【完結】フィジカルお化けおじさん、異世界へ行く3 (タラバ554)
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1 おじさんとヘファイストスファミリア

『あーたーらしいー朝が来た♪ きぼーうのあーさーだ♪』

 

日が昇り始めたオラリオにラジオ体操の歌が流れる。

おじさんが来てからの毎朝の恒例行事。

最初こそ嫌がってたヘスティアだが、習慣化した今ではコレをやらないと一日がもやもやしたまま過ごすことになる為、今日も今日とておじさんと一緒にラジオ体操を行っている。

因みに廃教会の教会部分は解体してそれなりの建物を建てて貰った。居住区が地下ってあまり好きじゃないし狭いのよ、図体がデカイおじさんからすると。

 

「ふいー、おじさん。君は今日、この後どうするんだい?」

「軽く体を慣らしてから21~24階層を一周して帰ってくるよ。午後には約束通りそっちの職場に行くから一緒に飯でも食おう」

「おっ、良いね~。おごってくれるのかい?」

「良いよ、その前に朝飯だ~」

「お~!」

 

数分の体操を行い今日の予定を話し合う。ヘスティアファミリアの恒例行事。

今日の朝飯はおじさんの当番なので味噌汁に納豆、焼き鮭に目玉焼きにソーセージという朝っぱらからハイカロリー飯。

とは言え、それは大皿に盛ってるのでヘスティアちゃんは食べる分だけ皿によそい、他は全部おじさんの胃に収まる。

 

「そういやおじさん、この間ヘファイストスの所の武器を使ってたけどどうだった?」

 

食後のお茶を飲んでると何度か聞かれたこの質問。

 

「悪くはなかったけど、やっぱ耐えれなかった。御覧の通り」

 

そう言って取り出す半ばから折れてボロボロになったバトルハンマー。

 

「でもこれってヘファイストスの所の中級鍛冶師君が作った奴だろう? 結構良いお値段だったろうに……1週間で此処まで見事に壊すかね」

「それなりに気を付けて振るってるんだけどね」

 

暫く食後のお茶を二人で楽しんでからヘスティアがホームを出る。

ソレを見届けてからおじさんは丸盾だけを身に着け気合を入れる。

 

「対象『ダンジョン21階層』【テレポート】」

 

出てきた穴に飛び込めばソコは先ほどまで居たヘスティアファミリアのホームではなく、ダンジョン21階層だった。

 

「そんじゃ、今日も元気にお金稼ぎしますかね!」

 

◆◆◆◆◆

 

あれから約3時間、きっちり24階層までの魔物を蹂躙したおじさんはヘファイストスファミリア本店の入口に来ていた。

 

「おじゃましまーっす。ヘスティアちゃんいる~?」

「おっ、来たねおじさん」

「うぃ~、それにしてもヘスティアちゃん」

「何だい?」

「おじさんの渡した服着ないの?」

「あんなメイド服着れる訳ないだろ! 大事な箇所がほぼ丸見えじゃないか!」

 

折角日本で買ってきたエロエロメイド服はどうやら気に入らなかったらしい、ヘスティアちゃんを揶揄いながらバトルハンマーを作ってくれた鍛冶師と面談したらめっちゃ落ち込んでた。

おじさんのlvに見合う武器って事で紹介された鍛冶師だったが、おじさんの戦闘スタイルについてこれてない。

まぁスキルを使った荒技のおじさんストライクって100キロを超える巨体がスパーボールの様に跳びまわり、その速度を維持したまま突っ込むのだ。当然武器に掛かる負担もデカイ。

だましだまし使ってたバトルハンマーも1週間持たずに途中で折れてしまった。

 

で、今日はヘファイストスさんが直々におじさんに会ってみると。

 

「ヘファイストスは今書類仕事してるはずさ。折角だし一緒にお昼にしよう」

「出た~ヘスティアちゃんの陽キャプレイ。そういう所おじさん好きよ」

「……君はまったく。くれぐれもボクの友人に変な事はやめてくれよ?」

「うぃ」

 

溜息を一つはいてヘスティアちゃんが扉を叩く。

 

「ヘファイストス~? 入るよ~?」

 

◆◆◆◆◆

 

軽い自己紹介をしてお昼を共にする為三人で食事処へ向かう。

着いた先で適当に注文、取り合えずメニュー3ページ分位注文する。

 

「聞いてた以上に食べるのね……」

「そう?」

「ヘファイストス、これでもおじさんは抑えてる方なんだ」

「これで!?」

「自分一人ならメニュー2周位かな」

 

ヘファイストスさんが絶句してるので暫くお待ちください。

 

「はぁ、噂通りムチャクチャね。飲食店で噂されてるわよ『ボーナスキャラ』って」

「ですってよ、ヘスティアちゃん」

「それは君だろう!」

「大丈夫、ヘスティアちゃんなら食べた分は胸に行く」

「むき~~~~!」

 

◆◆◆◆◆

 

注文した料理が届き始めて直ぐに食事を開始、さっさと食わんと後の料理を置く場所がないのだ。

そして食事をしながら本格的におじさんの武器の話になる。

 

「それで、ヘスティアは新しい鍛冶師を紹介して欲しいって事よね」

「うん、申し訳ないけど君が紹介してくれた子が作った武器じゃおじさんのステイタスに耐えれなかった。だからもっと上位の子を紹介して欲しい」

「……確かにあの子の作った武器が折れてたけど、こんな短期間で壊れる様な雑な作りじゃないはずなのよ。一体どんな使い方したの?」

 

一瞬どうしたものかと考えたが目の前のプチトマトを使って実演して見せる事に。

 

「このプチトマトがおじさん、腕がダンジョンの通路、口に敵が居ると思って」

 

そう言って両手を前に出して腕の間をプチトマトが恐ろしい速さで飛び跳ねる。

掌から手首、二の腕と反射の回数が100を超えた辺りでプチトマトはおじさんの口に入り咀嚼される。

どうだ? とおじさんが肩をすくめて見せるが怪訝な顔で此方を見て溜息と共にうなだれるヘファイストス。

 

「そりゃそんな使い方なんて想定してないわ。あの子の武器じゃ耐えきれない訳ね」

「だもんで、基本この盾が今はメインウェポン替わり」

「仕方ない、良いわ、紹介はしてあげる」

 

無事に上級鍛冶師の紹介をしてくれる事に。

 

「その代わり一つ交換条件良いかしら?」

「なんじゃらほい?」

「あなたのその盾をちゃんと見せてほしいの。私が知る盾の中でそこまで仕上がってる盾を見た事が無いわ」

 

どうする? とヘスティアちゃんに視線を投げかける。

 

「ま、ヘファイストスならそう言うのは分かってたよ。ソレ込みでおじさんに盾を持ってきてもらったんだ。でもね、ヘファイストス。君はコレを見たら間違いなく驚く。君が声を抑えられるならここで、無理なら君の部屋にしよう」

「……あんたがそこまで言うなら私の執務室にしましょうか」

「すまないね、ヘファイストス」

 

あっ、もう戻る感じ? じゃぁ1時間で食べ終わるから二人で先に戻っておいて。

 

「そこはおじさんも一緒に戻るながれだろう!?」

 

ヘスティアちゃん、悪いがおじさんは良い感じの雰囲気をぶち壊してでも食事を続ける。ゆっくり飯を食う為だけに普段からダンジョン半日で切り上げてるのだ。いくらあきれ顔してもコレは譲れん。

 

◆◆◆◆◆

 

きっちり一時間で料理を食切った。

 

「本当に食べきったのね……」

「君のお腹は相変わらずなんでも飲み込むね」

「腹半分って感じ、後で少し潜るかな」

「突っ込み切れないわ。早く戻りましょう」

 

三人でヘファイストスさんの執務室に戻った。ついでにおじさんは屋台で食い物買った。

やらんぞ。

 

「いらないわよ」「お腹いっぱいだよ!」

 

 

 

 

 

「さて、改めてその盾を見せてもらおうかしら」

「へーい」

 

そう言って腰に取り付けていた丸盾を渡す。

 

「凄い……これ、ラウンドシールドの見た目だけど中身はそんなものじゃない……これは誰の作品!?」

「ヘファイストス、ソレがボクがあの場で盾を見る君を止めた理由さ」

「どういう事? 何でこの盾に私のエンブレム……いえ、私の銘が入っているの!?」

 

ふっふっふ。ふふふのふ。焼き鳥食いながら見る美人の困惑顔は最高だ。

ビールが欲しくなる。ヘスティアちゃん買ってきて。

 

「ああ……って買ってくるかー!」

「何をー!?」

 

この顔を見ながら飲む酒の旨さが分からんのか!

 

「君はなんでこう、場を茶化すかな!?」

「それがおじさんという生き物だ」

「本当に君って奴は……」

 

苦労を掛けるねぇ、ヘスティアちゃん。

 

「さて、何故覚えの無いヘファイストスさんの……いえ、ヘファイストスちゃんの盾があるのか! それは!」

「それは?」

「それは……ヘファイストスちゃんの愛の証!」

「……は?」

 

おぉ、目が点になってる。これは流れで押し切れる!!?

 

「ヘファイストスちゃんはおじさんに恩を感じて愛の証としてソレをくれたのだ」

「嘘ね」「嘘だね」

 

秒で看破された。ジト目女神見ながら食う焼き鳥うめぇ。

 

「なんで君はそんな嘘つくかな! 神に嘘は通用しない事知ってるだろ!」

「何事もやってみないと分からんじゃないか」

「ポジティブなのか馬鹿なのか……」

「ポジティブって言って」

「あぁハイハイ、ポジティブポジティブ」

 

うむ、ヘスティアちゃんの突っ込みレベルが上がってておじさん満足。

 

◆◆◆◆◆

 

さて、実はヘスティアちゃんにはおじさんの事は大まかに教えている。おじさんのスキルや出来る事、過去に経験した事も含めて。

やばい時は自らの判断で動くが基本はヘスティアちゃんの判断に従う事にして今は過ごしている。

主導権を握ってると思ってるヘスティアちゃんの頑張る姿。可愛いと思います。

まっ、そんなヘスティアちゃんもストレスの共有の為にヘファイストスちゃんを巻き込むまでに腹黒くなったのはアレだけどねー。

 

「というわけで、この子は世界を越える事の出来る子で、別世界の君からその盾を送られたらしい」

「そゆこと~」

「嘘……じゃないのね」

「嘘じゃないし、何ならヘファイストスちゃんの体のどこにホクロがあるか言おうか? お尻とか脇とか」

「!!! 言わなくていいわ……」

「うぇ!? おじさん別のヘファイストスとそんな仲だったの!?」

「ほかにも色々あったけどね~」

「……あえて聞かないでおく。これ以上胃を痛くしたくない……」

 

うむうむ、それが良い。

 

◆◆◆◆◆

 

色々話し合った末に椿ちゃんを紹介して貰った。やったぜ、これで此処でもおじさん棒作ってもらえる。

因みにヘファイストスちゃんの火傷を治せる事は伝えているので良い人見つかったら来る様に言ってる。

今回は誰とくっ付くやら。

 

そんな事をヘスティアファミリアのホームでおじさん棒を磨きながら考えているとヘスティアちゃんが風呂上りの状態で此方へ来た。

 

「おじさん、ステイタス更新どうする?」

「んー? やっとくかぁ」

 

◆◆◆◆◆

 

フィジカルお化けおじさん

 

Lv.3 

 

《基本アビリティ》

力:S963

耐久:S984

器用:S912

敏捷:A880

魔力:S999 

 

《発展アビリティ》

激運:S+++

魔導:C

狩人:B

対人:S

耐異常:S

 

《魔法》

【テレポート】

・対象を唱える

・対象へ跳ぶ

・派生詠唱【ワールドテレポート】

 ・世界を超える

 ・日に一度のみ

・派生詠唱【テレポーテーション】

 ・任意の人数と跳ぶ

 ・人数に応じて魔力消費増大 

 

【トラベラー】

・荷物を格納

・貯蔵量により魔力消費量増加

 

【精霊魔法】

 

《スキル》

【幸運脂肪】

・シボウを操る

・あらゆる害悪から体を守る

・害悪に対する自動カウンター(相手のステータス依存)

・同意がある場合に限り他者のシボウを操れる

・強制幸福

 

【庇護脂肪】

・シボウ操作した者のステータスを上昇(任意)

・最大10段階

・体質操作可能

・シボウ消費で超サイセイ

・庇護対象カンチ

 └庇護対象に関する行動時にステータス補正

・スキル使用時に魔力消費 

 

【引継ぎ】

・シボウ時に同存在を呼ぶ → シボウ時に同存在に引き継ぐ New

・スキル/アビリティ/ステイタス/記憶の継承

・トリガー【死亡】

 

◆◆◆◆◆

 

「相変わらずムチャクチャなステイタスとスキルだ」

「実質Lv4みたいなもんだよね」

 

もう何年もLv3のまま、そろそろオールSが見えてきましたよ。

 

「相変わらずランクアップの経験値は無しか~」

 

あっコラ、おじさんの上で寝っ転がるとヘスティアちゃんの強制幸福が発動する。

 

「お金稼ぐだけなら十分なんだけどね~」

 

ヘスティアちゃんの肉の感触楽しみつつ受け取ったステイタスを見る。うむ、ステイタスが若干伸びたな。

 

「魔法の3スロット目は変わらず名前だけで空白と」

「前にも言ったっしょ。精霊を助けないと使えないって」

「今時精霊は居ないじゃないか」

「それに関しても言ったじゃない、当てはある『『けど今はその時じゃない』』」

 

ヘスティアちゃんとハモった。

 

「まーその内時期は来るさ、それに今の所は特に困ってないから良いじゃない」

「ボクとしては子供の魔法スロットが無駄に埋まってるのをどうにかしたいだけさ」

 

ヘスティアちゃんの頭を撫でてから寝室に送る。

相変わらずウチの主神は優しくて気苦労が絶えないらしい。

 

 

 

 

 

「今度は全部を救って幸福になるのさ……だから、早く来い。ベル・クラネル」

 

まぁ、来た所でヘスティアちゃんの胃痛の種になるのは確定なのだが。




金では買えないものがある。だが大体のものが金で買えるのもまた事実。

次回、おじさんとベル・クラネル

ヘスティアちゃんの胃が耐えれるのか、神のみぞ知る。


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2 おじさんとベル・クラネル

待っていた彼が来た。

 

「初めまして、ベル・クラネルです」

 

何者にも染まってない、周りを魅了する彼が来た。

 

「初めまして、おじさんだ。ヘスティアファミリア団長。そして今日からは副団長」

「へ?」

「今日から宜しく、団長♪」

「えぇええええ?!」

 

これはおじさんとベル・クラネルが会った最初の会話だ。

 

◆◆◆◆◆

 

ヘスティアちゃんにホームへ連れてこられたベル君にケーキを出して歓迎する。ヘスティアちゃんはお茶を入れてる最中。

 

「何で僕がいきなり団長になるんですか!?」

「嫌? 団長」

「嫌というか……何で入ってきたばかりの僕が団長になるんです? 唐突過ぎて理解が追い付かないですよ」

「人生そんなもんだよ。ちゅー訳で、団長権限でベル君を団長に任命します」

「そんなぁ~~~~!」

「あきらメロン。どうしても辞めたいなら代わりの人間を見つけるこっちゃ」

 

ソファでがっくりと肩を落とすベル君。そこへ紅茶を入れたヘスティアちゃんが戻って来た。

 

「ベル君、おじさん君は唐突に良くわからない事をやる。まぁ半分くらい意味が分からないけど結果だけを見ると大体いい結果になるんだ」

「神様」

「まー、ある程度諦めてしまった方が楽だ。それにたとえ道中が苦労の連続でも大体おじさんがどうにかしちゃうんだよねぇ」

「どうにかですか?」

 

全員分のお茶を入れてヘスティアちゃんがベル君の隣に腰かける。

 

「……まぁベル君なら大丈夫! ボクは信じてるゼッ!」

「それ大丈夫じゃない人が言う奴じゃないですかーーー!」

 

若いなぁ。

 

◆◆◆◆◆

 

「へ~、ベルくんはおじいさんの言葉を切っ掛けにオラリオに来たんだ……っと、お茶切れちゃった、お代わりを入れてくるよ」

「あっ、僕が……」

「良いの、良いの。ボクが入れたいんだ。ベル君は座ってな」

 

キッチンへ向かうヘスティアちゃんを見送りながら追加のクッキーを出す。

 

「そういやベル君は入団で見た目のせいで断られてたって言ってたけど理想の自分ってあったりすんの? ガタイがデカくてごっつい感じとか、細身のマッチョとか」

「おじさん!僕のベル君をそんな風にするのは駄目だからね!」

 

キッチンからヘスティアちゃんの声が響く。地獄耳か。

 

「うーむ、先にくぎ刺されちまった」

「どいうことです?」

「おじさんのスキルにそういう奴があるのよ。意図した体形になるやつが」

 

分かって無くきょとんとしとる。

 

「そうなんですか?」

「良くわかってないっぽいな……おーいヘスティアちゃん! ちょっとこっち着て!」

「えー? 今お湯作ってる最中なんだけど」

「ベル君を悩殺しないの?」

「今いきます!!!!!!!!」

 

いや、はえーよ。せめて火を消せ、火を。

 

◆◆◆◆◆

 

「ふふぅ、ベル君~。どうだい、この姿のボクは?」

 

そう言いながらベル君にしな垂れかかるヘスティアちゃんは身長160cm程に背を伸ばしている。

 

「あっあの……」

 

自分と同程度まである身長の神(巨乳)に寄りかかれるのは少年に刺激が強かったか? いいぉヘスティアちゃんもっとやれ。

 

「うーん、やっぱりもっと高身長が良いのかい? おじさん、頼む!」

「あらほいさっさ~、増し増しでーす」

 

そう言って庇護脂肪を使えば現れるのは180cmを超え、高身長かつ更なるプロポーションを持つヘスティアちゃん。

これで興奮しないオスは早々居ない、ちなみにコレでも駄目だともう見るバイアグラって感じのプロポーションに昇華させるしかないが……リアルエロゲーになるので基本封印してる。

 

「~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!!」

「おぉ、『こうかはばつぐん』だ。んじゃ、ヘスティアちゃん後はよろー」

「っは!? え? おっ、おじさん何処か行くんですか?」

「おじさん、馬に蹴られる趣味は無いから、んじゃ半日位出かけてるわ」

「よーしベル君! ボクと君の絆をもっと深めようじゃないか!」

 

ヘスティアちゃんにグッドサインをして見せるとにやけ顔でグッドサインを返して来た。ヘスティアちゃん、ベル君を胸に埋めるのは良いけど窒息させるなよ?

 

「あぁっ!ベル君?!」

 

◆◆◆◆◆

 

鈍感主人公をマシにする荒療治を施した翌日。さっそく冒険者登録にギルドへ二人して向かう。

到着するとエルフの子がベル君に話しかけて来た。なんでもオラリオに来て直ぐギルドで対応してくれた人だとか。

 

「初めまして、エイナ・チュール。ハーフエルフです」

 

まさか握手求められるとは思わなった。右手を差し出しながらソレに答える。

 

「初めまして、ヘスティアファミリアのおじさんです。ベル君の冒険者登録に来ました」

「承知いたしました、では此方へ」

 

ベル君に書類を書かせながら分からない所をちょいちょい指摘する。30分もせずに書類は完成。

 

「これで僕も冒険者なんですね」

「おめでと、そしてようこそ。バチバチのヤクザ商売へ」

「へっ?」

「ベル君は認識甘々だから最初が肝心、つー訳でエイナちゃん、ちょっとベル君にダンジョンの常識を叩き込んでもらえる?」

「はい、勿論」

 

にっこり顔のエイナちゃんに腕を引かれて連れていかれるベル君。まぁ数日は座学やろな。

 

◆◆◆◆◆

 

ヘスティアファミリアのホームでちょっと豪華な晩餐

 

「それでダンジョンへの許可は?」

「はい! 問題ないと太鼓判押してもらえました!」

「ついにベル君もダンジョンデビューか……長かったねぇ」

 

まさか1か月も座学から抜けれないとは……どうやら常識的な部分も色々教わったらしい。

まぁ田舎暮らしからオラリオに来ればその辺の知識も必要になるか。そう思いながら晩飯を食う。

 

「冒険者なら簡単な計算くらいは出来ないと駄目って……それに常識が無いと騙されるからって……」

「そりゃエイナちゃんが正しい」

「ベル君って基本純粋だからねぇ」

「おーっし、じゃあ明日早速行ってみるか」

「はい!!」

 

◆◆◆◆◆

 

バベルの前で

 

「さて、ダンジョンを前に細かくごちゃごちゃは言わん。一つだけ、『生き残れ』」

「はいっ!」

 

 

 

 

 

ギルドから支給されたナイフを手にゴブリンとやりあってるベル君。後方から来る増援をおじさん棒で潰しながら見守る。

何というか危なっかしい。最初の一匹目ってこんなもんだっけ?

思案しているとベル君の初戦闘が終わった。

 

「お疲れ様、どう? ダンジョンでの初戦闘」

「おっ、お疲れ様です。……怖かったです、死んじゃうかと思いました」

「そりゃ殺しにきてるよ。向こうも殺されたく無いんだから」

 

息が上がってるベル君を見ながら帰宅を促す。

 

「んじゃ、取り合えず帰るか」

「えっ、まだ一匹しか倒してないですよ!?」

「手が震えてる内は無理っしょ。時間置こう」

 

指摘されて初めて震えに気づいたベル君はホームに戻るまで無言だった。

 

◆◆◆◆◆

 

ホームに戻ってベル君をソファに座らせてココアを入れる。ちょい顔が青白い。

 

「どう? 冒険者やれそう?」

「何か思ってた以上に凄かったです」

「感じるものがあったならそりゃよかった。ヤクザな商売だったろ?」

「そうですね……今更ですけど……ちょっと怖いです」

 

ココアを手渡して隣に座る。

 

「こればっかりは周りが言ってもしょうがない。自分で乗り越えるしかないね」

「……はい」

 

膝を叩いて空気を換える。

 

「よし、話題変えるか。ベル君はどんな女の子が好きなの」

「えっ、ええ?!」

「ヘスティアちゃんの素と中と大、どれが好みだったよ。なんならもっと細かく調整が利くんだぜ~」

「あっいや……僕は……」

「まぁ具体例も無いと難しかろう……そんな君にコレを授けよう」

「こっこれはっ!!!!!!」

 

◆◆◆◆◆

 

やっぱ野郎でシモの話すると結束が固くなると思いました。

地球の各種属性のエロ本+オラリオの各種族のきわどい写真集は彼の性癖を大変歪めたかもしれんが……英雄色を好むって言うし平気平気。

 

因みに後日ヘスティアちゃんに一部エロ本をテーブルの上に並べられていたベル君は泣いて良い。




体をほぐして今日も元気だギルドに行こう! おじさんは今日もクエストを受ける。

次回、おじさんとギルド

おじさん? アレはそういう生き物なんですよ。


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3 おじさんとギルド

感想と評価一杯ありがとうございます。
頑張ります。


「それじゃ、このクエスト受けるから受理宜しく」

「はい……受理完了しました。おじさんは今日も午後には戻りますか?」

「うん、いつも通りで」

「承知しました」

 

エイナが受付の席に座っているとそんな会話が聞こえてきた。

先日自身の担当した冒険者と共に訪れた人の声。何となく覚えていたエイナは先輩ギルド員と話しているのを見つけ先輩に質問してみることにした。

 

「先輩」

「あら、エイナじゃない。どうしたの?」

「先ほどの方なんですが……」

「先ほどって、おじさんの事?」

「おっ、おじさん?」

「ええ、おじさん。……あっ!別に私の叔父って訳じゃないわよ!? あの人『おじさん』って名前なのよ」

「えぇ!? 名前がですか!?」

「そうよ、オ・ジサンとかオジ・サンとかじゃなくて本当に『おじさん』って名前なのよ」

 

聞いてて頭が痛くなる。

 

「そんな名前の人が居るなんて……」

「私も驚いたわ~、登録用紙に『おじさん』なんて書くから偽名を疑われて丁度ギルドに居合わせた神様に協力してもらってね……そしたら本当に名前が『おじさん』なんだもの」

「はー……あぁ、いや、名前ではなくて。私の担当冒険者が登録した際に一緒にいらしたので……どんな人なのかなと……」

「へぇ、おじさんの所にもついに新人が入ったのね……それでおじさんの人柄を知りたいって事?」

「はい」

「そうね、冒険者らしくないわね」

「冒険者らしく……無い?」

「基本おちゃらけてるけど根っこは多分真面目なのよ、書類関係とかキッチリしてるし。周りとのトラブルは基本無し、後は女性に優しいわね」

「はぁ……女性に」

 

好色家って事?

 

「若いとか老いてるとか関係なしに女性に優しいのよね。後子供にも」

「何か……本当に冒険者らしくないですね」

「そうなのよね。アレでlv3ってのが信じられないわ」

「lv3!?」

 

あんなギルド長みたいな体形で!?

 

「そうよ、二つ名は『超反射(スーパーボール)』聞いたこと無い?」

「え”、そりゃ知ってますけど……あの人が?」

「見えないわよね~、武器と盾が無いと一般人なんですもの」

 

◆◆◆◆◆

 

その日の正午、先輩から何時もこの時間におじさんが報告に来ると聞いていたエイナはおじさんを待っていた。

 

「じゃあコレ、いつも通り処理お願いします」

「はい、じゃあギルド預金に入れても?」

「うっす、よろしく~」

 

そして先輩と例のおじさんのやり取りが終わるタイミングを見計らって話しかける。

 

「あの……」

「ん? あー、ベル君の」

「エイナ・チュールです。あの、おじさん氏」

「いや、おじさんで良いよ? おじさんさん、とか敬称付けると変な感じになるし」

「でっではおじさんと……」

「うん、それで?」

 

等とやり取りをしていると……

 

「エイナさ~~~~~ん」

 

「お? この声……」

「ベル君?」

 

「アイズ・ヴァレンシュタインさんの事教えてくださ~~い」

 

血まみれのベル君が居た。

 

「きゃあ~~~~~~!」

「(ケガは……無いか)」

 

◆◆◆◆◆

 

ボックス席にて

 

「何であんなに血まみれだったのベル君」

「いやぁ~……ははは」

「とりあえず報告。この間教えたろ?」

「えっとですね」

 

 

 

 

 

呆れた、死にかけて逃げかえって来たのにそれ以上に助けてくれた女の子の情報が知りたいとか……肝が据わってるのか抜けてるのか……。

頭が痛いのでエイナちゃんにアイズちゃんの基本情報を伝えてもらうことに。

それにしてもミノタウロスに襲われてアイズちゃんに救われたねぇ……状況的に何かやらかしたな。

 

「エイナちゃん、後日ロキファミリアから何か報告が上がったか確認したい。こっちは新団長が殺されかけてるから必要ならきちんと抗議を入れる」

「はい、調べておきま……新団長?」

「? ベル君から聞いてない?」

「えっと、はい」

「ベル君?」

「へ?」

「ギルドに報告してねって言って返事してたよね?」

「えっえぇっと~~~」

 

忘れてたなコイツ。

 

「ベル君は帰ったら勉強&特訓かな」

「えぇ!?」

「書類は忘れると面倒になるその理由、そして提出遅れにより発生する手間を覚えてもらう。後、せめてミノタウロスから余裕で逃げれる位にはなっとかんと」

「そんなぁ~~~……」

「それじゃエイナちゃん、今後ともベル君を宜しく」

「いえ、こちらこそ」

 

◆◆◆◆◆

 

ベル君とおじさんを見送り、自席について一息ついていると声をかけられた。

 

「エイナ」

「あ、先輩」

「どうだった? おじさんと話してみて」

 

ボックス席での会話、ベル君との問答の内容……どれをとっても……。

 

「何か凄く普通でした」

「でしょ~」

 

考え方が凄く一般人というか。

 

「あの人って本当に超反射……ジャイアントキリングの超反射なんですか?」

「見た目はそう見えないけどね、ほら、コレ今日の彼が受けたクエスト」

「24層……グリーンドラゴンのドロップアイテムの納品?!」

「あの人ソレを午前中に終わらせるのよ、しかもほぼ毎日」

「はあぁ?!?!」

 

後日、おじさんの処理しているギルドクエストの内容をまとめて頭を抱えるエイナの姿があったらしい。




ベル君の勉強を見ていたおじさんはベル君と夕食を取る事になった。

次回、おじさんと酒場

酒も料理も大事だが、良い酒場は雰囲気まで旨い。


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4 おじさんと酒場

エイナちゃんと話した後、ホームに戻って軽く座学をやっていたらベル君が思い出したように店の名前を出した。

 

「あっ、豊穣の女主人……」

「豊穣の女主人?」

 

聞けば朝ダンジョンに向かう途中で落とした魔石を拾ってもらったとか。ちょっと待て……。

 

「つまりベル君は自分が何体敵を倒したとか、魔石何個ドロップした。そーいう情報をちゃんと記録してなかったと?」

「あっ、いや、その」

「おじさんはちゃんと君に教えたよね、収支を記録しろって……」

「あはははっは……」

「ギルティ」

 

ホーム全体が揺れる音と振動が響く。ゲンコツで地面に埋まったベル君を引っ張り出しながらベル君用に算数のドリルを作るべきか本気で悩む。

 

「とりあえず行くか、豊穣の女主人」

 

◆◆◆◆◆

 

店に到着したらウェイトレスが一人駆け寄ってきてカウンター席に案内してくれた。魔石を拾ってくれたのもこの子らしい。

軽く礼をしてからメニューを開く。……割といいお値段するな、ベル君懐大丈夫なんか?

ちらりと横見れば顔を青くしとる。

 

「はぁ、ベル君。おごっちゃるから好きに頼め」

「えっ、でも」

「折角の飯が値段気にして楽しめませんはつまらん。次来るときまでに金を貯めとき」

「ありがとうございます。それじゃぁ……」

 

注文しようとしたら何かパスタ置かれた。思わず二人して女将さんの方を見る。

 

「そっちの坊やはあたしを唸らせる位大食漢なんだって? しっかり食べて金を落として行ってくんな」

「えぇ!? シルさん!??!」

「てへっ」

「ベル君大食漢だったのか……知らなかった。言えばちゃんとホームの料理増やしたのに」

「いや、絶対違いますから! っていうかおじさんは分かって言ってますよね!?」

 

まーねー。そう言いながら出されたパスタを一口。むっ、旨い。

記憶にはあったけど味までは思い出してなかったからな……ちょい割高だがこれなら値段は妥協点か。よし、食おう。

 

「女将さん、とりあえずメニューの端から端、全部持ってきて」

「言うねぇ、全部食いきれるのかい?」

「久々に当たりっぽい味だからちょい本気だす」

 

そう言って上着を脱ぐ。両手を合わせて……いただきまーす。

 

◆◆◆◆◆

 

天井にまで届くかのような皿の数々。料理を供給するだけで手一杯になり積みあがっていく皿。

店のリソースのほぼ全てを投入しても捌ききれない食事ペース。

周りの客も自分たちの食事よりその男がどこまで食うのかを見守る形となった。

既に料理の供給は2周目が完了しており3周目に突入。

調子よく食っていると女将さんから話しかけられた。

 

「店としちゃ在庫切れまで提供したいけど、今夜は予約が入ってるんだ。そろそろ終いでいいかい」

「ん、まぁ良いよ。今度は満腹まで食わせてくれりゃ」

 

「「「「「まだ腹いっぱいじゃないのかよ!!!!!」」」」」

 

店の客全員から突っ込まれた。

 

「ははっ、まさか本当にあたしをひぃひぃ言わせる客が来るとはね……せめて食後のドリンク位はゆっくりしていきな」

「あいあい」

 

そう言って出された飲み物で口を潤す。ん~、お腹膨れて幸せ~~。

 

「おじさん、凄く食べましたね……」

「まぁ腹七分?」

「ベルさんのお連れさん凄く食べるんですね」

「普段一杯食べてるのは知ってましたけど、ここまで食べるってのは知りませんでした」

 

膨らんだ腹で周りの音をぼけーっと聞き流す。ある意味一番至福の時だ。

大分ぼーっとしてると何やら騒がしい。少し頭をスッキリさせると何か騒いでる客。

おん? ベル君は何で俯いて……って出て行っちゃった。なして?

 

「シルちゃん何か分かる?」

「いえ……それが何も」

「まぁ取りえずお会計を『ミアかあちゃんの所で豪気なやっちゃなー』……ん?」

 

◆◆◆◆◆

 

会計を済ませて後ろを振り向けばロキファミリア。自分のコップ持ってロキの隣に座る。

 

「やっほ、ロキちゃん」

「んげぇ!? おじさん! 何で此処に居るんや!!」

「いや、普通に飯食ってたんだけどさ……ロキちゃんこそ何でいるの」

「遠征の慰労や慰労」

 

確かに周りにファミリアの幹部が揃ってら。

 

「ほーん、あっ折角だから聞くけどダンジョンの上層にミノタウロスが出たんだけど何か知らん?」

「……いや。ベートが喋ってたの聞いてなかったんかい」

「うん?」

 

話を聞けばロキファミリアの遠征で帰還中に遭遇したミノタウロスが逃げて上層に上がっていった。

とりのがしかけたが間一髪で間に合ったがミノタウロスの返り血で真っ赤になった新人が居たと。

ベル君の事やんけ。

笑われたから逃げ出したって所か? うーん、まぁしゃーないか。

 

「それで? その事はギルドに報告したん?」

「んあ? どうなん? フィン」

「いや……今の所は特に」

 

ほむ……。

 

◆◆◆◆◆

 

酒場でロキファミリアと別れベル君を探す。心構え等を覚える段階だったので庇護脂肪を使ってないので細かい場所が分からんが……まぁダンジョンやろな。

 




駆け出したベル君と追いかけるおじさん。

次回、おじさんとダンジョン

これも一種のアオハルか?


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5 おじさんとダンジョン

ダンジョンに着いて暫く歩くと魔石が放置されたまま奥へ続いているのを見つけたので拾いながら進む。

魔石拾いながらとはいえモンスターと殆ど会わなかったのにベル君に追いつけずに既に7階層、脚早くね?

追いついた時にはウォーシャドウに囲まれてた。援護が必要かなーなんて思ったが見事自力で返り討ちにしてしまった。思わず拍手。

 

「お、おじさん」

「今のを凌ぐなんてやるぅ、でも戦闘スタイル的に防具くらいは付けた方がいいかもね」

「それだけですか?」

「ほかに何が?」

 

何か懺悔タイム始まってもーた、いやおじさんに懺悔されても困る。つまり覚悟決めたって話でしょ? そんな冒険者やってれば普通の事なので……ああ、ベル君冒険者なって2週間も経ってないからしゃーないのか。

 

さて……なんかいい感じの事言わなきゃいけない雰囲気だけどどうしよう。

 

あっ、ベル君何か期待した目で見てるやん。ええー困った。

 

「今のベル君の覚悟というか……まあ、冒険者なら大体の人が通る道だね。それで死んで無いから上等だ。普通なら死んでるよ?」

「そう……ですね」

「よし、一回ギリギリまでやってみる?」

「え?」

「死なない範囲ギリギリで援護してあげるから行ける所まで行ってみよう。ソレで見える景色もあらぁな」

「はい! お願いします!!」

 

◆◆◆◆◆

 

結局あの後10階層まで潜った。いくら周りのを処理してるとはいえベル君スペック高すぎじゃない?

ベル・クラネルじゃなくてバグ・クラネルって落ちは無いよな?

敵倒して流れるように気絶したベル君を抱えてテレポーテーションでホームに戻るとヘスティアちゃんが待ってた。

 

「おじさん、それにベル君! 随分遅かったじゃないかもうじき夜明けだぜ? 何があったんだい?」

「今日っつーか昨日か、昨日のお昼ごろの話なんだけど……」

 

ヘスティアちゃんにベル君がミノタウロスに襲われた事、ソコをロキファミリアのアイズちゃんに救われた事、酒場で揶揄されてダンジョンへ行った事、ロキファミリアは今の所この件をギルドに報告していない事を共有した。

 

「うーん……つまりベル君は強くなる覚悟を決めてダンジョンに潜った、そしておじさんはソレに付き合ったと」

「端的に言えば」

「なるほどね。それにしてもロキの奴、ボクの可愛いベル君に何てことをしてくれたんだ!」

 

それなんだよな。一応明日の昼にでもギルドで確認するつもりだけど……ロキファミリアが報告してなかったらどうする?

 

「ロキへの()()を執行するまでさ!」

「えっ、マジでやんの? アレ」

「当たり前だ! ベル君に怖い思いをさせたのだって許せないのにソレを報告すらしてないなんて絶対駄目だ!」

「まぁ、やるかどうかはヘスティアちゃんに任せるって言ったのもおじさんだから良いけど……とりあえずベル君は明日一日休ませて、おじさんはいつも通り午前中は潜って昼に戻るから、午後にロキファミリアに行こうか」

「ふふふ、ロキの奴もついに年貢の納め時だ!」

 

◆◆◆◆◆

 

クエストの報告をした際にロキファミリアの件をエイナちゃんに確認したがやはり何も報告は上がってないらしい。

仕方がないのでヘスティアちゃんと共にロキファミリアのホームへと向かう。

門番に要件を伝えて待つ事暫し、門の端に隠れながら此方を伺うロキが現れた。

 

「おい、ドチビ! きょ、今日は何の用や!」

「何の用だ? そんなもの『()()()()』を執行しに来たに決まってるじゃないか」

「はん! ()()はお前ん所のファミリアにちょっかい出さん限り無効や! もうおじさんには手を出さん事を徹底しとる以上約束は無効やで!」

 

そんなロキちゃんに悲報です。

 

「あー、ロキちゃん。昨日酒場でミノタウロスの話してたの覚えてる?」

「あ? 覚えてるで、それがどないしたん?

「んで獣人の子が言ってた()()()()()、あれ、実はうちの新団長」

「は?」

「うちの新人で、新しい団長なの。ついでに言えばあの時酒場出て行った子が本人」

「は~~~~~?!?!??」

 

そう、以前の()()()()で行った約束はヘスティアファミリアへの手出しをしないという内容なのでモロにアウト。

 

「つまりだ……ロキ。

 君はウチの団員に、しかも団長に手を出した! よって約束を今、ここで執行する!」

「ちょっ、ちょいまち! そんな事知らん! ドチビん所に新人が入ったなんて情報、しかも新団長やと!? ちゃんと()()で調べてたはずやのに……」

「君が何を言おうとうちのベル君が君の所の子供たちのせいでミノタウロスに襲われたのは事実。さあ、おじさん! やってしまえ!」

「という訳で、ロキちゃん以前の『()()』通りにやらせてもらうね? ロキちゃんも同意してた約束だからね……何、そのうちヘスティアちゃんも腹の虫が収まるさ」

「いや、いやや! そんな!」

「平気平気、痛くないから」

「いやあああああーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

◆◆◆◆◆

 

「うぅっ、そんな、ウチの……ウチの胸が……」

 

約束を執行されたロキは胸の脂肪を減らされあばらが浮き出るようになってしまった。完全に無いのである。

 

「んで、ヘスティアちゃん。これの期限は?」

「そうだね……よし、ベル君のレベルアップまでとしよう」

「ちょぉ待て! そんなん下手したら何年も……いやレベルアップしない場合もあるやんか!」

「その時は諦めて一生無乳として過ごすんだね!」

「あー、ロキちゃん。その内ベル君はレベル上がるから……って聞こえてないわコレ」

「あはは……終わった。ウチ残り一生無乳……」

 

打ちひしがれるロキはロキファミリアに任そう。

 

◆◆◆◆◆

 

「それで?」

「? 何だい?」

「いや……ヘスティアちゃんがあんな無茶な期限は付けないよなーと思って」

「うっ……君は何でそういうところが鋭いかな」

 

その話はホームでと言われて大人しくホームへ戻る。すると居間でベル君が算数ドリルやってた。

元農夫のベル君にはちと難しい様でめっちゃドリルとにらみ合ってる。後で甘いもんでも差し入れするか……。

んでやってきたヘスティアちゃんの寝室。

 

「これがさっきの発言の理由さ」

 

そうやって渡されたのは……ベル君のステイタス? スキルがあるじゃん。

 

【憧憬一途】

・早熟する。

・懸想が続く限り効果持続。

・懸想の丈により効果向上。

 

「成長促進スキル?」

「そう、おじさんのスキルと同等、もしくはそれ以上のレアスキル。想いが続く限りベル君は誰よりも早く強くなっていく」

「こりゃおじさんのよりレアでしょ。だっておじさんのは精々ステイタスの上昇、こっちは何ぼでも上がるんでしょ?」

「……そう思うよねぇ」

 

そう言いながら机へへたり込むヘスティアちゃん。どうもスキル効果に頭を悩ませてたらしい。

 

「どうしようコレ」

「本人には言わないのが無難じゃない?」

「やっぱり?」

「団長の自覚が出来てからで良いでしょ。おじさんのスキル詳細だって教えてないんだし」

「だよねぇ」

 

結局スキルに関してはベル君には黙って、少しおじさんと一緒に潜る事に。逃げ足位は鍛え上げるとしましょう。




ロキの薄かった胸が文字道理絶壁になっちゃった!? ロキの胸は戻るの? それとも?!

次回、おじさんと特訓

ロキの胸の運命はベル君が握る


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6 おじさんと特訓

翌日からベル君と共にダンジョンアタック。と言ってもベル君に合わせて5~10階層をメインに進む。

ついでに夜は勉強を教える。ファミリアの経済状況を覚えてもらわないと……。

この間おじさんの日課であるダンジョンタイムアタックはお休み。

数日ベル君のダンジョンに付き合ったけど……ステイタスの伸びがすげぇ……。

毎日200オーバー伸びてるよ。いくら援護しながら強敵と戦ってるとしても伸び方がえぐい。

レアスキルってこんなに理不尽な感じなのか……おじさんも周りからみたらこんな感じなのかね?

 

「ベル君、この数日どう?」

「強くなってるのが実感できます……あ、でもエイナさんから潜る階層に関して注意されました」

「そこはおじさんと一緒に潜ってるって言えば問題ないやろ」

「そうですね、何か言いたそうにしてましたけど」

 

ま、そらそうだ。いくら同伴してるとはいえ冒険者になって半月ちょいの子が10層をうろうろしてるなんて普通じゃないし。

 

「けどまあ、ソロで潜る時は用心しなよ? ヘスティアちゃんと約束したっしょ」

「はい、無茶はしません。勿論強くなる為の努力はしますけど」

「それでいい。ついでに勉強も頑張れよ」

「うっ……はい」

「それにしてもヘスティアちゃんが出かけるって言ってもう数日だけど何してんのかね?」

「綺麗なドレスを着てから出かけてましたけど」

「ドレスねぇ……」

 

◆◆◆◆◆

 

「そんじゃ、今日は祭りだからダンジョンアタックは休みにすっか」

「祭り……ですか?」

怪物祭(モンスターフィリア)、年に一度のお祭りだ。小遣い上げるから回って来なよ」

「あの……おじさんはどうするんですか?」

「歓楽街行こうかな、同伴デートでもして」

「歓楽街? 同伴?」

「一言で言えばえっちな店だよ」

「えっ……!」

「あはは! 赤くなってる内は行けそうにないな」

 

真っ赤なベル君を置いて歓楽街へ向かう。久々の歓楽街なのでハメを外すゾー。

 

◆◆◆◆◆

 

歓楽街で好みのアマゾネスを引っかけてモンスターフィリアに来た。やっぱアマゾネスはこういうお祭りは好きらしい。

お祭り会場で催しを見てると何やら騒がしい。少し気にして周りを見ていたらギルド職員に話しかけられた。

なんでもお祭り用のモンスターが逃げ出したとか……せっかくの同伴なのにとも思ったがガネーシャファミリアに恩を売れるなら良いかと討伐に参加することに。

というか……アノ女神の気配が近いのが気になる。何かやったんじゃなかろうな?

取り合えず上からモンスター探しますか。おじさんストライク脚部限定!

 

◆◆◆◆◆

 

上空からモンスター探してると似たようなことしてるアイズちゃんに会った。

 

「アイズちゃんもガネーシャファミリアの手伝い?」

「はい……おじさんも?」

「まぁね」

「それで、モンスターはこれで全部ですか?」

 

アイズちゃんがギルド職員に聞くと残りシルバーバックらしい。で、ダイダロス通りに居ると……。

ほむ? あっちか……アイツの気配も向こうにあるな……さてはベル君に目を付けたか?

困ったなこりゃ……となると今回の事件はベル君が解決せんと面倒だなぁ。

しゃーない、おぜん立てすっか。

 

「それじゃ、お先」

 

そう言ってアイズちゃん達と別れる。こりゃ今日の同伴は無理そうだ。

 

◆◆◆◆◆

 

お、ベル君がシルバーバックと戦ってるのを発見。やっぱ近くにアイツが居たわ。

ってヘスティアちゃん狙われてるやんけ! おぉ、ベル君ナイスカバー!

 

「ダイナミックエントリー!」

「おじさん!?」

「サルの相手はおじさんがちょっとやっとくから、ヘスティアちゃん連れて離脱しな!」

「はっはい!」

 

シルバーバックがおじさんを無視してベル君とヘスティアちゃんを捕まえようとするのをミニストライクでアッパーをかます。

数歩よろけてから此方を意識したシルバーバック。直ぐに潰そうと思ったがやはり横やりが入って来た。

 

シルバーバックをすり抜けて振るわれる大剣、丸盾で受け止めるもおじさんのステイタスを遥かに超える力に踏ん張る事も出来ず弾き飛ばされ家屋を3件程貫通してからやっと止まる。

普段負わないダメージに顔を顰めながら起き上がり前を向けばオラリオの頂点、猛者(おうじゃ)オッタル。

 

「よぅ、お久」

「……」

「まーた女神様のお使い? 今度はうちのベル君か?」

 

無言のオッタルが剣を構える。強がって余裕ぶってみたけどこりゃアカン、オッタルマジやんけ。

 

「おじさんストライク脚部限定!」

 

崩れた家屋内を反射しながら上空へ逃げる。流石に足止めだろうから追撃はしてこんだろ。

 

「逃げるが勝ちってなー! あばよーとっつぁ……ぶっ‼‼‼」

 

見上げてたオッタルがいつの間にか横に、そして大剣で思いっきり地面に向けて叩きつけられた。

盛大に土煙を上げながら地面にクレーターを作りめり込む。

視界がぐわんぐわんと歪みながら立つが頭から血がっ‼‼‼‼

 

「相変わらずふざけた耐久だ」

「ふざけてるのはお前だろうが! 何lv3を本気で叩いとんねん! おじさんじゃなきゃ死んでたぞコラァ!」

「貴様なら死なんだろう」

 

ああ言えばこう言うオッタルを睨みながらスキルで治療する。しかしどないしよ、こいつが追撃してくると逃げられんのじゃが……。

再度大剣を構えるオッタルを前にしながら一つ思い出す。そういやコイツ()()()に……。

 

「ちょい待てオッタル、おじさんと取引しない?」

「取引だと?」

 

よし、食いついた。

 

「どうせおじさんの足止めしてシルバーバックをベル君に倒させるとかそういう奴だろ。ソレならおじさん手を出さないで見てるから」

「……」

 

むぅ、思案中か……なら駄目押し。

 

「もし提案を飲んでくれるなら……以前スキルで変貌したフレイヤの写真をやろう」

「……」

「(どうだ?)」

「よかろう」

 

セーフ! 助かった~!

 

「後でお前宛てに送るからちゃんと受け取れよ」

「解った」

 

フレイヤの写真撮っといて良かったー。幾つかブロマイド仕様にしてるし、残りのデータで写真集とか作っとけば取引材料になるかもしれんな……後で作っておこう。

 

◆◆◆◆◆

 

その日の夜、ヘスティアちゃんにステイタイス更新をしてもらいながら昼間の報告をしてた。

 

「という訳で、おじさんはあの後ロリオッタルと戦ってたよ」

「おじさん、君猛者とやりあってたのかい?!」

「うん、やっぱlv差が4もあると手も足もでねーや」

「いや、むしろ対抗出来てる君が信じられないんだけど」

「いや、めっちゃ痛かったし! 頭はケガするわ、肋骨は折れるわ」

「はいはい、そんな出っ張ったお腹は見せないで良いからうつ伏せになる」

「へーい」

「んで? ベル君の方はどうだった?」

「シルバーバックを圧倒してたよ。ヘファイストスの武器を渡したときにステイタイスを更新したけどトータル1000オーバー。直前の動きとまるで違ってた」

「なるほどね、あぁそうだ、ベル君の事で「ん”ん!?!?」あん?」

 

何かヘスティアちゃんがおじさんの上で震えとる。なんぞ?

 

「おじさん」

「うぃ?」

「レベルアップ」

「は?」

「レベル4になれる」

「……え? 何か偉業成したっけ?」

「猛者と戦ったからじゃない?」

 

「(ロリフレイヤのブロマイドで釣っただけなんだけどな……)」

 

暫く考え込んだが折角レベルアップ出来るのにしない理由が無いのでlv4に上げてもらった。

今後神のスタイルを弄ったら写真撮っておこうと誓ったおじさんだった。




驚愕の事実、オラリオ最強は幼女趣味!?

次回、おじさんとお酒

その後オラリオに神の写真集が出回ったとか……。


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7 おじさんとお酒

おじさんはlv4になっても今まで通りの階層を攻略していた。同時に一つ前から取り掛かりたいと思っていた事に手を出し始めた。

その為に買って来た「ソーマの酒」 これを今からホームで色々と調べ尽くす。

 

「おじさん、昼間から酒かい?」

「ヘスティアちゃん、これは飲む用じゃないよ」

「そうなのかい?」

「前からどうにか作りたいと思ってたものがあってね。ソレの参考用に買って来たんだ」

「お酒でも造るのかい?」

「いいや、作るのは靴下」

「……靴下?」

「冒険者ってさ……足元蒸れるのよ……」

「???」

 

神には縁の無い事だが冒険者で水虫に掛かっているものは割といる。そしておじさんは幸いかかってないが今後かからないとも言い切れない。

 

「なので! 今後の為にも今の内から対策するアイテムの開発を行います!」

「そんなに気合入れるものかい?」

「……ベル君が水虫になって戦闘中に集中力を欠いたら?」

「!?」

「それが原因でモンスターにやられたら?」

「!??!?」

「そんな事にならないよう対策アイテムは?」

「必要だ! 今すぐ開発するんだおじさん!」

「と言っても実はひな形はあるんだよね」

 

そう言って五足靴下を出す。これは日本で買って来た量産品、コイツに手を加える予定だ。

 

「というかコレとソーマの酒がどうやったら結びつくんだい?」

「うん、前から思ってた事あってさ、マジックアイテムってあるじゃん」

「魔剣とか?」

「魔剣が代表格かな……早い話が品物に魔法を付与して発動させるだろ。ソレを靴下(コレ)で出来ないかと思って」

「余計に分からない、酒と靴下だぜ? どう結びつくのさ」

「この酒ってさ、魅了(チャーム)効果があるんだよ」

「は?」

「と言っても本来の魅了と違って依存性のある麻薬みたいな効果でね。正直質が悪い」

「ちょっと待った、でもソレを作ってるのは神ソーマだろう? 神は力を封じてるからそんな事出来るはずが……」

「そう、人と変わらない身の神が独力である種のマジックアイテムを創作してるんだ。逆に言えば仕組みさえ分かればおじさんでもマジックアイテムを再現する事が出来る。そんでもってそのサンプルは此処にある。更に更にソレを丸裸にする方法をおじさんは自分の世界から持ってきましたよっと」

 

そう言ってトラベラーで取り出す各種分析の為の機械の数々。

 

「それじゃあ、ちょっと気合入れてやってみるか」

 

◆◆◆◆◆

 

それから暫くは酒の成分分析を中心の生活をした。時に試飲したり手を加えて魅了の効果を整えたり。

過去の『体験したことの無い記憶』が大いに役立ち酒に関しては大いに成果が出るものの、魅了効果の発生に関しては思わしくない。

味に関しては正直上回るのはそんなに難しくないが魅了効果の発生は今の所再現出来てない。神だから? しかし神と人で違うのって何だ?

一番分かりやすいのは神の力(アルカナム)奇跡を起こせる力だけど使えば天界に強制送還だから使ってないはず……いや、もしかして無意識に使ってる?

もしそうだとしたら再現は出来なくなるけど……その場合は【神秘】アビリティが無いと作れないって話に……待て待て他に何か無いか。

いかん、行き詰まってる。いったん休憩しよう。居間でお茶でも入れるべ。

頭を空っぽにして考えたが……。

 

「う~~~ん、分からん!!!」

「何だいおじさん、珍しく行き詰ってるじゃないか」

「ちょーっとね。って言うかヘスティアちゃんこそ、この時間に居るの珍しいじゃない」

「何言ってるんだい。昨日ベル君と話したじゃないか、今日サポーター君を連れてくるって」

「? 言ってたっけ、そんな事」

「熱中すると周りが見えなくなるのは君の悪い癖だよおじさん」

 

◆◆◆◆◆

 

「リリルカ・アーデです。初めまして」

 

ベル君、ヘスティアちゃん、そしてサポーターちゃんの三人が話してるのを横目にとりあえず紅茶でもとお湯を沸かす。

お茶とお茶請けを皿に盛って居間へ向かうと何か三人で乳繰り合ってた。

 

「ベル君さっそくハーレム作ったの?」

「ちっ、違いますよ!」

「おじさんもファミリアにお金は入れるけどハーレムの維持費は流石に……」

「だから違いますって!」

「っと、そうだ! エイナさんとギルドに行って会わないと!!」

 

そう言って走り出すベル君。

 

「あ~あ、行っちゃった。……取り合えずお茶飲む?」

「貰うよ」

「いただきます」

 

◆◆◆◆◆

 

「んじゃ、自己紹介しとこうか。ヘスティアファミリアの副団長、おじさんだ。宜しく」

「えっと……それはお名前でしょうか?」

「名前だよ。おじさんって名前」

「……個性的なお名前で」

「別に変な名前と言ってくれて良いんだよ? 実際変だし」

 

紅茶をちびちびと飲みながら何と言っていいか思案しているリリちゃん。横で優雅に紅茶を口にしているヘスティアちゃん。

警戒心が解けてないので世間話をしているとリリちゃんがソーマファミリアである事が発覚。

 

「折角ソーマファミリアの子が居るんだから試してもらっても良いかい?」

 

そう言っておじさんの作ったお酒を紅茶にちょいと混ぜる、警戒しながらも口を付けるとスルスルと飲んでいき全部飲み切った。

 

「おいしい……」

「おー、良い感じ?」

「はい、リリが今まで飲んだお酒より……各段に」

「おじさん! ボクにも!」

「はいはい、どーぞ」

「んふふーん……へぇ、凄く良いじゃないか。果実の香りに甘い舌ざわり……これ売り物になるんじゃないのかい?」

「そりゃソーマの上位互換だから売ろうと思えば売れるでしょ」

「ソーマ!??!」

 

椅子から立ち上がったリリちゃんが驚いた表情でおじさんの手元の酒瓶を見てる。

 

「残念だけどコレはソーマじゃないよ。ソーマを解析して作ったおじさんのお酒」

「ソーマ様のお酒を……解析?」

「しっかりと寝かせる前の若い酒だからこんなもんだけど、熟成させりゃもうワンランク上の酒になると思うな」

 

そう言いながら今度はカップにそのままのお酒を注ぐ。注がれたお酒を恐る恐るリリちゃんが飲むと震えるように声を絞り出した。

 

「言われてみれば……ソーマ様のお酒の味がします……でも、こんな……」

「魅了効果が無いのがそんなに変?」

「魅了?」

 

呆然としているリリちゃんにソーマを解析した結果を伝える。酒に魅了の効果があると伝えると愕然としたが何やら納得していた。

何を驚いているかは今一分からんが折角なのでおじさんが実験で作った酒を幾つか振る舞い味の品評会をしてみた。

どうせ作るなら旨い物を作りたい。料理酒とかに使うにしても不味いより旨い方が良い。

そうやって酒盛りをして気づけば夜になっていた。ベル君が帰って来た時には二人して酔いつぶれていたが二人共ベル君に介抱されていたので本望じゃないだろうか。

因みにベル君には下半身が元気になるお酒をちょっと飲ませてから二人の居る部屋へ放り込んでおいた。

あの年の子なら間違いなくハッスルするだろう。頑張れヘスティアちゃん、リリちゃん。

 

◆◆◆◆◆

 

そこからまた暫くおじさんはお酒の解析に熱中した。だがどれだけ調べても一向に成果が出ない。

本格的に行き詰まっていたら何かベル君がlv2になったらしい。

……こりゃロキちゃんのスタイル戻しに行かないとなぁ。折角だし日本でカメラ仕入れてくるか。




水虫対策のマジックアイテム開発に手を出したおじさん。だがその道のりは遠く手がかりが無い五里霧中。
おじさんはマジックアイテムを作る事が出来るのか。

次回、おじさんと撮影会

需要と供給……あると思います。


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8 おじさんと撮影会

日本で写真の撮り方の本を購入してそれに従いカメラを購入。

ヘスティアちゃんに付き合ってもらい撮影の仕方を覚えた翌日、おじさんはヘスティアちゃんに断りを入れてロキファミリアに赴いていた。

 

「ごめんくださ~い」

 

門番とちょっと揉めたが神同士の約束の履行の為と言ったら渋々取り次いでくれた。暫く待ってるとロキが出てきた。

 

「……何しに来たんや、おじさん」

 

めっちゃげっそりしてる、覇気がまったくねぇ。

 

「……ロキちゃん痩せた?」

「……そうやな、痩せたで、胸がな。あっはっは……はぁ」

 

めっちゃ自暴自棄になってる……やっぱ不変のプロポーションが減るっておじさんが思ってる以上に辛い事なのじゃ……ヘスティアちゃんも意外とえげつない事を。

 

「(oh、思ってた以上に凹んでる)ロキちゃん、喜べ。おじさん今日は約束を果たしに来たんだ」

「何の約束や」

「何って、ウチのベル君がlv2になったら胸戻すって奴」

「アホか、あれから1か月位しか経ってないのにランクアップなんて出来る訳ないやろ」

 

ちょっと顔つきがピリっとしたが常識的にそれは無いと否定されちゃった。

 

「いや、ちゃんとlv2に上がったし、ギルドにも申請したよ?」

「いやいや、そんなはずが」

「いやいやいや」

 

そんな押し問答がしばらく続いたので念のため持ってきたギルド発行の張り紙を見せた。

 

「ホンマか? ホンマにホンマなんか?」

「ホンマ、ホンマ」

「嘘やったら本気で呪うで? 神の本気や」

「嘘じゃないって、嘘なら態々来ないっつーの」

 

しゃがんでプルプルと震えだすロキちゃん、どうやら嬉しいご様子。

 

「いっ、やったーーーーー!!!!」

 

次の瞬間おじさんの襟首をつかんでくるロキちゃん、早すぎて避けれなかったゾ。これが神か。

 

「おじさん! さぁ戻せ! 今すぐ戻すんや!」

「おぉおお、おちつ、落ち着け」

 

どこにそんなパワーがあるのか首元掴まれて前後に揺らされる。必死になってるやつはとんでもないパワーを出せるもんだ。

 

「ロキちゃん、今回の件でおじさんも流石に申し訳ないと思ってるから一つ提案がある」

「提案~?」

「うん、戻すだけじゃなくてカップ数を一つ上げて見ない?」

「……は?」

「ばばーんと大きくしてあげたいけど、それやると周りから色々突っ込まれるし。何よりヘスティアちゃんにばれるから申し訳ないけど1カップに留めさせて」

「おじさん」

「ん?」

「神か?」

「神は君でしょ。何言ってんの」

 

泣いて喜んでくれておじさんも嬉しい……というか狂喜乱舞って表現のが正しいか。ともあれ嬉しいのは間違いなさそう。

そうだ、折角だし目論んでたのもお願いしちゃおう。

 

「あー、ついでに一個お願いが」

「何や! 金か!? 幾らや! 1億までならウチの権限で即金ではろぅたるで!!」

「いや、金じゃなくてさ。ちょいロキちゃんの写真撮らせてくんない?」

「……写真?」

 

 

◆◆◆◆◆

 

「いいよ~、もちっと寝そべって、視線こっちで」

「こっ、こないな感じか?」

「yes! そのままもっと笑ってみて~」

 

ノリで始めた撮影会、恥じらうロキちゃんを写真に収めつつついでにビデオも回す。やっぱアレだ、貧乳はステータス、希少価値ってあの名台詞もあながち間違いじゃないな。

最初は普段着からの撮影だったがきわどい衣装や水着やイロモノまであらゆる衣装で写真を撮り、バストサイズも元のサイズと1カップ上げた状態でも写真を撮った。

ついでに矯正下着も進呈。当然写真を撮ったし、それをノーパソに映し出してロキちゃんにも確認してもらう。

 

「うっわ……こんな違うんか」

「普通にしてたらそうでも無いだろうけど……ちゃんとした下着で正しくやると流石にねぇ」

「いやっ、ちゅーかなんやねんこの衣装! ノリと勢いで着たけど明らかに裸より恥ずかしいやないか!」

 

そう言って自身の格好を改めて見直すロキちゃん。

 

「えぇー、ちゃんと人気のキャラ(FGOの酒吞童子)なんだけど」

「いくらなんでも限度があるやろ! こんなん着る奴居らんて!」

「? 普通に着る人大勢いるが?」

「嘘……や無い……やと?!?」

 

フリーズするロキちゃんを後目に折角なのでPV作ってみた。

自画自賛だが割と良くできた。一瞬これをSNSかyoutubeに流せば稼ぎが……とも考えたが碌なことにならんので自粛。

コレはコレでデータ纏めておこう。好きな人は好きな奴だ。

 

◆◆◆◆◆

 

混乱しているロキだったがバストアップの実感が出たのか結局はご機嫌になっていた。酒に付き合わされるのは予定外だったが……。

 

「うぇへっへへ、ウチもついに谷間が出来たでおじさん~」

「はいはい、谷間は良いけどもうヘスティアちゃんに突っかかるのは止めてくれよ? また乳を減らすはめになるんだから」

「……出来るだけドチビと会うのは避けるわ」

「そうしてくれ、そういやロキファミリアって遠征中なんだっけ?」

「せやで、今回は59階層へアタックする予定や」

「へ? 59?」

「せや! 前回ちょっとトラブってたから準備整えてな」

「悪い、ロキちゃん。おじさん用事思い出したから此処で切り上げる」

「お? ええで、またおじさんから例の下着買うから準備しといてーな」

「戻ったらなー」

 

アイテム作りとベル君のレベルアップですっかり忘れてた。ロキファミリアが精霊もどき倒す遠征って今行ってる奴じゃねぇか!

待ってろ精霊! おじさんが今行くぞ!




ベル君のレベルアップと共にカップ数がランクアップしたロキ。

ロキとの会話で精霊の事を思い出したおじさん。

果たしておじさんは間に合うのか。

次回、おじさんと精霊

何にでも価値を見出す者は居る。


----------------------------------------------
中のおじさんからの読者さんに向けて

ちょい病気の進行があり、リアルに職を失いかねない状態になりつつあります。
(幸い直ぐにどうこうではないが)
最悪は障碍者認定受けて生活保護のパターンですが、そうなるとまぁこうやってPC使ってとかも難しいと思われるので、更新が途絶えたら『あぁ……おじさんついに……』とでも思って下さい。
動ける今の内に何か儲ける方法を考えようとは思います。

ともあれ、この創作活動自体、治療の一環でもあるので出来る限り続けようと思っています。
読んで笑ってもらえれば幸いです。

byたらば


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9 おじさんと精霊

何時も評価、感想、誤字報告、ありがとうございます!
腕はちょっと良くなってきたのでもうちょっとしたらペース上げれるかも?
頑張りますー。


ロキちゃんと酒場で別れておじさんの足はダンジョンへ向いていた。おじさんが引き継いだ記憶にあの精霊とロキファミリアがぶつかるのが今回の遠征であると告げていたから。

最低限の準備だけは日頃からしていたので直ぐ様テレポートでおじさんが潜った最下層の32階層まで跳ぶ。そこからは只管ダッシュ。

lv4のステイタスに物を言わせて爆走……と出来たら良かったが、ソコはおじさん、酒を飲んでたのもあって若干の千鳥足になりながらちょいちょいよろける。いや、よろけるどころか誤っておじさんストライクまで出てしまう。

何度か誤ストライクをかました挙句、最終的にストライクで移動を始める始末。

飲んだ後の急な運動で完全に酔いが廻り足取りが全くおぼつかない。というか終電を逃してベンチで寝る勢いでのストラク祭り。態勢もあったもんじゃない。

そんな状態でのストライク(誤)なので当然モンスターに当たりまくる。まぁ、威力だけはアホみたいにあるので当たった端からはじけ飛ぶ哀れなモンスター。

そんな状態で奇跡的に降りてこれた37階層。さすがに視界が揺れて気分が悪くなったので手っ取り早く休憩を取る事に。

 

そう、おじさん必殺の【ワールドテレポート】

 

この男、酒が回ったので温泉スパへテレポートして休んだのである。

料金を払い、仮眠、起床して温泉、軽食とがっつり12時間の休憩を取ってチェックアウト。そしてそのまま再度【ワールドテレポート】で37階層へ跳ぶ。

 

以降コレの繰り返しである。おじさんにのみ許された、冒険なめてますと言っても過言ではないこの戦法はあまりに実用的であるため普段おじさんも封印していたが、さすがに緊急事態なので今回は封印を解いたのである。

(因みにこの方法で一度32階層まで進んでいる)

 

◆◆◆◆◆

 

一度酔いから覚めたおじさんはしっかりした足取りでおじさんストライク脚部限定を使い階層を踏破していく。

40階層を超える頃から正直逃げの一手になる、というのもおじさんlv4になってからダンジョンにろくに潜って無かった為ステイタスに振り回されている。正直逃げるだけで手一杯なのだ。

 

「だから見逃してくれませんかねぇ!!!?」

 

現在44階層、火山地帯を飛び跳ね逃げ回るおじさんを追いかけるのは燃える大蛇。名前は知らん。興味が無い。

飛び掛かってくる大蛇の牙を()()()()()()で軌道を変える。引き継いだおじさんの記憶にあった技の再現で大蛇の攻撃を避けながら反撃を試みる。

 

「今必殺の……おじさんバレットストライク!」

 

バレットストライク等と言いながらその実ミニストライクの乱打なのだが……意外と大蛇には効いたらしい。地面に釘付けにして倒せた。

 

「おぉ……ゼェハァ、意外といける?」

 

等と思ったのが悪かったのか、周囲から地球で聞いたことのあるヘビの威嚇音。嫌な予感を拭えずに辺りを見回すと大蛇と同じかそれ以上の個体の大蛇たち。

 

「あっは~~~……えっと、ご兄弟か何か?」

 

一斉に飛び掛かってくる大蛇の間をおじさんストライク脚部限定で駆け抜ける。

 

「ひえ~~~~!!!!」

 

 

 

 

 

そこそこ走ったが大蛇は諦めが悪く階層を跨いでもついてくる。というか他のモンスターまでついてくる始末。

いい加減疲れたおじさんは遂に今までの自重を本当の意味で辞めた。

おじさんが【トラベラー】で取り出したのはスタングレネード。どこぞの軍からの横流し品をちゃっかり仕入れているこのおじさん、安全ピンを抜きモンスターの群れへと放り込む。それも1つ2つではなくダース単位で。

響く轟音と眩い閃光。

ちゃっかり取り出した遮音ヘッドホンとグラサンで無事なおじさんが背後を確認すると死屍累々といった様子のモンスターの山。気絶させただけでは気が済まないおじさんは【トラベラー】から追加の装備を出す。

取り出すのはミニガン。このおじさん本気でダンジョンに喧嘩を売っている。

 

◆◆◆◆◆

 

あの後ミニガン以外にも各種重火器のテストを行い下層のモンスターに現代兵器がちゃんと通用するのを確認して階層を進める。

と言っても基本が逃げ戦法でステイタスに振り回されている状態なのは変わらない。途中でちょいちょいモンスターにゲンコツかまして逃げるというのを繰り返し少しだけステイタスを慣らしているが本格戦闘をちょっとやらないと駄目そう。

残りはぶっつけ本番でと割り切り50階層まで兎に角急ぐ。

 

◆◆◆◆◆

 

「おいすー!」

 

ボロボロになりながら到着した50階層。出迎えるのはロキファミリア。

ソロのおじさんに驚きながら此方へ近寄って来たのはフィン。どうやらまだ最下層に向けて出発はしてなかったらしい。ギリギリ間に合った。

 

「おじさん、何でこんな所に居るんだい?」

「いやー、ロキちゃんと酒場で一杯やったら59階層に行ってるって言うから……来ちゃった♪」

「いや、『来ちゃった』じゃなくて……」

 

困惑するフィンを適当に相手しながらキャンプ地を覗くと下は3から上は6まで、うーん凄い。やっぱ最大派閥、層が厚い。

感心しながらフィンの言葉に相槌してると椿が来た。

 

「おじさんではないか、何で此処に居るのだ?」

「いや~、美人の椿ちゃんに会いに来たのさ!」

「ははは、おじさんは何時も笑いを取るのが旨い。煽ててもダンジョンでは何も出せんぞ」

「がははは、まぁ本当の本当は此処から下に用があってね」

「51階層か?」

「いんや、もちっと下。ちょっと待ち合わせしてんのよ」

「こんな深層にかい?」

「フィーン、美人との会話に横入りは止めてくれよ」

「さすがに最深部へのアタック前だからね。気にもするさ」

「っま、そうね。おじさん部外者だし? 気にするわな」

 

そう言いながら【トラベラー】でキャンプ用品を取り出す。

 

「別に遠征の邪魔はしないよ。ちょっと用事を済ませたら引き上げる、っちゅー訳で明日に備えておじさんは休むんで。お邪魔~♪」

 

◆◆◆◆◆

 

テントを張って寛ぐ。地球製品で金に糸目を付けずに買い込んだ各種キャンプ道具。

【トラベラー】があるので大きさ度外視で利便性だけで選んだ品々。

ぶっちゃけロキファミリアの連中にめっちゃ睨まれてる。まぁそりゃそうだ。目の前で神戸和牛でのBBQなんてされりゃおじさんならキレる。

ご飯炊いて野菜にキノコも焼いてタレでごはんと一緒にもしゃり。たまりません。

めっちゃよだれ垂れそうな他所のファミリアを見ながらビールを煽る。おっ、ガレス。お久。

あん? ビールだよ、別に良いじゃん、おじさんが持ち込んだんだし。

やる訳ないだろ、自分で持ってこいや!

 

飯テロでロキファミリアを煽りまくって、さっさと就寝する。明日はフィン達が出発する前に59階層まで走り抜けんと……待ってろよ、精霊ちゃん。




50階層まで駆け抜けたおじさんの飯テロがロキファミリアを襲う!

おじさんはロキファミリアを出し抜いて59階層に辿り着けるのか?

次回、おじさんと精霊2

障害は乗り越えるものだが避けるのも間違いでは無い。


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10 おじさんと精霊2

左腕の麻痺が大分取れました!(やったぜ


50階層のセーフポイントでロキファミリアに飯テロをかました翌日。とても良く寝れたおじさんは早速59階層に向けて歩みを進めようとした……ら、ロキファミリアに捕まりました。

 

「いや、何でおじさんを捕まえるのよ」

「おじさん……君、昨日あんな事やってそのまま行けると思ってるの? 全員が手を出さなかったのだって僕が収めた結果だからね?」

 

フィンがぶつくさ言ってるが要はお前だけ旨いもん食ってるんじゃねぇって事だろうに……ふむ、しかしそうか、こいつら腹が減ってというより旨い物に飢えてるのか。

 

「よし、フィン取引しない?」

「取引かい? ソレは僕らが矛を収める様な取引かな?」

 

あっ、コレはやばい。目がマジだ。

 

◆◆◆◆◆

 

あの後めっちゃ日本和牛のBBQをおごらされた。ついでとばかりに備蓄してたビールも大放出させられた。畜生。

だがそのかいあってロキファミリアの足は一日止まる。まぁおじさんも半日足止めを食らったが半歩先を行けたのはラッキー。

 

「ってなるはずだったのに……ガレスゥ! 何時までおじさんを掴んでるんだ! いい加減離せや!」

「いいや! あの酒の出所を聞くまで離さんゾ!」

 

キンキンに冷やした各種ビールをケースで出したらドワーフのおっさんに捕まりました。

ふぁっきんごっと!

 

「だーから! アレはおじさんの故郷の酒だっつってんだろ!」

「じゃから何処で手に入るかが知りたいんじゃ! あんな旨い酒地上でも飲めん! 何処で手に入る!?」

「無理無理、オラリオどころか世界中でおじさんしか買ってこれねぇよ。以上、はい議論終わり」

 

そうやって抜け出そうとするとより一層力が籠められる腕。

 

「つまり、お主に頼めばアレを買えるんじゃな?」

 

oh、ソノ目、さっきも見たなぁ……。

 

◆◆◆◆◆

 

結局放してくれませんでした、ドワーフ種族の酒に対する執着を舐めてたわ。マジキチレベルで酒に関して妥協しねぇこいつ。

吹っ掛けても地球産のお酒を諦めるという事が無いドワーフに身柄の安全という名目で拘束されたおじさんは結局先んじて59階層に赴く事敵わず……というか進ませてくれません。

 

「だから! おじさんはこの先に用があるっつってんじゃんか!」

「お主の様なレベルで単身向かうのは自殺行為じゃと言うておろうが!」

 

話が平行線で全く進まん。

結局の所ロキファミリアと一緒に進むこととなった。一部メンバーは納得いってないみたいだがこの際無視。

ロキファミリアのメンバーに引っ付いて進み……まぁトラブルもちょっとあったが全員無事に58階層に辿り着いた。そこで小休憩をはさむって事で足止め。おじさんだけ先に行くとの言はガレスに無理やり封殺された。

悔しかったのでロキファミリアが倒した58階層のドロップアイテムを全部回収してやった、持てないと言って捨てるつもりだったらしいから有難く頂戴する。

 

◆◆◆◆◆

 

んで、ぬるっと来ました59階層。

記憶通りもう何か卑猥な大人のオモチャみたいな形になった精霊の子が居ます。

アイズちゃんが『精霊』とか言って回りがわちゃわちゃしてるけどどうしようかな~。

 

「おい、おじさん。本当にお主の待ち人はこんな所に居るのか?」

「居るよ、見えてるじゃん」

「見えて……?」

「ほら、あれ」

 

そうやって目の前で咲いた彼女を指さすと全員が何言ってるのコイツ見たいな顔しとる。

 

「とりあえずお先~」

 

そう言ってから一気に走り出す。おじさんストライクで跳ねまわりながら芋虫を越えて精霊の眼前に飛び出る。

 

「よっ、お久」

「アナタ、ダァレ?」

 

振りかぶって来た右手を全力のミニストライク(脚)ではじき返す。

 

「おじさんの事を忘れたって? 直ぐに思い出すさ」

 

にやりと笑ったおじさんが気に食わないのか顔を顰めて詠唱を始める精霊。それと同時におじさんも詠唱を始める。

 

『突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精霊(トニトル)雷ノ化身雷ノ女王──【サンダー・レイ】』

「突き進め 雷鳴の槍 代行者たる我が名は雷精霊(トニトル) 雷の化身 雷の王──【サンダー・レイ】」

 

周囲に浮かぶ雷の射出口、鏡合わせの様に対となり互いに雷をぶつけ合う。余波でおじさんが吹き飛ぶが空中を蹴って宙へ留まる。

 

『閃光ヨ駆ケ抜ケヨ闇ヲ切リ裂ケ代行者タル我ガ名ハ光精霊(ルクス)光ノ化身光ノ女王──【ライト・バースト】』

「閃光よ 駆け抜けよ 闇を切り裂け 代行者たる我が名は光精霊(ルクス) 光の化身 光の王──【ライト・バースト】」

 

鏡写しでの魔法の、しかも同一魔法での応酬に精霊に怒りの表情が見える。

ここまでの接近を許しての戦闘自体がイレギュラーなのだろう、対応が非常にお粗末だ。迫りくる物理攻撃は脚を使ってのミニストライクで。短文、超短文詠唱に関しては同魔法で捻じ伏せてチャンスをうかがう。

チラリと下を見ればロキファミリアはどうやら芋虫の排除を行っているらしい。おじさんの邪魔をされないので上々と思いながらおじさん棒を取り出し最大展開で振るう。

 

「食らえ! DVアタック!」

「ナメルナァ!」

 

葉っぱの様なモノが精霊の顔を覆い防がれてしまう。殴った感触は……鉄?

この一発でおじさん棒の先端がちょっと変形してしまった。後で椿ちゃんに修理頼もう。

変態軌道のおじさんストライク(脚)で空中を跳びまわる。字面だけで見ると完全に事案だコレ。

悲しみに包まれながらも跳びまわり攻撃を続けているとロキファミリアの方で動きがあった。リヴェリアちゃんと……なんか弟子の子が魔法を唱え始めた。

それに気づいた精霊ちゃんも焦って魔法唱える。ちゅーか精霊ちゃんの方が詠唱早っ、マズっ。

 

『火ヨ、来タレ──

猛ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号砲ヲ我ガ愛セシ英雄ノ命ノ代償ヲ──

代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ火精霊(サラマンダー)炎ノ化身炎ノ女王──

【ファイアーストーム】』

 

「火よ、来たれ──

猛よ 猛よ 猛よ 炎の渦よ 紅蓮の壁よ 業火の咆哮よ 突風の力を借り 世界を閉ざせ 燃える空 燃える大地 燃える海 燃える泉 燃える山 燃える命 全てを焦土と変え 怒りと嘆きの号砲を 我が愛せし英雄の命の代償を──

代行者の名において命じる 与えられし我が名は火精霊(サラマンダー) 炎の化身 炎の王──

【ファイアーストーム】」

 

空中でファイアーストーム同士がぶつかり合い衝撃と音がダンジョンを揺らす。詠唱を止めなかったロキファミリアの魔導士師弟の超火力が精霊ちゃんを焼く。

凄惨な声が響く中、物理攻撃手段を持つ面々が飛び出して……ってアイズちゃん来てるやん、それはアカンです。

 

「地よ、唸れ──

来たれ 来たれ 来たれ 大地の殻よ 黒鉄の宝閃よ 星の鉄槌よ 開闢の契約をもって 反転せよ 空を焼け 地を砕け 橋を架け 天地と為れ 降りそそぐ天空の斧 破壊の厄災──

代行者の名において命じる 与えられし我が名は地精霊(ノーム) 大地の化身 大地の王──

【メテオ・スウォーム】」

 

OK! ロキファミリアの足止め成功!

そんでもって、精霊ちゃんはぐったり。おじさんがここに来た意味もコレで報われるゾイ!

いくぞ、お前さんが欲しがってたもの、ちゃんと受け取れよ!?

 

「風よ、吹け

来たれ 来たれ 来たれ 風の道 暴風の障壁 天空の支配者よ 怒りを以て 敵を切裂け

代行者の名において命じる 与えられし我が名は風精霊(アリア) 風の化身 風の王──

【トルネード・スウォーム】」

 




ギリギリでロキファミリアを出し抜いて(?)精霊へ迫るおじさん

何やら変な発言をしながらも精霊と同じ魔法を使う

次回、おじさんと精霊3

おじさんの目的とは……。


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11 おじさんと精霊3

トルネードを唱えたけど、やっぱりこの魔法威力がおかしい。

詠唱文控えめなのに精霊ちゃんのモンスター下半身と上半身が泣き別れしてる。

地形も芋虫も、ついでにロキファミリアもぼこぼこやな! ……後で謝っとこう。

 

けどモンスターの大部分が離れた今やることは一つ!

ダッシュして接触……できねぇ! まーだ抵抗するんかい!

 

「このっ、おじさんストライク」

 

反射で多方面から攻め

 

「からの~空中反転、メテオストライク!」

 

頭にゲンコツ入れてやったぜ!

 

そんでもってスキル発動!

 

おじさんのスキルの抜け穴。同意の他にも所有している者にはスキルが有効!

 

故に! 全力で思い込む!!!!

 

「精霊ちゃんは俺の嫁!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

もうまじむり

はらへった

 

◆◆◆◆◆

 

ロキファミリアは困惑していた。

50階層のセーフポイントに急に表れた知った顔が59階層へ赴くと言う。ぶっちゃけただの自殺だ。

理由を付けて止めようとしたが決意は固いようなのでせめて自分たちと一緒に行くよう画策した。結果として同行させる事に成功したが59階層に来て暴走した。

ソロで敵ボスに対しての特攻。静止の声は届かず敵の眼前へと向かった彼を誰もが死んだと直感した。

 

だがそこから有り得ない光景が広がり始める。

 

彼が特殊なスキルを所持しているのは有名だ。冒険者処か一般人にすら知れ渡っているスキル。

女性は特に、時に男性ですらその恩恵にあやかろうという者も居る。

だが今の彼は魔法を使っている。

複数の、3つ以上の魔法。敵が、精霊が使っている魔法と同等の魔法。

 

信じがたいものを目の当たりにしながらもロキファミリアは周囲に広がる芋虫達を討伐する。

彼がアレに敗れた時を考え動く。

 

勝機はやがて訪れた。

 

彼が火の魔法で魔法を相殺しその隙を突いてリヴェリアとレフィーヤの二人で行った魔法でチャンスを作りだし、それを逃すこと無い様にメンバーで突撃を仕掛けた。

だがまさかの戦っている彼から攻撃を受けるという予想外で足止めを食らう。自身で決着をつけるという意思の表れなのかその後直ぐに彼から放たれた風魔法は今まで使っていたモノと威力が違っていた。

敵の上半身が千切れ跳び彼は上半身に追撃をかけている。ならば我々のやる事は下半身への追撃。

 

「全員、あのモンスターの下半身に対して再度突撃を仕掛ける! 彼に対して色々言いたい事もあるだろうが全ては生き残ってからだ! 全員僕に続け!」

 

そこからは泥沼の戦い、芋虫の溶解液が飛び散る中全員が武器を振るい、魔法を紡ぐ。

どれ程の時間が経過したのか分からないが最後に立っていたのはロキファミリアの団員だけだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

ヘスティアファミリアホームで山の様な料理を並べ平らげていくおじさんが居た。

 

「で?」

「ふぁに?(何?)」

「君が連れてきたその子は誰なんだい」

 

ロキの体形を戻してくると言って出て行ったおじさんが数日外泊して戻って来たかと思えば、黒髪の女性を背負って帰って来たのでヘスティアとしては問い詰めざるを得なかった。物凄く嫌な予感を感じながら。

 

「……嫁さん」

「そう、嫁ね……そんな妄想は良いから誰か答えておくれ」

「うぉおい! さらりと妄想扱い!?」

「有り得ないだろ、君に妻が居たなら直ぐに紹介しただろうし」

「いや、だから紹介してるじゃん。今」

「……おじさん、君とその子が出会ったの何時?」

「? 今日だけど?」

「今日!?」

 

あ、ヘスティアちゃんすげぇ面白い顔してら。神ってギャグ世界線の顔って出来るのね。

 

「待て待て! 一体何処で出会ったんだ!」

「ダンジョン」

「ダンジョン!?」

「59階層」

「59!?!?」

「因みに精霊」

「精霊?!?!?!?!」

 

あっ、ショートした。写真をパシャリ。

SNSに投稿。『女神ショートなう』




むちゃくちゃやり始めたおじさん

色々と自重を止めたおじさん

次回、おじさんと戦争

精霊は空を見るのか


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12 おじさんと戦争

おじさんが精霊ちゃんを連れ帰って数日、未だ精霊ちゃんは起きない。

幸福脂肪を使った感じでは体に異常は無し……となると体以外の所が問題か?

取り合えず精霊ちゃんが眠り続ける以上、その間の体のケアはおじさんの仕事になる。といっても基本はスキル使って調子を見て、足りない栄養素をおじさんの体から都合すりゃ良い。

その結果おじさん一人が爆食い。見慣れてるヘスティアちゃんとベル君が引く程には食べている。

 

「おじさん……君そんなに食べて平気なのかい?」

「ん? まぁ二人分だからしゃーないて」

「いや、明らかに二人分じゃないんですが……」

「しかしなぁベル君、あの子の体って燃費悪いのか一日でエネルギーごっそり減るのよ」

「そうなんですか?」

「おじさんの世界で言えば成人女性の5~6人分を寝てるだけで消費してるね」

「それは……凄いですね」

「5~6人分って彼女大丈夫なのかい?」

「その為におじさんがこうやって食べて、彼女に提供してる訳よ」

 

そう言って食事を再開する。精霊ちゃんを連れ帰ってから食事してるだけで一日が過ぎていく。

まぁそれもあと一週間程だと思う、消費エネルギーが段々となだらかになり始めているのだ。

 

「って訳でもう暫くはおじさん食事する毎日なので、ダンジョンへは付いていけないかな」

「それなら大丈夫です、今は僕もPTを組んで3人でダンジョンに潜ってるんですよ」

「へぇ、おじさん居ない間にメンバー増えたんだ?」

「はい、ヴェルフって鍛冶師なんですよ」

 

楽しそうにメンバーの事を話すベル君を見ながら時折相槌をうつ。そうしていると二人が出勤とダンジョンに行く時間が迫って来た。

一度食事を止めて二人を見送る。

その後は一度精霊ちゃんを診て、スキルで栄養を送ったらまた食事。

只管食べて寝てスキルで調整してを繰り返して、夜は精霊ちゃんの居る部屋で寝起き。

そんな日々が暫く続いていた中、ソレは唐突に起きた。

 

◆◆◆◆◆

 

「ベル君が戻ってこない?」

「あぁ、この時間には普段戻ってきてるはずなのに」

 

時刻は既に夜に差し掛かる時間。辺りも暗くなり始め次期に夜だ。

確か中層の浅い階層で活動してるって言ってたから一応日帰りの範囲……。安全マージンの大切さは教え込んだし今までトラブル無く戻ってきてたベル君が唐突に変更するとも考えにくい。

 

「こりゃ何かあったな」

「おじさん、どうしよう……ベル君が」

「待て待て、先ずはギルドで確認してみよう。……正直留守にはしたくないから本当にトラブルなのかを見極めたい」

「……うん、そうだね」

 

ヘスティアちゃんも察して精霊ちゃんを見る。流石に寝たきりの子を置いて行くのは気が引けるのだろう、正直おじさんはソレは嫌だ。

ベル君と精霊ちゃんを秤に掛けると多分精霊ちゃんを選ぶぞおじさんは。

とは言え、ソコまで切迫してない今ならベル君を助けたいのも事実。ホームにしっかりと鍵を掛けてからヘスティアちゃんと共にギルドへ向かう。

 

◆◆◆◆◆

 

ギルドで確認してみたがやはり戻って来た記録は無かった。捜索依頼は一応出して、一度戻って対策を立てようとした所、ホーム前に集まっている複数のファミリア。

どうもヘスティアちゃんと親交のある神らしいのでホームに招いて居間へ通す。

 

話を聞けばどうやらタケミカヅチファミリアのメンバーがベル君達にMPKをしたらしい……。

何とも反応に困る。頭をかいているとヘスティアちゃんが決定を下した。

彼らと協力してベル君を助けに行くっぽい。

 

「おじさん……君は力を貸してくれるかい?」

「う……う~ん」

 

正直困った。力を貸してやりたいが精霊ちゃんを置いて行くのは個人的にアウト。

だがベル君は助けたい……おんぶに抱っこで行くしかねぇか。

 

「OK、彼女を背負って付いて行くよ」

「ありがとう! 心強いよ!」

 

そうしている所に別の神がホームに入って来た……何やコイツ。不法侵入やんけ。

 

入って来た神はヘルメス。どうも捜索依頼を受けてきたらしい。

色々と話をしたがベル君捜索の一助になると話が纏まった。準備をしようと席を立ったらヘファイストさんに呼び止められた。

 

「おじさん、貴方の盾を貸して」

「へ? この間メンテナンスしたばっかりですよ?」

「違うわ。ウチの子を助ける為にも私も力を貸すわ。貴方の盾をレベルアップさせましょ」

「お願いします」

「えぇ、直ぐに終わらせてくるわ」

 

◆◆◆◆◆

 

準備は夜明け前に整った。

おじさんは背中に精霊ちゃん。おじさん棒にレベルアップした丸盾。ついでに預かった特大剣。

最終的にそこそこの人数でダンジョンに潜る事に。

ヘスティアちゃんと相談して10階層までテレポーテーションで移動する事も考えたが、万が一を考えて地道に徒歩での移動となった。おじさんは精霊ちゃん背負ってるからいつも通りの動きが出来ないので機動力はソコソコでしかない。

しかし助っ人の中にlvが高いのが居るので道中の敵は全部お任せ。おじさんはほぼ何もしない。

バックアタックされた時はミニストライクかゲンコツワンパンで潰す。

普段通りの動きが出来ないのは予想以上にストレスかも……。

 

何だかんだで中層へ辿り着いた。MPKしたとされる現場へ。

 

当然ベル君達は居ない。状況を整理して話してみるとどうやら下へ進んだと見ていい。

結局18階層まで進む事が決定した。

 

◆◆◆◆◆

 

特に問題無く辿り着いた17階層、しかしここで問題が一つ。階層主がリポップしている……。

デカイ、硬い、通行の邪魔。精霊ちゃんを安全に運べないって事でおじさんがヤル事に。

 

「あの……おじさん」

「何? アスフィちゃん」

「ちゃん……あっいえ、どうやってゴライアスを討伐するつもりです? 貴方は基本近接戦闘と聞いていますがその人を背負った状態では……」

「どうって……こうやって。

 

火よ、来たれ──

猛よ 猛よ 猛よ 炎の渦よ 紅蓮の壁よ 業火の咆哮よ 突風の力を借り 世界を閉ざせ 燃える空 燃える大地 燃える海 燃える泉 燃える山 燃える命 全てを焦土と変え 怒りと嘆きの号砲を 我が愛せし英雄の命の代償を──

代行者の名において命じる 与えられし我が名は火精霊 炎の化身 炎の王──

【ファイアーストーム】」

 

降り注ぐ特大の火球群。一発一発が地面を壁を、そしてゴライアスを削り取っていく。

うむ、やっぱり精霊ちゃんが居ればおじさんの【精霊魔法】は発動する。とは言えマインドごっそり減るわぁ。

全身がズタボロになって死に体のゴライアスに近寄りバレットストライクを決める、

断末魔を上げる事も出来ずに塵になったゴライアスを後目に皆に向き直る。ヘスティアちゃん以外、皆目が点になってるがそんな事気にしている暇はこっちには無い。

 

「よし、んじゃ進もうか」

 

「……なぁヘスティア」

「何だいヘルメス」

「マジであの子って何?」

「ボクの眷属第一号でウチの副団長だよ」

「アレを押さえてベル君が団長やってるの……?」




ベル君の救助に行くことになったおじさん、精霊ちゃんを置いて行く事も出来ないので背負っていく事に

次回、おじさんと戦争2

おじさん「自重は投げ捨てた」


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13 おじさんと戦争2

18階層に到着して直ぐにベル君は見つかった。何でもロキファミリアに助けられたんだとか。後でお礼を言わないとなぁ。

 

MPKした子がベル君達に謝る事になった、それは良い。けどソコであの判断は間違ってなかったって言うのはどうなの?

殴るよ? 割とマジに。

正直というより空気読めない奴になってるな、謝罪の時はちゃんと謝っとけって、弁明は後にしとけ。じゃないと感情が納得しねーのよ……とか思ってたらベル君が収めちゃったよ。

この子こんなんで本当に大丈夫かいな、何かあったら盛大にこけそう。

 

◆◆◆◆◆

 

話し合いが終わった後に預かりものの特大剣をヴェルフって子に渡した。ヘスティアちゃんが言伝を伝えてたが何か苦い顔してたのが印象的だ。

 

翌日、ロキファミリアが帰るタイミングに合わせてこちらも帰還が決まったので一日余裕が出来た。この階層の町へ寄るという事で、おじさんも流石にキャンプ地で飯を延々食う訳にもいかんし暇なので付いて行く事に。

んでやって来たリヴィラの町、記憶にある通りクッソボロい。そもそもおじさんの場合階層とか無視して進めるから此処に寄った事無いんだよね。

 

基本木造平屋、物価がアホみたいに高い。でもって治安もあんまり宜しくない。

ベル君がちょっと絡まれてた。……何ウチの精霊ちゃんを見てんだ、目ん玉抉りぬくぞコラ。

おじさんに睨まれてビビる位なら初めからジロジロ見てるんじゃねぇっつーの。ヴォケェ。

 

町を回ってからキャンプに戻る前に女性陣が水浴びをすると言う。ヘスティアちゃんが精霊ちゃんも一緒にという話になったのでお願いすることにした。

ついでに別の所でおじさんも水浴びしよう。夜に風呂入れなかったから気持ち悪かったのよね。

 

◆◆◆◆◆

 

「で? ベル君は水浴びを覗いたと?」

「すいません! すいません! すいません!」

「ベル君はヘルメスに唆されたんだよ」

「……まぁこのピュアボーイが自発的にやる訳無いか」

 

土下座を繰り返すベル君を見ながら何とも言えない気分になる。そして件の元凶はと言うと……。

 

逆さ吊りにされていた。

 

ちょっとソレだとおじさんの気が晴れない。

 

「つー訳で、アスフィちゃん、一つおじさんもやっていい?」

「え? まぁ程ほどになら……」

「アスフィ!?」

「何、一掴みだけにしとくよ」

「おっ、おじさん君? 俺の帽子を取ってどうするつもりだい?」

「……毟る」

「ギャーーーーーーーーーーーーー‼‼‼‼」

 

頭頂部を一つかみ分、キレイに全部抜いてやった。ざまぁ。

 

◆◆◆◆◆

 

フィン達が戻る前におじさんは呼び出されていた。59階層の事について。

とは言え特に語る事も無い。

アレがおじさんの目的だった事、その目的は達成された事。達成した後はさっさと帰った事。

本当にコレだけ、他に語る事は何もない。

無理に聞き出すのであればロキを人質に取ると言っておいた。人質というより乳質だが。

ものすっごい顔して口を閉じたロキファミリア幹部達。結局追及は止まったのでヨシ!

 

精霊ちゃんをヘスティアちゃんとベル君に見て貰っていたのでテントに戻ったが誰も居ねぇ。

首を傾げて辺りを見回していると紙が落ちてる。

内容はこうだ

 

『リトルルーキー

 女神は預かった。ついでに連れの女もだ。

 返してほしかったら一人で中央樹の真東

 一本水晶まで来い』

 

頭が真っ白だ。

ついでに連れの女……つまり精霊ちゃんを連れて行ったと?

リトルルーキー……ベル君を呼び出すのに攫ったと。

一本水晶に犯人は居る。

 

力が抜けて床に座り込んだ。

大きく息を吸い込んで深呼吸を繰り返す。

 

「は~~~~~~っ、よし。殺そう」

 

怒りすぎて一周回って落ち着いた。

そうと決まれば武具の最終確認。

まずサブマシンガンを二丁。弾がマガジン30本分。

次にAK、これも二丁。マガジンは50本ちょい。

デザートイーグルにロケットランチャー。ショットガンにアンチマテリアルライフル。

最後にコンバットナイフとおじさん棒に丸盾。

 

「絶対に許さん」




嫁を攫われたおじさんが牙をむく

次回、おじさんと戦争3

ブラッディパーティーが始まる


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14 おじさんと戦争3

サブマシンガンにAKを二丁ずつとショットガンを背負ってストライク(脚)を使い跳ぶ。

指定されている場所が今一分からず(方角とかどう調べるか知らんし)少々時間を喰ったがそれっぽい場所を見つけた。

救助隊とベル君PTが何処かのバカ共と争ってる……つまり……アレが精霊ちゃんを攫ったアホ共か。

 

空中からサブマシンガンの掃射で見境無しで弾をばらまく。バカ共の上を取りながら斜面へ着地。近づきながら撃ちまくる。手持ちのマガジンが底をつき次第AKに切り替えて再び掃射。

唐突に表れたおじさんに面食らってるみたいだけど一切容赦しねぇ。マジックユーザーを優先的に撃つ。

近づいてきたらストライク(脚)で蹴り砕く。今回はマジなので蹴られたアホの箇所が欠損してる、まぁ自業自得って事で。

 

後先考えずに乱射すると直ぐに弾が切れる。AKを収めてショットガンに切り替え。

某ゾンビゲーの様に頭を狙う。

いくら冒険者でlv2以上であっても流石に至近距離でショットガンを頭に食らうとパーンするようで、周囲の奴が逃げ出そうとする。

逃げた先にストライク(脚)で回り込んでヘッドショット。見境なく殺すおじさんに対して狂乱し始めた。

 

だからと言って手を止める事も無いけど。

 

10匹位殺った所でショットガンも弾切れ、やっぱ感情に任せて引き金を引くもんじゃない。まだこれだけゴミが居るのに。

ゴミに触れるのは嫌だし……かと言って続けるのも面倒になってきた。ロケットランチャーを取り出して少し角度を付けて天井に撃つ。

射出された弾は天井に当たり大爆発を起こす。

その威力に全員が呆然としている状態で次の弾を装着してゴミに向けた所で待ったがかかった。

 

◆◆◆◆◆

 

「止めるんだ子供たち、剣を引きなさい」

 

普段と雰囲気の違うヘスティアちゃんがそう言っている。どうするか迷ったが仕方ないのでロケランを下ろす。

 

首謀者っぽいベル君と戦ってたアホが逃げ出そうとするのでそいつの頭を掴んで止める。

 

「オイ。お前か? おじさんの連れを攫ったの」

「ひぃっ!」

「今すぐあの子の場所を言え」

 

言いながら掴んだ手に力を込めていく。

 

「言います! リヴェラの町の離れに」

「あっそ」

 

言った瞬間顎を砕く。ゴミが騒いでうざいので全力で蹴り崖に捨てる。

 

「ヘスティアちゃん、ベル君。おじさんは嫁ちゃん迎えに行ってくる」

「あっ、ああ……そのっ、穏便にね」

「穏便? ……十分穏便でしょ? 本当に本気ならここからオラリオ全部巻き込んで消し飛ばすからな?」

 

さってと、迎えに行かねば。

 

「神様……」

「うん……マジだ。おじさん君久々のガチギレっぽい」

 

◆◆◆◆◆

 

何か揺れてるがそんなもんどうでもいい。リヴェラリヴェラ。

うーん着いたけど地味に広い、ステイタスの精霊魔法が反応する方に進めば大丈夫だろうと歩いて回ると直感で『この建物』と分かったが鍵掛かってやがる。

精霊ちゃんに当たると嫌なので穏便に扉を鍵まるごとステイタス任せに引っこ抜く。

 

目に飛び込んで来たのは裸の彼女と覆いかぶさってるクソゴミカス。

 

冒険者になって……いや、引き継いだ記憶の中ですらこれほど素早く動いた事は無かった。

 

男の首を掴み、壁を突き抜け、何軒もの建物をぶち破り、ダンジョンの壁に突っ込む事でやっと止まる。

 

「おい、ゴミカス。お前、人の嫁さんにナニしやがった?」

 

◆◆◆◆◆

 

揺れも何もかも気にせずゴミカスを処理した。感情に任せたので器具も何も使わなかったのをやってしまってから後悔。

久々にキレたけど腹の虫が中々収まらん。

精霊ちゃんの所に戻って確認したが……一応最後の事には及んで無さそうでほっと一安心。

軽くウェットティッシュで色々と拭いてから服を着せて背負う。どんぱち五月蠅くてまたイライラしてくる。

外に出て改めて見て見れば何か黒っぽい階層主、ゴライアスが居る。はて? この階層ってモンスター生まれないんじゃなかったの?

いや、記憶にはちゃんとアレとやった記憶はある……???

 

取り合えずヘスティアちゃんの所に戻って確認しよう。




久々のマジギレおじさん、可哀そうなのは同人誌だけにしろと本気で怒る。

次回、おじさんと戦争4

おじさん前座に出会う。


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15 おじさんと戦争4

明日は動画編集やら絵を描きたいので投稿お休みします!(多分


さっきまでベル君達が居た所に戻ったが誰も居ない。

暫く考えてまさかと思いゴライアスの方へ進むとヘスティアちゃんを見つけた。

 

「おーい、ヘスティアちゃん」

「あっ、おじさん! 彼女は……無事見つかったみたいだね。良かった」

 

おじさんの背中に居る精霊ちゃんを見てほっとするヘスティアちゃん。それは良いのだが……。

 

「所で何してんの? 何故にアレと敵対してる?

 

そう言ってゴライアスの方を指さす。

 

話を聞けばベル君がリヴェラの町の冒険者を助けるんだとか。

 

「ふーん」

「いや、『ふーん』って。おじさんも助けてくれるんだろう?」

「え? 助けないよ?」

「はぁ?!」

 

ベル君が助けるのは邪魔しないけどさ、おじさんはさっきのゴミムシ共に腹が立ってるのよ。

で、ゴミの巣窟があの町。どうせなら焼却処分しちゃった方が色々楽だからあのゴライアスにはぜひ頑張ってほしい。

 

「そんな!? 君ならあのゴライアスだって対抗できるのに!」

「出来るってのと、それをやるかは別問題。後さ、ヘスティアちゃんは友達を一人亡くす覚悟しておいてね」

「友達を亡くす? それってどういう」

「取り合えずおじさんはココで見てるよ。最悪は手伝うけどソレは個人的に最後の手段ね」

 

そう言ってから木陰に移動して精霊ちゃんと一緒に腰を下ろす。

おじさんの説得が無理だと分かったヘスティアちゃんはリリちゃんと一緒に冒険者の後方支援を再開した。

 

◆◆◆◆◆

 

ゴライアスとバチバチにやりあってたベル君がやられて此方へ来た。うーん、やっぱり助けが要るのか?と思って思案してたらおじさんが待ってた奴がノコノコ現れた。

ベル君に対して良いセリフを言った所で首根っこを摑まえる。

 

「よう、諸悪の根源」

「おじさん君、何のつもりだい? 放してくれないかな」

 

大分余裕のある事で

 

「そりゃ無理だ。今回の元凶、オメーだろ? アソコでやりあってる時にちゃんと聞こえてたのよ。オメーと眷属が話してた所」

「あちゃー、こりゃまいった。でも俺も心が痛かったんだぜ?」

「そうか」

「ああ、何せベルく(ゴキャッ)いっがあっ!」

 

空いたもう片方の手でヘルメスの右腕を捩じりへし折り、肩甲骨を粉砕する。

 

「お、おじさん?! 何を」

「ヘスティアちゃん、黙ってな。おじさんは今、冷静になろうと必死だ」

 

血走った目とそこに宿る狂気に当てられヘスティアの喉が絞まる。

 

「ヘルメス、お前は心が痛かった。なら心だけじゃなく体も痛かった事にしようぜ?」

「うっ……くぅ、君さ……何をやってるかわかっているのか? 神を傷つけてるんだぜ?」

 

何言ってんだこいつ。

 

「おじさんの祖国ってさ、色んな宗教があるのよ」

「……」

「国としての度量というか、懐が深いっつーの? 色んな考え方を許容する国な訳。

 そんな中でおじさんが一つ割と信じてる宗教的な考え方がある。何だと思う?」

「さぁね……俺には想像もつかないな」

 

もう片方の腕も先ほどと同様にへし折る。

 

「ギャアアアア‼‼‼」

「おっ、おじさん……」

「正解は八百万の神。神は万物に宿る。武器でも服でも家でもその辺の石ころにでも大事にすれば神が宿るって考え方。

 そして神には良いも悪いもある。そんな悪い神が宿ったら……当然そんな神は殺す」

 

続けて両足をへし折る。

 

「悪さが出来ない様に宿ったモノを封印して、神が死ぬまで閉じ込めるってやり方。

 でもオラリオじゃ実体を持ってる、封印ってのも無理がある。

 じゃあ、直接殺すのが一番楽で確実だよな? おじさんの国じゃ神殺しの逸話なんてありふれてるし。

 ヘルメス、おめーもその一つになっとけ」

「お”れ”を! ゲホッ、俺を殺すって事は! 今ゴライアスと戦ってるアスフィをも殺すって事だ!

