FGO世界線と勘違いした一般アニムスフィア家長男 (リーナたん可愛いやったァァァ!)
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第零章 原作開始前
スタートすら決めれなかった件について


 

 

 

 7月2日

 

 今日から日記を時々書くことにする。ちなみにこれは、プリスクールに通い始めた時に与えられた自由帳を日記代わりにしている。外から見れば小さな男の子が真剣にきったねー文字を書いてる微笑ましい光景なのだろうな…………。

 

 まず、現状について把握しておこう。この日記の目的の一つは、自身の考えの整理とその変化を記録することにあるからだ。

 

 文面は非常に冷静だろうが、実際は混乱が十周まわって冷静になった感じだから。まるで意味がわからんぞ!状態です。箇条書きにしてこれまでの状況を羅列していく。

 

・転生したったwww

・自分の苗字が、あの『アニムスフィア』な件について。

・なんか『magic』とかいう単語が飛び交っている。

・ちくわ大明神。

 

 誰だ今の。あっ、自分か。ちょっとふざけてしまったようだ。

 

 まず一つ目なんだが文字通りだな、うん。

 

 …………おっと。お前もしかして余裕だろ?みたいな反応は既に把握済みだぜ。実際余裕で園児をやっているわけだが、周りが英語喋りすぎてよく分からん現状だ。日本語ペラペーラだけど英語がカタコトってもうこれ訳わかんねぇな。

 

 次に二つ目についてだが…………事実こいつが1番やべぇだろ。下手したら人類滅亡に関わることになるからな。

 何十年後には忘れているかもしれないから、簡潔に書こうと思うが、まず前世の世界であるスマホゲームがあった。Fate/Grand Order、通称FGOと呼ばれるものだ。

 この作品は魔術と呼ばれる神代の神秘の残り香みたいな物が存在する世界が舞台で、主人公が「人理焼却」による人類史滅却の危機に立ち向かうため、歴史の流れの中で滅亡への原因となる異常事態となった「特異点」に時間旅行し歴史を正しい流れに戻すべく奮闘する物語だ。

 

 で、アニムスフィアはどこに出てくるんだって話なのだが……………主人公が時間旅行をしたりする活動拠点───── 人理継続保障機関フィニス・カルデアの初代所長と二代目所長が、『アニムスフィア』家のものなのだ。というか、カルデアが『アニムスフィア』家の研究機関的な扱いでもあった気がする。

 

 とりあえず、重要ポジションに生まれたってことだけは分かってくれ。

 下手すりゃ初期の爆弾でジ・エンドしちゃうから気をつけねば…………!!

 

 んで、地味に3つ目なんだが、これはmagic────魔術のことだろうな。FGO世界等において、魔法ってのはめちゃくちゃ大事な要素で。魔術師って呼ばれてる連中が死んでも至りたい『根源の渦』とかいう、文字通り『世界の全て』にたどり着く手段(魔術)の種類を魔法と、言うのだ。

 

 以上三つより、僕はFGO世界に転生した。QED証明終了。

 

 

 

 7月3日

 

 いや、終了しちゃダメでしょ。まだ書かなくちゃいけないことあったんだったわ。昨日書いたアニムスフィア家についての補足だ。

 

 まず僕が今どこに住んでいるのか。それは、あの素晴らしき自由の国────アメリカ合衆国だぁ!

 

 

 …………と、喜んでいたのはつかの間。

 つまりなんだ、アニムスフィア家ってアメリカにあったのか??FGOしか知らないからわからん。でもイギリスにあるイメージだったんだが…………。

 

 まぁ、にわかの僕の知識なんて当てにならないよネ!

 

 はい、補足しゅーりょー。

 

 

 

 8月9日

 

 

 なーんか、おかしくね?この世界。

 

 やたらニュースで、magicって単語が飛び交っているし。なんなら街中で魔術使ってる奴見かけたんだが。

 

 おいおい、神秘の秘匿はどうした?魔術って完全に正体を知られたらまずいんじゃあないのか?僕がこっち側だから良かったものの、こんな杜撰な体制で時計塔は恥ずかしくないのかよ。

 いいもん、ロードになったらなんかこう…………まぁ色々頑張って魔術の秘匿を徹底させてやらぁ!

 

 

 

 

 

 〇月△日

 

 

 なんか月日の認識阻害があるんだが…………………いや、そんなことはどうでもいい!今日は素晴らしいことがあった!

 

 現在4歳の僕、ついに……………お兄ちゃんになりますッ!!

 

 勝ったな、風呂入ってくる。

 

 

 

(入浴後)

 

 

 

 さっぱりしたので改めて書いていく。

 四つ下の妹がちょっと前に生まれたのだが、前世で一人っ子だった僕は接し方がよく分からんから、猫で遊ぶみたいに妹をあやしていたんだけど……………今日、妹が僕の名前を呼んでくれました!!っべー!マジ嬉しいわ。

 

 今まで猫扱いしちゃってごめんな〜。やっとお兄ちゃんの自覚が持てた気がするよ〜。

 

 これで『どけ!!!俺はお兄ちゃんだぞ!!!』が堂々と言えるようになった。やったぜ。

 

 あ、ちなみに妹の名前はオルガマリーでした。

 

 いやちなみにとかそういうことで放置しちゃうレベルの問題じゃないだろ。世界滅亡まであと23年になっちゃったじゃないか。

 ていうか、僕が長男だから所長になるのって僕じゃね?え、やばくね。足下に設置されたレ//フ爆弾で死んじゃうのん?

 

 

 

………………そう考えると非常にやばい。ほんとにまずいぞ。どうにかして防がなくちゃ。

 

 兎にも角にもまず魔術に対する知識が足りない。あとは運動能力も足りないし、レ//フとの会話をすり抜ける話術とかも足りない。何もかもが圧倒的に足りないぞ。

 

 あと23年でやれるか?いや、やってみせる。素晴らしい世界を謳歌するためにも、そしてオルガマリーを─────マリーとこの家を守るためにも、頑張らなくては。

 

 

 

 

 2()0()8()3()() 8月1日。

 

 

 FGO世界と思ったら全然そんなことなかった件について。

 

 

 

 

 

 

 

 2083年 8月8日。

 

 

 

 衝撃のあまり、空中三回転捻りを繰り出して背中から倒れた僕は一週間魘され続けました。ちょっと何言ってるか分からないけど、事実です察しろ。

 

 というかここまで前フリしておいてFGO世界じゃないのってまじ?

 

 じゃあFGO世界じゃなくてどの世界線なんですか?と聞かれると、どこの世界線にも当てはまらないんだよなぁ…………………偶然魔法が使える世界に転生したってことでいいんですかねぇ?

 

 つまり僕は、

 

・偶然『アニムスフィア』姓を持つ家に生まれ変わり、

 

 

・偶然そこが魔法が使える世界で、

 

 

・偶然妹の名前が『オルガマリー』だった。

 

 ってことでおk?

 

 

 

 

 

 

 

 いや良くないわ!なんなんだし!思わせぶり酷すぎないか!?僕の決死の覚悟を返してええええ!!(建前)恥ずかしいいいいいい!(本音)。

 

 

 

 

 

 ふぅ、スッキリした。よし、じゃあ事の顛末をざっくり書くことにする。

 

 まず、一週間前。なんやかんやあって魔術を学ぼうとした僕は、セバスチャン(執事)にねだって魔術を教えて貰うことになった。ちなみに僕が5歳になったら教えるつもりだったらしい。

 一年早いが、それでも時間が足りないことを自覚していた僕は急かすようにセバスチャンに頼み込んで、一年後の予習みたいな形で教わることになったのだが……………

 

 

 …………いや、想子(サイオン)とか霊子(プシオン)とかなんなの?これあれじゃね?もう分かった。マヤ分かっちゃったよ(マヤって誰だよ)。

 ここはFGOの世界じゃなくて『魔法科高校の劣等生』の世界なんだろ?いやアニメ一期しか観てないんすけど…………もうマヂ無理…………。

 

 

 あー、やる気無くしちゃったや。なんにも成し遂げてないのに燃え尽き症候群だよホント。せっかく人が人理焼却に向けて努力してたのに……………書いてて思うんだが、これ酷い八つ当たりだな。ヤメヤメ、こんなのキャラじゃない。

 

 唯一やる気があるのは、やっぱり『魔法』のことだ。

 このまま学んでいけば簡単な術とか、あとは難しいって言われてる領域魔法系統も使えるって太鼓判を押されたんで。

 色々勉強したら、前世の記憶を使って『天体魔術』とか作ってみよっかな?星見の一族(アニムスフィア)っていったら天体魔術だからね。

 

 

 ということで、僕の愚痴でした。あーあ、カルデアないの残念だなぁー。

 

 

 

 

 

 2089年 12月15日

 

 

 カルデアがないなら、作ればいいんだ。

 

 

 

 

 






 続かないだろクォレハ……………


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スタートと覚悟がガンギマリな凡人


 評価☆10が一万個きたら次話投稿しようかなと思ってましたが、改めて見ると一話だけじゃ評価難しい作品だと思いました、まる。

 あと三話くらい毎日投稿してみたい。


 

 

 

 2089年 12月16日

 

 

 

 めっっっっちゃ久しぶりに日記を書くことする。

 ドーモ。久しぶりボク=サン、十歳のボクです。

 

 いやぁ、昨日はちょっと昂っちゃって一日中思い馳せていたから、日記の存在を忘れてしまったのだ。

 とりあえず一睡もしていない極限状態で深夜テンションのアドレナリンマシマシだから、今の僕のアイデアが吹っ飛ぶ前に書き残すことにする。

 

 

 まず、僕の今後の目標は『カルデアを設立する』こと。

 

 そしてそのために必要なのは魔法の知識はもちろん、今の魔法史学的に不可能とも言えるものを数個クリアしていかなくちゃならない。

 

 例えば、《擬似地球環境モデル・カルデアス》。

 これは惑星には魂があるとの定義に基き、その魂を複写することにより作り出された小型の擬似天体。簡単に言うと、小さな地球のコピーだ。

 星の状態を過去や未来に設定する事が出来、現実の地球の様々な時代を正確に再現可能という、まさしく魔法のような装置だ。

 

