ぱかプチ!! (フドル)
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ぱかプチ!!

「これで良し……と、直りましたよ!ブルボンさん!」

 

「ありがとうございます。フラワーさん。」

 

 フラワーさんから手渡された私の姿を模したぱかプチを受け取ります。拾った時はかなりボロボロだったはずのぱかプチは私とフラワーさんの時間がある時に少しずつ直していき、今では綺麗な姿を取り戻しました。

 

「それにしても酷いですよね、あんなにボロボロにしてから捨てるなんて……。ブルボンさん、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です。ありがとうございます。」

 

 フラワーさんが私を気遣うように見てくるので心配させないように返事をします。

 このぱかプチは私がお出かけの帰りに捨てられていたものを拾ったものです。ボロボロにされて捨てられていたことにショックが無いと言えば嘘になりますが、今の綺麗な姿を見ると少しだけ気分が和らぎます。

 

「多分オーダーメイドだと思いますけど、だとしたらあんなことなんてしないと思いますし……。」

 

 フラワーさんが一人考察している隣でぱかプチをふにふにします。はみ出したり、汚れた綿を全て入れ替えて一新した身体は従来の製品を遥かに凌ぐほどの触り心地です。

 更にこのぱかプチは着せ替えも出来ます。中の方もかなり精巧に……やめておきましょう。

 きっと大金を出して作ったと思うので本来の持ち主に返したいのですが、あのダンボールに書かれた文字からやはり捨てられたのでしょうか?

 気になることは多いですが取り敢えず今は──。

 

「フラワーさん、そろそろ寝ましょう。」

 

「え?もうそんな時間ですか!?」

 

 ぱかプチの修復に気を取られすぎて寝る時間の目前です。慌てて寝る支度を整えているフラワーさんを横目にぱかプチを一撫でしてからマスターが取ってくれたうさぎ人形の隣に置きます。

 

「それじゃあ、電気を消しますね?」

 

「お願いします。」

 

 カチッとスイッチが切れる音がして、部屋が真っ暗になります。その後にフラワーさんがベッドに入る音がして、疲れていたのか暫くすると寝息が聞こえてきました。

 それを聞いて私も目を閉じると、存外疲れていたのか、すぐに意識が遠のいていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やぁやぁやぁやぁ!オレだよ!転生者だよ!!テンプレ死亡からの神様遭遇テンプレムーブをかましてミホノブルボン姿のぱかプチに転生した転生者とはオレのことさ!

 転生当初は大変だった。ぱかプチの出荷作業中に目覚め、トラックに詰め込まれてから横に転がってきた神様からの手紙でこの世界のこととこの身体は何が出来るのかを知り、前世の思い出に浸りながら今世の飼い主さんのところで生きていくぞ〜、えい、えい、むん!ってやっていたら段差に乗り上げたトラックの振動で外に投げ出された。

 動けるからってトラック内ではしゃいだり、外の景色を見てたオレも悪いと思うけど、当時の心境は凄かったなぁ。

 神様特典のモードチェンジはエネルギーが足りなくて使えなかったから必死にぱかプチ状態で追いかけたっけ……。

 まぁ、ぱかプチがトラックに追いつけるわけも無く、オレはあっという間に一人になった。

 暫く呆然としていたけど、別に買ってもらわなくても拾ってもらえばいいじゃんと当時のオレは簡単に考えていたっけなぁ。

 その日から飼い主探しの旅が始まったんだけど全く上手くいかなかった。誰もオレを拾ってくれないのだ。人を見つけるたびに人形のフリをして待ち構えているのだが、誰も彼も誰かの落とし物かな?となってスルーしてくる。抱き上げてくれる人もいたが埃を払って結局は置いていった。更に運が悪いことにここから警察は遠く、落とし物として届けてくれる人もいなかった。

 それから猫と鳥。動くオレを見つけると襲いかかってくる。ぱかプチ姿でも人間の子どもくらいの力は出るので追い払うことは出来るのだけどそれでも限度がある。

 猫に引っ掛かれ、鳥に攫われかけ、オレの身体はボロボロになった。破れた部分から綿は出るし、泥で身体は汚れるしで大変だ。

 こうなりゃ多少は強引にいくしかないと子どもがいそうなサラリーマンにロックオンして、何度も先回りして拾って作戦を実行したが、最終的には気味悪がられて蹴り飛ばされたからやめた。

 ボロボロになった身体だと更に拾ってくれる人は減り、避けられるレベルになった。一度大きな学校みたいなところにたどり着き、沢山のウマ娘が出入りしているのを目撃したので拾ってくれる子がいるかもしれないと突撃したが清掃員に見つかりかけて慌てて撤退した。

 それから数日が経ち、活動に使えるエネルギーが無くなる直前まで来た時、オレは賭けに出た。ゴミ捨て場に置いてあったダンボールを拾い、丸めて捨ててあった紙とインクの出が悪くなったことで捨てられたペンを使ってある言葉を書き込む。

 文字を書き込んだら人通りがありそうな場所に移動させてから中に入り込み、このまま朽ち果てるのは嫌だなぁと考えながらエネルギー切れによる活動停止状態に移行した。

 

 

 

 そんな藁にもすがるような賭けに、オレは勝った。オレが今座っている棚の左右のベッドで2人のウマ娘が眠っている。そのどちらかがオレを拾ってくれて直してくれたのだろう。

 

(でもまさかオレの元になった子に拾われるとは思わなかったなぁ。)

 

 片側で眠っているウマ娘に目を移すとそのウマ娘はオレと瓜二つだった。

 ミホノブルボン、短距離に適性があり、三冠達成は困難といわれていたが厳しいトレーニングを積むことによって後一歩まで迫ったウマ娘。

 もし彼女がオレを見つけて拾ってくれたとしたら申し訳ない気持ちになる。誰だって自分の姿をしたものがボロボロだったら嫌な気持ちになるだろう。

 そんな彼女たちにオレは何を返せるか、助けてもらったのだから恩返しはしたい。幸いにも新たに綿を入れてもらったことでエネルギーは50%も溜まっている。

 

(一度面を向き合ってお礼を言いたいけど気味悪がられるのは怖いしなぁ……。拒絶されたら立ち直れなさそう。)

 

 考えた結果、一つ案が出た。彼女たちの身の回りの世話をしよう。2人は学生でありアスリートだ。朝や昼は勉学やトレーニングをするはず。当然、トレーニングをすれば汗が出るし、服も洗わなければならない。もしかしたら服を干したり畳む時間がない時もあるかもしれない。

 そこでオレの出番だ。2人が明日へと回した作業をオレが夜のうちに終わらせてあげるのだ。2人は暫くは疑問に思うかもしれないが楽になれば気にしなくなるだろう。

 

(よし、そうと決まれば早速行動……と言いたいけどもうすぐ朝だから明日からにしよう。)

 

 窓を見ると朝日が差し込んでおり、再起動してからかなりの時間考え込んでいたみたいだ。もうすぐ2人が起きてくると思うので違和感がないように、力を抜いてぬいぐるみ状態へと移行した。

 

 

 それから数日、オレは彼女たちを華麗にサポートすることが……出来ていなかった。仕方ないじゃん!2人とも寝る時には洗濯とか全部終わらせているんだから!

 洗濯物が多い日はやっとオレの出番が来たかと目を輝かせて見ていたのに2人とも凄い勢いで畳んでいって寝る時には何も残っていなかった。

 これだと恩返しが出来ないと他に何か出来ることはないかと慌てたが風呂掃除は寮の公衆浴場に行くからする必要が無いし、皿洗いは食堂で食べてくるのでこちらも不要。たまに軽食を作って食べている時もあるが食べてからすぐ片付けているため意味がない。

 ならトイレ掃除を!と思ったが危うくトイレに落ちそうになり、泣く泣く諦めた。

 そんなこともあり、今は静かに靴磨きをしている。それしかすることがなかった。靴の手入れは彼女たちもやっているが頻度はかなり少ない。汚れたらやるって感じだ。なので靴掃除がオレの仕事になっている。

 寝静まった後に動いて少し汚れた靴を磨いて、また定位置に戻る。何度か布団が動く音がしてヒヤッとしたことがあったが特に問題はなかった。

 2人も靴が綺麗になっていることには気付いていないようで、疑問に思うことなく毎日を過ごしている。

 

 そんな日々を過ごしていた時、その時はいきなり来た。

 

「それじゃあ、洗濯物は明日に畳みましょう。」

 

「それがいいでしょう。」

 

 ニシノフラワーがそう言い、ミホノブルボンが了承する。その後、本当に洗濯物を畳まずに2人は眠ってしまった。

 

(来た?オレ出番が来ちゃった!?ひゃっほーい!)

