塔矢アキラ逆行feat.佐為  (KA.KA)
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逆行そして、新たな出会い

初心者が勢いで書いてみました。すぐ削除するかも。。。。


佐為サイド

『ヒカル今までありがとう。私は今まで自分で神の一手を極めるつもりでいました。

そのために千年もの間存在し続けていると考えていました。

でも、塔矢行洋との一局を通して成長するヒカルを見て私は貴方の成長の手助けをする存在だと自覚しました。私はただのきっかけでヒカルの糧となれたのです。

今は、まだ私の方が強いですが、ヒカルならすぐに超えていけるはずです。

ありがとう。』

 

ヒカルに挨拶をした私は、視界が暗転するのを感じた。

目の前にはたくさんの行列があり、大きな体で机に座っている人?と話をした後に進んでいく。進んでいく道は複数には別れておらず、扉は一つ。すぐに進んでいく人もいれば、その場に留まっている人もいる。

ヒカルとの最後の対局の続きを妄想しながら私の順番が来るのを待っていたら、すぐに私の順番がやってきた。

 

「ここは死後の世界です。道は1つで輪廻転生するのみです。地獄もなければ天国もありません。ただ、今世に未練がある方たちはこの場にとどまり、天から下界を見ることもできます。期限は特にありませんので、好きなだけ下界を覗き満足しましたら、扉へお進みください。」

 

私はヒカルの将来が楽しみであったため、少し留まって、ヒカルを見ることにしました。

ヒカルは私と別れてしまい、とても混乱してしまったようでした。私を探すために色々な場所を巡りました。最後に私の過去の対局を見て、落ち込んでいました。でも私はヒカルならすぐに立ち直り、塔矢アキラとともに高みへ進んでいくことを疑っていませんでした。

ですが、いつまで経ってもヒカルは囲碁に向き合ってくれません。アキラや和谷はヒカルを立ち直らせようとしてくれているようでしたが、ダメでした。

私は歯痒くて仕方がありませんでした。あれほど光輝いていたヒカルの未来が暗く澱んでいくように見えたからです。私は願いました。もし可能であれば、ヒカルと出会った時期に戻りたい。そして今度こそ、間違えることなくヒカルを導きたい。

 

アキラサイド

僕は生涯競い合い、高め合っていくことができるライバルをようやく見つけることができた。最初に出会った時には、そのヨミの深さに衝撃を受け、中学の囲碁大会の際には一度失望させられた。それでもプロになって僕の前に現れた彼を見て確信していた。2人でより高みへ至れると。

そんなライバルと認めた彼が囲碁から離れて行ってしまった。君はいつでも僕を追いかけてきたから、僕は君が追いかけてくることを信じて碁の道を進んでいく。

 

10年が過ぎすでに僕は7冠となり全ての棋戦で君を迎え撃つことができる準備ができているというのに、君は何をしているのだろうか?最近は2浪して入った大学生をしていると聞く。待てどやってこない彼に僕はやるせなくなる。

どこで僕らの道は離れていってしまったのだろうか?

もし、願いが叶うなら、君と高め会うことができる道を模索したい。2人でより高みへ至れたはずの未来を掴みたいのに。

そんなことを考えながら、アキラは眠りにつくのだった。

 

今日も変わらず、朝5時には目を覚まし、起き上がる。

見慣れた天井ではあるが、少し違和感を覚える。なんだか天井のしみが少なくなったように感じる。目がぼやけているのかと目を擦ろうとしたとき、目に映る自分の手を見て驚いた

小さく縮んでいるのだ。台所から音がするので、母を見てみようと覗いてみると記憶よりも若い母の姿があり、自身が過去にきたことを認識した。唖然としていると母が僕に気がついた。

「アキラさん珍しいわね。いつもなら行洋さんとの対局の後にくるのに、今日は対局は良いの?朝ごはんにしますか?」

「いえ、少しお水をいただきにきたところです。すぐにお父さんとの対局に行きますよ。」

僕は水を一杯飲むと父である行洋の部屋へと進んでいった。

 

「おはようございます。お父さん。対局の後に少し話をさせていただきたいです。それと今日は互戦でお願いしたいです。」

 

「おはよう、アキラ。対局の後の話は良いが、先日3子に置き石が減ったところだろう。

それを急に互戦に変えたいとはどういうことかな?毎朝の対局でアキラの成長は感じられるが、まだ、互戦は早いのではないかね?」

父は不審に思ったのか互戦をやんわり断ってきた。

「お父さんの言いたいことは分かります。理由は対局後お話ししますので互戦でお願いします。」

僕は父が変に感じていることを分かりながらも互戦を要求した。

(互戦で僕の棋力が高いことを見せて、そして説明すれば父ならわかってくれるはずだ)

 

「わかった。だが、つまらない対局にはしないようにな。」

「そんな対局にはならないことをお約束します。本気でお願いします。」

僕は碁笥を取って握る。僕が黒石になる。

「私は碁に対してはいつも本気だよ。それは指導碁の時でもね。」

父からの圧力がいつも以上になることを感じて、僕は集中していく。いつもよりも碁石を持ちにくく感じながらも全力を尽くした。

朝ということもあり、時間がなくかなりの早碁となった。未来の世界での父は日本でプロを辞めた後、海外を主戦場としその実力は僕と拮抗していた。ただ10年先までの定石を知り、さらに父を超える七冠をとった僕の今の実力は今時点での父を凌駕している。

これからの僕の計画を進めていくためには父の協力が必要になると考えた僕は実力を隠すことなく、対局した。

父は驚いた顔を隠すこともできていなかった。

「ここまでだな」

と父の声が聞こえ、対局は僕の中押し勝ちとなった。

僕は父に、自分が過去に戻ってきたことをありのまま話をした。父は碁の強さを見て信じてくれたようだ。全力を出した甲斐があった。ただ、未来の定石を見せてほしいと懇願してくる父を見て父もまた碁が全ての人なのだと改めて認識させられた。少しは息子の心配をしてほしいものだ…