 それだけじゃない! 俺の子供たち! ダンジョンで活動している他の子達すら殺すって事だぞ!」

 

神でもアホはやっぱりアホなのか?

 

「お前さ、何か勘違いしてない?」

「勘違いだと?! 一体何が言いたい!」

「これは、お前が、俺に仕掛けてきた戦争なんだよ。神ヘルメス。

 意図してようがしてなかろうが、お前から仕掛けてきた戦争。

 俺はお前を殺す。その結果、お前の子供が死ぬのは、お前が戦争を仕掛けた結果だ」

 

ヘルメスは見た、相手の目を。自分を神とは思って……いや、たとえ神だと分かっていたとしても絶対に止まらない事が分かる憤怒の感情。

神の根底にある最悪でも天界への送還、等温い事が行われる前に恐ろしい目に会うと。

 

「あっ、アスフィイイイイイイイイイイイイ‼‼‼‼‼‼」

 

喉が張り裂ける程の大声を上げるヘルメスをおじさんは敢えて黙って見続ける。

主神の叫び声に反応して空を掛け飛んでくるアスフィ。何か叫んでいるが耳が認識しない。

ただ倒すべき相手が此方に突っ込んできている。距離にして30メートル。

腰に下げたデザートイーグルを出して撃ち抜くか? でもそれじゃこのクソ野郎の心が折れない。

もっと分かりやすく。もっと原始的に見せつけよう。

 

全身に有り余る怒りの感情を足から胴へ、胴から肩、右手へと集める。

 

溜まった怒りを握りしめ。敵の女を睨みつける。

 

相手の持つ短剣が振るわれおじさんの頭を狙ってくるソレを歯で受け止め。固く握りしめた拳を胴体へ叩き込む。

 

およそ人体から響かないであろう音が響く。飛んで来た女の胴は破裂し臓物が飛び出る。

左手に掴んだヘルメスは何が起きたのか分からないまま女の名前を呼び続けるが女から返事は無い。

状況を見て此方を止めようとしてきた冒険者にはデザートイーグルを使って足を撃ち抜く。

冒険者の足を撃ち抜きながらおじさんは……

 

「(どうしよう、女殴ったら大分落ち着いてしまった)」

 

怒りを思いっきり自分の拳でぶつけたのが良かったのか怒りの大部分がすっきりしていた。

 

◆◆◆◆◆

 

おじさんはスッキリした頭で考えていた。ここからどうやって丸く収めるか。

怒りは未だにある。手元に居るヘルメスが犠牲になっても正直良いと思ってる。

ただ怒りの大半を消化してしまった手前、ファミリアを犠牲にすると後味がほんのりと悪い気もしなくもない……。

 

「アスフィ! アスフィ!! おい! 返事をしろアスフィイイ‼‼‼‼」

「さて、ヘルメス。話の続きだ」

「話の続きだと!? ふざけるな! 今すぐアスフィを助けないと死んでしまう!!」

 

あっ、やっぱ駄目だ、怒りがちょっと戻って来た。

ふざけた事を言うヘルメスの口を手で塞いで持ち上げる。

 

「だからさ、言ったじゃん。戦争の結果だろ? コラテラルダメージって奴だ」

「ふざけっ……!」

「けどまぁ、おめーの眷属のお陰で怒りが一段落しそうだから提案をしてやっても良い」

「……っ!!!??」

「1つ、お前のファミリアはおじさんの所有物。2つ、お前もおじさんの所有物。3つ、おじさんが必要としたら何でも提供しろ。この3つで手打ちにしてやる」

「……そんなモノ! 奴隷じゃないか!!」

「そうだけど? 嫌なら後で反旗を翻せば良いんじゃないか? その時は……おじさんが使えるもの全部使ってお前とお前のファミリア全部潰して回るよ。絶対逃がさん……絶対だ」

 

おじさんの目を見て諦めたヘルメスが力なく言葉を出す。

 

「解った……ソレでいい……アスフィを助けてくれ」

 

◆◆◆◆◆

 

ヘルメスがさっきの条件に同意したのでおじさんのスキルを使ってアスフィの飛び出た臓物を収めて元に戻す。弱かった呼吸も戻ったが血をかなり失ったので直ぐには目覚めそうにない。

ゴライアスの方を見れば少し押されてる。

まあ、前線で戦っていたアスフィが抜けたらそうなるか……溜息を吐いてから精霊ちゃんを再度背負う。

 

「ヘスティアちゃん、ちょっと一発入れてくるからこいつ等宜しく」

「おじさん、手伝うのかい?」

「まぁ気分も多少晴れたし。元凶は〆たから……まぁ良いかなって」

「そうか」

「ベル君もそろそろ起きるだろうし、足止めくらいはしとくよ」

 

◆◆◆◆◆

 

えっちらおっちらと歩いてゴライアスの方へと近寄る。目算凡そ300メートル、適当に魔法を弱めで撃っときますか。

 

「突き進め 雷鳴の槍 代行者たる我が名は雷精霊 雷の化身 雷の王──【サンダー・レイ(弱)】」

 

ゴライアスの体ぶち抜いて穴あきチーズみたいにしてやった。

こっち見て咆哮なんてしてくるから、イラっとして詠唱破棄の【アイシクル・エッジ】を目玉に叩き込んでおく。

そうやって時間稼ぎしてたらベル君が来て剣の一振りとナイフで魔石を砕いて終わった。

 

何だかんだとワチャワチャしていたのでおじさんはヘスティアちゃんに一言言ってから精霊ちゃんと一緒に一足先にオラリオへと戻る。

日本で高級ボディソープを仕入れて来て精霊ちゃんをお風呂に入れてからやっと一息付けた。

 

「はー、喧嘩とかやるもんじゃねーわ。しんど」




ベル君の救助に来たはずなのにおじさんのマジキチ部分が表に出てしまった。ヘスティアの痛む胃。襲う頭痛。

負けるなヘスティア、明るい未来が君を待っている!

次回、おじさんと挑発

神は二度死ぬ。


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16 おじさんと挑発

ベル君とヴェルフ君がlv2になった。めでたい。(正確にはベル君は既にlv2になっていたらしいが)

祝賀会という事で酒場に誘われた。精霊ちゃんをヘスティアちゃんが見てくれるというのでおじさんも参加する事に。

 

来た事が無い酒場だが料理も結構旨い。乾杯して酒も飲み結構いい気分になっていたら何か変なのに絡まれた。

 

ほうほう……レベルアップの妬みか。よくある事やな。

ベル君も無視しとき、ああいうのは自分を追い越していく奴にしか向けない感情だから、あのちっこいのは羨ましいんだろlv2になったのが。

 

ぼけーっと聞いてたらおじさんの事も揶揄された。

腹が出てて如何にも鈍重そう? おぉ、正解だ。ほれ、ツマミを一つおごってやろう。

おかっぱの小人族にツマミを渡したら馬鹿にされたと怒ってる。なんでやねん。

 

とかやってたらおかっぱ小人族がヘスティアファミリアをソロファミリアとか言い出した。……えっ? おじさん居ない子として扱われてる???

ちょっと考えたがそういや昔やらかしてからおじさんの所属ファミリアって書類上は秘匿されてたっけ。

なーるほどとスッキリして改めて酒に手を付けたらベル君がキレた。

ヘスティアちゃんが弄られたのが気に食わなかったらしい。

うんうん、ええこっちゃ。頑張れ若人!

 

そうやってベル君の喧嘩をツマミにしてたら酒瓶で殴られて瓶が割れました。全身酒まみれや。

後ろを振り向けたおかっぱ小人族、ダメージの無いおじさんを見て引きつった笑いしてら。なのでおじさんもニッコリ笑ってかえす。

 

軽く裏拳入れたらワンパンで沈んだのでそのまま放置。再度喧嘩を見てたらポニテの男が出てきた。

……なんかヤローのポニテって……うーん、おじさんの趣味じゃねーな。

とか思ってたらベル君ぼっこぼこやん、ウケル。

 

「おーい、ベル君。もちっとやり返せー」

「雑魚がうるせぇ……酒がまずくなる。失せやがれ」

 

おん? 犬っこじゃん。やっほ。

酒を片手に手を振ったら苦い顔して店から出て行った。気が付けば相手も出て行ってる。

こりゃお開きだな、お店に迷惑料とお会計してもらいましょ。

 

◆◆◆◆◆

 

今日も今日とておじさんは飯を大量に食って精霊ちゃんに栄養を渡す。

エネルギー消費は緩やかになってきてるが未だ目を覚まさん、何かアプローチしてみるべきじゃろか?

 

「じゃあおじさん、ボクとベル君は神の宴に参加してくるよ」

「おー、いってらっしゃい」

 

めかしこんだヘスティアちゃんとベル君。二人が出ていくのを見てから【トラベラー】の中身を確認する事にした。

余り多くなかった武器弾薬の類をヘルメスのアホ相手に使ったので補充を考えないと。……いっそ核でも仕入れてみようかな。中華製品なら横流しでも偶にあるからなぁ。

等と物騒な事を考えながらその日は眠りについた。

 

◆◆◆◆◆

 

翌日、ラジオ体操後の相談会で昨日の宴に関する顛末を聞いた。

ウォーゲームするんですって、ベル君を掛けて。あ、受けはしなかったんだ。

とかやっていると二人が外出する時間に、おじさんも見送りで外に出たら何か冒険者がホーム囲んでる。ベル君は咄嗟にヘスティアちゃんを抱えてホームに引き返したが、おじさんはボケーっと魔法が飛んでくるのを見てる。

魔法がホームにぶつかる寸前、アスフィちゃんお手製の防御アイテムが起動して特にホームへのダメージは無し。

ヘスティアちゃんに確認したらアポロンファミリアの襲撃らしい。……ウォーゲーム受けて無いんだよね? 何で?

 

◆◆◆◆◆

 

結局ヘスティアちゃんが何とかすると言ってベル君連れて裏口から出て行った。

んでおじさんのやる事といえば……正面玄関から出て回りに居る奴らの掃除。

取りあえずは大人の対応として口頭で

 

「ウチには病人居るんやぞ! そんな所に魔法ぶち込むとか殺す気か!」

 

そしたら無言で魔法撃って来やがった。丸盾で受ける。

一瞬球場に広がるバリアでばっちり魔法をガード。ヘファイストスさんの盾は魔法カット効果を手に入れたのだ。

当たり前だが全力のおじさんストライクで全員をひき逃げアタックしてボロ雑巾に。全員全裸にして縛り上げて壁に吊るす。

ペンキで『私達はいきなり攻撃しました』と全員に一文字ずつ書いて並べておく。その内ギルド員が来るでしょ。

空見たら雨降りそうだから干してた洗濯物取り込まないと。気絶してるこいつらはそのままで良いや。




ヘスティアファミリアホームに仕掛けられる襲撃。

だがホームはヘルメスファミリアから提供されたアイテムで防衛されていた。

次回、おじさんとウォーゲーム

おじさんの秘密……所属ファミリアが遂に明かされる!


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17 おじさんとウォーゲーム

ベル君とヘスティアちゃん、それにヴェルフ君も合わせて帰って来た。……PTならリリちゃんが足らんがどした?

 

◆◆◆◆◆

 

リリちゃんが攫われたらしい。まぁ、ぶっちゃけおじさんにはソコまで関係ないし、静観しとく。

 

「おじさんは……サポーター君との件に巻き込め無い。フレイヤファミリア、ギルドとの約束があるし……でも流石にウォーゲームには参加してもらう必要がある」

「まあソコは良いでしょ。文句言ってきたらロイマンとフレイヤの体型崩すぞって言っとき」

「やっぱそうなるか……恨まれるのボクなんだよな」

「コラテラルダメージ故、致し方なし」

「はぁ~~~っ」

 

テーブルに突っ伏するヘスティアちゃんを見ながらベル君はどうするのか聞いてみたら、レベルアップを目指して特訓するんだとか。

そういや庇護脂肪使ってねーからここらで使っておこう。ベル君のステイタスを全体的に2段階ずつ上げておいた。

 

◆◆◆◆◆

 

数日間は仮病で期間を延ばしてヘスティアちゃんが神の会合に参加。そこで決まった戦闘形式は攻城戦らしい。

 

「攻城戦ねぇ……」

「おじさんの魔法でドカンとやってしまうのは?」

「いや、さすがに精霊ちゃん連れて行けないし無理ゾ?」

「やっぱりかぁ」

 

というかねヘスティアちゃん、おじさんの疑問。

 

「うん? 何だい?」

「何処まで許容されるの? そのウォーゲーム。報酬的な意味も含めて」

 

ウォーゲームの詳細を聞いて一つ思い浮かんだ事がある。

 

「うぇ!? それは……出来る出来ないで言えば出来るけど……ギルドが黙っちゃいないぜ?」

「でもギルドってさ、実際肝心要の部分って主神のウラノスだけでしょ? ガワの部分が消し飛んでもなんも問題なくね?」

「いやいや、消し飛ばしちゃ駄目だって! アレでも情報の管理とか買取は大事なんだよ?!」

「だからソレを代行する組織を作れば良いだけじゃん。ぶっちゃけ旨味を吸い上げてるのは良いとしても色々と強要されるのめんどくさい。

 今だっておじさんにドロップアイテムの納品の催促来てるのヘスティアちゃんも知ってるっしょ?」

 

今までのクエスト消化が当たり前みたいに催促されるとメンドクサイのじゃよ。

 

「それはそうだけど」

「まぁ最悪おじさんが精霊ちゃん連れてオラリオから出れば済む話だけどさ」

「それもどうかな……おじさんlv4だしギルドは簡単に手放そうとはしないと思うよ」

「本気で止められると思う?」

「いや……絶対無理」

「でしょー?」

 

さてさて、ウォーゲームに向けて地球に仕入れに行ってくるぜ!

 

「程々に頼むよ?」

 

フリですね? 分かります。

 

「本当に頼むよ!?」

 

◆◆◆◆◆

 

色々と仕入れに時間かけて帰ってきたら何かファミリアの団員が増えてた。

おじさんが基本的に動かないからウォーゲームにも参加しないと思ってた? だから所属変えてまでウォーゲームに参加?

ははっ、ウケル。……いや、ちゃんと参加するよ!?

流石にファミリア同士の正式な戦いだし……非公式だとちょっとアレだけど。

さて、残り時間もあんまり無いし、早速用意したモノの中身を今回用にダウングレードしねーと。

 

「という訳で、おじさんは地下室に籠るからヘスティアちゃんは精霊ちゃんの事宜しく」

「ああ、任せておきな。サポーター君や命君が居る今、彼女一人の面倒は余裕なのさ!」

 

頼もしい言葉を聞いてから元ヘスティアちゃんの寝室、現バイオハザードルームへ入り扉を閉める。

【トラベラー】から取り出した筒を防護服越しに掴み開封する。

筒から出てきたのは連なった丸いカプセル群。ソレ等を一つずつに取り分けて投てきできる様に加工。

コレは基本的に使う機会は無いだろうけど用意だけはしておこう。

そして本命のモノを取り出す……余りに辛いのでこんな場所でなければ取り出せないし、下手すれば防護服も焼却処分だ。慎重に細工をしなければ。




地球から仕入れてきた怪しいブツ、改造された元寝室で弄られるソレは……

次回、おじさんとウォーゲーム2

流れる涙を止める術はあるのか。


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18 おじさんとウォーゲーム2

ウォーゲームが始まった。メンバーはベル君、リリルカ君、ヴェルフ君、命君、それにおじさんの5名。

正午になり開始の銅鑼が鳴らされる。……頼んだぜ、皆。

 

◆◆◆◆◆

 

ウォーゲームが開始されたのを確認してからおじさんは城から1キロ程離れた場所で準備をしていた。

 

「あの……おじさん」

「何ベル君」

「作戦はアレで良いんですよね?」

「おー、命ちゃんがヴェルフ君の魔剣で大暴れって奴っしょ? 良いよ?」

「それでおじさんは何を……」

「コレ? 迫撃砲って言う奴。まあ1発目で壁ぶっ壊したら2発目以降は中身は変えるけど」

 

そうこう言ってる間に準備が整った。何度も練習したのでほぼ当たるでしょ。

1発目、いきまーす。

 

◆◆◆◆◆

 

神々が見ている鏡に映るおじさん、そして轟く音と爆発。

 

「ヘスティア! これは違法行為だ!」

「……君は何を言ってるんだい?」

 

席から立ち上がったアポロンが唾を飛ばしながら声を荒げる。汚いなぁ……。

 

「あの男は君のファミリアじゃ無い! ギルドに登録されていない人間を使うなど今回の協定に違反している!!」

「それなら問題ないよ。おじさんはウチのファミリア所属だ。ギルドに問い合わせても良い」

 

そう言うと周りの神々がざわめき出す。

 

『おい、アレって超反射だろ?』『ヘスティアファミリアに入ったのか?』『ギルドに問い合わせても情報開示されて無かった奴だろ』『ウチの奴、アイツに助けてもらった事あったぞ』『ヘスティアの所に行けばスキル使ってもらえるか?』

 

「ぐっぬぬぬ、一体どうやって超反射を引き込んだのかはこの際良いだろう……。だがソレでも所詮5人! この人数差をひっくり返せるはずがない!!」

 

◆◆◆◆◆

 

「お~、着弾綺麗に決まったな」

「凄い……こんなに離れてるのに」

「よし、次はコレ」

「……何か凄く赤いですね」

「ふふふ、こいつは痺れるぜぇ~?」

 

シュポン! とちょっと間の抜ける様な音と共に飛び出す赤く塗られた弾は山なりの起動を描き城の上空へと到達。

それに合わせておじさんは取り出したスイッチを起動させると弾が破裂して中から真っ赤な煙が姿を現した。

 

「おじさん、アレって?」

「あれかい? とうがらしパウダー……その名もペッパーXだ」

 

◆◆◆◆◆

 

上空から降り注ぐ赤い煙、それを吸い込んだ途端アポロンファミリアの団員は全員が激痛に襲われる。

体の中からくる激しい痛み。溢れ出る汗と涙。辛さから咳こむがそうする事で更なる激痛が発生する。激痛の無限ループになってしまった外周に居たメンバーは持ち場から一歩も動く事無く倒れ伏していく。

 

「それじゃコレ、リリちゃんにも持たせた防毒マスク。野外だから辿り着く頃には風で流されてると思うけど屋内に入るまでは付けときな」

「ありがとうございます」

「いやっしっかしえげつないな」

「あんなモノを使われたらマトモに呼吸もできないでしょうね」

「言うて屋外だから冒険者ならワンチャン立ち上がる可能性は在るんだよね、普通の唐辛子パウダーと比べて35倍位の辛さとはいえ、所詮唐辛子だし。追撃も必要だしさっさと行こう」

 

◆◆◆◆◆

 

「あっ、ありえない……何なんだアレは! 超反射があんな武器を使うなんて聞いたことが無いぞ!」

「下調べが足りないんじゃないか? アポロン。おじさんは元々ああいう感じだぜ」

「ヘッ、ヘスティア! 私をハメたな?!」

「はぁ!? 馬鹿言うんじゃない! 戦争を仕掛けてきたのはそっちじゃないか! ただでさえ胃が痛いのに厄介ごとを持ち込んで!」

 

ギャーギャー言い合うアポロンとヘスティアを見ながら結末の見えているロキは今回の賭け事で稼いだあぶく銭をどうするかを思案していた。

 

「(色んな酒を買うのもアリやな。ガレスの奴がおじさんと取引してるとも言ってたしウチも一枚かませて貰おうっと)」

 

◆◆◆◆◆

 

城へ到着したおじさん達は変身していたリリちゃんから情報を受け取って敵団長の居る塔へ向かう。その際命ちゃんは倒れ伏しているメンバーを魔剣を使ってキッチリ〆てもらう。

場内にちらほら居る敵はヴェルフ君、ベル君が基本対応。ソレをすり抜けておじさんに近寄って来た敵には缶詰爆弾を投げつける。

 

缶詰が飛んで来た敵は手持ちの武器でソレを叩き斬る。

その瞬間、途轍もない異臭が発生する。

そう、シュールストレミングである。

 

内容物をモロに浴びた冒険者は阿鼻叫喚し、周囲に居た人間は敵味方含めて一斉に鼻を掴んで壁際まで逃げる。

戦闘すら一時中断する始末。……実はコレが世界一平和になる交渉方法なのでは?

おじさん? 防毒マスクを脱いでないもの。

 

「おっ、おじさん……ソレって」

「缶詰爆弾。あと10個位あるけど……投げる?」

 

敵も味方も一斉に首を横に振っている。

うん、道を塞がなければおじさんもこんなモノは使わんのよ。




魔法が無くてもBC兵器を使えばいいじゃない!

現代のBC兵器(笑)が火を噴く!

次回、おじさんとウォーゲーム3

味覚破壊爆弾


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19 おじさんとウォーゲーム3

おじさんと戦争の感想でヘルメスへのヘイトが物凄くて笑っちゃったw


「あいつらは何をしているんだ!」

 

アポロンは激情に駆られて声を荒げていた。鏡越しに見るだけの彼からしてみれば妙なモノを投げつけられ液体を被ったと思えば子供たちが降参して道を開けた様にしか見えないからだ。

しかしヘスティアは違う。おじさんが今回使うモノを事前に確認して『一応』は問題が無い事をチェックしているのだ。

そう、一通り全部性能を確認している。故に被害にあった冒険者を見て顔を青くしながら冒険者の冥福を祈っている。……一応死んでる訳ではないが、それでも祈らずにはいられないのだ。

 

◆◆◆◆◆

 

塔をえっちらおっちら上がっていくと空中廊下に到着。おぉ……如何にも遠距離部隊。

すっと缶詰爆弾を取り出したらまさかの味方二人に止められた。

 

「おじさん、ソレは止めましょう!」

「そいつはいけねぇ……人に使っちゃいけねぇよおじさん」

「え~、でも向こうはやる気満々だし……」

「オメーら一旦止めろ! マジで死ぬより辛いぞ!」

「そうです! 僕らも流石にアレは望みません!」

 

二人共必死過ぎでは? 何か敵も困惑して攻撃止めちゃったよ。

仕方がないので缶詰爆弾は戻しておこう。何時か使う日も来るでしょ。

おじさんが缶詰爆弾を仕舞っている間にベル君が敵陣を駆け抜け、ヴェルフ君が何かして相手の舞台をほぼ全滅させてる。……これはおじさん要らない奴では?

 

ヴェルフ君と敵との戦闘を端でボケーっと眺めていると突然塔が爆発した。ベル君の仕業だろう。

 

「ヒュー♪ やるぅ」

「そんな」

「流石だな、ベル」

 

◆◆◆◆◆

 

爆発し崩れ落ちる塔、そして土煙の中から現れヒュアキントスに仕掛けるベル・クラネル。

戦争を仕掛けられた時と違いレベルもステイタスも上がったベル・クラネルはヒュアキントスの剣を斬り落とし追い詰める。

 

「そんな……私の子供たちが……」

「良いぞベル君! そのまま相手を倒してしまえー!」

 

それを鏡で見続ける神々。

その頃おじさんはもう一方の塔に上って上から戦場を俯瞰して見ていた。

 

何かベル君が女に抱き着かれて足止めされとる。ここでもフラグ立てるのかベル君や……その内刺されるんじゃないか?

ベル君の将来を心配しつつ対戦相手のヒュアキントスを見ると何か気円斬っぽいのを出してる。何アレ、ちょっと格好良いんですけど?

 

思わず攻撃を止めて見守る。

出来た輪っかが投てきされベル君に迫った所、リリちゃんのタックルでベル君の拘束が解かれる。

 

狭い足場を跳びまわりながら気円斬を避けるベル君。

 

流石にこのままじゃマズイとスコープを覗く。動くのを狙うよりは……術者で良いか。

ヒュアキントスの足に狙いを付けた。気円斬の爆破に合わせてトリガーを引く。

爆発以上に大きな音が鳴り響きおじさんの肩に衝撃が来る。被弾を確認して再度装填。相手は何が起きたのか分からない顔をしながら尻もちをついている。

 

「ヒッ、わっ私の足があああああ!!!」

 

右足の膝から下が吹き飛んだヒュアキントスは喚きながら足を押さえつける。溢れ出る血は止められず大量の血が零れていく。

当然そんな隙を見逃すはずもなく、ベル君が追撃を行う。

まあ最も、手心を加えたのか武器は使わずに拳で顔面をボコボコにして終わりにしていた。

 

◆◆◆◆◆

 

「そっそんな」

「ア~ポ~ロ~ン~、覚悟は出来てるだろうな?」

 

ごちゃごちゃと言い訳をしているアポロンに対し突き付けた要求は以下の通り。

財産没収。ファミリア解散。アポロンの処遇に関しおじさんに委託する事。

当然コレはウォーゲームの結果なのでヘスティアの申し出は通る事に。

 

 

「それで、おじさん。何時やるんだい?」

「まあ、早い方が良いでしょ。ギルドに申請もしたし、明日にでもやるよ」

「うっ……マジにやるんだ……」

「そりゃもう、敵に回ったらこうなるぞって示すにはもってこいでしょ」

 

◆◆◆◆◆

 

後日、全身の毛が毟られマッパのアポロンは市中引き回しの刑となった。

その際、アポロンの体は非常にアンバランスな体型になっており、まるで日本の餓鬼を思わせるような様相であり極東出身の者たちを中心にオラリオ中の人間が引いていた。

 

尚、ヒュアキントスでさえ最後には『自分の敬愛した神はあんなものではない!!』と否定していたのでよっぽどである。

 

そんな自分の眷属を見たアポロンが自ら天界に帰ったのも仕方がない事かもしれない。




結局おじさんが企てた事は最終的に実を結ばず、アポロンの天界逝きで終わった。

残念がるおじさんは本格的に動くべきか考え始める。

次回、おじさんと娼館

おじさんも偶には息抜きがしたい時がある。


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20 おじさんと娼館

新しいファミリアのホームに引っ越して数日。何だか新団員とか募集してたけど盛大に失敗したとの報告がリリちゃんからあった。

しかも原因がヘスティアちゃんの借金だとか。

 

「いくらだったの?」

「ベル様のナイフ代で2億ヴァリスだそうです」

「へー、そうなんだ」

「ヘーではありません! あんな金額を隠しておくだなんて信じられません!」

「でも最終的にファミリアでどうにかするってなったんだ」

「えぇ、ベル様の装備ですし皆で返済しようって事になりました」

 

おじさんは最近精霊ちゃんと引きこもってるからな。しかし借金ね。

 

「じゃあコレをリリちゃんに預けるわ」

「へ?」

 

そう言って隣の部屋に置いていた大型金庫まるごと渡す。

 

「これは?」

「中に希少金属をアホ程詰め込んでる。うっぱらうなり、ヴェルフ君が使うなり好きにすると良い」

「良いんですか?」

「ファミリアで背負うって話になったんでしょ。ソレ全部売れば2億ならギリ足りない位にはなるんじゃね?」

 

少し考える素振りをしてからリリちゃんが口を開く。

 

「……いえ、これは保険にしましょう。少しヴェルフ様と話して鍛冶に使うか聞いてみます」

「ん、好きに使って良いよ」

 

◆◆◆◆◆

 

そんな話をした翌日、ベル君が朝帰りをしてきた。

玄関で正座をさせられてだが……。

 

「……ヘスティアちゃん」

「何だいおじさん」

「赤飯炊こう!」

「おじさん!?」

「あのピュアボーイが朝帰りだぞ! こりゃ赤飯だろ!」

「おじさん殿!」

「どした命ちゃん」

「煮豆も作りましょう!」

「おぉ良いな! 折角だし和食全開にしよう!」

「こりゃ今夜は旨い飯が食えるな? ベル」

「ベル様不潔です!」

「だからそんなのじゃないですってば~~~~!」

 

割と皆ノリノリである。

 

◆◆◆◆◆

 

そんな馬鹿話も一旦落ち着きダイニングに移動して話を戻す。

 

「まぁ飯は本当に用意するとして……」

「ああ、本当に用意するんですね」

 

がっくりと肩を落とすベル君を無視して話しを進める。

 

「それにしても娼館に居るかもしれない故郷の友達ねぇ」

「はい、サンジョウノ・春姫殿と言い狐人(ルナール)です。あの方が自ら娼婦をしているとは思えませんが……」

「え? 春姫さんですか? 僕昨日会ったよ?」

 

対面に居たはずの命ちゃんがテーブルを乗り越えベル君の首元を掴む。思いっきり前後に揺らしてら、ありゃ首痛めるぞ。

 

「どどっど、何処に!? 何処で会ったのですか!??!」

「たまたま! 偶々逃げ込んだ先で会ったんです! その後明け方まで話をして、抜け出し方を教えてもらって帰ってきました!!」

「そうですか……」

 

力の抜けた命ちゃんがベル君の襟首から手を離す。

 

「しかし何か理由があって娼婦してるのかね」

「あの人は元々高貴な身分の方です。正直理由が分かりません」

「じゃあ調べてみるか」

 

おじさんがそう言うとヴェルフ君が口を開いた。

 

「調べられるんですか?」

「うん。ヴェルフ君、最近会った神の中でスケベ野郎と言えば?」

「スケベで神……あっ、まさか」

 

◆◆◆◆◆

 

適当な酒場の個室を指定してヘルメスを呼び出した。

覗き、防音対策はアスフィちゃんのアイテムを借りて。

 

「つー訳で、オメーが娼館で聞き込みしてこい」

「おっ、俺がやるのかい? おじさんやヴェルフ君、ベル君がやるってのは……」

「ヘルメス。おじさんはお前の事が嫌いだ。だけど男だからそーいうエロの部分はよく分かる。お前、スケベ大好きだろ?

 おじさんからの依頼ってしとけば大手を振って娼館に入りびたり出来るんだぞ?」

「やります!」

 

ジャンピング土下座する程の事か……? ギリシャ系ってやっぱ下半身馬鹿なんだな。

それじゃあ宜しくと席を立とうとした所呼び止められた。

 

「ああ、そうだ。関係ないかも知れないが……万が一は恐ろしいから一応、伝えておくよ」

「ん?」

「つい昨日なんだがウチのファミリアからイシュタルファミリアに対してある品物を納品したんだ。

 『殺生石』ってアイテムなんだけど……」

 

「まーじー?」

 

◆◆◆◆◆

 

数日して命ちゃんが沈んでるから話聞いてみたら、例の春姫ちゃんとやらに会ったが無視されたらしい。

……そりゃ、まぁそうでしょうよ。

 

「何故です!?」

「ちょっと考えてみ? 自分が高貴な身分で娼婦に落ちた。そこに昔一緒に遊んだ友人が訪ねてきた」

「あっ……」

「正直人によるだろうけど、嫌がる人は無視くらいするよ?」

「そんな、じゃあ私はどうすれば……」

「ふう……しゃーない、おじさんが行ってくるか」

「え」

「だってウチの中で歓楽街に行って平然としてるのおじさん位じゃない? 残りの男二人はあんな感じだし」

 

◆◆◆◆◆

 

命ちゃんから聞いてた所に行ってみると……普通に居たわ。え? 場所変えたりもしてねーの?

うーん、キャバ嬢ならちょっと出勤日変えたりすると思ったが……まぁオラリオだし色々違うんだろう。

 

「そこの狐人ちゃん」

「わたくし……でしょうか?」

「一晩おじさんに買われてくんない?」




スケベおじさんの魔の手が春姫に迫る!

春姫はどうなってしまうのか?

次回、おじさんと娼婦2

春姫、啼く!


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21 おじさんと娼館2

春姫ちゃんとの会話は結構盛り上がった。何せエンタメが少ない世界だ。

地球のエンタメ……主に人気の映画を語るだけでかなり場が持つ。

 

「ふえー、話過ぎて疲れた」

「わたくしばかり聞いてすみません」

「いや、偶には話す側も良いよねー」

 

そう言いながらお茶を飲む。和室で奇麗な子が居て好きに会話する。贅沢な時間じゃ。

まぁそればっかりではアカンので真面目な話もしよう。

 

「因みに数日前に春姫ちゃんにウチの団長が会って助けられたって言ってたな。ありがとうね」

「団長……ですか?

「そ、ベル・クラネルって言うの」

「ベル様! 英雄譚を一晩話させてもらいました」

「そのベル君、今は命ちゃん達と一緒にダンジョンに潜ってるんじゃねーかな」

 

途端にテンションが下がって来た。

 

「そうですか……」

「君の事を身請けしたいんだってさ」

「えっ?」

「身請け」

 

言葉の意味が理解出来たのか大きく目を見開いておじさんに詰め寄ってくる。

 

「そんな! 駄目です!」

「駄目? 何で?」

「わたくしは汚れています! こんな汚れているわたくしを……」

 

……えーっとボケてるのか? それとも突っ込み待ち?

 

「因みに春姫ちゃんってさ」

「はい」

「ちゃんと仕事してるの?」

「はい?」

「夜の仕事」

「そっそれは勿論!」

 

いや……絶対嘘じゃん。夜のねーちゃんがそんな顔赤くなんてしねーよ。

 

「嘘ではございません!」

「おー、それじゃあおじさんの相手をして貰おうか」

「もっ、勿論でございます!」

 

◆◆◆◆◆

 

案の定というか、気絶したわ。そして直ぐに変わりの獣人の子が入って来た。

 

「ごめんねー、この子何時もこんな感じでさ」

「何時も?」

「そ、向いてないんだから客取らなくて良いって言ってんのに」

「でもこの子娼婦なんでしょ?」

「まー他の役目があるからね……ってこんな話は良いから隣の部屋に行こう!」

「うぃー(他の役目ねぇ)」

 

◆◆◆◆◆

 

「~~~~~っ♡♡♡♡!?! ♡♡♡!! !!!???!?♡♡♡♡!??!?♡♡♡♡♡?!!!」

 

獣人の子に幸福脂肪使って強制的に絶頂してもろて一人ゆっくりと酒を飲む。頭とろけた状態で質問したら色々喋ってくれた。

客の相手が出来ない娼婦を態々囲っている理由も理解した。そんでもってあのアイテムが必要な理由も。

さーて、どうしよう。タイムリミットが大分近いぞ。

 

◆◆◆◆◆

 

ホームにて

 

「ちゅー訳で、多分満月になったら多分」

 

右手で首を斬るジェスチャー。

 

「それは……うーん」

「ベル君達はまだダンジョン?」

「ああ、泊りがけで中層を攻略中だ」

「まーじでタイミングが悪いな」

「おじさん」

「ん?」

 

真面目な顔してどうした?

 

「主神として、おじさんにお願いするよ。春姫君を助けてやってくれ」

「……はーっ、何処までも家族に甘いねぇヘスティアちゃんは」

「ふふっ、そういうおじさんだって、何だかんだこういうのは断らないじゃないか」

「いや? 嫌な時は嫌っておじさん言うけど?」

 

途端に顔がぶさいくになるヘスティアちゃん。

 

「かー! こういう時は笑って肯定する所じゃないか!!!」

「だっはっはっはっは!」

 

取り合えずタケミカヅチさんへの報告は宜しくー。

 

◆◆◆◆◆

 

こそこそ隠れて春姫ちゃん探してたけど……なしてベル君、命ちゃんと居るん?

あっ、アマゾネスに春姫ちゃん攫われた。……いや、態々説明するんかーい。

 

「なら戦争だね! お前らのファミリアとも!」

「OK、そうしよう」

 

アマゾネスの直ぐ後ろまでスニーキングしてたおじさん、そう言って春姫ちゃんゲットー。

 

「!?」

「おじさん!?」

「がはは! あばよー、とっつぁ~ん!」

「きゃあ!」

 

ストライク(脚)でオサラバ!

 

「テメェ!? 戦争しようってのか!」

「応!!!」

「おじさん!?」

 

春姫ちゃんを抱えたまま数軒先の屋根に降り立つ。んっで力一杯に宣言してやろう。

この歓楽街全体に響く様に!!!!

 

「いいか! この子はおじさんが預かった! 取返したけりゃ取返しに来い!!! 但し!!!!

 戦争なら女も容赦しねぇ! 加減もしねぇ! おじさんの家族に手をだすなら滅ぼおおおぉぉおおす‼‼‼‼‼‼」

「あんた……」

「全面戦争大いに結構。おじさんはイシュタルファミリアを潰しても全然良いんだぜ?」




感動系に意外と弱いおじさんはヘスティアちゃんのお願いにハッスルしてしまう。

イシュタルファミリアはどうなるの!?

次回、おじさんと娼婦

おじさん全力です。


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22 おじさんと娼婦

宣言してから直ぐに大量のアマゾネスが武器を持って寄って来た。春姫ちゃんの確保が最優先なので抱きかかえたまま戦闘開始。

囲まれないように移動しつつ、近寄ってきたら足で防いでそのままカウンター。二人までなら蹴りで倒すがそれ以上はやりづらい。

 

「あっあの! おじさま!」

「はいはい!? 何? 春姫ちゃん!」

「お、下ろしてください!」

「それは駄目駄目!」

「何故ですか!」

 

ストライク(脚)で逃げ回りながら問答を繰り返す。

 

「だって君死ぬつもりでしょ? 今夜」

「それは……」

「ソレはおじさんが却下します。さっき宣言したけどおじさんが君を貰うのでイシュタルファミリアには渡しません」

「そんな! それでは貴方方のファミリアに迷惑が!」

「うっせぇ!」

「ひぇ」

「ガタガタ言わんと生きる事考えとけ! 自殺しても何も面白い事無いぞ!! 生きて楽しめ! おじさんの経験則だ!!!!」

 

飛び掛かってくるアマゾネスを蹴り飛ばしながら突き進む。

というか流石に集まりすぎだ! 手が足りなくなる!

歓楽街って場所を荒らしているから今更だが、それでもおじさんの良心が痛むので使わなかったが……こうなりゃ仕方ない。使わせてもらうぞ!

 

「おら! 逃げなきゃ社会的に死ぬぞ!」

 

そう言って投げる缶詰爆弾。シュールストレミング。

3つ程投げたソレ等は建物に当たり爆発、内容物が周囲に飛散する。

さすがのアマゾネスもこの匂いは堪えたのか足が止まった。

この隙にオサラバだぜ~!

 

◆◆◆◆◆

 

アマゾネスを撒いて適当な娼館へ紛れ込む。暫く隠れて休憩することに。

小腹が減ったので置いてあるモノをちょいと拝借して口にする。

 

「あの……おじさま」

「うぃ?」

「何故わたくしを……春姫を助けたのでしょうか?」

 

手招きして座布団へと座らせる。

 

「んー……大人としての義務?」

「義務……でございますか?」

「おじさんの故郷だと春姫ちゃんってギリギリ子供なのよ。子供が自殺しようとしたら止めるでしょ」

「……あの、それだけなのですか?」

「そうだけど?」

「それだけでイシュタルファミリアと事を構えるのですか!?」

 

感極まって泣いちゃったよ。近寄って頭を撫でる。

 

「子供が難しい事考えなくても良いって。大人のおじさんが何とかすっから」

「うっ、うあぁああああああ~~~~」

「あ~、はいはい。泣くな泣くな」

 

◆◆◆◆◆

 

暫く泣いた春姫ちゃんを布団で横にしてたら壁をぶち破ってフリュネが来た。

 

「お~、美人さんの登場か」

「へぇ、オマエ、アタイの美貌が分かるのかい」

「応、んで? 美人がこの子を取返しに来たと?」

「ああそうさ! 春姫はイシュタルファミリアの要になるんだ。オマエをぶちのめして春姫は返してもらうよ。ああ、オマエは特別にアタイが飼ってやる。久々に楽しめそうだ♡」

「そりゃ魅力的なアピールだけど、おじさんも大人として、男として子供との約束は守りたい派なのよ」

 

気合を入れて徒手で構える。

 

「かかって来いやぁ!!!」

 

◆◆◆◆◆

 

戦斧の振り下ろしを潜り抜けフリュネの腹をけり上げる。一瞬浮くが戦斧の振返しが来る。

斧の柄の部分を腕で受けて反動で飛び上がりかかと落としを頭へお見舞いする。

 

「ぐぅ~~~、美人に対する対応がなって無いじゃないか!」

「馬鹿が! アマゾネスなら戦闘は大好物だろうが! たっぷり楽しめ!」

「言うじゃないか! ますます気に入ったよ!」

 

応酬が周囲の建物を倒壊させながら尚、衝撃は広がっていく。

フリュネの攻撃は多少当たりはするものの基本的には避けられ、おじさんの打撃はフリュネの体に当たり体力を削っていく。

 

「く~~~ッ、ちょこまかと動きやがって! 男らしく無いね!」

「ほー? 男らしいのがお好み? んじゃリクエストにお応えして」

 

おじさんはそう言って周囲の壁を蹴ると途端にフリュネの視認出来る速度を超えて辺りを跳ねまわる。

 

「なっ、何だいこの速度は! お前はlv4のはずだろうが!」

 

反射速度をそのままに右手にため込んだ力をフリュネの腹、ど真ん中に叩き込みイシュタルファミリアのホームへと吹き飛ばす。

 

「ぐっげっへ~~~~~っ!!!!!」

 

「ぷー、春姫ちゃん抱えてなけりゃテメーを犯す所だったゾイ」

 

一仕事終えて春姫ちゃんを拾いに行ったら……居なかった。

……NO~~~~~~~~~~~~~~~~‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼




フリュネを撃退したおじさん、だが戦闘が終わると春姫ちゃんが消えていた

おじさんは春姫ちゃん救出が間に合うのか?

次回、おじさんと娼婦2

遂に神も動き出す


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23 おじさんと娼婦2

アニメ基準で書いてるけどどこまで描くか悩む


やばいやばいやばい! ストライク(脚)でフリュネを吹き飛ばした跡を追う。

イシュタルファミリアのホームに辿り着いたらフリュネは既に回収されているし、中から出てくるアマゾネスも少なめ……多分儀式が進んでる!

ふぁっく! こんな所は隅々まで来てないからテレポート出来ないんだよ畜生が!

 

おじさんストライク全開で跳ねまわる。儀式やってる場所が分からねぇ!!!

ムギー!

とか思って色んな部屋のドアを吹き飛ばしながら突っ込んでたら何かイシュタル居たわ。

 

「おっ、お前!」

「おん? イシュタルやんけ。やっほ」

「私のホームで散々暴れやがって……タンムズ!」

 

何か男が殴りかかって来たのでミニストライクでワンパンしておく。あっ、反射咆哮ミスって窓から落ちちゃった……まぁええやろ。

 

「そんな……タンムズはlv4なのに。えぇい! なら私の目を見ろ!」

「??? え? 見たら何かあんの?」

 

二人の間に妙な間が出来る。

 

「そんな! お前、何で魅了が効かない!」

「何でって……おじさん嫁さん居るし」

「はぁ!? 嫁が居るからと女神の魅了が効かない道理にはならんだろうが!」

「いや、知らんがな。というか相手なら後でしてやるから春姫ちゃんが先だわ。後でその病気もどうにかしてやっから、じゃあな」

 

そう言って再度ストライクで跳ねまわり出ていく。

 

「病気……病気だと? 私を馬鹿にしやがって!」

 

◆◆◆◆◆

 

おじさんが儀式の現場を見つけて全力で向かった時、丁度春姫ちゃんが刺されそうな場面だった。

そしてそこに颯爽と登場するベル君、見事に殺生石付きの剣を石ごと叩き割った。

 

「ベル君な~いす!」

「おじさん!」

 

春姫ちゃんが繋がれてる場所へ跳ねて到着!

 

「このガキが」

「おぉっと、美人ちゃんはおじさんの相手してもらおうか?」

「ああん?! ふざけるんじゃないよ! 大事な儀式をめちゃくちゃにしやがって! 儀式は再度やり直しだ! このクソどもが! なぶり殺しにしてやるよ!」

 

おー、怒り心頭ですな。んじゃまぁ、殴り合いますか!

 

◆◆◆◆◆

 

「よっ、ほっ、ほい、ほい」

 

おじさんの掛け声がかかる度にフリュネの体におじさんの手足が突き刺さる。

さっき戦闘した時とは速度も重さも段違いに鋭く。フリュネは防戦一方。

 

「ぐっっっ、クソが! さっきは手加減してたってのかい?! アタイに対して! ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな! 春姫! 詠唱しな! お前の力をアタイに寄越せえぇぇ!!!!」

 

一方おじさんはちょっと美味く行き過ぎてるのに調子が狂う。

アビリティの【対人】と【狩人】が仕事をしているのだろうか?

加減してたけど話す余裕が大分あるみたいなので顔を中心に殴る。最悪後で治してやる事も視野に入れておこう。

 

フリュネの顔をボコボコにしてる間に春姫ちゃんが詠唱終わって光の渦が集まる。それを見たフリュネが口を開いて高々に宣言してきた。

 

「これで終わりだよ! さあ! アタイに寄越せ! この男をぐちゃぐちゃにしないと気が済まないよ!」

 

だが光はフリュネではなくベル君へ。

 

「もう嫌……誰も傷つけたくない、体を売りたくない……、どうか……助けて」

 

「はいよ~」

 

両手に力を込めて足の反射を細かく繰り返し、蓄積した力を足から腰、腰から胴、胴から腕へと伝えていく。溜まった力を連続でフリュネに!

バレットストライク!!!!

 

「ぎっ! ぶぷっ! ぺっ! あぎゃ!」

 

全力で殴り切ったら足場崩れて落ちて行った。

 

◆◆◆◆◆

 

フリュネを倒して春姫ちゃんの鎖を壊してたらお客さんが来た。

 

「ベル君、お客さん来てるからベル君対応してね」

「えっ……アイシャさん」

「んじゃ、ファミリアとしての総意は団長が伝えるって事で」

「あんたが切っ掛けだろう? けじめは取らないのかい?」

「取るさ、おじさんは大人だから約束は守るのよ。特に女との約束はね。という訳でベル君後宜しく」

「おじさん!?」

 

そう言ってからおじさんは何時もの移動方で姿を消してしまった。

 

「ふーん、それで? あんたが意思表明してくれるのかい? リトルルーキー」

 

◆◆◆◆◆

 

場所は変わり歓楽街の外れにて

 

「あぁ、胸が痛む。ベル君の存在をイシュタルに知らせてしまったのは俺だ! ソレがこんな事になってしまうだなんて!」

 

そう言いながら歓喜の表情で燃える街並みを見下ろすヘルメスと主神を見て溜息を吐くアスフィ。

問答を行いヘルメスがその答えを口にする。

 

「俺たちが彼を!最後の英雄へと押し上げて見せる!」

「なるほど?」

「へぇ?」

「ヒッ!」

 

ヘルメス達が居る屋上のほんの少しばかり横、ヘルメス達を見下ろす位置におじさんが居る。

 

「つまり今回の元凶もある意味お前なんだ……」

「アッ、イヤ。ソノ」

「事が終わったら話に行くから、ちゃんと 待 っ て ろ よ ?」

 

そう言ってから【テレポート】でイシュタルファミリアへ再度飛ぶ。

 

「あすふぃ」

「何ですか?」

「逃げれないかな?」

「無理です」

 

◆◆◆◆◆

 

「私とお前! 何が違うってんだ!」

「品性、それ以外ありえないでしょ?」

 

女の修羅場を影で見ているおじさんです。イシュタルとフレイヤ、女の戦い。水を差すのは取り合えず止めときましょう。

 

逆上したイシュタルがフレイヤに襲い掛かったが、避けられビンタを食らった。

あっ、落ちる。

流石にアカンのでインターセプトー! おじさんストライク脚部限定!

 

「ああぁあああーーー!」

「ほいキャッチ」

 

「あら」

 

空中を蹴って元の場所にイシュタルちゃん抱えたまま戻る。めっちゃ引っ付かれて……というか背中引っかかれるくらいに引っ付かれてる。

流石に落下死直前だったからある意味当然か。

 

「フレイヤちゃんお久」

 

イシュタルちゃん抱っこしたまま手を振る。

 

「お久しぶりね、おじさん。所で何故イシュタルを助けたの?」

「何でって……ちょっと前に病気治してやるって約束したし」

 

そう言ってイシュタルちゃんを見るが全く顔を上げない、青ざめて震えている。

 

「……そう、約束したの……なら仕方ないわね」

「悪いね、今度何かお願い聞くからさ」

「あら、本当? なら良いわ。イシュタルの事は貴方に預けてあげる」

 

近づいてくるフレイヤちゃん、イシュタルちゃんに顔を近づけると……

 

「でもね、イシュタル。今度イタズラしたら……今度こそ潰すわ。例え貴方が邪魔してもよ、おじさん」

「んー、美人と喧嘩する位ならおじさん逃げるかな~」

「ふぅ、相変わらずなのね。それじゃ、またね」

 

余裕の表情と態度で行っちゃった。

うーむ……取り合えず、離れてくれ無さそうだしこのまま帰るか!




美味しい所をベル君に持っていかれたおじさん。

所有物の気配を感じ取って跳んだおじさん。

まさかの娼婦(神)をお持ち帰りしたおじさん。

次回、おじさんと興行

おじさんの人生論は経験則。


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24 おじさんと興行

娼館での騒動からそれなりに経った。そしたら何かオラリオが軍隊に包囲されている。

聞けばどっかの国と定期的に戦争を行ってるとヘスティアちゃんが教えてくれた。

 

「なるほど? それで今ロキファミリアはオラリオの外で戦争してるんだ?」

「まぁそうなんだけど……おじさん、何時までそうしてるの?」

「いや……おじさんが悪いか? コレ」

 

あの後イシュタルちゃんが離れてくれません。首にしがみ付かれるか、かなり昔に流行ったダッコちゃん人形みたいになっとる。

というか幼児退行っぽい、おじさんなのに大きな子供抱えるとかプライベートですらそんなプレイしたことねぇぞ。

かと言って無理やり引きはがすと泣くし。おかげでおじさん基本外を歩けねぇ。

 

椅子に座ってると、こんなん完全にヤってる様にしか見えないし。

あっ、コラ! 微妙に動くな。コイツ分かってやってるんじゃないよな?

 

「は~~~~っ、ベル君の情操教育に悪いんだけどな」

「そうです! ベル様に悪影響が出ます! おじさんどうにかして下さい!」

 

えぇ……何でおじさんに非難が集中するかな。

 

「しかし何にせよこのままと言うのもマズイのでは? イシュタル様が居られるのでファミリア自体は有りますがこの様子ではまとめる人が居ませんし」

「あぁ、ソレなら平気だよ命ちゃん。一応手は打っといたよ」

 

◆◆◆◆◆

 

「は~っ、今回は本当に助かった……」

「ヘルメス様、こちらの書類をお願いします」

「あぁ、ありがと。アスフィ」

 

そう言って受け取った書類を見てサインを描くヘルメス。

今ヘルメスが居るのはイシュタルファミリアのホーム、ソコで書類仕事をしている。

彼らがこんな事をしているのはおじさんからイシュタルファミリアの運営を行うよう厳命されたから。

 

『イシュタルちゃんが元に戻るまでイシュタルファミリアの面倒みてろ』

 

これがおじさんから出されたオーダー。

 

「しかし、今回は穏便な命令で助かった。前金として俺の髪の毛も戻してもらえたし」

「はー、ヘルメス様は良いかもしれませんがファミリアとしては大問題です。この様な大規模組織の運用など経験が足らなさ過ぎる」

「だけど渡りに船だったろう? イシュタルファミリアの内情を調べるには」

「それはそうですが」

「おじさんから言われたのは『ファミリアの面倒をみろ』だ。細かな指定もされてない」

「はぁ、しっぺ返しが来ても私は庇いませんからね」

「おいおい、そんな事言わないでくれよアスフィ~」

 

◆◆◆◆◆

 

「ってな訳でヘルメスファミリアの大半使って対応しとる」

「相変わらず君はヘルメスを酷使してるね」

「そりゃ道具は使わんと」

「神相手を道具と言い切るかい、おじさんは」

 

あきれ顔のヘスティアちゃんが肩を上げてると、春姫ちゃんとベル君、ヴェルフ君が朝食を持ってきてくれた。

 

「まっ、イシュタルファミリアは事実上は解散する事になるだろうけど……歓楽街自体は継続させないと色々マズイっしょ。野郎冒険者の発散の場がなくなると不味いし」

「まぁソレ位は処女神のボクでも分かる」

「ははは……」

 

気まずそうにするベル君だがちと意識に問題があるか?

 

「ベル君は何でソコまで恥ずかしがるかね」

「それはそのぅ……」

「いや、真面目な話だけど、娼婦って最古の職業だぞ?」

「へっ? そうなんですか?」

「こっちの世界じゃ知らんがおじさんの居た所だと通貨制度が出来た遥か昔からあったのが公式文書で見つかってるし。それにさっきも言ったけど男性冒険者の発散の場でもある。性犯罪者が出るよりよっぽど良いと思わん?」

「それは……そうですね」

「と言う訳で、過度に娼婦に対して気後れしないように。美人を見て見惚れるのは分かるけど」

「ちょぉ! 結局ソレに繋げるの止めてくださいよ!」

 

全員がベル君の赤面症気味なのを知ってるので笑いが出る。

つつがなく朝食も大分進みほぼ食べ終わった頃。

 

「それで。今日は皆何するの?」

 

おじさんがこんな状態なので朝のラジオ体操は中止しており、行動確認が朝食時に行われるようになった。

そして確認作業の第一声は基本団長のベル君が行っている。

 

「ボクはバイト。じゃが丸君のおばちゃんから手伝ってほしいって言われてね」

「おじさんは精霊ちゃんとイシュタルちゃんの治療かな」

「リリは遠征の準備です」

「俺は武器と防具の作成」

「私もリリ殿と一緒に準備を」

「わたくしは家事を」

「僕は少しギルドによって中層の情報を仕入れてきます」

 

◆◆◆◆◆

 

その日の夜、ガネーシャファミリアからヘスティアちゃんが攫われた事が告げられた。そして救出に向かったベル君と共に戻ってこなかった。




形式上存続する事となったイシュタルファミリア。

犠牲もあったが希望する者は引き続きファミリアに残り娼婦を続ける事に。

次回、おじさんと興行2

おじさん羞恥プレイに泣く


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25 おじさんと興行2

ぶっちゃけお茶濁し回
だってラキア相手におじさん無双してもしょうがないし……。
まぁ裏で原作通りだったと思ってください。

一か所セリフ変更


翌日、ロキちゃんが今回の件の説明に来てくれた。

 

「ちゅー訳で、ドチビの捜索にはウチのアイズたんとおじさん所の坊主が行っとる。一応ヘルメスん所の『万能者』とウチから他に何人か出してるから時期に見つけて帰って来ると思うで」

「そっか、ありがとねロキちゃん。ロキファミリアなら助け出せるだろうし、アスフィちゃんなら空から探せるだろうから平気でしょ」

「まーな。んぅ! コレ旨いな」

 

そう言ってでおじさんが【トラベラー】から出した羊羹を咀嚼するロキ。春姫ちゃんが淹れてくれた緑茶と一緒にやるとこれまた旨い。

 

「それにしてもおじさん」

「うん?」

「客の前でそーいう事に及ぶのは流石にウチもドン引きなんやが。そーいう趣味なんか?」

「ちげーよ!」

「せやかて工藤」

「工藤じゃねーわ! つーか何でそのネタ知ってるの!?」

 

おじさんが喋る度に微妙に動くイシュタルちゃんを見てロキが突っ込んできた。

もうやだ……、何が悲しくて人前で羞恥プレイせにゃならんのだ。

 

「この間の抗争、そこでフレイヤちゃんに殺されかけたの」

「誰が?」

「この子」

 

そう言ってイシュタルちゃんを指さす。

 

「はー、ソレでそうなった?」

「そーいう事、以降基本離れてくれないから急遽こういった大型のソファー導入した位だよ」

 

自分の座っている4人掛けのソファーを叩いて見せる。

 

「ふ~~~ん、しかし偉い気に入られたみたいやな」

「……え? これ気に入られてるの? 単純な恐怖からの幼児退行だと思ってるんだけど」

「まぁソレも大半やけど、ホレそいつのソレ」

「それ?」

 

抱き着いてるイシュタルちゃんを改めて見る。

目をつぶって抱き着いて、ちょいちょい体を揺する。

 

「??????」

「いや、ホンマに気付いて無いんかい」

「おぉん??」

「マーキングやろソレ」

 

ほわぁい?

 

「動物的に自分の雄やー言うておじさんに匂い付けてるんちゃう?」

「え、そんな事ある? 女神だぞ?」

「神でも下界じゃ人と変わらんし、そんな状態になってるなら本能で動いとるんちゃうか? 自分を守った奴に縋りつくのはよくある話やろ」

「そう……か? あー、考えてみりゃ日本神話にも結構あるかも。祝福というか……どちらかというと憑りつかれとか呪いが圧倒的に多いが」

「せやろ? 別に珍しいこっちゃ無いで、神と子供の恋愛も」

「まあ、ソレ言ったらヘスティアちゃんがウチの団長に入れ込んでるしねぇ」

 

◆◆◆◆◆

 

その日の午後、ヘルメスに連絡してイシュタルファミリア総出で敵軍隊に商売をしてきてもらった。

こーいう商売時は逃さずお金を落として行ってもらおう。

まぁ指示出す際におじさんの状況を笑ったヘルメスは〆たが……。

 

そうやってホームで精霊ちゃんの様子を見た後にソファに座っているとリリちゃんが来た。

 

「おじ様、いっそイシュタル様にスキルを使ったらいかがですか?」

「というと?」

「おじ様のスキルであればイシュタル様をお若い姿に変える事も可能なのでしょう?」

 

ヘスティアファミリアが大きくなって全員に庇護脂肪スキルを使用した時におじさんのスキル内容を話ていたのでリリちゃんがこの状況を解決すべく提案をしてくれた。

 

「ソレねー。おじさんも考えたんだけど……幼児退行してる子をマジモンの幼女に変えたら戻ってこれないんじゃないかと思ってさ」

「あ~~その可能性は考えておりませんでした……」

 

下手すると本気で幼女になってしまうから流石に出来ん。

その後女性陣が集まって来たからお茶しつつイシュタルちゃんの対応を考えたが良い案は出ず。

 

「結局おじさまにはイシュタル様を引き続き見てもらうという事で」

「私もそれが良いかと」

「わたくしもです」

「結局外出出来ないのが辛い……」

 

愚痴ってもしゃーないので手持ちのお茶請けで午後のお茶会をすることに。

女子会におじさんが混じってる、向こうなら事案ですな。

 

◆◆◆◆◆

 

茶請けのクッキーを口に放り込んでもう一枚をイシュタルちゃんの口元に持っていけばおじさんの指ごとくわえるので、それを引き抜いてまた適当なクッキーを選んで再度口元へ。

 

「おじさま……」

「ん?」

「わざとやっておりませんか?」

「へ?」

「イシュタル様に先ほどから指を舐めさせているではありませんか!」

 

そう言うリリちゃん、命ちゃん、春姫ちゃんの顔を見れば全員顔を赤くしている。

 

「えぇ、いや、姪っ子にお菓子あげる時にもこうだからこんなもんかと思うぞ?」

「おじさん殿は姪が居られるのですか?」

「うん、おじさんの兄妹って女ばっかりでね、皆結婚して子供が居るから何かソレと同じ感じだよ」

「子供がお好きなのですか?」

「まぁね、おじさん自身もいずれ結婚したら子供が出来るかなーとか」

 

言いながらアイスティーをイシュタルちゃんに飲ませながらぼんやり考えてると

 

「それは分かりました。がっ! 先ほどからイシュタル様が指を舐めるのをどうにかして下さい! ベル様が居ないから良いものの! 目の毒です!」

「子供なら指しゃぶり位するんじゃないの?」

「イシュタル様のソレは明らかに性的なサービスです!」

 

何かおじさんイシュタルちゃんにされるままだからそーいう感覚にならんのよな……変に意識すると困るし。

 

「だってさ、イシュタルちゃん。指放してー」

 

渋々といった形で指に吸い付くのを止めるイシュタルちゃん。

時計を見たらもう夕方近い。

 

「ちょっとおじさん精霊ちゃん見てくるわ」

「では片付けはわたくしが行いますので」

「悪いね春姫ちゃん」

 

◆◆◆◆◆

 

何か中途半端に疲れたのでイシュタルちゃんと一緒に歯磨きして寝た。

起きたらベル君とヘスティアちゃんが帰ってきてた。

どうやらベル君との仲がちょっと進んだらしい、全員で祝い料理作って食った。




動けないおじさんはフラストレーションが貯まる

次回、おじさんとモンスター

何時までおじさんは動けないんじゃ


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26 おじさんとモンスター

一度頭スッキリさせてきました!


ホームで精霊ちゃんとイシュタルちゃんの治療進めていたある日、ベル君達がダンジョンから戻ってきたらモンスター連れて帰って来た。

 

「喋るモンスター?」

「はい……この子、19階層で見つけたヴィーヴルなんですが」

「ベル君が見かねて助けたら喋ったと」

「はい……」

「ふーん、まぁそういう事もあるんじゃないの?」

「随分軽いなぁ、おじさんは」

「そう言ってもさヘスティアちゃん、現実に喋ってるじゃん」

「それはそうだけど」

 

ベルに引っ付いて喋ってるし。というかイシュタルちゃんの真似してベル君に抱き着き始めてる。

 

「あああ! ちょっと!」

「アレ、わたしも同じ」

「コラァ! ボクのベル君に抱き着くな~!」

「ヘスティア様! だ れ が ! ヘスティア様のなんですか!」

 

何時もの問答に発展してら。

 

「んで? ファミリアとしてはどうすんの?」

「まぁ、連れてきてしまってるし様子見しようかな。おじさん的にはどうなんだい?」

「良いんじゃないの? ぶっちゃけおじさんこんな状態だからダンジョン攻略の戦力外だし」

 

そうやってヴィーヴルの少女はヘスティアファミリアにやってきた。名前はベル君の案からヘスティアちゃんが手を入れて「ウィーネ」

こうやって彼女、ウィーネはやってきた。

 

◆◆◆◆◆

 

「でさ、ウィーネちゃんが地上で暮らすなら取り合えず見た目整える?」

「どういう事だい?」

「いや、おじさんのスキル使って……」

「……え……君のソレってモンスターにも使えるの?」

「今まで人、神、精霊、購入した家畜、ペットに試して効力出てるからね。仮にだけどおじさんがテイムしたモンスターならイケルと思う。ましてやこの子は知性があるんだから同意さえして貰えればイケルんちゃう?」

「なんというか……おじさんは毎回驚かしてくるよね……」

「やはりおじ様のスキルは規格外です」

「まぁぶっとんでるよな。色んな意味で」

「流石です!」

「えぇ。凄いです」

 

極東組は素直に関心してくれてるが、古参メンバーからは呆れられている……解せぬ。君らだっておじさんのスキルでステイタスに下駄履かせてるのに、あっ目を逸らすんじゃないコラ。

 

「ウィーネ、おじさんのスキル受けてみない?」

「すきる?」

「うん、地上で過ごすなら受けてくれると助かるかな」

「わかった」

 

◆◆◆◆◆

 

おじさんがウィーネ君と部屋へ行って暫く、まぁ何時も通りスキルをかけて戻って来たが……。

 

「これはまた……」

「えっと、ウィーネ?」

「ベル!」

 

そう言って駆けてくるのは極東組の様に黄色い肌にティアラを付けた女の子だった。

 

「頭の宝石だけは無理だったからティアラの装飾の一部って風にしといた。まぁオラリオなら許容範囲でしょ」

「いや、その前に何でモンスターが普通の女の子になっているんだい!」

「はぁ? そんなに弄ってないぞ?」

「何処がだ! 見た目完全にモンスターから人じゃないか! 知らなかったら全く気が付かないぞ!」

「ウィーネちゃんって基本的に人に近いから肌の色を人に近づけて、鱗は体質を変える事で対応。爪はついでに爪切りで切っただけ。ぶっちゃけ肌くらいしか弄ってないよ?」

 

ファミリア全員が驚いてるが今一おじさん的にはおどろくポイントが分からん。

 

「何かおじさんの所の人種差別っぽい反応だね」

「人種差別? 何だいソレ」

「お、ヘスティアちゃん興味ある?」

「まぁ、この場で言われたら流石に」

 

周りも何か興味あるっぽい。それなら人種差別を題材にした映画でも見ながら教えるか。

 

「映画? 何だいそれ」

「……あれ? おじさんの部屋で時々流してるけど……」

「そもそもおじさんの部屋に入っていかないよ。近くを通ると色んな人の声がするから気にはなってたけど」

 

周りを見たら皆すげー首を縦に振ってる。マジか、普通に入ってきてもええんやで。

 

「おじさん、皆言いにくそうだから俺が代表して言うが……」

「うん? どしたヴェルフ君」

「ぶっちゃけおじさんとイシュタル様がナニしてる現場に遭遇するのは気まずい」

 

……え!? もしかしてそういう対策に映画流してると思われてた!?!?

全員目を逸らしてんじゃねぇ! ちげーし! 娯楽だから!

よーしお前ら今から見せるからちゃんと見ろ!

おじさんがセコセコとオラリオ用に字幕翻訳ツールまで作ったんだから見せてやる!

こうやってファミリアでの映画観賞会がスタートした。尚、この映画観賞会は週1位で開催される様になる。




ダンジョンから地上、オラリオへのモンスター進出

事の一大事を全く重要視していないおじさんによる常識クラッシュが始まる

次回、おじさんとモンスター2

おじさんが何でもかんでも出来る訳じゃない


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27 おじさんとモンスター2

書いて投稿わすれてーた
お脳がバグってる


映画鑑賞をしてから数日、常識が無いのはおじさんの方という事が判明しました……。そもそもこの世界の倫理観というか男女のアレソレに関する閾値はものすっげー低いのね。

そりゃヤリまくってると思っても仕方無いわ。戦前の日本の農村位のモラル感、詳しくは自分で調べてみてくれ。

それに根本的な所が色々違ってる。何と言うかゲームや映画で慣らされた地球の先進国とは違って娯楽の少ない世界だ、禁忌感だとか考えの多様性の少なさは細かく言うまでもない。

考えが甘いと思いつつもベル君は何で……とか考えたが、どうせ女の子だからというのがキッカケだしな。ベル君らしい。

 

◆◆◆◆◆

 

ベル君達がダンジョンから戻った。

ウィーネちゃんと同じようにしゃべるモンスターが他にも居る……。うーん、意外と居るのか?

リリちゃんが深刻な顔で言葉を零す。

 

「何にせよ、この辺りが潮時ではないでしょうか」

「ウィーネちゃんの事?」

「えぇ、今はおじ様のスキルで人に近い状態ですが彼女の本質はモンスターです。このままではいずれ……」

 

春姫ちゃんと一緒に世話してた命ちゃんは困惑顔。

 

「しかしリリ殿……」

「酷かもしれませんがオラリオの外へ逃がせば基本的には生き延びられると思います」

 

生存って意味だとそうかもしれんが。

 

「……それは無理じゃない?」

「何がでしょう? 彼女なら外のモンスターに負けるなんて事は無いと思いますが」

 

それはそう。

 

「じゃなくて、彼女喋るんだよ? 知性があって、コミュニケーションが取れて、……そして幼い。

 子供が自分を世話してくれた人から離れたいと思うか?」

「ですがこのままで良いと!? 何時破裂するか分からない爆弾を抱えたまま日常を過ごせるとお思いですか!?」

 

どう返答したものかと考えてたら物音がした。周りのみんなもソレに気が付いて音の発信源を探すが……。

 

◆◆◆◆◆

 

「どうだ? ウィーネは居たか?」

「いえ、こちらにはヘスティア様の方は?」

「こっちも駄目」

「私の方にも居ませんでした」

「おじさんも探してみたけど居なかった。やっぱさっきの話を聞かれたっぽいね」

「そんな……」

 

リリちゃんがショック受けるのも分かるがソレは後にしよう。

 

「取り合えず全員で捜索。ヘスティアちゃんはベル君へ伝達宜しく。おじさんも出るよ」

「えっ、おじさん……イシュタルを抱えたままかい?」

「しょーがないでしょ! 色々やばい状況だし」

「それもそうか」

 

◆◆◆◆◆

 

イシュタルちゃんを抱えたままオラリオを跳びまわっていたら騒ぎが起こっていた。近寄ってみたらウィーネちゃんが石を投げられている状態。

oh……これはどうしよう。

脂肪操作でダメージ無しに蹴り上げる? 上へ飛ばして……あぁでも着地まではどうしようも出来んぞ。せめてもう一人……とか思ってたら小さいエルフがウィーネちゃん連れて行った。

人込みの外側にベル君、ヴェルフ君、命ちゃんが居たので降りて話をしたらどうやらリリちゃんらしい。そして集合場所は元ホームの地下室。それぞれ散らばって集合することに。

 

◆◆◆◆◆

 

集合したらウィーネちゃん、そしてリリちゃんも意気消沈。ベル君到着してくっ付くが町の反応を知ったウィーネちゃんは皆が話していた内容の意味を理解して泣き始める。

収集が付かずに再度ウィーネちゃんを匿う事になった。

 

皆が寝静まった頃におじさんの部屋にノック音が鳴り。出て見るとヘスティアちゃん。

 

「おじさん、ちょっといいかい?」

「……イシュタルちゃんも寝てるからリビング行こうか」

 

 

 

リビングへ移動して何時もの定位置、ソファーに座る。

 

「それで? どしたのこんな夜中に」

「おじさん、君の魔法なら彼女を安全な場所に逃がせないかい?」

 

逃がすね……。

 

「それは何処に?」

「それは……オラリオ以外だよ!」

「具体的に何処? そんなランダムジャンプみたいな事は……多分出来ない……はず?」

 

あれ? 何か感覚的に出来そうな気がするけど……いや、ウィザードリー的な『いしのなかにいる』は避けたいから止めとこう。

 

「何で君が疑問形になるんだい。でも具体的な場所かぁ……う~ん、あ! おじさんの世界は?」

「いやー? 人しか居ない世界なのに肌の色だけで差別があって戦争まで起こす世界だよ? 喋るモンスターなんて連れて行ったらそれこそ捕まって良くて見世物、悪けりゃ実験動物か標本にされるのがオチかな」

「……何かおじさんの世界は聞けば聞く程極端だよ」

「極端っつーか……まあ色々あんの」

 

肩を落としたヘスティアちゃんが改めて考えを整理する。

 

「しかし場所か……モンスターが居ても平気で、生活が出来る場所」

「何か心当たりが?」

「全然……」

 

力なく答えてテーブルにべしゃりとへばりつヘスティアちゃん。移動はおじさんがどうにか出来るけど流石に場所はどうしようも……。

いや……まてよ……。

 

「あー、なるほど。アホでー」

「?? どうしたんだいおじさん」

「いや、簡単な方法を一個見落としてた」

「簡単な方法?」

 

にんまり笑って事の大枠を放す。物凄く顔をゆがめてたが……それでも他の方法が思い浮かばない以上、コレを採用する他ない。

ヘスティアちゃんとちょっと話を詰めて大筋は決まった。

んじゃ、準備しながら計画を練っていきましょう。




おじさんは異世界の倫理観に触れそのズレを実感した

常識とは? そんな状態のおじさんを無視して周りは慌ただしく動く

次回、おじさんと盗人

おじさんの倫理観が壊れる


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28 おじさんと盗人

準備を始めよう。そう気合を入れて起きた当日。

ギルドからミッションが来た。ウィーネちゃん連れて20階層へ向かえ。

 

「で、コレを受けるの?」

「おじさんは……その、どう思いますか?」

 

不安そうな顔でベル君が聞いてくる。

 

「ん-、受けるとしてもさ。ベル君達だけで行ける?」

「ソコだな……おじさん抜きだと20階層は全員未経験、lvも足りてねぇ」

「lvは春姫様の魔法を使う事で補えるとして……危険な事には変わりません」

 

そうやってるとベル君が沈んで謝罪してきたが、おじさんは気にしてないし、他の子達もキッチリ飲み込んでるっぽい。

リリちゃんは……惚れた弱みだな。

 

◆◆◆◆◆

 

その日の深夜にベル君達フルメンバーでウィーネちゃんを連れてダンジョンに行った。

当然おじさんは留守番……なんだけど……。

 

「(まさか泥棒が来るとは)」

 

皆がダンジョンに向かってからホームに侵入してきたのが3人。動きからして連携して動いてる。

ベル君の部屋探ってる? ……外に作った女とかじゃないよね?

取り合えず拘束出来そうならして……この世界だと盗賊って個人で捕まえたら死刑当たり前だから最悪は殺傷かな。精霊ちゃんとイシュタルちゃん人質に取られるくらいなら仕方なし。

 

 

 

ファミリア狙ってくる盗人なんて冒険者崩れか他ファミリアかと思ったが……後者だった。おじさんって普段から跳びまわるからソッチの印象がめっちゃ強いけど、スキルを応用すると音がほぼ出ないんだよね。

壁に張り付いたりも出来るから本当に便利。天井から奇襲仕掛けて全員無力化。ヘスティアちゃんを待つ間にだるま状態にして傷口を塞いでから尋問に移る。

 

「さて、俺の事知ってるか? 後出来る事は身をもって分かったよね? 部位欠損しようが端から傷口は塞ぐから死ぬ心配は……まぁ少ない。聞きたい事は3つ。

 目的、身分、理由。

 話したら場合によって解放、またはガネーシャファミリアに引き渡し。俺の私刑は……しないでおく」

「っは、はは……こんなの聞いてねぇぞ、ディックス」

「……ディックス? それで目的は?」

「くそが! テメーらが匿ったモンスターだ! ソレを売れあ大金が手に入る! ソレがあればディックスを見返せたのに!」

「ふざけやがって! 俺らの腕と足を戻しやがれ! そうすりゃテメーを苦しまずに殺してやるよ!」

 

あかん……支離滅裂過ぎる。取りあえずウィーネちゃんが目的なのは割れたが、手順がお粗末過ぎる。会話内容的に中間層位の奴なのか? lv2と3の3人組だし下っ端って感じじゃなさそう……?

 

「ふーむ、言うつもりが無いと……ならおじさんもちょっと別方向で対話しないと駄目か」

「っは! どうせ拷問でも何でもするんだろう!? ただの痛みで俺らが口を割るとでも思ってるのか!?」

「いや、達磨状態でそれだけの口叩ける奴に拷問しても意味ないだろ。取りあえず外に行こうか対象:おじさんの秘密基地【テレポーテーション】」

 

目の前に現れた穴に3人組を放り込む。穴を潜ればオラリオの外、オラリオから数十キロほど離れた森の中にぽつんと建てられた掘っ立て小屋。

 

「なっ、何だこりゃ。さっきまでと景色が違う」

「あー、そういう驚きのテンプレは良いから」

 

そう言って3人組の髪の毛を掴んで小屋へ連れて行く。テーブルの上3人を仰向けにして並べ衣類を全部はぎとる。

 

「さて、今からやるのは……あんまりいい趣味じゃないし俺も出来ればやりたくないけど……お前ら口硬そうだから俺も諦めたわ」

 

そう言って保護用メガネにマスク、ゴム手袋を装着。更にその上から防護服を着る。

 

「おっ、おい。何だその装備は!」

 

動揺する男たちを無視してバケツに水を入れ材料を投入してかき混ぜていく。十分トロみが付いた所で器具登場。それを見て何となく察した男たちが俄かに騒ぎ出す。

 

「ふぅ、ふざけんじゃねぇ! てめぇそんなもの使ってみろ! ぜってぇぶっ殺してやる!」

 

そんな男たちの声を無視して着々と準備を進める。頭と体、腰を固定しマシンを所定位置へセット。

3人とも元気があって非常に宜しい。器具へ先ほど作った液体を塗布して、更に注入装置へも注ぎ込む。これで準備が完了。

 

「さて、察しの良い君達ならもう理解してると思うけど口を割るまでコレは続く。

 あぁ、俺は此処には居ないよ? 半日か1日おき位で様子見しに来るからそれまで十分にどうするか考えてくれ」

 

そう言ってからマシンを更に押し込む。男達全員が阿鼻叫喚しながら苦しむが無視してスイッチを入れる。

肛虐のお時間です。ではまた半日後。




ギルドからのミッションをこなすベル君一行

ホームに仕掛けられる攻撃

次回、おじさんとウラノス

おじさんは静かに暮らしたい


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29 おじさんとウラノス

数日後にベル君達が帰って来た。どうやらギルドからのミッションは達成、ウィーネちゃんも同胞(?)のゼノスの集団に合流出来たらしい。

おじさんもその間に色々調べたがイケロスファミリア所属って事と人工迷宮ってのがある事位以外の有力な情報は無かった。

あいつら人工迷宮の鍵も持ってないんだもの、苦労に対してリターンが少なすぎる。

戻ってきてからベル君は落ち込んでるし……これは暫く駄目かもしれん。

ヘスティアちゃんと話した内容も今の所棚上げだな、資金面で全く足りないし。

 

ダンジョンに潜ってない分、ギルドの書類仕事をおじさんがノーパソに纏めて処理してたらオラリオ全域への放送が行われた。

18階層がモンスターに襲撃されたと。ソレに対し冒険者を招集して対応にあたる……が、次の瞬間奪還からダンジョンへ潜るのが禁止にされた。

ギルドの指示が180度変わる事に街がざわつき浮足立っている。

 

その後対応はガネーシャファミリアが当たると正式に発表されたというのをホームで伝え聞いた。

 

「そっか、そんでソレにベル君が参加をすると」

「そう。ウラノスからの指示だ……そしておじさん、君にも」

「……え? おじさんも討伐参加?」

「いや、ウラノスが面会をしたいそうだ。例の件に関して」

 

何でギルド? つーか例の件?

 

◆◆◆◆◆

 

フェルズに案内されてやってきましたギルドの最奥。

 

「君が噂のおじさんか……」

「初めまして」

 

だだっ広い割りに明かりが無くて暗い部屋に座りじっとこちらを見てくる老成した神、ウラノス。

出された椅子はまさかの石。ケツ痛くなるぞコレ。

 

「ゼノスの支援を君に依頼したい」

「まあ、支援は良いけど具体的には? つーかおじさんのこの状況で動じないのも凄いなアンタ」

 

イシュタルちゃんが過去最高に引っ付いて離れなかったからこのまま来たけど……、まったく動揺してないな、フェルズから連絡行ってた?

 

「本来ならイシュタルにも聞きたい事があったが……ソレでは無理そうだな」

「察してくれてありがとう。多分心の傷だから時間かけないと駄目っぽいのよ。おかげでまともに外歩けないし」

「ふむ……君はゼノスを安全に移動させる事が出来き、人に近しい容姿であれば人とほぼ変わらない形に変容させる事も可能と聞いた。これは事実か?」

「(をーい! ヘスティアちゃん話って大枠話しただけじゃないのかよ!)」

「どうした? 出来ないのか?」

「はぁ、出来る」

「そうか、であればゼノスの支援に協力して欲しい。その代わりと言っては何だがイシュタルの件はこちらでも手を打とう。そしてヘスティアから聞いた君の計画だが……君の口から再度説明を受けたい」

 

割と思いつきで言ったのがここまで話大きくなるとは……。

 

◆◆◆◆◆

 

ウラノスと計画の詳細を詰めているとウラノスの発言が唐突に止まった。

何事かと思えばフェルズから連絡がありウィーネちゃんがダイダロス通りで暴れていると言う。

念のために面談は中断しておじさんはホームへ帰還。戻ったら誰も居なかったので自室で精霊ちゃんの隣に座って人心地つく。

 

◆◆◆◆◆

 

結局ダイダロス通りでの一件は神イケロスを追放する事で解決。

ただし、冒険者は騒ぎの起こったダイダロス通りを中心に捜索を続行、そして一般人からの風当たりが強くなりヘスティアファミリアは好感度最悪。

さてさて……マジでどうすっか。

そんな事を考えていたらヘルメスが訪ねてきた。どうやらゼノスたちの救出をと言ってきた……だが怪しい。

この話はヘスティアちゃんから聞かされた。つまりおじさんにはこの話を振って来なかった。おかしくない? テレポートは知ってるから当然というか集団転移魔法に辿り着いて良いはずだけど……。

もしかしてアイツあえて気付いて無い振りしてるという事は無いよな? ありえそう。渡された手記ってのも胡散臭い。

もう一度位〆ないと駄目かな……。

 

◆◆◆◆◆

 

事件から一夜明けた翌日の夜。フェルズから連絡が来た。

伝言は暗号化されていたが無事リリちゃんが解読、内容は助力の申し込み。そしてヘスティアちゃんからファミリア皆への問が投げかけられる。

 

ゼノスを見捨てるか、助けるか。日陰者の道か、日常の道か。

 

そしてベル君のゼノスを助ける宣言。周りの皆も前向きに救出に賛成している。

 

「その……おじさんはどうですか? ウィーネ達を助ける事に……」

「おじさん? 別に良いよ?」

「本当ですか!?」

「うん……というかさ、おじさんの魔法使ったらこの救助ほぼ失敗しないんだけど……」

「え?」

「だよね? ヘスティアちゃん」

「……ああ! おじさんの派生魔法‼‼‼‼」

「いや、忘れとったんかい……」

 

何で肝心な所でこんなにポンコツになるんだろうウチの主神。




ちゃぶ台をひっくり返すおじさん

そしてゼノスたちの行方は。

次回、おじさんとゼノス

遂におじさんが動く


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30 おじさんとゼノス

ゼノス編はおじさんが介入するとオラリオが暗黒街になりそう
ざっと考えただけで流石に止めました


救助作戦決行の日、用意した装備をそれぞれが身に着け街へと出る。おじさんも今日の日の為に用意した薬でイシュタルちゃんに眠って貰ってからヘスティアちゃんに精霊ちゃんとイシュタルちゃんを預ける。

 

「それじゃあヘスティアちゃん、二人の事宜しくね」

「ああ、任された」

「んじゃ、行ってきます」

 

やる事は非常にシンプル。ゼノスに合流して【テレポーテーション】で18階層へ送る。これだけ。

ただ全員が集まっている訳じゃないので数回に分けて使う必要があるのと、今現在ヘスティアファミリア自体が警戒されている。

フェルズの用意してくれた魔道具で地下に潜ってしまえば動きやすくはあるが、この魔道具って使用者の魔力使うからおじさん結構キツイ。

 

ヘスティアちゃんに誘導して貰いながら地下水路を進み、ゼノスと合流した端から【テレポーテーション】を使っていく。

既に4度、しかも一度に送る数が数でマインドダウンが近い。

 

「魔力は高い方なんだけど……やっぱおじさんの魔法は燃費悪すぎ……」

 

一人で愚痴ってたらオーブからヘスティアちゃんの声が響いてきた。

 

『おじさん、聞こえてるかい?』

「あい……次は?」

『ソコから北へ向かってくれ。次の子達を送ったらやっと半分だ』

「まっじかぁ。もうちょい鍛えとくべきだったか」

『いけそうかい?』

「ベル君に大見え切った手前頑張らないと駄目っしょ。おじさん、子供との約束は守りたい派なのよ」

 

重くなる瞼を必死に開けながら支持された方角へ走る。マナポーションを合間合間に飲んでもまったく回復が追い付かないぞ畜生め。

 

◆◆◆◆◆

 

ゼノスの半分を送った所でおじさんのマインドが一度底をついた。マインドゼロ直前だそうだ。

これ以上は無理という事でせめてヴェルフ君、命ちゃんに合流してゼノスの護衛にあたる。ああ、頭が重い。

フラフラした頭で二人に付いて歩き回っていると頭上から襲撃された。

ロキファミリアの古参、ガレス。ついでに言えばおじさんから酒を毎週買っていく超絶のんべぇ。

こりゃ魔剣ありでも二人は厳しいか。おじさんが不可視のマントを取って姿を現す。

 

「よっ、ガレス」

「……まさかお主とはな、この騒ぎの元凶はお主……ではないな。誰が首謀者じゃ?」

「ソレをおじさんが言うと思う?」

「それもそうじゃ……なっ!」

 

言い終わると同時に斧での強撃。ソレを丸盾で防ぐ。

うっごごごご、足元が石畳にめり込むとかリアル漫画的表現!

 

「お主自身もそうじゃが……その盾、ワシの一撃防ぎきるとかどういう性能しとるんじゃ」

「特別製だからね!」

 

そう言ってからタックルでガレスを掴み周囲の家をなぎ倒しながら突っ込む。追撃のミニストライクを顔面に入れる前に逆にアッパーを食らった。

目の奥に火花が飛び散るなんて表現があるが、そんなものじゃない。おじさん宙を舞ってるぜ……どんな馬鹿力だよ。

空中で体勢を整えて落下の勢い込みでガレスを殴る。盾で斧を受け、時に弾きながら拳を振るう。

時間は僅かながら稼いだ。後は一人で凍ってろ! ヘルメスの顔を思い浮かべて右手に集まれおじさんの怒り!

 

「おじさん今必殺の、パイルバンカー!」

「ぬぅ!」

 

きっちり防がれたし右手が痛いけど! 勢いは殺しきれないから流石に距離が出来るよなぁ!

 

「やれ!」

「氷燕!」「風武!」

 

流石にカチコチやろ! とか思ってました。氷割って余裕で出てくるんじゃねぇ!

ストライク(脚)で反動付けてからの、メテオストライク!

盾と斧がぶつかり金属音が鳴り響く。うっそだろ、おじさんの全体重乗っけてるのに受け止めきれるんかい!

 

「おじ殿! どけ!」

 

その声に弾かれガレスから離れると先ほどの魔剣よりも強い冷気がガレスを襲う。

発生源は椿ちゃん、ヘファイストスさんからの増援らしい。椿ちゃんに発破かけられたヴェルフ君は負けじととっておきの魔剣を取り出し振るう。

そして出来上がったガレスの氷漬け。でも眼だけは動いてるしこっちを視認してる……。lv6ってやっぱ化け物かもしんない。




久々に動いたおじさん、能力不足を感じる

次回、おじさんとゼノス2


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31 おじさんとゼノス2

ガレスをどうにか撃退してゼノスを西の扉へ送った。ガレスとやりあってからはおじさんは完全にガス欠状態。ヴェルフ君におぶって貰っての移動。

ぐったりしながら流れる街並みを見ていたら街に響く咆哮。空を見上げれば……逃げたはずのゼノス?

 

「ヴェルフ君、バベルへ向かってくれ……」

「ああ、了解だ」

 

何故迷宮に逃げ込んだはずのゼノスが飛んでいるのか、どうにも嫌な感じが拭えない。

 

◆◆◆◆◆

 

ヘルメスはバベル前の広場を見渡せる塔の屋上に立っていた。

普段以上にその頭を働かせながら民衆とゼノス、そしてベル・クラネルの事を見据えて。

 

「広場は劇場、住民は観衆。怪物と冒険者、一番の懸念材料は魔力切れで動けず、他の細工も流々。さぁベル君。舞台は待ってる、他の冒険者では歯が立たない中、怪物を倒せる英雄を!」

 

もしこの時のヘルメスをおじさんが見ていたら、こう言ったはずだ。

 

『ドラッグキメてる奴の顔じゃん』

 

◆◆◆◆◆

 

 

背負われたままバベル方面へ向かっている道中でヘスティアちゃん達に合流した。情報共有したら新事実。

ゼノスはバベル前広場で暴れてる。作戦の根底部分にあった手記には手を加えられている。それに手を加えたのはヘルメス。

回らない頭に怠い体。意識をどうにか繋ぎながら到着したバベル前広場ではゼノス達が絶賛暴れ中。

ベル君はエイナちゃん庇ってガーゴイルの攻撃を止めてるし……ああ、頭が回らん。

 

「ヴェルフ君、タイミングが来たらおじさんが魔法使うから誘導と、後処理宜しく」

「了解だ、安心して気絶してくれ」

「リリちゃん、場面を読んで魔法使うタイミングを指示して、もう考えるの辛い」

「解りました。見ておきます」

「誰か、予備のマナポーション余ってる? ダメ押しで飲んどきたい」

「春姫殿」

「おじさま、こちらを……」

 

本日何本目かのマナポーションを飲ませてもらう。壁に寄りかかりながらその時を待っていると大きな咆哮が聞こえて来て、広場から衝撃が伝わってくる。

強烈な破壊音と咆哮。聞けばベル君が黒いミノタウロスと戦っているらしい。

どさくさに紛れてリリちゃん達が広場で暴れていたゼノス達を確保。軽く話を聞けばどうやら暴れたのはヘルメスの指示らしい。

ベル君の名誉回復を図ってらしい。考える余力が無いので魔法に集中する。

そしておじさんは18階層へのテレポーテーションを使ってゼノスが全員穴へ消えた所で意識を手放した。

 

◆◆◆◆◆

 

後から聞いた話では地上に現れたゼノス達はロキファミリアに全滅させられたという筋書きらしい。どういう裏取引があったのかは知らんがよくロキちゃんに条件を飲ませたものだ。

またどこぞの情報媒体にベル君と黒いミノタウロスの戦いを称賛する記事が書かれ、ある程度のヘスティアファミリアへの風当たりも緩和、自体の規模に対してはある程度丸く収まったと思う。

 

事後の情報共有で話を聞いていたらヘルメスがアスフィと共に訪ねて来た。

怒り心頭のヘスティアちゃんから蹴りを食らって階段から転げ落ちたヘルメスにおじさんはサイコロを2個投げ渡す。

 

「10面ダイス? コレは何だい、おじさん」

「ヘルメス、アスフィの力のステータスの『下二桁』は何だ?」

「猛烈に嫌な予感がするが……アスフィ」

「21です」

「んじゃ、アスフィちゃんはコレね」

「6面ダイス……」

「アスフィちゃんのダイスで部位を、ヘルメスのダイスでロストor減少を決定。21が基準値、OK?」

 

おじさんの声にヘルメスが脂汗をだらだらと流し始める。

 

「そっ、その部位って因みに……」

「今回はウチのファミリアで話し合ってメニューを決めたよ。コレがそのリストね」

 

1、心臓

2、両手

3、両足

4、頭

5、毛

6、股間

 

リストを見たヘルメスはどんどん顔を青くしていく。

 

「どれもダメだが! ふ、二つ程オカシイ選択肢が無いかな!?」

「ロストじゃなけりゃ助かるよ。それともアポロンと同じにする? ああ、因みに今回のお仕置きはおじさん主体じゃないから」

「えっ……」

「おじさん自身はゼノスと交流が(ウィーネちゃん以外)殆ど無いから思う所が少ないけど、他のメンバーは違うからさ」

「つまりコレはヘスティアファミリアメンバーから出されたリストという事でしょうか?」

「アスフィちゃん正解」

「コレやらない場合は最悪天界への送還にすっけど?」

「……やります」

 

◆◆◆◆◆

 

結局ヘルメスは1発目で毛のロストを出して泣きの1回を土下座で申し込んできたので2度目を振らせたら、2度目は股間の減少。

ある意味究極の選択を迫ったら後者をヘルメスは選んだ。

なので施術の際に毛もついでに減少させといた。あいつ基本帽子取らないからホームに帰って脱いだら気づくだろう。

綺麗なカッパヘアーになっている事を。

 

 

 

こうやって今回の騒動は一連の幕を閉じた。

1か月にも満たない時間で目まぐるしく変わった情勢に溜息を吐きながらもおじさんは再度ウラノスの所へ向かう。おじさんのゼノス支援は始まったばかりだ。




マインドダウンおじさんは結局活躍らしい活躍も無く退場

後日事の顛末を聞き、ヘルメスへのおしおきをファミリアに任せると結構えげつない事に

次回、おじさんと建築

おじさん別の意味で本気だす



※ヘルメスの股間は4センチになりました。(リアルダイス)


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32 おじさんと建築

ゼノスの一件が無事(?)終了し、ヘルメスへのおしおきが片付いた後。改めてウラノスに呼び出されて前回話し合った計画を本格的に進める事になった。

 

「実際にコレを推し進めるのは良いけど、まずは場所の選定からになるぞ」

「フム……最低でも水場……出来れば山岳地帯に近しい場所が理想か……。フェルズ、何か心当たりは無いか?」

『いや、私もそれなりに生きているが地理にはそこまで詳しい訳ではないのでな、流石に分からない』

「地図は? おじさんのイメージだとまず地図を見るもんなんだけど……」

『オラリオ周辺の地理ならある程度正確だが……他は町がどの方角にある等の情報以外は大雑把だ。例の場所の選定を行うには情報が荒すぎる』

 

見せてもらった地図は大体何処に何がある、位なら分かるが縮尺等は適当で今回の計画に使うには正直使えない。

仕方がないのでその辺も含めておじさんの仕事としてギルドからのミッションとして扱ってもらう事をウラノスと契約。それに伴ってファミリアのギルドへの納金も大幅減額。

書類上もおじさんはオラリオから自由に外出可能という状態にしてもらう。正直コレはやぶり放題なんだが……気にしてはいけない。書類上も大丈夫というのは何かあった時に便利なのだ。

勿論ちゃんと契約書を書いておじさんが書類の原本、ギルドが写しを持つ事に。

 

「そういや前言ってたイシュタルちゃん用の薬って用意してくれたの?」

「ああ、フェルズ」

『コレだ』

 

そうやって渡されたのは……水薬、薄い緑色。親指程の大きさのガラス瓶に収められている。

 

『精神を安定させる為の薬だ。理性を取り戻す作用がある』

「それ大丈夫なの? 調子悪いのを何か無理やり戻す様に聞こえるんだけど」

『同時に体調も万全になる様に調整してある。大丈夫なはずだ』

 

すっげぇ不安があるなオイ。こりゃおじさんなりのやり方の方が良いかも。

 

◆◆◆◆◆

 

ウラノス達と話し合った日の夜……つーか話し込んでたら既に深夜、改めてヘスティアちゃんと事の詳細を話し合った。

 

「という訳で、例の奴を作る事にはなったけど。『何処に作るか』から調べる事になったんだけど……」

「その辺の情報集めからおじさんの仕事になったと」

「そういう事」

 

そう言いつつ深夜のカップ麺を啜る。何せさっき帰って来たばかりで晩飯は既に片付けられてた。

温め直すのも面倒なのでカップヌードルで済ませる。おじさんの好きなシーフード味。

 

「おじさんの事だ、どうせソレだけじゃないんだろう?」

「コレ」

 

そう言ってからフェルズに渡された水薬を見せる。ヘスティアちゃんがお茶を飲みながらソレをまじまじと見る。

 

「イシュタルちゃん用に貰った薬。何か効果はありそうだけど色々と怖いからおじさんなりの方法を取ろうかなって」

「それで?」

「うん、おじさん所の医者に見せようかなって」

「ふーん……ん? おじさんの所の?」

「精神科医に」

「つまり?」

「イシュタルちゃんと精霊ちゃんをおじさんの世界に連れて行こうと思って」

「はあぁぁ!?」

 

椅子から立ち上がり此方へ詰め寄ってくるヘスティアちゃん。近い近い。後ツインテールを揺らすな。

 

「待ってくれ! おじさんの派生魔法【ワールドテレポート】っておじさん専用じゃないのかい!? 以前そう言ってただろ!?!?」

「??? おじさん専用だけど?」

「????? ……専用ってもしかして『おじさんだけが唱えられる』って意味で言ってる?」

「前に『おじさん位しか使えないだろうね』って言ったじゃん」

「てっきりボクは【テレポート】と同じでおじさん1人用のモノとばかり思ってたよ」

「ん~、多分初めはそうだったと思うけど……何回も引き継いでる中で変化したと思う」

「【引継ぎ】スキルの影響って奴かい?」

 

そう、おじさんって人生何回目か忘れたけどアホみたいに人生やり直し中なのでスキルの応用幅が段々と広がってるのよね。リスタートも最初の頃はコッチの世界に来た時点だったのが段々と来る前になって、今じゃ10歳位からリスタートしてるし。

 

「そんな感じだね。だからあの二人を連れて一回向こうに戻ろうかなって」

「そっか、でもおじさんの世界か……聞いたこと無かったけどどんな所何だい? 人しか居ないって言ってたけど」

「言った通りだけど? 人以外は神もモンスターも居ないし、何ならおじさんの国じゃ武器持つの何て国から許可を貰った特定の職業だけ。基本的な争いは特に無い。あるのは基本……仕事と娯楽?」

「……なんだそれ?! おじさんの世界って天国みたいな所じゃないか!!」

「んーー、資本主義だから基本お金が無いと何も出来んぞ?」

「うっ、そっちでもそう言った所は変わらないのか。でもそれなら二人を連れて行ったらおじさんの負担になるんじゃないのかい?」

「いや? アビリティのお陰か宝くじ買うと大体当たるから海外と日本で買って当てれば活動資金はソレで手に入るし。値上がりする業界の株を広く買ってれば大体損しないから特には問題ない」

「つまりおじさんって向こうではお金持ち?」

「まあ、国家予算位には預金あるし……後は雪だるま式だから」

「おじさん!」

 

ヘスティアちゃんが抱き着いてくる。

 

「ボクも連れてけ」

「……良いけど精霊ちゃんとイシュタルちゃんの面倒見るの手伝ってくれる?」

「OK! 因みにボクが付いて行かなかった場合はどうするつもりだったんだい?」

「ん? 姉妹にでも頼もうかなって。妹は専業主婦だから金出せば面倒みてくれるだろうし」

 

◆◆◆◆◆

 

という訳でやってきました日本! 九州!

そしておじさんの自宅!

因みにファミリアの皆には数日で戻ると言ってある。

 

「はー……なんていうか……ボク達の元ホームを大きくした感じだね」

「ああ、あれは此処をスケールダウンさせたイメージで建てて貰ったからね」

「へぇ」

「取り合えず上がりなよ」

 

ハウスキーパー雇って定期的に掃除して貰ってるからホコリまみれにはなってない。リビングのソファーに精霊ちゃんとイシュタルちゃんを座らせる。

 

「ふーん、何かボク達の生活とそこまで変わらない感じだね」

「そう?」

「かなり明かるいけどランプは向こうにもあるし、でも靴を脱いで家を歩くってのはボク好きだぜ」

「取り合えずおじさんは病院に連絡して予約取るけど……晩飯は……面倒だし出前でピザにでもするか」

「あっ、おじさんが教えてくれた『てれび』があるじゃないか」

「ソレには字幕出ないけど……見るなら好きに見ていいよ」

「お、アニメが一杯ある! ボクアニメ好きなんだよね~」

 

そう言ってからおじさんは医者の予約を取りに少し席を外した。精神科と失語症専門の所を予約してからリビングに戻ったら……ヘスティアがメイドインアビスを見ていた。

数あるアニメからソレを引くのかよ……まぁ見た目というかサムネは子供向けだからね……仕方ないね。

 

その日おじさんはピザ食って風呂入ってさっさと寝た。ヘスティアちゃんは最後までメイドインアビスの1期を見て発狂してた。




おじさんの穴あき計画が今動き出す

穴を埋めるのは圧倒的! 金!

そして連れ出す神と精霊

次回、おじさんと建築2

イシュタルちゃんの治療は成功するのか?


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33 おじさんと建築2

全然話進まない!?
まぁそういう事もあるか……


翌日、起きてリビングに行くとヘスティアちゃんがソファで横になっていた。どうやらアニメ見てそのまま寝たらしい。

 

「ヘスティアちゃん、朝だぜ」

「うーん、あと5ふん」

 

何時も通りに朝が弱い。ヘスティアちゃんは放っておいて朝食の準備をする。

と言ってもご飯炊いてインスタント味噌汁。イシュタルちゃんにちょっと出かけるのでヘスティアちゃんと居る様に言ってから近所のコンビニで追加のおかずを数点買ってから帰宅。

帰り着くと流石にヘスティアちゃんも起きていた。

 

「おじさんおはよ~」

「おはよう。顔洗ってきなよ、イシュタルちゃん案内してあげて」

 

そう言うとヘスティアちゃんの手を取って洗面台へ案内するイシュタルちゃん。何かコッチの世界来てからめっちゃ簡単に言う事聞いてくれるな……向こうだとしがみ付きっぱなしだったのに。

首を捻りつつ買って来たおかずとご飯を並べる。

 

「なあ、おじさん」

「どしたの?」

「昨日も思ったけどさ……これ、無理してないかい? 結構なごちそうじゃないかい?」

 

指さしてるのはコンビニのお惣菜……。

 

「普通に買える……というかそんな高い値段じゃないけど」

「そうなのかい? だって味はしっかりしてるし、オラリオならソコソコの値段がするような品だと思うけど」

「ヴァリス換算だと……全部ひっくるめて200ヴァリス位だけど」

「は? これ全部で?」

「うん」

「安すぎじゃないか!?」

 

そんな事言われても……こっちだとじゃが丸君なんて1個5ヴァリス位の値段になるぞ?

