孫悟空とウマ娘 (猫ネコ)
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悟空とウマ娘

pixivで執筆中

多くの人に見てもらいためハーメルン初投稿

注意
・悟空は知的寄り
・ウマ娘はアニメ軸
・カップリングは無し
・ドラゴンボールキャラは悟空のみ


悟空はかっこいいんだよ


 

ある所にウマ娘が一人練習していた

 

 

ウララ 「、、、いたた また転んじゃった。走るのは楽しいしレースは面白いけど、勝てないなぁ。」

 

 

ハルウララ。

中央トレセン学園の生徒 未だ勝利なし

レースを心から楽しみ負けても笑顔を絶やさない彼女だが最近あった事を振り返っていた

 

 

 

 

ハルウララ頑張ってー!! もう少しだぞ。行ける! 差してーーー!!!

 

 

・・・・・・

 

ゴールイン!!! 一着は○○! 二着続いて○○に三着には○○でした!!!

ハルウララは7着!末脚が伸び切りませんでしたねー。

 

ですが楽しそうな顔をしています。

次のレースも楽しみにしています!!・・・・・・・

 

 

 

ウララ「今日も楽しかったな!負けちゃったけど○○ちゃんとも一緒にレースできたし良かった!!」

 

 

 

レースが終わりウララも帰宅の準備するなか外から観客達の声が聞こえてきた

 

 

ハルウララ残念、伸び切らなかったね。もう少し体力着くと勝ちも見えるんだけど、、

 

ハルウララはいいんだよあれで、あの笑顔を見るだけで応援する意味があるんだから。

 

 

ウララ(なんだか嬉しいなーウララの事見ていてくれてるんだ)

 

 

 

だけどさぁ、正直勝つのは難しくね?

 

あ、それは分かるわ。頑張って欲しいけど、正直首位争いには加われないよな

 

ちょっと!あまりそういう言い方はやめて!ハルウララだって一生懸命頑張ってるじゃない。

 

いや、俺だってハルウララは好きだよ?でも勝てるかって言われたら、、、ねぇ?

 

 

 

ウララ「、、、、、、」

 

 

その日行ったレースの事も忘れ、さっき聞いた言葉を頭の中で振り返りながら帰路についた

 

 

 

トレセンの寮に着くと同室であるキングヘイローがベッドに腰をかけていた

 

 

 

キング「ウララさんお疲れ様。レースはどうだった?」

 

 

ウララは今日のレースを振り返り楽しかった思い出が蘇ったがすぐにあの会話を思い出してしまった。

 

 

ウララ「あ、と、、楽しかったよ? 7着だったけど、、、えへへ」

 

キング「??そう?まぁいいわ今日は疲れたでしょうし、早くお風呂に行って休みましょう?」

 

 

キングはウララの顔に違和感を感じたが、一瞬の事だったので目先の事を優先した。

 

 

ウララ「うん!キングちゃん待っててくれたんだね?一緒にお風呂楽しみだね。」

 

キング「え、ち、違うわ!その、本を読んでたら時間が過ぎていっただけで待っていた訳ではないわよ!」

 

ウララ「んーー、そうなの?まぁなんでもいいや早く行こっ!!」

 

キング「あ、ちょ、引っ張らないで〜」

 

 

 

 

 

夜の作業が終わり、眠るだけとなり今日の事を考えていた

 

 

ウララ(今日はなんだか疲れたなぁ、、、なんでだろう??レースは楽しかったし、お客さんも喜んでくれてたし、ウララも嬉しかったんだけど、、、んーーーー分かんない!寝て明日も頑張ろ!!)

 

ウララは感覚として理解はしてるが、分からない振りをしているのか、早々に考えるのを止め眠りに落ちてしまった。

 

 

 

 

モブ1「あ、ウララちゃん昨日はお疲れ様ーー」

 

ウララ「あーーモブ1ちゃん!!うん、ありがとーー!」

 

モブ2「昨日のレースは○○さんも出るって張り切ってたもんね!結果は残念だったけど、楽しそうだったよ!!」

 

ウララ「うん!!すっごく楽しかったよ!○○ちゃんとは何回か走った事もあったんだけど、やっぱり早かったよ〜追い付けなかった〜〜〜」

 

モブ3「あはは!あ、そういえばスペシャルウィークさんまた一着だって凄いよね」

 

 

 

会話の途中日本ダービーをとった友達の話題に切り替わる

 

 

 

モブ1「本当凄いよね!スペシャルウィークさんだけじゃなくてあそこの世代の人達だけ飛び抜けてるもんね!黄金世代とか呼ばれてるらしいよ?」

 

モブ2「いやもう納得できるよ!皆が1着とか首位争いしてるもんね。一緒に走れるだけでなんか満足するもん」

 

ウララ(スペちゃん達の事だ!!やっぱり凄いな〜)

 

モブ3「いやいや何言ってんのさ。やるなら1着獲りたいよ気分だけじゃぁねぇ?せっかく中央のトレセン入ったんだし」

 

 

ウララ(・・・・・

 

 

モブ2「まぁそれもそうだね!!あ、そろそろ授業始まっちゃうよ!じゃあウララちゃんまたね!」

 

ウララ「、、、あ、ほんとだ! うんまたね!!!」

 

モブs「ばいばーい」

 

 

ウララ(やるなら1着を獲りたい、、か、、、)

 

 

 

ウララは友達との話の中から気になる部分があった。ウマ娘は走る事が全てと言っても良いほどだ。ウララも例外ではなくただ他とは違い順位よりも楽しさを取ったのだ。それがハルウララの美であり欠点でもあった。

 

 

 

ウララ(トレーナーさんに相談してみよ)

 

 

 

 

放課後の時間、トレーナーと共に次のレースに向け練習をするのだがトレーナーの様子がおかしいようだ

 

 

ウララ「おーい!トレーナーさーん。今日は何するの?もう元気が溢れてるからウララ何でもできちゃうよ!!!」

 

トレーナー「、、、あ、すまないウララか。  

今日は少し練習待ってくれないか?、、、少し急用が出来てしまって理事長とたづなさんに話があるからちょっと行ってくる。そうだ!時間かかるだろうから今日は練習はなしだ。遊んできてもいいぞ?じゃあ俺は行ってくる。」

 

ウララ「あ、トレーナーさん、、、、行っちゃった。急用って何かあったのかな?焦ったような顔してたけど、、話したい事あったんだけどなぁ、、、」

 

 

 

ここから歯車が狂い。新たに動き出すまではもう少し、、、

 

 

 

 

ウララ「、、、ふぅ今日で3日目か〜トレーナーさん、あれから会ってないなぁどうしたんだろ?」

 

トレーナー「・・・ウララ」

 

ウララ「あ!トレーナーさん!!やっと来たぁ!もーーどうしちゃったの?ウララ何したら良いか分からなくてとりあえず走ってはいたんだけどね。今日はどうするの?」

 

 

トレーナーと久しぶりに会い、やる気も上がり楽しそうに駆け寄ったウララだったが、帰ってきた言葉は予想だにしないものだった

 

 

 

トレーナー「・・・ウララ、、、本当にすまない」

 

ウララ「え、トレーナーさん?」

 

トレーナー「、、、俺はトレーナー業を辞めなくてはいけなくなってしまった、、、俺はもう、、ウララと一緒に走る事はできない、、、、」

 

ウララ「な、んで?何で、どうして!?いつも一緒って言ってくれたのに何でそういう事言うの!!?ウララが、、ウララが勝てないから!?一着を獲れないからトレーナーを辞めちゃうの!!!?そんな、そんなのやだよ。ねぇトレーナーさん。お願い。ウララ頑張るから!!!一着も獲れるように頑張るから、、、、離れないで、、、」

 

 

 

ウララはトレーナーが辞めるのは自分が駄目だからと思い

、決死の思いで辞めないでもらおうと訴えるが、トレーナーの思いとは関係なく、辞めざるえない状況だったのだ。

 

 

 

トレーナー「違う!!、、、違うんだよウララ。ウララの事が嫌いになったとかじゃないんだ。」

 

ウララ「、、え、どういう、、こと?じゃあなん、で?」

 

トレーナー「実はな、、俺の親が癌なんだ、、」

 

ウララ「!!?」

 

トレーナー「俺は上京してトレーナーになったんだが、目指してる時も送り出してくれる時も、全部親が側で見ていてくれたんだ、、、今回のは命にも関わってるらしい、、俺は今まで苦労をかけた分、今度は俺が面倒を見たいんだ。だから俺は実家に戻るためにトレーナーを辞めるつもりなんだよ」

 

 

ウララ「・・・・そっか。嫌いになった訳じゃないんだね、、そういう事ならウララは何も言わないよ。」

 

トレーナー「、、、怒らないのか?」

 

ウララ「うん、怒らないよ。トレーナーさんは何も悪い事してないじゃん!恩返しする事は良いことだよ!」

 

トレーナー「、、ほんとうにすまない、ごめんなぁ、ウララ、、お前と一緒にいるって言ってたのに、一着も頑張って獲ろうって話してたのに、、、」

 

 

トレーナーは涙を零しながら話している。終わりが近いと心に訴えかけてくるようだ。

 

 

ウララ「ううん、ウララは大丈夫だよ!!それにたった今目標が出来たんだ〜!!!」

 

トレーナー「目標?」

 

ウララ「うん!今までは走るのが楽しかったからレースに出てたけど、トレーナーさんに一着を獲るところを見て欲しくなったんだ!!!えへへ。それもあれだよ凄いやつ!離れていてもテレビで見れるように凄いレースでウララは一着を獲るよ!!!」

 

トレーナー「!!!!!」

 

 

トレーナーはウララの目標を聞き、目を見開いた。

レースで一着を目指すのは特別な事ではなく至極当たり前の事だが、ウララは別だった。楽しいから走る!面白いからレースに出る!ウララは感情的が第一だったからだ。

その子が一着を目指すと宣言し、それも大きいレースに出るとの事だ。応援はするが辞める身からすると少し複雑な心境でもある

 

 

トレーナー「、、そうか。一着、か。それは凄く今までの中でも難しいぞ?」

 

ウララ「う、、わ、分かってるもん!だけど、決めたんだ!」

 

トレーナー「ウララは目標が出来ると一直線だからなぁ、、、だけど、その強さは俺は分かっている。」

 

ウララ「!!!!」

 

トレーナー「信じているよウララ。俺に一着を獲るところを見せてくれ!!」

 

ウララ「うん!!もちろんだよ!ウララ頑張る!!頑張る、、から、、、グスッ、、、だか、らウララは大丈夫だからね、、今までありがとね!トレーナーさん!!!」

 

 

少女が涙しながら意志を貫き通した言葉は俺は生涯忘れないだろう

 

 

トレーナー「ああ!こっちこそ一緒にいれて良かった!!ありがとな!!!」

 

 

とある二人は人の目の事を考えず自分達だけの世界で話、泣きながら抱きしめ、お別れの挨拶をした。

 

 

 

日も暮れ始め、トレーナーも準備があるためウララの元から離れ、ウララは一人、無人となった屋上に居た。

 

 

ウララ(一着、か、、、凄い事言っちゃったな〜、、後悔はしてないし、トレーナーさんにも一着獲るところを見てほしいけど、、、、)

 

 

ウララ「これからどうしよう・・・・」

 

 

少女は考えずにしていた事をつい言葉に出てしまった。

 

 

 

 

 

トレーナーが中央トレセン学園を出て3日目。ウララは新たなトレーナーも付けず一人トレーニングに明け暮れていた。ウララには知識もなく何をしたら良いのか分からないまま、ただひたすら走る事だけをしていた。

 

 

 

その様子を遠目から見ていたウマ娘が一人

 

 

キング「・・・・・ウララさん」

 

 

 

 

 

その日の夜、寮の部屋にてキングとウララは向かい合っていた。

 

 

キング「・・・ウララさん、話には聞いてる、、、単刀直入に言うわ。私のトレーナーの所に来なさい」

 

ウララ「・・・・」

 

キング「貴方だって分かっているはずよ!このまま一人で闇雲に練習したって何も得られない!勝利どころかレースにだって出られないのよ!!?」

 

 

ウララ「、、、うん。分かってるつもりなんだけどなぁ、、、、ねぇ、、キングちゃん」

 

キング「、、何よ」

 

ウララ「キングちゃんはどうしてそんなに頑張れるの?」

 

キング「そんなの決まっているわ!私がキングヘイローだからよ!!一着を獲る事は私にとって当たり前の事よ!それに、、、それに同室の子が負けても前だけを見てるんだもの、、、私は誰にも負けたくない、もちろん貴方にもね。」

 

ウララ「!!!・・・フフッ!あははは!!キングちゃんはずっとキングちゃんだね!!」

 

キング「ちょっと!?どういう意味よそれ!!」

 

ウララ「あはははは!!!・・・・・・・ふぅ、、、ねぇキングちゃん」

 

キング「今度は何よ?」

 

ウララ「さっきのキングちゃんの所に入る話、、もう少し待っててくれないかな?」

 

キング「、、、何か理由でもあるの?」

 

ウララ「理由ってほどじゃないけど、、気持ちが着いて来ないんだ、、、早くしなきゃとは思うけど、ちょっとだけ、、、ちょっとだけ歩き出すまでの時間が欲しいんだ。」

 

キング「・・・ウララさん自身が分かっているのなら私からは何も言う事はないわ、、、、ただ忘れないでね、私は貴方のライバルで競い相手だけど、、友達でもあるのよ?だから何か決まったり困った事があるならこのキングに相談なさい!!キングに任せれば百人力よ!!!」

 

ウララ「キングちゃん、、、、うん!!!ありがとね!!」

 

キング「ふふっ!貴方はそうやって笑ってるのが一番よ。さぁもう今日は寝ましょう?明日も早いわよ?」

 

ウララ「うん、あ!ねぇねぇ今日は一緒に寝ようよ!!」

 

キング「今日'は'ではなく今日'も'でしょう!!、、もう、しょうがないわね、、、、」

 

ワーイ ホラコッチキナサイ、  シッポガデテルワ ウン、 アッタカイネ オヤスミ エエオヤスミナサイ アリガトネ エエ

 

 

 

悩みがあれば聞いてくれる友が、、背中を押してくれる友がいる。その事が分かるだけで何でも出来そうな気がするハルウララなのであった。

 

 

 

〜〜〜1週間後

 

 

スペシャルウィーク(スペ)「今日は久しぶりに皆の休みが重なったね!!」

 

エルコンドルパサー(エル)「リギル自体がお休みなのでエルもグラスも休みデース!」

 

セイウンスカイ(スカイ)「何しよっか〜、缶蹴りでもする?」

 

キング「なんでそこで缶蹴りなのよ、、、小学生みたいじゃない!」

 

スカイ「キングはお嬢様だからね〜缶蹴りははしたなくて出来ないのかな〜?」

 

キング「な!、なんですって!?缶蹴りくらいできるわよ!キングに出来ないものなんてないって事を証明してあげるわ!!」

 

グラスワンダー(グラス)「この流れは缶蹴りをするみたいですね〜うふふ、、どこかで缶を調達しないと、、、」

 

 

放課後の時間、とある同期組は休みが重なり遊びの計画を立てていた所に一人の少女が通った。

 

 

 

スペ「あ!あれウララちゃんじゃない?」

 

スカイ「ん〜〜あ、ほんとだ、、おーーい!ウララー」

 

ウララ「、、、、あ!セイちゃん!みんなも!!」

 

エル「これから缶蹴りをするのデスがウララも一緒にどーデスか?」

 

 

ウララ「これからかーー、、、、ごめんっ!今日は行くところがあるんだー!今度また一緒にしよ!!」

 

スペ「えーーーーそうなんだ、、残念だね」

 

キング「・・・・・」

 

グラス「そういえばウララちゃん、最近トレセンの外に走りに行ってますね?何かやっている事でもあるのです

か?」

 

ウララ「!!?い、いやー何もないよ!?ただコースとは違った感じだから楽しくなっちゃってね、、えへへ。」

 

エル「そういう事ならしょうがありません!!!休みの日でも走りに行くとは良い心掛けデス!!エルも負けてられませんね!」

 

スカイ「おやー?それじゃあエルは一人で走りに行っちゃう?」

 

エル「ケッ!?、、、今日はオフです!!!」

 

スペ「あはは!それじゃあウララちゃん、今度遊ぼうね!!!」

 

ウララ「うん!!それじゃあまたね!」

 

 

 

最近放課後になるとウララはジャージに着替え、トレセンの外、外周ランニングに行く事が増えた。これだけなら何もおかしくはないが、どうやら何かを隠しているようにも見える。その事に引っ掛かっている者が一人。

 

 

キング「・・・・・・」

 

スカイ「、、、キング?ウララと会ったのに話さないなんて珍しいね、、何かあったの?」

 

グラス「確かに、、キングちゃん、どうしたんです?良かったら私達に話していただけませんか?微力ながら力になれると思いますよ。」

 

スペエル「・・・???」

 

キング「、、、大した事ではないかも知れないし、気のせいなのかもしれないけど、、、」

 

スカイ「もーーじれったよキング??らしくないんだから、、」

 

キング「、、、さっきグラスさんが言った通りウララさんは外ランが多くなったわ。今はトレーナーもいないし自由に練習してるのだろうけど、、、」

 

エル「ふむ、、ですが、ウマ娘なら別に珍しい事ではないと思いますよ。エルもたまに行きますし、、」

 

キング「そうなのよ、それだけなら私もおかしくないと思うのだけど、、、毎回ヘトヘトになって帰ってくるのよ、、、」

 

スペ「え、でも外ランに行ってるから疲れるのは当たり前じゃない?」

 

キング「その疲れ方が異常なのよ、、、体力というよりは筋肉関係のほうね。凄い筋肉が張ってるし、前までやらなかったのに柔軟運動は毎日、というよりは時間が空いたらやってるわね、、、一人でやるには、それもウララさんがやるにはハード過ぎると思うのよ、、、」

 

スカイ「なるほどね〜、、キングの過保護って思ったけど、確かに違和感はあるね〜、、」

 

スペ「うん、、、、よし!!じゃあこれから後を付けてみようよ!!!」

 

エル「オウ!!?尾行って事デスね!!燃えてきましたよ!」

 

グラス「心配なのは分かりますが、尾行するのはちょっと抵抗がありますね、、、」

 

エル「グラスも変な所で真面目デスね!問題無かったからそのまま帰って来て、問題有ったら私達でなんとかする!良い作戦だと思いマース!!!」

 

グラス「変な所は余計ですが、、、そうですね、行きますか。」

 

キング「さっそく行きましょう。見失うといけないわ!」

 

 

 

黄金組はハルウララの異常を察知し、遠目から判断する計画を実行した。入口にはたづなさんが居たので方向を聞き、バレないように追跡を始める、、、、

 

 

 

場所は山の麓にある川沿い。そこにウララと一人の男性の影が見える。黄金組はバレないように物陰から少しの間見るようにした。

 

 

スペ「まぁまぁの距離だったね、、、遠くは無いけど、外ランにしてはあまり向かない距離かな、、」

 

キング「それよりもあの男は誰よ!なんでこんな所に二人でいるの!?」

 

グラス「キングちゃん、落ち着いてください。声が大きいとバレてしまいます。」

 

 

 

黄金組は見ていると行っているのはトレーニングに見えるが、近年のトレーニングにしては古くさかったのだ。手頃な石を持ち上げては歩いたり、ウララ以上の大きな岩を押して動かそうとしたり、それを男は見ながら助言している様だった。

 

 

???「ウララ!その岩じゃただ押すだけなら動かねぇ!もっと脚の力を使うんだ!!」

 

ウララ「んぎぎぎ!!!あ、脚の力をつかうってど、どういう意味ーーー!!!??っあ!」

 

 

ザザァーー!!!押す岩の力に負け、滑ってしまったウララ

 

 

???「あちゃあーー惜しかったなウララ!」

 

ウララ「はぁはぁ!!んーーーくやしい!!!もうちょっとだと思うんだけどなぁーーー!!」

 

???「おめぇは単純な力ならある、、が、それを使いこなせてねぇんだ。力を使うなら何でも一緒だ!上半身の力は下半身から、下半身の力は上半身の力を使うんだ!」

 

ウララ「よくわからないよーーーー」

 

???「ははは!最初はそんなもんだ!ゆっくり分かっていけば良い。ま、いいか、次の修行行くぞ?」

 

ウララ「え、もう!!?まだ体力が回復してなくて立てないよー」

 

???「いや今度はさっきのじゃねぇ。ここは自然の音が多いからなぁ、、、座禅だ!呼吸を安定させながら精神修行すっぞ!!」

 

ウララ「えー座禅って座るだけでしょ!?何か意味があるの?」

 

???「まぁまぁ騙されたと思ってやってみろって!ここは空気もうまいから落ち着くぞ?」

 

ウララ「んーー○○さんが言うならウララやってみるね?」

 

???「おう!、、、ん?、、なんだ出て来たのか、、、」

 

ウララ「え?何か言っt(ちょっと待ちなさい!!!)!!?

 

キング「さっきから見てれば、何をしてるのよ!!こんな所で意味もないような事を!!!ウララさんもよ!こんな人気もない所で男性と二人なんて危機感がないにも程があるわ!!!」

 

ウララ「!!!?え?キングちゃん!?なんでいるの!!?」

 

スカイ「ちょ!!ちょっとキング!!!落ち着いて!」

 

スペ「わぁーなんか良い所ですね!空気が澄んでお母ちゃんのところ思い出します!」

 

???「だよなぁ、オラもそう思う!」

 

エル「というより貴方は誰なんデスか?」

 

グラス「この辺りじゃ見かけない風貌ですね、、、」

 

 

グラスがそう言うのも無理はない、、その男は山吹色の武道着?に恐ろしい程までに鍛え抜かれた身体!180cmとまではいってないだろうか、、、見た目はあまり年齢もいってないだろうか、澄んだ目をした男が言った。

 

 

???「オラか?オラは、、

 

 

 孫悟空だ!!



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孫悟空と黄金組withハルウララ 最強への道

悟空との関わりを持つ人を増やす為、ウララの出番が少なくなってます。
出来る限りキャラは崩壊させないように頑張ります

注意
・ウマ娘は"気"を使いません
・時系列、細かい専門用語などは手が回りません、勘弁!


pixivにて連載中


〜前回のあらすじ〜

 

未だ勝利を知らないハルウララ。楽しさだけでレースをする事に違和感を感じていた所、トレーナーが去ってしまう事になってしまった、、そんな危機的状況の中ハルウララは大きな舞台で一着を獲る事をトレーナーと約束をした。

 

トレーナーがいなくなってしまって、一人黙々と練習をするハルウララ、キングヘイローは最近ずっと外ランをするハルウララに対し、疑問を生じていた。

黄金組との相談の結果、ハルウララを尾行する事になり、着いた場所は人気のない川沿い。

そこでは奇妙なトレーニングをするハルウララと孫悟空と名乗る男が居たのだった、、、

 

 

 

 

 

 

 

悟空「オラの名前は孫悟空だ!!」

 

キング「・・・・・・嘘でしょ!偽名じゃない!!」

 

悟空「嘘じゃねぇって、、、それよりウララの事付けて来たみてぇだけど、何かあったんか?」

 

スペ「私達、ウララちゃんが最近外に走りに行く事が増えたので気になってついてきたんです。」 

 

キング「スペさん!説明は後よ!!それより貴方の事を詳しく教えてもらうわよ!!!」

 

グラス「キングちゃん、少し落ち着いてください。でもそうですね、、孫さん?はこの辺りの人じゃないように思えますが、、、」

 

悟空「オラか、オラは死んじまってあの世に居たんだけど、閻魔のおっちゃんの所に行ったら"てんせい"?ちゅーやつを間違えて受けちまったんだ。だからオラも気がついたらここに居たんだ!地球みてぇだけど、オラの知ってる地球とは別みてぇだけどな!!!」

 

 

 

場所が変わろうとも良くも悪くも孫悟空。自分の起きた事を正直に話す悟空だが、理解出来るものなど一人としているはずはない、、、、

 

 

 

黄金組「???????????は?」

 

ウララ「そうそう!最初にこの辺りで会ったときなんだけど、山から熊さんが降りて来てね、怖くて動けなかったんだけど、悟空さんが助けてくれたんだぁ!!!」

 

 

キング「・・・・・そう、、、それじゃあ帰りましょうウララさん。孫さんも、もうウララさんの事は見なくて大丈夫です。ありがとうございました。」

 

ウララ「え!?なんで?まだ時間もあるし、元気も残ってるよ?それにまだまだ全部教えて貰ってないもん!!」

 

キング「ウララさんは無知すぎるわ!!確かに助けてくれたのかも知れないけど、明らかにおかしいわ!!死んでたり"てんせい"とか閻魔とかハッキリ言って関わっては駄目な人よ!!!!ほら皆も行きましょうって、、、え!?」

 

エル「オーウ!!凄い筋肉デース!!何かスポーツでもやっているのデスか?」

 

悟空「おうすげーだろ!鍛えてっからな!スポーツっちゅーか武道家ってやつだ。」

 

スペ「凄いです!私武道家って人初めてみました!!あのパンチしたりキックしたりするものですよね!!」

 

悟空「はは!まぁな、そんなところだ。」

 

 

 

悟空の怪しい言動に警戒するキングをよそに、天然コンビは純粋に楽しんでいた。

 

 

 

スカイ「あちゃ〜あの二人はやられたね、凄い気になってるみたい。キングも落ち着いて、多分大丈夫だよ。」

 

キング「・・・・何でそんな事が言えるのよ、、」

 

スカイ「だって今日だけじゃなくて何日間か二人だったんでしょ?何かしようと思えばバレずに出来たはずだしね!言ってる事は色々おかしかったけど、見た感じは良い人そうだしね〜、、ほらキングも言ってたじゃん。ウララは最近トレーニングが身に付いてるって話!それ多分この人が見てくれたんでしょ?」

 

グラス「私も同じ意見ですね。ただ先程の言葉、、離れた位置から私達が尾行したのを知ってるような感じでしたが、、分かってたのでしょうか?」

 

キング「、、、スカイさん、、グラスさんまで、、、ふぅ、、悪かったわね、取り乱したわ、、」

 

スカイ「いえいえキングママならしょうがないって」

 

キング「誰がママよ!!」

 

 

 

少し離れた位置で話すキングヘイロー、セイウンスカイ、グラスワンダーを尻目に悟空は力こぶにぶら下がってるエルコンドルパサーとハルウララと遊んでいた。

 

 

オウ!凄い持ち上がってマース ほんとだ凄い凄い!私も次やりたいです。

 

悟空(話はついたみてぇだな)

 

悟空「そういやおめぇ達ウララと同じ耳と尻尾が付いてんな、ウマ娘ってやつか?」

 

スペ「そうですよ?おじさん知らないんですか?」

 

エル「スペちゃん!さっきここの人じゃないって言ってたじゃないデスか。、、、ん?」

 

スペ「あ、そっか!、、、、、え?じゃあどこから来たの?」

 

キング「やっぱり分かってなかったんじゃない!!!このへっぽこ達!!」

 

グラス「まぁまぁ、、、それにしても孫さん、これからどうするんですか?」

 

悟空「そうだなぁ、閻魔のおっちゃんが言うには1年くれぇって言ってたからな!まぁそれまではこの山でも借りっかな!!」

 

グラス「え?閻魔?さんといつ話したんですか?」

 

悟空「ああ、ちょっと前に頭の中に話しかけてきたんだ、、、、、、、【こんなふうにな】

 

 

黄金組・ウララ「!!?!、?!!?」

 

スカイ「え、ちょ、、なに、いまの?」

 

キング「しゃべってないのに声が聞こえたの?え?」

 

グラス「、、これが、頭の中に???」

 

ウララ「すごいすごーい!!悟空さん!超能力者みたい!!!」

 

エル「これはさすがのエルも驚きデス、、、」

 

スペ「はえーーーすごいべ、、、」

 

悟空「ははは!テレパシーみてぇなもんだ、超能力者はオラじゃねぇな。」

 

 

 

 

声を出さず話しかけるという所謂テレパシーという人間には到底出来ない事を披露したおかげで少女達は目の前の男が普通じゃない事に気づいた。

 

 

 

 

キング「、、、はぁ、こんなんじゃ信じるしかないわね、、、、理解出来そうにないけど、そもそも死んでるって何よ、、」

 

悟空「ん?あぁオラ5年前くらいに死んでんだ、、ってさっき言ったな、、、ほら見えねぇか?頭の上に輪っか付いてんだろ?」

 

黄金組「・・・・え?」

 

 

 

死んでいる者が目の前にいると実感した時、人は何を思うのか、、、

 

 

 

ウララ「えーーー!!?じゃあ悟空さん幽霊さんな

の!??」

 

       ある者は純粋に驚き

 

 

 

 

スカイ「、、、まじで?」

 

グラス「、これは、、ちょっと、、、」

 

 

       ある者は引き気味になり

 

 

 

 

キング「、、、、、、、バタッ」

 

 

    ある者は自分を守るために夢に逃げ

 

 

 

エルスペ「、、、おーう」

 

 

     ある者は語彙力がなくなった

 

 

 

悟空「まぁまぁ落ち着けよ、本当は魂だけになる所をオラが頼み込んで身体貰ってんだ。死んでる事には変わりねぇけど、まっ!いいじゃねぇか!!」

 

スカイ「、、、、、いいに、しよう、、これ以上現実追い求めたら脳が壊れる、、、」

 

 

セイウンスカイの提案に一同は心を一致させ頷いた。

 

 

 

 

悟空「そういやおめぇ達、名前は何ていうんだ?」

 

スペ「あ、そっか、すっかり馴染んじゃって忘れてた。コホンッ、、、私はスペシャルウィーク!スペって呼んでください!!」

 

グラス「グラスワンダーと言います。皆からはグラスと呼ばれています。」

 

エル「ワタシはエルコンドルパサーデェス!!エルでいいデスよ!」

 

スカイ「私はセイウンスカイだよ〜、スカイでよろしく〜!」

 

キング「私はキングヘイローよ!キングで構わないわ!」

 

ウララ「ウララはハルウララでウララだよ!!!」

 

悟空「ははっ!ウララは知ってっさ!オラも悟空でいいぞ!皆もよろしくな!!」

 

 

 

今更ながら自己紹介も終わり、日も暮れ始め、少女達の門限が迫っていた

 

 

 

グラス「そろそろ日が傾いて来ましたね、距離が少しあるので戻りませんと、、」

 

スペ「ほんとだ、ウララちゃんごめんね、、トレーニング無くしちゃって、」

 

ウララ「そういえばそうだ!皆に会ったから忘れちゃってた!楽しかったね!!、、、あ、ねぇねぇキングちゃん!明日も来て良いでしょ?」

 

キング「!!!、、、、そうね、悟空さんも悪い人じゃないみたいだし、悟空さんお願いしてもいいかしら?」

 

悟空「おう!オラも帰るまでは暇だしな!、、、、ところでおめぇ達は何か習ってんのか?普通の奴にしては気もでけぇし、体も引き締まってるみてぇだな、、」

 

キング「気?あ、ウマ娘の事知らないんだったわね、、ウララさんの事もあるし、明日は私も来てウマ娘の事を説明するわ。今日は時間もないから皆も帰りましょう。」

 

スカイ「そうだね、それじゃあ悟空さん私達帰るね〜」

 

グラス「それでは失礼します。」

 

スペ「じゃあ私も失礼しますね!」

 

エル「また会いましょう!!じゃあさよならデース!」

 

ウララ「じゃあねー!悟空さん!また明日!!」

 

悟空「おー!気をつけてな!」

 

ハーイ

 

 

悟空は少女達が楽しそうに帰るのを眺めていた。それは子供を見る父親のような温かい目のようにも見えた。

 

 

悟空「さてと!オラも飯の準備でもすっかな!、、、、こうやって準備すんのは、、何年振りだろうな、、、、」

 

 

 

 

 

次の日キングヘイローは言葉通りハルウララと共に悟空の所にやって来て、ウマ娘の事を話していた。

 

 

 

キング「、、、と、言う訳なのよ。」

 

悟空「、、そっか、、つまりどう言う事なんだ?」

 

キング「、、、、、ゴデッッ!、、、もう!!今話したばかりじゃない!聞く気あるの!?」

 

悟空「はは!すまねぇなキング!もうちょっと分かりやすく言ってくれ!」

 

キング「もう!、、、、ウマ娘って言うのはね、走る種族なの。決められた芝のコースを何頭かで一斉に走って順位を決めるの。そこで未勝利戦1勝、2勝3勝クラス、オープン特別からG3.G2.G1っていう、、、難しさの度合いって風に理解してくれればいいわね。他にもダートっていう砂を走るのもあるわね、、、、ざっくりとしてこれを私達はやっているのよ。」

 

悟空「なるほどな、、キング達は自分一人でやってんのか?」

 

キング「そんな訳ないじゃない。ちゃんと教えてくれる人はいるわよ。個人でつくかチームに入るかはそれぞれだけどね、、」

 

悟空「ん?じゃあよ、ウララはどうなんだ?ここに来てっけど、教えてくれる奴がいるんじゃねぇのか?」

 

ウララ「、、うん。居たんだけどね、訳あって学園から離れてちゃったの。だからウララは今トレーナーは居ないんだ、、」

 

悟空「そういう事か、、それにしてもレースか、オラは体を鍛える事は出来っけど、レースならまるっきし分からねぇな、、、」

 

キング「その事なんだけど、、トレーナーとも話してるんだけど、ウマ娘はトレーナーがいないと出走、、つまりレースに出れないのよ、、、」

 

ウララ「!!!?」

 

悟空「い"!!?、、ほんとかそりゃ、やべぇんじゃねぇか!!」

 

キング「えぇだから悟空さんにはこのままウララさんを鍛えてほしいのよ。」

 

ウララ「え?」

 

悟空「、、、どう言う事だ?そりゃあ構わねぇけど、レースに出れねぇんじゃ意味ないんじゃねぇか?」

 

キング「トレーナーとは前から話をしていて一時的に籍を置く事が出来るのよ、、だけど出来るのはただそれだけ。ウララさんのステータスを見れば他の人よりも力が足りて無いわ。他の人もいるからウララさんだけを見る事は出来ない。仮レースや併走は出来るとしてもね、、」

 

ウララ「キングちゃん。その話は、、、」

 

キング「ウララさん。あなたが不安になってるのは大体検討つくわ。だけどあなたは今ゆっくりしてる時間はないわ。その間にライバル達は力を付けてどんどんレベルUPしている、大きなレースで一着を獲るのでしょう?」

 

ウララ「!!!!!」

 

悟空「何だか分かんねぇけど、レースには出れるようにはなんのか、、ウシッ!じゃあオラはウララを鍛えるだけ鍛えて後の事はそのトレーナーっちゅうんに任せりゃあいいんだな?それだけならオラでも出来そうだ!!、、でも良いんか?キング昨日会った時、意味もないようなとか言ってなかったか?」

 

キング「ゲッ!!?い、いえ、よく考えれば悟空さんの事知る前はウララさんの筋肉の発達やらが見てとれたので、そこは疑ってなかったわ、、、悟空さん自身が化け物級って事も知っていますし、、、」

 

悟空「お?そうなんか、オラ昨日何か言ってたっけか?」

 

キング「あの後、帰る途中に他の皆と悟空さんの話をしてる時にエルさんやスペさんから聞いてたのよ。ウララさんが押してた岩を叩き割ったとか、、、、」

 

悟空「あぁその事か!その程度の事ならどうって事ねぇぞ。オラも修行して強くなっていってるしな!!」

 

ウララ「あれ凄かったねーー!!ちょっと突いただけなのに、真っ二つに"パカン!!"ってなったもんね!!」

 

キング「ま、まぁそれがレースに役に立つかって言われたら微妙な所だけど、今の段階ならそれが一番最適でしょうね!」

 

悟空「そうと決まればさっそく始めるか!!ほらウララ、キングも準備しろよ?」

 

キング「え!?私もやるの?」

 

ウララ「わーい!!キングちゃんと一緒に出来るーー!!!」

 

 

 

キングヘイローによりハルウララの方向性がハッキリとしたところで孫悟空の本領を発揮する事になった。ここは自然に一番近い所、鍛える道具はたくさんあるのを悟空は知っていた。

 

 

ホラもっと腰を落とせ!水の勢いに負けねぇように足腰にしっかり力いれるんだ!!

 

ちょっと待って!!下がぬるぬるしてて滑るわ!?

 

ふんぬーー!!!あ"あ"ぁぁぁ太ももがづりぞう!!!

 

今度はこの岩をここまで押してくるんだ!!!身体を意識して力いっぱい押すんだぞ!!

 

んんんん!!!こ、この岩私よりも大きいのだけど、、ぜ、んぜんうごか ない わ!!!

 

ちょ、ちょっとむりか、も!もう少し小さ、くしてよ!!ぐぎぎ.....

 

次は腹に紐で岩を結びつけたまま山の上まで走るぞ!!オラも逆立ちで着いてくからな!!

 

う、後ろに引っ張られるわ、、、、

 

お腹が、、背中とくっつきそう、だよ、、

 

 

モ、モウダメーーーーーーーーー!!!!!!!

 

 

悟空は昔にやっていた修行を思い出し、少女達に教えていた。だがそれは日夜修行に明け暮れていた悟空でさえ息も絶え絶えなのを覚えているのだろうか、、、ウマ娘とサイヤ人はまだ邂逅したばかり、孫悟空のハチャメチャな感覚にどんどん狂わされていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

孫悟空と会った日の帰り道

 

エル「いやー不思議な人でしたネ!!!」

 

スカイ「不思議っていうかまだ現実味が帯びてないけどね、、、」

 

グラス「でも会ったばかりなのに何の不安とかもありませんでした。何故か居心地が良かった感じがします。」

 

スペ「あ、それ私も思った!何だか説明しづらいですけど、自然と一緒にいる感じでした!!」

 

キング「悪い人とは思わないけど、、ねぇ?」

 

スカイ「ほんっとキングは心配性だねぇ、、、、、それにしてもあのテレパシーみたいなのどう思う?」

 

ウララ「あれすごかったね!!ほんとに頭の中に流れてきたみたいだったよ!!」

 

スペ「ですね!!」

 

グラス「とても信じれません、、、が実際に起こると否定できませんからねぇ、、、それにみなさんも同じタイミングでしたし、、」

 

エル「もしあれがトリックだったとしても岩を叩き割ったのはとてもエキサイティングでした!!!」

 

スペ「それこそ驚いたよね!!本気で殴ってたってよりも、軽くゴツンッ!って感じでしたし、パカンッ!って割れてましたね!!」

 

キンセイグラ「、、、、、え"!!!?」

 

スカイ「、、そんな事、、あったの?、」

 

ウララ「うん!ウララが最初に押してたやつだよ!!」

 

キング「それウララさんの身長並みにあったやつよね、、、??」

 

グラス「、、、武道家っていうのもレベルの格が比べ物にならないくらいなんでしょうね、、、一度ゆっくりと話してみたいです。」

 

スカイ「明日はキングも行くんだよね?また話聞いてきてよ!」

 

エル「本当ならエルも一緒に行きたかったんデスが、、、」

 

グラス「トレーナーさんは怖いですからねぇ?」

 

キング「もう!遊びに行くんじゃないのよ?」

 

スペ「ふふっ!ウララちゃんも何だか楽しそうだね!」

 

ウララ「うん!とってもワクワクしてるんだー!!」

 

スペ「、、、、そうなんだ!良かったね。ウララちゃん!!」ニコッ

 

キング「さぁ着いたわね、門限までには時間がもうないからウララさん、走るわよ!それじゃあ皆も遅刻しないようにね。」

 

ウララ「ばいばーい!!」

 

ジャアネー!!



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孫悟空inトレセン学園

まだまだ登場人物を増やす為、ウララの練習などはまだ先。まずは悟空

注意
・シンボリルドルフの四字熟語は難、めんどいので無し!
・理事長の熟語はたまに無し!


pixivにて7話まで更新中


〜前回のあらすじ〜

 

 

黄金世代と呼ばれる娘達と会った悟空。

キングヘイローは最初は疑っていたが話していくうちに段々と馴染んできたようだ。

悟空の強さの片鱗を見たスペシャルウィーク達は現実離れした力に圧倒され、困惑し、なんとか受け入れ、畑は違うがトップレベルで争う彼女達はその力に目を奪われつつあるのだった。

話をしていくうちにハルウララがトレーナー不在のためレースに出れないと知るが、キングヘイローとそのトレーナーの計らいにより出走できる事が分かった。

 

目指す所が確かなものとなり、悟空はハルウララをしっかりと鍛える事に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

悟空「ウララーーー!いくぞーーーーーーそりゃ!」

 

ウララ「パァン!、、、、それ!」

 

悟空「おう、パシッ、ナイスボール!ほれ」

 

ウララ「パァン!、、ねぇーー悟空さーん!!」

 

悟空「パシッ、どーしたーーーウララ?ーーー」

 

ウララ「スパァン!!、、なんでー私達ーキャッチボールしてるの〜〜〜???」

 

悟空「パシッ、、、ん?何でってそりゃあ、おめぇがしてぇって言ったんじゃねぇか」

 

ウララ「スパァン!!、、言ったけど、痛い!!もう無理だよ!悟空さんの何かすごく重い感じがするもん」

 

悟空「おーそっか、そりゃすまねぇな、ははは!」

 

 

 

〈キングヘイローとこれからの事について話したのが二週間前の事。ハルウララは以前のように毎日じゃなく数日来ては、一日空けてはまた来るという事をしていた。

 

悟空の所に行かない日でもハルウララは基礎トレと柔軟、後はキングヘイローのトレーナー(キントレ)の元で併走トレーニングに参加していた。

今はまだ実力が追いついておらず、他の皆には着いていけてない状態だが、キングヘイローやキントレは以前より力が付いてるのを気づいていた。〉

 

 

 

ウララ「、、、ふぅ、キャッチボールなんてすっごく久しぶりやったけど、面白かったね!」

 

悟空「そうだな!、、いきなりグローブ持ってきてキャッチボールしよ!には少し驚いたけどな、、、」

 

ウララ「あはは!悟空さんならやってくれるって思って、つい、、ごめんね?」

 

悟空「いやこんくれぇどうって事ねぇぞ!キャッチボールとはいえ、一応修行にはなるしな!!」

 

ウララ「え?そうなの?あたしは何も考えずにやってたけど、、」

 

悟空「あぁ、まぁな!ボールを見る事で眼を鍛えれるし、離れてやりゃあ周りとの感覚も必要になる。全身使って投げるから体の芯も安定するしな」

 

ウララ「ほえーー悟空さんって頭良いんだね!!」

 

悟空「そう言われっとちょっと色々困るんだけどな、、、まぁそれはそうとレースの方はどんな感じなんだ?」

 

ウララ「あ!そう、レース!!レースはねぇ二ヶ月後に決まったんだ〜!!」

 

悟空「二ヶ月後か!!、、随分と急だな、、キングん所で修行してんだろ?そっちはどうなんだ?」

 

ウララ「併走だね!まだウララは最下位かな、、、トレーナーからは速くはなってるけど、今のままだと少しキツイかもって、、、、やっぱり、、無理、なのかな、、」

 

悟空「、、そんな顔するもんじゃねぇぞ?ウララ。まだ二ヶ月はあるし、修行も詰まってる訳じゃねぇ、ウララがそんな顔してっと出来るもんも出来ねぇぞ?」

 

ウララ「うん、そうだよね!!ごめんね、つい落ち込んじゃって、、自分を信じてあげないと何も出来ないもんね!!よしっ、ウララ頑張るよ〜〜!!!」

 

悟空「はは!その意気だ!んじゃ修行でもはじめっか!!」

 

ウララ「おー!!

 

 

 

 

〈悟空は自身がいつもやってる修行がウマ娘では効果は薄いと思い、ウマ娘のレベルUPに繋がる鍛錬法を悟空なりに考えていたのだった。〉

 

 

 

どうした!ウララ!!そんなんじゃいつまで経ってもオラの事捕まえられねぇぞ!

 

まだまだだよ!!

 

 

〈ウララは悟空に向かい全力疾走するが悟空との距離はあまり縮まらず、もう少しという所で交わされ加速してしまう。ウララはいくら遠くなっても必死になって追い続けていた。〉

 

 

 

そら!今度は身体が起き上がってきてるぞ!もっと倒して手を振れ!

 

はぁはぁはぁ、、んぎぎ!!

 

 

〈ウララも体力にも限界があり、どんどんフォームが崩れてしまうが悟空が見逃す事もなく、前にキングヘイローから大まかなウマ娘の走りを見せてもらった事があったのでそれを参考に指摘していた〉

 

 

〈この練習方、自身の身体使い、ウマ娘にも効果的なトレーニング、ミスターポポとも似たような事をした、、そう、鬼ごっこだ!〉

 

 

〈少し広い場所に出て方法は単純、悟空が逃げてウララが捕まえるそれだけだった。それだけな筈なのにハルウララはシャワーでも浴びたような汗に脚も上げられないような疲労が見てとれた。

だが眼だけは悟空から離さないのも悟空は感じ取っていた。〉

 

 

 

悟空(思った通りだ、、ウララは基礎は足りねぇが根性がある。こりゃひょっとするかもしれねぇな、、、)

 

ウララ「はぁはぁはぁ、、、、、、、、」

 

悟空「、、、ウララ今日はもう止めだ」

 

ウララ「、、、え、どうし、たの?まだ、できる、、よ?」

 

悟空「いやウララの場合はまだ完全に身体が出来上がってねぇ、、無理にやんのは時には必要だけど、それは今じゃねぇ。レースが決まってんなら尚更だ。怪我をしちゃ元も子もねぇからな」

 

ウララ「はぁはぁ、、そっか、、そうだよね、、」

 

悟空「焦る事はねぇさ。ちゃんとオラが強くしてやっから休める時にはしっかり休むんだぞ!!」

 

ウララ「うん!分かった!!、、、はぁーー疲れたーーー、悟空さんすごい速いね。擦りもしなかったよ!!」

 

悟空「だろ?オラも教える立場からしたらそう簡単には負けてられねぇさ、、、、さぁ呼吸が安定してきたら柔軟でもして身体ほぐすぞ!」

 

ウララ「ハーイ!」

 

 

 

〈トレーニングも一通り終わり、悟空はうつ伏せになってるウララの身体をほぐしていると何やら聞き慣れた音がしてきた。〉

 

 

、、スゥー、、、スゥー、、、

 

 

 

悟空(ん?何の音だ?、、、ってまさか!)

 

ウララ「スゥ、、ん、むにゃ、、、スゥー、、、」

 

悟空「あー!こいつ寝てやがる!!、、おーい!ウララ起きろー!帰る時間が決まってんだろ。」

 

ウララ「んにゃ、、ん?、、、、スースー」

 

悟空「だめだ起きねぇ、やり過ぎちまったか?、、参ったなぁ門限が決まってんなら帰らねぇといけねぇし、送ろうにも場所が分からねぇ、なによりキングに怒られちまう。あいつ怒ると怖ぇんだよな、、どうすっか、、、」

 

 

 

〈門限が近づく時間帯、最近のルーティーンから、そろそろ帰る時間になっていた。ところがハルウララは疲れたのか夢の中。そこで悟空はある事に気づく〉

 

 

 

悟空「ん?あ!そうだ!ウマ娘は少し人とは違う気を持ってる。学校って言ってたからウマ娘がいっぱいいる所に瞬間移動すればいいんじゃねぇか!!多分そこにあいつらもいるだろうしな。」

 

 

 

〈悟空はウララを背負い、額に指を当てウマ娘が集まっている場所を探す。〉

 

 

 

悟空「・・・・・・ここだな、ここからさらに、、、、、オシッ!見つけた!」シュン!

 

 

 

〈風切り音が生じた瞬間、そこには元々誰もいなかったような静けさがあった。〉

 

 

 

 

〈チームリギル。それはトレセン学園が誇るトップのチームである。東条ハナトレーナーを筆頭に皇帝と呼ばれる生徒会長や敗北をしらない娘や三冠馬、そしてグラスワンダーやエルコンドルパサーの姿もあった。〉

 

 

東条トレーナー(東条トレ)「よし!今日はそこまで!!各自でクールダウンをしっかりやってから上がれ!、、、最近スピカや他のチームもレベルを上げてきている。チームリギルはこれまで以上に集中しなければならない!各々気を引き締めろ!!」

 

リギルS「ハイ!!」

 

 

トレーナーぴりぴりしてるな。 スピカのトレーナーとまた何かあったみたいだよ? スピカのトレーナーもよくおハナさんに言えるね怖くないのかな? それより今日の併走の時のやつさー、、、、、、、、

 

 

 

グラス「、、、ふぅ」

 

エル「オーウ、グラス!怪我の具合はどうデスか?」

 

グラス「エル。、、、そうですねぇ最近は少しずつですが、復帰する兆しが見えてきたところです。今日も軽くですが練習に参加させてもらいましたからねぇ」

 

エル「そうでしたか!それなら良かったデス。ライバルとしてグラスも倒さないと世界最強とは呼べマセンからね!」 

 

グラス「ふふ。私は負けませんよ?」

 

エル「なっはーー!!エルだってどんどん強くなってみせマース!!、、、ところで悟空さんの話は何か聞いてますか?」

 

グラス「いえ、前にキングちゃんがウマ娘の説明をした日にやったトレーニングで筋肉痛になったってくらいで、他はウララちゃんから楽しかったとか遊んだとかしか聞いてないですねぇ。」

 

エル「そうデスよね。、、、」

 

グラス「エル?どうかしたのですか?」

 

エル「いえ、ワタシ達皆は、今やレースの中では上位に入ってマス。グラスは怪我だとしても、ダービーを獲ったスペちゃん。皐月賞のセイちゃん、まだG1タイトルを獲ってはないですが、首位争いには入ってるキング。

ワタシはそんなライバル達を破り最強である事を示したいのデス」

 

グラス「そうですね。あなたの志はいつも聞いてるから分かります。でも何故そこで悟空さんなんですか?」

 

エル「悟空さんはウララを強くするって言ってました。悟空さんの力は、エルには分かりませんが、ウララを強くするのは出来ると、、、何故かそう思うんデス。ただ勝敗を決めるのはレースなんです。強くなるだけじゃあレースでは勝てマセン。」

 

グラス「、、、エル、あなたは何が言いたいのですか?」

 

エル「ワタシは凱旋門賞で勝利する事を目標にしてマス。

でもそれとは別に皆で一緒にレースに出て勝ちたい!というものも考えてマース!そこにウララも加わればもっと楽しくなる!!エルの直感がそう言ってるんデスよグラス」

 

グラス「なるほど、、、皆でレースですか、、ふふ!貴方らしいですね!確かにウララちゃんも入れば楽しそうです。」

 

エル「デスよね!、'シュン!'、なので悟空さんにはもっとウララを強くしてもらわないと困るんデスよ!」

 

悟空「おう!心配ぇすんな。ウララの事はしっかり見てるからよ!!」

 

エル「はい!お願いします!!悟空、さ、、ん、、!!!?!!?!?」

 

グラス「・・・・・・・・・は?」

 

悟空「おっす!おめぇ達二人いると気が見つけやすかったからこっちに来ちまった。」

 

 

 

〈リギルの練習後、アフターケアをしているエルコンドルパサーとグラスワンダー。これからの事についてエルコンドルパサーが語っていると間を割り込むように、何もない空間から何も考えてない男が突如出現したのだった。〉

 

 

 

 

エル「は?え、は?悟空さん!?なんで!!?」

 

悟空「いやーウララのやつが寝ちまって起きねぇんだよ。だからオラが送りn」

 

グラス「何でじゃなくて!どうやって!です!!!気づかなかったってよりも、、その、、???、、何もない所から現れませんでした?」

 

悟空「あ、そっちか。瞬間移動だ。」

 

エルグラ「瞬間移動、、、は?」

 

悟空「知らねぇか?瞬間移動って言ってな、離れた位置でもそいつの気を目印にして一気にそいつの近くに行くんだ。今回はウマ娘が集まってる場所から、おめぇ達二人の気を見つけて来たんだ。」

 

グラス「、、、、瞬間移動って意味は知っています。が、そんな事出来たんですか!?」

 

エル「コケッ!コッコッコケ!!」

 

悟空「ああ、まぁな。」

 

 

 

〈またも人ならざる技を使い困惑させる悟空。

リギルの面々もほとんど帰宅していたが、悟空の出現を目撃してしまい、フリーズ状態から覚めた二人が話しかけてきた〉

 

 

???「グラスワンダー、エルコンドルパサー、、、そのちょっと良いか?」

 

???「今の、、その人の事でちょっと、、」

 

 

エルグラ「!!!!!!」

 

 

 

〈後ろから話しかけられ声の主とこれから聞かれるであろう事をすぐに察知し、ビクッ!とする二人〉

 

 

シンボリルドルフとマルゼンスキーだ、、、、

 

 

 

悟空(すげえ気だ。大きさだけならグラスとエル以上か、、)

 

 

グラス「会長、、さん、、」

 

エル「マルゼンスキー先輩も、、」

 

シンボリルドルフ(ルドルフ)「色々と詳しい事を聞きたいのだが、、、まずはハルウララを寝かせるか、、」

 

グラス「そうですね、ウララちゃんはキングちゃんと同室なのでキングちゃんを呼んできますね」

 

悟空「お!キングと一緒の部屋なんか。キングの気なら知ってっからオラが直接行ってくる!、、、これだな。シュン!」

 

・・・・・・・・・・・・

 

ルドルフ「、、、、知ってる範囲で構わないんだ。、、説明、頼めるな?」  

 

エルグラ「、、、はい」

 

 

 

〈シンボリルドルフとマルゼンスキーに瞬間移動を見られたがハルウララの同室がキングヘイローである事を知り、自己紹介もせず消えてしまった。

目の錯覚などでは無く、目の前で消えてしまった男をみてグラスワンダーとエルコンドルパサーはトレセン学園の重要人物達に話す事にした〉

 

 

 

 

理事長室

 

理事長、秋川やよい(やよい)「衝撃!そんな事がありえるのか!?」

 

駿川たづな(たづな)「ハルウララさんが最近の放課後で外ランに行く理由は分かりましたが、、、、いえ分かりませんね、、」

 

ルドルフ「すまない。少しまとめさせてもらうが、、、、先程の男、孫悟空という人物は違う世界の住人ですでに亡くなっており、あの世で閻魔さまの手違いによりこの世界に送られ、凄く腕が立つらしいから少し前に会ったハルウララの事を鍛えてる、、、、でいいのか?」

 

エルグラ「はい、、、そうです」

 

ルドルフ「そんな話があると思うのか!!?」

 

たづな「ルドルフさん落ち着いてください。とても信じられませんが、、、、目の前で見たのでしょう?」

 

ルドルフ「!!!グゥ、、、事実を変える事は出来ない、か、、」

 

たづな「そういえば腕が立つとは、何か他にあったのですか?」

 

エル「聞いた話もありますが、最初に熊からウララの事を守ったらしいデス」

 

グラス「私くらいの身長の岩を軽く叩いて割ったとか」

 

エル「ウララとキングを含めた練習をしてる時も逆立ちしながら着いてきたとか」

 

グラス「あ、あとテレパシーとかなんとか、、頭の中に直接声をかけてきましたね」

 

エル「それでさっきの瞬間移動d「もういい!!!!」、ケッ!?」

 

やよい「困惑!ちょっとだけ落ち着かせてくれ!!」

 

ルドルフ「、、、頭が痛くなってきた、君達もよく受け入れたな、、」

 

たづな「ですが、この二人がそこまで言うとなると、全部本当の事なのでしょうね。」

 

やよい「うむ、だが本当の事だから困ってもいるのだがな」

 

 

 

〈グラスワンダーとエルコンドルパサーは悟空と会い、起きた事を三人に伝えたが想像通りの事が起きていた。

未知との遭遇、信じられないが実際に起きてしまった、信じるしかないという事実に頭が爆発しそうな事の連発だった。〉

 

 

ルドルフ「この事を知ってるのは今あった名前の者達だけか?」

 

グラス「いえ、最初の日にセイウンスカイさんとスペシャルウィークさんが一緒にいました。」

 

たづな「この前のハルウララさんを追いかけて行った日ですね。」

 

グラス「はい。私達もその日以来は行ってないですが、キングちゃんだけは、その翌日も行ってウマ娘の事を説明しに行っています。」

 

やよい「納得!それで今はキングヘイローの所だったな。今もいるのか?」

 

・・・・・・・・あ。

 

グラス「そういえばそうですね。キングちゃんの後はどこに行くんでしょう?」

 

エル「帰るんデスかね?」

 

やよい「いや、一度対面して話をしたい!キングヘイローと連絡とれるか?」

 

グラス「ではキングちゃんに"シュン!"連絡しまs「ありゃ?知らねぇやつもいるな」、、、、もう驚きません、、、」

 

!!?!?!、?!?!!

 

 

エル「心臓にとても悪い、デス、、、」

 

ルドルフ「信じざるを得ない、、か、、」

 

たづな「本当なんですね、、、」

 

やよい「驚愕!!!」

 

悟空「勝手に来て悪かったな。キングにさっきの事話したら説明がいるだろうから戻れって言われちまってよ」

 

エル「さすがキングデス!」

 

グラス「それにしては少し遅かったですね。」

 

悟空「ああ。キングの所にトレーナーっちゅうんも居てウララ送るついでに少し話してたんだ。」

 

 

 

〈話も少しだけまとまっていた理事長室内。話の途中でまたも割るように入った悟空。エルコンドルパサーとグラスワンダーは悟空の異常さに少し慣れたようだが、他の面々は頭が追いつかず、まだ話せないようだ

 

悟空はキングヘイローの所に行ったところから皆に話をするみたいだ〉

 

 

・・・・

 

 

キントレ「今日の練習はここまでにしよう。僕は後処理するから皆は帰って良いよ、、、あ、悪いんだけどキングは残ってくれ。」

 

じゃあ、お先ねトレーナー 片付けありがとね またねー うん。じゃあ皆もあまり寄り道しないようにね

 

キング「???」

 

 

 

 

キントレ「よし、こんなもんかな。」

 

キング「トレーナー?どうしたの?」

 

キントレ「キング、来てくれたね。ウララの事で少し話があるんだ。」

 

キング「ウララさんの?、、、何かあったの?」

 

キントレ「いや悪い事じゃないんだ、気を楽にしてくれ。ウララのっていうよりはその見てる人、孫悟空さんって言ったかな。その人と会えないかな?」

 

キング「!、?!?なんで?どうしたのよ!?」

 

キントレ「キング!?何でそんなに慌ててるんだい?

いや前にキングが説明してくれたけど、ただ鍛えてるしか聞いてないからさ、、、凄いトレーナーかも知れないけど僕もトレーナーの端くれ、ウララをチームに入れた以上は出来る事をしたいんだ。

そのためにも今見てるトレーナーと会ってウララのこれからをより確実性を高めておきたいんだよ。」

 

 

〈キングはトレーナーの事に感動を覚えたがすぐに霧散した。悟空とは少なからず話をした結果、異常さは理解している。トレーナーには悟空の事はただ見てくれているトレーナーしか伝えてないため実際に会わせたらどうなるか検討がついてるのだ

 

悟空の事にトレーナーを巻き込まない、、、そう決意したキングヘイローの元に空気を裂くような音が聞こえた。〉

 

 

 

悟空「よう!キング!ウララが寝ちまったんだけど、どこに連れて行けばいいんだ?」

 

キング「キャ!、、、、、、あなた今どうやって来たの?」

 

悟空「瞬間移動だ。最初にグラスとエルに会ったんだけど、おめぇがウララと一緒に住んでるって聞いてな!」

 

キング「へぇ、、瞬間移動、、、ね。そんな事も出来たのね、、、、はぁ頭痛い。」

 

悟空「おう。気を見つけねぇとできねぇけどな!」

 

キング「前から気になっていたのだけど、気ってなんなの?」

 

悟空「気はなぁ、、、えと、言葉にすんのは難しいな。そいつ自身が持つ力の塊?みてぇなもんか?」

 

キング「そうなの?それは全員にあるの?」

 

悟空「ああ、良く気持ちが入らねぇとか気分が上がってるとかあるだろ?そいつを強くしたり感じ取れるんだ。」

 

キング「そう言う事なのね。」

 

キントレ「キ、キング!?そ、その人は今、、、え?おかしくないか?僕がおかしいのかい?なんで君は普通なんだ!?」

 

キング「あ、良かったわねトレーナー。この人がさっき話をしていた孫悟空さんよ。ウララさんが寝てしまったから気を見つけて瞬間移動で来てくれたんですって。って、、、あなた何とんでもない事をしてくれてるのよ!!?それにグラスさんやエルさんってまだ練習中でしょう!?他の人もまだ居たはずよ!!」

 

悟空「おめぇ、さっきまで普通だったじゃねぇか、、、まぁちょっと落ち着けよウララが起きちまう。」

 

キング「!!!、、、ふぅ、、いやもうあなたのことでは非常識が常識って事を覚えたわ。」

 

キントレ「キング?僕にはもう何がなんだか?それにこの人が孫悟空さん?なのかい?」

 

悟空「おう、オラの事知ってんのか?」

 

キング「トレーナー、、申し訳ないのだけど、これから話す事は全部本当、偽り無しって事だけ覚えておいて。、、悟空さん、この人は前から話していた私やウララさんを見てくれているトレーナーよ。」

 

悟空「おめぇがトレーナーっちゅうやつか。オラは孫悟空だ!よろしくな!!」

 

キントレ「あ、はい。よろしくお願いします。」

 

 

 

〈瞬間移動でキングヘイローとトレーナーの前に現れた悟空。キングヘイローは寛大な心で受け入れたかのように思えたが、やはり怒っていた。

突如現れた悟空に驚くトレーナーだが、キングヘイローの後押しにより、なんとか正気に戻った。

自己紹介の後、警戒も裏も何もない笑顔で握手を求めてきた悟空にぎこちなくそれに答えるトレーナー。

 

前から話をしたかったトレーナーはウララを寮に送る間、悟空と話す事にしたのだった。〉

 

 

 

キントレ「悟空さん、ウララさんの事で聞きたい事があります。」

 

悟空「いいぞ。なんだ?」

 

キントレ「悟空さんは現状、ウララさんのレースについてどう思いますか?」

 

悟空「、、、そりゃあトレーナーであるおめぇの方が知ってんじゃねぇか?」

 

キントレ「それはそうですが、僕は今の事を悟空さんがどう思ってるのかトレーナーとして聞く義務があるんです。」

 

 

 

〈二人が話すのに口を挟まず、耳を傾けていたキングヘイロー。トレーナーの力強い物言いに少し驚くが、自身も現状二人が何を思ってるのか気になっているのでこのまま黙っておく事にした。〉

 

 

悟空(気が弱そうに思えたんだが、、はは、根性ありそうだな)

 

悟空「、、、正直なところ今のままじゃ厳しいと思う。」

 

キング「!!?」

 

悟空「ここ何日か鍛えてきたけど、純粋な力はついてる。脚も速くなった。が、それだけだ。戦うには戦法がいるだろうし、何より気がまだ足りねぇ。そこにいるキング、エルやグラス、そしてスペやスカイもそうだな、、気が全部って訳じゃねぇがそれにしても足りなさすぎるんだ。」

 

トレーナー「そこまで分かっていながら何故協力するんですか?僕が見てる中でも同じ考えです。最後の直線だけは確かに速い。でもゲートから始まり、場所取り、ペース配分。全てのことに、、それこそ足りなさすぎるんです。キングからは大きなレースで勝つ事を目標にしていると聞きます。、、、あまりに無謀な事だと思いませんか?」

 

 

 

〈二人の会話からハルウララがレースに勝つ事は不可能と言われてる気がして、頭に血が上り思わず叫んでしまいそうになったが、悟空は落ち着けよと言わんばかりの穏やかな目をしていた。〉

 

 

 

悟空「確かに無謀かもな、、、だけどオラは勝たせてやりてぇから教えてんだ。出来ねぇ事があるなら出来る事だけを極めりゃあ良い。こいつはまだ成長途中だ。やる事もできる事もまだまだ沢山ある。ウララ自身が諦めてねぇんならオラも出来る限りはするつもりだ。」

 

 

 

〈悟空の真剣な言葉に唖然とするキングヘイロー。だが一方で、分かってたかのような顔をし、少し口元が緩むトレーナーがいた。〉

 

 

トレーナー「、、、そうでしたか。そうですね。少し試すような事を言って申し訳ありませんでした。」

 

悟空「こんぐれぇ構わねぇ。トレーナーとして大事な事だったんだろ?」

 

トレーナー「はい。ウマ娘の立場を預かる以上。手を抜く事はもちろん、興味本位や軽くみるようならお断りさせていただいた所です。

しかしウララさんの心を預けてるようなこの顔や、この気難しいキングが馴染んでいる事から信用できる人だと思いました。」

 

キング(気難しいとか馴染むは余計よ、、、、)

 

悟空「ははは!分かってくれたんなら良かったさ。」

 

キントレ「、、、悟空さん。ウララさんの事は僕も協力します。頑張りましょう!!」

 

悟空「おう!」

 

 

 

〈トレーナーと悟空はお互い、本当の意味で協力関係になる事が出来た。悟空もトレーナーがウマ娘の事について本気なのも分かり、試されてる事も分かっていたので、あえて聞き返したり、思ってる事を言ったのだ。

 

場所は寮に着き、会話も終わる時にキングヘイローから一言助言があった。〉

 

 

 

キング「この辺りで良いわ。後は私が預かるから悟空さんはさっきの所に戻りなさい。」

 

悟空「さっきって、グラスとエルん所か?」

 

キング「そうよ、あなた話し途中でここに来たのでしょう?多分グラスさん達も不安がってるわ。

それにこのトレセン学園に来たのだったら理事長達に挨拶なさい。貴方がここに来た以上、顔を知ってもらって学園内でトレーニングする事が最善よ!」

 

悟空「そう言う事か。それもそうだな!んじゃウララの事よろしくな!」

 

キング「あ、くれぐれも瞬間移d'シュン!'を使、わな、いように、、、、ってあーーーーもう!このへっぽこ!!!」

 

 

 

 

悟空「ってな具合だな!」

 

・・・・・・

 

グラス(キングちゃんお疲れ様です。)

 

ルドルフ「ふむ、まぁ、、大体の事は分かった。だが私では対応出来かねるので理事長のお考えに一任します。」

 

たづな「私も同じ意見です。」

 

やよい「そうか、、、では提案!!孫悟空さん、トレセン学園でボディガード。所謂警備員の仕事を任せたいと思うのだがどうだろうか?」

 

 

、、、、ええーーーーーーーーーー!??!!?

 

 

 

 

キングヘイローのトレーナーと分かり合った悟空。トレセン学園の上の立場にいる者達と顔を合わせた。

グラスとエルから物事の成り立ちを聞いた理事長達。

そして悟空からはキングヘイローのトレーナーとの会話を聞いた理事長はトレセン学園の警備員として働く事を提案した。

驚く一同。これから起こる事は誰にも、微塵たりとも想像する事は出来ないのだった。

 



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最強警備員、孫悟空

大きな枠組みが少しづつ完成しているのでもうすぐ修行編に入ります

注意
・ウマ娘2期のキャラはほとんど出しません

・悟空には失礼がないように話させますが敬語はできないため、色々と崩してます


次からはpixivの方を更新したら、ハーメルンも1話ずつ更新していく予定です。 

現在pixivにて8話更新中


〜前回のあらすじ〜

 

 

 

いつも通り修行をやっていた孫悟空とハルウララだったが、途中でハルウララが寝てしまうハプニングが起きた。

悟空は門限が迫ってるハルウララのためにトレセン学園に瞬間移動をした。

突如現れた悟空に驚くグラスワンダーとエルコンドルパサー。

ハルウララの同室がキングヘイローだと知り、キングヘイローの元にまたも消えてしまう、、

移動した先にはキングヘイローとそのトレーナーもいた。

トレーナーは悟空に対し、ハルウララの事で少し、思いを試したが、納得のいく返事が帰ってきたため悟空とトレーナーは協力関係として手を取り合う事に。

一方でシンボリルドルフに瞬間移動をする所を見られたので何か知ってるであろうグラスワンダーとエルコンドルパサーに説明を求めた。

 

秋川やよい、駿川たづな、シンボリルドルフにこれまでの事を話すグラスワンダーとエルコンドルパサー、そこにハルウララを送り届け終わった悟空が帰ってきた。

 

事情を知った秋川やよいは悟空に警備員の仕事を提案したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ルドルフ「理事長、確かに一任するとは言いましたが、本気なのですか?事情を聞いたとはいえ素性も明らかではない、、早計なのでは?」

 

やよい「うむ。確かにそうかも知れんが、私は孫悟空さんが何かをやってくれる、何故かそう思うのだ!学園内に大人がいると、何かしら仕事をせねばならん。トレーナーになるには壁が大きすぎる。警備員ならば仕事をし、尚且つハルウララの事も見れるだろう。もちろん仕事をしっかりとやってくれるなら衣、食、住、そして給料も出そう!」

 

悟空「良いんか?そりゃあ助かる、けどオラに出来んのか?仕事なんてした事ねぇぞ?」

 

やよい「なんと!前の暮らしではどうやっていたのだ!?まぁいい、作業についてはちゃんと教えてくれる!トレセン学園に昔から尽くしてくれている者だ。私から説明しておこう!」

 

悟空「そうか、それなら言葉に甘えんぞ?」

 

やよい「決定ッ!書類なんかは必要だが後でたづなに用意させよう。それよりこれからよろしく頼むぞ!悟空さん!と、

紹介がまだだったな私は秋川やよい!理事長を務めている!

それとそっちの帽子被ってるのが側近のたづなとウマ娘の者がこの学園の生徒会長シンボリルドルフだ!」

 

たづな「よろしくお願いします。悟空さん。」

 

ルドルフ「ルドルフだ。相互扶助、分からない事があればいつでも聞いてくれ」

 

悟空「おう!やよいにたづなにルドルフだな!こっちこそよろしくな」

 

エル「、、、、、話がとんとん進んでいきマス、、」

 

グラス「ですねぇ、、」

 

 

 

〈自己紹介も終わり、学園内での仕事も見つけた悟空。現状が安定したところで理事長室内に大きな音が響き渡った。〉

 

 

ごおおおおおおおお!!!!!ぎゅぅうるるるるるるるる

る!!????

 

 

!!、?!!?!!

 

やよい「な、なんだ今の音は!?」

 

たづな「分かりません、外からですか!?ちょっと見てきます!」

 

ルドルフ「君達二人も動くんじゃないぞ。」

 

グラス「はい、、、ですが、その、、」

 

ルドルフ「??なんだ?」

 

エル「今の音、悟空さんから聞こえてきた気がしマス。」

 

 

〈悟空から少し離れていた三人には分からなかったが、比較的近くにいたグラスワンダーとエルコンドルパサーは音の根源が隣にいる男だと気づいていた。〉

 

 

 

たづな「悟空さん?何かしたのですか?」

 

悟空「、、、すまねぇ、、、オラ腹減っちまった!!!」

 

ルドルフ「腹?、、、空腹になった音だと!?この室内に響き渡ったぞ!!?」

 

悟空「ははは!今日の昼頃食ったぐれぇだからな、、つい鳴っちまった!へへ!」

 

やよい「あはは!お腹の音まで規格外とは恐れ入った!食堂が空いてる。たづなに案内させよう!」

 

たづな「はい。では悟空さん着いてきてください。」

 

悟空「おう!」

 

 

〈今までの人生で聞いた事もないお腹の音を聞いた理事長達。食堂の案内をたづなに任せ、理事長室から出て行った悟空の背を眺めていると、不服そうな顔をした者に話しかけた。〉

 

 

やよい「、、、、不安か?ルドルフ?」

 

ルドルフ「!!!、、、はい、確かに理事長のいうとおり、孫悟空さんは頼りになりそうな温かい感じがします。でもそれは感じなだけで、気のせいかも知れない。ウマ娘の、ハルウララのためになるのか、、ただ納得出来ない部分があります」

 

やよい「納得ッ!お前の気持ちも十分に分かる。だが私は悟空さんだけを見て決めたわけではない。」

 

ルドルフ「??と、おっしゃいますと?」

 

やよい「ハルウララが懐き、実力を上げ、グラスワンダーとエルコンドルパサーがフォローし、キングヘイローが受け入れ、そのトレーナーと手を取り合った。こんなに周りの者達が孫悟空という人物に惹かれつつあるのだ!私はこの学園にいるすべての者を信用している!悟空さんにハルウララを、、他のウマ娘の可用性を賭けてみたくなったのだ!!たづなが何も言わなかったのはそういう事だろう!」

 

〈ルドルフは自身が考え付く以上の物を理事長から聞かされ、体に衝撃が走ったような感覚があった。

悟空自身だけでなく、悟空を信じる者を信じる。理事長としての力強さをルドルフは強く感じとったのだ。」

 

 

 

ルドルフ「そういうお考えでしたか。雲散霧消。私も力になれる事ならすぐに手をお貸しします。」

 

やよい「うむ!頼んだぞ!」

 

 

 

〈話が終わり理事長室を出るグラスワンダー達。その時食堂では門限間近になっており誰も居なかった。一つ奇妙な机を除いて、、、〉

 

 

ガツガツガツガツガツガツ!!!!!!むぐっ!??バッ!ごくごくごくごくっっっぷはぁ!!ガツガツガツガツ、、、、、、、、

 

 

 

たづな「、、、食べながらでも説明しようと思いましたが、、、オグリキャップさん並み、、ですか、、、」

 

悟空「ガツガツ、、ん?、、ふぁにふぁいっあふぁ?」

 

たづな「あ、いえ、、食べ終わってからで結構です、、」

 

 

 

〈場所が変わろうが死んでようが食欲の減らない悟空。フードファイター以上に食べる姿はオグリキャップやスペシャルウィークと同類なのだろうか、、、たづなは心の中で食費の事、キッチンの方では門限により必要最低限しか人が残っていなかったので、早上がりしたもの達に帰ってきてもらうなど、頭を抱えるものが複数いた。〉

 

 

 

悟空「んぐんぐんぐ、、、、ぷはぁーー食った食った!ここの飯はうめぇな!!あの世のやつは味気ねぇからよ、ちょっと物足りなかったんだ。」

 

 

〈それもその筈。死んだ人はそもそもお腹などは減らないのだ。そんな事にも関わらずご飯を作ってくれた界王様は遠い地で訳もわからず、怒りが湧いたとかなんとか、、、、〉

 

 

 

たづな「凄かったですね、、ウマ娘ではいますが、人でそんなに食べるのは初めて見ました。」

 

悟空「ん?あーよく言われんなぁそれ。オラもサイヤ人だからな、戦うためにいっぱい食うらしいぞ?」

 

たづな「そうなんですか。、、、すみませんサイヤ人って何ですか?」

 

悟空「まだ言ってなかったか。オラは地球で育ったけど、生まれたのは違う星で地球人じゃねぇんだ。」

 

 

 

〈目の前の人が死んでいて、宇宙人だと言われたらどうなるか、、、、〉

 

 

 

たづな「サイヤ人、、、地球人、、違う星、、宇宙人?、、!?!?、、、はぁ、、」

 

 

 

〈たづなは聞いた情報の重要部分だけを反芻し、理解し、呆れて考えるのをやめてしまう。

目の前にいる男を見ると純粋に真っ直ぐした目でこちらを見ていた。〉

 

 

 

たづな「ふぅ、、、それも本当の事なんでしょうね、、

 

悟空「何かオラの話すっと怒る奴が多かったから、おめぇと話すと楽で良いな!!」

 

たづな「、、、気持ちは良く分かります。」

 

悟空「へへ!サンキューな!」

 

たづな「そっちじゃありませんよ、、、、、ふぅ、では悟空さん仕事の話ですが、少しだけ説明しますね。」

 

悟空「???、、、おう頼む!」

 

たづな「はい。貴方はこれからトレセン学園にて警備員の仕事をしてもらいます。学園内は凄く広いので大きく分けて二つ部署があります。事務作業員と巡回警備員です。先程理事長によりデータが送られてきましたが、悟空さんにはこの巡回警備員の方に当たっていただきます。」

 

悟空「巡回ってぇと学園内歩き回るだけで良いんか?」

 

たづな「凄くざっくりとしたら間違ってはないです。ですが、見るべきものは不審者だけではなく、ウマ娘の事も見て欲しいのです。」

 

悟空「ウマ娘の中にも悪ぃ事する奴がいんのか?」

 

たづな「ないとは言い切れません。どうしても勝てない子やライバルに差をつけられる子。妬む原因はそれこそ山ほどあります。良くも悪くもトレーニング施設ですからね、、」

 

悟空「そう言う事なら分かったぞ。」

 

たづな「はい。そしてウマ娘の中にも警備の方に絡んでくる方もいます。出来る範囲で良いので構ってあげてください。」

 

悟空「ん?遊んじまって良いんか?鍛錬しなきゃいけねぇんだろ?」

 

たづな「遊ぶとは少し語弊がありますが、ウマ娘はとてもデリケートな生き物なのです。時にはレースの事も忘れて気を抜くのが大事なんですよ。」

 

悟空「ウマ娘にも色々あるんだな、、、」

 

たづな「では、ここまでが大まかな説明になりますが、悟空さんにはハルウララさんを見てもらう必要があり、限られた時間の勤務になります。

授業の時間、門限までを逆算して、、朝7時から14時までと、18時半から20時までの早番、遅番に勤務していただきます。

もちろん日によっては勤務時間が変わりますので、そこは警備の方々と話し合ってください。」

 

悟空「早朝と、授業終わりから門限まで修行時間があるっちゅう事だな。分かったぞ!」

 

たづな「では、ここまでで何か質問はありますか?」

 

悟空「いや特にねぇな」

 

たづな「、、そうですか、、ふふっ。これからお願いしますね悟空さん!」

 

悟空「おう任せとけ!、、、そういや、おめぇとやよいはもう走らねぇのか?」

 

たづな「、、、、え?、、どう言う意味ですか?」

 

悟空「いやおめぇ達の気ってウマm「悟空さん。」ん?」

 

たづな「それ以上はダメデスヨ?」

 

悟空「お、そうけ?でもちょっともったいねぇ気も、、」

 

たづな「ダメデス。、、、、それに他の人にも絶ッッっっっっ対に言っては駄目ですからね。」

 

悟空「お、おう分かった。」

 

たづな「約束ですよ?」

 

悟空「おう!」

 

 

〈たづなから仕事内容や勤務時間などを聞いた悟空。

たづなは宇宙人やサイヤ人などと無視出来ないワードを知ったが、悟空なら何でもありか、と強引に納得してしまった。瞬間的な対応能力についてはこの女性が一番優れているのだろう、、、

一方悟空は会った時から気になっている、秋川やよいや駿川たづなからウマ娘の気を感じる事について聞いてみると、微笑んだ表情のまま目は笑っていない、何も聞いてくるな。と言いたげな顔をした駿川たづなに対し、悟空も強く聞く事は出来なかった。

たづなはその件の事は打ち止めにし、誰にも言わない事を悟空と約束した。

 

食事も終わり、これからは住み込みとして働くため、社員寮まで案内してもらった。ウマ娘と一定の距離感を設けるため、場所は生徒の寮の逆方向にあるらしい。

案内をしてもらいたづなと別れ、寝るだけの姿になった悟空は少し考えていた。〉

 

 

 

悟空(ふぅ、、、なんかトレセン学園に来てからすげぇ慌ただしくなっちまったな、、、にしてもウララなぁ、、キントレの奴もオラと同じ事を思ってたらしいからな、このままだと少しキツイか、、閻魔のおっちゃんは一年くれぇって言ってたからせめてオラが帰るまでには強くしてやりてぇな。ま、やりようはいくらでもあっから順番に試してみっか!!、、、、、、それにしてもオラが仕事か、、、今まで働かなくて死んでから仕事すっとなると、チチは怒るんだろうな、、、)

 

 

 

〈悟空はウララの事、帰るまでの事、そして生前の暮らしの事を少し考えてから眠りについた。〉

 

 

・・・・・

 

〈初出勤の今日だけは早朝6時半には警備員控え室に居なくてはならない。だがこの男はどこにいようとも自身を鍛える事を忘れてはいなかった。〉

 

 

・・・・・ふっ!はっ!だりゃあ!!、、、、、掛け声と共に繰り出される突きや蹴り、一般的には型稽古やシャドーボクシングなどに分類されるが、周りに起こる自然がその強さを物語っていた。

 

一度突けば葉は舞、二度蹴れば遠くの木が揺れ、三度踏み込めば地面にヒビが入った。傍迷惑である、、、

だが悟空は止まらず、体が暖まるとともにキレも上がっていく。

 

仮想組手。これまでに戦った者を頭の中で思い出し、実際に戦っているような動きをする。

 

右手で突くと同時に左手でガードをしたまま後方に居るであろう敵を目がけ蹴る。ほんの瞬きをしたくらいの時間でも悟空はそこにはおらず、少し離れた位置で足を薙刀のように振り回していた

 

はあああ!!ッッだあぁっっ!!!ふんっっ!!、、、、

 

 

〜6時00分〜

 

悟空「、、、ふぅ、、もうそろそろ向かう時間か?」

 

 

〈悟空の早朝鍛錬は終わり、体を拭いて汗を落とし、警備員の服に着替え、逆立ちをした。〉

 

 

悟空「よし、、、、ふっ!、ふっ!、ふっ!、ふっ!、、

、、、、」

 

 

〈逆立ちをしたまま勤務地に向かう悟空。だが早朝トレーニングは悟空だけではなく。ここトレセン学園にも勝利のため日々練磨する者もいた。〉

 

 

???「おはようございます。悟空さん。」

 

悟空「ふっ!、ふっ!、、ん?グラスか?オッス!!早ぇな、修行か?」

 

グラス「ふふ、そうですよ。本当ならエルも来るはずだったのですが、昨日遅くまで映画を見ていたらしく、今は夢の中です。」

 

悟空「はは!あいつもしょうがねぇな!」

 

 

〈逆立ちしたまま挨拶を交わす悟空。この少女、グラスワンダーは怪我でレースに出れないが、無理をしない程度に朝少し歩いているようだ。そんな時グラスは悟空の服について聞いてみる。〉

 

 

グラス「悟空さんその服、、今日からだったんですね。」

 

悟空「ん?おう。今はその場所に向かってる最中だ。」

 

グラス「逆立ちしながらですか、、間に合うのですか?」

 

悟空「ああ、少し早めに出たからな間に合いそうになかったら走ったりするさ。、、おめぇも途中なんだろ?一緒に行くか?」

 

グラス「、、、え!?」

 

 

〈現在時刻、朝6時10分。日も登り始める時間帯に少女と男の二人が逆立ち歩行をしている奇妙なシーンを早朝トレを行なっていたウマ娘は怪訝な目で見ていた。男の方は警備員の服なので尚更目立つのだろう、、、〉

 

 

 

ふっ!、ふっ!、ふっ!、ふっ!

 

 

悟空「さすがグラスだな、軸が安定してる。体の使い方が上手ぇんだな。」

 

グラス「そうですか?」

 

悟空「ああ。体つき見りゃあ大体の事が分かるけど、あいつらん中じゃあグラスが一番隙がなかったからな。くまなく鍛えてる証拠だ。」

 

グラス「ふふ、そう言われると頑張ってきたかいがありますねぇ。ありがとうございます。」

 

悟空「背も小せぇのに良くやってんなぁ。尻もでけぇのが足腰の強さにも繋がってんだろうな!

オラも昔に腰を落とせとか重心を尻に置けとか言われてたけど、そういう事なんだろうな!!」

 

 

〈ほのぼのとした二人、デリカシー0の男が千年の恋も壊される程の爆弾を落とした。〉

 

 

グラス「、、、、、悟空さん、、、多分あなたは何も考えずに言ったのでしょうけど、、女性の身体の事について失礼にあたるような事は誰にも言ってはいけませんよ?」

 

悟空「??失礼?オラは別にそんなつもりで言ったんじゃ、、、」

 

グラス「悟空さん?」

 

悟空「お、おう、分かった。すまねぇな。」

 

グラス「分かってくれたのなら良かったです!」

 

 

〈グラスワンダーの琴線に触れた悟空。悟空は強さの元となる事を話していたため何故怒られたか分からなかったが、逆立ちをしたまま首を90度に傾げたグラスワンダーに頷くしかなかったのだ。」

 

悟空(昨日のたづなみてぇなもんか???)

 

 

 

・・・・・

 

グラス「そろそろ見えてきたので私は行きますね。」

 

悟空「そうか、もうこんな所まで来ちまってたか。やっぱ鍛錬も誰かと一緒にすんと楽しかったな!ありがとな!」

 

グラス「いえこちらこそありがとうございました!ではお仕事頑張ってください!」

 

悟空「おう!」

 

 

〈グラスワンダーと逆立ち歩行の旅が終わり、仕事に向かう悟空。入口にはたづなの姿があった。〉

 

 

悟空「ん?たづなじゃねぇか!何でいるんだ?」

 

たづな「おはようございます悟空さん。」

 

悟空「オッス!!」

 

たづな「それですよ。」

 

悟空「??何の事だ?」

 

たづな「あなたのその言葉使いです。悟空さんの前の暮らしがどの様な物だったかは知りませんが、ここでは必要最低限、社会人としての在り方をしてもらいます!」

 

悟空「いい"!!?敬語っちゅうやつか、、、、、オラの趣味は読書とスポーツだ!」

 

たづな「それは面接時に言うと効果的なだけです。それに今回は面接ではなく勤務に当たります。」

 

悟空「そっか、でもオラ敬語なんて知らねぇぞ?」

 

たづな「そうでしょうね、、、大丈夫です。ポイントさえ掴めれば簡単ですから、、では時間もないのですぐ始めますよ」

 

 

〈勤務地の正面玄関にて突如始まった敬語講座。たづなは悟空を相手にどこまで教える事が出来るのか、、、〉

 

 

いいですか?自分の事はオラではなく、私!  私か、、何か女みてぇだし嫌な奴思い出すなぁ。  ではせめて'俺です。 ん、分かった。  そして話す言葉に捨仮名は使ってはいけません!  捨仮名って何だ? じゃあ、とかみてぇとか小さい文字の事です。  それも駄目なんか、まぁ分かったぞ  とりあえずこれで行ってみましょう。

 おう!

 

 

たづなさん講座終了〜

 

 

 

6時30分、巡回警備員控え室

 

たづな「おはようございます。皆さん。」

 

おはようございます!!

 

たづな「急な話ですが、昨日、データを皆さんに送った通りです。本日からお世話になる孫悟空さんです。」

 

悟空「オラ、、じゃねぇ、、えと俺は孫悟空です。今日からこちらで働きます、、、ので、、、よろしくお願いします!!」」

 

たづな(まぁ及第点でしょうか。)

 

よろしくお願いします!!

 

 

たづな「では挨拶も終わったので各自、勤務についてください。

そして悟空さん。こちらが貴方の仕事を教えてくれる、A澤、、、栄澤さんです。」

 

 

〈たづなの紹介により出てきた男性、歳は60くらいだが、古くからトレセン学園を支えてくれているベテラン警備員だ。〉

 

 

栄澤「改めて孫悟空さん、栄澤です。、、たづなさんより話は伺っております。今日からよろしくお願いいたしますね。」

 

悟空「おう!よろしくn「悟空さん?」、、、はい、よろしくお願いします。」

 

栄澤「ははは!事前にたづなさんから聞いているので言葉を崩しても構いませんよ?」

 

悟空「ほんとけ?」

 

たづな「いーえ駄目です。仕事なので必要最低限のマナーは必要です。栄澤さんも甘やかさないでくださいね?」

 

栄澤「そういう事ですか、、分かりました。では孫さん、早速ですが行きましょうか。」

 

悟空「おu、、、、はい。」

 

たづな「行ってらっしゃい。頑張ってくださいね!」

 

 

 

〈無事?に紹介も終わり、ここから悟空の仕事が始まる〉

 

 

 

栄澤「これから仕事前にもう一つの警備、事務警備な方に顔を出しに行きますね。」

 

悟空「、、はい。」

 

栄澤「ふふふ、今ならたづなさんは居ないので楽にして良いですよ?」

 

悟空「、、、良いんか?」

 

栄澤「はい。私はこれでも歴はながいですからね、人を見る目には自信があるんですよ。あなたは決して悪い人じゃないのはすぐに分かりました。」

 

悟空「はぁ、、、悪りぃな、本当はたづなの言う通り敬語っちゅうやつで話すのが当たり前ぇなんだろうが慣れてなくてな、、、助かったぞ!」

 

栄澤「ええ。ですが、たづなさんはもちろん他の方の前ではお願いしますね?」

 

悟空「、、、善処するぞ、、」

 

栄澤「それにしても凄い体つきですね、、その反面近くにいたら和らぐような感覚になる。何か特別な事をしているのですか?」

 

悟空「そこまで言われたのは初めてだな。オラは武道をちびっこい時からやってっから、その名残かもしんねぇな。今は気も抑えてるしな、、、それよりは栄澤のじっちゃんだって軸がぶれてねぇし、足取りも軽い、、何かやってんだろ?」

 

栄澤「それこそそこまで言われたのは初めてですよ。私達は武器を持たず警護に当たる者、取り押さえる者として、合気術を嗜んでいます。」

 

悟空「合気???って何だ?」

 

栄澤「そうですね、、力をかけず技を捌いて相手を抑えるそんな所です。」

 

悟空「そっか、、、なぁちょっとオラと組手しねぇか?」

 

栄澤「はは!何となく言うとは思いました!が、私はあくまで一般相手に追求した物。習っているだけならギリギリいけますが、孫さんほどの方だと、気が滅入ってしまいます。組手は出来ません。」

 

悟空「そっか、そりゃ残念だ。」

 

栄澤「、、、そろそろ見えてきましたね。事務警備控え室です。」

 

 

〈歩きながらお互いの事を話す二人。栄澤は悟空の中に眠る優しさや力強さを見抜き、悟空も栄澤には何故か亀仙人と似た雰囲気を感じるので二人は気兼ねなく話す事ができた様だ。〉

 

 

 

事務警備控え室〜

 

栄澤「おはようございます!今日から新人さんが入ったので挨拶に来ました。孫悟空さんです。」

 

悟空「オッs、、、、おはようございます。孫悟空と言います。よろしく、、、です!!」

 

よろしくお願いします!!

 

栄澤「では少し離れましょうか、、」

 

悟空「ん?終わりなんか?」

 

栄澤「いえ、、事務の事を話してくれる人が、、、来ましたね。」

 

 

〈現れたのはまたも60歳くらいと30歳前半くらいの女性二人が来た。」

 

 

栄澤「孫さん、こちらの方は私の同期のB島、、、美島さんと、、、、、あれ?こちらの方は?」

 

美島「最近入った子のC名、、、椎名さんよ。よろしくね孫さん!」

 

椎名「椎名です!!よろしくお願いします!!」

 

栄澤「ああ、これはこれは、私は栄澤と申します。」

 

悟空「孫悟空です。、、これからよろしくお願いします。」

 

美島「ではいきなりで悪いのだけど、時間がないからさっさと説明しちゃうわね!、、私達事務の仕事は主にデスクワーク。学園内の備品の整理、たまにレースの事でうちから派遣されるわね。、、、そして重要な作業として監視の役目もしてるのよ!」

 

悟空「監視?それはオr、、、俺達が巡回しながら見るんじゃ、、、見るんではないのですか?」

 

美島「それは目視でね。私達は校内にあるカメラを見るの。時に不審者を見つけた時はインカムで知らせて連携を取るわ。そこで、凶悪犯だった場合は私達が警察に連絡をするの。」

 

悟空「なるほどな。良く出来てるもんだ、、、インカムって何の事だ?」

 

栄澤「まだ渡してなかったね、、今私が耳にしてる通信機、孫さんには後で渡すよ。」

 

悟空「そうか」

 

美島「椎名さんも入ったばかりだからお互い頑張ってね。そういえば孫さんはお若いわね。椎名さんより年下なのかしら、、」

 

悟空「ああ、俺は死んでるけど、35歳だ」

 

 

〈さらっととんでもない事をいう悟空。栄澤達はジョークだと思い聞き流した。〉

 

椎名「!!?あ、私よりも上だったんですね!、、これからお互い頑張りましょうね。孫さん!」

 

悟空「ああ、よろしく頼みます。美島さん、椎名さん。」

 

栄澤「では行きましょうか。」

 

 

〈事務警備室を出る二人、そろそろ学校に通うウマ娘達が出てきた所だった。〉

 

 

栄澤「今くらいの時間から徐々にウマ娘さん達が登校します。良かったら挨拶してあげてくださいね。」

 

あ、栄澤さんおはよーございます! はい、おはようございます 隣の人見かけない人ですね ええ今日が初勤務なんですよ へーおじさんもおはよーございます

 

悟空「オッス!、、、学校頑張ってな!」

 

ハーイ

 

栄澤「ふふ、孫さんはそうやって話す方がらしいですね。」

 

悟空「はは!良いのか悪りぃのか分かんねぇけどな。」

 

 

〈挨拶や少し話をしたりしていると、セイウンスカイやシンボリルドルフを見つけたりして、話をしていた悟空。そんな事を繰り返してると見慣れた二人を見つけた。〉

 

 

キング「ほら急ぐわよウララさん!、、もう今日は朝練の予定だったのに、、」

 

ウララ「えへへ、ごめんね、夜中に起きちゃうとつい寝れなくて、、へへ」

 

 

〈キングヘイローとハルウララだ。ハルウララは昨日寮に送り届けてからベッドで爆睡し、夜中に起きてしまって寝れなかった様だ。」

 

 

悟空「よお!ウララ、キング!」

 

ウララ「、、!!?あーー悟空さん!!警備員さんの服着てる!!!なんで!?」

 

キング「おはようございます。、、上手いこといったようね。」

 

悟空「はは!これからはオラもここで働くんだ!だからいつでも修行が出来っからな!!」

 

栄澤「いつでもは、出来ませんからね。」

 

悟空「お、おう、分かってるって。」

 

キング「、、、と、ウララさん早く行きましょう!このままだと時間が危ないわ!」

 

ウララ「もーーキングちゃんは慌てん坊さんなんだから、、、授業までは時間まだあるのに」

 

キング「開始時間ギリギリじゃなくて余裕を持って行動するのがキングとしての在り方よ!!」

 

ウララ「はーーい。じゃあ行ってくるね悟空さん。」

 

悟空「おう!授業終わったらビシバシ行くからな!覚悟しとけよぉ?」

 

ウララ「うん!!」

 

キング「では失礼しますわね」

 

悟空「おー、行ってこい!」

 

・・・・・

 

栄澤「孫さんは結構ウマ娘さんの仲が良いのですね。」

 

悟空「ああ、あの二人とは良く話すからな、、後さっきの小さい方はオラが鍛えてんだ。」

 

栄澤「なんと!、、、ハルウララさん、私も彼女の事情は知っています。、、ふふ、何だか年甲斐もなく楽しくなってきましたね。」

 

悟空「はは!オラもそう思う。」

 

 

・・・・・・

 

 

悟空「そんじゃあウララ、これからは加減はなしだ。おめぇも気張れよ!!

 

ウララ「うん!!望むところだよ!!!」

 

 

〈やるべき事をすべてやり、ここからは修行一本!!悟空、ウララ、下剋上はもうすぐだぞ!!〉



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修行開始!!



評価が付いた記念!それも高評価です!!
作品を読んで、コメントもくれて、更に評価までも付けてくれてありがとうございます。

pixivの連載はまだ更新してませんが、評価付いた事がとても嬉しく、1話だけあげようと思います。
これからもよろしくお願いします!

注意
・作中では前々作から1ヶ月たったみたいです。(早過ぎです)
・作中での時系列はあって、無いような物だと思ってください。
・たまに出てくる、細かい設定などは自分で勝手に考えてます。価値観が違う場合は容赦ください


pixivにて8話連載中

単発作品:孫悟空とスーパークリークの話があります。


前回のあらすじ〜

 

 

トレセン学園の警備員として働き出した悟空。人当たりの良さからウマ娘の子達とも気兼ねなく話せるみたいだ。

学園内なら移動時間などは関係なく、ギリギリまで修行が出来ると分かり、悟空はハルウララの修行に本腰を入れるのだった。

 

 

 

 

 

〈早番の仕事も終わり、いつもの道着に着替えハルウララと共にグラウンド付近にいる悟空。これからの予定をハルウララに説明をする所だった。〉

 

 

悟空「まずはオラ自身知らねぇ事あるんだ。だから今日は外から見てようと思う。ウララはキントレ(キングヘイローのトレーナー)の所でいつものようにやってみてくれ」

 

ウララ「分かった!いつものようにすれば良いんだね?」

 

悟空「そうだ。んじゃあキントレ、今日はよろしくな!他の奴らもオラ達の事は気にしなくて良いから自分の事だけ集中してろよ?」

 

ハーイ

 

 

キントレ「では今日はアップから始めて、1600m×2本

、間に筋肉トレーニングを挟んでから併走。最後に通しでやりましょう!」

 

ハイ!!

 

ウララ「キングちゃんと走れるのほんと楽しみだなぁ!」

 

キング「もう、ウララさん。遊んでる訳ではないのよ?練習なのだからしっかり集中なさい。」

 

ウララ「はーい!」

 

 

〈準備運動を始めるウララ達。悟空とキントレは少し離れた位置で様子を見ていた。〉

 

 

キントレ「悟空さん。最初は私が横にいるので、不明点や疑問点などありましたら都度教えてください。僕も練習の着眼点や注意点なども話していきますので、」

 

悟空「すまねぇな、、早速聞きてぇんだけど、この中で一番速ぇのはキングなんか?」

 

キントレ「そうですねぇ、、レースは絶対ではないので、遅れる時もありますが、キングが一番だと認識してくれて良いですよ。」

 

悟空「そっか、一番強くて一着を取れねぇちゅー事は気分の問題だけなんか?」

 

キントレ「それもあるって感じですね。レースのポイントでは、まずはゲートをしっかり出て、ウマ群に飲まれないように自身の位置を取り、他のウマ娘にペースを乱されないようにレースを運び、最後の直線を本気で走る。細かい所言ったら他にも色々ありますが、これらが一般的になります。」

 

悟空「、、なんで最後だけ本気なんだ?ずっと本気で走れば良いじゃねぇか。」

 

キントレ「そう言う訳にはいきません。どれほど体力があろうとも必ず最後に体力は尽きてしまいます。なのでウマ娘達は走りながらペース配分を考え、それで一番やりやすい距離に当てはまったら、それが適性距離になるんです。」

 

悟空「なるほどな。、、そういやその適性距離っちゅうのはウララは決まってんのか?」

 

キントレ「それがこれからの難題になりまして、、、ウララさんの距離は1300m。そしてダートを走ってます。ウララさんが目指すのはレースの大一番有馬記念!2500mという距離に芝。ともに適性外なんですよ。悟空さん」

 

悟空「ダートは確か砂、、だったか?距離は力をつけりゃあ何とかなると思うけんど、ダート走ってんのは駄目なんか?」

 

キントレ「悟空さん!あなたは何もしらないんですか!?ダートと芝では走り方から違います!力をつけてきたとはいえ、実力を出しきれてない原因もそこにもあるんですよ!」

 

悟空「お、おう、、まぁ落ち着けよ。、、確かに適性外かも知れねぇけど、ウララが頑張ってんだ。諦める理由にはならねぇ。そうだろ?」

 

キントレ「、、、、、はぁ、まあそうですね。それに芝でもタイムは縮まってきてます。筋肉関係の方は今やってるのを見ての通り、他の子達よりは様になってます。幸か不幸かウララさんは知らない事が多い、だからこそ純粋に飲め込める能力があるんだと思いますよ。」

 

悟空「そうだな。んでウララの奴は何から手をつけたら良いんだ?」

 

キントレ「ウララさんの脚質は差しです。レース中は後方で脚を貯め、最後の直線で爆発させます。、、、ですが、いくら戦術を立てようがレース展開を操ろうが基礎の力が必要です。なのでウララはそれ以上の力、最後に皆まとめてぶち抜く強さを手に入れてください!」

 

悟空「最後に皆まとめてか、、、、、基礎を底上げすんのは"あれ"しかねぇな。」

  

 

 

〈キントレチームの練習中、悟空とキントレはハルウララの事で話し合いながらターフで練習するウマ娘を見ていた。

トレーニングも終盤になり、2000mを通しで走るウララの姿があった。

差しで走るウララ、キングヘイローの1馬身後ろで離されずついていたが、第3コーナーから捲って上がっていくキングヘイローに着いていけず、配分をコントロール出来ずに最下位に終わってしまった。

だが皆と走れて満足なウララ。落ち込んでる様子はなく、楽しそうに笑っていたのだった。〉

 

 

 

・・・・・・

 

 

〈次の日、練習に向かうスペシャルウィークは目を点にしながら立っていた。〉

 

 

 

スペ「悟空さん!?」

 

悟空「おうスペ!これから練習か?」

 

スペ「あ、はい、、、そうです、、、」

 

悟空「ん?どうした?、、、あぁ!オラが居んのが不思議なんだろ?オラ前からここで働いてんだ!」

 

スペ「あ、いえ、それはグラスちゃんから聞いたんですけど、、、」

 

悟空「???なんだよハッキリしねぇな。なんか言いてぇ事があるんじゃねぇのか?」

 

スペ「あ、はい。と、その、何で"亀の甲羅"持ってるんですか?」

 

悟空「何だよそんな事か!こいつはウララの修行アイテムだ!んじゃオラは行くな。おめぇも頑張れよ!!

 

スペ「???はい!」

 

 

〈大きな亀の甲羅を持つ悟空に怪訝な目を向けるスペシャルウィーク。その実態は自分の手で持つまで分からないだろう、、、〉

 

 

・・・・・・

 

 

 

〈キントレの元で準備運動をしながら待つウララ。悟空の登場に目を丸くするキントレとキングヘイローがいた。」

 

ウララ「あ、悟空さん!!おはよー!!」

 

悟空「オッス!待たせちまったな!」

 

キング「悟空さん!?何ですかその亀の甲羅は!!?」

 

キントレ「、、、大きいですね、、、」

 

悟空「こいつはなオラが昔やっていた修行方法でな!これを背負って今までやっていた事をすんだ!」

 

キング「そんなの背負って何すんのよ!?邪魔になるd"ドンッッ!!"・・・は?」

 

 

〈うら若き乙女に亀の甲羅を背負わせようとする悟空に怒るキングヘイローだったが、地に落とす重量音を聞き思考が一瞬で飛んでしまった。〉

 

 

キントレ「、、、悟空さんその甲羅重いんですか?」

 

悟空「おう!重くねぇと意味がねぇからな!ウララは身体もちっちぇえし、とりあえず10キロって所だな!!ほれウララ、早速始めんぞ。今日からはオラが見る事が多くなるからな〜気張っていくぞ?」

 

ウララ「亀さんになった気分!!頑張るよー!!!」

 

 

〈頭がついてこないキングヘイローとキントレをよそに悟空とウララは修行を始めた。〉

 

 

 

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、、、、

 

〈ターフを走る亀の甲羅を背負った少女と人の身でありながらウマ娘と走る甲羅を背負った男に、周りの娘達はそれを見ないなんて事は出来なかった、、、〉

 

 

 

悟空「ウララー!スピードが落ちてきてんぞ!!もっと手を振るんだ!このままじゃ追い抜いちまうぞ!」

 

ウララ「ん、ぐぐ、はぁ、はぁ、お、おも、い、、、」

 

 

〈ターフを走り1000m付近、ハルウララのスピードが落ちてきたが悟空は発破をかけていた。ウマ娘の後ろを亀の甲羅を背負いながら、、、、、、〉

 

 

 

ねぇキング?  何?  突っ込みたい事がいっぱいあるんだけど、何から聞いていい?  それは私が聞きたいわ。これで自分の事に集中しろって方が無理な話よ

 

 

 

2000m付近〜

 

 

悟空「そろそろいいかな?ウララ止まれ。」

 

ウララ「はぁ、、はぁ、、はぁ、、お、終わったの?」

 

悟空「ああ、ランニングは終わりだな。少し休んだら筋肉の方鍛えんぞ!!」

 

ウララ「ま、まだやんの!?」

 

悟空「何言ってんだウララ。まだ始まったばかりじゃねぇか。完璧にやりきれって訳じゃねぇんだ、おめぇの身体自身に負荷を慣れてもらう。ケアはオラがしっかりしてやっからな、、ほら水でも飲んでこい!甲羅はとるんじゃねぇぞ?」

 

ウララ「は、は〜〜い、、」

 

 

 

 

キング「悟空さん、少しやり過ぎではないの?」

 

悟空「ん、そうけ?、、、、キントレ、どう思う?」

 

キントレ「いや、骨まで悲鳴を上げてる訳じゃない、、、ウララの場合はゴールも期限も決まってる。ギリギリの所をせめないと勝てないと思うからこのままで良いと思うよ?」

 

キング「それは、、そうかも知れないけど、、」

 

悟空「心配ぇすんなキング!身体が壊れねぇように気ぃつけんのもオラの役目だ!それよりもおめぇの修行もしねぇとウララに追い抜かれちまうぞ?」

 

キング「な!?、このキングは負けたりなんかしないわ!トレーナー行きましょう!ゆっくりしてる時間は無いわ!!」

 

キントレ「そうだね!、、それにしても悟空さんのは同じ10キロなのですか?」

 

悟空「いやオラのは100キロだ」

 

!!!?!?、!???!!?

 

 

〈衝撃の事を聞き固まってるキングとトレーナーから離れ、修行を再開しようとウララの元に行く悟空。〉

 

 

 

ウララ「悟空さーん!!次は何するの?」

 

悟空「とりあえずいつも通り腕立て伏せとかだな、、背負ったままやると丸っきり負荷が違う。まずは慣れるまではいつも通りの事をやるつもりだ!んじゃやんぞ?」

 

ウララ「はーい!」

 

 

ウララ「、、、じゅー、はち!!、、、じゅー、、きゅうっ!!にーーじ、、、ゅっ!!、、はぁ、はぁ、、終わった、、?」

 

悟空「んじゃ次は逆立ちだな、足は持ってやる。筋肉だけじゃなくて体力も兼ねてんだ!次々行くぞ!」

 

ウララ「う、うん!!まだ行けるよ!」

 

悟空「はは!よしその意気だ!」

 

 

 

 

 

ウララ「、、ご、ごく、うさん!!!も、だめ、崩れちゃう、、よーーーーー!!」

 

悟空「まだだ!あそこまでいくぞ!後ほんの10mくれぇだ!」

 

ウララ「じゅっ!?あーーー!腕、、が、と、取れちゃうーーー!」

 

悟空「大ぇ丈夫!ピッコロじゃねぇんだ、腕はとれねぇさ!ほれイチ、ニッ!イチ、ニッ!イチ、ニッ!!」

 

ウララ「はぁ、はぁ、、、ふぇ、はっ!はっ!ふぅ、、、」

 

 

〈亀の甲羅を背負い逆立ち歩行をするウララ。倒れないように足を持っている悟空だが、地獄はそこにあった。

疲れて倒れたいウララ、倒れないように持ってる悟空。嫌でも足をつけない状態になり、死にそうになりながら手で歩き続ける拷問が完成した瞬間だった。〉

 

 

 

 

悟空「練習が終わる時間までは少しあるな。」

 

ウララ「、、、、、、」

 

悟空「ん?どうした?ウララ。」

 

ウララ「、、、、、つかれた。」

 

悟空「まあそうだろうな!けど、次は鬼ごっこして遊ぼうと思ってな。オラをタッチ出来たらオヤツを食わせてやるぞ?」

 

ウララ「鬼ごっこ!おやつ!!本当!?悟空さん!!」

 

悟空「ああ!ほんとほんと!だから残りの時間は張り切っていくぞ?」

 

ウララ「うん!!」

 

悟空「んじゃルールはこの周辺の学園内な!あの〇〇棟や噴水からは奥には行かねぇ。その中を動きまわってるオラの事をタッチ出来たら終了だ!分かったか?」

 

ウララ「分かったよ!絶対捕まえるからね!!」

 

悟空「うし!んじゃ2分たったら動き出していいからな!」

 

ウララ「はーい、、、、、いーち、にーい、さーん、、、」

 

 

〈少し範囲の大きい鬼ごっこが始まった。ハルウララが2分数えるのを聞きながら悟空はスタスタとそこを離れていく。〉

 

 

 

 

ウララ「にーふん!!悟空さんはどこにいったかなー。」

 

 

〈悟空を探しに行くウララ。亀の甲羅を背負って奇妙な恰好をしてるウララにウマ娘達は声をかけざる得なかった。〉

 

 

ウマ娘「ウララちゃん!どうしたの!?その亀の甲羅??」

 

ウララ「ん?これはねぇ、しゅぎょーアイテムなんだ!まだ途中だからウララは行くね?ばいばーい!!」

 

ウマ娘「う、うん。じゃあね。、、、修行???」

 

 

・・・・・・

 

 

ウララ「どこにいるのかな?っって、いたーーーー!!!まてぇぇぇぇぇ!!!」

 

悟空「おっ!見つかっちまったな。へへーん!ここまでおーいでー!!」

 

ウララ「はあ、はぁ、ふ、ん!!」

 

 

〈ウララは少し距離があるところで悟空を見つけ、叫びながら追いかけてきた。もう少しという所で悟空は駆け足並の速さで逃げてしまった。

 

・・・・・それから2回チャレンジしたが逃げられてしまい、ウララの心身に限界が来てしまった。〉

 

 

 

ウララ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、、、、、」

 

悟空「どうしたウララ。そんなとこに寝転んじまって」

 

ウララ「、、、今日はもうやめる。、、、」

 

悟空「やめるってどうしてだ?」

 

ウララ「だって!悟空さんタッチ出来ないんだもん!!それだと思ったら消えちゃうし!!見つけたと思ったら逃げられちゃう、、、、ウララはこれの前に他の練習もしてるんだよ?、、疲れちゃったよ、、、」

 

悟空「、、、そっか!それでも構わねぇぞ。」

 

ウララ「!!、、、ほんと?」

 

悟空「ああ。ただ終わりの時間をキントレの奴に言っちまってる。それまではこの辺りでぶらつくか!!」

 

ウララ「はぁ、はぁ、、、、ふぅ、、」

 

悟空「オラは一応それまではさっきみたいに、うろついてっから、その気になったらいつでも来いよ?、、、、、キングなら諦めねぇだろうしな」ボソッ

 

ウララ「!!!!!!」

 

 

〈体力が尽き、悟空は捕まらずウララは挫折してしまったが、先程の言葉が頭の中に残っていた。〉

 

 

ウララ(キングちゃんなら諦めないか、、、、そりゃそうだよ、、キングちゃんはいつもカッコ良くて、私の事も助けてくれて、皆の人気者。ウララとは違うよ、、、)

 

 

〈ウララはすっかり落ち込みムードになってしまい、自身をキングと比べ、もう一度深く落ち込んでしまう。

だがそんなキングはウララの事をなんて言ったのだろうか。」

 

 

ウララ「キングちゃん、、、、」

 

 

"ウララさんあなたは競い合うべきライバルよ"

 

 

ウララ「、、キングちゃん、、、、トレーナー、、、ウララは大きなレースで一番にならなくちゃ、、、、、、時間まで後少し、、、いかないと。」

 

 

 

〈悟空は鬼ごっこの終わり時間まで学園内をぶらぶらしていると、眉をヒクヒクと動かした。〉

 

 

悟空(、、、、来たな?)

 

 

〈悟空は己の経験から知っていたのだ。全てを出し切り、体力も打つ手も無くなってしまった時。自身の奥に眠る強い行動理念と向き合う事で新たな策を生み出すという事を。、、後はウララが自分自身で立ち上がる事が必要だったのだ。

 

ウララがとった行動は単純で、後ろから忍び足で行く事だった。当たり前の事かも知れないが、今まで馬鹿正直に前から全力疾走していたウララが頭を使った行動なのだ。〉

 

 

悟空(ちょっとは自分で戦術を考えたって事か、、、、もう体力も0に近ぇみてぇだし、ここで捕まっとくか。)

 

 

〈ウララが後ろから来るのを察する悟空。ほんの少しの成長に捕まろうとする悟空に対し、付近にいるウマ娘はそれを知る由もなかった。〉

 

 

ウララ(、、ふー、、、後、少し、、、「あ!ウララちゃんトレーニングしてるの?汗凄いね!」、、え?)

 

 

〈突如話しかけられるウララ。そのウマ娘を一瞬見た後、すぐに悟空の方に振り返るが、こちらを見たまま固まっていた。〉

 

 

悟空(あっちゃーーー!!流石に気づいて逃げねぇっちゅうのは無理があるか、、、すまねぇ、また頑張ってくれウララ!)

 

ウララ「あぁ!!、、、、逃げられちゃった、、、」

 

 

〈射程距離外に出てしまい、脚を動かす事もしなかったウララ。膝に手を置き呼吸を整えていると、声をかけてきたウマ娘が話しかけてきた。〉

 

 

ウマ娘「あ、ウララちゃん、、ごめんね。何かしてる所だったかな、、?」

 

ウララ「ふぇ?、、ううん大丈夫だよ!、、、、まだ動けてる、、よし!じゃあウララは行くね!!」

 

ウマ娘「う、うん。頑張ってね。」

 

ウララ「ありがと!!、、、、、、あ、ひとつだけ聞きたい事があるんだけど良い?」

 

ウマ娘「???」

 

 

 

〈練習終了まで後10分。悟空は今度こそ終わってしまったのかと危惧していたが、前方の物陰にウララの気を感じ取った。〉

 

 

悟空(まだやる気はあるみてぇだな。気を探って逃げんのは意味ねぇけど、少しだけ離れて歩くか。)

 

 

〈先に気でウララの隠れ場所を当ててしまった悟空。逃げては意味がないと思い、隠れ場所から少し離れて歩く。一方ウララはウマ娘に聞いた事を振り返っていた。〉

 

 

ウララ「、、、、聞きたい事があるんだけどいい?」

 

ウマ娘「???うん。良いけどどうしたの?」

 

ウララ「ウマ娘ちゃんは、すーーっごく速くて逃げ回ってるものを捕まえたい時ってどうする?」

 

ウマ娘「んーーそうだなぁ、、、ものによって変わるけど、虫とか?」

 

ウララ「んーん、人だよ!!」

 

ウマ娘「(あ、さっきのかな。)歩き回ってるのなら待ち伏せなんかどう?」

 

ウララ「待ち伏せかぁ、、、良いかも!!ありがとう!じゃあウララ行くね!!」

 

ウマ娘「うん!頑張ってね!!」

 

 

・・・・・・

 

ウララ(はぁ、、、はぁはぁ、悟空さんは、、見つけた。こっちに来るみたい。、、ふぅ、、あと走れるのは一回かな、、よく見ないと、、、、、って少し離れた?)

 

 

〈待ち伏せしてるウララを釣ろうと少し離れて歩く悟空。ウララは自分の体力と相談して強引に行く事はやめた。〉

 

 

悟空(釣れなかったか、、、考えてんのか、走れる体力が残ってねぇのか、、、)

 

 

〈短い時間、悟空とウララの緊迫した空気は何度か訪れる〉

 

ーーーーーーーーー

 

悟空(まだ来ねぇんか?)

ウララ(まだ、、まだ、、)

 

ーーーーーーーーー

 

悟空(次もか、、、)

ウララ(だめ、少し遠い、、、)

 

ーーーーーーーーー

 

悟空(どうすんだ、ウララ。もう時間はねぇぞ)

ウララ(後3分、、、、どうしよ、行くしかないの?でもこの距離は、、、ダメ元で行こうかな、、、だめ!たえるんだ!)

 

ーーーーーーーーー

 

 

〈悟空とウララの静かな攻防戦。時間ギリギリになっても出来なかったら意味がないと、耐えるウララ。

その時、転機が訪れた。〉

 

 

 

ウララ(はぁ、はぁ、はぁ、、、ふふ。来た、、キタッ!!時間は後1分はある。この距離なら全力疾走出来るけど、普通に走るには駄目。一歩目から本気で行かないと、、悟空さんが違う所を向いた瞬間、、、、今ッ!!)

 

悟空(ウララの気が上がった!!来るか。、、、ちょっと意地悪してみっか。)

 

 

〈ウララの求めるベストポジションに来た悟空。ウララは

音も立てず身体を前傾姿勢にし、地面をこれ以上ない程に踏み込んだ。

凄まじい勢いで飛び出したウララ。だが、まだ手が届きそうに無い時に悟空がこちらを見てきた。〉

 

 

ウララ(!!?!?ばれた!まだ、届かない、、、これがダメだったら、、、時間もない、、、、それなら後一歩、、強く!!!)

 

ダァンッッ!!!!!

 

悟空「!!!」

 

 

〈悟空は意図的に少し手が届かない時に振り返ってみたが、本能的に逃げられると思ったウララ。次に出す脚を強く踏み込み、地面が割れるような音が響くと、悟空に向かって"飛んできた"〉

 

 

ズザーーッッッ!!!!

 

 

〈悟空のお腹にダイビングヘッドしてきたウララ。耐えてしまうとウララにも衝撃が加わってしまうので悟空は力の流れに乗って吹き飛んだ。〉

 

 

悟空「、、おーーいちち、、、」

 

ウララ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、、ゴホッゴホッ、、ふぅ、すぅー、、、はあぁぁ、、、、や、やった、、、、いやったーーーーーー!!!!!捕まえたよ!!!悟空さん!!!」

 

悟空「はは!そうだな!やるじゃねぇかウララ!!」

 

ウララ「うん!!あーーーすっごい疲れたよ!!!さすがにもう立てないや」

 

悟空「だろうな、呼吸整えたら横になれ。オラが楽にしてやるからよ」

 

 

・・・・・・・・

 

ウララ「はふぅ、、、、悟空さんマッサージ上手だね。すごく楽になってる感じがするよ!」

 

悟空「ああ、サービスっちゅうやつだ。オラの気を少し乗せてんだ。」

 

ウララ「ふへーーー、、、」

 

 

〈悟空はマッサージしながらウララがどこまで考えてやっていたかを探ってみる事にした。〉

 

 

悟空「それにしてもウララが待ち伏せとは考えたなぁ。」

 

ウララ「うん、あの途中で声をかけてきた娘に聞いたんだ!実は何回か隠れてたんだけど、上手くいかなくてね。時間もギリギリだったから焦ってたんだーー」

 

悟空「ん?上手くいかねぇって何かあったんか?」

 

ウララ「隠れてる最中にね、体力がほとんど無かったの。悟空さんとは少し距離があって、走ってる最中に脚が止まっちゃうって思ったから、ギリギリまで待ってんだぁ、、、最後のは全部が当てはまったみたいにビキーン!って感じになったから、ウララ頑張ったんだよ?」

 

悟空「はは!そっか、そりゃすげぇな!!ワシャワシャワシャ」

 

ウララ「あははは!くすぐったいよぉ悟空さーん!!、」

 

 

〈ウララは当時の心境を悟空に教えた。悟空はウララを褒めるように頭を撫でながら気づいた事があった。

 

ウララの考えていた、相手との距離を考え、自分の脚を全力で使える範囲、残された体力。これら全てはレースの中でとても必要な事だったのだ。〉

 

 

悟空(今日やった事は想像以上の成果だったな。ウララも何かを乗り越えたみてぇだし。、、、にしても鬼ごっこで、ヘトヘトって、グレゴリーん時みてぇだな、オラもあん時は先回りとかしてたっけか、、、)

 

 

 

練習終了からもうすぐ門限時間

 

悟空「んじゃそろそろ帰る時間だな、ほれ、ウララいくぞ?」

 

ウララ「えーーもう?ウララまだそんなに歩けないよぉ、、、」

 

悟空「あちゃ、ほんとにやり過ぎちまったな、しょうがねぇ今日だけは本当にサービスだかんな?」

 

 

〈ウララの体力がまるっきり無くなったのを悟空は自分のミスだと思い、ウララを送る事になったのだが、悟空はその場で"こめかみに指を当てて"立っていた。〉

 

 

悟空「ウララちょっと待ってろよ?、、、、お、キング!オラだ悟空だ!、、、どうやってって前にも見せただろ、おめぇの頭の中に声かけてんだ、、、、そんなに怒るなよ、それよりウララが動けねぇんだ。そっちに瞬間移動すっから誰もいねぇ所に行ってくれ、、、だから怒るなって、、、、、、よし!ウララ、オラに捕まってろ。」

 

ウララ「????」

 

 

〈悟空は寮に帰ってるキングにテレパシーを送り、瞬間移動で送るため1人になってもらおうと思い頼んだ。、、、話は終わり、ウララの手をとって悟空達はその場から消えた。〉

 

 

シュン!

 

悟空「おう!キング!お疲れさん!」

 

キング「きゃあ!、、、お疲れさんじゃないわよ!!こんな時間まで、いきなり飛ばし過ぎ、、、って、ウララさん泥だらけじゃない!汗もこんなに!!、、あなたねぇ!!、、」

 

悟空「だぁからそんなに怒るなって。確かにここまでとは思ったけど、ただ疲れた訳じゃねぇぞ?」

 

キング「??どういう意味よ?」

 

悟空「へへ!内緒だ!んじゃウララ!オラはこの後仕事あっから戻るな!風呂入って飯食ってさっさと寝ろよ?」

 

ウララ「うん!この後お仕事なんだね!頑張ってね!!」

 

キング「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!内緒"シュン!"って、あーまたやられたわ、、、、、ウララさんあなたは大丈夫なの?怪我はしてない?」

 

ウララ「うん!体力はほとんど残ってないけど、疲労はないよ!悟空さんがマッサージしてくれたからね!!それよりキングちゃん!聞いて!今日ねぇ!ウララねぇ、、、、、」

 

 

〈悟空の出現とウララの状態で怒ったキング。話の途中で消えてしまった悟空にまたも怒りが湧いたが、楽しそうに話すウララに思わず頬が緩んでしまっていた。〉

 

 

キング「、、んもう、話ならちゃんと聞くわ!でもその前にお風呂よ。手伝ってあげるから疲れを取りに行きましょう!」

 

ウララ「わーい!キングちゃんとおっ風呂ー!!後でちゃんと聞いてね?今日すっごく頑張ったんだよ!!」

 

キング「はいはい、、、ふふ、」

 

 

 

〈修行に本腰を入れ気合を入れる悟空とウララ。ついやり過ぎてしまったが、ウララ自身の強い意志とレースに置ける大事な事を無意識にやっていたため収穫はたくさんあった。

レースまで残り1ヶ月。まだまだ伸び代はあるぞ!頑張れウララ!」

 

 

 

 

 

悟空(、、、、成長が速ぇ、、、こりゃ楽しくなってきたな。、、、悟飯の時とは違った感じだ、、、はは!)



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悟空と芦毛の怪物

遅くなりました、すみません

悟空とウマ娘を聞けばオグリキャップとのご飯がまず浮かぶと思います。
ウララのダートから芝という点でもオグリとの邂逅は小説を書く前から考えていました。
今後はあまり出ないと思いますが、楽しんで見てください!


注意
・ダートや芝の走り方などは漫画や、適当に考えたものです。なので突っ込まずに流してください。

・オグリは天然なので悟空の事を深く考えずにただ凄い人と認識しています


〜前回のあらすじ〜

 

 

ハルウララのトレーニングに本腰を入れた悟空。

挫ける所もあったが、ハルウララの強い意志が見えはじめ無事に垣根を飛び越える事に成功した。

だが不安要素はまだたくさん。ダートから芝を走るには経験値が足らないらしい

そんな時、悟空の前に一人、芦毛のウマ娘が現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

悟空「よし!今だウララ!オラの事を抜け!」

 

ウララ「うん!、、スゥ、、はああああああっ!!!」

 

 

〈最早見慣れた光景。ターフにいる亀の甲羅を背負った男とウマ娘だ。

今は併走トレーニングをしているらしい。

悟空が先頭を走り、後方からウララに抜かせる、差しを重点に置いたようだ。〉

 

 

 

悟空「そのままゴールまで行け!少しだけオラのスピード上げっから今度は抜かれるんじゃねぇぞ!!」

 

ウララ「、はぁ、はぁ、、ん、うぎぎぎぎ!!」

 

 

〈悟空の事を抜いたウララ。ゴールまではこの勢いで行くみたいだが、今度は抜き返してくるらしい。

ウララは歯を食いしばり、お腹に力を入れ、全力で走った。〉

 

・・・・・・・・

 

 

ウララ「はぁはぁはぁ、、ゴホッ!ゴホッ!、、ん、はぁ、ご、悟空さ、ん、速い、、よぉぉ、、、」

 

悟空「そりゃオラが速くねぇと何も教えれねぇからな。でもウララも大分速くなってきたぞ?」

 

ウララ「ほ、ほんと?、、えへへ。、、はぁはぁ、、嬉しいな!」

 

悟空「とりあえず今日はこんなもんにしとくか!息を整えたらいつもの様に身体ほぐすからな」

 

ウララ「はーい!」

 

 

 

〈併走トレーニングも終わり、今の走りや今後について悟空はキントレ(キングヘイローのトレーナー)と話していた。〉

 

 

 

悟空「よお、キントレ!さっそくだけんど、おめぇから見てウララはどう思う?」

 

キントレ「悟空さん、お疲れ様です!

ウララさんは最初に比べたら見違えるくらい速くなってると思います。

ウララさん自身、気の持ち様も変わったみたいですね、、、ですが、G1どころか G3のレースでもまだまだ手が届かないでしょう。

体力の事もありますが、やはりダートでレースをやっていたというのが体に染み込んでいるのでしょうね。」

 

悟空「やっぱそうか。、、一緒に走った時にオラも思った。

ずっとそうって訳じゃねぇが、たまに足が滑った様に空回る時がある。」

 

キントレ「はい。悟空さんの言う通りです。ダートは脚を踏み込んでいては脚が取られるだけです。なのでダート場では"足首を掻くようにして走る"それはウララさんも例外ではありません。」

 

悟空「めえったなぁ、、、キントレが何か教えられねぇのか?」

 

キントレ「、、、いえ、教える事は出来ます。」

 

悟空「お?ならそれが一番良いんじゃねぇか!?」

 

キントレ「確かにそうなんですが、ウマ娘の実際のフォームを変えるのに何ヶ月もかけながら、じっくりと変えて行くんです。

ウララの場合は時間が圧倒的に足らなさすぎる。」

 

悟空「なるほどな。、、どうすっか、」

 

キントレ「、、、、悟空さん」

 

悟空「?、、どうした?キントレ」

 

キントレ「無理を承知で言います。」

 

悟空「??ああ、なんだよ?」

 

キントレ「ウララさんの現状。今までダートの短距離を走り、一着を取った事がない。そして一年経たないうちに有馬記念で一着を取らせる。これは不可能に近い事なんです。」

 

悟空「、、、そうだな。オラも話を聞いたけんど、難しいらしいな、

だけどそりゃ最初から分かってた事だろ?、、、何が言いてぇんだ?」

 

キントレ「時間もない。僕も諦めきれない。、、悟空さん。

一週間以内に芝の走りをウララさんに習得させてください!」

 

悟空「ええっ!!い、一週間以内か!?そりゃまた随分と急だなぁ、、」

 

キントレ「無茶苦茶な事は分かっています。が、芝での走りを覚えた後は体にも慣らさなくてはいけないのです。なので多く見て一週間。

悟空さん、どうかよろしくお願いします。」

 

悟空「まあそれしかねぇんならやるしかねぇな!おし!オラが何とかしてやる!」

 

 

〈一週間でウララがダートから芝での走り方を習得するようにと言われた悟空。

練習後のウララはキントレに任せて、悟空は当てもなく歩き出した。〉

 

 

 

悟空「困ったなぁ、何から手ぇ付けて良いんかも分からねぇな、、、困った、、、困った時は占いババが居てくれたら良かったんだけど、、、、いや!困った時はたづなだな!あいつなら何か知ってんだろ!」

 

 

〈行き当たりばったりの悟空。とんでもなく失礼な思い出し方をしてるが、、、

瞬間移動だと怒られるので歩いて行くらしい。〉

 

 

ー 理事長室 ー

 

たづな「、、クチュン!、、はぁ、失礼しました。」

 

やよい「お!珍しいな!風邪か?」

 

たづな「いえ、そんな感じではないと思いますが、、、」

 

悟空「ここか?たづな!」

 

たづな「・・・この事ですか、、、悟空さん!部屋に入る時はノックをして返事を待つように!!」

 

悟空「はは!すまねぇな。ちっとばかり急いでてよぉ」

 

やよい「疑問ッ!たづなに何か用なのか?」

 

悟空「ああ!たづなっちゅうか、やよいも知ってたら教えてもらいてぇんだけど」

 

「「???」」

 

悟空「ほら、ウララの奴、ダートから芝走るってんで走り方が違ぇんだろ?だから似た様な事をした奴とか知らねぇか?」

 

たづな「??あぁ、なるほど。バ場適性ですか。、、、それならオグリキャップさんという方が当てはまりますよ。特徴は髪が白い方で髪飾りを付けています。

これから用事があるので案内は出来ませんが、、」

 

やよい「うむ!彼女なら実力も申し分ない!門限までまだあるから、少しでも会って見ると良い!」

 

悟空「オグリキャップだな!んじゃ早速探してみっか、、と、その前に腹ごしらえだな!あんがとなー!」

 

たづな「あ!悟空さ、、"バタン"、ん、、、出る時も注意して欲しかったのですが、、、」

 

やよい「まぁその方が悟空さんらしいだろ!それより早速対面しそうだな。」

 

たづな「ですね、、、食堂ですか。似たもの同士になるんですかね?」

 

 

〈たづなの気を追ってきた悟空。やよいの姿もあり、二人に尋ねた。

該当する人物が早々に分かったが、会う前に悟空はお腹が空いたため食堂に向かった。

その該当したウマ娘もまた食堂に向かっていたとは知らずに、、、〉

 

 

 

ガツガツガツガツガツガツ、、、むしゃ、、ゴクッ!、、ズルズルズルッッ!!!!、、、はふはふ、、ん、んぐっ!、、むむっ、んんっっ、!ゴクゴクゴクッッぷはぁ!!

 

 

〈食事にてウマ娘達はよく食べる事を自覚していた。

なので余程の事がない限りは量が多くても気にしないのだが、既に一般的なウマ娘が食べる量を軽く超えてる"男"を見て一同は目を離せずにいた。〉

 

悟空「ガツガツガツ!!、、、やっぱここの飯は美味ぇなぁ!!」

 

???「あなたはウマ娘でもないのに良く食べるのだな」

 

悟空「ん?そうか?へへ!いっぱい食わねぇと力も入んねぇからな!」

 

???「そうだな。私もすぐにお腹が空いてしまって、力が入らなくなるんだ。

美味しそうに食べていたのでつい声をかけてしまった。

私も食べる量が多くて少し恥ずかしいんだ。良かったらここで食べてもいいか?」

 

悟空「ああ、良いぞ!」

 

オグリキャップ(オグリ)「助かる。私はオグリキャップという。あなた何と言うんだ?」

 

悟空「オラの名前は孫悟空だ!ほれ飯食いに来たんだろ?さっさと取ってこいよ!オラももう少し食おっかなぁ!」

 

 

〈よく食べる男に近づく、よく食べる女オグリキャップ。

先程たづなから聞いた名前だが、悟空はご飯に夢中で忘れてしまったらしい。

ご飯を目の前にした二人にはもはや言葉は要らなかった〉

 

 

ガツガツガツガツガツガツガツガツ!!!!!むしゃむしゃむしゃ!!!、、ズルズル!!ガシャンガシャンガシャン、む!んぐぐぐぐ、、ゴクゴクゴク、ぷはぁ!、、ガツガツガツガツ!パクパク

 

 

悟空「ーーーお!この肉すげぇ美味ぇな!」

 

オグリ「そうなのか?。、、、私は、、無いな」

 

悟空「みてぇだな。オラのやつやるよ!」

 

オグリ「!!!良いのか?」

 

悟空「もちろんだ!美味ぇのは一緒に食いてぇからな!」

 

オグリ「ありがとう!それならこっちの魚を食べてくれ!凄く美味しいんだ。」

 

悟空「へへ!悪りぃな!んじゃ貰うぞ。」

 

 

〈何も気にしない二人。意外と気が合うのか。

お互いに好きな物を交換したり、悟空もオグリも自分並に食べる異性を見るのは初めてなせいか、少し楽しそうだ。

 

食事も落ち着き、机の上にはいつものオグリキャップの倍の食器が重ねてあり、食事に来たウマ娘もそれを見た瞬間、食堂から出て行ってしまった者もいた。〉

 

 

 

悟空「ぷはーーー!食った食った!!ごっそさん!!」

 

オグリ「ご馳走様でした。それにしても本当に良く食べるのだな!こんなに食べる男の人は初めて見た!!」フンスッ!

 

悟空「おめぇの方こそサイヤ人では居たけど、女でオラと同じくれぇとは、たまげたなぁ!」

 

オグリ「ふふ、そうか。、、、それにしても、孫悟空か。タマから聞いたが、確かハルウララを見てるのだったか?」

 

悟空「ああ、そうだ。オグリも知ってたんか?」

 

オグリ「聞いただけなのだが、結構噂にはなっているな。亀の甲羅を背負いながら走ってるだとか、、」

 

悟空「その通りだな。

あいつは今一着獲るために頑張っててな。

それで今日も芝の走り方を覚えるっちゅうんでオグリ、、キャッ、、、プにって、、、おめぇがオグリキャップじゃねぇか!!」

 

オグリ「???そうだが?私がオグリキャップだ」

 

悟空「そうだよな!んじゃオグリキャップ!いきなりで悪ぃんだけど、ダートと芝の走り方を教えてくれ!」

 

オグリ「??それは構わないが、、何があったんだ?」

 

 

〈ご飯を目の前にし、本来の目的を忘れていた悟空。

だが結果的には随分と早くにオグリキャップと邂逅した。

悟空はオグリキャップに事情を話し、芝とダートの走り方を教えてもらう。〉

 

 

 

オグリ「・・・・・・・なるほどな、確かにダートと芝では走り方が違う。私も事前に教えてもらったから走れたが、、、そういう事なら協力しよう!」

 

悟空「ほんとけ?いやー助かるぞ!んじゃ早速頼んでいいか?」

 

オグリ「ではダート場まで行くが、ハルウララとはそこで待ち合わせるのか?」

 

悟空「いや、オグリキャップもウマ娘だからウマ娘同士で教えるのも何か変だろ?

