Trace / トレース (Topaz_YOU)
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第一話

 
 
 初めまして、Topaz_YOUです。・・・・・・はい、しばらく活動してなかったサボり魔兼幽霊ですw

 今回は改めてちゃんと完結させる内容を見つかったので、恋愛小説を書くことになりました。一応、ヒロインはましろです。
 そして、ストーリーは戦国武将がクローンとして高校生として天下を取るとかいう変なドラマの主題歌を聴いていたらなんとなく思いついた、暗いストーリーです・・・w
 でも安心して!途中雑だからw


 では、本編へどうぞ~。あ、ここからの前書き・後書きは無くなりますw




 

 

 

 

 

「お~い悠斗(はると)~!このあと移動教室だぞ~!」

「えっ?・・・・・・あ、あぁ。」

「ま~たボーっとしてたのか?」

「ご、ごめん・・・。」

「ま、仕方ねぇか。」

 

 

俺はただボーっとしていただけではない。昔の事を考えていたんだ。でも・・・・・・。

 

 

「はーると!ほら!」

「はいはい・・・。」

「お前~、そこだけは昔と変わらないんだな?」

剣司(けんじ)くんの扱いは、身体に沁みついているんじゃない?」

「それはそれで俺泣くぞ!?」

 

 

彼は昔からの知り合いの『鳴神(なるかみ)剣司』。この近辺ではかなり有名な剣術道場の師範の一人息子で、そこの剣術も習っていて、どうやら師範代ぐらいのレベルらしい。ただ、彼の欠点と言えば『勉強面の方がかなり悪い』ということだ。どうやら俺と、もう1人の昔からの知り合いの女子と共に学力を鍛えてなんとか同じ高校に通えるようになった・・・・・・らしい。

 

 

「ギリギリセーフ!」

「危なかったね?」

「お前のせいでな!!」

 

 

いつも通りと思える自分の振る舞いをしていたら、鋭いツッコミが剣司くんから飛んでくる。そのツッコミはまるで初めてではないようなツッコミ具合だった。

 

 そんなことをしていくと、帰る時間になったから帰り支度をしている。そこに・・・・・・。

 

 

「よぉ悠斗!そろそろ帰るか?」

「特にない・・・・・・はずだから、もう帰ろうかと。」

「オッケ~。」

「剣司~!悠斗~!一緒に帰ろ~!」

「おぉ、いいぜ優里(ゆり)!」

 

 

同じクラスの剣司だけでなく、隣のクラスの『上里(かみさと)優里』だった。彼女が先ほど言っていた『もう1人の昔からの知り合い』だった。彼女と3人で昔から仲良く遊んでいたらしい。それに3人で剣司くんの道場にも通っていたらしい。でも、俺と優里さんは剣司くんにに劣らないけどかなり上の段まで行っていた。剣司くんは身体を動かすことに関しては俺たちより上だったらしい。そして彼女は俺たちのことを色々面倒を見てくれるほど面倒見が良くて、そして・・・・・・剣司くんに恋心を抱いている。だからといって、俺のことを蔑ろにする気は微塵もないらしい。俺自身、気にしていない。

 

 

「っていうか悠斗、すごく申し訳ないんだけど・・・・・・お迎え、来てるよ?」

「お迎え?」

「あぁ~、あの子か・・・・・・。あの子も、何度も言ったら分かってくれるんだろうな?当の本人は全くというほど気にしてねぇんだから・・・。」

「ってことは・・・・・・あの子か。」

「まぁ、とりあえずあの子が気が済むまで付き合ってあげなよ?」

「は~い。それじゃあ、2人は仲良くイチャイチャしてきなよ~。」

「ちょっ、悠斗!?」///

「アイツ・・・・・・あの辺は本当に変わんねぇな~。」

 

 

俺はカバンを持って教室とあの2人から後にした。そして、上履きから靴に履き替えて校門に向かう。

 

 

「・・・・・・はっ!」

「もしかしなくても、俺を待っていたの?」

「は、はい・・・・・・。」

「前にも言ったけど、俺はあの事に関しては気にしていないから。」

「で、でも・・・・・・!」

「はぁ・・・、分かった。今日はどうすればいいの?」

「えっ!?えっと・・・・・・?」

 

 

校門前で待っていたのは、『倉田(くらた)ましろ』っていう別の学校の子。そして、どうやらバンドもしているらしいが、詳しくは知らない。何故なら彼女とはちょっと前に初めて会ったばっかだった。そして、剣司くんと優里さんに聞いたら昔からの知り合いではないとのことだった。2人とは昔から同じ学校で友人関係も8割以上知っているから倉田さんとは関わりがないというのは事実だと思う。

 

 

「きょ、今日は・・・・・・駅に行きましょう・・・!」

「駅?いいけど、どこか遠くに行くの?」

「い、いえ・・・。でも、駅には色んな施設があるので、そこに行ってみようかと・・・・・・。」

「分かった。それじゃあ行こうか。」

「はい・・・!」

 

 

向かう場所が決まると俺と倉田さんは目的地に向かって歩きだした。傍から見たらデートと言えるだろう。でも、これはデートなんかじゃない。どちらも相手に惚れている訳ではない。俺は気にしてないが、倉田さんが俺に対する罪悪感から始まる罪滅ぼしをしているのだ。

 

 

「ちなみに、今日は駅に行こうだなんて、誰から聞いたの?」

「そ、それは・・・・・・透子(とうこ)ちゃんからで・・・。」

「またか・・・。君のその友達、おそらく少し考えがズレてると思うよ?この前もそうだったし・・・。」

「わ、分かってますけど・・・・・・。」

 

 

本当に分かってるのかな・・・・・・?

