22日火曜日。この日3体のフォルクローがあまねに襲いかかった。それは一緒に襲われたお前も覚えているだろ。

 ここで一つ疑問がある。そうしてこの日を選んだのかってことだ。何日か前から春休みに入っていたんだから別にこの日じゃなくても良かった筈だ。なのにどうして3月22日なのかと。

 あの日はな、俺と碧の入院する期間が唯一重なる日だったんだよ。八雲はともかく、もしあまねに何かあったとしても俺たちが来られる筈が無い予定だった」

 

 春樹は少しだけ間を置くと、

 

「そういえばお前、どうして俺と碧が入院していること知っていたんだ?」

 

 いきなり日菜太に問いを投げかけた。戸惑う日菜太であったが、一先ず答える。

 

「それは、あまねちゃんに聞いたんですけど……」

「それは無いな。だってあまねには『絶対に言うな』って釘を刺しておいたからな。それに──」

 

 すると春樹はコートの内ポケットから細く折られた白い紙を取り出した。それを広げて中身を見せつける。

 

【挿絵表示】

 

 そこには春樹と碧が逃亡中に立ち寄ったラブホテルで、あまねを含めた三人が話したことが丸々書いてあった。

 

「入院していたっていうのは、全くの嘘だから。しかもこの話はあのホテルでしか話していない」

 

 春樹の発言に驚愕する日菜太。だが取り乱した様子ですぐに反論をする。

 

「だから何なんですか! もしかしたらあまねちゃん以外から聞いたっていう可能性だってあるでしょ!」

「ああ、そうだな。これだけでお前があまねを狙っていたということは決定しない」

「だったら──」

「言っただろ。『これだけなら』って」

 

 今度は外側のポケットからある物を取り出した。

 それは日菜太があまねの誕生日に彼女にプレゼントをしたキーホルダーだった。彼が手作りをした「A」の形をした赤いものである。

 

「これ、お前の手作りだったよな?」

「はい」

「間違いないな?」

「そう、ですけど……」

 

 彼の言葉を聞いた春樹は、「一応、あまねの許可は取ってあるから」と呟くと自身の端末をカウンターに置き、左手に握ったキーホルダーの表面を右の拳で思いっきり砕いた。

 自身の力作を壊された怒りよりも、この男は一体何をしたのかという疑問と驚きだけが頭の中に残った。

 

 春樹の左手から赤色の欠片が少しずつ落ちていく。本体の表面は完全に壊され、中身が丸見えとなってしまった。

 

 すると春樹は部品の中から、銀色の丸い部品を取り出した。市販のリチウム電池の半分くらいの大きさをしたそれを、右手の人差し指と親指で挟んで日菜太に見せる。

 

 

 

「これ、盗聴器だろ」

 

 日菜太はもう何も反論をしなくなった。

 

「昨日あまねが襲われた時も、朝家で行き先を言っていたから、盗聴出来て場所が分かったんだろ。

 だからホテルのやつみたいに罠を仕掛けさせてもらった。その結果、今日オールたちが廃校を探す羽目になったんだ」

 

 そのため、キーホルダーに開けられている充電口は防犯ブザーを充電するためのものではなく、この盗聴器を充電させるためのものであったことになる。

 

 言えることは全て言った。

 粉々に砕けた残骸をカウンターに置いて、再びトランスフォンを握って日菜太にレンズを向ける。

 

「まぁ、これだけでお前が零号かどうかは分からないが、()()()()ということは確実だろう。反論があるなら言っておけよ。と言っても、盗聴器で盗み聞きをしている時点で真偽はどうであっても、場合によっちゃストーカー規制法違反だけどな」

 

 日菜太の反論を待つことにした春樹。

 だが彼は何も言わずに顔をカウンターに伏せている。

 

 すると突然、静かな笑い声が途切れ途切れで聞こえてきた。音源は言わずもがな、日菜太の口である。

 顔を上げた彼の顔は理詰めされているとは思えない程の笑顔で、何処か恐れを覚えてしまう。

 

 

 

 

 

「一体、いつから()の正体に勘づいたんですか?」

 

 春樹の方を見て声をかける日菜太の声は、間違いなく彼自身の声であった。

 だがその話し方は自身が狙っている対象そのものだ。

 

 けれでも春樹は戸惑うこと無く、彼の質問に答える。

 

「最初に疑いだしたのは、米国の研究者が来日した時にクロトが襲って来た時だ。

 アイツは俺たちが何かとんでもないことをしようとしていたのは知っていたが、一体何をしようとしているのかは全く知らなかった」

 

 それは彼らが疑問に思っていた最大の謎であった。

 何処から情報が漏れたのかは分からないが、少なくとも彼らの中に内通者がいたわけでもなかったし、フォルクロー側に潜り込んでいた八雲にも情報は隠されていたために真相は謎のままであった。

 

「そもそも米国から科学者が来ること自体が極秘だったわけだし、何かをしようとしているというのが伝わっているなら、同時に内容も知っている筈だ。だから何であんな中途半端にしか情報が伝わっていなかったのか、全くと言って良い程分からなかった。

 けど思い出したんだ。あまねに『大事な仕事がある』と言ったのを。そしてそれを話したのはお前だけだった」

 

 そうだ。

 その後この店に来た際、あまねが言っていた。

 「パパとママの仕事のこととかを話すのは日菜太くんだけだけど」と。

 

「それでハッとしたよ。その状況のお前だったら確実にあんな中途半端に情報を伝えることを出来るなって」

「……成程。そうでしたか……」

 

 暫し流れる沈黙。

 打ち破るために、今度は春樹が日菜太に質問をした。

 

「いつからその身体(からだ)になった?」

「『なった』というのは、少し語弊がありますね。お借りしたんですよ。この身体を」

 

 その言葉に春樹はやっと驚愕の表情を見せた。

 ということは本当の七海日菜太は乗っ取られた状態である。さらに言えば零号が使う能力は、コーカサスたちを言葉一つで動かす、所謂「言霊」だけではないということだ。

 

「ああ、勘違いしないでください。私が使える能力は二つだけ。『憑依』と『譲渡』です」

 

 意味が解らない。

 一体その能力でどうやって、コーカサスたちを浮かび上がらせ、江戸川ミソラに発火をし、そして何より、春樹自身の身体を欠けさせたのだろうか。

 

「彼等にはものを創造出来る能力があります。勿論、貴方にも。それを利用したんです。一種の洗脳状態にして浮かび上がらせたり、発火したりしたんです。

 発火や空中浮遊は彼等には一切無かった能力でしたが、そこは私が一時的にだけ能力を与えたんです」

 

 それであれば彼の説明に合点がいく。

 

 日菜太はコップと透明なポットを取り出すと、ポットから冷えた水を注いで少しだけ口をつけ、コップを静かにカウンターの上に置いた。

 

「じゃあ、いつから彼の身体を使っているんだ?」

 

 春樹も少し離れた席に座る。目線を日菜太に配ることは無く、ただ正面を見つめていた。

 

「目覚めてすぐですよ。発掘した彼等を殺めるのと、自らが破壊した世界で潜むための準備をするために、力を限界まで使ってしまいましてね。もう身体を残す余力も無かった。

 そこでアールたち三人だけを()()()()()()に連れて行き、実体を失った私はとりあえず彼の身体を使うことにしたわけです」

 

 淡々と物語る日菜太。

 コップを持ったところで気が変わったのか手を離す。

 

 引き戸のガラスからは定期的に赤色の光が差し込むようになり、徐々に騒がしくなってきた。

 

「それで、あまねのことはいつ分かった?」

 

「全くの偶然です。中学生の頃に遺跡の近くで情報を集めようとこの店に住み込み始めたんです。幸いにも彼のご両親はこのお店とご縁がある方々でしたので、事は順調に行きましたよ。

 そしてある日、彼女がこの店に貴方方と現れた。顔を見た瞬間に彼女が筒井あまねその人だと判りましたよ。しかも幸運なことに彼女がここで受験勉強をしていましたので、私も同じ高校を受験して見事彼女と共に合格しました。

 この店だけではなく学校でも距離を縮めていき、()()の場所を聞き出す手筈だったのに……」

 

 日菜太が非常に残念そうな表情を見せながら、コップを持って中にある水を全て飲み干す。

 彼の様子を見た春樹は立ち上がって口火を切った。

 

「お前を今ここで倒せば、フォルクローを全て倒したとしても何も起こらずに全てが解決する。……だから投降しろ」

 

 同じく日菜太も立ち上がり、春樹を見つめる。

 

「ではその前に、貴方を今ここで倒せば良いだけの話です。だって貴方は今、一人ですから」

「……じゃあもし、()()()()()()()()()、どうする?」

 

 春樹が後ろを向いて戸を引くと、外の風景が見えるようになって、日菜太は驚いた。

 外の通路はパトランプを照らすパトカーが塞ぎ、その中で機動隊員たちが銃口を店の方へと向けている。そしてその後ろでは碧に岩田、八雲、花奈、デネブがあまねを守るように立っていた。

 それは、この状況では完全に春樹の方が優位に立っていることを証明するには、十分なものであった。

 

「もし俺がここで死んでも、この端末で今の会話は全て録画してあるから、どうってこと無い。……どうする? お前にもう勝ち目は無いと思うぞ」

 

 だが、日菜太は何度目かの笑みを春樹に向ける。

 

「それはどうでしょうか?」

「え?」

 

「言いましたよね? 私は彼の身体を使っていると。なのでもし今私を倒せば、彼も死ぬわけですが」

 

 日菜太の発言は、この戦況をひっくり返すのにもってこいであった。

 会話の一部始終を春樹の端末越しに聞いていた、遊撃車の中の深月が「攻撃は慎重にお願いします」と機動隊員たちに無線で指示を出す。指示に従って、隊員たちは少しずつ後退して行った。

 

 すると日菜太は春樹の前へと立ち、彼の目をじっと見つめた。

 

 見つめられた春樹に襲いかかってきたのは、あの時と同じ恐怖感であった。生命が争うことの出来ない、絶対的な恐怖。それが今、彼の体を直に蝕んでいく。

 まるで万華鏡のように美しい模様が、日菜太の黒目に投影されているように感じる。

 

 鳥が舞い、魚が泳ぎ、ラッパの音が響く。その中で人々が一人を囲みながら踊りを踊る。そして獣のような何かが彼等を食らい、私腹を肥やす様だ。

 

 異様なまでに鮮やかなその模様を眺めた後、春樹の視界が黒くなった。

 

 

 

 気が付いた時、春樹は店の外で仰向けになって転がっていた。

 自分でも一体何が起こったのか、よく理解出来ていない。

 いつの間にか。その言葉がよく似合う現象であった。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 起き上がって見えたのは、碧がリベードへと変身を遂げ、日菜太の方に向かって行く様だった。

 変身したのはエグゼイドシェープ。日菜太と零号を分離するのに最適な形態である。

 

「ハァァァァッ!」

 

 右手で店の外に出た彼にパンチを食らわせようとした。

 

 だが手が日菜太の目の前で止まった。

 

 リベードもまた、彼の目に映し出される異様な光景に釘付けになっていた。

 それは青色の数字の束であった。いくつもの数字が縦横無尽に群を成して、人間の口の中にこれでもかと傾れ込んでいく。

 

「あ……あ……」

 

 右手が下がり、突如として変身を解除した碧。

 

『おい! どうした!? 碧!』

 

 グアルダの言葉などまるで聞いていない。

 

 碧は後ろを向いた。

 虚な表情を見せる彼女はいきなり隊員たちの方へと走り出し始めた。

 

「やめろ碧っ!」

 

 春樹が横から碧に飛びかかる。一緒に地面に転がったところで、碧は正気に戻ったようだ。

 

「……? あれ? 私何して……え!? ちょっと春樹! 何で抱きついてるの!?」

「仕方ないだろ、非常事態なんだよっ!」

 

 これが日菜太、というより彼の身体を借りている零号の真の能力。その恐ろしさに、春樹と碧は恐怖を覚えた。

 

「あぁもう! だったら私が行くしか無いわね!」

「花奈ちゃんでも!」

「分かってる! でもやるしかないのっ!」

 

 ベルトを巻こうとする花奈を必死で止めようとするデネブ。だが彼女はデネブの静止を振り切り、ベルトを巻いてチケットを取り出した。

 

「変身!」

 

 花奈が変身をしたゼロノス。ゼロガッシャー サーベルモードを組み立て、刃を横に振って日菜太の首を刎ねようとした。全員が躊躇をしている最終手段である。

 

 刃が思いっきり宙を移動して、日菜太の首筋に向かっていった──

 

 

 

 その時、

 

「!? ア゛ッ……! グア゛ァッ……!」

 

 大剣が突如地面に落ち、ゼロノスがその場に倒れ込んで、元の花奈の姿に戻った。

 胸を押さえて苦しむ彼女のベルトからはチケットが消え、手や首筋に緑色の線がまるで血管のように入っていく。

 

「花奈ちゃんっ!」

 

 その光景に誰もが驚いたが、真っ先にデネブが彼女に駆け寄ろうとした。

 

「動くな」

 

 日菜太が呟いた瞬間、その場の全員が一切動けなくなった。全力で身体に「動け」と念じようと、指一本として動くことは無い。

 

 そんな中を、日菜太はゆっくりと歩いて行った。機動隊員たちの間を抜け、その後ろにいたあまねと岩田の前に立つ。

 

 不味い。このままではあまねの身に危険が及ぶ。

 全員が彼女を守ろうとするが、どうしようもない。

 

 だが日菜太はあまねではなく、岩田の左肩に左手を乗せた。

 

「では。私はこれで」

 

 ようやく身体が動かせるようになった。

 隊員たちが振り返って銃口を向けるが、そこにいたのはあまねだけで、岩田と肝心の日菜太がいなくなっている。

 辺りを見渡すが、二人の姿は一切見当たらない。

 

 残された者たちは自分たちの相手をした者の恐ろしさを身に沁みて覚え、岩田のいた場所をじっと見つめていた。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

「お帰りなさいませ」

「ただいま、アール」

 

 アールが日菜太に対して一礼をする。

 日菜太の格好は黒いジャンパーに黒いズボン。零号として現れた時と全く同じ格好である。暗い室内にその格好はよく溶け込み、さらに彼の白い髪の毛を美しく映させていた。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様」

「ただいま、フロワ」

 

 フロワも同じように彼に頭を下げる。

 顔を上げた彼女の目は微笑みを向ける日菜太一点を見据えており、彼の顔を見るだけで徐々に頬が熱っていくような感覚に陥ってしまった。

 

 そんな彼女の様子を見たピカロは、面白くなさそうにソファに寝転がって外方を向く。

 

「ほら、ピカロも挨拶しなさい」

「……」

 

 フロワの呼びかけに応じない。

 

「……仕方ないわね。今そっち行くから」

 

 ソファの方に行ってピカロの隣に座ったフロワは、彼に抱きついてそのまま動かなくなった。

 

 その隙にアールは日菜太と話を始める。

 

「後は、()()を手に入れるだけですね」

「えぇ。そのために()を連れてきたわけだからね」

「そうですね──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後はお好きにどうぞ、()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常40体

B群12体

その他1体

合計53体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Who is the mastermind behind all?

A: It is a man who is loved by her.




因みに皆さんは零号が誰だと予想していらっしゃいましたか?
感想にてお教えいただけると幸いです。



【参考】
東京の過去の天気 2022年3月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220300/)
盗聴は犯罪行為? 罪に問えるケースと慰謝料請求について解説
(https://okayama.vbest.jp/columns/general_civil/g_lp_indi/6724/)
Le Sacre du printemps / The Rite of Spring - Ballets Russes - YouTube
(https://www.youtube.com/watch?v=YOZmlYgYzG4)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 23 本当の姿(PARA-REIGN)
Question067 Why did she break up with him?


第67話です。
今回はかなり短いです。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
ソナーポケット - GIRIGIRI

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


 昨日の出来事は、色々な面で大きな影響を及ぼした。

 

 まず岩田室長が誘拐されたことが、SOUPにとって大きな傷となった。

 要は彼らの最終決定権を持つ者が無くなってしまったがために、何か行動を起こそうとしても手続きが面倒なことになってしまう。それは森田がどうにかしてくれたので、何ともないのだが。

 

 だがもっと影響を及ぼしたのは、日菜太が零号である、正確に言えば日菜太が零号に乗り移られている、ということだ。

 まず新井夫妻にどうやって報告をすれば良いのか分からず、深月が「急遽長期間のボランティアに行くことになった」とだけ報告をした。

 

 そして何より、あまねがこの一件で相当な傷を負ったことは言うまでもない。

 自身が想いを寄せていた人が、自身の父に手をかけた者であったのだ。これほどまでの裏切りは無い。

 

 今は碧が自宅にて彼女に寄り添っている。

 あまねのことを気にした、春樹の頼みであった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.31 13:40 東京都 新宿区 SOUP

「あのマインドコントロールってどうやってやっているんでしょうね?」

 

 深月が昨日の日菜太の映像を観ながら言う。

 彼の疑問に答えたのは、その手のことには詳しい薫であった。

 

「ああいうマインドコントロールを装置も無しで行うには相当な時間が必要ね。あれをたった1秒足らずでやるだなんて、ねぇ……」

 

 途中から言葉が震えてくる。

 恐怖からなのか、それとも、未知の領域を見せられたことによる好奇心からなのか。少なくとも前者であることを全員が祈った。

 

「それに引っかからないようにする方法は無いのか?」

 

 今度は森田が訊いて、圭吾と八雲が答える。

 

「マインドコントロールに引っかからないようにするには、神経系に影響の無いようにするしかないですね」

「ただ、アイツが従来のフォルクローと同じならば、仕組みが判れば必ず俺たちで防げる、が──」

 

 果たして本当に上手く行くのか──。

 それが彼ら共通の一抹の不安であった。

 

 すると、

 

「ねぇ。貴方、アイツにやられた時、何か気が付かなかった?」

 

 花奈が春樹の方を向いて言った。

 彼女は室内にも関わらず、緑色のコートを身に纏ったままである。さらに何故か黒い手袋と赤いマフラーを着けている。

 

 天を仰ぎながら腕を組んで考える春樹。

 すると何かを思い出した。

 

「そう言えば、すっごい細かい粒がから出てきたような……」

 

 それを聞いて、深月が何かを思いついたようだ。

 

「だったら、その粒々を防げるような物を作るっていうのはどうでしょう?」

「そうですね! 春樹さん! その靴お借りして良いですか? 洋服は洗濯しちゃったとしても、靴に微量にでもそれが付いていればなんとかなりますよね、圭吾さん?」

「はい! 何とかなります!」

「じゃあ、頼んだ」

 

 森田の合図で圭吾が春樹の靴を半ば強引に貰い、部屋の外に出て行った。

 

 それと同時に、八雲は隣に立っている花奈に声をかけた。

 

「……ちょっと来てくれ」

「え? 何で?」

 

「班長、デネブ。ちょっと彼女借りるぞ」

「え?」

「あ、ああ」

 

 いきなりのことに驚く二人を他所に、八雲は花奈の手を引いて部屋を出た。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.31 14:15 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 例え曇り空だったとしても外は明るいために、電気を点けずともカーテンを開ければ部屋を明るくなる。

 

 あまねの部屋に設置されたベッドの上で、碧とあまねは座り込みながら一緒に布団を被る。中では碧の右手とあまねの左手が繋がっていた。

 

「ねぇママ」

「ん?」

「私、彼のことをちゃんと愛せるかな?」

 

 あまねの言葉の意図が解らず、思わず彼女の顔をみてしまう碧。

 

「だって、私が愛した人はあの化け物だったわけで、本当の彼のことを私は知らない。だから……」

 

「じゃあ、もう彼のことは嫌い?」

 

 暫く黙ってしまうあまね。

 

「判らない。けどね、きっとまた日菜太くんのことを好きになる気がするんだ。ううん。きっと好きになる」

 

 真っ直ぐと碧の顔を見るあまね。その目は恋焦がれる乙女の目であることに間違いは無かったのだが、それ以上に何かの使命感に駆られているようにも見える。

 

「そっか……。そっか〜」

 

 碧があまねに笑顔で抱きついてくる。嫌がる素振りを見せること無く、抱きついてきた母の両手にそっと手を添えて笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 丁度同じ頃、隣の602号室に八雲と花奈が帰ってきた。

 だが花奈は部屋の中に入ってもコートや手袋を取ろうとはしない。

 

「何なの? いきなり家に連れて来て」

 

 不満そうな顔を見せる花奈。だが自身の顔を見据える八雲の神妙な面持ちを見て、ただ事ではないと察した。

 

「お前さ、何隠してるんだ?」

 

 花奈は鼻を鳴らして笑みを浮かべる。

 

「何よいきなり。そんなことあるわけ無いでしょ」

「……俺と判れた時もそうだったよな。理由も何も言わずに判れて、ズルズルとこういう微妙な関係を続けることになって……。この際だからはっきり言ってくれよ!」

 

「言えるわけ無いでしょ!」

 

 突然、花奈が声を荒げた。今まで見たことの無い彼女の姿にたじろぐ八雲。

 

「だって──」

 

 すると花奈はマフラーに手袋、コートを脱ぎ出した。さらにはその下に着ていた白いブラウスや黒いスカートも脱ぐ。そして身につけていた白い下着も全て取った。

 

 いきなり起こした行動に戸惑い、咄嗟に目を両手で覆って何も見えないようにする。

 だが意を決して指と指の間から繰り広げられている光景を見ると、信じられないことに思わず手をゆっくりと下げた。

 

 目の前にいる一糸纏わぬ花奈の身体中に、緑色の線が入っているのだ。顔以外に入った線はまるで血管のように皮膚の下から浮き出ており、痛々しい印象を出している。

 

「こんな身体になっちゃったんだから……」

 

 あまりのことに絶句してしまう八雲。

 

「私のフォルクローとしての能力は、『増強』。他のフォルクローと同じコストで、その倍以上の力を生み出すことが出来る。

 ……でも、私は唯一の失敗作でね、自分で生み出したあのチケットを使う度に体が蝕まれていく。後2枚も使えば、私はもう終わりだね……」

 

 得体の知れないものが肌に見える彼女の美しい体を見つめながら、ただ花奈の言葉を聞いていた。

 

「こんな身体になったら、きっと貴方は離れる。だから! 私の方から手を引けば、貴方を傷つけることなんて──」

 

 その時、八雲は花奈の言葉を最後まで待たず、思いっきり抱き締めた。

 突然のことのあまり、言葉が詰まって何も言えなくなってしまう。

 

「嫌いになるわけないだろ」

 

 消え入るような声が花奈の耳元で聞こえる。

 

「どんな姿になっても、お前はお前だろ……。なのにどうして、お前のことを嫌いにならなきゃいけないんだよ……」

「気持ち悪くないの……? こんな身体……」

 

 すると八雲は花奈の後ろに回している手をゆっくりと動かし、彼女の背中を摩るようにする。彼の手の動きによって生み出される僅かな快感に、花奈は呼吸を少しだけ荒くする。

 

 抱き締めるのを止めた八雲が彼女の顔を見ながら微笑み、そして言う。

 

「綺麗だよ。この上無い程に」

 

 花奈は顔を下げて体を震わせる。だが顔を上げて八雲の目をじっと見て言った。

 

「有り難う……」

 

 気が付いた時には、彼らは互いの唇を塞ぎ合っていた。

 息が出来なくなったところで離す。

 酸素が頭に行かないために、頭が上手く働かない。

 目の前の相手を見据えて、そして彼らは諸々のことを考えるのを止めた。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 さて、拐われた岩田はアールたちの暮らす謎の空間に閉じ込められていた。風景と同化する透明な壁によって囲まれ、自身が寝転べるくらいの範囲でしか行動が出来ない。

 

 すると、左側から日菜太が黒色のジャンパーを着ながら歩いて来て、彼の目の前に立った。

 

「すみません。本当はもっと早く貴方と話をするつもりでしたが、何しろ()()の相手をしなければならなかったのでね」

 

 日菜太の来た方向の奥にある大きなベッドの上では、顔を赤くしたフロワが座っていた。ドレスを着ながら日菜太の方を虚な瞳で見て、ふやけた笑みを浮かべた。

 

 それには一切触れること無く、岩田は日菜太と話を始めた。

 

「話とは一体?」

「ちょっと、交渉したいことがありまして──」

 

 

 

 

 

2022.03.31 16:44 東京都 新宿区 SOUP

 八雲と花奈が戻って来た頃、突然春樹の端末が音を鳴らし始めた。

 画面を見てみると知らない番号からの着信であったがために首を傾げるが、念のために出てみる。

 

「もしもし」

『もしもし』

「!」

 

 電話の主は日菜太であった。

 すぐに森田のデスクの横にあるモニターに接続をして、全員に内容が聞こえるようにする。

 

「どうして俺の電話番号知ってるんだ?」

『誘拐させてもらった方に聞いたんですよ。あまねちゃんに掛けると、彼女は今以上に傷ついてしまうでしょう』

 

 そんな気遣いを彼がするとは想定外であった。が、そんなことはどうでもよく、話を元に戻す。

 

「で、何の用だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いい加減、()()()()を返していただけませんか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why did she break up with him?

A: Because she thought that he wouldn’t love her.




【参考】
東京の過去の天気 2022年3月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220300/)
マインドコントロール - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e3%83%9e%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%89%e3%82%b3%e3%83%b3%e3%83%88%e3%83%ad%e3%83%bc%e3%83%ab)
MIT Tech Review: 電気刺激でどこまでマインドコントロールできるか?
(https://www.technologyreview.jp/s/11740/how-network-neuroscience-is-creating-a-new-era-of-mind-control/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question068 What is "PARA-REIGN"?

第68話です。
余談ですが、番外編も作ってみました。
こちらからご覧になれます。↓
https://syosetu.org/novel/318975/

感想や読了報告等くださると筆者の励みになりますので、どうぞ宜しくお願いします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.03.31 16:44 東京都 新宿区 SOUP

『いい加減、()()()()を返していただけませんか?』

 

 春樹と花奈以外の全員は驚きを隠せない。

 私の端末。

 彼の放った言葉の真意が解らなかったが、すぐにそのものが一体何なのか察することが出来た。

 

「そんなこと出来るわけないだろ」

『勿論、タダとは言いません。御宅の岩田さんと交換です』

 

 単純な取引であった。もしもその「端末」を渡せば、それだけで岩田は帰ってくる。美味しい話ではある。

 だが通話をしている春樹は苦い顔をしている。

 

 そして息を吐いて返答をした。

 

「……分かった。じゃあ、明後日の11時に」

『えぇ。では』

 

 ここで通話が切れた。

 同時に顔を両手で覆いながら大きく息を吐いた。

 

「本当はこうしたくなかったんだけどな……」

 

 その発言で全員が春樹の方を向いた。

 彼がそんなことを言うことは一度も無かった。

 ということは──

 

「それだけ、とんでもない物なんですね」

「……ああ」

 

 顔を押さえたまま深月の言葉に答える。

 

()()を基に、俺たちはトランスフォンを始めとしたライダーシステムを完成させた」

「言ってしまえば、()()は全ての始まり、始祖ね」

 

 端にいた八雲と花奈も口を開く。

 春樹同様に暗い顔をした二人の様子を、デネブが心配そうに見つめていた。

 

「もしそれを渡したら、どうなるんですか?」

「どうなるだろうな……。考えたくもない」

 

 春樹が圭吾に素っ気無く答える。

 考えたくもない。それはどれだけ恐ろしいものかを示すのに、最も効果的な言葉であった。

 

「じゃあ、岩田室長をこのまま──」

「いや。それは流石に──」

 

 薫と森田が躊躇する。

 

 すると、

 

「だったら、僕に考えがあります」

 

 深月が突然声を上げた。

 彼が何を話そうとするのか、彼らは藁にもすがるつもりで耳を傾けた。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 岩田が収監されている檻から少し離れたところで、日菜太は椅子の上に座っていた。

 座りながら、彼は左手の親指と人差し指で摘んだ2枚のカードを見つめて笑みを浮かべている。

 

 一枚目のカードは曼荼羅のように大量の模様が金色で描かれた黒色のカードだ。

 二枚目のカードには、何か赤い人型の生物が描かれており、下部には白く「PARA-REIGN」と印字されている。

 

 口角を上げながらカードを眺める彼に、アールが声をかけてきた。

 

「明日、いよいよ手に入りますね」

 

 日菜太はアールの方を見ずに会話をする。

 

「そうだね。まぁ上手くいけば、の話だけどね」

 

 すると日菜太は椅子から離れ、少し離れたところにある机の前に立った。

 

 そこに置かれていたのは、蓋の開けられた黒いアタッシュケースであった。

 中にある3枚のカードをじっと見つめながら、日菜太は再び微笑んだ。だがアールは少し不安そうな顔を見せる。

 

「そのカードは、今の彼の身体(からだ)では使えないですよ。あまりにも負担が大きすぎる」

 

 振り向いてアールの方を向く日菜太。

 彼の顔はアールの心配とは裏腹に笑顔を見せている。

 

 そして彼に向けて、ふと問いをかけた。

 

 

 

 

 

「君は、()()()()というものをご存知ですか?」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.31 17:19 東京都 新宿区 SOUP

「……持ってきたよ、()()

 

 部屋に入ったあまねが、白いハンカチで包まれた何かを春樹に手渡した。中に入っている物を確認する。

 

 それはトランスフォンに形状が酷似した黒い物体だった。だが違っているのはカージナルレッド*1の線が側面に入っている点である。

 

「本当に大丈夫なの? 春樹……」

 

 あまねの横に立つ碧が不安そうに春樹を見つめる。

 春樹は碧に向けて微笑みを向けた。

 

「大丈夫。これは絶対に渡さない。俺が必ず守る」

「うん。……けど、『俺が』じゃなくて、『俺たちが』、でしょ?」

「……そうだな」

 

「それじゃあ、あれ、やっておくか」

 

 森田の合図で、全員が春樹の元に集まって自らの手を出す。

 それらを重ね合わせて、下げながら声を発した。

 

「「「「「「「「「「うぇーい」」」」」」」」」」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.04.01 11:00 東京都 江東区

 少しだけの灯りだけで灯される広い倉庫の中で、2つの群が向かい合っていた。

 一方のSOUP側では春樹と森田が先頭に立ち、後ろでは碧に八雲、花奈、デネブと共に機動隊員たちが待機をしている。

 一方のフォルクロー側ではアールが先頭に立ち、ソルダート2体が岩田を押さえつけていた。

 

「持って来てくださいましたね、例のものを」

 

 先頭に立つ日菜太の言葉で、機動隊員たちの前にいる春樹は黒い端末を彼に見せた。確認をしたアールが笑みを浮かべる。

 

「それよりも先に、うちの室長を返してもらいたいんだが」

「それよりも先にそれを貰いたいですね」

 

 アールの言葉曰く、春樹の隣に立つ森田の要求には、どうやら応えてくれないらしい。

 仕方なく春樹は前の方へと端末を投げた。音を立てて転がる端末を拾い上げたアールは、まじまじと見つめて満足そうな顔を見せた。

 

 同時に岩田が解放されたので、春樹は走って彼の元へと走って行った。

 

 手にした端末をアールは日菜太に手渡す。

 すると、

 

「ん?」

 

 日菜太が怪訝そうな顔を見せ、瞬時にあることが持ち主であるが故に分かった。

 

 偽物。

 これは本物ではなく、精巧に形や質感を再現したプラスチック製のレプリカである。

 

 騙した。

 それを悟られたと思った春樹は、慌てて岩田の首筋に何故か右手を押し付けた。

 同時に日菜太がその場にいる全員に対して言葉を発した。

 

「死ね」

 

 あまりにも強いその言葉によって、全員がこの場で息絶えることになった──

 

 

 

 

 

 だが、何も起こらない。春樹に連れられる岩田も無事に保護される。

 

「どういうことだ……?」

 

 日菜太の呟きに、後ろにいる碧が答える。

 

「私たちのチームは結構優秀でね、貴方が人を操る時に放出する物質を遮断する物を作ってくれたのよ」

 

 そう言って碧が取り出したのは、赤色の丸いシールであった。一見何の変哲も無いシールであったが、確かに辺りを確認してみると、春樹と碧の手の甲にも貼られ、さらには岩田の首元にもいつの間にか貼り付けられている。

 

 先に一本取られて自身の技を封じ込まれた。

 それがあまりにも癪に触ったのか、日菜太は頬を引き攣っている。

 

「室長は先に逃げてくれ。花奈、デネブ、お前らは警護」

「でも……」

「……お前に、これ以上チケットを使わせたくないんだよ……」

 

 自身の方を見ずに言う八雲の言葉に、花奈は間を置いて頷き、デネブや隊員たちと共に岩田を連れて後ろの方に走った。

 

「本来であればフロワちゃんとピカロくんが相手をする筈でしたが、ちょっとフロワちゃんが体調を崩してしまいましてね。これでご勘弁を」

 

 アールの言葉で、倉庫内に大量のソルダートが出現した。狙いは勿論、春樹たち三人である。

 

「じゃあ、とっとと片付けよう、春樹、お兄ちゃん」

「ああ」

「了解」

 

 春樹はクラックボックスにトランスフォンをかざし、自身と碧の腹部にドライバーを出現させる。八雲も自身の左腕にネクスチェンジャーを出現させた。そして三人共カードを装填する。

 

『『"REVE-ED'N'ACT" LOADING』』

『"NEX-SPY" LOADING』

 

 それぞれがデバイスを操作し、そして倉庫に響く声で叫んだ。

 

「「「変身!」」」

『『Here we go!』』

『Let's go!』

 

 春樹と碧がリベードンアクトに合体をし、八雲はネクスパイに変身を遂げる。

 二人の戦士がチェーンソーとスタンガンを取り出した瞬間、黒い兵士たちが襲いかかって来た。

 

 リベードンアクトがチェーンソーを振り回してソルダートを斬り裂くことによって、兵士から黒い液体が溢れて床に溜まっていく。

 それでも切れ味が落ちない刃を両手で構えるその姿は、相手たちにとっては悪魔のように見えるだろう。

 悪魔は感情の無い彼らが無理矢理にでも感じた恐怖を全く汲み取らず、ひたすらに凶器を暴れさせた。

 

 一方のネクスパイは一体一体に電極を当てて、確実に仕留める。衝撃の走った彼らは文字通り崩れ落ちて形を維持することが出来なくなった。

 例え仕留められずとも、蹴りや拳を入れて吹き飛ばし、ただの液体として処理をする。

 兵士だったものが足を滑らせようとするが全く気にしない。ネクスパイは相手を見据えて攻撃を続けた。

 

「そろそろ蹴散らすか?」

「「オッケー」」

 

 ネクスパイがネクスチェンジャーに装填したカードを、インディペンデントショッカーに挿し込んだ。

 

『Are you ready?』

 

 柄の下に付いているボタンを押した。

 

『OKAY. "NEX-SPY" DISPEL HIT!』

「ハァッ!」

 

 スタンガンを上に掲げると、電極から電撃が放たれ、ソルダートたちは痺れて身動きが取れなくなる。

 

 その隙にリベードンアクトはディスペルデストロイヤーのスロットに2枚のカードを挿し込んだ。

 

『"RYUKI" LOADING』

『"DOUBLE" LOADING』

 

 刃に次々と赤色、緑色、紫色のエネルギーが溜まってくる。

 そしてここぞというところで、引き金を引いた。

 

『TWIN SLASH!』

「「おりゃあっ!」」

 

 両手ではなくトリガーを持つ右手だけでチェーンソーを支え、まるで子供のように一回転をした。

 何か不味いと思ったネクスパイは高くジャンプをする。

 その勘は完全に当たっており、今度は斬撃がソルダートを襲い、ネクスパイが着地をしたところで周りに小さな爆発が起こった。

 

 止まったリベードンアクトは上手くブレーキを効かすことが出来ず、フラフラとしてしまう。

 

「あれ? 2枚でこんなに辛いっけ?」

「いつ使いこなせるようになるんだよ……」

 

 1つの身体から2つの声で同じ内容の愚痴が飛び出る。

 滑稽な光景にネクスパイは笑いそうになってしまうが、状況を思い出してすぐにリベードンアクトと共に倉庫の外に出た。

 

 

 

 

 

 その少し前の話である。

 岩田を連れて逃げる花奈とデネブ。その後ろを守るために機動隊員たちが追いかける。

 

 前では遊撃車が停まっており、あまねや圭吾、薫が彼らを待っていた。

 あまねが手を振る。後10メートル程の距離だ。それでなんとかなる。そう思って全員が足を進めた。

 

 すると、

 

「グァッ!」

 

 突然後ろの機動隊員たちが倒れ始めたのだ。

 断末魔と倒れる時の音で振り向いたがために、隙を作ってしまったのだ。

 

「ガァッ!」

「うわっ!」

 

 今度は花奈とデネブも吹き飛ばされてしまう。

 剥き出しになった岩田。

 

 彼の背後に突然、ケタロスが現れた。クナイを首元に当てて、下手に身動きを取れないようにする。

 さらに倉庫の壁ではコーカサスがもたれかかって彼らを眺めた。

 

「岩田さん!」

「「ッ!?」」

 

 あまねの背後にいた圭吾と薫も飛ばされてしまい、あまねも独りになってしまった。

 その背後にはヘラクスが現れる。右手に斧を持っているのを確認したあまねは、恐怖のあまりに固まってしまった。

 

 ヘラクスは空いた左手で彼女の身体に触る。こそばゆい感覚も嫌悪感も最早恐怖で薄れてしまう。

 

 外部からの刺激が無くなったと思うと、彼の左手には黒い端末が握られていた。

 これが狙いだったのか。

 

 気が付いた時には、ヘラクスはその端末を投げ、投げられた物を遠くにいるアールが受け止めた。

 それを左隣にいる日菜太に手渡す。

 

 日菜太は受け取った瞬間から笑みが止まらなかった。

 この上無い喜び。

 どんな言葉で表現をすれば良いかも分からないその喜びを放つために、彼は震える声を出した。

 

「……ようやく……ようやく戻ってきた……!」

 

 そして遂にこの時が来た。

 

 日菜太は右手に端末を持ち、左手に持った大量の模様が入ったカードを裏面にかざした。

 

『PARA-REIGN DRIVER』

 

 トランスフォンよりも低い声と共に、腹部に春樹と碧が使っているのと同じドライバーが出現する。右側に付いているプレートには赤い怪人を正面から見た絵が描かれていた。

 

 同じ絵が描かれたカードを裏返し、端末に装填した。

 

『"PARA-REGIN" LOADING』

 

 右側にある電源ボタンを押すと、ストラヴィンスキーの「春の祭典」の一節である「乙女達の踊り」をサンプリングした音声が流れ始めた。

 同時に日菜太の上に「Ⅰ PARA-REIGN」と書かれたゲートが出現。真ん中から開くと、紅色の鎧が姿を見せた。

 

 荘厳な音楽が流れる中、日菜太は派手なポーズを決めたりはしない。

 ただ端末を持つ右手をゆっくりと高く挙げ始めたのだ。

 

 そして静かに言葉を発した。

 自身が覚醒をし、本来の姿に戻るための言葉を──

 

 

 

「変身!」

 

 端末をドライバーの左側に挿し込んだ。

 

『Here we go!』

 

 その瞬間、彼の身体が端末と同じカージナルレッドの線が入った黒い素体へと変貌を遂げる。

 そこに宙空に浮かんでいた鎧が装着されることによって、変身は完了した。

 

 黒い身体に血管のように入る赤い線。

 同じ色の鎧が両腕、両脚、両肩、胸部に着けられている。

 頭部には鎧やラインと同じカージナルレッドの罰点の形をした複眼が2つあり、体に垂直に2本の銀色の角が真っ直ぐと立っていた。

 

『I'm KAMEN RIDER PARA-REIGN! It's the 1st shape.』

 

 仮面ライダーパラレイン。

 

 異形の者が、この世界に降り立ってしまった──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is "PARA-REIGN"?

A: It is his true name.

*1
濃い黄色みた赤色。




結構、辛い回がこの先多くなりますので、そこら辺宜しくお願いします。



【参考】
東京の過去の天気 2022年3月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220300/)
東京の過去の天気 2022年4月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220400/)
赤・レッド系の色一覧|色彩図鑑(日本の色と世界の色一覧)
(https://www.i-iro.com/dic/tag/aka-red)
春の祭典 - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e6%98%a5%e3%81%ae%e7%a5%ad%e5%85%b8)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question069 What did she want to tell him?

第69話です。
実は今作は「ビルド」に影響を受けておりまして、パラレインもその影響を直に受けております。
なので、もう今後の展開はお分かりですかね……?
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いします。



【イメージED】
フレン・E・ルスタリオ - フラクタル

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.04.01 11:03 東京都 江東区

 目覚めてしまった。最悪の存在が──。

 

 春樹たちが落胆する中、アールやコーカサスたちは安堵の表情を見せる。

 自分たちの主が、本来の姿を取り戻したのだから。

 

「ようやくこの姿に戻れましたね」

 

 零号、否。

 パラレインから出される声は憑依している七海日菜太のものから、本来の男性と女性の声が混ざったようなものになった。

 どうやら変身中のみ、声が元に戻るらしい。

 

「じゃあ、コイツら潰すか?」

 

 岩田から離れたケタロスが訊く。

 

「そうだな。やっちまおうぜ」

 

 パラレインの答えを待たずに、あまねから離れたヘラクスが言う。

 

 不味い。

 この面子相手だと確実に自分たちには勝ち目が無い。

 

 倉庫から出て来たリベードンアクトとネクスパイは再び武器を握り締めて身構えた──。

 

 

 

 

 

 だが、

 

「いいえ。まずは君たちです」

 

 想定外の言葉にヘラクスとケタロスが驚く。

 

「何?」

「どういうことだ!」

 

「どうも何も、そもそも君たちは私が完全に復活するための糧に過ぎません。なので、手っ取り早く消えていただきます」

 

 あっさりと言い放つパラレイン。

 

 呆気に取られた彼らに湧き上がった感情は、怒りであった。

 自分たちを無下に扱おうとしているのだ、この怪人は。

 

 二人はベルトに手をかけた。

 

「「クロックアップ!」」

『『CLOCK UP!』』

 

 姿が消えた。目には留まらぬ速さで移動を始めたのだ。

 その速さでパラレインに攻撃を仕掛ける。

 だが一切ダメージを与えられていない。無いことは無いのだろうが、まるで蚊に刺されたようである。

 

「止まれ」

 

 怪人の言葉で、ケタロスとヘラクスの動きが止まり、二人が自身の前にいることを確認したパラレインは、彼らのベルトに拳を食らわせた。

 

「「ッ!」」

 

 吹き飛ばされる二人。

 立ち上がった彼らの銀色のベルトにはヒビが入り、使い物にならなくなってしまう。

 

 パラレインは後ろを向く。目線の先にいたのは2体の戦士であった。まさか次は自身らではないかと思ってしまう。

 だがすぐにまた前を向いた。

 

「折角の機会です。この端末がどういう物なのかご覧に入れましょう。どうぞ変身を解除して、ゆっくりとお寛ぎながらご覧ください」

 

 怪人の言葉が何故だか信頼出来てしまう。

 言う通りに端末を操作し、三人は変身を解除して、これから行われることを見ようとした。

 

 するとパラレインは1枚のカードを取り出した。

 蝙蝠の形をした銀色のロボットが描かれたそのカードには、「No.155 FOLD MADROGUE」と印字されている。

 

 端末を取り出して、裏返したカードを装填した。

 

『"MADROGUE" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと先程と同じ音声が流れる。

 その中で端末をドライバーに挿し込んだ。

 

『Here we go!』

 

 パラレインの身体が一気に別物へと変貌していく。

 それは嘗て壊した世界にいた「マッドローグ」と呼ばれる戦士と同じ姿だった。だが体色はパラレインとしての姿同様、黒い体に赤色のラインが入った姿である。

 

『MIMIC! Be killed, Be robbed, Be another! I pledge allegiance! FOLD MADROGUE! All of mine for what I believe.』

 

 仮面ライダーパラレイン マッドローグシェープとなった瞬間である。

 

「姿形が変わったところでなんだって言うんだぁっ!」

 

 ケタロスがクナイを握り締めて走って来る。

 

 パラレインはハンドルの付いた赤色の剣──スチームブレードを取り出した。

 その剣でケタロスが繰り出す斬撃を受け止める。何度やっても同じであった。攻撃をすれば剣で防がれるか避けられるかの二択。

 離れて距離を取ったケタロスは、再度クナイを横文字に振った。

 

「ハァッ!」

 

 するとパラレインは背中に大きな羽根を出現させ、上空へと飛び立つことでその攻撃を避けた。

 さらにケタロスの方に向かって行くと、彼の左腕を掴んで宙空まで連れ出したのだ。

 そして、ドライバーに付いているプレートを端末側に押し込む。

 

『Are you ready?』

 

 端末を下に押し込んだ。

 

『OKAY. "MADROGUE" MIMICKING STRIKE!』

 

 ケタロスを離し、右手に持ったスチームブレードから紫色の斬撃を落ちていく彼に炸裂させた。

 

「グァァッ!」

 

 宙空にて爆発が起こる。

 収まったところで火に包まれたケタロスが地面に落下してきた。

 

「アルジェンっ!」

 

 本来であればケタロスの死体はそのまま残り、専用のカードを使ってカードに収めるのがここからの一連の流れである。

 だがケタロスはその工程を無視して、一枚のカードになった。

 

 ゆっくりと下りて来たパラレインは、羽根を閉まってカードを拾う。

 まるでニヤリと笑っているように見えるその顔に、ヘラクスは怒りが収まらない。

 

「テメェ!」

 

 ヘラクスが斧を握り締めてパラレインに向かって来た。

 

 斧を縦に振り下ろすが、軽々と左手で受け止められてしまう。どれだけ力を込めようとびくりともしない。

 

「こんな陳腐な武器で私を倒そうなど、全くの身の程知らずですね」

 

 パラレインは左手を離した瞬間、右の拳を食らわせて吹き飛ばすと、別のカードを取り出した。

 黄色い「χ」の文字に無数の手が伸びている様子を収めた写真が添付されており、下部には「No.022 ELECTED KAIXA」と書かれている。

 

 端末を取り出してカードを挿し込む。

 

『"KAIXA" LOADING』

 

 電源ボタンを押し、端末をドライバーへと装填した。

 

『Here we go!』

 

 蝙蝠と発動機の力を使う戦士の姿から、別の戦士の姿へと変貌を遂げる。

 だがやはり体色は原典のものではなく、変身者本人特有の黒と赤になっている。

 

『MIMIC! Transform, Pick, Dead or alive! You want to be dead, don’t you? ELECTED KAIXA! I don’t like who doesn’t like me.』

 

 仮面ライダーパラレイン カイザシェープである。

 

『RIDER BEET』

 

 ヘラクスが腕輪を操作して、斧にエネルギーを溜めていく。

 それを見たパラレインもドライバーのプレートを押し込んだ。

 

『Are you ready?』

 

 端末を押し込む。

 

『OKAY. "KAIXA" MIMICKING STRIKE!』

 

 ヘラクスが向かって来る。一歩近付く度に足が速くなっていく。

 

 だが足が突然止まった。

 突如として全身が動かなくなり、前を見ると自身の前に大きな黄色い三角錐が現れている。

 

 そして跳び上がったパラレインが両足を突き出し、その中へと入ると、姿が消えていつの間にかヘラクスの背後へと着地をした。

 

 その瞬間、断末魔を上げる暇も無く、ヘラクスの身体が灰のような粉末状になっていく。サラサラと音を立てて消え、その中から1枚のカードが姿を現した。

 

 最後に彼奴の目線が向けられたのは、倉庫の壁にもたれかかっているコーカサスであった。

 何か特定の素振りを見せることは無かったのだが、突如としてコーカサスはハイパーゼクターのボタンを押した。

 

『HYPER CLOCK UP』

 

 誰にも知覚出来ないスピードで拳や蹴りを食らわせる。ケタロスやヘラクス以上の手数を使っているにも関わらず、少しだけ体が揺らぐだけに過ぎない。

 

 するとパラレインはさらに1枚のカードを取り出した。

 ビルの灯りが映えさせる夜の高速道路の上を、黒いスポーツカーが爆走している様子が描かれており、下部には「No.124 FIRST PROTODRIVE」と白く印字されている。

 

 そのカードを端末に装填した。

 

『"PROTODRIVE" LOADING』

 

 電源ボタンを押して、ドライバーに挿し込んだ。

 

『Here we go!』

 

 また全く別のものに変わっていく。黒い体色はそのままで良いのだが、さらに赤色の線がまだらに入っている。

 

『MIMIC! Wake up, Running, Knock down! Start your engine! FIRST PROTODRIVE! You don’t need to know my name because you’ll be knocked down by me.』

 

 仮面ライダーパラレイン プロトドライブシェープに変身を終えた彼奴は、なんとコーカサスが正面から繰り出そうとした右手を避けて、さらにやってきた彼の左手を右手で受け止めた。

 

 一瞬コーカサスの動きが止まる。自身について来られる者がまた現れたことに、きっと驚愕をしているのだろう。

 

 だが戸惑っている時間は無い。今目の前にいる敵を粉砕しなければ、自身がやられるだけだ。

 

 コーカサスは敢えて後退をし、ハイパーゼクターの角を曲げて戻した。

 

『MAXIMUM RIDER POWER』

 

 さらに腕輪を操作した。

 

『RIDER BEET』

 

 腕輪から金色の電流に似たエネルギーが流れ、角を伝って右脚に溜める。

 

 だが準備を進めるのは彼だけではない。

 パラレインもプレートを押し込んだ。

 

『Are you ready?』

 

 さらに端末を下の方へと押し込んだ。

 

『OKAY. "PROTODRIVE" MIMICKING STRIKE!』

 

 右足に黒色と紫色のエネルギーが溜まっていく。

 まだだ、まだだ、とじっと標的をじっと見据えた。

 

 そしてここぞというタイミングですごいスピードで走り出す。コーカサスにかなり近付いたところで跳び上がり、力を溜め込んだ右足を食らわせようとする。

 コーカサスもその場で右足を上げて、彼奴のキックに対抗しようとする。

 

 右足同士がぶつかったことで爆発が起こり、今の段階で動けている二人の姿は見えなくなった。

 

 

 

 

 

 春樹たち気が付いた時には、目の前で爆発が起こっていた。

 先程までコーカサスがパラレインを襲って、彼奴が姿を変えたところでいきなり爆発が起こったのだ。突然のことに驚く間も与えられない。

 

 爆発が終わったところで視界に入ったのは、元の姿に戻ったパラレインが1枚のカードを見つめている光景であった。

 そこに一切、金色の戦士がいないことが全てを物語っている。

 

「次は、貴女方ですかね」

 

 パラレインの視線が向かったのは、春樹たちからかなり離れたところにいる花奈とデネブであった。

 彼奴が一体何をしようとしているのか、全員察することが出来た。

 

「逃げろ花奈っ!」

 

 八雲がすぐさま花奈の元へと向かって走り始める。

 

 すると、

 

「来ないでっ!」

 

 彼女の声で足が止まった。

 

「私がケリをつけるから……。お願いだから来ないで……!」

「けど……これ以上お前にチケットを使わせたくないんだよっ!」

 

 花奈の元に向かおうとした八雲だったが、突如として大量のソルダートが出現して行手を阻んだ。どうやらパラレインが出現させたらしい。

 一刻も早く進むために、変身をして武器をとって兵士たちに立ち向かい始める。

 

 彼の様子を見つめる花奈を、デネブが心配そうに見る。

 もうカードは2枚しか使えない。下手をすれば、最後になるのかもしれない。

 

「花奈ちゃん……!」

「……分かってる。デネブ……行くよ」

「……了解……!」

 

 ベルトを巻いてレバーを操作する。

 待機音声が流れる中で、緑色の筋が入った右手でチケットをゆっくりと取り出す。

 そして目を瞑って暫く間を置き、目を開いて言い放った。

 

「……変身……!」

『Charge and up』

 

 赤色の戦士、ゼロノスへと姿を変えた花奈は大剣を組み立てて怪人の方に向かって行く。

 足元は少しだけふらついているが、そのスピードに代わりは無い。

 

「「ハァァッ!」」

 

 ゼロガッシャーを振り下ろしたゼロノスと、右の拳を繰り出したデネブ。

 だがパラレインは右手で刃を、左手で拳を受け止めた。

 彼奴にとっては全く力を入れていないつもりなのだろうが、二人は全く動くことが出来ない。

 

 ゼロノスは握った剣を離し、横から蹴りを入れる。その衝撃で大剣と拳を離したパラレインに対し、ゼロノスとデネブがパンチを食らわせた。

 さらにゼロノスは地面に落ちたゼロガッシャーを握り、横文字に斬りつけた。

 

 後ろに引き下がるパラレイン。

 好機に違いないと睨んだ二人は彼奴の元へと走って行く。

 だが、

 

「……ッ! アッ……!」

 

 もう限界が近づいてしまったのか。

 ゼロノスがその場に倒れ込んでしまったため、デネブ独りでパラレインに立ち向かうことになる。

 

 人差し指から銃弾を放ちながら走る彼は、再び右手で一発お見舞いする。その拳は真っ直ぐとパラレインに命中した。

 

 

 

 すると、

 

「君は、確かカードでその自我を保っているんですよね。でしたら、こうしましょう」

 

 パラレインは()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!?」

「デネブっ!」

 

 彼の体の中で何かを探す。

 そしてお目当ての物は見つけたようなのでゆっくりと左手を引き抜く。

 彼奴の手の中に握られていたのは4枚のカードであった。デネブの特殊能力や、意思そのものを司るものである。

 

 それがもし抜かれたのなら、その結果は想像に難くない。

 デネブはまるで抜け殻になったかのように力を抜き、その場で倒れ込んで動かなくなった。

 

 彼は、ただのガラクタ同然に成り下がったのだ。

 

「さて、もうそろそろ切り上げましょうか」

 

 ようやく起き上がることの出来たゼロノスに視線を合わせたパラレインは、自身のドライバーのプレートを押し込んだ。

 

『Are you ready?』

 

 さらに端末を押し込んだ。

 

『OKAY. "PARA-REIGN" ALLEGORICAL STRIKE!』

 

 パラレインの体が少しだけ浮かび、赤いオーラを纏いながらゆっくりと進んで行く。地面では彼奴が進むルートに赤色の紋様が浮かび上がって、ゼロノスの元へと伸びている。ゼロノスの足の上にある紋様はどうやら彼女の動きを封じるためのものであり、その場から立ち尽くしたまま一切の身動きが取れなくなってしまった。

 

 そしてゼロノスの前に来ると、パラレインは地面に降り立ち、右足で彼女の腹部に強烈な一撃を食らわせた。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!」

 

 後ろに吹き飛ばされるゼロノス。

 倒れ込んだところで変身が解除されてしまった。

 

「! 花奈っ!」

 

 ソルダートたちをようやく一掃出来た八雲が変身を解いて彼女の元へと駆け寄り、上体を抱き抱えて起こす。

 

 見ると彼女の身体を蝕んでいた緑の筋は完全に行き渡っており、顔からは血の気が無くなっている。目の焦点は完全に合っておらず、八雲のところを奇跡的に向いているに過ぎなかった。

 

「おい! しっかりしろっ!」

「……ごめん。もっと貴方の(そば)にいたかったけど、もう無理ね……」

 

 今にも消えてしまいそうな声が聞こえてくる。

 同時に彼女の身体は徐々に緑色の塵のようになっていき、やっとのことで原型を留めているようにしか感じられなかった。

 

「やめろ……やめてくれ……」

 

 目の前にある光景を受け入れたくない八雲。

 花奈を揺さぶろうとしたが、壊れてしまいそうになった彼女を守るために、ただじっと抱きしめるだけだ。

 

「……最後だから、いつも私が言えなかったこと、言っておくね……」

 

 花奈が八雲の左の耳元に口を近づける。

 その顔は今まで見せたことの無いほどの笑顔であったが、八雲が確認することは出来ない。

 

 そして一言、ただ一言を呟いた。

 

 

 

 

 

「愛してる」

 

 次の瞬間、八雲の体に緑色の塵が大量に降ってきた。同時にそれまで両腕にあった重さが急に無くなってしまう。

 

 ただ手の中にある塵を見つめる八雲。自分でも恐ろしいくらいに冷静に、だ。

 隙間からそれを落としながら拳を握り締め、目の前にいる怪人に今度は目線を向けた。

 

 そしてゆっくりと立ち上がり──

 

「あああああああああっ!」

 

 変身を遂げて、自身らを眺めていた者へ走り出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常37体

B群8体

合計45体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What did she want to tell to him?

A: "I love you."




【参考】
幻想世界13ヵ国語ネーミング辞典
(コズミック出版, ネーミング委員会編, 2019年)
仮面ライダービルド - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e4%bb%ae%e9%9d%a2%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%83%80%e3%83%bc%e3%83%93%e3%83%ab%e3%83%89)
草下雅人|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/characters/949)
仮面ライダープロトドライブ|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/kamen_rider_members/107)
劇場版 仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVE - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e5%8a%87%e5%a0%b4%e7%89%88_%e4%bb%ae%e9%9d%a2%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%83%80%e3%83%bc%e3%82%ab%e3%83%96%e3%83%88_GOD_SPEED_LOVE)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 24 奪取(CAPTURE)
Question070 What cards did they use?