だからオラが覚えて伝えようと思ってな!その方が違いも分かるだろうし。」

 

オグリ「、、、覚える事は出来ると思うが、、人の力ではさすがに差があると思うぞ?」

 

悟空「心配ぇすんな!オラ結構鍛えてっからな!とりあえずやってみようぜ。」

 

オグリ「そうだな。では行こう。」

 

 

・・・・・・・・

 

ー ダート場 ー

 

 

オグリ「最初に言うが、私は体が柔らかいからこの走りを教わった。だから他のウマ娘がこの走り方をして速くなるとは思わない。そして芝での走り方も同時に言うぞ」

 

悟空「ああ!頼む!」

 

 

ダートは砂を掴む様にして足首の力で蹴り出す、、、、こうけ?ズザッ!、、、、もうちょっと前屈みの方が良い

、、、こうか!グイッ 、、、、、それだ

 

 

オグリ「形としてはそれだが、、悟空は凄く力が強いな!砂が舞い上がっていたぞ。」

 

悟空「へへ!んじゃ次だ!」

 

ああ。

芝ではさっきの走りをすると芝に脚が空回ってしまう。だから強く踏み込む事で加速するんだ、、、、こうだな!ズドンッ!、、、、地面が凹んだか、、だなそんな感じだな  

 

 

悟空「確かにさっきの走りだと砂を掴めねぇ分、力が逃げちまうな!

癖になっちまうと芝じゃ走れねぇ訳がこれだな。」

 

オグリ「ああ。そうだ。私もダートから芝で走る時は中々練習したからな。後はぶっつけ本番だったが、、」

 

悟空「時間はかかるかも知んねぇな。けどこれで望みは増えてきたな!」

 

オグリ「役に立った様で良かった。ハルウララの事は私も応援している。頑張ってくれ!」ニコッ

 

悟空「ああ、サンキューな!、、、、なぁオグリキャップ。腹ごなしにちょっと走っていこうぜ?」

 

オグリ「走るって、私と悟空がか?、、、良いぞ!楽しそうだな!」

 

悟空「おし!んじゃ、いっちょやっか!!」

 

 

〈悟空はオグリに芝とダートの走り方を教わり、違いに気づけた様だ。

悟空には癖がなく、あっという間に走り方を会得したが、

悟空はオグリの持つ気の強さに気づいており、そのつもりだったかの様にオグリに併走を提案した。

サイヤ人の闘争本能とオグリの怪物の本能が合わさったみたいだ〉

 

・・・・・・・・・

 

 

 

オグリ「、、、はぁはぁはぁ、、、ふぅ、、悟空は凄く速いな!とても追いつけなかったぞ!」

 

悟空「はは!そういうオグリキャップも流石だったな!

オラが見てきた中でもスゲェ気だったからな!強ぇのは分かっていたさ」

 

オグリ「?気というのは知らないが、、だけど、凄い楽しかった。レースやタマと併走するのとは違った感じだ!」

 

悟空(タマ?ちんの事か?、、まっいっか!)「オラも楽しかった!またやろうな?」

 

オグリ「ああ!その時はよろしく頼む!」

 

 

〈ウララとの日頃の併走により、手の抜き方が完璧になった悟空。

そのウマ娘に合わせた力加減で併走も難なくこなせるようだ。

オグリも併走中、普段では感じない感覚のせいか走る姿に笑みを浮かべていた。

 

日も傾きはじめた所に可愛らしい音が鳴り響く〉

 

 

 

キュゥルルルルル!

 

 

悟空「ん?何だ?」

 

オグリ「、、、、すまない、、私のお腹の音だ、、、少しお腹がすいて、、、恥ずかしいな、、」

 

悟空「そっか!長ぇ事走ってたもんな!」

 

 

ぐぎゅ〜〜〜!!ぐるるるるるる!!!!

 

 

 

オグリ「!!!」

 

悟空「ははは!オラも腹なっちまったな!運動も終わったし、今度はいっぱい食って力つけんぞ!オグリ!!」

 

オグリ「、、、ふふ、あはは!そうだな!行こうか悟空!」

 

 

 

〈食べて、遊んで、また食べる。悟空とオグリは本当にウマがあったみたいだ。

この後にもう一度、食堂で料理人が涙を流しながら料理作るのはまた別の話

 

さてこれで材料はすべて揃った。

悟空、時間は残されていないぞ?ウララには無事に走り方を伝授できるのか!〉

 

 

 

悟空「ガツガツガツ! 、、、うんめぇぇぇ!!」

 

オグリ「パクパクパク!、、そうだな!、、あ、悟空!これは凄い美味しいぞ!私のをやろう!」

 

悟空「お、サンキュー!!!、、、ほんとだ!すげぇうめぇな!!!」

 

 

 

ー 調理室 ー

 

A「次!早く出して!順番はいいから、とりあえず出来たやつだけ先に!!」

 

B「あぁああああ!!!!手が!!腕が!!!」

 

C「同じ腕は腱鞘炎になるぞ!手を切り替えるんだ!!」

 

D「ふへはへへは、ぎょーざがいっこ、ぎょーざがにこ、

 

E「狂うのは後にしろ!自分達の仕事を思い出せ!!」

 

 

!!!!!!はい!!

 

 

あ、すみませーん

 

 

E「よし!ウマ娘の方はまだいるぞ!皆気張れよ!!」

 

   ハイ!!

 

 

 

A「、、、、、みんなスペシャルウィークさんよ、、、、

えっと、ほいこーろーとらーめんとからあげと、ひがわりのを2こずつで、、、、、、」

 

 

、、、、、、、、ハイ

 

 



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修行編 〜 2 〜

まだpixivは更新してませんが、投稿しました。(詳細は後書きにて)

もう一度言いますが、芝やダートの走り方は適当です。突っ込まないでください。

注意
・ルドルフは少し匂わせてます。近い内に悟空と腹を割って話そうかと思ってます(頑張り屋さんや責任感など、悟飯と似てる感じがしますね)


〜前回のあらすじ〜

 

 

オグリキャップにより、芝とダートの走り方を教わった悟空。

残り少ない日にちでウララに芝での走り方を教えるのだった

 

 

 

ー 朝・学園内 ー

 

 

ウララ「おっはよー!」イェイ!

 

スペ「あ!おはよーウララちゃん!」イェイ!

 

スカイ「おはよ〜朝から元気だね君達は」

 

キング「あなたの元気が無さすぎるのよ」

 

スカイ「おや?お嬢様もおはよぉ。これはセイちゃんのアイデンティティなんですよぉ」

 

キング「へぇー」

 

スカイ「、、ちょっと雑過ぎやしませんか?」

 

グラス「おはようございます。」

 

スペ「グラスちゃん!おはよ!今日は少し遅かったね?」

 

エル「エルもイマース!

朝練でグラスがトレーニングをやめなかったんデス。おかげで遅刻するとこでした!」

 

 

〈朝の授業前の光景。おなじみのメンバーが揃ったところでグラスはある事に気づく〉

 

 

グラス「もう!エル。それは何回も謝ったじゃありませんか!、、、それはそうとウララちゃん。リストバンド付けてるのですか?」

 

スペ「あ、ほんとだ。悟空さんのと似てるね!お揃いなの?」

 

ウララ「これ?これは重りなんだよ!」

 

スカイ「へぇ?重りねぇ。ウララも随分とストイックになったね。」

 

ウララ「うーん、悟空さんがね?授業じゃあ甲羅は背負えないから、それ以外は重りを付けてろだって!

足にも着いてるんだよ。」

 

グラス「本当、随分とストイックですね、ちなみに何キロくらいですか?」

 

ウララ「ひとつが5キロだったかな?

甲羅は前に10キロで慣れてきたから20キロになったよ!

 

スペ「・・・・え?」

 

スカイ「ウララ、、、ずっとそれでトレーニングしてるの?」

 

ウララ「うん!悟空さんが言うには壊れないように無理をするんだって!

すごく疲れるんだよ?」

 

キング「でしょうね。私はやり過ぎかとも思うのだけど、、」

 

グラス「これは、、、負けてはいられませんね。」

 

エル「・・・・」

 

キーンコーンカーンコーン

 

スペ「あ!そろそろ席着かないとだね」

 

ウララ「それじゃあウララも教室行くね!バイバーイ」

 

キング「ちゃんと先生の話は聞くのよー!」

 

スカイ「あはは、、、もう過保護ってよりもお母さんだね、、、」

 

エル「・・・」

 

グラス(??エル?)

 

 

〈授業が始まるまでの時間、いつものメンツで話をしていた。

ウララのさりげない話から驚く黄金組。

予鈴の音が響き渡り、各々授業の準備に向かうが、普段うるさいくらいに喋るウマ娘は、何かを考え込んでるのか、ずっと黙っていた。〉

 

 

・・・・・・・

 

教師「ここの問題は前文で筆者の感じた事・・・・・・」

 

、、、、、

 

エル(ウララ頑張ってマスね、、、ふふ、、あは!あははは!!!これデス!流石悟空さん!見て分かるほどにウララの力が付いてマス!

このままウララをもっともっと強くしてくれれば皆で楽しいレースが出来マス。

そしてそこでエルが一着を獲れば世界最強にも近づきマス!!ケケッ!あはっ!あはははははは!!!!)

 

グラス「チョット、エル、、エル!、、、ヨバレテマスヨ!」

 

エル(あはは、、ん?「グラス?何か言いましたか?もうiエ ル コ ン ド ル パ サーさん?」!!?

 

教師「先生の話が聞こえないくらい集中しているとは流石ですね?」

 

エル「ケ!?あ、あーはい!もちろんデス!?」

 

教師「では先程の問題をよろしくお願いします」

 

エル「え、あー、、、はい。 そ、その、ゴ、5デs」

 

教師「今は数学の時間ではありません。放課後職員室で待ってます。」

 

エル「、、、、はい、申し訳ありまセン」

 

グラス「、、、、、、ハァ」ヤレヤレ

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

〈所変わってグラウンド。目を疑う衝撃な事が起きていた〉

 

 

 

ー 放課後・トレーニング時間 ー

 

 

 

キング・キントレ・ウララ「「「ポカーーーーン」」」

 

悟空「ん?あっはっはっは!!おめえ達!おもしれぇ顔してらぁ!プッ!、、すげぇ顔してっぞ!?ははっ!」

 

ルドルフ「、、、この光景を見れば誰だってなるさ、、」

 

 

 

 

遡る事20分前

 

 

悟空「踏み込みながら走るかぁ、、口では簡単なんだけどなぁ、、、なんか良い修行法ねぇんかな?、、、お?」

 

 

〈悟空は仕事が終わった後、いつも通りウララの所へ向かう途中だった。

今日から始まる予定の"しっかりと地面を蹴る走り方"を覚えさせるつもりだが、これまでのクセはそう簡単に取れないだろうと悟空は感じていた。

効率の良い修行法を思案していると、"とてつもなく大きいタイヤ"をウマ娘が引っ張っているのを見つけた〉

 

 

 

悟空「おーーーい!!」

 

ウマ娘A「??? 私達ですか?」

 

ウマ娘B「あ!孫さんだ!」

 

ウマ娘C「え?誰、知ってる人なの?」

 

B「うん。最近新しく入った警備員の人だよ!」オーイ

 

悟空「おう!練習中にすまねぇな!」

 

A「いえ大丈夫ですけど、何かあったんですか?」

 

悟空「いや、でけぇタイヤ引っ張ってたから、つい声かけちまった。トレーニングか?」

 

B「はい!今日はパワーを重点的に鍛えるのでこれが一番良いんですよ!」

 

悟空「パワーか、、そいつはウマ娘なら皆出来るんか?」

 

C「まさか!そんな事ないですよ!筋トレマニアのAだから出来るけど私達はビクともしないですよ。」

 

B「もうちょっとな気はするんだけどね!」タハハ

 

悟空(なるほどな、こいつは良いな)「なぁ!それどこに行けば貰えるんだ?」

 

A「あー、分からないですね、、トレーナーに用意して頂いてまして、今はトレーナー室にいますし、、」

 

B「たづなさんに聞いてみたら?多分許可もいるだろうし、専用の車を使わないと運べないからね!」

 

悟空「そっか!邪魔して悪かったな!続けてくれ。おめえ達も頑張れよぉ!!」

 

ハーイ!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ー 理事長室 ー

 

悟空「コンコン!入んぞ?、、お!たづな!ちょっと聞きt「悟空さん!!」お、おぉ?

 

たづな「確かにノックはしましたが"どうぞ"と言う返答の後に入って来なさい!

それと"入んぞ"では無く"失礼します"か、せめて"入ります"でしょう!!

今までは多めに見ましたが、そろそろ悟空さんにも常識と言うものを!!」

 

やよい「まあまあ、落ち着けたづな!少しずつで良いだろう?」

 

たづな「もー!何で理事長は悟空さんに甘いのですか!」

 

悟空「はは!まぁそう言うなよ。次から気をつけっからさ!、、、と、おめぇも居たのかルドルフ。」

 

ルドルフ「お久しぶりです、孫さん。ふふ、たづなさんがあんなに叫んでるのは久しぶり見ました。」

 

たづな「ルドルフさんまで揶揄わないでください!、、コホン、、、、それで悟空さん。今度は何ですか?」

 

悟空「なんかおめぇ最初の時よりツンツンしだしたなぁ、、、ま、いっか、、

ウマ娘のトレーニング道具でよぉ、でっけぇタイヤあんだろ?あれオラにも貸してくれねぇか?」

 

たづな「???あ、タイヤ引きですか。・・・・良いですよ」

 

悟空「お、ほんとけ?随分簡単だったな、どこ行けばいいんだ?」

 

たづな「それなんですけど、私はちょっと用事がありまして、、、、ルドルフさん?良かったら悟空さんに案内してくれませんか?」

 

ルドルフ「良いですよ。では孫さん行きましょう」

 

悟空「おう!よろしくな!」

 

やよい「あ!悟空さん、オグリキャップとは会えたか?」

 

悟空「ああ!走り方教えて貰ったし、飯もすげぇ食う奴でさぁオラも楽しくなっちまってよ!教えてくれてサンキューな!」 バタン!

 

やよい「行ったか、、、時にたづなよ。お前の用事とは何の事だ?」

 

たづな「、、、、忘れました」

 

やよい「、、、、お前も結構悟空さんに期待しているのだな」

 

たづな「・・・」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ルドルフ「孫さんはオグリキャップとも会っていたのですね。」

 

悟空「ああ。ウララの走り方でちょっとな。」

 

ルドルフ「、、、なるほど、ダートと芝の違いですか。」

 

悟空「お、おめぇすげぇな!よく分かったな。おめぇも心が読めんのか?」

 

ルドルフ「ふふ、いえ、共通点を探しただけなので大した事では、、、」

 

 

あ!生徒会長だ!こんにちは!  ああ、こんにちは。これから練習か?  はい!  点滴穿石、怪我だけはしないようにな  はい、ありがとうございます!では失礼します 

 

 

 

悟空「ふーん、結構人気なんだな。」

 

ルドルフ「これでも栄冠を手にしてるのでね、、物珍しいだけでしょう。」

 

悟空「そうなんか?まぁ確かにおめぇの気は強ぇからな。寄ってくんのも無理ねぇか。」

 

ルドルフ「そんなものですよ。」

 

悟空「そういやルドルフは練習しねぇのか?最初会った時よりちょっと気が乱れてるみてぇだけど。」

 

ルドルフ「その"気"というのはいまいち分からないですが、、、そうですね、最近はあまり出来てないです。、、、と、ここです。着きましたよ孫さん」

 

悟空「お?おぉおおお!!すげぇでけぇ形してんなぁ!」

 

ルドルフ「ここにはレースに必要な物だけでなく、学園の資材や乗り物も置いてありますから」

 

 

〈ルドルフにより案内してもらったところは、室内で野球が出来そうなほど大きな倉庫だった。

会話の途中で引っ掛かる事があった悟空だが、一旦頭の片隅に置き、大きなタイヤのとこまで連れて行ってもらった。〉

 

 

 

ルドルフ「これです。これは世界で一番大きなタイヤ、重さは5t近く、引きずるだけでも一部のウマ娘でしか出来ません。

なので引きずることより他の事を優先したため、あまり使われない物となってしまったんです。」

 

悟空「はえー、目の前で見っととんでもねぇな、、、」コンコン

 

ルドルフ「では特殊な乗り物で運ぶため運転s「よっこいせ!!」グアッ、、、、、、、、は?」

 

悟空「ひゃあぁぁすげぇな!!はは!コツコツ!うお、固ぇ!ひゃっほ〜い!こいつはウララも喜ぶだろうな!!」

 

ルドルフ「!!?!?、、、ばかな、、5tはあるんだぞ、、それを持ち上げるなどと、、、」

 

悟空「お?ルドルフ、どうした?やっぱ貰っちゃ駄目だったんか?」

 

ルドルフ「い、いやそれ事態は問題ではないが、、、重たくないのか?」

 

悟空「いや、中々な重さだ。オラもここまでのはあんま見た事ねぇが、持てねぇほどじゃねぇな。」

 

ルドルフ「あなたは、何者なんだ」

 

悟空「オラか?孫悟空って言ったじゃねぇか。おめぇもオラの名前呼んでただろ?それより行こうぜ、修行する時間無くなっちまうよ。

話なら歩きながらでも出来んだろ」

 

ルドルフ「、、、ああ、そうだな」

 

 

 

〈重さは5tほどある大きなタイヤをまさか担ぐなどとは想像もしなかったルドルフ。

思わず素が出てしまったが、修行優先の悟空はさっさと出ていってしまった。

案内は終わったのでルドルフの役目は済んだのだが、何かあっては困ると思い、一緒に着いて行った〉

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

キング・キントレ・ウララ「「「、、、、ポカーーーーン」」」

 

悟空「お?おめぇ達、何面白ぇ顔してんだ!?」ハハッ

 

ルドルフ「いや、、、、これを見て精神を保てる方が少ないないだろう、、、、」

 

悟空「そうけ?、、、ほら、おろすから下がってろよ」ズシィィン!!!

 

 

〈人間の何倍かはありそうなタイヤを持って来た悟空に驚く一同。

タイヤが地面に当たる衝撃で我に帰った者たちは悟空に訪ねた〉

 

 

キング「、、、、、ハッ!、、悟空さんこれどこから持って来たのよ!?」

 

悟空「倉庫からだ。黙って持って来たわけじゃねぇぞ?」

 

ルドルフ「そうだ。心配は無用だキングヘイロー。

私が付き添ったから問題ではない。、、、別の問題はあったがな、、」

 

キング「ルドルフ会長!?、、、、お疲れ様でした」

 

ルドルフ「ああ、、、、、、ありがとう」

 

ウララ「あ!かいちょー!こんにちは!!」

 

ルドルフ「こんにちは、ハルウララ。練習に励んでいるようだな」

 

ウララ「うん!この前も鬼ごっこでタッチ出来たし、お相撲さんごっこもしたんだー!」

 

ルドルフ「そうか、、、、、、練習は?」

 

ウララ「???練習だよ?」

 

ルドルフ「???」

 

悟空「こんなもんかな、、、、んじゃウララ!早速始めんぞ!」

 

ウララ「準備が出来たのかな? はーーい!」

 

  

〈ハルウララ達と合流をした悟空とルドルフ。

ハルウララの楽しそうに話す練習内容を聞きながら疑問に思うルドルフだが、ある事に気づいた〉

 

 

ルドルフ(ここの者達は皆笑っているな。腑抜けているというよりはリラックスしているのか。

キングヘイローのトレーナーでさえ、、笑っている。)

 

悟空「おーい!ルドルフ!」

 

ルドルフ「!!!何ですか?」

 

悟空「おめぇも一緒にやらねぇか?」

 

ルドルフ「わ、私もですか!?」

 

ウララ「えー!かいちょーもやるの!?いやったーー!!嬉しいなぁ!!」

 

ルドルフ「、、、、いや私はまだやる事があるので失礼するよ。」

 

ウララ「そっかぁ、、、残念、それじゃあ今度だね!」

 

ルドルフ「!!あぁそうだな。今度よろしく頼む。では」

 

 

〈ルドルフはまさかの申し出に少し悩むがまだ途中の仕事があるため帰ってしまった。

去っていく背中を悟空は困った様な顔をしながら見ていた〉

 

 

悟空(、、、あいつ)

 

ウララ「悟空さん?」

 

悟空「ん?あ、すまねぇな。おし!じゃあ始めんぞー!」

 

ウララ「おーー!」

 

 

・・・・・・

 

 

 

ウララ「ふんっ!!、、ぬぐぐぐっっっ!がああぁあぁあ!!!ハァハァ、、、全ッッ然動かない!!!」

 

悟空「ありゃりゃ、、、まぁ最初はこんなもんか、、、。

ウララ!オラが後ろから少し押してやっから、引っ張り続けてろ!」

 

ウララ「はぁはぁ、、、、ようし!今度こそ!せーーーーーの!!!」フンヌッ!!

 

悟空「よし、、、、、、ハァッ!!」

 

 

〈重い物に引っ張られる様に前屈みになりながら踏ん張るウララ。

後ろから手助けと言い、タイヤに手を合わせ、気合とともに"押す"悟空

結果・・・・・ウララは後ろからのとてつもない衝撃により、ダートの砂にダイビングヘッドをした。〉

 

 

ウララ「・・・・・」ザザァー!

 

悟空「・・・・・アッ..大ぇ丈夫か?」

 

 

ズドドドドドドド!!!!!!!

 

 

悟空「??何の音だ?」クルッ

 

 

悟ぉおおお空うぅうううさぁああぁあぁんん!!!

 

悟空「ゲッ!!?」

 

 

〈遠目からウララのダイビングヘッドを見ていた過保護:キングが叫びながら走って来て、勢い良く悟空にダイビングヘッドをしてきた〉

 

 

キング「フンッ!!」ズドッ!

 

悟空「うおっ!?とっとっと、、、、おめぇまで飛び込んでくるこたぁねぇだろ、、、」

 

キング「今のは貴方の加減ミスよ!もうすぐレースなのに怪我したらどうするのよ!」

 

 

〈怪我の恐ろしさを知っているキングは悟空に対して怒っているが、その体勢が問題だった。

悟空にダイビングヘッドをしたキングだったが、当たる直前にキングの脇に手を入れ、宙に浮かしたのだ。

世間一般では"高い高いポーズ"とも言う〉

 

 

悟空「悪かったって、、ちゅーかおめぇ過保護すぎねぇか?

ウララだって子供じゃねぇだろ?」

 

キング「そうじゃないわ。

私達ウマ娘は脚を怪我するのだけは本当に気をつけなければいけないのよ!」プラーン

 

悟空「そいつは分かってっさ!まぁ見てろって。」

 

キング「本当に分かってi「あー!キングちゃん抱っこしてもらってる!!」!!?、、、、オロシテ」

 

悟空「おー!ウララ、すまねぇな!オラ加減失敗しちまった」ハハッ!

 

ウララ「もおーービックリしたんだからね!ーーーーあ、キングちゃん戻るの?」

 

キング「ビクッ!、、、、えぇ、、、ウララさん怪我はないのね?」

 

ウララ「うん!あれぐらい何ともないよ!!」

 

キング「そう。じゃあ、練習、、、お互い頑張りましょ。」

 

 

〈ウララから見たら悟空にただ、抱っこをされてると理解してしまったキング。

あまりの恥ずかしさに伏せてる顔は真っ赤になり、聞くことだけ聞いたら走って行ってしまった。〉

 

 

ウララ「ありゃ、行っちゃった。」

 

悟空「はは!悪ぃ事しちまったな。まぁ、いいか。

ウララ!今度はゆっくりするからな。もう一度だ!」

 

ウララ「うん!」

 

 

・・・・・・・・・

 

 

ウララ「よっっっこらっっせーーーーーー!!!」ズリズリ

 

悟空「ウララ!少しづつ進んでんぞ!もっと全身に力を入れるんだ!!」

 

ウララ「っっっ、、、はぁはぁ、、、フンッ!、はぁ、ぐぐぐぐ!!」ズズズ

 

悟空「前に行こうとするんじゃねぇ。

足を先に出して地面を強く踏みながら歩くんだ!次、行くぞ!せぇぇの!!」

 

ウララ「あ"あ"あ"あ"あ"体!が、、ちぎ、、れ、そう、、、!!!」

 

悟空「千切れた事はオラもねぇな!心配ぇすんな!次!せーの!」

 

ウララ「も、もぉーー!!!!だめぇぇぇぇ!!」

 

 

・・・・・・・・

 

 

〈休みながら続けると、もう終了時刻。これからの事を話すため悟空はキントレを呼び、息も絶え絶えなウララをマッサージしながら話を進めた〉

 

 

ウララ「ハァハァハァハァ、、、、はふぅぅぅ。やっぱりマッサージは気持ち良いねぇぇ」

 

悟空「ははは!おめぇ、おっちゃんみてぇな事言うな!」

 

ウララ「フゥ、、、おじさんなんてひどいよー」アハハ

 

悟空「はは!、、、、お、来たかな?」

 

キントレ「悟空さん!お待たせしました。」

 

悟空「オッス!終わってすぐにすまねぇな。

オラの中でやる事が決まったんだけんど、おめぇにも聞いてもらおうと思ってな!」

 

キントレ「はい!お願いします。」

 

悟空「ああ。

ウララ、おめぇはレースまで1ヶ月も無ぇ。だから変に戦術を作っても紛らわしくなっちまうと思う。

だからこれからは今日やったタイヤのと、オラとの併走。

この二つをずっとやっていこうと思う。」

 

キントレ「ずっとですか、、、芝での走りのため模擬レースなどはどうするんですか?」

 

悟空「それはオラが併走の時に走りながらダートの走りをした瞬間に細かく注意していこうと思う。

こいつの癖は分かってっから、少しでも違う走りをしたら分かるしな。」

 

キントレ「なるほど。悟空さんならではのやり方ですね!

分かりました。ではそれに重点を置き、他に僕の方でやる事があるなら言ってください!」

 

悟空「ああ。そん時は頼むな!」

 

ウララ「ほえ?、、どういうこと?」

 

悟空「そうだなぁ、、、、、明日からはもっと辛ぇぞ!って事だ!」ニカッ!

 

ウララ「、、、、、、、、、え"?」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

悟空「ウララ!また脚が浮いてるぞ!もっと踏み込め!」

 

ウララ「うん!」

 

ーーーーーーーーーー

 

ウララ「んーー!ぐぐぐっ!!だぁあああああ!!!」ズズズ

 

悟空「おし!その調子だ!、、、そりゃ!!」ドンッ

 

ウララ「わ!!わわっ!」ベチャ

 

悟空「・・・またやっちまった。」

 

ーーーーーーーーーー

 

悟空「ウララ!脚がまたなってる!身体ごと小さくなれ!」

 

ウララ「ハァハァ、、はい!」

 

悟空「調子が良いのは返事だけか!?またなってっぞ!集中しろ!」

 

ウララ「うん!、、集中、、集中!」

 

ーーーーーーーーーー

 

悟空「ウララ!」

 

ウララ「うん、ごめん!」

 

悟空(自分の間違いが分かって来てんな。もうそろそろか)

 

ーーーーーーーーーー

 

悟空「はっきよーい!」

 

ウララ「のこった!!」パンッ

 

   グググググ

 

悟空「タイヤ引きと一緒だ!身体を低くして下半身の力を使え!」

 

ウララ「、、、地面を掴む様に、、、フンッ!!」パアン!

 

ーーーーーーーーーー

 

ウララ「もーーいーーかーーい?」

 

悟空「もーーいーーぞーー!」

 

・・・・・

 

ウララ「あ!悟空さんみっけ!」

 

悟空「はは!見つかっちまった!」

 

 

 

 

〈悟空は残りの日数を模擬レースなどでは無く、自然とその走り方になるような日常トレーニングをしていた。

時には吐くまで走り、時には腹が捩れるほど、笑い、遊び。

そんな事を繰り返しているとレースの三日前になった。

 

いつもの光景。悟空、キントレ、キング、そしてウララが居た。〉

 

 

悟空「レースまでは後三日だな。」

 

キントレ「走り方はどうなりました?」

 

悟空「それに関しちゃ問題ねぇ。ここ何日かは前の走り方は出てねぇ。多分身体がちゃんと覚えてくれたんだろ。」

 

ウララ「良かったぁ!!あんなにやって出来なかったら凄い悔しかったからね。出来て本当に良かったよぉ!!」

 

キング「ふふ。本番はこれからよ?、、それで今日からはどうするの?」

 

悟空「今日から後三日は、、、何もしねぇ。

ウララ!好きな事して遊んできて良いぞ?食いもんには気をつけてな!」

 

キング・キントレ「「!!!!!!」」

 

ウララ「え!?良いの?」

 

キング「いや!良くないでしょ!?後三日しかないのよ!追い込んだりするもんじゃないの?」

 

キントレ「僕も同意見ですね。裏を返せば後三日もあるのに何もしないのは勿体無いのではないですか?」

 

 

〈レースまで残り三日のスケジュールを聞き、納得出来ず、悟空の考えを聞こうと詰め寄るキングとキントレ。

だが悟空はいくら自分が強くなろうとも昔に教わった事は胸の中に深く留めている事があったのだ〉

 

 

悟空「オラの師匠の言葉でな、

良く動き、良く学び、良く遊び、良く食べて、良く休む。

こいつが修行の基本だって教わったんだ。

 

これまでは鍛えるため中々無理な事をしてきちまった。

確かにそれ以上の実力は付いたと思う。だが、ウララは身体もちっちぇえからダメージが無くなった訳じゃねぇ。

これ以上やったって、ただ辛ぇだけだ、それは修行じゃねぇ。

 

だから後三日は身体を休め、本番では100%の力でいく!これがオラの考えてた事だ。」

 

 

 

〈悟空の話を聞き、頭ごなしに反論した二人は少し恥じた。 だがそれ以上に希望がハッキリと見えて来た気がした〉

 

 

 

キントレ「そういう事でしたか。、、、すみません、話も最後まで聞かず返してしまって、」

 

悟空「気にすんな!何も言わなかったオラも悪ぃさ!つーわけだウララ!体力と飯には気をつけるだけで良い!遊んでこい!!」

 

ウララ「わーい!!やったぁ!」

 

キング「・・・・・」

 

悟空「お?どうしたキング?まだなんか不満か?」

 

キング「いえ、、、そうじゃないわ、、、今のもそうだけど、悟空さんだって考えがあっての事なのに怒ってばかりしてしまって、、、、、ごめんなさい、、、」

 

 

〈己の失態を恥じるキング。だが悟空はそんなキングに頬を緩め肩に手を置いた。」

 

 

悟空「そんな顔すんなキング!おめぇだってウララの事が心配だっただけじゃねぇか。何も悪い事なんてしてねぇ!」ポンッ

 

キング「で!、、、でも、」

 

悟空「そんなに言うんならウララの遊び相手にでもなってくれ。その方がウララも喜ぶだろうしな」

 

ウララ「え!キングちゃんも一緒に遊んでくれるの?やった!ねぇどこでも行って良いの?」

 

悟空「おう。好きなとこ行ってこい!、、、そうだ!この前給料っちゅうのが入ったから少し持ってけ!」

 

ウララ「!!!良いの?」

 

悟空「はは!良いぞ。オラが持ってても使い道ねぇからな!」

 

ウララ「わーい!ありがとね!悟空さん!!」

 

キング「え?あ、、そんなの私までいらないわよ、」

 

悟空「子供が遠慮するもんじゃねぇ!思いっきし遊んでこい!」

 

ウララ「ふふーん!!」ニパー!

 

キング「コクン、、、、、ありがと」

 

 

〈ウララとキングはお小遣いを貰い、予定を決めるため走って行ってしまった。」

 

 

悟空「はは、終わったばかりだってのに、元気なやつらだなぁ!」

 

キントレ「悟空さん。すみません。キングの分まで」

 

悟空「いや謝らなきゃいけねぇのはこっちの方だ。勝手に休みにしちまって悪かったな」

 

キントレ「いえ!そろそろキングもリフレッシュが必要だったので、ウララも一緒だとあの子も安らぐでしょう」

 

悟空「そっか、ならいいか」

 

キントレ「、、、、、悟空さん。ウララは勝てますかね?」

 

悟空「、、、さぁな、勝負はやってみるまで分かんねぇ、、、だが戦えるほどの力は付いたはずだ。後はウララを信じるしかねぇな。」

 

キントレ「そうですね。」

 

 

〈この数ヶ月、やれる事はやった。後は本番でどれだけ本領を出せるか。

ウララはこの三日間は遊び、寝て、食べて、それはそれは健康的な日常をおくっていた。

 

あっという間にレース当日。やるぞウララ!夢への第一歩!!〉

 

 

 

 

次回:未勝利戦、芝1600m.右回り.7頭 開幕!




オッス!オラ悟空。
何かよく分からねぇ奴にさっさと投稿しろって変な圧力までかけられてよぉ、不定期になっちまうけど、思わず投稿しちまった!、ハハ!

次からは週1に戻すけんど、楽しんで見てってくれよな!!(投稿は週1回だ!もう譲らんぞォ!!」


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未勝利戦・芝1600m・全7人 勝負!



レース実況は難しいです

とても見れないって程ではないと思いますが、温かい目で見てください

レース実況、解説、実況、その後の流れなど、杜撰な所があると思いますが、酷すぎる矛盾でもない限りは流してください。


pixivにて10話更新中



〜 前回のあらすじ 〜

 

 

 

有馬記念に向けての適性を強引に作ってる悟空とキントレ。

血も滲む様な修行の末、芝での走り方を完璧にし、まずは1600mという距離に挑む。

そして今日!目標への第一線が始まろうとしていた。

 

 

 

 

ー レース会場 ー

 

 

ザワザワ ザワザワ

 

 

悟空「ひゃあ〜!すげぇ人だなぁ!まるで天下一武道会みてぇだ。」

 

キントレ「何かの大会ですか?」

 

悟空「ああ。世界中から腕のある武道家が集まって戦うんだ」

 

キング「野蛮ね」

 

ウララ「そんなのがあるんだぁ!悟空さんも出場したの?」

 

悟空「やったぞ。オラは3回出て、2回は準優勝で、最後に優勝したな!はは!懐かしいなー!」

 

ウララ「うわ〜!世界中から集まって来るのに準優勝と優勝しかしてないのはさすが悟空さんだね!!

 

キング「確かに凄いけど、負けた方が驚きよ!

それなら全戦全勝で相手にならなかったって方が"しっくり"くるわ」

 

キントレ「はは、、どこでも世界は広しって事かな」

 

 

〈今日はウララの芝デビュー戦。

たが、ごく普通の未勝利戦とは思えない程の人で賑わっていた。〉

 

 

悟空「それにしてもレースっちゅうのはこんなに人が集まるんだな。」

 

キング「多分ウララさんを見に来てる人が多いのでしょうね。」

 

悟空「ん?ウララをか?」

 

キング「ええ。ウララさんは高知で走ってる時から凄い人気なのよ。それで今日走るのは適性外の芝でマイル。

皆はあの拷問みたいな練習してるって知らないから気になる人が多いのでしょうね。」

 

悟空「ふーん。ウララ、おめぇすげぇな!こんなにも応援してくれる奴がいるぞ?」

 

ウララ「うん!今日は絶対に一着を獲って、応援してくれる人に恩返しするんだぁ!」

 

悟空「おう!その意気だ!」

 

キング「さて、悟空さん。あなたはここで別行動よ。」

 

ウララ「え!?控室まで来れないの?」

 

キング「関係者として入れるのだけど、一緒に入ると必ず記者の目に留まるわ」

 

悟空「それの何が悪ぃんだ?」

 

キントレ「ここからは僕が説明します。

悟空さんは本当なら存在しないはずの人なんです。

もし記者の人に調べられたりしても経歴は何も出て来ません。

警備員としては働いていますが、それにしては距離が近すぎるんです。

そしてそれが明るみに出れば学園やウララにまで被害がくるかも知れないんですよ」

 

悟空「そういう事か。確かに知られちゃマズイな、、」

 

キング「だからね、15分後に私達が固まってる所に瞬間移動して来なさいな。

あなたがいないとウララさんのモチベーションも上がらないでしょうしね」 

 

悟空「お?瞬間移動してもいいんか?」

 

キング「もちろん人目に付く所では駄目よ!トイレとかに入ってしなさい!」

 

悟空「おう!分かったぞ!んじゃウララ、また後でな」

 

ウララ「うん!」

 

 

〈この世界には存在しないはずの人間である悟空は、出来る限り穏便にする事に決める。〉

 

 

キントレ「瞬間移動とは考えたね」

 

キング「慣れちゃえば便利なものよ」

 

 

 

悟空(スーパーサイヤ人なら変装になっかな?、、、)

 

 

 

〈悟空は時間までの間に見た事ない場所にフランクフルト片手に持ち歩いていた。

キングから言われていた15分くらい経った。

その頃にウララ達は出走者の控室に案内されており、部屋の中にはウララ達と良く知った者達も一緒にいた。〉

 

 

悟空(お、そろそろ時間か?、、ちょっと面倒だけど、バレるとキングに怒られちまうからな、他の奴には見つからねぇようにしねぇと。

・・・・・おし、ここだな、、、ってあいつらもいんのか?、、、シュン!)

 

 

・・・・・・・・・

 

 

キング「そろそろだと思u"シュン!"けど、、、やっぱりそれ便利ね」

 

悟空「よっ!時間通りだったな!、、、そんでおめぇ達も来たのか?」

 

エル「もちろんデース!」

 

スペ「ウララちゃんのこれからが決まる大事なレースですからね!つい来ちゃいました!」

 

スカイ「あんな練習してれば気にもなるよ〜」

 

グラス「ウララちゃん。頑張ってくださいね。」

 

ウララ「みんな!来てくれてありがとね!ウララ頑張るから!!」

 

キントレ「もうそろそろパドックだね。

ウララ、楽しさも大事だけど、夢が決まってる君は負けられない。"絶対に勝つ"という気持ちで行くんだ!」

 

ウララ「絶対に勝つか、、、、うん、あれだけやったんだ、勝つよ。」

 

悟空「んじゃウララ。オラからも一つ。

最後の直線の時よぉ・・・・・・・・・・ってな感じでやってみろ。細けぇ事は分からねぇけど、力勝負なら別だろうしな!」

 

ウララ「うん!、、、それじゃあ行ってきます!!」

 

 

〈ウララは拳を強く握りしめ、控室から出て行った〉

 

 

キントレ「では僕達も向かいましょうか」

 

エル・スペ「「はーい」」

 

グラス「ふふ。」

 

キング「、ウララさん、、強くなったわね、、」

 

スカイ「いや、これからなんだけど、、、」

 

悟空「・・・頑張れよ、ウララ。」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

ー レース場 ー

 

 

実況「さぁ、今日の未勝利戦にはハルウララが出走する事もあり、人が溢れかえっていますね!

解説はハルウララ突然の適性外の出走にどう思いますか?」

 

解説「そうですね、楽しみではあるのですが、正直難しいとおもいます。

今までのレースでは、1300mそしてダートです。

これには流石に無茶な路線変更だと私は感じますね。」

 

実況「やはりそうですか、、、ですが!希望はあります!ハルウララ、今日のレースで初勝利を飾るのか!注目のレースとなります。

まもなく出走ですね、少しづつウマ娘達がターフに出てきました。」

 

 

ーーーーーー

 

 

悟空「へぇ、改めて見っと広ぇなぁ!」

 

グラス「まぁ今日は一周する訳ではありませんからね。」

 

スペ「それにしても実況の人とかもウララちゃんは勝つのは難しいみたいな感じだね、、、」

 

キング「ふん!走り終わってから驚くと良いわ!」

 

スカイ「でもそりゃそうだよ。距離を一つ上げるどころかバ場まで違うんだもん。悟空さんじゃなかったら、おかしい人扱いされてもいいくらいだよ。」

 

エル「そうデスね。、、、ま、エルは世界最強なのでダートも一着デシタ!!」

 

「「「「へー」」」」ジトー

 

エル「、、エルが悪かったデス。、、、だからそんな目でミナイデ、、」

 

キントレ「だけど、その通りだよ。

レースの事に関わってる人は皆、駄目元だと思う。だけど、ウララは有馬記念目指しているんだよ。

こんな所で躓いてたらダメなんだ。」

 

悟空「そうだな。、、、お!ウララが出てきたぞ!」

 

 

〈続々とターフに降り立つウマ娘達。ウララは五番のゼッケンを纏い出てきた。〉

 

 

うおぉおお!!!  ウララ〜!! 頑張ってねー!!  応援してるぞ!! こっち向いて〜〜!! 

 

 

実況「ハルウララの出番により客席から大歓声!本日の主役と言っても良い程です!

ですが前走はハナ差で敗れている三番と出遅れましたが上がり最速でギリギリ届かなかった六番と強敵は揃っています。

 

さぁ全員出てきました。では人気順に見ていきましょう。

1番人気、今日も逃げるのか三番

2番人気、前走のリベンジなるか六番

3番人気、二番

4番人気、五番ハルウララです!初勝利に向けて出陣です!

5番人気、四番

6番人気、一番

そして7番人気の七番です。

 

ここで勝つ者が次のステージに上がる事ができます。

各ウマ娘がゲートに集まります。」

 

 

 

〈ゲート前に集まるウマ娘。

ハルウララは以前悟空から戦いの前にする動作を教わっていた〉

 

 

解説「皆さん集中してますね。、、あ!ハルウララが何かやってます!両手を合わせてターフにおじぎ?ですかね、、そして、客席にも同じようにお辞儀してます。新たなルーティーンみたいですね!」

 

 

キントレ「あれは悟空さんが?」

 

悟空「ああ。あれはなオラのじいちゃんからは神聖な場所で正々堂々と戦う時、相手を尊重してやる動きだって教わったんだ。

おめぇ達のレースも似たようなもんだって聞いて、つい教えちまった。」

 

スペ「なんかカッコいいですねウララちゃん!」

 

エル「ルーティーンにもなって良いんデスかね!」

 

・・・・・

 

ウララ(、、、ふぅ、、、よし!絶対勝つぞ!)

 

 

 

 

実況「では各ウマ娘ゲートに収まり、態勢完了!!

 

スタートしました!各ウマ娘綺麗に出ました。

まずは三番逃げました。1バ身空いて六番追走!さらに1バ身空いて固まってます。内から二番、一番、四番、その後ろにハルウララがいます!後方には七番!

 

 

 

ウララ(よし!スタートは成功だよ!、、だけどこのペースはちょっと、、、)

 

 

悟空「ん?ペースが速いと駄目なんか?」

 

グラス「駄目という訳ではありませんが、前が速い場合、後ろは離されすぎると追いつけない。

自分のペースを上げ過ぎてしまうと体力が持たないんです、、、ウララちゃんが自分のペースを維持出来ると良いのですが、、」

 

 

 

 

第2コーナーをまわり、トップは変わらず三番!勢い良く逃げてバ群は縦長です!後方勢は間に合うのか!

離されず六番追走、少しペースを上がりましたね!中段は変わらず固まってます。ハルウララ、バ群にのまれないといいですが、、後方七番は少し遅れてきましたね、、バ群より離されていきます!

 

 

 

 

キング「あのままじゃまずいわね」

 

キントレ「そうだね。前は広がって横一列。ウララには抜け出す事はまだ教えてないからこのままじゃ沈むかもしれない、、、」

 

 

 

隊列崩れる事なく第4コーナーカーブから直線!先頭はまだ三番!ですが!並びかけてくる六番!!中段勢も迫ってきたぞ!二番、一番、四番はまだ固まってます!!ハルウララこれは抜けだせないか!!!

 

 

 

ウララ(クッ!、、、どうしよう、、前に行けない、このままじゃあ、、、、

 

 

 

いや、、悟空さん、、、うん!行くよ!!!)

 

 

 

残り200m!後方勢を突き放す三番と六番!!上がってくるのは二番か!!

 

 

 

   、、、、いや!!きたきたきた!!!

 

 

 

 

悟空「行けぇ!!おめぇなら出来るぞウララ!!」

 

グラス「勝てますよ!頑張って!!」

 

 

 

大外からハルウララ飛んできた!!ハルウララ追いつくか!!

 

 

 

エル・スペ「「いけーーー!!」」

 

スカイ「がんばれ、、、ウララ!」

 

 

ウララ「やあぁあああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

3バ身!2バ身!!届くぞ!!届いた!並んだ!ハルウララだ!追いついた!ハルウララ!ハルウララだ!

 

 

 

  ハルウララがまとめて撫で切った!!!

 

 

 

 

スペ「やったー!!勝った!勝ったよ!!」

 

エル「凄い脚でシタ!!やりましたヨ!ウララー!!」

 

グラス「ふふ、、、おめでとうございます。ウララちゃん!」

 

キング「ほら!見なさい!!ウララさんが勝ったわ!!必死で努力すればねぇ!一流にだって勝てるかも知れないのよ!!!!!っっって私は負けないわよ!!?」

 

スカイ「ちょ、ちょっとキング!嬉しいのは分かったけど、言ってる事がめちゃくちゃだよ、、、」

 

 

 

バ群に沈んだと見えたハルウララ!大外に飛び出て全員を撫で切り勝利を掴みました!!!ハルウララ初勝利です!!客席からも多くの声援で会場が揺れています!!!

 

 

悟空「やったな、ウララ。」

 

 

 

 

ウララ「はぁはぁ、、、や、やった?、、、ぃやったぁぁあああ!!!勝った!!一着だ!!ウララが勝ったんだぁ!!!」

 

 

〈血を吐くような練習に耐え、見事勝利を飾ったウララ。

勝ったことを自覚すると、空に拳を掲げ、自分の勝利を叫んだ。

ひとしきり叫んだ所で、客席にいる悟空達の所へ足を運んだ〉

 

 

ウララ「悟空さん!皆!ウララ勝ったよ!!」

 

悟空「おう!見てたぞ!良くやったなウララ!!」

 

キング「スンッ、、おめ、おめでとう、ウララ、さん」グスッ

 

スカイ「え"泣いてるの?まぁおめでと〜ウララ」

 

スペ「おめでと!最後の所凄かったね!!」

 

エル「よく抜け出せましたネ」オメデトウゴザイマス

 

ウララ「悟空さんから、詰まって抜けれなかったら駄目元で外に飛び出せ!って聞いてたからね!

そこからは夢中で走ってたから気がついたらゴールしてたんだー!!」 

 

グラス「お見事でした!おめでとうございます!」

 

 

実況「一着を獲ったハルウララ!客席からウララコールが響き渡ります!!」

 

 

 

ウーラーラ!!!ウーラーラ!!ウーラーラ!!!

 

 

 

キントレ「呼ばれているよ、ウララ。ファンの皆に応えてあげなさい。」

 

ウララ「えへへ、、、うん!!」

 

 

うおぉおお!!ウララーー!!!おめでとー!!ずっと応援してるからねー!!ウーラーラ!!ウーラーラ!!

 

 

実況「見事一着を獲ったハルウララ!

観衆を前にガッツポーズでファンの皆に応えています!

それにしても解説さん!200m付近でもバ群から抜け出せなかったハルウララでしたが、凄い末脚でしたね!!」

 

解説「本当に素晴らしい脚でした!大外に出るのは前がフリーになるというメリットもありますが、その分、他の皆よりも距離が遠くなってしまうというデメリットもありますからね、

そんな事は関係ないと言わんばかりの凄まじい末脚でした!

ただ今回のを見ると適性には"こちら"の方が合っていたって事になるのでしょうか?」

 

実況「そうですね、、ダートの時より体力も末脚もありましたからその可能性はあると思います!

、、、、では!見事勝利したハルウララにはこの後会見していただき、その後でウイニングライブを披露していただきたいと思います!!」

 

 

悟空「ウイニングライス?、、、食いもんか!?」

 

キング「どういう意味よそれ、、ライスじゃなくてライブ!

ウイニングライブは先着3位までに入ると応援してくれたファンの皆に恩返しの意味も込めてステージで歌って踊るのよ」

 

スカイ「そういえば、ウララは一着の時の振りって出来るの?」

 

キング「当然でしょ!ウララさんが今日一着を獲るのは必然!このキングが完璧に出来るようレクチャーしたわ!」

 

スカイ「そういう事ね、、、、それじゃあ私はそろそろ帰りますねぇ〜」

 

エル「あ!エルも帰りマス!キング、良かったらライブは動画に撮って送ってくだサイ!」

 

キントレ「そうなのかい?初勝利を祝ってこの後食事でもと思ったんだけど、、」

 

グラス「いえ、私達は何もお手伝いはしていないので悟空さん達だけでお祝いしてあげてください。

個人的には後日にしますから。」

 

スペ「!!、、、ご飯、、、ブンブン、ウララちゃんには、よろしく言っておいてください!!」シクシク

 

キング「・・・・・・・」

 

キントレ「そうかい?それじゃあ気をつけて帰るんだよ」

 

ハーイ

 

 

〈ウララの勝利を口頭で祝い、ウイニングライブも見ずにそそくさと帰ってしまうスペ達。

キントレは自分達に気を遣ってくれたのかと考えていたが、キングは同期達の目の奥に闘志が燃えているのを見逃さなかった。

去っていく同期達を尻目に自分も似たような目をしているのだろうと実感していた。〉

 

 

悟空(はは!ウララがゴールしたばっかりだってのに、気が高くなってらぁ!!あいつらもやる気だな。)

 

 

キントレ「さて、そろそろ僕はウララと会見に行ってくるよ。」

 

キング「ええ、行ってらっしゃい」

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

ー 会見 ー

 

記者A「まずは初勝利おめでとうございます!」

 

キントレ・ウララ「「ありがとうございます!!」」

 

記者A「ウララさん。今回○戦目にして初勝利を飾りましたが、お気持ちを聞かせてください!」

 

ウララ「えへへ、、、すっっっごく嬉しい!!

ウララねぇ!今日のためにいっぱい練習したんだぁ!!だから勝てて嬉しいの!」

 

記者A「はい!私達も含めファンの皆さんも大変喜ばれていました!ありがとうございます!!

 

では次はトレーナーさんお願いします。

今回のレース、沢山の人も気になっている事だと思います。

いつものレースから大幅な路線変更をしたキッカケなどはありますか?」

 

キントレ「はい。ウララは目標を決めました。

楽しむだけではなく、自分のゴールを決め、そこに向かって走る。

そのためには芝で走る事は絶対だったのです」

 

記者A「目標、ですか。差し支えなければ是非教えてもらっても良いですか?」

 

キントレ「はい、、、、、ウララ、好きな事言って良いよ?」

 

ウララ「ほえ?、、良いの?」

 

キントレ「うん!」

 

ウララ「えっとねぇー!ウララは有馬記念に出るんだぁ!!」

 

記者A「、、、、え?」

 

 

〈ウララの爆弾発言により記者会見のカメラの音まで一時的に止まってしまった。

ウララは自分が言った事の衝撃を知らないため、何で静かになってしまったのか戸惑っている。

キントレは頬を緩め前を向いていた。〉

 

 

記者A「あ、いえ、すみません。有馬記念ですか!?なるほどウララさん程の人気なら確かに出走出来そうですね!

となると、今年で距離も伸ばして来年に挑戦するという事ですか?」

 

キントレ「あ、すみません、色々と言葉足らずでした。

ハルウララは今年の有馬記念に出走し、一着を獲ります!」

 

 

〈キントレの爆弾発言により、今度こそ会見場から音がなくなってしまったが、悟空とキングだけはこっそりと笑っていた。〉

 

 

記者B「こちらから失礼します。ハルウララさんの一着を獲った会見で言うのは失礼に当たりますが、今年の有馬記念で一着となると、、、無謀だと思う事は私だけでは無いと思いますが、、、」

 

キントレ「もちろんそうでしょう。

ですが、無謀でいうなら今日のレースだって無謀の域に入ります。

みなさんはウララの適性が実は芝やマイルと思ってる人もいるとは思いますが、そうじゃありません。

その影には血も滲むような努力をし、夢のため、歯を食いしばりながら今日のレースに向けて合わせてきました。

もう一度言います。ウララは今年の有馬記念で一着を獲ります!!

皆が無謀だと言う事を実現してみせる!、、、ふふ。ワクワクしてきたでしょう?、、、ね!ウララ。」

 

ウララ「うん!ウララ頑張るよ!!」

 

記者B「そうでしたか。批判するような事を言ってしまい申し訳ありません。

ですが!そういう事でしたら私も応援しております!頑張ってください!!」

 

ウララ「うん!ありがとね!!」

 

記者A「コホン、、では次のレースの予定などは何か決めていますか?」

 

キントレ「はい。まずは距離を合わせていくために次は1800mの○○特別、、そして2000mの龍球ステークスに出る予定です。」

 

記者A「龍球ステークスですか、重賞、G3ですね!毎年強者が出走しますが、我々一同!応援してます!!」フンス!

 

キントレ「はい、ありがとうございます!」

 

ウララ「ハルウララ頑張りまぁす!!」

 

記者A「はい!では次はウイニングライブですね!多くの人が楽しみにしております!よろしくお願いします!!」

 

ウララ「はーい!!」エヘヘ

 

 

〈大歓声の中ハルウララが中心のウイニングライブ!

キングから教わった歌やダンスを完璧にこなした。〉

 

 

ウララ「♩♫♪♬〜〜 」フリフリ

 

悟空「へぇ、アイドルっちゅうやつか?じっちゃんが好きそうだな、、」

 

キング「これはウマ娘達の中でも名誉あるものなのよ?、

、、私だってG1で勝って、いつか、、、、、」

 

悟空「、そっか、なら次はおめぇの番だな!」ポン

 

キング「!!そうね。、、ウララさん、、楽しそうで良かったわ。」

 

 

 

〈ウイニングライブも終わり、悟空達はウララの初勝利を祝うため、食事に出かけた。

一方その頃、トレセン学園では負けず嫌い達が奮闘していた〉

 

 

 

ー チームリギル ー

 

エル「はぁはぁ、、グラス!もう一本デス!!」

 

グラス「エル、、、はい!次行きますよ!!」

 

東条トレ「お前達、あまり張り切り過ぎるなよ!!」

 

ハーイ

 

 

エル(あの脚、、、ウララは必ず来ます!)

 

グラス(負けてられません!!)

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

ー チームスピカ ー

 

沖野トレ「、、、おいおい、、スペ、ちょっとやり過ぎだ、、お前はオーバートレーニングになるこの辺で、、」

 

スペ「いえ!もう少しだけやらせてください!!」

 

サイレンススズカ(スズカ)「スペちゃん張り切ってるわね。」

 

スペ「スズカさん、、、ライバルが、、増えたんです。私は負ける訳にはいきません!!」

 

スズカ「ふふ。それじゃあ一回だけ付き合うわ。それが終われば今日は上がりね?」

 

スペ「スズカさんが!?はい!ありがとうございます!」

  (ウララちゃん、皆も、勝つのは私です!)

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

ー とある一室 ー

 

 

とある部屋の机には今日のハルウララのレース動画が繰り返し写っており、その前には白いスペースがない程の文字で埋め尽くされたノートが置いてあった。

 

 

 

???「、、、、壁は早くに当たる方が良いよね〜」ニャハ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガツガツガツガツ、、、ムシャムシャ、、ごくごく、ん、おめぇふぁひ、ふわねぇのふぁ?、、ガツガツ

 

 

キング「いや、あなた食べ過ぎでしょ!?」

 

ウララ「あはは!悟空さんすごーーい!!!」

 

キントレ「は、はは、、、、オグリキャップのトレーナーが言ってた意味を実感したよ」

 

 

 

〈見事勝利を手にし、遠くに有馬の影が見えてきたハルウララ。

次からは少しずつ距離を伸ばし、ライバル達とも戦う時はそこまで来てるぞ!

みんなは友達だけど、それ以前にライバルだ!

栄冠を手にするためウマ娘達は日々練磨し続けるだろう〉



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やるぞ新聞配達! ビジネス悟空、久々の面会


今回、悟空には亀仙人さんと同じ様な事をしてもらいます。表向きはただ働く事ですが、師匠やトレーナーは裏でしっかりと話し合っているのですよ。

修行内容は史上最強の弟子ケンイチという漫画を参考にしてます。(とても面白いです。)


注意
・題名の久々の面会とは、一作目ブロリーの映画でやる面接が一回目なので久々にしました。

・敬語に違和感あったら許してください

・悟空の敬語はあれでいっぱいです。 

・各設定をいじってますが、本来の仕事内容などが異なっている場合、ニ次創作なので大目にみてください


pixivにて11話更新中


〜 前回のあらすじ 〜

 

 

壮絶なトレーニングの末、見事未勝利戦を勝ち取ったウララ。

会見にて有馬記念で一着を獲ると宣言し、注目を多く集めた。

次戦には1800mと距離を伸ばすため、また厳しいトレーニングが始まろうとしている。

 

 

 

 

 

ー 早朝5:30 門前 ー

 

 

悟空「ほっ、ほっ、ほっ、、、、、」

 

 

〈早朝トレーニング、悟空は校内でランニングしていると静かな空気を裂くようなエンジン音が聞こえてきた。〉

 

 

ブォオオォオオ!!

 

 

悟空「お、もうそんな時間か」

 

新聞配達(配達A)「おはようございます!孫さん!」

 

悟空「オッス!相変わらず早ぇな!」

 

配達A「まぁそれが仕事ですからね!孫さんこそ朝からトレーニングとは流石ですね」

 

悟空「まぁな、警備の仕事やウララの修行とかしてっと身体が鈍っちまうからな。

今じゃ朝くれぇしか修行の時間がねぇんだよなぁ」

 

配達A「あはは!でも孫さん、不満を言いながらも嬉しそうな顔してますよ!」

 

悟空「はは!そうけ?確かに強ぇやつに育っていくと嬉しいからな。」

 

配達A「警備員なのに根っこはトレーナー気質ですね。あ、これ今日の新聞です!」ドウゾ

 

悟空「おう、せんきゅー!」

 

配達A「それじゃあ僕はそろそろ行きますね!」

 

悟空「あ!すまねぇ、少し聞きてぇ事があんだけど。」

 

配達A「??どうしました?」

 

悟空「新聞届けんのってココだけか?」

 

配達A「いえいえそんな事ないですよ!区域で分かれているのでその中にトレセン学園が入ってるだけですよ。

中々数もあるので、バイクには乗ってますけど、場所から場所までの距離は近いので車では不向きですけどね、、」

 

悟空「そうか。、、呼び止めてすまねぇな!あんがとな」

 

配達A「いえ!では失礼します!」

 

 

ブォオオォオオ!!

 

 

悟空(数があって、間の距離は近ぇ、、、か。)

 

 

〈こちらの世界に来てから度々配達の人と会い、すっかり世間話をする仲になっていた悟空。

配達のシステムを聞き、少し考え事をしていた。〉

 

 

 

 

 

ー 朝7:00 警備:巡回中 ー

 

 

〈警備の仕事が始まり、悟空はA澤(栄澤)と呼ばれるベテラン警備員と巡回しながら話していた。〉

 

 

栄澤「孫さん。ウララさんの事は聞きましたよ。おめでとうございます!」

 

悟空「頑張ったのはウララだけどな!でもサンキューな」

 

栄澤「記者の方にも有馬記念の事を伝えたようで、これで後には引けなくなってしまいましたか?」

 

悟空「いや。目標をハッキリすんのは大事な事だ。戦う場所や相手は分かりやすい方が良いからな!」

 

栄澤「ふふ、さすがです。戦う事に関してはトレーナー以上ですかね?」

 

悟空「はは!そんなんじゃねぇさ。オラにはこれしか出来ねぇからな。

、、と、栄澤のじっちゃん。聞きてぇ事があんだけどよ」

 

栄澤「良いですよ。どうしました?」

 

悟空「新聞配達ってあんだろ?あれウララと一緒に出来ねぇかな?」

 

栄澤「・・・・・・なるほど。そういう事ですか。」

 

悟空「ん?何か分かったんか?」

 

栄澤「ええ。ウララさんと走りながらするつもりでしょう?言うなれば早朝トレーニングの一環ですかね。」

 

悟空「おお!そうだ、さすがじっちゃんだな!それで出来そうか?」

 

栄澤「うーん、、、正直私では判断しづらいですね。

一般的にはWワーク。2個同時に仕事をするって意味になりますから、学園が許してくれるかどうかによります。

仕事が終わったらたづなさんに聞いてみたらどうでしょう?」

 

悟空「そっか、、ならそうしてみっか。」

 

栄澤「ふふ、それにしても新聞配達をトレーニングとして見るとは斬新なお考えですね。」

 

悟空「そうか?実はな、オラがガキの頃は修行っていうより、今考えると大人の仕事の手伝いをしてたんだ。

工事現場とか、畑仕事とか、そんで牛乳配達とかな!」

 

栄澤「牛乳配達、、なるほど。それで新聞配達ですか。」

 

悟空「ああ。これを生身で全部やってたんだ。」

 

栄澤「なんと!?生身で工事や畑となると凄いですね、、ですがまだ発達していない身体としては、もってこいのトレーニング法ですね。」

 

悟空「だろ?そんで怪我すっとマズイから出来て牛乳配達なんだろうけど、この辺りにはねぇみてぇだからな。」

 

栄澤「新聞配達なら似たようなものですからね。

たづなさんには私からも経緯などは伝えておきますよ。」

 

悟空「ほんとか?はは!すげぇ助かるぞ、ありがとな!」

 

栄澤「いえいえ、私もウララさんの活躍には期待してますからね。何かお困りでしたらいつでも言ってください」

 

悟空「あぁ!そうさせてもらうな!」ニヒッ!

 

 

 

 

 

ー 理事長室 ー

 

 

コンコン・・・

 

 

たづな「・・・・・」

 

やよい「どうぞ!」

 

 

ガチャ

 

 

悟空「おう!失礼すんぞ。、、、、ってたづな!おめぇ何かあったんか!?泣きそうな顔してんぞ!!?」

 

たづな「い、いえ。、入り方を言い続けて、やっと!理想の入り方をしてくれたので、、何やら感慨深くて、」グスン

 

悟空「、、、あんだけ言われりゃいくらオラでもやる時はやんぞ、、、と、栄澤のじっちゃんから聞いてると思うけんど!」

 

たづな「ピクッ・・・・」

 

やよい「ああ!聞いていr「ちょっと待ってください」、たづな?」

 

たづな「遮ってしまってすみません、、、、、、栄澤のじっちゃん?」

 

悟空「げ!!、、、、やっちまった、、、」

 

やよい「、、、、、ハァ」ヤレヤレ

 

たづな「貴方まさか、トレセン学園に昔から尽くしてくれている方を"じっちゃん"呼ばわりしてる訳ではないです、ヨネェ?」

 

悟空「えっと、、そのよぉ、、、、ハハ!」

 

たづな「ハハ!ではありません!!その調子では敬語も使ってないですね!」

 

悟空「だ、だけど、他のやつにはちゃんとしたので話してるぞ、、、」

 

たづな「誰にどう言ったかではありません!!

言われた事をしない方の要望を聞く道理はないです!少し頭を冷やしてきなさい!!」フン

 

悟空「そんなぁ、、、、」

 

 

〈たった一言でたづなを怒らせてしまい、新聞配達の仕事が流れてしまった。

理事長室を後にし、とぼとぼ歩いていると背後から声をかけられた〉

 

 

悟空「・・・・・・はぁ、、こりゃだめなんかなぁ」

 

 

悟空さん!

 

 

悟空「?、、やよいか、どうした?」

 

やよい「憔悴ッ!さすがに落ち込んでいるようだな!」

 

悟空「そりゃあな。、、、確かに言われた事しねぇで、こっちの事を聞いてくれってのは虫がよすぎんな、、」

 

やよい「はは!その事で少し話をせんか?」

 

悟空「??、、あぁ。」

 

 

・・・・・・・・

 

 

やよい「この辺で良いか。」

 

悟空「オラに何かあんのか?」

 

やよい「悟空さん、たづなに謝ってきてくれ」

 

悟空「?、、あぁそりゃもちろん謝るさ。あいつの事も考えねぇで勝手な事ばかり言っちまったんだからな。」

 

やよい「まぁそうだが、そういう意味ではない」

 

悟空「、、、よく分からねぇな。もう少しハッキリ言ってくれ」

 

やよい「たづなは勢いあまって言ってしまったが、後悔して落ち込んでいるんだよ」

 

悟空「なんでたづなが後悔すんだ?あいつがわりぃ訳じゃねぇだろ」

 

やよい「大きな声で言える事じゃないんだが、我々は公平な立場に位置する。

だが、ハルウララが勝利した事を両手を上げて喜んでいたのがたづなだ。」

 

悟空「!!そうか、たづなが、、」

 

やよい「ああ、たづなは言っていた。まずは1勝!ここからだ。出来る事なら自分も手伝ってあげたい!、とな。

だが、賞賛の一言をやる前に怒ってしまって、、今では理事長室の隅で体育座りしている所だな!

たづなも自分が言った手前、折れる事は出来まい!なので悟空さん、悪いと思っているならすぐにでも行ってくれ!、。このまま理事長室にいると鬱陶し、、、、、いや困るしな!!」

 

悟空「そういう事か、分かった!んじゃ行ってくる!教えてくれてありがとな!」

 

やよい「おう!、、、、これも一つの青春、、なのか?」

 

 

〈悟空はたづなの真意を聞き、理事長室に向かって走って行った。

その頃たづなは自分の発言で自分が落ち込んでしまい、理事長室の隅で顔を伏せていた。」

 

 

たづな「ハァ、、、、言い過ぎましたね、、」

 

 

バンっ!!!!

 

 

悟空「たづな!!」

 

たづな「!!?!?ご、悟空さん!!?、、って言ったばかりなのにそんな風に、、入って、、、きて、、、いえ、すみません、先程は言い過ぎてしまいました」ショボン

 

悟空「たづなが謝る事じゃねぇ。おめぇの気持ちも考えずに勝手な事を言ったオラが悪かったんだ。すまねぇ」

 

たづな「いえ!初めて勝った者に対して賞賛の言葉もなく声を荒げてしまった私が悪いんです!!」

 

悟空「そんな事ねぇって!オラが!!」

 

たづな「いえ!わたしです!!」

 

・・・

 

悟空「、、、、はは!お互い同じ事言ってんな」

 

たづな「、、、ほんとですね。」フフ

 

悟空「、、、、悪かったな」

 

たづな「、、、すみませんでした。」

 

悟空「あはは!んじゃこれで仲直りってやつだな!」

 

たづな「大人になったにも関わらず恥ずかしい事をしましたね。、、、ではまず、言わせてください。

悟空さん。ハルウララさんの初勝利おめでとうございます!」

 

悟空「おう!サンキューな!」

 

 

〈悟空とたづなは仲直りをしたところでやっと本題、新聞配達の仕事の件について話をした。〉

 

 

たづな「栄澤さんから聞いてますが、新聞配達をハルウララさんとしたいって事ですよね?」

 

悟空「そうだ。」

 

たづな「ふむ、、理事長とも話したのですが、条件があります。」

 

悟空「出来る事ならやるぞ?」

 

たづな「まず前提に"あちら"さんの方の了承が無ければいけませんが、学園の規則としてWワークは出来ないんですよ」

 

悟空「そっか、、無理だったか」

 

たづな「いえ、ここからがその条件になりまして、仕事ではなくボランティア。つまり、給与は発生しませんが、学園からのボランティア活動としてでしたら認められる事になりました。」

 

悟空「お、ありがてぇ!それでも良いから頼む!」

 

たづな「、、、お金は出ませんよ?」

 

悟空「おう、そんなんいらねぇよ。ウララにはたまにオラから褒美はやるからよ!」

 

たづな「不思議な方ですね。知ってますけど、、、ちょっと待っててください」

 

 

もしもし、先程の、、、、、はい!ありがとうございます、、、、、はい。ではすぐに、、、、、、ではお願いします!!

 

 

 

たづな「では行きますよ」

 

悟空「、、、どこにだ?」

 

たづな「その配達さんの所ですよ。アポイントは取りましたので、直々に交渉をしに行くんです。」

 

悟空「おめぇ、、、、はは!んじゃ行くか!」

 

 

〈ボランティア活動として学園側から許可を得た悟空。

今度は相手側からの許可を得るため、悟空とたづなは相手事務所へと向かう〉

 

 

ー 新聞配達事務所 ー

 

 

たづな「失礼致します。先程ご連絡いたしました、日本ウマ娘トレーニングセンター学園のたづなの申しますが、○○さんはいらっしゃいますか?」

事務員A「はい!話は伺っております。こちらにどうぞ」

 

 

〈事務員の1人にとある一室に案内され、悟空とたづなは座って待っていると社長らしき人が現れた〉

 

 

社長「遅くなり申し訳ない。」

 

たづな「いえ、こちらこそ急な話を受け入れていただきありがとうございます。私は駿川たづなと言います。そしてこちらの方が、、、」ホラ

 

悟空「!!あ、お、俺は孫悟空、、と言います。」

 

社長「孫悟空?、、、君が孫さんか!」

 

たづな「知っているのですか?」

 

社長「ああ。トレセン学園区域の配達Aを知っているね?その子がよく君の事を話すんだよ。

朝に良くトレーニングをしているとね!」

 

悟空「はい。、、、よく、話しています」

 

たづな「そうでしたか。配達Aさんの事は私も伺っております。毎日新聞届けていただきありがとうございます」

 

社長「あはは!それが仕事だからね。

それじゃあ、電話で聞いた事だけど、、、」

 

たづな「はい。その件につきましては孫さんから説明させていただきます。」 

 

悟空「!!!?オラが言うんか?」ヒソ

 

たづな「悟空さんがやると言ったではありませんか」ヒソソ

 

悟空「いやそうだけど、よぉ、、」ヒソソーン

 

たづな「本気の行動には本気の言葉を、、ですよ」ヒソヒソ

 

悟空「・・・ヴヴン、、はい。俺が一緒に修行をしているウマ娘と一緒に新聞配達をしたいと思っています」

 

社長「ほう。ウマ娘と一緒にと言う事は、走りながら配るという事かい?」

 

悟空「はい、そうすると朝の修行になるから良いと思って、です」

 

社長「なるほどね、孫さんは警備の方、ウマ娘は学生さんだからボランティアでやるという事だね。」

 

たづな「はい。そうです。」

 

社長「、、、トレセン学園からとなると信用性もあるが、警備さんとウマ娘さんが走りながらとなるとねぇ、、責任感に欠けてると思わないかい?

こちらとしては不安でしかないよ」

 

たづな「おっしゃる事はご尤もです。ですが、、」

 

悟空「いやたづな、オラから話す」

 

たづな「!!!わかりました」

 

悟空「社長さん、無理を言ってるのは分かってる。だけど遊び半分で言ってる訳じゃねぇ。

オラも小さい頃は牛乳配達とかして辛ぇ事は分かってるんだ。

ウララはこれから負けられねぇ戦いをする。少しでも修行になる事はやらせてやりてぇんだ。

だから頼む!オラにも仕事を任せてくr.、、ください!」

 

たづな「・・・お願いします。」

 

 

〈悟空の必死な言葉にたづなと2人で頭を下げる。すると社長から息の漏れる様な音が聞こえてきた〉

 

 

?????

 

社長「ぷ、、ふふ、、あははは!いやぁすまないね。配達Aから情熱的な漢と聞いていたから、、つい、、ね!」

 

悟空「???どういうことだ?」

 

たづな「???」

 

社長「だからね、配達Aからハルウララさんをトレーニングしているとか、自身も鍛錬積んでるとか、熱血的って聞いてたけど、いざ話してみたら物静かというよりはあまり話さなかったからね。

本気の言葉には本気の行動ってとこかな?

それにその話し方が本来のやり方なんだろ?じゃあこれからもその話し方で良いよ。

その方が僕もやりやすいからね」

 

悟空「、、フゥ、試したんか、、人が悪ぃぞ、、、」

 

たづな「という事は、、お手伝いさせていただく。という事で良いのですか?」

 

社長「ああ良いよ!僕もウララちゃんのファンだからね!それで期間や週何回くらいが希望だい?」

 

たづな「今年いっぱいで週には3.4回程度。です」

 

社長「うん、分かった。じゃあこの書類は書いてもらうけど、明日からでも平気かい?」

 

悟空「そんなすぐで良いんか?願ったりだ!」ハハ!

 

社長「うん!じゃあこれからはよろしく頼むよ?」

 

悟空「ああ!こっちこそよろしく頼む」

 

たづな「よろしくお願いします!、、、と、すみません、ウララを孫さんが見ているのはどうか内密にお願いします。」

 

社長「あはは!それも聞いているよ。大丈夫!

それじゃあこの書類たちだね」

 

たづな「はい!」

 

 

〈何となくで社長から試されてしまった悟空とたづな。

無事に新聞配達をさせてもらう事が出来る様になった。数々の書類を書き、事務所から出たとこで悟空が笑顔になっている事に気づく〉

 

 

たづな「ふふ、そんなに嬉しかったですか?」

 

悟空「ん?」

 

たづな「悟空さんの顔、嬉しそうですよ?」

 

悟空「あぁ、ウララのやつにも修行が増えるんだ。強くなんのは嬉しいけど、これはそうじゃねぇな。

、、、オラの小せぇ時に似たような事をしてたんだけどよぉ」

 

たづな「えぇ、栄澤さんから聞いてますよ、工事や畑とかさっきも言ってた牛乳配達ですね?」

 

悟空「そうだ。その時は何も考えずにやってたんだけど、働く前にこうやって亀仙人のじっちゃんが話してくれていたって思うと、オラももう師匠の立場なんだなって思ってな。」

 

たづな「亀仙人、、、お師匠さんですか?」

 

悟空「そうだぞ。そのおかげで強くなってこれたんだ」

 

たづな「ふふ、凄い方なんですね。」

 

悟空「ああ!めっちゃすげぇぞ。、、ちょっとスケベだけどな」ニヒヒッ

 

たづな「すけっ!!、、そこは似なくて良かったです」///

 

悟空「??そうけ?」

 

 

〈超特急で配達の仕事を出来る様になった日の放課後。

ウララはいつも通り、グラウンドで叫んでいた。」

 

 

あぁあああぁああぁあ!!!!!!!

 

 

キング「ねぇ、トレーナー、、ウララさん昨日勝ったのよね?」

 

キントレ「そうだねぇ」

 

キング「ウマ娘って脚を使って走る、、よね?」

 

キントレ「そうだねぇ」

 

キング「なんでウララさんは手押し車で爆走してるのよ、ターフを手で走ってるウマ娘なんて初めて見たわ」

 

キントレ「そうだねぇ」

 

キング「、、、あなたは今回そればかりね」

 

キントレ「そうだn」

 

 

 

 

あ"あ"あ"ぁああぁああ!!

 

 

ウララ「ご!ご!ごく、うさん!!無理!もう無理!!」

 

悟空「ウララ!集中しろ!油断すると怪我すんぞ!!」

 

ウララ「違っうよ!悟空さんの押すのが速いんだよ!!」

 

 

〈ターフを爆走する正体とは、悟空がウララの両足を持ち腕の力だけで走る手押し車と呼ばれるものだ。ただそのスピードが異常だった。〉

 

 

悟空「おめぇはまだ全体の力が弱え!昨日のレースで一回当たり負けしてたろ!見てたぞ!!」

 

ウララ「え"!?わ、分かっちゃったのぉ!、、言われなかったから!!バレないと!思ったのに〜〜〜!!!」

 

悟空「昨日の疲労もあるから今日は上半身だけだ!頑張れウララ!!」

 

ウララ「ひぃぃいぃ!!!」

 

 

・・・・・・・・

 

 

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、、、、

 

 

悟空「おう、お疲れさん。」

 

ウララ「はぁ、ひぃぃ!も、もうだめ、だよ。今日は終わり、かな?」

 

悟空「ん?ああ今日はもう終わりだ」

 

ウララ「、、、え!終わり?もうやめるの!?」

 

悟空「なんでそこでおめぇが驚くんだ、、、けど、終わりだな。今日は帰ってゆっくり休め」

 

ウララ「な、んか、、、こわいかも」

 

悟空「なんでだ?まぁ、ちょっと待てよ、、と、来たな」

 

キントレ「悟空さん?何かありましたか?」

 

キング「何で私まで?」

 

悟空「これからする事を聞いてもらいてぇのと、キングはウララの同室だからな!」

 

 

????

 

 

悟空「ウララ!明日から一緒に新聞配達の仕事すんぞ!」

 

 

、、、、えぇええぇええええっっっ!!!!!

 

 

 

 

〈爆弾発言しかしないこの男に毎度の事ながら驚く一同。

これから辛いのはビジネスマナーを身に付ける悟空か、朝早く起きるウララか、朝早く起こすキングか、、、、辛いのは皆一緒!頑張って強くなんぞ!!!〉オー

 

 

 

 

 

 

たづな「悟空さん。これからは人によりますが今まで通りの話し方で良いですよ。」

 

悟空「!!良いんか?」

 

たづな「はい。栄澤さんも喜んではいたので、止める方が失礼になるのかも知れません。ただ人だけはしっかりと見てくださいね!」

 

悟空「おお!」



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仕事×修行=とても疲れる




注意
・新聞配達はもっと早いですが、ウマ娘の体に支障が出るのでこの時間帯にしてます。

・独自解釈有り。矛盾点があれば教えてください。それ以外は流してください


pixivにて12話更新中



〜 前回のあらすじ 〜

 

 

日頃見かける新聞配達を昔に亀仙人の所で修行をしていた牛乳配達に見立て、ウララと共に新聞配達の仕事をやろうと決意する

だが、もうそれは大人の世界。悟空はたづなに手伝ってもらい、辿々しくも配達の仕事を任せてもらえるようになった。

 

 

 

 

 

ー 朝4:10分 門前 ー

 

 

・・

 

 

・・・

 

 

・・・・

 

 

・・・・・・こねぇ

 

 

悟空「あと5分か、、、あいつ起きてんのか?キングには頼んだけど、1回目から遅れんのはさすがにまじぃな、、怒られるかもしんねぇけど、、"シュン!"」

 

 

〈事務所には4時半集合なので学園の門に4時15分に待ち合わせをしたが、5分前になろうともウララの姿は見えず、遅刻するよりはましだと思い、ウララ達の部屋へ瞬間移動をした〉

 

 

 

ー キング・ウララ部屋 ー  

 

 

キング「ほら、ウララさん!これ着なさい。そしてパンを咥えて、、、寝ないの!!遅刻するわよ!?」

 

ウララ「うーーん、、、眠いよぉ〜」

 

 

"シュン!"

 

 

悟空「あー!やっぱり寝てたかぁ!!」

 

キング「!!悟空さん。乙女の寝室に無断で入るのはデリカシーが無さすぎるわよ!」

 

悟空「オッス、キング!すまねぇ。今回だけ許してくれ、ほらウララ!目ぇ覚ませ。」

 

ウララ「うん、、、、、うん、、」

 

キング「さっきからこの調子なのよ、、、身支度は整えたのだけど」

 

悟空「格好が出来てんならオラが背負って連れてってやる。行く途中で目も覚めんだろ。」

 

キング「って!あなたどこから出るつもり!?寮はウマ娘以外立ち入り禁止なのよ?瞬間移動しようにもする相手がいないじゃない、、、」

 

悟空「いや窓から飛んでいく。他のやつにもバレねぇようにすっから心配ぇすんな。そんじゃあな!」フワァ、、ビュン!

 

キング「と!飛んだ!?、、、って空くらい飛んでもおかしくないわね。私もいつか乗せてもらおうかしら。

、、、ふぁぁ、はふぅ、、寝ましょ。」

 

 

〈悟空はまだ寝ているであろうウララを強引に担ぎ、部屋から飛んでいってしまった。

初めて飛ぶ所を見たキングだが、眠気のせいか飛べない事の方が変だと思い、また眠りについていった。〉

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

〈悟空はウララを背に人目にはつかない上空を飛んでいた。最近は暖かくなってきたとはいえまだ朝方、それも上空にもなると、気温は下がっていた。」

 

 

うぅぅうぅ、、クシュン!!

 

悟空「お、起きたか?」

 

ウララ「ん、悟空さん、、え、えぇえぇぇええええ!!!何でお空にいるの!?飛行機!!?ウララ落ちちゃってるのぉ!!!?」

 

悟空「お!、、とっとっと、、少し落ち着けよウララ。時間なのにおめぇがまだ寝てっから連れてきたんだ。出る所がねぇから窓からだけどな!」

 

ウララ「窓って、、って飛んでるの!?悟空さん飛べたんだね。それに時間って、、くしゅん!!」

 

悟空「だから落ち着けってのに、、ったく、、そら!"ポワァァ"」

 

ウララ「ふぇ?、、あ、なんか凄く暖かい、、」

 

悟空「だろ?オラの気を使ってんだ。、と、話は後だな。ウララ、今日何をするつもりか忘れてねぇな?」

 

ウララ「うん!新聞配るお仕事だよね!!」

 

悟空「そうだ!オラ達の場合は修行も兼ねて走りながらする。んでもって大人達の仕事にもなるんだ。挨拶はしっかりするんだぞ?」

 

ウララ「はーい!」

 

悟空「おし!良い返事だ。んじゃそろそろ降りんぞ!」

 

 

 

ー 配達事務所 ー

 

 

悟空「おっs、、おはようございます!」

 

ウララ「おはよーございます!!」

 

ア、オハヨー

ウララチャンダ

ホントダ.カワイ-

 

 

配達A「あ、孫さん!おはようございます。話は聞きましたよ〜。」

 

悟空「おぉ、これからよろしくな!」

 

配達A「はい!ウララちゃんも頑張ってね。」

 

ウララ「はい!ありがとーございます!」

 

 

〈時間通りに事務所に着き、配達Aとも挨拶を交わした所で社長が現れた〉

 

 

社長「孫さん、ウララちゃんも時間通りだね。」オハヨウ

 

悟空「、、はい、今日からよろしくお願いします!」オハヨウゴザイマス

 

ウララ「お願いします!」ゴザイマス

 

社長「うん、よろしく!、、孫さん、普通の話し方で良いって言ったのに。」

 

悟空「あ、そうだったな。、、、ウララ、オラはいつも通り喋っけど、おめぇはちゃんとしなきゃ駄目だかんな」ボソボソ

 

ウララ「うん、分かってるよ」ヒソ

 

社長「それじゃあこっちの部屋に来て。地図と材料配るから、早速始めてもらうよ!」

 

ウララ「はい!」

 

・・・・・・・・・

 

 

社長「それじゃあこの区域ね。新聞は早く欲しい人が多いから早いことに越した事はない。5時半か遅くても6時までには配りきるようにね」

 

悟空「地図がこれで、印がある所だけだな、、ウララ!早速行くぞー!」

 

ウララ「うん!あ、はい!!」

 

社長「ははは!元気が良いねぇ。じゃあよろしくね」

 

 

悟空・ウララ「「はい!」」

 

 

 

 

タッタッタッタッタッッ

 

 

悟空「ここと、次そこ、それにそっちの方か、、」

 

ウララ「はぁ、はぁ、はぁ、、、悟空、さん、、後どれくらいなの?」

 

悟空「まだ半分くれぇだな。」

 

ウララ「え"ま、まだ半分!?」

 

悟空「あぁ、それに休む事は出来ねぇ。ウララ、これは辛くても走らなきゃならねぇ意味があんだ。頑張れるな?」

 

ウララ「そうだよね、、、、新聞を待ってる人がいるんだから届けてあげないと駄目だよね!」

 

悟空「そうだな。、、後半分!気張って行くぞォ!」オー

 

ウララ「おー!!」

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

悟空「お!この家が最後みてぇだな。」

 

ウララ「ほんと!?ぃやったぁぁ!初お仕事大成功だね」

 

 

〈少し時間はかかったが、ようやく最後の一件になった。悟空がポストに新聞を入れようとする時、玄関が開き女性がまだ眠そうな顔をして出てきた」

 

 

、、、ガチャ!

 

 

女性A「、、あら、おはよう毎朝ご苦労様。」

 

悟空「オッス!」

 

ウララ「おはよーございます!」

 

女性A「あなたは、、、ウマ娘さん?」

 

ウララ「うん!、、じゃなくて、、はい!!ハルウララって言います!」

 

悟空「トレセン学園からボランティアっちゅうのでオラ達がやってんだ」

 

女性A「なるほどね、、それにハルウララさん、ね。主人がいつも応援してるから知ってるわ。貴方だったのね」

 

ウララ「えぇ!ほんと!!?」

 

女性A「ほんとよ。昔からずっと応援していてね。最近方向性を変えたけど、この前のレースが凄かった!って口を開けば言ってるのよ」フフ

 

ウララ「えへへ、、はは!嬉しいなぁ!!ありがとーございます!!」

 

女性A「それじゃあ貴方はそのトレーナーさんって事なの?一緒に走るって凄いわね。ウマ娘さんってとても速いのでしょう?」

 

悟空「まぁな。だけどオラも鍛えてっから全然平気だ!」

 

女性A「そうなのね。、、、あ、ちょっと待っててね」

 

 

〈女性はそう言って家の中に入ってしまった。悟空達は待っててと言われたのでそのまま居ると、女性が手にカップを持って戻ってきた」

 

 

女性A「おまたせ。はい!最近でも朝はまだ寒いからね。紙コップで悪いのだけど、コンポタージュでも飲んでいってよ」

 

ウララ「良いの!?、あ、、、、チラッ」

 

悟空「お、すまねぇな!こっちが渡す方だってのに貰っちまって!ウララ、貰って行こうぜ!これで最後だし、時間もまだあるしな!!」ニヒ

 

ウララ「パアッ!!、、、、うん!!」

 

 

〈まだ音もしない静かな早朝。女性から飲み物を貰い悟空達はその場で話をしながら暖かいひと時を過ごした〉

 

 

悟空「はは!ゆっくりし過ぎちまったな。そろそろ行くぞウララ。、、ジュースあんがとな!ごっそさん!」ニカッ!

 

ウララ「うん、行こっか!、、ご馳走様でした。ありがとねお姉さん!」ニコッ!

 

女性A「ええ。今度は主人と一緒にレースを見に行くわ。頑張ってね」

 

ウララ「うん!ウララ絶対勝つからね!!それじゃあねぇー」

 

 

〈時間が近づいてきてしまって、悟空とウララはお礼を言って早々に行ってしまった。

女性は朝から2人の屈託の無い純粋な笑顔を見て晴れやかな気持ちになっていた〉

 

 

女性A「ハルウララさんとトレーナーさん、ね。

ふふ、、レースの動画とか残ってないかしら。」

 

 

 

 

 

 

 

 

悟空「っああ!いけねぇ!!ついいつも通りに喋っちまってたな、、、、」

 

ウララ「ほんとだ、、普通過ぎて何も思わなかったよ。」

 

悟空「ウララ。この事は"シー"だな。」

 

ウララ「うん。'しー'だね。」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

ー 事務所 ー

 

悟空「失礼しまぁす!終わったぞ。」

 

社長「お疲れ様。問題はなかったかい?」

 

悟空「あぁ。こんくれぇなら時間も十分にあるし、どうって事なかったぞ!」

 

社長「そう?ウララちゃんはどうだった?お仕事は?」

 

ウララ「え、っと、とても楽しかったよ、、です!」ニコッ

 

社長「そうか!そうか!それなら良かったよ。じゃあ今年いっぱい。よろしく頼むよ!」

 

悟空「おう!」

 

ウララ「はい!」

 

 

〈悟空達は仕事が終わり、午前6時。まだ今日は始まったばかりだった〉

 

 

ウララ「う〜〜ん!!っっはぁあ!なんだか頭がスッキリした感じがするよ!悟空さん、このまま朝のトレーニングでもしない?」

 

悟空「お?おめぇから言ってくんのは珍しいな。オラも今日は仕事ねぇからな。、おし!んじゃいっちょやっか!」

 

ウララ「おー!」

 

 

〈たっぷりと時間が空いてしまった朝6時。悟空達はトレーニングを始め、学園までランニングで戻り、筋肉トレーニングや柔軟体操。基礎となる運動を主にやっていると午前7時。他のウマ娘もトレーニングを始めたり、早い者は校舎に入ったりしてるが、、、」

 

 

悟空「・・・・結局こうなっちまったか、、、」

 

ウララ「んにゃむにゃ、、、クークー、、、」zzz

 

悟空「まだ時間あるとはいえ学校も始まっちまうし、、まずはキングだな。"シュン!"」

 

 

 

 

ー 寮内 キング・ウララ部屋

 

 

キング「・・・・結局こうなるのよねぇ、、、」

 

悟空「、、、面目ねぇ」

 

ウララ「グーグー、、、ニヘヘ、、ムニャ、、」zzz

 

キング「、、ふぅ。まぁなってしまったものはしょうがないわね。それよりお仕事はどうだったの?」

 

悟空「そっちは問題なく終わったぞ!ウララも途中から持ち直したみてぇで、へこたれる事なく出来たからな。ただ初日の後に修行したのが効いたのかも知れねぇな。」

 

キング「'かも'ではなくそれが原因なのは間違いないでしょうね。でもこれからどうしましょうか。

私は用事があるから出なくてはいけないし、、そうだ!」

 

悟空「お!何か思いついたんか?」

 

キング「ええ!とびっきり良い案よ!」

 

悟空「おお!それは何だ?」

 

キング「スカイさんの部屋に連れて行きましょう。」

 

悟空「へ?、、、スカイの所にか?」

 

キング「そうよ。あの人は1人部屋だし、それにあの人は、寝ぼすけさんだけどウララさんの事はちゃんと見てくれるはずよ!、、、多分」

 

悟空「おめぇ、、、何か最近適当になってきたか?」

 

キング「元々は貴方が厄介事しか持ってこないからでしょう!!いいからスカイさんの所にウララさんを連れて行ってちょうだい。

、、、あ!スカイさんが分かりやすいように手紙書くからちょっと待ってね。」

 

悟空「おぉ、、、まぁオラ達にはどうしようもねぇし、スカイに任せるか。」

 

 

〈もはやオープン過ぎる性格になってしまったキングの案により、寝ているウララはスカイの所で寝かせる事になった。

悟空は瞬間移動でスカイの部屋にきたが、スカイにとってはまだ早い時間なので、まだグッスリと寝ていた。〉

 

 

スカイ「、、、クー、、、、、、クー、、、」

 

悟空「、、、こいつ生きてるよな。まぁいいや。ちょうど横が空いてるし、ウララを突っ込んでっと。

こんなもんか。んじゃスカイ!悪ぃけど後よろしくな"シュン!"」

 

 

〈悟空はスカイに気づかれないようにウララを布団の中に入りこませ、そそくさと出て行ってしまった。

ウララは身近に暖かい物が存在し、体が求めるようにスカイに抱きつき、スカイもまた受け入れていた。

 

 

 

そこから数時間後。寮内に叫び声が響き渡った」

 

 

 

 

 

ー 授業開始まで後5分 ー

 

ガヤガヤ ガヤガヤ

 

 

スペ「あ!やっと来たぁ!セイちゃんもう少しで授業始まっちゃう、、って何でウララちゃんおんぶしてるの!?」

 

スカイ「やっほ〜。何でかって?そこにいる我らの我儘女王様から何か聞いてないかなぁ〜?」

 

キング「あら?我らの女王様って、、、ふふ。あなたも口が上手くなったわね。少し照れるわ」

 

スカイ「違うし!真顔で何言ってんのさ!こっちは朝から心臓が飛び出るくらいビックリしたんだよ!?

起きたら1人部屋なのにもう1人いるし!すぐ近くに顔があるし!紙が置いてあるって思ったら"ちゃお♡"しか書いてないし!!ふざけ過ぎでしょ!

何!?"ちゃお♡"って!!ウララは何があってこうなったの!!?

なんでキングはキングなの!!!?」

 

 

 

 

キング「・・・・・スカイさん。」

 

スカイ「・・・・・なにさ。」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・授業が始まるわ

 

 

 

 

   知ってるよ!!!!

 

 

 

 

スカイ「はぁ、後で聞かせてもらうからね。、、ほら、ウララも寝ぼけてないで、目覚まして。」

 

ウララ「うにゃ?、、、むぅ、、、ん、、んー!?なんでセイちゃんにおんぶされてるの?」

 

スカイ「ごめん、、、私も分かんない」

 

 

 

〈授業が終わり合間の時間。朝の事件の真相を聞こうと、お馴染みメンバーがキングの机に集まっていた〉

 

 

スカイ「んじゃ、サクサクっと説明してもらうよ。」

 

グラス「とんでもない事には悟空さんが関わってそうな感じがしますね。」

 

スペ「んー、私もそう思うかな。」

 

キング「えぇ。その通りよ。」

 

スカイ「うん!知ってた!寮が違うのにウララがいるって悟空さんが瞬間移動か何かで連れてきたんだろうけど、それの経緯を聞いてるの!!」

 

キング「ほら。ウララさん新聞配達の仕事始めたでしょ?朝からウララさん張り切ったみたいで、体力が尽きてしまったみたいなの。私も用事があったし、悟空さんもずっとウララさんと一緒って訳にはいかないから、、、模索した結果こうなったわ」

 

スカイ「色々と言いたい事あるけど、新聞配達って何?」

 

キング「え!?、、言ってなかったかしら。悟空さんと一緒に朝のトレーニングとして、新聞配達の仕事を任せて貰ってるのよ。もちろん走って配ってるみたいね」

 

エル「朝から、、、デスか。凄いデスね。」

 

グラス「凄いっていうよりはちょっとオーバーな気がしますが、、、」

 

キング「そこは問題ないわ。悟空さんって信じられないような人だけど、とんでもない育成能力よ。

私に対してもそうだけど、ウララさん自身の限界を把握してるからギリギリまでやっても怪我しないし、おまけにその後の整体マッサージよ。あれは筋肉の疲労とかは分散するから一度やってもらうと癖になるわよ。

まぁ他にも色々あるけど、ウララさんに限ってオーバートレーニングになるっていう事はないと保証できるわね」

 

グラス「そんな事が、、確かに身体付きを見るだけで大体分かるって言ってましたから応用も自由に出来るのでしょうね。」

 

エル「ケー、、、!!!エルも!エルもトレーニング見てもらえマセンかね?」

 

キング「んー、、、それはやめた方がいいわね。エルさんとかはチームに、、それもあのリギルに入っている。

関係ないトレーナーにトレーニングを見てもらうのはリスクしかないわね。」

 

エル「あ、、そうデスよね、、、、」ショボン

 

キング「・・・・ま、あの人の事だから遊ぼうとか言ったらトレーニングもどきにはなるんじゃないかしら。ウララさんも鬼ごっことかしてたし。」

 

エル「!!その手がありマシタか!ありがとうございマス!キング!!」

 

グラス「・・・エル。その時は私も呼んでくださいね。」

 

スペ「えー!ずるいよ!!私も絶対に呼んでよね!!」エー

 

エル「もっちろーんデース!!」

 

スカイ「・・・・・ね。内容と原因は理解したんだけどさぁ」

 

キング「???」

 

スカイ「何で私の部屋なの?」

 

キング「??、、、、あ。、、1人部屋だから」

 

スカイ「いやそれなら自分の部屋で良かったんじゃない?ウララだって子供じゃないんだし。」

 

キング「・・・・だって貴方、この前私との併走ブッチしたじゃない、、、」

 

スカイ「え!?この前って、2ヶ月前くらいのやつ!?いや確かに私が悪かったけど謝ったし、それの仕返しでやったの!!?」

 

キング「、、、、、、、」コクン

 

スカイ「そう。、、、、今日の練習。そっちにいくから」

 

 

!!!?!?

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

ー 放課後・グラウンド ー

 

 

キング「やっと来たわね。」

 

ウララ「おーい!遅いよぉ悟空さーん!!」

 

悟空「いやーすまねぇな。たづなと話ししてたらつい遅れちまった!

今日はキングの事も任されてんだったな!張り切って行くぞーー、、ん?スカイ、何でおめぇがいんだ?」

 

スカイ「私がいるのがそんなにおかしいですか?悟空さん」

 

悟空「いや、おかしいってよりは初めてだしな、、それにおめぇ何か怒ってねぇか?」

 

スカイ「えぇそりゃ怒ってますよ?怒ってるに決まってるでしょう?何か言う事あるんじゃないんですか〜?」

 

悟空「い"い"ッッ!、、怒ってんのか、、、おい、キング何か知ってっか?ヒソヒソ」

 

キング「ほら。朝のあれよ。ウララさんを勝手に寝かせたやつよ」

 

悟空「ああ、あれか!すまねぇなぁ!オラ達じゃあ出来ることが限られててよぉ。ついおめぇに丸投げしちまった」ハハッ

 

スカイ「っくぅーーーっっっ!!こうもアッサリ言われると何も言えない!!!」

 

キング「よく分かるわ」

 

悟空「それでおめぇはどうしたんだ?一緒に、、ってのは確かダメだったな、、、??」

 

キング「いえ、スカイさんはチームではないから許可さえ取れば問題ない筈だけど、一緒にするつもりだったの?」

 

スカイ「いえいえ私は今日、お休みなので見学でもさせてもらおうと思いまして。なので私の事は気にしないでください」ニャハ

 

悟空「そうか?なら早速始めるか!!」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

ー セイウンスカイ:独白 ー

 

さてさて、お手並み拝見とさせてもらおうかなって高を括ってたのは間違いだったかな。

筋トレは普通、、いや甲羅は背負ってたけど、あまり珍しい事はしてなかった、、だけど何あれ?併走なの?

悟空さん速過ぎない?多分キングとウララの差す能力を高めるようなトレーニングなんだろうだけど、抜かれた後に抜き返すって何?私の方が勝ってるけど、キングとだってクビ差くらいだし、ウララに至っては遅れてるけどそこまで離されてないし、ここまで成長するもんなの?

 

 

 

ウララ!!おめぇは届かねぇからって力抜き過ぎだ!最後まで力を出し切れ!!

 

キング!おめぇはオラを抜いてから満足しちまってる。スピードが伸びきってねぇぞ!甘ったれんな!!

 

 

 はい!!       分かってるわよ!!

 

 

 

 

、、、、怒られてるし、いや怒ってはないか。そりゃこんなの日々やってれば強くもなりますよ〜、、私も負けてられないなぁ。

それにしても亀の甲羅背負ってるんだよね。凄く力は付くんだろうけどあれをやれって言われたらちょっと悩むなぁ、、キングは良くやってるよ。

 

 

あ、併走は終わったのかな。

 

 

    

    ー 独白終了 ー

 

 

 

悟空「んじゃ15分くれぇ休憩な。後は考えてる事があっからそれやるつもりだ。それまでゆっくりしてろよ」

 

 

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、

 

 

スカイ「いやぁ、お疲れ様。思った以上にキツそうだったね〜」

 

キング「ハァ、ハァ、キツそうじゃ、なく、て、キツイのよ」

 

ウララ「ハァハァ、ゴホッゴホッ、あ"ぁ"も、だめ。」

 

キング「ッッ!!しっかりなさいウララさん!寝たら死ぬわよ!!」

 

ウララ「キング、、ちゃん、でも、ハァハァ、、わたし、、」

 

スカイ「いやさすがに死なないよね。少し見ない間に演技派になったねぇキング。」

 

キング「、、、、素でそういう事言うのやめてくれるかしら」

 

スカイ「にゃは」

 

ウララ「いや、、ウララ、結構ピンチ、、、だよ。」フゥゥ

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

悟空「そろそろ時間だな。んじゃ次にやる事説明をすっけど、、、、スカイ!」

 

スカイ「?なんですか。」?

 

悟空「ここからはおめぇも入れ。おめぇ達ウマ娘からしたら損はねぇ事だからよ!」

 

スカイ「???うん。それじゃあ、、、」

 

キング「何をするつもりなの?」

 

悟空「まずは確認だけんど、おめぇ達ウマ娘は人よりも感覚が鋭いらしいな」

 

キング「え、えぇ。感覚もそうだけど、力なんかも人よりは優れているわね。、、、あなたは別だけど。」

 

悟空「まぁオラは地球人じゃねぇしな。それに力の事ならさすがにもう分かってっさ。今回やんのは力じゃねぇ。その感覚の方だ。」

 

ウララ「んーー感覚を、、きたえるの?」

 

悟空「そうだ。そっち教えんのがオラ向きだと思うしな」

 

スカイ「でもその感覚を鍛えたらどうなるの?あまり必要じゃない気するけど、、」

 

悟空「いや、この前レースを目の前で見てハッキリ分かった。おめぇ達はレース中、前後左右、全部に気を配らなきゃならねぇ。けど大体の奴らは"耳"と"目"でしか周りを見てねぇんだ。」

 

ウララ「???当たり前じゃないの?」

 

キング「他になにで把握しろって言うのよ。」

 

スカイ「・・・・・それが感覚を鍛えるって事?」

 

悟空「あぁ、スカイの言う通りだ。例えば、前しか見てない時でも、後ろから追い上げてくる奴。バ群にハマった時、誰がどう動くかとか分かったらやりやすいだろ?

、、、まぁ試しにやってみっか、、、オラが後ろ向いてるからウララ。好きなポーズしてみろ。」

 

ウララ「うぇ!?いきなりポーズって言われても、、、こう?」

 

スカイ(ブッ!、、、グリコポーズ、、チョイスが)ププッ

 

キング(こんなの誰が分かるのよ。後ろに目がついてる訳じゃあるまいし)

 

悟空「んーー?おめぇ変なポーズしてんな。両手上げて片足も上げてんな。」

 

 

!!!??!!?

 

 

ウララ「・・・・・へ?」ポカーン

 

キング「う、嘘でしょ!?」

 

スカイ「、、、、、まじで?」

 

悟空「へへーん!当たってたろ?まぁここまでは出来ねぇだろうけど、軽く知っとくだけでも良い事だと思うぞ?」

 

 

!!!!!、、、よろしくお願いします!!

 

 

悟空「お、おう。はは!んじゃまずはおめぇ達これで目隠しをするんだ」

 

キング「ハンカチね。」

 

スカイ「うぇぇ。何か落ち着かないなぁ、、、」

 

ウララ「出来たよー!!」

 

悟空「おし、んじゃオラの体に鈴を付けたから、その状態でオラをタッチ出来たら成功だ!」

 

キング「タッチってこれじゃあ何も見えないわよ!?」

 

悟空「そりゃそういう修行ってさっき言ったろ?。自分の持ってる感覚を全部使うんだ。でも最初は音だけに集中したら良い。鈴の音はもちろん、足音や息遣い。ちょっとずつだからな!」

 

スカイ「うーん色々と怖いね。ぶつかっちゃいそうだし」

 

悟空「その事なら心配ぇすんな!オラがぶつかりそうだったり、転びそうなったら助けてやっから!

ほら、おめぇらがウダウダ言ってるうちにウララは動き出してっぞ?」

 

ウララ「あー!一番にタッチして驚かせようと思ったのにぃ!!」

 

キング「!、、一番はキングって決まってるのよ!!」

 

スカイ「そういう事ならセイちゃんも頑張っちゃおっかなぁ!」

 

 

 

 

〈そこからは想像以上の地味でキツい悟空ならではの修行が始まった。

最初は皆、恐怖からか一歩踏み出しては止まり、また一歩出しては止まりを繰り返していたが、段々とコツを掴み、ゆっくりだが、歩けるくらいにはなっていた〉

 

 

悟空「まだ怖ぇだろうが慣れろ。周りの音に騙されんな。ゆっくりで良いから集中しろよぉ」

 

スカイ(方向は、、こっち、かな?、距離は遠い感じがするけど、近くに足音がするなぁ)

 

ウララ「うーーん!分からないよぉ!!」

 

キング(ウララさんはそこね。それじゃあこっちの方は悟空さんかスカイさんね。、、すぐ近くみたいだけど、逃げられたら嫌ね。、、飛び込んでしまいましょうか、、、)エイッ!

 

 

 

ッッガッ!!

 

 

スカイ「!!わ、わわ!何!?」

 

キング「へ?スカイさん!?」

 

 

〈何かにぶつかった衝撃で思わず目隠しを取る二人だが、声の主とは違う人が目の前に居た。〉

 

 

悟空「キング。逃さねぇように飛び込んだのは良かったけど、オラじゃあなかったな。スカイはオラの位置と近くに居た奴、キングの位置は分かってたみてぇだけどな。

ウララは・・・今回は駄目だったな。追い詰められるとスゲェんだけどな。」

 

スカイ「う〜ん方向とかは分かるけどって感じかな。それ以上はどうしたら良いのかすらも分からないよ。」

 

キング「同感ね。」

 

悟空「そっか、、まぁオラの時もかなり時間かかったからなぁ。んじゃやり方変えっか!」

 

ウララ「感覚鍛えるのはやめるの?」

 

悟空「いや。感覚を鍛えるって点では一緒だけど、違うやり方をするだけだ。」

 

 

〈そう言うと、悟空はウララ達にまた目隠しをさせ、今度は横並びに座らせた。〉

 

 

ウララ「鬼ごっこはもうやめるのかな?」

 

キング「そもそも感覚って言われてもザックリしてるわよね。キッカケが掴めたら分かるのだろうけど。」

 

悟空「多分こいつがキッカケになると思うぞ。じゃあ行くぞ?、、、はあぁぁ、、、」

 

 

 

  "ボワァァ!!"

 

 

 

キング「!!なに、これ、、」

 

ウララ「すごいすごい!!目隠ししてるのに光ってる!」

  

悟空「じゃあ今度は目隠し取ってみろ。」

 

スカイ「ん、ありゃ?消えちゃった。」  

 

ウララ「え?まだ光ってるよ?」

 

スカイ「え?」

 

キング「スカイさんは目隠し取って、ウララさんはまだしたままね。、、、どういう事?」

 

悟空「ただ見るだけじゃあ分からねぇ、目を塞ぐ事で初めて分かる物があんだ。今はオラの体内で気を少しだけ上げてる。

おめぇ達が感じとってるってよりはオラが強引に感じとらせてるって方が正しいな。

今みてぇに前が見えねぇ時は他の感覚に頼るしかねぇ。

それを極めて肌から感じ取るのが良いんだが、さすがに時間も何もねぇからな。

今はオラだから感じる事が出来るけど、普通の奴じゃあ無理だ。

ただ何となくだけでも分かったらレースでも役立つだろうよ!」

 

スカイ「こんな事があるの?、、、凄い。」

 

ウララ「よーし!頑張るぞぉ!!」

 

キング「・・・・・」フンス!

 

悟空「おう!その意気だ!んじゃオラが部分的に気を集めたり、ポーズをとったりするからそれを当てていけ・・・・・・これはどうだ?」

 

キング「さっきより小さくなったわね。、、、右手、、かしら?」

 

スカイ「え?私は右脚っぽい感じがするけど、、、」

 

ウララ「ウララ、、、も、右手かな?」

 

悟空「これはスカイが正解だな。んじゃ次は、こうだ!」

 

スカイ「え、、なにこれ、ひとかたまりに見えるんだけど、」

 

ウララ「うーむむむむ。左足上げてる、、?」

 

キング「いえ、これは左足と右手上げてるわね。」

 

悟空「そうだ!よく分かったなキング。

確かスカイはレースの時、先頭で走る事が多いんだったな。

なら全体ってよりは部分的に見る方が、キングやウララは後ろからだから全体を見る方が優れてんのかもな。」

 

 

「「「はえーーー、、、、なるほど」」」

 

 

悟空「んじゃ次!どんどん行くぞ!!」

 

ウララ「次こそ当てるからね!」

 

キング「負けないわよ!」

 

スカイ「やる気出しちゃって、、、セイちゃんだって負けないよ?」

 

 

〈ウララ達は感覚を鍛えるという異様な鍛錬を行い、トレーニング法としては凄く高度なものをやっているのだろうが周りから見てみると、変なポーズをとる男性の前に女性が三人、正座しながら目隠しをするという奇妙な空間がそこにはあった。〉

 

 

悟空「んじゃ、、、これはどうだ!?」

 

スカイ「はい!左足!」

 

キング「あ!これは私も分かったわ!!」

 

ウララ「うぇぇ!、手じゃないのぉ!?」

 

 

キャッキャ! キャッキャ!

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

悟空「もうそろそろ終わるか。どんな具合だ?、、、、って見れば分かるか。」

 

 

〈まだまだ練習する時間はあるが、気や感覚の鍛錬は異様に疲れるという事を悟空は知っていたので、早めに切り上げようと思ったのだが、もう遅かったらしい。

目の前には死んだナマズみたいに倒れていた〉

 

 

 

ウララ「あ"ー何か疲れたよ。」ドベ~ン

 

キング「体力はあるのに内側から力抜けそう」ダル~ン

 

スカイ「やばい。このまま寝れる」ヘニョーン

 

悟空「はは!おめぇ達疲れたろ?これが結構クるんだよなぁ。でもよぉこれが何となくでも分かったら上達の方法なんていくらでもあるんだからよ!やって良かったろ?」

 

キング「まぁ確かに存在する能力を使わないっていうのは勿体無いわね。」

 

スカイ「会得するだけでも時間かかりそうだけどね。」

 

ウララ「でも出来たら凄いって事だよね!」

 

悟空「ウララには修行する時毎回やってもらうぞ?ほんの数十分くれぇだけどな。」

 

スカイ「毎回って、、、悟空さんって結構スパルタだよね」

 

悟空「そうか?これでも前は甘ぇって言われたんだけどな。

ま、いいか。おめぇ達も大体は回復しただろうから順番に身体ほぐしていくぞ」

 

ウララ「待ってましたぁ!!」

 

キング「これがまた気持ち良いのよねぇ」

 

スカイ「へぇ〜噂のやつだね。、、、ねぇ悟空さん、私もして貰って良いかな?」

 

悟空「おう!元々するつもりだったからな。だけど、最初はウララとキングからだな。スカイは少し待っててくれ。」

 

スカイ「はーい!」

 

 

〈今日のトレーニングが終わり、ウララ、キング、スカイの順番で身体をほぐしていく悟空。

いつもされてるウララはともかく、あのキングがマッサージで蕩けている所を見ると、自分の番までがもどかしく感じ、尻尾をうねうねと動かしているスカイがいた〉

 

 

ウララ「う"、ん"ーーーバキバキ、、、っはぁ!気持ちよかったー!!」

 

キング「そうね。お店開けるレベルだわ。」

 

ウララ「ニヒヒ!・・キングちゃんでも顔が、こう、"めにょーん"ってなってたもんね!!」

 

キング「!あまりそういう事は言わないでちょうだい」カァァ

 

悟空「じゃあ次はスカイだけど、変にトレーニング付き合わせちまったから少し念入りにやるな!ウララ達は先に帰ってていいぞ。」

 

キング「そう?それじゃあそうしようかしら。」

 

ウララ「ウララはお腹減っちゃったなぁ、、セイちゃん!ごめん先行くね!悟空さん、また明日よろしくお願いします!!」

 

悟空「おぉ!、、ん?おめぇ達明日学校休みで修行も休みじゃなかったか?」

 

キング「、、、そうね。」

 

ウララ「ありゃ、忘れてた。じゃあ明後日だね!バイバーイ!」

 

悟空「おう、じゃあな!」

 

スカイ「お疲れ様〜」

 

 

〈ウララ達は先に帰り、仕上げのマッサージをしながら悟空とスカイはのんびりと喋っていた。〉

 

 

スカイ「ぐ、えぇぇええ、、お"おぉぉぉ、、、こ"れ"はぎもぢぃぃねぇぇ。」ニャーーハー

 

悟空「そりゃ良かった。」

 

スカイ「、、、ね"ぇ悟空、さ"ん」

 

悟空「どうした?」

 

スカイ「明日っ、て"、、フゥ、、、明日って悟空さんも休みなの?」

 

悟空「ん?、、早朝に少し仕事があるくれぇだな」

 

スカイ「ほうほう。じゃあさ!お昼頃から魚釣りに行かない?」

 

悟空「お!釣りかぁ、、いいぞ!死んでから釣りなんてしてねぇからな。楽しみだ!!」

 

スカイ「それ"は"良かった"よ"」

 

      

 

 

(次回:悟空と!スカイの!のんびり話〜〉

 

 

 

 

 

 

お  ま  け

 

 

 

チュンチュン

 

 

 

スカイ「ん、、、んぅう、、ん?、、ん!?ぎゃあぁああぁあぁあ!!!!え?何でウララが居んの!?あ、昨日泊まりに来、、てないよ!!ここって私の部屋?キングの部屋だっけ!私が泊まりに行ったっけ?、、いや行ってないよ!え、どういう事?訳わかんない。、、はぁ、、落ち着こう、、ゴクゴク、、、ん?紙置いてあるじゃん。まぁ、あのキングがやりっぱなしにする訳ないか、、、って!、"ちゃお♡"って何!?どういう顔して"ちゃお♡"って書いたの!!?しかも達筆なのが凄いムカつく!!そもそもどうやってウララが来たのさ!本人にバレないように部屋入って来て一緒のベッドに寝かすってどんな特技?もう超能力だよ、、、あ、超能力者っぽいの居たわ。、、もう悟空さんじゃん。それ、、まぁいいや、学校行ったら何か分かるでしょ。私も準備しよ〜

 

 

 

   ウララ起きて

 

 

 

      学校行くよ〜

 

 

 

 

  ウララ?、、ウララ!、ちょっと!起きて!遅刻しちゃうよ!!うわご丁寧に制服置いてある、、、、、もーー分かったよ!連れて行けばいいんでしょ!!おんぶでも何でもして連れていってやる!!あー!もう!

 

 

 

 

    なんて日だッ!!

 



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悟空とスカイと熊と

 

今回は悟空とスカイのお話。
釣りや自然などのアウトドア関係はこの2人だと話が合いそうですね!

注意
・半分オリジナル設定
・スカイは話し方がバラバラ(キャラ的に)
・グラスペは友愛
・途中で文の書き方が変わります
・小ネタあり
・ドラゴンボール無印128話より少し引用

pixivにて13話更新中


 

スカイ「っっっはぁ〜〜、、良い天気だねぇ〜」

 

悟空「そうだな。絶好の釣り日和だ!」

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

新聞配達の仕事を無事にこなした悟空とウララ。

その日のトレーニングにはウララとキング、そしてスカイも交えて感覚を鍛えるトレーニングをした。

アフターケアでスカイの事をマッサージしていると釣りに行こうと誘われて現在、、、、

 

 

 

 

 

悟空「ちゅーかスカイ。乗り物乗って2時間経たねぇくらいか?結構遠い所まで来てんだな。」

 

スカイ「いえいえ、いつもは近場なんですけどね。今日は悟空さんが居るので遠いけどお気に入りの場所に来たかったんですよ。」ニャハ

 

悟空「オラに見せたかったって事か?確かにいい所だな!パオズ山に似てる、空気が綺麗ぇだ!」

 

スカイ「ふふ。喜んでもらえて何よりです!それに見せたかったのもあるけど、帰り時間は気にしなくても良いって所が楽で良いよねぇ!」

 

悟空「??また今日来た道戻るんだろ?なら結構かかるんじゃねぇか?」

 

スカイ「にゅっふっふ!!悟空さんには瞬間移動があるじゃないですかぁ!あれがあれば1秒で帰れるんですよ?使わない手はあーりません!」

 

悟空「あ!そっか、瞬間移動か、、おめぇやキングといい使い方が上手くなったな!」

 

スカイ「そう褒めないでくださいよ。では早速始めよっか!!」

 

 

〈悟空達が来た山はトレセン学園から電車を乗って2時間くらいの所。

そこは見渡す限り緑しかなく、スカイは慣れた様子で山の中に入って行く。

歩いてから数十分。獣道を通った先には川が流れキャンプでも出来そうなくらい広くて綺麗な所だった。

スカイ達は少し高い所にある、お決まりのポイントまで行き腰を下ろした。〉

 

 

スカイ「いつもは平地でルアー付けてやるんだけどね、今日はゆっくりと魚が食い付くの待とうと思うんだぁ」

 

悟空「ルアー?、何だか分かんねぇけど、やり方は任せんぞ。」

 

スカイ「うん。任せてよ。んじゃ悟空さんの竿はこれで、餌はこれね。」

 

悟空「・・・餌、これで釣れんのか?死んでっけど。」

 

スカイ「まぁ時と場合にもよるけどね。悟空さんは餌は何使ってたの?」

 

悟空「オラはその辺の岩とか退かしたらいる虫とかだな。でけぇの狙う時は普通の魚とか使ってたな。」

 

スカイ「へぇ。ミミズとかが近いのかな?ま、これでも釣れるからやってみよっか!」

 

悟空「おう。そうだな!」

 

 

 

チャポン!

 

 

 

悟空・スカイ「「、、、、ふぅ」」

 

悟空「ん?」

 

スカイ「お?」

 

・・・

 

悟空「はは!何か竿構えてたら言っちまうんだよな!」

 

スカイ「あっは!そうだね!こればかりは住む所が違えど皆同じなんですねぇ。」

 

悟空「そうみてぇだな!」

 

 

〈悟空の言葉とともに静まる空間。自然や生き物の声や音しか聞こえない沈黙状態だが、悟空はともかくスカイも気まずく感じる事なく穏やかな時間を体で感じていた。

釣れない時間が続き、再び会話が始まる。〉

 

 

スカイ「、、、釣れませんねぇ」

 

悟空「、、まぁ釣りなんてこんなもんだろ。、それよりおめぇは尻尾使って魚獲んねぇのか?」

 

スカイ「・・・ん?ごめん、何て言った?」

 

悟空「尻尾使って魚獲らねぇのかって。さっきの話聞いてっと出てこなかったからよぉ。」

 

スカイ「・・あはは!そりゃあ尻尾じゃ魚は釣れないですよ!何で釣れると思ったの?」

 

悟空「いや昔オラは尻尾使って獲ってたからな。

他の奴は尻尾が無かったけど、おめぇは付いてっからやってんのかと思って聞いてみただけだ。」

 

スカイ「へぇ、悟空さん尻尾で、、、え!尻尾!?悟空さん尻尾生えてたの!!?」

 

悟空「おう。言ってなかったか?オラは地球で生まれた訳じゃねぇんだ。」

 

スカイ「いえ、その話はチラッと聞きましたけど尻尾が付いてたなんて聞いた事ないですよ!?今もついてるんですか?」

 

悟空「それが神様が必要ねぇって言って取っちまったんだ。」

 

スカイ「、、無視できない単語が出てきたってこういう意味なんですね。、、神様って、、、悟空さんが言うので本当なんだろうねぇ。

よし!聞かなかった事にしよ!

でも、ずっとあったのに無くなるって違和感凄そうだね」

 

悟空「もうすげぇ大変だったぞ!最初の頃なんて立つのも一苦労だったかんな!

・・・・・・それにあんなのは無くしちまった方が良いからな。ボソッ」

 

スカイ「ん?今なんて、、、」

 

悟空「お、スカイ!竿!!引いてんぞ!」

 

スカイ「へ?、、、あ、それぇ!」シュバ

 

 

ピチピチ ピチピチ

 

 

スカイ「釣〜れま〜したぁ!ちょっと小ぶりだけど、、」

 

悟空「はは!やるじゃねぇか。、、お?こっちも来たな?そりゃ!」

 

 

ピチピチ ピチピチ

 

 

スカイ「あ!やったね!!私のより少し大きいくらいかな。」

 

悟空「そんぐれぇだな!この調子でどんどん釣んぞ!」

 

スカイ「おー!」

 

 

・・・・・・・

 

 

 

スカイ「・・・静かだねぇ。」

 

悟空「あぁ、そうだな。魚も少し止まっちまったし、昨日の続きでもすっか!」

 

スカイ「昨日?、、、あ、感覚のやつ?、、でも魚がいる所で暴れるのはやめた方がいいんじゃない?」

 

悟空「いや逆だ。まったく動かねぇ。」

 

スカイ「???何やるんですか?」

 

悟空「昨日は鈴を取る時、音聞くのに集中しただろ?あれは音と自分の位置を感覚で分かるような鍛錬だったけど、これからやんのは音の判別だ。」

 

スカイ「音の判別、ねぇ。、、聞き分ける、みたいな?」

 

悟空「おめぇは本当に察しが良いな!その通りだ。レース中の騒音を考えるとこれからやる方が使えそうだしな。」

 

スカイ「ふむふむ。どうやるの?」

 

悟空「簡単だ。目を瞑って意識しながら自然や動物の音や声を聞いてそれを細かい所まで考えるんだ。」

 

スカイ「おー確かに簡単だねぇ。ふっふっふ。ウマ娘の耳は飾りじゃないんだよ?」

 

悟空「自信ありそうだな。んじゃやってみっか。」

 

 

んーー鳥、右の奥かな。    クワックワ言ってる奴だな

 

  今魚跳ねた!。  そうだな何匹跳ねたか分かるか?

 

 1匹、、じゃないの?    いや音が重なってたから2匹だな。    

     

      そんな所まで分かるの!?   

 

 鍛えたからな。    ・・・まじか。

 

 

 

スカイ「・・・っっふぅー。感覚を集中するのはやっぱり疲れるね〜」

 

悟空「はは!このへんにしとくか。」

 

スカイ「それにしても悟空さんは大人しいね。」

 

悟空「ん?いきなり何だ?」

 

スカイ「いやねぇ、失礼ながら悟空さんは釣りに向かない様な人だと思いまして」

 

悟空「あぁ、そんな事か。どっちかっつーと得意な方だぞ!オラが住んでた所がそうだけど、その日の飯とかも自分で用意しなきゃ無かったかんな!

魚獲る時に騒がしかったら獲れねぇっつーのもその時知ったな。

それに魚釣りも修行になんだぜ?」

 

スカイ「ハハ、、悟空さんはいつも修行第一ですねぇ。ちなみにどんな事するの?」

 

悟空「実はさっきやった鍛錬の最初はこれなんだけど。

オラがまだチビっこい時で気の事も全部知らねぇ時だったかな。

修行で色んな所に行って色んな奴に教わってたんだけど、ある時釣りしてるじいちゃんから'一緒にしねぇか'って聞かれてな、オラも竿持ってやってたんだけど、全然釣れなくてよぉ場所が悪ぃって思ったらじいちゃんの方はバカバカ釣ってんだ。」

 

スカイ「ほほーう。中々の名人ですなぁ。」

 

悟空「だろ?と思ったら'騒がしい'っていきなり言われたんだ。」

 

スカイ「ピクッ、、、、へぇ。」

 

悟空「騒がしいって言われてもオラは一切動いてなかったから何の事だ?って聞いたら気持ちが騒いでるって言うんだ。

そう言われてもサッパリだったからよぉ、ただ静かにしてたらそれも違うって言われてやり方を聞いたんだ。」

 

スカイ「・・・・・・」

 

悟空「そしたらな、まずは深呼吸をして自然の音を聞く。風で葉っぱ同士が擦れる音や遠くで鳴く生き物の声。

その流れで水面に意識を持っていき「「魚の気持ちになる」」・・・へ?

 

スカイ、何で知ってんだ?有名な言葉とかか?」

 

 

スカイ「有名かどうかは分からないかな、、、たださっきやった自然の音を聞く時に薄らと思い出したんだ、、、、うん。」

 

悟空「??よく分かんねぇな、、何を思い出したんだ?」

 

スカイ「、、、、悟空さんが言ったセリフ。そのまんま曾おじいちゃんに聞いた事があるんだよねぇ。」

 

 

!!?

 

 

悟空「そりゃ本当か!よくある話なのか、もしくは」

 

 

スカイ「もしくは悟空さんが会った人は私の曾おじいちゃんか。

ふふ。そんな訳ないよね!もうとっくの昔に亡くなってるし、それに地球自体が違うんだもん!あははは!」

 

悟空「・・・・オラがその場所に行ったのは歩いてとかじゃなくて神様の神殿にあった機械で瞬間的に飛んだんだ。だからその場所がどこにあんのか、、、、本当にオラの知ってる地球だったかは分からねぇ。」

 

 

・・・・・・・

 

 

スカイ「見た目は?」

悟空「白髪で白髭が生えてたな。」

 

 

スカイ「家族は?」

悟空「名前は忘れちまったけど、父親と娘が居たか?」

 

 

スカイ「父親は格闘技被れしてるとか?」

悟空「確か一戦やったぞ。すげぇ弱かったな。」

 

 

・・・

 

 

 

・ ・ ・ っぷっ!あっははははは!!!!

 

 

スカイ「あははは!流石にそりゃあないって!でも悟空さんが関わってると本当かもって思っちゃうけど!」

 

悟空「あっはっは!本当にな!もしそうなら流石にオラもビックリだ!

よし、スカイ!どっちかは分かんねぇけど、あの釣り方で一本釣ってやろうぜ!」

 

スカイ「おー!!見せつけちゃうよ!おじいちゃん!」

 

 

 

 

、、、、スゥー、、、フゥ、、まずは深呼吸。

 

 

 呼吸を整え自然の音に集中する。

 

         

   自然と心を1つにして空の様に静かに

 

 

    そのまま水面に意識を持っていく

 

  

魚がいるね。     食おうか悩んでんな。

 

 

 、、まだだ。   

    

    うん。分かってる。、、、、!!!!

 

 

 

     「「ッ今だ!!!」ザバンッ!

 

 

 

スカイ「イェーイ!釣れたぁ!今日1番の大物だ!」

 

悟空「やったな!こいつはデケェぞ!!」ハハッ!

 

 

「悟空とスカイは感覚だけを頼りに魚の動きを読み、見事大物を釣り上げた。

その時、頭を撫でてくれるかの様に暖かい風が吹き、"空耳"が聞こえた」

 

 

《見事。よくやったな、スカイ。少年も大きくなったな》

 

 

 !!!

 

 

スカイ「・・・・・まじで?」

 

悟空「・・・・まじ、みてぇだな。ま、オラみてぇなのがいる世界だ。死んだ後どこで何やってるかなんてのは分かりゃあしねぇからな!」

 

スカイ「そっか、、、、スゥー、、、おじいちゃぁあん!!わたし!!これからも大物釣るからねぇぇぇ!!!」

 

悟空「はは!うし!、、じっちゃーーん!!あん時のおかげで!!オラすげぇ強くなったぞォォォ!!!!、、ふぅ。、、ニィッ!」

 

スカイ「にゃはは!」

 

 

  「「あっはっはっはっは!!!!!!」」

 

 

 

 

悟空「、、あー腹痛ぇ!なぁ、スカイ。魚もある程度獲れたし少し遊んで行こうぜ!」

 

スカイ「お!良いねぇ!んじゃれっつごー!

 

 

 

 

ー 水切り ー

 

 

シュパパパ!

 

スカイ「へっへーん!こんなもんでしょ!釣りに来たらついやっちゃうからね!私は強いよ?」

 

悟空「やるなぁスカイ!でもオラだって負けてねぇぞ?」シュン、、パパパパパパパパ!!!!!!!!!

 

スカイ「な!何じゃそりゃあ!!?」

 

悟空「へへん!ま、こんなもんだろ!!」

 

スカイ「むむむ!」

 

 

 

 

ー 木登り ー

 

 

悟空「どうだ?ここまで登ってこれっか?」

 

スカイ「どうって事ないよ!」スルスルスル、、、チョコン!

 

悟空「へぇ、中々高ぇのに速ぇな!」

 

スカイ「えへへ!1人の時とかこうやって木に登ったりしてるからね!、、、、、ただ問題がありまして、、」

 

悟空「ん?どうした?」

 

スカイ「こんなに高いの初めてで、、、、怖くて降りれません。」

 

悟空「、、は、はは。、、おめぇ、、意外と無茶な事する奴だったんだな。」

 

スカイ「、、、お恥ずかしい限りです。」

 

悟空「んじゃさっさと降りっか。オラに捕まれ」

 

スカイ「え?、、うん。、、、あ!ちょっと待って!飛び降りるのだけは止めてね!?」

 

悟空「っと。そうか?、、、ここなら平気か?」フワァ!

 

スカイ「と!飛んだ!?」

 

悟空「キングから聞いてねぇか?」

 

スカイ「うん。でも凄く気持ち良いねぇ。」

 

悟空「あぁ、そうだな!」

 

 

 

 

ー 水遊び ー

 

 

スカイ「無理だって!」

 

悟空「何でだ?気温が高ぇから寒くねぇぞ?

気持ち良いから来いよ!」バシャーン!

 

スカイ「いや、中に着てるの普通の下着ですから!濡れても替えが無いし、風邪ひいちゃうよ!!」

 

悟空「??水着もパンツも同じじゃねぇか。濡れてもオラが気で乾かしてやるよ!」バシャバシャ

 

スカイ「〜〜〜〜っっっ恥ずかしいんですよ!男の人と2人で水遊びするの!私だって年頃の娘なんですよ!?」

 

悟空「年頃だからじゃねぇのか?危ぇ場所では子供は大人といるのが当たり前ぇなんだろ?」

 

スカイ「、、クッ!!デリカシーがないし、ナチュラルな子供扱い。、、悟空さんじゃなかったら、警察に通報するか、生き埋めにしてるよ」

 

 

・・・・・・・・

 

 

スカイ「、、、はー疲れた!遊んだねぇ。」

 

悟空「そうだなー。、、、ブフッ!、おめぇが足滑らせて川に落ちた後の開き直り方は面白かったな!」

 

スカイ「、、、言わないでぇ///、、、コホン! 、、、それにしても少し日が暮れてきたね。

こういう所で遊ぶのはあまり無いから帰るのが惜しいですなぁ。」

 

悟空「・・・・おめぇ門限はまだだろ?」

 

スカイ「え?うん。ちょっと遅れるかもで申請はしたから後2時間くらいかな?」

 

悟空「2時間か、、、充分だな!おし、スカイ!せっかくだから魚食って行くか!こういう場所でしか出来ねぇ事だしな!」

 

スカイ「!!!、、、うん!」

 

悟空「んじゃ少し木を集めてっと、、、」

 

スカイ「あ、でもライター持ってきてないよ、、、どうやって火起こす?」

 

悟空「オラに任せとけ!、、こんくれぇかな?

 

      ーーーーーーーキッ!!」ボウッ!

 

スカイ「わっ!、、火がついた、、悟空さんって本当に超能力者なの?」

 

悟空「いや超能力じゃねぇな。、、なんつーか、、こう、気合い、だな!」

 

スカイ「まさかの根性理論!?」

 

悟空「根性でもねぇな。ただの気の応用だ。それよりスカイ!オラは木の実とか果物を拾ってくるから、魚をその辺の木に刺して焼いといてくれ!」

 

スカイ「便利過ぎでしょ"気"、、ま、いいか。うん!こっちの事は任せてよ!そっちはよろしくねぇ!」

 

 

     おーー!!!

 

 

スカイ「あはは!声が響いてる。さてさて、こちらも準備を始めますか!!」

 

 

〈日が暮れ始め、悟空は別の食糧を探しに奥地へ行き、スカイはその間に魚に木を刺し火の周りに魚を置いていた。

別行動をして15分くらい。

悟空は木の実を腕に抱え、山の中を彷徨っていた〉

 

 

悟空「うーん、、もうちょっとあると思ったけど、こんなもんか、、、いや、もう少し行ってみるか。」

 

 

〈奥の方に行こうと脚を踏み出した時、悲鳴が聞こえた〉

 

 

 

   きゃあああああああっっっ!!!!!!

 

 

悟空「!!!(今の声、、スカイか!!怯えた感じもあったか、あいつに何があったんだ。

周りには特別変な"気"はねぇはずだ。まぁいい、行けばわかる!!)"シュン!"

 

 

 

 

悟空「スカイ!大丈夫か!!」

 

スカイ「ご、、くう、さん。 、、!!!悟空さん!後ろ!」

 

悟空「後ろ?、、何だ。」クルッ

 

 

〈切羽詰まったスカイの言った通りに後ろを向いたらそこに居た。

体調は約3m。牙を剥き出し、唾液を垂らしながら今にも襲いかかってきそうな熊だ。〉

 

 

   グガァアアアッッ!!!

 

 

スカイ「あ、に、にげ、、、ないと、、、悟空さん!!」

 

悟空「おー熊じゃねぇか!でっけーなぁ!!」

 

 

 ・・・・・は?

 熊だよ!?こんなに近いし、すぐにでも襲いかかって来そうなのに、この人なんでこんなに呑気な事しか言わないの!?

 

 

「ねぇ!悟空さん!!早く逃げよ!!危ないよ!!?」

 

「ん?、、、あぁそういう事か!ちょっと待ってろ!」

 

 

悟空さんは私の言葉には反応してくれず、何かに納得したようで私の後ろに歩いて行った。

間に居た悟空さんが居なくなり、再び熊と対面する事になった。

私は腰が砕けて呼吸も上手く出来てない気がする。もうここで死ぬのかな?、、、と、思っていたんだけどそんな不安を消すように鼻歌が聞こえてきた。  

私はこんな時に危機感の無い悟空さんに少し腹が立ち、喉が裂けそうなくらいの大声で叫んだ。

 

 

「悟空さん!何やってるの!?熊なんだよ!!?逃げるか倒すかしてよ!!!」

 

「まぁそんな慌てんなって、大丈夫だから。

、、、、、んーしょうがねぇから一番デケェのやるか。」

 

 

悟空さんは私の声にも、変わらず間の抜けた返答をしてきた。

そんな事を言いながら火に当たっている魚を取り、再び私の前に戻って来る。

その様子をずっと見ていた熊は悟空さんに向かって、心臓が縮みそうな程大きく咆えて威嚇をしてる。

私は思わず"危ないっ!"って叫んだけど悟空さんは顔色一つ変えるどころか何故かニコニコしながら言った。

 

 

悟空「ほれ!一匹で悪ぃけど、一番デケェのとったからこれ食えよ!さっき釣ったばっかだから上手ぇぞ!」

 

 

・・・・あゝキング。君の言った意味が分かったよ。悟空さんの全てに常識が通用しないんだね。

熊も獲物が手に入ったからか、のそのそと帰って行ったし、はぁ、、、、、、魚を食べよ。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

ハグハグハグ!!!

 

悟空「はぁーーうめぇ!やっぱ魚は釣れたてだよな!!」

 

スカイ「ソーデスネー」

 

悟空「まだあるからいっぱい食えよ?」

 

スカイ「ソーデスネー」

 

悟空「・・・木の実もあるからな!」

 

スカイ「ソーデスネー」

 

悟空「、、ハァ。まだ拗ねてんのか?さっきの事は大丈夫って言ったじゃねぇか。」

 

スカイ「ハァ。あんな大きい熊が目の前にいるのに大丈夫の一言でそうなんだ!とはならないよ。」

 

悟空「はは!まぁ、なんだ、怖ぇ目に合わせて悪かったけどあの熊だって大変だったと思うぞ?」

 

スカイ「???、、どういう事?」

 

悟空「オラがさっき食べ物とりに行った所だけど、ほとんど何も無かったんだ。

ありゃあ木が死んでんな。餌が無けりゃあ探すのに必死にもなるさ。」

 

スカイ「あ、、そうだったんだ。、、何だか悪い気がするね。」

 

悟空「まぁ魚が無かったら食われていたのはオラ達だったかもな!」ハハ!