 

 俺と倉田さんがこういう風に一緒に歩くようになったのは、1ヶ月ほど前のことだ。倉田さんは帰り道の途中で大型トラックに轢かれそうになっていた。近くを通りかかった俺がそれを見かけて倉田さんを突き飛ばすように飛び出した。倉田さんはなんとか無傷で助かったが、俺は間に合わずに轢かれた。幸い、命に関わるほどじゃなかったけど、脳にダメージを負ってしまい、俺は記憶の全てを失った。今まで人から聞いたみたいに話していたのは、両親や剣司くんたちが教えてくれたからだ。当然、意識を取り戻した俺からしたら、両親も剣司くんたちも『知らない人』だったんだけど・・・。

 

 

「きょ、今日こそは・・・思い出せるといいね・・・・・・。」

「駅で思い出せるような出来事があるのかな・・・?」

 

 

俺たちは他人と比べると少し遅い足取りで駅に向かう。傍から見たら恋人に見えるか分からないけど、俺は倉田さんの足取りに合わせていた・・・。

 

 

 

 

 



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第二話

 

 

 

 

 

 駅に着いた俺たちは、すぐに駅内にあるショッピングフロアに向かう。

 

 

「悠斗さんは、ここに来たことはあるんですか?」

「どうだろうね~?あの2人の活発さを考えると、来ていてもおかしくはないと思う。」

「あはは...。」

「でも・・・・・・なんとなく『懐かしい』という感覚が浮かぶことはないかな。」

「そう、ですか・・・。」

「まぁそんなに落ち込まないで。・・・・・・ってか、普通落ち込むなら俺の方なんだから、君が落ち込むのはおかしいと思うよ?」

「だ、だって・・・・・・悠斗さん、本当に気にしてなさそうだから・・・。」

「そりゃ気にしてないからね。」

 

 

肩から掛けていたカバンを手で持って、疲れたからなのだろうか?唐突にカバンの持ち手をデコに引っかけてしまっていた。

 

 

「・・・・・・何してるんですか?」

「うん?・・・・・・あぁ、なんかやってたわ。」

「小学校の時ぐらいしか見たことないですけど・・・・・・。」

「確かに、なんか変だな。」

 

 

俺はデコに引っかけていたカバンを肩に掛け戻した。なんでデコに掛けたのかは自分でも分からなかった。

 

 

「それはそうと、どこに行くの?」

「えっと・・・・・・ちょっと待って・・・・・・。」

 

 

聞いたら、倉田さんがスマホを取り出して画面を凝視していた。そして、『よし・・・!』と気持ちを入れ直したら、スマホをしまって俺の方を見た。

 

 

「ま、まずはゲームセンターに行きませんか?」

「いいけど・・・・・・誰からの入れ知恵?」

「えっと・・・・・・と、透子ちゃん・・・?」

「・・・・・・一応確認するけど、この後行く予定の場所は誰から教わった?」

「そ、それも透子ちゃんです・・・。」

「はぁ・・・。」

 

 

何故こうも俺が乗り気になれないのにはきちんとした理由がある。記憶を失った後、退院してから倉田さんが罪滅ぼしとして記憶を取り戻すことに全力で手伝ってくれている。最初は事故の現場とかだったけど、途中から『昔に行ったことがある場所・やったことがある事』を片っ端からやっていくようになっていった。だが、最近の問題はそれが彼女のバンドのメンバーの『桐ヶ谷(きりがや)透子』からの入れ知恵だという。・・・・・・言っちゃ悪いけど、ロクなことがない。

 

 

「うーん・・・・・・とりあえず、スイーツかなんか食べに行かない?」

「えっ?それって・・・・・・?」

「もしかして、スイーツ苦手?」

「い、いえ・・・・・・透子ちゃんのプランでは最後の方にあったから・・・・・・。」

「あぁ・・・。まぁ、他人(ひと)が楽しめるプランと自分の楽しめるプランは違うからね。俺としてはちょっとお腹空いたから。」

「そ、そうですか・・・。」

「倉田さんはどう?お腹空いてる?」

「えっと・・・・・・す、少しは・・・?」

「よし、それじゃあ行こうか?」

「は、はい・・・!」

 

 

俺は倉田さんの承諾を得ると、店内を歩き始める。そして、気になったスイーツ店に立ち寄り、2人でスイーツを食べるのだった。

 

 

「おいしい・・・・・・!」

「そうですね。」

「・・・・・・あの。」

「何?」

「楽しく、ないですか・・・・・・?」

「・・・・・・君の目的は、普段から楽しく生活してなさそうな俺を楽しませたいの?それとも、記憶を取り戻させたいの?」

「えっ?・・・・・・あっ!す、すみません・・・!」///

「・・・・・・まぁ、楽しいことを否定するような腐った人間じゃないから、いいんだけどね。」

 