 

「5ヴァリス……何だいこの世界とオラリオの金銭の落差は……、というかこの食事はじゃが丸君40個相当なのか……」

 

何故じゃが丸君換算……。

朝食を終えて落ち浮いた所で通販の時間だ。

 

「通販?」

「まずは服を買います」

「これじゃ駄目なのかい?」

 

そう言ってから自分の服を指すヘスティアちゃん。胸を揺らす謎青紐もそうだが……。

 

「おじさんの国じゃね……君の格好って基本痴女なんだよ」

「痴女!?」

「後、前から思ってたけど下着もダサいし」

「ダサっ!?!?」

「という訳で、イシュタルちゃんとヘスティアちゃんにはおじさんがコンビニで買って来たファッション誌から良さそうな服を身繕いなさい。サイズは……まあ、フリーサイズ買ってから後で店でちゃんとしたの買おう」

 

◆◆◆◆◆

 

あの後必死の形相でファッション誌見てたイシュタルちゃんとヘスティアちゃんがコレというモノをネットで購入した。その際、ヘスティアちゃんが商品名をしれっと言ってきたのでどうして分かったのか聞いたら普通に読めるし、昨日見たアニメも普通に音声を聞き取れたという。

考えてなかったけどおじさんもオラリオの読み書きっていつの間にか出来てた……もしかして【ワールドテレポート】の作用?

ちょっと疑問が出てきたが……まあ便利だから良いかと疑問を横にやる。

 

速達で洋服を受け取ってから早速着替えて服を買いに車でユニクロへ。

喋れないイシュタルちゃんもだがヘスティアちゃんと一緒に車と街並み、そして店の商品に非常に驚いていた。既製品の概念はオラリオにもあるけど基本不揃いだもんね。

店員に聞いてリしながら衣装を選ぶこと1時間。女性の買い物としては早く終わったと思いながらさっさと会計を済ませて昼飯へ。

外人さんに振る舞う食事の代表格となるとどうしても寿司のイメージがあるので回転ずしをチョイス。オラリオじゃ海鮮なんて食う機会が少ない二人は大変喜んでくれた様だ。

 

「どう? 生だから嫌がる人は嫌がるんだけど」

「ボクは平気だよ」

「イシュタルちゃんは……」

 

目をキラキラさせながら首を縦に振り肯定している。大丈夫っぽいな。

食事が始まればヘスティアちゃんは元気いっぱいに頬張り、イシュタルちゃんは上品に食事を取る。やっぱそれなりのお店に出る機会とかあったのかね?

 

食事を終えてからは一度病院へ。そこでイシュタルちゃんを一度診てもらい、ついでに精霊ちゃん用に車椅子を購入。カウンセリングして複数の薬を処方された。

ただカウンセリングしてもらった所、そこまで悪い状態ではないと言う。

ストレスの原因から切り離されている為とか医者が言うが……もしかしてコッチに来てる状態が精神的に良いのか? それからおじさんへの依存もやっぱり見られると。まあ、それは正直分かってたので別に良いや。

 

取り合えず経過観察という事で薬の処方と定期的な検診という結果になった。打倒な結果なんで特に問題なし。週1回の診察を取り付けてオラリオに戻ろうとなったんだが……。

 

「下着を買いたい?」

「そうだ! おじさんがボクの下着をダサイなんて言う位だ! こっちの下着は凄いんだろう!?」

「凄いっちゃぁ凄いけど……見せる相手居ないでしょ。処女神なんだし」

「うっ、いや! この先必要になるかもしれないじゃないか!」

「ベル君相手に?」

「~~~~そうだよ!」

「そんな赤くならんでも良いじゃない……」

 

顔真っ赤にしながら喚くヘスティアちゃん。それを眺めてたらイシュタルちゃんに袖を引っ張られ、じっとこちらを見てくる。

 

「もしかしてイシュタルちゃんも?」

 

真剣な目で頷くので携帯でランジェリーショップを調べて向かう。

好きに買ってくれって事で店員さんにお願いして商品を見せてもらう事に。選び終わったらおじさんの携帯に電話して貰うよう言ってから量販店とホームセンターで必要なモノを大量に買い込んで配達して貰う事に。

それなりに時間が経っておじさんの買い物が粗方終わったが連絡が来ない。気になってランジェリーショップに行ったら未だに選んでた……どうやら下着の値段見て悩んだらしい。

迷惑料も兼ねて今まで選んだ下着をサイズ合わせて全部買い上げ、こっちも後日届けてくれるようにして数点だけ手持ちで持ち帰る。

 

何かアホ程疲れたがどうせオラリオに戻るから良いかと考えてたが……後日SNS見てたらおじさんを含む3人の写真がUPされてるのを見つけた……ネットリテラシー。

当然と言うか、美人っつー事で拡散されるわ、一緒に居る奴は誰だ? って事でおじさんにも飛び火するし……。

弁護士雇って速攻で訴えた。

ついでにおじさん関連の写真をUPしたら即刻検知して報告と同時に削除されるようにお抱え企業に委託。併せて訴える手筈も整えたので写真を利用した連中には漏れなく高額請求が届くことになる。

 

……因みにぶんどった金額は経費を除いて、全額弁護士の方に送る事にしているので非常に仕事熱心にやってくれた事を此処に示しておく。

おかげでおじさんは一種のブラクラ扱いされるようになったけど、実害あるよりは良いと思う事にした。




神が日本語を学び、アニメを見る

エンタメを理解した神々、娯楽の門が今開く

次回、おじさんと建築3

消費社会の大量の生産に驚く神々









オカシイ……もっとさっと終わらせて話が転がるはずだったのに。
沢山の感想と評価、誤字報告。本当にありがとうございます。
返信はしてないですが全部目を通してます。


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34 おじさんと建築3

SNSが一時『異次元的美人』や『アニメから出てきた』等のワードがトレンドに入る位には賑わった翌日、通販や店で買った商品が続々とおじさんの自宅に届いていた。

受け取った端から【トラベラー】に突っ込んでいくので別に荷物にはならなかったがオラリオに帰ってからの荷ほどきは……考えない様にしよう。

 

「おじさん」

「ん?」

 

声がかかり振り返ると着飾ったヘスティアちゃんとイシュタルちゃん。やっぱ女神なだけあるわ、思わず拍手。

 

「ふっふっふ」

「何さ?」

 

イヤらしい感じの笑顔を見せるヘスティアちゃん。あ、イシュタルちゃんは相変わらずおじさんにくっ付くのね。

 

「どうだいこのブラジャーって奴を付けたボクは? よりセクシーになったかい?」

 

そう言って胸を強調してくるが元から大きかったからな、寄せてあげるよりも形優先のブラにしたっぽい。

 

「んー、ベル君相手ならその変化でも十分高威力じゃない? もうちょい仲が進めば魅せ下着とかもアリだけど」

「みせ?」

「相手が見る事を前提とした下着とか、後は交尾前提の下着、下着の用途を無視したエロエロ下着とか……ヘスティアちゃんなら紐とか?」

「いや、前半もオカシイけど最後のボクなら紐ってどういう事だよ?!」

「そのままなんだが」

「ムキー!」

 

ムキーじゃないが、普段胸にくっ付けてるから紐のイメージが強いんだよヘスティアちゃんは。

後イシュタルちゃんも対抗するようにおじさんの顔に胸を載せるの止めて。病人に欲情する趣味はございません。

 

「そういやおじさんってその辺の処理ってどうしてるんだい?」

「……めっちゃ突っ込んでくるじゃん」

「まあ、此処なら他の子も居ないし」

「それで良いのか処女神……ぶっちゃけネタならおじさん世界由来のモノが幾らでもあるから一人で処理してるよ」

 

言った瞬間イシュタルちゃんが首元に嚙みついて来て痛い。

 

「じゃあベル君もどうにかしてるのかな?」

「14歳でしょ? 冒険者で命の危険もあるし、相応に性欲もあると思うけど……あの子妙な所で教育偏ってるからな。歓楽街とか行っても駄目っぽいし、処理の方法とか知らない可能性もワンチャンある?」

「ボクからしたらその方が良いけど……」

「いやー、そうなるとヘスティアちゃんとベル君が初夜迎える時って大変そうだね」

「へ?」

「考えてもみなよ、高レベル冒険者で前衛の体力無尽蔵、精力ガンガンイケイケの14歳。身体スペック一般人の処女宣言フルオープンの神。

 この二人がベッドインして1回で終わる訳がない。一般人なら良くて2~3回もすりゃ落ち着くけど冒険者だぜ? しかも童貞だろうから覚えたては獣の如し。

 ヘスティアちゃんが耐えられるか、おじさんはソコが心配だよ」

 

おじさんの未来予想に顔を青くするヘスティアちゃん。ちょっと想像出来たらしい。

それでもベル君となら! とか盛り上がってるが現実は厳しいからな。

しゃーないので夜の営み用のグッズも通販で買ってやった。ゴムやローションが中心だけど。

 

◆◆◆◆◆

 

通販で購入した荷物が全部届いてからオラリオへ戻った。戻った日は荷解きだけでほぼ1日が消え、通販で取り寄せた料理やデザートをお土産としてファミリア全員で食った。

戻ってからもイシュタルちゃんの調子は良い様でコレならあの水薬を使わないでも良さそう。

とは言え、定期的に受診する為に土日感覚で向こう側に連れては行くが。

 

戻った翌日からおじさんの生活はオラリオ外への遠征2日、情報纏め1日、ダンジョンアタック2日、治療2日というルーチンになった。

軍用のドローンを飛ばして地図を作り、良さげな場所があれば細かい地形調査。そうでなくても手に入った情報をPCで纏め、地図として落とし込む。

それが終われば二日程ダンジョンに潜ってステイタスを上げる……まあステイタスは殆ど上がらない状態なのでレベル上げの偉業を何かしないといけない。

ただそんな旨い話はそうそうないので基本ファミリアのPTと共にダンジョンへ潜る程度だ。おじさんが居ると狩場への階層移動時間が0になるのでヘスティアファミリアだけの狩りでは【テレポーテーション】を解禁してる。

ゼノス助ける時にも見せたし、ええやろって事で。

 

そんな生活を暫く続けていたらギルドからミッションが降りたらしい。おじさんとの取引でその辺りは緩和されてたはずだけどと首を傾げながら用紙を見れば確かにギルドからの正式なもの。

おじさんがソロでやってた時にも見た奴だし間違いは無い。

首を傾げながらもベル君達はミッションに乗り気な様なのでこの場での突っ込みは止めておこう。折角のやる気を潰すのも勿体なしい。

 

「で、初の階層だからおじさんにも付いて来てほしいと?」

「出来れば……で良いんですが」

「リリちゃん、面子は?」

「ヘスティアファミリア以外にも声を掛けてみようかと、主にタケミカヅチファミリア、ミアハファミリアです」

「じゃあテレポーテーションは無しか。ちょっとおじさんがやらないといけない手続きがあるから直ぐって訳じゃないけど1週間準備期間くれるなら時間空けとくよ」

「ありがとうございます!」

「これでベル様とおじ様、lv4が2名。戦力としてはかなり安全になりました。後は他ファミリアとの面子次第で隊列を組みましょう!」

 

ノリノリで遠征を考える皆を見ながら地図作りの自動化が出来ないか知り合いのプログラマーにメールで連絡をとってみる。AI使った自動化が可能って事らしいので早速頼んだ。

遠征行く前には出来上がるっぽいから操作方法だけフェルズに教えて丸投げしておこう。出来るだけ操作をシンプルにって注文付けて自動化すればフェルズなら大丈夫だろ。




主神とのエロ談義をしながら別の神とイチャコラするおじさん

自動化の波はオラリオにも!?

次回、おじさんと下層

おじさんの知らない所でオラリオに……。


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35 おじさんと下層

カウンセリングに連れて行ったり地図の作成を行ったりの1週間を過ごし、次回予約を先延ばしにして手あたり次第にキャンプ道具を買い漁る。

正直今までダンジョン内で野営とかしてないからその辺りは素人なんだよね。キャンプ雑誌も仕入れたから空き時間で読んでおこう。

ついでにテントの設営練習をホーム庭でやってたらリリちゃんに色々と突っ込まれたが、簡単に言ってしまえば便利な道具はこちらにも融通して欲しいとの事だ。

そりゃ利便性はあるだろうけど……ダンジョンで同じこと出来るかは未知数だから今回の遠征で試してからねと断っておいた。

そうやって色々と試していたらあっという間に一週間も過ぎており、遠征前夜。ヘスティアちゃんが友神を集めて酒盛りしたいつーから向こうの酒を適当に見繕って渡してやった。

 

「ヘスティアちゃん、その服着ていくの?」

 

着替えを終えて出てきたヘスティアちゃんはユニクロで買った服、下着、靴。全身向こう側のコーディネート。

一言で言うと18歳高校生の私服って感じがする。

 

「おじさんの世界の服って着心地良いからさぁ、割と癖になるよね。靴も履きやすいし」

「まぁこっちのって基本荒いからな……」

 

そう言って大きなリュックサックに各種お酒を詰めたヘスティアちゃんが出ていく。クーラーボックスに氷も突っ込んどいたからそれなりに楽しめるだろう。

 

◆◆◆◆◆

 

遠征出発当日、おじさんはイシュタルファミリアのアイシャちゃんに絡まれてた。

 

「で? おじさん、ウチの主神様とはどこまでいったんだい?」

「だから、病人に手を出す訳にもいかんから何もしてないって言ったじゃん」

「はー……頑固さはアンタもリトルルーキー並か。じゃあ春姫の方はどうなんだい? あれだけ宣言してたんだ、何度か抱いたんだろ?」

 

肩を組んでくるアイシャちゃん。そんなもん春姫ちゃんを見れば分かるでしょ。

そうやって指を指せば真っ赤になって命ちゃんに隠れる春姫ちゃん。その反応で盛大に溜息を吐くアイシャちゃん。

 

「なるほど、そっちにも手を出して無いんだねアンタ」

「待て待て。(あの子はベル君に好意を寄せてるはずだろ……普段の言動的にも)」

「……やっぱアンタ、リトルルーキーと似てるわ」

 

おいマテ。残念そうな顔でこっち見るな。というか春姫ちゃんはマジでベル君枠だろ!

 

◆◆◆◆◆

 

それなりの日数を費やして到着した25階層。特に大きなケガや損失も無く順調、後はミッションの品物を集めるだけ。

 

「んで、集めるのを改めて確認しようか」

「ブルークラブの甲殻10を中心に資源やドロップアイテムが数点、レアドロップが出た場合はソレでも対応可能です」

 

書かれたリストを見せてもらい確認する。……このリストって以前おじさんが納品してたリストに似てるな……、やり方は分かるから良いが地上に戻ったら一度調べた方が良さそうだ。

 

「うん、大体のは分かった。けど何処に何の敵が出るかってのはおじさん今一把握してないからその辺の案内はアイシャちゃんよろしく」

「はあ……アイシャで良いって言ってるだろ、主神様にもそう言われてるんだからさ」

「はいはい」

 

そうやって軽口交じりに下層を進み指定のドロップアイテムを集めながら資源回収を行う。資源に関してはおじさんが知らないモノが結構あって逆に勉強になる。今まで結構無駄にしてたんだな。

戻ったら一度資源に関しても資料に目を通そうと考えながらアイシャと話してると前方から嫌な感じがする。アイシャもそれを感じ取り周りに声をかける。

 

「全員、構えな」

 

一言で全員に緊張が走り警戒態勢へ。暫く前方を見ていると負傷したエルフ冒険者が出てきた……おじさんが感じたのはコレじゃない。

段々と近づいているのは間違いないので右手を構える。出てきたのは……何だあれ、外見はモスヒュージに近いけど子の階層には居ないし。

敵の正体はよくわからんが見敵必殺。瞬間ストライク(脚)を使って敵の懐へ飛び込む。

 

狙いは胴体、速度も十分! パイルバンカーを胴へ叩き込もうとしたら……左手で防がれた!?

インパクト直前、モンスターがまさかのバックスウェーかまして左手を差し込んできやがった。

結果、敵の左腕は肘から先を失う事になったが……クソが、決めるつもりだったのに。やっぱ鈍ってるかも。

おじさんに続いてベル君も前に出る。俊敏を生かして連続攻撃してるが……ランクアップのズレが大きい様で結構避けられてる。それに回避もやたらと距離取るし。

調節には丁度いいかと観戦してたら敵が両手をクロスさせて身構えた。体から何やら突起を出している。そしてソレを見た負傷したエルフが叫ぶ。

 

「そいつをくらうな!」

 

直ぐにストライク(脚)で離れるが一発当たった。モンスターはソレを見たのか引いて行った。

 

「結局これは何……」

「千草!」

 

振り返ればタケミカヅチファミリアの千草ちゃんが負傷して肩から……ツタが出てる。負傷エルフも同様。

被弾した足を見れば何も出てこないおじさんの傷。傷に入り込んでるモノを抜くとそれは種子だった。

なるほど、こいつが発芽してるのか。おじさんこの手の奴は幸運脂肪が防ぐから気にしないんだよね……。

通りあえずはメンバーの回復せねば。




珍しくPTを組み下層へ挑むおじさん

普段とかってが違い四苦八苦しながらも足並み揃えようと頑張る

次回、おじさんと下層2

春姫はどっちなのか……それはおじさんも知らない


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36 おじさんと下層2

一部間違ってたので修正


千草ちゃんとエルフに対して絡みついた蔦を取り除こうとしたが結局カサンドラちゃんの回復魔法も、おじさんのスキルも駄目だった。

回復魔法は回復した端から生命力を吸われ、おじさんのスキルだと根が回りすぎて取り出すとなると対象の脂肪消費が多すぎて無理。

診た感じ根っこは首から下、臓器を避けて四肢を中心に根を張るっぽい。多分身動き取れなくするのを優先してる。

手足を切り落として……なんてバイオレンスな選択肢も出たけど胴体にも食い込んでるから根本的な解決にはならんし。地上のヒーラーに見せるって話も出たが……見せた所でコレ解決出来るか? 植物を枯らす様な魔法なら良いけど……ピンポイント過ぎるぞ。

更にエルフのルヴィスが言うにはアレは冒険者が持つ魔石を狙って冒険者狩りをしているらしい。

 

話し合いの末に決定したのはコレを仕掛けたモンスターの討伐だった。おじさんもソレが無難な気がする。

というかカサンドラちゃんがおじさんを縋るようにするのは何なの? ちょっと接点の無い子からすり寄られるとおじさんは身構えてしまうんじゃが。

 

「おじ様、先ほどのモンスターの攻撃を受けても平気だったのは何故でしょう」

「おじさんのスキルだな……アビリティの耐異常とスキルが相まっておじさんは殆どの攻撃に耐性がある。あの位の攻撃なら素の状態で受けてもちょっとケガする程度だ」

 

リリちゃんがおじさんに確認しおじさんが基本タンク役を、アイシャとベルが前衛の脇を固めて救護者を連れて進むことに。

暫く進んだ所に結婚を見つけ辿るとルヴィスのPTメンバーとモスヒュージが居た……が、ちょいと変。

 

「あれって……」

 

冒険者2とコケで覆われてる人1か。

 

「アレってヒュージモスじゃないんですか?」

「ベル君、よーく見て。アレがあのモンスターとして、更に座っているとしてもだ……サイズ感が変、もっと言えば手足の造形も、体に纏わりついてた蔦も可笑しい」

「言われてみれば……」

「アレは多分この辺りに潜んでるんじゃないの? おじさんが罠を嵌める側なら水に潜って後衛を奇襲するけど」

 

全員が改めて身を引き締める。ベル君、アイシャをが先頭に立ち殿を一番ステータスの高いおじさんが務める。

全員でルームに突っ込んだ所に案の定水路から飛び出してくるヒュージモス。

 

「はい、いらっしゃい!」

 

当然の様に貯めてたパイルバンカーを脳天から叩き込み地面へめり込ませる。魔石に変わるのを見届けてから一息付くとルヴィスの仲間が弱弱しく忠告してくる。

 

「駄目だ……まだ……終わってない」

 

それを見ていたおじさんの方へ必死の形相で突っ込んでくるベル君とアイシャ。二人の目線の目線の先を辿れば……潰したはずのヒュージモスが……二体!?

咄嗟に丸盾でガードをするが時間差での攻撃に一体から右のどてっぱらを殴られ壁へと吹き飛ばされてしまう。

 

「いちちっ……くそ、まさか三兄弟か?」

 

埋もれていた岩を押しのけて這い出ればベル君が一体に捕まって水に引きずり込まれてる所だった。助けたいが……もう一体もやらないと不味い。

伸びろ! 如意金剛!!

伸びる勢いを借りてアイシャを襲ってるモスヒュージにタックルをかます。例の種子を飛ばしてくるが残念、おじさんには効かないのよ。

マウントを取ったおじさんが只管殴りつけやがて動かなくなる。

どうにか倒せたがベル君が川に流されちまった。命ちゃんの探知でも見えない範囲にまで出たと……。

 

ベル君救出も必要だがそれ以上に救護者をどうするかに焦点があてられた。けが人が増えた為に連れて歩き回るのはリスクが高すぎる。

一旦彼らを24階層の拠点に送り届けてPTを分ける事になった。リリちゃんにテレポーテーションの使用を打診されたがコレに関しては他派閥がこれだけ居る中で見せるにはリスクが高すぎる。

アイシャはイシュタルファミリアだからまだ良いけど、他のは流石におじさんと交流が無いので無理。

拠点に戻る最中にも又別の冒険者と会った。しかも蔦が絡んでる状態で。

結局彼らも一緒に拠点へ向かう事にして道中で情報共有を行う。アレの弱点が炎という事は分かったが……おじさんの精霊魔法って精霊ちゃん居ないと無理だしな。

かと言って精霊ちゃんを此処に連れてくるのも無し。ソロと違って役割こなすって難しいと感じながら進むと空気が変わった。

前方からの敵の大群に身構えると周りから敵発見の報告が次々入る。

 

「全方位から敵の大群かよ」

「クソッタレが……」

「これはおじさんでもカバー難しいぞ……」

 

焦っていると前方の奥から例のモスヒュージの叫び声が聞こえる。目を凝らせば……ブルークラブを追い立ててる!?

 

「ふざけるなよ……モンスターがパスパレードを仕掛けるだなんて」




増えるモスヒュージ強化種

水に落ちるベル君

次回、おじさんと下層3

おじさんが一段階進化する


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37 おじさんと下層3

もう10月です!
今年の終わりが見え始め、この小説もそろそろ完結が見えてきたかも?
ジョジョのカーズが好きだったりします。


「おじさんが突っ込む! 後ろから続け!」

 

そう言ってから地面の岩盤を踏み砕いて大きな一枚岩を取り出し、それを壁にしながら押し進む。

こちらに向かってくるモンスターを轢き殺し、推し進め大雑把にモンスターの群れを抜けて全員で走る。

 

「おじ様! 無茶苦茶過ぎます!」

「あの場で囲まれるよりマシでしょ!」

「ベルクラネルも大概だが、おじさん! アンタのステータスどうなってるんだい! 本当にアタイと同じlv4なのかい!?」

「そんなの後! 今は兎に角逃げろ!」

 

普段のおじさんならぶっちゃけ逃げずにひき逃げアタックかます所だが守るものあるとめっちゃ動きづらい! 何処まで守ればPTが生き延びられるか全然分からん! ソロでの弊害がめっちゃ響いてるぞ畜生!

 

◆◆◆◆◆

 

どうにか見通しの効く場所に辿り着き一度魔剣を使って敵の数を減らす事となったが、魔剣を使用した直後にモンスターパーティーが発生した。

魔物の大量発生……ソロのおじさんなら歓迎する所だが……。

 

「出現範囲が広すぎる! 逃げきれん!」

 

桜花君が現状を報告してくるが……やっぱ無理か。

 

「ここが使い時だろう」

「しかしアイシャ様、まだ強化種が」

「解っちゃいるがこのままじゃジリ貧だ。仕掛けるしか無いさ」

 

アイシャが救護者達に約束を取り付けてる間にリリちゃんから確認が来た。

 

「おじ様、春姫様のレベルブーストを受けた事は?」

「無い。と言うかおじさんは本来の動き方をすればここのモンスター相手なら特に問題は無いから対象から外してくれていい。その代わり」

「その代わり?」

「おじさん本来の動き方に変える。正直守らずの殲滅戦なら得意なんだ」

「解りました、それでは我々は救護者を中心に法円陣形。おじ様は単独での遊撃。この場を死守します!」

 

リリちゃんの宣言の後におじさん棒を腰へと終う。

両足を肩幅に開いて右半身を前に構える。

イメージするのは倒れない肉体、傷つかない身体。

際限なく回復して暴れ回る獣の如く!

 

「【庇護脂肪】体質変化:流動硬化(モード:ゴライアス)

 

 

 

瞬く間にアイツの皮膚は黒くなりふっくらしたシルエットが引き締まる。

前のめりに地面へ倒れこんだ様に見えた瞬間、アイツはその場から消えていた。響く何かがぶつかる音に消し炭になっていくモンスター。

全員それが見えていないがアイツが行っているという事だけは何となく理解出来た。

直ぐに春姫の詠唱が始まる。これなら詠唱は余裕で間に合う!

 

「これが……主神様が気に入ったおじさん……これがlv4? とんだレベル詐欺も良い所だよ」

 

迫るモンスターを切裂きながら春姫のレベルブーストを身に受ける。そうする事でやっとアイツが行ってる事が見えた。

洞窟内の壁、モンスター、時に空中を足場にしながらムチャクチャな方向転換と姿勢で繰り出す打撃。しかも何だいアレは、一瞬触れるだけでモンスターが粉微塵になっていく。

クソッ、こんな時だってのにアマゾネスって奴の本能は見境が無いね! 生きて帰ったら絶対相手して貰うよ!!!

 

 

 

視界が瞬間瞬間で切り替わる。見えた瞬間には敵に拳を叩き込んでいるこの感覚。これだ、これがおじさんのやり方。

 

「あはっ、あははははははは!!!!!」

 

やべっ、テンション上がって来た。コレやると何時もこうなるのが玉に瑕。

 

「これがおじ様のソロでの戦い方……」

「なるほどな、二つ名『超反射』ってのはコレが……」

「コレなら行けます! 押し返しますよ! アイシャ殿!」

「全員気合入れな! 超反射に続くよ!」

 

◆◆◆◆◆

 

目につくモノを片っ端から殴り、蹴り、潰して回っていたが視界の端に姿の変わった強化種が見えた。しかもソレがアイシャに向かって走ってる。

周りのモンスターを潰しながらアイシャを弾こうとしたが間に合わずにアイシャの肩にモンスターの牙が食らいつく。

 

「知り合いの娘に……何してくれとんじゃワレぇ!!!!!」

 

空中を更に蹴り加速、前転の要領で回転を加え伸びた口に踵落としを食らわせ剥ぎ取る、回転の勢いを殺さずに更なる空中蹴りから乱回転。今までの反射で貯めた衝撃を右腕から強化種のどてっぱらにぶち込む!

 

「グオオオオオオオオオオ!!!!」

 

強化種は吹き飛び壁に叩きこまれれめり込んだ所へヴェルフ君の魔剣で追い打ちをかける。

 

「アイシャ、立てるか?」

「おじさん……アンタそんなのが出来るなら最初からやりなよ」

「PT向きじゃないんだよコレ」

 

肩から蔦が伸び始めたアイシャに手を貸して立たせているとおじさんの耳にあの音が聞こえて来た。

と同時にしぶとく強化種が這いずり出てくる。傷を負ったアイシャを下がらせておじさんは強化種へと突っ込む。

やってきたベル君の右手から響く鐘の音に負けない様、大きな声で叫ぶ。

 

「おじさんごとヤれ!!!!!!」

 

次の瞬間、おじさんと強化種は炎と雷に包まれ衝撃を身に受ける。

敵の焦げる匂いを嗅ぎながら只管殴り続ける。もろくなった壁を突き抜けルームの床に強化種を投げ捨て叩き伏せる。

立ち上がる土埃と震える水面。そこへゆっくりと降りてくるベル君。

 

「おじさん、大丈夫なんですか」

「ちょっと強めの電気マッサージって感じ? 何はともあれまずはコレの片づけしてからだ」

「はい!」




おじさんの普段の狩り模様が判明

スーパーボールを体現するおじさん

次回、おじさんと下層4

おじさん更なる飛躍の時


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38 おじさんと下層4

おじさんがタンク、ベル君がアタッカー。とは成らなかった。

どちらかというとアタッカー2枚構成。

ベル君が張り付いて回避とアタック、おじさんは跳ね回って奇襲。

ベル君には魔法がチラつき、おじさんは頼みのヤドリギをガン無視して攻撃してくる上にヤドリギ攻撃で傷付く事すら無い。

正直このモスヒュージは詰んでるのだ。

 

暴れ回るモスヒュージの体中から生えているトゲをベル君が切り落とし、注意が逸れた瞬間に別角度からおじさんの重たい一撃が入り足を止める。そうするとまたベル君の攻撃が入り……と無限ループ。

耐えかねたモスヒュージが雄叫びを上げて振り払い再生を行いながら跳びまわるおじさんに蔦を伸ばして攻撃を仕掛けてきた。

その攻撃方法を見て触れて、殴り飛ばしたおじさんは『なるほど』と思った。

 

「(別に態々近づく必要も無いんだ)」

 

ベル君の動きが段々と洗練されていく中、おじさんの方は段々とモンスターへの接触が、近づく距離が離れていく。

かと言ってモンスターへの攻撃が無くなった訳ではなくおじさんの攻撃は間違いなくモスヒュージへとダメージを与えている。

空気を蹴る事で方向転換を行っていたおじさんはモスヒュージの触手攻撃を見て空気を殴り、打撃を伝える術を手に入れた。

 

そこからは正直消化試合である。

 

モスヒュージの攻撃はすり抜けベル君のナイフは体を切裂き体力を削り、おじさんの打撃はモスヒュージの部位をへし折り動きを鈍くする。

やがてベル君がモスヒュージを仕留めるべくタメに入る。その時間稼ぎをおじさんはあえてモスヒュージの正面に立ち身構える。

 

モンスターとしての生存本能か、ベル君のタメているモノが弱点の火属性だからか……焦り必死な強化種はまるでおじさんなど目に入らないと言わんばかりに遮二無二突っ込んでくる。

当然それをおじさんが許す訳がない。

ゴライアスを模した皮膚は硬く、その下に在る肉は柔らかく。文字道理流動を体現する。

そしてソレはスキルの性質であるカウンターにも寄与しおじさんの攻撃は一段階昇華する。

ベル君につかみかかろうとするモスヒュージを掴み押し込んでくる力を受け、それを余す所無く取り込み足から腰、胴から腕へと伝播させる。

おじさんが掴んでいた腕が爆発したかのように爆ぜる。

 

「ゴライアス・ストライク……ってなぁ」

 

強化種はよろけ、呆けた様に尻もちをつく。

そしておじさんがモスヒュージの眼前から離脱すれば、そこにはチャージが完了したベル君。

 

「神様……ウェスタの名前……貰います」

 

後退し水路へ逃げ込もうとする強化種に対しヴェルフ君の氷の魔剣による退路の封鎖。強化種がヴェルフ君の方を見るがそんな隙を見逃すはずがない。

反射で壁を跳びまわり続けていたおじさんが強烈な蹴りで強化種をベル君の方へ吹き飛ばす。

 

「やっちまえ! ベル君!」

「行くぞ……アルゴ・ウェスタ」

 

逃げられないと悟ったモスヒュージが押し出された蹴りの勢いのままベル君へ突っ込んでいき、ベル君もまた右手に構えたヘスティアナイフに炎とチャージの光を纏わせながら駆けていく。

ヘスティアナイフは炎の軌跡を描きながらモスヒュージの口を、肩を、胴を、腿を、手首を、頬を、膝を切裂きその部位を焼いて行く。

勝負は一瞬で決着が付き、残ったのは強化種の魔石だけだった。

敵を送るかの様に炎の渦が舞い散っていく。

 

それが余りに恰好良く……やはり主人公はベル君なのだと思う。

 

強化種のモスヒュージを討ち取った事で救護者達の体に寄生していた蔦は消え去った。

討ち取った直後に氷の一部が動いて誰かがベル君に話しかけていた様に聞こえたが……おじさんの位置からは良く見えなかったがベル君が何も言ってこないから問題無いのだろう。

 

◆◆◆◆◆

 

その後は救護者をある程度回復させてから18階層のリヴィラの町へ。

一応伝令役って形でおじさんはヘスティアちゃんに説明へ、実際にはテレポートで一瞬だが2日程時間を掛けて往復する。じゃないとテレポートを隠した意味が無くなってしまう。

因みに救助した冒険者の欠損部位は後日ヘスティアファミリアに来ればおじさんが治療するとの約束もしておいた。因みに対価はおじさんへの貸しという事になっている。

 

「つー訳で、ベル君達全員無事にリヴィラの町に着いてるよ。ヘスティアちゃん」

「そっか、君達が無事で何よりだ……それと、本当の本当に不味い時はおじさんの魔法を解禁して良いからね? 魔法を守ってまで死んじゃったら意味が無いんだから」

「解ってるって。何かあれば脱兎の如くってね」

 

そうしてリフレッシュしてからリヴィラの町に戻ったおじさんに待っていたのは、『疾風、リュー・リオンの冒険者殺害』という報告だった。




強化種との戦闘を終えたおじさん一行

おじさんが戻った時には事件は既に起きていた

次回、おじさんと疾風

おじさんは予言を覆せるのか


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39 おじさんと疾風

寝ようとしたが全く眠気が来なくなったので執筆再開


リヴィラの町に戻ったおじさんに待っていたのは、『疾風、リュー・リオンの冒険者殺害』という報告だった。

おじさんは思った……だから何? と。

 

「いや、おじさん! リューさんが!」

「あのさぁ、今更じゃない? だって彼女の過去はおじさんもヘルメス経由で聞いてたけどソコまで驚く事?」

「でもリューさんが人殺しなんて!」

「……今まで復讐で闇派閥を殺してるんだよ? なら今回彼女が殺した相手も闇派閥って考える方が妥当じゃないの?」

「あっ……」

 

そこでやっと冷静になれたのかベル君が落ち着いてきた。

 

「ついでに言うとあの子に情報提供したのって多分ヘルメス関係だから情報の精度はそれなりだろうし、不確かな情報なら伏せてると思うけど?」

 

あいつ等って信用信頼ってのは無理だけど、情報面だけで見ればそれなりに優秀なんだよね。倫理観はクソだけど。

しかし何でこのタイミングでそんな事が起こるのか……首を傾げながらもベル君達と一緒に殺しがあったという現場へ向かう。

 

◆◆◆◆◆

 

ぼけーっと冒険者の死骸を眺めてみる。手足の傷に致命傷の刀傷。

まぁ確かにモンスターにやられた様な傷じゃぁ無い。

そして恐らくサクラが数人、疾風の仕業だと囃し立てる。しかも下の階層へと潜っていったとのオマケ付き。

そしてヤられたお仲間は犯人を見て、それを疾風だったと証言をしていると。

ボールスは疾風の賞金の話を出されて疾風討伐にノリノリで今居る住人全員を巻き込んで討伐隊を組むねぇ……。

 

「……なー、ベル君」

「えっと、なんでしょう?」

「おじさんは何時までこの茶番に付き合わなきゃならんのかな」

「へ?」

「茶番だと!?」

 

今まで証言してた獣人のタークが噛みついてくる。

 

「テメェ! 何処のどいつだ! 俺の仲間の死を茶番だと抜かしやがるのか!?」

「……いや、本当の事だろ。さっき証言した奴も、疾風の賞金の話を持ち出した奴も、全部お前ん所の奴だろどうせ」

「あぁ!?」

 

面倒だが説明しよう。

 

「少し考えたら分かるだろ、先ず疾風がその何だっけ? ボールス、そこの子の名前は?」

「ジャンか?」

「そーそー、そのジャン君を殺したとする。で、この何かガリガリのモヤシ獣人……えーと名前は知らんけどコイツがその場に居たとするじゃん?

 ボールス、お前さんが仮に絶対にぶっ殺すと決めた人を殺した現場にそいつの仲間が居たらどうする? 因みにお前はlv4な」

「そりゃ……」

 

モルドも気が付いたらしい、こいつ等の証言の矛盾に。

 

「ぶっちゃけ自分より下位のlvが居たら殺すだろ。しかも自分が目の敵にしてる相手なら」

「いや、しかしコイツが疾風に狙われる理由はねぇぞ?」

「そりゃお前。仮に疾風が狙うとしたら理由なんて1個だろ」

「闇派閥か?」

「そーいう事、もっと言えばもし疾風がこの場に居たらこいつ等が証言なんて出来るはずもない。今頃全員あの世だね。

 なのにこいつ等はこの場に居てこの件の犯人は疾風だと言う。更に討伐隊を組む様に促してた。早い話がリヴィラの全員を闇派閥でハメようとしてるって訳だ」

「で、デタラメだ!」

 

非常に焦ってる獣人君。無理な弁明は止めたまへ。

どう考えてもこの流れからリヴィラの住人を巻き込むのは無理無理。

 

「もっと言ってやろうか? 疾風の獲物ってなーんだ?」

「はぁ!?」

「武器だよ。武器」

「そんなもんジャンを見りゃ分かるだろ! 剣での傷だ! 刀剣の類だ!」

「ぶーー、正解は木刀。もし仮にそいつが疾風にやられたのなら死因は切り傷じゃなくて撲殺じゃないと変なんだよ」

 

ここでボールスが口を挟む。

 

「なぁ、あんた何でそんなに疾風に詳しいんだ? 俺様でもそんな事は知らねぇのに」

「そりゃ、ギルドとは懇意にしてるし。色々とツテは一杯あるのよ。おじさんは」

 

その一言でボールスはぎょっとする。

 

「あんた……まさかヘスティアファミリアの『超反射』か!? ラビットフットの所の副団長!」

 

リヴィラの町には基本寄らないし、あの一件があってからは全く近づかなかったから顔も知られてないか。

それにしても……。

 

「ラビットフット? 何それ」

「おじ様、ベル様の新しい二つ名です」

「へー、そっかlv4に上がったから新しい二つ名になったんだ。おめでとうベル君」

 

◆◆◆◆◆

 

結局あの後、あの場で騒いで居た奴らを全員捕まえた。

何か言ってきた奴はおじさんが『アポロン』と呟いたら全員黙ったのでヨシ。

ソコからはおじさんのスキルを使っての質疑応答。

捕まえた奴の首にロープを繋いで広場に集めて杭に繋ぐ。後は一人一人順番に四肢を切り落として傷口を塞ぐ。

準備が整ったら椅子の上に座らせてから首に掛かったロープで吊るす。

 

「さて、痛みを我慢しながら良く耐えました。おじさん君らに◎を上げよう」

 

ボールスは町の顔役として今回の件を見届けると言っている。折角なので転がってる手足の片づけ宜しく。

 

「んで今からやる事は単純、飲まず食わず眠らずで今回の真相を吐くまで耐久。尚、死んだらソコまでね、ぶっちゃけおじさんは真相どうでも良いけどウチの団長が気にしてるから一番初めにゲロった奴だけ助けまーす」

 

因みにこの場におじさんの身内は一人も居ません。教育上宜しくないので。

さて、何時まで持つかな?




リヴェラに居る事自体にストレス感じているおじさんの前で隙を見せる闇派閥

普段ノウキンだが意外と知恵が回るおじさん

おじさんのブレーキは何処へ……

次回、おじさんと疾風2

おじさん、ダレる


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40 おじさんと疾風2

色々と準備したおじさんだったが途中から面倒になってしまい、最終的にだるま状態の冒険者全員に瑕を付ける事でタイムリミットを早める事にした。

結果、情報は集まったがリヴィラの町には本気でヤベー奴である事、そして既に一度コイツに対してやらかして居る事が周知された。

 

そんな事は兎も角、疾風ことリュー・リオンをハメようとしたのは事実らしい。

んで計画を立てた奴が生贄としてリヴィラの町の冒険者を利用しようとした。

ついでに計画の実行場所は27階層でリヴィラの住人を使って疾風を追い込む予定だったと……。

 

穴だらけ過ぎんかその計画。

いや、ソレに乗っかろうとしてたからボールスも大概だよな……頭悪いおじさんですら分かるのに。

 

計画の主犯はジュラ・ハルマー。ルドラ・ファミリアの元団員で調教師の猫人男性。

人工迷宮クノッソスで長年隠れてたけどソコに疾風が現れたから今回の計画を実行?

情報が出れば出る程、この計画の成功率が低くて頭痛くなってくる。これベル君にどうやって報告しようかな……いっそ報告せずに帰るのもありなんじゃ……。

一応裏取りしとくか。

 

◆◆◆◆◆

 

ベル君に報告したら『リューさんに会いに行こう』という事に。実際に彼女がグレート・フォール近辺に居るのはヘルメスファミリアからの情報で確定してるから良いとして……問題はジュラ・ハルマーの目的。

掴んでる情報だと大量の火薬みてーなもんでダンジョンを爆破するってのがあったけど……それでダンジョンが崩落する訳でもないし。

結局謎は謎のままだがベル君が止まりそうも無いのでおじさんもついて行く事になった。

 

そしたら出発直前に

 

「あの、行くの止めませんか?」

 

カサンドラちゃんが急に止めはじめた。どした?

 

「あんた、また予知夢が~とか言うんじゃないでしょうね」

「予知夢?」

「この子時々そういう事言うのよ」

 

デジャビュみたいなもんか? そーいうのならおじさんも偶にあるしな。

 

「いえ、違うんです! 私のはそういうんじゃなくて……」

 

何かもっと具体的なものっぽい。じゃあカサンドラちゃん、道中おじさんと話してみるか?

 

◆◆◆◆◆

 

話を聞けばどうやら行った先で全員が血濡れで地に伏せて死ぬ予知夢。で、ベル君は生き残ると……。

そりゃそんなもの見たら行きたくなくなるわ。

 

「はい……ただ1つだけ分からない事が」

「分からない?」

「その、おじさんの事だけは見えないんです」

「どゆこと?」

「今までこんな事は無かったんですけど……おじさんだけは予知夢に全く出てこなくて」

 

おじさんが異世界人なの関係してるんじゃろか? 首を傾げながらカサンドラちゃんと話していると彼女は予知夢に登場しないおじさん=予知夢を覆す為の鍵になると見ているらしい。

そりゃぁ……おじさんって多分異物だから……とは言わん。

兎に角彼女から予知夢の詳細を聞いて纏めてみるとやっぱり27階層に行く事がキモらしい。後、殺される原因が『厄災』って抽象的なワードなのは何だ?

道中色々と話し合ってみたがどうにも結びつく情報が無い。そしてグレート・フォールの入口に到着したがカサンドラちゃんの予知夢を信じれば全員で行くとベル君以外が死亡確定。

身内のダフネちゃんは否定してるけど彼女の過去に見た予知夢とその後起きた事を比較したら的中率は非常に高い。無視を決め込むには的中率が高すぎる。

 

「という訳で、おじさんとしては此処でPTを分ける事を提案」

「分ける……ですか?」

 

ベル君が怪訝な顔してるけど周囲の情報にもっと耳を傾ける事に慣れろよ。リーダーやるなら必要なスキルだったりするぞ。

 

「27階層へのアタックはベル君、おじさん、アイシャ。それ以外はここで待機」

「内訳の理由は?」

「単純にlv4でこの階層で逸れても生き延びられる。後はおじさんの都合」

「アンタの?」

「まー、その辺りは後で分かるとして……ベル君としてはどうなの?」

 

暫く考えた後に賛成してくれた。

 

◆◆◆◆◆

 

ある程度皆と離れた所でアイシャに対して話し始める。

 

「さて、アイシャ。さっき話したおじさんの都合ってのをさっさと話しとく」

「おや、早速かい?」

「まあそんなに難しい話じゃないし」

「へぇ、それで?」

「おじさんにも春姫ちゃんとは別方向でヤバイ魔法があるってだけ」

 

その一言で足を止めるアイシャ。

 

「……それをアタシに話す理由は?」

「イシュタルちゃんは知ってるし、イシュタルちゃんが寄越したアイシャなら別に良いかなって」

「おじさん、それをアイシャさんに話すって事は」

「うん、使ってさっさとリューちゃんの所に行こう。幸いおじさんも彼女とは酒場で会ってるし、ベル君は一刻も早く確かめたいんでしょ?」

「ありがとうございます!」

「ちょっと待ちな。何でそのヤバイ魔法の話と疾風の話が繋がるんだい?」

 

論より証拠。

 

「対象:リュー・リオン【テレポーテーション】」

「それじゃ、お先です」

「ほれ、アイシャも入れ」

「こりゃ何だい」

「転移魔法」

「はぁ?」




色々と面倒になってきたおじさん

かこつけて賢いムーブをしているが内情はただ面倒くさいという最低の理由

次回、おじさんと疾風3

厄災がおじさんたちを襲う!……のか?


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41 おじさんと疾風3

穴を潜った先は27階層、そして目の前にはリュー・リオン。

 

「なるほど……こりゃ確かに春姫の……いや、それ以上にヤバいわ」

 

まあもっとヤバイ効果が倍ドンであるが……流石に言わん。

ベル君は既に駆け出しリューさんへ近寄っていた。唐突に話しかけられてびっくりしてら。

 

「移動に輸送、伝達から暗殺、テロまで何でもござれだねぇ」

「アンタ物を持ち歩く魔法も持ってたよね」

「時間かければ容量がほぼ無尽蔵のね」

「……本気の厄ネタじゃないか。この事をキチンと把握してるのかい? あの坊やは」

 

目の前でリューさんへと話しかけるベル君を指し心配するアイシャだが、ほぼ間違いなく気付いて無い。

ちゃんとわかってるのはヘスティアファミリアじゃヘスティアちゃんだけ。リリちゃんは気づいてるフシがあるが敢えて考えない様にしている気がする。

 

「ウチの主神様もとんでもないモノにほれ込んだもんだねぇ」

「そういやイシュタルちゃんと手紙でやり取りしてたんだって?」

「あの日から暫くしてね……フリュネがオッタルにやられてから、ヘルメスファミリアの手が入りはしたが歓楽街の細かな部分を纏めるのは私の仕事さ。

 どうにかやってたら保護されてるって主神様から手紙が飛んできてね。ヘスティアファミリアのアンタに付いていけってんだから驚いたよ」

 

おじさんの知らん所でイシュタルちゃんも徐々に回復してんだな。

暫くベル君達が話してるのを眺めながらイシュタルファミリアの現状を聞き情報交換していたらリューさんがベル君に背を向けて歩き出した。

近付いてベル君に聞いてみたらリューさんは闇派閥を見かけて此処まで追って来たらしい。

 

「あー、リューさんや」

「おじさん、貴方でしたか……貴方も何か私に言いたい事が?」

「? ベル君が何を言ったかは知らんけど聞きたい事はある」

 

歩みを止めないリューさんの後ろを歩きながら話を続ける。

 

「YOUは何しにこの階層に?」

「……ここに逃げ込んだジュラを殺す為です」

「なるほど、よし、帰るぞベル君」

「おじさん!?」

 

ただの復讐の延長戦じゃねーか、ウチのファミリアが介入する事じゃねーよコレ。

第一ダンジョン内での事は基本的に不干渉&知らぬ存ぜぬで良いんだし。

 

「おじさん、それでも僕はリューさんに人殺しはして欲しくなくて」

「いや……あのさぁ」

 

この復讐って別に故人の為の復讐じゃなくてリューさんが助かる為の復讐だから他人が口挟む案件じゃねーのよ。ソコに踏み込むのはさすがに人としておじさんもどうかと思うよ?

しかも人殺しして欲しくないって完全にベル君のエゴだし。

 

「坊や、流石にアタシもこの件に関してはおじさん側だ。アイツは自分のケツを自分で拭こうとしてるんだ、それを他人がとやかく言うもんじゃないよ」

 

それでも諦めきれないベル君。しゃーない、一つ助け船。

 

「じゃあせめて立会人でもする?」

「立会人……ですか?」

「完全に自己中心的な事になるけど事の顛末を見届ける立会人の枠を名乗って付いて行くとか。まあそんなもん名乗らなくてもついて行けば良いだけなんだけどさ」

「解りました。僕、立ち会ってきます」

 

……追いかけて行くのは良いけどおじさんが付いて行かないって意味じゃないんだけど……。

 

「……追いかけるか」

「あいよ」

 

◆◆◆◆◆

 

少し離れてリューさんとベル君について行った所、彼らの前方に恐らく復讐対象であろう……なんとかって猫の人が居る。

見た感じそんなに強そうじゃないから直ぐ終わるなと思ってたら……何か悠長に話し込んでるんですけど。もしかして舐めプしてる?

手を出すのは無粋だからしないけど……なんか面倒起こりそうだから念のためにAKで狙っとこう。多分あの猫の人相手ならコレでも十分致命傷。

何時でも撃てる体勢でぼけーっと見てたけど何かヘビ出てきた。しかも二匹。

リューさん苦戦してるけどコレは援護射撃が本当に必要な奴か?

 

1分位見てたけど打開策が無さそう。トリガーに指を掛けようとしたら周囲で大爆発が起きた。

何かよく分からんが取りあえずトリガーを引いて猫の人を撃つ。弾は胴体を貫通こそしなかったがちゃんと胴体に傷を付け、持ってた装備品も壊せた。

……リューさんの動き止まってる? 猫の人が何か仕掛けてたのか……蛇の動きがめちゃくちゃになってるな、さっさと蛇倒さな。

 

素のおじさんでもちょいキツそうなのでサクっと【庇護脂肪】で体質変化:流動硬化(モード:ゴライアス)を発動。一匹はおじさんが引き受けてもう一匹をアイシャの援護付きでベル君、リューさんが倒す。

流動硬化使っておけば割とこの蛇相手でも余裕があるな。メテオストライクを決めればどうにか倒せた。

リューさん呆然としてる……もう考えるのめんどくせぇ。猫の人の後ろに回り込み、首をコキャリと1回転させる。

一息付けたと思ったら何か聞いたこと無い咆哮が聞こえて来た。




ストレスや疲れから思わずリューさんの復讐対象をコロコロしたおじさん

次回、おじさんと疾風4

厄災が襲い来る


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42 おじさんと疾風4

すみません、また身体の調子崩れた。
目にまで症状出て来てつれぇ……痛みで集中が乱れる。
誰か回復魔法くださぃ。

痛みが弱くなっている今の内に書いて投稿。
やっと終盤まで来たんや……頑張る。


普段勘が鈍いおじさんでも分かる位にイヤーな予感が漂い始めた。リューさん呆然として、ベル君は焦り、アイシャは警戒してる。

さっさととんずらしたいんだがベル君がリューさんに構って動こうとしねぇ。リューさんなら槍もってジャンプしてりゃ平気だと言いたいが流石にそんなネタを挟める雰囲気じゃないので自重します。

 

そして嫌な予感程的中するもので……何か骨が物凄い速度で突っ込んで来た。避け切れずガードしたら盾は無事でも肩が斬られた。

流動硬化してたお陰で切断まではいかなかったけど、この状態のおじさんを斬るとかこいつのレベル高すぎでは?

 

奇襲もそうだけど移動がやばい……奇襲の衝撃を利用して反射移動してるおじさんに普通についてきやがる!

 

「3人共逃げろ!!!!!!!!!」

 

◆◆◆◆◆

 

おじさんは只管跳ね回ってた。攻撃を受ける度に速度を速め、斬撃に耐えて衝撃を利用して加速する。

お陰で生き延びてはいるが全身至る所に傷が出来て血が出てる。

まぁ端から治していってるから傷はそこまでひどく無いが流れた血がそろそろヤバイ。ちょっと貧血起こしかけてる。

 

この骨っこを良く観察したらおじさんを攻撃するたびに攻撃箇所に罅が入っていってる。こいつ相当脆い?

まぁ分かった所で正面切っての攻撃は当たらんので今は逃げたい。

 

カウンタータイプのおじさんへのメタってやっぱコイツみたいな一撃必殺タイプだなと改めて自覚しながらテレポートでベル君達の場所へ離脱する。

ベル君達と合流してからはリューさんにおじさんの魔法の秘匿を条件にして一緒に連れて行く。じゃないとベル君が五月蠅いのよ……。

そこからは皆と合流して25階層を脱出。24階層へ続く道を全員が抜けた所でダイナマイト使って通路を爆破、これでアイツは追ってこれないはず。

リューさんがめっちゃ喚いたけど他の冒険者の事まで考えてられんし、おじさんにソレを言ったところでもう後の祭りでしょ。

おじさんの魔法の件を持ち出そうとしたので速攻で腹パンして黙らせ。

さっき約束したばかりで全員の前でソレを話そうとするとかいい度胸してるねリューさん。一応対処法はあるから黙ってろ。

 

◆◆◆◆◆

 

一度全員で18階層に戻りリヴィラに宿を取った。そして直ぐにおじさんだけ別れてテレポートで一人離れた場所へ。

あの骨っこ倒すのにわざわざ正面からやる必要も無い。という事で用意するのは手榴弾。

テレポートで骨っこの近くに穴を開けてから取りあえず1ダースほどピンを抜いては投げ込む。爆発が完了したのを確認してから頭だけ出してみたら割と全身に罅が入っている。

というかアイツこっちが見えてないっぽい? 穴って結構目立つんだけどやたら周囲見てるだけでこっちに気づく気配が無い。

一応この事はメモっておいて、先に骨は爆殺してしまおう。追加の手榴弾2ダースで爆★殺! した所で穴を潜る。

爆破地点を探っても何も残って無かった。爆発で全部ダメになったのかもしれん。

一先ずリューさんにちゃんと始末は付けた事を報告しておこう。

 

◆◆◆◆◆

 

「はい、という訳であの骨っこはちゃんと倒しました」

「は?」

 

リヴィラに戻って報告したら怪訝な顔された。

 

「だから、倒したよって話」

「何をですか?」

「あの骨っこ」

「……骨っことはあの怪物の事ですか?」

「yes」

「その……どうやって」

「方法は黙秘します。倒したって事実が重要でしょう?」

「正直どうやって、よりも本当に? という感情の方が大きいですが……私自身確かめる術が無いので貴方の言葉を信じます」

「そこまで深刻にならんでも良いと思うんだけど。どうせ冒険者なんて基本命がけなんだし」

「私は! ……いえ、何でもありません」

 

何かまだまだ闇抱えてそうだけどそーいうのはベル君にお任せします。あの子って女の子ならホイホイと抱え込むからな……。

……若いってすげぇな……。

 

……あっ、良い事考えた。




改めてベル君の若さに関心するおじさん

次回、おじさんとアニメーション

おじさんの居る世界線は……。


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43 おじさんとアニメーション

 

「という訳でアニメを作ろうと思う」

 

ダンジョンから帰って来てヘスティアちゃんにステータス更新をして貰いながらおじさんは自分のアイディアを話していた。

広告的な意味合いで作ってみるのはどうだろう?

 

「唐突過ぎて訳は分からないけど……アニメを作るのかい? ボクもアニメは好きだけどアレってどうやって作ってるんだい?」

「ん? 向こうに居た時に調べなかったの?」

「パソコンだっけ……あのタイピングってのが難しくてちょっと……、イシュタルはちょいちょい触ってたみたいだけど。こっちに戻ってきてもノートパソコンは触ってるみたいだし」

 

イシュタルちゃん、まさかの現代機器に順応していたでござる。ちょっとびっくりしつつ話を戻す。

 

「アニメは基本手書きだよ。絵は人が書いて、声は別で撮って編集。ほら、ヘスティアちゃんが最近はまってるジブリ作品なんかは特に枚数がべらぼうに多いのよ」

 

向こうでメイドインアビスを最終的に1期+映画+2期と見たヘスティアちゃんがは面白いけれどメンタルがベコベコになったのでジブリを勧めたらすごく癒された様で、そこからはジブリ漬けの毎日……それでも火垂るの墓だけはおじさんの方で封印してるが。

ヘスティアちゃんが気に入ったのは『耳をすませば』。どうやらファンタジーよりも現代っぽい物が好きみたい。クレヨンしんちゃんとか意外と気に入るかもしれん。

 

「へー、200枚位?」

「200て……それだとアニメは10秒も出来ないよ」

「……えっ、ちょっと待って。あれって人が描いてるんだよね? 1秒につき何枚の絵が描かれてるんだい?」

 

おじさんも正確には知らんが1秒を24フレームに割って1フレームにつき1枚だから……24枚? 映画が24でテレビ枠とかの普通のアニメだと半分? 18枚?

何かそれ位だった記憶があるかな。

 

「1秒20枚として……アニメは1話25分位だから……ええっと1分50秒だから秒数に直すと……」

「1話が25分*60秒で1500秒、仮に1秒20枚なら1500*20で30000枚だね」

「三万枚!? ……アニメ一話につき三万枚の絵……」

「大雑把だからもう少し少ないだろうけど……それでも平均2万枚位なのかな?」

「1話2万……12話で24万枚……ボク芸術タイプの神じゃないけどさ……多分芸術を司る神ならそれだけでランクアップさせるんじゃないの?」

「現代の娯楽系とか、地味な仕事って多分こっちの神からしたら狂気の沙汰かもね」

 

地味な仕事って恐ろしく動きが無い上に内容も単純、それを延々と年単位でやり続けるからなぁ。おじさんも昔は……懐かしいぜ。

 

「それにしてもアニメを作るか……まさかおじさんが描くのかい?」

「いやぁ……おじさんも多少絵心はあるけどアニメは無理無理、畑が違うっていうか。まぁソレは兎も角、何でこんな話をしてるかって言うと、ベル君とヘスティアちゃんを主役におじさんの世界でアニメを作ろうかなって」

「えぇ!? ボクとベル君が主役のアニメ!?」

 

異世界ものが流行ってる今なら多分流行ると思う。後、儲ける為じゃないから採算度外視で作らせれば良いし。

で、その為にもやっぱ本人にも許可貰っておこうかなって。

 

「勿論ボクはOKさ! ベル君の説得はボクに任せてくれ! むしろOKさせる!」

 

おー、ノリ気。んじゃアニメ制作の方向で進めておくわ。まずは作家雇って書いてもらって……それを元にアニメにすっか。

作家の知りあいなんて居ないからなぁ……いっそ集団で雇って全員で書かせるか。これも設けは度外視してやれば良いや。

予算がどれ位必要か分からんな。取りあえず税理士に相談してから人集めてみるかな、失敗前提で人育てりゃ良いし……あぁ、今世ではやってなかったけど久々に渡米して宝くじ買ってくるかぁ。資金調達と……向こうの映画スタジオに連絡とか取れないかな。

テレポートあると飛行機乗るの苦痛なんだよな。取りあえずイシュタルちゃんの治療ついでにチケット取るか。

 

◆◆◆◆◆

 

アニメを作ると決めてから既に1か月。

その間に例の計画の候補地を探しながら地図作製、平行してイシュタルちゃんの治療を行いながら、アニメ化も進めていた。

イシュタルちゃんはおかげで多少ぎこちなくだが喋るようになった。PC使っての筆談(という名のチャット)が出来るようになってからは治療が大分進んだと思う。

向こう側に行く度にヘスティアちゃんと共に余計な知識を仕入れるのだけはやめて欲しいが……。

それと! 遂に精霊ちゃんが目を覚ました! と言っても何故かおじさん世界に居る時だけ。

こちら側に来ると又、眠り続けてる。会話出来ないかと思ったがどうも声が出せないらしい。

失語症とかじゃなくて単純に体が変わったから、新しい体の動かし方に手間取っているっぽい。

 

そして肝心のアニメづくり。

問題は色々とあったが……全部金で解決した。世の中大体の事は金で解決出来るは真理だと思う。

小説書きを素人から玄人まで適当に集めて書いてもらい、上がって来たものをブラシュアップ。おじさん自身はブラシュアップなんてやり方を知らんからソコも雇って出来上がりを待つ。

基本的なエピソードはベル君本人に聞いたのでソコを面白おかしく脚色して貰って全体のバランスを整える、そして仕上がったものが此方の本。

 

「やーっとシナリオが出来たよ」

「おお! これがおじさんが作った本かい?」

「おじさんが雇った人が書いた本ね。日本語だけどヘスティアちゃんなら読めるっしょ」

 

そう言って渡す。

 

「えーっと、『ダンジョンに出会いを求める少年と女神の間違い』って何だいこのタイトル!?」

「取り合えず仮のタイトルだから、問題は中身よ中身。今日の夕食後にでも感想聞かせてよ」

「コレがボクとベル君のアニメになるんだろう? 仕事の後にでもしっかり読んでおくよ!」

 

そう言ってからサンプル品を抱えて仕事に出かけたヘスティアちゃん。感想は問題無しの一言。ヘスティアちゃんとベル君がイチャイチャする描写をちょいちょい挟んでるのがお気に召したらしい。

一応R18版も作ってあるとか言ったらどんな顔するかな……。

それは兎も角、本人のOKも出たのでアニメ化を進める。

 

因みにアニメ会社には予算を割り振るが取りあえず商用ではない事と権利は全ておじさん所有。予算が足りない場合は追加を出す旨を伝えて基本予算上限なしで作ってもらう事に。

『PR用』と説明して頑張って作ってもらっている。

まぁPR用アニメとして1クール分作る馬鹿が今まで居なかったので大変驚かれたが……ええねん。おじさんの目的は別にアニメで儲ける事じゃないから。

 

さて、アニメ化がスタートしたのでそろそろ場所の選定を完了させたいのだが……フェルズと一緒にやっても未だに決まらない。いい加減『理想の場所を見つける』からある程度の条件で見つけた上で『理想の地形に作り替える』にシフトしないと駄目かも。




アニメの労力を知ったヘスティアちゃん

そして計画を実行に移すおじさん

おじさんの異世界攻略RTAが始まる

次回、おじさんと土木

土木と言えば……?


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44 おじさんと土木

ベル君とヘスティアちゃんの本『ダンジョンに出会いを求める少年と女神の間違い』が完成してから直ぐにSNSで宣伝し始めた。アカウント名は異世界おじさん@オラリオ在住。

意外と反響がありフォロワーも地味に伸びてる。やっぱヘスティアちゃん、イシュタルちゃん、ベル君辺りの写真をUPすると伸びる。

普段の写真と合わせておじさん世界の服を着てる写真もUPしてるのが『現実に居る?』って反応になり、『公式コスプレイヤーですか?』って質問が多いので『公式中の人です』と返信している。

後オラリオの街並みをUPするとCGorコラ疑惑が常に付いて回り特定班がやっきになっているらしい。『ここは〇〇県の〇〇だ!』って返信が来る度に『オラリオの〇〇通りです』って返すのがおじさんのテンプレ。

 

そんな周りの反応を楽しみつつ日本の主要都市で本は販売が開始した。

 

商売にする気が無いので売れても赤にならないギリギリ価格なのでちょっとお安めの小説という感じ。正直認知さえされれば本は割とどうでも良い。

話題になればええねん。

 

そんな感じで売り上げを全く気にしないという戦略なんてあったものじゃない本の販売を開始し、SNSでちょいちょい来る質問に適当に返しながらおじさんは現場監督兼設計士として働いていた。

 

◆◆◆◆◆

 

竜騎士じゃないリューさん、ベル君達とダンジョンから帰った後、本づくりと並行して場所の選定を行ったおじさんとウラノス&フェルズ。オラリオから馬車で2日位の所を選んでから周囲を細かく調べました。

山間の場所で近くに川も流れており、周囲には森が、少し離れれば湿地も多少はあるので手を加えれば色々とやれる事は多い。

で、おじさんとしては新しいホームを手に入れた際に建築ファミリアとしてもお世話になった事があるゴブニュさん所にお願いしようと思ったが……まさかのウラノスNG。計画の基盤が出来て無い状態で出来るだけ情報は秘匿したいと言うのは分かるけど割り切らないとおじさん仕事に忙殺されてしまうんだが?

愚痴ってもしょうがないので変わりに別の所から人でを借りた。人っつーかモンスターだけど。

で、現在ゼノスの皆と地均ししながら図面を読み込んで意見交換中。

 

「リド君、グロス君どう? 図面は読めた?」

「おじさん、あぁ、細かな部分はまだだけど、大まかには理解出来たぜ」

「と言うかこんな細かく決める必要があるのか? まだ計画の段階だろう?」

 

そういってグロス君が机に置いた図面を指をさす。そんなに細かいつもりはないんだけど……。

 

「こんなに通路や水路等を指定せずとも先に建物を建ててから作ればいいのではないか?」

「あー……村とかならその感覚で良いかもしれないけどさ……計画だとしっかり発展させていくから適当な作りにしてると後々面倒になるのよ。だから今の内にそういった区画割りは決めておく。遊びは結構持たせてるから増築とかはやり易いはずだよ」

「いや、これはどう考えても増築させるには土地が足りないではないか他の建物に干渉してしまう」

「……もしかして増築って横に伸ばそうとしてる?」

「違うのか?」

「この辺は感覚の違いか……おじさんは縦に伸ばすつもりなんだけど」

「それにしても狭くないか?」

「うーん人間サイズを基準にしてるから狭く感じるのかも……一回君らの平均値と最小最大を調べた上で再検討すっか」

 

うーん、やっぱサイズ感が違うと感覚が狂うなぁ。海外での仕事でもこんな感じの事があったような?

取りあえずサイズ感を整理し直してから再度図面を引くとしよう。

 

改めて図面を引き直したら全体的に海外サイズになった……まあ体が大きい子は本当に大きいから当然か。逆に小さい子は大変になるからサイズに合わせて区画を固めるのもアリかもしれん。

方向性が見えて来たので体が大きい子用と小さい子用の家をそれぞれ建ててみるか……建材屋に海外製品取り寄せてもらわないとな。

 

◆◆◆◆◆

 

そして出来上がりました現代建築の一軒家、日本製と海外製。サイズ感的には良さそう。

だが様式が全然違うから意見も色々と割れ始めた、面倒なので建築見本の雑誌を数冊渡してどれが良いか決めさせることに。

君らが住む場所なんだ、自由に決めなさい。どうせ代金はギルドから出るんだし。

そう言って投げ渡した雑誌穴が開く程見るゼノスの集団。外装も良いけど内装にも気を遣えよー。

 

聞こえてないっぽいので忠告は後日にして、その日は切り上げる事にした。皆先に自分の理想の家を想像してもらいましょ。

 

お試しで出来上がった家にローテーションで住む事が決定したのでその子達以外は一度ダンジョンに戻る事に。実際に住むと色々考えも増えるでしょ。

一応ガソリン式の発電機は設置してるから今の設備を使い続けたとしても1週間位は持つと思う。消費量次第で発電方法を検討しなきゃ……本当にやる事が山積みだぁ。




少しずつおじさんの計画が進行中

計画の全容はどの様なものなのか

次回、おじさんと売り上げ

反響と共に混乱が生まれる


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45 おじさんと売り上げ

掲示板って見ると面白いよね
……それにしても現代タグ必要になるかなコレ


本の販売から1か月、売り上げのデータが上がって来た。

おじさんの予想ではもっと少ないと思っていたが意外にも売り上げが多い。

そして本の巻末にしれっと載せてたモノに気が付いた読者からも問い合わせのメールがちょこちょこ来てる。

因みに乗せた内容はこちら。

 

『この本を手に取りありがとうございます。

 内容がお気に召した方は作品に関する情報を発信しているアカウントを是非フォローして下さい。

 なお、次巻ではいくつかの特典が付く予定がございます。是非特典内容をご想像いただき振るってご参加下さい。

 つきましては以下のページからご予約頂ければ幸いです。予約数には枠がありますのでご興味のある方はお早目にお願いします。

 特典内容については本作品の舞台、オラリオツアーとなっております。』

 

問い合わせはパスポートが要るのか、本当に行けるのか、集合場所は何処だ等々。

予約したら分かるの一言で返してるけどまさかこれだけでフォロワーが万突破するとか……大半が特定班or冷やかしだと思っておこう。

そんな中で2巻の発売日情報と合わせてアニメ化情報を出す。ただ放送するじゃなくyoutubeにUPするという異例の事態で世間は何やら盛り上がっている。

 

良いぞ、もっと盛り上がれ。

 

そんな事を思いながら世間を静観しつつ、今日もおじさんはダンジョンに潜ったり、イシュタルちゃん達と治療に行ったり、建築現場で汗を流したりしていた。

 

◆◆◆◆◆

 

【そんな餌に】ダンまち世界に異世界転生【釣られクマー】

 

1:名無しの異世界おじさん

本スレは最近話題(?)の「ダンジョンに出会いを求める少年と女神の間違い」1巻の巻末情報に関する雑談スレです。

考察は別スレが立っているのでそちらを参照

 

【考察】異世界おじさんは本物か?【オラリオ】

URL//......

 

公式アカウント【異世界おじさん@オラリオ在住】

URL//......

 

2:名無しの異世界おじさん

スレ立て乙

 

3:名無しの異世界おじさん

乙カレー

 

4:名無しの異世界おじさん

ここ最近急にスレ立ち始めたよなこの手の奴

 

5:名無しの異世界おじさん

企業のタイアップかと思ったけど調べても裏から何も出てこないからな

別の意味で興味惹かれるわ

 

6:名無しの異世界おじさん

本自体もくっそ安いからな

紙ですら他の半分程度だし電子版とか100円だぞ

絶対儲け出てないって

 

7:名無しの異世界おじさん

2巻で既にアニメ化っつーのもかなり変だしな

 

8:名無しの異世界おじさん

明らかに陰謀の匂いがしますねクォレハ……

 

9:名無しの異世界おじさん

スレ違になりかけてるから↑の話題は考察でやってくれ

 

10:名無しの異世界おじさん

まぁ実際絶対儲け出てないだろうけどな

 

11:名無しの異世界おじさん

それはそう

とは言えスレ違いだから一回移動すっか

 

105:名無しの異世界おじさん

んで、実際どうよ?

2巻に特典が付くとか巻末に書いてあったが……

特典に申し込んだ奴居りゅ?

 

106:名無しの異世界おじさん

申し込むつもりになったけど定員が10人とか舐めすぎ

販売日に見に行ったけど既に埋まってた

 

107:名無しの異世界おじさん

は?

10人ってマジ?

 

108:名無しの異世界おじさん

やっぱ10人って少ないよな

でもオラリオツアーって気になる

気にならない?

 

109:名無しの異世界おじさん

気になるだろ

常考

 

110:名無しの異世界おじさん

拙者選ばれし10人の猛者也

あの世界が垣間見れるなら我が生涯に一遍の悔いなし

 

111:名無しの異世界おじさん

>110

マジかよ、よく予約出来たな

 

112:名無しの異世界おじさん

余りにも早い予約……

俺じゃなきゃ見逃しちゃうね……

(尚、予約は取れてない)

 

113:名無しの異世界おじさん

>112

結局見逃してるじゃねーか

草生えるwww

 

114:名無しの異世界おじさん

>113

草に草生やしてるんじゃねぇ

芝刈るぞ

   ∧,,∧

  (;`・ω・)  ,

  / o={=}o , ', ´

、、しー-Jミ(.@)wwwwwwwwwww

 

115名無しの異世界おじさん

>110

おいおい、お前だけで行かせる訳ないだろ

ソコ変われ

 

236:名無しの異世界おじさん

実際あの特典って怪しくない?

 

267:名無しの異世界おじさん

ジョーク企画と思ってたけど10人ってのが逆にリアル

 

268:名無しの異世界おじさん

何か他に情報無いんかね

 

269:名無しの異世界おじさん

拙者が情報を出してしんぜよう

 

270:名無しの異世界おじさん

>269

お、110の奴か?

ありがてぇ、予約取れた奴なら何か情報持ってるだろ

 

271:名無しの異世界おじさん

というかコテハン付けろ

分かりにくい

 

 

272:10人目の予約者

>271

これで良いか?

予約を取れた人なら知っていると思うが個人宛にメールが届く

因みにメールにNo振られてたが拙者はNo10

内容としてはVRでオラリオを見て回れるらしい

 

273:名無しの異世界おじさん

はい、解散

 

274:名無しの異世界おじさん

何だよ、ただのVR観覧なのか

 

275:名無しの異世界おじさん

何か思ってたより普通だな

 

276:名無しの異世界おじさん

でも10人っておかしくない?

VRならそれこそ100人でも対応出来そうだけど

 

277:10人目の予約者

この話は続きがあってな

下手すると命の危険があるので現地集合して同意書に記載

その後施術を受けてからVR体験らしい

 

278:名無しの異世界おじさん

は?

 

279:名無しの異世界おじさん

命の危険があるVRwww

どこのSAOだwwww

 

280:名無しの異世界おじさん

それ完全に人体実験やんけ

 

281:名無しの異世界おじさん

お前はソレで良いのか?

 

282:名無しの異世界おじさん

アレだ、阿頼耶識システム埋め込まれるんだろ

 

283:名無しの異世界おじさん

今ならサイバーパンク エッジランナーズの「サンデヴィスタン」だろ

 

284:名無しの異世界おじさん

脳に瞳を……

 

285:名無しの異世界おじさん

宇宙の真理を垣間見るのか

 

286:名無しの異世界おじさん

何にしても謎が深まるな

 

421:名無しの異世界おじさん

おいおいどうせなら会場教えろよ

 

422:10人目の予約者

すまぬが会場までは言えぬ

なにせ場所等の他者が介入出来る事を他にばらしたら特典取り消しと書かれてる故

因みに此処までは公式に問い合わせて話しても良いとの返答を貰ったので書き込んでる所存

 

423:名無しの異世界おじさん

つー事は……公式が見てる可能性がワンチャン?

 

424:名無しの異世界おじさん

おーい公式ー、見てたら予約枠増やしてくれー!

 

425:名無しの異世界おじさん

見てる訳無いだろ

常考

でもツアーは参加してみたい

 

426:名無しの異世界おじさん

命の危険があっても?

 

427:名無しの異世界おじさん

そりゃ異世界に命の危険はつきものでは?

 

899:名無しの異世界おじさん

それにしてもVRかー

 

900:名無しの異世界おじさん

公式のあの写真がVRなら是非体験したいけどね……

 

901:名無しの異世界おじさん

それな

 

902:名無しの異世界おじさん

でもあの動画とかどうやったらVRって言えるんだろな

 

903:名無しの異世界おじさん

公式の行動が一番謎

 

904:名無しの異世界おじさん

狙いが見えないよね

 

905:名無しの異世界おじさん

資金ばら撒きにしか見えない

 

993:名無しの異世界おじさん

アニメがウケればまた公式が動くやろ

 

994:名無しの異世界おじさん

3巻でも予約特典plz‼‼‼

 

995:名無しの異世界おじさん

1000ならオラリオツアーに参加できる

 

996:名無しの異世界おじさん

1000ならオラリオは実在する

 

997:名無しの異世界おじさん

1000なら異世界転生できる

 

998:名無しの異世界おじさん

1000ならリアルヘスティアに会える

 

999:名無しの異世界おじさん

1000ならイシュタルおっぱいを揉める

 

1000:名無しの異世界おじさん

1000なら異世界ハーレムが作れる

 

このスレッドは1000を超えました。

もう書けないので、新しいスレッドを立ててください。




おじさんの考えた最強の計画(笑)が進行中

おじさんの世界を巻き込むその意味をおじさんはノリだけでやってます

次回、おじさんと会社

どこまでもマネーisパワー


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46 おじさんと会社

「おいっす、叔父さんお久しぶりっす」

「おじさんっつーかもう爺さんだけどな」

「それはまぁ確かに」

「オメーもすっかり老けたなぁ、腹どうなってんだソレ。何人入ってんだよ」

「いや、入ってないない。まだ嫁さんと籍入れてねぇし」

「何? お前嫁さん貰ったの?」

「その内籍は入れるかもしれない人は出来たよ」

「まじか! こりゃ今日は酒飲まないとな。泊まっていくか?」

「1泊位なら」

 

おじさんは日本の東京……おじさんの叔父で会計士をやってる叔父さんを訪ねて来ていた。

世間話から始まり家族の近況やら最近のおじさんの活動。そして遂に今日叔父さんを訪ねた本題が始まる。

 

「そんでお前、会社作りたいんだって? 義姉さんから聞いてるよ」

「あ、母さんから聞いてるんだ」

「でも嫁さんの話とか全然してなかったぞ?」

「あー、まだ話してない」

「マジか、お前もいい歳なんだから話とけよ。何時おっ死ぬか分からんぞ」

 

苦笑しながらも話を元筋に戻す。

 

「んで? 何する会社なんだ?」

「うーん、ざっくりいうと派遣業になる……気がするけど中身は書類仕事。ぶっちゃけると今ある組織がクソ過ぎるから上をある程度切り捨てて中身を作り替える感じ。

 ソコの一番上とは話が付いてるから今は社員の住む所とかを手配中かな」

「ふーん、ちゃんと儲け出るのか?」

「うーん……ぶっちゃけボランティアの側面が強い。会社再生……みたいな」

「お前さぁ、前から思ってたけどやっぱ頭の螺子外れてるよな」

「今更でしょ」

「そりゃそーだろ、兄貴なんて『息子が帰って来る度に大金置いて行って怖い』とか俺に愚痴るんだぞ?」

「え……親父そんな事言ってたの?」

「態々渡米して宝くじ買ってそれが史上最高金額当選って狙ってるとしか思えんだろ……お前の通帳またヤバイ事になってるだろ」

「まぁ日本の国家予算数年分位?」

「景気が良い話なのか、頭が痛い話なのか……」

 

そんな感じで色々な話をしながら会社設立の準備を手伝って貰う事に。最速でも2週間はかかるのでその間の精霊ちゃんの面倒はイシュタルちゃんとヘスティアちゃんにお願いしてきた。当然というか、こちらの世界で。

で、派遣会社を興すにはそれ用の資格が必要な訳で……おじさん久々に勉強しました。で、この時思った。

恩恵貰ってから勉強すると何かすげー頭に入る。実は知力補正もステータスに乗らないだけであったりするのか?

お陰で少ない時間で全ての内容を把握してからは試験日を待って受けるだけ。幸い直近だと3か月後に受けれるタイミングがあり、今ならギリギリ申し込みが間に合うので直ぐ様受験申込を済ませた。

 

結果、当然の様に合格。若い頃に恩恵貰えば神童ムーヴ出来たかも。

こうなってくると冒険者ってちゃんと勉強する場を設けたら頭良くなるんじゃね? あんな世界観だから勉強しないんだろうけど、スペック的には頭良くなる可能性は高いな。

 

◇◇◇◇◇

 

場面は変わっておじさんの家、色々と提出する書類が出来上がってないのでオラリオよりも雑音が少ない日本で作業をしている。と言っても最近こちらにはヘスティアちゃんの他にも来る神が増えた。

 

「イシュタルちゃん、ヘファイストスさんは相変わらず?」

「ん、youtube。鍛冶動画」

 

ヘスティアちゃんが酒で酔ってヘファイストスさんに自慢したのが始まり。youtubeで素人鍛冶動画とか日本刀作成動画なんかを見ていたヘスティアちゃんが酒の席でヘファイストスさんの知らない知識を喋ったのが運の尽き。

オラリオには無い手法で作る鍛冶に俄然興味が湧いた彼女はおじさんに依頼してきたという訳だ。

彼女にはおじさんも盾の件で世話になっているのもあるのでまあ良いかと了承。

そして機械に強くなったイシュタルちゃんに教えてもらいながらyoutubeで包丁やナイフを作る動画から始まり、錆落とし動画や色んな素材を使った刃物を作るイロモノ動画まで見ている始末。

一応薬品とかの取り寄せは今の所してないけど……オラリオに戻った時に変なモノを作らないか……そこが心配だ。

 

「おじ、会社、出来る?」

「んー、このままいけば登録は出来そう。後は屋号を決めてしまえば良いかな?」

「屋号?」

「会社名だね」

「屋号、私の名前、使っていい」

 

ふむ……イシュタルの名前。

 

「株式会社イシュタル、有限会社イシュタル、……うーんおしゃれだけどおじさんの会社には合わなさそうだ」

「なら、屋号、何?」

「うっ、それは決まってないけど……」

 

こーいうのは捻っても出ない時は出ないのでソファーに移ってだらけよう。当然おじさんが移動するとイシュタルちゃんも移動してくっ付いてくる。

感覚的には大型犬に懐かれてる感覚だが喋るようになってちょいちょい言葉攻めしてくるの止めて、それは良い声の君がするととても効く。

自分に言い聞かせてどうにかなってるが、そろそろ理性が負けそうなおじさんです。だって柔らかいし良い匂いするし暖かい上に好意を寄せてくる、限界が近づいてるのを理解しつつも今日を頑張ってるおじさんです。

 

「それはそうと、精霊ちゃんは今日、目を覚ました?」

「まだ」

「そっか」

 

精霊ちゃんはこっちの世界に居ると1日に少しの間だけ目を覚ます。

話したい事が色々あるんだけどな。




ちゃくちゃくと進むおじさんの計画

同時に進むイシュタルのおじさん籠絡計画

おじさんの計画が先か、イシュタルの計画が先か

次回、おじさんと参加者

VR計画始動


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47 おじさんと参加者

おじさんは今、ホテルの一室を借りてダンまち2巻の特典予約をした人達と集まってる。二名程キャンセル出たが8名も集まっただけで十分。

というか半分以下になると思ってたが意外と集まったな。内訳は男性5女性3。

 

「えー、皆さんお集まり頂きありがとうございます。今回の予約特典のご説明をする異世界おじさんの中の人です。宜しくお願いします」

 

挨拶もそこそこに全員に書類を配る。渡された書類を全員目を皿の様に広げて凝視している。

 

「メールで事前に通達しておりましたが、今回のオラリオツアーには命の危険が少なからず存在します。お手元に配った書類の内容に目を通してもらい、条件を飲める方だけ書類にサインを行ってください」

 

ざっくりと書類を読み上げてない様を説明した上でまとめると。

 

「書類の内容はシンプルに言えば1.ツアーで命を落としても自己責任である事。2.ツアー主催者は出来うる限り参加者の命を守る事。3.どうしても厳しい場合は強制的にツアーを終了する事。4.アバターを作成後、アバターに成れるまで3日はホテルで過ごしてもらう事、5.ツアー終了後はアバターを元に戻す事。この5点です。ここまでで質問ある方?」

 

無い様なので先に進む。

 

「今回皆さんにはツアー参加前にマッサージの施術を受けてもらいます。簡単に……いえ、はっきり申し上げますが皆さんが『今の状態』でツアーに参加するのは非常に危険なので強制的に参加して問題ない状態に変化していただきます。

 尚、ツアー後は今の状態に戻れるので難しく考えなくても大丈夫です。シンプルにアバターを作るとでも思って下さい。」

 

何せ半数以上がぽっちゃりor肥満の人達だ。いざという時に走れないのは致命的。

なので強制的に馳せて筋肉質の姿になってもらう。疑問は絶えない様だが体験してもらった方が早い。

 

「では書類に記入が終わった方から施術を受けてもらいます。今回のツアーは1週間の予定です、内訳としては最初は異世界らしくモンスターとの触れ合い。その次が公式中の人達との面談、そしてオラリオの観光となっています。

 宿泊に関してはオラリオで行うのも自由ですが宿泊場所に関しては指定している施設以外での宿泊はお勧めしません。

 作品を読んでくださっている皆さんなら分かると思いますが、オラリオの治安は悪い所は悪いです。日本気分で歩けば余計なトラブルに巻き込まれる事間違いなしなので、皆さんにはそれぞれとある組織の職員を一人一人に付けます。何か疑問や行きたい場所に関してはその人達と行動をして下さい。

 後、彼ら、彼女らはNPCでは無いので下手な事をした場合は犯罪となりますのでご注意を」

 

釘を刺すべき所は釘を刺した。後は実際にやりながらだな。

 

「では覚悟が決まった方は書類を提出してから施術に入ります。一応制限時間も設けてますのでこのタイマーが鳴るまでに決めてください」

 

とか言ってたら一人速攻で書いて提出してきた。確かこの人は予約番号No10の人だ。

 

「随分早いですが……内容読みました?」

「大丈夫です! 『ダンまち』世界なら命がけも承知です!」

「解りました、アバターの希望とかありますか?」

「ランボーみたいな感じが良いっす!」

「なるほど、いわゆる細マッチョって奴ですね」

「……あれって細マッチョになるっすか?」

「??? 私の認識だとマッチョってボディビルダーとか盛ってる時のシュワルツネッガーのイメージですが」

「あー、そういう意味だと細マッチョで」

「それでは別室に案内しますね。書類が書けた人はこちらのカゴに入れてから席で座っていてください」

 

そう言ってNo10と出ていくおじさん、残された7人はどうやら近い席の人と話し合いするらしい。

さて、別室でNo10がパンイチで施術台の上で横になって貰ったのでアイマスクをして貰う。そしたらサクっとおじさんの【庇護脂肪】を発動。

最初に今の状態を記録してから、オーダー通りの体に寄せていく。体の脂肪はみるみる燃焼され筋肉に変わっていく。細マッチョが希望だったので出来るだけ筋肉は圧縮して見せる筋肉ではなく実用性重視の筋肉に変えていく。

施術時間僅かに3分。ぽっこりお腹はバキバキの腹筋、体は全身が締まり、顔に乗っていた肉は全部減らしたので目鼻がスッキリしてイケメンが出て来た。

 

「はい、施術終わりましたよ。アイマスク外しちゃってください」

「え? あの体触られた位しかないんですけど……」

「でももう終わりましたよ? はい、こちらに立って」

 

そういってから全身が映る鏡の前に立たせる。

 

「なっ、なんじゃこりゃーーー!??!?」

 

おー、おー。やっぱ肉と一緒に顔のシミとかその他諸々若返らせたのが効いたか?

 

「お気に召さない? やっぱ肌ツルツルにしたのは余計でした?」

「えっ、いや、アバターって話じゃなかったんですっけ……」

「まーリアルでつけれるアバターっすね」

「いや、これ整形? でも……えっ、5分も経ってないのにコレって……えぇ……」

「不都合あれば直ぐに元に戻しますけど?」

「あぁいや、大丈夫っす。ちょっと混乱してるだけで……」

 

はい、それではさっきの部屋に戻りましょうか。

そうしてNo10の人と共に説明部屋に戻ると参加者が疑問顔になった。『アイツは誰だ?』と。

 

「はい、皆さん施術とはこの方の様になります。一時的に痩せた姿になっていただくことになります」

 

一応本人という事を示す為に喋って貰ってご本人であると納得して貰う。その瞬間、残り7名のはざわついた。

そして爆速で書類を書き始める女性3人。後に続く男性陣。

結局8名全員が参加。そして全員が細く、動ける体を手に入れた。

そこからは全員の返事と行動が凄まじく早かった。取りあえず今の体に慣れてもらう為にホテルに入ってるジムで全員体を動かして貰う事になったが、全員が疲れ知らずの自分の身体スペックに驚きながら運動している。

まぁアレだけの貯蓄エネルギーを筋肉に変えて体力が有り余ってる状態であればめちゃくちゃ動けるはずだ。体の不調も全部治しておいたし。

 

「さて、運動が終われば食事、その後はしっかりとした睡眠をとって貰ってコレを後2日続けます。十分にアバターに慣れたらツアーを開始するので宜しくお願いします」

 

そうやって〆ようとしたら質問が上がって来た。はい、そこのJカップ美人になった人、どうぞ。

 

「あの……このアバターってツアー終わったら戻しちゃうんですよね……このままにとかは……」

「うーん、こう言ってしまうとアレですが……皆さん元の姿とめっちゃ乖離してますよね? その状態で帰って、友人や家族が混乱しませんか? 『お前は誰だ』って」

 

そう言うと全員が口を噤む。

 

「ま、体系は戻しますが体調の不良とかは全部取り除いておくのでソコまで気落ちしないでください。後、希望があれば痩せやすい体質とか太らない体質にしますんで帰宅後に運動すれば今の体型を手に入れるのは直ぐですよ?

 ついでに言えば今の内に運動に慣れておけば体型を戻しても体が運動する事に慣れてるので戻った後の運動も簡単ですし」

 

その瞬間、女性陣の目の色が変わり運動に対する熱が別ベクトルに変わる。頼むからオーバーワークはしない様に。

そんな感じで参加者の事前準備は一先ず完了。次はツアー本番だ。




おじさんの計画第一弾がついに動き出す。

そしてリアルでとある変化が……。

次回、おじさんとオラリオツアー

自重を止めたおじさんは何処まで行ってもおじさん


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48 おじさんとオラリオツアー

「それじゃ、今から皆さんにはVRでオラリオツアーに参加してもらいます。事前の契約通り命の危険もあるのでソコは改めてご留意下さい。

 最初はモンスターの町で2日の宿泊。そこで多種多様のモンスターと交流を試みて下さい。それから彼らは言葉を喋るモンスターなので会話も出来ます。

 それとモンスターと言っても人権はあるのでソコも注意してくださいね」

 

そう言ってから【ワールドテレポート】を使う。

 

「一応VR中でも電子機器は使えるので緊急事態の際は私が持ってるこの電話に掛けてください。それから街中等の写真はSNSに乗せても良いですが、プライバシー等には配慮をお願いします。事前に伝えましたがあまりに酷い行いが発覚した場合はその場でツアーは即中止となります。その際にはアバターを全て元に戻して即刻お帰り頂きますので」

 

言外に『お前らの体完全に戻すからな』と言ってにっこり笑う。少なくともこれで女性陣は絶対に変な事はしないはず……しないよね?

後は野郎共がエルフや獣耳にどれだけ反応せずに理性を保っていられるか……まぁ最悪の場合はちゃんとイシュタルファミリアに連れて行く算段は付けてるから良いんだけど。

全員目の前に現れた黒い穴に恐る恐るしながら潜っていく。

さて、ここからが本番だと気合を入れておじさんも潜る。いざ行かん、ゼノスの町へ!

 

◇◇◇◇◇

 

やって来ました、おじさんとゼノス達で建てたゼノス達の住む町。『アラハビカ』、とある漫画が元になっており何だかんだ問題もあったが意外と良い感じに仕上がった。

今回参加者に割り当てるのは旅館タイプの建物。特に名産は無いが日本では絶対にありえない光景が目の前には広がっている。

角のあるウサギ、2足歩行のトカゲ、人の体を持った巨大なクモに両手が羽になったハーピー。現実では絶対にありえない生き物に全員が大興奮している。

 

「はい、皆さん興奮するのは良いですが一度宿泊施設へ行きますよ。その後彼らと正式に面会するので興奮はその時まで取っておいてください」

 

そう言って全員を旅館へ誘い部屋に割り振る。一応一人一部屋だが広間もあるので何かあればソコを使っても良いと言っておく。

現在の時刻は朝の8時、まずは朝食だ。ここで出すのはオラリオの食材……ではなく日本の食事。

ただ作るのはゼノス達で今回の為に手先が器用な者を集めて料理を覚えてもらった。食事を出した後に作った人として紹介、いただきますしてから食事しながらの雑談タイムに突入。

なんというか人以上にゼノス達の方が興味深々でグイグイ彼らに近づいて行く。引っ込み思案の多い日本人には丁度いいのかも……。

 

早速写真撮ってはしゃいでる。意外にもゼノスの方も皆ノリが良いのでめちゃくちゃサービスしてる。

食事を取りながらこの町のコンセプトを説明。単純にモンスターと共存出来る町ってくくりなんだけど作成途中だから参加者にも意見を求めて見る。

 

「何かこうしたら良いとかあれば意見言って貰えます?」

「あっ、自分水族館勤務なんですけど水生の人達の住処ってどうなってます?」

「今の所は川を引き込んで住む事位しか決まってないですね」

「食事とかは自分で取るんですか? 用意が必要なら食事場が必要ですし地上に上るならスロープ状の場所がある方が色々楽っすよ」

「あぁ~スロープ。なるほど」

 

そんな会話を続けながら色々と有益な情報がいくつか出て来た。それらをメモして今後のアラハビカの発展に利用しようと決めながらツアーは進む。

 

二日間に渡るモンスターとの触れ合いで獣属性の人が非常に参ってここに住むとか言い出したのは予想外の展開だが『公式中の人と会わないでも良いんですか?』の一言で事なきを得た。

場面は変わりヘスティアファミリアのホーム、テレポーテーションで移動してきたが参加者は『あぁ、またコレか』と良い意味で慣れてきている。そしてホームの広さにドン引きしてる。

そりゃこの大きさで10人以下しか住んでる人いなけりゃそういう反応にもなるか。

 

「はい、という訳でこちら、ダンまち主人公の二人。ベル君とヘスティアちゃんです」

「はっ、初めまして、ベル・クラネルです」

「ヘスティアだよ。よろしくね!」

 

参加者大興奮、更にヘスティアファミリアだと1巻に出て来たリリちゃんが人気。後は春姫ちゃんもケモ耳と尻尾のお陰か獣好きさんに質問攻めにあってる。

頼むからセクハラにならん程度にしてくれよ……ツアー中止は避けたいんだから。




参加者が遂にオラリオの土を踏む

交流は知らぬうちに密かに進んでいく

次回、おじさんとオラリオツアー2

おじさんの狙いは何処に……


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49 おじさんとオラリオツアー2

沢山の方に誤字報告を頂いております。
この場でお礼申し上げます。(順序不同)
感想に関しても沢山頂いております。
こちらは名前の抽出がハーメルンのシステム難しい為お名前の掲載は控えさせてもらいます。ご容赦下さい。

スタバ様
SHAM様
暇人mk2様
とんびMEN様
牛乳魔人様
V・X・T様
アント様
あんころ(餅)様
りゅう。様
シモン様
町長様
ナナフシ様
蜂蜜梅様
げんまいちゃーはん様
蜂蜜猫様
kurou様
MAXIM様
河合様
錆鑢 七実様
Takami提督様
KenHourai様
。。。様


参加者大興奮、ゼノス達と会った時よりも興奮度合いが強い、まぁ2次元の存在と3次元で会うって普通ないからな。

取りあえず参加者全員集合しておじさんも一緒にヘスティアファミリア全員で集合写真をパシャリ。SNSに乗せておく。オラリオツアーなうっと。

 

ワイワイと参加者とヘスティアファミリアの交流をしながらPCを取り出して雑談の様子を録画しておく。聞いてる事や答えてる事はちょっと編集したらラジオっぽくしてyoutubeにでも流せば良かろう。

ちょっとした番組のオマケとして載せてみよう。もしくは先行配信とか良いかも。

皆思い思いに話をしている。普段の生活や食事、娯楽等。

日本との生活に比べてかけ離れてるからちょっと呆然としてる節もあるがこの辺りは情報化社会との違いなので当然の反応か。

 

後、皆なんでそんなにチラチラおじさんの事見るの?

 

「いや……それは……」

「なぁ」

「成金プレイ?」

「美女と野獣……」

「社長と愛人?」

「飼い主とペット」

「どっちが?」

「そりゃぁ……」

 

なるほど……そんな風に見られるのか……、イシュタルちゃんの抱き着き癖は早めに治した方が良さそうだ。

 

◇◇◇◇◇

 

対談の翌日、ヘスティアファミリアのホームにはガネーシャファミリアとギルド職員の姿があった。

参加者の護衛兼案内人として来てもらった。内訳は1名につきlv3またはlv2が2名。併せてギルド職員が1名。

ま、雇ったと言ってもミッションで来てもらってるんだけど。

ツアーとしちゃオラリオのある意味メインのヘファイストスファミリアとゴブニュファミリアの武器屋からポーション屋、魔道具等の店を回って貰って日本人から見てファンタジー道具の価値を推し量ってもらいたいのだ。

ある意味今回のツアーのキモとも言える部分。

 

「おー」

「確かにキレ味良さそう」

「でも絶対重いし持てないよな」

「日本じゃ使い道無いよな」

「ポーションも……緊急なら兎も角」

「金持ちじゃなけりゃ多分使わないだろ」

「道具なら100均で事足りるし……」

 

等々、正直反応薄い。何か目玉になるようなものがあればなぁ。

 

「あの」

「はい?」

「このアバターじゃ駄目なんですか?」

「それは土地のものではなく、私の技能なので駄目です」

「((((((((この人が一番チートなのでは))))))))」

 

ツアー最終日、恙なくツアーは終了しオラリオ観光は終了した。

が、おじさんが知りたかった『日本人なら何を望むか』という答えはオラリオの地には無く、おじさんのマッサージという結論になってしまった。

 

ちゃうねん、観光名所とか土地独自の他にない物じゃないと意味無いんだよ。

 

◇◇◇◇◇

 

【今頃】オラリオツアー【異世界】

 

1:名無しの異世界おじさん

本スレは「ダンジョンに出会いを求める少年と女神の間違い」2巻の予約特典に関する雑談スレです。

考察は別スレが立っているのでそちらを参照

 

【考察】VRツアー内容【オラリオ】

URL//......

 

公式アカウント【異世界おじさん@オラリオ在住】

URL//......

 

2:名無しの異世界おじさん

スレ立て乙

 

3:名無しの異世界おじさん

 

4:名無しの異世界おじさん

今頃参加者10人は全員オラリオをVR体験してんのか

 

5:名無しの異世界おじさん

VRとか言いながらリアルコスプレだったりしてな

 

6:名無しの異世界おじさん

そーいう路線もあるのか

 

7:名無しの異世界おじさん

コスプレ風俗的な?

 

8:名無しの異世界おじさん

オラリオ風俗か……ケモ耳やエルフ、ドアーフやアマゾネスだろ?

是非行ってみたい。

 

9:名無しの異世界おじさん

でも性病怖くね?

 

10:名無しの異世界おじさん

あの世界に性病があるかどうか、それが問題だ

 

101:名無しの異世界おじさん

まぁ間違いなく風俗はあるとして、他の産業って何だ?

 

102:名無しの異世界おじさん

農業、漁業、商業、畜産業、……あとは何だ?

 

103:名無しの異世界おじさん

一応産業をwikiで調べるとこうなるな

第一次産業 - 農業、林業、水産業など、狩猟、採集。

第二次産業 - 製造業、建設業など、工業生産、加工業。電気・ガス・水道業

第三次産業 - 情報通信業、金融業、運輸業、小売業、サービス業など、非物質的な生産業、配分業。

 

104:名無しの異世界おじさん

オラリオってダンジョン依存の都市だろ?

そうなると……やっぱ第一次産業が盛んになるのか?

 

105:名無しの異世界おじさん

ダンジョンで一次産業、取って来たものを都市で加工する二次産業じゃね?

 

106:名無しの異世界おじさん

三次産業は?

 

107:名無しの異世界おじさん

どの位発展してるかによるけど……小説の描写だとそこら辺って曖昧だから分からん

 

 

257:名無しの異世界おじさん

そういやダンマチラジオが公開されたな

 

258:名無しの異世界おじさん

何それ

 

259:名無しの異世界おじさん

これ

https://www.youtube.com/.......

 

260:名無しの異世界おじさん

公式曰くオマケだと、オマケの先行配信らしい

 

261:名無しの異世界おじさん

そんなのツイッターでやってたっけ?

 

262:名無しの異世界おじさん

呟いてないけどyoutubeに上がってるぞ

 

263:名無しの異世界おじさん

えぇ……中の人ツイート忘れてるのかw

 

264:名無しの異世界おじさん

割と中の人適当だよな

 

265:名無しの異世界おじさん

この辺が企業と違う感あるよな

 

266:名無しの異世界おじさん

儲け度外視という謎

 

267:名無しの異世界おじさん

ワイ、アニメ制作メンバー

儲け度外視の割には金は落としてくれるんだよな

 

268:名無しの異世界おじさん

おっ、情報持ちだ!

囲め

 

269:名無しの異世界おじさん

囲め囲め

 

270:名無しの異世界おじさん

情報寄越せ下さい

 

271:名無しの異世界おじさん

ワイ等はアレ、石油王って呼んでる

 

272:名無しの異世界おじさん

石油王?

 

273:名無しの異世界おじさん

金持ちの娯楽?

 

274:名無しの異世界おじさん

成金?

 

275:名無しの異世界おじさん

大富豪

 

276:名無しの異世界おじさん

宝くじ当てたからアニメ作ったとか

 

277:名無しの異世界おじさん

細かくは言わんけどパトロンになって欲しい存在

まじで金払いが他と違うし直接来るし……おかげでダンまちだけスタッフの気合が4倍位違う

 

278:名無しの異世界おじさん

お貴族様かな?

 

279:名無しの異世界おじさん

マジに石油王?

 

280:名無しの異世界おじさん

ツイッターの4コマ漫画みたいだな

 

710:10人目の予約者

拙者、ツアーより帰還した

尚、最終的に参加した人数は8名でござった

 

711:名無しの異世界おじさん

 

712:名無しの異世界おじさん

乙カレー

 

713:名無しの異世界おじさん

ツアー情報はよ

 

714:名無しの異世界おじさん

>>参加した人数は8名でござった

まじかよ、変わってほしかった

 

715:10人目の予約者

オラリオは大変楽しい所でござった

モンスターとの触れ合い&会話交流はこっちじゃまずできない体験

 

716:名無しの異世界おじさん

え、モンスターって喋るの

 

717:10人目の予約者

喋る

一部だけらしいでござるが

 

718:名無しの異世界おじさん

へぇDQの仲間システム的な?

ガネーシャファミリアがテイムしてる描写あるよな?

 

719:10人目の予約者

それとはまた違ったものらしい

ただ一番のチートは公式だったでござる

 

720:名無しの異世界おじさん

そりゃ公式が話書いてるなら公式はチートになるが

 

721:10人目の予約者

いや、そういう意味じゃなく……なんというか容姿が変幻自在というか

 

722:名無しの異世界おじさん

VRだから当たり前なんじゃ?

 

723:10人目の予約者

まぁ深くは言わないけど凄かったとだけ

 

724:名無しの異世界おじさん

何か煮え切らないな

 

888:10人目の予約者

多分その内発表があると思うけど

色々とぶっとんでるのだけは間違いないでござった

 

889:名無しの異世界おじさん

オラリオより中の人の方が気になり始めた

 

890:名無しの異世界おじさん

謎だしなぁ

 

891:名無しの異世界おじさん

ちょっと考察スレ行ってみるか




おじさんの思惑とは違い興味は作品からズレる

困ったおじさんの取る行動は?

次回、おじさんと配信

段々と迷走するおじさん


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50 おじさんと配信

掲示板形式は……ツール使わないとめっちゃダルイのが分かった。
もうやんぞー!