 

スカイ「ゔぇぇ!!!なんて事いうのさ!」

 

悟空「あはは!冗談だ!実際はあの程度の事なら何とでも出来っから心配ぇすんな!」

 

スカイ「んもう!、、、頼りにしてるからね!!」

 

悟空「おう!任せとけって!」

 

 

〈熊事件の会話は終わり、目の前にある食べ物に集中する事にした。

ふと、気がつくと辺り一面は真っ暗で月の光や焚き火の明かりしか照らすものがなかった。

そんな燃えている火を見ながらスカイがポツリと話しかける〉

 

 

スカイ「ねぇ悟空さん。」

 

悟空「モグモグモグ、、ゴクンッ!、、どうした?」

 

スカイ「ウララのトレーニングの調子はどうなの?」

 

悟空「随分いきなりだな。ウララのは昨日一緒にやったから大体分かるんじゃねぇか?」

 

スカイ「一回見たくらいじゃ分かんないよ。ただ信じられないくらい力が付いてるのは分かる。」

 

悟空「オラもそう思う。つっても有馬記念まで距離を増やさねぇと駄目らしいからな!修行あるのみだろうな!」

 

スカイ「そうだね。・・・・・・でもいくら力付けてもウララは有馬記念で勝てないと思う。」

 

悟空「ピクッ、、、、結構ハッキリ言うんだな。何か分かってる事でもあんのか?」

 

スカイ「うーん、半分かな。確証持っては言えないけど、とても必要な事なんだ。、、今言う事は出来ないけど、」

 

悟空「んー、よく分かんねぇな、、ウララっつーよりはウマ娘に必要な事なんか?」

 

スカイ「それも内緒!、、、ね、悟空さん。私はトレーニングとかはサボるし、気まぐれで行動する事が多いけど、レースはずっと本気だった。

 

ただ一着を獲りたいだけじゃない。本気の勝負がしたい。そのために必要な事をやるつもりなんだ。

こんな事、トレーナーさんにも同期達にも言えない。私の独断でやってる事。

 

今言っても分からないと思うけどさ!、、、、一人はちょっと寂しいから私の思いを悟空さんだけでも知ってて欲しいんだ。」

 

 

悟空「・・・そっか!おめぇがそこまで言うんだ。何すんのか知らねぇけど、しっかりやれよ。出来ねぇ事があんだったら力貸すからよ!」ニカッ!

 

スカイ「うん。ありがとね!」ニヒヒ!

 

 

   ガサガサ!  ガサガサ!

 

 

スカイ「ん?何の音?」

 

悟空「やべぇ。全部食っちまったからアイツの分残ってねぇ、、」ボソッ

 

スカイ「何か言っt、、ぎ、ぎゃああ!また出たぁ!!」

 

 

〈一息つこうと息を吐いた時、不自然に草木が揺れたのでそちらを見ていると、先程現れた熊が戻って来た〉

 

 

熊「・・・」ノシノシ

 

スカイ「ど、どうする!?何するの!!?」

 

悟空「いやぁすまねぇな!オラ達が全部食っちまったからおめぇの分は残ってねぇや!」 

 

スカイ「また普通に話しかけてるし!!、、、あー、、、大丈夫、、なんだっけ?、、スゥー、、ふぅ。さぁ!何でも来い!」

 

熊「・・・チラッ、、、グァッ!」ノシノシ

 

 

スカイ「へ?、、、帰っちゃった。」

 

悟空「だな。何しに来たんだ?」

 

 

〈熊は悟空達の姿を確認すると来た道を戻ってしまった。

まだ火がついているため食べ物があるとでも思ったのだろうか。

色々な事を考えているともう一度帰ってきた。

 

 

    口に動物を咥えて〉

 

 

 

スカイ「ゔ!あ"あ”あ"あ”!!動物食べてるー!!

 

悟空「食うもんまだあったんだな!ん?じゃあ何で来たんだ?」

 

熊「・・・・」ぺっ!

 

スカイ「うお!飛んできた!」

 

悟空「んーー??、、あ!くれんのか?これ。」

 

熊「・・ンガァ」コクン!

 

悟空「本当か!さんきゅー!!んじゃ早速焼くからおめぇも食って行けよ!!スカイ、そいつ取ってくれ。」

 

スカイ「え"、、、取るのか、、ヨシ!、、セイちゃん頑張るよぉ〜!、、熊さんじっとしててね、、、

・・・・・うん。ありがとね!」

 

 

〈さっきの魚のお礼のつもりなのか代わりに動物を持ってきた。悟空は肉が食べれる事に喜び、スカイはある程度心に余裕が生まれ、熊から動物を貰い悟空に任せた。

肉を火で炙り、悟空とスカイと熊は黙ってそれを眺めていた。〉

 

 

スカイ「・・・何この状況。」

 

悟空「何って、、肉焼いてんだろ?」

 

スカイ「・・・・そうだね。」

 

熊「、、、、」グイグイ

 

スカイ「わ!、わわわ!!なになに!?めっちゃ頭で押してくるんだけど、どうしたのさ!!?」

 

悟空「ははーん!さてはスカイに甘えてんな!動物同士、気が合うんじゃねぇのか?」

 

スカイ「わ、っぷ!、、ウマ娘は動物じゃ、、ないよ!!それでこの子はどうしたらいいの!噛まないよね!?」

 

熊「・・・・ガァッ!!」モゾモゾ

 

悟空「そりゃおめぇ、甘えてんだから撫でてやりゃあ良いじゃねぇか。さっきも言ったけど、おめぇの身体には傷付けねぇから心配ぇすんな。」

 

スカイ「うーーん、、ムグ!?、、分かったからぁ!、、もー熊が甘えてくるなんて誰も信じないよ、、、ナデナデ。」

 

熊「・・・・・」♬ 

 

 

〈スカイは恐る恐る熊に触り、フワッフワな毛に驚いた。噛まない事が分かったら体ごと熊に抱きつき撫で回していた〉

 

 

悟空「はは!そいつもすげぇ喜んでんな!せっかくだし、名前付けてやれよ!」

 

スカイ「モフモフ、、ふぃぃ。、んあ?名前?何で?」

 

悟空「いやそいつ名前なんてねぇだろ。わざわざ戻って来たんだから友達になりてぇんだろし、名前がねぇと呼びづれぇだろ。」

 

スカイ「そっか、、確かにそうだね。君も名前ほしい?」

 

熊「・・ガゥッ!」♪

 

スカイ「おー!言葉が分かるのかな?、、んじゃこのセイちゃんが自ら命名してみせよう!!、、んーーー、・・・ベェ」ボソッ

 

悟空「ん?決まったか?」

 

スカイ「うん!この子の名前は

 

 

 

 

      ヤジロベェにしよう!!」

 

 

〈スカイの発言と共に空気が固まった。

熊、改めヤジロベェはますます喜びスカイに頭を擦り付けたり、のしかかったりしているが、肝心の悟空の反応がない事を不思議に思い、顔色を伺うようにチラッと見てみるが顔を伏せていて表情が分からなかった〉

 

 

スカイ「ご、悟空さん?、、ダメだった?」

 

悟空「・・・・・ック。」

 

スカイ「???」

 

悟空「ックック、ブハッ!!あっはっはっは!!!ヤジロベェか!そっかそっかヤジロベェだな!!食いしん坊な所もそっくりだ!!あはははは!!」

 

スカイ「え、変だった?、、、そっくり?、、可愛いと思ったんだけど、、」

 

悟空「、ハァ、ハァ、、ふーー。いやすまねぇな!もう大丈夫だ。んじゃよろしくなヤジロベェ!!」

 

ヤジロベェ「、、ガァッ!」

 

スカイ「はは!こうやってみると可愛いねぇ。それにしても熊と友達になっちゃったよ。」モフモフ

 

悟空「良いじゃねぇか。オラも動物の友達もたくさんいるし、おかしい事じゃねぇぞ。それにオラも違う世界のやつで地球人じゃねぇけど、おめぇと友達だろ。」

 

スカイ「まぁ、確かにそうだね。、、、って私、悟空さんと友達だったの!?」

 

悟空「そうじゃねぇんか?だってオラはおめぇのトレーナーでも何でもねぇけど、こうやって遊んでんじゃねぇか」

 

スカイ「ん、あー、そだね。いやぁ何か大人の人と友達って違和感が凄くて、、、えへへ。」

 

悟空「??変なやつ。、、あ!、、、、なぁ、スカイ。」

 

スカイ「なぁに?」

 

悟空「・・・・・・今何時だ?」

 

スカイ「ん?ちょっと待ってね。今は、、、、19時45分かな」

 

悟空「門限は何時だ?」

 

スカイ「えっとねぇ、、20時だね。」

 

 

・ ・ ・

 

 

悟空「やべぇ!!帰んぞ、スカイ!火ぃ消したりゴミまとめるんだ!」

 

スカイ「やばいやばい!早くしないと!!」

 

ヤジロベェ「???」

 

スカイ「あーーー!ごめんね!ヤジロベェ。もう帰らないと行けないから。絶対にまた来るからね!」

 

ヤジロベェ「ガウッ!」♩

 

悟空「よし!スカイ。オラに捕まれ!誰に瞬間移動したら良いんだ?」

 

スカイ「グラスちゃんだね。寮が一緒だから」

 

悟空「グラスだな!、、っとその前に

 

 ハアッッ!!!ボワッ!!、、、、こんなもんか?」

 

スカイ「え、、凄い眩しかったんだけど何やったの?」

 

悟空「さっき、ここの木が死んでるって言ったろ?だからオラの気を自然に分け与えたんだ。

本当は自然の成り行きに任せんのが当たり前でこういうのはやっちゃいけねぇんだけど、目の前に友達がいんだったら無視できなくてな!

ついやっちまった。」

 

スカイ「へぇ、もう神様みたいだね。、、、、良かったね。ヤジロベェ!今度来る時はお土産持ってくるからね!」

 

悟空「またな!ヤジロベェ!」

 

ヤジロベェ「・・・グガァァアッ!」  

 

スカイ「ふふふ。見送ってくれてんのかな。、、、ねぇ、悟空さん。」

 

悟空「なんだ?」

 

スカイ「これからも友達としてよろしくね!」

 

悟空「?、、あぁ!こっちこそ頼む!、、、んじゃ飛ぶぞ?」

 

スカイ「うん。、、あ!グラスちゃんに一言だk"シュン!"」

 

 

〈気がつけば門限が間近に迫っており、この楽しい時間は終わりを告げた。

急いで片付けをした後、ヤジロベェに見送ってもらい、グラスの元へ瞬間移動をする予定だったのだが、この男、孫悟空は断る事なく飛んでしまう。

女性の部屋に移動する事はリスクがあるとは知らずに、、、」

 

 

ヤジロベェ「・・・・・グルッッ♪」ノシノシ ノシノシ

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

"シュン!"

 

 キャッ!

 

悟空「スカイ!時間はどうだ!?」

 

スカイ「・・・・・」

 

悟空「??スカイ?」

 

 

〈グラスの部屋に瞬間移動した悟空達。

門限の事が気になりスカイに問いかけるが、何も言わず、どうしたのかと思い見てみると目を瞑り項垂れていた。

訳が分からず周りを見てみると、座りながら額に手を置き天を仰ぐエルの姿。

そして着替え途中で下着姿のグラスが居た。〉

 

 

・ ・ ・

 

エル「喉乾いたのでジュース買ってきマス!」

          

           部屋を出る。エル

 

 

 

悟空「スカイ!今日は楽しかった!またな!」

 

           便乗する悟空

 

          

 

スカイ「うん!こっちこそありがとう!またね!」

           

          それに便乗するスカイ

 

 

 

グラス「このまま帰ったらたづなさんと寮長さんとニシノフラワーさんに言います。」

 

        語るように静かに話すグラス

 

 

 

 

 

〈誰が見ても分かる様にグラスの静かな怒りに当てられ、正座をする悟空達。

何が待っているのかと怯えながらグラスを見ると、目を瞑って腕を組み、山の様にただ立っていた。〉

 

 

スカイ「、、、あのねぇグラスちゃん。」

 

グラス「ちょっと黙って下さい。こちらから質問するのでそれだけ答えるようにお願いします。」

 

スカイ「・・・はい」

 

 

〈スカイの一言をバッサリと切るグラス。

その様子を見た悟空がテレパシーでスカイに話しかけた〉

 

 

悟空【なぁスカイ。】

 

スカイ【!!なに?】

 

悟空【持って帰って来た木の実あげたら落ち着くかな?】

 

スカイ【絶対やめてね!?すごい怒るよ?】

 

悟空【だめかぁ、、どうすっか。】

 

スカイ【何で行けると思ったのさ、、、】

 

グラス「騒がしいですね。、、、何か話してますか?」

 

 

  !!?!?

 

スカイ「い、いえ何もしてないです!!」

 

悟空「お!おう!テレパシーなんてしてねぇぞ!!」

 

スカイ「!!!もーー!悟空さんのおバカ!そんなのしてるって言ってる様なもんだよ!」

 

悟空「い"い"っ!?ほんとか!!?」

 

 

・・・・・はぁ。

 

ビクッ!!

 

 

グラス「セイちゃん。」

 

スカイ「!!はい。なんでしょう?」

 

グラス「今日は出掛けると聞いていましたが、門限延長はしてるのですか?」

 

スカイ「はい。事前に了承を貰ってます。」

 

グラス「そうですか。、、悟空さん。」

 

悟空「お、おう。」

 

グラス「悟空さん正式なトレーナーではないとしても大人としてもう少ししっかりとしなければなりません。」

 

悟空「あぁ、面目ねぇ。」

 

グラス「それに、女性の部屋に入る時は一言あるのが当たり前でしょう。それなのに勝手に侵入してくるとは言語道断です!」

 

悟空「・・・すみませんでした。」

 

グラス「・・・・・見ましたか?」

 

悟空「???何をだ?」

 

スカイ(あーやばい。どうしよ。これは無理かな、諦めよっかな。)

 

グラス「だから、、、です。」

 

悟空「ん?なんだ?聞こえねぇぞ?」

 

スカイ(もうだめだ!おしまいだぁ)

 

グラス「だから!!下着です!さっき着替え途中だったでしょう!?」

 

悟空「あー、そんな事か。そりゃ見るだろ目に入ったし」

 

スカイ(・・・終わった。)

 

グラス「・・・女性の下着姿を勝手に見た挙句、開き直ったかの様な言葉。

 悟空さん!!セイちゃんも!貴方達反省しているのですか!?

 もはや堪忍袋の緒が切れました!許しませんよ!!!」

 

悟空「げぇっ!!ちゅーか"気"が上がってるし、こいつやっぱり"気"使えんだろ!!」

 

スカイ「ちょちょ!!何で私も!?悟空さんが無神経だったんでしょ!?」

 

悟空「あー!おめぇそりゃねぇだろ!!」

 

スカイ「私は瞬間移動する時に言おうとしたもん!!」

 

悟空「聞いてねぇんだから同じだろ!!」

 

グラス「そんな事はどうでも良いです!!!私を侮辱した事、絶対に許しませんよ!!」

 

スカイ「侮辱なんてしてないよぉ、、、」

 

悟空「どんどん"気"が上がってんな。」

 

グラス「私は着替えが終われば地方から取り寄せたタンポポを食べる予定だったのです!

その予定が消え、この仕打ち。食べ物の恨みは恐ろしいのです!!!

私は先程までのグラスワンダーとは違います!

 

恨み、悲しみ、そして怒りを兼ね備え力を付けました。

 

 

 

  今の私は進化したスーパーウマ娘!!

 

 

 

 

    スペシャルワンダーです!!!

 

 

 

・・

 

 

・・・

 

 

・・・・

 

 

悟空「・・・スペシャルって、、スペのあれか?」

 

グラス「い、いえ、、その、特別って意味の方で、、、スペちゃんは、その、、関係ない、デス」///

 

スカイ「いや絶対スペちゃんでしょ。どんだけスペちゃんの事好きなのさ。知ってたけど。」

 

グラス「・・・・・ブチッ!!違うと言っているでしょう!!もういいです!!!

たづなさんに言って食堂禁止にしてもらいます!セイちゃんはニシノフラワーさんにある事ない事吹き込みますからァ!!!」

 

悟空「グラスすまねぇ!!それだけは勘弁してくれ!!」

 

スカイ「ある事ならともかく無い事って何!?ごめんね!本当ごめん!!だから許してぇ!!」

 

 

 

  もーー!!怒りましたからァ!!

 

 

        ごめんってばぁっ!!!

 

        

   悪かったって!もうしねぇからよぉ!!

 

 

  

    「「グラス!!!」ちゃん!」

 

 

 

 

     ダ メ です!!!

 



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科学者と非科学(サイヤ人)



あるコメントにより、とても使いやすいキャラを忘れていた。
悟空の次に何でも出来るのは二次創作タキオンしかいないでしょう


注意
・オリジナル設定有り
・太陽の関係はネットから引用


pixivにて14話更新中


 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

悟空はスカイと釣りに行き熊のヤジロベェと友達になった

 

 

 

 

 

 

 

AM4:00

 

悟空「ふわぁぁあぁ、、、、うし!今日も良い天気だな」

 

 

ーーーーーーー

 

 

4:30

 

悟空「んじゃウララ。今日も配達頑張るぞ!」

 

ウララ「、、むにゃ、、、ぉー」zzz

 

 

ーーーーーーー

 

 

6:00

 

悟空「おつかれさん。オラはこのまま警備の仕事すっからおめぇは先に帰ってろ。寝て学校休むなよ?」

 

ウララ「うん!今日はキングちゃんと一緒に朝練するんだー!!」

 

悟空「そっか!やり過ぎて午後動けねぇなんて事はねぇようにな!」

 

ウララ「分かってるよー!!悟空さんも頑張ってね!」

 

悟空「おう!」

 

 

ーーーーーーー

 

 

9:00

 

栄澤「そろそろ皆さん登校しましたね。」

 

悟空「そうみてぇだな。」

 

栄澤「では悟空さんも休憩に入ってください。10時から巡回をお願いします。」

 

悟空「おお。朝から動いてると流石に腹減っちまった!!んじゃ先に休憩貰うかんな!」

 

栄澤「はい、どうぞ。行ってらっしゃい」

 

 

ーーーーーーー

 

 

14:00

 

悟空「一旦仕事は終わったな。ウララの学校が終わるまで暇だし、ヤジロベェの所で修行すっか!!」

 

 

ーーーーーーー

 

 

18:00

 

ウララ「あ“あ"ア"ァ"、づ、づがれ"だぁ!」

 

悟空「ははは!どんな声出してんだ。、、お疲れさん。今日も良く頑張ったな!」

 

ウララ「うん、ありがと!もうへとへとだけどね、、」エヘ

 

悟空「今日のはちょっとキツくしたんだ。それでこれなら体力も上がってる証拠だな」

 

ウララ「ほんと?、、えへへ。強くなってるって思うと嬉しいね!!」

 

悟空「そうだな!オラはこれから仕事行くけど、帰ったらしっかりと飯食って早く寝るんだぞ。」

 

ウララ「うん!!、、、え?悟空さん。この後も仕事なの?」

 

悟空「おう、そうだぞ。今日は遅番がある日だからな!そんじゃあな!!」

 

ウララ「あ、、、うん。行ってらっしゃい。」

 

 

ーーーーーーー

 

 

20:00

 

悟空「ふー。ピッ!こちら孫。異常なし。」

 

栄澤[はい、、、確認しました。ではお疲れ様です。孫さん。今日は上がって身体を休めて下さい]

 

悟空「おう!分かった。んじゃ先にしつれーすんぞ!お疲れ様だ、、、ピッ!。

ん"ん"ーーーーグググッ!、、ぷはぁっ!、、まだ8時か。少しだけ身体動かしてから飯食って風呂入るか。」

 

 

ーーーーーーー

 

 

23:00

 

悟空「ぐおぉぉぉ、スピー、、んごぉぉお」zzz

 

 

ーーーーーーー

 

 

・・

 

・・・

 

 

15:00

 

悟空「最近のってなるとこんなもんか。

そんじゃあ昨日の復習で今日も張り切って行くぞー!!」

 

 

ウララ「行けないよッッッ!!!!!」

 

 

!!?

 

 

〈いつも通り練習をしようかって時にウララが最近の行動を悟空に尋ねた。

思い出す限りの事を伝えて、今日の練習に対し発破をかけたが、ウララの怒声とも聞こえる様な声量で返され、悟空はポカンとした表情になった〉

 

 

悟空「う、ウララ?どうしたんだ、今日は修行したくねぇんか?」

 

 

〈悟空は突如豹変したウララに優しく問いかけるが、ウララは拳をぎゅーっと握り、肩を震わせ、何かが爆発する一歩前の状態だった〉

 

 

ウララ「そんなのばかりやってると死んじゃうよッ!!」

 

 

    〈爆発した〉

 

 

悟空「へ?死ぬ?、、オラがか?、、どういう事だ?、わかる様に言ってくれ。」

 

ウララ「・・・・悟空さん働き過ぎだよ!!朝早くから夜までずっと働いてるじゃん!!休む暇だってそんなにないし、ウララの事見ていてくれているのは凄く嬉しいけど、それで体を壊したりすると悲しいよ、、、」

 

悟空「い、いや。元々こういう話しだったしなぁ。、、配達のはオラから言った事だし、オラの体力は有り余ってっからこの程度じゃなんともねぇぞ?」

 

ウララ「んーーでもでも!!悟空さんは平気かもしれないけど、、、、でもダメだよ!!

、、、うん。、、悟空さんは今日お休みです!!私はキングちゃんの所に入れてもらうから心配しないで!」

 

悟空「休むったって、、、オラ本当になんともねぇぞ?」

 

ウララ「いーえ!悟空さんは休んでください!!

何もやっちゃだめだからね!それじゃあねぇーー!」

 

悟空「あ、おい、ウララ!!、、行っちまった、、、。

まぁキントレが面倒見てくれんだろうけど、、、する事無くなっちまったなぁ。どうすっか、、、」

 

 

〈怒涛の如く言い渡されたお休み宣言。悟空は当てもなくただ歩きながら暇つぶし方法を考えていた〉

 

 

悟空「ハァ、、時間空いた事だし修行でもすっか。」

 

ヤァ! チョットイイカイ?

 

 

悟空「いや、修行したら休んでねぇとか言われるよな。」

 

ン?キコエテナイノカ? ソコノキミ!チョットイイカイ?

 

 

悟空「グラス達のを見る、、、のも同じだろうな。」

 

ナァ! キコエテイルダロウッ! コッチヲミルンダッ!

 

 

悟空「・・・あっ!」

 

フゥ、ヤットキヅイタカ ワタシハ

 

 

悟空「たづなをヤジロベェに会わせてみっか!あいつも疲れてるだろうし、ヤジロベェを枕にしたり、魚食わしてやればすぐに怒ったりもしなくなんだろ!!そうと決まれば早速、、、

 

   「いい加減にしないかっ!!!」

 

、、、お?」

 

 

???「さっきからずっと呼んでいるじゃないか!私を無視して楽しいか!?」

 

悟空「あーさっきのはオラの事呼んでたんか。そいつはすまねぇな!考え事してたのとオラじゃねぇと思ったんだ」

 

???「ふむそういう事か。ならば許そう!」

 

悟空「おう。せんきゅー!」

 

 

・・

・・・?

 

 

悟空「???オラに用があったんじゃねぇのか?」

 

???「へ、、あ!そうだな。コホン、、、孫悟空さん、、だね?君の事は色々噂があってね。

人の身でありながらウマ娘以上の身体能力らしいじゃないか。」

 

悟空「あぁ。まぁな!」

 

???「やはりそうなのかい、、、ただ聞いただけじゃ私の気はおさまらない。

私のやりたい事は君の身体能力の数値をとりたい!それを科学的から見て研究したいのだよ!

良ければ協力してくれないか?」

 

悟空「んーー、、、ま、いっか。

 おう、良いぞ!何やんだ?」

 

???「やってくれるのかい!?それじゃあ最初は情報が欲しいから質問するのに答えてくれ。

ここじゃあなんだから部屋に案内するよ。」

 

悟空「分かった。そういやおめぇは誰だ?」

 

???「ああ自己紹介がまだだったね。

私は全知全能の神。アグネスタキオンだ!!」

 

悟空「、、、かみさま?、、、オラは孫悟空だ。知ってるだろうけどな。」

 

タキオン「ふふふ。自己紹介というのは大事なモノだよ。自分の事なのに、人にやってもらうのは甘えだと思わないかい?」

 

悟空「・・・さぁな。移動するんならさっさと行こうぜ」

 

タキオン「あ、、あぁ。ではこっちだ。着いてきたまえ」

 

 

〈アグネスタキオンというウマ娘。悟空の事を調べたい様だ。特に気にする事がない悟空は了承したが、何やら顔が少し強張っており、口調も普段と違い遊びがないようだ。

タキオンに案内され部屋に着く〉

 

 

タキオン「この部屋だ。入ってくれたまえ。」

 

悟空「・・・」

 

 

・・・・・

 

 

 

タキオン「ふぅ、、、それじゃあそこに座ってくれ。何か飲むかい?」

 

悟空「いやいらねぇ、、それよりすまねぇが、やっぱオラ帰る。」

 

タキオン「!!?な、、どう?、、え?、、何か予定などがあるのかい!?報酬はしっかりと出すつもりだぞ?」

 

悟空「んー、いや。おめぇが悪ぃ奴じゃねぇ事は分かってるんだけどよぉ、、、何かどうも引っ掛かるんだよなぁ」

 

タキオン「??、何か不満かい?望むものがあるなら用意するが、、、」

 

悟空「、、、あ!そういう事か!」

 

タキオン「何か分かったのかい?」

 

悟空「おう!おめぇの話し方がレッドリボン軍のやつらにそっくりだ。その語尾とか分かりづれぇ言葉とか、報酬とか用意とかな。

っっはぁぁあスッキリした!んじゃまたな!タキオン!」

 

タキオン「ちょっと待ってくれ!」

 

悟空「???なんだ?」

 

タキオン「私達は少し話し合うべきだ。私の事が嫌いなのか?」

 

悟空「会ってすぐなのに嫌いも何もねぇだろ。」

 

タキオン「では何故やめるなどと、、」

 

悟空「いやぁ昔の事なんだけど、すげぇ悪ぃやつらがいてよ、そいつらがおめぇみてぇな話し方で、協力しろとか見逃せば金をやるとか言ってきてな。

だからかしんねぇけど、タキオンの事に手ぇ貸すと心ん中がザワザワすんだ。

すまねぇけど、違う奴相手にしてくれ。」

 

タキオン「わ、分かった!話し方は変えよう。、、いや変えるよ。だから実験を一緒にやってほしいな!報酬、、じゃなくて、、お礼に何でも一つ言う事聞くよ?」

 

悟空「・・・・ハァ。分かった。昔の事だしおめぇとは関係ねぇもんな!オラが大人気なかったぞ。普通の話し方で良いから始めようぜ!」

 

タキオン「ホッ!、良かった。、、、では孫悟空くん。質問するからそれに答えてくれ。」

 

悟空「おう。」

 

タキオン「何から聞くか、、、歳は?」

 

悟空「死んでたりするけど、35歳くれぇだな。」

 

タキオン「ウマ娘と併走する時の力は何%くらい出しているんだ?」

 

悟空「うーん、、、適当だけど、10%かな。」

 

タキオン「それくらいの力があればここに来ずとも何かしらで有名になっていると思うが?」

 

悟空「・・・タキオン。おめぇ何も聞いてねぇんだな。」

 

タキオン「何がだ?」

 

悟空「オラこの地球には偶然来ただけで、違う地球に居たんだ。ま、そこでも有名とかじゃなかったけどな。

それに地球人でもねぇし。」

 

タキオン「・・・・・・・・・・・・・・それは全部本当の事か?」

 

悟空「?あぁ。本当だぞ。」

 

タキオン「・・・なるほどな。、、、く、、くくっ、ふははははは!!!そうか!そういう事か!!それならば確かに諸々説明が付く!違う地球とは、次元移動か?それとも多世界解釈か、、いやもしくは、、ブツブツブツブツ」

 

悟空「おーい、タキオン?、、だめだこいつ聞いてねぇ」

 

 

〈タキオンが自分の世界にトリップしており、どうやって呼び起こそうかと考えていると、ふと思いついた様に両手に"気"を集中させ思いっきり手を叩いた。〉

 

 

   スパァアアアーーンッッ!!!

 

 

タキオン「ビックゥッ!!!、、耳ピーンッ!、尻尾ピーンッッ!!」

 

悟空「お、やっと戻ってきたな。」

 

タキオン「、、、何だ今のは!?とてつもない衝撃音だ!この辺りに何か墜落したのか!!?」

 

悟空「??まーだ戻ってきてねぇのか、、おい。タキオンそろそろ返事しろよ。」

 

タキオン「孫悟空くん!ちょっと待っているんだ。何かが外で起きたらしい!!、、、ん?何故両手を広げているんだ?それに何か光って、、、、ズパァァアンッッ!!!」

 

 

・・・

 

 

タキオン「あー、ゔゔん、、あ!あーー!、、はぁ。耳は無事か。まだ頭がクワンクワンしているよ。」

 

悟空「ははっ!おめぇさっき目ん玉ぐるぐるしてたぞ!面白い奴だなぁ!」

 

タキオン「やりたくてやった訳ではないさ!くそ、誰のせいだと思っているんだ。」

 

悟空「おめぇが話し聞かずに変な所行ってっからだろ?」

 

タキオン「くぅぅっ!正論を武器にするとは!まぁいい、話を戻すとしよう。

さっき手を叩く時に光っていたがあれはなんだい?」

 

悟空「あれは"気"ってオラ達は呼んでるぞ。」

 

タキオン「"気"かぁ、、、、さっきの現象や名称から察するに自身の生命エネルギーを利用しているって感じなのかい?」

 

悟空「まぁそんなもんだな。」

 

タキオン「ざっくりで構わないから"気"を利用して何が出来るのか教えてくれないか?」

 

悟空「んーー、、、誰でも"気"はあるから誰がどこにいるかが分かるし、さっきはオラの手に集中したけど、あれを外に出して当てる事が出来るな。後は空飛べるぞ」

 

タキオン「ほう?ほうほうほう!!何という非科学だ!空までとは、もはや物理法則など関係ないな!!これが可能になれば私の理論など10年は繰り上がるぞ!

それに、、、、、待つんだ。もう言わないから手を下ろしてくれ。」

 

悟空「それで次はなんだ?」

 

タキオン「あぁ、君の世界では"気"を使用して何をするんだ?」

 

悟空「何って、、戦いだな。」

 

タキオン「、、、へ?、、戦いって、どういう?」

 

悟空「どういうって戦いは戦いだな。オラは戦う事が好きだからすげぇ頑張って鍛えたんだ。

後から知った事だけど、戦闘民族サイヤ人っていう違う星で生まれたらしいけどな!」

 

タキオン「せっ!?、、戦闘民族、、、か。

なら次は・・・・・・・はどうだ?」

 

悟空「それは・・・だな。」

 

タキオン「なら・・・は?」

 

悟空「・・・・・だぞ。」

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

 

 

〈タキオンは自身の持つ常識とはかけ離れた事に心底興味を持ち、"気"に関する質問を次から次へと投げかけた。

へとへとになりながらも一度は引き受けた手前、悟空も説明下手でありながらも必死で頑張った。〉

 

 

悟空「も、もうこれ以上は知らねぇぞ、、、オラだって調べたってよりは自分で出来る様になったってだけだから細けぇ所までは分かんねぇ。」

 

タキオン「あっはっは!!いやぁ凄いな!確かに"気"が使えれば、ウマ娘とも併走が出来るだろうし、トレーニング用のタイヤも持ち上げる事が可能だろうな!!」

 

悟空「??いや、あれは、」

 

タキオン「ふふ。ははは!では孫くん。聞きたい情報はとりあえず全部だ。次は技術面を見せてもらいたい。

場所は決まってるからそこに行こう。」

 

悟空「お、おぉ。」

 

 

ーーーーーーー

 

 

タキオン「着いたよ。ここは整備がされてなくて使う者が今は居ないんだ。」

 

悟空「ふーん。こんな所あったんだな。」

 

タキオン「では早速始めるとしようか。ここのターフは一周2000mだ。まずは本気で走ってもらう。人の身では中々な距離だがウマ娘と走る君ならどうって事ないだろう。」

 

悟空「まぁ、こんくれぇはな。」

 

タキオン「あ!そうだ。孫くん自身のデータが欲しいから"気"を使わずにやってくれ。"気"使わなくても走れるかい?」

 

悟空「あぁ。そいつは問題ねぇけど、オラは"気"使わなくても」

 

タキオン「ブツブツブツブツブツ、、、、」

 

悟空「、、、、ハァ。」

 

 

   ッズッパァァァアアンッ!!!

 

 

・・・

 

 

タキオン「孫くん。私が悪いのは分かってる。だけどあれだけはやめてくれ。みみが、、私の耳が壊れそうだ。」

 

悟空「おめぇの事が分かったぞ。誰かに似てると思ってたんだ。」

 

タキオン「??それはさっき言ってた悪い奴の事かい?」

 

悟空「いやそれは話し方だ。そっちじゃなくて、おめぇはブルマにそっくりだ。」

 

 

   ヒュウゥゥゥゥ.......

 

 

タキオン「、、、孫くん。」

 

悟空「なんだ?」

 

タキオン「何故いきなりブルマなどと言ったんだ?」

 

悟空「おめぇが似てるからだぞ?」

 

タキオン「、、、ブルマにか?」

 

悟空「ああ、そうだ。」

 

 

・・

・・・

  

 

 

〈その瞬間、タキオンの怒声が響き渡った。〉

 

 

ーーーーーーー

 

 

タキオン「いやぁそれならそうと言っておくれよ!」

 

悟空「無茶言うなよ。オラはブルマが履き物っつー事すら知らなかったんだからよぉ。」

 

タキオン「ふむ。まぁ君の事だから下心は無いと思っていたが、それはもういいか。

それにしても似てるとは何が似ているんだい?」

 

悟空「あいつも一回オラの事を調べるって言って、色々聞いてきたかと思えばさっきのタキオンみてぇに一人でブツブツ言ってんだ。

おめぇもあれだろ?"かがくしゃ"ってやつだろ?」

 

タキオン「そうだな。曲がりなりにも科学者と名乗っているよ。

それでブルマさんという方は君の事を調べきれたのかい?」

 

悟空「いや、投げたな。最後の方なんて髪の毛クシャクシャすぎて爆発してたぞ!」

 

タキオン「そうか。ふっふっふ!他の科学者が投げた研究を解明する事に勝る程の幸福はないな!

ふふふ。よし!では始めようじゃないか!!」

 

悟空「、、、やっとか。」フゥ

 

 

・・・・・・

 

 

タキオン「それじゃあスタートの合図で走り出してくれ。さっきも言ったが"気"は使わないでくれよ?」

 

悟空「分かってるって!ずっと座ってて身体が硬くなっちまったからなぁ。さっさと動かしてぇぜ。」

 

タキオン「まだ後にも控えてるからな。燃え尽きんでくれよ?、、、、それじゃあよーい、、スタート!!」

 

 

〈指定の位置に付き合図を出した瞬間、突風が吹いた。

前兆が無く突然の事だったので思わず顔を伏せたが、目にゴミが入ったのか少しズキズキする。〉

 

 

タキオン「ッくうぅっ!凄い風だ!!風速メーターも普通だから実験日和だと思ったが、、、ふぅ。目が痛い」

 

悟空「大ぇ丈夫か?タキオン。」

 

タキオン「あぁ心配ない、、、ん?」

 

 

〈突然"後ろから"話しかけられ当たり前のように返事をするが、話しかけて来た男は走ってるはずではなかったか?とターフを見渡すが姿が無く、後ろを振り返るとやはり孫悟空がそこに居た。〉

 

 

タキオン「、、、何故いる?」

 

悟空「走り終わったんだ。そしたらおめぇが顔押さえてっからどうしたのかと思ってな」

 

タキオン(カチッ!、、、12秒38.、、、)

「すまない、戻ってきてくれたんだな。私は大丈夫だからもう一度走ってもらっても良いかい?それと補足だが、走る所はトラックに沿って一周するんだよ?"気"は使ってはダメだからね。」

 

悟空「もう一回か。まぁいいか。次で終わりにしてくれよな。」

 

タキオン「ああ。、では行くぞ?よーい、スタート!」

 

 

    轟ッッ!!!!

 

 

タキオン「ま!またこの風ッ!!だがしっかりと見なければ、、、!!!?」

 

 

〈またも起きた突風に負けじと目を開けるタキオンだが、予想している場所には悟空の姿は無く、全体を見渡す様に目を凝らすと第二コーナーあたりに人の影が見えた。

まさかとは思いもう一度見ようと瞬きをするとその影は第四コーナーを回っており、実態をよく見ようと集中したら目の前に男が立っていた。〉

 

 

タキオン「・・・・・・・・え?」

 

悟空「どうだ!」

 

タキオン「あ、あ、え、カチッ!、、、、4秒65.」

 

悟空「今度はしっかりと測れたみてぇだな。んじゃ次行くか。」

 

タキオン「、、、孫くん。"気"を使ったのかい?」

 

悟空「??おめぇが使うなって言ったんだろ?癖で使っちまいそうだったけど、なんとか出来たみてぇだな!」

 

タキオン「そうか、、、、、そうか。」

 

悟空「???、、タキオン?」

 

タキオン「あぁ、すまない。次に行こうか。」

 

悟空「おう!」

 

 

ーーーーーーー

 

 

タキオン「次は脚の筋肉関連として、ジャンプ力を見てみたい。校舎の高さを使おうとしたが、君の力は想像以上だから今回は廃ビルでやってもらうよ。

白い粉を手に付けて壁をタッチしてくれ。その位置を後で測るとしよう。」

 

悟空「・・・・・・・ほっ。」

 

 

   ピュンッ!!

 

 

 

 

 

ュュュュゥゥウウウウッ、、ッズドンッッ!!

 

 

 

タキオン「・・・・どこを触った?」

 

悟空「一番上だな。」

 

タキオン「・・・・そうか。」

 

悟空「なぁ、タキオン。」

 

タキオン「なんだい?」

 

悟空「オラがブルマの時にやったやつには飛行船を使ったぞ?」

 

タキオン「・・・・そうか。飛行船か。、グスンッ、、ちなみに速さは何かやったのかい?」

 

悟空「すっげぇー長ぇ所を貸し切ってたな。飛行船がいっぱいあったぞ。端から端まで走ったり、それと、なんつったっけなぁ、、"せんとうき"っちゅうのを改造して、"まっはじゅー"っつー名前?と競争したな。」

 

タキオン「、、滑走路。、、戦闘機にマッハ10か。、、フフ。ふふふ。

 

 

    う"わ"あ"あ"あ'ぁ"ん"っ"!!!」

 

 

悟空「な!え、ど、どうしたタキオン!?何でいきなり泣いてんだ!!?」

 

タキオン「た"っ"て"そ"ん"な"の"と"う"し"よ"う"も"な"い"し"ゃ"な"い"か"ぁぁっ!!!」

 

悟空「お、落ち着けって!、、、あー、確かブルマん時も発狂してたなぁ、、、、っと今はタキオンか。ほら!オラはサイヤ人で地球人じゃねぇからよ!普通じゃねぇんだ!仕方ねぇよ!な!!」

 

タキオン「グスンッ、、スンッ!、ゴホッ!、、、だって私は科学者なんだよ?、、こんなの立証できない、、私の頭脳はここで終わりなんだ、、」

 

悟空「まぁそう言うなって。オラまだこの世界いるしよぉ何も今すぐしなきゃいけねぇって訳じゃねぇだろ?また協力してやっからさ!元気出せって!!」

 

タキオン「、、、本当かい?」

 

悟空「ああ!本当だ!」

 

タキオン「グスンッ、、分かった。、、すまないねぇ。取り乱してしまって。」

 

悟空「い、いや構わねぇよ。とりあえず一回部屋帰るか」

 

タキオン「・・・・」コクン

 

 

〈この世界に降り立ってから最大の危機を迎えた悟空。慣れない仕草でタキオンを宥め、実験はやめてタキオンを連れて部屋に帰ってきた。

時刻は18時半。夏に近づくにつれ日の昇っている時間が長くなってきた。〉

 

 

悟空「こんな時間なのにまだ明るいな。」

 

タキオン「時期的に地軸の北極側が太陽の方向に傾いているからだろう。だからここでは南中高度が高くなって、明るい時間が長くなるんだよ!」

 

悟空「へー、、何言ってんのか知らねぇけど、頭良いんだな。」

 

タキオン「ふふ。そうだろ?これでも全知全能の神と名乗っているんだ。これくらい私にかかれば当たり前の事なのだよ。」ビシッ!

 

悟空「そっか。、、、さっきはピーピー泣いてたけどな」

 

タキオン「・・・・・・ウルッ」

 

悟空「あーーー!!!!そういやよぉ聞きてぇ事があんだけど。」

 

タキオン「グシグシ、、、ど、どうしたんだい?」

 

悟空「んー、、、タキオンってもう走れねぇのか?」

 

タキオン「!!・・・・ふふ。いきなりぶっ込んでくるなぁ」

 

悟空「、、、やっぱ聞いちゃまずかったか?」

 

タキオン「いや、構わないさ。ただ他の人にはバレないよう最善を心掛けていたが、、、、、そうか。戦うためには敵を観る事は基本、、と言う訳か。」

 

悟空「オラの悪い癖だ。

"それ"は最近なった訳じゃねぇんだろ?」

 

タキオン「そうとも。自分で言うのもなんだが、、速かったさ。力があって、分析は得意だから知能もある。だがそれ以前に脚が脆すぎたんだ。完全に壊れてしまって走る事は出来なくなった。」

 

悟空「・・・」

 

タキオン「この学園では走る事を前提とし、レースに出れない者は退学も余儀ない状況だ。私の場合はウマ娘の研究理論を出していく事で特別に在籍をさせてもらっているんだ。

まぁ走る事は好きだが、研究も私の一部とも言えるから苦痛では無いがね。」

 

悟空「そういう事か。すまねぇな変な事聞いちまって」

 

タキオン「さっきも言ったが構わないよ。何故だかは分からないが孫くんになら何も考えず話す事が出来るみたいだからね。私も誰かに話したかったかも知れないよ。」

 

悟空「そうか。、、、んじゃタキオン。オラに力貸してくれねぇか?」

 

タキオン「、、、ふむ。詳しく聞こうか。」

 

悟空「オラがウララの事見てるのは知ってんだろ?おめぇは強ぇみてぇだし、ウララの走りから何か分かる事があれば教えてほしいんだ。

オラは鍛える事出来るけど、それ以上は出来ねぇし、トレーナーもいるけど、元々キングのトレーナーだ。

こっちにばっか来てもらう訳にはいかねぇ。」

 

タキオン「なるほど。私は研究が出来て、ハルウララくんが成長するのは実に合理的だ。、、、だが不可能だ」

 

悟空「、、、やっぱ手ぇ貸すのはダメだったか。」

 

タキオン「いやそうではない。私的な事なんだけどね、単純に時間が足らないんだよ。ハルウララくんの分析をするのは良いが、のめり込んでしまうのは目に見えてる。

さっきも言ったが研究を過程や結果などを提出をしなければならないから余裕がないんだよ。すまないねぇ。」

 

悟空「そういう事か。無理言って悪かったな」

 

タキオン「ふふふ。まぁたまに見てアドバイスするくらいなら問題ないから軽く見させてもらうよ。」

 

悟空「おお!そん時はよろしく頼むな!」

 

 

〈結果的にお互いの事が知れた悟空達。協力関係なのか、友としてなのかは分からないが2人とも笑みを浮かべている。そんな空気を壊す様にみっともない音が響いた〉

 

 

 

   ぐぎゅうるるるるっっ!!

 

 

タキオン「、、、ポカーン」

 

悟空「はは!今日は変に疲れちまったからなぁ。腹減ったな!」

 

タキオン「ふふ、あはは!それなら食堂に行けば良いさ。警備員の仕事なら社員割引きくらいあるだろう?」

 

悟空「いやぁこの前やらかしちまって、今食堂に行ってもおかわりが禁止なんだよ。作ってくれてる奴も分かってるみてぇだから内緒でやんのも無理だった。」

 

タキオン「それはそれは酷な話だな。クッ!ククッ!ふはははは!非科学の象徴とも言える様なサイヤ人も食欲には勝てないか!!残念だなぁっ!!!」

 

悟空「、、、おめぇ、、すげぇ嬉しそうな顔してんぞ、」

 

タキオン「ふふふ!嬉しそうではないよ。とても嬉しいんだよ!さっきの屈辱は忘れてないからねぇ!!」

 

悟空「、、、、、なぁタキオン。」

 

タキオン「クックッ、、ははは!、、はぁ、、ん?なんだい?」

 

悟空「オラが今回の実験に協力すると何でも言う事一つ聞いてくれるんだよな?」

 

タキオン「え、、、、そ、そんな事言ったか?」

 

悟空「言ったな。そもそもそれを聞いてオラも協力したんだからなぁ、、、、つー訳でオラの言う事1つ聞いてもらってもいいか?」

 

タキオン「・・・・ふふ。約束ならば仕方がない。どうせなら

 

 

 

 

 

  少しえっちな事でも構わないよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガツガツガツガツ!!!むしゃむしゃ、ん!、ゴクゴク、ぶはぁっ!、、、カチャン!カチャン!カチャン、、ガツガツガツガツ

 

 

タキオン「はぁはぁはぁ、、、ほら!ラーメンに肉まんにどんぶりの2個ずつだ!!」

 

悟空「ガツガツガツ!!!っっはぁぁあウメェッッ!!やっぱ腹一杯食わねぇと力が出ねぇよな!あんな状態で走ったりすっとすぐに体力も尽きちまうよ!!

 

 

 あ、タキオン!これ後3個おかわり!!!」

 

 

タキオン「あ"ーーーーくそぉ!!もう絶ッッ対にサイヤ人とは交渉しないからなぁぁあっっ!!!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

ー 次の日の放課後 ー

 

ウララ「昨日はどうだったの?しっかり休めた?」

 

悟空「おう!腹一杯食ったからすげぇ元気だぞ!サンキューな。ウララ!」

 

ウララ「うん!」

 

 

〈今日こそ始まるトレーニング。徐々にモチベーションを上げていく2人だが、何故か近くにいるキングとキントレが話しかけてきた。〉

 

 

キング「、、ねぇ。楽しそうにしてるとこ悪いのだけど」

 

悟空「ん?どうした?キング。」

 

キング「これからの予定はどうするつもり?」

 

悟空「そうだなぁ、、、今週はレース感を鍛えるために模擬レースをやったり、キントレのチームに入れてもらったりして、来週は筋トレを混ぜていって、、、、、あ、そういやレースって次いつだったっけ?」

 

ウララ「あ!そういえばそうだね。えっと、、、、いつだろ?」

 

キントレ「次は今週の日曜日。4日後です。」

 

悟空・ウララ「「・・・・・・え。」」

 

キング「ッッッえっじゃなぁいっ!!

このへっぽこ達!!何で自分達のレースの日にちを忘れてるのよ!前は学校が休みだからしょうがないとは言え、昨日も休むからそんな事だろうと思ったわ!!!」

 

悟空「は、はは!。そいつはたまげたなぁ。」

 

キング「笑ってないでさっさと練習行きなさいッ!!!」

 

悟空「ウ、ウララ!行くぞ!さっきの予定は無しだ!2日間オラと併走して3日目にはキントレの所で模擬レース。最後はめいいっぱい休む!」

 

ウララ「う、うん!ウララ頑張るからね!!」

 

 

・・・・

 

 

 

悟空「ウララァ!頑張るんだろ!?遅れてきてんぞ!走れぇっ!!」

 

ウララ「うわーーん!!!、久々のスパルタだよ〜」

 

 

 

 オラに抜かされたらくすぐりの刑だかんな!

 

 

     それだけは勘弁してぇぇぇ

 

 

 

 

キング「はぁ、、何でこう2人揃って抜けてるのかしら」

 

キントレ「はは!キングも大変だね!だけどその大変ついでに一仕事あるみたいだよ?」

 

キング「仕事って、、、、え"、私が言うの?」

 

キントレ「うん。決定事項みたい。」

 

キング「、、、分かったわよ。全く。、、出番少なかったのにやる事は面倒くさいわね。、、それじゃあ

 

 

 

すっかりレース日の事など忘れていた悟空さんとウララさん。取り戻すように必死でトレーニングをしているみたいだけど、事の重大さを分かっているのかしらねぇ?

ウララさんにとっては前代未聞の挑戦。一つも落とす事は出来ないわよ!

 

次回!天下一特別1800m(簡易版)

 

このキングのライバルとして頑張りなさい!負ける事は許さないわよ!!

 

 

       

   これで良いのよね?

 

    

       うん!バッチリ!



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天下一特別1800m 出陣ッ!!




今回は少し手抜きレース

毎度の事ながら、矛盾や解釈違いがあった場合、優しく訂正コメントください 


 

ー 前回のあらすじ ー

 

アグネスタキオンがサイヤ人の力を検証出来なくて泣いた

 

 

 

 

 

 

 

ー レース会場 ー

 

実況「さぁ!今日の大詰め天下一特別1800m!いつもより多くの人で賑わってますね!」

 

解説「そうですね!」

 

実況「やはり注目のウマ娘といえば、前回で力を開花させたハルウララでしょうか?」

 

解説「はい!注目もそうですが、今日来ているファンの方々もハルウララを中心に見ている人が多いと思いますよ。」

 

実況「そうでしょうね!私も期待しています。前回の勝利後のインタビューで有馬記念で1着を獲ると宣言していましたが、今日も含め、距離を伸ばしていくとの事ですが、解説さんはどのように思いますか?」

 

解説「はい。えー、普通に考えれば不可能ですね。バ場どころか長距離の域までいくので、ハルウララとは真逆の適正になります。

ですが!不可能だという考えは前走で覆されました!

私的になりますが、通常の考えは捨てて、ハルウララの前代未聞の挑戦として応援しています。」

 

実況「なるほど。私も概ね同意です!あ、知ってましたか?今ファンの間ではハルウララの挑戦を有馬チャレンジって呼んでるみたいですよ?」

 

解説「ハルウララ有馬チャレンジですか?ふふ。ははは!それはそれは、まさしくチャレンジですからね!…ふふ。これがハルウララの強みの一つにもなればいいですね!」

 

実況「そうですね!、、さて、出走まであと少しですね。パドックに入るウマ娘達をご覧ください!」

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

ー 控室 ー

 

"シュン!"

 

 

悟空「よっ!ウララ。気分はどうだ?」

 

ウララ「あっ、悟空さん!

うん。元気なんだけど、変に落ち着いてるんだー。ウララ的にはやるぞ!って感じになった方が良いと思うんだけど、、、」

 

キング「ま、そこは個人にもよると思うけど、決して悪い事ではないわ。落ち着く事で見えるものもあるのよ。」

 

キントレ「うん。キングの言う通りだよ、ウララ。最終的には自分に合った精神状態に落ち着くからそれまで勝手に任せるといいよ。」

 

ウララ「そっか、、うん!今日も頑張るぞー!!」

 

悟空「はは!おめぇ最近ずっとその掛け声してんな!」

 

ウララ「頑張るぞーの事?、、うん!元々は悟空さんから始めたんだけどね?これを言うと元気が湧いてくるんだよ!」

 

悟空「そうなんか?、、うし!

  ウララァ!頑張んぞーーッ!!!」

 

キング・キントレ「「ビクッ!!!」」

 

ウララ「わっ!びっくりしたぁ、、、うん!」

 

悟空「いやそうじゃねぇな。オラが言ったらおめぇは"おー!"って言うんだ。」

 

ウララ「おー、かぁ。、、円陣だっけ?なんだか燃えてきそう!!んじゃもう一回!」

 

悟空「おう!、、んじゃ。」

 

 

 

 頑張んぞォ!!!     おーー!!!

 

 

 

悟空「ん?」チラッ

 

ウララ「ニヒッ!」チラッ

 

 

「あっはっはっはっは!!!」

「えへへ!あはははは!!!」

 

 

 

「相変わらず仲がよろしいですねぇ。」

 

キング「まったくだわ。」

 

キントレ「良い事じゃないか?」

 

悟空「ははは!、、ふぅ。、、あ、今日はおめぇだけ来たんか。スカイ。」

 

スカイ「やっほ〜。まぁそもそも一回一回応援には行かないからねぇ。ウララ、頑張ってね。」

 

ウララ「うん!ありがとね。セイちゃん!!」ニコッ

 

キング「それにしても貴方が来るのは珍しいわね。普段は言ったって来ないのに。」

 

スカイ「ん?、、まぁ、セイちゃんはその場の気持ちを大事にするからねぇ。」

 

キング「、、、へぇ?」

 

スカイ「、、、何かご不満ですか、お嬢様?」

 

キング「いえ。別に?」

 

スカイ「そう?」

 

キング「ええ。」

 

スカイ「、、、そっか。」

 

キング「、、、ええ。」

 

スカイ「・・・・」ジー

 

キング「・・・・ぷっ!、、ふふっ!あはは!何が言いたいのよ!?ジーっとこっち見ないで!!」

 

スカイ「にゅふふふ!あはっ!いやいやキングが思わせぶりな顔してるからでしょ?」 

 

キング「そんな顔してないわよ!!」

 

スカイ「いーや!してたね!!」

 

悟空「クックッ、見ろよウララ。あいつらだってすげぇ仲良さそうだな。」

 

ウララ「ほんとだね!キングちゃんはいつもセイちゃんの話するから凄く仲が良いんだよ?」

 

キング「こら!そこ!聞こえてるわよ!?ウララさんも余計な事言わないっ!!!」

 

スカイ「、、へぇぇぇ。いつも、ねぇ?、、」

 

キング「、、、何よ?」

 

スカイ「いえ、別にぃ?」

 

キントレ「はーい。そこまで!繰り返して長くなりそうだから打ち切らせてもらうよ。、、コホン。ウララには今日のレースの走りを説明するね?」

 

ウララ「うん!お願いします!」

 

キントレ「今日のレースでは逃げっていう逃げがいないんだ。だから予想通りに行けばスローペースになると思う」

 

ウララ「スローペースかぁ。あれ苦手だな。」

 

悟空「なぁスローペースだったら何があんだ?」コソコソ

 

キング「展開が遅いと末脚を発揮しづらいのよ」コソコソ

 

キントレ「そこで悟空さん。」

 

悟空「!!、っっお?ど、どした?」

 

キントレ「ウララの1800mについてスタミナや他のステータスはどんな感じですか?」

 

悟空「そうだなー、、とりあえずスタミナに関しちゃあ問題ねぇな。それどころか有り余ってるくれぇだ。

一つ問題があるとすりゃあ、行こう行こうってして自分のペースを保ててねぇって事かな。」

 

キントレ「それで最後の方は体力が尽きるとかですか?」

 

悟空「いや、それはねぇな。 

強いていうなら最後の方で足がもつれそうになるって感じだな。、、ま、それもほとんどねぇから心配はいらねぇと思うぞ?」

 

キントレ「ふむ。それなら出来そうかな。、、じゃあ今日の作戦は○○○○で行こう!」  

 

ウララ「うん!、、、でも誰かが速く逃げちゃったらどうしよう。」

 

悟空「そん時はこの前みてぇに走ればいいんじゃねぇか?」

 

ウララ「あ、そっか。」

 

キントレ「・・・対策と言っても最終的にはウララがやるしかないからね。いざ自分の予想と違う事が起きても臨機応変に対応出来なきゃ有馬で勝つ事なんて出来ない。

ウララもいつかは責任を背負う事がある。でも今は楽しんで走れば良いんじゃないかな?」

 

キング「そうよ。ウララさんは自分らしく楽しんで、尚且つ勝てば文句はないわ」

 

ウララ「うん!それじゃあウララ行ってくるね!!」

 

悟空「おう!行ってこい!客席で見てっからなー!」

 

    

ハーイ!

 

 

キントレ「・・・行きましたね。それじゃあ僕達も向かいましょうか。」

 

悟空「そうだな。」

 

 

〈ウララはパドックに向かい、悟空達は最前席で見るために移動をした。その後ろをついていく様にキングとスカイが並んで歩いていた。〉

 

 

キング「貴方、応援に来たって割にあまり何も言わなかったわね。」

 

スカイ「いやぁ、言いたい事を全部言われてしまいましてぇ考えているうちに行っちゃったんだよ〜」

 

キング「・・・はぁ、貴方って人は、、、」

 

スカイ「人じゃないけどね。」

 

キング「知ってるわよ。」

 

スカイ「・・・・・そういえばキングも、らしくない事言うよね。」

 

キング「・・・・楽しんで勝てればってやつの事言ってるのなら聞く耳持たないわ。、、、あの娘が周りの期待や、G1勝利のプレッシャーなんかを感じる必要は全くないわ。

私の言った事は間違ってないわよ。」

 

スカイ「・・・・そうだね。キングはウララの事、本当に好きなんだねぇ。」

 

キング「!!そっ、そんな話じゃなかったでしょう!?」

 

スカイ「え〜そう?最初からその事のつもりだったけど」

 

キング「嘘をつきなさい!!話の脈絡が皆無でしょ!!」

 

キントレ「ほら、2人とも。周りの人の迷惑になるから大人しくしないとね。」   

 

キング「ムグッ!、、、はい。」

 

スカイ「はーい。、、、怒られちゃったね」ボソボソ

 

キング「・・・・・」ツーン

 

スカイ「ありゃ、、、、ごめんね、キング。」

 

キング「、、、えっ?、、なにg」

 

 

〈さっきまでふざけていた声とは違い、真剣さを帯びていた声に驚き、詳しい事を聞こうと思ってスカイの方に向きを変えるとキントレの声に流されてしまった。〉

 

 

キントレ「さぁ、ついたよ。」

 

悟空「ひゃあぁぁ!やっぱすげぇな!ここ!!」

 

スカイ「たまには外から見るのも良いですねぇ」

 

 

〈すっかりと調子の戻ったスカイとは別に、キングは先程の言葉が気になってしまい俯いて考えていた。」

 

 

キング(あの言葉程度にあそこまで本気で謝るかしら?何か他に、、、、)

 

     ・・・キング!

 

 

キング「ピクッ、、、悟空さん?」

 

悟空「・・ニヒッ!!、、もうすぐウララが来んぞ?下向いてたら見えねぇからな!」

 

キング「、、、そうね。」

 

悟空「・・・それに今は何も考える必要はねぇ。」

 

キング「!?、、貴方!何か知ってるの?」

 

悟空「、、、いや、何も?」タハハ

 

キング「はあ!?」

 

悟空「まぁまぁ、そー眉間に皺寄せんなって!何考えてんのか知らねぇけど、今はウララの方だろ?」

 

キング「、、ふぅ、、それもそうね。」

 

 

〈悟空の本気か何も考えてないのか分からない能天気さにキングの緊張もほぐれてしまって、すっかり元の顔付きに戻った〉

 

 

スカイ(・・・・・クスッ)

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

実況「パドックも終わりターフに次々とウマ娘が現れて来ましたね!解説さんレース展開はどのようになると思いますか?」

 

解説「今日のレースで脚質的には逃げがいませんからね。その中でも全レースで2番手追走している2番がハナをとると思いますよ。」

 

実況「なるほど。2番といえば、最近のレースで力をつけてきているウマ娘ですね。、、、、あっ!ここでターフに現れました!

 有馬チャレンジ2戦目!ハルウララです!」

 

 

  ワアアアアアァァァァ!!!!

 

 

ウーラーラ!!

 

 

      頑張ってねーー!!

 

 

           応援してるぞぉ!!

 

       

  目指せ有馬記念ッ!!!

 

 

 

ウララ「わぁ!応援ありがとー!!一生懸命頑張るからねー!!!」

 

 

〈パドックに現れたウララに待っていたものは体がビリビリと振動するくらいの大歓声だった。今までも応援の声はあったが、最近のは熱意の溢れる声だった。

ウララ自身も内側から闘争心が溢れるのを感じ、客席に向かって手を振って応える中で"見覚えのある女性"を見つけた。〉

 

 

ウララ「んー?、あ!新聞配達のお姉さん!」

 

女性A「ふふ、こんにちは。だけどその呼び方じゃあ私が配達さんみたいよ?」

 

男性「え!?ちょ、ちょっと!ウララちゃんがこっち来てんじゃん!!知り合いなの!?」

 

女性A「この前話したじゃない。トレーナーさんと一緒に新聞配達してるわよって。」

 

男性「えー、言ったね、、本当だったんだ。」

 

ウララ「こんにちは!本当だよ!それにお姉さんとは良く喋ってるんだー!」

 

男性「めっちゃ良いじゃん!!俺は?何で起こしてくれないの!?」

 

女性A「起きないからよ。、、ウララちゃん、これまでのレース見たわよ。あなた凄い事しようとしてるのね。」

 

男性「そりゃ何回も説明しただろ!何たって「黙って」、はい。」

 

ウララ「えへへ。凄いでしょ!でもウララは本気でやろうとしてるんだー!!」

 

女性A「でしょうね。そうじゃなきゃ配達業なんて出来ないわよ。孫さんも見てるの?」

 

男性「え!?孫さん?誰それ、、、もしかして浮k「黙って」、、、グスン」

 

ウララ「ちゃんと見てくれてるよ!違う場所だけどね。」

 

女性A「そう。頑張ってね。応援してるわよ」

 

ウララ「うん!あ、お兄さんも応援ありがとね!いつもお姉さんから話は聞いてるんだよ!!」

 

男性「ウルウル、、、ウララちゃん。俺がファン一号だからな!ずっと応援してるぞー!!頑張れーーっっ!!!」

 

ウララ「あははっ!!ありがとー!!!」

 

 

 

 

実況「まもなく出走なので、人気順に説明していきましょう。第10レース。全10人の天下一特別1800m!

・・

・・・

三番人気は7番!そして二番人気は2番!そして一番人気はやはりこのウマ娘!!

  9番ハルウララです!!!」

 

解説「いやー来ましたね!」

 

実況「そうですね!」

 

解説「単純にファンが多いっていうのもそうですが、前走が圧倒的でしたからね。

有馬記念、、、有馬チャレンジでしたか。それも夢では終わらないと思っている方も少なくはないと思いますよ!」

 

実況「確かにそうですね!このウマ娘に限っては適正なんて問題外!!今日はどのようなレースを見せてくれるのか期待が募ります!、、、さて、ファンファーレが鳴り終わり、ウマ娘達がゲートに入って行きます。」

 

解説「あ!ハルウララは前走同様のルーティーンでターフと客席に両手合わせてお辞儀しています。」

 

実況「この天真爛漫にも関わらず、礼儀正しい動作はギャップが凄まじいですね!ファンの方にも同じ動作で応える方もチラホラ見えます。、さぁ、ゲート内、体制が整った模様。

   

  天下一特別!スタートしましたッ!!!

 

 

 まずは予想通り2番がハナをとりました。

 隊列は中団に固まって、ハルウララはここ!後方から3番手の位置にいます!

 展開はやはりスローペースみたいですね

 

 

 

キントレ「うん!良い位置についてる!」

 

悟空「ウララー!油断すんなよー!!」

 

キング「今の所は話していたレース展開ね。それなら最後は"あれ"かしら?」

 

キントレ「そうだね。予定通りに行けば出来ると思うよ」

 

 

 

 向正面から第3コーナーに入ります。

 

 

 

ウララ(そろそろかな、、、行くよ!!)

 

 

 隊列は依然として変わりなく、、、いや!動いた!動きました!ハルウララ!!!

 

 3コーナーの真ん中で外から追い上げていきます!!

 

 

 

悟空「お!良い入りなんじゃねぇか!!」

 

スカイ「うん!位置取りも申し分ないね!」

 

キング「これも予定通りね。」

 

キントレ「ははっ!スローペースで脚が持つなら捲って上がるに限るよね!」

 

 

 

 4コーナーから直線!2番とハルウララが先頭争い!

 三番人気7番!急いで追いかけるがこれは遠いか!!

 先頭の2人が後方を2バ身、3バ身と、どんどん離していきます!

 

先頭はまだ2番ッ!追い抜けるかハルウララ!

 

 

 

男性「頑張れぇええ!!ウッラァァラァ!!!」

 

女性A「・・・・頑張って。」

 

 

 

 残り200mきりましたッ!!

 先頭は2番!!だが2番手ハルウララとは半バ身程しか無いぞ!!逃げ切れるか2番!!!

 

 

 

悟空「そこだッ!行けッ!!」

 

スカイ「差せるよ!もう少し!!」

 

キング「クッ!、勝ちなさいッッ。、ウララさん!!」

 

 

 

   残り100m!決まるか!2番粘る粘る!!ハルウララ差し切れるのかァッ!

 

 

 

2番(グゥ!、、負けられない!、、負けたくないっ!!)

 

ウララ(、、、ふぅ。あの時のように…瞬間的に距離を詰める様に、、呼吸を整えて、飛ぶようにーーっ踏み込むッッ!!!)

 

 

 

   スゥ、、、ふッ!、ダアァンッッッ!!!

 

 

 

 

 並んだ!並んだッッ!!ハルウララ並んだぞ!!!

 だが2番も追い縋るッ!!!

 

 

 

2番「う、あ"あ"あ"あああぁぁぁ!!!!」

 

ウララ「やぁあああああっっ!!!!」

 

 

 

   熱戦ッ!烈戦ッ!超激戦ッッ!!

 

      譲らない2人っ!!!

 

 2番か!ハルウララか!2番か!!ハルウララかっ!

 

っっ!!!わずかに前に出たハルウララッ!!

 

 

 

 

  ハルウララ一着でゴールインッッ!!!

 

 

 

悟空「ぃやったあぁぁぁっっ!!!」

 

キング「、、、ッッよしっ!!」

 

キントレ「ふぅ。、、おめでとう、ウララ。」

 

スカイ(・・これは強いね。でも…今はいっか)

   「ウララー!おめでとー!!」

 

 

 

実況「直線の入りから競り合っていた2人!!

最後にハルウララが抜けましたが解説さん!いかがでしたか?」

 

解説「っっっもう素晴らしいレースでした!

早くに外から上がったハルウララもそうですが、2番も意地を見せましたね!

2人とも500mくらいスパートをかけた訳ですから並大抵じゃ出来ませんよ!!」

 

実況「これは両者意地のぶつけ合いのレースだったのですね!解説さんありがとうございます!

、、、、あ、2番がハルウララの元へ近づいてますね」

 

 

2番「ウララ、、ちゃん。」

 

ウララ「ハァハァ、、、○○ちゃん。」

 

2番「え、っと、、その。」

 

ウララ「、ハァハァ、、フゥ。すっごく楽しかったね!!」

 

2番「!、、うん!めっちゃ楽しかった!!」

 

 

 

スカイ「あぁ、握手までして、見ていて気分が良いですねぇ。」

 

悟空「やっぱり戦いの後は仲良くすんのが1番だなぁ。」

 

スカイ「そうですよねぇ。」

 

キング「何よ、その老人なのか戦闘狂なのか分からない会話は、、、」

 

スカイ「いいえ、戦闘狂は悟空さんだけだよ〜」

 

悟空「あー!そういう事言うんだな?それならオラにも考えがあんぞ?、、そーれ!こちょこちょこちょ!!!」

 

スカイ「あひゃひゃはははっ!!!ごめっ!ごめんってばぁ!!!あはははは!!!」

 

キング「いや貴方達は仲良すぎて気持ち悪いわよ!?、、、あら?ウララさん違う所の客席に向かったわよ?」

 

スカイ「ふふふふふっっ!!あっはっ!!!」

 

悟空「それそれ!、、、ん?あぁ見に来てたんか。大丈夫だ!ウララの知り合いだぞ」

 

キング「そうだったのね。」

 

スカイ「ヒュー、、、ヒュー、、、」グッタリ

 

 

 

ウララ「お姉さん!お兄さん!見ててくれた?」

 

女性A「ええ、もちろん。おめでとう。」

 

男性「見てたよォォォッ!!!!、、グスンッ!。強くなったねぇ!!ウララちゃん!!」ダバダバ

 

女性A「泣きすぎよ貴方。」

 

男性「だ"ぁ"っ"で"ぇ"ぇ"ぇ"!!!」

 

ウララ「んふふ!あはっ!応援ありがとうね!!!」

 

女性A「次も頑張ってね。」

 

男性「エグエグ!...グスンッ!、、、次も!、、次も!

これからも応援し続けるからなぁ!ウララ最高〜〜!!!」

 

 

 

〈応援をしてくれた人達にしっかりと挨拶をしたウララ。その後のウイニングライブも完璧にこなし、勝利者インタビューへキントレと一緒に向かった〉

 

 

記者「まずは、連勝おめでとうございます!!」

 

キントレ・ウララ「「ありがとうございます!」」

 

記者「今回のレースも戦術のあるレース展開でしたが、狙って行ったものですか?」

 

ウララ「うん!えっと、トレーナーさんが教えてくれたんだー!!」

 

キントレ「そうですね。現状では1800mは体力的に余裕を残すくらいのものになっており、末脚を思う存分使わせようと思った結果、あの走りになりました。」

 

記者「なるほど!まさに予定通りの走りを見せたわけですね!

前回の会見時に言っていた通りだと次走は龍球ステークスの2000mですが、変わりはないですか?」

 

キントレ「はい」

 

記者「龍球Sといえば、毎年強者揃いになっていて、今年も例外ではないとみえます。自信の程はどうですか?」

 

キントレ「んー。ウララ、自信はどうだい?」

 

ウララ「すっっごくある!!!」

 

キントレ「との事です。」

 

記者「あはは!それは良かったです!

ではハルウララさん!改めて今日のレースおめでとうございます!次走も頑張ってください!」

 

ウララ「うん!ありがとーございます!!」

 

キントレ「ありがとうございます。」

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

ウララ「いぇーい!!初めて連続で勝ったー!!!」

 

悟空「そうだな!今日は何か食いてぇもんあるか?」

 

ウララ「うーん、とねぇ、、、お寿司!」

 

悟空「寿司かぁ、、んじゃ決まりだな!」

 

ウララ「やったぁー!!!」

 

 

〈ウララの事を肩車しながら親子の様な会話をする二人。その後ろをキング達がついていった。〉

 

 

キントレ「寿司となると、この辺りなら駅の近くのやつかな?」

 

キング「そうね。スカイさんも一緒にどう?」

 

スカイ「んー、、それじゃあ、お邪魔しちゃおっかな!」

 

ウララ「え!セイちゃんも来るの?やった!ウララ、セイちゃんと外で食べるの初めて!!」

 

スカイ「あれ?そうだっけ?まぁ食べに行くくらいで喜んでもらえて良かったよ。」

 

キントレ・キング「「・・・・・ニヤァ.」」

 

スカイ「・・・え?何、その顔。気味悪いんだけど、、」

 

キング「いやぁ?」

 

キントレ「別にぃ?」

 

スカイ「いや!なんなのさ!!絶対何かあるでしょ!?」

 

 

〈意味深な表情をするキング達に何事かと詰め寄るが口を割る感じがしない。

思わず寒気が走り、原因を追求しようと考えた所で、とある声が聞こえた〉

 

 

  ぐぎゅうぅるるるるるっっ!!!

 

 

 寿司はオラも大好物だからな!腹も減ったしすげぇ食うぞ!!!

 

 

 

スカイ「・・・前は山だったけど、悟空さんってオグリキャップさん並みに食べるんだっけ?、、お店で食べるとなると、、嫌な感じが、、、チラッ」

 

キング「たくさん食べるのは良いのだけどね!ちょっっとだけ周りの目が痛いのよねぇ」

 

キントレ「まぁまぁ今日は大丈夫だよ、、、視線は1人分多く散らばるから。」

 

スカイ「・・・やっぱり帰るっ!!」

 

キング「落ち着きなさいってば。」

 

キントレ「そうだよスカイ。落ち着けば何も思わないからさ」

 

スカイ「それもう、ただ諦めてるだけだよね!?私も生贄に加える気なんでしょ!?私は帰るからね!!」

 

キング「はぁ、、、素人ね。」

 

キントレ「まったくだ。」

 

スカイ「はぁ!?何の事?」

 

キング「あれを見なさい。」

 

 

〈キングの指を差す方向。自身の後ろを振り返るといつの間にかウララが肩車から降りており、耳と尻尾も垂れ下がった状態で佇んでいた。〉

 

 

スカイ「う、、、ウララ?」

 

ウララ「・・・セイちゃん、かえっちゃうの?はじめてお外でいっしょに食べれると思ったのに、、、、」ショボン

 

スカイ「・・・・・えっ!?私帰るって言ったっけ?気のせいじゃないかなぁ。私も一緒に食べるよ!!」

 

ウララ「ほんと?、、えへへ!ごめんごめん!帰るみたいな声が聞こえたと思って勘違いしちゃったね!!」

 

スカイ「はは、、ウララはおっちょこちょいだね、、、」

 

キング「・・・・ようこそ」

 

キントレ「動物園の動物側の世界へ」

 

スカイ「・・・・ガクッ」

 

 

 

ガツガツガツガツガツガツ!!!!ムシャムシャムシャ!!、ん、ゴクンッ!!、、ふぅ。パクパクパクパクッッッ、、ゴクゴクゴク!!、、、、ぷはぁ。

 

悟空「この魚うめぇな!もう一個!」

 

ウララ「パクパク!、、、ん、んふぁふぁも!!」

 

悟空「おう!いっぱい食え!!後ちゃんと噛めよ?喉に詰まっちまうからな!!」

 

ウララ「モグモグ、ゴクッ、、うん!」

 

 

ガツガツガツガツガツガツガツガツッッッ!!!

 

 

スカイ「へぇ。これは凄い!本当に落ち着けば何も思わないよ!」

 

キング「スカイさん、、、目が死んでるわ。」

 

キントレ「大丈夫。スカイは強くなるよ。」

 

キング「・・・そうね。」

 

 

 

 

 

〈勝利のご褒美としてみんなで仲良く、そして楽しく、お食事をしていた。

だが別の場所ではこことは正反対の不穏な空気が流れていた。〉

 

 

「あのハルウララがこんなにレースで勝てるなんておかしい!トレセン学園が何かしてるのに違いない!!!何か決定的瞬間を撮ってこいッ!!!」

 

「はい!!、、、ただ我々はトレセン学園は立ち入り禁止になっています。どのようにしましょう?」

 

「スクープさえ撮ってしまえばこっちのもんだ!!俺達だってバレなきゃ何だって良い。ハルウララに細工しているのは一目瞭然なんだ。」

 

「分かりました!ではすぐに行ってまいります!!」

 

 

 

 

 

 

 

次回予告:(スペシャルウィーク)

 

スペ「うぇっ!?わ、私ですか!!?、、コホン。、、えーこんにちは!エルちゃんの次に出番の少ないスペシャルウィークです!『ケッ!?』

 

まず最初にウララちゃん!2勝目おめでとっ!!!この調子で頑張ってね!、、って言いたい所なんだけど、私も有馬記念目指してるからライバルだね!一緒に頑張ろうが正しいかな?

 

えっと、次回予告だよね。

、、えーっと、、有馬チャレンジ2勝目を飾ったウララちゃん!感傷に浸る暇はなく、すぐに修行するみたいです!ハードスケジュールだけど、自分の力を乗り越えていくウララちゃん。

 

だけど、その頑張りをズルしてるって思ってる人がいるみたい。なんだかこっちまで悔しく感じてきちゃいます。

 

次回!!

・これがあの人の強さの片鱗!

・自由な科学者!!

・合宿行こうぜ!!!の3本です!『それだとサ○エさんですよ。』

 

えっ、、じゃ、じゃあ!来週も絶対見てくれ!ね!!『そりゃオラのだな』

 

え〜そんなぁ、、『スペちゃんはマネっ娘さんだねぇ。』

 

 

、、ピキッ!、、、、もう知らないもんッ!!!

 

 

  『あちゃーすまねぇ』

  『申し訳ありません』

  『ごめんねぇ〜』

 

 

もー!!変な事言ってる場合じゃないよ・・・

 

 

   お願い悟空さん、、、早く来てッ!!

 

  

        ああ、、、もう大ぇ丈夫だ。



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頼れるモノ達  ー 前編 ー


話が少し長いので、前、中、後編に分けます。

形は違えど敵意や重圧の混ざった戦場に居たウマ娘。
数多の修羅場を潜った彼女たち。

……だがその実態は人という生き物を知らない子供だった。





 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

ハルウララ3連勝おめでとう!!

  スカイは・・・強く生きてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈ある日の午後。お馴染みのメンバーは学園内の端の方にある、草木が生い茂る場所に来ていた。〉

 

 

エル「はぁぁぁ。やっぱりオフの時はお日様キラキラしてるのが1番デスネ!」

 

スカイ「それは同感だけど、こうもいい天気だと睡魔が襲ってくるよ〜」

 

スペ「ええ!?寝ちゃだめだからねセイちゃん!一匹は、一匹だけは獲りたいよー」

 

グラス「でもそんなの獲ってどうするんですか?」

 

エル「ふっふっふっ。これだからグラスは頭ではなく尻に栄養が行くんデスヨ。」

 

グラス「・・・・エル」

 

エル「ハイ。……ごめんなさいデシタ。」

 

スペ「獲った後の意味とかじゃないんだよねー」

 

エル「見つけた時の幸福感!!」

 

スペ「触った時の重量感!!」

 

 

「「カブトムシは凄くかっこいい!!!」」

 

 

スカイ「だからまだ早いってのに…」

 

 

 〈最近は半袖で過ごすのが当たり前になり、ただ立っているだけでも汗が流れ落ちる程の暑さになっていた。

 エルとスペの提案により、女子学生が集まって昆虫採集に勤しんでいた。

 とは言っても暦上はまだ夏には入っていない。

 日頃よく自然の中に行くスカイは昆虫はあまり出てきてない事を伝えるが、2人の熱意に圧倒されてしまった

 

 毎度お馴染みメンバーとウララ。そして…〉

 

 

キング「ほらウララさん帽子はしっかり被ってなさい。油断をするとすぐに水分を持っていかれるからこまめに補給するのよ?」

 

 

 〈お母さんが引率していた。〉

 

 

エル「オウっ♪出ましたねキングマザー!!」

 

グラス「ですが、少々過保護ではないかと…」

 

ウララ「エヘヘ!ウララも言ったんだけどね。結局はちゃんとしないから!って怒られちゃって」

 

スカイ「えぇぇ。キングってばモンスペなの?」

 

キング「何よモンスペって」

 

スカイ「モンスターペアレントの略。byセイちゃん」

 

キング「失礼ね。私だって最近は問題ないと思って何も言わなかったわ。勝ち進んでるし、水も差したくなかったしね。」

 

スペ「それなら何も悪い事ないんじゃないの?」

 

キング「・・・この前の事なのだけど、練習の終了時間になっても全然帰って来なくて悟空さんが送ってくるのかとも思ったのだけど、いくら待っても帰って来なかったのよ」

 

グラス「それは不安ですね。どこにいたんですか?」

 

キング「トレーニング用のタイヤの上で寝てたわ」

 

スカイ「……悟空さんは?」

 

キング「一緒に寝てた」

 

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

 

スペ「ウララちゃん。ちゃんとキングちゃんの言う事聞くんだよ?」

 

ウララ「え。」

 

エル「まぁ、日が暮れても暖かい時期になりましたからネ気持ちは分からなくもないデスが…」

 

ウララ「エルちゃん」パァァ!

 

グラス「悟空さんの大胆さがウララちゃんに移ってきてますね。」

 

スカイ「キング。これからもうちのウララをよろしくお願いします」

 

キング「なんで貴方が母親目線なのよ。」

 

ウララ「もぉぉ!ウララは1人でも大丈夫だってばぁ!」

 

 

・ ・

 

・ ・ ・

 

 

エル「はぁ、、、一匹もいませんデシタネ」

 

スペ「そだね、、、」

 

  「「……ハァ。」」

 

 

スカイ「「だからまだ早いって言ったじゃんか」

 

キング「にしても落ち込みすぎでしょう。いたじゃない、あの、、なんて言ったかしら。小さいけどキラキラした昆虫。」

 

エル「黄金虫の事デスカ?あんなのそこらじゅうにいマスヨ…」

 

スペ「ノコギリとまではいかなくてもせめてコクワくらいは見たかったなぁ」

 

スカイ「まぁまぁ。ちゃんとその季節になったらまた行こうよ。セイちゃんとっておきの罠知ってるからさ」

 

グラス「もしかしていっぱい獲れるのですか?」キラキラ

 

スカイ「あ、、うん。いっぱい獲れるよ。」(グラスちゃんって虫好きだったのか。)

 

ウララ「ね、ね!また一緒に行こうね!」

 

キング「そうね。夏休みの宿題を終わらせたらね」

 

ウララ「うわぁぁぁああ!!!」

 

スペ「キングちゃんがっ!キングちゃんが言ってはいけない事言いましたぁぁぁっ!!」

 

エル「これから楽しもうって時に嫌な事言わないでくだサイ!!!」

 

 

〈レースが関係しなければ皆ただの年頃な学生。和気藹々とオフの日を謳歌していた。

 

     

 厄災がすぐそこまで来ているとも知らずに

 

 

 

 

   

「ハルウララさんだね?少し時間いいかい?」

 

 

〈背後から突如声をかけられ、振り返ってみると、スーツ姿にカメラをぶら下げてカバンを肩にかけている40代くらいの男性がいた〉

 

 

ウララ「ウララに何か用事なの?良いよ!どうしたの?」

 

キング「・・・待ちなさい。…見たところ記者の方でいいのかしら?」

 

 

 「はい!私は四星新聞の○○と申します。本日はハルウララさんの独占インタビューとしてお話をさせていただく予定でしたので参りました。」

 

 

キング「・・・・」

 

グラス「四星新聞といえば大手会社ですね」

 

エル「ほう!ウララも一流の仲間入りデスネ!!」

 

ウララ「そうなんだ。・・あ!すぐにトレーナー呼んで来るね!!」

 

 

 「あ、いえ。来る前に電話で話した時に許可は頂いておりまして、この辺りに来ていると伺ったものですから、このまま取材させていただいても良いですか?」

 

 

ウララ「話終わってたんだね。うん!ウララでよければよろしくお願いします!!」

 

スカイ「むふふ。ウララがまた一歩成長した事にキングママは何か思うk・・・キング?」

 

キング(・・・・・)

 

〈今や知らぬものはいない大手会社四星新聞。ダービーを獲ったスペシャルウィークはもちろん、皐月賞のセイウンスカイ。新入生王者のグラスワンダーにNHKマイルのエルコンドルパサー。キングヘイローはG1こそ獲ってはないが、血統と後一歩の可能性として、一度取材を受けた事があった。

ウマ娘にとっては名誉ある取材。ハルウララもその仲間入りを果たすため喜ばしい事なのだがキングは顔をしかめている。〉

 

 

キング(トレーナー不在の取材?そもそもそんな話聞いていないけど、、、)

 

 

〈そんなキングの心境を知る由もなく話はどんどん進んでいく〉

 

 

男「ウララさんはダートはもう走らないのですか?」

 

ウララ「うん。今は有馬記念だけをみたいからダートは走らないかな〜」

 

男「そうですか。距離についての不安はありますか?」

 

ウララ「うーん。それはちょっとあるかも…だけど、一生懸命修行してるから必ず乗り越えれるって思ってるよ!」

 

男「なるほど。修行ですか、面白い言い方しますね!では次の質問です。

 

 

突然成績が上がりましたが何をやったんですか?」

 

キング(ピクッ)

 

ウララ「んーとねぇ、重り背負って限界まで走ったり、後は「いやいやそういうのじゃなくて」…え?」

 

男「何かやったんでしょ?定番でいったら筋肉増強剤とかだね。」

 

  「「「「「!!!?!?」」」」」

 

 

〈この男が吐いた言葉。聞き流せるはずもない。ウララを除いたキング達は憤りを隠す事はしなかった〉

 

 

ウララ「なぁにそれ?ウララそんなのしてないよ?」

 

男「隠さなくても良いですって!ほら!後は何?興奮剤としてコカインとかかい?それとも怪我を考えず大麻とか」

 

キング「黙りなさいッ!!!」

 

ウララ「ビクッ…きんぐちゃん?」

 

 

〈次から次に戯言をぶつけてくる記者を打ち切るように心臓を握りつぶす様な鋭い声が響き渡った。

ウララは豹変したキングにとまどいの声をかけるが、周りにいたスペシャルウィーク達がハルウララを囲う様に近寄ってきた。〉

 

 

スペ「ウララちゃん。今は少し大人しくしといてね。」

 

エル「すぐに終わらせマスから。」

 

 

〈穏やかに話しかけてくるスペやエル。しかし穏やかなのは話し方だけ。耳は極限までしぼり、尻尾も逆立て目つきも鋭い。友達をバ鹿にされて黙っている者達ではなかった。

 

ウマ娘は人間よりも数倍強い。端的にいうとパワーが桁違いだ。格闘技や武道を習っていようともそれを覆せる程の力がある。常識だ。

そんなウマ娘5人が敵意丸出しで睨みつけてくる中、男はニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべたままだった〉

 

 

キング「ウララさんは自分の力だけで強くなったのよ!血を吐きそうな程の辛いトレーニングにも耐えてね!!そんな頑張りを知らない奴がウララさんを侮辱する事は許さないわよ!」

 

男「ップ!あっははは!ただのトレーニングでこんな大幅な路線変更なんて出来ないでしょ。バ場や距離がどれだけ大事か君達だってわかってるはずだけどねぇ?」

 

エル「全員が全員とは限りマセン。エルだってダートは走れマスし、距離だってどれが適正距離か分からなくて全部走れる者だっていマス」

 

男「そうだね。確かに探せばそういう娘もいる。だけどこれを1人のウマ娘がやっているんだよ!しかもやったのはハルウララ!あの地方でも一切勝てなかったやつがだよ?

才能なんて全く無かったやつがここまで出来やしないよ!

 

なにか使わないとね?」

 

 

 

〈正面から勝手な物言いに一同は怒りが収まらないが、ウララだけは違った。

自分は一生懸命だった。勝ちたかったから頑張った。応援してくれる人だっているのに、ウララの頑張りは届かなかった、、と、涙をホロホロと流していた。

いつもみたいな子供みたいに声を上げて泣くのではなく、ただ涙だけが溢れていく哀しい泣き方。

そんな姿に心を痛め、スカイが宥めていた。

 

……もう我慢の限界だ〉

 

 

キング「貴方ねぇッ!!!」

 

グラス「キングちゃん。どうしようもない人とは話しても無駄です。」

 

男「お、グラスワンダーさん。庇ってくれてるのかい?後怪我の状態もついでに聞かせてくれないかな?」

 

グラス「ふふ。庇うではなく、貶しているのですよ。そして怪我の具合なら貴方の体で感じてもらう事になりそうです。

私の、、私達のライバルであり、友の事を傷つけておいて……五体満足では帰しませんよ。」

 

男「……はぁぁ。これだから融通のきかねぇ女は嫌いなんだ。」

 

スペ「・・・あなた四星の人じゃないですよね?いくら大手の会社とは言っても、こんな事やったらただじゃすまないだろうし、なにより四星の人達はもっと暖かかったよ」

 

男「まぁさすがに分かるか。……もういいかな」ボソッ

 

キング「何よ言いたい事があるならハッキリと……え?」   

 

 

〈ウマ娘に詰め寄られ、恐縮したかの様にボソボソと何か言ってる。

そんな様子にキングは畳み掛けようとしたところで、男が

 

   カバンから刃物をとりだした〉

 

 

男「お前らうるせぇんだよ!こっちは仕事で来てんだよ!生活だってかかってるし、さっさと全部吐かないと痛い目じゃすまないぞ!!」

 

キング「…は、、え、、、」

 

 

〈刃渡15cm以上はあるだろうか。家庭でも一般的な包丁の大きさだ。

凶器を取り出した以上、後には引けないのだろう。

加えて、めちゃくちゃな発言。もはや男は冷静さを失い、距離が少しあるとはいえ、目の前で目撃してるキング達には恐怖の対象でしかなかった。〉

 

 

グラス「〜〜っっ!!キングちゃん!!みんなも!逃げますよ!!!」

 

 

〈震える心臓を強引に抑え込み、グラスが必死に声を出すが、脚が動かない。

徐々に距離を詰めて来ている男の姿を見ているだけしか出来ないのか。

心が勝手に判断したのだろう、死を目前にした彼女達は涙を流す事しか出来なかった。

……もう駄目だ。そう感じた時、

 

 

 

 

   一筋の光が差し込んだ〉

 

 

 

「あらあら。この様な離れた場所で何をやっているのですか?」

 

 

男「!!?、、くっ!」

 

スペ「あ、ああ!」

 

 

 

スカイ「!!ーーっ。たずなさん!」

 



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頼れるモノ達  ー 中編 ー



無知な子供を守るのは大人の役目


 

 

 

〈男とキング達の間に突然入り込んで来た正体。

中央トレセン学園理事長の秘書を務める駿川たづなだ。彼女の登場により男は後退し、ウララ達は安堵の表情を浮かべるが、まだそんな暇はないのだ。〉

 

 

たづな「おままごとにしては、いささかハード設定だと思うのですけどねぇ。『貴方達早く逃げなさい』

 

スカイ「・・・キング」

 

キング「・・・」コクン

 

ウララ「え、でも、、たづなさんは?」

 

 

〈ウマ娘のみ聴こえる様に小さい声で指示を出す。

まだ恐怖の名残もあり、上手に歩けないが、ゆっくりと後ろに脚を伸ばしていく。〉

 

 

男「おい!逃げるな!!さっさと言わないとこの女も殺すぞ!!」

 

たづな「そんなに大きな声を出さないでください。……赤織新聞社さん。」

 

男「!!?」

 

キング「!?、、やっぱり嘘だったのね。」

 

エル「しかも赤織といえば、過激な取材として警察沙汰にもなっていたはずデス。」

 

たづな「そして確か4年前にトレセン学園は立ち入り禁止にした筈ですけど?○○さん。」

 

男「なっ!!?」

 

たづな「年月が経てば平気だと思ったのですか?まぁ一回しか顔を合わせてないですからね。」

『何をしているです。早く行きなさい』

 

キング「…はい。行くわよみんな。」

 

ウララ「っっでも。」

 

グラス「行きましょう。このまま居てもたづなさんの邪魔になってしまいます。」

 

男「くそ!最初からハルウララが1人の時に行けばよかった。

だけど俺だってこのまま帰る訳にはいかねぇんだよ!!」

 

たづな「クッ!貴方達走りなさいッ!!!」

 

 

〈もはや逃げられないと感じたのだろう。男は刃先をこちらに向け、叫びながら走って来た〉

 

 

スペ「きゃあぁぁっっ!!」

 

スカイ「た、たづなさん!!」

 

たづな「止まるな!早くッ!!」

 

 

〈今や格闘技の選手などで刃物の対処法などを解説してるものは少なくない。体重や関節などの利用し、効率的に捌ける手段を教えてくれている。そこにウマ娘の力も加われば何も問題はないだろう。

 

目の前で刃物を持ち、殺意をぶつけてくる相手に冷静に出来ればの話だが。

 

いくら護身術を習おうとも実践では心が、身体がついてこない。

それは駿川たづなも例外ではなかった。〉

 

 

男「うおぉぉぉおおお!!!」

 

たづな「・・・・・・」ギリ

 

 

〈だけど、この男だけは逃がさない。あの娘達には指一本触れさせない。

駿川たづなのとった手段は単純だった。

 

  あえて刺されて死んでも離さない。

 

この時たづなは自分が死ぬ事よりも、後ろにいる未来ある娘達が傷つく方が怖かった。〉

 

 

スカイ「いや!お願いやめてよ!!」

 

エル「たづなさんも一緒に逃げてくだサイっ!!」

 

キング「ぅ…っぁ…っっグラスさん!!」

 

グラス「っっ……はい!行きましょう!!たづなさんの覚悟を無駄にしないでっっ!!!」

 

スペ「そ、、んな、いやだよぉ、、、」

 

ウララ(たづなさんがしんじゃう。ウララのせいで…)「・・・けて。」

 

男「死ねぇぇぇっ!!!」

 

たづな(この男だけは絶対に!!!)

 

 

 

   「助けてよ!!

 

         悟空さんっ!!!!」

 

 

 

〈最期の瞬間まで目を離さないと男を睨み続けるたづなだったが、目の前を埋め尽くしたのは真っ赤な血の色ではなく山吹色。

 

その色を見た、たづなは張り詰めていた緊張がフゥっと解け、呟いた〉

 

 

たづな「もうダメかと思ってました。ありがとうございます。 

       

       悟空さん。」

 

悟空「随分と危ぇとこだったな。オラの方こそ遅くなってすまねぇ。」

 

 

〈孫悟空。その力は未知数。生前はあらゆる強敵と闘い、勝利し、宇宙最強の称号を手にした男。

襲いかかってくる"刃の部分"を掴み、男の攻撃を止めていた〉

 

スカイ「……悟空さん。」

 

グラス「フゥ。、、、ふふっ、良かった」

 

エル・スペ「「悟空さん!!」

 

キング「〜〜っもう。肝心な時に遅いんだから」

 

ウララ「ご、、くう、さん。」

 

悟空「ん?おお!おめぇ達も良く頑張ったな!もう大ぇ丈夫だぞ!!!

まぁ、それより今はお前ぇの方だな。」

 

男「な!なんだこの男は!?離せッ!お前も殺すぞ!!」

 

悟空「殺す、、か。確かに今のお前はやりそうだ。」

 

   ーーーーーガキンッ!

 

 

〈刃を掴み、ほんの少し力を入れる。ただそれだけで根本からポッキリと枯れ木の様に折れてしまう。〉

 

 

男「なっ、、、折れっっ!!」

 

悟空「この程度オラからしたらなんて事ねぇ。たづなだって出来るだろうしな。

けど、そんな事どうだっていい。お前ぇ、よくもたづなを殺そうとしやがったな。」

 

男「ハッ!その女が出しゃばるからだ!!俺が用があった、、の、は、、、、」

 

 

〈男は二の句が継げない。自分でも不思議がっている時に地鳴りの様な音が耳に伝わってきた〉

 

 

たづな「じ、地震ですか。」

 

スペ「こんな時に…。」

 

スカイ「大丈夫だと思うけど・・・悟空さん!少し気をつけ、、!!?」

 

 

〈スカイの言葉が止まる。だんだん大きくなる地震に注意しようと声をかけるが、ウマ娘としての本能か、生物としての違和感か、悟空に声をかける事が出来なかった。〉

 

 

悟空「この世界にはドラゴンボールは無ぇ。あのまま死んじまったら生き返る事なんて出来やしねぇんだ。」

 

 

〈ポツポツと語りかける様に話す。その代わりに少しずつ揺れも大きくなっていく。

悟空には話しかける事が出来ない。

気づいてしまった。悟空から浴びせられる強大な圧力とそれに比例する地震の様な揺れ。〉

 

 

グラス「まさか。そんな事、あるわけ、、」

 

エル「グラス?どうしtっっ!!?」

 

 

〈男は甘かった。言葉が発せなくなった時点で脇目も振らずただ逃げれば良かったのだ。

悟空は怒りと同時に少しずつ"気"を解放していく。

地面から音が鳴り、草木は喚き、大気が震えているような感覚。

 

対峙している男は腰が砕け座り込んでしまった。

ようやく理解したのだ。自然とは言い難い、不自然な現象の正体。

現実離れをしていて、人に話しても妄言だと言われてしまうだろう。

だがまぎれもない事実。

 

この現象はこの男が引き起こしているものだ〉

 

 

男「あ、、ご、すみ、すみませ、、ん。ゆ、許してくだ、さい。」

 

 

〈もうこれまでの男とは見る影もなく、恥や外聞を捨て、くしゃくしゃな顔をしながら許しを乞う。

だが悟空は、もう少しでたづなや、ウララ達も取り返しのつかない事になっていたと考えるばかりで、その"気"は一段と膨れ上がった。〉

 

 

悟空「勝手な事ばかり言いやがって。お前みたいな奴でもそんな物振り回りしてたらあいつらだって怖かった筈だ。それにオラがほんの少しでも遅れていたら、たづなは死んでたかも知れねぇんだぞ」

 

たづな「・・・悟空さん。」

 

悟空「……やりすぎだ。悪さが過ぎたな。

 

 

   ーーーこのクズヤロォッ!!!!」

 

 

〈叫ぶと同時に"気"のかたまりが弾け飛ぶ。猛獣に囲まれる恐怖程度ではない。生涯で見た事もないような激昂した表情。それに呼応して髪の毛はバサバサと揺らめき、悟空と呼ばれた男の身体は筋肉か何かで膨れ上がった。

 

そんなを怪物を間近で見た男は。〉

 

 

男「ーーーーーガクッ」

 

 

〈気を失っていた〉

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

悟空「あちゃあー、やり過ぎたなぁ。」

 

たづな「でしょうね。自業自得とは言え、この男には同情しますよ。」

 

ウララ「悟空、、さん。え、っとね、、」

 

悟空「おぉウララ。怖かったろ?ほれ、抱っこしてやっからこっち来い。」

 

 

〈目に涙を浮かべ、何か言いたげなウララに対し、悟空は抱っこして訳を聞いた〉

 

 

悟空「もう大丈夫だ。心配はいらねぇぞ?」

 

ウララ「グスッ…ウァ…ち、違うの。ウララが居たから。ウララのせいでなった事だから!!!」

 

キング「!!!それは違うわ。ウララさんはひたすらに頑張っただけよ。悪いのは全部あの男だわ!」

 

スカイ「そうだよ。ウララが泣く事ないって!」

 

エル・スペ「「うんうん!」」

 

グラス「それにあんな男に泣かされるなんて勿体無いですよ。分かる人には全部伝わってますよ。元気出してください」

 

悟空「オラは何の事か分かんねぇけど、みんなこう言ってんじゃねぇか。気にする事ねぇさ」

 

ウララ「で、でも!"たづなさんだって"ぇぇ!!」

 

たづな「結果的に大丈夫でしたので良かったではありませんか。どうせなら謝罪よりも他の言葉が欲しいのですけどねぇ。」

 

悟空「だってよ。言ってやれウララ。」

 

ウララ「ーーーうん。ありがとね!たづなさん!それにみんなも!!ありがとっ!!!」

 

 

〈ウララの満面の笑みにより、事件は一件落着。ーーーなのだが、1人だけ頭を抱えているものがいた。〉

 

 

悟空「んで、たづなはさっきから何うなってんだ?」

 

たづな「あーいえ。この男の対処法を考えておりまして」

 

キング「対処って一応殺人未遂でしょうし、警察に突き出せばいいのでは?」

 

たづな「それが普通なのですが、警察にいって洗いざらい説明したら問題が増えるんですよ。」

 

悟空「問題ってなんだ?」

 

たづな「貴方の事ですよ!ただの警備員でいけるでしょうけど、メディアとかに調べてられてはボロが出ます。」

 

悟空「オラは別に知られても良いんだけどな…」

 

たづな「特別な人に教わったウララさんが強くなるのは当たり前。」

 

悟空「・・・え?」

 

たづな「決してずるい事はせず、強くなってるウララさんですが、人外な貴方に教わったウララさんの風評は変わるでしょう。それが良いものとは限りません。」

 

グラス「なるほど。無きにしも非ずですね。」

 

たづな「前まではもう少し楽観的だったのですが、今回みたいな事が起こると、より一層、貴方の事は隠していたいのです。」

 

スペ「でもこの人にもちゃんと反省してもらいたいよね」

 

たづな「そうなんですよ。はてさて、どうしたものか」

 

悟空「反省かぁ、、、あ!オラにいい考えがあんぞ!」

 

たづな「本当ですか?」

 

悟空「あぁ場所は変えるけどな。オラに捕まれ。あ、着いてくんのはたづなだけだ。おめぇ達はやよいとかに説明しといてくれ。

後でそっちに行くからよ」

 

キング「??まぁ分かったわ。」

 

ウララ「悟空さん!たづなさんも!ほんっとーにありがとね!!」

 

たづな「いいえ、みんな無事で何よりです!、さて捕まればよろしいのでsーーっあら?」

 

 

〈ウララに笑みを返した後、悟空に捕まろうと手を伸ばした時にこれまでの緊張や、死を目前にした恐怖が今頃なってやってきて、膝が崩れてしまい、悟空の胸元に寄り添う様に倒れてしまった〉

 

 

悟空「何だ、たづな。今頃になって足にキたんか?」

 

たづな「え、ええ。すみません。ーー!って貴方達!?」

 

 

 「「「「「「あら〜〜」」」」」」

 

 

キング「ウララさん、見てはいけないわ。」

 

たづな「いや良いですよ!」

 

スカイ「おやおや〜?たづなさんも隅に置けないですなぁ」

 

たづな「何の事ですか!?」

 

ウララ「わぁぁ!あれが'らぶらぶ'ってやつだよね?」

 

たづな「違いますね!」

 

エル・スペ「「フゥゥゥ⤴︎」」

 

たづな「やめなさい!!」

 

グラス「うふふ。」ニコニコ

 

たづな「…それが1番怖いです。ッッさぁ悟空さん早く行きましょう!!」

 

悟空「お、おう!んじゃ行くぞ?」"シュン"

 

 

《行ってらっしゃーい!!》

 

 

 

 

 

           



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頼れるモノ達  ー 後編 ー


かなり遊び心を加えました。シリアス続きだと疲れてしまうので、良い塩梅だと思ってます。




 

 

 

 

 

 

悟空「つー訳だ。」

 

 「なるほど。そういう事かい。」

 

タキオン「私の実験の邪魔をしてくれた訳が分かって良かったよ。」

 

悟空「おう!」

 

タキオン「・・・」

 

悟空「・・・・ん?」

 

タキオン「あれほど瞬間移動で来るなと言ったのに何故来たんだッ!!!」

 

 

〈悟空が○○という男とたづなを連れて飛んだ先はアグネスタキオンの研究室だった。

この世界で孫悟空という人物を1番知っているのは彼女だろう。悟空がやる事なす事に驚く事は無いが、タイミングが最悪だった。

 

徹夜続きの実験。最終過程でフラスコに液体を入れる時に現れてしまった。

何も考えずに声をかける悟空。目の前の事に集中しているタキオンが驚いて液体をぶち撒ける事を想像するのは凄く簡単だった。〉

 

 

悟空「い"っっ!ま、まぁまぁ、そうデケェ声だすなよ…悪かったって」

 

タキオン「いーや!今度という今度は許さん!!前にも言ったはずだ!やる時はテレパシーでもしろ!と。その言った時にも実験をぶち壊したんだぞ!!何故しない!?」

 

悟空「えぇっとぉ、、ちょっと一大事で…」

 

タキオン「だろうな。話を聞いたら分かる。ーーっ!!はぁ。とりあえず今回は見逃そう。」

 

悟空「すまねぇな。次はもうしねぇからよ!」

 

タキオン「前にも聞いたわッ!!!」

 

たづな「あのぉ、、、そろそろ良いですか?」

 

タキオン「あ、申し訳ない。たづなさん。本題の前に、まず無事で良かったです。他のみんなも含めて。」

 

たづな「あ、ありがとうございます。」

 

悟空「…何かおめぇ礼儀正しいな。」

 

タキオン「当たり前だ!…コホン!と、まぁ内容は理解したがここに来た理由が分からん。孫くんは私に何を求めているんだ?」

 

たづな「そういえば、私もまだ聞いてないです。何か考えている事でもあるのですか?」

 

悟空「ああ。オラが前に実験を邪魔した時あったろ?」

 

タキオン「・・・・どれだ?」

 

悟空「あれは確か、、、3回目のやつだ」

 

タキオン「ふむ。あったな。」

 

たづな「今回が2回目ではなかったのですか」ボソッ

 

悟空「そん時タキオンが怒って、オラにやったやつをやらせようと思ってな!」

 

タキオン「ふ、ふふふ!あれか!そうかそういう事か!!確かにあれは立派な罰だ!警察も必要あるまい!!」

 

たづな「何をやったのですか?」

 

タキオン「メントスコーラを強引に飲ませた」

 

たづな「・・・・・・・・は?」

 

タキオン「クックックッ!!あれは傑作だった!あの最強のサイヤ人が涙を流していたんだからな!!」

 

悟空「ありゃあ炭酸でなったんだ!そういうおめぇだって1時間くれぇくすぐったら泣いてたじゃねぇか!」

 

タキオン「そんなの泣くに決まってるだろう!

・・・あ、それ採用にしよう。感度を上げる薬があるから効くだろうな!」

 

たづな「えっ!?」

 

悟空・タキオン「「ん?」」

 

たづな「あ、いえ、、しかし、この男が目を覚ました時にどんな反応をするのか、、、悟空さんに怯えて失神したくらいですし…」

 

タキオン「ふん。いい気味だよ。私も赤織社には良い思い出がなくてね、、、とりあえず一回起こしてみようか」

 

 

〈椅子に座ったまま動かない男を少し叩いてみるが反応がない。〉

 

 

タキオン「・・・ほんの少しアドレナリン投与するか」

 

たづな「大丈夫なんですか?」

 

タキオン「大丈夫です。……タブン」

 

たづな「タキオンさん!?」

 

 

〈今だ反応がない男に痺れを切らし、少しだけ強引な手に出たタキオン。

すると、効果が出たのか、手先がピクピクと反応し、次第にそれは大きく、、どんどん大きく、、、、大き…く〉

 

 

男「あ、ゔぁ、っ、、あばばばばばばっ!!!」

 

 

  「「「うわぁ…」」」

 

 

悟空「コイツ大丈夫なんか?」

 

たづな「いや、、、ダメでしょうね。」

 

タキオン「・・・やってしまったかい?」

 

男「ばばばっっ・・・・ハッ!ここは何だ?」

 

 

〈男の目覚めにより湧き上がる歓声〉

 

 

たづな「死んでません!無事です!!」

 

悟空「よし!よく耐えたな!!」

 

タキオン「これで実験が出来るぞ!!」

 

男「確か、、もう少しで刺せる所で…ふん。どうやって俺を拘束したか分からないが、何も言う事はないぞ」

 

たづな「ん?・・・・・ん?」

 

男「あ、そっちのウマ娘はアグネスタキオンだね。その後脚の状態はどうだい?すっかり表舞台から姿を消したようだが」

 

タキオン「ほう?私の事は知ってるのかい?」

 

男「もちろんだとも、アグネスタキオン。何度か我々も訪ねたが、忘れたかい?」

 

タキオン「いや覚えているとも。それじゃあこっちの男は知ってるかい?」

 

 

〈微妙に辻褄が合わない話から考えられる点を見出して確信に迫った。

やはりと言うべきか、男は悟空の姿を見ても何の反応もなかった。〉

 

 

男「知らないな。そんな事よりアグネスタキオン。君の話を聞きたいな。あ、そういえば君は聡明だったね。ハルウララに仕組んだのは君かい?何をやったか聞いてもいいかな?」

 

タキオン「…ふふ。人から聞くのと本人から聞くのとでは受け取り方にまるで違いがあるな。酷く苛つくよ。」

 

たづな「結局のところ、悟空さんの事は忘れているという事ですか?」

 

タキオン「そのようだね。覚えている事が有害なものだと脳が判断したのだろう。情けない男だ」

 

悟空「なんでもいいから早くしようぜ」

 

タキオン「そうだな。」

 

男「何をするつもりかしらんが、何も変わらんぞ・・・ウッ!おい、今何を飲ませた!?グ、アッ!な、何を、、注射して何が起こるんだ!!!や、やめ!!!ーーーっっ

 

 

       ……あっ。」

 

 

 

ーーーーーーー

 

ー 理事長室 ー

 

やよい「納得ッ!!それでこういう訳か!」

 

たづな「・・・・はい。」

 

悟空「・・・・こういう訳だ。」

 

 

〈理事長室にはキング達はもちろん。シンボリルドルフの姿もあった。先程起きた一連の騒動を二人に説明をした。

ルドルフはできる限り冷静にと奮闘していたみたいだが、漏れ出す気迫から怖気付いてしまったり、やよいに至ってはウララ達にこれでもかというくらい頭を下げていた。

 

話も区切りがついたところで悟空達が現れた。

悟空とたづなと……背筋を伸ばし、穢れなき真っ直ぐな目をした男が…」

 

 

男「ご無沙汰しております!学園理事長!この度はご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした!!」

 

やよい「う、うむ。……何があった?」

 

悟空・たづな「「何も?」ありませんでした」

 

やよい「嘘つけッ!聞いてた男と正反対じゃないか!」

 

男「いえ、直に内容を聞いた訳ではありませんが、その娘達が説明した通りの者です。しかしッ今となれば後悔しかありません!今を一生懸命生きる者に多大なる無礼。何とお詫びしたらよいものか……」

 

やよい「・・・ルドルフはどうだ?」

 

ルドルフ「っっ!・・・本当にこの男で間違いないのか?」

 

ウララ「う、ん。」

 

キング「そうですね。…姿、顔は同じです」

 

ルドルフ「・・・悟空さんの事は?」

 

たづな「完全に忘れていると言ってもいいでしょう。ですがタキオンさんの話だと消去ではなく、隔離。消えたのではないので、何かの拍子に思い出す事もあるだろう。と」

 

ルドルフ「ふむ。少しやるせないが、このまま返してもいいのではないでしょうか?ヘタに手を出す方が面倒になるかも知れません。」

 

やよい「一理あるな。赤織の!今回の件は見逃すが、トレセン学園には変わらず出入り禁止だ!よいな?」

 

男「はい!寛大なご対応、痛み入ります。自社に帰った後、今後のためにも会社を改革する所存でございます!」

 

やよい「う、うむ。励むと良い」

 

男「ハルウララさん。皆さんも怖い思いをさせてすみませんでした。」

 

キング「…だけじゃないわ。ウララさんの努力に泥を塗った事も謝りなさい。」

 

ウララ「キングちゃん・・・」

 

男「はい。ウララさん本当に申し訳ありませんでした。今後の活躍をレースの1視聴者として応援しています」

 

ウララ「うん!ありがとね!」

 

エル「そこでお礼を言える所がウララの良い所デスネ!」

 

グラス「そうですね。」

 

 

〈男は変わらず真っ直ぐした目のまま理事長室から出て行った。警備員の栄澤には一部始終報告してあり、門を出るまで監視下に置き、一任した。

残された理事長室には疲労感ゆえ、そこら中から溜息が漏れていた〉

 

 

スペ「そういえば悟空さん、凄く良いタイミングで入って来たよね。」

 

エル「まるで戦隊物のヒーローデース!!」

 

悟空「あー…今だから言うけど、オラ全然気づかなかったんだ」

 

スカイ「え、まじで?」

 

キング「でもそれなら何で?」

 

悟空「やよいの仕事を手伝っててな、次から次に言ってくるもんだから考えてる暇なんてなかったんだ」

 

やよい「いやぁ、まさかこんな事になるとはな!そこでたづなに渡してほしい書類があったから任せたんだが、いきなり血相を変えて消えたものだから焦ったぞ!!」

 

悟空「そういや、やよいには言ってなかったもんな!オラも余裕がなくてよ!」ハハッ

 

ルドルフ「有終完美・・・というわけにはいかないが、誰も怪我も無くて良かったじゃないか。」

 

悟空「だなっ!」

 

キング「・・・ふぅ。解決したのなら私達も帰りましょうか。」

 

スペ「んーーせっかくの休みが潰れたよ〜」

 

グラス「まぁまぁ。もう少しで夏休みなのでその時また遊びましょう。」

 

スペ「そだね〜」

 

 

〈キング達は理事長達にお礼を言って部屋を後にした。続くルドルフ。

部屋の中にはやよいとたづな。悟空が残った〉

 

 

たづな「悟空さん今日は助かりました。ありがとうございます。来ていなかったらあの娘達を守れなかったかもしれません。」

 

悟空「・・・自分の命をかけてもか?」

 

やよい「!?」

 

たづな「…気づいていましたか。」

 

悟空「あぁ。おめぇの"気"を見つけた時、探ってる状態だってのに、潰されそうな気迫を感じた。そんで着いてみりゃあ、アイツを抱え込むような体制。

ウララ達を逃すため受け止めようとしたな?」

 

たづな「・・はい。その通りです。」

 

やよい「たづな……」

 

悟空「…ま、生きてんだからそんな顔すんな!ただ、たづなが死ぬ事で悲しむ、、やつ、が……」

 

たづな「??、悟空さん?」

 

悟空「いや何でもねぇ。んじゃオラも行くな!さすがに腹減っちまったぁっ!!!」

 

 

〈問い詰めるような物言いに、怒られるのかと体を小さくしていたたづなだが、言葉が途切れた悟空に違和感を感じる。

顔色を伺うように、目線だけチラリと悟空に向けて見ると未だ見たことのない悲壮感を漂わせていた。

ずっと無邪気な顔しか見ていなかったので、何事かと思い声をかけたが、結局はいつもの顔に戻り、颯爽と出ていってしまった。〉

 

 

たづな「……悟空さん。」

 

やよい「・・・生きていれば何かは必ず起こる。それは悟空さんも例外ではないだろう。たづな。お前は悟空さんについててやればいい。何もしなくても、ただ隣にな」

 

たづな「・・・はい。」

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

スカイ「いやぁ何度も言うけど、とんでもない1日だったねぇ」

 

キング「ほんとに何度も言うわね。」

 

ウララ「たづなさんと悟空さんに助けてもらっちゃったね!」

 

エル「たづなさんカッコよかったデース!それに敬語じゃないところ初めて聞きマシタ!!」

 

スペ「え?そんなのあったっけ?」

 

エル「むふふ〜スペちゃん聞き逃しちゃいましたネ!」

 

スペ「ムー。なんだか勿体ない気がするよ。」

 

スカイ「…言っていいのか分からないんだけどさ。・・・あの揺れって悟空さんかな?」

 

グラス「・・・私はそう思っています。」

 

キング「アニメじゃないんだから…って思うけど、目の前であんなの見たら、、ねぇ?」

 

スペ「凄く頼もしくて、カッコよくて、、、、でも、ちょっと怖かったです。」 

 

エル「そうですネェ。普通じゃありマセンからネ」

 

ウララ「でも、悟空さんって普通じゃないし」

 

スカイ「ふ、、んふふっ!あははは!!ウララがそういう事言うと面白いね!ウララ的には有りなのかな〜?」

 

ウララ「んー。有りだよ!悟空さんが悟空さんだったら何でもいいや!!」

 

キング「それで説明がつくんだもの。あの人も大概分からないわね。」

 

スカイ「良いじゃん!分からないが悟空さんで!」

 

キング「あなた、今度はそれにハマったのね?」

 

スカイ「あ、ばれた?」

 

 

 『あはははは!!!』

 

 

〈女子学生には話のネタがあれば何回でも話が出来る。その度に笑い、楽しみ、笑顔になる。今回の事で体に恐怖が宿ったのだろう。それに苛まれる時は来るだろうが、この者達なら大丈夫。助け合う事が出来るだろう。

 

そんな中でグラスは誰にも言えず、自分の中だけで考えている事があった。〉

 

 

グラス(また話の中では出て来ませんでしたね。やはり私の見間違いだったのでしょうか?あの時の悟空さん、

 

 

      

…髪が一瞬だけ金色に見えたと思ったのですが)

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

〈ある日のトレーニング。すっかり日常の風景に戻り、ハルウララにも地獄の日々が戻ってきていた。〉

 

 

ウララ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、、、、」

 

悟空「夏合宿?」

 

キントレ「はい。真夏は限られたレースしかしないので、その間に強化合宿を行うんですよ」

 

悟空「そっかー。強くなるための絶好なチャンスってやつだな。」

 

キントレ「そうですね。なので内容の相談などをしようと思いまして、良いですか?」

 

悟空「おう。もちろんだ!おーいウララー!!」

 

ウララ「はぁ、はぁ、、ほえ?、、なぁに?」

 

悟空「もっと強くなんぞーー!!」

 

ウララ「今死にそうだよーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

次回予告:(エルコンドルパサー)

 

ハーイ!ワッターシはぁ、1番出番の少ないウマ娘デェスッ!!『うわ、根に持ってた…』

 

今回は世界最強とはいえ、怖すぎて足が震えてしまいマシタ『あれはしょうがないですよ』

 

たづなさんと悟空さんには感謝感激いっぱいデース!

 

 

さて、次回は合宿に行くみたいデスね。チームリギルももちろん行きマス!なんたってこの夏でどれだけ伸ばせれるかが勝負デスからね!

 

…けど、悟空さん達、初日に遊ぶみたいデス。リギルではそんな事しないのでエルも行きたいデス『それじゃあ一緒に行こうよ!』

 

ケ!?良いんデスか?嬉しいデース!水着も選ばなくてはいけマセンネ!!

 

 

それでは次回ッ!夏合宿!よろしくお願いしマス!!!

 

 

たくさん遊びますヨー!!

    『帰ってきたら宿題です』

 

 

     〜〜〜っっっケッ!!?!?






エルコンドルパサーは書きたいのだけれど、キャラがいまいち掴めん……ただテンションの高いウマ娘で良いのかな?


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海だ!笑って騒いで遊び尽くせ!!



今回はムフフ・・・なんと!ボロリがありまーす!いかがわしい発言もあるよ!

・色んな意味で燃えてくる回でしたね

・最初の方は地の文を多用しようと思いましたが、文字数が多くなり、展開もあまり進まないのでこれからは程よく使います。
力のなさを恨みます…


注意
・キントレはキング以外にも複数ウマ娘を見てます。今回は違い所で遊んでます


 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

突如現れ、怒って、壊れて、綺麗になったバ鹿な男がいた

 

 

 

 

 

   《海だぁぁぁぁ!!!》

 

 

〈夏の一週間合宿が始まった。ウマ娘に限らずアスリートや一般的な企業でも夏にどれだけ成果を得るかが鍵となる。

ウララ達の合宿場所は海になり、これまで頑張ったご褒美と、これから起きるであろう地獄巡りを悟らせないために初日は遊ばせる事になった。

それと、そこに紛れた1人のウマ娘〉

 

 

エル「いっちばん乗りデーース!!!」

 

ウララ「あー!!ウララだって2番乗りだもーん!!」

 

 

〈砂浜から脇目も振らず海に飛び込む元気な娘達。悟空とキントレは敷物やらパラソルやら休めるスペースを作っていた〉

 

 

キントレ「ここ数日は晴れ続きみたいですよ。良いタイミングで合宿出来て良かったですね」

 

悟空「そうだなぁ。キング。おめぇも行ってこいよ!こっちの事はオラ達がやっとくからよ」

 

キング「わ、分かってるわよ」

 

 

〈そう言いながらも動こうとはせず、水着の上にパーカーを羽織り佇んでいた〉

 

 

キントレ「・・・キング。もしかして恥ずかしいのかい?」

 

キング「ばっ!バ鹿な事言うんじゃないわよ!このキングが水着姿程度で恥ずかしがる訳ないじゃない!!」

 

キントレ「それにしてはパーカー脱がないね」

 

キング「はぁ?なに脱がせようとしてるのよ!これは、、、ほら、寒いのよ!」

 

 

〈いまいち要領得ない事を言うキング。しまいには夏の海で寒いなどと頭がおかしくなったのかと疑いの目を向けていると、顔を赤くしたキングが叫んだ〉

 

 

キング「分かったわよ!そんなに言うんなら脱ぐわよ!」

 

キントレ「ど、どうしたキング?」

 

キング「どうもしてないわ!さあ刮目しなさい!」

 

 

〈羞恥を押し殺すように豪快にパーカーを脱いだ。緑色を主軸にしたビキニだ。このウマ娘が着ると可愛いというより、綺麗やカッコいいが先に思い浮かぶだろう。〉

 

 

キントレ「おー。キングらしいね。良いと思うよ!」

 

キング「ふっふーん!そうでしょ?一流のウマ娘ですもの、私にかかればこんなものよ!それで、あなたの方は何もないのかしら?」

 

 

〈髪をファサァと靡かせ、パラソルを組み立てている悟空に問いかける〉

 

 

悟空「ん?おう。似合ってんぞ!」

 

キング「・・・悟空さんらしいけど、、、あっさりし過ぎているわね。」

 

 

〈他所を見ながらポツリと言うキング。ハテナマークが浮かぶ悟空だったが、何かを思いついたように目を輝かせた〉

 

 

悟空「そっか。そうだよな!このままじゃ何か足らなかったなぁ」

 

キング「え、、、ええ!」

 

 

〈やはり年頃のウマ娘と言うべきか。あまり着る機会のない姿を褒めてほしいと言わんばかりにモジモジしながら尻尾をブルンブルン振っていた。

そしてほんの少し顔を赤らめているキングの肩にそっと手を置く〉

 

 

キング「・・・・え、悟空さん?…冗談よね」

 

悟空「冗談?なんの事か分からねぇけど、」

 

 

〈言葉とは違い行動をする事に疑問を感じたが、悟空の顔を見ると疑問は全て頭から吹っ飛んだ〉

 

 

   っっっ飛んでけぇぇぇっ!!!!!

 

 

  〈キングも吹っ飛んだ〉

 

 

 

、、、、ミッ!

 

 

  みぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 

 

 

〈砂浜から海水までは少し距離はある。ここの海岸でトレーニングを行う事から人が少ない所を選んだが、見渡しても一般客が居ないのは幸いだった。

こちらの状況を一切知らないウララとエルだったが、叫び声が聞こえ、振り向いた時にはもう遅かった〉

 

 

ーーーーーーぁぁぁぁぁあああっ!!!!

 

 

エル「見てくだサイ!綺麗な貝殻ーーーーん?…っっ!はぁ?キング!!?」

 

ウララ「ほぇ?わっ!わわわ!!キングちゃん!?あぶなi」バッシャャアァァァァンッ!!!!!

 

 

悟空「おー!すっげぇなぁ!!」

 

キントレ(キングは無事なのだろうか・・・)

 

 

〈着弾地点から水柱が立つ。波が落ち着くと何やら叫んでいるキングと何やら責めているエル、笑っているウララが居た。こういう時にウマ娘の丈夫さはかなり安心するのだ。

周りに他のウマ娘が居ないことを確認してキントレは悟空に話しかける〉

 

 

キントレ「そういえば悟空さん。この合宿中は悟空さんが個人的にウララをトレーニングすると言ってましたが、何か良い案でもあるんですか?」

 

悟空「そりゃあもう良いのがあんぞ!何か特別な事が出来ねぇかなって思ってタキオンに聞いたんだ」

 

キントレ「うぇっ。…アグネスタキオンですか、、」

 

悟空「ははっ!おめぇもその顔すんだな!タキオンの名前出すとみんなして顔が引き攣んだよ。面白ぇな!」

 

キントレ「まぁ、、、彼女は色んな意味で特別ですからね。それで何を聞いたんです?」

 

悟空「オラじゃなかったら絶対に駄目らしいんだけど、この場所を最大限に使うってんで・・・をやって・・・くらいたったら・・・・んでもう一回・・・・・とかやるとスタミナに関係する能力がつくんだってよ!」

 

キントレ「………まじかよ」

 

 

〈悟空から聞いたトレーニング内容は確かに能力を上げる事が出来るだろう。だが一歩間違えば死の可能性も捨てきれない。危険なトレーニングゆえ、孫悟空という人物がいるというのが大前提なのだろう。

キントレは全くもって考えもしなかった方法に素で言葉が出て顔は青白かった〉

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

キントレ「おーい!!一度水分補給をしよう!上がっておいでーー!!!」

 

 

〈はーい。と元気よく返事をして渋る事なく海から上がってきた。〉

 

 

キング「ちょっと!!何を呑気にアイス食べてるのよ!」

 

悟空「ほわ?ふぁにおほっふぇんふぁ?」

 

キング「そりゃ怒るに決まってるでしょう!!すっっっごく怖かったのよ!!?」

 

悟空「んぐ!・・・あぁさっきのか!へへっ、面白かったろ?」

 

キング「怖かったと言ってるじゃないっ!」

 

エル「ふぅ。まったく、キングはずっと怒ってますネ!」

 

キング「私は被害者よ!?」

 

エル「まぁまぁ、文句があるのなら勝負で決めるのがイチバンデース!」

 

ウララ「いぇーーい!」

 

キング「ふん。それは良い案ね。キングの実力を見せつけてあげるわ!ビーチフラッグスで良いかしら?」

 

エル「良くないデス!キントレさん、頼んでいたもの出来てマスか?」

 

キントレ「はいよぉ!」

 

 

〈キング達が海に入っている間にキントレはボールを膨らませていた。エルに向かって放り投げるとボールを掲げて宣言した〉

 

 

エル「海と言えばビーチバレーデェス!!」

 

ウララ「おー!やろーやろー!!ほら、悟空さんも一緒にやろうよ!」

 

悟空「良いぞ!キントレはどうする?」

 

キントレ「あはは、もういい年なので身体がついてこないですよ」

 

キング「貴方、悟空さんとあまり変わらないじゃない」

 

キントレ「えっ!悟空さんと一緒にしちゃうの!?」

 

キング「あ…私が悪かったわ」

 

キントレ「分かってくれて良かったよ。そういやエル。ボールはウマ娘用のやつなのかい?」

 

エル「いえ、違いマス。ですが何個か持って来ているので割っても大丈夫デスヨ」

 

ウララ「うーん、、、あ!それじゃあ割ったら罰ゲームにしない?それだと割らないように気をつけるだろうし」

 

エル「良いデスねぇ!では割った人はカニに挟まれまショウ!」

 

キング「ウッ!・・い、良いわよ。やってやろうじゃない!」

 

悟空「おめぇ達、興奮すんのは良いけど怪我だけは気ぃつけろよ」

 

エル「もちろんデース!ではチームは・・・・悟空さんと組みまショウ!」

 

ウララ「あーっ!!エルちゃんずるいよ!」

 

キング「いいじゃない!戦う相手は強いのに限るわ!ウララさん、勝つわよ!!」

 

ウララ「んー、それもそっか!うん、勝つぞー!!」

 

 

〈ビーチバレーをやる事はエルの中では予定していたのだろう。瞬間移動で来た時にやたらと荷物が多かったのだ。その一つとして簡易バレーネットがあったのでキントレとキングが設置して、ウララはラインを作り、残ったエルは興奮したように詰め寄っていた〉

 

 

エル「はぁぁぁ…悟空さんすっごい身体してますネ。やはり服の上からじゃ分からなかった胸や背中の筋肉が大き過ぎますヨ…ちょ、ちょっとだけで良いので触っても良いデスカ?」

 

 

〈目を見開き鼻息を荒くしたエルは手をワキワキさせながら悟空に迫る。側から見れば変態と呼ばれる様な風貌だろう〉

 

 

キング「エルさん。それ変態よ」

 

 

〈言われてしまった。だがそんな事はどうでも良いと、ジリジリと悟空に近づく〉

 

 

悟空「まぁ、触るくれぇ別に構わねぇけど……何かおめぇ気持ち悪ぃぞ?」

 

エル「大丈夫デス!ふーーっ!ふーーっ!すぐに気持ち良くなるので!!ワタシが!!!」

 

 

〈許可を得たので我慢の限界を悟ったエルは悟空の胸を鷲掴みにした〉

 

 

エル「おーー!凄く硬いデス!!悟空さんは武道家だからこんなに大きいのデスか?」

 

悟空「んー、筋肉をデカくしようとは思った事ねぇな。強くなるために修行続けたら勝手にデカくなっただけだ。それにおめぇの方だって身体は引き締まってるし、胸だってデケェじゃねぇか」

 

エル「ケッ!?」///

 

 

〈自身の限界を越えるために、誰にも負けないために日頃から鍛錬を続けていた。時には血だらけになりながらも帰ってチチに怒られたり、体力が尽きてしまってその場で寝てしまったり。

悟空の身体は何事とも闘って出来た勲章とも言えるのだ。

だがそれとは別にサラッととんでもない事を言う悟空。以前グラスに似た様な事を言って怒られたのを忘れてしまったのか、こんな事を言えばさすがに…〉

 

 

キング「悟空さん!それ最低なセクハラよ!もう二度と言ってはいけないわ!!」

 

 

〈キングは怒る〉

 

 

エル「さ、、、さあ!やりまショウ!!ゲームスタートデス!!」

 

 

〈まだ顔から赤色が消えないエルだったが声を上げてテンションを切り替えようと奮闘している。

ボールを悟空に渡してサーブから始めるようだ〉

 

 

悟空「よーし!んじゃ行くぞー!!」

 

 

〈ボールを高く上げて手を構える。一般的なフォームだ。手の届く範囲に落ちて来たので"叩いた"〉

 

 

 っっパアァァァンッ!!!!

 

 

〈ボールは弾けた〉

 

 

キング「なんで貴方が先に壊すのよ!?いや失敗したわ!注意するのは私達じゃなくて悟空さんだけだったわ!」

 

エル「オーゥ、、、すっかり忘れてましたネ」

 

悟空「ははっ。いやーすまねぇなぁ!力加減は慣れてた筈なんだけど、つい。」

 

ウララ「もー、悟空さんってばぁ!・・・はぁ。ボールはまだあるんだよね?もう一回やろっか!」

 

悟空「お、おお!そうだな!今度は気ぃつけっからよ!キントレ!ボールくれぇ!」

 

キントレ「・・・・」ポイッ

 

 

〈分かっていたのかボールは傍に置いてあり無言で悟空に投げ渡した。〉

 

 

悟空「せーのっ、そら!」

 

 

〈そこからは流石ウマ娘達だった。授業や遊び程度しかやっていないスポーツでも完璧にこなした。

遊びと言いつつもクオリティの高い試合を繰り広げる。

悟空のサーブをキングが難なく拾い、既にトスの体制に入っていたウララはネットギリギリにボールを上げてキングが打つ。勢いはあったが、悟空からしてみれば遅いくらいのモノで安定したレシーブを上げる。砂浜で足元を取られたエルは天性のボディバランスを駆使して力強いボールを繰り出す。

…言わば、ずっとこれの繰り返しだった。〉

 

       ・

       ・

 

       ・

 

 

エル「〜〜っ今スコアはなんデスカ!?」

 

キントレ「4対4だね」

 

キング「ハァハァ…はぁ?全然点増えてないわね。30分くらいやってなかった?」

 

キントレ「ラリーが多すぎるんだよ。あれだけ拾ってればこうなるって」

 

悟空「ふぅ。ちょっと疲れたな。」

 

ウララ「ハァハァ、ん、ゴホッ!ハァハァ。…全然疲れた様に見えないよぉ!やっぱり凄いね悟空さん!」

 

悟空「ウララだって凄かったぞ?オラの球をあんだけ取るとは思わなかった」

 

キング「確かに凄かったわ。届かない位置でも飛び込んでいたわね。あれには何回も助けてもらったわ」

 

エル「MVPはウララデスネ!」

 

ウララ「えへへー。そんなに言われるとテレちゃうよぉ〜」

 

 

〈意外にもバレーボールでウララの成長を感じ、褒められた事が嬉しく思ったウララはクネクネと体を動かし独特な喜び方を表現していた。

区切りがついたのを見計らいキントレが海に近寄ったと思えば、手に何かを持って帰ってきた〉

 

 

キントレ「お疲れ様。水分補給も兼ねてスイカでも食べようか」

 

エル「イェーイ!スイカ割りデーースっ!!」

 

ウララ「それじゃあウララは木見つけてくるね!」

 

キング「今度はジャンケンして順番決めるわよ!」

 

 

〈たった今1試合やりきったというのに、スイカがあると分かった瞬間、両手を上げながらワラワラとスイカに集まっていった。

その様子を見ていた悟空はポツリと呟く〉

 

 

悟空「ははっ・・・元気なやつらだなぁ」

 

       ・

 

       ・

 

       ・

 

 

〈スイカも食べ終わり、各々自由時間を過ごしていた。キングはトイレから戻って騒がしい3人組が居ないことに気づく〉

 

 

キング「あら?悟空さん達はどこにいったの?近くにはいないみたいだけど、」

 

キントレ「海の中だよ。水中スクーターver孫悟空」

 

キング「・・・よくもまぁ次から次に思いつくわね」

 

キントレ「キングも行きたかったかい?」

 

キング「…いえ、私は遠慮しとくわ」

 

キントレ「そっか」

 

 

〈ここに来て初めて穏やかな時間が流れだす。キング達は肩を並べ海を眺めながら、この空間を守る様に静かに話す〉

 

 

キング「・・・他の娘は大丈夫だったの?」

 

キントレ「んー、、、何回か行ったり来たりしてるのは知ってるでしょ。何も問題ないよ」

 

キング「・・・そう」

 

キントレ「…ふぅ。こうやってゆっくりするのも久しぶりだねぇ」

 

キング「…ふふっ。そうね。悟空さんが来てから慌ただしくなったわ」

 

キントレ「そんな事言って、凄い楽しそうだよ?」

 

キング「え、そう?普段と変わらない気するけど」

 

キントレ「今だから言うけど、キングはずっと張り詰めていた感じがしてたからね。休もうにもリラックスが出来てなかったと思う。それで練習は人一倍するから体力も回復せず悪循環だったよ」

 

キング「・・・結構ズバズバ言うわね…でも、確かに焦っていたんだと思う。お母様の事や同期達がG1を獲っていくから自分も置いていかれない様にって、、、必死になっていたわ。

それが最近悟空さんやウララさんの雰囲気に呑まれたのでしょうね。深く考えるのがバ鹿らしくなったわ。」

 

キントレ「・・・キング」

 

キング「あ、もちろんG1は諦めてないわよ?ただ何故かは分からないけど、G1を獲りたいって気持ちよりもスペさんやスカイさん。グラスさんにエルさん…そして、ウララさん。このヒト達には絶対に負けたくない気持ちが強いのよ」

 

キントレ「そっか。・・・じゃあそれを手伝うのは僕の役目で実現するのがキングの役目だね」

 

キング「ふふ。あはっ!頼りにしてるわよ!」

 

 

〈海という偉大な自然が作り出した効果だろうか。普段は恥ずかしくて言えない話をする事が出来た。

お互いの目標を再確認して笑い合い、再び海を眺めた。

 

すると沖の方で大きな水柱が立ち昇り、注意して見ると大きな影が水面から飛び出した〉

 

 

     ーーーパシャャン

 

 

キング「・・・・・ねぇ。今の見た?」

 

キントレ「・・・・うん」

 

キング「大きな魚だったわね」

 

キントレ「・・・ここまで見えるほどの大きな背びれだったけどね」

 

キング「っっ!…あっ!あれよね!鮫でしょう?エアジョーズって言ったかしら?水面にいる生物を水中からジャンプしてとるのよね!!あはは!こんなところで見えるなんてレアだったわ!!!」

 

キントレ「あれは水中から飛ぶから口は上を向いてるはずだよ……あの鮫は最初から横向きだったよね。可能性があるとすれば・・・・下から強烈な衝撃があったくらいしか…」

 

キング「分かってるわよッ!どうせ悟空さんなんでしょ!?あんなもの見たら最初から分かるわよ!!ウララさんは!?エルさんは無事なの!!?何があって鮫なんて吹っ飛ばしたのよ!!!」

 

キントレ「キング……すっかりツッコミ役になっちゃったね。お疲れ様。」

 

 

〈一通り狂った様に叫んだ後、ピタリと動きが止まり体育座りの格好になってしまった。さすがに同情せずにはいられないと思い、キングの肩をポンポンと優しく叩いた〉

 

 

キング「ねぇ、トレーナー」

 

キントレ「なんだい?」

 

キング「悟空さんがいなくなったら、私…」

 

キントレ「…うん」

 

キング「ーーその頃には私の常識が狂ってると思うの」

 

キントレ「…うん」

 

 

    そうだね。

 

 

 

〈3分くらい経っただろうか、少しづつ悟空さん達が見えてくる。悟空さんはこっちに手を振っているが、後の2人は千鳥足で来て、頭もカクンカクンなっている。視線が定まっていないのか、あっちこっちにいってるのがここからでも分かった〉

 

 

悟空「おーい!帰ったぞー!いやぁさっきは・・ってキング。何してんだ?」

 

 

〈私は悟空さんの声には反応せず、2人を抱きしめた〉

 

 

エル「き…き、んぐぅ…」

 

ウララ「きんぐちゃぁん、、、あのね…さっきね、、、っっ!」

 

キング「大丈夫よ、貴方達。良く頑張ったわね。今はこのキングがいるのだから私に委ねて良いわよ」

 

 

〈私が言葉を言い切ると同時に痛いくらいの抱擁が返って来た。ちょっと苦しいのだけど、2人の目から薄らと涙が見えるし、そんな事を言ってられないわね。

まぁでも仕方ないでしょう。目の前に鮫が出たと思ったら上空に吹っ飛んで、落っこちてくるんだもの。

 

ーーーそりゃあ涙も出るわね〉

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

〈みんなが落ち着きを取り戻し、キントレと悟空はパラソルの下でトレーニング内容の相談をして、ウララ達は少し離れた海沿いで大人しく遊んでいた。ーーーそしてそこに近づく2人の男〉

 

 

男1「ねぇ、君たち!すごく可愛いねー!」

 

男2「それな!遠目から見てもめっちゃ可愛いね!この辺の娘?ウマ娘だからスタイルも綺麗だよね!」

 

 

〈間違いなくナンパです。怪訝な目をするキングやエル。特に何も思わないウララは言葉通りに受け取った〉

 

 

ウララ「だよね!キングちゃんもエルちゃんもすっっごく可愛いよね!!ウララこの2人とお友達なんだよ!!」

 

男1「見れば分かるよー!めっちゃ仲良さそうだもん!あ、そうだ!近くに美味しいお寿司屋さんあるから一緒に行こうよ!奢るからさ!!」

 

 

〈典型的な誘いをしてくるのにうんざりしながら、男達に聞こえない様にエルに話しかけた〉

 

 

キング「破産するまで奢らせるか、声かけた事を後悔させるのどっちがいいかしら?」ボソッ

 

エル「悩みマスネ…後者でいきまショウ」ボソッ

 

キング「分かったわ。呼んでくるからウララさん頼むわよ」ボソボソ

 

エル「オーケー」ボソボソ

 

 

〈まだ何か御宅を並べる男を無視して悟空の元へ走った〉

 

 

キング「悟空さん!」

 

悟空「どうしたんだ?そんなに慌てて」

 

キントレ(ん?あの男達は・・・・あっ)

 

 

〈男達を視野に入れたキントレはすぐに駆けつけようと腰を上げるが、キングの考えている事を理解してまた座った。

そして未だ困惑している悟空に一言〉   

 

 

キング「悟空さん。あの人達がさっきのやつ見ていたらしくて、

 

 

ーー私にやったのを自分にもしてほしいんだって」

 

 

 

 

 

   ポーイ ポーイ

 

 

 

「「うぎゃあぁぁぁぁぁぁっっ!!!」」

 

    

〈バッシャァァンッ!!と今日で見慣れた水柱が2つ立った〉

 

 

キング「ふふふ。たーまやー」

 

エル「なっはっは!こりゃ絶景デスネ!」

 

ウララ「え、、ふぇ!?いいの!!?ご飯に誘われていたんだよ!!?」

 

キング「いいのよ。あれで」

 

エル「ウララにもいつかはちゃんと説明しないといけませんネ!」

 

悟空(・・・良かったんかな?)