僕の計画は進藤ヒカルを囲碁の世界に引き込み離れさせないようにすることだ。

進藤の家族は囲碁の世界に疎いため、やめることに何の抵抗もしていないようだった。だが今回は進藤の周りも巻き込んで進藤が囲碁から離れないように外堀を埋めてやろうと考えたのだ。テレビにも出演し世間一般でも知名度の高い父の影響力を使えば可能性は高いと思っている。

進藤との接触は確か僕が囲碁サロンにいるだけで向こうからやってくるはずだ。その時まで僕はただ待てば良い。それに、今度は前回のように簡単には負けてやるものかと内心思いながら、進藤を待ち続けた。記憶によれば、子供囲碁大会の数週間前にきたはずだ。あと少し待てば進藤と再び打てるのを楽しみに今日も囲碁サロンに入り浸る。友達とも遊ばず今までにも増して碁会所に顔を出す僕を市川さんは心配そうに見ているが、気にしている余裕は今の僕にはない。

 

だが、記憶の中の時期を過ぎても一向にやってこない進藤にイライラがつのってくる。まさか、進藤も過去に戻ってきているのではないか?そして、囲碁を始めない人生を選んだのではないか?と不安になってきたある日のこと、父のもとに一つの碁盤が届いた。本因坊秀策が使っていた碁盤だというそれを見た時僕は碁盤の上にしみがあることに気がついた。

「お父さん、碁盤に染みがあるように見えるのですが、気になりませんか?」

「いや、私にはそんな染みは見えないが、どこに見える?」

『貴方には見えるのですか?』

「ですから、ここに見えると言っているではありませんか?」

『過去に戻りヒカルに明るい囲碁人生を送ってもらうつもりでしたが、まさか、憑依するのが塔矢アキラになろうとはこれは前途多難が待ち受けていそうですね。』

僕は昔の格好をした何かを見て、声を聞いて意識を失った。

 

目が覚めた時には、天井が真っ白な病院だった。

「アキラさん急に倒れられて、心配したのよ。先生を呼んできますね。行洋さんも心配していましが、お弟子さんがこられるので病院にはこられなかったの。合わせてアキラさんが目を覚ましたこと電話してくるわね。目を覚ましてすぐに1人は心ぼそいかもしれないけれどすぐに戻ってきますからね。待っててね。」

僕は病室にもう1人いるという言葉を飲み込んだ。母にはどうやら見えていないようだ。母がいなくなってから幽霊は語り出した。

『塔矢アキラ私の話を聞いてください。私はあの碁盤に取り憑き囲碁を続けてきた藤原佐為です。私は進藤ヒカルという少年を囲碁へ導いていきたいのです。貴方は進藤ヒカルと出会ったことはないかもしれませんが、貴方と同じかそれ以上に囲碁に愛された少年なのです。手伝っていただけないでしょうか?』

『まず、なぜ僕の名前を知っているのか?そして進藤を導きたいとはどういうことだ?教えてくれ。』

『私は1度この時代で進藤ヒカルと出会い、そしてヒカルに囲碁を教えました。その過程の中であなたとも幾度となく出会っています。なので、あなたのことも知っています。信じられないかもしれませんがね。』

僕は藤原佐為の話と自分の記憶を照らし合わせることで、足りていなかったピースが揃い謎が解けた。最初に僕と打ったのはこの幽霊だったのだ。それなら、進藤が中学の大会でへぼな手を打っていたのも納得できる。あれは本当に進藤が打っていたのだろう。僕は一度深呼吸をしてから、佐為へ返事をした。

『僕からもお願いするよ。進藤は僕のライバルになる男だ。でも、この時代では僕はまだ進藤に会うことすらできていない。僕も一度この時代を生きている。そして、未来で進藤が碁から離れてしまったことが悔しくて、願っていたんだ、進藤と高め合うことのできる選択があるのであればやり直したいと。佐為さん僕もあなたのことを知っている。僕と進藤が出会った時に打ったのがあなただ。』

佐為は驚いた様子でオロオロしていた。こっちこそ幽霊に取り憑かれて気が気ではないのだが…

『アキラ、あなたも過去に戻ってきたのですね。私のことは佐為と呼び捨てで呼んでください。私もあなたのことをアキラと呼びます。これから、私たちで進藤ヒカルを導きましょう!!』

母が戻ってくるまでの間で、僕と佐為は自己紹介を済ませた。その後、簡単に検査を受け問題なしと判定をもらった僕は母ともう1人僕にしか見えない佐為とともに帰宅するのだった。

その晩、自室で佐為と対局をしつつこの幽霊についても父に話そうと考えた。父の心臓発作が起きないかが心配だ…

とはいえ、あの囲碁人間の父に佐為のことを話さないと後から恨まれる可能性もあるので話さない選択はあり得ないのだが(笑)

 

話を整理している中で、進藤がなぜ囲碁を始めたのかがわかった。進藤は佐為が取り憑くことがきっかけで碁を始めたようだ。だが、この時代では佐為は僕に取り憑いており、進藤が碁を始めるきっかけを失ってしまったようだ。進藤の祖父だけが囲碁のことを知っていることから、そこをきっかけにして囲碁を始めてもらうのが最も良い気がする。佐為はヒカルは負けず嫌いだから、塔矢が悪役を演じてコテンパンにしてやれば自然と囲碁を始めるはずと言っているが、それだと、普通の成長にしかならない。前回はこの囲碁お化けが進藤と毎日打つことで成長したが、この時代だと囲碁の勉強をする方法がない。ここは父にも協力してもらう必要がありそうだ。