投稿ミスってた……。


徐々に知名度を上げて行った『ダンまち』だが、何故か作品より中の人であるおじさんの謎に迫れってワードの方が検索上位にくる不具合。

おじさんは疲れてるのだろうか? ……まぁ間違いなく疲れてるけど。

という訳でギルドまでウラノスとフェルズに会いに来た。イシュタルちゃんくっ付いたままだけど。

 

「おいーっす」

「おじさんか……どうした」

「アラハビカの設営が第一段階突破して、そろそろ一通りの設備が出来るからいい加減そっちで産業の案は出たかなって」

「すまない……今の所は何も」

(モンスター特有の素材等も考えたが特定の種族に負担が掛かり過ぎる為、他に何か無いか探している最中だ)

「ううーー、そろそろおじさん疲れが溜まってきて頭パーになりそうなんだけど」

「体調が悪いのか」

「いや、タスク……仕事が詰め込まれてストレスでしんどい。1か月位羽を伸ばさせてくれ。何ならおじさんの世界に戻ってからストレス発散するから」

「ふむ、今倒れられては困る。羽を伸ばしてくると良い。その間にこちらもアラハビカの設営を勧めつつ何等かの産業を考えるとしよう」

 

それじゃと言って席を立った所、イシュタルちゃんに止められた。

 

「おじ、待て」

「お?」

「ウラノス、こいつ、頼り過ぎ」

「……」

「おかげで、私との時間、無い」

「……」

「これ以上は、私も動く。覚悟しておけ」

 

珍しく他人に対して長台詞言ったイシュタルちゃんに関心しつつ改めて背負い直してホームに帰る。

相変わらずじろじろと見られるが悪い意味でおじさんも慣れてしまった。

 

「1か月の休みかー……オラリオ来てからは久々だな。イシュタルちゃん何したい?」

「おじと、温泉」

「温泉かぁ、向こうなら精霊ちゃんも目を覚ます様になったからそういうのも良いかな~」

「ヘスティア、留守番」

「ん~? ヘスティアちゃんが留守番? それはコッチでって事?」

「そう、おじ、私、精霊。家族だけ」

「ふむ……温泉旅行……すっかぁ~」

 

◇◇◇◇◇

 

という訳でやってきました温泉旅館。メンバーはおじさん、精霊ちゃん、イシュタルちゃんの3人。

二人は容姿が容姿なので家族風呂の予約も取ったぜ。

今ではイシュタルちゃんが精霊ちゃんの車椅子押してくれるからおじさんめっちゃ楽出来る。

さっそくチェックインして初日はグータラする事に。あぁ~畳の感触~。

 

「おじ、畳好き?」

「タタミ?」

「これ、床の奴」

「タタミ……」

 

興味深そうに精霊ちゃんが見てるので座椅子に座らせる。座って直ぐに畳を手で触って感触を確かめている。

 

「何でか分からんけどおじさん畳好きなんだよねぇ。子供の頃、祖母と過ごしてた時は基本的に和室だったからかな。どうしても和室が恋しい時があるんだよね」

「ふ~ん」

「フ~ン」

 

座布団に座って一息つく。和室特融の香り、やっぱ落ち着くな~。

そしてお茶、お線香、お茶請け。なごむ~~~。

 

◇◇◇◇◇

 

昼食は食堂で和食を注文。慣れて来たとはいえ精霊ちゃんはちょっとおっかなびっくりで食事をとり、イシュタルちゃんは慣れた手つきだがエキゾチック美人なので他の客からチラチラ見られてる。

おじさんは別の意味で見られてますが……二人とギャップあるもんね。美人2人とおじさん。

 

だからといってナンパを許すという訳じゃないんだが?

 

「ねーねー、お姉さん。俺たちと一緒に温泉回らない?」

「そーそ、こんなおっさんじゃなくてさ」

「そっちの車椅子の子も一緒にさ」

「おい、ガキ共、昼飯の邪魔だから早く自分の席に戻れ」

「はぁ? おっさん何でソコに居る訳?」

「美人連れてるから頑張ってるんでしょ」

「絶対釣り合ってないから」

 

おじさんが溜息一つ吐いて席を立とうとした所、イシュタルちゃんが手元にあった味噌汁を近寄ってた男の一人にぶっかけた。

 

「あっつ!」

「てっめ!」

「何しやが……」

「五月蠅い」

 

イシュタルちゃーん、神意ちょっと漏れてるよー。

 

「旅行の、邪魔」

「ジャマ」

 

あ、精霊ちゃんからも若干力漏れて来てる。今なら精霊魔法使えそうな感覚がある。

哀れ若者3名は腰抜かして……失禁しとる、武士の情けとしてソコは見ないふりして首根っこ掴んで食堂の外へ連れ出し部屋行って着替える様に促した。

 

飯を食ってからは少し温泉街をぶらぶらして足湯に浸かったり、温泉卵や温泉饅頭を食べたり。露天風呂に野生の猿が現れると聞いて見に行ったり。

 

夜は夜で旅館の風呂を楽しんだ。露天風呂ではなく家族風呂でだが。

さすがに精霊ちゃん入浴させるのを任せる訳にもいかんのでしょうがない。結局3人でゆったり風呂に浸かった。

 

っが!

 

おじさん別の意味でリラックスし過ぎたので一度息抜きをしたい……主に下半身の!

スキルでコントロールしてるから体的には良いけど精神的に物すっごく辛い!!

スキルが無けりゃ何度暴発していたやら……。

 

◇◇◇◇◇

 

二人が寝静まった深夜。こっそりと布団を抜け出して夜のお店へ向かう。

想ってもらっている手前なんだが……さすがに病人相手は気が引けるので夜の店でサクっと解消しちまおう。

そもそも今回の休息も本来なら一人で羽を伸ばすつもりだったが……まぁ見通しが甘かった。助けてから基本四六時中一緒に居るんだからちょっと考えれば分かるがもう色々……そう、色々と我慢が溜まっていたのだ。

という訳でやって来ました風俗店。ちょっと場末感あるがそれは重要じゃない。

さっそく中入ろうと思ったら。

 

「あれ? あん時のおっさんじゃん」

 

振り返ると昼食の時にナンパしてきた子。

 

「おー昼間の、ちゃんと着替えたか?」

「「「当たり前だろ!」」」

 

何ともノリの良い。

 

「何だ、三人してまたナンパか?」

「いや、別にナンパじゃねーし。昼間のアレだってただ声かけただけだから」

「そーそ、それに地元でナンパは無いっしょ。つーかおっさんこそ何? ソコに今から入るの?」

「あんな美人と一緒なのに? やっぱ何か訳アリ温泉旅行か?」

 

ふーむ。この3人地元民なのか。

 

「というかアレがナンパじゃなかったら何なんだ……もうちょい言葉遣い気を付けた方がいいぞ?」

「そうか?」

「「別に平気っしょ」」

 

ああ、こりゃ真面目に人のいう事聞かないタイプ―。

 

「まあイイや。おじさんは店に入るからお前らも適当に遊べよ」

 

そう言って3人と別れて店に入る。この時こいつ等の顔をちゃんと見ていればこの後起こった事も回避できたかもしれない。




おじさん癒しを求めて温泉へ行く

そして……

次回、おじさんと配信2

まさかと思う事が起こるのが現実


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51 おじさんと配信2

おじさんがやる事やり終えてスッキリさせた後、店から出たら例の3人組がまだ居た。そして何やらハンディーカメラを回してる。

 

「おっさん、どうだった?」

「? 何がだ?」

「いやソコの店。地元じゃあんまり評判良くないけど」

「そうなのか? 対応してくれた子は丁寧で良かったけど」

「……おっさん意外と面食いじゃない?」

「いや、あんな美人連れて面食いじゃないって嘘でしょ」

「別に顔が良いから連れにしてる訳じゃないっつーの……というかさっきから何だこのカメラ」

「これ? 配信用のカメラ」

「配信用……配信用!?」

 

良く見ればおじさんの直ぐそばに来てる奴はピンマイク、カメラ役とノートPC持ってるので最低限の配信は出来そう……つーか。

 

「まさかオンラインとか言わんよな?」

「オンラインだけど? 『おっさんの風俗来店から退室まで何時間でしょうか?』って枠取ったら同接600超えてるのウケる」

 

こいつ等まさかの迷惑系youtuberか?

何気に600ってソコソコ売れてないと出ない数字じゃないの?

自分の携帯を取り出して検索してみたら本当に出た。あーあー、おじさんの顔がモロに映ってるよ。

 

「お前ら……」

「お? 何? 怒った?」

「でもあんな美人ほっぽりだして風俗行くおっさんのが無いっしょー」

「これは美人をないがしろにしたおっさんへの罰だな!」

 

頭が痛い……くらくらする……あれ? 視界が……地面が歪む……あっ、これやばいや……つ……

 

 

 

バタン

 

 

 

おっさんが頭に手を当てたと思ったら倒れた。カメラをさっと近づけて顔をアップにする。

 

「おーい、おっさん。……気絶してる」

 

近寄って頬を叩いても返事が無い。

 

「っぷ。あっはっは! まじ!? 立ったまま気絶とか初めて見たんですけど!」

「ひー! バタン! バタン! って頭から行ったぞ!」

「コントかよ! ウケる!」

 

今思えばこの時直ぐに救急車の一つでも呼んでればよかったが俺ら三人は腹を抱えて笑ってた。

すると周りが騒がしい。そのうち一人の女性が駆け寄ってきておっさんを触ってから救急車が呼ばれた。俺らは変わらず配信を続け見守っていたがソレが後日大きなニュースになって居た事に気が付いた頃には既に後の祭りだった。

 

◇◇◇◇◇

 

「…………あー……、ここどこ?」

「おじ!」

「オジ!」

「〇〇! 目が覚めたのかい!?」

「〇〇!?」

 

あの後病院に運び込まれたおじさんです。ストレスによる負荷で気を失ったらしい。

気が付けば4日が経っていた。目を覚ました場所は病院ベット、部屋には母と姉とイシュタルちゃんに精霊ちゃん。

未だにクラクラする頭のせいで思考が回らない。

低血圧の朝の様にぼけーっとしながら生返事を返す。……あれ?

 

「精霊ちゃん……喋ってる?」

「シャベッテル」

「温泉の日から、喋ってたぞ」

 

あれー? 思い出せば確かに喋ってるが……何でそんな大事な事スルーしたんだっけ?

ええ? あかん、これ本格的に疲れてるわ。

 

「〇〇、あんたこの子達は何なの? 親しいみたいだけど」

「えっ、えーっと……母さん、そのー」

「てかアンタ付き合ってる人居たんだ。しかもこんな美人」

「いや、ねーちゃんソレはだな」

 

やばい。どう説明したら良いか全然分からん。頭抱えてると母と姉が笑い出した。

訳が分からないまま話を聞けばどうやら俺が気を失ってる間に色々と話したそうで……。

しかも異世界っつーのも含めて。

 

「あんた昔っから変な所あったけど異世界とか行ってたんだね」

「まー、母さんは〇〇が無事なら何でも良いけどね」

「でもまさか異世界の神様と精霊を引っかけてくるとか思ってもみないじゃん、そういや私の義妹ってどっちになんの?」

「はぁ? いや……」

 

まって、展開に追いつけない。どうなってんのこれ?

 

「おじ、私の恩人」

「ワタシモ」

「あー、やっぱコイツ両方手籠めにしてたか」

「昔っから女の子引っかけるのは上手かったからねぇ〇〇は。その上どっからかお金だけは引っ張ってくるし」

「んでオラリオだっけ? あんたが出した小説の舞台ってソコなんでしょ?」

「げぇ!? それまで知ってんの!?」

「イシュタルさんに聞いたわよ。ってか何でアンタ出てないの?」

「いや……なんで自分出すんだよ。俺別にナルシストじゃないし」

「えー、あんたが向こうで何してるか気になるんだけど」

「それより! 母さんは〇〇がどっちの子と結婚するのか気になるね!」

「イシュタルさん! 実際どっちなの?」

「どっちだろ?」

「ドッチ?」

「もう勘弁して……」

 

頭痛に耐えかねてその日は気絶した。で、翌日。起きたら母さんだけだった。

二人に関して聞いたら姉貴の所に居るんだとか……えっ、義兄さんになんて説明したの?

 

「説明も何もそのまま説明したよ」

「うっそだろ……」

「納得してたわよ? あんたのツレって言ったら」

 

やばい。俺が周りにどう思われてるか不安になってきた。

 

「っていうか〇〇、あんたニュースになってるけど大丈夫なの?」

「はぁ?」

 

そうやって渡されたのは……新聞? 新聞の隅の方にしれっと書かれてる……確かに俺の事っぽい。

えーっと? 迷惑系youtuberの暴走、無許可で配信を行い出演させた男性が倒れても配信を続けた。尚、男性は病院に運び込まれ意識不明の状態で、件のyoutuberは今までにも数々の迷惑行為が明らかになっており今回の件で警察も本格的な起訴を……。

どうやらあいつ等は警察に捕まったらしい、そして俺の顔は新聞にこそ載ってはないものの……配信にはしっかりと顔が映っていた訳で……。

 

「うわっ……携帯の履歴が大変な事に」

 

今まで連絡を碌に取って無かった奴からもちらほら電話来てる。これはどうしたもんか。

あ、でも折角だから実家に二人を預けるのは有りか? 後でちっと相談してみっか。




まさかのネットに晒されるおじさん

いつの間にか家族と仲良くなってる二人

次回、おじさんと実家

オラリオ成分が地球に?!


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52 おじさんと実家

目が覚めて2日は検査入院し、3日目で退院。その間に親に金を渡して旅館の支払いを済ませたり、精霊ちゃんとイシュタルちゃんの面倒を見てもらってた。

んで実家に帰ってみたら……めっちゃ親族集まってた……。

 

「何この状況」

「あんたが病院から帰って来るって言うから皆集まったのよ」

「母さん」

「おう〇〇! 帰ったか」

「親父、何で皆集まってんの」

「おめーが帰って来たからだろ? おめーが連れて来た子二人も奥で待ってんぞ?」

 

座敷に通されてみれば集まってる姉妹と親戚一同。そして皆が読んでるダンまち……。

 

「何だろう。親戚一同に黒歴史見られてる気がするんだけど」

「そんな事より」

「ねーちゃん、そんな事って……」

「アンタ実際精霊ちゃんとイシュタルさんどっちと結婚すんのよ」

「……いや、どっちも病人だからそんなの今考えてないけど……」

「はぁ!? 病気なんて直ぐ治るでしょ! なんでアンタ先を考えてないの! 昔っからアンタそういう所あるよね」

「おっ、おう……」

 

姉妹全員に睨まれると何も言い返せねぇ……向こうは全員既婚者&子持ち。こっちは独身。

しかし結婚……まて、結婚ってこっちで?

 

「えぇ……戸籍とかどうするんだ?」

「そんなもの取得すりゃいいじゃないか」

「親父」

「昔ウチで雇った外人さんの就労ビザ無かった時は改めてビザ発行したり、こっちで結婚する時に戸籍取ったりしたもんよ。そこら辺は心配せんでもこっちで何とかしたる」

 

ワーオ、外堀埋まってら……。

 

「んで、おめーどっちが嫁さんでどっちがお妾さんなんだ?」

 

ブッホ

 

「はぁ!?」

「日本だと二人と同時に結婚は出来んからどっちかとするしかなかろ? ってなると現実的にそうなるだろ」

「それはそう……だけど」

「ほれ、親戚の皆はおめーが結婚すんならどっちでも良いと思っとるけど。当人たちはどっちかはっきりさせといた方がよかろ」

 

精霊ちゃんとイシュタルちゃんを見る。二人共親戚や家族と和気あいあいと話してる。

片言状態でもあれだけ話せるんだから意思疎通は良いとして……えぇ~、もっと先の話だと思ってたから棚上げしてたんだよな。

 

………………………………………何も思い浮かばん。

 

「おめーが答え出せねーんなら、あの子達と話せ。もしかしたらおめーフラれるかもしんねーぞ」

「……あー、そういうパターン」

「ちったぁ否定しろよ」

「否定出来る様な容姿じゃねぇし」

 

結局親戚が集まってる和室に行ったら全員にもみくちゃにされてそんな話をする雰囲気にはならなかった。久々に兄妹全員と姉妹の夫、子供合わせて全員集まったのでぶっちゃけコレだけで疲れるし親戚のおじさんおばさんも合わさり対応するだけで体力が残らない。

結局落ち着いたのは全員が帰った2日後。

 

「あー、きっつ」

「おじ、体力無いな」

「ナイナー」

「何で二人は平気な訳? 子供相手してたから俺より疲れそうなのに」

「私、戦の神でもある。家、女の戦場」

「センジョー」

 

二人して胸を張りフンスと鼻息が荒い。こういう所は絶対女性には勝てないな……。

その後親父と母さんも一緒に5人で色々と話をした。そもそもどうやって知り合ったのかから、俺が異世界に行くきっかけだとか、スキルの話だとか。

その結果、両親にスキルを使って見た目若返り、年齢からの体の痛みを解消しておいた。

で、当然俺自身に使えないかという話になるが……自分の容姿は気にしてないので基本的に弄るつもりが無いとはっきり言っておく。

 

「あんた妙な所で達観してたけどそういう事」

「おめーがソレで良いなら良いけどよぉ」

「何だよ」

「おめーがムチャクチャやるのは血筋だろうけど、そーいう裏付けもあったんだなって思ってな」

「小学生の時の?」

「2年だっけか? 暴走族潰して来たろ」

「3年の時はカツアゲしてきた中学生の顔潰すし」

「確か6年まで大人しくしてたと思ったらいちゃもん付けて来た別の土木組のにーちゃん畳んで来るわ」

「中学は中学で妙な騒動をアホみたいに起こすし」

「とーちゃんもアレは流石に肝が冷えたなー。ホラ、理科の実験で……」

「あー、爆弾作った奴?」

「結局警察が出てくるハメになったからな」

「高校入ったら女遊びばっかりしだして……」

「それ言うなら大学で……」

 

親父、母さん止めてくれ。

ぬおおおお、精霊ちゃんとイシュタルちゃんにそんな目で見られたくないんじゃが。

心が! 心が痛い!

 

精神的負荷を感じながらもこういう馬鹿っぽい会話で笑い実家の料理を食べて力を抜く。

結局そこからは地元で精霊ちゃん、イシュタルちゃんを連れまわし、おじさんの同級生や家族と一緒にあちこちに出かけて遊びまわった。

1か月のリフレッシュの間に二人と結婚式もどきをしたり、二人分の戸籍を取ってみたり。

話し合ったけど俺には決めきれなくて、結局家族の母、姉妹と二人が色々話し合って最終的に日本じゃ精霊ちゃんと、オラリオではイシュタルちゃんと婚姻を結ぶって話に決定した。

話が決まってからは準備に奔走してたが、楽しい毎日だった。

 

さて、オラリオ戻ったらアラハビカ作り再開すっかぁ!




家族と親戚に異世界珍道中がばれたおじさん

何やら色々と動き出している様で……

次回、おじさんとアラハビカ

リフレッシュしたおじさん、何を行うのか




※迷惑系youtuberはガッツリ訴えられて賠償金取られてます。


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53 おじさんとアラハビカ

アンケート募集中
※多分色々な分岐点だけど先は考えておりません!


1か月のリフレッシュからオラリオに戻って来たおじさん。向こうで家族と色々話したからなのかイシュタルちゃんもおじさんにくっ付く事もしなくなった。

相変わらず此方では精霊ちゃんが眠り続けちゃうのは疑問だが……それは追々話せば良かろう。

 

「という訳でただいまー」

「おじさん!」

「お、ヘスティアちゃん。お久ー」

「お久ーっじゃなくって!」

「どしたの?」

「ベル君達を治してやってくれ!」

「はい?」

 

何でもおじさんたちが向こうにリフレッシュに行ってる間に『ドキ★強化種まみれのモンスターパーティー』に出会ったらしく。全滅こそしなかったものの全員が負傷。

殿を務めていたベル君は特に重症で全身がボロボロだとか。しかも気を失ってから目覚めていない。

実際にベル君の部屋へ行ってみれば四肢と頭に包帯を巻いたベル君。エリクサーは使わなかったのかと聞けばどうもエリクサーじゃ治らなかったらしい……そんな事ある?

 

「取り合えず治してみるか」

「頼むよおじさん!」

 

幸運脂肪を使ってベル君の体を治そうとすると途端に苦しみだすベル君。妙な引っ掛かりを感じる。

試しにおじさんの脂肪使ってエネルギーをベル君の体に流し込むが手足に辿り着く前に流れが止まる。

 

「何じゃこりゃ?」

 

直ぐに治せそうにないのでヘスティアちゃんにその事を伝えると顔面蒼白。一応他と状態が違う事は間違いないので後日ディアンケヒトファミリアに連れて行く事だけ決めてその日は終了。

1か月の間に溜まっていたヘルメスの報告書やフェルズからのアラハビカの進捗状況等に目を通す。

 

「闇派閥の活性化……それにイケロスファミリアの団長が生き残ってるねぇ……。そして隷属のマジックアイテムに呪いの魔法……真っ黒やんけ!」

 

ヘルメスからの報告書によると今回のヘスティアファミリアへの襲撃はイケロスの生き残りの仕業らしい。しかも闇派閥と連携して仕掛けてきていると。

えーっと、名前はディックス・ペルディクス。ヒューマンで33歳。二つ名は【暴蛮者(ヘイザー)】。

ゼノス密輸の主犯格……ってコレ取り逃してたのかよ。もうちょい探りを入れてもらう必要あるな。

んでアラハビカは……基礎は全部終わって建築物を建てるだけの状態か。なら向こうから持ってきた建材使ってちゃちゃっと立てて。そしたら人工迷宮への入口までの道を確保して……。

あん? 何か報告書がもう一枚?

 

◇◇◇◇◇

 

「ウラノス、うーっす」

「帰ったか」

「あ、これお土産の温泉饅頭」

「……フェルズからの報告書は読んだか?」

「うん、後は建物建てたら一旦完了だろ」

 

そこからは改めて計画の見直し、モンスターが住むという点で見れば良い立地だが人が住むには微妙。住めなくは無いが進んで住みたいかと言えば理由が無いと住みたがらないだろう。

そんな所に人を呼び込むには? やはり名産と呼べるものが必要だ。

 

「モンスターとの触れ合いは……おじさんの世界の人間なら良いけど、コッチ側じゃ無理じゃね?」

「無理だな。少なくとも今は」

「ってなるとモンスター素材を定期的に算出するとか?」

「彼らから提供出来るものとそのサイクルはこちらの書類に纏めてある」

 

受け取って中身をチェックするが……。

 

「これってオラリオだとどの位の期間で集まる?」

「凡そ2週間」

「うーーん。確実性はあるけど準備期間が約半分か。品質にもよるだろうけど決め手には欠けるな」

 

その後フェルズも合流してアラハビカの売りを探すがこれと言ったものが出てこない。

仕方がないのでこの話は一旦棚上げ。最低限の目標であるゼノスの住居という点では条件を満たせているのだ、防衛力を町に付けさせてソレから考える事にした。

 

「あ、そうだ。今度おじさんイシュタルちゃんと結婚するから宜しく」

「「えっ?」」




ベル君が負った負傷、通常のケガと違いおじさんのスキルを拒む傷

ベル君は完治出来るのか?

次回、おじさんと式場

おじさん遂に……


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54 おじさんと式場

アンケートは一旦16日一杯までとしまーす
どれかに偏るかなと思ってたけどめっちゃ僅差で悩ましいw


「おらー! キリキリ働けー!」

「おじさん、コレこっちで良いのか?」

「あーソレは図面のこの位置だから……反対側だな」

「コイツは?」

「ソレは別の部屋。レイが居る所だな」

 

現在アラハビカでは建築ラッシュ中。急ピッチで色んな建物を建築、コレ等が一段落したら今度は城壁を作る必要があるので大忙しだ。

因みに色々とスキルで試行錯誤中してるが人と違う部分を弄るのがかなり手間取っている。

でもぶっちゃけ無理やり人の手の形にするとか足の形にする事は出来る。

が、そうすると骨とか筋肉とかがスカスカになったり姿勢自体を変える事になるので調整がくっそ時間かかる。

コレを良しとするかはゼノスの中でも議論がされており良いと思った者だけで対応中だ。いずれサイズの違いはあれど人と同じにはなると思う……その為には人体と動物や昆虫の勉強が必要なのでおじさん世界の本で色々調べものを続けてる。

 

「おじさん」

「お? ゴブリンの……えーっと、ごめん。名前何だっけ」

「オルツ」

「オルツか、そんで? 何?」

「おじさんがやってくれるアレ。何て呼べばいい?」

「……あれ?」

「人みたいになるやつ」

「あー……どうしよう。(整形って言えば何かマイナスイメージあるし)あっ!」

「?」

「『ヒッポロ系ニャポーン』でよろしく」

「ひっ、ひっぽろ?」

「ヒッポロ系ニャポーン」

「ひっぽろ系……にゃぽーん?」

「そうそう、ヒッポロ系ニャポーン」

 

やはり元ネタは踏襲したいおじさんなのだ。自分の裁量が許される所は踏襲したいじゃない。

今後この町での整形は『ヒッポロ系ニャポーン』と呼ぶ!

 

◆◆◆◆◆

 

アラハビカの工事を終わらせてテレポートでホームにて戻り休む。一応ディアンケヒトファミリアで診てもらったがどうやらベル君には呪いがかけられているらしい。

しかも掛けて放置というタイプではなく掛け続けている状態らしく、術者と対象が繋がっているので第三者である戦場の聖女の解呪が通らないんだとか。

取りあえず栄養だけはおじさんのスキルで賄ってるが、二人の治療の目途が立ったと思ったらまさかのベル君が倒れる事になるなんて思ってもみなかった。

 

そんなベル君を見ながらちらりと目を横にやればすっぽんぽんで寝てるヘスティアちゃん。

 

まぁ普段より早く戻って来たおじさんですけどね。意識の無いベル君に変な事してない? この主神。

おじさんは自覚ある変態だしオープンスケベでPTOは守る方だけど……まさか神の性癖を垣間見る事になるとは・……。

寝取り……いや睡眠姦? 最近の流行りだとNPC姦とか……。ショタを自分色に染めるとかそういう奴か?

うーん、何にしろ業が深い。

 

流石に見なかった事にしておこう。一応ドアに付箋を貼って……。これでよし。

 

『程々にね』

 

◆◆◆◆◆

 

そんな感じでベル君の治療しつつ、他のメンバーの治療も並行して実施。まあ、言うてポーションで殆ど治ってるので軽く体の筋肉のズレを治したりする程度だけど。

 

「で、おじさんは何で呼び出されたんでしょうか? アミッド・テアサナーレちゃん」

「私の事はアミッドとお呼びください」

「はあ、では改めてアミッドちゃん、おじさんに何用?」

 

早い所アラハビカで結婚式場完成させたいんだが。

 

「おじさんがファミリアの方に行っている治療を教えていただきたいのです」

「……はあ?」

 

聞いてみたら外傷以外の治療法に興味があって呼び出したと……何かと思えばそんな事かい。とは言え教える旨味がおじさんには無いし、時間も無い。なのでお断りします。

 

「そこを何とか!」

「だって今忙しいし」

「では暇が出来てからで良いのです!」

「えーー……」

 

マッサージ位こっちにでも有るだろうに何故おじさんなのだ。極東組ならこの手の情報ありそうだけど。

 

「あ、それは命さんに確認したんですが『アレが出来るのはおじ殿だけだ』とおっしゃられたので」

「(命ちゃん……)兎も角、おじさん忙しいので無理っす」

「ああ! せめてアレの名前だけでも!」

「……ヒッポロ系ニャポーンです」

「は?」

「だから、ヒッポロ系ニャポーン」

「ヒッポロ系ニャポーン……」

「じゃ、そういう事で」

 

はよアラハビカの施設完成させなきゃ。




見て見ぬふりをするおじさん

タガが外れつつあるおじさん

次回、おじさんと式場2

ヘルメス動く


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55 おじさんと式場2

アラハビカだが折角なのでおじさん世界の各種結婚式が出来る式場作ったろ

日本式に西洋式、中東式に南国風。

調べると山ほど出るから後でイシュタルちゃんと話さねば

 

「おじ」

「ん? 何?」

「精霊とは、向こうでやるのか?」

「あー、結婚式?」

「うむ」

「やるよー」

「そうか」

 

答えながら図面を引く。幾つか話して取り合えず日本と洋式で決まった。

CADでぱぱぱーっと図面を引くのも良いけど、頭をスッキリさせたい時ってアナログ作業してると何か落ち着くんだよね。

 

「それで、初夜は何時だ」

「あー、全快したらかな」

「ふむ……早く、治さないとな。じゃないと、アイシャに、食われる」

 

……そういやそんな約束もあったな。そこら辺は浮気カウントされないと嬉しいな。

 

「忘れかけてたけどファミリアどうする?」

「どう?」

「いや、結婚した後っつーか回復後にイシュタルちゃんのファミリアに居を移すのかヘスティアファミリアに残るか」

「おじは?」

「んーーー、オラリオでの本拠地は此処だけどアラハビカの開発が一段落したら向こうにも拠点作るかな。向こうでやらなきゃいけない事もあるし、都市間の移動なら俺の場合直ぐだし」

「なら私も一緒」

「……一緒に居るって事?」

「うん」

「それもアリかー」

 

引継ぎスキルで何回も繰り返してるけど何気に結婚って初だよな。神相手だと特に体だけで終わりのパターンばっかりだったし。

 

「おじ」

「ん?」

「過去の話、闇派閥、取引相手だった」

「うぇ?」

 

ぽつぽつと語りだしたイシュタルちゃん。

 

◇◇◇◇◇

 

フレイヤに嫉妬してフレイヤを引きずり下ろす事に執着し手段を択ばなくなった。そして力を手に入れる為に闇派閥への手引きを行っていた。

その内ソレしか目的が無くなり行きついた先があの抗争。おじが助けてくれたあの時、落ちて行くあの瞬間それが全て吹き飛んだ。予想外に助けられた後にフレイヤに釘を刺され完全に心が折れた。

その後は知っての通り依存し縋り、それでも支えてくれたおじに惚れ……それからは未知の連続だった。

異世界に渡り、未知の世界に触れ、未知を学び、更なる膨大な未知を知る為の道具を借り使った。

あらゆる娯楽に溢れたアレこそある種、神が求めた世界だ。

あれを知ったらおじは戦争の火種になる。娯楽を求め、地上にまで降りて来た神達が手中に収めんと力を示す。

真っ新になった私に残った最後のモノが他の神に蹂躙されるなんて絶対認められない。でもおじには魅了が何故か効かない。だからおじの家族に会えた時に縋った。

お前と一緒になりたいと……分かるか?

神の私が人に懇願したんだ、繋がりを作りたい。家族になりたいと。

おじの家に居た女は全員聞いてくれた。私と精霊の願いを。

お前の母は「まかせろ」と。姉妹は「歓迎する」と。お前の父には二人揃って「お願いします」だなんて頭を下げられた。

 

……嬉しかった。

下界に降りて来た時よりも、ファミリアを結成した時よりも、異世界に行った時よりも、未知に触れた時よりも。そのどれよりも心が満たされた。

分かるか? 思わず泣いてしまったよ。人に嬉しさで泣かされた。

初めてだった。

 

だからこそ全部話しておきたい。私がした事、手を染めた事。成そうとしていた事を。

 

◇◇◇◇◇

 

色々イシュタルちゃんから聞きました。えぇ、一杯驚いたが……結論、構わん‼‼‼‼

 

「おじ、本当か?」

「いやー、驚く事は一杯あるけどさ。ぶっちゃけソコまで思われてる事自体が嬉しくと正直他の事は割とどうでも良くなっちゃった」

「おじ……」

「はいはい、泣かない泣かない」

 

手元に置いてあったタオルでイシュタルちゃんの顔を拭く。

あ~~~、そんな泣き顔でにっこりと微笑まれるとですね……う~~~~ん。

 

「あのさ、一個だけ発言撤回して良いかな?」

「……何?」

「初夜を全快まで待てそうに無いんですが……」

「……良い」

 

あかんです、そんなニッコリ笑われたらもう無理っす。

これは言わざる得ない。

 

「イシュタルちゃんは俺の嫁」




絆されたおじさん

ハッスルするおじさん

次回、おじさんと都市開発

より一層開発に力を入れるおじさんに来る転機


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56 おじさんと都市開発

★お知らせ★
体調不良で休んでました。
あと10/24の週に入院&手術する事が決まったので、暫く更新が途絶えます。
ご了承ください。

--------------------------
17日にアンケートを確認した結果、以下の様になりました。
このアンケートの結果を踏まえてやっていこうと思います。

アラハビカの売りを何にしよう?
モンスター牧場 10 / 10%
風俗街 23 / 22%
マジックアイテム 7 / 7%
リゾート地 28 / 27%
第二のオラリオ 29 / 28%
その他 7 / 7%


イシュタルちゃんとxxして盛り上がった翌日。めちゃくちゃスッキリして目覚めに感動しながら朝のラジオ体操。

ウキウキでアラハビカへテレポート、開発を進めていく。街の中央区に結婚式場用の土地を2種確保してから区画整理。

立ち位置としては衛星都市の様な形。第二ギルドを設立して立ち入りは許可制、中心にゼノス、それを囲う様に風俗店を設営。そしてホテル&リゾート施設で風俗ゾーンを更に覆いその先は商業エリア。最後に防壁を建築すれば第二のオラリオ「モンスター都市アラハビカ」の完成。

 

当然そんだけ規模を大きく色々やるなら協力者が必要な訳で……。

 

「中心は名目上ウラノス、実態はイシュタルちゃん。警備にはガネーシャさん、商業には……一応ヘルメスが候補に上がってるけど……他に良い神居る?」

「ふむ……食料はどうする?」

「周囲の開拓が進めば自給まで見えてるけど、最初の内はおじさんの世界で大量に買い付けして持ち込むかも」

「……ならばデメテルはどうだ? 彼女はオラリオで消費される食材の殆どを担っている最大手だ。少なくとも食料の取引は出来る」

「まぁとっかかりとしちゃ有りかな。商売だけなら最悪イシュタルファミリアから転職希望者募って、残りをファミリアでバックアップすりゃ良いか」

 

そう言ってヘルメスファミリアを商業エリアから排除。アイツらはガネーシャファミリアと連携で動かした方が良いか? いや、手綱握らないと余計な事する未来が見えるな……何かネタ探しておこう。

 

「それで、発表するまでにどれ位かかる?」

「ゼノスが頑張ってくれてるけどさ……ぶっちゃけこのペースじゃ数年かかる」

「そうか」

「でもおじさんソコまで気長じゃないし待つ気も無いのよ」

「では?」

「おじさんの会社を動かす」

 

◆◆◆◆◆

 

やって来ました日本。そしてハローワーク。

出す文章はコレ。

 

仕事内容:建築、商業

異世界での働ける人募集

日本の地を離れての仕事となります。

日本との行き来は1週間単位。

現地通貨の獲得が目標で、日本円との交換も行います。

監督、仕入れ等が出来る方優遇。

給与:要相談

 

正直掲載無理かなとか思ったが親戚のツテを頼ってどうにか乗せれた。役所勤め万歳。

で、折角なのでSNSでも募集掛けてる事を呟く。

そしたらびっくりするほど応募が来た。

 

主にフリーターやニート。

 

後偶に本職や冷やかしなんかも入ってる。

冷やかしと思われるのは排除して、軽い調査でトラブル抱えてるのが分かる人間もリストから外す。

この時点で半分以下。

そこから職歴や家族構成を確認。金銭トラブルが無い時点で基本良いのだが家族の賛同が取れない場合はやはりお断りするしかない。何せ日本から離れるのでお子様が居たら教育問題がある。

何といっても日本の経歴に義務教育等が残らないので後の就職委とかにモロに響く。

おじさんは大人は自己責任で良いと思ってるが、子供まで親の行動に振り回されるのは賛成できないのだ。

 

◆◆◆◆◆

 

募集を掛けた数日後、ヘスティアファミリアの朝食後にて。

 

「さて、そういう訳で、おじさんは長くて半年、早くても数か月はオラリオの公共事業に従事するからダンジョンへの参加頻度は減る。その代わりファミリアへのミッション何かは減らして貰えるように交渉済み。なので暫くはベル君の武器代返済に時間を使って、その傍ら皆の装備の充実を進めて欲しい」

「あのおじさん」

「はい、ベル君」

「アラハビカを完成させる為におじさんの魔法やスキルを使うのは良いんですがどうやって町を防衛するんでしょう? 戦えない人が増えると守るのもそれだけ難しくなると思うんですが」

「ソコは文字道理おじさんが体を張る……後はガネーシャファミリアにも協力仰いでるので問題なし」

「はぁ……」

「後はベル君が女性関係のトラブルに巻き込まれない様にリリちゃんはしっかり見張っておいて」

「わかりましたおじ様!」

「リリ!?」

 

この子は目を話せば直ぐに女性のトラブルに首突っ込むからどうしようもない。なまじ能力も高いから手に負えん。

 

「それとヘスティアちゃん」

「なんだい?」

「この手紙をヘルメスに届けておいて」

「え~、ボクが行くのかい?」

「ついでにアソコの団員が居たらちょっと聞いて欲しい事が」

「?」

 

◆◆◆◆◆

 

さて……ぶっちゃけ無茶な運用を10年続けても企業体力が尽きる事は無いけど、出来れば早く完成させたい。

建築は……納期半分で給料3倍、商売は仕入れ出来るなら手当で給与1.5倍とか。

うーん、後はIT化するか……それにローカルネットワーク構築してアラハビカ内でのやり取りの高速化と一部ITをオラリオに……うーん悪さする奴が出そうだな。




アラハビカの建築ラッシュ

自分の世界に対して隠す気が無いおじさん

次回、おじさんと異世界


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57 おじさんと異世界

何か最近展開遅くなってきてたので意図的に加速
飛ばし過ぎ感もあるけど……まぁこんなもんで良いでしょ!


あれから数か月、おじさんの活動比重は日本にあった。

というのも会社の体で募集を掛けてるので手続きにおじさんのサインやらハンコが必要で書類仕事だけでクッソ忙しい。

人雇って面倒で投げれる所は投げてるけどそれでも尚書類仕事は性に合わなくて疲れる。まぁそれも山場は超えたので最後の踏ん張りだ。

 

「社長、コレで今日は最後です」

「あー、ありがと。……はい、OKです。それじゃあコレも処理お願いします」

「承りました」

「それじゃあ次は来週、月曜には一度メールするんで」

「はい、それまでにまとめておきます」

「うん、それまでは在宅勤務でも全然良いので宜しく」

「承知しました」

 

そうやって事務兼秘書さんにお願いして会社を出る。会社を出たらさっさと駐車場の隅で【テレポート】して自宅へ。

帰ると精霊ちゃんが迎えてくれた。

 

「おじさん、おかえり」

「精霊ちゃん、ただいま」

 

あれから精霊ちゃんは日本に限りすっかり話せる様になった。そして向こうで眠り続けるのは彼女が『分身体』である事が原因と話された。

彼女曰く、向こうでは本体に引っ張られ精神がリンクするのだとか、そしてその影響で起きて話す事も出来ない。もっと言えば魂が引っ張られている影響で時期に衰弱して行くとも言われた。

それからは基本彼女は日本に身を置き、おじさんの家族と過ごしてもらっている。

文字通り異心同体となった事のある身なので見捨てるという選択肢は無い。せめて安らかな最後とは思う。

で、当然ながら彼女とも結婚式を行った。綺麗に笑う彼女に目を奪われ、誓いのキスをしとても満たされる式なのに彼女が死ぬという事が信じられない。

せめて最後まで幸せを沢山残そうと思う。

目を背けると後悔しかしないという事だけは経験則で嫌と言う程『知って』いるから。

 

◇◇◇◇◇

 

精霊ちゃんの寿命が分かってからは彼女中心の生活をしていたがオラリオで動きがあった。闇派閥の何とかって(元?)団長が動いたとの連絡がイシュタルちゃんからチャットで来た。

どっから聞きつけたのかアラハビカへの襲撃を行うらしい。何だろう、心穏やかに過ごしてた所へ土足でズカズカと入られると怒りとかよりもスンと感情OFFになるのは。

 

「という訳で精霊ちゃん、ちょこっと行ってくる」

「あっ、待って」

「ん?」

「はいこれ」

 

渡されたのは安全祈願のお守り。やる気出て来た。

 

「んじゃ、ちゃちゃっと片付けて戻って来るから」

「うん、いってらっしゃい」

「対象:イシュタルちゃん 『ワールドテレポート』」

 

「じゃあね……おじさん」

 

◇◇◇◇◇

 

「イシュタルちゃん、来たよ」

「ん、おじか。要点をまとめた物をプリントアウトしておいたぞ」

「おー、さんきゅ」

 

受け取った用紙を見れば相手がアラハビカを襲撃する日付と構成員がつらつらと書かれている。

向こうの最高戦力はディックス・ペルディクスのlv5。次に……バルカ・ペルディクスのlv4。

どっちもペルディクス……兄弟かぁ。 他にも色々な派閥からちょいちょい出て来てるね。

 

「これファミリア自体も黒?」

「いや、大半は個人が黒でファミリアは白。グレーな所もあるが黒と言えるのはベルディクス兄妹のファミリア位だ」

「うーん、イケロスは追放されてるし、そうなると成果はタナトスファミリアだけかぁ」

 

もうちょっと釣れるかと思ったけど駄目だったか。ま、何事も一歩ずつって事で。

 

「じゃあ、早速動いてくるね。ウラノスに伝言ある?」

「『私の旦那を使う以上失敗は許さん』と言っておいて」

「あいあい」

 

テレポートでウラノスと会い、ガネーシャを呼び出してウラノス、フェルズ、ガネーシャと話し合う。

相手はlv5、4,3、2と闇派閥でも力がある相手が集まってる。コレを叩き潰せば力を削れるという意味ではリターンとしては悪くない。

 

「んで、潰すのは確定としてガネーシャファミリアから人手が欲しいんだけど」

「オレがガネーシャだ!」

「はいはい、ガネーシャだね。んで、人は出せるの?」

「うむ、イルタを出そう! それから人数として50名程、細かい部分はモダーカに聞いてくれ!」

「モダーカ?」

「ウチの細々した事を担当している奴だ! 苦労人なだけあって細かい事が得意だゾウ!」

「んじゃそのモダーカさんとイルタさんってのを中心に話詰めればいいか。(駄目押しが欲しいな。ちょっとヘスティアちゃんに相談すっかな)」

『所でオジサン』

「どったの? フェルズ」

 

アラハビカの防衛を思案していたらフェルズが懐から何かを取り出しながら此方へ話しかけて来た。

 

『以前頼まれていたモノだ。こんなもので良いのか?』

「おっ、マジか。検証した?」

『いや、流石に使う相手を見つける暇が無くてな』

「そっか、でも十分だ。ありがとね」

 

そう言って貰った者を懐へと仕舞う。必要なモノはこれで大体揃った、後は……おじさんが用意したらいけるか?




動き出す闇派閥

準備するおじさん

アラハビカとゼノス達の行方は?!

次回、おじさんと異世界2

おじさんのサイコみが垣間見える


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58 おじさんと異世界2

色々捏造してますが許して


連絡を貰って3日。ガネーシャファミリアの約50名がアラハビカに到着した。

防壁はまだ作ってないが都市の中身は7割出来上がってる。おじさんが雇い入れた建築組が全力でやっているのだ。

最初の頃はこっちの世界やゼノスの皆に驚いていたが二日で慣れていた。流石日本人だと思う。(変わった人を意図的に雇ったってのもあるけど)

それでもまだまだ建設中だし施設のメイン機能は搬入が終わってないのでガワだけだったりする。

防壁まで出来上がって落ち着いたらいよいよ結婚式やらないとなぁ……なんて考えながらガネーシャファミリアのイルタさん、モダーカさんの二人と防衛の為の配置を考えていく。

 

「んじゃ、此処と此処中心に人を配置して、ガネーシャファミリアが防衛の中心。他の面子は遊撃とするね。後、連絡はコレ使うから」

「これは?」

「トランシーバー。遠隔での通話が可能で操作方法はココをONにしてこのスイッチを押しながら喋る。喋り終わったら語尾に『オーバー』って付けてスイッチを放す。そしたら別の人がスイッチ押しながら喋って、会話終了なら語尾に『会話終了』を付ける」

「はー、便利っすね」

「使える範囲は大体半径1.5km位かな。なので最悪アラハビカの中心、つまり此処を経由すれば全体への伝達は出来る」

「へー、とらんしーばー? それってオラリオじゃ使えないの?」

「地上でなら使えるかな」

「ちょっと欲しいかも」

「今回の件が終わって……落ち着いてからなら卸しても良いよ。ただ余計な機能とかはオミットしてからになるけど」

「オミ? ……まぁ連絡さえ出来るなら何でも良いよ」

「んじゃソレは後で考えるとして……」

 

そうやって話し合った防衛戦。メンバーはガネーシャファミリアを中心として遊撃にヘルメスファミリアとベル君とアイシャちゃん、連絡網の中心はイシュタルちゃんとヘスティアちゃんを中心にヘスティアファミリアの他の面々。

ヘスティアファミリアのホームにはイシュタルファミリアのアマゾネスをソコソコ配置して貰ってる。

相手が仕掛けてくるタイミングは何処になるかな。

 

◇◇◇◇◇

 

アラハビカから1キロ程離れた森の中。襲撃する面子が集まっていた。

 

「ディックス、本当にこの襲撃が必要なのか?」

「あぁ? 今更何だ、腰が引けたのか?」

「いや、アイツらの建築方法、凄く気になる。アソコで働いてる奴らの技術が欲しい。建築に関わってる奴らは捉えろ」

 

喋っているのは今回の襲撃首謀者であるディックスとその兄バルカ。

 

「あぁ?! めんどくせぇな、そんなもんは自分でどうにかしろ。オレはバケモノ達を捕まえるのが優先だ」

「ったく、使えねぇ弟だ」

「オメーこそlv4のくせにバカ言ってるんじゃねぇ」

「ふん、今や残党ばかりのお前らが何を言うか」

「っけ、それでもオレは変わらずlv5、バケモノ共を潰す為のステイタスは十分なんだよ」

「ま、向こうもそれなりに準備をしてるらしいな。何処で情報が漏れたのやら……しっかり仕掛けは出来てるんだろうな」

「当たり前だ、人が増える事が事前に解ってるならソレに対処するのは当たり前だろうが。突入の直前にコイツを起動させれば……ドカーンだ」

 

◇◇◇◇◇

 

そんな彼らの会話をおじさん達はドローンに仕込んだマイクとカメラで拾っている。因みにドローンの姿はアスフィの道具を使って消している。

 

「っていうのが向こうの会話ね」

「なんていうか……」

「ここまで筒抜けだと哀れだな」

 

何というか当たり前の様に全員固まって動くので見つけるのは上から見ると分かりやすいんだよね。そして懐から先ほどの会話で仕掛けられたモノを出す。

 

「んでもって仕掛けられたのはコレ。簡単に言えば爆弾だね」

「うげっ! 何てものを持ってくるんだいおじさん!」

「ヘスティアちゃん、これはキッチリ無力化してるよ。その上で仕掛けられた場所にはダミーの発煙と音を出す装置を置いてきた。向こうの起動タイミングに合わせてダミーを動かして爆発したように見せかける」

「それで此方が混乱した様に見せかけて動きを誘うと……」

「そそ。イシュタルちゃんにはこのダミーの起動装置渡しておくね」

 

フェルズに貰った道具で登録してない人物が居る場合に反応する仕掛けを作り、警戒してたらものの見事に引っかかってくれた。入られた事は作りかけっつーのもあるからしゃーない。

 

「なんていうかさぁ」

「何よヘスティアちゃん」

「おじさんの世界の道具って無茶苦茶だよね」

 

周囲を見ればヘスティアファミリアの全員が頷いてる。何で?

 

「それはそうですよ。遠くの音や映像を見るなんて神様の力を使わないと普通出来ませんよ」

「鍛冶師としちゃそんなのと全く同じものが何個もあるのが信じられねぇ」

「しかもソレ等が遠隔からの操作でリリですら出来るなんて……」

「コレ等を一般人が容易に買えるというのも恐ろしい話です」

「ワタクシは逆に興味がありますけど……」

 

うーん、おじさんの世界は大量生産の消費社会だからなぁ。同じ物が何個も出てくるのが信じられんっつーのはコッチの世界じゃ当然なのか?

まあ今後アラハビカじゃコレがスタンダードになるから慣れてもらうとして……。

 

「おじ」

「んお? 何、イシュタルちゃん」

「あいつ等を一気に叩く武器は無いのか?」

「……うーん、有るけど……逃がさないってなるとマジもんのBC兵器か大型の爆弾しかないからなぁ」

 

高いlvの冒険者って下手な自動車よりも足が速いから走破能力がバカみたいに高いから一発で仕留めないと大体逃げられるし……かといってBC兵器は環境破壊が。

 

「難しいのか?」

「影響がデカイかも。向こう100年単位で草木が生えない土地が数キロ広がるとかそんな感じ」

「「「「「「……」」」」」」

 

全員黙るなよ。

 

「そんな訳で、冒険者には冒険者をぶつけるのが一番効率が良いかなと」

「何ていうか……もうちょっと穏便な方法は無いのかい?」

「まぁおじさんが開いてを視認すれば……(アレ? もうテレポート先の対象に選べるんじゃ……)」

「?? 視認すれば?」

「いや、何でもない(まさか映像でも対象に取れるとは思わなかったな……まぁ折角用意したんだしこのまま進めよう)」




仕掛けてくる闇派閥

待ち構えるおじさん達

次回、おじさんと異世界3

不幸と幸せは表裏一体


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59 おじさんと異世界3

退院して来たよー!

有難いことにお気に入りが500を超えました。
後知らん間に日刊ランキングにちょいちょい乗ったり。
ありがとうございます。
左目の術後の痛みを誤魔化しながら書いた。

皆、目は大事にな!
見えないとまーじで生活大変。片方見えないだけで距離感バグるぞ!


アラハビカに響く爆発音と煙。それに動揺するガネーシャファミリア。

その動揺に合わせて襲撃してくる闇派閥。今回あえてガネーシャファミリアには爆弾の件は伏せておいた。動揺しなかったら怪しまれそうだし。

とはいえ浮足立ってるとやられるので直ぐにトランシーバーで全体に通達して動揺を抑える。

 

基本はガネーシャファミリアで大多数を相手して貰いながらヘルメスファミリアは全体を見ながらサポート、ヘスティアファミリアはlv4以上をメインに遊撃。必要であればトランシーバーで連絡して春姫ちゃんのレベルブーストを使用。

 

「(万が一ディックス相手に負けそうなら奥の手を切るけど……出来れば残したい手札なんだよな)」

 

上空に飛ばしたドローンで戦場を俯瞰しながらリアルタイムの映像をモニターに移してこの場に残った全員で見る。因みにヘスティアファミリアでこの場に残ったのはリリちゃんと春姫ちゃん。リリちゃんはヘスティアファミリアの指揮がメイン。

そんでリリちゃんの指揮を見てるけど……全体の把握が上手。この子MMORPGとかやらせたら上手いんだろうなーとか馬鹿な事考えながら戦場を覗いてたが今の所来てる闇派閥の撃退は旨く行ってる。

 

「(だが相手の最大戦力のディックス居ない、ここに来て出てこないのは何だ?)」

 

相手はゼノスが欲しい、そのゼノスが集まってるのを知って……防衛してるのも知った。そんで……いや待て、仕掛けをした時にこっちの情報を知ったのなら? その上で多数を動員してまでやる事って……っ!

 

「やべぇ、もしかして!」

「おじさん?!」

 

おじさんが切り札として隠しておいた部屋に向かうと、案の定ディックスが居た。

 

「やっぱりか……」

「あぁ……テメェか、今回のふざけた仕掛けをした奴は」

 

魔槍を構えたディックスと()()()()()()()()()()()

 

「いや~、助かったぜ。ディックス」

「このクズが、あっさり捕まってんじゃねぇよ」

「おいおい、無茶言うなよ。俺はただの一般人と変わらないんだぜ?」

「っち、これだから神って奴はよぉ」

 

そう、おじさんはイケロスがオラリオから追放されて直ぐにイケロスの身柄を確保した。イケロスファミリアの残党へのカウンター兼利用出来る神としてを見込んでだ。

勿論力を提供してもらう代わりに未知の娯楽として地球側の知識に触れさせる約束をした。まぁネットを渡す訳にもいかんので本が中心だが。

 

「まさか外のを囮にするとは思わなかったなぁ。それにそれなりに目があったはずなのにどうやって入り込んだのやら」

「はん、姿()()()()位誰だってやるさ」

「なるほど、アレは姿消しがある事前提での動きで、おじさんはまんまと乗せられたって訳だ……」

 

ニヤニヤと笑うディックスにイラっとしながら考えを巡らせる。色々と勿体ないが損得で損切りを選択。後は切るタイミングか。

 

「そんで? ソレを取り戻しに来たのは分かったけど、取り戻してどうする。アンタの居場所はロクに無いぞ?」

「勿論お暇させてもらうぜ。コレがあればやり方は限られるがまぁやれる事は増える。とはいえ……土産にテメーの首位は貰っておくか」

 

槍を構えるディックス。あー、やっぱそう来るのね。んじゃ、おじさんも。と隠し持っていたスイッチを入れようとした時に思考が動く。

 

「おい、お前の兄はどうした」

「あぁ? ククク、今頃お前が執着してる神の所じゃねぇの?」

「??? おじさんが執着してる神?」

「おっと、お前『に』執着してる神か」

 

瞬間、手元のスイッチを迷い無く押す。スイッチから発せられた信号は電波としてイケロスに付けられた装置へ伝播しその機能を発動する。

 

突然の爆発音にディックスが驚き後ろを振り向くと周囲一帯が光に包まれていた。

そして直感する、()()()()()()()()()()()()()

 

「テッメエェェエエ‼‼‼‼」

「黙れクソガキ」

 

一切の手加減の無い右拳はディックスの顔面に文字通り()()()()()()。貫通し血に濡れた右手を引き抜いて急ぎ元の部屋まで走り扉を蹴り破るとイシュタルちゃんの両腕が切り落とされる瞬間だった。




駆けるおじさん

イシュタルちゃんの腕が切り落とされる

次回、おじさんと闇派閥

おじさん進化の時


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60 おじさんと闇派閥

ついに60話、シリーズ通すともう直ぐ100話になる、


蹴破った扉の先に広がる視界に映るのは倒れたリリちゃん、春姫ちゃん、縛られているヘスティアちゃん。

そして三人の男に両手を広げてうつ伏せに拘束されるイシュタルちゃんとハルバードを振りかぶった二人の男。

ストライクで加速し刃物を振りかぶった男の首を蹴る。足に伝わる感触で首の骨を圧し折った事を確認しながらそのままもう一人の男に当てるべく蹴り抜くつもりが視界の外から現れた男に止められた。

 

「ぎゃああああああああああ‼‼‼‼」

 

響く悲鳴。

 

振り下ろされた斧はイシュタルちゃんの右腕を二の腕から切断し部屋に濃い血の匂いが漂う。

おじさんが蹴り飛ばそうとした男を止めたのはディックスの兄でlv4のバルカ。舌打ちをしながら徒手でバルカの服を絡め捕ろうとするがバトルハンマーで防がれる。

 

「くそが!!」

 

イシュタルちゃんの腕を切り落とした男が再びハルバードを構えようとしているのを見て激情のままに体質変化:流動硬化(モード:ゴライアス)を発動させる。

全身が黒化した状態で振るった拳でバルカのバトルハンマーを破壊してハルバードを構えた男の土手っ腹に左腕を突き刺し、そのまま壁際まで突進してミンチに変える。

返り血を浴びてそのままに振り返りイシュタルちゃんを拘束している三人を睨みつける。

 

「「「ひっ」」」

 

痛みで気絶し、失血から血の気が失せてるイシュタルちゃんの顔が視界に入ると怒りの感情が降り切れてしまう。

改めてこの場に居る奴を殺すと誓った瞬間、バルカの声が響いた。

 

「待ちな!」

 

視線を動かせばヘスティアちゃんの首にナイフを当てているバルカ。腰を落とした状態で静止したおじさんに余裕が出たバルカはおじさんに命令してくる。

 

「一瞬でも動けばテメーの主神を殺す。俺もお前のlv4、なら手元の()()を刺し殺すのとお前がオレに届くの、どちらが早いかなんて解るよな?」

 

一周回った怒りがグツグツと燃え上がる。それに呼応する様におじさんの体が怒りで震え、怒りによる緊張は体を強張らせ食いしばる口の端からは血が溢れる。

 

「そうだ、一歩も動くな。動いた時がお前の主神の最後の瞬間になる……オイ!」

 

そう言うとイシュタルちゃんを押さえていた3人の内2人がイシュタルちゃんから離れ、おじさんに倒された男達のハルバートを手に取りおじさんへ振り下ろす。

バルカは斧が当たったおじさんが倒れる所を思い描いていたが予想外の音が響く。まるで金属に叩きつけた様な音がしてハルバードの方が破壊されてしまう。

 

「おいおい、冗談だろう」

 

忌々し気におじさんを見るバルガだったがある事に気づく。

激しい発汗、立ち上がる蒸気、良く見ると先ほどよりも細くなっている肉体。ニヤリと笑ってしまう。

同lv帯のぶつかり合いを覆す程の出力の上昇、それを成し得る方法がスキルか魔法かは分からないがその上り幅を考えれば反動が無いはずが無い。

そして先ほどよりも細くなった肉体と事前に集めた相手の情報を照らし合わせれば結びつくものは一つ。

()()()()()()()()()()()()()()()()

であるならばこのまま膠着していれば何れ相手は時間切れ。枯渇して自滅する。そう判断したバルカは短剣をヘスティアの首に当ててほんの一筋切れ目を入れる。

 

「痛っ!」

「………‼‼‼‼‼」

 

その光景にますます相手の体に力が籠められ、ジュウジュウギリギリと更に激しく蒸気が立ち込め肉体の消費も早まる。

 

「くくく、動くなよ。動けば主神を殺す。もっとも、向こうはどうなるか分からんが」

「…………っ」

 

チラリと視線を動かせば倒れ伏したもう一方の女神。バルカの計画ではディックスがイケロスの奪還。ソレに合わせてバルカはヘスティア、イシュタルの身柄、もしくは神々の体の一部を持ち帰る予定だった。

だが目の前の男が来たという事はディックスは失敗。最悪でも二柱の内どちらかの肉体を手に入れなければ割に合わない。

 

「くそったれ、ディックスの奴は失敗しちまったか……オイ、その女神の腕を回収して止血しとけ送還されちゃ勿体ない」

 

手下の男がイシュタルの右腕を布に包み、ポーションを傷口に垂らす。激痛に叫ぶイシュタルの声を聴いた相手の男は更に吐息が激しくなり吐き出す息すら蒸発し始める。

 

「くははは、大分細くなって来たなぁ。そろそろ終わりが見えて来たか?」

 

時間にして10分も無いこの短時間に目の前の男は目に見えて細くなっていた。この男のスキルは脂肪を操る事で有名。そして時間経過で男が細くなる。

コイツの自己強化は自分の脂肪を消費しての強化はほぼ確定。その証拠と言わんばかりに腕や足、首などと言った肉が薄い部分は筋肉が見え、脂肪が無くなり、腹に仕込んであったレザーメイルもぶかぶかになってきている。

であるならば後は皮膚が黒い状態から戻った所を叩けば……そう思っていたバルカだが異音に気づいた。

 

男の歯軋りと思っていた()()()()という音。

 

だがその音は男の口ではなく男の()()()()聞こえてくる。

 

「ソイツをk……‼‼‼」

 

バルカが部下に指示を出そうとした刹那、バルカの視界が()()た。

 

バルカと部下の頭部の一部を削り取ったおじさんが、バルカ達の後方で削り取った頭部を床へ抛り捨てた。

 

バルカに動きを止められたおじさんが行ったのは普段のカウンター型の戦い方ではなく瞬間的に最大火力を叩きつける速攻技。と、聞こえは良いが実際にはタメが長すぎて普段使いが全くできない死に技。

なにせ脂肪を消費して力を貯めて貯めたエネルギーを移動速度に変換して一気に相手へ叩きつける技。火力だけで見れば普段の戦い方よりも当社比1.5倍位あるのだが……。

正直これを使う位なら脂肪を防御と回復に回して跳ね回りながら攻撃する方が効率としてはよっぽど良いし機動力も確保できる。

だが今回に限っては敵が勘違いをしてくれたお陰で時間が出来た、今回ばかりはこの技を開発して本当に良かったと思った。

おじさんは盛大に深呼吸と大量の蒸気を吐き出しながら変化させた体を戻す。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、()()る時間をありがとよ。バカ野郎が」

「おじさん!」

 

体質変化:流動硬化(モード:ゴライアス)を解除したおじさんは抜け力が抜け床に膝をついてしまう。それを見たヘスティアちゃんがバルカの死体から抜け出し支えてくれる。

急加速と消耗でふらつく体を酷使してイシュタルちゃんに近づき斬られた右手をヘスティアちゃんに手伝って貰いながらスキルを使って繋ぐ。

ヘロヘロになりながらヘスティアちゃんに聞いてみればどうやらおじさんが駆け出して直ぐに男達が入ってきてリリちゃんと春姫ちゃんを制圧、そしてヘスティアちゃんを拘束した後イシュタルちゃんも拘束され腕を斬られたらしい。

ヘスティアちゃんが直ぐにトランシーバーでベル君達に連絡してこちらのカバーに戻ってきてもらった。

その後は特に此処への奇襲も無く、ガネーシャファミリアとヘルメスファミリアの活躍により闇派閥の殆どを捕縛ないし撃退出来た。

 

◇◇◇◇◇

 

「ウラノス、今回の件で分かったけどおじさんは闇派閥潰すから」

「うむ。それは良いのだが」

『まず体は大丈夫なのか? ソレほど消費してしまって』

 

フェルズに指刺されたおじさんは普段と違い全身の脂肪が全くない状態。まぁ現代社会ならボディービルダーと確実に間違われる程に皮膚の上に血管が浮き出てる。

 

「まぁ向こうで食べて体重戻すから良いよ」

「解った、だが無理は禁物だ」

 

ウラノス達との会話を終了させてヘスティアファミリアへ戻ったらイシュタルちゃんがまた若干失語症気味になってしまっていた。ある意味仕方ない経験なので再度イシュタルちゃんを連れておじさんの実家へ戻る事に。

 

そしてイシュタルちゃんを抱えて戻った先で両親から聞かされたのは精霊ちゃんが倒れたという話だった。




闇派閥を潰す事を決めたおじさん

倒れる精霊ちゃん

一体何が起きているのか

次回、おじさんと闇派閥2


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61 おじさんと闇派閥2

わーお、もう11月になっちゃうよ。


帰宅して直ぐに駆けつけて来た母に精霊ちゃんが倒れたと伝えられた。直ぐに寝室へ移動してみると熱で汗をかきうすぼんやりと宙を見る精霊ちゃん。

イシュタルちゃんを下ろして精霊ちゃんの手を握る。

 

まるで氷の様に冷たい手にゾクリとしながら両手で握る。

 

焦点が定まらなかった目が此方に向く。

 

「おじさん……」

「ごめんね、直ぐに体調を整えるから」

 

そう言ってスキルを使い精霊ちゃんの体を整えようとするが……体に異常はまったく見られない。

意味が分からず再度スキルを総動員して精霊ちゃんの体をくまなく調べ上げる。だがスキルがはじき出す答えは変わらず()()()()

先ほどまでとは違う汗がジワリと浮かぶ。固唾を飲みこみ精霊ちゃんを見るとにっこりと笑顔を向けてくる。

 

「大丈夫、わかってるから」

 

とても穏やかな声色で笑う彼女の顔はとても綺麗で、涙が出る。

 

「本体に引っ張られてるみたい、世界の壁まで超えるなんて……本体も執念深いんだから」

 

彼女の笑顔をしっかりと見たいのに視界が歪む。握る手から力が抜けていく。

 

「折角体を作ってくれたのにごめんね? 私は戻っちゃうけど……心は貴方に置いて行くから」

 

息が詰まりそうだ。

 

「もし次があったら……また見つけてね」

「見つける! 絶対見つける! 次はオメーさんに俺の子供産んでもらうからな!」

「……あはっ、産みたいなぁ」

 

それが彼女の最後の言葉だった。

 

◆◆◆◆◆

 

彼女が眠って二日が経った。スキルを使えば変わらず()()()()の反応が帰って来る。

多分スキルは間違って無い。文字通り体は全く異常が無い。

今回異常があったのは彼女の……精霊ちゃんの魂や心といった、肉体以外が問題だったのだろう。

恐らくおじさんがスキルを使い続ける限り、彼女の肉体は残り続けるし健康なままあり続ける。

ただソレを頭で、スキルで理解はしても心が拒絶してる。

結果としておじさんは心が疲れて体が動かない。

いや、体を動かしたくない。

何もしたくない。

イシュタルちゃんをと思っているのに……ちっとも体が動かない。

 

◆◆◆◆◆

 

更に3日、相も変わらず精霊ちゃんの眠る布団の横に座ってぼーとしていた。

気付けば隣に居たイシュタルちゃんも居なくなっている。

色々とやらなきゃいけない事は一杯あるのに体が動いてくれない。

息を吸いこんでは吐く。

これだけで体の力が抜けていく。

まただ、また意識が飛ぶ。寝ている訳じゃないが時折意識が飛ぶ。

 

 

 

継ぎに気付いた時には母に呼びかけられていた。

とても焦って、顔色が悪い。

 

「〇〇! お願い! お願いだから! こっちを見て!」

「母さん?」

「〇〇! 今すぐ××病院へ行って! 父さんが事故にあったの!」

「……親父?」

「そう! 父さん! アンタなら助けられるんじゃないの?!」

 

ぼんやりしていた頭が言葉を理解する。理解した瞬間に口からは言葉が出てた。

 

「対象:親父 【テレポーテーション】」

 

母さんを抱えて渦へと飛び込む。殆ど反射での行動。

兎に角親父に会わないと。

飛び込んだ先は丁度病院の廊下だった。親父を載せたキャスターが進む先は集中治療室の扉。

駆け寄って呼びかけても反応しない親父。

俺のスキルの前提条件は本人の同意が必要である事をこの時初めて母親に伝えた。

つまり、意識の無い親父には使えないという事を。

 

集中治療室の前で待つ事4時間。

 

医者から親父が帰らぬ人となった事を告げられた。

 

◆◆◆◆◆

 

悲しむ間も無く直ぐにお葬式の準備が進み気が付けば親父の葬式が終わっていた。

遺骨を納骨堂へ納め実家に戻り、縁側に座りぼけっと庭を見ているとイシュタルちゃんが話しかけて来た。

 

「おじ」

「イシュタルちゃん……何か一気に不幸が来ちゃった。不幸が重なる時は重なるって言葉は本当だね」

「……精霊の事、私は知ってた」

「?」

「精霊とこっちに来て……話が出来る様、なって直ぐ……聞いた」

 

イシュタルちゃんの話を要約すると、こちらの世界で喋れるようになった精霊ちゃんと色々な会話をした。俺の話、自分たちの話、オラリオの話、これからの話。

その中で精霊ちゃんは自分の命が有限で、本体が動き始めれば自分が居なくなる事も自覚していたらしい。

そしてソレを俺へは打ち明けない事を約束したと。

理解が追い付かない頭で渡されるUSBメモリー。

PCに接続して中身を見れば録画ファイルが一つ。

 

『コレ、もう撮れてる? 本当?

はー、イシュタル凄いなぁ……あぁ、えっと……おほん。

やっほ、おじさん。

多分色々聞いた後かもしれないけど怒らないでね?

何ていうか……おじさんが私を『あの場所』へ迎えに来てくれた事、それから私の体を作り替えてくれたこと。そういう諸々の事情はおじさんが私の体を作ってくれた時に実は知ってた。

正確にはその時に知ったかな? おじさんのスキルを通してだけどね』

『おじ、聞いてるか? コイツ分かった上でこーいう行動を取ってるからな?』

『ちょぉ! イシュタル! 茶化さない!』

『はいはい』

『本題に入るけど、私って本体から別れた分身で感覚的にはまだ繋がってるのね。で、オラリオに居る間は主導権は本体にあるの。

おじさんが精霊の体から人の体に作り替えてくれたから地上には出られる様になったけど、本体としては分身じゃなくて自分が出たい訳で……どうにかして私の体が欲しい。その為にその内自分の手駒とか闇派閥動かして私の体を取り込もうとすると思うし、その為には体の中身、つまり『私』が邪魔。

……多分おじさんはアレだよね。そーいう性癖でしょ? 自分と縁のある女が見捨てられないとかそんなの。

一回別の世界で別の私に取り込まれてるもんね。ソレも思い出したもん』

『は!? 聞いとらんぞ!??』

『あーもう! ソレは後でちゃんと話すから!!

兎も角! おじさんにこの事を話したら絶対本体の所に行くでしょ!

それが無理な場合、オラリオ全部巻き込んでかなりの無理無茶して!

……それ自体は嬉しいんだけど、私としては好きな人には無茶して欲しくないかなぁ……なんて///』

『おじ! 私も好きだからな!』

『もー! イシュタルは別で撮れば良いでしょ!』

『何言うか! 此処でお前にばかり良い顔させては神の名が廃るだろうが!』

『……っは』

『あぁー! 何だその顔! よーし、そんな顔させた事を後悔させてやる! この後この録画データを編集してお前の声に全面xxx(ピー)音入れてやるからな!』

『わー! ダメダメ! それは駄目! 本当に辞めて‼‼』

 

『ハァハァ、えっと、どこまで話したっけ……』

『無茶するなって所までだ』

『そうそう、まあ何が言いたいかって言うと私のせいで死ぬような目にあって欲しくない!

私が駄目になっても、元々そういう寿命だったと思って!

オラリオの空も……おじさんの世界の空も見れて凄い楽しかった。

夢……叶っちゃったから……。

だから後はイシュタルに任せます!』

『おわっ! 急に抱き着くな!』

『あははは! 兎に角ね! おじさん、私は居なくなってもイシュタルが居るから。

私の体はおじさんが片付けてね? 私からのお願い。

じゃあね……おじさん』

 

動画は満面の笑顔でイシュタルちゃんに抱き着く精霊ちゃんの場面で終了した。

感情の整理が済む前に葬式や告白やらが続いたせい……いや、そのお陰で色々な事の心の整理が改めて付ける事が出来た。

 

「そっか……はーーーー、そっかぁ……」

「おじ」

 

イシュタルちゃんが抱き着いてくる。彼女のぬくもりが今は凄く嬉しい。

ゆっくりと目をつぶり深呼吸を繰り返す。

そりゃ結婚をするはずだった人、自分の父親。当然二人の代わりは居ない。

親しい人を二人も失ったけど……、まだ残された人も居る。

 

「踏ん切り付けないと二人に怒られそうだわ」

「……ん」

「はー、イシュタルちゃん」

「ん?」

「別れってやっぱ辛いねぇ」

「うん……」

「別れたくねぇなー」

「……」

「……」

 

イシュタルちゃんの体温を感じながら、何となく頭をよぎった事を延々と考える。

女々しいというか、サイコパスというか……自分でも何てことを思うんだろうと呆れてしまうが他の考えが浮かばない。

 

「ねぇ、イシュタルちゃん。もし反対なら言って欲しいんだけど……」

「……?」

「――――――――――」

「それは……」




おじさんに降りかかる不幸

それでも時間は止まってくれない

少しの休憩を経ておじさんは再び立ち上がる

次回、おじさんと魔法


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62 おじさんと魔法

ぼけっとしてたら0時超えてました。


「ただいまー」

「ただいまー、じゃなーーーい!」

 

イシュタルちゃんを連れてヘスティアファミリアに戻るとツインテールを触手の如く振るわせながら怒鳴るヘスティアちゃんが居た。

 

「何なに? どしたのそんなに怒って。あ、もしかしてアノ日? えーっと、イシュタルちゃん、ポーチに生理痛用の薬入れてたっしょ。渡してあげて」

「んっ」

「あぁ、ありがとう。って違うわー!」

 

一度受け取ってからの床へ投げ捨てる。完全なノリ突っ込み。

神の子―言う所ってどこから知識仕入れてるんだろう。

 

「おじさんとイシュタルが向こうに行って2カ月も連絡が無かったんだぞ! 心配するじゃないか!」

「……あれ? そんなに時間経ってたっけ?」

「おじ、あの後寝食を忘れてヤってたろ。アレだけで1か月以上時間使ってるからな」

「お~、でも別に困らなくはないような?」

「ウラノスから毎週君に関して問い合わせが来るんだよ! 今すぐギルドに行ってこい‼‼‼」

 

◆◆◆◆◆

 

「え~っと、そういう訳で着ました」

「うむ、無事で何よりだ」

 

どうやら心配をかけた様でちょっと頭が下がる。

 

「それで戻って来るまで時間が空いた理由は?」

「身内の不幸があってね」

「なるほど……」

 

暫しの沈黙から再びウラノスが口を開く。

 

「アラハビカの方は進められそうか?」

「勿論。あ、売りとして娯楽を全面に押し出すけど……情報処理の為にギルドの名前借りるよ?」

「構わん」

「一応言っておくけどギルドの下部組織じゃないって事は明言しといてね。何かあれば情報処理とかはこっちでやっても良いけど。

変な事やって来るなら営業妨害とみなしてこっちのギルド潰すから……おじさんとしちゃ核のアンタさえ残ってりゃギルドってガワが吹き飛んでも全く問題ないって認識してるって事は理解しといてね」

「うむ、ロイマンには釘を刺しておこう」

 

その後軽く近況報告と今後の計画を放してヘスティアファミリアへ戻る。

で、戻ってきたらイシュタルちゃんから呼ばれてみればヘスティアちゃんも部屋に居た。

 

「居間でリリちゃんから呼ばれてるって聞いたどったの? ってヘスティアちゃんまで」

「おじ、ステイタス更新をしてみろ」

「お?」

 

このタイミングで?

 

「向こうに居ただけだから何も変わって無いんじゃないのかい? 必要なのは特別な経験だし」

「良いからやれ」

「はいはい、おじさん、上を脱いで横になって」

 

言われるままに背中を晒してベットにうつ伏せに寝る。背中にヘスティアちゃんの重みを感じながらこの2カ月を思い返す。

何だかんだで色々あったなー。イシュタルちゃんの戸籍取ったり籍入れたり、色々と仕入れしてみたり。

ステータス更新時特融のぼんやりした明かりを背中に感じながら過去に思いを馳せているとヘスティアちゃんが急に騒ぎ出した。

 

「んなー?!」

「!? おぉ? どうした? そんなアビスに住んでるケモナーみたいな声だして」

「サラっとボクのトラウマを刺激するんじゃない!」

「私は割と好きだがな、ボ卿とか」

「うがー! やめろぉ! プルシュカぁ‼‼‼」

「草生える」

「www」

 

一頻りヘスティアちゃんを二人でイジって遊んだらおじさんのLVUP可能と告げられた。

 

「お~、lv5かぁ。体感長かったな」

「何回位?」

「人生8回位」

「あれ? イシュタルにもその辺教えたんだ」

「まぁ結婚したし」

「夫だぞ」

「はぁ!? ちょっと! 聞いてないけど!!」

「……言ってないし……ねぇ」

「そうだな、ほら」

 

と言って結婚指輪を見せるイシュタルちゃん。序におじさんも見せる。

 

「これで一個フレイヤちゃんのマウント取れるんちゃう?」

「あー、アイツ伴侶探ししてたな、そういえば」

「……いーなー……」

「「……」」

 

まさかの羨ましがられる反応に思わず二人して黙ってしまった。

そこからは拗ねたヘスティアちゃんを宥めてどうにかおじさんのステイタスを5にして貰った。

報酬としてベル君との結婚式を挙げる際にアラハビカでの挙式を約束したが……ヘスティアちゃん処女神なのに結婚大丈夫なんか?




lv5に上がったおじさん

結ばれた絆は確かに有るらしい

次回、おじさんと魔法2

お出かけ


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63 おじさんと魔法2

どーも、fgoのイベント駆け込みをして眠った結果、UPを忘れてました。


おじさんのlvが5に上がった。まあ、変わったのはそれ位で前と同じようにアラハビカで工事中心の生活。

因みに二カ月従業員をこっちの世界で放置してしまったのでその分は理由を話した上で臨時ボーナス出してごめんなさいしといた。

で、従業員全員に特別有給を付与して希望者は一度地球に帰って休んでもらう。

休みを希望しない人は引き続き此方で作業。

半分が地球で有給消化、1/3が此方で休み、残りは引き続き工事を続けるという形に落ち着きおじさんも作業に参加している。

因みに他の従業員は基本機械を使っての作業だがおじさんは完全手作業。

ぶっちゃけ下手に機械使うよりも一人で資材運んだりする方がよっぽど早いのだ。

 

まぁその辺は手伝ってくれてるゼノス達も同じなんだけど。

 

そして一部従業員は恩恵を授かる事を希望している奴も居る。基本職歴が白紙だった奴だけど……。

正直実験的な意味で恩恵を与えたい、だがしかし……イケロス居ない今、下手に恩恵刻めないんだよね。イケロスなら最悪送還でって手段もあったけど、もう居ない訳だし。

 

そんな感じでちょっとした悩みの種を抱えつつ作業を進める事3か月。

アラハビカ一次計画で出してた施設の殆どが完成! 細かな機材の搬入等は必要だが中央部に設置されたギルドと、街を囲う様に配置されたアミューズメント系の施設。そしてソレ等を覆うように配置されたホテル類。

発電に関しても日本から取り寄せた水力発電を利用して電力を確保。発電量は悪くないので水が枯渇する事態にならなければ基本問題無し。

予備動力等もその内追加予定だが、一先ず都市を稼働させる準備が漸く整った。

 

「長かった~」

 

そう言って座り込むのは作ったホテルの宴会場。

今日はアラハビカ関係者全員を労う為の大宴会の開催日。予定では3日間の宴会で料理、酒等はおじさんが地球から仕入れた物を持ち出し。

綺麗処に関してはイシュタルちゃんにお願いしてきてもらった。因みに男性の情夫もソコソコ居る。

 

その内イシュタルファミリアの待機所とかも作る必要があるなーなんて考えながらイシュタルちゃんと共に酒を飲む。

 

「これでやっとダンジョンに潜る時間確保出来るわ」

「lv5になってもall0のままだからねぇ」

「流石に地上ではアビリティ伸びないよね」

 

ビールをチーズつまみにチビチビと飲みながらのんびりと酌を交わす。仕入れた海鮮が旨くて久しぶりに活け造りを食べると本当に美味い。

熱燗が欲しくなったのでちょっと()()して徳利に居れた日本酒を右手で掴んでちょっと振る。軽く湯気が出て日本酒の香りが漂った事でイシュタルちゃんがおちょこで催促をしてくるのでソコへ注ぐ。

 

「かー、旨い」

「んじゃ、おじさんも一口」

 

熱い日本酒が喉を通り腹からじわりと暖かくなる。香りは鼻から抜け思わずぼんやりしてしまう。そしてソコに海鮮にわさび醤油をちょいと付けて一口。

 

「……く~、旨い」

「しかし上手くモノにしたな」

「イシュタルちゃんの思い付きだったけど……綺麗に型にハマったよねぇ」

 

そう言って二人でおじさんの右手を見れば手首から先が紅くなっていた。

 

「あの時何を言うかと思ったが……まさかこんな形になるなんてね」

「いや、これはおじさんも想定してなかったし……」

 

そう言って思い出すのは精霊ちゃんが眠りついたあの時。

 

◇◇◇◇◇

 

「ねぇ、イシュタルちゃん。もし反対なら言って欲しいんだけど……」

「……?」

「精霊ちゃんを吸収する」

「それは……」

「女々しいけど離れたくないんだよね」

 

自分でもどうかと思う考えを口に出してみるとそれ以外の考えが思い浮かばなくなっていた。

イシュタルちゃんと共に横たわる彼女の傍に座り両手で彼女に触れる。

 

ずぶりとおじさんの両手が彼女の体に沈む。まるで乾いた砂を手で押す様に抵抗なく沈んでいく。

 

彼女が寝たままだった時に何度となく行っていた分け与える行為、今はその逆を行う。

 

頭の先から足の先まで、何一つ残さない様に全力で彼女の存在そのものを吸い上げる。

 

それを見ていたイシュタルはそっと男の肩に手を置きながら彼女を見る。

少しずつ存在が希薄になり薄くなっていく彼女。

同時に肩に触れてる男の存在感が増していく。

今までも薄っすらと感じていたものが男の中で色濃く息づいていくのが分かる。

やがてその全てを吸い上げた男は無言で涙を流していた。

 

しばらく無言で抱き合った後イシュタルは口を開いた。

 

「それで、体は大丈夫なのか?」

 

見た目こそ特に変わって無いが女としての感覚で何かが変わったのは感じられる。それが何かまでは分からないが。

 

「【ライト・バースト】」

 

おじが両手を見ながら一言呟くと両手の間に光が灯る。

 

「最後の贈り物だって」

 

困ったように笑うおじの顔があった。

 

◇◇◇◇◇

 

「あれから色々実験したもんねぇ……」

「その分SNSで結構騒がれたけどな」

「別に実害は無いから良いと思います」

 

一時期UFOとか謎の発光体だとか、SNSがまるで平成初期みたいな感じになったな。それにおじさんスレなるものがあるとイシュタルちゃんに教えられた時は頭に宇宙猫が浮かんだのも今では良い思い出……なのか?

 

「そういやまだあのスレって残ってるの?」

「残ってるというか……」

 

そう言って見せてくれた携帯電話のディスプレイには……

 

【異世界】異世界でモンスターと触れ合う職場part〇【転生無し】

【異世界おじさん】異世界へ行くとソコはホワイト企業だったpart〇【社長】

【募集】異世界ギルドに受かる方法part〇

 

何だぁコレは……たまげたなぁ

 

どうやらウチの会社って社会現象になりつつあるんだって。へーって思ってたら何かイシュタルちゃんのメールに取材依頼とかも来てるんだとか。

怖っ、どこからそんな情報掴んで来るのよ。イシュタルちゃんのプライベートアドレスとか公開して無いのに、逆に凄ぇな。

試しにスレを覗いてみれば明らかにこっちに居る人間の書き込みもある……そして小説やアニメとの関連付けは解析班なるものが間違いなしとしているらしい。どんだけ考察したらそんな事を断言出来るのよ。合ってるけどさ。

 

「……まあ、楽しんでるなら良いか」

「それで良いんだ」

 

害無けりゃ別にね。そうか……ソレで最近恩恵が欲しいって言う社内アンケートが増えたのかぁ……。




恩恵を欲しがる現代人

悩ましいおじさん

次回、おじさんと結婚式

お祭りタイム


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64 おじさんと結婚式

アラハビカの施設が完成しプレオープンとしてギルド職員やらガネーシャファミリア、ヘスティアファミリアとその関係者を招待して遊んでもらう。

飲食は日本基準、娯楽は地球基準。昼の遊びから夜の遊びまでオールカバーしているアラハビカ。

そしてそんなアラハビカの中央で数日後におじさんはイシュタルちゃんと結婚式をあげる……最前線はヘスティアファミリアだがその直ぐ後ろはなんとフレイヤファミリア。

うーん、イシュタルちゃんマジにフレイヤちゃんに招待状送ったのね。

そしておじさんが呼び出されると。

 

「お久しぶりね。おじさん」

「フレイヤちゃんお久ー」

 

通された場所はフレイヤファミリアの中でも最奥、神フレイヤの部屋。

此処来るのも何年ぶりやら。

 

「今日は何事? 髪のツヤを出すとか?」

「いいえ、コレの事について聞きたいの」

 

机に置かれた結婚式場の招待状。うん、特に不備は無い。

 

「見ての通り、招待状だね」

「イシュタルと結婚するの?」

「そうだけど?」

 

眉根を寄せて此方を睨むフレイヤちゃん。後ろのオッタル君も何でそんな顔でおじさんを見るかね。

 

「本気で言ってるの?」

「冗談でそんなモノを送らないけど」

 

フレイヤちゃんの盛大な溜息が漏れる。

 

「色々と規格外とは思っていたけど……」

「いや、規格外ってのはオッタル君みたいな子に」

「黙りなさい」

「あっ、ハイ」

 

マジトーンなので口を出すの止めます。これ逆らうと面倒な奴や。

 

「私だって貴方に目を付けていたのよ、それこそベルが来る前から。でも貴方はまったく私に靡こうともしないし……その癖に私をより輝かせる。悩ましかったわ」

 

そう言って自分の手や髪を弄るフレイヤちゃん。あー、まぁ目を付けられた時にゴマすりとしておじさんの脂肪を消費して爪のツヤを出すとか肌の調子を更に上げるなんて事やったな。

一回じゃおじさんの脂肪が足りなくて無理だから何度か時間を空けて脂肪貯めてからスキル使ったわ。

その結果フレイヤちゃんっておじさんの記憶にある中で一番綺麗にはなってるハズ。オッタル君でも正面からフレイヤちゃん見れば頬を染めるから間違い無いはず。

 

「ベルが来てあの子を手に入れたくて色々と手を尽くしたわ。時に試練を与えたて魂をより輝くように、魅了を全力で使ってみようとすら思ったの」

 

ちょっと待て、魅了全力は色々とマズイぞ。

 

「流石にオッタルに止められたのだけどね」

 

オッタル君ナイスだ! オッタル君の顔を見たらちょっと青白くなってた……後で胃薬送っておこう。

 

「あの手この手でベル相手に遊んでたら……こんな手紙が届くんですもの。事の真相を聞きたいじゃない?」

「いや……真相も何も招待状に書かれてる通りなんだけど」

「そうじゃないわ。イシュタルがどうやって貴方と結婚に至ったのか、ソレを聞きたいの。貴方もベルと同じで魅了が効かないでしょう?」

 

はー、なるほど。ベル君攻略の糸口にしようって事か。

 

「別に良いけど……参考になるか分からんよ?」

「それは私が判断するわ」

「へーい」

 

そうやってイシュタルちゃんとおじさんが結婚に至るまでの経緯を話した。

 

四六時中物理的にくっ付いてた話から始まり、介護で食事を食べさせたり一緒に風呂に入ったり。治療を続けて行く事で一緒に居る事が当然になり、その中で様々な出来事があった事。コミュニケーションを取れるようになってからは、イシュタルちゃんがおじさんに話題を合わせてくれて気持ちよく喋る事で居心地が良かった事。そして心が折れそうになった時にも一緒に居て支えてくれた事。

纏めるとイシュタルちゃんは常におじさんと一緒に居て、健康になってからはおじさんに合わせて会話や行動をしてくれている。この辺は夜の店を経営しているだけあって男性への理解が深いイシュタルちゃんならではだと思ってたりする。

 

話を全部聞いたフレイヤちゃんがいきなり窓際からダイブしそうになったのをオッタル君が速攻で抑え込んだ。

 

「放してオッタル! 私もベルに看病されるのよ!」

「お待ちくださいフレイヤ様! 今貴方とベル・クラネルとの接点がありません! 今ケガをしても看病をして貰える事はありません!」

 

……アレェ? フレイヤちゃんってこんな短絡的な事をする子だったっけ?

暫くゴタゴタしてたがオッタル君の依頼でフレイヤちゃんを寝かせる事に協力して女神就寝。

盛大に溜息を吐いたオッタル君と話をする事に。

 

 

 

「フレイヤ様が最近暴走気味なのだ……」

 

話を聞けばベル君へのアプローチが悉く失敗続きらしい、そのアプローチ方法とやらを聞けば納得。全部自分本位のアプローチ方法で相手に対して何も配慮なんてしてないんだもの。

どうしようコレ……男の落とし方とかの本を渡すだけで良いかなぁ……。とりあえず翻訳した落とし方の本(平成発行)を渡しておいた。

どうにかソレで頑張ってくれ。おじさんは帰る。

 

尚、このやり取りはイシュタルちゃんに言われて録画しており、録画を見たイシュタルちゃんは爆笑してた。

 




祭りが始まると思ったら病んだ神が出て来た

頭ポルナレルになりそうな中で差し出す貢物(平成の書物)

次回、おじさんと結婚式2

今度こそお祭り?


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65 おじさんと結婚式2

フレイヤちゃんの暴走特急に悩んでいるオッタル君には胃薬と頭痛止めを送っておいた。因みに結婚式には来てくれるらしい。

で、イシュタルちゃんよ、何時までその録画データで爆笑してんの。

 

「いやっ、だって、フレイヤっフレイヤがっ、っひっひっひー、無理無理無理」

 

どうにもツボに入ったらしく目じりに涙をためながら破顔して机をバシバシ叩いてる。

 

「はーっ、それで? 渡した本って?」

 

おじさんは日本語の本をイシュタルちゃんに渡す。タイトルは『すべてがあなたのものになる 史上最強の乙女シナリオ』

 

「ぶっふぉ! 乙女wwww いや待って、おじはコレをフレイヤに渡したの?wwww」

「共通語に翻訳した奴を渡したぞ」

「wwww 駄目、お腹痛いwww ヒー、ヒー、フレイヤが乙女wwww」

「そんなに?」

「ちょっと考えてよ。良い男が居たら自分の魅力で全部落として、必要なら魅了を使って男を落としてた女だぞ? そんな女がコレを読んだ所で実行出来ると思う?」

「……そう言われたら無理かな」

「はー笑った。つまりはそういう事よ、フレイヤに男に合わせるって発想は基本的に無い。アイツは男に好かれたいが本気で好きになった事が無い、だからどうしていいか分からない。ま、ソレは私にも言えた事だがな」

 

美の女神ってのも色々と大変だなと思いながらも色々と結婚式の準備を進める。因みに今回の結婚式、社員の提案でyoutubeで配信するって企画が立ち上がりイシュタルちゃんが乗り気なのでやる事にした。

何か日本側ではかなり盛り上がってるらしいがSNSをあんまり見てないおじさんは詳しく知らん。むしろイシュタルちゃんの方がそっち方面は詳しいまである。

 

で、実際に式を開催する当日、日本だけじゃなくオラリオにも式の様子を神の鏡で見せる事になったとウラノスから報告があった。

どうやらコレをアラハビカの宣伝にするつもりらしい。

 

◇◇◇◇◇

 

その日、一部の神のみが出席する会合があった。会合という体の式典。

しかしその様子は唐突に表れた神の鏡によりオラリオ中で見る事が出来た。

白く、白亜の城を思わせる建築物。階段には深紅のカーペットが敷かれ左右にはあらゆる人種やモンスターまで並んでいる。オラリオの住人が鏡の映す映像に驚愕する中、荘厳な鐘の音が聞こえる。

鏡が映す映像はやがて一つの門を映し、その中から褐色の肌を純白のドレスに身を包み、ベールで顔を隠した女性が現れる。

そのプロポーションは見事で映像からでもその肉体がもつ淫靡さを感じ取れるはずなのだが……それ以上に女性が身を包むドレスは今までオラリオで見た事も聞いたことすら無い見事な刺繍とデザインをしており、女性とドレスの相乗効果でエロよりも神聖さの方が勝る。

女性に続いて門から冴えない男が白のタキシードを着て出てくる、ある意味オラリオで有名なその男。

それを見た瞬間、男の正体を知っている人物は女性の見当が付きざわついた。何せ男にくっ付いて日中に街を歩くという奇行を行っていたのだ、知っている人間は直ぐにソレと繋げてざわつく。

門から出て来た二人が深紅のカーペットが敷かれた階段を上りきり祭壇の前に辿り着く。鐘の音が止み目の前の神父が祝詞を唱え契約の質問を口にする。

 

「汝、この女を妻とし、健やかな時も病める時も、死が二人を分かつまで共にある事を誓うか?」

「誓います」

「汝、この男を夫とし、健やかな時も病める時も、死が二人を分かつまで共にある事を誓うか?」

「誓います」

「今ここに宣誓が行われた。この誓いに異議の有るものはこの場で申し立てよ。無ければ沈黙で答えなさい」

 

暫しの沈黙が場を支配する。都市全体が映像を見て行く末を見守っている。

 

「沈黙により二人の婚姻は成された。では指輪の交換を」

 

持ってこられた指輪はシンプルだが鍛冶師にはソレがオリハルコンで作られたモノであり更に中央にあしらわれた宝石が鉱物に詳しい者はムーンストーンである事が見て取れる。

ソレを男女が互いの薬指に通す。

女は自身の指に通された指輪を愛おしそうに見てベールから覗く表情が柔らかいモノだと映像を通して見て取れる。その表情にこの映像を見ている世の女性は頬を染めている。

 

「では両者、誓いのキスを」

 

神父の言葉で男は女のヴェールを上げる。そこにはオラリオでも有名な美の女神の一柱、夜の歓楽街を統率する神イシュタルの姿。だがその顔を知る神は全員が目を丸くする。

自分の知っている女神は目力が強く『夜の女』を思わせる顔のはず、だが鏡に映る女の顔は柔らかく、日向で微笑むその顔はまるで向日葵を思わせる笑顔。普段の彼女を知る者程に結びつかない表情に混乱する。

やがて男女は互いを抱きしめあいどちらからとともなく唇を重ねる。そこに情欲等は一切無く。神聖さだけがあった。

 

そこからはお祭り騒ぎ。アラハビカでは二人の結婚を祝う言葉が飛び交い、それに答える様にイシュタルがその手に持ったブーケを投げる。

オラリオではその映像に映る都市と出される酒や料理を見ながら乾杯が続き、都市や式が気になる者はギルドへ詰め寄る。

日本ではこの映像でイシュタルの同人や3Dモデルが出回り、一部信仰されるがソレは別の話。




遂に結婚したおじさんとイシュタル

披露されるアラハビカ

次回、おじさんと政府

※尚、ブーケトスは神の取り合いにより最終的に神デメテルが手に入れました。
 血涙を流した女神が多数居たとか……。


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66 おじさんと政府

イシュタルちゃんとの結婚式の後、直ぐにダンジョンへ……とはならなかった。

披露されたアラハビカに対する問い合わせや都市への訪問、人が来る事でのトラブル等々。やるべき事は多くあった。

そんな中でもおじさんしか対応できない事が降ってわいた。それは日本政府からのコンタクト。おじさんの会社に対してメールが届き事の真偽を確認したいとの事だった。

『ダンジョンに出会いを求める少年と女神の間違い』も順調に売り上げを伸ばして既に6巻が発売、アニメも人気が出て2期の作成が決まり1期のyoutubeでの再生回数のトータルが10億回を超えている。

BDでの販売希望の声が多かったのでグッズでも付けて売ろうかと思ってる位だ。

所でヘスティアちゃんよりリリちゃんの方が人気出たのは何でだろうか? 可哀そうで興奮する紳士が多いのか純粋にヴィジュアルなのか……。

 

閑話休題。

 

兎も角、政府からのメール。これを無視する訳にはいかないと思うのでおじさん一人で会いに行く事に。

 

「私は付いて行かなくても良いのか?」

「イシュタルちゃんは専業主婦で私人だし、良いんじゃね?」

「そうか?」

 

只管会社のスケジュール調整を繰り返して2週間後にやっと調整が出来た。そして行ってみれば何やら会議室に通されズラリと並ぶおじさんs' こんなに居るとか何も聞かされて無いんじゃが……。

モニョっとしながらも話を聞いてみるとあの配信はどういう事なのか。本当に異世界なのか。土地の利権がとか何やかん、おじさんの会社の活動が不適切だとか……もう何か好き放題に質問が飛び交う。

本当に日本か此処は。

 

「えーっと、一先ずちゃんと質問纏めてくれません? かなりのスケジュール調整してから此処に来てるんですけど」

 

非難轟々、若造が~だとか此方の方が~とか、ちょいちょい日本語以外の言葉も飛んでくる。コレはちょっと……イラっとするな。

 

「あのですね、私は別に強制的に此処に呼び出された訳ではなく、善意で来てます。そして無理に此処へ来る必要もありません。私の時間を無駄にするのであれば直ぐに帰りますが? 仕事立て込んでるんですよ」

 

流石に不味いと思ったのか会議は一時中断。その間おじさんは昼食を近くのファーストフード店に入って食べる事に。

適当に注文して飯を食いながらノートPCで書類仕事を進めているとちょいちょい写真を撮られる。

何でこんなおっさんを撮ってるのか不思議に思ってたら何か女の子に話しかけられた。

 

「あの、異世界ギルドの社長さんですか?」

「……はぁ、そうですけど」

 

こっちの世界で女性に話しかけられるイベントなんか職場以外では初なのでちょっとビビる。そして答えた瞬間にキャーキャー言われちょっと飲み物吹き出しそうになったぜ。

 

「あの! 異世界って本当にあるんですか!?」

「ありますよ。ウチの社員は大体向こうで働いてるし」

 

めっちゃキャイキャイしてんなぁ何て考えてたら黒スーツの人達がすげー勢いで走って来た。何でも異世界の件を正式に認めるのは避けてくれだとか、女の子や周囲の人にも色々話して口止めしてる……ソレさっきの会議の終わり際にでも言ってくれりゃ良いのに……。

ゲンナリしながら会話してた女の子にごめんねーと謝ってから食べかけのモノを抱えて黒服達について行く。

 

結局会議が再開したのは午後16時を回ってから。今度は流石に色々と取りまとめて来たようで質問はスムーズだった。

と言っても質問内容に関しては非常に簡単で淡々と答えるだけ。

 

「貴方は異世界に行っていますか?」

「はい」

「どの様に移動していますか?」

「企業秘密です」

「……では異世界からの品を此方へ輸入等していますか?」

「いいえ」

「逆に輸出は行っていますか?」

「はい」

「あの配信は向こうの世界の映像でしょうか?」

「あの映像とは何ですか?」

「貴方が映っていた配信です」

「一応社長業として幾つか配信しているんですがどれでしょう?」

「えっ……ちょっとお待ち下さい」

 

とまあ、こんな感じでちょいちょい質問が止まりつつぼけーっと答えていく。めんどくせーと思いながら政府が何を引き出したいのか考える。

政府として欲しいもの……移動手段と向こうの資源かな?