第70話です。
今回はかなり短いです。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
ソナーポケット - GIRIGIRI

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.04.01 11:09 東京都 江東区

 ネクスパイに変身をした八雲が走って行き、パラレインに殴りかかる。だが至って冷静な彼奴は軽々と攻撃を避けられてしまう。

 インディペンデントショッカー スタンガンモードの電極を当てようと何度も試みるが、武器を左手で掴まれ、これ以上の進撃が出来なくなってしまう。

 

「そんなに熱くなってはいけませんよ」

五月蝿(うるさ)いっ! お前だけは……お前だけは絶対に許さねぇっ!」

 

 パラレインの手の中からスタンガンをぶん取り、振り回して電極を当てた。両肩や胸部、頭部に当てたのだが、全く手応えを感じられない。

 

 彼奴がニヤリと笑ったような気がした瞬間、ネクスパイは胸部を右手で殴られ、吹き飛ばされてしまった。

 

「ガァッ!」

 

 転がり込んだ八雲は変身を強制的に解除されて、うつ伏せの状態から動けなくなってしまう。

 そんな彼にパラレインは一歩ずつゆっくりと足を進めて行く。けれども全く体が動かないために、どうしようもない。

 

 その時、

 

「「変身!」」

『『Here we go!』』

 

 後ろからリベードンアクトが現れ、左足で回し蹴りを食らわせようとする。その攻撃は確かに当たり、パラレインは横に飛ばされる。

 さらに攻撃を食らわせるために、リベードンアクトは彼奴の目にも留まらぬスピードで動き始め、何発、何十発、何百発ものパンチやキックをお見舞いした。そして締めに右の拳を食らわせた。

 

「「ハァッ!」」

「!」

 

 後退をするパラレイン。そこへまた攻撃をしようと試みた。

 

 するとパラレインは彼らに対し、左手を出した。言うなれば「止めろ」という意味のジェスチャーである。

 そんなものなど今の自分たちに通用する筈ないのだが、何故か動きが止まってしまう。

 

「今ここで争っても意味はありません。私は一旦失礼します」

 

 次の瞬間、そこにいる筈のパラレインの姿が突然消えた。

 動けるようになったリベードンアクトが辺りを見渡すが、何処にも姿が見えない。

 

「逃げたか……」

「そうだね……」

 

 呟く春樹と碧。

 

 その後ろで、うつ伏せになった八雲は拳を床に叩きつけた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.04.10 08:40 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

『えー今日から、新学期が始まります。年度の始めというのは出会いの場でありまして──』

 

 パソコンの画面では始業式用の映像が表示されている。今は校長が始業に際しての言葉を話しているところであった。

 

 それをあまねは自室の中で観ていた。

 だが彼女にとってはそれどころではない。同じ画面を観ている筈の、()がログインをしていないのだ。

 本来であれば、一緒にこの画面を観ている筈であったのに──。

 

 あまねは画面の共有を切って、こっそりと透明なピンク色のコップの中に入った水を飲む。

 水そのものの仄かな甘みを感じる筈であったのに、彼女の舌には緩い液体が触れる感覚があるだけで、味気など感じることは無かった。

 

 

 

 

 

2022.04.10 09:23 東京都 新宿区 SOUP

「そういえば八雲さんはどうしたんですか?」

 

 深月が全員に訊いた。

 始業時間になっても、八雲の姿が見えないのだ。

 

「というより、ここ最近来ていませんよね?」

 

 圭吾も続ける。

 

「……彼なら、先週から休みにしている」

 

 森田が静かに言った。

 

「もう壊れたんだよ……アイツは……」

 

 春樹も静かに言葉を放った。

 二人の表情が暗くなっているために、深月や圭吾、薫も察して表情を険しくする。

 

 彼らは気が付かれないように碧の方を見た。

 これまでの碧とは比べ物にならない程に暗い表情をしていた。そして顔をデスクにつけ、そのまま固まってしまう。

 

 誰も何も彼女に言わない。

 ただ見守ることしか出来なかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 いつもの暗い空間の中で、日菜太とアールが向かい合った状態で椅子に座っていた。後ろの方ではフロワとピカロが彼らのことを見守っている。

 

「では、始めましょうか」

 

 アールはメモリアルブックを取り出して開き、カードを何枚か取り出してスロットに挿し込もうとした。

 だが、

 

「それは少し待っていただけませんか」

 

 日菜太が直前で止めた。

 

「どうしてです? 今やっておけば──」

「解っています。けど、やりたいことがあるんです。それをやり終わってからでも、私が完全になることは遅くない筈ですよね?」

 

 彼の発言は絶対だ。

 アールは何も言うことが出来ず、メモリアルブックを仕舞った。

 

「フロワ、ピカロ。カードの回収を頼みます」

「はい」

「……」

 

 フロワとピカロが後ろの方へと歩き始めた。

 

「あのさ」

 

 暫くしてピカロがフロワに話しかけた。

 

「? 何?」

「お姉ちゃんはどうして、あんなヤツに協力するの? 僕たちの世界を壊した張本人なのに」

 

 するとフロワは彼に笑顔を向けた。

 

「分かっているわよ。けどね、もう私はあのお方の虜なの」

 

 そう言う彼女の表情はいつもの妖艶な表情ではない。まるで恋する乙女のように見えた。

 そんな彼女の顔を見て、ピカロは左の拳に力を込めて握り締めた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.04.10 14:29 東京都 文京区 本駒込公園

 公園の敷地の一つであるテニスコートの中で、春樹と碧、フロワとピカロが向かい合っていた。ネットこそ無いが、丁度そこから陣地が分かれている。

 ソルダートが現れたために向かってみたら、彼らがいたのだ。

 

「どうして呼び出したの?」

「くだらない用だったら帰るからな」

 

「くだらなくなんてないよぉ」

「貴方たちのカードを貰いに来たの」

 

 フロワの言葉に春樹と碧は身構える。

 その間に、フロワとピカロは腕輪を操作して戦闘態勢に入った。

 

「「変身!」」

『Here we go!』

 

 ピアーズに変身をした二人。

 

 それを見た春樹と碧も、端末を取り出して同じように臨戦態勢になった。

 

「「変身!」」

『『Here we go!』』

 

 変身を遂げた春樹と碧。

 

 各々が武器を取り出し、そして走り出して行った。

 

 リベードの剣とピアAの剣同士がぶつかり合う。一度離してピアAが剣を優雅に振り回す。それをリベードは回転をして次々と避け流していく。

 そして止まったところでリベードが振り向くと、アクトが彼女の剣を蹴り飛ばしてジャンプし、落下する勢いを利用してピアAに斬りかかった。

 

「ハァァッ!」

 

 だが横からピアBが来てピアAの前に立つと、アクトの攻撃を同じ剣で防ぎ、一瞬の隙をついてピアAは剣を銃の形状へと変形させて、横から銃弾を腹部に発射した。

 

「ッ!」

 

 アクトが後退をしたところがチャンスだと感じたピアーズの二人は、ピアBが剣でアクトとリベードに斬りつけ、その後ろからピアAが援護するという形をとった。

 俊敏な動きと後ろからの射撃で繰り出される攻撃に、同じくらいに素早く動くことの出来るアクトとリベードも彼のペースに飲まれてしまう。

 二人はピアーズの斬撃と銃撃に、後ろに吹き飛ばされてしまった。

 

「「ガァッ!」」

 

 後ろの方で倒れ込んだアクトとリベードは、標的を見据えながら次の策を考える。

 

「ヤバい。コイツらかなり強いの忘れてた」

「どうするの? また合体する?」

 

 そう言ったリベードであったが、それはあまりしたくなかった。

 リベードンアクトに変身することは、心身共にダメージが加わる。先週のように連続で使った後では、満身創痍に近い状態になるのがオチだ。なのであれはあくまでも最終手段にしようと決めたのがつい最近の話であった。

 

「いや。別のカードを使おう」

「そうね……。折角だし、全然使ったこと無いカードにしない?」

 

 リベードの提案を受けたアクトは彼女と共に立ち上がると、それぞれ1枚ずつ別のカードを取り出した。

 アクトの持つカードには紫色の「J」の文字が大きく描かれており、下部には「No.084 INVESTIGATE JOKER」と書かれている。

 一方のリベードのカードには同じように、緑色の「C」の文字が大きく描かれており、「No.083 SEARCHING CYCLONE」と印字されている。

 

 トランスフォンを取り出して、カードをスロットに装填した。

 

『"JOKER" LOADING』

『"CYCLONE" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、ゲートからWのカードを使った時に出てくるものと全く同じオブジェが出現した。だがアクトの両端には紫色の、リベードの両端には緑色のものが置かれていく。

 

 端末をドライバーに挿し込んだ。

 

『『Here we go!』』

 

 オブジェが分解されて鎧となり、二人に装着されていく。

 完成した姿はやはりWのカードを使った際と形状は変わらないのだが、完全なる色違いとなっている。

 

『Lost, Found, The phone rings! We’re two as one! INVESTIGATE JOKER! Can you give half of your hand?』

『Drop, Store, Investigate! We’re two as one! SEARCHING CYCLONE! Do you have courage to carpool with me devil?』

 

 仮面ライダーアクト ジョーカーシェープ。

 仮面ライダーリベード サイクロンシェープ。

 

 二人で一人の戦士の力を、個別に使用するための姿である。

 

 更なる変身を遂げた二人は、標的に再度狙いをつけ、体勢を低くして言葉を放つと、彼らに向かって走り出した。

 

 

 

「「READY……GO!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

What cards did they use?

They used cards which contain force of detectives.




もうすぐで碧推し発狂回だーっ。



【参考】
東京の過去の天気 2022年4月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220400/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question071 What did they use to fight with it?

第68話です。
碧推しのための回その1です。
書いていたら坂本監督が作りそうな回になりました。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになりますので、どうぞ宜しくお願いします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.04.10 14:32 東京都 文京区 本駒込公園

「「READY……GO!」」

 

 銃を持ったアクトと剣を持ったリベードがピアーズへと向かって行く。

 

 ピアAが狙いをリベードに向けて連続で銃弾を発射する。

 それをリベードは真っ二つにしながら彼女の元へと走り、ピアAに横文字に斬りかかった。

 勿論、その程度の攻撃であればピアAは優に避けられる。だがリベードが剣を振るった瞬間に強風が起きたために怯み、その隙にリベードに斬りつけられた。

 

「ッ!」

 

 さらにリベードは連続で回し蹴りを繰り出す。風を纏った攻撃は素早く、最早ピアAが避けられるスピードではなくなっている。

 そして剣を持った右手でピアAを殴りつけて後退させた。

 

「ハァッ!」

「グッ……!」

 

 一方、ピアBが振り回す剣をアクトは避け流していた。

 ピアBが剣で突いてきたところを、アクトは銃を持った右手で払い、右足で腹部を蹴った。衝撃で剣が落ちたところに、アクトは銃弾を発射する。防ぎようの無い攻撃にピアBは後退してしまった。

 

「ッ……!」

 

 それでもピアBが再びアクトの方へと向かって行ってジャンプをし、宙空で何度もキックを繰り出した。容赦無い攻撃の応酬にアクトは両腕を使ってなんとか防ぐ。

 そしてピアBは着地をし、右手でパンチを繰り出した。

 だがアクトは彼のパンチを左手で受け止めながら引き寄せ、体勢を崩したピアBを左足で蹴り飛ばした。

 

「ガッ……!」

 

 それぞれ合流するアクトとリベード、ピアーズ。

 

 アクトとリベードは端末を取り出し、各々の武器にかざした。

 同時にピアーズはインディペンデントショッカー マグナムモードを取り出すと、ピアAは腕輪を操作した。

 

『『『Are you ready?』』』

『Get ready to do deathblow.』

 

 アクトとリベードは端末をドライバーに再び装填し、ピアAはダイヤルを押し込んだ。

 

『OKAY. "JOKER" CONNECTION SHOT!』

『OKAY. "CYCLONE" CONNECTION SLASH!』

『OKAY. "PEERs" DISPEL BREAK!』

 

 アクトの銃の銃口に紫色のエネルギーが溜まり、リベードの剣にも緑色のエネルギーが風のように纏われていく。ピアーズの銃の銃口にはそれぞれ体色と同じ、ピンク色と水色のエネルギーが付いてくる。

 

 そして、

 

「「「「ハァァァッ!」」」」

 

 アクトのエネルギー弾、リベードの斬撃、ピアーズの弾丸がぶつかり合い、爆発と強風が起こった。

 

 二つが止んだところで前方を確認すると、いつの間にかピアーズ二人の姿は無かった。

 

 変身を解除した二人は、何かに気が付いた。

 テニスコートを覆う鉄格子に何か紙が貼り付けられているのだ。気が付かないような大きさであったがために、たまたま付いたごみとしても良かったのだが、何故だか気になってしまい、その方へと行って中身を確認する。

 それは大きなピンク色の付箋であった。書かれていたのは──

 

 明日、私たちのご主人様が来ます

 

 いよいよ彼奴が来る。

 春樹と碧はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.04.10 19:30 東京都 中野区 トキワヒルズA 602号室

「お兄ちゃん……」

 

 ドアがゆっくりと開いた。

 灯りが一切点けられていない部屋の中に、碧は入って行く。両手に持たれているプレートの上には、白色の器の中に入ったカレーライスが置かれている。今日の椎名家の夕飯だ。

 

 スパイスの香ばしい香りが部屋中に漂ったとしても、八雲は姿を見せない。もしかしたら目の前にいるのかも分からないが、この暗さでは何処にいるのか全く判らなかった。

 

「カレー作ったから、良かったら食べてね……」

 

 なんとかテーブルを見つけてその上にプレートを置く。

 碧は暫くその場所で立ち尽くした後、なるべく物音を立てないように部屋を出た。

 

 

 

 

 

2022.04.10 21:57 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 春樹はもうパジャマに着替えて、寝室で寝ていた。

 いつもは23時頃に寝るのだが、明日は彼奴が来る。最大限の力を発揮するためにもう就寝することが得策だと考えたのだ。

 

 そしてベッドの上で横になっている彼は、そろそろ意識が無くなりそうになった。

 

 

 

 その時だった。

 

 自身に何か重いものがのしかかってくる感覚が襲ってきた。

 

 一体何が起きたのか分からず、自身の前を見るとそこには──

 

「……碧?」

 

 碧が春樹の上にいた。

 膝立ちの状態の碧の格好は赤色のベビードールである。目線の位置が丁度良いところにあったために、下に履いてある白いショーツがはっきりと見えってしまう。

 

 なんとも言えない表情を浮かべる碧は、後ろで後ろ髪を結んでいる黒いヘアゴムを外し、長い髪の毛を解放した。

 髪を解くことはいつも寝る時にすることなのだが、この状況でそれをすることは、ただ一つの行為を求める動作であった。

 

「ちょっ……明日早いから……」

「……春樹……」

 

 腰を前後に動かす碧。丁度互いの部分が触れ合っているがために、信じられないような量の欲求に駆られたが、それをなんとか理性で抑えつけた。

 そして春樹は上体を起こし、碧をそっと抱き締めた。何も言わない。何もせずにただ抱き締めていた。

 

 その瞬間、碧は静かに大粒の涙を流し始めた。春樹の左肩に顔を埋め、泣き声を上げる。

 

「嫌だよ……。お兄ちゃんがあんな感じになっちゃって……もしかしたら、春樹も私の前から消えちゃうんじゃないかって……」

 

 碧を抱き締める春樹の腕の強さが上がっていく。けれども潰すように強くするわけではなく、もっと包み込めるように。

 

「……大丈夫。俺は絶対に、何があっても離れない。だから……もう泣かないでくれ……」

 

 大きく頷く碧。

 

 涙が収まったところで、碧は春樹から離れて互いの目を見つめ合った。

 そこでいきなり、碧は自身の起こした行動に恥ずかしさを覚えて顔を赤らめてしまう。

 

「ご、ごめん! 私何してたんだろう。明日で全部終わるかもしれないのに……」

 

 碧の言葉で春樹はハッとする。

 そうだ。もしかしたら明日で全てが決まるかもしれない。言わば明日は決戦の日なのだ。彼女が不安に駆られてしまうのも無理はない。

 

 すると春樹は突然碧の唇に、自身の唇を重ねた。

 最初にこの状況を作り出した本人が驚く中、春樹はただ静かに口と口とを合わせ、暫くしてから離した。

 

「……続きは、明日にしないか?」

「……うん!」

 

 そして二人は、互いを抱き締め合いながら、深い眠りについた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.04.10 18:09 東京都 中央区

 決戦の地は、海沿いの埋立地の一つである大きな空き地だった。

 そこで春樹と碧、日菜太が睨み合っている。

 

「今日は、皆さんがお持ちのカードを全ていただきに参りました」

 

 トップが自らやって来た。それは向こう側も本気だという証であった。

 

「そんなこと、絶対させないから」

「ああ。……いくぞ」

 

 春樹と碧がトランスフォンを取り出し、カードをかざす。

 

『『ACT DRIVER』』

 

 二人の腹部にドライバーが装着されたのを見た日菜太も、自身の端末にカードをかざしてドライバーを出現させた。

 

『PARA-REIGN DRIVER』

 

 三人は端末にカードを装填する。

 

『"DECADE" LOADING』

『"ZI-O" LOADING』

『"PARA-REIGN" LOADING』

 

 電源ボタンを押した後、ポーズを決めて叫び端末を挿し込んだ。

 

「「「変身!」」」

『『『Here we go!』』』

 

 異形のものへと姿が変わっていく。

 アクトとリベードに変身をした春樹と碧を見た時、パラレインは首を傾げた。

 

「何故、その姿なんですか?」

「合体するとな、疲れるんだよ」

「うん。だから、それ以外使えるカード全てを使って、貴方を倒す……!」

「そうですか……。やってみてください」

 

 彼奴から与えられた挑発に敢えて乗ることにしたアクトとリベードは走り出し、アクトは左の拳を、リベードは右の拳を食らわせよとした。

 だがパラレインによって軽々と受け止められてしまう。

 

 今度は空いている反対側の掌で彼奴の腹部を押し、強制的に手を離させた。

 さらにパンチやキックを連続で繰り出す。反撃が出来ない程に攻撃をした後、一気に蹴り飛ばそうとした。

 

「「ハァァッ!」」

 

 けれどもパラレインは彼らの足を両腕で下に落とし、胸部を両手で押して後ろに吹き飛ばした。

 

「「グッ……!」」

 

 実力差は圧倒的である。

 だが確かな手応えを感じたのも事実であった。

 

 するとアクトとリベードは別のカードを取り出した。

 アクトのものはオレンジ色のロケットを眺める宇宙飛行士が描かれたもので、下部には「No.090 SWITCHING FOURZE」と印字されている。

 リベードのものには少年の絵の後ろに色とりどりの四つのもやがかかっている様子が描かれており、「No.061 DEPENDANCE DEN-O」と書かれている。

 

 端末を取り出してカードを抜き出し、新しいカードを挿し込んだ。

 

『"FOURZE" LOADING』

『"DEN-O" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと鎧が解け、ゲートから白いロケットと赤色の電車が飛び出して来た。ロケットは炎とけたたましい音を出しながら飛行し、電車は汽笛を鳴らしてリベードの周りを走る。

 

 その中で二人は端末を装填した。

 

『『Here we go!』』

 

 ロケットと電車が分解され、鎧として二人に装着されていく。

 

 アクトには白い鎧が着けられ、頭部にはロケットの先のように鋭くも丸みのあるパーツがある。

 リベードには赤色の鎧が装着され、本来の複眼の上から被された赤い複眼はまるで桃のような形である。

 

『Learning, Doing, Take a space flight! I am in the space! SWITCHING FOURZE! Let’s have a one-on-one battle with me.』

『Possession, Visiting, Move through time! I’ll go go go! DEPENDANCE DEN-O! I do become climax all time.』

 

 仮面ライダーアクト フォーゼシェープと、仮面ライダーリベード 電王シェープが誕生した。

 

『DISPEL CRASHER』

 

 リベードがディスペルクラッシャー ソードモードを取り出した瞬間、二人は再度走り出して行った。

 正確に言えばアクトだけは走ったのではなく、浮いたのだ。背中の装置を使って足を浮かせながら迫って行く。

 

 リベードの握る剣が正面からパラレインの体に斬りつけていき、浮いているアクトが次々と蹴りを繰り出していく。

 

 リベードがパラレインと対峙をする中で、アクトは2枚のカードをドライバーに挿さっている端末にかざした。

 

『"ROCKET" ON』

『"DRILL" ON』

 

 その瞬間、大きなオレンジ色のロケットの形をした装置が右腕に、左脚には大きなドリルが装着される。

 

 それを確認したリベードはパラレインが剣による攻撃で後ずさったところで、アクトと共にドライバーのプレートに触れる。

 

『『Are you ready?』』

 

 端末を押し込んだ。

 

『OKAY. "FOURZE" DISPEL STRIKE!』

『OKAY. "DEN-O" DISPLE STRIKE!』

 

 リベードの上に赤色の刃が現れ、彼女が自身の剣を左、右に動かす度に刃がパラレインを攻撃する。

 

「「ハァァァッ!」」

 

 そしてリベードが剣を振り下ろした瞬間、赤い刃と共に、アクトがドリルの着いた左足で、ロケットの勢いによって威力が倍増したキックを食らわせた。

 

「!」

 

 後退するパラレイン。

 

 二人は続けてカードを取り出した。

 銀色のメダルの雨の中を、赤い鷹、黄色い虎、緑色の飛蝗が駆け抜けて行く様子に、「No.085 AVARICE OOO」の文字が書かれたカードを持つアクト。

 一本のバイオリンの周りを無数の蝙蝠が飛んでおり、その上から数本の鎖がその様子を隠している絵と、「No.068 PLAYER KIVA」の文字があるカードを持つリベード。

 

 それぞれが取り出した端末のスロットに挿し込んだ。

 

『"OOO" LOADING』

『"KIVA" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、解けた鎧の代わりにゲートが出現し、そこから別のものが出現する。

 黄色い蝙蝠に、上から赤色、黄色、緑色の模様が入った丸いオブジェだ。

 

 端末をドライバーに挿し込んだ。

 

『『Here we go!』』

 

 二人の体に鎧が着けられる。

 

 アクトに着けられたものは、両脚にある緑色のパーツ、両腕に着いた黄色の鋭い鉤爪、頭部に装着された鷹を模した赤い仮面、そして両肩にある黒いパーツに、先程のオブジェと同じ模様をした胸部のアーマーだ。

 

 リベードには黄色と黒色の鎧が全身に着けられていて、頭部には同じく黄色い複眼が元のものの上から被さっている。さらに右脚にある銀色のパーツは鎖で固定されていた。

 

『Coin, Alchemy, Sovereign! I will transform! AVARICE OOO! human life is more important than getting medals.』

『Hearing, Playing, Wake up my sir! I’ll follow my heart’s voice! PLAYER KIVA! Break the chain of your destiny.』

 

 オーズシェープに変身をしたアクトと、キバシェープに変身をしたリベードがパラレインに向かって行く。

 

 アクトは両脚に着けられたパーツを使ってジャンプをすると、脚力が何倍にも強化されているために、一気にパラレインの目の前まで移動出来た。そして両腕に着いた鉤爪で何度も引っ掻く。

 

 怯んだところでアクトはパラレインを両脚で蹴り飛ばし、勢いそのままに一回転をして後方に着地した。

 

「フッ……!」

 

 吹き飛ばされたパラレイン。

 けれどもこれで終わりではなかった。

 

 後ろにはリベードが待ち構えていたのだ。しかも逆立ちの状態で。

 そのまま両足でキックを連続で繰り出し、足を下ろして起き上がるタイミングで右手に逆手持ちしている剣で斬りつけた。

 

「ハァッ!」

 

 

 

「効いている……? ただのメモリアルカードなのに?」

 

 少し離れた遊撃車の中でパソコンの画面を見ていた深月が呟いた。

 確かに、あのパラレインにただのメモリアルカードを使った攻撃が効いていることなど、信じられないだろう。

 

「お二人が使っているのって何か特別なやつでしたっけ?」

 

 薫が圭吾に訊く。

 

「いや、至って普通のものですけど……」

「……とにかく、今は奴を倒してくれればなんでも良いけどな」

 

 森田の鶴の一声で、全員は再びモニターに集中することにした。

 

 

 

 後ずさった影響で、パラレインはアクトとリベードに挟まれる形となる。

 

 そこでまた別のカードを取り出した。

 アクトのものは、嘗て未確認生命体第四号と共に戦っていたゴウラムの体表に、大量のリント文字が書かれている絵が描かれており、下部には「No.001 BIGINNING KUUGA」と書かれている。

 リベードのものは、嵐の中で黄金の龍が純白の鳩を両手で掴んで頭部を食い千切る、なんともグロテスクな様子が描かれており、「No.002 EVOLUTION AGITO」と印字されている。

 

 そのカードを握った端末に装填した。

 

『"KUUGA" LOADING』

『"AGITO" LOADING』

 

 電源ボタンを押した瞬間にアーマーが解除され、上空に現れたゲートから赤色のゴウラムと金色の龍が現れた。

 ゴウラムはまるで何を言っているのか解らない言葉を、龍は激しい咆哮を放っている。

 

 端末をドライバーに挿し込んだ。

 

『『Here we go!』』

 

 二つが分解されて、二人に鎧として装着されていく。

 着けられたアーマー、角、クラッシャーの形状こそ違いは無いのだが、アクトは赤色、リベードは金色というように色が異なっている。

 

『A new hero, A new legend, A new story! Let’s start our era from zero. BEGINNING KUUGA! It’s gonna be alright.』

『With ground, With flame, With storm! Wake up your sprit! EVOLUTION AGITO! Nobody can steal someone’s future.』

 

 仮面ライダーアクト クウガシェープと、仮面ライダーリベード アギトシェープの誕生だ。

 

 パラレインはこの挟まれた状況は不味いと思い、横の方へと走り出す。それをアクトとリベードは追いかけた。

 立ち止まったところでパラレインは振り返り、アクトとリベードと激しい肉弾戦を始めた。

 

 アクトの出した拳を避けたとて、リベードが蹴りを入れてくる。それを受け止めたとしても、またアクトがパンチやキックを繰り出してくる。

 速度は然程速くないのだが、一撃一撃が重いために、徐々に抵抗する力を削がれていく。

 しかもその攻撃は全て自身の防御が行き届いていない場所へと的確に当たっているがために、最早防御など意味がなくなってしまう。

 

「「おりゃあああっ!」」

 

 ここで渾身の拳を二人が食らわせたことで、後ろの方へと吹き飛ばされた。

 

 ここでまた別のカードをアクトとリベードは取り出す。

 アクトが取り出したものは、紫色の鬼が森の中で太鼓を叩く様子が描かれたカードで、下部には「No.033 DRUMMING HIBIKI」と印字されている。

 リベードのものは、白いマネキンたちの間をパーカーの形をした黒い幽霊が浮遊している様子が描かれたカードで、「No.131 WEARING GHOST」と書かれている。

 

 そのカードをドライバーから取り外したトランスフォンに挿した。

 

『"HIBIKI" LOADING』

『"GHOST" LOADING』

 

 電源ボタンを押して鎧が解けた後に現れたのは、かなり奇抜なものたちだった。

 紫色の鬼はまだまともなもので、パーカーを模した黒い幽霊は空中を浮遊する度に、5つの黒いパーツと1つのオレンジ色のパーツが下から着いてくる。

 

 本来、こういう時にリベードが「何あれ!?」だとかリアクションを見せるのだが、今はそれどころではないため、迷わず端末を挿し込んだ。

 

『『Here we go!』』

 

 まずアクトに鬼が分離して出来た鎧が装着されていく。全身が紫色の鎧で覆われ、頭部には2本の角が付いた仮面が被さった。

 リベードには5つの黒いパーツが両腕、両脚、胸部に、オレンジ色のパーツが仮面として頭部に着けられる。そして肝心の幽霊はただのパーカーとなり、リベードは普通に羽織った。結果、フードによって頭部の顔面以外が隠れることとなる。

 

『Training, Exorcise, Make the music! It’s your amazing beat! DRUMMING HIBIKI! If it’s not enough to train, only to train.』

『Dying, Revive, Inherit! I believe myself! WEARING GHOST! I’ll burn my life.』

 

 仮面ライダーアクト 響鬼シェープに、仮面ライダーリベード ゴーストシェープが誕生した。

 

『ONGEKI-BO REKKA』

 

 アクトがカードを端末に読み込ませた瞬間、2本の赤色の棍棒──音撃棒 烈火が彼の両手に装備された。

 

 同時にパラレインがリベードに向かってパンチをお見舞いしようとする。

 するとリベードは突然宙空に浮き上がり後退することによって回避した。浮きながら移動をする度に黒いパーカーが仄かに流れる風によってはためく。

 

 代わりに棍棒を持ったアクトが走って行き、炎を纏った先でパラレインを叩いた。

 

「タァッ!」

 

 後ずさる彼奴に向かって、今度はリベードが宙空にて高速で回転を始めると、オレンジ色の竜巻が起こった。

 

「ハァァッ!」

 

 そこにパラレインは巻き込まれ、思いっきり吹き飛ばされる。

 

 きっとこれで自分たちが優勢になっている筈だ。

 

「碧、いくぞ……!」

「うん!」

 

 二人がトランスフォンを取り外すと、アクトはそれをクラックボックスにかざした。

 

『CONNECTING US』

 

 ドライバーのプレートが無くなり、代わりにクラックボックスが設置される。

 二人は目の前に出てきたカードを、トランスフォンのスロットに装填した。

 

『『"REVE-ED'N'ACT" LOADING』』

 

 電源ボタンを押した。

 

『『Let's "UNITE"!』』

 

 その瞬間、アクトとリベードは容器の中に閉じ込められ、全ての鎧が解除される。

 容器の中で、二人は端末をドライバーに挿し込んだ。

 

『『Here we go!』』

 

 素体の状態であったアクトは黒色のクラックシェープに姿を変えられる。そこに管を伝って来た液状のリベードが注入されると、体色が一気に変わって容器が粉々に砕け散った。

 

『Release all and unite us! We’re KAMEN RIDER REVE-ED’N’A-CT!! It’s just the two of us.』

 

 現れた仮面ライダーリベードンアクト。

 右手に持ったディスペルデストロイヤー チェーンソーモードを両手で構えると、パラレインの方をじっと見据えながら、中にいる春樹と碧がそっと呟いた。

 

 

 

「「……今日で、全部終わらせる……!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What did they use to fight with it?

A: Lots of cards which it needs.




え? まさかこれが発狂回だとは思っていませんよね……?
と思ったので、折角だし「碧推し発狂回カウンター」みたいなのを書いてみようと思います。

碧推し発狂回まで、後1話。



【参考】
東京の過去の天気 2022年4月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220400/)
日の出入り@東京(東京都)令和 4年(2022)04月 - 国立天文台暦計算室
(https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/dni/2022/s1304.html)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question072 What was its new strategy?

第72話です。
まさかの2日連続投稿です。
しかも、碧推し発狂回だーっ!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いします。



【イメージED】
フレン・E・ルスタリオ - フラクタル

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.04.10 18:15 東京都 中央区

「「……今日で、全部終わらせる……!」」

 

 もうすっかり陽は暮れた。暗がりの中を遠くにあるタンカーや走る車の光だけが照らしている。

 

 その中でリベードンアクトはディスペルデストロイヤー チェーンソーモードの刃を回転させ、パラレインに向かって行った。

 刃を避けられてしまうが、何度もパラレインに斬りかかる。

 そして振り下ろした瞬間、確かに彼奴に命中した。斬りつけられた場所から火花が散る。

 

 だがここで引き下がるパラレインではない。

 リベードンアクトが横文字にチェーンソーを振ったその時、ほんの一瞬の隙にガラ空きになった胸部に左手でパンチを食らわせた。

 怯んだ隙に右足で左肩に回し蹴りを入れ、左、右の順番で拳をお見舞いする。さらに右手で顔面を殴りつけて後退させた。

 

「「グッ……!」」

 

 そこへパラレインがまた左の拳を食らわせようとした。

 だがリベードンアクトが縦にチェーンソーを振り下ろしたことで、それを受け止めることとなってしまう。

 

「かなり接戦となっていますが、覚えていますか? もしも今私を倒せば、私が身体(からだ)を借りている彼も死にますよ」

「「……それなら、もう対策してある」」

「?」

 

 戸惑うパラレインを左足で蹴り飛ばしたリベードンアクトは、チェーンソーのスロットに1枚ずつカードを装填していく。

 

『"ACT" LOADING』

『"REVE-ED" LOADING』

『"AGITO" LOADING』

『"EX-AID" LOADING』

 

 チェーンソーの刃に緑、青、黄金、ピンクの色をしたオーラが纏われ、ものすごい勢いでチェーンが回転を始めた。

 

「成程。カードの力で私と彼を分離しようとするわけですか……」

 

 そう。これが春樹と碧の作戦であった。

 エグゼイドのカードには物と物とを分離する働きがある。その力を使って、パラレインと日菜太を分離しようとしているのだ。

 もしも今分離をするとどうなるのか全く見当がつかないが、そうしなければ前に進むことが出来ない。

 

「──でしたら、こちらも受けて立ちましょう……!」

『Are you ready?』

 

 パラレインがドライバーのプレートを押し込むと、彼奴の立っている場所に赤色の紋様が現れた。右手には黒いオーラが纏わりつき、禍々しく歪んで見える。

 

 互いに睨み合う二人。

 リベードンアクトは引き金を引き、パラレインは端末を押し込んだ。

 

『QUADRUPLE SLASH!』

『OKAY. "PARA-REIGN" ALLEGORICAL STRIKE!』

 

「「ハァァァァァァッ!」」

 

 2人の異形の者が走り出し、リベードンアクトのチェーンソーの刃と、パラレインの右の拳が激突し始めた。

 ぶつかり合うエネルギーが凄まじい衝撃を放ち、強風が全方向に吹き出し始める。

 

 春樹と碧はさらに力を込める。

 今日で全てを終わらせる。そのために彼奴を倒すためにだ。

 

 白い光が二人の間から徐々に現れ始める。決着をつけるために姿を見せ始めた白い光だ。

 

 そして、互いの顔が見えなくなる寸前、何故か微笑んだ気がしたパラレインがふと呟いた。

 

 

 

 

 

「この時を、待っていましたよ──」

 

 

 

 

 

 大きく爆発が起こった。白い光では相手の姿が見えなくなるだけであったが、爆発が他所にいる者ですら姿を見ることすら防いでしまっている。

 

「ッ! ガァッ……!」

 

 爆炎の中から変身を解除された春樹が吹き飛ばされる。地面に叩きつけられた瞬間に口から血が少量吹き出し、腕や脚に出来た擦り傷も血が滲み出る。

 

 起き上がる体力や気力も無くなった春樹がうつ伏せの状態で右側を見ると、そこには同じくうつ伏せに倒れている日菜太がいた。髪の毛が今まで見てきたような白色ではなく、黒色に変わっているのを見て、春樹はホッと一息吐いた。

 

 だが、ここで一つのことに気が付いた。

 

「碧……?」

 

 碧がいない。この場にいたのは、春樹、碧、そしてパラレインの憑依していた日菜太の三人がいた。けれども確認出来るのは自分を含めた二人だけだ。

 

 まさか、今の爆発に巻き込まれて何かあったのではないか。

 嫌な予感が過ぎる春樹の前で、爆煙が止んだ。

 

 そこから姿を見せたのは、春樹に背中を見せている一人の女性であった。

 見慣れた黒いズボンにピンク色のジャンパー。

 彼女の後ろ姿を見た瞬間に、春樹は一安心した。

 

 すると突然、彼女──碧はヘアゴムを右手で外した。

 彼女が人前でヘアゴムを外したことは無い。外すのは、春樹と夫婦の営みをする時だけだ。

 

 どうして彼女がそんな行動をとったのか疑問に思ったが、さらに不思議な出来事が起こった。

 解けた後ろ髪が刹那、茶色から白色に変化したのだ。

 先程のような人間の行動に関しては何かしらの理由で説明がつくかもしれないが、これに関してはどうしても説明の仕様がなかった。

 

 そんな碧は春樹の方を向くと、いつも何処か雰囲気の違う笑みを浮かべて、第一声を発した──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、万事休すでしたよ、()()()()

 

 彼女の言葉に愕然としてしまう。

 声自体は碧本人のものだ。けれでも中身は──

 

「零号……!」

 

 日菜太を捨て、今度は碧に乗り移った。

 愛する人の皮を着る彼奴のことを許すことなど出来る筈がない。

 

 だがそんな彼の様子を気にすること無く、碧(便宜上はそう呼ぶ)は語り始める。

 

「これのためだったんですよ、わざわざしなくても良い貴方方の改造をしたのは。より強い力を持つ貴方方の身体を借りてより力を強め、全てのカードを回収する。要は、お二人はただの器に過ぎなかったんですよ」

 

 残酷な事実を至って淡々と話した碧は、パラレイン用の端末にカードをかざしてドライバーを腹部に装着する。

 

『PARA-REIGN DRIVER』

 

 すると横からアールがやって来て、手に持ったアタッシュケースの中身を碧に見せた。

 中に入っているのは3枚のカードだ。八雲が開発をし、フォルクロー側によって奪われたカードである。

 

 その中で左側にあるカードを手に取った。

 そのカードには紫色の鎧が描かれており、下部には「SHINOBI」と白く印字されている。

 

 自らが手に取ったカードを、右手に持った端末のスロットに装填した。

 

『"SHINOBI" LOADING』

 

 電源ボタンを押した瞬間、彼女の上に「Ⅱ SHINOBI」と書かれたゲートが出現。それが開いたところから、紫色の大きな蛙が飛び出して来た。碧の前でゲコゲコと間を空けて鳴き声を上げている。

 

 碧は端末を持った右手をゆっくりと宙に上げ、そして言葉を放って端末をドライバーに挿し込んだ。

 

 

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 碧の身体が黒い素体に変わる。けれども入るラインは赤色から青色になっている。

 そしてその頭部はリベードのものと全く同じものであり、唯一の相違点は青色の複眼に赤い大きな罰点が描かれていることであった。

 

 そこへ蛙が分解されて出来た紫色の鎧が装着される。両腕や両脚、両肩に着けられたパーツや、手裏剣のような白い模様の描かれたアーマーは、まるで忍者のような印象を感じる。

 

『Who are you, Tell about you, I’m ninja! My name means the heart of blade! PARA-REGIN SHINOBI! It’s the 2nd shape.』

 

 仮面ライダーパラレイン シノビシェープ。

 碧の身体を奪って誕生した怪人は、静かに春樹を見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常37体

B群8体

合計45体

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

各々が所持しているメモリアルカードの枚数

SOUP:116枚

零号:9枚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What was its new strategy?

A: It was that it takes away her body.




次の碧推し発狂回まで、後3話。



【参考】
てれびくんデラックス 愛蔵版 仮面ライダージオウ超全集
(小学館, 2019年)
変身ベルト DX ミライドライバー商品かです!|仮面ライダーおもちゃウェブ|バンダイ公式サイト
(https://toy.bandai.co.jp/series/rider/topics/detail/747/?t=blog)
特撮玩具好きの部屋 : 【プレバン】仮面ライダージオウ DX ミライドライバーセット
(https://cranejoe.blog.jp/archives/79133940.html)
神蔵連太郎|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/characters/1892)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 25 碧を返せ(GIVE ME BACK MY HONEY)
Question073 What is in her USB memory?


第73話です。
まさかの3日連続投稿です。
多分、今後はペースが落ちます。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
ソナーポケット - GIRIGIRI

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.04.10 18:19 東京都 中央区

「そんな……まさか……」

 

 碧の身体を奪ったパラレインが新たな姿に変身をした。

 目の前の光景に驚愕をする他ない。

 

「ふざけんな……。碧を……碧を返せ……っ!」

 

 春樹が残った力を振り絞って立ち上がり、ドライバーを出現させる。

 そしてカードを挿し込んだ後に、トランスフォンをドライバーに装填した。

 

『"DECADE" LOADING』

「変身!」

『Here we go!』

 

 アクトへと変身を遂げた春樹は、剣を取り出してパラレインに向かって行き、彼奴の目の前で剣を振り下ろした。

 だがパラレインはアクトが剣を振り下ろそうとしたその一瞬の間に、何発ものパンチを食らわせた。

 

「ガッ……グッ……!」

 

 さらには後退したアクトに次々と蹴りを入れていく。

 

 攻撃を受けてすぐに分かった。

 間違いない。これは碧の戦い方だ。相手に一切の隙を与えないよう、素早く攻撃を食らわせる。それが彼女のやり方だった。

 

 目の前の奴が愛する者のやり方を真似していることにアクトは怒りを覚えようとしたが、覚える前に思いっきり右足で蹴り飛ばされた。

 

「グァァッ!」

 

 変身を解除されてしまう春樹は、地面に叩きつけられて仰向けに倒れた。

 そんな姿を見て、パラレインは本来の声で彼に語りかける。

 

「さて、そろそろ頂かせていただきますよ」

 

 するとパラレインが取り出したのは、碧が使っているトランスフォンであった。

 取り出したものを操作した彼奴が微笑んだように見えた瞬間、事は起きたのだ。

 

 

 

 それに早く気が付いたのは、遊撃車の中でパソコンを見ていた深月であった。

 

「え、何だ、これ……?」

「? どうした?」

 

 深月の呟きに森田が反応する。

 

「メモリアルカードが、どんどん無くなっていきます……!」

 

 彼の報告に、全員がモニターを確認する。

 開いた画面の中には、縦に15列、横に11行の四角が現れており、そのうちの殆どにメモリアルカードと同じ絵柄が描いてある。言わば、保有しているメモリアルカードを確認するための画面であった。

 

 よく確認すると、なんと絵柄のあるカードの絵が閲覧出来なくなり、次々と「Being used」の文字で埋め尽くされていく。

 

「すぐにアクセスを切れっ!」

 

 森田の指示で圭吾が急いでキーボードを操作。

 結果として何枚かのカードは守り抜くことが出来たが、それ以外は全て抜き取られてしまった──。

 

 

 

「結構持っていらっしゃったんですね。やはり、想像通りでした」

 

 トランスフォンを仕舞ったパラレインは、じっと倒れた春樹を見つめる。

 立ち上がることも、何も言葉を発することも無い春樹の様子を確認したパラレインは、

 

「残りは後日回収させていただきます。では、またお会いしましょう」

 

 それだけ言い残し、その場から立ち去って行く。

 けれども春樹は、彼奴の言葉を聞いた瞬間に意識を失ってしまった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.03.31 15:51 東京都 中野区 トキワヒルズA 602号室

「ねぇ、八雲」

「?」

 

 行為を終えた八雲と花奈。

 ベッドの上で自身の下腹部の裂け目から流れる白いものをティッシュで拭き取りながら、花奈は右隣で寝転がっている八雲に話しかけた。

 

「もし、私がいなくなったら、絶対にUSBメモリを探して」

「どうしてだ?」

「……言ってしまえば、私の遺言状みたいなものだから」

 

 花奈の真剣な表情を見た八雲は上体を起こし、彼女の手を握った。突然のことに、花奈はティッシュを持った手を止める。

 

「……絶対、いなくなったりしねぇよ」

「どうして?」

「……俺が絶対守るから……」

 

 自分で言った台詞に恥ずかしくなった八雲を、花奈がニヤつきながら右手の人差し指で優しく突く。

 それに吹き出して笑顔を浮かべた八雲は花奈の方を向き、互いの笑顔を見合うと、どちらからでもなく唇を重ね合わせた。

 

 

 

 

 

2022.04.12 07:53 東京都 中野区 トキワヒルズA 602号室

 あの時味わった感触を、八雲は未だに忘れることが出来なかった。

 窓の前で体育座りをする八雲は右手の人差し指と中指で唇を触る。カーテンは完全に閉め切られており、目に光は一切入らない。

 

 後ろからゆっくりと春樹が部屋の中に入って来た。動こうとしない八雲の様子を見た春樹は、すぐに部屋から立ち去ろうとする。

 

 するとその時、何かに気が付いた。

 テーブルの上に緑色のUSBメモリが置かれていたのだ。何の変哲も無いものであったが、何故か引き寄せられてしまう。

 それを手に取った春樹はまじまじと全体を見つめ、ポケットの中に仕舞って部屋から出た。

 

 合鍵を使って施錠をすると、自分が住んでいる601号室のドアから、あまねが顔を出した。これからオンライン授業があるために、学校指定のジャージを着用している。

 

「八雲おじさん、大丈夫かな……?」

「……なんとも言えないな……」

 

 二人とも神妙な面持ちになってしまう。

 それを払拭するように、あまねは話題を逸らした。

 

「そうだ。明後日の放課後、日菜太くんのお見舞いに行って来るね」

「ああ、分かった」

 

 春樹はあまねに背を向けた状態で、階段やエレベーターのあるに向かって廊下を歩き始める。

 すると、

 

「ママのこと、お願いね……」

 

 あまねの言葉に春樹は何も返事をせず、ただ前を向いたまま左手を挙げて立ち去って行った。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

「まだ、カードを使わないんですか?」

 

 アールが碧に乗り移ったパラレインに話しかける。彼の手元には一切カードが挿し込まれていないメモリアルブックが握られている。

 笑顔で振る舞っているアールであるが、その笑みには何処か苛立ちのようなものを感じられる。

 そんな彼に対し、碧はふと笑みを浮かべた。

 

「その時になったら、私が言いますから、どうか待ってください」

 

 碧の笑顔にパラレインの怪しさが溶け込んで、より魅力的になっている。

 だがその魅力にアールが屈することは無かった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.04.12 09:12 東京都 新宿区 SOUP

 デスクに座る圭吾に対し、春樹はそっと緑色のUSBメモリを取り出した。

 一体何なのか解らず、圭吾は春樹の顔を見る。

 

「何ですか、これ」

「中身の解析ってやってもらえるか?」

「何が入ってるんですか? 変なウイルスソフトとかあったら本当に怖いんですけど……」

「そんなのは入ってねぇよ。ただ、ちょっと厄介なのは入ってる……」

 

 恐る恐るSUBメモリを圭吾が受け取ったとき、薫が誰かに聞かせるように独り言を呟いた。

 

「それにしても、どうやって零号は碧さんの身体(からだ)を乗っ取ったんでしょうね? シールは着けていた筈なのに……」

 

 碧はあの時、パラレインの能力の一つである「憑依」を防ぐためのシールを首の後ろに貼っていた。これによって、パラレインの洗脳から身を守ることが出来た筈だ。

 けれども碧にパラレインが憑依されたということは、シールが全く役に立たなかったことになる。初めてパラレインに変身した場でその効果は明らかであった筈なのにどうして──。

 

 全員がそのことで頭を働かせる中、圭吾が呟いた。

 

「何だ、これ……?」

 

 圭吾がキーボードを打つと、森田のデスクの横にあるモニターに彼が見ていた画面が映し出された。

 黒い画面の中に大きく「パスワードを入力してください。」の文字があり、数秒毎に様々な言語に変わっていく。その下には検索エンジンでよくある、文字を入力するためのスペースが配置されていた。

 

「これ、誰が元々持っていたやつなんですか?」

 

 深月が春樹に訊く。

 

「……多分、花奈だな」

 

 春樹の言葉で全員が驚く。

 言ってしまえば、これは花奈が遺した最後の物なのだから。

 

「ハッキングして強制的にパスワードを入力することは出来ないのか?」

 

 森田の発言に、圭吾は首肯せずに首を横に振った。

 

「やってみているんですが、メモリアルカードくらいに構造が複雑で、やろうにも何ヶ月かかるか……」

「じゃあ圭吾さん、適当にやってみてくださいよ」

 

 恋人からの無茶振りに圭吾は思わず目を見開く。

 

「いやいやいやいや。もし失敗したらどうなるか分からないですよ!」

「でもやらないことには始まらないでしょ! ……花奈さんって何が好きなんでしたっけ?」

 

 薫が訊くと、森田に春樹、深月が答える。

 

「確か、AKBが好きだったな」

「じゃあ一曲ずつ入れていこうぜ。因みに、深月は何が好きだ?」

「僕は……『フライングゲット』ですね」

「オッケー! じゃあ圭吾さん! 『フライングゲット』って入れてください!」

 

 薫の無茶振りにもう応える他無くなった圭吾は、仕方無く「フライングゲット」と入力した。

 

 すると、どうだろうか。

 ピンポーンという音と共に緑色の文字で「COMPLETE」と表示され、今度は白い画面に切り替わった。

 

「「「「出来た!」」」」

 

 まさかの事に全員が驚く。中でも最初に言い当てた深月が一番びっくりしていた。

 

 白い画面に表示されたのは、何かの設計図のようだ。

 黒い線で高さの長い直方体が描かれており、横にはその解説らしき文字や図がびっしりとある。

 

 そして、一番上に大きく書かれていた文字は──

 

 

 

 

 

 

ALMIGHTY SERVER

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.04.14 11:40 東京都 文京区 春日公演

 この日は昼から雨が降るために、公園の中に人は全くいない。

 そのため、中にいるのは碧とクロトだけであった。向い合う二人はお互い腹部にドライバーを装着しており、碧の手には端末が、クロトの手にはガシャットが握られている。

 

「一体何のようですか? 私を呼び出して」

「……復讐しに来た」

 

 クロトの目はじっと碧のことを睨んでおり、今までの彼のような楽しさは一切感じられない。

 

「復讐? もしかして六十二番のことですか?」

「そうだ。お姉ちゃんは僕の唯一の心の拠り所だった。それをお前は奪ったんだ……!」

「大丈夫ですよ。残りは君を含めて10体。すぐに彼女の元に送ってあげますよ」

 

 彼女が見せる屈託の無い笑顔は、火に油を注ぐ役割として本当に丁度良かった。

 ガシャットを握る右手に、クロトはさらに力を込めた。

 

「それともう一つ」

 

 クロトは右手をゆっくりと挙げた。

 

「リベードは返してもらうよ。僕の大切なおもちゃを、君に奪わせたままでいられないからね」

『マイティアクションX』

 

 ガシャットの黒いボタンを押すと、クロトの後ろにモニターが現れる。

 それを見た碧は、端末の中にカードを挿し込んだ。

 

「良いでしょう。かかって来なさい」

『"PARA-REIGN" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、碧の上に現れたゲートから紅色の鎧が姿を見せると、碧は端末を持った右手をゆっくりと上に挙げていく。

 同時にクロトも右手を前に出して、ガシャットを回転させた。

 

 そして二人は同時に声を発し、アイテムをドライバーに装填した。

 

「「変身!」」

『ガシャット! ガッチャーン! レベルアップ!』

『Here we go!』

 

 二人の身体が変化していく。碧は紅色の鎧を纏った黒色のものへ、クロトは紫色を基調としたコミカルな見た目の戦士へと。

 

 その様子を、春樹は遠くから見ていた。

 本当であれば今すぐにでも彼らのところへと向かって行きたいところであるが、先程のやりとりを思い出して気が引けてしまっていた──。

 

 

 

 

 

2022.04.14 08:59 東京都 新宿区 SOUP

「一応、形だけですが出来ました!」

 

 圭吾が春樹に対して銀色の直方体を渡してきた。

 底面が立方体となっており、高さが底辺の2倍近くはあるその直方体には、底面には何かを挿し込むための細長いスロットがある。

 さらに正面は透明になっており、右側の面にはトランスフォンのようなボタンが、左側の面には縦に伸びる細いタッチパネルが配置されていた。

 

「圭吾さん、結局これは何なんですか?」

 

 薫が問いかけると、圭吾は彼女だけではなく全員に解説を始めた。

 

「これは簡単に言えば、零号を含めたフォルクローの細胞組織を分解する働きを持った、最強の兵器です。仮に『サーバー』とでも呼びましょうか。このサーバーを利用すれば、零号を完全に消滅させることが出来るかもしれません。

 ……ただ……」

「? ただ?」

 

 言葉の続きを中々紡ごうとしない圭吾。

 だが意を決して春樹の方を真っ直ぐと向き、口を開いた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「碧さんが犠牲になる可能性が極めて高いんです。下手すれば、春樹さんも──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is in her USB memory?

A: It is a blueprint of the strongest box.




【参考】
東京の過去の天気 2022年4月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220400/)
AKB48 フライングゲット 歌詞 - 歌ネット
(https://www.uta-net.com/song/117976/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question074 Why has he used that server?

第74話です。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになりますので、どうぞ宜しくお願いします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.04.14 09:00 東京都 新宿区 SOUP

「碧さんが犠牲になる可能性が極めて高いんです。下手すれば、春樹さんも……」

 

 圭吾の言葉を全員上手く飲み込むことが出来なかった。

 

「それ、どういう意味だ……?」

「言いましたよね。これはフォルクローの細胞組織を破壊する装置だって。もしこれを今のパラレインに当てれば、碧さん諸共(もろとも)消滅します」

 

 世界を救う代わりに、愛する人を犠牲にしなければならない。なんとも残酷な事実である。

 

「それで、『春樹さんも』っていうのは、どういうことなんですか……?」

 

 深月の問いかけに、圭吾は解説を続ける。

 

「もう一つ使い方があって、それはディスペルデストロイヤーのスロットに装填することなんです」

 

 彼の言う通り、ディスペルデストロイヤーには4つのスロットがあるが、それは1つの大きなスロットの上に出来た穴が結果的にスロットの役割を果たしているに過ぎない。そしてその大きなスロットは、丁度サーバーが入るくらいの大きさであった。

 

「もしスロットに装填して攻撃をすれば、攻撃をした時の反動でサーバーの効果が使った春樹さんにも及ぶ可能性があるんです。なので、どうしても碧さんが犠牲になる事実は変わらないんです。変わるのは、春樹さんがどうなるかだけで……」

 

 その報告を聞いた全員の思うことは同じだった。

 それを森田が代弁してくれる。

 

「なら却下だ。いくらなんでも、彼女を犠牲にすることは出来ない……!」

 

 すると春樹は圭吾の元に駆け寄って来た。

 一体何をされるのかと圭吾が少しだけ怯えていると、春樹は彼が持つサーバーをゆっくりと手に取った。

 

「念の為に預かっておく。不測の事態に備えてな」

 

 そう言う春樹の手が震えていたのを、全員見逃すことは出来なかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.04.14 11:43 東京都 文京区 春日公園

 戦いが始まった頃、徐々に雨が降り始めた。だがパラレインとゲンムはそんなことなどお構いなく、互いの拳や脚をぶつける。

 

 彼らの様子を春樹が遠くにある木の陰から見ていると、

 

「行かなくて良いんですか?」

 

 左側からよく聞いた声をかけられた。

 見るとそこにはメモリアルブックを持ったアールが立っていた。傘を差していないため濡れている春樹に対し、アールは本を守るように黒い傘を差している。

 

「別に良いだろ。ただ見ているだけでも」

 

 春樹の目線の先で戦いを繰り広げる二人。

 パラレインが出した左の拳をゲンムが右腕で内側に払うと、ゲンムは丁度良い場所に来た彼奴の背中に右脚で回し蹴りを食らわせた。

 結果体勢を崩すことになったパラレインであったが、倒れる寸前で右手でゲンムの首を掴み、道連れにして倒れ込む。

 けれどもすぐに体勢を立て直した二人は、すぐに互いの右手をぶつけた。

 

「それは、新しい武器か何かですか?」

 

 アールは春樹が左手で握っているサーバーに目をつけると、彼からぶん取ってじっくりと眺める。本を脇に挟んで、右手で回しながら全体を確認する。「それやって解るのか」と言われたが、そんな言葉一切聞く由もない。そして一通り見終えたところで、サーバーを春樹に返した。

 

「要は、これであの御方を碧さん諸共消し去ろうというわけですか」

「……絶対使わないけどな」

「そうですか。それが一番ですね。ですが、カードの力で分離しようなどという考えは()めた方が良いですよ」

「どうしてだ……?」

「あのカードは二つのものを物理的に分離することしか出来ません。しかし、あの御方は肉体的にだけではなく、精神的にも一体化をしている。完全に取り除こうとしても、無駄なんですよ」

 

 彼の言葉に、春樹は絶望する他無かった。

 もう最後の希望は無くなってしまったのだから。

 

 そうこう考えているうちに、戦況は変わった。

 

「ッ!」

 

 ゲンムがガシャコンバグヴァイザー ビームガンモードでパラレインをすごい勢いで射撃する。

 彼の効果で弱体化してしまったパラレインは、抵抗することしか出来なくなっていた。

 

 さらにバグヴァイザーが握られた右手で、ゲンムは彼奴を殴りつけた。その結果、パラレインは後退してしまう。

 

 これでは彼が先に決着を付けてしまう。

 それでは不味いと春樹は参戦をしようとする。

 

 すると、

 

「アール。まずは20枚お願いします」

 

 パラレインの指示を聞いたアールは傘を左の肩と首で押さえる形にすると、脇に挟んであったメモリアルブックを右手に持って開いた。

 ページの中には7つのスロットが円形に並んでいて、一つ一つに違う数字が刻印されている。

 

 アールは左手でカードを持ち、カードの番号に対応するスロットの中にカードを装填していった。

 

 パラレインの言葉通り20枚を挿し込み終えると、徐々に彼奴に力が溜まっていくように見える。

 力が漲ってきたパラレインは、端末を取り外して別のカードを装填した。

 

『"SHINOBI" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、雨に濡れる地面の上にゲートから大きな蛙が下りて来る。

 厳かながらも軽快な音楽の中で、パラレインは端末をドライバーに挿し込んだ。

 

『Here we go!』

 

 パラレインに着けられた鎧がドロドロに溶けると、身体が青色のラインを持った素体に変化をする。そこに蛙が分解して出来たアーマーが装着された。

 

『Who are you, Tell about you, I’m ninja! My name means the heart of blade! PARA-REGIN SHINOBI! It’s the 2nd shape.』

 

 シノビシェープに変身を遂げたパラレインは、カードをドライバーに付いている端末の裏にかざす。

 

『DISPEL CRASHER』

 

 彼奴の右手にディスペルクラッシャー ソードモードが出現する。

 そしてゲンムのほうを見据えると、いつの間にか彼の目の前にいた。

 

「な……!」

 

 ゲンムが驚いている隙に、パラレインは恐ろしい程のスピードで彼に斬りかかった。

 例え防ごうとしても絶え間無く攻撃が来るがために防ぎようの無い。

 

 そしてパラレインは剣にドライバーから取り外した端末をかざす。

 

『Are you ready?』

 

 端末を再びドライバーに挿し込む。

 

『OKAY. "SHINOBI" CONNECTION SLASH!』

 

 次の瞬間、ゲンムの腹部に剣が突き刺さった。

 だが断末魔は一切聞こえない。上げることも出来ない程の痛みだったのか、激しい雨音で掻き消されているだけなのかは判らない。唯一判ることは、彼が紫色の粒子となってその場から消えたことだ。

 

「逃げましたか……。けど、無駄ですがね」

 

 誰もいなくなった場所を眺めるパラレイン。

 

「……そろそろ出て来ても宜しいのではないですか?」

 

 声をかけられた春樹は、トランスフォンを使ってドライバーを出現させて、ゆっくりと彼奴の方へと歩いて行く。

 

「返してもらうぞ、碧を」

「無理ですよ。もう成す術なんざ無いんですから」

「……それはどうだろうな」

「?」

「あるんだよ、一つだけ。お前を倒す方法が」

 

 春樹は端末にカードを装填し、静かに言葉を放った。

 

『"DECADE" LOADING』

「変身……!」

『Here we go!』

 

 仮面ライダーアクト ディケイドシェープに変身を遂げると、剣を取り出して走って行った。

 

 アクトが剣を振り回すと、剣心の形をしたピンク色の幻影が纏わる。本来であればこれで相手を錯乱させるのだが、パラレインにそんなものが効く筈はなく、何度斬りかかっても掠りともしない。

 

「ハァッ!」

 

 剣を突き出したが、パラレインはアクトの剣を自身の剣で払い落とし、無防備になった彼に何度も斬りつけた。

 

「グァァッ……!」

 

 そして右足でアクトを蹴り飛ばした。

 

「ッ……!」

 

 倒れたアクトであるが、すぐに立ち上がる。

 すると彼は空虚からディスペルデストロイヤー バズーカモードを取り出して右手に構えた。

 

「それは貴方が碧さんと一体化してようやく扱えるような代物じゃないですか。貴方独りで扱えるわけがない」

「それでもやるんだよ……!」

 

 引き金を引くと、大きなエネルギー弾が発射される。けれどもその威力に翻弄されて体勢を崩してしまったがために、標的に当たることは無い。

 それでも何度も弾丸を発射する。何発か当たることはあったが、それで何か戦況が変わることは無かった。

 

「言っておきますが、カードを吸収した私にはそんなもの効くわけがありません」

 

 発射をした反動が相当強かったからなのか、パラレインが何もしていないにも関わらず、アクトは立っているのがやっとの状態になってしまう。

 

「最早、八方塞がり、ですね」

 

 パラレインが呟く。

 もう彼に打つ手は無い。大人しくカードを渡せ。

 何も言わずとも、彼奴の考えることはすぐに解る。

 

 彼奴の言葉を聞いたアクトは、ゆっくりとバズーカを下ろした──

 

 

 

 

 

 だが、

 

「言っただろ。俺には、お前を倒す方法がある、って」

 

 アクトは左手で何かを取り出した。

 それは直方体の形をした銀色の箱、サーバーである。

 

 ディスペルデストロイヤーの大きなスロットにサーバーを挿し込んだ。

 

 すると銃口に銀色のエネルギーが徐々に溜まっていく。ゆっくりと光が集まっていくその様子は、何かを予見させるのに十分であった。

 そんなバズーカを持って自分の方に足を進めて来るアクトに、流石のパラレインも焦りを覚える。

 

「何をしようとしているのかは解りませんが、一先ず貴方を倒せば何も起こらなくなる……!」

 

 パラレインが剣を構えてアクトに向かって攻撃を始めようとしたその時、

 

『ATTACK RIDE, "ILLUSION"』

 

 パラレインの動きが突如として止まった。見ると自身の手足を何人ものアクトによって掴まれ、身動きが全く取れない状態になっている。

 それらを剣で斬り裂いて消したとしても、何体もまた襲いかかって来るがためキリがないと察したパラレインは、身動きを取るのを止めた。

 

「これはフォルクローの細胞組織を崩壊させるための装置だ。これを使えば、お前を碧ごと葬ることが出来る」

 

 歩いて来るアクトに対し、パラレインは笑みを浮かべた。言わずもがな、彼を嘲笑するためである。

 

「貴方は、彼女を見捨てるんですね」

「……いや、俺も一緒だ。引き金を引けば、俺も木っ端微塵になる……」

 

 アクトの言葉に、パラレインはこれまで味わったことの無い感情を覚えた。

 

 恐怖。

 自分が消えることに対してもそうであるが、何よりもそれほどの覚悟を持って向かって来る彼が恐ろしくて堪らない。

 

「止めてください……! 私にはまだ、やり残したことが……!」

 

 震えるパラレインの前に立ったアクトは、銃口を彼奴に向けて引き金に指をかける。

 絶対に照準を狂わせないように、体勢をしっかりと整える。

 

 

 

 そして、

 

「……あっちで会おうな、碧」

 

 アクトは躊躇うこと無く、引き金を引いた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 碧の目を覚ましたのは、とてつもない勢いで降り注ぐ雨だった。

 顔だけではなく全身を濡らす雨をうざったらしく思いながら目覚めたがために、なんとも言えない気持ちになってしまう。

 

 ゆっくりと上体を起こす。

 目覚めてすぐのような気怠さが襲いかかって来たため、碧は思わず頭を押さえた。

 

 趣味の悪い夢を見ていたようだった。

 身体の自由が効かずとも、記憶は共有されていたがために、死んでもいないが走馬灯のようにこれまでのことが脳裏を過ぎる。

 

 ふと横を見ると、そこには──

 

「春樹……?」

 

 春樹がうつ伏せに倒れていた。

 これまでのことを知っている碧としては、どうして二人ともいるのかが全く判らない。

 春樹が自分に言葉を投げかけた瞬間に意識が途切れたので、恐らくはその間に何かあったのだろう。

 それが何かは分からないが、二人とも残ったという奇跡に変わりは無かった。

 

「ん……」

 

 目を覚ましたのか、春樹が両手を地面に着けてゆっくりと起き上がり、碧の横で仰向けに倒れた。

 

「春樹……だよね……?」

 

 話しかけられた春樹が寝転びながら碧の方を見る。

 

「それ以外に誰がいるんだよ」

 

 春樹が笑みを浮かべたところで、碧は同じように微笑んで地面に寝転んだ。

 

 二人の顔や身体に大量の雨が降り頻る。

 まだ雨は治まることを知らず、寧ろ勢いは更に増していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why has he used that box?