 惑星の魂のコピーとか、星の状態を未来にするとか、そういった発想が思いつく魔術はさすが神代から続いていることもあると感心する。けど、それをたった100年ぽっちしか発展してない途上の魔法で再現ができるかと言えば……………誰もが首を横に振るだろう。

 僕の予想だと、FGO世界でいうところの『魂』=この世界の精神、という等式で成り立っていて、つまりこれを進めるには精神に対する理解を深めなくちゃならない。

 

 

 そして、カルデアスだけでカルデアが設立する訳では無い。カルデアスの開発でさえ目標到達への必要な要素のひとつに過ぎないのだから。

 

 

 あとは近未来観測レンズ・シバや事象記録電脳魔・ラプラス、霊子演算装置・トリスメギストスなんかも様々な技術的難題を超え、初めて実現が可能なんじゃないかと思われるものだ。

 

 設備に対する電力の宛は………あるっちゃある。多分、カルデアが成り立つ頃には解決するだろうし。

 

 あとはカルデアを作って何を為すか、かな。

 

 

 これに関しては色々とある。

 

 一つ目。

 カルデアスが地球の縮小版だと書いたように、シバと組み合わせれば過去と現在のあらゆる事象を把握し、精査する事が可能になる。地球外に高度知的生命体がいないと仮定すると、魔法という現象が起こりえるのは地球のみであり、地球という超々大規模の情報体(エイドス)の変化を情報体次元(イデア)を通して見ることで物理法則の歪みとその変異を捉えることが出来る。そのデータを集めることで、間違いなく()()()()()()()()する足がかりになるだろう。

 

 二つ目。

 単純にラプラスやトリスメギストスは、2100年を目前にしてきた人類現在の科学水準と比べても桁違いの演算能力を保持している。

 科学と魔法の融合という実にロマン溢れる演算装置は、生活水準を底上げしてくれるに違いない。

 

 

 凡人の僕でも、ざっとこんな感じで推定可能な未来を描ける。

 これが、天才と呼ばれる人種の人達なら。きっともっと活用できるはず。むしろ僕よりよっぽど高性能な物を生み出してしまいそうだ。それもカルデアでさえ見劣りしてしまいそうな位のものを。

 

 

 だけど、カルデアは────そしてそこに付随する物だけは、僕だけが作りたい。そんなどうしようもないエゴが今の僕に渦巻いている。

 

 あぁ、こうしちゃいられない。今すぐに研究に励みたい!

 

 時間はみんな平等だから。そして僕みたいな凡人なら、その一秒一秒を大切に、意義の有るものにしていかなくちゃならないんだ。

 

 そう考えると、僕の体の奥から熱い想いが込み上げてくる。きっとそれは、情熱とかやる気とか、そんな名前で呼ばれる感情なんだろう。

 これまでは、空想の産物とされていた魔法を片っ端から調べていき、何となく空虚な胸の内を埋めていた。けれどようやくここに来て、その持て余し気味だった知識と、この熱を向ける方向が定まった。

 やっと僕の────サニアエリー・アニムスフィアの人生が始まった気がした。

 

 

 

 

 2090年 1月5日

 

 ハッピーニューイヤー。

 はい、挨拶終了!しばらく空いた分、これまでの考えを纏めてみることにする。

 

 カルデア設立にあたり、何が必要なのかをこの3週間近く考えていた。いや足りないものだらけなのは十分承知の上で、だ。

 お金とか土地とか、そういったものより、より魔法的手段を考えるべきと判断した結果、まず僕が学ぶべきなのは《人造精霊》と呼ばれている魔法である。

 

 系統外に属する魔法《人造精霊》。霊子(プシオン)情報体を核に、周りを高濃度の想子(サイオン)で固められた精霊と違い、《人造精霊》は霊子(プシオン)の核を持たず、想子(サイオン)のみで構成してある人為的に生み出された《精霊》の現代魔法的な呼び名だ。

 

 僕の予定では、地球の情報体(エイドス)をフルコピーしたカルデアスも、地球上の事象を集計する使い魔・ラプラスも、精霊という形で使役する予定になる。

 だが、カルデアス────地球を精霊として喚起するのはどうしても難易度が高すぎる。《精霊》の規模がさらに拡大したもの─────自然現象そのものだと言われている《神霊》でさえ『国』()()の範囲内でしか気象操作等しか行えないらしい。それが地球規模になってしまえば、その難易度は計り知れない。そんなのを使役しようとしたら、僕の人生がいくつあっても足りないのは確定だ。

 

 だからこそ、《人造精霊》を使う。

 人造精霊使役魔法は、通常の精霊使役魔法より規模としてダウングレードするが、操作性・管理のしやすさという点においては優秀なのだ。

 そしてその《人造精霊》を地球規模の《神霊》─────《超抜級神霊》の枷として使う。イメージは想子(サイオン)の鎧だ。《超抜級神霊》の周りにさらに《人造精霊》の想子(サイオン)層を重ねて、上から神霊の操作をする。

 

 欠点としては、神霊としての魔法が格段にダウングレードしてしまう…………もしくは全く使えなくなってしまうだろうが問題はない。カルデアスとして適用するから武装としての魔法は不必要だし、寧ろ操作性・管理性という面においては向上している。

 

 あとはカルデアスの核となる霊子(プシオン)情報体へのアプローチ方法を開発すれば、七割は完成する。

 

 

 まぁ〜それが難しいんだけどねぇ〜。

 

 

 とりあえず今は《人造精霊》についての魔法と、霊子(プシオン)情報体へアクセスするための知覚魔法についても同時並行で進めねば。ちょっとテンション上がってきたー!

 

 

 

 

 2090年 8月25日

 

 

 

 金髪の親戚兼幼なじみが我が家に侵攻してきて、書くのが遅れてしまった。対幼なじみ決戦妹オルガマリーを出動させたから何とかなったぜ………………。

 

 

 半年以上空いたけど、《人造精霊》についてある程度考察をまとめ終わったからそれを記すことにしてみた。

 いや、遅すぎ!と思うけど、まぁそこは平々凡々の僕ですから。長い目で見てもろて。

 

 霊子(プシオン)情報体への知覚魔法については…………これは少し難航している。

 元々魔法師には個別情報体(エイドス)の状態を認識できる能力を大なり小なり持っているが、霊子(プシオン)になると話が別になる。

 想子(サイオン)と同じく、心霊現象の次元に属する非物質粒子であり、精神に繋がる粒子だと考えられている説がある。《霊視力》と呼ばれる古式魔法の能力で霊子(プシオン)の放射光を観測できるらしいが、霊子(プシオン)そのものを観測できた例はなく、恐らく出来たとしても属人的な能力に依存してしまうだろう。

 

 僕にできることはその《霊視力》を学びつつ、非物質粒子への認識能力を拡大することだけになってしまう。知覚能力は努力次第で伸びるので、僕の努力量に賭ける他ないだろう。

 後で両親にもそれとなく相談してみることにする。

 

 

 

 

 2090年 8月27日

 

 

 なんか急に《霊視力》について目処が立ってしまったんだが。

 と言っても、霊子(プシオン)の放射光を観測できる《霊視力》ではなく、霊子(プシオン)想子(サイオン)の波を観測できる知覚能力だが。ちなみにこれは我が家の秘匿魔法技術のひとつらしい。

 

 え、僕が少なからず習得してるってマ?

 

 

 

 

 

 

 マジらしい(小並感)。

 

 魔法の実技練習をする前に、精霊との交信と座禅を30分程やるのだが、それは技術を習得するためらしい。

 

 へーそうなんだー。あの座禅組んだ後は、なんか魔法の精度が上がっている気がしてたから、てっきり集中力を高めるための儀式かと思っていた。

 

 

 ちなみにこの《霊視力》の波動版ともいえる知覚能力の名前は《妖精眼(グラムサイト)》と呼ばれるらしい。

 

 

 

 

 

………

………………

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 かっけぇ………

 

 

 

 

 

 

 2091年 3月8日

 

 

 《妖精眼(グラムサイト)》の習得が予想以上に進んでいる件について。

 

 なんか凄いことらしい。

 

 自分の父とかには『この歳(12才)では異常なまでの修練率だ』と太鼓判を押されてしまったから、天才だとか家中でもてはやされるんだわ。

 

 うーん、自分が天才ってことは明確に否を唱えるけど。僕、これに関しては結構努力積んできたから、驚愕と納得が半分半分な状態だなー。

 

 4歳の頃からセバスチャンにこれを教わって以来、毎日のようにやってたから。一日一回とか二回とか────ともかくそんくらい続けてたし、『12才にしては素晴らしい出来である』っていう評価は、まぁ当然っちゃ当然でしょうな。

 

 さんきゅーセバスチャャン!

 

 

 

 

 2092年 9月2日

 

 

 世間では大亜細亜連合の沖縄侵攻と新ソ連の佐渡侵攻という大事件に未だ驚愕している頃、僕は改めて思った。なんで戦争なんかしてんだろ?まぢわからん、と。

 

 不謹慎だけれど、僕は侵略だとかそういったものに対して興味は無い…………いや持つ暇が無い、と言い換えてもいいだろう。僕の熱意の矛先は目下、カルデア設立に向いているからだ。

 

 大体さー魔法を武力に使うなんてやめて、もっと学術的で意義のあることに使えないのかなぁ……………カルデアが完成したその時には、魔法は『武器』としてでは無く『真の学問』として重要視されるだろう。そうすれば今より少しだけ平和になれるのだろうか?

 

 とりあえず僕が言いたいのは、魔法が武力への方向に突っ切ってしまって、マリーとかが徴兵されてしまうような未来になって欲しくない。ということである。

 

 そういえば原作主人公の…………えーっと、何とか達也?くんも妹さんに対してこんなこと感じてた描写があったようななかったような……………もしかしたら同じ志しを持つ者として相対する未来もあるかも。まぁそれが何十年後になることやらって話なんですけどね。

 

 あー、原作主人公くんみたいな天才キャラが居れば僕の悩みも簡単に解決してくれるのかなー!

