モモンガさんが大好きな小さな守護神 (アテナ(紀野感無))
しおりを挟む

プロローグ 異変

モモンガさんと一日中一緒にいれると思ったのに病院が長引きすぎて大変な目に遭ってます。

モモンガさんにはメールを送っておいたけど大丈夫かな。
怒ってないかな。

とにかく急げ急げ。


「(やばいやばい。こんな時に限って……なんで最悪のタイミングって重なるんだろう)」

 

時計を見ると予定の時間まで残り15分程度。ここからパソコンをつけてゲームを起動してログインして、となると予定時間まで10分残るか残らないか。

 

「(モモンガさん、怒ってないといいんだけど……)」

 

ゲーム『ユグドラシル』を起動しログインする。

案の定少し時間がかかり余計冷や汗が出る。

 

「(最後なんだし、色々と写真撮ったりしたかったのにな。それに……モモンガさんにも伝えたいことたくさんあったのに)」

 

数分経って景色が切り替わる。

 

そこに広がっていたのは一面雪景色。

間違えようもない私が作った場所。

 

本当なら吹雪が絶えず吹いている場所な筈なんだけど、ここ暫くは切っている。

 

「(っと、そんなことはどうでも良いんだ。モモンガさんは……第9階層かな?)」

 

ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の本拠地、ナザリック地下大墳墓の9階層へとある指輪を使い転移をする。

 

この指輪を使うのも最後だと思うと、寂しい気持ちになるなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

〜第九階層〜

 

「ふざけるなっ!」

「(ビクッ)」

 

とある事が起き、思わず激情を机にぶつけてしまう。ドカッという音と共に戦闘不可領域を示すバナーが現れる。

それと同時に俺の目の前に転移してきた人が1人いて驚かせてしまった。

 

「あっアテナさん⁉︎来てくれたんですね!」

 

「?」

 

「あっ、そうだった。えーと……『来てくれてありがとうございますアテナさん。あと驚かせちゃってすいません』」

 

『いえいえ。怒られてもしょうがないですから。今日はずっと一緒にユグドラシルにいるって約束したのに……こんなことになってしまって』

 

ある事情から彼女に対して会話ではなくチャットを使う。驚いたのは、恐らくだが転移した直後に目の前に拳が振り下ろされたからだろう。気をつけなければ。

 

『いえ事前に教えてくれていましたから怒ってませんし気にしてませんよ。来てくれて嬉しいです』

 

『私こそモモンガさんと会えて嬉しいです。他の人……と会う時間がなくなっちゃったのは悲しいですが』

 

そうチャットを打ち込んだ後にアテナさんの近くに悲しい顔のマークが連打されていた。思わずふふっと笑ってしまったが気づかれていないだろう。

 

『アテナさんはこの後ずっと?』

 

『はい。せめて最後の時まではモモンガさんと一緒に、と思ってます』

 

『ありがとうございます。本当に嬉しいです』

 

『いえいえ。それでこの後の予定はありますか?』

 

『ギルド武器持って玉座の間でスクショを撮って最後はゆったり過ごそうかなと』

 

『お、いいですね。どうせなら私も完全武装しちゃいますか』

 

『良いですね、やっちゃいましょう』

 

アテナさんも了承してくれ、ギルド武器を手に取る。俺の横でアテナさんも全身をアテナさんが1から-素材集め及びデザイン、果てには気の遠くなるような周回まで-心身こめて作った神器級(ゴッズ)アイテムで固めアテナさん専用と言っても差し支えない世界級(ワールド)アイテムの盾を装備する。

その姿は昔のゲームのキャラクターまんまだとか。

 

エメラルドのような煌びやかな長髪に金色の瞳、純白のドレスに紅い色を基調とした頭飾りを右側頭部に。

腕と脚はドレスとは対照に純黒の鎧がついていて金色で装飾されている。

盾は蒼を基調とした深い海をイメージしたような円形の盾で『守護神の象徴』という名前の世界級(ワールド)アイテム。が、アテナさん以外使用できないし使えたとしても出来ることといえば状態異常の完全無効化、自身の防御力の増加、ヘイトの増加などなのでいわゆるなんちゃって世界級アイテム。

 

 

 

信じられないかもしれないが、彼女はこれらの所業を、課金勢でも中々出来ない廃人の領域を

 

()()()()()()()()()状況下でやってのけたのだ。

 

これは彼女の体に纏わる問題故、とてもデリケートなのでまた後日話すとして…

 

 

『準備できました!』

『では、行きましょう。他のNPCも連れてきて良いんですよ?ほら、アテナさんが作った子達とか』

『そうしたいのは山々ですが、時間無くなっちゃいそうなので。それにあの子達のスクショは沢山あるので大丈夫!』

『わかりました』

 

アテナさんがビルドした2体の第三階層守護者とその姉妹達。

俺と同じく強さよりもロマンを追い求めたNPC。

 

『私以外って誰か来たんですか?』

 

『沢山来てくれましたよ。ぶくぶく茶釜さんにペロロンチーノさん、やまいこさんに。流石に明日も仕事な人ばかりだったのですぐログアウトして行っちゃいましたが』

 

『いいなぁ、私も会いたかったなぁ』

 

『タブラさんや女性陣の方々もアテナさんに会いたかったって言ってましたね』

 

そんな他愛もない話をしながら玉座の間に向かう。

途中で見つけた戦闘メイドのプレアデス姉妹をみてあることを思い浮かびアテナさんにチャットをする。

 

『アテナさん、プレアデス達も玉座の間に連れて行っても良いですかね?』

 

『良いと思いますよ。最後ですからやりたい事は全部やっちゃいましょう』

 

『ありがとうございます』「えーと、なんだっけな。確か…『付き従え』」

 

コマンドを唱えると執事長の大柄な男のセバス・チャンを筆頭にメイド達が後ろに付き従って歩く。

暫くして玉座の間の大きな扉の前に辿り着く。

 

アテナさんが扉を開け、俺に向かって軽いお辞儀をして固まる。

一瞬何をしているのか分からず何をすれば良いのか分からなかったがその後のチャットで全てを察した。

 

『ギルド長モモンガ様。こちらへ』

『うむ。ご苦労』

 

そう、RP(ロールプレイ)だ。

 

アテナさんに先導され唯一ある椅子に座り、アテナさんが直ぐそばに控えるように立つ。

 

『モモンガ様、今日(こんにち)までご苦労様でした』

 

『うむ。其方もナザリックの守護という大役、大義であった。其方のお陰で安泰だったといえるだろう』

 

『勿体なきお言葉』

 

アテナさんはナザリック地下大墳墓の守護神(という設定)な為、あくまでもギルド長の俺よりは立場は下(もちろん形式上なだけで上下関係など無いに等しい)。だからこそアテナさんは俺に敬語を使って喋っているし俺は長として接する。

 

残り3分程度となった事で互いに満足し、お互いに正面を向く。

そこに居たアルベドのキャラ設定を開いて見てしまい、アテナさん共々ドン引きし、最後の一文に『ちなみにビッチである』と書いてあるのを発見し、どうせ最後だからとアテナさんに提案(というか強引に)されて『モモンガを愛している』に変更したりした。

 

 

最後に眺めたのは掲げられている旗。

それらは嘗て居たギルドメンバー達を象徴する旗。今までの楽しかったことを思い返し、思わずリアルで涙が出そうだった。

 

『モモンガさん』

 

『はい?』

 

唐突にチャットを打ち込まれる。

 

 

『楽しかったですか?』

 

『ええ、とても楽しかったです。ここは、ここのみんなは、ギルメンのみんなは、俺の宝です。勿論アテナさんも』

 

『ふふっ、ありがとうございます。私も、とても楽しかったです。悪質プレイヤーに騙されていた私を救ってくれて、ここに招き入れてくれて、耳の聞こえない私をずっと助けてくれて、本当に感謝してるんです。‥‥最後に、1つだけお伝えしたい事があるんですが、良いですか?』

 

『はい、なんでしょう?』

 

軽く時間を確認するとサービス終了時間まで残り1分切っていた。

何かあるのなら早く、と思っていたがアテナさんからの言葉はまだ来ない。

 

残り30秒となったところでアテナさんは俺の真正面に立ち、抱きついてきた。

セクハラ警告が出ると思い焦ったが、そんなものは出なかった。

 

 

 

 

『大好きです。モモンガさん。人としても、異性としても。私は、貴方と出会えて幸せでした』

 

 

 

突然そんなことを打ち込まれる。

その時の俺の焦りようはとんでもなかった。

 

もう何が何だかわからず頭がショートした。

が、それ以上の何かが俺の中を支配していた。

 

 

 

 

いやだって当たり前だろう⁉︎生まれてこの方女性にモテた事ない人間がこう言われたら誰でも頭ショートするって!

 

 

 

 

『ふふっ。最初で最後の告白、です。モモンガさん、貴方に助けられた日から私は貴方が好きでした。ですがもう叶わない恋なのはわかっています。ですので、これだけはお願いしたいです。

 

私を、覚えていてくださいね。貴方を愛した1人の女性として』

 

 

『アテn……』

 

 

言いたいこと、伝えたい事は沢山あったが時間が来てしまったらしく、チャットが強制的に落ちると同時に視界が暗転する。

 

 

ずるい、ずるいですよ。自分だけ言いたいこと言うだけ言ってさよならなんて。

 

 

 

返答の時間くらい、くれても良いじゃないですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

「?」

 

それから色々と考えていたはずだった。

直ぐにアテナさんの連絡先を探して連絡とって、とか答えとかどうするべきなんだ、とか色々と考えていたのに、いつまで経ってもログアウトされない。

 

「(なんだ?延期にでもなったのか?とりあえずGMコールを……)」

 

と、そこでようやく異変に気づいた。

GMコールができない。なんならコンソールすら開かない。

 

隣をチラッと見てみるとアテナさんも同じようで何回も手を動かしていた。

 

「アテナさんにチャットで……って、チャットすら出ない。どうすれば良いんだよ⁉︎」

 

「(ビクゥ!)」

 

思わず叫んでしまうとアテナさんがびっくりしていた。

 

「あ、ごめんなさいアテナさん。って、彼女耳が聞こえない……」

 

「????」

 

 

「どうかされましたか、モモンガ様。アテナ様」

 

 

ただでさえ何が何だかわからず混乱しているところにさらに追い打ちをかけるように、聞こえるはずのない声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

意味がわからない。

何が起こったの。

 

サービス終了間際に告白するとか言う大迷惑なことをした罰?

 

にしては手が混みすぎている。

 

全くコンソールが開けないしログアウトができるのかどうかすら不明だと言うのに、なんの因果か()()()()()()

 

生まれつき耳の聞こえない私はゲームの中ですら無音の日常だったはず。

 

それが急に聞こえるようになった。

周りが何かを喋っているのはわかる。

 

けど言葉として理解ができない。

 

 

音を聞いている、と言うよりは耳の中から殴られてる、と言った感覚に近いかもしれない。

 

 

「☆×¥*♪3+〒÷^7÷」

「+々<÷々^<*→%÷9〒×$」

 

 

ようやく音が響いてくると言う事象に慣れ始めた頃に執事長のセバスプレアデスを連れて何処かへ行く。その際に私に向かって何かを言ったのはわかるが何を言ったのかわからない。

 

 

 

私はとてつもない恐怖のようなものを感じていた。

 

 

 

聞こえる全てのものが意味わからず、私に何かをしようとしているように感じてしまったから。

 

 

 

「○々♪%8^$4<々$?」(アテナ様どうされたのですか?)

「<×%々^・4%♪々<○」(アルベド、アテナさんのことは私がなんとかする。先に階層守護者を集めておいてくれ)

 

アルベドが何かを話した後にどこかへ消える。

 

何、何が起こってるの。

 

 

 

 

こわい。

 

私が、何をしたって言うの。

 

 

 

 

 

 

「えーと、確か……第一位階の魔法で……あったあった」

 

未だ怯えてるアテナさんを横目で見ながらとある魔法のスクロールを2つ取り出し、片方をアテナさんの前にそっと、音を極力立てないように置く。

 

先に自分で使い魔法を発動させる。(その際の発動音でさらにアテナさんが怯えてしまったが)

 

そして空中に指を走らせる。

 

『アテナさん、このスクロール覚えてますか?』

 

それを見た途端にアテナさんの緊張が少し和らいだように見えた。そして少し怯えながらもスクロールをつかってくれる。

 

なんてことない。『空中に文字を書く』だけの魔法だ。

 

『ももんがさん、これ、いったいなにが』

 

未だアテナさんの手は震えていて字も上手く書けていなかった。が、なんとか読み解く。

 

『俺にもわかりません。アテナさんどうしたんですか?ものすごく怯えてるように見えますが』

 

『わたし きこえないなのに おとがきこえるんです みんな なにいってるのかわからなくて みみのなかからなぐられてるようなかんかくで すごいこわくて』

 

震える手で文字を綴っているアテナさんは今にも泣きそうだった。

これは、どうすれば……

 

『アテナさん。ひとまず提案なのですが俺の魔法でアテナさんの聴覚を封じる、と言うのはどうでしょう。そうすれば音が聞こえるようになったことによる恐怖は少しは和らぐと思います』

 

本当ならこんなことしたくない。が、これ以上音のある状態にしてしまうとアテナさんが倒れてしまいそうだった。

魔法も直感だが扱えるという自信があったからこその提案だった。

 

 

確かに今まで音の無い生活をしていて、それが当たり前になっていたのに、急に意味不明な事態に巻き込まれ、音が鮮明に聞こえるようになると怯えもするだろう。

 

 

そんな簡単なことにどうして直ぐ気づけなかったのか

 

 

『それと、大丈夫ですよ。ここのみんなアテナさんの味方です。昔みたいに傷つける人なんていません』

 

『わかり ました。ももんがさん、おねがいします』

 

『はい。少し不快な感覚があるかもしれませんが我慢をお願いします』

 

俺が文字を綴り終えるとアテナさんは首を縦に振ってくれる。

できる限り静かにしているからかだいぶアテナさんの怯えは取れてきたように見える。が、まだ油断は禁物だろう。

 

他に何をすべきかを考えているとアテナさんが再度文字を書く。

 

『ももんがさん なんで アルベド しゃべってたんですか?』

 

『俺にもわかりません。ですが他のNPCの反応を見るに、NPCが自我を持った、そう考えるのが妥当だと思います』

 

『わか りました それと ももんがさんって手話できますか』

 

『手話、ですか。申し訳ないです。手話はわからないんです』

 

『だ、だったら わたしのつくったNPCのエミヤをつれてきてもらえませんか。エミヤなら、手話ができるかも』

 

『ふむ。わかりました。では、魔法をかけますね』

 

『はい』

 

 

コンコン

「モモンガ様、アルベドでございます。入室してもよろしいですか?」

 

 

「ッ⁉︎」

「(しまっ)」

 

突然ドアを叩く音とアルベドの声が聞こえてくる。それによりアテナさんがまた怯えてしまった。

さっきよりは少しマシにはなっていたが、今にも泣きそうなので急いで文字を書く。

 

『アテナさん、耳を思い切り塞いでください』

 

それでアテナさんが耳を塞ぐのを確認して扉の向こうにいるアルベドに話しかける。

 

「すまないが後にしてくれ。要件だけ聞こう」

 

「ハッ。守護者各位、第六階層へ集まりましたのでそれのご報告に参りました」

 

「わかった。直ぐに行く。それとその場におそらくだがエミヤも居合わせるのでそれを伝えておいてくれ」

 

「それはまた何故でしょうか?」

 

「アテナさんの希望だ。場合によってはアテナさんの横につきっきりになる可能性もある。異論は認めん」

 

「畏まりました。ではそのように伝えておきます」

 

足音が扉の向こうから聞こえなくなり、アテナさんの肩を叩く。

 

一瞬ビクッとなっていたが恐る恐るこっちを向いてくれる。

 

『失礼しました。では魔法の方をかけますがよろしいですか?』

 

『はい よろしくおねがいします』

 

それを確認してから魔法を使う。

 

魔法最強化・持続時間延長化(マキシマイズ・エクステンド・マジック)無音の世界(サイレント・ワールド)




開いてくださりありがとうございます

n番煎じのオリジナル至高の御方とモモンガさんが転移するお話です

実は前に一度似たような作品を私が読んでいました。
その方はとある事情から物語を書くことをやめてしまっていたんですが最近コンタクトを取ることができました

それから話していて物語のプロットを頂けることになりました。
更新頻度は遅いですがゆっくりと、ひとまずはシャルティア戦を終点として書いていきます

よろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1話 あの、忠誠の儀って何ですか。

PN アテナ 異形種
カルマ値 +100

種族レベル
・守護神(Lv5)
門番の智天使(ケルビム・ゲートキーパー)(Lv5)
恒星天の熾天使(セラフ・エイススフィア)(Lv5)
・戦女神の血を引く者(Lv5)
他10レベル 計30レベル

職業レベル
・ガーディアン(Lv15)
・聖騎士(Lv5)
・神槍使い(ランスマスター)(Lv5)
・盾使い(Lv15)
・ワルキューレ・ランス(Lv5)
・ホーリー・パニッシャー(Lv5)
他20レベル 計70レベル

とある事情からアインズ・ウール・ゴウンに加入した42人目のギルメン。
防御方面に長けていて、数分程度ならギルメン最強と名高いたっち・みー相手も、なんとか、ギリギリ、もしかしたら耐えれるかもしれない。

魔法における攻撃が不得意な代わりに盾と槍を使った前線を張るのがメイン。特に槍の扱いはギルメン達にも一目置かれていた。

けど真価を発揮するのはレイド戦などの仲間と共に戦う時で、味方へのバフ、防御系バフ、ヘイト管理、ヒーラーなど様々なことができる(勿論純粋なヒーラーと比べたら回復量は低い)

超位魔法

『守護神の祝福』
自分のHPの9割を犠牲にしてパーティ全員のステータスを底上げ、HP全回復、デバフの完全解除、一定時間無敵付与を行う。

『アイギスの神光』
種族関係なく相手に特効効果のあるダメージを与える。ダメージは本人の魔力などに左右される。
が、もちろん別の超位魔法(フォールンダウンなど)と比べると、同じ条件下で放った場合ダメージ的に見劣りはする。

『天使の宴』
熾天使クラスの天使を5体召喚する。中身はランダム。
ごく稀に『至高天の熾天使』が召喚できるとか何とか。


「モモンガ様、アテナ様!どうされたのですか?」

 

「すまない。エミヤはいるか?」

 

「エミヤ様ですね。少々お待ちください。直ぐお呼びします」

 

食堂に来ると全員が全員直立不動になりお辞儀などをしてくる。が、今はそれに反応している余裕はなかった。

 

魔法をかけたアテナさんはだいぶ落ち着いたようで俺のそばから離れようとはしないが食堂にいたメイド達とは普通に会釈をしていた。

 

そんな中から現れたのは1人の赤い外套を纏った浅黒い肌の男。『サーヴァント・エミヤ』

レベルは50程度で食堂を管理するアテナさんの作ったNPCの1人なはずだ。

 

「これはこれはギルド長殿。私に何か御用でしょうか」

 

「エミヤよ。アテナさんに聞いたのだがお前は手話というものが出来るのか?」

 

「手話ですか。ええ勿論できます。ですがそれが何か」

 

「なら話は早い。現在緊急事態につき第六階層に守護者を集めている。その場でアテナさんの補佐を命ずる」

 

「承った。して、我がマスターのアテナ様はどうされたのですかな。私、何か怯えさせるような事した記憶がないのですがね」

 

「すまないな。アテナさんはとある理由から聴覚を奪ってあるのと、少し周りに恐怖を抱いている。もう少ししたら落ち着くとは思うが…」

「成程。つまりは耳の聞こえないマスターに手話で情報を伝え、アテナ様の言葉を私めが皆に伝えれば良い、と」

「そういう事だ。できるか?」

「勿論ですとも」

「よし。じゃあ私の傍へ。共に第六階層へ転移する」

「承知した」

 

 

 

〜第六階層〜

 

転移するとそこには階層守護者という地位に設定したNPCのほとんどがいた。こうして改めて並んでいるのをみると圧巻だった。

 

「それでは皆、モモンガ様、アテナ様へ忠誠の儀を」

 

アルベドの一言から俺の知らない何かが始まった。

チラッと横目でアテナさんとエミヤを見てみると何か暗号のようなものを手で作ってやりとりしていたから、多分伝わっているんだろう。そのせいか、目が点になっているというか、驚いているというか。

 

「第一、第二階層守護者。シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」

 

「第三階層守護者。シグルド。御身の前に」

「同じく…第三階層守護者……ブリュンヒルデ、御身の…前に」

 

「第五階層守護者。コキュートス、御身ノ前ニ」

 

「第六階層守護者。アウラ・ベラ・フィオーラ」

「お、同じく第六階層守護者。マーレ・ベロ・フィオーレ」

「「御身の前に」」

 

「第七階層守護者。デミウルゴス。御身の前に」

 

「守護者統括。アルベド。御身の前に。

第四階層守護者ガルガンチュア、第八階層守護者ヴィクティムを除き各階層守護者、御身の前に平伏し奉る。

 

ご命令を、至高なる御身よ。我らの忠義全てを、御身に捧げます」

 

 

 

 

先に一つだけ言っておきたい。

俺は現状確認がしたかったのであって決してこんなことは命令していない。本当だ信じてくれ。

 

だからアテナさん、俺がやらせたのかみたいな目で見ないでください。

 

 

 

「……面を上げよ」

 

その際に緊張して力んだからかスキル「絶望のオーラ」が出てしまう。

 

「(って、絶望のオーラ出してどうすんだ俺!)よく集まってくれた。感謝しよう」

 

「感謝など勿体無い!我らモモンガ様、アテナ様にこの身を捧げた者達。モモンガ様達からすれば、取るに足らない者でしょう。しかしながら、我らの創造主たる至高の御方々に恥じぬ働きを誓います」

「「「「「「「誓います」」」」」」」

 

 

 

『と、言っている』

『ありがとう エミヤ。けど、どうして、みんな私とモモンガさんを慕ってるの?』

『それはそうだろう。マスターとギルド長殿は姿を隠していった御方々が多い中、最後まで私たちを見捨てないでくれていた。だからこそ敬い、慕い、己の全てを賭けて望みを叶えようとする』

 

エミヤがそう伝えてくれるがまだ実感が湧かない。だって私の場合ってみんなが大切、というよりはモモンガさんに会いたくて来ていただけだから。

 

けどそれを伝えるのも悪いと思って私は手を止めた。

 

「素晴らしいぞ!守護者達よ!お前達ならば、失態なく事を運べると強く確信した!

 

さて、現在ナザリック地下大墳墓は原因不明の事態に見舞われている。セバスに捜索させているのだが」

 

モモンガさんが横を見るといつのまにかセバスがそこに立っていた。

 

 

モモンガさんに言われて頭の中では分かってはいたけど、未だにこのNPC達が自我を持っているなんて信じられていない。

エミヤと話していてもいまだに実感が湧かない。

 

 

 

実は夢なのではないか、実はみんなプレイヤーで私に、私達にドッキリでも仕掛けてるんじゃないか、と。

 

 

 

 

「草原?」

 

「はい。嘗てナザリック地下大墳墓があった沼地とは全く異なり、周囲一キロに人工建築物、人型生物お呼びモンスターの類は一切確認できませんでした」

 

「ご苦労だったセバス。ナザリックがなんらかの理由で何処か不明の地へ転移してしまったのは間違いないようだな。

守護者統括のアルベド、並びに防衛戦の責任者であるデミウルゴス」

 

「「ハッ」」

 

「両者の責任の元で、より完璧な情報共有システムを作り、警護を厚くせよ!」

 

「「「「「「「ハッ!」」」」」」」

 

 

……うん、私、蚊帳の外。というか、何も言うことがない。いや、できない。

 

その後もマーレによるナザリックの隠蔽案やその他ナザリックを守るための命令をモモンガさんが出していった。

私がちゃんと理解できているのはモモンガさんが逐一、エミヤが私に伝え終わっているのを確認してから次のことを話してくれているから、まだ置いてけぼりにはされていない。うん、多分。

そしてモモンガさんが不意に私の方を向く。

 

「アテナさんは何かありますか?」

 

うーん……。なにか、といわれても……。

と、そこで一つ思いついてエミヤに手話で伝える。

 

「ナザリック防衛策というよりは周辺監視システムについて、ブリュンヒルデの妹達を使えば良い監視システムが出来ると思う、とのことです」

 

「ふむ、具体的には?」

 

「…………。ブリュンヒルデの三つ子の妹の誰かに分身体を作らせ、周囲に展開させるのはどうだろうか、と。分身体と視覚、聴覚などの共有ができると思うから、と。また強さはそれほどではないにしろ三つ子及びその分身体は隠密に長けているから見つかる可能性は低いと思う。だそうです」

 

「なるほど。ブリュンヒルデ、その三つ子の妹達と分身体との五感の共有が出来るというのは確かか?」

 

「勿論です…。モモンガ様。ご命令してくだされば、すぐにでも妹へ命じて来ます……」

 

「ではブリュンヒルデは妹達へその命令の伝達を。分身体は何体まで作り出せる?」

 

「最大で1人につき100体ほどかと……。なので、全て合わせれば300程度となります」

 

「ふむ。では念のために全員に分身体を最大まで作らせておいてくれ。うち1人を中心にナザリックを中心に展開させ監視システムを作れ」

 

「ハッ。御心のままに……」

 

どうやら私の案は採用されたらしい。あーよかったぁ。

 

 

「では最後に各階層守護者に一つ聞こう。

 

まずはシャルティア。お前にとって私とアテナさんはどのような人物だ」

 

そんな事をモモンガさんは突然言ったらしく、なぜか私は緊張して背筋がピンっとなってしまった。

 

「モモンガ様は美の結晶。まさにこの世で最も美しい御方でありんす。アテナ様はまさに女神。その佇まい1つでさえ見惚れてしまいそうでありんす」

 

やめて、恥ずかしい。私そんなに立派じゃないし女神じゃないから。

 

「シグルド」

「モモンガ様は死の化身と評するに値する唯一無二の存在。そして私が唯一アテナ様以外に忠誠を誓える存在です。

アテナ様は正に守護神と呼ぶに相応しい方。しかしながらその戦う様は正に戦乙女。この世で最も高貴なお方です」

 

「ブリュンヒルデ」

「モモンガ様は……慈悲深く、お優しい……。

アテナ様は……私達を創造して下さった、敬愛すべきお方…」

 

「コキュートス」

「モモンガ様ハ守護者各員ヨリモ強者デアリ、正ニナザリック地下大墳墓ノ絶対ナル支配者ニ相応シキ方カト。

アテナ様ハ我ラ守護者ノ誰ヨリモ守護ヲスルコトニ長ケテオリ、正ニ守護神トハアテナ様ノ事ダトオモッテオリマス」

 

「アウラ」

「モモンガ様もアテナ様も、慈悲深く配慮に優れたお方です」

 

「マーレ」

「と、とってもお優しい方々です」

 

「デミウルゴス」

「モモンガ様は賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力を有される方。正に端倪すべからざるという言葉がふさわしき方です。

アテナ様の戦闘は美しく、気高い。その美しさは至高の御方々を除き横に並ぶものはいないと断言できます。正に女神そのものと言えましょう」

 

「セバス」

「お二人とも最後まで私達を見離さず残って頂けた、慈悲深き御方です』

 

「最後になったが、アルベド」

「モモンガ様は至高の方々の最高責任者であり、私共の最高の主人であります。そして私の愛おしいお方です。

アテナ様はそんなモモンガ様をずっと横で支えておられた、敬愛すべきお方です」

 

何ですかこれ、どんな罰ゲームですか。

恥ずかしすぎて耳が真っ赤になりそう。

 

「各員の考え方は理解した。今後とも忠義に励め」

 

「「「「「「「ハッ!」」」」」」」

 

「ではアテナさん。また後で会いましょう」

 

「(え?)」

 

そうしてモモンガさんは私を残してどこかに転移してしまった。

 

 

 

 

 

……え?

 

 

 

 

 

「(ちょ、何で私だけ残すの⁉︎)」

 

思わずそんな事を思ったけどモモンガさんはもうこの場にはいない。

どうすれば良いのかわからずチラッと守護者達を見ると私をじっと見つめている。

 

うぅ……。

やめて、私そんなすごい人じゃないんです。

 

でもみんな何か期待してるっぽいし、言ったほうがいいのかな……。

 

しばらく葛藤して意を決し、エミヤに手話をする。

 

『エミヤ、守護者達に…………………って、伝えてくれる?』

 

『承知した』

「守護者各員殿。アテナ様から各員へ伝えたいことがあるそうだ。また、俺が代わりに伝えていた理由はまた後ほど守護者統括殿へお教えするのでそちらに聞いてほしい。

 

まずはシャルティア殿。私のことを女神のようだと言ってくれてありがとう。これからもそれらしく頑張る、との事だ」

 

「私如きに御礼など勿体無いでありんす!」

 

「次にブリュンヒルデ、シグルド殿。確かめたいことがあるから後ほど第三階層へ行く。また、手話ができるようであれば話したい事もある、との事だ」

 

「承知しましたマスター」

「承りました……」

 

「コキュートス殿、時間があれば手合わせをお願いしたい、との事だ。曰く、まともな戦闘をここ最近していないのと体の感覚に慣れるために戦闘経験を積んでおきたいとの事。それでご指名だ」

 

「承知シマシタ。有難キ幸セデゴザイマス!」

 

「アウラ殿、マーレ殿にはコキュートス殿と手合わせをする際にコロシアムを使わせてほしい、との事だ。また、アウラ殿の使役獣やマーレ殿のドルイドの力を一度見てみたいと」

 

「勿論です!いつでもお越しください!」

「お、お待ちしております!」

 

「デミウルゴス殿は、防衛案などができたら持っていくので評価をしてくれ、との事だ。私よりも頭のいいデミウルゴス殿ならより良い案も出るだろうとね。それと一度じっくりと話したいと仰っていたよ」

 

「私めなどアテナ様の足元にも及びません。が、それがお望みとあらばこのデミウルゴス、持てる知恵全てをアテナ様に捧げましょう」

 

「守護者統括殿には、だ。……あー、その、ギルド長殿は私も愛しているから!うん、あんまり深い意味はない!、との事だ。

 

それとセバス殿はいつも玉座の間を守ってくれてありがとう、と。それでは、アテナ様をお部屋へお連れするのでこれにて失礼する」

 

エミヤが伝え終わったらしく、エミヤと共に指輪で第九階層へ転移する。

 

 

 

 

『ではこれにて失礼するよマスター。また何かあれば呼んでくれ』

 

『うん、ありがとうエミヤ。それと……ご飯、楽しみにしてる』

 

『任せてくれ。腕によりをかけて作らせてもらうよ』

 

自室にてエミヤと別れる。

そのまま私はベットにダイブした。

 

「(何もしてないのに高評価過ぎて怖いよ……)」

 

とりあえず現実逃避をしたいのと寝たら夢から覚めてるのではという淡い期待を持って私は少しばかり眠りについた。

 

 

 

 

 

なお同時刻、モモンガはモモンガで

「(アイツらマジだ…!)』となっていたりする。

 

 

 




種族とか職業の当て字とかわかるわけねぇべ!ってことでもうルビを振るのを途中から諦めました(許してください)

結構今更ですがこのオリ主はパズドラにおける「アテナ」をモチーフに作ったそうです。

エミヤは勿論型月のエミヤ。ブリュンヒルデ、シグルドも(ry


それでは読んでくださりありがとうございます
皆様の暇つぶしになれば幸いです

感想や評価もお待ちしています(


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 なんか天使がいます

アテナのアインズ・ウール・ゴウン加入キッカケ

人間種のギルドに騙されて(なお本人は気づいていなかった)ナザリックに単独出撃させられていた所を見回りに来たモモンガに助けられた事からギルドに加入した。

なおその後アテナを騙していたギルドは消滅したとかなんとか。
掲示板では骸骨とバードマンと純白の騎士が何故かスレッドに多く上がったという。





忠誠の儀があった翌日

 

『準備はいいかねマスター』

 

私は自室でエミヤと向き合い、手話に対してコクと頷く。

 

「モ モ ン ガ さ ん」

「も お ん が さ ん」

 

「お は よ う」

「お あ よ う」

 

「ご ざ い ま す」

「こ あ い あ す」

 

エミヤをしばらくの間見つめるとどこからかA4の紙に65点とかいた物を見せてくる。

 

65点かぁ……頑張ってるんだけど……

 

『そう気に病む必要はないぞマスター。初日にしては上出来も上出来さ』

『ほんとに?』

『ああ。で、どうする。まだ続けるかい?』

『もちろん。お願いエミヤ』

『承知した』

 

現在は発声練習中です。流石に喋れないのは不便すぎるのと、もっと気兼ねなくモモンガさん達とお話をしたいから。

 

音のある生活にも、半端無理矢理とはいえ慣れることができた。

……まあいまだに唐突に音が鳴るとびっくりしてしまうんだけど。

 

『声のボリュームの方はもう少しあげても良いかな?』

『うん。大丈夫かな』

 

エミヤには口で喋ると同時に手話をしてもらってる。

これは私の提案ではなくエミヤからの提案。

 

手話と音を頭の中で結びつけれたらより早く上達でき、音のある生活に慣れるのでは、ということらしい。

実際に効果はかなりあると思う。耳の中から殴られてるような感覚はもう殆どない。

 

『そうだな。マスター、今日1日は練習に費やし、明日の朝にギルド長殿へ挨拶に行く、というのはどうだろう』

『明日が本番ってこと?』

『そういうことだ。私の見立てだが、おそらく後数時間も練習すれば発声自体は問題なくなるだろう』

『……なら、やってみる』

『それでこそ我がマスターだ。さ、少し休憩してから練習再開といこう。クッキーを作ってきたので食べるといい』

『ありがとうエミヤ』

 

 

 

 

 

 

次の日

 

(この世界に来てから三日目。魔法やスキル、アイテムは使える。他に確かめることは……)

 

メイドの1人とセバスが傍に控えている状況で俺はこれからやるべき事を書き連ねる。

特にナザリックの外にいるかもしれないモンスターや人間の強さ確認は最重要事項だ。

 

仮にアテナさんやNPC達に危害を加えることの出来る存在がいるのならば警戒レベルや防衛策をさらに強固にする必要もある。

 

(だけどまずは何から……)

 

 

コンコン

 

 

不意に扉を叩く音が聞こえた。扉の前に待機していたメイドが外へ出て誰が来たのか確認をしてくれる。

 

「モモンガ様、アテナ様とエミヤ様です。面会をご希望とのことです」

 

「わかった、通してくれ」

 

そうして入ってきたアテナさんとエミヤを見て、エミヤが一瞬付き添いの先生に見えたのは黙っておこう。

 

まだ手話を覚えきれていない為転移直後に使ったスクロールを取り出すとエミヤに止められた。

 

「ギルド長殿。マスターは音のある生活にある程度慣れて、言葉を聞き取る程度は出来る様になったので普通に喋ってほしいそうだ」

 

「そうなのか?アテナさん、大丈夫なんですか?」

 

アテナさんはコクコクと頷いて何度か深呼吸をしていた。

何が始まるのか分からず、首を傾げるとアテナさんが何かの入れ物をこちらに差し出しながら口を開いた。

 

 

「もも、がさん。おはよう、ごあいます。なにか、てつだえること、ありますか。それと、えみやとごはんをつくってきたので いっしょにたべませんか」

 

 

手伝ってくれるという申し出はとても嬉しかったが、それ以上にアテナさんが言葉を発したことに驚き思わずエミヤを見る。

傍にいたセバスと一般メイドは感極まっているのか涙しながら拍手していた。

俺も思わず拍手してしまいそうだった。

 

「昨日ずっと練習をされていた。曰く、ギルド長殿や他の守護者殿、メイド達と普通にお話しできるようになりたい、とのことだ」

 

「なるほど。アテナさん、凄いです。本当に。それにお手伝いを申し出てくれてありがとうございます。ご飯も作ってきてくださって。俺はアテナさんがいて幸せ者です」

 

アテナさんに近寄ると、あらためて小さいなと思ってしまう。

今の俺が180位の身長なはずだから、大体150くらいなのだろうか。

 

娘がいたらこんな感じなのだろうかと思い頭を撫でると嬉しそうに笑う。まさに年相応の女の子、といった感じだ。

 

 

 

……俺、この人に告白されて、いるんだよな。

今の今まで異常事態のせいで忘れていたけど、いつ返事をすれば良いのだろうか。

 

 

 

「……?ももんが、さん?もしかして、ごはん、いらなかった、ですか?」

 

「っ、ああいえ。そう言うわけじゃないんですが、この体になってからというもの食欲や睡眠欲とか何もなくてですね。ご飯も食べれないんですよ」

 

「あんでっと、だからですか?」

 

「はい。おそらくですが」

 

「そ、れなら。わたし、これ、もってます。つかて、ください」

 

そう言われて渡されたのは一つの指輪。鑑定してみると『人化の指輪』だった。

 

 

……人化?つまり?人間種に一時的になれる?

 

 

「アテナさん付けてみますので少々お待ちを!」

 

周りにセバス達がいるのも構わず指輪を手にはめ、効果を発動させる。

 

まず感じたのは良い匂いとお腹が空いた感覚。

そして気分が高揚したにも関わらず今までみたいに強制的に沈静化されなかった。

 

「ありがとうございますアテナさん!俺もこれで食事ができるんですね!」

「そのゆびわ、わたし、つかわないので、ももんがさ、に、あげ、ます。つかて、ください」

「はい!ありがとうございます!ずっと大事にさせて頂きます!あ、せっかく作ってくださったんですから食べましょう!」

 

 

 

ちなみに、モモンガの人化はハンサムなイケメンとのこと(アテナ&メイド証言)

 

 

 

アテナさんが持っていた入れ物には白い四角いモノで何か色々なものを挟んでいるものがたくさん入っていた。

 

「アテナさん、これは?」

「さんどいちって言うらしいです」

「サンドイチ?」

(ギルド長殿。サンドウィッチという食べ物のことです。まだちゃんと喋れないので大目に見てあげてほしい)

(なるほど。すまないなエミヤ)

(いえいえこれしきのこと。マスターやギルド長殿のお役に立てるなら本望というものですとも)

 

アテナさんが皿を何枚か取り出し盛り付けている最中にエミヤが小声で教えてくれる。

なるほど、本でしか見たことなかったがコレがサンドウィッチというものなのか。

 

「せばすも、しくすすも、いっしょにたべよ」

 

「いえアテナ様。私は大丈夫ですのでモモンガ様とお楽しみください」

「そ、そうです!それに私の様な者がアテナ様やモモンガ様と共に食卓を囲むなんて恐れ多いです!」

 

「でも、みんなのぶん、つくてきたんです。わたし、みんなといっしょにたべたい」

「セバス殿、シクスス殿。マスターは皆と食事を望んでいるんだ。せっかく頑張って作ってくれたのだからお言葉に甘えるべきじゃないか?」

「そうだな。エミヤの言う通りだ。セバス、シクススよ、共に食事にしよう」

 

「ですが……」

 

未だ渋るセバス達に、ちょっと悪いとは思うが奥の手を使うことにする。

 

「なんだ?それとも私たちと食事をするのは嫌か?」

 

「滅相もございません!」

「そんなことはありません!」

 

「では共に食事にしよう。何、食事は大勢の方が楽しいと言うしな」

 

そこまでしてようやくセバスとシクススがこちらへ来る。

それを見てアテナさんの顔が一気に明るくなる。

 

 

 

 

ああ、この笑顔を一生守りたいなと、不覚にも思ってしまった。

 

 

 

 

「マスター。私が準備しよう。座っていたまえ」

 

「ん、わか、た」

 

エミヤは慣れた手つきで飲み物とサンドウィッチというものを均等に分けていく。

まずは俺に、その次にアテナさん、セバス、シクススの順に置いていき、皆の前に3〜4つのサンドウィッチと茶色い飲み物が置かれた。

 

「今回は無難に卵サンドウィッチと野菜とハムのサンドウィッチにさせて頂いた。今後も機会があればより凝ったものを料理したいとのことなので期待して欲しいそうだ」

 

「そうだな。アテナさん、気長にお待ちしていますね。楽しみにしています」

「がん、ばりまふ」

 

「それでは私は食堂運営をしなければならないのでコレにて失礼させて頂きたい。ギルド長殿、また何かあればいつでもお呼びください。すぐに駆けつけます」

 

「うむ。ご苦労だったエミヤ」

「あいがと、えみや」

 

「お礼など勿体無い。ギルド長殿、それにセバス殿にシクスス殿も、お礼の言葉や労いの言葉は是非とも我がマスターへ」

「エミヤ、私の人化は極秘事項だ。間違っても噂を流さないように」 

「それはまた何故……と言う野暮なことはやめましょうか。ええ解りました。私の心のうちに留めておきましょう」

 

イケメンな見た目同様、どうやら中身もイケメンなエミヤは気の利いた言葉を言って部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

「おいし、ですか?」

「はい。とても美味しいですよアテナさん」

「よかた、です。せばすとしくすすも、おくちにあいますか?」

「ええ。とても美味です。ありがとうございますアテナ様」

「アテナ様のお料理を口にすることができて私は幸せ者です!」

 

具材はエミヤが作って私はパンを挟んだだけなのだけどみんな褒めてくれるので嬉しい反面無性に恥ずかしくなってしまう。

それを紛らわすようにモモンガさんに声をかける。

 

「ももんか、さん。なにをしてた、ですか?」

 

「特にこれといった仕事はしていませんよ。優先してやるべき事、後回しにして良い事などを大まかに決めていただけです。他のことはアルベドやデミウルゴス、それにセバス達も手伝ってくれたりしていますので大助かりしています」

 

「でしたら、これからこきゅーとすと、もぎせん、をしようって思ってるんですけど、みにきませんか?」

 

するとモモンガさんが飲んでいた麦茶を吹き出していた。

 

 

え?何か変なこと言ったのかな?

 

 

「どうした、ですか?」

 

「大丈夫です。ちょっと驚いてしまって。ええと、模擬戦ですか。それはアテナさんの希望で?」

 

「はい。わたしも戦えるのかどうか、たしかめたいんです」

 

「理由をお聞きしてもいいですか?」

 

「……守られるだけの存在には、なりたくないんです。わたしだって、しごしん(守護神)のかたがきをもってる、です。

 

みんなを、なざりっくを。

なによりモモンガさんをまもりたい。

 

そのために全力を尽くしたい。

そのためにやれることは、ぜんぶ、やりたい。

 

 

……これじゃ、だめですか?」

 

モモンガさんはしばらく葛藤していた。

なお余談だがセバスとメイドのシクススは涙を堪えるのに必死だったらしい。

 

「……わかりました。許可します」

「ありがと、ございます」

「ルールなどは決めてるんですか?」

「HPが、はんぶんになったら終わり、です。あとは武器のスキルのみokで、あとはつかったらだめ、ってるーるです」

「ふむ、それならば大丈夫でしょう。場所は第六階層のコロシアムでしょうか?」

「はい。2じかんごに、やるよていです」

「わかりました。ではその頃に私も第六階層へ向かいます」

「わがまま、きいてくれてありがとう、ございます」

「こちらこそアテナさんの気持ちを知れて嬉しいです」

 

唐突にそんなことを言われるものだから思わずむせてしまう。

 

顔赤くなってないと……いいけど。

 

「そ、それよりこのあとって、おてつだいすること、ありますか?」

 

「いえ特に無いですね。これといった急ぎの仕事も先ほど言ったようにアルベドやデミウルゴスがやってくれているので」

「なら、わたしは準備をして、きます。なにかおてつだい、あったらいつでもよんでくらさい」

「はい。ありがとうございます」

 

モモンガさんは人化を解いていつもの姿になるのを見届けてみんなにお辞儀をする。

セバスのお辞儀が綺麗というか、完璧すぎるので後で教えてもらおうと思ったりした。

 

 

 

 

 

「こん、にちは こきゅーとす」

 

「アテナ様、ヨウコソオ越シクダサイマシタ」

 

「たったまま。たったままでいいですから」

 

私が通るたびにみんなが跪いたり90度の直角お辞儀をしたりとかでもう、色々と疲れる。

もっとみんなと軽口言い合えるくらいには仲良くなりたいのに……。

 

「こきゅーとす、もぎせん、やりたいんだけど、いいかな?」

 

「ハッ!勿論デゴザイマス。ワタクシノ全身全霊ヲ以テオ相手致シマス!」

 

「うん。じゃあももんがさんも、みにきてくれる事になてるから、2時間後にかんぜんふそう(完全武装)で、第六階層に来て、もらえる?」

 

「承知シマシタ!」

 

戦えるのがよほど嬉しいのか冷気をフシューフシューと出している。

こう見るとかっこいいというよりも可愛いと思えてしまう。

 

「それじゃ、また、2時間後、おねがいします」

「ハッ!」

 

結局最後まで直立不動は崩してはくれなかったけど、コキュートスも嬉しそうだし、まあいっか。

 

 

 

 

 

 

 

〜2時間後〜

 

「……ももんがさん、これ、なにが」

 

「いや、その、本当にすいません。軽い気持ちで『見に来たかったら来ると良い』ってアルベドに言ってしまったら、あの、そこから各階層守護者、領域守護者、他NPC達にも伝達されたみたいで。こうなっちゃいました」

 

コロシアムに転移して最初に感じたのはものすごい大きな音。

頭をぐわんぐわんと揺らされてるような、そんな感じだった。耳の中が痛むけど、なんとか我慢できた。

 

周りを見渡すと満席の座席。本当にナザリック全てのNPCが集まってると言われても信じそうなくらいには沢山いる。

 

「司会は、おまかせしてよいですか?」

 

「はい。勿論です。ただですね、少し大きな声というか、声を響かせるアイテムを使いますので耳を塞いでくれると助かります」

 

モモンガさんの言葉にコクと頷いて、耳を軽く塞ぐ。

 

『えー、おほん!皆よく集まってくれた!これから行われるのはアテナさんによる模擬戦だ!アテナさんの戦いを間近で見た事の無い者が殆どだろうから、是非とも楽しんでほしい!私が言うのもなんだが、アテナさんの戦いはとても華麗で美しい!是非とも期待してくれ!』

 

なんか戦いがなんとかかんとかとは聞こえたけど、その瞬間にもっと大きな音が響いてそれどころじゃなかった。

 

『では今回の模擬戦に指名された相手を呼ぶとしよう。名前を呼ばれた者は速やかに私達の元へくるように。

 

今回アテナさんより指名されたのは……コキュートス!』

 

コキュートスが観客席からとても勢いよく、かつ砂埃は立てないとか言うどうやったのと言いたくなるような登場をしてくれ、さらに盛り上がっているのがなんとなくわかる。あの、そろそろみんなクールダウンしようよ。そんなに凄いものでもないよ。

 

「アテナさん、もう大丈夫ですよ」

 

モモンガさんに肩を叩かれ、少し小さめの声でそう言われる。

 

耳から手を離すとだいぶ歓声は無くなっていた。

 

「ではコキュートス。此度の模擬戦、私も楽しみにさせてもらうとしよう。全力を尽くすのだ。アテナさんがどれだけ全力で戦えるのかを確かめるのが目的であるため、間違っても手は抜かないように」

「うん、わたしをきずつけてしまう、とかはかんがえないで、ね」

 

「承知シマシタ。改メテ、アテナ様ノオ相手ニゴ指名シテ下サリ、アリガタキ幸セデゴザイマス!」

 

「では、改めてルールを確認しよう。

まず互いに完全武装で行うこと。

魔法は禁止、スキルは武器関連のスキルは許可する。つまりアテナさんだと守護神などに関するスキル、コキュートスの場合だとフロストオーラなどは使用不可だ。構わないか?」

 

「ハッ!問題ゴザイマセン!」

「だいじょうぶ、です」

 

「勝敗についてだがどちらかのHPが半分を切った時点で終了とする。私が常に魔法を用いて確認をするのでステータス偽装などはやめるように。他何か質問は?」

 

「だいじょうぶ、です」

「私モ問題アリマセン!」

 

「それでは、互いに正々堂々の素晴らしい戦いを期待している。私が爆発系の魔法を放つので、それを合図に戦闘開始だ。では、互いに健闘を祈る」

 

そうしてモモンガさんは一際豪華な観客席へ座った。周りには階層守護者のみんながいる。

 

 

 

…………

 

 

アルベド、距離近く無い?めちゃくちゃいちゃついているように見えるのは気のせいかな。

 

 

うん、気のせいだよね。

 

 

それよりも、コキュートスとのことに集中しよう。

 

うん、頑張ろう。幻滅されないように、全力で。

 

 

コキュートスも4本の手にそれぞれ武器を装備していた。

 

 

 

 

「それでは……始め!」

 

 

モモンガさんが爆発系魔法を放ち、それが爆発するのと同時に私とコキュートスは互いに駆け出した。




オリ主のセリフが平仮名多目なのは辿々しい喋り方を表現している、つもりです(小声

見辛いなと感じたらもう少し漢字など多めの文章に書き直すかもしれません



えー、感想・評価を下さった方、お気に入り登録をしてくださった方、本当にありがとうございます。とても嬉しいです


それでは読んでくださりありがとうございました
皆様の暇つぶしになれば幸いです。

感想や評価など頂けるととても嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 守護神VSコキュートス

第三階層守護者
・シグルド
竜特攻に特化させているNPC。守護者序列は4位。デミウルゴスやアルベドほどでは無いがナザリックの中でも優秀な頭脳の持ち主。
本来ならNPC製作上限レベルに達していたナザリックに課金アイテムを使い上限レベルを引き上げることで製作したNPCである。尚レベル上限を引き上げるアイテムは超レアアイテムらしく、それを金にモノを言わせて大量に持ってきた時はモモンガさんがドン引きしたとか。

見た目性格等はFGOまんまである。
基本的な一人称は「当方」だが公の場では「私」になる。

・ブリュンヒルデ
純粋なアタッカーに特化させた戦乙女を主軸に創られているNPC。
シグルドとは夫婦であり、常に一緒にいる。
本来はシグルドとは目を合わせるたびに殺し合う、みたいな設定をどこかで見た記憶があったが、そんなのは嫌だとそこだけ常にラブラブだと改変している。
守護者序列ではそれほど高くないがアンデットに特化させている。

・ワルキューレ三姉妹
個体名『オルトリンデ』『ヒルド』『スルーズ』の三体がいる。レベルは75で3人ともステータス構成は全く同じ。
隠密・情報収集に長けたスキル・装備構成になったいて、分身体と語感を共有でき、更に三姉妹でも情報共有できる(というフレーバーテキスト上での設定だったはずが具現化されている)

ちなみにオルトリンデは甘え下手、ヒルドは真っ直ぐに甘えに行く、スルーズは内心甘えたくとも冷静さを保ちはするがオルトリンデとヒルドがアテナやモモンガ、ブリュンヒルデなどの元へ向かうとしれっと一緒に甘えに行っている。



食堂の守護者(笑)
・エミヤシロウ
得意なことは家事全般
レベルは50弱ではあるけど取ってあるレベルが料理人やら家事職人やら戦闘させる気ゼロなため、おそらくだがレベル30程度ののデス・ナイトにも勝てない。しかし料理だけはナザリックで1.2を争う。


俺が爆発系魔法を撃つと同時、アテナさんとコキュートスが互いに走り出した。一体どんな戦いが見らr

 

 

 

ビターーーン!