 

 2人がしっかりと眠っているのを確認した後に洗濯物に飛びついてせっせと畳む。畳み方は2人が畳んでいるのを見ていたので大丈夫。意外と量が多かったので大変だったが、その日は充足感を感じながら朝を迎えた。

 あの日からオレの出番が増えた。朝は2人が起きた布団をキレイにして、部屋に掃除機をかける。夜は2人の洗濯物をせっせと畳んで靴を磨く。

 その行為を2人は不思議に思うことはなく、ニシノフラワーが「素敵な子がいるんですね!」というだけだった。その時にチラリとオレを見た気がするが、多分気のせいだろう。

 それから少し気になるのがミホノブルボンが出かける時にいつもなら留守番をうさぎ人形に任せるのだが、あの日からオレにも頼むようになった。

 

「留守番ミッション、任せましたよ。ミホさんにも任せました。」

 

 今日もそう言ってからミホノブルボンが外へと出ていった。ちなみにミホさんとはオレのことだ。安直なネーミングだと思うがオレは気に入っている。

 部屋の外からウマ娘たちの挨拶などの声が完全に聞こえなくなり、静かになってから行動を開始する。

 いつも通りに2人の布団をキレイに畳み、掃除機を取り出す。しかし今日は掃除機をかける前にやることがある。

 2人共有の棚の一番下の段を開け、中から綿が入った袋を取り出す。折り畳まれた袋を開け、中の綿を食べる。そう、綿がオレの主食なのだ。というか綿しか食えない。それ以外は吐いてしまう。

 綿を食べることで綿エネルギーが溜まり、活動することが出来るのだ。更に神様特典のモードチェンジもこの綿エネルギーを使うため、意外と大事なのだ。ついでにいうとエネルギーが溜まれば溜まるほどふわふわでもちもちな触り心地になる。100%状態のオレを枕にしたらもう普通の枕じゃ眠れなくなるぜ!

 一時期はこの綿がなくなったらどうしようと夜中に細々と食べながら戦々恐々していたが、ニシノフラワーが定期的に補充してくれているので安心して食べられる。置いてある場所も何故か取りづらい三段目から一番下の段に移ったので更に嬉しい。

 食事が済んだので、掃除機の近くにまた移動した後、身体に力を込める。暫くするとボフンという音がなり、閉じていた目を開けると視界が高くなっている。

 これがモードチェンジ。最近になって安定したエネルギー補給が出来るようになったので使えるようになった。初期がぱかプチモードで次が子どもモード。最後にリアルモードだ。初期のぱかプチモード以外はエネルギーの消費が大きく、長時間は使えないが掃除機をかけるぐらいなら大丈夫だ。

 子どもモードのまま出来るだけ小さな音で鼻歌を歌いながら掃除機をかける。一度普通に歌いながら掃除機をかけていたらママを名乗る不審者がドアを叩いてきたのでとても怖かった。

 あの時の恐怖を思い出しながら掃除機をかけ終わると、次にトイレ掃除を行う。子どもモードならトイレ掃除だって簡単なのだ。

 それが終われば夜まで待機だ。おやつの綿をむしゃむしゃ食べながら2人が帰ってくるのを待つ。

 人によってはただ待つのは苦痛かもしれないが、幸いにもオレはそういうことはない。更にこの部屋の窓からはトレーニングをしているウマ娘たちが見えるため、暇になったことはなかった。

 そうしてボーっと待っていると2人が帰ってくる。それから寝る時間まで2人の会話を聞くのがオレの日課だ。

 

 

 

 

(よし、2人とも眠ったな。それじゃあ早速お仕事お仕事〜。)

 

 それから更に数日が経った夜のこと。いつものように2人が寝静まった頃に棚から飛び降りて洗濯物を目指して歩き出すが、その途中で身体が浮き上がる。

 とうとうオレは浮遊術を獲得してしまったか?手足をバタつかせながら試しに前に進めと念じてみるとその通りに前へと進む。

 

(おおっ!何これすごい!!)

 

 このまま暫く楽しんでいたいが、洗濯物を畳むのが先だ。遊ぶのはその後でいいだろう。

 スーッと前に進むことに興奮しながら洗濯物の近くにたどり着き、降りてと念じるが降りない。洗濯物を乗り越えて前に進む事態にクエスチョンマークを浮かべながら何度も降りてと念じているとカチッと音がして部屋が明るくなった。

 

「ふふっ、捕まえちゃいました!」

 

 頭上から聞こえてきた声に硬直する。恐る恐る後ろを向けばオレを笑顔で見つめているニシノフラワーがいた。

 その手はがっしりとオレを掴み上げており、オレが浮遊術だと思っていたのは、ただ単にニシノフラワーに持ち運ばれていただけだった。

 

(全然気付かなかった!)

 

 掴まれていながら気付かないとかある?と言われそうだがこの身体になってからは感情が些細なことで上下するので掴まれた感触に対する疑問よりか浮遊したことによる興奮の方が上回ったんだろう。

 

「ブルボンさん!捕まえました!」

 

 冷や汗をダラダラ流していると、ニシノフラワーがミホノブルボンに呼びかける。すると寝ていたと思っていたミホノブルボンがすぐに起き上がり、オレのことをジロリと見つめてくる。

 

(ふ、2人とも狸寝入りをしていたってこと!?)

 

 ど、どうしよう!?あわあわと慌てているオレを他所に状況が進む。いつの間にかベッドに移動したニシノフラワーの膝に乗せられてオレの目の前にはミホノブルボンがいる。

 

「洗濯物を畳んでくれたのはミホさんですか?」

 

 頭上からニシノフラワーが質問してくるがそれどころではない。オレの頭にはさまざまな考えが浮かんでは消えていた。

 まずは拾って直してくれた感謝?それとも一度ここから逃げる?そういえばニシノフラワーってアグネスタキオンと仲が良かったよね?差し出されないように懇願するのが先?

 そんな考えが浮かび、この身体はその時の感情をしっかりと顔に出す。表情がコロコロ変わり、頭に熱がたまる。それに慌てて別の考えをすれば、その感情を顔に出して、更に熱がたまる。それを繰り返すことでやがて限界が来て──。

 

「…………キュウ。」

 

「……気絶、しましたね。」

 

「えぇ!?し、しっかりしてください!?」




オリ主(ぱかプチの姿)……この後、キチンとお礼を言った。人形に転生した影響か、感情表現を全身を使って行う。誰彼構わず抱きついたりするため、人によってはかなりヒヤヒヤする。感情もかなり表情に出る。他所から見れば感情表現が激しいミホノブルボン。
綿エネルギーという未知のエネルギー器官を持っており、そこに溜まったエネルギーを使って活動を行う。エネルギーがたまるほど触り心地が良くなり、100%時にアドマイヤベガに捕まると離して貰えなくなる……らしい。
 外に一緒に出かける時はストラップみたいにくっついて出かける。作中では一度も話していないが、しっかりと声を出すことは出来る。

ぱかプチモード……通常モード。こんな形だがしっかりと力はある。エネルギーを使えばウマ娘並みのパワーを出せるので物運びの時は頼ってほしい。しかし小さいのでトイレ掃除などは苦手。

子どもモード……ウマ娘の平均身長の腰ぐらいの大きさになる。子ども版ミホノブルボン。身長が必要な時に使用する。この形態の時は常時エネルギーを使用するため、長時間は使用できない。

リアルモード……ミホノブルボンそっくりになる。しかし感情表現などは全力で行うし、嬉しい時は普通に抱きついてくる。男性トレーナーは内なる自分との勝負が始まる。
 レースを行う時に使用する。エネルギー消費がかなり激しく、一回しかレースを行うことが出来ない。人形なので体力という概念がなく、エネルギーがある限り常に全力疾走で逃げを行うし、ちゃっかり固有スキルも持っている。

ニシノフラワー……オリ主が動いていることはかなり早い段階で気付いていた。最初はタキオンに相談しようとしていたが、懸命に靴磨きをしているオリ主の姿を見てもう少し様子を見てみることにした。
 洗濯物を畳んでいる時にオリ主の目が輝いていることに気付き、家事が好きな子なのかなと判断。綿を食べていることを知り、補充や取りやすいように場所を変えたりもした。
 家事の手伝いをしてくれたお礼をしようと捕獲。持ち上げた時にオリ主が興奮気味に手足をバタバタさせていたのにほっこりした。しかしその後オリ主が気絶してビックリした。この後は2人で家事をする仲になる。

ミホノブルボン……救世主。自分の姿をしたオリ主を拾って直した。自分の姿を模したぱかプチが捨てられたことに密かにショックを受けていたが、オリ主から話を聞いて捨てられた訳ではないと知った。
 ニシノフラワーからオリ主が動いていることを聞いてからうさぎ人形と一緒に留守番を任せるようになった。
 オリ主からの提案で誰もいない時だけ併走をする関係になる予定。エネルギーが切れた?はい、新しい綿です。食べたらまた走りましょう。

 思いついたから書いたけど続きを何も考えていない……。


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ペットと言いながらぱかプチを出されると困惑するよね?