 

 

〈思っていた反応とは違い、悟空は戸惑っていたが、些細な事だと思い、すぐにどうでも良くなってしまった。

理由を聞かずとも1から10まで分かってしまったキントレも近くまで来ていて、15〜20mは飛んだであろう男達はノロノロと上がって来た。

 

それにしてもキングは運が良かったのだろう。高さにもよるが飛び込みで着水を失敗すると起こる現象がある〉

 

 

キントレ「っ!君達すぐに目を塞ぐんだ!」

 

 

〈焦った声を出すキントレだったが、時は既に遅し〉

 

 

男1「ウゥン…アァ…ゲホッ」

 

男2「ゴホッ!ゴボッ!…ァ"ァ"……」

 

 

〈突然の事に体がついて来ずフラフラしていた。受身は取れなかったのだろう。男達は水の衝撃がどれだけ凄かったのかを体で説明した。

 

ーー海パンが吹き飛び恥部を露出する形で…」

 

 

     ーーーそう…ボロリだ

 

 

悟空「あちゃぁ…」

 

  〈額に手をやる悟空〉

 

 

エル「・・・・うわぁ…」

 

  〈ドン引きするエル〉

 

 

ウララ「あれ、キングちゃん?何で目を塞ぐの?」

 

キング「何でもよ。・・・・チッ!穢らわしい」ボソッ

 

  〈ゴミクズを見る目をするキング〉

 

 

男1「ウゥゥ・・・!!?うぉっ!なっ、え、ちょ、、嘘だろ!」

 

男2「なに、、言ってん、、わっ、ない!まじかよ!どうすんだよ!!!」

 

男1「しらねぇよ!!」

 

 

〈醜態を晒した責任を押し付けたいのか、股間を手で隠しながら言い合いをする男達に、純粋な愛バ達に汚物を見せられ、1人の男は激怒していた〉

 

 

キントレ「はい。君達ちょっとこっちに来てくれるかな?」

 

男1「はあ?なんだてめぇ。こっちはそれどころじゃねぇんだよ!!」

 

男2「おっさんには用はねぇからさっさと消えろよ!」

 

 

〈男達の暴言を吐くが、キントレはそれを無視して首を鷲掴みにしながら歩き出した〉

 

 

キントレ「ちょっとそこまででいいからさ、付き合ってよ」

 

男1「い!いてててっ!!」

 

男2「痛いって!離せよ!!」

 

キントレ「・・・いい加減黙ってろよ。うちの可愛い子達に汚ねえもん見せやがって。遊びや偶然でなったなんて絶対言わせねぇからな。

分かったらついて来い。大人の対応ってのを見せてやるからよ」

 

男1「ひぃっ!す、すみませんでした!」

 

男2「オレ達が悪かったです!!本当にすみませんでした!許してください!!」

 

キントレ「もう、おせーよ」

 

 

〈普段温厚な人が怒ると怖い。今や良くある言葉を目の前で見た悟空達はその後ろ姿をただ見ていた〉

 

 

キング「・・・今あった事は忘れましょう」

 

エル「…ハイ」

 

悟空「…そうだな」

 

ウララ「どう言う事なの!?何でトレーナーさん怒ってたの?何であの人達ズボン履いてないの!!?

 

ーーもうワケワカンナイヨォォォ」

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

〈そろそろ終了時間が見えて来た時、エルはみんなの前で言った〉

 

 

エル「みなさん!今日はエルも誘ってくれてありがとうございマシタ!」

 

キング「どうしたのよいきなり」

 

キントレ「そうだよ。送り迎えも0秒で終わるし、一日目は遊ぶ予定だったからね。エルも楽しんでいた様で良かったよ」

 

ウララ「ウララも!すごい楽しかったよ!!」

 

エル「はい!ワタシも楽しかったです!……ですが、ひとつだけお願いがありマス」

 

 

〈先程の笑顔とは反対に真剣な目付きになった〉

 

 

キントレ「うん。なんだい?」

 

エル「・・・この合宿中。ウララにやるトレーニングをワタシにもやってくだサイ!」

 

キントレ「…すまない。それは許可できない」

 

キング「・・・・・」

 

エル「無茶を言ってるのは分かっていマス!

ですがお願いしマス!!」

 

キントレ「うーん。・・・参ったなぁ」

 

 

〈トレーナー同士の暗黙の了解。勝手に指導する事で癖になったり、最悪怪我なんてしたら目も当てられないのだ。事が事だけに、バッサリと切ったつもりだが、エルは頭を下げたままだ。

どうしたものかと考えている時に黙っていた男が入ってくる〉

 

 

悟空「ま、少しくれぇ良いじゃねぇか」

 

キントレ「悟空さん…」

 

悟空「キントレが良く思わねぇっても分かってっけど、目の前に強くなるかも知れねぇ修行があんだったら無視は出来ねぇっていうエルの気持ちも分かる。

心配ぇすんなって!怪我だけはさせねぇからよ!」

 

エル「悟空さん・・・」

 

キントレ「……はぁ。どうせこうなるんだろうと思いましたよ。ですが、本当に分かってますよね?怪我だけはダメですよ?」

 

悟空「分かってるってぇー」

 

キントレ「頼みますからね!?」

 

悟空「おう!んじゃ行くか!エル!」

 

エル「は、、ハイ!」パァァ!

 

 

〈ウララにはバレない様にと離れた位置まで移動した。残った者達は疑問を投げつける〉

 

 

キング「あれ、良かったの?」

 

キントレ「いや全然良くないよ?」

 

ウララ「でも、あんな目した悟空さんは止められないよねぇ」

 

キントレ「そこなんだよ〜。・・・はぁ。チームリギルは怖いからなぁ。エル、死ななきゃ良いけど、、、」

 

 

〈ボソリと不吉な事を言うキントレ〉

 

 

キング「・・・・怪我しなきゃ良いけど、、、じゃないの?」

 

キントレ「ん?・・・あっ。……ソウダヨ?ケガシナキャイイケドナー」

 

ウララ「・・・・・・・」

 

キング「・・・元気出して。ウララさん」

 

ウララ「」フルフル

 

      ・

 

      ・

 

      ・

 

 

〈数分後。悟空はエルを肩に担いで帰ってきた〉

 

 

悟空「へへっ!やり過ぎちまった!」

 

キントレ「っっそうでしょうね!!このやりとり何回目ですか!?頼むって言ったじゃないですか!!!」

 

悟空「ははは。いや、すまねぇ。エルの奴も調子上がったみてぇで。・・・すまねぇ」

 

キントレ「はぁ。全くもう!・・・エルは生きてるんですか?」

 

エル「………ぁぃ…イキテマス」

 

キントレ「ギリギリセーフか。怪我もないようだし、遊んだ疲労でいけるね。よし!日も暮れかかってるからお開きにしようか!」

 

 

〈他の人の言葉やエルの事を強引にねじ込み、帰り支度を始めた。

悟空はキントレの指示通り、パラソルやシートを折りたたんでいく。

残ったウマ娘はエルの介抱にあたった〉

 

 

ウララ「…あのエルちゃんが、、、こんなに」

 

キング「だ、大丈夫ですって!ほら、エルさんも元気になってきたでしょう?」

 

エル「う、らら。・・・死なないでくだサイ」

 

ウララ「あ、、、あぁ…オワッタ」

 

キング「あー、また落ち込んじゃったわ」

 

 

〈何故か介抱する者が増えたので宥めていると、片付けが終わった悟空が近づいてくる〉

 

 

悟空「エル。準備終わったからそろそろ帰るぞー!」

 

エル「・・・ハイ」

 

悟空「なんだ、まだ戻ってねぇのか。ほらしっかりしろ!世界最強なんだろ?」

 

エル「ハッ…そうデス!ワタシは世界最強デース!!」

 

悟空「よし!んじゃオラに捕まれ」

 

 

〈そう言いながら額に指を当て瞬間移動の準備をする。エルは悟空に触れようとする時に動きを止めてキントレの方を向いた〉

 

 

エル「トレーナーさん。今日はありがとうございマシタ。とても楽しかったデス!」

 

キントレ「うん。チームリギルの練習は耳に入ってくるからね。ハードだろうけど、頑張って!」

 

エル「ハイ!キングも、怠けていたら置いて行ってしまいますからネー」

 

キング「ふん…今は好きなだけ言うと良いわ。最後に勝つのは私よ」

 

エル「・・・それでこそキングです。……そして、ウララ」

 

ウララ「ほぇ?どうしたの?」

 

 

〈キングには不敵な笑みを浮かべたと思えば、表情を消してウララと対面する〉

 

 

エル「…ウララ。ワタシも何とかして有馬記念に出るつもりデス」

 

ウララ「!?」

 

エル「正直言って戦わずともワタシの方が強いデス」

 

ウララ「・・・・そうだね」

 

エル「でも!それは現時点でデス。もっともっと強くなってくだサイ!ワタシもこれ以上に強くなりマス!!有馬記念でぶつけ合いまショウ!!」」

 

ウララ「エルちゃん……うん!勝負だね!」

 

 

〈満足いったのか今度は太陽みたいに輝かしい笑みを浮かべた。

そして、悟空に触り、その場から消えた〉

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

ー 寮部屋 ー

 

 

"シュン!"

 

 

グラス「おかえりなさいエル。悟空さんもお疲れ様です」

 

悟空「オッス!おっ。今日は"気"が一段と張ってんな!」

 

グラス「ふふ。分かりますか?今日のトレーニングは立てなくなるくらいやったんですよ」

 

悟空「ははっ!そりゃすげぇな」

 

エル「ゴソゴソ…グラスただいまデス!これお土産!どうぞ!」

 

 

〈そう言ってカバンから昆布を取り出し、グラスの顔を目掛けて放り投げた〉

 

 

      ーーーべちゃ。

 

 

悟空「・・・・うわ」

 

グラス「……エル」

 

エル「あははははっ!グラス!新しい顔デース!あははははっいただだだだっ!!」

 

 

〈痛がるエルに笑顔で関節技をかけるグラス。その光景に見てられないと思い瞬間移動しようとすると、苦しみながらエルが声をかけてきた〉

 

 

エル「〜〜っっ。ご、悟空さん!!ワタシとの約束忘れないだだだだだだ!!」

 

悟空「・・・オッケェ」"シュン!"

 

    ・

 

    ・

 

エル「グラァス!ごめんなさぁいデース!!」

 

グラス「いいえ、許しません」

 

   ーーーーーケッ!?

 

 

 

 

〈ウララ達の所に戻った悟空だが、エルが言っていた約束の事を思い返していた〉

 

 

エル「はぁ、はぁ、はぁ…ウララはこんな事やっているのデスか?」

 

悟空「まだやってねぇけどな。この合宿中でやるつもりだ。それにしても大した奴だな!想像以上だ!」

 

エル「ハァハァ、、あ、ありがと、デス。」

 

 

〈呼吸を整え、疲労を散らばらせる様、雑に大の字で寝転がり、空を見上げながらほんの少し口を開く〉

 

 

エル「…悟空さん。知ってましたか?1つの世代に怪物級が複数いるのは稀なんですって」

 

悟空「そりゃあ、おめぇ達の事か?」

 

エル「ハイ。ワタシは凄い強いデス。でも、ほんの少し。それこそ瞬きを一回するだけで、頭から爪先まで飲み込まれそうになる感覚。油断は敗北をイメージさせられマス」

 

悟空「その気持ちはオラも分かる」

 

エル「でしょうネ。・・・でも1番"怖い"のはウララなんデス」

 

悟空「そうか?・・・まだ差があると思うぞ?」

 

エル「実力で言ったら、、、デス。これは可能性の話デス。以前悪徳記者が来た時に言っていたんデス。

ーー1人のウマ娘が、距離やバ場を大幅に変える事は信じられない事だって」

 

悟空「みてぇだな。オラも聞いた話でしかねぇけど」

 

エル「ワタシは言い返しマシタ。適正の距離が分からなくて全部走れる者。ワタシだってダートを走っていた事。あの時はムキになって言いましたけど、これってかなり凄い事なんデスヨ」

 

悟空「・・・あまりウララを否定する様な事は言いたくねぇけど、凄いと強いは別なんじゃねぇのか?」

 

エル「そうデスネ。でもそれは今日の事で"強さ"になると確信しマシタ」

 

悟空「今日?なんかあったか?」

 

エル「あのビーチバレーデス。明らかに届かない距離でも届き、悟空さんの化け物みたいな球には怯まず食らいつく。ワタシの知ってるウララはあそこまで出来マセン。それもこんな短期間で…」

 

悟空「・・・なるほどな。それで"怖い"ちゅー訳だな」

 

エル「ハイ。あの時はキングも褒めたり、エルもMVPだとか言ってマシタが、冷や汗ダラダラだったんデスヨ?

キングだって、助けられたなんて言ってマシタけど、たまに闘争心が漏れてましたネ。あれは対戦相手のワタシ達ではなく、恐らくウララに対してです」

 

悟空「あぁそれは感じ取ったな。意味は分からなかったけど、そういう事だったんか」

 

 

〈多分そうデス。そう言って足を振り上げ、戻す反動を利用して手を使わず起き上がった〉

 

 

エル「ま、何が言いたいのかっていうと、ウララを限界まで鍛え上げてワタシと全力の勝負をさせてくだサイって事デース!!」

 

悟空「ははっ!・・・おめぇ達はみんな似た者同士だな。どうなるかは分からねぇけど、オラも全力を尽くすつもりだ」

 

エル「…約束デスヨ?」

 

悟空「おう!約束だ!・・・んじゃ体力も回復したみてぇだし、もういっちょ行ってこーい!」

 

エル「ケッ!?あ、ちょ!ワタシまだ!!だめ、投げないでくだ、、、あ。

 

 ケェェェェェエエエ!!!バッシャァァァンッ!!!

 

      ・

 

      ・

 

      ・

 

 

悟空(やっぱ負けたくねぇ奴がいるってのは燃えるよなぁ)

 

キントレ「???悟空さん。ボーッとしてますけど、何かあったんですか?」

 

悟空「ん?いや、なんでもねぇぞ。確かこれからは宿に向かうんだったよな?」

 

キントレ「はい。その予定ですよ」

 

悟空「ならちょっとオラは少し出てくる。後の事は任せたぞ」

 

キントレ「え、どこに行く、、、はぁ。瞬間移動じゃなくても目の前から消えるってどんな速さなんですか…」

 

 

〈悟空は戦うモノ達の"気"に当てられ、山の中へ走って行った〉

 

 

悟空「ハッ。オラも負けてられねぇよ、、、なァッ!!!!」

 

 

〈山の麓に住む住人達は、軽い揺れや山から聞こえる唸り声などを聞き、その日は精神が持たなかったとかなんとか……〉

 

 

 

 

 

次回予告:(ハルウララ)

 

こんにちはウララだよ!『オッス』

 

今日はすっごく楽しかったよ!暑い時の海は気持ちいいねぇ!

 

バレーも良かったけど、ボールを割った罰ゲームで悟空さんの指をカニさんに挟ませるのはカニさんが可哀想って結果になったよ!!『私も同じ事言うでしょうね』

 

男の人達も美味しい所に連れてってくれるって言ってたのに、何が何だかウララ分からなかったよ〜『そんな男は最初からいなかったわよ』

 

それにエルちゃんとも勝負しなきゃいけないからね。もっともっと強くならないと!!…ちょっと怖かったけどね。『オゥ。ごめんデス…』

 

 

あ!今回のじゃなくて、次回だよね!!

次は修行編やるみたい!

 

ここでキングちゃんにもんだーい!ジャジャン!!『良いわよ。かかってらっしゃい』

 

次でウララは何回臨死体験するでしょーか?『・・・あ、えっ、、、と』

 

はーい!時間切れー!正解は・・・

 

ーーーツギモミテネ。『あぁ、ウララさんの目から光が…』

 

 

 

     …強く生きて

 

 

 



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修行編 〜3〜



今更ながらウマ娘の1期を半年で詰め込みます。
上手いことやろうと思いますが、捏造があります。


 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

エル「ウララは"怖い"。だからもっと強くしてくだサイ」

 

悟空「ああ。」

 

 

 

 

 

 

 

〈本格的に始まる合宿1日目。考えがあるのか、ウララのトレーニングの大半は悟空だけが見る事となっている」

 

 

悟空「んん"ーーー!!っっふぅ。良い天気だなー」

 

ウララ「そうだね!だけど、日差しも強いし、じっとしてるだけでも倒れちゃいそうだよ」

 

悟空「その点に関しちゃオラも気をつけるけど、我慢する必要は全くねぇからな?むしろ倒れる事で修行ができねぇ方がもったいねぇから、しっかり水分とんだぞ?」

 

ウララ「はーい!!」

 

 

〈"暑い"それは、空気が重く呼吸がしづらい、体から水分が失われ、目はかすみ、力が入らなくなる。

過酷な自然では心を鍛えるのに打って付けだと、悟空自身は修行に組み込んでいたが、耐え難い辛さである事もしっかりと理解していた」

 

 

悟空(オラがやってた修行はまだ無理か。ぶっ倒れねぇ様にオラも注意して見とかねぇとな)

 

ウララ「そういえばさぁ、悟空さん」

 

悟空「なんだ?」

 

ウララ「キングちゃんやトレーナーさん達、遠くの方にいるけど一緒にやらないの?」

 

悟空「そうだなぁ。たまーに合流するつもりだけど、合宿中はオラと2人の方が多いな」

 

ウララ「そうなんだ。やる事決まってるの?」

 

悟空「おう!飽きねえようにいっぱいあるかんな!まずは準備運動だ。早速やってくぞ!」

 

ウララ「おー!」

 

 

〈まずは慣らすために砂浜ではなく、海岸沿いを走りに行った。はじめての土地で好奇心旺盛な2人はあれやこれやと目を惹かれて目的のルートから外れてしまった。準備運動とは名ばかりのランニングから帰ったのは何と1時間後だ〉

 

 

ウララ「ハッハッハッ。ごくっ、さん…ちょっとだけ休憩、してもいい?・・・疲れちゃった」

 

悟空「ははは!…悪りぃな。いきなり予定と違う事しちまった」

 

ウララ「んーん。でも、さっきのお店美味しそうだったね!」

 

悟空「そうだなぁ。海で採れたやつをそのまま出してるみてぇだからな。全部終わったら食いに行くか!」

 

ウララ「いぇーい!!それが待ってるってだけでウララ頑張っちゃうぞぉー!!」

 

悟空「おう!その意気だ!」

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

〈やり過ぎた準備運動後の呼吸を整え、2人は日差しの熱を存分に取り入れた砂浜に降り立った〉

 

 

ウララ「あっっつっ!!!昨日は海に飛び込んだけど、これ熱すぎだよぉ!足が焦げちゃいそう」

 

悟空「んー、どれどれ?…うおっ!あっちぃ!!」

 

 

〈思った以上の熱さだったのか、悟空は宙に浮き、足の裏にふー。ふー。と息を吹きかけていた。

しかし、そのすぐ後には、また砂浜に足を置き、休息場所として作ったシートの上に立っているウララの方を見て言った〉

 

 

悟空「ん"ー!!ウララやんぞ!!!」

 

ウララ「ええっ!悟空さん熱くないの!?」

 

悟空「すっげぇ熱い!!けど、これも修行だ!おめぇはオラに着いて来れねぇのか?」

 

 

〈驚愕するウララに対し、背中を押すではなく、あえて挑発する悟空。

ニヤリとした顔にウララの心にも火が付き、行ける!との掛け声とともに足を踏み出した〉

 

 

悟空「よし。んじゃまずは砂の感覚に慣れるために走んぞ!」

 

ウララ「っっはい!」

 

 

〈砂浜でのトレーニングはウララも経験済みだ。足を取られるような砂の感触。強く踏み出すだけでなく、指で掻くようにしなければ走れない事。疲労も一段と溜まる砂浜トレーニングだが、懐かしさを感じるものでもあった。

そんな思い出の溢れる事を思い出しても…〉

 

 

ウララ「熱いのは熱いよぉぉ!」

 

悟空「それならもっと走れ!熱くなる前に逆の足を出してやれば熱くねぇ!それを繰り返せば全然熱くねぇぞ!」

 

ウララ「そんな訳ないでしょー!!!」

 

 

〈活気のある叫びではなく、不満の叫びを上げながら、ひたすら走る。

100mの程の距離を適当に走ったところで、悟空が"5分休憩だ"と言ってどこかへ行ってしまった。

今まででも、どんな修行も乗り越えて来たんだ!今回も絶対に出来る!呼吸を整えながら自分を高めていると、悟空が見慣れた物を持って帰って来た〉

 

 

悟空「待たせてすまねぇな。次はこれだ!」

 

 

〈それを見たウララは、まだ会った事もない、先頭民族ウマ娘の口癖をポロッと呟いた〉

 

 

ウララ「は、、あはは…

 

     ーーーウソでしょ…」

 

      ・

 

      ・

 

      ・

 

 

〈近所に住んでいる親子。買い物袋をぶら下げ、海岸沿いを歩いていると、今後も語り継がれるであろう、面白いモノを見つけた〉

 

 

子「あっ、ねぇねぇ!見てよ!ウマ娘がいるよ!!」

 

親「もうそんな時期なのね〜毎年こんな暑いのに、よく頑張るわねぇ」

 

子「良く見てよ!あのお姉さん。

 

  ーー亀の甲羅背負ってるよ!!」

 

親「ふふ。何言って…やだ、本当だわ。どんなトレーニングなのかしらね」

 

子「あははは!あれじゃあウマ娘ってよりもカメ娘だね!声かけちゃ駄目かな?」

 

親「練習の邪魔になってしまうから、ここからなら良いんじゃない?」

 

子「そうだね!

   

おーい!!カメ娘さーん!!頑張ってねぇ!!!」

 

 

     アリガトー!!!!!

 

 

子「聞こえたみたい!」

 

親「良かったわね」

 

子「うん!!」

 

    ・

 

    ・

 

    ・

 

悟空「にひひ!良かったな!」

 

ウララ「良くないよ!いや、良かったけど!!カメ娘ってなんなの!?こんな所じゃなくてもっとカッコいい所見て欲しかったよーー!!!」

 

 

〈この間も、なお爆走中〉

 

 

ーーーーーーー

 

 

ウララ「ゴクゴクゴク!!っっぷはぁ!!!あ"あ"キツい"っ」

 

悟空「ははっ!他の奴らも合宿中に一皮剥けるみてぇだからな。まだまだこれからだぞ!」

 

ウララ「ウェッ!?」

 

悟空「けど、次やんのはちょっと優しいやつだから安心しろ」

 

ウララ「ほんと!?やった!!何やるの?」

 

悟空「砂浜じゃなくて波打ち際を走るんだ!」

 

ウララ「へぁ?・・・・甲羅は?」

 

悟空「背負ったままだ」

 

ウララ「その手に持ってるのは何?」

 

悟空「手足に付ける重り。最初だから3kgずつにしたぞ!慣れてきたら上げるつもりだ」

 

ウララ「…優しいっていうのはどういう意味で言ったの?」

 

悟空「ん?水が届く所だから熱くねぇじゃねぇか!これで気にせず走れんぞ!」

 

 

〈自分の言ってる事におかしい所は無いと言わんばかりに満面の笑みで親指を立てている。

希望があると分かり、一生懸命頑張ったら実はそんな事なかった。みたいに、気分が天から地に落ちる程辛い事はないだろう。

温厚なウララは悟空と出会ってから、どれ程叫んだのだろうか。今回もまた叫んだ〉

 

 

ウララ「っっっ思わせぶりな事言わないでよ!それ悟空さんの悪い所だよ!!」

 

悟空「!?。どうした急に」

 

ウララ「わかってる!ウララが悪いんだ!勝手に期待しちゃったから!でもあんな風に言われたら勘違いするに決まってるじゃん!!」

 

悟空「う、うらら?…大ぇ丈夫、、か?」

 

ウララ「ハァハァ・・・ふぅ。よし!行こっか悟空さん!!」

 

悟空「おめぇ本当に大丈夫なんか!!?」

 

 

〈ウララの感情の起伏についていけない悟空だったが、せっかくやる気を出しているのに、水を差す訳にはいかないと、気にしつつも先行してゆっくりと走りだした〉

 

 

 バシャバシャバシャ

 

〈癖になる音が鳴り続く。同じ様に甲羅を背負い、自分よりも重たいおもりを付けている悟空を後ろから眺める〉

 

 

ウララ(エルちゃんも言ってたけど、すごい筋肉だなぁ。…もしかしてウララもこんな風になっちゃうとか!?・・・ってそんな訳ないか)

 

悟空「ウララ。オラばっか見てねぇで周りにも意識を飛ばすんだ。

足元に貝殻が落ちてるかも知んねぇ。波の強さに応じて力加減を変えなきゃ足を取られる。

相手以外に注意する事はレースにも繋がるんだ。余計な事考えてる暇はねぇぞ」

 

ウララ「は、はい!!」

 

 

〈こちらをチラリとも見ず、前だけを見て走りながら発破をかける。

そうだ。悟空に教えて貰ったのは、ただ力をつける事だけじゃない。目線を変える事で様々な鍛錬法がそこら中に散らばってるんだ。

ウララは3度、意識して深い呼吸をし、顎を引いて"視点を無くした''〉

 

 

ウララ(たまにぼーっとするけど、これをやったら視界が広がる感じがするんだよね)

 

 

〈色んな修行の末、なんとなく出来た事。観の眼と呼ばれるもので、武術家はもちろん。トップアスリートも使う技術である事をウララは知らない〉

 

 

ーーーーーーー

 

シャクシャクシャクシャク!!ガツガツガツ!!

 

 

ウララ「おいしー!!!疲れた時のスイカはすっごくおいしいね!!!」

 

悟空「ガツガツガツ!!ふぉんふぉふぁな!!ゴクン。スイカは運動中の食いもんにちょうどいいんだってよ!」

 

ウララ「へぇ、そうなんだぁ!もう、いくらでも食べれちゃうね!」

 

悟空「ははっ!この後もあんだから食い過ぎねぇようにな」

 

ウララ「うん!」

 

 

〈言いつつも次のスイカに手を伸ばすウララだが、悟空の後ろに箱を発見した〉

 

 

ウララ「シャクシャク。それ悟空さんの?」

 

悟空「ん?あぁ、中に飲み物が入ってんだ。キントレが見てる奴らに分けてやろうと思ってな」

 

ウララ「そうなんだ。それじゃあ一回休憩なの?」

 

悟空「いや、こいつはウララに運んでもらう。修行の続きだ」

 

ウララ「これを?ふっふーん!悟空さん、ウララを甘く見てるね?飲み物が少し入った程度の重さなんて、ちょちょいのちょい!だよ!!」

 

悟空「おお!そいつは頼もしいな!んじゃ後でよろしくな!」

 

ウララ「はーい!」

 

      ・

 

      ・

 

      ・

 

 

〈食べてすぐは動けなくて、横になり日光浴をして30分。"そろそろ始めるか"と動き始め、ウララも後を着いていった〉

 

 

悟空「そんじゃあ、さっき言ってたこいつを持ってくれ」

 

ウララ「うん。ほんのちょっぴり重いね。だけどこれくらいは、らくしょーだよ!!」

 

悟空「なら良かった、ただ箱の持ち方が違うな。頭の上で持つんだ」

 

ウララ「ふぇ?、、、こうかなぁ…なんでなの?」

 

悟空「濡れたらベトベトするからだ。ウララ、こっちに着いてこい」

 

ウララ「う、うん」

 

 

〈海の方に向かう悟空の後を、荷物を頭の上に乗せながら歩いていく。

前にテレビで見た事があり、どこかの国での荷物の運び方を思い出し、"運びづらいよ!"と脳内でツッコミを入れた。

波が足にかかるのが分かり、悟空に問いかける〉

 

 

ウララ「ここを走って行けばいいの?」

 

悟空「ここじゃねぇ。もっと奥だ」

 

 

〈悟空は止まる事なく、深い方へ歩いて行った〉

 

 

ウララ「わわっ!お腹くらいまで来ると倒れちゃうよ〜」

 

悟空「それが今からやる修行だ」

 

ウララ「???」

 

悟空「オラが牛乳配達やってた時には色んな所を通ったんだ。木の間をジグザグに走ったり、長い階段上がったり、恐竜に追っかけられたり」

 

ウララ「よ、よく生きてたね…」

 

悟空「もう駄目だって何回も思ったさ。そんでその中の一つで流れる川の中を歩いたんだ。濡らすとまずいからって頭の上に乗っけてな」

 

ウララ「ほほう。それを海でやるんだね!……え、大丈夫なの?ウララ死んじゃわない?」

 

悟空「これはまだ大丈夫な方だ。波は高くねぇし、オラも後ろから着いていく。おめぇは箱の中に水を入れねぇように歩いてれば良いんだ」

 

ウララ「そっか。まぁやってみたら分かるかな」

 

悟空「そうだな。そんじゃあ、首くらいまで浸かるんだ。目的地はキントレの修行場所まで!行くぞー!」

 

ウララ「お、おー!ガボボッ!!?」

 

     ・

 

     ・

 

     ・

 

 

キントレ「ラスト一本!砂浜だからこそ腿を大きく上げるのを意識して!!」

 

  

    《ハイ!》

  

 

〈キントレたちはスパートの練習を軸として、わずか50mくらいのものを50本も走っていた〉

 

 

キング「はぁ、はぁ、」(さすがにキツイわね)

 

ウマ娘A「いやーやっば速いねぇキングちゃん!」

 

ウマ娘B「一回くらいは勝ちたかったなー」

 

キング「・・・ふふ。このキングがそう簡単に遅れをとる訳ないじゃない!この合宿中で限界を越えるつもりなのだから貴方達も食らいついて来なさい!」

 

ウマ娘A「言うねぇ。次は負けないからね!」

 

 

〈全員が走り終わり、"休憩!"との声が聞こえて、寝転がったり、海に飛び込んだりで散らばるウマ娘達。

そんな中、とあるウマ娘が見つけた〉

 

 

ウマ娘C「…え?・・・・トレーナー。ウララちゃんが来たよ….」

 

キントレ「ウララ?何か用事かな?」

 

 

〈ウマ娘の言葉に反応して、ウララがいる方向を見るが、砂浜の上には影も形も無かった。

不思議がっていると、ウマ娘から"違うよ"と言われ、指を差す方向を見ると、少しだけ頭を出して波に揺られながらも必死に歩いているウララがいた〉

 

 

キントレ「・・・・キング」

 

キング「・・・なによ」

 

キントレ「あれ、何やってると思う?」

 

キング「そうねぇ。上に乗ってるのは分からないけど、意味があるとするなら、倒れない様に軸を安定させる体幹トレーニングの一種・・・かしら」

 

キントレ「冷静に分析できるとは、、、キングも逞しくなったね」

 

キング「こんな所で私の成長を感じてほしくなかったわ」

 

 

〈もう何百m歩いたのだろうか。カーブもあったけど、最初の位置からは見えなかったし、声も聞こえなかったから、かなりの距離があったはずだ。

水の中にいると、しっかり前に進めているのかが分からない。上に乗ってる荷物は無事なのか。

慣れない浮遊感。感じた事のない筋肉疲労。いつになれば終わるのか、海水を飲まないようにしなければならないウララにとって、他の事を考えてる余裕などない〉

 

 

ウララ「ハッハッ、ごぼっ!がはっ!!ぶっ」

 

悟空「ウララァ!こういう時は呼吸を意識すんだ!10秒に1回ペースだ!深く息を吸って、身体の中にある空気を意識するんだ!!」

 

ウララ「あっ!…ブッ!ゴホゴホッ!!」

 

 

〈応える暇はない。だが悟空はトレーニングの時、適当な事を言わない事は知っている。辛いトレーニングに涙すら溢れそうになるが、耳だけはしっかりと悟空の方に向けていた」

 

 

ウララ(ご、、く、うさん)「ハァハァ、ごほっ!…はぁ。スゥ-・・・・・・・はぁ。スゥ-」

 

悟空(コイツのすぐに取り入れるとこが良い武器になってんな。前にウララを見てた奴が基礎ばっか教えたんが正解だったみてぇだ)

 

 

〈呼吸とはいえ一概には言えない。短距離と長距離を走る時も違うし、力を込める時も違う。逆に吐いて力を抜いた状態で物事を行う時もある。

今回はその一つ。

体内に空気を溜めれば水中では微かに浮く。呼吸する手間を省けば口や鼻から海水が入る事もない。その代わりに疲労は一段と増すが、足の角度や胴体の捻りなど、自分で疲れない方法を見つけるしかないのだ〉

 

 

ウララ「はぁ。スゥ-…………はぁ。っっ!!?ゴバッ!ゲボっ!!」(しまったぁ!あぁ、これが油断ってやつだね……だけどッ)ゴホゴホッーーーーーキッ。」

 

 

〈まだ行ける!これからだ!そう意気込んで燃える様な目つきになった時、体が浮き始めた〉

 

 

ウララ「!!?…へ?ウララ飛んでる?」

 

悟空「ったく。やり過ぎなんはオラかおめぇか分かんねぇな」

 

ウララ「ほえ?」

 

 

〈浮いた体は波よりも高くなった。さっきまでの勢いが霧散して、浮く正体にも簡単に気づいた〉

 

 

ウララ「悟空さん?」

 

悟空「まだ何だか分からねぇって顔してんな?オラが何回も呼んだってのに。ほれ、横見てみろ。着いたぞ」

 

 

〈"着いた"この単語に安堵して、言われるがまま砂浜の方に目を向ける。キングだけでなく、他のウマ娘もウララの名前を呼ぶ声が聞こえ、自然と口元が上がってきた〉

 

 

ウララ「み、みんなぁー!!」

 

 

〈悟空に運んでもらい、疲労感から膝をつくと、全員ウララに集まってきた〉

 

 

キング「ウララさん!?大丈夫なの?」

 

ウララ「え、へへ。ちょっと今は立てないけど、はい、これ!おすそわけだよ!!こんなに暑いと'ねっちゅーしょー'になっちゃうからね!気をつけないと!」

 

 

〈箱から人数分のペットボトルを渡すが、ウマ娘達の顔は喜びではなかった〉

 

 

ウマ娘A「……キングちゃん」

 

キング「…分かってる。・・・ウララさんありがとう。後で美味しくいただくわ」

 

 

〈キントレチームは休憩に入ったばかりな筈。悟空はそう思っていたが、周りにいるウマ娘から落ち着いていた"気"が上がっていくのを感じた〉

 

 

悟空(??ーーーあーそういう事か。そりゃ強くなんのはコイツだけじゃねぇもんな)

 

 

 

 

《トレーナー!!!もう一本ッッ!!!!》

 

 

〈複数の声が響き渡り、ウララは少し体を休めるため、見学も兼ねて休憩に入った。

時間帯を見ると後一個くらいが限度だろうか。

ウマ娘達に指示を出した後、キントレが悟空に耳打ちをしてきた〉

 

 

キントレ「悟空さん」

 

悟空「どうした?」

 

キントレ「例のトレーニングはもうやったんですか?」

 

悟空「あれは、これからするつもりだ」

 

キントレ「え"?いくらなんでも、あの疲労じゃ死んじゃいますって!!」

 

悟空「そうか?んー…初日に全部やって身体に馴染ませてぇんだけどなぁ」

 

キントレ「それなら少しだけにしましょう!やり方や経験を積んでおけば後々コツを掴みやすいでしょうし、体力も温存できて、明日にも影響しないでしょう!……多分」

 

悟空「そっかぁ・・・まぁ、おめぇが言うんならそうなんだろうな!おし、んじゃ軽くやっか!」

 

キントレ「それが良いと思います!!」(これで命だけは助かるはず!)

 

 

〈キントレの必死な説得により、考え直した修行とは…休憩から1時間後。修行を再開した〉

 

 

悟空「ウララ。次で最後だ。集中するんだぞ?」

 

ウララ「うん!だけど、今度はこっちでやるんだね?」

 

 

〈ウララの言う通り、チームと離れた場所ではなく、みんなのいる所でやるみたいだ。尚、キントレチームは休憩している〉

 

 

悟空「らしいな。キントレがここで良いっつーからよ。どこでも出来っから別に良いんだけどな」

 

ウララ「そっか。それで、最後は何するの?」

 

悟空「最後は昨日にエルがやったやつだ」

 

ウララ「・・・・ェ。」

 

悟空「心配ぇすんな。疲労も溜まってるだろうから、少しだけだ。どんなもんかってのを確認するだけだな」

 

ウララ「…それなら…大丈夫。なの、かな?」

 

悟空「そんでその修行が合宿中で1番重要になる。明日からは全体の半分はやるつもりだ」

 

ウララ「そんなに凄いんだぁ…」

 

悟空「あぁ。タキオンが言うには、・・・・えっと、肺活量?…海底にいる事で、、、圧迫されて……???」

 

ウララ「???」

 

 

〈理解はしてるが説明ができない悟空にキントレは助け舟を出した〉

 

 

キントレ「ざっくり言うとね、肺活量を鍛える。それは体力の増加やスパート時の無酸素運動の時に有効に使える事なんだ」

 

ウララ「・・・?…スタミナがつくの?」

 

キントレ「間違いではないね。スタミナのカテゴリーにはなるけど細かく分けると肺活量ってなるかな」

 

ウララ「な〜るほど?」

 

キントレ「あはは。やってみたら分かるかな。ただ、気をつける事があって…」

 

ウララ「なになに〜?」

 

キントレ「絶ッッッ対に!!!

 

  ーーーー死んじゃだめだ」

 

ウララ「!?・・・・・っっ・・・・・・・」

 

悟空「んじゃ行くぞー!!」

 

ウララ「え!?ちょっと待って!!もう少しだけ!あ、やめっ!きんぐちゃん!たすkっっっ」

 

 

〈悲痛な面持ちで手を伸ばしてくるウララにトレーニング内容を聞いていないキングは容易に助ける事は出来なかった。強くなるのに近道は無い。ウララは逃げてる場合では無いのだ。気持ちだけでも寄り添おうと顔を引き締めて、飛んで連れていかれるウララを見る。

 

すると、水の上に立ちウララに甲羅を背負わせて、そのまま水の中に沈んで行った〉

 

 

キング「・・・・・え。想像もつかないんだけど、何をやっているの?」

 

キントレ「海底走ってる」

 

キング「海底走ってる!?自分で何言ってるか分かっているの?」

 

キントレ「うん。でも本当なんだよ」

 

キング「本当だからこそ信じられないのだけど…あの甲羅って重りでしょう?」

 

キントレ「そうだよ。重りしないと浮いちゃうからね」

 

キング「重りなんて5kgくらいで十分でしょう。あれ、40kgはあるって聞いたわよ」

 

キントレ「ぶっぶー!50kgに上がりましたァ!」

 

キング「どっちでもいいわよっ!時間は決まってるの?」

 

キントレ「1〜2分だったかな」

 

キング「海底で消費の激しい運動なんて1分すら持たないわよ!?」

 

キントレ「・・・・・最初は10分って言ってたのをアグネスタキオンが止めたらしい」

 

キング「・・・・1分で良かったわ…」

 

 

〈その頃海の中では…〉 

 

 

ウララ「ムグッ!ムムムッ!!」(だめ!もうだめ!死んじゃうっ)

 

悟空「ンーン。(せめて後10秒だ。頑張れ)

 

 

〈言葉が発せない以上、手振りでなんとかコミュニケーションをとるが、その行動ですらやるので一苦労だ〉

 

 

ウララ「ムームー!!ッッ!!?ゴバァ!!!」

 

悟空「!!!」"シュン"

 

 

      ・

 

      ・

 

      ・

 

 

キング「…上がってこないわね」

 

キントレ「・・・・・どうしよう」

 

キング「あなたがそれ言うの!?」

 

キントレ「だって…」

 

キング「だってじゃない!!」

 

 

  "シュン!" ゴホゴホッ!!!

 

 

!!!?!?

 

 

〈情けない声を出すキントレにツッコミを入れるキングだが、風切り音と、苦しそうに咳をするのが背後から聞こえ、勢い良く振り返った〉

 

 

キング「ウララさん!?大丈夫なの?」

 

ウララ「き、きんぐちゃ!ゴホゴホッ!あ"ァ"ァ"!…今すぐエルちゃんに会いたい」

 

キントレ「ホッ。成果はどうでした?」

 

悟空「中々良いぞ。ウララもよく頑張ったな!お疲れさん。疲れた体で、これだけやりゃあ上出来だ!今日はこれで終わりしよう」

 

ウララ「ん"ん"ッッ!!はぁ。今日もありがとね。悟空さん!ただもう少し優しくしてくれると嬉しいな…」

 

悟空「ははっ!おめぇの力が上がると優しく感じるさ!」

 

キング「それ結局何も変わってないじゃない…」

 

キントレ「まぁまぁ。でも、みんなお疲れ様!今日は僕達も終わろう。クールダウンした後はホテルに帰るから各自忘れ物には注意してね!」

 

   ハーイ!

 

 

〈悟空達もクールダウンを兼ねて、徒歩で元いた場所に帰る途中にポツポツと話し始めた〉

 

 

ウララ「はぁー!!すっごく疲れた!!!眠たくなってきたよぉ」

 

悟空「本当によく頑張ったからな!だけど風呂は入んねぇとな。オラも体がベッタベッタしてんぞ」

 

ウララ「だよね〜。ウララも!・・・そういえば最後のはタキオンさんに聞いたんだっけ?」

 

悟空「おう!ウララの事は2回くらい見てもらったろ?そんで今回海行くっつったら、"あれ"をやれって言われたんだ」

 

ウララ「そうなんだぁ。

それにしても悟空さんってさぁ、タキオンさんと話す時、凄い楽しそうだよね!なんか、こう、わちゃわちゃしてる子供みたい!!」

 

悟空「そっか?子供は言い過ぎだろぉ〜」

 

ウララ「あははっ!言い過ぎじゃないもーん!!」

 

悟空「今回のだって真剣に話し合ったんだからな!」

 

ウララ「あっ、そういう時ってどんな風に話すの?トレーナーさんとの会話も知らないから、気になるなぁ!」

 

悟空「んー、確かあれは…」

 

 

      ・

 

     ・ ・

 

    ・ ・ ・

 

 

ー タキオン部屋 ー

 

タキオン「海かぁ。現状、ウララ君の力は足りてるから、体力重視で良いと思うよ」

 

悟空「体力か。適当な島まで泳げば良いんかな?」

 

タキオン「キミじゃ無いんだ。遠泳を熟知していない者に何十kmも泳げないだろう」

 

悟空「んじゃ、ただ走るだけか?」

 

タキオン「いや、ただ走るだけではつまらん。どうせなら海の中を走ろう」

 

悟空「へ?…意味あんのか?」

 

タキオン「もちろんだとも!ただでさえ呼吸の出来ない水の中に加え、下に行く程身体に圧力が加わる。水の抵抗を手で掻き分け、重りを背負った事により、工夫をせんと足も動かんだろう。

それにより、全身の筋肉運動と心肺機能が大幅にUPすると見た!」

 

悟空「・・・・悪ぃ。なんだって?」

 

タキオン「…水の中あるけば体力が上がる」

 

悟空「なるほどな!最初からそう言えよー!ブルマもそうだったけど、難しく言い過ぎなんだよなぁ!

 

タキオン「ック!ブルマさんと科学者としてではなく、この男について語り合いたい……しかし、これをやるには注意が必要だ」

 

悟空「おう。なんだ?」

 

タキオン「まずはウララ君の真後ろにつく事。何か異常があった場合すぐに対処するんだ」

 

悟空「おう」

 

タキオン「次に深すぎる所ではやってはいけない。体にかかる圧力で肺を傷つける可能性も有る。そして戻りの際に瞬間移動をすると気圧の差で内臓がやられてしまう。

あくまで君の身長くらいまでだ!これは絶対に気をつけるんだよ?」

 

悟空「オラの背くらいだな!分かったぞ」

 

タキオン「詰めすぎても意味ないだろうから、このくらいで・・・・・何分くらいやるか分かるか?」

 

 

〈一応…本当になんとなく、気になった事を伺ってみる〉

 

 

悟空「あぁ。20分…じゃさすがに無理だろうから10分から様子見るつもりだ」

 

タキオン「だろうと思ったわ!本当に期待を裏切るな!キミは!!物事を孫くんの世界で考えるなと言っただろう!」

 

悟空「なんだよ。んじゃ何分くれぇだ?」

 

タキオン「1分から様子見だ。最初なんて30秒でも良い」

 

悟空「何言ってんだおめぇ!?そんなん意味ねぇだろ!!」

 

タキオン「あるわっ!!確かに人間よりは優れているが、サイヤ人と一緒にするな!!それに、彼女なら後半になるにつれ時間も伸びるだろう。どれだけ伸ばすかはそれこそ孫くん次第だ。愛バに寄り添いたまえ」

 

悟空「…分かったよ。教えてくれてサンキューな!」

 

タキオン「ああ。お土産は甘い物で頼むよ」

 

悟空「任せとけ!」

 

     ・

 

    ・ ・

 

   ・ ・ ・

 

悟空「ってな感じだったぞ」

 

ウララ「…そっかっ!!!」(ウララもお菓子あげよう)

 

 

 

〈初日で身体に覚えさせるために予定の修行を詰め込んだ。残りの日はこれらを続け、粘り強い身体に作り上げるつもりだ。

ウララは自分の中で、やりやすい行動を探り、2日目から3日目。3日目から最終日と止まる事なく成長して、最後には3〜4分と息を止めて動ける様になった〉

 

 

ガボォ!!ぶはぁっ…ゴハッ!ご、ごくっさん…ゲホゲホッ!!ウララもう駄目かも・・・

 

 

 ……ウララ。     悟空さん…。

 

 

 

 

ーーーもう一回だ!

 

    悟空さんのオニィィっっ!!!!

 

 

 

 

 

次回予告:(セイウンスカイ)

 

 

こんにちは〜。セイウンスカイでーす。

いやぁ・・・・・・お疲れ様、ウララ。『ありがと!』

 

…うん、ごめん。今回の事で言葉が出てこないや!早速次回予告しまーす!!!『…逃げたわね』

 

夏といえば海!夏といえばお祭り!!お祭り行きたいヒト〜『はーい!』

 

え"っ!スペちゃんかぁ・・・・スペちゃんか。『え、なんなの?』

 

…食べ過ぎには注意してね。もうフォロー出来ないからね?宝塚の時のグラスちゃん思い出してよ?『へへん!もう大丈夫だよ!大船どころか、タイタニックに乗った気でいてよ!!』

 

・・・スペちゃんタイタニック見た事ある?『えへへー。実は無いです!』

 

うん。知ってる。『ほぇ、なんで?』

 

それじゃあ次回!

 

さよならスペちゃん!また会う日まで!!!

 

 

 『なしてッッ!?』

 



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眠れる本能

・遅くなりすぎてしまいました。

・今回はスペシャルウィーク編です。アニメのスペは、どうにも嫌な感じがしたので少し変えました。

・眠れる本能って歌良いですよね。勝手に宣伝しますが、YouTubeにウマ娘madであるので是非見てください。

・LANEとはLINEの事です  

・捏造あり






 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

ウララは見た、頑張るチームの事を

 

ウララは見た、限界の先を

 

ウララは確かに見た、

 

  

   ーーーー三途の川を

 

 

ーーーーーーー

 

 

〈合宿が終わり、夏休みに入ったトレセン学園でも登校しているウマ娘はいる。ゆえに、〉

 

 

悟空「警備の仕事はあるんだな」

 

 

〈空が青く澄み渡る中、警備員の制服を身に纏って、雲を目指す様にただ歩いている。それに今は1人ではない〉

 

 

たづな「当然です。ウマ娘いる所に警備員ありですから。巡回とて意味があるので、しっかりとウマ娘の事を見てあげてくださいね」

  

悟空「分かってるって。たづなは心配症だなぁ。…ん?おーい!そこのおめぇ!靴紐ほどけてんぞー!転ぶ前に気ぃつけろよー!!」

 

 ハーイ! ケイビサン、アリガトー!!

 

 

悟空「おー!」

 

たづな「・・・随分と馴染みましたね」

 

悟空「そりゃあオラもこの世界に来て……ウララと出会ってから、もう数ヶ月だ」

 

 

〈懐かしさを感じてに目を瞑りながらこれまでの事を思い出す。

運命的な出会いと言っても良いだろう。

先が見えなくなったウララと先を見るために未来を捨てた悟空。複雑な環境が迫る中、2人の心にあったのは"負けたくない"。"闘いたい"と歪ながらに存在する欲だった。

今となれば引き寄せられたのは偶然か必然かが分からない。

だが思い出す過去はこの世界だけではなかった〉

 

 

悟空(・・・・・あいつら元気かな…)

 

 

〈仕方ないと割り切っていても心にいるのは家族たち。もはや観る事も聴く事も出来なくなってしまったが、幸せだけは願っている。

悟空は平然としていたが、万能な彼女は実に目敏かった〉

 

 

 

 "お前は悟空さんについててやればいい。何もしなくても、ただ隣にな"

 

 

たづな「・・・・・・悟空さん、休憩は何時頃ですか?」

 

悟空「んぉ?んー、そろそろ時間だ。何かすんのか?」

 

たづな「いえ、こうも暑いとやる気も起きないので、かき氷でも食べませんか?」

 

悟空「かき氷かぁ。そうだな!食堂でいいか?」

 

たづな「どうせなら少し遊びましょう。かき氷機があったと思うので自分達で作るんです!」

 

悟空「良いんかよ。オラは結構そういうの好きだけど、」

 

たづな「良いんです。それでは早速、」

 

悟空「おう!この世界にも南極みてぇのがあんだろ?オラがひとっ飛び、「しなくていいです!!」……そ、そうか?」

 

たづな「はい。氷は…食堂から貰いましょう」

 

悟空「それは食堂から貰うんか………」

 

 

〈何歳になろうともかき氷を作るのは興奮するらしい。大の大人がキャッキャと騒いでいると、前方からフラフラと歩いてくるウマ娘がいた〉

 

 

「うぅ〜みんな酷いよぉ」

 

 

〈涙がこぼれそうなほど悲しい顔をしているウマ娘。声をかけない訳にはいかなかった〉

 

 

悟空「スペ?何かあったんか?」

 

たづな「良ければ話聞きますよ?」

 

スペ「ふぇ?……あ、ぁぁ…っ。悟空さ"ぁん"。た"づなさ"ぁぁん"!!!」

 

 

〈腰がくの字に折れて両手をブランブランを落ち着きなく放り投げていたスペシャルウィークは悟空達を視野に入れると、ダムが決壊した様に涙が溢れ出てきて、子が親に縋り付く様に2人まとめて抱き着いた〉

 

 

スペ「うわぁぁぁん!聞いてくださいよぉぉぉ!みんながすんごく意地悪するんだよぉ!!!」

 

たづな「あらあら、そんなに泣いていては可愛い顔が台無しですよ。聞きますから泣き止んでください」

 

悟空「そうだぞ。聞く…話は聞くから!顔こっちに向けるなスペぇっ!!鼻水垂れてっからついちまう!」

 

 

〈そんな声が勝手に耳に入る。スペはガバッと顔を上げて顔を赤くした。ダービーで勝っても実態は女の子。目をウルウルとさせながらスペは…〉

 

 

悟空「あ'あ"っ!おまえ今擦り付けたろ!!」

 

スペ「あぅ………ヘブシッ!!」

 

 

     ・

 

     ・

 

     ・

 

ーーーーガリガリガリガリガリ

 

 

〈とある一室に氷を削る音が響く。先ほどまで酷く乱れていたスペは一変して、削れた氷が積み重なっていくのをジーッと見つめながら尻尾をフリフリと揺らしている〉

 

 

悟空「ついさっきまで泣きじゃくってたのに、もう機嫌良くなってらぁ。まぁその方が良いけどよ」

 

スペ「えへへー。ごめんね、悟空さん」

 

 

〈ほのぼのした会話をBGM代わりにして、たづなは黙々とかき氷を盛り付ける〉

 

 

たづな「さぁ出来ましたよ!シロップは適当にかけてください」

 

スペ「わーい!待ってましたー!いっただっきまーす!」

 

悟空「サンキュー、たづな!」

 

たづな「いえいえ。どうぞお召し上がりください。………んーっ冷たいですね!」

 

 

〈シャクシャクと音を立てて、熱のこもった体を内側から冷やす。たづなは、悟空とスペシャルウィークを相手に一杯だけで終わるわけがないと考えて山盛りの氷を用意していた。

案の定、次から次に頑張り続けるかき氷機。長い間眠っていた力を解放すると、悟空とスペを満足させるまでに至った〉

 

 

たづな「食べ過ぎてお腹壊さないでくださいね……それに、食べながらで申し訳ないのですが、スペシャルウィークさんは何があったのですか?」

 

悟空「あっ、そうだそうだ!みんなが酷ぇとか言ってたけど、どうしたんだ?」

 

 

〈ずっと気になっていた事を、頃合いを見て問いかける。スペはシャクシャクとかき氷を混ぜていた手を止めて、2人を見るが、耳も尻尾も垂れ下がった状態だ〉

 

 

スペ「……思い出すだけでも悲しくて、辛くて、そして怒りすらも感じました」

 

 

〈目線を下に向けながら拳を力強く握る〉

 

 

悟空「…おめぇがそこまで言うとはな」

 

たづな「みんなと言っていましたが、よく一緒にいるグラスワンダーさん達…ですか?」

 

スペ「・・・・・」コクン

 

悟空「喧嘩したんか?おめぇ達すげー仲良かったじゃねぇか」

 

 

〈"その通りだ"。たづなも同じ事を感じていた。校舎内にいては度々見かける。笑い合う所や張り合う所。願わくば大人になっても仲良くしていてほしい。

そんな事を思っていたのだから、喧嘩をしたと聞いて、たづなにとっても悲しさが溢れて来た〉

 

 

たづな「まずは何があったのか教えていただけませんか?何をするかは、それから一緒に考えましょう!」

 

 

〈その言葉にスペが顔を上げると、聖母に似た慈愛ある笑みを浮かべていた。心が暖かくなっていくのを感じ、ポツポツと話し始めた〉

 

 

スペ「ありがとうございます!……実は今日みんなに、

 

 

 ーーお祭りに行こうってLANEしたんです」

 

 

 

たづな(あ、シリアスにはならないですね)

 

 

〈どう考えても、祭りに行く話し合いから、絆を揺るがす事はないだろうと思い、張り詰めていた心を落ち着かせ黙って聞いた〉

 

 

悟空「へぇ、今日祭りやってんのか!そいつは楽しそうだなぁ。でもよぉ、何で誘っただけなのに喧嘩になったんだ?」

 

スペ「みんな用事やトレーニングで手が空いてなかったんです。ですが、私だって仕方ない事くらい分かっていました。しょうがないなぁって。………それなのに、、、っ」

 

 

〈一度言葉を区切り、思いのまま感情を爆発させた〉

 

 

スペ「ただ断るだけじゃなくて、やれ太るとか!やれ太っちゃうよとか!!やれ太ってるとかぁぁぁ!!!酷いよ!失礼にも程があるよ!!私そんなに太ってないもん!!

セイちゃん達のばか〜!!うわぁぁぁん!」

 

 

〈怒涛の叫びに対して悟空達は安易に言葉をかける事が出来なかった。不満は溜め込むより発散させた方が良い。そう考えていると、スペが顔を伏せたまま携帯を見せつけてきた〉

 

 

たづな「…これは?」

 

スペ「グスッ…ヘゥ…グラスちゃんの返信です」

 

 

〈たづなが手に取ると悟空も横から覗き込む〉

 

 

『お祭り、、ですか。申し訳ありません。今日は遅くまでトレーニングの予定ですので行けそうにありません。

それにしても流石スペちゃんです。この夏で他のウマ娘も格段にレベルUPするというのにお祭りとは……。

あぁ、嫌な言い方をしてしまいましたね。すみません、お祭りと言えば夏イベントの目玉ですもんね。

射的に金魚すくい、輪投げやくじ引きもありますかね?他にも大層な催しであふれているでしょうから、是非楽しんできてください。

しかし、よく考えてみればハードな精神鍛錬ですね。ダイエット中に自ら欲の塊に飛び込むとは見直しました。

 

それと、話は変わりますが宝塚記念では私が勝ちましたけど、不完全燃焼でした。"あの程度"のスペシャルウィークに勝ったところで私を中を満たす事は出来ません。

…………あれだけ言ったのに、、、

私はこれまでも、これからも、あなたを考えてました。あなたは私の事を考えてくれていましたか?

 

………突然この様な事を書いてすみません。スペちゃんには私の思いを知って欲しかったんです。

お祭りに行く前に嫌な気分にさせてしまったのなら申し訳ありません。良ければお祭りの土産話を聞かせてください。

 

ーーーー次会った時を楽しみにしております』

 

 

 

 

 

           『ハイ』

 

 

 

たづな「・・・・・・・・・・・・ヒェ」

 

悟空「うひゃあぁぁ…すっげぇなぁ…………ほんと…すげぇ」

  

スペ「………」

 

 

〈空いた口が塞がらない。たづなの心境はまさにそれだ〉

 

 

たづな(なにか、、、何か言わないとっっ)

 

  

    ーーー!!!!

 

 

たづな「この宝塚記念って夏休み前のですよね!」

 

スペ「ぁっ…………………そうです」

 

たづな(失敗しましたぁぁぁぁ!!)「いやーあれは良い勝負でしたよね!グラスワンダーさんとの一騎打ち!見ているだけで私も燃えてきました!カッコよかったですよ!!」

 

スペ「…そ、そうですか?えへへ……嬉しいですけど、ちょっと照れますね///」

 

たづな(ほっ…)

 

 

〈自分の失言を強引に捻じ曲げる事に成功した。スペは暗い表情から少しずつ明るさを取り戻して、はにかんだ笑みを見せるが、この男が同じ空間にいるだけで様々な風を呼び起こすのを忘れていた〉

 

 

悟空「宝塚記念か、オラも見たぞ!」

 

スペ「ほんとっ!?見てくれたんだ!私達の走りはどうでしたか?」

 

悟空「おめぇもグラスも良くやったと思うぞ!・・・だけど、おめぇ…

 

ーーーあんとき食い過ぎてただろ〜!」

 

 

スペ「・・・・・・・・・・・・」

 

たづな「ちょっ!」

 

悟空「オラの目は誤魔化されねぇぞ?動きが普段より重そうだったし、何より腹が出てたからなぁ!」

 

たづな「だっ、ごくu」

 

悟空「でも実際凄いと思うぞ。あん時のグラスは全て完璧だった。"負けた"とはいっても、あんな"太った身体"で良く頑張ったな!」

 

たづな「わざとですかっ!!!」

 

悟空「え、、、、」

 

 

"う"わ"あぁぁぁぁぁぁぁぁん"!!!!!!"

 

 

〈死体蹴り。生涯戦ってきた相手にも必要以上に痛めつけなかった悟空だったが、本領発揮するみたいに禁句ワードを連発。

その事に耐え切れるはずもなく、スペは四つん這いに崩れ落ちてしまった〉

 

 

悟空「す、スペぇ?今度はどうした!?何があったんだ!!?」

 

たづな(あなたが泣かせたんですよ…)

 

スペ「そ"んなのっ!私が一番分かってるも"ん"!!

す"ずか"さんだってフォローしてた"けど笑ってたもんッッ!

ぞれでも!ーーっ。そ"れでも"一生懸命走ったんだからそこまで言わなくてもいいじゃないですかぁぁぁぁ!!!」

 

 

〈嗚咽混じりに最近で溜まった鬱憤を吐き出す。煽った自覚ゼロの悟空はオロオロするが、たづなは我関せずと見守るだけだった〉

 

 

悟空「そ、そうだよな!!一生懸命だったもんな!グラスにはオラからも言ってやるから…」

 

スペ「わ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ん"っっ」

 

悟空「なんでまた泣くんだ!?」

 

たづな(今はグラスワンダーさんではなく、あなたが原因ですからねぇ………はぁ)

 

 

〈泣き止まないスペに悟空は今度こそ手の出し所が分からなくなってしまった。

何かないのか。そう思って辺りを見渡すと、たづなが、こめかみをトントンとしながら口の前で手をグー、パーしていた〉

 

 

悟空(?????。…何やってんだアイツ。何したら良いのか教えてくれようとしてんのか?)

 

 

〈戦闘が絡まないとお世辞にも勘が良いとは言えない。悟空が頭にハテナマークが大量発生するにつれ、たづなの方は手振りが大きくなっている。

そして偶然にも"それ"は伝わった〉

 

 

悟空【何やってんだ。オラ全く分かんねぇぞ】

 

 

〈そう、テレパシーだ〉

 

 

たづな【結果オーライなので気にしないでください。…それより悟空さんはこの後用事はありますか?】

 

悟空【もうすぐ休憩が終わるから17時まで仕事だ。それからは修行に行くつもりだぞ】

 

たづな【そうですか。では修行は諦めて、スペシャルウィークさんを祭りに連れて行ってください】

 

悟空【祭りぃ!?…いや、オラは修行を…】

 

たづな【え?】

 

悟空【え?】

 

たづな【あなた、あのかわいi…そうな顔を見て何も思わないのですか?】

 

悟空【ん?今、かわいいって…】

 

たづな【思わないのですか!!!!】

 

悟空【・・・まぁ…そりゃあ】

 

たづな【そうでしょう!それに頑張った子に褒美をあげるのが大人の役目です!】

 

悟空【でもよ、スペを祭りに連れて行っても良いんか?太るとマズいんだろ?】

 

たづな【……そこは、ほら、、ウマ娘なので走れば…】

 

悟空【・・・・・】

 

たづな【・・・今はそんな正論は要りません!とりあえずお願いします!】

 

悟空【たづな!?ちょっと強引すぎねぇか?】

 

たづな【…たづなはもうきこえません】

 

悟空【………】チラッ

 

 

スペ「エグエグッ…グスンッ……ぁぁぁぁ」

 

悟空「・・・・・ふぅ。

 

 

  

  ーーースペ!オラと祭りに行くぞー!!」

 

 

   ・

 

   ・

 

   ・

 

 

 

「ほら嬢ちゃん!落とさないようにな!!」

 

 

スペ「はい!おじさん、ありがとうございます!!」

 

悟空「買えたみてぇだな。ちょっと移動すっか!」

 

スペ「うん!」

 

 

〈結局根負けした悟空は、たづなから詳細を聞いてトレセン学園から少し離れているが、とても大きな祭りに来ていた〉

 

 

  ボリボリボリ

悟空「うめぇか?」

 

スペ「ふぁい!ふぉふぇほ…ムグッ!!!〜〜〜っ!ゴクン。とても美味しいです!おいし過ぎて何個でも食べれちゃいますよ〜!」

 

悟空「ははは!喉に詰まらせねぇようにな。それにキュウリなら好きなだけ食っても問題ねぇだろ」

 

スペ「んー、でもいっぱい食べたらカッパみたいに見えませんか?」

 

悟空「かっぱぁ!?そんなん見える訳……あ、、、くくくっ!」

 

 

〈突然止まったかと思えば、いきなりくぐもった笑い方をするので、スペは怪訝な顔をしながら訳を尋ねた〉

 

 

スペ「ふぇ?どうしたんですか?そんなカッパに見えますか?」

 

悟空「いや、そうじゃねぇさ。合宿中の事だったんだけどよー」

 

スペ「ふんふん」

 

悟空「ウララが海で亀の甲羅背負いながら走ってたらカメ娘って呼ばれてたんだぞ」

 

スペ「カメ娘…っっぷ、あははははは!カメ娘って!!!ウララちゃんそんな風に呼ばれたの!?ふふっ。今度私も呼んでみよっかな〜!

あっ、悟空さん!射的ですよ!やりに行きましょう!」

 

 

〈スペは甲羅を背負い砂浜を走るウララを想像してしまい、笑いながらも手に持っているキュウリを落とさないように頑張っていた。

笑い過ぎて視点が定まらない中で、ふと、娯楽が目に入り、悟空の手を引っ張って人混みの中へ消えていった〉

 

 

ーーーーーー

 

ー 射的 ー

 

 

スペ「んーーーー、、、そりゃ!!」

 

   "ぽこん"

 

スペ「ぃやったー!!!悟空さんは当たるかな?」フフン!

 

悟空「見てろよぉ。……ん、、、ふぇ、、、ぇ、、ふぇっくしっ!!!」

 

   "バギィンッ"

 

店主「ぇ…あ、、、なん、、」

 

悟空「へへっ。やっちまt」

 

スペ「おじさん!!鉄砲が壊れかけてたみたいですっ!!!」

 

店主「あ、あぁ。壊れかけてたなら、しょうがない…な。うん」

 

 

ーーーーーーー

 

 

ー 型抜き ー

 

 

スペ「む…むむむっ……あーもうだめだ!全然出来ないよぉ!!悟空さんはどんな感じですか?」

 

悟空「ーーーーっ。ちょっ………と、待てよ。…ここまで細けぇのはオラも…………やべっ!!」

 

   "ーーーパァァンッ"

 

店主「はじけた!?なんで!!?」

 

悟空「あちゃあー、やっぱ難しi」

 

スペ「お姉さん!!え、っと、、、弾け飛んじゃいました!」

 

店主「…………なんで?」

 

スペ「…………分かりません」

 

 

ーーーーーーー

 

 

ダーツ

 

 

"ーーーーーシュコン"

 

 

店主・スペ「「貫通したああああああ!!!!!!!」」

 

悟空「おっかしーなぁ?加減したつもりなんだけど…」

 

 

    ・

 

    ・

 

    ・

 

 

〈体は元気なのに心が疲れたと、スペは肩を落としながら歩いている。

そんなスペを元気つけようと悟空は喜びそうなもの見つけて教えた〉

 

 

悟空「なあスペ!あれ見てみろよ!面白そうじゃねぇか?」

 

スペ「んぁ?………なんですか、あれ」

 

 

〈悟空の指を差す方を見ると、少し大きめの広場に人だかりが出来ていた〉

 

 

   "どすん…"

 

「これは少し弱めかっ!97点!!」 

 

 

   "ダンっ!"

 

「おおっと!本日の最高記録出ました!!128点!!」

 

 

 おぉー!

 

       100超えは凄いな!

 

 

   これは越えられないだろ!!

 

 

 

「さぁ!次の挑戦者はいないのか!10分以内に超える者がいなければ優勝!そして金一封が手に入ります!!さらに200点を超えれば豪華賞品も付いてきますよぉっ!!!

ーーーん?そこのウマ娘ちゃんと筋肉ムキムキのお兄さん!!挑戦どうだい!?」

 

 

〈立ち止まって見ていると急に声をかけられて思わず尻尾がピンっと立ち上がった。

スペはやった事はないが、見た事がある。テレビやゲームセンターにあったはず。

そして、それはこの男の本領を発揮する器械ではなかったか?そう思って横目でチラリと見るが、自分の想像とは違い、嬉しそうな顔はしてなかった〉

 

 

スペ「?」

 

男「さぁ君たち、こんな所にいないでこっちに来なよ!」グイッ

 

スペ「うぇぇ!?」

 

 

 

  ウマ娘はちょっと卑怯じゃないか?

 

 

    まぁ別にいいじゃん!

 

 

  むっ、スペシャルウィークか…それに…

 

 

 頑張って!ウマ娘!!

 

 

 

〈手を引かれて群衆の中を突き進むと、大きな器械の目の前まで辿り着いた〉

 

 

男「次の挑戦者は何とウマ娘!!脚力の強さは誰もが知っているが腕力の方はどうなのか!!!

 

パンチングマシーン!やっていただきたいとーー」

 

スペ「ちょっ!待ってください!!私ではなく、、その、、この人にやってもらいます!」

 

悟空「・・・・・へ、、おら?」

 

 

〈盛り上がりが最高潮に高まる中で、スペは恥ずかしさを感じて悟空に丸投げをした〉

 

 

男「お兄さんの方かい!構わん構わん!!それじゃあこの、はちきれんばかりの筋肉は使える筋肉なのか!!やってもらいましょう!!!」

 

 

"うおおおおおおお!!!!"

 

   

   筋肉やばくない?

 

 

 それにカッコいいよね!

 

 

     頑張れよ兄ちゃん!!

 

 

 

〈やはり比べる対象は人間の方がいいのか、スペの時よりも歓声が湧き上がった。悟空の幼さが残る顔とは別に人間離れしている盛り上がった筋肉に目を奪われる者が複数いる。

だが、誰一人も知っている者はいない。人間離れしているのは筋肉だけではないという事を〉

 

 

悟空「スペ、オラ出来ねぇよ…」ヒソヒソ

 

スペ「ほえ?何でですか?悟空さんの得意分野だと思いますが」ヒソヒソ

 

悟空「だからだ。いくら手加減しても、こんなの吹き飛んじまう。今日のオラの失態見ただろ?普通の奴並みまで力抑えんのはまだ慣れてねぇんだ」ヒソ

 

スペ「そうですか……ではこの場を借りて手加減を完璧にしましょう!」ヒソ

 

悟空「何言ってんだ!?そんな今すぐ出来るような事じゃねぇんだぞ?」ヒソ

 

スペ「大丈夫です!今まで出来なかったからといって、今が出来ないとはかぎりません!私…応援してますから!」ヒソ

 

悟空「スペ…そうだよな!いっちょやっか!」

 

スペ「うん!!手加減頑張ってください!!」

 

 

〈新たなる挑戦として血潮が燃えるのを感じながら、パンチングマシンの前で構えをとった。自分への声援や熱気そして実況。近くで応援してくれている友達の声。

様々な声が入り乱れて、思い出すのはかつての自分を高めてくれた場所、天下一武道会。

勝負に勝つ為ではなく自分の力に勝つ為に。悟空は呼吸を整えて真っ直ぐ睨みつける。〉

 

 

悟空(さっきの奴、128点とか言ってたな。注目されんのはやべぇから、いって150くれぇにしとかねぇと………へへっ。懐かしい感覚だ…やってやんぜ!)スゥ……ハァ…

 

男「では!お願いします!!」

 

 

 

 

 ーーーーゴッシャアアアアアッッッ!!!!!!!!!

 

        パラパラパラ………

 

 

 

〈殴った瞬間に悟空がスペを連れて高速移動するまでに1秒もかからなかった〉

 

 

     ・

 

     ・

 

     ・

 

 

スペ「………ごめんね、悟空さん」

 

悟空「………謝んのはオラの方だ。すまねぇな」

 

 

〈お祭りの音が微かに聞こえる距離にある神社にスペを小脇に抱えて降り立った。この程度では息が乱れる事はないはずなのに、少し呼吸が荒くなっている〉

 

 

悟空「・・・バレたと思うか?」

 

スペ「んー、どうだろ。私はお面を半分だけど付けてるし、悟空さんは公式には載ってないから大丈夫だと思いますよ?………多分」

 

悟空「そっか……オラも真剣に手加減の練習しなきゃならねぇな」

 

 

〈手加減の練習の成果は、後の天下一武道会にて発揮される事になるが、それは別の話〉

 

 

    ・

 

    ・

 

    ・

 

 

スペ「ーーーそれでですね!スズカさんってば考え事してると、ずーっとクルクル回っているんですよ!あんなに綺麗なヒトなのに可愛い一面もあるって、さすがスズカさんですよね!」

 

 

〈興奮して鼻息を荒くしながら言うのは憧れのウマ娘の事。悟空はこの数分間で頭にこびりついたスズカというウマ娘がスペにとって大事なヒトだと理解した〉

 

 

悟空「凄ぇのは分かったって…おめぇスズカっちゅうー奴の事しか言ってねぇぞ?」

 

スペ「え、そうでした?あ、、はは。悟空さんにも話したくて、つい。今度紹介しますね!」

 

悟空「おお、楽しみにしてるからな!…それにしても、そいつは走る事しか考えてねぇみてぇだな」

 

スペ「そうなんですよ!他の事に興味がないってよりは走る事が優先みたいな感じなので、オーバートレーニングになる!ってトレーナーさんも頭を抱えるほどなんですよ」

 

悟空「走る事を優先して怒られんのか…………ははっ」

 

 

〈形は違うが親近感が湧く、何故だか寂しげな声が漏れ出した〉

 

 

スペ「どうかしましたか?」

 

悟空「いんや……それにしても楽しそうに話すよな。スズカの事好きか?」

 

スペ「もちろん好きですよ!私の憧れなんです!!…それなのに宝塚記念では………っ」

 

悟空「あー、、、すげぇ怒ってたもんなぁ、グラs」

 

スペ「スズカさんに幻滅されちゃったかなぁ」

 

 

〈悟空の脳裏には、あの狂気じみた文章を思い出したのだが、スペからはスズカの名前しか出なかった。

まるでスズカのためだけに走ったと言わんばかりだ〉

 

 

悟空「………スズカか?」

 

スペ「はい…スズカさんは宝塚記念で勝った事があるので、私もその宝塚記念で勝ちたかったんです…」

 

悟空「そうか。…そういやスペは前に1番速いウマ娘になるって言ってたよな」

 

スペ「あはは!ちょっと違いますよ。私は日本一のウマ娘になりたいんです!1番速いって言ったら今では皆スズカさんって言いますよ!」

 

悟空(こいつは…)「そうだったか?でもよぉ、それなら尚更の事宝塚記念ではグラスに集中するべきだったんじゃねぇか?

戦う相手はしっかり見て決めねぇとな!!」

 

スペ「…でも、トレーナーさんがグラスちゃんばっかりに目をとられるなって、それにスズカさんも…」

 

悟空「スペシャルウィーク」

 

スペ「え……」

 

 

〈ここまできたら悟空とて分かった。スペには実力ほど心が安定していない事に。

悟空は残りがわずかになったリンゴ飴を全部口に入れて、ゴリ、バリ、と噛み砕きながら神社の真ん中の位置まで歩いていった〉

 

 

悟空(こんくれぇならオラにも出来っかな)

 

スペ「ど、うしたの?・・・悟空さん?」

 

 

〈スペの疑問には口を開く事なく、一瞬だけ視線を交わらせる。

  ーーーーーそして〉

 

 

 

   "ーーーーーハァッ!!!"

 

 

〈ズドンっと花火にも似た音を鳴らせて悟空を中心に小さな竜巻が出来た。スペは悟空の強さを知っているが突然の事に驚きを隠せないでいた〉

 

 

スペ「ごっ!ごくうさん?いきなり何をっ!?」

 

悟空「スペぇっ!!オラは戦う事が大好きだ!誰にも負けねぇために修行だけをしてたら怒られた事だってある!

だけど、やめる事はできねぇ。オラの心が戦えっていうからな」

 

スペ「………心が…」

 

悟空「そんで多分だけど、スズカはオラのこの感覚に似てると思う」

 

スペ「!!…確かにそうですね…私も、」

 

悟空「けど、オラが思うに、スペはそうじゃねぇ。おめぇは特定の相手を決めて戦う執着タイプだと思う」

 

スペ「あ、、、でも、、」

 

 

〈自分の心は自分がよく知ってるとスペは思うが、強く主張する事が出来ずにいた。そして悟空は畳み掛ける様に言葉を投げた〉

 

 

悟空「なぁ、スペ。宝塚記念の最後の直線の後半、何を考えていたんだ?」

 

スペ「へ?直線の後半?」

 

悟空「そうだ。ほんの短い時間だったけど、おめぇの圧力が倍近く膨れ上がったのをオラは感じたぞ?何を考えてたか思い出してみろよ」

 

スペ「…あのときはーーーーー

 

 

 

 

 

 

さぁ!宝塚記念の最終直線!!

ここで先頭に出たのはダービーウマ娘スペシャルウィークです!!

 

 

(見てますかスズカさん!もう少しで私も!)

 

【私は勝ってスズカさんと同じ景色を見たかった。喜んでくれると思ったんだ……でも】

 

 

 

残り200m!このまま行けるかスペシャルウィーク!

っしかし!外からやって来たぞ!!栗毛の怪物グラスワンダー!

怪我から復帰して2戦目!不死鳥の如く蘇るのか!!

 

 

 

(グラスちゃん!・・でもスズカさんだって、ここから更にスパートを!!!)

 

【走り方は違うけどスズカさんの走りは頭の中にずっとあった。そろそろスズカさんの顔が見える、なのに、視界の端に映るのは青色と白色の綺麗な勝負服】

 

 

 

並んだ!並んだ!やっぱりグラスワンダーは怖いっ!!残り100mにして先頭が入れ替わった!

 

 

(嘘っスズカさんの目の前で負けちゃう!!)

 

【ゴールが目前に迫った時でも確かにそう思ってた。

 

     ーーーはずだった】

 

 

 

グラスワンダー先頭ッ!ゴールまであと少し!!

だが、このままでは負けないっ!スペシャルウィーク怒涛の末脚を発揮しているぞ!!追いつけるのか!

 

 

 

(グラス、ちゃ、ん。ーーーっ!負ける!?グラスちゃんに負ける!!そんなの嫌だっ。嫌だ!嫌だ!!)

 

【…あー、そっか。・・・なんで忘れてたんだろ】

 

 

 

もう一度並びかけるスペシャルウィーク!逃げ切れるのかグラスワンダー!!

 

戦い続ける最強の2人!一体どちらが勝つのか!!

 

 

 

(ぐらすちゃん…グラス、ちゃん!ーーーっっ)

 

  「グラスワンダーあああああああ!!!!!」

 

【私が感じたのは、スズカさんの前で未熟な走りをした悔しさや情けなさじゃない。この時は私の前を走るグラスちゃんに心の底から怒りが湧いてきたんだ】

 

 

 

ゴールイン!!!

怪物の復活!グラスワンダー!!

ダービーウマ娘のスペシャルウィークを討ち取った!!

 

 

(負けた…………私はっっ、この子に負けたんだっ!!!何が悪かったの!?適正体重じゃなかったからっ!そうだよ!じゃなかったら私は負けて………)

 

【認められなくて言い訳してたんだよね。だけど、どれだけ考えても結局はグラスちゃんが強かったから負けたって結論になって、、、それで考えるのをやめちゃったんだ】

 

 

    ・

 

    ・

 

    ・

 

 

悟空(上手い事いったみてぇだな)

 

 

〈俯いたまま動かなくなったスペだが、心配はしていない。なぜなら"気"が高くなっていくのを感じたからだ。

それから程なくしてスペが思いっきり顔を上げた〉

 

 

スペ「悟空さん!!」

 

悟空「おう」

 

スペ「私、日本一のウマ娘になる道がハッキリと見えました!」

 

悟空「そっか。どんなのだ?」

 

スペ「ずっと考えてはいたんです。日本一のウマ娘とはどうなったらなれるのか。負け無しのレースをしたら良いのか、誰もが認めるレースで勝ったら良いのか、でもそうじゃなかったんです」

 

 

〈悟空は口を挟まず、スペの言葉を聞き続けた〉

 

 

スペ「私が日本一のウマ娘になるには場所や戦績だけじゃなかった!ライバル達…セイちゃんやキングちゃん、エルちゃんにグラスちゃんとウララちゃん。そしてスズカさん。

 

私の夢はみんなを倒した先にあります!!」

 

 

〈拳を強く握り夢を語る。ただそれだけの事なのだが迫力が普通とは違った。それに闘気に加えて殺気に似た何かを感じるが、悟空はそれを無視してスペの頭をグシグシと雑に撫でた〉

 

 

悟空「ははっ!良い夢だ!それを叶えるにはまずは強くなんねぇとな!!」ナデナデ

 

スペ「わ、わわっ!…エヘヘ。はい!!」

 

 

〈満面の笑みを浮かべて返事をしたが、ほんわかした空気を裂く様にお腹の音が鳴り響いた〉

 

 

 

悟空「へへっ、腹減っちまったけど食う事は出来ねぇし、帰るか」

 

スペ「いえ、食べます!!」

 

悟空「へ?食ったらマズイんじゃねぇのか?」

 

スペ「マズイです!でも食べて、それ以上にいっぱい練習して力に変えるので大丈夫です!!片っ端から制覇しましょう!私達なら出来ます!!」

 

悟空「お、おう。……ま、いっか」

 

 

 「やっと見つけた。ここにいたのか」

 

 

〈いざ食べ歩き全食制覇の幕開けというところで、悟空達に話しかける者がいた〉

 

 

悟空「あれ、おめぇは…」

 

「さっきパンチングマシンしたのは悟空だろう?相変わらず凄いな。一緒に混ぜてもらおうと思ったら消えて驚いたぞ」

 

スペ「あ、はは…見られちゃってたんですね。ま、まぁそれは置いておいて、私達これから順番に食べていくんですけど、まだお腹入りますか?

 

  ーーーオグリさん」

 

 

〈芦毛の長い髪を振り翳したウマ娘はオグリキャップ。ここに伝説級の大食い生物が邂逅した瞬間だった〉

 

 

オグリ「もちろんだ。悟空も食べれるか?」

 

悟空「おう!スペに合わせてたからオラも全然食ってねぇからな!んじゃ早速行こうぜ!腹減った〜」

 

 

「「「ぐうううううきゅるるる!!!」」」

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

「「「ーーーーーージュルリ」」」

 

 

〈横並びで歩く姿はとても祭りに行くとは思えないほどの威圧感。場違いな獣の目。彼らを止めれるものはココには存在しない。

語る事の出来ない地獄が始まる瞬間だった〉

 

 

 

とりあえず1人5個で15個貰うか

 

 

 他にもあるから3個ずつで様子見ないか?

 

 

どうせなら別れて買って合流するのはどうですか?

 

 

 

〈和気藹々と相談する彼らを見る店主の顔は酷く青ざめていた〉

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

    ・

   

    ・

 

    ・

 

 

スペ「グラスちゃん」

 

グラス「……スペちゃん」

 

スペ「私はみんなを倒して日本一のウマ娘になるよ」

 

グラス「………そうですか。でも私は、」

 

スペ「だけど!!……それとは別で、グラスちゃんだけには死んでも負けないから」

 

グラス「!!!。ふふっ、やっと私を見てくれたのですね。………何度でも返り討ちにしますよ」

 

スペ「望むところだよ!!」

 

 

ーーーーーーー

 

 

悟空「つーわけで、スペの方はこんな感じだったぞ」

 

たづな「そうでしたか。ウマ娘と貴方とでは心理的思考が似てると思っていましたから、任せて良かったです。ありがとうございました」

 

悟空「おう!あん時のおめぇは少し強引だったけどな!」

 

たづな「!!…っもう!…うふふ」

 

 

ーーーーーーー

 

 

グラス「ですが、スペちゃん。1つ伺いたいのですが」

 

スペ「うん?どうしたの?」

 

ーーーーーーー

 

 

たづな「そういえば、面白い情報が入ったんですよ」

 

悟空「へぇ、なんだ?」

 

 

ーーーーーーー

 

 

グラス「宝塚記念以上に膨れているお腹で私の前に現れたのは喧嘩売ってる。と、受け取ってもいいのですか?」

 

スペ「あっ!!!いや、これは、、強くなるために肉を付けようと思って…」

 

グラス「充分なのでは?

 

ーーーーーーー

 

 

たづな「お祭りに現れた未来人!パンチングマシンを大破させ一瞬で姿を消した男!!凄いですよね!面白くないですか?」

 

悟空「い"い"っ!!!あ、、あはは、、中々…面白いんじゃねぇかなぁ…」

 

たづな「すみません、嘘つきました。全く面白くありません」

 

 

ーーーーーーー

 

 

「「覚悟はいいですか?」」

 

「「ごめんなさい」」

 

「「許しません」」

 

 

''ぎゃあああああああああ!!!!!!"

 

 

 

 

 

 

 

次回予告:(孫悟空)

 

 

オッス!オラ悟空!!

 

スペの奴、良い顔してたな。アイツはとんでもなく強くなるはずだ。

ウララももっと鍛えねぇとな『…もっと?』

 

強くなっていく奴を見んのは好きだ。

ーーーだけど、アイツはレース場じゃねぇ所で闘ってる。

どうにも放って置けねぇ、悟飯みてぇな奴だ。

オラの世界じゃ言えなかった、それどころか残酷な事をさせちまった。

 

オラのワガママだ、言わせてくれ。

おめぇをそんな風にさせたのはオラ達大人のせいだ。悪いな。

嫌々やってる訳じゃねぇのは分かっている。だけどオラがいる間は楽にしろよ。

 

つーわけで!祭りがまたあるみてぇだから一緒に行こうぜ!!

 

 

 

      ーーーーわたしは…



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皇帝



・・・難産でした。

ただ、かけた時間と反比例して出来に関しては正直微妙です。
悟空とルドルフを深い位置に関わらせたくて捏造ばかり詰め込みました。
細かい設定などは重視せず、こんな話があったな程度に思っていてください



注意
・ルドルフの四字熟語はあまり出ません(難しかったです)

・URA設定は適当です

・ルドルフの歳は22にしました。マルゼンスキーが20歳超えてるらしいので…
学園の卒業の歳など細かい所は無しにしてください

・文の途中で平仮名だと分かりにくいので'たづな'みたいに記号つけてます。
ややこしかったら外します。





 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

スペシャルウィークが進化した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

ー 生徒会室 ー

 

 

 

エアグルーヴ「…会長、私はそろそろ練習に行きますが、今日も遅くまでやられるつもりですか?」

 

 

〈夏休みの終わりにつれ、新学期へ向けて生徒会の業務も増えていく。そんな中でトレーニングをする事も減り、以前より格段と仕事量の増えたシンボリルドルフに不安混じりの声がかかった〉

 

 

ルドルフ「いや、今日はそれほど遅くまでならないよ」

 

グルーヴ「そんな事言って、この前は門限を過ぎてもいたと聞きましたが?」

 

ルドルフ「そ、そんな事もあったか?だが問題はない。今日は区切りの良い所で終わる予定だからな」

 

グルーヴ「そうですか…練習の方は参加出来そうですか?」

 

ルドルフ「・・・練習か…」

 

グルーヴ「?? …会長?」

 

ルドルフ「っ!あぁ、練習はおそらく間に合わないだろうから自主練にするさ。エアグルーヴは気にせず練習に行ってくれ」

 

 

〈ルドルフは憂いを帯びた表情をしたかと思えば、一変してまたも書類を手に取り端的に話した。

 

生徒の見本になるため、文武両道や健康第一は基本とするルドルフのバランスが崩れている事にエアグルーヴは気づいていた。しかし、仕事面に関しての提案や進言をした所で、のらりくらりと躱すのみ。

追求しても精神を追い詰めるだけだと思い、エアグルーヴはそれ以上何も言えなかった〉

 

 

グルーヴ「分かりました。ではお先に失礼します。……会長も、どうかご自愛ください」

 

 

    "バタッ"

 

 

〈ドアが閉まった音を聞いてから、ゆっくりと顔を上げた〉

 

 

ルドルフ「………すまない」

 

 

    ・

 

    ・

 

    ・

 

 

 

〈黙々と作業を続ける事2時間。夏の午後5時は明るいままだ。

ルドルフは血流が滞って重くなった首をコキコキとならせてペンを持った時、ドアの向こうから慌ただしい音が耳に入る〉

 

 

ーートト…ドドド…ドドドドッッ!!!

 

 

ルドルフ(?…なんだ?)

 

 

〈段々とこの部屋に近づく音が気になり、ドアを開けて確認しようと腰を上げた時に向こう側から強く開かれた〉

 

 

   "バンッッ!!!

 

 

悟空「ここまで来りゃあ大丈夫か!?……っっ!大丈夫じゃねぇ。こっちに向かって来てやがるっ」

 

ルドルフ「……ごくうさん?何をしているのですか?」

 

悟空「ルドルフ頼む!オラがここにいる事は絶対ぇに言わねぇでくれ!絶対だぞ!」フワァ…

 

 

〈悟空は両手を合わせ頭を下げながら必死に頼み込んだ。コツコツという足音が耳に入ってくると、悟空は浮かび上がって天井に張り付いた〉

 

 

ルドルフ(話には聞いていたが、本当に飛ぶ事が出来るとは…しかし、一体誰から…)

 

 

  コツコツコツコツ……"コンコン"

 

 

ルドルフ「…どうぞ」

 

 

     「失礼します」

 

 

〈歩き方からノック、そして話し方からも礼儀正しいという言葉が当てはまるヒト〉

 

 

ルドルフ「たづなさん…」

 

たづな「ルドルフさん。こんな時間まで…日々の生徒会業務ご苦労様です」

 

ルドルフ「ありがとうございます」

 

  「「・・・・・」」

 

 

〈挨拶を交わしたと思えば、その場で立ち止まり辺りをキョロキョロと見渡している。ルドルフの脳裏には悟空がチラつくが少しでも反応してしまうとすぐにバレるだろう。

ルドルフは自分の中だけで深呼吸をして言った〉

 

 

ルドルフ「あの…たづなさん、何か用事なのでは?」

 

たづな「・・・ええ。そうですね。ルドルフさん。

 

 ーーー悟空さんはここにいますか?」

 

 

  "ゾクッッッ"

 

 

ルドルフ(彼女からこの様な声を聞くとは…何をしたんだ)「いえ、来ていませんが…」

 

たづな「……そうですか」

 

ルドルフ「何かあったのですか?」

 

たづな「大した事ではないのですけどね。

私が大事にとっておいた物を勝手に食べられたので罰を与えようと思いまして…

とりあえず注射をしてから全身をくすぐった後、目にコーラを流し込もうと考えていたんですよ」

 

ルドルフ「…なるほどっ?…それは中々…涙が沢山出そうですね!?」

 

 

〈食べ物の恨みは恐ろしい。

そんな言葉を実現するかの如く酷い事を嬉々として話す'たづな'にルドルフは静かにパニックを起こしていた〉

 

 

たづな「ですが、ここではないとしたら瞬間移動されたみたいですね。

・・・ふふっ…楽しみはとっておく事にします」

 

ルドルフ「はぁ…」

 

 

〈気の抜けた返事しか出来ないルドルフに10秒程じーっと見てから「では」と言って'たづな'は出て行った。そこから数分後、安全だと思ったのか悟空が天井から降り立つ。

だがその顔は青白く、引き攣った笑みを浮かべていた〉

 

 

悟空「…なぁルドルフ」

 

ルドルフ「なんですか?」

 

悟空「あいつ、笑ってたよな」

 

ルドルフ「そうですね」

 

悟空「でも、気味が悪かったな」

 

ルドルフ「……そう、ですね」

 

悟空「オラ…どうしたら良いんだろうな…」

 

ルドルフ「………とりあえず謝る所から始めましょう」

 

悟空「そうだな………けど今は…この部屋にいさせてくれ…」

 

 

〈憔悴している悟空に自業自得だ!なんて事は言えずに無言で頷くルドルフだった〉

 

 

 

 

ー side ルドルフ ー

 

 

悟空さんが居座ってから早十分。私は作業に戻るから悟空さんは楽にしてくれと言ったのはいいが、それから会話がない。

エルコンドルパサーやグラスワンダーは和気藹々と悟空さんとのエピソードを話してくるが、私自身はそんなに話した事がない。

2人っきりなんてトレーニング用のタイヤを取りに行った時くらいか。

その気になれば業務に没頭するのは簡単だ。

だが大人1人放っておくのはどうだろう。

なんにせよ、ただただ気まずい…

 

 

悟空「なぁ、ルドルフ」

 

 

悟空さんがソファに体を預けながら話しかけて来た。やはり、あちらも気まずいと感じたのだろうか。…いや、聞いた話からすると、そういう人ではないと思うが。

 

 

ルドルフ「なんですか?」

 

悟空「おめぇ、歳いくつだ?」

 

ルドルフ「今は22歳です」

 

悟空「そっか」

 

 

意図は分からないが、話をしようとしてくれるのであれば乗らない手は無い。 

私は不安な気持ちが吹き飛び、仕事をしながら会話を楽しむ事にした。

 

 

ルドルフ「その頃悟空さんは何をしていましたか?」

 

悟空「オラか?オラは…」

 

 

横目でチラッと見ると、目線を斜め上に向けて考えている。…ふふっ、変に落ち着くな。

皆が言う大自然の様な空間とはこういう事なのだな。

待ち時間で発生した沈黙ですら苦ではない。

私は穏やかな気持ちで次の書類に手を伸ばし、直筆のサインが必要な項目に記入をした。

 

 

悟空「そん時には悟飯…子供が産まれてたな」

 

 

ふふっ。そうか、それはめでたi…………

 

 

ルドルフ「……こども?」

 

悟空「あぁ、オラの息子だ」

 

 

……………

 

…………………

 

………………………ほう?

 

 

…なるほど。

とんでもない事を突拍子もなくぶち込んでくる。

私ですら言葉に詰まってしまった。手元を見ると書類が破れている。

 

 

ルドルフ「悟空さん結婚していたのですか?他の者からその様な話は伺ってませんでしたが…」

 

悟空「ん?…あ、確かに言ってなかったなぁ。まぁ大した事でもねぇし別にいいだろ」

 

 

悟空さんは何気なくといった感じで言っているが、彼女達が知れば絶叫ものだろう。

私は恋愛について経験がないが興味はある。先程から作業が進んでない事だし、一層の事開き直る事にした。

 

 

悟空「お?急に立ってどっか行くんか?」

 

ルドルフ「いえ、少し休憩にしようと思いまして、お茶を淹れます。茶菓子も沢山あるので是非食べてください」

 

悟空「そうか?へへっ!悪ぃなぁ」

 

 

ニシシッ!と年不相応な…いや、顔相応と言った方が良いか、そんな子供みたいな笑顔に私もつられて笑みを浮かべた。

 

    ・

 

    ・

 

    ・

 

 

目の前の机にはお茶とお菓子。反対側の椅子には悟空さん。呼吸を整えて準備完了!

 

 

ルドルフ「それで奥様とはどんな出会い方をしたのですか!?」フンスッ

 

悟空「うおっ!!おちつけよルドルフ。ちゃんと話してやっから」

 

 

…うむ、私とした事が、つい前のめりになってしまった。

 

 

ルドルフ「し、失礼しました」///

 

悟空「おう。んで、出会いだったな。オラとチチが会ったのは、オラがまだ小せぇ時。12くれぇだったかな」

 

ルドルフ「ふんふん」

 

 

チチ…奥様の名前だろうな。12歳からとは…とても長い付き合いなのだな

 

 

悟空「だけど、会ったのはそれっきりで、次会ったのは19くれぇだな。それで結婚した」

 

 

・・・・なるほど。全く理解出来ん。

 

 

ルドルフ「悟空さん、端折り過ぎではないですか?」

 

悟空「そうか?んー、でも何て言や良いのか分かんねぇな」

 

 

説明下手みたいだ。質問形式の方がやりやすいだろう。

 

 

ルドルフ「では、その19歳の時に会って、何故結婚する事になったのです?」

 

悟空「確か…最初会った時に将来嫁に貰ってくれって、チチに言われたからだぞ」

 

ルドルフ「12歳で嫁にもらってくれ、ですか…」

 

 

なんとも…マセていたのだな。でも7年間も好意を寄せているとは一途にも程がある。

世の中にはこの様な恋愛があると思い、感動すら覚えた。

 

 

悟空「ははっ!でもオラは嫁に貰うの意味が分からなかったし、久々に会ったから名前聞くまで忘れてたかんな!」

 

 

先程までのワクワクした気持ちが霧散したぞ。女性の敵だったのか。だが、悟空さんの表情からは後悔してる風には見えない。

 

 

ルドルフ「それは…凄く怒っていたのでしょうね」

 

悟空「そりゃあもう!怒りを拳に乗っけてたな。だけどオラはあの戦いがすげぇ楽しかったんだ!」

 

 

当時の事を思い出しているのか目元が緩くなっている。

それに、拳や戦いと聞けば導きださせるのは1つしかないな。

 

 

ルドルフ「奥様…チチさんと戦ったのですか!?」

 

悟空「おう!天下一武道会つってな。世界から腕の立つ奴らが集まって1番強い奴を決める大会があったんだ。

そこの本戦で何年かぶりに会って戦って、その場で…えっと、なんつったっけ……あ、"ぷろぽーず"したんだ」

 

ルドルフ「なんとっ!?お互いのホームグラウンドとも呼べる闘技場で婚約をするとは…とても素敵な展開だな!それでその後はどうなったんだ!?」

 

悟空「お、おう。その後は色々ゴタついちまったけど、一緒に冒険して、結婚式挙げて…夫婦になった」

 

 

はにかんだ笑みから漂う幸福感!私の内側から溢れ出る気持ちを何と呼んだら良いのだ!?叫びたいのに言葉が出てこないっ。

クッ!私もまだまだ未熟というわけか…

…………まてよ、最近流行ってる言葉があると言っていたな…あれは確か…

 

 

ルドルフ「・・・・・・・・・尊い」

 

悟空「え?」

 

 

いかん、つい勝手に口から出てしまった。

しかし、実際の意味とは異なっているだろうに何故かしっくりとくるな。・・・ふふふ

 

 

ルドルフ「フゥ。その後はどうなったのですか?」

 

悟空「えーと、結婚式挙げた次の年だから、、、20歳の時に悟飯が生まれたな!」

 

ルドルフ「悟飯…息子さんですね」

 

悟空「そうだ。オラと同じで尻尾が生えたままでよぉ。血ぃ繋がったやつなんて初めて見たから…あん時は嬉しかったな」

 

 

表情だけでなく、声だけを聞いても当時の情景が思い浮かぶ。本当に嬉しかったのだろう。

だが今の話には何故か反応する事が出来ないでいた。

尻尾についても聞きたかったが、血縁者を初めて見たとなると考えられる要因はいくつかある。

しかしそれは今聞くべきではないと私の直感が訴えてきた。

 

 

ルドルフ「失礼ながらあなた方の子供なら、さぞ手を焼きそうですね」フフッ

 

悟空「はははっ!そう思うだろ?オラもそう思ってたんだけど、全くの逆でおとなしい子だったんだ。

チチの言う事をしっかり聞いて、本を読んだりすんのが好きだったみてぇだな」

 

ルドルフ「そうだったのですか。家の中が好きだったのでしょうかね」

 

悟空「いや?そういう訳じゃなかったぞ。昆虫や植物の図鑑持ちながらウロウロしてたし、高い木に登っては降りられなかったり動物追いかけて行ったら迷子になったり、外にいる方が多かったな」

 

 

全然おとなしくないじゃないか…

 

 

ルドルフ「…そこまで遊べば充分だと思いますよ」

 

悟空「ん、そっか」

 

ルドルフ「そういえば、お子さんに武道は教えなかったのですか?よく子供は親のやっている事に興味を惹かれると聞きますが」

 

悟空「ずっと教えようとしてたさ。鍛えて、強くなって、オラとも組手とか出来たらなーっと思ってたんだけど、チチの奴がぜーんっぜん許してくれなかったんだ!勉強ばっかさせてよぉ!そんで悟飯の奴も偉い学者になるんだーって張り切っちまって」

 

ルドルフ「ははは!どこの家庭も父は肩身が狭いみたいですね」

 

悟空「全くだ!」

 

 

悟空さんは降参したように手をブラブラと降っている。

許してくれなかったと言ってる割に楽しそうに話していたから悟空さんにとっても特別悲しい事ではなかったのだろう。

しかし、振っていた手が急に止まり「でも」と続けて言葉を区切った。

その瞬間に空気がガラリと変わったのを感じる。

私は息を呑んで次の言葉を待った。

 

 

悟空「オラも含めて周りの奴等が悟飯の道を強引に変えたんだ」

 

 

静かだが強い口調。怒りの感情もあっただろうが、それ以上に哀しみを感じた。

私は何と返せば良いのか分からず黙っていると悟空さんは続けて言った。

 

 

悟空「偶然かなんなのかは知らねぇけど、オラの周りに次々と悪い奴らが寄ってくるんだ。オラは戦うのが好きでワクワクする気持ちもあるけど、もし負けちまえば地球はぶっ壊される」

 

ルドルフ「地球が……」

 

 

スケールが大き過ぎて現実的ではないが、純粋で真っ直ぐな眼を見れば疑う余地はない。

 

 

悟空「ああ。どれだけ一生懸命にやろうが敵は待ってはくれねぇからな。

そんで結局は底知れねぇ潜在能力を持つ悟飯の力を借りなくちゃならねぇようになるんだ。

……戦うのは好きじゃねぇって言ってんのに、」

 

 

"昔は何も考えず戦えて良かった"と付け加えて言う悟空さんは何だかとても小さく見えた。

彼は良くも悪くも戦士なんだ。そして1人の父親でもある…良くも悪くも。

単純に親子のコミュニケーションを組手でと考えていた世界から変わり過ぎている。

同情すら感じる思いに、私は「しょうがない」や「それしか道がなかった」など、慰め程度の言葉をかけようと思った時に、悟空さんの一言で考えが変わった。

 

 

悟空「最後には悟飯の心を傷つけちまった。父親として失格だ。

 

 

 

  ーーオラの事、恨んでんだろうな」

 

 

 

ルドルフ「それは違うぞ!」

 

 

その言葉に私は、生徒会室全体に響く様な大きい声を出した

 

 

悟空「おっっ。る、るどるふ?どうした?」

 

ルドルフ「あなたは分かっていない!」

 

 

ふふ。我ながら滑稽だ。少し話を聞いた程度で知ったかぶる私の方が分かっていないだろう。

だが、言わせてもらおう。私の身勝手極まりない言葉を。

この人は今の今まで、心に鎖をつけたままだったのだ。

それでは悟空さんではなく、息子の…悟飯くんがかわいそうだ!

 

 

ルドルフ「失礼承知で言わせてもらうが、悟飯くんは悟空さんを恨んでなんかいないと思う」

 

悟空「…なんでそんな事おめぇに分かるんだ?」

 

ルドルフ「あなたの話を聞いたからです」

 

悟空「オラの?」

 

ルドルフ「はい。昔の話をする貴方は幸せに溢れた表情でした。そんな愛情を受けていたのだから恨むはずがありません。悟飯くんが一回でも戦うのが嫌だと悟空さんに言いましたか?」

 

悟空「…いや、言ってねぇ。だけどそれは押し付けてたから言えなくしちまったんだと「違う」

 

ルドルフ「悟飯くんは嫌な事をする以上に悟空さんの期待に応えたかったからだ。自分の好きな人が頼ってくれるなら力になりたい。

そう思ったから悟飯くんは辛い事とも戦えたんだ」

 

 

勝手気儘だ。未来の自分が見たら羞恥で顔を真っ赤にするだろう。

私が言ったのは都合の良い話。そうであってほしいなど願望にすぎない。

そうとしか言えないはずなのだが不思議と間違いではないと思う。

 

 

 

悟空「……そっか。

ニヒヒ!おめぇがそう言ってくれて良かったぞ!」

 

ルドルフ「いえ………ろくに知りもしない私が言っても説得力は皆無だと思うが」

 

悟空「そんな事ねぇさ。何となくだけど、ルドルフと悟飯はどこか似てるんだよなぁ。」

 

ルドルフ「似てる…か。フフッ…私は他の人と似てると言われた事がないので何やら新鮮な気分だよ」

 

 

やはり人とヒトは対面して話すに限るな。自分にしか見えないものがあれば、その人にしか分からないヒトもいる。

 

 

悟空「そういや、おめぇはもうレースに出ねぇんか?」

 

ルドルフ「私は引退したも同然なので、悟空さんが知るウマ娘のレースには出ないよ。催し物の限られたレースくらいかな」

 

悟空「今年は走んのか?」

 

ルドルフ「予定では年末くらいに」

 

悟空「そんな身体でか?」

 

ルドルフ「え、、、」

 

 

話し始めた時の様な空気だったので油断をしていた。

顔を上げて悟空さんを見ると打って変わって意地の悪そうな顔をしている。

 

 

悟空「最初見た時より、明らかに"気"が減ってる。…いや乱れてんだな。

おめぇはしっかりしてそうな奴だったから自分で何とかすんのかと思ってたら、一向に駄目になっていくしよぉ。

直接聞いても話さねぇと思ってたからキントレの奴に聞いたら、そういう時は自分から打ち明けたら良いって教えてもらったんだ」

 

 

一体どこからが仕組まれた事だったんだ…

エルコンドルパサーとグラスワンダーのふたりには入念な賢さのトレーニングが必要だな。

 

 

悟空「今度はおめぇの番だな。ルドルフ」

 

 

悟空さんは鈍感やデリカシーがないとか言っていたが、本当にただ思った事を言った結果だろう。

 

この人は目的が決まれば過程を考えて実行する事に関しては天才だぞ………。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

ルドルフ「ふむ…専門的な事を言っても分かりづらいだろうから簡単に話をしよう」

 

悟空「ああ。その方がオラも助かる」

 

ルドルフ「まず前提として、私は全てのウマ娘が幸福な世界を目指している」

 

悟空「そいつはすげぇな!…でも全てかぁ」

 

ルドルフ「皆まで言わなくても良い。実力が物を言う世界では、その目的は矛盾が発生する。

それでも私は願わずにはいられない」

 

 

〈悟空は戦いの中でどうやっても守りきれないものがある事を知っていた。だがそれはルドルフも同じ事。全部分かっていながらもそんな目標を掲げているルドルフに悟空は否定するような事を言わなかった〉

 

 

ルドルフ「だがレースを抜きにしても障害はたくさんある。今で言うと、エルコンドルパサーやグラスワンダーはクラシックレースに出走する事が出来ないとかな

その時点でも一生に一度しか走れないレースに出走する事すら出来ないとなると後悔も残るだろう」

 

 

〈クラシックレースと言われてもピンとこないが、黙って続きを待った〉

 

 

ルドルフ「昔に似たような事があった…今度こそはと思ったが、やはり私の力はまだ足らない」

 

悟空「ふーん。'やよい'と'たづな'は手伝ってくれねぇのか?」

 

ルドルフ「…もう恩返しを出来そうにない程手を貸していただいたさ。

今でも私が好きなように動けるのはあの方達のお陰ともいえる」

 

悟空「なるほどな・・・そんで?」

 

ルドルフ「全てはURA……ウマ娘を管理するトップとでも思ってくれ」

 

悟空「」コクン

 

ルドルフ「ウマ娘におけるルールはそのURAで決められるのだが!・・・そこにいる連中は性格が悪い」

 

悟空「お、、おう…」

 

ルドルフ「私はURA本部に出向いた時に確かに聞こえた。下劣な話だったがやつらは現時点で1番金銭が多く発生するウマ娘、ハルウララに目をつけたんだ」

 

悟空「へぇ……へ?・・・ウララが、か?」

 

ルドルフ「そうだ。君はあまり知らないだろうが、彼女が走っていた地方では、とてつもない人気だったんだ。

廃止寸前のとあるレース場を持ち直した事例もある」

 

悟空「でも、あいつ最近になって初めて勝ったんだろ?

…言っちゃあ悪ぃけど、良く人気なんて出たな」

 

ルドルフ「ふふっ。確かにハルウララは勝ったことはなかったが、"負けた事だってなかったよ"」

 

悟空「??。そりゃどういう………なるほどな。おめぇの言う通りだな!」ハハッ

 

ルドルフ「話しを戻すが、その人気者が今度は中央が開催するレースに出走して勝ったときた。

しかも有馬記念で勝つ事を目標にしてる。

ハルウララを動かせば莫大なお金が動く、それを上層部の連中…まぁ一部の者だけなのだが、ウマ娘を商売道具扱いしていると言っても良い。

そんなのがふんぞり返って高みの見物をしているのが気に入らないんだ」

 

 

〈ルドルフの淡々と話す言葉には重みがあった。それは間違いなくルドルフの本心であり、他の誰にも言えるはずのなかった想い。

その様子を直感で感じてはいるが、不服そうな顔をしている悟空がいた〉

 

 

悟空「…おめぇが思ってる事だけは分かったんだけど、結局なんでそんなに身体壊してんだ?

オラはおめぇ程の奴がそんなんになっちまう理由を知りてぇんだけど…」

 

ルドルフ「・・・ふふっ、そうだろうな。

だがヒトの想いには結論だけでなく、そこまでに至った過程もある…それを知っていてほしいんだよ」

 

悟空「…そっか・・・・・ようはウマ娘を軽く見てる奴等が気に入らねぇって事だろ?」

 

ルドルフ「・・・ま、まぁ…間違ってはいない、、かな……兎にも角にもそこで私は考えた。

私がトップに立てばルールは自由自在だと」

 

悟空「うん」

 

ルドルフ「だから、

 

 

ーー焦って片っ端から手を出したらこの様だった」

 

 

 

悟空「うん………………え?」

 

 

〈悟空が驚きの声を上げると空気が凍った様に静かになった。少し間を置くと、何かに耐える様にプルプルと震えているルドルフに声をかける〉

 

 

悟空「…その、トップ…一番になるっちゅうのは急いでやったらなれるんか?」

 

ルドルフ「・・・いや無理だ。段階を踏まないと絶対になれない」

 

悟空「・・・んじゃ何か?おめぇがボロボロになった理由は自己管理が出来てねぇからなったってのか?」

 

ルドルフ「……………………ウン」

 

悟空「何やってんだおめぇ………」

 

ルドルフ「・・・・・・生徒会長だと言うのに不甲斐ないっ!穴があったら入りたいくらいだ…」

 

悟空「・・・・・」

(色んな意味で驚いたな……だけど早く分かって良かった)

 

 

〈悟空は「よしっ」と掛け声とともに勢い良く立ち上がる。その様子に赤くなった顔を手で隠していたルドルフは怪訝そうに尋ねた〉

 

 

ルドルフ「悟空さん?」

 

悟空「ルドルフ。今日の夜は何か予定あるか?」

 

ルドルフ「いや、特に、、、今やっている仕事を終わらせるくらいかな」

 

悟空「つまり無ぇって事だな!んじゃちょっと付き合えよ!祭りに行こうぜ!!」グイッ

 

ルドルフ「わっ!ま、待て!祭りだと!?そんなもの行く時間はない。今日の分の仕事が残ってるんだ」

 

悟空「仕事って今日絶対に終わらせないと駄目なんか?」

 

ルドルフ「そういう訳ではないが……」

 

悟空「なら問題ねぇだろ」

 

ルドルフ「でも……」

 

 

〈決めた分の作業を残したまま出かけることに抵抗があるみたいだ。悟空はほんの少しだけ溜息を吐いて、真面目な顔を見せた〉

 

 

悟空「何も手を抜けって言ってる訳じゃねぇぞ。ただおめぇのそれはやり過ぎだ。

"気"が小さくなるだけなら何とでもなるけど、ルドルフの場合は乱れてるんだ。

このままいくと、そんなに遠くねぇ先で必ずぶっ壊れんぞ」

 

ルドルフ「ーーーっ!」

 

 

悟空「戦い続けたいのなら休め。頑張ってやってきた心身はちょっと休むくれぇで怠けたりしねぇ」

 

ルドルフ「悟空さん………」

 

悟空「イヒヒッ!仕事は全く出来ねぇけど、トレーニングなら付き合ってやっからもう少し力抜けって。

どうせ今の話だって誰にも話せてねぇんだろ?オラがいる間は愚痴くれぇ聞くからよ!」

 

 

〈ルドルフその言葉に目を見開き、驚いた表情を見せた後、恥ずかしいそうに微笑んだ〉

 

 

ルドルフ「ああ…そうしよう」

 

 

     ・

 

     ・

 

     ・

 

 

悟空「んじゃ早速祭りに行こうぜ!」

 

 

〈手を引っ張り、窓から飛び立とうとした時にルドルフが慌てたように呼び止めた〉

 

 

ルドルフ「ま、待ってくれ!」

 

悟空「もー!今度はなんだよー!」

 

ルドルフ「すまないっ。・・・その…生徒の長たる者、トレーニングや業務をほっぽり出して遊びに行くというのは…他のウマ娘に見つかると少し恥ずかしいな…」

 

悟空「恥ずかしい!?…んー、何でか分かんねぇけど、バレなきゃ良いんだよな」

 

ルドルフ「まぁそうだが、あてはあるのか?」

 

悟空「おう!困った時はたづなが何とかしてくれんだろ。さぁオラに捕まれ。瞬間移動すんぞ」

 

ルドルフ「たづなさんか…はて、何か忘れている様な……っ!!待つんだ悟空s"シュン!!"」

 

 

〈中々込み入った話をしていたため、重要な事を忘れていた。

元々悟空が生徒会室に来た理由。その根源に自分からノコノコと姿を見せに行った〉

 

 

 

 

 

 

 

"シュン!!"

 

 

    ーーーっ! バシャ

 

 

〈目の前で何もない空間から突如現れた2人。

それに驚いて飲みかけのジュースを床に撒き散らしている'たづな'に悟空は片手を上げながら言った〉

 

 

悟空「よっ、たづな!早速で悪ぃんだけど、これからルドルフと祭りに行こうとしてんだけどよぉバレたくねぇらしいんだ。

変装でサングラスとか、、ねぇ、、か、な、」

 

たづな「・・・」

 

 

〈白い歯を見せながら近づくが'たづな'の顔のパーツが全く動いてない事に気づく。

そして自分の用件を伝えてるうちにしっかりと思い出した〉

 

 

たづな「・・・・・・・」

 

ルドルフ(ウゥ……沈黙は胃にクるな…)

 

たづな「・・・・・・・・・・どういう訳です?」

 

悟空「あ、、、その、、さっきの事は、、オラが、」

 

たづな「急にお祭りに行く事になった理由を聞いています」

 

悟空「あっ、はい」

 

 

〈余計な事は言うなと全身から訴える'たづな'に悟空は低姿勢を貫くらしい。見兼ねたルドルフが口を挟む〉

 

 

ルドルフ「申し訳ありません。私が、」

 

たづな「いえ、悟空さんから聞くので大丈夫ですよ」

 

ルドルフ「…………はい」

 

悟空(祭り行くまでにオラは生きてるんかな…)

 

 

〈ルドルフの言葉ですら遮って色の無い表情で悟空を見た〉

 

 

たづな「お祭りには強引に誘ったのですか?」

 

悟空「…似た様なもんだ。あまりにも不器用な奴だから……ちょっとくれぇ……って思って…」

 

たづな「そんな勝手な行動をしてルドルフさんに迷惑をかけては駄目でしょう」

 

ルドルフ「ぁ、、、迷惑ではありません」

 

たづな「・・・・」

 

ルドルフ「仕事は締切間近の物は全て終わっています。

なので…私も祭りに興味を惹かれたのですが…あ、たづなさんの手を煩わせようとは思っておらず…」

 

 

〈ルドルフらしからなぬ辿々しい話し方だがその顔は霧が晴れた様にスッキリとしていた。

その様子を見て'たづな'はクスリと笑った〉

 

 

ルドルフ「・・・たづなさん?」

 

悟空(???)

 

たづな「悟空さん、焼きそばやたこ焼きなど、夕飯になりそうな物を頼んでも良いですか?」

 

悟空「へ?あ、あぁ、構わねぇけど…怒ってねぇんか?」

 

たづな「うふふっ。この学園のために全てを尽くしてくれている我らが生徒会長が、ただお祭りに行くくらいで怒ったりしませんよ。

むしろ嬉しいくらいです!」チラッ

 

ルドルフ「!!」

 

悟空「そうなんか!そりゃあ良かった!てっきり怒ってんのかと思ってたな」

 

たづな「悟空さんにはちゃんと怒ってますよ」

 

悟空「え、、、」

 

たづな「だから買ってきてと頼んだのです。いわばパシリというものですよ!」フフン

 

悟空「ぉー、、、おし!たくさん買ってくるからな!」

 

たづな「あなた基準はやめてください。ルドルフさん、買い過ぎない様に見ていてくださいね」

 

ルドルフ「フフフ!…はい」

 

たづな「それで変装でしたね」

 

悟空「おう!サングラスでも、」

 

たづな「そんなの付けても夜の祭りでテンション上がってるルドルフさんなだけです」

 

ルドルフ「そうでしょうね」

 

悟空「んじゃどうすんだ?」

 

たづな「夜ですし目立つ事をしなければカツラで充分でしょう。…どうぞ」スッ

 

 

〈ロッカーをゴソゴソ漁って出来たのは男用の短い髪と女用の長い髪〉

 

 

悟空「オラの分まであんのか。なんでこんなん持ってんだ?」

 

たづな「・・・・いらなかったですか?」ニコニコニコ

 

悟空「ルドルフ!オラ達2人ともつけりゃあ絶対ぇバレねぇぞ!!」

 

ルドルフ「う、うむ」

 

 

〈悟空がルドルフの手を取り、窓に近づいた〉

 

 

たづな「ちょっと待ってください」

 

悟空「あー、やっぱ飛んでいくのはマズかったか?」

 

たづな「いえ、見つからないっていうのが絶対条件ではありますが、それは別にいいです。……ルドルフさん」

 

ルドルフ「?…はい、なんですか?」

 

たづな「明日の事なんですが…その…これから行くお祭りの話なども含めて……///」

 

ルドルフ「・・・?」

 

 

〈いまいち要領得ない話しにルドルフは首を傾げている〉

 

 

たづな「じょ……女子会しませんかっ!?」

 

 

〈可愛らしい小さな爆弾がルドルフの胸を貫いた〉

 

 

ルドルフ「…じょしかい?・・・・・女子会ですかっ!?それは、その、私とたづなさんが…ですか?」

 

たづな「はい・・・いやですか?」

 

ルドルフ「そういうわけでは……何故私なんです?」

 

たづな「ほら、私達って立場が似てなくもないですし……何よりそんな2人が何を話そうと自由じゃないですか」

 

ルドルフ「!!!」

 

 

〈俯いて視線を逸らしながら両手の指をグニグニと合わせている。

たづなの理由には偶然にも先程悟空とした話と酷似している点がある。

その事が分かった瞬間にルドルフは全て悟った〉

 

 

ルドルフ(全部分かっていたのか………敵わないな)

「そうですね。では明日にお互い時間作って女子会をしましょう。茶菓子なども多めに用意しておきます」

 

たづな「ふふっ。私も持っていきますよ。楽しみですね!」

 

ルドルフ「あはっ!そうですね!」

 

悟空「なんだおめぇ達、明日なんか食べるんか!?オラも食いてぇっ!」

 

《悟空さんは女子ではないので駄目です!》

 

 

悟空「ちぇ…」

 

たづな「」チラッ

 

ルドルフ「」チラッ

 

 

っぷ!あはははは!!!

 

 

 

〈トレセン学園のとある一室。その前を通ると部屋の中でとても楽しい事があったのだろうと連想するほど屈託のない笑い声が3つ響き渡っていた。〉

 

 

     ・

 

     ・

 

     ・

 

 

 

ガヤガヤガヤ

     

       ガヤガヤガヤ

 

 

 

〈悟空とスペシャルウィークが先日来た所とは別の少し規模が大きい祭り会場に到着した。祭りの中で存在する独特で賑やかな音を聞きながら悟空達は歩いていた〉

 

 

ルドルフ「結局カツラしかしてないがバレないだろうか」

 

悟空「服だって着替えたのにバレやしねぇだろ」

 

ルドルフ「だと良いが…」

 

悟空「それより何か食おうぜ!オラ腹減っちまったよ」

 

ルドルフ「そうだな。だがその前に言葉遣いを変えよう。君の声を聞けば誰だかすぐに分かってしまう」

 

悟空「そんな事急に言われてもなぁ…敬語は出来ねぇし…」

 

 

〈悟空は出来る限り手伝おうとしているが、そんな器用な事出来るはずもなく唸っていると、ルドルフは買ったばかりのゴ○ゴ13のお面を付けながら提案した〉

 

 

ルドルフ「端的に話すのはどうかな?」

 

悟空「端的?なんだそりゃ」

 

ルドルフ「簡単に言えば一言ずつ話すのさ。少し怖いイメージもあるが君とは結びつかないだろう」

 

悟空「まぁそれなら出来そうだな」

 

ルドルフ「うん。それじゃあ次から頼むよ。よーいスタート」

 

悟空「・・・・」

 

ルドルフ「何か食べたい物はあるかな?」

 

悟空「・・・わたあめ食べる」

 

ルドルフ「ブハッッッ!あ、あー!すまない!

…んふふっ。何だか子供が我儘言ってるみたいになってしまったな。もう大丈夫だ。行こうか」

 

悟空(こいつめ)「・・・りんご飴も食べたい」

 

ルドルフ「ゴポッッ!んふふふふふ!!!わざとだろ!私が悪かったから許してくれ!」

 

悟空「っふ。くふふふ!んじゃ行くぞ」

 

ルドルフ「ああ…………ふふっ」

 

 

〈肩が触れ合う程の位置で歩く2人は周りから見ると、どんな関係に見えるのか。友達か、恋人か、…….それとも親子なのか。

時折悟空の腕を組んで歩くルドルフは心を許している様に見える。

2人でりんご飴を齧っていると横にいる人の声が自然と聞こえてきた〉

 

 

「花火って19時からだったよね。今何時?」

「今は…18時50分だよ」

「えっ、もうそんな時間!?」

「うん。もうそろそろ行こっか」

「そうだね。どうせなら良い所で見たいしね!」グイッ

「わわっ!引っ張んないでよぉ!」

 

 

  タッタッタッタッーーーーー

 

 

「「・・・・・」」

 

 

ルドルフ「今の聞いたか?」

 

悟空「ーーーーーほぇ?」ホイ、ニイチャン。フランクフルトダ

 

ルドルフ「・・・だろうな。この後に花火をするみたいなんだ。行かないか?」

 

悟空「おう、良いぞ。空に行くか?」

 

ルドルフ「・・・いや、皆と同じ位置で見たい」

 

悟空「ははっ……そっか!」

 

     ・

 

     ・

 

     ・

 

 ーーーーーードォンっ!!

 

 

〈真っ暗な空に花が咲く度に心臓が震える。

悟空達は花火を見るための専用スペースに来ていた。〉

 

 

ルドルフ(身体に衝撃が来るほどの位置で花火を見たのはいつだったか…その時はまだ幼かったかな)

 

悟空「なぁ、ルドルフ」

 

ルドルフ「実名はマズイが、なんだい?」

 

悟空「花火……でけぇなぁ」

 

ルドルフ「ん?…ふふ。なんだそれは……だが確かに大きいな」

 

 

〈ルドルフは横目で悟空の顔を見るが、何を考えているのか分からなかった。ただ花火をじっと見ている。

ルドルフもつられる様に空に顔を向けた〉

 

 

ルドルフ(あぁ、ほんとに大きいな…)

 

 

〈所々であった会話もいつしか途切れて2人揃って茫然としていた。

ハッとして我に返ったのは花火終了のアナウンスが流れてからだった〉

 

 

    ・

 

    ・

 

    ・

 

 

 

ルドルフ「ふぅ、何だか変な感じがするな」

 

悟空「んー」

 

ルドルフ「ただ見ていただけなのに心が軽く感じる。満足したかと思えば今度は消失感がする。…矛盾しているな」

 

悟空「…分からなくはねぇな。ま、それで良いんじゃねぇか?無理に答えを出す必要なんてねぇだろ」

 

ルドルフ「ふっ。その通りだ」

 

 

〈人の流れに沿って帰宅をする途中、今度は意識的に悟空の腕を組もうとした時、聞き慣れた声を感じた〉

 

 

「いやー!とても凄かったデス!」

 

「夏の風物詩。お祭りと花火は欠かせません。次は皆さんも一緒に来れたら良いですねぇ」

 

 

 

ルドルフ(……この声は、)

 

 

〈ルドルフは黙ってお面を装着して、悟空の腕を組んで引き寄せた〉

 

 

悟空「!?…なんだ?」

 

ルドルフ『しっ!声を小さくするんだ』コソコソ

 

悟空「・・・?」

 

ルドルフ「私達より左後方、少し離れているが聞き慣れた声がした。探ってくれないか?」

 

 

〈いまいちパッとしない悟空だが、聞き慣れた声というのに想像がついて、口に串を咥えながら上を向いた〉

 

 

悟空『んーーー、、、あちゃあ…グラスとエルだ』コソコソ

 

ルドルフ『やはりか…』コソコソ

 

 

「ん?今名前呼ばれましたか?」

 

「さぁ、私は聞こえマセンでしたヨ」

 

 

「「!!?」」

 

 

悟空『やべぇ、気ぃつけねぇとこの距離でもバレんぞ』

 

ルドルフ『極力話さない様にしよう』

 

 

〈耳元付近で小さく話すが、逆に目を惹く事をこの2人は知らなかった〉

 

 

「わあ!見てくださいグラス!仲の良いカップルがいマース!」

 

「はしたないですよエル……………ん?」

 

 

悟空・ルド「「ん?」」

 

 

「どうかしたのデスか?」

 

「…いえ、何となくですが、、、会ったことある気がして」

 

 

「「ーーッ!?!!?」」

 

 

ルドルフ『おかしいだろ!何故わかる!?』

 

悟空『うげぇ…やっぱ、、、怖ぇな』

 

 

〈2人が焦っているとも知らず話はエスカレートしていく〉

 

 

「一度話しかけてみてはどうデスか?」

 

「…そうですねぇ。私の周りに交際している方はいないと思いますが、、見ず知らずって感じはしないんですよね」

 

 

ルドルフ(クッ!時間の問題か。走って逃げても意味はなさそうだ)

 

悟空『おいルドルフ!オラの背中に穴が開きそうな程見られてんぞ!どうすんだ?』

 

ルドルフ『…………私はルドルフじゃない。ルナだ』

 

悟空『?何言ってんだ』

 

 

〈ルドルフは深呼吸を3回した後、ん"ん"っと喉を鳴らせて息を吸い込み声を変えて喋った〉

 

 

ルドルフ「父さん!最後に私、焼きそば食べたい!」

 

悟空(?……!!なるほどな)「そうか。向かうから手を離すなよ。ルナ」ギュ

 

ルドルフ「うん」ギュ(これでどうだ!?)

 

 

「あー、親子デシタね」

 

「そうみたいですねぇ。話しかけなくて良かったです…」

 

 

〈見事作戦に引っかかってくれたグラス達を置いて、自然な流れで悟空の腕を引き、その場から逃げる様に離れていった〉

 

 

    ・

 

    ・

 

    ・

 

 

はぁはぁはぁ…………

 

ルドルフ「はぁー流石に背筋が"凍ったな"」

 

悟空「そうだな。オラも"ヒヤッ"としたぞ」

 

 

   ーーっ!

 

〈ルドルフはその言葉に思いっきり目を見開いた〉

 

 

ルドルフ「君もイける口なのか!?それもレベルが高いと来たかっ!」

 

悟空「何の事だ?」

 

ルドルフ「ふふっ。私は誤魔化せないよ。私が凍ったと表現したのに対して、ヒヤッとすると掛けたのだろ?ダジャレとは少し違うが中々…ブフッ!面白いじゃないか!」

 

 

〈ルドルフと出会ってから1番の笑顔が繰り出された。しかし、悟空は全くといっていい程理解出来ておらず、一部のワードだけが頭に残った〉

 

 

悟空「何か楽しそうだな……。ダジャレかぁ、、、確か界王様が好きだったな。オラも言ったっけか」

 

 

〈悟空からすると10年近く昔の事だが、そんな事はお構い無しに詰め寄ってくるルドルフの目はキラキラと輝いている〉

 

 

ルドルフ「おー!何か言ったのか?何と言ったんだ!?是非聞かせてくれないか!」

 

悟空「お、おう、すげぇな…えーと、、、

 

 

 ーーーふとんがふっとんだ!!!!

 

・・・だったな。どうだ!面白ぇか?」

 

ルドルフ「いや全くだ」スン

 

 

〈ニヤニヤとしながら見たルドルフの顔は凄く冷めていた〉

 

 

悟空「…………え?」

 

ルドルフ「折角のダジャレを披露してもらって悪いが、それだと別の意味で笑われてしまうぞ」

 

悟空「あ、、いや、オラはあんまり、」

 

ルドルフ「そうだ!今度私の専用ノートを貸してあげよう!為になると思うから是非見てくれ!」

 

悟空「………………………ああ」(こんな顔してる奴に断れる訳ねぇだろ…)

 

 

〈デリカシー0と言われた悟空でさえも、自分の好きな事を楽しげに話すルドルフにいらない、と断るのは無理だった。それが例えどんなに興味が無いとしても…〉

 

 

ルドルフ「ふふっ。これは良いな!明日の女子会なるもので’たづな'さんにも教えてあげよう!きっと喜んでくれるだろうな!なぁ父さんもそう思わないか?」

 

悟空「そうだな。'たづな'なら喜んで…………?………今オラの事父さんって呼んだか?」

 

ルドルフ「ん、………〜〜〜っ!!!」

 

 

〈機嫌良く口ずさむ様にダジャレを言っていると、悟空がボソッと呟いた。ルドルフは何の事か分からなかったが、持ち前の頭脳は優秀すぎて一言一句頭の中で再生してしまった。

一度思い出したならそれしか考えることが出来ず、手で顔を覆いながら項垂れていると頭に大きな手が優しくポンと乗った〉

 

 

ルドルフ「あっすまない!…今のは、、だな、///」

 

悟空「ははっ!