 

 

 

その瞬間、アテナさんが盛大にずっこけた。顔面から地面に向かって豪快に突っ込んだ。

 

それに思わず口の骨が開きっぱなしになった。

 

大勢集まってしまったNPCもどう言う反応をするのが正解なのかわからないのか、闘技場は静寂に包まれていた。

 

コキュートスも思わず足を止めている。

一旦安否を確認した方がいいと思いアテナさんの傍へ近寄ると勢いよくバッと起き上がった。

 

「な、なひ!い、まの、なひ!もいかい!やりなおし!させてくらさい!」

「わ、わかりました。コキュートスも良いか?」

「モ、モチロンデゴザイマス」

 

心なしかアテナさんの顔が真っ赤になってる、ような気がする。

 

 

 

 

 

この時、俺も含めて皆この数分の記憶が無いとかなんとか(自主的に記憶を封印したとかなんとか)

 

 

 

 

「それ、じゃ。もういかい、おねがいします」

「カシコマリマシタ」

 

「では……はじめ!」

 

 

 

両者が定位置に戻るのを確認して再度爆発系魔法を撃つ。

 

それと同時に(今度はちゃんとずっこけずに)アテナさんもコキュートスも距離を詰め、今度こそアテナさんvsコキュートスの模擬戦は始まった。

 

 

 

 

 

 

コキュートスの4本の腕には神話級アイテム『斬神刀皇』を始め、白銀のハルバート『断頭牙』、そしてブロードソードとメイスを四本の腕それぞれに装備されていた。

 

それに対して私は神器級の『アテネ神の槍』(自分でネーミングしました)、世界級の『守護神の象徴』という円形の盾を装備した。防具も全てが神器級。コキュートス相手ならこれでも不安なところはあるにはある。

 

てか一番の不安はちゃんと動けるのかどうかということですはい。(思い切りずっこけたし)

 

数メートルほどの距離に縮まり、先に動いたのはコキュートスだった。

 

刀を大きく私に向かって振り下ろされる。

 

そんな非現実的なことをされているというのに意外にも私の頭はすごく冷静で怯えることなく真っ直ぐコキュートスの刀を見ていた。

 

特にスキルを使おうとか思わず、盾の芯で刀を受け止める。

ほんの少し手が痺れたけど、それだけだった。

 

今度は左右からハルバートとブロードソードが迫ってくる。

 

「(スキル、受け流し)」

 

刀をハルバード側に受け流してハルバードを、ブロードソードは槍の柄で受け止める。さらに降ってくるのはメイス。流石にこれは受け止めきれないので一歩下がって避け、ガラ空きになったコキュートスの顎を蹴り上げる。

 

けどあんまりダメージは入っていないようですぐさま反撃をしてくる。

刀を再度振ってくるので今度は槍で鍔迫り合いをする。

 

「(さすがコキュートス。すごいなぁ。でもモモンガさんの前で負けられない……よねっ!)」

 

鍔迫り合いから刀を弾き、今度はシールドバッシュというスキルを使ってコキュートスを盾で思い切り殴りつける。

 

「(ゲイ・ボルグ!)」

 

槍の必中投擲スキルを使って力一杯コキュートスに向かって投げつける。

すると防がれはするものの少しHPは削れたのはわかる。

 

その間にさらに近距離に近づき足で槍を受け止め、そのまま蹴り上げ回転させることで切り付ける。

 

もちろんコキュートスもやられ放題というわけではなく、攻撃を受けながらも私の死角からメイスで殴りつけてきて、数メートル吹っ飛ばされる。綺麗に横腹に入って結構痛い。

 

けど我慢できないほどじゃない。

 

「う、ん。ちょうし、良い。もっと、もっともっとやろう、こきゅーとす」

 

「ハッ!オムネ、オカリシマス!」

 

この世界に来る前からは考えられないほど、私は戦いが楽しいと思っていた。

NPCの性格とかがフレーバーテキストまんま反映されてるぽいってモモンガさん言ってたし、私も自分につけたフレーバーテキストとか守護神とかの設定に引っ張られてたりして

 

 

 

そんなまさか……ね。

 

 

 

 

 

 

「(そうか、あんまり意識したことなかったけどあの人たっちさんの攻撃を短時間とはいえ防御できるんだっけ。マグレ、たまたまだって言ってたけど普通にすごいことだよな。にしても終始笑顔じゃないか。よほど楽しいんだろうなぁ。俺も思い切り戦闘してみたいな)」

 

アテナさんとコキュートスの戦闘は控えめに言って素晴らしいの一言だった。

模擬戦ではなく、もはや一つの作品とでもいうべきだろうか。

 

コキュートスが仕掛けアテナさんが受け流し、アテナさんが仕掛けコキュートスは真正面から受け止める。

体格差や武器数の差など何もないかのように激しく攻防を続けていた。

 

 

が、そんな至高の時間もすぐに終わりを告げた。

 

HPを確認するライフ・エッセンスという魔法を使いこまめに確認していたところ、HPの減りは殆ど変わりなかったから本当に接戦だったのだろうと予測できる。

 

HPバーを注意深く見つめていたとき、決着の時は来た。

 

 

『そこまで!』

 

 

俺の声で2人の動きがピタッと止まる。

 

「たった今、HPを半分失ったことを確認した。

勝者は……

 

 

 

アテナさん!」

 

俺の宣言でこの場にいるすべてのNPCが沸いた。

その当事者のアテナさんは耳を塞いでいたけど俺を見つけると同時に満面の笑みで

 

 

「ぶいっ!」

 

 

ピースをしてきてなんとも言えない感情になり『ああこれが子を持つ親の気持ちかぁ』なんて思ったりしたのは内緒だ。

 

 

2人の傍へ近寄り声をかける。

 

「2人とも、見事であった」

 

「勿体無キ御言葉デゴザイマス!」

「あいがと、ごあいまふ」

 

「コキュートスよ、アテナさんとのHP差は僅差だった。どちらも互いに譲らない素晴らしい勝負だった。どうだった?アテナさんと戦ってみた感想は」

 

「不敬カモシレナイノデスガ、マルデ舞踊。ダンスノヨウニ美シク見惚レテシマイマシタ」

 

「だそうですよ。アテナさん」

「うぅ、そなに、うつくしく、ないでふ。でも、ありがとうこきゅーとす」

 

真っ直ぐ誉められたのが恥ずかしいのか手で顔を覆っていたアテナさんを見て思わずほっこりしてしまった(強制的に沈められてしまったが))

 

「アテナさん、それにコキュートスよ。今回素晴らしいものを見せてくれた褒美を与えたいと思うのだが、何か希望があるなら遠慮なく言ってくれ」

 

コキュートスはそれに対して遠慮していたがアテナさんは何かを考え込んでいた。

 

「ならももんがさん。いっしょにおでかけしたい、です」

 

「お出掛け、ですか?」

「はい。そと、いっしょにみにいきたいです。せばすが、ほしぞらまんてんっていってたので」

「わかりました。機会を見てお誘いしますね」

「あいがとうごらいまふ」

 

その程度ならばご褒美でなくてもいつでも付き合うんだけどな、と思いつつこのイベントの終わりを会場のみんなに告げる。

 

「それでは皆の者!本日の催し物はこれにて終了だ!今一度素晴らしい戦闘をした2人を讃えようではないか!」

 

その瞬間に今日一番の熱量でNPC達が沸く。

アテナさんがびっくりしすぎて耳を塞ぎながら目を白黒させていたけど、今回だけは許して欲しかった。

 

 

こんなにも素晴らしい人なのだから自慢したくなるし讃えてほしくもなるだろう?

 

 

 

 

 

 

「アテナさん。今夜どうでしょうか?」

「こんや、ですか?」

「はい。少しお忍びで外へ出てみようかと」

「わか、りました。あけておきます」

「ありがとうございます。では、時間になったらまたお呼びしますので」

 

モモンガさんから伝言(メッセージ)でそう言われ、表面上には出さなかったけどかなり浮かれていた、と思う。だってや隣にいたエミヤがめっちゃくちゃニヤニヤしながらこっちを見てるんだもの。

 

「なにかへんだった?」

「いやなに。実に良い笑顔だったぞマスター。正に恋する乙女の顔だった」

「むー!」

「ちょっと待とうかマスター。謝るからそのポカポカはやめよう。俺たちのレベル差を考えてくれまいか。その様子のマスターは可愛らしいが普通に死んでしまう。主に私が」

 

そう言われると踏みとどまらざるを得ない。

でもちょっと不満だ。

 

「悪かった。からかったのは悪かったからそんな目で見つめないでくれ。罪悪感がすごいから」

「じゃあ、これから第三階層、いくからついてきて」

「それくらいお安い御用だ」

「ふぶきの、たいさくそうび、なしで」

「私に死ねと?」

 

 

 

 

 

 

〜第三階層 永久凍土帝国〜

 

「わぁ……」

「相変わらず物凄い吹雪だ」

 

一面雪景色な第三階層。

私が無理言って許可をもらって課金アイテムを使いまくってこの形になったんだっけ。(エミヤはお菓子を作ってもらうという条件付きで吹雪対策をokしました)

 

遠くに山が一つ、一面雪景色で常に猛吹雪が吹いている。対策してたとしても甘かったら凍傷デバフがほぼ百パー起きる猛吹雪。

しばらく進むと見えてくるのは飛行系魔法、飛行系スキルを妨害する断崖絶壁。中央にあるのは一つの橋。

 

今見ても思う

 

 

無理ゲーかな?

いや確かに攻略させる気はそもそも無かったけども。

 

 

これを作った後にモモンガさんにやり過ぎだって言われたっけ。

雪山にいるモンスターの高レベル(しかも妨害特化型)を片っ端から配置して、しかも橋を渡った後に待ち構えてるのはシグルドとブリュンヒルデ。そしてブリュンヒルデの三つ子の妹。

 

うん、無理ゲーかな?

 

いやこれでも2000人の大侵攻の時には突破されてるから。うん、私悪くない。

 

「(うわぁ、こわっ)」

 

橋を渡っている最中に好奇心から下を見てしまったことを後悔しそうなくらいには、うん、怖かったですはい。

 

「おやアテナ様にエミヤ様。どうされたのですか?」

「しぐるどと、ぶるんひるでにあいにきました。このさきにあるきゅうけいしょに、よんでもらえますか?」

「畏まりました。少々お待ちください」

 

橋を渡り切った後にいた白いフードを深く被って光の槍を持った人にシグルドとブリュンヒルデを呼んできてもらうように頼み、さらに先に足をすすめる。

 

しばらく進むと氷の小さな城があった。

大体5階建ての建物くらいの大きさかな?

 

「しつれいしまs」

「マスターーーー!!!」

「いたっ」

 

氷の扉を開けると同時に誰かに懐に飛び込まれた。というより勢いよく抱きつかれた。

想定外のことで思わず倒れてしまう。

 

が、そんな私に構わずずっと頬をスリスリしてきているのが私の胸に。

 

「ヒルド。マスターが困惑してるから離れなさい」

「そうです。それに抜け駆けは無しだと言ったでしょう。オルトリンデだって今でこそ冷静ですがマスターが来ると聞いて感情が爆発して私に身だしなみを聞きにくるほどだったのですから」

「ちょっスルーズ⁉︎それ言わない約束!」

「いいじゃんか!お姉様たちだけ会えて私たち会えなかったんだから少しくらいはっちゃけても!ね!マスター!」

 

出迎えてきたのは例の三つ子。

 

長女オルトリンデ 次女ヒルド 末っ子スルーズ。

 

 

元ネタの昔のゲームでは姉妹設定とかは無かったので私が勝手に決めただけなんですけどもね。

見た目は元にしたゲームまんまです。はい。手抜きでごめんなさい。

 

というかそれよりも大きな声すぎて頭がぐわんぐわんする。

 

「ヒルド殿。おそらくだがマスターは唐突な耳元での大声で混乱している」

「あっ⁉︎ご、ごめんなさい!」

「だ、だいりょうふ。きにひてないから」

 

エミヤが離れるよう促してくれたおかげで少し落ち着く。

周りを見渡すと目的の2人がまだきていなかった。

 

「あれ、ぶりゅん、ひるでと、しぐるどは?」

「お姉様達ならすぐに来られると思います」

「うんうん。あ、噂をすれば」

「来られましたね」

 

ヒルドとオルトリンデが撫でてほしいとか言うので頭を撫でてあげてると奥の扉が開き、そこから2人のNPCが出てくる。

 

「遅くなり申し訳ありませんマスター」

「お待たせ、しました……」

 

「ううん。きにひないで」

 

しっかしいまだにサ行とハ行がうまく言えません助けてください。エミヤが後ろでお母さんのような目をしながらこっちを見てます。これスパルタ教室が待ってるパターンです。

 

「しかしながら、当方達へどのようなご用件で?」

「ううん、とくになにかある、わけじゃなくて。すこしみんなとおはなし、したくて」

「お話、ですか」

「うん。えみやとごはんつくってきたから、いっしょにたべよ?」

「しかし、従者の身でそのような……」

 

「え?食べないんですか?」「てっきり即答するものかと」「お姉様並みにマスターに好感を抱いているシグルド様なのに?」

「貴方……心に正直に……。マスターと……ご一緒したくないのですか?」

「シグルド殿の分も頑張って作ってきたというのに、シグルド殿は食べたくないのか。残念だ」

 

ブリュンヒルデと三姉妹は一緒に食べる気満々で準備をテキパキとしていた。

シグルドはというと全員に煽られてメガネがパリーンと割れたかのような幻覚が見えた気がする。

 

「し、しかしだな……」

 

と、まだ渋る。

 

「しぐるど、だめ?」

 

こうなれば最後の手段、『情に訴えかける』です。

なぜかシグルドのメガネが砕け散る幻覚が見えたような気がする。

 

「わ、わかりました。当方もご一緒させていただきます」

 

「うん、ありがとう」

 

こうしてしばらくの間私の作った子達となんてことない、平和なひとときを私は思う存分堪能した。




感想、評価をくださった方ありがとうございました。
このプロットの持ち主も喜んでいました。

また久しぶりに評価バーに色がついたので私もうれしいです。

オーバーロードに似つかわしく無いほのぼのとしたものを目指して頑張っていきます


読んでくださりありがとうございました。
感想や評価などを下さるととてもうれしいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話 お忍びデート!

原作と多少改変されている事。

アルベド…アテナのことを慕っている反面、恋敵のような存在として見ている面がある。その為ちょいちょいアテナの前でモモンガさんといちゃつこうとしている。

実は「モモンガを愛している」の一文がなくとも元々アルベドはモモンガを愛している設定で「ビッチである」はブラフな為、実はモモンガ達の転移前の行いはそんなに効果がない。



アテナの作ったNPC達の設定。
ギルメンに対しての忠誠心の高さは他と同じだが、アテナと共に過ごす時だけかなりフランクになる。
それこそ友達同士かのようなフランクさで接する為、他の守護者が見ると怒り狂う可能性はある。

エミヤはどちらかと言うとアテナの保護者の側面の方が強い。




「時に……マスター」

「ん?どうしたの?」

「モモンガ様とは……どこまでお進みになられたのですか」

「ぶっ⁉︎ゲホッゲホッ」

 

ブリュンヒルデからいきなり特大爆弾を落とされて思わず咳き込んでしまう。

 

「ほう。それは初耳だ。そうか、マスターはギルド長殿が」

「お姉様どういうことか詳しく!」「わ、私にも!」「……!」

「我が愛、それはどういうことだ?」

 

それに興味を持った4人がブリュンヒルデに詰め寄り始めた。

話を止めようにも既に手遅れなのが直感でわかる。

 

同時に顔がとんでもなく熱くなってくる。

 

「アルベドから……聞きました。マスターは……モモンガ様へ、愛の告白をしていた……と。それと第六階層で忠誠の儀が終わった後、アルベドへ言っていたあの言葉……。マスターは、モモンガ様が……」

 

「ちょ、ちょっとまっ。ぶりゅん、ひるで、まって。それいじょう、いわないで」

 

「では……モモンガ様とは……」

 

「わ、わかった、いう、いうからみんなまって」

 

ブリュンヒルデのなんとも言えない強い圧に思わず負けてしまう。

でも口で説明するのはとんでもなく恥ずかしい。

 

「え、えみや。ちょっときて」

「む?」

 

それからエミヤに手話で端的に伝える。というか伝えなきゃ一生詰め寄られる気しかしない。

 

 

この子たちこんな強情な性格に設定したっけ?いや確かにワルキューレ三姉妹とブリュンヒルデはその手の話に敏感だ、みたいなのは書いた記憶あるけど。

 

 

けど口で説明するのはとんでもなく恥ずかしくて死にそうなのでエミヤに手話で伝え、それをみんなに伝えてもらう方式にさせてもらいました。いやほんとごめんなさい許してください。恥ずか死しそうです。

 

「ふむふむ……。たしかに告白したけど、その直後に今の異変が起きてみんなそれどころじゃなくなったから、有耶無耶になっている。関係を進展させたいけどアルベドとかもいるし他ナザリックには美人な子がたくさんいるから自分の容姿に自信が持てない、との事だ」

 

おいチョット待とうかエミヤさん。なに溜息ついてるんですか。

 

「マスターは美しいですよ!保証します!」

「アルベド様と比べる……のはちょっと私は怖くてできませんけど絶対にこの世界で1.2を争うくらい美しいです!」

「マスターは誰よりもお優しくナザリックの誰よりもモモンガ様の傍へ寄り添われた方ですからきっと大丈夫です!」

「マスターなら……グイグイと行けば、モモンガ様もマスターを女性として意識してくださると……思います」

「我が愛の言う通りです。アテナ様ならばきっと大丈夫です」

「胃袋を掴めば惚れてくれそうなものだがね。それにマスターは十分美しい。だから自信を持つのが大事だぞマスター」

 

「まってやめてそれいじょう、なぐさめないで、くらさい」

 

恥ずかしすぎて机に突っ伏してしまう。おいこらエミヤ。笑ってるの聞こえてるからね!

 

「わ、わたし、これからようじ、あるからいくね!」

 

「承知しました。でしたらこちらは当方達で片付けておきます」

「おきをつけて……ください」

「アテナ様!また来てください!」

「いつでもお待ちしております!」

「また撫でてほしいです!」

 

若干一名ほど欲望ダダ漏れだけど、可愛いからいっか。

 

「それじゃ、みんな。なざりっくのしゅご、がんばってください」

 

「「「「「ハッ!」」」」」

 

みんなの息の揃った返事を聞き私は第九階層に転移した。

 

 

 

 

 

「(魔法で作ったアイテムなら装備可能なのも一緒。と言うことは……)」

 

今は様々な装備品の使用感を確かめている最中。アテナさんが来たらお忍びで外に出てみようと思ってはいるが、果たしてすんなりと出してくれるのだろうか。

 

「やはり魔法で作った装備品なら近接装備も使用可能か。また実験をしないとな」

 

レベル100の腕力に任せ無造作に振ってみる。重さは感じないし周りがブワッと衝撃波が出たような気もする。

 

 

コンコン

 

 

「モモンガ様、アテナ様です」

「わかった。通してくれ」

 

誰かにドアをノックされ、傍に控えていた戦闘メイド『プレアデス』の1人、ナーベラル・ガンマが応対してくれる。

アテナさんが来てくれたので一旦実験はストップかな。

 

「もも、がさん。おまたせ、しました」

「いえいえ。来てくれてありがとうございます。それで……装備はどうにかなりそうですか?」

「はい。たぶん、だいじょうぶです」

「わかりました。……これより私とアテナさんで少しばかり外出する。直ぐに戻るので待機しておいてくれ」

 

「近衛の準備はできております」

 

アッハイ。俺たちだけでいくな、って言いたいんですね。

慕ってくれる気持ちはすごい嬉しいんだけど少し息抜きしたいんだよなぁ。

 

「アテナさんと極秘の!相談がある。供は許さん」

 

「……畏まりました」

 

ここまで言ってようやく諦めてくれた。

宛名さんと事前に打ち合わせしていた場所へ指輪を使って転移すると地表にちゃんと辿り着く。

 

横を向くといつもの鎧姿ではなく、巫女のような装備になっているアテナさんがいた。

純白の巫女服を金の装飾がそれとなく散りばめられている。

顔を直に見られたら直ぐにバレそうだけどしかくい四角い真っ白な布で顔を隠していた。

 

うん、これなら大丈夫だろう。

 

「それではいきましょうか」

「(コクコク)」

 

アテナさんが勢いよく頷くのを確認して目の前にある階段を上がる。が、そこに出てきたのは予想外のものだった。

 

立っていたのは三体の悪魔。

デミウルゴス直属の『嫉妬』『強欲』『憤怒』の三魔将。

 

 

正直にいうとビビった。

て言うか誰でもビビると思うぞこんなの。

横にいるアテナさんはと言うと俺の後ろに隠れてしまっている。

 

 

そしてさらに奥に見えるのは赤スーツとメガネをかけたNPC。見間違えようもない、デミウルゴスだ。

 

「ん?これはモモンガ様にアテナ様!近衛をお連れにならずここにいらっしゃるとは。それにそのお召し物は……」

 

「(なんでバレた⁉︎)」

 

アテナさんのことを召喚したシモベとか色々と言い訳を考えていたのにそんなのを言う暇もなく見抜かれた。

 

「(いや、ナザリックで自在に転移できるのはギルドの指輪の持ち主である俺とアテナさんだけ。バレて当然か)」

 

隠し通すのはもはや無理と悟り改めてデミウルゴスと向き合う。

 

「ああ、色々と事情があってな」

 

「……なるほど、そういうことですか」

 

「え?」

「(え?)」

 

「まさに支配者にふさわしいご配慮かと考えます」

 

「(え?いや、息抜きに外出したいだけなんだけど⁉︎)」

「(デミウルゴス一体なに言ってるの……?)」

 

「ですが、やはり供を連れずにとなりますと、私も見過ごすわけには参りません」

 

「ふむ。ならば1人だけ供を許そう」

 

もうどうにもならないと思い、供を許可しデミウルゴスの横を通り抜ける。アテナさんはアワアワしながらもデミウルゴスにお辞儀をして俺の後ろをついてきた。

 

「私の我儘を受け入れてくださり、感謝致します」

 

 

 

 

 

モモンガさんとお忍び(デート)で外に出ようとしてデミウルゴスがいたりついて来ちゃうのは予想外だったけど。というかモモンガさんはデートだと思ってくれていたりしたのだろうか。

 

私の早とちりじゃないのか感が凄い気がする。

 

だけどそんな考えは外に出て空を見上げることですぐさまなくなった。

 

「わぁ……!すごい……!」

「(すごいな!こんな透き通った空は一度も見たことがない!ブループラネットさんの作った第六層の空も凄かったけど、これは……!)アテナさん、空は飛べますか?」

「(コクコク!)」

 

モモンガさんが何かのネックレスをつけて空へ飛んでいったのを確認して私はスキルで熾天使の翼を顕現させて空に向かう。意外にもゲームの感覚でやれば直ぐに空を飛ぶことができたけどそんなことはどうでもいい。早く、早く上に行きたい。

 

 

雲を突き抜けると同時に眼下に広がるはあたり一面の雲海。それを照らす月明かり。

 

顔を隠していた布が煩わしくなって勢いよく取り去る。

 

 

よりもっと自分の目で直に感じたかったから。

 

 

「(昔の本で見たモノよりスゴイ……!現実とは思えない……!)」

「キラキラと輝いて、まるで宝石箱みたいだ」

 

「この世界が美しいのは、モモンガ様とアテナ様の身を飾る為の宝石を宿しているからかと」

 

「確かにそうかもしれないな」

 

モモンガさんとデミウルゴスの会話も右から左に流れていく。

それほど私はこの光景に目を奪われていた。

 

「私が、私達がこの世界に来たのは、まだ誰も手にしたことのない宝石箱を手にするため……いや、私達だけで独占すべきものではないな。この宝石はアテナさん、ナザリックと我が友、アインズ・ウール・ゴウンを飾る為のものかも知れないな」

 

ようやく落ち着けてモモンガさんとデミウルゴスの会話をよーく聞いてるとなんか宝石箱を手に入れるとかなんとか言ってるような?多分、ちゃんと聞き取れてるかは不安だけど。

 

「お望みとあらば、ナザリック全軍を以て手に入れて参ります!」

 

「ふふふ。この世界にどのような存在がいるのかも不明な段階でか?

 

だが……そうだな。

世界征服なんて、面白いかも知れないな」

 

わかる。これRPしてる。なら私も付き合おう!なんて軽い気持ちで口を開く。

 

 

「大丈夫ですよモモンガさん!わたしが!いますから!

モモンガさんと、わたしと、ナザリックの皆がいれば!どんな相手だって、勝てます!

きっと世界征服も!できちゃいます!

 

それにみんなが危なくなったら、私がまもります!

だって、私はナザリックの守護神、ですから!」

 

この時は自分でも驚くくらい、スラスラということができた。RPしようとしてる時だけ肩の力が抜けたのだろうか。

 

「ふふ、ありがとうございますアテナさん。その気持ちだけですごく嬉しいですよ」

 

 

 

 

私は単なるRPとしてやったが、これがまさか本気に取られているとは誰が思うだろうか。

 

それを知るのはもう少し後のこと……。

 

 

 

 

 

「ん?」

「?」

 

モモンガさんが何かに気づき下を見ていたのでそれに釣られて見下ろすと外壁の上にマーレがいて土を動かしていた。

ドルイドのスキルや魔法には詳しくないけどそれでも凄いことをしてるってことくらいはわかる。

流石はマーレだなぁ。

 

「モモンガ様、アテナ様。これからのご予定をお聞きしても?」

 

「わたしは、ももんがさんについて、いきます」

「私はマーレの陣中見舞いに行こうと思っている。なにが褒美としていいと思う?」

 

「モモンガ様やアテナ様がお声をかけてくださるだけでも充分すぎるかと」

 

「ふむ……そうだな」

 

モモンガさんが何かを決めて下に降りていったのを見て私も下に急降下する。

 

「あっ!モモンガ様ー!アテナ様ー!」

 

外壁にモモンガさんとデミウルゴスと共に降り立つとマーレが私たちを見つけて走り出してくる。

まさに女の子のような走り方で。

 

「(マーレって、男の子だよね?今更だけどなんで女の子の格好をしてるんだろう)」

 

 

 

そんなことをふと思ってモモンガさんに伝言(メッセージ)でこっそり聞いてみたけど教えてくれませんでした。

曰く、私にはまだ早い領域、とのことです。

 

……どういうことなんだろう?

 

 

 

「どうしてこちらへ?僕、何か失敗でも……」

 

「違うともマーレ。ナザリックの発見を未然に阻止するお前の仕事は、最も重要なものだ」

 

「は、はい」

 

「だからこそ、マーレ。私達がどれだけ満足しているかを知ってほしい」

 

「はい。モモンガ様」

 

「よろしい。ではこれを」

 

そうしてモモンガさんがマーレに一つの指輪を渡す。

見間違えようもない、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

 

実際にマーレが受け取れるはずがないと慌てていたけどモモンガさんの言葉によって最終的には受け取っていた。

 

 

でも、左手の薬指につける必要はなかったのでは?(私はとあるバードマンに騙されて左手薬指につけました)

 

 

「と、ところでモモンガ様、アテナ様、どうしてそのようなお召し物を?」

「それは……」

 

「簡単よ、マーレ」

 

また別の声が響いてきたと思ったら現れたのはアルベドだった。

 

あれ?仕事してたんじゃ……抜け出してきたの?

 

「モモンガ様とアテナ様は、シモベたちの仕事をお邪魔しないように、というお考えなの。モモンガ様達がお姿を現したら、シモベは全ての作業を止め、敬意を示してしまいますから。ですよね?モモンガ様、アテナ様」

「そ、その通りだアルベド」

 

ダウトですモモンガさん。

ただの私たちのお忍び(デート)外出だったでしょう。

あとそれと、あの、アルベド、見せつけるようにモモンガさんに密着しないで?あの、うらy…げふん。いえ何でもありません。

 

それよりも確認したいことがあってデミウルゴスにこっそり話しかける。

 

「(ね、ね、でみうるごす。あるべど、しごとちゅう、だったよね?)」

「(はい、その通りでございます。つまるところ、モモンガ様が見えたので仕事を投げ出してきたのでしょう。後でキツく言っておきます)」

「(おねがい、します)」

 

なにやらモモンガさんとアルベドで何かあったようで、そのままアルベドにギルドの指輪を渡していた。

 

いやあの、だから、え、左手薬指に指輪をつけるのが風習だったならごめんなさいだけど、あの、アルベドさん。後でお話ししようか。なに勝ち誇ったかのような目でこっちを見てるんですか。(言い負かされる気しかしないけど)

 

「デミウルゴスには後日私から直接、もしくはアテナさん経由で渡すとしよう」

「わかりました。かの偉大な指輪をいただけるよう、努力して参ります」

「ではすべき事も済んだので叱られないうちに戻るとしましょうアテナさん」

「は、い。わかり、ました」

 

 

 

 

その後モモンガとアテナが転移した直後に凄まじい雄叫びが聞こえたとか







そのうちアルベドvsアテナの正妻戦争でも描きましょうかね(小声
感想や評価をくださった方、そうでなくとも読んでくださった方、ありがとうございました。



また改めてこの回を読んでくださった方、ありがとうございます。
感想や評価などをいただけるとうれしいです



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話 人間の村

アテナ作NPCに聞いてみた

Q1.人間をどう思う?
シグルド「眼に入れたくもない、が必要とあらば会話をしよう」
ブリュンヒルデ「思わず……殺してしまいそうです」
ワルキューレ三姉妹「お姉様とシグルド様を殺した憎き種族」
エミヤ「正直どうでも良い。が、もしかしたら毒瓶を調味料と間違えてしまうかもしれないな」


Q2,シグルドvsブリュンヒルデだとどっちが強い?

シグルド「我が愛だろう」
ブリュンヒルデ「シグルドでしょう……」

アテナ「試したことはないけど、ビルドのガチ度は一応シグルドが上です。総合力を加味して守護者の序列4位にはなってますが、『相手に出す火力』という点で見た場合、ドラゴン相手に限るとシグルドが100%勝つと思います。逆にアンデット相手だとブリュンヒルデの勝ちは揺るぎないです」



アテナに聞いてみた

Q.守護神の種族ってどうやってとったの?

アテナ「元々守護神を取るために必要な種族になるためのアイテムがガチャのみ、しかも超超超低確率で手に入るっていうやつをとって、そこからはアホみたいな高難易度レイドクエストに行かされて1週間くらいかけて攻略してようやく取れました。ギルドのみんながずっと手伝ってくれたおかげで取れたので感謝してもし切れません」


Q.たっち・みー相手に耐えれるってガチ?

アテナ「えーと、はい。一応。数発程度なら。……10分耐えれるか?私の体力と防御力が3倍くらいになったらいけるんじゃないですか?」


Q.耳が聞こえないってどうやってゲームしてたの?

アテナ「どうやっても何も、普通にやってました。色々苦労はしましたがたのしかったですよ」


〜次の日〜

 

「(これをこう…でもない。じゃあこう…でもない。はぁ、流石に飽きてきたな)」

 

「(防衛案って言っても、何も思いつかない……)」

 

昨日帰ってきてからちゃんとセバスにみっちりと怒られました、はい。

なので今日はちゃんとお仕事を、と思いモモンガさんのところに来て良い防衛案が何かないかと考えるも、全く思いつかない。

 

せいぜい、超位魔法の『天使の宴(エンジェル・オブ・フェスティバル)』を使って定期的に最高位天使を召喚するくらい。だけどモモンガさんに一旦その案は保留と言われたから別の案を考えるも何も思いつかない。

 

モモンガさんはと言うと机の上でずっと鏡に対して手を動かしている。

何だっけあれ。遠隔視の鏡、みたいな名前だったような。記憶が確かなら評価微妙に位置する情報取得系アイテム。

 

「モモンガさん、どう、ですか?」

「手応え無しです。操作方法が変わっているようで、全然使えないんですよ」

「じゃあ、他にもいろいろ、かわってるかもですね」

「そうなんですよ。また色々とやることが増えてしまって」

「何かあれば、お手伝い、します。いってください、ね」

「はい。ありがとうございます。……お?」

 

話してる途中でモモンガさんの手が急に止まる。

それと同時にパチパチと拍手が鳴る。

 

「おめでとうございますモモンガ様」

「ありがとうセバス。これでよりナザリックの防衛に役立つと良いんだが」

 

どうやら鏡の操作に成功したらしい。

私も見てみたくなり、モモンガさんにお願いすると快諾してくれたのでモモンガさんの横へ向かう。鏡を見るとちゃんと外の景色が映っていた。

 

「さて、人のいる場所でも探してみましょうか。アテナさんも何か見つけたら言ってくださいね」

「はいわかりました」

 

昨日帰ってからエミヤにミッチリとスパルタ訓練させられたので流暢、とは言い難いけど普通に会話できる程度には上達したのでは、と思う。

エミヤ曰く、発音にまだ難ありらしいけど。少なくとも普通に過ごす分には問題無いとお墨付きをもらった。

 

「ん?これは…‥祭りか?」

「いえこれは違います」

「……?」

 

モモンガさんが村のようなものを見つけ、それを拡大して見る。

最初は人が忙しなく動いていて、私もモモンガさんもお祭りなのかなと思ったが、よーく見ると違うのがすぐにわかった。

 

明らかに村人じゃ無い騎士のような格好をした人間が村人を片っ端から斬り殺したり、刺し殺したり、虐殺をしていた。

 

モモンガさんも気分が悪いのか舌打ちをしていた。

かくいう私もそれほどみていて気分の良いものでも無い。

 

 

 

が、何故かそれ以上に『どうでも良いな』という感情しか湧かなかった。

 

 

 

「どうされますか?」

「見捨てる。助けに行く理由も価値もない。……アテナさんも、宜しいですか?」

 

「はい」

 

私が即答したことにモモンガさんが驚いていたのがよくわかる。

そんなに変なことを言ったのかな?

 

「私、変な事、いいました?」

 

「い、いえ。アテナさんって確かカルマ値が善寄りだったので、てっきり助けに行きたいと言うものかと思っていて」

 

「んー、べつに、ですね。ナザリックの、りえきになるなら助ける価値はあると、おもいますけど。あと、昔の名残?なのかどうも人間種自体あまり、好きじゃないんです。というより、どうでもいい、にちかいかもしれません」

 

「……やはりあの事はまだ根に持っているんですか?」

 

「はい」

 

当たり前だろう。モモンガさんと会えたことには感謝してるが、それだけだ。

聞いたところによるとリスポーンした私をリスキルしまくる予定だったらしいし(それを知って激怒したモモンガさん達がギルドを跡形もなく潰しに行ったのは良い思い出?です)

 

「……」

 

「?どうした、ですか?モモンガ、さん」

 

「アテナさん。先程の言葉、撤回します。今からこの村を助けに行きます。理由は…」

 

「わかりました。ついていきますよ」

 

再度即答するととても驚いているのがよくわかる。

理由も聞かずに即答したからだろうか。

 

「ありがとうございます。ですが、宜しいんですか?」

 

「はい。私は、モモンガさんに、ついていくってきめています。なので、モモンガさんの決めたことに、異論は、ありません。それに……2人きりになれるかもですし」

 

「え?」

 

「い、いえ。なんでもあり、ません。完全武装で、良いですか?」

 

「勿論です。ですが盾のみ別のものを使用してもらえますか。万が一相手に取られる可能性もあるので」

 

「わかりました」

 

世界級アイテムの盾ではなく、その前に愛用していた神器級アイテムを取り出す。モモンガさんはというとギルド武器を持ち出していた。

 

「セバス。私たちはこの村に行く。ナザリックの警戒レベルを最大限まで引き上げ、アルベドに完全武装で来るように伝えよ。またワルキューレ三姉妹のうち1人……そうだな、スルーズは直接村の上空へ行き周囲の監視を命じろ。その際に分身体50体を作らせ村を円状に囲むように配置させておけ。それと一緒に隠密能力もしくは透明化の特殊能力に長けている者を共にこの村へ送り込みみ周辺警戒をさせよ」

 

「ハッ!」

 

「では行きましょうアテナさん」

「はいっ」

転移門(ゲート)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……」

「バケモノ…⁉︎」

 

「えっ?」

 

騎士たちの反応など気にせずアテナさんに話しかける。

 

「ではお先に試させてもらいますね」

「はい。どうぞ」

「では…心臓掌握(グラスプ・ハート)!」

 

俺の使える即死系魔法の中でも最高に近いものを使う。特に弾かれたり動きが鈍るということもなく、呆気なく死んだ。

 

「あ、だいじょうぶそうです、ね?」

「ええ。第九位階のこの魔法が通じなければ逃げるしかないと思っていましたが。しかし特別コレが弱かった可能性もありますので、油断は禁物です」

「わかて、ますよ」

 

「ば、ばけものっ!」

 

アテナさんとの会話中に叫ばれ、思わず不快に思ってしまい強制的に沈静化される。

 

「ふん。人を殺しても何も感じない、か。やはり肉体のみならず精神まで人間をやめた、ということか。それよりどうした?女子供は追い回せるのに毛色の変わった相手は無理か?せっかく来たんだ。無理矢理にでも実験に付き合ってもらうぞ。龍雷(ドラゴン・ライトニング)!」

 

逃げ出した騎士に対しもっと弱い位階の魔法を使う。が、こちらでも即死した。……え?弱くない?

 

「弱い。第五位階程度の魔法で簡単に死ぬとは。特殊技能(スキル)も試して見るか。中位アンデット作成・死の騎士(デス・ナイト)

 

スキルも問題なく発動できた。が、俺の想像していた召喚方法とは少し違った。空中に黒いモヤのようなものができたと思ったら先ほど殺した騎士に乗り憑った。そして2メートルもなかった人間の死体が3メートル弱はある大きなアンデットに変化した。

 

「(うげっ。死体に乗り移るのか。ユグドラシルとはだいぶ違うなぁ。とりあえず命令出して様子見するか)デス・ナイトよ。このような格好をした人間がこの先にある村を襲っている。その人間たちを殺せ」

『ウゴォォォォォ!』

「え?」「あ」

 

俺の命令を聞いたのかデスナイトが走り出す。ゲームだと召喚者の近くに待機するはずだったんだけど。アテナさんもその仕様を覚えていたからか素っ頓狂な声をあげていた。

 

「(盾になるモンスターが守るべき者を置いて行ってどうするよ。いや命令したの俺なんだけどさ)」

「(召喚したNPCに命令もできるんだ。なら『天使の宴』を使って天使達の支配権をモモンガさんに渡せばいい戦力になるのかも?)」

 

ひとまず姉妹のことをどうにかしないと、と思い目をやると怪我をしているのが分かりポーションを取り出す。

それを飲むように促すも何故か怯えられる。

 

「ふたり、とも。これは治癒の薬。それでも飲まない?この人の、好意を、無駄にして飲まないなら……」

 

「わ、わかり、ました」

 

何が正解かわからず思わず考え込んでしまっているとアテナさんが姉妹の前にしゃがみ、少し威圧的?な声でそう言った。

それに少し怯えながらもポーションを勢いよく飲み干していた。

 

「う、ん。よろし、い」

「ありがとうございますアテナさん。それでそちらの小娘よ。痛みは消えたか?」

 

「は、はい!ありがとうございます!」

 

「モモンガ様。アテナ様。お待たせ致しました」

 

そんな時にちょうどアルベドが転移門を通りやってきた。

濃い紫色の全身鎧に身を包み、手には斧を持っていた。

 

「して、こちらの下等生物はどうされますか?ご命令くだされば即座に処分致しますが」

 

「だ、め!この人たちとは、友好的、に!わたしたちの、ひとまずの敵は、こっちの鎧をつけてる方!」

 

「畏まりました」

 

すぐ殺そうとしたアルベドにアテナさんがストップをかけてくれた。

……もしかしてナザリックのNPCみんなこうじゃないよな?見かけるだけで殺すとかだったら手に負えないかもしれないぞ。その辺の意識調査も必要かもしれない。

 

「オホン。お前達、魔法というものは知っているか?」

 

「は、はい!たまにこの村に来る薬師の、私の知人が魔法を使えます!」

 

「なら話は早い。私はマジック・キャスターだ。生命拒否の繭(アンティライフ・コクーン)。|矢守りの障壁《ウォール・オブ・プロテクションフロムアローズ》。守りの魔法をかけてやった。その中にいれば大抵安全だが、その外に出るならば命の保証はしない。それと、念のためにこれをくれてやろう。それを吹けばゴブリンの軍勢がお前に従うだろう。それで身を守れ」

 

と、二つの(かなりの微妙系アイテムの)角笛を投げ入れる。

これ以上のことはする必要はないだろう。

 

「(デスナイトを倒せるレベルの騎士はまだ現れていないみたいだし、そろそろ村に行かなきゃな)」

「お、お待ちください!」

 

突然呼び止められ、まだ何かあるのかと思い振り返る。

 

「あ、あの、助けていただき、ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

 

「気にするな」

 

「お、お名前を教えていただけませんでしょうか!」

 

「名前……か」

 

最初は普通にモモンガと言おうとしたが別の考えが頭をよぎる。

しかし俺1人で決めて良いはずがない。

 

『アテナさん、一つ相談が』

『?』

 

そう思いアテナさんに伝言(メッセージ)で確認を取ることにした。

 

『実は--------』

 

俺の考えをアテナさんに正直に伝えた。これでダメだと言われたらやめるつもりだった。

 

『いい、とおもいます。わたしに異論は、ないですよ』

『ありがとうございます』

 

しかし以外にも帰ってきたのは肯定。

本当に、ユグドラシルの時といい今といい、アテナさんには感謝しかない。

 

 

 

「我が名を知るが良い!我こそが『アインズ・ウール・ゴウン』!」





いよいよ人間の村。

しかしその裏でオバロ4期とWeb版を同時に履修し始めたアホ作者がいるため1期分で終わらせるとか言っていた決意が揺らいできています。誰か私を諌めて(



読んでくださりありがとうございました。
これからも暇潰しの一環になれば幸いです

また評価や感想もくださるととても嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話 現地人

転移前のナザリック全盛期のある一幕。

『あの、モモンガさん。お願いが…』

『おやアテナさん。どうされました?』

『実は、守護神の種族を取るためのクエストが、レイドクエストだったみたいで…その、私1人だとどうにもならなくて。それでお手伝いしてほしくて…』

『良いですよ』

『そうですよね。難しいで…って、え?』

『良いですよアテナさん。そのレイドクエストとやら、やりましょう。俺も目新しいことがなくて暇だったんです。ついでですし皆さんと冒険する良い機会です。アテナさん、私達と一緒に戦ったことないでしょう?』

『え?ええ。まあ、はい』

『ならば是非ともやりましょう!俺もアテナさんの戦闘スタイル見てみたいですし!それにギルメンの皆さんにもメールを送ればきっと来てくれますよ。てかなんなら今から招集かけてみましょうか』

『い、いや!そんな大事にしなくてもいいんですよ⁉︎』

『みんなこう言うの大好きだから大丈夫ですよきっと。‥‥おっ、早速。ペロロンチーノさんとぶくぶく茶釜さん、たっちさんとウルベルトさんもokしてくれましたね。って、珍しい。ギルメン全員ログインし始めた』

『え?』

「きーたーぞー!はよレイド行こうぜ!」
「落ち着けというか黙れ愚弟。あーアテナちゃーん!久しぶりぃ!元気にしてたぁ?」
「ぶくぶく茶釜さん。アテナさんは…」
「ああそう言えば。失念してたわ」『アテナちゃーーん!久しぶりぃ!元気にしてた?』
『はい。それはもう。毎日が楽しいです!』

真っ先に来たのはバードマンのペロロンチーノさん、ピンクスライムのぶくぶく茶釜さん。ペロロンチーノさんが何故か私をみて何かをしようとした瞬間にモモンガさん達にぶっ飛ばされていたけど、何をしたんだろう?