 

 くっそー天才め今に見てろよー。僕みたいな凡人はずっと爪を研いでるんだからなー!

 

 

 

 

 はい、息抜き終了ー。

 

 

 

 

 2093年 1月9日

 

 

 年が明けた三が日。毎年襲来してくる幼なじみに、誕生日プレゼントをぶつけて撃退したところで。

 

 少し、どころかでっっっかい壁にぶつかりました!うおおおお!ヤケクソだぜぇぇ!!!

 

 

 ここまでが順調しすぎただけなんだよなぁ………………いや、まじまじ。マリーが23歳────FGOでの『人理焼却』が起きる歳と同じ────になるまでには作れたらいいなーとか思ってたら、ホントにそんなペースで進んじゃうから調子乗っちゃったよ。うん、まぁ僕凡人だし?ここまでが予定調和って感じかなっていうかぁ?でもそれはそれとして悔しいし情けないよなぁ!?

 

 

 詰んでるところは予想通り、霊子(プシオン)情報体の解析と改変についてだ。

 

 今ある知覚力を伸ばして『妖精眼(グラムサイト)』へ至れば、霊子(プシオン)波は認識できるだろうけど、その構造までを見ることは叶わないだろう。

 霊子(プシオン)情報体…………まぁつまり精神なんだけども。精神の解析と改変が可能な魔法なんてあの有名な四葉家の精神構造干渉魔法しか知らんわっ

 

 例えば精神干渉系に最も有名な魔法の1つである精神攻撃魔法『ルナ・ストライク』というものがあるが、これは系統外魔法には珍しくプロセスが定式化されているのだ。霊子(プシオン)情報体の情報に『痛覚』を直接を書き加えることで、精神に攻撃を食らわせているわけだが、僕が求めている精神情報の改変はこれじゃなく。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような魔法なんだよなぁ………。

 

 

 うーん、少しアプローチを変えてみるのもありかもしれない。

 さっきの話にも出ていた『ルナ・ストライク』…………アメリカでは精神攻撃魔法を『月の魔法(ルーナ・マジック)』と呼んでいるんだ。

 

 月の魔法……………月………………天体……………天体魔術………………はっ!?

 

 

 っていう雑な伝言ゲームだけど、やってみる価値はあるかもしれない。てか天体魔術とかまんまFateやんけ!仮にもアニムスフィア家の男ならば、使いたいよなぁ!?

 

 

 

 

 

 

 2093年 10月30日

 

 

 最長レポートサボり記録を更新しました。今日も元気な13歳です。

 

 精神情報体への的確なアプローチ方法が見つかるまで、少し寄り道がてら天体魔術とか、あとは刻印型術式─────ルーン魔術みたいなやつ─────にも最近は手を伸ばしている。

 

 天体と人体を照応させて自身の情報を変転させたり、自分と相手を天体に見立てて魔法の効果を強化するなど、応用範囲も広い。なにより結構奥深い。なーんでこんな面白いのを使う人が少ないんだろうと疑問に思ってしまうくらいだ。

 

 余談だけど、月が司る属性は『受動』だ。

 

 主に自分に対する魔法の効果を上げることが出来るっぽい。防御魔法以外に使い所が少なそうだ。

 

 

 刻印術式については…………うん。ルーン魔術かっけぇ!みたいなノリで学んでいるけど、正直これ使える?施設の防衛機構としては満点かもしれないけど、それ以外に実用性ないよなぁ。まず咄嗟に使えないのと改変内容を変化させる柔軟性がないのがダメなとこだと思うんです(小並感)。

 

 精霊で刻印術式を代用できないかな?1つブレイクスルーが起きたら一気に化けそうな分野だと思いました。

 

 

 ていうかこれ全部セバスチャンに教えてもらったんだよね。サンキューセバスチャン!

 

 

 

 

 

 

 

 






 低評価は泣けてくるので高評価にしてください。してくれたら笑顔になります(誰得)。


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拝啓 星が降る夜に


 補足したいこと

 まず、今回、無理やり原作に介入すべく、魔法の独自解釈が多いです。あと時間が頻繁に飛びますが、あんまり気にしないでもろて………。

 そして主人公のサニアエリーくんについてです。

 主人公のサニアくんは凡人ですが、生まれが魔法名家(日本でいう二十八家に位置する)なので魔法的なスペックは高いです。一条将輝と同等以下と思ってもらって構いません。まぁ、一条将輝と戦闘になったら10回中9回は負けるんですけどね。よっわ。

 ただ、《妖精眼》に関しては、彼の特異的な出自もあって、習得率にバフがかかっている状態です。
 前世では普通の人間だった彼はその感覚を引き継いだまま、魔法師としての魔法感知能力も持っているので、他の人と比べて想子波・霊子波などの感覚が敏感なのです。
 魔法演算領域のスペックもなまじ高いので、魔法感知能力は『天才』の部類に入る……………かもしれません。

 だからサニアくんは《妖精眼》の習得だけ、ずば抜けて早いんですよね(RTA感)

 はい、補足しゅーりょー!



 

 

 

 

 2093年 11月24日

 

 

 実は、日本で言うところの中学2年生であるぼく。

 アメリカの義務教育は「小学校六年、中学校二年、高校四年」の十二年間。飛び級とか全くしてないので、次は高校生になる。

 でもぶっちゃけちゃえば、どこの高校でもいいんだよなぁー。学力に余裕があるし、良いところに入っても構わないんだが、そうなると学校の勉強に時間を使わなくちゃいけない。そうなれば必然と研究の時間も少なくなってしまうわけで。

 

 高校の事はこれから考えようそうしよう。べ、別に逃げてるわけじゃないんだからね!?

 

 

 

 と、茶番はここまでにしておいて。近況報告を書こうと思う。

 

 前回は天体魔術を再現してみよー、とか刻印術式の面白い使い方がないかどうかを考察したり、とかを書いた。

 今回は刻印術式に続く、魔法陣の許容範囲を纏めていく。

 

 魔法陣は儀式魔法によく使われる、古式魔法の技術の一つ。五芒星、六芒星、に代表される有名な形から、意味の強いもの同士を繋ぎ合わせて関係性を強める独自の形まで、昨今の魔法陣は様々な形がある。

 

 魔法陣と刻印術式の違いは、

 

・刻印術式は術式を幾何学紋様化して感応性の特殊合金に刻み、そこに想子(サイオン)を流し込む事で魔法式を構築し、事象改変を起こす術式。

 

・魔法陣は、術者と陣に敷かれたものの『概念的な関係性』を強化・弱体化等に改変させる術。

 

 となる。

 ここで重要なのは、あくまでも刻印術式は想子(サイオン)を注入しなければ魔法効果が発揮されないが、魔法陣はそれ自体に情報次元(イデア)に働きかける力があるということだ。

 

 魔法陣と刻印術式。古式と現代の魔法技術。この2つの利点を良いとこ取りすれば、見えてくるものもありそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2094年 3月4日

 

 

 凄い。進展あり。いま、演算をしている。しばし報告を待ってくれ。

 

 

 

 

 

 

 2094年 4月7日

 

 

 

 想定が形になったので報告をする。

 

 今回は、壁にぶつかっていた精神情報体へのアプローチ方法について、ある程度目処が立ったので書く…………前に。なぜ、精神情報体へ働きかける力が欲しいのかについて説明しよう。

 

 

 これは地球を精霊化し、その状態変化を解析するためにある。

 

 FGO世界のカルデアスは、現在から過去、そして未来まで予測演算できるので、こちらのカルデアスも同じような事をしたい。

 ただ、未来に関しては変数(人間の行動)が多すぎるため、現在視と過去視に限られてしまうだろう。

 

 とまぁ、そうなれば現在視はともかくとして、問題は過去視になる。

 僕はカルデアス型地球精霊の情報を過去に巻き戻す事で、過去視を可能にさせようと企んだが、その『過去に巻き戻す』というアプローチ方法が分からず苦戦を強いられていた。

 

 限定的な時間操作。まるで不老不死を目指しているような、そんな気分にさせる。

 

 ところで、時間操作、と聞いて。なにか聞き覚えを感じないだろうか?そう、Fate作品に登場する衛宮切嗣が、使用する魔法『固有時制御(タイムアルター)』である。

 

 自分の体内の時間経過速度のみを倍速化させることで高速移動を可能にする魔術だが、例えばこれを負の値に倍速化したらどうなるだろうか?

 僕は、この発想をもとに予測演算をして結果を推定したりと、とにかく色々やったわけだ。

 

 その結果、精神は過去の状態に戻る、という結論を出した。

 

 実質的な不老不死が可能になるかもしれないが、恐らく人間に適用すると肉体(現在)精神(過去)のギャップに追いつけず、精神崩壊するだろう。あとは解除後に世界からの修正力が働いて、体が爆裂四散する。うーん、グロい(小並感)。

 

 じゃあ、この変化に耐えられて、尚且つ解除後の世界からの修正力を無視できる存在はあるのだろうか?

 

 そう、精霊である。もっと言えば、地球を精霊化したやつだ。

 

 つまるところこの『固有時制御(タイムアルター)』の負の値に倍速化させる魔法があれば、カルデアスは理論上開発可能になる………!!

 

 そしてこの世界で『固有時制御(タイムアルター)』の代わりになる魔法は、もう見つけてある。いや、というより知識として()()()()()が正しいだろう。

 

 

 

 その魔法の名は、

 

 

 

 

 

…………

 

………………

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 【コキュートス】。主人公くんの妹、司波深雪ちゃんが持つ固有魔法だ。

 

 【コキュートス】は精神を凍結させる、という婉曲表現がされるが、実際のところは精神時間の停滞・停止を強制する魔法だ。

 これを僕流に言うならば、精神時間に0の値を掛けて、停止に追い込む魔法になる。そして求めていたものでもある。

 

 え?時間を逆行させるというより、停止してんじゃんって?