ちなみに佐為は毎日、僕と父と打てているので満足しているようだ。だが、進藤を鍛える方法で佐為をどうやって協力させるかはネット碁のSAIを使いたいとは考えているが、進藤にどうやってネット碁をさせるかが課題だなと佐為と悩んでいる。

肝心の進藤とどのように接触するかだがすでに準備はできている。

碁盤をくれた繋がりから、進藤の祖父とは繋がりができているからだ。そのお礼として、父が指導碁に行き仲良くなったのち、僕が進藤祖父宅に出入りしている。進藤がきたところで、僕と自分の祖父が楽しそうに囲碁を打っているのを見て進藤も囲碁に興味を持ってくれた。

「じいちゃん遊びにきたぜ!!ってその子供だれ?」

「ヒカルまずはあいさつじゃろが。アキラ君これはうちの孫のヒカルじゃ。アキラ君と同じ小学6年生じゃ。ヒカル、この子は囲碁の塔矢行洋先生のご子息でアキラ君じゃ。」

「初めまして、ヒカルくん。ヒカルくんも囲碁やるの?」

佐為は久しぶりの進藤を見て、頭をなでなでしている。笑いそうになるからやめてほしいものだ。一方僕は散々待たされた怒りから、怒鳴りそうになるのを我慢するので精一杯だった。そんなことを知らない進藤は変わらない調子で笑っている。

「いや、俺は囲碁やんないよ。年寄りのやるものだと思ってたし。でも、同じくらいの子供が楽しそうにやってたから興味が出たかな。それと俺のことはヒカルか進藤の呼び捨てでいいぜ!!友達もみんなそう呼ぶし。」

「わかった、ならヒカルって呼ぶよ。進藤だと、進藤さんと被ってしまうし。囲碁は子供でもやっている人たちはたくさんいるよ。子供の囲碁大会もあるし。それにとっても面白いんだよ。僕と一緒にちょっとやってみようよ。」

「それなら、わしはヒカルとアキラくんのためにケーキでも買ってこようかのう。ヒカル、アキラくんに失礼がないようにするんじゃぞ。悪さしたら、ケーキやらんからの。」

「わかってるよ。一緒にちょっと囲碁やるだけなんだから、大丈夫だって。さっさとケーキ買ってきてよ!!俺いちごが乗ったやつね」

「アキラ君わしへの指導碁は今日はここまでにして、孫に囲碁を教えてやってくれ。こんなことアキラ君にお願いするのは申し訳ないが、孫と一緒に囲碁を打つのはわしの夢の一つだったのじゃ。是非とも囲碁の面白さを教えてやっとくれ」

「わかりました。1人でも多くの人が囲碁をやってくれるのは僕たち棋士の願いでもあります。囲碁が忘れられないくらい面白さを精一杯伝えようと思います。」

進藤さんは嬉しそうに財布を持って出かけて行った。ただ、僕は今日、進藤に優しく囲碁を教えるつもりなど毛頭ないのだが…

僕はまず、進藤に簡単なルールを始めたあと、対局を開始した。もちろん、今回は指導碁どころではない。進藤に強烈な印象を残すために、ボロクソに負かせる。佐為も協力して進藤が怒るような手を一緒に考える。

「くっそ。俺の石がどんどん取られていく。手加減しろよ。俺初心者だぞ!!」

「今でも手加減しているよ。小学生低学年でももう少しマシな手を考えてくるけど、君は普段ちゃんと脳みそ使っているのか?」

「お前、ほんとムカつくな。今日は初心者の俺をなぶってさぞや楽しかっただろうな。だが、お前の得意な碁で絶対にギャフンと言わせてやる。1ヶ月後に再戦だ!!それまで、首を洗って待ってやがれ。」

『アキラ上手くいきましたね。まずはヒカルが囲碁を始めるきっかけができました』

『いや、まだ、甘い。もっと煽っておかないと』

佐為はニコニコしているし僕も内心では計画が今のところ上手く行っていることを喜んでいながら、進藤のことをさらに煽る。

「1ヶ月で足りるのか?ヒカル、キミ諦めた方がいいよ。僕は強いんだから。」

「初心者から1ヶ月の俺に負けて泣きべそを浮かべるお前の顔が目に浮かぶぜ。」

そういうと進藤は帰って行った。ケーキを買って戻ってきた進藤さんにヒカルは怒って帰ってしまったこと、才能を感じたとを伝え、僕も帰ることにした。進藤が一ヶ月後どのように成長しているのか楽しだ。

 

その晩、佐為と打ちながら今日のことを話していた。

『まずは上々の滑り出しだね。進藤はこれから一ヶ月猛勉強するはずだ』

『そうですね。アキラの悪役っぷりは本当に上手でしたね。案外、あなたの本性はそっちなのでは?』

『佐為のアドバイスがあったからだよ。僕だけだとうまくいかなかったし。そもそも佐為がいなかったら、僕はずっと囲碁サロンで待ちぼうけだったよ。』

『私もヒカルが囲碁の染みが見えなくなっていた時は本当にどうしようかと思いましたがアキラに出会えてよかった。それに囲碁の相手として不足はありませんしね。』

『佐為との対局は父との対局にも負けないくらい楽しいよ。でも、僕の方が勝率低いってキミは本当に碁が強いな…。僕これでも七冠だったんだけど…』

『ヒカルは一ヶ月でどれだけ強くなるのでしょうか?』

『わからないが、囲碁は自分で勉強するだけじゃ強くはなれない。どれだけ棋力の高い人と多く対局ができるかが重要だと僕は思っている。だから、一ヶ月後の対局では進藤を軽く捻りつつ、才能を感じたからと院生のことやネット碁について教えてあげようと思うよ。』

『そうですね。ですが、ヒカルのセンスは侮らない方が良いですよ。初心者のころから私でもハッとするような手をたまに打っていましたから。ただ、その手を活かせてはいませんでしたが… 研究会には誘わないのですか?』