それからあれよあれよというまに円卓の間の席が全て埋まった。

『さてみなさん、今回はアテナさんがいるので意見がある場合はチャットにてお願いします。議事録的なものにしてアテナさんにもわかるようにお願いします』

『はいはーい!とりあえずアテナちゃんが死んだら一番近くにいたやつ罰ゲームってのはどう?』

『却下、アテナさんが死んだら責任は全てペロロンチーノさんが負う、と言うのはどうでしょう』
一同『異議なーし!』
『なんで⁉︎』

『難易度的にはこのナザリック攻略時よりは低いので、恐らくは大丈夫だと思います。ですがダンジョンの名称から恐らくは天使系統のモンスター、神聖属性を使うモンスターが闊歩していると思われますのでその辺の対策は充分してください。また、アテナさんはまだビルドは不完全ですがタンク向きのビルドに近いので戦い方を教えるためにぶくぶく茶釜さんと一緒に前線を張ってもらおうと思っていますがどうでしょうか?』

『構わないわよん。よろしくねーアテナちゃん!女同士仲良くしましょー!』
『よ、よろしくお願いします!』

まさかのギルドの人が全員集まってくれて攻略に乗り出すとは思っておらず、終始ポカーンとしていた。

‥‥途中、なぜか複数回に渡りペロロンチーノさんが袋叩きにされていたが、本当に何をしたのだろう?

『それではみなさん!アテナさんに我らの力思う存分見せつけてやりましょう!』



それからクエストの説明文にある推奨期間が2週間なのに対しまさかのその半分の1週間で攻略できた。もう終始驚いていた記憶しかないです。

 
それでも私の中では一生記憶に残るくらいに一番の思い出だった。





モモンガさんから唐突にされた相談の内容は至ってシンプルだった。

ただ名前を変えたい、と。

 

モモンガからギルドの名へ、アインズ・ウール・ゴウンへ改名しても良いか、ギルドの名を勝手に使っても良いか、ということだった。(てっきり私が代わりに紹介してくれ、アドリブRPしてくれってお願いが来ると思っていたけどそうじゃなかった)

 

「アテナさん、改めてありがとうございます。俺の我儘を聞いてくれて」

 

「いえ、大丈夫ですよ。ももんが……じゃなくて、あいんずさん?ごうんさん?どう呼べば、いい、ですか?」

 

「お好きな呼び方で大丈夫ですよ。ですが公の場ではアインズと呼んでいただけたらと思います」

 

「わかり、ました」

 

2人きりの時だけモモンガさんと呼びたいなぁ、なんて。

公私混同してたらアルベドに大目玉喰らいそうだから間違ってもアルベドの前では言わないようにしなきゃ。

 

 

それにしても、死を前にして神に祈るくらいなら虐殺なんてしなければよかったものを。

 

 

 

 

 

 

 

「……もしかして、この世界の人間、弱い?」

「ま、まぁ、コイツらだけって可能性も……ありますから」

 

デスナイトの虐殺っぷりを見るに、この鎧を纏っている騎士たちはかなり弱いと言うのはわかる。デスナイトに手も足も出ない時点で、レベル換算にして20以下、と言ったところだろうか。

 

「そろそろ下へ降ります。アテナさんは出来る限り無言でお願いします。アルベドもだ」

 

「わか、りました」

「承知しました」

 

 

 

「そこまでだ!デス・ナイトよ!」

 

騎士が残り5人程度となったのを確認してデス・ナイトを止め、人間の前に降り立つ。

 

「初めまして。諸君。私はアインズ・ウール・ゴウンという。諸君らには生きて帰ってもらい、君たちの飼い主へ伝えよ。この辺りで騒ぎを起こすなら、今度は貴様らの国まで死を告げに行く、と。いけ!そして確実に我が名を伝えよ!」

 

俺の言葉を皮切りに騎士達は逃げ惑う。村人達はと言うと安堵の表情になっていた。

 

『あ、モモンガさん。あの騎士、1人、2人くらいは、捕まえておいたほうがいい、と思います』

『と言うと?』

『ねんのため、です。それに情報源は少しでも、多いほうが、いいとおもいます』

『なるほど。確かにそうですね。ではスルーズへ命じましょう』

 

アテナさんからの助言は的確で、すぐにスルーズへ連絡を取る。

 

『はい、どうされましたかモモンガ様』

 

『スルーズよ、先ほど逃げた騎士を2名ほど捕らえよ。どれも大差はないと思うが、1番実力のある人間を捕らえてくれ』

『畏まりました。分身体でもおそらく充分かと思われますので、そちらを使用してもよろしいでしょうか?』

『ああ、それで構わない』

『ありがとうございます。ではただちに』

 

演技も疲れるなぁ。

 

「あ、あなたは……あなた様は……」

 

「この村が襲われているのが見えたものでね、助けに来た。さて、君たちはもう安全だ。安心してほしい」

 

そう告げるも、村人の顔はあまり良くない。何かおかしいことを言ったのだろうか?

と、考えを少し巡らせて一つの答えに辿り着く。

 

おそらくは後ろのデス・ナイトに怯えているのと、何か気に触ることをしたら今度は自分達が騎士達のようになるのでは、と怯えているのだろう。

 

「とはいえ、タダというわけではない。それなりの礼を頂きたい」

 

それにより、村人達の顔も多少は良くなった。

 

「(営利目的と思われたほうが余計な疑いをかけられずに済む、というものか。しかし、あの姉妹が怯えていたのは骸骨の顔だったのか。あの姉妹にはまた口止めしておかないとな。魔法による記憶操作が有効だといいんだけど)」

「(すごいなぁ。こんなに人前でスラスラと喋れてる。流石モモンガさんだなぁ)」

 

その後は村人を安心させるために金銭を要求。だけど本当に欲しいのは情報なので金銭を支払えない代わりに情報を要求した。

 

結論から言うと、ここは完全にユグドラシルとは別物の世界、と言うことだ。聞いたこともない地名、街、国。

それに加えて村人達の喋っている言葉も日本語とか英語とかそう言うのではなく、勝手に翻訳されて聴こえている。

 

アテナさんはと言うと、村人の治療をしてもらっている。最初こそ渋い顔をしていたが、少しでも恩を売るためだと理解してもらった。(その際、アルベドがなぜか勝ち誇ったかのような顔をしていたのは気のせいだろうか)

 

「お待たせしました」

「お疲れ、様です。どう、でしたか?」

「そうですね。一度人間の街に行って住んでみるべきかと思っています。一番近いエ・ランテルという街で冒険者をしてみるのも良いかと思います」

「なるほど」

 

本音を言うと俺がやってみたいだけなんだけど、それだと絶対反対されるからなぁ。それらしい建前をまた用意しとかないと。

 

 

 

 

 

 

しばらく経って村人達の弔いの準備ができたようで、アインズさんと一緒に見守る。蘇生までしてあげてさらに恩を売るといいのでは?と思ったけど『死を齎す者』と『死者を蘇らせる者』だと後者の方が圧倒的に面倒ごとに巻き込まれるだろう、ということとそこまでしてやる義理はない、との事です。

 

にしてもアルベド、あからさまに勝ち誇った顔をしてきて……い、いいもん。冒険者になりに行く時は絶対に私がついていくし?まだ2人きりになれるチャンスはたくさんあるし?

 

「ここですべき事も終わった。撤収するとしよう』

「承知致しました」

「(コク)」

 

と、不意に村人の1人が私たちの前を横切る。その際にアルベドが明らかに不機嫌になっていた。

 

「……アルベド、人間、嫌い?」

 

「脆弱な生き物、下等生物、虫のように踏み潰したらどれほど綺麗になるかと」

 

……うわぁ、評価0どころかマイナス。

 

「アルベド、だがここでは冷静に、優しく振る舞え。演技というのも重要だぞ。(とはいえ、俺も人を殺して何も感じなかった。これはアンデットになった影響なのか?そういえば、アテナさんも虐殺を見ていたはずなのに何も感じていないようだったし……)」

 

アインズさんの言葉で少しは考えを改めて……るのかな?

私もシグルド達に後で人間について聞いておこうかな。

 

「……ん?」

「はぁ、また何か面倒ごとか。アテナさん、もう少しだけお付き合いしてください」

「はい、もちろん、です」

 

村人達が集まっているのを見てアインズさん達と近づく。と、話を聞く前にスルーズから伝言(メッセージ)が入る。

 

『モモンガ様。アテナ様。武装した集団が2つ、こちらへ向かってきております』

 

『2つ?どのような集団だ?』

 

『ハッ。一つは武器も防具もバラバラ。しかし1人のみ頭一つ抜けて強いと思われます』

 

『ほう?スルーズよ、お前なら勝てるか?』

 

『問題ないかと。頭ひとつ抜けていると言っても、精々デス・ナイト程度かと思われます』

 

『なるほど。もう一方は?』

 

『杖などを持っていたり、近距離用の武装ではないことからマジック・キャスターの集団かと思われます。また下位の天使である炎の上位天使(アーク・フレイム・エンジェル)監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)を使役しているのを確認しております。両者共に、モモンガ様達ならば軽く捻り潰せる程度の集団かと』

 

『わかった。では引き続き監視を行え。特にマジックキャスターの軍団の方に分身体を割いておいてくれ』

 

『畏まりました』

 

スルーズとの会話もアインズさんが基本やってくれるので、うん、仕事が無い。

 

「村長殿」

 

「おお、アインズ様!実は、どうやらこの村に騎士風のような者が近づいているようで」

 

「なるほど。わかりました。村長殿の家へ生き残ったものを至急集めてください。村長殿は私たちと広場へ」

 

「は、はい!」

 

広場でしばらく待っていると、スルーズの情報通り装備がバラバラな騎士の集団が現れた。

中でも先頭を走っていたのは、確かに集団の中で頭ひとつ抜けているように感じた。……どの程度かは正直わからないけど。

 

私たちの前に止まった騎士は、一瞥した後に口を開く。

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長のガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らし回っている帝国の騎士達を討伐するよう王に命じられ、村々を回っているものである」

「王国戦士長…!」

 

「ん?」

「?」

 

どうやら、その王国なんとかは結構すごいもの?らしい。

 

……そうなの?

 

「この村の村長だな?その隣にいる御仁は誰なのか、教えてもらいたい」

 

「この方は…」

「それには及びません。初めまして、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村が襲われていたので、助けに来たマジックキャスターです」

 

「っ!」

 

アインズさんの言葉を聞いて王国戦士長さんはすぐに馬から降りた。え?何か文句言われる?

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉もない!」

 

「いえ報酬目的なので、お気になさらず」

 

「村を救ってくれた恩人だ。用意できる限りの御礼をさせて頂こう」

 

おおう、どうやらめっちゃいい人ぽい。

それよりもわたし蚊帳の外です。

 

「ところで、あのアンデットは…」

 

「私が召喚しました。ご心配なく。暴れることはありません。仮に暴れたとしたらこちらの方が止める手筈となっております」

 

「この方はあのアンデットよりも強いと?」

 

唐突に紹介をされ、思わず背筋がピンと伸びてしまう。が、それに意を介さずに2人が話す。

 

「ええ」

「(ペコ)」

「失礼、彼女は人見知りなもので。あまり喋りたがらないんですよ。ですが実力は折り紙付きです。手合わせをしていただいても構いません」

 

「いや問題ない。あのアンデットを使役する方の護衛だ。実力も相当なものだと伺える。さて、話が逸れてしまったが本題を…」

 

 

「戦士長!」

 

 

やっとアインズさん達が本題を話そうとした瞬間にまた横槍が。

悪いタイミングって重なるものなのかな?

 

 

「周囲に人影あり!村を取り囲むように展開しています!」

 

 

 

 

「確かにいるな」

「ふむ」

「(懐かしいなぁ。ほんとに初期の初期に使ってた種族だ)」

 

村の外を取り囲んでいるマジックキャスターと使役している天使を見てそんな感想を抱く。

確かに使役してるのがあんな下位天使なら変に身構える必要もないのかな。

 

……いや、油断大敵だ。万が一セラフ級が来たらちゃんと戦わなきゃいけなくなるんだから。

気を引き締めないと。

 

「この村にそれほどの価値があるようには思えないのですがね。何か心当たりは?」

 

「俺、だろうな」

 

「なるほど。恨まれているのですね戦士長殿は」

 

「全くだ。俺を殺すためだけにあのような特殊部隊まで使ってくれるのだから」

 

「特殊部隊?」

 

「ああ。恐らくだがあの数のマジックキャスターを揃えれるとなるとスレイン法国の特殊部隊、六色聖典のどれかだろうな。

 

ゴウン殿。一つ雇われてはくれないだろうか?報酬は望む額を用意しよう」

 

「お断りします」

 

ここでアインズさんが戦士長の申し出を断ったのは意外だった。

てっきり最後まで助け切る流れかと思っていたけどどうやらアインズさんの頭には別の何かを描いているみたい。

 

「ならば…武力で無理矢理、と言うことでどうだろうか?」

 

「ッ!」

「……」

 

いきなりそんな事を言い、周りの兵士がアインズさんに剣や槍を向けられる。それを目にしてアルベドから殺気が漏れていたけどアインズさんが諌めていた。

 

が、そんなアインズさんを気にせず王国戦士長とアインズさんの間に割って入る。

 

「…?」

 

王国戦士長が怪訝そうな目でこちらを見る。

自分でもなんでこんな事をしてるのかわからない。

 

心臓がバクバク鳴っているのがわかる。緊張で震える。

だけど頭の中はとても冷静に物事を考えていた。

 

「悪いですが、それはさせません」

 

「ほう?」

 

「私はこの方を守護する立場を預かっています。主が武で以って望まない事を強制されると言うのならば、私はソレから主を守る義務がある。お分かりいただけますか?」

 

「……」

 

「貴方とは出会って僅かとはいえこれまでの言動などから少なからず評価しています。とても誠実な御仁だと。それに分かっているのでは?私達に対し武力では敵わないと。それでも僅かな可能性に賭ける蛮勇とも呼ぶべきその姿勢は評価しますが」

 

自分でも驚くほど言葉がスラスラと出てくる。

 

「それでも我が主へ刃を向けると言うのなら私は貴方達を今すぐこの場で殺します」

 

「……ふっ、確かにな。俺達ではゴウン殿には勝てない。失礼したゴウン殿。恩人であるはずの貴方達への無礼を許してほしい。そちらのご令嬢も、主人への無礼な仕打ち、どうか許していただきたい」

 

「いえ、気にしていませんので」

「なら……よし、です」

 

と、戦士長さんは意外にもすんなり剣を収めてくれた。

 

「恐らくですが、敵対している国へ私たちのことがバレた際に王国の後ろ盾を作ってくれようとしていたのでしょう?命令されているという建前があれば私達への面倒ごとが少しでも減るのではないか、と」

「え?あ、そうだ、たんですか?」

 

「見抜かれていましたか。ええ、その通りです」 

 

「ご、ごめん、なさい。わたし、なにもかんがえずに、かってなことを」

 

「いえお気になさらないでください。主の守護を担う者として貴女の行動は立派でした。そのような若さでその立ち振る舞い。このガゼフ感服しました。っと、どうやら相手も痺れを切らしてきている様子。この辺にて我らは失礼するとしよう。ゴウン殿、この村を救ってくださり感謝する」

 

私の謝罪に対してもなんとも思っていないようで、死を覚悟した人の目になっていた。

そしてアインズさんと握手をしていた。すぐに手を離すと思ったが戦士長はさらに強くアインズさんの手を握る。

 

「本当に、本当に感謝する!そして我儘を言うようだが、もう一度だけ、村の者を守ってほしい。私が差し出せるものはないが、何卒、何卒っ⁉︎」

 

そのまま土下座でもしようとしていた戦士長をアインズさんが止める。

 

「そこまでされる必要はありません。了解しました。村人は必ず守りましょう。このアインズ・ウール・ゴウンの名にかけて」

 

「ならば後顧の憂なし。私は前のみを見て進ませていただこう!」

 

その際にアインズさんが何か木彫りのようなアイテムを戦士長に渡していた。……なんだっけあれ。

 

『アテナさん、頃合いを見て戦士長と入れ替わります。殺されては恩を売ることができないので、入れ替わり後にスルーズへ戦士長達の治療をするよう命じておいてもらえますか?』

 

『わかり、ました。それとあいんずさん、本当に勝手な事をして、ごめん、なさい』

 

『いえ、気にしていませんから安心してください。ですが、なぜあのような事をしたのか後ほど聞かせていただいても?』

 

『もちろんです』

 

本当に、なんであんな事をしたのか自分でもわからない。……フレーバーテキストの影響なのかな?

 

考えてもしかたないし、目の前のことに集中しよう。うん、わからないことは後で考えよう。




いやぁオバロ4期、面白い(サボるなだって?はっは……すいませんでした)

他作品よりも数倍モチベはあるのでもう少し更新はできると思われます。
今年中に完成させたい(願望



読んでくださりありがとうございます
読んでくださった方の暇つぶしになれば幸いです

評価や感想などくださるととても嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話 スレイン法国

「理由がわからない?」

 

「はい……」

 

「落ち込んでいるところ申し訳ないのですが、もう少し詳しく、どんな些細な事でもいいので教えてくれませんか?先程の言動について。そのとき考えていたことなどを」

 

「……はい」

 

村人達が避難している小屋の近くで王国戦士長とスレイン法国の特殊部隊とやらの観戦をしながらさっきのアテナさんの言動について聞く。

 

それに対してアテナさんは理由がわからないと答えた。

 

自分でも意味不明だと思っているのか、何かに怯えながらも必死に言葉を紡ごうとしていた。まるで怒られるのを悟っている子供のように。

 

---あまりアルベド達には聞かれないほうがいい内容だろうな。

 

「アルベド、アテナさんと極秘事項について話す。少し席を外してくれ」

「しかし…」

「命令だ」

「か、畏まりました」

 

アインズが気を利かせてアルベドを話の聞こえない場所へ配置する。

その一方でアテナの心を占めていたのはただ1つ。

 

『アインズさんに嫌われたく無い』ただその一心だけだった。

 

アインズもそれを察していたのか、泣きそうになっているアテナに向かい優しく話しかける。

 

 

「アテナさん、ゆっくりでいいですので先程の言動の理由を教えていただいても宜しいですか?わからないところはわからないで構いませんから」

 

俺の問いかけに弱々しく頷き口を開いた。

 

「さ、さいしょは、ふつうに、いい人間もいる、くらいだたです。でも、あいんずさ、に、剣、向けられたとたん、きゅうに、あたまのなかが、冷静に、なったです」

 

「冷静に?混乱などではなく?」

 

てっきり混乱してやるべきことをやらなきゃと考えた結果の行動かと思っていたが違っていたらしい。すっかり怯えてしまったアテナさんは少し前のような辿々しい言葉になっていたが、頑張って説明してくれているのでなんとか理解できる。

 

「とても冷静に、みわたせました。それで改めてあいんずさんに、剣を向けられて、わかって、『アインズさんを守らなきゃ』って、おもったときには、もう、ふたりのあいだ、いました」

 

「ちなみにですが、その時に私の強さならばあの人間達に万が一にもやられることはないということは?」

 

もしかしたらアテナさんにとってあの王国戦士長が守護者並みの強さに見えていたのかもしれないと思い確認を取ると頷かれた。

 

「は、い。わかて、いました。それに、あいんずさんとのやくそく、まもらなきゃ、だから、じっとだまてる、つもりだったんです。それなのに、あんな…。ふたりの、間にはいったとき、じぶんでもすごく、焦りました。なんで、こんなことしたんだ、って。心臓もバクバクしてました。でもそんなわたしの心とは、うらはらに、口からはすごく、言葉がすらすら、でた、です。…じぶんでも、なんであんなにいえたのか、わかりません」

 

アテナさんの目を見てみると、ポロポロと涙を流していた。

もしかしたら俺が怒ったりとか嫌いになったりとか、その辺を気にしているのかもしれない。

 

「(今思えば、アテナさんはずっと俺の後ろに着いてきててくれたんだよな。それこそ自分の意思を押し殺してる、とでも言えるくらいに。……ともかくその辺はしっかり説明して安心させないと。泣きそうな彼女は見ていて心が痛い)アテナさん、少し近くに来てくれませんか」

 

「…?」

 

確かやまいこさんがいってた、落ち込んでる子を慰めるにはこれが一番、って言ってたのを思い出しソレを実行してみる。

 

アテナさんが近くに来てくれたのを確認し、しゃがんで目線を合わせ、アテナさんを優しく抱きしめる。

 

「え?」

 

正直くっそ恥ずかしいが一時の恥でアテナさんを慰めれるなら安いものだろう。

 

「大丈夫です。怒ってませんから。何より俺の為を想って行動してくれて本当に嬉しいんです。それに俺がアテナさんを嫌いになるなんて絶対にあり得ません。勿論今回のことを気にするなとは言いません。これからは気をつけてほしいです。

しかしその一方で確信したこともあります」

 

「かく、しん?」

 

「はい。アテナさんは紛れもなく『ナザリックの守護神』だ、という事ですよ」

 

「え?」

 

「アテナさんは、たとえ傷つかないと分かっていたとしても見過ごさず守ろうと動ける人なんです。そんなアテナさんは紛れもなく『守護神』ですよ。誰にも否定させませんよ。ありがとうございますアテナさん。そして願わくばこれからも俺を、俺たちを、ナザリックを、アインズ・ウール・ゴウンを守ってくれると嬉しいです」

 

腕の中にいる小さな守護神が少しモゾモゾと動いたかと思うと俺の腕からゆっくりと、優しく離れる。

 

その目を見るともう涙はなく、強い意志が宿っていた。

そして同時に、とても柔らかい笑顔をしていた。

 

「はいっ。もちろんです。これまでも、今日も、これからも、私はずっと、ナザリックの守護神です。任せて下さい。私がいる限り、誰も傷つけさせません」

 

「宜しくお願いしますね。……っと、そろそろ交代の時間ですね」

 

戦士長達の戦闘を見ていると、他の兵士たちがバタバタと倒れている中、戦士長だけがなんとか立っていた。

 

「アルベド、用意しておけ。アテナさんも用意だけはよろしくお願いします。今見ている限りは負けることはないと思いますが念には念を入れて動くことを頭に入れておいて下さい。アルベドもだ。格下だと思って油断するなよ」

 

「ハッ!」

「わかりました」

 

 

『な…めるなぁ!俺は王国戦士長!この国を愛し!この国を守護する者!王国を汚す貴様らに、負けるわけに行くかぁ!』

 

勝ち目などあるはずもない王国戦士長は、ボロボロで今にも死にそうな体で叫ぶ。

 

「……私、あの人間は、すごく好感が、もてます」

「私もです」

 

アテナさんの言葉に肯定で返し、再度戦士長を見る。

 

『そんな夢物語を語るからこそ、お前はここで死ぬのだガゼフ・ストロノーフ。その体で何が出来る?お前を殺した後、村人達も殺す。無駄な足掻きをやめ、そこで大人しく横になれ。せめてもの情けに苦痛なく殺してやる』

 

アテナさんとの意見は合致し、王国戦士長だけでも命は助けるか、程度に考えていたが次に発せられた天使を使役している部隊の隊長らしき人間の言葉で一気に周囲の空気が冷たくなる。

 

チラッとアテナさんを見てみると明らかに激怒しているのがわかった。

同じ守護をする者としての怒りなのか、別の理由があったのかはわからないがあの人間達が楽な死に方はしないだろうということだけはわかった。

 

『クックック……』

 

『何がおかしい?』

 

『愚かな事だ。あの村には、俺より強い御仁がいるぞ』

 

『ハッタリか?天使達よ、ストロノーフを殺せ!』

 

次の一撃はおそらくは耐えられないだろう。この辺りで交代するとしよう。

 

「では行くとしよう」

「ハッ!」

「はいっ」

「スルーズよ、これより重傷を負った人間達がここへ来る。治療にあたれ。その際に私からそうするよう命じられたと伝えておけ」

『かしこまりました。アインズ様』

 

 

 

 

 

 

 

「ッ⁉︎」

 

天使達に追い詰められ、死ぬことがわかっていながらも最後の最後まで足掻いてやろうと思った途端に頭の中に『交代だ』と声が響いた。

瞬きをした次の瞬間には見知らぬ倉庫のような建物の中にいた。

 

「こ、ここは……」

「ここは村の倉庫です。アインズ様達が魔法で防御を張られております」

「貴女は…」

「失礼しました。私はアインズ様達の従者、とお考えください」

 

俺の横に立っていたのは白いフードを深く被っていた女なのはわかった。が、見たことが無かった。

 

「アインズ様より貴方達の勇姿を讃え、命を助ける事にしたと伝えるよう仰せ仕りました。貴方様を含め順に傷を癒していきますので楽になさって下さい」

 

「ゴウン殿やその付き人の方々は…」

 

「ご安心ください。現在はあの下級天使を扱う不届き者へ裁きの鉄槌を下しているでしょう」

 

淡々と告げられ、どうやって俺たちをここに、と思ったが一つだけ心当たりがあり、ゴウン殿より頂いた木彫りを手に取るとまるで役目を果たしたかのように霧散して消えた。

 

それを見て、またもやゴウン殿達に助けられたのだと確信した。

 

「そう…か」

 

それを確信した俺は安堵したのかその場に倒れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「……何者だ?」

 

「初めましてスレイン法国の皆さん。私の名は『アインズ・ウール・ゴウン』。アインズと呼んでいただければ幸いです」

 

今度は変な行動をしないと固く誓い、アインズさんの横に佇む。

目前には十数人のマジックキャスターと思われる人間と数十の天使。

 

万が一にも負ける可能性はないけれど奥の手がないとも言い切れないから油断はまだできない。

 

「あの村とは少々縁がありましてね」

 

「なんだ?村人の命乞いにでもきたのか?」

 

「いえいえ。ですがその前に幾つか質問をさせていただきたい。貴方達が現在使役しているのは第三位階魔法で召喚できる炎の上位天使(アーク・フレイム・エンジェル)で間違い無いでしょうか?」

 

「…?それが?当たり前だろう」

 

「なるほど。では次の質問です。その魔法は誰に教わったのでしょうか?」

 

「なぜ貴様に答える必要がある?」

 

「そうですか。では最後の質問…いえ、問答です。実は……」

 

さっきまで優しげな雰囲気を纏っていたアインズさんが、一気に雰囲気が変わる。それと同時に声色も。

 

「お前達との会話を聞いていたのだが、本当にいい度胸をしている」

 

「あ?」

 

「お前達は私たちが手間をかけてまで救った村人を殺すと公言していたな。これほど不快なことがあるものか」

 

「不快とは!大きくでたなマジックキャスター!で?だからどうした?」

 

「抵抗することなくその命を差し出せ。そうすれば痛みはない。だが…

 

拒絶するなら愚劣さの対価として、絶望と苦痛の中で死に絶えることになるだろう!」

 

少し大ぶりな腕のジェスチャーも相まって、もはや魔王と言われても遜色なかった。

 

正直に言おう。

 

 

 

 

めっっっっちゃかっこいい。

 

 

 

 

っと、げふんげふん。集中集中。大丈夫だよね?頬緩んでないよね?

 

「ッ!天使達を突撃させよ!」

 

『パッシブスキルの効果があるのか確認したいので手出し無用でお願いしますね』

『わかりました』

 

アインズさんに伝言(メッセージ)で言われた直後、2体の天使が光の刃をアインズさんに突き刺した。

ダメージは入っていないとは思うけどそれでも気分のいいものではなかった。

 

「……ふっ、無様なものだ。くだらんハッタリで煙に巻こうと…」

 

しかし隊長らしき人間の言葉は続かなかった。アインズさんを刺した2体の天使がジタバタと暴れ始めたから。

 

「…?」

 

「言っただろ?抵抗することなく命を差し出せと。人の忠告は素直に聞くものだぞ?」

 

アインズさんは天使の頭を鷲掴みにしながらゆっくりと引き剥がしている。浮いているはずの天使が地面の上で苦しみもがいているとはなんと滑稽なことか。

 

「馬鹿な…⁉︎」「何かのトリックに決まっている!」

 

「上位物理無効化。データ量の少ない武器や低位のモンスターの攻撃を完全に無効化するパッシブスキルなんだが…ハァッ!」

 

そのまま勢いよく天使を地面に叩きつけ、霧散させた。

 

「(やはりユグドラシルの天使と同じということか)」

 

「なぁっ…」

 

「お前達がなぜ、ユグドラシルと同じ魔法を使い、同じモンスターを召喚できるのか知りたかったんだが、まあそれはひとまず置いておくとしよう。

次はこちらの番だ。

 

行くぞ?鏖殺だ」

 

「っ!全天使で攻撃を仕掛けよ!急げっ!」

 

「アルベドよ、下がれ。アテナさんも下がってて下さい」

 

「はいっ」

「ハッ!」

 

アインズさんに言われ、一定以上の距離を離れる。

恐らくは範囲攻撃をするから巻き込みたくない、と言ったところだろう。

 

それにしてもコキュートスの時も思ったけど、曲がりなりにも命をかけてるのに全く怖さを感じない。それどころか戦えるかもしれないと思うと楽しみで仕方ない私がいた。

 

だけどそれ以上にアインズさんには傷一つ付けさせはしないという意志があった。

 

「【負の爆裂(ネガティブ・バースト)】!」

 

アインズさんから紫色のオーラが周囲に放たれ、数十体いた天使は、一回り以上大きな天使を除き全てが消えた。

それを確認しアインズさんの近くへ寄る。

 

「なっ…あり……えん!」

「ば、ばけものっ!」

 

人間の1人の悲鳴にも似た叫びを皮切りに、様々な魔法がこちらへ向かって放たれる。

一瞬スキルを発動して守ろうとしたけどアインズさんに肩を叩かれ、少し落ち着きを取り戻せた。

 

人間の放つ魔法はたどり着く前に全て霧散していた。

 

「ふむ。やはりユグドラシルの魔法ばかりだ。

誰が!その魔法を教えた!」

 

「うわぁぁぁ!」

 

そんな中1人がパチンコのようなもので石飛礫を飛ばしてくる。それを見て思わずカウンターを使って威力を数倍にして返してしまった。

跳ね返した石は飛ばしてきた人間の顔に当たり綺麗に首から上が弾け飛んだ。プシャァァと血が噴水のように勢いよく出た。

 

「何が…起こった」

 

「…アテナさん。あの程度の飛び道具でこの身が傷つかないのは承知のはず。貴女が力を使うほどの…」

 

「お待ちくださいアインズ様!アテナ様の行動は理にかなっております!至高の御身と戦うのであれば、最低限度の攻撃というものがございます!あのような下賤な飛び礫など……」

 

「はっはっは。アルベドよ、それでいうならアイツら自体が失格ではないか。なぁ?」

 

いや、失格とか云々とか何も考えずに跳ね返しただけです。はい。あの、アルベドさん?何こっちみてんのさ。

考えなしにやった私をフォローする最高の妻、とか思ってない?ねえ?

 

「ッ!監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)!やれっ!」

 

隊長の後ろに控えていた天使がメイスのような武器をアインズさんへ向かって振り下ろすも片手でそれを受け止めていた。

 

「やれやれ…【獄炎(ヘルフレイム)】」

 

指先から小さな闇の炎が出たかと思うと天使を一気に覆い尽くし、一撃で葬った。

 

「一…撃⁉︎」

「ありえるかぁ!上位天使がたった一つの魔法で滅ぼされるはずがない!」

「ニグン隊長、一体どうすれば…」

「生き残りたい者は時間を稼げ!最高位天使を召喚する!」

 

一度は焦った隊長さんだったが、何かを思い出したのか不敵に笑い懐から一つの掌より大きな水晶を取り出した。

……何だっけあれ。

 

『アテナさん。恐らく魔封じの水晶です。最高位ということは熾天使クラスかと思われます。ですので……その時は思う存分力を奮ってください』

『わかりました。まかせて、ください』

 

「アルベドよ、スキルを使用して私を守れ」

「ハッ!」

 

アルベドがモモンガさんの前に立ち、私はそれよりもさらに前へ出て一つのスキルを発動させる準備をする。アルベドの方が距離が近く一瞬羨ましかったけどそんなことは言ってられない。

 

「みよ!尊き最高位天使の姿を!月天の熾天使(セラフ・ムーンライト)!」

 

魔封じの水晶が砕け、眩い光が辺りを包む。

 

光が収まり見上げるとそこにはいたのは2()()()()使()

1体ならまだしも熾天使級の天使が2体出てきたのを見たアインズとアテナは警戒度を1段階引き上げる。

 

 

 

しかし2体の異形種は不敵に笑う。

 

 

「どう、おもいますか?」

 

「少し意外と言えば意外でした。ですが……ええ、そうですね。

()()()()()()()()()()()。甘く見積もってその程度でしょう」

 

 

2体は同時に思う。確かに警戒には値する存在。

 

だがそれはこのユグドラシルのアイテムを持っていた存在のこと。

間違っても目の前の2体の天使ではなかった。

 

 

何故ならば

 

()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

〜???〜

 

「〜♪」

 

平原を1人の女が歩いていた。

紅い着物を羽織り其の腰に帯びるは2本の大小の刀。

 

その後ろを1人の小柄でポニーテールにしている女が歩く。

 

「で、どうするおつもりで?法国にあんなものまで渡して」

「あんなものって、何かやばいもん渡したっけ?」

「とぼけないでください。()()()()に於いての熾天使(セラフ)がどれほどの存在か、わからない程あなた様の頭はバカではないでしょう」

「うん」

「ならば何故……」

 

「え?()()()()()()()

 

刀を帯びた女は当然のようにそう言い放つ。大きくため息をついた小柄な女がいつの間にか手に持っていたハリセンで思い切り頭をはたく。

 

「いっっ…!何すんのよ⁉︎」

「はたいたんですが?」

「いやだからなんでよ⁉︎」

「イラついたので」

「理不尽⁉︎」

 

その間にもう一発ハリセンが振るわれそうになったが今度は刀で防がれる。

 

「で、国を出る理由にアレを渡した理由は?」

 

「いや、だから言ってんじゃん。面白そうだからって。それ以上もそれ以下もないよ。それにあの天使相手の喧嘩も正直飽きたから捨てよっかなーって思ってた所にお偉いさん方からの要請。こりゃ乗るしかないでしょう」

 

「……他の国がどうなっても良いと?」

 

「うん。別に他の国がどうなろうが知ったこっちゃないし。滅んだら滅んだで…‥まあドンマイ?。それにアレ使ってくれたらくれたでどこぞの竜王サマとかが警戒せざるを得ないだろうし、その分私は自由に遊び倒せるし」

 

「うわぁ理不尽。それで害を被る方々のこと考えたことあります?」

 

「いや全く。この世界がどうなろうが関係ないし?今回転移してきたであろうプレイヤーが世界征服とかし出したら面白いかもね」

 

「それはどういう意味で?」

 

「いやぁ世界征服ってことは私も征服しにくるってことじゃない?多分。そしたら…観測者にでもなろうかしらね。喧嘩売ってくるならぶっ飛ばせばいいだけだし」

 

「はぁ、そんなだから200年経っても未だに貰い手がないんですよ」

 

「やかましいわ!私より弱い貰い手なんざいるか!せめてユグドラシルの鬼種で人間風にカスタマイズしたやつで私に勝てるやつ持ってこい!」

 

「無理難題を言うのやめてもらえません?貴女に勝ったことのあるプレイヤーなんてそもそも片手で収まる程度でしょうに」

 

「ま、冗談は置いといて、仮にアレを使われたとしたら使った相手に対しては良い宣伝になるかなーって。私とて二百年間プレイヤーと出会えてないからたまには交流したいじゃない?」

 

「出会えていない、ではなく会っていないでは」

 

「だってぇ、あんな英雄とか言われて正義を掲げて率先して人を助けるとかわたくし嫌ですもの。別に他人の役に立つのがどうとか言うつもりないけどぉ。それにあんな息が詰まるようなギルドにいて何が楽しいんだっての」

 

「はぁ……」

 

「いくらなんでもため息つき過ぎでは」

 

「ご自身の言動を振り返ってどうぞ」

 

「ヒデェ。何処ぞのDQNギルドみたく忠誠心カンストさせときゃよかった」

「ドンマイです」

「はぁー腹立つ!……ん?なによこのゴブリン達。私ら女だけだからって調子乗ってる?」

「ですね。どうします?」

「無論斬り捨てる。ついでに資金源にでもしましょうか」

「それに関しては賛成です。ではお任せしても?」

「もち。その後の剥ぎ取りはヨロピク」

「ダッサその言葉」

「いちいちうっさいわ!スゥーー『一刀三拝。無限を破り零に至る』」

「ッスー『戦闘開始。段蔵、参ります』」

 

 

 

この時影から見ていたナニカがいた。2人はそれに気づくも敢えて知らぬふりを。

 

 

この2人にナザリックが出会うまであと……

 






筆乗るとすっごい速さで書き上げれるもんですな(描き始めて3時間くらい)
評価が気づいたら数件増えていてとても嬉しいです。ありがとうございます

最後の意味深な会話のキャラ達は今後か変わらせるかどうかは…私の中の理性と要相談です(

あ、そういえばFGO/終局特異点の映画を見てきました。



サイッコー。みんなも見ようぜ



それでは読んでくださりありがとうございました。
皆様の暇つぶしなどになれば幸いです。
また感想や評価などをくださると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話 VS熾天使

アテナのフレーバーテキスト(一部抜粋

ナザリック地下大墳墓の守護神を担う存在。
ナザリックを、その土地を、仲間を、ナザリックに所属する全てを害するものを忌み嫌う。

身内にはとても優しく甘いが外部の者となると話は別でナザリックにとって利益かどうかでしか見ない。

乱暴者で有名な戦の神アレスにすら「お前ヤベェな」と言われるほどの神アテネの血を引いており、こと戦となると人が変わる。

だが相手へもそれなりの敬意を持って戦うことを信条にしている。
その反面、仲間を大切にしない、覚悟を嘲笑うなどをした相手には容赦など微塵もなく徹底的に叩きつぶす。


「アルベド、お前は私の傍を離れるなよ」

「ハッ!」

「アテナさん、初動はいつも通りに」

「はい。まかせてください」

 

目の前の人間が持っていた魔封じの水晶から出てきたのは、確かに種族上は最高位天使とぎりぎり呼べる存在の天使。確かに熾天使級ではあるがその中でも最下位に位置する天使だ。

念のためレベルやHP、MPなどを見てみるも嘗てアテナさんの種族獲得のために皆で潜ったレイドダンジョンに死ぬほど湧いて出てきていた天使とトントン。つまりは雑魚敵の部類。レベルにしても75程度、と言ったところだろうか。

 

「では行きます」

「ええ。力の差を見せつけてやりましょう」

 

 

「やれっ!月光の熾天使(セラフ・ムーンライト)!あの者を攻撃しろ!」

 

 

隊長らしき人間の声で2体の天使が持っていた錫杖が砕ける。

 

 

「スキル・戦女神の威圧」

 

その瞬間にアテナさんがスキルを発動させた。すると2体の天使は矛先をアテナさんに変える。

 

「あるべど、多分大丈夫だと、思うけど、ちゃんとアインズさん、守ってね」

「勿論でございます」

「アインズさんも、私のことは気にせずに、いつものように、攻撃してください」

「はい。任せてください。それに俺がアテナさん含め仲間に誤射したことがあるとでも思いで?」

「いえ一度も、ない、ですね」

 

アテナさんとそんな軽口を言いあってる間に漸く魔法か何かの発動準備が整ったのか天使から一筋の、合計2本の光が上がる。

それを確認したアテナさんは俺たちよりさらに前へ出る。

 

「やれっ!神聖なる炎(ホーリーフレア)を叩き込め!」

 

「スキル・シールド強化。ニケの防壁」

 

アテナさんが上に向かって盾を投げるとその盾が空中で止まる。それと同時にアテナさんへ向かって2対のまるで燃えているかのような光の柱が突き刺さったように見えた。

 

「アテナ様⁉︎」

「大丈夫だアルベド。よく見てみろ」

「…!流石でございます」

 

光の中をよく見てみると一片たりともアテナさんへ届いておらず、先ほど投げていたアテナさんの盾で防がれていた。

 

「アテナさんは完全耐性こそないがなほぼ全属性の耐性を底上げしているのだ。特に苦手な属性がない代わりに得意な属性も無いが相手によって装備を態々変える必要がないというのが最大の特徴だな。純近接戦特化の相手だとまた装備を変えるらしいが…詳しくは私も知らなくてな。すまないな」

「とんでもない!至高の御身のお話を聞けてこのアルベド、恐悦至極でございます!」

 

 

「…?ちょっと、記憶よりも火力、高い……けど、大丈夫、そう。じゃあ、つぎはこっちの、ばん」

 

光の柱が収まるとアテナさんは真上に跳躍をした。

 

「シールドバッシュ」

 

片方の天使を盾で殴りつけ、ノックバック効果で一気に突き放し更に追撃を始めていた。恐らくは俺がタイマンを張れるようにしてくれたのだろう(アルベドがいる時点でタイマンではないが)

 

複数相手なら不覚を取る可能性があったかもしれないがコレなら話は別だ。

 

「(まあこの程度ならアテナさん単騎でも倒せそうだけど。油断は禁物だ)まずは小手調べと行こうか。魔法最強化(マキシマイズ・マジック)万雷の撃滅(コール・グレーター・サンダー)

 

第九位階・雷系魔法の最上位を撃ち込む。が、魔法は命中したが天使を殺すまでには至らなかった。

 

「ふむ。流石に一撃で仕留めるのは難しいか。では次だ」

 

『……!』

 

天使はマズイと感じたのか手に持っている錫杖を大きく振りかぶり勢いよく振り下ろしてくる。

しかし俺の前にいたアルベドがそれを片腕で防いだ。天使は何度も錫杖により攻撃を仕掛けてきたが悉くアルベドに弾かれる。

 

「(流石にレベル75程度の相手ならアルベドでも余裕か。…ん?距離をとってきたな)」

 

天使は距離をとったかと思うと再度錫杖が砕けていた。

先程アテナさんを襲った魔法なのだろうが、馬鹿正直に受ける義理はない。

 

「アルベドよ、あの天使を地に叩き落とせ」

「ハッ!」

「(最初見た感じからして…多分だけどあの魔法は……)」

 

俺の予想通り、アルベドが近づいていてもまだ魔法は発動されない。どうやら錫杖を砕き、その後一定時間が経たなければ発動できない類の魔法だろう。これもユグドラシルの時と同じだった。

このスキがあるからこそ、この天使が雑魚と呼べる所以だったわけだが。

 

そんな隙だらけな天使をアルベドが叩き落とせないわけがなく、頭上に跳躍したアルベドの斧による一撃で天使が地面へ叩きつけられていた。

 

「よくやったアルベド。とどめは私が刺す。離れていろ」

 

アルベドが離れたのを確認し今度は第十位階の魔法を叩き込む事にする。

 

魔法最強化(マキシマイズ・マジック)無闇(トゥルー・ダーク)!」

 

天使の頭上から闇の柱が突き刺さる。耐えることはなく今度こそ天使は霧散していた。……やっぱり所詮雑魚だったか。

 

「もう少し骨のある個体だったらよかったんだが。さて、アテナさんは…ふふ、流石だな」

 

アテナさんの方を見ると向こうでも地面に叩き落としたのか地面にひれ伏していた天使の胸の辺りに槍を投擲し、深く突き刺さった事で天使はその場に固定されていた。

 

「アインズ様!お見事でした!」

「ありがとうアルベド。だがこれもアテナさんが片割れを引き離してくれたのとお前が私を守ってくれたからだ」

 

チラと人間たちを見てみると全員が唖然として固まっていた。

何人かは両手を合わせて祈っていたが。

 

「あいんずさ、おまた、せ、です」

「はいお疲れ様……あの?アテナさん?」

「はい?」

()()は?」

 

アテナさんが戻ってきたと思ったら片手で天使の顔面当たりを掴んで引きずっていた。所謂アイアンクローとかいうやつ。天使は精いっぱい抵抗しているが力が残ってないのか虚しくガチャガチャと音を立てているだけだった。

 

「……なんか、許してください、配下になります、命だけは、って、いわれたので、アインズさんにきいてみるって、ことになりました」

「は?」

「召喚者、すてるの?ってきいたら、そいつとは、契約を切る、これからは、私に仕えるって」

「えーと?もしかしてその天使…」

「?さっき戦ってた月天の熾天使、ですよ?」

「にしてはちっさくないですか?」

「大きすぎるから、小さくなれって言ったら、小さくなりました。で、あとは上なのをわからせるために顔面つかんで、引きずってきました。アインズさん、これ、どうすればいいですか?」

「…‥ちょっと考えさせてください。ソレに関しては保留で」

「わかりました」

「とりあえず離してあげては?」

「……」

 

そう提案するとめっちゃ(しかめ)っ面になった。…なんで?