他には地球に無いモノ、モンスターのサンプルとか未知のマテリアルとかも欲しがりそう。そう考えると一攫千金の山だしなぁ異世界の品物って。

移動手段がおじさん依存だから社員全員に向こうのモノは持ち込みを禁止を言い渡してるけどさ。

 

淡々と質問に答えるのも飽きたのでぶっちゃけて聞く事に。

 

「あの、結局何が聞きたいのか核心を話してくれませんか? じゃないと延々とこーいう無意味な事に答える時間が続いて帰りたくなるんですが」

「申し訳ありませんが帰宅は許可出来ません」

「は?」

「此方の回答に全て答えて頂くまで帰宅は許可出来ません」

 

こいつは何を言ってるんじゃ? イラっと来たが落ち着け、まだ武力行使には早い。

 

「えーっと、その帰宅の許可云々は誰の指示ですか? 政府の呼び出しには善意で答えたんですが」

「貴方が何をおっしゃってるか分かりませんが我々は政府とは関係ありません、質問を再開します」

 

ほー、政府とは関係無いとおっしゃる……つまりここで手を出しても日本政府には迷惑は掛からないと……なるほどなるほど。

質問に答えるのを止めて座っていた椅子に浅くかけ直し机に近づいて相手との距離を詰める。

距離にして1メートル程、遮蔽物は無し。手を伸ばせば届く距離。

何度質問しても答えずニヤニヤしてたおじさんにしびれを切らしたのか罵声を浴びせて来たが気にせずニヤニヤを続ける。どうとでもなると思えば目の前の男の威嚇が非常に滑稽に見えてくる。

そんな精神的余裕を持って男を見ていたが遂に我慢が限界を迎えたのか急に日本語では無い言語を話ながらおじさんを殴って来た。

一応殴られてから反撃(デコピン)を行う。目の前の男はデコピンを食らって吹き飛び壁にぶつかり気絶してしまった。

散らばった書類をかき集め、念のため男の懐を漁って服も含めてモノを全部回収。鍵で扉は閉じられているがドアノブを捻ってねじ切った後に蹴破る。

 

わらわらと人が集まって来たがもう全部無視してサクッと帰る。呼び止められたり組みつかれたが全部無視。

そしてその日の夜に質問の様子を録画した映像をyoutubeにUPした。当然モザイク加工は一切なしで。




政府からのメールで向かったおじさん

そこで行われた会議は……会議と呼べるものでは無かった

次回、おじさんと政府2

Q.どうやって録画したの?
A.テレポートの対象をおじさんにして穴から撮影


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67 おじさんと政府2

動画がプチ炎上した翌日、おじさんの姿は自宅にあった。

何をしているかといえば……宅飲みである。買って来たビール片手にツマミを食べながらゲームの動画を眺める。完全にダメオである。

帰ってひっきりなしに固定電話が鳴り、メールアドレスには大量のメールが、それも日本語とそれ以外のメールが大量に届いて嫌になりソレ等を無視して酒を飲み始めたのだ。

 

いっそダンジョンにでも逃げてやろうかなとも思ったが後回しにすると面倒になるという過去の経験則からソレは踏みとどまっていた。

 

「うー、動画はおもろいけど……こんな事なら戻って社員にスキル使ってた方が良かったか?」

 

実はおじさん、社員の福利厚生としてスキルを使用する事にしている。名目は運用している町の名物と効果の実証という事で行ってる。

サービス名が「ヒッポロ系ニャポーン」なので日本人だと分かる人は分かるというサービスになってる。尚、書類に記載されている名目もこれで統一してあり、社外へ話す事がある場合サービス名以外は秘匿する事が条件になっていたりする。

ネットに流れた瞬間元ネタの漫画の売り上げが上がったって騒がれたんだっけ。問題にならなくて本当に良かった……。

 

色々な考えが浮かんでは消えて、それを時々手元のメモ帳に残しながらぼーっとしているとチャイムが鳴り響く。玄関を開けて出て見るとやたらとガタイの良いスーツの5人組。

 

「……えーっと何用で?」

 

酔った思考で問いかけると男達が無理やり侵入してきておじさんを抑え込もうとしてくる。飛び掛かって来る男達をおけーっと見ながら目線をチラリと監視カメラにやり、さらに念のために回していた三脚に備え付けたカメラが稼働している事を確認。

掴まれて服が伸びるのも嫌なので掴まれる寸前でするりと避ける、

一度大きく避けて男達が完全におじさんの家へ不法侵入したのを撮ってから不法侵入で襲い掛かるのは何事だと言い放つ。若干呂律が回って無いがそこはご愛敬。

まぁ無視して後続の男がズンズンと侵入して襲い掛かってくるのでコンマ何秒という世界で体の調子を整える。

おじさんに手が届く寸前で体の力を抜いて床へぺしゃりと張り付き、両手で床を掴み腕の力と体を捻る力、更に足を大きく振る事で遠心力を使い地面から男の顎へ向けてドロップキックをかます。

カメラの映像では一瞬でおじさんが消えたと思ったら男が顎をドロップキック(下から)を食らい後ろの男達へ吹き飛んだ。

そのまま蹴り上げと同時に床を押す力でくるりと宙返りしてそのまま着地。とは綺麗に決まらず酔いで着地と同時にふらふらする。千鳥足でふらふらしてる所に襲い掛かる男をステータスのごり押しでフラフラのまま叩き伏していく。

急激に動いた事で男達をノした後に思いっきりゲロって映像は終了。

 

そんな動画を続けて出すものだからおじさんのSNSのアカウントとかyoutubeのアカウントは大変な事に。

そして特定班が男達の上げてるうめき声が某国の言語であると特定しておじさんのアカウントに警告という名の大量凸。

 

善意からやってるのも中には居るだろうって事で適当に呟いてお礼を言っておく。

 

「『忠告ありがとうございます。あの位であれば大体自衛出来るので頑張ります』『それにしてもこの変態ホモ集団って何が目的でしょう?』っと」

 

目的が今一見えんのでネットで聞いてみようそうしよう。

反応は半分が笑い、半分意見でその殆どが拉致という意見。警察に相談する事を進める意見がちらほら。

なるほど、警察かと思い直ぐに実家と家族、ついでに親戚にも連絡して無事を確認してから警察へ足を運ぶ。

 

「って訳で自宅に変態のガチムチ5人が無断侵入かまして襲ってきたので対処して貰えません?」

 

受付のお姉さんが映像にちょっと引いてたのが印象的だった。




自宅で飲んでるおじさんを襲撃する男達

酒拳もどき(カメラ視点)で撃退するおじさん

次回、おじさんと政府3




何かこの話結構長くなりそうな……


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68 おじさんと政府3

変態ホモ集団を警察に突き出して数日。相変わらずひっきりなしに問い合わせの電話やメールが来る中、やっと『ちゃんとした』政府からの返事があった。

この数日でどれだけ偽の政府連絡があった事か。

まぁSNSで公開してるアドレスだししゃーないけどさ。

 

「それで、何でしょう?」

 

場所はおじさんの自宅、もう色々と面倒になったので場所を此方で指定しました。ついでにこの会話を録画中、何なら何かあった時は動画をyoutubeにupする事まで含めて約束させてる。

色々と予定が狂って思った通りに進まないスケジュールにちょっとイライラしながら口を開く。

 

 

やっと来た政府からの正式な質問。といっても事実確認だし会社で何してるんですかって話。

そして異世界に行った人は検疫を受けてほしいと。

ソレは正直頭になかったので直ぐにOKを出した。健康は大事だ、うん。

んで、何が出来て何が出来ないかと聞かれても正直困る。どれもこれもおじさんが出来る事を伝えるとやばすぎる。

脂肪スキルは医療関係的にアウトというか面倒になる事は間違いないし、転移系もパスポートとかの面で色々制約が付きそう。精霊魔法とかはもう完全に兵器扱いになるし……あれ? そう考えるとコレ等が生える可能性を作れる神をこっちに連れてくるのは今後マズイかも。

 

「(今後は必ず一人につき護衛を一人は連れてくるのをマストにしよう)」

 

で、結局政府にはおじさんが異世界に行って色々活動してるが異世界への移動はおじさんの意思でしか出来ない事。制限が存在する事を伝えておじさんに関して他の情報は全部黙る事にした。

魔力量で一度に移動出来る人数に制限があるのは本当だし嘘じゃないし。

 

会社に関してはもう丸っと答えた。異世界でリゾート業をやって、現地通貨を稼いでるが日本円は獲得していないしするつもりも無い。社員の給料は完全におじさんのポケットマネー支払いだ。

つまりおじさんの会社は赤字も赤字。収入が殆ど無い会社。なのに潰れるどころかばんばん金を使うという異次元会社。

何せおじさんの思い付きでやってるだけだし、今はボランティアの側面の方が強い。

特に国からの支援を一切受けて無いので政府から何か言われる筋合いも全くないので自由気ままなのだ。

 

 

 

「という訳で、ウチの会社は異世界でベンチャー業をやってるけど日本円は獲得してないし今後もその予定は無し。運用は個人資産から捻出してて……まぁやってる事は殆ど趣味っすね」

 

こう言われて背後が真っ白であれば政府としても何も言えない。というか突く隙というモノが無い。

しかしどうにか一枚噛みたいというのが政治としての本音。何せ莫大な手つかずの資源が眠っているのが目の前の男が行った配信の中で見て取れるのだ。

 

「政府としてはそちらの支援を行いたいと考えているのですが」

「いや~? 別に今の所資金に困って無いし、社員を喰わせていくだけなら生涯雇用でもまぁ持つだろうしな。正直横やりとかされるほうがデメリットで支援されてもメリットが無いっつーか」

 

そして目の前の男は非常に明け透けに却下を叩きつけてくる。しかも言葉通りにこの男が抱えている資金はべらぼうに大きい。本気で金を動かすと国が傾く位には。

しかもその資金の入手方法が税金がかからない部類のモノだという現実が更に頭痛を呼ぶ。

だが交渉に来た男も『はい、分かりました』等は言えない。いや、本音では言ってしまいたいのだがソレをやってしまえば職を失ってしまう。

 

 

 

どうにかして情報を持って帰らない事には色々とまずい男と交渉が面倒に思えて来たおじさん。

最終的に交渉役の泣き落としがダルくなって家から叩き出した。これが女性なら多少手心を加えたが野郎だし男の涙に価値は基本無いと思っているおじさんなので容赦は無かった。

尚、女性の場合は脂肪スキルで美容という切り札を切る気満々なので女性が来たらら来たでガッツリ裏切りが発生するという沼だったりする。

 

◇◇◇◇◇

 

色々と思う所があったおじさんはアラハビカの会議室で社員たちと会議を開いていた。

 

「はい、そーいう訳で政府からの質問も面倒だし交渉もダルイので社員の皆さんにぶっちゃけ聞こう。この状況どうしたら良いと思う?」

 

中々癖の強い人材が揃っているので出てくる案も普通ではやらない様な考えが多いが、共通するのは自分たちで情報発信を行うというものだった。

結局此方の情報が欲しいというのが政府側の考えでありその上で此方に手を出そうと思っても実際にはおじさんが手を貸さない限りは移動が出来ないので其処まで深刻になる必要も無いだろうという肝の座り方。

 

最悪の場合は全員が『ポーション』を使えば良いという意見だった。

 

そう回復薬として使用されるポーション、低い品質の物でさえ傷の修復という効果が目で見て取れる程の回復アイテム。

コレと日本の医療を組み合わせた際、恐ろしく色々な事が出来る可能性があり社内でアンケートを取って少しづつ備蓄してたりする。

あと少しだけ情報公開してはどうかと言う意見があり面白そうなので採用することに。

公開場所はyoutube君を選択。

 

凡そ1時間の配信だったけど、同時接続が億単位行くのは笑うしかねぇ。アーカイブが配信終了後の1日で再生回数億行くのもワロタ。

んで一番再生されてるのはやっぱポーション使った場面。おじさんの腕に切り傷入れてからポーションぶっかけて傷が治るシーンだ。

やっぱ皆異世界に興味しんしんだったりする?




政府の対応が面倒になったおじさん

元ごく潰しが多い社員の意見はネット掲示板的なノリで話が進む

次回、おじさんと政治4


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69 おじさんと政府4

※本編に出てくるのは架空の人物で、実際の人物ではありません。(念のため)


「えーっと、配信始まった? うぃ、皆さんこんにちはー。おじさんでーす」

 

今日はアラハビカからの生配信、前回の配信が非常に盛況かつ色々質問が来まくったので数日おきに配信して情報を小出しにしている。

因みに日本語以外の書き込みに関しては全部スルーしてる。おじさんが読みたくないのでね!

序に政府とのやり取りも基本この配信でやってたりする。面倒な事は一切せずにフルオープンです。

 

「ちゅーわけで、この間日本政府を名乗るどっかの国の人が来たけど動画の通りにお帰り頂きました。その様子は後で動画上げるから気になる人は見といて。それとおじさんの家の周りにSP? が配置されるらしいので今後は近づくの難しいと思うよ。ご近所さんに迷惑かけるのがおじさんの目下の悩みやね」

 

『おっ、やっと警備配置されたのか』

『遅すぎでは?』

『拉致られて無いだけで誘拐未遂が起きてるからやっと、って感はあるな』

 

「それから日本政府からまーた支援がどうのこうのと有ったけどメリットが無いからごめんなさいしといた。何やろ、おじさんが日本でメリットと思う事って今の所無いんよね。別に生活するだけなら全部投げ出せば良いし……視聴者さんどう思う?」

 

『それ(だけ金を持ってたら)はそう』

『ぶっちゃけ嫁と爛れた生活送るだけで良いならコイツ働く必要無いからな』

『人生勝組ルートだけどそのルートが可笑しい定期』

『お前の人生チャート可笑しいよ』

 

「相変わらずコメントがひでぇ」

 

ゲラゲラと笑いながらコメントを拾っていく。

何となくで始めた配信も意外とというか色々と面倒なコメントに対して無視を決め込む気楽なもんだ。まぁどのコメントを拾う拾わないは社員が選定してたりするのでおじさんは気楽なもんだ。

 

「あー、因みに今回ゲスト居ます」

 

『嫁か』

『亜人』

『モンスターやろ』

 

「ちゅー訳で入ってきて~」

「おじさん、本当に良いのか?」

「良いから来なさいよ」

 

『キター!』

『トカゲ人間!』

『モンスターか人間か!?』

『トカゲなのに声出せるって発声器官どうなってんの?』

 

配信に入って来たのはリド。ゼノスのまとめ役してるのもあってアラハビカでも割と中心人物だったりする。

 

「一応モンスター枠のリド君です」

「どーも」

 

『アイエェ!? モンスター? モンスターナンデ!?』

『本だと敵として出てくるけど別枠?』

 

「詳しくは紹介しないけど、人に友好的なモンスターって感じ。その内ダンまちで書く予定」

「襲われない限りは襲わないな」

 

こんな感じでゼノスの情報を出してみたり、冒険者がステータスを授かる方法を配信して見せようとしたらイシュタルちゃんが悪乗りしたせいでアカBANくらいかけたり。

 

◆◆◆◆◆

 

ステータスの伸ばし方としてダンジョン内から放送してみたり。

 

「という訳で、ダンジョンの中で生成されるモンスターを殺す事で経験値を得ます。だから仮に日本で恩恵貰ってもステータス成長が出来ないから意味無いと思われる」

 

こんな感じでモンスターが居ないから地球側で恩恵貰っても意味が無いぞと発信してみたり。

 

「魔法があるからマジックアイテムもあったり……因みに回復魔法は結構レア魔法だけどあります、ゲームチックなアイテムボックスとか転移系なんかは知る限り(おじさん以外)無いかな。そもそも魔法の枠も3つしかない上に何が出るか完全ランダム&そもそも出現するかも分からんからそんな魔法はお目にかかる事はほぼ無いのが現状。大体は攻撃系の魔法になるのが一般的」

 

夢見がちな地球側に現実を伝えたり。

そんな感じで渡しても問題ない&ダンまちで公開予定の情報を配信でちまちま流してたら政府から呼びかけあった。

 

「何か呼び出し貰ったけど面倒なので今から繋ぐわ。ちょいと待って…………あー、聞こえてます?」

「はい、聞こえてますよ」

「では自己紹介して貰っても良いです?」

「はい。私外務大臣を務めている林です」

 

『ふぁーーーw』

『さらりと大物が登場してくる配信』

『youtubeの配信の歴史を塗り替える男』

『間違いなく歴史を塗り替えてる(異世界進出)』

 

「えーっと先ずは初めまして林さん。それで今回は何用でしょうか?」

「繰り返しになる部分もありますが改めて事実確認とお願いをしたいのですが……」

「時間は良いんですが……諸外国の紐付き政治家って排除出来ました? 手を貸すのはソコが最低限ですしソコが担保出来ない場合は絶対やりませんよ? ぶっちゃけやる必要ってほぼ無いんで」

「確実とは言いませんが、関わる人員は厳選な審査を行っております」

「……じゃあその人員リスト送って貰えます? 必要に応じて今この場で公開しますけど」

 

直ぐに送られてきたデータに目を通しながら書類を印刷してもらう。うーん、今一わからん! こういうのを看破出来る能力が欲しくなっちゃう……。

 

「まぁ正直リスト見ても解りませんが……書類上は変な……あれ?」

 

何か普段テレビを見ないおじさんでも見た事ある名前が居るんだけど……しかも良くない意味で見たことある奴。それに社員からstopのサイン。何事か確認したら……活動内容が怪しい人が結構混じってるとの事……おいぃ。

 

「えーっと……林さん、このK.Sさん……最近叩かれてますよね? この人もこの件に首突っ込んでくるの? 例のエコ作戦大ゴケしたのに謝罪無しだけど」

「現段階ではリストに入ってますね……」

「じゃあコッチのS.Rさんは? この人国籍やらトンデモ発現で色んな所で総スカンくらってますよね?」

「それは……」

「こっちの……」

 

ってな感じでリストのヤバイ奴を配信でつらつらと上げていくとコメントが段々とお通夜ムードになっていく。素人でも分かるヤベー奴を何で入れるんだと。

はい、もう面倒なんでリスト全部公開しまーす。コメントで色々教えてくれ。

はっちゃけてリスト公開したらコメントが来るわ来るわ。その中から比較的マトモそうな人を厳選して面談、そこから談話する人をこちらが選択するって事で向こうには納得してもらった。

最初ゴネてたけど、ソレが嫌なら二度と交渉しないの一言で決まりました。何度も言うけどこっちが交渉する事自体譲歩してると分かってくれ。

 

◆◆◆◆◆

 

そうやってマトモそうな人を厳選した上で政府が何をしたいのか、その見返りが何かってのを話し合った。

まぁ今ではほぼやる気が無いけど地球側にマジックアイテム持っていくとか、地球で恩恵が授けられるかとか……最初の頃はそーいう実験もありかと思ったけど混乱を考えると利益も何もあったもんじゃないし、責任とか問われると面倒だからやらないという結論が出てる。

地球を捨てるって言うなら考えなくも無いけど……普通に生活するだけなら絶対地球の方が良いので推奨はしない。何せ神のお墨付きだしな、地球。

 

で、結局政府側が欲しがったのはポーション。取りあえず比較的安価なポーションの成分分析と地球側で生成が可能かを検討することに。それと生産するにしても決定権はおじさんが握る事になった。

じゃあ誰が成分分析をやるのかって話だが、ソコは人材をおじさんの会社で受け入れてアラハビカに来てもらう事に。で、解析を行う人間。研究所はネットワークから隔離。データの持ち出しも厳禁。給料は出すけど最低限だし最悪地球には戻れません。

それでも良いと言うならって事で条件で医者/研究者等の募集を出したが来るわ来るわ。まあメインの研究者は政府側からキチンとした人が紹介されてる、おじさんの方でも選考した上でその人達も審査をする訳で……当然変なのは除外、その上で良さげな人をチョイス。

結果としてかなりの上澄みが選択された、中には世界的に著名な人も居たけど日本人以外は流石にお断りさせてもらった。ある意味紛争地帯並の治安だしさ。

 

◆◆◆◆◆

 

そうやって一応政府とのやりとりしつつ解析・医療チームがアラハビカに駐留する事に。そのせいでディアンケヒト・ファミリアが五月蠅い事。

まあアラハビカに色々とマズイ冒険者が運び込まれては五体満足になって帰ってくればそうなる。

例えば四肢が千切れた者、命が尽きそうな者、オラリオでは治療不可能な者。特に病気に関してはやっぱ地球の医療の方が進んでるし、外傷でも大けがでハイポーションやエリクサー程は費用が掛からないから中規模のファミリアは割と顧客が居る。

つーか本気の本気でマズイ時はおじさんが出て行ってる。まぁ医療は全部「ヒッポロ系ニャポーン」で統一してるからオラリオでもこの単語が流行り始めてる。

因みに医者と生物学と獣医なんかも居るがヒューマン以外が来ると大興奮。簡単なケガなのに全身検査しようとするからその度に注意するのがワンセット。

因みにおじさんが出る必要が数回あったが、その時に全員から詰め寄られた。そして全員にゲンコツで返事しといた。

最初の書類でおじさんの事に関しては詮索しないっつー約束事が書いてあったやろがい。

 

 

 

「ただいまー」

「おじ、遅かったな」

「おかえりおじさん」

「おじさん! おかえりなさい!」

 

時間が取れたので昼過ぎにヘスティアファミリアに久々に戻ったら先に向かっていたイシュタルちゃんとヘスティアちゃん、ベル君が迎えてくれた。

 

「あ~、ベル君lv5になったんだってね。おめでとう」

「ありがとうございます! っていうか大丈夫ですか? 目の下のクマ……濃いですけど」

「うーん、最近書類のまとめが多くて……」

「私も手伝ってるが最近の量は異常じゃないか?」

 

そう、イシュタルちゃんに手伝って貰ってはいるが、政府関係の書類が増えて手が足りんのだ。かと言って他に投げる訳にもいかんので結果としておじさんのタスクが増えダンジョンに潜れてない。

 

「おじさんも大変になったね」

「ヘスティアちゃんも一枚噛む? バイト代出すよ? じゃが丸君バイトの30倍位でどう?」

「30!? えぇ……魅力的だけど内容的にボクだと難しいんじゃ?」

「そこはイシュタルちゃんに聞きながらやって貰えれば」

「うーん、止めとく」

「そっかぁ」

 

返事を貰うと同時にソファーへとへたり込む。正直ちょっと寝たい。というか頭休めたい。

 

「おじ、体力的に余裕はあるのか?」

「へぇ? あー、2時間も寝たら持ち直す。時間的に夕食後位?」

「そうか、とりあえず一旦寝ろ。後につかえる」

「あいー、おやすみ」

 

そのままソファーに頭を置くと5分もしない内に夢の世界へ旅立った。

 

「zzz」

「おじさん大分疲弊してるね」

「下手にダンジョンに潜るより苦労してるだろうな」

「一体何の書類に手間取ってるんだい?」

「大半は医療系だな、それからアラハビカで働くあちら側の人間関連の書類。後は私達関連の書類だ」

「へ? ボク達?」

「あぁ、極一部の神を向こうの政府と面通しするらしいぞ? 当然私やお前が筆頭だな。後はタケミカヅチにヘファイストス、ミアハも一度は向こうへ行っているのだろう?」

「まぁその辺りはおじさんの家に遊びに行った面子だね……」

「彼らに対して正式におじから招待の依頼が出る、国賓としてな。そして招待に際して必要な書類が驚く程多くてな。私もびっくりした位だ、ギルドの提出する書類が子供のお遊びに見えるぞ?」

 

その言葉に顔を顰めるヘスティア。と同時に自分の眷属がそんな大変な事をしているのかと改めて「どうしてこうなった」と頭を悩ませる。

 

「それと、今後向こうに行く時は最低でも一人眷属を、最低lv2、出来るだけ高lvの眷属を護衛として連れて行くのが決定したから今の内に選んでおけよ」

「え? 前はボク達だけで行ったのに?」

「あの時と状況が違うんだ。ちなみにおじは対象外だからな。まぁ、お前の場合はベル・クラネルで良いだろう」

 

今後地球への招待される際のルールを話ながら夕方になり全員で夕食を食べてからはイシュタル、おじさんは連れ立って先のファミリアへと招待状を直接持って行く事となる。ついでに所用でロキファミリアに立ち寄ったり。

また、全ての招待状を渡した後にイシュタルファミリアのホームへ戻る事となりおじさんは何事かと思っていたが、アイシャとの約束実施が行われた。

当然というか一人の相手で終わる訳が無いのでおじさんは数日カンヅメする事に……。

因みに相手が変わる度に必ずイシュタルちゃんとの対戦が入り対戦回数は単純に2倍になった。

後日おじさんは『こんな事で狩人アビリティが伸びるとは思わなかった』と発言したとか。




政府と交渉を進めるおじさん

神の存在を認識させ会談の場を設け、正式に日本に連れて行く事になった

次回、おじさんと対談

おや? おじさんの様子が?


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70 おじさんと対談

場所は日本のTV局、イシュタル、ヘスティア、タケミカヅチ、ヘファイストス、ミアハと言った神5名。そしてそれぞれの眷属であるアイシャ、ベル、命、椿、ナーザの5名。

オラリオ世界の総勢10名とおじさんという合計11名はとある特設会場に来ていた。

目の前にあるのは所謂筋肉番組で使われるSASUKE全4ステージ。そのステージに全員ぽかんとしている。

まぁオラリオの住民からするとそうだわな。

 

「んじゃ、最終確認するぞー。今から眷属全員、一人一人でこのステージに挑戦、クリアを目標としてもらう」

「あのおじさん」

「はい、ベル君何?」

「何でこんな事するんですか?」

 

至極真っ当な質問。

 

「まー恩恵無い人だとコレをクリアするのはかなり難しいのよ。だから恩恵ある人がどの位身体能力が優れてるのか、それを知りたいっていう……まぁ早い話が『お前らの護衛は本当にソレで良いのか?』って話」

 

その言葉にカチンと来たのか眷属の皆はやる気になってる。

まぁそう見られても仕方ないとは思う。

何せ護衛役の5人中4人が女性で一人はエロ装備、一人は義手、男性は子供。そりゃ確認したくもなるわ。

文句を付けられても面白くないので命、ナーザ、アイシャ、椿、ベルというlv順にステージへ挑む。

 

そして始まったSASUKEへの挑戦。因みにコレも配信中。結果から言うと全員がステージを全制覇。

ルールも色々あるから最初の挑戦者である命ちゃんが一番時間が掛かった。それでも全ステージで15秒前後を残してのクリア。

ナーザちゃんに関しては命ちゃんのやり方を見てたので更にタイムが早まり20秒残し、アイシャはソコまで真剣じゃないのかこれまた20秒程残しで悠々とクリア。

椿ちゃんは楽しみつつ半分程時間を残して余裕のクリア。そしてベル君の番だが……。

 

「ベル君! 全力だ! 舐められっぱなしは絶対駄目だ!」

「はい! 神様!」

 

敏捷が飛びぬけてるベル君が本気を出すと当然別次元な訳で……。

1ステージの平均10秒前後。全ステージの所用時間が1分以下というバケモノタイムが生まれる。

当然配信を見てる視聴者、SASUKEを知ってる人、スポーツ関係の人間は阿鼻叫喚。

おじさんもやれって言われたけど面倒の一言で断りました。というかおじさんの場合ストライク(脚)使うとステージのほぼ全て無視出来るし……。いや、ソレは全員同じか。全力でジャンプしたら皆ギミック無視できちゃうもんね。

 

◇◇◇◇◇

 

冒険者の身体能力がバケモノ揃いって事が証明された後、改めて対談が開かれた。基本神とは~みたいな話から恩恵の取得方法にステータスの伸ばし方等。

おじさんが本にした内容と全く同じ事の繰り返しで基本は分かり切った答えばかり。流石に神の年齢を聞いたら驚いてはいたけど。

 

「さて、色々と聞かせてくれてありがとうございます。で、こっちの報告をする前に皆さん一人一人にちょいとお願いしたい事が。

目の前の神に誓って『日本以外の国の紐付きでは無い』と宣言してくれません? まぁおまじないみたいなもんです」

 

議員は首を傾げていたが全員が一人ずつ宣言していく。全員が口にし終わったところで神に配ってた用紙を回収、全員の答えが一致。

この場の責任者である外務大臣の林さんに来てもらいリストの人を会場内から外してもらう。

 

「今回席を外して貰った人達は全員が諸外国と繋がっている人間です。それも悪い意味で」

 

おじさんの宣言に会場がざわつく。何せ色々精査された人間の1/3が退席しているのだ、驚かないのが難しい。

まぁ何で分かったのか、それが理解できない人が大半なので一応理由説明。解ってる人はどうやらダンまちを読んでる読者っぽい。何かウチの社員に近い気配がするのは気のせいか。

理由説明ついでにポーションの解析について報告。

解析の結果、完全な再現は不可能。但し劣化再現は可能となった。

少なくともコレを量産するだけで手術からの復帰は半分以下、分野によっては今まで治療不可能とされていたモノも治療可能になる可能性が出て来た。

主に臓器系。

各投薬と併用も出来るしやり方次第だと癌にも対応出来る可能性すらある。

 

という訳で製薬部門を地球側に置くことに一応向こう10年は専売権をおじさんが持ち、レシピ公開後も利益の30%がおじさん。10年を過ぎたらレシピは完全公開を約束、他国へ公開するかは政府に任せる。

 

正直コレだけで今雇ってる人達の給金の目途が付いたのでほっとする。この薬って作ったら作った分だけ売れる商品だし10年間の市場独占があれば次の商品作りの時間としても悪くない。

一旦コレで政府側には利益として十分だし、この10年が終わるまでは余計な接触なんかもしないと書面を交わして片付いた。

 

 

 

会談後一度戻りアラハビカ、そこに居るのは今回集まって貰った神のファミリア、おじさんの会社の社員、ゼノス達。

これから行うのは……そう。

 

「という事で……日本観光行くぞー!」

「「「「「「「「「「イエーーーーーーーーイ‼‼‼‼」」」」」」」」」」




日本政府とのアレコレが落ち着いたおじさん

書類仕事で目にクマを抱えたおじさんは癒しを求める

ついでに普段世話になってる所やその他諸々含めご招待

次回、おじさんと旅行


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71 おじさんと旅行

時間は遡り面談の数日前・ヘスティアファミリアにて、今回呼び出された神々がおじさんに集められた。

此処で話し合われる議題は……

 

「北は北海道から南は九州まで、日本横断ツアー!」

「イエーーーーー!」

 

「という事で色々と行きたいんだけど……どうする? 今の時点で気になる所ある?」

「私はやっぱり九州だな。おじの故郷だし……別府温泉も気になる」

「温泉かぁ……極東で入って以来だな」

「ボクは前調べた時に見た味噌カツってのが気になるかな、じゃが丸君と同じ揚げものらしいけどトッピングってのが面白い」

「私は海鮮が食べたいかも。オラリオじゃ滅多に食べれないし……後は刀の展示会とかあるなら見て見たいかな」

 

「ミアハは何か無いのかい?」

「私か? うーむ、おじさんの家で少し飲食をした位だからな。正直何があるのか分からん」

 

各神と今回ついてくるファミリアで話して貰って行ってみたい所をピックアップしてもらう事にした。

ピックアップの仕方は神に日本全国津々浦々の旅行パンフレットを大量に渡す。一度向こうに行ってる神は日本語が読めるから神が団員に説明して意見を取りまとめてね。

因みにイシュタルちゃん所は人数が多いのでアラハビカで働いている恩恵持ちに限定してる。本当は全員連れて行きたいが……流石に向こうで娼婦と同じことすると『風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律』、通称:風営法を守らないとアカンのでその辺を守るのが最低条件。

その辺はイシュタルちゃんを信用してメンバーの選定は任せてる。

 

ファミリアと話し合うって事でその日は解散して日本旅行の演習も兼ねてアラハビカのホテルに泊まって貰う事に。明けて翌日、会場に来たヘスティア、イシュタルファミリア以外は皆割と寝不足。

いや、寝不足は皆そうなのだが他はホテルやサービスで寝不足になってるらしい。こればっかりは慣れて貰うしかない。

回収した用紙を見ると……

 

「これまたばらけたな~」

 

各ファミリアから提出された行きたい場所と興味があるものはこうなった。

 

北海道:海鮮

名古屋:味噌カツ

大分:別府温泉

香川:うどん

 

「なるほどね。細かい所は後で詰めるとして草案として旅行スケジュール組んで政府に渡してくるわ」

「好き勝手に書いといて何だけど大丈夫なのかい?」

 

問題あるなしで言えば無い。つーか別に旅行するだけだから本来問題なんて起こらんし。

 

「多分向こうがホテルから色々抑えるだろうしおじさんも色々調整入れるから……旅行自体は2週間後とかになると思う」

 

軽く試算するけど遅くても1か月後、秋口位か?

 

「あっ、おじさん! ボクカメラが欲しいんだけど!」

「おん? 携帯のカメラじゃなくて?」

 

おじさんの言葉にキョトンとするヘスティアちゃん。

 

「え? コレってカメラもあるの?」

 

「そりゃあるよ、iPhoneの最新機種だから下手なカメラより綺麗に映るよ?」

「うぇ?! そうなの? 使い方が今一分かんないや」

「ヘスティア、私が教えてやる。貸してみろ」

 

隣に座っていたイシュタルちゃんがしょうがないと携帯の使い方をレクチャーするらしい。

折角なので今回集まった神全員にiPhoneを配っておいた。メッセージアプリも使えるから上手い事使いこなしてくれ。

 

◇◇◇◇◇

 

また色々と横やりが入ったがサクっとスルーしました。おじさんです。

政治家さんがギャーギャー喚く事は仕方ないと思ってたけど自分に関わるとなると非常にストレスがかかるので……財務省に電話一本入れて資金凍結の話をしたら収まった。

おじさんの資産運用止めればそれだけで結構な痛手になるだろうし、何なら他国への資金流入も止めるので被害は波及するのよ。おじさん基本バカですがストレス掛けられた相手に優しくする性格じゃ無いとそろそろ知ってくれ。

 

さて、旅行当日。ミアハファミリアに協力して貰って用意した高濃度のハイ・マナポーション。社員と参加ファミリア合わせて300人近い人数なので通常のポーションじゃ追っつかない。なので新しいポーションを作って貰いました。

それでもポーション4本程おかわりするハメになったが……これだけで移動完了できたのが凄いと思おう。

 

全員がワールドテレポートの穴を通って出た先、それは……。

 

「はい、ここが最初の場所、別府温泉が一望出来る山中の駐車場~」

 

全員の目の前に広がるのは地面からもくもくと立ち上がる湯気に温泉特融の硫黄の匂い。

秋口という事で少し肌寒い風が吹いているがオラリオ組は全員がその風景にテンションが降り切れている。やはりこれだけ喜ばれれば嬉しいもので、事前にお願いしていた案内役の旅行会社にお願いして全員でマイクロバスへ乗り込む。

バスガイドさんが別府温泉の説明を行いながら温泉でのルールやホテルでの過ごし方。出される夕食や何が有名なのか等々、一般常識的な事も含めて丁寧に説明してくれる。

全員がワールドテレポートの穴を潜ったお陰で全員日本語に問題は無く見て話す程度は素面で出来る。

 

バスで揺られながら社員が適当にカラオケしているのをBGMに風景を楽しむ。差し入れてもらったみかんを剥いてイシュタルちゃんに半分渡して共に食べる。甘くてうまい。

万が一の事も考えてこのバスには神と護衛役が固まって乗ってる。正直このバスを襲ってくるようなアホは居ないと信じてるけど……護衛ヘリ飛ばすのは流石にやり過ぎでは?

ちょっと警察の本気がうかがえる。

 

何はともあれこれからまったり日本横断旅行だ~。羽伸ばすぞー。




社員、知り合いのファミリアを連れて日本に繰り出すおじさん

日本旅行でどんな事が待ち受けるのか

次回、おじさんと旅行2



※何かご当地ネタとかあれば是非無知なおじさん(作者)に教えて下さい。


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72 おじさんと旅行2

自分で書いててお腹減る
頑張って続き書きます


到着したのは日本旅館、しかもソコソコ大きい所。多分管理とか護衛の関係で纏めた方が楽なんだろうけど良く抑えられたな。

ホテルのデカさに旅行参加者全員がぼけーっとなりながらロビーへ。そして各自の部屋へ割り振られるんだが皆基本キョロキョロしてる。イシュタルファミリアは……アラハビカのホテルに出入りが多いしそもそものホームがデカイってのもあったから割と落ち着いてる。

問題行動起こすかなとか考えたけどこっちに来て……正確にはマイクロバスで日本で目立たない服を配布して着て貰ってるから見た目は褐色美人集団って意外は普通(?)だし、意外と適正あるのかも。

イシュタルちゃんも慣れるのくっそ早かったから、やっぱ夜の仕事してるとそこら辺の対応力って上がるのかもな。

 

そんなイシュタルファミリアの対応力を眺めながら部屋へ移る。基本神+眷属1~2名で部屋割りをし、他の者達も2~3人部屋。

温泉街なだけあって多種多様の温泉がこの町にある。一応この範囲というマップを全員に渡していて、その中の温泉だったら好きに入って良い事にしている。料金は後で一括請求してもらう予定。

時間はまだお昼を回った位、取り合えず腹ごなしとして部屋に荷物を置いて宴会場に全員集合。山の幸中心の郷土料理を中心とした御膳が出され全員で食事を楽しむ。

タケミカヅチファミリアは見知った物や、珍しい物に驚き、そしてオラリオではありつけない味付けに感動してる。

そして他のファミリアはというと……見た事無い物が多く恐る恐ると口を付け、その味付けに顔を緩めながら箸に苦戦しながらも食べ進めている。

素直にスプーン使えば良いのに折角だからと箸で食べている。特に問題無さそうなのを確認してからおじさんも御膳に箸をつける。

 

まずは『炊き込みご飯』。山菜やたけのこといった山の幸が詰まったご飯。

ほんのりと甘く、山菜やたけのこのシャキシャキ、サクっとした歯ごたえが楽しくコレだけでもう旨い。

そして汁物としてとろみのある『だんご汁』。ブレンドされた味噌のうま味と人参やごぼう、里芋といった野菜のうま味が混ざりソコにドンッと入って存在感を放つ小麦粉と水で作られた「だんご」。その上から掛けられた薬味が味を〆てスルリと入っていく。

優しい味で体が温まった所でメインの『とり天』。ごろっとした大きさのモノを一口でぱくりと口へ放り込む。そのまま噛みしめればジューシーな肉汁が溢れニンニクや醤油、ごま油といった濃厚な味が口いっぱいに広がる。これでも十分旨いが更にカボスが効いた特性ダレをちょいと付けて食べるとこれまた旨い!

 

周りも見れば誰もが旨い旨いと食べお代わりを希望している。うむ。大食漢だと言っておいて良かった。

あ、おじさんもお代わりお願いしまーす。

 

◆◆◆◆◆

 

食事が落ち着いてからこの後の時間に対しての説明を宴会場のマイクを使って説明。事前に渡してあったマップを用いて改めて説明をしたら皆各々好きなように行動を始めた。

一応トラブルがあれば近くの警備員に言う様にと警備主任の人にも来て貰い

 

「なんかあればこの人と同じ制服を着てる人に言う様に!」

 

とシンプルに説明すりゃ全員が気持ちよく返事をした。まぁ分かりやすいから流石に大丈夫やろ。

一応一般の人も居るらしいのでソコとトラブルが起きなきゃ良いなと思いつつも一旦イシュタルちゃん、アイシャちゃんと部屋へ戻る。

 

「さて、おじ。何処を回る?」

「んー、やっぱ温泉でも珍しいの回る?」

「珍しい?」

「アタシは温泉って奴は詳しく無いけど……風呂と何が違うんだい?」

 

む? アイシャちゃんは向こうで温泉に関してレクチャーは受けてるけど温泉初体験組か。

 

「まぁ基本風呂と同じでお湯に浸かるんだけど、自然に湧いてるお湯で効能が有るのが温泉……ってのはレクチャーであったよね?」

「ああ、アラハビカでも実際に風呂に入る機会が増えたからソコは分かる」

「ここにはお湯以外の温泉もあるからソコに行こうかなって」

「お湯以外?」

「おじ、そんなのあったか?」

「ちゃんとあるよ。取りあえず温泉の準備して行こう」

 

 

 

二人を連れてやって来たのは泥湯温泉。男女で別れて湯舟に行くとソコにはタケミカヅチ、桜花、ヴェルフが居た。

体を洗い流してから湯舟に浸かる。足が泥湯に浸かり搔き分けていく。

堪らず盛大な溜息を吐き終わると余裕が出来たので周りに声を掛ける。

 

「一番乗りかと思ったがもう先客が居るとは」

「おじさん。今回は世話になるな」

「タケミカヅチさん、構わんよ。普段ウチの主神が世話になってるし」

「いやいや、それでもだ。昼餉も旨かったがこの様に温泉に浸かる等かなり故郷を思い出す」

「あ~、極東だっけ? 桜花君も?」

「えぇ、俺もタケミカヅチ様と極東からオラリオに来たのでとても懐かしいです」

「そっか、一回向こうの極東にも行ってみたいな~。日本と似通った所が一杯あるし気になってるんだよね」

「ははは、その際は是非声をかけてくれ。喜んで案内しよう」

「そういやヴェルフ君って何処出身だっけ?」

「えっ、オレは……」

 

そんな感じでその場に居る男達と国のアレコレを話ながらゆっくりと疲れを癒していた。

そして女湯では……。

 

 

 

「あ”あ”~~~~~」

 

命が出してはいけない声を出しながら溶けていた。

 

「おい、ヘファイストス。コイツ大丈夫なのか?」

「ん~? 大丈夫じゃない? 私達が来た時からこんな感じだし」

 

神が居ようと温泉を全力で楽しむ命に若干引きながらも湯舟に浸かるイシュタルとアイシャ。独特の香りと泥湯という未知の感覚におっかなびっくりだがその気持ちよさに徐々に緊張は解けていく。

 

「くぅっ……は~~。何と言うか……良いな」

「あ~~、何か思わず声が漏れますね」

「入った直後は何故か出るのよ……椿は当然って言ってるけど」

「主神様よ、温泉なのだからそれは仕方がないのだ」

「ほら」

 

そう言ってあきれながら椿を指さすヘファイストス。つられて椿を見る二人だが思わず目に入るのは湯舟に浮かぶ椿の大きな胸。

普段サラシでとどめているが全裸の為に解放されたその胸は自分達と比べても大きく視覚的暴力で訴えてくる。

二人はちゃんとある方なのだが……椿と比較すると流石に小さく女性として、また娼婦としては気にしてしまう。

 

「椿、アンタ何食ったらそんなにデカくなるんだい?」

「ん? 手前は普通のモノしか食っていないぞ」

「欲しいヤツは喉から手が出る程欲しいのに、無自覚な奴程手に入れるって……世の中理不尽だねぇ」

「ん? ……ああ、胸の話か。手前としても困っているのだ。鍛冶仕事をする上では邪魔でしょうがなくてな」

 

そう言って自分の胸を持ち上げる椿、谷間に溜まった湯水が持ち上げられた乳房の間から流れ出る様に流石に真似が出来ない為アイシャは何とも言えない表情で見ている。

そんな二人のやり取りを見ながらイシュタルはヘファイストスと会話を続ける。

 

「んで? ヘファイストス、アンタ最近子供に告白されたんだって?」

「ッブ!!」

 

普段絡みの無い二人だがイシュタルはヘスティアファミリアで過ごしている。当然ヴェルフとも面識があり多少なりと会話をする。そうするとそれなりに色々と見えてくるしフレイヤ相手に固執しなくなった分イシュタルの視野は広がって元々その手のモノに関してはある種専門なので察しが付く。

どこから取り出したのかお盆に乗せた熱燗片手にヘファイストスを追い詰めていくイシュタル。そして逃げきれずに吐露するヘファイストス。

そこからは所謂惚気大会でイシュタルはおじさんの、ヘファイストスはヴェルフの何処が良いだの惚れている部分を話していく。

ソレに付き合わされる護衛役は若干胃もたれ気味だが、互いに無言でうなずきあい素直に温泉を楽しむ事にした。

 

因みに命は恋バナにちゃっかり混じり、三人で姦しく会話。

アイシャと椿は途中で酒の追加を頼んで風景と熱燗と風呂を楽しむ事にシフトチェンジ。

男性側は適度に風呂を楽しんでから全員で風呂上りに各種牛乳を飲んでからマッサージを受けとろけていた。




ご当地グルメを楽しみ、目的の温泉を楽しむ一行

普段交流があったり無かったりする面子だが共通の旅行で距離は縮む

次回、おじさんと旅行3


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73 おじさんと旅行3

おじさん達が温泉を楽しんでいる頃、ヘスティア一行は温泉街を歩いていた。街中を歩いてみたいというヘスティアのリクエストでヘスティア、ミアハと連れ立って街中を散策している。

そして物おじしないヘスティアの性格とおっとりしたミアハの性格が嚙み合った結果、温泉街を営むご高齢の店員に気に入られ色々と商品を勧められる。

当然というかお金の心配が無い彼らは全部買っていく、そしてその美味しさに全員が感動するもんだから店員さんもどんどん紹介してあれもこれもと食べ歩く事に。

流石にお腹が膨れて来た頃に勧められたのが足湯。

服を着たままでも入れて男女も気兼ねなく喋れる。そんな謳い文句に飛びついたのはやはりヘスティア。

全員で足湯へ移動して靴を脱ぎ、足を湯舟につける。

 

「っく~~~~~~、っは~~~~~」

「あ”~~~、コレは声が出ますね~、神様~」

「あ~~、これはいけません……足だけなのに~」

「ふふふ、皆さんもやはり出てしまいますよね。んっ、ふ~~~」

「おぉ……ふ~、ほれナーザも入ってみろ」

「はっ、はい……わっ、あ~~~」

 

全員が足湯に浸かり力が抜けていく。秋口の少し冷たい風と真逆の暖かな湯舟。相反する感覚に尚の事力が抜けてしまう。

 

「あ~、コレ思ってた以上にヤバイかも……ホームに追加出来ないかな」

「いいですね~~、でもこんなのホームにあったら動けなくなっちゃいますよ、神様」

 

もうぐだぐだである。とろけきった顔で喋るヘスティアとベルを横目にリリと春姫が看板の効能を読む。

 

「疲労回復、関節痛、筋肉痛に効果があるようです」

「気持ちいいですよねぇ」

「ほう、薬師としては気になるな」

「帰りに少し汲んでいきますか?」

 

 

 

とろける二人を他所に足湯の効能に興味を示す4人。そんな6人を監視する警察の人達。

正確には異世界人を監視する警察官たち。

兎に角トラブルが起きない様にという上からの命令だが、何がトラブルになるか全く予想が付かない上、警備責任者はこの後に控えているイベントを考えると胃が痛くなる思いで指揮を執っている。

出来る限り地元住民には説明と協力を仰いだ、動かせない予約客は兎も角、空いている部屋は全て此方で抑えてトラブルの種も極力減らした。これで乗り切れると信じたい。

 

「(どうか無事に任務が終わりますように)」

 

基本無神論者である彼がつい頭の中で祈ったが、祈る対象が遊びまわってるのでなんとも言えないが……祈る本人はソレに気づく余裕が無い。

 

 

 

旅行初日の日中は特にトラブルらしいトラブルも無く、全員が無事に旅館へ到着。トラブル等が無かったか等の確認を行ってからそのまま宴会場で晩御飯へとシフト。

出てきた晩御飯は地獄鍋。たっぷりの野菜に真っ赤なスープで辛口なのだが、その反面野菜やお肉の甘味が引き立ちお箸が止まらない。やはりメンバーの殆どがペロリと平らげてお代わり要求。

折角なのでおじさんは日本酒を冷で追加注文。イシュタルちゃんとアイシャちゃんが興味深々なのでちょいとおすそ分けしたら全員がズルいとブーイング。

自分で注文しなさいと言った瞬間全員が手を上げるんかい。

そこからは酒を飲んでのどんちゃんさわぎ。職や酒が向こうよりべらぼうに美味いのもあって皆タガが外れてんなぁ……。

ふと気が付いたがヘスティアちゃんの横にノートPC? ちょっと気になって見に行けば……。

 

「おん? ロキちゃんじゃん」

『あ!? おじさんか! コレはどういう事や‼‼‼‼』

 

PCにあったのは通話用のアプリに映し出されるロキちゃん。

 

「どうもこうも……身内で旅行?」

『~~~~っ、何でウチも誘ってくれんのや‼‼‼‼』

「いや、流石にロキちゃん所の規模は……(行けなくもないが)、それに此処に居るのは基本ヘスティアちゃんと普段交流がある世話になってる神達な訳で」

『ぎぎぎぎぎ』

 

お前ははだしのゲンか、と突っ込みそうになるが自重。

 

「つーか何でヘスティアちゃんのPCと繋いでるの? 二人ってそんなに仲良かったっけ?」

『あ"あ"!? んな訳あるか! ドチビが急に繋いできて出て見ればずっとこのどんちゃん騒ぎ魅せられてるんやぞ!』

 

どうやら完全に自慢したくて繋げたらしい。視線をヘスティアちゃんに向ければテヘペロしてるし……これは確信犯ですわ。

 

「やぁロキ~」

『おどれドチビィ! 何のつもりや!』

「勿論自慢だけど? オラリオから出れない君に少しでも旅行の楽しさを味わってもらおうと思ってねぇ?」

『お前~~~~!』

「あ~はっはっは! ボク達はこっちの料理にお酒、観光と忙しくてね! あと数日はこの調子で各地を飛び回るんだ! 折角だからその様子くらいは君にお裾分けしてやろうっていうボクの親切心だぜ? 受け取ってくれよ!」

『こいつ~~~! おう! おじさん! 今すぐウチを迎えにこい!』

 

えぇ……飛び火~。

 

「いや、無茶言うなよ……旅行はちゃんとスケジュール組んでるし追加の部屋や料理の手配とかめっちゃ時間使うんだからスケジュール的にも無理だって」

『むぎいぎぎぎ~~~‼‼‼』

『ちょっとロキ~? 五月蠅いんだけど~?』

 

あ、ティオネちゃんじゃん、やっほ。

 

『へ? おじさんじゃない……っていうかコレ何? ちょっとロキ?』

『えぇい! 知らん知らん! ウチはもう飲む! 缶ビール位飲まんとやっとられん!』

「おや~ロキは缶ビールなのかい? そっかぁ、そうだよね。そっちには缶しか無いのか、そりゃ残念だ! ギンギンに冷えた瓶ビールの旨さとか、日本酒の美味しさはそっちじゃ味わえないもんねぇ~!」

 

ヘスティアちゃん、ここぞとばかりに煽るじゃん。

 

「この日本酒のお冷と暖かいお鍋のハーモニー、ちょっと体が冷えた時に飲む熱燗の体の内から温めてくる感覚。これが味わえないとは……残念だね~~~」

『むぎゃあああーーーーーーー!!!!』

「だーっはっはっは‼‼‼‼」

『ねぇ、おじさん。コレなに?』

「おじさんにも分からん」

 

結局この後ロキはガレスを巻き込んでPCの前で盛大に愚痴りながら酒盛りしていた。ガレスもガレスで味あわせろと叫んでたから戻ったらめっちゃ酒を注文されそう……取り合えず買い物リストに地酒を突っ込んでおくか。




トラブルを心配する政府

楽しむ異世界組

しれっと煽られるロキ

次回、おじさんと旅行4


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74 おじさんと旅行4

ヘスティアちゃんがロキちゃん相手に盛大に煽り散らかした翌日。おじさん達はバスで次の目的地である四国の香川県を目指して移動をしていた。

騒ぐ社内、全員がSAで燥ぎ各地の美味しいもの、珍しいものを買いあさる……ある意味イナゴの大群が通った後の様な光景にちょっとごめんなさいと思うおじさん。

まぁ売り上げとしてみれば高いはずなので許して欲しい……。各SAで多数の買い物を続けながら到着した。

 

道中、海の上の橋というモノに全員興奮しながら移動を楽しんでいる。車も無ければこんな早い移動も珍しいからか景色を楽んでくれてる。

皆バスの旅にもまったく疲れが出ず、現地に到着してからは更にパワフルになる。

おじさんはそんな皆を見ながら移動で凝り固まった筋肉をバスから降りて体を伸ばして解す。

今回はうどん目当てだが……美味しい店は多くてもキャパシティが小さいのがこの辺りの特徴。

なので今回は複数の店舗に分かれてうどんを食べる事に。因みに待ち時間はバスで待機。

 

「おじ、本当にアレが店なのか?」

「うん、まあ……」

 

見た目掘っ立て小屋だしね。

しかし腹が減ってきていたのも相まって、順番が回ってきて店の傍に立てばうどんの匂いが香り途端に涎が口に溜まる。

一緒に並んでいるイシュタルちゃんと何をトッピングするのか決めていたら一緒のバスに乗っていた警備責任者が駆け寄って来た。

何を焦っているのかと思っていたら耳打ちさせた内容に思わず聞き返してしまう。

 

「えっ……マジで?」

「……本気です」

 

全く予想していなかった申し入れに頭がくらくらする。

 

「おい、おじ。どうした」

「あぁいや、順番回って来たし入ろうか」

 

うどん屋に入りきつねうどんを食べた。美味しかったが……それ以上にさっき聞かされた事が頭から離れん。

その日は香川県でホテルに泊まり2泊、1泊目は到着自体が午後だった為しっかり休み、二日目に軽く水族館観光をしてから次の目的地へ。

 

◆◆◆◆◆

 

次に到着したのは名古屋。ヘスティア希望の串カツ、そしてこの辺りで有名というとウナギのひつまぶし。

全員で味を楽しんでいたがおじさんにその余裕が無いのがイシュタルは見て取れた。

 

「おじ、本当にどうした? 昨日から落ち着かないみたいだが」

「へ? あ~……ちょっとこの後おじさん一人で人と会う予定なんだけど……その人が大物でねぇ」

「? そんなのスケジュールにあったか?」

「いや……急遽追加された」

「会って直ぐ戻って来るのか?」

「いや……どうだろう? 向こうのスケジュール分かんないし」

「それは断っても良いんじゃないか?」

「流石にソレは……」

 

珍しい。内心焦っても外面は飄々として大抵の事はサクっと片付けていくのがおじさんだが、今回は珍しくその外面を気にする事も出来ない様子。

いや、本当に何だろう。此処まで来ると逆に気になる。

 

「おじ、その人と会うってのは私もついて行っても良いのか?」

「い!? えぇ……いや、どうなんだろ。聞いてみないとだけど多分OK貰えると思う……」

「よし! なら私もついて行くぞ、安心しろ。神としてじゃなく妻として横に居てやるさ」

 

そう言っておじの頭を脇に抱えて締め上げる。

私を助けた男が情けない顔をするな。そーいうのは私にだけ見せてればいいんだ。

 

◆◆◆◆◆

 

警備主任に会話して向こうと連絡とったら問題ないとの返事が帰って来た。正直言えばかなりほっとした。

そして当然ながら護衛のアイシャちゃんがめっちゃゴネたが……スマン。今回ばっかりはおじさんが頭下げるから勘弁してくれ。

 

「ああ!? 頭下げた位で任せる訳が無いだろう!」

「ん、確かに。じゃあ、コイツの夫として言おうか。……『自分の妻を害する奴が来たら塵も残さん』」

 

脳裏に浮かぶのは親父と精霊ちゃん。あんな思いをする位なら全部投げ捨てても相手を潰す。それが何であってもだ。

ついゴライアス化と殺気が漏れてしまったがソコはご愛敬という事で。

一応アイシャちゃんも折れてくれたしちょっと二人で人とあって来るわ。

あとイシュタルちゃん? くっ付かれると歩きづらいんですが。




香川、名古屋と進み順調に旅行を消化していくおじさん達

しかしソコへ急遽割り込むスケジュール

次回、おじさんと旅行5

会う人とは一体……


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75 おじさんと旅行5

74投稿して即バレしてて草生える


おじさんとイシュタルちゃんは皆と別れて護衛の人達ととある病院の屋上へ来ていた。暫く待つとヘリコプターが来てソレに乗り込む。

ヘリコプターに乗るのは流石におじさんも初めてなのでイシュタルちゃんと共に少しドキドキした。正直に言えばこの後のイベントから目を逸らす為の現実逃避なんだけどね。

 

途中でヘリを降り、車に乗り換え、やって来たのは天皇陛下が待つ場所、いや正確には引退をされているのだけど……どっちにしろ今からちょっと眩暈がする。

 

頭真っ白になりながらイシュタルちゃんの手を握って歩く。これ一人じゃなくて本当に良かった。一人だと今頃緊張で倒れてたかも。

護衛の人に連れられて進んだ先に居たのは前皇帝陛下夫妻。いやもう会った瞬間腰を低くせざる得ないというか……無理無理無理。本気で無理。

軽く固まってるとイシュタルちゃんに頭叩かれた。

 

「おじ、何やってるんだ。固まってちゃ相手に失礼だろうが、それでも私の夫か」

 

……おかげで再起動しました。

 

「思わず固まってしまってすみません、私〇〇〇〇と申します」

 

普段滅多に使わん肩書入りの名刺を取り出して渡す。すると同じように名刺渡された……名刺あんの!?

予想外のモノを貰い頭パニックだが体はどうにか普通のビジネス対応をしてくれた。

内心焦りながらも自己紹介。

イシュタルちゃんが妻兼神と言った時は流石にご夫妻も驚いていた。

つかウチの嫁、物怖じしねぇ~。ホレ直しそうだわ。

 

話を聞けば仲良くしてくれ、研究者として異世界の植生等に興味があるとの事。

ちらりとイシュタルちゃんの方を向けば小さく頷いてるので嘘なんかは無さそう。

まぁコレも一つの縁という事で了承。適度にデータ送ったり必要ならサンプルを渡す事を了承。

最後に満面の笑みを浮かべたご夫妻と握手をしてから別れた。

 

◆◆◆◆◆

 

「だぁああ~~~緊張した~~~」

「おじでも緊張するんだな」

「いや……あの人達だけは別格つーかさぁ」

「まあ仕方も無いだろうな、あれだけ近しい人は私も初めてみたし」

「ん? どゆこと?」

「それは夜にでも話してやるさ」

 

何にせよ緊張が解けたおじさんは全力で力抜くぞ。もう旅行中は緊張する様な事は何もしたくない。

そんな様子をイシュタルちゃんに笑われるがこの際それでも良い。兎に角気疲れが凄い。

 

「まー、何はともあれコレで暫くはスケジュール変更は無いよ」

「そうなのか?」

「おじさんがあの人達以外に話聞く必要ないもの」

「ふむ?」

「何かえらいひっかかる見たいだけど何かあった?」

「いや、ただちょっと……権能に引っかかってな。詳細は分からん」

「……ちょっと? イシュタルちゃんの権能って何だっけ?」

「妻の事を知らんと夫に言われる日が来るとは……私は心が痛い」

 

泣き真似と分かってるがそう言われると何も言い返せなくなる。

暫くからかわれてから教えてくれたがイシュタルちゃんの司るもの『愛・美・戦・豊穣・金星・王権』この内の『戦』の権能が反応したらしい。

政治的なモノだろうか? 聞いても『分からん』の一言なので頭の隅にでも置いておくとしよう。

 

◆◆◆◆◆

 

皆とは東京で合流。聞けばまた大量にお土産を買ってほくほくだそうで……名古屋から東京までも色々楽しんだらしい。

だがおじさんの体調が持たんので急遽スケジュール変更して1日東京で休む事にさせてもらった。

で、皆には東京観光をして貰ったが……やっぱスケジュールに無い事なので色々と面倒な事が起こった。イシュタルファミリアの面々は東京観光だがナンパされ、ミアハファミリアとタケミカヅチファミリアは工場見学ツアー、ヘファイストスファミリアは刀匠を訪ね、ヘスティアファミリアは買い物。

急遽のスケジュール変更なので警備の人はあたふたしてる。

 

「イシュタルちゃんは何処かに合流しないの?」

「ん~、私はいいや。それよりアンタちょっと抱かせな」

「は?」

 

ホテル着いたら夜までイシュタルちゃんに性的に食われた。




一末の不安を抱えながら休みを取るおじさん

観光を楽しむ神々

次回、おじさんと旅行6


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76 おじさんと旅行6

何か書けたから上げときます


おはようございます。朝から晩まで……ごめん嘘、昼から朝まで頑張らされたおじさんです。局部と腰が痛てぇ……。

精神的ストレスは吹っ飛んだけど肉体的に疲れた。

途中からイシュタルとアイシャの二人がかりはズルイ。いやまぁ頑張りますけども。後狐の子はおじさんを見るの止めなさい。君はベル君担当のハズだ……そうだよね?

現実から目を逸らしつつ皆の東京観光に話を振ればとても満足らしい。

 

ミアハ、タケミカヅチは工場見学で少し県を跨いで移動し食品加工工場を見学してきたらしい。そのシステム、作業に関心しミアハはソレをオラリオで再現出来ないものかと考えてるらしい。

一応魔石を使ったエレベータがバベルにあるのだから似たようなものは再現可能だと思う。タケミカヅチはタケミカヅチで無駄の無い動きというモノに非常に関心を寄せていた。何か思う所があったらしい。

そしてちょっと眼つきが……いや、大分目つきがギラギラしてるヘファイストスファミリア。現代日本の刀鍛冶は非常に少ないのに良くアポ取れたなと思ったら日本側の刀匠も異世界の鍛冶師となると非常に興味深かったらしく色々設備を見たり語り合ったりしたそうだ。

やっぱり例に漏れず機械化の一部導入が出来ないか思案してるらしい……向こう戻ったらまた面倒になりそうだな。

最後にヘスティアファミリア、こっちは普通に買い物……と思いきや何かめっちゃ暴走してた。まずヘスティア。ネット配信に無いジブリ作品。正確には課金しないと視聴出来ないジブリ作品を買い漁ってた。ついでに色んなアニメ作品をパケ買い。

まあ此処までは予想出来た……が、次は予想外。ベル君やヴェルフ君がアニメ作品をめっちゃ買って来た。

ベル君は英雄譚好きだからかFateシリーズのアニメや本、ヴェルフ君は何と子供向け絵本。何でも偶々手に取って見たネーミングセンスが良すぎて衝動買いしたらしい……うん、そうだね。

君は後でヘファイストスファミリアと刀匠のやり取りを録画したものを見せてもらいなさい。

後リリちゃん、春姫ちゃん……こっちはファッション雑誌とかアクセサリー雑誌。料理レシピだったり凄い普通! 後でおじさんが買ってやるから欲しい物を印付けときな!!

 

◆◆◆◆◆

 

そんな訳でスケジュールが一日ずれたが東京から北海道まで道中色々と寄りつつバス移動。東京で買ったアニメをバスのモニターで流したりカラオケしたり。

途中で買った各SAの名産を買い食いしながらと戻ってから体重計とにらめっこするであろう事間違いなしな移動を楽しむ。

因みにイシュタルちゃんとアイシャちゃんは隔日でマッサージさせられてるので体重の変動は無い。というよりも二人に着いた肉をおじさん側に持ってきてるってのが正解だが……まぁ似た様なもんか。

 

えっちらおっちら進んだバスは遂に長いトンネルを抜け。有名な文章の如く、トンネルを抜ければ雪道だった。

基本雪など降らないオラリオ、そこを拠点にしている人間の大半が雪を知らない。ましてや積り見渡す限りの雪景色等は特に。

 

全員が歓声を上げて窓の外を見る。

窓にかけより手を付け、入って来る少しの風と窓の冷たさから外の温度を感じる。

 

「おじ」

「ん?」

「雪は綺麗だな」

「良いよね」

 

嫁さんと旅行……これはコレで悪くないなぁ……一杯コブついてるけど。

んで、()()()()()()()()()()()リドはというと……。

 

「そいつ冬眠しかけてないか?」

「へ?」

 

人と変わらぬ姿のガーゴイルのグロスが横を見るとすやすやと寝てるリド。起こそうとするが起きる気配がまったくない。

取りあえずジャンパーを着せてからカイロを幾つか付けると眠そうに起きたので活動は出来そうだ。

 

そう、ゼノス。色々と弄り回してたら何か人型にすることが出来た。

一回出来てしまえば余裕! ともいかんが、数日かければイケル。そして同じ種族であれば一度出来たものは再現可能。

なのでゼノス達は基本興味あるファミリアについて回って貰ってる。大半がヘスティアファミリアに付いて行ってるがタケミカヅチとミアハファミリアに付いて行ってるゼノスも何人か居るみたいだ。

 

人になっても一部元の形が残ったり、性質が残ったりとしてるが見た目ほぼ人間、ちょっと隠せば日本で外にでても特に違和感が無い。

だからこその旅行だったりする。モンスターがどうこうなんてものは異世界人どうこうってのに混ぜてしまえば行ける行ける。

 

「北海道で旨い海鮮食って、満腹になってからアラハビカに帰宅かー。またマナポーションてお腹ちゃぽちゃぽになるのは嫌だけど……しゃーないか」

「帰ったらまた魔力のステータス伸ばさないとな」

「伸ばしたら飲む本数が3本位になるかな?」

「3.5本位じゃないか?」

「それは変わんないっしょー」

 

皆笑いながらバスは走る、北国北海道へ。




バスは進むよ何処までも

南から北まで走り抜けたアラハビカ一行

次回、おじさんと旅行7


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77 おじさんと旅行7

もうちょっと解像度高く描写しようかと思うけどそうすると話の進みが鈍くなるジレンマ


「さっぶい!」

「ホレ、イシュタルちゃんジャンパー、アイシャちゃんも」

「さっさっささぶいいい! ベル君! 温めておくれ~!」

「馬鹿な事言ってないでさっさとコレを着てくださいヘスティア様!」

 

暖房の効いたバスを降りてから始まるトンチキ騒ぎ、ヘスティアちゃんはベル君に接触しようと何時も通りだし、ヘファイストスはヴェルフと、タケミカヅチは命と、ミアハはナーザと、桜花は千草と。

うーん、皆青春しておりますなぁ。……なのでおじさんの背中にすり寄るのは止めないか? 春姫ちゃん。ほれ、ジャンパー。

 

「あ、ありがとうございます」

「よし、全員防寒着着たかー? 必要ならカイロとかマフラーとかも付けろー」

 

全員良さそうなので、いざ! 朝市へ!

所狭しと並べられた魚介類に朝の冷たい空気を吹き飛ばすかのような人の熱気。アラハビカ一行以外にも人が居てその人達の熱だけで暖かい。

並ぶ魚介は海の物が中心なので当然ながらオラリオ勢は殆どが見た事無い魚ばかりで大興奮。ここにもちゃんと話を通しているので後から一括請求になってる。

兎に角興味があるモノを見て、説明を聞いて買っていく。そして沢山買い込んだ魚介を持って直ぐ近くの食堂へ。なんでも買ったモノを使って料理をしてくれるサービスがあるらしいのだ。

 

「こんにちは~、コレお願いして良いですか」

「はいは~い、牡蠣にヒラメ、シマエビにイクラね。お兄さん来た事あるの?」

「いや、ネットで旬のを調べてから食べてみたいのを選んだだけでっすよ」

「あら~、でも旬ものばっかりよ。どうやっても美味しくなる」

「お~、楽しみにしてます」

「じゃあこの番号札持って座ってて、次の人~」

 

材料を渡して座って待つ、イシュタルちゃんとアイシャちゃんも直ぐに渡して此方へ来た。

 

「二人とも全部渡したの?」

「私は全部渡したぞ」

「アタシも渡したね、店先で食わせて貰ったシャコってのがどうなって来るか楽しみだ」

 

イシュタルちゃんは「クロマグロ、ししゃも、カレイ、ウニ、イクラ」、アイシャちゃんは「ヒラメ、カレイ、キンキ、シャコ」を買って渡してる。

一般のお客さんも居るけどそれと比較してもアラハビカ一行が殆ど、時間はあるけどこの後も混雑するんだろうな。

三人でお茶を飲んでたら出来上がったので取りに行く。

 

おじさんのは焼き牡蠣に海鮮丼、イシュタルちゃんのは刺身に揚げと海鮮丼、アイシャちゃんのは刺身と煮つけと天ぷら。

 

「どれも美味そう~」

「さっそく食べよう」

「それじゃ……」

「「「いただきます」」」

 

「二人はワサビ要らない?」

「要る」

「アタシは……要らない」

「アイシャは意外と甘党だからな」

「はぁ? そんな事無いんですけど?」

「ならホレ、入れてやろう」

「あー、しょうゆに溶かすのを少しずつにしたら辛いのは調整できるから」

「……」

 

「うまかったー」

「海の幸……しかも鮮度が良いから食べれる海鮮」

「刺身もそうですが煮つけ……天ぷら、美味しかった」

 

普段美人の二人でも美味いものを喰った直後はやっぱ力抜けて緩むよね~、そして食後のお茶が美味しい。大分人が増えて来たからそろそろ出よう。

食堂から出たらちょっと雪が降ってた。そそくさとバスに戻り暖気してる中に入って落ち着く。折角なのでノートPCに今回の旅行の写真を撮り混んでアプリ使ってアルバムを作る。神に渡してる携帯の写真は全員その日の深夜にクラウドにUPされてる様にしているので昨日までの写真は全部サーバーにあるのでその辺も纏めてアプリに放り込む。

 

「ほほーん、割と皆色々行ってるなぁ」

「ほう、おーコレは?」

「ヘスティアちゃんが東京のクレープ屋で買い食いしてる所だな……折角だから元データの横にコピーして落書きしたろ」

 

ヘスティアちゃんに猫耳とヒゲを書き足す。イシュタルちゃんもやりたそうなのでペイントモードで渡すとベル君の頭に狸耳をつけ足してた。

折角だからフィルターでキラキラに。

 

「おー、そんな事も出来るのか」

「おじさん、それにイシュタル様、これオニオンスープ缶。差し入れだそうです」

「アイシャちゃんありがとー」

「んで、何してるんです?」

「落書き」

 

そう言ってPCの画面を見せるイシュタルちゃん、途端に爆笑しだしたアイシャちゃん。何を描いたか画面を覗けば各神と少なからず思ってる眷属との写真を加工してラブラブカップル的な画像を作り出してる。

いや、本当にイシュタルちゃんこの手の能力っつーか学習が早い。なんでそんなサラっと出来るのさ。

 

「ふふん、この位はな」

 

めっちゃドヤァしてる。

その後全員が戻ってきて移動を開始してから今回の落書きフォトをモニターに映し出したらすげー盛り上がった。一部の眷属は真っ赤になってたが概ね好評の要だ。後で印刷して渡してやろう。




スケジュールの最終目標の北海道

楽しむおじさん達は順調にスケジュールを消化していく

次回、おじさんと旅行8



※キャラクターの味覚やら何やらは完全に捏造です
 オレの〇〇はこうじゃねぇ! というのは目をつむってください。


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78 おじさんと旅行8

色々と考えたけどこのネタにしとく。まだ過激じゃない……はず。


オラリオではまず体験できない事をしよう! という思惑の元、やって来ましたスキー場。

 

「ちゅー訳で、此処で2泊3日で遊び倒すのが今回の旅行の最終地点です!」

「「「「イエーーーー!」」」」

 

地元民とかも少し居るけど大半がオラリオ一行になったスキー場。おじさんはスノボ、イシュタルちゃんはスキー、アイシャちゃんはスノボ。他の皆も各々思ったモノを付けて続々とコースへ繰り出してる。

最初は初心者コースでゆるーっと滑ってから慣れた頃に中級コース。半日も滑ってれば汗ばむが自分の体で普通ではありえない速度が出せるのが神としては楽しい様で運動苦手そうなヘスティアちゃんもガンガン滑ってる……ソリでだが。

 

「ヘスティアの奴……スキーにすればいいのに」

「まあ好きに滑ったらいいよ。無理にやるべきもんじゃないし」

「そういえばアイシャは?」

「あー、さっき我慢できずに上級コースに行くって……あぁ、ホラ。今滑ってきてる」

 

そう言って指をさす方向には上級コースを結構な速度で滑るアイシャちゃん。しれっとスノボトリックのオーリー決めてる辺り冒険者だわ……アレ絶対感覚だけでやってるでしょ。

あっ、イシュタルちゃんがキラキラした目してる。この子って意外とスポーツ好きだから見たら……。

 

「よし! おじ! 今からスノボに変えて私もアレやるぞ!」

「(ですよねー)」

 

ってな訳でスキーからスノボに変えて初心者コースをちょっと滑る。スキーで滑ってた感覚がある分上達が早い。

でもまぁだからと言って冒険者と同じ動きは無理な訳で……てっとり早くサポートする事にした。

中級コースで並走を練習しーの、上級コースで一気に加速。イシュタルちゃんには兎に角加速するようにさせて要所要所でおじさんがイシュタルちゃんのボードを外から操作する。

少しの段差に先回りしてイシュタルちゃんが浮いた所をゴライアスモードの手で下から押し上げて縦一回転、広い下りでは並走スラロームしながら手を握ってちょいちょい一緒に跳ねる。

イシュタルちゃんとスノボしながらダンスの要領で踊って最後まで滑り切ったら思いのほか周りのギャラリーにウケた。結果、冒険者組は滑りながら踊るという訳分からん事に。

余りにも皆楽しそうなので録画してSNSにUPしとく。通知はOFFにしといて……。

 

「めっちゃ滑ったなー」

「体一つであんなに速度出るの面白いな!」

「youtubeでスノボ動画とか見る? 気に入ったトリックあったら明日ソレやろう」

「いいぞ! おじも何か気に入ったのあったら一緒にやるぞ!」

「はいはい」

 

予想以上にはしゃぐイシュタルちゃんにほっこりしながら初日は終了。二日目はアラハビカ一行全体的によりアクティブになりあっちこっちでスノボの大会か? みたいに騒ぎまくる。

昼飯時に一応一般客も少なからずいるからと釘をさしたが……どこまで皆聞いてくれたのやら。

そんな風に二日目を楽しみ夕方に差し掛かった頃、警備主任から携帯に電話が入った。

 

「もしもし?」

「すいません、大至急此方へもどってこれますか?!」

「……すぐ行きます」

 

準備期間も合わせてそれなりの付き合いがあるが電話口とはいえ此処まで焦った声色を聞いたことが無かった。何かがあったなと携帯を切ってからイシュタルちゃんをアイシャちゃんに任せて全力でコースを下る。

途中ちょっと渋滞気味の箇所もあったがショートカットとして木の上を滑ったり、壁を滑るなどして回避。電話から15分程でロッジに着いて警備主任に声かけたら顔が真っ青だ。

何事か確認したらポーション又はポーション以上の何かを持ってないかの確認された。

 

「えっと、何でそんなのが必要なの?」

「先日お会いした陛下夫妻が……」

 

小さく息を潜めて、だが必死の形相で伝えられた言葉を理解するのに時間が掛かった。

 

「えっ……いやいや、まさか。それは流石に」

「……」

「冗談では……ないんだ」

 

真剣な顔で頷かれ【トラベラー】のリストをチェック。ポーション、エリクサー共にある。

用意された車に飛び乗り直ぐに近くのヘリが着陸できる場所からヘリに乗り換え、良く分からん場所で指示されるままにヘルメットをかぶって戦闘機に乗せられて一気に東京へ。

東京で戦闘機からまたヘリに乗り換えて到着したのは病院。促されるままに進んだ先には呼吸器に繋がれ並んでベットに横たわったお二人の姿があった。

全身の火傷に四肢の欠損。後で聞いたらテロの標的にあったらしい。

直ぐにエリクサーを取り出し二人にかける。皮膚は直ぐに再生、だが意識は戻らず。

医者が直ぐに来て確認し、かなり持ち直している事を確認した。

 

その日は用意してもらった病院近くのホテルに泊まり、色々事情を聴いた。

何でも移動中の車に別の車が突っ込んできて爆破、炎上。報道規制が敷かれて国内でこの事件は報道されていないがとある国では今回の件が既に流れており諸外国から問い合わせが来ている状態。

完全にその国が黒だろと言いたいが色んな事が絡んでいて直ぐに言い返せない状態にあるらしい。

 

「頭の痛い話ですが紐付きや外交での失敗で強く出れない状態なんです。林さんがうまい事対応している最中なのでまずはご夫妻の回復に注力してください」




まさかの事態に戸惑うおじさん

旅行はどうなってしまうのか

次回、おじさんと旅行9


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79 おじさんと旅行9

エリクサーを渡して暫くホテルで一人考えてた。

 

「しかし回復に注力っつても……」

 

やれる事はポーション渡す位しか出来ん。意識が戻ればワンチャンあるけど……今回の面子で回復持ちは居ないし……いや、一応確認しとくか。

携帯を取り出してイシュタルちゃんにかける。

 

「もしもし」

『おじか、どうした?』

「ちょい聞きたいんだけどイシュタルちゃん所の今回来てる面子で回復持ちって居る?」

『ん? ……アイシャ、今回の旅行の中に回復魔法持ちって居たか? そうか、居ないそうだ』

「そっか、分かった。ありがとね」

『早く帰って来いよ』

「うぃっす」

 

居ないか……となると、やっぱりスキルを開示するしかないかぁ……。出来れば避けたいけども『前』とは状況違い過ぎるしな、下手すりゃマジもんの戦争になるし……しょうがないか。

 

「もしもし主任さん? ちょっと口が堅くて偉い人……誰か知らない?」

 

 

 

「あ~、やっぱ林さんになるのね」

「それで、私に何用で」

「うん……まぁ、これから話す事を出来るだけ知られたくない。最悪の場合は……こっちに二度と帰ってこない事も視野に入れる」

「それはまた……穏やかじゃないですね」

「欲しかったモノを向こうで手に入れたから本当に本気でダメなら大事なモノは全部向こうに持っていくってのはアリなんだよね」

「……それで、話したい事は?」

「その前にウチから出てる本は読んでる?」

「『ダンジョンに出会いを求める少年と女神の間違い』通称『ダンまち』でしょう? 読みましたよ。異世界の事が書かれた書籍、このまま行けば年内にはベストセラーだ」

「んじゃ、その中で得られる恩恵もある程度分かる?」

「Lvとソレに紐づくステイタス、それからスキルと魔法が3つにLvUPで獲得の機会があるアビリティでしたっけ」

 

どうやら林さんはがっつり下調べをするタイプか、または要約した資料を読むタイプかな?

 

「そこまでわかってるなら話が早い。多分気づいてると思いますが私もね、持ってるんですよ。恩恵」

「……このタイミングで、かつ口が堅いって事は……」

「早い話が回復の手段を持ってるんですわ」

「やはりそうですか。解りました、人払いをしたら良いですね?」

「あー、多分ご想像されてる類のとちょっと違うんです」

「と言いますと?」

「私の回復方法には相手の同意が最低限要るんですわ」

「同意……ですか」

「はい、少なくともソレが無いと治療も何も出来ないんです」

「……同意……それはご家族の同意でも良いのですか?」

「……は?」

「いえ、ですから……医療行為ならご家族の同意があれば良いのでは?」

「…………それは……いや、行けるのか?…………」

 

同意って今まで本人の同意とばかり思ってたが……医療行為なら確かに家族の同意とかでやる事はある……。というか意識が無い人間にはそれが当たり前っつーか……、なら親父の時ももしかして……。

俺が悶々としていると林さんの決断は早かった。

 

「ではこうしましょう。貴方のおっしゃる『同意』。この『同意』の範囲がご自身も分からない、これは間違いないですか?」

「……はい」

「今は時間もありません、打てる手は全て打ちましょう。先ずは書類、同意書にご家族の書類を書いてもらって効果があれば良し。駄目なら……次にご家族とお会いして直接口頭で言ってもらう。これでどうです?」

「なるほど」

「では直ぐに取り掛かります。同意書は意識不明患者に対する家族への同意書でも?」

「えっと……じゃあソレで」

 

分かりました。そう言って出ていく林さん。……同意書とかそんなもん今まで全く考えてなかった。

一回スキル見直した方が良いかな。

くそ……頭痛くなってきた。少し横になろう。

 

◆◆◆◆◆

 

結論から言えば同意書でスキルは使えるようになった。

火傷も欠損もすっかり綺麗に治して意識も数時間後には戻った。まぁおじさんの脂肪はまたすっからかんになってしまったが……。

というか家族の同意書でスキルが発動できる事のショックがデカすぎて他の事がしっかり頭に入ってこない。ヘスティアちゃんに今回の事を相談してみたら……。

 

『そりゃおじさんの認識が大事なんじゃないの? 以前精霊の体を治療(?)した時も相手の同意無しだったでしょ? ソレを書類って形で同意したという認識がおじさんに生まれた事で発動条件を満たしたんじゃないかな。スキルも結構曖昧な所が多いから……結局はおじさん次第だよ』

 

二重の意味で頭がいてぇ……。色々と考えてしまうが過ぎた事、どうにか割り切ろう。

多分墓まで持っていく話だなこりゃ。

 

◆◆◆◆◆

 

意識が戻ったご夫妻から礼を言われた。ちゃんと対応出来てただろうか?

回復後に手段を問われたけど秘密ですと返しておいた。流石にスキル内容は明かせん。

少し話をしていたら神の話題になったので色々話してたらタケミカヅチさんの存在に思いのほか驚いてた。まぁ、日本っぽい国の神だしね。

んで色々話をした所、神社を紹介された。何でも日本で同名の建御雷神を祭ってる神社だそうで……連絡しておくからと言われたので最後に寄るか。

 

まさか元とはいえ陛下と二度目の邂逅を終えたおじさんは……もうグダグダ。

貯めてた脂肪も底つくし、気疲れで頭クラクラだし。

いっそのことテレポートで皆の所に戻ろうかなーなんて考えが過るがソレやるとまた面倒になるだろうし……。

 

「ねぇ林さん。コレ本気で言ってる?」

「いや……私も流石にコレは無いとは解ってるんですが……」

 

政治関係者の調査に神貸して下さいって言ってくる馬鹿はマジで止めろ。どれだけリスクあるか分かってるんか?

この手の事に協力しそうな神ってガネーシャさんが候補に挙がるけど……名前出たらインド圏は発狂しそうだしな。

ダンまちの海外展開は暫く止めとくか? ……配信してるから今更か。

あ~~マジで頭痛い! 旅行位トラブル無しでさせてくれ!

 

「解っててもこの話を持ってくるって事は……」

「……私より上の者からの依頼です」

 

本当……頭痛いよ。




スキルの新事実に頭を痛めるおじさん

旅行はどうなってしまうのか

次回、おじさんと旅行10


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80 おじさんと旅行10

UA10万、ありがとうございます。
感想やら評価やらも励みになってます。

眼の手術後、視界が面倒な状態ですが訓練も兼ねて執筆してる……
つまりもっと褒めてくれ!(直球)




世界に激震が走った。

日本の元皇帝に対するテロ。しかもソレが成功して瀕死の状態であるという事態がとある国から発表があり各国から日本へ問い合わせが殺到。

ソレに対し日本はテロは事実であるが元皇帝、及びテロに巻き込まれた人間は全員無事であると発表。

この全員無事という件に関して以前から噂がされていたある人物の関与が疑われ、問い合わせは国と同時に個人へ向く。

そして件の人物のSNSに一つの動画が投稿された。

 

「おっす、オラおじさん。……まー、何かすっげー色々問い合わせ来てるし、面倒だし、大半が日本語じゃねーし、面倒だし、何の利益にもならんし、面倒だし、面倒だし……」

 

男は心底面倒という事を全面に出しながら頭を抱えている。顔色も若干悪い……そして動画を見た全員が思った。

 

(コイツ痩せすぎでは?)

 

以前同様の動画で出ていた時とは明らかに体型が違う。肉という肉がそぎ落とされた状態で別人の様になっているが声は同じで面影もあるがシルエットがまったく違うのだ。

 

「ぶっちゃけアレに関しては薬提供したよ。結果治ったらしいけど詳細は知らん。渡しただけだし」

 

この一言に裏のある人間は「やはり」と思い、裏の無い人間は純粋に喜んだ。

そして裏のある人間はこの後の言葉にこの人物が色々な意味でやりづらい相手だとうかがい知る。

 

「正直に言うけどおじさんが日本人で相手があの人達だから渡したんであって海外だろうが他の日本人だろうが提供する理由にはならねーよ。本気で俺に動いて欲しいなら迷惑じゃなくて利益寄越せ利益。お金じゃなくて他の何かでな!

 最後に……テロをやった奴は罰が下るのは間違い無いから変な騒動起こさない様に。以上!」

 

この動画が投稿されて数十分後、件のテロを働いた疑いを掛けられた人物数名が全員自国内で暗殺された。現場検証の結果、銃殺、毒殺、爆発による死亡とされており実行犯は未だ見つかっていない。

 

◆◆◆◆◆

 

急遽東京へ移動した翌日。ご夫妻の意識も戻って容態は安定。問題無しという判定を医者が出したので飛行機のチケットを貰って改めて北海道へ。

夕方には皆と合流。流石に運動するエネルギーが残って無かったのでホテルのロビーから只管飯を食いながら皆を眺めて楽しむ。

そうしてると休憩で戻ったイシュタルちゃんが来た。

 

「またすっかりというか……ごっそりと言うか、痩せたなー」

「ん」

 

食べる手を止めずに返事をする。脂肪がほぼ0の状態だから多少は肉付けんとまともに動くのすら辛い。

軽く10人前を胃に入れてスキルで無理やり消化、吸収。効率悪いが急場しのぎとしては良い。

薄っすらと肉を付けてやっと落ち着いた。

ふと気づいたらイシュタルちゃんが移動もせずにじっと此方を見ている。滑ってこないのかと聞けば暫く此処に居るそうだ。

追加注文でホットコーヒーを一緒に頼んでゆっくりしていたら質問された。

 

「おじ、どうした? 随分と余裕が無いみたいだが」

「んー、ちょっとね」

「私には言えない事か?」

「言えないっつーか……言いたくないかな。墓まで持ってく」

「そうか」

 

何も言わずに傍に居てくれるイシュタルに心が軽くなった気がした。

 

 

 

そんな旅行での宿泊最終日から明けて翌日。

 

「皆さん楽しみましたか!」

 

そう問いかければ全員が騒ぎ立てる。その反応に今回の旅行の成功を感じながら話を続ける。

 

「ではこれから帰宅となりますが……このまま有給消化する人は現地解散とします。会社に戻る人はこのまま向こうへ行くぞー」

 

そう言って開くワールドテレポート。コレも改めて検証しないと駄目な奴だよな。

オラリオに戻ったら色々確認しよう。

 

「あ、神と護衛チームはちょっと残って。特にタケミカヅチさん」

「私か?」

 

 

 

有給消化組と一部を残してアラハビカに戻した後、残って貰った面子に延長戦をするか確認した。

 

「実はこの国の……何ていえば良いんだろ……象徴的な人の救助? におじさん行ってきたんだけどさ」

「何してんのおじさん」

 

あきれ顔のヘスティアちゃん。

 

「五月蠅いよヘスティアちゃん。兎も角、救助に行って無事に事なきを得たんだけど、その後色々と世間話して皆の事を少し話したらお礼って事で神社紹介されたのよ」

「「「「「神社???」」」」」

 

全員が首傾げてら。

 

「そ、『鹿島神社』。日本の神、建御雷神を祭った神社に招待されたんだけど……行く?」

「「「「「行く!!!!!」」」」」

「全員参加やね」

 

待機させてたワールドテレポートを消して、急遽飛行機のチケット取ろうとしたら主任から声かけられた。

 

「陛下からご紹介された神社へ向かうのですか?」

「ええ、そのつもりですよ。折角紹介して貰いましたから行かないってのも失礼ですし」

「では移動は此方で用意しますよ。仰せつかってますし」

「えっ、あ~ありがとうございます。んじゃ皆行くぞ~」

「「「「「お~!!!!!」」」」」

 

皆ノリノリやんけ。




リラックスする為の旅行で何故かストック(脂肪)が無くなるおじさん

紹介された神社へ赴く一行

次回、おじさんと旅行11


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81 おじさんと旅行11

鹿島神社に到着した。道中色々とあったが……(主に自分の神殿があるかの確認)どうにか無事到着した。

 

「でだ……こっちでの自分の神社ってどんな感じ」

「不思議だな……私は此方では顕現してないし……ましてや残り香すらないのに、此処が自分の社で信仰されてるのが分かる。……すまん、なんとも言えん」

 

そう言って涙を拭くタケミカヅチ。感極まったらしい。

他の神々も思う所があるのか全体的にしんみりというか、感動してるっぽい……。それに合わせて眷属も静かにしてる。

何かもっと派手に喜ぶと思ったけど……何か想像してたのと大分違うな。

 

「もっと喜ぶかと思った」

「いや、喜んでるぞ? 何というか……不思議な気分でな」

「そう? 喜んでるならいいや」

 

神社内をゆっくり歩きながらのんびりする。社務所で関係者に会いタケミカヅチを紹介。

本気で緊張してるのが分かる。まぁ日本じゃ有名だしね、タケミカヅチさん。

 

「そ、そうなのか?」

「神社でこんな事言うのもどうかと思うけどさ、この国って無神論者が殆どだし神とか信じてる方が珍しいけどアニメ・ゲーム・小説とかでタケミカヅチさんの名前って割と出るから知ってる人は結構居るよ」

「うーん、何か素直に喜べんな……」

 

VIP待遇で案内されてる、いやまぁこの世界のじゃないけどホンモノが居れば当たり前の反応だろうけどさ……。

 

「だからって恩恵授けるのは駄目です」

「そっ、そこを何とか!」

「何ともなりません」

「だが私の氏子で!」

「例えそうだとしてもこの世界の武甕槌大神の氏子であってタケミカヅチさんの氏子じゃありません」

「うぐぐ」

 

感極まって恩恵授けようとするんじゃねぇ! 無神論者の日本でコレって……ガネーシャさんとかどうなるねん。

インド系は駄目かもしれんな。後、他の神も囃し立てるんじゃねぇ! 二度とこっちに連れてくるの止めるぞ!?

ムキムキマッチョの男神が泣くのを止めろぉ! つーか神社関係者もおじさんに縋りつくの止めろ!

 

興奮してドタバタしてたので神社の一部を借りてお茶を飲んで落ち着く事に。

冷静を取り戻したタケミカヅチさんはさっきまでの言動を恥じて小さくなってるがその動きに興奮してる命ちゃんはもう駄目かもしれん。

恋で盲目になってる命ちゃんから目を逸らしつつ宮司さんに話を振る。

 

「そーいや此処って武甕槌大神を祭ってる以外に何かやってるんです?」

「ええ、ありがたい事に幾つか祭儀を取り扱わせて貰っています。他にも御祈祷等も幾つか」

「あー、そういや元陛下に何か言われてたけど正直緊張でぼんやりとした覚えてないけど……剣がどうとか言われてたな」

「聞いております。『古事記』神武東征の段に書かれている韴霊剣(ふつのみたまのつるぎ)ですね。少々お待ちを」

 

そう言って席を外した宮司さんが暫くして巫女さんを連れて戻って来た。巫女さんの持つ台に乗せられた直剣。

何でも本物は"お遷し"したらしいが信仰の対象として長大な神剣「直刀」を作り「二代目の韴霊剣」として奉納しているんだとか。

それをタケミカヅチさんが手に取り眺める。そしてヘファイストスさんやそのファミリアも興味津々。

 

「確かに私の剣ではない。だがコレは韴霊剣だ。人が作り、想い、信仰が作り上げた韴霊剣。二代目の韴霊剣と言って差支えは無いだろう」

 

そう言ってから直剣をヘファイストスさんへ渡すタケミカヅチさん。眼をキラキラさせながらまじまじと見るヘファイストスさん。

 

「~~~~~っ! 凄いわね! 私達の世界だとまずお目にかかれないわ! 技術がどうのとか、材料がどうのって話じゃなくて信仰を長年受けて完成された剣……戦う剣じゃなく象徴としての剣だけど、これは間違いなく神器に至るモノね」

 

別世界そして異国のとは言え鍛冶の神のお墨付きだ。当然ながら宮司さんも含めて関係者は誇らしげな感情が隠しきれてない。

こんな感じで色々な説明を受けては本人(?)から感想を返されたり、裏話的な事を教わったりで終始ニコニコな顔で鹿島神社の見学は終わった。

 

 

 

ワールドテレポートのリキャストもあったのでその日は近くで宿を取ってもらい一泊。翌日に帰る事に。

その日の夜に神々だけで集まりこのような会話が行われていた。

 

「何といえば良いかな……随分昔に出て行った息子の立派な姿を見た? 生き別れの兄弟を見つけた。そんな謎の感動だったな」

「良いな~タケは。ボクの神殿も何処かにあるのかな?」

「ふむ……私も少し興味があるな。私の場合は神殿などがあるのか?」

「私は自分の神殿より工場の方が見たいけど」

 

等と此方の世界での自分の神殿に関して思いを馳せる神々。

 

「ヘファイストスは工房=工場=神殿みたいなものじゃないか!」

「お前ら身内で言うのは勝手だがおじに無茶は言うなよ」

 

あきれ顔で他の面々に言い放つイシュタルだがソレに食いつくヘスティア。

 

「何でだよ! 良いじゃないか! ボクの眷属だぞ!」

「その前にワタシの夫だ」

「うぐっ……」

 

ソレを言われると強く言えないヘスティア。それを見て苦笑する周りの面々。

 

「いやしかし凄い経験をしたな」

「ああ、正に未知の連続だ」

 

タケミカヅチとミアハが口を揃え今回の旅行を振り返る。すると思い出したようにヘファイストスがヘスティアへ告げる。

 

「ロキ辺りが向こうで発狂してるんじゃないの? ヘスティアってば時々ロキにメールで動画送ってたでしょ」

「ん? あ~ロキの奴がパソコンの前で地団太踏んでるのは最高に気持ちが良かったよ!」

「アンタ程々にしておきなさいよ? ただでさえベル・クラネルの事で他の神のやっかみ買ってるんだから」

「はん! 言わせておけば良いのさ! 何かあればボクのファミリアはアラハビカに行く予定だしね」

「アンタね……」

 

 

 

翌日、無事にアラハビカに戻った後。タケミカヅチさんから相談というか……今回の件の礼がしたいと言われた。

礼と言われても旅行に誘ったのは主にヘスティアちゃんなのでソッチへどうぞと言ったがそれはそれで礼をするらしい。

困ってイシュタルちゃん、ヘスティアちゃんと相談したら武術を教えてもらう流れになった。併せてスキルの検証も手伝ってくれるらしい。

ラッキーと思って色々試した所、まぁ出るわ出るわ。おじさんのスキルの詳細。

何か自分が思ってた以上にスキルの幅ってえげつないのね……後、タケミカヅチさん。脳筋とか思ってすいませんでした。反省しときます。




旅行から帰って来たアラハビカ一行

神に謎の感動を齎した建御雷神を祭る神社

次回、おじさんとスキル

壊れ性能のスキルがまた壊れる


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82 おじさんとスキル

現代旅行編が終わった……長かった。
何であんなに長くなったかはおじさん(作者)にもわからん。
現代ネタは多分またちょいちょい出るかもですが許して。


「ふむ、おじさんが習ってた柔道……この本を見る限り完全に対人の武術だな」

「そりゃアッチにはモンスター居ないし、戦う相手なんて人以外はおらんよ」

 

おじさんが子供の頃に習ってた柔道に関する本を渡してパソコンに柔道の試合動画を送って数日。柔道をマスターしたというタケミカヅチさんの元を訪れた。

んで、技術だけでタケミカヅチさんと乱取りしてるんだが……まー強い。技をかける事は出来るが決まらん。

それなのに向こうにはポンポン投げ飛ばされる。いや、本当にこれで一般人と同スペックの身体能力なの? いや、おじさん自身も一般人スペックまで身体能力を落として相手してるけど頭おかしくなるぞ。

 

「うーん、やっぱ冒険者になるとどうしても身体能力に依存する癖があるな。折角の武術が勿体ないぞ」

「いやー……ここまで実証されると何も言い返せんわ。つーか何で数日でそんなに完璧なのよ! 重心が全くズレてないし!」

 

そう、幾ら体を揺すって乱そうとしてもこの神ってば体幹と重心が一切ぶれない。しかも技をかけてくるタイミングがえげつなく、こちらが動く直前の起こりを潰す様に技をかけてくるもんだから逆にコッチの重心が乱れて簡単に投げられてしまう。

 

「そりゃそういう武術だからそうしているまでだ」

「いや……簡単に言うけどソレをあっちでやれる人間がどれだけ少ないか」

「人の身になっても神だしな」

「おみそれしました……」

 

快活に笑うタケミカヅチさん。こりゃ教わる事が多いわ。

 

 

 

「それでおじさん、スキルに関しても検証したいって話だったな」

 

柔道を改めて体に叩き込んだ後、軽い球形を挟んでからスキルの検証に移る。

日本で発覚した【幸運脂肪】の『同意がある場合に限り他者のシボウを操れる』という一文。コレがまさかの同意書による書類でも効果があった事で改めてスキルを調べてみようと思ったと説明。

するとタケミカヅチさん、同スキルの別の一文に注意を向ける。

 

「おじさん、この『あらゆる害悪から体を守る』と『害悪に対する自動カウンター』ってのは何が違うんだ?」

「……えっと、何だろう?」

 

改めて考えると確かに変だ。害悪ってのは『害となる悪いこと』だから攻撃から身を守るって意味で捉えてたけどソレなら『害悪に対する自動カウンター』だけで良いはず。

二人して頭を捻る。そうするとタケミカヅチさんが急に刀を持ち出して来た。

そして刀を一閃。おじさんの眼前まで刀身が迫って止まる。

 

「どうだ?」

「……えっ、何が?」

 

本気で分からんおじさんにタケミカヅチさんが淡々と語る。

 

「おじさんのオラリオに来た経緯とか諸々聞いた時にどうしても気になった事があってな……落ち着きすぎなんだ」

「ほ?」

「普通、見ず知らずの訳が分からない所に知らない間に移動して、まして異世界に等移動したら頭がおかしくなる」

「……そうかな? おじさんは割と普通だったけど」

「そう、ソコだ。どうも話を聞いてると恩恵を授かる前からこのスキルは発動していた様だ。であるならばこの『あらゆる害悪から体を守る』って言うのは精神的な害悪を指してるんじゃないか? それならおじさんの異常な落ち着き具合も説明がつくぞ」

「いやいや、おじさんだって結構慌てふためいたりするよ? この間の元陛下との対談だってめっちゃ緊張したし」

「それはおじさん自身が緊張したからではないのか? 私が言ってるのは『外部からの精神的な害悪』に対する防御スキル効果なんじゃないかと睨んでる」

 

思い返せば一般人と変わらん時にベートに蹴りを食らおうとした時もめっちゃ落ち着いてたな。アレ? コレマジでは?

 

「この強制幸福というのは?」

「あー、単純に気持ちいいらしい」

「……」

「えーっと、おじさん自身は効果分からんけど……快楽系の気持ちよさらしいっす」

「おじさんのスキルは体をいじるのだよな」

「うん」

「という事は苦痛を感じさせない為の効果だろうな」

「???」

「考えて見ろ、普通体の脂肪を燃焼させる様な運動はどれだけの苦痛と時間を伴う? ソレを一気に行うのであればソレ相応の苦痛がある……それを抑える、又は感じさせない効果じゃないか?」

 

本当にこの人って武人の神? めっちゃインテリ系なのでは?

そして【庇護脂肪】に関して。

 

「このスキル……というかおじさんのスキル全般に言える事だが……共通語(コイネー)と日本語で書き出した時に何故こうも漢字とカタカナが混ざる?」

「んんん??」

 

タケミカヅチさん曰く、普通はちゃんと意味が通じる書き方になるはずなので一部がカタカナで表記されるのは可笑しいらしい。

 

「そんな事言われても……ヘスティアちゃんは何も言わなかったからそういうモンだと思ってたし」

「まぁ、ヘスティアも比較対象が無かった時だからな。しかし、うーむ……態々ぼかす様な記載のされかたというのが気にかかる。……複数の意味があるんじゃないのか?」

 

そう言って取り出した紙にさらさらと書かれる日本語。

 

シボウ=脂肪/死亡/志望/子房/柴生/四坊/芝生

サイセイ=再生/再製/最盛/犀星/祭政/済世/済生/最成/採精/載成

 

「恐らく言葉遊びの要領だな。スキル名には明確に脂肪と記載があるにも関わらず効果説明でシボウとカタカナが使われているのはおじさんの認識に委ねられているのだろう」

 

それは……何と言うかスキルの規模を超えてない??

 

「はっきり言えば異常だな。だがそもそもの話だ、おじさん自体が異常だぞ」

「え? どゆこと?」

「魔法が無い、スキルも無い。そんな世界から最初どうやって世界を移動した?」

「どうって……いつの間にか」

「ソコだ。普通に考えて世界間の移動なんて神ですらホイホイとは出来ないしやらん。それがおじさんは気づかない内に出来ていた。何が原因か分からんがその結果がこのスキル群じゃないか?」

 

もうぐうの音も出ません。誰だよこの神を脳筋と思ってたの、めっちゃ頭回るやん。

 

「あれ? って事はこのシボウ表記を死亡と考えた場合って……」

「多分この対になる表記は『再生』で『蘇生』と同義の再生だろうな」

「……じゃあ【幸運脂肪】のシボウが『子房』の場合は?」

「調べてみたがコレは植物の胚珠を指す言葉らしいな。つまり生殖器……人で言えば子宮や睾丸に当たるのだろう? であるならその辺りを操作できるって事じゃないか?」

 

ちょっと汗が流れて来た。何か段々話大きくなってない?

 

「じゃあ『柴生』は? シボウとも読めるなくもないけど一般的にはシバセイになるけど」

「どうだろうな。おじさんの認識がシバセイと読むなら当てはまらないんじゃないか? そういう意味じゃ芝生もシバフか?」

「そうだね、後は四坊も流石に意味が通らないというか……訳が分からん」

「なら多分こうだろう」

 

『シボウ(脂肪/死亡/志望/子房)を操る』

 

「体に着いた脂肪を使って望む形、つまり志望に変える。また必要に応じて子房、つまり子を成す器官を操り、死亡という死に関する事象を操るという事じゃないか?」

 

思っていた何十倍もの効果を書き出され冷や汗が出る。

 

「それから……」

「ちょ、ちょっと待って。情報量が多すぎる、頭とお腹痛くなってきたからちょっと休ませて」

「おっ、おう……大丈夫か?」

「いや……ちょっと無理。今日は一旦帰るわ」

「うむ、折角だから他のスキルなんかも考察しておくぞ」

「おっ、おなしゃす……」

 

何だろう、自分に不備があった訳じゃないのにこの疲労感。

コレ……動物実験とか必要だよなぁ……。




明かされるおじさんのスキル

思いの他に自分のスキルの壊れっぷりに頭を痛めるおじさん

次回、おじさんとスキル2

壊れが加速する


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83 おじさんとスキル2

前回のスキル検証というか考察から3日、ちょっと熱出たが持ち直したのでタケミカヅチさんの元を訪れた。

 

「おお、おじさん。大丈夫だったか?」

「知恵熱がちょっと出ましたけど治りました」

「それでメールを貰ってたが今回はスキル検証が主目的で良いのか?」

「嫌な事……って言ったら変だけど先にやっておかないと延々後回しにしちゃいそうだからサクっと終わらせようかなって」

「そうか、なら取り合えず考察しておいた内容を話すか」

 

そう言って見せられたタケミカヅチさん考案のおじさんのスキル。

 

「なぁにこれぇ」

 

 

 

【幸運脂肪】

・シボウ(脂肪/死亡/志望/子房)を操る

・あらゆる害悪から体を守る(外部から精神に関する防御)

・害悪に対する自動カウンター(相手のステータス依存)

・同意がある場合に限り他者のシボウ脂肪/死亡/志望/子房)を操れる(同意書等の書類でも効果あり)

・強制幸福(麻酔効果)

 

【庇護脂肪】

・シボウ(脂肪/死亡)操作した者のステータスを上昇(任意)

・最大10段階(?)

・体質操作可能

・シボウ(脂肪/死亡)消費で超サイセイ(再生/蘇生)

・庇護対象カンチ(?)

 └庇護対象に関する行動時にステータス補正

・スキル使用時に魔力消費 

 

【引継ぎ】

・シボウ(死亡/志望)時に同存在に引き継ぐ

・スキル/アビリティ/ステイタス/記憶の継承

・トリガー【死亡】

 

 

 

「今一分からんのが2つ、『加護脂肪』の『カンチ』表記と『最大10段階』という部分だな」

「ん? いや、カンチは確かに分からんけど最大10段階はステータスに関してじゃないの? 実際にステータス操作は10段階までだし」

「いや、スキルで此処まで明確に効果が記載される事は無い。なら何かしらの意味が含まれるはずだ」

「うーん、ピンと来ないな」

「おじさんのスキル傾向は何と言うか……前後の効果にかかってる部分が多い。例えば幸運脂肪のシボウはその本質をぼかしながらも効果を補完する効果が記載されてる。子の事からこの10段階というのも前後に関係していると考えている」

「だからステータスなんじゃ?」

「いや、それならば他の者のスキルや魔法と同様に『ステータスを一定上昇』等と表記される方が自然だ。なのに明確に『10』という数字が気になる」

 

これに関しては後程実験してみようという事に。

 

「次に『カンチ』だが……これはおじさんの魔法と連動してるんじゃないか?」

「はえ? どゆこと?」

 

前回と同じように紙を持ち出して書いて行く。

 

カンチ=完治/感知/関知/換地/寒地/換地/監置/閑地/奸知/乾地/奸智/官地/冠地

 

「スキルの字面からして最初は『庇護対象感知』と思ったが同時に関知、換地でも意味が通じる。おじさんの魔法に派生として複数人を移動させる魔法があるだろう?」

「……テレポーテーションがあるね……」

「いくらlv5になっても魔力の消費量が釣り合わないと思っていたが、このカンチを『換地』とした場合、対象を転移、つまり換地させるとも読める」

「……えっと、つまり転移させる時におじさんのステータスに補正が入っている?」

「多分な」

 

えぇ……。

 

「後な」

「まだあんの!?」

「感知、つまり位置の把握では此方の意味だろが、監置は同様に位置の把握だが意味合いが違ってくる。多分だがこっちは対象外、つまり意図しない相手への拒否効果じゃないかと思ってる。つまり任意の相手以外が魔法で生成された穴を潜れない効果に紐づいてるんだろう」

「……そうなの?」

「試しにここで私を転移対象と思わずにテレポーテーションを使ってくれるか?」

 

半信半疑にテレポーテーションを使いアラハビカの自室へ繋げる。

そして穴を触るタケミカヅチさん。

 

「うむ、やはり私には穴が触れんな」

「えっ、マジ?」

「この通りだ」

 

穴の上に立っているが転送される素振りは一切ない。

 

「後はカンチを『完治』とした場合だな」

「いやいや、それは無理じゃない?」

「それがなぁ……このスキルの一つ目の効果表記に繋がるんだが……このシボウが死亡である場合色々と意味が通じてしまうんだ」

 

そう言ってタケミカヅチさんが考察したのがコチラ。

 

 

 

【庇護脂肪】

・死亡操作した者のステータスを上昇(任意)

・最大10段階(死亡を10回回避)

・体質操作可能(死者蘇生の比喩)

・死亡消費で超再生(蘇生)

・庇護対象完治

 └庇護対象に関する行動時にステータス補正(魔力消費に対するカウンター)

・スキル使用時に魔力消費(自動発動示唆)

 

 

 

「「……」」

「流石に無いのでは?」

「本当に無いと言い切れるか?」

「……動物実験してみますか……」

「それが良いだろうな」

 

後日、心を痛めながら複数種類の小型から大型の動物で試した結果……予想が的中してました……。

どうすんのコレ。




こんなんチートや! チーターや!

頑張れおじさん! 負けるなおじさん!

次回、おじさんとスキル3

まだ続くのかこの流れ?