『流石に今の進藤を研究会に誘うのは早すぎだ。せめて院生にはなってもらわないと。』

『そうですね。院生で鍛えつつ。ネット碁を使って私が直接ヒカルを導いていきたいです』

『もちろん僕も進藤の成長を手助けするつもりだよ。ネット碁も協力するしね』

『アキラ、ありがとうございます。2人で、進藤ヒカルを最強の棋士に育てましょう!!』

『僕のライバルに育てるが、最強の棋士は僕がなるよ。進藤には僕の糧になってもらう。そこだけは譲れないな』

どちらが最強の棋士になるにせよ、それは直接対決で決めれるような状況にしようとそこは共通認識として合致している。口論しながらも2人は楽しそうに遅くまで打ち合うのだった。



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再戦と佐為戦

囲碁知識はヒカルの碁だけ…


ヒカルサイド

じいちゃんちに遊びに行ったら、俺と同じくらいの歳の子供がじいちゃんと楽しそうに遊んでいるのが目に入った。囲碁をしているらしい。

誘ってくれるから、ちょっとやってみようと思ったが、あいつ俺のことを馬鹿にしやがって絶対に後悔させてやると心に決めた。

一ヶ月後の再戦に向けて囲碁の勉強をしなくちゃだ。

放課後毎日じいちゃん家に行って碁を教えてもらおう。

「じいちゃん、囲碁俺に教えてくれよ。どうしてもアキラに負けるのが嫌なんだ。あいつをギャフンと言わせるのに協力してくれ!!」

「ヒカル、この前も言ったがアキラ君は名人のご子息で今でも相当強いのだぞ。わしなんかではわからんが、噂ではすでにプロ試験を合格する実力があるそうじゃ」

「それでも、負けられない戦いがあるんだ。あいつ俺のことめちゃくちゃばかにしたんだぞ。このまま引き下がったら男じゃねーよ。」

「わしは、毎日ヒカルの顔が見れて嬉しいから、構わんが、相当厳しいと思うぞ。まずは、囲碁を楽しめるのが目標じゃな。毎日わしと打つことと、帰ってからは、詰碁で勉強するのが良いと思うぞ。」

「囲碁楽しむから、足付きの碁盤買ってくれよ。あれ、インテリアにしたらシブカッケーからさ。俺、道具から入るタイプだしさ!!」

「折りたたみのやつを買ってやったろーが!!。わしに一回でも勝てたら買ってやる。まーわしは隣町のクツワさんに勝ったことがあるくらい強いから、流石に一ヶ月やそこらじゃ負ける気はせんな。精進することじゃな」

そうして、1週間が過ぎた頃にじいちゃんに初めて勝った。

「じいちゃん、約束のものよろしくね!!。石を碁盤に並べるのって、宇宙に星が並んでるみたいに綺麗なんだよね。囲碁の面白さもわかってきたわ。俺が並べてるの見てあかりも興味持ってたし、あかりに囲碁教えてたら、俺も理解が進むわ」

「まさか、一週間で負けるとは…。約束した通り、足付きの碁盤は買ってやる。流石に孫の才能に驚きを隠せんぞ。まーまだ一回わしに勝っただけで、まだまだおぼつかない部分は多々あるし、わしが安定して勝っているがのこれなら、プロになれたりしてな。流石にそれは孫贔屓がすぎるか。新しい碁盤でさらに成長するのだぞ。」

「やったぜ!!後三週間もあるんだぜ。このペースなら塔矢をギャフンと言わせれるかな?」

「いや流石にそれは無理じゃと思うぞ」

 

2週間が過ぎた頃、じいちゃんとの勝負でも五分五分になった。

「ヒカル、お前相当才能あるぞ。もう、わしと互角になっとるじゃないか。後2週間もあれば、もしかしたらがあるかもしれんぞ!!」

「まだ、じいちゃんと互角な時点でまだまだじゃねーかよ。もっと強くなりてーよ。確実にアキラに勝ちてーんだから!!」

「それならわしに置石で確実に勝たないとな。流石の流石にそこまでは行かんと思うがの!!」

「じーちゃんそれもうフラグたってる。来週には置き石置かせてボッコボコにしてやるから楽しみに待っとけよ」

3週間が過ぎるころにはじいちゃんには確実に勝てるようになっていた。

じいちゃんから碁の才能があると褒められるが、そんなことよりもアキラをギャフンと言わせるために足りているかどうかだけが気になる。

自分的にはだいぶ実力がついてきたと思う。この前もじいちゃんとの対局を検討するために前日に打った碁を並べ直していたらじいちゃんが驚いていた。普通は一局まるまる暗記できるものじゃないらしい。俺は今まで打った碁全部記憶してるけどというと、じいちゃんは口から心臓が飛び出るのではないかと思うくらい驚いていた。

この一ヶ月で囲碁も面白いなと思い始めてはいたが、アキラを負かしたあと囲碁なんて簡単だな。やめてやるよ。と言ってやろうと思っている。あいつの綺麗で澄ました顔がどうなるのか今から楽しみすぎる。

そして、再戦の日がきた。さーお前は本当に口から心臓を飛び出させてやるぜ!!