 

「あの、何かあったんですか?」

 

「アインズさんに、手を出したゴミに、身の程を分からせないと、気が済みません。それに信用できない、です。本当なら、このまま殺してやってもいいです」

 

「今すぐ離しましょう」

 

「……はい」

 

どこかヒートアップしているアテナさんの肩に手を置き言い聞かせると渋々、ほんっとうに渋々手を離した。

アイアンクローから解き放たれた天使は心なしが安堵しているような気がする。

 

「……アインズ様と私に、絶対の忠誠、ちかいます、って」

「言葉分かるんですか?」

「種族の、おかげなのか、わかります」

「なるほど」

 

「ところでアインズ様。アテナ様。あの人間どもはどうされますか?」

 

アルベドに言われ人間たちをみると戦意を失っているのか1人を除きその場にへたり込んでいた。

 

「お、おまえは…お前たちは何者なのだ!」

 

「アインズ・ウール・ゴウンだよ。この名は嘗て、知らぬ者がいる程轟いていたのだがね」

 

人間の問いに答えてやると同時、空が割れた。

覗き魔か。小癪な。

 

「な、なにが」

 

「何らかの情報系魔法でお前を監視しようとした者が居たみたいだな。私たちの攻性防壁が起動していたから対して覗かれていないはずだが」

 

「本国が…俺を?」

 

国にすら信用されていないのか。それともコイツらすら国にとっては使い捨てのコマだったのか。真偽は不明だがやることは変わらない。

 

「では遊びはこれくらいにしよう」

 

「ま!まま、ま、待ってほしい!アインズ・ウール・ゴウン殿!いや、様!私たち!いえ私だけでも構いません!いっ、い、命を助けてくださるならば!の、のゾッ、望む額を、よ、よっ、用意、いたします!」

 

「アナタ間違って…」

 

 

ドォン!

 

 

その瞬間に何かが響いた。

アルベドが喋ろうとしていた言葉を遮り、何かが破裂するような音が。

 

「……」

「ヒィッ⁉︎」

 

「……アインズさん、殺さなければ、それで、いいですか?」

「え、ええ。うん、はい。殺さなければ、問題、ありません、です」

 

音の発生源はアテナさんからだった。

槍を思い切り地面に突き刺し、地面が凹んでいた。

 

 

明らかにブチギレている。

 

 

「……おい、人間」

 

「ひゃいっ⁉︎」

 

「さっきから聞いていれば、都合の良いことをペラペラと。お前達はアインズさんへ刃を向けた。それだけでも万死に値するというのに。

 

挙句の果てに仲間を売って自分だけでも助かりたい?

 

巫山戯るのも大概にしろよゴミが」

 

「も、申し訳っ⁉︎」

 

隊長が何かを喋ろうとした瞬間にアテナさんが跳躍。そのまま顔面を掴んで地面に叩きつけていた。

もちろん耐えられるわけがなく頭が綺麗に潰れた。

…あれ、殺さないって言ったような。

 

「…死者蘇生(リレイズ)

 

「ハッ⁉︎お、俺は…ヒィッ⁉︎」

 

「私は、お前のような仲間を見捨てるような、輩が、死ぬほど、嫌い、だ」

 

「も、申し訳、もうしわげぇっ⁉︎」

 

アテナさんは蘇生の魔法をかけてもう一度地面に叩きつけて殺した。

そしてまた蘇生の魔法を。

 

「それに、罪もない相手を蹂躙するのを神の為と曰い正当化するその行為も」

 

グシャ

 

「他人の覚悟を嘲笑うその行為も」

 

グシャ

 

「他人を殺す癖に自分は殺される覚悟がないのも、自分に危険が及ぶと分かった途端に周りを盾にしようとするのも」

 

グシャ

 

「ほんっとうに、大っ嫌いだ。次同じようなことをしてみろ。死なんぞ生ぬるい、地獄の業火を見せてやる」

 

その後も何度も何度も、執拗に、徹底的に

 

殺し、蘇生し、殺し、蘇生を続けていた。

同情などする余地もないが、そろそろ止めるべきだろうと思いアテナさんの肩に手を置く。

ようやく止まり、哀しみに満ちた笑顔で-----まるで死刑を待っているかのような顔で-----俺を見た。

 

「アテナさん、その辺で。情報を聞き出す前に壊れてしまいます。…いや、もう手遅れか…?」

「……ごめんなさい」

「いえ問題ありません。ですから、そんな哀しい顔をしないでください。俺まで哀しくなってしまいます」

 

「……だめだった、です。昔、思い出して、いてもたっても、いられなくなって、怒りが、私の中を渦巻いて。……八つ当たり、しちゃいました」

 

「深くはお聞きしません。今話さなくても大丈夫ですから。話したくなったらで大丈夫です。予め言っておきますね。俺はアテナさんを見捨てるなんてことはしませんから。絶対に。

 

…さて、残りの残党はどうするか」

 

アルベドにアテナさんを預け、残りの人間の方を向く。

するとものの見事に全員が土下座をし始めた。

 

だが許す気は毛頭ない。アテナさんにあのような顔をさせた罪は重い。

 

「確かこうだったな?無駄な足掻きをやめてその場で大人しく横になれ。せめてもの情けに、苦痛なく殺してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

「ん〜?」

「どったのですか」

「どった…?いやまあ、私があげた魔封じの水晶あるじゃん?」

「ええ」

「使ったぽいね。しかも熾天使2体を多分速殺ときた」

「なぜそんなことがお分かりに?」

「実はあれ私が制作依頼出した特別性魔封じの水晶で、普通のやつに比べて上位互換でね。いつ水晶を使われたのか、使ったあとどうなったのか断片的に分かるようになってんの。相手がどんなだとかは流石に無理だったけどね」

「で、使われたと思ったらすぐ存在が消えたと」

「イェース。ま、どーでもいいかな。それよりも!飯!」

「やっかましいですね」

「食わねば何とやらよ!」

「だから貰い手いないんですよ。はいどうぞ」

「うるせいやい!ありがとな!早く食べて出発するわよ!」

「どちらへ?」

「王国!のエリンテルだっけ?」

「エ・ランテルでは」

「そうそれ。商人から聞いた話だとなんかうんまい飯処が出来たらしいからね!食べに行くしかないでしょう!ついでに冒険者とかにでもなってみる?」

「謹んでお断りした上で塩を撒いておきますね」

「拒絶スゲェ。かなしぃ」

 

 

2人がナザリックに出会うまで、あと……




???の存在をどこで出すのか、悩みどころです。

ストーリーに深く関わらないようにしつつメインキャラ達と関わらせたい(矛盾

そういえばお気に入り登録者様が300人を超えていました。
皆様本当にありがとうございます
評価してくださった方も本当にありがとうございます
励みになります。


それでは読んでくださりありがとうございました。
感想や評価などくださるととても嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話 恋心の行方

『新しいNPCをつりたい、ですか』

『はい。できるでしょうか…?』

『それがですね、アテナさんが入る前に作っていたNPC達で現在の作成可能レベルの上限一杯になってるんですよ。ですので…』

『それって、引き上げる方法、みたいなのってあるんですか?』

『はい。あるにはあるんですが…』

『?』

『あまり期待しないでくださいね?いくつか方法があるんです。一つはギルド自体のレベルを上げる。こちらはほぼ不可能だと思ってください。そしてもう一つが課金アイテム。正直こちらもあまり現実的ではないんですが……』

『どんな課金アイテムですか?』

『……本当に期待しないでくださいよ?こちらのガチャでの超低確率…確か0.1%とかだっけな。しかも天井無しの。マジで何の掛け値なしのクソガチャです。それでこの【作成可能レベル上限解放】というのが1つで5レベル、上がります』

『なるほど…。って、1つで5レベル?』

『はい』

『つまり、100レベルNPCを一つ作ろうと思ったら?』

『20個ですね』

『一応念のため確認したいんですけど、天井システムは』

『無いです』

『クソガチャですか?』

『クソガチャです』

『むむ…分かりました。ありがとうございます』

『いえ。申し訳ないです。やまいこさんとかいればリアルラックで引き当ててそうですけど』

『確かにですね(笑)』

その後さりげないお話をしてモモンガさんも切り上げるそうでログアウトしていった。



……さーて、ガチャしますかぁ。
とりあえず軍資金……30で行ってみようか。



次の日、モモンガさんにドン引きされて正座させられました。
何で?






 

ナザリックに帰還した後、守護者達に名前を変えたことを告げアインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説にせよ、とノリで命令してしまった後に未だ放心状態だったアテナさんを俺の部屋へ連れてきた。

 

-兎にも角にも、まずはアテナさんを安心させてあげなければ-

 

そんな思いが俺を支配していた。

 

「アテナさん、ここなら誰にも聞かれる心配はありません」

 

だけど未だにアテナさんは下を向いている。まるで何かに絶望でもしていたかのように。

 

「アテナさん、話したくないのならば話したくない、で構いません。ですから、顔を上げてください。あの場でも言いましたが俺はアテナさんを責めていませんから。何より、まさしくナザリックの守護神として振る舞ってくれたアテナさんに俺は感謝しているんです。ですから…」

 

「……う、です」

 

「?」

 

「ちがう、です!」

 

アテナさんは今までで一番大きな声で、悲痛に満ちた声で叫んだ。目からはポロポロと涙が出てきている。

それを見た瞬間、めちゃくちゃ焦ったが幸か不幸かアンデットの精神沈静化が働いてすぐ冷静になれた。今回ばかりはコレに感謝していた。

 

ゴシゴシと涙に濡れる目を擦った後、今度はゆっくり、しかしはっきりと聞こえるように話し始めた。

 

「わたし、()()()()()()に、きらわれたく、ないだけなんです。初めて会ったときから、ずっと、ずっと。……私、自分で自覚してるくらいには、嫌な、性格してるって、わかってるんです」

 

「……」

 

「私を助けてくれて、他の人の反対があったなかで、押し切ってギルドに加入させてくれたときから、私はずっと、ずっとずっとずっとずっと、モモンガさんが、好きなんです」

 

これはきっと、異変が起きたからとアテナさんへの返事を後回しにしてしまっていた、見て見ぬフリをしていたから起きたことなのだろう。

 

…本当、自分の優柔不断さに腹が立つ。もしここに女性メンバーたちがいたら袋叩きにされていたのかもしれない。

 

 

 

腹を括ろう。例え見捨てられるとしても。怒られるとしても。愛想を尽かされるとしても。

 

今の俺の気持ちを伝えなければ、男が廃る。

 

「…アテナさん」

 

 

「ユグドラシルが終わるときの、あの告白は、本心からでした。

今もずっと、貴方が、モモンガさんが、大好きで。

私にとってモモンガさんはずっと、憧れで、ヒーローで。

 

私がずっと、ずーっとナザリックから離れずにいたのは、ギルドが好きなんじゃなくって、モモンガさんが大好きで、会いたいって気持ちで、それだけで。ただモモンガさんと会うためだけに、ギルドっていうのを利用してた、だけで。そんな私が、いやで」

 

 

「アテナさん」

 

 

「ユグドラシル最後の日を境に、二度と、会うことなんてできないなんて。自分の気持ちに嘘をつきたくなくて。伝えれないまま終わるのは嫌で。でも、こんな世界に、きてしまって、モモンガさんとも、自由にお話しできなくなって、こんな世界に来てしまったのも、本当は嫌で嫌で嫌で。でも、そう考えてしまう自分が一番、嫌で。

 

叶うならずっと、モモンガさんと二人でいたかった、それだけだったはずなのに…私は……」

 

 

「アテナさん!」

 

これ以上彼女が自分自身を卑下するよりも前に俺はアテナさんの顔をもって思い切り俺の方へ向ける。酷く驚いていたが特に怒ったりせず、力無く笑っただけだった。が、手が震えているあたり何かに怯えているようだった。

怒られると思っているのか、それとも、他の何かなのか。

 

 

「ごめんなさい。こんな手荒なことを。少しお話をしたいんです。俺と、アテナさんでの2人で。今から」

 

「はい、もちろ、です」

 

 

心臓がものすごく鳴っている。精神沈静化が幾度となく起きる。

何度も何度も深呼吸を繰り返し、ようやく意を決し口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ベットに潜り込む。分かり切っていたはずなのに。

覚悟はしていたはずなのに。

 

ずっと涙が止まらない。

 

コンコン

 

「…?」

 

「マスター、少しよろしいかね?」

 

「えみや…?」

 

「まずいようなら時間をずらしてまた訪ねるが」

 

「ううん、だい、じょぶ、ちょっとまって」

 

目元をゴシゴシと擦って頬を何度かペチペチとする。

顔を引き締めて扉を開けるとエミヤだけでなくブリュンヒルデにシグルドもいた。

 

「…どうしたの?」

 

「何やら元気がない御様子だったのでね。ここは一つ、私の料理で少しでも元気になってもらおうと思ったのさ。入っても良いかな?」

 

「しぐるど、ぶりゅんひるで、は?」

 

「私は…少しでもマスターの、相談に乗れたら…と」

「当方も我が愛と同じです。マスターが困っていると言うのなら力になるのが道理というものでしょう。デミウルゴスやアルベドほどではありませんが、当方の持ちうる知恵の全てをマスターの為にお使いしましょう」

 

「ん、わかた。…とりあえず、入って」

 

「ありがとうマスター。ほら、お二方も」

「失礼…します」

「失礼致します」

 

3人を部屋に入れるとシグルドとブリュンヒルデはテキパキと机と椅子を4人分用意して、エミヤがスープを私の前に置いた。けどどうしても手が伸びない。美味しそうな匂いはしてるのに、食べようと言う気が起きなかった。

 

「今ちょっと、たべれない、かな。ごめん。後で、たべ、るから」

 

「大丈夫だ。気にしないでくれ。さてマスター。単刀直入に聞かせて貰おうと思う。

何があったのかね?」

 

「…っ。なん、そんなこと」

 

まさかの事に言葉が詰まる。

そんな私を見てエミヤはため息をつく。

 

何もかもを見透かされているようで少し、居心地が悪くなる。

だけどそんな私に構わずエミヤは言葉を続ける。

 

「マスターを見れば一目瞭然さ。だが私だけでは分かり得ない事もあると思いマスターがお創りになられたシグルド殿とブリュンヒルデ殿にも同席をお願いしたというわけさ」

 

「……。わたし、そんなに分かり、やすかった?」

 

「ああ。それはもう。それでマスター?アインズ様と外へ向かったとのことだが、そこで嫌なものでもあったのかね?」

 

「話したく、ないって言ったら?」

 

「それならそれで構わないさ。だが、意気消沈しているマスターをみた他のシモベ達がどうなるかは保証しないぞ?それこそマスターを悲しませたかもしれない、命を持って償いを、とか言い出しかねない。それなら私達にだけでも話して少しでも楽にならないかね?」

 

「……エミヤって、どうしえ、そんなに、優しい?」

 

「さあね。どこぞの素晴らしい、誇りたくなる敬愛すべきマスターが『守護神アテナの親代わりのような存在。それでいてとても優しく気がきく存在だ』というふうに創ってくれたからじゃないのかね?」

 

 

「……うん、そう、だたね。……えみや、ちょっとだけ、手話で、はなさせて。それを、ぶりゅんひるで、しぐるどにも、つたえてあげて。これ、ほかのみんな、とくに、あるべどには、ないしょ、ね?」

 

「承った」

「承知しました。この命尽きるまで、当方の中へ未来永劫しまっておくと誓いましょう」

「わかり…ました。シグルドと共に、墓の中まで、持って行くと誓います…」

 

もう私の中で堰き止めていた何かが溢れ出してきた。吐き出さなきゃ、壊れてしまいそうだったから。

 

 

 

 

『私、失恋しちゃったんだ。モモンガさん…じゃなくてアインズさんにさっき、告白の返事をしてもらえたんだけど、やっぱりというか、予想通り、フラれちゃった』

 

『なるほど…心中お察しする。直接言われたのかい?』

 

『うん。アインズさん達と人間の村に行ったあと帰ってきてから、アインズさんからお話があるって、それで告白の返事をしてくれたの』

 

『で、付き合うことはできないと、そう言われてしまったのかい?』

 

『"今の俺ではアテナさんを幸せにするどころか悲しませるだけになってしまいます。そんな俺にアテナさんと付き合う資格はありません。ごめんなさい。ですが俺に告白してくださったのはとても嬉しかったんです。それだけは本当です。こんな俺に告白してくださってありがとうございます"…って』

 

『それはそれは。ギルド長らしいな』

 

『うん。モモンガさんらしいよね。その後にね

"俺を軽蔑しても、嫌いになっても構いません。ですが俺はアテナさんを必ず幸せにできるような男になります。…その時にまだ、アテナさんが俺を好きでいてくださったら、その時は…いえ、これ以上は烏滸がましいですね。アテナさん。俺は貴方に見合うだけの男になってみせます。その時まで、待っててほしいんです"って。

…私が、モモンガさんを嫌いになるわけ、ないのに。ずるいよね。あの人。ずっと、ずーっと真っ直ぐで、自分のことよりもみんなの事ばっかりで、それでいてとても優しい。だから、好きになったのにね。

それでアインズさんのことを嫌いになれるわけないじゃないですか、って伝えたら一言だけ、ありがとうございます、って。……その後は、特に何もいえなかった。特に何をするわけでもなく、別れたんだ。

 

……こんな所、かな』

 

私が伝え終わってからはしばらく静寂が支配した。居た堪れない。

逃げ出したい。今すぐに。

 

だけど体が思うように動かない。

 

「ごめ、んね。こんなこと。みんな、持ち場に、戻って」

「ですがマスター。当方達は…」

 

「いいから!もどて!ひとりに…して…」

 

 

「いいえ。承伏できません。マスター。同じ恋を抱く女として。今のマスターをお一人にはできません」

 

 

そう言ってきたのは、まさかのブリュンヒルデ。

ブリュンヒルデが言ってくるとは思わず驚きを隠せなかった。

 

「マスター。お辛いでしょう。悲しいでしょう。ええ、その気持ち、ものすごく分かります。共感できます。…故に、今のマスターには、誰かが付くべきかと思います」

 

「でも…わた、し。みんながいると、甘え、ちゃう。そんなの、ナザリックの守護神、ふさわしく、ない」

 

「それがどうしたというのですか」

 

「え?」

「我が愛。それは不敬ではないのか。いくら我が愛とはいえ、それ以上は…」

「いやシグルド殿。ブリュンヒルデ殿の言い分を聞くべきだ」

 

エミヤがシグルドを抑えてブリュンヒルデと目配せをした後、再度こちらへ向く。

 

「マスター。甘えることの何がいけないのでしょうか。誰だって辛い時もありましょう。泣きたくなる事もありましょう。ですがそれを1人でお抱えになられては、今は良くてもいつか、そう遠くない時に心が死んでしまいます。

 

そして我らは、マスターが、至高の御方がそうなられないためにいるのです。マスターが『そうあれ』と創造してくださったのを、お忘れですか」

 

ブリュンヒルデははっきりと言い放つ。

 

「ですので、不敬を承知で言わせていただきますマスター。

もしも辛いと感じているのならば、わたしたちをお頼りください。

マスターは1人ではありません。私たちがお傍へ控える限り」

 

……ずるいなぁ。みんな、私が欲しい言葉を的確にいうんだもん。

強く在らなきゃ、みんなの期待する守護神にふさわしい存在にならなきゃ、ってずっと思って頑張ってたのに。こんな形で1人で頑張らなくていいって言われるなんて思ってなかったなぁ。

 

 

思わず目の当たりが熱くなってくる。

 

……これで三人の気持ちを無碍にしたら、それこそダメ、だよね。

 

 

軽く頬をペチペチと叩いてみんなに向き直る。

 

「うん、わかった。それじゃ、思う存分頼るね、みんな」

 

「「「ハッ!御心のままに!」」」

 

 

 

「それともう一つ…失礼を承知で…よろしいでしょうか?」

 

「ん、いいよ。言って」

 

「アインズ様にフラれた、とマスターは仰いましたが」

 

「ゔ…うん、それが?」

 

改めて言われると心にくるなぁ…これ。

 

「一度フラれたからと、再度告白してはならないという、ルールなんて……ないと思うのです」

 

「……はい?」

 

 

私はブリュンヒルデの言葉に思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。




まずは評価をくださった方、ありがとうございます。
これからも頑張って書き上げていきます。


さてはて、これにてシリアスパートは一旦終了!

次からはほのぼのしたストーリーで描いていきたい(願望

ブロットの持ち主には『こういうのもっとちょうだい!』と言われましたが…もっとほのぼのしたのが見たい…え?みたくないすか?

私は見たい(真顔

てことで冒険者ルートになるのからナザリックお留守番ルートになるのかはまた要相談しながら描きますが、ほのぼのを目指して描きますw

それでは読んでくださりありがとうございました。

感想や評価をくださるととても嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間の物語『守護神の胃袋をつかめ大作戦?』

今回は短めです
箸休め(


 

 

〜アテナの料理 メイド達へ内緒へ出してみました〜

 

時は遡り、初めて料理を出した二日後

 

「シホウツ、エミヤ、きょうは、よろしく、おねがいしま、す」

 

「ああ、よろしく」

「よろしくお願いしますアテナ様。このシホウツ、アテナ様にお料理をお教え出来るとは、嬉しさのあまり!」

 

「わか、わかったから、そんなにかしこまらないで」

 

現在はナザリックの厨房。何故そんな所にいるかと言うと…エミヤに再度料理を教えて欲しいと言ったら『どうせなら料理長殿にもご助力願おう』と言われて、成すがまま厨房へ連れてこられました。エミヤ自作のエプロンも付けてます。

 

エミヤのオカン気質が発動したぽいなぁ。

……にしても、補助があるとは言えエミヤとシホウツ含めた3人でこの食堂を回してたんだ。そりゃ忙しい訳だ。

 

「それで、どんな料理、するですか?」

 

「そんなに難しいものではございません。しかし簡単すぎず料理が初心者でも扱える料理にしようと思っています」

 

「うんうん」

 

「そこで、本日のメインメニューはカリー(カレー)と呼ばれるものを作る予定でございます。副菜にサラダ、ナンというパン、その他付け合わせなどを作ろうと考えておりますのでアテナ様には主にカリーの調理をしていただきたいのです。無論、全てをお任せするわけではなく適宜お手伝いしますのでご安心ください」

 

「わか、りました。がんばり、まふ」

 

「はい!このシホウツ、全身全霊でアテナ様へお教えしましょう!」

「仮に調理が難しいと感じたら直ぐに私か料理長殿へ聞くと良い」

 

「え?でも。ふたりの料理の、じゃまに…」

 

「その辺は心配無用だマスター。我らは腐ってもこのナザリックの厨房を預かる者。1人を教えながらいつも通りに調理するなど造作もない」

「そう!エミヤの言う通りです!我らのことは気にせず、迷ったりしたら遠慮なく聞いてください!」

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

どうやら私の心配は杞憂らしく、遠慮なく聞くことにしよう。

……1人でつくれるようになったら、毎日…。

 

「さてそれでは野菜の仕込みから参りましょう。本来ならば量が量なので纏めて行うのですが今回はまず1人分を作り要領をつかんで頂こうと思います。宜しいですか?」

 

「はいっ!」

 

「ではまず……」

 

この後、野菜の仕込みの後にスパイスが数十種類出てきて驚きのあまり目が点になるとはこのことかと思ったりしました。

 

 

 

 

 

 

「でき、ました!味見、おねがいします!」

 

カリーを作ること40分。ようやく完成しエミヤとシホの前に出す。(シホウツがシホと呼んで欲しいとのことなのでそう呼ぶことにした)

エプロンをつけている2人がスプーンで掬い神妙な面持ちで口に運んでいた。

 

他人に味を見てもらうと言うのがこんなにドキドキするものなのかと今になって思い知った。もし美味しくないと言われたりしたら、と思うと気が気でない。

 

「……料理長殿、どう思う?」

「そうですな。……率直な感想になりますが宜しいですかアテナ様」

 

「(コク)」

 

「……アテナ様」

 

シホがジッとこちらを見つめてくる。

 

「私は問題ないかと思われます。本日の食堂にはアテナさまのお作りになったカリーをお出ししても問題はないかと。エミヤはどう思う?」

「私も料理長殿と同じ考えだ。味などに関しては私達基準で言うならばまだ雑な部分、足りない部分があるにはあるが料理初心者という点を踏まえても食堂で出すには充分及第点だ」

 

「ほんと?」

 

「ああ。私たちはマスター含め至高の御方へ嘘はつかないし、何より調理の場を預かる私たちが料理に対し嘘をつくことは絶対に無い」

「エミヤの言う通りです。料理に対して妥協はしません」

 

「よ、よかったぁ…」

 

2人がニコニコしながら高評価をしてくれ、一気に力が抜けてしまった。

思わずその場にへたり込んでしまいそうだったけど机に手をついて何とか体勢を保つ。

 

「アテナ様にお教え出来、このシホウツ、今直ぐにでも天へ昇れそうでございます!」

「のぼっちゃ、だめだよ?」

「昇るなよ?貴殿には食堂運営という大役があるのだから」

 

エミヤが手をとってくれて改めて立つ。

よし、これでモモンガさんに出せる料理がひとつ増えた!

 

……アルベドに負けられないし、もっと頑張らなきゃ。

 

「さてアテナ様。こちらのカリーはどうされますか?せっかくご自身で初めてお作りになったのですから、アテナ様が食べられますか?」

 

「んーん。たべて欲しい、ひとがいるから、その人に持って行き、ます。あったかいうちに、持って行ったほうがいい、ですかね?」

 

「そうですな。保温をする魔法などがあれば話は別なのでしょうが、生憎そのような魔法は覚えていない故。幸いメイド達の食事時間までは時間がまだございますから、お先に持って行かれますか?」

 

「うん。そうする。ありがとうシホ、エミヤ」

 

2人がそう言ってくれ、自分で初めて作ったカリーをモモンガさんの元へ運びに行った。

 

 

 

 

 

 

「……よし」

 

モモンガさんの執務室の前に立つ。

 

「(食べて……くれるかな)」

 

忙しくて後回しになったりしないかな、とか食べてくれないパターンの方を想像してしまい思わず怖くなる。

だけどモモンガさんがそんなことをするわけないと思い、何度か深呼吸をして意を決しドアをノックする。

 

「はい、ア、アテナ様⁉︎どうされましたか?そちらの抱えておられる物は…」

 

「あ、えーと、ふぃーす。モモンガさんに、ご飯、持ってきたんです。今モモンガさん、大丈夫、そうですか?」

 

「わ、私のような下々の名前を⁉︎」

 

「うん。ぜんぶ、じゃないけど出来るだけ、ナザリックで名前ついてる子達は、おぼえてるよ」

 

「ありがとうございます!このフィース、至高の御身に覚えていただき感謝の言葉もありません!」

 

「いや、いいから。かしこまらなくて、いいから。それよりももんがさん、だいじょうぶかな?」

 

「はいっ!少々お待ちください!ご用件だけお伺いしても?」

 

「……ももんがさんに、ごはんをもってきたんです。エミヤと、シホが、手伝ってくれたところもありますが、ほとんど私1人でつくったんです。だから、最初にモモンガさんに、食べて欲しくて…」

 

「承知しました!お伺いしてきますので少々お待ちを!大丈夫です!モモンガ様ならきっと食べてくれます!」

 

フィースは勢いよく執務室の中へ入って行った。

…アルベドが居なかったらいいんだけど。いたらいたで宣戦布告にはなる、かな?

 

「お待たせしました!お入りください!」

 

フィースに促されカリーの乗っているお盆を落としたり傾けたりしないよう慎重に入る。

 

「しつれいし、ます。もも、がさん」

 

モモンガさんを前にして思い切り緊張したのか今まで以上に言葉がうまく出てこない。

 

「アテナさん、大丈夫です。ゆっくり仰ってください。ちゃんと聞いていますよ」

 

「は、はい」

 

モモンガさんがゆっくりとわかるように喋ってくれて改めて心を落ち着けようと深呼吸をする。その間もモモンガさんは急かしたりする事なくずっと待ってくれていた。

 

「ももんがさん、ご飯を、作ってきました。宜しければ、食べて、くれませんか?」

 

「勿論ですよアテナさん。ありがとうございます」

 

すごい優しい声でそう言ってくれる。モモンガさんのところまで持って行こうとしたらその前に椅子から立ち上がってモモンガさんが直接私の手から受け取ってくれる。

 

……ほんとうに、優しい。私はこの人のこういうところに惚れたのだと再認識した。

 

「アテナさん、今日作ったのはどのようなものなのか、教えていただいても良いですか?」

 

「はひっ!え、えと、『かりー』っていうものです。えみやと、しほうつに、てつだてもらったところもある、ですが、半分いじょう、じぶんで、つくりました。あじも、2人のおすみつきを、もらってます」

 

「半分以上自分で作ったんですか⁉︎」

 

「はい」

 

「凄いですね…今度私も教えてもらおうかな」

 

「そのときはわたしも、いっしょにやりたい、です」

 

「そうですね。どうせなら守護者たちも集めてみんなでワイワイ料理したりするのもいいかもしれませんね」

 

「楽しそう、ですね!……あっ、これから、もうすこしエミヤ達にみてもらうことに、なってるので、これで失礼します」

 

「わかりました。ありがとうございますアテナさん。じっくり味合わせてもらいますね」

 

「どうぞ、おめしあがれ、です。ふぃーすも、今日の食堂に出る、かりーはわたしが、つくてるやつだから、あじわってたべて、ね?」

 

最後にそれだけを伝え、熱くなっている顔を隠すように私は調理場へ戻って行った。

 

 

 

 

 

 

数十分後にメイドだけでなくほぼ全ての階層守護者、領域守護者、他ナザリックで食事が出来る者が皆食堂へ来たとか。

皆決まってカリーを食べたとか。そのおかげでアテナもエミヤもシホウツも死ぬほど忙しくなったのは言うまでもない。

 

 




一区切りついた辺りでこのような幕間(アテナとアルベドの正妻争奪戦)を書いていきたい(願望

あと書いてて思うのが自分の名前も一応アテナだから……なんか変な気持ちになる(わかる?わからない?


評価をくださった方、ありがとうございました!励みになります。

たった今読んでくださった方もありがとうございます。
あなたの暇つぶしの一環になれば幸いです。
感想や評価もいただけるととても嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話 冒険者

「えーと、あの、ブリュンヒルデ?どういうこと?」

「ですから、一度フラれたからといって再度アタックしてはならない…なんて決まりは…無いと思うのです」

「い、いや。うん、そう、だけど」

「でしたら、アインズ様がマスターに振り向いてくださるまで、アタックし続けてはどうでしょうか。無論…マスターが嫌だというのなら、無理強いはしませんが…」

「いや、ちょ、まって。……確かに、そうだけど、めいわく、かけないかな?」

「大丈夫だと思われます…。アインズ様は、とても慈悲深く、お優しいですから…。どうするかは、マスター次第になりますが……」



それから丸一晩、ブリュンヒルデ達と別れてから悩みに悩み抜いた。
人生でこれだけ悩んだのは初めてかもしれない。


「はぁ…アテナさんと今後どう接しよう…」

 

昨日アテナさんへの最低な回答をした翌日、俺は執務室で項垂れていた。

どう転んでも嫌われる自信しかなく、かといって何も言わないまま、しないまま今後付き合うなんてことが最悪なことも理解している。

 

「だけどなんて言うのが正解なんだ…。謝るのがいいのか?それとも…あーもう!誰か俺に教えてくれ!」

 

コンコン

 

「んんっ!誰だ?」

 

「アインズさん、わた、し、です。入ってもいい、ですか?」

 

「アテナさん⁉︎」

 

噂をすれば何とやら、まさかアテナさんがくるとは思わずすこし声を荒げてしまう。すぐに落ち着きを取り戻していつもの声で答える。

 

「んんっ。入っていいですよ。どうぞ」

「失礼します」

 

入ってきたアテナさんは普段の神器級アイテムの装備を付けておらず黒いシャツに白いスカートをしていた。不覚にも少しドキッとしてしまった。

 

「どうされたんですかアテナさん。その…」

「いえ、あの、すこしだけわたし、しゃべらせてくだ、さい」

「え?あ、はい」

 

俺が何を話そうか決めあぐねているとそれを静止され、何度も深呼吸を繰り返していた。

 

「アインズさん。私決めたんです」

 

「決めた、とは?」

 

「私は昨日、アインズさんにフラれちゃい、ました」

 

「うぐっ⁉︎は、はい。最低なことだとは理解しています。アテナさんに嫌われ、見捨てられてもしょうがないと……思って、います。ナザリックから出ていきたいと言われても、俺には止める権利も資格もありません。…そのお話なんですよね?」

 

「え?」

 

「え?」

 

思わず静寂がこの場を支配した。めちゃくちゃ気まずい。

 

「何、言ってるですか?」

 

「いや、そのー、昨日のこと怒ってるものだと……」

 

恐る恐る聞いてみるもアテナさんは何を言ってるのか、というように首を少し傾げていた。そしてしばらく考えていたかと思うと何かを理解したかのように頷き始めた。

 

「アインズさん。だいじょうぶ、ですよ。わたしは、ナザリックから出る気は、無いですから。それに…もう貴方を1人にはしないと決めているんです。…確かに昨日アインズさんからちゃんと答えを貰えたことは、私にとっても大きな、ことでした。確かに、悲しくて、なんでだめだったんだろうって、いっぱい泣きました」

 

「うぐっ⁉︎も、申し訳…」

 

「謝らないでください。その後にですね、慰めてもらったのと、アドバイスをもらって、それから色々考えた、です。

 

私は、ナザリック地下大墳墓は大事でもなんでもなくて、そんなのどうでもよくて。

ただただ『モモンガさんに会いたかった。そばに居たかった』それだけの理由でずっとここに足を運んでいただけ。

 

それだけなんです。他のことなんてどうでも良かった。むしろ私の方こそ裏切り者と言われても仕方ない事してたなって」

 

「そんな事…!」

 

そんな事はあり得ない。俺にとっても皆がやめてしまったあともずっと横で支えてくれていたアテナさんにどれだけ感謝していたか。

 

だけど言おうとしていた言葉はアテナさんの被せてきた言葉に遮られた。

 

「あるんです。

 

だけど今は違います。ナザリック(ここ)のみんな、もう私にとって、大事、です。だから……今日も、これからも、ずっとナザリックを護るつもりです。守護神の肩書きに恥じぬよう。だからアインズさん。これからもずっと、貴方の横にいてもいい、ですか?」

 

嗚呼、一体何度この女性(ヒト)に感謝しているのだろう。だけど言わずにはいられなかった。

 

「え…ええ!ええ!勿論です!勿論です!俺こそ、アテナさんがいてくれてとても嬉しかったんです!貴方がいるからこそ、この世界でもやっていけると、そう確信しているんです!これからもお願いします!」

 

「はいっ。もちろんです。それと…ですね」

 

「?」

 

「一回フラれたくらいで、アインズさんを諦めるのは、やめました!」

 

「……はい?」

 

「つまり、ですね」

 

「えーと?」

 

アテナさんがテクテクと横に歩いてきて、それが何を意味するのかわからず聞いてみると急に抱きついてきた。

 

「あの⁉︎ちょ⁉︎」

 

力強く抱きしめてきたと思うとパッと俺から離れ、とてもいい笑顔でこちらを見てきた。

 

 

 

「見ててくださいねアインズさん。アインズさんの方から付き合ってくださいって言ってもらえるように、それか次私が告白しても受け入れてもらえるように自分を磨いていきますから!」

 

 

その後、アルベドやシャルティアが外で聞いており方や感極まり、方や嫉妬心から乱入してくるのはまた別のお話……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜1ヶ月後〜

 

 

リ・エスティーゼ王国の都市、エ・ランテル。その冒険者組合にとある三人組が新たな冒険者として登録に訪れており、一定数から注目を浴びていた。いい意味でも悪い意味でも。

だが大半は別の場所で大騒ぎが起きておりそちらに人が集まっていたためか本人達はさほど見られてはいなかった。

 

「はい、これで登録は完了しました。こちらが冒険者プレートになります。無くさないようご注意ください」

 

「ありがとう。それとついでに一つ聞きたいのですが」

 

「なんでしょうか?」

 

「今日は祭りか何かあるのでしょうか?やけに騒がしいなと感じまして」

 

漆黒のフルプレートを身に纏い2本のグレートソードを背負っている大柄な男は外を一瞥し訪ねる。

受付を担当していた女の人はいつものかと言った様子で答える。

 

「ああ。アレはそういう訳ではなくてですね。最近こちらで冒険者になった方が騒いでるんですよ。なにしろ突然豪華な装いで来たと思ったらとてもお強い方々でしたので。3日に1回くらいの頻度で大量の魔物の素材や沢山の任務をこなしては飲めや歌えや状態になるんです」

 

「ほう?どのような人なのかお聞きしても?」

 

「見た目がかなり個性的、というよりは派手ですので見ればすぐにわかると思います。一番の特徴は赤い派手な『キモノ』という服と腰に差してある2本の剣でしょうか。剣の方は確か『ニホントウ』と言っていました」

 

「んんっ⁉︎ちょっと待ってください、本当にそう言ったんですか⁉︎」

 

「えっ?あ、はい。確かにそう言っていました」

 

「わかりました。情報感謝します!」

 

 

 

 

「モモンさ、どうした、ですか?」

「モモンさーーん、どうされたのですか?」

 

「非常事態です!少し寄り道をさせてもらいます!」

 

漆黒の鎧を纏う『モモン』と呼ばれた新参の冒険者は迷惑など考えずに騒ぎの中心へ人をかき分け進む。付き添いの二人はそれの後ろに追従した。

 

「(俺の記憶が間違ってなければ…!)」

 

 

 

「酒じゃー!酒持ってこーい!」

「飲み過ぎです」

「デフォで毒無効じゃい!心配ご無用!」

「とは言っても飲み過ぎです。自重してください。さもなければ消えますよ。金が」

「最悪アイテムを売る!」

「オッケ承知しましたその刀貸してください売ってきますね」

 

騒ぎの中心にいたのは二人の冒険者。

1人は薄紅色の髪を独特な髪留めで束ね、藍の道着に鮮やかな紅い着物を身に纏い腰には2本の刀を差している女の冒険者。

もう1人は黒髪のポニーテール。動き易さを重視したような、雰囲気はどことなく着物に似ている物を着ており、女とも男とも取れる顔立ちをしていた。そして2人の首にかけているのはミスリル級を示すプレート。その二人…というよりは1人---紅い着物を着ている方---が飲めや歌えや状態になっており、それに便乗した冒険者が俺も俺もと宴会騒ぎに発展してしまっていた。なおその騒いでいた張本人の付き人は額に青筋が浮かんでいるが。尚そのやりとりすらも恒例行事となりつつあるが。

 

「マスター!酒追加ね!」

「あいよ!」

「いえ追加しなくていいです」

「いいから追加で!」

「……はぁ。一発しばき回してやりたい」

 

 

「ちょっと失礼します」

 

 

そんな中に一組の冒険者が乱入し、周りのことなどお構いなしに強引に酒を飲んでいる騒ぎの中心人物の前へ立つ。

 

「……やっぱり」

 

「んにゃ?この人だれぇ?みんなしってるぅ?」

「いやまったく!」

「さっき組合行ってたのはみたぜ!(カッパー)だから新人じゃねえのー?」

「別嬪さん2人連れてるなんて羨ましいねぇ全く!」

 

「宴会の途中に申し訳ない。貴女達の噂を聞いて会ってみたいと思いまして」

 

「別にいいけどぉ。なんの用?仕事の話なら今は聞きたか無いわよぉ?」

「よく言うぜ!酒と金が報酬に含まれてたらすぐ飛びつく癖によぉ!」

「そーだぜ!花より団子、団子より酒な癖にな!」

「よっ!黙って座ってれば牡丹。喋れば酒豪!歩く姿は酔っぱらい!」

「やかましいわ!」

 

「オホン!仕事の話ではありません。純粋に…そうですね、貴女と話をしてみたいと思ったのです。特に同じ2本の剣を扱う者として。(この話にどこまで乗ってくれるか…)」

 

「ふーん。……ちょいとこっち来なよ」

 

「はい」

 

漆黒の剣士は女に手招きされ素直に応じる。

 

「ガタイだけはいいのね。そんじゃあ…先に謝っとくけど、ごめんね」

 

「え?」

 

 

ズドォン!

 

 

「おー。不意打ち(コレ)を受け切る人初めてだ。感服感服。見掛け倒しの木偶の棒じゃないぽいね」

 

女はいつの間にか片手で剣を持っており、逆に漆黒の剣士は十数メートル後退していた。鎧が少し凹んでいることから剣で殴られたのだろう。

 

「いきなり何を!」

「…っ!」

「ゴミムシが!」

 

 

「「「「「おおおおおーー!!!!」」」」」

 

 

それに憤慨し3人が詰め寄ろうとした瞬間、予想外のものがそれをかき消した。

 

「あんちゃんすげぇな!」

「アレ受けて立ってるやつ初めてみたぜ!」

「お前教えてもらえよ!そしたらお前もできるようになるかもしれないぜ!」

「断る!死にたかねえからな!」

「にいちゃん酒奢ってやるよ!」

「肉はどうだ!ここの肉はうめえぞ!」

 

それは今の剣を偶然とは言え受け切ったことへの賛美の嵐。

 

「えーと…?」

 

「かっかっか!いやぁごめんごめん。私なりに君を試させてもらったよ。もちろん死なない程度に手加減はしてたし万が一の場合は治療する手筈はあったから許してちょーだいな」

 

「い、いえ。それは大丈夫なんですが……貴女、言い寄ってきた男に今と同じことを?」

 

「うん。大概は腕へし折るか片足切り飛ばすか峰打ちで気絶、辺りだったんだけど。その鎧もそうだし君の反射神経もここの人たちに比べたら相当な物ね。うーん合格!」

 

「ということは……」

 

「うん。君の要望通り話聞いたげる。マスター!2階の個室借りてもいーい?」

「おう!酒も持って行ってやろう!」

「マジでか!あんがと!あと適当に肉もお願いね!お台はつけといて!」

「あいよ!」

「てことで2階行っててもらえる?私はこの辺の飲み尽くしたら行くから。段蔵〜。連れてってあげてー。あとは先に話しててー」

「わかりました。ですがその前に……」

 

段蔵と呼ばれた方はいつの間にか手に持っていた巨大なハリセンで思い切り頭を叩いていた。

 

「いっっっ⁉︎」

「さあお客人。いきましょう」

 

「え?あ、は、はい」

 

段蔵に連れられ漆黒の剣士と付き人の2人は困惑しながらも二階へ上がっていった。






お久しぶりです(小声

ちょっとリアルがややこしいことになってまして更新止まってしまってました。申し訳ないです

ひとまず新キャラは出せたのでゆっくりと絡ませていきたいです(
とりあえず目標のところまでは書き切れるよう頑張ります


読んでくださりありがとうございました
評価 感想をいただけるととても嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話 邂逅

〜ナザリックのとある一幕〜

「やあ。失礼するよ」
「これはデミウルゴス殿。食堂へ来られるとは珍しい」
「なに、私もたまには食事に来るさ。時にエミヤよ。少し話をしたいのだが時間はあるかね?」
「私と?そうだな…少し待ってくれ。今やってる仕込みが終わり次第になるがそれでも良いなら同席しよう」
「構わないよ。どれほどかかるのかな?」
「15分ほどかな」
「わかった。それまで何か食べて待っているとするよ。何かオススメはあるかい?」
「ならローストビーフはいかがかな?新しい味付けを試しているから食べてみて感想を頂けると助かるのだが」
「ふむ。エミヤの新作ですか。それは興味深いですね。そのローストビーフとやらお願いするよ」
「承った」







「お待たせした。それで話とは何かね?」
「まずは話に応じてくれてありがとうエミヤ。では単刀直入に言うのだが-----について少し話を聞きたいと思ってね。無論話せる範囲で構わない」
「ふむ。私としては構わないが…全てとはいかないからあまり期待はしないでくれ」
「勿論だよ」
「ではどこから話そうか…そうだな、まずは----」






「ささ、此方へどうぞ。心配せずともアイテムで聴かれないようにするのでご安心を」

 

「……!」

 

段蔵と呼ばれていた女性に連れられ2階の個室へ入る。それと同時に取り出していたのはユグドラシルのアイテム。なんてことない、音漏れせず聞き耳などの盗聴スキルがあらかた通じないと言うだけのアイテムだったが、それでもこの女性がユグドラシルプレイヤーだと確信させるには十分だった。

 

「さてあの人が来るまで先に情報交換を……と言いたいのですがその前に」

 

「「っ!」」

「……」

 

途端に目つきが鋭くなり、思わず身構えてしまった。一緒に連れてきていたナーベラル・ガンマ…もといナーベも同じなようでいつでも魔法発動できる準備をしていた。

 

唯一アテナさん…もといミアさんだけは不思議そうな顔で見ていたが。(余談だけど名前の由来はアテネ神と同一神とされていたミネルヴアからだそうだ)

 

「「……え?」」

 

しかし予想外のことが起こって思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

目の前の女性は何か文句を言ってきたり何かしてくるわけでもなく、急に土下座をしてきた。

 

「たいっっっっへん、申し訳ない。ウチのバカが。ほんっとうに。その鎧の修繕費も私が持ちますのでどうか許してもらえないですか」

「え、えーと、あのですね、あまり気にしていませんから大丈夫ですよ」

「いえそういう訳にはいきません。この段蔵の身一つで許していただけるのでしたら貴方に抱かれるのもやぶさかではありません」

「抱っ⁉︎何を言い出すんですか⁉︎」

「私の体が貧相だから心配されていらっしゃるのでしょうか?大丈夫ですよ。以前そういう仕事をしておりましたので心得はあります」

「いやそういう訳ではなくて!」

「ああ、私がウチのバカにそう対処しろと命令されていると思いですか?ご心配なく。これは私なりの誠意ですので。良くも悪くも色々な客の相手をしてきましたので大柄な男性でも問題はありません」

「まずは抱く云々から離れましょうか⁉︎」

 

話をしようにも一向に進まず平行線のままで思わず声を荒げてしまう。

 

「そうですか?今まであのバカに手を出してきた男どもはこれで皆納得してくれていたのですが」

 

「俺たちをそのような輩と同じにしないでくれませんか⁉︎」

 

確かにこの人もあの日本の刀を持っている女性もかなり美人だったし言い寄られるのもわかる。が、そんな男どもと同じにしないで欲しい。

 

そんなことを思ってると今度はアテナさんが俺の前に出てきた。

 

「ミアさん?どうしました?」

「だめ、です」

「ミアさん?」

 

「?」

 

きっとこの場を収めてくれるようなことを言ってくれるのか!流石アテナさんだ!