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84 おじさんとスキル3

やーっと色々仕込んでたフラグ回収できました


動物実験を終えた後のタケミカヅチファミリア。

各種動物を捕ってきてくれたイシュタルファミリアには後日菓子折りを持っていくとしてだ……。

 

「当たってましたね……考察」

 

合計10回、どの動物でも蘇生が可能である事が確認できた。暫く動物の鳴き声は聞きたくないです。

 

「うむ。で、最後にだな」

「あい」

「おじさんが使ってるゴライアス化があるな?」

「へっ? ああ、はい。ありますけど」

 

そう言ってからノートPCを持ってくるタケミカヅチさん。

 

「最近ベルからお勧めされて見ているモノがあってな……Fateという作品なのだが」

「あぁ、ベル君が日本で買った」

「アレはおじさんが薦めたのか?」

「いや、ベル君が自分で見つけたらしいですよ? おじさんも好きですし」

「そうか……この作品にヘラクレスが出てくるな」

「はぁ」

 

そう言ってPCを操作してヘラクレスを映し出すタケミカヅチさん。

 

「今ゴライアス化を試してみろ」

「???」

 

意味が分からんが取りあえず……。

 

「【庇護脂肪】体質変化:流動硬化(モード:ゴライアス)

 

バンプアップする体に黒くなる体。そして手渡される手鏡……手鏡?

 

「それで自分を見て見ろ」

「なっ、なんじゃコリャー!?」

 

ゴライアスを模してたのは体だけのはずが髪が伸び、白目は黒く、黒目は紅く光ってる。

 

「多分だがある種の憧れがあったのではないか? 『強靭な肉体に何度も蘇る英雄』に対して。ソレがこうしてスキルや変身に反映されていると考えると結構筋が通るというのが私の結論だ」

 

開いた口が閉まらん。何でこの神は武人の神なの?

えっ、どうしよう。おじさんあのぶっとい石剣持った方が良い?

 

「落ち着け」

 

タケミカヅチさんに投げ飛ばされ頭から落ちました。嘘だろこの神、混乱していたとはいえこの状態でも投げれるんかい。

実は神が一番のチートでは? おじさんは訝しんだ。

 

「それから魔法に関しては……正直境遇から発現したものだろう。帰郷の思いというのは存外強いらしい」

 

確かイシュタルちゃんにグリモア貰って発現したんだっけなぁ……懐かしい。

 

「それから【引継ぎ】に関しては今一分からん」

「分からんて……むしろ今までスキルの詳細をズバズバ言い当てたアンタが分からんってどういう事やねん。スキルに関しては別のおじさんから引き継いだだけなんですけど? 説明したっしょ」

「それは確かに聞いたが……でも可笑しいではないか」

「何が?」

「どうやってソレを引き継いでいる?」

「……どうって、そりゃトリガーが【死亡】だからおじさんが死んだら引き継いでるけど……」

「死亡時におじさんAからおじさんBへ【引継ぎ】が自分の得たものを渡すとしてだ……それはどうやって観測している?」

「観測?」

「そうだ。恐らくだが何処かでおじさんをおじさんたら占める何かが『おじさんを観測している』のだと思う。だからこそこのスキルは発動し引き継がれていく。

 逆に言えば観測されなくなった時は本当の意味でおじさんに死が訪れるんだろうな」

 

何か哲学的やなぁ……。

 

「まあ結論としては人は可能性の塊だからこういう事もあるか。という結論だがな」

「結論雑ぅ!」

「ははは! 所詮オレは武の神だからな! そーいう頭を使う事には向いてない」

「いや、それは無い」

 

◆◆◆◆◆

 

スキルや魔法の検証を終えた後にタケミカヅチさんにポンポン投げられた帰り。おじさんの姿はロキファミリアにあった。

多分ヘスティアちゃんが煽りに煽りまくってるので詫びの酒やらつまみ等を買い込んでいるのでソレを届けに来たのだ。

 

「こんばんは~」

「アンタはヘスティアファミリアの所の」

「うっす、副団長してるおじさんです。ロキ様に会えます?」

「待ってろ」

「うぃっす」

 

門番Bが一人確認に行ってくれたのでもう一人の門番Aとちょっとおしゃべりする事に。

 

「んじゃあコレは差し入れって事で、さっきの子が戻ってきたら二人して食べなよ」

 

そう言ってカニクリームコロッケ(出来立て)を一袋渡す。ホカホカのコロッケの匂いに気を良くしたのか顔がにやける門番A。

 

「良いんすか?」

「神同士が犬猿の仲でもファミリアで喧嘩する必要も無いし、おじさんはちょいちょいロキちゃんに世話になってるしね。……さっきの子には睨まれるけど」

「あ~、Bの奴以前やらかしてるのに未だに態度改めないんすよ……一緒に居る俺までペナルティあるってのに」

「災難だねぇ」

 

そんな世間話をしながら待つ事10分。許可が下りた様なので黄昏の館へ入る。

通された先はロキちゃんの部屋。

 

「お"じさ"ん"‼‼‼」

 

そこには顔面マスクメロンになったロキちゃんが居た。

 

「お……おっす」

「お"どれ"の主神はどないなっとんねん……行き成り来て変なモン置いて行ったと思ったら嫌がらせの様にアレコレと見せつけおって~~~」

「どうどう」

 

【トラベラー】で持ち込んだプレミアムビールを開けて渡す。一気飲みした所にすかさず追加を渡して落ち着いたのか漸くマスクメロン顔から普段の顔に戻る。

 

「なんかウチの主神がすまんねぇ」

「ッケ! ほんま、何やアレ! おじさんからフォロー無かったらウォーゲーム仕掛けとる所やぞ!」

「んじゃー詫びって事でさ、今度アラハビカに来ない?」

「あん? この間鏡を使って流してたあの場所か?」

「そうそうソレ。あの時に映ってた料理とかもそうだけそ今回色々仕入れたからあの時よりも良い奴用意してるよ?」

「行く」

 

速攻で帰って来た返事に苦笑しながら詳細を詰める。

一応ご機嫌取りだし個人的な誘いという事で同行者は最大2名。

移動に関する話はウラノスとロキの二人で話し合いをして貰う事に。

 

さーて、詫びと接待を合わせてやるぞー。




おじさんも結局オタクである事が判明

憧れはヘラクレス

次回、おじさんと接待


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85 おじさんと接待

もうちょい執筆続けるつもりだったけどアホみたいに頭痛いから寝ます


「いらっしゃーい」

「お邪魔するでー!」

 

そう言ってアラハビカの『社長室』と書かれたプレートの部屋へ入って来たのはロキちゃん。そして続いて入って来るのはガレスと……ベート?

 

「なんか意外な組み合わせで来たなぁ」

「そうか? ベートは意外とウチの言う事を聞いてくれるで?」

「ッケ!」

 

不満そうにそっぽを向く犬……、もといベート。

ガレスは予想してたけどベートは候補にすら上がらなかった……うーん。

 

「ねぇロキちゃんや」

「なんや?」

「ベートってこーいうの食べて平気?」

 

そうやって共通語に翻訳をかけたwebページを見せる。

 

「んー? 玉ねぎ、ニラ、にんにく、アロエ、アボカド、シナモン、銀杏、わさび、唐辛子、山椒? 平気やろ、別に好き嫌いなんて無い……ってコレ何やこのタイトル……『犬が食べてもいい野菜・ダメな野菜』?」

「オレは犬じゃねぇぞ‼‼‼‼」

 

ガレスの盛大な笑い声をBGMにしながら接待用の部屋へ三人を連れて行く。

到着した場所は12畳程の和室。早速北海道で仕入れた海鮮を中心に料理を出してもらう。

 

「おっ、ヘスティアのアホが見せてた奴やん」

「ほほ~、実際にみると本当に美味そうじゃの~」

 

ヘスティアちゃん北海道でもやってたんかい……。スルーしながら三人に酒を注ぐ。

 

「「「乾杯~」」」

「……」

 

全員で最初の一杯を飲んで一息ついた所で疑問を投げかける。

 

「いや、ベートは何でそんなにムスーっとしてるの?」

「こやつはお前とアイズの仲の良さに嫉妬しとるんじゃ」

「違げぇよ! 黙れジジイ!」

「ホンマにベートはアイズたんの事好きやな~」

「ロキィ! 酔うのが早すぎだろぉが!」

 

一升瓶でロキに渡した『神殺し』は甘くフルーツの様な香りで滑らかな舌触りだが、その反面ズシンと来る飲みごたえで一部ののんべぇに人気の作品。

思いの他相性が良いらしく早速ぐいぐいと飲んでる。そしてコレが新鮮な海鮮と良く合うのだ。

 

「うんまっ! 何やコレ! 貝がクリーミーで、貝柱は歯ごたえ抜群……、この生の奴もわさび醤油で……かーーーっ! たまらん!」

「うむ、うむ。この日本酒と炙った魚の相性の良さよ……付け合わせも口の中をサッパリさせてくれて酒がぐいぐい進むわい!」

 

ガレスが飲んでるのは芋焼酎の『女神』でガツンとした辛口で胃から駆け上がって来る酒精が特徴。濃い塩味の焼きホッケとよく合うだろう。

のんべぇ二人は適当に飲ませておいてベートだ。わざわざ来たんだからせめて楽しんで貰わんと。

 

「んじゃー……ベートにはコレとかどうよ」

「あん?」

 

そう言って渡すのはおじさんがアメリカの家族経営してる蔵から買って来たクラフトバーボン。特に銘柄は無いが地味におじさんの好きな酒。

グラスに注ぐと柑橘類やバニラを思わせる香りがふわりと漂う。まずはストレートで渡し一口飲んでもらう。

 

「……うめぇ」

 

少し嵩が減った所で炭酸水を追加。炭酸水自体が珍しいのかちょっと驚いてたが口を付けたら満更でも無さそう。

それを見ていたのんべぇ二人が自分達にも飲ませろコールが始まったので追加をどんどん出す。

ソコからはもうただの宴会である。飲んで騒いで。

大分場が温まりストレスも減ったであろう所で話題を出す。

 

「近々おじさん闇派閥を粛清するつもりなんだけどロキファミリアも加担しない?」

 

瞬間、雰囲気がピリっと変わる。この辺は流石と言ったところか。

 

「なるほど、ソレがウチらを今回誘った本命って訳か」

「いや、コレはついでで本命は完全にヘスティアちゃんの尻拭いだけど?」

 

「「「「……」」」」

 

「ソレがウチらを今回誘った本命って訳か」

「テイク2やるんかい」

 

◆◆◆◆◆

 

話し合いが終わってイシュタルファミリアの面々も混ぜて宴会を続けた。当然イシュタルちゃんも混ざる。

当然というかイチャイチャする訳ですが……まー、ベートが寄って愚痴る愚痴る。

アイズと上手くいかないだ、中々素直になれんだ。その間のんべぇは我関せずで宴会を続行。

 

「おじさん前から思ってたけどさ……ベートって人付き合い下手よね」

「あ?」

「一匹狼は良いかもしれんけど他人と協調性取らんと恋愛にならんぞ? 特にアイズちゃんなんてコミュニケーション下手の代表みたいな人間なのにベートまでそんなんじゃ恋愛に発達する訳が無いやん」

「なん……だと……」

 

何でそんな『嘘だろ?』みたいな顔してんの? 今まで指摘してくれる人居なかったのかよ。




ヘスティアちゃんの尻拭いをするおじさん

ベートのコミュ力不足を指摘するおじさん

次回、おじさんとIT化


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86 おじさんとIT化

おはようございます。
多少頭痛が収まったので執筆再開。今日は頑張るかも?


「おはようございます」

「何しに来たんだ」

 

ここはオラリオにあるギルドの執務室。その最高位に居る人物ロイマンの部屋。

怪訝な顔を浮かべるロイマンに備品としてのパソコンを渡す。

 

「ギルドのIT化に来たよ」

「あっ、あいてぃーか?」

 

そう、IT化。単純に書類仕事が多いからPCを導入するって話。

覚えてしまえば計算も楽だし見直しも比較も計算ソフト使えば楽だからね。フェルズと話してたら色々と愚痴られたのでPC位なら導入を手伝うぞと。

何せアイツってば色々と秘密裡に動く割りに報告は口頭、その癖細かい報告を求められる事が多いらしい。

という事でフェルズの業務をPC化する為にいっその事ギルドをIT化した方が色々と都合が良かろうって事でロイマン君にはPCを貸与。

 

「ギルド員全員にソレと同じ物を触らせて適正ある人を絞ってくれる? 使い方の本は置いて行くのと……時間外の労働分はこっちで賃金払うよ」

「……わかった」

「ついでに……PC使うとだな……こーいうモノを見れたり」

「おお?」

「あとコレとか」

「ほっほ~?」

 

ロイマン君、君やっぱりエルフって嘘やろ? 鼻の下伸びすぎ。

 

「こんな感じで娯楽に興じれたり、仕事が楽になったりとかする機械ね」

「なるほど……是非とも使い方を覚えたいな」

 

うむ。やはり男はエロで釣るのが一番楽だわ。

 

◆◆◆◆◆

 

ギルドにPCを納品してから1週間、適正ある人物がリストアップされてきたのでその人達+ロイマンをアラハビカへご招待。

軽く食事会をしてからPCの勉強会。皆優秀というか……仕事楽になるという一心で取り組んでるから熱意が違うわ。ロイマンはエロ心みたいだけど。

PCの基本的な触り方は全員解ってるので一番使いそうな表計算をざっくりと説明し、今のギルドに一番多い書類をPCに落とし込む方法を教え込む。

そうすると手書き書類の間違い箇所が浮き上がり……結果として足りない徴収部分が……。

あー、ロイマンさん金に汚い顔は引っ込めてね。今はそういう時間じゃないので。

 

実際の仕事で使ってる書類を使っての講義なので吸収が早く、全員似たような作業だが細々した所は全然違うので後日ギルド内で情報共有を行う様に指導。

ついでに過去に上がった書類の見直し方や新しい書類のテンプレートの作成方法や考え方を教える。

 

「はい、お疲れ様~、コレで今日の講義は終了です。後はアラハビカの施設を開放してるから遊んで帰ってね」

 

おじさんの講義終了宣言に全員が疲労感を顔に浮かべながらも達成感を感じているらしく、良い顔で片付けをしている。

全員が部屋から出たのを確認してPCの連絡用アプリを立ち上げる。

 

「フェルズ、こっちは終わったけどそっちの仕込みは?」

『ああ、此方も粗方仕込む場所の選定は完了した。後は夜にでも実行したら完了だ』

「OK、んじゃ後で残りの機材持っていくわ」

『頼む』

 

◆◆◆◆◆

 

日も暮れて12時を超えるとオラリオの一般的な箇所はほぼ眠りに付く。そんな時刻にギルド内で動く影が二つ。

おじさんとフェルズの二人だ。手には電動ドリルとボンドガン。壁に穴をあけて配線を通してカメラを埋め込み偽造をしてカメラを隠す。

映像の受信が出来る事を確認して……問題無し。

 

「問題ない、次で最後かな?」

『あぁ、ロイマンの部屋だ』

 

フェルズが目星を付けていた箇所にカメラを取り付け偽装。うん、ちゃんと部屋全体も映るし……カメラ動作も問題無し。

 

「お疲れ様、これで全部取り付け完了だ」

『……しかし異世界の技術は恐ろしいな。魔法も無しにこの様にその場に居なくとも見る事が出来るとは』

「おじさんからすれば魔法の方が出鱈目なんだけどなぁ」

 

そう言いながら片付け忘れが無いか最終チェック。工具もゴミも落ちてない……OK。

電気は指定箇所に非接触でチャージする方式にしてるので必要に応じて充電すりゃいいから後は適宜対応すりゃいいや。

さてさて、どれだけギルドの膿が出てくるかな~?




動き出したおじさん

ギルドの闇に迫るおじさん

次回、おじさんとオラリオ


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87 おじさんとオラリオ

頭痛はちょっとあったが散歩したらかなり楽になった!
頑張れそうです


ギルドの膿出し作戦を開始して数日、目に見える成果はまだ出てないが……別の問題が出て来た。

データを保存しとく場所が足りない。

最初は元ヘスティアファミリアのホームを使おうとしてたが……怪しいデータもチラホラとあるし、ギルド用のサーバーとしても使用しているからちょっと手狭。

他にも理由はあるが取りあえず今のままだと防犯にも不安があるので別の計画を立てた。

 

やって来たのはバベル。そして訪ねた先は……。

 

「やぁ」

「……何の用だ?」

 

フレイヤファミリアの前に陣取っていたのはオラリオ最強の男オッタル。

事前連絡しておいて良かった。居なかったら多分面倒だし。

 

「フレイヤちゃんとオッタル君に……いや、フレイヤちゃんと彼女が一番好きな眷属に用事があってね?」

「……こっちだ」

 

案内された先には1/3しか体が隠せてない服を着るフレイヤちゃん。何時も思うけど股間周辺位は隠さんか?

 

「あら、おじさん。最近こそこそと動いているけど何をしに来たの?」

「ちょっとお願いがあってさ」

「ふぅ~ん、貴方が私にね」

 

取りあえず旅行先でのお土産を幾つか渡して世間話をしてから手札を切る。

 

「そういや前にマッサージしたの覚えてる?」

「ええ、お陰で私自身、更に磨きがかかったわ」

 

髪をかき上げ自分の爪を見るフレイヤちゃん。キラッキラになったもんなぁ。

 

「そんで最近になって改めて色々やってんのよ」

「確かアラハビカでもやってるんでしょ? 他の神から聞いてるわよ。珍妙な名前でやってるマッサージが異次元だって」

「うんうん。ヒッポロ系ニャポーンって名前でやってんの」

「あなたって基本はちょっとズレてる程度なのに偶に私達みたいな感性するわよね」

「いや……まぁ否定はせんけども。そうじゃなくて、新しいマッサージを「聞きましょう」はじm……」

 

返事がはえーよ。

 

◆◆◆◆◆

 

「つまり新しいサービスを受ける代わりに場所を貸して欲しいって事?」

「うん、その代わりっつー訳じゃないけどさ。この先多分表に出さないサービスを受けれる様にするから」

 

おじさんが持ちかけた取引はフレイヤファミリアの一角を貸し出してもらう事。その対価として差し出すのはおじさんのマッサージという名のスキルの性能テスト+ベル君のフォトライブラリ。

訓練中のベル君や、日常のベル君、顔を赤くしたり真剣な目で作業に取り組む等、ベル君好きのヘスティアちゃんが前の世界で頑張って編集覚えて自己満足の為に作り上げた珠玉の一品(らしい)。

それを印刷して本として加工したものをお渡ししたら『あらあら、まあまあ』ですって。

興奮して色々やるのは後にしてもろて……早速サービスをする事に。

 

「まず最初に言っとくとフレイヤちゃんにも効くけど……多分オッタル君に使った方が分かりやすいと思うよ」

「オッタルに?」

「?」

 

きょとんとする主従の二人。

 

「因みにフレイヤちゃんが一番好きな眷属は?」

「オッタルね」

「///」

 

分かりづらいが顔を赤らめてるよこの最強。

 

「んじゃ、そんなオッタル君の可愛い所が見れるとしたら?」

「やって頂戴」

「!?」

「はい、じゃあオッタル君は施術台に寝っ転がってねー」

 

トラベラーで取り出した施術台やマッサージ道具を用意しながらオッタル君に着替えてもらい、いざ施術!

 

◆◆◆◆◆

 

異様な光景だった。

オッタルがその大きな体を台に乗せマッサージを受ける。

最初は特に変わりが無かったから新しいサービスというのが分からなかったのだけれど……時間が経つにつれて変化に気が付いた。

 

オッタルの体が縮んでいる。

 

縮むというより細くなっている?

巌の様な体から引き締まったしなやかな体つきへ。そして顔は険がとれ、目元も柔らかくなっていく。

全身がふっくらしてマッサージの効果で全身が快感にまみれて顔が蕩ける。

そして気が付いた……気が付いてしまった。

 

「おっ、おじさん……これって……」

「施術完了っと……トランスセクシャル……、いわゆる性転換マッサージやね」

 

次の瞬間、フレイヤちゃんは風になった。オッタルちゃんを抱えて一瞬で寝室へ消えて行った。

暫くノートPCで仕事してよう。ヘッドホンは必須だな。




遂に肉体改造の究極とも言える性転換を手に入れたおじさん

一部の神からこのサービスを切望されるが、求める者ほど対価を払うのに苦労をする魔のサービスとして有名になるおじさんだった。

次回、おじさんとダイダロス通り


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88 おじさんとダイダロス通り

フレイヤちゃんとオッタルちゃんがハッスルした後、フレイヤ君になって再度ハッスルしたフレイヤちゃんから快くフレイヤファミリアホームの一角を借り受ける事が出来た。

何せ使用目的がデータセンターなので()()()()()()()()()()()()必要がある。そのついでにチョロっとマッサージ位はさせて貰いますよ?

大量の機材を運び込み、色々と設置と整備をしてテストを完了するまで約1週間。

フレイヤファミリアの主要メンバーが主神と更に仲良くなったらしいです。

おじさんは何も知りませんよ。基本的に音楽聞きながら作業してるので。

 

◆◆◆◆◆

 

おじさんがフレイヤファミリアで作業をする一方、ギルドはウラノスの命令で奇妙な事をしていた。

街頭に変なモノを設置するのだ。

設置自体は楽だし手間では無いものの数が数なので人手がかかる。

作業の意味が分からないのでやる気も出ないが仕事なのでモクモクと熟していくギルド員。これが後々に治安を守るモノだと気づくは随分と先の話。

 

順調に街頭カメラが設置されているオラリオだがカメラ設置に問題がある場所も当然ながらある。

それはダイダロス通り。

治安の悪さも相まって設置するにしても必要なカメラ数がここだけで全体の半分以上になってしまう。

そこで考えたのが全体をチェックするのではなく、都合の良い場所を作って見張ってしまおうという……ゴキブリホイホイならぬ、悪党ホイホイを設置するという案。

 

実際にやってみたら悪党がたむろしやすい、都合の良い場所を作ってから放置すると当たり前の様にソコへ乗り込み生活するのがオラリオの悪党達。

情報社会じゃないからカメラで見られるとかそーいうのは想定しない。

面白い位に引っかかるのだ。

2~3回使ったら寄り付かなくなるから時々入れ替える必要はあるけど……費用対効果で言えば悪くないのでギルドから予算貰ってやってる。

 

おかげで要所要所でカメラは仕掛けているけど必要な情報はちょいちょい集まって来る。

特に関与してる人物の顔を確認できるというのがデカイ。

後はおじさんのテレポートを利用すれば芋ずる式に見つけられるし。

 

「それで……おじは今何してるの?」

「んー? フレイヤちゃん所のDCに仕込むアプリと大容量データの整理」

 

アラハビカの自室で眼の下にクマを作りながらパソコンと格闘するおじさん。只管映像見るの疲れて来たからある程度機械で不要なデータをはじけるに仕込まないとおじさんの時間が消えてしまう。

 

「そういうイシュタルちゃんは何してんの?」

「ギルドに提出用のウチ(イシュタルファミリア)の書類の仕上げ」

「あー、提出期限が近いって言ってたっけ……今日って結婚式の宣誓役って」

「3件」

 

おじさんの冷蔵庫から取り出したユンケルをそっと差し入れておく。

 

「まさかこっちでこんなデータ整理とかやる事になるとは……」

「アタシは嫌いじゃないけどね。前に比べたらやる事はちょっと増えたが全体を見渡しやすいし売り上げも綺麗に見えるから考えがまとめやすい」

 

そう言いながらユンケルを飲みチラリと時計を見るイシュタルちゃん。

 

「あっ、いかん! もう行かないと」

「愛の女神の面目躍如だねぇ」

「実際は宣誓の言葉を言ってるだけなんだがねぇ」

 

バタバタと出ていくイシュタルちゃんを見送ってからまたパソコンをいじる。

幾つか来てたメールをチェック。

その内の一つはヘファイストスさんを通してフレイヤちゃんからだった。どうにも味をしめた彼女の今度の標的は別の神らしい。

元々バイセクシャルな所あったけど……タガが外れてんなぁ。これも一つのコネ作りと思ってスケジュール調整を行う。

但し1回毎に貸し1って事にしてる。元々借りがあったけどそろそろ全部返し終えるんだよね。そうなったらフレイヤちゃんはどうするつもりなんやろ。




色々目覚めたフレイヤは改めて周りに手を出す

神をも変質させフレイヤから与えられるモノに他の神々は耐えれるのか!?

次回、おじさんと神会

コレはおじさんが怒られる話


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89 おじさんと神会

頭痛が解消したぞー
後は視界が戻れば……


「おじさ~ん!」

「ん? ヘスティアちゃん?」

 

色々な調整を繰り返していたらアラハビカまでヘスティアちゃんが訪ねて来た。

 

「珍しい……つーかメール出せば連絡取れるのにわざわざ此処まで来たの?」

「うん、君の顔を見たかったし。後逃がさない為にね」

 

逃が?? ちょっと意味が分からなかったが取りあえずおじさんの部屋へ招き入れてお茶を出す。お茶請けにどら焼き。お茶はおじさんは緑茶でヘスティアちゃんは紅茶。

休憩の意味も込めてお茶しばいてから質問する

 

「そんで何さ」

「うん、実はおじさんに神会(デナトゥス)に対する召喚がかかってるんだよ」

「はぁ?」

 

神会、神の会合でその実はただの井戸端会議だと聞き及んでる。ヘスティアちゃんもイシュタルちゃんも『意味の無い会議』って評価してたし、ソコにおじさんが関わる理由が無い……はずなんだけど。

 

「なーんでそんな所におじさんが召喚(?)されるの?」

「……何でも『おじさんの被害にあった』『神を神とも思わない』『神の尊厳をぶち壊す悪魔』とか言われてて正直ボクにも訳が分からないんだけど。何か思い当たる事ある?」

「無い」

「……だよねぇ」

 

二人して頭を捻るがさっぱり分からん。ヘスティアちゃんから見てもおじさんが嘘をついてないと分かったので尚の事混乱している。

神会の日時を聞けば数日後に開催するって言うので改めてその日にヘスティアファミリアに集合して神会に出かける事になった。

当日、イシュタルちゃんと一緒にホームにテレポーテーションで移動してきたおじさん。神会は昼からって事でヘスティアちゃんと一緒にバベルまでの飲食店で早めの昼飯を摂って行く事に。

 

◆◆◆◆◆

 

昼飯中に話をしててちょっと思う所があったが最終的にはおじさんお責任か微妙だったのでスルーする事に。

 

やってきました神会。改めて見ると……ちらほらと見知った顔がある。

務めて知らない体で用意されていた椅子に座る。進み出てきた男神は……知らん神だった。

 

「やあ、君が噂のおじさんだね?」

「噂ってのが何か分からんですが、おじさんです」

「最近君が神の体を好き放題してるって訴えが上がってるんだけど本当かい?」

「は? そんな訳無いっすよ。知り合いの神に接触する事はあるけど……態々知らない神の体を好き好んで触る理由も無いですし」

「ふむ?」

 

おじさんも目の前の神も首を傾げてる。そのまま何度か質疑応答が繰り返される。

 

Q.君は神の体を触るか?

A.そりゃ知り合いの体は頼まれたら触る。

 

Q.体を触るのは何故か?

A.知り合いを触る時はマッサージ。

 

Q.それは性的なものか?

A.違います。

 

Q.神に対して欲情している?

A.嫁にはする。

 

Q.両刀使いか?

A.至ってノーマル。

 

何か全然嚙み合わない会話。何が聞きたいのか全然分からん。

 

「あのー、訴えがあって呼び出しを受けてるってヘスティアちゃんから聞いてるんですが……話が見えてこないので直接言って貰えます?」

 

そうすると何名かの神が立ち上がり『あんな事をしておいて!』と怒ってる。顔を見れば全員フレイヤちゃんに性的に喰われた奴じゃん……TSした状態で。

えっ、コレって性的被害者の会って事?

しかもフレイヤちゃんは席でニコニコ顔だし、おじさんが攻められる理由としてはとても小さくないかい?

Tシャツ&ジーパンから割と良さげなジャケットをトラベラーで出して羽織る。そして大きな声で呼びかける。

 

「ハイ! 裁判長!」

 

勢い良く手を上げて司会を務めてた神に呼びかける。すると厳かな声で『おじさん君』と言ってくる。

やはりノリで生きてる神なのでこの手には逆らわないよね。

椅子から立ち上がり、ついでに簡易机を取り出してソコへ手を付きながら訴える。

 

「この召喚はおじさんが提供しているサービスに基づく訴えという事で良いでしょうか?」

「提供しているサービスとは何ですか?」

「最近出来る様になってフレイヤちゃん経由でのみ扱ってるサービスであります」

 

『待った‼‼』

 

「裁判長! 目の前の子供は嘘を言っている! その男が私の体を!」

 

『異議あり‼‼』

 

「はい! フレイヤちゃん経由でソコの男神には触りましたがおじさんはサービス以外は一切の接触をしていない事を宣言します!」

「被告は嘘を付いていないようですが……原告は何か申し開きがありますか?」

「うぐぅ……」

 

「裁判長、確認ですが彼らが訴えているのは『私に』行われた行為でしょうか?」

「どういう事でしょうか?」

「私が体に作用するスキルを持っている事はアポロンファミリアとのウォーゲームで広く知られていますが、これには前提として行う事に対しての『同意』が必要になるという制約があります」

「ふーむ……ヘスティア、彼の言っている事は本当ですか?」

「えぇ……ここでソレバラしちゃうのかい? いやぁ、まあ本当だけどさ」

「私は必要であればサービスを施してはいます。ですが必ず同意がある事が前提となっています。更に言えば私は施術をするだけでその後にナニがあったかまでは感知しておらず……先ほど言いましたがフレイヤちゃんを通してのみサービスを行っているのでおじさんにこの手の追及をされても困ります!」

 

「と言われてますが……フレイヤ様、いかがですか?」

「あら、私の誘いに乗った時は喜んで付いてきたのに……嫌だったのかしら?」

 

にこにこしながら男達を見るフレイヤちゃん。そして目を合わせず、さっと顔を逸らして顔を赤くとか青くしている男神。

ああ……尊厳云々って女として抱かれただけじゃなくて男として男に抱かれたなこりゃ。

妙に施術までの間隔が長かったのはそういう事か。

 

等と思っていたら場は進み、最終的におじさん無罪放免。『勝訴』の紙を掲げて両手を上げるおじさん。

ノリでそのまま簡易机の上にピザとコーラ並べてヘスティアちゃんイシュタルちゃんフレイヤちゃんの4人で祝賀会を上げようとした……いや、フレイヤちゃんは後で今までのとは別に貸し1にするからな?

そしたら何かロキが詰め寄って来た。

 

「おじさん、どういう事や」

「ふぁにが?」

 

頬張ってたピザをコーラで流し込んで聞き返す。

 

「おじさんのスキルが神に通用するってのは知ってた……でもソレは回復系。もしくは『対象の脂肪を消費しての変化』やと思ってたのに……」

 

おぉ、流石ロキちゃん。内容明かしてないのに殆ど正解じゃん。

 

()()()()()()()()ってどういう事や!?」

 

ロキちゃんが指さすのはイシュタルちゃん。そこには元のサイズより2サイズ程カップ数が上がった状態のイシュタルちゃん……そういや最近色々な状態で致す事多かったから戻してなかったな。

ヘスティアちゃんも必要に応じて施術してるから何時もの事と指摘されなかったから忘れてた。

 

「何かマズい?」

()()()()()()()()()()()()()()んや!」

 

ガチキレじゃん。

 

「だって……」

「だって???」

「ヘスティアちゃんがロキにはスキル使っちゃ駄目って言うから」

「ヘスティアア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"‼‼‼‼‼‼」

 

ヘスティアちゃんは既に逃げてた。




レズなのかホモなのかバイなのか……全部だ! そんな事の片棒を担がされるおじさん

犬猿の仲を極めた主神に巻き込まれるおじさん

次回、おじさんとじゃが丸


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90 おじさんとじゃが丸

「そういやイシュタルちゃん」

「ん? 何だ?」

「フレイヤちゃん平気になったの?」

 

神会が終わった状態でしれっと簡易テーブルで顔つきあわせてピザ食ってるけどさ。以前は嫉妬にまみれて『おんどぅるぶっ殺したらぁ!』って感じだったじゃん。

 

「人間満たされると他の事は割とどうでも良くなると教えたのはおじさんじゃないか」

「いや君、神やん」

「「うける」」

「何このバカップル」

 

そんな感じでバカ話しながらピザを食う。

 

「ってかフレイヤちゃんマジで他のっつーか……食った神へのフォローしといてよ」

「皆誘うと直ぐ付いて来てくれるから楽しくて♡」

「うーーんこの天然ビッチ」

 

スキル的には同意が取れてる認識だったからおじさんも問題と思ってなかったが……これ悪人に騙されてもスキル通じる可能性あるな。

気を付けよう。

 

「食べると言えば……何だかんだでおじさんは抱いたことないわね」

「……まぁ無いね」

「一晩どう?」

 

この面子で誘うんかい。

 

「独身時代なら吝かじゃないけど今結婚してるし」

「あら、私じゃ無理かしら?」

「相手で無理とかじゃなくてさ、多分物理的に無理」

「物理的に?」

「嫁さんと毎日二桁回数してみろ、残弾枯れるぞ」

 

今の君なら分かるでしょ? 文字通り体で体験してるんだから。

 

「あー……それはまた」

「何なら週末には嫁さん所の眷属が混ざって来るんだぞ? 余裕無いわ」

 

見ろイシュタルちゃん、フレイヤちゃんが冷や汗かくレベルだぞ。おかげで脂肪貯まらないんだけど?

 

「だが最後には私達の方がぐったりしているではないか」

「頑張ってるんですー!」

 

スキル使ってまで頑張ってるんだよコッチは、言わせんな。

 

◆◆◆◆◆

 

折角なのでエロ神(フレイヤちゃん)娼館経営神(イシュタルちゃん)フルオープンスケベ(おじさん)で下ネタ会話してたらロキちゃん(無乳)が帰って来た。

 

「コロす! アイツ次見つけたらホンマにコロす!」

「ロキちゃん、主神が死ぬとおじさんのスキルとか消えると思うけど?」

「ロキがヘスティアを殺るなら今の内におじの改宗(コンバージョン)しとくか?」

「イシュタルちゃん、あんなでも一応主神なので……」

「あら、ロキがヘスティアを処すなら先にベルを手元に置いておこうかしら」

 

うーん、誰も自重しねぇ。一旦落ち着く為にもその日は4人でピザ食ってから帰った。

 

◆◆◆◆◆

 

数日後……顔がパンパンに晴れ上がったヘスティアちゃんを縛り上げガレスに担がせた状態でロキがアラハビカを訪ねて来た。それから主神を心配してのベル君にロキちゃんの護衛としてかアイズちゃん。

ウチの団長は主神心配するか好意を寄せる女性への対応をするかどっちかに絞って欲しいが……未だピュアボーイには無理か。

 

「あーあー派手にやられちゃって。ヘスティアちゃん、だからメールでも言っておいたのに……何でさっさと許可出さなかったの」

「ふぉんなほほをいっへも」

「治してやっからちょっと待ってろ」

 

神会でロキちゃんが本気で怒ってたので許可を出す様に進言しておいた。だが首を縦に振らなかったヘスティアちゃん。

恐らく業を煮やしたロキちゃんがファミリアを動員したんだろ。そして捕まってロキちゃんにぶん殴られたと。

ロキちゃんに念のため釘刺しといて良かったわ……見ろアレ、怒り通り越して顔真っ白になっとるぞ。

 

「ひぇっ」

 

ポーションで顔のハレを治してやっと現状が理解出来たのか速攻でおじさんを盾にして隠れやがった。ソコはベル君を使うべきだろ。

あとロキちゃんはブツブツと胸胸胸……と連呼するのやめぇ。怖いよ。

 

「んじゃ、使っていいよね? それともここまで来てまだ拒否る? そうすると流石におじさんも改宗を考えないといけないんだけど」

「ちっ、違うよ! スキルは許可する! 但し!」

「あ"あ"ん?」

「ヒョエ」

 

びびる位ならもう何も言わなくて良いのに……何でここまで仲が悪いかな。

 

「ちゃんと対価を払う事!」

「む……、ソレはまあ。おじさん、普段スキルを使う時は何を対価にしとるんや」

「一律で『与えた物に見合う物』を貰ってるけど?」

 

ロキちゃんがめっちゃしかめっ面してる、梅干しを初めて口に入れて、でも吐き出せない外国人みたいな顔。

大体施術受けた人はそういう顔になるよね。下手に値段決めると面倒だし、コレで安い値段で買い叩く人なら以降その縁者も含めて取引しなければ良いし。

 

そうやってたら護衛のアイズちゃんが凄く悩んだ顔でこっちに近づいてくる。

 

「どした?」

「あの……これ……」

 

差し出されたのは……『じゃが丸君』、しかもこれアラハビカで売ってるタケノココロッケやん。

 

「凄く……、自分で食べたいですけど……。コレがロキの対価の代わりになりますか?」

 

ロキちゃんが『アイズたんが好物を差し出してまでウチの対価を……』なんてめっちゃ感動してるけど本当にそれで良いのか? 君の胸の価値=コロッケやぞ。

というか流石にコロッケを対価はちょっと他の人にも示しが付かないし……気持ちは何となくくみ取るけど。




フレイヤの男性に対する解像度が上がり苦労するオッタル

余裕のイシュタル(正妻)

ヘスティアを追いかけまわすロキ

次回、おじさんと娯楽



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91 おじさんと娯楽

あの作品再開しねーかなーなんて思いながら書いた


バベルの前に何かが作られている。それを多くの冒険者達は何時もの日常(ダンジョンへ向かう)の最中見ていた。

何やら雛壇の様な作りのソレは日を追う毎に作りあがり、やがて大きな席が出来上がった。

 

『コレは何だろう?』

 

そんな思いから冒険者達が主神に聞いても主神すら分からない。

住人からもギルドへ問い合わせが行われたが『近い内に分かる』の一点張り。

分からないままでも日は流れる。

席の上にまた分からないものが出来上がる。分からないものが分からないまま日常の風景に溶け込み始めた頃、ソレは流れ始めた。

 

聞いたことの無いリズム、音色、言葉。

それが例の場所から聞こえてくる。

 

以降、定期的に聞こえる音楽。一般人でも分かるある種の未知にオラリオに静かに伝播していく。

何時もの様に流れる音楽をBGMにオラリオの住民が生活を勤しんでいると、急に爆発音が聞こえる。

何事かと周囲を見回すも煙は上がっていない。そして爆発音の正体は直ぐに知れ渡った。

 

『ナハハハ! 皆邪魔すんで~!』

 

神ロキが言うにはオラリオの各所に『神の鏡もどき』を設置するらしい。ソコにアラハビカから持ってきた何かを流すらしい。

その為の宣伝として喋っていると。そして先行配信として今日の夕方からバベル前で上映するらしい。

裕福な者、暇を持て余しているもの、娯楽に飢えている者。それらは本人も気付かない内に心が躍っていた。

冒険者ではない自分が触れられる未知。年を重ねた者も年と関係なくワクワクしている。

 

バベル前に人が集まり、作られた椅子が全て埋まり、尚も増える人達。

そうしている内にバベルから何かが降りてくる。デカイ……白い布?

ざわめきが目立つ場に神ロキの声が響く。

 

『始まるで~』

 

その一言から始まったモノはオラリオの歴史を一つ変えた。

 

◆◆◆◆◆

 

聞こえてくる音楽、暗闇に浮かび上がる小さな火花、ぶつかり合う人物。

ソレが過ぎると新たな人物が、新たな戦場が、入れ代わり立ち代わり過ぎ去る戦場と人々。

争う相手が変わり戦い続ける人物、縦横無尽に駆ける人々は音楽が終わる頃に傷付き人としての終わりを見せてくる。

 

やがて音の消失と共に映像は終わり暫くの静寂の後に人々の口からは称賛の声が上がる。

 

熱気が収まらないままに更なる爆弾が落とされる。

 

『それじゃ、さっきの奴の本編……始まるで』

 

その一言で一気に静寂が戻り視線はバベルへと釘付けとなる。暗闇に浮かぶのは『Fate/stay night』

長いオラリオで初めて人々に見られることになったアニメだ。

 

◆◆◆◆◆

 

オラリオで初めてのアニメが上映されている頃……おじさんはロキファミリアの眷属と共に仮設スタジオに居た。

やってる事はアフレコである。

流石に音声はこっちのに編集し直す必要がある為、その為にロキファミリアの面々を使わせてもらってる。前から思ってたけどこいつら声が良いんだよねぇ。

 

因みに音響監督にはベル君がついてる。この作品に入れ込んでる&日本語もばっちり理解出来る彼が台本起こしから音の監修までしてくれてる。

音響機材に関してはヘスティアちゃんがやってる。こっちはベル君の多大なる作品愛というか熱量で押し切られてやってる。

アシスタントはヴェルフ君。彼はどちらかといえば書籍派の様で続きが無いか聞かれたので那須きのこ作品全般を送ってやった。

作品量の多さに嬉しくも困った顔してたので次何か聞かれたら虚淵玄作品をぶち込むとしよう。

 

さて、オラリオでアニメの初視聴は大成功と言って良い位に盛況でこれなら街頭TVを置いても問題はそこまで無さそう。

ついでに街頭アンケート取ったりこの間顔合わせした時に知り合った神に意見聞きに行ったら意外と特撮に興味あったり。逆にドラマ系は軒並み興味が薄い。

まー、恋愛とかはまだ分かるみたいだけど世界観が違い過ぎるからな。

イシュタルちゃんが軽く検閲したけど感想が

 

「くっそつまらん。恋愛の動機もこっちじゃうけない」

 

だったからお察しだ。

アニメや特撮は理由付けとかがスッキリしてるの多いから分かりやすいみたい。

それに戦闘がメインだし、戦う姿が格好良ければ連動してキャラクターに興味も湧くでしょ。

 

◆◆◆◆◆

 

「……そんな風に思ってたんだけどなぁ」

「私だってこんな風になるとは思って無かったわ」

「良くも悪くも成功したって事じゃろ……ワシ(ゴブニュ)とヘファイストスには頭の痛い話じゃがな」

 

集まったのは二大鍛冶ファミリア。ヘファイストスさんとゴブニュさん。

最近冒険者からの注文が入る際にやたらとアニメに登場した武器や鎧の外観を指定されるのでせめて資料を寄越せとの事。

一応放送前に原作のアニメやその資料も一通り揃えてるから設定資料集を渡す。今は1冊しかないので後日追加発注して二人に届ける事を約束した。

 

 

 

「という様な事が発生してるので……オラリオに流すアニメでロボットは止めておこうかな」

 

『ほんまもんの冒険者がコスプレwww』

『命が最優先じゃないのか』

『ロボもののコスプレになると……全身鎧?』

『うーん、オラリオでロボ流した時の反応見たかった』

 

実は例のバベル前視聴席の様子をライブ配信して日本の視聴者と見てたりする。何に興奮し、共感するのかと。そして次に何を流すべきかを相談したり。

 

「あ、でもMADで意識を掴むって案は良かったよ。やっぱ掴みって大事だわ」

 

『MADの存在しらん奴にアレは効いただろうな』

『内容知ってても良いMADは見ちゃうからなー』

 

「本当はエヴァンゲリオとか流したいけど……ありゃ設定が難しすぎるしね」

 

『オラリオでアレは無理だろ』

『これ以上呪いをばら撒くんじゃねえ』

『原作完結までの虚無と監督の描いた映画完結からの虚無感よ』

『面白いは面白いんだけどな……』

『アレを流す位ならエルフェンリート長そうぜ』

『いやいや、まどかマギカを』

『ひぐらしのなく頃に』

『地獄少女』

『Devilman Crybaby』

『メイドインアビス』

『がっこうぐらし!』

『なぜこの流れでSchool Daysが出ない?』

 

「しれっと鬱アニメを上げるのやめーや、それと誠は死ね。氏ねじゃなくて死ね」

 

『死んでるんだよなあw』

『おじさんシレっと視聴済みか』

『誠の家系図見た事ある? すげーぞ』

『オラリオに「中に誰も居ませんよ」を流したい』

 

「そういやダンまちの同人誌作って良いですかって問い合わせがウチに来るけどさ……商業じゃなけりゃ良いよ? 後なんか逸脱し過ぎなければ」

 

『まじか』

『コレは正式回答?』

『描いて良いんですね!?』

『おじさんはダンまちに出ないの?』

『ある意味一番謎のおじさん』

 

「おじさんが出る訳ないやん。こんなおっさんがあのイケメンイケボ集団に混じっても映えねーよ」

 

『自虐ww』

『こいつ痩せるとマシなのに何で太るかな』

『太ろう配信は狂気』

『ライブで飯100キロ完食は引く』

『しかも白米が100キロでおかずは別って言うね』

 

「うっせー、取り合えず次の配信決まったらSNSで告知すっから何か適当に案考えといて」

 

『おk』

『まかせろ』

『りょ』

 

配信で馬鹿話をするのはやはり楽しい。でもコレで色んな計画が進んでるとは誰も思わんよな。




MADを流し、その後に本編を流したおじさん

おじさんなりの集合知(ネット)を使う

次回、おじさんと特訓



※作中で流した想定のものはこちらのタイトルでyoutubeにあります
[MAD] Fate/Series [ONE OK ROCK - The Beginning] [Against The Current Cover]


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92 おじさんと特訓

何か時間かかりました


色々な事が平行して動いてくっそ忙しい状態だが、何事も少しづつ片付ければ時間は作れるもので……色々な所を引き継いでおじさんの手を一時的に空けた。

 

「ダンジョン久々だな~」

「ボクもおじさんと組むの久々です」

「何だかんだと時間合わなくなったからね。最後に組んだのって何時だっけ?」

「旅行前にちょっと行った時ですかね? 今回見たいに最初から最後までPTを組んで進むってのだと……ウォーゲーム以前かな?」

 

ベル君とヘスティアファミリアの中庭で他メンバーの準備を待ちながら雑談中。

思えばちゃんと探索に出たのも随分前になった。ベル君にレベルも追いつかれ……むしろ追い抜かれてる。

 

「皆のLvもそろそろ次の段階が見えて来てるの?」

「リリとヴェルフはそうですね、特にヴェルフは最近凄くやる気になってます」

 

やる気があるのは良い事だ、そうやって皆の話や雑談をしていると全員が集まったので【テレポーテーション】で一気に21階層まで跳ぶ。

 

「やっぱりおじ様のコレは反則です」

「そんな事言われてもな……」

「サポーターとしての魔法もあるとかリリの事がお嫌いですか」

「いや、どっちも必要に迫られて発現した魔法だからソコに文句言われてもだなぁ」

「解っていても文句の一つも言いたくなります!」

 

ぶーたれるリリちゃんと会話しながら殿としてダンジョンを歩く。中層でヴェルフ君、命ちゃん、リリちゃん、春姫ちゃんを中心に経験値稼ぎ、その後に少し潜っておじさんとベル君を中心に経験値稼ぎを予定している。

 

「それにしてもリリちゃんは随分と逞しくなったよね」

「そりゃこんな環境に居れば逞しくもなります」

「あー、そういう意味じゃなくて」

「?」

「前向きになったなーって」

「……そう思われるのはベル様のお陰です」

「きっかけはそうだろうね」

「リリはベル様に救われて、こうしてサポーターとしてベル様を支えられるのが嬉しいんです」

 

にっこり笑ってまぁ。

 

「いや、すげーわ。おじさんがリリちゃんの立場ならもっと凹みまくってるぞ」

「そうですか? おじ様はあっけらかんとしてそうですが」

「いやいや、割とメンタル弱いよ? 簡単に凹むし」

「そんなものですかね?」

 

そう言いながらしっかり敵に矢を当ててる。会話しながらもキッチリ戦闘出来る。

うむ、やはり逞しくなっとるな。

 

「所でおじ様」

「うん?」

「春姫様の件はどうするのでしょうか?」

「……」

「いい加減ホームでうじうじされるのも大変ですし、現在の視線も気付いてますよね?」

 

視線は確かに感じるけども……既婚者にどないせぇと。相手子供やし。

しかしいい加減何とかしないと駄目か? ……駄目か。

帰ったらヘスティアちゃんとイシュタルちゃんに相談するか。

 

 

 

4人が中心に動いて周りからの攻撃を警戒している最中、ヴェルフ君の動きがちょっと気になる。

大剣使いだけど何だろ、何か足りてない気がするのは。

 

「あー、属性付いてないからか」

 

最近モンハン触ってたからだ。納得。

斬れば燃える剣とかあれば映えるだろうなぁ……配信用に作って貰えないかな?

 

「って事でどう? 作れない?」

「それって魔剣じゃないのか?」

「いや、魔剣って使ったら壊れるっしょ。そうじゃなくてこう……カードリッジ式とか常時発動型とか」

「うーん、おじさんの言ってる奴が今一わかんね」

「駄目かぁ、そーいうの有れば色々と面白い事出来そうなんだけどね」

「面白い事?」

「例えば火が出るならモンスターは火傷するだろうし、薪を指せば火種を作れる」

「ほお」

「電気なら行動阻害かな、状態異常も良いけど生物なら電気が流れればスタン入るだろうし」

「電か」

「氷は……何だろ、体温を奪う感じか? 低体温になると動き鈍るから悪くないよね」

「……想像出来ねえ、何か見本でもありゃ良いが」

「ゲームで良いならあるよ」

「ゲーム?」

「うん、狩りゲー」

 

遠征から戻ったらヴェルフ君とモンハンやる約束してからベル君の所へ。

本格的に俺らの経験値稼ぎに入る前にちょっと見ておきたい。

 

「ボクのアルゴ・ウェスタをですか?」

「うん、ヘスティアちゃんに録画頼まれてる」

「あはは、良いですよ」

「悪いね」

 

そう言って撮影開始。チャージしてる時も武器振るってる時もエフェクトあって格好いい。

 

「いいねー、やっぱ良いわー。格好良い。おじさんこーいうの好きだなー」

「えへへ、そうですか?」

「おじさんもネタ技なら幾つか覚えたけどさ、全体的に地味なんだよね……元ネタならもちっと派手だったりするんだけど」

「ネタ技ですか」

「やってみせようか?」

「是非!」

 

さて、何やろう。リヴェア班長の回転斬りは相手がデカくないと無理だし……、スターバーストストリームもどきが無難だけどおじさんがやるとただの連撃だからまったく面白味無い。

かと言って何かうーん、まぁ、ネタとしては良いか。頭を切り替えてトラベラーからバスターソードを二本取り出す。

 

「そんじゃ行くよー」

 

剣を持ったのが意外だったのか皆びっくりしてら。

脳内で三分クッキングを流しながら良い位置に敵が来るまでその場でジャンプ。着地毎に足に力を貯めながら間合いを図る。

 

「スターバースト……ストリーッム!」

 

技名宣言してからの地面を砕きながらの急加速。モスヒュージの横を二刀で撫で斬りながら駆け抜け背後から返す剣で切りつける。

痛みから振り返るモスヒュージに合わせて上に跳び、天井を足場にして唐竹割の要領で肩を切る。足場が砕け体制を崩したモスヒュージを斬りつけながら下半身を責め立てる。

碌に動けなくなった所で足をべた踏み状態にして今までの動きで貯めた力を全部腕に回してモスヒュージをぶつ切りにしていく。

 

バラバラに分解されたモスヒュージが塵になり魔石を残したところで剣戟終了。

 

「ぷーーーーー、疲れた!」

「すっ、凄いじゃないですかおじさん!」

「いやー、コレ多分ベル君みたいな二刀使いの方が使い手としては正しいんだよね」

「えっ、そうなんですか?」

「うん、さっきのってアレンジ入ってるし……元ネタだと敏捷高い子が使う技だし」

「へー」

「いっそベル君覚えて見る?」

「ぼっ、僕ですか!?」

「そーそー、アルゴ・ウェスタと組み合わせたらきっと格好いいぞ~」

「そうですかね?」

「ヘスティアナイフともう一本を工夫したらきっと楽しい感じになるはずだし。そういう意味だとベル君もヴェルフ君と一緒にモンハンやるのも良いかもな」

 

そんなネタを放り込みながらトータル約2週間。久々にPTでダンジョン潜るのは大変だけどある意味楽だし色々とネタプレイも出来て楽しかった。

 

ダンジョンから戻った翌日……帰還当日というのもあってヘスティアファミリアに泊まったんです、

以前からやってた朝のラジオ体操やって朝食後に報告会して……今日は野郎同士で集まってゲームするべーなんて考えてたら。

命ちゃんに詰め寄られました。

 

「それで、おじ殿は春姫殿をどうされるのですか!?」

「み、命ちゃん!」

「お……おう……」

 

ヘスティアちゃん、にやにやしてるけどお前絶対巻き込むからなこんちくしょう。




久々のダンジョンで色々と試したおじさん

ある種リフレッシュが出来たと思ったら問題が爆発し……

次回、おじさんと春姫


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93 おじさんと春姫

朝からヘスティアファミリアのホームは重い空気になっていた。

ファミリアに所属する命からの春姫に対する問いかけに言葉が詰まるおじさん。

リリちゃんはそれ見た事かと言わんばかりの目線を向けているし、野郎共は雰囲気にビビッて口を噤んでいる。

 

「えーっと、春姫ちゃんの事はまぁ……一応おじさんも理解というか、状況は把握してるけどもだ……えー何というか」

「ええいまどろっこしい! ズバっと言えないのですか!」

「ひぇ……」

 

何故おじさんは一回り以上年の離れた子に詰め寄られてるんじゃ……悪いのはおじさんなのか?

 

「なあ命、落ち着けよ」

「しかしヴェルフ殿!」

「お前の気持ちも分かるが相手は神と結婚した男だぞ?」

「……」

 

何とか落ち着いてくれたのでもうスパっと決めるか。

 

「よし、おじさんもグダグダ引き延ばすのも趣味じゃないのでちゃんと答えを出します! でも! 流石に時間をくれ。今日の夜に結果報告って事で」

 

◆◆◆◆◆

 

命ちゃん、春姫ちゃん、リリちゃんの三人が退室して盛大に溜息を吐きながら椅子から崩れ落ちる。

 

「おじさん、大丈夫か?」

「ヴェルフ君……取り合えずおじさんの部屋からノートPC持ってきてくれる?」

「おっ、おう」

 

ヴェルフ君がおじさんの部屋にノートPCを取りに行ってる間に軽くヘスティアちゃんと話す。

 

「それで、おじさんはどうするんだい?」

「あー取り合えずはヘスティアちゃんとイシュタルちゃん、それからベル君、ヴェルフ君も一緒に話し合いかな」

「え"っ、僕もですか?」

「君は今後色んな女の子を泣かせそうだから今の内に第三者目線で学んでおきなさい」

「はぁ」

 

無自覚って本当に怖いな……ベル君その内刺されるんじゃねーの? ……いっその事School Daysを見せて無作為に手を出せばこうなるって悪い見本を見せた方が……。

 

「おじさん、持ってきたぞ」

「あんがとね、君もちょっと見ていきな」

「へ? 良いんですか……その……」

「良いの良いの。形は違うけど君もいずれこうなる可能性あるから」

「??」

「君の二つ名ってさ、ヘファイストスさんに告白したのが由来でしょ」

「……は? はぁ!?」

「いずれ神と結婚して、でも鍛冶師として大成したら狙ってくる女なんてゴロゴロ出てくるだろうからその時の為にベル君と一緒に勉強していきな」

「俺はあの人以外とそんな事になるつもりは!」

「おじさんだって同じだっつーの。それでもこういう状態になってるんだから本人の意思とは関係なくこういう事に遭遇すんのよ、人生は」

「……うすっ」

 

「もしもし? イシュタルちゃん?」

『どうしたおじ?』

「ちょい女性トラブルがあって……問題解決にイシュタルちゃんに相談したいんだけど今良い?」

『分かった、直接が良いんだろ?』

「ありがとう、助かるよ。直ぐ迎えに行く」

 

と言う事でイシュタルちゃんとPCで連絡を取っておじさんが【テレポーテーション】でアラハビカに迎えに行き、全員がヘスティアファミリアのホームに集まった。

 

「えー……改めて説明すると、春姫ちゃんの件で結論を今晩までに出したいと思います」

「春姫の件?」

「ほら、春姫君はおじさんに助けられたろ?」

「ああ、私と同じ日に助けられたらしいな。聞いてる」

「それで春姫君はおじさんに密かに恋慕しているけど君と結婚してるからどうしよう、って話さ」

「何だ、そんな事か」

「えっ」

 

そんな事言いました? この神(嫁さん)

 

「というかおじ、春姫は確か16だったが良いのか? おじが何時も20がどうこう言ってた奴」

「あ~、このさいソコは一旦横に置いとく。というかソレを含めて考えたら結論が全く違う方向に飛んでいくから……ん"~~~、オラリオの常識で考えよう……」

「オラリオでの常識かぁ……ベル君ならどうする?」

 

予想外だったのかヘスティアちゃんに話の先を向けられ焦るベル君。

 

「へ?! 僕ですか!?」

「折角おじさんが身を挺して勉強させてくれてるんだぜ。君も考えないと」

「え、え~っと、そうですね。その……おじさんが何で悩んでるのか良くわかりませんが……春姫さんが良いなら良いのではないでしょうか?」

「ベル……お前」

「ベル君まじかぁ」

「中々胆力のある子供だな、ヘスティア」

「ふはは……ありがとうイシュタル」

「???」

 

本人全く悪気も何も無いなこりゃ。鈍感とは思ってたが……もうちょい、いや今はソレよりおじさんの事だ。

 

「えー、ベル君のポンコツっぷりは置いておくとして」

「なんでですかぁ! ていうか僕ポンコツなんですか!?」

「そこらへんは後でヘスティアちゃんにみっちり教えてもらいなさい。さて、話を戻してオラリオの常識的には結婚してる男が他の女に手を出すってどうなん?」

「場合によるだろうな」

「場合?」

「まず『冒険者』として、コレはおじも春姫もヘスティアファミリア所属だから特に問題にはならん。次に『男女』としてだが、ぶっちゃければ経済的に問題なければ良いだろ」

「そうなの!?」

「当然本人が納得してるってのが最低条件だ。早い話がおじの国で言う『愛人』だな」

「おじさんの所での話をされると一気に手を出せなくなる……」

「大体何がそんなにイヤなんだ?」

「前にも話したじゃん、ウチの国じゃ20歳以下には……」

「それだが問題無かっただろう?」

「うん?」

「20以下の娘でも問題なく出来たじゃないか」

「は?」

「どういう事だい、イシュタル」

「私の所のアマゾネスを使って調べたけど普通に抱けるんだから別に春姫でも問題ないだろって話さ」

 

待って、今何て?

 

「あ~、前言ってた奴。君の所の眷属に頼んだんだ」

「ああ、実際に試したが問題無かった。多分倫理観の問題だな。逆に知らなければ問題とも思わんのは間違いない」

「えっと……お二人とも何を言ってるんでしょうか?」

「そもそもアイシャですら21なんだ、そんなに変わらんだろ」

「へ~、彼女もっと上かと思ったけど若いんだね」

 

つまりおじさんはいつの間にか未成年に手を出していた……?

 

 

 

盛大な音を立てておじさんがテーブルに頭をぶつける。その音に全員が驚くがぴくりとも動かない。

 

「お、おじさん?」

 

恐る恐るおじさんを起こすと白目をむいて気絶していた。神様達に言われてヴェルフと一緒におじさんを部屋へ運んで戻ると神様達がさらに話し込んでる。

 

「あの、神様。良かったんですか?」

「おじさんが『オラリオでの常識で考える』って言ってた以上答えは出てるからね」

「そうだな、おじの財力なら別に構わんだろ。というかそもそも駄目なら私が許してない」

「君って相変わらずその辺ルーズというか、おおらかと言うか」

「雄が優秀ならその分、雌を囲うのも必然だろう。それに春姫は元々私のファミリアなんだ、そこまで目くじらは立てないさ」

「問題はおじさん自身か」

「おじの奴、あれで意外と小心者だしな。腹が据わったり切っ掛けがあると意外と頑張るが」

「何か妙な所でウチの子達は似通ってるな」

 

そういって此方を見る神様達。うーん、神様同士の会話は難しい。

 

「ベル、お前はもうちょい勉強しような」

「?」

 

◆◆◆◆◆

 

気が付いたら自室だった。そして覚えている直前の事を思い出して頭が重くなる。

知らん内にヤってたんか……。いや、まぁ良いや。

良くは無いけど終わった事を気にしても仕方ない。それよりこの先だな。

 

二人にあって話を聞いたら結局好きにしろって話になった。

オラリオ的には本人が納得してりゃ問題無し。イシュタルちゃんも了承してるから好きにしろという。

そんな風に割り切れたら苦労しねーーー!

落ち着け、一応こっち側の世間一般じゃ複数も問題が無い。嫁さんも良い。相手が……春姫ちゃんはソレで良いのか?

あー、このままじゃハゲそう。……よし、後は春姫ちゃんに委ねるか。

 

◆◆◆◆◆

 

その日の夕食前のタイミング、全員が集まった所で発表です。

 

「はい、えー、結論! 世間的にも、家庭的にも受け入れて良しと言う事らしいので! 春姫ちゃんが良いなら受け入れます……がっ! 子作り等は後2年は待って下さい。おじさんの精神的にソコがギリギリっす」

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 

「という事で春姫ちゃんとお付き合いする事になったよ」

 

『おいおい、エロゲ主人公かよ。おっさんなのに』

『おっさんだけど世界一の金持ちが約束されたおっさんなんだよな』

『ポーションだけで巨万の富が約束されたおっさん』

『色んな意味で世界をひっくり返すおっさん』

『おっさんがハーレム等、このリハクの目をもってしても読めなかった』

『狐っこと女神が嫁さんとかどこのラノベだよ……ラノベ出してるおっさんだった』

『薄い本が厚くなる』

 

「一応ダンジョンから帰ってきて書類に目を通したら、日本でポーションの販売を開始した~ってのと、今は政府関係者を中心に治験って名目で利用されてるよ。

効果は目に見えて判明しているだけでも色々と上がってて、単純な外傷から内臓疾患、面白い物だと眼や頭皮、習慣病に関しても効果あり、だってさ」

 

『ハゲにも効くって事ですか!?』

『毛根の復活が約束されたポーション?』

『また毛の話してる』

 

「あーでも注意があってさ、永久脱毛してた人の毛も復活してるらしいからソコは副作用って感じかも」

 

『デメリットか?』

『場合に寄りけりじゃ?』

『ハゲには福音だな』




春姫ちゃんとの付き合いを開始したおじさん

健全な付き合いをいつまで続けられるのか

次回、おじさんとゲーム


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94 おじさんとゲーム

今回のアンケートは……おじさん(作者)が仕事と趣味で履修してるものにしてます……そっち方面のファンにはすまん。
もしどうしてもリリの設定的にコレでしょ! ってのがあれば感想とかで教えて下さい。


ベル君、ヴェルフ君と共におじさんの部屋でモンハン中。ベル君双剣、ヴェルフ君大剣、おじさんハンマーと別れてプレイ中。

 

「んで、さっき取って来た素材で鍛冶屋に話しかけて。そーそー、で、今装備してるのを鍛えて伸ばすか、別系統に持っていくか」

「うわぁ……結構種類あるんですね」

「へぇ、これが言ってた属性武器って奴か?」

「正に! イメージしやすいかなってこのゲームにしたけど他にも武器イメージって意外と多いから映画とかアニメも馬鹿に出来んかもね」

「うわぁー、ヴェルフ。コレ、格好良いよね!」

「おっ、結構イかすな……」

 

二人共気に入ってくれたようでなにより……というか二人共目が良いな。やっぱ冒険者になると動体視力上がるのか?

おじさんはソコまでじゃないんだが……。

 

「所でおじさん」

「んー?」

「あんたこんな事やってていいのか?」

「別にゲーム位良いだろ」

「いや……春姫放っておいて良いのか?」

 

促されてちらりとドアを見ればこちらを覗いている春姫ちゃん。うーん、可愛いけど完全に親戚の子って感じなんだよな。

ゲーム機を置いてドアを開くと顔を赤くした春姫ちゃん。

 

「取り合えず入ったら?」

「はっ、はい……」

 

 

 

「……まーじー?」

「す、凄いですよ春姫さん!」

「はー、大したもんだ」

「いっ、いえ……その、命ちゃん見たいで格好いいなぁって」

 

折角なので春姫ちゃんにもゲーム機を貸し出して四人でプレイしてみたら……この子ゲームがべらぼうに上手かった。

初プレイ初期装備で一通りの操作を教えて、コンボ仕込んだだけなのに太刀使いのノーダメージで大型モンスター倒すとかすげー。

 

「私本当の冒険だと皆さんの足を引っ張ってばかりなので……こーいうの位では一緒に出来たらなって」

「これも一つの才能だねぇ……頭が良いのと身体の反応が釣り合ってないだけか?」

「つまり?」

「鍛えれば化ける可能性が」

「凄いです春姫さん!」

「ひぁ……そんな」

 

うーむ、これはちゃんと鍛えるべきか?

 

そう思ったのは試しに春姫ちゃんに色々ゲームやらせた結果。これがまた全部上手い。

反射神経が良いのは間違いない。じゃないと音ゲーで初見クリアは無理だろ。

となると体が追い付きさえすれば……。

 

あ、もしかして感情と一緒か? 漫然とさせてる? ありうる? 一回身体見せてもらうか。

 

◆◆◆◆◆

 

「ただのマッサージなんだからそんなに赤くならんでも……」

「ひえぇえ、無理です~」

 

現在Tシャツにパンツルックに着替えて貰った春姫ちゃんを施術台に乗せてる。というかコレで真っ赤になってるのに良く結婚話を持ち出せたな。いや、あれは命ちゃんの暴走なのか?

余計な話題を頭の隅に追いやって施術に入る。

 

「ひゃわっ!」

 

他の獣人とのデータと比較して……そこまで変じゃないか。人と比較するとやっぱ発達してる部分とそうでない部分があるな。

 

「ひゃん!」

 

んー、かといって劣ってるって感じじゃないし……単純に運動に慣れてないだけなのか?

 

「あっ、あいたたたた! 痛いです!」

 

でも筋肉はしっかり付いてるしな~。これで動けないって事は無いと思うんだが。

 

「あっ、あ~ソコ気持ちいいです~」

 

と言う事は訓練したらこの子は動けるのかな。動ける様になれば遠征での活躍の場も広がるし身も守れて一石二鳥なんだが。

 

「はぁ~~、溶ける……」

 

 

 

「おん? ……寝ちゃった」

 

施術が終わる頃には静かになって居たので顔を見て見れば熟睡してる。その割に体勢変えてもらう指示には従ってたけど……どのタイミングで寝たんだ?

 

 

 

「とまぁ、そんな感じで春姫ちゃんって運動に慣れてないだけで慣れたら普通に動けると思うよ」

「そうなんですか……春姫様が」

「おお! 春姫殿に背中を預けて戦えるのですか!」

「春姫君も本格的に冒険者かー」

 

と言う事で女性陣に報告。命ちゃんは嬉しそうだがリリちゃんは複雑そうだなぁ。

やっぱ戦えない事を気にしてるのかな。

 

「いっその事リリちゃんの肉体改造でもやる?」

「肉体……」

「改造?」

 

さっきまで息抜きで仮面ライダー見てたからついそんな単語が出て来たがこれに思いのほか食いつくリリちゃん。

 

「それをすればリリも戦えるんですか」

「イメージとしてはそうだね。やっぱ仮面ライダーの様に変身して強くなれば……いや魔法少女?」

「おじさん、そんなご都合主義みた「やります!」いな」

「うぇ?」

「リリ殿!?」

 

「やります! やってやりますとも! リリだって何時までもサポーターのままでは居られません!」




テコ入れが行われる春姫

置いて行かれない様にと立ち上がるリリ

次回、おじさんとリリ

ヘスティアファミリアの魔改造が始まる


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95 おじさんとリリ

細かく書きたいようなすっ飛ばしたいような……悩ましい


リリちゃん改造計画が持ち上がったので改造スケジュールを持ち帰る事にした。

というか改めて考えたらどこまでアレコレが出来るんだろうか?

オラリオの技術と地球技術を掛け合わせてホンマもんの変身ベルトとか作れたりする? うーん、ちょっと呼ぶか。

 

「おじさん、私を呼んでると聞きましたが」

「アスフィちゃんいらっしゃい」

 

来て貰ったのはアイテムメイカーの名前を持つアスフィちゃん。彼女の協力があればきっと出来るはず。

 

小人族(パルムゥ)の女性を……肉体改造……」

「あっ、言っとくけど本人から許可は貰ってるから」

「改造許可……洗脳……」

「ちげーよ、ちゃんと本人の意思だから」

「どう考えても信じられないんですが」

「ま、まあ。後で神同席の元で確認したら間違いないでしょ」

「それなら……」

 

全く信用されなくてワロタ。ワロタ……。

まぁ今までやってた仕打ち考えれば仕方ない様な気もするが……。主神のナニを小さくしたり髪を毟ったり……アレに関しては後悔は一切ないが。

 

「兎も角、ちょっと冒険者の強化が出来ないかを考えてて、その為にも色々と知識が欲しい訳ヨ」

「見返りは?」

「1つ、アイデアの譲渡。2つ、資金提供。3つ、ヘルメスのアレを戻す。どれがいい?」

「っっっ~~~~! 考えさせてください」

「いいよ」

 

穏便(?)にアスフィちゃんの協力を得られたことでやっと開発スタートだ。

コンセプトは『変身もの』装備品を使って素の状態から変身する。変身は現実的に考えてシームレスが望ましい。

それと色んな状態に対応出来る変身フォームとか。それに対応する武器等の存在。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい。一人の冒険者にどれだけのコストをかけるつもりですか!」

「う~ん、いわゆるプロトタイプ……試作って形になるから資金面では気にせずやりたいんだよね。勿論現実的には有限なんだけど」

「では優先順位を決めましょう。まず実現するべきモノはどれですか」

「それなら肉体面の改善かな。でもソコに関して土台の部分は出来上がってるんだよね」

「というと?」

「……ヘルメスに使ったスキル、アレ使うと本当に手広くやれる事が最近分かってさ。自分で実験してるんだけど基礎的なスペック上げれるのよ」

 

そう言って取り出すのはアダマンタイト厚さ3cm程の板。それをアスフィちゃんの目の前で握り潰し、契る。

目を見開いて此方を見てる彼女にもう一枚先ほどと同様のアマダンタイト板を取り出し、今度は指で板を貫通させて引き裂いて見せる。

当然それで指自体は負傷したので直ぐに治す。

 

「今のはスキル使ってスペックを上げまくったから出来たけど上げたスペックに対して皮膚の方が付いていけなくて怪我したし、単純な動作なら出来るけど日常生活が出来なくなる。おじさんは自分のスキルだから直ぐに変更出来るけど他人はこの切り替えが無理だから……どうにか変身って形に落とし込みたいのよ」

「……またムチャクチャな事を言いますね」

「自分でも無茶言ってるのは分かってるけど何とかならんかな?」

「検討から始めますか」

 

◆◆◆◆◆

 

色々と検討した結果、魔法を込める道具というものを目指す事に。何故これにしたかというと……。

 

「元になるモンあるじゃん」

「? 元というと?」

「魔剣」

「あ」

 

回数制限ありだがストックして使用するシステムはある。でもってツテもあるので当然呼び出す。

 

「それで俺っすか」

「頼むよ~、流石に何かしてやりたいじゃんか」

「まあリリ助には俺も何だかんだと世話になってますからね」

 

この日からリリルカ・アーデの肉体改造の第一歩として、魔道具の開発がスタートした。

 

 

 

「おじさん、リリ助の基本スペック自体上げるんですか?」

「彼女の場合は種族特融の小さい身体と身体面の弱さだからぶっちゃけるとソレ改善するだけで大幅に変わりそうなんだよね。ただ……」

「ただ?」

「おじさんの配信リスナーに相談したら盛大にブチ切れられた」

「「……」」

「もう普通に身長伸ばすで良いんじゃないっすか?」

「ここまで労力をかける意味は……」

「いやいや、技術は研鑽しないと駄目だし、ロマンがあるじゃない!」

「……まあ色々見た手前、分からないとは言えないかな」

「私は分かりません」

 

ヴェルフ君とアイコンタクト。お互い無言で頷きアスフィちゃんの肩に手を置く。

 

「へ?」

「んじゃ、モチーフ予定の仮面ライダーBlackからで良いか」

「でも共通語字幕用意するの大変じゃないっすか?」

「あー、いっそ連れてくか」

「それが手っ取り早いっすかね」

「ちょ、ちょっと!?」

「大丈夫大丈夫、痛くないから」

「頭は痛くなるかもだけどな」

「ちょとー!!??」

 

◆◆◆◆◆

 

「キングストーンは無理でしょう」

「無尽蔵は流石にねぇ」

「エネルギーを持つって意味だと魔石に似てるよな」

 

Blackを見て普通に検討中。というかアスフィちゃんが意外にライダーに興味持った。

めっちゃ真剣に見て報酬はアイデアの譲渡を選択した辺りガチだと思う。

 

「目指すのはエネルギーは魔石から取り出して魔法を起動させるアイテムかな? そうなると魔石からエネルギーを抽出、ストックする機構とエネルギーを注いで魔法を実現させる、入れ替えて魔法を変える機構の4つが必要か?」

「そうなると魔法を込めてる部分を切り替える事で使う魔法を切り替えるカードリッジ式にすれば色々な変身タイプは実現出来そうですね」

「うーん、攻撃じゃない魔剣か……取り合えず込める魔法を自在に切り替えられないとな……」

 

ヴェルフ君が作る魔剣ってどうやって魔法を発現させてるんだ?

 

「素材っすよ。モンスターの素材を組み合わせる事で発現します」

「……モンハンみたいに?」

「あー、そうっすね。アレ見た時に俺も魔剣思い出したっす」

 

意外な所でリンクしてんなぁ。と言う事は?

 

「使いたい魔法が使える人間を素材にするとその魔法が使える魔剣が出来る?」

 

おじさんの発言にギョっとする二人。

 

「やった事無いですから何とも……」

「仮にソレが出来ると色んな意味でマズいですよ。ぱっと思い浮かぶだけで回復魔法ユーザーを使った回復魔法剣、補助魔法でも使い方次第で色んな事が出来ますから人間狩りが発生します」

「……一応資料とかに纏めはするけど観覧は3人だけにしよう。例え主神でも開示しないように」

 

頷きあう3人だった。




リリの肉体改造計に集まる人達

仮面ライダーにハマるアスフィ

モンハンに魔剣への類似を見出したヴェルフ

次回、おじさんとリリ2


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96 おじさんとリリ2

折角魔剣の話をしてるから以前から疑問に思ってた事を聞いてみる。

 

「そもそもの疑問なんだけどさ、魔剣ってどうやって魔法使ってんの?」

「素材を組み合わせて」

「いや、そうじゃなくて」

 

魔法の発現に対して魔力の供給ってどうやってるのかって話。

 

「例えば、オラリオの街頭だと魔石使って光を得てる、魔石を使って劣化したら変えるとまた光が灯る。魔剣ってそういうエネルギーは何処から供給してるのかなーって」

「……俺の課題でもあるから考えた事はあるが結局使用回数の変更位が関の山だったな」

 

回数の変更とは?

 

「そうだな、魔剣を作った時に何となく『この位は使えるな』って感覚がある。それを意図的に減らして、その分を威力に上乗せするんだ。逆もまた然り。使う素材を変更しても内包する魔力が多少増えるだけで根本的な解決には至らなかった」

「つまり威力と使用回数を天秤にかけて振り分けが出来る訳かぁ。あれ?」

「要するに供給無しで使い続けて……人で言えばマインドダウンで餓死するのが魔剣という事ですか?」

「魔剣は魔剣、そーいうもんだ。俺だって外から魔力を持ってこれる様になれば解決するとは思ったがソレが今の所上手くいかないんだよ」

 

ヴェルフ君が頭をかきながら溜息を吐く。

 

「俺の目標は『壊れない魔剣』。こいつを作り上げる為に今も鍛冶を続けてるって訳だ」

「ならば魔剣を外付けのハードウェアと考えるのはどうでしょう?」

「うーん、それをするにしたって魔力を外から持ってくる機構が無けりゃな」

「そうなると魔力を通す事で発動するという機構が一つ目の課題ですね」

「……おじさん、さっきからどうしたんだ?」

 

じっと黙って考え事してたらヴェルフ君に声かけられた。

 

「いやー、何かさっきから引っ掛かってるんだけど……思い出せなくてもやもやしてんの」

「結構時間も経ってるし一休みしますか?」

 

ちらりと時計を見る彼に促されて時計を見ればもう深夜2時。こりゃ頭も回らんわ。

 

「んじゃ、今夜は寝て。明日改めてディスカッションすっかー」

「はい」

「うっす」

 

◆◆◆◆◆

 

色々と話し合った結果、おじさんはリリちゃんの肉体の底上げ、ヴェルフ君は必要な魔法が付与された武器の開発、アスフィちゃんは魔力の供給機構の作成。

何はともあれ進みださないと分からん事もあるだろうという事でやってみる事に。

 

その日の内に三人でオラリオに戻り早速作業に取り掛かる。

 

「んじゃ、リリちゃんの肉体改造のステップ1をやってくぞー」

「よ、よろしくお願いします」

「実際にやるのはマッサージだし……合間にアニメでも見る?」

「あ、じゃあお願いします」

「へーい。因みにヘスティアちゃんが薦めて来た奴流すね」

 

そう言ってからメイドインアビスを流す。彼女也のブラックジョーク……だよな?

 

「一応目標というかプランとしちゃ『勇者』を指針としてるってのは説明したよね」

「はい、実際に先達が居るのだからソレを指針にすると」

「うん、それに伴ってリリちゃんはアレを目標に今後鍛錬を積んでもらう予定だから頑張ってね」

「はい!」

 

施術後、改めて説明を。

 

「さて、施術結果だけど今回はステータスに乗らない部分の改善ね」

「ステータスに乗らない?」

「もっと根本的な所を弄ってるからね、建物で言えば土地の整備だとか土台の設置みたいな……だからこそその上に乗るもの、つまりステータスの部分が大きく変わって来る。今は最初だからほんの少しの変化だけど徐々に変化を増やしていって今後のリリちゃん用の奴を使いこなせるようになってもらうから」

 

施術台の上で手をぐーぱーしてるリリちゃん。一応コレも資料として撮影了承済みなので後で纏めよう。

取りあえず隣の部屋で積み木を立てる所からスタートしますか。

 

「あの……流石にリリもそれ位は余裕「おっと」なん……へ?」

 

一歩を踏み出した瞬間壁に激突しそうになるリリちゃんをダイレクトキャッチ。

 

「あっ、あの……コレは?」

「何って……リリちゃんが動いたんでしょうよ」

「そうではなくて! 何で一歩動いただけで壁に激突しそうになるんですか!?」

「……施術したから?」

 

絶句してる所悪いけどそれに慣れてもらうからね? 初期段階だから1週間もあれば慣れるか?

 

 

 

生傷が絶えない状態のリリちゃんが自分の身体を制御できるようになり始めるのに1週間。問題が無くなるまでにトータル2週間。

やっぱり掛かるなぁ。

 

「んじゃ、さっそくダンジョン行くか」

「「「はい!」」」

 

メンバーはおじさん、命ちゃん、春姫ちゃん、リリちゃんの4人。潜る先はダンジョンの3階層。

特に強い敵も居ないしリリちゃんの試運転と春姫ちゃんの動きを見るなら丁度いい。

最初に春姫ちゃんの動きを見てたけど……ゲームと同じ動きしてるやん……命ちゃんナニコレ?

 

「それが春姫殿がゲームを持ってきて、『コレと同じ動きをしたいです』と言って。折角なのでソレを参考に動きを指摘していたらああなりまして」

 

エフェクトこそ無いけどやってる事がモンハンの太刀やんけ。いや、武器は刀、大太刀か? 兎に角モンハンの太刀と殆ど同じ動きだけども……えぇ、ソコから繋げていくの? 君の視点でどないなっとんねん。

いや……えぐぅ、何で目玉だけ綺麗に斬りつけられるの? 練習台の機械カエルじゃないんだからさ。

舞いの様に戦うけどやってる事は部位を一つ一つ丁寧に斬ってるし。

 

「おじさま! どうでしょう!」

「お、おう……良いと思うよ」

「やりました~命ちゃん」

「はい! 春姫殿!」

「おじさん……本当にアレってLv1でしょうか?」

「ステータス上は」

「リリの方がLv1なのでは……」

「いや、君も大概やからな?」

「へ?」

 

そうして春姫ちゃんとリリちゃんが交代して狩りをスタート。狩りをスタートした瞬間、命ちゃん、春姫ちゃんの視界からリリちゃんの姿が消える。

この2週間でリリちゃんが手に入れたのは瞬間的な出力。この子緩急の使い方が異様に上手い。

 

「え?」

「ふぇ?」

 

次々と倒れていくゴブリン。まだ良きがあるゴブリンに近づいて見て見れば急所にキッチリ一撃を入れて場合によっては手足も壊してある。

無音のままゴブリンが現れては倒れていく様は奇妙で肝心のリリが見えない二人は辺りを見回すばかり。

そんな光景が10分もした頃に岩陰からひょっこりとリリちゃんが戻って来る。

 

「はーーー、どうでしょうか? リリ也に上手くやったと思うのですが」

「うん、上手上手。特に人型だからかな、手足の処理も一瞬だったし良かったよ」

「頑張りました!」

「「いやいやいや」」

 

リリちゃん、彼女の観察眼は何か思ってたのとは別方向に働き始めた。

普段は全体を俯瞰するように見ている敵の視線や移動。それが対戦闘になると如何に効率よく倒して見つからないかという方向へ。

そんな彼女に戯れでメタルギアソリッドやらせたらスニークキルする事に目覚めた。

司令塔という役目を担いながら状況に応じて暗殺者に変わり遊撃する。今はスペック的に下層じゃないと通用しないけど、このまま強化したらLv相応の所でも問題なく行えるようになるはず。

 

多分強いと思います。

 

 

 

そんな試運転から帰って来た後、経過報告でアスフィちゃんが効率は悪いが魔力を流す機構を作り上げた。かなり無茶な注文だったのに良く出来たもんだ。

 

「良く作れたね」

「普段なら資金面で使わない様な素材も使いましたからね……ただ効率が悪すぎるので魔力を流す部分の素材を色々と試さないと」

 

ここから鍛冶師として金属の扱いには得意なヴェルフ君も交えて色々と検討していたが……武器の話になると議論が加速した。

 

「だから武器なら(リボルケイン)でしょう!」

「何言ってる! 初期なら(サタンサーベル)だろ!」

「いいえ!作るのならこだわらないと! ならばこそ最終兵装である杖でなければクリエイターとは言えません!」

「それはRXだろーが! 今はコンセプト的にBlackだから絶対剣だ!」

 

二人のブラックが持つ武器は何が良いかという話が終わらないのでおじさんはうんざりしてた。

 

「いっその事色んなパターンの武器作ったら?どうせおじさんのトラベラーと同等の機能は持たせるつもりなんでしょ?」

「ソレはソレ!コレはコレです!」

 

ヴェルフ君も頷いてる。う~ん、職人だからか?




まじカル★サイレントキリング リリルカ・アーデ 爆誕

マジ狩り★舞姫 春姫 爆誕

次回、おじさんとヒッポロ系ニャポーン


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97 おじさんとヒッポロ系ニャポーン

そろそろリアルお仕事再開予定
復帰出来ないと無職おじさんになってしまうので頑張ります


リリちゃんの施術が2段階目に入り、下地が整いだした頃。ある神との面会を求められた。

 

「デメテル?」

「頼むよおじさん! この通り!」

 

ヘスティアちゃんに頼まれたが正直時間の余裕が無いんじゃが。おじさん他の業務もあるので。

 

「そこを何とか頼むよ~」

「えぇい、くっ付いてくるな! ソレはベル君にだけやりなさい!」

「イヤだ! 『うん』と言うまで止めないからな!」

 

この駄々っ子め。というか一旦離れて欲しい。頭に乗るな、乳が重い。首に負担が掛かる。

 

「必殺! 快楽アイアンクロー!」

「はあああああああ♡♡♡!!!」

 

必殺快楽〇〇シリーズとは、おじさんの施術に同意した者のみに行えるおじさんの非殺傷必殺技である。男性に使うととても悲惨な事になるぞ!

 

「ぐぅ♡……おじさん♡♡ ソレは反則♡♡」

「離れない君が悪いんでしょーが」

 

◆◆◆◆◆

 

アレを食らっても尚、交渉を諦めないヘスティアちゃんがゾンビの様に見えた。アヘって地面を這いずりながら匍匐前進してくるってちょっとしたホラーだよ。

 

「それで、デメテルさんだっけ? その人? 神? に会っておじさんは何したらいいのさ」

「会ってくれるのかい?!」

「だって諦めないでしょ」

「まあね」

「ま・あ・ね、じゃないんだが~」

「あだだだ、グリグリは止めて~~~」

 

閑話休題

 

「腰を……ってソレこそポーションで良いじゃん」

 

聞けばどうやらデメテル神とその眷属の数名が腰をやってしまったと。その解決方法としておじさんの施術が候補にあがったと……何故?

 

「ほら、君がアラハビカでやってるアレ、なんたら系……」

「ヒッポロ系ニャポーン」

「それ、おじさん向こうでデメテルの眷属の腰を治したでしょ」

「腰を? ……あ、外傷じゃないのに痛がってるって言われて治したなそういや」

「ソレだよ。その子がデメテルの所の眷属なんだけど病気で運ばれた子が戻ってきたら腰もすっかり治ってるもんだから慢性的に腰をやっちゃう子が治して欲しいってデメテルを通してボクの所に来るんだよ」

「むぅ……そういう訳か」

 

これは迂闊に治してしまったおじさんも悪いかもしれん……という事で出張版ヒッポロ系ニャポーンを……。

 

「開催しません!」

「何でーーー!?」

「一回やったらまたやれって言われるでしょうが。そんなに言うなら対価用意しろ」

 

ヘスティアちゃんが弱ってる人に対して何てことを請求してるんだ! と怒ってたが『じゃあ今までの施術分の対価をヘスティアちゃんが払うなら出張版を行っても良いよ?』と言えば黙った。

ベル君篭絡の為にちょいちょい施術してる君が言えるセリフではないと自覚したまえ。ついでに言えばロキちゃんにはキッチリ対価を要求してるんだから神で贔屓したら禍根が残るぞ。

 

「どうしてもって言うならせめてアラハビカに来る様に言ってよ。日程はどうにか調整してみるから」

「おっ、おじさ~ん」

 

あ~はいはい。そんな重たい胸を載せてくるな。そーいうのは嫁さんで十分なんだよ。

 

 

 

とか言ってた数日後、アラハビカで仕事してたらヘルメスが来た。

 

「これまた意外な客だな」

「やぁ、おじさん」

「それで? もしかしてナニを戻して欲しいって話?」

「それは切実にそうしたいんだけど、今回は別の話だよ」

「?」

「ヘスティアからデメテルの腰の件、聞いてるだろ?」

「まあね」

 

話を聞けばアラハビカに移動したくても腰が痛い、そこでヘルメスの持ってる宙に浮くアイテムを使ってデメテルさんご一考が来ていると……。

ある意味でケチ代表みたいなヘルメスが良く道具なんて貸したなと思ったが何か言い淀んでるから断れない理由があったんだろ。

 

「つまり痛みに耐えれないから早く診てくれと此処に来てる訳だな?」

「そういう事」

「でもさ、ポーションで治せるんじゃねーの? 少なくとも一時的になら」

「俺だってそう言ったんだけどね……『ポーションで誤魔化すのももう限界なの』って言われちゃって」

「……ヘルメスさ~、馬鹿?」

「いきなり馬鹿はひどくないか?」

「何で俺がスケジュール調整するって話をしてたと……いや、もう来てるんだったか。早く行かんと」

 

治療室へ行ってみれば思った通り、デメテルさんが思いっきり全身の検査受けてる最中だった。

医療班を取り合えずゲンコツで気絶さる。

 

「すんません、ウチの医療馬鹿共が……」

「いえ、良いの。コレで腰が治るなら」

 

冷や汗をかきながらやつれた顔でそう言われてしまったので早速治療する事に。

 

 

 

直ぐに腰の治療を済ませてから一旦休んでもらう事に。医療班の奴らやっぱ血液採取してた。

血液と採取に使われた注射器を全部回収。データも全部回収してから他を消去。

電子カルテ、物理的なカルテも全部だ。

そして正気に戻った医療班にお説教。

 

「前にも言ったけど神に関しては診断NG、施術もNG! 下手に色々やってしまうとあんた等全員地球に戻せなくなるって言ったの忘れたか?」

 

全員無言って事は多少なりとマズイとは思ってると信じたい。

 

「人を調べるのと薬関連を調べるのに留めろ。それ以上を俺が居ない所でやって知らない間に向こうに戻れなくなっても俺は責任取れないからな。

 ルールを守れ、ここでのルールはあんた等を守る為のルールだ。それが守れないなら帰れ」

 

◆◆◆◆◆

 

アラハビカに運ばれたデメテルファミリアの全員を治療した翌日。おじさんはデメテル達と共にオラリオへ来ていた。

 

「それじゃ、俺達はコレで」

「ありがとうね、おじさん、ヘルメス」

「あはは、俺は女性の味方だからね~」

 

そう言ってデメテル達をホームに送ってからロキファミリアへ行く。

 

「おじさん、何でロキの所へ? というか俺も行くのかい?」

「ついでだついで」

 

 

 

「おーっす、ロキちゃん」

「おじさんやん、それにヘルメスまで。どうしたん?」

「いや、経過を診に来た。それとついでにちょっとね」

「ほーん、んじゃウチの部屋で話か」

 

ロキの部屋へ通されたおじさんとヘルメス。相変わらず書類が机に積まれてる。

 

「今相当肩が凝ってるでしょ」

「お~、そうやねん。何か思ってた以上に肩に負担が掛かってな。めっちゃ腕が重いんよ」

 

そりゃサイズがサイズだもの。肩が凝るのも当然だ。書類仕事もあるだろうし。

 

「だからヘスティアちゃんと同じサイズは止めとけって言ったんだ。アレは長年あのサイズで生活してるから身体が適応してるんで、急に重たい物付ければ肩が凝るに決まってるじゃん」

「イヤ~、ホンマ。ちょっと舐めてたわ」

 

ヘスティアちゃんとの売り言葉に買い言葉じゃ仕方がないか。一応予防線として1か月過ぎた頃に診断しに来るって言っといて良かった。

 

「じゃあ最初に言ってた通り少しサイズ落とす?」

「あ~、せやな。流石に大きすぎるわ」

「あの~、それで俺は?」

「……ヘルメスもアレを戻してやるよ」

「え!? マジ!?」

 

思わぬタイミングでの申し入れだったからヘルメスがめっちゃ驚いてる。今までおじさんからこういう事言った事が殆ど無いからな。

 

「所謂前払いって奴だ」

「うわ~、何かまた無茶ぶりするのかい?」

「いや、無茶じゃないぞ。裏は大体抑えてるからソレの物的証拠を押さえる仕事をお願いしたい」

「?」

「でもってそのサポートにロキちゃん所の面子を借りたいんだけど」

「ええよ」

「サンキュー、何かあればフレイヤちゃん所のメンバーも動かしてもらうから」

「……何かおじさんってもうオラリオ乗っ取れるんじゃないの?」

「ホンマやな。ウチにフレイヤ、ヘルメスの所、身内にヘスティアとイシュタル。アッチ(アラハビカ)でやってる治療(ヒッポロ系ニャポーン)で色んな所に貸し作ってるやろ」

「いや、別に今更オラリオ乗っ取っても旨味ねーし。各ファミリアの冒険者のLvとか裏でやってる事。何ならオラリオの流通情報の大半は掌握してる上にギルドにも手を回せるから別に大々的にオラリオを統治しても苦労だけ増えるが?」

「「ちょっと待て」」

 

おう、二人ともマジトーン。

 

「えっ、おじさんそんな事(裏でやってる事)まで把握してるの?」

「勿論。ヘルメスの所がやってる事も大体書類に纏めてるぞ。何なら見せてやろうか?」

 

そう言ってヘルメスファミリアがやってる仕事の簡易ログを渡す。詳細な奴は嵩張るから印刷してない。

 

「流通情報の掌握って冗談やろ? 毎日どれだけの品が都市に出入りしてると思ってんねん」

「いや、ギルドに報告が上がって来るからついでに情報と映像を精査して申告と差異が無いかをチェックするついでに纏めれば手間じゃねーし」

 

『ほれ』と言いながらここ1か月の流入出の大まかな品名と量をリスト化した資料を渡す。ついでに相場価格も載せてたり。

 

「……おじさん、ホンマにオラリオを掌握出来るんちゃうか?」

「だからやらないって、ホラみてみ? ここの売買履歴」

 

そういって指を指すのは回復アイテムに関する履歴。

 

「別に変な所は無いやろ」

「と思うじゃん? コレ、先月と先々月のデータな」

 

魅せられた資料を比較するロキとヘルメス。

 

「売り上げが伸びてるみたいやな」

「いや待てロキ、材料の売買と売り上げを比較したら生産量が少なくないか?」

 

ヘルメスが素材の流通量に注目し頭の中で計算しだした。やっぱこの辺は優秀なんだよなぁヘルメスって。

 

「それこそ備蓄の分とかあるんちゃうか?」

「いや、医療系ファミリアはギルドとの契約で納品するだろ。ソレから計算してもこの量はちょっと変だ」

「流石に契約内容までは知らんけどこんなもんちゃうんか? 裏帳簿位あるやろ」

「でもこの量のズレはちょっと変だな。おじさんどうせ別の資料があるんだろ?」

 

言われて取り出したのは素材の取引先をまとめた資料。資料を眺めてヘルメスが気づく。

 

「これ……別の品目として売買されてるな」

「流石、流通に関しては鋭いな」

 

パラパラと資料が捲られ読み込んでいくヘルメス。そしてとあるページで指が止まる。

 

「コレだ。食品として処理されてるけど単価が可笑しい。季節柄この品目なら上下しても可笑しくは無いけど、この数と単価は釣り合ってないぞ」

「……おじさん良くこんな情報纏めてたな……ざっくり額面で処理されてると絶対分からんやろコレ」

「おじさんって元々こーいう情報に関して扱う仕事もしてたからね~、情報の違和感を探し出したり情報の精査って得意なのよ」

 

神二人が胡乱な目をしてコッチを見てるがここからが本題。

 

「で、二人に調べて欲しいのはこの件に関して。おじさんが掴んでる情報を繋ぎ集めるとだ……」




やはり気を付けても紐付きは入って来るもの

ビックデータを精査すると見えるモノに現実のメスを入れれば動かぬ証拠が

次回、おじさんと裏帳簿


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98 おじさんと裏帳簿

人知れず行われたロキ、ヘルメスの施術から1か月。

ヘルメスから上がって来た資料をデジタルに取り込んで目を通す。

 

意外にもロイマンはグレーゾーン。まぁ黒よりだけど。

とは言え今のギルドの運用を支えてる能力を考えれば現実的にはセーフか。それにしてもロイマン……ちっぱい趣味かぁ。

PCの履歴から辿るロイマンの性的思考は色白の所謂胸の小さい子が好きな様で背丈に関してはまちまち。アイツ痩せたら面が良いんだからロマンスグレー的な事は出来そうなんだが何でやらんのだろう?

 

そんな事を考えながらヘルメスのデータと比較してギルド職員のリストにチェックを入れていく。

そうすると一つ奇妙な事が浮かび上がる。

素材の買取業務と資料課に携わる人間に黒が多い。

PCを与えた人間にも黒に該当する奴が居るので中のデータと録画データを数名分覗いているとその内出てくる裏帳簿。

 

中を覗いてたら恐らくギルドの裏帳簿の更に裏。

何せロイマンが付けてる裏帳簿を把握した上で更に掠め取ってるんだもの。

 

さてこれはどうしたもんか。どのタイミングでこの情報を使うのかがキモになりそう。

 

◆◆◆◆◆

 

医療系の大手といえば以前声をかけられたディアンケヒトファミリア。そしてヘルメスが集めてくれた情報によればここも裏帳簿がある。

まー、基本的に金を貯めこもうとしたらそういう帳簿が必要になるのも経営者として分かるけど……。

 

「それでもコレはちょーっと変じゃなかろうか?」

 

ヘルメスが上手い事やって持ってきた裏帳簿の写し。ソレの内容を精査して把握してる仕入れ量と比較。

すると裏帳簿とも噛み合わない部分が浮かび上がってくる。

ディアンケヒトが主導でやってるのが素材の横流しだとして……調合で多少の失敗はあるだろう、でも明らかに素材の消費量が釣り合ってない。1~2%の損失なら分かるけど8%は可笑しくない?

この消えた素材量は果たして何処へ行ったのか。購入者をリストアップしてみっか。

 

 

 

ディアンケヒトファミリアに出入りしている人間をリストアップして冒険者と商人とその他に区分。更に何処のファミリアかを照合して整頓。

商人の場合は輸出で何処へ売りに出したのかを確認。一般人ならどの地区に住んでいるのか町中に張り巡らせたカメラから足取りを確認。

すると幾つか面白い事が見えてくる。商人と一般人の一部がダイダロス通りに消え、都市外に輸出されるはずのポーションの一部が売買されている。

そして売買後の客が足を運ぶのがダイダロス通り。

 

スラム街と同等なので犯罪の温床になっているのは間違いないが色々とマズイ事が進行していそう。

もしかして此処にも闇派閥食い込んでたりする?

 

 

 

はい、黒でした。ヘルメスの所がメインで怪しい動きをしてる人間をリストアップして行動を監視してもらったけど闇派閥に繋がってた。

本当に色んな所に食い込んでるな闇派閥。

これでギルド、医療系は黒が居る事に。後ありそうな所だと……鍛冶系、商業系。

探索系に関しては手が出せないから横に置いておくとして、残りは仕入れと売却の流れを見て見るか。

闇派閥を絞り出すにも禍根を残す訳にもいかないし地味な作業を続けて相手の組織体力を減らすのが一番の近道であるのは分かってるが……。何時になったら落ち着けるのやら。

 

◆◆◆◆◆

 

「リリちゃん」

「あれ、おじ様。どうしたんですか?」

「アレ、どうなった?」

「一応リリなりに出来ましたけど……必要ですか、コレ」

「本当に出来たんだ」

「そりゃ、やれって言われたらやりますけど。でもやる意味ってあるんです?」

「んー、一部の過激派が騒ぐので出来ればやってくれると」

「はあ、良くわかりませんがソレの前でやればいいんですか?」

 

配信準備をして気の抜けるリリちゃんに渡す革のドライビンググローブ。配信準備が完了して流れるBGM。

配信画面には期待こメントが流れている。

 

「OK、こっちの準備も完了出来た。それじゃ宜しく~」

 

一息ついて気合を入れるリリちゃん。真剣な表情で右腕を縦、左手を横の状態で拳を握り固める事で革独特の音が鳴る。

そう、彼女がやってるのは仮面ライダーBlackの変身ポーズ。当然本当に変身が出来るには至っておらず、専用装備も出来ていないが視聴者達が余りに変身ポーズの出来をせがむので実演して貰っている。

で、リリちゃんの変身ポーズだがかなり決まっている。というのも冒険者のlv2にもなれば流石にステータスが上がってるお陰で動きのキレが一般人とかなり違う。

加えて最近ガチ肉体改造を施しているお陰で動き一つ一つが機敏でかなり映えるのだ。

 

変身ポーズをばっちりキメてその場でバク宙まで決めてシメ。

思わず拍手。コメントでも大量の拍手コメと評価が流れてる。

 

「いや~、ありがと。コレで過激派も一旦大人しくなるわ」

「結局その過激派って何なんですか?」

「……リリちゃん。知らない方が良い事もある」

「はぁ」

 

理解したら本番でやってくれなくなるからまだ黙っておこう。




闇派閥の裏どりと組織の流通を探すおじさん

進む改造計画とポージング

次回、おじさんとポーション


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99 おじさんとポーション

ちょっと新しい事をやってソッチに時間割いてたので遅れました
あと目の調子も不安定なので明日病院行ってくるぜ!
ついでに仕事もそろそろ再開できそうだぜ!(やったぜ!)

時事ネタ
結末がこうなってればよかったなーという話


珍しくおじさんの携帯に電話があった。オラリオに居るのにだ。

社内連絡なら大体内線だし携帯にかかって来る事はまず無い。なのに携帯が鳴ってる。

番号も見たことが無いからうーんと思いながらも電話に出る。

 

「もしもし」

 

出た瞬間入って来る雑音と怒号。思わず耳から放してスピーカーにして聞いてるとどうやら電話口は林さん。

 

「す、すいません! 今すぐ! 今すぐあちら側(オラリオ)のポーションを持ってこれませんか!?」

「えっと、何がありました?」

「テロです! 総理大臣がテロにあいました!!」

「……は? 冗談?」

「いいえ、本当です。可能であれば今すぐお願いします。直ぐに車を回すので!」

「状態は?」

「意識不明の重体。しかしこちら(日本)のポーションのお陰で延命は出来てますが……」

「解りました。直ぐに最上級(エリクサー)を持っていきます」

 

通話を切ってウラノスとフェルズに話しかける。

 

「すまん。会合はここまでにしてくれ」

「構わない、一大事の様だしな」

「対象:ディアンケヒトファミリア 【テレポート】」

 

宙に開いた穴を潜り消えるおじさん。それを見送った(ウラノス)とその協力者(フェルズ)

 

「相変わらず彼は忙しいらしいな」

『忙しいというよりアレは忙殺されているのではないか?』

「本人の望みと周囲に溝があるタイプか、嘗てのお前の様だな」

『ならばアドバイスとして成果は素直に報告するものではないとアドバイスをしなければな』

「それは困る。何かしら見返りを用意せねばな」

 

 

 

ディアンケヒトの店の裏から出て表口から入る。店番の子は初見の子。しまったな、手持ちが無いからこの子相手じゃツケで買い物が出来ん。

一度アラハビカに戻って金を取ってこようと踵を返した所で声を掛けられた。

 

「おじさんじゃないですか、今日はどうしたんですか?」

 

振り返ればアミッドちゃん。どうやら丁度買い出しから戻って来たらしい。

 

「急で申し訳ないんだけど一番良いエリクサーが欲しい。今手持ちが無いから明日にでも持ってくるし、何なら値段上乗せしても構わないから用意して貰えないかな?」

「……急を要するんですか?」

「そう、今すぐに向かわないと不味い」

「ではこうしませんか。私を連れて行く。代わりにお題は少し割引ます」

「……何の話かな」

「私、知ってるんですよ。ディアンケヒト様が貴方の愚痴を零しているのを聞きましたから。ね、連れて行きましょうよ、きっと役に立ちますから」

「(前回の神会で、ある程度出来る事が神にばれたからなぁ。どっかから日本側の情報が漏れた?