 

恥ずかしくも苦笑いをする倉田さんは、それを隠して食事を進める。俺はそれを微笑ましい気持ちで見ながら食事を進める。

 

 スイーツを食べ終えた俺たちは、再び店内を歩き始める。

 

 

「悠斗さん、この後はどうするんですか・・・・・・?」

「うん?うーん・・・・・・ノープラン。」

「の、ノープラン・・・・・・!?」

「ウィンドウショッピングって、こういう感じでしょ?目的もあんまり決めずにテキトーに歩いて、気になるのがあったらそこに立ち寄るって感じ。」

「た、確かに・・・・・・。」

「そういうことで──あっ。」

「どうかしましたか?」

「・・・・・・なんとなく、やりたいことが出来た。」

「ほ、本当ですか・・・!?」

「うん。ただ、一つ条件がある。倉田さんの全面的協力が必要なんだけど?」

「そ、それって・・・・・・記憶に関係ありますか・・・?」

「多分ね・・・・・・。あの2人から聞いた事ないけど、アレを見た途端にやりたくなったんだ。」

「わ、分かりました・・・・・・!」

 

 

俺はその店に立ち寄り、そこで売っている商品をいくつか買って、倉田さんと共に俺の家に行く。

 

 

「ほ、本当にするんですか・・・・・・?」///

「・・・・・・うん。なんとなく、身体が覚えている感じがする。細かい条件は違うかもしれないけど、家の中にもいくつか物があったから、記憶を失くす前にはやっていたんだろう。」

「お、お手柔らかにお願いします・・・・・・。」///

「じゃあ、そこに座って。」

「は、はい・・・・・・。」///

 

 

そして俺は自分の部屋に連れて来た倉田さんをベッドに座らせて、俺は椅子に座って・・・・・・スケッチブックにペンで描き始めた。

 

 

「・・・・・・。」

「・・・・・・っ!」///

「・・・・・・倉田さん、何を緊張しているか知らないけど、ただ座っているだけでいいよ。」

「は、はい・・・・・・!」///

 

 

俺は倉田さんを見てはスケッチブックに倉田さんを写していく。倉田さんが顔を赤くしながら緊張しているけど、俺はそんなのは一切気にしていない。

 

 

 

 

 



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第三話

 

 

 

 

 

 倉田さんを家に招いて、絵のモデルなってもらっている。絵を描き始めてから2時間ぐらい経っていた

 

 

「ふぅ~。ん~・・・・・・っはぁ~!」

「は、悠斗さん・・・?」

「ちょっと疲れてきたから休憩。倉田さんも、身体を楽にしていいよ。」

「は、はい・・・。」

 

 

倉田さんも疲れてきていたようで、少し伸びをしては座り方を少し崩している。

 

 

「・・・・・・あっ、何か飲み物いる?台所に行って持ってくるけど。」

「あっ、私も行きます・・・!」

「じゃあ、一緒に行こうか?こんなに息苦しい狭い部屋に何時間もいるのは嫌だろうから。」

「い、いえ・・・・・・嫌、じゃないです・・・。」///

 

 

俺たちは部屋を出て、台所に向かう。俺の部屋は二階にあって台所は一階にあるから、階段を降りる。台所のすぐ横には居間もある。

 

 

「そういえば、ご両親はいないのですか・・・・・・?」

「今日は仕事なんだって。俺の病院代で減った貯金を稼いでいるらしい。いつもより少し残業しているらしいけどね。」

「そ、そうなんですね・・・。」

「まぁ、あまり気にしていないよ。簡単だけど料理は覚えたから、そんなに苦じゃないから。」

 

 

俺たちは飲み物を持ってのんびりとリビングのソファーでくつろぐことにした。

 

 

「・・・・・・そういえば、改めて確認したいんだけど、倉田さんは良かったの?」

「えっ?う、うん・・・・・・。ちょっと、恥ずかしいけど・・・。」///

「倉田さんの性格なら、そうだろうね。」

 

 

あまり話が広がらないから俺はちょっとした真面目な話をすることにした。

 

 

「倉田さん、ちょっと真面目な話をしていい?」

「は、はい・・・。」

「俺もネットで調べたんだけど、記憶喪失は一部か全部失う。そして、あるきっかけがあれば記憶を取り戻すことが出来る。」

「う、うん・・・。」

「ただ、記憶が戻ったら失っている間の記憶は()くなってしまう。」

「えっ?それって──」

「そう、記憶が戻ったら俺はいなくなる。まぁ、いなくなると言っても不知火(しらぬい)悠斗がいなくなるわけじゃないから安心して。」

「でも、今の悠斗さんは──」

「完全に居なくなる・・・・・・だろうね。」

 

 

そんな話をしていくと、倉田さんの顔は複雑そうになっていた。

 

 