 だいじょーぶ。【コキュートス】のプロセスが分かれば、それを改良して望み通りの魔法を開発することもできる。

 

 天才は根幹を作り、僕のような凡夫が枝葉を付け加える。今回もそれと同じなだけだ。

 

 

 

 

 原作軸開始に合わせるために来年度いっぱいは家に篭って、ネット授業だけで単位を取ることにしよう。

 そして再来年度には司波深雪ちゃんが入学するから、そのタイミングで僕も国立魔法大学付属第一高校に入学しよう。偶然にも同じ年齢だからね。

 

 よーし、そうと決まれば両親とセバスチャン!に相談するぜー!!

 

 

 

 

 

 

♦♦─────────♦♦

 

 

 

 

 

 私の四つ上の兄さん……………サニア兄さんは天才だ。

 私でもその入口がようやく見えてきた《妖精眼(グラムサイト)》を私の今の年齢────つまり、11歳の頃にはもうある程度習得し終えていたという。12歳の時にはお父様に異端児と称される程にまで、その技術を向上させていたのだから、その才は言うまでもないのだろう。

 

 それに、兄さんはこんな出来損ないの妹にとっても優しくて、いつも嬉しい言葉を語りかけてくれる。

 

 お家で冷遇されている訳では無いけど……………やっぱり兄さんと比べられて、劣っている私は落胆の溜息ばかりをかけられてきた。

 でも、そうやって落ち込む私に兄さんは、

 

「僕は凡人だから、努力の量で勝負しなくちゃならないんだ。でも、いつも上手くいくわけなくて、落ち込むことなんて毎日さ。そんな時に僕が思い出すのはさ─────」

 

 ゆっくりと頭を撫ぜて、語りかける。それは私に、というよりも自分に言い聞かせているようにも聴こえた。

 私は兄さんの瞳を覗く。群青色の眼がまるで夜空みたいに、キラキラ煌めいていた。

 

「─────自分を貫くあの星々なんだ。

 夜空に瞬く星を見た時みたいに感動して、

 流星が焼け落ちる刹那の侘しい気持ちに浸って、

 でもその姿に小さな憧憬を抱くんだ。

 

 ……………あぁ、そうか。僕は────」

 

 

 その時の私の胸中には、形容し難い複雑な想いが渦巻いていた。

 

 でも、今は。この瞬間だけは。灼けるような一等星を瞳の奥に宿した兄さんを、私の憧れ(サニアエリー)を見詰めていたかった。

 

 

「─────この星の、未来を、見ていたいんだ」

 

「この先をもっと望みたい。僕が歩んだ路が微かでも、この星の記録に刻めるように、生きていたいんだ」

 

 

 

 兄さんの眼にようやく理性が灯り始めた。あの焦がれた一等星はもう、見えない。

 でも、硬く堅く難く錬鉄されたような意志があるのを、見て悟った。

 

 兄さんは少しだけ恥ずかしそうに笑うと、私の両肩にそっと手を置いて、珍しく命令するような言い方で話しかけてくれた。

 

 

 

「マリー。自分の本音に耳を傾けられるような人になりなさい。自分以外のものを、あまり背負いすぎないようにしなさい。キミの身体は、キミだけのものだよ」

 

 でも、尊大な喋り方はあまり似合ってなくて。私は噴き出すように笑ってしまった。

 

「えぇ…………いま、すっごいいい事言おうとしたのに…………」

 

 ごめんなさい、兄さん。ちょっと似合ってないですよ。

 

「早速自分の本音を聴けたんだね…………僕が言いたいことはこういうことじゃないんだけどなー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マリー」

 

 

 はい。

 

 

「誇れる自分になりなさい。一所懸命、励みなさい。成功も失敗も全部余すことなく、自分だと言い張れるように。ね?」

 

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 その年の二月末。兄さんは一人で日本の東京へと旅立った。私たちの親戚の人が、無事日本の高校に留学できるように働きかけてくれたのだという。

 

 兄さんはきっと、良い意味でも悪い意味でも有名な人になってしまうだろう。日本留学は三年間ぽっちなのに、何故かそう確信している自分がいた。

 

 頑張れ兄さん。私は応援しています。今までも、そしてこれからも。

 

 

 私も頑張ります。応援していてください。自分はもちろん、兄さんにも誇って貰えるような、そんな人間になってみせます。

 

 

 

 

 





 もはやオリ主系オルガマリーじゃないですかやだー。

 はい、批判承知で書きましたよっと。

 サニア兄さんとマリー妹の関係は、実は『感情が白紙化されてない達也』と『幼い頃から一緒に育った深雪』というif関係を想像して書いてます。
 自分で書いててエモいと思ってしまった。僕が書いたオリ主系オルガマリー(少女期)からしか摂取出来ない何かがあると思います。



 次回から日記形式はしばらく封印します。なんか筆が乗ってきたぜ…………!!


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第一章 入学編
春麗らかな入学式で、友が出来た



 すみません、致命的な欠陥を見つけたので一旦削除し、書き直しました。指摘して下さった方、ありがとうございます。

 あと、お気に入りが1500を超えました。正直やばくね?期待大じゃな?と思っていますが、自分が読んで楽しく思えるような小説を書きたいと思っています。よろしくお願いします。


 サニアくんの一人称が「ボク」になってます。リーナが「ワタシ」となっているのでそれに合わせた形で。混合に気をつけてください。




 

 

 

 大輪の桜が我が世を告げる並木道。

 

 

 その素晴らしき満開の桜たちを見ながらも、打って変わってボクの心は曇り気味。晴れる気配はなかったようだ。

 

「昨日の疲れが取れない………ぬぁー」

 

 自分で出してて気色悪い声だけど、それも仕方ない。そう自分自身に納得させた。

 

 だって入学式前日まで、購入したマンションの一室に移住することが出来なかったのだから。

 親戚さん、めちゃくちゃいい人たちで、こんな四分の一しか血が流れてないボクを歓迎してくれた。

 

 本家が京都方面なので早くお暇して荷造りを始めたかったのだが、祖父の兄君────つまり、大伯父さんが

 

「いっその事、ここから近い二高に入学したらどうだい?私なら手続きができるのだが………」

 といって、仲良くなった一歳年下の男の子も

 

「そ、それってサニアさんと同じ学校に通えるってことですか!?ほ、ほんとに………?」

 

 と、満更でもない様子でこちらをチラチラと見てきた。

 

 やめてくれー!こんないたたまれない気持ちにしないでー!これじゃボクがこれから司波深雪ちゃんに意図して接触することが、まるで汚く思えてしまうじゃないかー!!いやまぁ、事実として汚いわけだが。

 

 

 

 そんなこんなで。

 

 

 

 めちゃくちゃ外堀埋めてくるから、完全に包囲されるまでに逃げ切って今に至るわけだ。

 引越し会社の人には「遅くね?」みたいな怪訝な顔で見られ、未だ部屋には積み上がっている段ボール箱の数々……………穴があったら入りたいとはまさにこの事だ。

 

 

 しかしいい加減に切り替えるべきだ。せっかく春うららな気候に恵まれた、晴れやかな入学式なのだから。

 

 そう言って気合いを入れる為に身嗜みのチェックを改めてする。

 

 アニムスフィア家の特徴の一つである白い髪は、不快と思われない程度にくせっ毛が抑えられていて、頭の後ろに結った短い三つ編みは妹とお揃いの髪型だ。

 上にひょろ長い(179cm)けど、それに対応したサイズの制服のブルゾンを羽織り直す。

 

 シャツがはみ出してないか、ネクタイは綺麗に縛ってあるか、あるいは…………と、半ば神経質にチェックをする。身嗜みを整えるのは紳士の基本だって、父が言ってたからね。当然の行為だ。

 

「さて、行きますか……!」

 

 無意識に口からこぼれる勇み声に気付く事無く、入学式の会場である講堂に足を向ける。

 

 そんなボクの胸には、一輪の花が咲いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 講堂に入った時間は、開式時間にギリギリといったところだった。

 座席はその殆どが埋まっていて、とても選び好みしている場合でもなかったから、比較的空いている前列へ座ろうとする。

 

「ここ、空いていますか?」

 

 もちろん確認する事は忘れない。

 ボクとしてもこんな些細な事で争いになりたくなかったし、それは相手にとっても同じことなのだろう。

 ルビーのような赤い光沢を纏った長髪が勢いよくなびき、モスグリーンの瞳がボクを認識した。

 

 彼女は、ボクの髪を一瞥し、目を合わせて、

 

「はい、空席です」

 

 貴族のような雰囲気を醸し出しつつ、丁寧に答えてくれた。

 

 ありがたいと思いながら、目立つ容姿を影に溶け込ませるべく、さっさと椅子に座る。日本のみならず、外国ですら珍しいとも言える白い髪。そしてこの異国人感のある顔立ちが並べば、目立つに決まっている。そう、だから─────

 

「あの、ひょっとして、外国の…………留学生の方だったり?」

 

 ────うん、まぁ。想定してましたよ。しかも留学生だって分かってる人には分かるんだろうね。

 

 

 司波深雪ちゃんに接触する時に、留学生というデータは非常に不利になる。うろ覚えの知識だが、深雪ちゃんの兄はこういう人に敏感らしい。ネットじゃ、すぐ分解するとかマテバするとか、恐ろしい単語が並び連ねてた。さ、さすがはお兄様ですぅ〜(萎縮)。

 

 

 ボクの作戦の一つである「え?留学生ってダレ?ボクしーらない」は失敗に終わったようだ。

 

 

 流暢な日本語でごり押せると思ったんだけど。どうやらそんなに甘くないらしい。

 

 早々に思考放棄したボクは、隣に座る彼女の問いに答えるべく口を開く。

 

「えぇ、まぁ。ご察しの通り、アメリカからの留学生です。といってもボクには四分の一、日本人の血が流れているので、留学かどうかは怪しいところですね」

 

 ボクの苦笑じみた言い訳を聞いて、何故か満足そうな笑みを返してきた彼女は、座席のギリギリに身体を寄せて顔から突っ込むように、こちら側に乗り上げてきた。

 

 ちょっ、近っ、近くない????