・・・悟飯といいルドルフといい…オラの子にしちゃあ出来過ぎてんなぁ」ナデナデ

 

ルドルフ「ぁ………っ…」

 

悟空「さて、と…今日はもう帰るか。たづなが腹空かして待ってるだろうしな!」

 

ルドルフ「・・・ふふっ。そうだな、帰ろうか」

 

 

〈生暖かい風に身を委ねてポツリと返事をした。

周りの音にかき消されそうな程小さな声だったが決して不満や心残りがあるわけではない。

今日の事で新たな自分を見つけて、今までは誰1人もいなかった特別な存在が2つも出来た事。良い意味で自分はまだ子供だと思い知らされた事。

ルドルフはこの上ない幸せを感じていた〉

 

 

 

    

ーーーーーーー

 

 

ー 後日 ー

 

 

〈ある日の午後。チームリギルに所属する生徒会の一同はトレーニングの休みを見計らって業務に勤しんでいた〉

 

 

ナリタブライアン(ブライアン)「なんで休みの日まで仕事をしなければいけないんだ」

 

エアグルーヴ(グルーヴ)「そんなもの早く終わらせるに限るからだろう。

見ろ、会長だって休まずにしておられる」

 

ルドルフ「・・・・・」

 

ブライアン「フン…私は時間になったら途中でも帰るからな」

 

グルーヴ「ったく!またトレーニングか。そのスパルタ加減を仕事に回してもらいたいものだな」

 

 

〈ブライアンとグルーヴは言い合いながらも手を止めずに作業を進めていた。文句を言っても優秀なのが垣間見える。

そして、これまで黙々とペンだけを動かしていたルドルフが口を開いた〉

 

 

ルドルフ「・・・・・ブライアン」

 

ブライアン「なんだ?」

 

ルドルフ「今日のトレーニング内容なんだが、併走トレーニングなんてどうだ?」

 

グルーヴ「!?」

 

ブライアン「………あんたとか?」

 

ルドルフ「勿論そうだ。私では役者不足かな?」

 

 

〈低姿勢な物言いだが口元は歪めている。驚いているグルーヴを他所に、ブライアンはクックッと喉を鳴らせた〉

 

 

ブライアン「まさか。あんたが相手してくれるんなら私の全力をぶつけても問題ないだろう」

 

ルドルフ「ふふっ。面白くなってきたな。…エアグルーヴも一緒にどうだ?たまには競い合ってみるのも一興だと思うが」

 

グルーヴ「む、、、会長まで……ですが、仕事が、、」

 

ブライアン「フッ。無理に誘う必要もないだろ。その気のない奴が来ても邪魔になるだけだしな」

 

   ブチッ!!!

 

グルーヴ「図に乗るなよブライアン。吠え面をかいても知らんからな」

 

ブライアン「望む所だ。それじゃあ定刻まで後2時間ほどだから続きでもするか」

 

ルドルフ「・・・・いや、」

 

     ーーーーピピピピピ…ピッ

 

 

〈ルドルフは手を伸ばして携帯のアラームを止めると、挑発的な笑みを浮かべて呟いた〉

 

 

ルドルフ「仕事はもう終わりだ。トレーニングに行こうか」

 

グルーヴ「・・・・・・・かいちょう?」

 

ブライアン「あんた………悪い物でも食べたのか?」

 

ルドルフ「私も考えたのさ。急いだ所で出来ない事があるってね。それなら一層の事止めて、有意義な事に使った方が良いだろう」

 

 

〈これまでのワーカーホリックとも言える様なルドルフからはあり得ない事だが、投げ遣りになった訳ではない事は情熱的な視線が物語っていた。

ルドルフが決めた以上は何もいわない。ブライアンとグルーヴは顔を見合わせた後、口元に孤を描いた〉

 

 

グルーヴ「会長がそう言われるのでしたら、是非ご鞭撻のほどをお願いします」

 

ブライアン「あんたは何を思ってるのか知らんが、隙を見せると食い潰すからな」

 

ルドルフ「ふふふっ。それは怖いな。それにエアグルーヴも鞭撻など言わず私を捩じ伏せに来てくれ。

 

 

 

ーー今の私はちょっと強いぞ?」

 







元々は、皇帝の在り方。という題名でしたが一言一句すでにあったものなので変えました。


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お出かけには敵がいっばい?

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

ルドルフ「父さんが出来た」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

〈早朝5時30分。まだ人々が動き出すまでに少し早い時間帯にとある住宅街の一角では楽しそうな話し声が響く〉

 

 

      あははははっ!

 

 

ウララ「それでね!悟空さんってばトレーニング中なのにタコを頭の上に乗っけてきたんだよ!酷くないっ!?」

 

女性A「うふふ。それは中々酷いわねぇ」

 

悟空「ははっ。いやぁあれは少しやり過ぎちまったな!ウララの身体が固くなってきたから柔らかくしてやろうって思ったら、つい」

 

ウララ「何でそこでタコなのさ!」

 

悟空「柔らけぇものくっつければ良いかなって思って」

 

ウララ「そんなわけないじゃん!あの後墨吐かれてウララの髪が黒色になっちゃったんだよ!もぉっ、お姉さんからも怒ってよ!」

 

女性A「そうねぇ……ね、その時の写真あるかしら?」

 

ウララ「えっ」

 

悟空「おう!他の奴が撮ってたから今度見せてやるよ」

 

女性A「ふふふ。楽しみにしてるわね」

 

ウララ「もー!そーじゃないでしょ!!!」

 

 

〈地団駄を踏んでいる様を微笑みながら見ている女性。配達先で知り合い、ウララのレースまで見に来てから、より一層仲良くなった人。

ウララの配達速度が速くなった事により会わなくなった時もあったが、悟空達に合わせてたまに早く出てきてくれるようになった〉

 

 

女性A「それにしても会う度にあなたの成長を感じるわね。見た目に反して大きく見える時があるわ」

 

ウララ「ほんとっ?」

 

悟空「ま、この夏で実際強くなったと思うぞ?修行の成果だな!」

 

ウララ「・・・・イヒッ。悟空さんはともかくお姉さんがそう言ってくれて嬉しいな!」エヘヘ

 

悟空「お?なんだよ、オラのは嬉しくねぇってのか。…そんな意地悪すんなら……くすぐっちまうぞー!」

 

 

〈手をワキワキさせて近づく悟空にウララは少し後退するが気がつくと背後から手が伸びてきていた〉

 

 

   こーちょこちょこちょ

 

 

ウララ「あははははははっ!こっ、こんな所でヒヒッ!そんなスピード出さないでよーー!!!」

 

悟空「そらそら!こんなスピードも見切れねぇのか!」ウリウリ

 

ウララ「無茶言わないでぇ!!」ウヒヒヒヒヒ

 

女性A「仲が良いわねぇ………ふふっ」

 

 

〈くすぐりが終わったのは約3分後。ウララの体力が尽きて地面に崩れ落ちると悟空は額の汗を拭う仕草をした〉

 

 

悟空「ふぅ………んじゃそろそろ帰っか」

 

ウララ「…コヒュー………コヒュー……」

 

女性A「ウララちゃん大丈夫なの?」

 

悟空「ああ。ウララは鍛えてっから大ぇ丈夫だ」

 

ウララ「………悟空さん、知ってた?」

 

 

〈ゴロンと仰向けになりウララが呟く〉

 

 

悟空「何をだ?」

 

ウララ「いくら身体鍛えても、くすぐりに強くなることはないんだよ?」

 

悟空「何言ってんだよ………そりゃそうだろ」

 

ウララ「……ウララ…悟空さんに対して初めて怒るかも」

 

悟空「おめぇは結構怒ってんぞ?」

 

 

〈ウララはムクリと立ち上がり腕いっぱい手を伸ばしながら言った〉

 

 

ウララ「もう、こんなに、こーんなに凄く怒っちゃうって事!!」

 

悟空「そんなにか!?そいつは勘弁してもらいてぇな。…へへっ、帰りにアイスでもやるから、それで許してくんねぇか?」

 

ウララ「あいすっ!ハッ………い、いいよ!ウララ大人だから許してあげる!」

 

悟空「おう、せんきゅー!」

 

 

〈ウララの機嫌を良くし、準備運動がてら身体を伸ばしながら女性の方へ向いた〉

 

 

ウララ「それじゃあそろそろ行くね!」

 

女性A「ええ…さっき倒れてたのに、もう立てるのね」

 

ウララ「えへ!ウララってば頑張ってるからね!」

 

女性A「頑張ってるのは靴を見れば分かるわよ。転ばないように気をつけてね」

 

ウララ「うん!」

 

悟空(靴か…そういやオラも服や靴なんてすぐボロボロになってたなぁ)チラッ

 

 

〈悟空は自分と比較しながら靴に目を向ける。

するとそこには頑張った証どころではなく、今にも泣き出しそうな程可哀想な靴があった〉

 

 

悟空「…え……おめぇ靴ボロボロじゃねぇか!」

 

 

〈考えてた以上の劣化状態に思わず声を張り上げる〉

 

 

ウララ「ふぇ?…チラッ。わっ!…ほんとだ…」

 

女性A「気づいてなかったのね…」

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

悟空「つーわけだ」

 

キントレ「なるほど、ウマ娘の靴がないとは一大事ですね。そういう訳だから、ね!キング」

 

キング「悪いわね。どういう訳かさっぱりよ」

 

 

〈午後のトレーニング前に悟空はキングのトレーナーであるキントレに今朝の事を報告した〉

 

 

キントレ「ほら、キングも知ってるだろうけど、トレーナーのいるウマ娘の靴は業者じゃなくて、個人で用意するものでしょ」

 

キング「そうね。そこは分かるわ」

 

キントレ「だから悟空さんとキングで買ってきてほしいんだけど」

 

キング「そこが分からないのよ!話が飛んだわよね!?悟空さんに感化されて雑になってるわよ!」

 

悟空(最近オラに容赦ねぇ奴が多くねぇか?)

 

キントレ「あはは!そうかもね!」

 

悟空(納得しちまうのか…)

 

 

〈悟空の内心事情を知らないキントレは最初から話をした〉

 

 

キントレ「本来なら悟空さんとウララに買ってきてほしいんだけど、今日は補修だから学園に缶詰状態なんだよ」

 

キング「補修って……大丈夫の言葉を鵜呑みにするんじゃなかった…」

 

キントレ「悟空さんにはウマ娘の事を小さい事からでも知ってほしいし、それですぐにでも行かないといけないから、今日オフでもあるキングに付き添い兼買い方を教えてほしいんだよ」

 

キング「なるほどね…だけど、1つ問題があるの分かってる?」

 

キントレ「2つくらい分かってるよ」

 

キング「なら話は早いわね。私は協力者を呼ぶから、トレーナーは悟空さんの服をお願いね」

 

キントレ「分かった」

 

 

〈キングは言い終わると駆け足でどこかへ行った。それを見ながら悟空は疑問を投げかける〉

 

 

悟空「ん?オラの服?どういう事だ」

 

キントレ「今日は街中に行くので悟空さんの服が必要なんですよ。僕のおさがりになってしまいますがシャツとズボンを貸します」

 

悟空「いや、そうじゃなくてよぉ。オラ服着てんじゃねぇか」

 

 

〈服を見せつけるように手を広げる。それで輝きを増す山吹色〉

 

 

キントレ「僕達は慣れてしまっていますが、そんな明るい色した道着なんて着ていれば注目の的です」

 

悟空「そうか?……あ、んじゃ警備員の、」

 

キントレ「論外ですね」

 

悟空「……そっか」

 

キントレ「はい」

 

悟空「…‥服をたのむ」

 

キントレ「はい!」

 

 

〈自慢の一張羅がダメとなり項垂れたまま寮に向かうキントレの後ろをついて行く。

そして同時刻。別の場所ではキングが脳内で文句を垂れながらある所に向かっていた〉

 

 

キング(大体急なのよ。悟空さんと2人で買い物なんて、ただじゃ済まないわよ。

あの人といて何となく分かるもの。絶対何か起きるわ。私1人で対処できるなんて思わない。

協力者が必要よね?)

 

 

 

〈口元は歪め、目は猛禽類のようになりながら指定の場所付近に到着した〉

 

 

キング(あの人のトレーナーの話じゃあ、今日の日差しなんかを考慮するとこの辺りなのよね)

 

 

〈キングが忍び足で小さなものでも見逃さない様に歩くと、木の影から足が伸びているのを見つける〉

 

 

キング(ニヤリ……スゥ…)「確保おおおおおっ!!」

 

 「わわっ!なになになに!?!!?」

 

 

〈バレないように回り込んで寝転ぶヒトの腹の上に飛び乗った。

対象のウマ娘は突然の事に驚いて手足をバタバタと振り回していると自然と目が合い、力を抜いた〉

 

 

「……なにしてんの?」

 

キング「おはようスカイさん」

 

スカイ「うん、おはよう。でもセイちゃんこれから寝る所なんだよね。おやすみ」

 

キング「あなたを買い物に連行するわ」

 

スカイ「話聞いてよ。それに急だね。何か買いたい物でもあんの?」

 

キング「いえ、ウララさんの靴が壊れたからスカイさんも一緒に買い物行くのよ」

 

スカイ「へ?何で私も?てか何でキングが行くの?…掻い摘んで言い過ぎでしょ。悟空さんの大雑把が移ってんじゃない?」

 

キング「………………反省するわ……それでね、」

 

スカイ「とりあえず1回起きようか」

 

 

〈ウマ乗り状態から話を進めようとするキングを止めて、スカイは体制を立て直した。

服についた土などを払いながら現状を把握するとキングに話を求める〉

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

キング「・・・と、いう訳なのよ」

 

スカイ「そういう事ね。一大事がいっぱいだ」

 

キング「それで貴方にも着いて来てもらいたいのだけど」

 

スカイ「んー、今日はオフだしなぁ…」

 

キング「貴方のトレーナーからはトレーニングの日と聞いたわ」

 

スカイ「わおっ……良いよ。一緒に行こっか」

 

キング「本当?助かるわ」

 

スカイ「その代わりと言ってはなんだけどぉ…」

 

キング「でたっ……何よ」ジトッ

 

スカイ「えへへ〜、自由研究付き合ってください!」

 

キング「悟空さんの生態調べなさいな」

 

スカイ「いや自由すぎるでしょ!?」

 

 

〈交換条件を受けてキングはスカイを連れて待ち合わせ場所に向かった。道中は夏休みにあった事やレースの事、キングを揶揄ったりしたりいつも通りなやりとりをして歩いていた〉

 

 

スカイ「それにしても悟空さんの服ね〜。胴着か警備員の恰好しか見た事ないから新鮮だねぇ」

 

キング「そうね。トレーナーの服だと思うけど、似合うのかしら」

 

スカイ「どうする、めっちゃダサかったら」

 

キング「それは貴方……何も言えないわよね…」

 

スカイ「ははは。一見笑える風だけど、よく考えると笑えないね」

 

キング「分かってるなら言わないでちょうだい。なんとなく胃が締め付けられそうだったわ」

 

スカイ「えへへ〜、ごめんごめん」

 

 

〈時間指定はしていなかったらまだ来ていない可能性もあり、急ぐ事はなくゆっくり歩いていく。

すると合流地点でもある学園の門前に悟空が1人だけ立っていた〉

 

 

スカイ「ありゃ、悟空さんだけだね」

 

キング「トレーナーも他の娘見ないといけないから戻ったのでしょう」

 

 

〈話ながら歩くにつれて姿、形がハッキリと見えて来る〉

 

 

スカイ「おーい、悟空さーん!」

 

キング「待たせてしまって悪いわね」

 

悟空「おう!ん、スカイも来たのか。んじゃ行くか!」

 

 

〈悟空は声に反応してクルリと向き直った〉

 

 

   ーーーーーーっ!!!!!

 

 

〈目の前から見た悟空に2人は息を呑んだ。

 

着てる服はただのシンプルな黒のズボンと白のシャツ。なんて事ない服装だが着ている人が問題だった。

 

 

履いているズボンは細身ではないに関わらず、太ももは内側から筋肉で押し上げて、大きな身体の中でもキュッと引き締まったお尻は負けじと存在感を強く表せている。

目に毒だと目線を上にするとまたも硬直する。

袖口に隙間がないほどに発達した丸太の様な腕に血管が浮き出て微かな色香を纏い、第3ボタンまで開けたシャツから、はみ出さんとばかりに盛り上がっているのは美しく健康的な胸の双丘。

その無邪気な顔は背徳感を誘い、谷の間をゆっくりと伝う汗から思わず顔をバッと動かした〉

 

 

 

 

((や、ヤバイ…ヤバすぎる!!!!!))

 

 

 

 

スカイ(川で遊んだ時に上半身のハダカ見たけど)

 

キング(合宿中に水着姿は見てたけど)

 

 

((シャツは反則でしょっ!!!!!))

 

 

悟空「???。おめぇ達、下向いて何やってんだ。行かねぇのか?」

 

 

〈思春期2人+性の鈍感を極めているヒト達に解決する術は今はない〉

 

 

キング(あー、トレーナーが居ないのが練習だけじゃないわね)

 

悟空「あ、キントレの奴がおめぇ達に謝っとけだってよ。何の事か聞いたんだけど、言えば分かるって言ってたぞ」

 

キング(やっぱり逃げたのね!)「そ、そう」

 

 

〈まだ悟空の方を向けずに足元を見ていると横から手がちょんちょんと伸びてくる〉

 

 

キング(スカイさん?) 

 

スカイ(キングお願い何とかして!このまま行けば捕まっちゃう!)

 

キング(あぁ。目だけで訴えられてるのに声が聞こえてくるわ。…分かったわよ…私はキングよ。ただでは転ばないっ!)

 

悟空「なあ、どうしたんだ?全然動かねぇな、こいつら」

 

 

〈キングヘイローの本領とはまさに心。怖い事や辛い事、腰を抜かして逃げたい状況でも、キングヘイローは目を逸らさず不動の如く立ち向かう。

それはいつでもどこでも、困難があれば発揮される。

 

キングは拳を握りしめて顔を上げた〉

 

 

キング「ねぇ、悟空さん。せめてシャツのボタンは閉じなさい。はしたなくってよ」

 

スカイ(うおおおお!さすがキング!)

 

 

〈思わずガッポーズを決めるスカイ。そして頭をかきながら悟空が言った〉

 

 

悟空「へへっ。すまねぇな、

 

 

 

 

さっき締めたんだけどボタンが弾け飛んだ」

 

 

 

 

 

 

「「ぐあああああああぁぁ!!!!」」

 

 

 

悟空「どっ、どうしたんだ!?どこか痛ぇのか!!?」

 

 

〈悟空の言葉に心臓を抑えて発狂する2人に近づいて肩に手を乗せるが間近で胸元を見るとまた声を荒げた〉

 

 

スカイ「ぁ、、ぁ、あ"あ"あ"あ"!!!」

 

悟空「スカイ!?大ぇ丈夫かっ」

 

スカイ「ちょっ…………見えるっ!!!」

 

悟空「何がだ!?」

 

キング「落ち着きなさいスカイさん!グウッ!…これに慣れないと私達に未来は無い!ブハッ!」

 

悟空「キングまで……おし!ちょっと待ってろ!今たづなを呼んでk」

 

 

 「「死者が出るからやめて!!!」」

 

 

 

〈そこから10分後程葛藤が続いてから何事もなかったかの様に門を出た〉

 

 

 

 

 

 

 

     ・

 

     ・

 

     ・

 

 

 

 

 

悟空「うぇぇっ。…オラ電車にはもう乗れねぇ…」

 

 

〈都心に行く電車から降りると悟空には珍しくフラフラと危なっかしい足取りで歩いていた〉

 

 

キング「貴方別に初めてではないのでしょう?」

 

スカイ「この前遊び行く時乗ったじゃん」

 

悟空「あん時は人が居なかったじゃねぇか……身動きとれなくなるなんて知らねぇぞ…」

 

スカイ「あー、ま、こっちの方向なら多いよね」

 

キング「割り切るしかないわね。帰りは少ないでしょうし、面倒だったら瞬間移動すればいいんじゃない?」

 

スカイ「それ賛成!」

 

悟空「そうだな……うし、そんじゃあ!…どこに行くんだ?」

 

キング「…まぁ、知らないのは当然よね」

 

スカイ「あのショッピングモールでしょ?」

 

キング「ええ、その中の専門店よ」

 

 

〈駅から5分以内の所にあるショッピングモール。その中の大型な間取りのウマ娘御用達の店にウララの靴が販売している。

休日ではないが夏休みという事もあり、通常に比べて少し人が多い。

モール内に足を入れた時、早速恐れていた事が起きた〉

 

 

悟空「なぁ、ここって何でもあんのか?」

 

キング「なんでもは言い過ぎだけれど、大体の物なら揃うわよ」

 

スカイ「欲しいものとかあるの?」

 

悟空「まぁな。グギュルルルル………てな具合で腹減ったから何か食わねぇか?」

 

スカイ「ふむふむ………モールの時、オグリさんってどうしてるんだろう」

 

キング「分からないけど出禁になってる事だけは知ってる」

 

スカイ「そっか……そん時考えよっか」

 

キング「そうね」

 

悟空「???」

 

 

〈悟空のお陰というか、せいというか随分と肝が据わった2人。ちょっとやそっとでは狼狽えなくなっていた〉

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

〈動く前には必ず腹ごなしをする悟空にとって食事とは1.2位を争うほど大事な事だ。2名程死んだ目をしていたが、それでも多少なりとも慣れてきていて食べるものはしっかりと食べた。

生前ならともかく、この世界だと子供の前を歩く大人の1人として率先して代金支払い、その事にキングとスカイは止めたが、"大人といる時は頼れ"と無自覚に大人の余裕を見せつけた。

 

そして場所も買う物も決まっているためほんの数分で目的の品を購入した〉

 

 

 アリガトウゴザイマシター

 

 

キング「どう?一回経験すれば難しい事ではないと思うけど」

 

悟空「そうだな。場所も覚えたし大ぇ丈夫だ。…電車が嫌だけど」

 

スカイ「ひひっ!最強さんにも弱点があったねぇ」

 

キング「満員電車に得意なヒトなんていないわよ」

 

 

〈モールから出るとまだ16時。都心まで出て来て帰るにはまだ少し早い〉

 

 

スカイ「ねー、まだ時間あるしクレープ食べに行かない?少し離れてるけど美味しい所があるんだ〜」

 

キング「貴方…食べたばかりなn」

 

悟空「行こうぜ!」

 

スカイ「そうこなきゃね!」

 

キング「…………はぁ」

 

 

〈スカイの案内で訪れたのはモールから歩いて10分の所にあるクレープ屋さん。少し外れた位置にあるがとても美味しいとの評判で穴場的な存在。

スカイとキングは無難な物を選んだが悟空が手にしているのは2倍な大きさのジャンボクレープ。

悟空達は近くの公園まで行きベンチに腰を下ろした〉

 

 

悟空「アグ……こんな風に甘い物食う時なんて初めてに近いけど、結構美味ぇな!」

 

キング「貴方いつもかきこんで食べているものね。ゆっくり食べれば良いのに」モグモグ

 

悟空「アーンッ………うめぇと手が止まんねぇんだよなぁ」

 

スカイ「んぐんぐ…ぷへ……私はあの食べ方出来ないな〜。口の中モゴモゴして喉に詰まっちゃうよ。……あ、悟空さんそれ一口ちょーだい」

 

悟空「おういいぞ!ほれ」

 

 

〈2倍の大きさがあったクレープは見慣れた大きさになり、スカイの方へ腕を伸ばして、スカイは口を空けて迎え撃った〉

 

 

スカイ「んー、ふむふむ…うん。美味しいけどノーマルの最強には勝てないかな」

 

悟空「スカイの食ってるやつか?」

 

スカイ「そだよ〜。ほら、どうぞお召し上がりくださーい。食べ過ぎ注意でお願いしまぁす」

 

 

〈お返しとスカイはクレープを傾ける〉

 

 

悟空「せんきゅー………むん、オラの方がうめぇぞ!」

 

スカイ「なにを〜!キング判定お願い!!」

 

 

〈膨れた顔をしてキングの方を見ると、最後の一口を放り込み、コーヒーをがぶ飲みしていた〉

 

 

キング「……いえ…胸焼けが……お腹いっぱいよ…」

 

スカイ「ありゃりゃ」

 

 

    ・

 

    ・

 

    ・

 

 

 

 ーーーーーぶるっ

 

悟空「ん、」

 

 

〈突然の事に思わず声が漏れる〉

 

 

スカイ「どうしたの?」

 

悟空「ちょっと、しょんべん行ってくるな!」ヘヘッ

 

 

〈荷物も置いた後どこかのトイレへ向かう悟空に、キングの"もう少し言い方を考えなさい"という声は届かなかった〉

 

 

スカイ「この辺ってトイレあったっけ?」

 

キング「さあ?あまり来ない場所だし分からないわね。でもここに来る途中コンビニあったし、そこに行ってるんじゃないかしら」

 

スカイ「あぁ、確かにあったね」

 

 

 

    ・

 

    ・

 

    ・

 

 

 

 

スカイ「あははは!それでさ、その後にスペちゃんが…」

 

キング「ふふっ。それはグラスさんに怒られてもしょうがないわね。それにエルさんだって…」

 

スカイ「え、まじで!?エルそんな事やったんだぁ」

 

キング「そうよ。あれを見れなかったのは損ね」

 

スカイ「うわ〜。セイちゃん不覚だわ」

 

 

〈悟空を待っている間、話に花を咲かせていると、それを蝕むように1人の男が近づいて来た〉

 

 

男「ねぇねぇ君たち2人だけなの?良かったら少し話さない?」

 

スカイ「ん?」

 

キング(…はぁ……またこのパターン….)

 

 

〈明るい茶色に染めて肩まで伸びた長い髪。気の抜けた話し方をしているが、キングとスカイの目つきが氷点下まで下がって、蔑んだものになっている事に気付かないでいた〉

 

 

男「ここ座っていい?」

 

スカイ「いやぁ〜私達人待ってる最中だし、遊んでるから無理かな〜」

 

男「まぁ、ちょっとくらいいいじゃん!それよりこの辺じゃ見かけないね!一般の学校通ってるの?」

 

キング「貴方、私達の事知らないの?」

 

男「はは!ごめんね!俺レース見ないからさ!有名なウマ娘さんだったのかな?めっちゃ可愛いし、モデルとかも出来そうだね!」

 

スカイ「・・・・・」

 

キング「・・・・・」

 

 

〈ウマ娘に声をかけるのなら、百歩譲るがレース知識が必要だろう。見た目だけでしか話せない男にキング達は心底興味を失くした。

するとそこへ悟空が戻って来る〉

 

 

悟空「よっ!待たせてすまねぇな。全然見つかんねぇしもうちょいで漏らすとこだったぞ!」

 

スカイ「…っぷ!悟空さんってば。……悟空さんだねぇ」

 

キング「それじゃあ待ち人が来た事だし行きましょうか」

 

 

〈各々荷物を持ち、男の存在を無視して行こうとするが、待っていた人が男という事もあり、逆上する事はもはや言うまでもなかった〉

 

 

男「おいちょっと待てよ!オッサンよお!いきなり来て何様のつもりなんだよコラ!」

 

悟空「???…オラか?オラは、」

 

キング「名前言わなくていいから行くわよ」

 

スカイ「と、いうわけでお兄さん。待っていた人来たから行くね。ばいばい」

 

男「は?こんな奴より俺の方が絶対楽しいって!」

 

悟空「・・・何だか良く分かんねぇけど、友達なら別に遊んだって構わねぇぞ?」

 

キン・セイ「「友達じゃない!!!」」

 

悟空「お、おう。…んじゃ行くか」

 

 

〈なんだかんだ悟空の赤の他人には淡白な所があり、男から目を離すとキングとスカイを連れて歩き出した。

その様子が全く面白くない男は背後から悟空の肩へ、力いっぱい手を置いた〉

 

 

   バシンッーーーーーっ!

 

 

男「っつー……待てよオッサン!!」

 

悟空「っ!なにすんだよ」

 

 

〈悟空は気にも留めなかった男から刺激を与えられて、僅かに眉を顰めた。もちろん痛みからではなく嫌悪からだ。

そして肩に乗った手を軽く弾いた。……そう、ほんの少しだけ軽く払い除けたのだ〉

 

 

男「ーーーーーーーーカクン」

 

 

〈ただ手を払っただけなのに膝から崩れ落ちる男〉

 

 

悟空・キング・スカイ

 「「「………………………は?」」」

 

 

〈なんで倒れたか分からず素っ頓狂な声が漏れ出す。

実は悟空の払った手が男からすればとても強くて、勢いのついた自分の手が顎に当たり、脳を揺らせた結果、失神したということは誰にも分かるはずがなかった〉

 

 

キング「……悟空さん…少しやり過ぎではないかしら」

 

悟空「い、いや!オラじゃねぇぞ?いくらなんでも手払ったくれぇで気絶する奴なんているはずねぇし…」

 

スカイ「まぁ……どっちでもいいよ。…それよりこの状況はちょっとマズいね」

 

 

〈スカイの言う通り、この状況が明るみに出れば大事(おおごと)になる事間違いなし。誰かの手によって失神したとなったら警察が出てくるだろう。

解決策がそう簡単に出るわけではなく、ずっと地面に横たわらせる訳にもいかないので、悟空が持ち上げてベンチに寝かせた。

するとどうだろう…ベンチで休む1人の男の出来上がりだ〉

 

 

キング「・・・行きましょうか」

 

悟空「そうだな」

 

スカイ「傍から見ても寝てるだけだもんね」

 

 

〈元々男の心配はしておらず、バレることがないと分かるとその場を後にした〉

 

 

スカイ「さっきの人が私達の事知らなかったのはラッキーだったね」

 

キング「そうね。あの感じなら何で寝ていたのかも分からなそうだし」

 

悟空「オラからすると何で気失ったのかが気になんだけどなぁ」

 

キング「それも気になるけど気をつけなさいよね。悟空さんは本当は居ないはずの人なのだから」

 

悟空「おう。オラも目立たねぇ様にはするつもりだぞ」

 

 

〈目的も無しにただ歩く。

そこで悟空は視線の先で女性2人が物を落としたのに気づかず、そのまま歩いているのを見つけた〉

 

 

悟空「あいつら……オラ拾ってくるから待っててくれ」

 

キング「ええ、行ってらっしゃい」

 

 

〈少し駆け足で女性達に追いつき、背中をトントンと叩いて落とし物を渡している。

そんな様子をスカイは心配そうに見ていた〉

 

 

スカイ「…ねぇ、キング」

 

キング「なによ」

 

スカイ「あれ…いいのかな?」

 

キング「何の事?」

 

スカイ「だってさぁ……いや、でも私の考えすぎかぁ〜」

 

キング「だから何の事よ?」

 

スカイ「んー、私達は慣れたけど…」

 

キング「???」

 

スカイ「悟空さんの恰好……ヤバくない?」

 

キング「っ!?!!?」ガバッ!

 

 

〈スカイの言いたい事を理解した瞬間に目を大きく見開いて悟空の方を見た。

案の定嫌な展開がそこにあり、考えるまでもなく飛び出した〉

 

 

女1「えーだめなんですかぁ?」

女2「私達お礼をしたいのでほんの少しの時間でも良いのですが…」

 

 

悟空「いや、オラはただ拾っただけだし、他の奴待たせてっから…ってオメェあんまくっつくなよ」

 

 

女1「あ、ごめんなさい…凄い筋肉だったから///」

女2「大きな胸板……あの、私も少しだけ触ってもいいですか?///」

 

 

悟空「???なんで触りてぇのか知らねぇけど、オラはもう行くからな」

 

 

女1「そんな事言わずに、あ、良かったらご飯でもどうですか?」

女2「私達ご馳走しますよ?」

 

 

悟空「え、ほんとかっ?それなら、」

 

 

 

キング「はい、ストップ」

 

スカイ「お姉さん達ごめんなさい。私達一緒に来ていてもう帰らないといけないんです」

 

 

〈結果的にどちらを助けたのか分からないが、止めることに成功した。

女性達は"そういう事なら仕方ないと"納得はしてくれたが、とある年代の子はそれだけで終わらなかった〉

 

 

女1「じゃあせめて携帯番号とか教えてくれませんか?」

 

悟空「なんだ、"けいたい"って?」

 

キング「後で教えてあげるわ。行くわよ」

 

スカイ「ではでは私達はこれで…」

 

 

〈話すとボロが出てもおかしくないため、早々に切り上げようと悟空の両手をキングとスカイが引っ張った〉

 

 

女2「あ、是非一緒に写真を撮って、」

  

キン・セイ「「ごめんなさーい!!」

 

悟空「???」

 

 

〈写真のワードが出たら最後、ウマ娘の実力を見せつけるかの如く、声の届かない位置まで行くのは造作もないことだった〉

 

 

 

 

はぁ、はぁ、はぁ……

 

 

 

〈人目から外れるために逃げた先は路地裏。そこでスカイとキングは呼吸を整えていた〉

 

 

スカイ「はぁ…写真はまずいって…あの人たち絶対ウマッターに乗せるでしょ」

 

キング「悟空さんも覚えていてちょうだい。大袈裟な言い方をするけど、写真をとれば今や全国中に顔が広まるわよ」

 

悟空「はぇぇ…オラからすっと面倒な事になりそうだな」

 

キング「そうよ。だから悟空さんも外出する時は気をつけなさいね」

 

スカイ「何事もないのが一番だけどね〜」

 

悟空「ははっ。分かってっさ。オラだって一応気をつけてっからな」

 

 

ーーーーーーーむぎゅぅっ…………???

 

 

〈悟空は後頭部で手を組みながら一歩下がったのだが、足に何やら柔らかい感触が伝わり下を見た〉

 

 

 

悟空「・・・・・あ、」

 

スカイ「ははっ」

 

キング「なんてことなの……」

 

 

〈襲い掛かる殺気の正体。文字通りの犬歯を剥き出しにして眉間に強烈な皺を寄せている〉

 

 

「「「い、、いぬぅぅぅぅっ!!?」」」

 

 

 

 う"う"う"う"う"……………

 

 

悟空「は、はは。すまねぇ、な。足元見てなくてよぉ」

 

キング「ね…悟空さんもこう言ってる訳だし……許してあげてくれないかしら?」

 

スカイ「oh…」

 

 

 

  ーーーーガウッガウッ!ガウッ!!!

 

 

 

キン・セイ「「うわあああああっ」」

 

悟空「っ!」シュン

 

 

〈見た目通り獰猛な犬は殺意を宿して飛び掛かってきた。悟空は反撃する事はなく、住処で邪魔をしてしまった事からキングとスカイを両脇に抱えて瞬間移動並の速さで逃げ切った〉

 

 

    ・

 

    ・

 

    ・

 

 

 

はぁはぁはぁはぁはぁはぁ………

 

 

悟空「…わ、悪い事しちまったな。…にしても疲れたと思うのはオラだけなんか?」

 

スカイ「いんや…私ももう降参だよ……今日何しに来たんだっけ?」

 

キング「はぁ、はぁ、はぁ」(スカイさん連れて来て本っっっ当に良かったわ。宿題の半分くらい手伝おうかしら)

 

悟空「買う物はちゃんと買ってっから、もう帰っか」

 

スカイ「そうだね…でも最後に飲み物買いたいから、自販機寄っていい?」

 

キング「そのくらい構わないわよ。自販機ならそこにあるから行って来なさいな。私達はそこの公…園………で……」

 

悟空「なんかこの道見た事あんな」

 

 

〈既視感を感じるとは当然だろう。先程談笑しながらクレープを食べていた公園だ。そして厄介事が起きた場所でもある〉

 

 

スカイ「勘弁してよ…」

 

キング「さすがにもうどこか行ってると思うけど…」

 

悟空「・・・・・いや、さっきの奴は動いてねぇな。違う所といやぁ、近くに2人ほどいる。普通の奴にしては"気"が少しばっかデケェ」

 

スカイ「へぇ。気を失っている人の周りに…」

 

キング「少し"気"が大きい人が2人も…ねぇ、、、」

 

 

〈キングとスカイは何か引っ掛かっていた。しかし明確な答えを出せず悶々としていると、親切に教えてくれる音が聞こえてきた〉

 

 

 

 ウゥゥゥゥ…ファンファンファン…

 

 

悟空「何か近づいてくんな」

 

キング「パトカーよ」

 

悟空「パトカーって何だ?」

 

スカイ「警察が乗ってるんだよ。多分気を失っている人が公園にいるから来るんだろうね」

 

悟空「へぇ」

 

キング「ちなみに近くにいると色々聞かれる事もあるわ」

 

悟空「警察の仕事はそういうのらしいな。栄澤のじっちゃんが言ってたぞ」

 

 

    ・

 

    ・

 

    ・

 

 

 

 

 

 

 

キング「もうお出かけは終わりよ!悟空さん瞬間移動!!」

 

スカイ「ヤバいって!話すと絶対ボロが出るから見つかるとめっちゃ終わる!!」

 

悟空「たづなにどやされるだけじゃすまなそうだ!おめぇ達掴まれ!」

 

 

〈けたたしいサイレンが近づくと一同は慌ただしくパニックを起こしている。

悟空も見つかった時の事を考えると冷や汗で背中が湿り、必死に"気"を探し出した〉

 

 

スカイ「ちょっ、早くしないとサイレン近いって!」

 

キング「悟空さん!」

 

悟空「…おし、見つけた!」

 

 

   "シュン!"

 

 

 

〈数十秒後。悟空達が居たであろう場所を一台のパトカーが通り過ぎた〉

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ー キング・ウララの寮室 ー

 

 

〈ウララは早めに入浴を終わらせて日課の柔軟をやっていた〉

 

 

ウララ「ふんふんふーん♪」

 

 

 

  "シュン!"

 

 

スカイ「ウッ」ズベッ

 

キング「グッ」ドシャ

 

悟空「おわっ」ムギュ

 

キン・セイ「「お、おもい〜」」ンギュュュ

 

ウララ「なにごと!?」

 

 

〈精神的不安定の中での瞬間移動は身体の向きがバラバラの着地となった。

床のカーペットの上で団子状態で重なっている悟空達にウララは戸惑いを隠せない〉

 

 

ウララ「悟空さんっ!?キングちゃんにセイちゃんも…何があったの?キントレさんからウララの靴を買いに行ってるって聞いたけど…みんなの…その、お顔が…」

 

 

〈ウララが心配そうに見つめるのは全員の青白く、やつれた表情。

ウララの問いには応えず、団子状態のまま悟空がゴソゴソと紙袋を差し出した〉

 

 

ウララ「あ、靴…なのかな?ありがとね!」

 

スカイ「う、ら、、ら。その靴は…私達の全てを懸けて、連れて帰ってきたんだよ…」

 

ウララ「ぇ、連れて?…どういう事なの?靴って、あのショッピングモールだよね?」

 

キング「…私達が油断したばかりに……もう少しで届ける事が出来なかったわ…でも、貴方の靴を無事に渡す事が出来て本当に良かった」

 

ウララ「靴だよね!?ウララも行った事あるけど、そんなに危険な場所だったっけ!!?」

 

悟空「ふぅ……なぁウララ」

 

ウララ「あ、悟空さんは普通だね。良かったよぉ。どうしたの?」

 

悟空「オラ…もう学園の外には行けねぇかも知れねぇ…」

 

ウララ「本当に何があったのおおおおおっ!!!」

 

 

〈ウララの部屋に響く絶叫は悟空達の子守唄として、そのまま眠りについてしまった〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告:(グラスワンダー)

 

 

こんにちは〜グラスワンダーです。

 

今日はお手柄でしたね2人とも。本音を言えば私も行きたかったのですが、それはまたの機会にしましょう。【今回来なくて正解よ】

 

次回はようやく夏休みがあけますね。強くなった皆さんと顔を合わせるのがとても楽しみです。

そして下半期は重要なレースばかり。

ウララさんの出走する龍球ステークスの出走ウマ娘が明らかになります。

 

ですが書かれていたのはあのウマ娘の名前。なぜあのヒトが…。

 

 

 

次回、本気の勝負!

 

 

 

良いですよねぇ本気の勝負。

私も宝塚記念がとても楽しみだったのですが、ねぇ?【ごめんなさい】



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【戦う】という意味




不穏…なのか?

注意
・ウララとエルの会話は『夏だ!笑って騒いで遊び尽くせ』と『修行編3』から

・龍球ステークスはオリジナルレース

・捏造有り


  

ー 前回のあらすじ ー

 

 

スカイ「悟空さんがいかがわしかった…」

 

キング「買い物は命懸けだったわ…」

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

〈ようやく夏休みが明けて初日のトレセン学園。日焼けして色が黒くなった者。ひと回り身体が大きくなった者。そして……〉

 

 

…………ドサッ

 

 

グラス「エル。鞄、落としましたよ?」

 

エル「…あ…ぅ、うそ……っ!…」

 

グラス「・・・エル?」

 

 

〈エルは口元に手を添えて驚愕に染まった顔を見せる。突然の変化に肩を揺すってグラスが呼びかけるが、視線は一点を見つめて動かない。

原因は何なのかとグラスも同じ方向を見ると、キングとウララがお互いの教室に入る所だった〉

 

 

グラス「あ、キングちゃん。ウララちゃん。おはようございます」

 

 

〈エルの事を相談したかったグラスは2人を呼び止めた〉

 

 

キング「あら、おはよう。ほんの少し会ってないだけなのに凄く久々に感じるわね」

 

ウララ「・・・・・」

 

キング「?……ウララさん?」

 

 

〈隣から、周囲のヒトも笑顔にする程の挨拶が聞こえない事にキングは疑問を生じる。それはグラスも同じみたいだ〉

 

 

グラス「ウララちゃんも、ですか…。見ての通りエルも突然固まってしまって…。どうしたものでしょうか」

 

キング「エルさんもねぇ。あ、………心配しなくてもいいわよ」

 

グラス「え?何か知っているのですか?」

 

キング「まぁね。夏合宿の事なんだけど、」

 

 

〈思い当たる節を話そうとするキング。しかしそれよりも早く動いたのは今まで固まっていた2人〉

 

 

エル「う、ら、、ら。……ウララぁぁっ!!」

 

ウララ「エルちゃん。……エルちゃん!!!」

 

 

   ……ガシッ…ギュゥゥゥ………

 

 

グラス「・・・・・何ですかコレ」

 

 

〈示し合わせた様にハグを交わす2人を見て困惑は増す一方。何かを知ってると思いキングを見ると、それはそれは可哀想なものを見る目付きに変わっていた〉

 

 

エル「ウララ!よくっ…ウッ……よく無事でいてくれましたネ!」

 

ウララ「うんっ。うんっ!ウララね!すっっっごく頑張ったんだよ!あの恐ろしい時間知っているのをエルちゃん1人にさせたくなかったから……っ。」

 

エル「ウララ……ありがとうっ…」

 

 

 

     ウララァァァァァ!!!

 

     エルチャァァァン!!!

 

 

 

グラス「・・・・・キングちゃん。知っているのなら教えてください」

 

キング「そんなに複雑な話じゃないわよ。

トレーニング(臨死体験)しただけだから」

 

グラス「キングちゃん!?」

 

 

     ・

 

     ・

 

 

グラス「なるほど。悟空さんのトレーニングで……」

 

 

〈キングが合宿トレーニングでの出来事をグラスに説明した〉

 

 

キング「ええ。悪いけど驚く前にあれには引いたわ。トレーニングじゃなくて拷問だもの」

 

グラス「そうですか。キングちゃんがそこまで言うとは……それにあのエルをあそこまで追い詰めて、悟空さんの鍛錬に慣れているウララちゃんが、あんなに…」

 

 

   ウッッッララァァァァァァッ!

 

   エルッッッチャァァァァァン!

 

 

〈うるさいくらいに叫ぶ2人は、あの地獄を昨日のことの様にハッキリと思い出して、目尻に綺麗で透き通った雫を貯まらせている〉

 

 

グラス「・・・・・・・・・・・面白い。望む所です」

 

 

〈ボソっと呟くグラスは瞳に炎を灯し、それを確かに聞いたキングは瞳に氷を宿して冷ややかな目をした〉

 

 

キング「……あなたも大概よね」ハァ

 

 

〈自分の世代は血の気が多すぎる。と、もはや溜息しか出ないキング。

その筆頭に近い存在が自分だという事の自覚はもちろん無かった〉

 

 

ウララアアアアアアア!

エルチャアアアアアン!

 

 

キング「・・・行きましょうか」

 

グラス「そうですね」

 

 

〈青春ドラマのワンシーンを繰り広げている所に一度は目を向けるが、それで終わり。

廊下にいる他のウマ娘達は縋る目でキング達を見るが、我関せず、と教室に入ってしまった。

頼りのキング達が居なくなった事により、巻き込まれない様にと教室へ駆け込む。

すると、エルとウララ以外のウマ娘が廊下から消えてしまった。

 

そして遅れ気味に到着して、休み明けとは思えない静けさに疑問を浮かべるもの達がいた〉

 

 

スカイ「………なにこれ」

 

スペ「……さあ?」

 

 

〈その疑問は、とある2人を視界にいれると瞬時に理解して、声をかける事なく無言で教室に入った。

       ・

       ・

それから数分後。教師の叱咤にて幕を閉じる〉

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

ー キングトレーナー室 ー

 

 

〈最近悟空はレースの事に関して何かを思いつく度、キントレに質問をしていた〉

 

 

キントレ「…………という訳で、有馬記念で勝つには2度ある急坂が鍵となるんですよ」

 

悟空「なるほどな。体力だけじゃキツイな」

 

キントレ「その通りです。1週目での坂で精神に疲労を加え、2週目のゴール前の坂で筋肉をやられます」

 

悟空「…んじゃやっぱいつもみてぇに坂では力を温存して最後に爆発させんのが1番か」

 

キントレ「いえ、それだけは駄目です。

有馬記念では中山レース場を使用しますが、そこの最後の直線はとても短い。

後方勢が勝つには最後の第4カーブから直線に入る頃に先頭集団にいないと圧倒的に不利です。

中山では技術重視ですね」

 

悟空「末脚勝負じゃ分が悪そうだ…」

 

キントレ「………まぁそれが全てではないですけどね」

 

悟空「どういう意味だ?」

 

キントレ「稀にいるんですよ。精神が肉体を凌駕するウマ娘が」

 

悟空「火事場の馬鹿力ってやつか?」

 

キントレ「概ね合ってます。位の高いレースであればあるほど、1つ常識外れな事をすると大波乱が起きて、ウマ娘の呼吸がズレてしまいます」

 

悟空「ふぅん。でも、分かってんだったら他の奴もすれば良いじゃねぇか」

 

キントレ「それが出来たら皆しますよ。口で言うのは簡単ですが、肉体を超える事は普通じゃありませんから」

 

悟空「そっかぁ」

(普通な奴じゃなかったら出来んのかなぁ。ウララは………難しそうだな。ウマ娘に変わりねぇし…。何か一つキッカケがあれば望みはありそうだけど)

 

 

〈悟空はウララには伝えてないが例年の有馬記念を見て現実を知った。ヒトならざる修行の末、飛躍的な進化を遂げているウララだが、裏を返せばスタートラインに立っただけ。

レースで勝つには能力値が全てではないが、いまひとつ決定打に欠けている事を無視できなかった。

 

黙ったまま動かない悟空を見てキントレが言った〉

 

 

キントレ「それにしても最近どうしたんですか?」

 

悟空「……ぁ、ん?どうしたって何がだ?」

 

キントレ「いえ、前まではトレーニング一筋だったのにレースの仕組みやコツについて聞いてくるじゃないですか」

 

悟空「その事か。あんま大した事じゃねぇけど、おめぇはキングと他の奴も面倒を見てんだろ?

敵になるかも知れねぇ奴は教えづれぇだろうし、オラも戦い方が分かれば修行しやすいって思っただけだ」

 

キントレ「…悟空さんだけの考えなら賛同しますが、僕の事も含んでいるなら話は別。

僕は誇りを持ってトレーナーをしています。担当のウマ娘達には公平にトレーニングをしているつもりです」

 

悟空「そうか。いや、そうだよな。ははっすまねぇ!」

 

キントレ「分かってくれたなら良かった。それにもし、そんな気持ちを抱いてしまったらキングに怒られてしまいますよ」

 

悟空「キングに?」

 

キントレ「はい………"私のライバルなんだから最高の状態まで持っていきなさい!それを倒してこそ真の強者よ!"って感じに…」

 

悟空「言うなぁ………フッ!ククククッ!!絶対ぇ言う!」

 

 

キントレ「…そして数分経つとキングは言うんです。

"後は自分でやるからもういいわ。あの子を見てあげて。今が伸び代なのに勿体無いわ"。って」

 

悟空「〜〜〜〜っ!!!」バシッバシッ

 

キントレ「裏でそんな事が起きてる事を知らないウマ娘は一生懸命練習を頑張って、キングとの直接対決に見事勝利。

憧れだったキングを倒し、喜びのあまり泣き崩れてしまいます。

すると、背中に温もりを感じて振り返るとキングの姿。泣いているウマ娘と視線を合わせるようにしゃがみ込んで言いました」

 

悟空「クククッ!…な、なんて、言ったん、だっ」プルプル

 

キントレ「"いつまで泣いてんのよ。このキングに勝ったのだから胸を張りなさい!……でも、よくやったわね。あなたの頑張ってる所はしっかり見てたわよ"。と」

 

悟空「あーはははははははっ!!!キングだ!頭ん中で簡単に想像出来ちまう!プックククク!…さ、さすがキングのトレーナーだぜ」ハァ、ハァ…ブハッ!

 

キントレ「くっ………ふふふふふっ!な、中々のものでしょう」

 

悟空「あぁ……さ、最高だ。他にはねぇのか?」

 

キントレ「他には。…〜〜〜〜〜って」

 

悟空「ぎゃはははっ!あ"ー腹いてぇっ!!」

 

キントレ「そしたら、〜〜〜〜〜になって」

 

悟空「も、もう駄目だ!笑い死ぬッ!!」

 

キントレ「…〜〜〜〜〜〜。」

 

悟空「あははっ!…っ!ゴホッゴホッ!」

 

キントレ「〜〜〜〜」

 

悟空「・・・・・」チーン

 

 

    ・

 

    ・

 

    ・

 

 

 

 

キントレ「大丈夫ですか?悟空さん」

 

悟空「……あぁ、何とかな」

 

 

〈最後の方は掠れて声も出せない状況だった。疲労困憊な状態だがキントレの問いにソファで横になりながら片手を上げて応えた。

すると、その時ソファに何かを見つけた〉

 

 

悟空(こいつは…………傷…か…)

 

 

〈なんとなく見覚えのある傷に、辺りを見渡すとチラチラと傷の入った家具や品があった〉

 

 

悟空(殴ったんか…あっちにはぶつけた後……)

 

キントレ「悟空さん」

 

 

〈悟空は思案中に名前を呼ばれ動揺を見せる〉

 

 

悟空「なっ、なんだぁ!?」

 

キントレ「???…何をそんなに慌てているんですか?」

 

悟空「いや別に?…んで、どうした?」

 

キントレ「そろそろ龍球ステークスの出走ウマ娘がネット掲載されるので、こっちに来てもらって良いですか?」

 

悟空「龍球っていやぁ…今度ウララが走る奴だよな。次はどんな奴がいんのかなぁ」

 

キントレ「強敵だという事は分かるんですけどね」

 

悟空「強ぇのか?」

 

キントレ「とても」

 

 

〈キントレは慣れた手付きでマウスをクリックするが出走バの掲載はまだだ。

それなら空いた時間で説明しようと、引き出しからファイルを取り出した〉

 

 

悟空「なんだこれ?」

 

キントレ「龍球ステークスで勝ったウマ娘の資料です。何かの役に立てばと思って集めました」

 

 

〈机に並んだ顔写真つきの紙。その中によく話すウマ娘の資料があった〉

 

 

悟空「これは…オグリか。それにルドルフの奴まで…。ひゃ〜、やっぱすげぇなアイツら!

んでもアイツらの実力なら勝ってもおかしくねぇか」

 

キントレ「・・・逆ですよ」

 

悟空「逆?」

 

キントレ「はい、逆。

強いから龍球で勝ったわけでなく、龍球で勝ったから強い。

この龍球ステークスにはジンクスがあって、龍球を制する者はG1を制す。

シンボリルドルフやオグリキャップは別として、歴代のウマ娘の中でも連敗続きから龍球で勝ってG1ウマ娘に伸し上がったものも少なくありません」

 

悟空「へぇ、そんなにすげぇレースだったのか…。それにしても、よくそんなとこにウララを走らせようって考えたな。強ぇ奴とやんのはオラ好みだけど」

 

キントレ「ウララが本気で有馬記念で勝ちたいと聞いてから考えていた事です。

僕の見立てでは"能力だけ"はギリギリG1級。可能性としては大いにあります」

 

悟空「おめぇから見てもギリギリG1級か…。でもここは絶対ぇに"負けられねぇ"」

 

キントレ「はい。"負けてはいけない"所です。もし仮に負けてしまえば有馬記念に出走は出来ても勝つの難しいでしょうね」

 

悟空「修行あるのみだな」

 

キントレ「そうですね」

 

 

〈悟空は戦闘から、キントレは長年の経験から、"負けられない戦い"がある事を知っている。

負けても次もう一度頑張れば良い。その考えが通じない戦いもあるのだ。

事の重大さを強く受けとめるとパソコンからピロン!と音が鳴った〉

 

 

キントレ「あ、出ましたよ悟空さん!龍球ステークスの出走………バ……」

 

悟空「・・・こりゃあ……やべぇかもな」

 

 

〈予想外の出走ウマ娘を見て2人はそれ以上言葉を発せなかった。

無慈悲な現実に悟空達の未来予想図は簡単に潰されてしまう。

それでも活路を見出すため画面をただ見つめていた。

 

 

 

 

 

 

だがそう簡単に受け止める事が出来ない者もいた〉

 

 

 

「ちょっと!これどういう事よッ!!!」

 

 

〈バンッ!と教室中に響くほどの力で机に手を叩きつけ、携帯画面突き出す。

昼休みの時間だというのに、その教室と近くの廊下にいるウマ娘は息を呑んで、独特の静けさが漂う。

彼女は周りの様子を肌で感じるが表情を変える事なく、いつもの様子で口を開いた〉

 

 

「なぁにぃ?ちょうど日が差してるから少し寝ようって思ってたのにぃ」

 

「とぼけないで!あなた何のつもりなのよ!」

 

 

〈一触即発の雰囲気に彼女達の友人が仲介に入る〉

 

 

スペ「ちょっ、どうしたの!?落ち着いて。ね!」

 

グラス「そうですよ。ちゃんと訳を言わないと分かりませんよ。キングちゃん」

 

 

〈宥めるように声をかけられたのはキングヘイローと呼ばれるウマ娘。そして…〉

 

 

キング「いいえっ!このヒトは分かっている!アナタは全部分かっている!私が怒ってる理由を!

 

ーー訳を言いなさいセイウンスカイッ!!!」

 

 

 

〈セイウンスカイとキングヘイロー。彼女達を知る者は特別珍しくない光景。

スカイがふざけてキングが叱る。それに釣られてスペが加わりグラスが宥める。そこにエルがもう一度火をつける。そんな、わちゃわちゃしながらも笑顔でいっぱいだったのに、今の彼女達に笑みはない。

ここまで本気でスカイに怒るキングを見るのは初めてだった〉

 

 

スカイ「訳かぁ……有馬チャレンジとか言って頑張ってるウララに水を差して、龍球ステークスに出走する。やつの事であってる?」

 

キング「ーーーっ!アナタッ!ふざけてるの!?」

 

スカイ「本気だよ。何が悪いの?」

 

キング「っこの!ーーーーウララさんの邪魔をして何がしたいのよッ!!」

 

 

グラス「!!!………キングちゃん」

 

 

〈彼女は気づかない〉

 

 

スカイ「邪魔?違うよ。私は私のために走るだけ」

 

キング「何も違わない!!!アナタが龍球で走る意味なんて無い!アナタならもっと他の所があるでしょ!!」

 

 

スペ「キングちゃんっ」

 

 

〈怒りのあまり、自分の発言の意味を…〉

 

 

キング「ウララさんは!ずっと前から決めてたの!勝ち続けて有馬記念に行くって!!」

 

スカイ「へぇ。まるで私が出たら連勝ストップするみたいな言い方だね」

 

 

〈昔から隣に寄り添って見てきたハルウララのレース人生。ここまで闘争心溢れるウララを見て内心喜んでいた。ともに鎬を削って、讃えあって、笑い合って、そんな夢物語が叶うかもしれない時。

だからこそ、それを邪魔するセイウンスカイが気に入らなかった〉

 

 

キング「可能性の問題よ!もし負けて走る事をやめてしまったらどう責任とるのっ!!?」

 

スカイ「・・・・・」

 

 

エル「キング……ッ…」

 

 

〈それでも彼女は気づかない。同期が、ライバルが、友達がどんな眼をしているのか〉

 

 

キング「アナタは………っ。アナタは龍球に出るべきでは、

『それ以上キングヘイローの名に泥を塗りたくなければ黙りなさい』ーーーっ!?」

 

 

〈堪忍袋の尾が切れたキングに訪れたのは、声に刀身が宿り、身体を貫く感覚。

勢いよく振り返ると、心の叫びを押し潰した様に言ったグラスはともかく、スペやエルまで睨みつける様に真っ直ぐ見ていた〉

 

 

スカイ「・・・・」

 

キング「ぁ…あなたたち……スカイさんを庇うの?…だって…ウララさんは……」

 

 

〈我に返ったのは精神状態だけ。言葉の真意を読み取れない哀れな少女にいつもの凛とした立ち姿は見えない。

もはや可哀相とも思えるが、同情で見ないフリをしてはならない域まで達している。

このバ鹿な友には泣かせてでも言う必要があった〉

 

 

グラス「キングちゃん。気持ちだけは理解できます。でもその気持ちを相手にぶつける事は許しません。

私達はウマ娘。本能のままに走って、誇りと共に戦う。

おままごとや友情ごっこをしている訳ではないんですよ」

 

キング「っ!」

 

 

スペ「そうだよ。キングちゃんらしくない。

出走が決まれば上も下も、強いも弱いもない。勝ったウマ娘が強いだけ。

自分の選んだレース人生を他人が決めるのは違うと思う」

 

キング「・・・・・」

 

 

エル「……本当ならこんな事言う必要はないデス。もしも他で言ってるウマ娘がいれば1番に怒るのはキングなんデスから。

…情けない奴デス。どんなに辛いことからも正面から受け止める、そんなプライドの塊だったキングはどこに行ったのデスカ」

 

 

 

 

キング「!……ぁ、私…なんて事を…っ…」

 

 

 

〈スカイに怒鳴り散らした事とウララへの侮辱ともとれる発言を理解したキングは、顔が真っ青になりワナワナと震え出した〉

 

 

グラス「先程も言いましたが気持ちは理解しています。ですが、何よりも先にやるべき事があるでしょう?」

 

キング「……うん」

 

 

〈自分が溢すべきではないと、必死に涙を堪えてスカイに向き直ると、勢いよく頭を下げた〉

 

 

キング「スカイさんごめんなさいっ。私…その……いえ。…本当にごめんなさい」

 

スカイ「ううん。こうなる事…ってよりも殴られるまで予想してたから平気かな」  

 

スペ「さ、さすがだね…」

 

 

 

 

 

〈騒動が落ち着いてくると、昼休み本来の賑やかな空間を取り戻す。

キングは律儀に1人1人謝罪に行ってから、顔を赤くして戻ってきた〉

 

 

キング「あの、ごめんなさ、」

 

スカイ「もー!何回謝んのさ!分かったって!私も煽ること言っちゃってたし!

もうその事で言うのは無しね」

 

キング「ぁぅ……失態だわ…」

 

グラス「そうですねぇ」

 

キング「ヒグッ!」

 

スペ「グラスちゃん!もうちょっと優しくしてあげて!今キングちゃんはナイーブなの!」モギュ!

 

キング「スペさん……」ギュゥゥ!

 

グラス「あらあら〜。スペちゃんに庇ってもらうだけでなく、ハグまで………この、へっぽこウマ娘」

 

スペ「こら!」

 

キング「・・・・グスッ」ギュッ

 

エル「もうただの嫉妬デース…」

 

 

〈若干幼児化している者もいるが、穏やかな昼下がりになった。

そろそろ休み時間も終わる頃で、キング達も席に戻ろうとする時、グラスが足を止める〉

 

 

グラス「何となく思っただけですけど…セイちゃんは菊花賞出ますよね?3000mは精神肉体のみならず、長いレース展開から脳が疲れると聞きます。2000mより少しでも距離を増やした方が良かったのでは?」

 

 

〈ウララの件とは関係ないとばかりに平然と訪ねる。スカイもその事を理解しているのかアッサリと答えた〉

 

 

スカイ「もちろん菊花賞には出るよ〜。でも距離より大切な用事があるから、このレースだけは外せないかなぁ」

 

グラス「用事とは?」

 

スカイ「それは内緒。何も無かったらそれはそれでいいし、何かあった時はまた聞きに来てよ。その時は洗いざらい話すから」

 

グラス「???。分かりました」

 

 

〈グラスワンダーはセイウンスカイというウマ娘を知っている。

表側ではのらりくらりとのんびり歩いていても、裏側ではどこまでも計算尽くだという事を〉

 

 

グラス(今度は一体何が見えているのですか、ねぇ…)

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

ー キングトレーナー室 ー

 

 

悟空「ん?」

 

キントレ「どうしました?」

 

悟空「いや、なんかキングの"気"が変に上がったから。…まぁ落ち着いたみてぇだし平気か。

それにしても……ハァ。スカイか。いつかはヤル相手だったから早ぇうちに当たって良かったんかもな」

 

キントレ「とにかく、注意するのは逃げウマですからね。ただセイウンスカイは普通じゃないので、既存の逃げウマ対策がどこまで通じるか…」

 

悟空「そういや、細けぇとこはオラ知らなかったな。スカイはやっぱ強ぇのか?」

 

キントレ「……身内贔屓になりますが、僕の最高戦力であるキングヘイローから下の順位をとった事がない。全戦全敗なんですよ」

 

悟空「そうか。………よし!とりあえず修行すっか!スカイは逃げウマだから最後に差せる脚を鍛えれば良い勝負すんだろ!んじゃあな!」

 

キントレ「あっ、"ガチャ!"………だから速いんですって」

 

 

〈1人呟くが返答するものはいない。キントレは悟空の出て行ったドアをしばらく見つめていると、今までとは比較にならないほどのため息を吐いた〉

 

 

キントレ「……悟空さん、セイウンスカイの本当の強さは眼に見えないんですよ」

 

 

〈今やセイウンスカイの強さを1番知っているのはキントレだと言っても過言ではない。

愛バであるキングを勝たせようと1から策を練り、シミュレーションを重ね、万全を期して挑んだ結果が皐月賞。

2着で僅差とはいえ、キントレから見ると着差以上の実力の違いを思い知らされた。

キントレは実のところセイウンスカイにさえ勝てば全員に勝てると思ってる所もある。

そのセイウンスカイを今度はハルウララが相手をつとめる事となった〉

 

 

キントレ(悟空さんなら………。いや、僕も考えるだけじゃなくて行動しようか)

 

 

〈今日のトレーニングに向けて準備を始めようと道具を持つと、ある事を思い出した〉

 

 

キントレ「確か悟空さん、キングの"気"が上がったって言ってたな。……今日はケアから始めようか」

 

 

〈当たり前のように''キングの異常には予想ではなく確信をついた"。

 

 

ーーー後日。この意味の真理に悟空は身をもって苦しめられる事となる〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウララ「ふんふっふふん♪らんらんらんっ♫」 

 

悟空「お!ご機嫌だなぁウララ」

 

ウララ「うん!何たってセイちゃんと一緒に走れるんだもん!とっても楽しみなんだー!」

 

悟空「…レースを楽しむのは良い事だ!でも、気をしっかり持つんだぞ?日常と戦いではヒトなんて簡単に変わっちまうからな」

 

ウララ「大丈夫だよ!ウララ絶対勝つから!私も強くなってるし、今度も自信あるんだ〜!」

 

悟空「そっか!なら今日も張り切ってやんぞぉっ!」

 

ウララ「おー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告:(シンボリルドルフ)

 

 

とうとうレースの恐ろしい所が見えてきたな。ここで友としてか、ライバルとして戦うのかで未来は変わる。

龍球ステークス……懐かしいな。私も走ったが断言しよう。

このレースには魔物が潜んでいる。まぁ、この場合の魔物は私自身だったがな…。

 

 

次回、龍球ステークス(2000m)

 

 

なぁ、悟空さん………。貴方はハルウララの事をどれだけ知っている?よく考えるんだ。

 

 

ーーーどうか同じ過ちだけは犯さないでくれ。

 

 



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勝利への渇望と敗北への恐怖




注意

・捏造あり

・実況・解説はテレビに向かって話しているためレース会場には聞こえてない

・視点がたまに変わります

・語彙力不足により、今作やこれまでの作品を含めて、似た表現あり



 

 

 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

キング「本当にごめんなさい…」

 

スカイ「だからもういいって!許s、」

 

グラス「許しません」

 

スペ「こーら!」

 

エル「ハァ……」ヤレヤレ

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

実況「さぁ!とうとうこの時が来ました!龍球ステークス!他のG2レースよりも、ここからG1ウマ娘を生み出す確率が高い事からスーパーG2とまで呼ばれています!」

 

解説「クラシックを走る彼女達からすれば、このレースに合わせてローテーションを組むウマ娘も少なくないでしょう。それほどまでに格式の高いレースになりますね」

 

実況「はい!その中でも注目視されるのは何と言ってもセイウンスカイVSハルウララ!」

 

解説「セイウンスカイといえば皐月賞を獲ってますからね。黄金の一角を担う彼女に、有馬チャレンジ2連勝のハルウララがどこまで喰らいつけるかがポイントです」

 

実況「解説さんはこの龍球ステークスのレース展開をどう予想しますか?」

 

解説「そうですね…。能力の高いウマ娘揃いなのは理解していますが、この場合はセイウンスカイとハルウララに注目しますね。

その2人で考えるのなら、セイウンスカイに軍配が上がっていると思いますよ」

 

実況「セイウンスカイですか。やはり皐月賞バだからですか?」

 

解説「もちろんそれもあります。皐月賞と同じ距離ですからね。後はダービーで負けたといえども4着は充分評価に値します。

しかも、それに加えて最内1番。逃げウマ娘にとって最高のゲートなんですよ」

 

実況「なるほど。さまざまな観点から見てもセイウンスカイがやや有利ですね」

 

解説「って、普段なら言いますけど…。」

 

実況「???」

 

解説「常識外れをするのがハルウララなんですよね…。・・・すみません!私には分かりません!」

 

実況「あはははっ!皆さま申し訳ありません!解説さんが放り投げてしまう程のレースになると思ってください!」フフッ

 

解説「……お恥ずかしい。申し訳ありません」

 

実況「いえいえ!今回のは私も全く読めませんからね!しょうがないですよ!

…さっ、では出走まで時間がありますので皆様も、もうしばらくお待ちください」

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

〈出走ウマ娘の控え室。悟空とウララは軽いストレッチをしながらレースについて話し合っていた〉

 

 

悟空「もう少しだな。んじゃ最後にもう一回だけ確認すんぞ」

 

ウララ「うん!」

 

悟空「まず初めにスカイは1番ゲートでウララは8番ゲート。この時点でも不利にはなるけど、」

 

ウララ「負ける要因にはならない…だよね!」

 

悟空「フッ…ああ、その通りだ。そんでキントレの話だと敵はスカイだけだと思っても良いらしい。

逃げるアイツだけに集中すんのは楽だけど、裏を返せばスカイが段違いに強ぇって事になる」

 

ウララ「うん…」

 

悟空「だからこれまでの期間は逃げウマ対策をやってきた。が、レースでは何が起こるか想像もつかねぇ」

 

ウララ「集中しないと、だね」

  

悟空「そうだな。だけど怖気付く必要はねぇぞ?おめぇには、そんな奴らに勝てるだけの力をつけてきたんだ!」

 

ウララ「!!!」

 

悟空「この龍球ステークスで勝って!まとめて有馬記念も制覇する勢いで行こうぜ!!」

 

ウララ「うん。そーだね!」

 

悟空「よし、そんじゃあいつものだな!」

 

ウララ「悟空さんお願いね!」

 

悟空「おう……っ…頑張んぞぉっ!!!」

 

ウララ「おーーっ!!!」

 

     ・

 

     ・

 

     ・

 

 

 

〈その後も、100%の力を出す為に身体を暖め、精神を統一し、気がつけば出走時間まできていた〉

 

 

ウララ「それじゃあ、行ってくるね!」

 

悟空「おう!行ってこい!・・・・あ、ちょっと待てウララ」

 

ウララ「ほえ?なぁに?」

 

 

〈出来る事は全て話した筈なのにと、不思議そうな顔をして振り返る。

すると悟空は表情から笑みを消していた。

それは敵地に足を踏み入れた様な…悟空自身が戦う様な険しい顔。

ウララは自然と顔を引き締めた〉

 

 

ウララ「…悟空、さん?」

 

悟空「ウララ…前にも言ったけど、スカイを甘く見るんじゃねぇぞ」

 

ウララ「………ホッ。なんだぁ…お顔がちょっぴり怖かったからビックリしちゃったよ。

だーいじょーぶっ!セイちゃんとは何回か一緒に走った事あるし悟空さん心配しすぎだよ!」

 

悟空「それでもだ」

 

ウララ「それにセイちゃんとだったら、ウララはもっと楽しく走れると思う。今までだって一緒になって笑ってたんだもん!」

 

悟空「っ!……ウララそうじゃ、」

 

ウララ「まぁまぁ、見ててよ悟空さん!今のウララ、結構ワクワクしてるんだぁ!……ウララは勝つよ。絶対に!」

 

 

〈ウララの目はこれ以上ないくらいに前を向いていた。スカイに対する油断も気後れもせず、果敢に立ち向かう。

 

ーーーーーーそう、ウララはいつも通りだ。

 

悟空はすっかり置いてけぼりをくらい、誰もいない部屋で1人呟く〉

 

 

悟空(ワクワクかぁ…オラも戦う時は思ってたけど…)

 

 

 

 

   「それだけじゃあ、なかったぞ」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

ーーーカツカツカツ

 

〈控え室からターフへ向かう裏通路に足音を反響させながら歩く1人のウマ娘〉

 

 

 

実況「続々とターフに姿を現せてきたウマ娘達!1番人気のセイウンスカイは堂々…というよりも平然と佇んでますね」

 

解説「マイペースこそ彼女の強さですからね。万全な状態と言っても良いと思います」

 

 

 

〈悠々と歩く姿に迷いは見えない。ただ勝利だけを信じ、光のさす未来へひたすら歩き続ける〉

 

 

 

実況「なるほど。調子は万全。そして皐月賞で勝った距離と同じ2000m、ゲートは最内1番。かなりの好条件が揃ってます!」

 

解説「そうですね。それに対してハルウララは大外枠。この時点で不利にはなりますが、もはや常識では考えられない事をしてますからねぇ。覆せる力はあると思いますよ」

 

実況「これはセイウンスカイとハルウララの一騎打ちになりますかね。……あっ!」

 

 

 

 

〈薄暗い通路に日が差すとそのウマ娘は僅かに口角を上げ、目を妖しく光らせた〉

 

 

 

    〈…さぁ、勝負をしよう〉

 

 

 

 

 

ーーーっっ………ワアアアアアアアッ!!!

 

 

実況「あ、ついに来ました!!」

 

 

 

 

〈黄金の壁を壊すためハルウララ戦場に立つ〉

 

 

 

実況「ハルウララだああああ!セイウンスカイと同じ様に一層強く湧き上がる大歓声ッ!! 

満を持してハルウララ、ターフに足を踏み入れます!」

 

 

 

 

    

 

 

ー side ハルウララ ー

 

 

 

裏通路から太陽の下に出ると、ダート出身のウララでも見慣れてしまった緑のターフ。

靴越しに芝の感覚を味わうと、身体全身を叩かれるような見えない刺激が襲ってきた。

 

 

ワアアアアアアアッ!!!

 

「ウララー!応援してるぞー!頑張れぇ!!」

「黄金世代なんてぶっ倒せー!」

「絶対勝てるよ!頑張れウララちゃん!!」

 

 

みんなが応援してくれている。

それに前に比べて"勝って"っていう言葉をよく聞く。一生懸命とか楽しんで、とかよりも。

みんながウララの勝利を信じてくれているんだ。

 

 

「ありがとー!ウララぜっっったいに勝つからねー!」

 

 

観客席へ両手を振り回して言うと爆発みたいな音で返ってきた。それを肌で感じると嬉しい気持ちで胸がいっぱいになった。

ウララは1人じゃない。応援してくれる人達のためにも勝たないと。

 

やる気を出して拳を握ると、頭の後ろで手を組んでいるセイちゃんを見つけた。

まずは挨拶をしなくちゃ。そう思ってセイちゃんに近づいていく。

 

セイウンスカイ…セイちゃん。1つの世代に怪物級が何人もいる事から黄金世代と呼ばれ、その中でもトップクラスの位置にいるウマ娘。

 

 

(キングちゃんやグラスちゃんは分かるけど、普段のセイちゃんからは想像できないんだよねぇ…)

 

 

それでも強いのは知ってる。遊びでだけど、たまにやる併走で思い知らされた。

結局は笑っちゃったりして真面目には出来てなかったんだけどね!

他のみんなを含めて最初に公式レースで走るのはセイちゃんが初めて。

きっと楽しいレースになると思う!

 

 

「おーい!セイちゃ、、、、、っ!」

 

 

手を組んで微動だにしないセイちゃんを後ろから呼びかけたけど、、、おかしい。

急に言葉が出なくなった。呼吸も荒い気がする。まだ走ってもないのに…。

 

悟空さんとの修行で、自分の身体の事は細かい所まで把握しろって言われてる。

心身に異常があれば、出来ることが限られてしまうから、らしい。

だから身体の自己分析は徹底的にやれって言われて、怪我の事には詳しくなったつもりだけど、

 

……こんな心臓を握り締められているような感覚、ウララは知らない。

 

ウララの身体に何か起きちゃったのかな?

〜っ!だめっ。怖くなってきちゃって涙まで出そうになってきた。

 

そんな異常事態が起きていたのに、突然スーッと"それ"はなくなった。

 

 

「ウララ大丈夫?泣きそうな顔してるけど…」

 

 

途中まで呼んだ事に気づいたのかセイちゃんが近づいてきてくれた。

ウララの顔を覗き込むようにして頭を撫でてくれている。

だけど、それも触れるだけ。すぐに手を引っ込めてしまう。

 

 

「セイちゃん…。うん、ごめんね!なんかいきなり気分悪くなっちゃって…。もう大丈夫だよ!」

 

「そう?平気なら良いけどさぁ〜。セイちゃんだってウララと走るのは楽しみにしてたんだから気をつけてよねぇ〜」

 

「あはは!ごめんごめん!………楽しみにしてくれていたんだね」

 

「…もちろん。私はウララのファンだからねぇ」

 

「そうだったの!?嬉しい!けど、セイちゃん適当な事言うからなぁ。普段と違う事言ったら8割は適当だと思えって言われてるし」

 

「なにそれ心外!誰に言われたの!?」

 

「キングちゃん」

 

「………あの、へっぽこお嬢様め。まぁいいや。もうすぐ始まるし、平気なら行こうかな。

…楽しいレースになると良いね」

 

「うん!ウララ絶対勝つからね!セイちゃん超えしちゃうよ!」

 

「ほー、そかそか。セイちゃん超えかぁ…。ならセイちゃんも、

 

ーー絶対に負けられないし、頑張ろっかな」

 

 

一段と声を低くして離れて行く。

ウララもセイちゃんから視線を外して観客席の方へ向くと、後ろから【じゅー】って誰かが呟いた。

 

意味は分からないけど、自分の事に集中しなくちゃ!

 

 

 

 

 

 

〈ハルウララから離れてゲートに近づくセイウンスカイ。彼女の視線は客席ではなく、ゲートやコース、ゴール板を流し見る様にして、小さく口を開く〉

 

 

スカイ(絶対に勝つ、かぁ…)「さーん」

 

 

 

 

 

(意気込みは大事だけどねぇ)「にーい」

 

 

 

 

 

("あの程度"の事で狼狽えてるヒトに絶対の言葉は早いんじゃないかなぁ)「いーち」

 

 

 

(それに……戦いはもう始まってるよ)

 

 

 

 

     「ぜーろっ♪」

 

 

実況「ハルウララ。客席を見回し3度の深呼吸。この後に来るのはいつものっ、……出ましたあああ!ハルウララのルーティーン。手を合わせてお辞儀!独特かつ清楚な振る舞いから、大人気の仕草!」

 

解説「ファンの間ではアレを"女神の祈り"と呼んでいるみたいですよ」

 

実況「なんとっ!またもや名前がつきましたか!有馬チャレンジに続いて、女神の祈り!ハルウララ伝説は止まる事を知りません!」

 

 

 

 

 

ーーーふぅ。

目を開けるとウララの真似をして、手を合わせている人がチラホラいる。

ファンの人かな?暖かい気持ちになる。

そんな時ファンファーレが鳴った。スイッチを切り替えるように心が熱くなってくる。ここで勝てば、ウララの走りが通用する事が、しょーめーされる。係の人に導かれてゲートに入った。

 

 

ーーー勝負だよ!セイちゃん!!

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

〈続々とゲートに入るウマ娘達。それを見るキングとキントレの面持ちは険しかった〉

 

 

キング「・・・・・」

 

キントレ「…ねぇ、キング。もしウララがスカイに勝ったらどう思う?」

 

キング「……あなたも中々残酷な事聞くわね」

 

キントレ「いやぁたまに考えるんだけど、なんか複雑でさ、もちろん喜びはするけど、悔しいとも思うかな」

 

キング「……似たようなもんよ」

 

キントレ「そっか」

 

キング「それより悟空さんはどこにいるの?」

 

キントレ「さあ?どっかで見てるんじゃーーーっ!」

 

 

〈ゴオォォォ!っと、キング達の周辺で突風が吹き荒れる。キング達だけでなく他の人達も目をギュッと閉じて、風がおさまるのを待った〉

 

 

キントレ「・・・ぷはぁ、大丈夫だった?凄い強い風だったね。レースに影響出ないといいけど、」

 

キング「…………もう、起こらないから大丈夫よ」

 

キントレ「そうなんだ。………なんで分かr」

 

 

〈キントレがキングの方を見ると、答えが目の前にあった〉

 

 

キントレ「……何やってんですか?」

 

悟空「ん?何って…ウララのレース見るだけだけど」

 

 

〈"いつもの事じゃねぇか"と悟空は言うが、そういう意味ではない。だが、全部問いただすと、周りの人達に聞こえてしまうため小さい声で話した〉

 

 

キントレ「そうじゃないですよ。……もしかして瞬間移動しました?こんな人目の多い所でっ!」

 

キング「落ち着きなさいトレーナー。瞬間移動じゃないわ。独特の風切り音は聞こえなかったし、瞬間移動なら風は発生しないはずよ。

どうやって来たかは分からないけどね」

 

悟空「さすがキングだ、9割あってる。来た方法は1回ターフに着地して前から入ったんだ。

後ろからじゃあ、人が多くてとても入れなかったからな」

 

キントレ「なるほど。超スピードで風を起こして、その隙に………ハァ、」

 

キング「考えるのはよしなさいな。悟空さんは、このキングの辞書に諦めるという単語を書き加えた人よ」

 

キントレ「……なにその説得力の塊。抵抗する事もなく綺麗に諦めれるよ」

 

悟空「おめぇ達。何言ってっか知らねぇけど、始まんぞ」

 

キング・キントレ

((…一発で良いから思いっきり殴りたい))

 

 

 

〈キング達は唇を噛み締めてゲートに目を向ける。出走ウマ娘が全員ゲートに入ると沈黙が訪れた〉

 

 

 

実況「さぁ……体制完了。龍球ステークス、芝2000m。

 

……スタートしましたあああ!ーーーっ!」

 

 

〈実況がほんの少し言葉に詰まると、ざわめき出す客席。悟空達も例外なく叫んだ〉

 

 

キング「そんなバ鹿なっ!!!」

 

キントレ「……ありえない…っ!」

 

悟空「こいつは……どうしたんだ、アイツ…」

 

 

〈時間にして3秒。実況が我に返る〉

 

 

実況「っ、番狂わせなスタートだ!1番人気、最内枠1番のセイウンスカイ!

  

出遅れだあっ!!!後方からのスタートになります!」

 

 

解説「ハルウララや他のウマ娘も綺麗な飛び出しですね。盛り返そうとセイウンスカイが内から先頭争いに加わります。

ですが、これで体力を温存する事は出来なくなってしまったと思いますよ。厳しいレース展開になりそうです」

 

実況「それを吉と、とったウマ娘、ペースを上げます」

 

 

〈そして慌てているのは観客だけではない。もっと、それ以上に困惑しているのは出走ウマ娘の方だ。

その出来事はハルウララの平常心を奪うものだった〉

 

 

ウララ(あのセイちゃんが出遅れ!?…急いで先頭にたったみたいだけど、、っ。だめだめ!集中ッ!

セイちゃんに悪いけど、これはチャンスなんだ!」

 

 

〈惑わされるのは一瞬の事。ハルウララの精神は簡単にブレはしない。ハイペースになりつつある、隊列の中団の位置に構えた。

しかし、ハプニングはそれだけでは終わらない〉

 

 

実況「………これは一体どういう事でしょうか…。先頭にたったセイウンスカイ…2番手追走してるウマ娘より5バ身、前にいます!

出遅れからの大逃げはリスクしかありません!これは掛かっていると見ても良いのでしょうか?」

 

解説「そうですね…普通ならここで掛かっていると見るのが当然ですが…それをやっているのは、あのセイウンスカイなんですよね。何か考えがあると思ってしまいます」

 

実況「なるほど。それは他のウマ娘も同じ事を考えているようです。

逃げに逃げまくっているセイウンスカイから目を離さず、ジリジリとペースを上げていく!」

 

 

〈先頭のセイウンスカイは早くも向正面から3コーナーへ。その時、状況は一変する〉

 

 

ウララ(!!!…あれは………よしっ!)

 

 

 

実況「3コーナーに入った所でセイウンスカイが減速!やはりあれは掛かっていたのか!

スタミナ切れを逸早く察知したハルウララがペースをさらに上げてセイウンスカイに襲い掛かる!」

 

解説「さすがに無茶な走りでしたか、ね。一方でハルウララはいつも通りの追い上げより少し早いですけど、捉えにいってます!」

 

 

〈途中までの勢いはなかったみたいに超失速。僅かに脚がブレたり、回転が鈍くなっている。

そんなスカイをウララは見逃す事をしない。外から回って、カーブとともに速度を上げる。

 

そんなセイウンスカイを茫然と見るものが観客席に2人〉

 

 

キング「そんな…あのヒトがペース配分を間違えるなんてっ」

 

キントレ「……レースは完璧じゃない。それは分かっているけど、あのスカイが……。」

 

 

〈セイウンスカイの敗北。力を全てを出しきって、ウララが勝ったのなら複雑ながらも喜べるだろう。

だが、出遅れからの掛かって、最後はスタミナ切れなんて、セイウンスカイを目標に戦って来た2人には受け入れ難い出来事だった〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      「本当にそうか?」

 

 

 

 

 

キング「・・・・え?」

 

キントレ「ご、くう、、さん?」

 

 

〈ポツリと呟く悟空を見ると、2人は驚いた。

悟空は腕を組みながらターフを…スカイを見る。いや、見るなんて生易しいものではない。

一挙一動、全てのものを見逃さないようにする視線は、自分に向けられたものではないに関わらず、背筋に寒気が走るほど。

戦士と呼べる姿がそこにあった〉

 

 

悟空(…………これがセイウンスカイか。ウララのやつは…)

 

キング「悟空さん?」

 

 

 

〈キングは再度悟空に問いかけるが、客席の叫び声でターフに意識を戻した〉

 

 

 

実況「さあ!龍球ステークスの大詰め!第4コーナー中間!

ハルウララ、セイウンスカイまで後2バ身!」

 

解説「失速するセイウンスカイに加速するハルウララ。直線に入る頃には追いついてそうです!」

 

 

ーーーーーー

 

 

はぁはぁはぁ、、、、あはっ!

セイちゃんが手の届く位置にいる。疲れたのに笑いが込み上げてきた。

この調子だと直線までには追い越せそう。セイちゃんだけが相手じゃないから、先頭に立った後でも気をつけないと。

 

 

 

実況「ハルウララ!セイウンスカイまで半バ身!怒涛の末脚で龍球ステークスの覇者になれるか!」

 

 

直線に入るとセイちゃんが横に見えた。

ウララが先頭だ!このまま行ける!勝つんだ!!

セイちゃんも、黄金世代と呼ばれる皆だって、全員まとめてウララが勝って!有馬記念でも勝つんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦いはどんな過酷な道のりを歩いても結果が全てだよ」

 

 

 

 

………え、

 

 

 

 

 

実況「これは信じられないっ!

直線に入った所でスタミナが切れ、ハルウララに先頭をとられたセイウンスカイがなんとっ!

内からもう一度差し返したああっ!!!」

 

 

 

そんなっ!

セイちゃんはもう限界な筈!残りの力を振り絞ったんだ。一時的なものならもう一回!!

 

 

〈ウララは一段と身体を小さくして再加速をした。それでも差は縮まらない。それどころかスカイの背中が遠のく一方だった〉

 

 

クッ!…ゴールまで後少し、勝つんだ。絶対にウララが勝つんだ!!

脚が壊れても良いから今まで以上に強く踏み込もうとした時。

また"あの感覚"がウララを襲って来た。

 

 

  …ゾワッ

 

 

出走前に感じた時よりも強い悪寒。レースも最終だから暑いくらいなのに、いきなり水風呂に放り投げられたような感覚。ウララは恐怖と困惑で頭がおかしくなりそうだった。

 

何で今なるの!?大事な場面なのに!!だめだめ!ぜぇぇぇったいにダメ!!集中するんだ!

 

セイちゃんの隙を見逃さないようにしっかりと見て、

 

 

 

  ーーーーーゾクッ!!!!!

 

 

 

 

   …っ………ぁ…わかっちゃった……

 

 

 

 

    …ウララ………かてない…

 

 

    ごめんね…悟空さん…みんな……

 

 

 

 

 ごめんね…………………トレーナー…。

 

 

 

 

 

実況「ハルウララ懸命に追いかけるが届かない!

セイウンスカイが魅せた!これが黄金を担う一角!皐月賞バ、セイウンスカイ!!

 

龍球ステークス、逃げ切って1着でゴールイン!!

 

2着は4バ身離されたハルウララ!有馬チャレンジ3戦目にて敗北!!やはり黄金の壁は高かったのか!壁を壊す事が出来ませんでした!!」

 

解説「いやー、ハルウララ惜しかったですねぇ。これは相手が悪かったとしか言えません。それほどまでにセイウンスカイが強すぎたレースだと思います」

 

実況「それにしても解説さん。セイウンスカイのレース展開に謎が多く感じますが、説明出来そうですか?」

 

解説「……確証はありませんが、考えられる事は1つだけ思い浮かんでます」

 

実況「本当ですか!?ぜひ聞かせてください!」

 

解説「はい。セイウンスカイ目線になりますが、レースが始まる前からネタを仕組んでいたと思います。

逃げのセイウンスカイは1枠1番。差しのハルウララは8枠16番。

この時点でセイウンスカイが有利ですが、あえてこのゲートをトラップとして仕掛けました」

 

実況「ゲートの仕掛け……出遅れの事ですか?」

 

解説「はい。スタートを完璧に決めるより、出遅れた事で困惑するウマ娘が多かったと思います。"あの"セイウンスカイが出遅れた。自分が勝てる材料が増えた。とか」

 

実況「その後は暴走に似た逃げでしたね」

 

解説「そこがトラップ2です。セイウンスカイが逃げた。大逃げに近い走り。一見掛かったように思えても、相手は"あの"セイウンスカイ。何かやるつもりだと、ウマ娘達は自分のペースではなく、セイウンスカイのペースに合わせて走りました」

 

実況「ハイペース寄りの走りでしたね」

 

解説「それで、その考えを捨てる出来事。第3コーナー付近のセイウンスカイ失速です」

 

実況「もしかしてそれも!?」

 

解説「はい。トラップ3です。ウマ娘達は我々も感じたようにセイウンスカイが掛かっていたと考えます。でも実はこの時セイウンスカイは休んでいて、脚を溜めている最中なんですよ」

 

実況「なんとっ!そこまで考えられていた事だったのですか!?」

 

解説「恐らくは…その事を知らないウマ娘達はそれを機にハルウララも含めて、セイウンスカイに襲いかかりました」

 

実況「なるほど。引っかかったポイントは全てセイウンスカイの罠だったという事ですね。では今回のレース展開とはっ」

 

解説「はい。"あの"セイウンスカイが出遅れたからチャンスだと思ってスピードを上げて。

"あの"セイウンスカイが大逃げに近い無謀な走りをしても、何かあると考え、距離を詰める。

"あの"セイウンスカイが失速。脚を溜めている事に気づかず、掛かっていたと考え、怒涛の末脚を披露。

 

セイウンスカイが悠々と走ってる間、他のウマ娘達は休む事なく2000mをフルスピードのまま駆けていました。

 

脚を溜めていたセイウンスカイ。脚を使いすぎたハルウララ。

最後の直線でどちらが有利かは結果を見れば一目瞭然」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キントレ「…と、そういう事ですか?悟空さん」

 

 

〈時同じくして、客席の方でもレース展開について話し合っていた。何かを感じ取った悟空は要所要所キントレに説明をして、それを当てはめると解説と同じ結論に達した〉

 

 

悟空「ああ。細けぇ理由までは分からなかったけど、スカイの動きは全部意図的だと思う。

確かにスピードは落ちていくし、ふらついていた時もあった。あれは多分わざとだ。スカイの身体の軸は全くブレちゃいなかった。手足の連動もしっかりしてたしな」

 

キントレ「…まんまと策にハマりましたね」

 

キング(………ウララさん)

 

 

〈勝ち方なんてどうでもいい。今考えるのはウララの事だと、キングはゴール板から少し離れた位置を見る。

そこには力無く地面に手をついているウララの姿があった〉

 

 

 

 

……まけた………から、下を向いてる訳じゃない。怖いんだ。

最後の直線の時、セイちゃんを見て分かっちゃった。ウララが出走前に感じた寒気と同じ感覚。

"アレ"を相手にウララが戦えるはずがなかったんだ。

 

 

   ーーーザッザッザ

 

「…ウララ」

 

 

目の前から声が聞こえた。少し前を向くと足が見える。

 

 

「セイちゃん……」

 

 

走り終わった後だからかな。心臓の音がうるさく聞こえる。

ちょっと苦しいけど、声をかけてくれたんだから、ちゃんとお顔見ないと。

少しずつ顔を上げていく。足、お腹、胸、……そして。

 

 

ーーーーーヒュッ

 

 

喉から声にならない音が漏れた。

 

 

「ウララ?」

 

「ぁ…ぁあ……っ……こないで」

 

 

は、はは。もう、わけがわからない。

セイちゃんに…お友達に、こないでなんて、酷いこと言っちゃって…。

でも、ごめんなさい。…ウララは…怖い。

 

 

「っ!……ウララ、聞いて。今感じてる想いはきっとウララの力になる」

 

 

お友達なのに怖がってごめんなさい。

でもね、あなたがおかしいんだよ?…あんな威圧感だけで動きを止めてくるなんて…。

 

 

「まだ時間はある。諦めないで、立ち上がって」

 

 

ウララだって頑張ったんだよ?

血が滲むどころか、、死にそうになってまでトレーニングして…悟空さんの事だから本当に死にはしないけど…。でもさ、誰よりも必死でやってきたって自信があったんだ。

 

…それを簡単に潰したあなたが怖い。これまでのトレーニングが全部無かったことにされちゃった。

 

 

「お願い、私の声を聞いて」

 

 

多分セイちゃんだけじゃないよね。本気のセイちゃんに立ち向かうキングちゃん。ダービーで勝ったスペちゃん。そのスペちゃんに勝ったグラスちゃんに、同じくらい速いエルちゃん。そして有馬記念に出走するヒト全員……。

 

……………ははっ。…最初からウララが相手になる訳なかったんだ。

 

 

「私程度で怯えちゃダメだ。ウララなら、」

 

「…ぁ…ごめっ…な、さい………もう許して」

 

「っ!!!ウラっ!……………そう」

 

 

〈手と膝をついたまま、ウララはぎこちなく歪んだ笑みを浮かべて言った。

スカイは目を見開いて近づこうと足を一歩踏み出したが、それで終わる。

たった一言だけを呟いて踵を返した。

 

その様子は周りからどう見えたのだろう。鎬を削った相手として讃えあったと見えたのか。

スカイとウララを賞賛する声が観客席から響く。

凄まじいレースを見て興奮しているのだから気づく者は1人もいない。

ウララから離れるスカイの、力強く握りしめた掌から血が滴り落ちている事を…〉

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

〈キングは表情を変える事なく、ただスカイとウララを見ていた。スカイの目的に予想をつけて、ウララの心境には思い当たる事がある。

そんな2つの重く冷たい感情から目を逸らないつもりだったのに、急遽視線を外した。

隣から空気を読まない声が流れて来たからだ〉

 

 

悟空「いやー!スカイの奴とんでもねぇ強さだったな!けど、ウララだって負けてなかった。まだまだ強くなれるだろうから早速修行してぇな!」

 

キング「・・・・・」ピクッ

 

 

〈これが悟空の強さだ。例え負けたとしても、強さを求めて修行の旅に出る。戦いの中で後悔が残る所があったのなら、それを無くせばもう一段強くなる。

それが悟空のやり方であり、強さの秘密だ。悟空を知る者なら全員が呆れて笑ったほどである。 

 

だけど、それは悟空だから出来た事。

 

その考えを、一生に一度、時間の決められたレースの中だけで戦うウマ娘が、どう受け取るのか。

悟空の言葉にキングヘイローのトレーナーが返した〉

 

 

キントレ「悟空さん。とりあえず今日は何もしないようにお願いします」

 

悟空「え、そうなんか?オラはレースの事を覚えてる内に少しでもやった方がいいと思うけどなぁ」

 

キントレ「いえ………やめましょう」

 

悟空「…そっか。おめぇがそこまで言うなら、その方が良さそうだ」

 

キントレ「そして、これから言う事を忘れないようにお願いします」

 

悟空「言う事?」

 

キントレ「はい……もしも、ウララがトレーニングをやらなくなったら、早いうちに僕の所に来てください」

 

悟空「???…そんな事あるんか?だってあいつは、」

 

キントレ「いいですね?」

 

悟空「・・・分かった。けど、そんな事を言うだけの何かがあんのか?」

 

キントレ「……はい」

 

悟空「なんだ?」

 

 

 

キントレ「ウマ娘に僕達トレーナーがつく本当の理由がそこにあります」

 

 

 

 

 

 

 

次回予告:(オグリキャップ)

 

 

オグリキャップだ。よろしく頼む。

 

このレースの恐ろしい所が出てしまったな。1着を獲った者と力の差を感じ、畏怖を抱く。

それが龍球ステークスに魔物が住むとされる所以だ。

上に行ける者と行けない者の差がハッキリしてしまう。

 

最近のレースでハルウララはG1並みの圧力を与える側だった。しかし今日、本物のG1ウマ娘の圧力を正面から喰らった。

ウララの場合は想像を絶するトレーニングをしてきたが、友達のレースにおける裏の顔を見たのは初めてだろう。精神ダメージを人一倍強く負ったはずだ。

 

だが、臆することはない。

1着を獲った者が他の同年代より早く本格化を迎えただけなんだ。

だからそれは一時的なもの、すぐに追いつける。龍球で勝った私だってその後何度も負けた。諦めなければ何度だって戦えるんだ。

 

………諦めさえしなければ、な。

 

 

 

次回、悟空とウララの関係。

 

 

 

なんだ悟空、そんな顔をして、

 

 

 

   …とりあえず一緒にご飯を食べようか。

 

 



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超戦士の苦悩 ー 前編 ー




とんでもなく遅くなりすみません。
内容は決まってたのですが、字にすると難しかったです。

結果的にも、読者さんを置いてけぼりにしそうな文章になってしまいましたが、これが限界でした。
話の流れだけ感じ取ってください…。


注意点
・話が長くなりそうなので、前、後編に分けました。

・後編は早めに投稿します。





 

 

 

 

 

 

 

ー前回のあらすじー

 

 

 

ウララ「あなた達が…怖い…」

 

スカイ「お願い、ウララ……乗り越えて…っ」

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

〈龍球ステークスから3日が経った。激闘を繰り広げたスカイとウララに対して興奮が冷め切らないウマ娘達は大いに盛り上がった。

しかし、その声はもう聞こえない。単純に熱が冷めたのか、もしくは話せないか…〉

 

 

悟空「………いた」

 

 

〈誰に話すわけでもなく呟いた。悟空の視線の先には当てもなく歩いているウララの姿。

今までのようには話しかけず、遠目から見つめる悟空。そして、〉

 

 ーーーシュン

 

 

悟空「ウララ」

 

ウララ「っ!」

 

 

〈瞬間移動ではない。風を巻き起こすほどの高速移動で暴風と共にウララの目の前へ現れた。

悟空の真剣な目にウララはゴクンと喉を鳴らせる〉

 

 

悟空「修行、再開すんぞ」

 

ウララ「・・・・・」

 

 

〈レース後にキントレが言った事、すぐにトレーニングの話はしない。それは聞き入れてその通りにした。念のために翌日もやめた。

しかし予兆はあった。悟空が何気無しにウララへ話しかけても体をビクつかせ、予定があるからとどこかへ行ってしまう。

レースから2日経った時も同じだった。修行をしようと話しかける悟空にウララは逃げる一方。

それどころか視野に入れるだけで踵を返す始末だった〉

 

 

悟空「身体を動かす気分じゃねぇなら、それはべつに構わねぇ。怪我するだけだしな。だけど何もしねぇってのは駄目だ。せめて戦術の1つでも増やさねぇと龍球ん時、」

 

ウララ「っ悟空さん!」

 

 

〈突如声を荒げるウララ。何事かと聞こうとした悟空はウララの表情を見て口を閉じてしまう〉

 

 

悟空「・・・ウララ」

 

ウララ「あ、いや、、タハハ…ご、ごめーん。ウララ行かなきゃ行けない所があるからトレーニングは……無理かも」

 

悟空「おめぇ…昨日もそうやって、」

 

ウララ「ごめんなさいっ!」

 

悟空「あ、おいっ!」

 

 

〈手を伸ばしても、駆け出したウララに届くはずもない。捕まえようと思えば簡単に出来るが、ウララの表情が脳裏に浮かぶ悟空は黙って背中を見続けるだけだった〉

 

 

悟空「…これ以上はオラじゃ難しいかもな」

 

 

〈チャレンジした回数は全て同じ結果を辿った。負けた事で気分が落ちてる事は分かる。だがそれだけじゃない事はウララの表情が物語っていた。

しかし、それ以上の事を悟空に知る術は無い〉

 

 

悟空「いま"アイツ"は………トレーナー室の方か」

 

 

〈レース後に気になる事を言った"アイツ"なら何かを知ってるはず。

まだ半袖でいれる程暑い日に、何故か身体に冷えを感じながら悟空はゆっくりと歩き出した〉

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

side キントレ(キングヘイローのトレーナー)

 

 

……ふぅ。

龍球から3日か。あの時のレース展開などをパソコンにデータとして残す。良い事悪い事を判別して今後に活かすためだ。・・・今後があれば良いけど、

 

コンコン

 

ノック音が部屋に響く。控えめなのに鈍く重い音、標準より大分強いのにドアは無傷という1つ1つの行動がハチャメチャな人はあの人しかいない。

 

 

「どうぞ」

 

 

ガチャ

 

 

悟空「よぉ」

 

 

片手を上げて挨拶する人は想像通りの彼だ。

 

 

「お疲れ様です。悟空さん」

 

悟空「おう、おめぇもな」

 

 

・・・もう一回言いたい。でも不審に思うかも知れないから心の中で言おう。

悟空さん、本っ当にお疲れ様です…。

そう何度も言いたくなるくらい酷い顔をしている。やつれているのか、引き攣った表情だ。

 

 

悟空「ちょっと話してぇ事あんだけど、良いか?」

 

 

人懐っこい笑顔を見せる事は無く、苦笑いを浮かべて言った。

答え合わせするまでもない。僕の想像していた事が、そのまんま起きてしまったんだろう。

 

 

「ウララの事ですよね」

 

 

ウララの情報ならキングから伝わっているし、そうでなくとも見たら分かる。

 

悟空「…やっぱ分かってたか」

 

「ええ。…お茶を淹れます。楽にしていてください」

 

悟空「さんきゅー、、、」

 

 

室内にあるソファに誘導してお菓子を置いた。悟空さんの腹の足しにはならないと思うが少しでも食べて元気になってほしい。

 

 

 

……と思ってたんだけど、

 

これは重症だ…。

 

 

「…食べないんですか?」

 

悟空「ん?」

 

 

ポッドから急須へ。茶葉を蒸らすこと40秒。色々準備もして合計3分弱。今も机の上にはゴミ1つ無い。

 

 

「お菓子、食べて良いんですよ?」

 

悟空「あー…今は、いっかなぁ。そもそもオラ死んでるし腹減らねぇんだよ」

 

「…そうですか」

 

 

それならいつもの暴食は何だ!…と叫びたい。おそらく悟空さん自身気づいてない異常事態だ。しかし、僕はこれをチャンスだと思った。

周りが出しゃばって勢いまかせに元通りする事は可能だろう。だけど、それまでだ。

これから先に戦えるとはとても思えない。悟空さんとウララが本当の意味で分かり合わないと駄目なんだ。

 

ーーちょっと先輩風吹かしてみようかな。

 

 

「それでは悟空さん。状況を知りたいので最近のウララについて教えてください」

 

悟空「ああ。〜〜〜〜〜、」

 

 

ふむふむ。

 

 

悟空「そんで〜〜〜、」

 

 

なるほど。

 

 

悟空「〜〜〜ってな感じだ」

 

「そうですか」

 

 

結局、龍球の後は話を出来ていないらしい。

 

 

悟空「ここに来る前会ったんだけど、同じ事だった。用事があるっつって走って行っちまった。……でも用事が無ぇ事は分かってる。跡つけたら公園で座ってるだけだったし、今も1人で動いてねぇ…」

 

「落ち込んだウララを見た事は?」

 

悟空「んー、暗いウララは知らねぇなー。ずっと笑ってるし、修行から逃げる時もあったけどすぐ自分から戻って来てたか、ら、・・・」

 

 

いきなり言葉が詰まって黙ってしまった。何か思い当たる事があるのか顎に手を置いて首を傾げていると、"いや,,と呟いた。

 

 

悟空「あったな……」

 

「ウララが落ち込んだ時ですか?」

 

悟空「落ち込むとはちょっと違ぇけど、諦めた事があったんだ。

修行を始めたばっかの時に鬼ごっこをしたんだ。オラをタッチ出来たらお菓子やるって言ってな」

 

 

当時を思い出してるのか、時折左上に目線を向けていた。

 

 

悟空「あん時は力も根性も足りてなかったアイツは、オラをタッチ出来ねぇと分かると、もうやめるって言い出した。

だけどそん時くれぇかな、ウララが暗くなったのは」

 

「そんな事が…、それで、結局鬼ごっこは終わってしまったのですか?」

 

悟空「最後までやったぞ。あん時は確か……もうやめるって言ったウララに、キングなら諦めねぇとか言って挑発したな」

 

 

キング…僕の愛バながら色んな所で活躍しているね。君が心配している悟空さんとウララ、この2人の晴れやかな未来のために僕も尽力するからね。

  

 

「それなら今回も同じように言ってみては?」

 

悟空「それは一回考えたんだけど、なーんか他の奴と比べんのは良くねぇかなぁって思って言わねぇ事にしたんだ。言っちまったら終わり?みてぇな感じがした。

オラにも良く分かんねぇけどな」

 

「なるほど……」

 

 

無意識に禁句ワードを避けているみたい。野生的本能か武術的回避能力なのかは知らないけど、及第点だ。

 

今更な事を言うが僕は知っている。ウララの身に起きている全ての事を。

 

悟空さんには畑違いの事だろうが、しっかりと理解してもらわないと。

 

 

「悟空さん。ちょっと回りくどい事をしましたが、ウララの現状についてハッキリ言います」

 

悟空「現状?そりゃあ負けて落ち込んでんだろ?今はその事でどうするかってのを話してたじゃねぇか」

 

「それが落ち込んでいる所では無いんですよ」

 

悟空「どういう事だ?」

 

「ウララは今、心を折られています」

 

悟空「なっ!そりゃ本当か!?」

 

「はい。断言しても良いでしょう」

 

悟空「・・・・」

 

 

悟空さんは想像すらしていなかった事に驚いたみたいだ。でもそれは一瞬の事で、今は驚いているよりも眉を顰めて難しい顔をしている。

 

 

悟空「…いや、それはねぇな」

 

 

どうやら腑に落ちないらしい。

 

 

「と、言いますと?」

 

悟空「ウララはオラの修行に着いて来れた。ただ闇雲にやってきた訳じゃねぇ。アイツなりに壁を何個も乗り越えて来たはずだ。そんなウララが一回負けたくれぇで心が折れたとは思えねぇ」

 

 

悟空さんの言い分は最もだ。でもそれには致命的な欠陥がある事を知らないだろう。

 

 

「確かに悟空さんの修行に少しでも携わった事のあるキングは僕の目から見ても成長しました。付きっきりで鍛えたウララの強さは目を見張るものです」

 

悟空「だろ?だから、「だけど」

 

「立ち向かう勇気はあっても受け入れる覚悟がなかった」

 

悟空「え、」

 

「これまでのレースでウララは自分の力を全力でぶつけるだけでした。でも今回は逆に、セイウンスカイという怪物がハルウララに向けて明確な圧力をぶつけた。

ウララからすれば笑った顔しか見た事ない友達の裏の貌を見た。それに加えて全力を出した力はねじ伏せられた。

キングやエル、スペやグラスなら耐えれたでしょうが、これはハルウララだからこそ耐えきれかったんです」

 

 

与える側から与えられる側に回る。ウマ娘にとってマークされるというのは実力ある者の特権だが、楽しさしか知らないウララには計り知れない重圧だっただろう。

 

事の重大さを理解した悟空さんは来た時以上に顔を白くした。能天気に言って悪いがウララ以上に落ち込んだ顔が似合わない人だな…。

 

 

悟空「…情けねぇ事言うけど…オラはどうしたら良い?アイツを元気付けようと思ったけど、今までずっと元気だったんだ。…手の出し方が分からねぇ」

 

 

辿々しく話す悟空さんは小さく見える。憶測だがこんな経験は無かったように思える。

悟空さんの強さが存在する世界ではそんな事を考えてる暇がない程なのかも知れない。 

 

でも、考えてみると強くて頼りになる悟空さんはウララからすれば嫉妬の対象になるのかなと思う。

 

悟空さんの欠点は弱いヒトの気持ちが分からない事だ。これを機にウララと一緒に成長してもらおう。

 

 

「キングを含め、他のウマ娘を見てる僕もウララの事については分かりません」

 

悟空「・・何でもいいんだ。何か…ウマ娘が喜びそうな物とかねぇんか?」

 

「………ウマ娘という括りでは駄目です。悟空さんの相手はハルウララなんですから」

 

 

藁にも縋る思いだろうが、焦って間違えてはいけない。僕は悟空さんの目の奥を真っ直ぐ見た。

 

 

「そうですねぇ………悟空さんは勝負に負けた時とか、悔しい時、最初に何をします?」

 

悟空「いきなりどうしたんだ?」

 

「良いから良いから」

 

悟空「・・・修行したな。次は負けねぇために、絶対ぇ勝つために」

 

「さすが悟空さんです」

 

悟空「???言うほどのもんじゃねぇだろ。早く強くなってリベンジしてぇし」

 

「それが悟空さんのやり方なんでしょうね。でも僕は違います」

 

悟空「強くなる以外にあんのか?」

 

「ありますよ。僕は浴びるほどお酒を呑んで寝ます」

 

 

「…え、」と目を丸くしながら呟く悟空さんを眺める。いやーストレス発散は潰れるに限る。

 

 

「あれ、呑んだ事ないですか?お酒」

 

悟空「い、いや……オラは、あまり……」

 

「そうですか。あれ結構良いんですよ?辛い現実から逃げて、目が覚めたら1から始める。社会人になってから覚えたスキルです」

 

悟空「そ、そうか……意外だな」

 

 

想像と違うみたいで頬が引き攣ってる。

 

 

「それが僕の…僕"だけ"のやり方です」

 

悟空「色々あるんだなぁ…」

 

「そして次に言うのが僕''達"のやり方です」

 

悟空「たち?」

 

 

分かりやすいように指で差す。その指の先は、疑問符を浮かべている悟空さんの背もたれ。ソファについた傷を示した。

 

 

悟空「こいつは、」

 

 

〈悟空は覚えがあった。先日発見したソファの傷。雑に裂かれた真一文字の跡だった〉

 

 

「酷いもんでしょう。キングが蹴り飛ばしたんですよ」

 

悟空「なッ、あのキングがやったってのか!?」

 

 

思った通りの反応だ。プライドの高いキングは物に当たる事を極端に嫌う。そんな事を知ってる悟空さんが必要以上に驚く事は知っていた。

ちなみに僕はキングの悪評をただ愚痴った訳じゃない。これは本題に入るための材料だ。

 

 

「キング"も,,やりました。そしてこれを見てください」

 

 

そう言って右手の甲を悟空さんに向けた。一見何も無いように見えるが悟空さんなら、、

 

 

悟空「………人差し指と中指…骨が折れてんのか?軽く手首もヤってんな。そこが怪我するっつー事は…」

 

「ええ、結構硬い所を殴りました」

 

悟空「っ…おめぇ達に何があったんだ?」

 

 

悟空さんの純粋な質問に当時の情景が浮かんできて思わずニヤけてしまう。

決して楽しい思い出ではないが、不思議と悪い気分はしない。

軽く咳払いをした後、その時起きた事を言った。

 

 

「簡単な事ですよ。原因は日本ダービーと呼ばれる名誉あるレースで起きた事。

万全を期して挑んだレースで、あろう事かキングが掛かってしまい、逃げるはめになりました」

 

悟空「…そうか」

 

「結果として14着。この部屋で反省会をやっていましたが、冷静に話し合える事もなく、胸の中に苛立ちが溜まるだけでした」

 

悟空「・・・」

 

「そんな時、キングがいきなり叫び出してソファを蹴飛ばした。隠す事もなく怒りを露わにしたんです。

 

プレッシャーで精神を乱された自分が憎い。って」

 

悟空(…アイツもそんな風になった事あんのか)

 

「そんな彼女の怒気にあてられて僕も声を荒げました。日本ダービーという重さは簡単に抱えきれるものじゃない。僕は心のどこかで甘く見たんだ」

 

 

あれから何ヶ月か経ったのに、話してる最中から体の内側でドス黒い何かが渦巻くのを感じる。まだ僕の中では終わった事にはなってないらしい。

 

 

「キングは怒った。僕を未熟なトレーナーだと言って」

 

「僕は怒った。口先だけ一流なキングをっ」

 

 

部屋の防音性を良いことに僕達は怒鳴り合った。

自分達の力の無さを恨み、相手の力不足を罵り合って、そして…、

 

 

 

「僕達は怒ったッ!僕達より前を走り抜けたウマ娘を!」

 

 

忘れはしない。先着して笑顔満点なウマ娘を。抱きしめて喜ぶトレーナーの顔を。

口の中で血の味が広がっていた事を僕は鮮明に覚えている。

 

 

「・・・だから決意する。1着を譲るのは今だけ、最後に笑うのは僕達だと」

 

悟空「おめぇ達……」

 

「…全部では無いですが、そんな風に悪い所や苛々する事をぶつけ合った後、手を取り合う。これが僕達のやり方なんです。もちろん楽しい事も共有しますけどね」

 

悟空「は、ははっ。すげぇな…本当に、凄ぇよ」

 

 

…駄目か。

勝手に話すなとキングに怒られる覚悟で全部話したのに、悟空さんはまだ自分のするべき事が定まってないらしい。

いくら未経験とはいえ臆病すぎる。悟空さんの全てを知らないから声に出して言えないけど、

 

ーー失敗して繋がりが切れる事を恐れてる…のかな?

 

何にせよ、らしくない。もう一押しか。

 

 

「…悟空さん、知ってましたか?トレーナーって本来はトレーニングよりもメンタルケアが重要視されるんですよ」

 

悟空「へぇ、そうなんか?・・・強くしなきゃいけねぇんだろ?」

 

キントレ「もちろんです。でも極端な言い方をしますが、速く走るやコースを読むなんてのは言ってしまえば1人でも出来るんですよ」

 

悟空「あー、確かタキオンはそういうの得意だって言ってたな」

 

「でしょうね。聡明なウマ娘なら大抵出来ます。でも、心の問題は誰かが寄り添わないと駄目なんです。

ーー独りでは何も出来ないんですよ」

 

悟空「っ!」

 

 

悟空さんは何か気づいたように顔を勢いよく上げた。よし!締めだ!

 

 

「悟空さん立ってください」

 

悟空「え、」

 

「早くっ!立って!!」

 

悟空「お、おうっ」

 

 

机を回り込んで、のそのそと立つ悟空さんの目の前まで行った。

正面で見ると凄い圧力だ。戦士という言葉が良く似合う。でもこの世界では僕の方が先輩だ。

喝を入れるために完治していない右手をギュッと握りしめて、

 

 

「ーーーーふんっ!!!」バキッ

 

 

殴った。

悟空さんの胸辺りで鈍い音が鳴る。僕の手からも軽い音が響いた。

 

 

悟空「???」

 

 

案の定ビクともしないどころか首を傾げるだけだった。こっちは触らなくても分かるくらい骨に影響が出たと言うのに、

 

 

「ふ、くく、ふふふっ!」

 

悟空「き、きんとれ?大丈夫か?…色んな意味で、」

 

「ええ、大丈夫です。色んな意味で大丈夫じゃないのは貴方でしょう」

 

悟空「っ、・・・・」

 

「悟空さん自身、何をしたら良いのか分かってないんですよね?」

 

悟空「…………あぁ、薄らとは見えてきたけど、まだ分かんねぇ」

 

 

そりゃそうだ。畑違いな事を1回、それもザックリ聞いた程度で分かる人なんていない。しかし、それならそれでやりようはある。

 

 

「なら分かるまで聞きましょう!知らない事を聞くのは社会人として当たり前の事です」

 

悟空「聞くったって、他にも何か教えてくれんのか?」

 

「いえ、僕の話は終わりました」

 

悟空「???。誰から聞くんだ?」

 

「悟空さんにはいるじゃないですか。年齢も性別も種族も関係ない、友達と呼べるヒト達が」

 

悟空「・・・・アイツらか。…でもよぉ、こんな事聞いたって迷惑じゃねぇか?」

 

「何を遠慮ばかりしてるんですか。早く行かないと、もう一発殴りますよ。今度は完全に折れるかも知れませんけど」

 

悟空「!!!わ、分かった。…んじゃ行ってくるな」

 

 

そう言って、ゆっくり扉へ向かって歩いて行った。後ろ姿からは普段の覇気を感じないが、最初に来た時よりは結構マシだ。

 

 

「あ、悟空さん、最後に1つだけ忘れてました」

 

悟空「なんだ?」

 

「悟空さんとウララの関係の名前を見つけてください」

 

悟空「なまえ!?なんだそりゃ?」

 

「例えるなら僕とキングは正式なトレーナーとウマ娘。その前提があるから僕達は何度だって戦えますけど、悟空さんはトレーナーじゃない」

 

悟空「まぁ、そうだな」

 

「でも逆に悟空さんとウララだけが出来る関係があると思います。それを見つけてください」

 

悟空「関係の名前なぁ……おめぇが言うんならその方が良さそうだ!」

 

「よろしくお願いします」

 

悟空「おう。あ、オラからも1個だけ言っとくぞ」

 

「なんです?」

 

悟空「おめぇのパンチ。効いたぜ」

 

「・・・」

 

 

嘘つきだ。

疑いの目を向けても彼は「じゃあ、」と言って出て行った。

でも彼は嘘をつけないはず。……そうか、効いてたのか。どこに効いたかは知らないが骨を痛めた甲斐があったってものだ。

おそらく彼はあのヒト達全員の所に行くだろう。1名不安な者もいるが、彼女もきっと力になってくれるはず。

 

・・・・

 

色々考えてふと、気づく。

もしもこんな事が起きなくて、上手い具合に有馬記念に直行していたとしたらウララは戦う以前に負けが決まっていたんじゃないのか。

怪物しかいない有馬記念。走る前から力と差を見せつけられるだろう。

何の気まぐれか知らないが怪物級のスカイが龍球に出てくれて、よか、、った?…。

 

 

 

・・・・いや、偶然か…。ま、まぁ何はともあれ、

 

 

「頑張ってください。悟空さん」

 

 

ニヤけた口元隠すようにお茶を一気飲みした。

 

 

 

 

 

 

 



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超戦士の苦悩 ー 後編 ー

 

 

 

 

 

〈悟空はキントレの部屋から出ると迷いなく足を進めた。目的地は分かっている。走る事はせず、不器用ながらも話の内容をまとめていた。

心の折れたウララ。元気の付け方。悟空とウララの関係。現段階では、どれもまだ不安定なまま。現状や対策を聞いても解決策は見出せていない。

鍛えて、戦って勝つだけでは終わらない闘い。考えるのが苦手な悟空は頭から煙が吹きそうになった。

しかし、自分がやらなきゃ駄目だという自覚はある。

 

景気付けに顔をパン、パンと叩いて友達がいるであろう"食堂,,へ向かった〉

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

side オグリキャップ

 

 

カチャン、カチャンとお皿の擦れる音がする。手元のお皿が空になると、脇に置いてあるお皿に重ねて置いた。次に食べる物を選んでいると、突然目の前の椅子が動いた。

 

 

悟空「よっ。食ってる所悪ぃな。ここ座んぞ」

 

「ん、ふぉふうふぁ」(む、悟空か)

 

悟空「おめぇに用があって来たんだ」

 

 

私に用事か。気にはなるが、私も悟空に伝えたい事があったんだ。手っ取り早く終わるから先に言わせてもらおう。

まだ口の中に硬めな肉があるが、ゴクンと音を鳴らせて飲み込んだ。

 

 

「用事はちゃんと聞くが、コレを食べてみてくれ。今私の中で一番の好物なんだ。きっと悟空も好きだと思うぞ?」

 

 

お皿には大きめな肉の塊がある。好きな物は別腹だと言って5個ほど貰っていた。その中の1つを皿ごと渡すと、悟空は困った顔をして首を振った。

 

 

悟空「すまねぇな。ちょっと前から食う気がしねぇんだ。今度貰うな」

 

「・・・そうか」

 

 

悟空との食事は楽しいから好きだった。だから結構残念な気持ちになる。

しかし、あの悟空が食べる気がしないとは珍しい事もあるものだ。

 

 

「では用と言うのを…ひふぉうふぁ」(聞こうか)

 

悟空「あぁ、…ん?……えーと、」

 

「???」

 

悟空「・・・何て言や良いんだろうな」

 

「???…知りたい事をそのまま言えば良いんじゃないか?」

 

悟空「そっか。んじゃオグリ。おめぇは心が折れた事ってあるか?」

 

 

「………ズルズルズルズル」ゴクン

 

 

中々込み入った話になりそうだ。私自身あまり察しが良くないからタマやイナリに怒られたりするが、今回のはすぐにピンと来た。

 

 

「ウララの事か?」

 

悟空「…やっぱ分かるんか」

 

「ああ」

 

 

龍球ステークスは私も見た。そしてウララと同じ顔をして引退したウマ娘を目の前で見た。

私の事を聞いて何の役に立つかは知らないが、協力しようか。

 

 

「心が折れた事か。あるぞ」

 

悟空「あんのか!?…嫌な事だろうけど、オラに教えてくれねぇか?」

 

「良いぞ。あれは私が現役最後の方で…」

 

悟空「ちょ、ちょっと待てオグリ。オラから聞いた事だけど簡単に言っちまっても良いんか?」

 

 

フッ。急にオドオドし始めた悟空は新鮮で面白い。だが、らしくないな。

 

 

「友達が困ってるんだ。力になれるなら構わない」

 

悟空「オグリ…」

 

 

少しは顔色が戻ったみたいだ。私は食べる手を止めて悟空の目を見た。

 

 

「それじゃあ話すぞ。今考えると私はレース人生で無茶な走りをしていたらしい。G1を2週連続で走ったりもした」

 

悟空「G1連続…は、ははっ。やるなぁ」

 

「うん、それまでもたくさん走ったさ。でも足は限界が来ていた。見えない疲労が溜まっていた」

 

 

トレーニング中、足に重りをつけたように鈍くなって立つ事すら出来なくなった。

トレーナーと医者が慌ただしかった記憶がある。私と言えば何故かすんなり受け入れた。

 

 

「診断結果は疲労。その後にやったレースでは6着、11着と掲示板にも入らなかった。でも焦りは無かった。それほどまでに満足したレース人生だったんだ」

 

 

〈オグリは当時の心境を話す。悔いがない事は顔を見れば一目瞭然、穏やかな表情をしていた。だが悟空は戦う者として思う事があった〉

 

 

悟空「・・・負けを受け入れちまったってのか」

 

「ああ。私の中では達成感すらあったが、今にして思えば勝つ事を諦めた私は心が折れていたんだろうな」

 

悟空「・・・」

 

「しかし、これには続きがある」

 

 

"聞かせてくれ,,と言う悟空に無言で頷いた。

 

 

「私は負けが続いて身体にも限界が来ていたから引退する事に決めた。

色々思い入れがあったから引退レースは有馬記念で行う事にした」

 

悟空「…有馬記念」ボソッ

 

「だが、さっき言ったように私はもう満足だった。勝ちに行くレースじゃなく、今まで応援してくれていた人達に向けて走る恩返しのつもりだったんだ。その事に皆喜んでくれた。トレーナーも友達も、先生もファンも。

皆がありがとうって、今まで頑張ったって伝えてくれたのに、

ーーーアイツだけは違った」

 

悟空「あいつ?誰の事だ?」

 

 

忘れもしないライバルの事。思えば最初からスパルタだったな。

 

 

「有馬記念目前に迫った時、連絡も無く、トレセン学園にいきなり来たんだ」

 

悟空「来たって…ウマ娘じゃねぇんか?」

 

「ウマ娘だよ。いるのは中央トレセン学園じゃなくて笠松と言う遠い所だ。

誰に聞いたか分からないが、食堂にいる私の所へ来たアイツは、私の胸ぐらを掴んで殴ってきたよ」

 

悟空「いきなりか!?大ぇ丈夫だったんか?」

 

「大丈夫なものか。久しぶりに会ったと思ったら殴られたんだぞ。食べていたパンがクッションになったとはいえ痛かった。

どういうつもりだと、私も怒ったが途中で言葉が出なかったよ。

ーー殴ったやつが悲痛の顔をしていたからな」

 

 

アイツの怒った顔を見るのは2回目だ。1回目は私も言い返したが、その時のは胸が締め付けられて痛かった。

 

 

悟空「・・・・なんでだ?」

 

 

意味が全く分からんと、表現で語る悟空が面白くて吹き出してしまった。怪訝な顔をされたが話を続けるとしよう。

 

 

「もちろん私も分からなかった。胸ぐら掴まれてるから離れる事も出来ないし、聞こうにも至近距離でアイツの目を見ると何を話せばいいか分からない。周りのウマ娘達もただの喧嘩と思わなかったのか止めてくる者は居なかった。

少し沈黙が続くとアイツが呟いた。

 

…【何をやっている】と。

 

それはこっちのセリフだと思ったが、言い返せなかった。黙った私に苛立ったのか次から次に言ってきた。

 

【これで終わりか?負けたままだぞ、ムカつかないのか】

 

散々な事を言われた。

さすがに私も我慢が出来なくて怒鳴った。

 

ーーお前に何が分かる。私はもう満足なんだ、いきなり来て勝手な事を言うな。と。

 

そしたらすぐに返された。

 

【それはただ逃げてるだけだ。勝てないから満足したと勘違いしてるに過ぎない】

 

そう言われて私も殴りそうになったんだが、涙を流すのを見てやめた。

私に寄りかかりながら辛そうに言ったんだ。

 

【お前は、オグリキャップなんだぞ…っ。頼む、本気で戦ってくれ。私は…オグリが負けて終わる所は見たくない…………私のライバルは世界で1番速いんだ……】

 

勝手な奴だろう?こっちの都合なんて無視だ。でも私の肩を湿らせていくアイツを抱きしめると不思議と力がわいてきた。

そして引退レース有馬記念。私は全力を出して勝ちに行く事を決めた。

………これで全部なんだが、すまない。長くなってしまったな」

 

 

あの時の事は昨日の事のように覚えている。先生が来るまで抱きしめていたのは、後に考えると恥ずかしくてアイツと笑い合ったな。

 

 

悟空「……おめぇは…どうなった…」

 

「勝った」

 

悟空「…そうか」

 

 

ふむ。私の身の上話をしただけだが、役に立ったようだ。悟空独特の雰囲気を感じる。

 

 

悟空「さんきゅーなオグリ。おめぇのお陰で少し分かった事がある」

 

「それなら良かった」

 

悟空「んじゃオラは行くな。飯の邪魔して悪かった」

 

 

そう言いながら席を立つ悟空を私はすぐに呼び止めた。

 

 

「待て悟空」

 

悟空「ん?なんだ?」

 

「ご飯、余ってるから一緒に食べてくれ」

 

悟空「…いや、さっきも言ったけど、オラ食う気が、」

 

「だめ。食べるんだ」

 

悟空「???。オグリ、」

 

「私だって悟空以外には言わない。君は…私達は食べて強くなる。逆に言えば食べないと弱いままだ」

 

悟空「!!!」

 

「さぁ、一緒に食べよう悟空。私は君と食べるご飯がとても好きなんだ」

 

悟空「オグリ……へへっ、そうだな!んじゃさっきの肉くれよ!」

 

「ひふぁ、はへふぁ」(今食べた)

 

悟空「あーっ、そりゃねぇだろ!ちょっと楽しみだったんだぞ!」

 

「・・・」モグモグモグモグ

 

 

調子が少し戻って良かったが、まだ完全ではないか。まぁ私は全部言ったから後は悟空自身で頑張るしかないだろう。

それにしてもアイツの話をしたら会いたくなったな。今度は一緒にご飯でも食べようか。

 

ーーーなぁ、マーチ。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

side アグネスタキオン

 

 

バンっ!

 

 

悟空「おめぇの足が使えなくなった時ってどう思った?」

 

「…………出直して来いバ鹿者」

 

 

図体やガタイの割に軽やかな足音で正体は分かっていたが、入り方と第一声は論外だ。

この部屋では大人しくしろと何度も言って理解したと思っていたが、この男は一晩寝ると忘れるらしい。…それにしても、

 

 

「随分元気じゃないか。それも精神鍛錬の賜物かい?」

 

悟空「意地の悪ぃ事聞くなぁ。…そうでもねぇさ。ついさっきまでくたばってた」

 

 

ついさっきに、過去形か。1人で考えても解決するような奴ではないから誰かに助言してもらったとみえる。

紅茶でも振る舞ってやろうと思ったが、前にクサイと言われた事を思い出してやめた。小型冷蔵庫から勝手に取ってるし…。  

 

 

「ここは君の住処じゃないんだがねぇ」

 

悟空「オラだってこんな危なっかしい所に住みたくねぇぞ」

 

「世界一危ない生物が何を言う」

 

悟空「オラからすりゃあタキオンが1番危ねぇよ」

 

「失礼な男だ。私は心の赴くままに行動してるというのに」

 

悟空「それが1番危ねぇんだって…」

 

 

飛び込んで来たかと思えば貶すばかり。礼儀というものを知らんな。

まぁそんな当たり前の事は把握済みだから今更怒る事でもない。

私は完成した紅茶を持って作業机についてる椅子に座った。

 

 

悟空「こっち来ねぇんか?」

 

「今作業中なんだ。会話は出来るから気にしないでくれ」

 

 

…正直ホッとした。ウララ君のレース、噂などを聞いてウララ君はもちろん孫君も危ういと思っていた。

事実、前に見かけた時は酷く弱々しく見えていた。声をかければ良かったのだろうが私はそれが出来なかった。

横目で彼を見ると缶ジュースを傾けていた。感覚的には大した事もなさそうだが、薄らと目にクマがあるのと肌の血色が微妙に悪い。

普段の彼は体調面に関して文句なしだから、少しでも異常があると分かりやすい。

 

 

悟空「ん、オラに何かついてっか?」

 

 

さすが武術家だ。察知能力が鋭いな。これにも"気,,が関係しているのだろうか。

 

 

「…天使の輪っかがついてる」

 

悟空「今更だろ。天使っつーよりは死人だけどな」ハハッ

 

 

笑えない冗談。ヘイロー君が聞いたら怒りそう。

 

 

「それで?私の足が壊れた時の事を聞きたいのかい?」

 

悟空「そうだな。壊れた時っつーか、前と後も?」

 

「つまり全部って事だな」

 

悟空「ははっ、そうなるな」

 

「ハァ…」

 

 

全く、呆れるな。ヒトの不可侵領域に悪気もなく入れるのはこの男くらいだろう。

その事に抵抗感が無い私は受け入れてしまってるのだろうと簡単に納得した。

 

 

「まず私が走ったのは合計4戦。脚に異常がある事は2戦目あたりから分かっていた」

 

悟空「へ?そうなんか?」

 

「ああ、ほんの少し違和感があった。気のせいと思うほど小さな違和感。私は放っておく事はせず、念入りに調べた。結局その時は分からなかったが、確証を得たのは3戦目前のトレーニングの時。

左脚につっかかりが生まれた。触ると熱を帯びて、少しの腫れ。病院に行かずとも屈腱炎の初期症状だとすぐに分かった」

 

悟空「くっけんえん?」

 

「ウマ娘の中では珍しくない脚の怪我だ。酷くなれば歩く事は困難。もっといけば死すらも視野に入る」

 

悟空「っ!そいつはやべぇな」

 

「そうだな。その事はモルモ…トレーナー君にも説明した。そこで迎えた3戦目。私は1着を獲る代わりに屈腱炎が中等症…レベルが3段階ある内の2段階に到達した」

 

悟空「でも、おめぇ走ったのは全部で4戦って…」

 

 

何かに耐えるような顔をして見てくるが、鼻で笑って返した。らしくない顔は見たくない。ボロボロになっても戦うのは一緒だろうに。

 

 

「止められるだろうから病院には行っていない。ようやく次のレースはG1の皐月賞なんだ。邪魔をされては困る。

脚の具合はトレーナー君と私の診断結果は同じだった。

 

ーーー次走れば必ず壊れる」

 

悟空「…トレーナーは止めなかったのか?」

 

「止める?いや、その逆さ。私達は大いに喜んだ。考えても見たまえ!次走れば壊れるって事は次走れるって事なんだよ!