 

「モモ、さんに、だかれるのは、私だから、ダメ、です!」

「何を言ってるんですか⁉︎」

 

前言撤回。何を言い出すんだこの人は⁉︎

 

「ふむなるほど。御二方はそのような御関係でしたか。それは申し訳ない。ならば他の……とは言ってもお金に関しては余り手持ちがありませんので、それ以外でできる限りのものをお渡ししましょう。無論全てを、とは参りませんが」

「何か勘違いしてませんか⁉︎私とミアさんはそういう関係じゃありません!」

 

「ああ言いふらしたりだとかそんなことはしませんのでご安心を。さて…そろそろ、ですね」

 

「そろそろ、とは?」

 

「ああいえ。あの下で飲んだくれているあの方がそろそろ上がってくる頃だな、と。さて…お話しする前に御三方。こちらをお持ちください」

 

「「「え?」」」

 

そうして渡されたのは上に上がってくる前に頭を引っ叩くのに使っていたシロモノ。確か…ハリセンだったっけ。

……なんで?

 

「あの、これは…」

 

「それではドアが開くと同時に扉に向かって思い切り、ええソレはもう親の仇かのように思いっっっっきり、ぶん殴ってください。大丈夫、遠慮は要りません。どうぞ思い切り、なんなら日頃のストレスをぶちまけるかのように」

 

「「ええ…?」」「……?」

 

「さあ、来ますよ。構えて」

 

段蔵さんがいつでも思い切り振り下ろせるよう上段にかまえる。俺とナーベは訳がわからず呆けていたが、その横でもう1人、振りかぶっていた人が。

 

「おまーたーせーっ!」

「ふんっ!」「っ!」

「いだっ⁉︎」

 

スパアン!と2()()鳴り響いた。

 

「酷くない⁉︎私が何をしたというの⁉︎」

「自身の行動を振り返ってどうぞ。残金を考えずに飲む馬鹿さん」

「そんな酷いやついるの?一発しばいた方がいいんじゃない?」

「鏡持ってきましょうか?それはそうと一緒にぶん殴ってくださってありがとうございます」

「……(ペコッ)」

「ミアさん何してるんですか⁉︎」

 

2回鳴り響いたのは単純明快で、アテナさんがノリノリでぶん殴っていたからだった。

 

「え、でも、なぐってくださいって、おねがいされ、たから」

「だからってやらなくていいんですからね⁉︎」

「いえミアさんとやら。グッジョブです。珍しくこの馬鹿がリアルダメージ受けてますよっしゃ」

「最近段蔵の私への扱いがおかしい件について」

「妥当です」

 

なんかもう、一気に疲れた。アンデットだから疲労がないはずなのにドッと疲れが出てきた。

 

「ほら早くこっちへきて座ってください」

「はーい。それとどうだった?」

「まあそれを伝えるためにも早くその酒をその場に置いて座りやがれってんです」

 

物凄く、本当に物凄く疲れてしまったがようやく本題に入れる。そう思い段蔵さん達と席に着く。

 

「さて、まずは改めて自己紹介するとしましょうか。私は段蔵といいます」

「私は宮本武蔵。シクヨロ〜あー酒うまい」

「私は一応この呑んだくれを管理する立場です。主に財布の」

「イェースアイドゥー」

「とまぁ、この通りアホなのであまりこの人の言葉は鵜呑みにしないでください」

「ひでぇ。やっぱり忠誠心カンストにしとくべき…いや気持ち悪いからいいや」

 

「おほん。初めまして段蔵さん。そして宮本武蔵さん。私はモモンと言います。つい先ほどこの街で冒険者登録をしてきた者です。こちらの赤髪はミアさん。そしてこちらがナーベ」

「……」

「(ペコっ)」

 

一通りの自己紹介が終わったところで店主らしき人が様々な食べ物を運んでくる。人間化の指輪がないので食べれないが。

 

「さて単刀直入にお聞きしましょう。あなた方の目的は何でしょうか?」

 

「言ったでしょう?あなた方に興味を持ったのでお話がしたいと。ただそれだけですよ」

 

「ふむ?ですが私達はさほど有名ではありません。新米もいいところです。そんな私たちになぜ興味を?ここよりも前にいた街では今のような目立つ服装はしていないですし写真一枚残していないはずなのですが」

 

「それは……」

 

どうするのが正解だ?着物だとか日本刀という単語を知っているからと素直に言うべきか、それとも隠すべきか。

 

「(…いや、この人たちが友好的だとまだ決まった訳じゃない。ユグドラシルプレイヤーなことは隠しつつ探るのが最善だろう)受付で貴女達の噂を聞きまして。特にあの赤い服を着ておられる方は同じ双剣を扱うと聞き興味を持ったのです。できるのなるば共に冒険者として依頼を受けてみたい、と」

 

「だ、そうですよ」

「ほーん。……双剣ねぇ」

 

未だジョッキにある酒を飲みながら武蔵と名乗った女性はこちらをみてくる。そして何かを思い出したかのように段蔵さんへ顔を向けた。

 

「そいやさっきの話どーなったんだっけ?」

「ああそういえば。忘れてました」

 

「「?」」

 

何かを思い出したのか、そしてそれを聞かれたくないのか魔法の効果を入念に確かめていた。そしてそれが終わったのか改めてこちらをみて衝撃的なことを言ってきた。

 

「モモンさん、そしてミアさん。ナーベさん。あなた方は

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()?」





更新遅くなって申し訳ない…
もうリアルが…というのは言い訳にしかならないためやめておきましょう。

さて今回から出てきた『段蔵』『宮本武蔵』は皆様ご察しの通り某型月ゲームに出てくるものをそのままイメージしてくださって大丈夫です。
2人の詳細は後書きか前書きにでも書きます故

(実は本来のプロットの持ち主によると空腹のあまり武蔵ちゃんが行き倒れしてた)

更新は似たようなペースになると思いますが皆様の暇つぶしになれば幸いです。


それでは読んでくださりありがとうございます。
感想や評価をくださるととても嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話 〜英雄の集い〜

PN:宮本武蔵
種族レベル
???
計25レベル

職業レベル
ワールドチャンピオンLv5
二刀流Lv15
その他35Lv 計75Lv

とあるクランの元総括。初の女性ワールドチャンピオンであり、たっち・みーと戦闘経験あり。
黙って座っていれば牡丹。歩く姿は酒豪と身内からは言われている。



「っ…」

「なっ……」

「ウジムシ風情が!」

「待てナーベ!」

 

段蔵と名乗る人間(?)が言った言葉で一瞬で警戒度を跳ね上げてしまった。特にナーベラルは思い切り殺気を露にしていた。宮本武蔵さんの方はというと未だ酒を飲みながらも此方を見ていたが。

 

(ナーベラルの反応のせいでもう隠しても…いやいや落ち着け。まだどうとでもなる。とにかく否定を…)

「違いますよ。私たちは南方の国から来ていてそのユグドラシルとやらは…」

 

「無理に隠そうとせずとも大丈夫ですよ。誰にも聞かれていませんから。ま、カマかけてみただけなのですがそちらのお嬢さんの反応で確信に変わりましたね」

「それにたとえ襲ってきたとしても君達だけなら返り討ち程度は出来るからねー」

「火に油投下しないでもらえますかバカ」

「本当のことじゃん」

「ギルド単位で来られたらどうするんですか」

「逃げる!」

「はぁ…。おっとお客人失礼しました。そう警戒なさらないでください。私たちは争う気はございませんので」

 

「…これ以上は無理なようですね」

 

もう隠し通すのは無理そうだな…。俺たちがユグドラシル出身なことはできる限り隠し通したかったけど、これ以上無理に隠し通そうとすると余計に悪影響になりかねないか…。

 

「ええご明察通りです。私たちはユグドラシルから来ました。貴女達…正確には宮本武蔵さんを知っていたのはそういう理由からです」

 

「でしょうね。この人、強さと容姿だけは有名でしたから。中身は今見て頂いている通りただの酔っ払いが人格を形成したかのような奴ですが」

「ねえ段蔵。そろそろ私泣くよ?いいの?」

「お好きにどうぞ。さてそれでは本題へ入りましょうか。貴方達は何の目的で私たちの前に姿を現したのでしょう?」

 

「言ったでしょう?貴女達とお話をしたかった。ただそれだけですよ。欲を言うならば協力関係を結べたら、とは思っていますがあくまでも目的は話をすることです」

 

「それはまた酔狂な。…えーと、モモンさんでしたか」

 

「はい」

 

段蔵さんは少し考えこんだ後に武蔵さん、アテナさん、そして最後に俺をみて口を開く。

 

「まずは最初に答えを述べます。私たちと話をすることに関してならば喜んでお受けしましょう。ですが、条件が2つほどあります」

 

「と言うと?」

 

「まず一つ目、そちらは従者を付けないこと。二つ目、場所は私達が指定する事。これが条件になります」

 

妥当な提案だろう。だけど流石に「はいわかりました」と飲むわけにはいかないな…。

 

「それだと少し難しいですね。特に従者を付けないというのは承認しかねます。理由をお聞きしても?」

 

「単純ですよ。私たちが…いえ正確には私が弱いからです。いくら重度の酒カスでイケメン美女でお金好きワールドチャンピオンのこの人とは言え多勢に無勢ではどうしようもないでしょうから」

「段蔵の私への物言いが酷い件について。ガラスのハートが粉々になりました」

 

そう言った瞬間に段蔵さんが武蔵さんの目を突いた。フォークで。

 

「いっっったぁい目がぁぁ!」

「と言うことでして、せめてタイマンでの会話なら請け負いますよ」

 

「貴女達に喧嘩を売るなんてそんな真似しませんよ」

 

「そうとも言い切れませんからね。有体に言えば私はこの人以外を完全に信用していませんので」

「おっ?段蔵ちゃんとうとうデレた?ねえねえツンデレ?いやー可愛いとこあるじゃん段蔵ちゃんやいやい」

「前言撤回します。この人が一番信用できないかもしれません」

「なんでよ⁉︎200年の付き合いなのに⁉︎」

 

「とにかく!私達は本当に敵対する気はないんです。ただ…情報交換をしたいだけなのです。お恥ずかしながら私達はこの世界へ来てまだ日が浅いため、あなた方の持つ情報を少しでも提供していただきたいと思っています。情報によってはこちらもそれ相応の対価をお支払いします」

 

「マジで⁉︎じゃあ酒か美少年美少女かお金で!」

「お願いですから黙っててください」

 

嗚呼…うっすら思っていたけど今確信した。段蔵(このひと)ものすっごい苦労人だ。すごい親近感があるというか。

 

「はぁ…つっかれた。っと、コホン。モモンさん…でしたか。対話でしたら私たちを襲わないと確約してくださるなら喜んで機会を設けますよ。まあ襲う気はないと言質はとっていますが。構いませんよね?」

「無論です。従者を1人のみ連れて行くことを許可してくださるなら、ですが」

 

「ふーむ。そうは言われましても……」

「別にいーじゃん。従者の1人や2人。何がダメなのさ」

「誰も彼もが貴女みたく強いと思わないでください。……そうですね。この初回はお詫びも兼ねてモモンさんとそちらの赤髪の…ミアさん、でしたか。それともう1人までの3人でどうでしょうか?」

 

「それで構いません。無理を言って申し訳ない」

 

「いえいえ。それではユグドラシル出身者同士として改めて自己紹介をさせていただきます。私はクラン『英雄の集い』所属、『加藤段蔵』です。以後よろしくお願いします。こちらは元クラン統率者且つワールドチャンピオン4位『宮本武蔵』です」

 

『英雄の集い』…やっぱり、というか武蔵さんがいる時点でほぼ確定はしていたけどあのクランか…。

 

「ご丁寧にありがとうございます。私も改めて自己紹介を…」

 

と、自分も習ってギルド名などから言おうとしたがふと思ってしまった。ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』なんて言うと警戒されないか?と。

 

「どうされました?」

 

「い、いえ。その、ですね……」

 

(言うべき……か?下手に警戒されるより最初から正直に言って信用を得る方が無難か?)

 

そこまで考え、下手に嘘をつき変に疑われるよりも信用を得る方が大事だと思い正直に言うことに決め口を開く。

 

「私達はギルド『アインズ・ウール・ゴウン』です。訳あって今は別の名前を名乗っていますが元の名前は『モモンガ』。ギルド長をしていました。そしてこちらのミアという女性の本来の名前は『アテナ』。ギルドの守護神とも呼べる方です。(さあ、どうくる…)」

 

何を言われようと敵対するつもりがないことを伝えるつもりで心構えを決める。もとよりDQNギルド。何か悪い噂を聞かれていたといても仕方がない。

 

「アインズ・ウール・ゴウン…どっかで…ああ思い出した!クソたっちがいたギルドだ!ねえねえアイツ来てないの⁉︎あんのクソカマキリ、妻と娘がーとか言いながら勝ち逃げしやがってこんちくしょう!もしいたら出会い頭に袈裟斬りしてやる!」

「ああそう言えば。思い出しました。あのギルドでしたか。どこかで聞いたことあると思ったら」

 

「「……え?」」

「至高の御方に無礼な口を!」

 

予想の斜め上の返答が来て思わず呆けてしまった。ナーベラルの愚行を止めるのも忘れて。

 

「あっぶない!酒がぁ、勿体無いでしょ!」

「お、おいナーベ!何をしている!」

「ですがモモンさーーん!この人間が無礼な事を!」

「いいから!座れ!私達に恥をかかせるな!」

「も、申し訳…ありま、せん」

 

斬りかかったナーベを殆ど動かずに片手で止めて見せた武蔵さんはこちらを責めるわけでもなく酒瓶を真っ先に手繰り寄せていた。…が、それよりもこの人たち、俺たちがAOGだと分かった上でこの反応なのか?

 

「いやぁ決起盛んな事ねぇ。纏めるのに苦労してそうだ」

「誰だって慕ってる人が馬鹿にされてるようなこと言われたらこうなるでしょうに」

「でだ、どうなの?たっちの奴いんの?ああそれか……なんつったっけあのなんちゃらディザスターとやらのヤギ。それか神話オタクのタコ」

「私は関わりがありませんので分かりかねます。ああすいませんモモンさん。この人悪気は多分無いですから」

 

「い、いえ。それはいいのですが…私達に対しては何も思わないのですか?」

 

「え?なんでよ。たかがギルドだってだけでしょ。私らギルド同士のいざこざとか興味なかったし。アインズなんとかもクソカマキリことたっちがいたから知ってる程度だし」

「モモンさん…いえ、モモンガさんの方がよろしいでしょうか?」

 

「どちらでも構いません。公の場でこの姿の私と会った時にはモモンと呼んでくださればそれで結構です」

 

「わかりました。それでは今はモモンさんと呼ぶことにしましょう。それでモモンさん。貴方が危惧していることに関してですが、この人も言う通り私達はギルドそのものへは特に興味がないのでご安心ください。正確に言うならば『他人の善悪に興味がない』が正しいですけれど。

私達『英雄の集い』は謂わばロールプレイをすることのみに重点を置いていますが、それ以上に()()()()()()()()を貫くのがクランの方針です。要するに、私達に利益を提示できるのならば、あなた方のギルドがどのような存在であろうと構わないということです」

 

「……なるほど」

 

彼女らからの情報は、良くもあり悪くもあると言える。

言い換えれば「いざと言うときは敵対する」と言う意思表示に他ならない。だけど今は出来る限り友好的に接するべきだろう。

 

「わかりました。ありがとうございます。改めましてよろしくお願いしますお二方。良い関係を築けたらと思っています」

 

「正味、私は酒と美少年と美少女あればそれでヨシ!」

「こちらこそよろしくお願いしますモモンガさん。それと…アテナさん、でしたか」

 

「(ペコッ)」

「すまない、彼女はある事情からあまり喋るのを好んでいないのです」

 

「構いませんよ。さて早速……と言いたいですが此処では一旦お開きにしましょう。また日を改めてこちらから連絡をしたいと思うのですが普段はどちらへ?」

 

「暫くはこの街を拠点に冒険者をする予定です。依頼を受けたり様々な事をしようと考えています」

 

「わかりました。では後日冒険者組合の受付に貴方宛の手紙を預けておきます。そこに細かな条件を書いておきますのでそれを見て判断していただけたらと思います」

 

「わかりました。唐突な訪問だと言うのに何から何まで申し訳ない」

 

「いえいえ。こちらこそこの馬鹿がいきなり斬りかかってしまい申し訳ない」

 

そこからは俺以外が食べたり飲んだりし、武蔵さんが宛名さんに抱きつき始めたりと大変だったがその後は何事もなく解散する事となった。

 

 

 

 

 

 

〜次の日〜

 

「……。(全く読めない)」

 

早速依頼を受けてみようと思い組合へ足を運んでみたが、依頼掲示板に貼られている物を見ても何一つとして読めない。

 

「モモ、さ。どうしました?」

「いえ、なんでもありませんよ。何を受けようか迷っていまして」

 

危ない危ない。実は文字読めませんとかそんなカッコ悪いところ見せられないからな…。でも読めないのは事実だし……。

 

と、そこである事を思いつき、実行してみようと思い立つ。

 

「きめた、ですか?」

「はい。これで行きましょう」

 

貼り紙のうち文字列が長い一枚を適当に選び受付へ持っていく。

 

「これを受けたい」

 

受付の女が紙を手に取ると不審そうな顔でこちらを見てくる。

 

「申し訳ありません。こちらはミスリルプレートの冒険者宛の依頼でして」

 

「知っている。だから持ってきた」

 

「ですが規則ですので」

 

「くだらん規則だ。昇格試験とやらを受けるまであのような簡単な仕事ばかりを繰り返すのが不満なのでな」

 

「失敗した場合、多くの命が失われる可能性があります」

 

受付の女は頑なに断ってくる。が、想定通りだ。あとはどこまでうまくいくか…。

 

「ふん。こっちの私の連れ、ナーベは第三位階の魔法の使い手だ」

 

ナーベを示しながら言うと先程までとは別のどよめきが広がる。この世界における第三位階魔法は天才の領域との事らしいからこれで宣伝にもなるだろう。

 

「そして私も当然ナーベに匹敵するだけの戦士だ。そして更にこちらのミアさんは近接戦闘においては私よりも遥かに上の戦士だ。我々ならばその程度の仕事は容易だ。だからその仕事を受けさせてくれないかな?」

 

「…申し訳ありませんが、規則ですので」

 

先程までの怪訝そうな声とは打って変わり、申し訳なさそうな声での謝罪になり目論見通りに動けたと確信できた。

 

「そうか。それでは仕方がないな。ワガママを言って悪かった。ならば(カッパー)の依頼の中で最も難しいものを見繕ってくれないかな?」

 

「畏まりました。少々お待ちください」

 

(よし、誘導成功!)

「モモンさ、すごい、です」

「いえ、できれば受けたかったんですが流石に無理でした」

 

本当はミスリルの仕事を受ける気もなかったんだが、ちょっとアテナさんの前と言うことで見栄を張ってしまった。にしてもリアルの時の話術が意外なところで役に立ったなと思っていると何人かが横に来る気配を感じた。

 

「あの、それでしたら私たちの仕事を手伝いませんか?」

「「?」」

 

声のした方向を見るとそこにいたのは4人組の冒険者グループだった。




お久しぶりでする

次回からは冒険者四人組との絡みを書いていこうと思います
もう少し早く執筆できるようにならねば……


読んでくださりありがとうございます
感想や評価などくださると嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話 漆黒の剣

お待たせしました…(待ってる人がいるかは置いといて





「あのーすいません。見てもらいたいものがありまして」

「はーい少しお待ちください」

エ・ランテルのある薬屋へ来た1人の冒険者がいた。赤髪短髪の女性冒険者でその手には赤いポーションを持っていた。とある冒険者から回復ポーションとして渡されたソレが本物なのかわからず鑑定に来た、と言ったところだろう。

「お待たせしました。それで見てもらいたいものとは?」

「あの、これなんですけど……」

薬師のンフィーレアへ手に持っていた赤いポーションを見せる。途端にンフィーレアの目つきと雰囲気が変わる。

「これ…あのすいません!少しお借りしても⁉︎」

「は、はい。どうぞ」

「……すごいポーションだ。どこでこれを⁉︎」

「え?えーと昨日組合で黒い全身鎧のカッパー冒険者に渡されて…」

簡単に事情を聞いたのちいくつかの鑑定魔法をかけて、それがどう言ったものなのかを客へ伝える前にンフィーレアは奥の部屋にいる祖母の元へ走った。

「なんなの、いったい」

赤髪の冒険者は、これが自分の運命を左右するなど、知る由もなかった。


「あの、それでしたら私たちの仕事を手伝いませんか?」

「「?」」

 

声のした方向を見るとそこにいたのは4人組の人間がいた。首に掲げているプレートは銀級を示すモノで一応は冒険者としての先輩に当たるパーティ、ということはわかった。それ以外はモモンさんの後ろからチラ見している程度にはなるけれど最初の印象は『弱そうだな』だった。

 

昨日会った武蔵さんはたっちさんと似たような雰囲気で一歩間違えれば斬られそうな雰囲気だったけど。

 

リーダー格っぽい金髪碧眼の人間と少し痩せ気味に見える金髪で茶色の瞳の人間、杖を持っている魔法詠唱者のような格好をしている濃い茶色の髪と青い瞳の人間、ボサボサとしたヒゲが生えいてがっしりとした体格の人間の計4人の人間。

 

あんまり私から喋る気も起きず、モモンさんの後ろに隠れると()()誰かから見られる。この街に来てからというものの、ずっと誰かから見られていて正直、嫌だ。

 

だけどモモンガさんの横にいるためなら、このくらいはへっちゃらです。

 

「仕事…というのは、やりがいのあることですか?」

 

「はい。やりがいはあると思いますよ。どうですか?お話だけでも聞いていただけませんか?」

 

「そう…ですね」

 

モモンさんはチラと私の方を見てくる。何かを悩んでいるようだった。

 

「……だい、じょうぶ、ですよ」

 

あまり大きな声を出さないようにしてモモンさんへ伝えると、少し考えるそぶりをした後に4人組の方へ向いた。

 

「わかりました。まずは詳しいお話をお聞かせください」

 

そうして受付の人に会議室みたいな部屋を借り、そこへモモンさん達と入る。大きいテーブルを挟み、対面するように座った。

 

「それでは私たちの自己紹介からさせてください。まず私はリーダーで戦士のペテル・モークです。こちらがチームの目でレンジャー、ルクルット・ボルブ」

「はーい。宜しく〜」

「そしてこちらが森祭司(ドルイド)のダイン・ウッドワンダー」

「よろしくお願いする」

「最後がチームの要であり魔法詠唱者(マジックキャスター)、『術師(スペルキャスター)』のニニャです」

「よろしくお願いします。…しかしペテル。その、二つ名で紹介するの、やめません?」

「え?どうしてですか。かっこいいじゃないですか!」

 

術師(スペルキャスター)?」

「聞きなれない言葉ですね。どう言った二つ名なんですか?」

 

聞いたことない職業(クラス)にモモンさんも疑問を持ったようでその理由を聞いてくれた。

 

「あーね、こいつ生まれながらの異能(タレント)もちなんだよ」

「確か魔法適正、とか言って本来習得に一年かかるところを半年で、とかだっけ?」

 

「ほう。それは素晴らしいですね」

 

「はい…本当にこの力を持って生まれたのは幸運でした。夢を叶えるための一歩を踏み出せましたから。そのおかげで少し有名にもなれましたし。…でもまあ、私よりももっと有名なタレント持ちがいますけどね」

 

「ほう?そんな方が?」

 

タレントという能力に関しては以前捕えたスレイン法国のニグンとやらから聞き出せてはいるらしいけれど、詳しく集めないに越したことはない、というのが出発前に決めた方針。で、私たちは遠い国から来たから多少の無知もそれで押し通すというのも事前に決めたことだった。

 

「はい。ンフィーレアという薬師の方なんです。ここだとかなり有名で知らない人はいないほどなんですが。どんなマジックアイテムでも使うことができるという方なんです」

「モモンさん達はこの近辺の方では無いのですね。彼のことを知らないということは…あっ!すいません、余計な詮索を……」

 

「いえ、構いません。ペテルさんのご推察の通り、私たちはつい最近来たばかりなんですよ。

改めて自己紹介をさせて頂きます。私はモモン。一介のしがない戦士です。そしてこちらがナーベ。こちらの方がミアさんです。

 

それよりも仕事についてお聞きしても良いですか?」

 

「あ、はい!…えーと、正確に言うと依頼された仕事という訳ではないんです」

 

「というと?」

 

「この近くにトブの大森林というものがありまして、その近くへ行きモンスターを狩ろうと考えているんです。モンスターの部位を組合へ持って行き換金するんです」

 

「モンスター退治ですか。具体的には何を狩る予定で?」

 

「オークやゴブリン、場合によってはもう少し強いもの…と言いたいんですが」

 

「「?」」

 

急に言葉が止まる。何か不都合なことでもあるのかな。

 

「実はというと、私たちの実力はそこまで高くありません。精々オークとゴブリンの群れをなんとか相手できる、程度です。なので…正直にいいます、モモンさん達と共にできれば森の深い場所にいる少し強いモンスターを狩れるのではないか、と考えています。もしかしたらモモンさん達に必要以上の負担をかけてしまうことになるかもしれませんが、どうか一緒に行っていただけないでしょうか!」

 

「なるほど、事情はわかりました。私としては有難い申し出ですので是非ともお受けしたいのですが…ミアさんはどうですか?」

「わたしは大丈夫、ですよ。もも、さに任せます」

「ありがとうございます。それでは漆黒の剣の皆さん、この依頼喜んでお受けします」

 

「こちらこそありがとうございます!」

 

と、漆黒の剣の4人と共にトブの大森林という森の付近へモンスター狩りをすることに決まった。…流石にアインズさんを脅かすモンスターはいないとは思うけど、警戒するに越したことはない。

 

「それでは、出発するにあたって何か準備しておくものはありますか?」

「そうですね。食料を少し買えば十分です。皆さんはどうですか?」

「僕たちもすぐに出ることができます」

「わかりました。ではこの後すぐに出発するということで構いませんか?」

「はい。勿論です」

 

と、私の横でどんどん計画を立てていく。どんなルートを通ってどんな帰り道を使うか、どこで休憩するかなど。

 

「では最後に、何か質問な疑問などがあれば互いに…」

「はいはーい!俺から質問!」

 

ペテルが喋っている横から弓を持ったチャラそうな男……たしかルクルット?が勢いよく手を上げる。

 

「御三方はどんな関係ですか!特にモモンさんとミアちゃん!もしかして付き合ってたりするんですか!」

 

「ばっ!」

「っ⁉︎ケホッケホッ」

 

そしてまさかの特大爆弾を投げ込まれ、思わず咳き込んでしまう

 

「私達は仲間です」

 

モモンさんが淡々とそう返し、それに関して少し悲しくなったりしていたらルクルットさんが勢いよく席を立ちこちらへ向かって歩いてくる。

 

「惚れました!一目惚れです!付き合ってください!」

 

と、私にではなくナーベラルに向かって手を伸ばした。

 

「黙れナメクジ。身の程を弁えてから声をかけなさい。舌を引き抜きますよ?」

「あ…いや…」

 

「厳しいお断りの言葉ありがとうございました!では、お友達から始めてください」

 

「ウジ虫が……目玉をスプーンでくり抜かれたいの?」

 

「クゥー!その冷たい眼差しがまた…ガッ」

「仲間がご迷惑を…」

 

「い、いえ…」

 

暴走しかけていたであろうルクルットさんをペテルさんが殴って強引に止めることでなんとか場は収まった。……いきなり告白するって、すごい人だなぁ。

 

その勇気を少しでいいから私に分けて欲しいな。

 

 

『アテナさん。そのンフィーレアという人間、かなり危険な存在になる可能性があります。今後そのンフィーレアとやらと会うこともあると思いますが、警戒を怠らないようお願いします』

『わかりました。つかまえたりは、しないんですか?』

『できるなら連れ帰ってしまいたいですが、悪評が立つのは避けたいのでそれは最後の手段でお願いします』

『わかりました』

 

 

 

 

「それでは準備が出来次第出発しましょう」

「ええ」

 

「あ、モモンさん!」

 

「ん?」

「?」

 

ようやく出発かとなったタイミングで受付を担当していた人に呼び止められる。

 

「ご指名の依頼が入っております」

 

「どなたからで?」

 

「ンフィーレア・バレアレさんです」

 

その名前が出た途端、建物の中にいる人間全員が驚く。かくいう私も思わずモモンさんの前に出てしまった。条件反射なのか、さっき危険人物になる可能性があるって言われてたからか、モモンさんを守らなきゃと思ってしまった。

 

そして私以上に前へ、しかも敵意剥き出しにしていたナーベラルはというとモモンさんにチョップされていた。

 

「考え無しに行動するな」

「も、申し訳ございません……」

「お前が私達の身を案じてくれているのはわかるが、もう少し考えてから行動しろ」

 

「初めまして。僕が依頼させていただいたンフィーレア・バレアレと言います。今回…」

 

「申し訳ありません。大変ありがたいお話ですが私達は既に別の契約を交わした身。光栄なお話だとは思いますが」

 

てっきり受けるのかと思うとモモンさんは断っていた。てっきり良い話だから受けると思ってた分意外だった。

 

「モモンさん!名指しの依頼ですよ⁉︎」

 

「そうかもしれませんが、それでも先に依頼を受けた方を優先するのは当然でしょう」

 

「しかし、せっかくの指名を…」

 

「であればバレアレさんのお話を聞いてから考えるということでどうでしょう?」

 

モモンさんの案に一同了承し、先ほどまでいた部屋へ逆戻りすることになった。

 

 

 

 

「改めまして、僕はンフィーレア・バレアレ。この町で薬師をしています。今回、薬草採集のためにカルネ村付近の森まで行くつもりです。それで、そこまでの警護と薬草採集の手伝いを依頼したいのです」

 

「警護…ですか」

 

カルネ村?カルネ村っていうと……私たちが助けた村?

 

『アテナさん、どうしましょうか。受けるメリットは十分にあると思いますし、カルネ村の様子を観に行くこともできますが』

『受ける分は大丈夫だと思います。一応、これでもタンクですから、人1人守るくらいはなんとかなりますよ』

『わかりました。では受ける方向で話を進めます。ですが念のため漆黒の剣もお誘いするつもりなのですが、宜しいですか?』

『はい、勿論です』

 

人との交流をほぼ全部任せているからその辺の文句は言わないです、はい。

 

 

まあモモンさんと2人きりで冒険したかったとか、おもってはいましたけども。

アルベドから抜け駆けしようとか思ってましたけど、何か?




とりあえずプロットでは「漆黒の剣と冒険 4人の生存はお任せ」となっていたので…さてはてどうしましょうかねぇ(ゲス

なお冒険者として出る前にアルベドは嫉妬で燃えそうだったとか(



読んでくださりありがとうございました。
感想や評価などくださると嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話 いざ冒険へ

はい、ようやくリアル落ち着いたので執筆をば
いやまさか仕事で病むとは…(今時あるんすね昭和時代の考えを押し付けてくるパワハラ)

一旦体調崩したりだとか本当にヤバかったですが何とかなりました

リハビリも兼ねてあんまり急展開はしていない感じに書きましたので箸休め的な感じで読んでもらえたらと思います

それではどうぞ



あれからほとんどアインズさんに任せていた交渉によりンフィーレアという薬師の依頼は私達と漆黒の剣4人で受けることとなった。

 

今はエ・ランテルを出発し街道をゆっくり進んでいる。もう直ぐそばには森があるのでそろそろモンスターと遭遇してもおかしくは無いとのことなので少し楽しみな反面、ちゃんとアインズさんを守れるか少し不安でもある。

 

そしてルクルットさんがナーベラルを口説き、突っぱねられ、ペテルさんにとっちめられていた時に事態は急に動いた。

 

「来たな」

「っ、何処に」

「ほらあっち。だけど…何か変だ」

 

そうして指をさしたのは少し木々が少なく見渡しのいい場所。そこにゴブリンとオークの群れがいて、こちらを見つけた瞬間下衆な笑みを浮かべこちらへ向かってきた。大体40〜50匹だろうか。

 

「ちょ、多くないか?」

「確かに…森でなにか異常が?」

 

「漆黒の剣の皆さんはンフィーレアさんを守っていてください。私たちが前線を維持するので討ち漏らしをお願いします」

 

「わかりました。お任せください!」

 

モモンさんがグレートソードを両の手で双剣のように構え、それの横に立つようにして槍を構える。

 

 

 

っしゃぁ!役得!

っげふんげふん。集中集中。

 

低レベルだし万が一にも負ける可能性はないけれど依頼主は守らなきゃね。

 

 

「では、初手はいただきますね」

「わかりました」

 

モモンさんは先頭を走っていたオーガへ走り出し、すれ違いざまに一刀両断する。

 

 

かっっこ良い。どこかにカメラはありませんか。

 

 

「グギ…グガァ!」

 

別のオーガが吠え、ゴブリン達と共にモモンさんを囲む。だけどこの力量の差では数の利なんてあってないようなもの。次々と斬り伏せていきあっという間に片付けた。

 

「なっ…」

「マジかよ⁉︎」

「なん…という」

「すごい…」

 

「ミアさん、お次どうぞ」

「は、い」

 

モモンさんとハイタッチし場所を入れ替わる。

槍と盾を持って前に出るとゴブリン達は私を見て嗤いながら取り囲んでくる。

 

……もしかしてだけど、女だからってナメられてる?

 

「ちょ、モモンさん⁉︎ミアさんは大丈夫なのですか⁉︎」

「心配御無用です。見ていてください」

 

つまりは遠慮なくやっていいと言うことですねモモンさん?

 

「ッスー……ハッ!」

 

ゴブリン達が一斉に動き出したと同時、その場で一回転し槍を振るう。次の瞬間にゴブリン達の頭がボトボトと落ち倒れた。

 

…もう少し遠い時にやればよかった。血が装備に…。

 

「「「「「……」」」」」

「流石ミアさん。いつ見ても惚れ惚れします」

「モモンさんほどじゃ、ない、です」

「いえ、実に御見事でした!私のような者には勿体無いです!」

「ちょ、やめ、やめよう?恥ずかしいから…」

 

モモンさんがベタ褒めしてきて、それに乗っかるようにナーベもめちゃくちゃ褒めてくるからすごく恥ずかしいんだけど…。漆黒の剣の4人とンフィーレアはというと空いた口が塞がらないを体現したかのような表情をしていた。

 

「さて、残りは…ナーベ、やれ」

「ハッ」

 

残り5体ほどとなったオーガとゴブリンへ向かってナーベは第三位階の魔法を撃ち一瞬で殲滅する。

 

「すごい…」

「まさか、王国戦士長…いや、それ以上の…」

 

さてと。これを…どうするんだろう?

解体するとしたらすごくやりたくないんですけど。気持ち悪いから。

 

その後はちゃんと漆黒の剣やモモンさんがやってくれました。ありがとうございますほんと。

 

 

 

ゴブリン達を掃討したあと、日が沈むまで歩き野営の準備をみんながテキパキと進めていく。

というのも、私が何かをしようとするたびにナーベが「私がやりますので!」と役目を奪っちゃうから。私のためにと思っての行動だと分かっているから余計に変なこと言えないし気持ちはすっごく嬉しいという、何とも言えないジレンマが。

 

「モモンさーん、できました!少し遅いですが食事にしましょう」

「はい。ありがとうございます」

 

仕方なく焚き火の近くで体育座りをしているとペテルさんがモモンさん達を呼び、みんなが焚き火の近くに集まる。

各自に干し肉と干し野菜の入ったスープ、パンを渡されみんなでわいわいと食べ始める。

 

モモンさんはというと……

 

「うん、うん!うまい、うまいです!」

「そ、そうですか?お代わりもありますがどうします?」

「もちろん頂きます!」

 

私があげた人化の指輪を使い思い切り堪能していました。モモンさんの笑顔を見てるとこっちまで嬉しくなってくる。

 

……でも、これあんまり美味しいとは思わないんだけどなあ。エミヤのご飯に慣れちゃってるせいなのかな?

 

「あはは…。それにしても今日のモモンさん達は素晴らしかったですね!強いとは思っていましたがまさかあれ程とは」

 

「いえそれ程でもありません。皆さんならあの程度できるようになりますよ」

 

「あはは…。ミアさんもナーベさんも、その若さであの強さ…受付での出来事やあのムサシさんとの出来事にも納得です」

 

「武蔵さんをご存知なんですか?」

 

「はい、今ではンフィーレアさんと並ぶほどに有名ですからね。モモンさん達のように豪華な装いをしており突如現れたかと思うと一気にミスリルまで駆け上がったんです。実力は確実にアダマンタイト級とは言われているのですが本人達が昇級試験などを受けたがらないらしくミスリルに収まっているらしいですが」

「あんな豪華な装いでしかもめっちゃ美人。言い寄る男はごまんといるけどその全てが…なぁ?」

「あはは…みんな言い寄るもモモンさんのように唐突に剣で斬られたり峰打ちをされたり、酷い場合では死んだりもしているという噂もあります」

「うむ。だが死んだ者は皆、ムサシ殿へとてつもない無礼を働いた者、という噂もあるのである」

 

武蔵さんの話題をきっかけに漆黒の剣とモモンさん、依頼人のンフィーレアで談笑を続けていく。私はあんまり喋りたくなかったのでちびちびとスープを飲んでいました。

 

「そういえば、皆さんはとても仲がよろしいですよね。冒険者というのは皆そうなのですか?」

 

「そう…だと思いますよ。命を預けるわけですからね。必然と仲良く、信頼し合っていると思います」

「それに俺たちは男だけだからな。女がいると揉めたりするって聞くぜ」

「あはは。それに私たちは『漆黒の剣』を見つけるという目標がありますからね。そのおかげもあってかみんなで力を合わせようという気持ちになるんだと思います」

 

「確かに、皆で同じ方向を向けていると全然違いますよね」

 

「モモンさんも前に冒険者をされていたんですか?

 

「冒険者…ではなかったですが。実は私がまだまだ新米だった頃殺されかけたことがあるのですが、その時に純白の聖騎士が助けてくれたんです。それからその人と共にたくさんの仲間と旅をしました。本当に…楽しくもあり頼もしくもあり、素晴らしい友人達でした。ミアさんともそのうちの1人です。今でも私を支えてくださっている素晴らしい友人です」

 

そう語るモモンさんはとても嬉しそうに、懐かしそうに話す。その途中に私を撫でてくれてつい舞い上がりそうになったのは内緒。

 

だけどその空気はニニャの放った言葉で一気に壊される。

 

「モモンさん…。きっといつの日か、その方々に匹敵するほどの仲間に出会えますよ」

 

「そんな日は来ませんよ。っ…失礼。私は向こうで食べますので」

「お供します」

「……(ペコッ)」

 

モモンさんの機嫌が一気に悪くなったのがわかった。一気に声が低くなり、バツが悪そうにその場を離れるのでナーベと共についていくも、どう声をかけたらいいのかわからなかった。

 

 

 

「……」

「モモンさん、だいじょうぶ、ですか?」

「はい、大丈夫です」

 

アテナさんにいらない心配をさせてしまい、更にはあの5人にも変な疑いを持たれてしまっただろう。完全な失態だ。

 

…本当に、アテナさんがいなかったら俺はどうなっていたんだろうか。もういないものに、いるかもわからない仲間(モノ)に縋り付いてアテナさんを、ナザリックの皆を振り回して。それで納得のいく答えが出なかったら俺はどうしていたんだろうか。

 

「……」

「……さん」

「……」

「…モンさん」

「……」

「モモンさん!」

 

「っ⁉︎あ、えと、すいません。考え事を…」

 

あまり顔を見られたくなく兜を深く被り直す。……本当に、何をしているんだ俺は。アテナさんにいらない心配をかけて。漆黒の剣の4人とも険悪になって。

 

「モモンガさん、大丈夫ですよ」

 

「アテナ…さん?」

 

「私は絶対にモモンガさんの元から消えませんから。いなくなりませんから。流石にたっちさん達ほど戦闘面で頼りにはならないかもですが、それでも心の支えくらいにはなってあげたいです。何年でも、何十何百年でも。それこそモモンガさんがこの世からいなくなるまでずっと」

 

アテナさんが優しく笑いそう言ってくれる。

 

「だからですね、もっと頼ってくださってもいいんですよ?これでも守護神なんですから」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

「いえいえ」

 

 

 

 

 

 

 

〜エ・ランテル 裏路地〜

 

 

裏路地をフードを深く被った1人の女が歩いていた。軽快に、されど警戒に満ちた足取りで。

その女が見つけたのは同じくフードを被った女。違うとすれば前者は黒いフードなのに対し後者は純白のフードと言ったところか。

 

 

「(強いな。こんな奴がまだいたのか)」

 

観察をしつつ良いおもちゃを見つけたなと思い、どうやって遊ぼうか考えているとソイツは急に私の方へ振り返る。

 

「どうされましたか。殺気を隠せておりませんが、何か失礼でもしましたか?」

 

「いーやぁ?べっつにぃー?ただ君みたいな子がまだいるなんて驚いてたダ・ケ♪ねえねえ、お姉さんと遊ばない?」

 

「……?()()()()()()()()ですが、今は忙しい為お断りさせていただきます。これより向かわなければならない場所があるので」

 

「じゃあ無理矢理にでも遊ばせてもらうねっ!」

 

私は得意武器である刺突武器-スティレット-を持ち目の前の女に襲いかかった。日頃の欲求不満の解消になればそれで良い、そんな軽い気持ちで。

 

 

 

 

 

〜黄金の輝き亭 宮本武蔵の泊まっている部屋〜

 

「で、どうするんですかソレ」

「さぁねぇ〜。どしよっか。無視してもいいんだけど」

 

部屋に帰る前に受け付けから渡された一通の手紙。何の躊躇いもなく開け、中を確認すると表にはとある国の紋様が描かれていた。それは2人にとって見覚えがありすぎたものだった。

 

「漆黒の方々が私たちに援護を求めるほどの相手……気にならないと言えば嘘になりますが」

 

「私は至極どーでもいい!でもこの報酬は割と魅力的じゃない?」

 

武蔵は段蔵へ手紙を渡し、再度酒を呑む。やはりどんなことよりもとりあえず酒らしい。手紙の内容も報酬のところ以外は何一つ読んでいないということを察した段蔵は受け取る際に一発叩きに行くも最小限の動作で避けられてしまっていた。

 

「確かに。どこかの誰かのおかげでお金に余裕ありませんからね。……ふむ?これは…」

 

「で、なんて言って来てんの?」

 

「……ふむ。なるほど」

 

「いや教えてくれない⁉︎」

 

「『破滅の竜王を討滅す』らしいですよ」

 

「破滅の竜王?なんじゃそりゃ。いかにもな名前だけど何処ぞの引きこもり竜王サマ並に強いんかね」

 

「さあ?でもそれだと()()()()()()になるんじゃないですか?私は遥か後方で腕組み要員になっておきますけど」

 

「んー、まあ喧嘩だけなら良いけど、今はぶっちゃけあんまり派手に動きたくないのよね。あんな分かりやすい『悪』を掲げてたギルドと仮に対峙することになったら死ぬほどめんどくさいし」

 

「ですねぇ。一応確認しますがタイマンなら勝てるんですよね?どちらにも」

 

「タイマンなら、ね。けどアレは最低でも複数人連れてくるでしょ。流石にクソたっちがいた上での1対多は勝てる気しないけどアイツラならどうとでもなる。レベ100NPCがあと……ビルド次第だけど2〜3人くらいならどうとでもなるんじゃないかな」

 

「ふむ…では依頼は受けた上でギルドのメンバーと思われる者と対峙した時は戦闘しない、と」

 

「よくわかってんじゃん。んじゃ返事よろしく」

 

「畏まりました」

 

いつものふざけた顔ではなく真剣な目つきで2人は別れた。




ステータス

【NPC名】シグルド
【レベル】100
【カルマ値】中立(+50)
【種族】竜人(異形種)

種族レベル
竜人(Lv5)
その他(Lv15)
計Lv20

職業レベル
使い魔(サーヴァント)(Lv15)
竜殺し(Lv5)
ルーンの魔術師(戦士) (Lv5)
魔剣使い(Lv5)
その他(Lv50)
計Lv80


【NPC名】ブリュンヒルデ
【レベル】100
【カルマ値】善(+100)
【種族】半神(異形種)

種族レベル
半神(Lv5)
神霊(Lv3)
その他(Lv7)
計 Lv15

職業レベル
使い魔(サーヴァント)(Lv15)
ガーディアン(Lv15)
聖騎士(Lv5)
神槍使い(ランスマスター)(Lv5)
原初ルーンの魔術師(万能)(Lv5)

愛を分断(わか)つ者(Lv5)

その他(Lv35)
計 Lv85


2人の居住区は第三階層である極寒の地【無間氷焔世紀 ゲッテルデメルング】にワルキューレ三姉妹であるオルトリンデ、ヒルド、スルーズの3人と共に住んでいる。
当たり一面は常に猛吹雪に晒されており凍傷を始めとするデバフを撒き散らす。氷に対して完全耐性にしていれば防ぐことはできるが氷の完全耐性を弱体化させるのを目的としたモンスターを多数(なんなら全員それ特化)配置しているため油断していると一気にデバフまみれになる。

配置されているモンスターは気配遮断などに優れている以外は特に強くないためちゃんとビルドを組んでいるLv100プレイヤーなら突破はそう難しくない。が、しばらく先に進むと断崖絶壁の中に一つの橋が架けられている。そこでは飛行系スキル、魔法、テレポート系魔法など全てを封じられる代わりに猛吹雪が唯一止む場所でもある。無論、侵入者に対し易々と橋を渡れる構造にしているはずもなく…

余談だがこれらのギミックは吹雪以外の全てアテナ以外のメンツがノリノリで考えたものである。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話 〜責任の取り方〜

よし、とりあえず書き切れた。

ちょっと長くなってしまいましたが…ご愛嬌ということで。

それではどうぞ


「……御使いが1人殺された?」

 

エ・ランテルの調査を命じられたワルキューレ三姉妹の長女であるオルトリンデは50体ほどの分身体…御使いと呼ばれるモノを生み出し各自に調査をさせていた。

 

そんな中裏路地を探索させていた御使いが1人、信号が途絶えた。場所は…墓地?何故そんなところに……。

 

「アインズ様達のお話では余程の相手でない限りは御使いでも安全と仰っていた。つまりは余程の相手ということでしょうか」

 

御使いを倒せるレベルとなると領域守護者様と同じレベルかもしれない。

 

……私では判断をしかねますね。

 

伝言(メッセージ)

 

とある方へ伝言を繋げるとすぐさま応答があった。

 

『おや、オルトリンデ。そちらから連絡をするとは珍しい』

 

「お忙しい所失礼致しますデミウルゴス様。急遽相談したい事がございまして」

 