A: Because he wants to stay her with him.




次の碧推し発狂回まで、後1話。
ガチで脳が破壊されます。
なので、「風都探偵」の5巻を読んで対策を……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question075 Who was in him?

第75話です。
一度は書きたかったシチュエーションを書かせていただきました。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いします。



【イメージED】
フレン・E・ルスタリオ - フラクタル

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.04.14 14:18 東京都 港区 鉄砲坂病院 3階

 本来、病室は白い蛍光灯によってうざったらしい程に明るくなるのだが、日菜太の眠る個室ではそんなことは無く、茶色い光によって無理に日菜太を目覚めさせないようにしている。

 外の雨の音と同等の音量で流れている心拍を示す電子音によって、あまねは何処か居た堪れない気持ちになってしまっているのだ。

 

 でも逃げるわけにはいかない。

 眠りにつく日菜太の左手を両手で握り締めながら、椅子に座って彼の表情を見つめる。

 酸素マスクを口元に着けた日菜太の表情は何も変わることは無く、握った手の温度も緩いままだ。

 

 今日も目を覚まさない。

 最早死ぬまで一生目覚めない可能性もあるやもしれない。

 だとしても、自分だけは最後まで希望を捨ててはならない。

 

 あまねは再度、彼の手を強く握った。

 

 

 

 

 

 その時、あまねの両手の中に不思議な感触が生まれた。

 何かがモゾモゾと動いている。

 

 両手の中を確認するあまね。

 動いているものは、日菜太の指であった。指先がほんの少しだけ動いている。

 

 まさかと思い、あまねは日菜太の顔を見る。

 なんと眠っている筈の彼の目がゆっくりと開かれていくではないか。

 

 虚な目で辺りを見渡す日菜太の様子を見て、あまねは笑みを浮かべながら涙を流した。

 日菜太もあまねの姿を確認したその時、一筋の涙が流れ始める。

 

「はじめまして」

 

 あまねが声をかける。

 

「……はじめまして」

 

 今にも消えそうな声で日菜太も言う。

 

 二人ともそれ以上は何も言わず、ただ互いの手を握り合った。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.04.14 17:00 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 ガチャリとドアを開けて、春樹と碧は暗い部屋の中に入った。そろそろ陽が沈みそうになっているがために、室内にはオレンジ色の光が大量の差し込んできた。

 

「それにしても災難だったな」

 

 春樹が碧に声をかける。

 そうだね、と碧が頷いたところで、二人揃って洗面台に向かって手を洗ってうがいをした。

 

 そしていつもの広いリビングの中央辺りに着いたところで、碧が突然立ち止まった。

 彼女の後ろから付いて来た春樹も、彼女の背後で足を止める。

 

「ちょっと訊きたいんだけどさ」

「ん?」

 

 碧は振り向いてじっと春樹の顔を見、口を開いて言葉を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度は、うちの旦那の身体(からだ)を使って何する気?」

 

 いつものような笑みが全く無い碧に対し、春樹は吹き出して笑いが込み上げてきた。

 釣られて笑うことの無い碧を見て、春樹は微笑むだけにして逆に彼女に訊いた。

 

「一体いつから、()だと気が付いたんですか?」

「……何年一緒にいると思ってるの? 馬鹿にしないで」

 

 春樹、というより彼の身体を使っているパラレインの笑みに苛つきを覚えた碧は、右手に銀色のサーバーを持って彼に見せた。

 

「言っておくけど、いつでも貴方を春樹ごと葬り去る覚悟は出来ているから。なんだったら、今やっても良い……!」

 

 それは最上級の脅しであった。

 彼女にとって大切な者を消すことなど、本来は口にもしたくないであろう。きっと碧はパラレインごと春樹を消した後、自分もこの世を去るつもりである。

 そんな覚悟が無ければ、彼女が右手に持っている物を見せることすらしないだろう。

 

 

 

 けれども、そんな彼女の覚悟は悉く粉砕されてしまう。

 

「無駄ですよ。貴女はこれから、私に指一本触れることは出来なくなる」

「え?」

 

 次の瞬間、碧の体がまるで言うことを聞かなくなった。

 指一本動かすことが出来ず、強張った手からサーバーが音を立てて落ちる。

 

「どう、して……」

「貴女は、『予備催眠』というものをご存知ですか?」

 

 その単語を聞いた瞬間、碧は全てを察した。

 

 予備催眠。

 それは簡潔に言えば、催眠術にかかりやすくするための催眠だ。

 テレビ番組の企画で催眠術を行う際、被験者が全く催眠状態にならない可能性がある。それを防ぐため、本番前には必ず予備催眠を行っているのだ。

 

「貴女方は私の能力を防ぐための道具を作ったそうですが、それを使う前に春樹さんと貴女に予備催眠のようなものをかけさせていただきました。なので、シールを1枚使っただけでは、私の能力から逃れることは出来ません」

 

 言われてみればあの時、春樹と碧にだけ他の者とは違う効果を使われたような気がした。

 他の者が言葉だけでねじ伏せられただけなのに対し、二人は彼奴の目の中に映し出された曼荼羅のような模様を見せられた。

 それが、春樹と碧がパラレインの言うことに従ってしまう原因なのであったと、碧は察した瞬間に冷たい汗が首筋に流れてきた。

 

「で、動けないうちに私を殺す気……?」

「いえ。私は貴女という人間にすごく興味があります。憑依という本人そのものになる方法ではなく、この状態で色々と知りたい。なので──」

 

 春樹はじっと碧の目を見る。体を動かすことの出来ない碧は、ただじっと彼を睨んでいた。

 

 

 

「まずは、貴女の本当の姿を見せてください」

 

 すると次の瞬間、強張っていた両手がゆっくりと、だが着々と動き始めた。当然、碧の意思とは無関係にだ。

 

 碧の両手は彼女の着ている黒いワイシャツのボタンを一つずつ外していき、そして全てのボタンを外したところでするりと腕を抜き去る。

 さらに黒いズボンを脱いだことで、彼女は青色の下着だけになった。

 

 だがこれだけで終わりはしない。

 後ろに回った両手がブラジャーのホックを外し、胸を露わにする。

 そしてショーツを下げたことによって、彼女は生まれたままの姿となった。

 

 あまりの恥ずかしさに碧は今すぐに両腕で大事な部分だけでも隠したかったが、両手は後頭部に回した状態で固められた影響で寧ろ彼奴に見せる面積を増やしてしまう。

 

 碧の身体を、春樹はまじまじと見つめた。

 

 整った顔立ち。

 艶のある唇。

 桜色の突起を持つ、豊満に育った胸。

 湿気を孕んだ脇。

 引き締まった腰。

 大きな尻。

 肥えた太もも。

 ほんの少しの茂みで隠された割れ目──。

 

 それは世の男が大枚を叩いてでも目にしたい光景であった。

 

 例え見た目が愛する人であったとしても、赤の他人に体を見られることはあまりにも屈辱的なことである。

 この上無い恥ずかしさに、碧の目からいくつか透明な筋が流れ始めた。

 

「では、失礼しますよ」

 

 春樹の手が碧の胸部に迫ってくる。

 もう成す術は無い。

 碧は涙を流す目をゆっくりと閉じ、襲いかかってくるであろう感触に身構えた──。

 

 

 

 

 

「おりゃああああああっ!」

 

 すると金属が作り出す鈍い音と共に春樹が吹き飛ばされた。同時に碧は身動きが取れるようになる。

 

 見るとそこにはフライパンを両手で持ったあまねが鬼のような形相で立っていた。転がったまま動かない春樹を見ながら、ぎゅっとフライパンを握り締める。

 

「ママに手を出して良いのは……パパだけなのっ!」

 

 あまねは碧に対して白いネグリジェを手渡した。それを碧は急いで身に纏い、トランスフォンとカードを使ってドライバーを出現させる。

 

 そうこうしているうちに春樹が徐々に起き始めた。

 突然殴られた痛みに悶えているというわけではなく、その衝撃に身体が未だに驚いていると言った状態だ。

 

 あまねはリビングの窓をすぐに開ける。

 

「変身!」

 

 碧はカードを挿した端末をドライバーに装填し、春樹の胸ぐらを掴んで窓の開いた先へと走り出す。

 そしてベランダで思いっきりジャンプをし、春樹諸共外に飛び降りた。

 

 リベードに変身をした碧が難なく着地をしたその前で、春樹も転がりながらなんとか立ち上がった。

 

「貴女だけは絶対に、絶対に許さないから……!」

 

 仮面の下からでも判る怒り。

 それを見た春樹は微笑み、自身の端末を右手の中に取り出した。

 

「そうですか。分かりました。では、私の能力は一切使わずにやりましょう」

『PARA-REIGN DRIVER』

 

 端末にカードをかざしてドライバーを出現させると、左手の中に1枚のカードを持った。

 左側が赤く右側が青い鎧が描かれており、下部には「QUIZ」と印字されている。

 

 そのカードを端末に挿し込んだ。

 

『"QUIZ" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと「Ⅲ QUIZ」と書かれたゲートが出現。

 それが開くとそこから大きな赤色のエクスクラメーションマークと青色のクエスチョンマークが現れる。

 

 春樹は端末を持った右手をゆっくりと宙に挙げていき、言葉を放って端末をドライバーに装填した。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 春樹の身体が黒色の素体へと変貌する。入ったラインは緑色で、複眼はアクトの緑色のものに赤い罰点が描かれたものになっている。

 そこへ上にある2つのオブジェが分解して出来た、カードに描かれていたのと同じ鎧が彼奴に装着された。

 

『Passion, Fashion, Question! Answer and save the world! PARA-REIGN QUIZ! It’s the 3rd shape.』

 

 仮面ライダーパラレイン クイズシェープ。

 緑色の戦士の姿を借りた、第三形態の誕生であった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.04.14 17:03 東京都 新宿区 SOUP

 一方、他のメンバーたちは残業をしていた。

 現時点では春樹にパラレインが乗り移っていることを彼らは知らない。そのため、次に彼奴が現れた時の対策を考えていた。

 

 全員がパソコンと睨み合いをする中、圭吾は花奈の残したUSBメモリと対峙をしていた。

 この中にまだ何か残っていないか、プラットホームに様々な単語を入れていく。

 試しにAKB48の曲のタイトルを片っ端から入力してみたが、全て引っ掛かることは無かった。

 

 もうあれ以上に何も無いのか。

 半ば諦めながらキーボードを動かした。

 

 入力をした単語は「NEX-SPY」。

 彼女が愛した男が変身をする戦士の名だ。

 これであれば彼女が何かを残しているのかもしれない。

 

 その予想はどうやら当たっていたようだ。

 「COMPLETE」の文字が出現をし、新たに黒色の画面が表示されて真ん中に白い再生ボタンが配置される。

 

 イヤホンをパソコンに接続し、恐る恐るマウスを使って再生ボタンを押して、動画を再生し始めた。

 

「……!」

 

 開かれた動画の中で映される風景は、生活感を感じられることから誰かの家であることが確認出来る。

 優しく入る陽によって照らし出されているのは、紛うこと無き花奈その人であった。

 

 そして花奈は映像の中で前髪を整え、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常8体

B群8体

合計16体

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

各々が所持しているメモリアルカードの枚数

SOUP:38枚

零号:117枚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Who was in him?

A: It is that monster.




言っておきますが、パラレインは人間の体にすごく興味があるだけで、決してそういう趣味はありません!



【参考】
てれびくんデラックス 愛蔵版 仮面ライダージオウ超全集
(小学館, 2019年)
東京の過去の天気 2022年4月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220400/)
日の出入り@東京(東京都)令和 4年(2022)04月 - 国立天文台暦計算室
(https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/dni/2022/s1304.html)
【検証】催眠術でお化け屋敷は怖くなくなるのか!?~ホンモノ編~【HiBiKi StYle 第474回】#相羽あいな #十文字幻斎 - YouTube
(https://www.youtube.com/watch?v=GHF3wLRgBOw)
変身ベルト DX ミライドライバー商品かです!|仮面ライダーおもちゃウェブ|バンダイ公式サイト
(https://toy.bandai.co.jp/series/rider/topics/detail/747/?t=blog)
特撮玩具好きの部屋 : 【プレバン】仮面ライダージオウ DX ミライドライバーセット
(https://cranejoe.blog.jp/archives/79133940.html)
堂安主水|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/characters/1896)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 26 付喪神(ARTIFACT SPIRIT)
Question076 Why was he scared to fight?


第76話です。
ちょっとギャグよりになってしまいました……。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
ソナーポケット - GIRIGIRI

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.04.14 17:05 東京都 中野区

 第三形態へと変身を遂げたパラレイン。

 赤と青の鎧を身に纏う彼奴に、リベードは剣を取り出して向かって行った。

 

「ハァァァッ!」

 

 一刻も早く彼奴を倒さなくてはならない。例え自身の大切な者を無くしたとしても。

 その覚悟を持って一歩一歩確実に、けれども速く足を動かして行き、彼奴に斬りつけた。

 

 さらに進化した姿である筈なのに、基本形態のリベードの斬撃に怯んでしまう。

 ──何故だか分からないが、これはいける。

 そう考えたリベードはただひたすらに剣で攻撃をお見舞いし、彼奴の胸部を剣先で突いた。

 

「ハァッ!」

 

 後ろに吹き飛ばされるパラレインであったが、すぐに立ち上がった。

 

 このまま押し切る。

 リベードは彼奴に向かって再び足を進めた。

 

 すると、

 

「ではここで問題です」

 

 パラレインの言葉と同時に、数メートル先にいるリベードの体が言うことを聞かなくなった。同時に彼女の前に黒い台が現れる。それはクイズ番組にて解答者が使っているものに酷似していた。

 さらにパラレインの上には大きなモニターが現れる。左側には赤い丸、右側には青い罰点が配置され、モニターの上には別のモニターが置かれている。そして彼奴の前には透明なパネルが置かれ、盾のような役割を果たしていた。

 

「『伊弉諾尊(いざなきのみこと)伊弉冉尊(いざなみのみこと)の間に産まれた最初の神である水蛙子(ひるこ)が後に転生したのは、恵比寿である』。(マル)×(バツ)か」

 

 大きなモニターに問題文が表示され、一番上にあるモニターに黒色で「10」の文字が表示される。それが1つずつ減っていき、カウントダウンが始まる。

 

 突然のことに動揺したリベードであったが、仮面の下で笑みを浮かべた。

 何故なら職業柄、古事記の頃から歴史を勉強していた彼女にとっては、まさにサービス問題であったからだ。

 

(マル)

 

 水蛙子は伊弉諾尊と伊弉冉尊の間に産まれた最初の子であったが、手足が無かったことから船に乗せて流された。その後流された先で、七福神のうちの一人である恵比寿に転生したとされている。

 

「正解」

 

 ピンポーンという音と共にモニターから紙吹雪が出てくる。

 それ以降は何も起こることは無い。

 

 パラレインの前のパネルが消えたところで、リベードの体も動けるようになったので、台の横を通って彼奴の方へと向かおうとする。

 だが、

 

「では第2問です」

 

 再び身動きが取れなくなってしまったリベードは、再び台の前に戻されてしまう。

 

 ここでリベードの頭に一つの不安が過った。

 

 自分はパラレインに乗っ取られていた時の記憶を持っている。それは恐らく、彼奴と記憶が共有されていた結果なのだろう。

 ということは、パラレイン側も春樹と自分の記憶を見ることが出来る筈だ。

 

 では、もしその記憶を利用して、自分に不利になってしまう問題が出題されたら──。

 

 そんなことが無いように祈りながら、リベードは次の問題に身構えた。

 

「『現在の「サザエさん」に登場する三河屋のサブちゃんは、2代目である』。(マル)×(バツ)か」

 

 恐れていた事態がまさに今発生した。

 正確に読み取れないだろうが、リベードは今苦悶の表情を浮かべている。

 

 碧は、「サザエさん」を観たことが無い。

 そもそも幼少期は海外にいたので観る機会が無く、日本に帰ってきたのは高校生の頃であったためにもう観ることは無かった。

 

 サザエとカツオの関係が姉弟ではないことを最近知った彼女に、そんなこと判る筈もない。

 だが彼女は頭をこれまでにない程回転させて考えた。

 

 サブちゃんと呼ばれるアルバイトが2代目なのか、それともサブちゃんがアルバイトの2代目なのか。

 そもそも、彼が2代目だとして、初代は一体どうしたと言うんだ……?

 

 国民的アニメのキャラに限って、途中退場はあり得ない。

 リベードの答えは固まった。

 

×(バツ)

 

 カウントダウンが「3」のところでストップする。

 後は天命を待つのみだ。

 

 答えが出てくるまでの間があまりにも怖い。

 ゴクリと唾を飲んだところで、パラレインは口を開いた。

 

 

 

「残念。正解は(マル)でした」

 

 ──そんな、馬鹿な……。

 

 ブッブーの音と共にパネルが揺れる。

 すると次の瞬間、リベードの前にあった台が突然爆発した。

 大きな爆発が起こり、すでに陽が暮れた住宅街に眩い光と黒い煙を齎す。

 

 爆煙が止んだところで見えたのは、変身を強制的に解除された碧がうつ伏せに倒れている様子だった。

 けれども前を見据えて標的を睨むことは止めない。

 

「では、カードはいただきますよ」

 

 パラレインは春樹の使っているトランスフォンを取り出し、画面を操作する。

 碧に憑依していた時と同じように、それでカードを奪うつもりであろう。

 

 だが、

 

「? これは……」

 

 何度操作をしてもカードが彼奴の手元に来ることは無い。

 何枚かカードの絵柄が表示されている画面が一転、今度はグアルダが現れた。

 

『君にカードを奪われた時から、私の許可が無い限りカードは取り出せないように設定しておいた。だからもう、カードを奪うことは出来ない』

 

 するとパラレインは溜息を一つ吐くと、トランスフォンを碧の方に投げ捨てた。

 

「じゃあこれに興味は無いですね。今度また力尽くで奪いに来ます」

 

 それだけ言い残し、パラレインは姿を消した。

 

 彼奴の姿を見送った碧の瞼が徐々に閉じていく。

 雨音だけではなく、遠くの方からパトカーのサイレンが耳の中に入ってきたところで、碧の視界は暗くなった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.04.17 16:43 東京都 新宿区 SOUP

「しかしまぁ、まさか今度は春樹さんが……」

 

 深月の言葉で、全員が憂鬱な気分になってしまう。

 碧が戻ってきたことは良かったが、今度は春樹を奪われてしまった。

 しかも分離をする手は一切無い。

 正に八方塞がりというわけだ。

 

「見た感じ、あの形態は防御力は皆無に等しいですけど、ヤツの周りにバリアがあって攻撃を通すのは多分無理でしょうね」

「バリアが無くなる問題と問題の間に攻撃しようとしても、絶え間無く出題されるので、実質攻撃は不可能ですね」

 

 薫と圭吾の報告はかなり恐ろしいものだった。

 何しろ、事実上攻撃は不可能なのだ。2つの意味で八方塞がりである。

 

 そんな中、自身の席に座って誰よりも神妙な面持ちをしている碧に森田が慎重に声をかけた。

 

「もし次にパラレインが現れたらどうする? また戦って、その──」

「勿論、使いますよ。サーバーを」

 

 碧は一切の迷いを取り払った目を森田に向けた。ただ真っ直ぐと前を見据えるその表情を、慈愛の塊のように感じとれてしまうのは狂っているのだろうか。

 それを見た全員はこれ以上何も言えなくなってしまう。

 

 すると、

 

「あの……碧さんに一つお願いがありまして……」

 

 深月が座ったまま碧に何かを差し出した。

 受け取って確認をすると、それは緑色のUSBメモリだった。何の変哲も無いただのUSBメモリである。

 

「これは?」

「とりあえず、それを八雲さんに見せていただけませんか? 出来るだけ早く……」

「……分かった」

 

 深月の表情を見て只事では無いと感じた碧は、手の中にあるメモリをギュッと握り締めた。

 

 

 

 

 

 一応は終業時間になったために、碧は建物を出て駅を目指す。

 こんな中でもこの時間になれば腹が減ってくる。きっとあまねもそうだと思った碧は、今日の夕飯は何にしようかと考えて気を紛らわせた。

 

 その時だった。

 

「やぁ」

 

 自身の左側から声が聞こえた。

 そこにはクロトがビルの壁面に背中を預けながら立っていた。

 

「何しに来たの……?」

 

 思わず身構える碧。

 けれどもクロトはふと微笑むだけで何もしてこない。

 

「別に戦いに来たわけじゃないよ。ただ顔を見に来ただけ」

「……ねぇ、どうしてそんなに私に頓着するの?」

 

 するとクロトの表情が明らかに変わった。

 顔を下に向けるのと同時に、ビルに陽が当たって出来た大きな影がクロトを覆う。

 

「別に君のことはどうも思ってないよ。ただ……強いていうなら、君と僕は似ているようで似ていないから、かな」

「どういう意味?」

 

 碧が彼に訊いた瞬間、目の前から強いビル風が吹いたために思わず目を瞑る。

 そして目を開けた時には、クロトの姿は何処にも無かった。

 

 ──君と僕が似ているようで似ていないから、かな。

 

 その言葉の意味をまだ知る由の無い彼女は、首を傾げてそのまま立ち去って行った。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 いつもの暗く広い部屋の中で、海斗と春樹が向かい合って座っていた。

 海斗の手には青色の銃が握られていて、その銃を何やら不満そうな目で見つめている。

 

「これが、どうやっても起動しないんだけど、どうにかしてくれないかい?」

「……良いですけど、その代わり、()()()()()()()はしていただきますよ」

 

 春樹の提案に海斗が微笑む。

 どうやら交渉は成立したらしい。

 

 その様子をアールたち三人が少し離れたところから見つめていた。

 何処か不安そうな表情を浮かべる彼らは、無言で互いの目を見合い、後ろの方を向いて去って行った。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.04.17 17:20 東京都 中野区 トキワヒルズA 602号室

 ガチャリとドアを開いて、碧は八雲の部屋のリビングに入って来た。

 まだ八雲はカーテンを閉め切った窓の方を見ながら体育座りをしていて、全く微動だにしない。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。春樹が今大変なことになってるの。確実に、春樹を殺さないといけない……」

 

 その時、八雲の体が少しだけ動いた気がした。それを見た碧が彼の背中のすぐ後ろへと歩み寄って行く。

 

「お願い。春樹を倒すために力を貸して」

 

 すると、

 

「……無理だよ」

「……え……?」

 

 これまで一度も開かなかった八雲の口から、小さく言葉が放たれた。

 

「俺には、戦う覚悟が足りなかった。勿論、自分の大切なものが奪われることは承知だったよ。けど……だとしても、耐えられなかった……」

 

 小さくはあったが、出せる声を全て絞り出した。

 カーテンの隙間から僅かに入ってきていた光は消え、もう八雲の後ろ姿は殆ど見えなくなってしまう。

 

 碧はこれ以上何も言うことは無く、少し遠ざかって食卓の近くに立つ。

 

「分かった。……でもその前に、これだけ観ておいて」

 

 食卓の上に圭吾から受け取ったUSBメモリを置いた碧は、優しく八雲の背中を見ながらそっと部屋を出て行った。

 

 

 

 碧が立ち去ってから暫くしたところで、八雲はゆっくりと立ち上がった。

 どうしてだかは分からない。だが後ろの食卓に置いてあるUSBメモリに吸い寄せられた彼はパソコンを食卓の上に置き、挿し込んで中身を確認し始めた。

 

「花奈……!」

 

 画面には何故か花奈が映し出されている。

 彼女がこの動画を撮った場所が自身の部屋であることは、住んでいる本人であるためにすぐ判った。

 

 もう会うことの出来ない花奈は、画面の中で八雲への最後のメッセージを伝え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why was he scared to fight?

A: Because he didn't have enough resolve to lose his favorite people.




【参考】
マンガ 面白いほどよくわかる! 古事記
(西東社, かゆみ歴史編集部編, 2017年)
東京の過去の天気 2022年4月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220400/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question077 How did they recuperate?

第77話です。
実はシーズン3ももうすぐで終わりなので、伏線をそこそこ入れさせていただきました。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになりますので、どうぞ宜しくお願いします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


 ……こうして貴方にメッセージを送るのは初めてね。

 ちょっと緊張しちゃう……。

 まぁでも、折角だし、ね。

 

 これを貴方が観ているってことは、私はもうこの世にはいないってことだよね。

 パラレインか誰かにやられたのか、自分で命を投げ打ったのか、それとも貴方に奪ってもらったのかは判らないけど、一番最後だったら個人的には嬉しいなぁ……。

 

 いや、そんなことはどうでもよくてさ。

 

 どれに転んだって、きっと貴方はいじけているんでしょ?

 私を守れなかったとか、また誰かが目の前でいなくなっちゃったって。自分でこんなこと言うのはすごく痛いんだけどね。

 

 ……もしそうだったとしたら、なるべく早く忘れて。貴方、いつもこういう時に引き摺っちゃうから。

 

 それに、貴方が悲しんでいる間に同じように苦しんでいる人のことを、貴方に救って欲しいの。

 

 だから、私がいなくなってもそんなにしょげないで。いいから早く研究に没頭して。

 そのために()()()()()()()()を用意しておいたから。

 ……後は宜しく。

 

 最後に、これだけ言っておくね。

 

 有り難う。

 貴方に会えて幸せだった。

 

 言うのすごく恥ずかしいんだけど……愛してるよ。

 

 

 

 

 

 あ、これで本当に最後。

 

 仏壇に椎茸使った料理供えるのだけは()めてね。あの、せめて、いつも食べてた帆立をバター醤油で焼いたあれにして。

 貴方、「あんなに調味料を使うと帆立の味が一切しない」とか言ってたけど、寧ろバターとお醤油使った方が素材の味が引き立つと私は思っているから。

 

 どうでも良い話だけど、死んだ後でも好きなものは食べておきたいから。

 

 

 

 

 

 ……それじゃあ、またね。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.04.17 18:19 東京都 中野区 トキワヒルズA 602号室

 映像はここで途切れた。

 終わったところで一気に映像は暗くなってしまう。

 

 映像が終わった時、八雲は顔を下に向けていた。膜のようなものでぼやけて何も見えなくなった目では、もう動画が終わったことに気が付くことは出来ない。

 

 正直、終わってほしくなかった。終わってしまえば、彼女がもう何処にもいないことを身を持って理解してしまう。

 それでも非情なことに、彼は現実を知ってしまった。

 

 だが上げられた八雲の顔はそれまでの死人のようなものではなく、しっかりと意思を持った生きた人間であった。

 そこにカーテンの隙間から差し込んだビルの灯りが入り、彼の顔を仄かに照らす。

 顔面に直撃しているその光を、八雲が見逃すことは無かった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.04.22 13:55 東京都 葛飾区 お花茶屋体育館

「お待ちしておりました」

 

 快晴の空から差し込む陽によって明るくなっている室内で、春樹と碧が向かい合っていた。

 

「私を呼び出したってことは──」

「勿論、カードの回収ですよ。もうこれ以上戦いを長引かせるのもアレなので、手っ取り早く、ね」

 

 すると、

 

「その戦いさぁ、僕も交ぜてくれないかな?」

 

 横からクロトが現れた。ゆっくりと歩いて、碧の左隣に立つ。

 一体何なんだと碧はクロトをなんとも言えない顔で見つめる。

 

「何で貴方がここに?」

「……ちょっと、一回くらい殴りたくなったから」

「……そう。じゃあ、行くよ」

 

 ドライバーとアイテムを取り出した碧とクロトのことを、春樹に取り憑いたパラレインは鼻で笑う。

 

「君たち如きが、私を倒そうと思っているだなんて、屈辱的ですね」

 

 春樹も端末とカードを使ってドライバーを出現させると、三人は各々の行動を起こし、全く同じ単語を発した。

 

「「「変身!」」」

 

 仮面ライダーリベード ジオウシェープに変身した碧。

 仮面ライダーゲンム アクションゲーマー レベル0に変身したクロト。

 仮面ライダーパラレイン クイズシェープに変身した春樹。

 

 武器を持ったリベードとゲンムはパラレインの方へと向かって行った。

 

「クイズだけがこの形態の強みだと思われたくないのでね、素手で行きましょう」

 

 そう言うパラレインは出題をすることは一切無く、向かって来た二人の武器を少しだけ引き下がることによって躱す。

 さらに振り下ろされたゲンムのバグヴァイザーの刃を左手で外側に払い、彼の胸部に右手でパンチを食らわせる。

 

「……ッ!」

 

 引き下がるゲンムの代わりに、今度はリベードが自身の剣を横文字に振って攻撃を仕掛けた。

 それを後ろ側に宙返りすることによって避けようとするが、なんとリベードは彼奴の右足を左手で掴んで、床に叩きつけた。

 

「ハァァッ!」

 

 剣を握る右手で仰向けのパラレインに殴りかかるが、パラレインはそれを右手で受け止めて跳ね除け、ほんの少し体勢を崩したリベードの背中を左足を蹴って、前に転ばせた。

 

 起き上がったパラレインは同じように立ち上がったリベードに対し、素早く拳や蹴りを食らわせていく。

 何発かがクリーンヒットして狼狽えるが、リベードはパラレインが左手でパンチを繰り出そうとしたところで、彼奴の胸部を剣先で突いた。

 

 後ろに退いたパラレインの隙をつき、リベードは何度も剣で斬りつけて右足で蹴り飛ばした。

 

 ──何で……? どうしてこんなに手応えがあるの……?

 

 本来であれば優勢に立つことは良いことなのであるが、それにしても妙なためにリベードは思わず戸惑ってしまう。

 

 そんな彼女を他所に、今度はゲンムが高くジャンプをしながら、ビームガンモードに変形させたバグヴァイザーで彼奴に銃弾を浴びせる。

 そして着地をしたタイミングで再びチェーンソーモードにしたバグヴァイザーを使い、斬撃を食らわせた。その攻撃でまた引き下がるパラレイン。

 

「ガッ……!」

 

 ──ここで一気に畳み掛ける……!

 

 リベードはトランスフォンを剣にかざし、再びドライバーに戻す。

 一方のゲンムは一本のガシャットを、ドライバーの横側に配置されているホルダーのスロットに挿し込み、ボタンを操作した。

 

『OKAY. "ZI-O" CONNECTION SLASH!』

『シャカリキクリティカルストライク!』

 

 銀色とピンク色、紫色と緑色のオーラが纏われる刃を振り下ろした。

 

「「ハァァァッ!」」

 

 それをなんとかパラレインは掴み、ひたすら攻撃に耐える。

 攻撃を押し出そうと力を込めるリベードとゲンム。だが状況は変わらない。

 

 そんな中でニヤリと笑ったように見えたパラレインはゲンムの方を向き、彼に言葉をかけ始めた。

 

「その強さは家族を失った悲しみ、憎しみからでしょうか……?」

「どっちだと思う? ……両方に決まってるでしょっ!」

 

 

 

 

 

「……だとしたら弱いですね。何せ、貴方は今も昔も、独りであることに変わりは無いんですから」

 

 その時だった。

 突然ゲンムは剣に込めた力を徐々に解いていき、後退を始めてしまう。

 一体どうしたのか分からず困惑するリベードではあるが、ここで退いてはいけないとさらに力を込める。

 

 当の本人の頭の中では、ただひたすらに何処からも発せられていない筈の声が聞こえていた。

 

 

 

 ──お前の作るゲームなんてつまんねぇんだよ。

 ──そんなことせずに俺と遊ぼうぜ。

 ──良いよどうせ。アイツのことはほっとこうぜ。

 ──協調性の無いクズが。

 ──お前なんて死んでも誰も悲しまねぇよ。

 

 

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」

 

 頭を両手で抱えながら悶え苦しむゲンムは、突如として身体を紫色の粒子状にしてその場を去った。

 彼の身に何が起こったのか考える間も無く、パラレインはリベードの隙をついて、剣を押し返した。

 

 そしてリベードが後退したのを確認すると、パラレインはドライバーのプレートに触れた。

 

『Are you ready?』

 

 端末を押し込むと彼奴の上に赤く「○」が描かれたパネルと、青く「×」が描かれたパネルが出現する。

 

『OKAY. "QUIZ" ALLEGORICAL STRIKE!』

 

 突然その場から姿を消してしまうパラレイン。

 一体何処から来るのか待ち構えていたその時、彼奴はリベードの虚をついて「○」の方から飛び出し、右足で強烈なキックを食らわせた。

 

「ウァァァァァァッ!」

 

 吹き飛ばされたリベードは変身を解除されて碧の状態に戻ってしまう。

 そんな彼女にパラレインは徐々に足を進めて行く。

 もう何かをする体力も気力も無い碧は、ただ彼奴の姿を見ることしか出来なかった。

 

 その時が訪れたのは、それからすぐのことだった。

 

『CREATE MY FAV ZONE』

 

 

 

 音声が流れた瞬間に二人がいた場所は体育館から、壁に幾つもの電球が飾られているさらに広い場所へと変化を遂げた。

 こんな芸当が出来るのは、春樹と碧を除いては後一人しか思い浮かばない。

 察した碧は、まだ姿を現していないにも関わらず、笑みが溢れてしまう。

 

 そして張本人が碧の前に現れたところで、碧は彼に向けて言葉を発した。

 

 

 

 

 

「お帰りなさい。お兄ちゃん」

 

 碧の言葉に八雲は微笑み、同時にパラレインの方を睨みつける。

 今までの散々なことを彼奴にぶつけたいのだろうか。

 

「よう。久しぶりだな」

「……また、()()()()()()んですか?」

(ちげ)ぇよ。()()()()()んだよ」

 

 会話を続けながらカードを取り出し、腕輪にかざしてネクスチェンジャーを出現させる。

 

 すると八雲はカードの前に見たことの無いアイテムを取り出した。

 それは全長と厚さがネクスチェンジャーと同じくらいの、細長い赤色のアイテムだ。側面には様々な回路が張り巡らされていて、小さい方の面の一つにネクスチェンジャーのダイヤルと酷似したボタンが配置されている。

 

 そのアイテム──アップグレードルーターのボタンを押した。

 

『AUTHORIZE』

「もうこれ以上、誰かが何かを奪ったり、奪われることは絶対にさせねぇ……! その痛みだとかは、全部俺が背負ってやる!」

 

 操作をしたアップグレードルーターをネクスチェンジャーの外側の側面にスライドさせて合体させると、2つのボタンが並ぶ形となった。

 そこへいつものようにカードを装填する。

 

『"NEX-SPY" LOADING』

 

 ネクスチェンジャーのダイヤルを回し、オレンジ色の面に合わせる。

 

『SUPER CHANGE』

 

 通常の金属がぶつかり合うような音楽に、聴き馴染みのある三三七拍子が合わさっていく。

 

 八雲はいつも通り箱の中に閉じ込められた。

 けれども形は従来のものよりも丸くなっていて、箱の上には大きなオブジェが立っている。

 一目見た感じ、それはまるでコーヒーメーカーのようであった。

 

 その中で八雲は両腕を大きく回し、縦にした右腕が内側に、横にした左腕が外側になるように十字を作る。

 

 そしていよいよ、彼は叫んだ。

 自身が再び立ち上がるために必要な、あの言葉を──。

 

 

 

「変身!」

 

 並んだ2つのボタンを、それぞれ人差し指と中指で押し込む。

 

『Let's go!』

 

 すると次の瞬間、恐らくは上の方から降ってきたのだろう大量の茶色い液体によって、八雲の姿は完全に見えなくなってしまった。

 ──まさか、溺れた?

 全員が流石に心配する中で、箱の中から幾つかの光の筋が飛び出し、箱がいきなり爆発。木っ端微塵になったのと同時に茶色い液体は一気に蒸発し、新たな戦士の姿が見えた。

 

 通常形態のネクスパイとそこまで大差は無い。複眼はオレンジ色の三角形で伸びている角の数や形状も同じ、口元に付いている銀色のクラッシャーの形状も変わりない。

 だが体色はオレンジ色から真っ赤な赤色に変わっていて、そこに銀色のラインが入っている。さらに金色のラインが入った焦茶色の鎧が全身に付けられており、いつものものよりも豪華なものとなっている。そして耳元には先っぽが細くなっている丸い焦茶色のパーツが付いていて、先っぽが上を向くようになっている。

 

『You can get stronger by using this device. Complete to upgrade! Get a kick out of my new invention.』

 

 仮面ライダーネクスパイ アップグレードシェープに変身を遂げた八雲。

 その身に有り余る程の力を体中で感じ取り、思わず仮面の下で笑みを溢しながら、誰かに聞かせるわけでもないが言葉を発した。

 

「これ、超超超いい感じだな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How did they recuperate?

A: He watched the last message from his favorite lady.




因みにどうして変身シークエンスにコーヒーメーカーがあるかと言いますとですね、八雲が初変身した回のサブタイトルが「そうだ! WE'RE ALIVE」ということに秘密があります。
元ネタはモーニング娘。の「そうだ! We're ALIVE」という曲で、そのCDのB面の曲が「モーニングコーヒー(2002version)なので、コーヒーメーカーを取り入れました。



【参考】
東京の過去の天気 2022年4月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220400/)
モーニング娘。 『恋愛レボリューション21』 (MV) - YouTube
(https://www.youtube.com/watch?v=D_xkQAxyf-o)
米津玄師 Kenshi Yonezu - KICKBACK - YouTube
(https://www.youtube.com/watch?v=M2cckDmNLMI)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question078 What weapons does he use when upgraded?

第78話です。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージ挿入歌】
米津玄師 - KICK BACK

【イメージED】
フレン・E・ルスタリオ - フラクタル

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.04.22 14:06 Yakumo Tokita's FAV ZONE

 新たな姿に変身を遂げたネクスパイは、有り余る力を使ってパラレインの方へと走って行き右手でパンチを繰り出そうとする。それに対峙するパラレインも左の拳でそれに立ち向かおうとした。

 

 二人の拳がぶつかり合う。

 その威力は殆ど互角なのか、二人とも強制的に後退させられてしまった。

 だがそれでも再度攻撃を仕掛けに行く。

 

 ネクスパイがパラレインの身体目掛けて何度も何度もパンチやキックを食らわせる。

 その手数だけではなく、一撃一撃がこれまでよりも強くなっているがために、パラレインは怯んでしまう。

 怯んだ彼奴に向かって、ネクスパイは思いっきり右の拳を叩きつけた。

 

「おらぁぁっ!」

「ッ……!」

 

 引き下がるパラレイン。

 

 するとネクスパイは一つの武器を取り出した。

 それはまるで開いた生地の無い傘のような赤色のものだ。

 石突(いしづき)の先端には銃口となっていて、ゼロガッシャーに形状が酷似したハンドルは中棒に垂直になるよう設置されている。さらにハンドルの斜めになっている部分には何かをセットさせるためのスライドがあった。

 そして中棒には掌に収まる程度の大きさをしたボタンの付いたポンプがあり、今はハンドル近くに配置されている。

 

 その武器──アンブレラブレイカー ボウガンモードの銃口をパラレインに向けた瞬間、

 

「ではここで問題です」

 

 突然問題が出された。

 ネクスパイの前に台が、パラレインの上にパネルが出現する。

 

「『私に勝つ術はある』。(マル)×(バツ)か」

 

 カウントダウンがスタートする。

 だがそんなものは一切必要無かったのだろう。10から9に数字が変わる前に彼は答えを出した。

 

(マル)

「……残念ながら不正解です」

 

 ブッブーと音が鳴り、ネクスパイの台が光に包まれる。

 そして彼の姿は凄まじい爆発によって見えなくなってしまった。

 

「お兄ちゃんっ!」

 

 爆発に巻き込まれてしまった兄のことを心配する碧。

 もう勝負はついたと確信するパラレイン。

 それぞれの想いに対して応えるように、炎と煙が消えていく。

 

「……何!?」

 

 けれどもどうやら、パラレインの想いにだけは応えてくれなかったらしい。

 ネクスパイは何事も無かったかのようにそこに立っていた。よく見てみるとアンブレラブレイカーの露先から出たバリアのようなもので全身が覆われているため、それで防いだのだろうとすぐに判る。

 

 バリアを解いたネクスパイは引き金を引いた。

 すると銃口から何発もの矢が放たれ、パラレインの身体を傷つけていく。

 

 さらに彼奴が怯んだ隙に銃口を今度は上のパネルに向けて矢を放ち、なんと破壊してしまった。

 

「これで、こんな変なクイズは出来ねぇな」

 

 そう言うとネクスパイはポンプを先の方へと押し出す。

 それに連動して親骨は真っ直ぐになりながらどんどんと開かれ、遂には先程の状態と逆の方を向いて石突を覆い隠す束のような形状になる。

 そしてハンドル部分を中棒と一直線になるようにしたことで、アンブレラブレイカー ロッドモードは完成した。

 

 ネクスパイはアップグレードルーターを取り外すと、ハンドルに付いたスライドに挿し込む。

 

『Are you ready?』

 

 ポンプのボタンを押すと、親骨の先端たちに次々と茶色いオーラが纏われて電流が流れ始める。

 

『OKAY. UPGRADED DISPEL HIT!』

「ハァァァッ!」

 

 パラレインの方へ走って行ったネクスパイは、彼奴の腹部に親骨の先をぶつけた。

 すると彼奴の身体にとてつもないエネルギーを秘めた電撃が食らわされ、後ろに吹き飛ばされてしまう。

 

「グァッ……!」

 

 壁に激突して減り込むパラレイン。

 その目は真っ直ぐとネクスパイの方を向いていて、少し焦りを見せながら首を傾げた。

 

「どうしてです……? どうして、こんなに強くなれるというんです? たかがシステムの強化だけで、私を超えられる筈がないのにっ……」

「ただ強化しただけじゃねぇよ。俺はな、ただ破壊のために強くなるお前と違って、背負ってるものが多いし重た過ぎるんだよっ!」

 

 ネクスパイの視界に一瞬、なんとか立ち上がった碧が映り込む。

 挙動にこそしなかったが、その時の彼女の姿に何故だか懐かしさを覚えてしまった。もう取り返すことは出来ない、あの面影だ。

 

 アンブレラクラッシャーを明後日の方向へと放り投げて、再びアップグレードルーターをネクスチェンジャーに装填すると、ネクスチェンジャーの方のダイヤルを回して赤色の面に合わせる。

 

『Are you ready?』

 

 ダイヤルとボタンを同時に押すと、ネクスパイの右足に赤色のオーラが纏われていき、背後には巨大な放水機が現れる。

 さらにパラレインの周りを白い膜が覆い、彼奴は完全に身動きが取れなくなってしまった。

 

『OKAY. UPGRADED DISPEL BREAK!』

 

 そしてネクスパイが右足を出した状態で徐々に浮かび上がっていった瞬間、放水機から茶色い液体が勢い良く噴射されて彼を押し出していった。

 

「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 エネルギーの籠もった右足をパラレインにぶつけると、彼奴の減り込んでいた壁は完全に崩壊。

 それと同時にこの空間も崩れ去った。

 

 

 

 変身を解除されてしまい、仰向けに倒れ込んだパラレイン。

 だがすぐに立ち上がると余裕そうな表情を見せた。

 

「中々やりますねぇ。でも忘れていませんか? 私と春樹さんを分離させることは不可能だって。もし私を倒そうとすれば、彼諸共消えてしまうと」

 

「……俺言ったよな。『お前に勝つ術はある』って」

 

 その時、

 

「ッ!?」

 

 春樹が突如として胸元を押さえながら苦しみ始めた。

 先程までの余裕そうな顔付きから一変、ネクスパイの方を睨み始める。

 

「これは……!?」

「このシステムはかなり特殊なやつでな。お前みたいに精神ごと一体化するやつも人から分離することが出来る」

「なっ……!」

「多分まだ完全な状態じゃないだろ。このままだと、分離した瞬間にお前だけ死ぬかもな」

 

 仮面の下で笑顔を見せるネクスパイ。

 彼のことをギロリと睨んだ春樹は、何か観念したかのように胸を押さえた両手を下ろし、そして苦し紛れの笑顔をした。

 

「そうですか……。でもまだこれで終わりではないですから。ここは、彼を返して帰らせていただきますよ」

「! ちょっと待てっ!」

「では……」

 

 すると笑顔を見せていた筈の春樹の表情が曇りだし、仰向けになって再びその場に倒れ込んでしまった。

 

「春樹っ!」

 

 碧が春樹の元へと駆け寄る。

 何度か彼の肩を揺さぶったところで、春樹はゆっくりと目を開き始めた。

 

「春樹、だよね……?」

 

 一瞬疑いの目を向けた自身の妻に、彼は思わず笑ってしまう。

 

「……そうだよ。俺はお前の旦那だよ」

 

 その笑顔が自分の愛する男のものだと判った碧は、彼にそのまま抱きつく。

 驚いた春樹であったが、彼女の腰に手を回して抱き締めあった。

 

 変身を解除して二人の様子を見ていた八雲は、ふと1枚のカードを取り出した。

 夏の大三角形が浮世絵のようなタッチで描かれ、「No.062 FORGOTTEN ZERONOS」と印字されたそのカードは、紛れもない花奈のカードであった。

 

「……有り難う」

 

 ──もう、私がいなくても大丈夫でしょ?

 

 何処からか声が聞こえたような気がする。

 きっと気のせいだ。本当ならそんな声が聞こえる筈がない。

 

 もう二度と聞かないようにするため、八雲はカードにそっと口付けをした。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.04.22 16:53 東京都 新宿区 SOUP

「とりあえず、八雲さんが戻って来てくれて良かったーっ」

「一時はどうなるかと思いましたよ」

「えぇ。何か弄らないといけないかと」

 

 深月に圭吾、薫の言葉に八雲は全員に向かって軽い会釈を何度かする。

 

「すみませんね。お騒がせして」

 

 こんな軽い謝罪ではあったが、それがなんだか彼らしくて全員は安堵する。

 

「で、もう一人の帰って来た奴はというと──」

 

 森田と共にその他全員が碧の方を見る。

 膝立ちになった春樹が自身の席に座る碧の腰に両腕を回し、彼女の腹に顔を埋めている。

 止めることが出来ずに苦笑する碧。

 

「ねぇ春樹。もういい加減離れても良いんじゃない……?」

「……もう一生離さねぇ……。何があっても……!」

 

 記憶はパラレインと共有していた。

 なので彼奴が碧に手をかけようとしたことも覚えているのだ。

 だからこそ絶対に碧の腰に巻いた両腕を離そうとはしない。

 

 すると春樹は顔だけを碧から離し、自身の唇を彼女のものに重ねた。

 

「「「!?」」」

 

 周りのメンバーもそうだが、一番やられた碧が驚いている。

 まさかの行動に呆然としながらも、無理矢理彼のことを引き剥がした。

 

「ちょっ、人前なんだけど……」

「……そういうのどうでも良いから」

「良くないからっ!」

 

 ──これ以上は不味い……。

 そう思った全員が碧から春樹を引き剥がそうとする。

 それでも尚碧にくっつこうとする姿に全員が唖然とするが、それ以上に止めなければならない。森田、深月、圭吾が春樹を押さえ込んで、今度は薫が碧を守るように抱きつく。

 

 ようやくいつもの光景が戻ってきた。

 彼らの姿を見ながら八雲は微笑み、森田たちに加担しようとゆっくりと歩み寄った。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 誰もいなくなった部屋の中で、海斗は静かに青色の銃を見つめていた。まるで我が子を眺めるかのように、丁寧に。

 そして銃を隣の席に置くと、徐にポケットから1枚の写真を取り出した。

 何処かの研究所の中で、若い頃の海斗と碧と瓜二つの女性が仲睦まじく並んでいる様子が収められたその写真を眺めて、海斗はニヤリと笑い、そしてつぶやいた。

 

 

 

 

 

「あと少しだ。あと少しで君に会えるね、夏美」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常8体

B群8体

合計16体

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

各々が所持しているメモリアルカードの枚数

SOUP:38枚

零号:117枚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What weapons does he use when upgraded?

A: A rod and a bowgun.




【参考】
講談社シリーズ MOOK 仮面ライダー 平成 vol.08 仮面ライダー電王
(講談社, 2014年)
傘のパーツ名称について|前原光榮商店
(https://maeharachigasaki.jp/?page_id=607)
洋傘のパーツ名称|傘専門店 小宮商店
(https://www.komiyakasa.jp/encyclopedia/parts/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 27 父の願い(THEIR FATHER'S DESIRE)
Question079 Why has he become an ally of them?


第79話です。
まさかの3日連続投稿です!
シーズン3の終わりに向けて猛スピードで動き始めます!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
ソナーポケット - GIRIGIRI

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.05.01 09:59 東京都 港区 鉄砲坂病院 3階

 この日もあまねは日菜太の見舞いに来ていた。

 果物やジュース、様々なジャンルの本を差し入れし、今は寝転んでいる日菜太の顔を丸椅子に座りながら微笑みながら眺めている。

 

「ねぇ、あまねちゃん」

「? 何?」

 

「僕さ、このまま幸せになっても良いのかな?」

 

 彼の言葉の意図が解らず、あまねは首を傾げてしまう。

 彼女のことを見ずに外方を向きながら、日菜太は続けた。

 

「……未だに覚えているんだよ。生き物を殺したあの感覚を、体が覚えているんだよ。得体の知れない化け物だったとしても耐えられないのに、ましてや、人の姿をしたやつだって……」

 

 パラレインと記憶を共有させていた日菜太は、嫌でもその時の記憶が溢れてきてしまう。

 殺めた時の感触が、殺めた者の怯える表情と言動が、今でも思い出してしまうのだ。

 

 静かにシーツを右手で握り締める日菜太。

 その様子を見たあまねも膝の上で両手を握り締めた。

 

「……ごめん。出て行ってくれない……?」

「え……?」

「もう、君には会いたくない。こんな僕に、もう会わない方が良いよ……」

 

 静かに発せられた言葉にあまねは何も考えられなくなってしまう。

 気が付いたら室外にいて、閉められていく引き戸をただ呆然と眺めていた。

 そしてカチャリと音を立てて閉まったところで、あまねは無言で大粒の涙を流し始めた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.05.01 11:00 東京都 新宿区 SOUP

 森田は警察庁本部への報告に、圭吾と薫はそれぞれ自身の研究に行っているため、今室内の中にいるのは春樹、碧、八雲、深月の四人だけだ。

 各々が作業を行う中で、突然碧が話しかけた。

 

「ねぇ深月くん」

「? 何ですか?」

「もし、お父さんとお母さんが生き返るかもしれないって言われたら、生き返らせる……?」

 

 こんな不謹慎な質問をぶつけられるのは、碧が同じような境遇であること他ならない。

 けれどもただ暇つぶしや何となくのために訊いているのではない。

 

 もしかしたら、海斗がフォルクローを作り出したのは、彼の妻、つまりは自身と八雲の母を蘇らせるためかも知れない。

 それだけのために大勢の人を犠牲にしたのだ。

 でも、もしかしたら自分も同じようなことをしてしまうのではないか。その何とも言えない感情で碧はどうにかなりそうな気がしているのだ。

 

「うーん、そうですねぇ……。しないですかねぇ。勿論、もう一度父さんと母さんに会いたいのは事実ですけど、失ったことで強くなったところが全て無駄になってしまうような気がするんですよね……」

 

 ──良かった。大体同じ意見だった。

 

「俺もそうだな。死者を復活させることは、ある意味冒涜とも取れる。だから……俺もしないな」

「以下同文」

 

 春樹と八雲も回答をする。

 失った者たちだからこそ分かる空気感がそこには渦巻き、話題が話題ではあったが徐々に笑顔を見せ始めた。

 

「そうだよねぇ。なんか、安心した」

 

 その時だった。

 突然彼らの端末が振動を始めた。

 まさかと思い画面を見た彼らは、荷支度をすぐに済ませて部屋を飛び出して行った。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.05.01 11:00 東京都 港区 日本体育館

 そこは嘗て江戸川ミソラと戦った体育館の敷地内にある広場であった。

 ソルダートたちがコンバットナイフを振り回しながらゆっくりと前進していく。

 

 春樹たちが到着した時、全員があることに気が付いた。

 ソルダートたちが何故か人を襲わない。鋭利な刃物を握ったにもかかわらず、まるでただ怯えさせるだけのようだ。

 

 

 

「もしかして、アイツら僕たちを誘き寄せるために現れたんじゃないですかね?」

 圭吾が誰かに聞かせるように呟く。

 

「恐らくそうだろうな。フォルクローもいないのに自然発生するわけがない」

 森田が答える。

 

「でも、一体何のためでしょうね? 私たちを誘き寄せるって──」

「メモリアルカードの回収のために零号が呼んだ、っていうのが妥当でしょうね」

 

 薫の質問の答えを深月が言ったところで、四人は再びパソコンのモニターに目を向けた。

 

 

 

「じゃ、手っ取り早く倒して帰るか」

「そうだな」

「オッケー」

 

 八雲の合図で三人はそれぞれアイテムを腹部や左の手首に出現させる。

 そしてカードを取り出して装填をしようとした。

 

 

 

 次の瞬間、何処からか何発の銃声が鳴り響いたのと同時に、ソルダートたちが黒色の液体となって消滅してしまった。

 一体何事なのかと目を凝らすと、数メートル離れたところに海斗が立っていた。右手に握られた青色の銃の先からは白い煙が立ち込めている。

 

「お父さん……!」

「……!」

 

「やぁ。久しぶりだね。碧、八雲」

 

 屈託の無い笑顔で挨拶する海斗。

 

「何しに来たんだよ?」

 八雲が警戒しながら問いかける。

 

「何って、新しい武器を作り出したからね、ちょっと試し撃ちをしたくなったんだよ。これ作り出すのは相当大変だったからね」

 

 彼の言葉で碧と八雲は身構えてカードをアイテムに挿し込もうとする。

 すると二人のことを何故か春樹が止めた。

 そして、海斗に静かに話しかける。

 

 

 

 

 

「お前、今度はコイツに寄生し始めたのかよ」

 

 正確には、彼の中にいる何かにだ。

 春樹の言葉に海斗は笑い出し始め、そして今度は逆に質問を投げかける。

 

「──どうして気が付いたんですか?」

「! 零号……!」

 

 海斗の中にいるパラレインはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「俺もお前に乗っ取られてたからな。何となく判るんだよ」

 

 まさかまさかの答えに流石に驚いてしまう全員。中でも同じく寄生されていた碧は、そんなこと判るの、と目を大きく見開いている。

 

「そうですか……。バレずに上手くやり切ろうと思ったんですがね」

「流石にどっかでバレるだろ。……そんなことより、ガワの方に話があるって碧が言ってたんだけど」

 

 え、私?

 いきなり振られて驚く碧の前で、仕方ない、とパラレインは主導権を海斗に返した。

 

「えっと……どうしてフォルクローを作ったの?」

 

 ずっと前々から気になっていたことだ。碧だけではなく、その場の全員が疑問に思っていたことである。

 真剣な彼女の表情を見た海斗はそれまでの笑顔を捨て、神妙な面持ちで答えを示した。

 

「決まっているだろ。全て夏美のためだよ」

 

 八雲の言った通りであった。

 フォルクローの技術を使って夏美を甦らせる。それが彼の目的──。

 

「ただ君たちが想像しているのとは少し違う。私の本当の狙いはパラレイン君だ。殆ど全てのカードを揃えた彼を倒し、そのエネルギーを利用して夏美を甦らせる。……何せ、いくらフォルクローになったとしても生物を作り出すのは大変だからね」

 

 それがどれだけ無謀なことなのか、パラレインと戦った張本人である春樹たちはすぐに分かった。

 だが言うことは出来ない。

 彼の目があまりにも熱意に溢れていたからだ。

 なので代わりの言葉を八雲が絞り出す。

 

「そんなことのために、大勢の人を犠牲にしたのか……!」

「そんなこと? ふざけないでくれたまえ! 私は本気だ! 愛する彼女を甦らせるためであれば他の者がどうなろうと知ったことではない! 君たちだって、同じことを望んでいる筈だ! それを妨害するのなら……!」

 

 すると海斗は銃を地面に置き、パラレインが使用している端末を取り出すと、カードをかざしてドライバーを出現させた。

 

『PARA-REIGN DRIVER』

「私が力づくで止めましょう。まぁ、不本意ですが」

 

 パラレインに主導権を譲った海斗がもう1枚のカードを取り出す。

 そこにはまるでロボットの体表とも見える金色の鎧が描かれており、下部には「Ⅳ KIKAI」と印字されている。

 

 そのカードを端末のスロットに装填した。

 

『"KIKAI" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、上に現れたゲートから等身大のロボットが現れた。ロボットのイメージを訊かれて、殆どの人が最初にイメージをするであろう、角張った金色のロボットだ。

 

 端末を持った右手をゆっくりと挙げていき、そして海斗は叫び端末をドライバーに挿し込んだ。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 金色のラインが入った黒い素体に変身した。体色こそ違うが、その顔は海斗がいつも変身しているディエンドに酷似している。

 そこへロボットが分解して出来た、カードに描かれていたものと同じ鎧が装着されて変身が完了した。

 

『Gigantic, Destroy, Exiting! I have passion in my metal body! PARA-REIGN KIKAI! It’s the 4th shape.』

 

 仮面ライダーパラレイン キカイシェープ。

 たった一つのために全てをかける男と融合を果たした、第四形態が誕生した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why has he become an ally of them?