評価にビックリしました。ありがとうございます。


「──と、いう訳です。」

 

「そうだったんですか……。大変でしたね。」

 

 気絶から目覚めた後、オレを見つめていた2人にヒェッとなったがなんとか踏み留まり、今までの経緯を説明した。

 オレの今までをニシノフラワーは同情してくれているのか、頭を撫でてくれている。

 説明の途中で拾ってくれたのがミホノブルボンということを知り、気分を悪くして申し訳ないと謝れば、ミホさんのせいではありませんと言ってくれた。

 

「それはそうとして、ミホさんはどのような扱いにすればいいのでしょうか?」

 

 オレを撫でながらニシノフラワーが悩む仕草をする。何故悩んでいるかというと、オレという存在は無機物か生物のどちらに分類されるかということらしい。

 ぱかプチなので人形、つまり無機物といえれば話が早いのだが、生憎オレは自由に動くし話すことも出来る。エネルギーを使えば人肌くらいの熱を出すくらいは出来るので生物だと思う人もいるかも知れない。

 個人的には細胞分裂とかしないので生物の定義からは離れており、ただの動く意思ある人形だと思うのだが、そこら辺は難しい話なので空の彼方にでも放り投げておこう。

 ここでニシノフラワーが悩んでいるのは、オレを人形としてそのままにするか、生物として寮長に報告するかということだ。

 ニシノフラワーが言うには、生物だと判断されたら学園や寮の規則に引っかかって、ここに住めないかも知れないし、動くところを見られるとトラブルに発展するかも知れないとのこと。逆に寮長から許可が出れば部屋の中限定かも知れないが、来訪者を気にせずに活動出来るし、活動中に何も知らないウマ娘に見つかって報告されても追い出されることは無くなるとのこと。

 難しい話でオレもミホノブルボンも口をポカンと開いて聞くしかなかったが、頑張って解釈した感じだとトップが知っていることで無用なトラブルを避けられるということでいいのだろうか?

 

「えっと、取り敢えずオレのことを報告していらないトラブルの芽は潰そうってことでいいの?」

 

「それでいいと思います。ブルボンさんもそれでいいですか?」

 

「…………?はい、それでいいと思います。」

 

 よく分かってなさそうな顔をしていたが、頷いているのでしっかり理解しているんだろう。むぅ、あまり表情に出ないから分かりにくいな。よく見ておかないと……。

 

「今日はもう遅いですし、明日に報告しに行きましょう。」

 

「じゃあオレは洗濯物を畳んでおくから2人は早く寝ておいてね。」

 

 問題は解決したようなので膝から飛び降りて洗濯物に向かうがまた浮かび上がる。今度は種も仕掛けも分かっているので後ろを振り向くと、少し怒ったような顔をしたニシノフラワーがオレを見ていた。

 

「ミホさん、メッ!ですよ。こうして私たちに見つかった以上、1人だけでやらせる訳にはいきません!ほら、一緒に寝ますよ?」

 

「え?だってほらオレは寝る必要はないから問題ないよって……あ、待って!布団に引き摺り込まないで!洗濯物〜、洗濯物〜!」

 

 手足をバタつかせて抵抗するがエネルギー使用なしのぱかプチの力で勝てるわけもなく、抵抗虚しく布団に引き摺り込まれ、この日は終了した。

 

 

 

 翌日、日が高く登った頃。オレたちは寮長室の前へとやって来ていた。今日はミホノブルボンも珍しくトレーニングが休みだったようで、2人一緒だ。

 寮長であるフジキセキがいるか分からなかったが、さっき別のウマ娘が寮長室から出て来たのを見たので、恐らくいると思う。

 

「すみません、フジキセキさん。ニシノフラワーです。」

 

 扉の前でニシノフラワーが呼び掛ける。この寮は防音機能があまりよろしくないとのことなので、これで多分聞こえているはずだ。

 

「おや、ポニーちゃんたち。どうしたのかな?」

 

「実は相談があって……。」

 

「……どうやら長い話のようだね、部屋で話そうか。どうぞ。」

 

 2人の表情から話が長くなると察したフジキセキが部屋へと2人を招き入れる。2人も特に異存はないようで、招かれるまま部屋に入っていく。

 

「それで、相談とは何かな?」

 

 綺麗な部屋で3人分のお茶を用意してからフジキセキが2人に用件を聞いた。2人は顔を見合わせた後、ニシノフラワーが少し緊張を滲ませながら用件を話し始める。

 

「実は、私たちの部屋でペットを飼いたくて……。」

 

「ペット?この寮は原則ペットは禁止なのは知っているよね?」

 

「はい、ですが行く宛もなさそうなので私たちで世話を見ようと考えました。」

 

 交互に話す2人の内容にフジキセキは難色を示す。まぁ、ペット禁止って言っているのにペットを飼いたいと言われると困るよね。

 因みにここに来る前にオレのことはペット呼びにする様にお願いした。2人ともかなり難色を示したが、オレを人扱いしたら寮長は絶対困惑すると思うって言えば渋々納得してくれた。

 こんな人形でも人扱いしてくれることに喜び、今にも暴れ狂おうとしている尻尾を必死に押さえているうちに話が進展している。

 かなり悩んでいたようだが、ニシノフラワーやミホノブルボンの普段の行いから問題は起こさないだろうと判断したのか許可を出してくれたようだ。

 それが嬉しいのかニシノフラワーはにっこりと笑っている。ミホノブルボンも表情は分かりにくいが口角が少し上がっているので嬉しいようだ。

 

「それじゃあ、許可証を出すからそのペットを連れて来て欲しいな。」

 

「あ、実はもう連れて来ているんです。」

 

「………本当かい?私から見えないということはハムスターみたいな小さい子なのかな?それともそのぱかプチがペットなのかな?なんて──」

 

「はい!この子が私たちのペットです!名前はミホさんと言います!」

 

 ニシノフラワーがずっと胸に抱いていたぱかプチ。つまりオレをずいっとフジキセキの前に差し出す。

 差し出された当のウマ娘は冗談だと思っていたことが的中していたことに流石に困惑したような顔をするが、それは一瞬だけですぐに微笑んだ。

 

「そ、そうなんだね。それじゃあ許可証と登録用紙を持ってくるからちょっと待っててね?」

 

 少しギクシャクとした動きでフジキセキが部屋から出ていった。どんな動物が出てくるのかと思っていたら人形がバーンと出て来て面食らった感じなのかな?

 てっきり書類も部屋の中にあると思っていたが、大切な書類なのか別のところに保管されているようだ。

 

「はぁ〜、良かったです。なんとか許可を貰えそうですね!」

 

「えぇ、安心しました。」

 

 2人とも許可が貰えることにホッと息を吐いている。オレも許可が出て一安心だ。押さえておく必要がなくなったので尻尾をブンブンと動かしながらニシノフラワーに離してもらい、机の上に乗って2人を見上げる。

 

「そういえばオレってフジキセキさんの前で動いてなかったけど、登録前に自己紹介はしておいた方がいいよね?」

 

 多分、フジキセキはオレのことをただのぱかプチだと思ってそうだし。

 

「そうですね、ならフジキセキさんが帰ってきたら自己紹介をしちゃいましょうか。」

 

 それからオレの尻尾が落ち着いてきた頃。猫じゃらしみたいな感じでミホノブルボンの指に飛びついて遊んでいるとフジキセキが書類を持って帰ってきた。

 

「ポニーちゃんたち、書類を持ってきたからサインを……。」

 

 部屋に帰ってくるなりフジキセキが硬直する。その目線はミホノブルボンの指に甘噛みしているオレに固定されている。

 

「初めまして!オレはミホさんと言うんだ!よろしく!」

 

「……あぁ、よろしく頼むよ。いや、驚いたね。まさかぱかプチが動くなんて……。」

 

 オレもビックリ。もっと驚くかと思ったのに表情を見る限り全然驚いているようには見えない。そんなオレの顔を見てフジキセキが微笑む。

 

「ここの寮長をやっていると色々耐性がついてね。流石にぱかプチが意思を持って動くのは初めて見るけどね。」

 

 確かにここの寮長なら耐性が出来そう。アグネスのヤバイのとか普段からやらかしていそうなウマ娘がいるはずだし。

 

「おっと、私としたことがミホさんちゃんにお茶を出すのを忘れていたね。淹れてくるから少し待っててね。」

 