私達の誓いは"可能性の果て,,を見る事。脚が壊れる代わりにG1を獲って、"果て,,を観測出来る。安い買い物さ」

 

悟空「・・・オラはあんまり良く分かんねぇけど、トレーナーがそういう事したら駄目なんじゃねぇか?」

 

 

まだ数ヶ月とはいっても一日中ウマ娘に関わっていたら知識も増えるか。

良い傾向だろうが、マニュアルでは駄目なんだよ。

 

 

「駄目に決まってるだろう。そういったウマ娘を抑止するのがトレーナーの役目なんだ。もしも知っててやった事なら今後のトレーナー人生に影響が出る。

他のトレーナーからは敬遠され、ウマ娘からは信頼を失くす事だってある。最悪免許剥奪もあるかもしれんな」

 

 

私に限らずレースに出たいがため黙っているウマ娘だって少なくない。

危険出走として謹慎になったウマ娘もいるくらいだ。

 

 

悟空「なのに走ったのか?」

 

「だから走れた…の方が正しい。誓いのために私を信じたトレーナーだから事の詳細を全て話した。私だってそんなトレーナーじゃなかったら話していない。

黙って走って、勝手に壊していた。そこに達成感は無かったと思うがな」

 

悟空「・・・」

 

これが私の一連だが、孫君が知らなければいけないのはもう1つ先の事だろうな。

情報が多かったのか顰めっ面だ。端的に分かりやすく言ってやるとしよう。

 

 

「分かるかい、孫君。私の意志をトレーナー君が汲んで、トレーナー君のG1制覇という夢を私が叶えた。

 

ーーーアグネスタキオンというウマ娘のトレーナーは彼女以外に考えられない事なんだ」

 

悟空「ウマ娘から見るトレーナーか……」ボソッ

 

 

孫君の呟き声はしっかりと耳で拾った。少しは分かってくれるかな。

トレーナーからの一方通行ではウマ娘はついて行かないんだよ。

……こんな話の内容をモルモット君に聞かれたら即刻首を吊ってやるがな。

 

私は飲むのを忘れていた紅茶を一口……うん、ぬるくて不味い。

孫君を見ると頭の後ろで手を組んでボーっとしていた。あれで考えているのか?…。

すると飛び跳ねるように立ち上がった。

 

 

悟空「よしっ、何となく分かって来た!」

 

「それでも何となくか」

 

悟空「ああ。肝心な所はまだだけど、今考えてみりゃあオラはウララの事考えねぇで引きずってばっかだったと思う。もう少しアイツのやりてぇ事を聞いても良かったかも知んねぇな」

 

「まぁ、それが何に繋がるかは知らんが、実験は試してなんぼだ。存分に間違えるといい」

 

悟空「おう、おめぇが言うと本当に良いのか怪しいけど、覚えとくぜ」

 

「本当に失礼な男だ。迷惑料として紅茶を淹れたまえ」

 

悟空「えー、………面倒くせぇ」

 

「うるさい。ほらっ、いーれーろー!カップ用意!ティーパック淹れて熱湯!1分半数えて終了!簡単だろ!」

 

悟空「やる事は簡単だろうけど、やる気が起きねぇな」

 

「君のやる気なんて知った事じゃ……いや、淹れれるようになったら孫君にとっても良い事だぞ」

 

悟空「なんでだ?あの匂いがキツいやつだろ?オラは飲めねぇぞ」

 

「飲むのは孫君じゃない。たづなさんだ。何かやらかしても機嫌を取るのにちょうどいいぞ?」

 

悟空「淹れ方教えてくれ!」

 

「よしきた!」

 

 

私も立ち上がると物の配置だったりを教えた。意外にも慣れた手つき。手先は器用のようだ。

不器用なのは性格なだけか。………ふふっ。本当にバ鹿な男だねぇ。

 

 

「なぁ、孫君」

 

「なんだ?」

 

「頑張るんだよ」

 

「・・・・・おう」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

〈悟空はタキオンの所を離れた後、少し早歩きでとある一室に向かった。中から感じる2つの"気,,。ノックをしようとドアの前に手を出した〉

 

 

「どうぞ」

 

 

〈叩く前に中から声が聞こえた。疑問に思う事はない。アイツなら分かるだろと変な信頼感が悟空にあった。口角だけ緩めるとドアノブを回す〉

 

 

悟空「オッス」

 

 

〈片手を上げて挨拶する。声をかけられた2人は対面で座っていて、机の上には何かを食べたであろう空のお皿とフォーク。半分くらい入ったコーヒーがあった〉

 

 

ルドルフ「ふふっ。ここは私もオッスと返した方が良いのかな?」

 

たづな「いいえ。ルドルフさんも悟空さんもちゃんと挨拶してください。……出来ますね?」

 

 

〈満面の笑みには引き攣った笑みで応える悟空〉

 

 

悟空「お、おはようございます?」

 

たづな「まぁ、挨拶なので間違ってはないですが、お疲れ様とかの方が一般的ですかね」

 

ルドルフ「フッ、おはよう。悟空さん」 

 

たづな「何でこの流れでおはようと言うのですかっ。わざとでしょう!」

 

ルドルフ「…クッ…フフッ…。ほら、たづなさんも挨拶しないと」

 

たづな「………お疲れ様です」

 

ルドルフ「頑固なお方だ」ププッ

 

たづな「っもう!」

 

悟空「・・・おめぇ達仲良くなったなぁ…」

 

ルドルフ「これも女子会のなせる技さ」

 

悟空「ジョシカイ?…確か前に言ってたなぁ。オラもそれすりゃあ良いんか?」

 

たづな「悟空さんは出来ないと言ったではありませんか。他の所では言わないでくださいね」

 

悟空「???」

 

たづな「分からなくて良い事です。それで悟空さんは用があって来たのでしょう?」

 

悟空「あっ、そうだ」

 

 

〈気がつけば普段のやり取りになり、たづなから指摘されるまで忘れていた悟空。しかし忘れるほど吹っ切れたのかというとそうでもない。

日常の空気に身を任せていた悟空は我に返り、今まで起きた事とやった事を全て話した〉

 

 

悟空「〜〜・・・ちゅー訳で、ウララの心だったり、トレーナーとしての役割は分かったんだけど、肝心の話し方が分からねぇんだ。」

 

たづな「なるほど…。キングヘイローさんのトレーナーさんからは絆の強さ…」

 

ルドルフ「オグリキャップからは友として…ライバルとしての熱い想い」

 

たづな「この際細かい事は目を瞑りますが、タキオンさん達から一蓮托生の覚悟…ですか」

 

たづな・ルド「「・・・・・」」

 

たづな・ルド「「そこまで分かっていて何が分からないのかが分からない」です」

 

悟空「へ?」

 

 

〈言ってはいけないが彼女達は拍子抜けだった。悟空がこの部屋に来る前にちょうどその話をしていた。慣れてない事だろうから助けが必要だと。

それが、いざ来てみれば話した後だと言う。逆に何故来たのか不思議に思うほどだった〉

 

 

たづな「散々悩んで、散々教えてもらったんです。考えるのはもういいでしょう」

 

悟空「な、に言ってんだよ。考えねぇとウララを傷つけてちまう」

 

ルドルフ「必要以上に考えて答えを導き出したとしても、それは果たして悟空さんの想いなのか?悟空さんが納得出来ない事でもハルウララが元気になるなら言うのかい?」

 

悟空「っ………」

 

ルドルフ「私は悟空さんがこの世界に来る前からハルウララの事情は知っている。トレーナーが不在になっても代わりを見つけなかった。キングヘイローの誘いでさえ断っていたくらいだ。

それが何の因果か君達は出会い、ハルウララは君に惹かれたんだ。

トレーナーじゃなく、孫悟空という1人の男をね」

 

悟空「・・・」

 

たづな「最低限とは言っても、ちゃんとウマ娘の事を理解してくれたんです。後は悟空さん自身が行動するだけですよ」

 

悟空「行動って言っても…」

 

 

〈逃げられるからどうしようもない。悟空が頭に引っ掛かっているのはそこだ。無理にやって良いのか、実は他に良い方法があるんじゃないか。考え出すとキリがないが失敗もできない。

悟空の気持ちは少し晴れたが、結局振り出しに戻ってしまったと感じてしまう。

そしてもう一度落ち込みそうになった時、、、〉

 

 

 

     〈凛とした声が響いた〉

 

 

 

 

 

 

      「拳をつくりなさい」

 

 

 

〈この世界では聞かない言葉に悟空は顔を上げて声の主を見る。自然と目が合った。少しの歪みのない姿勢に揺るぎない強い瞳。その目から逸らす事は出来ずにいると彼女は"ふふっ,,と笑った」

 

 

たづな「なにも、殴れなんて言いません。ですが貴方がこれまで戦って来た時は必ず拳を握っていたはずです。形違えど、これも1つの戦い。臆したら負けですよ」

 

悟空「たづな……でもそれで失敗しちまったら、」

 

たづな「悟空さんは失敗が怖くて生前でも逃げたんですか?」

 

悟空「ぁ、」

 

たづな「意志があるならもう一回。それでも無理なら私も頑張ります。それでも無理で、色々試しても手の施しようがなくなったら、一緒に諦めましょう!」

 

悟空「ーーーーーー …クッ、ハハッ…」

 

 

〈笑顔で諦めを口にする彼女は正しいのか。悟空の中で思ったソレは一瞬にして消えた。

正しさなんてどうでもいい。代わりに呼び起こされたのは戦いの記憶。余計な事は考えず、力の全てをぶつけるのが自分のやり方だと思い出した。

霧が晴れたように頭がスッキリして、くぐもった笑いをしていた悟空はやがて腹を抱えて笑い出した〉

 

 

悟空「あーはっはっは!!!結局全部オラがビビってた訳か!……キントレもオグリもタキオンも全員戦ってたんだ。ウララは今立ち止まってる状態だ。オラも一緒になって立ち止まってる場合じゃねぇな!」

 

ルドルフ「今から行くのかい?」

 

悟空「ああ。やるからには早ぇ方が良い。………なぁルドルフ」

 

 

〈すっかりやる気に満ちた悟空。漏れ出した"気,,で髪をそよそよと揺らしながらルドルフの名を呼んだ〉

 

 

ルドルフ「ん、なんだ?」

 

悟空「オラ…今度は間違えずに済みそうだ」

 

ルドルフ「!!!…そうか、それはそれは、」

 

 

〈こちらを見ずに呟く。脈絡のない言葉でもルドルフはすぐに分かった。だからルドルフはあえて言った〉

 

 

ルドルフ「頑張ってくれ。私もついてるからな。ーーー父さん」

 

悟空「フッ……ああ。オラに任せとけ。つっても失敗したらまた()っけどな!そん時はたづな!さっきの忘れんなよ?」

 

たづな「はいはい。ほら、早く行って日が暮れる前に帰って来てください

 

悟空「おう!んじゃあんがとな!」ニヒッ!

 

 

〈2人の返答を聞く前に部屋から出て行った。閉まりきってない扉をため息吐きながら、たづなが閉めると、席に戻る。その顔をとても嬉しそうだ〉

 

 

ルドルフ「もう大丈夫ですかね?」

 

たづな「さあ?やってみなくちゃ分からない。というものですよ」

 

ルドルフ「ふふっ!そうみたいですね」

 

たづな「……それにしてもレアなものを見ました、ねぇ?シンボリルドルフさん?それとも孫ルドルフとでも言うべきです?」

 

ルドルフ「なっ!いやっ、ちが!あれは訳があって、」

 

たづな「ほうほう。ちょっと可愛かったので、私の事も呼んでくださいよ」

 

ルドルフ「………それは貴女も孫家に加わりたいという、」

 

たづな「そーじゃないですっ!!!」

 

ルドルフ「…母さん?………いえ、不倫相手はやめた方がいいかと、」

 

たづな「だから違いますって!しかもそこは姉さんとか………え、ふりん?」

 

ルドルフ「」コクン

 

たづな「…ふりんですか………えっ不倫!?」

 

ルドルフ「悟空さん、既婚者です」

 

たづな「・・・・知らなかった…」

 

ルドルフ「ですよね」

 

 

 

 

 

 

悟空「ウララああああああ!!!待ってろよおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

次回予告:(アグネスタキオン)

 

 

全く、あの男はようやく元に戻ったか。ま、これからが勝負みたいだねぇ。

孫君にさえ嫉妬しているウララ君にどう立ち向かうかは知らないが、何やら勝算があるみたいだ。

 

次回、孫悟空とハルウララの関係。

 

おや…地震かい?派手に揺れるなぁ。耐震性のある学園がここまで揺れるとは震源地が近いのだろう。

ーーーなに?山の麓で金色に輝く何かがあったって!?こうしちゃおれん!行くぞモルモット君!

 

 

 

 

 






書いていて思った事は、悟空ネガティブすぎ?一種のキャラ崩壊かもしれん…。だけどそれはもう終わり!
悟空といえばスーパーヒーロー!!!

それと分かる人はいたかな?史上最強の弟子ケンイチの名場面の一推しセリフを少し出しました!



  「拳をつくれ。武術家だろ?」



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師匠と弟子




すみません長すぎました。この話は1話で終わらせたかったので…つい…。


注意
・ドラゴンボールはアニメ軸
・捏造あり





 

 

 

 

 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

 

キントレ「頑張ってください。悟空さん」

 

オグリ「頑張れ悟空」

 

タキオン「孫君。頑張りたまえよ」

 

ルドルフ「私もついてるからな。父さん」

 

 

たづな「・・・・・・既婚者、かぁ…」

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

スカイ「ウララの調子はどう?」

 

キング「…駄目ね。日に日に悪化してるわ」

 

スペ「私は何回かご飯に誘ったけど逃げられちゃった」

 

グラス「それどころか、今や避けられていて話すら出来ない状況ですね」

 

スカイ「………………そっかぁ」

 

 

〈校内を固まって歩くのは仲の良いライバル達。話している内容もあってか、いつもの笑顔は全く見られない〉

 

 

エル「まったく!スカイがそんな顔してどうするんデス。覚悟あってやった事でショウ」

 

スカイ「・・・・うん」

 

グラス「…とは言っても何か1つ決め手が欲しいですね。このまま長引かせても良くないでしょうし、」

 

スペ「んー、あえて併走してみるとか?」

 

キング「それだと止めを刺す結果になりそうね」

 

スペ「…やっぱり?」

 

 

〈各々がレースのトップクラスに立つ彼女達はスカイを責める事はなく、解決策を見出す事に専念した。しかし何を言っても裏目にしか出ない事は分かりきってる事。簡単に口を挟む事は出来ない〉  

 

 

スカイ「……キングさぁ、前にウララがレースに出れなくなったらどう責任とるのか、聞いてきたよね」

 

キング「!!!」

 

 

〈振り返るのは龍球ステークスの出走バが決まりスカイに詰め寄った時の事。ウララとスカイに侮辱ともとれる言動をした事を思い出し、キングは顔を赤くした〉

 

 

キング「あ、あの時は気が動転してしまってっ、本当に悪い事を、」

 

スカイ「ううん。キングを責めたい訳じゃなくて、私はウララがレースの道から離れた時の事をちゃんと考えてたんだよ」

 

スペ「え、」

 

スカイ「…私は、ウララが一時的にでもレースから離れた場合。その瞬間トレセン学園をやめる。菊花賞も出ない」

 

『ーーーっ!!?』

 

グラス「・・・」

 

 

〈スカイの爆弾発言により、言葉がでないキング達。

誰かに止めて欲しい。考え直してほしいなどという言葉を待っていない事はスカイの目を見れば明らかだ。

しかし、グラスは違う。スカイの決意を聞いて目付きを鋭くした〉

 

 

スカイ「………なにかな?」

 

 

〈スカイは体に突き刺さるような圧力を感じとり、グラスに問いかける〉   

 

 

グラス「セイちゃんの覚悟に水を差すのは気が引けますが、それは逃げてるのでは?ウララちゃんの負い目を受けるのなら、辛い事を背負って走り続ける事が償いだと思いますけど」

 

 

〈それにスカイは首を振った〉

 

 

スカイ「それも考えた。… だけど、結局は本能には勝てない。どれだけ悔やんでも私は多分レースを楽しんじゃう」

 

グラス「…確かに、そうですね」

 

スカイ「うん。…頼まれてもないのに勝手に友達を陥れといて楽しくレースをする事は出来ない。私がやめた後にウララが立ち直っても同じ事。私はレース人生を打ち切る。

………ちなみにその後に降りかかる事も考えてるからツッコまないでね」

 

スペ「セイちゃん、、、」

 

 

〈本能。それは良くも悪くも全てを忘れるほどの情熱。

スカイは考えた。

もしも走った時の事。勝った時、負けた時。そしてトレセン学園を去ったとして。考えうる道を全てイメージした。その結果だした結論だ〉

 

〈ーーだからこそ解せない。キングは腑に落ちない様子でスカイを見た〉

 

 

キング「・・・ねぇ、あなたがそこまでする理由は何なの?…レース人生を賭けるほどのモノがあると思えないのだけど」

 

スカイ「…………え、え〜っ、そんなにセイちゃんの事が気になるぅ?夢中にさせちゃったかな?」

 

キング「言い辛いのか知らないけど、いくら繕ったって"そんな顔,,してれば痛々しいだけよ。笑ったりしないから言いなさいな」

 

スカイ「・・・、」

 

 

〈スカイは無理矢理に上げた口角を元の位置に戻して、視線を一度空に向けた〉

 

 

スカイ「フゥ…………日本ダービーで負けて、腐っていた私をウララが助けてくれたんだよ」

 

 

〈皐月賞というクラシック一冠を手にして挑んだ日本ダービー。コンディションもレース展開も完璧だったにも関わらず結果は4着。スペシャルウィークの後ろ姿が離れていく光景が脳裏に焼き付いていた〉

 

 

スカイ「私はさ…勝ちたかった。いや、もちろんみんなもそうだろうけど、私は一冠を獲った。目標は三冠だったんだ」

 

スペ「・・・・・」

 

キング「あなた、、、」

 

スカイ「そもそも出場権が貰えなかったグラスちゃんやエルの前で言うのは間違ってるのは分かってる。ごめん。

……結果スペちゃんに負けた私は夢が潰れた」

 

エル「スカイ…」

 

スカイ「……前提としてG1を獲れないモノもいる。一冠獲ったなら良い。欲張りだ。みんなはそう思うかも知れない。

でもっ!そんなの知らない!他のヒトがなんて言おうとどうだっていい!私はっ………私は勝ちたかった…」

 

 

〈スカイは声を押し殺して嘆く。本題はこの後だ。それなのに上手いこと喋れず、涙を零さないので精一杯だった〉

 

 

グラス「…セイちゃんの気持ちを否定する者はこの場に居ません。どうか落ち着いて」

 

スカイ「グラスちゃん……うん、ごめんね。…ウララとの事だよね」

 

 

〈スカイは何とか持ち直して、胸をトントンと軽く叩いた〉

 

 

スカイ「それで、ダービーで負けた私は引退も考えてて悩んでたんだけど、近くにウララが居たんだ

特別な話はしてない。最近した事や楽しかった事。嬉しかった事や喜んだ事。ろくに返答しない私にずーっと話しかけてくるの」

 

キング「ーーふふっ、あの子そういう所あるわよね。私の時もそうだったわ」

 

スペ「うん!ウララちゃん絶対に後ろ向きな事言わないもんね!」

 

エル「まるで太陽デース!」

 

グラス「で、でも、待ってください。…ダービー後と言えば、ウララちゃんは…」

 

スカイ「そう。ーーウララのトレーナーが学園から去った時期」

 

スペ「あっ!」

 

 

〈ハルウララがフリーになった事は学園で誰もが知る噂話になった。

それと同時に裏で動く者もいた。もちろん引退させるためじゃない。何とかしようと奮闘していたが、善意だけで出来る程トレーナーは甘くない〉

 

〈文字通りウララは独りだった〉

 

 

スカイ「そんなウララ自身が1番辛いはずなのに笑い続けるの。そして時折悲しい顔見せるくせにすぐに笑う。

……ウララを見てると、私が凄い小さいモノだと感じさせられた。それでも、もう一度立ち上がる勇気を貰ったんだ。

だから私は恩返しをしたくて…そしたら悟空さんと出会い、有馬目指すようになって応援していると致命的な欠陥を見つけた」

 

スペ「格上とのレース…だよね」

 

スカイ「うん…。先輩達と走るレースは正直言って怖い。その上G1で、それも有馬記念なんて出ればプレッシャーでゲートすら辿り着けないと思った。

だから私だけが出来る方法でやろうと思ったけど…駄目だったね。

変に虚勢張ったり、いつも通り振る舞ってたけど、結局中途半端な事しちゃった」

 

エル「スカイ………それで責任をとるという訳デスか」

 

スカイ「責任…さっきはそう言ったけど、ケジメ…かな。

ウララを覚醒させるため。私が本気のウララと戦って勝つため。

目的を遂行するために退路を断つ。私の人生を賭ける事は当然の事だったんだよね」

 

キング「……あなたもウララさんに甘かったのね」

 

スカイ「やってる事は激辛だけどね。それにまだ…………」

 

グラス「まだ、、何です?」

 

スカイ「……んーん。何でもにゃい」

 

 

〈ふざけた語尾で言葉を濁す。不確かなモノ過ぎて言えないのだ。

ーースカイの策はまだ途中。言わば最終段階に入っていた〉

 

 

スカイ(私だってあの人が居なかったらこんな危険な事、考えついても実行しない。…ごめんね悟空さん。結局貴方に全部丸投げしちゃった事を許して…)

 

 

ナァ.チョットクレェイイジャネェカ。

ハナシテッテバ!。

 

 

キング「ん?………っ!。ね、ねぇ…あれって、」

 

スペ「・・・とりあえず、隠れて様子見よっか」

 

 

〈一同は頷くと、音を立てず建物の陰に潜んだ。耳を声のする方へ向け、顔をひょっこりと出す〉

 

 

スカイ(ここが正念場、かな。………悟空さん。お願いっ)

 

 

   

    ・

 

    ・

 

    ・

 

 

 

〈スカイ達の視線の先には悟空とウララの姿。だが、普通に話し合っている訳でなく掴み合っていた〉

 

 

ウララ「だぁから!ウララはこれから用事があるんだって!手を離してよぉ!」

 

悟空「んな事言うなよウララぁ。ちょっとだけだから。面白ぇもん見せてやんぞ?」

 

 

〈悟空はたづな達の所を出てすぐウララの"気,,を追った。対面して狼狽えるウララをよそに悟空は普段の調子で話しかけた。

もう怖気付く必要はない。失敗だってしても良いと割り切った悟空はウララに詰め寄った〉

 

 

ウララ「別に見たくないよ!もうほっといて!」

 

悟空「……そっか。

んじゃ着いてくるか、肩車して連れて行くかどっちが良い?」

 

ウララ「どっちも嫌だよ!なんでほっといてくれないの!?ウララはもう悟空さんとは…………と、とにかくウララは行かないから!」

 

悟空「ったく、しゃあねぇなぁ…。……抱っこがいいんか?」

 

ウララ「…お願いだからウララの話し聞いてよ……」

 

悟空「へへっ。それを言うならオラの事も聞いてくれよ。どうしても言っときてぇ事あんだからよ」

 

ウララ「…………………分かった」

 

悟空「よし。んじゃ肩車でも、」

 

ウララ「走っていくよ」

 

悟空「そうか?」

 

 

〈悟空の身勝手さにウララは断念するしか道はなく溜息をこぼす。

ウララは悟空の顔をチラッと見る。今朝のような困った顔はしておらず、太陽みたいに晴れやかな顔。

自分の心の中は黒く濁っていて気持ち悪いのに、気がつけば擦り寄ってしまいそうになる感覚がして、とても嫌な気持ちになっていた〉

 

 

悟空「んじゃ、遅くなる前に…」

 

 

〈悟空は話すのをやめ後ろに振り返る。微かに笑みを浮かべると誰1人として居ない空間に向かって話しかけた〉

 

 

悟空「おーい!おめぇ達も来いよ!」

 

ウララ「え?」

 

 

〈悟空の声に反応してオズオズとキング達が物陰から出て来た。それによりウララの顔は青白いものへと変化していく〉

 

 

キング「…まぁ、バレるに決まってるわね」

 

スペ「悟空さんだもんね」

 

グラス「でも、私達も一緒に行って良いのですか?」

 

悟空「ああ。構わねぇぞ」

 

エル「そういう事なら…」

 

 

〈続々と悟空とウララに近寄ってくるキング達。

ーーそして龍球ステークスから3日後にして、再び対面する〉

 

 

スカイ「………ウララ」

 

ウララ「ビクッ…………ぁ、ぅ、、、せいちゃん…」

 

スカイ「・・・・わ、私は行くのやめよっかなぁ!……用事あるし、」

 

 

〈ウララの怯えた表情を見て、スカイは身を引いてしまう。しかし、悟空はそれを許さなかった〉

 

 

悟空「そうなんか?…けど、すまねぇ。少しで良いからオラのワガママに付き合ってくれねぇか?」

 

スカイ「っ……で、でも」

 

悟空【オラを信じろ。スカイ】

 

スカイ「!!!」

 

 

〈不意に頭の中には飛んできたテレパシー。こんな状況だってのに、スカイの不安は消し飛んだ〉

 

 

スカイ(情けない事ばかりだなぁ)「うん。私も一緒に行こうかな」

 

悟空「そうこなくちゃな!元々おめぇ達の事も呼ぼうと思ってたから手間が省けたぜ」

 

ウララ「ぁ、ご、くうさ、」

 

悟空「んじゃ、走っぞぉ!ついてこーい!」

 

 

〈ウララの声には気づかないフリをして駆け足をする。特別スピードは出ていないが、遅れまいと各々が走りだし、その最後尾にウララもついていった。

後ろから見るウララの足取りは重く、歪だ。前方の皆との間に開く距離は、心の距離を表しているようにも思えた〉

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

悟空「この辺りでいっかなぁ」

 

 

〈悟空が足を止める。そこはウララと初めて会った場所であり、周りには民家が無い、自然あふれる所〉

 

 

スペ「懐かしいね。私は悟空さんとココで会って以来かな」

 

グラス「長い付き合いだと思うのに、まだ数ヶ月しか経っていないんですよね」

 

エル「でも、ココで何があるんデスかね?」

 

ウララ「ハァハァハァ…ごほっ、…ハァ、ハァ…」

 

スカイ(・・・ウララ)

 

 

〈言うほど遠くない場所でも今のウララには堪えてしまう。この数日間は運動というものをしておらず、おまけに心と身体はバラバラ。

1人だけ激しい息切れを起こしていた〉

 

 

悟空「大ぇ丈夫かウララ?やっぱすげぇ鈍ってんなぁ」

 

ウララ「ゴホッゴホッ……っ………そ、れで…こんな所で何をすんの?ウララ、トレーニングならやらないよ」

 

 

〈悟空を無視してウララは問いかける。それに気にする様子はなく、悟空はウララ達から少し離れた位置に歩いて行った〉

 

 

悟空「修行ならしねぇさ。これからはオラの事を教えるだけだ。おめぇ達はどんな事をしても良い。耳を塞いだり、しゃがみ込んだり…何でもいい。やらなきゃいけねぇ事はただ一つ」

 

 

〈悟空がウララ達に向き直る。大草原が広がっているかの如く穏やか空気が、〉

 

 

悟空「ーーオラから目を離すんじゃねぇぞ」

 

 

〈一変して暴風が吹き荒れる〉

 

 

キング「な、なにをっ!?」

 

悟空「ぁぁぁ………………」

 

 

〈突然木々がバサバサと音を立て激しく揺れる〉

 

 

エル「ご、くう、、さん?」

 

 

〈悟空はエルの声に反応しない。目を瞑り、左右対称で美しい程の真っ直ぐな立ち姿。肘を曲げ腰の位置で拳を軽く握る。ゆらゆらと髪と服が動き、それはやがて…〉

 

 

      〈爆発した〉

 

 

 

悟空「ーーーハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 

グラス「きゃぁっ!」

 

スカイ「なんっなの!?」

 

 

〈ゴオオオオオオ!と地鳴りが聞こえ、地面にヒビが入る。突然の事に叫ぶが、吹き荒れる暴風でかき消されてしまう。

この現象はまだ記憶に新しい悪徳記者が来た時。それと同じだった。ーーココで終わっていれば、〉

 

 

悟空「アアアアアアアッッッッッ!!!ーーーーいいか!おめぇ達!これから見せるのはオラの限界を超えた姿だッ!!!」

 

ウララ「限界を……こえた?…」

 

悟空「ーーーーーーー!」

 

スペ「・・・・え、」

 

グラス「っ!…や、やっぱり……私のは…………"見間違いじゃなかった,,…」

 

 

〈彼女達が最初にやった事は自分の目を疑う事だった。次には夢。目の前で起こっている事が現実だと認める事が出来なかった。悟空の異次元さは理解している。しかし、〉

 

〈黒から金へと髪の色が変化する事に脳がついて来なかった〉

 

 

グラス「あ、の時、、赤織の、記者の時に一瞬だけ……」

 

悟空「・・・あの時、抑えてたがよく分かったな」

 

キング「!!!」

 

 

〈悟空の低く冷たい声にキングは息を呑んだ。赤織記者の時に怒っている声は聞いたがその時と心境がまるで違う。

本能が、この男は危険だと身体全身に訴えてきていた〉

 

 

悟空「コイツは"オレ,,達サイヤ人にだけなる事が出来る。穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた伝説の戦士。超サイヤ人」

 

エル「スーパー、サイヤ人…」

 

スカイ「・・・激しい怒りって…」

 

悟空「・・・・・親友が殺された」

 

ウララ「っ!」

 

スカイ「ッッッッッ!ごっ、ごめんなさっ」

 

悟空「気にすんな。今は生き返ってる。それに今はそんな事を言いたい訳じゃねぇ」

 

 

〈グッ!っと拳を強く握ると、不規則に吹く風は悟空を中心に竜巻状になり、高さ数十mはありそうなほどの形となる〉

 

 

スペ「クッ…またっ」

 

グラス「スペちゃん!」

 

 

〈激しい風だけではなく、立っている事すら満足に出来ないほどの揺れ。態勢を崩してしまったスペにグラスが駆け寄った〉

 

 

グラス「スペちゃん捕まってください!」

 

スペ「ありがとうグラスちゃん」

 

グラス「はい。ーー皆さんも!早くっ!」

 

 

〈今頃は異常気象としてニュースで放送されているだろう。引き起こしているのは1人の男とは誰も思わないし、言っても信じてくれない。

でも彼女達は止めようとは思わなかった。悟空が自分達に"伝えたい,,と言ってくれた事だからと必死に立ち向かい続けた〉

 

 

エル「スカイ!ワタシに捕まってくだサイ!」

 

スカイ「エル!」

 

 

〈グラス達と同じように固まって手を取り合う。しかし、その中でも1番体が小さくて軽い者〉

 

 

ウララ「ーーーッッッッッ」

 

 

〈ウララは修行の成果を発揮するように強靭な足腰を利用して踏み留まる。だけど、それも長くは続かない。ズリズリと足が動いてしまう…が、〉

 

 

 

 〈それを黙って見ている彼女ではない〉

 

 

キング「ーー私から離れないで!」

 

ウララ「!…キングちゃん。…ウララはっ、」

 

キング「・・・・」

 

 

〈キングはウララの体を強く抱き込む。……そしてもう一度あの叫びが竜巻の中から聞こえてきた〉

 

 

悟空「ーーーグッ……ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ…だあああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

スカイ「っつ!…み、耳がっ」

 

エル「み、見てくだサイ!空がッ!!!」

 

 

〈エルの騒音の中であまり聞き取れない声でも、指で差す空を見る〉

 

 

スペ「!……は、はは……地球…壊れちゃったりしないよね?」

 

グラス「こんなの…地球そのものが震えてるみたい…」

 

 

〈まるで他人事みたいに呟く。空に浮かぶ雲が凄い速さで動いているのを見て地球の終わりを悟った。

だが、それすらもまだ途中。災害は終わらない〉

 

 

 ーーーバチッ!

 

 

キング(…何の音?)「ウララさん!もっとくっついて!」

 

ウララ「っ、」ギュゥゥゥ!

 

 

〈キングは微かにした音を辿る。砂や石、風が巻き上がる中を必死に視線を巡らせ………見つけた〉

 

 

キング「ーーーかみなり?」

 

 

〈空ではなく地面を見ながら雷を連想した。這うように紫電を撒き散らしながら移動するソレはどんどん増殖している〉

 

 

ーーバチッ…バチチッ………バチチチチチチチチッ!!!!!

 

 

〈紫電は竜巻に引き寄せられ音を立てながら纏わりついていく。ーーーーそして、〉

 

 

悟空「ッッッッッ!!!ーーー次だァッ!オレがいくら限界を超えても奴等は軽々とそれを超えてくる!絶対に負ける訳にはいかねぇ闘い!オレは限界の更に限界の壁を越えようとした!その姿がっ」

 

ウララ「限界の……更に!?」

 

 

〈稲妻帯びた竜巻は回転速度を上げながら収縮していく〉

 

 

悟空「超サイヤ人2!!!!!」

 

 

  ドッバアアアアアアッッ!!!!!!

 

 

〈叫び声と共に竜巻が弾け飛ぶ。ウララ達はあまりの衝撃に目を瞑り体を縮こまらせた。

"シュン!シュン!,,と"バチチチチッ,,という音が2つ重なり、ゆっくり目を開けていく〉

 

 

エル「こんな、事が…生物に出来るものなのデス、か?」

 

 

〈エルがそう思ってもおかしくない。

悟空を現地として謎の風が吹き荒れ、辺りにはバチバチと音を立てて稲妻が走る。

髪がさっきよりも逆立ち、前髪に一房が垂れた状態。変わったのは姿だけか。いや違う。"気,,を探れない彼女達でも分かるほど圧力が増した。

神々しい姿は恐怖を通り越し、もはや崇拝すら感じる〉

 

 

悟空「………」バチッ!…バチチチチッ!!!

 

キング「これが、、限界の…更に限界を超えた姿…」

 

スカイ「…スーパーサイヤ人2……、、」(悟空さんの世界ではこれだけの強さが必要だったの?)

 

悟空「生きてる時はコイツの一歩手前までの姿にはなれた。完成したのはオレが死んでからだ。…ーーーぇよな」

 

エル「え、今なんて…」

 

 

〈最後に何かを発したであろう事を聞き返しても悟空からの返答はない。

比較的近くにいたグラスはかろうじて耳にしていた〉

 

 

グラス「・・・・・遅い?」

 

スペ(なんだか悟空さん、哀しそう…)

 

 

〈スペは確かにそう思ったが、悟空の顔は至って普通。何故哀しそうだと思ったのかはスペ自身でも分からない。スペは思考を働きかけたが、すぐに放棄する〉

 

 

 

悟空「・・・・」フワァ

 

 

 

〈ほんの少しだけ地面から離れて宙に浮く悟空が、何かをする事は一目瞭然だったからだ。

収まるどころか圧力は増す一方。悟空の姿が揺れて見えるのは地面が震えているせいなのか。陽炎のようにユラユラと歪んでいる〉

 

〈悟空の発する熱が伝わると嫌でも理解してしまった〉

 

 

キング「ま、まさか……まだこれ以上の力が…」

 

悟空「ーーーーーーーーキッ!」

 

 

轟ッ!!!!

 

 

〈再び空気の塊がウララ達を襲う〉

 

 

悟空「ぁぁぁぁぁ………………グゥゥッ、」

 

 

スカイ「……なんだか辛そうじゃない?」

 

エル「シッ!油断は絶対ダメ…………来る!」

 

 

〈何かを感じ取ったエルはスカイの頭を抱きかかえて体を小さくした。

吹き荒れる暴風。鳴り止まない雷。激しく揺れる地面。今にも千切れ飛びそうな木々。増水する川〉

 

〈それら全ての音を消し去る『声』〉

 

 

悟空「ガァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!…………オ“オ“オ“オ“オ“オ“ッッッッッ!!!!」

 

 

〈さっきまでの様な芯が真っ直ぐ通った姿勢ではなく、腰を落として荒々しく雄叫びを上げる悟空。力強く握った手や腕は血管がビクビク動き、少しずつ筋肉が膨れ上がっている姿は、まさに異常〉

 

 

スペ(なんて大きい声っ。耳を塞ぐ程度じゃぁ…)チラッ

 

グラス「っ…ッッ……ぅぁっ……クゥ…」

 

スペ(・・・・・・よし)スッ

 

 

〈スペは自分の耳をピコピコと動かし出来る限り内側に倒して、抑えていた手を離した。その手の先はグラスの耳へ〉

 

 

グラス(す、ぺちゃん…っ!)

 

スペ(・・・)フルフル

 

 

〈グラスは、自分は大丈夫だとスペの手を外そうとするが、首を振ってグラスの動きを止めた。僅かに優しく温和な目をグラスに向けると、視線をずらして悟空へ向けた〉

 

 

スペ(あの人が精一杯伝えようとしてるんだ。何が何でもしっかり見ないと)

 

グラス(スペちゃん………そうですね)

 

 

〈スペの意志を感じる取るとグラスにも強い意志が眼に宿った。

片時も目を外さないと心に決めて悟空を見るが、黄金の輝きを悟空が纏う〉

 

 

悟空「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!ーーーコイツがァッ!限界の、更に限界を…さ、らに超えた…っ、」

 

 

〈溢れんばかりに漏れ出す黄金は空間を支配し、やがてそれは目も開けられないくらい輝きを増す。あまりの眩しさに目を閉じていく彼女達。

そんな中ウララだけは見ていた。いくら悟空から遠ざかってもウララの身体は勝手に反応する。

だが、それでも限界はある。防衛本能から瞼が下がっていく時、〉

 

 

     〈ウララは確かに見た〉

 

 

ウララ(・・・猿?)

 

 

悟空「ーーーグオオオオオオオオオオオオオオオ"オ"オ"オ"オ"っ!!!!!!!ハァッ!!!」

 

 

パァァァァァーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エル「と、止まった……」

 

キング「っつー、……何が、どうなったの?」

 

 

〈これまであった自然災害が本当は無かったのではないか、と言う程ピタリと止んでいる。

それでも夢じゃないというのは周りの様子を見ればハッキリと分かる。

悟空を中心に更地になった地面。ヒビが入り川の水は蒸発。木々は根っこが頑張ったのか耐えており、土砂崩れが起きない事が奇跡のようなものだった〉

 

 

ウララ「……悟空、さん」

 

 

〈ウララの呟きに他の娘が反応し、悟空に目を向ける〉

 

 

グラス「これは一体…」

 

スペ「どういう事?」

 

キング「……あれって、」

 

エル「ええ。ーーーー元の悟空さん…デスね」

 

 

〈エルの言う通り、悟空の髪は黒色に戻っており、地面に膝をついていた〉

 

 

悟空「ハァハァハァ……っあー、、ハァ…ハァ…」

 

キング「ちょっ、ちょっと大丈夫なの!?」

 

 

〈悟空が息を切らしている所を初めて見たキングは駆け足で近寄った〉

 

 

悟空「ハァハァ………く、くくっ。ははっ!いやーすまねぇな!やっぱ下界じゃ無理だった!」ハハッ!

 

スカイ「え、っと……説明…頼んでもいい?」

 

悟空「そうだな。オラがやろうとした超サイヤ人3はココに来る前にやっと出来た事だったんだ。

元々エネルギーの消耗が激しい3は下界じゃ不向きだったし、なれてまだ3回目くらいなもんだから身体がついて来なかったな!いやー失敗失敗!」

 

キング「失敗失敗…じゃないわよ!こっちがどんな想いだったか分かってるわけ!?相談も無しにこんな事して、、、それにあんな…怖く…」

 

悟空「………ああ。本当にすまねぇな」

 

 

〈耳も首も項垂れたキングの頭を優しく撫でる悟空〉

 

 

ウララ「………………ねぇ、悟空さん」

 

 

〈しかし、この男は分かっているのか…〉

 

 

ウララ「ウララね、悟空さんが何をしたいのか全く分からないよ」

 

 

〈悟空の強さを見せただけで、話は全く進んでいない事に。

不審な目を向けるウララに悟空の口元は微かに緩む〉

 

 

悟空「だろうな。今やったのは話しやすいように先にやっただけで、ただのオマケだ」

 

ウララ「・・・、」

 

悟空「オラは今の今まで忘れてた事があったんだ。いや忘れてたっつーか…一緒だと思わなかった。みてぇな所かな」

 

ウララ「…何を言ってるの?」

 

悟空「・・・オラはおめぇの気持ちが分かる。多分、まんま一緒だと思う」

 

 

〈それを聞いてウララが思いっきり目を開く。その理由は驚愕じゃない。怒りだ〉

 

 

ウララ「ふざけないで!!!」

 

スペ「ウララちゃん…」

 

悟空「・・・本当の事だ。嘘じゃねぇ」

 

 

〈悟空は怒鳴り散らすウララからスペ達みんなを遠ざける。ウララは悟空の正面に立つと、心の底から失望し、睨んだ〉

 

 

ウララ「嘘だよ!あんなに強い人がウララの気持ちを知ってる筈が無いっ!適当な事言う悟空さんなんて見損なったよ!」

 

悟空「オラが強ぇか… 。なぁウララ、オラを嫌ってくれてもいい。だけど一回だけオラの言いたい事を聞いてくれねぇか?」

 

ウララ「っ!………………………………なに」

 

悟空「へへっサンキューな。……さっきも言ったけど、オラが言いたかったのは超サイヤ人の事じゃねぇ。必要も無かったから言わなかったんだ。ーーオラが死んだ理由を」

 

スカイ「っ、…悟空さんの、」

 

エル「亡くなった理由…」

 

 

〈確かに聞いた事が無いと彼女達は思う。自分が死んだ事を軽々しく話す悟空に緊張感が持てないからと、深く考えた事が無かった。

とても恨みを買いそうな人とは思えない。それに加えて"あれだけの力,,だ。

酷い言い方になるが、対した理由ではない。………そう思いたかった〉

 

 

ウララ(…っ)

 

グラス(な、なんだか胸が苦しい…?)

 

 

〈ウララやグラスだけではなく、他の娘にも、これ以上はないくらいの不安が襲った〉

 

 

 

 

悟空「オラが死んだ理由はな、」

 

 

    

     「敵に殺されたからだ」

 

 

 

 

ウララ「ーーーーーヒュッ」

 

 

〈薄々分かっていた。戦いが好きな彼。事故や災害では絶対に死なない。消去法として残ったのが病気。そして……敗北〉

 

スペ「そ、、そん、なぁ…」

 

スカイ「ひどい…っ!…」

 

グラス「っ……………クッ…」

 

エル「・・・・・ごく、っさ、、」

 

 

〈悲痛に顔を歪める者。顔を見れず目を逸らしてしまう者。ホロホロと涙をこぼす者。

認めたくなかった。時には兄や父のような頼もしさや安心感があり、友達のように笑い合える彼。そんな彼が殺されたという現実を知りたくなかった〉

 

 

キング「…………なんでよ」

 

悟空「…キング……」

 

キング「なんでっ、、貴方みたいな人が殺されなくちゃいけなかったのよぉ……」

 

 

〈キングは手で顔を覆う。隙間からは止めどなく雫が流れていった。

それを悟空は指で掬い、キングの頭を優しく撫でた〉

 

 

悟空「まぁ、そんな泣くなよ。終わった事だ。つってもあれだぞ?ただ負けただけじゃねぇからな!あの世で会った時に勝ってるし」

 

キング「そ"ん"な"の"い"い"わ"け"よ"!!!!」

 

悟空「い"っ!ちが、言い訳じゃねぇって!ほら、おめぇ達も涙拭け!」

 

エル「ぅぅっ…」

 

スカイ「むり、かも……グスッ」

 

グラス「」ボロボロボロボロボロ

 

スペ「うわあああああああああん!!!!!」

 

悟空「参ったなぁ…」

 

 

〈行き所のなくなった右手で後頭部を掻く悟空。その様子をウララは離れた場所から見ていた〉

 

 

ウララ「………ぁ…」

 

 

〈本当なら自分も行きたい。胸が痛くて苦しいから思っ切り泣きたいのに、意地が邪魔をして何も出来ない。

結局ここでも自分は何も出来ないと、キング達がいる場所から目を逸らす。

だが、その前に悟空と目が合った〉

 

 

悟空「心配すんなよウララ。話を誤魔化そうとしてる訳じゃねぇ。結果を先に言うと訳わかんねぇから順番に言ってるだけだからな」

 

ウララ「・・・」

 

 

〈疑ってはなかったが、悟空がまだ話すと言うのであれば聞く。ウララは再度悟空を睨んだ〉

 

 

ウララ「…続き…なに……」   

 

 

〈悟空はウララから目を離さずにキング達から離れた〉

 

 

悟空「おう。まだ本題に入れねぇから一気に言うぞ?

ーー戦ったやつの名前はセル。人造人間っつー人工的に作られた生き物だ」

 

キング(ツッコんでは駄目よ)

 

悟空「生まれたてのセルはまだ未完成。完全体になる前にオラの仲間達が倒そうとした」

 

スカイ「完全体って何?時間で進化すんの?」

 

悟空「セルは生命エネルギー…ようは生物の血や肉、源となる全ての力を吸収するらしい。実際、いくつもの街から人が全員消えたみてぇだ」

 

グラス「っ!何百人も殺されてしまったのですか!?」

 

悟空「いや、百じゃきかねぇ。万以上……つってたな」

 

スペ「酷い…」

 

エル「・・・!!悟空さん"気,,で探せなかったんデスか?」

 

悟空「セルは"気.,を消して移動してたらしい。仲間達が近づくのを逆に読まれて姿さえ見つけられなかった。…って言ってた」

 

キング「…………さっきから誰目線よ。悟空さんはそこに居たのではないの?」

 

悟空「オラは心臓病で倒れてた。薬が効くまでは寝たきりだ。夢の中で話しを聞いてたから何となくは分かってたけど」

 

キング「そう」(キング!ツッコんでは駄目よ!!)

 

悟空「でも、オラが目覚めた時には遅かった。形態は変化して強くなっていった。オラの力も届かねぇくらいに」

 

スペ「……そこでやられちゃったの?」

 

悟空「いや、勝てねぇ事が分かったから修行をしに行った」

 

スカイ「悟空さんの力は知ってるけど、そんな短期間で強くなれるの?」

 

悟空「神様の神殿にある、精神と時の部屋っちゅーのがあって、一面真っ白で何も無い空間。現実世界では1日でもその部屋の中じゃ1年になるんだ。そこでやった」

 

グラス「ぅ…1年、ですか……」

 

 

〈グラスは神様や神殿を無視して1年の修行というワードに引っかかった。

トレーニングをする身として、連続5日間くらいが限度だろうか。それも数時間ほどしか出来ない。

詳しく聞いてはないが、どうせ休憩時間よりトレーニング時間の方が長いのだろうと勝手に想像する。間違ってはないはずだ。それを娯楽も何にも無い空間に1年…。

グラスはその狂気とも呼べる所業に尊敬ではなく、めちゃくちゃドン引きした〉

 

 

悟空「オラは結構強くなったけど、部屋から出たら既に完全体になっていた。圧倒的な力を手にしたセルは世界に向けて言いやがった。

ーーセルゲームを開始するってな」

 

エル「楽しいゲーム…じゃないデスよネ」

 

悟空「そうだな。地球を壊されたくなきゃ倒しに来いって事だ」

 

キング「地球を!?…それもハッタリじゃないのでしょうね」

 

悟空「ああ。もちろんオラ達は戦った。そん時オラの力は超サイヤ人2の一歩手前。……セルには通用しなかった。負けたオラは下がって、可能性を秘めた奴を送り出した。潜在能力を爆発させたソイツはオラどころかセルをも圧倒した」

 

グラス「悟空さんが負け………いえ、、、そのセルを圧倒したのなら終わりではなかったのですか?」

 

悟空「そうだ。セルは何をどうやっても勝てねぇ事を悟った。その結果セルは地球もろとも自爆する道を選んだんだ」

 

エル「汚い奴デス!」

 

スペ「え、でも地球ごとって事は、逃げ場が…」

 

スカイ「………………瞬間移動」ボソッ

 

ウララ「・・・・・っ」

 

悟空「スカイの言う通りだ。その選択しかなかったし、オラの代わりに戦ったソイツを守れるなら迷いはなかった」

 

キング「悟空さん…」

 

悟空「まぁ、飛んだ先の神様を道連れにして死んじまったし、セルは死んでなくて地球に戻るし散々な結果だったけどな!」

 

キング(ツッコんでは………)

 

グラス「えっ、地球は無事だったのですか?」

 

悟空「おう!危なかったけど、ソイツがやってくれたぜ!色々あったけど一件落着した!……っつーまでが前置きだ、ウララ」

 

 

〈悟空とウララの視線が交わる〉

 

 

ウララ「…うん。本当凄いよ、悟空さんは。……本当に、"ウララとは大違いだ,,」

 

悟空「・・・んじゃ話すぜ。オラにも弱ぇ所があるって事を」

 

ウララ「……あなたにウララの気持ちは分からない」

 

 

〈数秒の間沈黙が続く。ウララは絶対の自信があった。悟空に弱いヒトの気持ちが分かる訳ないと。だからこそ全部話しを聞いてから決断する事を決めた。

そんな殺伐とした2人の行く末を見守るため、キング達は傍観を決め込む〉

 

 

悟空「…オラは死んだ後、神様に肉体を残してもらい、修行をつけてくれる事になった。

地球に置いてきた奴等を考えるとちょっと辛かったけど、オラは楽しみだった。すげぇ神様に鍛えてもらえんならオラはもっと強くなる。ずっとワクワクしてた。…ように思ってた」

 

ウララ「違ったの?」

 

悟空「途中までは全然気づかなかった事だ。

それで修行をつけてくれる大界王様の星に行った。そこにはオラの他にも強い奴がいっぱいいて張り合った。武道大会なんかも開いててすげぇ楽しかった。

そんで、いざ修行を始める時…オラは全然ワクワクしなかった」

 

ウララ「・・・」

 

悟空「おかしい話しだろ?楽しみにしてたのにオラの心は冷たいままだ。

結局、修行は一切しねぇで、組手や大会に出るだけの日々が続いた。

さすがにやべぇって思って強引に修行した。意味もなく限界まで"気,,を上げたり、重りつけて武術の型をやったりして、だけど心がついてきてねぇんだ。すぐに息が切れて修行どころじゃなくなった。

ついに走る事すらやめた時、オラは思った。

 

ーーあれだけ限界を超えたのに結局負けちまった。修行したってこれ以上強くなれねぇんじゃねぇかって」

 

ウララ「ぁ、そ、れはっ!」

 

 

〈ウララは思わず声を張り上げた。悟空の言った事は自分も確かに感じた気持ちだ、と。

暗い闇の中に小さな光を見つけ、ウララはなりふり構わず縋り付く〉

 

 

ウララ「そ、れで、、それでっ、どうなったの!?」

 

悟空「フッ……なーんにも出来なかった!」

 

ウララ「え、」

 

悟空「寝て起きて食って組手しての繰り返し。それが半年くれぇ続いた」

 

ウララ「そんなに、」

 

悟空「だけど、ある日夢を見た。オラのガキの頃。亀仙人の…オラの師匠の所で修行を始めたばっかの時、今のウララと同じように亀の甲羅を背負って身体を鍛えていた。そんな中で言った。

武道家なんだから技を教えてくれ。って。

身体を鍛えるだけじゃ勝てねぇだろうから聞いた。そしたらよぉ、師匠が言ったんだ」

 

 

 

【武道は勝つために励むのではない。おのれに負けぬためじゃ】

 

 

ウララ「おのれに………自分に負けないため……」

 

悟空「分かるだろウララ。おめぇが負けたのはスカイにか?オラがやる気をなくしたのはセルに負けたからか?…違ぇよな。

ーー結局オラ達は自分自身に負けてたんだ」

 

スカイ「・・・」

 

ウララ「っ…ぁ、ウ、ララは、、」

 

悟空「・・・・まぁ、それが分かったからなんだっつー話しだけどな。やる気が戻る訳じゃねぇし。だけど諦めたくなかったオラは初心に返った。

自然や山の中で暮らし、腕立て伏せや岩を持ちあげて鍛えたり。今となっちゃ準備運動にもならねぇ事をした。そんで積もり積もった結果、さっき見せた力を手にした」

 

ウララ「・・・そっか、」

 

 

〈ウララは憂いを帯びた顔をする。悟空の世界で起きた事を知れたのは嬉しかった。悟空が感じていた事は確かに自分と同じだったと納得もした〉

 

〈けれどウララが立ち直る事はなかった〉

 

 

ウララ「やっぱり悟空さんは凄いよ。"コレ,,を乗り越えるなんて。…ウララは怖いよ。もし頑張ったら次は必ず勝てるの?諦めなければ夢は叶うの?そんなの辛い、」

 

悟空「いつまでくすぶってんだ、ウララ」

 

ウララ「っ、え」

 

 

〈ウララを遮ったのは鋭い刃のように尖った声。驚いて悟空の顔を見ると眉を顰めている。怒っている…でも圧力を感じないから怖くない。叱られているようだった〉

 

 

悟空「考えたんだけど、これは勝負だぞ?勝つか負けるか分からねぇ。それに、絶対に勝てるって決まったらつまんねぇだろ。甘えてんじゃねぇ」

 

キング「っ、そんな言い方っ!」

 

悟空「酷いってか?勝つ事がどれだけ大変か、おめぇが1番分かってそうだけどなぁ。キングヘイロー」

 

キング「っ!」

 

エル「・・・キング、」

 

 

〈怯んだキングをエルが下がらせる。悟空は再びウララに目を向けた〉

 

 

ウララ「・・・、」

 

悟空「オラはおめぇのトレーナーじゃねぇ。ウマ娘の事なんて詳しくねぇし、基本の事ですら最近やっと分かったくれぇだ。 

ウララのような悩んでる奴に普通のトレーナーがなんて言うか想像もつかねぇ。

 

キングにG1獲らせるためにキントレがなんて言うか。

スペを日本一にさせるためにトレーナーが何言うか。

エルを世界最強にするために何を言うか。

グラス……は知らねぇけど、何かしてんだろ」

 

グラス(・・・・・私も悟空さんとの時間を貰わないと)

 

 

悟空「でも、そんなオラだから言える事がある!」

 

 

〈少し声を大きくすると悟空から風が舞う。穏やかな風がウララの髪をフワリと靡かせた〉

 

 

ウララ「悟空さんっ…」

 

悟空「怖くても、辛くても、泣きたくても、歯ぁ食いしばって立ち上がれ!おめぇにはそれが出来る!!」

 

ウララ「っ、で、出来ないよっ!ウララは弱いんだ!それに、トレーナーなら強引に押し付けたりしない!」

 

悟空「トレーナーならそうだろうな。オラは目指してねぇし、ウララならきっと出来るっつー確信がオラにはある!」

 

 

〈"なんでそんなウララに、,,小さな声で呟いた言葉をしっかり聞いていた悟空は優しく微笑んだ〉

 

 

悟空「オラはウララに教えてきた。鍛え方、意志、戦い。あえて名前を付けるんなら、

 

ーーオラは『師匠』でウララは『弟子』だ。どんなに不利な事になっても最後まで信じ抜く!!」

 

ウララ「ウララが…弟子、」

 

悟空「ははっ!なぁウララ。見せつけてやろうぜ。オラ達2人で作る最強の力を、コイツらに…地球中の奴等全員によぉ!」

 

ウララ「・・・・・、」

 

 

 

 

 

 

ウララ「ごめんなさい」

 

 

〈止めどなく流れる涙を拭う事はせず、地面に跡を作っていった〉

 

 

スペ「ウララちゃん、」

 

キング「・・・っ」

 

 

〈"無理だった,,全員の脳裏に浮かぶ結論。悟空も成り行きを見ている中でウララはスカイの方を向いて言った〉

 

 

ウララ「セイ、ちゃん!ごめ、んなさいっ!」

 

スカイ「…ウララ」

 

ウララ「ウララ、セイちゃんが怖くて、みんなが怖くなっちゃってっ、、今まで頑張ってきたトレーニングが無駄だって言われてる気がして、、、ウララ逃げちゃった…」

 

グラス(・・・・ふふっ、良かった)

 

 

〈一足先に特別な雰囲気を感じ取り、グラスは安堵の表情を浮かべた。他のみんなも、もう心配はしていない。

ポツポツと話すウララにぎこちないながらも笑顔が見えてきたからだ〉

 

 

ウララ「ねぇ悟空さん。ウララ、もう一度走りたい!強くなって、みんなに勝ちたいんだ!

………いっぱい迷惑かけちゃったけど、手伝って、くれる?」

 

悟空「おう!何度だってやろうぜ!」

 

ウララ「うひひっ!」

 

 

〈満点の笑顔のまま、ウララはキング達の前に立った。そして頭を下げる〉

 

 

ウララ「みんなもごめんなさい!」

 

エル「ベリーベリー問題ないデース!」

 

スペ「気にしなくて良いよ!やっぱりウララちゃんは笑ってなくちゃね!」

 

キング「ま、まぁ、ライバルが減って勝っても意味ないから立ち直ってくれて良かったわ」

 

グラス「うふふっ、あらまぁ……」 

 

キング「…なによ」

 

グラス「いえ、別にぃ?それよりも、」

 

 

〈グラスはスカイを見た。まだ1人暗い顔をしたスカイの目の前にウララは移動した〉

 

 

スカイ「…ウララ、その…ごめ、」

 

ウララ「セイちゃんの声、ちゃんと聞こえてた」

 

スカイ「え、あ…」

 

 

〈それはレース後の事だろうか。主語がなくても伝わり、ウララはスカイの手を取った〉

 

 

ウララ「やっぱりセイちゃんは優しいね!それにすっっごく強かった!……龍球ステークス、おめでとう。…まだ、言えてなかったよね…ごめんなさい」

 

スカイ「っ、こっちの方こそ、、、、」

 

 

〈"ごめん,,それはスカイの口からは出なかった。

自分の勝手でウララを悩ませて、結果は良かったものの、浅はかな事をした。

本当なら謝るべきだろうが、言うべきことは謝罪じゃないだろうと、何となく思った。だから代わりにこの言葉を贈る〉

 

 

スカイ「・・・・・ありがとう、ウララ」

 

ウララ「…あはっ!…うん!ーーーでも、これで終わりだよ?」

 

 

〈突然笑みを消してウララはスカイの手を離して遠ざかる。一同が視界に入る位置に移動した〉

 

 

グラス(これはこれは…)

 

エル(……ヘェ?成長が早いデスネ)

 

 

〈グラス達全員の目付きが鋭くなる。その原因は髪がゾワリとする程の圧力を放っているハルウララだった〉

 

 

ウララ「ウララはもう負けない。『師匠』と一緒に頑張って、有馬記念はウララが勝つよ」

 

キング「上等よ!」

 

スカイ「……プッ、返り討ちにならないように気をつけてねぇ」

 

スペ「ダービーウマ娘に勝てると良いね」

 

グラス(強気な煽りスペちゃん……ポテンシャル秘めてますねぇ)

 

 

〈くだらない事を考えてるグラスは放っておいて、愉しさに顔を歪めるウマ娘達。

悟空はクスリと笑うと、手をパンっと叩いた〉

 

 

悟空「そんじゃあ帰っぞぉ、おめぇ達ー」

 

『はーい!』

 

〈ボロボロになった場所は後日直すとして、帰路につく。前の方で和気藹々と話す中、ウララは1人悟空に近寄った〉

 

 

ウララ「悟空さん」

 

悟空「ん、どした?」

 

ウララ「え、と………ありがと」

 

悟空「フッ……ああ。これからまたよろしくな!」

 

ウララ「うんっ!」

 

悟空「よしっ、……さっ、日が暮れる前に帰らねぇと、たづなが怒るから急ぐぞー。走れ走れー」

 

 

〈うぇーっと不満な声を漏らす彼女達。悟空は急かすためにスカイの頭をクシャクシャに撫でた〉 

 

 

スカイ「わわっ、何すんのぉ!?」

 

悟空「ひひっ!ほら、スカイも走れー!」

 

スカイ「っもう!」

 

 

〈スカイは悟空の横顔を盗み見る。この人が居て良かったと、心の底から喜んだ〉

 

 

スカイ(…ありがとね。悟空さん)

 

 

〈照れ臭いから"心の中,,で感謝の想いを伝える〉

 

 

 

 

 

悟空「おう!おめぇもよく頑張ったな!」

 

スカイ「うん!…………………は?」

 

 

〈スカイは混乱した。自分は今絶対に口に出していない。それなのに、確かに返事をして来た。それが何を意味するか…理解不能〉

 

 

スカイ「ちょーーーっと、おかしくない今のっ!?」

 

悟空「別に何もおかしくねぇぞ?なっ、ウララ」 

 

ウララ「???…うんっ!」

 

スカイ「ウララ、適当に返事しないでよぉ!今のはあり得ないって!!」

 

ウララ「悟空さん、セイちゃんは何を言ってるの?」

 

悟空「へへっ、オラにも分かんねぇや」

 

スカイ「嘘つけ!」

 

 

グラス「そういえば、悟空さんでも勝てなかったセルを倒した方は凄いですね」

 

悟空「ん?ああ、何たってオラの子だからな!やってくれると信じてたぜ!」

 

グラス「へぇ、悟空さんの子、ど、、もっ」

 

 

『ええええええええええええっ!!!!!』

 

 

『子供いた結婚何歳いつからどこで貴方』

 

悟空「ちょ、ちょっと待て。話してやっから1人ずつ喋ってくれぇ!」

 

 

〈悟空の暴露により、今日あった事などそっちのけで食いつく彼女達。

困惑の表情を浮かべた悟空は"長くなりそうだ,,とため息をつく〉

 

〈案の定、学園に着くまで止まる事のなかった質問コーナーを終え、彼女達はホクホクしながら寮に帰った〉

 

 

 

悟空「……ハァ、ルドルフの言ってた以上だな……今のが1番疲れたぞ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

ー トレセン学園:理事長室 ー

 

 

ルドルフ「怪我人及び被害は無し。今回の災害は異常気象として捜査中との事です」  

 

やよい「うむ。…あれだけの事があって被害無しとは、、普通じゃないな」

 

たづな「・・・・・」

 

やよい「…どうした、たづな。険しい顔をしているが、」

 

たづな「・・・タイミングが良すぎて、」

 

ルドルフ「タイミング?…………っ!」

 

やよい「……何の事かは分からないが、取り返しがつくなら何でも良かろう」

 

たづな「理事長これは、」

 

やよい「たづな。自分の心を信じろ」

 

ルドルフ「まさか、理事長は……」

 

 

 

やよい「フッ。私はお前達が言う事も今回の件も、なーんも知らんぞ?」

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

次回予告:(駿川たづな)

 

 

 

やっぱり、あの人でしたか…。これはお説教が必要ですね。

……まぁ、いいです。それよりも大変な事が起きてしまいましたよ。

あのヒトが超サイヤ人の存在に気づいてしまいました。すぐ行動に移すようです。

 

 

狙いは孫悟空さん、ただ1人。ならば…私のする事は決まっています。

【たづな、おめぇ何を考えてる、」

 

…悟空さん…後は任せましたよ。

【よせ……よせっ!戻って来い!】

 

ーー絶対に・・・にも・・・ませんから!

【行くなァっ!たづなああああああああ!!】

 

 

 

 

次回、劇場版  たづなの決めた道。

 






question(Q)「被害…やばくね?」
answer (A)「被害?そんなの無いよ」

Q「いや、津波とか建物とか、絶対…」
A「大丈夫。何も壊れてない」
Q「…でも、」
A「(o_o)」ジー
Q「…………分かった」


2
Q「悟空のスーパーサイヤ人の時、平常心を保てるように修行したから口調変わらないよ?」
A「私の好みだからほっといて」
Q「はい…」



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劇場版:DBダービー! 知識爆発ッ私がやらねば誰がやるんだい!!





これで全体の前半が終了しましたぁっ!
この分だと今年中には完結出来ると思います。
後半も長いお付き合いをよろしくお願いします!







 

 

 

 

 

 

「……これで準備は整った。私の理論に間違いはないはず。奴の力は抑え込んだも同然だ!奴の血液が私の物に出来るぞ……くっ、くくくっ!アハハ…アハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 

〈薄暗い一室に響く、狂気の嗤い声。どこの表情筋を動かせばそうなるのか、酷く歪んだ笑みを浮かべていた〉

 

 

「愉しみだねぇ……スーパーサイヤジン♡」

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

たづな「あ、悟空さん」

 

悟空「たづなか。オッス!じゃなくて…お疲れさん」

 

たづな「ふふっ、お疲れ様です。校舎の中で会うとは珍しいですね」

 

悟空「そうだな。オラはあんまり用がねぇからなぁ」

 

 

〈悟空の日常と言えば、主にウララのトレーニングと外で警備の仕事だ。校舎内には行く必要も無く、強いて言うなら理事長に書類を渡すために来るくらい。それと訪問だ〉

 

 

たづな「今日はどうしたんです?」

 

悟空「ウララから聞いたんだけど、タキオンがオラの事を呼んでるらしくてな。わざわざ日にちと時間を決めて」

 

たづな「そうでしたか。……私も一緒に行って良いですか?」

 

悟空「ん?まぁ構わねぇだろうけど、おめぇの予定はねぇんか?」  

 

たづな「はい、時間を持て余してましたし、悟空さんと話したい事もありますから…ねぇ?」

 

 

〈たづなは首をコテンと倒し上目で悟空を見る。綺麗な容姿にどこか幼さが残る表情は誰であろうと一瞬目が奪われるだろう。

しかし悟空は見抜いていた。優しく微笑む彼女の目は全く笑っていないことに。

何か答えてやらないと。背中に冷や汗を垂れ流す悟空は、〉

 

 

悟空「…………ははっ」

 

 

〈力なく、ただ笑い返した〉

 

 

     ・

 

     ・

 

     ・

 

 

 

たづな「〜〜〜〜〜と、本当に分かってます?悟空さん達にとっては大事でもこちらは酷かったんですからね。"アレ,,のせいで泣いちゃう子だっていましたし」

 

悟空「あ、ぁぁ……悪かったから…もう勘弁してくれ」

 

 

〈怒涛に責め立てたのは先日の"アレ,,。悟空が"気,,を解放した事で発生した二次災害の事だ。

その次の日には大まかな内容をたづなに説明をしたが、途中で急用が入り終わってしまった。

その鬱憤を吐き散らしているたづなに悟空の為す術はない〉

 

 

たづな「ハァ、全く。一時は死すらも感じましたよ」

 

悟空「…んじゃ、死ぬ事を覚悟すんのはこれで2回目だな!」

 

たづな「は?」

 

悟空「ごめんなさい」

 

 

〈話のテンションを変えようと悟空流のジョークを言ったが、通じるわけがない。

もはや笑う事すらしなくなった反応に悟空は考えるまでもなく頭を下げた〉

 

 

悟空(コイツのはチチやブルマと違って精神にクルなぁ…。何かしら攻撃される方がオラ向きだ)

 

たづな「・・・はぁ、」

 

 

〈悟空の頭上に落とされた溜息に体を震わせる〉

 

 

たづな「もういいです。……それにしても…スーパーサイヤ人、ですか」

 

悟空「?……あー、誰かに聞いたんか」

 

たづな「ええ。あの娘達もお年頃ですからね。悟空さんが関わりを持つ方が順番に」

 

悟空「へぇ、そこまで面白い話って訳じゃねぇと思うけどなぁ」

 

たづな「面白い面白くないでは無いんです。悟空さんの事だから知りたいし教えたいのですよ、あの娘達は。……それに、私も」

 

 

〈たづなは熱を帯びた目で悟空を見た〉

 

 

悟空「おめぇも何か知りてぇのか?」

 

たづな「・・・、」

 

 

〈たづなは言い辛そうに悟空から視線を外して前を向いた。悟空も特に急かす事なく待ち続けていると、たづながポツリと呟く〉

 

 

たづな「……結婚って…やはり良いものですか?」

 

悟空「・・・・・へ?」

 

 

〈何とも気恥ずかしい思いから、モジモジしながら悟空の顔色を窺う。

想像だにしてない質問に悟空はポカンと口を開いた〉

 

 

たづな「かっ、勘違いしないで下さいね!?別に結婚に憧れはあれど、願望とかじゃないですから!私だってまだ焦るような歳ではないですし、今は仕事が第一ですからぁっ。

ただ…悟空さんが結婚していたと言うから参考までに聞こうと、…ジャナイ……参考じゃないです!興味本位で聞いただけなので気にするほどの事では!!」

 

悟空(…あー、何か覚えがあると思ったら昔のブルマにそっくりか。昔は意味が分かんなかったけど、)「おめぇ結婚してぇのか?」

 

たづな「!!〜〜〜っ…………結婚以前に出会いがないです…」

 

悟空「出会いなぁ、」

 

 

〈たづなは何をとち狂ったのか、藁にもすがるよう、悟空に恋愛相談を持ちかけた。

昔とは違い、ある程度の世間的知識を身につけた悟空は頭を悩ます。

しかし、いくら知識がついても考え方は変わらない〉

 

 

悟空「栄澤のじっちゃんは?」

 

 

〈脳をフル回転させた結果がこれだ。自分で"じっちゃん,,と呼んでいる人を候補に出した〉

 

 

たづな「何を言っているのですか!?それは色々と駄目でしょう!」

 

 

〈予想通りの反応をするたづな。即行で却下した〉

 

 

悟空「んじゃキントレはどうだ?確かアイツも結婚してぇって言ってたぞ?」

 

たづな「・・・トレーナーさんとの間で痴情のもつれを起こした場合、私は学園に顔向け出来ません…」

 

悟空「そっかぁ。おめぇの立場だと結構難しいな」

 

 

〈元々この世界では必要以上に人を知らない悟空は早くも手札がなくなった〉

 

 

悟空(ちゅーか、男が少ねぇよな、この学園)

 

たづな「……ハァ、」

 

 

〈あからさまに落ち込んだ顔をするたづな。もはや興味本位だと言い訳出来ないほどに落ち込んでいる〉

 

 

悟空「んー……あ!ルドルフで良いんじゃねぇか!?最近仲良いみてぇだし」

 

たづな「…ルドルフさんは女性ですけど?」

 

悟空「ははっ、さすがに"もう触らなくたって,,性別くらい分かるさ。

グラスだってスペの事が好きらしいし、女同士でも問題ねぇんだろ?」

 

たづな「それ、誰が言ってました?」

 

悟空「スカイ」 

 

たづな「…ハァ、良いですか?好きと言うのにも種類が多くありまして、結婚したい好きと友達として好きは違うのですよ。

だからルドルフさんもそういうのじゃ無いですし、グラスさんのも他のヒトには言っちゃ駄目ですよ?」

 

悟空「そうなんか………んじゃもう諦めるしかねぇな!」

 

たづな「ーーー」ギロッ!

 

悟空「ごめんなさい」

 

 

〈殺意を感じて本日2度目の頭を下げた。

"ブルマと違ってワガママじゃないから知り合いが増えればすぐに出来そう,,だと悟空は思うが口には出さない。何かボロが出ると今度こそ殺されると思ったからだ。

悟空はこの話しをやめにしてタキオンの所へ足を進めた〉

 

 

たづな(…やはり悟空さんとの恋愛トークは得るものが無かったです。これは次にやる女子会のテーマですね)

 

 

 

     ・

 

     ・

 

     ・

 

 

 

〈たわいもない話しをしながら時間通りタキオンの部屋に着いた悟空達。

いざノックしようと右手を構えた時、その動きは止まった〉

 

 

悟空(な、なんだこれ、、よく分かんねぇけど、…嫌な感じだ)

 

たづな「悟空さん?」

 

悟空「あ、あー、すまねぇな」 

 

 

コンコン

 

 

ーーーどうゾ

 

 

悟空(っ……!?!!?)

 

 

〈すると今度は明確な悪寒が悟空を襲った〉

 

 

悟空「タキオンっ!」

 

 

〈中からはタキオンの"気,,しか探知出来ない。しかしタキオンが発するにはあまりにも禍々し過ぎる。何か異変でもあったのかと、悟空はぶち破る勢いでドアを開いた〉

 

 

タキオン「なんだい騒々しい。ノックが慣れてきたかと見直せばこれか?」

 

悟空「・・・タキオン」(さっきの気配は全くしねぇ。…オラの気のせいだったのか?)

 

たづな「大丈夫ですか?顔色が悪いように見えますが、」

 

タキオン「ん、たづなさんまで一緒だったのですね…孫くんはどうしたんだい?」

 

たづな「さぁ…入る前から様子が変でしたけど、」

 

悟空("気,.の残りカスもねぇし…ま、いっか)「いやー、すまねぇな!オラの勘違いだったみてぇだ!」

 

たづな「?変な悟空さん。ーーあ、タキオンさん。私も一緒で大丈夫でしたか?手持ち無沙汰だったもので…つい」

 

タキオン「もちろんです。こんな所で良ければ是非ごゆっくりと」

 

悟空「窓閉め切ってるし空気悪ぃけどな!」

 

 

〈気にする事をやめた悟空は、違和感を頭からサッパリと消し去り、普段の調子のまま笑った〉

 

 

タキオン「黙れぇい!私はこれが好きなんだ!」

 

悟空「そのうちタキオンにもカビ生えるんじゃねぇか?」

 

タキオン「私に"も,,って何だ!?カビなんぞどこにも生えて無いわ!…それに、」

 

 

〈失礼極まりないと、タキオンは憤慨して叫ぶ。しかしタキオンをやられっぱなしでは終わらない。

荒くなった息を整えると、顎を突き出すように悟空を見下して、薄笑いを浮かべた〉

 

 

タキオン「カビなら以前の君にこそ生えていそうだがなぁ、鏡は見たかい?」

 

悟空「おめぇ……本当に意地の悪ぃ奴だなぁ」

 

タキオン「孫くんが言うなぁっ!」

 

 

〈沈黙が漂うが緊迫なムードにはならない。

悟空かタキオンか…どちらが先か分からない程、ブフッと同時に吹き出した〉

 

 

タキオン「ククッ…ウララ君から聞いたよ。ひとまずお疲れ様と言っておこうか」

 

悟空「へへっ。やってやったぜ!」

 

タキオン「ああ、本当に良くやったねぇ。私も嬉しく思うよ」

 

悟空「おめぇのお陰でもあるんだ。ありがとな」

 

タキオン「!…ふふっ、どうしたしまして」

 

 

〈彼らにとっての挨拶をやり終えた所でいつもの空気が流れ出す。

一部始終を見ていたたづなは思った〉

 

 

たづな(本当にこの2人は仲が良いですねぇ)

 

 

     ・

 

     ・

 

     ・

 

 

 

 

悟空「んで、時間決めてまで何の用だ?」

 

 

〈元々は用事があって呼ばれたのだろうと、悟空が切り出した〉

 

 

タキオン「ん?…まぁ、急ぐ事でもないから一服しようか。この数日は立て込んでて寝てないんだ。勝手で申し訳ないが休ませておくれ」

 

悟空「それは構わねぇけど、」

 

たづな「その、用事というのは今度にして寝たらどうです?」

 

タキオン「とんでもないっ!!!」

 

悟空・たづな「「ビクッ!」」

 

タキオン「今日という日のために調べ尽くしたんだ!ミスは出来ない!私の科学者としての本能が絶対にやり遂げろと囁いてくるんだ!私はやってみせる。…私がやらなきゃ誰がやると言うんだいっ!!」

 

たづな「あ、その、、ごめ、、」

 

悟空「タキオン!?ちょ、ちょっと落ち着けよ…」

 

 

〈豹変したタキオンを宥める。睡眠不足だから変なテンションなのか、大声を出したせいで咳き込んでいた〉

 

 

タキオン「す、すまないねぇ…つい、楽しみすぎて………ネェ」

 

悟空(ん?)

 

たづな「タキオンさんも大変なんですね」

 

 

〈ほんの一瞬、悟空は何かに引っかかった。しかし何に感じたのかも分からないため、すぐに忘れてしまう〉

 

 

タキオン「・・・そうだ!孫くん。私達にアレを淹れてくれないか?」

 

たづな「???」

 

悟空「アレ?……あーっアレかぁっ!でも、アレはなぁ、とっておきまでに残して置きてぇし…」

 

タキオン「まぁそう言うな。淑女が2人同じ部屋にいるんだ。紳士として何か1つ格好つけたまえよ」

 

悟空「・・・・よしっ、いっちょやっか!」

 

タキオン「頼んだよ」

 

 

〈テキパキと動き出した悟空。戸棚を開けては物を取り出し、ポットに水を汲む。

武術の教えはここでも発揮されるのか。筋骨隆隆な見た目からは考えられないくらいに滑らかな動作で行っていた〉

 

 

たづな「え…何が起こっているのです?私も何か手伝いましょうか?」

 

タキオン「まぁまぁ、これでも食べてください」

 

たづな「は、はぁ、、、」

 

 

〈キョロキョロと顔を動かすたづなにタキオンはクッキーを差し出す。

これから来る物と良く合うだろうな、とタキオンは心を躍らせて口元を緩めた〉

 

 

    

 

 

 

悟空「ほれ、出来たぞ」

 

 

〈机にコトンと乗ったのは綺麗なデザインのティーカップ。深めのオレンジ色をして、独特の香り、柑橘類ベルガモットの匂いは嗅いだだけで分かる程、特徴的なものだ〉

 

 

たづな「あ、りがとう、ございます……」

 

悟空「コイツはな、あーる、、、?」

 

たづな「アールグレイ……」

 

悟空「そうそう、アールグレイ」

 

タキオン「熱いうちにどうぞ。ーーーーうん。悪くない」

 

悟空「だろ?」

 

たづな「・・・いただきます」

 

 

〈音を立てずゆっくりとカップを傾ける〉

 

 

たづな「こ、これは!」

 

 

〈口に広がるサッパリとした感じ。苦味や渋味は無く、飲む前から鼻腔をくすぐっていたベルガモットの香りが更に引き立ち、一口飲んだだけで"ふぅ,,と息が漏れ、自分の精神が整えられていく感じがした〉

 

 

悟空「どうだ、イケるだろ?」

 

たづな「はい、とても美味しい…練習したのですか?」

 

悟空「ああ。おめぇに怒らr…」

 

タキオン「世話になっているたづなさんに何かしたいと言うから教えたんです」

 

たづな「そうなのですか?」

 

悟空「お、おう!散々苦労させちまってるからな!こんくれぇしか出来ねぇけど」

 

たづな「……ふふっ、このくらいなんて言わないでください。充分過ぎますよ」

 

悟空「そうか?ーーははっ!喜んでもらえたんなら良かったぜ」

 

タキオン(良くも悪くも機転が効かないやつ。まぁ、たづなさんのためと言うのも嘘ではないんだろうがな)

 

 

〈タキオンは柔らかい表情をして2人を見つめた。元々は紅茶を淹れる手間を省くために、適当な事を言って悟空に教えてたが、たかが紅茶1杯で笑い合える空間が作れたなら満足だと、人知れず笑った〉

 

 

 

 

 

たづな「ご馳走様でした。紅茶美味しかったです。タキオンさんもクッキーありがとうございました」

 

タキオン「それは何よりです」

 

悟空「おう。覚えた甲斐があったな」

 

タキオン「こっちは教え甲斐がなかったがな」

 

たづな「すぐに出来たのですか?」

 

タキオン「すぐも何も1回言っただけですよ。物の配置を忘れるくらいで紅茶の淹れ方は完璧。蒸らし時間なんて体内時計で誤差無しですからね」

 

悟空「オラ結構、感覚鋭いからな。何となく分かっちまうんだよ」

 

たづな「は、はは…悟空さんは力以外でもハイスペックですね…」

 

 

〈ティータイム後に訪れる安らぎのひと時。たづなは日々の業務を忘れ。悟空ですら武術家としての必要最低限の警戒心を霧散させる。雀のさえずりに睡魔がやってきそうな空間で、〉

 

 

 

     〈研究者が動いた〉

 

 

タキオン「さて、そろそろやろうかな」

 

悟空「オラを呼んだやつか?」

 

タキオン「ああ、そうだ」

 

悟空「オラは何かすんのか?」

 

タキオン「・・・、」

 

悟空「?…タキオン?」

 

 

〈タキオンは答えない。ふらふらと脱力した状態で歩き出すと、窓についてるカーテンを全て閉めて外の世界と孤立した空間を作り出した。

次にした事は部屋の明かりの調節。薄暗い部屋に赤色や青色など様々な色がライトアップされ、不気味な部屋模様に悟空とたづなの心に不安が宿った〉

 

 

たづな「タキオンさん?これは一体…」

 

タキオン「・・・孫くん。君と初めて会った時を覚えているかい?」

 

 

〈たづなの声が聞こえていないように、語りかけるタキオン〉

 

 

悟空「会った時?…ちゅーかおめぇ、これは、」

 

タキオン「どうなんだい?」

 

悟空「……まぁ、覚えてっけど、」

 

タキオン「あの時は未知のモノが目の前に現れ、私の心は持っていかれた。調べようとしても強大すぎる力は私の手には到底扱えるモノでは無かった。……それでもね、そんな力があると知れた事だけでも嬉しかったんだ」

 

悟空「おめぇ、何かおかしいぞ。大ぇ丈夫か?」

 

タキオン「私が気になっていた事、君は教えてくれたね。"気,,の事はもちろん、応用の仕方や戦い方。日常での使い方やサイヤ人特有の食欲など…いーーっぱい教えてくれた」

 

たづな「た、タキオン…さ、ん…」

 

悟空「たづな下がってろ。アイツの様子が変だ」

 

たづな「はい…」

 

 

〈たづなは指示通りにタキオンと悟空から距離をとる。悟空は腰を低くし、手を胸の前で構えた〉

 

 

悟空(この感じ…さっきの、、正体はタキオンだって事なんか…)

 

タキオン「なぁ、孫くん」

 

悟空「…何だよ」

 

タキオン「君はあの時、自分の知っている事は全部言ったと言っていたよねェ?」

 

悟空「ああ。言ったけどそr「それじゃあああさあああっ」…っ」

 

タキオン「あの時は意図的に言わなかったのかい?…………スゥパァァサイヤジィィィン」

 

悟空「っ!!!!」

 

 

〈さっきとは比較にならないほど、禍々しくドス黒い圧力が悟空を飲み込む〉

 

 

悟空「あっ、あれはオラも忘れてただけだ!それに部屋の中でやったら吹き飛んじまう!」

 

タキオン「そうかソウカ。気にしてくれる君は優しいナァ。…私がウララ君からその存在を聞いた時、何て思ったか分かるかイ?」

 

悟空「…オラが言わなかった事に腹立ったんだろ」

 

タキオン「…イヒッ……イヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!そぉおおぉれはぜーんぜぇん違うよぉぉっ!!!」

 

たづな「ひぃっ!」

 

悟空「〜〜っ!」

 

タキオン「私はね?凄く嬉しかった……あの理解出来ないという事が分かる感覚。だけど出来る事はなんだってしたい。もっと具体的に言うなら…」

 

 

〈口調は大人しくなった。しかし、視点の合わない眼はあちこちに彷徨っている。

ギョロギョロと動いていた眼はやがて、悟空にピントを合わせた〉

 

 

タキオン「キミの血をヨコセ」

 

悟空「なっ!」

 

 

〈驚愕に染まる悟空が目にした物は見た事無いサイズの針をした注射器〉

 

 

悟空「そんなデケェの刺そうとすんじゃねぇ!」

 

タキオン「フハッ!スーパーサイヤ人に普通のやつが刺さるとは思わん!しかもこれはまだ序の口。血液を採取した後、髪の毛と皮膚、唾液を貰う。精液は…やめてやろう。死んだ身とはいえ妻と子を持つものにマズいだろうからな。…………………アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

悟空「く、狂ってやがる」

 

 

〈悟空は焦る。注目すべきはタキオンの持つ注射器。ご存じの通り悟空は注射が大の苦手だ。それなのに刺しただけで血が噴射しそうな程大きな針となると悟空でなくとも脇目を振らずに逃げるだろう〉

 

 

悟空(たづなは後で迎えに来るとして、1回ここから離れるか)

 

 

〈悟空は額に指を当てる。そう、瞬間移動の構えだ。誰でも良いと、自然に"気,.を探す。そして見つけたウララの"気,,。

たづなに一目向けるとすぐに戻してウララの元へ消えようとした時、〉

 

 

   

     〈研究者が囁いた〉

 

 

タキオン「ほう?妙な事をするねぇ?ーー駿川たづなはそこにいると言うのに!!!」

 

 

〈タキオンが言った1秒後には悟空の姿が消えた〉

 

 

 

ーーーーーえ、

 

 

 

〈誰かが言ったであろう小さな声。はたまた同時か〉

 

  〈たづなと悟空は隣で顔を見合わせた〉

 

 

悟空「た、たづな?…なんで、オラは確かに…」

 

たづな「貴方…今、瞬間移動を…」

 

悟空「チッ…捕まれ!」

 

たづな「っ、」

 

 

〈命令されるまま悟空に捕まる。悟空はさっきと同じく瞬間移動を試みた。が、〉

 

 

タキオン「アグネスタキオンの事は考えなくていいっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「いらっしゃい♡」

 

悟空「ぁ…そんな、」

 

たづな「どうして…」

 

 

〈視界がブレた先はタキオンの目の前。即座に理由を探し出すのと平行して他の"気,,を探る悟空〉

 

 

ーーガチャン

 

 

〈だが、それより早くタキオンと悟空は手錠で繋がれてしまった〉   

 

 

タキオン「つぅぅかまぁぁえたあああああ」ニチャァ!

 

たづな「悟空さん!」

 

悟空「たづなは離れてろ!」

 

タキオン「ふひっ、、くくくっ!説明が必要かい?」

 

悟空「!…はっ、随分と優しいんだな。せっかくだし教えてくれよ。オラは確かにウララの"気,,を探して瞬間移動したはずだ。それなのに、」

 

タキオン「なぜ違う人に飛ぶのか。…簡単だ。君の技は非科学だ、絶対に立証は出来ない。だが、技を実行するための脳のシナプスは科学だ」

 

悟空「???…もっと分かるように言ってくれ」

 

タキオン「だろうな…例えば君はウララ君の事を考えていたのだろう?」

 

悟空「そうだ」

 

タキオン「だが飛ぶ寸前。私が言った名前を脳が無意識に判別し、君の戦闘における瞬間的な思考能力が特定の人物の"気,,をコンマ秒数のうちに探しだしたんだ」

 

悟空「・・・は?」

 

タキオン「普通に名前を呼ぶだけではない。そこに一文加えるとどうしても考えてしまう脳科学を応用したものだ。まぁ、次からは通用せんだろうがな。………今できればイインダヨォ」

 

 

〈そんなバ鹿げた事で、と悟空は思う。だけど実際にそれが起こってしまい、こんな風に手錠で拘束されてしまったのは揺るぎない事実。

だが、そんな事で負ける程、歴戦の戦士は甘くない〉

 

 

悟空「説明ありがとよ。ただ、この程度じゃオラを捕まえる事は出来ねぇな」

 

タキオン「ん?あぁ、私と繋がってる鎖を切るつもりかい?」

 

悟空「そうだ。こんなもの、」

 

タキオン「そうだな、耐久性はない。ただ、鎖を千切れば私の手が吹き飛ぶくらいだから気にせずやってくれ」

 

悟空「え、、吹き飛ぶって、オラは鎖だけを、」

 

タキオン「そういう仕掛けにしといたんだ。千切れた時、錠の部分が爆発するようにね。

君ならどうって事ないだろうから怪我すらしないと思うぞ?私の左手だって義手を用意してあるから問題ないしな」

 

 

〈抑揚がなく淡々と告げるタキオン。その一方で悟空の顔は青ざめていく。

かすり傷程度ならまだしも吹き飛ぶかも知れないと言われて出来る悟空ではない〉

 

 

悟空「ぁ…ぁぁ……っ」

 

タキオン「…………ひ、ひひっ……あひゃひゃひゃひゃ!!!血が手に入るぞおおおおおおっ!!!」

 

 

〈理想の未来に近づくタキオンは興奮を抑えきれない様子。悟空は反撃の糸口を封じられ、やがて膝をついてしまった。しかし、悟空にはまだ味方がいる〉

 

 

〈成り行きを見守っていた彼女は思考を巡らせた〉

 

 

たづな(今までの会話を振り返ってよく分かった。………私は、)

 

 

〈悪寒やおどろおどろしい空気が流れる中、たづなは思い切って口を開く〉

 

 

たづな「タキオンさん!」

 

タキオン「うひひひ…………何です?」

 

悟空(たづな、)

 

たづな「タキオンさん…あなたの狙いは孫悟空さん、ただ1人。そうですね?」

 

タキオン「ええ。たづなさんが来た事は誤算でしたが、それはそれで良い結果を生みました」

 

たづな「そうですか……ならば私のする事は決まっています」

 

 

〈たづなは悟空に目を向ける事なく"扉の方,,へ向かった〉

 

 

悟空「た、たづな…おめぇ、何を考えてるっ!!」

 

 

〈捻り出された苦しそうな声にたづなは足を止めた。でもそれが最期。たづなは悲痛な想いの中で、暗い気持ちにさせまいと無理矢理に笑って言った〉

 

 

たづな「…悟空さん。後は任せましたよ」 

 

 

〈勢いよくドアノブを握るたづなに悟空は心底焦った〉

 

 

悟空「よせ……よせぇっ!戻って来い!!」

 

 

 

 

たづな「絶対に誰にも言いませんからねえええええぇぇぇぇぇぇ・・・……」

 

 

 

 

悟空「行くなあああ!たづなああああああああ!!!!ぁぁぁ…ぁ……」

 

 

〈ドップラー効果のように小さくなっていく声が全く聞こえなくなると、〉

 

 

   

    〈研究者が嗤った〉

 

 

 

タキオン「もぉぉいいいかぁぁぁい」

 

悟空「ヒイッ!…」

 

タキオン「フヒヒッ、安心してくれたまえよぉ、私は注射がとても上手いんだ。身を委ねるだけですぐ楽になれるゾ?」

 

悟空「ぁ、おらは、、そんなの、したくねぇっ」

 

 

〈注射針を見せつけていたタキオンは、悟空の今にも泣きそうな顔を見て動きを止めた〉

 

 

タキオン「なぁ、孫くん。私は君のそんな顔は見たくない」

 

悟空「た、タキオンっ!」

 

タキオン「ーー心臓が壊れるくらいに興奮しちゃうんだよおおおおおおおおおお!!!孫くぅぅぅんんんんんんんんんっ!!!!!」

 

悟空(あ、オラ死ん、)

 

 

 

 

「いっただきまぁぁぁぁぁす!!!!!!」

 

「あぁぁぁぁやめ、やめっぇぇえぇえ」

 

 

 

ーーブスっっっ!!!!!!

 

ーーあ"あ"あ"あ'あ"あ"あ'あ"ッッッッッ

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

ー おまけ ー

 

 

 

 

ルドルフ「……その、いつまでそうしているつもりなんだい?」

 

悟空「…別に、いいだろ…」

 

 

〈突然生徒会室に入って来たかと思えば、ソファで体育座りをする悟空。

色々聞いても一言しか返ってこず、ルドルフは苦笑いを浮かべた〉

 

 

ルドルフ「そんなに気を落とさなくても。私の後輩だって注射が嫌いって言って逃げ回る事があるのだから、好き嫌いなんて人それぞれじゃないか」

 

悟空「・・・、」

 

 

〈悟空はその言葉に立ち上がってルドルフを見た。勇気つけられたからではない、怪訝な視線を送っている〉

 

 

ルドルフ「え、えと…悟空さん、」

 

悟空「……何でおめぇは注射の話しを出したんだ?」

 

ルドルフ(しまったっ、)「…それは悟空さんの落ち込んだ姿が後輩の娘とそっくりで、」

 

悟空「たづなから聞いたな?」

 

ルドルフ「い、いや?何の事かな?」

 

悟空「・・・ちょっと動くなよ」

 

 

〈悟空はルドルフの頭に手を乗せる。

何だろう、とルドルフは顔を固定させたまま悟空を見るが、目を閉じたまま動かない。

撫でてくれている感覚が心地良くて、耳が勝手にピコピコと動く中、悟空が勢いよく目を開けた〉

 

 

悟空「やっぱりだ!しかも部屋から出て一直線でここに来てんじゃねぇか!!!」

 

ルドルフ「は、!?!?〜〜っ」

 

悟空「全部喋ってるし、何より、なんでアイツは笑ってんだ!ちくしょー!やっぱ面白がってやがったな!!」

 

 

〈ルドルフは混乱するが、どうにかして心を落ち着かせて解析をする。

悟空の言っている事は全て本当で、内容だけでなく、表情まで見えているかのような口ぶりだ。………ここまで材料が揃えば分かる。どんなに不可思議な現象でもこの男に常識を当て嵌めるなと自分を叱咤して、結論を出した〉

 

 

ルドルフ「記憶を読んでいる…だと、」

 

悟空「そうだ!ソイツにとって良くねぇ事だから、あんましたくねぇけど、今回は別だ!」

 

 

〈全て知られたからにはルドルフも取り繕うとはせず、ただ一言だけ言った〉

 

 

ルドルフ「そ、その…今回の事は、誰にも言わないから安心してくれ」

 

悟空「出来る訳ねぇだろ!それを言ったたづなはその足でココに来たんだ!」

 

ルドルフ(完全にキレてるな、、、たづなさんめ、私を巻き込むとはっ)

 

 

 

「おめぇ達の"誰にも言わねぇ,,は信じねぇからなあああああああ」

 

 

 





【今作、劇場版DBダービーは、連載の流れに沿ったIFストーリーです。次作からは、今作の話しは無かったものとして扱いますので、ご理解の程よろしくお願いします】


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彼女達の日常





怠け過ぎてごめんなさい。
これから長くても2週間以内には投稿するつもりです。


 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

 

悟空「おめぇは弟子で」

 

ウララ「あなたは師匠」

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

悟空「〜〜〜〜」 

 

 

早朝5時。

悟空は噴水の音をBGMに、鼻歌をしながら三女神の像を掃除していた。

 

 

悟空「女神か…オラの世界にはいなかったけど、おめぇも神様なんだってな」

 

 

雑巾で擦る所からはキュッキュッと音が鳴り、綺麗になっていく様を聴覚から感じ取った悟空は笑みを浮かべる。

 

朝早くから何をやっていると言われそうな悟空だが、ちゃんとした理由が存在した。

それは女神像の位置。

噴水の中央にあり、尚且つ台座に乗っているため、とても高い所にあった。

舞空術を用いながらの掃除は見られてはいけないと、朝早くから行う必要があったのだ。

 

 

悟空「ーーーーと、こんなもんか?…見ただけじゃ分かんねぇけど、多分綺麗になったろ」

 

 

目、と呼んで良いのか分からないが、顔を合わせて話す悟空。

 

 

悟空「神様がこの世界で本当にいんのか知らねぇけど、おめぇも神様ならウマ娘の事頼むぞー!」

 

 

神様という者を誰よりも知っている悟空は三女神の事を聞いて無視は出来なかった。

 

    願うは自分が消えた後の事。

 

"んじゃまたな!,,と軽いノリで言うと、悟空はスタスタと学園の方へ歩いて行った。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

〜 午後の食堂 〜

 

 

キャッキャ

 

ワイワイワイ

 

 

スカイ「ーーあははっ。さすが悟空さん!」

 

グラス「門限過ぎてる事に気づいてないとは…」

 

キング「寮長のフジ先輩からウララさんの事聞かれた時には肝が冷えたわ」

 

スペ「多分フジ先輩って悟空さんの事知らないよね?」モグモグ

 

キング「そうなのよ。だから探しに行かれるとマズイと思って返答も聞かず飛び出したわ」

 

エル「そしたら案の定ウララはトレーニング中だったわけデスカ」

 

キング「いえ、トレーニングは終わってたわ。ウララさん倒れて動かなかったし。あの人って顔に凄い出るから"やってしまった,,って聞かなくても分かったわ」

 

スペ「最近またハードになったみたいだね」モグモグ

 

グラス「先日のプールの時間では、1人だけ思いっきり泳ぎ過ぎて溺れたって言ってましたよね。……以前ならやりすぎだと思いましたが、今ではそれが当たり前な感じがします…」

 

エル「ウララ…さてはサイヤ人因子を継承してますネ」

 

スカイ「何その因子…ウララの髪の毛金色になったらキングママに怒られるよ」

 

キング「誰がママよ!第一最近あの子の事あまり手伝ってないのよねぇ。…成長してる証拠だわ」

 

スカイ「その感想がママなんだって。…あれ、でも朝は起こしてるって言ってたよね?」

 

キング「ええ。手伝う事が減ったってだけで全部ではないもの」

 

スペ「ちなみに今は何を手伝っているの?」モグモグ

 

キング「そうねぇ…半分は減ったから……。

朝起こすのと、服着替えさせるのと、髪を整えるのと、朝ごはんだけは食べさせているわね。後、授業で使う道具を確認して、悟空さんから渡されてるお小遣いの管理。……ああ、ドライヤーはしてるわ。あの子無頓着だから。それから……?…みんなして何を変な顔してるのよ」

 

 

スペ・スカイ・グラス・エル

『・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

一言で言うと………引いた。

普段はキングママや過保護などと茶化しているが、いざ蓋を開けてみるとその程度ではなかった。

 

 

スカイ「・・・」ジー

 

グラス「・・・」ジー

 

エル「・・・・」ジー

 

スペ「っ!?」

 

 

"誰か何か言え,,。否、聞いた本人なんだから何か言えと視線がスペに集中放火した。

 

 

キング「???」

 

スペ(ええええぇっ!なんて言えば良いの!?キングちゃん良いお母ちゃんだね!はダメだし……私にもお願いっ…とか言ったらグラスちゃんのカミナリくらいそうだし……あっ!)

「ちょっと話変わっちゃうけどさ!」

 

 

スペが思いついた策は、話のすり替え。

よくある事だから誰も不思議には思わないだろう。

 

ーーその題材には問題がなければ。

 

 

キング「ムッ…スペさんが聞いてきたのに」

 

スカイ(やるじゃんスペちゃん)「なになに?」

 

スペ「この前の毎日王冠!スズカさんカッコ良かったね!」

 

キング(っ!スペさぁん!?)

 

スカイ(まじかぁ…やっぱスペちゃんはスペちゃんだったなぁ)

 

 

笑顔満点なスペシャルウィーク。

毎日王冠と言えばG2の中でも強者が集まるが故、スーパーG2とも呼ばれている。

その中で白星をあげたのがスペの憧れサイレンススズカ。スペはスズカを倒すべき相手と認識したが、それとこれとは別。同じチームの子が勝って嬉しいのだ。

 

では何故キングとスカイが頭を悩ませているのか。

 

 

グラス「・・・・・・」

 

エル「・・・・・・」

 

 

眉間にシワを寄せているこの2人原因だった。

 

 

スペ「私今でも動画で見たりするもん!さすがスズカさんだよね!」

 

スカイ「そ、その辺で、」

 

スペ「絶頂期のグラスちゃんとエルちゃんにまとめて勝つって、やっぱりレベルが違うよねぇ。私も劣ってるとは思わないけど、あれだけグラスちゃんとエルちゃんが離されたら、ちょっと怖気ついちゃうかも」

 

キング(スペさんわざと?わざとこの2人の名前強調してるの!?)

 

 

影を踏む事さえ許さなかった大逃げのサイレンススズカ。スペに限らず憧れをもつウマ娘は多いのだろうが、負けたばかりのウマ娘の前で話していい内容ではない。

案の定グラス達は愛想笑いもせず、ハイライトを失った目で真っ直ぐ見つめた。

 

 

スペ「ねぇ、エルちゃん」

 

 

だが興奮しているスペは2人の様子に気づかない。

 

 

エル「ケ!?………………ナンデスカ?」

 

スペ「エルちゃんってさ、スズカさんの事マークしてたよね?最後の直線にはフリーで2番手につけてたし」

 

エル「・・・・・・・・・・・ハイ」

 

スペ「なのにスズカさんは差を広げて逃げ切った!」

 

エル「・・・」

 

 

満面の笑みで両手を上げるスペ。無意識に煽りまくっていた。

スカイとキングは声をかけるが、まだ喜びを共感したいスペは留まる事を知らない。

 

 

スペ「ねぇ、グラスちゃん」

 

グラス「!……………なんでしょう」

 

スペ「グラスちゃんってリギル時代からスズカさんの事知ってるせいか仕掛け時バッチリだったね」

 

グラス「…ええ」

 

スペ「なのにスズカさんの方が上がり3ハロン速かった!」

 

グラス「・・・」

 

キング「も、もう分かったから落ち着きなさいな」

 

スペ「えーっ、まだ直線からのスパートが残ってるのに…」

 

スカイ「分かったって!スズカさんの速さは私も知ってるから」

 

スペ「だよね!とってもすごくすごいよね!」

 

キング「何なのよその言い方…興奮し過ぎて語彙力おかしくなってるわよ」ハァ

 

スペ「えへへっ……ちょっと騒ぎすぎちゃいました」 

 

グラス・エル『・・・・・』

 

 

煽りに煽りまくったスペは落ち着きを取り戻した。

するとその後、余計な力を使ったのだろう。可愛らしい音が響き渡った。

 

 

ーーーーキュルルルッ!!!

 

 

スペ「っ!」

 

スカイ「スペちゃん…食べ終わったばかりなのにお腹減ったの?」

 

スペ「あ、はは………恥ずかしいっ!」///

 

キング「ダイエット中なら我慢ね」

 

スペ「ぁぅ…」

 

グラス(・・・・・)

 

 

耳まで垂れ下がったスペをグラスは見た。

 

 

グラス(…あらあら……そんなに食べたいのなら食べさせてあげましょうか。ねぇ?…エル)

 

エル(!!!…………OKグラァス)

 

 

アイコンタクトで通じ合うとエルは即座に行動した。

 

 

エル「スーぺちゃん!鶏肉なら脂質は少ないのでコレ食べてくだサイ!」

 

スペ「ふぇっ…良いの!?……あ、でも…食べ過ぎると太っちゃうかも…」

 

グラス「その程度は誤差の範囲では?スイーツ食べる訳ではないですし良いと思いますよ」

 

 

淡々と後押しをするグラス。

真っ先に止めるだろうと考えていたスカイとキングは口をポカンと開けていた。

 

 

スペ「グラスちゃんがそう言うなら…」

 

エル「ハイ!さっ、口開けて。アーンしまショウ!」

 

スペ「ええええっ!私自分で食べれるよ!?」

 

エル「良いから良いから。ハイ、あーん」

 

スペ「あぅ…」

 

 

人懐っこいスペだが、彼女にとって"あーん,,とは相当恥ずかしい事らしく、ほんのり顔を赤らめモジモジしていた。

しかし食欲には敵わない。

鼻腔をくすぐる匂いと優しげなエルの表情に後押しされ、ゆっくり顔を近づけた。

 

 

エル「スペちゃん。あーんは?」

 

スペ「あ、あーん///」

 

 

パクリ、とお肉の塊を一口。

モニュモニュと味わうように食べているスペは…

 

 

スペ「……ッッッッ辛ぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」

 

 

食堂にいながらも脇目を気にせず叫び散らした。

口内で暴力的な辛味という刺激が猛威を振るったせいだ。

 

涙を流してアワアワとしている姿に見兼ねたグラスは助け舟を出した。

 

 

グラス「エル。あなたは普段デスソースをかけているでしょう。アレは常人にはとても食べれませんよ」

 

エル「そうデシタか。初めて知りマシタ。スペちゃんごめんなさいデス」

 

グラス「全く。・・・はい、スペちゃん。お水です。飲んでください」

 

スペ「ッッ…あっ、あひはふぉへ」(ありがとね)

 

グラス「いえ」

 

 

ーーーゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク

 

 

スペ「〜〜〜ふぅ。…落ち着いtっ、いッッッだああぁぁあぁあぁぁあ!!!!」

 

グラス「あら?」

 

エル「あ、駄目デスよグラス。激辛って水では消えず悪化すると言われてマース」

 

グラス「へぇ。初めて知りました。申し訳ありません」

 

スペ「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!……いひゃいよぉ…」

 

エル「とりあえず口直ししまショウ。辛味成分のカプサイシンは油分を含んだ物で消してくれマス。これを食べて相殺デース」

 

スペ「う、、ん、……あむっ、、、カラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」

 

エル「あちゃあ…コレにも入れていた事忘れてマシタ」

 

グラス「っもう、エルったら。……お茶なら平気ですかね?スペちゃんどうぞ」

 

スペ「ひ、ひぬぅ。〜〜っ!あ"あ"あ"あ"ああ"あ"あ"あ"!!!!!」

 

グラス「?…今度はどうしたんでしょう」

 

エル「ン?…あー、お茶のチョイスは良いデスけど、HOTなのが駄目デスネ。刺激が強くなりマス」

 

グラス「そうなんですか?また一つ賢くなれた気がします」

 

エル「それは良かった。………本当に良かったデス」

 

グラス「ええ。スッキリしました。………何がとは言いませんけど」

 

スペ「ーーーーーー」チーン

 

 

エルとグラスは撃沈したスペに目を向けた。

もちろん心配はしていない。それどころか冷たい視線を送っていた。

 

 

スカイ(そりゃ怒るって…)

 

キング(自業自得ね…)

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

スペ「〜〜〜〜ぷはぁっ!やっと戻ったぁ」

 

 

汗だくのスペが憔悴状態のまま呟く。

 

 

エル「ふんっ。スペちゃんが意地悪だから罰が下ったんデス!」

 

スペ「ごめんねエルちゃん。つい…」

 

スカイ「ほんとスズカさんの事になると熱くなるねぇ」

 

キング「誰かを尊敬出来るのは良い事だけれどスペさんの場合は悪い所でもあるわね」

 

スペ「反省してます…」

 

グラス「…………まぁ、負けたのは事実ですし、それは百歩譲りましょう」

 

スカイ(譲ってないけどね)

 

グラス「いくらスズカさんの事で興奮したとはいえ、あなたが私達を煽る事は出来ないと思いますけどねぇ……京都大賞典7着のスペシャルウィークさん?」

 

スペ「っ!」ビクッ

 

 

数秒前まで流れ続けた汗が一気に乾く。

スペは青ざめた顔をした。

 

 

スカイ「確か…同日に関西でやってたね。スペちゃんが7着って珍しいけど、調子でも悪かったの?」

 

スペ「!あ、実は寝不足で…」

 

グラス「にしてはお腹出てましたねぇ。噂で聞いた話ですけど悟空さんの抑止を無視して食べ続けた。とか?」

 

 

またも吹き出す汗。止まったり流れたりと忙しいが、それに同調して心臓がドクンドクンと大きく鼓動している。

 

 

スペ「え、っと……その…」

 

グラス「・・・・・」

 

 

ジーッと見てくるグラスに何とか逃れようと必死に思考を巡らせた。

そして思いついた策。この策が有効なのは先程立証済みだ。

 

 

スペ「・・・あっ、そういえば!ちょっと話変わっちゃうけどさぁっ、」

 

グラス「変えさせませんけど?」

 

 

無理だった。

 

 

スペ「………悟空さんが私の前で美味しそうに食べるから」

 

キング「………その時私もいたけど、後から来たのはスペさんよ?」

 

グラス「他に言い訳があるならどうぞ?」

 

スペ「ごめんなさい」

 

グラス「私があれだけ言ったのにっ…レースに合わせて調整出来ないとは何事ですかっ!!」

 

スペ「ごめんなさぁぁぁい!反省してるから怒らないでぇ!」

 

グラス「いーえ!誰かが言わないとスペちゃんは分からないので私怒ります!」

 

スペ「許してよぉ。…もう気をつけるから!本当にっ。絶対!」

 

グラス「むぅ…」

 

 

涙目で下から覗きこんでくるスペに強気で出れないグラス。

"ですが,,や"しかし,,など顎に手を置いてブツブツ言うグラスにキングは溜息を吐いた。

 

 

キング「はいはい。あなた達騒がしいからその辺にしておきなさい。スペさんは後で併走でも付き合ってあげるからそれで発散しましょ」

 

スペ「き、きんぐちゃぁんっ!」ウルウル

 

グラス「ハァ…スペちゃんに甘いんですから…」

 

エル(グラスが言うなデス。それにキングだって加担してマシタけどネ…)

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

 

スカイ「そういえば、私達の次のレースは菊花賞だけど、グラスちゃんとエルは決まってるの?」  

 

クラシック路線を突き進むスカイ達は最後の冠である菊花賞を控えている。

単純に気になったスカイだが、待ってましたと言わんばかりにエルが食いついた。

 

 

エル「ハイハーイ!エルは凱旋門賞に出マース!」

 

スカイ「っまじか!」

 

 

凱旋門賞。フランスで行われる世界一と名高いG1レース。日本のウマ娘にとって因縁とも呼べるレースだ。なにせ…、

 

 

スペ「日本のウマ娘が一度も勝った事が無いレース…だよね」

 

スカイ「うん。…勝算あるの?」

 

 

同期達の不安な表情や声…。

それに対してエルは、猛禽類の如く目付きを鋭くし、口角を頬まで裂いたようにしながらニヤリと嗤った。

 

 

エル「勝負はやってみなくちゃ分かりマセーン!ただ胸を借りるつもりはないデス。隙あらば倒してマンボの餌にしてやりマス!」

 

スペ「マンボって何?」

 

エル「エルが飼ってるコンドル」

 

グラス「鷹でしょう」

 

キング「・・・まぁ、何でも良いけど…ヤル気があるのは良い事だわ。1着を獲ればキングの次に一流って言ってもいいかもね」

 

エル「なぁっはっは!ノーセンキューデース!エルは今でも"超,,一流なので!!」

 

キング「・・・超一流?」

 

エル「イェース!」

 

キング「このキングより上のつもり?」

 

エル「事実デスから!」

 

キング「そう。……表に出なさい。成績が全てじゃないって事教えてあげる」クイッ

 

エル「ノッた」ガタッ

 

スペ「ストーーーップ!!!」

 

 

顎を突き動かすキングに不敵な笑みを作るエル。

一瞬で出来た殺伐とした雰囲気をスペは手を振ってかき消した。

 

 

スペ「っもう!みんな最近血の気多いよぉ」

 

グラス「そうですねぇ。ウマ娘の(さが)だとしても私達は女学生。もう少しお淑やかにいるべきでしょう」

 

エル「・・・・薙刀振り回すウマ娘が」プッ

 

キング「お淑やか」ククッ

 

エル・キング『ヤマトナデシコッ!!!』

 

グラス「あ、とりあえず1600mでどうですか?嫌ならあなた達が得意な距離で良いですよ。どうせ結果は同じですから」ガタッ

 

スペ「ダメだってばぁっ!もおおおおおおっ!!」

 

スカイ(みんなもサイヤ人因子が受け継がれてる…)

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

キング「私とした事が…悪かったわね」

 

エル「ソーリー…」

 

グラス「申し訳ありません。私が未熟者でした…」

 

スペ「ハァ………お話、戻そっか」

 

 

スペの未だかつてない怒髪天を衝いた耳と尻尾がゆっくり垂れ下がるとキング達は心を撫で下ろした。

もうスペシャルウィークを怒らせてはならない。彼女達は語らずとも同じ事を思っていた。

 

 

スカイ(まさかスペちゃんがツッコミ役も出来るとは…)「それで、グラスちゃんは次どこ走るの?」

 

キング「もしかしてグラスさんも海外予定なのかしら?」

 

グラス「いいえ?私の舞台は日本。そして秋の天皇賞を狙っています」

 

スペ「秋天かぁ……秋天!?」

 

 

特別な事ではないのにエルの凱旋門賞以上に驚くスペ。

そんなスペに想像していたのかグラスは"ふふっ,,と笑った。

 

 

グラス「そう秋天。ーースズカさんの次走と同じレースになります」

 

スカイ「わおっ!リベンジかな?」

 

グラス「ええ。勝利を前提として有馬記念に向けたレースのつもりですが、リベンジだと考えています。……勝ち逃げは許しません」

 

スペ(!………………………ふーん)

 

エル「ムムッ。それはワタシも悩みマシタが先にとられるとは……しょうがないデス。譲りまショウ」

 

グラス「エルの許可は必要ありませんよ。ですが、ありがとうございます」フフッ

 

キング「スペさんの次はスズカさんを狙うのかしら?」

 

グラス「何やら語弊がありそうですが、遠からず、ですかねぇ」

 

スペ(・・・・・)

 

グラス「コンディション抜群で挑んだ毎日王冠。エルにも負けて3着。情けない走りをした自分に腹が立ちます」

 

エル「なっはーっ!……と、笑い飛ばしたい所デスが、エルも負けた事に変わりマセン。だけど…エル達の強さはこんなもんじゃないデース!」

 

グラス「当然。それを見せつける必要がありますね」

 

キング「2人とも一筋縄じゃいかないレースだけど、その気合いがあれば充分ね。応援してるわよ」

 

エル「サンキューデース!」

 

 

各々が暴れるレースを認識した所でグラスは突如狼狽えはじめた。

 

 

グラス「あ、あの……っ、、スペちゃん?…どうかしましたか?」

 

スペ「・・・・・」

 

 

頬杖ついてそっぽ向いている。彼女らしからぬ態度に困惑するが、当の本人は注目の的になってもムスッとしていた。

 

 

グラス「す、すぺちゃ、」

 

スペ「グラスちゃんさぁ。私に勝ってるからって調子に乗らないでよね」

 

グラス「!?!!?」  

 

 

グラスは聞いた事が無いスペの強めな口調に青ざめた。

 

 

グラス「乗ってませんよ!?…え、え?スペちゃん何か怒ってますか?私何か失礼な事っ…」

 

エル(確か、後輩の子がグラスは冷静でカッコいいって言ってマシタネ。・・・そんな事ないデスヨ)

 

 

それでも自分が悪い事をしたのだろうと、胸の前で指先をクニクニしながらスペを見つめた。

 

 

スペ「ううん。失礼なんてないよ。グラスちゃんはスズカさんに夢中なだけだもんね。……グラスちゃんが私を見てない間に、覆しようがないほどの差つけちゃうから」

 

キング(あら…これはまさか、)

  

グラス「?・・・どういうつもりで言ったのかは知りませんが、私がスペちゃんから目を離す事はないです。故にスペちゃんが私に勝つ事はあり得ない」

 

スペ「!……グラスちゃんはそれで良いんだよ」

 

グラス「?…そ、うですか?」

 

スカイ(・・・スペちゃん、君もそうだったんだね…)

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

 

 

キング「んん"っ!……フゥ。そろそろ良い時間ね。スペさん併走トレーニングするわよ」

 

スペ「うん!ありがとね。よろしくお願いしますっ」

 

エル「Hey!エルも参加シマァス!」

 

グラス「お手柔らかに」

 

スペ「エルちゃんに、グラスちゃんまで!?んー、それじゃあ模擬レースにしない?本気出さなかったら今後のトレーニングに影響出ないだろうし」

 

キング「頭も使うしその方が燃焼出来そうね」

 

グラス「ふふっ、楽しくなってきました」

 

スカイ「元気だねぇ。キミ達は」

 

スペ「セイちゃんもそれで良い?」

 

スカイ「良くないねぇ。何故ならセイちゃんはお昼寝タイムだから」

 

スペ・キング・エル・グラス『・・・・』

 

スカイ「・・・何さ、その顔。言っとくけど私は最初からやるって言ってないからね?」

 

キング「そうね。・・・そう言えばスカイさんの脚質って何だっけ?ど忘れしたわ」

 

スカイ「……"逃げ,,だけど、」

 

キング「そうそう。逃げだったわね。………フフッ。通りで」

 

スカイ「………へぇ?もしかしてお嬢様さぁ、この皐月と龍球の覇者を煽ってます?」

 

スペ「ダービーウマ娘の前で言っちゃうんだね」

 

グラス「そのダービーウマ娘も私からすれば大した事なかったですけどね」

 

エル「エルはまだしも、大逃げのスズカさんに3ハロンタイムで負けた"差し,,グラスがよく吠えましたネェ」

 

キング「末脚勝負なら私が一番だけどね」

 

スカイ「冠とってなきゃ何を言っても同じでしょ」

 

 

彼女達は分かっている。

この、血の気溢れる者達と楽しくレースが出来る材料が"挑発,,だという事を。

 

 

スペ「でも、あくまで腹ごなし程度だからね」

 

エル「当ったり前デース」

 

グラス「オフ日に体を酷使したらトレーナーさんに怒られてしまいますから」

 

スカイ「まぁ、ほどほどにってね」

 

キング「そうね。ほどほどに走って…」

 

 

 

 

 

   『私が1番にゴールする!!!』

 

 

 

 

次の日。

彼女達の筋肉が張っているのを見てトレーナーが激怒したとか何とか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悟空「よしっ、今日も疲れは残ってねぇな?」

 

ウララ「ウン。マイニチゲンキダヨ」

 

悟空「へへっ。オラも成長した証拠だな。ウララの体力が完全回復出来る限度が分かってきた」

 

ウララ「ソッカ。サスガゴクウサン」

 

悟空「サンキュー!んじゃ張り切って行くぞー!」

 

ウララ「…………お願い休ませてぇ!ウララ元気だけど2週間連続トレーニングは疲れたよぉぉおおお!!」

 

悟空「ん?疲れてんのか?」

 

ウララ「疲れてないよっ!!!」

 

悟空「なら問題ねぇだろ?」

 

ウララ「あぁぁぁっ!誰か助けてぇ!悟空さんにこの思いが通じないよぉおおおおおおおおお!!!」

 

 

 








Q「毎日王冠より凱旋門賞のレースの方が先にするけど?」
A「話の流れ的に、そっちの方がやりやすかった」

2
Q「ちょっと矛盾混ざってない?」
A「小さい事は気にしないで。酷かったら言ってね」


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修行編 〜4〜




………………遅くなり申し訳ありません。完結はするので優しく見守ってください

注意
・この話の中で出てくる修行内容、身体の仕組みなどは深い意味はありません。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

 

エル・キング・グラス・スカイ・スペ

『私の方が速いっ!!!』

 

 

トレーナーs

『オフ日に立てなくなるまで走るな!!!』

 

 

エル・キング・グラス・スカイ・スペ

『ごめんなさい!!!』

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

ある日の午後。

体操服を着たウララは休憩中のグラスと話していた。

 

 

グラス「・・・そうですか。ようやく終わったんですね」

 

ウララ「うん。やっとだよ。……やっと、無休の二週間が終わった……」

 

グラス「……お疲れ様でした」

 

 

静かに語るウララの瞳に、浮かび上がった綺麗な雫。

聞く者全てを絶句させた地獄の日々。

その名も、

 

休む必要全く無し!これで君も立派な狂戦士(バーサーカー)だ!         

     (byスペセイ(スペシャルウィーク&セイウンスカイ)

 

 

悟空がこの地に踏み込み、ウララと出会って数ヶ月。悟空はウララの事を、ただ教えてる訳ではなかった。

ウララの癖やポテンシャルなど、身体に関わる事を見続け、体感的に能力値を把握してしまった。

その結果、ウララの修行後、悟空のアフターケア。お風呂や食事で回復できるギリギリをせめれる事に成功。

 

ウララは毎日疲れ知らずでトレーニングを行う事が出来るようになった。

しかし、体は良くても心は不良だ。

その事をウララが悟空に言っても、悟空の考えは、

 

"ん?疲れてねぇなら出来るだろ,,の一言で終わってしまう。

 

誤解がないように言っておくと、悟空は至って大真面目であり、むしろ喜んでいた。

 

 

 

グラス「キングちゃんやたづなさんに怒られた時には、ションボリしてましたね」

 

ウララ「あそこまで落ち込まれるとウララの方が謝りたかったよ…」

 

グラス「悟空さん顔に出ますからねぇ…。それで今日は4日振りのトレーニングですか」

 

ウララ「そうなの!遊びには行けたけど、休み過ぎちゃって逆にモヤモヤしてたんだぁ。昨日なんて少し筋トレしちゃった」

 

グラス「ふふっ。弟子は師に似る。体現してますねぇ」

 

ウララ「???。そういえば、みんなは前に競い合ったって言ってたけど、グラスちゃんは大丈夫だった?」

 

グラス「え?大丈夫とは?」

 

ウララ「オフの日にいっぱいやって疲れちゃったんでしょ?珍しくキングちゃんが怒られてたから、グラスちゃんは大丈夫だったのかなって」

 

グラス「あ、あー、その事なら………エルと2人で一週間の整備担当を言い渡されました」

 

ウララ「あははっ!やっぱり怒られたんだぁ!」

 

グラス「ぅぅっ…そんなに笑わないでください…」

 

ウララ「ひひっ、ごめんごめん!」

 

グラス「っもう。試合に勝って勝負に負けたとはこの事です…」

 

ウララ「え、」

 

 

ウララは笑顔のまま硬直した。

 

 

グラス「?、どうかしました?」

 

ウララ「いやぁ……あのね?」

 

グラス「はい」

 

ウララ「今の…キングちゃんも全く同じ事言ったなぁって思って、」

 

グラス「今のとは…試合に勝って勝負に負けた、ですか?」

 

ウララ「うん。勝ったのはキングちゃんじゃないの?」

 

グラス「私ですよ」

 

ウララ「っ、」

 

 

グラスは嗤った。当時の事を思い出しているのか、弧を描く口元。

だけど、目は全く笑ってない。

ちなみに、ここまでキングと同じ反応だった。

 

 

ウララ「そ、そうなんだぁ。強いねグラスちゃん!」

 

グラス「ふふっ。そうでしょう?マイルだって、2000mだって2400mだって私が勝ちました。もはや最強は私だと言っても過言ではないでしょう」 

 

ウララ(このセリフもキングちゃんと同じ…。一緒の事言ってウララの事を騙してる…訳ないか。…もしかして負け惜しm)

 

グラス「ウララチャン?キイテマスカ?」

 

ウララ「ひゃいっ!聞いてるよっ!」

 

グラス「ワタシ……ツヨイ?」

 

ウララ「ひぃぃぃっ、つ、強いと思うよ!」

 

グラス「そう。…………じゃあ、」

 

ウララ「〜〜〜っ、」ゴクリ

 

グラス「これでもですかぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

 

 

グラスはウララに飛び掛かると上から下まで余す事なく、くすぐりまくった。

 

 

ウララ「ひぃぃぃいあははははははははははははははははははははははは!!!!!!なにっ、ひひっ!何でくすぐるのぉぉぉおおおお!?うひひひひひひひ!!!!」

 

グラス「こーちょこちょこちょこちょ!!私の事疑った罰ですよ〜」

 

ウララ「くふふっ、うたがってっにゃいよぉぉぉ!!あはははははははは!ごめっ、ゆるしてえぇぇえぇ!!!」

 

グラス「しょうがないですねぇ。このくらいにしておきましょうか」

 

 

グラスが手を離すと、ウララは膝から崩れ落る。

ぜー、はー、と荒々しい息遣いを何とか立て直すと、ウララは率直に聞いた。

 

 

ウララ「………ね、今のってウララが悪かったのかな?」

 

グラス「・・・ふむ。もう一回くらいますか?」スッ

 

ウララ「わぁあああっ、今の無し!もう言わないからくすぐらないでぇ!」

 

 

 

    ・

    ・

    ・

 

 

 

グラス「ん、そろそろ時間ですか」

 

 

時計を見ながらグラスが呟く。

 

 

ウララ「トレーニング戻るの?」

 

グラス「ええ。ウララちゃんはどうするんです?」

 

ウララ「今ウララはねぇ、悟空さん待ってるの」

 

グラス「悟空さん?………それにしては姿が見えませんね」

 

ウララ「うーん、集合時間は10分前なんだけどなぁ」

 

グラス「悟空さんが遅刻とは珍しいですね。何かあったのでしょうか?」

 

ウララ「・・・"あの,,悟空さんに?」

 

グラス「・・・あり得ない事でした」

 

ウララ「んー、忘れてるかも知れないから探してくるね」

 

グラス「ええ、それではここで、……あら?」

 

 

手を振るグラスは動きを止める。ウララはグラスの視線を辿ると、黒いジャージを着た悟空が走ってきていた。

 

 

悟空「いやぁ、すまねぇ!待たせちまったな」

 

ウララ「う、、ん。それは良いんだけど…」

 

グラス「・・・」

 

 

ウララとグラスは悟空の顔から目が離せないでいた。

よく見なくとも一瞬で分かる、目の下のクマ。顔の血色は悪く、青白くなっており、酷くやつれていた。

 

 

 

悟空「なんだよおめぇ達。オラの顔に何かついてっか?」

 

ウララ・グラス「「何があったの?????」」

 

悟空「ん?遅刻した理由か?」

 

グラス「と、いうより悟空さんの状態です。今日はお休みになられた方が良いのでは…」

 

ウララ「うん…。そうしよ?悟空さん」

 

悟空「オラの事言ってんなら心配すんな。わざとやった事だからよぉ」

 

グラス・ウララ「「わざと?」ですか、」

 

悟空「おう。今日やる修行はオラが身をもって教えた方が良いと思って、この四日間は"気,,を放出し続けたんだ。加えて睡眠を減らして、飯もたづなと同じくらいしか食ってねぇ。体力はギリギリだな」

 

ウララ「そんなっ!悟空さんがご飯少ないなんて、」

 

グラス「何という自殺行為を!」

 

悟空「行為っつーか、オラ死んでっけど…。まぁそんな訳でオラはいつもの力が全くねぇ。くたばる前に行くか」

 

ウララ「う、ん。…悟空さんが言うなら平気かな。今日は何するの?」

 

悟空「最初はいつも通り筋トレや少し走るくれぇだけど、グラスも一緒に来るか?」

 

グラス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ、まだチームトレーニングの最中なので」

 

悟空「そっか。ざんねn」

 

グラス「なので次もまた絶っっっっ対に誘ってくださいね?私待ってますから」

 

悟空「お、おう」

 

ウララ(一緒にやりたかったんだね。グラスちゃん)

 

グラス「では、失礼します」

 

 

ココに居続けると自身のトレーニングに集中出来ない、とグラスは後ろ髪引かれながら、その場から立ち去った。

 

 

ウララ「ありゃ、行っちゃったね」

 

悟空「アイツも強くなんのに必死っつー事だ。オラ達も負けてられねぇな」

 

ウララ「そうだね。少し空いちゃったけど、今日からまたよろしくね、悟空さん!」

 

悟空「おう!」

 

 

 

 

 

 

そして思い出される地獄の日々。

 

 

ウララ「ごっ、くう、さん!たっぶんっ!う、さぎっ、飛びって!タイヤっ、引かないっ!と、思う!!」

 

 

中腰のまま飛び続ける後ろをゴシャ、ゴシャと音を鳴らせてついてくるタイヤ。

 

 

悟空「普通の車のタイヤだ。今のおめぇならどうって事ねぇだろ」

 

ウララ(そんな訳ないじゃん!足パンパンだよぉ!)

 

 

と、言える暇もなく、心の中で絶叫した。

 

しかし、ウララの足は止まらない。

無茶なトレーニングに言い訳はたくさんする。泣き言だって吐くし、涙を浮かべる時なんて結構ある。

それなのにウララは前から目を離さない。

やめたいという心を裏切り、体が勝手に動くのだ。

 

 

ウララ(普通逆なはずなんだけどね…)

 

 

自嘲気味に口元を緩めて、一歩の飛ぶ幅を大きくした。

 

 

ウララ「負けないぞぉぉおおおおおお!!!」

 

 

思い浮かぶ同期の怪物達。ほんの少しでも近づくために、弱音は咆哮でかき消した。

 

 

 

それなのに、この男はいつも逆な事を言う。

 

 

悟空「ウララー!そこまでだ!帰ってこーい!」

 

 

出鼻をくじかれたウララは前のめりに潰れる。

 

 

ウララ「これからだったのにぃぃいいいい!!!!」

 

 

やる気に満ちた魂を打ち止めされ消沈するウララ。

肩を落としながら、ペットを散歩するようにタイヤを引いた。

 

 

ウララ「もぉおおっ!なぁに!?」

 

悟空「ははっ!そう怒んなって。やりてぇ事は体力を減らす事で、筋肉を消耗する事じゃねぇんだ」

 

ウララ「むぅ。……それじゃあ走ってくる?」

 

悟空「いや、足はこれ以上したくねぇから、、、、甲羅背負って腕立てでもすっか」

 

ウララ「えーっ!ウララ上半身のトレーニング苦手なんだよねぇ」

 

悟空「おっ!そりゃ良い事聞いたなぁ」

 

ウララ「え、」

 

悟空「苦手っつー事は伸び代があるっちゅー事だ。ほれ、ムキムキになるぞ!」

 

ウララ「ムキムキかぁ、、、カッコよくなるかな?」

 

悟空「・・・ああ、」

 

ウララ「そっか!じゃあ甲羅背負ってくるね!」

 

悟空「おー」

 

 

ムキムキに目を輝かせたウララはスキップをしながら走った。

 

 

悟空(・・・女ってムキムキになれるんかな?)

 

 

腕の立つ自分の妻チチや、実力自慢が集まる天下一武道会でも筋肉が膨れ上がった女性は居なかった事を思いだし、騙してる感じになったかもと、少しの罪悪感に苛まれていた。

 

 

 

 

 

 

ウララ「ふんっぬーっ……ふにににっにーーーっ!」

 

悟空「18…19……後30回!」

 

ウララ「そんなに!?むっ……うぁっ!ぎゅぐぐ、、むが!」

 

    ・

    ・

    ・

 

 

悟空「ーーーーーーーおし、良いぞ!」  

 

 

悟空がそう言うと、ウララはドタバタと地面に転がり、背負っている紐を取った。

 

 

ウララ「っっっぷはーっ!もうダメ!亀さんの事嫌いになりそうだよぉ」 

 

悟空「・・・・・」

 

ウララ「?、どうしたの?悟空さん」

 

悟空「・・・いや、修行の目的なんだけど、やりてぇ事があるから体力を残り少なくしたくて、」 

 

ウララ「う、ん……?」

 

悟空「でも、こんな方法じゃウララの体力は無くならねぇ」

 

ウララ「へ?」

 

悟空「調整しながらの修行は、おめぇの体力が減らねぇんだよ。良い事だけどオラのやりたい修行が出来ない!」

 

ウララ「・・・悟空さんは何が言いたいの?」

 

悟空「いつもと同じくらいのやつをする。んでもって、疲れてぶっ倒れてから修行本番だ!」

 

ウララ「ごめんね。意味が分からないや」

 

悟空「ちょっと待ってろ!いつものタイヤ持ってくっから!」

 

 

最初は理解できない…いや、理解"したくない,,ウララだったが、離れていく悟空の背中を見ていく内に少しずつ、事の重大さが分かってしまった。

 

 

ウララ「ーーーあー、そっか。4日ぶりだもんね。懐かしいって思っちゃうよ。………三途の川に行くのは、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウララ「だからっ、動かないん、だって!!!!」

 

 

5tのタイヤはピクリともせず、ウララの足だけが空振っていた。

 

 

悟空「もっと腰落とせ!地面を足の指で握るんだ!」

 

ウララ「やってるよぉ!」

 

悟空「ったく、休み前は少しだけ動いてたってのに。さてはウララ、怠ったな?」

 

ウララ「4日も空けばこんなもんだよぉ!少し手伝ってぇええええ!!」

 

悟空「んー、オラもあまり力は出せねぇけど……押すくらいなら行けるか」

 

 

悟空は後ろからタイヤを押した。

いつだったか、力を入れすぎてウララが前のめりに倒れてしまったからと、悟空はゆっくり力を上げていく。

 

 

ーーーズリズリズリ

 

 

ウララ「おっ、おー、うん。行ける!」

 

悟空「よし!走れウララ!」

 

ウララ「おーーーーーー!!!」

 

 

 

 

    ・

    ・

    ・

 

 

 

 

ウララ「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ………」

 

悟空「ウララ……おめぇ、」

 

ウララ「ご、くう、、さん」

 

悟空「まだ体力残ってんな?」

 

ウララ「・・・・・ノこってないヨ?」

 

悟空「声裏返ってんぞ。後はターフ1.2周走ったらちょうどいいかな」

 

ウララ「・・・、」

 

悟空「そんな顔すんなよウララ。ここまで疲れさせるにはちゃんと目的があるんだ。今はコツを教えるだけで、今後はココまではしねぇから今日だけ頑張れ!」

 

ウララ「ムゥ……でも、、、っ!」

 

 

 

不満を吐き出そうとウララが悟空の顔を見た時、息を呑んだ。

最初に見た時より明らかに顔色が悪く、離れていても耳をすませば聞こえるお腹の音。

思えばこれは自分のトレーニングだが、悟空が"身,,を持って教えてくれると言っていた。

 

 

 

ウララ(ウララのために悟空さんが辛い思いまでして教えてくれてるんだ…)

 

 

語らずとも伝わった悟空の想いにウララは反省した。

 

 

ウララ「ね、…ただ走るだけで良いのかな?」

 

悟空「ああ。本気で走る必要はねぇ。ランニング程度で良いんだ。その間にオラも最後の仕上げすっから」

 

ウララ「そっか。それじゃあ行ってくるね!」

 

悟空「おう!おめぇから少し目ぇ離すから気をつけてな」

 

ウララ「うんっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

タッタッタッ…、軽快なリズムでターフを走るウララ。

 

 

ウララ(うわぁ、みんな怖いくらい張り切ってる)

 

 

一人で走るウララの肌にチクチクと突き刺さる重圧。

"ウララだって負けないぞ,,と気合を入れ直すが、周りを走っているウマ娘の様子がおかしい事に気づいた。

 

 

ウララ(?……焦ってる?)

 

 

走る姿がどこかぎこちなく見えるウマ娘達。

それなのにウララの感じる重圧は増す一方。近場で模擬レースでもあれば感じてもおかしくないが、それらしいものはやっていない様子。

不気味な感覚に背筋がゾワリとする中、視界にキングヘイローが凄い勢いで地を駆け抜けて行くのが見えた。

 

 

ウララ(キングちゃん?………っ!)「まさか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悟空「・・・・・はぁぁぁ」

 

 

悟空は腰の位置で拳を握り深呼吸をしていた。

"気,,の放出。オーラは出ていないが、悟空は残りの体力を減らすため誰にも分からないように力を出し続けていた。……つもりだった。

 

 

ズドドドドドドドドドッッ!!!!!