A: To revive his wife.




【参考】
東京の過去の天気 2022年5月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220500/)
真紀那レント|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/characters/1902)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question080 What force does it use?

第80話です。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになりますので、どうぞ宜しくお願いします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.05.01 11:06 東京都 港区 日本体育館

「第一形態から進化した第二形態は『高速移動』を、第三形態では他者へ問いを出すことによって運命を委ねさせる『出題』の力を使うことが出来た。そしてこの第四形態では──」

 

 パラレインは足元に置いていた青色の銃──ネオディエンドライバーを右手に持ち、3枚のカードを左手に握る。

 

「あらゆる機械や電子機器を操ることの出来る、『操縦』の力を得た」

 

 カードを挿し込むと、銃身を伸ばして前方に銃口を向ける。そして引き金を引いた。

 

『カメンライド。ブレイブ! スペクター! メテオ!』

 

 そこから現れたのは、見たことの無い3人の青い戦士たちだった。

 コミカルな見た目をした剣士──仮面ライダーブレイブ。

 2本の角と棍棒を持った戦士──仮面ライダースペクター。

 左の手首に腕輪を着けた格闘家──仮面ライダーメテオ。

 

「本来これは起動しない筈の物だったんだが、彼のおかげで起動することが出来た。その力を(とく)と堪能したまえ」

 

 パラレインの中にいる海斗が、彼奴の身体を使って右手を挙げた瞬間、三人の戦士たちは走り出した。

 

「「「! 変身!」」」

 

 彼らが襲いかかって来たところで、春樹たちは変身し戦闘を始めた。

 

 メテオが物凄いスピードで拳や蹴りを入れてくる。まるで隙の無い動きにアクトは防御をするしか無く、只管(ひたすら)その時を待つ。

 そしてその時が来た。

 右手で一気に吹き飛ばそうと試みたメテオの攻撃を後退することで避け流し、アクトは逆に右足で蹴り飛ばした。

 

 リベードの剣とブレイブの剣がぶつかり合う。どちらも実力は互角で、早々に決着がつくことは無い。

 剣心をオレンジ色から水色に変化させたブレイブは、凍てついた斬撃をリベードに食らわせようとした。

 だがその前にリベードは逆手に持った剣で彼の腹部に斬りつけて隙を作らせると、剣先で胸部を突いて後退させた。

 

 少し距離を空けて弾丸を放つバース。それらを避けたりスタンガンで銃弾を破壊したりしながら、ネクスパイは彼へと着実に近付いて行く。

 すると突然銃弾が止んだ。どうやら弾丸が切れたらしい。

 補充をしようとバースがしたところで、ネクスパイはスタンガンの電極を思いっきり彼の胸部に押し込んで引き退らせた。

 

『『『Are you ready?』』』

 

 己の武器を銃の姿へと変形させたアクト、リベード、ネクスパイは銃口を標的へと向け、そして引き金を引いた。

 エネルギーの塊が三人の戦士にそれぞれぶつかり、彼らは爆発と共に消滅した。

 

「さて、後はお前だけだな」

 

 アクトの言葉で、三人はパラレインの方へと視線を向ける。

 

「……まさか、私に勝てるとでも思っているのですか?」

「まぁ、これがあるからな」

 

 ネクスパイがアップグレードルーターをちらつかせる。

 するとパラレインは何かがツボにハマったのか、微かに笑い声を上げ始めた。

 

「何が可笑しいの……?」

「それはあくまで私を分離させるための(すべ)に過ぎません。今の私は76枚のメモリアルカードを吸収しています。分離まで持ち込む前に、勝敗はつくと思いますよ」

 

 中々の挑発である。

 それに乗ることを、アクトはクラックボックスにトランスフォンをかざすことで、ネクスパイはアップグレードルーターのボタンを押すことで示した。

 

『CONNECTING US』

『AUTHORIZE』

 

 ドライバーのプレート部分にクラックボックスが現れたアクトとリベードは、端末の中にカードを挿し込む。

 一方のネクスパイはアップグレードルーターをネクスチェンジャーに付け、カードを取り出して再度装填した。

 

『『"REVE-ED'N'ACT" LOADING』』

『"NEX-SPY" LOADING』

 

 電源ボタンを押すアクトとリベードに、ダイヤルを回すネクスパイ。

 

『『Let's "UNITE"!』』

『SUPER CHANGE』

 

 ドライバーに端末を挿し込み、ダイヤルとボタンを押し込んだ。

 

『『Here we go!』』

『Let's go!』

 

 アクトとリベードが融合を果たして出来たリベードンアクトはディスペルデストロイヤー チェーンソーモードを、新たに茶色い姿となったネクスパイはアンブレラブレイカー ロッドモードを取り出し、パラレインの方へと走り出して行った。

 

 リベードンアクトは目にも留まらぬ速さでパラレインの背後に回り込み、チェーンが勢い良く回転する刃をぶつけようとした。

 だが振り向くこと無くパラレインはその刃を右手で受け止め、自身の前に持ってくるように投げ飛ばした。

 

「「ウァァッ!」」

 

 その代わりにネクスパイが棍棒を振り回して、電気の溜まった先端をぶつける。

 やはり対パラレイン用に改良されていることと、単純に性能そのものが格段に良くなっていることで、攻撃はかなり効いているらしい。

 何度も彼奴の身体に棍棒の先端をぶつけて電撃を食らわせる。

 すると先端を左手で掴まれ、後方へと押し返した。

 

「……ッ!」

 

 パラレインは背中から白いコードを何本か伸ばすと、それらをリベードンアクトとネクスパイの方へと進撃させる。

 リベードンアクトはチェーンソーで襲いかかるコードを斬り、ネクスパイは電撃で痺れさせて動きを止めた。

 だが1本が当たった瞬間に、あまりの冷たさから来る熱さと衝撃で怯んでしまう。その隙に何本ものコードが攻撃をして、彼らに相当なダメージを与えた。

 

「「「グァァァァッ!」」」

 

 さらに後ろの方へと退いてしまった三人。

 

「本当に強くなってるな、アイツ……」

「そうね。ねぇどうするの春樹?」

「そう言われてもな……」

 

 口ではそんなことを言っているが、彼らは再び前を向いて標的を睨む。

 

「どうしてだい……? どうして君たちは私の邪魔をするんだい……!? 君たちだって、失った者に会いたいでしょう……!」

 

 海斗の言葉で全員が誰かのことを想い始めた。

 無論、海斗に碧、八雲が同じ人のことを脳裏に浮かび上がらせたことは言うまでもない。

 

 元々怪しい雲行きがさらに怪しくなってきた。

 徐々に白色は消えていき、黒一色になりかけている。

 

「──そうね……。けど、私はそれ以上に、誰かに大切なものを失って欲しくない……! ただ、それだけだから……!」

 

 碧が絞り出すように言う。

 

「面倒だから端的に言うと、以下同文」

「同じく」

「え!? もうちょっと真面目に答えてよ!」

 

 真面目に答えたのにも関わらず、春樹とネクスパイによって何処か締まらない感じとなってしまう。

 だがそれで良いと思った。そうでなければ、自分たちではない。

 

「本気出すぞ」

「ああ」

「うん」

 

 目線はそのままパラレインの方を向いて腰を落とす。

 武器を床に叩きつけて、そして走り出して行った。

 

「「「READY……GO!」」」

 

 瞬く間に姿を消したリベードンアクトは、パラレインの正面に現れて何度もチェーンソーの刃で斬りつける。

 先程であれば軽々と防御出来た筈であったが、先程の倍、それ以上の速さで動いているがために防ぎようの無い。

 

「!」

 

 徐々に後ろへと退いて行くパラレインに、次はネクスパイが棍棒の先をぶつけた。

 さらに手ぶらの左手でひたすらに殴りつけると、最後には二つの武器の先で吹き飛ばした。

 

 その様子を確認すると、リベードンアクトとネクスパイはそれぞれ己の武器を射撃するための状態へと変える。

 

「これ使え」

 

 するとネクスパイが4枚のカードを取り出して、リベードンアクトに手渡した。

 それは、彼の大切な者たちの力を宿したカードたちであった。カードの中では果物が実を熟し、星々が優しく光を放っている。

 

 受け取ったカードたちをリベードンアクトはディスペルデストロイヤーのスロットに挿し込み、ネクスパイはアンブレラブレイカーの持ち手にアップグレードルーターを付け、ポンプのボタンを押した。

 

『"DUKE" LOADING』

『"MARIKA" LOADING』

『"SIGURD" LOADING』

『"ZERONOS" LOADING』

『Are you ready?』

 

 2つの銃口にエネルギーが次々と溜まっていく。

 リベードンアクトのものには何種類かの果物が次々と銃口の中に吸い込まれていき、ネクスパイのものでは親骨から次々と電気のようなものが送られていっていた。

 

 一方のパラレインは彼らの攻撃を防ごうと、背中から大量のコードを伸ばして出来た繭を模した壁を作り出す。

 どれほどの防御力を誇るものなのか三人には検討がつかないが、それでもやるしかない。

 一気に引き金を引いた。

 

『QUADRUPLE SHOT!』

『OKAY. UPGRADED DISPEL BALLET!』

 

 アンブレラブレイカーから放たれた電気を纏う白く丸い弾丸を、ディスペルデストロイヤーから出た大きな鷲が咥えて猛スピードで対象に迫って行く。

 雄叫びを上げながら低空飛行を続ける鷲は一気にスピードを上げ、遂に繭へと激突。その瞬間に大きな爆発を起こした。

 

「やったか……?」

 

 春樹が呟く。

 次の瞬間、爆炎が晴れて結果が明らかになった。

 

 確かに繭を破壊し、パラレインにダメージを与えられたことは事実だ。

 だが変身解除、ましてや分離までは成功していない。

 

「どうしてだ……!?」

「言いましたよね? 『私はあらゆる機械や電子機器を操ることの出来る「操縦」の力を手に入れた』と。先程貴方の武器に触れた時、私を分離させる能力を一時的に制限させていただきました」

 

 つまり、先程の攻撃はただ彼奴にダメージを与えることしか出来なかったというわけだ。

 その事実に呆然としてしまう三人。

 彼らに今度は海斗が話を始めた。

 

「私が彼に憑依するように言ったのは、この銃を起動させるためだ。この銃には召喚だけではなく、こんなことも出来る」

 

 するとパラレインは5枚のカードを取り出した。

 銃身を元の長さに戻して一枚ずつカードを装填していくと、彼奴の周りに虚像たちが現れた。

 

『カイジンライド。アークオルフェノク!』

 

 白い異形の王──アークオルフェノク。

 

『カイジンライド。バットファンガイア!』

 

 蝙蝠を模した真紅の皇帝──バットファンガイア。

 

『カイジンライド。ユートピア・ドーパント!』

 

 楽園の記憶を有する黄金の紳士──ユートピア・ドーパント。

 

『カイジンライド。シグマサーキュラー!』

 

 銀色をした最強の兵器──シグマサーキュラー。

 

 この四体がパラレインの周りを取り囲む。

 一体何が始まるのか分からず当惑する三人は、ただ見つめることしか出来ない。本当であれば阻止したいのであるが、本能的に恐ろしさに似たものを無意識のうちに感じているのだろう。一切足が動かないのだ。

 

 彼らを他所に、パラレインは最後の一枚を挿れて銃身を伸ばした。

 

『カメンライド。ディエンド!』

 

 その瞬間、4体の怪物がパラレインに吸収されていく。

 黒い靄がかかって現状が把握出来なくなってしまうが、晴れたところでパラレイン、というより海斗が一体どうなったのか明らかになった。

 

 彼は化け物になっていたのだ。

 従来のディエンドを禍々しく変形させたような見た目をしていて、腹部にあったパラレインのドライバーは消えている。

 ある筈の無い口元が大きく開き、まるで何かを呑み込む準備をしているようである。

 さらに全身には白や赤、金に銀の色で模様が入っているが、それが何を表しているのかは一切解らない。

 

「これが、私が願いを叶えるために必要だった姿、ディエンド・ノヴァだ……!」

 

 黒く変色した雲の群から、大粒の雨が降り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What force does it use?

A: It is force that operates machines.




【参考】
東京の過去の天気 2022年5月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220500/)
洋傘のパーツ名称|傘専門店 小宮商店
(https://www.komiyakasa.jp/encyclopedia/parts/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question081 How has he strengthened himself?

第81話です。
超絶短いです。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
フレン・E・ルスタリオ - フラクタル

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.05.01 11:11 東京都 港区 日本体育館

「何だよ、あの姿……!?」

 

 ネクスパイが目の前の化け物を見て戦々恐々となりながら呟く。

 自身の父が同じ戦士となったことでさえ、彼にとってはかなりのことであった筈なのに、今度は自らがどれだけのことをしたとしても行けないような領域に到達してしまったのだ。

 戦士としての使命より、得体の知れないものと遭遇した時の本能的な恐怖心が三人を動かし、気が付けば全員武器を構えていた。

 

 すると突然、ディエンド・ノヴァの姿が消えたかと思うと、

 

「「グァァッ!」」

 

 リベードンアクトは前方へと吹き飛ばされてしまった。

 仰向けで倒れた後にすぐ起き上がったリベードンアクトと、瞬時に右側を向いたネクスパイが見たのは、先程まで自身らの前にいた筈のディエンド・ノヴァの姿であった。

 

 頭が追い付いていない状態のネクスパイに対し、ディエンド・ノヴァは右の掌で彼の腹部を押した。

 

「ガァァァッ!」

 

 強制的に後退させられてしまう。なんとか止まることは出来たが、止まった瞬間に押された腹部に深刻な痛みが襲いかかって来て、そこを押さえながら体勢を崩してしまった。

 

「一気に行くよ……!」

「了解……!」

 

 リベードンアクトは、融合する前のアクトとリベードの状態へと分離。ディスペルクラッシャー ソードモードを取り出して目標へと向かって行く。

 そこへディエンド・ノヴァは胸部にある目のような部分から一筋の光を勢い良く放出した。それは言うなれば白色のビームである。

 雨の中を一気に掻き分けて地面に激突し、粉々になったコンクリートの残骸を浮かび上がらせて視界を悪くし、また道を無くして行く手を阻むという点でこのビームは非常に役に立った。

 

 けれども向かって来るのはアクトとリベードだけではない。

 アンブレラブレイカー ロッドモードを持ち、再び立ち上がったネクスパイが電気を纏う先端を彼にぶつけようと試みた。

 

「オラァッ!」

 

 見事攻撃は命中。その後も肩や胸部、腕や腰にぶつけ、最後に左肩に当てるとディエンド・ノヴァは体を回転させながら退いて行く。

 

「「ハァッ!」」

 

 なんとか道を見つけて走って来る二人の戦士。跳躍をして剣心をぶつけて敵の強固な肉体を傷つけようとした。

 さらに背後では棍棒の先で攻撃を仕掛けるもう一人の戦士もいる。

 正に万事休す。成す術は無いのではないか。

 

 いや。決してそんなことはないと証明するように、ディエンド・ノヴァは左手を挙げた。

 刹那、後方のネクスパイの体は彼自身の意思とは反して浮かび上がり始めた。というよりも、そもそもそんな機能は搭載されていないがために、こんなことになっているのが不思議で堪らない。

 

 そして浮かび上がったネクスパイは自動的にアクトとリベードの前に移動させられてしまう。

 互いに攻撃はもう中止出来ないところまで来てしまっている。

 アクトとリベードの剣とネクスパイの棍棒がぶつかり合い、三人は別々の方向へ吹き飛ばされた。

 

 自滅に近いことで攻撃が終わってしまった三人を嘲笑うためなのか、ディエンド・ノヴァの身体が赤く発光を始める。

 雲によって青い体から出る赤色が、その場に燦々と降り注ぐ雨の粒に混ざり合っていく様は、もしこんな状況でなければどれほど美しいと思えたであろうか。

 

 次の瞬間、光が何重ものドーム状の波となって三人の戦士に攻撃をした。

 

「「「グァァァァァッ!」」」

 

 あまりにも強い痛みが彼らを襲い、強制的に変身を解除されてその場に倒れ込んでしまった。

 うつ伏せで倒れる三人。

 さらにカードを吸収したパラレインを相手した後に、今度はこの化け物だ。もう立ち上がるだけの力は残っていなかった。

 

「これから私は夏美を甦らせるために破壊を始めるよ。そのために一旦力を蓄える。じゃあ、またね」

 

 それだけ言い残すとディエンド・ノヴァは黒色のカーテンを出現させ、その中へと消えていった。

 

 残った者たちの背中に冷たい雨が降り注ぐ。

 首筋に走る冷たさだけを覚えながら、彼らは意識を失った。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 人間の姿に戻った海斗は暗い部屋の中で独り佇んでいた。

 虚とも思える目で天を仰ぐ海斗に、彼の中にいるパラレインが話しかけた。

 

 ──これで、もう私を倒さなくても良くなりましたね。

「それを狙って私の誘いに乗ったのかい?」

 ──まぁ、そんな感じですね。もう少しで私は、依存せずとも行動出来るようになる。もう貴方の力を借りずとも問題は無いわけです。

 

 パラレインの言葉に海斗は少しだけ溜息を吐く。

 

 その様子を、遠くの物陰からクロトが見つめていた。

 鋭くなっている彼の眼光は、真っ直ぐに海斗を見ていた。

 すると、

 

「一体ヤツに何をしようとするつもりなの?」

 

 背後からピカロに話しかけられた。

 海斗、というよりその中にいるパラレインに対して彼も睨みを効かせており、何も言わずとも彼とは通じ合いそうである。

 

「ちょっとさ、面白いことをしようとは思わない?」

「? どういうことだい?」

 

 

 

 

 

「──最後のゲームをしようと思うんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常8体

B群8体

合計16体

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

各々が所持しているメモリアルカードの枚数

SOUP:38枚

零号:117枚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How has he strengthened himself?

A: By absorb five monsters.




なんかクロトメインの終わり方になりましたが、次回の出番はほぼ無いです。
ご容赦ください。



【参考】
アークオルフェノク|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/phantoms/552)
バットファンガイア|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/phantoms/235)
シグマサーキュラー|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/phantoms/404)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 28 全てを一つに(ALL IN ONE)
Question082 What does her request mean?


第82話です。
前回クロトが言ったことは一切言及されずに数話進みます。ご了承ください。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.05.01 19:04 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

「今回の戦い、私とお兄ちゃんは降りることになったから」

 

 いつも二人が寝ている寝室で、春樹と向かい合いながら立つ碧が引き攣った笑顔で言った。

 

「何でだ?」

「解るでしょ? 戦っているのは私たちのお父さんだから」

 

 彼女の言葉で春樹は全てを察した。

 標的は碧と八雲の父親だ。ある種の温情が働いてしまい、任務は失敗に終わってしまう可能性が高い。

 そのため、今回の戦いに碧と八雲を参加させることは出来ないとSOUPが、というよりその上にいる警察庁が判断したのだ。

 本来であれば最初の方からそうすべきであったのだが、戦力不足のために仕方がなかった。けれどももうその必要は無い、ということらしい。

 

「だから春樹、お願い……」

 

 碧は俯きながら春樹の服の裾を軽く掴む。

 その軽さとは裏腹に、春樹は全身までもを持っていかれるような気がしてならなかった。

 顔を上げた碧と目線が合う。真っ直ぐと見つめられて、春樹は思わず息を呑んだ。

 

「──お父さんを、私の代わりに倒して……」

「……良いのか? 俺がそんなことして」

 

 黙って頷く碧。

 春樹は彼女のことを何も言わずに抱き締めた。

 その様子を、部屋の明かりを唯一灯してくれる、ベッドの近くにある机の上に置かれた照明だけが見つめていた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、おじさん」

 

 一方、部屋の白い照明が殆ど点けられているため明るい八雲の部屋にあまねはいた。部屋の真ん中にある食卓の周りの席に向かい合って座っている。

 詳しい事情は分からないが、一先ず二人きりにした方が賢明だと思って逃げ込んで来たのだ。

 

 あまねに話しかけられることなど滅多に無い。基本的に自分が話しかけてもぶっきらぼうな対応しかしてくれないため、まさか彼女から来てくれるとは……!

 八雲は今の大変な状況を一旦忘れて、彼女と話をすることにした。

 

「どうした?」

「……今、好きな人がいてさ、告白しようと思ってるんだけど……どう伝わるのか怖くて……」

 

 彼女は彼女なりに深刻な悩みを抱えているらしい。

 暫く考えたところで、八雲は同じように真剣な面持ちを浮かべて言葉を発した。

 

「じゃあ、このまま言わない方が良いと思うか?」

 

 首を横に振るあまね。

 

「……思ってることがあるなら言える時に言っとけ。先延ばしにしてると、絶対後悔するぞー」

 

 一瞬だけ目線を逸らした八雲。彼の目は何も無い虚を向いている。

 もうそこには何も無い。というより、誰もいない。何処にもいない三人目を目の奥で感じているのだ。

 

 あまねは彼の様子を見てこれ以上は何も言わなくなった。彼がそんなことを言える理由を知っていたからだ。

 俯いて同じように何も無い場所を見る。そこから何かが湧き上がって来るような気がしてならない。

 ただ下を向いて再び前を向き始めたところで、あまねは部屋から去って行った。その時の彼女の目に照明の光が反射して輝いていたのを、八雲は見逃さなかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.05.02 09:33 東京都 新宿区 SOUP

 翌日、班員たちは勢い良く話し合いをしていた。

 パソコンの画面でディエンド・ノヴァの映像を確認しながら、ああでもないこうでもないと言葉を交わしていく。

 

 この場に春樹と碧はいない。

 想像以上に三人は深傷を負ってしまった。その療養をしているところなのである。

 だが八雲だけは、別に俺は戦わないから、と言って会議に参加している。

 

「やっぱり、彼を倒すにはサーバーを使うしか無いですかね……?」

 

 深月が誰にというわけでもなく訊いた。

 それを使うことがどれだけ危険なことか解っているのだが、他に選択肢は無い。

 

「そうですね……。もうそれしか……」

「絶対に駄目です! あまりにも危険です!」

「でも他に選択肢は無いんですよ!」

「解ってますよ! 解ってますけど……」

 

 圭吾と薫の意見は一致しない。

 どちらもこの状況を打破しようとしてのことだ。

 

「なんとかしてサーバーを安全に使用出来る方法は無いのか?」

 

 森田の言葉で、全員の目線は八雲の方へと向けられる。

 当の本人はサーバーの設計図が映し出されたモニターの画面を確認しながら、頭を抱えて何かを考えている。

 

 すると、

 

「そういえばどうして、リベードンアクトよりもメモリアルカードの方がダメージを与えられたんでしょうね?」

 

 深月が突然呟いた。

 

「確かに、何故かそっちの方が効いていたよな……」

 

 森田のその言葉で、圭吾と薫も思い出した。

 碧がパラレインに憑依される寸前の戦いで、様々なメモリアルカードを駆使した際にはかなり優勢に立つことが出来た。だがリベードンアクトという現時点での最強形態になった瞬間、徐々に追い詰められて行ったような気がする。

 言われてみれば、一体どうしてそんなことになったのか皆目検討はつかなかった。

 

「……まさか、ヤツに有効なカードがある、ってことですか?」

「そうだったら一番良いんですけどね……」

 

 八雲と同じように全員が頭を抱えた。

 一体どうすれば良いのか。何をどう頑張っても分からない。

 

 中でも特に悩んでいたのは、一番最初に悩み始めた八雲である。だがその悩みの対象はサーバーではなかった。

 

 ──最後の帆立のバター醤油焼きの(くだり)は、一体何だったんだ……?

 

 遺言の最後にあった、あれは一体何だったのだろうか。そんなくだらないことを考えていた。

 否、実はくだらなくないのかもしれない。

 あんな意味の無いことは言わないであろうし、そもそも仏壇にそんな面倒なものを捧げろと言うような人間でないことは八雲が一番解っている。

 だとしたら、何故──?

 

 何かを加えたとしても、加えられたものそのものの良さが薄れることは無い。

 これが何を意味しているのか──。

 

 

 

 その時だった。

 八雲が一つの答えに辿り着いたのは。

 

「──そうか。別にそのまま使う必要は無いんだ……」

「……はい?」

 

 今まで見たことの無い程に真剣な様子で、しかし興奮を隠し切らずに語り始めた。

 

「要はあのサーバーをそのまま使うんじゃなくて、安全に使えるまで力を薄めて、そこに零号、というより全てのフォルクローに有効なカードの力を集約すれば良いんだ!」

「そうすれば春樹さんや碧さんに何も危害が無い状態で使うことが出来る……!」

「早速製作に取り掛かります!」

「私も選定に参加します!」

 

 八雲、圭吾、薫の三人が部屋から飛び出して行く。

 これで残ったのは、深月と森田の二人だけとなった。

 目線を合わせることは無く、ただ目の前のモニターを見つめている。

 

「……上手くいきますかね……?」

 

 深月が呟く。

 

「……なんとかなる。今はそう信じよう」

 

 森田の言葉に深月は深く頷く。

 これでようやく、過去に囚われた悲しき怨霊を祓うことが出来るやもしれない。

 本当に良かった。深月はずっと嫌悪を抱いていたのだ。何処となく、自分が辿ってしまったかもしれない道を見ているようで。

 だが彼には今を考えることしか頭に無い。残された自分が今をどうやって生きていくか。それがきっと、先に旅立ってしまった者たちから出された問いのような気がする。

 

 キーボードを叩き始めた。

 叩かれる音だけが室内に木霊していく。

 他に音は何もいらない。今はただ、それが聞こえるだけで充分と思った。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.05.04 14:00 東京都 新宿区

 清々しく暖かな晴天の下にある、新宿駅西口近くの大きな交差点を、人々は行き交っていた。

 理由は勿論のこと、突如としてその真ん中に現れた化け物から逃げるためだ。

 何処か安全な場所に行こうと足取りを速め、車に乗っていた者たちは飛び降りて徒歩でその場から離れる。

 

 暫くして、交差点の真ん中に立ったディエンド・ノヴァは変身を解除して周囲を見回した。

 もう誰もいない。周りのビルは黒煙や火花を飛ばし、主のいなくなった車が道路に無造作に放置されている。

 ここは彼の独壇場となった。

 

 だがすぐに来客たちがやって来た。

 腹部にドライバーを付けた春樹が10メートル程離れた場所で海斗と向かい合い、車の大群の中で碧たちがその様子を後ろから見守っている。

 

「私を止めに来た、というわけか? 邪魔しないでくれたまえ。もうすぐで妻に会うことが出来るんだ」

「だったら破壊とかそんなまどろっこしいやり方じゃなくて、()()()()()()()会わせてやるよ」

 

 正当なやり方。

 それが一体何なのかすぐに察した海斗は、ネオディエンドライバーとカードを取り出し、争うための準備を始めた。

 

「させないよ。絶対に」

 

 カードを挿し込んで銃身を伸ばし、握っている右手を挙げて銃口を宙空へと向けた。

 

『カメンライド』

「変身!」

『ディエンド!』

 

 様々な怪物たちの虚像が辺りに現れ、それらが海斗と一つになると、彼は再び異形へと変貌を遂げた。

 禍々しい目は真っ直ぐに春樹を睨み、今にも襲い掛かろうとする気で深く呼吸をしている。

 

「じゃあ、強制的にやるしかないな……!」

 

 春樹はサーバーを取り出して右手に握る。

 だがその表面は銀色から緑色になっていて、左側面の細長いタッチパネルにはいくつものマークが白く描かれている。

 これが八雲たちが改良した、オールマイティーサーバーΑ(アルファ)だ。

 

 すると春樹は左手でトランスフォンを持つと、サーバーの下にあるスロットに挿し込んだ。

 結果、サーバーの透明な表面からトランスフォンの画面が丸見えになる。

 

『COMBINE』

 

 左手の人差し指を使って、タッチパネルのマークを下から順になぞっていく。

 

『KUUGA! AGITO! RYUKI! FIZE! BLADE! HIBIKI! KABUTO! DEN-O! KIVA! DECADE! DOUBLE! OOO! FOURZE! WIZARD! GAIM! DRIVE! GHOST! EX-AID! BUILD! ZI-O!』

 

 右側面のボタンを押すと、いつもよりも豪華で軽快な音楽が流れるのと同時に様々なものが現れた。

 まず春樹の上空に幅の広い大きな緑色の輪が出現する。その上に置かれている物は──

 

 赤色のゴウラム。

 金色の龍。

 赤い龍。

 銀色の鮫。

 スペードの形をした銀色のオブジェ。

 紫色の鬼。

 大きな赤い兜虫。

 赤色の電車。

 黄色い蝙蝠。

 マゼンタの色をした巨大な蚊。

 緑色と黒色のUSBメモリ状のオブジェ。

 赤色、黄色、緑色の3色で構成される大きなメダル。

 白いロケット。

 ドーナツ状の赤いオブジェ。

 紺色の茎と枝の付いたオレンジ。

 赤色のスポーツカー。

 オレンジ色と黒色のパーツを連れた幽霊。

 「マイティ」と呼ばれるピンク色のキャラクター。

 赤色の兎と青色の戦車。

 銀色のティラノサウルス。

 

 どれも全て、メモリアルカードを使った時に出現するものであった。

 それらが真ん中に現れた黄金の鎧と透明な緑色の仮面を取り囲むようにしてある。

 

 サーバーを持った右手をゆっくりと左肩の方へと持って行く。手の甲を向けている状態であるため、手の内は見えない。

 そして春樹は右手をひっくり返すと、言葉を発した。

 目の前の標的を倒すために、最も有効な形態になるための言葉を──。

 

 

 

「変身!」

 

 サーバーをドライバーに挿し込んだ。

 

『Here we go!』

 

 鎧を残して輪が下降を始め、彼を囲む形で地面に落ちて来る。春樹の体をすり抜けた時には、もうすでに緑色の素体へと変身をしていた。

 そこへ輪の上にいた物が春樹の変身した春樹へと吸収され、同時に宙に浮いていた黄金の鎧が全身に装着された。

 

 ただの素体ではなく、嘗て何処かの世界で戦いをしていた20人の仮面ライダーの絵が全身に表れ、黄金の鎧は通常形態の物よりも若干尖っている。

 そして緑色の仮面によって顔が覆われた頭部には4本の角が生えており、まるで四号が最後に変身をした「凄まじき戦士」のようである。

 

『All twenty in this server! This is perfect for me to fight! I’m KAMEN RIDER ULTIMATE ACT! It’s the strongest.』

 

 仮面ライダーアクト アルティメットシェープ。

 20人の戦士の力を得た、最強の姿となった。

 

「さぁて、やってやるか……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What does her request mean?

A: It means that even if several things are added to another, original ability cannot weaken.




【参考】
東京の過去の天気 2022年5月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220500/)
ギリシャ文字 ─ Shinshu Univ., Physical Chemistry Lab., Adsorption Group
(http://science.shinshu-u.ac.jp/~tiiyama/?page_id=3782)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question083 What ability does that server have?

第83話です。
どうして一気に書こうと思うと短くなるのだろうか……。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【挿入歌】
ソナーポケット - GIRIGIRI

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.05.04 14:09 東京都 新宿区

「姿が変わったからって一体何だと言うんだい? 私には勝てないよっ!」

 

 ディエンド・ノヴァが前回の戦いのように高速で移動を始めようと、足を青色に光らせる。

 するとアクトはサーバーのタッチパネルにあるマークの一つに触れた。

 

『"KABUTO" LOADING』

 

 怪物がアクトの前に突如として現れ、右の拳を彼に食らわそうとした。

 だが左手で受け止められてしまい、それ以上の攻撃が許されない。

 

「何っ!?」

「変わっただけ、だと思うなよっ!」

 

 リベードンアクト以上の高速移動を行った筈なのに、最も簡単に対処されてしまう。

 驚くディエンド・ノヴァに、アクトは目にも留まらぬスピードで手足を動かし、パンチやキックを次々と食らわせる。そして右手でパンチをお見舞いして後退させた。

 

「グッ……!」

 

 これでアクトの進撃は終わらない。

 別のマークを指で押す。

 

『"GHOST" LOADING』

 

 その瞬間、サーバーからパーカーの形をした幽霊たちが何体も出現。ディエンド・ノヴァの方へと向かって行く。

 ある個体は両腕に付いた刃で斬りつけ、ある個体は他の個体が眩い光を放って目眩しをしている隙に大量の矢を射った。

 

『"FAIZ" LODING』

 

 アクトの右手に銀色の武器──ファイズナックルが装着される。

 それが少しだけ赤色に発光したのを確認すると走り出し、ナックルを持った右手を怪物にぶつけた。

 

「ハァッ!」

「ゴァッ……!」

 

 腹部を押さえて悶えるディエンド・ノヴァ。

 それを止めると、彼はアクトの方を睨んだ。

 

「ならば……これでどうだ……!」

 

 ディエンド・ノヴァの身体が赤色に発光を始める。陽に照らされることによってさらに眩しくなる彼の姿は、これから最大の攻撃を食らわせるということを暗示していた。

 どれだけの威力を持っているのかを知っている碧たちは、遠方にいるにも関わらず車を盾にして身を守る。

 

 するとアクトはまたタッチパネルに触れた。

 

『"RYUKI" LOADING』

 

 それと同時に、ディエンド・ノヴァは一気に自身の中に込められたエネルギーを一気に放出した。

 これでアクトは周りのビルや車諸共、粉々に粉砕されてしまう。

 激しい爆発によって様子こそディエンド・ノヴァには見えなかったが、きっと自らの思い通りになっていると思って笑みを浮かべた──。

 

 

 

 だが、

 

「!?」

 

 爆発が晴れたところで彼の視界に入って来た景色は、その場に倒れ込むアクトの姿でも、崩壊したビルや車の群でもない。

 自身の周りを取り囲む大量の赤い盾であった。壊れたものは何も無く、盾が消えたところで無事なアクトの姿も確認出来てしまう。

 

「どういうことだ!?」

「俺が使っているこのサーバーには20枚のメモリアルカードの力が入っている。しかもそれを無条件で使うことが出来る。最強なんだよ、今の俺は……!」

 

 ディエンド・ノヴァは再びアクトの方へと走り出し、何度も何度もパンチを仕掛けて来る。

 攻撃を仕掛けながら、彼は今までに無かったような怒りに満ちた声で彼に語りかける。

 

「何が最強だ! それは所詮、他人の力を使うだけ。私と何も変わりはしないじゃないかっ!」

『"OOO" LOADING』

 

 両腕に現れた黄色い鉤爪で標的に次々と斬りつけるアクト。

 

「確かに力の受け取り方は同じだ。でもその使い方は違う! 過去に失った人のことだけを考えているお前とは違って、俺は……今を生きる奴のことだけ考えてるんだよっ!」

 

 クロスした両腕を開くことによって引っ掻き、ディエンド・ノヴァの身体から大きく火花を散らせて後退させる。

 その間、ドライバーのプレートをサーバーの方へと押した。

 

『Are you ready?』

 

 次にサーバーを下に押し込むと、アクトの両脚は緑色に発光を始め、背中からは大きな赤い羽根が華麗に生え始めた。

 

『OKAY. "OOO" DISPEL STRIKE!』

 

 緑色に光る両足を使ってまるで飛蝗のように跳躍をしたアクトの前に、3つの輪が下の方へと続いていく。

 背中の羽根で優雅に宙を舞っている彼は、両足を出した状態で急降下。輪の中を猛スピードで潜り抜けてディエンド・ノヴァに強烈なキックを繰り出した。

 

「ハァァァァッ!」

「グァァァァァッ!」

 

 爆発が起こり、ディエンド・ノヴァは一気に後ろへと吹き飛ばされた。

 なんとか立ち上がった彼に対し、アクトは非情にもディスペルデストロイヤー バズーカモードを取り出して最後の段階に進もうとした。

 

「これで終わらせる……!」

 

 それを見たディエンド・ノヴァはネオディエンドライバーを持つと、そこに黄色いカードを挿し込んで銃口をアクトへと向けた。

 銃口からカードで出来たトンネルが出来て、その中で大きな黒い銃弾が完成されていく。

 

『ファイナルアタックライド。ディディディディエンド!』

 

 ディスペルデストロイヤーを右手に持つアクトは、左手でサーバーを取り出すと、武器にある中で一番大きなスロットへと装填した。

 

『Are you ready?』

 

 アクトの身体が緑色と虹色に眩く発光を始め、その光が次々と銃口の前に集まっては大きな弾丸を作り始めた。

 弾丸は日光を反射してさらに光り輝いている。

 

 互いに準備は万端だ。

 後は、引き金を引くだけである。

 アクトは銃弾があまりにも光輝いていることによって、ディエンド・ノヴァは銃弾が光を吸収してしまっているために前方を確認出来ない。

 もう、自分のタイミングを信じるしかない。

 

『ULTIMATE SHOT!』

 

 それぞれが引き金を引いた。

 まずはディエンド・ノヴァの方から黒い弾丸が勢い良く発射された。一切の動きを見せない標的に向かって、着々と進んで行っている。

 

 その攻撃が無駄に終わったのは、アクトが引き金を引いた瞬間であった。

 作り出された丸いものは弾丸ではなく、ここから発射される緑色の強力なビームの出発点に過ぎなかったのだ。

 すぐに迫って来る弾丸はビームに呑み込まれ、ディエンド・ノヴァもそれに巻き込まれてしまう。

 

 そして突然何事も無かったかのようにビームが消えると、刹那、ディエンド・ノヴァをけたたましい爆発が襲った。

 

 じっと前を見据えるアクトは、バズーカを下ろし変身を解除して春樹の姿へ戻る。

 目の前では同じく変身を解除した、と言うよりさせられた海斗が膝を付いて倒れていた。所々から出血をしており、服には黒い煤が付いている。

 

「何故だ……。私はただ、夏美に会いたいだけなのに……」

 

 下を向いたままブツブツと呟く海斗の様子を、碧と八雲は遠くの方から眺めていた。

 徐々に沈み始めてきた太陽から放たれる光によって、その姿は良く目視出来ないが、見えない彼に対して向ける目は細くなっていて、深く呼吸をするように努めている。

 

 じっと俯いていた海斗は呟くのを止め、目線だけを前に向けた。

 

「……もういいさ。早く()()()()()()()()へと連れて行ってくれ」

 

 春樹はトランスフォンを取り出して、カードを裏側にかざす。

 

『THE END OF VOLKLOW』

 

 シャッターが俯く男を捉える。

 じっと睨む彼の鋭い眼光を画面を通して見る春樹の表情はとても曇っていた。

 そして、遂にシャッターが切られると、海斗の身体は粒子状に変化をして端末の方へと吸い寄せられ、その中に1枚のカードとして現れた。

 

 カードには大量の絵画や大判小判、宝石が置かれた部屋の中を猫が歩く様子が描かれており、下部には白く「No.075 THIEF DIEND」と印字されている。

 

 そのカードをじっと見つめる春樹は、まだ目の前にあの男がいるような気がしてならない。

 いる筈のないのに感じてしまう前方からの誰かの気配と、背中に走る誰かからの何とも言えない感触を一身に受ける春樹のことを、太陽は無情にも静かに照らし、徐々に自身の帰る場所へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What ability does that server have?

A: That ability is that can use all force of 20 cards.




もうすぐでシーズン3も終わりです。
「アクト」の物語は終幕へと向かって行きます。
なので、そろそろ次回作を考えなくては……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question084 What happened in the end of this fight?

第84話です。
実は先日、大ちゃんネオ様主催されている「ハーメルンジェネレーションズ」への参加が決定いたしまして、新作を先程投稿させていただきました。
合わせて読んでいただけると有り難いです。

https://syosetu.org/novel/321882/

感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
フレン・E・ルスタリオ - フラクタル

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.05.04 16:05 東京都 港区 鉄砲坂病院

 日菜太が病院を出て後ろを向いた時、陽は徐々に沈み始めていたのだがそれでも外はまだ明るく、病院の白い外壁は赤く染まっていた。

 その赤を見る度に、日菜太は思い出してしまうのだ。自身の意思ではなかったとしても、誰かの命を奪った。その時に流れた赤黒い血液に似ているような気がしてならない。

 

 吐き気が少しだけ襲い掛かった。吐瀉するまでではないが、とても気色が悪い。

 それはまだ16歳の青年には早い感覚であった。

 

 逃げるように前を向いて歩き始める日菜太。

 送迎を行うタクシーが通る道の端にある通路を歩けば、駅に続く一本道だ。

 誰にも会わず、ただ独りで家路につこうとした。

 

 だがそれは、目の前に立っていたあまねによって妨害された。

 もう会うことは無いと思っていた彼女の姿に、日菜太は戸惑いながらも冷静になろうと努めた。

 

「……何しに来たの? もう君は、僕に関わらない方が良いよ……」

 

 俯く日菜太の表情は暗い。

 

「……嫌だ」

 

 あまねは断固とした意志を持って、日菜太の方を見据えている。

 その言葉に日菜太は、彼女をどうにか拒否しようと言葉を紡ぎながらあまねの方へと歩いて行く。

 

「……何で……? だって、言ってしまえば僕は人殺しなんだよ。そんな僕といたって君が不幸になるだけだ……。だから……」

 

 すると突然、あまねが日菜太を抱き締めた。とは言っても、そこそこな身長差があるため、彼の胸に飛び込む形にはなってしまうのだが。

 

「離れるわけないでしょ!」

 

 あまねの大きな言葉に驚く日菜太。

 

「離れたくなんてないよ……。もし今苦しんでいるなら、その痛みを一緒に乗り越えさせてよ……。だって、君のことが好きなんだから……」

 

 ゆっくりと腰に巻き付いた両腕を離す。何だか呆然としている日菜太の顔を少しだけ見たあまねは、言葉に詰まって下を向き、最後に絞り出すように言った。

 

「今のは、軽い気持ちで言ったんじゃなくて、本気だから……」

「いやあの、そうじゃなくて……その……僕のことが好きって……」

 

 自分の言ったことの一部始終が脳裏に流れ始め、思わず見上げたあまねの顔は赤く熱っていた。

 だが、一切の後悔は無い。言いたかったことを、ようやく口に出すことが出来た喜びを噛み締めながら、ゆっくりと首を縦に振った。

 彼の心情など全く考慮していない自分勝手な告白であったが、それが彼女に出来る一番のことであった。

 

「……僕も、()身体(からだ)を乗っ取られていた時から、君のことが気になってた。ずっと()に君が奪われるんじゃないかって怖かった。……だから、そう言ってくれてすごい嬉しい……」

「それじゃあ……」

 

「うん。僕も好きだよ、あまねちゃん」

「……!」

 

 ずっと、この時を待ち望んでいた。それが自分だけではなく彼もであった。

 その事実があまねの胸を大きく昂らせ、これ以上に無い喜びを一身に受けていた。

 

 嬉しさを共有し合うように二人は笑い合う。

 これまで味わったことの無いような幸せ。まだ若人である彼らには受け止めきれない程のものであった。

 

「……それじゃあ……帰ろうか」

「うん。おじさんとおばさんも待ってるよ」

 

 病院に背を向け、家路を歩き始めた。

 徐々に沈んで行く太陽が放つ光は二人の男女を照らし、そしてゆっくりとこの場を去って行った。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.05.04 10:54 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 全ての灯りが消えて暗くなった寝室の中で、春樹と碧はベッドの上に横たわっていた。

 普段であれば、春樹と碧は向かい合い互いの手を繋いで寝るのだが、碧は右側にいる春樹に背中を向けて寝てしまっている。

 春樹に常軌を逸したと思える程の愛情を注ぐ彼女には考えられない行動であった。

 

「……起きてるか?」

「……うん」

 

 試しに声を掛けてみると、どうやらまだ寝付けないらしい。

 

 暫く流れる沈黙。

 その中で春樹は、どうして碧が自身の方を向いてくれないのか大凡の検討がついた。

 

「……お義父(とう)さんを倒したこと、本当にすまなかったと思ってる」

「ううん。仕事だから、理解している……」

 

「それがお前の本心か?」

 

 それに碧は答えない。

 

「……この際だからはっきり言ってくれ。恨みも罵詈雑言も、全部受け止めるから……」

 

 すると暫くして、碧は横に転がると、春樹の上に覆い被さった。

 一切灯りが灯っていないこの部屋の中では、碧の表情を確認することは容易ではないが、海斗を葬り去った後に背中で感じたあの何とも言えない感触を、全身で味わうこととなった。

 

「──どうして……」

 

 そして静かな寝室の中で、碧はこれまでの人生で出したことも無いような叫びを出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてお父さん()()殺したのっ!」

 

 やっぱりか。

 碧の言葉で春樹は黙って外方を向くと、光の無いこの部屋の中に存在する筈のない影が、彼の顔に差し込んだような気がする。

 

 

 

 

 

 そう。春樹が倒したのは常田海斗()()であったのだ。

 

 あの時、仮面ライダーアクト アルティメットシェープに変身した春樹は、見事常田海斗を倒すことに成功した。

 その証拠が、春樹の目の前にあるディエンドのカードであった。

 海斗と共に、彼に取り憑いていたパラレインも倒せた。これで、全てが終わった──

 

 

 

 だが、

 

「──中々、良い攻撃でしたね」

 

 聞き覚えのある声に、聞き馴染みのある口調。

 まさかと思い前を向くと、そこに立っていたのは()()()であった。

 どうして彼がここにいるのか疑問に思わなければならないのであろうが、彼の髪の毛が白色になっていることから、その場の全員が全てを察した。

 

「パラレイン……!」

 

 ニヤリと笑みを浮かべる日菜太に扮するパラレイン。片仮名で「ヒナタ」とでも表記するべきか。

 

「どうして生きているんだよ……!?」

「この戦いの前に111枚のカードを吸収させていただきましてね。ようやく、誰に寄生せずとも実体を保てるようになりましたよ……!」

 

 ──実体を保てるようになった。

 それは、本来の力を取り戻すための段階を順調に踏んで行っているということだ。と言うより、もう少しで完成してしまう。

 

「残りは百四十三番。これで後1体になりましたね」

 

 後はクロトだけとなった。

 彼奴はさらに駒を進めてしまっているということである。

 彼らが感じるのは焦り以外の何物でもなかった。

 

「では、私はこれで失礼します」

 

 いつの間にかヒナタの姿は視界から消えていた。

 暑い外に立っていては、身体から汗が噴き出てくる。だが春樹から出てくるものは、ただ外気のために出てきたようではなかった。

 

 

 

 

 

「それが私たちの仕事だってことは自分が一番理解してるよ! ……でも……でも私は受け止められないの……。どうしたら良いのよ……」

 

 春樹の首元に生温かい感触が襲って来る。碧が流した大粒の涙によるものであった。

 彼女の目はあの時と同じであった。春樹がある目的のために碧に近付いて来たことを知った時、彼女は同じように睨んでいた。行き場の無い、怒り、悲しみ、憎しみ。全てを詰めた目線で。

 

 泣き疲れた碧は春樹に抱き付いた。全てを吐き出し、今はゆっくりと呼吸を行っている。

 

「……有り難う。スッキリした。……ごめんね、色々と」

「……いや、大丈夫だ。寧ろ言ってくれてホッとした」

 

 再び見つめ合う春樹と碧。

 愛する者を見る碧の目から様々な感情は既に消え、ただ彼を想う慈愛の心だけが残った。

 

 二人は静かに互いの唇を重ね合わせる。

 これ以上、余計な言葉を紡がぬように口を塞いでいるのだ。今の彼らに無駄となる言葉など必要無いのだから。

 

 それ以降に関しては、暗い部屋の中にいたがために誰も知らない。

 ただ夜遅く帰って来たあまねが、硬い物同士と柔らかい物同士がそれぞれぶつかり合う音を聞き、溜息を吐きながら自室に戻ったとのことらしい。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

「今、パラレインはあそこのベッドで寝ています。急激なカードの吸収は、やはり疲れてしまうそうです。今は安静にしているのがベストでしょう」

 

 いつも通りに円形に椅子を並べて座るアールたち。彼の顔はいつも以上に深刻で、向かい合うフロワとピカロの気を引き締めさせる。

 

「休んでもらってる間に、クロトの坊やはとっとと倒さないとね。ところで──」

 

 フロワが突然、ピカロの方を見始めた。

 彼女の目は真っ直ぐとピカロの方を向いている。今までそんなことは無かったのに、どうして──。

 

「カードが2枚無くなってるんだけど、知らない?」

「……僕は、何も知らないけど……」

 

 

 

 

 

 嘘だ。

 彼は知っているのだ。

 何せ盗んだのは、ピカロ本人なのだから。

 

 クロトに話しかけた時、彼に頼まれたのだ。何枚でも良いからカードを奪って来てくれ、と。

 なのでアールやフロワ、さらにはパラレインの目を盗んで、自分の好みに合うカードをクロトに手渡した。

 

「一体どうするって言うの?」

「これはただのログインボーナスだよ。これから始める()()()のね」

 

「ねぇ。その『ゲーム』って一体何なの?」

 

 その瞬間、クロトの顔が突如として曇り始めた。

 何か彼が蓋をして閉じ込めていたものを開いてしまったらしい。

 否。もう開かれているのかもしれない。

 

「……復讐だよ。僕を貶して、愚弄して、滅茶苦茶にした奴らへの……!」

 

 するとクロトは1本のガシャットを取り出した。

 2本分の厚さを持った紫色のそれには、何やら装置の中に入ったキャラクターが描かれていて、さらに下部には小さなゲンムの胸像が設置されている。

 

「いよいよ始めるよ。最後のゲームを……!」

 

 クロトがガシャットに付いた黒色のボタンを押すと、新たに空間が創り出される。

 その中に足を踏み入れた瞬間、ピカロは彼の底知れぬ闇を見ているようで恐ろしくなったのと同時に、楽しくもなってしまった。

 

 そして彼らを巻き込み始めたアイテムは、高らかに自身の名を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴッドマキシマムマイティX』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常0体

B群7体

合計7体

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

各々が所持しているメモリアルカードの枚数

SOUP:39枚

零号:125枚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What happened in the end of this fight?

A: The monster has been able to live without somebody.




【参考】
東京の過去の天気 2022年5月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220500/)
日の出入り@東京(東京都) 令和 4年(2022)05月 - 国立天文台暦計算室
(https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/dni/2022/s1305.html)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 29 最後のゲーム(THE LAST GAME)
Question085 What is his new game?


第85話です。
実は、今現在同時に連載している「Almost Human」の伏線になるような描写が結構ありますので、要注目でございます。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
ソナーポケット - GIRIGIRI

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.05.12 07:57 東京都 渋谷区 城南大学附属高等学校 3階 2年5組

 ようやくこの時が来た、とあまねは笑顔で教室の中に入った。

 遂にフォルクローとの戦いで傷付いた校舎や校庭の改修工事が終わった。待ちに待った新たな教室への移動に対する喜びが、入室せずとも入り口から漏れ出て来る。

 

 あまねの席は一番後ろにある窓の隣の席だった。そこへ向かうと、その隣に日菜太が座っているのが見えて思わず笑みが溢れてしまう。

 

「おはよう、日菜太くん」

「おはよう」

 

 日菜太に笑顔を向けるあまねの様子を見ていた男子生徒達は、はっきり言えば嫉妬に駆られていた。

 

 本人は全く気が付いていないのだが、あまねは男子にかなりモテる。才色兼備で何よりもスタイルが良い。一度で良いからそういうことをしたいと妄想に耽る対象としていた彼女が、クラスでそこまで目立つことの無い日菜太と仲良くしているのだ。それも、ただのクラスメイトと話す感じではない、もっと親密そうな感じで。

 

 そして彼らはあることに気が付いた。

 何処となく色気が増している。

 あの肉感のある肉体を持っていればそう感じることは当然なのだが、以前よりもより増しているように見える。

 

 ──まさか……!