『構わないよ。こちらもちょうど手が空いた所でね。それでどういった内容だい?』

 

「ハッ。昨晩エ・ランテルの裏路地を探索させていた御使いが殺されました。場所を探ったところ墓地で何者かと戦闘を起こしたと思われます」

 

『ふむ?御使いのレベルは確か30だったかな?』

 

「はい。隠密能力に長けていますので戦闘向きではなく、倒される可能性も考慮しているとはいえ緊急事態と判断し連絡を入れた次第です」

 

『なるほど。このことはアインズ様達へは?』

 

「まだお伝えしておりません。アテナ様からは何かあったら先にデミウルゴス様達へ相談をするように言われておりましたので」

 

『ふむ。では御使いが殺されたと思われる状況を詳しく教えてくれるかい?無論、分かる範囲で構わない』

 

「畏まりました」

 

 

 

 

 

「お、見えてきたぜ皆」

 

あれから特に何事もなく出発し数時間で目的のカルネ村に到着した。ちなみにアインズさんと冒険者達はと言うと、とりあえずは仲直りをした…と思う。途中でそこそこ話も弾んでいたから、多分大丈夫。

途中でルクルットさんに恋仲なんじゃないかとからかわれたりしてナーベが私とアルベドの名前を出しちゃった時は焦ったけど、多分バレてないです。多分おそらくきっと。

 

「…あれ?」

「どうされました?」

「あ、いや。あんな柵、前にはなかったような…」

 

ンフィーレアさんの言う通り、村の周りには柵が建てられていた。それと…何かいるね。

 

「ゴブリン⁉︎」

「囲まれたか!」

 

「……?このゴブリン達…」

 

入口らしきところに近づくとゴブリン10匹程度に囲まれる。すぐに仕留めようと思ったけどそれよりも前にまさかのゴブリンに話しかけられた。

 

「お兄さんがた。抵抗はおやめください。そうすれば俺たちも手は出しません。それに…そちらのお二方からはヤバい気配をビンビン感じますからね。俺たちとしても戦いたくないんですよ」

 

「ゴブリンが会話を…?」

「一体何が…」

 

「みなさんどうしたんですか?」

「姐さん!」

「エンリ⁉︎」

「え…ンフィーレア!」

 

ああ、なんか妙なゴブリンだと思ったらアインズさんが渡した角笛で召喚されたゴブリンなのか。

 

「意外と、大丈夫そう、ですね」

「そうですね。しっかりと自らを守る(すべ)を使って生き残るために力を使っている。しかも…見る限り他の村人もゴブリンがいるからと胡座をかいている訳でもなく自ら努力している。素晴らしいですね」

 

村人の多くを惨殺されたのに挫けることなく立ち直ろうとしているのは素直に尊敬するなぁ。

 

その後は特に何事もなくエンリ達に村へ迎えられた。私たちはというと休憩をするという名目で離れ、村を一望できる場所へ向かう。

 

 

 

「あ…ちゃんとぜんぶ、囲ってる。えらい」

「なるほど、ゴブリンが先導して訓練をしているのか。面白い」

「それより、モモンさん。昨日のたたかい、すごかたです」

「いえ、ミアさんのほうが素晴らしかったですよ」

「お二人とも、素晴らしかったと思います!私1人で独占してしまうのは勿体無いとさえ思います!」

「う、うむ。ありがとうナーベ」

 

何気ない会話のつもりだったのにナーベがめちゃくちゃ持ち上げるものだから私もモモンさんも苦笑いしながらありがとうと返す。はぁ…にしてもかっこよかったな…。

 

アルベドに自慢しようかな。

 

「…ん?」

「…?」

 

そのあともモモンさんと談笑しているとこっちに向かってくるンフィーレアさんが見えた。やたら焦ったような感じで何か緊急事態でも起こったのかと思い身構える。モモンさんも同じようで少し警戒をしていた。

 

「あ、あの…モモンさんは、アインズ・ウール・ゴウンさんなのでしょうか!」

 

「ぶっ⁉︎」

「⁉︎」

 

だけどンフィーレアの口から語られたのはまさかのモモンさんの正体についてだった。それに思わず警戒度を跳ね上げるも、続けて言われた内容でそれは引っ込めざるを得なくなった。

 

「ありがとうございました!この村を…エンリを助けてくれて。本当にありがとうございます!」

 

「…っ、違うとも、私は…」

 

「正体を隠されているのには何か理由があるのはわかっています。でも、どうしてもお礼を言いたくて。エンリを、僕の好きな人を助けてくださって、本当にありがとうございます!」

 

どうやらこの村にいた村娘の1人に恋心を抱いていて、その人を助けたことへの感謝だった、らしい。……でもなんでバレたんだろう。

 

「……。ナーベ、少し席を外してくれ」

「畏まり…ました」

 

ナーベが見えなくなるところまで行ったところでモモンさんが会話を再開する。

 

「顔を上げたまえ」

 

「はいっ」

 

「確かに私はアインズ・ウール・ゴウンだ。まず最初に確認するがこのことを他の誰かに話したりは?」

 

「いえ、もちろんしていません。先ほども言ったように何か事情があるのはわかっていますので」

 

「それならよかった。この姿の時はあくまでも一介の戦士『モモン』であることを忘れないでくれると助かる」

 

「はい。わかりました。…それと、もう一つだけ宜しいでしょうか?」

 

「ん?何かね」

 

「その…ごめんなさい!」

 

「……?何に対しての謝罪なのかな?」

 

「そ、その…貴方に依頼をした理由について隠していたことがありました」

 

「というと?」

 

「僕が今回モモンさんへ依頼したのには、モモンさんが冒険者へ渡した赤いポーションについての製法を知る為だったんです。モモンさんが渡した赤いポーションは通常の方法では精製できない特別なものだったんです。僕はその秘密を知りたくて貴方に近づきました。本当にごめんなさい」

 

と、ただひたすらに、なんの隠し事もなく謝り倒すンフィーレア。…正直、ここまでひたむきに謝れる人に対して私は怒ったりとかはできず、ただ傍観をしてしまった。

 

「何が問題なのかね?」

 

「え?」

 

「つまるところ、今回の依頼はコネクション作りの一環なのだろう?それのどこが悪いのかな?」

 

「え、えっと…」

 

「それに、ポーションの作り方を知って君は何をするつもりだったんだ?」

 

「えっ、その…特に何も考えてませんでした。ただ知識欲の一環だったので…」

 

「なら私からいうことは何もない。ポーションの製法を知って何かをしようとしていたなら問題だが、護衛の間に見てきた君のポーションや薬草へ向ける情熱や持っている知識から君はそのような人間ではないと分かっていたからな。ミアさんも、私は特にお咎めとかは考えていないのですが、構わないですか?」

「はい。もちろん、です」

「という訳だ。むしろ私たちとしても君、ひいてはバレアレ店と懇意にさせて貰えると助かるな」

 

「はいっ!もちろんです!それと改めて、エンリを助けてくださりありがとうございました!」

 

一通り言いたいことが終わったのかンフィーレアは村の方へ帰って行った。

 

「はぁ…申し訳ありませんミアさん。やはり宿屋で赤いポーションを渡したのは失敗だったようです」

 

「そう、ですか?むしろンフィーレアと繋がりが持てた、ですから、結果論にはなりますけど、よかったとおもいますよ?」

 

「そう言ってくださると助かります。ああ、もういいぞナーベ」

 

そうして出てきたナーベは何処か責任を感じているような顔だった。

 

「申し訳ありませんモモン様。ミア様。私の失態のせいで…ッ」

「そうだな。お前がアルベドやアテナさんの名前を出したのが原因だな」

「この失態、命で以て…」

 

そうしてあろうことがナーベは短剣を取り出して自分の首に当て始めた。

 

「良い!お前の失敗の全てを許す!今回の失敗を糧に更に成長するのだナーベ、いやナーベラル・ガンマよ」

 

「……ハッ。畏まりました」

 

ナーベが短剣を引き切るよりも先にモモンさんがそれを止める。そしてその失敗の全てを許すと言うことでようやく短剣を納めていた。

 

 

…まあ、そこはいいんだけど、ちょっと確認したいことができてしまった。

 

 

「ねえ、ナーベ」

 

「は、はいっ」

 

「一つだけ答えて欲しいんだけど」

 

「何なりと」

「…あの、ミアさん?」

 

ほんの、ほんの少しだけ怒りながらナーベラルを見る。

 

「もしかしてだけど、何か失敗をするたびにそうやって『自分の命で以て償う』とか言ってるの?」

 

「え?あ、は、はい。失態は自らの命で償うのが最善かと…」

 

「ふーん…もしかしてだけど、他の子達もそんな考えなのかな?」

 

「わ、私の…知る限り、では、多くのシモベが同じような考え方を、していると思われます」

 

へーえ。ふーん。そっかぁ。それより何を怯えてるのさナーベラル。わたし別に怒ってないよ?

 

「……。アインズさん」

 

「は、はい」

 

「ちょっとだけ用事ができたので、ナーベラルを借りて夜にナザリックに戻ります。それと、少しだけ階層守護者を含めたみんなを第六階層に集めてもいいですか?」

 

「え、ええ。はい。構いませんよ。……あの」

 

「?」

 

「一応お聞きしますが、何をするおつもりですか?」

 

「少しだけみんなとお話をするだけですよ。安心してください」

 

「そ、そうですか」

 

そんな、怒ってるとかそんなじゃないですよ。ほんとです。私嘘つかない。

 

「てことでナーベラル。今日の夜、少しだけ一緒にナザリックに帰ろうね。ついでにデミウルゴスかアルベドに、出来る限りみんなを第六階層に集めるよう伝えて。アインズさんの指令で外に出て帰るのが困難な場合は何かしらの手段で私たちの様子を見るよう伝えておいて」

 

「ハッ。畏まりました」

 

さーて、ちゃんと上手くいくといいけど。

 

 

 

 

 

「……めっちゃキレてたな。どうしたんだろう」

 

会話の内容からして…ナーベラルの『死んでお詫びを』ってことに怒ったのか?いや確かに何か事あるごとにそんなこと言われるのは面倒というかやめて欲しいというか、そんなことをし出したら俺なんて何回死ねばいいのやら。

 

「……一応、念のためこっそり見てるか」

 

万が一にもNPC達に襲われたりしないだろうが、それでも心配だった。アテナさんを失ったら俺自身がどうなるのか、俺もわからない。そんな事にならないよう少しでも可能性は減らしておかないと。

 

 

 

 

 

〜第六階層〜

 

「アテナ様、出来うる限りのシモベが集まりました」

 

「ん…。ありがと」

 

第六階層にはアルベドをはじめ各階層守護者、領域守護者、プレアデス、他のメイド達などといった名前を与えられたNPCが集まっていた。第八階層のあれらやニグレドなどは流石に来れていなかったが。

 

「…あれ?セバスとソリュシャンにシャルティアとブリュンヒルデは?」

 

「その4名は現在アインズ様の命により王国へ出向しているためこちらへ集まれませんでした。ですが遠隔視の鏡を用いてこちらを見ております」

 

「分かった。あとオルトリンデは?」

 

「オルトリンデは現在緊急性の高い任務を行なっております。その為こちらへ集まることができませんでした」

 

「わかった。それじゃあここでの話は後で伝えておいてね。

 

…それじゃあみんな、集まってもらった理由は分かる?」

 

その言葉に多少はガヤガヤしていたこの場が一瞬で静かになる。

 

「そっか、まあわからなくて当然だよね。それじゃあまず一つ目のヒント。ナーベラル、外で私とナーベラルが会話した内容をみんなに伝えてくれる?」

 

「はっ!畏まりました!」

 

そうして数分、ナーベラルからカルネ村で話した内容をみんなに伝え終わったのを見計らいもう一度大きな声で言う。

 

「それじゃあ、もう一度言うよ。みんな、この場に集められた理由は分かる?」

 

みんなが言うのを憚っているのか、そらとも本気でわからないのかは定かじゃないが、誰も言おうとしない。それに痺れを切らしそうになった時に1人手を挙げたのが。

 

「宜しいでしょうか?」

 

「いいよデミウルゴス。これ以上何もなかったら怒ってたかも」

 

「それでは僭越ながら。恐らくですがナーベラルが失態を犯した際に命を以て償おうとしたことが起因していると思われます」

 

そう言うデミウルゴスは何処か冷や汗のようなものをかいていた。何をそんなに怯えているのだろうか。

 

「うん、正解。じゃあみんなを集めた理由は?」

 

「恐らくですが、私たちシモベの意識を統一させておきたいのではないかと愚考致しました」

 

「それも正解。流石デミウルゴス」

 

「勿体無いお言葉です」

 

「それじゃあこの考えを踏まえて……そうだね、コキュートス」

 

「ハッ」

 

デミウルゴスが一歩下がり今度はコキュートスが前に出てくる。

 

「怒らないから正直に言って欲しいんだけど、もし仮に取り返しのつかないミスをしてしまったらコキュートスはどうする?」

 

「ッ…ソノ…」

 

「いいよ、そんなに怯えなくて。今はただみんなの考えを知りたいの。私にとっての普通とみんなにとっての普通は違うからね。それが違うからって一方的に怒ったりしないよ」

 

「デハ…恐レナガラ申シ上ゲマス。私モ、ナーベラルト同ジ判断ヲシタト思イマス」

 

「わかった。下がって良いよ。それじゃあ…最後に全員に聞くよ。もし仮に取り返しのつかないミス、もしくはアインズさんからの指令を達成できなかった時なんかに自害するのを考える子は……

 

 

その場に跪け」

 

 

戦女神の威圧を最大レベルで使い、その場にほとんどの子が跪く。あのアルベドですら冷や汗かきながら跪いていたが直立不動で立っていたのが何人かいた。

 

「……よかった。シグルド達は違うんだね」

 

「我が愛ブリュンヒルデも同じ考えかと思われます」

「は、はいっ!それにオルトリンデも同じ考えだと思います!」

「オルトリンデは死んだらマスター達と2度と会えなくなる、そんなのは死んでも嫌だと考えると思います」

 

立っていたのはシグルド、ヒルド、スルーズの3人だった。悲しくも私が作った子達だけだった。

 

いや、私が作ったからこそ私の考えがそのまま反映されてるのかな?私たちの方が異分子の可能性が高いのかな。

 

 

……ま、いっか。

 

 

「それじゃあ…シグルド。さっきコキュートスに言った状況になったら、シグルドはどうする?」

 

「私は、2度と同じミスをしないと誓い、その上でどこで失敗したのか、何が悪かったのかを見直し、作戦の立案者が他にいるならばそちらへ提示し、最後に己の心身へ刻みます」

 

「じゃあ、なんでみんなみたいに死んで償うって考え方をしなかったの?」

 

私の問いにシグルドは不敵に笑いながらこっちをまっすぐ見てくる。

 

「簡単なことです。仮に自害を選んだとしてその後、私の代わりを務めれる者がマスターとアインズ様を除き他にいないからです」

 

「…それは言い過ぎじゃないかな?特に私はシグルドの代わりなんてできないよ?」

 

「それもそうでしたね。特に我が愛への想いはたとえマスターであろうとも肩代わりできますまい」

 

「むー。それもどうかと思うんだけど。私もブリュンヒルデへの愛情なら負けて無いよ?」

 

「ならば次…おっと失礼。話が逸れてしまいました。ですが私が欠けた時に私の代わりを務めれるのはそれこそ誰もいないでしょう。私には私にしかできぬことがあるのですから」

 

「そうだね。欲しい答えをありがとう。それじゃあ…みんな、もう立って良いよ」

 

戦女神の威圧を切り、立つように促す。

 

そして再度、大きく声を張り上げる。

 

「みんな、いい?先に行っておくけどこれは私が気に食わないだけ。だから君たちに罪は無い。だって君たちが責任の取り方をどう捉えているのかは知らないし興味もない。そんなの個人のやり方があるだろうしね。そこに私が口を出すのは烏滸がましいもの。だけどもし仮に、今後も『命で以て償う』なんてことを言うようなら…

 

その時はもう君たちを守るべき存在だとは思わない。いいね?」

 

 

『『『ハッ!』』』

 

 

「うん、よろしい。さっきシグルドも言ってくれたけど君たちが自害を選んだとして、その後の仕事とか役割を埋めることができる人がいると思う?私やアインズさんでもできないことを君たちはできるの。

 

それにね、これ以上アインズさんに悲しい思いをさせる気?あの人はずっと、他のみんながいなくなって悲しい思いをしてた。これ以上あの人に同じ思いをさせようってなら…たとえ君たちといえど私は許さないよ」

 

今度ははっきりとした怒気を込めて言う。みんなが汗ダラダラなのはきっと見間違いではないだろう。

 

「だから、今後は失敗=自害じゃなくて失敗したのなら何が悪かったのか考えること。間違えることや失敗することは何も悪いことじゃない。私やアインズさんだって君たちという存在がいるからこそ間違えても良いからしっかりとしよう、そんなふうに思えるんだから。私からの話は終わり。他に何か言いたい事とかあるなら遠慮なく言って」

 

「……いえ、無いようです」

 

「ん……それじゃ、終わり。みんなごめんね、忙しいのに集まってもらって」

 

「とんでもありません!今後とも私達シモベ一同、より御身の役に立てるよう精進して参ります!」

 

「え、えーあー、うん。よろしく、ね。それじゃ、わたし、先にアインズさんの所に戻るね。ナーベラル、落ち着いたら戻ってきてね」

 

あからさまに落ち込んでいるナーベラルにはちょっと悪いとは思いながら転移を使いこの場を離れる。

 

 

 

 

 

あーーーー緊張したぁぁーーー。

 

 




アテナのプロフィール(前回の続き)

命を軽んじるものを嫌う傾向があり、それがたとえ身内だとしても咎める。何故なら、その人の代わりは誰にも務めれるものではなく、またその人がいなくなることで悲しむ人が出てくるからという考えがあるから。

なので、そのような人が出ないように、時には知的に、時には威圧的に相手を諭す。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

とりあえず書きたかったこと『ナザリックのNPCの失敗したのなら自害を選ぶ』という考えを根本から直す というのを、序章にはなりますが書き切れました。

なおこの集会の後、ナーベラルは体調を崩しかけたとかなんとか。

これ、見ようによっては圧迫面接ならぬ圧迫会議では…?まあ、大丈夫か(小声


それでは読んでくださりありがとうございます
感想や評価などくださると嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間の物語〜アテナのレベリング 嫉妬マスクを添えて〜

はい本当はクリスマスに投稿しようと思っていたものです
爆睡してたら日付変わってました


アホですか

アホですね

ゴメンナサイ


それではゲーム時代でのナザリックの一幕です。どうぞ


『なあなあ、アテナちゃんは自分自身のプロフとか書かないの?』

 

『プロフ、ですか』

 

とある相談事を持ち込むと駆けつけてくれたうちの1人、バードマンのペロロンチーノさんにそう言われて思わず考え込んでしまう。なんせNPCを作ったこともなければ自分のプロフィール欄を見たことすらなかったから。

 

『そうそう。形だけとはいえ書いてみると意外と楽しいよ?』

 

『とは言っても私そう言うの作ったことなくて』

 

『そんなの自分の思い描いたままに書けばいいのサ!アテナちゃんが理想とする自分でもヨシ!現実に忠実にしてもヨシ!』

 

『とは言いましても。ペロロンチーノさんはどんなのを書いてるんですか?』

 

『おっ!気になるかい!しょうがないなぁー!それじゃあ俺の作ったシャルティアを見せてあげよう!』

 

『え、いいんですか!』

 

『もち!それじゃあ行こう!』

「ちょっと待てや愚弟!」

「げふっ⁉︎」

 

その瞬間、ペロロンチーノさんがピンク色のスライム-ぶくぶく茶釜さんを始めとする女性の方々に袋叩きにされていた。

 

「あんったねぇ!ふざけんな!あんな純粋な子に何見せようとしとんじゃ!」

「い、いや、アテナちゃんが見たいって…」

「明らかに誘導してましたよね!」

「確かにプロフ書かないのとは言ったけど、気になるって言ったのアテナちゃん…」

「お前のあの狂気じみたシャルティアを見せてアテナちゃんが歪んだらどうするつもりじゃ我!」

「だ、大丈夫だって。俺のシャルティアそんなに変な設定詰め込んでないし…。てか姉ちゃんに言われたくないね!」

「よーし愚弟。今すぐお前を裁判にかけてやろう。あ、モモンガさん?ちょっと事件。うちの愚弟がやらかしかけた」

「ちょぉっ⁉︎」

 

 

『……あのー』

 

 

理由はわからないけど何故かペロロンチーノさんがボッコボコにされてて自分のせいかもと思いチャットを使うとぶくぶく茶釜さんが勢いよくこっちをみる。

 

…‥私、何かしたのかな?

 

『そ、その、私がペロロンチーノさんの書いてた内容を見たいって言ったので…あんまり怒らないで欲しいと言うか…私が悪いと言いますか』

 

『いや違うわよ。いい?アテナちゃん。こいつは超がつく変態なの。こいつの書いた内容を以前に見たけどそれはもうコイツの性癖を詰め込みましたみたいな感じの内容なの』

 

『そうなんですか?』

 

『そうよ』

 

『…それはそれでちょっと見てみたい気もします。ペロロンチーノさんが何を好きなのか私知りたいですし。そうすれば今度お礼とかする時に喜ぶものあげれますし』

 

そう打ち込んだ瞬間、ぶくぶく茶釜さんはまたペロロンチーノさんに向かって何かをしていた。

 

「あんたわかってんの!こんな純粋でいい子なのよ!それをねぇ!」

「ぐふっ、わ、悪かったって。もうやらないって。それよりもうやめて!死んじゃう!デスペナ受けちゃうから!あーーーっ!」

 

そうして、ペロロンチーノさんはグングンとHPが減っていき、ものの見事に瀕死になっていた。

…‥本当にごめんなさい、私のせいで。多分私のせいだと思う。うん。

 

というか、ここって非戦闘領域なのになんでHP減ってるんだろう。

 

「お待たせしました。どうされたんですか?」

 

その場を沈めるために呼んだのかモモンガさんがその場に現れた。そしてまたぶくぶく茶釜さん達がモモンガさんへ詰め寄っていた。

 

…何かを話しているんだろうなってのは雰囲気からわかるけど、何を話してるのかわからないから、こういう時は耳が聞こえないのを恨んでしまう。生まれつきだからしょうがないんだけども。

 

「遅いよ!いや間に合ってはいるんだけど!この愚弟、よりによってシャルティの設定をアテナちゃんに見せようとしたのよ!」

「……ペロロンチーノさん」

「な、なに?」

「ギルティ。とりあえず死刑」

「なんで⁉︎」

 

「おや皆さんお揃いで。どうかしたんですか?」

「いやはや、この様子だけ見ると魔王に連れ去られたお姫様ですね」

 

次に現れたのはタブラ…えーと、タブラ・スマラグディナさんとたっち・みーさん。

 

「この愚弟がシャルティアの設定をアテナちゃんに見せようとしたからとっちめたの」

「…一応聞きますが、何故そんなことを?」

 

「ぐふっ…アテナちゃんにプロフを書かないのかって聞いて、そこからどんなこと書けばいいか、俺の書いた内容を見てみたいって言われたから…」

 

あ、ペロロンチーノさんがその場に倒れた。何が何だかわからなくおどおどしているとたっちさんとタブラさんがこっちを見てくる。

……この人の前だといまだにめっちゃ緊張する。

 

「おや?アテナさんはプロフを作ってないのですか?」

「たっちさん。アテナさん耳が」

「ああそうでした」『アテナさんはプロフを作ってなかったのですか?』

 

『あー、はい。あんまりそういうのに興味がなかったので。作った方がいいですか?』

 

『そんなことはありませんよ。作るも作らないも自由ですから。ただウチのみんなはそういうのに凝りたい人たちばかりですので。もし作りたいと思っているなら皆さんに相談しては?』

『ならば私が相談相手になろう』

 

そうしてたっちさんを押し退けて私の前に来たのはタブラさん。

あの、ちょ、顔近い。怖い。

 

「おいモモンガさん!あの設定魔のほうが近づけちゃまずいだろ!」

「お前の性癖が移るよりはマシだ」

 

『まずはどうしようか。アテナさんの名前の由来であろうギリシャ神話の女神アテーナイの話からしようか』

『えーとそn』

『それよりもギリシャ神話の大筋から知った方がいいかな。あれって大概は主神もとい浮気神と名高いゼウスの浮気とそんなゼウスをしばき回すヘラの物語だからね、わかりやすいよ』

 

私が返信にあわあわしていると続々とタブラさんからチャットが連続して飛んでくる。あの、ちょ、打つの早すぎません?

 

「はーいストップ。アテナさんが困惑してるでしょう」

 

モモンガさんがタブラさんの首根っこを掴み強引に引き離してくれようやく落ち着いたけど…タブラさんってこんな人だったのか。神話が好きとは聞いていたけどここまでとは思ってもいなかった。

 

「はぁ…本来はアテナさんのビルドに関しての相談だったでしょうに。それで本題の方はどうなってるんですか?」

「あーそれね。アテナちゃんはシャルティアのビルドを参考にすればいいんじゃないかってところまでは纏まってる。そこから攻撃的な部分を防御特化に変えてしまうといいんじゃないかってね」

 

「ああ、それでペロロンチーノさんもここにいたんですね」

 

「そういうことです。ただアテナさんが持ってる『守護神』をはじめ、みんな持っていなければ初めて見たという種族ばかりで、これがどのようなビルドにしてしまうのか想像がつかなくて一旦話し合いを終えた感じです」

 

「ふむ、なるほど…ちょっと失礼」『アテナさんは種族レベルを何かこれ以上取る予定はありますか?」

 

『いえ、特にはありません。とりあえずとってみたってだけでここからどうすればいいのか全くわからなくて。今日はそれもお聞きできればと思い声をかけたんです』

 

『ふーむ。ビルドに関してはたっちさんみたいにガチってしまうか俺みたいにロマン構成にしてしまうかでだいぶ分かれてしまうんですが。ガチビルドならたっちさんやウルベルトさん、タンク方面だとぶくぶく茶釜さんも参考になると思いますよ』

 

『なるほど。レベル分配とかは今取ってる種族は全部最大までしてしまって大丈夫ですかね?』

 

『ちょっとステータスウィンドウを見ても良いですか?』

 

『もちろんです』

 

ステータスウィンドウを開き、他人からも見えるように設定し拡大する。

それをみんなが何か議論をしてる…ように見える。喋ってるのかどうかがわからないって本当に不便だね。口の動きだけでもあれば動き方から何言ってるかわかるんだけど。

 

「『守護神』に『戦女神の血を引く者』と…』

「『熾天使』と『智天使』も取ってるのか。この辺って天使イベントガチャの最高レアでしたっけね。そりゃわからんわけだ」

「戦女神というとアテネ神の異名でしたっけ?」

「そうですね。他にも処女神だとか守護神って異名もありますが種族として分かれてるってことはタンク寄りのビルドになりつつある程度はバフ等や回復なんかも自己完結できるタイプのビルドになると思います」

「あちゃあ。種族レベルが謎なやつ中途半端にあがっちゃってる。多分初期の頃の名残だ」

「種族レベル下げたり消したりできるアイテムの在庫ありますっけ?」

「たしか宝物殿に適当に放り込んだ気がします。まあ無かったなら無かったで自分のが余ってるんでそれ使いますよ」

 

……たまに感じるこの疎外感がたまらなく悲しい。そんなことを今更どうこう言うつもりはないけど。

 

「とりあえず現状は予想の域を出ないので今日はアテナさんのレベリングして様子見しましょうか。そこから不必要だと思われる職業クラスをレベルダウンさせたりなどして、他に足りないと思われる職業を習得しに行くって方向で職業クラスを消すアイテムは自分から自腹で出しますね」

「「「「「意義なし」」」」」

「と、とりあえずアテナちゃんにそれ伝えようぜ…絶対に分かってないから…」

「あら生きてたのね愚弟」

 

そうしてモモンガさんから今日1日でレベリングを済ませてしまおうと言う提案がくる。特にやる予定もないので二つ返事で了承をする。たっちさん達もみんな来てくれるそうなのでデスペナの心配もないし他ギルドが襲ってこようものなら普通にたっちさんがしばき回すとのこと。

 

そっか、なら安心……まって、今日1日でレベリング済ませるの?

 

『あの、守護神とか戦女神の血を引く者って、他のと比べて必要経験値バグってるのかってくらい多いですけど、大丈夫ですか?』

 

『多分なんとかなりますよ。課金アイテムでブーストもかけれますし。アテナさんのレベルからみたらかなり格上のモンスターを狩りに行くので大丈夫ですよ』

 

とのことらしい。

私のレベルが今80で今から行くのが……えーと、高難易度ダンジョンの中での最高難易度と。へーこんなのあったんだ。敵の平均レベルが90〜95と。ほぇー。……え?本当に大丈夫?

 

「それじゃ準備ができたらここに集合で」

「「「「了解」」」」

『アテナさんも準備ができたらこちらへお願いしますね』

『あの、本当に大丈夫なんですか?私みなさんの足を引っ張るだけな気が。もう少しレベル低いところとかの方が…』

『大丈夫大丈夫。ここのみんな腐っても廃ゲーマーで狂った部類だから1人を守りながらレベリングを遂行するなんてお茶の子さいさいなのよ』

『そうなんですか?』

『そうなのよん。てことで…みんなの準備できるまで裸の付き合いでもしましょ!』

 

「ちょっと待てぶくぶく茶釜さん!」

「なによモモンガおにぃちゃん」

「そのロリボイスもやめい!あと2人で裸の付き合いってここの風呂に行って気分だけでも味わいに行くんでしょうが一旦待て!」

「えーなんでよ。異性とならいざ知らず同性なんだからいいでしょ。ねーやまちゃん」

「…‥ごめん、これに関してはモモンガさんに同意」

「なんでよ⁉︎」

 

その時その場に集まっていたギルメンは全員こう思ったという

 

((((スライムに襲われてる薄い本になる未来が見える…))))

 

 

(みんな、何を話してるんだろう?)

 

 

 

 

 

〜5時間後〜

 

(つっかれたぁぁぁぁ……)

 

久しぶりにこんなダンジョンに潜ってた気がする。ずーっと熾天使クラスと戦ってタンクをするためにずっと走り回って…本当に疲れた。

 

けど……すごく楽しかったな。

 

 

『どうですか?かなり見違えたでしょう?』

『はい!ものすごく!』

『ならよかったです!』

 

今はというとみんなリアルでお酒やらジュースやらを持ち出し円卓の間に集まって飲めや歌え状態になった。いわゆるリモート宴会だろうか。いるのはモモンガさんにペロロンチーノさん、タブラさん、ぶくぶく茶釜さん、やまいこさん。たっちさんはレベリングが終わるとすぐにログアウトしてた。なにやら奥さんとの約束で一緒に過ごすんだとか。

 

『あ…そういえば』

 

ログアウトする前にもらった物のことを思い出して、それがどんなものかわからずみんなに聞こうと思いチャットを打つ。それと一緒に仮面をつけてみると急にみんなの動きが止まる。

 

何で止まったのかはわからないけどとりあえず質問をする事にし、キーボードをカタカタとならす。

 

『たっちさんからですね、ログアウト前にプレゼントですって渡されたんですけど、何かの記念日か何かなんですかね?今日って私にとっては特に誕生日とか記念日じゃないはずなんですけど』

 

「うわぁ…」

「マジかよあの世界3位…」

「流石に引くわぁ…」

「そんなに負け組の烙印押されたくないのか…」

「酷すぎないかな…?」

 

だけどいくら待っても誰もコメントしてくれない。あれ、みんな寝落ちしたのかな。

 

 

 

 

 

余談だけど貰ったのはクリスマスに1時間以上ログインしてると強制的に配布される何の効果もない赤仮面、通称『嫉妬マスク』だそうです。

 

ユグドラシル内でこれを持っているのはクリスマスをゲームで明かした可哀想な人という烙印を押されるのだとか。

 

 

……なんちゅうもんを渡してくるんですかあの人

 

いやモモンガさんと会えてるから別に文句はないですけど。

 

何でこんな悲しいものを2つも持たなきゃいけないんですか。




オチ?あるわけねぇだろ!(考え付かなかった


次回は普通に続きを投稿します

感想ら評価をしてくださった方、ありがとうございます。とても励みになります


それでは読んでくださりありがとうございます
感想や評価などくださるととても嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話 〜仲間への褒美はどうしよう〜

今回は筆がなんか、乗りましたはい。
びっくり

描き始めてから1日経ってない


…えっ、今後もちゃんと書けって?


全くもってその通りでございます(土下座


今回は多少真面目回ですがほのぼのを目指して描きました

それではどうぞ


「み、みなさま…わ、わた、わたしの失態により…このような…」

 

第六階層には未だ自ら動こうと言うシモベがいなかった。

いや、動けなかったの方が正しいだろうか。

 

そんな中、自責の念で押しつぶされそうになっていたナーベラルが泣きそうになりながらなんとか言葉を発しようとしていた。だが一言間違えれば階層守護者、ひいては全シモベにより殺される。そんな思いからか言葉が詰まり出てこないでいた。

 

 

そんなメイドを安心させるかのように1人の叡智を極めし悪魔が優しく語りかける。

 

 

「大丈夫だよナーベラル。今回のことは誰も責めていない。寧ろこれからのことを考えるとナーベラルは褒められるべきだ」

 

「え…は?」

 

首を刎ねられる、そう思っていたナーベラルは言われた事に思わず疑問系で返してしまう。

 

「そうだろうアルベド?」

「ええそうね。罰どころか褒美を与えたいくらいだわ」

 

「え、ええと…それはどういう…」

 

「それを教える前にまずは呼吸を整えたまえ。他の皆もだ。一度落ち着く必要があるだろう。いや…シグルド達は必要ないかな?」

 

皮肉を込めて言われるも竜殺しの英雄は涼しげな笑みで流す。だがその横で背中をさすられているスルーズがいたのは見なかったことにしよう。

 

そうしてしばらく経ち、ようやく全員が通常運転へ戻れたのを見計らいデミウルゴスとアルベドが代表し前へ出る。

 

「さて皆が疑問に思っているであろうことを説明させてもらう。

まずはナーベラル」

 

「は、はいっ!」

 

「先ほども言ったように私たちはナーベラルへ罰を与える気はないよ。寧ろ感謝さえしている」

「そうね。今回の一件がなければもっと酷いこと…例えばアインズ様やアテナ様がこの地から去っていた可能性すらあるわ。他の至高の御方々のようにね」

 

アルベドの言葉により静まっていたシモベがザワザワと騒ぐ。それをデミウルゴスは一喝し再度沈める。

 

「ありがとうデミウルゴス。それで今回のことだけれど、不幸であり幸運でもあるわ」

 

「ソレハドウ言ウコトダ?」

 

「簡単よ。私たちナザリックのシモベにとって失態には命を以て償えなくなったのは不幸であり、一方でアテナ様の御考えを、引いてはアインズ様の御考えを知れたのは幸運なのよ」

「恐らくはアインズ様は私たちが何か失敗をする度にこのような事を言うのを危惧していたのだろうね。ナーベラルを今回の冒険者家業に連れて行ったのもそれを狙ってのことだろう。ナーベラルが失態を犯すのも予定の一つなのかも知れない」

 

叡智を極めし2人の語る内容を、敢えて語らなかった部分のさらに先まで理解できたのは恐らくいないだろう。

 

だが、それを理解されてるか否かはさほど重要ではないーいや、重要ではあるのだがそれ以上に皆へ周知させておく事実の方が重要なのだろう。

 

「聞きなさいナザリックの全シモベよ。アテナ様も仰っていたようにこれからは責任の取り方として自害は何があろうと禁止よ。命を捨てる時は至高の御身に命じられた時のみとその身に刻みなさい」

 

「「「「「ハッ!」」」」」

 

 

 

 

 

「それで、何か言いたいことはありますか?」

「ない…です」

 

一方で至高の御方と呼ばれている2人はと言うと片方が仁王立ち、片方が正座をしていた。

 

「……」

「……」

 

方や負のオーラ、方や泣きそうになりながら謝罪のオーラを最大限に発し無言の時が流れる。

 

「……ふふっ」

 

「?」

 

「いえ、失礼。もう怒ってないので大丈夫ですよ」

 

「え…?」

 

「今回のことは俺のことを思ってくれてのことでしょう?」

 

「あ、はい。たぶん…」

 

「?」

 

「あいんずさ、のこともですけど、命大切、なのに、それを軽く扱ってた、許せなくて」

 

「……」

 

「それで、やめようねとか言おうと思ってただけなのに、気づいたらあんなことを言ってた、です」

 

「なるほど。分かりました。それでは今回のことについてですが…」

 

アインズがすこしため息を吐きながら言うとアテナの体がビクッとなる。それに苦笑しながらアインズは言葉を続ける。

 

「お咎め無しです」

 

「はい、どんなことでも…って、え?」

 

「今回、は、お咎め無しです。今後気を付けてくださいね?」

 

「え、あ、はい…」

 

「それではナーベラルが帰ってくるまでに今後の…」

 

「って、いやいや!なんで、ですか!」

 

「なんで、と言われましても。私がアテナさんの行動を承認したんです。別に咎めるようなことはないですよ?」

 

「……」

 

「それに今回のみんなへの通達は俺としても嬉しいものでしたから。何度も何度も、何も失敗してなくても俺がすこし黙ってるだけで不快にしたんじゃないか自害して責任をーって言ってたのでどうにか変えようとは思ってたんです」

 

「ああ…なるほど」

 

「ですので本当にお咎めは無いんですよ。言ってることは至極当然の内容でしたからね。ま、やってる風景だけ見るとパワハラ会議でしたが」

 

「ゔっ…」

 

「ま、と言うことで今後は気をつけてくださいね。それよりもオルトリンデが非常に重要な情報を持って帰ってきたのでそれについて作戦会議をしましょう」

 

「は、はいっ!」

 

 

 

 

 

アテナさんの不可解な行動、転移前には絶対にやらなかったような事をやる、喋り方がいまだ辿々しいのに不可解な行動をしようとするときにだけスラスラと喋れる。

 

そして以前にも似たようなことがあった。

 

……もしかして、アテナさんの作ったプロフィールにアテナさん自身が引っ張られてるんじゃないか?

 

アテナさんのプロフ…確か守護神であると言う前提から色々と書いてたはず…。どんな内容だ、思い出せ、思い出せ…。

 

 

 

(とりあえずナザリックの守護神だと言うことは書いて…あとはどんなの書く?)

(ナザリックのみんなを愛してる、とかですかね?もちろん皆さんも含めて)

(くぅー惚れたぜ付き合おう!)

(冗談やめてくださいよー)

 

違う…

 

(モモンガさんラブだって書けばいいのに)

(おい待てバードマン。片っ端から死霊系魔法かけるぞ)

(え、ええと…恥ずかしいので流石にそれは…)

 

これも違う

 

 

(敵に対しては基本的に無慈悲、ナザリックの利益になるかどうかで判断し利益だと認めた場合は最大限の慈悲を与える。また味方を蔑ろにする相手に対しては全身全霊で叩き潰す。あとは…何がいいですかね)

(神話だと諸説あるが横暴な味方に対しても同じような態度だったらしいよ。特に仲間を貶めるような味方に対してもすぐに処刑をしたと)

(じゃあそれも書いちゃいますか)

(うわぁ物騒なプロフになりましたね)

(ま、でもこれはこれでいいんじゃないですか?普段はおっとりした性格だーとかでも書いておけば大丈夫でしょう。ま、そもそもプロフを書いたからと言って何があるわけでもないんですけどね)

 

これだ。

確か仲間に対しても敵に対してもある一定ラインを超えると怒るってのも書いてたはず。

 

「……」

「どう、したですか?」

「あ、いえ。何でもありません」

 

多分、いや確定だ。

アテナさんは自身の書いたプロフ、つまりはフレーバーテキストが具現化してきている。

 

失態だ。大失態だ。

 

他のNPC達やアイテムすらフレーバーテキストに忠実な時点で考えるべきだった。

 

…これからはナザリックに出来る限り居てもらうようにすべきだな。冒険者は何とかしてやめてもらうしかない。

 

「あいんずさん?どうしました?本当に、大丈夫です、か?」

 

「っ、いえ、大丈夫ですよ。それでオルトリンデがもうすぐ帰ってくるはずですので…」

「…あ、きた、ですね」

 

宿として村に提供された一軒家の中へオルトリンデが現れる。俺たちへ直角の礼をした後に重要な情報とやらを話し始める。

 

「まず事の発端が私の分身体である御使いが何者かにより殺された事です」

 

「ほう?御使いのレベルは確か30だったか?」

 

「はい。シャルティア様のように完全な状態での分身体ではありませんので同等の能力値ではなく劣化版、持っている能力は隠密などに特化したものばかりになりますがそれでも現地の人間達に遅れをとることは殆どない、というのが当初の調査による見解でした」

 

「だがそれが崩れた、と」

 

「その通りでございます。御使いの反応が途絶えた場所を追ったところ、本来配置していた場所ではなく離れた場所、エ・ランテル郊外の墓地でした。相手が未知数であること、私よりも強い可能性も捨てきれなかった為、ここからお伝えすることはデミウルゴス様の知恵をお借りし行なったことになります」

 

「構わん。話せ」

 

「ハッ。まず御使いが最後にいた場所を中心に捜索をしたところ地下空間があることを確認しました。そこで御使いに完全不可知化を使用し中へ侵入させ調査をさせたところ2人の人間がおりました。

1人は金髪の女で名をクレマンティーヌ、もう1人はローブを着て杖を所持していた男で名をカジットと言っておりました。

完全不可知化を見破られなかったこと、特に警戒していた様子がないことから見破る術を持っていない、もしくは気づいた上で私を警戒する価値ないと判断していたかは謎ですが機密情報と思われる内容を話していたので前者の方が可能性は高いと思います」

 

お、おおう。思った以上に重要な情報そうだ。有能すぎないか?

俺が黙っていたことに少し不安だったのか心配そうな目でこちらを見るので続きを促すとパァッと一瞬だけ笑顔になりすぐ真顔になった。

 

「まずカジットの事についてです。こちらはアンデットの秘密結社ズーラーノーンへ所属、そして恐らくは幹部の名称と思われるのですが十二高弟とやらの1人ということも判明しました。また、『死の宝珠』と呼んでいた紫色の玉を所持し、これが自身のネクロマンサーとしての能力を高めていると思われます」

 

「ネクロマンサーか。オルトリンデよ、本来の私とカジットとやら、どちらの実力が上だと思う?」

 

「無論、アインズ様です」

 

「そ、そうか。それで女の方は?」

 

「クレマンティーヌと呼ばれていた女はビキニアーマーに似た装備とスティレットを複数所持していたことから軽戦士であると思われます。所属していた組織をスレイン法国の特殊部隊『漆黒聖典』、その中の第九次席と言っていました」

 

……いや、超重要にも程がある情報を持って帰ってきたんだけど。何この子。ボーナスいくらあげたらいいですか?

 

「そしてクレマンティーヌは自分自身のことを『英雄の領域に到達した人間』と呼称しており、自分といい勝負ができる人物として王国戦士長、青の薔薇のイビルアイなどを挙げておりました」

 

「なるほど」

 

つまり女の方は今の俺でも対処できるということか。カジットとやらはネクロマンサーとしての実力がわからないが…いざとなれば本気を出せばいいだけだ。

 

「よくやったオルトリンデ。引き続き監視を続けよ。特に墓地の方へ分身体を割き、その2人が出てきた場合は追跡および監視も行え。私達と接触する可能性が高いと思ったらすぐに連絡をしろ」

 

「ハッ、畏まりました」

 

「うむ。それでだな、今回の働きは実に素晴らしいものだ。何か褒美を与えたいのだが何か希望はあるか?」

 

そう言うとオルトリンデは今までのクールな面はどこへ行ったのかと言いたいくらいに困ったような顔でオドオドし始めた。

 

「あ、あのっ、そのっ、私のようなものに褒美など…」

「ほしく、ないの?」

「欲しいです!」

「だそうですよ、あいんずさん」

「うぅ…マスター意地悪です…」

 

オルトリンデとアテナさんの雰囲気は正に母と子。いやぁ目の保養だ……じゃなくて。

 

「ふむ。ならば…こうしよう。1日だけ私、アテナさんと自由に過ごす権利をやろう」

 

その瞬間にオルトリンデがピキッと固まるがそれに構わず続けて言う。

 

「無論、私たちの世話をしても良いし特に仕事をする必要もないしそれを咎める事もしない。ただ好きなように私たちの元で過ごす。これでは不釣り合いかな?」

 

「い、いえっ!と、と、とんでもないです!至高の御身と一緒に過ごせるだけで私にとっては極上の褒美ですので!」

 

「あ、あーうん。そう言うわけ…ではないんだがな。ほら、その時間を使えばアテナさんに膝枕とかしてもらえるんじゃないか?」

 

「ふぇっ?」

「えっ」

 

するとオルトリンデの顔が途端に真っ赤になり、あと何故かアテナさんも固まった。

 

…そんな変なこと言ったかな?

 

「んんっ、それに私に対してもできる範囲でお願いをしてもいいのだぞ?」

 

「……」

 

「そうだな、例えば…」

「あいんずさん、あいんずさん」

「はい?どうしました?」

 

「オルトリンデ、気絶、してます」

「えっ?」

 

アテナさんがオルトリンデの頬をチョンとつつくと直立不動のままオルトリンデがドサっと横に倒れる。悪いと思いながらフードを取り顔をよくみてみると真っ赤になりながら目がぐるぐるしていた。

 

「よほど嬉しかた、みたいですよ?」

「そう…だといいんですけどね」

 

ただ褒美をあげると言っただけでこれなのか…。

これから先、成果を上げたNPC達には同じように褒賞を与えるって提案をする予定だったんけど、もしかしてみんなこうならないよな?