 

 

悟空「ん?」

 

キング「悟っっ空さぁぁあぁぁぁん!!!!」

 

悟空「き、キングゥ!?」

 

キング「そんなに"気,,出したら他の子が萎縮しちゃうじゃない!」

 

悟空「え、オラそんなに出してねぇぞ!?」

 

キング「出てるのよ!それに普段と違くて何だか冷たい感じだったし…。何のつもりか知らないけど、不用意にあなたの"気,,出したらG1レースなんて軽く凌駕するほどの圧力なんだから気をつけなさいな」

 

悟空「あちゃあ…、そりゃあ悪い事したなぁ。ここまで消耗したのは久々だからコントロールが出来てなかったみてぇだ」 

 

キング「消耗?…って、悟空さん体調悪そうね。大丈夫なの?」

 

 

キングが悟空の体調の変化に気づいた時、ウララがレース本番並みの速度を出して帰って来ていた。

 

 

ウララ「ハァハァハァハァハァ…………き、今日は悟空さんに考えがあるらしくて、わざと体力を減らしてるんだって」

 

キング「あらウララさん。体力を減らすって……悟空さん体力減るの?」

 

ウララ「らしいよ。そのために四日間"気,,を出しっぱなしにしたんだって」

 

キング「へぇ、」

 

ウララ「その間もほとんど寝てないみたい」

 

キング「まるで修行僧ね。でも悟空さんならそれでも足らないのかしら」

 

ウララ「ご飯はたづなさんと同じくらいしか食べてないんだって」

 

キング「何やってるのよ!!!」

 

悟空「キング?」

 

キング「ど、ど、どうするのよっ!悟空さん死んじゃうわ…」

 

悟空「ぁ、いや、だからオラもう死んでる…」

 

キング「死んでるから何よ!と、とりあえず食堂でオニギリでも作って…いえ、悟空さんには腹の足しにもならないわね……あっ!牛を一頭、」

 

ウララ「はいキングちゃんすとーっぷ!」

 

 

あわあわと、手を振り乱すキングのお腹に抱きついて抑制を図る。

 

 

キング「きゃっ。…う、ウララさん?」

 

ウララ「もー、キングちゃん慌てすぎ!確かに悟空さんにとっては凄く珍しい事だけど、ちゃんとウララの事を考えてやってくれてるんだからね!今食べちゃったら全部無駄になっちゃうよ」

 

キング「あ、そ、それもそうね。ごめんなさい、私ったら…つい」

 

悟空「謝る事ねぇさ。キングはオラの心配してくれたんだろ?ありがとな!」

 

 

悟空はキングの頭に手を乗せると優しく撫でた。

 

 

キング「ちょっ、やめなさい」

 

悟空「まぁまぁ。…ん?キングは練習終わりか?」

 

キング「ええ。クールダウンはまだだけど、」

 

悟空「ーーーうん。体はまだ冷めてねぇし、キングも一緒にやろうぜ!」

 

キング「ぇっ・・・・いや、私は練習終わりで、もう足がガタガタよ。今回は遠慮しておくわ」

 

悟空「おっ?そっかそっか。ガタガタかぁ。ならちょうど良いな!キントレに言ってくっからちょっと待ってろよ」

 

キング「お願い後半部分も聞いてっ!………ぁ」

 

 

伸ばした手は空を切り、悟空の背中は離れて行く。

行きどころの無くなった手は寂しそうに下がっていき、隣の小さなウマ娘はそれを見て、背伸びをしながらポンと肩に手を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

キントレ「練習に参加する分には構いませんが、何をするんです?」

 

キング(最近トレーナーの悟空さんに対する信頼度が高くて困るわ…)

 

悟空「おう。修行の目的から先に言うと、疲れてからでも本気で走れる方法だ」

 

ウララ「???」

 

キントレ「・・・・なるほど。それは盲点でした」

 

キング「今ので分かったの!?」

 

キントレ「多分だけどね。…一般的には疲れないために体力を作る。そのため何十キロという距離を走り、何百メートルという距離を何回も走る」

 

キング「???…当たり前じゃない」

 

キントレ「だけど悟空さんが言ってるのは、疲れてもスピードが落ちない走り方って意味だと思う」

 

悟空「そうだ。どんなに体力つけても減る時は簡単に減る。コースの外側を走ったり、相手の"気,,に呑まれたりな。龍球のウララが良い例だ。スカイにいいようにされて最後には自分の知らない所で体力が無くなり末脚は不発だった」

 

ウララ「ぅ"っ、」

 

キング(この人、鬼ね)

 

キントレ「でも具体的にどうするんです?さすがに疲れたから走り方を変える。なんて事、レースの中じゃ出来ませんよ」

 

悟空「言うと単純なんだけど、無駄な動きを無くすってだけだ。今の状態は疲労が溜まって思うように手足が動かせないはず。……まぁやってみっか。ウララ、キング。オラについて来い!」

 

ウララ「いきなり!?」

 

キング「ウララさん、行くわよ!」

 

 

突如走り出した悟空に遅れながらもウララ達はついていった。

軽いランニングでターフに行くと悟空が振り向く。

 

 

悟空「いいか二人とも。これからやる事は普段無意識でやってる事を意識的にする。とりあえずまずは200m。思いっきり走ってくれ」

 

ウララ「はい!」

 

キング「分かったわ!」

 

 

2人は走った。

予想通り疲労した体は思うように動かない。

足を地面にとられて右や左にズレ、風圧に負けて体が起き上がってしまっている。

だけどそれはレースの最後なら珍しくない。疲れた身体へムチを打つように、強く踏み込むため一際大きく足を上げた。

 

 

悟空「踏み込むのは駄目だ!」

 

ウララ「え、」

 

キング「っ!」

 

 

タイミングを乱された二人は徐々に失速。

体力が無い中で走らされ、それも途中で止められた事に不満気な表情を見せた。

 

 

悟空「おめぇ達は今レース本番に似た走りでやってくれたな?」

 

キング「あなたが思いっきり走れって言ったじゃない」

 

ウララ「何かだめだったの?」

 

悟空「いや確認しただけだ。説明すっからキントレの所に戻るぞ」

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

 

悟空「ーーーと、走ってくれた訳だけど、キントレは何か思ったか?」

 

キントレ「………いえ、特には…。手足の連動はしっかりしてたし、右にヨレても立て直してた。後は本番さながらのスパートをかけようとした所で悟空さんが止めた」

 

キング「私もいつも通りだったわ」

 

ウララ「ウララも、かな」

 

悟空「確かにおめぇ達の言う通りミスは無かった。ただ、オラから言わせると無駄な動きが多すぎる」

 

キントレ「無駄、ですか?」

 

悟空「ああ。普段のレースなら問題ねぇ。だけど体力が残り少ねぇ時に同じ走りをしても限界が見えてんだ。

例えばさっきスパートに入る直前、強く踏み出そうとしたな?」

 

キング「え、ええ。加速つけるなら当然だと思うけど」

 

悟空「けどキングは走る前、足がガタガタだっただろ?踏み込むっつーのは見た目以上の筋肉を使う。そんなんじゃ最後まで持たねぇぞ」

 

キントレ「でも、それならどうやって、」

 

悟空「簡単だ。全身を使えば良い」

 

ウララ・キング・キントレ

『・・・・・・簡単?』

 

悟空「・・・じゃねぇかも知れねぇ、けど。コツさえ掴めればこの先きっと使えるだろうよ」

 

キントレ「……もう少し説明出来ますか?」

 

悟空「そうだなぁ…。走るって簡単に言えても実際は奥が深い。細かく言うと、足を上げる時には腿。踏み込む時には腿裏、尻。姿勢維持は腹や背中みてぇな多くの筋肉使うだろ?

他にも股関節や膝関節。疲れが溜まると全部が鈍くなってくる」

 

ウララ「そうだね。いくら筋肉トレーニングしても足パンパンだもん。」

 

悟空「だろ?疲労した体で力づくに動かしても体力の消費が激しい。

だから力に頼らない走りを会得しようぜって事だ」

 

キング「………ちょっとやったくらいで出来るの?」

 

悟空「無理だ。癖は簡単に消えてくれねぇから、ゆっくり調整していくしか方法がない。けど今はオラが居るからコツくらい掴めると思うぞ」

 

キントレ「実践あるのみですね。キングは何だったら明日オフにするから存分にやってきて良いよ」

 

キング「トレーナーがそう言うなら…。ええ!やってやるわ!私はキングよ。十の練習だけで百の成果を出してあげる!」

 

ウララ「頑張るぞー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ターフに轟く声はもはや悲鳴にも聞こえ、それを発している二人のウマ娘の後ろを男が併走していた。

 

 

悟空「キング!手を強く握りすぎだ!それと肩の力を抜け!」

 

キング「くっ、、走ってる時に力を抜くなんて、」

 

悟空「手に集中するんじゃなくて関節や末端を意識するんだ。手の動きは肘関節。肩を前後じゃなくて肩甲骨を。意識だけを変えるだけで筋肉の硬直はなくなる。ほら、手ぇ置いてるから分かりやすいだろ?」

 

キング「ーーーん、確かに。ありがt…」

 

悟空「ん?どうした?」

 

 

ぎこちないながらも悟空の言う通りにしたキングだったが、現実をしっかり受け入れようと深く息を吐いた。

 

 

キング(こ、この人っ。横向きながら私と並んで走ってる!……って悟空さんなら出来るわよね)

 

悟空「おしっ!手の動きは良い感じだ。そのまま下いくぞ。地面を踏むんじゃねぇ。前に倒れるつもりで膝を突き出せ!腿は上げるってよりは膝蹴りするイメージだ!膝関節もちゃんと曲げるんだぞ!」

 

キング「膝蹴りなんて知らないわよ!」

 

 

と、言いながらも、どんどん全身から力みが消えていく。スピードは決して速いものではないが、一流と自負するだけの事はあると、悟空は感心していた。

 

 

悟空(目立った成績は無ぇけど、コイツの眠った力がまだまだありそうだ。間違いなく強敵の一人だな)

 

キング「ねっ、、、ご、くっさん!」

 

 

限界が近づいても感覚を体に叩き込もうと、足を止めないキングだったが、一緒に走っているウララの事が気がかりだった。

 

 

悟空「どうした?」

 

キング「わ、私の事は良いからっ。ウララさんにも付いてあげて!」

 

悟空「ウララ?もちろんちゃんと付いて話してんぞ?」

 

キング「え?」

 

 

誘導されるようにキングは右後ろを見た。

自分と同じく叫びながら走るウララの姿。そしてその横にはウララの背中を支えている悟空がいた。

 

 

キング(!?、?!?!?)

 

悟空「キング集中しろ!頭の位置が上下に動くのは無駄な動きだ!一定に保て!芯だけはブレさせないように腹は力入れるんだ!」

 

キング「っ、集中。………集中っ………集中!なんてできる訳ないでしょぉぉぉおおおおお!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キング「ハァハァハァハァハァ…」

 

ウララ「あ"ーっ、疲れた!キングちゃんはどうだった?」

 

キング「っご、、悟空さん、」

 

ウララ「ん?あぁ、ウララには教えてくれてたけど、キングちゃん教えてもらってないよね?ごめんね」

 

キング「………私も教えてもらったわ」

 

ウララ「へ、そう?悟空さんずっとウララと一緒にいたと思った」

 

キング「いたわ。……分身してたけど、」

 

ウララ「…キングちゃん…。よっぽど疲れちゃったんだね!」

 

キング「私はボケてないわよ!」

 

 

キングの言ってる事が理解出来ないウララは首を傾げると、その先に悟空とキントレが歩いて来るのが視界に入った。

 

 

キントレ「ーーーー力ではなく技術を軸にしたものですね」

 

悟空「そうだ。キングは最後の方はコツを掴んだみてぇで、荒削りだけど自分で改善してやがった」

 

キントレ「そうですか。多分僕は領域外なのでどうしようかと思いましたが、」

 

悟空「まっ、オラがいる間はたまに見てやっから心配ぇすんな。それにいなくなったとしてもキングなら上手い事やるだろうしな!」

 

キントレ「悟空さん…。…とりあえず消える発言はやめましょう。僕を含め皆んなの心臓に悪いです」

 

悟空「?、そうか?」

 

 

 

ウララ「おーい、悟空さーん!」

 

悟空「オッス!今日はお疲れさん。体力が切れてから動くのは結構(こた)えるだろ?」

 

ウララ「うん、もーヘトヘトだよぉ」

 

悟空「ははっ!これでゆっくり休んだら強くなれっからな。キングはどうだ?」

 

キング「…そうねぇ、今までは力でゴリ押ししてたけど、緩めることで出せる速さがあるって事を知ったわ。けど…、」

 

悟空「???」

 

キング「疲労してからじゃないと出来ない練習なんて効率悪いわね。何か考えないと、」

 

悟空「いや、分かりやすいってだけで、別に元気が有り余ってる時でも出来るぞ?そうなると力に頼っちまうけど、キングは頭が良いからなぁ、気をつけ所が分かってれば出来るはずだ」

 

キング「そうなのね。……でも良いのかしら?これで私は強くなってしまうわよ?」

 

悟空「おお!良い事じゃねぇか!どんどん強くなれキング!そんでG1も掻っ攫っていこうぜ!」

 

キング「!……ほんと、あなたってば呑気ねぇ。私はウララさんの敵だと言うのに。……もしも私が有マ記念で勝ったとしたら、悟空さんは喜んでくれるのかしら?」

 

悟空「っっったりめぇじゃねぇか!!!」

 

キング「ちょっ、なに!?」

 

 

悟空はキングを抱きかかえ、自分が一番だと思わせるように天高く上へあげた。

キングは一瞬の放心状態から、はっ、と目が覚めると羞恥心が芽生えてくる。

何とかして降りようと試みるが、ガシッと掴まれた悟空の手はほんの少しも離れはしない。

それどころかテンションの上がった悟空はクルクルと回り出した。

 

 

悟空「オラはウララの事を修行つけてるけど、おめぇ達が負けねぇように頑張ってるとこをオラは知ってる。キングはもちろん、スペやスカイ、グラスにエル。誰が勝っても喜ぶし、めいいっぱい褒めてやんぞ!」

 

キング「…ふっ、ふふ……あはははは!なら特等席で見てなさい!私とトレーナーの力が1番になる所を!そしたらもう一度私を抱く権利をあげるわ!」

 

悟空「ははっ、ウララは強くなってるし、そう簡単にはいかねぇかもな!でも本当に勝ったら雲より高く飛ばしてやるよ!」

 

キング「それはいらない」

 

悟空「お?」

 

 

普段キングは笑う時、手で口元を隠すのがほとんどだ。自分を一流と誇示し、なおかつ大口を開けて笑うことは下品と教わったのだろう。

そんなキングは今、無邪気に笑っているのだ。

 

その光景を見た彼女のトレーナーと同室の娘は感激のあまり目を輝かせていた。

 

 

ウララ「………おー、」

 

キントレ「ふむふむ。これはこれは…」

 

ウララ「ねぇ、キントレさん」

 

キントレ「なんだい?」

 

ウララ「これって確か、春が来たって言うんだよね?」

 

キントレ「おっ、よく知ってるね。その通りだよ」

 

キング「来てないし適当な事言わないでちょうだい」

 

悟空「ちゅーかキング。オラ思ったんだけど、走る時もう少し頭を倒せねぇのか?体が起き上がりすぎな気するけど」

 

キントレ「あっ、悟空さんそれは…」

 

悟空「ん?」

 

キング「いやよ」

 

悟空「いや?やりたくねぇのか?」

 

キング「ええ。何でこの私が頭を下げなきゃいけないのよ。キング()たるもの頭は他のヒトよりも上であるべきでしょう」

 

悟空「ぇ、、、ん?でもよぉ、今より速くなるかも知れねぇぞ?」

 

キング「だとしてもよ。私は今のままで勝利を掴む。プライドを潰して勝っても得るものは一つも無いわ」

 

 

腕を組み、まるでそれが当たり前の事だと告げるキングに、悟空は既視感があった。

 

 

悟空(あー、そういう事か。こいつはベジータに似てんな)

 

 

昔は手も足も出せなかった強敵の存在。

それがいつしか力の差が逆転し、悟空自身ですらベジータより強いという確信があった。セルとの時にはかなりの差が開いているとも思っていた。

 

だがそれが続くとは、これっぽっちも思っていない。神様の元で修行をしているとしても、彼は一心不乱に血を流しながらも追いついてくる。

そんな確信があり、このウマ娘に重なる部分がある事を知った。

 

 

悟空(油断ならねぇ。でもウララを強くしてくれんのはキングの存在なんだろうな)

 

キング「?…どうしたの?こればかりは悟空さんに言われても止める気ないわよ」

 

悟空「いやそうじゃねぇ。オラの勘違いだったみてぇだ。…キングはその誇りを大切にしろよ?そしたらいくらでも強くなれる。オラは知ってるからな」

 

キング「ええ!もちろんよ!」

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

  

 

キントレ「悟空さん、質問良いですか?」

 

悟空「なんだ?」

 

キントレ「悟空さんって、この日のために制限かけてスタミナを落としたんですよね?」

 

悟空「そうだ。寝る時間や飯も全部少なくしたんだ。おかげでフラフラだ」

 

キントレ「それが全くそう見えないんですよね。顔色は悪いですけど、練習時の走行はブレてませんし、観察眼も健在でした。キング達との差は一体…」

 

悟空「あぁ、その事か。オラもさっき気づいたんだけど、いくら疲れてもオラの動きは身体に染み付いてるから、あんまり意味がなかった。骨をバキバキにするくれぇじゃねぇと」

 

キントレ「oh…。それなら制限の意味って、」

 

悟空「全く意味なかったけど、強いて言うならオラの修行になったぞ!」

 

キントレ「……苦行を強くなる要因に捉えて笑えるとは…これが戦闘民族か、」

 

悟空「ちゅーかさすがに腹減ったなぁ。ちょっと食堂に……あっ、オグリの"気,,があんじゃねぇか!オラ行ってくんな!」

 

 

 

キントレ「………………………今度食堂に差し入れ持っていこう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







レースの間のひと時でした。ウマ娘本編軸に乗っても良いのですが、急ピッチかなと思い、日常話を書いています。
次回は凱旋門賞にしようか、もう一回日常編かは…考え中。



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世界最強!エルコンドルパサーの素顔





んー、次話が決まってないから、予告が書けん…。


注意
作中の内容はウマ娘1期アニメ軸を辿ってますが、今回のエルの設定はゲーム版から拝借してマス。





 

 

 

 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

キング「脱力、ねぇ。余計な力を使わない事の本当の意味が分かったわ」

 

ウララ「ウララはあんまり合わなかったかな…」

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

ある日、黄金世代と呼ばれる彼女達は困惑していた。

 

 

教師「エルコンドルパサーさん。この問5の答えは分かりますか?」

 

エル「はい。2+√6デェス」

 

教師「せ、正解。少し難しい問題でしたが…。エルコンドルパサーさん説明出来ますか?」

 

エル「はい。この公式を当てはめて…ーーーー」    

 

 

 

スペ・グラス・スカイ・キング

『・・・・・』ポカーン

 

 

 

一人、エルコンドルパサーを除いて…,

 

 

 

 

    ・

    ・

    ・

 

エル「フゥ、」

 

スペ「エルちゃん!どうしちゃったの!?」

 

エル「ケッ!?」

 

 

授業が終わった。

その瞬間にゲートのスタートさながらの動きで席から飛び出すと、スペはエルの両肩に手を置いた。

 

 

エル「す、すぺちゃん?どうとは…何の事デス?」

 

スペ「隠しても無駄だよ。エルちゃん最近変だもん」

 

エル「???」

 

スペ「……か、隠したって無駄だよっ。何か、、えっと、、話してよ!」

 

エル「何か話せって言われても…。……スペちゃん相談乗るの下手デスね」

 

スペ「ゔっ」

 

エル「それに本当に心当たりがないので、エルわっかりまセーン」

 

スペ「え、でも……隠したっt」

 

グラス「スペちゃん。何回同じ事を言うんですか?」

 

スペ「だってぇぇぇ!」  

 

エル「グラス?」

 

グラス「エル。ごめんなさいね。スペちゃんったら不器用だから」

 

スペ「」グサッ

 

エル「それは知ってマスけど、」

 

スペ「」グサグサッ

 

グラス「だからエル」

 

エル「ケ?」

 

グラス「隠してないで早く言いなさい」

 

スペ「えっ」

 

エル「えっ」

 

 

その様子を見ていたキングとスカイは頭を抱えた。

 

 

スカイ「出番だよ、キング」

 

キング「なんで彼女ってたまにポンコツになるのよ…」

 

 

キングはエル達に近寄ると、まず最初にスペとグラスにチョップをした。

 

 

デュクシッ !!デュクシッ!!

 

 

スペ「ヘムッ」

 

グラス「ぁぅっ」

 

キング「このへっぽこ達。物事は完結に伝えなさいな」

 

エル「キング〜。エル当事者だと思うんですけど、置いてけぼりくらってマース!」ダキッ

 

キング「でしょうね。分かりやすいように言ってあげるから、まずは離れなさい」グイグイ

 

エル「あーん。キングはつれないデェス」

 

 

    ・

    ・

    ・

 

 

 

 

キング「まぁ、単刀直入に言わせてもらうと、エルさん、あなた最近ふざけてないわよね?」

 

エル「ケッ!?あ、あのー、質問の意味がよく分からないのデスが…」

 

キング「エルさんの日常が普通過ぎるのよ。とても1日の半分以上ふざけていたヒトとは思えないわ」

 

スペ「そうだよ!前はグラスちゃんの事を似非大和撫子って揶揄ったりしてたのに」

 

スカイ「授業なんて聞いてない事がほとんどだしね〜」

 

グラス「それに最近はあまり眠れてませんよね?朝早くトレーニング行ってますし…」

 

スペ「あ!あとはグラスちゃんのご飯にイタズラする事もなくなったよね。激辛ソース入れたり。いっぱい食べるグラスちゃんを豚って呼ぶ事もなくなった。…絶対に何かあったでしょ!……私、エルちゃんが心配だよ…」

 

エル「………スペちゃんは自分の心配をした方が、」

 

スペ「ほぇ、なんで?」

 

グラス「分からないのなら、こちらへどうぞ?教えてあげますから」

 

スペ「ええええっ!!!なしてそうなるのぉっ!?」

 

 

笑顔のまま、こめかみに青筋を立てたグラスはスペの尻尾を鷲掴みにして歩き出した。

"助けてー!,,と縋るように手を伸ばすスペと目を合わせる者は一人もいない。

 

 

キング「……なんだか最近、会話が脱線する事増えたわよね」

 

スカイ「良い意味だとみんなの自我が強くなったよね」

 

キング「悪い意味なら?」

 

スカイ「自分勝手」

 

キング「駄目じゃない…。"あの人,,の悪影響ね」

 

 

    ・

    ・

    ・

 

 

 

エル「それで、みんなに心配してもらって恐縮なんデスが、どういう事なんデス?」

 

スペ「んー、なんかねぇ、エルちゃんの笑顔が減ったなぁって思って。振り返ってみても、はしゃいでる時が少なくなったし」

 

グラス「お勉強に関してもそうです。エルは地頭が良いので先生の言う事をちゃんと聞けば分かるでしょうけど、まず集中が続かないじゃないですか。それなのに今日…いえ、最近はよそ見すらしません。先生だって驚いてましたよ」

 

エル「ふむ…」

 

キング「実際の所、エルさんはどうなの?隠してるだけなら無理に聞かないけど、無意識なら……変よ?」

 

エル「…まぁ、あえて落ち着こうってしてる所はありマース。来週にはフランスに向けて飛び立つので」

 

スペ「!……そっか。早めに現地入りするんだよね」

 

 

エルの戦う舞台。フランスのパリ・ロンシャン競バ場で行われるG1凱旋門賞。挑戦する者は自国でトップレベル。一着を獲った者は世界一と呼ばれる程の名誉が与えられる。

他国では雰囲気やバ場の違いに慣れるためや、コンディションなどを整えるために少しの間、現地でトレーニングをするのが一般的だ。

 

 

エル「イエース!あの舞台で走る事を考えたら武者震いが止まらないんデェス!今からテンション上げても本番では疲れてしまうと思ったので、明鏡止水の如く過ごしてマシタ!」

 

キング・グラス・スカイ・スペ

『・・・・・・・・・・ハァ、』

 

グラス「エールーーっ」

 

スカイ「まぁまぁ、悩んでる訳じゃなくて良かったじゃん」

 

エル「心配おかけしてごめんなさいデェス!エルはとっても元気なのでノープロブレムデスよ!」

 

キング「それなら良いけど、レースの方の調子はどうなのよ。凱旋門賞はとんでもないのが出てくるみたいじゃない」

 

スペ「うん。ブロワイエさん…だっけ?7戦中1着が6回。2着1回。しかもG1を2勝してて、その2つは凱旋門賞と同じ2400m。それと前哨戦のニエル賞は1着。バ場状態に至っては良から重、不良場まで経験済み。おまけにロンシャン競バ場はブロワイエさんのホームグラウンド。まさに死角が全く無い。今1番ノリにノッてるウマ娘だね」

 

スカイ「く、詳しいね…調べたの?」

 

スペ「ううん。私のトレーナーさん、ウマ娘オタクだから喋ってるのが耳に入ってきちゃったの。ちょっと変な人だけど、ウマ娘の事を誰よりも知ってるから本当だと思う」

 

グラス「強敵…ですね」

 

エル「そんな事は百も承知!しかもそこまで強いとブロワイエだけをマークしたら良いだけ。むしろプラス材料デース!なーはっはっはっ!!!」

 

 

腰の位置に手を置き、ふんぞり返って笑うエルはいつも通りだ、と彼女達は安堵した。

そして杞憂だったとも思う。

レースにおける最も重要な事とは、レース当日にコンディションを整える事。

ウマ娘界の中で"仕上がり,,と呼ばれている。

筋肉の付き方。ベストな体重。精神状態。ウマ娘の誰もが、自分の最高の状態を作り、レースに挑む訳だが、

 

その中でも、エルコンドルパサーは群を抜いていた。

 

スペのように体重で悩む事なく。

スカイのように気分に左右されず。

キングのように熱くなりすぎず。

グラスのように冷静すぎる事もない。

 

エルは何事にも対応できる。言わば、"仕上がり,,のプロフェッショナルだ。

そんなエルの様子が変だと慌ててしまったが、そんな事はなかった。

 

 

ーーーっと。彼女達は、そう認識した。

 

 

 

 

ウララ「おーい!キングちゃーん。教科書返しに来たよー!」

 

 

エルの机に集まっていた彼女達は一斉にドアの方を見た。ウララはまるで自分の教室かのように堂々と入って来ている。

 

 

キング「っもう。教材を忘れるなんて、」

 

ウララ「えへへ。キングちゃんが入れ忘れるの珍しいよね!」

 

キング「本当なら!あなたが!自分で!準備するのよ!」

 

ウララ「だよねぇ…」  

 

スカイ「いやいや、ママが一緒にいたら頼っちゃうのも無理ないって」

 

スペ「私の部屋にもキングママほしーなぁ」

 

グラス「アラームいらずでしょうね〜」

 

キング「ウララさんを甘やかさないでくれるかしら!?」

 

ウララ「ぁ、は、はは。ーーーあっ。エルちゃん笑ってたけど、何か楽しい事あったの?」

 

エル「ン?……イッヒヒー。みんなにエルが世界最強になるプロセスを教えていた所デェス!」

 

ウララ「おぉぉぉっ!さいきょー!」

 

エル「イエス!エルサイキョー!カモンっ!」

 

ウララ「エルちゃんさいきょー!」

 

エル「センキュー!!」

 

ウララ「海外行くんだもんね!応援してる、、、よ?」 

 

エル「?。ウララ、どうかしマシタ?」

 

 

応援のためガッツポーズをしたまま止まってしまったウララ。何かを見定めるようにエルの顔をじっくりと見ている。

 

 

キング「ウララさん?」

 

ウララ「………うーん、」

 

 

キングの声にすら反応を示さないウララは、エルの顔を別の角度から見ようと首を傾げたり、後ろに下がっては、近づいたりして、落ち着いた所は、顔から僅か20cmの場所だった。

 

 

エル「う、ウララ?ちょーっと近いと思うのデスが…」

 

ウララ「………」

 

スカイ「やばくない?R指定行っちゃうんじゃないの!?」

 

スペ「せ、セ、セイちゃん?あ、R指定ってまさかっ」

 

スカイ「そう。そのまさか。……ちゅーだね」

 

スペ「ちゅうぅぅううっ!!?!?だっ、だめだめだめ!教室でなんて絶対に駄目だよ!」

 

スカイ「おんやぁ〜?教室以外なら良いって口振りだねぇ?」

 

スペ「!!な、ななななな、ッッッ!しっ、知らない!」

 

スカイ「知らないかぁ。そんじゃあ………教えてあげよっか?」

 

スペ「ふぇっ!?」

 

キング「ちょっとあなた達。ふざけるのは後に「そうですねぇ〜」、、ぇ、」

 

グラス「今はちょっとだけ………黙りなさい」

 

キング「」ビクッ

 

スペ・スカイ「「は、はいっ」」ビックゥゥゥッ!!!

 

グラス(・・・・・)

 

 

 

エル「ウララ?エルの顔に何かついてマス?」

 

ウララ「うーむ……………あ、」

 

エル「ケ?」

 

 

ウララは違和感の謎が解けたのか、エルから少し離れた。スッキリしたはずだろうに、ウララの顔は、誰にも分からないほどに、ほんの少しだけ陰りがさしていた。

 

エルは何の事だか問い詰めようと口を開いた時、休憩の終わりを告げる音楽が鳴りだす。

 

 

ウララ「鳴っちゃった…。それじゃあウララ戻るね!」

 

エル「あっ、ウララ……さっきのは一体…」

 

ウララ「ん、伝言があったの忘れてた!」

 

エル「伝言?エルにデスカ?」

 

ウララ「そうだよ!悟空さんがね。今日のトレーニング終わったら来るように伝えてくれって!」

 

エル「ケッ!?悟空さんが…エルに何の用デスかね?」

 

ウララ「さぁ?分かんない。ウララは今日トレーニング無いからいないけど、ちゃんと伝えたからね!それじゃあバイバーイ!」

 

キング「授業中、寝てはだめよー!」

 

  ハーイ

 

 

スペ「それじゃあ私達も戻ろっか。エルちゃんは大丈夫みたいだし」

 

エル「ご迷惑おかけしマシタ!エルはご覧の通りデス!それよりは悟空さんの用事が気になってしまって、授業に集中出来ないかもデェス…」 

 

スカイ「今が珍しいだけで、いつもじゃん」

 

エル「なにをー!寝てるスカイに言われたくないデェス!」

 

スカイ「ふっふーん!私は寝てても夢の中で復習してるからちゃんと覚えてるよ〜」

 

スペ「えぇぇぇえぇっ!それ本当!?」

 

キング「嘘に決まってるじゃない」

 

 

 

そろそろ本気で準備をしないとと、彼女達は各々席には戻る。その一足先に席に着いていたグラスは、何をする訳でも無く、ただボーっとしていた。

 

 

グラス(・・・・・)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

エル「っどぅえええええ!!!まさかこんなに遅くなるとはっ。というより悟空さんはドコにいるの!?」

 

 

悟空の居場所を聞いていないエルはしらみ潰しに探すしかない。ターフ場はもちろん居ない。第一候補である食堂に向かったが居なかった。

このままでは悟空が待ちぼうけだ。ウララから直接聞こうと携帯を取りだした。

 

 

エル「っもー!みんなで話し合って悟空さんに携帯持たせまショウか」

 

 

後一回画面をタップしたらウララに繋がる。しかしその前にウマ娘の感覚は異様な空気を察知した。

 

 

ーーーーーーズズゥン。

 

 

エル(地震?………いえ…なんとなく息苦しさを感じマス。それにこの胸への圧迫感…)

 

 

エルは携帯をズボンのポケットにしまうと、圧力が強くなる方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逢魔が時の薄暗さ。冷たい風が木々を揺らし、バサバサと音を立てている。

その音を、風を、自然の声を、静かに佇む悟空は聴いていた。

 

ーーーーフゥ。

 

そっと目を閉じる。

悟空の身体が風に流されるように、ゆらりと動き、吐く息と共に拳を突き出す。

何かを感じるようにピタリと止まる。

ゆっくり突き手を戻すと、今度は逆の手で突いた。そのまま左足を地面に固定させると、右足を高く蹴り上げる。

非の打ち所がないほど綺麗なI字バランスをすると、その足を下ろして肩幅に開いた。

 

ザザーッ。

 

一際強い風が吹くと枯れた葉が空に舞う。ヒラヒラと導かれるように悟空の所へ落ちると、パァンッ!と甲高い破裂音と共に枯れ葉は弾け飛んだ。

 

その瞬間、悟空の目が開かれる。

 

 

悟空「ッッッッッッッッッだりゃぁああっ!!!」

 

 

さっきまでの舞踊ではなく、敵を倒すための突き。それは一撃では終わらず、左手や右足、左足、はたまた膝や肘を寸分の狂いなく連動させて打ち続ける。

 

 

悟空「だだだだだだっ!はあぁぁぁっ!!!」

 

 

タキオンからの助言で、オーラがくっきりと見える気功波は使わないようにしている。音も鳴るし目立ってしょうがないからだ。

だが気功波無しで、仮想組手だけだと限界はある。

 

だからこの世界での修行のお供は"空気,,しかないのだ。

 

 

悟空「ふっ!!!!!」

 

 

右足を下から蹴り上げるように振り抜くと、すぐに悟空は高速移動で10m先の所まで回り込んだ。

腰を落とし腕をクロスさせていると、"空気の塊,,が直撃して少し体がのけ反った。

 

悟空は空気を叩く事により発生する衝撃波を利用していた。

これならば色は無い。"ただの,,空気だ。傍からでは何も見えないだろう。

しかし"ただの,,と言うほど普通でもない。その威力は常軌を逸し、前に悟空はヘマをして木を一本吹き飛ばしている。

 

バァンッ! ズシャッ! ドゴォン!

 

1人キャッチボールのように空気を叩いては受け止めてを繰り返していると、そのスピードは徐々に上がり、音だけが響いて悟空の姿はいくつもの残像を残すほどに速くなっていた。

 

 

それが30分くらい続き、張り詰めた"気,,を解いた。

 

 

 

 

 

 

悟空「ーーーーハァ、やっぱ物足りねぇな。……タキオンって重力室作れねぇんかな…」

 

 

それは悟空の独り言。

 

 

そして次は話しかけた。

 

 

悟空「すまねぇ。待たせちまったな」

 

エル「…………エル、参上!!!」

 

離れた木の陰からエルが飛び出す。

 

 

悟空「オッス!」

 

エル「コンバンワデェス悟空さん!いやー、さすが悟空さん!素人目から見ても熟練された動き!強大な力だけでなく、技術も極めているのが分かりマス!思わず見惚れちゃいマシタ!」

 

悟空「ははっ!サンキュー。…そういやオラもレース見てて見惚れる時があんなぁ」

 

エル「ケ?悟空さんからしたら遅くないデスか?」

 

悟空「速ぇ、遅ぇじゃねぇさ。なんつーか、カッコいいと思うぞ」

 

エル「ほぇー、悟空さんもそんな事考えるんデスねぇ…」

 

悟空「まぁな。んで、エルはどうしたんだ?」

 

エル「ケ?どうしたとはワタシのセリフなのデスが」

 

悟空「?。オラを探してたんじゃねぇんか?」

 

エル「探してマシタよ……悟空さんが呼んでるってウララに言われて」

 

悟空「え、オラが?・・・・・言ってねぇな」

 

エル「???そう、デスか…。どういう事なんでショウ…」

 

悟空「んー、ウララだし何か間違えたんじゃねぇか?それよりそっちの調子はどうなんだよ?来週だろ。行くの」

 

エル「そりゃあもちろん絶好調デース!でも昂る感情を抑えてたらスペちゃん達を心配させてしまったみたいで、エル反省中デース…」

 

悟空「まぁ精神統一は周りから見りゃあ、ただボーってしてる、だけ、、、、ん?」

 

エル「どうかしマシタ?」

 

悟空「んーーー、」

 

 

悟空はウララと同じように、角度を変えてエルを見ている。

 

 

エル「ケーッ!またこれデスか!?エルの顔に何かついてるなら言ってくだサイよー!」

 

悟空「…ついてるわけじゃねぇけど、、、」

 

 

 

 

悟空「おめぇ……何を怖がってんだ?」

 

 

 

 

エル「・・・・・えっ、いきなり何を、」

 

悟空「おめぇの顔…どこか前のウララに似てる。あそこまでは酷くねぇけどな。それに"気,,だって安定してねぇ」

 

エル「そんなっ!エルは大丈夫デス!何かの間違いじゃ、」

 

悟空「なら何でそんなに震えてんだ」

 

エル「ッ!」

 

 

悟空の指摘通り、エルの手は小刻みに震えていた。押さえ込もうとしても何も変わらない。エル自身ですら気づかなかった本心に動揺を露わにした。

 

 

エル「っ!なんで、、、どうして止まってくれないの!?」

 

悟空「!…エル、落ち着け」

 

エル「ワタシは結局何も変わってなかったっ。これ以上弱くなったらエルは……エルはッ!」

 

悟空「エル…」

 

エル「もう、みんなと走れな……!」

 

 

エルは俯きながら口を閉ざす。

今はすっかり辺りは暗くなったはず。それなのにエルの視界は明るく光っていた。

"ポワァァァ,,っと音がする方に顔を向けると、悟空の両手の間に小さな輝きが存在していた。

 

 

エル「……………キレー、デス」

 

悟空「そんでこれをこうすっと、」

 

 

悟空はエルの全身を覆うように、光を纏わせた。

 

 

エル「!凄い…暖かい。…とても落ち着きマス」

 

悟空「だろ?オラ達は"気,,を武器にして戦ってっけど、こういうのも悪くねぇな。………なぁ、エル。何を焦ってんか知らねぇけど、オラはいつだって力になんぞ」

 

エル「悟空さん…」

 

 

エル達は近くにあるベンチに座ると、途切れがちに口を開いた。

 

 

エル「え、、と、何と言えば良いのか……本当にさっき初めて気づいた事なので、、、」

 

悟空「おめぇが怖がる程強ぇ奴なんか?」

 

エル「…自分で言うのは情けないデスが…相手が強くて怖いってよりも負ける確率が高くて怯えてるって感じデス」

 

悟空「・・・おめぇ、さっき自分が弱ぇみたいな事言ってたな」

 

エル「……タハハ。勢い余って言い過ぎちゃいマシタね。……悟空さんには全部お話しシマス」

 

 

そう言って、自分のトレードマークであるマスクを外した。

 

 

悟空「それを取った所見んのは初めてだ」

 

エル「そうでショウね。これはワタシのパパから譲り受けマシタ。そして……臆病なワタシを隠すための物デス」

 

悟空「臆病?…エルがか?」

 

エル「あはは、…見えマセンよね。ワタシの小さい頃は怖がりだったんデス。そんなワタシにパパがマスクを付けてくれると、勇気が湧いたんデス。

マスクを付けているエルは最強!って。

そのお陰で激戦区である中央トレセン学園で走ってこれマシタ。でも同時に思ったんデス」

 

悟空「・・・・・」

 

エル「弱い自分を乗り越えもせず、マスクで隠しているワタシは世界最強になれるのか、と」

 

 

悟空は口を挟まず、続きを促した。

 

 

エル「ワタシだけがズルをしてる。スペちゃんやグラス、キング、スカイはインチキなんてしてない。ウララなんて恐怖を乗り越えたんデスよ?…みんなエルとは大違い。世界最強になるなんて言っても、エルは嘘つきなんデスよ…」

 

悟空「ズル、か…」

 

 

悟空の脳裏にはエルがトレーニングに励んでいる所が浮かんだ。

練習後にヘトヘトになりながら歩く所。熱意が伝わる程の併走。レースだって見た。それに自身が修行だって付けた。

そこに一度足りとも妥協して終わる事はなかった。いつだってエルは最後までやり遂げていたのだ。

 

 

悟空「なぁ。そのマスク、オラが付けても強くなれんのか?」

 

エル「…あはは!それは無理デース。至って普通のマスクなんデスから。強さを追求する悟空さんらしいデスけどね」

 

悟空「ふーん。……エルって今体力残ってっか?」

 

エル「ケ?ま、まぁ。残ってマスけど?」

 

悟空「なら、オラに付き合えよ!ちょっとだけ遊ぼうぜ!」

 

エル「???」

 

 

 

バシィン!

心許ない街灯の下で悟空はエルの拳を受け止めていた。

 

 

悟空「うっし。良いパンチだ!ほれ、次打ってこい」

 

 

そう言うと、エルはしっかりと悟空を見たまま、握った左手を突き出した。

それを悟空は当たる瞬間に手を少しだけ引き、クッションをつけて受け止める。

身に怪我をさせないように、エルに返るダメージをなくすためだ。

 

 

エル「やぁっ!」

 

 

元々格闘技に興味のあったエルは夢中になり、悟空に言われずともコンビネーションを繰り広げる。

一歩も動かず受け止める悟空にムキになり、エルは腰を落としてウマ娘の本領である蹴りを脇腹目掛けて振り回した。

 

悟空は躱される方が骨や靭帯に悪い事を知っており、やはりこれも、腕を立てて受け止める。

 

 

悟空「っ……ひひっ。さすがはウマ娘だ。力つえぇなぁ!」

 

エル「悟空さんこそ!一本くらいは入れマァス!」

 

悟空「そいつはどうかな?今度はオラの攻撃を止めてみろ!」

 

 

悟空は肘を引いて、予備動作たっぷりの動きで突き出した。

狙うはエルの胸元。それをエルは腕を出してガードしようとするが、当たる前にピタリと止まった。

 

 

エル「あれ?」

 

悟空「エル。その止め方はダメだ。やるなら払うようにしねぇとな」

 

エル「でも悟空さん、さっきこうやってませんデシタ?」

 

悟空「オラは頑丈だからな。これは骨で止めてんだけど、鍛えてねぇと折れちまう。真っ直ぐの動きは横からの衝撃に弱いから、オラの攻撃は払うように叩けば良い」

 

エル「ナルホドォ〜。悟空さんもう一本!」

 

悟空「うっし!行くぞー!」

 

エル「ヘーイ!」

 

 

悟空は口下手だ。言いたい事はあっても上手く言えない。その事は自身でも自覚していた。

だから悟空なりのコミュニケーションとして組手を教えたが、これが意外とエルに合っていた。 

 

肉体がぶつかり合う音。一旦止まっては適切な動作を教え、それがいつしか笑い声だけになっていた。

 

 

 

 

 

エル「ハァハァハァ…疲れマシタけど、とっても楽しかったデェス!」

 

悟空「オラも楽しかったぞ!付き合ってくれてあんがとな!」

 

エル「エルの方こそ……って、悟空さんすっごい笑顔!」

 

悟空「ははっ!だってこの世界に来て初めて組手したんだぞ?オラだって嬉しくなるさ!」

 

エル「悟空さんの好きな事デスもんね。大した事出来ませんけど、アレくらいでよければ付き合いマスヨ!」

 

悟空「おっ、そりゃホントか!ぃやったぁあ!」

 

エル「フフッ。悟空さん子供みたいデース」

 

 

エルは慈愛に満ちた顔をすると、空を見ていた悟空はエルの顔をじっと見た。

 

 

エル「………また怖がってる顔してマスか?」

 

悟空「ん?いや全然」

 

エル「え、」

 

悟空「おめぇ、今でもマスクしてねぇと不安か?」

 

エル「っ、……不安デス。アレがないとエルは弱いままだから…」

 

悟空「それは小せぇ時の話だろ?今は成長してんじゃねぇか。デカくなってからマスク取った事あんのか?」

 

エル「……いえ、まだ…。いつかは外さないといけない事は分かっているんデスけど…」

 

悟空「いや外す必要はねぇと思うぞ?」

 

エル「え?」

 

悟空「マスク付けて能力が上がるならともかく、エルだけの心が安定するだけのもんだ。

そんなのズルじゃねぇ。マスクの力じゃなく、おめぇだけの力でしかねぇんだ」

 

エル「………そう言っていただけると嬉しいのデスが、」

 

悟空「すまねぇな、エル」

 

エル「悟空さん。何で急に謝って、、、」

 

悟空「ほら。これ返す」

 

エル「返すって………ッケ!?エルのマスク!!?」

 

 

エルは顔をペタペタと触りまくるがマスクは無い。

悟空の手に持つマスクがさっきまで装着していた物だと判明した。

 

 

悟空「いやー!エルがあんまりにもマスクマスク言うもんだから、組手の最中に取っちまった!」

 

エル「取ったって、、全然気付きマセンでしたけど!?それになんて事するんデスかっ!それが無いとエルはっ、」

 

悟空「強ぇまんまだった」

 

エル「ぁっ…」

 

悟空「おめぇが攻撃してる時も、オラのやつを受け止める時も、コツを聞いてる時も、おめぇの目は生き生きしてた。チカラ出すために声も張って。そんな奴、弱いとは言わねぇ」

 

エル「悟空さん…っ、」

 

悟空「良いじゃねぇかマスク付けてれば。大切なもんなんだろ?外さなくて良い。それともエルは本心を隠して、他の奴に嘘ばっか言ってんのか?」 

 

エル「言って…ない…デス…。エルの友達は…みんなの前では…ずっーと本音デシタっ」

 

悟空「なら気にすんな!マスク付けたまま世界最強になって来いエルコンドルパサー!」

 

エル「っ、ごく、さ、んっ……悟空さん!」

 

 

エルは悟空に飛び掛かると胸元に顔を押し付けた。

涙を流しているのだろう。

悟空は胸元に湿り気を感じると、エルの頭を撫でた。

 

 

悟空「凱旋門賞。これで戦えるな!応援してんぞ!」

 

エル「うぅぅぅぅ!……客席まで来てくだサイ」

 

悟空「客席かぁ。たづな許してくれっかなぁ。……まぁいっか。どこでも行ってやっから。……もう大ぇ丈夫だな?」

 

 

エルは一回頷くと、飛び跳ねるように後ろへ行き、拳を天高く突き上げた。

 

 

エル「ハイ!最強、無敵、勇敢なウマ娘はこのワタシ!エルコンドルパサー!世界最強の座を奪いに行ってきマス!」

 

悟空「おう!やってやれ!」

 

エル「それじゃあ悟空さん!明日はオフなのでもう一回組手しまショウ!」

 

悟空「良いんか!?んじゃ、いっちょやっか!」

 

 

晴れやかな顔をして拳を作り、悟空とエルは同時に動いた。

 

 

 

 

 

 

それを離れた場所から見てる二人のウマ娘。

 

 

ウララ「結局エルちゃんは自分でも気づかないうちに溜め込んじゃったんだね」

 

グラス「・・・・・ウララちゃんは知っていたのですか?」

 

ウララ「エルちゃんの事?」

 

グラス「はい。私や他のみんなも恐らく気づいていませんが、ウララちゃんは多分、あの時すぐに気付きましたよね?」

 

ウララ「……そうだね。何となく…鏡で見たウララに似てたから…でも感覚だけしか分からなかったから、悟空さんに任せちゃった」

 

グラス「悟空さんにも言わなかったのは、杞憂で終わるならそれでいい。という事ですか」

 

ウララ「"きゆう,,ってなぁに?」

 

グラス「……取り越し苦労。勘違いみたいなものです」

 

ウララ「ほぇー。うん、そうだよ。エルちゃんに何かあったら、悟空さんは"気,,の変化で分かると思って」

 

グラス「……エルは水臭いです。少しでも重荷を分けてくれれば力になれたのに」

 

ウララ「……意地、じゃないかな。自分の嫌な所…好きな人には見せたくない、かも」

 

グラス「それが当時、キングちゃんに話さなかった理由ですか?」

 

ウララ「…………グラスちゃんのいじわる」

 

グラス「ふふっ。ごめんなさい。…でも悟空に今回も助けられてしまいましたね」

 

ウララ「そうだねぇ。…いつか恩返ししたいなぁ」

 

グラス「ですねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

ウララ「あ、一つだけ言いたいんだけど、」

 

グラス「なんです?」

 

ウララ「ウララを連れてくるのは良いけど、誘拐みたいにするのやめてね?いきなり変なの被せられて、前見えなくなるし、怖かったんだから」

 

グラス「……申し訳ありません」

 

 

 

 



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中央トレセン学園理事長 




悟空がウマ娘界に来て数ヶ月。"気,,の解放も修行場所もなく、平凡な修行をする毎日。
そんな悟空でもさすがに弱体化するのでは、と思いました。


注意
・ドラゴンボール世界で超サイヤ人を極めたはずの悟空はいません。

・理事長(やよい)は本当に何も知りません。本能に従ったまで!!

・内容はご都合解釈





 

 

 

 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

エル「え、えるは…怖がってなんかないんだからっ!勘違いしないでよネ!!」

 

グラス「なんですそれ」

 

エル「ジャパニーズ文化デース!」

 

グラス「今では絶滅危惧種ですよ」

 

エル「ケ?」

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

【食堂】

 

 

ウマ娘「あ!たづなさん、こんにちは!」

 

たづな「はい。こんにちは」

 

ウマ娘「たづなさんが食堂に来るのって珍しいですね。食べたい物があったんですか?」

 

たづな「いえ、そういう訳ではなく、ちょっと待ち合わせをしていまして」

 

ウマ娘「待ち合わせ?」

 

たづな「はい。先に来ていると思ったのですが…、」

 

 

そう言って、たづなは辺りを見渡した。

彼がいるならすぐに見つかるはず。そう思っていたら、カチャン、カチャンと凄い勢いでお皿が重なる音がする。

その方向を見ると、特徴的な髪型をした男性と、芦毛のウマ娘が積み重なる皿で見え隠れしていた。

 

 

たづな「・・・」

 

ウマ娘「た、たづなさん…待ち合わせって、もしかして…」

 

たづな「……ええ」

 

ウマ娘「」ウワァ…

 

 

ウマ娘がした顔は驚愕か、戦慄か、、、しかし一番近い表現なら…同情だろう。

 

 

たづな「……あの中に混ざるのは少々勇気が入りますね…」

 

 

誰にいう訳でもなく、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

ガーツガツガツガツガツ!!!!むしゃむしゃむしゃ…パクパクパクパクパクパク!!!ずるずるずるっっっ、…じゅるるるるるるっ!!!

 

 

オグリ「っ!…もふぅ」(悟空)

 

悟空「なんふぁ?」(なんだ?)

 

オグリ「ほよふぁはな、ふおいうわいほ」(この魚、凄い美味いぞ)

 

悟空「ほんほは?ふぉっほふへ」(ほんとか?ちょっとくれ)

 

オグリ「ばあ」(ああ)

 

 

ーーーーぱくりんちょ。

 

 

悟空「!、ふへーうえーわ!!」(すげぇうめぇな!)

 

オグリ「ほうはろう」(そうだろう)

 

 

 

 

たづな「ちゃんと飲み込んでから話しなさい」

 

 

悟空「!!!」

 

オグリ「!!!」

 

 

リスのように頬いっぱい膨らませ、机の傍らに佇むたづなを見た。

 

 

ーーーーごっっっくんちょ。

 

 

たづな「しっかり噛みなさい!!」

 

悟空「ぷはーっ。つい美味すぎて飲み込んじまった!」

 

オグリ「うん。私もだ」

 

たづな「ハァ…、」

 

オグリ「あ、たづなさん。こんにちは」

 

たづな「…こんにちは」

 

オグリ「悟空が待ち合わせをしてると言っていたのは、たづなさんの事だったのか?」

 

悟空「そうだぞ。言ってなかったか?」

 

オグリ「ああ。待ち合わせしてるからそれまで食おう…としか」

 

悟空「そうだったか」

 

たづな「もう…それで話とは何ですか?」

 

悟空「あ、ちょっと待ってくれ」

 

たづな「???」

 

悟空「締めのアイス取ってくる。オグリの分も持ってくっからな!」

 

 

返答を聞かず、床を滑るようにして悟空は行ってしまう。

 

 

たづな(……アレ少し浮いてません?)

 

オグリ「たづなさん」

 

たづな「なんですか?」

 

オグリ「悟空は私の分も持ってくると言っていたが、話しをするのに私は邪魔じゃないだろうか」

 

たづな「いえ、大丈夫だと思いますよ。聞かれてマズい事なら食堂で話そうとは言わないでしょうから」

 

オグリ「そうか。では待ってる間に、たづなさんにはフルーツをあげよう」

 

たづな「・・・お気持ちだけいただきます」

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

 

たづな「で、お話しとは何です?」

 

 

何故か三個分のアイスカップを持ってきた悟空。

たづなはアイスを舌でじっくり味わうと、悟空に問いかけた。

 

 

悟空「もう少ししたら凱旋門賞があんだろ?エルの応援に行きてぇんだけど、おめぇの許可貰っとこうと思ってな」

 

たづな「・・・、」

 

悟空「たづな?」

 

たづな(…とても食堂で話す事ではないですね)

 

悟空「おーい」

 

たづな「一応伺いますが、興味本位で行かれるのですか?」

 

悟空「興味?んー、まぁ強ぇ奴がいるってんなら目の前で見てぇって思ってたかな。行く気はなかったけど、エルの奴が会場まで来てくれって言うんで行ってやろっかなって」

 

たづな「なるほど…」(興味本位や遊び感覚で行こうとするなら却下しようと思いましたが、、、)

 

悟空「やっぱ他の国に行くのはダメか?」

 

たづな「………いえ、良いですよ」

 

悟空「おっ、やりぃッ!」

 

たづな「ただし!凱旋門賞は多くのメディアが集まります。変装だけは絶対にしてください」

 

悟空「おーけー、前にルドルフとやった時みてぇな感じで良いか?」

 

たづな「んー、、、アジア系なら、わざわざ応援に来た人としてインタビューされかねないですね…」

 

悟空「でもオラって分かんなきゃ別に構わねぇだろ」  

 

たづな「万が一を考えては不安なんですよ。咄嗟に嘘をつくなんて器用な真似出来ないでしょうし」

 

悟空「ムッ、失礼な事言うなよ。オラだって嘘くれぇつけんぞ」

 

たづな「ついた所で100%嘘だと思われたら意味ないです。何か良い方法があれば良いのですが…」

 

 

 

オグリ「スーパーサイヤ人になれば良いじゃないか」

 

 

 

悟空「ん?」

 

たづな「え?」

 

 

スプーンを口に入れたまま2人はオグリを見た。

 

 

オグリ「髪が金色になるんだろう?それなら海外でも周囲に溶け込むんじゃないのか?」

 

 

確かにオグリの言う通りだ。

下手な変装より、別人に切り替わる方が何かと便利だ。何かあっても逃げれば良いだけだし。

 

しかし、疑問が1つ生まれた。

 

 

悟空「オグリ。おめぇスーパーサイヤ人の事知ってたんか?」

 

オグリ「ああ。ウララから聞いたぞ」

 

悟空「ウララ?おめぇウララと話したりすんだな」

 

オグリ「意外か?こう見えてもウララと私の共通点は誰よりも多いんだ。私の初出走は地方ダートで短距離だったからな。中央では他にいないから、たまに2人でダートの短距離を走っている」

 

悟空「へぇ、そんな事してたのか。……ちなみに勝敗はどんな感じだ?」

 

オグリ「私の全勝だ」

 

悟空「い"い"っ!!?……オグリって引退してて、もうレースに出てねぇんだよな?」

 

オグリ「ああ。トレーニングはしているが」

 

悟空「んー、………オグリが速ぇのは知ってっけど、全敗かぁ…。鍛え方がたらなかったか」

 

オグリ「まぁ本気で走っているが、真剣勝負という訳ではない。ゴールだって僅差ばかりだしな」

 

悟空「そっか………でもやっぱ1回くれぇは勝っときてぇな。ちょっくら修行つけてくっか」

 

オグリ「?……これからか?」

 

悟空「ああ。思い立ったが何とやらってな」

 

オグリ「………怒られるぞ」

 

悟空「誰にだ?」

 

 

オグリは横を見た。つられて悟空も顔を動かす。

 

 

たづな「・・・・・」

 

悟空「ぁ、」

 

たづな「では私は戻ります。"孫さん,,は適当にやってください。ああ、バレたとしたらウララさんや学園に被害が来るのはもちろん。不法入国や出生登録のないアナタが存在していると国騒動にもなるので、お気をつけを」

 

 

もう用は済んだと、悟空に目を向ける事はなく席を立つたづな。慌てふためいた悟空はすぐにたづなの手を取った。

 

 

悟空「すまねぇ!オラ、あの、、ほら!、、、?」

 

たづな「離してください。謝るだけで何も言葉が浮かんでないじゃないですか。悪いと思ってないのでしょう」

 

悟空「思ってるってぇ、、、そんな怒んなよたづなぁ」

 

たづな「知りません。では失礼します」

 

 

悟空が力の差を気にしてか、緩く掴んでいた手を振り払った。もはやたづなに愛想笑いも営業スマイルも無い。ただただ無表情だった。そんなたづなを相手に、

 

ーー悟空は肩に担いだ。

 

 

たづな「きゃっ!な、何を…!降ろしなさいっ!」

 

 

たづなが担がれるなんて事は生涯初だろう。そしてそれを見ているウマ娘だって1人や2人ではない。

羞恥で顔を真っ赤に染めて怒るが、悟空は決して降ろしはせず、オグリに顔を向けた。

 

 

悟空「悪ぃオグリ!オラこのまま行くから食った皿の片付けを頼む!」

 

オグリ「ああ。構わないぞ」

 

悟空「んじゃ、またnっっっ痛ってぇぇ!危ねぇから暴れんなって!」

 

たづな「貴方が降ろせばいい話でしょう!」

 

悟空「そしたらおめぇ逃げんじゃねぇか!」

 

たづな「逃げてません!用事が終わっただけです!」

 

悟空「まだ終わってなかったろ!」

 

たづな「先にどこか行こうとしたのは悟空さんではありませんか!」

 

悟空「だからそれは…ほら、あれだ!」

 

たづな「どれですか!やっぱり悪いと思ってないのでしょう!?」

 

悟空「だから思ってるって。おめぇもしつけーなぁ」

 

たづな「はあぁぁ!!?しつこい!?私が!!!?」

 

悟空「ほら話すっぞ」

 

たづな「する訳ないじゃないですか!」

 

 

食堂を出るまで怒鳴り合いは続いた。

いや、姿が見えなくてもウマ娘の耳はたづなの怒号を拾う。

呆然と入り口を見ていた1人のウマ娘は、おずおずとオグリの所へ近寄った。

 

 

ウマ娘「あ、の、、オグリさん」

 

オグリ「何だ?」

 

ウマ娘「その…たづなさんと、もう1人の男性の方は大丈夫なんでしょうか」

 

オグリ「ん?ああ。心配ないと思うぞ」

 

ウマ娘「でも、喧嘩してましたよね?」

 

オグリ「フッ。…自分の意思はな、怒鳴るのが1番伝わる。私も昔はそうやって怒鳴られ叩かれ、怒鳴ったものだ…」

 

 

オグリの脳裏に浮かぶライバルs。

フジマサマーチ、シンボリルドルフ、タマモクロス。誰もが信念を貫くために心から叫んだ。そうやってヒトとヒトは分かり合っていく。

オグリはそう思っていた。………が、

 

 

ウマ娘「……懐かしんでる所すみませんが、怒鳴らなくても静かに話し合いで済むと思います…」

 

オグリ「え、…そうなのか?」

 

ウマ娘「はい…」

 

オグリ「………そうか」

 

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

 

ー 理事長室 ー

 

 

たづな「・・・なぜこの部屋なんです?」

 

悟空「やよいの"気,,がなかったからな。ここなら他の奴も入ってこねぇだろうし」

 

 

途中でたづなを降ろして歩いていたからか、たづなのほとぼりは冷めつつあった。

 

 

たづな「…………ハァ、」

 

悟空「…………すまねぇ」

 

たづな「もういいですよ。私も後に引けなかっただけですから」

 

悟空「そっか」

 

たづな「ええ。………では話を戻しますか」

 

悟空「そうだな!」

 

たづな「まず超サイヤ人の事ですが、私も話を聞いただけなので実態を見てません。どういうものか出来ますか?」

 

悟空「おう。少しだけ離れてろよ」

 

 

たづなは悟空から距離をとり、成り行きを見守る。

その事を確認した悟空は"気,,を爆発させないように、ゆっくりと力を入れ、

 

 

そして、

 

 

悟空「ーーーーーーふっ!」

 

 

ドンッッッッ!!!

 

 

見えない塊がたづなの身体を叩いた。

 

 

たづな「っ!……こ、れは…」

 

 

ウララ達から話で聞いていたオーラは見えない。だが髪は逆立ち、目付きだけで覆しようがないほどの圧倒的な力が見て取れる。

 

何とか目の前の事を理解しようと、思考をめぐせるたづなに、低く重い言葉が飛んできた。

 

 

悟空「これで良いのか?」

 

たづな「っ、悟空、さん?」

 

悟空「何だ」

 

 

これも聞いた話。

この超サイヤ人になった悟空は怖いと言っていた。だけどそれは力を解放したからだと思っていた。

こんな口調そのものが変わるとは思いもせず。悟空の言葉を借りるなら、悟空が口を開く毎に"気,,が宿っているようだった。

 

 

たづな「確認ですが、、、怒ってます?」

 

悟空「?…怒ってねぇよ。ウララ達にも言われたが、この超サイヤ人ってのは理性を失う程の力が溢れて興奮状態になる。それを何とか抑えても話し方に出てくるってだけだ」

 

たづな「そうですか…」

 

 

悟空は嘘をつけない。本当の事だろう。

たづなは気にしない事にした。

 

 

悟空「それで、これなら凱旋門賞行っても平気か?」

 

たづな「ええ、そうですね。これなら…………あれ?」

 

 

海外勢の中で見ても、ちょっと強面の人だろうと思ったが、たづなに違和感が生じる。

 

 

悟空「どうした?」

 

たづな「…………いえ、ちょっと待ってくださいね」

 

 

その場でたづなは"目を閉じた,,

 

 

たづな「悟空さん。微かな音も立てずに部屋の中を移動してください」

 

悟空「?…ああ」

 

 

ふわり。

悟空だけの重力が変わったように少しだけ浮くと、まるで幽霊みたいにスーッと部屋の隅に移動した。

音を立てるなという事は声も出すなという事だろう。

悟空の脳内に疑問を浮かべたままたづなを見ていると、たづなは手を前に出しながらゆっくり動き始めた。

 

 

たづな「・・・・悟空さん、喋ったり動いたりしないでくださいね」

 

悟空(……何やってんだコイツ?…………ん?)

 

 

悟空は腕を組みながら突っ立っていると、その方向一直線に目を瞑ったたづなが向かっている。

部屋もさほど大きくないとはいえ、迷いのない歩行だ。

 

そして、悟空のお腹にたづなの手が当たった。

 

 

たづな「っ、…あはっ……あたった」ボソッ

 

悟空「たづな」

 

たづな「!…コホン。失礼しました」

 

悟空「お前、"気,,が分かるのか?」

 

たづな「もちろん分かりません」

 

悟空「でも目ぇ閉じてても、『オレ』の所完全に分かってただろ」

 

たづな「そうですね」  

 

悟空「どういう事だ?」

 

たづな「んー、何と言えば良いのか……さっき悟空さんが言ってた超サイヤ人による興奮状態のせいですかねぇ……この人がここにいるって分からせられるんです」

 

悟空「オレが居場所を感じ取らせてんのか。…なら単純に"気,,を小さくすれば分からなくなるだろ」

 

たづな「試してみましょう」

 

悟空「ああ」

 

 

悟空は"気,,を操り、一般人並みまで落としてたづなから離れた。

だが結果は同じ。フラフラと悟空に近づき、手が触れそうになった。

 

 

悟空(・・・避けてみるか)

 

 

さっ、と器用に体を動かして躱わす。

 

 

たづな「あら?………?」

 

 

たづなには確信があった。なのに全く手が当たらない。

あちこちに手を伸ばすが掠りもしない。

 

 

たづな(気のせい…ですか?だとすると分からないですね)

 

 

"気,,を小さくすれば分からない。という結論を出して目を開けた。

 

 

たづな「近っ!!って、場所あってるじゃないですか!」

 

悟空「悪いな。簡単に当てられんのがちょっとばかし面白くなかったんだ」

 

たづな「そんな子供みたいな理由で!?…………ハァ。何だかんだ分かってしまいましたね」

 

悟空「そうだな。原因が"気,,じゃないならオレもお手上げだ。………それに時間切れみたいだ」

 

たづな「え?」

 

 

ーーーーーガチャ

 

 

やよい「ッッッ!………唖然。…たづなよ、さすがに理事長室を逢瀬の場にするのはどうかと思うぞ」

 

 

部屋の隅で向かい合う2人を見て呟いた。

 

 

たづな「なっ、そ!そんなのではありません!許可もなく理事長室を利用してすみませんでした!」

 

やよい「その流れで謝罪を入れるお前は本当にたづなだな…」

 

たづな「どういう意味です!?」

 

やよい「それに…そっちの彼は、悟空さんでいいか?」

 

悟空「ああ。よく分かったな」

 

やよい「ふっ、これでも人を見て来た回数は誰よりも多いんだ。だがッ!何をやっていたのかまでは分からん!理由を聞こうか!」   

 

 

たづなと悟空が互いに見合うと頷くと順を追って説明をした。

悟空がエルコンドルパサーのレースを見にいく事。

万が一にもバレないようにと思案している事。

空気に溶け込むには超サイヤ人の見た目があっているが、目を瞑っていても分かるほどの存在感を出している事。

 

 

たづな「悟空さんが言うには"気,,の大きさとは違うみたいなんです」

 

やよい「…………ふむ、」

 

 

ざっくりとした説明だが伝わったらしい。口元を扇子で隠していて考えが読めないが、たづなは不思議と心強さを感じていた。

 

 

やよい「把握ッ!聞いた話の中で1番可能性としてあるのは、興奮状態で出る無意識の圧力が原因かも知れん!」

 

悟空「無意識か…」(セルの時にコントロール出来たはずだが、、、さすがに鈍ったか)

 

たづな「となると、悟空さんのトレーニング次第って事ですか?」

 

悟空「それしかねぇな。だが精神鍛錬はすぐに出来るもんじゃねぇ。急いでやってもエルのレースまでには間に合うかどうか…」

 

 

頭を悩ます2人にやよいは人知れず微笑んだ。

 

 

やよい「なぁ悟空さん。少し話しでもせんか?」

 

悟空「話し、だと?オレはすぐにでも、」

 

やよい「なぁに少しだけだ!ほら椅子に座ると良い」

 

悟空「お、おい」

 

たづな「理事長?」

 

やよい「たづなはお茶を頼む!」

 

 

そう指示を飛ばし、悟空の背中を押して来客用の椅子に座らせると、やよいは対面に座った。

 

 

やよい「早速ッ!悟空さんが関わってるウマ娘について教えてくれ!」

 

悟空「ウマ娘?ってウララやキング達の事か。なんでそれを今話さなきゃならねぇんだ?」

 

やよい「無論ッ!知りたいからだ!悟空さんの事情は理解しているが、どうか付き合ってくれ!」

 

悟空「まぁ、やよいに言われたら断るつもりねぇよ。つっても誰の何を話せばいい?」

 

やよい「そうだな……悟空さんから見て、みんなと最初会った時と最近とでは何か違ったりする所はないか?」

 

悟空「最初の頃と違う所…。・・・ウララが、レースに勝ちたいって言う時が多くなったな」

 

やよい「ほう?だがそれは当たり前ではないのか?」

 

悟空「ああ。前のウララはレースは楽しいってだけだった。もちろん今でもその気持ちはあるけど、負けたくねぇって、、、勝ちてぇって言うんだ」

 

やよい「そう聞くと中々変わったな。"あの,,ハルウララが逞しくなったものだ!感心ッ!!」

 

悟空「そうだろ?とか…スペがはっちゃけてんな」

 

やよい「というと?」

 

悟空「この前見たのはエルと手を組んでグラスにイタズラしていた。誰かにちょっかい出すような奴とは思わなかったが、バ鹿みてぇに笑って怒られてやがったな」

 

やよい「あの子がココに来る前は北海道という地にいたんだ。そこではウマ娘は1人もいない。一緒に遊ぶ友達も限られていただろう」

 

悟空「へぇ。それじゃあ今が慣れて来たって事か?」

 

やよい「慣れというより遊び方を知ったのだろう。恐らく悟空さんを見ながら、な!」

 

悟空「?オレは何もしてねぇぞ」

 

やよい「だからこそだ。悟空さんが裏表無しに行動するから、スペシャルウィークも自然と真似ているかも知れん!子供は周りの影響で変わるからな!」

 

悟空「そうなn、ッッッ!」

 

 

突如、悟空の髪がブワリッと浮いた。

 

 

悟空「チッ!油断するとコレだ!危ねぇから下がってろ」

 

 

悟空は溢れる"気,,を抑えようと精神を集中した。 

この場で爆発させたらたづなや、やよいに被害が及ぶ。悟空は一生懸命だった。

 

だからこそ、やよいが椅子から離れて目の前まで来ている事に気づかなかった。

 

 

悟空「っ、やよい。問題ねぇとは思うが少し離れて、」

 

やよい「今、この時…何を思って"気,,が乱れる事があるのだ?」

 

悟空「え、」

 

やよい「悟空さんにとってスペシャルウィーク達は何だ?」

 

悟空「す、ペ達は…オレの友達だ」

 

やよい「そうだろう。ならば余計な事は考えず友達の…ウマ娘の事だけを考えるんだ」

 

悟空「ウマ娘、だけを…」

 

やよい「そうだ。他にあの子達のエピソードはないのか?」

 

 

悟空は胸の内で暴れるナニカを無視して、楽しい記憶だけを思い浮かべた。

 

 

悟空「ッッ……フゥ…この前の警備の巡回の時、木の陰で寝ているスカイがいたんだ」

 

やよい「全くあの子は…。トレーナーが嘆いておったぞ。それに特別珍しい光景ではないな!」

 

悟空「いやまだ続きがあって、木で見えなかったけどスカイの横にもう1個"気,,があったんだ」

 

やよい「なんとッ!!誰だったのだ!?」

 

悟空「キングだ。寒いのか知らねぇけどスカイにくっついてやがった」

 

やよい「驚愕ッ!!キングヘイローだと!!?彼女がそんな無防備を晒すとは………ふっ、セイウンスカイといい、さぞかし気持ち良かっただろう」

 

悟空「だよな。『オラ』もそう思って起こせなかった」

 

たづな「!!!」

 

悟空「それを後で言ったら怒られたけどな。気づいたのなら起こしなさいよーっ!つってよ!」

 

やよい「ははははっ!キングヘイローとてやるせないのだな!悟空さんに当たる事で恥を紛らわせていよう!」

 

悟空「あいつは変に大人ぶる癖にその辺ガキなんだよなぁ」

 

やよい「そういう所が可愛いのだろう?」

 

悟空「まぁな」

 

やよい「しかしッ!!そんなウマ娘達の日常を聞くのは新鮮で良いな!もっと教えてくれ!」

 

悟空「おう良いぞ!オラそういう話けっこう持ってんだけど、変に気恥ずかしくて話せなかったんだ」

 

やよい「期待ッ!!存分に語ろうじゃないか!」

 

 

お腹を抱えそうな勢いで話す悟空と、興味津々で1つ1つの話しに表情をコロコロ変えるやよい。

 

そんな2人を見てたづなは思う。

 

 

たづな(………ふふっ。あなた方も他の子にも負けないくらい子供ですよー)

 

 

 

 

悟空「そんでよぉ!寝ぼけたオグリがルドルフに噛み付いたんだ!そん時のルドルフの顔なんて、こーーーんな顔してたんだぜ」イーーッ!!!

 

やよい「あはははっ!あのルドルフがか!?存外ッ!可愛い所もあるじゃないか!」

 

悟空「だよな!」

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

やよい「ーーーーふーっ、ふーっ、………笑いすぎてお腹が痛いぞ」

 

悟空「……オラもだ、」

 

やよい「はぁ、、ん?もうこんな時間だったのか?」 

 

悟空「何か用事あんのか?」

 

やよい「肯定ッ!!理事長としての業務をせんとな!」

 

たづな「はい。では私も、」

 

やよい「あー、たづなは来なくて良いぞ。この部屋で引き続き逢瀬を楽しむと良い!」

 

たづな「っ!理事長ッ。その逢瀬と言うのはやめてください!」

 

やよい「ふっ、その程度で焦るとはたづなも青いな。…いや顔は赤いから、赤いの方が正しいか?」

 

たづな「〜〜〜〜ッ!!!!!」

 

やよい「ははっ!では失礼するとしよう。………と、悟空さんに言いたい事があったんだ」

 

悟空「オラにか?」

 

やよい「そうだ」

 

悟空「なんだ?」

 

 

やよい「この世界は…この学園は楽しいか?」

 

 

悟空「…なんだよいきなり。………楽しいさ。オラの鍛錬より他の奴を鍛えんのが…強くなっていくアイツらを見んのが、すげぇ楽しい」

 

やよい「そうか。良かった。……それなら、この世界にいる間だけでも存分に羽を休めておくといい」

 

悟空「!…やよい。おめぇ何か知ってんのか?」

 

やよい「否定…。何も知らん…が、これは予感だ」

 

悟空「予感?」

 

 

やよい「孫悟空という男を、未来が…世界がこのまま放っておくとは思えん」

 

 

悟空「……なに、言ってんだ?」

 

やよい「…………フッ、適当ッ!!私も分からん!」

 

悟空「はあ!?」

 

たづな「理事長……」

 

やよい「まぁ、何だ!この世界は平和そのものだから肩肘張るな!戦いに備える必要はない!ウマ娘と共にレースを楽しめ!」

 

悟空「ん、んー、、、何だかよく分かんねぇけど…分かった!」

 

やよい「うむっ!」

 

 

悟空の返答に満足だったのか、小さな体を弾ませて部屋から去っていった。

 

 

 

 

たづな「・・・何だったのでしょうか」

 

悟空「さぁな。けど、、、何だか胸の内がスッキリした感じだ。ーーーよしっ、んじゃオラ達も………何してたんだっけ?飯の時間か?」

 

たづな「ご飯はさっき食べたでしょう。それに、、、問題は解決しましたよ」

 

悟空「?……あっ!オラ結局何も出来てねぇ!このままじゃ凱旋門賞行けねーじゃんか!」

 

たづな「だから問題解決してると言ってるじゃないですか」

 

悟空「え?」

 

たづな「口調が普段通りですよ。さっきまでの圧力は感じませんし、悟空さん自身の興奮状態はいかがです?」

 

 

言われて初めて気付く。

 

 

悟空「!…この感覚、超サイヤ人をコントロール出来た時と同じだ…。でも何で急に出来たんだ?」

 

たづな「……その辺りのシステムは知りませんが、理事長と話をしてる途中で口調は元通りでしたよ」  

 

悟空「まさか…。アイツらの事をやよいと話したせいか?」

 

たづな「元を辿れば急な話題転換。意図的なモノでしょうね」

 

悟空「………ははっ。今回はやられたな。とんでもねぇ奴だ」

 

たづな「当然です!この歴史ある中央トレセン学園のトップに立つ人なんですから!」

 

悟空「……………いや、おめぇ達は人じゃ、」

 

たづな「え?」

 

悟空「ぇ、」

 

たづな「イマ、ナニカイイマシタ?」

 

悟空「何も言ってない、ですっ!」

 

たづな「………………よろしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告:(エルコンドルパサー)

 

 

…………まさか、主役のエルを自分で予告する事になるとは…エルビックリデース。【……ぷぷっ】

 

ですが!エルはエンターテイナー!やってやりマス!【けっぱれ!】

 

 

凱旋門賞に挑むエルコンドルパサー。対するは現ウマ娘界の中で最強と呼ばれるブロワイエ。

世界最強を自負するエルコンドルパサーは、果たして最強の称号を手にする事が出来るのか!

 

 

次回ッ!日本のウマ娘を舐めるな!!

 

 

 

悟空さん!応援お願いしますネ!!!【おう!任せとけ!】

 

 

 

 








タイトル決まらんくて雑になった…


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凱旋門賞




いやーエル編が長過ぎマシタね!デスが、意外にも1番手応えのある回になりマシタ!


注意
・アニメ軸辿っているので、モンジューではなく、ブロワイエです。
・結構犯罪じみてますが、無断の国移動は突っ込まないでください。
・ルドルフの話し方は四字熟語が難しいので無しにしてます。


Q「言語の壁ってどうなってるの?」

A「今作で言うならフランスのトレーナーとブロワイエはフランス語。エルもある程度話せます。言うなら悟空とスペとウララ以外は話せる予定です」






 

 

 

 

 

 

 

〜 前回のあらすじ 〜

 

 

 

悟空「フッ、これでオレも凱旋門賞を見られそうだ」

 

たづな「いえ、そのままだと観客はおろか、ウマ娘まで萎縮してしまいます…」

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

エル「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、………」

 

 

フランスの地でターフを走るエルコンドルパサー。

日本とは感触の違う芝の加減に慣れるためトレーニングをしていた。

ゴールまでもう少し。そこにはストップウォッチを見るトレーナーがいた。

 

 

トレーナー「57.58.59………よし、オーケーだ!」

 

エル「あ、ありがとうございマァス」ハァ…ハァ…

 

 

ゴールの瞬間に聞こえてきたトレーナーの声。ゆっくりと歩きながら近寄る。

 

 

トレーナー「良い走りだ!日本のウマ娘はこのトレーニングの段階でも苦労するものもいるが、君はフランスの芝があっているようだ」

 

 

彼はフランスの名トレーナー。

一目でエルの特徴を見抜き、トレーニングと共に分析をしていた。

 

 

エル「本当デスか!?ふっふっ、これでまた世界一が近づきマシタね」

 

トレーナー「まぁ、それでもブロワイエと同じスタートラインに立ったくらいだけどな!」

 

エル「充分デェス!あとはエルがこう、けちょんけちょんのギッタギタにしてやりマース!」

 

トレーナー「はっはっはっ!あのブロワイエにそんな事が言えるとはな!」

 

エル「トレーナーさんはブロワイエの事知ってマスか?」

 

トレーナー「ああ、もちろんだ」

 

エル「じゃあじゃあ!好きな食べ物とか知ってマスか!?好きなトレーニングとか!他にも日常的に欠かしてない事や好きな筋トレ道具のメーカーとか!」

 

 

グイッグイッと詰め寄るエルを手で静止をかけた。

 

 

トレーナー「お、おいおいエルコンドルパサー。いきなりどうしたと言うんだ」 

 

エル「ぁ、すみマセン。つい…」

 

トレーナー「ブロワイエの事が気になるのか?」

 

エル「……ブロワイエはワタシの夢の実現者デス。もちろん凱旋門賞で負けるつもりはありマセンが、1人のウマ娘として最強がどんな生活を送っているのか気になりマス」

 

トレーナー「なるほどな。……クッ、フフッ、」

 

エル「ケ?トレーナーさん?」

 

トレーナー「アハハハハハハ!」

 

エル「えぇぇえええ!何で急に笑ってるんデスカ!?エルついていけてないデェス!」

 

トレーナー「くふふっ。いやー、ごめんごめん。ライバルとして気になるってよりも、さっきの君はまるで、恋する乙女だったから笑ってしまったよ」

 

エル「コイスルオトメ?………なぁっはっはっは!そんな事ありえまセェン!エルを色ボケグラスと一緒にしないでくだサーイ!」

 

トレーナー(いろぼけぐらす?)

 

エル「…でも、的外れという程でもありマセン。恋ではないデスが、エルはブロワイエに焦がれてマスから」

 

トレーナー「エルコンドルパサー…」

 

 

一途に見つめるエルの瞳は熱を帯びている。エルの言う通り恋ではないだろう。そんな可愛いものじゃない。けれど恋並みの情熱を秘めている目は、一瞬だけだがトレーナーの目をも奪った。

 

 

トレーナー「っ、…コホン……あー、さっきの話に戻させてもらうが、ブロワイエのプライベートは知らないな。好きな食べ物すらも」

 

エル「ソウデスカ…。何か分かればと思ったのデスが、」

 

トレーナー「まぁそんな事を読み取っても限度があるだろう。それにお話しはこれくらいにしてトレーニングに戻ろうか」

 

エル「オーゥイエース!次はロードワークでしたよネ!」

 

トレーナー「その通り!その間に別のトレーニングの準備をしておくからフランスの景色でも楽しんでくると良い!」

 

エル「ハイ!では行ってきマース!」

 

トレーナー「迷子にはならないでくれよー!」

 

エル「ノープロブレムデェス!」

 

 

そう言ってエルは首にタオルを巻いたまま走りに行った。

 

 

トレーナー「元気なウマ娘だ、、、あのポジティブ精神が彼女の強みになるんだなぁ」

 

 

気持ちの奥底から溢れる感情は、ワクワクとした少年のような心。彼女なら本当に一泡吹かすかも知れない。能力を最高到達点に持っていくのは自分の仕事。トレーナーは機材を設置していくが、ふと思った。

 

 

(………休めるスペース作っとこうかな)

 

 

彼女の事だ。戻って来たらフランスの街並みを鼻息を荒くしながら話すだろう。

トレーナーの脳にはエルの笑顔が鮮明に浮かんだ。

 

 

     ・

     ・

     ・

     ・

     ・

 

 

 

 

 

 

トレーナー「ん?」

 

 

ふと、何かに気づいた。

 

 

トレーナー「あ、おかえり!フランスはどうだっ、、た、、、」

 

 

エルは帰って来た。

 

 

エル「…………そんな事より、ブロワイエの倒し方を決めまショウ」

 

 

仏頂面で圧力を振り撒き、行く時とは正反対の感情を持ちながら。

 

 

トレーナー(なんでそうなった……)

 

 

 

 

 

 

遡ること10分前。

 

 

prrr…prrr.…prガチャ

 

エル『もっしもーし!こんにちはデース!カイチョー!』

 

 

ロードワークも終盤。

クールダウンも兼ねて景色を見ながら歩いていると、ルドルフから電話が来た。

 

 

ルドルフ『ふふ、こちらはこんばんは、だがな。急な電話すまない。トレーニング中だったか?』

 

エル『ハイ!ロードワークしてマシタ!あ、テレビ電話にしマスね〜』

 

 

そう言って携帯画面をタップすると画面にはお互いの顔が映った。

 

 

エル『ォー、カイチョーだ…少し見ないだけで凄く久しぶりに感じマァス!』

 

ルドルフ『そうだな。エルも元気そうで良かった』

 

エル『ベリー元気デスよ!そちらは…アノ……平和デスか?』

 

ルドルフ『ん?……あー、誰のせいとは言わないが、ハルウララがダートに埋まった以外は平和だ』

 

エル『oh…』

 

ルドルフ『・・・・、』

 

エル『っ、そ、そういえばっ!エルさっきブロワイエに会ったんデスよ!』

 

ルドルフ『なに!?…そうか、あの欧州最強にか。ウマ娘同士の縁が結びつけたのかも知れないな。会ってみてどうだった?』

 

エル『それがデスねぇ、通訳の本見ながら話そうって思ったら本を取られてソコにサイン書かれてしまいマシタ』 

 

 

街中にいたブロワイエ。周囲にファンが多く囲んでいた。

 

 

ルドルフ『ふふっ、ファンの1人だと思われたのだろうな』

 

エル『みたいデスねぇ〜、……あった』

 

 

エルはサイン付きの本を携帯カメラに映してルドルフにも見せた。

表紙に書かれたフランス語の文字。エルはサインを貰ったと言っていたが、ルドルフはそれを見ると眉間に皺が寄った。

 

 

ルドルフ『…………エルコンドルパサーは何て書いてあるか分かるか?』

 

エル『ケ?いえ全く分かりマセェン。まぁサインなんて大体の言葉は決まってマスからね』

 

ルドルフ『そう、か…』  

 

エル『デスが…エルだと気付かれなかった事がショックデス………あ、でもそれほど取るに足らない相手だと思われれば奇襲を仕掛ける事が出来マスね!』

 

 

電話口で、これはチャンスだと、エルの弾んだ声が聞こえる。

だがしかし、ルドルフは頭を悩ませていた。

 

 

ルドルフ(はてさて……どうしたものか…)

 

 

エルが見せてきたブロワイエのサイン。実はサインなどと可愛いものではなかった。解読出来なかったエルが吉と出るか凶と出るかは分からない。ここはあえて言わないべきか。

慣れてない海外での走り。"普通なら,,ウマ娘の能力を最大限に発揮できるように何のストレスも与えないのが1番。

だからブロワイエの文字の意味も黙っておくのが最適だ。

 

 

ーーー普通ならそうだ。

 

 

 

ルドルフ("彼,,の周りにいるあの子達は全員もれなく好戦的になったな。…私も便乗してみるか)

 

 

あの黄金世代などと騒がれてる連中は少し他とは違う。

思い描くレースをするために平静を保つ。…ではなく、思い描く白星を手に入れるために昂る精神で走っている。

 

だからこれは良い着火剤になるだろう。

 

 

 

ルドルフ『なぁ、エルコンドルパサー』

 

エル『なんデスか?』

 

ルドルフ『・・・・、』

 

エル『? カイチョー?』

 

ルドルフ『「私はコンドルより速く飛ぶ事が出来る」』

 

エル『ほぇ?』

 

ルドルフ『お前がサインだと思ってるやつを訳すとこれだ』

 

エル『!!?…………コンドルより、速く……』

 

ルドルフ『ああ。奴はお前をファンの1人じゃなく、凱旋門賞を走るエルコンドルパサーと認識していた。その上で書いてきた』

 

エル『・・・・・・・・・・・・、』

 

ルドルフ『だがこれも少し回りくどく聞こえるな。分かりやすいように言うと、喧嘩を売られているぞ。エルコンドルパサー』

 

 

訪れるのは沈黙。

エルは無表情そのものだった。

 

 

エル『………………カイチョー』

 

ルドルフ『何だ?』

 

エル『エルのフランス語は日常会話レベル。だから教えてくだサイ。奴にぶつける一言を』

 

 

ここでハッキリとエルは表情を変え、感情を露わにした。

耳を極限まで絞り、目は最大に見開かれている。

リスペクトしていたらコレだ。レースの数日前だから油断した自分が甘かった。そのせいで先手を取られた。

リスペクトならレースが終わった後ですれば良い。だがその前にやり返してやらないと気が済まない。

 

 

ルドルフ『良いのがある。…が、私自身が言うならともかく、他の子に教えるのは少々マズい。他言無用で頼むぞ』

 

エル『ハイ』

 

ルドルフ『これは日本語に直すと、勝利は私のモノ…になる。だが言葉は言う時によって意味合いが変わる。言うのは出走の直前。その時エルコンドルパサーはありったけの感情を込めて言ってやれば良い。〜〜〜〜〜〜〜と、な』

 

 

エルは一度復唱するとニタリと嗤った。

 

 

エル『オーケーデェス!すみマセンカイチョー。エルはトレーニングに戻りマス!』

 

ルドルフ『ああ。健闘を祈る』

 

 

電話が切れると、すぐにエルは走り出した。勝てる要因を1つでも多く作るために。

 

 

 

そして、

 

 

  

 

エル「ブロワイエを倒す。今までのレースにエルコンドルパサーがいなかったから世界最強の称号を得たのだと思い知らせてやりマス」  

 

 

 

 

トレーナー(……まるで出走寸前のウマ娘だな)

 

 

数多のレースに関わってきたトレーナーは、エルの溢れる闘気を前にそんな事を思うと、エルと視線を交わした。

 

 

トレーナー「エルコンドルパサー。凱旋門賞の作戦は、君自身や君のトレーナーの考えもあるだろうが、俺の意見も取り入れてみないか?」

 

エル「それをやれば勝てマスか?」

 

トレーナー「その質問には答えられない。だって"勝負はやってみるまで分からない,,だろう?」

 

エル「!!!」

 

 

突如。エルはお腹を抱えるほど大きく笑いだした。 

 

 

トレーナー「? 何かおかしい事言ったかい?」

 

エル「あはははっ!いやーすみマセン!この地でその言葉を聞くとは思ってなかったので!」

 

トレーナー「???」

 

エル「では教えてくだサイ!トレーナーさんの作戦を!」

 

トレーナー「あ、ああ。まず君たち日本のウマ娘と他の国のウマ娘とでは走り方に大きな違いが2つある」

 

エル「ふむふむ」

 

トレーナー「1つは接触。日本のレースに比べ、ウマ娘同士ぶつかる事が多い。故意にすればもちろんアウトだが、それで日本のウマ娘が潰れる事が多い」

 

エル「ナルホドォ」

 

トレーナー「そしてもう1つはゲートだ」

 

エル「ゲートぉ?」

 

トレーナー「そうだ。君達からしたら考えられないかも知れないが、他の国のウマ娘はゲートの練習をほとんどしない。ゆえに日本風に言えば、みんなが出遅れ状態だ」

 

エル「まじデスか!?」

 

トレーナー「マジだ。その2つを視野に入れると、接触しないような位置取り、君だけが好スタート。だから?」

 

エル「最初からハナに立つ。という事デスね!」

 

トレーナー「そうだ。そこで注意点としては、"逃げ,,ではなく、あくまで普段通りの"先行策,,で走るんだ。先頭にこだわる必要はない。」

 

エル「途中でハナを奪ってこようとしても張り合わないって事デスね」

 

トレーナー「ああ。海外の直線は凄く長い。張り合ってると最後は持たないからな」

 

エル「………ハイ!エルの走り方にも合ってますし、それで行きマス!」

 

トレーナー「それじゃあ残りはゲートを中心にトレーニングをしよう」

 

エル「ハイ!」

 

 

作戦が決まると、やる気が何倍も出てくる。

打倒ブロワイエに向けて最終調整が始まった。

 

 

 

 

 

 

そしてついに世界一を決めるレースの幕開けの日が来た。

 

 

 

 

一方、現在の日本は時差が生じて夜だった。

 

 

 

ー キングヘイローのトレーナー室  ー

 

 

悟空「また着んのか」

 

キントレ「当然ですよ」

 

 

超サイヤ人化した悟空は見た事あるシャツとズボンを手にしていた。

 

 

キントレ「たづなさんから散々言われてるんですから、ここで道着なんて着たら減給されてしまいます」

 

悟空「いやまぁ、着るけどよ、お前のズボン硬ぇんだよなぁ。動きずれぇ」

 

キントレ「ジーンズなんてそんなものです。さぁ、シャツも着てください。悟空さんがボタン取ったんですから」

 

悟空「勝手にとれたんじゃねぇか」

 

キントレ(そんな胸筋してればボタンだって耐えれませんよ)

 

 

ぶつくさ言いながらも悟空は着替えていく。ズボンを履き、ベルトを締め、シャツを羽織り、ボタンを閉めると。

 

 

パァンッ!

 

キントレの眉間に何かが当たった。

 

 

悟空「あ、」

 

キントレ「〜〜〜っ、何でまたボタンが弾けるんですか!前着たのと同じシャツですよ!?」

 

悟空「んー、、、あっ!超サイヤ人になってるからだ!前の時でもギリギリだったから、少しデカくなっただけで限界が来たんだろうな」

 

キントレ「な、なんというワガママボディ…」

 

 

げんなりとした顔で見ると、第3ボタンが吹っ飛び、胸の中心から、やや下の所がシャツから覗いていた。

 

 

悟空「・・・・まぁいっか。んじゃオラ、」

 

キントレ「いやダメですって!……Tシャツ。うん。黒Tシャツでいきましょう!」

 

悟空「お、おう…」

 

 

結果的に前より目立たなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

悟空「エル。もうそろそろ良いか?ーーーーーーーー分かった。んじゃ行くぞ。ーーーおう」

 

 

人差し指をこめかみに当て話す。

キントレはもう何とも思わないほど見慣れた光景だった。

すると悟空は指を離してキントレを見た。

 

 

キントレ「行けそうですか?」

 

悟空「ああ。まずは控室で少し会いてぇって事だから、もう行く」

 

キントレ「そうですか……。一応言っときますけど、知らない人について行っては駄目ですからね?誰かに声をかけられても……って、言語が違うからそこはいいか」

 

悟空「? まぁオラも気をつけっから心配ぇすんな」

 

 

そう言うと、悟空は額に人差し指と中指を置くと、エルの"気,,を探る。

 

 

悟空「ーーー!…あー、バレちまったみてぇだ」

 

キントレ「え、それはどういう…………あ、」

 

 

 

 

 

 

 

ー エルの控え室 ー

 

 

エル「フゥ……」

 

 

出走まで後10分。手伝ってくれたトレーナーと最後にまとめをすると、後は休めと言って1人にしてくれた。

結構ありがたい。トレーナーには申し訳ないが、日本から来る友達を見せるわけにはいかないのだから。

 

 

"シュン!!,,

 

風切り音が聞こえ、エルはすぐに振り向いた。

 

 

エル「! 悟空さん!待ってマシ「エールちゃん!」タぁぁええええええええっ!……す、スペちゃん!!?」

 

 

悟空に飛び掛かる勢いで迫るエルにくっついたのはスペだった。スペの肩越しに見える人影が5人。

悟空の超サイヤ人は見た事あったからすぐに分かるが、残りの4人は……、

 

 

悟空「よっ」

 

エル「悟空さん!……と、……あの、他の方々はエルの知ってるフレンズで合ってマス?」

 

グラス「せっかく来たのに随分なご挨拶ですねぇ〜。エル」

 

スカイ「まぁ無理もないんじゃない?一目で分かったら意味ないしぃ」

 

 

聞き慣れた声。

自分の知ってる2人なはず。なのに姿形が何一つ当てはまらない。

 

 

キング「私達こそ見つかったら大事よ。可能性の問題じゃなく絶対にバレては駄目。それこれ私達がウマ娘じゃないと思わせなければね」

 

 

そう。ウマ娘特有の耳や尻尾が見当たらない。

髪色が違うからカツラをしているのだろう。加えて帽子を被ってる。だがアレがない。いくらズボンに押し込んでも盛り上がってしまうアレが…。

 

 

エル「しっぽ……皆サン尻尾はどこいったんデスか…」

 

スペ「あはっ、やっぱり分からないよね!ちょっとココ触ってみてよ」

 

 

そう言ってエルの手を自分のお腹に持っていった。

 

 

ーーーーふにぃぃ、

 

 

エル「…………尻尾、デスか?」

 

スペ「うんっ。お腹の周りに巻き付けてるの!これならバレないでしょ!」

 

エル「はえぇぇフニフニ確かにフニフニ見ただけではフニフニ分からないフニフニデスねぇフニフニフニフニ」

 

スペ「あ、あのエルちゃん?ちょっとくすぐったいかなーって、」

 

エル「エルは大丈夫デスよ……っ、」

 

 

服の上から尻尾を触っていると、エルの手が掴まれた。

その手はスペとは違う方向から、伸びる手を辿っていくと至近距離で目が合った。

 

 

グラス「エーーールーーーーーー!!!!!」

 

エル「oh…….…す、スキンシップデース…」

 

グラス「………腹を切るのは日本に帰ってきてからにしてあげます」

 

エル「あ、切る事は決まっているんデスね。…それにしても尻尾をお腹に巻くとは考えマシタねぇ」

 

ウララ「悟空さんが教えてくれたの!」

 

悟空(あんな奴ら(サイヤ人)がヒントになるとは思わなかったけどな)

 

エル「ウララ………ダートに埋まったって聞きマシタけど、大丈夫デシタ?」

 

ウララ「あ、…………も、もう少しで出走だね!応援に来たよ!」

 

 

あのウララがはぐらかす程の事があったのだろう。心配させまいと。そんな健気なウララにエルは込み上げるものを感じた。

 

 

エル「ウッ…ウッ……ウララ。強く生きてくだサイ」

 

ウララ「ありがとっ、エルちゃん…っ、」

 

キング「なにを小ネタ披露してるのよ。そんな場合じゃないでしょうに」

 

スカイ「何分後には世界一を決めるってのに、何だか教室にいるみたいだね」

 

 

全員が感じていた事。緊張感が無いとも言えるが、リラックス出来るとも言える。

同時に、エルが我慢して押さえ込んでいたストッパーを緩める事でもあった。

 

 

 

 

 

エル「っ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 

 

喉を壊しかねない勢いで叫ぶ。

防音設備が無かったら何人もの係員が押し寄せてくるだろう。予期しないエルに全員が驚愕に染まった。

 

 

グラス「っ、どうしたのエル!?」

 

キング「何が起こって…」

 

スペ「エルちゃ、「フンヌッ!」ぅえええ!?」

 

 

スペは驚くが動けない。エルが抱きしめて来たからだ。

 

 

スカイ「……………え、何やってんの?」

 

ウララ「エルちゃんってスペちゃんの事好きだよねー」

 

悟空「オラもよく分かんねぇけど、多分そういうんじゃねぇと思うぞ?」

 

スペ「え、エルちゃん?どうしたの?」

 

エル「すっっっっっっっっっっごく怖いデェスッ!」

 

グラス(・・・・・)

 

 

感情に身を任せてスペを強く抱きしめる。

只事ではないエルの様子を悟るとスペは背中をさすり、悟空達は黙って見ていた。

 

 

エル「みんなに来てもらってエルは心の底から嬉しいデス。でもやっぱり負けた時の事を考えてしまって怖くなってしまいマス…」

 

悟空「また変な事考えてんなぁ」

 

キング「そういう事言わないの」

 

エル「うぅぅぅ…………悟空さんの、天下一武道会って言いマシタっけ。挑む時どんな事思ってマシタ?3年に1度なんデスよね?1番を目指すためのプレッシャーってどんなデシタ?」

 

悟空「ん?オラは別に1番を目指した訳じゃねぇから緊張しなかったぞ?」

 

エル「ケ?」

 

悟空「オラは強ぇ奴と戦って勝ちたかった。だから別に武道会じゃなくても戦えればそれで良かった」

 

エル「ち、小さい頃はどうデシタ?もっと、こう、自分が最強だー!みたいな」

 

悟空「オラが子供の頃は、かめせn……師匠に修行の一環で行けって言われただけだな。そん時は自分の力を試してぇってだけだったぞ」

 

エル「ぁぅ…」

 

スカイ(悟空さんって頼りになるけど、参考にはならないんだよねぇ〜)

 

エル「………エルも悟空さんみたいな気持ちで挑んだ方が強くなれマスかね…」

 

 

ボソリと呟く。

それを聞いたスペはさすっていた手を止め、思いっきり体から引き離した。

 

 

エル「っ、スペちゃん」

 

スペ「エルちゃん。他の人の気持ちを真似しても限界はすぐに来るよ。自分の意思が揺らいだら駄目だと思う」

 

悟空「エル。オラもそう思うぞ」

 

エル「悟空さん…」

 

悟空「気持ちは大事かも知んねぇけど、気持ちの意味は全員違う。考えてもみろよ。

スペの夢は日本一のウマ娘になる事。そいつは世界一を目指すおめぇよりも小さい。

キングはスペのやつよりも小さいG1で勝つ事。

ウララなんて今でこそ有マ記念だけど、元々は大きいレースで勝つ事っちゅー適当な感じだったじゃねぇか」

 

エル「確かに……」

 

 

グラス(私の名前がない………やはり早々に悟空さんとの時間をとらないとっ)

スカイ(グラスちゃんが決死の覚悟を決めた目つきしてる件について)

 

 

悟空「つまんねぇ事考えてねぇで思うようにやってみろって。組み手した日おめぇ言ってたじゃねぇか。世界最強の座を奪いに行くってよ」

 

エル「!!!」

 

悟空「おめぇにはオラ達がついてんだ。思いっきりやって来い!」

エル「っハイ!」

 

 

スペ「エルちゃん!頑張って!世界一になったエルちゃんに私が勝てば自然と世界一になるから!」

エル「ズルいデスよ!でも…スペちゃんありがとう」

 

 

キング「そもそもこのキングのライバルが弱音を吐く事は許さないわ。その分相手にぶつけなさい!」

エル「オーケー!良いセリフがあるので言ってやりマァス!」

 

 

スカイ「あ、つぎ私かぁ…頑張ってねぇ〜」

エル「オーウ…気の抜けそうな声援。でもそれはエルにとって最大の活力になりマス!」

 

 

ウララ「エルちゃん。レースはね、楽しいんだよ!だからまずは笑顔だよ!」

エル「なぁーはっはっは!エルはいつも笑顔100%デース!楽しんで来マスよーっ!」

 

 

グラス「・・・、」

エル「グラス。……スペちゃんに抱きついたの怒ってマスか?」

グラス「怒ってます…………エルが自分を信じてない事に」

エル「!……もう大丈夫デス」

グラス「そうですか…」

エル「グラス。行ってきマス」

グラス「ええ。行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

それから数分後。穏やかな風が芝を靡かせるその上で、待ち侘びた再会を果たした。

 

 

ブロワイエ「やあ、これで会うのは2度目だね。私のサインは喜んでもらえたかな?」

 

エル「ええ。あんな所に書かれたので、せっかく用意した色紙が真っ白のままデス。なのでレースが終わったら色紙にワタシのサインを書いてプレゼントしマス。……世界一になって1枚目のサインは激レアでしょうから自慢していいデスよ」

 

ブロワイエ「!…驚いた。今時のコンドルは口が達者なようだ」

 

エル「達者なのは口だけだと思わない方がいいデス」

 

ブロワイエ「フッ、……良いレースを」

 

 

ブロワイエが手を差し出す。

ゲート前の時間。最強と最強が大勢の観客の前でする握手は絵になるだろう。興奮と熱意で高まった声が空気を震わせた。

 

 

エル(カイチョー……エル、いきマス)

 

 

ブロワイエの手をガッシリと掴む。その瞬間に客席から爆発音みたいな音が発せられるが、エルの世界の中ではシン……と静まり返っていた。

ブロワイエが握手を解こうとすると、エルは一際強く握り、手を引いた。

 

 

ブロワイエ「っ、」

 

 

 

ブロワイエは見た。コンドルの名に恥じない猛禽類が如き眼を。    

 

 

 

エル「La victoire est à moi!(調子に乗んな!!)」(ラヴィクトワールエタモタ!!)

 

ブロワイエ「! なるほど。想像以上に愉しいレースになりそうだ」

 

 

 

 

世界一を決めるまで残り僅か。

 

 

日本でも、大画面の前にウマ娘達が集まって応援していた。

 

 

 

 

ー トレセン学園 ー

 

 

時刻は夜。エルが所属するチームリギルだけでなく、様々なウマ娘が集まっていた。

 

そこに遅れながらも登場したのは生徒会長シンボリルドルフ。

 

 

トウカイテイオー(テイオー)「あっ!カイチョー!こっちこっち!」

 

ルドルフ「ん、ああ」

 

テイオー「もー、遅いよぉ!もうすぐ始まっちゃう所だったんだから!」

 

ルドルフ「ふふ、すまないな。間に合って良かった…………ん?グラスはいないのか?」

 

テイオー「うん。グラスはスペちゃん達同期組で見るって」

 

ルドルフ「そう、か」

 

 

何となく。理由もなく、ただ違和感を持った。同期組で見る事は特別おかしい事ではないだろうと、ルドルフは自問自答をしながら、買ってきたミネラルウォーターを口に含む。

 

 

ルドルフ「ゴクゴク………ん、ブフォファッッッ!!!!!」

 

 

盛大に吹き出した。

 

 

テイオー「ええええええっ!カイチョー大丈夫!!?」

 

 

ルドルフはテイオーの呼びかけに応えず、画面に釘付けだった。レースはまだ始まらない。客席が映ってるだけだ。

ポタポタと口から滴り落ちても微動だにしない。彼女の異変には、そこにいる全員が注目し、彼女やエルのトレーナーである東條ハナが近寄った。

 

 

東條ハナ「お、おい、ルドルフ。どうした」

 

ルドルフ「トレーナー…………ハッ、申し訳ありません。少し体調が優れないので自室で見ます。では」

 

テイオー「えーっ!カイチョぉぉぉぉおおお!」

 

 

テイオーはルドルフの吹き出した水で髪を濡らしながら叫ぶが、ルドルフはスタスタと歩いて行ってしまった。

そして、部屋から出て扉を閉めた後、ルドルフは猛スピードで走り出した。

 

 

 

 

 

ー タキオン研究室 ー

 

 

ドバァン!!!

 

 

タキオン「ぶはっ!」

 

 

椅子に座り紅茶を飲んでいたタキオンは、力一杯開かれたドアの音にビックリしてしまう。

 

 

タキオン「〜〜〜っ孫くん!静かに開けろと何回言え、ば…………ふむ。模範の鑑たる生徒会長がご挨拶だな」

 

ルドルフ「アグネスタキオン……キミが関与している訳ではないのか」

 

タキオン「…どこぞのサイヤ人じゃないんだ。心を読めない私に1から説明してくれ」

 

 

ルドルフは黙ってテレビを指で差した。画面が切り替わってなかったため、ルドルフの言いたい事がすぐに特定出来た。

 

 

タキオン「………………………ほう?良い考えだ。確かに超サイヤ人なら何があっても対処できる」

 

 

客席に固定された映像。偶然にも知る人ぞ知るサイヤ人がいた。

 

 

ルドルフ「………グラスは同期達と共に見るようで集まってる所にはいなかった」

 

タキオン「なるほどぉ。…では孫くんの周りにいる年頃の娘が彼女達という訳か。……しかし、彼女達だと言われても判別出来ないねぇ。よく出来てる」

 

ルドルフ「…………危険すぎる」

 

タキオン「もう遅いよ。それに彼の独断とは思えん。勝手な奴だがバ鹿ではない。きっと誰かの許可を得ての事だろう。変装も完璧だしな」

 

ルドルフ「! たづなさんか。…何を考えてるんだ」

 

タキオン「さて、ね。私に言える事は、1つの情景から短絡的に考えて部屋に突撃して来た生徒会長よりは考えてると思うよ」

 

ルドルフ「キミ…さては根に持ってるな?」

 

タキオン「お陰様で資料が水浸しになったのでな」

 

ルドルフ「私もテイオーの髪を濡らして来た。…ふふっ、同じだな」

 

タキオン「謝りたまえ」

 

ルドルフ「すまない」

 

 

    ・

    ・

    ・

 

 

 

 

タキオン「どうぞ。会長殿」

 

ルドルフ「ああ。ありがとう」

 

 

タキオンは紅茶を渡す。もう時期にファンファーレがなるだろう。ルドルフはこの部屋でレースを見る事に決めた。 

 

テレビの前にあるソファに座っていると、タキオンがその横に座り、何かをルドルフに渡した。

 

 

タキオン「ほら、これで応援するといい」

 

ルドルフ「これは……うちわか、」

 

 

赤い面に黄色い文字でエルコンドルパサー頑張れ!と書かれたうちわ。熱狂的ファンが持っているのを見た事ある。

 

 

ルドルフ「……買ったのか?」

 

タキオン「いや作った」

 

ルドルフ「キミがか!?」

 

タキオン「ウララくんが盛大に応援したいって言うから、ねぇ」

 

ルドルフ「ぁ、、、ご愁傷様、だな」

 

 

言った張本人は現地入り。タキオンの心境を感じ取ったルドルフはうちわを構えた。

 

そんな時、テレビからファンファーレが流れた。

 

 

 

タキオン「キミはどう見るんだい?」

 

ルドルフ「エルコンドルパサーとブロワイエの一騎打ちになるだろう」

 

タキオン「やはりそうか」

 

ルドルフ「あとは芝の具合だな。予想よりも遥かに荒れてるらしい。軍配としてブロワイエが上なようだ」

 

タキオン「ほほう。…………ところで、キミはここで見て正解だったな」

 

ルドルフ「? どういう意味かな?」

 

タキオン「鏡が必要かい?とても生徒の長がして良い顔ではないよ」

 

ルドルフ「………そうか」

 

 

自覚はあるのか。一言呟いてゲートに入るウマ娘を見た。

 

 

 

ルドルフ「個人的に興味がある。今の時代の"絶対,,と呼ばれるウマ娘がどんな力を持っているのか。……私とどっちが速いのか……とかな」

 

タキオン「ふぅん。………さすが、孫くんを父と呼ぶほどのヒトだな」

 

ルドルフ「!!! 何故お前が知っている!?」

 

タキオン「内緒だが、ーーーー始まるぞ」 

  

 

同時にテレビからガタンとゲートが開く音がした。

 

 

タキオン「コンドルくんはゲート上手いな。先頭争いに加わるようだ」

 

ルドルフ「…いや、恐らく争わない。エルが先頭のまま行くつもりだ」

 

タキオン「彼女は先行策だろう。逃げた事あるのかい?」

 

ルドルフ「さぁな。そこまでは知らないが、良い作戦だ。海外勢の競り合いには私も苦労した。無駄に張り合うよりは単独で逃げた方が良い」

 

タキオン「ふむ。理に適っているな。ーーー向正面過ぎても先頭。対するブロワイエは後方寄りだねぇ」

 

ルドルフ「ロンシャン競バ場はブロワイエの慣れたコースだ。そこが絶好の位置だと分かっているんだろう」

 

タキオン「……にしてもコンドルくんは落ち着いているな。まだ温存しているように見える」

 

ルドルフ「だな。…だが私たちに分かるという事は、奴も分かっているはず」

 

タキオン「ああ。ーーー第3コーナー回った。最後の直線だ」

 

ルドルフ「!!! やはり来るか。…もっと逃げろエルっ、」

 

 

 

 

 

 

ルドルフ「ブロワイエが来たぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界に誰1人ウマ娘が見えない。

先頭のまま直線に入ったエルコンドルパサーは誰よりも早くゴールを目視した。

 

 

エル(っ、夢が……見えたッッッ!!!)

 

 

先程捉えに来たウマ娘を1人突き放した。今では2番手と1バ身くらいは離れているだろう。

体力も力もまだ残っている。エルは500mの直線を駆け抜けようとスパートをかけた。

 

 

エル「はぁああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

後方勢を突き放す。

 

 

 

(・・・・・・・なるほどな)

 

 

 

が、内側の4番手の位置。

 

 

(キミは強い。世界一の座を口にするだけの事はある)

 

 

ヤツはいた。

 

 

ブロワイエ「私がいなければ勝てただろうに、残念だ」

 

 

一瞬だった。

バ群の合間を縫ったと思えばエルの隣に並んだ。

 

 

エル「〜〜〜〜ッッッ!」

 

 

声にもならない声を出す。

その光景はゴール前の客席からも見えていた。

 

 

スカイ「やばいね。ブロワイエの方が伸びてる……っ、行けええええええ!」

 

スペ「っ、頑張れぇえええええええ!エルちゃああああああああん!!!」

 

キング「もうすぐでゴールよ!駆け抜けなさい!」

 

ウララ「がんばってええええええええ!!!!!」

 

グラス「……エル………っ、エルっ!走れッ!!!」

 

 

そんな友達の言葉は、

 

 

エル(ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、、、、くっ、夢が手の届くところにあるのにっ。世界一になれるのに!)

 

 

無情にも届かない。

そんなエルと力の差を見せつけるかの如く、ブロワイエは先頭に立った。

 

 

ブロワイエ(礼を言おう。キミのおかげでまた1つ、私は強くなったよ)

 

 

残り100mを切っている。時間にして10秒もない。

ゴールを邪魔するように視界には黄色の髪が揺れていた。

 

 

その時、黙って見続けていた男が口を開く。

 

 

 

 

「エルッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」

 

 

ヒートアップした客席の大声援よりも大きく。

最高峰のウマ娘が作り出す足音よりも強い。

 

そんなバカげた声を出す男がエルの友達にいた。

 

 

エル「っ、ご、くう、、さ、、ん」

 

 

弱弱しく呟く。そんなエルを知ってか知らずか悟空は叫んだ。

 

 

悟空「まだ終わってねぇぞ!!!おめぇの本当の力を見せてやれッッッ!!!!!」

 

エル(!!! そうだ。勝負は終わってない)

 

 

意識的に息を吸い、地面を強く蹴った。

 

 

エル(日本のウマ娘を舐めるなぁっ!!!)

 

 

 

 

 

あと数歩、足を出したらゴールだ。

 

 

ブロワイエ(ふふっ、私の勝ちだ)

 

 

勝利を確信して歓喜に震える。興奮して胸が高鳴る。

 

そして、

 

ブロワイエ「な、ぜ、っっっ」

 

 

横に並ぶ赤い勝負服が見えて恐怖に陥った。

 

 

ブロワイエ(!!!!? なぜだっ、キミは終わったはずだ。なぜ再び私の横に立っているッ。エルコンドルパサー!!)

 

エル「ーーーーーーーッッッ」

 

 

恐怖や困惑で、ブロワイエの心臓の鼓動が強く叩く。

2400mを走ったのとは関係なく呼吸が乱れる。何が起こっているのか状況を理解する前に、ゴールを通り過ぎていた。

 

 

 

実況「エルコンドルパサーが怒涛の追い上げ!ほぼ同着でゴールしました!!!」

 

 

エル「・・・・・・、」

 

ブロワイエ「ハア、………ハァ、……ハァ、…っ」

 

 

 

……………………っ…クソ……、

 

 

 

実況「勝ったのはブロワイエ!クビ差でエルコンドルパサーが敗れました!!」

 

 

エル「・・・・・、」

 

 

立ち止まるエルの横をウマ娘が次々と通り過ぎていく。

エルは動かない。空を見ていて顔すら見れない。

だから拳を強く握りしめる所は他の人から見えても、頬を伝う雫は誰にも見えなかった。

 

 

 

 

 

グラス「エル……」

 

 

客席で呟く。レースに絶対はないが、それでも負ける所など少しも思っていなかった。

 

 

スカイ「でも…凄いよ。あそこから追い上げたんだもん。結果が全てってだけで終わらせられない」

 

キング「そうね。……恐ろしいヒトだわ…同時に誇らしく思うほどに」

 

スペ「そうだね」(…ブロワイエ…さん、かぁ…)

 

ウララ「エルちゃん…残念だったけど、ブロワイエさんも強かったね。やっぱり最強って凄いなぁ」

 

悟空「ああ。………つっても、その最強を相手に、エルは爪痕を残せたみてぇだけどな」

 

ウララ「え?」

 

 

 

悟空が指を差す方向。つられるようにウララ達全員が見ると、ブロワイエは歯を剥き出しにして目付きを鋭くし、モデル顔負けの姿はそこになかった。

 

 

ブロワイエ(…勝った。……私が勝った。………日本のウマ娘に怯えながら?……ふざけるなっ!)

 

 

レースの中どころか、生涯1度たりとも怯えた事はない。しかも、負ける恐怖ではない。横に並ぶ少し前から、喉元に刃を向けられているような圧力を感じた。エルコンドルパサーというウマ娘1人に恐怖を抱いたのだ。

 

 

ブロワイエ(この私が!欧州最強のブロワイエがぁっ!)

 

 

 

エル「ブロワイエ」

 

ブロワイエ「っ、」ギョロリ

 

 

背後からの声に目を見開きながら振り向いた。興奮のあまり、フーッ!フーッ!と荒くしながら。

 

 

エル「! くっ、ふふっ!鼻を明かせたようで良かったデス!………ナイスファイト。ブロワイエ」

 

ブロワイエ「・・・、」

 

 

少し目が赤い。けれども笑顔で手を差し出すエル。

ブロワイエは1回、2回、、、合計で6回の深呼吸をすると、同じく笑みを浮かべて応えた。

 

 

ブロワイエ「……何故だろうな」

 

エル「???」

 

ブロワイエ「白熱したレースが終わったばかりだと言うのに、まだキミを強く感じていたいと思うよ」

 

エル「……ワタシもデス。エルからの一方通行じゃなくて安心しマシタ」

 

 

会話はそこで終わり、異国の地に存在するライバルを目に焼き付けようと、お互いただ見つめ合った。

 

 

ブロワイエ「…エルコンドルパサー」

 

エル「何デス?ブロワイエ」

 

ブロワイエ「(キミと戦うために)私は日本のレースに出たいのだが、何を選択すれば良い?」

 

エル「ケ?そうデスねぇ、(海外バの出走権の関係もあるし)ジャパンカップデース!」

 

ブロワイエ「ジャパンカップ……それに出れば、(キミとまた)走れるんだな?」

 

エル「イェース!ジャパンカップは毎年強敵揃いで、(スペちゃんが出ますし)手強いデスよ!」

 

ブロワイエ「望む所だ。(日本のレースでもキミに勝つ。そして、)最強の力を見せてやろう」

 

エル「あはは!(スペちゃんに)勝てマスかねぇ?」

 

ブロワイエ「(キミに)勝つさ」

 

エル「…………また会いまショウ」

 

ブロワイエ「ああ。少しの間さよならだ。我が愛しのコンドルよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

インタビューもトレーナーとの挨拶も終わり、エルは自室にいた。

 

 

"シュン!!,,

 

 

悟空「よっ!」

 

エル「あっ、悟空さ「エールちゃん!」ぅええええ!何かデジャヴ感じマース!」

 

 

悟空達が来た時と同じように抱きつくスペ。

違う所があるなら、悟空を抜いた全員がスペごと抱きしめに飛びかかった。

 

 

スカイ「おっつかれさまー!のムッギュムギュ〜!」

 

キング「って、苦しいわよ!」

 

ウララ「ウララ潰れちゃってるよ〜!」

 

グラス「ふふっ、それそれぇ〜」

 

スペ「むむむむむむむっ」

 

エル「わ、わわっ、…あっはっはっは!暑苦しいデース!」

 

 

一塊の団子のようになると、悟空は目を輝かせた。

 

 

悟空「おっ!うひひっ、おめぇ達落ちねぇように気ぃつけろよー!」

 

『へ?………わ、わ、わ、、』

 

 

外側のグラスとスカイの腰付近に手を置くと、巧みな重心移動と怪力で悟空の頭上まで持ち上げた。

 

 

スカイ「危なっ!なにこれ私達どーなってるの!?」

 

キング「ちょ、おろしなさい!」

 

ウララ「あはははは!ウララ達浮いてる〜!」

 

 

怖がる者。叫ぶ者。楽しむ者。

エルの一室はパーティでもしているかのように明るく楽しい声が響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

悟空「よし、んじゃオラに触れるか、手ぇ繋げ。瞬間移動すっぞ」

 

 

わらわらと悟空に集まる全員を視野に入れると、エルは見送るために正面に立った。

 

 

エル「皆さん。来てもらってありがとうございマシタ。……せっかく応援してもらったのに、こんな結果で…」

 

キング「ストップ。あなた自身を卑下するのは、あなたを誇りに思うこのキングを侮辱している事に繋がるわ。自分を貶めるのはやめなさい」

 

エル「・・・・・キング。誇りと思ってくれてたのデスね」

 

キング「さぁ、悟空さん帰りましょう。早く」カァァァ

 

エル「あはは。……本当にありがとうございマシタ。時期にエルも日本に帰るのでまたよろしくデース!」

 

ウララ「待ってるからねぇ〜!」

 

 

それぞれが挨拶をすると、瞬間移動の準備をした。

 

 

スカイ「ほい、グラスちゃん。お手をどーぞぉ」

 

グラス「はい」

 

スカイ「ん、……ん?…そういうつもり?」コソ

 

グラス「………悟空さんには迎えは夜明けに、と。それと一応セイちゃんの部屋に泊まるようになってますが、もしもの時はお願いします」コソコソ

 

スカイ「…良いけど……グラスちゃんっていつか刺されるよ?」コソコソ

 

グラス「? なぜ今言うのか分かりませんが、差されても差し返します」コソコソ

 

スカイ「…字が違うんだよなぁ」ボソッ

 

グラス「なにか?」コソコソ

 

スカイ「いや何も……1つ貸しね」コソコソ

 

グラス「もちろんです」コソコソ

 

 

何かを企む2人は手を繋いだ。ーーように見せた。

 

 

 

悟空はウララ達を見渡すと、エルを見た。

 

 

悟空「それじゃあ………あ、ちょっとこっち来い」

 

エル「ケ?」

 

 

スタスタと悟空の元に行くと、ポンと頭に手が乗った。

 

 

悟空「よく頑張ったなエル!」

 

エル「っ、ハイ!エルすっごく頑張りマシタ!」

 

悟空「……へへっ、んじゃオラ達帰るけど、おめぇも帰ってきたらまた組み手しような!」

 

エル「もーっ!悟空さんそればっかりデース。……でも、しょうがないデスね。一緒に遊びまショウ!」

 

悟空「ひひっ!……またな、エル」

 

エル「ハイ。また」

 

 

自然と口角が上がり全員が手を振る中で、"シュン,,という音とともにその場から消えた。

 

 

ただ1人を残して。

 

 

 

エル「……………え、」

 

グラス「あら?置いていかれちゃいました」

 

 

中々とんでもない事だろうに、グラスからは焦りが見えない。

 

 

エル「け、け、ケェェェェ!?え、ちょっ、どうするんデスか!?あ、でも悟空さんが気づいて、」

 

グラス「エル。…エール」

 

 

慌てふためくエルをよそに、グラスはソファに座り、隣をポンポンと叩いた。

 

 

エル「グラス?」

 

グラス「悟空さんならちゃんと来てくれますから。それまでお話しでもしませんか?恥ずかしながらエルのいない寮部屋は静かすぎて落ち着かなかったんですよ」

 

エル「!!!」

 

 

グラスがそう言うと合点がいった。色々言いたい言葉があったのに、口がパクパクと開くだけ。

ふらふらと導かれるように横に座ると、グラスにもたれかかった。

 

 

エル「…………負けちゃいマシタ」

 

グラス「ええ。見てましたよ」

 

エル「エルの本気。届かなかったデス」

 

グラス「とても格好良かったですよ」

 

エル「……ちょっと疲れマシタ…」

 

グラス「お疲れさまでした。今は私がいるので存分に休んでください」

 

 

肩から滑り落ちるようにグラスの膝に頭を乗せた。

 

 

 

「ありがとデース」

 

「どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 



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休息は銭湯で!




日常回です。
今回は気軽に読めるよう会話多めです。その中で分かりやすく擬音を書いたりしました。
話し方が、かっこ、で分かれているのでご注意ください。

また、"悟空とスカイと熊と,,の回の内容が出てきます。是非読んでください。(…今後のためにも)


注意
「」声に出す

『』ハモりで声に出す

()心の声

【】テレパシー






 

 

 

 

 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

エル「……………………まけ、た」

 

ブロワイエ(あれが日本のウマ娘……いや、エルコンドルパサー、か)

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

ー 放課後 ー

 

 

スペ「うわぁ、すっごい雨だね!」

 

グラス「そうですね〜」

 

 

教室の窓が音を鳴らす。横殴りの雨がその強さを物語っていた。

 

 

スカイ「これじゃあ今日のトレーニングは休みかなぁ」

 

キング「あなたはいつも休みじゃない」

 

スカイ「ちょっとお嬢さま、私は自分の気持ちに忠実なだけなんだから、そんな怠け者みたいな言い方やめてくれる?」

 

キング「そうね。ナマケモノじゃなくて猫だったわね」

 

スカイ「違いますけど?」

 

グラス「セイちゃんはまだしもキングちゃんは今日の予定どうするんですか?」

 

スカイ(まだしも!?)

 

キング「オフよ。最初は雨の日を想定したトレーニングを考えていたんだけど、こんなに降られると、ねぇ」

 

スペ「だよねー、チームスピカも休み連絡が来たよ」

 

グラス「リギルもです。久しぶりに全員オフなのにどこも行けないなんて残念ですね」 

 

スカイ「体育館でドッヂボールとか?」

 

キング「悪くないわね」

 

スペ「それか食堂行く?」

 

キング「それはスペさんが食べたいだけ、「…セン」……ん?」

 

スカイ「グラスちゃん、何か言った?」

 

グラス「…………マセン」ボソ

 

スペ「え、」

 

 

グラス「ーー行きませんッッッッ!!!!」ガアァァァ!

 

 

スペ「ヒィッ!!」

 

スカイ「」ビクッ

 

キング「」ビックゥゥッ!

 

 

教室中に響く声。スペやキング、スカイだけでなく、僅かに残っているウマ娘全員がグラスに注目した。

 

 

スペ「えっと、……グラスちゃん?」

 

グラス「スペちゃんが太るので必要のない時に食堂へは行きません。というより行かせません」

 

スペ「あ、はい」

 

スカイ(そりゃ、あんな声出されたら萎縮するよね…)

 

グラス「スペちゃんってば気づいたら食べてしまっているのですから監視が必要ですね。エル、スペちゃんを見張っていて下さいね」

 

スカイ「! ちょっと……」

 

キング「っ、…グラスさん」

 

グラス「? 何です?…と、その前にエル返事しなさい」

 

スペ「グラスちゃん。エルちゃんは……」

 

グラス「スペちゃん?エルがどうし……ぁ、」

 

スカイ「………思い出した?」

 

グラス「……はい、すみません」

 

スカイ「謝らなくて良いよ。エルはもう………いないんだから」

 

キング「………」

 

スペ「…………」

 

 

 

 

 

エル「………………ケ?」

 

 

 

 

グラス「あ、エルおかえりなさい。今あなたにスペちゃんの監視を頼もうとしていまして」

 

スペ「えぇぇぇっ!平気だよぉ!少しずつだけど減量だってうまくいってます!」

 

キング「本当かしら?信憑性に欠けるわね」

 

スペ「キングちゃん酷い!太ってはないから平気だもん!」

 

エル「ちょちょちょ、ちょぉぉぉぉっと待ってくだサイ!」

 

グラス「? どうかしました?」

 

エル「………なんか…エルが存在しないような感じになってませんデシた?もしくは死んでるような…」

 

キング「っ、あなたねぇ、悟空さんじゃないんだから縁起でもない事言わないでちょうだい」

 

スペ「そーですよ。それに先日日本に帰って来た時、"エルちゃんお疲れ様会,,やりましたよね?」

 

エル「ケー…いやでも、」

 

グラス「お手洗いに行ってるのは聞いてましたし、何故そう思ったのです?」

 

エル「だって皆サン何やら雰囲気が重く……いえ、エルの勘違いだったみたいデース」

 

スカイ「う、ん。そうみたい、だ、、ね…っ……ぶふっ!!!」ククク

 

エル「あ、勘違いじゃありマセンでした。意図的にやってたヤツがイマシタ」

 

グラス「? 何の事だか分かりませんが、エルも戻って来ましたし移動しましょうか」

 

キング「さっきまでその移動場所を考えていたのだけどね」

 

スペ「………食堂と体育館どっちにする?」

 

グラス「体育館」

 

スペ「」

 

スカイ「決まりだね。それじゃあウララも……ってさすがにオフだよね」

 

エル「……この雨ならウララは逆に喜びそうデスけど」

 

キング「それに対して悟空さんが止めるはずないわね」

 

グラス「つまり、」

 

 

 

 

ー 隣の教室 ー

 

 

ウマ娘「ウララちゃん?さっきまで席に座りながら雨強いしトレーニング休みかもって話してたら、突然立ち上がったの。それで外をじっくりと見た後、笑顔になって、"ウララ用事が出来ちゃった!,,って言ってどこか行っちゃった」

 

エル・キング・グラス・スカイ・スペ

『やっぱり……』ガクッ

 

 

 

 

それから少し経った時、この場所でも話題に上がっていた。

 

 

 

ー 生徒会室 ー

 

 

ーーーパサッ

 

 

ルドルフ「? エアグルーヴ。雨具なんか着てどこか行くのか?」

 

エアグルーヴ「会長。ええ、先程連絡があったのですが、ターフを使用している者がいるらしく、それの確認をと思いまして」

 

ナリタブライアン「この雨でか?……まぁ、自己管理の域だし、わざわざ止める事でもないだろう」

 

グルーヴ「たわけ。こんなレースでも中止になるような雨の中でトレーニングなんて出来るものか。それに1人を許すと他の者もやりかねん」

 

ルドルフ「確かにそうだな。……では、すまないが頼む」

 

グルーヴ「はい」

 

ブライアン「でも一体誰なんだ?この雨でやるほどの熱意は普通じゃないだろう」

 

グルーヴ「遠目だし確証は持てないが、ハルウララのようだ。あのキングヘイローのトレーナーが許すとは思えんがな」

 

ルドルフ「!!!」ギョッ

 

ブライアン「ほう、不思議と納得するな。あながち無謀の一言では片付けられん」

 

グルーヴ「それには同意だが例外は認められん。では会長、行って参ります」

 

ルドルフ「待つんだ、エアグルーヴ」コホン

 

グルーヴ「え?」

 

ルドルフ「私が行こう」

 

グルーヴ「っ、会長自ら行かずとも私が、」

 

ルドルフ「いや、もしハルウララ本人なら個人的に少し用があるんだ。違うウマ娘だとしても、しっかりと中止にさせるから心配はいらないよ」

 

グルーヴ「そ、うですか……会長がそう言われるなら…」

 

 

そう言ってエアグルーヴは着ていた雨具を脱ぎ、ルドルフに渡した。

 

 

ブライアン「何だ、さすがの会長様もハルウララが気になるのか?」

 

ルドルフ「そうじゃないさ」

 

 

ブライアンの問いを一言で終わらせる。他に言う事はない。話してボロが出るとマズいからだ。 

雨具を着用したルドルフは最後にフードを被り、生徒会室の扉を開けた。

 

 

ルドルフ「では業務の方は頼んだよ」

 

グルーヴ「はい。お任せください、会長」

 

 

パタン、と扉が閉まると、深いため息を吐いた。

 

 

ルドルフ(この雨だ。指導しているのはキングヘイローのトレーナーではなく十中八九、"彼,,だろうな)

 

 

それなら見られる訳にはいかないと、ルドルフは急ぎ足に歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

ー ターフ バ場状態:不良 ー

 

 

 

視界を閉ざす滝のような雨。

ルドルフは目撃情報のあるターフに辿り着くと、走ってるウマ娘より先に、ターフの傍にいる5つの人影が目に入った。

それが誰であるかなど、ルドルフはすぐに分かった。

 

 

ルドルフ「お前達!何をしている!」

 

グラス「! ルドルフ会長!?」

 

エル「何故ここに!?」

 

ルドルフ「それを私が聞いてるんだが!!?」

 

 

至近距離にいても声を張らないと通じないほどの雨音。

 

 

ルドルフ「お前達がいるって事はやはりハルウララか!」

 

スペ「そうみたいです!さっき目の前を通った時に見ました!」

 

ルドルフ「なぜ止めない!いくら悟空さんと一緒でも危険だと判断したからお前達も来たんだろう!」

 

キング「そのつもりだったのですがっ!」

 

ルドルフ「何だ!」

 

スカイ「あ! もうすぐ通るので見たら分かります!」

 

ルドルフ「通る、だと?」

 

 

スカイの言葉にルドルフだけでなく、その場にいる全員がターフを見た。

雨のカーテン越しに見える4つほどの影。奥の方から凄いスピードで近づいて来ると、大体の様子が見えてくる。

ハルウララを囲うように、前後左右に同じ背丈の彼がいた。

雨音に混ざって聞こえる叫び声。止めようと思いつつも耳を傾ける。

 

そして目の前を通過する時、全貌が明らかになった。

 

 

 

「ウララ!何をしてる!さっさと抜け出せ!」

 

「足場が悪いし加速出来ない!」

 

「そんな時こそダートの走りだろ!おめぇの特性を全部出し切れ!」

 

「それと雨で悟空さんが見えない!ぶつかっちゃう!」

 

「見えないなら見るな!オラの"気,,上げるから感じ取る事に集中しろ!」

 

「はい!」

 

「行けるか!」

 

「行けるよ!」

 

「なら走れッ!!!」

 

「うんっ!!」

 

 

比喩ではなく、本当にウララを4人の悟空が囲んでいた。

雨音なんて気にならないくらいの声量。実際の重賞レースを見ているような圧力。

悟空とウララの険しい顔付きは、掛ける声を封じ込めるものだった。

 

 

スカイ「今のが私達が来てから2周目です!」

 

ルドルフ「っ、」(あの白熱した感じなら、ウォーミングアップ入れて3周以上はしてそうだ)

 

グラス「声をかけるのも一苦労です!」

 

 

グラスの言う通りだった。だが止めない訳にはいかない。何とかしようと思案する中、彼女達の脳内に声が響いた。

 

 

【悪ぃ、気づくのが遅れた!ルドルフまでいるし何か用か?】

 

 

スペ「悟空さんのテレパシーです!」

 

グラス「会長お願いします!」

 

ルドルフ「ああ」【悟空さん、今日のトレーニングは中止にしてくれ。生徒会長として看過出来ない】

 

悟空【!…やっぱマズかったか。後1周だけダメか?】

 

ルドルフ【すまない…。他のウマ娘から悪目立ちしている。今後の悟空さん達の境遇のため、すぐにでも止めよう】

 

悟空【分かった、無理言ってすまねぇ。おめぇ達は全員手ぇ繋いでてくれ】

 

ルドルフ「………手?」

 

エル「カイチョー!失礼しマス!」ガシッ

 

 

軍人の動作のような一糸乱れぬ動きで全員が繋がる。

 

 

 

"シュン!!,,

 

 

瞬間、

 

目の前の景色がターフから屋根の付いた校舎へと移り変わった。

 

 

ウララ「あれ?みんなどうしたの?」

 

 

彼女達は声がする方を向くと、何一つ理解が出来ていないウララが目を丸くしていた。

 

 

スカイ「………あー、ウララを目印にしたんだね」

 

悟空「ああ。その方が速ぇと思ってな。先にウララだけ移動させたんだ」

 

ウララ「ほぇ、どういう事?」

 

ルドルフ「すまないな、ハルウララ。今日は外でのトレーニングは中止なんだ」

 

ウララ「そうなんだぁ。…あ、っていう事は、ウララ悪い事しちゃった?ごめんなさい!」

 

悟空「いやウララが謝る事ねぇ。考えずにやったオラが悪かった。怪我するかも知れねぇのにすまねぇな。レースの悪条件が揃ってたから、つい張り切っちまった」

 

ルドルフ「気持ちは分かるから、一概に悪い事とは言えないんだが、ね」

 

悟空「おめぇ達まですまねぇな。わざわざ来てくれてよぉ」

 

グラス「いえっ、結局は会長頼みでしたし」

 

エル「当たり前デスけど、雨の日トレーニングは限られマスから焦っちゃいマスよね!」

 

スペ「そうだね。……ウララちゃん楽しかった?」

 

ウララ「うん!いつもと違う感じだったから、すっごく楽しかった!」

 

スペ「良かったね!」

 

キング「って、話すのは後!悟空さんとウララさんは早く体を温めなさい!」

 

 

今もまだ水が滴り落ちる2人に檄を飛ばした。

 

 

スカイ「出た。キングママ」

 

キング「こんなの見れば誰でも言うでしょう!?」

 

悟空「つってもキングの言う通りだ。風邪引く前に風呂入りに行くか!」

 

ウララ「いえーい!悟っ空さんとおっふろー!」

 

悟空「おめぇ達、手間かけて悪かったな」

 

 

そう言って片手を上げると、ウララは悟空の背中に飛び乗った。

 

 

悟空「じゃ、またな!」

 

 

『ちょっと待て!!!!!』

 

 

悟空とウララを除いた全員から抑止の声がかかる。

 

 

悟空「?……あ、飛ぶ事なら気にすんな。雨だし少しスピード出せば見つからねぇからよ」

 

キング「そうじゃなくてっ、」

 

ウララ「着替え、かな?最初からそのつもりだったし用意してあるよ?」

 

スカイ「そうでもないって!!!」

 

悟空・ウララ「「???」」

 

ルドルフ「…………2人はこれからどこに行くと言った?」

 

悟空「風呂」

 

ルドルフ「………2人でか?」

 

ウララ「うん!」

 

グラス「いくら悟空さんとは言え、淑女として……」

 

エル「いえ、何も考えてなさそうデスしこの2人なら………やっぱり駄目でショウ」

 

スペ「こういう時お母ちゃんなら………ぁぅ、」

 

悟空「? 何言ってんのか知らねぇけど、おめぇ達も一緒に来るか?」

 

ウララ「多い方が楽しいもんね!」

 

 

悟空・ウララ「「温泉!」」

 

 

『え"っ、……………ぁぁ、…良かった』

 

 

 

 

 

どこか犯罪の匂いがあったが杞憂であると分かり、ルドルフは生徒会業務に戻るが、スペ達は同行した。 

先程と同じようにウララを最初に高速移動で連れて行き、残るスペ達を瞬間移動で連れて行った。

 

 

 

 

ー 銭湯 ー

 

 

かぽ〜ん

 

 

スペ・スカイ・エル

「「「はぁぁぁぁ、生き返る〜」」」

 

グラス「おじさんくさいですよ〜〜」グデェ

 

エル「グラスだってスライム並みに蕩けきってマース」

 

グラス「エ〜ル〜、腹を切りますか〜?」

 

エル「今は切りたくないデ〜〜ス」

 

グラス「デ〜ス」グデェェ

 

スペ「グラスちゃんのキャラがおかしくなってる…」

 

スカイ「たまに入浴時間被るけど、いつもだよ〜」

 

スペ「温泉おそるべし…」

 

スカイ「…………それよりさぁ、ウララってやっぱりキングから生まれたんじゃないかって思うんだよね〜」

 

エル「"アレ,,を見ると可能性ありマスよね〜」

 

スペ「"アレ,,ね〜。たまに入浴時間被るけど、いつもですよ〜」

 

スカイ「まじか〜。……ママ、恐るべし」

 

 

 

 

キング「いい事!?雨水は髪質を痛ませやすいんだから、トレーニング後はしっかりとケアする事!シャンプーは頭皮に馴染ませてしっかり洗う!」ゴシゴシゴシゴシゴシゴシ

 

ウララ「ふにゃぁぁぁぁぁぁ…きもちぃよぉ〜〜〜」

 

キング「トリートメントとコンディショナーには気を使いなさい!髪に栄養を届けて外部からの刺激を守ってくれるわ!サラサラになるわよ!」シュシュシュシュ

 

ウララ「はわぁぁぁ…………それをやってるのに何でキングちゃんの髪はウネウネしてるの〜?」

 

キング「癖毛だからよ!潤いは100%だわ!」シャワァァァァァ

 

ウララ「知ってる〜。もふもふするもんね〜」

 

キング「もふもっ!………するかしら?」タオルマキマキ

 

 

スカイ(モフモフするのかぁ)

 

グラス(少し気になりますね)

 

 

 

スペ・エル「「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"」」グデェェェェン

 

 

 

 

 

ウララ「ふっかつ!ありがとねキングちゃん!」

 

キング「ええ」

 

グラス「……………キングちゃん」スタスタ

 

キング「? なによ」

 

グラス「私もお願いします」

 

キング「……何を?」

 

グラス「頭を洗ってください」ズイッ

 

キング「そんな頭向けられても……大丈夫?のぼせたの?」

 

グラス「のぼせてません。何卒……何卒っ、よろしくお願いします」グイッグイッ

 

キング「押し付けないで!というより貴女さっき洗ってたじゃない!」

 

 

 

 

 

スペ「………グラスちゃんと温泉の相性って悪いの?」

 

スカイ「いや、むしろ良いって事なんじゃない?」

 

エル(グラス……楽しそうで良かったデース)イヒヒ

 

 

 

 

 

グラス「ーーこれはっ、良い経験をさせていただきました。ありがとうございます!」ペッペカー!