 

 

 

アキラサイド

再戦の日がきた。僕は進藤さんのお宅に行くと玄関の前に仁王立ちする進藤の姿が見えた。

「ヒカル、少しはマシになったのか?今なら、囲碁を教えてくださいアキラさんと言うのであれば指導碁をしてあげるよ」

「マシどころか、今度はお前に勝つくらい強くなったぜ。じいちゃんにはもう負けなしになったしな。俺がお前に指導碁打ってやろうか」

「進藤さんに勝てるようになるとはなかなかじゃないか。だが、上には上がいることを教えてやろう!!」

「相変わらずの口ぶりだな。今まで、同年代で自分に敵う人はいなかったと言っていたが、それも今日までだぜ。よく俺の顔を拝んでおけよ。」

「それは楽しみだ、早速打とうか!!」

まさか、一ヶ月の間に進藤さんに勝つくらいまで成長しているとは驚きだ。やはり進藤の才能はそこが知れないな。それでこそ僕のライバルだ。

『ヒカルがお祖父さんに勝てるようになったのは確か院生になる前でした。今回、アキラに刺激されて相当頑張ったのですね。』

『進藤が真面目に囲碁に取り組めば成長スピードがすごいことを改めて感じたよ。確かに佐為が進藤のために存在していたと言われても納得するかもしれない。だがここでさらに凹ませて、爆発的に成長させてやろう』

『そうですね。ヒカルの成長を見るのは本当に楽しいですから。』

進藤とお互いに挨拶を済ませて対局を開始する。今回は進藤さんも横で見学するようだ。

「お願いします」

進藤の先番で始まった対局は序盤から進藤はガンガンで攻めてくる。僕はいなしながら、成長速度の凄まじさを直に感じていた。本当にすごい。進藤さんに勝つどころではないな。これは予想以上だ。だが、まだまだ僕には及ばない。早く駆け上がってこい!!

「ヒカル、君すごいね。一ヶ月でここまで成長するなんて。驚きだよ。でもまだ僕には及ばない。ここまでだね。」

「くそ、まだ、お前は余裕そうだな。むかつくぜ。」

「ヒカルがアキラ君に勝つのはやはり無理じゃったか。わしに置き石置いて余裕で勝てるようになっとったから、もしかしたらとおもっとったが。じゃが、わしはこの対局を生で見れて涙が出そうじゃ。囲碁雑誌に掲載されても恥ずかしくない出来で、碁を始めて一ヶ月の者が打ったとは到底信じられん。」

「今の僕はすでに高段者と遜色がないと言われるくらいには棋力を高めている。そんな僕に喰らい付いてきただけでもすごいよ。」

「お前そんなに強かったのかよ。騙されたぜ…プロ合格どころじゃねーじゃねーか。そりゃ同年代で負けなしなわけだぜ…」

「いや、でも僕が今の君くらい打てるようになるのにどれだけ時間がかかったと思っているんだ、一ヶ月でここまで成長するのは、倉田さんを上回る才能だよ。僕のライバルになりえるかもしれない」

「くそ、くそ、俺の負けだ…。本気で努力してきたのによ。」

「ヒカル、君はきっと囲碁が強くなるよ。僕のライバルになれるくらいにね。だから、まずは院生になりなよ。あとは色々な人と打つためにもネット碁も勉強になると思う。」

「なってやるぜ。その院生ってのによ。そして一年でお前に勝つ!!一年後再戦だ。」

「僕は来年プロ試験を受けるよ。だから、再戦はプロ試験予選でかな。ただ、君がどうしてもって言うなら、僕が碁を教えてあげてもいいよ。」

「誰が、お前なんかに教えを乞うかよ。ライバルに教えてもらう奴がどこにいるんだよ。お前がプロになるってなら、俺だってなってやる。いつまでも俺の前を歩いていられると思うなよ。」

「そうか、来年のプロ試験を楽しみにしているよ。ただ、ネット碁も本当に勉強になるからやれる環境は整えた方がいい。僕もよくネット碁を活用している。相手の棋力がわからない状態で始め、石の流れから棋力を推測し、指導碁に切り替える。この勉強はネットでしかできないからね。それに最近は日本のプロ棋士だけでなく韓国や中国のプロもやっている人もいるらしいから、本気で対局もできることもある。」

「ヒカル、わしは感動したぞ。わしがヒカルの最初のスポンサーになってやる。院生もネット環境も整えちゃる。絶対にプロになれよ!!」

「進藤さん、申し訳ないですが、進藤さんへの指導碁も今日で終わりにさせていただきます。ここに顔を出すとヒカルが来にくくなってしまうと思いますので。でも、進藤と本当の意味でライバルになれた時、また、ご挨拶に伺います。今日はこれで失礼させていただきます」

「アキラ君ありがとう。ヒカルがアキラ君のライバルになれる日が来るようにわしは全力でサポートしていく気じゃ。名人にもよろしく伝えておいてくれ。」

 

僕はしっかりと進藤に院生とネット碁を刷り込んで帰宅した。

進藤の成長速度はわかった。僕もさらに精進し君の前を歩き続ける。

まずは、プロ試験までの間でどうやって進藤のネット碁のアカウントを見つけようか?

『佐為、ネット碁を進藤もやってくれそうだね。そろそろSAIもアップしはじめなくちゃだね。』

『そうですね。正直なところ、アキラや行洋殿と毎日打てる環境ではそこまでネット碁に入れ込みはありませんが、ヒカルを直接指導する場としては重要ですので、これから、少しづつ対局を開始しましょう。』

『進藤がつけそうなアカウント名とかわかりそうか?』

『ヒカルは単純ですからね。なんのひねりもなくHIKARUを探せば良いと思います』

『そうだね。一年後まで僕が直接対局できないのは残念打けれど、SAIとの対局を繰り返せば実力自体はわかるし問題ないね。あとは彼がいつ僕をヒヤリとさせることができるまで成長できるかの時期だけが気になっているよ』

『アキラの実力自体すでに、トップレベルですからね。ですが、ヒカルが成長速度からすれば5年ほどで、アキラとごぶごぶまで来るかもしれませんね』

 

 

次の日の朝、父に進藤との接触が上手くいっていることとやはり、僕のライバルになる存在であることを伝えると、父も気にかけてくれるようだった。

 