プロット制作者からの要望
もっとアテナとワルキューレ達のほのぼのを寄越せ!(書いてください)


でした

ほのぼのは番外編とかでガッツリ描くから…ッ
もう少しだけ待ってちょ
1期分が終わったらほのぼの描きまくる予定なんです多分


それでは読んでくださりありがとうございます
感想や評価をくださるととても嬉しいです


P.S 気づいたら500人の方にお気に入り登録、更には28名の方に評価をしてくださりまさかの色付きになりました
本当にありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話 〜森の賢王〜

アテナとNPCの日常 ???編

〜???  冒険者になるより前の時間軸〜

「……」

今日も今日とてモモンガさん達の目を盗んでとある場所へ足を運ぶ。

「〜〜〜〜」

とある言葉を唱え、指輪を外しあらかじめ召喚しておいた天使に預け更に中へ進む。

「……!えーと、ハロ イチ ビン ウイダー ダ…‥であってるかな?」

「やはり発音がまだまだですなアテナ様。この場合だと…Hallo, ich bin wieder da、となります」

「うぅ…にほんご、よりむずかしい」

「なんのなんの。まだ練習を始めて数日ではありませんか。さて、今日もですかな?」

「うんっ、お願いします」

「Wenn es meines Gottes Wille!お任せくださいませ!」

この事実にモモンガもといアインズが気づくのはもう少し後……


「そ、それではアインズ様、マスター。重要事項をまとめ書き留めたものがこちらになります」

「うむ。ありがとう」

 

オルトリンデから渡された複数枚の紙には先ほど言っていた情報に加え、他の情報も書き加えたものだった。いやはや、デミウルゴスが助言したにしても優秀すぎないか…。

 

「それでは引き続き監視の任へ戻ります。何かありましたらご連絡ください」

「ばいばい、またあとで、ね。それとオルトリンデも、気をつけてね」

「これからの働きも期待しているぞ」

「ありがたきお言葉です」

 

オルトリンデは完全不可知化のスキルを使い転移魔法で任務へ戻っていく。それと同時にナーベラルが俺たちの前へ転移で現れた。

 

「お待たせして大変申し訳ありません!ナーベラル、ナザリックより戻りました!」

「気にするな。こちらも丁度用事が終わったところだ。それでナーベよ、体調などは大丈夫か?」

「はい、問題ありません!」

「ならば良い。次からはアテナさんを怒らせないようにな」

「ハッ!アテナ様も此度は私の失言により不快な思いにさせてしまい大変申し訳ありません!」

「いや、いいから、きにして、ないから」

 

アテナさんはオドオドしながらナーベラルと俺を交互に見てくる。…本当に、これが普段のアテナさんなのだろう。だけど…

 

「(いや、今気にしてもしょうがない。あとで二人きりで話せばいいだけだ。それよりも)ンフィーレアたちの言っていた森の薬草の採集までもう少しです。準備して待っていましょう」

「わかりました」

「ハッ!」

 

 

 

 

「それではみなさん、ここから森に入って薬草採集をしていきますので警護をよろしく願いします」

「ま、モモンさん達がいれば大丈夫だと思いますが!」

 

干し肉とスープという簡素な朝食を摂りンフィーレアたちと共に森の入り口に向かう。モモンさんの名前を広めるためにも一先ずはちゃんと依頼を成功させなきゃね。

 

「あの…モモンさん、一つだけお願いがあるのですが」

「はい、なんでしょうか?」

「もし森の賢王と出会った場合、殺さずに追い払って欲しいんです」

「というと?」

 

と、側から見れば無茶な要求だったが、ンフィーレアによるとカルネ村が襲われなかったのは森の賢王がカルネ村付近をテリトリーとしていたことからモンスターが好き勝手できず、そのお陰でカルネ村に被害が出ていないとのこと。

 

「おいおい、いくらなんでもそれは無茶ってもんだぜ」

「そうですよ。いくらモモンさんと言えど」

 

「わかりました。ミアさんも宜しいですか?」

「はい、もちろん、です」

 

「えっ⁉︎」

「相手は何百年も生きてる伝説の魔獣だぞ⁉︎」

「強者にこそ許される選択であるな」

 

そんな要求にモモンさんは二つ返事で了承し、私もそれに了承する。でもどんなモンスターなんだろう。凄い名前だし、カッコいいか貫禄のあるモンスターだったりするのかな。

 

「ただ、森に入る前に一つだけ宜しいですか?」

 

「はい」

 

「ナーベがアラームに似た魔法を使えるので一度私たちが先行して入り危険がないか調べてこようと思うのですが、宜しいでしょうか?」

 

「勿論です。ただ、気をつけてくださいね」

 

「分かっております。それではミアさん、ナーベ、行きましょう」

「わかりました」

「ハッ!」

 

 

 

 

ミアさん達と共に森の少し奥へ入り一度振り返る。ンフィーレア達の姿が完全に見えなくなったのを確認し声を出す。

 

「さあ、私達の名声を高めるための作戦会議をしよう」

「はーい!」

「ッ!」

 

事前に知らせておいたシモベへ声をかけると元気な声が響く。ナーベは警戒し魔法を発動させようとしていたが声の主を見てすぐに引っ込めていた。

 

「というわけで私が来ましたー!」

「アウラ様⁉︎驚かさないでください!」

「あはは、ごめんねー」

「一体、いつから…」

「ん?アインズ様達が森に入られた時からだよ?」

「全く気づきませんでした…」

 

「それでアウラよ。この森にいると言う森の賢王なる魔物を私たちに対してけしかけてくれ。できるか?」

 

「はい!問題ありません。多分アイツだと思うので」

 

「よろしい。では行動を開始せよ」

 

「了解しました!」

 

そうして俺の命令によりアウラは森の奥深くまで向かっていく。流石はレンジャークラスというべきが迷うことなく奥へ進んでいきすぐに見えなくなった。

 

「それでは戻りましょう」

「え、あ、もう終わった、ですか?」

「はい。これからですがアウラにより森の賢王を私達へ向かわせて貰います。そして森の賢王を倒す、もしくは追い払うことで更に名声を高めようと思います」

「わかりました」

 

さて、アウラがさほど警戒していないのと強いモンスターがいるという報告も受けていないから大丈夫だろう。それでも警戒しておくに越したことはないだろう。

 

「(さて…鬼が出るか蛇が出るか)」

 

 

 

 

「…!マズいな、何かデカいのがこっちに向かって来てる!」

「森の賢王…でしょうか?」

「分からないが、とにかく離れたほうがいい」

 

「皆さんはンフィーレアさんを連れて森の入り口へお逃げください。ここからは私たちが」

 

「分かりました!ですがモモンさんもお気をつけてください!」

 

「はい、もちろんです」

 

ンフィーレア達と共に森に入りしばらく経つと俺でも分かるくらいの地響きを感じ取れた。おそらくはアウラが上手くやったのだろうと思いンフィーレア達には森の入り口まで戻ってもらう。だが…そもそもの話として目撃者がいないと森の賢王かどうかわからないということに思い至る。

 

「はぁ…仕方ない。腕の一本くらいは切り落とすか」

 

地響きが段々と大きくなりグレートソードを構える。ミアさんも俺の前に立つようにし槍と円盾を構える。

 

 

「っ!」

 

 

地響きが鳴り止んだと思うと俺の後ろから何かが飛来してくる。ソレにいち早く気づいたミアさんが盾で弾き返す。

 

「っ…モモンさん、だいじょうぶ、ですか」

「はい、ありがとうございます」

 

ミアさんに感謝をしながら攻撃して来た相手がどこにいるのか警戒しつつ辺りを見渡す。だが姿は一向に見えない。

 

「ミアさん、先の一撃はどうでした?」

「ん、様子見だと、思いますけど意外と弱い、です」

「なるほど。さてはて、ここから…」

 

(それがし)の初撃を完全に防ぐとは見事でござる』

 

「「ござる……?」」

 

だがそんな警戒も聞こえて来た語尾により消えかけてしまった。

なんだ『ござる』って。ユグドラシルでもそんな恥ずかしい語尾にする奴いなかったぞ。

 

『さて、某の縄張りへの侵入者よ。今逃走するのであれば先の見事な防御に免じ某は追わないでおくが、どうするでござるか?』

 

「愚問!それよりも姿を見せないのは自信がないのか?それとも恥ずかしがり屋さんかな?」

 

『いうではござらぬか。では某の威容に瞠目し、畏怖するが良い!』

 

そして声の主はゆっくりと姿を表し始めた。

木々をゆっくりと倒しながら俺たちの前へ出て…出て……

 

「なん…という…」

「……!」

 

その姿を見た俺たちは、思わず息を呑んでしまっていた。ミアさんに至っては思い切り目を見開いていた。

 

『ふふふ…そのヘルムの下から驚愕と恐れが伝わってくるでござるよ』

 

「そ、それよりも、一つ聞きたい」

 

未だ威厳に満ちた言葉遣いで喋ってくるが、それよりも先にどうしても確認したいことができてしまい質問を投げかける。

 

「もしかしてお前の種族名は……

 

ジャンガリアンハムスターとか言わないか?」

 

「なんと!もしやソナタ、某の種族を知っているでござるか?」

 

「う、うむ。知っているというか…嘗ての仲間がお前によく似た動物を飼っていてな」

「おお…!」

 

嘗ての仲間の情報を思わず喋ってしまったが、それにナーベは感嘆しており森の賢王とやらも俺の情報に食いついたようでめちゃくちゃ軽いテンションで俺へ話しかけ始めた。

 

「なんと!もし同族がいるのであれば教えて欲しいでござる!子孫を作らねば生物として失格でござるが故に」

 

「そ、それはサイズ的に無理だ…」

 

「あぁ…そうでござるか、残念でござる」

 

「す、すまんな…」

 

「いいでござる…。それよりも!そろそろ無駄な話はよして、命の奪い合いをするでござる!」

 

と、再度話の続きをしようとしていたが俺はというともうやる気がなくなっていた。だってこれはもう完全に…

 

「はぁ…はずれだ。完っ全にハズレだ。森の賢王なんて名前だから…期待してたのに…」

「某の支配する領域に侵入せしモノよ!某の糧となるでござる!」

「ミアさん、もうこれは…」

「何をしているでござるか!そちらの方はともかく、お主ともあろう戦士が未だ勝敗わからぬ内に降伏とはあり得んでござろう?」

「ん?何言って…」

 

と、思わず横にいるミアさんを見てしまう。そこには確かに口を開けたまま固まってしまってるミアさんがいたが、その表情はもっと、何というか別のものを含んでいたような気がした。

 

「あの、ミアさん?」

「そちらの方は某との力の差を理解しているのではござらんか?であれば、今すぐ逃げるのを…」

 

「か……」

 

「「?」」

 

と、不意にミアさんが何かを喋ろうとし俺も森の賢王も思わず聞き返してしまう。だけどそれに返って来たのはもっと別の言葉だった。

 

 

「かっわいい!!!」

 

 

「「え?」」

 

「あ、あのっ、ももんさん!この子、私、ほしいです!」

「え、えーと」

「ね、ね、だめですか!ちゃんとお世話しますから!」

「とは言いましても、コイツが私たちに従うとは…」

「じゃあ森の賢王さん!何したらいいですか!何をしたら私のペットになってくれますか!」

「…森の賢王、もし仮に私たちの軍門へ下れと言ったらどうする?」

 

めちゃくちゃハイテンションなミアさんはどうやら森の賢王が気に入ったようで、ペットにしたいと言ってくる。初めて見るテンションの高さに思わずたじろいでしまったが何とか姿勢を戻し森の賢王へ問いかける。森の賢王も予想外のことだったのか驚いていたが。

 

「ペットとは…某をでござるか?」

「うん!」

「とのことだ。お前はどうする?私たちの元へ下るというのなら私たちも無益な戦いはするつもりないのだが」

「とは言っても…流石に負けてもいないのに忠誠を誓うわけにはいかぬでござるよ」

 

「てことは、私が勝てばペットになってくれるんですか!」

 

「そ、その通りでござる」

 

「モモンさん!私、やっていいですか!」

 

「は、はい。どうぞ」

 

「ありがとうございます!」

 

ミアさんの勢いに押され思わず了承してしまった。森の賢王も困惑しながらも戦うことには納得しているのかミアさんと向かい合う。俺とナーベは邪魔にならないよう少し後ろに下がる。

 

「モモンさ…ん。宜しいのでしょうか?」

「大丈夫だろう。何より…あのミアさんを止める勇気があるか?」

「い、いえ…」

 

「それじゃあ、いくよ?」

 

「うむ、何処からでもかかって…」

 

特殊技能(スキル)・戦乙女の覇気!」

 

勝負はまさに一瞬だった。ミアさんが手のひらを森の拳王に向けスキルを発動させる。森の賢王は身震いしたと思うとその場に仰向けに倒れた。

 

「こ、降参でござる。某の負けでござるよ…」

「…!なら、私のペットになってくれる?」

「承知したでござる。某、姫のペットになるでござるよ」

「やったー!」

 

そう両手をあげて喜んでいるミアさんはまさに年相応、とでも言えばいいのか。これが親の気持ちかーなんて思いながらついほっこりしてしまう。

 

「ありがとうございますモモンさん!」

「い、いえ。問題ありません。それよりも森の拳王よ。ミアさんのペットと言うことだが私たちへも忠誠を誓うと言うことか?」

 

「姫がそうおっしゃるのなら某は構わないでござるが…もしやこちらの御仁は姫よりもお強いのでござるか?」

「うん、モモンさんはわたしより、つよいですよ」

「そうなのでござるか…であらば、殿へも忠誠を誓うでござるよ!」

 

「あー、うん。もうそれでいいか。ではミアさん。ンフィーレア達の元へ戻るとしましょう」

「はい!あ、ねえねえ、背中乗ってみてもいいかな?」

「もちろんでござるよ姫」

 

…アテナさんも森の賢王も適応早すぎないか?俺がおかしいのか?いやというより、今からこれを連れて行かなきゃいけないのか?

 

……どんな羞恥プレイだ。




さて森の賢王は無事アテナのペットへ。ウッキウキしながら戦女神の覇気を使ったのは単に浮かれすぎて弱いスキルを使おうというのを忘れていただけのドジっ子だったりする

戦女神の覇気…レベル差が20以上ある相手へ恐怖などを始めとした精神的バッドステータスを付与する。なお森の賢王に対してはもちろんオーバーパワーもいいところである


次回ももう少し早く書き上げれそうなので意外と投稿は早いかも?


それでは読んでくださりありがとうございます
感想や評価などくださるととても嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話〜森の賢王は可愛い …え、可愛いよね?〜

アテナとNPCの日常 アルベド編

「あるべど…」

「アテナ様…」

ナザリックのとある個室でアルベドアテナが向かい合う。
本来ならば支配者と従者という関係の2人だがその目は真剣そのもの。

そして互いの手に持っているのは複数の紙。

「「…………」」

そして互いに示し合わせたかのように手に持っていた紙のうち一枚を裏向きにして机の上に置く。


そして交換をする。


互いに差し出された紙を、まるでガラス細工を扱うかの如く丁重に慎重に手に取り、表面を見る。

「「ごふっ⁉︎」」

そして互いに吐血(したかのように見える)

だがその顔からは極上の幸せを感じさせた。

「「……」」

そして互いに親指をグッと立てる。

「それじゃあ、つぎは」

「はい、7日後、同じ時間で」

「うん、わかった。……あ、そうだ、あるべど」

「はい?どうされましたか?」

「ちょっと、ぼうえいさくを、私なりにつくった、なので、評価をおねがい、できるかな?」

「勿論でございます。何時でもお持ちください」

「ありがと」

そして業務連絡をし、時間をずらして部屋から退出し自分の仕事場へ向かう。



そう、これはアテナとアルベドのみ知る密会。





「さいこう…あるべど、引き込んでよかった…」
「ああ…お美しい…アテナ様も流石としか言えないわ。次は負けないように…」


そう、アインズの写真交換会である。
仕事?サボってるに決まってるだろう


「むふー…」

「乗り心地はどうでござるか?」

「さいこう…」

「それならよかったでござる!」

 

「……」

「ももんさんも、のりませんか?」

「い、いえ、遠慮しておきます」

「そう…ですか。あ、じゃあナーベ、乗らない?」

「わ、私如きがミア様の…」

「むー…」

 

森の賢王の背中は控えめに言って最高だった。もっふもふしていて家にあったソファと比べても遜色ない。

えーと、例えるならあれ

 

 

人をダメにするソファ

あれに似ていた。

 

……そういえば久しくお風呂に入ってないなぁ。一度ナザリックに戻ってお風呂に入ろうかな

 

 

「あっ!モモンさんご無事でしたか!」

「はい、ご心配をおかけしました皆さん」

 

森から出るとンフィーレアと漆黒の剣に出迎えられる。そして私を-正確には私が乗っていた森の賢王を-見てみんな固まる。

 

「あのモモンさん、ミアさん、この魔獣は」

 

「森の賢王です。皆様が撤退した後に遭遇しましたのでミアさんがねじ伏せました。決して暴れたり皆さんを傷つけたりはしませんのでご安心ください」

 

「ミアさんが⁉︎」

「なんと…」

「マジかよ⁉︎」

「すごい…」

「さすがですね…」

 

そんなすごいことしてない…はず。多分きっと。

 

「殿の仰る通りでござる。この森の賢王、殿と姫に仕え、共に道を歩む所存。皆々様にはご迷惑をおかけしたりはせぬでござるよ」

 

「こんな()()()()()をねじ伏せるとは…やはりモモンさんたちはすごいですね!」

 

「「え?」」

 

だけどそんな疑問は漆黒の剣のニニャの発した言葉で何処かに消し飛んだ。

 

強大?え?魔獣?この子が?

 

「強大な力と叡智を感じるのである!」

 

(強大な力⁉︎叡智⁉︎)

(え…どういうこと?可愛いハムスターじゃ…?)

 

「これだけの偉業を成し遂げるたぁ、ナーベちゃんやミアちゃんを連れ回すだけのことはあるわ!」

「私達だけでは皆殺しにされていましたね。さすが、お見事です!」

 

「い、いえ…今回はミアさんの功績ですので、私ではなく…」

 

あの⁉︎なんで私に振るんですか⁉︎

 

「……ナーベはどう思う?」

 

「強さは別として力を感じさせる瞳をしていると思います」

 

「(バカな…)」

「(嘘でしょ…?)」

 

漆黒の剣だけでなくナーベすらそんな反応をする。

どうしてもそれが信じられず、私から質問を投げかけてみる。

 

「えーと…みなさん、このこ…可愛いと思う、ですけど…そう思わない、ですか?」

 

「可愛い⁉︎そんなとんでもない!今もこの強大な圧で倒れてしまいそうです!」

 

 

 

嘘でしょ?

 

 

 

「モモンさん」

 

まさかのカルチャーショック的な出来事に沈んでいるとンフィーレアが声を上げる。

 

「その魔獣を連れ出した場合、縄張りがなくなってしまいモンスターがカルネ村に襲いかかったりしませんか?」

 

「どうなんだ?」

「その可能性はあるでござるな。けれど、ここ最近は森の中の情勢も不安定故。某がいても何れは森の外へモンスターが出ていた可能性は高いでござるよ?」

 

「そんな……。ッ…でしたら、モモンさん!」

 

その事実に、恐らくはカルネ村と自分の好きな人へ被害が出るかもしれないと不安を抱えていたンフィーレアは何かを決意し顔を上げた。

 

「僕をあなた達のチームに入れてくれませんか!」

 

「「は?」」

 

唐突な提案に思わず声を出してしまったが続けてンフィーレアは言う。

 

「僕は、エンリとカルネ村を守りたい!僕に、モモンさん達の強さを、カケラでも教えて欲しいんです!薬学に関しては少しは自信がありますし、荷物持ちでも、なんでもやります!だから…お願いします!」

 

ンフィーレアはそう言って深々と頭を下げる。

 

「それはつまり、マジック・キャスターとして強くなりたい、と言うことでしょうか?」

 

「…はい!」

 

モモンさんの問いにンフィーレアは力強く頷く。その目からは確かな覚悟が読み取れた。

 

……すごいなぁ。私には出来ないようなことだ。

 

「ふふ…ははは…。いや、すまない。君の決意を笑った訳ではないんだ。許してくれ。気持ちは充分に理解した、覚えておこう。だが君を私のチームに加えることはできない」

 

「そう…ですか」

 

「しかし、この村を守ると言うことに関しては、少しばかり力を貸すとしましょう。もしかしたら君の協力も必要になるかもしれない」

 

「…っ!はい!喜んで協力させてもらいます!」

 

「ミアさんも宜しいでしょうか?」

「はい。もちろんですよ。私もできる限り力添えしますね」

 

「…ッ!ありがとうございます!」

 

この時のンフィーレアの行為は、私は見習わないとと密かに思った。……私ももっと、行動力を高めるべきかな。

 

そうすればきっと…

 

 

 

モモンさんを口説き落とせるのでは?

 

 

 

 

 

 

〜日が暮れた頃 エ・ランテル〜

 

「それでは皆さん、私たちは森の賢王の登録へいきますのでここで」

 

「はい!モモンさん達のおかげで大収穫でした!報酬に色をつけてお待ちしてますね!」

 

 

そうして森の賢王の登録のため冒険者組合へ向かう。……にしてもハムスターに乗るのって、今更ながらすっごい恥ずかしい。モモンさんしれっと乗るの拒否するし《今は存分にお楽しみください》って言ってたけど、モモンさんも恥ずかしいだけでは?

 

…いや、まさか、そんなことないよねうん。

そうであってください…。

 

そんなこんなで恥ずかしい思いをしながら森の賢王に揺られていると誰かからメッセージが入る。モモンさんも同じなようで互いに顔を見合わせる。

 

「…オルトリンデか、どうした」

 

『アインズ様、アテナ様、聞こえるでしょうか?』

 

「問題ない」

「ん…わたしも、だいじょうぶ」

 

『それでは、先日報告した2人、クレマンティーヌ及びカジットについてです。どうやら2人はンフィーレア・バレアレと言う人物を誘拐する為行動を起こしています』

 

「ふむ」

「…理由は?」

 

『申し訳ありません。詳しくはわからないのですが【死の螺旋】という儀式、アンデットの大量発生を故意的に起こす為、としかわかっておりません』

 

「構わない。それでその二人組は?」

 

『現在、エ・ランテルに侵入しバレアレ店の近くに潜伏しています。御使いを複数体動員すれば捕えることは容易かと。いかがいたしましょう?』

 

「そうだな…ではオルトリンデよ。その2人は基本自由にさせておけ。だがンフィーレアが店へ戻り次第、店での出来事を逐一私へ報告しろ。恐らくはンフィーレアが店へ帰った時を狙うだろうからな。また、周囲からの介入ができないよう魔法などを使った上で御使いを1人介入させ交戦をさせろ。ンフィーレアは攫われても良いが漆黒の剣は死なせるな」

 

『畏まりました』

 

「アテナさんからは何かありますか?」

「んー…そう、ですね。どうせやるなら御使いにはいい勝負をさせて、敢えて負けさせては?そうすれば今回の相手がどれほどのものなのか、漆黒の剣の目線で噂を広めてくれるのと、それを討伐した時、私たちの名声もっと上がる、思います」

「なるほど。聞いていたかオルトリンデ」

 

『勿論でございます。それでは、手筈通りに行動します』

 

そうしてメッセージが切れた。さて…ここからどうなるか……。

 

「……あ」

「どうしました?」

「森の賢王の名前思いつきました」

「…お聞きしても?」

「ハム助、です!」

 

あれ?なんでモモンさん黙っちゃうの?あのー?

 

 

なんで?

結構可愛い名前じゃない?

 

 

 

 

 

「それでは皆さん、薬草を下ろしましょう」

「わかりました!ンフィーレアさんは家の倉庫を空けて来てください。その間に下ろしておきますよ」

「ありがとうございます。……あれ?」

「どうされました?」

 

ンフィーレアが店へ到着し、玄関を開ける。だが違和感を感じていた。

 

「あ、いえ。おばあちゃんがいないのと、鍵掛けてないの珍しいなって思いまして」

 

「おーい!全部下ろし終えたぜ!」

「どこへ運べばいいであるか?」

 

「あ、少しだけお待ちください。おばあちゃーん?」

 

ンフィーレアは自身の家だからかあまり警戒せず中へ入る。

 

「やぁ、おかえりー」

 

出迎えて来たのは、女の声。

同時に奥の扉から出て来たのは金髪の女。

 

「その…誰、ですか?」

「お知り合いではないのですか?」

 

「んふ、お姉さんはね、君を誘拐しに来たんだ〜♪」

 

「えっ…」

「ンフィーレアさん!下がって!」

 

突然のことに困惑するンフィーレアと即座に警戒一色になる漆黒の剣。ンフィーレアを守るために前へ出るが女は一歳余裕の笑みを崩さない。

 

「早く逃げてください!」

「で、でも…」

「外へ逃げれりゃモモンさん達に守ってもらえる可能性がある!早く逃げろ!」

「ニニャ!お前も逃げるのである!」

「そうです!貴族に攫われたお姉さんを助けるのでしょう!」

 

「お涙頂戴ねぇ〜泣けちゃう〜。でも…逃げられると困っちゃうから」

 

そうしてスティレットを取り出し、一触即発の雰囲気へ。漆黒の剣の4人は目の前の女が格上であること、死ぬ可能性が限りなく高いことを理解した上で戦う決意をしていた。

 

「…にしても、遅いなぁ」

 

女がそう呟いたと同時、扉が開く。

 

「夜分遅くに失礼します。ポーションを買いに来たのですが…」

 

そこから現れたのは純白のローブを纏った女性。首からは冒険者の証であるプレート-ミスリルを示す色のもの-が掲げられていた。また、フードを深くかぶっていた為、漆黒の剣は新手かと思いさらに警戒するが誘拐しに来たと言う女は驚愕の表情をしていた。

 

「は?なんでお前生きてんだ?」

 

「なぜ、と言われましても」

 

「お前は殺したはずだ」

 

「……?……ああ、妹が帰ってこないのはそう言うことですか」

 

だが2人の会話はどこかですれ違っているのが噛み合っていない。ペテルはそれを見て一か八かと思い口を開いた。

 

「ミスリルのお方!手を貸して頂きたい!そちらの金髪の女はンフィーレアさんを攫おうとしています!」

「ふむ…承知しました。それでは妹の仇討ちの意味も込めて協力をしましょう」

 

「ちょっとめんどくさいなぁ〜カジッちゃん?まだなの?」

 

金髪の女が気怠そうにそう言うと扉がガチャンと閉められる。そこにいたのは痩せこけた顔の杖を持った男。

 

「遊びすぎだ」

「でぇもぉ、悲鳴が漏れないようにはしてくれたんでしょ?ならこの子達で遊んでもいいんじゃないかなぁ?特にその純白のローブを被った子はねぇ」

 

一度倒した経験からか金髪の女は余裕の態度を崩さない。

 

 

 

 

 

それが仕組まれたことだとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

「おぃーっす。変わっていないようで」

 

「貴女こそ全く変わっていませんね。改めまして今回依頼を受けてくださり…」

 

「あー要らない要らない。そんな堅っ苦しいの嫌。それよりも、報酬前払いって話だけど、用意してんの?」

 

「こちらに」

 

「ほぉー!敢えてふっかけてみたけど正解だったわ!……んで、私が出なきゃいけないほどなの?」

 

「分かりません。ですが念には念をと言うことで依頼させて頂きました」

 

「ま、私の喧嘩相手になるならなんでもいいけど」

 

「もしもの時はこちらに神の遺産がありますのでご安心ください」

 

「いや別に気にしてないけど。負けそうになったら逃げの一択だし」

 

「それもお変わりないようで。…それと、一つ貴女に聞いておかねばならないことがあります」

 

「あーはいはい。分かってるわよ。一応ないとは思うけど()()()()()()()()()()()()()、もしくはそのプレイヤーに仕えているモンスターとかが来た場合、私は手を出さない。それに関してはオーケー?」

 

「問題ありません。それで相手に関してですが」

 

「そのプレイヤー達の名前…国名のようなものね。それは…

 

アインズ・ウール・ゴウン。

 

私の知ってる限りだと喧嘩を売ると死ぬまで殺しにくるようなギルド。それだけは念頭に置いておきなさい」




なぜでしょうね

本編より前書きに載せた物語の方が筆が進んだんです

本当になぜだろう(

プロット提供者様に見せたところ

「前書きと序盤の森の賢王とのやりとりに全て持って行かれて本編ちゃんと読んでない」

だそうです
喜んでいいのか悪いのか…w

これからも前書きはアテナと守護者達の何気ない日常を書いていきますので何卒よろしくお願いします


それでは読んでくださりありがとうございます
感想や評価などくださると嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話 異変

アテナとNPCの日常 アウラ&マーレ編

〜第六階層〜

「おぉ…なんどみても、すごい…」
「あ、ありがとうございます!」

本日はエミヤとの喋る練習がお休みになり暇になってしまったので気晴らしに第六階層へ赴いた。
事前に伝えておいたお陰かマーレが出迎えてくれる。アウラはというと少しだけ時間がかかるらしい。その間はマーレに森の中を案内してもらっている。

「この森、ぜんぶマーレが管理、してるんだよね?」
「は、はいっ!そうです!」
「すごい…ね。えらいえらい」
「ふぇっ⁉︎」

私よりも背の低い人というのが珍しく、またマーレの精神年齢が結構幼いからか、つい頭を撫でてしまう。

「お待たせしまし…マーレ?」
「うぇっ⁉︎お、お姉ちゃん⁉︎」
「うぇってなにようぇって!それより!ちょっとズルいんじゃない?」
「な、何のこと?」

「あうら、おつかれさま、です」

「アテナ様!お疲れ様です!」

アウラが挨拶し、周りに続々と魔獣が集まってくる。全身が黒い馬みたいな子やカメレオンみたいな子、それと恐竜みたいな子など合計10匹くらい集まっていた。

「どうでしょうかアテナ様。私の使役してる子の中でもお気に入りの子達なんですが…」

「うん。かっこいいし、かわいいよ。特に、この子、わたしすきだな」

「だって、よかったねイーちゃん!」
『ゴー!』

イーちゃんと呼ばれた恐竜みたいな子はすごく表情豊かで喜んでるのがよくわかる。可愛いなぁ。

「この子達のお世話、マーレがやってるの?」

「はい、その通りです!」

「大変じゃない、の?」

「いえ全然そんなことは!むしろみんなの体調管理とかも出来ますし必要な仕事です!それにこの子達って意外と甘えん坊なんですよ」

「なる、ほど。あうらもえらいえらい」

マーレと同じようにアウラを撫でるとすごく嬉しそうにしてて可愛い。他の魔獣たちが羨ましそうにこっちを見るので、撫でてあげようかと提案すると一斉に私の近くに集まってくる。

「そ、そんなに、してほしいの?」
「こらみんな!アテナ様を困らせないの!」
「だいじょうぶだよこれくらい。それよりもアウラ、マーレ、今日は案内よろしくおねがいします」

「お任せください!」「お、おまかせ、ください!」




「アテナ様の武装ってほとんど自分で作られたんですか⁉︎」

「うん、でも素材あつめて、自分でデザインして、性能考えて、たまにモモンガさんやぶくぶく茶釜さんにアドバイスもらって、がんばったの」

「すごい、すごいですアテナ様!」
「す、すごいです!」

「ありがと。でも私よりもナザリックのみんなの方が、すごいんだよ?みんな私には出来ないことができて、モモンガさんの役に立てて。みんなのこと羨ましいな」

つい本音をぽろっと言ってしまうと双子があたふたしてしまった。うーん…私のこと慕ってくれるのは嬉しいけど、ちょっとしたことでも不敬だとか言うのはやめてほしいなぁ…。時間をかけてその辺を直していった方がいいかな?

「そうだ、2人って好きな人とかいるの?」
「アテナ様とモモンガ様が大好きですよ!」
「ぼ、僕も大好きです!」

そう言うことでは…まあいいや。話す時間はこれからたくさんあるんだから。

「2人とも、またくるのでたくさんお話ししようね」
「はい!お待ちしております!」
「た、たのしみ、です!」

やっぱり仕事がない時にみんなとお話しするのはいい気分転換になる。次は誰のところに行こうかな。


「お待たせしましたミアさん」

「お疲れ様、です」

 

森の賢王を連れて冒険者協会へ従魔として登録を済ませる。ミアさんはと言うとやはり森の賢王の上に座っていた。曰く、フワッフワのソファみたい、とのこと。

 

少し乗ってみたさもあるにはあるが、ここでは絶対にやりたくない。

やるにしてもナザリックへ戻って1人の時にやろう。

 

「それでは、ンフィーレアの元へ向かいましょう」

「分かりました。あ、それとですね」

「?」

()()しました。漆黒の剣は、ちゃんと生きて、ます」

「おお、素晴らしいですね」

「さすがミア様でございます!」

 

成功した。

その言葉でないはずの口角が少し上がったような気がする。だけど油断は禁物だ。念には念を。石橋は叩きすぎるくらいがちょうど良い。

 

「そのクレマンティーヌとカジットとやらの強さはどうでした?」

「御使いと互角です。隠してる切り札とか、あれば話は別かもですが、オルトリンデ1人でも大丈夫、だと思います」

「なるほど。それでは手筈通り、敢えて『死の螺旋』とやらは発動させましょうか。アンデットの大群が来るそうですが大丈夫ですか?」

「もちろんです。なんでもばっちこい、です」

 

「なあお主ら」

 

「「?」」

 

「もしや孫と薬草採集に行った冒険者かの?」

 

突然話しかけられ、声の聞こえた方を向くと老婆が立っていた。

格好からして錬金術か何かの実験をしていたのは予測できるが俺もミアさんも知らない相手だった。

 

「そうですが、あなたは?」

 

「儂はリイジー・バレアレと言う。ンフィーレアの祖母じゃよ」

 

「そうですか。私はンフィーレアさんに依頼されたモモンと言います。こちらはミアさんにナーベ。それから…」

「某は森の賢王。今はハム助でござるよ!」

 

「なんと…!この強大な魔獣が、かの森の賢王だと言うのかい⁉︎」

 

「そうです。薬草最終の際に遭遇したので捻じ伏せました」

 

「そりゃすごいのう、孫が指名して依頼するわけじゃ!そうじゃ、どうせ向かう先は同じじゃろうから一緒に店へ行かんかね?」

 

「私たちで良ければ喜んで」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ…はっ…。お姉様…ごめんなさい。シグルド様…ごめんなさい。

 

ごめんなさい…マスター…」

 

 

 

 

 

 

 

特に何事もなくバレアレ店に着く。特に警戒することなくリイジーは中へ入る。だが店の内部は荒れ果てており思わず足を止めていた。

 

「な…こ、これは…」

「リイじーさん。ここは私が調べます。あなたはンフィーレアさんをお探しください。ナーベ、守ってやれ」

「畏まりました」

 

俺の言葉が聞こえているかどうかは分からないが店の奥へリイジーは向かう。敵はいないと報告を受けているが念のためナーベを護衛として送り、ミアさんと共に荒れている店の中を捜索する。

 

「(オルトリンデからの報告通りならば…)」

 

壁際で倒れている棚を無造作に持ち上げると、下敷きになっていたのは漆黒の剣のレンジャーであるルクルットだった。ミアさんがぶち破られていたドアの先を確認するとペテルとダインが。

 

「…っ!モモンさん!」

「ニニャさん、無事でしたか」

 

カウンターの下からヨロヨロと這い上がってきたのはニニャ。

漆黒の剣は全員が武器破壊及び軽傷とは決していえないレベルの傷を負わされてはいるが全員が生きていた。

ニニャは俺たちの姿を確認し喜ぶと同時に苦痛に顔を歪めていたので、その辺に転がっている容器が無事なポーションを4本ほど拾い上げ、そのうち一本を渡す。残りの3人は気絶しているようだったので上からかける。そして何度か頬を叩くなどをし全員を起こす。

 

「みなさん、ご無事なところ申し訳ありませんが何があったか説明をお願いします」

 

 

 

 

 

モモンさんが漆黒の剣から聞いた内容を簡単に整理すると

 

まず、店に入るとンフィーレアを攫うのが目的の女がいたこと。

交戦に入ろうとした時に純白のフードを被ったミスリルの冒険者が偶然店を訪れ、協力して打倒しようとした時、更にマジックキャスターが現れたこと。

マジックキャスターは誘拐目的の金髪の女の仲間だと言うこと。

 

応戦するも自分たちの力量が足らずンフィーレアは攫われてしまいミスリルの冒険者は喉元を刺されてしまったこと。

 

金髪の女は自分たちにもトドメを刺そうとしていたが何かを思い出したかのように店を出て行ったこと。

 

と、言うことらしい。オルトリンデから逐一聞いていた報告通りの内容だった。あの子優秀だなぁ。私が作ったとは思えない。

 

「漆黒の剣の皆さん。至急このことを冒険者組合へ知らせてくれませんか?私たちは犯人の手がかりを探します」

「わかりました。お任せください」

 

漆黒の剣の4人が冒険者組合へ向かうのを確認し、モモンさんと共に殺されている御使いを軽く観察する。

 

……あれ?

 

「モモンさん、冒険者プレート、取られちゃってます」

「そうですね。ハンティングトロフィーのつもりなんでしょうか。何にせよ…バカですね」

「そう、ですね。大バカですね」

「口悪いですよ?」

「今くらいいい、でしょう?」

 

まさかの超弩級のバカな-わざわざ御使いに持たせたアイテムを持って行った-ことをしてくれたことに気づき、思わず笑ってしまう。これでは見つけてくださいと言っているようなものだ。

 

「リイジー・バレアレ。私たちは犯人の行方を追う。部屋を一つ貸して欲しい」

「うむ、構わんぞ。頼む…孫を…」

「お任せください。必ずや助け出して見せましょう」

 

奥の部屋に入り、モモンさんが魔法の巻物(スクロール)を数十個ほど出しナーベに指示をどんどん出していく。

 

「…あ、それなら念の為に、私もスキル、つかいましょうか?」

「ほう?どのようなスキルなんですか?」

「えーと、確か、情報系の魔法とか、スキルを一定期間遮断する、だったと思います」

「なるほど。重複するものでしたら是非ともお願いします」

「わかりました」

 

ナーベが魔法を次々と唱えている横で私のスキルを発動させる。重複とかなんとか、その辺は大丈夫だった……はず、きっと、おそらく、たぶん。

 

 

ピピッ

 

 

「「?」」

 

ナーベが魔法を唱え終わり、いざ始めようとした時、誰かから伝言(メッセージ)が入る。

 

モモンさんと目を合わせ応答すべきかどうか尋ねると、応答してくださいと言われたのでメッセージを受ける。

 

『マスター、シグルドでございます』

 

「どうした、の?急用?」

 

『はい。今はご都合の程はよろしいでしょうか?』

 

「うん、大丈夫。どうしたの?」

 

明らかにいつものシグルドらしからぬ声色に思わず警戒しながら尋ねると帰ってきたのは沈黙。何が何だかわからず、思わずモモンさんを見る。

 

「どうされました?」

 

「あの、シグルドが、何かあったみたいで、でも…」

 

「ミアさんもですか?」

 

「私も、ってことはモモンさんも、ですか?」

 

「エントマから連絡が来まして、至急伝えたいことがある、と。忙しいから後で連絡すると伝えたところアルベドに連絡をしてくれと言われたので、そこまで緊急性の高いものではないと判断したのですが」

 

「…‥ちょっとだけ、待ってください」

 

「はい」

 

「シグルド、何かあったの?緊急性の高いこと?」

 

未だ黙ってしまっているシグルドへ問いかけると意を決したかのような声がする。

 

『その通りでございます。お話から察するにアインズ様にも同様の連絡が入っているかと思います』

 

「それって今すぐ私かアインズさんの手が必要?」

 

『はい』

 

「……わかった。ちょっと待ってて」

 

メッセージを切りモモンさんの方を向く。

 

「あの…ミア、さん?」

 

()()()()()()。なんか、今すぐに私かアインズさんの手が欲しいそうなので、ちょっとナザリックへ戻ろうと思います。大丈夫ですか?」

 

「……。それほどまでの事態が起こっているのですか?」

 

「わかりません。でも流石に放って置けないです。これでシグルドたちに何かあったらと思うと…」

 

「大丈夫ですよ。行ってあげてください。ンフィーレアの件に関しては私達でどうにかしておきますので」

 

「ありがとう、ございます。ナーベラル、モモンさんを困らせないようにね」

「はっ!アテナ様もお気をつけください!」

「うん。ありがと。…それじゃあ、ちょっと行ってきます」

 

「アテナさん」

 

「?」

 

「無茶は…しないでくださいね?」

 

転移門を使おうとするとアインズさんに名前を呼ばれ、そう言われる。

 

「…はい、わかって、ます」

 

 

だけど何が起こっているのか分からない以上、無茶をしないとは言えず、曖昧に返事をするしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

ナザリックに着くと同時、身なりをいつもの姿に戻す。地表の入り口に向かうとアルベドとシグルドが直立不動で待っていた。

 

何があったのか聞くと先に第九階層へ向かうように言われ指輪を使い転移する。

 

 

そこにいたのは

 

 

 

 

泣きじゃくっているヒルドだった。

 

 

 

 

「……」

 

その様子を見てすぐにヒルドの近くに駆け寄る。

私に気づいたヒルドはビクッとしながらも更に涙を流しながら謝ろうとするので、それを無理やり抱きしめることで止める。

 

「大丈夫、落ち着いて。私はヒルドに何もしないから」

 

数分経ってようやく落ち着いたのか、ありがとうございますと言われ私の胸元から離れる。

本当に、何があったんだろう。

 

「アルベド、何があったの?」

 

「ハッ。第一、第二階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン及び第三階層守護者ブリュンヒルデが()()()()()()()()()()()()

 

 

「…………は?」

 

 

アルベドの言ったことが理解できなくて思わず変な声を出してしまう。

 

 

あの2人が?裏切った?