「あ、大丈夫だよ。オレは人形だからお茶なんて入れたら中身がビチャビチャになる。」

 

 フジキセキがお茶を淹れに行こうとするのを止める。オレの体内に水なんて入れたら中の綿がベチャベチャになって動きに支障が出ちゃう。子どもモードやリアルモードならまだしもぱかプチモード中はダメだ。

 一応エネルギーを使って濡れたそばから乾かすってことも出来るけど瞬時に乾かす熱量なんてリアルモードもビックリのエネルギー消費量だよ。もし実行すればお茶を飲み終わったと同時にエネルギー切れで活動停止だ。

 

「そうなのかい?ごめんね、嫌な気分にさせちゃったかな?」

 

「いや、全然。むしろその気遣いがとっても嬉しい。」

 

 申し訳なさそうな顔をするフジキセキに食い気味に否定する。オレにもお茶を出そうとしてくれるだけでも嬉しいぞ。

 なんならミホノブルボンに拾われる前の人たちを見てるからオレに何かしようとしてくれるだけですっごく嬉しい。

 オレの嬉しいと思っている感情は身体にも出ている。尻尾はブンブン動いているし、頬も少し熱いから多分紅潮している。

 そんなオレを見たフジキセキはクスッと笑った後にオレの頭を撫でてくる。ふむ、子どもを撫で慣れている優しい感じだ。気持ちいい。

 暫くオレを撫でた後、フジキセキがニシノフラワーに向き直って書類を差し出す。覗き込んでみるがオレに手伝えることは無さそうなのでミホノブルボンと猫じゃらしならぬ指じゃらしで再び遊ぶことにした。

 

 

 

「うん、これで登録は出来たよ。」

 

 それから数分後、なかなか指を捕まえることが出来ずにオレの頬が膨らんできたぐらいで登録が終わったみたい。

 フジキセキから諸注意なども聞いたが気にしないといけないのはオレが部屋の外に出る時はニシノフラワーかミホノブルボンのどちらかがそばにいることぐらいだ。

 ペットを禁止している割には緩すぎる注意に思わず疑問顔をしてしまったが、フジキセキからオレは意思疎通が出来るからこれだけにしていると言われて納得した。

 その後は特に用がないので帰ろうとしたがフジキセキからお茶のお詫びだとマジックを見せてくれた。

 なんていうか、凄かった。常に尻尾はブンブンしてたと思うし後からニシノフラワーに目もキラキラしていたと教えられた。でも誰だって何もないところからシルクハットとか花とか出てきたら興奮しない?オレはする。ていうかした。

 

 

 

 

 

 

 

 登録が済んでから数日後、特に変わったことはなく、強いて言うなら2人に子どもモードがバレた。

 いつものように掃除機を子どもモードでかけていた時に忘れ物を取りに来たニシノフラワーとバッタリ遭遇したって感じでバレた。

 知らない子どもブルボンが自室にいてニシノフラワーが慌てる……前に子どもモードのオレが見てられないレベルで慌てたため逆に冷静になったニシノフラワーがオレを落ち着かせるという訳がわからない展開になった。

 落ち着いた後にモードチェンジの話を聞いたニシノフラワーの最初の発言は凄いですね!で済んだ。………この子ちょっと凄くない?凄いよね?ぱかプチサイズが子どもサイズにまで大きくなってるのにそれだけで済ますって絶対大物になるよ。

 ニシノフラワーにバレたのにミホノブルボンだけに隠すのも良くないと思って帰ってきてから子どもモードをお披露目したら「……成長期ですか。」と言われた。ちょっとズレてる!でもそこがいい!!

 まぁ、こんな感じで2人ともモードチェンジのことは受け入れてくれた。拒絶されなくて良かったよぉ……。

 その時のことを思い出してホッと息を吐きながら2人と一緒に洗濯物を畳んでいく。2人ともオレの存在を知ったから洗濯物とかはみんなですることになった。オレ個人としては作業はオレに任せて2人は休んでおいてほしい所だが2人から自分のものをミホさんに任せて休むなんて出来ないと言われて渋々3人ですることになった。

 

「これで終わり!ねぇ、ブルボン!アレやって!アレ!」

 

「アレ……ですか。いいでしょう、ミホさん号、発進します。」

 

「キャー!!!」

 

 洗濯物を畳み終わったのでミホノブルボンにあるものをねだる。腕を上げてぴょんぴょんするオレを見てミホノブルボンは快諾。オレの腋に手を入れて持ち上げてくれる。

 身体が急上昇し、思わず手をバタつかせて声を出す。俗にいう高い高いだ。ニシノフラワーに持ち上げられた時に楽しかった思い出があったのでミホノブルボンに頼んでみたらとても楽しかった。なので時間がある時はたまにこうやってねだっている。

 高い高いをしながらミホノブルボンが部屋の中を歩き回る。持ち上げられているオレは本当に飛んでいるような感じで、楽しさからずっと声を出している。そんなオレたちをニシノフラワーが微笑ましげに見ている。

 

「ほら、2人とも。そろそろ消灯の時間ですよ。」

 

「分かりました。ミホさん号、着陸します。」

 

「ありがとう!ブルボン。すっごく楽しかった!」

 

 暫く遊んでいるとニシノフラワーから眠る催促が来たので、ミホノブルボンに降ろしてもらって定位置の棚の上によじ登っていると横から手が伸びてきて布団の中に引き摺り込まれる。

 

「ダメですよ、ミホさん。寝る時は私かブルボンさんと一緒に寝ると決まりましたよね?」

 

「うっ、まだちょっと慣れなくて……。」

 

 オレが捕まった日から決まったことだが未だに慣れない。うっかり疑似的にエネルギー供給を断てば眠ることができると口を滑らせたことがダメだったか……。いや、それを言わなくても結果的にこうなってそうだし今更か。

 

「電気消灯、お休みなさい。」

 

「はい、お休みなさい。」

 

 部屋の電気が消えて部屋が暗くなる。暫くすると寝息が聞こえてくる。抜け出して靴磨きをしたいところだが、身体はしっかりとニシノフラワーに抱きしめられており、抜け出せそうにない。

 それでも悪い気は全くなく、むしろ安心感を感じる。オレを抱きしめるニシノフラワーを撫でた後、エネルギー供給を断って意識を落とした。




オリ主……自分の名前を本気で『ミホさん』だと思っている。正式名は『ミホ』
 拾われるまでの経緯から自分に何かをしてくれるだけでもすっごく嬉しい。高い高いがお気に入り。
 思考も若干子供よりになっており、食べ物とかで釣られないかと心配されているが綿しか食べることが出来ないので心配ない。
 2人が寝ている間は動けないので子どもモードやリアルモードになった時に足りない質量ってどこから来てどうなっているんだろ?と考えたがすぐに背後に宇宙が広がった気がするので考えるのをやめた。宇宙ネコならぬ宇宙ブルボン。
 子どもモード時にエネルギーが溜まっていると身体の触り心地も良いが太ももの感触がとても良くなる。リアルモードだと更に良くなる。膝枕をされた男性トレーナーは(ry)
 たまに子どもモードで一緒に寝ている。

ニシノフラワー……子どもオリ主と遭遇した時はえ?ブルボンさん?と困惑したが、その後すぐにオリ主が泣きそうな顔で慌て始めたので急いで落ち着かせた。
 子どもモードを知ってからお姉さんみたいな接し方になる。オリ主が自分の名前をミホさんだと思っていたことを知ったので後でキチンと教えた。

ミホノブルボン……子どもモードを見た時、一瞬思考が停止した。が、その後のオリ主の上目遣いで復活した。妹がいたらこんな感じなのでしょうか?
 指じゃらしを思いついて試してみると思いの外楽しかった。高い高いをしてあげると見て分かるレベルでオリ主が喜ぶのでホッコリする。
 フジキセキに許可を取りに行く時、トレーナーにトレーニングを休むと言っていた。本気で体調を心配された。
 子どもモードのオリ主と抱き合って寝ている姿は姉妹にしか見えない。

フジキセキ……色々ビックリしたがいきなり部屋の一室を爆発させるタキオンよりはマシ。オリ主が自分で言った名前と書類の名前が少し違うことに疑問を覚えたが後でニシノフラワーから聞いて納得する。寮で物運びなどの簡単な手伝いが必要な時はオリ主の手を借りたりする予定。

一般通過デジたん……はっ!?あちらの方向から姉妹が戯れる様な素晴らしい気配がしました!!