 

 女の子特有の『良いかほり』を感じる距離。そこで彼女は目を光らせて、言った。

 

「やっぱり!やっぱりそうだと思いました!その白い巻き毛、そしてアメリカからの留学生、貴方があのアニムスフィア家の長男ですね!!」

 

 いやなんで分かるんだし。

 

 てか個人情報保護法はどうした?大丈夫?息してる?まるで探偵みたいにズバズバ暴かれちゃうんだけど。

 

 

 誰かこの名探偵を引き取ってくださーい!!!

 

 

「こらこらエイミィ………彼に迷惑じゃないか」

「ひぎゅっ!ちょ、スバル………く、首はやめれぇ〜!」

 

 

 そんなボクの内なる訴えをキャッチしたように、ボクの隣の彼女のさらに隣、美少年…………のようにみえる美少女が芝居がかった振る舞いで、ルビー色の彼女の首根っこを掴んだ。

 

 えぇ…………思ったより勢い良く引っこ抜いたけど大丈夫?今「ひぎゅっ!」っていったよ?淑女から出て良い声じゃなかったぞ…………。

 

「あぁ、いや、済まないね。ちょっとこの子、距離の詰め方が異常に速いんだ。そう思わないかい?」

「い、いやぁ、コミュニケーション能力が高くて羨ましいな、ってくらいしか思ってませんでしたよ」

「お、そうかい。ならいいんだ」

 

 実に気のいい喋り方をしてくる彼女………たしかスバルと呼ばれた彼女は、エイミィと呼ばれていた少女を無理やり席につかせて、ひと仕事終えたようにやり切った表情を浮かべていた。

 

「あ、あの、アニムスフィアさん。すみません…………無理やりが過ぎました……」

「いや、全然構わないよ。腫れ物扱いされるくらいなら、()()注目された方が気分が良いよ」

 

 先程の晴れやかな笑顔が、一転して申し訳なさそうな曇り顔になる。

 ボクの言ったことは真実、その通りだ。留学生という立場は、昨今の国際情勢から煙たがられるか、目立つかの二択しかない。

 ボクだって高校生活を謳歌してみたい気持ちは当然あるから、こうして話しかけてくれるだけで飛び上がるほど嬉しい。心の中のイマジナリーサニアくんも『わーいわーい』と万歳三唱している。

 

 

 座高に差があるからか、エイミィさんを見下ろす形になっているが、ボクは威圧感のないように努めて言う。

 

「じゃあ、改めて自己紹介。ボクはお察しの通り、アニムスフィア家長男のサニアエリー・アニムスフィアです。『サニアエリー』や『アニムスフィア』は長いから、『サニア』でいいよ」

 

 ボクの自己紹介を聞くと少しばかりキョトンとした顔を見せ…………可笑しいとばかりに小声で笑い始めた。

 

「………!そういえば私たち、まだ自己紹介もしてなかったんですね。我ながらうっかり、あはは〜」

「僕はエイミィがしっかりしていた所を、みた覚えはないけどね」

「ちょっとスバル!せっかく人が第一印象を上書きしようとしたのに!!」

「ほらほらうっかりさん。キミの魂胆が丸わかりになっちゃったみたいだよ」

「!?!?!?」

 

 

 慌てて口を塞ぐエイミィさんだが、もう遅い。

 スバルさんの手の上で踊っているように、エイミィさんはその通りに誘導されて、口を滑らせたってわけだ。やるな、スバルさん。

 

 ボクが胸中で少なくない戦慄を抱いていると、スバルさんはエイミィよりも一回り高いその長身で、彼女越しに軽い調子で自己紹介を返してくれた。

 

「とまぁ、既に分かっているだろうけども、僕は里美スバル。キミとは長い付き合いになりそうな予感がするよ、よろしくサニア君」

「うん、こちらこそよろしくね、スバルさん」

 

 ボクは条件反射的に手を差し伸ばし…………日本ではそういった文化がないことを思い出して、中途半端に手を伸ばしたが、スバルさんはそれを予期したように手を取ってくれた。

 

「………………ちょっと二人とも。私の上でシェイクハンドのアーチを組まないでくれる!?身長が低いチビだって遠回しに言ってるの!?言ってるのよね!?」

 

 

「あちゃぁ………。どうやらお姫様の機嫌を損ねてしまったみたいだね。どうかな王子様?」

「うーん、エイミィさんはチビってほど低い訳じゃないし…………弱ったなぁ」

 

 エイミィさんの身長は目測で155cm前後。一方ボクは170cm台、スバルさんもだいたいそのくらいだ。

 相対的に見ればチビって言えるかもしれないが、それはボクは男で、スバルさんは女性の中でも高い方だから。小さく見えるのは当然のことなのだ。

 

 

 

 それからボクたちはヤケになっているエイミィさんを宥めて、漸く本来の会話の軌道に乗ることが出来た。

 

「私は英美=アメリア=ゴールディー=明智。長いしどう呼んでいいか分からないでしょ?だからみんなエイミィって呼んで!よろしくね、サニア君!!」

「よろしく、エイミィさん。ところで───」

 

「エイミィ」

 

「はいエイミィさん。ボク聞きたいことが───」

 

「エ イ ミ ィ !」

 

「は、はいぃ………エイミィ………」

 

「うん、よろしい!」

 

 

 …………なんだ、あの圧力。

 想子(サイオン)でも霊子(プシオン)でもない、謎の圧力がボクに襲いかかってきた。エイミィさん───

 

「エイミィって呼んで!」

「はいィー!!」

 

───え、エイミィが発生させたと思われる謎の圧力(プレッシャー)をどうやって発動させたか、一端の魔法研究者として好奇心が禁じえなかったが……………エイミィには勝てなかったよ…………というかナチュラルに人の心読んで(サイコメトリーして)るぞ、彼女。

 

 

 あっ、そうそう。エイミィがサイコメトラーか否かは置いといて、聞きたいことがあったんだった。

 

「あの、エイミィ?君の名前にある《ゴールディ》ってあのゴールディでいいんだよね?」

「!!うん、そうっ!私は四分の一しかゴールディの血が流れてないけど、れっきとした本家の人間なの!」

 

 ゴールディ家、やっぱりあの《魔弾の一族(ゴールディ)》だったか。しかも本家の人間だとは。いやはや…………世間って狭いんだなぁ。

 

「よかったぁ気付いてくれて。これで気付いてくれなかったら本家の名折れ、ゴールディの名を返上するところでした……………」

「いやいや、流石に気付くよ。そこまで世間知らずじゃないからね」

 

「ちょっと話についていけないんだけど…………そんなにエイミィの家は凄いのかい?彼との繋がりもよく分からないんだけれども」

 

「えっとねスバル、簡潔に言うとね─────」

 

 普通、魔法の名家には一家相伝の秘術、もしくはそれに付随する知恵が伝わっている。

 日本の十師族やその下にある百家がそうであるように、魔法先進国とも謳われているアメリカやイギリスもその例に漏れない。

 

 日本よりも広く、また古式と現代の魔法師の交流も比較的寛容と言える両国では、名家同士の交流もまた盛んに行われている。

 

 ちなみに日本で言うところの二十八家に位置するのが、イギリスの《魔弾の一族(ゴールディ)》とUSNA(アメリカ)の《星見の一族(アニムスフィア)》。名はその特徴的な魔法に由来している。

 どちらも現代魔法、古式魔法に精通していて、特に秘術関連の魔法系統には造詣が深いとされている。

 

「へぇ…………なるほど。じゃあ二人は一条家の【爆裂】みたいに秘術を持っているってことなのかい?」

「もちろん。ゴールディ家では秘術は本家の証でもあるのですから……………だからスバル、そんな目をしたって教えることは出来ませんよ?」

「…………参ったね顔に出てたかい?」

 

 基本的に、魔法師へのそういった質問はタブー扱いにされる。これは暗黙のルールでもあって、魔法師の権利を守るためでもある。

 流石に今の話をされたら誰だって興味が湧く。ボクがそういった目をしているのがバレなかっただけで、奇跡のようなものだ。

 

 いくら友達であっても、家の秘密を守るためにはそういったラインを踏まないように気を付けなければならない。魔法師の世界は意外と窮屈なのだ。

 

 

 ちなみにアニムスフィア(うち)の術は、単体で見れば大したことは無い術だ。簡単に言えば西洋占星術と呼ばれるもの。勝負事に強くなったり、明日の天気を予測できるくらいには使える程度のもの。

 ただ、《妖精眼(グラムサイト)》を習得すれば、話は変わる。天動説に基づく、地球から見た惑星それぞれの属性・概念を抽出、出力する魔法へと化けるわけだ。故に《妖精眼(グラムサイト)》も秘術の1つになる。

 

『只今より2095年度、魔法大学付属第一高校の入学式を────』

 

 おっと、始まったみたいだ。

 少し気まずい雰囲気が流れていたボクたちだったが、この開始がきっかけとなり、そんな空気が霧散していった。

 思ったよりも厳かな空気で、自然と背筋が伸びる。諸先生方はそんなボクの背中の強ばりを見ていないだろうが、いつ見られてもおかしくないようにこのままの姿勢をキープする。いやホント、申し訳ないからね。

 

 

 実はボク、入学試験でなんと主席を取ってしまった。

 

 

 これは想定外の出来事だと言えよう。

 実技二位、筆記二位というシルバーコレクターじみた成績開示を受け、そんなボクが総代の挨拶をするなんて烏滸がましいと思い立ち、粛々と総代挨拶を辞させてもらった。

 

 あとは日本の魔法師の顔を立てたのもある。

 

 

「わ…………すごっ」

「これはっ…………魂消たね」

 

 

 その少女が登壇した時、まるで冬空の下に吹く風が肌を撫でた気がした。

 

 一目見た者は口から無意識に言葉が漏れ、二言目には美しいと言う。三言目に続かないのは、恐らくその超常たる美を言葉で表現しきれないからだろう。実際に初めてあったボクも、知識としてではなく、漸く感覚が伴う『実感』としてその美を味わった。

 

 そして彼女は、その声も麗しいものだった。

 

 どんな些細な音も雑音に聞こえる。今はそう思えた。

 今日この日、この瞬間、世界の中心は彼女のものだと言わんばかりに響く司波深雪の晴れやかなステージは、心臓の音にすら気を遣う静寂な観客のもとで行われた。

 

 

 周囲の人間が彼女に目を奪われている中、ボクはそれはそれはもう…………すごく感動していた。

 

 

 だってやっとなんだ。やっと彼女に会えた。

 

 司波深雪。ボクの目的の為の魔法を、()()、所持している女性。

 

 最低だ、人を見て魔法のことしか考えてないのは本当に最低だ。そう自分でも思ってしまう。

 

 だけど、だけどっ……………人が人でいられるように、ボクがボクであるためには、彼女の協力が必要なんだ。

 

 司波深雪(あなた)が欲しい。この命に代えても。

 

 

 歪みに歪んだ心情を内心で冷静に処理をしつつ、平静さを取り戻していく。

 

 

「どうかしたかい?」

「いや…………なんでもないよ」

 

 その感情が、体に表れていたのかは知らないが、スバルさんが目ざとく問いかける。ボクは咄嗟に嘘をつくが…………なんかバレてそうな予感。スバルさんも名探偵なのか。やばいな第一高校(ココ)、殺人現場か何かかな?