「だからさ、倉田さんには俺のあの絵を受け取ってほしいんだ。」

「えっ・・・?」

「俺がいた証を残しておきたくて・・・・・・俺が記憶を取り戻したら、もしかしたら捨てているかもしれないから。」

「悠斗さん・・・・・・。」

「まぁ、要らなかったら捨ててもいいけどね。」

「す、捨てませんよ・・・・・・!」

「っ!・・・・・・そっか。」

 

 

倉田さんが何故か勢いよく俺の提案を否定してきたのにはちょっと驚いた。

 

 そんな会話をした後、1〜2時間ぐらい絵を描いたら今日はお開きとなった。一応、男として倉田さんを家まで送っていった。

 

 

 

 

 



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第四話

 

 

 

 

 

 翌日の学校、俺は呑気に昼食を取ろうとカバンから弁当を取り出して机の上に置いた。その時だった。

 

 

「おいおいおいおい〜!悠斗さんや〜い!」

「なんでござんしょう、剣司さん?ってか、優里ちゃんも・・・・・・。」

「ちょっとお兄さ〜ん!この前のお出かけはどういうつもりなのかね〜?」

 

 

だる絡みしてくるウザい奴のようなことを言いながら俺の席に来ては周りの空いている席を借りて相席する。

 

 

「この前のお出かけ?」

「この前、学校帰りにましろちゃんと出かけたでしょ?ちょっと駅で過ごしたらすぐに家に連れこんだからビックリしたよ〜!」

「いや、これにはちょっと・・・・・・うん?なんでそこまで知ってるの?まさか・・・?」

「えっ!?い、いや・・・・・・それはそうと!」

「流すなよ。」

「なんで記憶を思い出すお出かけなのに、なんで家に連れ込んでるのよ!?」

「そうだそうだ!どうなんだ!?」

 

 

こっちの質問は聞いてくれる感じではなかった。ものすごくその部分に文句を言いたいんだけど・・・・・・。

 

 

「歩いていたら偶然絵画を見つけて、なんか絵を描きたいと思ったから。」

「だからって、家に連れこむなんてな・・・・・・なかなかやりおるな〜悠斗よ?」

「許可が降りているなら殴っていいかい?剣司くん。」

「俺だけかよ!?」

「ってか、私としてはましろちゃんを連れこんだのが一番驚いたけど、悠斗って絵を描いていたんだね?」

「なんとなく描きたいって思ったし、家にいくつか道具があったから。まぁ、スケッチブックには千切った跡があったから、描いても捨ててたんだと思う。」

「「えぇ〜〜〜!?」」

「な、何?」

「もったいねぇな〜!」

「そーだよ!絶対上手いのに〜!」

「見てないのによく自信持って言えるね・・・?」

 

 

そんな会話をしながら、昼食を済ませてから午後の授業を受けて、特に何も特別なことが起きることもなく帰った。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 悠斗さんが絵を描き始めた週の土曜日。私はバンドが休みだから、会う予定は無かったけど悠斗さんの家に来ている。

 

 

(っていうか、なんでここに来てしまっているんだろう?約束はしてないけど、でも記憶を取り戻すためにはあの絵を完成させないと・・・・・・いけない、し・・・・・・。)

 

 

頭では記憶を取り戻すためと思っていても、心のどこかではそのことに対する躊躇いがあることに気がついてしまう。

 記憶を取り戻してしまったら、今の悠斗さんがいなくなってしまう。不器用で、人見知りで、透子ちゃんの言われたことしかできない私と仲良くなってくれた悠斗さんが・・・・・・。

 

 

「っ・・・・・・。」

「あら?」

 

 

悠斗さんの家の前で悩んでいたら、悠斗さんの家の玄関から綺麗な女性が出てきた・・・・・・。

 

 

 

 

 



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第五話

 

 

 

 

 

 土曜日に約束をしてもいないのに悠斗さんの家の前に来てしまった私は、気がつけば悠斗さんの家のリビングにいた。

 

 

(な、なんでここに・・・・・・!?)

「ごめんね〜。うちの悠くん、休みの日に予定が無かったら、酷いと12時まで寝てるから。」

「い、いえ・・・。」

 

 

前回、悠斗さんの家から出てきたのは悠斗さんのお母さんだった。お互いに面識があったから、すぐに私のことが分かったのか、何も疑うことなく私を家に上げてくれました。

 

 

(ぎゃ、逆に緊張するんですけど・・・・・・!)

「そうだ、何か飲み物いる?」

「えっ!?は、はい・・・・・・。」

 

 

そんな私が緊張しているのを気にせず気軽に話しかけてくれる。ありがたいけど・・・・・・。

 

 

「そうだ!ましろちゃん、良かったら悠くんを起こしにいかない?」

「ふぇ・・・!?」

「ましろちゃんがいるんだし、あと2時間もおばさんと一緒だなんて緊張するでしょ?」

「うっ・・・!」

「ほぉら、図星でしょ?」

 

 

うふふ、と笑う悠斗さんのお母さんには見透かされていた。でも、自分では、「おばさん」と言うけど、頑張って上に見ようとしても20代後半か30代前半にしか見えない。これでも高校生のお母さんなんだよね・・・・・・?