時空はアプリよりにすることにしたけどストーリーどうしようかな……。日常ものにするとしても多少はストーリーを入れたほうがいいと思うしなぁ。


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小さい子が興奮していると周りをよく見ていない合図。

誤字脱字報告ありがとうございます。

夏イベントの配布?サポートカードをやっと集め終わったので投稿。


「勝負だ!ブルボン!」

 

「戦闘モードに移行。いつでもいいですよ。」

 

 自室でミホノブルボンと正座をしながら向かい合う。勝負ということでミホノブルボンの顔は真剣そのもの。ふっ、そうこなくちゃね!

 

「いくよ!に〜らめっこしっましょ!笑うと負けよ?あっぷっぷ!」

 

 言い終わると同時に息を吸い込んで頬を思いっきり膨らせる。その状態でミホノブルボンを見てみるが全く動じず無表情のままだ。

 ならばと両手で頬を挟んで潰してみる。含んでいた空気が間抜けな音と共に口から漏れ、その音にオレがクスッと笑いそうになる。

 

(流石のブルボンでもこれなら笑う……無表情!?)

 

 勝ちを確信出来るレベルだと思ったのに全然動じていない。い、いや、まだ手はある。にらめっこが得意というミホノブルボンに勝つために特に必要のない睡眠時間を削ってまで色々考えたんだ。今まではウォーミングアップ。つまりここからが本番だ!

 

「あ、フジキセキさん。どうかされましたか?」

 

「いや、少しお願いがあって来たんだけどね?ポニーちゃんたちは何をしているんだい?」

 

「にらめっこみたいですよ?ブルボンさんが得意っていうのをミホさんが知って……って感じです。」

 

「成程。それでフラワーは何をしているのかな?」

 

「これですか?ミホさんの服を作っています。どうですか?」

 

「良く出来ているね。素晴らしいよ。」

 

「そうですか。えへへ……。」

 

 潰していた頬を今度は伸ばす。それでダメなら目元を指で引っ張る。それでダメならと考えていたものを全て試してみるがミホノブルボンはピクリとも反応しない。

 

「ふぅ、ふぅ、まさかここまでなんて思ってなかった。だけどこれならどうだ!」

 

 立ち上がってミホノブルボンにしがみ付く。これをくらえばたとえミホノブルボンでも笑うことだろう。にらめっこ界では禁忌とされる技を今ここで使う!

 ミホノブルボンの横腹をくすぐる。ふふっ、卑怯だと言いたいなら言えばいいさ!勝てば官軍だよ!

 くすぐりながら勝利宣言をするために笑っているであろうミホノブルボンの顔を見るがそこにあったのは全くの無表情だ。オレでも予想外の出来事に思わずくすぐりを止めてしまう。

 

(もしかしてブルボンって横腹のくすぐりは効かないタイプ?な、なら腋をくすぐれば……。)

 

 ただここからだとミホノブルボンの腋には届かない。どうしたものかと考えているとオレの次の狙いに気付いたのかミホノブルボンがオレを掴んで自身の腋へと近付ける。

 まさかと思い恐る恐るくすぐってみると案の定、反応はない。

 

(こっちも効かない……だと?いや、落ち着くんだ、オレ。まだ出来ることはあるはず!)

 

 思いついていた技は全て使ってしまったがまだやれることはあるはず。あ、そうだ。足の裏とかどうだろう?あそこなら誰でも効くでしょ。

 そうと決まればとミホノブルボンの手をテシテシ叩いて降ろしてアピールをするが床には降ろされずに膝の上に仰向けで寝かされる。オレの両腕もバンザイポーズでミホノブルボンの片手に掴まれており、不思議に思ってミホノブルボンを見てみると残った片手をワキワキさせながらオレを見下ろしているミホノブルボンがいた。

 

「あ、あの……ブルボン?」

 

「万策尽きたと判断しました。反撃を開始します。」

 

「え?ちょっと待って!まだ一つ!まだ一つあるっキャハハハハハ!!!待って!ブルボン!降参!降参しますぅ!」

 

 ミホノブルボンが残った片手でオレをくすぐる。くすぐったくて笑いながら降参するがミホノブルボンは止まらない。なら逃げるしかないのだが両腕を拘束されているため逃げられない。甘んじてミホノブルボンのくすぐりを受け続けるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゅー、ひゅー、も、もうブルボンとにらめっこはしない……。いや、やっぱり悔しいからやる。」

 

 あの後、笑いに笑わされ、笑い疲れてきたぐらいでやっと解放された。エネルギーがある限り疲れないはずなのに気持ちの疲れと体力の疲れは別みたいだ。多分数ヶ月分ぐらい笑ったと思う。くすぐりからなんとか逃げようと身を捩ったりしたため衣服が乱れているが直す余裕もない。こ、これが敗北者の定めか……!

 

「おや、フジキセキさん。来ていたのですか。」

 

「お邪魔しているよ。勝利おめでとう。」

 

「ありがとうございます。」

 

 ミホノブルボンの膝の上で息を整えていると部屋の入り口辺りにフジキセキがいることに気付いた。口振り的にオレとミホノブルボンの勝負を見ていたのだろう。

 

「そういえばフジキセキさんはお願いがあるって言ってましたけど、どんな用事なんですか?」

 

「あ、そうだね。可愛い勝負を見ていたから忘れるところだったよ。」

 

「むむっ、なら今度はフジキセキさんがオレと勝負だ!」

 

「おや、勇ましいポニーちゃんだね。ほら、このお花をあげるよ。」

 

「え?いいの?わーい!フラワー!ブルボン!お花をもらった!!」

 

「よかったですね。ですがお礼はしっかり言いましょう。」

 

「うん!ありがとう!!」

 

 フジキセキに勝負を挑んだことを忘れて花をもらった嬉しさからミホノブルボンに飛びつく。そのまま頭を撫でてもらっているとニシノフラワーからお礼を言っていないと言われたのでフジキセキに笑顔でお礼を言う。そんなオレの姿にフジキセキは少し苦笑いをしている。

 

「ちょっとこの子のことが心配になってきたよ。外で目を離しちゃダメだよ?」

 

「私も心配になってきました。外だと手を繋いだ方がいいかもしれませんね。」

 

 後ろで2人が話しているがそんなことよりこの花はどこに飾ろうか?花瓶ってあったっけ?それとも押し花の栞を作ってニシノフラワーたちにプレゼントするのもいいかもしれない。

 

「おっと、また話が脱線するところだった。このままだとまた脱線しそうだし先にお願いを言っておくね?明日、ミホちゃんを借りてもいいかな?」

 

「ミホさんを?何かあったのですか?」

 

「ちょっと明日に備品が色々と届く予定でね?それだけだったら私だけでもどうにかなるんだけど他にも予定が重なっちゃって……。トレーナーさんに無茶はしないって約束したばっかりだから誰かの手を借りたいと思ったんだけどその時間帯はみんなトレーニングをしているから頼みづらくてね。」

 

「それでミホさんというわけですか。」

 

「お願い出来ないかな?でも強制はしないよ。嫌なら嫌って言ってくれた方がいいかな。」

 

 そう言ってフジキセキがオレのことを見つめてくる。途中から話を聞いていたけど要するに荷物運びを手伝って欲しいっていうことだよね。ならオレの答えはもちろん。

 

「いいよ!手伝う!お花貰ったからね!」

 

「そういう意味で渡した訳じゃないんだけど…‥。「でも手伝う!」……ふふっ、ありがとう。それじゃあ明日荷物が届いたら迎えに行くね?」

 

「うん!任せろ!」

 

 胸を張るオレを一撫ですると明日はお願いするねと言いながらフジキセキは部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いるかい?ポニーちゃん。」

 

「いるよー!鍵は開いているから入って来てー!」

 

 翌日、やることが終わったのでいつも通りにウマ娘たちのトレーニングを窓から眺めていると、部屋の扉がノックされてフジキセキの声が聴こえてくる。

 モードチェンジをしないとオレではドアを開くことは出来ないので、フジキセキには前もって返事があれば入って来てもらうようにしている。

 

「今日はよろしく頼むね?」

 

「ドーンと任せて!」

 

 部屋に入って来てオレを持ち上げて再度お願いするフジキセキに昨日と同じように胸を張って返事をする。

 そんなオレを見てフジキセキは微笑みながら頼りになるねと言ってオレを胸に抱いて移動を始めた。

 

「全然ウマ娘がいないね?」

 

「この時間帯はみんなトレーニングだからね。トレーナーがいない子でもまだ学園の方にいるからいつもこんな感じだよ。」

 

 念の為、力を抜いてぬいぐるみ状態でフジキセキに抱かれて歩いているが、本当にウマ娘がいなくてシーンとしている。

 ニシノフラワーたちと歩いていた時の賑やかさが一転して静まり返っており、なんだか不気味さすら感じる。

 