 あー、考えてる時間が惜しい。連れて行くか)

 分かった、連れて行くから直ぐにエリクサーを用意してくれ」

「はい」

 

 

 

ワールドテレポートを介して日本の自宅に着いたので上着を羽織り、アミッドにもサイズが合わないがイシュタルちゃんの上着を羽織らせる。

 

「へ?」

「ほら、行くぞ」

「えっ、え?」

「時間が無いって言っただろうが」

 

戸惑ってるアミッドを抱えて自宅から出れば既に待機している車。挨拶もそこそこに車に乗って出してもらう。

近くの離着陸可能なヘリポートが設置されてる緊急病院まで行き、そこからヘリで最寄りの軍事基地へ。

直ぐ戦闘機に乗せられマッハを超える速度で最寄りの基地まで飛ぶ。

常識では考えられない強行軍のお陰で日本に戻ってきて2時間と少しで総理大臣が運び込まれた病院へ辿り着いた。

 

連れに対しての説明は最初の車の中でしていたので問題なく入る事が出来、患者の元へ辿り着けた。

部屋の中には機械に繋がれ点滴が投与されている大臣の姿。アミッドからエリクサーを受け取り用意してもらった容器に移し替えて点滴に加えていく。オラリオではポーションを患部に直接かけるor飲むのが一般的だが日本で使う際は静脈注射が一番効果が高いと報告が上がってきている。

点滴から送られたエリクサーが身体に作用し傷を癒していく。身体に開いた傷は悉く閉じていき同席している医者はその効能の強さに目を見開いて口が開いている。

そんな医者を横目に見ながら大臣の傷へ注視する。外傷、完治。ぱっと見で見える範囲に傷は無し。

医者を正気に戻してバイタルを診てもらうと問題は無いらしい。意識が戻って無いので暫く待機をする事にしたが……。

なんかアミッドがキョロキョロしてるしコレはおじさんやってしまったか。

 

「(アミッド、エリクサーって持ってきたの1本だけ?)」

「(いえ、念のためにもう2本持ってきました)」

「(ナイス。その料金も含めてオラリオに戻ったら買い上げるわ)」

「(それは良いのですが……あの、此処は何処なんでしょうか?)」

「(あー……因みにディアンケヒトが言ってた愚痴ってどんなの?)」

「(人間なのに性の転換が~とか、技術をないがしろにしおって~とかそういうのです)」

 

完全に読み間違えた……全然日本の事は漏れてない。これはやらかしましたわ。

 

「よし、どうせ一日は戻れないし……巻き込まれたお前さんにもちゃんと説明しようかね」

「……私、何かに巻き込まれたんですか?」

 

政府側が用意してくれたホテルにアミッド共に移動して説明に時間を割く。

 

「つまり、ここはオラリオとは違う世界?」

「そいう認識であってる」

 

驚いた表情をするアミッドだったが同時に腑に落ちたらしい。

 

「そうですか、あれほどの医療に関する技術が我々のファミリアに流れてこなかったのも納得です。あれはとても画期的な方法ですし……アレを是非ウチのファミリアに!」

「技術は渡しません」

「えー」

「えーじゃない。仮にアレをお前の所のファミリアで導入したとしてどうやって説明するんだよ。物品とかでいずれ壊れて無くなる物とか既存製品の拡張とか延長線上のものならまだしもオラリオの医療とこっち(日本)の医療Lvはかけ離れ過ぎてるんだよ。

そんな技術を導入してみろ、技術を正しく運用出来るかどうかすら怪しいぞ」

「私なら大丈夫ですよ!」

「お前『は』大丈夫でも『他が』駄目だろ」

 

おじさんの言わんとしている事が分かったのか口を紡ぐアミッド。が、未練は見て取れる。

ぶっちゃければ別に技術が流れようとおじさんは困らないけどあの世界だと戦争被害がくっそ拡大するんだよな……そして責任追及しやがるし。いかん、過去のミスを考えると頭が痛い。

 

「兎に角この件に関しては絶対許可は出さんしウチ(アラハビカ)以外で使わせる気は無いからな」

 

再度釘を刺して話を切り上げ待機していると大臣の意識回復の知らせが入った。

特に問題も無く意思疎通が出来ているそうなのでここでお役御免として帰る事に。当然の様にアミッドが駄々を捏ねたが医療関係の知識は一つも渡さなかった。

何度か前の人生でお前に振り回されまくった二の轍は踏まんぞ……。

 

とはいえ、ワールドテレポートのクールタイムがあるので直ぐにオラリオに戻れる訳じゃないから……折角なのでアミッド連れて観光でもするか。

 

 

 

失敗した。観光なら大丈夫だろうとか思わずにさっさと自宅に戻るべきだった。

薬局で全力で駄々捏ねるんじゃねぇ! 銀髪美人が地面で寝転んで全力駄々で周りの目が痛ぇんだよ畜生が‼‼‼

結局店にあるモノに限るという制限付きで買い与えたが……コレ、大丈夫かなぁ。




実は認識にすれ違いがあったが気づかないおじさん

女性の何が何でも手に入れるという執念を甘く見たおじさん

次回、おじさんと同人誌

※次回は本編とは何ら関係ない話になる予定


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100 おじさんと同人誌

関係ない話とは何だったのか


総理大臣テロ襲撃事件の翌日、不安もあったが過去の恩もあり大量の荷物を抱えたアミッドをオラリオに送りだした。

 

「で、大臣はもう大丈夫なんですか?」

「ええ、今は意識もはっきりしているし念のため検査を受けている所ですが何事も無ければ一日様子を見て退院になるでしょう」

「そいつは良かった」

 

林さんと対面で大臣の様子を聞きやっと安心出来た。

何かあればアミッドから買い上げた残りのエリクサーもぶち込む予定だったけど使わなくて済むならそれでいいか。

 

「それで何ですが……一つ確認したい事が」

「何でしょう」

「その……今回使った薬はどういった効果なんでしょうか?」

「どういった? ……肉体の再生を促す薬という認識ですが」

「その……大臣の身体は確かに再生して健康になっているんですが、何というか……少し若くなっているんです」

「……若く?」

「ええ、なので医者が細かく検査をしていて……ただコレが知られると色々厄介な事になりそうなのでコチラで情報規制をかけました」

「ありがとうございます……でもそんな効果は……今回使用した薬は費用がかかるので研究対象とはしていませんでした。ちょっと……今いるメンバーから更に絞って研究してみます」

「その方が良いでしょう。恐らくソレは基本的に使わない方が良い類のものかもしれません」

 

◆◆◆◆◆

 

予想外の報告を受けて考える事と作業が増えた事に頭を悩ませつつ飛行機と電車で自宅まで戻る。だらだらしたいので酒とツマミを買い、向こうに持っていく物品をコンテナ毎トラベラーに仕舞い自宅に戻った。

家に帰りつくと何やら段ボールで荷物が……検査で通って来た物だから変なモンじゃないだろうけど、何も注文して無かったよな?

箱を開けてみると……おじさんの同人誌だった。

 

もう一度言おう。

 

おじさんの同人誌だった。

 

 

 

【緊急】ダンまち同人誌作った奴来い【放送】

 

「おい、おじさんの同人誌作った奴」

 

『?』

『おじさんが出る同人誌?』

『おじさんが竿役のダンまち同人誌の事か?』

『意外とあるよな』

『でもダンまち最新作でおじさんの嫁が作中死亡してたのは驚いた』

『人気だよな嫁×おじの本』

『作中ベル君はチート化が凄い』

 

「今日家に帰ったらおじさんの家に同人誌が届いてたのよ」

 

『草』

『www』

『公式に同人誌送るやーつ』

『まじかよ、迷惑過ぎるだろ』

 

「いやね、おじさんだってさ。同人誌自体は嫌いじゃないし二次創作とかして貰っても良いのよ」

 

『なら良いのでは?』

『何か問題があったのか』

『きっと碌な事じゃないぞ』

『何が飛び出してくるのか楽しみだ』

 

画面が居から本を取り出すとそこに握られた一冊の本。

 

「問題の一冊がこちらです。『おじさん(細)×おじさん(太)』という地獄の様な作品を生み出した奴。作るのは勝手にしてくれて良いが送って来ないで」

 

『wwwwwwwww』

『大草原www』

『うわぁ……』

『これはヒデェ』

『おじ×おじwwwww』

『こwれwはwひwどwいw』

『草草の草』

『需要is何処?』

『自己供給型の究極wwww』

『何故コレを選んだしw』

 

「中はまだ見てないけどもうタイトルからしてヒデぇ……何だよ『異世界おじさんの究極(自愛)プレイ』って。頭おかしいよ」

 

『究極(自愛)www』

『描いた奴頭おかしいよww』

『中を見るつもりなのか』

『自ら地雷を踏みに行くスタイル』

『おじさんのそういう所は好感持てる』

『真似はしたくないがな』

 

「んで、中身は……うっわぁ……初手事故からのプラナリアみたいに増えるおじさんって」

 

『わーぉ』

『R18Gを装ったブラクラかい』

『これは色んな意味で名誉棄損で訴えたら勝てるのでは?』

『草も生えない』

 

黙々と読み進み最後まで本を読み進めたおじさんはページを捲る度に顔色が悪くなっているのが配信画面越しですら見て取れた。

その為、流石のコメント欄でも心配の声が上がる。が、それに反応する気力すら湧いてこない。

 

「……普通の同人誌だったら一言物申すだけのつもりだったけど中身が完全に脅迫文なのでコレ描いた人は真面目に訴えるのでよろしく。いや、頭おかしいって」

 

『まさかの展開w』

『おじさんの所へ届くものって検閲なかったっけ?』

『検閲ガバかよ』

『そりゃ同人誌の体を装った脅迫文とは頭オカシイもんは想定外じゃろ』

『そもそも本人の同人誌を通す時点で変』

『陰謀の匂いがしますねクォレハ』

 

その後は他の同人誌に関して軽くコメントを添えて配信を終了。ノーマル本は良いけどBLは送ってこなくてよし。嫁さんとのイチャコラ本はすごくうれしかったので嫁と読むと言ったら作者と思われるコメントが発狂してたのはウケた。

後でSNSフォローしとこ。

 

 

 

配信終了後に即刻弁護士に連絡して名誉棄損で訴える事に。

結論から言うと頭ファビョった人だった。『異世界に行くのは俺だった!』だの『俺の能力を奪ったんだ!』とか。

余りにも酷かったので言ってやった。

 

「じゃあ行けば?」

「は?」

「だから、行けば? 異世界」

「おまえが〇×▲!!!?」

「……そんなに未知の世界に行きたいのなら送ってやろうか? その変わり二度と戻って来れる保証も、ましてや生きていける保証も無いけど」

 

そこで相手の罵声がピタリと止んだ。そしたらオラリオに飛ばせだどうだこうだと言ってくる。

 

「あんたはあんたの異世界に行けば良いじゃん。つーかランダムに飛ばすんだから俺だって先が何処か分からないんだよ。

 あんな本を描く位に鬱憤が溜まってたんだろ? その鬱憤を別の世界で良い方向に使えばこっちでうだうだ生活するよりマシなんじゃねーの?」

 

異世界に移動出来る事は周知の事実だしランダムジャンプできる事も公開じゃ。ナメられ続けるのも好きじゃないし。

そして相手は異世界に旅立つ事になった、勿論きちんと賠償金は払って貰った上でだけど。

金をどうやって工面したとかは一切聞かないし興味なし。ただ当日は本人+政府関係者が来てたけどもう全スルー。ささと終わらせましょ。

 

「対象:コイツが行くはずだったどっかの世界 【ワールドテレポート】」

 

テキトーな事言ってるが単純にランダムで繋がった穴に男は大量の荷物と共に飛び込んでいった。周りで見てた人間からすると急に人が消えたから驚くだろうけど。

んで、後で何処の世界に繋げたのか聞かれたけどおじさんも知りません。本当にランダムに繋げたし再度繋げるつもりもないから覚えてもない。

彼が自力で戻る方法? 知らん。

俺、言ってたよね。

 

「二度と戻って来れる保証も、ましてや生きていける保証も無い」

 

その後遺族を名乗る奴が来たけどその辺りに通達した上で本人が選んだ事なのでおじさんは責任取りませんと突き放した。

裁判起こされたけど、そもそも口頭でのやり取りが栽判所の中で行われたので公式記録にばっちり残ってる訳で……。結果、おじさん勝訴。

 

おじさんのネットのあだ名が異世界おじさんになりました。

 

例のイチャコラ本を読んだ後、イシュタルちゃんが作者フォローしてるのワロタ。




おじさん、正式(?)に異世界おじさんと呼ばれる様に

次回、おじさんと調査


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101 おじさんと調査

「そあれじゃあオッタル君、今回は宜しく」

「ああ」

 

バベル前で待ち合わせていたオッタル君と合流したおじさん。二人で目指すのは60階層。

 

「それで、フレイヤ様から手伝う様に言われたが深層の探索で良かったのか?」

「深層の探索っつーか、深層に居るであろうヤツを探す手伝いだね」

「深層に居る?」

「そ、妖精を探す。ついでにおじさんの修行」

 

 

 

30層までおじさんの【テレポーテーション】でショートカットして先へ進む。

 

「何と言うか……随分と出鱈目な魔法だな」

 

【トラベラー】から飯を出して休憩中にオッタル君に呆れられた。

 

「そう?」

「一人で移動と補給を両立させて戦闘まで出来る冒険者なぞ貴様しか居ないだろう」

「珍しい自覚はあるけどさ」

「ましてや神であるフレイヤ様にまで通用する能力……妖精を探す理由は何だ」

「それはフレイヤちゃんに聞いてこいって言われた?」

「いや、個人的な興味からだ」

 

うーん、寡黙なオッタル君が興味をねぇ……まあ協力して貰ってるから説明しとくか。

 

 

 

「俄かには信じがたいな」

「そりゃそうだけど、事実だしな。何なら嫁さん(イシュタルちゃん)の名に誓おうか?」

「……いや、良い」

「ま、そういう訳で深層に居るだろう妖精を探してるって訳」

「フレイヤ様への恩もある、全力で手伝おう」

「ま、所在を突き止めるのが目標だから何かあれば逃げ最優先な、生きてりゃ何とかなる」

「了承した」

 

そこからはオッタル君サポートの元、おじさんのステータス上げも兼ねながら深層を目指して移動。普段のオッタル君の鍛錬の内容を垣間見たが……いやー、ちょっと真似出来そうに無い。

おじさんが体質変化:流動硬化(モード:ゴライアス)でやってる様な事を素で行うんだもん。ありゃ真似するには自力が足りん。

40層を超え、デビル種を倒しながらふと気になった事を聞いてみる。

 

「そういやこの間フレイヤちゃんに頼まれて彼女と団員の半分を性転換させてたけど……大丈夫だった?」

 

するとオッタルのデビル種への攻撃が止んで立ち尽くしてしまった。かと思ったら次の瞬間に強烈な一撃を発しダンジョンの壁に大きな亀裂が入る。

あまりの一撃におじさんとデビル種、両方とも固まってしまった。

デビル種を片付けた後、沈んでるオッタル君と休憩しているとぽつぽつと話し始めたので聞いてみると、あの色ボケ(フレイヤ)ちゃん、どうやら男性として楽しんだ後でオッタル君に後片付けをさせているらしい。

想像したら激萎え。

何? 敬愛している女神の事後のベットを片付けて、女神のナニ付いた身体を洗う事を強要されて、更に女神の雄汁まみれの眷属の面倒までみてるの?

完全にパワハラじゃねーかよ。え"っ、夜の共をさせられるときがある?

……それはオッタル君が誰を……いや! いい、何も言わんでくれ。聞くと巻き込まれそうだから聞くの止める。

止めろ! 俺は聞きたくないぞ!

 

 

 

何とかフレイヤファミリアの深淵を覗かずに済んだおじさんはオッタル君と共に50階層に到達。

一旦リフレッシュって事でオラリオに戻ろうとしたらオッタル君が全力で嫌がったので聞いてみたら何やら自分の代わりを置いてこの手伝いに来ているので今ファミリアに戻るのは体裁が悪いんだとか。

んじゃ、おじさんの所で休むかって事でアラハビカへご招待。

 

「ただいま~」

「おや、おじ。おかえり……それにオッタルも一緒か」

「女神イシュタル……邪魔をする」

「おじが連れて来たんだろ、気にせず寛ぎな。おじは炭酸水として……オッタル、アンタも何か飲むかい?」

「では同じものを」

「はいはい」

 

出された炭酸水の刺激に少し驚きながら喉を潤すオッタル君。ま、あんな状態の所に戻るよりはコッチなら多少は休めるでしょ。

 

「それで、この3日で何処まで潜ったのさ?」

「30層から初めて50層まで、いや~やっぱオラリオ最強は強いわ、同じことやろうとしたらゴライアス化しねーと無理無理」

「いや、おじはそーいう所本当に無頓着だけど、Lv5でLv7と同じことが出来る時点で異常だからな」

 

オッタル君がめっちゃ頷いてる。そんな事言われましても……これでも目指してる完成形には程遠いんだけどな。

 

「また前言ってたシステムの話かい」

「……システムというのは?」

「聞いてくれよオッタル。こいつの頭おかしい所! 本当に何でそんな発想が出るのか!」

 

この後オッタル君同席でめっちゃイシュタルちゃんに愚痴られた。巻き込んでしまったオッタル君に悪かったので後でイシュタルファミリアの誰かに頼んでオッタル君を癒して貰おう。

 

アラハビカで休んだ翌日。

おじさんとオッタル君で50階層からじっくりと降りていく。

やはり深層なので出てくるモンスター一体一体が強くて硬い。そして戦い方が上手い。

やばい時はオッタル君がサポートに入ってくれてるが基本は一人で対応。敵との距離が詰まっておじさん棒使って敵を吹っ飛ばしたりして距離を取ると途端に死角から横やりが飛んでくる。

ガンガン集中力が削られて半日程で一度セーフティポイントに戻る事に。

 

「だー! くっそきちぃ! 何でオッタル君はアレを単騎で捌けるのよ」

「何故と言われても一つ一つ捌いて行けばいずれ片付く」

「あー、やっぱ自力の問題やな」

 

基本スペックの違いもあるし、おじさんの場合脂肪のストックが切れると戦闘継続時間が一気に減るからな。今もストックしてた脂肪が殆どなくなってしまった。

 

「……折角だ、腰を据えてLvを上げてはどうだ?」

「へ?」

「俺としてもこの階層への移動時間を考えればお前のLv上げに付き合ってもお釣りが来る」

「まじか~、そりゃ有難い! 是非頼む!」

「了承した」

 

 

 

「っで、本音は?」

「……」

「お前さんから言うのがキツイならおじさんからフレイヤちゃんに言ってやろうか?」

「……すまんが頼む」




はっちゃける色ボケ(フレイヤ)ちゃんに頭を悩ませるオッタル君

そんな彼とLv上げに勤しむおじさん

次回、おじさんと調査2


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102 おじさんと調査2

オッタル君と深層で訓練しながらリリちゃんの肉体と装備作り、闇派閥との繋がりに関する探り、アラハビカの運営等。やる事が山積みながらある種充実している日々を過ごす事半年。

どうにか深層でも一人で立ち回りが可能な位になってきた。そんな頃にリリちゃん装備開発の二人から連絡が入った。

 

渡されたのはベルトとサーベル。リリちゃん用の為に小ぶりながらも確かな存在感を放つ二つに男心を擽られるのはやはり世代なのか。

 

「んじゃベルトから説明お願いして良い?」

「ええ、以前試作として作り上げたモノに改良を重ねて仕上げたエネルギー変換型ベルト。中にキングストーン……と行きたい所ですが流石にあんな物は無いので変わりに魔石を入れてます」

「魔石?」

「えぇ、それも特殊加工を施した深層のモンスターの魔石です」

 

そう言ってからベルトのバックル部分を操作して開け、中に収められた直径1cm程の小さなプレート状の魔石を取り出す。

 

「コレを作るにあたり着目したのはモンスターの強化種への変異方法です」

「魔石を食べて強くなるって奴?」

「はい、サンプルは幸い此処(アラハビカ)にいくらでもあったので観察して方法を突き止めました」

 

そう言ってから取り出したプレート状の魔石を再度ベルトに収め直し、バックルの上に別の魔石を置くと魔石がサラサラと砂状になり崩れ落ちた。

驚くおじさんとヴェルフ君。その反応に気分を良くしたのか上機嫌で説明するアスフィちゃん。

 

「簡単に言えばこのベルトはモンスターと同じ様になるベルトです。他の魔石からエネルギーを吸い上げ、自身(装備者)へエネルギーを回すベルト。勿論エネルギーを回す対象は注文通り変更可能です」

 

注文通りの性能に思わず拍手のおじさんとヴェルフ君。

 

「難点はあくまでも『魔石から』エネルギーを抽出するのであって、おじさんが希望していた装備者から補填するといった様な機能は付けられませんでした」

「いやいや、凄いって。ここまで作れたら十分よ」

「私としてはもう少しエネルギー効率を上げる事も出来ると思うんですが……如何せん時間が掛かります」

 

話を聞けばどうやら深層の魔石を使って大き目の魔法1回分のエネルギーらしい。その事にアスフィちゃんは嘆いているが正直今の段階では十分だ。

 

「じゃあ次は俺だな」

 

そう言ってヴェルフ君が手に取ったサーベル。刀身は深紅にアームガードはツルリとシンプルだがこのシルエットは間違いなく……。

 

「シャドームーンが使ってたサタンサーベルを模して作った魔剣『魔月(まこう)』だ。効果はシンプル、魔力を受ける事で炎を生み、斬撃として飛ばす」

「おぉ……ヴェルフ君も出来たんだ」

「俺としちゃ、ある意味一人で達成したかったモンなんだが……でもお陰で俺の目標である壊れない魔剣への足掛かりになったぜ」

「って事は?」

「当然コイツは何度使おうが壊れない」

「おー!」

「待ってください、足掛かりになったということは……」

「ああ、壊れない魔剣を作る目途も立った」

「それが本当なら凄い事ですよ。今までの常識が覆る」

「と言ってもなぁ……俺が本当に目指したモノじゃなくなっちまったが」

「どういう事です?」

「まずは魔月のレシピを見てくれ」

 

そこに書いてあるのは魔石、モンスターのドロップアイテム、金属、そして……おじさんの血。

 

「この血の部分を使用者の血液にする事で魔剣と使用者の間に魔力を通す事が出来る事が分かった」

「……? それではこの剣はおじさんにしか使えないという事ですか?」

「いや……多分おじさんのスキルの影響だな。製作者の俺やおじさんのスキルを受けた椿は問題なく使えるが、スキルを受けて無い同僚はコイツ(魔月)を使えなかった」

「えっ、って事はこの剣って特殊武器(スペリオルズ)?」

「分類的にはそうなるな」

 

素材におじさんを使ったらおじさんと契約した人にしか使えない魔剣が出来たと……おじさんはキューベイだった?

リリちゃんにジュエルシードを植え付ける役目をおじさんが?

等とアホな事を考えている間に話は進む。

 

「それでおじさん、リリ助の方はどうなんだ?」

「ああ、そろそろ3段階目の肉体改造かなってラインに到達するね。Lv3の下位冒険者位の動きは出来ると思うよ」

「なるほど、つまりソレが出来たら」

「遂に作るんだな……俺達でリリ助の鎧を!」

「収納の方はどう?」

「一応私の方で簡易版の道具は作りました。腕輪状にして両手に付けて特定の所作で作動するように……魔力の供給もベルトから流れる様に出来てます」

「となると後はデザインと格納可能な重量との勝負だな」

「候補は?」

「俺としちゃやっぱBlackなんだが……」

「彼女は女性ですよ? 能力は兎も角、装い位は配慮した方が……」

「「「う~~ん」」」

 

こうして開発者達(馬鹿三人)の会議は続く。

 

◆◆◆◆◆

 

色々進めていたモノが形になり始め深層をオッタル君とのコンビで進む事も出来るようになった。

その間にフレイヤちゃんに性転換での女遊びを控えるように言ったら、生えたまま男遊びをする様になりオッタル君が更に頭を悩ませる様になったのは別の話。

そんな生活を送る事約1年。

おじさんのステータスがランクアップ可能な領域に入る頃、遂に目的を達成した。

 

「居た……」

「あれが?」

「ああ……おじさんが探してた精霊だ」




着々と進むリリちゃんの改造計画

そしておじさんのダンジョンに潜る目標を遂に発見する

次回、おじさんと調査3


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103 おじさんと調査3

仕事再開したら時間がっ!
ついでに言うと今回出したフルプレートのデザインを実際に描いてたら時間かかりました。


「あれが……妖精?」

 

オッタルの目に映るのは氷柱に浮かぶ女性の様なナニカ。そしてソレを腹に抱える様に佇む熊型のモンスター。だがそれはクマと呼ぶには背中から生える触手と周りにうろつく狼型モンスターを捕獲し触手で飲み込む様はとても妖精と呼べる光景ではなかった。

 

「う~ん、幸い気づかれてないけどこれ以上近づくとやばいな」

「む? 俺はまだ近づけると思うが……」

「いや、おじさんの方がやばい。撤退しよう」

 

下手に留まるとマズイと感じたので直ぐに【テレポーテーション】で50階層へ。

改めて腰を落ち着けて先ほどの相手と自分の戦力を図る。

 

「どう? オッタル君はアレに勝てそう?」

「邪魔が入らない、そういう状況下なら戦えるだろうが……周りの狼が厄介だな」

「あれなー、推定Lvどれくらいだろう」

「Lv6の中盤から後半なら相手に出来るだろう」

「だよねー、おじさんも一匹なら対応出来そうだけど群れで来られると対応しきれないな。後、気づいてたか分からんけど、熊の足元見てた?」

「足元? いや、見てなかったが」

「足元にさ、触手? 根っこ? まぁそんな感じのが広がってたのよ」

「……」

「あそこでヤバイって言ったのは根っこのテリトリーに入るから。氷柱に浮かんでた女の目がちょいちょいこっちを見てたの気付いて無いでしょ」

「……見てたか?」

「うん、何となく察知してたんじゃねーかな」

 

索敵範囲の広さに触手での攻撃手段。根を外せば移動も俊敏そうな動物型。

だが大きさは10メートルはあり、熊の動きと氷柱の中の女性の動きはリンクしてなかった。

どう考えても人数揃えたから勝てるとは言えないタイプだ。

 

「んまー、今後アレが目標かな。どうにかしてアレを屈服させるのが目標」

「そしてソレを手伝えと?」

「嫌なら嫌で良いよ」

「……その場合何をする?」

「? 別に何も。おじさんがオッタル君に勝てる訳じゃないし、せいぜいフレイヤちゃんへの貸しを増やすくらいかな。あぁ、そういや最近あの子(フレイヤちゃん)がおじさんの故郷に興味持ってるって知ってる?」

「故郷?」

「うん、どこから知識を仕入れたのか、サブカル……まあ色んな娯楽が山の様にある国でさ。性に関しても非常に富んだ「絶対止めてくれ」国で」

 

食い気味に止めて来たオッタル君の肩を優しく叩いて何も言わずにテレポーテーションを開く。今日はオラリオに戻って酒でも飲もう。

 

◆◆◆◆◆

 

調査の目的である妖精ちゃんの本体を確認出来たのは良いがソレから暫くは冒険者から一歩引いて他の仕事に勤しんだ。アラハビカの運用やポーションの解析、リリちゃんの装備開発に日本との折衝。それに闇派閥の調査、討伐。

何でおじさんがやってるんだろうと思う事もあったがお陰でオラリオも大分住みよい街にもなってきたし、その影響もあってかアラハビカに来る一般商人も増えた。

日用品や衣類に関しては求める人が非常に多いので意外と馬鹿にならん収入になってる。それと日本でのポーション販売が本格化して日本円も安定して稼げるようになった。

おかげで社員にボーナス渡せるし給料も引き上げれたので万々歳。ただ福利厚生をおじさんが一手に行うというのはそろそろ避けたい。プロのマッサージ師雇おう。だっておじさんもぐり(前世プロ)だし。

 

そんな感じで地固めを粛々と進めて来たがやっと一つの到達点に辿り着いた。それはおじさんが件の妖精ちゃんの本体をテレポートを利用して観察していた時にメールで届いた。

 

 

 

from:ヴェルフ

to:おじさん

 

ヴェルフっす。

リリ助用の鎧、仮組出来ました。

明日にでも集まれませんか?

 

 

 

あのデザインで難航した鎧が遂に……そう思うと直ぐにでも移動したいがこっちもこっちで止める訳に行かないからメールを返すにとどめる。

 

 

 

from:おじさん

to:ヴェルフ

 

了解。

アスフィちゃんにも連絡しとく。

 

◆◆◆◆◆

 

翌日、ヘスティアファミリアのホームに集まった3名。部屋の隅に鎮座する大風呂敷。

自分が関わった物が形になるというのはやはり格別なものがあり、まだシルエットしか分からないのにワクワクが止まらない。

 

「ヴェルフ君、早く見せてよ」

「それじゃあ早速」

 

風呂敷を外して現れたのは銀がメインにサブに黒、金と青が差し色になった小柄なリリちゃんに合わせたフルプレート。各所の装飾は草花で統一されておりボディラインが若干見える様な形をしており女性である事を示している。

ヘルムは生物的な特徴は控えめにスッキリさせ、かと思えば首から下はボディラインを出しながらプレートの位置が若干BlackSUNの様な生物的配置にされており、鎧でありながら細かく分かれたプレートが折り重なって威圧感を醸し出す。

 

「おぉー」

「後はコレに腰布を当てて……」

「私の用意したベルトとリンクさせれば完成ですね」

 

そう言ってアスフィちゃんが持ってきたのは前回から改良を続けていたベルト。

早速ベルトの機能と鎧の機能をリンクさせるとベルトに吸い込まれる様に鎧が消えていく。最後に残ったのは腕輪とベルトのみ。

それをちょちょいとヴェルフ君がグローブに加工して腕輪付きグローブに。

 

「よし、早速リリちゃんにこいつを付けて貰ってテストしよう」

 

 

 

「本当に出来たんですか……」

「長かったねー」

「資金と時間をつぎ込んでやっとここまでこぎつけましたからね」

「苦労の連続だったがやりがいのある仕事だったぜ」

 

呆れながらもローブの上からベルトを付けるリリちゃん。しかし一つ気になったワードがあったらしく質問してきた。

 

「因みにどれ位のお金がかかったのですか?」

「「「……」」」

「私が把握しているのは私の開発費用だけですので……」

「あー、俺も自分の分だけだな。諸々を知ってるのはおじさんだろ?」

「んん-ーー、一応形は出来てるけど細部がまだだから……まぁちゃんと完成したら教えてあげるよ」

「……何か今の時点で嫌な予感しかしないのですが」

 

そう言いながらも何時も通りカメラをセットした前に位置取るリリちゃんに加工済みの指ぬきの革グローブを渡す。

残りの二人はというと……カメラの後ろに椅子を置いて完全に観客モードだ。

生ライダー楽しみにしてた二人だもんな。無言でリリちゃんにスタートの合図を送ると自然とポーズを取り始めるリリちゃん。

 

肩幅に開いた足、身体を右に捻りながら頭は俯き気味にしたまま握る拳。当然の様に右は縦、左は右肘に近づけ拳を固める。

ギリギリと鳴るグローブに合わせ怪しく光る両手首に装着したリングとベルト。深呼吸をしてベルトとリングに宿る淡い光が瞬き頂点に達した瞬間、真剣な目で前を見据えてポーズをとっていく。

キレのある一連の動作。淀みなく動く変身ポーズは原作を知っている者ほど本物を連想させる。

そして最後のポーズをキメてクロスさせた両手を振りほどき掌を腰の後ろに回る程に開いた時、彼女の変身は完了した。

ベルトと腕輪から浮き上がる様にして彼女の身体に装着されるフルプレートはリリの知覚出来る範囲を広げ、高い機動力、厚い防御力、鋭い攻撃力を与える為の外装になる。

 

「おー!」

「よっしゃぁ!」

「感無量です……!」

 

変身を熟した本人はその万能感に、制作に関わった3名は自分達が作ったライダーに感動している。

直ぐに動作テストに入りたい所だが、そこはぐっと我慢をしてベルトを中心に稼働しているシステムが動作している事を確認したら変身を解除して貰った。

今後暫くはリリちゃんとアラハビカで変身テスト行って、変身動作に問題が無ければ戦闘テスト。

それが終われば最後に追加兵装システムを試して本当の意味で完成になる。

 

これが終われば一つの肩の荷が下り、やっとアスフィちゃんとヴェルフ君に新しい依頼が出来るぜ。

 

尚、お披露目した後に各ファミリアから来た変身装備の発注についてはおじさんとしてはお断りしており、どうしても望む場合はヴェルフ、アスフィ両名から許可を取る事を条件として発表した。

この許可を超えて来たのは今の所ベル君だけだが……ベル君は素で強いので要らないでしょ。

あとリリちゃん、原作見た後でしれっとエクシードチャージを開発するのは辞めて。ソレ、システムに過負荷がかかるの!

ヴェルフ君とアスフィちゃんも楽しむのは良いけどちゃんとシステムとして確立させねーとハード壊れるからな! 壊れたらお前らに修理費用持たせるぞ!

そう言ったら顔を青ざめながらリリちゃんを止めてシステムを確立させるまでチャージ禁止になった。

実際開発費用を伝えたらリリちゃんは泡拭いてぶっ倒れた。正直スマンかった。




おじさんの目標を共有して修行を共にしたオッタル君

遂に完成したリリちゃんの変身セット

次回、おじさんと性能テスト


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104 おじさんと性能テスト

何時も感想ありがとうございます
皆のコメントがネタになる事が多い今日この頃
あ、全く関係ないけどFGOでオベロン引けました(唐突な自慢


リリちゃんの変身セット装備が完成後、半年の間は性能テストが続けられた。

テストは概ね良好、一部手を加えたり等はしたが基本仕様はそのままに拡張する方針で手が加えられ、テスト完了後にはかの装備は正式にリリちゃんへ贈呈された。

 

そしてリリちゃんの装備作成の経験値を経て、ヴェルフ君は"壊れない魔剣"を作り上げ、アスフィちゃんも既存アイテムの威力や使用範囲の拡張を行っていた。

 

時は少し遡り変身ベルトのシステムが確立した頃。

おじさんの姿はオラリオ、アラハビカ両方から、そして人里からも離れた場所にあった……。

 

「ゼヒュー、ゼヒュー。モウムリ」

「何言ってるんですか。まだたった3回しか出して無いじゃないですか。雑ー魚♡ 雑ー魚♡ って言ったら頑張れます?」

「キミ、色々ソマリスギジャネ?」

「あんなモノを見せられて染まらないとでも思いますか?」

「……」

 

アレはおじさん悪くない、いつの間にかイシュタルちゃんが収集してた同人誌とかおじさん関与してないし。ましてやイシュタルファミリアに蔓延してるとか思っても居なかった訳で……。

今思い出せば通販で同人誌の存在見つけてからはイシュタルちゃんの商売っ気が凄い事になってたなぁ。

変身ベルトの存在知った時も日本側で売ろうと画策してたし……全力で止めた分、お小遣い渡して納得してもらったが。

でも個人で楽しむって話だったから許可したのにソレを態々読みに来るとか思わんやん? しかも別のファミリアの人間がだよ?

そこの所はどうなのよアスフィちゃん。

 

「取り合えず後一巡位はいけますか?」

 

露骨に話題逸らしやがったなコイツ。

 

「はーー、どっこいしょ。一巡ね、もうそれ以上はマインドがもたんから一巡したら今日は終わり」

「マナポーションは使いますか?」

「いや、マインドゼロになったら口に放り込んで」

「解りました」

 

そう言ってから詠唱を始める。目標は100メートル程先に設置された発明品。

詠唱が完了して空中から炎の巨石が降り注ぐ。炎の巨石が目標に到達する直前に光の壁が現れる。

壁はおじさんが使った精霊魔法を拒み現象を壁で阻み威力を減衰させ被害が出る前に巨石を消して見せた。各種属性で攻撃を繰り返しているとやはり5回目辺りで壁が耐えきれずに直撃する。

 

「やはり耐久性に難がありますね」

「緊急用の盾とするには良いかもだけど……」

 

言いながら設置された箱状の発明品に近づくと箱は壊れて中身が露出していた。

 

「壊れちゃうのは流石にマズイかな」

 

この辺りは要改良ポイントでアスフィちゃんも記録映像と共に手元の手帳に色々と書き込んでいる。

 

「耐久性を求めるとコストが掛かり過ぎるんですよ。希少金属をこれ以上使うのは現実的じゃないですし……資金以上に現物はベルトの改修に回してますから」

「だよなー、本音言えば日本の製鉄とかマテリアル開発してる企業を引っ張り込みたいんだけど流石にソレは出来ないし……あっ、でもリリちゃん用の乗り物とか作りたいかも」

「ライダーですからね。当然です」

 

そんな眼鏡クイってしながら肯定せんでも……でも武器作りなら兎も角、流石に乗物作りはこっちじゃノウハウが全くないからな。買収出来るなら全力でやるけど作品ファンとしちゃソレはやりたくないし。

 

「SUZUKIのポケバイでもリリちゃんに買い与えるか?」

「外装だけ弄ります?」

「逆に聞くけど外装だけで止まれる?」

「外装だけも、中身作るも些細な違いです」

「いや、違いが大きすぎるから。時間リソースが足りないから買い与えようかって話してるのに何で開発の流れにしてるんだよ」

「そんなの好きだからに決まってるじゃないですか! 私だって555の陸空両用バイク作りたいんですよ!」

 

あー、君ってブラックの後に555にハマったよね。PCじゃなくてガラケーを強請る程度には。

 

「でも空飛ぶ靴を持ってるじゃん」

「アレはアレ、コレはコレです」

 

正直ソレは解る。だがリソースが足らんのじゃ。開発リソースがな!

 

「じゃあコレの開発辞めましょうよ。ジェットスライガーかバトルホッパーなら私が開発してみせますから」

「無茶言わない。コレだって必要なモノだって説明したっしょ? おじさんの最終目標には必要なんだって」

「は~い」

「……本当に君のお姫様要素何処いったよ」

「サブカルチャーの汚染力って凄いですよね」

「そうね……身をもって感じてる」

 

新しい箱をセットしてまた魔法を撃っていく。やはり同様のテスト結果になり耐久力が今後の課題になりそうだ。

 

「それじゃ、そろそろ戻るか」

「そうですね。あ、アラハビカに私の荷物届きましたか?」

「うん? アスフィちゃんの荷物?」

「ええ、イシュタル様に頼んでたんですが」

 

はて? 何も聞いてないけど……帰ったら聞いてみるか。




男の子向けのコンテンツにハマるアスフィ

頭の良いオタクと似たような行動を始めるオラリオのヤベー奴ら

次回、おじさんと鍛冶


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105 おじさんと鍛冶

おじさんが仕事してたらヘファイストスさんから時間が取れないかとメールで連絡が来た。

 

「あの……そーいうのはヴェルフ君に悪いので」

「そんな事言わずに……ねっ?」

 

頬を上気させて鍛冶の女神が迫って来る。何処か正気ではない目はおじさんを見ている様で別の何かを見ているのか焦点が合っていない。

女神特有の色香の様なモノを漂わせながらこちらに迫りくるヘファイストスさん、遂におじさんの膝の上にまたがり肩を押さえつけられた。

 

「お願い……もう、我慢出来ないの……」

「ヘファイストスさん……」

 

無言で見つめあう事でやっと彼女と目線が合ったような気がする。

段々と彼女の顔が近づいて来て……。

 

 

 

そのまま気絶してしまった。

 

 

 

気絶した彼女をソファーに寝かせてから提示された品物を検品する。

彼女が作った刀剣類。そのどれもが見事で彼女の店に並べたら最低でも億の単位が使われるだろう。

そんな彼女が求めて来たのはなんと日本円。大方日本側から何かしらを買いたいって話だろうけど……この人ってPC操作は結構手一杯だったから通販の存在に辿り着く事は無いと思ってけどどっから知識仕入れて来たんだ?

一旦その疑問は頭の片隅に追いやって提示された品を改めて見る。鍛冶の女神たるヘファイストスが作った刀剣類。

そのどれもが見事の一言で切れ味がどれも鋭い事は疑いようがない……が、何か既視感が……。

暫く眺めていたが正解が浮かんでこなかったのでヴェルフ君にPC越しに相談する事に。

丁度休憩中だったらしくヘスティアファミリアの談話室を背景に通話に出るヴェルフ君。

 

んで、件の刀剣をカメラに映してあーだこーだと話していたら横から正解を知る人物が顔を出した。ヘスティアちゃんだ。

 

何でもyoutubeで包丁作りの動画を見て触発されたヘファイストスさん、経営者というコネをフルに使い。従業員として雇っていたヘスティアちゃんに動画内で使われる薬品類の代わりになるモノをオラリオで探すという仕事を行っていたらしい。

そして報告の際に会話の流れで『通販で買ってしまえばいいのに……』と言ったんだとか。

まあ、ヘファイストスさんはオラリオで手に入るモノで作り上げるのが大事なのだと言って今提示されている作品を作り上げたらしいが……問題はこの後。

ウチの主神様は親友である彼女のそういった真摯な態度に感化されて協力を惜しまなかった。その結果として自分の趣味のネットサーフィンをしている最中に所謂鍛冶関連の技術書がある事を知った……。

ヘスティアちゃんは喜々として書籍の存在を伝えた。親友が喜んでくれると。

確かに喜んだ、だがヘスティアちゃんは入手方法のフォローという部分がすっぽりと抜けていた。結果としてソレを紹介してからのヘファイストスさんは凄かったらしい。

彼女としては技術書は欲しい。異世界の鍛冶に関する技術が綴られた書物をせめて一度だけでも読んでみたい、だがそれを買う金も、手に入れる為の手段も持っていない。

そんな悶々としたまま毎日を過ごす内に手元の異世界の技術で作った趣味の作品ならおじさんに買い取ってもらえるんじゃないだろうか。あわよくば購入の件も引き受けてくれるのでは。

一杯一杯だった彼女の考えは段々と芽生えた欲に支配され……今日の行動に繋がったんだという。

 

事の経緯が分かったので目の前に転がる剣に対する対応をどうするか……、おじさんの目利きじゃ正直凄い、格好いい、位しか分からん。個人的にはアリなので最悪買い取ってトラベラーの中に仕舞っておくのも悪くない。

とは言え値段は正確に分からん品の為に値付け出来ない……仕方ないので一旦椿ちゃんに断りを入れてからヴェルフ君を迎えに行く事にしよう。

 

「椿ちゃーん」

「おお、おじさんではないか。どうした?」

「いやぁ……執務室でヘファイストスさんが気絶してっから見ててもらえる? ちょっとヴェルフ君呼ぶからさ」

「主神様が? ううむ、分かった診ておこう」

 

◆◆◆◆◆

 

ヘスティアファミリアに到着すると、皆で出迎えてくれた。丁度いいので迎えてくれた皆の前でヘスティアちゃんにデコピン一発。

 

「ぐおおおお~~~、何を~~~」

 

痛みに頭を抱えるヘスティアちゃんだが注意はせねば。

 

「あのさぁ、友達想いは良いけど存在だけ教えて放り出すのは違うんじゃない?」

「えー、だっておじさん通販で買う時は色々許可取れって五月蠅いじゃんか」

 

ぶつくさと文句を言う主神の頭を拳で挟んで言い聞かせる。

 

「そ・れ・は! 値段も何も確認せずに欲しいもんをポンポンと買おうとするヘスティアちゃんが悪いだろうが! いくら資金があるとは言えおじさんはムダ使いは嫌いなんだよ!」

「あだだだだ! ごっ、ごめんなさ~い」

 

ウメボシアタックで沈んだヘスティアちゃんを春姫ちゃんに任せてヴェルフ君、ベル君と共にヘファイストスファミリアへ行く。

ベル君はヘファイストス様の作った武器を見て見たいとの事なので同行する事に。

 

「すまんね、武器の目利きに関しちゃ正直さっぱりでさ。情報が揃っている中から選ぶのなら得意なんだけど……」

「ははは、構わないっすよ。普段から貴重な素材回して貰ったりしてますし。何より俺はヘスティアファミリアの鍛冶師なんだ。鍛冶方面に関しちゃ頼ってくれた方が嬉しいっす」

「そういや最近ヘファイストス様の作る武器のデザインって何か恰好良くなったよね。今までのも勿論良いんだけど鮮麗されたというか」

 

ちょっと前から日本側のデザインを取り入れ始めたヘファイストスさんの武器に興味津々のベル君にヴェルフ君が苦笑しつつ、二人と一緒にヘファイストスファミリアに戻って来てみれば、そこにはヘファイストスさんを診ている様に頼んだ椿ちゃんと診察をしているアスフィちゃん……何で居るの?

 

「私は()()を同行の士とやろうかと」

 

そう言って取り出したのは仮面ライダー555のプラモデル。以前道具やら何やらと一緒に取り寄せたっけ……いやまて、同行の士?

 

「ええ、ヘファイストス様とはデザイン面で色々と話をする仲なので……ああ! 椿さん! 下手に触らないで!」

「ほほう……最近主神様の部屋に飾ってあった珍妙な人形はお主が仕入れていたのか」

「飾ってある人形?」

 

疑問を口にするとおじさんの後ろにある棚を指さす椿ちゃん。つられてそちらに顔を向ければ布がかけてある棚がある。

近寄って布を捲って見ると……。SFメカ、ヒーロー、魔法少女まで、基本小ぶりなプラモデルやフィギアが細々と並べられている。

後アニメの設定資料集。こっちはゴブニュファミリアにも同じ本を納品つーか渡してる奴だ。

差し詰め趣味の棚? フィギアケースでも送ると喜ばれそう……ってそうじゃなくて。

 

「あー、そういやイシュタルちゃんとやり取りしてたのソレ(プラモデル)だったね」

「はじめは手あたり次第でしたが最近はもっぱらヒーローモノですね」

「あの棚を見るに作ったのはアスフィちゃん?」

「ええ、好きなモノ以外でヘファイストス様が気に入ったデザインのものは譲ってます」

 

成るほど……身近に日本から好きなモノを手に入れてる奴が居て、ただしソイツは大本のおじさんからの仕事をこなしてる上に物まで貰ってるから下手に相談出来なかったってパターンかな。

ヘファイストスさんって真面目だからなぁ……。

 

「まぁ、何だ。取りあえずヘファイストスさんの回復を待ってちょっとみんなで話そうか」




変身ベルト作成と同時進行で開発されるアイテム

異世界の技術に興味を惹かれながらも手が出せずに悶々としている女神

馬鹿三人と女神と純粋と鍛冶キチが交わる時、事態はあらぬ方向へ

次回、おじさんと鍛冶2

オタクに技術を持たせるな


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106 おじさんと鍛冶2

「えーっと、ウチの主神(ヘスティアちゃん)がご迷惑をおかけしました」

「いえ、良いのよ。頼んだのは私なんだし」

 

気絶から回復したヘファイストス様に謝って取り合えず武器の買取の話をする。とは言え正直性能が分からんのでヴェルフ君、ついでに椿ちゃんも交えて話を。

 

「実際問題、コレの性能ってどうなんだろう。ヴェルフ君と椿ちゃんから見てどう?」

「……何ていうか……切れ味とかが良いのは分かるんですけど……コレ、何の金属を使ったんです?」

「私も見た事無い素材だな。モンスターの素材か? まさか希少素材?」

「えっと……その……」

 

言いづらそうに眼を逸らすヘファイストスさん。

じっと刃物に目を落とす。どこか見た事のある特徴的な茶色。

 

「(ヘファイストスさんが仕入れた情報ってyoutubeが中心だよな……え"っ、コレってまさか?)」

 

何となく思い至って彼女の顔を見る。額に薄っすらと浮かぶ汗、言いづらそうに結んでいる口。

改めて刃物を見る。やっぱり見た事のある色。彼女の性格とか考えると……。

 

「まさかコレ!」

「実はソレ……じゃがいもなの」

 

「「「「じゃが……いも?」」」」

 

ヴェルフ、椿、ベル、アスフィの4人の声が重なる。

各々が手に持つ刀剣の類を改めて見る。デザインは最近オラリオで流れているアニメに出てくるデザインを踏襲しており非常に洗礼されている。

切れ味等も間違いなくある。ヘファイストスファミリアのマークこそ入って無いがモノ自体の出来は間違いなく良い物で一級品と言っても通用する品だ。

だが、コレの正体が『じゃがいも』となると途端に微妙な品に見えてくるから不思議だ。

 

「ええ、コレじゃがいもから出来てるんですか!?」

「主神様よ、冗談だろう?」

「私としてはデザインが好きですし……サブウェポンとしてなら使うのもアリですね」

「じゃがいも……じゃがいもかぁ……」

 

四人共正直どう反応していいか割らない状態らしい。

うぅん、さては仕入れた情報を試してみたい欲求に駆られて作ったな。刀身の色から見るに割と野菜が多いなこれ。

 

「多分皆が持ってるのがジャガイモシリーズで、こっちのは緑黄野菜系。コッチの赤いのは……肉っすか?」

「ええ、テーブルのこちら側は野菜シリーズ。でコッチ側はお肉シリーズなの。液体から作るのにも挑戦したかったけどどうしても薬品が手に入らないから流石に諦めたわ」

「いやいや……よくコイツ等も作れましたね」

「実際問題苦労したわよ。ヘスティアに色々情報を仕入れて貰った上で実験を繰り返してたけど中々思い通りの効果が出なくてミアハに手伝って貰ったりしたもの」

「ははあ、薬師の手伝いもあったらそりゃある程度形にはなるか」

 

当たり前の様に話している内容に呆れるヴェルフとアスフィ。モノ作りの経験がほぼ無いベル君は話の内容こそ分からないがおじさん関連というのだけは分かる為、何となく納得。

それに引き換え椿ちゃんは……頭宇宙猫になってるな……。そっとしておこう。

 

「んで、日本円で買ってくれって話だったけど……鍛冶の技術書が欲しいからでしょ? それ位ならおじさんが渡すけど? ほら、盾のメンテナンスとかして貰ってるし」

「うーん、アレって……少なくとも私の印が入ってるものだし……お金を取るモノじゃ無いし……」

「じゃあお礼の品として受け取ってよ。ヘスティアちゃんみたいに無駄遣いする訳じゃないからそれ位渡すよ」

「因みにヘスティアの無駄遣いって具体的には?」

 

「子供向け半ズボン」

 

とは言えんしなぁ……。

 

「趣味……つーか、癖?」

「……あえて深くは聞かないわ」

「助かります」

 

自分の所の主神を貶める言葉は吐きたくないぜ。

 

「取り合えず鍛冶関連の書籍を見繕って持ってくるよ。……この刀剣類はどうしよう? 一応ネタ枠の武器みたいだけど」

「うーん、技術を試す為のモノだし下手にこっちでは売れないから対価として受け取ってくれないかしら」

「材料は兎も角、モノとしてはしっかりしてるし……ヴェルフ君、値段としてはどれ位?」

「え、あー……いや待ってくれ、武器としての値段はあるが……材料費がじゃがいもだしな……ヘファイストス様、これの材料費ってどれ位っすか」

「ああ、こっちに帳簿があるわ。来て」

 

ヴェルフ君が材料費を見て目を白黒させてるのを他所に、残りの4人であーだこーだと野菜武器を品評会する。

 

「しかしまぁ……おじさんの世界が色々と進んでるのは知ってはいたが……まさか金属以外から武器を作り出すとは」

「椿ちゃんってその辺の知識は仕入れなかったんだ」

「手前にとっては今の技術を磨くのが優先でな。よそ見をしている暇は無い」

「ストイックですね、椿・コルブランド。クリエイターとしてはあの世界に触れるのは刺激的ですよ?」

「なんというか刺激が強すぎるのだ……主神様ですら、ああなのだぞ。鍛冶以外を見る事になりかねん」

「あ~、それはちょっと分かります。僕もナイフ捌きの情報を仕入れに調べてたらいつの間にか別の興味を惹かれるモノに行きあたって、気が付いたら一日経っていたなんてのもありました」

 

やっぱりオラリオの住人にとっては情報社会っつーのは毒なんじゃろうか? おじさんにしてみたら当たり前過ぎて情報社会じゃないと逆に落ち着かないんだが。

 

「……最悪全員からPC取り上げるって選択もあるけど」

「「「「それだけはやめて(ください/くれ/ちょうだい)」」」」

 

言った瞬間、ヘファイストスさん、ベル君、ヴェルフ君、アスフィちゃんから異口同音で返事を返された。思わず椿ちゃんに両肩を持ち上げるジェスチャーで返すと笑われた。

 

◆◆◆◆◆

 

「んじゃ、武器はおじさんが全部預かるね。今後お試し武器はこっちで引き取とる、その代わりの品物をヘファイストスさんに渡すって感じで」

「ええ、折角だから椿も見る? あなた日本にはついて行ったんだから日本語は読めるでしょ? 書物なら余計な情報も入ってこないだろうし」

「ふむ、それならまぁ」

 

それを見ていたアスフィちゃんが何やら思い至っておじさんに話しかけて来た。

 

「おじさん、この間の件。この間の旅行メンバーを動員すれば行けるんじゃありませんか?」

「ん?? この間の件??」

「開発リソースの件ですよ、開発したくてもリソースが足りなくてって件」

「……えっ、ヘファイストスファミリアを巻き込めって話?」

「いえ、ヘファイストス様とミアハファミリア辺りなら協力してくれるんじゃないですか? 特にミアハファミリアは金欠状態ですからお給料を出せば……」

 

ヘファイストスさんは兎も角、ミアハファミリアか……確かディアンケヒトファミリアの借金とか契約辺りを考えたらファミリアが潰れる寸前だったような?

 

「あら、何か作ろうとしているの?」

「今私とヴェルフ、それとおじさんでリリルカ・アーデの専用装備……特殊装備を作ってる最中なんです。私の方はある程度方針も決まって余裕が出来たのでもう一つ作りたいものがあるのですが一人では手が足りない為に暗礁に乗り上げてるんです」

「へえ、面白そうね。因みに何を?」

「アレです」

 

そう言いながら例の棚の方を指さすアスフィちゃん。つられてヘファイストスさんが目を向けるとソコに置いてあるのはスズキのオートバイ1/6「カタナ」のプラモデル。

 

「……えっ、アレ作るの?! というか作れるの!?」

「少なくとも理論は仕入れて大まかなシステムまでは作り上げたんです。なので後は細かい所を詰めて造りこめば理論上出来るんですが……」

 

ベル君が立ち上がって棚からプラモデルを取り出して手に持つ。

 

「バイクかぁ……あれば便利ですよね」

「仮にオラリオで造るならオフロード式かな、冒険者用っつーかリリちゃん用だからダンジョンで使えるバイクとなるとかなり頑丈になるし、モンスターに負けないってコンセプトかねぇ」

「バイク型ライダースーツとかもシリーズにありましたよね」

「ドライブだっけ。確かベル君は見てたよね」

「はい、僕としては主人公の乗る車が赤くて恰好良いなーって」

 

車ねぇ……ぶっちゃけ化石燃料を魔石燃料式に変更出来ればこっちでも作れそうではあるけど……。

 

「現実問題、開発に割くリソースが無いし、オラリオに乗物産業なんて無いので一から育てる手間を考えたらやめておこうかって」

「なので、ヘファイストス様やミアハ様にお手伝い頂ければ良いではないですか」

「いや、アスフィちゃん。それはム「私は構わないわよ」チャでしょ……お?」

 

思わず声の方を見れば『カタナ』のプラモデルを持ったヘファイストスさん。

 

「コレと同じものが作れるのよね? 私の作る武器や防具とはまったく違うけれど……造形から分かる。コレには機能美がある。こんな新しい物……鍛冶師としては作って見たくなるじゃない」

 

思わず顔を見合わせる開発組(おじさん、ヴェルフ、アスフィ)

やめておけと思う反面、造れるんじゃないかという考えが頭をもたげている。

 

「んん~~~~、アスフィちゃん。おじさん今から技術書を取り寄せしてくるからどの位の開発スケジュールになるか試算しておじさんにメール頂戴」

 

一オタクとしてSFや特撮アイテムを現実に出来るなら見て見たいという欲には勝てない。はぁ~、またコレで忙しくなるなぁ畜生。




技術(オモチャ)を試したい鍛冶神

アイテム(おもちゃ)を作りたいオタク

人と神が好奇心で繋がる

次回、おじさんと変身


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107 おじさんと変身

ヘスティアファミリアの朝の恒例行事、ラジオ体操。朝の運動が終わって食事を摂ったら各々の作業に移るのだが今日は珍しく全員で庭に集まっていた。

並べられたテーブルと椅子、そしてテーブルの上に鎮座する飲料水やポーション。

そしてゴツイカメラを抱えたおじさん。

今日、ヘスティアファミリアの庭から異世界に向けて配信が行われていた。

最初はPCを並べて画面を見ているヘスティアちゃんと春姫ちゃんにカメラを向ける。

 

「はい、それでは今日は前から告知していたおじさんが所属している『ヘスティアファミリア・チキチキ! リリルカ・アーデの下剋上!!』を配信していきたいと思いま~す。解説はファミリアの主神である」

「このボク! ヘスティアだよ!」

「はい、そして最近Lv3に上がる事の出来た」

「はっ、春姫です! 宜しくお願いします」

「尚、おじさんはカメラマン、そしてインカムで会話してます。PCの画面は見えないのでコメントとかはヘスティアちゃんと春姫ちゃんが読み上げてくれるので宜しく」

「さっそく書かれてるよ。『もげろおっさん』『ハーレム野郎が』『ヘスティアちゃん、春姫ちゃんかわいい』だってさ! おじさんに対しては兎も角、ありがとうね!」

「あっ、ありがとうございます!」

「はい、可愛い女の子ばっかり撮ってるとそーいうコメントばっかり書かれるので……ヴェルフ君、何か一言」

 

そう喋りながらカメラを横へスライドさせてヴェルフ君を映す。

 

「えぇ!? ここでオレに振るんですか? ……あー、是非リリ助の活躍を見てやってください」

「はい、ありがとう。因みにリリちゃんの装備全般がヴェルフ君の作品になってまーす。因みに地球では売れませーん。銃刀法に引っかかるから! 販売免許とか取るのめんどくせぇし!」

「『それぐらい取れよ(笑)』『おっさんぇ……』『じっくり装備見たい』地球でもヴェルフ君の装備欲しがる人居るんだね」

「こちらは『ファミリアの装備はヴェルフが作ってるの?』だそうです」

「あぁ、基本的にヘスティアファミリアの装備はオレが作ってる」

「ウチのファミリアのメイン鍛冶師のヴェルフ君、因みに彼も神を嫁に貰う(予定)の男なので恨み節は彼に向けてね。「ちょ!? おじさん!?!?」次、こちらは命ちゃん」

 

カメラを更に横へやると画面に移りこむ命ちゃん。

 

「えっと、ヤマト・命です。宜しくお願いします」

「相変わらず配信に慣れない命ちゃんです。因みに煽らないでねー」

「『寝取られの人だ』『寝取られ被害者』『おじさん被害者の人』だって」

「はうぅうう、その、命ちゃんはそんなのでは無いんです~」

「寝取られ……」

 

コメントに煽られて速攻で沈んでしまった命ちゃんを意図的に画角から外す。

 

「はいはい、NTR、NTR。つーかこの場合NTRされたのはイシュタルちゃんな気がするが……深く考えるとドツボなので準備してる二人の方に行くよ」

 

映し出される映像では庭の方へ向き直り、準備をしている二人が映る。

 

「二人共どう? 意気込みとか」

「えっと、僕としてはリリの仕上がりが楽しみです。時々僕も軽い手合わせはしてたけど……今日は全力って話なんで……頑張ります!」

「え"ぇえ! いや、ベル様! 私Lv2なんですから手加減してください! lv2と5の時点で無茶なのに全力なんて出されたらリリが死んでしまいます!」

「だってさ、ベル君」

「えっ……でもおじさんがリリの本気なら僕より強いって」

「絶対嘘です! 盛ってます! 絶対に盛ってます! おじ様は基本まじめな癖にこの手の事になると本気で他人を巻き込んで遊ぶんですよ! 見てください! カメラで隠れてますがこの口元! 絶対にやにやしてますよ!」

 

おっと、つい楽しくて口が……いかんいかん。

 

「そんな事無いよ? リリちゃんが本気だせばベル君とだって張り合えるはずだけど」

「いーや嘘です! そうやって何時もリリを騙せるなんて思ったら駄目です! Lv5とLv2が同様に戦えるはず無いんです! 常識的に考えて!」

『コメントで『可愛い』『もっと怒らせて♡』『泣き顔見たい』だって……リリルカ君って妙なファンが居るよね……』

『『可哀そうじゃないと駄目』とか『メスガキムーブが板についてる』とかもありますが、めすがきむーぶとは?』

『おぉっと春姫君! 君は知らなくていいぞ!』

 

相変わらずリリちゃんのファンって変なの多いな。

 

「まぁ勝てないにしても全力でぶつかれるでしょ?」

「それはまあ……そうなんですが」

「配信で得た収入はちゃんと渡してるし、何か嫌なの? なんなら配信やめる?」

「う"、それは……リリも欲しい物があるので配信は良いのですが」

 

この手の配信、実はスパチャとか宣伝の収入は出演した人に割り当ててる。お金の使い道は個々人に任せてるから基本知らない体だけどカードとか通帳自体はおじさんが作ったから何買ってるかは知ってる。

ま、趣味は人それぞれって事で。

 

「問題ないならそろそろ始めるか。リスナーも待ってるみたいだし」

「「はい」」

 

対峙するリリちゃんとベル君。リリちゃんは魔月(まこう)を、ベル君はヘスティアナイフを構える。

離れて二人が画角に入る様にしてから二人に声をかける。

 

「OK、二人のタイミングで始めて!」

 

次の瞬間にベル君の姿は通常速度の配信画面から消えた。

ベル君は純粋にスペックから普通に見ては姿を捉えきれない、リリちゃんは逆にベル君の攻撃をどっしりと構えて魔月で受け流しをしている。少しづつ場所を変え、立ち位置を変え、受け方を変えながら行われる防御に盛り上がるコメント。

オラリオの……もっと言えば冒険者をやってる奴からしたら有り得ない光景。

lv5の攻撃をいなし続けるlv2。

段々とベル君の攻撃速度が上がって来た所に魔月の刀身が燃え上がり、防いだ次の瞬間に離脱したはずのベル君を追う様に炎の斬撃がカウンターを叩き込む。

ヘスティアナイフで斬撃を防ぐ、炎の斬撃は音を立てて割れる……と同時に爆発、炎上。

 

この効果を知らなかったヘスティア、春姫、命の3名は驚いている。

 

肝心のリスナー達はというと……。

 

『ライダーだしな』

『ダイダー=爆発』

『島を爆発で更地にした逸話は異世界にも引き継がれたか』

 

等と言う始末。

 

『おじさーん! 島を爆破で更地って何さー!』

 

ヘスティアちゃんが何か言ってるけど無視無視、今は配信カメラマンなので!

動く彼らに合わせておじさんも立ち位置を変える、時に近づいたり、ジャンプして空中から撮影して見たり。

10分も打ち合ってどちらもダメージ無し、リリちゃんはちょっと息上がってるけどベル君は特に変わりなし。

大分健闘してるけどやっぱ変身しないと同じステージには立てないね。というか魔月の炎の斬撃の爆発効果をさらっと乗り越えてるベル君やばぁ……。

コメントでは早すぎて見えないって言うコメント続出なので再生速度を落として見る様にアドバイスしておいた。0.5倍速で良い感じらしい。

……変身したら視認出来ないとか無いよね?

リリちゃんが魔月を構えたまま変身ポーズに入った。ここぞとばかりにベル君が責め立てるが多分乗り切れる。

何せ変身を止められたら元も子もないので開発三人組(おじさん、ヴェルフ、アスフィ)に攻撃されながらでも変身できる様に訓練したからアレだけは止めれないと思う。

右手に魔月を逆手に持ったまま上半身を左に捻り、左手を縦、右手を横にして脇を固める。

 

『来た!』『来ぞ!』『来る!』

 

責め立てるベル君のナイフを足さばきを中心に避け、時に右手の魔月で弾きながらポーズを取る事でベルトにエネルギーが貯まる。エネルギーが貯まるにつれてベルトのバックルに仕込まれたギミックが左右にスライドして開いて行く。

遂にギミックが全て開きチャージが規定値を超えリリちゃんの全身から白いオーラがあふれ出す。変身の為のエネルギーチャージが完了した証。

変身プロセスは進みリリちゃんはチャージポーズから変身ポーズへと構えを変える。当然変身させまいとベル君が攻撃速度を更に上げ、いままでの倍以上の手数で責め立てる。

だがソレは想定済み、変身ポーズの時だけはリリちゃんがガチガチに集中できる様に癖つけたのでそう易々とは変身を中断しない。

左に偏っていた重心は解かれ左手は腰だめ、右手は一度右下へ、まるで抜刀の直後の様なポーズをとってから左上へと掲げ半月を描く様に腕は動く。

やがて所定の位置に来た彼女の腕はキーワードを叫びながらベルトのギミックを押し込む事で所作は完成する。

 

「変身‼」

 

一瞬、眩い光を発したリリを再びカメラが収めると、そこには変身を完了させたリリルカ・アーデの姿があった。

 

『キター!』『仮面ライダーリリ』『姿は仮面ライダーファムとエターナルの合いの子だよな』『ひゅー』『相変わらず謎にボディライン出るな』『薄い本早く』

 

コメントは相変わらずである。

 

そんな配信欄とは裏腹にオラリオで対峙する二人は動きを止めて俄然相手へ集中する。

次の瞬間、二人の速度は一気にトップギアまで上がっていた。

 

おじさんが目指したのはオラリオのLv6、ロキファミリアの『フィン・ディムナ』

高い敏捷に変幻自在の武器捌き、そして戦場を見渡す目と思考能力。それを与えたつもりだった。

だが彼女が本当の意味で見ていたのは同族の男等ではない。

彼女を救ったヒーロー。ソレを見続け、憧れた彼女はやはりヒーロー(ベル・クラネル)の様な戦いをする様になった。

 

彼らが踏み込む事で撒きあがる土煙、鳴り響く武器同士の衝突による金属音、互いの魔法と斬撃による爆破。

完全にニチアサのバトルシーンのソレが配信ごしのリアルで行われていた。

ヘスティアファミリアでの本格的な変身お披露目が初という事もありコメントと同様に盛り上がる。

解説席では別の意味で盛り上がってる。是非ともヴェルフ君には色々答えておいて欲しい。おじさんじゃ答えられないからね。

 

カメラに向かってくる魔法や斬撃を適当に捌きながら撮り続ける事20分弱。

両者とも全力戦闘で息が上がってる。

 

何か二人して会話して盛り上がってるみたいだけどおじさんは会話聞き取れません……。念の為にピンマイク付けといて貰ったから後で配信見て確認しよう。

 

示し合わせた様に武器を構える二人。

 

片やチャージ(アルゴノゥト)を開始するベル君。

片やチャージを開始する(魔月へエネルギーを送る)リリちゃん。

 

二人のチャージが完了し、互いにぶつかりあった時、世界は白に包まれた。




変身を行ったリリちゃんと戦うベル君

二人のチャージが高まりぶつかり合った時、辺りは白に包まれた

次回、おじさんと変身2


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108 おじさんと変身2

今年も最後となりました!
本作品から見てくれた方も、1から見続けてる方も、ありがとうございます!
しっかり完結させるので来年もよろしくお願いします!


力と力がぶつかり合った結果、ヘスティアファミリアの庭に巨大なクレーターが……出来てはいなかった。

流石にあのままぶつかったら被害がデカイのでこの間開発が完了した結界装置を起動した。おかげで庭への被害は殆ど無し。

顔だけ装置向けても壊れてる様子は無いし、負荷は掛かったが一応許容内で無事っぽい。

装置の確認をしていたら対峙していた二人が同時にノックダウン。そしてリリちゃんの変身が解けてローブ姿のリリちゃんが姿を現す。

 

直ぐにヴェルフ君と命ちゃんが来て二人にポーションを飲ませるとふらつきながらも二人共立ち上がった。

 

「凄いですよリリ殿! ベル殿と……Lv5と張り合えるとは! 説明だけでは眉唾でしたが目の前であんなものを見せられれば疑いようがありません!」

「えっ? あ……そう、ですね」

「リリ殿?」

「その……変身して何時もの面子以外とやるのが初めてだったので……本当に出来るとは思って無くて」

 

うーん、これは普段からいじり過ぎた弊害ですね。制作陣で反省会が必要かも。

 

「ほれ、ベル。ポーションだ」

「ヴェルフ、ありがとう」

「で、どうだ? リリ助は」

「凄いよ! 変身する時が絶対隙があると思って攻めたら全く攻めきれない……なんていうか全部当たる気がしないっていうか……当たっても暖簾に腕押しみたいな」

「ソコは明確な弱点だからな。全力で対策したさ」

「それに変身してからが全く別物だった……、いや変身前も絶対Lv2の手ごたえじゃ無かったけど変身してからは絶対lv4か5位あるでしょあれ。本当にどうやったの?」

「そこはホラ……企業秘密って奴だ」

「えー、同じファミリアなのに?」

「だってお前(ベル)ソレ(ピンマイク)付けてるとアッチ(地球)に筒抜けじゃん」

「あ」

 

『その時、不思議なことが起こった』『フラグ立てるなw』『ゴルゴムの仕業か!』『ゴルゴム(おじさん)の仕業だな』

 

「おじさーん、皆からゴルゴムって言われてるよ」

「おっ、待てぇい。不思議な事コメントはマズイ。そいつはリミットワードなので避けて」

 

『リミットワード?』『なんだそりゃ』『詳しく』

 

「説明しよう! リミットワードとは使用者がそのワードを使用する事でベルトの許容範囲を超えて稼働させる為のワード! ワード使用後は変身状態から更なるパワーアップをするが一定時間が経つとシステムダウンするから時間制限&リスク付きの限界突破方法だ!」

 

『クロックアップやないかーい』『そういや彼女(アスフィ)、555を同時視聴でめっちゃ気に入ってたっけ』『555ギミック入れようとして視聴者に安価取ってリリガチ勢が死に物狂いで答えてたっけ』

 

いやそのコメント待って、ソレ(安価)おじさん知らないんだけど。何時の間に安価とか配信とかの技術を仕入れてるんだアイツ……。

まぁアイディアを採用してる時点で悪いもんじゃないと思ったから良いんだけどさ……。

 

「うーん、アスフィちゃんって知らん間に機械操作とか覚えてるよな」

「私が何ですか?」

 

声を掛けられた事に驚いて後ろを勢い良く振り返るとそこには話題の彼女が。

 

「出たなゴルゴム!」

「誰がゴルゴムですか」

 

『いかん!開発陣(三バカ)が揃ったぞ!』『オタクが加速する』『もう駄目だあ、お仕舞だあ』

 

「早くもこの配信は終了ですね」

「いや、終わりにしようとするな、主神(ヘスティアちゃん)

「そうですよヘスティア様、一部の方々(コメント)は盛り上がってますよ?」

 

◆◆◆◆◆

 

休憩を兼ねてコメント返ししながら開発に関してあーだこーだと言う……とか格好良く言うがぶっちゃけオタク話だ。

 

「いやー、リリちゃんの変身が問題無さそうで良かった」

「ま、アレでダメなら訓練が増やされますからね」

「それでも魔法の雨霰の中での変身は今でも無茶だと思いますが」

 

思い出されるのは変身の特訓。最初はヴェルフ君と戦闘しながら変身を重ねて、そこにアスフィちゃんが加わり、おじさんが加わり。

最後には全員で魔法やら魔剣やらアイテムを全力で使ってる最中での変身を成し遂げたリリちゃんだ。アレを止めるのは並大抵では無理なはず……Lv6以上なら割とどうにかなるかもしれんが。

ソレまで求めるのは辞めておこう。

 

「んで、地球側からしたら今回の配信はどうなの? ボク等からしたらリリルカ君のお披露目で楽しいんだけど」

 

配信する側として内容を心配しているヘスティア、この辺は何と言うか彼女らしい。ちょいちょい周りを気に掛ける所とか。

 

『変身ベルトが欲しいです』『地球にも仮面ライダーを!』『怪人への変身も可能ですか?』『オレは美女になりたい』『ウルトラマンかなー』『皆無茶苦茶言うww』

 

「うーん、おじさんなら出来るんじゃないの?」

「『うるとらまん』というのが分かりませんが……他のはおじさまなら出来る様な気がします」

 

『おじさんはゴルゴムだった?』『いや、この場合ショッカーでは?』『改造手術が出来るヤベーやつ』『ボ卿じゃねーか』

 

「実際リリルカ君の改造したのおじさんだしね」

「強くなる為にリリさまはおじさまにお願いしましたからね」

 

『子供を改造? 事案では?』『おまわりさん、コイツです』『でも仮面ライダーへの改造手術なら受けるだろ』『それはそう』

 

「実際強くなったよ。彼女はまだlv2なのに手加減してるとはいえlv5の攻撃を捌いたんだし……春姫君ならどう?」

「私ですか……素のリリさまなら何とか。ですが変身されたら流石に難しいかと」

「だよね、アレってレベルブーストに近いよ」

「いえ、むしろアチラの方が上位互換ではないでしょうか?」

「そうなの?」

「レベルブーストは上昇後にステータスオール0の状態と同等になります。ですが先ほどの動きを見る限りそういったモノも無さそうですから」

「なるほどねぇ……制約がある分、伸びるって感じなのかな」

 

容易していたお茶を飲みながら手持無沙汰になってた命に話しかける。

 

「命君はどうだい? 今のリリルカ君を見て」

「そうですね……Lv2の頃の私と比較しても強い。下手すると今の私(Lv3)より素で強いです」

「命ちゃんより?」

「ええ、春姫殿もlv2では大概な強さを手に入れましたがアレはそれ以上です。特殊装備抜きにしてもおじ殿の手腕はやはり恐ろしい」

「おじさんって妙な所でブレーキ壊れてるからね……普通に過ごしてる分には普通なのに」

 

ヘスティアの言葉に頷く二人。それに対してコメントが流れる。

 

『そういや本だとおじさん出てこないよな』『登場人物に乗って無いからな』『実際の所、おじさんはどれ位動けるんだ?』『サスケじゃやらなかったしな』

 

「サスケ……あー、そっち(地球)でやったアスレチック!」

「アレですか……初見だった為にあれだけ時間もかかりましたが今ならもっと早く!」

「一番手の命君だとどうしてもね」

「アレは私もPCで拝見してました。命ちゃん格好良かったよ」

「あはは、面と向かって言われると照れますね……」

 

『キタコレ』『ぬっ!』『ユリの花が咲く』『挟まりたい』『片方人妻やぞ』『狐耳人妻百合っぷる』『属性過多w』『誰か描けよ』

 

◆◆◆◆◆

 

オタク話に華を咲かせていたら何故かおじさんとリリちゃんが戦う事になっていた。何故……。

 

「まあイイか。んじゃ10分位流しながらやろっか」

「はい、お願いします」

 

カメラはベル君に変わり一応簡単な撮影方法もレクチャーしといたので撮れるはず。

おじさんは盾と武器無し。リリちゃんは魔月あり。最初はリリちゃんに合わせた速度で……おじさんストライクを単発撃ち。

撃つ度に地面が凹むがリリちゃんはきっちり避ける。う~ん、本当に避けるの上手くなったなぁ。

 

配信映像の中ではおじさんが殴り蹴り、それをリリ助が捌いている。当然避け切った攻撃は地面に当たるが当たった所が抉れてしまっている。こりゃ片付けるのに手間がかかる。

そんな映像を見てコメントは盛り上がって……無かった。

 

『なんだコレは』『腹の出たおっさんの攻撃が異常に強い件』『え? あの人本当に地球人?』

 

おじさんって最近表でドンパチやってないからな……ましてや配信だと戦闘シーン無かったからどれだけ動けるかなんて俺達(オラリオ)しか知らんのも無理はない。

 

「地球だとおじさんってどういう扱いになってるの? 因みにこっちじゃ数少ないlv5でオラリオでも数は限られてるんだけど」

 

『行動力のあるオタク』『金持ち』『ある意味唯一の男』『ハーレム野郎』『異世界ギルド社長』『マジカルマッサージ師』『ポーションの元締め』『世界一狙われてる男』『リアルボンドルド←NEW』

 

「え"っ、そんな感じなのか……ハーレムは、まあ、イシュタルの所の子とか、何なら春姫君もそうだから分かるけど」

「ヘスティア様!?」

「マジカルマッサージって? おじさんってソッチで何かしてたっけ?」

 

『表立っては無い』『一応無い』『公然の秘密的な』『会社の奴が言う位』『おっさんに触られると激ヤセするとか』『ソコの所どうなん?』

 

「あー……本人が何も言ってないならノーコメント!」

「ヘスティアさま、それは語るに落ちると言うやつでは」

「おじ殿も大変ですな」

 

『【速報】おっさん、痩せる秘密を握っている』『もう何でもありだな』『あいつ一人でいいんじゃないか』『変身しないおっさんが一番チートっていう』『本当に何者なんだおっさん』

 

 

 

コメントがそんな事になっているとは想像してもいないおじさんとリリ。

二人の攻防は段々と激しさを増し、戦闘時間が9分を超える頃にはリリはボロボロになっていた。

 

「ッハ ッハ ッハ やはりおじ様の攻撃を流しきるのは ッハ 無理があります」

「いや、十分だと思うんだけど……おじさんコレでも最近深層で頑張ってたんだけどなぁ」

 

あ、おじさんが割と落ち込んでる。リリの防御が思った以上だったのか攻めきれなかったのが悔しいらしい。

リリって打点をずらすのが上手いんだよね……さっき戦った時もナイフが当たったと思ったら逆らわずに逸らされるから手ごたえが薄いし。

そんな風に思っていたら10分をセットしていたタイマーがなった。

 

「おっと、もう10分」

「ではここからは……リリは変身させてもらいます!」

「おっけー、んじゃこっちも」

 

そう言っておじさんが何かを取り出し……え?

 

「んなー!? 何でおじ様がベルトを付けるんですか!」

「いや、だって『コレ(エネルギー変換ベルト)』を開発する為の『ソレ(変身ベルト)』だから……」

「えぇっと……おじさん、つまりソレは変身の為じゃないの?」

 

思わず声を掛けてしまったがどうやら疑問を持ってるのはソレ現場組(オラリオの面々)だけじゃないようでコメントでも大量に問いが投げかけているらしい。

ヘスティア様がグッジョブのポーズを此方に投げかけてる。

 

「うん、だっておじさん防具とか持ってねーし。装着する装備って特に無いから。むしろ弱点克服の為のベルトだし」

 

その回答にほっとしたリリに対してベルトの制作者であるアスフィさんが問題発言を返して来た。

 

「おじさん、ソレ変身機能を搭載してますよ」

「「え?」」

 

疑問を投げ返したのはリリとおじさん。目を開いて驚いているのは僕、ヘスティア様、春姫さん、命さん。

逆にヴェルフは当然といった顔で何やら箱を取り出してる。

 

「そんでもってコイツがおじさん専用の武器だ」

 

投げ渡されたモノをキャッチするおじさん……柄??

 

「そいつは変身中にだけ使える様に設定してある。おじさんならエネルギー問題は殆ど無いからな。リリの方に実装しようとしたら出力が足りなくてなー」

「だからあれほど最初からリボルケインを開発すべきだと言ったのです」

「だからありゃエネルギーがそもそも無けりゃ意味が無いんだよ!」

「そこをどうにかするのが貴方の仕事ではないですか!」

「なにを!? アレだってバランスよく仕上げるのにどれだけ苦労したと思ってるんだ!」

 

ヴェルフとアスフィさんが言い争ってるがおじさんは投げ渡された柄を色々弄ってから呆れた顔をしてる。

 

「開発リソース無いって言ってたのに何でこんなの作り上げてるかなぁ」

「あ、ソレは勿論ソレ込みの開発スケジュールだからです」

「……次やったらコレにかかった費用をソッチに回すからね?」

「安心してください! 自費です!!

 

あ、おじさんが頭抱えた。

 

 

 

唐突な告白に場が混乱したので暫し休憩を挟んだ後、リリとおじさんが再び対峙する。

 

「ではおじさん、宜しいですね?」

「おー、何か精神的に疲れはしたけど、嬉しい側面もあるから頑張る」

「何か反応が難しいですが……行きます!」

 

二人が鏡合わせの様に変身ポーズを取る。どちらも同じポーズ、同じ流れで身体からオーラが溢れる。

違いはオーラの色、リリの白いオーラに対しておじさんが纏うのは濃い緑のオーラ。

やがて二人の所作は完了を迎え、キーワードが発せられる。

 

「「変身」」

 

一瞬の輝きの後に訪れる変身した姿。リリの居た所には当然僕と戦った時の白い騎士を思わせる姿のリリ。

対するは緑と黒を基調としたとてもゴツくて、大きいシルエット。何よりもソレは初代の姿。

 

『一号だ!』『帰って来た一号じゃねーか!』『本郷!』『本郷猛!』『リアル一号かよ!』

 

コメントでも大いに盛り上がってるし、何なら僕もちょっとテンション上がってる。何せリリの改造計画を行う事前説明の際にライダー作品は紹介されて休日じゃ皆でライダー作品を消化してたから猶更だ。

 

「アスフィくん……アレって『仮面ライダー1号』?」

「そうですヘスティア様。おじさんのベルトを作る時にやはり原点を踏襲するべきだと、そうヴェルフと話して決めました」

「いやー、リリ助の装備を作るのにどうしても練習が必要で……ついでならちょっとやってみようかと」

「それでアレをおじさんに?」

「本当はあそこまでやるつもりじゃなかったんですよね。別途装備として作って渡せば良かったんですが」

「折角作るならサプライズの方が楽しいじゃないですか」

「とまあ、こういう訳でして……」

「何か、アスフィ君さ……ヘルメスに似て来たね」

 

ヘスティア様の一言で膝をつき、地に沈むアスフィ。

コチラの騒動を無視してライダー同士の戦いは進む。

 

おじさんのオーラを纏ったパンチとリリの魔月がぶつかり拮抗する。たまらずリリが距離を取るがおじさんは割と平然としている。

直ぐに高速移動を開始してかく乱を始めた。最初こそおじさんもソレを受けていたが途中からおじさんも高速移動を開始して……というか空中でも軌道を変えてるのでリリが追い付けてない。

壁が無い分リリの方が不利に働いてる。

 

リリが小柄なのも相まって頑丈そうだ。見るからにパワータイプで重心もしっかりしてる。

カメラを回しながら変身したおじさんの攻略を頭で考える。

元々がパワータイプで一撃離脱型、負傷したら再生が出来て継続戦闘能力が高い。

アタッカーとヒーラーを兼ね備えた複合タイプでエネルギーが枯渇すると一気に戦闘が維持出来なくなるのが弱点だったけど、それがベルトで……?

あれ? コレってリリの勝ち筋はどうやれば?

 

僕がそう考えているとリリが仕掛けた。

 

「その時、不思議な事が起こった!」

 

リリがそう唱えた途端、リリの左胸に刻まれたヘスティアファミリアのエンブレムと右手に持つ魔月が輝き出す。

次の瞬間にはリリの身体は僕の目でもギリギリ軌跡が見える程に加速し、おじさんの後ろを取る。

完全に入ったと思った炎を纏った斬撃は、おじさんが前を向いたまま後ろ手に構えた光の剣に阻まれた。

即座に離脱するリリ、振り向きながら剣を構え直すおじさん。二人の剣は纏う炎と光を反発させ、まるで稲光を思わせる音をたてながら離れた。

そこからは完全に光と音の乱舞だった。リリがかき回し、あらゆる方向から炎の軌跡を残しながら斬りつける。

その悉くをおじさんは受け止め、切り返す。おじさんが振るう光の剣は独特の駆動音を鳴り響かせながらじわじわとリリを追い詰める。

やがてエネルギー切れを起こしたリリは変身が解けてしまったが、おじさんは剣を構えたまま。

 

決着がついて直ぐに二人にポーションを差し入れしたが、なんとおじさん肉がごっそり減ってた。

 

「いや、このライトセイバー燃費悪すぎるって。刃物もおじさん苦手……ってか刃が無いしさぁ」

「ん-、ダメっすかね?」

「いや、火力面で見れば強いけどもうちょっと燃費を良くしてくれないと完全に決戦装備だよこれ」

「要改善か」

「データだけ取れたのでヨシとしましょう」

「つーかはよライドマシン完成させようぜ」

「「ソレはソレ、コレはコレ」」

「お前ら……」

 

何時も通りだから、まあ良いのかな?




正式稼働となった仮面ライダーリリルカ・アーデ

サプライズされるおじさん

次回、おじさんと粛清


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109 おじさんと粛清

新年あけましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします!

この作品も最後に向けてスパートかけます。ご都合主義モリモリです。


その日、オラリオの二大派閥であるフレイヤファミリアとロキファミリアが動いた。合わせて最大派閥であるガネーシャファミリアもソレに協力していた。

後に発表される事になったのはギルド主体の強制ミッション。

 

『闇派閥の摘発』

 

この作戦は秘密裏に進められ、決行まで仔細が漏れる事は無かった。

 

詳細は省かれ結果の数字だけが発表されたが死者326名、負傷者29名。送還された神が12柱。

監査対象となった神も居て、向こう300年は監視される事となっている。

 

 

 

「と、まぁこんなもんで良いか?」

「うむ、表に発表するものとしてはコレで良いだろう。しかし何だな……ここまで出来るモノなのだな」

「情報揃えさえすれば後は慣れよ、慣れ」

『慣れで済ませて良いモノか? コレは……』

 

おじさんの対面に座るフェルズと椅子に座るウラノス。

そして手元に渡されている資料に乗っているのは今回の計画の全容。粛清対象となった神、眷属、その関係者。

関わった者全ての情報が揃っている。出身地、家族構成、趣味嗜好、直近1カ月間の生活模様と食べた物、移動した場所、関わった人物、会話の内容も全て。

神の目線で見ても狂気と呼べる程にすべての情報が揃っている。

この情報を利用して建てられた計画は開始時刻から粛清の順番まで全て決められ、淡々と実行された。

情報伝達速度の遅さを付いて離れた場所からじわじわと潰していき、本体に情報が届かない様に粛清は進んだ。

距離の問題もおじさんの魔法で無理やり解決して後はガネーシャファミリアの人数を利用して数の暴力で対象を逃がさない。

 

『何というか……相手が哀れだったな』

「一応鏡を利用して確認していたが……蹂躙という言葉があれほど似合うモノはないな」

「都市外になると上限がLv3が精々だし基本1か、稀に2って所だしね」

 

お陰でガネーシャファミリアのメンバーを動員したら片が付く。今まで()()が出来なかったのは情報不足が原因。

だったらソコを補えば実行するのは簡単で……。

 

「いや、都市外の話ではない」

『オラリオでの話だ』

「……いやー、オッタル君凄かったねぇ」

『「解って言ってるな」』

 

ウラノス、フェルズペアが口を揃えて言うがそんなに言う程か?

 

「表向きは確かにオッタルの活躍にはするが……」

『緑の粛清、裏に関わった者たちの聴取で何度聞いたか』

「いーじゃん、おじさんだってハッチャケたい時位あるよ。だってアイツ等本当に邪魔しかしねーんだもの!」

 

ウラノスが鏡で見たのは死屍累々で動けない者をまるで()()()()()の様に掴んでは投げ捨て山にしていくおじさん。

投げられた者への配慮等は一切無く、頭から落ちようが、四肢を砕かれようが、身体が潰れようが全く気にしない修羅であった。

深い緑で彩られていた甲冑は相手の血で汚れ、徒手空拳をメインに使った為に手足を中心に赤く黒ずんでいる。

 

「しかし暴れた原因がアレとは……相手に同情の一つもする」

 

闇派閥が何をしてきたか。

おじさんへのハニートラップだ。

 

……もう一度『おじさんへの()()()()()()()

 

「本当はあいつ等って都市破壊じゃなくて自分の破壊を狙ってたんじゃねーの?」

「いや、あやつ等の狙いは混沌であり……」

「そもそもな話さ、混沌って何よ。弱肉強食? そんなもん今の体勢でも起こってるっつーか、むしろ加速してるじゃん。どんなルール作ろうが弱肉強食はあらゆるルールの()()()()()()()()()()()()()()()なんだからどんだけガワを改変しようと変わる事無いでしょうに」

『アイツラの求める混沌は犯罪でありだな』

「いや、馬鹿じゃん。そんなもんオラリオに限ればギルド潰せば都市機能のほぼ全てが麻痺するんだからココを襲撃して終わり、戦える奴も居ないんだから遠距離から魔法一発でも良いし、爆弾一つでも仕掛けりゃ終わりだろ。

その後に他の神が頭角を現すなら、対象の神じゃなくて神に連なる相手を無作為に、それこそダイスか何かで決めて潰して行けば協力者も削れて、さらに推進も削れる」

『それではモンスターが』

「闇派閥的には()()がある意味ゴールじゃん」

『うぅむ……』

「時間的猶予が長いから、だからこそ温い手を打つんだろうね。オラリオを乗っ取るのが目的でその後の事まで考えてたのかもしれないけど……100年も生きない人間相手に喧嘩売って短期決戦しないとか舐めてるのかと」

 

だからこそ隙は一杯あった。付け入る隙。

街角に幾つも仕掛けたカメラ、都市運用の為にギルドに収集される情報、そこからピックアップされる情報を元にマーク先を広げて相手の情報丸裸。

外との繋がりも二重三重に対象を広げて確認。

闇派閥に多少でも同意して協力しているのは粛清対象、グレーな相手にはペナルティで住んでいる土地の人間全員に詳細を話して監視要員に。

人里離れて暮らす人間はグレーでも粛清。

都市外での粛清、粛清、粛清、粛清、粛清、粛清、粛清。

血と同時に膿を出して、患部を自浄作用で治療しながら正常に……いや、ここは正直におじさんが住みやすい様に都市を作り替えていく。

 

「そりゃね、若けりゃ……あるいはおじさんの相手が一人ならさ……ワンチャンがあったかもしれない。でも複数人毎晩相手に必死になってる俺に女宛がうとか拷問でしかないわ‼‼‼‼」

 

ただでさえイシュタルファミリアの相手も何故かするハメになってるのに他の女とか死ぬわ! つーか春姫ちゃんがダークサイドに落ちるから止めろ、マジで。

 

「切っ掛けはアレだが本当にやってしまうのが恐ろしい所だな」

「前から潰すとは宣言してたでしょーが」

「それでも……だ。それに処刑の場面をモニターを通してとは言え強制的に見せるとは」

「馬鹿が馬鹿な事を考えない様に釘を刺しただけだろ。今後誰か降りてきたらあの映像をちゃんと見せろよ?」

「うむ……」

 

オラリオ近辺と都市内の粛清に関しては表に発表する通りに二大派閥(フレイヤファミリアとロキファミリア)とガネーシャファミリアが動いた。

だが神々の粛清に関してあおじさんがやった。

最初にリモート爆弾をおじさんのスキルで埋め込み、どう足掻いても死ぬ様にしてから肉体を改変。

運動機能を奪って、神経の感覚値を上限一杯以上(感度三千倍)に引き上げる。

普通の刺激が増幅した所で脳を弄って脳内麻薬……所謂苦痛等を緩和する為のエンドルフィンを()()()()()()様にする。

 

するとどうなるか。答.どれだけ痛めつけても発狂出来ない。

 

ギルドの発表の後、神にのみ強制的に視聴をさせられた映像は神に衝撃を与えた。

冒頭に神の名と共に番号を呼ばれ、以降は淡々と番号で呼ばれる。

首が異様に膨らんだ状態で行われる各種拷問。所々で問われる質問。

 

『何故貴方は闇派閥に組みしているのか?』

 

どれだけ答えを叫び、助けを請うても止まらない。答えを返せる思考も無くなり、悲鳴すら上げ無く疲弊した所へ()()()()()が使われる。

地獄の責め苦を再度味わう事合計10回。

一柱につき10本のエリクサー。ソレ等が消費されるまで映像は長く淡々と神の悲鳴が響いては萎み、響いては萎みを繰り返す。

都合10回、死ぬような傷を治され後に薬をかがされ意識の無くなった神の身体は分解されていく。

淀みなくメスが入れられ、身体の中身を晒し、記録を撮られる。

あらゆる尊厳を踏みにじり、最後には身体の中身まで暴かれ、最後に()()()()()()()()意識を戻される。

痛みに覚醒し叫ぶ神に投げかけられる一言。

 

『何故貴方は闇派閥に組みしているのか?』

 

その言葉に返事をする前に神の首は爆発し天へと返された。

12柱分がノーカットで同時に流された、映像にして実に2時間半。

映像を見せられた神の大半は顔を青くしていた。

 

「ま、あの映像を見ても尚悪さする手合いの奴なら変な事考えずに都市の上位戦力を本体にぶつけるでも周囲を囲んでじわじわ〆るでも好きにしたら良いよ」

「そのような時が来ればな」

 

そう言ってウラノスとの会合が終わった。

 

◆◆◆◆◆

 

所変わってアラハビカ。おじさんの部屋に集まって晩酌する影がおじさんを入れて3つ。

 

「というのが裏というか関係者への発表ね」

「アレにまだ裏があるのかい?」

 

例の映像を見てゲッソリしているヘスティアちゃん。

 

「私とヘスティアに話しても大丈夫なのかい?」

「イシュタルちゃんとヘスティアちゃんは身内だし、何かあるとメンドクサイから。後は春姫ちゃんをダーク化させない様に説得してください、マジで」

「……アレは引っ掛かりそうになったおじさんが悪くないか?」

「毎晩に向けて身体調整するとどうしてもあの手のに引っかかり易くて……」

「いっそ春姫を抱いてやったらどうだい」

「それはちょっと……」

 

法的にもあとちょっとだし。

 

「変な所でアンタもこだわるねぇ」

「いや、ソレは一旦置いといて。粛清の話だよ」

「話逸らしたのはおじさんだけどね」

「ヘスティアちゃんは今日のビールそれで最後ね」

「あっ、ごめんごめん! 嘘! 勘弁してー! 今日は飲まないとやってられない!」

 

舌打ちを一つしながら追加の缶ビールとついでにツマミを出してやる。

 

「んで裏話だけどさ、おじさん粛清に参加したじゃん?」

「ああ」

「そうだね」

「神の粛清したじゃん?」

「そうだな」

「レポート見たけど……まぁ、ボクとしても仕方ないかなって所はまあ」

 

ヘスティアちゃんって本当の意味で子供っつーか孤児とかが関わると倫理観の閾値上がるよな。

 

「おじさんの特殊装備にイシュタルちゃんがステイタス刻んだじゃん?」

「当然だな」

 

ちょっと待てぇ!

 

「何だヘスティア」

「何しれっと防具にステイタスを刻んでるんだよ!」

「お前だって自分の所の団長(ベル・クラネル)の武器にステイタスを刻んでるじゃないかい。私が夫の装備にステイタス刻んで何が悪い。というか改宗(コンバージョン)してないだけマシだろ? そもそもコイツの盾に過去の女(ヘファイストス)のステイタスが刻んであるんだから今更だろ」

「うぐぐぐぐ」

 

反論が封じられた所で話を進める。

 

「んで、こちらの胴装備の内側に刻んだステイタスだけど……びっくり。()()()()()()()

「「は?」」

「おい、ヘスティア。お前の所のナイフにスキルなんて生えたか?」

「ええ? いやベル君に偶に確認はしてるけどメンテナンスをちゃんとしてるか程度でそんな事は一言も……」

 

流石に二人も困惑気味。

 

「ちょっと改めておじさんのステイタスと一緒に並べてみるか」

 

■■■■■

 

フィジカルお化けおじさん

 

Lv.5

 

《基本アビリティ》

力:A811

耐久:A891

器用:S925

敏捷:S980

魔力:S999

 

《発展アビリティ》

超激運:S+

魔導:B

狩人:A

対人:S++

耐異常:S+

 

《魔法》

【テレポート】

・対象を唱える

・対象へ跳ぶ

・派生詠唱【ワールドテレポート】

 ・世界を超える

 ・日に一度のみ

・派生詠唱【テレポーテーション】

 ・任意の人数と跳ぶ

 ・人数に応じて魔力消費増大 

 

【トラベラー】

・荷物を格納

・貯蔵量により魔力消費量増加

 

【精霊魔法】

・【ファイアーストーム】

・【メテオ・スウォーム】

・【トルネード・スウォーム】

・【サンダー・レイ】

・【ライト・バースト】

・【アイシクル・エッジ】

 

《スキル》

【幸運脂肪】

・シボウ(脂肪/死亡/志望/子房)を操る

・あらゆる害悪から体を守る(外部から精神に関する防御)

・害悪に対する自動カウンター(相手のステータス依存)

・同意がある場合に限り他者のシボウを操れる(同意書等の書類でも効果あり)

・強制幸福(麻酔効果、ON/OFF可)

 

【庇護脂肪】

・シボウ(脂肪/死亡)操作した者のステータスを上昇(任意)

・最大10段階

・体質操作可能

・シボウ(脂肪/死亡)消費で超サイセイ(再生/蘇生)

・庇護対象カンチ(?)

 └庇護対象に関する行動時にステータス補正

・スキル使用時に魔力消費 

 

【引継ぎ】

・シボウ(死亡/志望)時に同存在に引き継ぐ

・スキル/アビリティ/ステイタス/記憶の継承

・トリガー【死亡】

 

二つ名

フィジカルお化けおじさん(オラリオ)

超反射(オラリオ)

本郷猛(地球)

仮面ライダー(地球)

異世界おじさん(地球)

 

■■■■■

 

特殊装備

 

Lv1

 

力:B753

耐久:S941

器用:I47

敏捷:H121

魔力:C634

 

《発展アビリティ》

精癒:F

 

《魔法》

なし

 

《スキル》

自由(ヒーロー)

・装備者が敵と戦う際に原点の力*1を得る

・信仰(熱量)の続く限り蘇る

 

■■■■■

 

「とまぁこんな感じでスキルが生えてるのよ」

「スキル、確かに生えてるな……」

「何だろうね、日本側のも影響してるのかな?」

「信仰……オタク的な?」

「やっぱイシュタルちゃんもそう思う?」

「ソレしか無かろう? というか効果の蘇るの意味は?」

「多分自動修復機能(オートリペア)かな。傷が入ってもじわじわと直るんよ」

「鍛冶要らずか……無茶する時はとことんだから丁度いいかもな」

「ボクはソレよりも二つ名の所におじさんの名前があることが気になるんだけど……」

「は? そりゃ本名が別にあるからだけど?」

「……はぁ!? え? おじさんが本名じゃないの!!??」

「ちげーし! 普通に本名あるが?!」

「因みに中真 有助だぞ」

「何でイシュタルは本名知ってるのさ!?」

「実家で挨拶した時にご母堂に教えてもらった」

 

イシュタル の 正論パンチ

ヘスティア は 黙った

 

「装備なのにちゃっかりアビリティもあるな」

「コレなー、装備してる間地味に回復してるからポーションがぶのみ抑えられるのは助かる」

「っていうかおじさんの方のステイタスもアビリティ変な事になってるじゃん」

「激運先生に『超』が付いたね」

「変化は?」

「解んね」

「賭け事とかで確認してみた?」

「賭けってあんまり好きじゃないし、会社やってる以上イメージも悪くなるからやらんかな」

 

 

 

「因みにこれ前置きね」

「これが本命じゃないの?」

「いやー、副次効果というか。本命はあの12人に()()()()本当に神を殺せる様になったよって報告」

「「……」」

 

とても長い沈黙の後に二人は落ち着いて口を開いた。

 

「まあ、おじさんだしね」

「今更だな」

「お? 意外と二人共落ち着いてる?」

「まー、おじさんだしその内かなって」

「因みにアラハビカ所属で二度と日本に戻らないって契約した医者一人に神の解剖手伝って貰ってめっちゃ調べた」

「うぉおおおおい! シレっと何してるの!?」

「尚、映像の神はダミーだ、態々拷問なんてしなかったけど麻酔無しで解剖実験やってやったぜ!」

「あ、頭が痛い……絶対お酒のせいじゃないぞコレ」

「がはは、……いやー、おじさんって今まで素人知識でスキル使ってたけどさぁ、医者監修で使うと色々えげつないわ。いや、思い込みも馬鹿にならんけど知識ベースでやるとめっちゃエグい事が色々出来過ぎるねこのスキル(幸福脂肪)

「今更だろ、それに()()持ち出したら神殺しは元々出来るだろ」

「うーん、アレはまだ習ってる最中だし」

「待ってイシュタル、ボクもう着いていけない」

「お前の所の()()()()()()

「……厄ネタじゃん! っていうか問題が色々あるだろ!どうやって持ち出したんだよ!」

「そりゃー、ホラ、この間のアレの関係で。勿論代わりとしてアノ人にお願いしてちゃんと同等……というか同等以上を変わりのモノとして渡したけど?」

「聞かなかった事にする」

「ヘスティア、気にするな。コイツが本気になるとオラリオどころか大陸が更地、処か死の大地になる」

「聞かない! ボクは聞かないぞ!」

「やー、流石にk「聞かないってば!」

 

翌日、おじさんの部屋で泥酔&半裸状態の三人が見つかり、刀を携えて暗黒春姫が降臨したのはご愛敬。

*1
■身長:219.0cm ■体重:219.0kg ■パンチ力:100.0t ■キック力:145.0t ■ジャンプ力:20.0m(ひと跳び) ■走力:3.5秒(100m)




遂に落とされたギロチンは闇派閥とその主神の首を落とす

好奇心に負け故郷を捨てる契約をしてまで神の身体を開き謎を究明するアラハビカ

しれっと明かされるおじさんの本名

オタク心は信仰だった?

次回、おじさんとオッタル



※ちょっと重い感じになってるので本来のコメディに戻したい感




投稿ペースが落ちておりますが単に仕事で忙しいのでご容赦をば。
後はゲームやアニメ等でインプットの期間が来てるので仕事と相まって投稿ペース落ち気味。
最低でも週一は投稿を続けます!