 

 

「じゃあ、よろしくね。」

「は、はい・・・。」

 

 

反論できる気がしなくて、諦めて悠斗さんの部屋に向かう。

 

 そして、階段を登ってちょっとしたら着く悠斗さんの部屋の扉の前に立っていた。

 

 

(さ、さらに緊張が・・・・・・!)

「ふわぁ〜・・・・・・ん?」

「あっ・・・・・・。」

「・・・・・・なんでいんの?」

 

 

より一層緊張していたら、欠伸(あくび)をしながら髪を手ぐしで直して出てくる悠斗さんと会ってしまった。

 

 

「・・・・・・あ、ちょっと待ってて。」

「あ、うん・・・。」

 

 

そう言うと、悠斗さんは部屋に再び戻っていった。ラフすぎる格好に一瞬だけドキッとしてしまった。

 

 

(寝癖、思った以上に激しかったな・・・・・・。)

 

 

悠斗さんの普段見れない一面を見れてちょっと得をした気分になっていた。・・・・・・なってよかったのかな?

 

 それから、悠斗さんはちゃんとした服に着替えて私と共にリビングに戻った。悠斗さんは用意された朝食を食べながら私に話しかけてくる。私にはカ○ピスが用意されて、それを飲みながら話をしている。

 

 

「・・・・・・で、なんでいんの?」

「ふぇ!?い、いや・・・・・・えっと・・・・・・そ、その・・・・・・。」

「あんた、最近絵を描いてるんでしょ?そのお手伝いに来たんじゃない?」

「そうなの?」

「う、うん・・・・・・。」

「そうなんだ。」

 

 

「ちょっと待ってて」と言われた私は悠斗さんの朝食が終わるまで、カル○スを飲みながら待っていた。

 

 その間、悠斗さんのお母さんがずっとニヤニヤしてるような気がした・・・・・・。

 

 

 

 

 



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第六話

 

 

 

 

 

 悠斗さんが朝食を食べ終えたのは10時半。お昼御飯まであと1時間半しかなかったから、のんびりとテレビを見ていた。3人で見てるんだけど、やっぱり緊張する・・・・・・。

 

 

「そうだ〜!」

「・・・・・・何、そんな白々しく。」

「わたし、見たい番組があったんだった〜!それ見てもいい?」

「俺はいいよ。倉田さんは?」

「わ、私も・・・・・・。」

「それじゃあ・・・・・・。」

 

 

悠斗さんのお母さんは私たちの了承を得たら、どこからかDVDを取り出して、レコーダーにディスクを入れて画面を操作してテレビ画面にはDVDに収録されている映像が流れ始めてた。

 

 

「これ、なんのライブ映像?」

「うん?『CiRCLE(サークル)』っていうところであるバンドがライブをしてたんだって。そのライブ映像を貰ったのよ。悠くんと一緒に見ようと思ってたけど、ましろちゃんがいるならさらに良しと思ってさ♪」

「これって・・・・・・!」///

 

 

客観的に見るのは初めてだったけど、薄暗いところから始まる演奏には聴き覚えがあった。そして、画面の奥で演奏している人たちにも見覚えもあった。

 

 

「そう!『Morfonica』っていうバンドの映像なのよ!職場の若い子がそういう話をしていて、わたしに布教してきたのよ~!オススメしてきたバンドは7バンドぐらいあったんだけど、その中で気になったのはMorfonicaなのよね~!」

「うぅ・・・・・・!」

「へぇー。あれ?このバンドのボーカルって・・・・・・?」

 

 

画面の奥では照明が明るくなってメンバー全員を照らしている。悠斗さんはボーカルを見てすぐに私の方を見てくる。そして、流した張本人はニヤニヤと私の方を見てくる。

 

 

「悠くん悠くん、どう思う?」

「・・・・・・ちょっと、不慣れな感じはするけど・・・・・・綺麗な声、してるね。」

「へっ!?」///

「でしょでしょ~!わたしもそう思ったのよ~!」

「ところでさ、倉田さん。・・・・・・倉田さん?」

「・・・・・・。」

「倉田さ~ん?」

「は、ひゃい・・・!」///

「透子って人は誰・・・?」

「へっ?え、えっと・・・・・・この、ギターの子です・・・。」

「ギター?・・・・・・あぁ、確かに言いそうだな・・・。」

 

 

綺麗と言われた私は、悠斗さんに呼ばれるまで固まってしまっていた。悠斗さんが気にかけていたであろう透子ちゃんのことを教えたら、「やっぱり・・・。」みたいな顔をしていた。見た目だけで察したのだろう・・・。透子ちゃん、ごめんね・・・。

 

 『Morfonicaのライブ映像』という私への辱めを受け続けられた後、昼食を取って悠斗さんの部屋に向かって悠斗さんは絵を描き始めた。

 

 

「・・・・・・。」

「っ・・・・・・。」///

「・・・・・・倉田さん、顔赤くない?」

「へっ?そんなことないです・・・・・・!」///

「昼前のこと?」

「え、えっと・・・・・・。」

「まぁいいよ。」

 

 

軽く雑談をしながらも悠斗さんは筆を進める。

 

 