自宅にノートパソコンを設置し、インターネット回線も繋いでもらった僕は、早速ネット碁を開始する。進藤がいつから始めるかわからないが、早いに越したことはない。

『佐為、準備はいいか?一日に一回ログインしてまずはHIKARUを探す。いなければ1局から2局打ってログアウトする。これを毎日やっていくからね』

『問題ありません。相手が誰であれ、負ける気はありません。早くヒカルと私も打ちたいです』

僕はSAIのアカウントでワールド囲碁ネットにログインして、HIKARUを探すが流石に昨日の今日では始められないのであろう。アカウント一覧にはHIKARUを見つけることはできなかった。なので、適当な相手に対局を申し込んで、その日はログアウトする。

それから、1週間繰り返した頃。ついにHIKARUを見つけることができた。

HIKARUは対局がちょうど終わる頃だったので、終わったタイミングで対局を申し込む。進藤は相手を選ばないようで、すぐに対局が開始される。

『佐為、これからヒカルと毎日打つことになるんだ。ちゃんと心を鷲掴みしないとだよ』

『わかっていますよ。ヒカルがどうすれば成長するかは私は心得ていますよ。前回は私があまりにもヒカルに近過ぎたために、ヒカルが囲碁をやめてしまいました。今回は適度に距離感を保ちつつ自慢の弟子にして見せます。』

『期待しているよ。そして、僕も佐為とヒカルの対局を通して、更なる高みに至れるように精進するよ。自分で打たない碁でも佐為の石の流れが感じられてとても新鮮だってことがわかったからね。』

『えー。期待していただいて結構ですよ。そして、アキラあなたの成長も望むところです。』

『では、一手目、右上コスミ!!』

進藤と佐為の対局の後、僕はすぐにチャットを進藤に送る。

「今はまだ実力は高くありませんが、私はあなたの才能に惚れました。これから毎日私と打ちませんか?」

なかなか、返信が来ないことに焦りを感じる。

『ヒカルは以前もパソコンが苦手で、チャットができないと言っていましたから、今も悪戦苦闘しているところだと思いますよ』

『そうだと願いたいね。ちゃんとチャットができるようになってくれないと、検討もできないし早く入力できるようになってもらわないとだね。』

『そうですね。チャットでの検討ですとやりにくいところはありますが、チャットがちゃんとできれば、問題はないはずですし。』

『もう一回、こっちから追撃してみようか』

「私はネットでしか碁が打てず、後継者を探していました。あなたなら私の後継者に相応しい。お願いします。私にあなたが強くなる手助けをさせてください」

「おねがいします」

返事はきたが、ごく短く、変換すらされていない。遅過ぎて、チャットで検討ができるレベルになるのはいつになるのやら…

『アキラ、やりました。これでヒカルと毎日打てます。最初は検討ができなくても私と打つだけでもヒカルなら成長してくれると思います。』

『そうだね。計画通りで嬉しい限りだよ』

「毎日、同じ時間に打ちましょう。それと、検討もしたいので、入力の練習もしておいてください。最初は打つだけでも良いですが、チャットもどんどんしていきたいです。」

「はい」

僕と佐為は満足して、ログアウトするのだった。まだ、SAIもHIKARUも対局数は多くないため、毎日同じ時間に打っていたとしても話題になったりはしないだろうとは思っている。だが、ネットは何が話題になるかわからないので、多少気掛かりではある。アキラは佐為の嬉しそうな顔を見て、その引っ掛かりを心の隅に追いやった。アキラは気がついていなかったが、HIKARUとSAIの対局観戦者の欄にはたったの1人ではあったが名前が残っていた。

OGATAと。



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変わらない未来、モブはモブ

今のところ、なんとか続いてますが、書きたいことと時系列など整理するのは難しいですね。


SAIのアカウントで毎日ログインして、進藤のことを鍛えている、かなり実力が伸びてきており、小学生の時点ですでに院生上位くらいにはなっている。このペースでいけば今度のプロ試験では楽しめそうだ。院生試験が中学生になる4月にあるのでおそらくそのタイミングで進藤は院生試験を受けるはずだ。この分だと合格は確実かな。

「今日も良い対局でした。ですが、少し私の手筋に手が縮こまる場面があります。見極めて踏み込んでくる勇気を持ってください」

「わかりました。」

相変わらず、進藤のチャットは短いし遅いが、言葉はなくても伝わっているようだ。

最近、SAIとHIKARUの対局がネットで話題になり始めている。どうやら、急速に棋力を伸ばしているHIKARUに周りが気づき始めたようだ。だが、ここ以外で、佐為が進藤に指導する場所がないのでどうしようもない。進藤も僕も自室で打っているのでバレることはないはずなので、気にしないことにした。

最近はログインするとSAIへの対局申し込みが多くて困っている。僕はHIKARUとの対局以外受けないようにしているので、それがまた謎を読んでいるようだ。しばらく断りを続けていると対局申込も落ち着いてきている。そんな中、OGATAだけはログインするたびに諦めずに対局申し込みをしてくる。この粘着力、確実に兄弟子である緒方であると推測している。仮にバレるような状況になれば、佐為の存在を緒方さんになら教えても良いかとも思っている。お父さんに相談してみよう。

 

 

「お父さん、ネット碁でSAIが有名になってきてしまっています。」

「プロの間でも話題に上がっているよ。秀策に似た棋風の強者がネット上で弟子の指導をしているとね。しかもその弟子も驚くスピードで成長しているものだから面白いとね」

「緒方さんがだいぶしつこく絡んできており困っているので、緒方さんに佐為のことを教えてこちらに協力してもらえるようにしようかと思うのですが、どう思いますか?」

「緒方くんはかなりSAIに惚れ込んでいるようだね。私にもいかにSAIがすごいかを話すために棋譜を見せてきたりしているからね。それに、棋譜を見ている時の私の反応も見ているように思う。」