 

 

 

 

 

 司波深雪さんのスピーチが終わる。

 みんなはその余韻に浸っていて、特に男連中はあと2日間は徹夜で動けますみたいに、狂気を孕んだ瞳を輝かせていた。男って単純なんだよ、だからそんな目で見ないであげてくれエイミィ、スバルさぁん……………。

 

 あとは校長先生のふくよかなお腹を見ていたり、講堂の天井のシミを数えてみたり、今晩のご飯を考えたりと色々していると、直ぐに入学式が終わった。

 

 その後は直ぐにIDカードの配布がされる。

 このIDカードは学生証みたいなもので、配布されると同時に今年のクラスも分かるわけだ。

 

 レディーファーストを心がけ、前をエイミィ、スバルさんに譲り、2人の後でIDカード受け取る。さてさて、クラスは─────

 

「二人ともクラスなんだった!?私はB組!」

「僕は………うん、D組だね」

「うわぁぁ、スバルと別れたぁ!?サ、サニアくんは…………」

「────A組。残念、一緒じゃないみたいだ」

「神様のいじわるぅぅぅ!?」

 

 オーバーリアクションで実に笑いを誘うエイミィの動きだが、彼女はもちろんのこと、ボクもスバルさんも、クラスが違うことを残念に感じたのは言葉で伝えなくても解った。

 

 

 素晴らしい友に出会えた。今はただ、その事に感謝を。

 

 

「じゃ、またね二人とも!」

「なぁに、一生の別れというわけじゃないんだ。また会おう」

「うん、また」

 

 一抹の寂しさを感じさせた別れ。しかしボクたちは再会を誓いあった。

 

 

 

 

 






 主人公サニアくんはカルデアを作ってごっこ遊びがしたいだけの凡人です。

 皆さん、子供の頃ヒーローごっことかやったことありますよね?それと同じです。

 ただサニアくんは度が過ぎているだけであって……………………本当はいい子なんですよ……………



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おい、その(友人の)先は地獄だぞ



 投票者300人越え、お気に入り登録4200人越え……………戦慄が止まらん…………!!!




 

 

 

 入学から今日で二日目。

 

 無意識に溜め込んでいた疲れやストレスから開放されたボクは、昨日は早々に床についてしまった。

 おかげで充分な睡眠時間を取れて気分スッキリ、爽快な状態で学校生活に臨めるものだ。………………その代償として爆発した寝癖と一時間も格闘してしまったが。

 今日から本格的な学校生活ということでボクの気合いの入れようはひとしおも、ふたしお(?)もあった。

 

 

「おはようございます」

 

 既に雑然とした雰囲気が漂っていた一年A組教室に、ボクは勇気を持ってあいさつしながら入室する。特定の誰かではなく教室にいるクラスメイトらに向けて放った言葉だが、返ってきたのは声ではなく訝しげな視線だった。

 

 先ず髪色、次に顔。まるで示し合わせたように揃った視線の動きに、なにか既視感(デジャブ)を感じた。

 

 

 取り敢えず、第一印象は好感触といったところかな?

 

 一人でそう結論づけて、自分の端末を探すべく、机に刻印された番号に目をやる。IDカードに記載されている学生番号は既に暗記しているのだ。

 

 自分の席は一番左の一番前。五十音で席順が決まるなら、さも当然な配置だろう。(アニムスフィア・サニアエリー。日本流で表すなら「あ」から始まる)。

 

 昨日の内に顔合わせを済ませた生徒もいるそうで、教室には複数のグループが形成されている。

 そういったグループの間を縫うように、自分の席に向かっていたボクは、思いがけず声をかけられ顔を向けた。

 

「おはよう」

 

 そこにはこの如何にも最初に主人公の踏み台にされそうなエリートモブ風の少年がいた。

 

「うん、おはよう」

 

 ボクは嬉しくなった。そして同時に、この人物がいい人である事を確信した。だって、ボクのもとにまでやってきて挨拶を返そうとする人が、いい人じゃない訳がないだろう!差別なんてするわけないじゃないか!

 

 昨日の運が、今日も続いていることに心中でガッツポーズを決めつつ、逃がさないとばかりにボクは言葉を重ねる。

 

「助かったよ、さっきの挨拶の返答がなくて寂しいと思ってたんだ」

「…………多分君が知り合いに声をかけたと皆思っていたんだろ。少しのすれ違いだ」

 

 あぁ、なるほど。そういうこともあるだろう。

 

 ボクは挨拶が返されなかった事にそう納得をする。そして手を差し出し、

 

「ボクはサニアエリー・アニムスフィア。『サニア』でいいよ」

「僕は森崎駿。好きに呼んでくれ」

「じゃあ駿くん、よろしくね」

「あぁ、宜しくサニア」

 

 ボク達はガッシリと固く手を結ぶ。

 手の内でボコボコしたもの…………多分マメがあるのを感じ取る。日常的に武術を嗜む人の手だ。ちなみにボクはペンだこがあるだけの、武術を知らないよわよわのお手手だ。

 

 

 ボクと駿くんが友誼を結ぶのを見届けたのか、後方にいた男子生徒の集団がゾロゾロとこちらに寄ってきた。多分駿くんがさっきまで喋っていた人達なのだろう。もちろんこちらの人達とも同じように握手をし、挨拶を交わす。

 

 ボクがこうして友達作りに勤しんでいるのは、何も単純に仲良くなりたいからというだけでは無い。多少なりとも打算が含まれている。

 これから司波深雪さんがやってきて、ボクはボクの為に彼女に近付くことになる。その時に男子生徒らのやっかみを受けてしまうのは火を見るよりも明らかだ。だから先に彼らと仲良くなることで、少しでもそれを緩和させようとしたんだ。

 あと、彼らの中にひょっとしたら有能な魔法師がいるかもしれない。将来の為に一応親交を結ぶ、という保険も兼ねてるわけだ。

 

 

 

 そんな思惑とは裏腹に、ボクが大分彼らに馴染めるようになった頃。

 

 またしても冬風が肌をさらう、覚えのある体感幻覚を覚えた。

 

 ボクは瞬間的に教室の扉へと顔を向ける。それと同時にドアがスライドし、例の彼女が現れた。

 

 

 沈黙が教室中を包み込み、誰もが彼女に視線を注ぐ。それはボクの時と似ているシチュエーションで、しかし違っていた。

 

 昨日よりも格段に近い距離。語彙にすることすら憚られるその人外じみた美貌。様々な状況が重なり合い、まるでショートを起こした機械のようにフリーズを強いられていた。

 

「………?おはようございます」

 

 彼女───司波深雪さんは自身に向けられる視線にキョトンとしながらも、丁寧な挨拶を返す。首を傾げてしまうその仕草は、本当に可愛く、その顔面偏差値の暴力から意識を取り戻した(帰ってきた)連中にギャップ萌えという追加攻撃を与えた。恐らく再起不能だろう。司波深雪…………恐ろしい子だ。

 

 と、言いつつも。ボクは割と耐性があったので、理性を充分に保てていた。多分マリーとか幼なじみとか、あるいはこの前会った親戚の末っ子のおかげかもしれない。

 

「おはようございます」

 

 ボクと同じ焼き直しにはなってほしくない。珍しく純粋な思いで、挨拶を返した。

 その後に始まるのは、理性を取り戻したクラスメイトたちによる「おはよう!」の合唱だ。中には声を掠れさせる位声をあげた狂気者(バーサーカー)がいるが、それを気にしている人はいなかった。いや、理性取り戻してないじゃないか。

 

 教室に一歩進んだところで、クラスメイトから取り囲まれた彼女を見て、ボクはため息を吐きたくなった。

 

 これ、ボクが話しかけてもやっかみを受けなかったじゃないか。

 

 彼女という偶像を過剰に崇拝していたのは彼らではなく、ボクなのかもしれない。

 

 

 

 

 

♦♦─────────♦♦

 

 

 

 

 昨今の通信技術の進化によって、「担任の先生」と呼ばれるような人たちは極小数に、その数を減らした。そして魔法科の教育機関ではその学問の特異性から、担任ではなく「魔法指導官」が就くこともある。

 一年A組にもそれは配属されており、担当指導官百舌谷(もずや)教授という男性がそれであった。

 

 彼のスピーチの内容を纏めると、『A組は特に優秀、B~D組は優秀、E~H組は底辺・スペア(意訳済み)』というヘイトスピーチじみたものだった。

 確かに、自分たち以外を下げることで、相対的に自分らの立場は上になるだろう。しかし、それは現状維持であり、ボクからすれば現状維持は後退と同義でもあった。

 