 

 ある一つの結論に辿り着いた時、男子生徒達は血涙を流しそうな勢いで悔しがり始めた。

 

「取られた……!」

「そして、()()()()……!」

 

 彼らの羨望の眼差しなどつゆ知らず、あまねと日菜太は会話に花を咲かせていた。

 

「ところで、日菜太くんは()()()()()受ける?」

「ん? 何だっけ、それ?」

「ほらあれだよ。放課後にやる、有名なゲームクリエイターの人の講義。私の進路とは全然関係無いんだけど、一先ず受けてみようかなって」

「……じゃあ僕も受けようかな。事前申し込みとかいらないんだよね? あまねちゃんが行くなら僕も」

 

 あまねは大きく頷く。

 それを見て日菜太が微笑むと、あまねも笑みを浮かべた。

 そのせいか、嫉妬の炎がメラメラと上がっていくのに全く気が付かなかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.05.12 15:03 東京都 千代田区 警視庁 17階

「まーた呼び出しだよ。めんどくせぇ」

 

 広い廊下に静かに響かせるように、八雲は呟いた。

 

「はっきり言って、同感ですね」

 

 圭吾もそれに賛同する。

 

「でも呼び出しってことは、それなりの緊急事態ですよね?」

「ああ。じゃなきゃ足を運ぶ必要は無い」

 

 薫の質問には森田が答えた。

 

「なんか、すごく嫌な予感がするんだけど」

「やっぱりですか? 僕もです」

「俺もだ。もう帰ろうかな……」

 

 春樹に碧、深月が無駄口を叩いたところで、全員はあの大きな会議室に再び足を運び入れることとなった。

 中では江戸川ミソラの件で世話になった桜井が立ちながら待っており、春樹たちを見ると、

 

「お疲れのところ、来ていただいて有り難うございます!」

 

 と一礼をした。

 

「で、本日はどのようなご用件でしょうか?」

「──まずは、これをご覧ください」

 

 森田が訊くと、桜井は手に持ったiPadを操作し、大きなスクリーンに画像を表示した。

 カフェや誰かの自宅らしき内装が写された3枚の写真は、どうやら何かの現場を撮影したものらしく、数字の書かれた札や鑑識が着ている青色のつなぎの一部が見える。

 

「これらは、ある3人の男性の方が昏睡状態で発見された現場です。数分前までは元気だったのに、突然意識が無くなったと」

「原因は一体何なんですか?」

 

 薫の問いかけに桜井は首を横に振った。

 

「全く判りません。ただ、強いて言うなら、直前に一人の男に会っていたことが分かったんです」

「誰なんだ? その男って」

 

 春樹の問いかけに答えるように、桜井は新たに映像を写した。

 ビルの中にあるエレベーター前の廊下であろうか。2つあるエレベーターのうち、左側の方の前に立つTシャツを着た男に、ジャケットを羽織った男が話しかけていた。

 暫くしたところでジャケットを着た男が何かを右手に持ってそれを見せた時、Tシャツの男はその場に倒れ込んでしまった。彼の様子を見たジャケットを着た男は、その場を去って行った。

 

「あの男が持っている物は何だ? 強い光を放つ物でもなさそうだし……」

「ええ。あんな小型の物で昏睡に至らしめるだなんて、不可能ですよ……」

 

 この手の道具を作る側であることから、精通している八雲と圭吾でも一体何だか判らないらしい。

 

「いや、それより、あの男……どっかで見たこと無いか?」

 

 春樹の言葉で全員はピンときた。

 ジャケットを羽織ったあの風貌は、間違い無くあの男であった。

 

「クロト……!」

 

 碧の呟いた通り、それは(まさ)しくクロトであった。

 これで彼の持った装置のことが判った。あれは彼が変身に使用しているガシャットであった。どれほどまでの汎用性を持っているのかは分からないが、未知の装置に対する疑問は払拭出来た。

 

「えぇ。これは確かに、新型未確認生命体第十八号こと大野玄斗です。昏睡状態になった全員に彼が接触していました」

「何のために、ですか?」

 

 深月の問いに桜井が答えた。

 

「気になって部下に調べてもらったら、少々気になることが分かりまして……。実は、昏睡状態になった四人は、学生時代に大野を虐めていたらしいんです。しかもですね……あの『マイティアクションX』ってゲームはご存知ですか?」

「娘がやっていたな……。人気のあるアクションゲームですよね?」

「仰る通りです」

 

 「マイティアクションX」は主人公であるマイティが、塩を司る紳士のソルティを初めとする怪物達と勝負をする、という内容のアクションゲームである。

 2016年に発売して以来、森田の娘である奈緒美のような子供達を中心に世界中で愛されているのだ。

 

「そのマイティアクションXの開発に関わっていたのが、今回被害に遭った四人なんですが……実は、あれは元々大野が作ったものだったんです」

「!? どういうことですか……!?」

 

「要は、盗作ですね。彼が作り完成させたものを、あの四人が我が物として発表したというわけです。……これはあくまで私の推測ですが、自分の大切なものを奪った彼らへの復讐なんじゃないでしょうか……?」

 

 桜井の言葉で、碧は嘗てクロトが自分にかけてきた言葉を思い出した。

 ──君と僕は似ているようで似ていない。

 それはどうして自分に執着しているのかを尋ねた時に、彼が言った言葉だった。

 

 あの時は一体どういう意味なのかさっぱりであったが、ようやく理解出来た。

 碧もクロトも大切なものを失った身だった。碧は大切な家族を、クロトは心血を注いで作り上げたゲームを、だ。

 その悲しみや憎しみを仮面で隠し戦うという点で、彼らは同志なのだろうか。

 

「じゃあ、この四人に手をかけたってことは、もうこれでクロトがこんなことをする必要は無いわけですね?」

 

 深月の言葉で全員が安堵した。ターゲットがもういないのであれば、もう彼がこんなことをする必要性は皆無であるからだ。

 だが、

 

「いえ。実はもう一人いるんです。マイティアクションXを自分の名義で発表した張本人が──」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.05.12 15:51 東京都 渋谷区 城南大学附属高等学校 1階 講堂

 階段状になった床に備え付けられている座席には、あまねや日菜太を含めた数十名の生徒が目の前を向き、一番上の段にいる教員達も立ち見をしている。

 

 彼らの目線の先にいるのは、壇上に立つジャケットを着た青年であった。

 彼こそが、マイティアクションXの開発者と謳う青年だった。自信満々に生徒たちに講義を行う彼の姿からは、後ろめたさが微塵にも感じられない。

 

「──以上で講演自体は終了になりますが、ここで何か質問はありますか?」

 

 生徒達は一体誰が一番最初に挙手をするのかと待ち構える中、立ち見客の中の一人が左手を挙げた。

 

「では、そちらの方」

 

 教員からマイクを手渡されるその男の方を、着席していた生徒達が見る。

 この学校の人間ではなかったために誰なのかと騒つく中、正体を知っているあまねと日菜太は、どうしてここにいるのだ、と目を見開いた。

 

「クロト……!」

 

 マイクを口に近付けて話しながら、ゆっくりと階段を降りて行く。

 

「すごく良い講義でした。制作の裏話やクリエイターとして重要なこと。とても貴重なお話を伺えて非常に良かったです。そこで一つ質問なのですが……」

 

 階段の中腹あたりで立ち止まるクロト。

 その目は真っ直ぐと青年を睨んでいる。

 

(なん)で僕のゲームを奪ったの……?」

 

 彼の発言で目の前にいる人物が一体何者なのか判った青年は、驚きの表情を隠せない。

 

「どうして……。どうして君が、ここに……」

「言ってしまえば復讐しに来たんだよ。奪われたなら奪う。逆に奪ったなら、奪われるのが筋だよね?」

 

 するとクロトは大きな紫色のガシャットを右手に持って肩の高さまで上げた。

 ロボットに乗った紫色のマイティが描かれたそのガシャットは2本分の分厚さがあり、今までのものとは全く違う印象を持っている。

 

「じゃあ、君も僕のゲームのポイントになってよ」

 

 黒いボタンを親指で押した。

 

『メモリアルクロニクル』

 

 クロトの上に「MEMORIAL CHRONICLE」と緑色の尖った文字で書かれたモニターが現れる。

 すると、そこから紫色の粒子が大量に飛び出して青年の周りを彷徨き、そして体内へと侵入して行く。

 

 次の瞬間、青年はその場に倒れ込んだ。その時に出た鈍い音が講堂内に響き渡る。

 

「皆逃げてっ!」

 

 目の前で起きる惨状に理解が追い付かず呆然とする生徒たちであったが、あまねの叫びによって我を取り戻し、悲鳴を上げながら壁面に2つずつある扉から外へと逃げ出した。

 何が何だか分からないが、この場にいては不味いと言う本能だけが彼らの足を動かしていた。

 

 代わりに入って来たのは、ドライバーを装着した春樹と碧の二人であった。

 壇上の上でうつ伏せに倒れている青年を見つめるクロトを発見し、驚愕している。

 

「もう手遅れだったか……!」

「うん。遅かったね、二人とも。……そうだ。折角だしログインボーナスをあげるね」

 

 クロトは2枚のカードを碧に投げた。両手で受け止めて絵柄を確認する。

 一枚目には、夕暮れの中で鎖の巻きついている十字架を着けた女性が祈りを捧げている様が描かれていて、下部には「No.069 CLERGYMAN IXA」と白く印字されている。

 二枚目には、心臓のような形をした鉛色の道路を数多くの赤いスポーツカーが走行している様子が描かれ、「No.127 PAL HEART」と書かれている。

 

 パラレインから盗んできたのか……。

 

「一体この人たちに何をしたの?」

「……僕が作り出した『メモリアルクロニクル』というゲームを使ったんだ。これから発生するウイルスに感染した人は、自分のことを恨んでいる人や自分のトラウマになっている人、自分が後悔の対象にしている人によって、延々と殺される夢を見るんだ」

 

 非常に楽しそうなその様子は、まるで燥ぐ子供のようだ。

 

「これでゲームは終わりだろ? 早く目を覚まさせろ」

 

 春樹の言葉に、クロトは不穏な笑みを浮かべた。

 

「無理だよ。そんなプログラム組み込んでいないんだから」

 

 彼の笑顔はこれまでに見たことの無い程の満面の笑みであった。

 ようやく恨みを晴らすことが出来た、と言ったところであろうか。

 

「それに、まだゲームは終わりじゃないよ。後1人だけ、倒さなきゃいけない奴がいるから……!」

 

 その人物が誰なのか、春樹と碧はすぐに見当がついた。

 姉である花奈の命を奪った、あの未知の生命体だ。何れ自身が、そいつのための生贄と化してしまう前に、全てに蹴りを付けようとしているに違いない。

 

「折角だし君たちも参加してよ。僕の、最後のゲームに」

 

 すると三人がいる場所は、講堂の中から広い野球場のグラウンドへと変化を遂げた。

 ホームに立つ春樹と碧に、ピッチャーズマウンドに立つクロト。いつ間にかクロトの腹部にはゲーマドライバーが装着されており、先程のガシャットは右手に握られたままである。

 

「春樹。ここで一気に片を付けよう」

 

 いつもより積極的な碧に少々戸惑い、右側にいる彼女の顔を見る。

 

「……お前、今日なんか調子おかしくないか?」

「……私と彼は似てるようで似てないんだって。だから、似ている者同士が蹴りを付けないと……」

「……そうか。分かった。じゃあ行くぞ」

「うん……!」

 

 春樹がクラックボックスを取り出し、そこにトランスフォンをかざす。

 

『CONNECTING US』

 

 クラックボックスが付けられた状態のドライバーが腹部に装着されたところで、二人は目の前に現れたカードを端末に挿し込んだ。

 

『『"REVE-ED'N'ACT" LOADING』』

 

 電源ボタンを押す。

 

『『Let's "UNITE"!』』

 

 宙空に銀色の鎧が浮かび上がる中、青色の直方体に入れられた碧と、緑色の円柱に入れられた春樹は各々がポーズを取った。

 

「「変身!」」

『『Here we go!』』

 

 リベードの素体になった碧が青色の液体に化すと、パイプを介して黒い怪物に変身をした春樹の中に取り込まれていく。体色が変化をした彼に鎧が装着されて、仮面ライダーリベードンアクトが完成した。

 

『Release all and unite us! We’re KAMEN RIDER REVE-ED’N’A-CT!! It’s just the two of us.』

 

 彼らの姿を見たクロトはふと笑みを浮かべた。まるで挑発をしているようなその様子に、若干の苛立ちを覚えてしまう。

 

「それじゃあ、ゲームスタートだ」

 

 ガシャットに付いた黒色のボタンを、右手の親指で押した。

 

『ゴッドマキシマムマイティX』

 

 ガシャットを90度回転させると胸の前まで持っていき、まるで合掌をするように両手で挟んだ。

 そして彼は静かに言ったのだ。

 最後のゲームを始めるための言葉を──。

 

 

 

 

 

「グレードビリオン。変身」

 

 ガシャットをドライバーのスロットに装填した。その分厚さ故に、全てのスロットが埋められてしまう。

 

『マキシマムガシャット!』

 

 レバーを引いて展開すると、ガシャットに描かれたのと同じ絵柄が表示されているモニターが現れる。

 

『ガッチャーン! 不滅(フーメーツー)! 最上級の神の才能! クロトダーン! クロトダーン!』

 

 荘厳な音楽が流れる中でドライバーから放たれたゲートがクロトを通ると、クロトの姿は仮面ライダーゲンム アクションゲーマー レベル0へと変化する。

 まず第一の変身を遂げた彼は、上にあるモニターからゲンムの顔を模したオブジェが出現したのを感じ取ると、ガシャットにあるゲンムの胸像を左手で下へと押し込んだ。

 するとゲンムはオブジェの中に吸い込まれていき、長い手足や頭部を出した彼は地面へと真っ直ぐに着地した。

 

『ゴッドマキシマームX!』

 

 大きな胴体にそのままの大きさをした顔。胸部にある模様のせいで、顔が2つあるように感じ取れてしまう。

 奇天烈であるその姿は、まるで土偶のようである。けれでも太古の時代で豊作祈願や鎮魂のために作られたものを模っているということは、それはまるで神のような姿なのだろう。

 そう思わざるを得ないような雰囲気を、この戦士からは感じ取れるのだ。

 

「これが僕の新しい力。レベル()()()()さ……!」

 

 その戦士の名は、仮面ライダーゲンム ゴッドマキシマムゲーマー レベルビリオン。

 このゲームにおける、所謂ラスボスである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is his new game?

A: This game is that players will be killed by who hates them.




【参考】
仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング 仮面ライダーゲンムVS仮面ライダーレーザー
(高橋悠也 脚本, 鈴村展弘 監督, 2018年)
東京の過去の天気 2022年5月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220500/)
野球場 - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e9%87%8e%e7%90%83%e5%a0%b4)
【DVD】仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング コンプリートBOX+ ゴッドマキシマムマイティXガシャット|仮面ライダーエグゼイド フィギュア・プラモデル・プラキット|バンダイナムコグループ公式通販サイト
(https://p-bandai.jp/item/item-1000118562/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question086 How does he fight if he becomes billion level?

第86話です。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.05.12 15:56 ゲームエリア内

「レベル、ビリオン……!?」

Billion(ビリオン)……って10億ってこと!?」

「そう。それが、僕が残りのライフを1にして到達した最大レベルだよ……!」

 

 意気揚々と言うゲンム。

 あまねとよくテレビゲームで遊ぶ春樹と碧であっても、見たことがある中で一番高いレベルは100であった。それを優に超えた数値はまるで現実味を帯びていない。

 

 だが一つはっきりとしたことがあった。

 彼はあのガシャットを精製するために、ライフを1になるまで削ったと言った。

 ということは、彼を倒せば全てを終わらせることが出来る。至極単純な話ではないか。

 

「行くよ、春樹……!」

「ああ……!」

 

 春樹と碧は兜の緒を締めたような感触を感じ合い、そのまま高速で動き始めた。

 胸部に左足で飛び蹴りを食らわせると、グラウンドの中を砂煙を撒き散らしながら縦横無尽に動き回る。その間、何度も拳をぶつけ、蹴りを入れる。多少は蹌踉めくゲンムであったが然程効果は無いようであり、パンチを入れようとしたリベードンアクトはゲンムの裏拳で吹き飛ばされてしまう。

 

 転がってもすぐに立ち上がったリベードンアクトは、ディスペルデストロイヤー バズーカモードを取り出し、砲丸を何発か打ち出した。

 それに対し、ゲンムは手足を信じられない程に伸ばし、伸縮する手足を使って移動。次々と攻撃を躱していった。

 結果、行き場の無くなった砲丸たちは客席に激突して爆発を起こす。

 

 するとゲンムはグラウンドの後方へ着地をし、右手を上に掲げて呟いた。

 

「『コズミッククロニクル』、起動!」

 

 次の瞬間、リベードンアクトの上に巨大な丸いガラスが現れたかと思うと、ゲームエリアを明るく照らす太陽がさらに発光。虫眼鏡で紙を燃やす容量で、熱線が放たれた。

 何とかそれを避けていくが、ガラスは彼らの動きに付いて行き、そして強力な熱線を食らわせた。

 

「「グァァッ!」」

 

 変身を解除されて、春樹と碧の二人に分裂した戦士。

 同時にゲームエリアは消え、元々彼らがいた講堂の中へと戻った。

 

 壇上で青年と共に倒れる春樹と碧を、変身を解除して階段のところから眺めて笑みを浮かべるクロト。

 

「僕の作ったこのガシャットは、新しいゲームをいつでもいくつでも作ることが出来る。今の僕は、何が起こっても大丈夫な存在……()()なんだよ……!」

 

 意気揚々と語るクロトに、何とか立ち上がった春樹と碧が睨みを効かせる。

 だが彼に再び戦いを挑む程の力は無く、ましてや今の戦力で立ち向かって行くのは自殺行為だと思い、敢えて何もしない。

 

「それじゃあ。僕はラスボスを倒しに行って来るよ。その後に、また戦ってね」

 

 それだけを言い残し、クロトは紫色の粒子となってその場から姿を消した。

 

「何が、()()よ……」

 

 呟いた碧はその場に倒れ込み、同じく春樹もその上に覆い被さるように倒れた。

 救援に来た救急隊員だか機動隊員だかがドアを開ける音がした時、二人の意識を薄れ、そして途切れた。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 いつもの薄暗い室内で、ヒナタやアール、フロワにピカロが円の形に並べられている椅子に座っていた。

 ヒナタとアールは笑みを浮かべているが、フロワとピカロは神妙な面持ちをしている。

 

「どうやら、クロトが何かしでかしてくれたみたいだね」

「えぇ。仰る通り、やらかしてくれましたね……」

 

 クロトの蛮行は彼らにも知れ渡った。

 いつもであれば見逃すところであれば、次に狙われるのが自信らの主であるヒナタだと言う。ただの生贄が楯突くなど、言語道断だ。

 

「折角だし、始末しましょうか? ご主人様」

「そうだね。お願いするよ」

 

 微笑みを向けるフロワ。

 その隣に座るピカロは、まるで睨むようにヒナタのことを見ていた。自身の大切な者を奪われかけている焦りで、彼の心は埋め尽くされている。否、もう既に奪われているという怒りだろう。

 

 そんな彼のことをヒナタは薄ら笑い、まるで挑発をしているようであった。

 

 

 

 ──待っていろよ……。もうすぐ、お姉ちゃんは僕のものだ……!

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.05.12 17:45 東京都 新宿区 SOUP

「レベルビリオンとはな……。厄介なものが現れた」

「はい。全くその通りですよね……」

 

 クロトが新たに使い始めた力に、この場の全員が頭を悩ませていた。

 自在にゲームを作る力や、あの伸縮自在な肉体。これまでに経験したことの無いタイプの敵であったことから、対策の考えようが無いのだ。

 

 おまけに、彼の犠牲になった五人はもう二度と目を覚まさない。永遠に死への恐怖に怯えながら、老いて死す時を待つのみだ。

 だが彼らに同情の余地など皆無だ。やり過ぎた因果応報。そう表現するのが最も妥当な結末である。

 

「そういえば、春樹さんと碧さんは? あ、それから八雲さんも」

 

 圭吾の言う通り、今の室内には春樹、碧、八雲の三人はいない。

 彼の疑問に答えたのは薫だった。

 

「春樹さんと碧さんは体を休めるためにご自宅です。で、八雲さんには()()を渡してもらうよう、お願いしました」

 

 

 

2022.05.12 17:51 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 一方その頃、春樹と碧は二人だけで食卓を囲んでいた。

 まだあまねが帰って来ていない中、二人は無言で向かい合っている。

 その状況を打破しようと最初に仕掛けたのは、春樹だった。

 

「アイツのこと、倒そうか迷ってるのか?」

「迷ってる、ってわけじゃないんだけど……。もしかしたら、私もあんな風になってたんじゃないかなって……。誰のことも考えずに、ただ自分の復讐のために敵を倒す。そうなっていたら、って……」

 

 机の上に置いた両手をギュッと握り締める碧。

 目線は下を向き、下唇を軽く噛んで何かの感覚に悶えるかのようであった。

 

 碧の両手に自信の掌を重ねる春樹。

 彼女を安心させようと少しだけ口角を上げて彼女に言葉をかけた。

 

「もし俺よりも強いお前がなっていたら、確実にお前もなってる」

「……私は、春樹よりも強くはないよ……」

「いや。そんなことない」

 

 互いの指を絡め合う二人は、何も発すること無くじっと相手の目を見つめ合っている。

 手から伝わってくる仄かな温かさが、彼らを安心させてくれるのだ。

 

 すると、

 

「お取り込み中申し訳ない」

 

 後ろの方から八雲の声がしたので、思わず離してしまう。

 二人の邪魔をしてしまったことを申し訳なく思いながら、彼らと一緒に食卓の前で腰掛けた。

 

「あのゲンムに対抗出来るかもしれないやつは出来た」

「それ作ってたから、今日の戦いに来られなかったのか」

「ああ、ごめん……。一応、碧が使うって形になるけど、良いか?」

 

 ほんの少し間を置くと、碧は大きく頷いた。

 

「勿論。だから、頂戴」

「……分かった」

 

 八雲は碧の前に自信が作った物を置いた。

 それは春樹が使っているオールマイティーサーバーと同じようなものであった。ただ色は緑色から青色になっていて、タッチパネルに配置されているマークは20個から19個になっている。

 

 そのサーバーを見つめながら、碧はゴクリと唾を呑み込む。

 そして両手で手に取り、強く握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How does he fight if he becomes billion level?

A: He fights with ability to create new games.




【参考】
仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング 仮面ライダーゲンムVS仮面ライダーレーザー
(高橋悠也 脚本, 鈴村展弘 監督, 2018年)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question087 What did it happen to her?

第84話です。
3日連続投稿!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
フレン・E・ルスタリオ - フラクタル

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.05.16 12:00 東京都 江東区

 中央防波堤近くにある大きな公園でクロトはヒナタ、フロワ、ピカロの三人と向かい合っていた。土砂降りになった雨の中、傘を差していない彼ら全員が変身するためのアイテムを身に付けており、準備は万端である。

 

「ラスボス自ら来た気持ちはどうだい? 百四十三番」

「本当に良いねぇ。ここで一気に君たちを倒して良いんだから……!」

 

 怒りや憎しみを混ぜた怒りを見せるクロトに対し、ヒナタは薄ら笑いを見せる。

 

「私のご主人様にそんなことはさせないから。ね、ピカロ」

「……うん……」

 

 いつもとは違う反応をピカロがしたため、若干疑問を覚えるフロワであったが、すぐにネクスチェンジャーにカードを装填する。

 

「そんなこと言っていられるのも今のうちだよ」

 

 ガシャットを起動したクロトに、カードを端末へと装填したヒナタ。

 彼らは口々に、同じ言葉を放った。

 

「「「「変身!」」」」

 

 仮面ライダーピアーズに変身したフロワとピカロの二人。

 仮面ライダーパラレインに変身したヒナタ。

 そして、仮面ライダーゲンム ゴッドマキシマムゲーマー レベルビリオンに変身したクロト。

 

 姿を変えた彼らの戦いが幕を開けた。

 

 パラレインが右手で繰り出したパンチをゲンムはそのまま受け止める。

 何度もパンチやキックを巨体に向けて放つ。このゲームのラスボスの力は相当なものであったが、それをも上回る力を手に入れたプレイヤーにとっては、彼奴の攻撃で感じる痛みの量は雀の涙に等しい。

 逆に一発パンチをお見舞いし、パラレインを後退させた。

 

 それと交代するように、ピアーズの二人はディスペルクラッシャー ソードモードを持ち、標的の方へと向かって行った。

 途中で高く跳躍し、剣を振り下ろす。

 

「「ハァァァッ!」」

 

 だがその刀はゲンムによって軽々と受け止められ、押し返されてしまう。

 そして右脚を長く伸ばし、回し蹴りを食らわせて吹き飛ばした。

 

「「アッ……!」」

 

 立ち上がるピアーズ。

 彼らはパラレインと共に新しい姿に変わるための準備を始めた。

 

『"KIKAI" LOADING』

『"PARA=DX" LOADING』

 

 各々が変身の動作を終え、パラレインは金色のキカイシェープに、ピアーズは赤色と青色のパラドクスシェープへと変身した。

 

 パラレインの背中から伸びた無数の触手がゲンムを狙う。

 避けるために伸縮自在な両腕両脚を伸ばして上空へと逃げる。

 だが追尾する触手たちが逃走を許すわけもなく、暫く逃げたところで彼は捕えられてしまい、さらに触手が一瞬離れたところでピアBの右の拳を思いっきりお見舞いされた。

 

「グッ……!」

 

 地面に叩きつけられた影響で、砂煙が思いっきり舞う。

 

「じゃあ、一気に決めようか」

『『Are you ready?』』

『Get ready to do deathblow.』

 

 取り出したディスペルクラッシャー ガンモードに端末をかざし、再びドライバーに戻すパラレイン。

 同時にピアAは武器をガンモードに変形させ、ダイヤルを操作する。

 

『OKAY. "KIKAI" ALLEGORICAL STRIKE!』

『OKAY. "PARA-DX" BORROWING BREAK!』

 

 2丁の銃がゲンムに向けられる。

 銃口とピアBの両手に力が次々と溜まっていく。これで敵を倒すための準備は出来た。

 

 対抗しようと立ち上がり体勢を整えるゲンム。

 引き金が引かれる前に、彼に向かって拳をお見舞いしようとピアBが走り出そうとした──

 

 

 

 

 

 だが攻撃が当てられたのはゲンムではない。

 パラレインだった。

 

「!?」

 

 少々後ずさるパラレインを見たピアAは攻撃を止め、ピアBの方を見る。

 

「何間違えているの、ピカロっ!」

「間違えてなんてないよ。寧ろこれで合ってるんだ」

 

 ピアBの発言の意味が解らず、困惑するピアA。

 それを他所に、ピアBはゲンムの元へと歩き、彼の隣に立った。

 

「パラレイン。お前を倒せばお姉ちゃんは僕のものになる。だから、ここで君を倒させてもらう……!」

「そういうことだから。……『コズミッククロニクル』、起動!」

 

 次の瞬間、曇天の中で赤い輪が大量に現れた。

 否。あれは輪ではない。

 空から大量に降って来る隕石が落ちる際の衝撃波であった。

 ありったけの隕石が雨と共に降り注ぎ、地面に落ちて爆発を起こした。

 

 爆風が襲う中でその状況を見守るゲンムとピアB。

 雨によって早く炎と黒煙が消え、現状を把握出来るようになったのと同時に、ピアBの変身が解けてピカロは元の姿に戻った。

 

「いない……?」

「逃げたね」

 

 そう。二人共姿が消えてしまっていた。

 だがこんな攻撃でやられる彼らではないことは、重々承知している。

 ピカロの吐いた溜息は重く、ずっと沈んで地面に落ちる。そして退屈になったのか、彼も何処かに行ってしまった。

 

 もうこの場に残っているのは、巨体に身を包んだゲンムだけとなった。

 

 いや、そうではないらしい。

 

「そこで見ているだけで良いの?」

 

 ゲンムが目線を自身の右側へと向ける。

 そこには傘も差さずに彼のことを見つめていた春樹たちがいた。やはり彼らにもドライバーやネクスチェンジャーが付けられていて、言わずもがな戦闘態勢に入っていた。

 

「ここで貴方のゲームは終わらせる。この力を使って……!」

 

 碧の右手には青色のサーバーが、左手にはトランスフォンが握られている。

 ゲンムに立ち向かうため、それらを一つにしようとした──

 

 

 

 

 

 だが、

 

「残念だけどそれは無理だよ。『メモリアルクロニクル』、起動!」

 

 ゲンムの身体から紫色の粒子が大量に噴き出して来た。

 避ける間も無く来たそれはすぐに碧の身体へと侵入。徐々に瞼を閉じていき、その場に倒れ込んでしまった。

 

「碧っ!」

 

 倒れた碧を揺する春樹。だが眼を覚ます様子は皆無だ。

 

「テメェ……。やってくれたな……!」

『AUTHORISE』

 

 怒りに顔を歪ませる八雲はアップグレードルーターを起動。

 カードを装填し、走り出した。

 

「変身!」

『Let's go!』

 

 ネクスパイに変身を遂げた八雲を見送った春樹も、オールマイティーサーバーαを取り出し、そこにトランスフォンを装填した。

 

『COMBINE』

 

 タッチパネルをなぞり電源ボタンを押すと、彼の上に黄金の鎧とそれを囲む鎧たちを乗せた輪っかが現れる。

 軽快な音楽の中で春樹はポーズを採った。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 輪が降りた瞬間に春樹の身体は素体へと変貌を遂げ、そこに20個の鎧が沁み込みさらに黄金の鎧が装着される。

 

『All twenty in this server! This is perfect for me to fight! I’m KAMEN RIDER ULTIMATE ACT! It’s the strongest.』

 

 仮面ライダーアクト アルティメットシェープへと姿を変えた春樹。

 

 ふと自身の右下を見る。

 ただ目を閉じてその場に蹲る碧が、そこにはいた。まだ目覚める様子の無い彼女をそのままにし、アクトは駆け出して行った。

 

 大粒の雨が倒れた雨にぶつかる。

 その冷たさを、彼女が感じることは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常0体

B群7体

合計7体

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

各々が所持しているメモリアルカードの枚数

SOUP:41枚

零号:123枚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What did it happen to her?

A: She was trapped in his game.




後3話でシーズン3は終了します。
その最後のエピソードに待ち受けているものは……かなりとんでもないものです……!
乞うご期待ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 30 幻夢(GENM)
Question088 Who did she meet in the game?


第88話です。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
ソナーポケット - GIRIGIRI

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.05.16 12:08 東京都 江東区

 ゲンムに向かって行くアクトとネクスパイ。

 アンブレラブレイカー ロッドモードの先端とディスペルデストロイヤー チェーンソーモードの刃をぶつけると、少々の効果があったらしくゲンムは後退する。

 これを好機と思った二人は、さらに攻撃を連鎖して後ろへと下がらせた。

 

 だが突如として手応えが無くなったかと思うと、背中を蹴られ殴られた感触がアクトとネクスパイを襲うと、前方へ転がされた。

 

「「ッ!?」」

 

 体勢を整えて攻撃が来た方向を見ると、そこにはレベル0の状態のゲンムが立っていた。形状こそレベル0であるが、ドライバーに装填されているガシャットはレベルビリオン用のものだった。

 さらに先程まで自身らが攻撃を仕掛けていた巨体の中は、もぬけの殻となっていた。

 

「着脱可能かよっ!」

 

 これで引き下がるわけにはいかない。

 アクトはサーバーのタッチパネルにあるマークを1つ選んで押した。

 

『"DOUBLE" LOADING』

 

 彼の右手に銀色の棍棒──メタルシャフトが現れる。

 雨の中でも消えない炎が両端に出た棍棒を振り回して、ゲンムに攻撃を仕掛けたが躱されてしまう。

 

 何度も試みるうちに、先端が彼の胸部に当たろうとした。

 その棍棒をゲンムは左手で掴んで上げ、右足でアクトを蹴飛ばした。

 

「ハッ!」

「グァッ……!」

 

 アクトの代わりに、ボウガンの形状に変えられた武器を持つネクスパイが銃弾を何発も発射。全てがゲンムに命中した。

 若干蹌踉けるゲンム。

 

 占めた。

 僅かにそう思ったネクスパイは次々と銃弾を発射する。

 若干の痛みに耐えながらもゲンムは前方へと歩いて跳躍し、元の巨体へと戻った。

 

 そして長く伸ばした右手でパンチを食らわせた。

 アンブレラブレイカー ボウガンモードには、露先から透明な膜を出してバリアに似たものを発生出来る。

 その機能を利用して攻撃から身を守った。

 

「ッ……!」

 

 だが何度も何度も殴られると、その衝撃に徐々に耐えられなくなってしまうのだ。

 まだバリアこそ破られていないが、勢いに押されて徐々に徐々に後退してしまう。

 

 そしてゲンムが右手で強烈なパンチを食らわせたその時、ネクスパイは吹き飛ばされてしまった。

 

「ガッ……!」

 

 思わず武器を離してしまい転がるネクスパイであったが、何とか立ち上がってアクトの隣に立った。

 

「マジで手強いな……!」

「ああ。……一気に畳み掛けるぞ……!」

「よっしゃっ!」

 

 怯むことを知らずに再びアクトとゲンムは、自身らよりも一回り大きな戦士へと向かって行く。

 目線こそ敵の方へと向かってはいるのだが、彼らの気持ちが向かう先は、今後ろで眠っている女ただ一人であった。

 

 今も冷たい雨が彼女を襲い、泥濘んでいく土の地面の中へと沈んでいく。

 だがそれでも、彼女は目覚めない。

 

 

 

────────────

 

 

 

 目が覚めると、碧は何処かも判らない場所に立っていた。

 辺り一面が黒い空間に虹色のオーロラがかかる。

 

 その形には見覚えがあった。

 ただのオーロラというわけではない。幕、というよりも人の形を成したそれは、人と言うにはあまりにも変わっている。

 

 ──まさか……。

 

 碧の全身にごく僅かではあるが痛みが走った。身体を貫かれ、裂かれ、殴られ、蹴られ。直接的に味わうわけではない。ただ体の奥底から襲って来る痛みに、碧は悶えるしか無かった。

 

 ふと自分の手を見てみる。

 赤、青、黒、緑。何とも言えない色でべっとりと塗り潰されている。自分がいる空間の色と類似しているためか、果たして空間そのものを見ているのか、自身の手を見ているのか、一切の見分けがつかない。

 

 このゲームは自分のことを恨んでいる人や自分のトラウマになっている人、自分が後悔の対象にしている人が登場する。

 とすれば、今碧の手を汚して目の中に映り込んで来るのは、彼女が手をかけてきた者たちということになる。

 

 納得と言えば納得だ。

 彼らが自分に恨みを持っていることは当然であるし、それを自覚はしているのだが、やはり体の震えが止まらない。

 

 前を向こう。

 どうせ四方八方に己を懺悔させるための仕掛けがあるのだとすれば、それを真っ向から食らうしかないのだ。

 

 前を向いた時、目の前に1人の女性がいることが見えた。

 女性は白いワンピースを着ているがために、暗がりの中でこれ以上も無く目立っているが、それでもこの場の澱んだ空気を変えることは出来ない。

 

 彼女の顔を見た瞬間、碧は目を見開いた。

 どうしてここにいるのか。だがそれでもその女性がいる理由が判った。

 

 ああそうか。

 私はこの人に後悔の念を抱いていたのか。

 何の力も無かった自分が、救うことの出来なかったあの人だ。もう顔なんてあまり覚えていない。けれども彼女は充分な人選だった。

 

 絞り出すように彼女の名前を呼んだ──。

 

 

 

 

 

「──お母さん……」

 

 碧と瓜二つの格好をしたショートヘアの女性──常田夏美は無表情で碧のことを見つめている。

 自分の朧げな記憶の中にはいない無表情であった。

 

 永遠にここから出られない。しかも自分は、今から母に殺される。

 さすれば、もう言いたいことは全て言ってしまおう。

 碧は暫く間を空けると、大きく深呼吸をして、そして──

 

「……あのね、お母さん。私……結婚したんだ」

 

 暗い部屋の中で碧の言葉だけが静かに浮かんで消える。

 靄は彼女を取り囲み、一切の行動を起こさない。

 

「本当に良い人なの。私のことをいつも気にかけてくれて、優しくて、頼り甲斐があって……。それにね、娘も出来たんだ。とは言っても、本当の娘じゃないんだけどだけど、私のことを本当の母親みたいに扱ってくれるんだ」

 

 夏美はただ碧の言うことを聞く。

 目の前にいる娘の顔から徐々に笑みが溢れ、晴れやかなものへと変わっていく。

 

「だからね……もう大丈夫だよ。私……お母さんの分まで幸せになるから」

 

 すると夏美の口角がゆっくりと上がっていく。

 碧の目に見えるのは、ずっと昔の記憶の中でだけ暮らしていたあの姿そのものであった。

 それを見た瞬間、目元が次第に熱くなって、少しずつ頬に同じくらいの温かい感触が伝わってきた。

 

 そして碧も夏美に向かって彼女と同じ顔をしようと努めた。

 彼女の目線の先が真っ暗になったのも、それと同時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変な感触がやって来た。

 そっと目を開けて己の状況を確認すると、身体の後ろに大量の雨によって冷たい感触が走り、前方は泥濘んだ地面が汚してしまっている。

 

 ゆっくりと立ち上がってトランスフォンとサーバーに付いた泥を落とし、さらに広く現場を見た。

 目の前では巨体になったゲンムがいて、変身を解除されて倒れ込んでしまっている春樹と八雲に向けて徐々に足を進めている。彼らは身体を起こして再度立ち向かおうとするが、相当な深傷を負ってしまったのか、体勢を立て直すことすら出来ない。

 

 泥まみれの手や両腕を使って、同じく泥で溢れた顔を拭い、今戦うべき標的の方へと向かって行く。

 一歩一歩、噛み締めるように進む足は、不思議なことに地面の底へと沈むことは無い。

 

 そんな彼女を初めて確認したゲンムは、自らの足を止めてただ其方の方を見ていた。

 

「ど、どうして君がここに……!?」

 

 ゲンムだけではない。春樹や八雲も、正直碧がもう目覚めないと若干思ってしまったがために、彼女が立ち止まってゲンムをじっと見つめていることに驚きを隠せない。

 

「……もうね、私は一切後悔してないし、自分が犯した罪の重さを背負う覚悟くらいとっくにあるのよ。……あんなもの完全に無意味だったのよ……!」

「そんな……あり得ないっ……!」

 

 碧は両手に持ったデバイスをギュッと握り締める。

 前髪は濡れて崩れ、目元を完全に覆い隠しているが、隙間から見える眼光は鋭く、はっきりと前方を睨んでいた。

 

「クロト。もうやることはやったでしょ。だから……今楽にしてあげる」

 

 碧は左手に持ったトランスフォンを、右手に持った青色のサーバー──オールマイティーサーバーΡ(ロー)のスロットへと挿し込んだ。

 

『COMBINE』

 

 左手の人差し指でタッチパネルのマークを下から上へなぞっていく。

 

『G4! RYUGA! ORGA! GLAIVE! KABUKI! CAUCASUS! GAOH! ARK! DIEND! ETERNAL! POSEIDON! NADESHIKO! SORCERER! MARS! DARK DRIVE! DARK GHOST! FUMA! BLOOD! BARLCKXS!』

 

 電源ボタンを押すと、春樹がサーバーを使った時と殆ど同じような流れが始まった。

 

 軽快で荘厳な音楽が流れ、碧の上で黄金の鎧を囲むように輪っかが現れる。

 その上に乗っているものは──

 

 銀色の鍬形虫。

 漆黒の龍。

 黒い馬。

 白と黒の模様が入った金色の獣。

 赤色と緑色の鬼。

 黄金に兜虫。

 銅色の鰐。

 銀色と黒色の大きな蝙蝠。

 シアンの色をした、風呂敷を頭に被った古いタイプの泥棒。

 USBメモリの形をしている白色のオブジェ。

 青色、水色、赤色の3色が入った逆三角形。

 白色と青色のロケット。

 金色と黒色の魔法陣。

 金色の林檎。

 黒色の高級車。

 白いパーカーの幽霊。

 獅子面を被った紺色の着物の役者。

 紅色の龍。

 大きな黒い飛蝗。

 

 それらの下で碧は右手を曇天へとゆっくりと挙げ、急激に下げる。そして両腕を大きく開いて左手を右肩の方へと持って行き、この場を制圧するために必要不可欠なあの言葉を放ち、サーバーをドライバーへと装填した。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 輪が降りて地面に着いた瞬間、碧の身体は素体へと変わっている。

 そこに輪っかの上のものが吸収されていって、幾つもの戦士の模様が描かれていった。

 さらに黄金の鎧が全身に装着され、4本の角が生えた頭部に透明な青色の仮面が装着された。

 

『All nineteen in this server! This is perfect for me to fight! I’m KAMEN RIDER ULTIMATE REVE-ED! It’s the sharpest.』

 

 仮面ライダーリベード アルティメットシェープ。

 それは、全ての因縁を断つための、最後の切り札である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Who did she meet in the game?

A: She met her mother who had already died.




【参考】
傘のパーツ名称について|前原光榮商店
(https://maeharachigasaki.jp/?page_id=607)
洋傘のパーツ名称|傘専門店 小宮商店
(https://www.komiyakasa.jp/encyclopedia/parts/)
ギリシア文字 - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e3%82%ae%e3%83%aa%e3%82%b7%e3%82%a2%e6%96%87%e5%ad%97)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question089 What did she use to fight with him?

第89話です。
どうやったらキツい展開って作れるんでしょうね?
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.05.16 12:16 東京都 江東区

 ディスペルデストロイヤー チェーンソーモードを右手に握ったリベードは、一歩ずつゲンムに対して向かって来る。

 大きな手で小さな頭を掻き、その手を大きく下に下ろした。

 

「ふざけるなぁっ!」

 

 苛立ちを隠すこと無く、ゲンムは猛スピードで彼女に迫って行った。

 

 右手で強烈なパンチを食らわせようとするが、それを左手で止めたリベードはチェーンソーの刃で彼に斬りつけ、腹部を武器で殴り、さらにダメ押しに剣先で突いた。

 

「ガァッ……!」

 

 少し狼狽えるゲンム。

 けれどもその程度でやられることの無いのはリベード自身も分かっていた。

 なので、彼女はタッチパネルのマークを1つ選んで押した。

 

『"ARK" LOADING』

 

 ゲンムが再度向かおうとするが、何かによって後ろに弾き飛ばされてしまう。

 

 その犯人はゲンムと同じくらいの全長をした戦士──仮面ライダーアークだった。正確に言えば、彼が持っている黄金の三又の槍なのではあるが。

 怯まずに伸ばされたゲンムの左手とアークの槍の先が、それぞれの胸部を傷付けた。結果としてアークは消滅していく。

 

『"NADESHIKO" LOADING』

 

 リベードの横に現れたゲートから姿を見せたのは、白い体色の女戦士──仮面ライダーなでしこだ。

 彼女はドライバーに装填されている2つのスイッチのうち、一番左のものを起動した。

 

『"ROCKET" ON』

 

 なでしこの右手に、大きなオレンジ色のロケット型のモジュールが装着される。

 それを確認したリベードは、ディスペルデストロイヤーを地面に置いてプレートを押した。

 

『Are you ready?』

 

 サーバーを下に押し込むと、彼女の右手にも同じものが現れた。

 

『OKAY. "NADESHIKO" DISPEL STRIKE!』

 

 モジュールの後ろから大きな炎が白煙を出しながら噴く。

 その勢いを利用して滑空を始め、二人は右手で強烈なパンチを食らわせた。

 

「ハァァッ!」

「グッ……!」

 

 ゲンムが後退しリベードが着地したところで、なでしこは姿を消す。

 だがこれで終わることは無く、立て続けにタッチパネルを押した。

 

『"CAUCASUS" LOADING』

 

 リベードの前に出現するゲートから、黄金の戦士──仮面ライダーコーカサスが現れる。

 コーカサスはベルトの左側に付いたハイパーゼクターのボタンを左手で押した。

 

『HYPER CLOCK UP』

 

 彼の姿が突如として消えた。

 姿が一切見えることが無いのに、ゲンムの体にはダメージが次々と蓄積していく。

 どうしてこんなことになるのか、彼には見当がついていた。コーカサスは今、高速で移動をしながら攻撃を仕掛けているのだ。

 姿が見えないがために狙いが定まらず、結局ゲンムはコーカサスのパンチによって後退させられてしまう。

 

「成程ね……。アクトが他の戦士の力を自分で使うのに対して、君は他の戦士本人に戦わせるのか……。面白いねぇ……。もっと君と戦いたいな……」

 

 一応は劣勢に立っているわけであるが、余裕そうな様子を決して崩すことは無い。

 だがリベードが何も言動をせずに自分のことを見据えているのを見て、ゲンムのその様子は徐々に崩壊を始めていく。

 

「悪いけど……アイツを倒すのはこの僕だ……! 今ここで君に倒されるわけにはいかないんだよ……!」

「……そう。けど無理ね。だって貴方は、私に倒されるんだから」

 

 彼女の発言で彼の怒りは頂点に達した。

 雄叫びを上げながらゲーマドライバーのレバーを閉じる。

 

『ガッチョーン。カミワザ!』

 

 一方のリベードもタッチパネルを下から上へと一気になぞり、プレートを押す。

 

『Are you ready?』

 

 レバーを展開するゲンムと、サーバーを下に押し込むリベード。

 ゲンムの右足にドライバーから放たれた紫色のオーラが纏わり付く。

 リベードの両脇には19人の戦士の虚像が現れ、それが彼女に一体化すると右足に青色のオーラが充満し始めた。

 

『ゴッドマキシマームクリティカールブレッシンーグ!』

『OKAY. "REVE-ED" ULTIMATE DISPEL STRIKE!』

 

 上空に跳躍をする二人。

 勢い良く引き合わされる二人は、その場を歪めてしまうのではないかと思う程のエネルギーを秘めた右足を互いに食らわせた。

 

「ハァァァァァァァァァァッ!」

「おりゃああああああああっ!」

 

 それぞれが元いた場所に強制的に戻されてしまう。となれば互いの威力は互角であったのだろうか。

 

 いや。どうやらそうではないらしい。

 

「!?」

 

 ゲンムが身体を乗せていた大きな鎧が突如として分解を開始。彼は何も纏わないただのレベル0の状態へとなってしまった。

 

「クロト……。もうこれで、終わりにしよう……!」

 

 リベードは足元に置いていたディスペルデストロイヤーを右手に持ち、ドライバーから取り出したサーバーを大きなスロットに装填した。

 

『Are you ready?』

 

 右手でグリップ部分を持つだけではなく左手で持ち手を持ったその時、彼女の身体が青色と虹色に発光を始め、その光はけたたましい音を立てて回転を始める刃に集まっていった。

 

「まだだ……! まだ僕は……っ!」

 

 ゲンムが走り掛かって来る。もうあまり残っていない力を振り絞って全て出し、彼は足を進めているのだ。

 

 はっきり言って、今の彼を斬る気にはなれなかった。進むことになった道は全く違うものであったのだが、それでも自分の鏡像を見ているような気がしてならない。

 即ち、自分は自分自身を斬らなくてはならないのと同等であった。

 だとしてもやらなければならない。やらなければ──。

 

 目の前の彼がもうすぐ自分の寸前に来るであろうとなったその時、リベードは引き金を引いた。

 

『ULTIMATE SLASH!』

 

 強大な力を得た刃の攻撃を受けたゲンムは、リベードを横切って彼女の後ろにつく。

 動きを止めた彼は体を襲う尋常じゃない激痛に耐えながら、痛む様子を一切見せずに前傾姿勢で立っている。

 

 そして何も言わずに一歩ずつ前へと進み始めたのだ。

 泥で出来た地面を踏んでいく音は、土砂降りの雨が作る音によって消されてしまう。

 

 互いに振り返ることは無い。

 ただ距離がそこそこに離れたところで、元の青年の姿になった戦士は紫色に光り始める。進む足も止まり始め、そして次第に彼の姿は消えていった。

 

 変身を解除した碧は、左手に1枚のカードが握られていることが分かったので、黙って絵柄を確認する。

 クロトが使っていた紫色のガシャットと全く同じ、紫色のキャラクターが描かれており、下部には「No.143 UNDERMINE GENM」と印字されている。

 

 絵柄が滲む程に雨で濡らされ、同じく碧も水浸しになってしまう。

 彼女の目元から流れる大量の水が、雨なのか否かは誰にも判らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What did she use to fight with him?

A: She used the other server.




さて、後1話でシーズン3は終わります。
何が出て来るんでしょうね……?



【参考】
【DVD】仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング コンプリートBOX+ ゴッドマキシマムマイティXガシャット|仮面ライダーエグゼイド フィギュア・プラモデル・プラキット|バンダイナムコグループ公式通販サイト
(https://p-bandai.jp/item/item-1000118562/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question090 Who is that man who they met?

第90話です。
今回でシーズン3が終わりなので、遂にやることをやらせていただきます……!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。
というか、今回はガチで感想をください!

※今回で登場する関西弁は翻訳サイトを使って作成したものであります。ニュアンス等が違う場合があるかと思いますが、ご了承いただければ幸いです。


【イメージED】
フレン・E・ルスタリオ - フラクタル

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


?????

「これで、全てのメモリアルカードが完成しましたね」

 

 アールが嬉しそうな満面の笑みを浮かべる。

 彼の手には大事そうにメモリアルブックが握り締められていて、暗い部屋で僅かにしかない光がその表面に全て吸収されていく。

 

「そうね。ここまで長かった……」

 

 感慨深く言うフロワ。主人に忠誠を誓っている彼女であれば納得であった。

 

 いよいよ野望を達成する時が来る。

 胸のときめきは止まらず、二人の胸を掻き立てる。

 

「後は春樹さんと碧さんの持っているカードの回収ですね。急ピッチで進めましょう」

「えぇ。それと──」

 

 フロワは自身の右側にある椅子を見た。

 そこに本来座っている少年はいない。暗く沈んでいくような感触を覚えたフロワは、静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ピカロ(あの子)、殺そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 延々と雨が降り頻る。パーカーの中や服の隙間に入り込んで、異様な冷たさを感じさせる。

 

 行く先など今のピカロには見えていない。

 ただとにかく逃げているだけなのだ。

 自分の憎んでいる輩から、自分の愛する女性から。

 

 ただ雨は夜の中で降っている。

 水溜まりを踏む音が聞こえはするのだが、誰も振り向いてくれはしない。

 何せ、彼の周りには誰もいないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SEASON3 is finished.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2022.05.17 05:50 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 まだ空は曇っている。あまねがテレビで見ている天気予報によれば、今日の昼も昨日に引き続いて雨が降るらしい。

 ならば早く食事をして学校に行きたいのであるが、いつも朝食を作ってくれている春樹と碧が中々起きない。仮に二人が夫婦の営みをしていたとしても、必ずこの時間には起きているのに。

 なので今日は、彼女が簡単にご飯を炊き、インスタントの味噌汁と納豆だけを用意しておいた。

 

 すると、

 

「「おはよ〜……」」

 

 気怠そうな二人の表情を見て、あまねはさらに不安になってしまった。

 もしもいつものように夜に盛り上がっていたのであれば、春樹だけがげっそりとしていて碧は普段よりも若々しく見える。

 

 朝ごはん用意してくれて有り難う、と感謝をしながらゆっくりと椅子に腰を下ろす二人を見て、あまねはさらに心配になってしまった。

 

「どうしたの? 二人とも……」

「……それが、変な夢を見たんだよ……」

「しかも俺も碧も、全くおんなじ夢を見たし……。本当に何なんだ……」

「きっと私達は運命共同体なんだよ……!」

 

 ずっと疑問に思っている春樹に、前向きな姿勢を見せる碧。

 何だか底知れぬ不安を感じるあまねに対し、二人は夢の話を始めた──。

 

 

 

────────────

 

 

 

 目が覚めると、春樹と碧は二人が寝ていたベッドの上ではなく、何故かコンクリートの地面の上で寝そべっていた。

 

 身体の全面に襲いかかって来る地面の硬さで起きた二人が体を起こすと、そこは何処かの街中だった。高層ビルが立ち並ぶ中でノスタルジックな雰囲気を醸し出すこの街は、春樹と碧が今までの人生で見たことの無い場所であったために、二人はさらに困惑してしまう。

 

「何? ここ……」

「……」

 

 辺りを見渡しても、ここが一体全体何処であるのか見当がつかない。

 

 すると、二人の前に得体の知れない者たちが現れた。

 ソルダートとは違う、別の黒色の集団である。銀色の槍を持ち、黒ずくめの身体には同じく黒いガスマスクが付いている。

 

 列を形成し一定の速度で歩いて来る彼らの先頭には、これまで見たことの無い化け物が立っていた。

 黒いインナースーツの戦士は、着ている茶鼠(ちゃねず)*1の鎧の影響でかなり筋肉質に見え、鋭い目線を放っている小さな瞳を持つその仮面は、宛らゴリラのようであった。

 

 そして腹部に装着されている浅葱色(あさぎいろ)*2のドライバーは、かなり面白い形状であった。

 左側には上を向いて斜めに空けられた大きな穴が、右側には黒色のレバーがある。さらに中央にある穴からは、この戦士の顔を簡略化したイラストが描かれていた。

 

「仮面、ライダー……?」

「仮面ライダー? あんなんと一緒にするんやあれへん! わいの名前は……確か、『ゴリラユーザー』って言うねんで!」

 

 春樹の呟きにゴリラユーザーと名乗る怪物は、コテコテの関西弁で不機嫌そうに返す。

 右手の指で頭を掻きながら、春樹と碧の方を見ていると、

 

「何ぞ、今の発言でカチンときたな。とりあえずオノレは始末させてもらうぞ」

 

 ゴリラユーザーは黒い戦闘員達を引き連れて向かって行く。

 長年の経験からこれは戦わなければならないと察した春樹と碧であったが、そもそも先程まで普通に寝ていた彼らが戦闘に入るために必要な道具など用意しているわけなく、パジャマ姿でただ焦るだけであった。

 

「どうするの春樹? これかなり不味い状況だよね……?」

「ああ。こっちは手ぶらだしな……」

 

 それでも怪人達は迫って来る。ゆっくりと、ゆっくりと。

 致し方無い、と生身のままで戦いを始めようとした──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

「変身!」

『変身シークエンスを開始します』

 

 怪物達と二人の間に、()()()()()()()()()()()()

 コンクリートを打ち砕き砂煙を上げ、さらには衝撃波で全員を後方へと吹き飛ばしてしまう。

 

 煙が晴れたところを見ると、そこには別の怪人が立っていた。

 

 ゴリラユーザーの付けているのと同じドライバーを装着した怪人は、黒いインナースーツの上から錆色の鎧を付けており、もう一体の怪人と比較すればかなりスリムな印象である。

 外側に向けて2本の角が斜めに生えている頭部には、特徴的な赤い垂れ目の複眼があった。

 

 彼の姿を見たゴリラユーザーは面倒くさそうに呟いた。

 

 

 

 

 

「ブートレグ……。いや……仮面ライダーやったっけなぁ?」

 

「……そうだ。僕の名前はブートレグ……。仮面ライダー、ブートレグだ……!」

 

 「ブートレグ」と呼ばれた怪人は立ち竦みながら気弱そうに、だがその言葉に重みと熱意に似たものを混ぜて言った。

 彼のことがどうやら気に入らないらしいゴリラユーザーは、合図を出して戦闘員達を走らせた。

 

 多数の槍が前方から襲いかかって来る。

 ブートレグは自身の両脚を使って前へと跳び出し、一気に彼らの眼前へと現れた。突然のことに対処が出来ない戦闘員達は、彼の繰り出すパンチやキックによって槍で反撃をする間も無く、血の代わりに黒い細かな粒子を撒き散らしながら倒される。

 

 そして周りにいる全員が一瞬にして、黒い粒子となって消え失せたところで、今度はゴリラユーザーが大きな右腕を使って襲い掛かる。

 

「オラァァッ!」

 

 バック転をして攻撃を避ける。行き場を失って地面に激突した拳は、大きな亀裂を生み出していた。

 重たい拳を何度も何度も振り回すのだが、やはりブートレグの俊敏さはかなりのものらしく、一向に当たる気配は無い。

 

「いつまでも逃げて……。卑怯と思えへんのか!」

「まさか。これでも僕は戦っているんだ。これが僕の戦い方なんだっ!」

 

 ゴリラユーザーの左の拳と、ブートレグが右足で繰り出した飛び蹴りがぶつかると、二人は何方も後方に吹き飛ばされた。

 

 着地をしたブートレグは、ドライバーの上部に付いた透明なボタンを右手で押した。するとドライバーの前面が下へと捲れ、中身が顕になってしまった。

 その真ん中にあるアイテムを取り出して元の状態に戻すと、彼の右手に何処からか何かが飛んで来た。

 

 それは真紅の六角形で、側面には6本の脚や小さな頭部が付いていて、まるで蜘蛛のようだ。

 さらにその表面の上部には小さく「02」、下部には「SPIDER」と黒く印字されている。

 

 ガジェットの脚と頭部を仕舞い込んでただの六角形にしたブートレグは、中が空になったドライバーのスロットに装填した。

 

02(ZERO-TWO)

 

 女性のハイテンションな声の次に、エレキギターを主旋律としたロックが流れ始める。

 その間、ゴリラユーザーはブートレグに向かって行く。どうやら不味いことが起こるらしい。

 

 そんなことを気にする間も無く、彼はドライバーのレバーに手を掛けて引き下げた。

 ガジェットがドライバーの中央に移動して、内部にて展開。別の怪物を基にしたであろうイラストが姿を見せた。

 

『変身シークエンスを開始します』

 

 大人しそうな女性の声がしたのと同時に、ゴリラユーザーの拳がブートレグに激突。

 何と攻撃が命中したブートレグは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。残っているのは、ドライバーから下の下半身である。

 

「「えええええええええ!?」」

 

 まさかの光景に春樹と碧は驚きを隠せない。

 敵を倒したと思ったゴリラユーザーは、意気揚々としながら春樹達の方へと向かって行った。

 

「後は、ジブンらだけやな」

 

 だが次の瞬間、ゴリラユーザーの体が何かに引っ張られるように後ろへと吹き飛ばされた。

 転がる彼のことを見る春樹達の目線の中に入って来たのは、全く違うブートレグの姿であった。

 

 特徴的な垂れ目は変わらないのだが、体色は装填したアイテムと同じ真紅になっていて、背中には黒いマントが、頭部には赤色の大きな角がある。

 

『SPIDER』

 

 立ち上がったゴリラユーザーが再び立ち向かって行く。

 するとブートレグは背中のマントの形状を4本の腕のように変えると、長く伸ばして標的の首を締め上げた。

 

「お前ぇっ……!」

「……すみません。本当はこんなことしたくないんですが、これ以上貴方が誰かに迷惑をかけるのを見過ごすわけにはいかないんです」

 

 空いている左手でレバーを下げると、作られた両腕で一気に敵を自らの方に引き寄せる。

 それを好機と思ったゴリラユーザーは、その勢いを逆手に取って右手で殴り飛ばした。けれどもブートレグも両足で彼の拳を殴ったがために、双方が吹き飛ばされる形となる。

 

 これが実はブートレグにとってのチャンスであることに、この時は誰も気が付かなかった。

 

 ブートレグが両腕から白い糸を大量に出すと、二人の飛ばされる先に糸で出来た大きな白い網が完成する。

 それに当たり沈んでいく二人は、その反動で急速に前方へ押し出されてしまう。

 

 一体どうしてそんなことをしたのか、狙いに全員が気が付いた時には、ゴリラユーザーにブートレグの右足が胸部の寸前に来ていた。

 

『SPIDER FINISH』

「ライダーキック!」

 

 標的の身体を貫き、黒色の粒子が辺りに撒き散らかった瞬間、彼のゴリラユーザーの身体は全て黒い粒子となって消える。

 ブートレグは地面に放置されているガジェットを拾い上げた。

 

『Rest in peace. 次の人生に、ご期待ください』

 

「一体何がどうなってるんだ……」

「……分かんない……」

 

 すると次の瞬間、ブートレグの身体も黒い粒子となって消えてしまう。

 一体何が起こったのか分からないままその場に取り残された二人は、黒い粒子達が風と共に去って行く光景を最後に意識を失い、そしてベッドの上で目覚めたのであった──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。かなり悪い夢を見ていたような気がする。

 けれども全身に残る倦怠感と残っている僅かな感触が、これが夢ではないことを明確に表していた。

 

「お疲れ様、優司(ゆうじ)君」

「……お疲れ様です。花蓮(かれん)さん」

 

 目覚めた青年は生まれながらに持ったその幼く見える顔で、笑顔で迎えてくれた女性を見つめた。

 黒いブレザーに赤色のネクタイをした青年に対して、女性は白いキャミソールワンピースという露出度の高い格好である。完全に二人の衣装は統一性の無いものであった。

 

「今日ゲットしたのはゴリラね」

「はい。結構手強かったですね」

 

 女性が見つめるのは、茶鼠の六角形であった。両腕に両脚、頭部の付いてゴリラのような形をしたそれは、表面の上部に「09」、下部に「GORILLA」と黒く書かれている。

 それは先程、ブートレグが手に入れた物と同等であった。

 

 ふと女性が青年の方を見ると、彼が何やら暗い表情を浮かべているのが判る。

 溜息を吐いて話しかけた。

 

「まだ、躊躇とか後悔があるの?」

「……いえ。もう迷いは振り切れました。……でも……」

「分かってるでしょ? この街を守ることが出来るのは、今のところ貴方しかいないのよ」

「分かってます。だから迷わないようにしているんです。この街を守る、『仮面ライダー』として……」

 

 ──その呼ばれ方、気に入ってるんだ。

 

 笑みを浮かべる女性に合わせて、青年も何とかして笑顔になれるよう努力をする。

 暗い室内の中で静かに笑い声が響き、そして消えていった。

 

 

 

 

 

 これが、この世界で戦う仮面ライダーの素顔なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常0体

B群6体

合計6体

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

各々が所持しているメモリアルカードの枚数

SOUP:42枚

零号:123枚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Who is that man who they met?

A: Maybe, he is a new KAMEN RIDER.

*1
茶色みがかった赤みの灰色。

*2
鮮やかな緑みの青色。




因みに彼らは次回作のキャラです。
なので本編にはもう登場しません。



【参考】
東京の過去の天気 2022年5月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220500/)
色の名前と色見本・カラーコード|色彩図鑑(日本の色と世界の色一覧)
(https://www.i-iro.com/dic/)
大阪弁変換
(https://osaka.uda2.com)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 31 狙われるピカロ(PICARO IS TARGETED)
Question091 Why does he run away from them?