「ポニーちゃんは私たちとは見える景色が違うから感じかたも違うのかもしれないね。よし、着いたよ。」

 

 フジキセキの案内で辿り着いた場所には沢山のダンボールが積まれていた。ぱかプチ視線ではまるで山のように巨大で、確かに誰かの手を借りた方がいいと思える量だ。

 

「ポニーちゃんは備品の仕分けをして貰えないかな?寮宛の備品はここで、他のポニーちゃんたち宛に届いた荷物はここ。食材などはここに置いて欲しいな。」

 

「はーい!」

 

 置く場所を指定してもらったのでダンボールに近付き、貼り付けてあるラベルを確認してそれぞれの場所に振り分けていく。中には少し重い荷物もあるが、その時はエネルギーを使ってウマ娘並みの力にすれば問題無しだ。

 

「フジキセキさーん!個人宛の食材ってどっち〜?」

 

「それはポニーちゃん宛のところで大丈夫だよ。」

 

 時々置く場所が分からないものが出てくるので別作業をやっているフジキセキに確認を取りながら進めていく。

 滞りなく作業は進み、作業開始から1時間くらいで荷物の仕分けが終わった。

 

「終わったよ!」

 

「ありがとう。それじゃあ今度は運んでいこうか。私の後ろからついて来て欲しいな。」

 

 仕分け終わった荷物を持ち上げてフジキセキが歩いていくのでオレも荷物を持ってついていく。最初は持つ荷物が一つだけだったが、フジキセキが2つ持っているのを見て真似しようとしたが、止められた。

 力はあるから大丈夫と言ったがポニーちゃんに極力危ない真似はさせないし、もしさせてしまうと2人に顔向けが出来ないとウインクされて言われてしまえば何も言えない。だけどなんか悔しいので頭を撫でてもらった。

 どんどんと荷物を運んでいき、山のように見えたダンボールはあっという間に減っていき、仕分けた時よりも速い時間でその姿を消した。

 

「ふぅ、終わったね。いつもよりかなり速い時間で終わったよ。ありがとうね。」

 

「これくらいならお茶の子さいさいだよ!」

 

 フジキセキの自室で頭を撫でてもらいながらドヤ顔をお見舞いする。フンスフンスしながらフジキセキを見てみると嬉しそうな顔をしている。

 

「ポニーちゃんのお陰で次の予定まで時間が空いたよ。このままお礼を言ってさよならというのも味気ないし、何か私に出来ることはないかな?」

 

「ならマジックを見たい!まだ見てないやつ!!」

 

「まだ見てないやつ……か。ちょっと待っててね?」

 

 フジキセキが棚を開けて少し悩む仕草をする。その後ろ姿を見ていると紙コップを持ってオレの方に戻ってきた。

 

「さて、ここにあるのは3つの紙コップ。この紙コップに急に現れたビー玉を一つ入れます。」

 

 オレに紙コップの中身を見せた後に何処からともなくビー玉を取り出して逆さまに置いた紙コップの一つに入れる。そして紙コップを振って中にビー玉があることをアピールする。

 ビー玉が何もないはずの手の中から現れたことに既に興奮しているが尻尾を振るだけで我慢してビー玉が入った紙コップを見つめる。

 オレが紙コップを注視しているのを確認したのかフジキセキがゆっくりと紙コップをシャッフルしていく。その動きはどんどん速く、複雑になってくるが、エネルギーを使って動体視力を上げることで見失うことなくビー玉入りの紙コップを追いかける。

 音でも分かると思っていたが、特殊な動かし方をしているのか最初からビー玉が転がる音が聞こえてこない。

 

「さぁ、お好きな紙コップをどうぞ?」

 

 やがてシャッフルが終わり、フジキセキが手を広げてオレに選択を委ねる。

 

「ふっふっふ、オレを舐めちゃいけないよ!正解はこれだぁ!……あれぇ!?無い!!なんでぇ!?」

 

 ドヤ顔でビー玉があるはずの紙コップを持ち上げたがそこにはハズレと書かれた紙が入っていただけだった。フジキセキを見つめると頷いてきたので残りの2つも持ち上げてみたがどっちにも入っていなかった。

 

「え?ビー玉は何処にいったの!?」

 

「ふふっ、ビー玉はね、ここにあるよ。」

 

 フジキセキが微笑みながらオレの頭上に手を伸ばし、何かを掴む仕草をした後に手を引っ込めると、そこには紙コップに入っていたはずのビー玉があった。

 

「フォーーー!!!」

 

「ここまで喜んでくれるとやり甲斐があるね。さらにこのビー玉に力を込めると……。」

 

 フジキセキがビー玉を手で隠して力を込める仕草をする。緊張しながらそれを見つめていると、力を込め終わったのか手を退ける。するとそこにあったのはビー玉ではなく、何かの卵だった。

 

「卵になっちゃった!」

 

「まだまだ、この卵にハンカチを被せて……3、2、1、それ!」

 

「鳩さんだぁ!!」

 

 凄い、マジック本当に凄い。鳩なんていつ、どの瞬間に用意していたかなんて全く分からない。

 

「どうかな?少し手品も混ぜてみたけど驚いてくれたかな?」

 

「うん!!」

 

 頭をブンブンと縦に振りながら肯定する。そこまで自分のマジックが喜んでくれると思わなかったのかフジキセキも満足そうだ。

 

「まだ少し時間があるし、他のマジックも見ていくかい?」

 

「是非!……って言いたいんだけどちょっとお願いがあるんだ。」

 

「お願い?私に出来ることなら言って欲しいな。」

 

「うん、フジキセキさんって押し花の作り方って分かるかな?フラワーたちに栞を作ってあげたいんだ。」

 

 気恥ずかしさから少しモジモジしながらフジキセキに問いかけると、すぐに微笑んだ顔で頷いてくれた。

 

「なら綺麗な花で作らないとね。私も手伝うよ。」

 

「ありがとう!フジキセキさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで良し、と。経過観察は私がやっておくから、完成したら教えにいくよ。」

 

「うん、このことなんだけどフラワーたちには……。」

 

「大丈夫、分かっているよ。」

 

 口元に指を一本だけ添えてウインクするフジキセキに思わず笑顔になってしまう。これを渡したフラワーたちの反応を予想していると、鐘の音が聞こえてくる。

 

「おっと、押し花に夢中になり過ぎていたね……。早くポニーちゃんを部屋に帰さないと。」

 

「でも、フジキセキさんの予定ってもうすぐじゃなかったっけ?オレは1人で帰れるから大丈夫だよ!」

 

「まだポニーちゃんたちが帰ってくる時間では無いとはいえ、大丈夫かな?」

 

「大丈夫!大丈夫!部屋までの道のりは覚えているし、オレのお願いでこんな時間になったんだからフジキセキさんは予定を優先して!」

 

「それなら……、でも部屋近くまではちゃんと連れて行くよ。」

 

 オレを抱えてフジキセキが歩き出す。ここから自室までは結構距離があるため、既に時間ギリギリなのか、その足は早歩きだ。やっぱり押し花を頼むタイミングを間違えたかな?と落ち込んでいると無言で頭を撫でられた。

 

「ここまでで大丈夫だよ!もう階段は無いし、後は通路を歩いていけばいいだけだから!」

 

「分かった。でも注意して帰るんだよ?」

 

「うん!バイバイ!」

 

 手を振りながらフジキセキと別れる。割と本気で時間がギリギリなのか曲がり角で姿が見えなくなると、すぐに歩く音が聞こえてきた。

 その事実に少し落ち込みそうになるが、落ち込まないために思考を切り替えてフラワーたちに押し花をあげたときにどんな反応をしてくれるか予想しながら帰ることにする。

 

(喜んでくれるかな?喜んでくれたらいいな!)

 

 考えているうちに気持ちも楽しくなってきて、思わずスキップしてしまう。その考えに夢中になっていたせいか曲がり角から出てきた誰かの脚に気付かずぶつかってしまった。

 

「あう!」

 

 ぶつかった衝撃で少し後ろにコロコロ転がる。しまった、油断した。ウマ娘がいないといっても完全にいないとは言われていない。物を取りに来たウマ娘だっているはずだ。

 オレが動くところは完全に見られた。なら謝って他言しないようにお願いしないと……。

 

「あ、あの!ごめんな──」

 

 口に出そうとした言葉は止まる。思考が謝るから逃げるに移るのを感じた。だって目の前にいるウマ娘は……。

 

「これはこれは……なんとも不思議なものを見つけてしまったねぇ……。」

 

 見つかりたく無いランキング、堂々一位のアグネスタキオンだったからだ。

 ………ど、どうしよう。




オリ主……やっちゃったぜ!曲がり角は特に危険と学んだ。1週間後には忘れる。ちなみに服はニシノフラワーが作った学園服を着ている。

ニシノフラワー……徐々にママ味が上がってきている。これ以上、上がるとセイちゃんが危ない。
 なんだかミホさんに危険が迫っている気がする……。

ミホノブルボン……にらめっこでは負けない。くすぐられて笑うミホさんに何かを感じかけた。が、忘れた。

フジキセキ……予定にはギリギリ間に合ったがトレーナーに心配顔をされた。あそこまでマジックに喜んでもらえると凄く嬉しい。またマジックをお披露目しようかな?
 自分で言っておいてポニーちゃんから目を離してしまった。

アグネスタキオン……おやおやおやおやおやおや。

一般通過デジたん……何やら寮からウマ娘ちゃんの緊急警報を察知しました!!急行します!!