関係ないけど最近ランキングでハガレンの良作がポコポコ出てて嬉しい。


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110 おじさんとオッタル

オッタル君の一日

 

AM7:00

起床

 

AM7:30

身支度を済ませてフレイヤの部屋の前まで移動

主神の睡眠を確認

後に朝の鍛錬へ

 

AM8;40

鍛錬後に汗を流してから再度フレイヤの部屋の前へ移動

この際、食事係と主神の衣服、化粧担当を呼び一緒に待機

最長AM9:00まで待機しフレイヤの起床を促す

 

AM9:40

フレイヤの前日までのスケジュール予定を報告

変更がある場合は随時対応

無い場合はスケジュール通りスタート

(尚、前日のスケジュール予定通りに行く事は2割を切る)

 

AM10:00

食休みを挟んで護衛開始

内容は多岐に渡る為、ここでは行動内容は割愛

 

AM12:00

多少の前後はあれどこの時間には昼食

昼食は基本外食が多い

店の決定権はフレイヤにあるが店の候補を聞かれる場合がある為、店のリサーチも眷属間で地味に行われている

(食事担当に朝食との組み合わせを考え行く店を相談する事もある)

 

PM12:40

食事を終えて移動開始

午前中までの行動とは行先が別の事が多いので護衛を継続

 

PM15:00

ティータイム

その日の気分で好む味がかなり変わる為、直前までの行動に常に目を光らせている

ここの判断はオッタル自身の獣人特性を利用し、フレイヤの分泌成分を嗅ぎ分け大まかに方向性を絞る事で外す事は無い

 

PM18:00

交渉事等は基本この時間までに完了する、又は強制的に終了させる事が多い

交渉はフレイヤ本人の魅了やカリスマ、大手ファミリアとして主導権を握る事が多い

 

PM19:00

ファミリアへ帰宅

以前は外食へと行く事も多かったが最近はファミリアで食事を摂る事が増えた

フレイヤに来客がある場合は当然護衛を継続

来客は晩餐を共にする場合が多く、その際は食事と鍛錬の時間を削る事で対応

来客が無い場合はこの段階で一度護衛から外れる

護衛から外れるタイミングが一番多いこのタイミングで誰が護衛に着くかはファミリア内の強さの序列が優先され対応できる者が護衛に着く

 

PM21:00

食事を摂り鍛錬、身支度を済ませる

この時間帯におじさんが呼ばれる事が増えている傾向にある

 

PM21:30

フレイヤの夜の活動開始

伽を命じられない限りは室外で護衛

フレイヤの最近の遊びで女性として抱かれる場合があるがソコはまだ許容

男性として男性のフレイヤに抱かれるのは心身に負担が大きいので辞退する事が多い

 

PM23:00

夜の活動終了

フレイヤの事後処理を終えて一日の活動が終了

この時に口直しされる事が非常に多い為、最後まで気を抜く事は出来ない

 

◆◆◆◆◆

 

「というのが最近の猛者の活動スケジュールです」

「ん、あんがとね」

 

アスフィちゃんから受け取ったオッタル君のレポートに目を通しながら考える。オッタルの行動が完全にSPのソレなんだよなぁ。

しかもセクハラされまくりの。

 

「そしてコレが昨日検査したオッタルのカルテと……」

 

病名

ストレス性胃潰瘍

 

日本なら既に倒れている状態だが一日一本、ポーションを飲む事で対応していると患者からの聴取で確認。

 

「直ちに治療を開始する事を薦めるが入院期間を理由にコレを断る……か」

 

これは、おじさんがフレイヤちゃんにTSの術を貸与したのが原因っぽいが……うーん。

 

事の発端は精霊の本体を見つけた後にオッタル君を連れて宴会をした時の事だ。

 

 

 

その日、おじさんはちょっと浮かれてオッタル君にうざがらみしながら酒を飲んでいた。

途中でリアクションが無くなったと思ったら唐突に血を吐き出したので慌てて医務室へ運び込み診察。

その結果分かったオッタル君の状態と、調べて貰った彼の一日のスケジュール。

これで倒れない方が……というか無駄にポーションで対応できるから日本より状態悪いな。ブラック企業に勤めて身体を壊しながら働くを体現している様だ。

 

「そこんとこどーよ。フレイヤちゃん」

 

おじさんの部屋に呼び出したフレイヤちゃん。因みにフレイヤちゃんが来るからとイシュタルちゃんも同席してる。

護衛役にアレン・フローメル君が来てるが相変わらず女の格好のままだ。

 

「オッタル、そんな事になってたのね。知らなかったわ」

「男遊び、女遊び、どっちも良いけどさ。偶には眷属サービスしてやったら?」

「例えば?」

 

少し思案して答える。

 

「おじさんはこの間社員旅行行った」

「因みに私もご相伴に預かりました」

「当然私も一緒に行ったな」

 

おじさん、アスフィちゃん、イシュタルちゃんの順に答える。

 

「あら、良いわね。旅行」

「おじさんは手を貸さんぞ」

「あら、まだ何も言ってないじゃない」

「いや、場所が場所なんでお前さんを連れて行って問題起こされると収集が付かないっつーか。ぶっちゃけ面倒」

「あら辛辣」

 

見える、問題を起こして力技(魅了)で解決する未来が!

絶対碌な事にならないのは確定だし。そんなトラブルを好んで抱え込みたくはない。

 

「でもねぇ……眷属の子を啼かせるのが楽しくて仕方がないのよ」

「相変わらずだなこのビッチが」

「あら、イシュタルもこの人(おじさん)に変えて貰ったら良いじゃない。一度は体験しておくと男性への理解度が高まるわよ?」

「……」

 

少し考えてるイシュタルちゃん。

 

「悩むな、悩むな」

「男性への理解度が上がるのは……意外と良い事かもしれませんね」

 

アスフィちゃん、君が返事するんかーい!

 

「おーい、二人共説得されるなー」

「だってこんな面白い事(性転換)、そうそう出来ないし仲間が欲しいじゃない?」

 

貸しを作る為とはいえ……判断謝ったかな。

 

「その辺にしておけよフレイヤ。お前が男遊びだろうが女遊びだろうが好きにしていいが、コレは私のだ」

「……いまの貴女なら友達になれたかもね」

「ふん、今の私にそんな趣味はない」

 

女神同士の視線での喧嘩を横目にオッタル君の入院を薦める。

 

「ま、2週間位は入院した方が良いと思うな。肉体的な所は直ぐに治るけど精神的な部分が摩耗してるだろうから、それ位休ませてあげなよ」

「オッタルったらそんなにヤワだったかしら」

 

肉体的にはタフなんだろうけど……ポーションで済ませる位だし。

 

「……おじさんの故郷風に言えばネトラレ・ホモ・レイプ・百合・性転換・パワハラが一度に押し寄せて来たって訳で……どれか一個でも駄目な人は精神的に割とキツイぞ?」

「そんなものかしら」

「(性豪……)」

「おじ、こいつにそーいう倫理観を求めるな。自分が良ければ良しってタイプだ」

「あら、それは貴方だってそうでしょう? イシュタル」

「……昔の話だ」

「あらあら」

 

とりあえず入院自体は納得したらしいのでオッタル君を休ませる事に。

また世間話が上手いイシュタルファミリアのメンバーを宛がっておこう。

 

 

 

フレイヤがアラハビカのホテルに到着する頃、おじさん達は……。

 

「って事で君は2週間アラハビカで療養な」

「……分かった。世話になる」

 

オッタル君は正直この後に控えてる計画の柱の一つなので、こんな所で折れられても困るのだ。ぶっちゃけ終わった後なら、まぁ好きにして下さいと放り投げれるが、少なくとも今は困る。

なのでおじさんの手元にある最終兵器(フレイヤ限定)を使う!

 

「という訳でベル君!」

「え? あ、おじさん。どうしたんです?」

 

ヘスティアファミリアのホームで次の遠征への準備をしていたベル君を捕まえた。尚、ヘスティアちゃんにはベル君に2週間お使いを頼む事。その対価として日本の好きなモンを幾つか買ってやると交渉済み。

最近取り寄せデザート、おみやシリーズにハマってるのはリサーチ済みだし、検索履歴から高額なモノを買うかどうか迷いつつも買えてないのも把握している。

ソコを突けば答えはYesしか無い!

 

「はい、コレ着て」

「これは……」

 

手渡されたのは改造燕尾服とカフェ店員が付けるような腰につけるタイプのエプロン。

疑問に思いながらも素直に従うベル君。

こーいう素直さは流石10代。

着替え終わったベル君に本を1冊渡す。タイトルは「執事の仕事術」

 

「ベル君、君にはコレから2週間。フレイヤちゃんの所に行ってもらいます!」

「へぇ?」

「君はオッタル君の代わりだ!」

「ぼ、僕がオッタルさん(Lv7)の代わり!?」

「そうだ! とある事情(フレイヤの性事情)でオッタル君が動けない状態(胃潰瘍)にある、その変わり(ストッパー)として君が適任だ!」

「オッタルさんの代わりを僕が……」

「なぁに、フレイヤちゃんの相手(?)をするだけだから大丈夫さ」

「えっと……それくらいなら大丈夫かな?」

「という事でよろしく!」

 

ノリと勢いだけで押し切れるのはやはり10代よのぅ……。

大丈夫だベル君。ちゃんとフレイヤちゃんは女に戻しておいたから最悪の事態は避けれる。

 

ベル君という名の生贄を差し出してフレイヤの暴走を止めたおじさん。

別方向に暴走しそうではあるが……それでも被害が他所に行かない分オッタル君も安心するでしょ。

その事をオッタルに伝えてから取り合えず3日は入院、安静にしてもらいポーションと薬を併用して身体を休めてからはアラハビカで精神療養。

主にリラックスする時間に10日間程充てる。

 

2週間の間に世話役として以前担当させたイシュタルファミリアの子を付けておいた。

割と仲が良さそうだったから大丈夫でしょ。

療養が終わる頃にはスッキリした顔のオッタル君が居た。付き物が落ちた顔してるな。

そしてアラハビカから所変わってオラリオのコロシアムにおじさんとオッタル君の姿はあった。

 

「この2週間世話になった」

「いいよ。この後も働いてもらう予定だし」

「それで……この2週間フレイヤ様は?」

「んーっと、主にベル君で遊んでるかな」

「……そうか、兎足(ラビットフット)には礼を言わねばな」

「あぁ、大丈夫。この2週間で彼も色々覚えたし」

 

主に駄目神の扱い方とか、女性に対するアレやコレや何か……結果、ちょっと10代が出しちゃイケナイ色気が身に着いたがも鼻血を出して喜んでるから良かろう。

 

 

 

1週間もしない内にベル君から連絡があり、フレイヤちゃんとどう接するのが正解か分からないと聞かれたので執事か歌舞伎っぽくやれば良いよとか適当な事を言ったのが運の尽き。

何をどう解釈したのかベル君は所謂女方(おんながた)を参考にし対応、結果としてフレイヤはその状態のベルを大層気に入りその状態でこの2週間を乗り切ったらしい。

ベル君に少なからず気がある女性には大変受けが良さそうな状態だけど……あまり無作為にソレを見せるのは辞める様に忠告しておいた。

あのまま突き進むと宝塚系にジョグレス進化しそうだし。そうなったら色んな意味で止められ無さそう。

 

 

 

「そんな事よりホレ。さっさと調子が戻ってるか確認しよう」

「ああ」

 

そう言って大剣を抜くオッタル君。うーん、巨大武器二刀流ってちょっと中二心をくすぐる……いや、イカン。アレ(変身ベルト)以来こーいうのについ引っ張られる。

頭を切り替えて盾と槌を構える。

特にスタートの合図は無しで打ち合いを始める。初めはおじさんから仕掛けていく。

正面から如意金剛(おじさん棒)を短くしてインファイト、視界から消える様に移動したら今度は武器を伸ばして遠距離、からの長さを調整して槌というより棒の様に使って……というように戦い方を都度変えながら流していく。

ある程度戦った所でオッタル君が身体の調子を確認し終わったのか守りから攻めに転じる。

途端にかかるプレッシャーが重くなる。左右の連撃を盾と槌を使って防ぎながら後ろへと下がって勢いを殺すが地面に流した分の勢いが強く攻撃の度におじさんの足元がボコボコになっていく。

調子が戻って来たのか途中からギアを上げて来た。すると手数と勢いが増しておじさんが捌くのが難しくなる。

 

「うぉっ、ちょっと、きっつ」

「……っ!」

 

無言で繰り出される上下左右の連撃、避ける、捌く、流すとしていく内に互いにテンションが上がっていく。

全部を受け止めるとダメージを受けるので少しずつ、少しずつ勢いを(脂肪)に貯め、機会を伺う。

オッタルが両の大剣をクロスさせて決めに来た瞬間、合わせて前へ出る。

丸盾を前にした状態でのクロスガード。大剣が当たる瞬間に盾を通して貯めた衝撃をオッタルに返す事で所謂パリィを行う。

 

「むっ! っく!」

 

衝撃を受け数舜のスタン、それでも尚攻撃を仕掛けようと前に出るは流石だが……クロスガードからの流れでチャージは完了。後ろに跳びながら既にポーズは完成している。

 

「変身」

 

Tシャツとズボンといったラフな格好から緑の奇妙な甲冑を纏った姿。深層と粛清の際に見せた姿の能力上昇を当然オッタルも知ってる。

 

「出させない事を最善としたが……やはり難しいな」

「ま、コレは格上にも通用する様に練習アホ程頑張ったからね」

 

右手の槌を短く、小さく変えてベルトの横へと吊り下げる。

 

「ラウンド2と行きますか」

「……来いっ!」

 

先ほどまでは殆ど防戦に徹していたおじさんが一転、攻戦へて転じる。

一歩。

オッタルから見て踏み込まれた一歩。その一歩の歩幅が余りに馬鹿げてる。

その一歩で10メートルはあった距離は一瞬で潰され勢いのままに右の拳が降りぬかれる。

両手に握りしめた大剣から伝わる衝撃は先ほどの盾越しに動きを封じる技術とは違い、ただただ圧倒的パワーで潰しにくる。

拳が、蹴りが、体当たりが、未知の格闘技がオッタルを襲う度にソレ等を防ぐ。攻めに転じる隙を伺っていたオッタルだが、危惧していた瞬間が訪れる。

グルグルグルグル、ベルトのバックル部分に取り付けられたギミックが出力の上昇を示す様に回る。やがて訪れる臨界点。

ベルトからのエネルギーが緑の身体を包み始める。変身後の充填状態。

飛躍的に戦闘力を上昇させた姿はオッタルと同等以上の戦闘を繰り広げた。

 

 

 

「いや~、負けた負けた!」

 

コロシアムの地面や壁をボロボロにしてから試合は終了した。

おじさんは打ち身が多数、オッタル君は内出血数か所と骨にヒビがいくつか。やっぱ防具って大事だわ。

 

「やっぱオッタル君って戦い方上手いよね」

「アンタはもう少し落ち着いて戦えば俺を倒せるだろう」

「いや~……なんかアレになるとどうもテンション上がっちゃって……」

「まずはその悪癖を直す所からだな」

「あはは……善処します」

 

一応オッタル君も体調大丈夫そうだし、後はタイミングかなぁ。




オッタル君の体調を整えたおじさん。

色気を兼ね備えたベル君(主人公)

次回、おじさんと精霊



※仮面ライダーの能力を考えた時、変身後の姿の能力は加算ではなく乗算としています。


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111 おじさんと精霊

中々筆が進まぬ
とりあえず区切り良さそうなのでupします


オラリオの二大派閥の面々……その主要人物が1か所に集まっていた。

集まった面々は何となくその立役者が誰かが分かっても居た。

 

暫くしてその人物が姿を現した時、全員の心が一つになった。

 

「集まってくれてありがとうねー」

 

「((((細くなってる!!!!??)))」

 

 

 

声は変わらず何時も通り、だがその身体、主に腹周りがスッキリしダルマの様だったシルエットは絞られ所謂ラガーマンの様な体系へと変貌していた。

 

「えー、皆が言いたい事は何となーく解ってるけど作戦には関係ない事なので無視します。これからやるのは特定階層まで移動して、事前に伝えたモンスターを倒す。これだけ。

 但し、最後の〆だけおじさんが貰う。

 シンプルに行きます。細かい事は言わん、倒せりゃ良し。指揮はファミリア毎に……と言いたいけどフレイヤファミリアは厳しそうなので両ファミリアの団長同士で決めてね」

 

そう言って、そそくさと出ていくおじさん。移動の際にはまた来ると言っていたが……。

 

「だってさ、どうする?」

「貴様なら上手い事やるのだろう、フィン。任せる」

「良いのかい?」

「あの方がアイツと約束をしている。ならばこの作戦はあの方の命令と同義だ、ソコに私情を挟む団員は居らん」

 

 

 

フィンとオッタルが指揮系統の会話をしている頃、おじさんはアスフィに依頼していた装備を受け取っていた。

 

「んで、いくつ準備できた?」

「柱を8本、箱を4つ、それとベルトのカートリッジが1つ」

「えっ、カートリッジ本当に出来たの?」

「はい、といっても最低限のエネルギーしか入って無いですけど」

 

そういって渡されたプレート状の結晶。予備があるのと無いのじゃ全然違うのでこれは有難い。

ヘスティアファミリアからの参加はおじさん、ベル君のみ。

今回Lv3以下は参加なし、Lv4でサポート、Lv5以上で戦力換算だ。

 

「ちゅー訳でベル君、宜しく」

「はい!」

「ベル君、おじさん、気を付けてね」

「はい、神様」

 

準備を終えたベル君と合流したらヘスティアちゃんとイシュタルちゃんが近寄って来た。

 

「おじ、気を付けろとは言わんが……無茶はし過ぎるなよ」

「んー、どうだろね。出来るだけ無茶はしないつもりだけど」

 

そう言って頭をかいていたら首根っこ掴まれてチューされました。ベル君居るんだけどなぁ。

あっ、ベロ入れるのはやめっ、長い長い。

暫くされるがままにしてたが長すぎるので背中をポンポンと叩いたらやっと解放された。

 

「ふぅ、続きは戻ってからだな」

「うぃっす……」

「アワワワ」

「(ギリィ)」

 

主神様、未だにベル君を食ってないのかな。あれだけ色々やってたのに……助力の方向性間違えたかな。

 

 

 

準備を済ませてから改めてフレイヤ・ロキファミリアと合流。

どうやら下手に手を組むより二点からの強襲を選択したらしい。両ファミリアの主力が件の熊型のモンスターを、他が取り巻きの狼のモンスターを担当。

取り巻きを処理次第、主力の援護という流れらしい。

 

初めにロキファミリアの主力達とテレポーテーションで76階層まで跳ぶ。

宙に浮かんだ穴を潜った者たちが一番初めに感じたのは寒さ。

広がる極寒。叩きつけてくる雪と舞い上がった潮風が体温をどんどん奪っていく。

視覚的にも寒く感じてしまう様な光景に思わずぶるりと震えてしまう。

 

「それじゃ、この辺りがあの熊型の知覚範囲ギリギリ。ここから見て右手側……向こうにフレイヤファミリアの人員を置いてくる」

「あぁ、スタートの合図は派手な奴を出すんだろう?」

「うん、んじゃフレイヤファミリアを送って来るわ」

 

そう言っておじさんは魔法で消える。

改めて周りを見渡せば以前戦った汚れた精霊の様なモノが収まった氷を腹に抱える魔物。そしてソレを十重二重と囲む狼型のモンスター。

 

「さて、皆。事前の打ち合わせ通り合図を待ってから魔法で一撃を加える。ソコからマジックユーザーは引き続き魔法の詠唱、サポートは魔剣を使っての波状攻撃、その際に前衛は接近、Lv5の者は狼型をLv6は熊型を相手だ」

 

周りを見渡せば全員気合の入った目をして目標を見据えている。

 

「アレは依頼主の目標でもあるが……ある意味ボク達の目標でもある。全員アレを倒すつもりでかかれ」

「「「「「はい!」」」」」



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112 おじさんと精霊2

ロキファミリアが気合を入れている頃、オッタル達を76階層へ移動させる。

フレイヤファミリアには感謝と嫉妬とその他諸々、色んな感情を向けられている。……これは何か……後ろから刺されない様に気を付けないといけないやつだな?

手を出される事が無い様に祈っておこう。

 

「よし、それじゃあオッタル、後は宜しく」

「最初の約束通り……だな」

「うん、それじゃあね」

「ああ、フレイヤ様の名に誓おう」

 

 

 

フレイヤ、ロキの両ファミリアが配置に付き合図を待っている。

両陣営から見て丁度反対側に位置どったおじさんとベル君。

 

「んじゃ、ベル君。いざって時は頼むね」

「はい!」

 

右手を前にして意識を熊に集中……やはり此方へ顔を向ける……何となく感じてるんだろう? おじさんが吸収した精霊ちゃんの身体を。

特大の花火で合図を出してやるぜ。

 

「火よ、来たれ──

猛よ 猛よ 猛よ 炎の渦よ 紅蓮の壁よ 業火の咆哮よ 突風の力を借り 世界を閉ざせ 燃える空 燃える大地 燃える海 燃える泉 燃える山 燃える命 全てを焦土と変え 怒りと嘆きの号砲を 我が愛せし英雄の命の代償を──

代行者の名において命じる 与えられし我が名は火精霊(サラマンダー) 炎の化身 炎の王──

【ファイアーストーム】‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼

 

詠唱が完成すると同時に虚空から滲み出る様に出現する燃え盛る巨岩。ソレ等は纏った炎を燃え上がらせながら凍った大地に突き刺さりその場に居た狼型の取り巻きモンスターを巻き込んで爆散。

地形を大きく変えて熊型に多少のダメージを与えつつ周囲に居た狼をごっそり減らした。

立ち上がる煙と凍土を溶かす業火の音が周囲に響き渡る。普通のモンスターであればひとたまりもない一撃。

だが熊型のモンスターは傷こそあるものの悠然と立ち、雄叫びを上げるとまるで待機していたと言わんばかりに周囲から狼が集まって来る。その身を捧げる事が正しい事だと言わんばかりに狼は駆け寄り次々と熊の背から生えた触手に飲まれていく。

狼を呑む毎に肉が盛り上がり、毛皮が覆い、傷が癒えていく。

焼け焦げ虚空を睨んでいた熊の瞳が再生した途端、その瞳は一点に注がれる。

 

間違いなく此方を……おじさんを認識している。それを自覚した瞬間、背筋をゾクゾクとした怖気が走る。

 

熊型のモンスターが背中から生えた無数の触手で狼を呑みながら体勢を二足歩行から四足歩行へと変え四肢に力を入れた時、再び業火が熊を焼いた。

 

 

 

「来た。なるほど、確かに派手な合図だ」

 

それは嘗て59階層で相まみえた堕ちた精霊が使っていた魔法。忘れたくとも早々に忘れられるモノではない。

その威力を知っているからこそ、味方が使っている事が心強い。

 

「後衛はあの魔法の着弾後に魔法を解放しろ! サポーターは魔剣を装備して迎撃用意! 前衛は僕に続け!」

 

フィンの号令を合図にロキファミリアが各々動き始める。

サポートとして来たLv4までの者は魔剣を装備し狼の群れに備え、前衛は獲物を構えて走り出す。

そしてリヴェリアを筆頭とした魔法部隊は―――

 

「総員、魔力を引き出せ、一撃の威力を上げろ……」

「間もなく、焔(ひ)は放たれる。忍び寄る戦火、免(まぬが)れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む。至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火。汝は業火の化身なり。ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを。焼きつくせスルトの剣……」

 

手に持つ杖を介して身体の魔力を待機させている魔法へ注ぐ。文字通り魔法使いとしての秘奥を行使しながら部下を鼓舞するエルフの王族は引き出した魔力に髪を揺らしながらその双眸を敵へと向けていた。

そしてリヴェリアの後方に陣取ったレヴィーヤはLv4にも関わらずLv6のリヴェリアを超えるその馬鹿げた魔力を完全に掌握していた。

 

「誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えよ。帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢。 雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え」

 

溢れ出る魔力までも全てを操作し詠唱中の魔法と待機させている魔法へ注ぎ込む。

この堕ちた精霊本体との闘いにおいて九魔姫(ナイン・ヘル)の秘蔵っ子、ロキファミリアの次期最高火力のレフィーヤ・ウィリディスはその片鱗を開花させた。

 

「放て! 我が名はアールヴ【レア・ラーヴァテイン】‼‼‼‼」

【ヒュゼレイド・ファラーリカ】追奏解放(カノン)【レア・ラーヴァテイン】‼‼‼」

 

 



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113 おじさんと精霊3

おじさんが放ったファイアストームを超える範囲の表土から炎の柱が出現する。

燃え上がる柱出現場所周辺の凍土を溶かしながら、周囲に居る生物を巻き込み炎に帰す。

身体の体毛を燃やし、纏わりつく炎。皮膚を焼き、口を、目を鼻を焼き、その炎は肺に侵入し体内すら焼く。

内と外を焼かれ絶命した狼はそのまま炎にくべられる燃料となり、運悪く絶命できなかった狼は空から襲い来る無数の炎の礫に皮膚を、肉を、骨を、脳症を貫かれて絶命していった。

 

獣たちの火葬場へと一変した凍土、そこを駆け抜ける二つの集団。

フィンが率いるロキファミリア、それと対を成すオッタルが率いるフレイヤファミリア。

先に獲物に接敵したのはフレイヤファミリアだった。

 

「邪魔だぁあーーーー!」

 

一直線に熊型へ突き進む中、道中の狼をついでと言わんばかりに屠りながら突き進むのは『都市最速』の称号を持つフレイヤ・ファミリアの副団長。女神の戦車(ヴァナ・フレイア)アレン・フローメル。

それに続くオッタルとヘグニ・ラグナール、ヘディン・セルランドの白黒の騎士。

そして最後尾から四つの影が一団から離れる。魔法で嵐でなお倒れなかった狼達を襲うのは炎金の四戦士(ブリンガル)

万全な状態であれば獣としての敏捷性と狼という群れで行動を行う性質から戦いという形になったのは間違いない。だが既に魔法で損傷をしている狼達に小人達の連携を止める程の動きは出来ず、碌な反撃も出来ないまま魔石を残す事になる。

 

 

 

意識が沈んでいた状態から浮き上がる。

どうやら先の魔法でマインドダウン寸前まで行ったらしい事をベル君から伝えられた。

 

「……おじさんが今回の作戦に入れ込んでるのも知ってます。でも……少し力を抜いて周りを見て見ませんか?」

 

ベル君がこちらを心配した目でまっすぐ見てくる。

冒険者としてLv5という高みに辿り着き、一般人とは隔絶した運動能力を兼ね備えた少年。

多感な時代にこんな高みに登れば歪みそうなのものなのに……彼の性根は何時までも素朴な少年らしく、ただただ心配の感情を向けてくれる。

それに比べておじさんは周りに良い顔をしながら自己中心的な考えの元、周りを巻き込んでここに立ってるっていうのに……。

 

「いかんな、どうにも感情的になってるかも」

 

自分の根本的な部分が油断するとネガティブになる事を反省しつつベル君の肩を借りて立ち上がる。

視界を戦況に向ければ狼型が大幅に削られた状態でフレイヤ、ロキファミリアのLv5以上が熊に憑りつき交戦中。Lv4を中心に、Lv5がついでと言わんばかりに狼を削りながら戦況は押している。

 

それでも余裕とは言えない。

 

精霊を文字通り腹に抱えた熊型の一撃は凄まじく、両の手を振るう度に氷壁が割れ、背中から伸びる無数の触手はLv5以下を寄せ付けない。

そこに食らいつくのはフィンを中心としたチームプレイ主体のロキファミリアPT、そしてオッタルを筆頭とした個の戦力を高め続けたフレイヤファミリアPT。

2PTは上手く立ち回りそれぞれの行動を阻害しない様に各々責め立てている。

 

遠くから見ているからこそ解る。チームプレイを乱したいがその頭脳までが遠いロキファミリアPT。個々の戦力が吐出していて1体を倒しても意味が無い……かと言って無視も出来ないフレイヤファミリアPT。

攻められる側からしたら厄介な2PTを相手取って未だ戦い続けているあのモンスターのタフネスが異常なのだ。

 

「おじさん、本当にボクは()()で良いんですか?」

「うん、多分おじさんだとアイツ相手だと壁にしかなれないから……決め手はベル君(主人公)でなくちゃ」

 

反則的なスキルで時間というリソースを大量に手に入れたおじさんだけど、やっぱり決め手を持ってない。

助けられて、慰められて、何だかんだとここまで来たけど。

 

"居れば便利、居ないなら居ない也にやれる"

 

おじさんなんてそんなポジションなのだ。

でも、だからこそ。

自分との縁を……例え最初が悪いものだったとしても……大事にしたいじゃない。

大きく深呼吸、冷たい空気を胸いっぱいに取り込んで逸る頭を落ち着かせる。

人生の大一番、きっと最大の舞台。今できる精一杯を!

 

「よしっ、んじゃあベル君。おじさん行ってくるわ」

「はい、皆で必ず帰りましょう!」

「うん、皆で帰ろう」

 

羽織っていた防寒具を脱ぎ、腰へと手を当てる。

アスフィ、ヴェルフと造った変身ベルト(ヒーロチケット)

おっさんだってやる時はやるって事を見せる、その為の一手。

 

脳内に響く英雄の為の曲、定まったポーズを取り流れる様に動く身体。

あふれ出す緑の濃いオーラは高まり、臨界と共に眩い光を放ちながら身体の変化と鎧を顕現させる。

 

変身

 

地球のヒーローがダンジョンの深層へ降り立った。

 

「さぁて、家族を取り戻しに行きますか!」

 

おじさんの大一番が幕を開ける。




主人公にはなれない

それでも世界は止まらない

なら使えるものは何でも使って取りに行く

次回、おじさんの舞台


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114 おじさんの舞台

戦場は膠着していた。

ロキファミリアとフレイヤファミリア。

オラリオの主力2大戦力を集めて尚、圧し潰せない相手。それが落ちた精霊の本体だった。

 

オッタルがフィールドの氷を踏み締め、一瞬の踏み込みで距離を潰した勢いのまま右手に構えた大剣が上段からの振り下ろしでモンスターの皮膚を割き、続く左手の大剣がモンスターの振り向きざまに繰り出される左腕のカウンターを受け止め。

長い時間の中でやっとマトモに入った一撃。たまらずと言った具合にモンスターの咆哮が冒険者達の鼓膜を震わせる。

 

『グォオオオーーー!』

 

オッタルの作った隙を見逃さず、女神の戦車(ヴァナ・フレイア)がその敏捷性から生み出されるオラリオ一の速度で銀に輝く槍を振るい触手を薙ぎ、顔を中心に責め立てる。

それに対抗する様に動くのはロキファミリア一の速度を誇る凶狼(ヴァナルガンド)。両の脚に炎を纏い周囲を駆け抜ける度に舞う火の粉と、叩き込まれる打撃音と共に爆ぜる火の華はモンスターの毛皮という鎧を削っていく。

 

一撃の大きさを持つ雄と速さで視界の中でウロチョロと動く雄2匹。

鬱陶しい! と言わんばかりにモンスターが両手を広げて前方へと突進、と共に背中から生える触手が一度に咲き乱れ周囲の小さい生き物(生き残りの狼と冒険者共)を捕食しにかかる。

触手の動きはある程度成功し狼を捕食は出来たが冒険者の方には避けられてしまう。

そして突進の方は横合いから来たずんぐりしたモノ(ガレス・ランドロック)に邪魔をされ倒れてしまう。

 

突進を邪魔する膂力に少なからず驚きの感情が生まれるが、それ以上に攻撃を邪魔された事に怒りが湧く熊型のモンスターは邪魔をしてきたモノに転がった姿勢から更に突進を慣行してみせた。

 

「んなっ!?」

 

それに驚愕したガレスは避けるのは不可能と両手に持った斧を固めて正面から受けるが、相手の質量と速度に負けて吹き飛ばされてしまう。

攻撃後の隙へすかさず襲撃をかけるアイズとティオナ・ヒリュテ、ティオネ・ヒリュテのアマゾネス姉妹。

ガレスが抜けた穴を埋める様に飛び出した三人がアイズを先頭に流れる様に攻撃を仕掛け顔、腕、足を中心にそれぞれが責め立てる。

 

そして近距離で触手を切り払いながら機会を伺っていた白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)貯めていた(ストック)していた魔力を解き放つ(リリースする)

 

「永争せよ、不滅の雷兵 【カウルス・ヒルド】」

 

短文詠唱により彼の身体を巡っていた魔力は人の頭部程の雷という形に変わり熊型モンスターの背中を撃ち、雷による一瞬の麻痺を敵に与える。

またその隙を見逃さずに連続して詠唱が行われる。

 

「永伐せよ、不滅の雷将 【ヴァリアン・ヒルド】」

 

唱えるとほぼ同時にダンジョン内に鳴り響く轟音と稲光。下手な者がモンスターの周囲に留まればそれだけで二次被害が出かねない程の高威力且つ、待機時間の短い魔法行使。

ロキ、フレイヤファミリアの第一級冒険者はソレを見事に見切り、すり抜け、直後に攻撃をしてみせた。

 

モンスターの横合いから両手剣の二刀を救い上げる様に切り上げ剣戟の雨霰を降らせるオッタル。

一撃離脱でモンスターの毛皮という装甲を剝いでいくアレンとヴェルフ。

アイズが敵の顔を攻撃する事で集中力を、ヒリュテ姉妹が手足を攻撃する事で機動力を削いでいく。

 

そんな中、白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)のヘディン・セルランドが不満を漏らす。

 

「ヘグニ! いい加減に魔法を使え!」

「えっ、いやぁ……アレあいてにはちょっと」

「いい加減にしろ! そんな事でフレイヤ様のご命令に背くつもりか!」

「そんなつもりは無いが……」

「だったらさっさとヤれ!」

 

そう激を飛ばされヘグニ・ラグナールは覚悟を胸に変身の言葉(呪文)を口にする。

 

「抜き放て、魔剣の王輝(おう)。代償の理性、供物の鮮血。宴終わるその時まで—殺戮せよ 【ダインスレイヴ】」

 

唱えた瞬間、大きな笑いと共に黒い影がモンスターへと襲い掛かる。

 

「ゲハッ、ゲハハハハ‼‼ この毛玉野郎がぁ~、生意気に障害面してんじゃねぇ‼‼‼」

 

爆発的なスピードでモンスターまでの距離を潰し、黒の長剣でモンスターの目を潰しにかかる。

モンスターからすれば優先度の低かった存在が急に攻撃を仕掛けて来て思わずギョッとして身体が硬直してしまった。

そして人格改変魔法を使ったヘグニはそんな一瞬の硬直を見逃さない、猪突猛進、もしくは自暴自棄とも呼べる防御を考えない攻撃を連続で仕掛ける。

その間も他の冒険者の攻撃は続いておりヘグニの生んだ隙は他冒険者の攻撃のチャンスへと繋がり更なるチャンスを生んでいく。

身体に着く細かい傷にモンスターの口から零れる雄叫び、攻撃の手を休める事無くヘグニの口から更なる呪文が紡がれる。

 

「永久(とわ)に滅ぼせ、魔の剣威をもって 【バーン・ダイン】‼‼」

 

人格を変えた事により意気衝天のヘグニはモンスターの横っ面から効果範囲は短距離ながらも威力は折り紙付きの爆炎魔法を叩きつける。

大きく揺らいだモンスターを見てフィンの知略がPTの行動を加速させ、

 

「炎と雷の魔法を中心に立ち回れ! アイズは風でソレ等の補助を!」

 

冒険者一同の攻撃は速度を増し、より苛烈なモノへと変わっていく……それでも尚陥落する気配が無い。ソレが精霊を抱えたモンスターの持ち得る戦力。

一撃が重く、まともに受ければ戦線離脱は確実。

受け止めて動けるのはガレス位のもので、そんなガレスですら正面から受ければ今の様に回復が必要になる。

 

千日手になりつつある戦場に空から英雄擬きが降って来る。

 

「バレットストライク‼‼」

 

両の拳に緑のオーラ(魔力)を宿しながら行われる乱打は2PTに向いていた意識を確かに引き寄せた

数十の乱打を受けて怯む熊型モンスター、その隙に着地して距離を取るおじさん

改めて目の前の熊型モンスターを見て大きさを実感する。

二階建ての家屋に届く程の高さ、背後から伸びる無数の触手、両の腕は成人男性の身体よりも大きく、鋭い爪は雑に振るだけで人体等簡単に引き裂く事が想像できる。

あぁ、モンスターは恐ろしい。簡単に人の命を奪う事が出来る魔獣。

そして少し視線を下げればモンスターの腹に抱えられた氷柱の中の人物と目が合う。

 

長らく欲しかったプレゼントを見つけた子供の様に、ギラギラとどす黒い感情を隠す気も無く此方を見る精霊。

自身を覆う氷柱の淵に手を当て狂気に染まった笑みを浮かべる。

 

それに呼応して吠える魔獣。

それと同時に聞こえてくる精霊の声。

 

『ソレ……頂戴?』

 

魔獣の声よりも遥かに小さいその声は、戦場に居る者全員が聞こえた。そしてその声に乗る感情は狂気。

奈落の底に堕とされ、温もりを欲し、太陽に焦がれ、狂いから何を置いても、周りにどれだけ被害が出ても厭わない、そんなモノを感じる余裕の無い精霊の狂気が声を伝って冒険者の脳を犯す。

 

冒険者の身体が強張る一方、おじさんはその狂気を正面から受け止めていた。

おじさんの根っこの部分、普段は表に顔を出す事の無い部分が彼女の言動を理解している。

彼女は彼女でないけれど、それでも近しい者として大人として、男としてという覚悟が湧いてくる。

仮面で決して外からは見えないが、声が届いた者には笑みを浮かべている顔が想像出来た。

 

「応、利子付きで渡してやるよぉ……その代わりお前さんはおじさんのになるけどなぁ!」

 

両の拳を打合せ緑の火花が飛び散り自身を鼓舞する。

次の瞬間、氷を踏み砕いて瞬間移動と見まごう跳躍からの乱打が堕ちた精霊を抱えたモンスターとの第二ラウンドを告げる事となった。




第一級冒険者達が挑む堕ちた精霊

攻めきれず千日手になりつつあった戦況

現れたおじさん

おじさんの目的は達成できるのか

次回、おじさんの舞台2


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115 おじさんの舞台2

おじさんは跳んだ。

普段なら全体を俯瞰して見た後に何処に跳ぶかを決めて飛ぶ。

割とランダムに跳んでる様に周りからは見えるが、実はきっちりコントロールして跳ね回ったりしている。

とはいえ初めからではなかったが……それはさておきコントロールするのは性格的に慎重な部分や、仕事の際に求められる正確さ等から来るもの。

だが今この時はそういったモノが頭から消えていた。

 

良く言えば覚悟を決めた。悪く言えば何も考えてない。

 

本能のままに全力の踏み込みで跳躍する。自分の身体を弄繰り回して強化を図っても行動という意味では自分の思い描いた冒険者像に届かなかったおじさんだが、この瞬間の動きは正におじさんが思い描いていた冒険者像と重なっていた。

 

これは非常に単純な話なのだが……今までは余分な脂肪が多くて理想通りの動きが出来なかったのだ。

 

しかしアスフィの完成させた「魔力双方向の循環とストック」が可能なシステムがおじさんから余分な脂肪を取り除いた。

今まではスキルの発動材料として、また防御に直結するモノとして蓄えられていた脂肪はそのナリを潜め腰に装着されたベルトが唸る。

さながら呪いのアイテムを外した、縛りプレイを止めたプレイヤーの如く、普段のおじさんを見ていた人物が居れば動きのキレがまったく違う事に気が付いただろう。

 

両の手に再度チャージされたオーラ(魔力)を再び振り抜く。

振り抜く度に削れていく熊の肉。

ヘイトを集めるためか防御を捨てて殴り続ける。

 

当然ながらその間も他の冒険者からの攻撃は続く。

今までの攻防で毛皮が剝がされていた事も功を奏しておじさんの攻撃は熊に当たると当てた分だけ身を削っていく。

まるで弱点を突かれたように。

 

熊の意識がおじさんに向いてる。フリーになった冒険者は当然ながら最大級の攻撃を仕掛ける。

各々の持つ最大の火力が正面から対峙しているおじさんの反対側……つまり熊の背中へと命中していく。

その攻撃は熊の触手を砕き、毛皮という鎧を剥ぎ、肉を削り、骨にまで達する。

だが熊型のモンスターの視線は依然おじさんに向き、振るう手も同様におじさんへ向いている。

 

それと対峙しているおじさん、勢いで押していたが実情としては押されている。

簡単に説明するなら一撃死式高難易度ハードモードプレイ。

少なくとも熊の爪が頭に当たれば柘榴の様に破裂した脳が辺りに飛び散りスキルでの復活も無理だろう。

それ故に頭に食らう事を避けつつ、可能な限り避けながら攻撃、被弾したら回復。

この行動が最低限。

自分の理想とする動きが出来ているおじさんだが、それでも尚攻撃を当ててくるモンスター。

おじさん自身を囮にして他への注意を減らすという目論見は見事に的中したが……想像していた以上にモンスターから注視されていて対応が間に合わない。

特に攻撃に利用していた両腕の損耗が激しい。左1回、右が3回。

相手のカウンターで肘から先をもぎ取られた回数。

涙が出る程痛いがストックされている魔力を消費して再生。同時に装甲も合わせて再生されるが当たり所が悪いと再生した装甲ごと腕を持っていかれる。

 

そして何より警戒しなければいけないのが口だ。

左右の攻撃よりも上から降り注いでくる牙、ソレに捕まれば身動きを封じられたまま両の手で拘束され文字通りおいしく頂かれてしまうだろう。

前後左右上下と出来る限り敵の向きを変えない程度に動きながら攻撃を続ける。

既に戦闘開始から30分以上経過している中、極まった覚悟とアドレナリンから来る高揚感に凄まじい集中力、更には普段とは違う引き締まった体型は堕ちた精霊との戦闘でも遅れを取る事は無かった。

だが極度の集中とは当然ながら長時間は続かない。

 

切っ掛けは一つの攻防から。

 

熊の攻撃を四肢を地面につける事で身を沈めて避け、沈んだ反動で熊の右側頭部まで跳躍。体の捻りを加えながら踵落としを繰り出した時だ。

頭に入ると思われた蹴りは熊の口の中から突如現れた触手に絡め捕られた。

背中の触手は相変わらず他の冒険者の攻撃で再生と切断を繰り返している。恐らくこのモンスターの奥の手と思われる触手はおじさんの意識外の攻撃として成立し足を絡め捕られてしまう。

 

驚きに身が固まった一瞬。その一瞬は目の前の怪物相手にはとても致命的な一瞬だった。

 

物の様に振り回され氷の大地に叩きつけられる。更に体にかかるGは体中の血を一瞬で頭に送り、体に襲い来る衝撃と共に仮面の中で鼻血や吐血、血涙として流れ出てくる。

 

尚も熊の怪物は攻撃の手を止めない。

首の動きと連動して触手でおじさんを振り回し、叩きつけ、散々地面を崩した後におじさん自身を武器として冒険者に振り回した上で上空に振り上げてから地面に叩きつける。

 

そこからの突進。

 

これはマズイと周りの冒険者が止めに入るがガレスに一度邪魔されて学んだのか最初に見せた突進よりも遥かに速度と威力が出ている。

勢いを殺す事無くおじさんが居た場所へ両の腕が振り下ろされ、大地は割れ、空中には氷の粒が舞い散る。

舞い上がった氷の煙を突き抜ける様にして跳躍で熊との距離を取るおじさん。

着地するも踏ん張りが上手くいかず後ろへ跳んだ勢いのまま地面に転がる。

おじさんの右腕は圧し折れ、右の腹は爪で抉られ、左脚は足首から先が無い。

 

血の匂いを嗅いだからか、戦闘の興奮からか熊のモンスターは大きく吠える。

 

周りもマズイと思ったのか一斉に攻撃を仕掛けるが相変わらずモンスターは周りを無視しておじさんに突っ込んでいく。

どうにか立ち上がろうとスキルによる再生を試みるが再生が間に合わず不完全な回避も空しく、熊の両の爪を胴体に受け体は泣き別れしてしまう。

 

「げぁっ」

 

攻撃の反動で跳ぶおじさんの上半身に周りの冒険者の動きが止まってしまう。

 

熊型モンスターもソレを視線で追い、追い打ちをかけるべく足へ力を入れた時、顎を下から蹴り上げられた。

 

 

 

何事かと視線をやれば下半身のみで動くおじさんの脚。

今度はモンスターが驚愕で固まる番だった。

下半身は一度着地後、再度飛び上がり再び熊の顎を膝蹴りでカチ上げてから熊の体を足場に上半身の方へ跳んでいく。

着地後に今度はおじさんの上半身が自分の腰を掴んで上へと収まると胴体が生えて上半身と下半身が繋がった。

 

その光景に冒険者、モンスター共に驚きで動けず、フィールドとは別の意味で場が凍っていた。

 

 

 

「ふー、死ぬかと思った」

 

「「「「「(いや、死んで無いのかよ!!!!)」」」」」

 

その場にいる全員(人、モンスター)の総意である。




死んだと見せかけて生きてるおじさん(実は1死)

攻撃は苛烈さを増していく

次回、おじさんの舞台3


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116 おじさんの舞台3

敵を警戒しながら自分の腹を撫でてみる。骨、肉、臓器ときちんと繋がっている。

装甲も戻りつつあるので継続戦闘も問題無さそうだ。頭を切り替えて再度熊へと突っ込んでいく。

 

先程の二の舞にならないように今度は口からの触手も警戒しながら。

一死でちょっと頭が冷えた。

なのでモンスターの挙動をよく見る。集中して見て……挙動から予測しあて避ける。

 

避ける際も今までのスーパーボールの様な避け方から滑るように。

 

体全体を利用しての全力移動から瞬間的な加速によるステップ避けへ、ステップ避けと言いながらそのワンステップで5メートル程移動しているのは安全マージンを取っているからなのか。

避ける度に段々と爪が届かない最適な距離に近づいて行く。

 

おじさんが距離を測っている時も状況は変わっていく

モンスターの背は骨まで達する傷が徐々に癒えて行く。冒険者の攻撃は続いているのに。

 

流れる血は止まり、周囲の肉が蠢く。

傷口を覆う様に肉が移動し癒着。凄まじい速度で皮膚で覆われ体毛が生えていく。

おじさんが距離感を掴むころにはモンスターの腹回りに蓄えられた脂肪はスッキリとしてシェイプアップされた形で万全な状態になっていた。

 

「あらまぁ……ダイエット凄いですね」

 

シェイプアップされた体が思いのほか良いのかモンスターの動きが更に俊敏になる。

環境的に皮下脂肪が必須であろう目の前の怪物がソレを捨てて活動を開始した結果、更なる戦力増強が行われた。

こうなると第一級でもモンスターの速度に着いて行くのが難しくなる。

速さがウリのヴェートやアレンは対応出来るが、モンスターの背から再び生えた触手は切り落とされる前のつるりとした肉色の触手ではなく、幾分太く、厚い毛皮に覆われた尻尾の様なモノに変わっていた。

結果として素早く動ける二人の攻撃に対応が可能なソレ等は冒険者達の攻撃の機会自体を減らしていく。

 

そんな事が裏側(物理)で起こっていたがおじさんがソッチに構う余力は無かった。

何故なら前面にも触手が生えて来たからだ。

 

「ちょぉ!?」

 

またもや予想外の事に冷静になっていた脳みそはフリーズしてしまった。

結果避けるのに失敗してしまう。

 

「げぺっ!! ……ぃっ、くおらぁ!!!」

 

思わず【トラベラー】で丸盾とポーションを取り出してポーションの中身を腹にぶちまけながら、盾の淵を使って触手を切断する。だが先ほどの触手攻撃で腹肉と臓器を装甲と共に食われてしまった。

今までは攻撃一片だった相手が自分を捕食対象と見なした事にちょっと背筋が冷える。そしてモンスターは激しく震えたと思ったら触手がVerUPした。

 

「「「「「は???」」」」」

 

毛皮は更に装甲に覆われ、牙が生え、本数が増えた。

 

「おめーも身体自由自在かよ!」

(((((お前が言うのか?)))))

 

周りから何か言いたそうな目線が来たが知らん知らん。

避けるのは当然として、触れるのもヤバそうなのでおじさん棒……如意金剛も取り出し触手を捌く。

盾で防いだり流したり、如意金剛で弾いたり飛び跳ねたりと雑技団の様な動きをしながら触手を避ける。

こちらが状況に対応してきたと思えばあちらも対応し始めた。

迫りくる触手はただ突っ込んで来るだけではなく、時折自身をブレさせておじさんが捌くのを邪魔し始める。

そしてこの触手、どうやら熊が操るのとは別に()()()()()()()()()()()

 

熊野郎の目線である程度距離やら方向を察知してたのにソレとは全く関係ない方向から来る触手がある事に気が付いた。

よくよく見れば腹の氷柱に収まった女の目線に合わせて動いている触手が数本ある。

気付くまでに数回身体をえぐり食われたがどうにか持ち直してる。

 

……持ち直してると良いなぁ……さっきから再生が鈍い。脂肪の量で魔力残量を把握してた癖がここで裏目に出てくるとは。

 

魔力残量の不安、長時間の集中、激しい運動が続き集中力は削られる。更に注視すべき対象が熊本体、触手に加えて腹に収まっている精霊の視線にも注意を払いだすと……。

 

「いっだっ!」

 

当然ながら対応が追い付かない。おじさんの集中力に終わりが訪れようとしていた。

 

段々と被弾が増えていく中、おじさんの意識は次の段階へ以降していた。

おじさんの知る中で一撃の火力の最高峰、そのチャージ音は貯めている彼から離れたこの戦闘場所までも鳴り響き始めた。

ならばここしかない。と、おじさんは詠唱を始める。

 

「火よ、来たれ──

猛よ 猛よ 猛よ 炎の渦よ 紅蓮の壁よ 業火の咆哮よ 突風の力を借り 世界を閉ざせ 燃える空 燃える大地 燃える海 燃える泉 燃える山 燃える命 全てを焦土と変え 怒りと嘆きの号砲を 我が愛せし英雄の命の代償を──

代行者の名において命じる 与えられし我が名は火精霊(サラマンダー) 炎の化身 炎の王──

【ファイアーストーム】【コンプリート】」

 

本来、宙から炎を纏った多数の巨岩を降らせる魔法はその成りを潜め……否、広範囲に渡り破壊を振りまく威力を圧縮しておじさんのベルトへと吸い込まれる。

一つ目の魔法が上手い事ベルトへ装填された事で一瞬気が緩んでしまい、顔面への触手攻撃を食らい仮面の一部が割れ、頭血を流すおじさんの顔が露出するが詠唱は止まらない。

 

「突き進め 雷鳴の槍 代行者たる我が名は雷精霊(トニトル) 雷の化身 雷の王──【サンダー・レイ】【コンプリート】」

 

頭への攻撃は脳を揺らし、前後不覚に陥る。詠唱が止まらなかったのは単に意地で詠唱を……という訳ではなく、本来放たれる魔法をベルトに無理矢理収めるコンプリート状態を長く維持出来ないのと、そのまま放置すれば所謂魔力暴走が起きるというデメリットもある為だ。

なので無理やりにも()()()()()()()詠唱を完成させる必要があった。

 

衝撃にふら付く頭、血が目に入り霞む視界が動きを鈍らせる。

三度突進してきたモンスターを避けるべく足に力を入れて飛び上がるが、突進中の熊の目玉の奥、頭蓋を突き破る勢いで咲き乱れた触手の花弁を避け切れずに全身を絡め捕られる。

 

「【エクシード・チャージ】」

 

キーワードをスイッチにベルトに込められた二つの魔力は右手へとベルトから腰を、胴を、右肩を渡り右の拳に宿る。

燃え上がる朝焼けの様な輝きに後方に居る冒険者ですら一瞬目が眩む。

そしてソレを脅威と感じ取ったモンスターの動きは早かった。

 

絡めた触手を一層締め上げながら左の爪を振り下ろす。

肘の先から切り落とされた右腕を危険な物を投げ捨てる様に右腕を掴んでいた触手がソレを放り投げ、右肩には牙をむき出しにした口がかぶりつく。

凄まじい破壊の光を宿した右腕は血をまき散らしながら宙を舞っていく。

 

ギリギリと締め上げられる触手、軋む装甲。装甲ごと牙を立ておじさんを捕食しているモンスター。

今度こそ駄目だと思われた時に捕まってる当の本人が笑い出す。

 

「くっ……くくくく、あははははは!」

 

その光景に、獲物が狂ったと思ったモンスターは一瞬捕食が緩むが逃がしたらいけないと思い直し更に牙を食い込ませる。

 

「熊ちゃんよぉ……おじさんの腕を切り落としたってさぁ……落とされた腕の所有権はおじさんのモノなんだぜぇ‼‼‼‼」

 

おじさんは残った左腕を無理やり動かして自分の右肩に噛みついている熊の首を掴むとすかさず叫ぶ。

 

「今必殺のぉ……ロケットパンチ‼‼‼‼(物理)

 

これまでの攻撃の最中に切り落とされ、地面に転がっていたおじさんの数本の腕が攻撃の際に宿した魔力をそのままにモンスターへ突っ込んで来る。

この攻撃には流石に驚いて身じろぎをしようとしたが、おじさんが首を絞める様に捕まっている為に回避が出来ず、四方から飛んで来たおじさんの腕が熊の体に文字通り突き刺さる。

 

「イグニッションヴァーーストォオオオオ‼‼‼‼」

 

おじさんの掛け声と共にモンスターの肉を突き破った腕に内包された魔力が暴走し腕諸共爆発という現象を引き起こす。

余りにもあんまりな攻撃方法と手段に他の冒険者は開いた口が塞がらない。

そして冒険者達が呆けている間に物事は進む。

 

 

 

魔法二発分を宿した拳。

実は先程のモンスターへの攻撃には利用されなかった。

ではソレは何処へ行ったのか。

 

先程のロケットパンチ、その実はただの隠れ蓑で本命は魔法を届ける事が本命。

おじさんの魔法が込められた拳はヘスティアファミリアの団長。ベル・クラネルの元へと届けられる。

 

飛んで来た拳を受け止め、込められた魔法をヘスティアナイフに流していく。

炎と雷、ベル・クラネルの魔法【ファイアボルト】と同じ属性を宿した魔力は彼自身の魔法(ファイアボルト)を触媒にヘスティアナイフへ流れていく。

自身が扱うよりも強大な魔法は嘗て放った一撃を大きく上回る刃として顕現した。

その刃を抱えたままベルは走る。

たった一撃。

この一撃を加える為だけに体を張っている仲間の元へ。

 

勝利への(ベル)を鳴らしながら、英雄(ヒーロー)が戦場へ駆け抜ける。

 

 

 

モンスターは焦っていた。

目の前には絶対に譲れない捕食対象。

それも満身創痍で後は周りの有象無象を捌きながらコレを捕食すれば使()()が終わるはずなのに。

得も言われぬ焦りがモンスターの心を揺さぶっていた。

どこからか聞こえる鐘の音が、まるで死神の持つ鎌の様に、音が大きく響く度に全身の毛が逆立つ。

 

このままではマズイ。

 

野生の勘が、モンスターとしての勘がそう告げてこの場からの離脱を選択しようとした時、目の前の獲物がより一層しがみ付いてきた。

血にまみれ、装甲は剥げ落ち、爆発で体の一部が炭化しているにも関わらず。

 

「熊コロぉ……おじさんはなぁ。道化でも良い、雑魚でも良い……でもなぁ、自分の守りたいもんは何が何でも守るぞ

 

この時モンスターは初めて、自分の残った左目で目の前の獲物の目を見た。

その目に映るのは何を置いても敵を倒す覚悟を持った雄の目。

ある種の狂気を孕んだ目だった。

 

「おじさんと一緒によぉ。ウチの団長の……英雄の一撃を特等席で味わっていけ」

 

焦ったモンスターは獲物に絡まった触手を一層絞める。

その肉体をバラバラにして、最悪頭だけでも捕食出来れば良いと。

だが千切れない。

今まで以上の力を籠め、例え同レベル帯のモンスターでさえ千切れる程の力を入れても、目の前の獲物の体が千切れない。

 

 

 

最初に気づいたのはアイズだった。

彼女の風か遥か後方から来る兎の存在を伝えていた。

そしてソレが事前に伝えられていた一段階目の鍵であり、フィンがあえて彼女を補助に回した意味だと。

 

「テンペスト」

 

自然と彼女は彼に風を送り、兎の背中を押していた。

そして英雄は更に加速する。

想い人の風を受け、仲間の想いを受け止め。

 

Lv5まで只管鍛え続けていた敏捷が、貯金も相まってLv6すら超えていける速度が更なる追い風を受けて右手に宿る光は閃光となり戦場を駆ける。

その光は戦線を構成する冒険者の合間を縫い、取り巻きモンスターの壁を抜け、最前線にいる冒険者達すらを超えておじさんが捕まえている熊型モンスターの首へとその鐘の音と共に太陽の輝きを持って終わりを届ける。

 

 

 

「グアアアアアアアッ‼‼‼‼」

「本物の英雄(ヒーロー)のお出ましだ」

 

「アァアアアアッ!!! 聖火の英斬・絆(アルゴウェスタ・デスモス)‼‼‼‼

 

太陽の輝きを載せたその一刀はモンスターの首を切り離し。強烈な太陽の閃光を放ちながらモンスターの肉体を浄化して見せた。




英雄(ヒーロー)の一撃によって堕ちた精霊の外郭が取り払われる

遂に相まみえるおじさんと精霊

決着の時は近い

次回、おじさんの冒険


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117 おじさんの冒険

太陽の輝きがダンジョンを照らす。

それは有り得ない光景ながら、その場に居る冒険者はまるで朝焼けの日の光に優しく包まれる様な感覚に陥った。

数舜の空白の後、フィンは事前の打ち合わせを思い出し声を上げる。

 

「事前に鍵を渡された者は走れ! 防衛陣形!」

 

フィンの一言に団員達が動き出す。高レベル冒険者を中心に数名のグループに分かれてモンスターを囲う様に位置どる。

全員が事前の打ち合わせポイントに向けて走り出したのを確認したフィンは再度高らかに声を上げる。

 

「設置したら合図に合わせて起動しろ! タイミング間違えるな!」

 

ロキファミリアの動きが慌ただしいのと同時に、ベルの動きも加速していた。

先のアルゴウェスタでモンスターの首を切り落としたが、本命はその後に来る3重魔法による効果。

ファイアーストームとサンダー・レイという頭の可笑しい威力を秘めた精霊魔法と、触媒となるファイアボルト。拡散する性質を持つファイアーストームだがファイアボルトを触媒とする事で射出と圧縮の性質を持った。そしてそこに同様の性質を持つサンダー・レイを加える事で属性の強化と出力の上昇を促し、これだけで必殺技と呼べる代物なのだが、そこに加えアルゴノゥトというさらなる出力の底上げを行った結果。

疑似的な朝日を再現するに至った。

 

傷口から発する超高温はモンスターの体を容赦なく消し炭へと変えていく。浸食する様に首から体へと炭になり端から崩れていく体の限界を察知した堕ちた精霊は自分を保護していた氷を内側から破り外へと出た。

 

目の前には捕食し損ねた獲物を抱える白髪の少年。

抱えられた獲物は四肢は砕け、皮膚は先ほど少年が放った一撃の余波で大部分が火傷を負っている。

精霊は自分に足りないモノを持つ獲物に狙いを定めて自分を構成する主属性を使って攻撃を開始する。

 

「凍リ、華開ケ【アイシクル・スパイク】」

 

たった二言の詠唱と魔法名の宣言。

次の瞬間には精霊を中心とした半径500mは氷の柱とも見える極太の槍が構成する森へと変わる。

足元の氷から無尽蔵に生えてくる極太の槍をどうにか避けていく冒険者。何か所か掠る事がありながらも避ける事には成功し術者である精霊の居た方向を一睨みした所へ……。

 

「狂イ咲ケ【アイスバーン】」

 

更なる詠唱が確かに聞こえた。

次の瞬間、直前に出現した氷柱とも思える槍は爆発。衝撃が冒険者を襲う。

そして何よりも厄介なのは爆発した氷柱が粉となり冒険者の周囲を纏わり急激に体温を奪い始める。

勿論これはおじさんを抱えるベル・クラネルにも襲い掛かっており槍の直撃は避けれたものの氷のデバフまでは避け切れなかった。

おじさんを手放さなかったものの体に纏わりつく雪はベルの体温をどんどん奪っていく。耐寒ローブを装備した上でこの状態だ、抱えているおじさんの事を考えると早急に頼まれていた事を済ませる必要がある。

ベルはおじさんから預かっていたベルトのカードリッジを取り出す。たったこれだけの動作の間に体温は一気に下がりまともに動くのが難しくなる。

振るえる腕でどうにかカードリッジをセットした所で精霊の攻撃が飛んでくる。

 

「【アイシクル・エッジ】」

 

魔法名の宣言のみで放たれる氷の刃はベルに向かう。避ければ後ろのおじさんに当たる為取るべき行動は迎撃。

右のホルスターに入ったナイフを引き出し、氷の刃に当てて逸らせる。

彼の思い描いた動きに対して体は思考を裏切る。常であれば問題無かった行動は体温を奪われており何時も通りの動きに比べ緩慢になり、結果として迎撃は間に合わず左肩へとアイシクル・エッジが刺さってしまう・

 

「うっ。くぅ……!」

 

直ぐに立ち上がるべく気合を入れ手足に力を籠める。しかしそんなベルに精霊は追加の一言を続ける。

 

「狂イ咲ケ【アイスバーン】」

「……ッッ‼‼‼」

 

ベルの左肩に刺さった氷の刃が爆ぜた。

破裂した氷の刃。衝撃は先のアイシクル・スパイクに比べれば小さいながらも爆発した箇所が自分の左肩だ。当然ながら被弾率が違う。

更にはデバフのかかり方も全く違う。

先程までのは体全体から体温を奪うモノだったのに比べ、此度の攻撃では左肩の凍結、および周囲の凍傷。範囲は左上半身と顔の左側。

左目も開ける事が出来ず体温は更に急激に下がり左腕は感覚すらない。

急速に運動能力を奪われる事に恐怖しながらもベルは動かせる右手を腰のポーチへと突っ込む、もう一つだけやらなければならない事がある……この階層へ来る前に預かったチップを取り出す。

チップを取り換える為には両手でベルトを操作する必要があるが左手が思うように動かず焦りが生じる。思い通りに動かない左手を無理やり動かしベルトのバックルを開く。

中央に取り付けられたチップはバックルの開放と共に外へと排出され代わりのチップをベルは右手で押し込む。

 

ベル・クラネルは気づいていた。

自分が大きな流れの中心にいる事。

このうねりの中を逆らわずに進む事で得られる飛躍とも呼べる能力の向上。

それを齎す始点は間違いなく目の前で倒れ伏している男であり、普段は裏方に回り、道を自分に譲る男である事を。

少なからず感じていた恩。嘗て祖父が言っていた『男の夢』を体現した男。

正直男の朝の様子を見た後でその夢を追いたいかと言われると答えに困るが……それでも以前自分が見た夢を実現させた男。

この大舞台の中心をまた自分に譲ろうとしているが『ソレは違うだろう』というのがベルの本心だった。

 

「おじさん、この舞台の主役は僕じゃない……貴方だ」

 

チップと共に押し込まれるバックル。

起動するベルト。溢れる魔力。

 

だからこそベルはこの言葉を口にする。

 

「『その時、不思議な事が起こった』」

 

 

 

ダンジョン内に発生した疑似的な太陽の輝きは消える事無く、男へと集まっていく。

失われた手足は生え、皮膚も常の状態へ戻り消えかけていた息を吹き返す。

 

自分が信じていた主役に舞台の中心を譲られた。

その事が信じられないと共に、嬉しくもあった。

立ち上がり彼を見る。

自分の為に身を賭して動いてくれた年下の英雄(ヒーロー)

思わず涙が流れてしまう。

装甲の修復も遅い。

武器も盾も吹き飛んで手元に無い。

それでも……

 

「これに答えないと漢じゃないよなぁ、英雄(ベル君)

 

 

 

次の瞬間、精霊は口から肺の空気を全て吐き出しながら、背中を氷壁へと叩きつけられていた。

 

「!?!?」

 

襲い来る酸素を取り入れる事の出来ない状況と苦しみに思考は混乱する。

次いで襲ってくる腹から駆け上がって来る猛烈な鈍痛と吐き気。

吐き気に逆らいきれず吐き出せば広がる血液。

 

何が起きたのか分からない。

解らないが目の前に居た獲物が捕食対象から敵へと明確に切り替わったのは解った。

 

 

 

堕ちた精霊に対して拳を叩きつけた姿勢のまま、おじさんは妙にクリアな頭で幾つもの思考が廻っていた。

 

堕ちた精霊

 

亡くなった精霊

 

イシュタル

 

かつての死因(二度目のオラリオでの死因)

 

春姫

 

ベル・クラネル

 

ヘスティア

 

自分のスキル

 

一瞬の内に駆け巡った思考はこの場においてある種の最適解を導き出した。

おじさんのスキルを単体ではなく全体として考えた際、シボウを消費して体の再生やカウンター、身体操作を行うスキル。

ではシボウを死亡と読み替える事も出来るのでは?

 

結果としては成功。

自分の生命のストックを消費する事で成し得る爆発的と呼べるブースト。

凡人が文字通り命を賭して成し得る一撃を得た。

 

そして最後の一手。

 

ソレを叩き込む為の舞台装置は既にロキファミリアのお陰で出来上がっている。

 

 

「フィイイイィィイイイン‼‼‼‼‼」

「総員! 装置を起動しろ!」

 

フィンの掛け声で起動されるアスフィが開発した『箱』

正式名は無く、ただ『箱』と呼ばれるソレをロキファミリアの団員が地面へ設置して起動スイッチを入れた途端、起動音と共に箱は淡い橙色の光を発する。

光は周囲の箱を認識すると光同士を伸ばしネットワークを構築、そしてネットワークを覆う様に内側に向けて六角形の障壁を重ね合わせ巨大な結界を作り上げていく。

 

おじさんの用意した精霊を逃がさない為の檻。精霊魔法を遮断し、生命を通さない。

 

「さて、ベル君。おじさんちょっと頑張って来るから向こう側で見ててよ」

「はい、見てます」

「対象:フィン 【テレポーテーション】」

 

おじさんが移動の為に出した穴を潜りながらベルは声を掛ける。

 

「おじさん、必ず勝って!」

「はいよ! 団長!」

 

おじさんはベル君へ返事をしながら精霊に向かって駆けだす。

逃走を封じ、外殻を剥ぎ取り、タイマンへと持ち込んだ。体は無事、鎧は……半壊だがあるだけマシ。

後は秘密兵器を抜くタイミングと、自分の命のストックが切れる前にタイミングを引き寄せる事。

 

「精霊ちゃんよぉ! こっからは殴り合いだなぁ‼‼」

「……ッ‼」

 

 

 

 

 

 

そこからの戦いは冒険者達の戦いとはナニかが違った。

冒険者達の戦いは言ってしまえば命の奪い合い、生存競争。

当然おじさんの相手をしている堕ちた精霊は殺す気で相手をしているし殺気も傍から見て感じ取れる。

だが肝心のおじさんはどうだ。

 

勝気はあるが殺気が無い。

 

盛大に笑いながら氷の大地を踏み割りながら駆け抜け、空気の壁を破りながら相手を殴りつける。

地球でライブ配信でもされていようものならリアルDBとでも言われていただろう戦闘。

lv6から見てもデタラメとしか言えない身体能力で繰り出される暴力の数々、致命傷を受けた端から回復していく体。

部位が欠損しながらも続けられた攻撃だが遂に精霊側が動いた。

おじさんの攻撃の隙を突いて振るわれる爪とソレに合わせて行使される無詠唱魔法。

さながら魔法拳士とも呼べるスタイルでおじさんの腹へと氷の一撃を入れた後、即座に短文詠唱の【アイスバーン】を使用。

一瞬ののけ反りの隙を突いて大きく離れる精霊。

 

水ヨ、湧ケ(みずよ、わけ)

 |唸レ、砕ケ、流セ、大河ノ暴虐、揺リ籠ハ反転シ、全テノ命ヲ飲ミ込ムダロウ。《うなれ、くだけ、ながせ、たいがのぼうぎゃく、ゆりかごははんてんし、すべてのいのちをのみこむだろう。》

 |罪ヲ流スハ佇ム女ガ湛エル涙。ヤガテ静寂ガ訪レル。《つみをながすはたたずむおんながたたえるなみだ。やがてせいじゃくがおとずれる。》

 代行者ノ名ニオイテ命ジル 与エラレシ我ガ名ハ水精霊(ウィンディーネ) 水ノ化身 水ノ女王──」

 

腹の再生を終えて相手を見れば詠唱が完成間近、初めて聞く詠唱……それでも自分が使えるモノ(精霊魔法)と似通った詠唱であるならば恐らく広範囲の高威力魔法。

堕ちた精霊の周囲を渦巻く魔力が拡散しながら大気と地面へと染み込んでいくのがおじさんの目には映っていた。

さながら青い蕾が大きく花開く前に成長している様な、破壊の前の美しさの様な物を感じさせる。

その規模の大きさに腹が据わる。

 

その場にしゃがみ込み見る。

精霊を、辺りに漂う魔力を、場の空気を。

ほんの一瞬の事を間延びした感覚で感知する。

時間間隔の延長と共に変化するおじさんの肉。

皮膚は黒く、目は白目と黒目が反転し、その身の肉はより力強く肥大と収縮を繰り返しながら煙を立ち上げる。

 

「【庇護脂肪】体質変化:流動硬化(モード:ゴライアス)

「【ウォーター・スウォーム】」

 

魔法名が宣言された瞬間、魔力が染み込んだ箇所から大量の水が()()()。地面や空気を破壊しながら襲い来る大質量の水。

速度も量も下手な津波等比較にならない程の威力で襲い来る。

その光景をまるでコマ送りの様に見ながらおじさんは()()()

 

爆ぜた水と共に破壊される足元の氷を、まるで地面の様に踏み締めて跳ねる。

体勢は無茶苦茶でとても移動している様に見えないが視線だけは一点を見据えて。

 

結界を埋め尽くす勢いの水。

檻は精霊魔法を通さない、故にこのまま行けば溺死という結果になってしまう。

ならばこそ、此処で決めるしかない。

精霊が迎撃の無詠唱魔法を放つ、迫りくる魔法を()()()避けない。

腹に深々と刺さる氷柱を無視して上げた両手で虚空を掴む様に構える。

 

この一瞬が全てと最後の鍵を取り出す。

 

「【トラベラー】来い、神剣・布都御魂剣(しんけん・ふつのみたま)

 

おじさんの手元に引き寄せられた布都御魂剣。

元は日本の刀剣だが世界を渡り、タケミカヅチの手元を経ておじさんの元に転がり混んできた。

元々は儀式剣だが長い年月をかけ信仰という名の火で鍛えられた剣はタケミカヅチの元で神性を得て普通の武器とは一線を画す物へと至った。

 

振り下ろされた偽・神造兵器。偽とは言え神造兵器。堕ちた精霊の体に一切の抵抗を許さず、片口から腰にかけて袈裟懸けに体を分割した。

 

ここで一つだけ予想外の事が起こった。

一応予想はしていた。

威力が高いと。

その点はタケミカヅチにも注意は受けてはいたけれど……。

 

「これは予想外だなぁ……」

 

振り下ろした剣の威力は普通ではなく堕ちた精霊の体を両断して尚、威力の減衰を一切見せず。

剣戟は剣筋の延長線上に結界も、地面も、ある全てを両断しダンジョンまでも大きく斬った。

その結果生まれ落ちてくるジャガー・ノート。

いや……まぁアレだな。

 

「全員集まれー! 逃げるぞー!」

 

精霊ちゃん抱えてスタコラサッサだぜ!




命を削って拾った勝利。

おじさんがこの後やる事は……。

次回、おじさんと

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1か月以上かかっちゃった・・・。
無駄にこねくり回そうとしちゃいけませんね。シンプルに行こう。シンプルに。
という訳でおじさんのやりたかった事を全部やった回、
次回で後日談で最終回でございます。


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118 おじさんと終わり

長かった3も終わりです。


精霊ちゃんとの闘いから既に1か月が過ぎようとしていた。

この間はずっとヘスティアファミリアのホームで療養。

堕ちた精霊を抱えたままオラリオに戻って来た事で一部混乱があったが……まあ大体の奴はオラリオのツートップであるロキ・フレイヤファミリアが騒がない事で次第に沈下。

周りがギャーギャー言ってる間に自分自身と精霊ちゃんの体をあれやこれやと弄繰り回しておじさんはどうにかホーム内なら動ける程度には持ち直した。

精霊ちゃんはまだ眠ったまま、意識戻るまでもうちょいかかりそう。暫くは保つかな。

 

「あ"~、自分の脚で動けるって最高~」

「おじさん、大丈夫なんですか? 部屋抜け出してきちゃって」

「抜け出すって言っても庭で日向ぼっこしてるだけだし良いでしょ」

 

庭の日向で横になりながら、途中で寄って来たベル君と話す。

あの後、色々あったし尽力して貰って感謝しますが、多少はお目溢しして欲しい。

 

「いやいや……おじさん戻ってきてからマインドゼロで気を失ったから呑気かもしれないですけど……起きるまでに4日もかかったし、日に日に細くなって行くのを見れば誰だって心配しますよ」

「……そっかー」

「あの後、神様が機転を利かせてアラハビカからお医者様を連れてこなかったらどうなってたか……多分、と言うか絶対にオラリオにマインドポーションやポーション、それに栄養自体を点滴で投与とか存在しないですよ? アミッドさんが訪ねて来た時は1日中おじさんに繋がってる点滴を見てましたし」

「えっ、何それ聞いてない。怖い」

 

そう、ベル君が言った通りおじさんは細くなった。

細くなってしまった。

体重を計ったら40キロを切ってたからなぁ。女児かよ!って思った位だし。

医者に診てもらって暫くは絶対安静。色々と制約が付いたけど1か月で体重も50キロが見えて来たし、また脂肪のストック戻さなきゃ。

 

「まぁでも、やっと肩の荷が下りた気がするわ」

 

眼を閉じて思い出す。

最初にオラリオでヘスティアちゃんに会って。

色々バカやって、思えばあそこでイシュタルちゃんとも縁が出来たのか……戦争遊戯を超えて自分の世界に戻って……。

絶えられなくなってオラリオへ戻ろうとしたら別の所で。

そこで精霊ちゃんと縁が出来て。ま、最終的に喰われ(物理)ちゃったけど。

死んだと思ったら【引継ぎ】で人生ニューゲーム状態に入って行くけど、lv5に来るまで何年かかったか……。

毎回ヘスティアちゃんの所に所属してたけど、こそこそと隠れてステータス更新しても伸びるのは微々たるもんだったからな。

今回の事で学んだわ、本気でやるなら色々巻き込んで行かないと大きなことはやれん。

 

「けど暫くは切った張ったの世界は十分かな」

「まずは体戻さないとですしね」

 

ベル君の相槌に「確かに」と笑って返す。

一緒になって笑っていると建物の方から叫び声が。

 

「あーーーーーー! 居ましたー!」

 

振り返ると春姫ちゃんがホームの窓からこっちを見てた。

……あれ?

 

「ベル君」

「何ですか?」

 

何故におじさんの肩を抑える? 今日って確か1日フリーの日じゃなかったっけ?

苦笑を浮かべてベル君が更に力を入れる。

 

「おじさん、昨日一日中寝てたんですよ。なので今日は午前中はイシュタル様、午後から春姫さんの日らしいですよ」

 

おじさんの顔から血が引いていく。

 

「い 一日中寝てたかー…もう一日休みを貰えたりは…」

「僕に決定権は無いのでお相手にお願いしてはどうでしょう?」

 

あ、あかん 嫁さんに色々バレて諦めた時の同僚と同じ目だ!

逃げ出そうにも今の体調だと振り解くことすら出来ん!

 

「いっ! 嫌じゃ! これだけ体力減ってるのに致すのは無理だって!」

「そんな事を僕に言われても……それに医者からも一応OK出てる訳ですし」

「アレって『数日おきなら』って医者がしぶしぶ出した奴じゃん! イシュタルちゃんが本気で神威かまそうとして! それに対して一日おきに致すのは絶対違うっつーか本来連続でヤるもんじゃねーよ!」

「そこらへんは僕は未経験なので分かりません」

 

こっ、こいつ!!

堂々と未経験(童貞)と言い切った!!

いかん、現実を見たくない!

 

「まってまって! おじさんの認識だと昨日したばっかりで無理だって!っつーか春姫ちゃんはおじさんの倫理的に無理!」

「スキル使えば良いじゃないですか」

「……元になるモノが欠けてる状態で使ってもガス欠なんじゃよ……」

「そう言うだろうと思ってコイツを連れて来たよ」

「ハハァ……♡ 久しぶりだねぇ♡」

 

恐る恐る目を開けるとイシュタルちゃんとフリュネちゃんがベル君の横に立っていた。

 

「えぇっと……どういうご了見でしょうか。フリュネちゃんまで連れて……」

「おじ、盲点だったよ、アンタのスキルは相手に対して自分の脂肪を使う事が出来るんだよね?」

「だったらさぁ、アタイの肉をアンタに使う事だって出来るんじゃぁないのかい?」

 

フリュネちゃんが血走った眼と興奮した様子で顔を近づけてくる……。

 

「ふふふ……イィ。アタイの血と肉がアンタみたいな雄と交わると思うと……たまらないね!」

 

ナニを想像したのか身を震わせながら目をかっぴらいて空を見上げてる。

 

「相変わらずですね。フリュネさんって……」

「私が言うのも何だがおじに依存し過ぎだろう」

「うーん……コレっておじさんのせいになるのかな?」

 

例のイシュタルファミリアへのフレイヤファミリア奇襲事件の際、地味ーにオッタルから助けてやってから懐かれたのよね。

まぁ、オッタルの方が納得いかなさそうだったからその分フリュネを殴って分からせるって話になって、顔面が倍に腫れあがる程に殴ったんだけど。

そしたら変なスイッチ入っちゃたのは何ともはや……。

ドMの巨漢女……容姿を弄れば需要ありそうだけど本人が嫌がるからイシュタルちゃんも困ってるみたいだし。

 

けどまぁ、他人の脂肪を自分に使うか……言われてみれば普段と逆の運用も行けそうな気がする。と言う事でさっそく。

フリュネちゃんの手を取って立ち上がってからスキルを発動。武器を振るう彼女厚い掌の皮膚を通しておじさんの魔力が流れ込み、そのパスを通して彼女の有り余る肉がおじさんへと流れて来て……。

 

「おっ、おぉ??」

「あっ、ひっ、ひっ、ひいぃいいい♡」

 

フリュネの肉を貰って自分の身体を整えたら何か肌が若干焼けた様になった。まぁ元が白い方だったから多少焼けても九州男児として見たら割と普通か。

ある程度…大体80kg手前まで増やしたけど、それに対してフリュネの体型が激変してる。

これもしかして…所謂レートが違うのか? おじさんから他者に対してと、他者からおじさんに対しての変換率は悪そうだな……。

とりあえず昇天してしまったフリュネを抱え……は止められたので代わりにベル君が抱えて部屋に戻ることに。(肉を貰った結果、フリュネは細く、美人になったのでベル君でも簡単に抱えられる)

 

 

 

部屋に戻ってから体調が戻ったとしてイシュタルちゃんと一戦交えた後で色々抱えてたモノを吐かされた。いや、本気で性交渉では勝てん……。

折角なので精霊ちゃんも居る部屋でイシュタルちゃん、それに春姫ちゃんも呼んで色々と白状しましたよ。

そう遠くない時間でおじさんに残ってる時間が尽きそうな感覚がある事。

スキルとして命のストックがあったが、ソレ(命のストック)を消費して布都御魂剣を振るった事。

命が尽きる直前に自分の体を全部消費してでも精霊ちゃんを生かす事。

それに伴ってアラハビカから呼んだ医者に手伝って貰って会社の人間に対して元の世界に帰るか残るかのアンケートを実施していた事。

残る者と帰る者。残る者には生活基盤を整える支援、帰る者には一人頭約1億円の退職金。

それなりに残る者が居て、その結果として幾ばくかの技術や薬の知識がオラリオに流入するだろうけど……ソコには眼を瞑る事に。

 

「とまぁ、直近に動いてたのはこんな所かな。正直に言えばあっちの世界の利権の調整とか、ネットを介して俺の今後に関しての発表やったり、政府系にも対応しなきゃなんで正直残ってる時間で捻出する必要があるんよ」

「はぁ……お前という奴は……」

「あの、おじ様……」

「何?春姫ちゃん」

「その……どうにかして延命は出来ないんでしょうか? それに何故そこまで精霊様に……」

「あー……、多分俺を初めて食った(物理)相手だからかなぁ?」

「何?」

「……//////(ボッ)」

 

んー、ある意味文字通り一心同体となった事であの時の精霊ちゃんの思考とか気持ちとかが強烈にあるからどうにかしてやりたいって気持ちもある訳で……。

 

「惚れてる……は違うな。未練? 何て言ったら良いか分からんけど……何とかしてやりたい相手なんよね」

「……はー、おじ。お前は相変わらずだねぇ」

「私を救った時と変わりませんねぇ」

「そう?」

「えぇ、おじ様は色々怒ったり突拍子もない事をしますが、根底は何時も変わらないお人です」

 

何か春姫ちゃんのおじさんへの評価が良く分からんが……、まあええか。

 

「っていうか正直イシュタルちゃんが暴れたりしなかったのがびっくりなんだけど」

「どういう意味だい?」

「いや……てっきりフザケルなーって怒るかと」

「はん。一体どれだけお前と肌を重ねてた思ってるんだい。おじの考えなんて大体解ってるし今回の精霊を助けに行くって言いだした時点である程度推察は出来てたよ」

 

イシュタルちゃんの発言に思わず目を丸くする。えっ、マジ?

 

「あんたは私を誰だと思ってるんだい? 愛と美の女神、そして多数の神性を持つのがこの私だよ。おじの考えなんかまるっとお見通しさ」

 

そう言って椅子を立ちおじさんの隣へ移動してくる。細い指がおじさんの頬に添えられ綺麗な眼がこちらをじっと覗いてくる。

やだ、美人さんだ。神か? 神だわ。

 

「寂しくなる……」

「イシュタルちゃんのドゥムジには成れなかったけど、君をあの時助けて良かった。

 君を救えたし、俺も救われたよ。

 本当に色々と支えて貰った。ありがとう」

 

そう言ってイシュタルちゃんに頭を下げる。

イシュタルちゃんが柔らかい顔で笑う。

 

「私こそ……私こそ救われた。おじ……お前はエンキムドゥだった。

 苛烈で曇った私の眼を晴らしたエンキムドゥ。

 長い神生の中で心底私が欲した者……でもお前の根底には先にアイツが居たんだな」

「順番が逆だったなら……多分違う結果だったかね」

「ふふ、そうだね。でも『もしも』は要らないよ。

 おじ、お前に私の『愛』を預ける。いずれ受け取りに行くからね」

 

そう言ってからイシュタルちゃんの顔が迫る。

春姫ちゃんが居るが……まっ、ムードって事で。

 

長い接触の後にしなだれたイシュタルちゃんを受け止める。

甘えたがりの顔が出てる。こりゃ暫く離れないな。

 

隣を見れば顔を真っ赤に染めた春姫ちゃん。春姫ちゃんとも色々話をして一応は納得して貰った。

結局彼女の『お願い』は叶えてあげれなかったけど納得はして貰えた。

本当に良いのかと聞いたら……。

 

「イシュタル様が納得しているのに私が納得しないなんて……女が廃れてしまいます」

 

いや本当にこんだけ良い女なんだからおじさんなんかより良い人が絶対出来るわ。

最後の願いとして夜一緒に寝るって事だけはしたけど性的な事は一切無し。

イシュタルちゃんと春姫ちゃんと一緒に川の字になってその日は寝ました。

 

明けて翌日。

体が本格的に動かせるようになったので色々な処理にかけずり始めた。

会社の解体と地球側の政府とのやり取りに利権の整理。

それと並行して発表の準備とか色々。

地球側のやる事は数は多く無いけど一個一個が重たい。

特に……ライダーオタク関連のベルト作成依頼が未だに続いている。

正直版元には作って渡したい思いはあるが一個でも前例が出来たら面倒なので涙を飲んでもらう事にした。

一応科学的に再現は不可能ってのは結論出てるが念のためにね。

 

ソレ等が終われば今度はオラリオ側の処理。

色々とあるがまずは……。

 

「こんちはー、タケミカヅチさん、来たよ~」

「おぉ、おじさん。こっちだ」

 

声に従い庭へと回ると縁側で茶をお盆に乗せたタケミカヅチさんが居た。

促されるままに隣の座布団へ座り皿に盛られたせんべいを一つ口に運ぶ。

うん、しょうゆ味だ。うめぇ。

 

「ありがとね、刀。役に立ったわ」

「そうか、で? どれくらい消費した?」

「人生2回分」

「lv5の人生2回分か。そりゃ疑似神造武器でもダンジョンを切る位は出来るか」

 

からからと笑ってるけど威力凄かったぞ、おい。

 

「あくまで疑似だからな。アレなら人間でも触れるし振れる威力だろう。私も普段はこんなだが腐っても神だ。本物なら……一振りでダンジョン全てを叩き斬る位は出来るぞ?」

 

めっちゃキメ顔じゃん。普通にしてても格好いいんだから恰好付ける必要ないだろうに……。

そう思いながら【トラベラー】で布都御魂を取り出す。

 

「んでさ、流石にコレ返そうと思うんだけど」

「うん? ソレはお前に託したモノだ。返さずとも良いぞ?」

「は? いや神造兵器を疑似といえ持ってるとか厄介ごとだろ」

「良い。持っておけ。俺の勘がお前が持っておく方が良いと言ってる。それにソイツはお前の世界由来だからな私よりお前の方が『馴染む』だろ」

「馴染むって何だよ……つーか単にトラブルの種をだな」

「良いから! 持っておけ。別に使えという訳じゃない。持っておくだけで良いのだ」

 

何かやけに押しが強いな……暫く問答を続けたが折れる気配が無いし渋々【トラベラー】で格納しておく。

そうこうしていると急に背を叩かれた。

パァン‼‼‼

結構良い音鳴ったぞ……何だよと言外に視線をタケミカヅチに向けると何かやたら満面の笑みを浮かべている。

 

「漢を上げて来たのだろう? 俺と同じ刀を振るって意地を貫いた男への褒美だ。受け取っておけ」

「? 良く分からんけど……あんがとね」

「うむ、またいずれな」

「ん、またな」

 

そう言って縁側から立ち上がりタケミカヅチファミリアを後にする。

残ったタケミカヅチは一人縁側で日の光を浴びながら独り言を零す。

 

「ふふっ……『初めまして』では妙になよっとした奴と思ってたが……いやぁ、根はしっかり漢とは異世界でも日乃本の国に流れる血は変わらぬか」

 

世界が変わろうと自分の収めた国が変わらずあり、根っこが自分の残したモノに変わらずある。

あれほど発達したにも変わらずだ……まるで久しぶりに会った我が子に孫を紹介されるような奇妙な気分になり思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「お前の今は終わるかもしれんが……『これから』の道にはアイツ(布都御魂)が助けになってくれるだろう。頑張れよ異世界の新たな同胞(はらから)よ」

 

 

 

タケミカヅチさんの所が終われば今度はギルドだ。

 

「つー訳で……、ロイマン。お前、降格。クビじゃないのは実績も鑑みての温情ね」

「なっ、なんじゃ行き成り入ってきて早々!」

「はい、コレがウラノスのサイン入りの書類。君の上に2人程上司が増えるから宜しく」

「は? は? はぁーーーー!??!」

 

おじさんの手元から書類を奪い取って眼を皿のようにしながら書類を読むロイマン。

そこに書かれているのは彼が今までやってた後ろ暗い事の記録。

絶対に漏れることの無い秘密と思われていた何もかもが書類に記載されている事に気が付いて顔を青くして大量の汗をかいている。

 

「因みに色々思う所があるだろうけど……文句を言えばソレに追加の情報を加えたモノが君の故郷と家族に向けて発送される予定なので」

「……は?」

 

今度こそロイマンはフリーズした。

 

「それと……はい、コレ。お前さんの両親からのビデオレターね。あと親戚の分も。お前家族に対しては良いおじさんしてるのね」

 

おじさんがタブレットを操作してロイマンのPCにビデオレターを渡す。そこにはロイマンに向けて笑顔で手を振る両親や従妹家族や友人……ソレ等と共に映るおじさんの姿。

この時点でロイマンの心はポッキリと折れてしまった。

 

腐敗の頭を押さえてからは楽だった。

粛々と行った事を書面にしてその結果として処罰を下す。

ギルドに対して大鉈を振るったがそこはウラノスからおじさんへの依頼って事になってるので諸問題は発生しない。

 

 

 

そしてギルドが終わればオラリオの各ファミリアに対してだが……ぶっちゃけロキの所は問題無い。

ロキのバストサイズを2サイズアップするだけで解決した。

フィン辺りは今回の戦いでおじさんのスキルの事を改めて知りたいって言って来たが……ロキの要望(おっぱい)には勝てなかった様だ。

ま、女性の美容に掛ける情熱に比べたら、男の策略とかそーいった諸々なんて吹けば飛ぶのよ……理屈じゃねーんだわ。うん。

 

そしてある意味一番の困ったちゃん。フレイヤはと言うと……。

 

「おじさん今までツケで大分サービスしてたからこの間の作戦の分でペイしてあげるね?」

「なら次は……」

「やっとの思いで体調もどしたおじさんを酷使するのかい?」

「……」

「というかそろそろノーマルの状態でオッタルの相手をしてやったら? ()()と経験したから今まで以上の事が出来るようになってるでしょ」

「それはまぁ」

「なのでより女としてのスキルを磨いて眷属を更にメロメロにしてより強固なフレイヤファミリアを作るのじゃ!」

「……はぁ、乗せられてあげるわ」

 

やれやれと言った具合にポーズを取るフレイヤちゃん。

色々言いたそうな眼をしてるが無粋な事を言わない辺りは流石イイ女を自称してるだけあるわ。

 

バベルのエレベータで一階まで降りたらアミッドとエンカウントした。

視界に彼女が映ったと思った瞬間、背後を取られて首を抑えられた。

あの……おじさん一応Lv5なんですけど……君本当にLv2?

 

「おじさん……私は今冷静さを欠こうとしています。説明を……、何故動けているのですか」

 

ひえっ、光が……ハイライトさんが仕事放棄しとる。

 

 

 

結局ディアンケヒトファミリアに連れていかれた、そしてスマン。残ると言った医者君よ、君をアミッドの元に預けると約束してしまった。

だが医療系のファミリアとしては最高峰なので許して欲しい。

多分質問攻めになると思うが頑張って欲しい。

……まじでおじさんが居る間の支援はやるので……本当にすまん。

 

 

 

そんな感じで慌ただしく日常を過ごしている内に、遂に精霊ちゃんが眼を覚ました。

 

「ココ……」

「よっ、そろそろ起きると思ったわー」

「……オ前」

「俺の中に残ってた……『此処とは違うお前』の大部分を渡したからある程度解るだろ?」

「アァ……繋ガリハ……ナ」

 

体が動かせそうにないので水差しから介護用の水飲みに水を入れて飲ませる。

 

「ンッ……」

「お前さん、水のエレメントだったんだな。あのウォーター・スウォームが万全の状態で撃たれてたらもっと規模デカかったろ。ありゃ軽く死ねるぞ」

 

ゲラゲラと笑っていると疑問の声を出された。

 

「ナンデ生キテル?」

「何でって……斬ってから治した」

「チガウ、ワタシノ命。ダンジョンニアル……イヤ……ダンジョンニアッタ、デモ、イマ外ニイル」

「そんなもん切り捨ててからおじさんの命を移植したからな」

 

何を言ってるという顔をするな。

 

「俺、お前救う。ダンジョン、邪魔。お前一度殺す、体、ダンジョンに渡さない。外、持ち出して命吹き込んだ」

「オマエイッテルコト、ムチャクチャ……デモホントウノコト……アタマイタイ」

「けけけ、これから色々と常識学んでからもっと頭痛くなれ」

 

 

 

「ムリ! コレイジョウ! ハイラナイ!」

「馬鹿野郎! 無理でも入れるんだよ!」

「オナカ! コワレル!」

「アホゥ! これ位で壊れる程人体はヤワじゃねぇ!」

 

そう言ってぐずる精霊の前に並べられた5合炊きのご飯の山。

1/3程を消費してから泣き言を言いやがって。お皿に盛ったら全部食べろ!

 

「ほれ、追加のカレーとカツ、それに福神漬け」

「ウゥ……チーズハ?」

「入らん言うくせにトッピングは欲しがるのな……ホレ」

 

 

 

「オラ、もっと走れ!」

「ウゥ……足イタイ」

「ホーム戻ったらマッサージしてやるから」

「スキル付キ?」

「……まぁありでも良いよ」

「ヤル」

 

 

 

「ドウ?」

「お~、大分動ける様になってきてるじゃん。体力も付いてきたからこれなら施術に耐えれるまであと少しかな?」

「フフフ、一杯ゲンキ。楽シイ」

「……応、そうだな」

 

 

 

「あー、母さん?」

『はいはい、どうしたの?』

「前伝えたと思うけどさ」

『……そう、あの子の命を救うの?』

「そういう感じ」

『そう……、まさか一人息子が私より先に逝くとか……あんた親不孝にも程があるわよ』

「ごめんて」

『……まぁそういう無茶な所はお父さんの家系なのかねー、しょうがない。悔いが無いようにね』

「うん、あぁそうだ。例の利権、母さん名義に変えといた。毎年売り上げの一部が入るようになってるから受け取ってよ? それと姉妹に渡す時は……まー母さんの好きにして」

『……それってニュースでCM流れ続けてる奴?』

「いや、俺TV全く見ないからCM知らんけど。息子からの最後の親孝行って事で」

『はーーーーーー、まぁ姉も妹も近くに住んでるし。何かあってもどうにかなるでしょ』

「おー、何かあったら子供を頼れ。育ててくれた恩は返さねーとな」

『子供が何言ってるのさ』

「いや、もう大人ですが?」

『親からしたら何時までも子供よ』

「……ぐうの音も出ません」

 

 

 

「おっし、皆揃ったなー」

「全員デヤル必要、アル?」

「そりゃおめーさんの門出だからな。皆でやらないと」

「何か長かったね。おじさんが来てからオラリオはしっちゃかめっちゃかだったし、ボクのファミリアも大きく変わったし」

「入って早々に高Lvでしたからね。それなのに僕に団長をさせるし」

「俺は自分のやりたかった事のヒントを一杯貰ったから感謝してるぜ?」

「ヴェルフ様は良いですよ……リリなんて異世界に醜態を晒したんですからね」

「その割には結構ノリノリでポーズ取ってたじゃねーか」

「アレはその場のノリと言う奴です……」

「まぁまぁ、リリ殿もヴェルフ殿も落ち着いて」

「そうですよ、お二人共成長出来たんですから良いじゃないですか」

「……春姫、その黒いオーラ収めな。お前の価値を下げるよ」

「……いけませんね、失礼しました」

「(オイ、春姫の奴どうしたんだ?)」

「(いやソレがこの間からちょっと不安定で……)」

「(どうせおじ様関係でしょう。ソレ以外考えられません)」

 

何か外野が騒がしいがスルースルー、今日は一世一代の大舞台なんだから。

 

「そろそろ始めるぞー」

 

そう言って彼女の背に立ち、両手を当ててから当たり前の様にスキルを発動する。

じわりと彼女に流れ込んでいくもの。

彼女に足りなかったものを流し込み、彼女の幸せを只願う。

 

この先の人生に幸多からんことを。

 

残すのは一言文だけで良い。それ以外の全てを彼女の中へ。

 

一瞬で終わったはずだが体感では長かった。

自分の中で只管育んできたステイタスも、命も、何もかもを彼女へ渡す。

ただ彼女が生きられる様に。

 

ここには英雄が居る、仲間が居る、家族が居る。

心配する事が何一つ無い中で共に歩めない事に幾ばくかの悲しみが湧くがそれ以上の喜びに塗りつぶされる。

暖かな日向の中で春風に頬を撫でられる様なさわやかな感覚で彼女の背から手を放す。

 

「すごい……」

 

僅かに残っていた違和感が綺麗に無くなっている事に彼女は声を漏らした。

 

「さっ、もうコレで囚われる事は二度と無いだろ。後はコイツ等と一緒に歩んで行きな」

 

改めて空を見上げる。

どこまでも澄んで遮るものの無い空。

日の光が心地よく、心が軽くなっていく。

意図せず溢れる涙は日の光を浴びてキラキラと輝いていた。

 

「ありがとう……」

 

お礼の言葉を口に出しながら振り返った彼女の後ろには、男の姿は無かった。




精霊に捕食され、囚われ続けて来たおじさん。

全部を投げうって彼女を解放したおじさんは消えてしまった。

おじさんは何かを得られたのだろうか?

次回エピローグ、無気力


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フィジカルお化けおじさん、異世界へ・・・え?パラレル?

燃え尽きたおじさんの後日談


精霊ちゃんに命を渡した後、おじさんの記憶と経験は次のおじさんに引き継がれた。

か、正直燃え尽きた。

 

ぼーっとしてる子供だった。

 

親父には活を入れてやると小学生低学年で柔道場へと放り込まれたが、冒険者としてのステイタスは勿論、引き継ぐ前の経験として柔道有段者の経験もある為に同年代の子と比べるとどうしても勝ってしまう。

無気力の癖に仕合をしたら常に勝つ。

そんな奴は当然ながら疎まれ、かと言って実力は高いので敬遠されてしまう。

 

燃え尽き症候群になる前なら割と周囲に合わせて色々やってたから息苦しさは無かったけど……今回は結構キツイ。

 

なので目線を海外へ向けた。

TVで流れる海外の映像を元にテレポート出来る先を増やし、転移先の海外で適当にブラついてから自宅へと帰る。

 

おじさんの10代だとネットが未発達な時代なので割と適当に動いても証拠は残らない。その為、色々と気にせず動けて楽だ。

後10年も経てば電子機器の発達がめまぐるしいからテレポートする場所は考えなきゃいけなくなる。

まぁ正直どうでもいいか。きっと七不思議とかそんな感じになるやろ。(※なりません)

 

とりあえず犯罪何かは行わず金のかからん旅行もどきで楽しんでる。

道で会った人とあいさつしたり、微妙に困り事があったら手助けする位。(※意外と噂になってる)

そんな感じでその土地毎に綺麗な石拾ったり花を摘んだり。手助けした人に貰った郷土品をコレクションしてみたり。

 

そんな風に過ごした10代前半も終わりが近づき中学から高校へと進学する時期が近付いてきた。

相変わらず活動気力は今一沸かないけど……親父にネット関連の株は買い漁る様に言い含めてる。

稼業の手伝いで得たお金はソッチに全部回して貰ってる。

金はあって困るモノじゃないからね。

 

しかし……自分を自覚してから10年以上か。

いい歳の大人ならニートとしてダメ人間認定されてただろうが幸い子供な為、モラトリアムが許されている。

親には今一シャッキリしない子供として心配を掛けて申し訳ないが……正直直前の俺が精霊に対して『何週してでも!』という覚悟の元にやりきったのだ。

その反動が今……頑張り過ぎて燃え尽き症候群として俺を襲ってる。

 

中学の卒業式終了後、家で横になっていた。

一応親の勧めで高校には受かったがどうしたもんか。

ぼけーっとしていたらいつの間にか寝ていた。

ぼーっとした頭で何とは無しにヘスティアちゃんに会いたいなと思ってしまう。

 

「えーっと、対象:ヘスティアちゃん……【ワールドテレポート】」

 

何時もの穴に足を踏み入れて辿り着いた先はヘスティアファミリアのホーム。

だが……あれ? 廃教会に人の気配が無い?

試しにテレポートでアラハビカの有った場所に跳ぶ。

こちらは街の痕跡すらない。まぁ当然か。

 

改めてオラリオに移動してぷらぷらと歩き回る。

ある意味相変わらずだ。バベルもギルドもある。冒険者も沢山いる。

しかし自分を知る人は居なさそう。

 

ワールドテレポートのリキャストもあるし今日は野宿かなーと適当に歩き回る。

 

 

 

一方その頃……。

 

「おじさん?」

「神様?」

「ベ、ベル君! おじさんだ! おじさんの反応がオラリオにある!」

「へ? ……本当ですか?!」

「あぁ! この感じ……大まかにしか分からないけど、きっとオラリオに居るよ! 探しに行こう!」

「はい!」

 

 

 

適当に歩いて時間を潰したがヘスティアちゃんは見つからなかった。

もしかして時間軸違う?

この位の時なら天界からオラリオに降りて来てると思ったが……違ったかぁ。

大分日も暮れて来たから適当な場所で野宿すっかぁ。

それにしても……何かさっきから色んな冒険者が街中を走り回ってるな。

何かあったのか?

まぁいいや、んーーー、むかーーしに買ったキャンピングカーで寝ようっと。

 

 

 

「神様、他のファミリアにも依頼を出して探して貰ってますけど……まだ見つかったっていう報告は来てないみたいです」

「むむむ……居るのは間違いないんだけど……何で会いに来ないんだろう?」

「……もしかして動けないでいるとか」

「おじさんが? うーん、Lv2とはいえ成り立てだったからね……そういう事があるかもしれない」

「ヘスティア様ー! 戻りました!」

「ヴェルフ君! それにリリ君!」

「二人共、どうだった?」

「駄目です、やはりおじ様の様な方を見かけた人は居ません。そもそも極東風の恰幅の良い人であれば見かければ誰かしらが覚えてるはずですし」(※おじさんは現在若く、細い)

「うーん、やっぱりベル君が言った様にどこかで動けないで居るのかな?」

「どういう事だ?」

「じゃないとおじさんが僕達に会いに来ない理由が分からなくて」

「なるほどな……」(※おじさんは時間軸が違うと思い込んでいます)

「では猶更探さなくては! リリはもう一度ダイダロス通りを探してきます!」

「おっし、じゃあ俺も大通りからぐるっと回って来るわ」

「リリ……ヴェルフ……、神様! 僕もおじさんを探してきます!」

「うん、皆頼んだぜ!」

 

 

 

おじさんキャンピングカーで爆睡中。

 

 

 

「はー、良く寝た」

 

車から出てオラリオの朝日を浴びる。

何かちょっとだけ調子が良いかも。

しかし知りあいがだーれも居ないかぁ。(※居ます)

やっぱ別の世界線なんだろうなぁ。(※同一世界線です)

 

「好きに生きるかぁ」

 

この日、おじさんは決定的な勘違いをしたまま。決意をする。




続くか続かないかは……おじさんにもわからん


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