 

 

「ちがっ、ちがいます!アルベド様!お二人は…」

「ヒルド、少しだけ黙ってて。…アルベド、その言葉を私の前で口にする意味、分かった上で言ってる?」

 

「っ…はい、もちろんでございます」

 

ほんの少しだけ圧をかけると冷や汗をかきながら肯定する。

…つまり、ブリュンヒルデたちへの私情とか抜きにして『裏切った』と判断せざるを得ない事があったということか。

 

「……そう。ごめんね。続きお願い」

 

「ハッ。当初はリストにおける2人の名前が暗転したことから何者かによる精神支配などの攻撃を受けたものと推察しました。ですが…」

 

「シャルティアもブリュンヒルデも精神系統の攻撃は無効化できる」

 

「その通りでございます」

 

「確かにそれなら裏切ったと断定してもおかしくはないね。でもヒルドの報告は聞いたの?」

 

「申し訳ありません。まだでございます。アインズ様かアテナ様がお戻りになるまでに報告を受け、改めて私の方で整理しお伝えしようとしていたので」

 

「ん、わかった。それじゃあヒルド、ゆっくりでいいから私たちに教えてくれる?それと…その手に持ってる服も」

 

ヒルドは何かを思い出したのかまた泣きそうになっていたけどすぐに気を引き締めて報告をしてくれた。

 

 

 

 

 

 

「……そう。ありがとうヒルド」

 

報告の全てを聞き、何故かはわからないけど焦るだとかそういう事はなく、頭がスッと冷静になる。やるべき事だけが頭の中に残っていく。

 

「ヒルドはアインズさんが帰ってくるまでここで待機。

アルベドはニグレドにブリュンヒルデたちの監視を指示して、その後に完全武装でここにきて。

シグルドは念のため地表付近でコキュートスと一緒に居て。仮に侵入者がいたなら殺さずに捕獲する事。だけど5体満足で捕獲する必要はないからね。なんならダルマにしてしまってもいい。それともし仮に2人で戦っても勝てないと思ったら連絡して。すぐに応援を送るから」

 

「「ハッ!」」

 

シグルドとアルベドはすぐにこの場を離れる。1人になったヒルドの元にもう一度歩み寄り、頭に手を乗せる。最初こそビクッとなっていたけど優しく撫でると次第に緊張がとれていったように思えた。

 

「ヒルド、つらかったね、大丈夫だから」

 

「〜〜……っ!お願いします、マスター。どうか…どうかお姉様とシャルティア様を…」

 

「うん、任せて。私はこれでもナザリックの守護神なんだよ?例えどんな奴が相手でも、みんなのことは守ってみせるよ」

 

 

 

例え己の命が尽きようとも、ね。




残念ながらクレマンティーヌとカジット編は本誌とほとんど変わりないため丸々っと飛ばしちゃいます。
変わることといえばクレマンティーヌが殺されずに捕獲されるかもしれない くらいでしょうか。それもアインズ様のお考え次第ですね

さて2人の身に何があったのかお楽しみください


読んでくださりありがとうございます
感想や評価などをくださると嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話 守護神としての覚悟

アテナとNPCの日常 シャルティア編

「おまたせ、しました。シャルティア」
「あ、ああ、アテナ様!お、お待ちしていんした!」

第一階層に降りてくると出迎えてくれたのはシャルティアとヴァンパイア・ブライド。とても緊張していたので、何回か深呼吸をしてもらって落ち着いてもらう。

「そ、それで妾にどのような…。もしかして、妾は何かとんでもない失態を⁉︎」

「ちがう、ちがいます。いま、守護者のみんなとお話ししてて、今度はシャルティアと、おはなししようって。そうおもった、です。それに、紅茶っていうのに、すこし興味がある、から、しゃるてぃあに教えてもらいたくて」

「は、はいっ!お任せください!最高級の紅茶をご用意しんす!」



〜5分後〜

シャルティアに通された部屋はとても整理されていて、淑女ってこんな感じなのかな、っていう部屋だった。

机の上にはティーポットとカップ。それと色とりどりのお菓子が。ちなみに、お菓子はエミヤが用意してくれました。
本人曰く『腕が鳴る』だそうです。

「……」

でも私の中で一つ問題があった。
こういう飲み会みたいな時の作法を全く知らないという、大問題が。
シャルティア達が私やアインズさんを慕っている以上、変なことはできないし。

「お、おまたせしましたアテナ様!って、え…このお菓子は…」
「えみやが、お茶会なら必要だろう、って。作ってくれたんです」
「気がきくわねあの赤コート…食堂の守護者なだけあるわ…」

最後の方なんて言ってたかよく聞こえなかったけど、シャルティアが紅茶を注いでくれ目の前に置いてくれる。砂糖とか色々聞かれたけど、そんな高級品を使ったことがないのでお任せする。

混ぜ終わった紅茶を手に取り、一口飲んでみる。

「ど、どうでしょうか?」
「おいし、です。さすがシャルティア、です」
「勿体無いお言葉でありんす!」

それからはちょっと渋られはしたけど、なんとか一緒に紅茶を飲んだりお菓子を食べたりしてくれました。

「アテナ様、おひとつ伺ってもよろしいでしょうか?」

「うん、いいよ。どうした、の?」

「以前、ペロロンチーノ様が仰っていた言葉をお聞きしたことがあるのですが、その内容が妾にはよくわからなくて。それでアテナ様にお聞きできればと」

「ぺろろんちーのさんの?どんな言葉なの?」

「ええと、確か…『えろげー』なるもので『触手プレイ』『ぼてばら』というものをペロロンチーノ様は…」

「ゴフッ⁉︎」

「アテナ様⁉︎」

「けほっけほっ…そ、それ、他の誰かに、言った?あいんずさん、とか…」

「いえ、まだ言っておりません!その…なにか不謹慎な言葉なのでしょうか?」

「そんな、ことはない、けど…。えーと、その。ぺろろんちーのさんの、好きなものと言えばいいのかな」

「そうなのですか⁉︎ぶくぶく茶釜様がその『えろげー』なるものに、『せいゆう』というもので関わっておられたとも聞いたのですが…」

「ゲフッ⁉︎ゴホッゴホッ…。そ、それもぺろろんちーのさん、が?」

「はい。かつてアインズ様とそのようなお話をしておられました!」

「……。しゃるてぃあ。間違っても、それ、他の人の前では喋らないこと。せいゆう、とか、えろげー、まではまだいいけど、アインズさんの前では絶対に言わないこと。いいね?」

「え?それは…」

「いいね?」

「は、はいっ!」

……アウラとマーレにも、もし同じようなことを聞いてたら誰にも言わないよう念押ししておこう。


ヒルドの報告を私の頭の中で簡素に纏めていく。

 

 

 

-シャルティアたちは王都を出た後、予定通り消えても問題ない人間を餌に武技を使える人間を探していた。

 

今回引っ掛けた盗賊たちから『ブレイン・アングラウス』という人間がいる事を知り、捕えるために根城にしていた洞窟を襲う。

 

シャルティアが道中の人間を殺し、ブリュンヒルデはシャルティアが暴走しないよう見張りながら奥へ進んでいく。するとブレインの方から現れ、交戦に入る。

シャルティアが小指のみで対応してみせると、ブレインは心が折れ逃走する。これを追いかけている最中にシャルティアのスキル『血の狂乱』により暴走状態に。

 

ブリュンヒルデは止めようとしたが既に遅く暴れていた。そこでヒルドへ御使いを出させ周囲を警戒させるよう命じ、ブリュンヒルデはシャルティアを冷静にさせるために洞窟の奥へ向かう。

 

 

そんな時、御使いの索敵に二つの集団が引っ掛かる。

 

それは低レベルな集団と守護者でも苦戦必死な高レベルの集団だった。それを報告するよりも先にシャルティア達に接敵する。

 

一番近場にいたのは銀級冒険者で、シャルティアは1人を除き全員を一瞬で壊滅させる。

1人だけ残したのは赤髪の冒険者であり、残した理由はそいつの投げたポーションが赤いものでアインズさんが持っていたものと判断したから。

 

そのころにブリュンヒルデも追いつき、2人で冒険者に問いただす。シャルティアの魅了スキルで支配下に置き根掘り葉掘り聞いていると、そいつらにはまだ仲間がおり、後方に情報伝達を任された者がいたとわかる。

 

すぐさまシャルティアは眷属を召喚、ブリュンヒルデも同じく眷属を召喚し森の中にいる人間を殺し尽くすよう命令を出す。(ちなみに怒られるかもしれないと怯えていたらしい)

 

だけどここで更に異常事態が起こる。

 

ヒルドが捉えた集団のうちもう一つ、こちらがシャルティアたちの眷属とぶつかる。数の差などなんでもないかのようにあっという間に殲滅される。

 

これに怒り狂ったシャルティアは再び『血の狂乱』を発動させ、眷属が死んだ場所へ向かう。

ブリュンヒルデはヒルドに最大限警戒させながら見張るよう命令を出し、自身もシャルティアを援護するために向かう。

 

1分もかからず2人は人間の集団と接敵する。

 

シャルティア達を見た人間は、黄金の刺繍が施されたローブを着た老婆へ『使え!』と指示を出す。不味いと思った2人はその老婆を殺すべく動く。だがシャルティアは指示を出していた人間が、ブリュンヒルデは()()2()()()()()()()()()()()()()()()()対処する。

 

前者はともかく、後者はブリュンヒルデが全力を出したにも関わらず後手に回されていた。

 

シャルティアが何人かの人間を殺しつつも老婆には辿り着けず、老婆の着ていたローブから光が発生する。ブリュンヒルデから『私たちを見捨てて即時撤退!老婆の纏うローブを回収できるのならしなさい!』と命令を出す。そして光が2人を包み込んだかと思うと、その場に直立不動し動かなくなった。

 

ヒルドはコレに怒り狂い、自身の切り札である宝具【終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスラシル)】を使う。御使いを100人まで複製し、全員が光の槍を一斉に投擲。その場にいた人間のほとんどが釘付けになっているうちに、ヒルド自身はブリュンヒルデの言いつけを守る為にローブを着た老婆へ強襲。殺してローブを奪うことに成功する。

 

だけど更にここで異常事態が起こる。

 

それは味方であるはずのブリュンヒルデとシャルティアが御使いを殺しながらヒルドへ迫っていた。

 

ヒルドは訳がわからず恐怖に怯えてしまい、ブリュンヒルデの槍で片腕を切り飛ばされてしまう。

 

泣きそうになってしまったが、それでもローブを持ち帰る事と状況を知らせる事が最優先と自分に言い聞かせ、その場を離れる。

 

泣きじゃくりながらアルベドへ連絡し、アルベドもリストを確認していたところ2人の名前が暗転していたので報告をするに至った-

 

 

と言う事らしい。

 

 

なぜだろうか、焦ったりとか焦燥感がとかはなく、頭は逆に至極冷静になっていく。

 

「これと、一応念のためこれも…。転移阻害されるのも考慮して…。他にアインズさんが来る前にできる事…。世界級アイテムだと仮定して…『二十』はじゃないと思うけど…。考えろ、考えろ。思考を止めるな」

 

自身のアイテムボックスから装備やアイテムを大量に出し、一つずつ分けていく。

ガチガチにアイテムバフだとか課金アイテム含め準備するのなんていつ以来だろうか。

 

「あとは指輪を…リングはつけておかなきゃとして、全耐性向上と…神聖属上昇と槍スキルの底上げと転移阻害と…はは、指輪を全部装備とかも久しぶりだなぁ」

 

装備を見直し、全身を神器級で揃える。そして両手の指10本のうち9本に指輪をつける(うち一個はギルドの指輪だが)

 

そして世界級アイテムの盾を取り出す。

 

「…うん、やっぱり馴染むなぁ」

 

かつてギルドのみんなに手伝ってもらって攻略した高難易度レイドダンジョン。そのクリア報酬の盾。守護神の種族がないと万全な状態で使えないとかいう割には、その内容はあらゆるバッドステータスを無効化するとかいう、なんちゃって世界級アイテムじゃねえかってみんな言ってたっけ。

 

「お待たせしましたアテナ様」

「うん、それじゃあ行こうか。アルベドも『真なる無』は持っておいてね」

「ですがアインズ様のご許可は…」

「アインズさんにはあとで言っておくから大丈夫。いざとなれば全部私が責任を負うから。それよりも相手の手札の最低ラインが世界級アイテムだと考えて動く方がまだいい」

 

あの2人に加えてアルベドまで敵に回ると、流石にどうしようもないし。それに…戦闘する気は無いとはいえ、アルベドにはもしもの時の為にナザリックへ情報を伝えてもらわなきゃならない。

 

「それじゃ、いこうか。転移門(ゲート)

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ヒルドからの報告を反芻しながらブリュンヒルデ達がいるであろう場所の近くへ転移し、警戒しながらゆっくりと歩いていく。

 

「アルベド、最後に確認。もしもの時は…」

「交戦せず即時撤退、アウラが建設中の偽ナザリックへあえて姿が見えるよう逃げ、指輪で本物のナザリックへ転移する、でございますね?」

「うん、よろしい。戦闘にならないなら、それはそれで2人で帰ればいいからね」

 

気の進まなさそうなアルベドを横目で見ながら改めて鬼になる覚悟を決める。

 

「アルベド、もし私のいうことを聞けないって思うなら今すぐ帰って。代わりにシグルドを連れてきて」

 

「いっ、いえ!そのような事は!ただ…至高の御身を置いて逃げるなど…シモベにあるまじき行為…」

 

「…だろうと思った」

 

「え…」

 

「アルベドありがと。でもね、これは私がやらなきゃいけないことなんだ。『守護神』なんて肩書きを名乗ってるからには、ね」

 

今回に関してはそもそも戦う気は無い。だから転移阻害されたりだとか、そっち系の対策しかしてない。

 

「ん…見えてきたね」

 

森を抜けると、槍を手に持ったままその場に立ちすくんでいるシャルティアとブリュンヒルデがいた。

その目に生気は感じられず、余計に意味がわからなかった。

 

「…精神支配されてるなら、近づいてくるやつは全員殺せ、なんて命令出されててもおかしくないのに。よくわかんないね。さ、とりあえずやってみようか」

 

空けておいた残りの指に流れ星が三つ刻まれている指輪をつける。……あれ?

 

「アテナ様、それは…」

流れ星の指輪(シューティングスター)…だったかな?超位魔法の【星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)っていうのを3回、しかもデメリット無しで使えるっていうアイテム。大体はその場に適したり、たまーに適さないのもあるけど選択肢が何個か出てきて選べるよ、って魔法なんだけど…」

 

なんか効果変わってない?あれ?つけた瞬間になんとなくだけど好きなものを叶えられるという確信が持てた。

 

「……ま、いいか。使えるものは使おう。それじゃあアルベド。もしこれで解除できたらそれで良し。できなかったら即時撤退。仮に戦闘になってもアルベドは戦わない事。オーケー?」

 

「ハッ、かしこまりました」

 

指輪を起動させ、魔法を唱える。すると自分の足元と周りに青白い魔法陣が現れる。そのまま願いの内容を口にする。

 

「指輪よ。シャルティアとブリュンヒルデにかけられている全ての効果を打ち消して」

 

そしてそのまま魔法陣が更に発光し……

 

砕け散った。

 

「……そーかぁ。ま、そうだよねぇ…」

「アテナ様、一体…」

「帰るよアルベド。これの解決策は流石に私1人だと手に余る。それに勝手にやったらアインズさんに怒られちゃうからね」

 

困惑しているアルベドを無理やり引き寄せ指輪を使い転移をする。

 

 

 

 

そっかぁ…最悪な方だったかぁ…。

 

覚悟決めなきゃ。

 

こんなこと、モモンガさんにして欲しくない。でも誰かがやらなきゃ…。

 

だから、私がやらなきゃ。

 

 

 

 

「アテナ…様?」

 

「アルベド、ナザリックの警戒を最大まで引き上げて。それでアインズさんから連絡があったらすぐに帰ってくるよう伝えて。私は出来うる限りの準備を進めるから。多分、アインズさんが帰ってくる時にその場に私がいないだろうから、報告は任せたよ」

 

必要なことだけを伝えその場を離れる。

まずは……

 

 

 

 

 

 

〜次の日〜

 

「え、もう終わったの?」

『はい。冒険者組合からはミスリルの称号を渡されました。それで…アテナ様、そちらは大丈夫なのでしょうか?アインズ様も何かの報告を受け、即座に帰還されたのですが…』

「うん、大丈夫だよ。ちょっと、トラブルが起きてるだけ。詳しい事はまたナザリックで、ね」

『畏まりました』

 

ナーベラルから報告をもらい、アインズさんが今回の首謀者をもう止めたらしい。

 

すっご。

 

ンフィーレアは無事で、アンデットの大群も壊滅。エ・ランテルに被害もほぼ無いらしい。

 

 

さっすがアインズさん。

 

 

さて…と。

 

 

「アテナさん、探しました」

「お帰りなさいアインズさん」

 

しばらく経ってアインズさんが私の元へ現れる。どうやらアルベドから詳細は聞いているみたい。

 

「アテナさん、貴重な指輪まで使ってくださりありがとうございます。それでシャルティア達のことについてですが…」

 

「殺して蘇生、ですよね?」

 

「……はい」

 

とても申し訳なさそうに言われ、思わず苦笑してしまう。きっとこの状況になったのを、自分たちの仲間であるシャルティアや私の作った子であるブリュンヒルデを、仕方ないとはいえ殺してしまうことを悔いてるのだろう。

 

……本当に優しいなぁ。

 

「大丈夫ですよ。私はアインズさんを責めたりしてませんよ。むしろ私のほうこそ責められるべきですから」

 

「そん…っ!そんな訳ないじゃないですか!」

 

「でも世界級アイテムを自分で持ってるのに、相手が持ってないなんて考えになってなかったんですよ。ブリュンヒルデ達を外に出すって時に話し合って、その時も私は、大丈夫かなって思って特に何も言いませんでした」

 

「それは俺もです。ですから…辛い(そんな)顔をしないでください。これはアテナさんだけじゃない。俺も背負うべき業なんですから」

 

私達が背負うべき業……か。

 

「はい、ありがとうございます。アインズさんもいるんですから百人力どころか万人力です。それで、どうしますか?」

 

「まずは守護者を全員帰還させました。セバスのみそのまま情報収集をさせています。ですがスルーズに命じ御使い100人を展開させ監視させています。この後ですがひとまず宝物殿で必要なものを取り出し、世界級アイテムを守護者に持たせようと思っています」

 

なるほど。なら…

 

「とりあえずは2人で宝物殿、ですかね?」

「アルベドとシズ・デルタとユリ・アルファも連れていきますけどね。指輪を預けなきゃ俺たちが殺されるんで。……あのクソゴーレムクラフターの作ったやつで」

「そういえばるし☆ふぁーさん作でしたっけアレ」

「そうそう。あんヤロウ、第二階層のゴキブリを作るのに超超レア鉱石を無断で使うようなゴミクズ野郎ですけど、悲しいことに腕だけは本物ですからね」

「アインズさん、急に口悪くなりましたね」

 

普段見れないアインズさんの一面が見れて思わずフフッと笑ってしまう。

 

「少しは落ち着けましたか?」

 

「…はい、大丈夫です」

 

だけど、それはアインズさんなりに気を遣ってくれた行動だったらしく、改めてこの人は優しいな、と思う。

 

 

それと同時に、この人を殺させるわけにはいかない、とも。

 

 

「それじゃあ宝物殿に行きましょうか」

「はい」

 

 




軽い補足

カジットはアニメ通り死亡
クレマンティーヌは殺された後、死体はナザリックに保管。

アインズがナザリックへ帰還する前に既に冒険者組合からヴァンパイアに関しての報告を受けており、それに伴ってイグヴァルジ(アニメでやたらモモンに突っかかってた人)のパーティを全滅させている。

こんなところですかね。

本当なら追想式で書こうかな、とは思いましたがあまり良い感じにならないなと思ったのと、多分3話くらい掛かりそうなので断念しました

さーて、次からクライマックスに…いく予定です(小声


それでは読んでくださりありがとうございました
感想や評価をくださると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話 宝物殿へ そして黒歴史

アテナとNPCの日常 メイド編

「……」

ナザリックの経営してる食堂の扉の前に立つ。扉を開けようと思うも、つい躊躇ってしまう。

「いや、だいじょうぶ、だよね…?うん、きっと大丈夫…」

何度か深呼吸をして、意を決して扉を開ける。

中に入った瞬間に食堂がめちゃくちゃざわつくのが分かる。

「あ、ああ、アテナ…様?どうかされたのでしょうか…?」

1人のメイドが代表になったのか私のところに恐る恐る近づいてくる。
……怒ったりとか、そう言うのじゃないんだけどな。

「とくに、なにかあった、とかじゃなくて。みんなとお話をしようと、思つて来ました」

「至高の御身が我々のようなシモベとなど⁉︎」

「だめ…ですか?」

「い、いえ、そのようなことは…」

「じゃあ、みんなでご飯食べよう?ちょうど、お昼ご飯、だよね?」

この手の子たちは強引にいく方が上手くいくのはわかってるので、少し悪いと思いながらご飯をとりにいく。
そこにはエミヤとシホウツ、それと何人かの料理人NPCが忙しなく動いていた。

「む?ここへくるとは珍しいなマスター」
「きょうは、メイドのみんなとお話ししようと思って」
「なるほど。共に同じ釜の飯を食う、とはよく言うからな。それで何をご所望かな?」
「んー…さっぱりしたものってある?」
「さっぱりか…少しだけ待ってくれ」

ちなみに、メイドのみんなはたくさんいたんだけど、まるでモーセの海割りが如くみんな避けてしまったので仕方なく先に料理をもらってます。

「お待たせした。鯛のお茶漬けだ。薬味などを乗せて食べると良いアクセントになる。それと少し甘めの卵焼きだ」
「わぁ。美味しそう。ありがとうエミヤ」
「どういたしまして」

エミヤからおぼんを受け取り、机に向かう。だけど案の定みんな離れてしまう。

「みんな、わたしとおはなし、いや、ですか?わたし、みんなとお話し、したいです」

少しわざとらしく悲しげに言うと、続々と私の周りに集まってくる。……ちょっと、ほんのちょっとだけ可愛いと思ってしまったのは内緒。

「わ…みんな、すごい食べる、ですね」
「はい!しっかり食べて仕事に備えなければなりませんから!」
「アテナ様はそれだけで良いのですか?」
「う、うん。あんまり、みんなみたいに多く、食べれないから」

周りに座ったメイドたちの皿を見ると、みんな山盛りに積まれていて、食べ切れるのか疑問だったけど、みるみるうちに減っていき杞憂だったなと思う。

「みんな、ひとつ聞いてもいい、かな?」

「はいっ!なんなりとお聞きください!」

「…みんなは、アインズさん、好きですか?」

「アインズ様ですか?もちろん大好きです!」

1人がそう言ったのを皮切りに、みんながアインズさんを褒め、その様子から崇拝している感じなのが分かる。
だけどそれ以上にみんなが節々で口にする『大好き』と言う言葉がなぜか私に重くのしかかってくる。

自分で話を振っておいてこれなのだから、私って…。

「でも、アインズ様も大好きですが、アテナ様も大好きですよ!」
「そうです!ワルキューレ様からお聞きしたのですが、人間の村でのご活躍は素晴らしいものでした!」
「それに私たちはアテナ様がどれほどアインズ様を慕っておられるか知っていますから!まさに至高の御身…」

「うぇっ?」

自分から切り出した手前、どうやって話を終わらせようか悩んでいると不意にそんな事を言われる。そこから今度はアインズさんじゃなくて私を褒め出すので、なんというかその、背中がむず痒くなる。

「あり、がとう。みんな。少し元気、出ました。そろそろ、アインズさんのところに行くので、このへんで。みんなも、お仕事頑張って、ください」

「「「「「はいっ!」」」」」

少し顔が熱くなったのを隠すようにその場を立ち上がり、食堂を出ていく。NPCのみんなが慕ってくれているのは嬉しいけど、やっぱり時々恥ずかしくなる。

でも…それでもやっぱり嬉しいなと思う。

だから

みんなのことはちゃんと守らなきゃ、ね。


〜宝物殿〜

 

「おお…いつみても、すごいですね」

「俺たちの努力の結晶ですからね」

 

指輪の転移でしか入れない宝物殿。そこへ転移するとあたり一面に山積みにされている金貨、それと大量のレアアイテムの山。もう一つ先の部屋には武具が置いてあって、更に奥には世界級アイテムの保管場所になっている。

今私たちがいるのは金貨のある部屋だけど、それでもすごいと思ってしまう。

 

アインズさん、アルベド、ユリ・アルファ、シズ・デルタと一緒に進んでいき、一つの大きな真っ黒い壁の前に立つ。

するとラテン語が浮かび上がってくる。

 

「えーと、確か…『かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう』…だったか?」

 

おお、流石アインズさん。久しぶりとはいえ覚えてるものなのかな。

私は…何回か来てるからスラスラ言えるけど。

 

黒い壁がブォンと鳴り、一本の通路になる。

その先の部屋へ5人で進んでいくと、ソファに何かが座っている。

 

座っていたナニカがゆっくりと立ち上がりこっちをみてくる。

 

「……」

「おぉ…」

「た、タブラ・スマラグディナ様⁉︎」

「あの方が…?」

 

水を吸って大きくなった死体の頭に、タコが取り付いた様な邪悪な姿をしているそれは、間違いなくタブラさんの姿だった。

 

「いえ…違う。何者!いくら姿を真似ようとも創造して下さった御身の姿まで間違えないわ!」

 

「……」

 

アルベドの問いにタブラさん(?)は首を傾げるのみ。それに痺れを切らしたアルベドがシズとユリへ殺すよう命じる。

 

「もう良い!パンドラズ・アクター!」

 

一触即発の雰囲気をアインズさんが止めてくれ、パンドラズ・アクターと呼ばれたタブラさんはぐにゃりと造形が崩れ、人型の姿になる。だけど顔はハニワで、軍服を纏っている。

 

「ようこそ、お越しくださいました。私の創造主たるモモンガッ様!そして同じく至高の御身アテナ様も!」

 

 

いつ見てもかっこいいなぁ。

 

 

「パンドラ、ハロ、ウィ、……ゲント、アス、ディア?」

 

ドイツ語で『こんにちは、元気ですか』と聞くと、何かを深く考えるように帽子のツバを持ち深く被り直す。

 

「おやアテナ様。しばらく来ない間に発音が悪くなられたのでは?さては…練習、サボりましたね?今回の場合ですと『Hallo. Wie geht es dir?』となります」

 

「うぐっ…だ、だって、練習する時間、あまりなかった、です」

 

「それでも、毎日コツコツとやるのが言語上達の秘訣ですよ。1時間とは言いません。せめて1日10分でもやるのをお勧めします。もし練習相手が必要でしたらこの私めをお呼びくださいませ。至高の御身であらせられるアテナ様の要求ならば!このパンドラ、全ての仕事を投げ捨て貴女様の元へ馳せ参じましょう!」

 

「は、はい…お願い、します」

 

「と、少し説教くさくなってしまいましたが、まだ2週間ほどしか経っていないにも関らず、ドイツ語を読めるまでに至っているアテナ様の努力は素晴らしいものです。ああ、このパンドラ!アテナ様にお教えできて!しあ!わせ!でございます!」

 

相変わらずのオーバーリアクションだけど、それがとても楽しくて、かっこよくて。ついつい見入ってしまう。アインズさんとどちらがカッコいいか、と言われるとアインズさんだけど、アインズさんの次を争うくらいにはかっこいいと思う。

 

「あれ、アインズさん、どうしました?」

 

「……」

 

ふと横を見てみると、口の骨が開きっぱなしで私とパンドラを交互に見ているアインズさんがいた。

 

え?何か変なことしたのかな?

 

「ンモモンガ様!どうされたのですか!」

 

「…ハッ。う、うむ。久しいな、パンドラズ・アクターよ。お、お前も元気そう…だな。」

 

「勿論でございます!毎日のように至高の御身が集められたマジックアイテムに囲まれており幸せの頂点でございます!ところで、本日はどのようなご用件でこちらへ?」

 

世界級(ワールド)アイテムを取りに来た」

 

「Oh…ワァァルドアイテムッ!世界を変え得る!至高の御方々の努力の結晶の証!その力が猛威を振る時が…ついに来たと言うわけですね?」

 

まさに演者かのように大袈裟に、オーバーリアクションをしながらその場でゆっくり回転し、最後に帽子のツバを深く被りながらこっちを見てくる。

 

「そうだ。幾億の刃、ヒギュエイアの杯、強欲と無欲、山河社稷図を持っていくつもりだ」

 

「ハッ!承知しましたモモンガ様」

 

「それと私の名前はアインズ・ウール・ゴウンへと改名している。これからはアインズと呼ぶように」

 

「おぉ…。畏まりましたンアインズ様!」

 

 

かっこいいなとアテナが思っていた頃、横でアインズは…

 

 

「(やめてくれ、そんな目で俺の黒歴史を見ないでくれ…)」

 

心の中で悶絶していた。

 

「(そうだよ!全部俺がかっこいいと思って作った設定だよ!まあ軍服は?今でもかっこいいと思わなくもないんだけどさ。てかアテナさんは一体なにをしてたんだよ⁉︎なんでパンドラと交友あるんだ⁉︎)」

 

 

「(……やっぱり世界級アイテムを出すってなると慎重にならざるを得ないのかな。いざとなれば私の盾も誰かに渡しておいたほうがいいのかな)」

 

そしてアテナもアテナで見当違いなことを思っていた。

 

 

「それでは先に行くぞ」

 

「あ、私はちょっと、ここで待ってますね」

 

「…それはまた、なぜ?」

 

アインズさんが先に行こうとし、私はそれについていかずパンドラの元に残ることを伝える。アインズさんから何故と言われるのはわかっていたのであらかじめ考えておいた内容を口にする。

 

「念のため、ですよ。ワールドアイテムがあるこの世界で、しかも精神支配できるようなものまであって。もし万が一私が洗脳されでもしたら…ここの宝物殿の情報全部喋っちゃうかもしれませんし。ですから、念のため、です」

 

「……なるほど。わかりました。では待っておいてもらえますか?」

 

「はい」

 

私の言葉に納得してくれたのか、アルベド達を引き連れてその先へ進んでいく。

 

「いってらっしゃいませアインズ様。そして…お嬢様方」

 

「お嬢様…?私はナザリック地下大墳墓の守護者統括、アルベドです。そのような呼び方は慎むように」

「私も、ご遠慮願います」

 

「おお…これは失礼しました。薔薇のように可憐で美しい御三方の美貌につい…」

「はぁーいちょっとこっちにこーい!」

「えっ?」

 

パンドラがまたオーバーリアクションでアルベドたちを褒めちぎろうとしていた瞬間、アインズさんが爆速で戻ってきて爆速でパンドラを壁際に連れて行っていた。

 

 

え?壁ドン?

羨ましいッ

 

 

と、そんな私の煩悩は置いといて。

アインズさんとパンドラのお話が終わったのか、改めてアルベドたちを引き連れ奥へ進んでいった。

 

「……さて」

 

姿が消え、扉が消えたのを確認してパンドラへ向き直る。けど、どこか落ち込んでる様子のパンドラがいた。

 

「どうしたの?」

「……アインズ様に、ドイツ語を…敬礼をやめるよう命令されまして…私のアイデンティティをどうしようか非常に悩んでおりました」

「実はそんなに落ち込んでないね?まあ、うん。私はかっこいいと思うから…私と2人きりの時くらいは、やってもいいよ」

 

思ったよりくだらなかったパンドラの悩みに笑ってしまい、少し空気が和む。

 

「それより、どうされたのですか?」

 

「え?」

 

「…不躾ながら、アテナ様が非常に悩んでおられるように見えまして。このパンドラでよければ、打ち明けてくださりませんか?」

 

「……。いや、悩んでる、とかじゃないんだけどね。ちょっと…今、色々とあって」

 

パンドラに、今シャルティアやブリュンヒルデに起こっている事態を詳しく説明をし、解決のためにどうするかを考えた末の、今回の世界級アイテムの持ち出しということを伝える。

 

「それだけではございませんよね?アテナ様」

 

「……そんなに私、わかりやすいのかな」

 

「アテナ様がお優しすぎるからと存じます。それで…私へ何をお命じするのですか?」

 

私が何かを頼もうとしていたことも見抜かれていたらしく、思わず目が点になってしまう。

そういえば、アルベドやデミウルゴスと並ぶくらいには頭いいんだったっけ。

 

「そう、バレてるなら…もう取り繕う必要はないね。パンドラズ・アクター」

 

「ハッ!何なりとお申し付けください!」

 

「ナザリックが守護神として、貴方に命じます

 

 

 

アインズさんを今回の一件が解決するまで、この場から外へ出さないよう足止めをしなさい」

 

 

 

 

「ハッ…は?」

 

アテナの命令に最初は勢いよく返答したが、その意味を確認しすぐに疑問に満ちた声を上げる。

 

「アテナ様、それは一体どのような意味かお聞きしてもよろしいでしょうか」

 

「そのままの意味だよ。ブリュンヒルデ達の件が解決するまでアインズさんを足止めして」

 

「……申し訳ありませんが、理由をお聞きしても?」

 

「分かってるでしょ?それでも聞きたい?」

 

「はい」

 

先ほどまでのオーバーリアクション気味だった言動はすっかり鳴りをひそめ、真面目な声でアテナへ問いかける。

それに苦笑しながら口を開く。

 

「私はこれから、シャルティア及びブリュンヒルデの討伐へ、()()()()()()()()。アインズさんの手は借りないつもりです。それが私の、守護神としての役割だから」

 

パンドラはアテナの言葉に、胸元を強く握りしめながら顔を上げる。

 

「申し訳ありませんが、だからと言って至高の御身を1人で死地へ向かわせるなど、ナザリックのシモベとして許容出来るはずがありましょうか」

 

「じゃあ、これは至高の御身として命令させてもらうよ。パンドラ、絶対にここからアインズさんを出さないこと。いいね?異論も反論も受け付けないよ」

 

「ですが…!」

 

「戦力が足りない、っていう心配なら大丈夫。シグルドもついさっき呼んだから。すぐにくるよ」

 

「そういう訳ではございません!」

 

パンドラの無表情にもみえるハニワの顔からは明らかな焦燥感、そしてアテナを心配している感情が読み取れる。

それにあえて気づかないフリをしながら冷静に、冷酷な目でパンドラを見つめる。

 

「パンドラ、何度も言うよ?これは『命令』なの。だから…アインズさんを絶対死なせない為にも、ここから出さないでね?」

 

パンドラの返答を待たず、アテナはその場から立ち去っていった。

 

 

「…やはり、お優しすぎますよアテナ様。本当にアインズ様に来ていただきたくないのならば、恐らくはメイドへ預けたであろうアインズ様のギルド指輪を、立場を利用して強引に預かるなどもできたでしょうに」

 

 

 

 

「……マスター?」

 

アテナとすれ違ったシグルドは、アテナのしていた表情を疑問に思いながらもパンドラの元へ向かう。

 

「失礼。貴殿がパンドラズ・アクターか?」

「そういう貴方はシグルド殿ですな?」

 

パンドラと合流したシグルドは、簡易的に先ほど命令された内容を伝えられる。するとみるみるうちに複雑な感情になっていた。 

 

「単刀直入にお聞きしましょうシグルド殿。どうされますか?」

 

「どう、とは?至高の御身に命令されたのならば黙って従うのが道理だろう?」

 

「ふふ、顔はそう言っておりませんよ?ここは正直になられては?幸いにも私たちしか居ませんし?」

 

「……」

 

その言葉について深く、深く考え顔をあげパンドラを見る。

 

「良いだろう。だが他言無用だ。もしアインズ様達へ漏れていたなら貴殿を殺し当方も死ぬとしよう」

 

「勿論ですとも。私は口だけは硬いですからご安心ください」

 

 

 

 

 

「…正直に言うと、マスター1人で対処するのは反対だ。無論、マスターが負けるなどとは微塵も思っては居ないが、それでもあのお方はあまりにも慈悲深く、お優しい。それはアインズ様も同様だ」

 

「ふむ。私もそう思います。あの御二方はいつ如何なる時でも我らシモベのことを考えてくださっていますから」

 

「……そんなお方が同胞を殺すなど、耐えられるはずがない。きっと、今も自責の念で潰れそうになっているだろう。だが…仮にも当方は『龍殺しの英雄』だ。『英雄』ともあろうものが、敬愛すべき者の覚悟を踏み躙って良いはずがないだろう?」

 

「その感覚は分かりませんが…通ずるものは私にも分かります。忠実なシモベであるならば、主人の勝ちを信じ待っているのも、また正しい在り方でしょう」

 

「そうだ。それに…本当ならば我が愛を止めるのは当方の役目だ。そうマスターに創られたからな。しかし、アインズ様がご帰還される前に当方がそう提案した時、即座に却下されたよ」

 

「当然でしょう。以前アテナ様にお聞きしたことがありますが、アテナ様は我らには仲良くして欲しいと、殺し合って欲しくないと。皆で楽しく生きていたいと仰っていました。…つまるところ」

 

「同胞殺しなどという大罪を背負うのは自分だけで良い、そう考えておられるのだろうな」

 

シグルドは何かに怒り、手から血が出るほど強く握りしめながら呟いた。

 

それとは真逆でパンドラは呆れながらため息をついていた。

 

「シグルド殿、そろそろ貴殿の考えをお聞かせ願いたい」

 

「当方の考えだと?」

 

「ええ。今までお話になったのはシグルド殿が推察したアテナ様のお考えについてです」

 

「…どうやらパンドラ殿は相当頭が回るようだな。アルベドやデミウルゴスを相手している気分だ」

 

「これでもナザリックの最高峰の知恵者ですからね」

 

「わざわざ回りくどく語っていたのに全てが無駄というわけか。……パンドラズ・アクター。単刀直入に言おう。

 

 

当方と共に死罪になるつもりはないか?」

 

 

龍殺しの英雄からのとんでもない提案に、ハニワの演者(アクター)は間髪入れずに頷いた。





アンケートで意外にもメイドたちが人気でビビった。
守護者のネタが尽きそうだから入れてみたけど案外他の領域守護者やエクレアなんかもありなのか…?

さあさあ、シグルドが物騒な事を言っていますが真相は次回

ごゆるりとお待ちください


読んでくださりありがとうございます
感想や評価などくださると嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話 決戦前夜

今回はおまけストーリーはありませぬ。

シリアスムーブが終わったら幕間の物語で書くから許して(



それではどうぞ


「あはっ、あはは……ほんっと、私、最低だ…。何も、何も変わってない」

 

目の前が滲む。いくら擦って鮮明にしてもまたすぐに滲んでくる。

 

転移前と何も変わってない。

大事なことはひた隠しにし、最後には最愛の人すら騙し自分のためだけに動く。

 

ははっ、こんな性格してるからアインズさんにもいい返事もらえないんだよ…。

 

 

 

だけど、私は守護神なんだ。これはアインズさんと私が背負うべき業じゃない。

 

私だけが背負うべき業だ。

私がやらなければならないことだ。

 

 

 

そう、独りでやらければならないことだ。

 

 

 

 

〜???〜

 

とある国の中心部、その一角で人間型の2人が邂逅する。

1人は紅い着物、その下には青い道着を着ており、腰には2本の刀が差してある女。

気だるげにソレと対峙しているのは黄金の甲冑を下半身に纏っている女。煌びやかな金髪と紅い瞳が特徴だった。

 

「ちわぁーっす。お久ぁ〜」

「……なんの用だ歩く酒豪。用がないのなら帰れ。…いや、用があっても帰れ」

「ひどない⁉︎せっかく遠路はるばる元クランメンバーに会いにきたってのに」

「我に会いたいというなら段蔵を連れてこいと言っただろう。何故おらぬ」

 

 

「殺されちった」

「は?」

 

 

超重要なことをサラッと何でもないかのように語られ、その場が静寂に包まれる。だがそれもすぐに崩れ去る。

 

「だぁかぁらぁー。蘇生のためのお金かーして、英雄王ちゃま」

「その前に殺してやろうか貴様」

「できるわけも無いのに?ぷーくすくす」

「よし分かった。貴様にはビタ一文もやらん」

「だあぁ!ごめん!ごめんなさい!後生ですからお金をお恵みいただきたい所存でございます!流石に私の手持ちだけだと蘇生費用足りないの!」

「帰れ」

 

紅い着物を着ている女が土下座をするも、黄金の甲冑をつけた女はとりつく暇もなく武具を射出している。

 

紅い着物の女は土下座をやめたかと思うとその全てを弾いていたが。

 

「お願いだからぁ!貸してくれるなら色々と耳寄りな情報が…」

 

「いらん。おおかた今回転移してきた奴ら情報なんだろうが、我の方でもある程度は揃っている」

 

「そーぉ?()()()()()()()()()()ってのも知ってるわけ?」

 

「……」

 

「お?知らない感じ?いいの?私を見捨てちゃったらその辺の情報が入らないかもしれないよ?いいのかい引きこもり」

 

「最初のちゃま呼びとバカにしてくるような笑いと今の引きこもり発言でスリーアウトだ。それとブリュンヒルデと貴様を天秤にかけたが、やはり貴様と関わる方がめんどくさそうだ。だから帰れ」

 

「やだ!貸してくれるっていうまでここに居座る!」

 

「……はぁ」

 

近くに世界最強のドラゴンがいるというのに全く気にするそぶりのない2人。ドラゴンは2人のことをうるさいと思いながらも口を出す気はない様子。

 

そして親しげ(?)に話している2人は、実力差は明確にあるのだろうが金を貸せとせびっている方が言い負かされていた。

 

「あーもう!じゃあ私の武具を何個かあげるわ!それならどうよ!」

 

「貴様の腰に差している世界級の刀、もしくはワールドチャンピオン獲得時の報酬の刀なら考えてやろう」

 

「いやこれらは流石に無理」

 

「なら帰れ」

 

「いやいや!これの前に愛用してたやつだから!ちゃんと神器級のだし、その辺の有象無象の持ってるようなやつよりかは数ランク上なはずだから!なんなら希少鉱石を使ってる刀だし、そんなモノなんてもうこの世界じゃ手に入らないんじゃない?」

 

「……」

 

黄金の甲冑をつけた女はその言葉を聞いて少し考える。なんせ、本人も自覚しているほどのアイテムコレクターだったから。それはそうとしてワールドチャンピオンの愛用していた武具とやらなら高い金になる、程度にしか考えていなかったが。

 

「さぁらぁにぃ、おまけ特典として…」

「刀以外はいらん。なにより貴様に貸しを作りたくない」

「ひっどぉ!ねぇどう思うよ引きこもりドラゴン!こいつ血も涙もないと思わない⁉︎一応同じ組織に所属していた仲間だよ⁉︎」

「自業自得だろう」

 

「……僕に話を振らないでくれないかな。君たちの問題だろう」 

 

ドラゴンはというと、2人が言い争っている間にも仕事をしており、ようやく終えたかと思うと今度はそんなふうに突然言われ困惑していた。

 

 

 

 

 

 

 

〜ナザリック 地表〜

 

「…よし、行こう」

 

ニグレドと少し話し、シグルドたちと一緒にアインズさんたちが来ないよう見張るように厳命しておいた後、準備が終わったので地表まで出る。

私が戦い始めたら周囲の監視に戻るようには言い含めてあるけど。

 

正直、シグルドたちに命じたことがどこまで機能するかも分からない。

あの子達は私の命令とアインズさんの命令が食い違った場合どちらを優先するかもわからないのだから。

 

だから、理想を言うなら即決着させる。無理でもアインズさんが来てしまうまでに、間違ってもアインズさんが負けるなんてことがないレベルまで2人を疲弊させる。

 

何度も何度も深呼吸をしてようやく落ち着いた。

装備、アイテムボックスの中身を4回ほど確認し、自身の装備も何度も見直す。

 

「(ブリュンヒルデの攻撃は大半が神聖属性だから、大体軽減できるはず。1番怖いのはシャルティアのスポイトランスと闇属性の攻撃。全部の属性の耐性を上げてはいるけど完全耐性じゃない。人数不利に加えて私よりもビルドはガチなんだから出し惜しみしている場合じゃない。数少ない回復スキルも惜しみなく使わないと)」

 

10本中9本の指に指輪などの装備をつけ、何度も握って緩める。まだ震えはおさまらないけど、戦えないほどじゃない。

 

「アテナ様?」

 

「ん…ああ、コキュートス。どうしたの?」

 

地表に出ると不意に話しかけられ、横を見るとコキュートスが立ってこちらを見ていた。やば、見られてたかな

 

「…ソノ、アテナ様ノオ顔ガ優レテイナイヨウニ思イマシテ。アテナ様ト言エド、ヤハリアノ2人ヲ相手スルノハ厳シイカト…。アインズ様ト共に、ソシテ守護者ヲ複数人連レテ行ク方ガ良イト思ワレマス」

 

「んーん。これはもう決めたことだから。今更辞めるなんてできないよ。わかるでしょ?仮に私とアインズさんで行ったとして2人とも生きて帰る保証なんてないんだから。…それとも、私たちが両方死ぬ方がいい?」

 

「ッ!イエ!ソノヨウナコトハ決シテ!アインズ様モアテナ様モ慈悲深ク、最後マデナザリックへ残ッテクダサイマシタ!ソレダケデ私達ニトッテドレホド救ワレタカ…。ソンナ私達ヲ救ッテ下サッタ御方ガ、独リ死地ニ成リ得ル場所へ向カウノヲ…」

 

…やっぱり、ナザリックのみんなは優しすぎる。

でも、そんなみんなだからこそ守らなきゃ、ね。

 

「冗談だよコキュートス。みんなが私たちに死んでほしいなんてこれっぽっちも思っていないのはわかってる。みんなと話してて、君たちが至高の御身と敬っている人たち…私にとっても尊敬している人たちがいなくなってどれだけ辛かったか、その辺も聞いてる。だからね…私はハナから死ぬ気なんてないよ。安心して」

 

「デスガ…!……ッ、イエ、申シ訳アリマセン。シモベニアルマジキ態度、オ許シクダサイ」

 

「うん、気にしてないから大丈夫。ありがとう心配してくれて。…それじゃあそろそろいくよ。見ててね。君たちの守護神がみんなを助けるところ」

 

「…アテナ様。今コノ時ダケ、シモベトシテデハナク、1人ノ武人トシテ言ワセテ頂キマス。御武運ヲオ祈リシマス。必ズヤ、コノ地ニオ戻リクダサイ」

 

「もちろん。ありがとう。行ってくるね」

 

コキュートスからの激励を受け取り、転移門の巻物(スクロール)を取り出し使う。

 

 

 

 

さあ、地獄へ行こう。

 

 

 

 

 

〜宝物殿〜

 

「「お帰りなさいませアインズ様」」

 

「……?なぜシグルドがここに?それにアテナさんはどうした」

 

パンドラのいた場所まで戻るとそこにアテナさんはおらず、代わりにシグルドが居た。

それを見て途方もなく嫌な予感がする。

 

「「……」」

 

「なぜ黙る。もう一度聞くぞ。アテナさんは、どうした」

 

「…アテナ様はアインズ様が奥へ向かわれた直後、単独でシャルティア様達の撃破に向かわれました」

 

「「「なっ⁉︎」」」

 

パンドラが語った内容に、俺ではなく横にいたアルベド、ユリ、シズが驚きの声を上げる。

俺は予想通りすぎて逆に冷静になれてしまった。

 

冷静に、だが怒りが込み上げてくる。

 

だけどそれは止めなかったシグルドや1人で行ったアテナさんにではなく、自分自身の不甲斐なさへの怒りだった。

 

「アインズ様、私パンドラズ・アクターはシグルド殿と共に死罪になる覚悟はできております。ですので…我らの願いを聞いていただけないでしょうか」

 

「構わん。述べよ」

 

なぜ止めなかったのか、という怒りは見当違いなのは理解している。

おそらくはアテナさんが強引に1人で向かったのだろうから。

 

そんなアテナさんにも怒りを抱くのも見当違いだ。

なぜなら彼女はナザリックの誰よりも優しく、誰よりもナザリックのみんなを大切にしているのを知っているからだった。

 

彼女はきっと…

 

「パンドラ、ここからは当方が言わせてくれ」

「承知しました」

「アインズ様もよろしいでしょうか」

「うむ」

 

シグルドが一歩前で出てその場に跪く。

 

 

「アインズ様、どうか、どうかお願い致します。アテナ様をお助けください!

アテナ様はお一人で向かわれました。そして我らへ厳命しました。『アインズ様をここから出すな』と。…おそらくは、同胞殺しなどという大罪を背負うのは自分自身だけで良いというお考えなのだと思います。

 

きっとマスターは自らの使命を果たす時、とお思いなのでしょう。私が宝物殿でアテナ様とすれ違った時、そのような目をしておられました。

 

…仮にも『英雄』などという肩書を持つ当方には、その覚悟を侮辱してまで止めることができませんでした。ですがアインズ様なら!どうか…どうかお願い致します…」

 

 

普段の冷静なシグルドからは想像もつかないほど感情の籠った声。

アテナさんの覚悟を侮辱したくない、だけど死んでほしくない。そんな気持ちなのだろう。

 

……

 

「シグルドよ。今一度確認するがそれを私に願うということは、お前はアテナさんの命令に背くと、そういうことか?」

 

「はい」

 

罰する気は微塵もないが念のため確認をするとまっすぐこちらを見ながら頷く。

 

「そうか…。パンドラもか?」

 

「その通りでございます。アインズ様がお戻りになるまでシグルド殿とその事についてずっと話し合っていました。どうするのが最善か、と。その最中、ふと聞いてみたのです。『なぜ命を賭けるのか』と」

 

なぜ命をかけるか…か。

 

「シグルド殿はこう答えました。『己の信じる者、そして敬っている方々の為だ』と。何故そのような考えを持つに至ったかもお聞きしました。

その理由とは、アテナ様とお話をした時シグルド殿もふと聞いたそうなのです。『どのような時に命を賭ければ良いのか』と。するとアテナ様には『自分の覚悟を貫き通す時』と言われたそうです」

 

覚悟を、貫き通す時…。なるほど彼女らしい答えだ。

 

「まさに天明でした。それを聞いた時にはもうすでに覚悟しておりましたが改めてシグルド殿と話し、今がその時だと、覚悟を貫き通す時だと判断致しました。アインズ様。何卒我らが守護神様をお救いくださいませ」

 

奥へ行く前までのオーバーリアクションばかりだったのが嘘のように鳴りを潜め、シグルドと同じく跪き、シグルドと同じ願いを口にする。

 

 

……本当に、何をやってるんですか。こんなにも慕われているのに。

 

 

「面をあげよ」

 

2人が顔をこちらに向けたのを確認し、アルベドの方を見、改めて2人を見る。

 

「これは先ほどアルベドへも伝えたが、元より私はアテナさんと2人でシャルティア達を撃破するつもりだった。

彼女は責任感の強いが故に、今回の騒動は自分の不注意、楽観視が原因だと思っているのだろう。だがそれは私も同じだ。故に今回1番責められるべきはアテナさんでもシャルティア達でもなく数多くの情報を有し、最適な手段を持たせていなかった私だ。

 

それとお前たちの願いがなくともアテナさんの元へ、遅かれ早かれ向かっていただろう。だから私はお前たちの命令違反は私の行動に影響を及ぼしてもいないし私の機嫌を損なうような事ではない。

 

以上の理由を以てお前たちの命令違反は不問とする」

 

2人の表情が驚きに満ちていた。

死ぬ覚悟で意見を伝えたのに、死ぬどころか罰すら与えられないことにひどく困惑していた。

 

「私からは以上だ。パンドラは引き続き宝物殿の守護を、シグルドはアルベドと共にデミウルゴスたちと合流しろ。詳しいことはアルベドに伝えてある」

 

「「ハッ!」」

 

「それとお前たちにも約束しておこう。

 

私達はシャルティアたちを倒し、必ずこの地に戻ってくる。だから安心して待っていろ」

 

 

 

 

 

 

 

「さて…ニグレドにも命令は下したし、他に打てる手は打っておいた。遅くなったけど……アテナさん。後でお説教ですからね」

 

 




次回

守護神VS守護者1位&守護神の子供(半神)

アインズ様は…後1〜2話おやすみです

さぁ頑張るぞ(バトルシーン苦手だけど


読んでくださりありがとうございます
感想や評価をくださると嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。