第91話です。
今回が最終シーズンとなり、完結へのカウントダウンが始まりました……!
そんなわけでイメージOPとイメージEDが変わりますので、是非とも聴いてみてください。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
イトヲカシ - カナデアイ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


 ピカロの両親は、彼が5歳の時に事故で他界した。車を運転していた際、玉突き事故に巻き込まれてだ。

 

 それ以来、彼は児童養護施設で過ごしていた。

 けれども中々周りに馴染むことが出来ず、いつも独りでいるか、孤児院の院長と二人で遊んでいるだけだった。

 

 そんな時、彼に一人の女性が現れた。フロワである。

 中学生だった彼女は、父親からの虐待を受けていた。父親が警察に逮捕をされたため、此方に引き取られたのである。

 

 年齢に合わない程の母性を持った彼女に、ピカロは亡き両親を重ね、共に行動することが多くなった。

 グループで活動する時は必ずフロワと行い、絶対に離れようとはしない。

 

 そしてピカロ、フロワ、孤児院の院長の三人で遊ぶことが増え、まるで本物の家族のようになっていった時、()()()がやって来た。

 

 突如として現れた化け物が攻撃を始めたのだ。

 同じく異形の戦士達が束になって彼奴を襲ったが、敵うことは無く、次々と街は破壊され、人は死に、世界は荒廃してしまった。

 

 残されたのは建物として機能をしていたものと、ピカロ達の三人だけとなった。

 彼らの前に現れた化け物は、全員に自身と同等の力を分け与えて、この世界を一緒に去ったのだ──。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.05.19 04:33 東京都 中野区 トキワヒルズA 301号室

 一糸纏わぬ春樹と碧は、徐々に耳に入って来る音で目が覚めた。

 

 意識がはっきりしたところで、視界には美しい姿をした相手がいて、そして枕元で端末が音を鳴らしながら震えていた。ただのアラームではない。聞き覚えのある音だったため、急いで画面を見て詳細を確認する。

 

 そしてすぐに飛び起きて、各々が支度を始めた。

 

 

 

「どうしたの? 二人共慌てて。緊急出動?」

 

 慌てて準備をしていたため物音が五月蝿かったのだろう。あまねが眠い目を擦りながら話しかける。

 春樹と碧はそれぞれが出掛ける為の服装に着替え、後は荷物をリュックサックの中に入れるだけだ。

 

「半分正解半分不正解、ってとこかな。実は、23区内全域の防犯カメラにアール達を捜索する機能が付けられたんだけど──」

「結果、10分くらい前にピカロが品川駅近くで発見された」

 

 二人の口から出されることに、あまねは驚いた。

 まずは自分が街中で見かけるカメラ達にそんな機能が搭載されたこと。そしてそれの成果が顕著に現れたということにだ。

 

「じゃ、行って来る」

「う、うん。行ってらっしゃい」

 

 その場で立ち竦むあまねは、玄関から飛び出して行く春樹と碧を見送った。

 

 何故だろう。何故だか気持ちが落ち着かない。

 二人が出て行った玄関が異様に暗く見えてしまうのだ。今まで出掛けて行く彼らを見たとしても、そんな風に思ったことは無い筈なのに──。

 

 考えていても仕方の無いと思ったあまねは自室へと足を運び、二度寝の準備を始めた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.05.19 06:12 東京都 品川区

 そろそろ出勤する会社員達がちらほらと現れ、全員が大きな駅へと向かう。皆が皆虚ろな表情をして、前を向いて歩いていた。

 

 それらと逆の方向を歩くピカロは、俯きながらゆっくりと歩いていた。

 出始めた光が柔らかく彼を照らして、さらには吹く向かい風が行く手を阻もうとしている。

 

 何があっても進み続ける。

 逃げなければ、逃げなければならないのだ。

 

 だが、

 

「こんなところまで逃げていたんだね、ピカロ」

 

 後ろから聞き馴染みのある、大好きな声が聞こえた。

 振り向くとそこにいたのは、やはりフロワであった。左の手首にはネクスチェンジャーが付けられていて、笑顔を崩さずにじっと睨んでいる。

 

「何しに来たの?」

「決まってるでしょ。貴方を殺しに来たの。ご主人様に楯突いた貴方をね」

 

 もう、彼女は彼方側になってしまったのか。

 

「本気なの? それは」

「当たり前でしょ」

 

 フロワはカードを取り出してネクスチェンジャーのスロットに挿し込んだ。

 

『"PEERS" LOADING』

 

 なのでピカロも共に変身をしようと、自身の腕輪を確認する。

 同時にフロワはダイヤルを回す。

 

『CHANGE』

 

 フロワの周りに、変身のために必要な枠が設置されるのだが、ピカロには何も起こらない。

 戸惑う彼は驚きながら目の前を見た。

 

「どう、して……」

「このP-2-Pシステムであれば貴方に力を分け与えることが出来る。でも裏を返せば、力を与えないことだって、私の気分次第では出来るのよ」

 

 そうか。

 それが力や変身の権限を付与される側のデメリットであった。自分も変身出来るという事実に喜んでばかりいたために、すっかりと忘れていた。

 

「変身!」

『Let's go!』

 

 枠の中で煙が充満。壊れて晴れたところで、フロワの姿がピアAになったことが確認出来た。

 

『This is RIDER SYSTEM of next generation. We’re KAMEN RIDER PEERS! It’s reused as like heavy rotation.』

 

 剣を取り出して着々と足を進める。

 成す術の無いピカロはただ後ろの方へと逃げ始めた。けれども何日も逃げ纏っていたため、素早く逃げることなど出来ず、すぐに追い付かれそうになる。

 

 前へと回り込んだピアAは、黒い剣を真っ直ぐと振り下ろした──。

 

 

 

────────────

 

 

 

 その少し前の話。

 同じく出動要請のあった八雲は、派手なアロハシャツに袖を通し、リビングから出ようとした。

 確認したところ、部屋の電気は今いるリビング以外全て消えていて、ガスの元栓も閉められている。

 

 けれども確認しなければならないことは、それだけではなさそうであった。

 

 角に置かれた小さな3段の棚の中身を見ていく。

 一番上の段には、判子や保険証等の生活で必要な物が入っていて、真ん中には鋏やスティックのりといった文房具が敷き詰められている。

 

 そして最後、一番下の段は底が深く、大量に物が収納出来るようになっているのだが、殆ど何も入っていないためか軽々と開けられてしまう。

 

 その中を数秒間じっと見つめた八雲は、そっと棚を閉じて足早にリビングから姿を消していった。

 

 何が入っているのかは、彼のみぞ知ることである。




【参考】
東京の過去の天気 2022年5月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220500/)
日の出入り@東京(東京都) 令和 4年(2022)05月 - 国立天文台暦計算室
(https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/dni/2022/s1305.html)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question092 Does she love him?

第92話です。
今まで短くても3000字だったのに、遂に1000字になってしまいました……。本当にごめんなさい。何も浮かばなかったんです……。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.05.19 06:15 東京都 品川区

 春樹に碧、八雲の三人が現場に着いた時、彼らの前では目を疑うような光景があった。

 ピカロがピアAに襲われているのである。繰り出される剣術からただ只管逃げ、反撃を仕掛けようとする様子は皆無だ。

 先日の戦いで彼がパラレインやフロワに牙を剥いたせいであることは確実なのだが、まさか仲間討ちをするとは思ってもいなかった。

 

「これは……どっちの味方につけば良いんだ?」

 

 八雲が眺めながら困惑する。

 同じく戸惑っている春樹と碧はすぐに答えを出せない。

 

「そうね……。一先ずフロワを止めよう」

「了解。じゃあ行くぞ」

 

 春樹と碧がドライバーを腹部に、八雲はネクスチェンジャーを左の手首に出現させる。

 そしてそこにカードを装填しようとした──

 

 

 

 その時だった。

 

「結構面白いことになっていますね」

 

 聞き覚えのある若い男性の声が聞こえてきた。

 其方の方へ目線を向けると、そこには暖かくなってきたにもかかわらず、長袖の白いワイシャツを着たヒナタであった。

 

「これはどういうことだ?」

「処刑してもらっているんですよ。私が独立出来るようになって完全態になるまで後少しとなった今では、裏切り者の彼はもう用済みです」

 

 笑顔から放たれる言葉はあまりにも冷酷であった。

 今まで連れ添って来た彼は仲間ではなく、どうやらただの使い捨ての駒に過ぎないのかもしれない。

 使い捨ての駒は、チェスでは一番最後に倒され、将棋では再利用されるとしても再び使い捨てられるだけ。どちらにしろ悲惨な最期を遂げることに変わりは無い。

 

「このまま放っておいて彼が倒されれば、敵が減るんだから互いにウィンウィンじゃないですか」

 

 理に適った意見に対し、誰も何も反論することは出来ない。

 ただ目の前で起こることに対して目を向けることしか出来なかった。

 

 

 

 ピカロはただ只管逃げる。

 彼を追う剣心は中々当たらず、殆どは地面を叩いて罅を作るだけになってしまう。

 

「どうしてあんな奴のことが好きなの!? フロワっ! どうして僕じゃないのっ!?」

「決まってるでしょ。あの人は貴方と違って私を満たしてくれる。貴方なんてただの子供じゃないのっ!」

 

 刃が彼の左の頬を傷付けた。吹き飛ぶピカロの顔から血が流れる。

 うつ伏せで倒れた彼は立ち上がることが出来ない。攻撃の威力が大きかったのも理由だが、主なのはフロワの口から投げられた言葉であった。今まで姉のように慕って愛した彼女からそんなことを言われるとは思ってもいなかった。受け止めることは不可能。顔は地面に付けられていて見えないが、凡その予想はつく。

 

 ゆっくりと立ち上がるピカロ。自らの身体を支える両脚は震えていて、彼が心に受けた攻撃の凄まじさを物語っている。

 真っ直ぐと自身のことを睨むピカロを、ピアAは見たことが無かった。

 

「ふざけるな……。ふざけるな……ふざけるなぁぁぁぁぁっ!」

 

 聞いたことなど無かった、愛する人に対する怒りの叫び。

 彼の身体に異変が起こり始めたのは、それと同時だった。

 

 ドス黒いオーラが渦巻き始め、一瞬のうちにシルエットから何から何まで一切が原型を留めない程に変貌してしまった。

 水色と黒色が斑になった体色で、両足のつま先は上を向いて鋭く尖っている。白い歪んだ円のようなパーツが両手首と両足首に何重にも付けられていて、頭頂部には白く丸い部位を頂点に後ろへ曲がっている。

 ピアBの楕円形の目の下に引き攣った笑みを浮かべたようなその姿は、まるでピエロのようであった。

 

「何、あれ……」

 

 ピアAは突如として姿を変えたピカロに驚いている。

 彼女だけではない。春樹を含めたその場の全員がそうだ。

 

 このような現象に1つだけ、心当たりがあった。

 嘗て春樹が仮面ライダーアクト クラックシェープになった際、暴走を止めるために碧がカードの力で怪人態になったことがあった。

 人間態のみを持っているフォルクローであっても怪人態になることが出来る。それを彼女が証明したのだ。

 

「まさか自分一人の力で変身が出来るだなんて。想定外でしたね」

 

 ヒナタが呟く。

 先程の笑顔から真顔に変わったことから、彼奴もかなり動揺しているらしい。

 

「フロワ。君は僕のものだ。それを身を持って教えてあげるよ……!」

 

 ピカロ(Picaro)

 スペイン語で「悪戯好き」を意味する名をした彼は、ただの悪戯を彼女にしようとしているわけではない。

 口に出すことの出来ない程の、悪辣な悪戯をしようとしているのだと全員が察した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Does she love him?

A: Yes, she does. But she likes her master more than him.




【参考】
幻想世界13ヵ国語ネーミング辞典
(コズミック出版, ネーミング委員会編, 2019年)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question093 How did he fight without her?

第93話です。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
柴咲コウ - 野生の同盟

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.05.19 06:20 東京都 品川区

『考えられる理由としては、彼が零号から直接力を貰ったのが大きいだろうな』

 

 トランスフォンの中からグアルダが突如として呟いた。

 

「それ、どういう意味?」

『アール、フロワ、ピカロの三人は直接零号から力を与えられた。クラックボックスを通じて力を得た春樹や碧達とは全く違うだろうな』

 

 春樹や碧等のフォルクロー達は、パラレインが目覚めてすぐに作り上げたクラックボックスによって、その肉体を改造された。結果として、怪人態にしか持っていない下級の者達と、人間の姿だけを備えた上級の者達の二つに分けられたのだ。

 だが、パラレイン本人から直接力を分け与えられたアール達三人もそうなのかと言われれば、与えたものが全くの別物であることから、はっきりとは断言出来ない。

 その答え、今ここでピカロが見せたというわけだ。

 

「フロワ。君は僕のものだ。それを身を持って教えてあげるよ……!」

「……気持ち悪いわね……。そういう感じの愛を持っている男は大体嫌われるのよ」

 

 ようやく対抗出来る姿になることが叶ったピカロがジャンプをすると、一瞬でピアAの前へ着地。両手に持ったS字の刀で斬りつけた。

 

「ッ!」

 

 想像だにしていなかった威力に驚きながら、火花を散らして後退する。

 怯む彼女に隙を与えないようにと、素早く両腕を動かして何度も何度も攻撃を仕掛けた。やられる度に激痛が走る。

 そして両足で蹴り飛ばされてしまった。

 

「キャッ……!」

 

 宙空で一回転したピカロが着地をしたところで、ピアAは別のカードをネクスチェンジャーに挿し込んだ。

 

『"YUUKI" LOADING』

 

 幽汽シェープに変身したピアAは左手に独楽を持つと、それを上へと投げて剣先を当てる。

 すると独楽が大量に分身をし、ピカロに襲い掛かった。

 四方八方からやって来る独楽を避けられないと誰もが思った。

 

 けれども道化師(ピエロ)というものは、誰も予想だにしなかったことを軽々と起こしてしまうものなのである。

 故意であるのか、そうではないのかは関係の無い。とにかくそういうことを起こしてしまう。

 

 ピカロの姿が突然消えた。

 目標の無くなった独楽達は地面に当たるなり、ぶつかり合うなりして自爆してしまう。

 

 次の瞬間、ピアAの目の前にジャンプをした状態のピカロが現れた。そして彼女に向かって何回も飛び蹴りを食らわせて吹き飛ばした。

 

「ッ!」

 

 これで攻撃が終わるわけもなく、ピカロは両手の刀から、墨のように黒い斬撃を放った。S字の刀から放たれるがために、歪んでしまった斬撃は全てピアAに激突した。

 

「キャァァッ!」

 

 変身を解除された状態でその場にうつ伏せで倒れ込んでしまう。意識は保っているのだが、立ち上がる気力は無い。

 それを見たピカロはゆっくりとフロワに近付くと彼女を抱き抱えた。目を瞑っていることから、もう意識を失っていることが判る。

 

「彼女をどうするつもりだい? ピカロ」

 

 ヒナタがピカロに問う。

 

「決まってるでしょ。お前のものになったお姉ちゃんをもう一度僕のものにする。それだけだ」

 

 確固たる意志を見せたピカロは、彼女を抱き抱えたまま何処かに消えていった。

 彼が元いた場所を春樹達はただじっと見つめる。今まで起きた出来事があまりにも予想外のことだらけであったため、脳の処理が追い付いていないのだ。

 

「……面倒なことになりましたね……」

 

 それだけ言い残し、ヒナタもこの場を去ってしまう。

 これで残ったのは春樹達の三人だけになってしまった。

 

「すごく、嫌な予感がするんだけど……」

「……俺もだ」

 

 春樹と碧が呟く。これからとてつもないことが起こるのではないかと不安を覚えずにはいられなかったのだ。

 その様子を見ていた八雲は、何かを考えながら俯いていた。春樹や碧以上に重く深刻そうな表情で。

 

 彼らの心境を完全に無視して太陽は昇る。

 陽の光が彼らを強く照らす。

 けれども春樹達はそんなことなど気にする余地も無く、ただただ考えに耽っていた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.05.19 07:22 東京都 中野区 トキワヒルズA 602号室

 家主のいなくなったリビングの扉が開き始めた。ゆっくりと開かれた扉からは、制服を着たあまねが憂鬱そうに入って来る。

 

「何で単語帳をここに忘れちゃうのかなぁ……」

 

 昨日、あまねは春樹や碧と共に八雲の部屋で夕飯を食べていた。その際いつも使っている小さな単語帳を持って行ったのだが、それをここに忘れてしまったのだ。

 

 探して見たところソファや食卓には無い。自分が座った場所はそれしか無いというのに。

 こういう時に考えられることは2つ。一つは八雲が自分の物と思って仕舞ったこと。もう一つは間違えて捨てられたことだ。

 後者の方であれば不味いのだが、そんなことはあり得ないと信じて、目の前にある棚を調べてみることにした。

 

「あった……!」

 

 真ん中の段を開けてみると、文房具類に紛れて単語帳が入っていた。きっと八雲がうっかり入れたのだろう。

 一安心したあまねは、ここで一つ疑問を抱いてしまった。

 

 ──他に一体何が入ってるんだろう……?

 

 基本的にナルシストであることしか分からないあの男は、この棚の中に一体何を入れているんだろう。

 ふと気になったあまねは、一番下の大きな段を開けた。

 

「これは──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただのエロ本じゃん!」

 

 可愛らしい水着や華やかなランジェリーに身を包んだ女性達が表紙を飾る本が、大量に入っていたのだ。

 男の気持ちを昂らせて誘うその表紙を見て、隠したくなる気持ちも解る。もしこれが碧の目に入ったら茶化されるし、今はもう亡き花奈に見つかったらただじゃ済まされない。

 

 けれども本当に隠したかったものは、どうやらこれではなかったらしい。

 

「ん?」

 

 それらの本を全て外に出してみると、姿を見せたのは()()()()()()()()()()だった。

 

「何、これ……?」

 

 具体的に何かは分からない。新聞紙越しでも分かる硬さだけしか分かることの出来ない。

 だがそれが何なのかは分からなくても良いと思ってしまった。

 

 昔読んだ漫画で、同じように新聞紙に包まれた何かが棚から発見される場面があった。

 正体を確認しようとしたところで、キャラクター達が「これは不味い!」と仕舞い込んだのだ。

 それが何故か今、脳裏に浮かび上がって来たのだ。

 

 ──これを見るのはやめておこう。

 

 そっと棚の中にそれと雑誌を全て戻したあまねは、棚を閉めて部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常0体

B群6体

合計6体

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

各々が所持しているメモリアルカードの枚数

SOUP:42枚

零号:123枚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How did he fight without her?

A: By being a monster.




新聞紙で包まれた()()が出てくる漫画というのは、麻生周一先生の「斉木楠雄のΨ難」です。
窪谷須くんの家のシーンは衝撃的だったのでwww



【参考】
東京の過去の天気 2022年5月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220500/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 32 怒り(ANGER)
Question094 How did she fight him?


第94話です。
スーパー急展開です! 完結に向けて駆け足になっているので、そこはご了承ください……。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
イトヲカシ - カナデアイ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.05.19 07:31 東京都 新宿区 SOUP

 電話越しに春樹達から事の顛末を聞いた他の班員達は、あまりにも多い衝撃的な出来事に驚きを隠せなかった。

 

 まずはピカロが裏切ったことだ。パラレインの下でフォルクロー達を牛耳っていた三人のバランスが崩れたことは自分達にとって有利であるのだが、それは同時に第三の全く違う勢力が誕生したということだ。荒くれ面倒なことになる。

 

 そして何より、そのピカロが怪人態になったことだ。碧がカードの力で同じようにしたことがあったので、その点に関しては然程驚いていないのだが、何も使わずに異形になったことは特に薫を驚愕させた。

 

 そんな中で深月が現状に関する報告を始めた。

 

「大田区の方でピカロとフロワが見つかったので、今春樹さん達に向かってもらってます」

「分かった。では我々も向かうことにしよう」

 

 森田の指示で全員が支度を始めた。

 この状況下では一体何が起こるのか検討もつかない。すぐに急行するのが最善だと思ったからだ。

 

「彼の行動がどう影響するんでしょうね……?」

「うーん……。さっぱりですね」

 

 訊かれた圭吾も薫と同様に答えが見出せないらしい。

 中途半端に悩んだ状態で荷支度を終えてしまった。

 

 これから未知の領域に突入して行く。

 それに対する訳の分からない興奮が彼らの胸をざわつかせ、部屋を飛び出す原動力と化したのだった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.05.19 08:01 東京都 世田谷区

 フロワが目を覚ました時、自分がいるのは何処かの廃工場であることが分かった。

 下を向くと、自身が一糸纏わぬ姿となっていて、その豊満な肉体が顕になっている。

 そしてさらに分かったことは、立った状態で上に伸ばされた両手を鎖で縛られていることだ。

 

「目が覚めた?」

 

 眼前で立っているピカロが訊く。

 

「……こんな格好にして、私を犯すつもり?」

「大切なお姉ちゃんにそんなことはしないよ。それ以上にもっと良い方法を思いついたんだ」

 

 ピカロの言っていることの意味が解らず、睨んだまま首を傾げる。

 彼女に向けて彼は満面の笑みを向けて話した。

 

「君を殺せば良いんだよ。そうすれば君は嫌がることは出来ないんだから、完全に僕のものになるんだ」

 

 そう言うピカロの表情はまるで無邪気な子供だ。普段なら可愛らしく感じられるのだが、今は以上に怖く思えてしまう。

 彼は自分の弟分の子供だ。だから仮に自分に恋心を抱いたとしても、所詮は子供の初恋に等しいのだからどうにかなると思っていた。

 けれども事態はそう簡単なものではなくなってしまった。拗らせに拗らせ、ここまで深刻なものになってしまっている。

 

「さあ。始めようか」

 

 ピカロがフロワに近付いて来る。

 この縛られた状態では何も成す術が無い。彼の思うがままにされるだけだ。

 

 ニッコリと微笑んで向かって来る彼をフロワはただじっと睨む。

 そしてピカロは、彼女の首に両手をかけた──

 

 

 

 

 

「『鎖を外して彼女から離れろ』」

 

 次の瞬間、首に向かっていたピカロの手は彼女の両手を縛る鎖に行き、すぐに解く。そしてゆっくりと解き放たれたフロワから後ろ歩きで遠ざかっていた。

 行動をしたピカロ本人が自身の行動に一番驚いている。

 こんな芸当が出来るのは一人しかいないと思うと、フロワの前に彼奴が現れた。

 

「ご主人様……!」

「パラレイン……!」

 

 ピカロがヒナタを睨む。ヒナタはいつものような笑顔ではなく、同じようにして彼を睨んでいた。

 

「私の大切な人に何してくれてるんだい?」

「決まってるでしょ。彼女は僕のものだ……! それを永遠にするんだ……!」

 

 するとヒナタは薄ら笑いを浮かべた。

 

「それは一生無理だね」

「……黙れぇっ!」

 

 激昂をしたピカロは黒い異形に変わる。

 自分の想いを踏み躙られた彼は、ただ彼奴に怒りをぶつけたくて仕方が無いのだ。

 

 ヒナタは子供の戯事に付き合うしか無いと察し、腹部にドライバーを出現させた。

 そして端末にカードを装填しようとしたその時、目の前にフロワが現れた。

 

 ヒナタに向かい合う彼女が何を企んでいるのかと思った刹那、彼奴の口元に温かい感触が走った。

 突然のことに戸惑ってしまったが、すぐに犯人が判った。フロワの唇である。目を瞑って彼奴にキスをしているのだ。

 

 愛する女が裸で男に口付けをする。ピカロにとってはあまりにも残酷な光景であった。

 今にも発狂しそうになる。

 

 けれどもこれで終わることは無かった。

 フロワは唇を離すと、ヒナタにこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方様が新しい力を手にするために、私の命を捧げます。ですから、裏切り者の彼を倒してください」

 

 その瞬間、何とフロワの身体が融解を始めた。

 

「え……?」

 

 彼女の美しい白い肉体が溶けていく。辛うじて人の形を保っていたが、限界が来たのか最早ただの溶けた蝋のようになってしまった。

 それがゆっくりと上がると、ヒナタの左手の中に集まって行く。そして1枚のカードの形状となった。

 赤紫と青紫のグラデーションが美しい鎧が描かれたカードには、「Ⅴ GINGA」と白く刻印されている。

 

 ピカロは驚きのあまり声も出せない。「驚き」と言うよりも「絶望」と言った方が良いだろうか。

 フロワが目の前で亡き者になったことへの絶望もそうだが、それ以上に彼女が永遠にヒナタのものになったことが要因だ。彼奴の手の中にあるカードがその証拠である。

 

 ヒナタはカードを裏返して端末に挿し込んだ。

 

『"GINGA" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと、上に現れたゲートからカードに描かれたものと同じ鎧が出現する。

 その下でヒナタは端末を持った右手をゆっくりと挙げて、そして叫んだ。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 端末をドライバーに装填すると、赤紫のラインが入った黒い素体に変身を遂げ、そこに鎧が装着されることで変身が完了した。

 素体には黄色や赤色、青色等の丸いパーツが付けられていて、赤い罰点を模した複眼は第1形態と変わらない。そして頭部に付いた土星の輪に似た部分は、さながら帽子のようであった。

 

『Glitter, Sparkle, Galaxy! Everything is gonna perish! PARA-REIGN GINGA! It’s the 5th shape.』

 

 仮面ライダーパラレイン ギンガシェープ。

 自身の僕を犠牲にして完成した、第5形態である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is its new card made of?

A: It is made of her life.




【参考】
仮面ライダーギンガ|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/kamen_rider_members/221)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question095 How has it fight by using that card?

第95話です。
最近、字数が減ってきてしまっていますね……。お許しください。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


 世界を滅ぼしたパラレインはアール等三人に近付き、自身の僕とならないかと提案をした。

 通常であればそんな要求を飲むとしても、目の前にいる相手の力を恐れてのことであろう。

 

 けれども三人は本心から彼奴に付いて行った。

 フロワは自身に暴行を働いた父親がいるこの世界を滅ぼしてくれたことに誠心誠意感謝をし、ピカロはもう何もこの世に未練が無かったためにどうでも良かった。アールに関してはよく分からないが……。

 とにかく、彼らは自ずから彼奴に従うことを選んだのだ。

 

 そして強大な力を得、自身らの世界を去って深い眠りについたのだ。

 

 別にピカロはパラレインに対してどうも思っていない。ただ何か面白そうなことが起こるような気がしたから付いて来ただけなのだ。良くも悪くも思っていない。

 

 だがここに来てパラレインのことを憎まなければならない事が起こった。

 彼奴がフロワと身体を重ねたのだ。

 人間の生殖行為に興味を示した彼奴は、日菜太の身体を利用して彼女を襲った。だがフロワは、これ以上の喜びは無い、と幸せそうに純潔を捧げたのだ。

 

 その時に目の前にあった光景を忘れることは出来ない。

 彼女をあんなに幸せに出来るのが自分であれば、どれほど良いだろうと思ってしまった。

 

 だからこそ今のピカロはパラレインのことを許せない。

 本来持っている力を全て使って、彼奴を殺す。

 それが今の彼が出来ることなのだ──。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.05.19 08:04 東京都 世田谷区

 ──だが、現実は残酷であった。

 

「お前ぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 怪人態となったピカロが両手に剣を持ってパラレインに向かって行く。

 フロワの命を奪い永遠に自分の者とした彼奴のことが許せない。だから両手の刀でズタズタに斬り裂きたいのだ。

 

 そんなピカロは、パラレインが彼の上に出現させた大きな黒いスペースに気が付かなかった。

 上に伸ばした左手をゆっくりと下ろしたその時、そのスペースから大量の星が降って来た。色とりどりの星々の破壊力は一つ一つが絶大で、ピカロを苦しめる。

 

「ガァァァッ……!」

 

 その場にうつ伏せで倒れ込んだピカロであったが、両掌と両足の爪先で地面を勢い良く蹴って立ち上がる。

 そしてフロワに食らわせたのと同じ、歪んだ斬撃を幾つも発射した。曲がりくねりながら標的へと向かって行くそれは、浴びればひとたまりも無いことを表すのに最適であった。

 

 だが次の瞬間、

 

「そんな陳腐な攻撃で私を倒そうとするとは……舐められたものですね」

 

 斬撃達はパラレインの眼前で突如として静止。なんと地面に急降下して自滅した。

 激しい爆発が起こり、砂煙がパラレインの姿を隠す。

 

 横に広がる爆炎が一箇所に集まり始めた。

 あり得ない行動をする炎達が向かう先は、パラレインが掌を上に向けている右手の中だ。徐々に徐々に集まって、最後は小さな赤色の球になる。

 

 メラメラと燃える球はどうせ自分に投げつけられると思ったピカロは、高速で移動をしてそれを避けようと試みたのだが、

 

「!?」

 

 足が動かない。

 両足を誰かに引っ張られている、と言うより全身が押さえつけられているような感覚なのだ。

 

「この形態ではどうやら、宇宙にまつわる能力を使えるようですね。今、君のところにだけ通常の何十倍もの重力をかけさせてもらったから、もう動くことは出来ないよ」

 

 これではあの球を回避することも防御することも出来ない。

 急に焦燥に駆られ始めた。

 

 パラレインはそっと炎の球を手元から放す。柔らかく丁寧に放したことを無視し、球は豪速球として動けないピカロの方に向かって行った──。

 

 

 

 同じタイミングで、春樹達は廃工場の近くに着いた。

 乗っているバイクを停めて現場へと駆け始める。

 

 その時、

 

「「「!?」」」

 

 けたたましい音が耳の中に侵入して来た。何かが破裂するような音と爆発する時に聞こえる轟音が鳴ったのだ。

 

 急いで廃工場の前に行く。信じられない量の爆煙で前が見えない。

 晴れたところで見えてきたのは、うつ伏せになって倒れているピカロと、奥の方で彼を見つめている新たな姿のパラレインであった。

 

「まだだ……。まだ僕は戦えるんだぁ……っ」

 

 震える両脚を使って何とか立ち上がる。服は黒く焦げてボロボロになり、身体の至る所に傷や火傷の跡があって血が出ている。

 満身創痍の状態の彼を嘲笑うかのように、パラレインはドライバーのプレートを押し込んだ。

 

『Are you ready?』

 

 次に端末を下に押し込むと、パラレインの前に黒い大きな円が現れる。

 内部がドス黒いそれは、言わばブラックホールであった。

 

『OKAY. "GINGA" ALLEGORICAL STRIKE!』

 

 何も音を発しないまま、ブラックホールは全てを吸い込み始めた。工場の中の機材を、地面の砂埃を、全てを吸い込んでいく。

 その中にはピカロも含まれているのだ。吸引に争おうと必死になって地に足を付ける。少しでも気を緩めれば全てが無駄になってしまう。だから何があってもここを離れるわけにはいかないのだ。

 

 だがやはり、現実というものは無情なものであるのだ。

 

 どんどん彼はブラックホールの方へと近付いて行ってしまう。地面に必死になって足を付ける彼の意志を無視し、強制的に引き摺って来るのだ。

 最後の力を振り絞る。例え無意味であったとしても、出すことに意味があるような気がしたのだ。

 

 そして遂に、ピカロは黒い渦の中に消えて行った。同時に黒い渦は消えて、吸い込まれるのを宙空で待っていた砂埃達がハタハタと落ちていく。

 

 こうしてまた一人、異形の者はこの世を去って行ったのだ。

 その事実を春樹達は受け止めることが出来ない。敵であったとは言え、その最期があまりにも想定外のものであったのだ。同情の余地がそこにはあった。

 

 パラレインが次の獲物に狙いを定めた。邪魔はいなくなったのだから、後は思う存分彼らと対峙することが出来る。

 

「さて、カードをいただきましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How has it fight by using that card?

A: By to shed a lot of stars.




因みに裏設定として、フォルクローの三人の年齢は以下の通りなんです。
アール:44歳
フロワ:16歳
ピカロ:14歳
そう考えると、JKであの色気を出せるフロワってヤベェなwww


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question096 Why did it strike them?

第96話です。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
柴咲コウ - 野生の同盟

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.05.19 08:04 東京都 世田谷区

「お前……仮にも自分の仲間だろっ……!」

 

 声を出した八雲の中で驚きの次に浮かんで来たものは、怒りであった。これまで連れ添って来た仲間を無惨にも殺し、平然と次の獲物である自分達に牙を剥けている。

 その事実が怒りの感情を駆り立てていくのだ。

 

「仲間? 何を言ってるんですか。ピカロもフロワも、ただ私が完全に力を取り戻すための駒に過ぎません。それ以上でも、それ以下でもないんですよ。勿論、アールもね」

 

 平然と言い放つ。

 最早同情の余地など無かった。

 

「「「変身!」」」

 

 アルティメットシェープのアクトとリベード、ネクスパイ アップグレードシェープに変身をした三人は、無情な怪人へと足を進める。

 彼らの中にあるのは、敵とは言え一人の命を奪った者への怒りであった。その怒りは最高潮に達し、それだけが原動力となる。

 

「「「ハァァァッ!」」」

「無駄なのに……」

 

 呟いたパラレインは何もせず、ただ三人の頭上に先程と同じように黒い空間を出現させる。

 それまでの戦いを見ていなかった彼らであったのだが、何かがやって来るとすぐに察知出来た。

 星々が降って来たとしても、ネクスパイはアンブレラブレイカー ボウガンモードを傘のように差して防ぎ、アクトとリベードはディスペルデストロイヤー バズーカモードで撃ち落としてその身を守った。

 

 危機を回避した三人。

 アクトとリベードはサーバーを操作する。

 

『"AGITO" LOADING』

『"RYUGA" LOADING』

 

 バズーカを置いたアクトの左手に、青色の薙刀──ストームハルバードが出現。

 一方のリベードの右隣には、漆黒の竜騎士──仮面ライダーリュウガが現れた。

 

 リュウガはドライバーに装填されたカードケースから1枚カードを取り出し、左手のリーダーに挿入する。

 

『ADVENT』

 

 転がっているドラム缶の光沢の中から、漆黒の龍──ドラグブラッカーが飛び出して来た。そしてそれはリュウガの周りをグルグルと動く。

 

『『『Are you ready?』』』

 

 サーバーを押し込むと、アクトは両端の刃が展開したストームハルバードを強風を起こしながら回し、リベードは隣にいるリュウガと共に浮かび上がった。

 さらにネクスパイもエネルギーの溜まっていくボウガンの銃口を標的に向ける。

 

『OKAY. "AGITO" DISPEL STRIKE!』

『OKAY. "RYUGA" DISPEL STRIKE!』

『OKAY. UPGREDED DISPEL BALLET!』

 

 ドラグブラッカーが吐き出した黒い炎の勢いを利用し、リベードとリュウガが右足で強烈なキックを食らわせようとする。

 アクトは何重にもなった青色と金色の斬撃を、ネクスパイは赤色の弾丸を放った。

 

 それぞれが並外れた破壊力を持った攻撃だ。まともに当たれば相手は一溜まりもないだろう。

 だがパラレインは至って余裕そうであった。防御しようと身構えようとも、何かを発動させようともしない。

 

 それもその筈だ。

 何せ、()()()()()()()()()()()()()()

 

 まずドラグブラッカーが突如として赤色の炎に包まれ、断末魔を上げて消滅した。

 推進力の源を失ったリベードとリュウガのキックの勢いは徐々に落ちていき、地面に落下してしまう。

 

 次にアクトの放った斬撃とネクスパイの放った弾丸は、移動する方向をいきなり上方へと変える。

 思いっきり屋根を突き破って外に出ると、2つの攻撃は美しい花火となって爆発し消えた。

 

 これで攻撃が完全に無駄になってしまった。

 だがそれで終わることは無く、パラレインはサイド黒い空間を出現させた。しかも今度は上にだけではなく、四方八方に出現させる。完全に袋の鼠となってしまったのだ。

 

 そこから大量の星々が色とりどりの輝きを放ちながらやって来た。

 美しいその攻撃達はアクト達三人を確実に傷付け、かなりのダメージを負わせた。

 

 さらにダメ押しとして、パラレインは右手から小さな赤色の球を放つ。

 まるで太陽のようにメラメラと燃える球が当たった瞬間、激しい爆発が起こった。

 

「「「グァァァァッ!」」」

 

 変身を強制的に解除された三人は、その場に倒れ込んでしまう。

 衣服がボロボロになって身体のあちこちに傷の出来た彼らは、戦闘不能という言葉がとても良く似合っていた。

 

「さて、では()()()()()いただきますか」

 

 するとパラレインはピカロを抹消したのと同じ渦を出現させた。先程よりも小さなものであるが、恐らくあの吸引力に変わりは無い。自分達も吸い込まれないように必死に地面にへばり付く。

 

 けれども彼奴の狙いは春樹達ではなかった。

 吸い込まれていくのは、掌に収まる程度の小さな物である。それが春樹達の所有しているメモリアルカードであることはすぐに判った。

 

「「「!」」」

 

 抵抗をしようとするのだが、如何せん体に力が入らない。

 目の前でカードが吸い込まれていくのをただ茫然と見ているだけだ。

 

 暫くして渦は消えた。

 あれだけのカードを手に入れたわけだが、パラレインはどうやら満足していないらしい。

 

「このカードの能力で別の所にある貴方方のカードを全て頂こうとしたのですが……流石に限界みたいですね。残り後10枚だけなのに。……まぁ良いでしょう。ではまた」

 

 いつの間にかパラレインがいなくなっている。

 何処に彼奴がいるかなど気にする暇も無く、三人は意識を失った。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 帰って来たヒナタは失笑をしていた。

 これで殆ど全てのカードを手中に収めることが出来た。後はこれらを吸収してさらに強くなり、春樹達を倒して残りの10枚も頂けば良い。

 実に簡単な話だ。

 

 すると、

 

「パラレイン。貴方に一つ、ご報告しなければならないことがありまして……」

 

 後ろからアールが話しかけてきた。

 

「何だい?」

「別世界から連れて来た実験体の方々なんですけど……」

 

 アールの言葉でヒナタは思い出した。

 フォルクローの研究に没頭していた海斗が生前、アールを使って別の並行世界から実験のモルモットを収穫していた。

 もうそんなことなどすっかり忘れてしまっていた。

 それもその筈。彼らは改造を施した後、白い棺の中で目覚める時を待って放置しておいたのだ。今まで日の目を見ることの無いであろうと思っていた連中なのである。

 

「実は、内3人が脱走しましてですね」

「……そう。まいったね。私も暫く動けないだろうし」

「それでですね、一つ、考えがあるんですよぉ」

「?」

 

「その世界の仮面ライダーに対応をお願いするのはどうでしょう?」

 

 顔には出さなかったが、その提案に若干驚いた。

 まさか他の世界にも仮面ライダーがいるとは思っていもいなかった。無論、自分達が元々仮面ライダーのいた別の世界から来たのだから驚く必要性は皆無に等しいのだが、それでもやはりというわけだ。

 

 けれども良い判断だと思った。

 脱走したのはただのフォルクローではない。別の強大な力を秘めた者達なのだ。

 さすれば、餅は餅屋。慣れている者達にやらせた方が事が早く済む。

 

「じゃあ、それでお願い」

 

 一礼をしたアールが後ろを向いて歩き去って行く。

 その後ろ姿を見て事が何とかなりそうだと、ヒナタは笑みを浮かべる。

 そして、手にしたカードを見つめながら考えに耽り始めた。

 

 

 

 

 

 後に起こるのが言わずもがな、とある2組の夫婦の共闘である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常0体

B群4体

合計4体

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

各々が所持しているメモリアルカードの枚数

SOUP:10枚

零号:155枚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why did it strike them?

A: Because it wanted cards that they had.




因みに、先日「アクト」の中で発表させていただいた新作のページを作らせていただきました。
お気に入り登録をしてくださると有り難いです。

https://syosetu.org/novel/324255/



【参考】
ストームハルバード|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/items/465)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 33 私と同じ(WE ARE SAME)
Question097 How does he fight?


第97話です。
最終シーズンは結構短くなります!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
イトヲカシ - カナデアイ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


 とある大きな戦いから約2週間が経った。

 別世界より現れた脅威と戦士の存在は公にされず、ヒュージルーフに現れた大きな文字は何かしらのことが起こったというふんわりとした感じになった。

 けれどもそれで良いのかもしれない。全てを知るよりも、そっちの方が──。

 

 

 

2022.06.15 13:44 東京都 中野区 トキワヒルズA 602号室 

 ザアザアと雨が降り注ぐ。この蒸し暑い中で雨が降られるというのは、心底迷惑な話だ。

 

 けれどもリビングの中にいる八雲には一切関係の無い話だ。

 今、彼は除湿モードにしたエアコンを稼働させ、涼みながら作業に没頭していた。

 食卓の上にパソコンや大量の工具を置き、何かを完成させようと試みている。

 

「──よし。完成した……!」

 

 一際嬉しそうな笑顔を見せる八雲。

 そして再びそれを新聞紙で包んで、棚の中に仕舞おうとした。

 望んでいた物がようやく出来た。これでもう一安心である。自分がずっと描いていた時が近付いて来ているのだ。

 

 

 

 

 

 ──それは、絶対に使わせないから。

 

 

 

 

 

 ふと頭の中であの時の光景が浮かんで来た。愛する者を最後に抱いた時、そんなことを言われた気がした。

 ずっと描いてきた時が近付いて来ている。その結末がどうなるのかなんて考えたくもない。

 

 新聞紙で包まれた物をじっと見つめる。

 今であれば壊すことも可能だ。後戻りはいくらでも出来る。

 

 だが彼は、棚の中にそれを戻すことを決めた。

 

 そして何事も無かったかのように伸びをする。体の凝りが一気に取れて消え去って行く感覚が心地良い。

 ジメジメとした雨の日であったが、そんなものを気にすることは無く、ただ喜びを噛み締めていた。

 

 すると八雲のスマートフォンから着信音が鳴る。こんな昼間に誰からなのかと出てみた。

 

「もしもし」

『どうも八雲さん』

 

 それはアールからの電話であった。

 一気に笑顔が消え失せる。

 

「何の用だ?」

『ちょっとですね、会ってみたくなりまして』

「は?」

『良いからちょっと来てくださいよ〜』

 

 これで通話が切られる。

 こんな湿気のすごい雨の日に呼び出すのは如何なのかと思ったが、彼が呼び出すのには絶対何かがある。良くも悪くも何かがあるのだ。

 

 なので八雲はオレンジ色のレインコートを羽織ると、財布やスマートフォン等の貴重品だけを持って家を出て行った。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.06.15 14:01 東京都 杉並区

 八雲の乗るアクトチェイサーが着いたのは、とある団地であった。白いコンクリートの外壁は雨で全体が濡れ、それぞれの建物を表す黒い数字は年季が入っているためか滲んでいる。

 

 降りて目を凝らすと、屋上のところに人影があった。黒いレインコートを着たその者がアールであると判った八雲は、すぐに屋上に向かって行った。

 幸いにもこの建物はオートロックではなかったため、外に付けられた階段から優に到達出来る。そして誰も入らないよう付けられたチェーンが切られた門を通って、ようやく屋上に辿り着いた。

 

「こんなところに呼び出して、どういうつもりだ?」

 

 奥の方で立つアールに問う。

 

「ちょっと、()()()()()()()()がありまして……」

「?」

「でもその前に──」

 

 するとアールの周りに大量のソルダートが現れた。全員がコンバットナイフを握り締めていて、戦う気は満々であることが見て分かる。

 

「まずは貴方がどれくらいの力なのかを再度見せていただきましょう」

 

 仕方ないと思った八雲は、ネクスチェンジャーを出現させてカードを装填する。

 

「変身!」

『Let's go!』

 

 素早くネクスパイに変身をした八雲に、ソルダート達が襲いかかる。

 まずは、インディペンデントショッカー マグナムモードで先頭集団を撃つ。威力の高い弾丸を食らった個体は、すぐに墨汁のように黒くなって消える。

 それでも残った奴等には、後ろ蹴りやパンチ、頭突きを加えて応戦をする。そして後ろで蹲る全員に再度銃弾を浴びせ、深傷を負わせて消滅させた。

 

 手を叩いて賞賛するアール。

 僅か10秒程でこの結果を残した彼は、やはりとんでもない者だ。

 

「素晴らしいですねぇ〜。これで本気を出せそうですよ、私」

「は? お前何言って──」

 

「こういうことですよ」

 

 すると次の瞬間、アールも周りにどす黒いオーラが纏わり始めた。

 それは先日、ピカロが怪人態になった際に起こった現象と全く同じであった。

 

 ──まさか……!

 

 ネクスパイが思ったことが現実になった。

 目の前から顔の大きな男は消え、代わりに見たことの無い怪人が現れた。

 

 まるで喪服を歪めたような身体をしており、頭部には黒いシルクハットのようなパーツがある。

 顔は典型的な曲がった髭を生やした男が笑みを浮かべている様を模しており、その笑顔は何とも言えない不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

「これが、私の本当の姿なんですよ……!」

 

 興奮した様子で変化した己の姿を見せつけるアール。

 ネクスパイは何も言うことが出来ず、その姿をただ見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How does he fight?

A: To be a monster.




完結まで、約15話です……!
多分!



【参考】
東京の過去の天気 2022年6月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220600/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question098 Why does that earl sympathize with him?

第98話です。
ラストに向けて連続投稿です!
ところで「最近、手を抜いているんじゃないか」と思われていますか? ただ単に書きたいものと文字数が一致しないだけです。お許しを。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.06.15 14:06 東京都 杉並区

「変身しやがった……!」

 

 ネクスパイは驚きを隠せない。

 グアルダの解説で可能性こそ感じていたのだが、それが現実となって目の前にある。

 頭の中で想像をしていても、いざ眼前に現れると何も考えられないことを、今身をもって彼は知ったのだ。

 

 とは言え、彼を倒すことに何の変わりも無い。

 ネクスパイは手元の武器から銃弾を何発か発射した。

 

 銃弾はアールの身体を確かに貫通した。けれども火花が散ることも、血が流れることも、ましてや彼が苦しむことも無い。

 

「?」

 

 再度銃弾を放つが、やはり同じことだ。貫通こそするものの、一切何も起こらない。

 

「どういうことだ……?」

「私の能力の一つですよ。私は一切の痛みを感じることがありません。なので、ある意味無敵というわけです」

 

 その能力はかなり意味で恐ろしい。

 死ぬまで永久に戦い続けられる反面、自分の限界値を知ることが出来ないことから、いつの間にか事切れるなんてこともあり得るのだ。

 

 紳士の余裕そうな所作はきっと、そのメリットとデメリットを理解しているから出せるのだ。

 そう確信したネクスパイは、武器をスタンガン状に変形させて敵へと走り始めた。

 

 するとアールは体から金色の衝撃波を放った。

 地面を這って来たそれは、ネクスパイを容赦無く襲う。

 

「ッ……!」

 

 しかもほんの少しだけしか間隔を空けずに、波は次々とやって来る。

 そして遂に彼は吹き飛ばされてしまった。

 転がったネクスパイであったが、すぐに立ち上がってアップグレードルーターを取り出し、ボタンを押した。

 

『AUTHORISE』

「そっちがその気なら、本気で行くか……!」

 

 ルーターをネクスチェンジャーに取り付け、カードを一度外して再度挿入する。

 

『"NEX-SPY" LOADING』

「良いですよぉ〜。かかって来てください」

 

 ダイヤルを1回転させ、ボタンと共に押し込む。

 

『Let's go!』

 

 アップグレードシェープに己を強化したネクスパイは、再び前へ足を進ませる。

 アールは再び衝撃の波を繰り出すのだが、アンブレラブレイカー ボウガンモードによって作ったバリアで防ぐ。

 けれどもやはり衝撃は強いらしく、ぶつかる度に進む足が少しだけ止まってしまう。

 

 その波に耐えてアールの眼前まで来たネクスパイは、武器をロッドモードに変えて次々と攻撃を身体にぶつけ始めた。

 当たる度、何も反応を見せずにただ後ろに退がるだけのアールは、攻撃をしてくるネクスパイに言葉をかけ始めた。

 

「貴方と私は所々似ていますよね」

「あ? どういうことだ!?」

「だってそうでしょ? 私はパラレインの強大な力に惹かれてこの姿になった。貴方は自身の才能と科学の恐ろしさに惹かれてライダーシステムを開発した。自分には理解出来ない程の力に惹かれた者同士じゃありませんかっ!」

 

 再度衝撃波を放ち、ネクスパイを後退させた。

 

 ネクスパイはそれに反論することが出来ない。

 違うのだ。自分とアイツでは、明確に違うのだ。

 だがその要因となるものが上手く言語化出来ない。と言うよりも、自分でも分からないのかもしれない。

 

 それを払拭したいと願うネクスパイは一先ず、その言葉をかけた男を消すことにした。

 

『Are you ready?』

 

 武器を捨ててダイヤルを押し、上空に跳ぶ。

 そして放水機の勢いを利用して、赤く発光する右足を繰り出した。

 

『OKAY. UPGRADED DISPEL BREAK!』

「オラァァァァァッ!」

 

 だが、

 

「言っておきますが、今の私には効きませんよ」

 

 アールは自身から発した衝撃波をバリアのようにして、ネクスパイの攻撃を防御する。これ以上通してくれないバリアのせいで、ネクスパイは前に進めない。

 そして遂には吹き飛ばされてしまった。

 

「ガァァッ!」

 

 仰向けで頭から落ちたネクスパイ。その衝撃で変身を解除されてしまった。

 

「ではこれで、私は失礼します。またお会いしましょう」

 

 顔を起こすことが出来ない八雲は、ただ只管雨に打たれ続ける。

 暫く何かをじっと考え、そしてゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.06.15 17:49 東京都 中野区 トキワヒルズA 6階

 パラレインに関する対応が全て終わった。

 終わった、とは言っても有効な対策手段を立てられたわけではない。何も浮かばないまま2週間が過ぎて行くのだ。

 ただ疲れを溜め込んだだけ。最早溜息を吐く隙も無い。

 

 家のドアを開ける。ようやく一日の疲れを取り除ける我が家に帰って来た。

 

「あ、おかえりー……。!?」

 

 春樹と碧を笑顔で出迎えたあまねであったが、二人の方を見た瞬間に血の気が覚めたように見えた。

 怯えながらあまねが自分達の方を向いたので何かと思い振り返ると、そこには何とヒナタが笑顔で立っているではないか。

 

「こんばんは」

 

 あまりにも突然のことに驚愕した二人であったが、あまねを守ろうとすぐにトランスフォンを取り出す。

 けれどもヒナタは一切動じず、笑顔を保ったままだ。

 

「待ってください。今日は別にお二人と戦いに来たわけではありません」

 

 その言葉で春樹と碧はトランスフォンを仕舞う。

 敵の言うことなど信用するものではないが、何故だか本当だと思ってしまった。

 

「……じゃあ、何しに来たの?」

「宣戦布告をしに来ました。明日、貴方方が持っている10枚のカードを頂きに伺いますので、宜しくお願いします」

 

 それだけ言い残し、ヒナタは徐々に身体を透過させて忽然と姿を消した。

 残された春樹と碧はただ前を見据えている。その様子をあまねは後ろからじっと見ながら唇を噛み締め、一歩後ろに退がった。

 

 

 

2022.06.16 02:33 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 深夜になった。あまねはもう布団の中に入って、寝息を立てながらすやすやと寝ている。いつも本当に何も無ければ目覚めないため、暗いリビングの中にいる春樹と碧には好都合であった。

 

 今二人は、食卓の上の電灯だけが部屋を照らす中で向かい合っていた。

 神妙な面持ちの彼らの間では、上で電灯が暖色の光を放っている。その下で春樹と碧は話を始めた。

 

「ごめんね。こんな時間に起こしちゃって」

「いや。大丈夫だ。……で? 話って何だ?」

 

 すると碧は自分と春樹の間に何かを置いた。

 それはクラックボックスであった。この薄暗い部屋の中でその黒が良く映えている。

 

「──分かったんだ。どうすれば零号に勝てるのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why does that earl sympathize with him?

A: Because he think that they are resemble.




完結まで、後14話。



【参考】
東京の過去の天気 2022年6月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220600/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question099 Why did this marital quarrel happen?

第99話です。
もうすぐで100話だ……!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
柴咲コウ - 野生の同盟

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.06.16 02:33 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

「──分かったんだ。どうすれば零号に勝てるのか」

 

 そうは言われても、春樹にはその内容に関して見当がつかない。

 もしも、これを使ってリベードンアクトになる、というものだとしても、そんなことは自分でも考えた結果無理だと解っている。

 さすれば何故だ──?

 

「それを使ってどうするつもりだ?」

「……ここだとあれだから、外に出ても良い?」

 

 

 

 碧に誘導されて来たのは、マンションの外に出たところの歩道だった。

 深夜であることからそもそも人通りは一切無く、ヘッドライトを付けた車が走ることも一切無いため、二人の姿は誰にも見られない。

 

 そして二人は向かい合い、碧は話し始めた。

 

「これってさ、フォルクローの能力を極限まで高める能力を持っているんだよね?」

 

 確かにそうだ。

 理性を一時的に失うのと引き換えに、強大な力を発揮することが出来る。

 けれどもリベードンアクトの登場によって、その流れは変わった。理性を飛ばすこと無くフォルクローとしての力を最大限引き出すことに成功したのだ。

 

「ああ。でもリベードンアクトじゃアイツには──」

「そうだよ。だから……こうするの」

 

 すると次の瞬間、碧は両手で持った()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」

 

 暗い夜道の中で青白い光が放たれる。激しく光ってはいるのだが、誰もそれに気が付いて外を見ようとはしない。

 光を放つ碧は雄叫びを上げて苦しむ。そんな彼女をどうにかすることが夫である春樹の役目なのであるが、あまりの恐怖に近付くことが出来ない。

 

 暫く経ったところで光は止んだ。

 と同時に、碧は春樹の暴走を止めるために変身をしたリベード 怪人態になったのだ。

 

「!?」

「零号に勝つ方法はただ一つ。こうやってアイツと同じくらいの力を引き出すしかない」

 

 それを聞いた瞬間、春樹は興が覚めた。

 パラレインと同じだけの力を引き出すというのは、一歩間違えれば自殺行為になりかねない。その強大な力に肉体が耐え切れない可能性が高いのだ。

 

「明日の決着は私独りで行く。君に同じような真似はさせられないから」

「何言ってるんだよ……! 俺も行く……! 二人でやれば必ず──」

 

 リベードは春樹が言葉を紡ぎ終わる前に、彼の胸部に右手で殴りつけた。

 呻き声を上げる間も無く遠くの方まで吹き飛ばされた春樹は、鼻の穴と口から血を垂れ流し、立つことが出来ない状態で痛みに身体を震わせている。

 

「ね? 身を持って解ったでしょ? 今の私なら一人でも大丈夫だって」

 

 これで力の差は明確となった。

 リベードの言う通りこれならば互角に戦えるかもしれない。

 

 だが、

 

「だとしても……お前を独りで行かせるわけにはいかねぇだろ……!」

 

 一人での突撃を春樹が許すわけもなかった。

 震える両脚を使って崩れた姿勢で立ち上がった彼はじっとリベードを見ている。

 

「いや、俺独りで十分かもな」

 

 言っている意味が解らず首を傾げるリベード。

 けれども春樹が取り出した物を見て、異形の顔を歪めて驚いた。

 

「何、する気なの……?」

 

 その時、暗い夜道の中に大量の黒い影が伸びた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い部屋の大半を占めているのが、いつも眠っている白いベッドであった。若干の皺を除いてその姿は美しく、外で光る月光を反射して存分に輝いている。

 

 その上で碧は朧げな意識の中眠っていた。目は虚で全身に血が滲んでいることから満身創痍であることが明らかだ。

 さらにそこに春樹が上から重なっている。荒い呼吸が漏れ出ている唇に、自身の唇を重ねた。さらには間に舌を潜らせ、吐息の生温かさを存分に味わう。

 

 口を離したところで春樹はじっと碧を見つめた。目の焦点が定まっていない彼女は、恐らくもう彼のことなど眼中に無い。

 

「ごめん。やっぱりお前一人で行かせられない。俺一人で行く。だから……あまねのこと頼む」

 

 ベッドを軋ませながら抜け出し、ドアを開けて外に出ようとする。

 ふと後ろの方を横目で見る。碧に目覚める様子が無いのを見た春樹は暫く暗い表情で彼女を見つめ、そして前を向いて部屋から出て行った。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.06.16 08:01 東京都 新宿区

 東京都庁の前にある大きな道路の上にパラレインは立っていた。周りはソルダート達が見張っているがために、誰も中に入って移動をすることが出来ない。

 その結果、ソルダート達に対して機動隊員達が銃口を向け、臨戦態勢となっていた。だが戦場が都庁の前であることからか、無闇矢鱈に発砲を行うことが出来ずに武器を構えたままの状態が続いているのだ。

 そんな彼らを見てパラレインは冷笑しているのだ。力が無く何も出来ないのみならず、高々場所のせいで何も成す術が無い愚かな人間達であること。彼奴にとってはあまりにも滑稽で仕方が無い。

 

 その時であった。

 この場で唯一、彼奴を満足させられるであろう男が。

 

「来ましたか」

 

 一台のアクトチェイサーが機動隊員達の後ろに停車する。ヘルメットを外して降りたその男が歩く。

 彼の顔を知っている隊員達はモーゼの十戒の記述が如く道を開けていくのだ。

 

 春樹はじっとパラレインの顔を睨んでいる。

 鬼の形相、なんて野暮な言い方では表現出来ないであろう。

 怒り、憎しみ、悲しみ──。その全てを含めた顔はどの言葉でも形容出来ない。

 

「言っておきますが私は手元にあるカードを全て吸収しました。最早勝ち目はありませんよ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異変が起きたのは、すぐのことであった。

 

「!?」

 

 ゆっくりとパラレインの前に近付く春樹の後ろに、()()()()()()()()()()()()()()

 背後だけではない。彼らの知らないところではあったのだが、都庁の裏側やその周りにもソルダートの大群が現れたのだ。合計して数百、数千といる。

 

 当然パラレインが呼び出したわけではない。ましてやアールが呼び出したわけでもないだろう。

 誰がそんなことをしたのかは、彼らが春樹と同じ速度で歩いて来ていることが表していた。

 

「まさか、数で圧倒しようとしているのですか? だとしたら無駄ですよ。何せ世の中、量より質ですから」

「……それは、百も承知だ」

 

 すると春樹は右手にクラックボックスを、左手にトランスフォンを持つと、トランスフォンをクラックボックスにかざした。

 

『CONNECTING US』

 

 腹部にクラックボックスが付けられたドライバーが装着される。

 まさかそんなもので自分に楯突こうとしているのか。パラレインはあまりの愚行に呆れを覚えてしまった。

 

 そんなことつゆ知らず、春樹は右手に持ったオールマイティーサーバーαにトランスフォンを装填した。

 

『COMBINE』

 

 次々とタッチパネルのマークをなぞってボタンを押すと、彼の頭上高くに黄金の鎧と輪っかが現れる。様々なものが乗っかるその輪っかはあまりにも大きく、ソルダート達がいる場所全般を覆う程の大きさを誇っていた。

 

 春樹はポーズを一切すること無く、ただ敵の方を見据えながら静かに言葉を放った。

 

「──変身……」

『Here we go!』

 

 サーバーをドライバーに突き刺した瞬間、輪っかはゆっくりと地に落ちて、彼の身体は緑色の素体へと変わる。

 そこに輪っかに乗っていたものが吸収されていくのだが、それだけではなく周りにいた数千体のソルダート全ても取り込まれていく。

 さらに黄金の鎧が纏われることによって、ようやく完成した。

 

『Snatch away, Manipulate, Influence! This KAMEN RIDER is cracked! You are mine.』

『All twenty in this server! This is perfect for me to fight! I’m KAMEN RIDER ULTIMATE ACT! It’s the strongest.』

 

 2つの音声が同時に鳴る。

 現れたのは仮面ライダーアクト アルティメットシェープであった。

 だがただの最強形態でないことはその場の全員が見て判ることである。

 

 彼の姿を見てパラレインはただ呆然とし、何も言うことが出来なかった。

 そんな彼奴に、アクトはゆっくりと歩み寄って行った。

 ゆっくりと、ゆっくりと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常0体

B群4体

合計4体

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

各々が所持しているメモリアルカードの枚数

SOUP:10枚

零号:155枚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why did this marital quarrel happen?

A: Because Each of them didn't want to be followed by the partner.




完結まで、後13話。



【参考】
東京の過去の天気 2022年6月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220600/)
日の出入り@東京(東京都)令和4年(2022)06月 - 国立天文台暦計算室
(https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/dni/2022/s1306.html)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 34 最終形態(THE FINAL SHAPE)
Question100 Who fought it?


第100話です。
遂に100話に突入しました!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
イトヲカシ - カナデアイ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.06.16 06:55 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 大きく欠伸をしながらあまねは起きた。パジャマ姿の彼女は寝癖が酷く、到底人前に出られるような格好ではない。これは家の中でのみ許される姿であった。

 はっきり言えば遅刻だ。この時間にはもう三人で朝食を摂っているため、きっと春樹と碧が待ってくれている筈だ。

 

 けれども一切物音が立っていない。食器と食器が合わさって出される音も、テレビから流れる朝のニュースも、夫婦が織りなす仲睦まじい会話もだ。

 

 きっと疲れて寝ているのだろう。あまねは食パンをトーストにし、ブルーベリーのジャムを入れたヨーグルトとレタスやパプリカ等が入ったサラダを用意。簡単に食事を済ませた。

 

 それでも二人は起きてこない。

 

 流石におかしいと思ったあまねは春樹と碧の寝室に入った。二人も遅刻しているということは、仕事の疲れで倒れてしまったか、夫婦の営みを終えて満足感に浸っているかの何方であると、そこまで重く考えていなかった。

 

「パパ? ママ?」

 

 恐る恐るドアを開けると、白いシーツが敷かれたベッドの上に碧がいた。

 ──やっぱり寝ている。

 あまねは微笑んだ。

 

 けれどもただ寝ているのではない。身体の至る所から血が滲んでいて、来ている白いブラウスが赤く染まる。満身創痍という言葉が良く似合う姿であった。

 

「ママっ!」

 

 ボロボロな母親の下へと走る。

 その時、彼女は気が付いてしまった。この場に父親がいないことに。

 

「何があったの!? ねぇっ!」

 

 動かす度に痛みが走る両腕をあまねの頭に伸ばした碧は、震えた声で簡潔に話した。

 

 

 

 

 

「やられた……」

「!? 誰に?」

「……春樹に……」

「!?」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.06.16 08:00 東京都 新宿区

「春樹君が碧君を襲った!?」

「そんな……ありえない……」

 

 遊撃車の中で全員が驚愕をしていた。

 表に出さなくても判るくらい、春樹は碧のことを愛している。一方の碧も春樹のことを異常とも取れるレベルで愛している。正に相思相愛であるのだ。

 そんな彼が最愛の人に手を挙げ、自分一人でパラレインに戦いを挑んで行った。

 いつも碧と二人で戦いに赴いて行った春樹の行動としては、一切考えられないことであった。

 

「──きっと碧さんのためですよ」

 

 口を開いたのは深月だった。

 

「自分一人で戦って倒せれば、碧さんは戦わなくて済む。例え、自分が犠牲になったとしても……」

 

 全ては愛する者のため。例えそれが強行手段だったとしても、何としてでも碧が来るのを阻止しなければならなかった。そうすればいなくなるのは自分だけで良くなる。

 

 

 

 ──じゃあ、残された者達は……?