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怖い時に保護者が来ると安心するよね。

誤字脱字報告ありがとうございます。
コメントがもう助からないぞ!とか既に手遅れとかで笑ってしまった。


「ぱかプチが感情を持って動いている。それも気になるが一体どうやって立ち歩くことが出来ているのか?中身は綿のはずだが、君には私たちと同じように骨と筋肉があるのかな?興味深い、実に興味深いよ。」

 

「ふぇぇええ……。」

 

 アグネスタキオンがブツブツと考察をしながらオレに近付いてくる。オレの口から無意識に声が漏れるが、それを止める余裕はない。

 

(逃げないと……。捕まったらどうなるんだろう。)

 

 少し考えてみたが手術台のようなところで手足を拘束されたオレに注射器を持ったアグネスタキオンが近付いてくるシーンが浮かび上がって来たので急いで頭を振って想像を霧散させる。

 

「何はともかく捕まえてみないと分かるものも分からないねぇ。そこの君、私の部屋に来れば美味しいお菓子が沢山食べれるがどうだい?なぁに、お礼は少しだけ研……じゃない薬……でもない。まぁ、来てくれればいいさ。」

 

 ヒェ、絶対今のやつ研究と薬物って言おうとしたよね?やっぱりアグネスはヤベー奴なんだ!

 画面越しなら笑ってみれたけどオレが対象になったら笑えないよ!これならクリークに捕まる方がマシ……でもなさそう。なんか捕まったら自力では帰って来れなさそう。いや、リアルモードでワンチャンあるか?

 

「おや?よく見たら身体が震えているじゃないか。それはいけない、急いで私の部屋に行くとしよう。」

 

 それって自室じゃなくて研究室のことだよね?あと震えているのはあなたのせいです。なんて言ってられる状況でもないので急いで反転して走り出す。

 もしかしたらこのまま逃げれるかと思って後ろを向けば普通に追いかけて来ている。アグネスタキオンの瞳は未知のものに対する好奇心でギラギラと光っており、それに恐怖心が湧き上がる。

 ぱかプチとウマ娘ということで距離はすぐに縮まるが、小さいのを武器にちょこまかとした動きで逃げ回る。

 

「この、なかなか、すばしっこい、ねぇ!」

 

 オレは大丈夫だがアグネスタキオンは脚にあまり負担をかけたくないはず。だからオレが股下を潜って後ろに逃げたりしても急に止まることはせずにゆっくり迂回するように方向転換をする。

 因みに相手がミホノブルボンやニシノフラワーだと股下を潜ろうとした時点で捕まる。流石保護者。

 

(よし、曲がり角!ここなら……!)

 

 曲がり角を曲がってアグネスタキオンからオレの姿が完全に見えなくなったところで身体に子どもモードの時以上の力を込める。

 モードチェンジが完了したのを確認するとすぐに振り返ってあたかも今ちょうど歩いて来ましたという感じをだす。これで失敗したら終わりだ。お願いだから上手くいってよ……。

 

「待ちたまえ!……っとブルボン君か。」

 

「タキオンさん、どうかされましたか?」

 

 飛び出して来たアグネスタキオンに無表情で応じる。リアルモードをこんな形でお披露目する羽目になるとは思わなかったよ。

 

「ブルボン君、この通路を君の姿をしたぱかプチが通ったと思うのだが見てないかな?」

 

「私のぱかプチですか?………小さい何かなら階段を登った時に通り過ぎた気がしましたが。」

 

「なるほど、ならもうこの階にはいないみたいだねぇ、情報感謝するよ。」

 

 余程オレを捕まえたいのかお礼を言うとすぐに通り過ぎていった。なんとか乗り越えれたようで安堵の息を吐きたいが、グッと我慢して自室に向かおうと「ブルボン君、少し聞きたいのだが……。」ッ!

 

「………なんでしょう?」

 

「君、さっき見た時はジャージ姿じゃなかったかい?」

 

 息が止まりそうになる。ここで焦るとバレる。変わりそうな表情を身を抓ることで耐える。取り敢えず言い返さないと……!でもなんて言い返せばいい?

 

「………なんてね。そもそも今日は初対面だ。変なことを言ったね。」

 

「そうですか。ビックリしました。」

 

「それは申し訳ないねぇ。これ以上は逃げられそうだから私は行くよ、失礼したね。」

 

 今度こそアグネスタキオンは去っていった。完全に気配が消えたのを確認してからその場に座り込む。

 そうだった。ミホノブルボンはこの時間だとトレーニングをしているはずだ。忘れ物を取りに来たとしてもわざわざ着替えて来るはずがない。幸いにもアグネスタキオンが今日、ミホノブルボンを見ていなくて助かった。見ていたら絶対バレてた。

 ミホノブルボンそっくりになれば騙せるという浅はかな行動に冷や汗が流れるが結果的に助かったのだから良しとしよう。

 

「取り敢えずタキオンが帰ってくる前に自室に帰ろう。」

 

 今のところ気配は感じないがもしかしたら帰ってくる可能性があるため、早めに自室に帰ろうとするが立てない。緊張が抜けたせいで身体に力が入らないのだ。

 どうしたものかと悩んでいると、階段から誰かが駆け足気味に上がってくる音がする。身体が強張り、取り敢えず立とうとするがやはり身体は言うことを聞かない。

 そんなことをしているうちにドンドン足音が近付いてきて、アグネスタキオンだったらどうしようと目元に涙が浮かんでくる。せめてもの抵抗で頭を抱えてうずくまり、その人物が来るのを震えながら待つ。

 

「………ミホさん?」

 

「……フラワー?」

 

 階段を上がってきた人物から聞こえてきた安心する声に勢いよく顔を上げるとそこには心配そうな顔をしたニシノフラワーがいた。

 

「ミホさん、何があったんですか?身体もこんなに震えて……。」

 

「うぅ、フラワー……。怖゛がっ゛だよ゛ぉぉお!!うわぁぁぁん!!!」

 

「きゃ!?ほ、本当に何があったんですか!?」

 

 オレの手を握って心配そうな顔をするニシノフラワーに安堵などの色々な感情が溢れてきて号泣しながら抱きつく。いきなりのことでニシノフラワーから戸惑う気配を感じるが、戸惑いながらもオレの頭を撫でて落ち着かせようとしてくれる。

 

「取り敢えず自室に行きましょう?立てますか?」

 

「……無理。立てない。」

 

「ならぱかプチに戻れますか?私が運びます。」

 

「……うん。」

 

 少し時間が経ち、なんとか泣き止むことが出来たのでニシノフラワーに抱きつきながら力を抜いてぱかプチに戻ろうとする……が、奥から誰かが走って来る気配がして慌てて止める。

 

「フラワー、誰か来る。」

 

「通路の真ん中だと迷惑でしょうし、端に行きましょう。」

 

「でも……。」

 

「大丈夫です。ミホさんが何を怖がっているかは分かりませんが私が守ります。」

 

 だから安心してください、とオレの頭を撫でるニシノフラワーを見て、無意識に入っていた強張った身体が元に戻る。このままぱかプチに戻りたいところだが、既に向こうの姿が見えているため通り過ぎてから戻った方がいいだろう。

 ヨチヨチ歩きで少し格好がつかないが端により、道をあける。見た感じあんなに急いでいるのだからすぐに通り過ぎるだろう。

 

「ここですか!?ウマ娘ちゃん緊急警報が出た場所は!このアグネスデジタル、ウマ娘ちゃんの危機に駆けつけ……ヒョッフォ!?ニシミホですとぉぉぉぉおおおおおお!!!!」

 

 走ってきたピンク髪のウマ娘、アグネスデジタルは抱き合っているオレたちを見るなり叫びながらスライディングをして通路の奥へと消えていった。

 

「……部屋に戻りましょうか。」

 

「……うん。」

 

 アグネスってヤベー奴しかいないんだな。……今更か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか、タキオンさんが……。」

 