「であれば、やはり、緒方さんもこちら側に」

「だが、まだ確証はないようだ。なので、こちらから動くのはやめよう。秘密を知る人物は少ない方が良い。それに佐為のことを緒方くんが知ってしまったら、私が佐為と打つ機会が減ってしまう。どうしてもダメになった時は仕方がないがね。」

「わかりました。僕もボロが出ないように気をつけます。」

父もやはり佐為に執着しているようだ。独占欲が強くて困ったものだ。この師匠にしてあの弟子が育つのだとわかる。

『アキラ、自分のことを棚に上げて、失礼なことを考えていませんか?』

『そんなことはないさ。みんな碁が大好きなのだなと考えていただけさ』

「さて、今日は私と佐為の対局の番だったな。私も近々4冠をかけてのタイトル戦があるが、佐為とアキラと毎日打っているおかげで負ける気がせんよ。」

「佐為がお父さんなら絶対4冠になれるって言っています。それに来年には僕もプロ試験を受けますからね。お父さんからすぐにタイトルを奪ってみせますよ。それに今、僕と佐為で育てている進藤もいます。お父さんにはまだまだ楽はさせませんよ。ただ、病院にはしっかり行ってくださいね。僕の記憶では心臓発作で倒れているのですから。」

「正直なところ、自宅でこれだけレベルの高い対局が毎日打てているので、プロにこだわらなくても良い気はしてきている。だが、アキラとのタイトル戦もやりたいので、ちゃんと定期的に検診を受けているよ。タイトル戦の厳しさを私が教えよう。話は変わるが、今、海王中学の校長は私がお世話になっていた方で、進学前に一度挨拶に行っておいてほしいのだが、頼めるだろうか?」

「問題ありませんよ。今度挨拶に行ってきます。」

「よろしく伝えておいてくれ。あと、囲碁部に勧誘されるかもしれないが入るかどうかは自由にするといい。」

 

 

海王中学校長室

「わざわざ、足を運ばせて申し訳なかったですね。君が海王を受験すると聞いて楽しみで、君のお父さんに無理を言ってしまった。」

「いえ、父から校長先生には昔からお世話になっているのでよろしく伝えるように言われています。」

「足を運んでもらった理由なのですが、アキラくん君はすでにプロになれる実力があると聞いています。ですが、入学した折には囲碁部に入ってもらえませんか?」

「僕は、今度のプロ試験を受ける気でいます。なので…」

「わかっています。部活というのはあくまでも教育の一環。プロ棋士になる君には碁という側面では不足する場とは思います。しかし、きみのような存在がいれば、周りには良い影響が出ると考えていますし、きみ自身も同年代とのコミュニケーションの場として良いと思っているのです。」

「わかりました。入学した際には参加させていただくようにします。」

「ありがとう。今日は中学の囲碁大会をうちの高校が主催で行なっているのです。帰る前に一目見て行ってください。なかなかやるものですよ。」

「海王の囲碁部のレベルが高いことは知っています。ですが、僕は…」

「まーそう言わずに。すぐそこですから。」

正直、今の僕は囲碁部など眼中にないが、流石に無碍にもできない。少し覗いていくことにした。前回はなぜか進藤が参加していて、佐為が打っていたなと思いながら教室を覗くとなぜか今回も進藤が参加しているのに気がついた。

進藤に海王の生徒も喰らい付いているが、進藤が圧勝している。本当に美しい石の流れになっている。

大会自体は葉瀬中が2−1で勝利し優勝かと思われたが、進藤がまだ小学生であることがバレて海王中が優勝となった。

進藤にはSAIが僕だとは伝えていないので、知らないふりをして声をかけようと思っていると進藤の方から、僕に気がついた。

「アキラ!?!」

「美しい一局だった。また、成長していることがすぐにわかったよ」

「俺もお前に言われたから、ネット碁を始めて勉強しているからな。プロ試験までにはお前をギャフンと言わせてやるぜ。」

「望むところだよ。もうすぐ院生試験もあるのだろう。もし、院生になった時には父の研究会にも参加しないか?」

「いや。今は毎日ネット碁が忙しいんだ。ネット碁でしか繋がりはねーけど、師匠もできたんだ。」

「そうか、良い師に出会えたんだね。きみの打つ碁を見ているだけで、その人がどれだけ碁を愛しているかがわかるよ。とてもまっすぐな碁だ。」

『ヒカル、今回も私のことを師匠だと認めてくれるのですね。しっかり指導しますからね!!』

「ああ。SAIは本当にすげーやつなんだ。あいつの碁を俺が引き継ぐんだ。そして、お前に勝って見せるよ。」

「あー楽しみに待っているよ。だが、僕も立ち止まったりはしない」

 

 

 

 

日課である朝の対局を終えた後、父から進藤の話題が出てきた。

「アキラ、この前進藤ヒカルくんに会ったよ。」

「なぜ、お父さんがヒカルと会っているのですか?まさか、佐為と僕が育てているのが気になってちょっかいを出そうとしているのではないでしょうね?」

「いや、棋院で院生試験のことで事務の方と揉めていてね。どうやら四月期の院生試験を受けたかったようだが、すでに締め切りが過ぎていて門前払いされそうになっていたのだよ」

進藤、院生試験の締め切りを調べなかったのか…

「それは…事務の方も困られていたでしょうね…ですが、期日を守らない彼が悪いのでは?」

 

 

『佐為、ヒカルの前回の院生試験はちゃんと期日を守って申し込んだんだよね?』

『いえ、前回も期限を過ぎていてちょうど通りかかった緒方殿が推薦してくれたので、受験できました。ヒカルのだらしなさは変わらずですね』

『なんだと。碁の成長だけじゃなくて、生活面も面倒みる必要があるのか。全く育てがいのあるってものだな』

『ヒカルはだいぶだらしなかったですからねー。碁だけは真面目にやってましたが、学校のテストも赤点ばかりでした。途中から碁を打つのを人質にテストの時に周りの回答を見て回ったりもよくしたものでした。』