 まるでお手本のような偏狭教育に、ボクは百山校長の采配を疑う。差別を排他すべき教職員が、あまつさえ助長を促すのはどうかと思うからだ。……………いや、もしかしたらあえて差別を作っているのか?クラス間の実力差を煽ることで一握りの『玉』を作ろうとしているのであれば確かに効果的とも言える。非人道的とも言えるが。

 

 なんにせよ、ボクの頭脳では職員らの考えを推し量ることなんてできない。自分の意志を貫徹させるだけだ。

 

 

 退屈と思えた百舌谷(もずや)教授の話が終わると、カウンセラーの先生───男女一名ずつの軽い挨拶に入り、その後にガイダンスが始まる。

 ガイダンスはカリキュラムの説明、施設案内、クラブ活動紹介が、端末に再生される。ボクはそれを見て今後の学生生活に思いを馳せながら、履修登録を素早く行う。

 ところでこの履修登録は主に魔法理論の内訳を選択するもので、必修科目である基礎魔法学・魔法工学以外の選択科目である魔法幾何学・魔法言語学・魔法薬学・魔法構造学の内から二科目、魔法史学・魔法系統学の内から一科目。合計五科目の履修登録を行う。

 

 必修科目の二つを登録し、残り三つの組み合わせにボクは悩み─────決断。早速端末から送信した。選んだのは・魔法幾何学・魔法構造学、そして魔法史学の三つだ。

 魔法幾何学は言わずもがな、魔法構造学は起動式・魔法式の解析をする学問、魔法史学は名の通り歴史を遡って魔法を研究する学問となっている。魔法史学は正直興味本位で取ったので、定期試験が怖いとこだ。

 

 

 

 

 

 日本とアメリカとの勝手の違いから手間取ったボクが最後に履修登録を終えたそうで、

 

「いや、すまないね。まだ余り慣れてないみたいでさ」

「かまわない、お前が噂の留学生なんだろ?最初は帰化した奴と思っていたが、どうやら違うみたいだし」

「おぉ、正解(エッザート)

「なんでイタリア語なんだよ」

 

 駿くんすごっ、なんでイタリア語分かっちゃうんだ?というかそもそもどうして個人情報が漏れているんですかね……………主席だとバレてないのが奇跡すぎるでしょ。

 

 と、軽口を叩いている現在のボクは、駿くんと愉快な仲間たち一行に食堂へドナドナされている状態にある。

 実は、ボクの後に誘おうとしていた司波深雪さんがいつの間にか消えていて、教室中は阿鼻叫喚(過剰表現ではない)。そこで駿くんが、まるで魔王退治の旅に名乗りをあげる勇者のように、少数精鋭を引き連れて……………ボクは強制的に引きずられて、食堂へ向かっているわけだ。

 

 

 …………

 

 さて、ボクの記憶が正しければこの後、達也組と少々言い争いが勃発するはず。

 

 ほんの少しのシーンだが、この学校に蔓延する差別意識が垣間見える場面だ。そしてその舞台装置と成り果てたのが、森崎駿という少年になる。

 ボクの目から見て、森崎駿という少年は『正しい倫理観と常識があり、仲間に手厚くその他には排他的』という評価と言えよう。この評価が正しければ、仲間からの忠告も素直に聞き入れるはずだ。

 

 というか。こんなくだらない諍いで、司波深雪さんからの印象を落としたくないのが本音だ。

 

 

 …………大丈夫。駿くんの良心を信じ、ボクの忠告の言い回しに気をつければ何ら問題ないことじゃないか。

 

 そう思い立ち、胸中で決心を固めている所に、

 

「少し、宜しいですか?」

「はい?」

 

 司波深雪さんには及ばないものの、こちらも美少女と確信できる女性が横から声をかけてきた。

 途端にボクと駿くんたちは立ち止まり、一行は停滞を余儀なくされる。

 

「私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。この中にサニアエリー・アニムスフィアさんはいらっしゃるかしら?」

 

 自意識過剰でなければ、確実にボクの方を向いてそう言ってくる彼女はなんと、この学校の生徒会長だった。……………たしかにこんな顔していたな、と不明瞭な記憶を思い返しつつ、ボクは生徒会長さんに顔を向ける。

 

「はい、ワタシがサニアエリーです…………どうされましたか?」

「この後のお昼のご予定を聞きたいのです。どちらで食事をされますか?」

「えぇっと、この先の食堂で取ろうと思っていますが。それがなにか?」

「大変申し訳ないのですが、生徒会室でお話を、と思いまして」

「話…………?」

 

 なんのことだろうか。全くもって、生徒会長と話をする話題が─────

 

「生徒会について、です」

 

─────……………あったわ。そういえば新入生総代は生徒会入りするのが割とスタンダードで、だから司波深雪さんも生徒会に入ったんだった。

 例年では昨日の新入生代表スピーチ後のタイミングで勧誘するけど、総代のボクはスピーチを辞退したし、終わったあとに即帰宅してしまったから、今日にそのタイミングがズレてしまったんだ。

 

「生徒会………?」

 

 おっと、駿くんが不思議そうに顔を向けてくる。別に成績を騙している訳じゃないが、それはそれとして『総代は司波深雪!』というイメージを崩したくないエゴがある。

 ボクのそんな胸中を察して、キーワードだけを投入するなんて……………生徒会長、やるじゃないか。

 

 つまり、ボクの取る行動は─────

 

「生徒会長さん、御足労ありがとうございます。自分で良ければ是非、ご一緒させてください」

「えぇもちろんです。ところで生徒会長さん、じゃなくて、『七草先輩』とか『会長』でも構いませんよ?あ、なんでしたら『真由美先輩』、なんて────」

 

「あ、では『真由美先輩』とお呼びしますね。では行きましょう」

 

「………え?………あ、アニムスフィアくん!?そっちじゃないですよ!」

 

 

 会話の主導権はボクに委ねてもらおうか!生徒会長さん────真由美先輩にこれ以上掻き乱されてはたまったもんじゃないし!

 

 ボクは駿くんたちに軽く手を振って、生徒会室とは全く見当違いの方向へ足を進めたのだった。

 

 

 

 






サニアくん「ボクの胸中を察して、ボクが着いてこなければならない状況を作り出すなんて……………やるじゃん、真由美先輩(着火)」

まゆみん先輩「え、なんか凄い方向音痴なんですけどぉ!?ちょ、足はっや─────」

駿くんとその仲間たち『(あ、留学生だからか)』



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生徒会役員共は画策したい


 皆さん覚えてますか?この作品は勘違いの要素も含んでいることに……………

 ちなみに自分は割と忘れかけてました()




 今日で二話目の投稿です。ご注意を





 

 

 

「さ、どうぞ。遠慮しないで入って」

 

 生徒会室は一年A組と食堂があるフロアより二つ上────四階の廊下、突き(あた)りに存在する。

 見た目は他の教室と変わらない合板の引き戸があり、しかし中央に埋め込まれた木彫りのプレートと壁のインターホン、巧妙に隠された数々のセキュリティ機器にありありと他教室との差異を感じた。

 

 プレートに刻まれている「生徒会室」の四文字。少しだけデカくみえるその扉を、真由美先輩と共にくぐった。

 

 生徒会室は多分、ボクらのクラスと同じくらいの間取りで、人と机がない分かなり広く見えた。部屋の中央付近には長大の木造の方卓、壁隅には驚いたことにダイニングサーバーが設置してある。空港の無人食堂や長距離列車の食堂車両に置かれている自動配膳幾が、一般高校にあっていいのか?ボクは訝しんだ。

 

「じゃあ、そこに掛けてもらって…………水だけでごめんなさいね?」

「いえとんでもない、ありがとうございます」

 

 冷水の入ったコップが目の前に置かれる。生徒会長が直々に注いだ飲み物だ。多分売れる。

 

「まずは、入学おめでとうございます。本校の生徒会長としてお祝いします」

「いやいや、こちらこそワタシのような留学生を受け入れてくださり、尚且つワタシのわがままを聞いて下さったことに、感謝しかないですよ」

 

 総代のスピーチを次席の人に任せたいこと。二つ返事で引き受けてくれたのは、この人だった。記憶に残った印象からもっとごねられるかも………と思っていたがそれは杞憂で、予想以上の快諾ぶりに拍子抜けもした。記憶は宛にならないことを再度学んだ。

 

「私としても貴方の意志を尊重したい。けれど、生徒会の歴史に倣って言わせてもらいましょう。サニアエリー・アニムスフィアさん、生徒会に入りませんか?」

「申し訳ないですが、謹んで辞退させていただきます」

「そう……………やっぱりね

 

 しかし、こればっかりは断るしかない。

 生徒会は拘束時間が長いという欠点があるし、ボクが入ってしまうと司波深雪さんが加入しない可能性が高い。彼女との接点がさらに少なくなってしまうのはいただけない。

 以上の理由から、ボクはかなり自分勝手な理由で断らさせていただいた。

 

 でも、ボクが即答で断った筈なのに、何故か真由美先輩は少し微笑ましいような者を見たように、生暖かい視線を向けてくる。

 そんなボクの疑問が伝わったのだろう。真由美先輩は微笑を堪えながら、口を開いた。

 

「ふふっ、ごめんなさいね。少し分かりきっていたことだったけど、改めて貴方の口から聞くとつい、ね?」

「────ッ、そ、それは、どういう………?」

 

 ()()()()()()()()()()………?本当にどういうことだ。ボクの目的がバレた?いや、そんなこと有り得るのか、家族にだって言っていないことだぞ。しかしかの人(?)が言っていたではないか。『ありえない事なんてありえない』と。

 

「だって、わかり易すぎるわ。こんなの何か意図があるに決まっているじゃない。で、そしたら案の定って訳よ」

「…………なる、ほど。その通りです、流石は生徒会長」

 

 ………………思わず絶句する程の天才だ。どのような思考回路を辿ったら、その結論に至り、ボクの目的を看破することが出来たのか、分からないことが多すぎる。

 そりゃそうだろう。天才の思考なんて凡夫(ボク)には測れない。ただ一つだけ理解したのは、今のボクの目の前には、『目的を見破られた』という事実のみが存在することだけだ。

 

「?よく分からないけど、褒められてるのかしら?………まぁ、いいわ。それより実はここからが本題なのだけれど────」

 

 なるほど、弱みを握られたという訳、か。しかし、ボクをそんな簡単に飼い殺せると思うなよ。まだ未完成でも、二秒もあれば天体魔術でこの生徒会室ごと吹き飛ばして──────!!