「・・・・・・よし、出来た。」

「ほ、ほんとに・・・?」

「うん。見る?」

「うん──あ、ちょっと待って。身体が・・・!」

「あ、そっか。ごめんね、ずっと同じポーズさせて。」

 

 

「休んでていいよ」と言われた私は楽な体制をとる。悠斗さんはというと、書いたイラストを折りたたんでファイルに入れて私に渡す準備をしているようだった。

 

 結局私は出来た絵を見ることなく、夜近くになってきたので帰ることにした。

 

 

「ご、ごめんなさい。結局絵を観れなくて・・・・・・。」

「俺が無理させたんだから仕方ないよ。帰ったら改めてちゃんと見て。」

「う、うん・・・!」

「お、悠斗~!」

 

 

帰っている最中、前から剣司さんと優里さんがやって来た。目の前には横断歩道があったから普通に渡ろうとする。でも、そんな時だった・・・・・・。

 

 

「って、ましろちゃん!危ない!」

「っ!倉田さん!!」

「えっ?」

 

 

信号が赤を示しているはずの道から、スポーツタイプの車が猛スピードで迫って来ていた。私は身体が固まってしまって目を閉じた。

 でも、少し前に起きた事件と同じことが起きていると一瞬だけ思ってしまった。今回は突き飛ばされることはなかったが、勢いよく引っ張られてしまった。

 

 

「悠斗!ましろちゃん!大丈夫か!?」

「悠斗!ましろちゃんも!しっかりして!!」

「は、悠斗さん・・・?」

 

 

目を開けると私と悠斗さんを心配してくれる2人の姿が映った。そして、私は誰かの上にいることが分かって、そっちに向けると悠斗さんが倒れていた。

 

 

「テメェ!どこ見てんだよ!?」

「・・・・・・あぁ!?」

「ガキがっ!こんな時間にふらついてんじゃねぇよ!」

「あんたらが信号を無視してるのが悪いんでしょ!?」

「ガキ・・・・・・舐めてると痛い目見るぞ!!」

「上等だ、クズ・・・!」

 

 

それから、私は逃げたかったけど、目の前のことから目が離せなかった。柄の悪そうな男性たちが剣司さんたちを殴りかかったけど、むしろ男性たちがボコボコにされていた。さすがは剣術道場に通っているだけのことがあるな・・・と思ってしまう。剣司さんならまだしも、まさかの優里さんまでボコボコにしていた。

 

 

「クソッ!テメェら、こんなことしてタダで済むと思ってんのか!?」

「お前らよりかは平和な生活送れるよ。」

「すぐ警察呼んで、テメェらを突き出し──」

 

「お呼びかね?」

 

「って、誰だおっさん?」

「おぉ~!相変わらず鼻がいいね、おっさん!」

「おっさん言うな。これでも警察なんだぞ?課長なんだぞ!言葉使いに気を付けろよ!」

「「け、警察・・・!?」」

「さて~!とりあえず手錠かけるね~。」

「「は・・・?」」

「ごめんな~。一部始終見てたからさ。」

 

 

男性たちはあっという間に連行されていった。乗っていた車も後から来た警察の人たちが回収されていった。

 

 そして、私たちはというと・・・・・・。

 

 

「悠斗は大丈夫か?」

「見た感じ外傷は無いんだけどな・・・。」

「もしかしたら、頭を打ったのかもしれない・・・。」

「ごめんなさい、私のせいで・・・・・・。」

「倉田さんのせいじゃない。」

 

 

思い出した、この警察の人は私に現場の状況を知りたいと言って話しかけてきた警察の人だった。もしかして、悠斗さんたちと知り合いなのかな・・・・・・?

 

 

「うっ・・・?」

「は、悠斗・・・!?」

「大丈夫か?」

「う、うん・・・・・・あっ!君、大丈夫か!?」

「へっ!?は、はい・・・。」

 

 

『君』と言って向けた視線の先には私がいた。でも、どうして『倉田さん』と言わないんだろう・・・?急いでいるからかな?

 

 

「良かった~!()()()()に引かれそうになってたから、無傷で良かったよ~!」

「・・・・・・えっ?」

「は、悠斗・・・?」

 

 

そう・・・・・・記憶が戻るイベントは、唐突に起きた・・・・・・。

 

 

 

 

 



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第七話

 

 

 

 

 

 悠斗さんの記憶が戻ってから、1年が経った。私も学年が1つ上がった。Morfonicaとしても前よりかは成長できた。でも、プラスなことがすべてではなかった。

 

 あの一件以降、私は悠斗さんとは1回も会っていない。あの後病院には行ったらしいけど、それ以降悠斗さんだけでなく剣司さんたちにも会っていない。ううん、私が怖かったんだと思う。私の事を覚えていない悠斗さんに会ったところで、何かあるのかな・・・って。

 

 

「はぁ~、今日も楽しかったな~。・・・・・・っ。」

 

 

私の視線の先には、机の上の端に置かれたファイルがあった。そう、あれ以降私はあのファイルを開けていなかった。ファイルを開けたら、頑張って避けていた悠斗さんの事を思い出してしまいそうになってた。

 

 

「・・・・・・。」

 

 

部屋には私以外誰もいない。だから、何も音がないのは嫌でも分かる。

 

 あの事件からちょうど1年が経った。だからなのかな、私は頑張って見ないようにしていたファイルにずっと目が行ってしまい、忘れようと努力していた悠斗さんの思い出がよみがえってしまう。

 

 

「っ・・・・・・ちょ、ちょっとだけ・・・・・・。」

 

 

私は手を伸ばして、ファイルを開ける。そして、中に入っている折りたたまれた絵を開いた。そこに写っている私は少しぎこちなくも微笑んでいる。()()()()()()からはそんな感じに見えていたのかな・・・?