『ダメダメじゃないか。プロになるとはいえ、一般常識も必要だぞ』

『院生になれば、その辺は和谷が教育してくれますよ。』

 

 

「彼に院生になって欲しいのではなかったのか?院生になるように誘導していると知っていたから事務の方に、私が推薦するから四月期の試験を受けられるようにお願いをしておいたのだが」

「院生になって、さらに成長してほしいとは思っていますが、自己管理がなっていないのが悪いと思っただけです。お父さんのお願いとなったら事務の方も無碍にはできなかったでしょうね。」

「棋院からの帰りにも彼は私を待っていて、受けられるようになったと、お礼を言われたよ。」

「進藤の成長は望むところですからね。受けれるように便宜を図っていただいてありがとうございます。」

「アキラが執着するほどの実力なら、私も早くヒカルくんと打って見たいものだ。」

「ヒカルはまだまだですよ。これからさらに成長させていかなくては。どこに出しても恥ずかしくない棋力になった時にはここへ連れてこようと思います。」

「楽しみ待っているよ。」

 

 

 

 

中学に入学すると、僕は校長との約束通り囲碁部に入部した。

「ユン先生、遅れてすみません。クラスの用事がありまして。」

「担任の先生から聞いている。問題ないですよ。これで新入部員全員揃ったな。一年生立って。今年の新入部員は17名だ。だが、塔矢は今年プロ試験を受ける。なので大会には参加しない。皆も、塔矢に碁について色々教えてもらうといい。代わりに中学生活については教えてやってくれ。他の一年生については例年通り実力次第では大会参加もあり得る。6月の大会に向けて一緒に頑張っていこう。」

「塔矢、きみの実力が知りたい。腕の程を見せてもらおうか。」

僕はユン先生と雑談をしながら対局を始める。

「日本の子供たちの囲碁のレベルは韓国の子たちと比べて大したことがない。だが、去年葉瀬中の進藤を見た時正直鳥肌が立ったよ。上には上がいるものだと痛感した。進藤ヒカルの碁を見て韓国の研究生にも劣らないように感じた。」

「進藤は僕のライバルになる男ですから。ですが、まだまだ彼には成長してもらわなくては、僕には勝てないです。」

「きみの実力はわかった。噂以上の実力だ。大会にでないことも聞いている。好きな時に好きなように部活に参加すると良い。プロレベルが近くにいれば良い刺激にもなるだろう。」

 

海王囲碁部は塔矢が入部してから雰囲気が悪くなっていた。塔矢は来ても1人棋譜並べをしているからだ。たまに女子が指導碁を打ってもらって、楽しく会話をしているから、余計に男子から目の仇にされてしまっていた。アキラは話かけられれば誰とでも打つのだが、男子はプライドから声をかけれていないだけなのだが…

そして、一部の男子生徒はその鬱憤を晴らすために塔矢に声をかけるのだった…

「塔矢ちょっといいか。ユン先生からこの部屋を片付けるように言われてんだ。雑用は一年の仕事だし、塔矢ちょうど暇そうだったから、悪いけど頼むな」

「わかりました。とても良い資料がたくさんありますね。整理すればみんなの勉強にもっと使えそうです」

「ついでに一局打ってもらおうかな。おっと片付けの手は止めるなよ。途中で盤面も覗きにくるなよな。」

「僕に目隠し碁で打てと言っているのですか?」

「いやいや、そんなこと言ってないよ。ただ、雑用やるのも先輩の相手をするのも一年の役目だって言ってんだよ。将来の名人サマならそんくらいできるだろ」

「わかりました」『佐為、きみが打っていいよ。ちゃんと指導碁にしてあげてね』

『塔矢良いのですか?あなたくらいなら、手数が少ないうちに決めれば問題ないと思うのですが』

『これから3面打ちにまで発展しちゃうんだよ。忘れていたけれど、前回も同じことがあったのを今思い出したよ。面倒だし、整理に集中したいから、佐為が遊んであげてよ』

『わかりました。正しい道に進めるよう、性根を叩き直してあげましょう』

「これでお前に勝てたら、自慢だよなー。何せ互先だ。せいぜい打ち間違いは少なめに頼むぜ。」

「自慢されるのは構いませんが、僕に勝ってからにしてください」

対局は順調に進んでいく。僕はただ、佐為の伝言をするだけなので、楽なものだ。相手は目隠し碁をしているつもりかもしれないが、佐為がちゃんと碁盤の前にいるので、目隠し碁になっていない。

 

「おい、塔矢、俺と一局打ってよ」

モブ2がそう言いながら入室してきた。モブ1(伊藤)の苦しそうな顔を見て盤面を覗き、そこで絶句する。その間も僕は整理の手を止めていない。

「お二人目がいるとは思いませんでしたが、打たれるのならどうぞ。先輩」

佐為は若い棋士と打てて喜んでいる。

『さーさー座ってください。あなたの性根も叩き直して差し上げましょう!!』

「どうなってんだよ。伊藤、ちゃんとした対局内容になっているじゃないか。しかもこれは指導碁になっている。化け物かよ」

「奥村こい。お前も一緒に打ってもらうんだ。3面うちだ。いいよな、塔矢」

「僕は構いませんよ。どうぞ。なんなら、打つ場所も教えていただかなくても良いですよ。」

「は?!?三人相手はできないから対局にならないようにでもするつもりか?だが、言ったからにはやってもらうからな。ここからは、打ったかどうかだけいうからな。」

その後、目隠し碁の体すらとらなくなった対局であったが、無事佐為が若者3人を優しく導くのだった。

囲碁部の中では塔矢はエスパーではないかと噂が流れていたが、信じるものはいなかった。

そんな周りの喧騒など気にせず、塔矢は変わらず、囲碁部に顔を出し、時たま指導碁を打って平和に過ごしていくのだった。



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