 

 

 

「それにしても、春樹さんに勝ち筋はあるんでしょうかね?」

「碧君の報告ではクラックボックスを使って肉体を強化することらしいが」

 

 圭吾の質問に対する森田の発言に、薫が補足を始めた。

 

「確かにクラックボックスでさらに肉体を強化することも一つの手です。ただそれでは強化出来る上限があるので必ずしも有効とは限らないんです。……なので、多分、それ以上に強い力を得ることが出来る方法を使ったんです。それが──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

 パラレインは感心の余り、笑いが止まらない。まさか自分を倒すためにそこまでのことをするだなんて想定外であったのだ。

 今までに味わったことの無い感触が襲い掛かる。笑い声は止まることを知らず、早朝の都会に響き渡る。

 

 春樹や碧を始めとするフォルクローには、あるもののエネルギーを利用して物質を構成する能力を持っている。現に春樹と碧は自分を削ることでディケイドとジオウのカードにパーツを装着させ、クロトは幾つものガシャットを生み出していた。

 それを利用したのだ。

 大量のソルダートを呼び出して吸収し、パラレインに匹敵する力を得るまで半永久的に強化をし続ける。

 自分の中で生み出せるものに限界があるのであれば、他のものを使って出来たもので戦えば良い。

 最早禁忌と言っても過言ではない方法であった。

 

 ゆっくりとアクトは歩いて来る。仮面で表情を一切見せること無く無言で。

 

「しかし、そんなことをすれば貴方の身体は持ちませんよ」

 

 パラレインはアクトの周りに黒い空間を出現させる。ここから大量の星々を流れさせ、完封無きまで攻撃する算段だ。

 

『"KUUGA" LOADING』

 

 けれども今の状況だと、それが効くとは限らない。

 アクトは自身の周りに大量の文字が現れる。それは、日本人の祖先とされるリント族が使っていた表意文字だ。

 「封印」を意味する文字は星々が飛び出して来た瞬間に爆発。攻撃を無に還した。

 

「!?」

 

 何事も無かったかのように歩くアクトにパラレインは驚きを隠せない。

 自分と同等の力を、それ以上の力を手に入れた彼は自分のことなど相手ではないのかもしれない。カードを殆ど全て吸収したのにも関わらず、その力が一切通用していない。

 久々にあの感情を味わった。碧を吸収した春樹が、サーバーを使って自分を葬り去ろうとした時のあの感情だ。

 

 それを払拭するためには目の前の相手を殺す他無い。

 パラレインは手の中で小さな太陽を作り出し、アクトに向けて投げた。

 

『"KIVA" LOADING』

 

 手の中にザンバットソードが現れる。

 すぐさま付属されているパーツを動かして剣心を研磨し振り下ろした。

 その切れ味はあまりにも凄まじく、一刀両断をして左右で爆破させた。

 

 これ以上の茶番に付き合う気は失せたのだろう。足の速さを徐々に速めていって、すぐにパラレインの目の前に現れる。

 そして胸部に無言で殴りつけた。

 

「ッ!」

 

 先程の戦いを見ていても彼の力は凄まじいことであることは解っていたのだが、自らにやられた瞬間改めて身をもって知ることが出来た。

 攻撃が終わることは無い。何度も何度も殴りつけることによって、どんどん後退させていく。

 反撃の余地など無い。太陽や黒い空間を作り出すことも、攻撃を他所に受け流すことも出来ず、ただ攻撃を食らうことしか出来ないのだ。

 

 狼狽えるパラレインにアクトは無言で向かって行く。

 まるで悪魔のような彼はじっと前を見据えて、再び攻撃を開始した。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.06.16 07:30 東京都 中野区 トキワヒルズA 602号室

『それは本当か……!?」

「ああ。さっきあまねちゃんが部屋に来て言ったから間違いない」

 

 少し前、八雲は岩田室長に通話をしながら急いで出掛ける支度をしていた。

 二人共何となく考えられる理由に自分自身で納得はしたのだが、それでもやはり春樹がそんなことをするとは思ってもいなかったらしく、驚愕の色を隠せない。

 

 もうそろそろ全ての支度が終わる。いつものアロハシャツとジーンズを着、黒い腕輪を付けた彼は、もう玄関出るだけとなった。なのでスマートフォンを左肩と左耳で挟みながらリビングのドアを開けようとした。

 

『何か、零号に対抗出来る術は無いのか?』

 

 岩田のその言葉で八雲は足を止めた。

 リビングのドアを開けようとする右手はドアノブに引っ掛かったままで、焦り見せていた顔は一瞬にして強張る。

 

『常田君?』

 

 唇が重くて中々上手く動かない。普通に言えば良いのだが、何故だか躊躇してしまう。

 それでも何とか力を出して動かし、報告をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──2つあるけど、どっち使えば良い?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Who fought it?

A: Only him.




完結まで、後12話。



【参考】
東京の過去の天気 2022年6月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220600/)
仮面ライダークウガ / 【クウガ事典】リント文字一覧 表意文字|架空世界のほとりにて
(https://ameblo.jp/altsz/entry-12456433648.html)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question101 Who fought with him?

第101話です。
学校が始まってしまったので、投稿スピードは遅くなると思います。
ところで、過去のエピソードと対比になるのって良いですよね。
というわけで皆さん、Question005をご参照ください。エモくなる筈! 多分!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.06.16 08:07 東京都 新宿区

 遊撃車が現場に着いた。機動隊員達の背中で出来た壁によって向こう側がどうなっているのか目視では確認出来ないが、パソコンのモニターに映し出される映像と、少しだけ見える攻撃の断片が事の凄まじさを物語っていた。

 

 試しに深月がドアを開けて外で様子を確認しようとすると、

 

「危険です! 車内にいてください!」

 

 と機動隊員によって強制的に戻されてしまう。

 それどころか、隊員達が見せている焦りは彼ではなく自分のためのようであった。

 一刻も早く自分もこの場から逃げ出したい。そんな思いが透けてしまっている。

 

 人で出来た壁の向こう側では、アクトがパラレインに次々と攻撃を仕掛けていた。

 

『"EX-AID" LOADING』

 

 サーバーから仮面ライダーエグゼイドが強化した際に乗り込む巨大な鎧──マキシマムゲーマが出て来る。

 乗り主のいない鎧は勢い良く前進をして殴りつけた。何度も何度も拳を振るい、伸びていく左足で後方へと蹴り飛ばした。

 

「ッ!」

 

『春樹さん! 今すぐ攻撃を()めて、変身を解除してください!』

 

 車内から深月がアクトに話しかける。

 けれどもその忠告を彼が聞くことは無い。

 

『"DOUBLE" LOADING』

 

 アクトの左手の中に、プリズムピッカーが現れる。

 既に5本のガイアメモリが挿入されているそれを標的の方へと向けると、プリズムによって屈折したかのような軌道を見せる光線が発射。それらが一つになってパラレインに強力な一撃を食らわせたのだ。

 

「……!」

 

 再び吹き飛ばされるパラレイン。そこで壁を作っていた機動隊員達が後ずさる。

 戦いによって使うフィールドの面積を増やすこともそうだが、一番は恐らく己が逃げ出したいがためであろう。ライフルや盾を持つ手は震え、冷静を保てていない。

 

『これ以上やれば、春樹さんの身が持ちませんっ!』

「……別に良いよ。俺がここで仕留めれば、碧はもう戦わなくて済む。そのためなら……俺はどうなったって良い……!」

 

 じっと前を見据えたまま話すアクト。

 その言葉はこれ以上無い程の覚悟を含んでいて、深月は何も言えなくなってしまった。

 

「やりますねぇ……。ですが、()()()()()()()()

 

 体勢を整えたパラレインが呟いたその時であった。

 

「!? ガァァァァァッ!」

 

 アクトが全身を駆け巡る激痛に悶え始めた。鎧の下にある緑色の身体が歪み始め、原型が留められなくなってしまう。

 

 要は吸収した力に身体が耐えきれなくなったのだ。吸収したソルダートはいくら雑魚とはいえ、束になれば力は大きなものになる。諸刃の剣であることは自覚していたが、その代償は想像を遥かに超えていて、耐えようとしてもとても耐えられるものではない。

 

 パラレインはこれを好機と思った。今であれば反撃の余地がある。これ以上のチャンスは無い。

 アクトの周りに黒い空間を次々と作り出すと、大量の星々を激突させた。その一撃一撃はあまりにも重く、到底受け止められるものではない。

 

「グァァァァッ!」

 

 変身を解除された春樹。膝から崩れ落ちてうつ伏せに倒れ込んでしまった。

 意識がある彼は何とか立ち上がろうとはするのだが、体に力が入ることが出来ずに立ち上がれない。

 

「まだだ……。俺はまだ……」

「いいえ。貴方はここで終わりです。……ここで終わりにしましょう」

 

 右の掌の中で火球を作り出す。それはこれまでのよりも遥かに大きく、太陽という表現がより似合うようになっている。

 それを手放した瞬間、余裕があるのかゆっくりと春樹の方へと迫って行く。

 

 すぐに行手を阻もうと機動隊員達が銃弾で火の玉を撃つ。だが鋭い銃弾を吸収した火の玉は更に大きくなり、勢いをつけて歩みを止めない。

 

 避ける力などもう残っていなかった。

 目の前に迫るものを眺めながら、ただ脳裏に浮かび上がる光景に耽る。

 

 初めて碧に接触した時、任務だと分かっていても何故だか彼女に惹かれてしまった。今思えばあれは運命だったのであろう。任務がどうであるだとか関係無く会い、そして結ばれた。あまねという可愛い娘が現れて、絆や愛はより深まっていった。

 いつしか彼女は自分が思う以上に大切な存在となってしまった。得体の知れないものに家族を奪われただ任務に没頭するだけだった自分に、お前は幸せになっても良い、と存在そのものが言ってくれているような気がしたのだ。

 

 けど、もうそんな日も今日で終わりだ。自分は今から業火に焼かれて死んでいくのだ。

 きっと碧を傷付けた罰が当たったのだ。愛する人に事情があるとはいえ手をかける。自分でも許されないことは百も承知だったのだが、やはり実感することになると急に自責の念に駆られてしまう。

 

 もしも許されるのならば、最後に一度抱き締めておくべきだった。最後に一度愛してると言っておくべきだった。

 けれども全ては後の祭り。叶わぬ願いである。

 

 ゆっくりと目を閉じて、そして己の運命を受け入れた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそれは全て無駄に終わった。

 火の玉が突如として二つに分かれて爆発したのだ。

 

 何が起こったのかを確認しようと前を向いて目線を上げると、そこにあったのは自身が愛する者とその兄であろう男の背中であった。

 

「碧……?」

 

 碧は振り返って春樹に左手を伸ばす。掴んで立ち上がった春樹が彼女の顔を見るが、俯いているためどんな表情なのかは全く判らない。

 

 すると突然、春樹の左頬が叩かれた。叩かれた場所が紅潮し、思い切り目立たせる。

 驚いた春樹は碧の顔を見る。

 

「貴方が嫌いなもの三つ、全部覚えてる? 唐揚げに勝手にレモンをかけられること。デートの邪魔をされること。家族を傷付けられること、でしょ?」

 

 それは嘗て、碧がクロトの変身する仮面ライダーゲンムに追い詰められた際、彼に放った言葉であった。いつもであれば恥ずかしくて口に出せないのだが、碧を傷付けた彼のことが許せなくて口走ってしまった。

 

 何故そんなことを彼女が今言ったのか。

 もしかしたら自分のことを傷付けたことに怒っているのか。そのくらいしか今の春樹には思い付かない。

 

「……あまねちゃん、私が一部始終を話したら泣いてたよ」

 

 ──そういうことか……。

 そのことを一切考えられなかった自分に無償に腹が立ってきた。

 碧と同じ自分の家族じゃないか。そんなつもりは全く無かったのに、まるで彼女のことを蔑ろにしてしまった気がしてならない。

 

 そして何よりも、碧が頬を叩いた理由が分かったような気がした。

 碧は自分のことで滅多に怒りを露わにすることは無い。あるとすればそれは家族のことに関することだ。

 

 碧が顔を上げて春樹と目線を合わせた。見つめる目は涙で滲んでいて、上手く春樹の顔を見ることが出来ない。

 

「ねぇ。どうして私達家族をいつも置いて行くの? お願いだからさ……最後の一瞬まで、君と一緒に居させてよ……! 一緒に戦わせてよ!」

 

 涙を指で拭う碧。やるせない思いによって何も言えなくなる。

 

「それからもう一つ」

 

 もう一発お見舞いされる。

 身構えた春樹であったが、繰り出されたのは甘い口付けであった。柔らかさと彼女の身体から出る仄かな甘い香りを持った、優しい会心の一発である。

 暫くして2つの唇が離れ、碧の顔が再び見えるようになった。涙は消えてあるのは目の前の男性を愛する慈愛の眼差しであった。

 

「キスするなら、ちゃんとして」

「……諸々ごめん」

「特別に許す」

 

 ニッコリと笑う碧。それに釣られて笑う春樹。

 二人の様子を横で見ていた八雲は呟いた。

 

「使う必要は無いか……」

 

 誰にも聞こえないような声を放った彼は、春樹と碧に声をかける。

 

「じゃあそろそろ、アイツ倒すぞ」

「うん!」

「ああ!」

 

 春樹と碧は腹部にドライバーを出現させ、八雲は左手首にアップグレードルーターが付けられたネクスチェンジャーを装着する。

 各々が準備を始めた。

 

『『COMBINE』』

『"NEX-SPY" LOADING』

 

 タッチパネルを下から上へ一気になぞり、ダイヤルを回す。

 2つの輪と大きなオブジェが出現をしたところで、三人はポーズを決めてそして叫んだ。

 

「「「変身!」」」

『『Here we go!』』

『Let's go!』

 

 身体が次々と変化をして、そこに鎧が装着される。

 それは目の前の相手に立ち向かうための支度。必要不可欠なこと他ならない。

 

『All twenty in this server! This is perfect for me to fight! I’m KAMEN RIDER ULTIMATE ACT! It’s the strongest.』

『All nineteen in this server! This is perfect for me to fight! I’m KAMEN RIDER ULTIMATE REVE-ED! It’s the sharpest.』

『You can get stronger by using this device. Complete to upgrade! Get a kick out of my new invention.』

 

 それぞれが今持ち得る最強の力を行使するための姿へとなった。

 春樹が再度変身をしたアクトには禍々しさなど微塵も無い。そこにあるのは、隣に立ってくれている青色の戦士への愛だけであった。

 

 三人は武器を取り出して紫色の相手を睨む。

 先程に比べれば戦力こそ落ちたかもしれない。けれどもそれは何の問題でもない。例え敵うまでの力が無かったとしても、何故だかやり遂げられそうな気がした。

 

「「「READY……GO!」」」

 

 戦士達は走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Who fought with him?

A: His families.




完結まで、後11話。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Quesion102 What will happen if it absorb all of cards?

第102話です。
遂にこの時がやって来た……!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
柴咲コウ - 野生の同盟

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.06.16 08:12 東京都 新宿区

「「「READY……GO!」」」

 

 三人の戦士が武器を持って走る。

 それに向かってパラレインはいくつかの火球と放つ。

 

『"G4" LOADING』

 

 本人は気が付いていなかったのだが、パラレインの後ろに銀色の装甲を纏った戦士──仮面ライダーG4が召喚された。

 召喚されたG4は両手で支えながら右肩に乗せている大きな機械から、4発のミサイルを勢い良く発射した。

 それらはアクト達に向かって行く火球を全て蹴散らし、パラレインの背中に激突した。

 

「ッ……!」

 

 痛みに悶える彼奴に対し、前方で起こった爆炎の中から現れた三人は攻撃を仕掛けた。

 リベードがチェーンソーで胸部に何度も斬りつけ、後退するところにネクスパイが棍棒で超高圧の電流を纏った一撃を食らわせる。

 吹き飛ばされた標的に対してアクトはバズーカからエネルギー弾を発射。一切の防御が出来ない状態での攻撃であったことから、パラレインはその場に倒れてしまった。

 

『"HIBIKI" LOADING』

 

 アクトの左手の中に銀色の剣──音撃増幅剣 装甲声刃(アームドセイバー)が現れる。それを展開すると口の前まで持ってきて、ドライバーのプレートを操作した。

 その横でリベードがチェーンソーにカードを装填していく。

 さらにネクスパイが棍棒をボウガンの形に変形させると、グリップ部分にアップグレードルーターを付属させた。

 

『『Are you ready?』』

『"IXA" LOADING』

『"HEART" LOADING』

 

 アクトとネクスパイの武器には次々と赤色の光の粒が集まり、リベードの武器は巨大な刃を形成していく。

 

『OKAY. "HIBIKI" DISPEL STRIKE!』

『TWIN SLASH!』

『OKAY. UPGRADED DISPEL BLAST!』

 

「「「ハァッ!」」」

 

 凄まじい勢いで放たれた2つの弾丸と、振り下ろされる巨大な刃。

 その全てがパラレインにダメージを与え、さらに彼奴を追い詰めていく。

 

 立ち上がったパラレインは苛立ちを覚えていた。

 

「どうしてだ……。どうして貴方方は私を凌駕出来るっ!? クラックボックスの力か!? 性能をさらに上げたからかっ!?」

 

 確かにパラレインの言うことは確かだ。

 アクトとリベードは昨日、クラックボックスを使用したことによって今のパラレインに負けずとも劣らぬ力を手に入れた。ネクスパイに関してはただの人間であるため、恐らくは本人が改良に改良を重ねてここまで到達したのだろう。

 全ては強化をしたその産物である。

 

 だが、

 

「さあ。どうだろうな」

 

 本人達は違うと言うように淡々とした態度をとっている。

 

「ねえ。何でだろうね?」

「……言うのはめんどくさいな」

 

 この三人にとって、自分に勝つことは当然のこと。そう思わせる言動に益々怒りは収まらない。

 パラレインは反撃を仕掛けようとドライバーのプレートを押した。

 

『Are you ready?』

 

 端末を押し込む。

 

『OKAY. "GINGA" ALLEGORICAL STRIKE!』

 

 パラレインの身体中から紫色の赤色のオーラが溢れ出る。それらが全身から右腕に集中する。

 どんなことをしようとしているのかは分からないが、分かっていることはただ一つ。

 ここでアイツを倒せば良い……!

 

「一気に行くぞ!」

「うん!」

「オッケー!」

 

『『『Are you ready?』』』

 

 武器を放り投げて跳び上がる三人。

 アクトとリベードにはサーバーに力が取り込まれている戦士達が一体となり、その際限の無いエネルギーが彼等を前方へと向かわせる。

 ネクスパイは後ろにある放水機が出す茶色の液体によって押し出される。

 

『OKAY. "ACT" ULTIMATE DISPEL STRIKE!』

『OKAY. "REVE-ED" ULTIMATE DISPEL STRIKE!』

『OKAY. UPGRADED DISPEL BREAK!』

 

「「「おりゃああああああああ!」」」

 

 三人が繰り出すキックに、パラレインは全てのエネルギーを込めた両手で対抗をする。火球を作り出す能力や重力操作。自分が今使えるもの全てを使って黒い膜を作ってバリアのようにし、防御に励んでいるのだ。

 だがその程度の防御に跳ね返される程、今はもう弱くない。

 黒い膜に白色の罅が次々と入り、そして崩壊。強烈な攻撃達がパラレインに打ち込まれ、彼奴は吹き飛ばされた。

 

「ガァァァッ……!」

 

 体勢を崩して膝立ちの状態になるパラレイン。

 するとその身体から紫色の粒子が抜けて行き、初期の第一形態に戻ってしまった。

 どうやらそれだけ憔悴しているらしい。

 

 もしもここで仕留めることが出来れば全てが終息する。

 自分達が背負って来た十字架は崩れ去って、肩の荷が降りて自由を手にすることが出来るのだ。

 

 アクト達はすぐに次の攻撃をしようと身構えた──

 

 

 

 

 

 だが、

 

「「「!?」」」

 

 突然後方へと吹き飛ばされてしまった。その衝撃はあまりにも強く、変身を解除された三人はうつ伏せのまま立ち上がることが出来ない。

 

 犯人が早速姿を見せた。

 怪人態となったアールである。昨日のネクスパイとの戦いで使った衝撃波を彼等に浴びせたのだ。

 

 アールの目線は倒れている春樹達から自身の足元に移った。

 そこにあったのは、10枚のメモリアルカードであった。

 すぐにそれを拾い上げると、メモリアルブックを取り出してパラレインの右隣に立つ。

 

「これで、カードは全て回収し終えました」

 

 今ので全てのカードがパラレイン達に渡ってしまった。

 このままでは大変なことになる──。

 

『不味いな……! すぐに射撃しろ!』

 

 遊撃車にいる森田からの指示で、機動隊員達は四方八方からアールに銃弾を食らわせる。

 しかし元々の身体が頑丈なのと、能力によって痛みを感じることの出来ない今の彼にとっては、ただの神経断裂弾や数十メートルから猛スピードで迫って来るスナイパーの弾丸など無意味であった。標的は何事も無いかのように振る舞っている。

 

「では、始めますよ」

 

 何としでも阻止をしようとするのだが、春樹達に立ち上がる力は無い。ただ目の前で起こることを静観する他無いのだ。

 

 次々とカードがページの中にあるスロットへと装填されていく。

 そして全てのカードを挿れて本を閉じた瞬間、表紙に楕円形の黒いパーツが現れた。それはディスペルクラッシャーのトランスフォンをかざすための部分に似ていて、何処となく既視感を覚える。

 

 立ち上がったパラレインはアールからメモリアルブックを受け取る。

 

「今から私は本来の姿と力、いえ、それをも凌駕する究極の力を手に入れます。……が、貴方方人間の作ったカードを立て続けに4枚使った今の私は、力を得る代償として恐らく理性を保てません。これが、皆さんとお話しする最後でしょう。なので、最後に色々と喋らせていただきます」

 

 銃撃が今度はパラレインに繰り出される。痛みというよりも痒みに似たこそばゆさが走る中、彼奴の独壇場は展開されるのだ。

 

「この世界の人間は実に面白かった。一部を除いては22年前から始まった惨劇のことなど一切を忘れてのうのうと生き、そして再び私によって恐怖を植え付けられる。幸せでしたでしょうねぇ、不幸を忘れるということは。

 しかしそれを忘れること無く私に対抗して来たのが貴方方でした。様々な難関を乗り越えて遂には私のレベルまで達することに成功し、今ここまで私を追い詰めることが出来ました……! 非常に良い展開でしたねぇ!

 ……そして、この戦いのMVPと言っても過言では無いのが、春樹さん達御三方です。異形の者に対する憎しみ、悲しみ、怒り、苦しみ、恐怖は当然あったでしょう。勿論戦わなかったあまねちゃんだって同じです。けれども互いの傷を舐め合って生活を送り、全てを終息に向かわせるために努力をした。何と美しい……! 私は貴方方のおかげで人間の可能性をこの身でひしひしと感じ取りましたよ……!」

 

 今更褒められたところで何も嬉しくはない。

 

「最後となりますが、私はこの世界を滅ぼします。フォルクローを送り込むために作り出したあの高い屋根ごとです。……6月25日、私がこの世界で初めて作り出した小さな部屋の真上でお会いしましょう。まぁ、その時の私は理性など失い、もう私とは言い切れないでしょうが」

 

 パラレインは端末をメモリアルブックのパーツにかざした。

 人間とは異なる形になった顔は僅かに笑っているように見え、何故だか切なささえも感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──では皆さん、さようなら」

「! ()めろぉぉぉっ!」

 

 春樹の静止など聞くよしも無く、パラレインはドライバーに再び端末を挿し込んだ。

 

『Here we go!』

 

 刹那、メモリアルブックは崩壊。取り残されたカードは宙空に浮き上がると、パラレインの背中に現れた輪光のような丸いパーツに円形に挿さっていく。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!? ウオオガガガガガァァァァ! ヒイイイイイイゥゥゥッッ!」

 

 これまで上げたことの無いような雄叫びが響き渡る。

 強大な力を手にするその衝撃や痛み、苦しさに流石の彼奴でも耐え切ることが出来ないのであろうか。

 

 そして次々とカードが光り、まるで仏像のような印象を醸し出し始めたところで、パラレインの身体の表面がドロドロに溶け始めて黒い粘着性のある液体が地面に落ち始める。そこから見えたのは、白色の新たな生命体であった。

 

「……綺麗……」

 

 モニターからその様子を見ていた薫が思わず呟いてしまった。

 怒られるかと思ってすぐに口をつぐんだのだが、誰も何も言ってこない。何故なら全員が彼女と同じ感想を抱いていたからだ。代わって圭吾も呟く。

 

「……ええ。美しいです……」

 

 その白い姿は、まるで神のようであった。

 鎧も何も身に纏っていない身体に入った線が優しい光りを放ち、都庁の壁を光らせている。胸部にはパラレインのアーマーに似た部位があり、それがシンプルな見た目の中で唯一と言って良い程奇抜なものだ。

 そして頭部には4本の角が生えており、罰点の形をした2つの複眼の色は赤色から金色へと変化している。

 

『I'm ULTIMATE PARA-REIGN. I destroy all as if I were the god.』

 

 あまりにも美しい怪人に理性など存在しない。

 

「hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee」

 

 神が、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常0体

B群4体

合計4体

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

各々が所持しているメモリアルカードの枚数

SOUP:0枚

零号:165枚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What will happen if it absorb all of cards?

A: It will be the ultimate shape.




完結まで、後10話。

因みに究極態のモチーフは「サマーウォーズ」に登場したラブマシーンの第2形態(仏みたいなやつ)でございます。結構格好良い見た目をしていますので、是非ともご覧になってみてください。



【参考】
仮面ライダーG4|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/kamen_rider_members/93)
音撃増幅剣・装甲声刃|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/items/1503)
英語のオノマトペ(擬音語)一覧!日本語と比べて面白い|ENGLISH TIMES
(https://toraiz.jp/english-times/book/8910/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 35 最後の一日(THE LAST DAY)
Question103 Why does it laugh during fighting?


第103話です。
実は結構切羽詰まっているので、今後はこれくらい短いものが連なります……。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
イトヲカシ - カナデアイ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.06.16 08:16 東京都 新宿区

「hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee」

 

 本来、パラレインは165枚全てのメモリアルカードを吸収することによって、嘗てアール達の住んでいた世界を滅ぼした程の力を取り戻す予定であった。確かにそれに狂いは無い。

 だが彼奴にとって想定外だったのは、八雲が開発した4枚のカードすらも取り込んだことだった。今まで存在していなかったものを取り込んだことによって更なる力を手に入れた、言わば究極態になることが出来たのだ。

 しかしその代償というのは、彼奴が持っている自我を失うことであったのだが。

 

「とんでもないものが生まれたな……」

「うん……。結構ヤバいね……」

 

 立ち上がった春樹達は驚愕の色を隠せない。

 

「一気にここで仕留めるぞ!」

 

 八雲の合図で三人は再度戦闘をするための準備を始める。

 

「「「変身!」」」

 

 姿を変えた彼らは武器を手に取って、パラレインに向けて走り始めた。

 けれどもパラレインはその場から一歩も動こうとしない。

 

「hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee」

 

 赤色の複眼が光った瞬間、アクト達の方へと空から降り注ぐ赤色の雷が次々と襲い始めた。

 今日の天気は雷雨ではないことから、パラレインの能力によるものだろうと察しはついた。

 

 それで終わりではない。

 今度は激しい地震を起こして行手を阻み、それによって欠けたビルの一部や車を宙空に浮かび上がらせ、その全てを投げ付けた。

 

 何とか武器で向かって来る物を粉砕した三人は、地割れを起こした地面の上を走って標的の方に向かって行った。

 

「「「ハァァァァッ!」」」

 

 2本のチェーンソーの刃と電流を帯びた棍棒の先がぶつかりそうになったパラレインは、何と一瞬のうちにその場から姿を消していた。

 戸惑う彼らが自身らの後ろにそいつがいると気が付いたのは、背中に強過ぎる衝撃波を受けた時が初めてだった。

 

「「「ッ……!」」」

 

 転がる三人。

 

「hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee」

 

 嘲笑うパラレインは三人の上空に、緑色を基調とした禍々しい色の大きな球体が次々と出来上がっている。緑色や紫色、様々な色のエネルギーが集まって来るそれは、言わば水風船のようなものであった。

 

 そしてそれがアクト達の方へと落ちた時、彼らは断末魔を上げる暇を与えられずに大爆発に巻き込まれてしまった。

 

 炎が収まって煙の中から見えたのは、変身が解除され服が焦げた状態で倒れ込む春樹達三人の姿であった。

 

「chortle-chortle-chortle-chortle」

 

 上手くいったと無邪気に笑うパラレイン。彼奴の印象は神々しいものから、その笑い方のためにまるで子供のようなものに変わっていった。白い身体の美しさを殺してしまう声は、全てを台無しにするには充分であった。

 

 正に満身創痍と言った状態にパラレインが近付く。意識こそあって立ち上がろうと懸命に努力するのであるが、指一本動かない。

 足音一つ立てず、浮かんでいるのかと錯覚してしまう歩き方をする彼奴を静止したのはアールであった。

 

「今日はこのへんにしておきましょう」

「?」

「まだ貴方も力を完全にはコントロール出来ていないでしょう? もう少し馴染ませてから、この世界を破壊しましょう」

 

 主がゆっくりと頷いたのを確認したアールは、変化したまま変わらない顔で笑顔らしき雰囲気を醸し出すと、二人でその場から姿を消した。

 誰もいなくなった場所に手を伸ばす春樹であるが、所詮は何も無い。

 そして限界まで伸ばし切れたところで、彼の意識はプツリと途切れた。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 白い身体で僅かな光を反射するだけでただ棒立ちになっているだけのパラレインを見つめながら、人間態に戻ったアールは笑顔を浮かべていた。

 これでようやく目的が達成出来る。嘗て自身を魅了してくれた、いや、それ以上の力を持った彼奴は最早無敵だ。立ち向かう敵など木っ端微塵に粉砕し、全てを跡形も無く崩壊させてくれる。考えただけで笑いが止まらなかった。

 

 そしてアールはニヤニヤと笑みを浮かべて主を凝視し、時は流れて行った。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.06.16 12:22 東京都 新宿区 SOUP

「今回のことを受けて、政府は6月24日から6月26日までの3日間、非常事態宣言を出して新宿区民の一切の外出を禁止。及び新宿区への立ち入りを禁止した」

 

 春樹達戦った三人の手当てを終えたところで、岩田が淡々と報告する。あんな力を持ってしまった生物がやって来るのだから、妥当な判断であろう。

 

「不幸中の幸いだったのは、カードが全て帰って来たことだな」

「はい。多分、力をコピペしたからもう必要無い、ってことでしょうね」

「使えるは使えるので、きっと役立つでしょうね」

 

 森田と薫、圭吾が春樹の座っているデスクに目線を合わせる。そこにあったのは、メモリアルカードが重なった1つの束であった。

 パラレインがアールと共に姿を消した際、元いた場所にバラバラの状態で残されていたのだ。

 薫の言う通りなのであれば、全てのカードの情報や力を取り込むことが出来た彼奴にとって、それはもう用の無い物達であるのだから、手放しても何ら問題は無いものである。

 

 すると、

 

「……封鎖されるんだったら、お前らは逃げた方が良い。離れたところでも指示は飛ばせるだろ。だから──」

 

 春樹が呟いた。

 深月達は変身をしたりして戦うことが出来ない。新宿区一体を封鎖しないと対応出来ないような敵を相手どるのであるのだから、ここは安全なところに避難してそこから指示やら何やらをすることが先決である。

 それは春樹だけではなく、碧と八雲も同じ気持ちであった。

 

 だが、

 

「そんなことしませんよ」

 

 口を開いたのは、深月だった。

 

「今までいつも一緒に戦ってきたじゃないですか……。春樹さんが碧さんや八雲さんと最後まで一緒に戦うのなら、僕達も最後まで一緒に戦います……!」

 

 彼の言葉に春樹達三人以外のメンバーが笑みを浮かべる。言わずもがなのことを彼が言ってくれたことが何よりも嬉しかったのだろう。

 だが彼らより以上だったのは春樹達戦う張本人達であった。特に春樹と碧に関しては顔にこそ出さなかったが、1年前に初めて会った時よりも信じられないくらいに成長をしたことに喜びを感じていた。

 

「それで、どうやってアイツを倒す?」

 

 紛らわせるために碧が話を戻そうとすると、八雲が話し始めた。

 

「実は、一個だけある」

 

 キョトンとする全員の前で八雲が取り出したのは、虹色に光り輝く立方体の物体であった。

 左右の面には何かを挿すための大きなスロットがあって、前面にはレーダーのような白い部品が取り付けられていた。

 

「これが、最後の切り札だ」

 

 自信満々に言う八雲であったが、全員どういうことなのか解らず、首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Why does it laugh during fighting?

A: Because it doesn’t have its reason.




完結まで、後9話。



【参考】
英語のオノマトペ(擬音語)一覧!日本語と比べて面白い|ENGLISH TIMES
(https://toraiz.jp/english-times/book/8910/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Quesion104 What will happen if we use this device?

第104話です。
結構大事な回ですが、読みにくい可能性があるので「おい! これはどういうことだよ!?」というのがありましたら、お気軽にお申し付けください。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.06.16 12:24 東京都 新宿区 SOUP

「え、これが、最後の切り札?」

 

 呟いた碧だけではない。他の皆も同じような反応だ。

 確かに見た目はそれっぽいが、本当に大丈夫なのか心配になってしまう。

 

「ああ。その名も『オールマイティーサーバー・ビヨンド』。これを使えばとんでもないことが起こる」

「とんでもないこと……?」

 

 

 

 

 

「ヒュージルーフを消す、強制的にアール達の世界への道をこじ開ける、余ったエネルギーでその世界を破壊する。この三つだ」

 

 あまりにも現実味の無いことに春樹達は収集が付かない。

 

「えぇっと、一から解説してくれないか? 全く理解できないんだ」

 

 森田にそう言われたので、八雲は仕方無さそうに話し始めた。

 

「このサーバーに強大なエネルギーを注ぎ込んで、まずはヒュージルーフを消す。そしてアール達が潜伏している世界への道を切り開いて、そこに零号を送り込んで倒してその世界ごと奴を消滅させる、って算段だ」

 

 八雲は森田の席の隣に配置された、白色のキャンバスが映るモニターに、大きなタッチペンで纏め始める。

 

 ①エネルギーを注ぎ込む

 ②ヒュージルーフを消す

 ③零号と一緒に向こうに行く

 ④倒して世界ごと消滅させる

 

 突飛過ぎるものではあるが、一応筋は通っているし、もしそれが可能なのであればかなりの即戦力になる。

 けれども物理に一応は携わっている人間の圭吾は、ある一つのことに引っ掛かった。

 

「けど、それを実行するには莫大なエネルギー量を消費しなくてはなりませんよね……?」

「……まさかとは思いますけど、それを零号から貰い上げるってことですか……!?」

 

 右手の指を鳴らした後、薫に向かって指を差す。表情や仕草からして、どうやら正解らしい。だとしたらそれはそれで驚くべきことなのだが。

 

「そう! アイツが一時的に弱体化するくらいに力を放出させて、その力を吸収し利用する。更には春樹と碧が使っているサーバーの力も取り入れて、諸々をするってわけだ。ただ、アイツが力を取り戻すのと、世界が崩壊するのの二つが行われる前に倒さなきゃいけないから、タイムリミットは20分ってとこだな」

 

「つまり、俺と碧であっちの世界で奴を撃破すれば良いというわけか」

「じゃあお兄ちゃんはアールをお願いね。多分私達だけで大丈夫だから」

「ああ。……ん?」

 

 春樹と碧の発言に疑問を抱いたのは、八雲だけではなかった。

 三人でやった方が格段に良い筈なのにどうして……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうせ、行ったら戻って来れないとかあるんでしょ?」

 

 碧の発言に全員が驚いて八雲の方を見る。そこでは彼ら以上に八雲が唖然とした様子をしていた。

 暫く固まった後、八雲は観念したようで素直に話し始めた。

 

「……ああ。いや、出来ないことは無いんだが……こっちの世界に戻って来られるだけのエネルギーがあるのかどうかが、計算上まだ判らないんだ」

「え、でも、零号のあの強大なエネルギーを持ってすれば、大丈夫なんじゃないんですか……!?」

 

 深月の言葉に簡単には首を縦に振らない。

 

「何せ一つの世界を消滅させるんだ。戻って来られるだけの力が残っている保証は出来ない……」

 

 そうか。

 自分達が今から壊そうとしているのはたった1体の生命体だけではない。

 嘗てそこに生物が住んでいた場所そのものなのだ。そのために必要なものが足りない可能性があるのはこれまでの経験上理解しているのだが、それでも最悪の場合を考えるとなると話は別となる。

 

 全員が黙ってしまったところで、八雲はその状況を何とかしようと努力し始めた。

 

「けど、けど大丈夫だ。まだ可能性だしな。それにもし、戻って来られるだけのエネルギーが残ってて、更にまだ余裕があるんだったら、その時は──」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.06.24

 決戦まで残り1日となった。

 他の地域からの立ち入りが禁止になったことに加えて、34万人もの区民が家や避難所に待機していることから、大都市である新宿からは人の気配は一切無くなった。

 

 代わりに街を歩くのは、武器を持った警察関係者達だ。他の道府県からの応援もあってのべ2000人に及ぶ彼らは、パラレインが現れる四谷三丁目にある国道20号線と都道319号線が交わる大きな十字路を重点的に見張り、その時を待っているのだ。

 

 つまり、今の新宿は華やかな東京のイメージにそぐう街ではない。ただの戦場なのだ。

 

 

 

 

 

 その中でSOUPのメンバー達は、最後の一日を思い思いに過ごしていた。

 

 

 

 

 

 薫はこの日、圭吾の家に泊まっていた。明日いつ現れるか判らないことから折角ならば一緒に寝よう、と薫が提案してきたのだ。

 

 リビングを見渡すと、圭吾が大好きな「パンダ・プリンセス」のぬいぐるみやフィギュア、ポスターが大量に飾ってあって、一日の疲れを癒すために最適な環境と言えることが分かる。華やかな見た目の割に部屋の中に学術書の類しか無い薫にとっては、それがとても新鮮なのだ。

 

 ソファに座りながらテレビを見る圭吾と薫。二人とも既に風呂に入ったため、今はラフな部屋着姿だ。

 見るのは薫がリクエストした「パンダ・プリンセス」の最終回だ。圭吾の趣味を堪能したいと彼女も見始め、徐々にハマっていったらしい。

 

 今映っているのはエンドロールであった。主人公が幸せそうに終わりを迎えたことに対し、圭吾と薫は涙を浮かべて喜んでいる。

 

 そして物語が終わった。拍手をした二人は余韻に浸っているためか、暫く言葉を出すことが出来ずに座っているだけだった。

 

「良かったですね……」

「そうですね……」

 

 それ以上何も言うことが出来ない。

 今まで見たものが感動的な終わり方を迎えたのもそうなのだが、一番は隣に愛する人がいてドキドキしているためだった。今までにも何度か互いの家に泊まったことはあるのだが、今日は何故だかいつも以上に緊張をしてしまうのだ。

 

「……あの、薫さん!」

「は、はい!」

 

 向かい合う二人。圭吾の表情は真剣なもので、薫は緊張してしまう。

 

「これ……なんですけど……」

 

 そう言う圭吾がソファの陰から出したのは、小さな紺色の箱であった。そのサイズと、柔らかさと硬さが入り混じったような質感によって、薫はそれが何なのか察して涙が出そうになった。

 けれどもそれを表には出さないようにし、箱を持った圭吾の両手を右手で静止した。

 

「言うのは、全て終わってからでも遅くはないですよ」

「……そうですけど、やっぱり言わないとと思って……」

「うふふ。そうですね。じゃあ……」

 

 左手を引っ込める薫。その顔はこれまでに無いくらいに晴れやかなもので、圭吾は同じように笑みを浮かべた。

 

 そして中身を開け、思いの丈を優しくぶつけ始めた。

 

 

 

 

 

「おじいちゃんおばあちゃんと楽しくやってるか? 奈緒美」

『うん! 今日は一緒にお蕎麦食べたよ』

「そっか……」

 

 森田が部屋の中で通話をしていたのは、娘の奈緒美であった。

 新宿区に住んでいる森田は、娘を安全な場所に送ろうと思った末、埼玉にいる亡き妻の実家に預かってもらうことにしたのだ。埼玉の北部であったことから、都心で戦いが長引いても影響は無いだろうと考えたためである。事情を知っている義両親は快諾してくれ、1週間程度面倒を見てくれると言う。

 

『早くお父さんに会いたいな〜』

 

 無邪気にそう言う奈緒美に森田は笑顔を見せるのだが、それは引き攣った笑顔であった。

 もしかしたらこれが最後の通話になるかもしれない。

 離れた場所から陣頭指揮をとることになっているのだが、果たして身の安全が保障されているかどうかは明日になってみないと判らないのだ。

 

「そうだな。もう少ししたら帰って来られるから」

 

 言葉の一つ一つを自分でも噛み締めて言う。

 電話越しに聞こえてくる娘の楽しそうな声を胸にしっかりと留め、森田は通話を切った。

 

 

 

 

 

 深月は特別なことをするわけでもなく、虎視眈々と夕食を堪能していた。

 コンビニで買ってきたおにぎりにポテトサラダ、カップの豚汁を並べた彼は、大体10分程で食事を終わらせる。

 

 そして洗い物を簡単に済ませて容器をゴミ箱の中に入れると、キッチンの横にあるところへゆっくり歩いた。

 そこは黒い仏壇であった。缶ジュースにポテトチップスといった供物の上に飾られているのは、優しい笑みを浮かべている両親が写った2枚の写真だ。もう朧げになってしまった顔を取り戻すために不可欠な代物である。

 

 両掌を合わせて目を瞑った状態を暫く保つ。隣の部屋から本の少しだけ漏れ出る生活音の中で、彼が動くことは無い。

 

 お父さん、お母さん。

 僕は明日戦うよ。

 僕を嘗て守ってくれた、あの人みたいに。

 皆の笑顔を守るために。

 

 そして両手を下げて目を開けた深月は窓の外を見つめた。

 住宅から光は幾つも見えてくるのだが、いつも目障りなくらいに多く光る高層ビルの灯りは全て消えていた。

 いつもは若干うざったらしく思えるのだけれども、いざ無くなってしまうと寂しく感じてしまう。

 

 取り戻す。

 それが今自分に出来る、唯一のことだ。

 

 

 

 

 

 八雲は自宅のリビングで一人、神妙な面持ちをしながら立っていた。もしかしたらこんな顔をしたのは、母親の葬式の時と父親を目の前で失った時以来かもしれない。

 

 彼の手の中にあるのは、新聞紙で包まれた何かの物体だ。棚の一番下に仕舞っておいた物である。

 

 新聞紙を取り除いて中身を確認する。それを見てまた、八雲の頭の中では彼女の言葉が嫌と言うほど反復されて、その度にうんざりとしてしまう。

 

──それは、絶対に使わせないから。

 

「でももう、お前はいないんだよな……」

 

 残念そうに呟いた八雲は、再びそれを新聞紙で包んで棚の中に仕舞い込んだ。

 

 

 

 

 

 どのニュースも新宿区が封鎖され、区民達が外出禁止を要請されたことを報じている。

 夜のこの時間帯は各局がニュース番組を放送しているのだが、その全ての内容がそればかりであるため、飽きてきたあまねはテレビを消して寝ることにした。

 

 あまねの寝室は春樹と碧の部屋の前を通過しなければ到達しない。なのでいつも通り少しだけ開いているドアの前を通り過ぎようとした。

 すると、

 

「ねぇ春樹」

 

 漏れ出る碧の声が聞こえてきた。

 普段はあまねに配慮してかドアを閉めているため、聞こえてくるのは珍しい。なので折角ならばと、あまねは耳をすませることにしてみた。

 

「明日で全部が終わるね」

「ああ。そうだな」

「……でも、明日の朝であまねちゃんともお別れだね」

「そうか。もしかしたらそうかもしれないな……」

 

 両親の言っている意味が解らなかった。

 それは軽い冗談のつもりなのだろうか。それとも……。

 

「どういうこと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そして、当日の朝を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What will happen if we use this device?

A: It will happen various events.




完結まで、後8話。



【参考】
東京の過去の天気 2022年6月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220600/)
新宿区の人口:新宿区
(https://www.city.shinjuku.lg.jp/kusei/index02_101.html)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question105 What has she desired?

第105話です。
3日連続投稿じゃーっ!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
柴咲コウ - 野生の同盟

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.06.25 09:21 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 朝食を食べ終わったあまねは、食卓に座ってスマートフォンを見ていた。

 画面に映るのは「避難終わったよ」との日菜太から届いたメッセージだ。自分の様子を知らせるために同時に送られてきた、何処かの体育館の中で撮ったであろう新井夫妻とのスリーショットを見て、彼女は安心出来たため笑みを浮かべた。

 

 幸い、あまねは中野区に在住しているため、避難の必要性は無い。なので日菜太とは暫く離れ離れとなってしまうのだが、きっと彼なら大丈夫だろうと思えたので特に心配事は無かった。

 

 それよりも心配なのは、自分の両親である春樹と碧である。

 昨日彼等が寝室で話していた内容があまりにも気になって仕方が無い。

 普段がどうなのかは分からないが、きっと明日が最後だとかそんな会話はしないであろう。もしこの家に帰って三人でまた過ごそうとしてくれているのであれば、そんな会話が出るわけが無いとあまねは信じているからだ。

 

 じゃあもしそうだったとして、あの会話をするということは……。

 

 額から汗が出てきた。

 確かに今日は気温が30度以上の暑い日であるのだが、クーラーが掛かっているこの部屋では出ない筈。

 それでも額だけではなく全身から汗が噴き出てくるような感覚が襲って来た。

 

 そうこうしているうちに、春樹と碧は準備を終えて玄関にいた。

 春樹はいつも通り黒いTシャツに黒いズボンを着ていて、碧は白いブラウスに春樹と同じ黒いズボンを履いている。

 職場に行くにも関わらず、バッグの類は何も持っておらず手ぶらの状態だ。

 

「……じゃあ、行って来るね」

 

 碧が見送りに来てくれたあまねに声を掛ける。彼女の表情はもの寂しげで、ここから一歩も出たくないようにも見える。

 

 けど行かなければならない。

 春樹と碧は振り返って、ドアノブに手を掛けようとした──

 

 

 

 

 

 その寸前で、あまねは二人の服を掴んで静止させた。

 立ち止まる春樹と碧に対し、彼女は俯きながら口を開く。

 

「嫌だよ……。二人がどっか行っちゃうの……。また、独りにならなきゃいけないの…?」

 

 言葉の最後の方は絞り出すようなものになっていて、殆ど原型を留めていない。

 暫く何も言えなかった春樹と碧は振り返ると、そっとあまねを抱き締めた。

 

「大丈夫だ。絶対帰って来る。どれだけ時間が掛かっても、必ずこの家に戻って来る」

「うん。だから泣かないで。私達も、行きたくなくなっちゃうから……」

 

 二人の胸の中であまねは声を荒げて泣いた。声は二人の服の中に吸収されて何も聞こえなくなるのだが、漏れ出るものは春樹と碧の耳に入り、彼等がより彼女を抱き締める要因を作った。

 

 暫く経ったところで、春樹と碧はあまねから離れて彼女の顔を見つめる。

 顔を上げた彼女の目は赤く充血しており、涙が流れた跡がくっきりと茶色く残っている。

 

「約束だからね……」

 

 きっと帰って来る。

 きっと帰って、また笑顔で三人で過ごすことが出来る。

 確証なんてものは何も無く、あくまでもただの希望に過ぎない。

 けれどもそれはただ望んだだけで終わることは無い。現実になる。そう確信している。

 

 だからあまねはこれ以上泣くことは無く、寧ろ笑顔で彼等を送り出したのだ。

 

 

 

 

 

「行ってらっしゃい」

「「行って来ます」」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.06.25 09:43 東京都 新宿区

 大きな十字路を囲むように、今までに見たことも無い程の大量の銃口が向けられている。

 盾で出来た壁によってそれ以上の進行が出来ないようになっていて、正に鉄壁の守りを固めているのだ。

 

 その外側で待機をしているのは、SOUPのメンバー達だ。特にこれと言って何かを変えることはせず、いつものような格好でリラックスしている。

 

 そこに現れたのは、ドライバーを巻いた春樹と碧がゆっくりと歩み寄って来た。これから壮大な戦いが行われるというのに、のんびりとした余裕そうな様子だ。

 

「我々はここから1キロ離れたところから指示を出す。……後は頼むぞ」

 

 岩田の言葉に頷く春樹、碧、八雲。

 

「それじゃあ、行きましょう」

 

 深月が右手を前に差し出すと、全員がそれに手を重ねていく。

 大きな層を形成した手は重なる他の班員達の体温を直に受け取り、一層一層が特別なものになる。

 

 森田が呟くと彼等はいつものように気怠そうにし、戦場へと向かって行くのだ。

 

 

 

 

 

「皆さん、出番です」

 

「「「「「「「「うぇ〜い」」」」」」」」

 

 春樹達戦闘をする者は機動隊員達が作った壁の隙間を通って、空洞になった場所に入って行く。

 一方のそれ以外は遊撃車に乗って、遠く離れた持ち場へと移動を始める。

 戦うための支度を終えた全員は、それぞれの持ち場へと向かって行くのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして午前10時。

 戦いの幕が開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常0体

B群4体

合計4体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What has she desired?

A: She has desired that her parents will be back.




完結まで、後7話。



【参考】
東京の過去の天気 2022年6月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220600/)
日の出入り@東京(東京都)令和4年(2022)06月 - 国立天文台暦計算室
(https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/dni/2022/s1306.html)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 36 A BEAUTIFUL STAR
Question106 What did he used to transform into the forbidden shape?


第106話です。
もうこの話を書かなければならないのか……。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
イトヲカシ - カナデアイ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.06.25 10:00 東京都 新宿区

 それが現れたのは、突然のことであった。

 空から白く光り輝くものがゆっくりと降って来たかと思うと、それは究極態へと変化をしたパラレインであったのだ。

 

「hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee」

 

 薄気味悪い笑い声を上げるパラレイン。

 その横に立って怪人態で春樹達を見つめるアール。

 

 彼等の姿を確認した瞬間、春樹と碧はサーバーの中ににトランスフォンを挿れてタッチパネルをなぞり、八雲はカードを挿してダイヤルを操作する。

 そして各々が各々の工程をし、叫んだ。

 

「「「変身!」」」

『『Here we go!』』

『Let's go!』

 

 春樹が変身した、仮面ライダーアクト アルティメットシェープ。

 碧が変身した、仮面ライダーリベード アルティメットシェープ。

 八雲が変身した、仮面ライダーネクスパイ アップグレードシェープ。

 

 三人の戦士は武器を手に取り、そして走り始めた。

 戦いの始まりである。

 

 するとパラレインは、

 

「hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee」

 

 少しだけ浮かび上がって再度着地をする。

 次の瞬間、機動隊員達が作った壁の中の地面が崩れ、五人は地下深くへと落ちていった。

 

 

 

 

 

「き、消えた!?」

「駄目です。確認出来ません……」

 

 薫と圭吾が驚く。

 どうやら先の攻撃の影響で、三人の位置情報や様子が確認出来なくなったらしい。

 

 これでは一体どのように戦いが繰り広げられるのか判らないため、森田と岩田から血の気が引いていく。

 

 だが、

 

「……信じましょう。彼等を……」

 

 深月だけは違った。

 一切何も映らないパソコンのモニターを祈るように見つめていた。

 

 それで他の班員達も、成す術の無くなったわけではあるが無我夢中で静かに祈りを始めたわけである。

 

 

 

 

 

 落っこちた場所は、四谷遺跡の中であった。

 嘗てパラレインが作り出した広いドームの壁には、大量の絵や文字が描かれていて、今から戦う相手に関する経緯やそれの脅威が正確に描かれている。

 

「hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee」

 

 パラレインが転がっているアクトとリベードの方へゆっくりと近付いて来る。歩く速度があまりにも遅いのは、それだけ余裕だという現れだろうか。

 そこにアクトとリベードは立ち上がって、彼奴の方へと向かって行った。

 

「「ハァァァァッ!」」

 

 離れたところで倒れていたネクスパイもすぐに立ち上がり、アンブレラブレイカー ロッドモードを取って走り出す。

 だが、

 

「ッ!?」

 

 左半身に強い衝撃を感じ、金属製の大きな扉ごと吹き飛ばされてしまった。

 その犯人はアールで、いつものように衝撃波を繰り出したようだ。

 

「さて、似た者同士、ここでお相手させていただきますよ」

「似た者……? ふざけんなっ! 俺とお前は違うんだよっ!」

 

 棍棒を握り締めて立ち上がったネクスパイがアールの方へと走り、その先を彼へとぶつけた。

 凄い衝撃が走った筈なのだが、能力によって痛みを感じることの無いアールに、そんな攻撃を何度ぶつけたとしても無意味であって、逆に棍棒を握られて何処かに投げられてしまう。

 そして右手で殴られたところて吹き飛ばされたところに、何層にも重なった衝撃波を浴びせられた。

 

「グァァァァッ!」

 

 変身を解除されて転がり、うつ伏せの状態で倒れてしまう。

 本人は見ずとも分かっていたのだが、ネクスチェンジャーとアップグレードルーターには罅が入って火花が散っており、到底使い物になりそうもない。

 

 それを見たアールは勝ち誇った。

 この勝負は完全に自分の勝ちだ。成す術の無くなった八雲に勝ち目など無い。

 

「互いに力に魅了された同士でしょう。どうして私と貴方は戦う必要があるんです?」

 

 立ち上がりたい。

 全ての力を振り絞って両手両足を動かし、ようやく震える脚を支えにして立ち上がれた。

 

「確かに……俺とお前は似てるな。大きな力に魅了されて、それを使えるようになりたかった。……けど、俺とお前は違う。お前は誰かのために全てを終わらせようとした。誰かのために全てを守ろうとする俺とは諸々違ぇんだよ……!」

 

 血塗れになった八雲がアールを睨みながら言う。

 ただ、アールは負け犬の遠吠えとしか思っておらず、嘲笑うだけだった。

 

 

 

 

 

 けれどもこの時の彼は知らなかった。

 ()()()()()()()()()()()を──。

 

 

 

────────────

 

 

 

 それは、八雲が最後に花奈を抱いた後の話だ。

 

「……絶対、いなくなったりしねぇよ」

「どうして?」

「……俺が絶対守るから……」

 

 八雲と花奈は唇を重ね、暫くその状態を保つ。

 離した時、花奈は試しに訊いてみた。

 

「『守る』ってことは、何か考えとかがあるってこと?」

 

 すると八雲はベッドを出て少し歩くと、リビングにある棚の一番下の段から、新聞紙で包まれた物を取り出した。そしてそれを花奈に手渡す。

 

 一体何なのかと花奈が一枚一枚剥いで確認すると、それは一個のドライバーだった。

 アクトやリベードが使うドライバーを水色にし、茶色いラインを入れた代物で、プレートの部分にはまだ何も描かれていない。

 

「これは?」

「オーバーフロードライバー。零号に対抗するために作った、ライダーシステムの最高傑作だ。これを使えばクラックボックスを使った時を遥かに超える力を手に入れられる」

 

 感心する花奈。

 

「ただ……。これはお前みたいなフォルクローでも、15分連続で使えば生命の危機に陥る。俺が使えば……ざっと5分だな」

 

 その言葉で花奈の顔から血の気が引いた。

 自分を守るがために彼は禁忌とも言える力に手を付けようとしている。もしもそれを使う時が来たとして、果たして自分の心は耐えられるだろうか。

 

「それは、絶対に使わせないから」

 

 愛する人に対して使って良いのか分からない目付きで言った花奈。

 振り向いた八雲は彼女の顔があまりにも怖くて震え上がってしまう。

 だが嬉しかった。自分をそこまで思ってくれているのかと。

 

「もし使うって言ったら?」

「……もう一回戦」

「それがご褒美ってこと解ってるか?」

 

 不味いと思ったがもう遅い。

 飛び付いて来た八雲を跳ね除けてベッドの上で転がす。

 

「大丈夫だよ。これを使うにはトランスフォンが必要だ。これ以上作るのは大変だって言うのに作るわけにもいかないし、春樹と碧のを使うわけにもいかないだろ」

 

 トランスフォンを八雲が作った時、平井勝司の支援にも限界があったことから、計2つしか製作することが出来なかったのだ。

 資金の問題だけではなく、作るのに約数ヵ月を有する物をこのタイミングで今更作るというのは無駄足になってしまうかもしれない。

 

 そのため、このドライバーが使われることは無いと花奈は安堵をし、八雲に見えないように笑顔を浮かべたのだ。

 

 

 

────────────

 

 

 

「そうか……。花奈はもういないんだよな……」

 

 物寂しげに呟いた八雲は左手首に付いたネクスチェンジャーを取り外し、遠くの方へと投げ捨てた。

 自殺行為であるとアールは驚く。

 

 だが八雲がこれで終わるわけがなかった──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──じゃあ、これは使い放題ってわけだな」

 

 八雲が新たに取り出したのは、黒いスマートフォン状の端末──トランスフォンであった。

 

「!?」

 

 さらに驚愕するアール。

 その入手経路が何処なのかまるで見当がつかない。

 

 だが一つ心当たりがあった。

 それは数ヵ月前、仮面ライダーデイナこと門守仁が戦う世界より現れた、伊福部中也が仮面ライダーキラーソとなるために使用した簡易版のトランスフォンであった。

 戦闘後全く発見されることが無かったそれに、ライダーシステムの根幹を司っているグアルダがアクセスすることは出来ない。即ち、どんな無茶もし放題というわけだ。

 

 八雲は1枚カードを取り出した。

 彼がネクスチェンジャーを装着する際に使用するものが、青色を基調とした色違いになっているカードだ。

 

 そのカードをトランスフォンの裏側にかざした。

 

『OVERFLOW DRIVER』

 

 腹部に水色のドライバーが装着される。

 何も描かれていなかったプレート部分には、レモンに桃に桜桃が実る木々の中を1匹の大きな鳥が颯爽と飛んで行く様子が、青色の水彩画のようなタッチで描かれている。

 

 それと同じ絵柄が描かれ、下部に「KAMEN RIDER NEX-SPY」と白く印字されたカードを裏返して、トランスフォンに装填した。

 

『"NEX-SPY" LOADING』

 

 電源ボタンを押すと上に発生した4つのゲートから、様々な果物が生えた枝が伸び、1匹の鳥が飛翔を始めた。

 軽快な音楽が流れる中で八雲は、いつも変身でする時のように両腕を大きく回した後で十字を作り出す。

 

 そして彼は叫んだ。

 なることが最初にして最後になるであろう姿に変わるための言葉を──。

 

 

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 端末を挿し込んだ瞬間、ゲートから伸びていた枝が鳥ごと八雲の姿を覆うと、色が茶色から赤色になって更に水色に変化する。

 それらが一気に蒸発をして消え去ったところで、姿を変えた彼の姿が初めて顕となった。

 

 水色に変色をしてそこに茶色のラインが引かれたネクスパイ、というのが率直な意見なのであろうが、胸部に装着されている鎧と両肩の平たい装備が全く別物であることを物語っている。

 その胸部と両肩の鎧には嘗てデュークにマリカ、シグルドが武器として使用していたソニックアローが付属していて、ドライバーの両端には分解されたゼロガッシャーがゼロノスと同じように付けられている。

 そして頭部の角は3本の矢を模っていて、それ以外は通常のネクスパイと殆ど変わりが無い。

 

『Grind, Future, A beautiful star! This KAMEN RIDER is overflowing with force! We are as one.』

 

 思えば青色というのは、彼の家族にとって重要な色であったような気がする。

 父である海斗──ディエンドもそうであったし、妹である碧──リベードも青色をが印象的であった。

 

 そして今八雲が変身をした、仮面ライダーネクスパイ オーバーフローシェープもそうだ。

 

「超、超、超、良い感じだな……!」

 

 噛み締めるようにして言うネクスパイ。

 異様なまでに重い言葉は地面へと沈み、誰にも拾えなくなってしまう。

 

 

 

 

 

 こうして、常田八雲の最後の戦いが始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What did he use to transform into the forbidden shape?