 

 

「・・・・・・あれ?」

 

 

ふと足元を見ると、一枚の紙が落ちていた。私の部屋に元から落ちているものじゃないのは分かったから、おそらく悠斗さんが潜ませて入れたのだろう。そのまま紙を拾って、それも折りたたまれたから開いて、中を見る。そこには、悠斗さんからのメッセージが書かれていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 倉田さんへ

 

 この手紙を読んでいる頃にはおそらく、記憶を取り戻して君と会っていないんだろう。と言っても、おそらく君から俺に会わないようにしているんだろうけど。

 この手紙を書いた理由としては、俺のことを必死に忘れようとしているであろう君に伝えたいことがある。忘れてくれても構わない。でも、あの絵を見ては稀にだけでいいから、いつかは思い出してほしい。俺がいたことを・・・・・・君と共にいたことを・・・・・・。

 俺と君との出会いはとても偶然で、世界からしたらとても小さく、誰にも興味を持たれることのないものだろう。でも、俺にとっては、最悪な出会い方だったとしても、運命だったと思える。そう思える程度には、君を描いている時には君への好意があったらしい。

 俺は、もう少し君ときちんと話したいことがあった。でも、君は会う度に緊張したり、反省したりするからあまり話が出来なかった。だから、もしも記憶を取り戻した俺に会ったら伝えてほしい。俺たちがいたあの時間、君は何を思っていたのかを・・・・・・。

 

 P.S. 倉田さんのライブ映像が見れて嬉しかったよ。君の歌声はとても美しいし、ステージ上の倉田さんはアゲハ蝶のようにきれいだったよ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 最後の一文は明らかにあの日に書き足したんだろう。でも、『いつか思い出して』なんて、とても難しい注文だと思ってしまった。悠斗さんといた家以外の場所を外でペンでなぞるように歩いてみても、私にはその足跡が残っていないように見えた。でも、この手紙を見たら、跡が残っていないはずのあの景色に跡が残っているように思い返してしまった。

 

 

「うっ、うぅ・・・・・・!」

 

 

この手紙を読んだ後、私は悠斗さんとの未来は分からなくなっていた。でも、また会いたいと思ってしまった。この手紙の返事をしたくて・・・・・・覚えていなくても、伝えたい・・・・・・。今はまだ無理だけど、悠斗さんが描いて残してくれた絵に愛を込めて手を置いて、涙を流していた・・・・・・。

 

 

 

 

 

私は、きっと悠斗さんが好きだったんだということも知れた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 それから日にちが経って、私はMorfonicaのみんなで新しく出来たカフェに遊びに行っていた。透子ちゃん曰く、『Morfonicaの作戦会議だから』という。るいさんも、それでなんとか折れてくれたみたい。

 

 

「おぉ~!意外とオシャレだね!」

「そうだね!」

 

「いらっしゃいませ。お客様、何名様でしょうか?」

 

「5人です~。」

「っ・・・・・・!」

「倉田さん?」

 

 

お出迎えをしてくれた店員さんは、丁寧に接客をしてくれる。でも、私にはその丁寧さよりもその顔に意識が向いてしまった。

 

 

「お客様、少しよろしいでしょうか?」

「は、はい・・・。」

「シロ~、いってらっしゃ~い!」

 

 

その店員さんに呼ばれた私だけはカウンターに座った。そして、Morfonicaのみんなとは少し離れて会話が聞こえない程度に・・・・・・。

 

 

「あ、あの・・・・・・?」

「倉田さん、でしょ?」

「えっ・・・?」

「久しぶり。・・・・・・って言っても、覚えていないんだけど。」

 

 

私はどういう理由か分からないけど・・・・・・悠斗さんと再会することが出来た。

 

 

 

 

 



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第八話

 

 

 

 

 

 私は悠斗さんと再会してから余裕がある時には1人だけでも来るようにしてる。もちろん、悠斗さんに会うために・・・・・・。

 

 

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「すみませ~ん!」

「はい、ただいま。」

「お会計お願いしま~す!」

「はい、ただいま。」

 

 

でも、悠斗さんは忙しすぎるせいか、なかなか話せずにいた。話せたのは、初めてこの店に来た時だけだった。

 

 

「わりぃ!遅くなった!」

「ごめ~ん、悠斗!大丈夫!?」

「大丈夫だよ。そんなに慌てなくていいから。」

 

 

今の悠斗さんを見ている限り、私といた頃の悠斗さんとはまるで別人だった。・・・・・・いえ、誰に対しても優しいのは変わらない。変わったとしたら、あの時より一層優しくなっていた。一人称を『僕』と言うぐらいに・・・・・・。