 

「────やっぱり生徒会に入ってもらいたいの」

「………?それは一体、」

「要するに貴方は次席の司波深雪さんに後ろめたい感情があるんでしょ?」

「それは……………」

「あぁ、言う必要は無いわ。私がそう思っているだけかもしれないから」

 

 真由美先輩は口に冷水を含み、一つ間を置くと、さらに続けて、

 

「本来主席が辞退したなら、権利は次席の人に移ります。でも貴方は『留学生』という立場があるわ。だからこれを利用するってわけ。司波深雪さんの生徒会入りは入学式時点では好感触だったから、彼女は多分入る────いいえ、入れてみせるわ。そして主席のアニムスフィアくん、貴方は『自国以外の高校の自治組織を体験する』という名目でなら生徒会に堂々と入れると思うの」

 

 空いた口が塞がらない、とはまさにこの事だろう。彼女はどういう理由(わけ)か、ボクの目的の手助けをするために、実に面倒な理論武装を施してくれた。

 『自国以外の高校の自治組織を体験する』、さしずめ《臨時生徒会役員》とでも言うことか。そしてその臨時の期間は、真由美先輩の任期終了まで続くわけだ。

 

「真由美先輩、貴女は一体…………」

「これで問題ないはずだわ。どうかしら私の提案、受け入れてもらえる………?」

 

 彼女の狙いは未だ不明瞭だ。こちらからすれば優秀な日本の魔法師の魔法を、国外に流出させる手助けをしているようにしか見えない。彼女にメリットが生じるわけが……………いや、そうか。今回でボクというUSNAの魔法名家に恩を売るのが目的なのか?だとしたら大成功だろう、ちくせう。

 

 

「…………そんな、一体ボクは何を返せば…………」

「アニムスフィアくん……………いいえ、そんな大きく考える必要は無いの。私がそうしたかったから。ほんの少しでも背中を押したい、そう思っただけなのよ」

 

 そうしたかったから…………背中を、押す……………そうか、そうかっ!そういう事か!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さては真由美先輩、貴方も未来(カルデア)を見たいんですね!?

 

 いやー、どんなこと要求されるかと思ったら、とんでもない。利害一致じゃないか。

 

 真由美先輩がまさか賛同者(カルデアファン)だなんて…………賛同者(カルデアファン)に悪いやつはいないって、ボクの辞書には書いてあるからね。信頼に値する!

 

 

「真由美先輩、ボク………ボク!生徒会に入りたいです!!」

「そう………良かったわ!今日から私たちは生徒会の一員よ」

「はい!生徒会の一員(同志)ですね!」

 

 今日からボクたち、親友だァ!!

 

 

 

 

 

 

 

♦♦──────♦♦

 

 

 

 

 

 

 最初に会った…………いえ、声だけだし、電話越しなのだけれど、それだけでどんな人なのか、分かってしまったわ。

 

 

『生徒会、ですか……………いや、でも…………やっぱり………………うん、すみません、入れません!』

 

 

 新入生の総代は毎年、入学式にてスピーチが行われる。一般的に名誉ということもあり、その年の新入生の顔でもあるから、生徒会が優先して勧誘するというのがお決まりのことだった。かくいう私も、二年前の入学式に話を持ちかけられて以来生徒会に所属し、生徒会長にまでなったわけだけれども。

 

 そして今年の新入生の主席は、この学校初の国外からの生徒に選ばれた。実技二位、筆記二位のシルバーコレクターだが、実技一位の()よりも隔絶した干渉力と魔法基礎学・魔法幾何学が満点という規格外の魔法師で、さも当然といったところだろう。

 

 けど、電話口でのその声を聞くと。

 

 私には彼の声に、不安・後悔・期待が入り交じっているように感じてしまった。

 

 そしてその勘は正しかった。

 

 

「私としても貴方の意志を尊重したい。けれど、生徒会の歴史に倣って言わせてもらいましょう──────サニアエリー・アニムスフィアさん、生徒会に入りませんか?」

 

 

「申し訳ないですが、謹んで辞退させていただきます」

 

 電話口越しに聞いたあの時より、強い信念を感じさせる声音で即答された。…………でもその中に、少しの優しさを感じたのは身贔屓が過ぎるのかしら………?

 

「そう……………やっぱりね

 

 そう。やっぱり断ると思った。

 彼はきっと日本の魔法師の面子(プライド)と、司波深雪さんへの配慮の為に、生徒会入りをしない…………いえ、己に認めない誠実な人。第一印象は外見に左右されがちだけど、この点に関しては間違いなく事実だと思ったわ。

 

 

 私の反応が意外だったのか、ちょっと気の抜けた表情をする彼は、意外と────元々の顔の構造がイケメンよりカワイイ系だから────愛嬌があって笑ってしまった。

 

「ふふっ、ごめんなさいね。少し分かりきっていたことだったけど、改めて貴方の口から聞くとつい、ね?」

「────ッ、そ、それは、どういう………?」

 

 まるで致命的な秘密を掴まれた、みたいな顔をしちゃって。

 どういうも何も、貴方がホントは生徒会に興味があるのはわかってるのよ?こればかりは人生経験の差だわ、あとはあの狸親父に連れ回された政治の世界の経験も、ね…………………

 

 あぁもう!考えただけで腹立たしいわ!

 

 

 そんな内心をおくびにも出さないまま、私は口を開く。

 

「だって、わかり易すぎるわ。こんなの何か意図があるに決まっているじゃない。で、そしたら案の定って訳よ」

 

 そう、顔も声音も、乗っている感情がわかり易すぎる。

 じゃあそれにはどんな意図が?彼はどういう人物?どういう性格?……………それらを少し精査しただけで、分かるもの。

 

 メンツを考えた彼は総代を辞退。代わりになったのはあの可憐すぎる少女、司波深雪さん。本人以外は彼女のことを総代=入試の主席と思っているから、生徒会役員という名誉役員に入ることを彼は好まない。そして彼女に総代を任せたのに、名誉役員の称号だけを得ようとするのは彼の流儀に反している。

 

 だから、彼は電話口越しの時よりも、強固になった信念を表すように即答の辞退をした。

 

 冷静に考えを繋げば、案の定、って感じね。

 

 

「…………なる、ほど。その通りです、流石は生徒会長」

 

 うーん?なんかおかしい褒められ方をしてる気がするわ…………

 

 

「?よく分からないけど、褒められてるのかしら?………まぁ、いいわ。それより実はここからが本題なのだけれど────」

 

 そう、ここまでは前置き。彼の性格を改めて確認するだけの作業。

 

「────やっぱり生徒会に入ってもらいたいの」

「………?それは一体、」

 

 困惑するのもわかる。これじゃさっきの質問の焼き直しだから。

 

 だから────

 

「要するに貴方は次席の司波深雪さんに後ろめたい感情があるんでしょ?」

「それは……………」

「あぁ、言う必要は無いわ。私がそう思っているだけかもしれないから」

 

 彼の反応はホントにわかりやすいわ。

 私は改めて自分の理論に確信を抱き、口を開く。

 

 

「本来主席が辞退したなら、権利は次席の人に移ります。でも貴方は『留学生』という立場があるわ。だからこれを利用するってわけ。司波深雪さんの生徒会入りは入学式時点では好感触だったから、彼女は多分入る────いいえ、入れてみせるわ。そして主席のアニムスフィアくん、貴方は『自国以外の高校の自治組織を体験する』という名目でなら生徒会に堂々と入れると思うの」

 

 完全な理論武装。これなら彼も生徒会に入れて、尚且つ司波深雪さんの名誉を保てると思うわ。

 

 

「真由美先輩、貴女は一体…………」

 

 ……………外見が大人のように見えるけど、ここ辺境の島国で、彼は一人ぼっち。その負担は、親がいる私には想像もつかないものでしょう。

 魔法師の世界は権利と欲で雁字搦めの世界だから、頼れる人がいないことに、どうしようもなく不安を抱くでしょう。

 

 

「これで問題ないはずだわ。どうかしら私の提案、受け入れてもらえる………?」

 

「…………そんな、一体ボクは何を返せば…………」

 

「アニムスフィアくん……………いいえ、そんな大きく考える必要は無いの。私がそうしたかったから。ほんの少しでも背中を押したい、そう思っただけなのよ」

 

 

 そう。当校に入学したのなら、それはもう国籍に関係なく仲間であり、そしてその三年間の唯一無二の時間を守るのが、生徒会長としての役目。

 

 この学校に蔓延る差別意識の撤回も、何れは果たしてみせる。

 その覚悟で私は彼に言い放った。

 

 そして……………

 

 

「真由美先輩、ボク………ボク!生徒会に入りたいです!!」

 

 

 まるで()()()()()()ような懇願。やっぱり本心ではそう思っていたようだ。

 一人相撲にならなかったことに、密かに安堵しつつ、私は改めて宣言する。

 

 

「そう………良かったわ!今日から私たちは生徒会の一員(同じ仲間)よ」

「はい!生徒会の一員ですね!」

 

 何故復唱したのかしら?でもそんな事、些細なものよね!

 

 

 今日から私たち、生徒会よ!!

 

 

 

 

 

 

 

 彼も学校改革に必要な人になるのかもしれないし。ね?

 

 

 

 

 





サニアくん「まゆみん鬼つえぇぇ!!カルデア一ファンに悪いやつはいねぇよなぁ!!」(SAN値チェック失敗)

まゆみん「優しい留学生くん…………助けてあげなきゃ!でもそれはそれとして学校改革手伝ってね!!」


読者「「「ちがう、そうじゃない」」」

 簡単にわかる今回の話。


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