A: He used a device that is used by his family.




完結まで、後6話。

因みに皆様お気付きですか?
オーバーフローシェープの変身音声は「そうだ! We're ALIVE」が基になっていることに……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question107 What was he said by her?

第107話です。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.06.25 10:05 東京都 新宿区

 八雲が新たなドライバーで変身をした、新たな仮面ライダーネクスパイ。

 その姿にアールは呆然としていた。

 相手から放たれる空気は、自分がまるで経験のしたことが無いもの。自らの主からも感じ取ったことは無いやもしれない。

 

「姿が変わったからといって……強くなったとは限らないでしょう……!」

 

 アールがネクスパイの方に向かって走り出す。何重もの波を纏った右の拳をぶつけようと試みるのだ。

 それをネクスパイは軽々と左手で受け止めると、右手で左肩に付いたソニックアローを取り外し、刃でアールに斬りつける。

 痛みこそ感じることは無いのだが、その衝撃で後退する。

 

 更に右肩のソニックアローも持ってそれぞれの弓を引いて矢を放ち、ピンク色と赤色の矢が大量にアールへと刺さるのだ。

 

 何かが刺さったようだが、アールには何が何だか判っていない。とにかく攻撃を仕掛けられていることと、そしてもう一つ、このまま攻撃を許せば自分は確実に不味いということだけが理解出来る。

 

 なので絶対にここで食い止めなければならない。

 アールは今までに無いくらいの波動を放ち、ネクスパイを確実に葬り去ろうとする。

 

 だがネクスパイは一切避けようとせず、その場に立ち竦むだけだ。

 

 すると複眼が赤く光ったその時、彼を起点として地面が外側の方へと歪み始めたのだ。

 穏やかで静かなものであったのだが、アールが放ったものにぶつかった途端に急変。激しい爆発を起こして全てを無かったことにした。

 

 これではっきりした。

 今のアールに勝ち目など無い。

 けれども勝算は一つだけあるのだ。

 

 

 

 

 

 そしてその時がやって来た。

 

「ッ!? ガァァッ! ア゛ッ……!」

 

 ネクスパイが苦しみ始めたのだ。2本のソニックアローを落とし、胸を押さえて悶える。

 

「貴方が戦えるのは5分だけ。もう既に2分が経過しました。相当弱っているでしょう?」

 

 近付いて来るアール。

 抵抗するため胸部に付いたソニックアローを取り外して矢を放つのだが、痛みを感じないというのがアールの能力であることから、何か衝撃が来たことを察しはするものの足が止まることは無い。

 

 ソニックアローを弾かれて落としたネクスパイはアールによって首を絞められ、衝撃波によって後方へと吹き飛ばされてしまう。

 

「グァァッ!」

 

 仰向けで倒れたネクスパイは何とか立ち上がろうとするのだが、上手くそれが出来ない。

 それを見たアールはニヤついた。こんな状態では自分が勝つに決まっている。変身したことによる副作用と攻撃からの痛みに苦しむネクスパイに、アールはまた一歩一歩足を進めるのだ。

 

「これで、私の勝ちは確定しましたね」

 

 後1回でも攻撃をすれば彼は間違い無く事切れる。

 確信したアールがネクスパイの目の前に辿り着いたその時、

 

「……それはどうかな」

「!?」

 

 胸に何かをされ、後ずさってしまう。

 見ると、ネクスパイはゼロガッシャー サーベルモードを握っており、それを使ってアールを横文字に斬ったことが判る。

 

 更に武器をボウガンの形に変形させると、次々と銃弾を放って、更にアールに後退りをさせる。

 攻撃されている本人はまるで気が付いていないようであるが、彼の身体は今までの攻撃によってかなり傷付いて満身創痍の状態なのである。

 

「言っておくけどな、この力は俺一人がどうのこうのってものじゃねぇ……。リョーマにヨーコ、シド、そして花奈と俺……五人の力を全部混ぜ込んで作ったものなんだよ……。ただ強化しただけで、独りで何かしようとしているお前とは格が違ぇんだよ……!」

 

 立ち上がるネクスパイ。

 ゼロガッシャーを投げ捨てた彼は、じっとアールのことを見据えている。

 自らを見つめる人物は1人しかいない筈なのだが、そこに何人もいるようにアールは錯覚してしまう。

 

 どうしてそういう風に見えてしまうのか。どうして自分は彼、と言うより彼等に勝てないのか。

 どれだけの想像をして推測を行ったとしても、今は全く解らない。

 きっと、これから解らないまま全ては終わる。

 

『Are you ready?』

 

 ドライバーのプレートの次にトランスフォンを押し込んだネクスパイは宙空に跳び立ち、右足を前方に差し出す。そこには色とりどりの果実が集まって、強大な力を授けるのだ。

 そして彼の背中には大きな翼が生えて、一度大きくはためいただけで体を猛スピードで動かすのである。

 

『OKAY. UPGRADED DISPEL STRIKE!』

「オラァァァァァァァッ!」

 

 強烈な一撃がアールの胸に激突する。その威力は絶大で、瞬く間に胸部を貫通。ネクスパイとアールは互いに背中を向ける形となったのだ。

 

 胸部を貫かれたとしてもアールが痛みを感じることは無い。

 もしも彼に痛覚があったとしても、あまりに一瞬の出来事であったがために感じ取れないであろう。

 

「そうですか……。これが痛みですか……」

 

 知る筈もないのに言ってみる。

 実に満足そうな彼が放った最後の言葉はそれだけだった。

 爆発することは無く、身体は黒色と金色の粘着性がある液体となって原型を失っていく。そしてネクスパイの後ろには何も無くなってしまった。

 

 荒い息の音だけが暗い廊下の中に響き渡る。もう限界はとうに越していて、立っているだけでも精一杯の状態だ。

 

 強制的に変身が解除されたその時、突然世界が光り輝き始めたのだ。

 思わず目を腕で覆って前方を確認すると、そこには3つの人影がある。どれも全て見覚えのあるもので、もう二度と目に映ることは無いと思っていたものばかりだ。

 彼等の名前を呟こうと思っても上手く言葉が出てこない。出したくもない。

 だって彼等はもう……。

 

 ふと影が消えてしまった。けれども目の前はまた輝いたままで、徐々に鬱陶しくなってしまう。

 

 だが次に現れた影を見て、そのうざったい気持ちは一気に消え去った。

 それはヘッドフォンを首に掛けて髪の毛の一部を黄緑に染めている。

 

 涙が出てきた。

 哀しさだとかそんな陳腐なものではない。

 

 喜びだ。

 また会うことが出来たことに対してのこの上無い喜びである。

 

 それがゆっくりと近付いて来る。

 抵抗する必要性など何も無い。ただこの心地良さに身を委ねて全てを投げ出したかった。

 

 顔が見えた。

 あの頃と変わらない優しい笑顔で出迎えてくれている。

 だからきっと自分も彼女と一緒にいることが出来る。

 そう思って八雲は、両腕を伸ばした──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが彼女は八雲の両腕を払うと、顔から一切の笑みを消し去って彼の頬に右手で平手打ちをした。

 

 突然のことに驚く八雲。

 自分であれば彼女の下にいることを許してくれると思った。

 これからずっと隣で笑い合うことを許容してくれるのではないかと期待していた。

 だからこそ、今どうして打たれたのかが理解出来ないのだ。

 

 

 

 

 

 ──もっと長生きしなきゃ駄目よ。

 

 

 

 再びいつもの笑顔で戻る。

 

 

 

 ──じゃあ、またね。愛してるよ。

 

 

 

 

 

 気が付いた時、八雲は何故か仰向けで倒れていた。

 今まで立っていた自分がどうしてそんな状況になっているのかは皆目見当がつかないのだが、きっと彼女が自分の両肩を叩いて押し倒したと思えば納得出来てしまう。

 

 目の前から光は消えて、ただ真っ黒な廊下が長く続いていくだけなのだ。

 

「嘘だろ……。またひとりぼっちなのかよ……」

 

 自虐的な笑みを浮かべて静かに声を上げる八雲。

 その声は微かに反響をしながらも何処かで途切れて何も聞こえなくなってしまう。

 

 そして八雲は意識を投げ出し、ゆっくりと目を閉じたのだ。

 

 今、彼の隣には先程使ったドライバーに端末、3本の弓と1丁のボウガンが乱雑に置かれている。

 武器は火花をほんの少しだけ出しながら罅を付けて壊れ始めているにもかかわらず、ドライバーと端末は一切の傷が無い。

 けれども深い眠りについた八雲はそんなことなど知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What was he said by her?

A: “Don’t come here.”




完結まで、後5話。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question108 How was that roof disappeared?

第108話です。
2日連続投稿じゃーっ!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
柴咲コウ - 野生の同盟

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.06.25 10:04 東京都 新宿区 四谷遺跡

「hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee」

 

 一方同じ頃、アクトとリベードはパラレインに対して苦戦を強いられていた。

 究極態になった彼奴の攻撃力はやはり凄まじく、何とか付いていけている状況、と言ったところだ。

 息を切らした彼等は攻撃によって後退り、前方をじっと見据えている。

 

 だがそれでも1つだけ勝算はある。

 八雲から受け取ったオールマイティーサーバー・ビヨンド。

 少しでも後で有利に立つために、攻撃からなるエネルギーを溜め込んでいく。

 

『"ZI-O" LOADING』

『"MARS" LOADING』

 

 二人の能力によって、様々な戦士がパラレインの周りに姿を現した。

 

 仮面ライダー龍騎サバイブ。

 仮面ライダー響鬼紅。

 仮面ライダー電王 ガンフォーム。

 仮面ライダーフォーゼ ファイヤーステイツ。

 仮面ライダー鎧武 カチドキアームズ。

 仮面ライダーゴースト ムゲン魂。

 そして、仮面ライダーマルス。

 

「hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee」

 

 計7人の戦士がそこにいるにも関わらず、パラレインは余裕そうだ。

 

『SWORD VENT』

『カナシミブレイク!』

 

 龍騎とゴーストが長刀や薙刀を握ってパラレインに襲い掛かる。

 刃が当たりそうになったところで彼奴は瞬間移動。避けた後に再び二人の前に現れ、信じられない威力を誇った掌で彼等を押して蹴散らした。

 

『Full charge』

『"FIRE" "RANCHER" "GATLING" "RADER" LIMIT BREAK』

『カチドキスカッシュ!』

 

 響鬼が持つ2本の棍棒の先に、フォーゼが構えるヒーハックガンや両脚のユニットの銃口、鎧武の火縄大橙DJ銃には激しく燃え盛る炎が纏われ、電王のデンガッシャー ガンモードには両肩から流れるものが銃弾となっていく。

 

 それらが全て、パラレインの方へと向かって行った。もしもぶつかればひとたまりも無いだろう。

 

 けれども彼奴は自らの周囲に大きなバリアを張って全てを防御。

 だが自爆させて無に還させるのではなく、全てを吸収したバリアを大きくして四人の戦士に激突させる。

 高い威力を誇る攻撃を吸収したものはやはり凄まじい誇っていて、消滅させるにはとっておきのものである。

 

 だがこれで攻撃が終わるわけではない。

 

 次の瞬間、パラレインの周りに橙色の幻影が現れたのだ。その数、実に10体。全てマルスが召喚したものである。

 黄金の剣と盾を持つ彼等は宙空を浮遊しながら移動をし、目標に向かって剣を振るのだ。

 

 パラレインはそれらを全て避けて同じように浮かび上がる。

 更に上の方にいる彼奴に向けて兵達は浮上し、剣先で一気に突き刺そうとしたのだが、自らの周りから虹色の波をゆっくりと放ち、それによって地上にいるマルス本人ごと蹴散らしてしまった。

 

 爆発の中で着地をするパラレイン。

 けれども周りが見えないという悪条件のある場所にいる彼奴は、アクトとリベードが何をしようとしているのか見えていなかった。

 

『"DRIVE" LOADING』

『"KABUKI" LOADING』

 

 トレーラー砲を左手に持ったアクトとチェーンソーを持つリベードが、色鮮やかな鬼の戦士──仮面ライダー歌舞鬼と共に走り出す。

 

 2丁の大砲から放たれる何発もの砲丸はパラレインによって弾かれ、リベードと歌舞鬼の刃物からの攻撃は両手で受け止められてしまう。だがそれは逆に好機であって、アクトが右足で隙を作ってくれたパラレインの腹部を蹴り飛ばした。

 

「eek!」

 

 そこへリベードと歌舞鬼が再度斬撃を食らわせて後退させる。

 更に歌舞鬼が、音撃棒 烈翠(れっすい)と呼ばれる2本の棍棒で次々とパラレインに緑色の炎を纏った打撃を食らわせようとするのだが、パラレインは自らの前に大きな物体を作り出した。それはまるで丸いガラスのようであって、今にも壊れそうである。

 

 本来の目的ではなくガラスに攻撃をしてしまった歌舞鬼。

 すぐに罅が入って全体に行き届き、割れる。

 割れたところから緑色や黒色、様々な色が入り混じった液体が噴射して歌舞鬼にかかり、そこで起きた爆発に巻き込まれて消滅してしまった。

 

 けれどもそれはただの囮に過ぎない。

 アクトがトレーラー砲からスポーツカーの形状をしている赤色の大きな弾丸を放つ。

 パラレインはその動きを寸前のところで強制的に止めさせると、向きを反対側にして行動を許す。するとアクトとリベードに激突する形となって二人は吹き飛ばされてしまった。

 

「グァァッ……!」

 

 衝撃でトレーラー砲を落としてしまうアクト。

 そこへパラレインが浮遊をして近付くと、強いエネルギーを秘めた両掌を向けて来た。それで首を絞めるか、腹部を貫くかして葬り去ろうとしているらしい。

 

『ULTIMATE SHOT!』

『ULTIMATE SLASH!』

 

 直前でする強烈な攻撃。

 効果はあったようで、パラレインは同じように後方へと吹き飛ばされてしまった。

 

 ゆっくりと武器を頼りにしながら立ち上がるアクトとリベードに対し、ダメージを負っているにも関わらず何事も無かったかのように平然と立ち上がるパラレイン。

 向かい合って互いの姿を睨み合う。

 余裕が有るか無いかで判断をすればパラレインの方が圧倒的に有利な状態で、もし一瞬でも気を抜けばそのまま何も成せずに死んでしまう。その恐怖が二人の間を駆け巡る。

 

 なので、賭けに出てみることにした。

 

「なぁ……。お前、その程度しか力を出せないのかよ……。こっちはまだピンピンしてるぞ!」

「?」

「言ってる意味が解らない? それくらいじゃ、私達は倒せないって言ってるのよ!」

 

 本当に一か八かの賭けだ。

 これで挑発すれば、彼奴は自分が限界を迎えるくらいの力を放出してくれるかもしれない。もしそうしてもらえれば、そのエネルギーを全て利用して壁を消し、三人纏めて異世界に転送出来る。

 だが失敗すれば、ただの無駄死にだ。八雲がどうなっているのか分からない今、自分達が敗北をすればこの世界は彼奴によって消されてしまうのだ。

 

 ──さぁ、どっちだ……。

 

 

 

 

 

「……boo-boo-boo-boo-boo-boo!」

 

 上手く行った……!

 

 パラレインの身体が白色と金色に発光を始めた。その光に際限など無く、前方に集中して一つの球体を形成していく。光と同じ色をした球は神々しく、思わず見入ってしまう。

 

 今がチャンスだと、アクトがオールマイティーサーバー・ビヨンドを自身とリベードの間に来るよう投げる。

 その両端にドライバーから取り外したサーバーを取り付けた。立方体の物体に直方体の物体が付着している様は、このためだけに用意されたような代物と言うのに適切なくらいに奇妙な形である。

 

 同時にパラレインの放った球から白い光線が放たれた。眩いまでに光るそれは一直線に伸びていって、アクトとリベードが持つ一つのサーバーへと集められていく。

 

「「ッ……!」」

 

 威力や反動は凄まじく、腕が捥げて全身が塵になりそうだ。何とか痛みと衝撃に耐えて作戦を成功に導こうと努力をする。

 歯を食いしばって粘る二人に対して、パラレインは更に力を込めて葬り去ろうとするのだ。

 

 けれども終わりが近くなってきたことは、パラレイン本人が一番分かっていた。

 何せ彼奴が放つ光線は細くなって、最終的には出発点である球ごと消えてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 そして、全てが始まった。

 

 

 

 

 

「あれは……!」

 

 遊撃車の中から窓の外を見つめていた深月が驚きを隠せない様子であったため、同じように窓の外を見る。

 

 そこから見えたのは、空に大量の白い粒子が飛んでいる様子であった。

 ゆらゆらと飛んで消えていくそれは天高いところから降って来ているわけではなく、高く聳え立っている屋根から放出されているようだ。屋根が次々と溶けていって、いずれ消えていく。その一部始終を彼等は見ているのだ。

 

 それは事が全て上手く進んでいることの象徴であったため、彼等はその光景を見つめながら笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 これから何が起こるかも露知らずに──。

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 意識が戻ってきた時、二人は自分達が固い床の上で寝ていることが触覚を通して伝わってきた。

 寝心地の悪さにゆっくりと目を覚まして身体を起こすと、自分達の変身が解かれ、服の上からドライバーが付いただけの状態となっていることが分かる。

 

 そこは先程いた遺跡よりも暗い大きな空間であった。灯りは少なく、暖色系の照明によってしっとりと照らされているのだ。

 

 その場所に見覚えがあった春樹と碧は、床に落ちていたサーバーを拾い上げて、壁面にある大きな窓の外を確認する。

 見えるのはただの更地だ。ビルや道路等の人が生きていた証の残骸が無惨に残っていて、見上げると白い空にオーロラがかかっている。

 

「成功したんだね……!」

「ああ……!」

 

 感慨深そうに二人は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常0体

B群3体

合計3体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How was that roof erased?

A: By using lots of devices.




完結まで、後4話。



【参考】
英語のオノマトペ(擬音語)一覧!日本語と比べて面白い|ENGLISH TIMES
(https://toraiz.jp/english-times/book/8910/)
仮面ライダーフォーゼ ファイヤーステイツ|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/forms/734)
アーマードライダーマルス|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/kamen_rider_members/155)
音撃棒・烈翠|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/items/1519)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPISODE 37 青も緑も無く(COLORLESS)
Question109 How did she transforme into a new shape?


第109話です。
後もう少しで終わりだ……。
にも関わらず、まさかのことをやります。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。





【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


?????

 アール達が嘗て暮らしていた世界、即ちパラレインが以前破壊をした世界に辿り着いた春樹と碧は、じっと窓の外を見つめていた。

 外はビルも何も建っていない更地で、コンクリートで出来ていたであろう地面は砂で覆われていた。

 

 これほどまでに「荒廃」の文字が似合う風景は存在しないと、二人は思ってしまう。

 同時に自分達の世界がこうならなくて良かったとも思った。

 

 だが安心するのはまだ早い。

 もしここで弱ったパラレインを始末しなければ、全てが水の泡と化してしまうのだ。

 

 くっついたサーバー達を見る。

 真ん中にあるオールマイティーサーバー・ビヨンドの表面にはタイマーのような表示があって、「09:22」とある。

 

「もう時間が無いわね……」

「ああ。急いで探すぞ」

 

 その必要性は皆無だったようだ。

 ドーンと大きな音がしたのだ。

 

「「!?」」

 

 見ると、暗い部屋の中で白いシルエットと金色のラインが光っている。

 言わずもがな、パラレイン(倒すべき目標)である。

 

「hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee」

 

 すぐに自身のサーバーを取り出そうとする碧。

 だがそれを春樹が止めた。

 

「? どうして?」

「もし今このサーバーを抜き取れば、溜め込んだエネルギーの放出が中断されて、全てが台無しになってしまうかもしれない」

「そっか……。じゃあ、他のメモリアルカードとかで何とかするしかないってこと?」

「そうなるな」

 

 春樹はクラックボックスを取り出す。

 これで今変身出来る最強の形態であるリベードンアクトとなって、対抗しようとしているのだ。

 

「hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee-hee」

 

 そんな暇を与えないとパラレインは瞬間移動をし、二人の腹部に掌を押し当てた。

 

「「ガハッ……!」」

 

 後方へとかなり吹き飛ばされてしまう。

 血を吐き出して腹を押さえる二人。特に碧は春樹以上に攻撃を食らってしまい、身体を震わせて最早立ち上がれないような状態だ。

 

 ようやく立ち上がった春樹は後ろの碧を見ると、トランスフォンを取り出す。

 

「グアルダ。碧がこの状態だったら合体は無理だ。何か良いカードはあるか」

『だったらこれを使え』

 

 ドライバーのカードケースから1枚のカードを取り出す。

 絵柄を見ると、それはクウガのカードであった。

 

「これは?」

『20枚のメモリアルカードのうち、攻撃力が最も高いのはこのカードだ。使え』

 

 グアルダの指示で迷わずそのカードをトランスフォンへと装填する。

 

『"KUUGA" LOADING』

 

 電源ボタンを押す。

 赤色のゴウラムが姿を現し、羽音を立てながら春樹の上に止まる。

 ポーズも何もせずに、ただ作業的に端末を挿し込んだ。

 

「変身!」

『Here we go!』

 

 緑色の素体に変身をした春樹に、ゴウラムが分解して出来た赤色の鎧や金色の角が着けられる。

 

『A new hero, A new legend, A new story! Let's start our era from zero. BEGINNING KUUGA! It’s gonna be alright.』

 

 嘗て自身らの世界を救った戦士の力を受け継いだアクトは、走り出してパラレインに拳をぶつける。

 何度も何度も炎を強烈な攻撃をお見舞いするのだが、少しだけ後ずさるだけで殆どが効いていないような印象である。

 

 そしてパラレインは自身の前にバリアのようなものを作り、そこから光線を放ってアクトに食らわせた。

 

「グァッ……!」

 

 胸を焼かれるような痛みにアクトは悶える。

 だがこれで終わらせるわけにはいかないと、攻撃を続けていくのだ。

 

 そんな彼の様子を、碧は後ろの方から見つめていた。

 何とか痛みは引いてきた。これで戦うことが出来る。

 

 だが弱体化したとはいえ、未だにその強さを誇るパラレインに今のままでは勝機は無いのではないかと察していた。

 

 方法がある筈だと立ち上がりながら必死に頭を働かせる。これまでの戦いを思い出し、サーバーを使わず、合体もしないで有利になれるようなものを探すのだ──。

 

 

 

 

 

 ──そして、思い出した。

 

 すぐに体勢を整えて1枚のカードを取り出すと、()()()()()()()()()()()()()()()

 

『NEX CHANGER』

 

 左腕にネクスチェンジャーが出現すると、もう1枚のカードを右手に持った。

 エグゼイドのカードの絵柄が紫色に変色した色違いのもので、下部には「No.143 UNDERMINE GENM」と白く印字されている。

 言わずもがな、それはクロトから作り出したカードであった。

 

「力を貸して……。クロト……!」

 

 右手に持ったカードに願いを込めて裏返し、ネクスチェンジャーのスロットに装填した。

 

『"GENM" LOADING』

 

 ダイヤルを回してオレンジ色の面に合わせる。

 

『CHANGE』

 

 上部に現れたゲートの中から、紫色のマイティが飛び出して来て、碧と一緒に青色の枠に閉じ込められる。

 胸の前に左手を持ってきた碧は、パラレインと戦う自身の夫の方を見つめ、呟くように言った。

 

「変身……!」

『Let's go!』

 

 ダイヤルを押した瞬間、枠の中に煙が充満して一切の詳細が判らなくなってしまう。

 だがすぐに枠が決壊し煙が外に出て行ったことで、変身を遂げた彼女の姿が明らかになった。

 

 青色の素体に着けられている鎧はエグゼイドシェープ レベル2の色違いとなっていて、頭部のパーツはネクスシェープのものが紫色に変えられているものであった。

 

『Develop, Continue, Level up! I am the god! UNDERMINE GENM! Even if I continue myself, I will clear this game.』

 

 恐らく誰も想定していなかったであろう姿、仮面ライダーリベード ゲンムシェープ・ネクストである。

 

 右手にガシャコンバグヴァイザー チェーンソーモードを、左手にディスペルクラッシャー ソードモードを握ったリベードは右足に力を込めると、一気にパラレインの前まで到達した。

 そして2本の刃物で彼奴の身体に斬りつける。

 

「!?」

 

 火花を散らして後退するパラレインに、何度も何度も刃を当てる。

 最初こそ少しだけ効いているようであったのだが、途中から本気で苦しみ出したことから、アクトは何が何だか分からないがチャンスだと思い、パラレインの胸部を右足で蹴り、更に、

 

『ギュ・イーン!』

 

 Bボタンを押して強化をしたバグヴァイザーの刃を押し当てると、鎖がものすごい勢いで回転をし、パラレインの身体を確実に傷付けて後退させた。

 

「eek!」

 

 簡単に吹き飛ばされてしまうパラレイン。

 アクトは思わず隣に来たリベードに訊いた。

 

「どういうことだ、これ」

「クロトの能力が何だったか覚えてる?」

「?」

「『弱体化』」

 

 それでアクトは納得が出来た。

 

 仮面ライダーゲンムに変身をしていたクロトがフォルクローとして持っていた能力は2つだ。

 一つ目は「コンティニュー能力」。99個の命を持つ彼は例え倒されたとしても土管から飛び出し、また全ての命が尽きるまで戦い続けることが出来るのだ。

 そして二つ目が「弱体化」であった。レベル0の力を手に入れた彼は、触れたものの戦闘能力等を下げることが可能になって、それでフロワやピカロを苦しめた。

 それを応用すればパラレインを更に弱体化し、それが決定打になって倒すことが出来るのではないかと考えたのだ。

 

「それで、この後はどうしようか?」

「……」

 

 ゴリ押しをするのも良いが、それで通用するのかという一抹の不安は拭えない。

 するとまた、グアルダが話しかけてきた。

 

『ならば奴のドライバーを狙え』

「ドライバー?」

『君達がドライバーの中にいる私によって力を制御しているのと同じように、零号の力の全てを制御しているのはあのドライバーだと考えられる。破壊すればこれ以上強化出来ることは無いだろう』

 

 これで狙うべきものが判った。

 アクトはドライバーのプレートを押し込み、リベードはネクスチェンジャーにトランスフォンを装填して、ダイヤルを赤色の面に合わせる。

 

『『Are you ready?』』

 

 更に端末を操作する二人。

 

『OKAY. "KUUGA" DISPEL STRIKE!』

『OKAY. "GENM" CONNECTION BREAK!』

 

 全身に力が漲ってきたアクトは前方へと走り出し、パラレインに向かって行く。

 パラレインは彼に対抗しようといくつかの火球を放つ。それをアクトはパンチやキックによって跳ね返し、そして目の前まで来たところで、赤色と金色に光る右の拳でドライバーを殴りつけた。

 

「ハァッ!」

「!?」

 

 腹部を押さえながら後ずさるパラレイン。

 両手が離れたところでは、ドライバーに罅が入っていて、痛々しい印象をしている。

 

「今だっ!」

 

 アクトの合図でリベードはジャンプをする。

 すると足元に現れた紫色の土管の中に吸い込まれていき、土管の穴の向きが天井の方からパラレインの方へと移動したところで、そこからリベードが飛び出して来た。

 2つの剣先を先頭にして回転していることから、宛ら掘削機のようである。

 

「ハァァァッ!」

 

 剣とリベードで出来たドリルはパラレインの目前で回転を止めると、2つの刃で思いっきり刃を当てた。

 ずっと刃が減り込まれている胸部から火花が飛び散っている。

 痛みから一刻も早く逃げ出したいと思うのだが、後ろから誰かに押さえ込まれた。

 

「逃がさねぇからな……!」

 

 絶対に逃さないという意志を顕にして、前後から固定をする。

 

 するとパラレインから白い光が少しずつ放たれてきた。

 一体何なのだろうと思った彼等であったが、高々そんなことでこのチャンスを棒に振るわけにはいかないと、そのまま行動を続行する。

 

 暗い部屋の中で、白い光が美しく伸び始めた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その部屋がある荒廃したビルが爆散をしたのは、そこから数秒程してからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: How did she transform into a new shape?

A: By using the card that has the force of the genius.




完結まで、後3話。

言っておきますけど、これで終わりじゃないですよ!



【参考】
英語のオノマトペ(擬音語)一覧!日本語と比べて面白い|ENGLISH TIMES
(https://toraiz.jp/english-times/book/8910/)
仮面ライダーゲンム|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/kamen_rider_members/21)
檀黎斗|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/characters/63)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question110 What is the remaining number of monsters?

第110話です。
もう、思い残すことは何もありません……!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージ挿入歌】
PEOPLE1 - 銃の部品

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


?????

 何も無い砂漠の上に一つ、紫色の土管が設置されていた。

 ビルの群は姿を消し、道路は最早その役割を一切果たしていないにも関わらず、何故かそれだけが綺麗に残っている。

 

 そこから少し離れたところに降り立ったのは、パラレインであった。

 どうやら先に自らが起こした爆発から逃れられたらしいが、深傷を負っていることが影響して、以前のような覇気のある感じではなくなっている。

 

 彼奴が土管の方を見た時、穴の中から何かが浮かび上がってきた。

 ゆっくりと上昇をするそれが、自らを爆発に巻き込んだ二人であることが判ったのは、変身を解除した彼等が土管から降り立った時であった。

 

「本当にどうなるかと思った……」

「ああ。有り難う」

 

 実は爆発が起こる寸前、二人は碧が各々の足元に出現させた穴の中に吸い込まれ、事無きを得たのである。

 なので不利益を被ったのは、自爆した本人であるパラレインだけ、ということだ。

 

「argh!」

 

 パラレインが叫んだ。

 どうして自分がとった最終手段で、この二人は無事で、尚且つ自分だけがダメージを負ったのか。

 怒りに任せた叫びである。

 

 ならばと春樹はトランスフォンにクラックボックスをかざし、自身と碧のドライバーに移動をさせる。

 

「残り時間は後4分くらいだ」

「じゃあ。これが最後の戦いってわけね」

 

 透明なカードを手に取り、トランスフォンのスロットに装填する。

 

『"REVE-ED'N'ACT" LOADING』

 

「……行くぞ……!」

「……うん!」

 

『『Let's "UNITE"』』

 

 電源ボタンを押した二人はそれぞれポーズを決める。

 春樹は端末を持った右手を左側にゆっくりと持っていって、端末の画面が見えるように手をひっくり返す。

 碧は挙げた右手を下げて大きく両手を伸ばし、左手を右肩の前まで移動させる。

 

 そして二人は叫んだ。

 恐らく二度と口に出さない、出したくもない言葉を──。

 

 

 

「「変身!」」

『『Here we go!』』

 

 端末をドライバーに挿し込んだ二人は、パラレインの方へと走り出す。

 そこに彼奴は何発もの火球を撃ち込んで、爆発の渦の中に巻き込ませるのだ。

 

 だがそんなものに屈するわけもなく、仮面ライダーリベードンアクトは足を止めない。

 

『Release all and unite us! We’re KAMEN RIDER REVE-ED’N’A-CT!! It’s just the two of us.』

 

 リベードンアクトの右手とパラレインの左手が激突する。

 衝撃から周囲の砂が舞い散り、強い風が起こる。

 

 パラレインはすぐさま相手の背後に瞬間移動をし、蹴り飛ばそうと試みる。

 だがリベードンアクトはそれを察知したのか、それよりも速く動いてパラレインを宙空に放り出し、右足で地面に叩きつけた。

 

 再度砂煙が起こり、晴れた後に確認出来るのはよろめきながら立ち上がるパラレインの姿である。

 彼奴はこれで絶対に倒すという信念のもと、巨大な黄金の球体を作り出すと、地上に降り立ったリベードンアクトにそれを放った。

 

 確実に葬り去ることの出来る。

 そう考えたパラレインであったが、本人が弱体化していることと、二人が今までに無いくらいに強くなっていることを考えられていなかったようだ。

 

 リベードンアクトはアクトとリベードに分裂。

 それぞれがディスペルデストロイヤー チェーンソーモードを使って、巨大な球体を切断すると、細切れになった破片が地面に落ちて大きな爆発が起こった。

 

『"ACT" LOADING』

『"KUUGA" LOADING』

 

『"REVE-ED" LOADING』

『"GENM" LOADING』

 

 それぞれ2枚ずつ武器のスロットに装填すると、刃から斬撃を放った。

 

『『TWIN SLASH!』』

「「ハァァァッ!」」

 

 猛スピードで進むエネルギーの塊はすぐさまパラレインに激突し、爆発を起こす。

 かなりのダメージがきたらしく、立っているのがやっとの状態になってしまった。

 

 再び一体化した二人は武器を投げ捨て、クラックボックスを操作する。

 

「「これで終わりだ……!」」

『Are you ready?』

 

 宙空へと飛び上がるリベードンアクト。

 幾つものコピーがパラレインの周りを埋め尽くし、完全に逃げ場を失わせる。

 

 そして、遂にその時が来た。

 

『OKAY. "REVE-ED'N'ACT" UNITE EXPLOSION!』

 

 端末を押し込んだ瞬間、コピー達が一気に目標に向けて両足でキックをお見舞いして消えていく。

 尋常じゃない数のコピーに襲われただけでも耐えられない程であるのに、

 

「「おりゃあああああああああああああああ!」」

 

 最後には本人が両足を突き出した状態で、緑色と青色のオーラを纏うキックを食らわせようとする。

 それをパラレインはバリアを張って防ぐ。

 

 けれども威力はやはり絶大で、徐々に皹が入り、そして遂にバリアを破ってパラレインの身体を貫通。

 彼奴に背中を向ける形で地面に着地をしたのだ。

 

 暫く何が起こったのか処理しきれなかった。

 どうして人間如きに自分がここまで完膚なきまでにやられなければならないのか。どうして自分が敗れることとなったのか。どうして──。

 

 その結論が出される前に、パラレインの身体は眩い光を放って、そして──

 

 

 

「bawl!!!!!!!!!!!!!!」

 

 大きな爆発がリベードンアクトの後ろで起こった。

 爆風が背中を直撃し、若干の熱さを感じる。

 

 振り向くことは無いが、本能的に判った。

 

 ──これで、全てが終わった。

 

「やったな……」

「うん……! 急いであまねちゃんの下に帰らないと……」

「そうだな。……ただ……俺はもう限界だ……」

「……私も」

 

 ゆっくりと後方に背中を預ける。

 倒れた時、二人の身体は分離されて人間の姿へと戻っていた。

 

 何かが破れていくような音が聞こえてくる。

 そういえば、この世界が消滅するまで後2分くらいだったか。もう正確な残り時間は覚えていない。見たくもなかった。

 

「この際だから言い残したいことある?」

「何だよ急に」

「何となく」

 

 ただ白い空を見据えながら二人は話す。

 

「私はね、君といられて幸せだったよ。本当は、君といっぱい愛し合って、子供を産んで、巣立って行くまで沢山愛情を注いであげて、残りの人生を二人で過ごして、そして静かに死んでいくのが夢だったの……」

「だったらごめん……。その夢を、俺が捨てさせてしまった……」

「ううん。後悔はしてないよ。だって、あまねちゃんっていう可愛い娘がいるし。もう何も思い残すことは無いんだ」

 

 春樹には見えないが、碧の顔は清々しかった。

 黒い皹や白い光に次々と包まれていくこの世界の中で、彼女の笑顔はまるで青空の代わりを務めてくれているようである。

 

「ねぇ春樹」

「?」

「私……良いお母さんだったかな?」

「……当たり前だろ」

「なら良かった」

 

 暫く流れる沈黙。

 もうすぐ後1分になって、全てが終わる。

 だから、言いたいことを言わなければならなかった。

 

「あのさ……。俺、お前にプロポーズの言葉言ってなかったよな?」

 

 確かにそうだった。

 ホテルの中で指輪を手渡した際、緊張のあまり何も台詞を言うことが出来ず、結果として笑ってやり過ごして終わってしまった。

 

「今、言っても良いか」

 

 春樹が上体を起こしたため、碧も同じようにして向かい合う状態となる。

 すると春樹は碧の左手を両手で、自分の胸の高さまで持ち上げた。

 

「碧、いや、碧さん。俺は出逢ってから全てが変わった。親の愛を少ししか知らなかった俺に、家族の愛ってものを教えてくれて、任務を超えてこの人と一緒にいたいと思えた。永遠にこの時が続いて、あまねを含めた三人で幸せになりたいって思えた。君は俺の全てで、これからもそうであって欲しいなって思う。だから──」

 

 思わず最後の一言を言う前に溜め込んでしまった。

 後は言うだけなのだ。ただ一言を──

 

 

 

 

 

「生まれ変わっても、俺と結婚してください……!」

 

 碧は顔を下げてしまった。

 何かが破れていく音が聞こえている中で、新たに加えられたのは彼女が啜り泣く声であった。

 

「勿論だよ。どれだけ時間がかかっても、必ず君の前に現れて、君と幸せになるから……!」

 

 春樹に碧が見せたのは、屈託の無い笑顔だった。流れる涙も、その笑顔を強調するために必要不可欠である。

 

 笑い合う二人。

 誰から始めるわけでもなく、互いの唇を重ね合わせて相手の生きている証をこの身に刻み込むのだ。

 

 そして、眩い光と黒い皹が彼等を包み込んだ──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、一つの世界が消え、人智を超えた生物はいなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What is the remaining number of monsters?

A: 0




完結まで、後2話。



【参考】
英語のオノマトペ(擬音語)一覧!日本語と比べて面白い|ENGLISH TIMES
(https://toraiz.jp/english-times/book/8910/)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Question111 Will they be able to be together forever?

第111話でございます。
本編は今回で終了という形です。
因みに今日は1分後(21時31分)に最終回を投稿させていただくので、感想はまとめて其方の方にお願いします!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。


【イメージED】
米津玄師 - 恥ずかしくってしょうがねえ

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


2022.07.23 16:22 東京都 新宿区

 1ヶ月近くが経った。

 1年半近く都市を覆っていた巨大な屋根が突如として消えたにも関わらず、人々はまるで何事も無かったかのように生活を営み始めている。

 そのうち、人類を襲おうとしていた未曾有の危機ですら忘れているのではないだろうか。

 

 

 

 だが当事者達は忘れることの出来ない。

 ()()()から姿を消してしまった、二人の戦士のことを──。

 

 

 

 

 

「今日楽しかったね」

「本当だね。有り難う、連れて行ってくれて」

「こちらこそ」

 

 あまねと日菜太は手を繋ぎながら街を歩いていた。

 目の前の景色が歪んで見えるくらいの暑さであったが、二人の手で生まれる熱に比べればどうと言うことは無い。

 

 暫く歩いたところで、二人が着いたのは日菜太が住み込んでいるバイト先であった。

 デートに連れて行ってくれたお礼にと、あまねがそこまで着いて来てくれたのである。

 

「じゃあまたね」

 

 手を振って日菜太が店の中に入って行ったのを確認したあまねは、振っていた左手を下げて家路の方を向いて足を進めようとした。

 

 すると目の前に黒いセダンがあるのが確認出来た。

 いつもであれば、何だか変わった車が停まっているな、で終わるのであるが、ナンバープレートを確認したところでその車が誰の物であるのか判ったあまねは、其方の方まで歩いて行って、助手席の窓を叩いた。

 

 窓がゆっくりと開いたところで中を覗き、少々不機嫌そうに言った。

 

「何してるんですか? 岩田さん」

「デートの帰りだろ。送りに来たんだ」

 

 

 

────────────

 

 

 

「SOUPのオフィスと四谷遺跡は封鎖され、法務大臣や総理の許可が無ければ絶対に入ることは出来ない」

「……じゃあ、ライダーシステムは……?」

「春樹君と葵君の転送が成功した瞬間に全て破棄した。今まで作られたものは全て政府が極秘のところで保管をしている」

 

 もう後数分で自宅に辿り着く。

 その間、岩田はあまねに今のところ彼しか知らないであろうことを彼女に教えてくれた。

 妥当だと言えば妥当であったことに然程驚くことは無い。

 

 

「寂しくはないか? あの二人がいなくて」

「本音を言えば寂しいですよ。……けど、私はいつまでもあの家で待ち続けますから」

「そうか」

 

 二人がこの世界を去った数日後、あまねがふと食卓に置いてあった自身の預金通帳を見てみると、そこには数年分の家賃やこの先6年程必要な分の学費、そして生活費が振り込まれていたのだ。

 きっと自身らが帰って来なかった時のためにこのようにしてくれたのだろうと考え、あまねは独りで涙を流したのだ。

 

 だが彼女は家賃以外に一銭も手をつけていない。

 幸いにも高校では今何か金が必要な行事等は無いし、生活費の殆どは日菜太と一緒にアルバイトで稼いでいる。

 もしも二人が帰って来てくれた時に全額返す。ただそのためである。

 

「彼等は立派だったと思うよ。本来は自分達の両親を奪った化け物に対して、復讐のようなことをしようと思うだろうに、そうしなかった──」

「多分……あの二人はただ、自分と同じような人達をもう一人も生み出したくなかったんですよ。ただの復讐のためじゃ、あそこまで戦えない」

 

 車はマンションの方に続く商店街の中に入った。

 人がごった返しているためスピードは遅く、まだ後数分はかかる。

 

 なのであまねは、訊きたかったことを話すことにしてみた。

 きっと、これが最後になりそうな気がしたから──。

 

「一つ、良いですか?」

「?」

 

「もし……もし零号を倒した後もサーバーの中にエネルギーが残っている状態だったら、どうなる予定だったんですか?」

 

 作戦の詳細は後日、八雲から教えられた。

 異世界へ転送をされ、且つパラレインが此方の世界へと戻って来ていないということは作戦が成功したのを意味しているのだが、話をしていた彼の表情を見る限りでは、思い描いていたものと違ったらしい。

 春樹と碧が戻って来なかったことがその最大の理由だろうが、それでも気になってしまっていたのだ。

 

「余ったエネルギーでワープホールのようなものを開き、この世界に戻って来る計算だった。そしてもし、もし更に有り余っていたのなら──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼等を人間の身体に戻す予定だった」

 

 車の前に子供が飛び出して来たため、車は急ブレーキをした。

 衝撃で顔を下に向けてしまった二人。あまねは前ではなく、前方を見据える岩田の方に見上げた目線を合わせる。その表情は驚愕に満ち溢れており、数秒程言葉を詰まらせてしまう。

 

「どういうことですか? それ……」

 

「厳密に言えば、『人間に最も近い状態にする』だ。

 どう計算しても完全な人間にすることは不可能だ。見た目は永遠に変わることは無いし、強い攻撃を与えられなければ死ぬことは無い。

 だが寿命と、生殖行為によって子を成す能力の二つを身に付けた身体に変化させることは理論上可能だ」

 

 もし、もう二度と叶わないことだったとしても、そのことが聞けただけであまねは涙が出そうなくらいに嬉しかった。

 自分よりも早く娘が死んでしまう。それは最大の親不孝である。

 寿命が設定されていない彼等よりも先に自分が死んでしまったら。そう思うと彼女はいつも怖かったのだ。

 

 だがそれよりもあまねが気に掛かっていたのは、二人が子供を作ることが出来なくなったことだ。

 春樹と碧は自分を本当の子供のように愛してくれる。その愛に偽りは無いことは分かっている。

 けれども心の奥底では、自身らの血が繋がった愛の結晶が欲しいと思っているのではないか。それが一つ心残りになっていたのである。

 

「じゃあ……三人一緒に歳をとることは出来るんですか……?」

「それは、あくまで()()()()()()()()()()()()、の話だがな」

 

 そうこうしているうちに、車はあまねが住むマンションの前まで辿り着いた。

 車を出たあまねは軽く会釈をして、エントランスホールへと入って行く。

 

 そしてオートロックの扉を通って、エレベーターを使って6階に辿り着いた。

 

 鍵穴に鍵を挿れて回し、ドアを開けて家の中に入った。

 どうせ挨拶をしたとしても誰も何も返してくれないのだから、何も言う必要性というのはきっと無いだろう。

 なので無言でふと下を向いて、靴を脱ごうとした──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時に彼女は気が付いたのだ。

 

 出掛ける時には何も無かった玄関に、2足のスニーカーが置かれていることに。

 

「え……」

 

 そんなものを出した覚えは無いし、そもそもこれは自分が履いているものではない。

 一体誰のものなのかを察した彼女は、半信半疑ながらも靴を乱雑に脱いで駆け、リビングの中に入って行った。

 

 そこにいた二人の姿を見たあまねは一瞬、熱い外気によって見せられている幻覚のようなものではないのかと思ってしまった。

 けれどもクーラーが掛かるこの部屋の中でそんなことが起こるのはあり得ないと分かった瞬間、彼女はその場にへたり込んで泣き出してしまった。

 

 顔を両手で覆うあまねに二人は近付き、ゆっくりと抱き締める。

 全身に伝わる体温のせいで、彼女は更に涙が止まらなくなってしまうのだ。

 

 だが泣いているのでは、彼等を出迎えるのに失礼にあたる。

 

 だからあまねは両手で涙を拭い、屈託の無い笑顔で口を開くのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい」

「「ただいま」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現時点で未確認物質解析班が把握している

新型未確認生命体の残り総数

通常0体

B群0体

合計0体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Will they be able to be together forever?

A: Yes, they will.




完結まで、後1話。

裏話を書かせていただくと、春樹と碧はあまねの下には帰らないで、異次元を旅する某破壊者みたいな感じにする予定だったのですが、どうしてもあまねには幸せになって欲しいと思い、こういう結末になったというわけです。



【参考】
東京の過去の天気 2022年7月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220700/)
日の出入り@東京(東京都)令和4年(2022)07月 - 国立天文台暦計算室
(https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/dni/2022/s1307.html)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ
エピローグ


最終回です。
一先ず書きたいことは全て後書きで書かせて頂こうと思います。
長めの感想をくださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージ主題歌】
上原ひろみ - 上を向いて歩こう(「となりのチカラ」final episode)

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


 そしてそれから1年近くの月日が経った。

 屋根があったこと、怪物が自身らに牙を剥いていたこと、そしてそれに立ち向かう戦士がいたこと。

 皆の記憶から抜け落ち始め、そろそろ完全に消え掛かっている。

 

 だがそれで良い。

 それで良いのだ──。

 

 

 

 

 

「──せい」

 

 

 

 

 

「──んせい」

 

 

 

 

 

「碧先生!」

 

 意識が戻って来た。

 もう少し遅ければ、教卓に頭をぶつけていたのやもしれない。

 

 

 

 碧は去年の9月から私立の女子高校にて教師として働くこととなり、今はあるクラスの担任をしている。

 春樹やあまねも全く知らなかったことなのだが、実は大学在学中に特別免許状を取得したらしい。

 父も兄も失踪した当時の彼女は、ただやけくそに没頭出来るものが欲しく、高校時代の担任に推薦してもらって試験を受け、結果として取得をしたらしい。

 取っていた事実よりも、他の勉強や研究があった中でそこまでの成果を挙げられたことに二人が驚き、それに碧はニヤリと笑みを浮かべるだけだった。

 

 

 

「どうしたの先生? 今日滅茶苦茶調子悪いじゃん」

「うーん……そうねぇ……。朝からなのよ……」

「え、何? もしかして、旦那さんに()()()()()されたの?」

 

 生徒の発言に思わず咽せて赤面してしまうが、すぐに反論をする。

 

「き、昨日は別に、何もしてないよ!」

「『昨日は』ってことは、いつもはしてもらってるんだ〜」

 

 図星だ。余計に顔を赤くして、顔を両手で覆う。

 それに対して生徒達は声援を送って冷やかすのだ。

 

 だが決して彼女らは碧に舐めてかかっているわけではない。

 碧に対して敬意を払い、信頼しているからこそ、そういうことが出来るのだ。

 

「病院行ったら? 今日土曜日だから、終わったら行く暇あるだろうし」

「そうね……」

「あ、普通の内科じゃなくて、総合内科ね」

「え? 何で?」

 

「だって、()()()()()()()があるじゃん」

 

 

 

────────────

 

 

 

 小さなワンルームの中では大量の段ボールが積まれていて、導線がようやく確保出来るか否か、と言った具合である。

 段ボールの壁の中で、薫と圭吾は大きく伸びをした。

 

「これで、後は取り出すだけですね」

「えぇ。終わったーっ」

 

 

 

 薫と圭吾は戦いが終わった2ヶ月後に入籍をした。

 薫の実家はかなり固い家系であったことから、結婚を許してもらえるのか不安になっていたのだが、圭吾の経歴や二人の熱意だとかを知ったことで、何とかオッケーが出たのである。

 後日、既成事実を作っておいた方が良かったかもしれなかったですね、とお腹を摩りながら薫が言った時に、圭吾が冗談ではなさそうだと変な笑みしか出来なかったのは二人だけの秘密だ。

 そして薫がMITに就職が決まったがために、圭吾も現地の研究施設に就職をし、二人でアメリカに住むことになったのである。

 

 

 

「まずは、ノーベル賞を取らないとですね」

「薫さん、目標が大きいですね。けど、行けると思いますよ」

 

 微笑み合う二人。

 そして段ボールの中から同じマグカップを取り出して、コーヒーを入れて口をつける。

 

「ところで、『パンダ・プリンセス』の2期がアメリカで最速放送されるらしいですよ」

「え!? 本当ですか!?」

「はい」

「……一緒に、観ませんか?」

「はい! 喜んで!」

 

 ここから、二人だけの新しい生活が始まるのだ。

 いや、彼等の場合は暫くすればもう少し増えるかもしれないが。

 

 

 

────────────

 

 

 

「ねぇ。常田さんってイケメンじゃない?」

「解る〜! 結構顔良いよね!」

「彼女とかいるのかな? 羨ましいー!」

「けどさ……超ナルシストだよね……」

 

 物陰で八雲の後ろ姿を見つめる女性職員達がぶつぶつと言う。

 そんなことなど全く知らず、八雲は只管パソコンにデータを打ち込んでいくのだ。

 

 

 

 八雲は圭吾が以前まで勤めていたロボット開発の企業に就職をした。

 ライダーシステムを開発したその腕前を買われて、今は災害時に被災者の救出等を行うロボットの開発を行っている。

 先程の女性社員の言う通り、彼のナルシストさは社内に知れ渡っているようであるが、それでも彼自身が憎めない性格であることから、嫌に思う者は無いに等しいのだ。

 

 

 

「──よし! 流石、超ナチュラルスーパー天才だな、俺」

 

 パソコンにコードで接続されている銀色の個体の方を見る八雲。

 だが彼の目が見つめる先はロボットではなく、その横に置かれた緑色の写真立てだ。

 中には何処かの研究室で笑顔を見せながら並ぶ、八雲本人と花奈の姿がある。

 

「……お前を超える女がいないせいで恋愛も出来ねぇよ……。責任とれ」

 

 誰にも聞こえない声で呟く八雲。

 けれどもその顔の口角は上がっていて、彼女を憎んでいる様子は無い。

 

 そして暫く見つめた後、八雲は再びパソコンのキーボードを操作し始めた。

 

 

 

────────────

 

 

 

「班長、ご無沙汰しています」

「『班長』って……。私はもう辞めた身だがな」

 

 警視庁の廊下にて深月が森田に会釈をする。

 少し恥ずかしそうに森田はそれをやり過ごした。

 

「どうだ? 交通課の仕事は」

「順調にやっています」

 

 

 

 深月はあの後、警視庁の交通警備課に異動となった。フォルクローとの戦いにおける、作戦立案等の腕前が高く評価されたためだ。

 一方の森田は警察学校の教官となった。これからの警察組織を担う若者達の育成に努めるようにと命じられたのである。

 今日は森田が所用で警視庁を訪れたため、深月が会いに来たのだ。

 

 

 

「何と言うか、立派になったな」

「有り難うございます」

 

 森田の言う通り、深月はかなり成長したと思う。

 SOUPに配属をされた時の右も左も判らないであろう時期に比べれば、今の彼は自分の職務に誇りと責任を持って、日々目の前の仕事と戦っている。

 全ては、自分の仕事によって誰かの笑顔を守るためだ。

 

「ところで、春樹君は今どうしている? 警視庁にはいなかったが」

「あぁ。それなんですけど、春樹さん、警視庁辞めちゃったんですよ」

 

 

 

────────────

 

 

 

 閑散とした住宅街には異様な緊張感が走っていた。それらは全て、白い一軒家から流れ出ているものである。

 けれどもすぐにそれは消え、代わりに出て来たのはスーツを着た6人の男女であった。

 

「皆さん、本当に有り難うございました」

 

 この家の主婦であろう女性が一礼をしたので、6人も同じように一礼をすると、全員が外に停めてあった黒いワゴン車に乗ってその家を去って行った。

 

「いやぁ疲れた疲れた」

「無事にストーカー捕まって良かったですね」

「ホント。ウチらのおかげですね」

「あんまり調子に乗るな」

 

 走行中の車内で仲良く談笑をする彼等の職業は身辺警護、所謂SPである。

 今回はストーカー被害に遭った女性の警護を行い、犯人を確保して警察に通報をしたというわけだ。

 

「おい! 折角だし呑みに行こうぜ!」

 

 一人の男性職員の言葉で全員が盛り上がる。

 彼等の視線は、前方でスマートフォンをいじる者に向けられていた。

 

「椎名。お前も行くか?」

 

 視線が集中する先にいる男は言わずもがな、椎名春樹であった。

 

 

 

 彼は帰還した後、警視庁を退職した。家族と一緒にいたいから、という理由よりも、任務中にターゲットと私的な関係になった責任を自ら取るためである。

 そしてこの民間警備会社に転職をし、今はSPとしてこの五人と一緒に市民の安全を守っているのだ。

 公安出身であることは隠していたがために研修中、護身用のレーザー銃の扱いや武道に長け、尚且つ尾行や作戦立案に信じられない力を発揮したため、他のメンバーに驚かれたのはここだけの話だ。

 

 

 

「あー……。それなんですけど……」

「やっぱり、奥さんが厳しいか」

 

 この日は土曜日だ。

 休日ならば仕事が終わってすぐに早く帰って来て欲しいと家族が願うと思って、彼等は無理強いをしないつもりではいる。

 

「実は、これなんですけど……」

 

 震えた手でスマートフォンの画面を見せてくる春樹。

 それを見た全員が、表情に出さないメンバーもいたものの、全身に悪寒を感じて少し震え上がってしまった。

 

 何故なら──

 

 

 

────────────

 

 

 

 帰って来たらお話しがあります。午後4:24

 

 

 

「これ、大丈夫なやつだよね……?」

「うん。きっと大丈夫だと思う」

 

 同じく震えながらスマートフォンの画面を見せるのは、ぎゅうにてバイトをしている真っ最中のあまねであった。

 厨房で特製のレモネードを作っていた日菜太の背中にも寒気が走り始めるが、彼女を落ち着かせるためにそんなことを言っているのだ。

 

「今までこんなこと無かったからさ……。パパとママが喧嘩したわけでもないし……」

 

 家族のグループLINEにこんなものが送られては、心臓が跳ね上がらない方がおかしいとまで思えてしまう。

 

「バイトが終わるまで後15分だから、今はそっちに集中しろー」

「そうそう。碧さんのことだから大丈夫だって」

 

 厨房に来た新井夫妻もあまねを宥める。

 家路につけるまで残り15分。楽しいバイトの時間が地獄のような時間に変わった瞬間であった。

 

 

 

────────────

 

 

 

「俺、何かやらかしたか?」

「大丈夫。パパはいつも通り理想のお父さんだったよ」

「なら良いんだが……」

 

 エレベーターの中で春樹とあまねは戦々恐々としていた。

 一体何を言われるのか。まさか……。

 

 最悪な漢字2文字が脳裏に浮かび上がって来たところで、エレベーターは6階に着いて扉を開いた。

 本当に嫌な予感がしてならない。

 

 家の中に入った二人は狭い歩幅でゆっくりと歩き、リビングの中に入る。

 

「「ただいま……」」

「お帰り」

 

 いつもより声のトーンが低い。

 本当ならとびきりの笑顔で出迎えてくれる筈なのに。

 

 ──これは、本当に不味いやつだ……!

 

 立ち上がった碧がゆっくりと近付いて来る。

 恐怖のあまり春樹とあまねは全く動くことが出来ない。

 

 すると碧は突然二人をゆっくりと抱き締めた。

 突然のことに全く対応が出来ない。

 

「ど、どうしたのママ!?」

「何かやられたのか……!?」

 

「……お腹、触ってみて」

「「え?」」

「いいから」

 

 恐る恐る碧の腹を触る春樹とあまね。

 特に変わったところは無い。

 そこでどうしてそんなことを言ったのか、二人は考えを巡らせた。

 

 そしてある一つの答えに辿り着き、碧のことを抱き締め返した。

 

「そっか……良かった……」

「うん……。やったね、ママ……」

 

 春樹とあまねが涙を流し始めたため、どうして私より早く泣くの〜、と碧は笑い泣く。

 更に互いを抱き締め合って、喜びを噛み締めるのだ。

 

「ねぇ春樹、あまねちゃん」

「「?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幸せになろうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

This story finished.

But, their life ends.




ここまで読んでくださった皆様、本当に有り難うございました!
おかげさまで約1年続けることが出来ました。

次回作(https://syosetu.org/novel/324255/)の更新は10月下旬になると思われますので、お気に入り登録をしてくださると有り難いです。
宜しくお願いいたします。

では、また何処かで。

志村琴音


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 10~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。