 

 しばらくしたら、カウンターの後ろから剣司さんと優里さんがエプロンを付けて出てきた。

 

 

「・・・・・・悠斗、ちょっと休憩してきたら?」

「えっ?いや、僕はまだ──」

「そう言うなって!お嬢さんが待ってるぜ?」

「・・・・・・そう言うなら、お言葉に甘えさせてもらうね。」

「おう!」「任せて♪」

 

 

剣司さんたちに言われて一度お店の裏に行った悠斗さんは、エプロンを取って私のところに来た。

 

 

「ごめんね、今まで話せなくて。」

「い、いえ・・・。皆さん、忙しいんですね・・・・・・?」

「まぁ、そうとも言えるかな?剣司と優里は大学がある。この店は僕の父さんの友人が経営しているんだけど、どうやら体にガタが出始めたらしくて、僕たちがこの店を継ぐことになったんだ。」

「そ、そうなんですね・・・・・・。」

「でも、昔から言ってた『大人になったらやりたいこと』の一つだから特に問題はないよ。『3人で仲良くカフェ兼何かっていう店をやりたい』って。」

 

 

すると悠斗さんは剣司さんから渡されたコーヒーを持って私の向かいの席に座った。

 

 

「っ・・・・・・。」

「・・・・・・正直、僕の記憶だけで考えれば、君は『トラックに引かれそうになった娘』という印象しかない。」

「っ!」

 

 

互いに飲み物を一口飲んで沈黙が生まれたけど、その沈黙を破ったのは悠斗さんだった。悠斗さんはまず私の印象を伝えてきた。やっぱり、私といた頃の記憶はないみたい・・・。

 

 

「でもね、日記を見たんだ。」

「えっ・・・?」

「僕が記憶を失っている間に、その時の僕が書いた日記。記憶喪失だったのは剣司たちに聞いたけど、その間のことはその日記で知ったんだ。君が一生懸命僕の記憶を取り戻そうとしていたこと・・・・・・絵の被写体になってくれたこと・・・・・・僕が君に少なくとも好意を抱いていたことを・・・・・・。」

「そう、なんですね・・・・・・。」

 

 

私にとってはこの1年間頑張って考えないようにしていたあの頃の記憶。この人にはその記憶が無くても、そのデータが残っていて、それを見て知っている。日記の中に書いてあったことを『僕』と言って説明してくれるけど、それは『(悠斗)』であって『(悠斗)』じゃない・・・・・・。

 

 

「わ、私は・・・・・・!」

「うん?」

「わた、しは・・・・・・悠斗さんが・・・・・・す、好きでした・・・・・・。自分が大変な目に遭ったのに、他人のことを心配してるとことか・・・・・・真剣になって絵を描いてるとことか・・・・・・悠斗さんと居た時間は、私にとってはとてもステキで、かけがえのない時間で好きでした・・・・・・!」

「・・・・・・そっか。」

 

 

私は、最後の方は勢いに任せてあの手紙の返信をした。大声になってしまい、周りの目が気になって恥ずかしくなったけど、ようやくあの時の思い出に区切りをつけることができた。

 

 

「・・・・・・ねぇ、倉田さん。」

「っ・・・・・・!」

「今でも、()()のことは好き?」

「えっ?・・・・・・わ、わから、ないです・・・・・・。」

 

 

唐突に告げられた悠斗さんからの質問に、私はただ『分からない』としか答えれなかった。

 

 

「良かったら・・・・・・また僕に会いに来てくれる?」

「えっ・・・?」

「ちょっと、あの頃の僕に負けた気がして悔しいから。君には『(悠斗)の方が良いんだ』ってことを教えたい。」

「え・・・!?」///

「それに、君を被写体にした絵はとても素敵で素晴らしくなりそうだから。絶対に堕とさせてもらうよ。」

「えぇえええええ!?」

 

 

悠斗さんの告白に、私は驚いて固まってしまった。正気を取り戻した後に、『通うけど、考えさせて』と返した。でも、顔が同じ人から迫られたら、おそらく付き合うことになると思う・・・・・・。

 

 それにしても、独占欲強くない・・・?

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 ここまでが、私と俺の境界。どうやったって俺が知ることのない未来。

 

 でも、私と僕の未来はまだ続いている。世間からしたら私たちははみ出し者。でも、はみ出したとしても、そこから交わって重なることだってできる。僕たちなら、夜を越えてまた次の朝に会うことができる。ここから、足跡を残して行けばいい。

 

 

 

 

 




 
 
 これにて、『Trace / トレース』は完結です。読んでいただきありがとうございました。

 久しぶりに書いたけど、あんまり上手く書けてない自信しかないです(笑)。でも、小説一つ分を最後まで書けて満足はしてます。『完結させることができた』と言う部分は(笑)。

 そのうち、他の小説も再開させていこうとは考えています。あと、新作も・・・。それまでは忘れる程度にのんびりお待ちいただければと思います。

 それでは、また。


 最近は原神にハマりまくってま~す!恒常以外の星5は基本無凸縛りです。



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