 部屋に戻ったあと、何があったかを全て話した。フジキセキのマジックが凄かったことを話している時は笑顔だったのにアグネスタキオンのことを話すと笑顔なのだが耳が後ろに倒れている。

 ウマ耳の感情をオレは詳しく知らないためそれが何を示しているかは分からないが、顔は笑顔なので多分問題ない。

 

「そういえばどうしてフラワーは寮に?いつもならトレーニング中だよね?」

 

「なんだかミホさんが危ない気配を感じたので途中で切り上げて帰ってきちゃいました!」

 

 落ち着いてきたのでふと思いついた疑問をニシノフラワーに聞いてみるとそんな答えが返ってくる。もしかしてオレのせいでトレーニングを中断してしまったのかと落ち込んでしまうが、ここであるアイデアが思い浮かんだ。

 

「ならオレが中断した分のトレーニングを手伝う!」

 

 立ち上がってぱかプチから子どもモードに変更、外で併走などは人目があるため出来ないが腹筋などの部屋で出来るものは手伝える。

 

「ふふっ、それじゃあ柔軟のお手伝いをお願いします。」

 

「任せろ!」

 

 ニシノフラワーの後ろに回って背中をゆっくりと押す。どうやらニシノフラワーは柔らかい方で、ペタリと身体が床についた。

 

「うわ、フラワー柔らかいね。」

 

「ミホさんはどうですか?」

 

「オレは柔らかいを通り過ぎて怖いと思うよ。」

 

 元がぱかプチだから関節なんてないようなもんだ。エネルギーを使ってそれっぽく見せてるだけで、その気になればグニャグニャになれる。

 ほらっ、と片腕に送るエネルギーを一時的に切ってみせる。すると肩あたりから腕が垂れ下がり、もう片方の腕で引っ張ってみると人間には無理な方向に腕が曲がる。

 暫くグニャグニャと弄っていたが、ふと我にかえってニシノフラワーの方を見ると驚いたような顔でオレを見ていた。

 

(ぱかプチならまだしも子どもの姿でこんなの見せられたら気持ち悪いに決まってるじゃん!)

 

「ごめん、フラワー。気持ち悪「凄いです!」……えっ?」

 

「それだけ曲げることが出来るならフジキセキさんもビックリするマジックが出来そうです!」

 

 すぐに謝ろうとすれば被せ気味に褒められて少しだけ呆けてしまう。ニシノフラワーの目を見てもその発言は本気で言っていると分かるほどハッキリとオレを見ていた。それが嬉しくて仕方ない。

 

「そ、そうかな?そうだといいな。えへへ。」

 

「やっと笑ってくれましたね。ミホさんは笑顔が綺麗ですから笑っていて欲しいです。」

 

 あの時から全然笑ってくれなくて心配しましたよ。とオレの頬をむにむにと指で揉みながらニシノフラワーが微笑む。どうやらいつものように笑えていなかったみたいだ。

 

「ありがとう、フラワー。もう大丈夫。」

 

 ニッコリと笑ってお礼を言う。そんなオレの笑顔を見てニシノフラワーも笑顔になる。

 

「ただいま帰りました。」

 

「あ、ブルボン!おかえりー!」

 

「おかえりなさい、ブルボンさん。」

 

「トレーニング中に少しだけ嫌な予感がしました。ミホさん、何もありませんでしたか?」

 

「うん!フラワーのお陰で大丈夫!」

 

 オレのことを見るなり心配そうな表情で問いかけてくるミホノブルボンに笑顔で返事をする。

 この2人に拾ってもらえてよかったなぁ。今なら本気でそう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度の週末にみんなでお出かけしましょう。」

 

 次の日、ミホノブルボンの提案で一つのベッドに3人一緒で寝て、起きたニシノフラワーの一発目のセリフがこれである。

 あまりに急な提案でミホノブルボンも反応が出来てない。ってこれまだ寝ぼけてるな。

 起きてー、と頬をぺちぺちしてミホノブルボンを覚醒させようとするが、寝ぼけたミホノブルボンがオレの太ももに顔を埋めて再び寝ようとする。こんなミホノブルボンは初めて見たんだけどどうしたらいいんだろう?

 

「ん、んん……。おはようございます。ミホさん、フラワーさん。」

 

「あ、起きた。おはよう、ブルボン。」

 

「おはようございます。ブルボンさん。急ですが週末にみんなでお出かけに行きましょう。」

 

「お出かけですか、分かりました。」

 

 どうやって起こそうか悩んでいると自分から起きてくれた。それからニシノフラワーの誘いも了承していた。

 それからは各々の時間だ。ミホノブルボンはジャージに着替えて朝練へ、ニシノフラワーは花の世話をしに行く。オレは洗濯物を洗う……ついでにオレも洗う。洗濯機の中は意外と楽しい。

 洗濯機が止まる頃ぐらいにニシノフラワーが帰ってくるので洗濯物とオレを干してもらう。この時の日光が気持ちいいのだ。普通の洗濯機で大丈夫なのかと思うが特に問題ない。痛んでも最悪エネルギーを使えば元に戻る。

 

「それじゃあ行ってきますね?」

 

「あれ?今日はいつもより早いね?」

 

「ちょっとお話をしないといけないので。」

 

 いつもより早い出発に疑問に思って質問をしてみると耳を後ろに倒したニシノフラワーがニッコリと笑う。

 理由は知れたので手を振ってニシノフラワーを見送る。ミホノブルボンはいつも通り学園に直行するだろうし暇だなぁ。

 特にやることもないので洗濯バサミに吊られながらお出かけについて考え始めた。2人と一緒にお出かけかぁ、きっと楽しいんだろうなぁ。楽しみだ。




オリ主……自力で生還した。逃げてる最中にずっと捕まれば2人に会えなくなるかも知れないと考えていたが本人は覚えていない。この度、かりちゅまガードを手に入れた。
 普通に洗うよりか洗濯機でまとめて洗ったほうが早いことに気付いてから毎日洗濯機の中に飛び込むようになった。洗濯機に入っているところをニシノフラワーに見られた時は叫ばれて急いで引っ張り出された。
 お気に入りはニシノフラワーの膝、ミホノブルボンの膝、洗濯バサミに吊るされながら浴びる太陽。

ニシノフラワー……予感に従って寮へ帰ると大きくなったオリ主がうずくまって震えていてビックリした。抱きつかれて号泣されて母性がレベルアップ。泣き止んでからオリ主がブルボン以上に無表情になったため心配したが何とか笑ってくれたため安心した。しかし恐怖心が残っていると嫌なので楽しい思い出で塗り替えようとお出かけを計画した。
 あ、タキオンさん。今、時間大丈夫ですか?大丈夫ですよね?私、きちんと調べましたので。ちょっとお話をしましょう。そんなに震えてどうしたんですか?ほら、行きますよ。……拒否権?あるわけないじゃないですか。

ミホノブルボン……知らぬ間に何かが起こっていたらしい。自分に何が出来るか考えてみんなで一緒に寝ることを思いついた。
 ニシノフラワーに後から何があったかを聞き、以降アグネスタキオンを見つけるとジッと見つめることになる。

アグネスタキオン……普通に見逃した。敗因はあのすばしっこい動きについていけなかったことと考え、次の日から虫取り網を持って捜索に行くことになるはずだった。
 おや、フラワー君。どうしたのかな?何?お話?……今はちょっと大切な用事があってね、後にして欲しい……って引っ張らないでおくれ!調べた?何を!?ちょっとカフェ!助けてくれよぉ!

偶然いたマンハッタンカフェ……あんなに怒ったフラワーさんは初めて見ましたね。連れ去られるタキオンさんを見ながら飲むコーヒーは格別でした。

保健室のデジたん……弱ったブルボンさんをフラワーさんが優しくベッドに押し倒すんです。戸惑うブルボンさんにフラワーさんが甘い言葉を囁いて、やがて2人は重なり合って……
 な、何ぃぃぃぃ!!い、今まで見ていたニシミホは……!?




分岐ルート

オリ主号泣……タキオンが戸惑って泣き止ませようとしているうちにニシノフラワーが到着。2人でオリ主を泣き止ませようとする。デジたんがその光景を見て倒れる。

リアルモードがバレる……テンパったオリ主がタキオンに壁ドンを実行。お互いに思考が停止した時にニシノフラワーが到着。こちらも思考が停止する。デジたんは新たな世界へ。

捕まる……研究室に向かっている最中にミホノブルボンが合流。無事にオリ主を取り戻す。

助けを呼ぶ(2人指定)……呼ばれた方がリアルモード変形前に駆けつける。デジたんは無事に通り過ぎる。

助けを呼ぶ(無差別)……で ち ゅ ね 襲 来


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