 

キング「疲れた……」グテーン

 

スカイ「お疲れさま〜」

 

グラス「エルにも今度やってあげますからね!」フンスッ

 

エル「よろしくデ〜ス」

 

 

 

スペ・ウララ

「「気持ちぃぃぃぃいねぇぇぇえ」」カポーン

 

 

 

スペ「そういえば、悟空さんも一緒なんだよね?」

 

ウララ「うん。2人の時は話しながら入ってるんだよ」

 

スペ「話しながら?今みたいに人が居なかったら出来るだろうけど…」キョロキョロ

 

ウララ「うひひっ!スペちゃん、相手は悟空さんだよ?」

 

スペ「ふぇ?」

 

 

ウララ「悟空さーん!アレやってーっ!」

 

スペ「アレ?…………あっ、」

 

 

 

悟空【どうした?】テレパシー

 

ウララ【ウララだけじゃなくて皆にも!】

 

悟空【??? ほれ】

 

 

エル・キング・グラス・スペ・スカイ

『!!!!!』

 

 

スペ【そっか。離れてる時だけって思ったけど、こういう使い方も出来るんだよね】

 

グラス【テレパシー……なるほど、確かにこれは楽しいです】

 

キング【確認だけれど、悟空さんこっちの様子は見れないのよね?】

 

悟空【様子?ああ、オラは出来ねぇな】

 

スカイ【悟空さん"は,,って出来る人がいたんだね】

 

悟空【まぁな。神さまは神殿から地上の様子を見てくれてんだ】

 

キング(神様ねぇ。そんなお方に俗っぽい事言うのは失礼よね)ウーン

 

エル【それじゃあ女湯覗き放題デスね!】ニシシ

 

キング「このおばか!」

 

エル「ケ!?」

 

悟空【女湯なぁ。いっても神さまなんだから、そんなん見てもしょうがねぇだろ】

 

スペ【まあ、そうですよね。女湯見る神様なんていたら夢壊れちゃいますよ】

 

悟空【いるのはダジャレが好きな神さまくれぇだ】

 

スカイ【え、それもヤなんだけど…】

 

ウララ【かみさまって言ってもいっぱいいるんだね!】

 

悟空【そうだな】

 

キング【……それにしても安心したわ】

 

悟空【何にだ?】

 

キング【貴方とウララさんよ。会話の流れから一緒にお風呂入ってるのかと思ったわ】

 

スカイ【ほんとにね】

 

エル【カイチョーだって叫んでマシタ!】

 

悟空【? 駄目なんか?】

 

スペ【駄目ですよ。私だってトレーナさんと一緒にお風呂なんて考えられません!】 

 

グラス【例え冗談でも外で言っては駄目ですよね。最悪捕まってしまいます】

 

悟空【へぇ、だってよウララ】

 

ウララ【えーっ!それじゃあもうドラム缶風呂やっちゃダメなのぉ!?】

 

悟空【みてぇだな】

 

 

エル・キング・グラス・スカイ・スペ

『ちょっと待って!!!!!!』

 

>待ってぇ!…まってぇ…ってぇ…テェ……、

 

 

悟空【すげー響いてんぞ…今度はどうした?】

 

キング【…ドラム缶風呂…その名の通りドラム缶に湯を沸かすやつよね。……入ったの?】

 

悟空【ああ、2回くれぇだけどな。……あ、ドラム缶の事なら心配ぇすんな。そこら辺にある物じゃなくて、ちゃんと買ったからよ】

 

キング【配慮する所が間違ってるわよ……聞きたくないけれど、どこで入ったの?】

 

悟空【山奥。自然の中で修行した時にオラが用意したんだ】

 

キング(あぁ……終わった)

 

ウララ【さいっこーに気持ち良かったよ!】

 

スペ【な、なんかそこまで言われると気になっちゃうかも】

 

グラス【スペちゃん!?絶ッッ対にやめてくださいね!!?】

 

エル【誰かに見られでもしたら一巻の終わりデェス】

 

スカイ【そうそう。いくら悟空さんでも色々マズいよねぇ。ーーー良いなぁ。私も入りたい】

 

キング「ちょっと!?」

 

スカイ「なぁにぃキング〜」【ああいうの結構憧れてたんだよね〜】

 

悟空【そうなんか?なら前に山行った時にやっときゃ良かったな】

 

スカイ【そうだね〜………あれ?】

 

 

キング・エル・グラス・スペ・ウララ

『・・・・・・』ジー

 

 

スカイ「・・・・えっ、と?」

 

キング「……心の声、漏れてたわよ」

 

グラス「セイちゃん……」

 

スカイ「ちがっ!いや、さすがにマズイでしょ!恥ずかしいし!山とは言っても裸は駄目だって!!!」

 

スペ「セイちゃん声大きいよ!」

 

スカイ「あ、」

 

悟空【恥ずかしいって、…おめぇ山でパンツ一丁のまま川遊びしてたじゃねぇか】

 

スカイ「ちょおおおっ!!!」ザバァァァ

 

キング「ぱ、ぱんつ」ドン

 

グラス「いっちょう…」ビキ

 

エル「スカイ……マジデスか…」ウワ…

 

スカイ「やめて!そんな心の底から引きましたって顔やめてよ!」

 

スペ「……私も田舎にいたから抵抗は少ないけど、本当にやるのは、、ちょっと…」

 

スカイ「だから違うって!パンツだけじゃなくてブラだって付けてたから!元々は悟空さんの川遊びを断ってたんだけど滑って落ちたの!入らざるを得なかったの!」

 

キング「あなた知ってる?パンツやブラジャーって水着じゃなくて下着って言うのよ?」

 

スカイ「知ってるよ!水着なんて持ってないんだからしょうがないじゃん!もおおおお、何で言っちゃうのさ!悟空さんっ!」

 

悟空【おめぇ達声デケェぞ。まぁこっちにも客いねぇけど】

 

ウララ【貸切状態だね!】

 

スカイ【お願い、私の話しを聞いて】

 

悟空【あんまり聞こえなかったぞ】

 

スカイ【悟空さんが変な事言うから変なヒト扱いされてるの!】

 

悟空【でもおめぇ楽しそうにしてたじゃねぇか】

 

スカイ【ムグッ!……】

 

悟空【おめぇが良いんなら今度一緒にって思ったんだけど……やっぱやめた方がいいみてぇだな】

 

スカイ【……もういいや。気にするのやめた。私も一緒に行く】

 

キング「あなた!?」

 

グラス「セイちゃん、正気ですか!?」

 

スカイ「うん」

 

グラス「淑女がそんな……セキュリティも何も無い自然の中で…」

 

スカイ「んー、……でも考えてみてよ」

 

スペ「? なにを?」

 

スカイ「例えばさ、凄いお金かけて防犯装置や人員かき集めたセキュリティと、逃げも隠れも脅しも権力もぜええええんぶ通用しない下心ゼロの悟空さん。……どっちが信用出来る?」

 

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

 

キング(確かに、一般人なら裏切る可能性もある)

 

グラス(おまけに野生動物に襲われでもしたら逃れる保証もないですね)

 

エル(対する悟空さんは、フランスにいるエルの"気,,を察知できる程の広範囲。山にいる人なんて隅から隅まで分かるはず。動物相手なんて考えるまでもありマセン)

 

スペ(一生に一度出来るかどうか分からない経験。………正直興味があります)

 

 

ーーブクブクブクブクブク…

 

 

ウララ【ねぇ、悟空さん。何かみんな沈んじゃったよ】

 

悟空【溺れてんのか!?】

 

ウララ【ううん、違うみたい】

 

悟空【大丈夫なんか…。ヤバくなったら早めに言うんだぞ】

 

ウララ【うん。……それにしてもドラム缶風呂ダメって言われちゃったね】

 

悟空【しょうがねぇさ。オラはその辺の常識っちゅーのはよく分かんねぇから、言われたらその通りにするしかねぇ】

 

 

 

キング【…‥…別に…良いんじゃないかしら】

 

悟空【え?】

 

グラス【そう、ですね。人生何事も経験だと言いますし】

 

悟空【あれ、でもさっき】

 

エル【悟空さん、エル達も行って良いデスか?】

 

悟空【それは構わねぇけど……良いんか?】

 

スペ【良いですよ!タブン。私、テレビで見た事あって1回やりたかったんですよね!】

 

悟空【そっか。おめぇ達が良いんなら用意すっけど】

 

スカイ【それじゃあ、みんなの予定が合った時だね!】

 

悟空【おう】

 

ウララ【やったあああ!みんなと一緒にドラム缶風呂だぁ!】

 

悟空【そうだな。ちゅーかオラはそろそろ出んぞ。おめぇ達もぶっ倒れねぇようにな】

 

【はーい!】

 

 

 

羞恥心など忘れ、楽しい事だけを考える彼女達。

レースに生きるウマ娘達は約束の日を取り付ける事なく、その日を今か今かと待ち続ける。

それがいつになるのか。その日は本当にやって来るのか。はたまた、もう1つドラム缶が増えるのか。

 

それはその時の彼女達が知る事だった。

 

 

 

 

 

 

次回予告:エルコンドルパサー

 

 

ハァーイ!

最近出番の多いウマ娘、エルコンドルパサーデェス!またまたエルが予告を、「エル。代わりなさい」ケッ、ケェェェ!?

 

 

 

次回予告

エルコンドルパサー → グラスワンダー

 

 

こんにちは、グラスワンダーです。「ケェ…」

 

………待ち侘びました。この時をずっっっと待っていました。

私だけ何故か置いていかれてるような感覚。悟空さんに私の事を知ってもらえない哀しさ。

………耐え難い日々でした。

しかし、次回はやっと主役の番が回って来たようです!

 

次回 グラスの覚醒。

 

悟空さんとの修行を経て私は強くなります。

強くなって、私が全部まとめて貰い受けます!

スズカさんに勝って天皇賞も、有マ記念も、そして…本作品中人気ランキングNo.1の座も!

 

     「……え、なにそれ」

 

 

 



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不退転の覚悟




色んな意味でやりすぎた……けど、後悔はしてません。

グラスが強大な力に挑む話です。

注意
・独自設定あり







 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

 

キング「とりあえず」

 

グラス「セイちゃんに」

 

エル「どん引きしマシタ!」

 

スカイ「ック………悟空さんのせいだ」ボソッ

 

 

 

スペ・ウララ「「ふえ〜〜〜〜〜」」カポーン

 

悟空「きもちぃなぁ〜〜〜」カポポーン

 

 

 

 

ーーーーーーー 

 

 

 

 

ある日の午後。

 

 

 

悟空「ふわぁぁぁ……ん、今日も平和だなぁ」

 

たづな「そうですねぇ」

 

 

警備員の制服を着た悟空はたづなと2人で歩いていた。

 

 

悟空「もう秋か」

 

たづな「肌寒い季節になりましたね」

 

悟空「ああ。そのおかげかウマ娘も元気だ。暑さバテ気にしなくていいのは楽だもんな」

 

たづな「悟空さんは猛暑でも元気でしたね」

 

悟空「そりゃ鍛えてっからな」

 

たづな「鍛えても暑さに耐えれるとは別だと思いますが、」

 

悟空「んでもオラからすりゃあ、おめぇも中々だっただろ」

 

たづな「何の事です?」

 

悟空「下に履いてる長ぇ靴下みてぇなやつ。見てて暑苦しかったぞ」

 

たづな「……あなた…どこを見てるんですか」

 

悟空「? だからその下のやつ。それにジャケットもか。よく着れたよなぁ。脱げば良かったのに」

 

たづな「…………これが私の戦闘服なんです」

 

悟空「あ、そういう事か。だから平気だったんだな」

 

たづな「はい。……、」

 

 

    ・

    ・

    ・

 

 

 

たづな「あ、悟空さん。前から言おうと思っていたのですが」

 

悟空「なんだ?」

 

たづな「外出用の服を買って来てください」

 

悟空「……めんどくせぇから嫌だ」

 

たづな「だめです。あまり外出する機会がないので不必要だと思っていましたが、いつどこで必要になるのか分かりませんからね。武道着でレースを見に行く事自体間違っていたんです」

 

悟空「えー、服っつったってオラ分かんねぇぞ?必要ならキントレに借りてれば良いじゃねぇか。買った所でオラはもうすぐこの世界から消えるんだしよぉ」

 

たづな「………」

 

悟空(?………あ、やべ。確かキントレから消える発言すんなって言われてたんだった…)

 

たづな「……ともかくお願いしますね?服代は学園が費用出しますから」

 

悟空「いや、服くれぇ自分で出すけど……そうだ!たづな一緒に来てくれよ!そんで買うやつを決めてくれ!」

 

たづな「えっ、、、そうしてあげたいのは山々なんですけど、お出かけする時間が取れないものでして…」

 

悟空「そっかぁ、、、んじゃアイツらの誰か連れて行くか」

 

たづな「それが良いのかも知れませんね。……フフッ。噂をすれば何とやら」

 

悟空「ははっ!本当元気な奴らだな」

 

 

『悟空さーん!』 

 

 

走ってくるのは仲良し5人組。(もう1人は補修)

 

 

グラス「たづなさん、こんにちは」

 

たづな「こんにちは、グラスワンダーさん」

 

 

礼儀正しく頭を下げる2人の横で、エルは空を舞った。

 

 

エル「ハァーイ悟空さん!フライングボディプレスデース!」ピョン

 

悟空「よっ、と!オラには効かねぇなぁ!」ガシッ

 

エル「オーゥ捕まってしまいマシター!」ジタバタ

 

悟空「おぉっ、暴れたら危ねぇぞ〜」ヒョイ

 

エル「おー、肩車なんて何年振りデスかね。ちょっと恥ずかしいデスけど…」

 

グラス「こら、エル。悟空さんに失礼でしょう!」

 

悟空「ん、オラなら平気だぞ」

 

エル「ヘッヘーン!」

 

グラス「っもう。エルったら」

 

スカイ「にしてもエル懐いたね〜」ジー

 

キング「傍から見たらあなたも似たようなもんよ」

 

スカイ「え"っ、私あんなんなの?」

 

キング「ええ」

 

スペ「そういうキングちゃんは悟空さんに抱っこされるのが好きなんだよね?」

 

キング「だっ!は、え、、はぁぁああ!?」

 

スカイ「あらあら?ん?…あー、なるほどなるほどぉ……抱っことは甘えレベルが高いですなぁ」ププッ

 

キング「うるさいわよ!そもそもどこ情報よ!ガセにも程があるわ!」

 

スペ「ウララちゃんが目の前で見たって言うから嘘じゃないと思うけど。2回も」

 

スカイ「2回!これは言い逃れ出来ないねぇ」

 

キング「私のは事故だわ!誤解よ!」

 

スカイ「自己!?」

 

スペ「5回!?」

 

スカイ・スペ「「フゥゥウウウ⤴︎」」

 

キング「おだまり!このへっぽこ達!」

 

 

たづな「ふふっ、一気に賑やかになりましたね」

 

悟空「だな。おめぇ達は何か用だったんか?」

 

グラス「はい。私達悟空さんと遊ぼうって事になって探してたんですけど……お仕事中ですよね」

 

悟空「そうだな。わりぃけど…「あ、良いですよ」…ん?」

 

たづな「行ってらっしゃいませ」

 

悟空「……さすがに仕事無視すんのはマズくねぇか?」

 

たづな「無視じゃありませんよ。初出勤の時言ったじゃないですか。時と場合にもよりますけど、ウマ娘のストレス発散にもなるから遊んであげてくださいと」

 

悟空「あー、そんな事言ってたなぁ」

 

たづな「警備の栄澤さんには私から伝えておきますので、悟空さんは着替えだけしてください」

 

悟空「おう。何から何まですまねぇな」

 

たづな「今に始まった事ではないので。……それにしても買い物は今度のようですね」

 

悟空「ははっ、みてぇだな。…んじゃそっちは頼む」

 

たづな「はい。では失礼します」

 

 

そう言ってたづなは立ち去った。

 

 

悟空「さてと、オラは着替えてくっけど、、、、どうした?」

 

 

振り返ると全員が目を丸くしてキョトンとしており、頭の上からも、"オー,,と感心の声が上がった。

とりあえず訳を聞くためエルを下ろした。

 

 

キング「…貴方って、トレーナーやたづなさんと話す時だけ年相応に見えるわよね」

 

スペ「大人っぽいというか、かっこいいですよね」

 

エル「エル達といる時は年の離れたお兄さんって感じがしマスけど」

 

悟空「そんな事か。ははっ!オラだってもう30歳は超えてるからな!決める時は決めるさ」

 

エル・キング・グラス・スカイ・スペ『おぉぉ…』

 

悟空「よしっ!じゃあ着替えてくるな。おめぇ達は先に行っててくれ!」ビュン!ブワァッ

 

 

悟空は軽く走った。

初速からウマ娘のスパート時と同じくらいの速度で。

その風圧がスペ達の髪を靡かせた。

 

 

スカイ「……最後の最後は決めれなかったね」

 

キング「あれで目立つなって方が無理な話よ…」

 

スペ「最低限の力でもウマ娘以上はあるもんね」

 

エル・グラス「「……」」コクリ

 

 

  

 

    ・

    ・

    ・

 

 

 

 

 

 

悟空「さて!いっちょやっか!」

 

 

道着を身につけた悟空が言うと全員がキョロキョロとお互いの目を見合わせた。

 

 

スペ「…何するか決めたっけ?」

 

スカイ「いんやぁ。悟空さんを呼ぼうってなっただけで特に何も」

 

キング「キングにあるまじき失態だわ…」

 

悟空「ありゃ。そんじゃあ何かしてぇ事はねぇのか?オラは何でも良いぞ」

 

エル「悟空さんトレーニングがしたいデェス!」

 

キング「チームが違うから却下ね。何かあってからじゃ遅いし」

 

エル「………けちキング」ボソッ、

 

キング「何ですって!?」

 

グラス「まぁまぁ、……でも、確かに悟空さんならではの事がしたいですね」

 

キング「グラスさんまで…」ハァ

 

悟空「そうだなぁ………おしっ!ゲームすっか!」

 

スペ「ゲーム?」

 

悟空「おう。前にウララとやったんだけど、それなら修行にもなるし、怪我なんてこれっぽっちも考えなくて良い」

 

スカイ「えー、そんな都合の良いゲームなんてある〜?」

 

グラス「ゲーム内容はなんですか?」

 

悟空「簡単だ。オラにタッチ出来た奴が勝ちだ」

 

エル・キング・グラス・スカイ・スペ

『……………………』ジー

 

 

何が簡単だ………全員の考える事は容易に一致した。

 

 

悟空「ん?どうした?」

 

スカイ「しつもーん!悟空さん追いかけるならレース以上に疲れそうなんだけどぉ」

 

悟空「オラはその場から動かねぇぞ」

 

キング「動かない?………ふん、そう言って私達には分からない速さで動くのでしょう。見え見えよ」

 

悟空「だから動かねえって。突っ立ったままだ」

 

スペ「へ?ほんとのほんとにその場に立って、なーんにもしないんですか?」

 

悟空「おう!」

 

グラス「それゲームになりますか?」

 

悟空「へへっ。やってみれば分かるんじゃねぇか?」

 

グラス「っ、…望む所です」

 

 

その一言に全員が膝を緩めて臨戦体制の構えをとった。

 

 

悟空(……やっぱ、良い"気,,してんなぁ)

 

 

悟空は少し距離をとるために歩きながら思う。

黄金世代。今のレースを語る上では欠かせない程の実力者が集まる1つの世代。

その中でも上位に君臨する者達の圧力を浴びて、悟空は楽しそうに笑った。

 

そして、

 

スペ達から10mほど離れた位置で立ち止まる。

 

 

悟空「制限時間は何分くれぇが良いかなぁ」

 

キング「そんなの必要ある?」

 

悟空「ああ。決めねぇといつまで経っても終わんねぇだろ?」

 

キング「っ!」

 

 

悟空の発言が意図的なのかは不明だが、暗に伝わる。 

ーーお前達が勝つ事はない、と。

 

 

グラス(何というか、自然と身が引き締まります。これがウララちゃんが日々感じている悟空さんの姿ですか)

 

 

グラスは昂る鼓動を抑えるように深呼吸をした。

それに伴い、各々が体を伸ばしたり、屈伸したりと準備運動を行う。

 

少しの間見ていた悟空は頃合いだと判断し、口を開いた。

 

 

悟空「そんじゃあ、ゲームスタートだ!」

 

 

直後に訪れたのは沈黙。

一番最初にタッチした者が勝ちと言う事は理解しているが、まずは悟空と他のウマ娘の動きを様子見する選択をした。

 

1人を除いて。

 

 

エル「先手はエルがもらいマース!」

 

 

ズザッ!と地を蹴ると勢いのまま加速した。

たかが10m。人間でもすぐの所。

誰も声を出す前に、エルは悟空の間合いへと侵入し、手を伸ばした。

 

 

エル「ゲームスタートと同時!ゲームクリアデェス!」

 

悟空「・・・」

 

 

 

 

ーーーーーースカッ。

 

 

エル「………ほぇ?」

 

 

情けない声が出た。

無理もない。確実に当たる距離で空振ったのだから。

 

 

悟空「惜しかったな、エル」

 

 

呆然とするエルを見る悟空。

その横からスペが地を駆けた。

 

 

スペ(隙ありだよ!悟空さん)

 

 

エルを見ていた悟空は、ゆっくりと横を向いてスペと視線を交わした。

何をしてももう遅い。スペは勝ちを確信してダイブした。 

 

ーーエルの所へ。

 

 

エル「ケ?…ッッッ!ちょ、スペちゃ!?」

 

スペ「へ?うわぁあああああ!!!」

 

 

ドシャッと音がなると、そのままゴロゴロと転がってしまう。やがてエルを下敷きにして止まると、目を回しながら訴えた。

 

 

スペ「なんで邪魔するのぉぉぉぉ」

 

エル「スペちゃんがワタシに飛び込んで来たんデース…」

 

 

体力を回復するためか、寝そべって動かない2人に悟空は佇んだまま声をかけた。

 

 

悟空「エル、スペ。怪我はねぇかー?」

 

エル・スペ「「だ、だいじょーぶでーす……」

 

 

あの様子なら心配ないかと悟空は思い、意識を2人から"背後,,へと向けた。

 

 

悟空「おめぇらしいな、スカイ」

 

スカイ「…やっぱり分かっちゃいますよね〜」

 

 

悟空の死角となる背後にスカイが居るのに関わらず、悟空は前を見続ける。

スカイの動きを読んだのは悟空だけじゃない。勝手に連携を取ろうとキングが迫って来ていた。

 

 

キング「謎は解けないけど、同時ならどうかしら?」

 

 

宣言通り、寸分の狂いなく同時に手を出した。

 

 

悟空「悪くねぇ。けど…、」

 

 

"それだけじゃあ無理だな,,と呟くと、前後の手が空を切ったのを感じた。

 

 

キング「くっ!」

 

スカイ「ダメかーっ!」

 

 

キングとスカイは悟空を挟んだ状態で何度も手を伸ばすが結果は変わらない。すり抜けるように空振ってしまう。

 

 

キング「わ、分かったわ!悟空さん分身しているのでしょ!悟空さんは動いてないけど分身だから手がすり抜ける!どうよ!?違う!!?」ドヤァッッッ!

 

悟空「違うな」

 

キング「え、………違うの?」

 

悟空「ああ。おめぇが言ってんのは残像拳っちゅー技で、その名の通り残像を残してるだけだ。言ったら高速移動の応用だな。今は一歩も動いてねぇから出来ねぇ技だ」

 

キング「…………そうなのね」

 

スカイ「ぷっ、くくくっ!キングすっごいドヤ顔してたねぇ」

 

キング「う、うるさいっ!」

 

 

キングは恥ずかしさから後退。スカイは分析するためにキングの後を追った。

エルとスペも体勢を整えてはいるものの、すぐには来ないらしい。

悟空は最後の1人に話しかけた。

 

 

悟空「何か意外だったな」

 

グラス「…何がですか?」

 

悟空「おめぇが2.3番手くらいに来ると思ってたからよぉ。随分と勿体ぶるじゃねぇか。何か良い手見つかったか?」

 

キング(この人って何で勝負事になると煽りスキルが上がるのよ)

 

グラス「っ、…行きますよ」

 

スペ(グラスちゃんって結構流される所あるんだよね)

 

 

4人からの注目を集める中、グラスはすり足気味に歩きだした。

1歩、2歩、、と、どんどん間合いに入っていく。

 

 

エル(グラスは何かに気付いたんデスかね)

 

スカイ(超ゆっくりやったら当たるとか?)

 

キング(それより近過ぎない?手どころか体が当たりそうなのだけど)

 

スペ(体ごといくのは私失敗だったよ。…何故かエルちゃんの方に行っちゃったけど)

 

グラス「・・・・」

 

悟空「・・・・・」

 

 

至近距離で睨み合うかのように見つめる悟空とグラス。

悟空に触れるだけというゲームなのに、何故かとてつもない緊張感が周囲一帯に漂いはじめた。

外から眺めるスペ達が生唾を飲み込む。一際強い風が吹き荒れ、グラスの髪が感情を表すかのように乱れると、

 

 

グラス「・・・・」

 

 

ーーークルッと踵を返した。

 

 

エル・キング・スカイ・スペ

『何それ!!!!?』

 

 

思わずツッコミを入る。

顔を真っ赤にしながら戻って来るグラスを取り囲んだ。

 

 

グラス「み、見ないでくださいっ」

 

エル「あんなに思わせぶりな事しといて恥ずかしがっている場合デスか!」

 

キング「あなた今のは酷いわよ!」

 

スカイ「あんな雰囲気出して何もしないは、ちょっとねぇ〜?」

 

グラス「〜〜〜っ!」

 

 

怒涛の如く詰め寄られても、グラス自身もそう思っているのかプルプルと震えるだけだった。

そんなグラスの肩にスペは優しく手を置いた。

 

 

スペ「もー、みんな言い過ぎだよ。グラスちゃんだって頑張ったんだから」

 

グラス「す、ぺちゃんっ…」

 

エル「…あれのどこを見て頑張ったと言いマスか?」

 

キング「庇ってる様だけど、ツッコミが1番早かったのスペさんよね?」

 

スカイ「うん。私もそう思う」

 

グラス「スペちゃん?」

 

スペ「………よしっ!次行こっか!」

 

スカイ「スペちゃん……天然さんだったのに、強かな子になったね」

 

 

その一言にエルとキングはもちろん、グラスまでもが頷いた。

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

 

開始から30分が経過。

悟空の周りには5つの抜け殻があった。

 

 

悟空「もう終ぇか、おめぇ達」

 

エル・スペ「「無ぅ理ぃぃぃ…」」グッタリ

 

悟空「だらしがねぇなぁ」

 

スペ「そんな事言っても、タッチしたら」

 

エル「空振りィィィ」

 

スペ「飛び込んだら」

 

エル「ハズレェェェ」

 

エル・スペ「「どうしろって言うんですか!」」

 

悟空「頑張れ!」

 

エル「くぅぅぅっ!スペちゃん!もっともっと頑張りマスよ!」

 

スペ「ムムムッ!ようし!行こうエルちゃん!」

 

悟空「おう。来い!」

 

 

熱意だけは凄まじく、スペとエルは空振り続けた。

 

 

スカイ「あーくそー。何で触れないんだよ〜」

 

 

スカイは座りながら両手を伸ばして嘆くと、そのままゴロンと横になった。

眩しく照らす太陽が目に入るが、それに重なるようにキングが現れる。

 

 

スカイ「…何さキング。パンツ見えるよ」

 

キング「ズボンなのに見える訳ないじゃない」フンッ

 

スカイ「透けてるよ」

 

キング「えっ!嘘でしょ!?」

 

スカイ「うん、嘘」

 

キング「………このまま踏んでも許される気がするわ」

 

スカイ「ごめんて。んで、セイちゃんに何か用ですかな?」

 

キング「ええ。……あなた疲れてるわよね?」

 

スカイ「ん?まぁ、そりゃあ…」

 

キング「ただ止まってる悟空さんにタッチするだけなのに、ウマ娘である私達が何で疲れるのかしら」

 

スカイ「………何が言いたいの?」

 

キング「分からない?この運動量と疲労がマッチしない事が前にもあったじゃない」

 

スカイ「?……………あっ!感覚トレーニングだ!」

 

グラス(感覚トレーニング?)ミミピコピコ

 

 

密かに左耳を傾けていたグラスは右耳も向けた。

 

 

キング「そうよ。五感を使うトレーニングに加え、悟空さんの"気,,を感じ取っていた時、それと疲労の感じが似ているのよ」

 

スカイ「…にゃるほどねぇ〜。言われてみると確かに。そんじゃあ当たらないのは悟空さんの"気,,が原因なのかなぁ」

 

キング「可能性はあると思うわ」

 

グラス(……ふむふむ。だとすると、がむしゃらにやっても結果は同じという事ですね〜)ピコピコ

 

キング「ん?」

 

グラス(失礼しました〜)

 

 

キングの視線を受けてグラスは耳を元に戻した。

 

 

スカイ「それよりキング。私に教えて良かったの?勝っちゃうよ?」

 

キング「善意な訳ないでしょう。答え合わせよ。私が先にタッチするわ」

 

スカイ「へぇ〜、……お先っ!」ダッ

 

キング「あっ、待ちなさい!」ダダダッ

 

 

走りゆく2人を尻目に、グラスは情報をまとめていた。

 

 

グラス(…さっきの会話を前提に置くと、初めに私が何もせず戻ってしまったのは悟空さんの"気,,によるもの、みたいですね)

 

 

みんなからは責められてしまったが、1番困惑したのはグラスだった。気がついたら悟空から離れていたのだから。

 

 

グラス(しかし、"気,,がどのような役割を果たしているのかが分かりません。考えられるとしたら"気,,で私達の体を操ってるという事になりますが、そんな事は可能なのでしょうか?)

 

 

それに操ってたとしたらトレーニングにならないだろう。

その考えをボツにすると、答えが出ないまま闇雲に突っ込もうとした。

 

瞬間。

 

悟空のすぐ目の前にいるスペの後ろ姿を見てグラスは叫んだ。

 

 

グラス「っ、スペちゃん!!!!!」

 

 

それはヒートアップしたウマ娘の動きを止めるほどの大きな声。

エル達は視線を浴びせ、ビクリと肩を振るわせたスペは勢いよく振り返った。

 

 

スペ「ど、どうしたの、グラスちゃん!?」

 

 

駆け足気味にグラスの元へ。

そして目の前に立つと、グラスが首を傾げた。

 

 

グラス「? スペちゃん?」

 

スペ「何ですか?」

 

グラス「…………あら?」コテン

 

スペ「???」コテン

 

 

グラスはスペの全身を上から下まで何往復もさせると、逆方向に首を倒した。

 

 

グラス「……スペちゃん。その……怒ってますか?」

 

スペ「? 全然怒ってないよ」

 

グラス「ですよね……」

 

スペ「はい。…えっ、と。グラスちゃんは大丈夫、なのかな?」

 

グラス「あっ、は、はい!驚かせてすみませんでした!」

 

スペ「ううん。大丈夫なら良いんだけど、無理しないでね?」

 

グラス「はい、ありがとうございます」

 

 

グラスに異常が無いと分かると、スペは再度挑戦しに行った。

"アレ,,は見間違いだったのか。グラスは挑戦中のスカイを見た。

 

 

グラス(………………やっぱり。間違いじゃないですよね)

 

 

どう見ても"立ってる,,

スカイの耳は後ろ向きに、尻尾は猛烈に逆立っている。

 

 

グラス(でも、さっきのスペちゃんからは怒りなど全く感じなかった)

 

 

ウマ娘の耳や尻尾は感情を強く表す。

嬉しい時はピンと立ち。尻尾はユラユラと。

悲しい時は前に倒れ。尻尾は垂れ下がる。

そして怒っている時は、今のように耳は後ろに倒れ、尻尾の毛は全て逆立つ。

 

さっき悟空の近くにいたスペは、その怒ってる状態だったため、宥めようとグラスが声をかけたのだが、当のスペからは逆に心配されてしまった。

 

 

グラス(まぁ、他にも興奮してる時などにもなるので、特別おかしい話では無いのですが……)

 

 

理解はすれどスッキリはしない。

腑に落ちない点は違和感として残り、グラスの心に棲みついてしまった。

 

 

グラス(……試してみますか)

 

 

己の体を実験台に決めると、最初の時のように歩き出した。

 

 

エル「おっ、今度はグラスが行きマスか」ハァ、ハァ、

 

スカイ「が、頑張ってねぇ〜」ゼー、ハー、

 

 

もはや早い者勝ちというより、悟空の鼻を明かしたいから誰か早く触れという状態になっている。

それでも意地があるのか。コンビネーションやフェイントなど相談をしないあたり、あくまで勝者は1人という事だ。

 

 

グラス(悟空さんから約10歩。触る事ではなく、謎を解く事に集中)    

 

 

じっくりと、一歩ずつ。反応が起こるであろう境界線を確かめながら歩いた。

 

 

キング「? やけに遅いわね」

 

スペ「最初と一緒だし、何か考えがあるのかな」

 

グラス(明鏡止水。感情に左右されぬよう、無になるのです)

 

 

今でこそ考えて行動しているが、それまではグラスも何十回と悟空に立ち向かっていた。

故に肩で息をするほどの疲労も蓄積されている。だが、耳と尻尾が逆立つ謎を解明するには、邪魔な要素を全て取り除かないといけない。

グラスは運動後の心拍を深呼吸で調整しながら歩みを進めた。

 

 

そして、

 

 

ついに"アレ,,が起こった。

 

 

 

グラス(っ、立った!立ちました!)

 

 

興奮のあまり、逆立った尻尾や耳を触りまくる。しかし触らなければ自覚症状がない事に驚いた。

 

 

悟空「グラス?」

 

グラス「…………なるほど〜」

 

 

すぐ目の前には悟空がいる。なら発生条件は悟空の近く。更に言えば、

 

 

グラス(悟空さんの間合い。これに一歩でも侵入するとなりました)

 

 

偶然なんかじゃないだろう。

悟空が意図的に何かをしてる事が判明した。

 

 

悟空「ぐ、グラス?何か言えよ…」

 

 

悟空がたじろぐ。

それもそのはず。グラスは思案中ずっと悟空の目を見続けているからだ。

無垢な瞳は瞬きすることもなく、ただひたすらと。…正直不気味だった。

 

 

グラス(試しに一手)

 

 

これまたゆっくり手を伸ばす。

すると悟空を避けるようにグラスの体が傾き、手は悟空の横を通った。

 

 

エル「へーい!グラスどんまいデース!」

 

スペ「次だよ次ーっ!」

 

 

背後から聞こえる声援っぽいものを聞きながら、グラスは1つの仮定を導き出した。

 

 

グラス「…………ねぇ、悟空さん」

 

悟空「お、おう。おめぇ…気味悪ぃけど大丈夫か?」

 

グラス「悟空さん。ーーーー漫画や映画などである"殺気,,というのは実在しますか?」

 

悟空「!………ああ。確かにある」

 

グラス「……そうですか」

 

 

一言呟いてグラスは背を向けた。

 

 

悟空「………来ねぇんか?」

 

グラス「次で決めます」

 

 

それは勝利宣言だった。

悟空は口角だけ上がった状態で、"待ってんぞ,,とだけ言った。

その2人の会話が聞こえなかったエル達は、仕切り直しとばかりに活気付く。

 

1人離れたグラスは仮定が確定になった事で歓喜に震えた。

 

 

グラス(間違いない。私の考えは合っています!)

 

 

仮定を決める段階でグラスは自分に言い聞かせた。

 

曰く、相手は孫悟空。この世の常識を当てはめるな、と。

 

その上で頭の中にキーワードを箇条書きにした。

・孫悟空に触れない。飛びつく事も不可能。

・孫悟空は動いていない。 

・孫悟空は"気,,を使用してる。

・孫悟空の近くにいる時だけ耳の尻尾が逆立つ。

 

そして、グラスが直に聞いた"殺気,,の事。その答えで全てが結び付いた。

 

悟空に触れなかった理由。それは…

 

 

グラス(私達ウマ娘の"本能だけ,,に伝わる殺気。触れなかったのは、私達が無意識のうちに悟空さんから逃げていた)

 

 

悟空は自分の間合いにだけ、"気,,を張った。

だからその内に入った時だけ無意識に疲れ、尻尾と耳が反応。

手で触れる瞬間だけ、とても小さく。それでいて濃厚な殺気が、感覚に敏感なウマ娘の本能だけを刺激した。

 

 

グラス(最初にスペちゃんが飛び込んだのに、何故かエルに突撃したのは接触する事を恐れたから)

 

 

自分達がどれだけ模索しようとも、武術を極めた悟空ならフェイントかどうか見極める事なんて容易いだろう。

 

 

グラス(ですが、謎が分かれば後は簡単。恐怖を乗り越えるため自分の意思をしっかり持てば触れるはず)

 

 

思わず笑みが浮かんだ。

グラスとてスペ達と変わらない学生だ。ゲームをクリアする事の喜びは計り知れない。

 

グラスは笑顔のまま振り返り、悟空を見た。

 

 

グラス「ッッッッッッッッ!!!!!!!」

 

 

一瞬止まったのは呼吸。今度は耳と尻尾が逆立った事に自覚があった。

それだけではない。今も10mほど離れているのに足が勝手に後退していく。

ズリズリと砂利を擦る音が耳を刺激した。

 

 

グラス(愚かなっ…私は大バカ者です……思い違いも甚だしいっ!)

 

 

悟空はゲーム中、ウマ娘の"本能だけ,,に殺気を飛ばし、"気,,で無意識のうちに刺激して疲れさせた。

 

 

 

それなら、謎を解いて無意識を意識してしまったら……。

 

 

 

 

本能だけでなく、身体全体で理解してしまったら……。

 

 

 

 

 

孫悟空という戦士の全貌が明らかになってしまったら。

 

次に襲い掛かるのは覆しようがない程の実力差。

 

 

グラス(っ、怖い!悟空さんがとてつもなく恐ろしい!)

 

 

以前スーパーサイヤ人の力を見た時とは違う。明確に、1人の対戦相手として悟空の圧力を感じとってしまった。

 

当然だが相手にすらならない。ウマ娘の本領である脚力でも、この男の前ではジョギング程度にしかならないのをグラスは知っている。

 

まるで罠に掛かった動物だ。後はじっくりと狩られるだけにしかならない。

周囲では和気藹々とゲームをしている中でただ独り、グラスは顔が真っ青のまま震えていた。

 

 

グラス(だ、めです。このままここに居てはとても耐えきれないっ。適当に理由つけて消えないと…)

 

 

この時グラスは殺されるとまで思っていた。もちろんそんな事は万に一つもない。しかしこれまでの悟空との関係を壊すほど、悟空の事が恐怖の対象になっていた。

 

 

 

 

【呆気なかったなグラス。結構期待してたんだけどなぁ】

 

 

グラス「っ、これは…」

 

 

突如脳内に響く声。何度も経験した事。

引き寄せられるように見た声の主は、こちらを見ずにスペ達と笑い合っていた。

 

 

【すまなかったな。おめぇ達なら…グラスなら行けるんじゃねぇかって、少しやり過ぎた。スペ達には上手い事言っとくからよぉ】

 

 

 

 

 

   【そのまま"逃げて良いぞ,,】

 

 

 

グラス「に、げ、、、、っ、」

 

 

グラスは必死に言い返した。

 

 

グラス【確かに逃げですが、間違ってません!このまま居ても無理なんですよ!レベルが違い過ぎます!言わば戦略的な事でもあるんですっ!!!】  

 

 

今までと同じように、確かにテレパシーを返した。

 

 

なのに、

 

 

 

悟空「ははは!どうしたスカイ、キング。そんなとこで寝てたら風邪引くぞー!」

 

スカイ「セイちゃんは休憩中でーす!後10秒したら、揉みくちゃにしちゃうからね!」

 

キング「き、キングだって視点変えて見てるだけよ!寝てなんてないわ!」

 

スペ「それはちょっと無理があるよ…」

 

エル「この間にエルが勝利しマース!」

 

 

 

グラスは取り残されてるようだった。

 

 

グラス(なん…で、、、私は、)

 

 

勝負なら立ち向かう。

だけどこれは勝負じゃない。無謀だ。

グラスの目の前には死が存在しているように見えている。

危険な事からは逃げても良いはずだ。そう思った。

 

 

グラス(だから悪徳記者が来た時も逃げようとした)

 

 

助けに来てくれた駿川たづなを置いて。

 

 

グラス(違うっ!あのまま居たら邪魔になっていたんです!だから…)

 

 

刃物を出される前は強気だったにも関わらず。

 

 

グラス(…………)

 

 

所詮は力関係の中で生きる者だ。

 

 

グラス(………………………)

 

 

グラスの心を蝕む言葉。それは深層心理だろう。グラスの心に根付いでいた過去が、次から次へと掘り起こされていった。

 

 

 

その中に1つだけ、光輝くモノが出てきた。

 

 

 

グラス(……無様な。何が、ーー不退転か)

 

 

己が掲げた誓い。"不退転,,

退かない事。

屈しない事。

信じて心を曲げない事。

 

それは状況によって崩しても良いモノなのか。

あの悪徳記者の時の行動は本当に正しい事だったのか。

 

断言出来る。正しい事だ。

 

 

 

ーーグラスワンダー以外の者ならば。

 

 

グラス(……後悔…していたんですかね、私は。死を恐れ悪に屈した事を……それでは、今逃げたら私はどうなるのか……考えるまでもありませんね)

 

 

 

 

(逃げて言い訳をして生き恥晒すのなら…)

 

 

 

 

 

(また同じように後悔するのならっ)

 

 

 

 

グラス(ここで死になさい!グラスワンダー!!)

 

 

 

 

 

 

 

ーーーードンっ!!!

 

 

悟空「・・・・」

 

スペ「ん?何の音?」

 

エル「後ろから聞こえマシタね」

 

 

悟空を含めた全員が音のする方を見た。

 

 

グラス「…………っ!」グシャッ!!!

 

 

スカイ「ちょ、、っと、嘘でしょ…アレって…」

 

キング「"前掻き,,……よね…」 

 

 

信じられないとばかりに、目を見開く。

 

"前掻き,,とは、自身の足を地面に叩きつけて、砂を掻く動作の事。

しかしそれはウマ娘の中でもする者はごく僅か。とても品が無い行為とされている。

 

 

エル「っ!グラァス!それは駄目デス!!」

 

 

グラスのメンツに関わる事だからと、必死になって止めようとした。…が、

 

 

悟空「エル!グラスを止めるな!」

 

 

鋭い声が待ったをかける。

 

 

スペ「で、でも!アレをやるって事は、グラスちゃんとても追い詰められているって事ですよ!黙って見てるなんて出来ません!」

 

悟空「………いや、アイツは追い詰められてねぇ」

 

スペ「え?」

 

悟空「逆に、"気,,が安定してきてる」

 

 

そう言って悟空が見つめるように、スペ達も心配そうに見つめた。

 

 

 

 

 

ドン!グシャッ!ーー、

 

 

 

ドン!グシャッ!ーー、

 

 

 

グラス(甘い考えなど捨てなさい!悟空さんだから大丈夫でない!相手が誰であろうと退く事は許されない!もう一度心に誓うのです!ーーー不退転をっ!)ドンッ!グシャッ!

 

 

最後に強く地面に叩きつけると、その場で深く息をついた。

 

 

 

悟空「………おめぇ達は下がってろ」

 

エル「……グラス」

 

スペ「エルちゃん…」

 

スカイ「とりあえず、離れよう……」

 

キング「そうね…」

 

 

 

グラス「・・・・・」

 

 

今日で3度目となる静かな歩み。

だが1回目と2回目で異なる事は、その歩みに迷いが無い。スタスタと当たり前のように悟空の懐へと潜り込んだ。

 

 

グラス「お待たせしました」

 

悟空「ああ。待ちくたびれたぜ」

 

グラス「それは失礼しました。勝手ついでに申し訳ありませんが、私の全てを受け取って下さい」

 

悟空「もちろんだ」

 

 

淡々と会話を楽しむ2人。

悟空に釣られたのか、グラスは笑みを浮かべた。

 

 

 

グラス「………………いざ」

 

悟空「尋常に」

 

 

 

悟空・グラス「「勝負ッ!」」

 

 

 

掛け声と同時。

 

 

スペ達は、ドスンッ!という鈍い音を耳にした。

 

 

 

 

悟空「……」

 

グラス「……」

 

悟空「…………効いたぜ」

 

 

悟空は自分の腹にめり込んだ拳を見ながら呟いた。

 

 

グラス「…ふふっ、ウマ娘のパンチを食らったのなら、少しは怯んでもらいたいのですけどねぇ〜」

 

悟空「そう簡単には無理だな。オラも鍛えてっから」

 

グラス「鍛えてるの一言で納得するのは悟空さんくらいのものですよ」

 

悟空「ははっ!かもな。まぁとにかく、ゲームクリアだ」

 

グラス「…ヤッタ……やりましたぁ!」クルッ

 

 

バンザーイと両手をあげて振り返った。

 

 

エル「……」

 

キング「……」

 

スカイ「……」

 

スペ「……」

 

 

グラス「……あら?」

 

 

無言だった。

寒暖の差が激しく、ゆっくり手を下ろすと勇気を込めて呟いた。

 

 

グラス「あ、あの……」

 

スペ「……グラスちゃん、大丈夫なの?」

 

グラス「? 何の事でしょうか?」

 

キング「あんな事しておいて何の事も何も無いでしょう!!!」ピキピキピキ

 

グラス「ヒッ!…き、きんぐちゃん?」

 

スカイ「いやー驚いたなぁ。うん、ビックリした。一緒にいたのに置いてけぼり食らってるもん。現在進行形でね?」

 

グラス「セイちゃん…あ、悟空さんの謎解明したんですよ」

 

エル「ヘェー。その調子でグラスの謎も教えてくれると助かるのデスが」

 

グラス「私の謎…………あっ!前掻きの事ですかっ!し、失礼しました!あれは自分を奮い立たせるためにっ、」

 

スペ「あー、いや、それより先にゲームクリアしたんだからご褒美あげようよ」

 

グラス「ほっ、ほうび、とは?」

 

キング「あぁ。良いわね。せっかくだし胴上げしましょうか」

 

グラス「あの……みなさんは先程から何を…」オドオド

 

スカイ「ねぇ、悟空さん。後は頼んでも良い?」

 

エル「出来る限り高く。10回くらいお願いしマス」

 

グラス「え、えーと……お断r」

 

 

シュン!と音が鳴ると、グラスは既に悟空によって持ち上げられており、冷や汗を垂らしながら見下ろす形になっていた。

 

 

悟空「にひひ〜。まっ、そういう事みてぇだから楽しもうぜ?」

 

グラス「い、いや…ごめ、許してくだ、ーーー」

 

 

 

 

瞬間。

スペ達は少女の声で10回ほどのドップラー効果を聞きながら笑っていた。

 

 

 

      ・

      ・

      ・

 

 

 

キング「なるほど。本能にね。それは気付かなかったわ」

 

スカイ「やっぱり"気,,も使ってたみたいだしね〜。今回のはやられたかな」

 

スペ「グラスちゃん凄ーい!」

 

エル「さっすがグラァス!エルも今回ばかりは負けを認めマース!」

 

グラス「」グッタリ

 

 

もう全部言った。

悟空の謎の全てと。前掻きに至るまでの経緯。それを言ったら、"相談しろ!,,と怒られたが、討論する力はグラスに残ってなかった。

 

 

 

悟空「いやー!でも今回はオラもヒヤヒヤしたぞ!さすがに言い過ぎたなぁって思ってたんだ!」ハハッ

 

グラス「い、いえ、、、おかげで私も吹っ切れる事が出来たので…」

 

スペ「ちょっと危なっかしい感じするけど……監視が必要かな?なんちゃって」

 

グラス「スペちゃんの監視…………はい!必要かと思i」

 

スカイ「そういえばさぁ、悟空さん。ウララも同じゲームやってクリアしたんだよね?」

 

グラス(かき消されました………でも気になりますね)

 

悟空「ああ」

 

スカイ「何分くらいで出来たの?」

 

エル「私達…というよりグラスは約45分って所デスね」

 

悟空「ウララかぁ、早かったぞ。こんくれぇだ」

 

 

そう言って悟空は手をパーにした。

 

 

スペ「5分!?」

 

キング「さすがに早すぎでしょう!15分とかじゃないかしら?」

 

悟空「いや5秒だ」

 

 

『ーーーーーは?』

 

 

悟空「あれにはオラもどうしようかと思ったぞ。おめぇ達の言う通り本能が察知するギリギリに殺気ぶつけたんだけどよぉ」

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

ウララ《ーーーーゲームは悟空さんに触ったら勝ちって事で良いのかな?》

 

悟空《おう!簡単で良いだろー》

 

ウララ《うん!面白そう!何で動かないのか分からないけど、ウララ本気で行っちゃうからね!》

 

悟空《当たりめぇだ。んじゃ行くぞ?よーい、スタート》

 

 

 

ウララ《わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!》ズドドドドドドド!!!!

 

悟空《!!?》ビクッ

 

ウララ《タァァァァァッチィィィィ!!!!!》ポン

 

悟空《あ、》

 

ウララ《え?》

 

悟空《……》

 

ウララ《……》

 

悟空《何で触れんだ?》

 

ウララ《何でなにもしないの?》

 

 

 

   

ーーー

 

 

 

悟空「ってな感じでよぉ。良くも悪くも、なんっっっにも考えてなかったんだよウララは」

 

スカイ「そんなのあり?」

 

スペ「ん?でも私も最初は何も考えてなかったよ?」

 

悟空「スペやエルと違う所は力の出し方だな。アイツは開始早々に120%の力で来たから本能が感じる以前だったのかも知れねぇ。

まっ、今回のゲームで大事なのは時間っつーよりクリア方法だからな。グラスもあんま気にする事ねぇぞ」

 

グラス「……5秒…ふふっ、面白いですよウララちゃん。雌雄を決する相手として不足なしです」

 

エル「ケー…駄目デスね、これは」

 

 

 

 

 

 

次回予告:セイウンスカイ

 

悟空さんの話題で盛り上がってたんだけど、グラスちゃんが自分だけ話せるエピソードがない事に気付いて悟空さんとお出掛けしに行くらしいよ。

   「予告適当すぎませんか!?」

 

 

 



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グラスワンダーは悟空と遊びたい!




・前半の導入部分で尺を取り過ぎちゃいました。長くなりすみません。

・オススメです。"トレセン音頭,,を聞いてください。とてもクセになり気がつけばリピートしてます。

・アーモンドアイは最強牝馬






 

 

 

 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

グラス「いざ」

 

悟空「尋常に」

 

悟空・グラス『勝負!!』

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

グラス(…………)

 

スカイ「それでさー!この前悟空さんとホラー映画見たんだけど、途中で寝てんの!酷くない!?私めっちゃ怖かったからね!」

 

スペ「あははは!酷いけど、悟空さんでしょ?そりゃあ寝ちゃうよ!悟空さんならやっぱり食べ歩きだって!私は屋台巡りしましたよ!」

 

キング「全く、太っても知らないわよ」

 

スペ「えへへ」

 

キング「というより知ってた?あの人と言えば力と食事だけれど、DIYだってお手のものよ?小さい頃は木を組み立てて生活の道具にしてたんですって。最近は伐採した木を利用して一緒にトレーニング器具を作ったわ」

 

エル「え、キングがノコギリぎこぎこしたんデスか?」

 

キング「もちろんよ」

 

エル「っぷ!似合わないデース!」

 

キング「失礼ね!加えて言うなら頭にタオルだって巻いたわよ!」

 

エル「アハハ!最っ高デース!エルは……あ、そういえばこの前悟空さんに乗せてもらってマンボと一緒に空を飛びマシタ!とても気持ち良かったデス!悟空さんとマンボが会話してたのには驚きマシタけどね!」

 

スペ「マンボ君と悟空さんが?…私達が猫や犬に話しかける感じかなぁ」

 

エル「いえ、しっかり意思疎通してマシタ!"次はあっち,,や"遠くに行くなよー,,とか言ったら、マンボが鳴いた後それの通りにするんデス!」

 

スカイ「まじか……って、そういやヤジロベェとも話してたっけ」

 

キング「誰よ。ヤジロベェって」

 

スカイ「熊。私の友達だよ」

 

キング「…………は?」

 

スペ「く、くまって…」

 

エル「ベアーデスか!?」

 

スカイ「いえーす。ベアー」

 

エル・キング・スペ『oh…』

 

スカイ「今度みんなにも紹介するね〜」

 

エル・キング・スペ『…………結構です』

 

スカイ「はああああ!?何それ!噛まないから大丈夫だって!私の友達なんだよ!?」

 

キング「い、いえ、悪いとは思っているのだけど…」

 

スペ「私、北海道にいるとき熊を見たら死を覚悟しろってお母ちゃんに言われてるし…」

 

エル「マンボが食べられてしまいマス…」

 

スカイ「食べないよ!!!」

 

 

ーーーワー!ワー!、ギャー!!ギャー!!

 

 

 

グラス「…………」

   

 

エル「ーーー悟空さんって地球の裏側から泳いだり……」

スペ「ーーー100万キロの道を半年で走ったり……」

 

グラス(………)

 

スカイ「ーーー雪山で遭難して固まったって……」

キング「ーーー雲より高い塔登ったらしい…….」

 

グラス(……………)

 

 

 

 

スペ「ーーーそれでね!悟空さんとオグリさん、でッッッ!!?」バサァァァッ!

 

スカイ「ど、どうしたのスペちゃん?」

 

キング「尻尾大変な事になってるわよ」

 

スペ「う、ん……何かすごい寒く感じて…」サスサス

 

エル「急にデスか?……エルは思いマセンけど、」

 

スカイ「私もかな。もしかして風邪?」

 

スペ「風邪…じゃないとは思う。何か感じた事があるような気が…、」

 

キング「悟空さんみたいな事言うのね。どんな感じなのよ」

 

スペ「う、ん、、。何かね、私の体がネバネバしたものに覆われてるような。同時に心臓が握りしめられてるみたいに苦しくて。湿地帯にいるようなベトベトした感じ」

 

キング「…何1つ理解出来ないのだけど、異常発生って事は分かったわ」

 

エル「でもそんな気持ち悪いものどこで感じたんデスか?」   

 

スペ「えっと、アレは確か………あっ!たかr」ピタッ

 

スカイ「? スペちゃん?」

 

スペ「………気のせいでしたっ!」

 

キング「はあ!?あんなに事細かく説明していたのに?」

 

スペ「えへへ、ごめんごめん。……、」チラッ

 

スカイ(ん?スペちゃん、どこ見て…………なるほどね。さっきの気持ちは宝塚の時に感じてたのかな)

 

グラス「………………………」

 

 

スペとスカイは見た。

グラスの耳が前のめりに倒れているのを。

 

 

スカイ(でも何でそんな事に、……………!……グラスちゃん。さっきから黙ったままだけど、話す事がなくて喋れないんだとしたら。思えばグラスちゃんから悟空さんの話し聞いた事なかったし。………って、嫉妬か!拗ねてるって事!?自分だけ話せないから耳垂らして拗ねてんの!?なにそれ、かッッッわッッ!!!)

 

 

ヒント無しの状態から速攻で答えを導き出したスカイ。

 

 

スペ(……グラスちゃん。……耳垂れてるけど何でなんだろ?この圧力はグラスちゃんで間違いないだろーし………………あっ!グラスちゃんも悟空さんと食べ歩きしたかったのかも!)

 

 

スペも答えに辿り着いたが、合っていたのは5割だけだった。

 

しかしそれを直接グラスに言っても否定するだろう。どうせ堅苦しく物事を考えて、悟空の時間を奪うのは自分のわがままだと言うはずだ。

 

そんなグラスの性格を熟知している2人は暗躍する事を決意する。

しかも運が良い事に絶好の機会はすぐに訪れた。

 

 

キング「さて、と」ガタッ

 

エル「トイレデスか?」

 

キング「違うわよ!ウララさんが補習の事を悟空さんに伝えに行くのよ。忘れてて悟空さんに伝えてないから言っといてほしいってね」

 

グラス(!!!)

 

スペ・スカイ((チャンス!!!))

 

エル「あらら。補習とはウララも怠け者デスねぇ」

 

キング「そうね。先日補習を受けたエルさんと同じ怠け者だわ」

 

エル「」

 

キング「じゃあ行k」

 

スペ「キングちゃん!一緒にご飯食べに行きましょう!」

 

キング「いや、悟空さんに伝えてこないとって言ったばかりよね」

 

スペ「伝えるのは他のヒトが行ってくれますよ!私はキングちゃんとご飯を食べたいです!」

 

キング「…そんなに誘ってもらえて嬉しいのだけど、遠慮させてもらうわ」

 

スペ「なして!?」

 

キング「あなたダイエット中よね」

 

スペ「ぁ、」

 

キング「そのせいでライバルが肥えて走れなくなる所なんて見たくないわ」

 

スペ「」

 

スカイ(全く。スペちゃんはいつまで経ってもスペちゃんだね〜)

 

キング「じゃあお先、」

 

スカイ「えー、キング行っちゃうの〜?今セイちゃんは併走相手探してるんだけどなぁ」

 

エル「わおっ!スカイが自分からトレーニングとは珍しいデスね!」

 

スカイ「まぁね〜」

 

スペ(確かに珍しい……それに、このタイミング…)

 

スカイ「……」チラッ

 

スペ(! まさかっ)

 

スカイ(スペちゃん、私も手伝うよ〜)パチッ!

 

 

スペの疑心はスカイのウインクによって確信を得た。

 

 

スペ(やった!これでグラスちゃんが自分で行くって言ってくれれば解決する!セイちゃんはトレーニングだけど)

 

スカイ(併走トレをキングが断るはずないからね〜。楽しんでおいでグラスちゃん。このセイちゃんの屍を超えて)

 

 

トリックスターセイウンスカイ。彼女の強さはヒトの考えを逆手に取る事。

ゆえにこの程度の事は造作もない。しかも相手はへっぽこウマ娘。コントロールするなど自由自在、

 

 

キング「いやよ」

 

 

だと思っていた。

 

 

スカイ「え?………ん?」

スペ (え?………ん?)

 

キング「だから嫌よ。あなたから言ってくるなんて何を企んでいるのか分かったもんじゃないわ」

 

スカイ「」

 

 

セイウンスカイ一つの誤算。

それは、

日常のセイウンスカイは自分で考えている以上に天邪鬼だった。

 

そのお陰でスペとスカイの作戦は失敗に終わる。

 

 

スペ(どどどどどーすんの、どーーすんの??)

 

スカイ(チャンスはコレしかない。ゴリ押しで行くよ!)

 

 

改めて作戦内容を確認。

悟空にウララが補修のためトレーニングは無しだとキングが伝えに行く予定だから、そのキングを何とか足止めし、代わりにグラスが行くように仕向ける。

 

 

スペ・スカイ((やってやる!))

 

 

ここに皐月賞バと東京優駿バのタッグが誕生した。

 

 

キング「………じゃあ、」

 

スペ(先手必勝だよ!いけっ、セイちゃん!)

 

スカイ「キーング!わたしと、」

 

キング「しつこい!!!」ガアッ!!!

 

スカイ「ヒンッ!」ビクッ

 

スペ(セイちゃんけっぱれ!)

 

スカイ(す、スペちゃん………よし!)「お願い!何だか今日凄く走りたい気分なんだよ!キングじゃないとやる気出ない!」

 

キング「私で左右されるやる気なら高が知れてるでしょ」

 

スペ(っくぅ〜、手強い!セイちゃん、次は下から攻めよう!)

 

スカイ(おーけー)「……ねぇ…あの……勝手な事言ってるのは分かってるけど……ほんとにだめ、かな?」

 

キング「っ!…い、いやよ。何か怪しいし…」

 

スペ(効いてる…のかな。次はカッコよく決めよう!)

 

スカイ(任せて!)「怪しい?それは誤解だよ。私はただキングヘイローという宿敵と切磋琢磨したいだけさ」

 

キング「………………は?」

 

スペ(…カッコいい?)

 

スカイ(ルドルフ会長verだよ。……ダメだった?)

 

スペ(う、、ん。セイちゃんのキャラじゃないかな。……次は元気にいってみよー!)

 

スカイ(りょーかい!)「それに見てよあの青空!そしてターフの澄んだ緑色!あそこで走れると凄く気持ち良さそうだよ!」

 

キング「まぁ……そうね」

 

スペ(もう少し!連続で決めるよ!次っ、熱血!)

 

スカイ「今ッ!私の魂が走れと叫んでいるんだよ!…もう止まれない………私は走りたいんだッッッ!」

 

 

 

 

スペ(クールに!)

 

スカイ「私の手をとって、お嬢様。共に行こうか」

 

 

 

 

 

スペ(ちゅうに?っぽく!)

 

スカイ(!!?)「…風が、少し騒がしくなって来た。この場に居てはダメ、早く行こう。…全ては、風が止む前に。……そう、私達のアルカディア(理想郷)へ」

 

 

 

 

 

スペ(ちょ、ちょっと……エッチに)

 

スカイ「きんぐぅ……ハァ……ンッ……もしもぉ、私と一緒に走ってくれるならぁ……フーッ、フーッ……私のチューを…ア ゲ ル♡」

 

 

 

キング「……………………」

 

エル「………………………」

 

グラス「…………余程キングちゃんと併走したいようなので代わりに私が行きましょうか」

 

キング「…………………ええ、お願いするわ」

 

スペ・スカイ((キタああああああああああああ!!!!!!!))

 

 

グラスの一言でミッションをクリアしたスペ達。

やはり楽しみにしていたのか、グラスは教室から飛び出すように走り去って行った。

 

 

スペ(やった!やったよ!セイちゃん!)ジー

 

スカイ(どんなもんよ!私が10割損した作戦は!)ジー

 

エル「………………さっきから見つめ合ってマスけど、どうしたんデスか?」

 

キング「…………」

 

スペ「ほぇ?い、いやー何でもないよ!それよりセイちゃんとキングちゃんは走りに行って来なよ!」

 

スカイ「そうだね!そんじゃあ行こっかキング!」

 

キング「嫌よ」

 

スカイ「ありぇ?」

 

キング「あなたの様子が変だから目を離したくなくてグラスさんと代わったけど、今はあなたと2人きりになりたくないもの」

 

 

キングはさっきの怪訝な表情とは違い、あからさまに嫌悪感を丸出しにしていた。

 

 

エル「そりゃそうなりマース」

 

スペ「? どういう事?」

 

エル「だって一緒に行けばスカイに襲われるんデスよ?」

 

スペ「?………あ、」

 

 

《きんぐぅ……ハァ……ンッ……もしもぉ、私と一緒に走ってくれるならぁ……フーッ、フーッ……私のチューを…ア ゲ ル♡》

 

 

スカイ「ッッッ、ちがっ!あれは冗談で言っただけで!全然、これっっっぽっちも本気じゃなかったから!」

 

キング「…………それなら行こうかしら」

 

スカイ「ホッ。………え、でもそんな駄目だった?」

 

キング「駄目か有りかで言うなら最悪ね」

 

エル「ぶっちゃけキモかったデース」

 

スカイ「キモっ!!?…………なんか…ごめん」

 

キング「いえ………こちらこそ…」

 

スペ「ま、まぁ誤解なんだし走っちゃえば忘れますよ!怪我しないように頑張ってください!」

 

スカイ「……………スペちゃんも来るに決まってるでしょ。脚質は"大逃げ,,でよろしく」

 

スペ「それただ疲れるだけのやつ!?」

 

キング「…エルさんも一緒に来てくれない?スペさんも不安だわ」

 

エル「オーケーデェス!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

そんな事が裏で起きてるとは知らず、グラスは悟空達のトレーニング場所へ来ていた。遠目から見えるのは山吹色の武道着。やはりトレーニングをする前提だったからか、柔軟体操を行っていた。

 

 

グラス「悟空さん」

 

悟空「オッス!おめぇもトレーニングか?」

 

グラス「いえ今日は休みです。伝言があって来ました」

 

悟空「伝言?なんだ?」

 

グラス「ウララちゃん。補修があるのを忘れていたらしく、今日のトレーニングはお休みにしてほしいとの事です」

 

悟空「補修!?…あー、やっぱマズかったかぁ」

 

グラス「何がです?」

 

悟空「いや、前によぉ、トレーニングすんのは良いけど、学生って勉強もしなくちゃ駄目なんじゃねぇかって聞いたんだ」

 

グラス「ええ」

 

悟空「そしたら、大丈夫…とは言うんだけど、目は逸らすは飲み物一気に飲み干すわで変だったからよ。やっぱ逃げてたか」

 

グラス「そのようですね〜」

 

悟空「まぁでも補修ならしゃあねぇか。教えてくれてありがとな!」

 

グラス「はい。……………あの、」

 

悟空「なんだ?」

 

グラス「悟空さんは…その……これから何か予定ありますか?」

 

悟空「あるぞ。ちょっと手間だけど、トレーニングがねぇ時に行かなくちゃいけねぇからな」

 

グラス「っ!………そうですか…」

 

悟空「グラスは今日なにすんだ?」

 

グラス「…そうですねぇ……何しましょうか」

 

悟空「用事ねぇんか?」

 

グラス「はい…」

 

悟空「ほんとか!?んじゃおめぇ暇っつー事で良いんだよな!!?」

 

グラス「え、ええ…まぁ。どうしたんですか?」

 

悟空「オラの服を選んでくれ!」

 

グラス「服…ですか?」

 

悟空「ああ。前に自分の服を買えって言われたんだけど、そういう事がまるっきし分からねぇんだ。おめぇが暇なら手ぇ貸してくんねぇか?」

 

グラス「っ、はい!!!」

 

悟空「サンキュー!んじゃ10分後に門の所で良いか?着替えねぇと道着で出かけたら怒られちまう」 

 

グラス「ふふっ、私も着替えたいのでそうしましょう」

 

悟空「おう」

 

 

返事をするやいなや、相変わらずの突風を巻き起こしながら走る悟空。

早くもその背中が見えなくなると、

 

 

グラス「………ふふっ、私も悟空さんとお出かけ。今日は楽しい日になりそうです」

 

 

グラスはスキップをしながら寮部屋へと帰った。

 

 

 

 

      ・

      ・

      ・

 

 

 

そして数分後。

胸元に小さなアクセントが付いた白いブラウスに、ロングスカートを履いたグラスが門に到着すると、そこには既に悟空の姿があった。

ーー金色の髪をして。

 

 

グラス「お待たせしてすみません」

 

悟空「おう。構わねぇぞ」

 

グラス「やはり悟空さんは超サイヤ人で外出するんですね」

 

悟空「ああ。何かあっても姿を消したら良いだけだからな」

 

グラス「確かに。色んな意味で実在しない人なので絶対に見つかりっこないですもんね」

 

悟空「そういうこった。っと、そろそろ行こうぜ。オラ腹へっちまったよ」

 

グラス「もぉー、目的は食事ではありませんよ〜」

 

悟空「へへっ、分かってるって!」

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

悟空達が向かった先は、いつぞやウララのシューズを買いに来たショッピングモール。たくさん服があったからという理由で即決をしたが、初めに入った店はもちろんココだった。

 

 

ガツガツガツガツガツ!!!ズルルッ、ジュルルルッッ‼︎!むしゃむしゃむしゃむしゃ、バクンッ!!!ゴクゴクゴクゴク……

 

 

 

グラス(これが1番目立つ原因なんですけどねぇ…)

 

 

目の前に積み重なるお皿。店員が料理の提供と皿の回収をほぼ同時に行なっていた。

 

 

グラス「悟空さん。これから行くお店ですけど、」

 

悟空「…………ゴックンッ!……グラス」

 

グラス「? 何ですか?」

 

悟空「これからオラを…オレを呼ぶ時はカカロットって呼んだ方が良い」

 

グラス「カカロット……ですか?」

 

悟空「ああ。前にルドルフと変装した時にバレそうになって呼び方変えたんだ。徹底的にすんならその方が良いだろ」

 

グラス「ちょっと待ってくださいっ、会長と変装する場面がどうしても気になるのですが!?」

 

悟空「ちょっと祭りにな」

 

グラス「お祭り、ですか。」

 

悟空「グラスなら分かると思うぞ?オレ達バレねぇようにって変装してたのに、おめぇが勘付くから、とっさに呼び方変えたんだ。花火が終わってすぐだったかな?」

 

グラス「…花火終わり……変装…………あっ!」

 

 

心当たりがあった。

悟空の言う通り花火が終わってすぐに。どこか知り合いの気配がした仲の良いカップル。かと思いきや仲の良い親子の事。

 

 

悟空「変装してるのに違和感持つとはさすがだったぞ。オレですら目ん玉ひん剥いたくれぇだ」

 

 

あれから時間経ってるし話しても良いだろうと、ネタバラシをする悟空。

だがこの男は忘れていた。

ルドルフが親子のフリをするために何と言ったのかを。

 

 

グラス「で、ではあの恋人…じゃなく、親子は悟空さんと会長…?」

 

悟空「おう」

 

グラス「それでは!あんな幼い声を出してお父さん!と言った女性が会長だったのですか!?」

 

悟空「そうなる、、、な、」

 

グラス「抱きつく勢いで腕を組み!甘える動作を行った女性がシンボリルドルフ会長で良いんですよね!?」

 

悟空「お、おお…」

 

グラス「…………お父さんと呼ばれたのはそれっきりですか?」

 

悟空「へ?」

 

グラス「どうなんですかっ!!!」

 

悟空「!! い、いや、今でもたまに呼ばれたりすんぞ」

 

グラス「………そうですか…………フフッ、会長お可愛いですねぇ〜」ニヤァ

 

悟空「…グラス……多分ルドルフは知られたくなかった事だろうから、あんま言いふらしたりは、」

 

グラス「ええ、もちろん言いません。これは私の中だけで留めておきますので。……いざという時のために」

 

悟空「そ、そうか。なら良いんか、な?」

 

 

 

 

 

 

 

ルドルフ「クシュッ………失礼しました」

 

たづな「おや、体冷えてしまいましたか?」

 

ルドルフ「そういう訳では……何となく嫌な予感が、」

 

たづな「…………悟空さんですか?」

 

ルドルフ「恐らくそうですね」

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

   

食事を終えた悟空は、グラスを先頭にとある店の前に来ていた。

 

 

悟空「………グラス。オレは服を買いに来たんじゃなかったか?」

 

グラス「? カカロットさんはおかしな事を言いますねぇ。そのためにこのお店へ来たのではありませんか」

 

悟空「オレがいくら物事を知らねぇっていっても、これが違う事くらい分かんぞ…」

 

 

グラスが良い店を知ってるからと先導し、生き生きとしながら歩いた先は、呉服屋だった。

店内で着物姿の人を見ている悟空は場違いだと思って即座に却下するが、

 

 

グラス「何を言いますか。大和魂を持つ者はその身なりを一緒に整える。悟空さんには日本人としての風習を知ってもらいたいのです」

 

悟空「ニホン人ちゅーかサイヤ人だけどな。地球人ですらねぇし。それに風習たってこの服着てる奴初めて見たぞ」

 

グラス「………やはり駄目でしたか」

 

悟空(コイツ…他の奴らに隠れて分からなかったけど、結構ズレてんな)

 

グラス「カカロットさんの希望はありますか?」

 

悟空「普通ので良いんだ。そこら辺でよく見るやつ。オレは好きじゃねぇけど、キントレから借りた硬ぇズボンとかが普通なんだろ?」

 

グラス「んー、それだと少しつまらn、」

 

悟空「グラス」

 

グラス「………はい」

 

 

諦めを悟ったグラスはすぐに行動を移した。

適当な店に入り、シンプルなデザインの服やズボンと悟空を試着室に押し込んだ。

すると返ってきた言葉は何となく予想してたもの。

 

 

悟空「グラス。これ入んねぇ。こっちのは腰緩いし」

 

グラス「…………」

 

 

大きくしようと小さくしようと、サイズに合わないという結果だけが残ってしまう。

悟空の、出ている所は凄く出て締まるべき所は締まってる。そんな規格外のスタイルに四苦八苦する事もあった。

そこから店舗を変えても同じ事だった。

早くもグラスの脳内には、打つ手なし…という単語が浮かび上がる。

 

 

グラス(………ユニ○ロさんに頼りますか)

 

 

困った時はユニ○ロ。

種類が多いからサイズの調整をしやすいだろうと、グラスは肩を落としながら向かった。

 

  

 

     ・

     ・

     ・

 

 

悟空「ふー、これでたづなも文句ねぇだろ。全然おかしくねぇもんな」

 

グラス「はい。…悲しくなるくらいに普通ですよぉ」

 

 

結果的に悟空の服は決まった。

デニムパンツに黒の長袖Tシャツと、白の長袖シャツ。

オシャレをさせたいと考えていたグラスとは正反対の恰好だった。

 

 

悟空「まだ拗ねてんのか?」

 

グラス「拗ねてません」

 

悟空「アイス食うか」

 

グラス「…はい」

 

 

 

    ・

    ・

    ・

 

 

 

デザートを食べ終わり、モール内をあてもなく歩いている時、悟空はある店の前で立ち止まった。

 

 

グラス「ごく、……カカロットさん?」

 

悟空「グラス。ここは何だ?」

 

グラス「ここは…スポーツ用品店ですね。トレーニング道具を取り扱っており、大型店舗なのでウマ娘専用器具もあります」

 

悟空「そうか。ウマ娘の、……入っても良いか?」

 

グラス「はい。もちろんです」

 

 

ウララのトレーニングに使えるかと思い、グラスに案内を頼んだ。

店内に置いてある器具は、形だけを見れば人間が使う物と同じ。ただ重量だけが比較にならなかった。

 

 

悟空「おぉぉ、すげぇなこれ」ギーコ、ギーコ

 

 

悟空はとある器具に目をつけ、上から吊られているバーを片手で引きながら遊んでいた。

それを見たグラスはギョッ!…と目を見開いて、悟空の側へと近寄る。

 

 

グラス「ちょ、ちょっと悟空さん!」

 

悟空「ん、なんだ?ちゅーか名前の呼び方が違うぞ」ギーコ

 

グラス「あ、すみませ……ってそうじゃありません。今すぐ手を離してください!」ヒソヒソ

 

悟空「何だよグラス。内緒話か?」

 

グラス「貴方が楽に上げている重量が300キロなんですよ!」ヒソヒソ

 

悟空「へー、300か。やっぱ物足りねぇな」

 

グラス「何を呑気な…。300キロとなれば筋肉に人生を捧げた人でもほとんど無理な重さなんですよ」ヒソヒソ

 

悟空「え?じゃあ何でこんなの置いてんだ?」

 

グラス「だからウマ娘専用だって言ってるじゃないですか!しかも片手でなんてウマ娘でも出来ない事を遊び半分でやらないでください!」ヒソヒソ

 

悟空「ほんとか!?……あちゃあ。どおりで…」

 

グラス「通りで?なんですか?」

 

悟空「…オレの後ろ15mくらいから視線を感じる」

 

グラス「え、……まさか」チラッ

 

 

 

店員「」( ゚д゚)

 

 

 

グラス(これは…やってしまいました……)「カカロットさん、もう行きましょう」

 

 

そう言いながら顔を向けると、悟空の姿がない事に気付いた。

 

 

グラス(っ!どこに、)

 

 

行ったのか…と考える前に、ボスンッ!という音が耳に入ってくる。

音に導かれるように視線を向けると、そこには通常の倍近くありそうな程大きいサンドバッグを叩いていた。

 

 

グラス「ちょっ、カカロットさん!行きますよ!」

 

悟空「ちゃんと加減してっから大丈夫だ。さっきのだって適当言えば問題ねぇよ」ボスッ、ボスッ

 

グラス「っもう。………気に入ったのですか?」

 

悟空「ああ。殴ってっとパワー付くだろうし、ストレスも発散できるだろうからなぁ。ウララに土産で買ってくか」ボスッ

 

 

すると、そこへ。

 

 

店員「あ、お客様。怪我の原因にもなるので叩くのは控えてください」

 

 

当然ながら注意が入った。

人間用ならまだしも、ウマ娘専用となれば丈夫な素材を使っている。

そのため表面の革を人間が叩けば、拳の皮は捲れたり手首を折る人もいた。

だから店員は急いで止めたのだ。

 

しかし悟空は本気で購入を考えていた。

ウララが強くなるならと、しっかりイメージして。

 

だから店員には気も配らなかった。

 

 

その結果。起こってしまった。

 

 

 

"ドゴッッッ!!!!!!!…ガシャンガシャンシャンシャンーーー,.

 

 

サンドバッグを弱く叩いていたのに突如現れた店員に驚き、少しだけ力が入ってしまう。

粉砕はしなかったものの、サンドバッグはくの字に折れ曲がり、チェーンはうるさく音を立てていた。

 

 

悟空「」

 

グラス「」

 

 

店員「」( ゚д゚)……(・Д・)………( ゚д゚)

 

 

 

店員は昔教えられた事を思い出した。 

"このサンドバッグはウマ娘専用のため、人間の力ではビクともしないのだ,,と。

 

 

店員「あ、の……おきゃくさま?」

 

悟空「やb、「申し訳ありません!」」

 

 

目で悟空を制止して、グラスは深々と頭を下げながら言った。

 

 

グラス「彼は日本に来てから日が浅く、ついテンションが上がってしまったようで……。…商品に手を出してしまいすみません!」

 

 

グラスは一言で複数の意味を込めた。

それは悟空を外国人にした事。さらに誠心誠意謝る事で、店員が突っ込みたかったであろうバ鹿力に関する質問から論点をズラす事。

 

 

店員(外国の人なら……いや、でも、)

  

グラス「本当に申し訳ありませんでした。傷ついたようなら弁償しますので」

 

店員「い、いえ!お客様にお怪我がないようでしたら……ってあれ、お客様はどちらへ?」

 

グラス「え?」

 

 

横にいるはずの悟空がいない。

グラスと店員は右へ左へ顔を動かすと、ソレを見たと同時に固まった。

 

まだレースを知らないであろう幼いウマ娘達。

見たところ、ベンチプレスをやっていたのだろう。そして身の丈に合わないから失敗したと見える。

上げてる最中だったウマ娘の手からズレ落ちたバーは、ウマ娘の顔スレスレの所で止まっていた。

 

もちろん悟空が上から掴んで止めていたからだ。

 

 

 

離れた所に一瞬で。

 

 

 

幼いとはいえウマ娘が持てない重さを。

 

 

 

 

バッグでも持つかのように。

 

 

 

店員「ぁ、あの、プレートの数、、、ご、ごひゃ、きろ、」

 

 

目の前の現実が受け入れられないとばかりに目を大きくしていた。

そんな店員を尻目に、

 

 

グラス「いやぁ、やはり外国の方は凄いですね〜」

 

 

そう言い残してグラスは悟空の元へ行くと、本気の力で悟空の手を握りしめて店から出て行った。

 

 

 

      ・

      ・

      ・

 

 

グラス「…ハァ。」

 

悟空「………怒ってっか?」

 

グラス「…怒ってはないです。カカロットさんがいなければ大怪我をしていたでしょうし、あれだけ泣いていれば危ない事だと身に染みて理解したでしょう。今回の事は何も言いません」

 

悟空「へへっ、サンキュー」

 

グラス「でも良かったのですか?サンドバッグ買わなくて」

 

悟空「ああ。さすがにあの状況で買えねぇし、サンドバッグの代わりくれぇオレの腹でも出来るからな」

 

グラス「やめてください。ウララちゃんの手が心配です」

 

悟空「心配ぇすんな。ちゃんとしたパンチの打ち方教えてやるから」

 

グラス「変な事教えるなってキングちゃんに怒られちゃいますよ?」

 

悟空「………やめとくか」

 

 

話しながらショッピングモールから出ると、まだ日差しがさしこんでいた。

 

 

悟空「んー、まだ3時頃か」

 

グラス「えっ、分かるのですか?」

 

悟空「太陽の位置や空の色で何となくだけどな。それより門限にはまだ早ぇから他の所でも行くか?」

 

グラス「……まだ、一緒でも良いんですか?」 

 

悟空「? 良いに決まってんだろ。少し歩いた所にクレープ売ってるからそこ行こうぜ」

 

グラス「ウッ、甘味、ですか…」

 

悟空「あー、やっぱマズいか」

 

グラス「……いえ、今日はチートデイって事にするのでクレープ行きましょう」

 

悟空「ちーとでー?」

 

グラス「日頃食事制限をかけてるヒトが週や月に一度何でも食べて良い日を作るんです。それを今日にします」

 

悟空「良いんか?」

 

グラス「はい。今日はとても美味しくなる日なので」

 

悟空「え!日によって味変わんのか!?」

 

グラス「女性限定ですけどね」

 

悟空「女だけ……、……何かずりぃぞ」

 

グラス「ふふっ」(皆さんもこんな気持ちだったのでしょうねぇ〜)

 

 

1番感じているのはオグリキャップだろうか。好きな人と食べるご飯が美味しいという事を。

グラスはワクワクする気持ちが抑えきれず、尻尾をぶんぶんと振り回しながら悟空の後ろをついて行った。

 

 

 

 

 

 

悟空「そういえばグラスと2人でいんのは初めてか」

 

グラス「厳密には2回目ですよ」

 

悟空「そうか?2人だけの時だぞ?」

 

グラス「ええ。2人きりの時が前に一度だけ」

 

悟空「んな事あったかなぁ………………んー、分かんね。降参だ」

 

グラス「ほら、カカロットさんが初めて学園に来た翌日の早朝、一緒に逆立ち歩行したではありませんか」

 

悟空「…………やっ、た……ああ!確かにやったな!ははっ、そういえばそうだった!」

 

グラス「もーっ、忘れてるとは酷いですねぇ」

 

悟空「悪りぃ悪りぃ!でもほんと、あん時と比べるとかなり強くなったなぁ」ポン

 

 

くしゃくしゃ、と雑にグラスの頭を撫でる大きな手。

グラスは恥ずかしい思いから頬を赤く染めるが、手を退けようとはせず、はにかんだ表情を浮かべた。

 

 

グラス「ぁ、ありがとうございます」

 

悟空「………ん?」ピタッ

 

グラス「どうしました?」 

 

悟空「おめぇ、頭ちっせーな」

 

グラス「はい?」

 

悟空「いやこれは中々すげーな。ウララやスカイよりも小せぇ」ナデナデナデナデナデナデ

 

グラス「え、あの、、ごk…カカロットさん?」

 

悟空「コイツは驚いた。おめぇは背低いのに、尻はデケェし、頭は小せぇし……ははっ!それでいて強えーから良く分かんねぇな!」

 

 

満面の笑みだ。小さな球体の触り心地がクセになったのか、悟空はひたすら撫でくり回した。

 

だから気付かなかった。

 

俯いたグラスがどんな顔をしているのか。

 

 

 

グラス「……………はぁ、」

 

 

グラスは目を瞑り、深呼吸をする。思い出すのは先日の心境。

その時を思い出しながら膝を腰の位置まで上げて、勢い良く地面に踏み下ろした。

 

 

ーーーードンッッッ!!!!

 

 

悟空「!!?」

 

 

突然の事に目を丸くするが、グシャグシャと足を地面に擦りつける音だけが聞こえた。

 

 

悟空("前掻き,,つったか。品のねぇ動作って聞いたけど。ちゅーか何か殺気出て、)

 

グラス「カカロットさん?」

 

悟空「はいっ!」

 

 

薄気味悪く嗤うグラスを見て思わず姿勢を正した。

 

 

グラス「振り返りついでにもう一つ思い出しましょうか」

 

悟空「な、なにをだ?」

 

グラス「忘れてるでしょうが、逆立ち歩行している時に貴方は同じ事を言ったんですよ。もっとも、今回はプラス1加えられましたけどね」

 

悟空「……だっけ?」ハ、ハハ

 

グラス「まぁその様子だと私が言った事も忘れてますよね?」

 

悟空「え、っと、」

 

グラス「女性の身体の事について失礼な事を言うなと言ったんです!」

 

悟空「失礼な事って、別にそんなつもりねぇぞ?」

 

グラス「忘れてた癖に全く同じ事言わないでください!」

 

悟空「なぁに言ってんだよ。忘れてっから同じ事言えるんじゃねぇか!」

 

グラス「……帰宅したらたづなさんも含めてお話ししましょうか」

 

悟空「悪かった。クレープ好きなだけ食って良いから勘弁してくれ」

 

グラス「カロリー消費の運動にも付き合ってくれたら許します」

 

悟空「サンキュー」

 

 

 

 

      ・

      ・

      ・

 

 

 

 

悟空「あ、グラス。あれだぞ」

 

 

次第に見えてくるキャンピングカー。クレープの看板が置いてあり甘い匂いが漂って来た。

甘い物は別腹とばかりに食欲がわく。自然と足が速くなるのを感じていた。

 

 

その時だった。

 

 

 

「おい!うるさいぞっ!」

 

 

男の怒鳴り声が聞こえ、悟空とグラスは目を向けた。

 

 

悟空「なんだ?」

 

グラス「あれは……子供でしょうか」

 

 

ベンチに座り、泣き叫ぶ子供をあやす母親。耳がある所を見るとウマ娘だろう。男の怒声により更に泣き声を上げた子供をギュッと抱きしめながら母親は頭を下げていた。

 

 

グラス「っ、…自分がどこかへ行けば良いものの。許せません!」

 

悟空「まぁ、落ち着け」

 

グラス「何を悠長なっ!」

 

悟空「多分だけど、余裕がねぇのはあの男も同じだろ」

 

 

そう言って悟空はスタスタと騒ぎの渦の中へ入っていった。

 

 

女性「すみません!すぐに移動しますから!」

 

男性「ったく!子供の世話くらいちゃんと、ッッッッ」

 

 

直後。男の体がピタリと固まった。

 

 

悟空「おめぇは後な。先に相手すんのはコイツの方だ」

 

女性「あ、あなた、、は?」

 

 

金色の髪に碧い眼。日本人とは程遠い見た目なのに、日本語を話しながら抱きしめる子供を見て来る男。

怒られた後だからか、女性は怯えを含みながら問いかけた。

 

 

悟空「なぁ、そいつ抱っこして良いか?」

 

女性「え、、、、ぁ、はい」

 

 

困惑を隠せない女性だったが、どこか温かい空気を放つ悟空に警戒心が薄れる。

 

子「わぁぁああん!うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

悟空「おー、元気良いなぁ」

 

グラス「ご、、カカロットさん?」

 

悟空「見ろよグラス。すげぇ声だ。きっと強ぇ奴になんぞ」

 

グラス「ハァ……あなたという人は…」

 

悟空「懐かしいなぁ。悟飯もうるせぇくらいに泣いてやがった」

 

女性「あ、、、あなたもお子さんを?」

 

悟空「ん?……まぁな」

 

子「うぇえええん、ウッ…グスッ……わあああああん!」

 

悟空「ははっ!泣け泣けー、おめぇ達子供は泣くのが仕事だもんな!子供は仕事する癖に何でオレはしないんだって、チチにすげぇ怒られたぞ!」

 

グラス「当たり前ですよ〜」

 

子「うわぁぁぁあ…あ、、ぁ…?」

 

悟空「あり?もう良いんか?」

 

子「……?………おさるさん?」

 

悟空「っ!?」

 

女性「こら!親切にしていただいたのだから、ありがとうでしょう!」

 

 

失礼な事だと女性は青ざめた。

すぐに悟空から離そうとするが、大きな手が待ったをかける。

 

 

悟空「い、いやっ、、ククッ、このままで大丈夫だっ……ふははっ!」

 

 

我慢できていない笑いが漏れ出す。

女性はもちろん、グラスだって知らない事。学園にいる者誰1人も知らない事を、無垢な顔をした子供が言ってきたのだ。

 

 

悟空「あっはっはっ!」

 

グラス「???」

 

子「おさるさんじゃないの?」

 

悟空「ははっ!いーや猿で合ってんぞ!良く分かったな!」

 

子「えへへ、すごい?」 

 

悟空「ああ、超すげー!元気も良いし、勘も良いし、おめぇは絶対ぇ強くなる!もう少しデカかったら修行つけれたんだけどなぁ」

 

女性「あなたはトレーナーなんですか?」

 

悟空「そんなとこだ。コイツはやっぱレースの世界に行くんか?」

 

女性「はい。素質はあると思うので、後はこの子が大きくなってから、どうしたいのかを聞くつもりです」

 

悟空「そっか。おめぇは強くなりてぇか?」

 

子「つよく?」

 

悟空「あー、、速く走りてぇか?」

 

子「はやく……うん!お母さんのようにはやくはしりたい!」

 

悟空「そりゃあ良い事だ。そんならまずは母ちゃんの言う事しっかりと聞かねぇと駄目だかんな!」

 

子「うんっ!あ、ねぇねぇ、とれーなーって、せんせいなんでしょ?」

 

悟空「ん?そう、なんのか?」

 

子「じゃあさ!おーきくなったら、わたしにおしえて!それまでいい子でいるから!」

 

悟空「っ、……そうだなぁ」

 

子「やくそくね!」

 

悟空「おう!」

 

グラス(悟空さん…)

 

 

美しい程に残酷な約束をする悟空。その表情に一瞬だけ翳りが差したのをグラスは忘れる事にした。

 

 

グラス「カカロットさん。そろそろ」

 

悟空「ああ。分かってる」

 

 

子供を下ろして一撫ですると母親へと返す。そして今度は固まった男性の目の前に立った。

 

 

悟空「おめぇだってガキの頃は泣き虫で母ちゃんが怒られてたかも知れねぇだろ。女や子供には優しくしなきゃダメじゃねぇか」

 

男性「ぁ……ウッ…っ、」 

 

 

誰が見ても分からないが男性はパニックを起こしていた。

簡単に言うと体が動かない。

思考も回る。呼吸も出来る。視線も動く。それなのに頭から爪先までピクリとも動かせない。

まるで全身に何かが強く纏わりついているようだった。

 

 

悟空「苦しくはねぇだろうけど、おめぇは悪ぃ事をしたからちょっとした罰だ」

 

グラス「か、カカロットさん?」コソコソ

 

悟空「ん?」

 

グラス「こんな人目に付く所で"気,,の使用はリスクが…」コソコソ

 

悟空「ああ、もう終わる」

 

男性「〜〜〜っ!?!?!?」

 

悟空「怖いだろ?いくらコイツらがウマ娘でも、怒鳴る奴がいたらもっと怖いんだからな!」

 

男性「………」

 

悟空「ちゃんと謝れるか?」

 

男性「…」コクン

 

 

頷いた男性を見て、悟空はゆっくり右手を振るう。

その瞬間、固まっていた体は突然動き出す。視界に金色の光が微かに散ったのが見えた。

 

 

男性「っ、はぁ、はぁ、はぁ、……い、今のは…」

 

悟空「ほれ」

 

男性「ぁ、は、はい…」

 

 

悟空の催促に従い、フラフラと親子の正面まで行き、頭を下げた。

 

 

男性「その、、、大きな声を出してしまい申し訳ありませんでしたっ」

 

女性「こ、こちらこそ、」

 

グラス「貴女は謝罪する必要ありませんよ〜」

 

女性「え?」

 

グラス「悪い事してませんから。ただ、反省している人には許しの言葉を差し上げてください」

 

 

最初に反応したのは子供だった。

女性の腰の部分に抱きつくと、服の裾を引っ張る。母親である女性は子供も言わんとしている事がすぐに分かった。

 

 

女性「……許します…ので、あなたも気にしないでください」

 

男性「! ありがとうございますっ」

 

 

悟空「よし!」

 

グラス「解決ですね。私達は行きましょうか」

 

悟空「あ、それはもうちょい待ってくれ。次はコイツの番だから」

 

グラス「え?」

 

 

悟空の見る先には男性。その男性ですら訳が分からないと表情で語っていた。

 

 

グラス「番って…謝罪なら終わったばかりではないですか」

 

悟空「いや、それじゃねぇ。おめぇ何があったんだ?」

 

 

確信めいた言い方で問いかけた。

 

 

男性「!?ど、どうして…」

 

悟空「? どうしてって…知らねぇから聞いてんだろ」

 

グラス「カカロットさん。彼は、何で知ってるのか…ではなく、どうして分かるのかを聞いています」

 

悟空「そういう事か。簡単だ。おめぇは泣き声に苛立ってるだけなのに、おめぇの"気,,は怒りのそれじゃなかった。不安定でブレブレなんだよ」

 

男性「???」

 

グラス「彼は貴方を見て、表情や仕草から心に何かしらの不安を抱えている事を悟りました。苛立った原因は他にあるのではないかと聞いています」

 

男性「な、なるほど…。情けない話しになりますが聞いてくれますか?」

 

悟空「だから最初から聞いてんじゃねぇか」

 

 

コントロールしたとはいえ、超サイヤ人化の悟空は気の長い方ではない。

話しを引っ張り続ける男性に、少し"気,,が乗った状態で喋ると男性は肩をビクつかせ、悟空はグラスからペシンと叩かれた。

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

男性「ーーーーと、言う訳なんです」

 

グラス「それは、まぁ、、何と言うか…」

 

 

救いようが無い話しだが同情心が湧いた。

男性曰く、大事な書類の入った封筒をどこかに落としてしまったとの事。その封筒には取り引き先の重要なデータもあるから無くしたりすると、もはや会社にすらいれない状況らしい。

 

 

男性「だからと言って関係ない方に当たり散らして良い訳ではありませんが……つい、」

 

グラス「警察へは行かれたのですか?」

 

男性「はい…。ただ、どこに落としたのか予想も付かないと探しようがないと…」

 

グラス「それもそうですね…」チラッ

 

悟空「んー、んーーーー、、、うーーーーーーーん。おしっ!オレが見つけてやるから元気出せ!」

 

男性「見つけるって言ったって……もう可能性のある所は全部………」

 

悟空「無くしたやつは大事な物だったんだろ?それなら鞄にしまっとくだろうし、落としたっつーよりは、どっかに置いてる可能性の方が高ぇだろ。まぁ後はおめぇ次第だ」

 

 

そう言いながら、悟空は男性の頭に手を置いた。

 

 

グラス「まさかっ、カカロットさん!それは!」

 

悟空「グラス。もしもの時は………一緒にたづなに謝ろうな」

 

グラス「………もー、やるなら最後まで格好つけてくださいよ」フフッ

 

男性「???」

 

 

会話の内容が理解出来ない男性は狼狽えて悟空から距離を取ろうとするが、頭をガッシリと掴まれており動く事は出来なかった。

 

 

 

沈黙が続く事、5分。

 

 

目を瞑ったまま悟空が口を開いた。

 

 

悟空「ふーとー……………封筒…………水色っぽいやつか?」

 

男性「!!! それですっ。何故分かったのですか!?」

 

悟空「見つけたからだ」

 

男性「どうやって!?それに一体どこにあったのですか!!?」

 

悟空「オレの言う事を聞いてくれんなら教えてやる」

 

男性「言う事……なんでしょう!何でも聞きます!」

 

悟空「オレとグラスに会った事。そしてオレがやった事全てを誰にも話さねぇ事だ。家族や友達、誰1人にもだ」

 

男性「約束します」

 

悟空「おし!」

 

グラス「それで、どこにあったのです?」

 

悟空「ん、結構離れた位置にある公園。書類見ながら電話してて、そのまま置いてきちまってる」

 

男性「あっ!確かに公園に行きました!」

 

グラス(真っ先に思い当たる場所なのでは!?)

 

男性「ありがとうございます!すぐに向かい、」

 

悟空「待て。離れた位置つったろ。向かってる間に誰か拾ったりしてどこか行っちまうと、それこそ探しようがねぇ」

 

男性「え、でも、どうしたら…」

 

悟空「グラス。クレープ食ってねぇけど、ちょいと運動しようぜ」

 

グラス「しょうがないですね〜、良いですよ」

 

悟空「へへっ、サンキュー!」

 

男性「え、、え?、」

 

悟空「オレの背中に乗れ。車と同じくらいの速さで行ってやるよ」

 

男性「はいぃ!??」

 

 

キャパオーバーをした男性は頭から煙が吹き、グラスは屈伸したり飛び跳ねたり準備運動を行う。

事の一連を見ていた女性親子は悟空の傍に近づいた。

 

 

女性「あの、」

 

悟空「ん?」

 

女性「また、会えますか?」

 

悟空「………、」

 

子「あえるよ!わたしのとれーなーになってくれるもんね!」

 

悟空「………ああ。おめぇが大きくなったらな!」

 

女性「!!!」

 

 

女性は気付いてしまった。

心優しい彼は嘘をつくのが下手だという事に。

 

 

女性「……"最後,,にお名前を教えていただけませんか?」

 

悟空「っ!……カカロット。……そして、」チラッ

 

グラス「! はい、ちょっとお耳失礼しますね〜」

 

男性「え、ちょっ!なんで塞ぐの!?」

 

悟空「………そして、孫悟空」

 

女性「……ありがとうございました」

 

子「ありがとね!おさるのおじさん!」

 

悟空「ああ。母ちゃんの言う事はちゃんと聞くんだぞ」

 

子「うん!」

 

 

 

悟空「で、何やってんだ。早く乗れよ」

 

男性「いえっ、ウマ娘さんに耳を塞がれていたのですが!?」

 

グラス「早くしないと置いていきますよ〜」

 

男性「何か僕に冷たくないかな!?」

 

 

当然だとグラスは鼻を鳴らす。それを見た男性はぎこちない動きで悟空の背中へとしがみついた。

 

 

悟空「んじゃ」

 

グラス「さようなら〜」

 

 

ドンッ…と音が鳴る。

凄い勢いで離れていく後ろ姿に、女性は胸の内から込み上げてくるものを感じた。

 

 

子「はやーい!わたしもあんなはやくなれるかな?」

 

女性「そうねぇ。そのためにはまず?」

 

子「おかーさんのゆーことをきく!」

 

女性「よろしい。頑張ろうね。アーモンド」

 

子「うんっ!」

 

女性(ありがとう。グラスワンダーちゃん。孫悟空さん)

 

 

    ・

    ・

    ・

 

 

 

 

男性「あったーっ!」

 

悟空「おう、そりゃ良かった」

 

グラス「良かったですねぇ」

 

悟空・グラス「「んじゃ!」」ダッ!

 

男性「え、」

 

 

 

 

 

男性「ぇ、」ポツン…

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

 

 

グラス「……………叫んで良いですか?」

 

悟空「………いいぞ」

 

グラス「あんなに暴露してどうするつもりなんですか!!!」

 

 

最初にいた場所とは違い、自然の中での大声はすごく反響した。

 

 

悟空「んな事言ってもおめぇだってノッたじゃねぇか」

 

グラス「あんな雰囲気で断る事なんて出来ませんよ」

 

悟空「まぁまぁ、結果良ければ全て良しってな!」

 

グラス「むぅ、」

 

悟空「さて、と。ここどこだ?」

 

グラス「さあ?」

 

 

周囲から聞こえる鳥の鳴き声。雰囲気はかつてウララと出会った所に似ているが。

 

 

悟空「これからどうする?帰ろうと思えば"気,,追ったり、瞬間移動すれば良いから迷子にはなんねぇぞ」

 

グラス「うーん。もうじき日が暮れそうですもんねぇ」

 

 

悩む悟空達に遠くから女性の声が聞こえて来た。

 

 

『滝行に興味ありませんかー!体験コースまもなく終了になります!お清めのひと時、いかがですかー!』

 

悟空(滝か…。オラ1人なら行ってたな)

 

グラス(滝行ですか……本来ならば喜んで行きたい所ですが、今は悟空さんとお出かけですし…)

 

悟空「………これからどうすっかなー」チラッ

 

グラス「……何しましょうか、ねぇ〜」チラッ

 

悟空(この前ウララに坐禅組ましたら駄目だったし、ウマ娘に精神統一は向いてねぇんかもな)

 

グラス(あっ!行くにしても衣装がないです…。しかし、滝行は元よりふんどし一丁…、下着だけでもあれば………いえいえいえいえ!セイちゃんのようにはしたない真似は出来ませんっ!)

 

 

『貸し衣装ご用意しておりまーす!是非お越しくださーい!』

 

 

グラス「」

 

悟空(ん?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァアアアアアアアアーーー

 

 

グラス「…」 

 

悟空「…」

 

 

 

 

ザァアアアアアアアアアァァァーーー

 

 

グラス「……」

 

悟空「……」

 

 

 

 

ザサザザザザザザザアアアアアアアアアーーー

 

 

グラス「……………」

 

悟空「…………」

 

 

 

    ・

    ・

    ・

 

 

〜 10分後 〜

 

 

女性「ありがとうございましたー!」

 

悟空・グラス「「・・・・・」」

 

 

冷たい空気漂う中で入る水の中は、雑念を消すにピッタリの場所だった。

ホワホワとした表情のまま2人は当てもなく歩き出す。

 

 

悟空(………そりゃそうか。ウララとグラスは違うもんな。好き嫌いくらいあるか)

 

グラス(……悟空さんが武道を嗜む方で良かったです。気持ち良いですね〜)

 

 

 

 

悟空(悪くなかった、…いや、良かったんだけど…)

 

グラス(でも、1つ欠点があるとするなら…)

 

 

 

悟空「短かったなぁ」

グラス「もっと長くしたかったです」

 

 

悟空「お?」

グラス「え?」 

 

 

悟空「だよな!」

グラス「ですよね!」

 

 

 

悟空「せめて30分はしたかったよな!」

 

グラス「そうなんですよ!精神が落ち着いて来たって思ったら終了でしたからねぇ。物足りなさがあります!」

 

悟空「スカイの所の山ならありそうだな。川流れてるから多分滝もあんだろ。今度行ってみっか」

 

グラス「その時は私も一緒に連れて行ってくださいね」

 

悟空「そのつもりだ。また、一緒にな!」  

 

グラス「はい!」

 

 

勢い良く体を寄せるグラス。とても"一緒に,,の一言が言えずに尻込みをしていた彼女とは思えない心境の変化だ。

いや、素直になったと言うべきか。

何にせよ、グラスが悟空に対して心を開いた瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

秋の季節は夕方を過ぎると真っ暗だ。そのために車のライトが眩しく光り、歩道を歩く悟空とグラスを照らす。

 

 

グラス「悟空さん」

 

悟空「おめぇ呼び方……って、もう暗いし超サイヤ人の方が目立つか」

 

 

静かに息を吐くと金色は消え、代わりに夜に紛れる黒が現れた。

 

 

悟空「どうした?」

 

グラス「今日の事でいくつか伺いたい事があるのですが、良いですか?」

 

悟空「おー。好きなだけ聞いて良いぞ」

 

グラス「……では、ずっと呼んでいたカカロットって何ですか?あの子が言った、おさるさんって一体…」

 

悟空「その2つの答えは同じで、オラがサイヤ人だからだ」

 

グラス「? もう少し詳しくお願いします」

 

悟空「カカロットってのはサイヤ人としての名前らしい。そんで猿はサイヤ人が出来る変身でデケェ猿になるんだ。アイツはオラの潜在的な力を見たのかもな」

 

グラス「え、悟空さんはまた変身するのですか?」

 

悟空「尻尾と満月があればな。尻尾は生えねぇようにしたから、もうなれねぇけど」

 

グラス「尻尾!?……ふふっ、聞けば聞くほど驚く事ばかりです。そのお猿さんの姿は一度見たかったですねぇ」

 

悟空「………………………………意地でも見せる訳にはいかねぇな」

 

グラス「そんなに酷い姿なんです?」

 

悟空「そんなとこだ。そういやオラからも言って良いか?」

 

グラス「はい。何でしょう」

 

悟空「足を叩きつけるやつ…"前掻き,,の事だけどよぉ」

 

グラス「あ……今日もやってしまいましたよね。失礼しました」

 

悟空「いや、そうじゃなくて。率直に言うと、アレはおめぇの武器になんぞ」

 

グラス「え?」

 

悟空「感じた事をそのまま言うと、"前掻き,,をやった瞬間、おめぇの"気,,は興奮状態にある。だからと言って力そのものが上がる訳じゃねぇけどな」

 

グラス「……レースにおいて心は熱く、頭は冷たく冷静に。興奮状態と聞くと逆効果では?」

 

悟空「グラスの言う通りではあんだけど、おめぇは落ち着き"過ぎてる,,」

 

グラス「…過剰に冷静を保っているという事ですか?」

 

悟空「そうだ。その方がミスなく理想の走りが出来るんだろうけど、多分それが毎日王冠で、全部熱くなった時が宝塚記念だ」

 

グラス「!!!………スペちゃん」

 

悟空「ああ。その2つは間違いなくグラスの本気だろうけど、発揮できる力は変わると思う。それを引き出すのが、」

 

グラス「"前掻き,,という訳ですか。ですが、あれは人前でやるような事では……」

 

悟空「分かってる。だからどうするかは、おめぇが決めるんだ。ただ間違えちゃいけねぇのは結果だけを求める事。オラ達は化け物じゃねぇ。しっかりと心を持って強くなる。その意味がおめぇには分かるな?」

 

グラス「………はい!」

 

悟空「ん、まぁおめぇの事はあまり心配してねぇけど、困った事があんならいつでも言って来い。勉強以外な!」

 

グラス「あはっ!わかりました!では、早速お願いがありまして」

 

悟空「なんだ?」

 

グラス「次の私のレース見に来てください。天皇賞秋。毎日王冠で負けたサイレンススズカさんとの再戦。是非、客席で!」

 

悟空「あ、わりぃ。その日仕事だ」

 

グラス「……………え?」

 

悟空「はは、……て、テレビではちゃんと見るし応援してっからな!」

 

グラス「………今日の事、帰ってたづなさんに報告します」

 

悟空「い"い"っ!?お、落ち着け!話せば分かる!」

 

グラス「もー知りません!悟空さんのばかーーっ!」ダダダッ

 

悟空「待てって!おいっ、グラス!それだけは勘弁してくれぇーーー!!」ダダダダダッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告:ハルウララ

 

 

えっとねー、次は………あれ?天皇賞じゃないんだ。次のお話しはオマケらしいよ!

ウララ達がふゅーぞん?するんだって!

 

 

     「フュージョンな」

 

 

 



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黄金世代『ひま』 ウララ「あ、じゃあフュージョンしよっか!」



・投稿が遅くなりすみません。10月からまた頑張ります。

・こちらを読む前に、フュージョンと残像拳についてお調べください。 動作の細かい描写はないので知ってないと訳が分かりません。

・温度差注意





 

 

 

 

 

 

 

スペ「フュージョンってなんなの?」

 

グラス「直訳すると融合、ですね」

 

ウララ「"ゆーごー,,はちょっと良く分からないけど、2人が全く同じ動きをして、ちょー強い人に合体するんだって!」

 

スカイ「びっみょーに分かるような分からないような…」

 

キング「まぁ、直訳通り2人が1人になるって事でしょ。………そんなバカな…」

 

エル「でも悟空さんが言うって事は冗談や嘘ではないと思いマスよ?」

 

キング「だから困るのだけど…。もし仮に合体してしまったら解除方法とかあるのかしら?」

 

ウララ「うん。30分しかなれないから勝手に終わっちゃうんだって!」

 

スカイ「それなら仮に合体出来ても心配する必要ないし、やろっか。このままジッとしてても退屈だしね〜」

 

エル「エルも賛成デース!」

 

ウララ「決まりだね!それじゃあまずは2人1組を、」

 

グラス「スペちゃんッ!」ガタッ

 

 

ウララが言い切る前に動いたのはもちろん彼女。

 

 

エル・キング・スカイ(うわっ、出た…)

 

 

もはや分かりきった行動だが、あからさま過ぎると、グラスに白い目を向ける3人。

呼ばれた本人であるスペは理解不能とばかりに目を丸くしていると、グラスがゆっくりと歩きスペの正面に立った。

 

 

スペ「どうしたんです、か?」

 

グラス「スゥ…ハァァ……スペちゃん」     

 

スペ「ほぇ?」

 

 

重く深い深呼吸をするとスペの手を取る。

 

 

キング(この子強過ぎるわね…)

 

エル(グラスはもう大和撫子やめるべきデス。お淑やかどころか、ガメツイデース)

 

スカイ(え、ちょっと待って…。合体するって事は"アレ,,なの?"アレ,,言っちゃうの?)

 

 

三者三様の想いを込めて引いた目をしながら見つめる。

グラスはそんな事はお構いなしにスペの手を引くと、引き寄せられるようにスペの体が密着した。

 

 

スペ「ぐらすちゃん?」

 

グラス「スペちゃん。ぜひ私と合体し、スペシャルワンダーを作り上げましょう」

 

スペ「すぺしゃるわんだー?…あ!合体した時の名前かな?エヘヘ…カッコいいね!良いよ!」

 

グラス「スペちゃん!」

 

 

 

キング(良かったわね、喜んでもらえて。かなり際どい発言だったけど)

 

エル(スペちゃんじゃなかったらアウトデェス)

 

スカイ(やっぱスペシャルワンダーか、…実はもっと前から妄想してたなんて事ないよね?)

 

 

目の前で手を握り合う2人。キャッ!キャッ!と周囲の空間に白い花を咲かせていると、

 

 

ーー爆弾は落とされた。

 

 

 

ウララ「あ、合体するには身長も近くないと駄目なんだって。グラスちゃんの相手だと、ウララは小さ過ぎるからセイちゃんだけかな」

 

グラス「………………………は?」

 

スペ「ありゃ、そうなんだ。残念だね…」

 

グラス「そん、な…………………」ガクッ

 

スペ「今度はどうしちゃったの!?」

 

 

もう隠すつもりはないのか、スペの目の前で膝をつくグラス。

 

 

キング「…今のは酷いわね」

 

エル「同情しマスよ、グラス……」

 

スカイ「ウララ、話し続けよう」

 

ウララ「え、良いの?」

 

スカイ「うん。グラスちゃんのダメージ回復待ってたら日が暮れちゃう」

 

 

グラス「ぁぁぁ……ぁ…ぁぁ……….」

 

 

ウララ「う、うん。セイちゃんがそう言うなら」

 

キング「先に合体に関する事を全て聞きましょ。細かい所はそこから聞けば良いじゃない」

 

スカイ「そういう事〜」

 

ウララ「分かった!それじゃあ説明するけど、合体の条件は2人が決まった動きを同時にするのと、身長が近いヒト。これで出来るんだって!」

 

エル「その決まった動きはウララ知ってるんデスか?」

 

ウララ「うん!合体は出来ないけど、面白そうだから悟空さんと何回かやったんだぁ!」

 

スペ「見せてもらう事は出来るかな?」

 

ウララ「もちろん!早速やるから見ててね!」

 

 

そう言うと離れた位置に行き、腕を重ねて水平に伸ばした。

 

ーー始まる。

 

悟空が言ったからには本当に合体をするのだろう。好奇心旺盛なウマ娘達は内心ワクワクした気持ちを抑えきれずにいた。

 

 

ウララ「ーーー行くよっ!」

 

エル・キング・スカイ・スペ

『どうぞっ!』

 

グラス「……お願いします」

 

 

 

 

彼女達は目撃する。最強の作り方を。

 

 

 

ウララ「まず最初は腕を水平に伸ばす!」シュバッ

 

『ふむふむ』

 

 

 

ウララ「そして、ーーフュュュュ、」カタカタカタ!

 

『……………ぇ、』

 

 

 

ウララ「この時3歩分動く!…次、ジョンっ!」ガチンッ

 

『ウワァ…』

 

 

ウララ「気をつけるポイントは膝を90度にする事!反対に伸ばした手の形はグー!……最後、ハァッッッ!」ビシッッ!

 

『oh…』

 

 

ウララ「この時も膝を気をつけてね!真っ直ぐ伸ばすの!そして指先同士をくっつける!」

 

『……………キッツ…』

 

 

 

ウララ「どう?動きは単純なんだけど、細かい所を間違えちゃうから結構難しいんだよ!」

 

『……………』

 

 

彼女達は無言を貫いた。

口を開くと指名が来そうだから。

全く同じタイミングは難しいが、動き自体はウイニングライブでダンスを取り入れる彼女達にとっては特別困難ではない。

最初の構えを見た時は思ったのだ。戦隊モノのヒーローみたいでカッコいいと。……動き始めたら駄目だった。

 

ーー乙女に小刻みのガニ股横歩きが出来るか!!

 

完成ポーズなんてマヌケ過ぎる。

しかし、やろうと言った手前中止には出来ない。

 

 

ウララ「それじゃあまずはペアを組む所からしよっか!」

 

キング・エル・グラス・スカイ・スペ

『最初はどうぞ!!!』

 

 

乙女心を守る押し付け合いが始まった。

 

 

 

ウララ「ありゃ。みんな譲り合いっこになっちゃった。まぁでも、やるとしたらグラスちゃんとセイちゃんで。キングちゃん、エルちゃん、スペちゃんって組み合わせかな」

 

『!!!!!』

 

 

スカイ「………エルはああいうの好きでしょ。ヒーローっぽいじゃん。遠慮しなくて良いよ。エルがしたいって言ったら2人も付き合ってくれるだろうし」

 

エル「ッ!…え、エルはヒーローよりもヒール推しなんで解釈違いデース。……それにキングはまだしも、エルとスペちゃんは落ち着きないので完全に同じ動きが出来ないかと。グラスとセイちゃんは阿吽の呼吸で一発デース」

 

グラス「! そうですねぇ。……確かに私とセイちゃんは、とっても!凄く!あり得ないほどに仲が良いので楽勝だと思います。

……仲が良い"(ふう),,の貴女達とは大違いですね」

 

エル・スペ「「は?」」

 

スカイ(っしゃー!決まったぁ!ナーイスグラスちゃん!)

 

 

グラスの挑発に秒でノッた2人だったが、

 

 

キング「落ち着きなさい」グイッ

 

エル・スペ「「ぐえっっっ」」

 

 

キングに襟首を引っ張られた。

 

 

エル「止めないでくだサイ!あんな事言われて黙っていられマセン!」

 

スペ「そうだよ!私とエルちゃんは"(ふう),,なんかじゃなくて本当のホントのほんとに仲良しなんですからぁ!」

 

キング「……ん、スペさんちょっと来て」

 

エル・スペ「「無視された!?」」

 

エル「しかもエルなんて置いてけぼりデース!」

 

キング「エルさんは後でね」チラッ

 

スカイ「!!…………………、」

 

 

両手を上げて抗議するエルを尻目に、キングはスペの手を取って少し離れた。

 

 

スカイ(あの眼…。キングは何を企んでいるの?)

 

 

警戒心を最大まで引き上げて思考を巡らせる。

 

一方でキングは難航していた。

 

>…ーーええっ!そんな恥ずかしい事を私が!?

>ええ、そうよ。

>ううっ、私がやって意味ありますか?

>逆に貴女じゃないと意味がないわ。

>で、でも……、

>……………ニンジン3個。

>え、

>今なら特典で私がつくわ。一緒に食べましょう。

>私に任せて!

>その言葉を待っていた。

 

 

作戦会議終了。

自信満々の顔付きで再びスカイとグラスの正面に立った。

 

 

スカイ(さて、何をして来るのやら…)

 

エル「うわーん!エル1人は寂しかったデース!」ダキッ

 

キング「はいはい、悪かったわよ。お詫びと言ってなんだけど、フュージョンは彼女達にしてもらうようにするから」ナデナデ

 

エル「わおっ!キングとスペちゃんのタッグ技デスか?」

 

キング「ちょっと違うわね。スペさんと組むのは………私じゃない」ニヤリ

 

スカイ(おかしい。フュージョンなんて私もグラスちゃんもお断りだ。何を言われたって絶対にしない。そしてそれはキングも分かってるはず。なのに…あの自信は何なの)

 

 

不敵に笑うキング。

 

 

もし、自分がキングの立場なら、

 

 

 

この場で1番有効に使える手は…、

 

 

 

スカイ「………ま、さか…」

 

キング「今更気付いても遅い」

 

 

スカイは首が捩じ切れる勢いで彼女を見た。

 

 

そう。この場で唯一の弱点を持つ彼女を。

 

 

グラス「す、すす、しゅぺちゃん!?」

 

スペ「なぁにぃ〜、グラスちゃぁん」サスサスサワサワ

 

 

グラスにくっ付きながら腕や足を擦り合わせるスペ。

 

 

スカイ(くそっやられた!)「グラスちゃん!スペちゃんから離れて!」

 

グラス「スペスペスペスペスペスペスペスペ…」

 

スペ「ねぇ、グラスちゃん?」

 

グラス「ひゃいっ!」

 

スペ「私にさ、グラスちゃんの全てを見せて?カッコいい所。可愛い所。そして…合体するト コ ロ…とかぁ♡」

 

グラス「!………スペちゃん、離れていて下さい」

 

 

スペは無言で離れる。

そして、グラスはスカイの正面に立った。

 

 

グラス「セイちゃん」

 

スカイ「………………なにかな」

 

 

 

 

 

グラス「セイウンワンダーとグラスカイ。どちらが良いですか?」

 

スカイ「1人でヘッポコワンダーやってなよ…」

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

 

ウララ「それじゃあ準備は良いかな?」

 

グラス・スカイ「「………」」コクン

 

キング「こら、ウララさんが聞いているのだから返事をしなさい」クスクス

 

エル「グラァス!言葉は声に出さないと相手に通じマセンよぉ!」イヒヒッ!

 

グラス・スカイ「「………お願いします」」

 

ウララ「うんっ!一緒にがんばろーね!」

 

グラス(ぅぅ……何でこんな事に…)

 

スカイ(恨むよ、グラスちゃん)

 

ウララ「えっと、最初に動く時は3歩分だから……2人の間は6歩分かな」

 

グラス「はい…」スタスタ

 

ウララ「うん。で、やる時は"さゆーたいしょー,,だから気を付けてね!」

 

スカイ「りょーかい…」スタスタ

 

ウララ「まずは合わせるより動きを覚えよっか。私の真似してね!」スッ

 

グラス・スカイ「「…………」」スッ

 

 

エル・キング・スペ『………』プルプルプル

 

 

ウララ「そうそう!腕は伸ばしたまま円を描くように。せーの、フュュュュ……」カタカタカタ

 

グラス「ふ、ふゅゅ…」カタ..カタ..カタ

 

スカイ「フュュュ……」ノロノロ

 

エル・キング・スペ『…………』

 

 

 

 

エル・キング・スペ『………ぶはっ!!!』

 

スカイ・グラス「「吹き出すのが早い!」です!」

 

ウララ「ほらほら!集中しないと!ーージョンっ!」ビシッ

 

グラス「じょっ、じょん!」フニャ

 

スカイ「じょーん!」ヘニョ

 

ウララ「もーっ!そんなんじゃタイミング合わないし、膝が下がってるから合体出来ないよ!ーーハァッ!」

 

グラス「ハッ!……ぅぅ…」

 

スカイ「は〜」

 

ウララ「うーん……2人ともどうしちゃったの?ウイニングライブのようなカッコ良さがないよ?」

 

グラス「すみません…」

 

スカイ「だってさぁ……横にあんなのいたら出来ないよ…」チラッ

 

 

 

 

エル・キング・スペ『あはははははっ!……ハァ…ふう。…あははははははは!!!!ーー』ジタバタ

 

 

 

 

グラス「っくう。何たる屈辱」

 

スカイ「いい笑いモノだよ……」

 

ウララ「困ったなぁ。…でも、グラスちゃん達の方が困ってるよね…フュージョンやめる?」

 

 

2人を気遣った発言。ウララとて2人に無理矢理やらせたい訳ではない。

ウララは上目遣いで、耳をペタンと倒し、尻尾も垂れ下がった状態で2人の反応を伺った。

 

 

スカイ「っ、やめるわけないよ!ねぇ!グラスちゃん!」

 

グラス「当然です!私達はフュージョンをするために生まれて来たと言っても過言ではありません!」

 

ウララ「ほんとっ!?良かったー!」パァァァ

 

グラス・スカイ「「あはは!……ハハッ」」ズーン

 

 

 

キング「……甘々ね」

 

エル「やはりあの2人もウララには勝てマセンか」

 

 

だがやる気を出したのも事実。

さっきまでとは比べものにならないほどの熱意をもって挑んでいた。

  

 

 

グラス「フュュュ…ジョン!」

 

ウララ「グラスちゃん!ジョンの時の手はグーだよ!」

 

 

 

スカイ「フュュュュュュュ…」

 

ウララ「セイちゃん!足は3歩分!それだと多い!」

 

 

 

 

グラス「ハッ!」

スカイ「ハアッ!」

 

ウララ「最後の指がズレてる!もう一回だよ!」

 

 

 

グラス「フュュュ」

スカイ「ュュ…ジョン!」

 

ウララ「タイミングがバラバラ!もう一回!」

 

 

     ・

     ・

     ・

     ・

     ・

 

スカイ「フュュュ……ジョン!っ、うわっ!」コケッ

 

グラス「"スカイ,,!」ダダッ

 

スカイ「ごめんね"グラス,,。私、もうここまでかも…」

 

グラス「何言ってるの!私達の物語はまだ終わりじゃない!」

 

スカイ「…グラス…あ、なたは…つよく、いき、て…」

 

グラス「い、いやっ!スカイ!スカァァイっ!」

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

グラス「なんで同じ所で間違えるのですか!ハッ!の部分では外側の膝を伸ばさないと!」 

 

スカイ「言われなくても分かってるよ!」

 

グラス「分かってないから出来てないんじゃないですか!」

 

スカイ「うっさい!グラスちゃんだって自分ばっかで私に合わせてくれないクセに!」

 

グラス「なッ!セイちゃんがのんびりし過ぎなんです!」

 

スカイ「なんだってぇっ!?」

 

グラス「何ですかっ!」

 

 

     ・

 

     ・

 

     ・

 

 

 

 

ー 3時間後 ー

 

 

グラス「ハァ、ハァ、ハァ、…」

 

スカイ「っく、はあ………」

 

ウララ「ーーうんっ!完璧だね!それじゃあ!」

 

スカイ「うん。そろそろ決めようか」

 

グラス「そうですね」

 

 

 

 

スペ「……ねぇ、エルちゃん」

 

エル「分かってマスよ、スペちゃん……」

 

エル・スペ「「感動したあああああ!」」

 

スペ「だよね!だよね!なんか変なのあったけど、目の前であんなに頑張られたらこっちだって笑えないよ!」

 

エル「もう邪魔をしないようにして心の中で応援してマシタね!」

 

スペ「私も!」

 

キング「………」

 

 

キング(……………え、おかしくない?)

 

 

成功する前提で手を取り合うグラスとスカイ。

卒業する生徒を見守るかの如く胸を撫で下ろすウララ。

努力する者に心を打たれて抱き合うエルとスペ。

 

そんな彼女達を順番に見ると、より一層困惑した。

 

 

キング(フュージョンの合体条件って、身長が近い者と全く同じ動作をする事よね。………出来てるじゃない)

 

 

グラス「セイちゃん、準備は良いですか?」

 

スカイ「もちろん!本気でいくよ〜」

 

キング(本気って何!?フュージョン成功の判断基準は心意気じゃなくて動作でしょう!!?)  

 

ウララ「さっきのホントに完璧だったよ!落ち着いてね!」

 

キング(だから完璧だったら出来てなければおかしいんだって!……え、なんなの?このキングがおかしいの?…いえ、そんなはずない。………私の考えが正しければ恐らく…)

 

 

 

 

キング(フュージョンにはもう一つ、重大なナニカが隠されている!)

 

 

名探偵気取りのキングは声に出す事なく断定した。

 

 

キング(……でも、勘違いかも知れないからゆっくり見させてもらうとするわ)

 

 

グラス「………セイちゃん」

 

スカイ「ん。こっちもOKだよ」

 

 

2人は目を瞑り、呼吸を合わせる。

静かながらも皮膚にビジビシと感じるほどの集中力。

 

 

エル・スペ・ウララ『……』ゴクリ

 

 

目を瞑ったままだというのに、2人は同時に腕を横に伸ばす。

 

そして、

 

ーー勢い良く目を開いた。

 

                

 

グラス「ッ!ーーフュュュ」カタカタカタ

 

スカイ「ジョン!」ガチンッ

 

 

グラス・スカイ「「ハッッッ!!!!!」」ビシッ!

 

 

ウララ「ミスなし!誕生するよ!さいきょーのウマ娘、、、が、」

 

 

ウララの目が点になる。

足の角度、腕の位置、手の形、最後の指を合わせる所まで全て完璧だ。

それなのに、目の前にいる2人は合体などしておらず、ヘンテコなポーズで指を合わせたまま止まっていた。

 

 

グラス「え、、、失敗?」

 

スカイ「うそ、でしょ…グラスカイは?」

 

キング(知ってたわ)

 

エル「で、でもウララも言ってマシタが間違えた所なんてなかったかと…」

 

スペ「うん。私もそう思う」

 

 

 

答えが出ない問題を考える一同。

 

 

その時だった。

 

 

ーーーーー"シュン!,,

 

答えを知る者が風切り音とともに現れた。

 

 

悟空「よっ!何か面白ぇ動きしてんの感じたから来ちまった!」

 

ウララ「悟空さんっ!あのね!えっとフュージョンしてて、でも間違ってなくて、なんでか分かんないけど、何でなの?」

 

悟空「す、少し落ち着けよウララ…。えーと、とりあえずフュージョンのポーズしてたのは間違いないみたいだな」

 

グラス「はい!何時間もかけたんです!なぜです!?どこが違ったのですか!!?」ズイッ

 

スカイ「フュュュの所は合ってる!ジョンが駄目だった!?それともハッ、なの!!?」ズイズイッ

 

悟空「ちょ、おめぇ達まで!キングぅ!説明してくれ!」

 

キング「ハァ…。簡単に言うとグラスさんとスカイさんがフュージョンをしたのよ。動きは完璧だったわ。なのに合体が出来なかった。なぜ?」

 

悟空「……………え?おめぇ達、もしかして本気で合体しようとしてたんか?」

 

スペ「? どういう事ですか?」

 

エル「まさか嘘ついたんデスか!?」

 

悟空「いや、そうじゃなくて」

 

 

いまいち噛み合わない問答が続くと見兼ねたキングが口を開く。

 

 

キング「悟空さん。フュージョンについて全部説明してくれないかしら?」

 

悟空「別に良いけど、ウララには話したぞ?おめぇ達だってウララから聞いたからフュージョンしたんだろうし」

 

キング「良いから、お願い」

 

悟空「? ああ。フュージョンっちゅーのは合体で、1人では大した事ねぇ奴でも、合体すればとんでもねぇ戦士が誕生する。身長が近い奴と〈"気,,を全く同じにして〉決められた動きをする。んでもってその動きっちゅーのが、」

 

キング「もういいわ」

 

悟空「そうか?大事なとこなんだけど」

 

キング「動きは多分あってるのよ。単刀直入に聞くけど、私達がフュージョンする事は可能かしら?」

 

悟空「無理だ。おめぇ達は"気,,の操作出来ねぇだろ。もし仮に一瞬だけ同じになっても動いてる最中に"気,,が変動しちまう。決めつけんのは好きじゃねぇけど、今回だけは絶対出来やしねぇ」

 

キング「そう。確認だけれど、その事をウララさんには?」

 

悟空「言ったぞ。隠す事じゃねぇし、忘れる事でもねぇからな」

 

キング「ですって」

 

ウララ「そ、そうだっけ?あは、あはははっ…」

 

グラス・スカイ「「……………」」

 

スペ(あちゃぁ……ウララちゃん…)

 

エル(これは擁護のしようがありマセン…)

 

ウララ「え、っと、ごめんね?ウララちょっとお手洗いにぃ」

 

ーーガシッ

 

ウララ「セイちゃん?肩掴まれると動けない、かな。ウララ漏れちゃうよ?」

 

スカイ「ん?うん。……漏らせば?」

 

ウララ「ヒエッ、」

 

グラス「おやおや、怯えてしまって可愛いですね〜。こんなに可愛い子……どう調理しましょうか」

 

ウララ「ッ!あの、ウララね、えっとね、ちょっと用事があってね……だからね、」

 

グラス「ハァ…。自分の罪を認めれず挙句の果てには逃げる事だけ考えて言い訳ばかり」

 

スカイ「ウララさぁ、そんなんで恥ずかしくないの?キミのお母さんはヘッポコだけど逃げる事はしないよ?」

 

ウララ「ヘゥ」

 

キング「ちょ、ちょっと…。いくら何でもお母様を引き合いに出すのは駄目よ」

 

スペ「? キングちゃんの事だよ」

 

エル「世界広しと言えども、ヘッポコのマザーなんてキングしかいまセン」

 

キング「そうなの?それじゃあ別に良い…訳ないでしょうが!何で私が遠回しに貶されてんのよ!」

 

 

ウララ「あわわわわっ、悟空さん、助けて!」

 

悟空「いやー、正直怒ってるコイツら敵に回したくねぇから無理だな…。ちゅーか元々は合体出来ねぇけど遊び半分でやろうって言ってオラとやってたんじゃねぇか。何で忘れてたんだよ」

 

ウララ「途中から悟空さんと合体出来ないのは身長だけだと思ったんだよぉー!」

 

スカイ「うん。嘆くのはもういいからさ、裁きの時間に入ろうか」

 

グラス「どうします?悟空さんジェットコースター、フリーフォール、バンジージャンプから逆バンジーまでいけますよ」

 

スカイ「ふむ。ちょっと新鮮味に欠けるかな」

 

グラス「その心は?」

 

スカイ「…ウララに残像だしてもらおう」

 

グラス「詳しく」

 

スカイ「前に残像拳というワードを聞きましてぇ、聞いた話を私なりに解釈すると、高速スピードから複数の残像を残す技らしいんだよね」

 

グラス「把握しました。悟空さん、残像拳は背負ってる物などにも影響しますか?」

 

悟空「……おお。風呂敷や武器持ちながら出来たから問題ねぇぞ」

 

ウララ「っ、そんなぁっ!酷いよっ!」

 

スカイ「ぜーんぜん酷くないよ?酷いのはウララの方だよね?私達に出来もしない恥ずかしいポーズを3時間もやらせたんだから」

 

グラス「罪には罰を。ウララちゃんだけ例外なんて認められません」

 

ウララ「っ、」シュバッ!

 

スカイ「逃げた!」

 

グラス「悟空さん!捕まえてください!ウララちゃんに変な事教えたって、たづなさんに言いますよ!」

 

悟空「ッ!」シュンッ、ガシッ

 

ウララ「あーん!ずるいよぉ!離してぇええええ!」

 

グラス「悟空さんお願いします!」

 

スカイ「ウマ娘に残像が出来る程の速さを!」

 

キング「あ、首は抑えててね。切り返しの際に起こる重力で折れてしまうと痛いでしょうから」 

 

悟空「おう」

 

ウララ「キングちゃん!それ痛いだけじゃっ、ーーーー、」

 

スペ「ウララちゃん?」

 

 

視線の先にはウララを抱きかかえる悟空と、必死な形相を浮かべるウララが一時停止のように固まっていた。

 

 

エル「2人ともどうしたんデス?」

 

 

するとどこからか声が聞こえた。

 

 

>ぎゃ、ーー、たすけっ、ーー

 

エル「? っ!見てくだサイ!こっちにもいマス!」

 

グラス「これは、」

 

スペ「……後ろだけ、じゃないかも」

 

キング「! これが、残像拳」

 

 

右、左、真後ろ、更には上や壁などに出現する悟空とウララ。

 

その一体にスカイはゆっくり手を伸ばした。

 

 

スカイ「っ、すり抜ける!残像だ!」

 

『そうだ!』

 

 

悟空の声が後ろから聞こえた。

全員が揃って振り向くと、そこには宙に浮いた2人がいる。

返事をしようとした所で別の場所から声がした。

 

 

『これが残像拳!』

>ギャァァ

 

 

 

『昔はよく使ったもんだ!』

>タス、ケ…

 

 

 

『残像には"気,,が無いから大人になってからは使えなくなったけどな!』

>モウムリィィィ

 

 

 

『最初に見た時はオラもビックリしたぞ!』

>ッ、オエッ、

 

 

 

『ウララのトレーニングに使えるから最近は使ってる時が多いな!』

>……ハキソウ

 

 

グラス「も、もういいですよ!ありがとうございます!」

 

スカイ「私達の気は済んだから止まってぇ!」

 

悟空「おっ。だってよ。良かったなウララ!」

 

ウララ「ち、、、きゅうが、まわ、っ、、てるよ〜」バタン

 

スペ「ウララちゃーん!?」

 

キング「残像拳……これはとんでもない罰ゲームね」

 

エル「エルも気をつけまショウ…」ボソッ

 

 

     

 

 

ーーゴクゴクゴクゴク、

 

ウララ「ぷはぁっ、………おえっ、」

 

スペ「大丈夫ですか?」

 

ウララ「う、ん。ありがとスペちゃん」

 

スペ「いやー残像拳凄かったですね」

 

ウララ「ウララには何が何だか分からなかったよ…」

 

スペ「だろうね。でも全部終わってみると……ぶふっ!フュージョンをしてたグラスちゃんとセイちゃんが頭の中に出て来て笑っちゃうね!」

 

ウララ「………ぇ、」

 

エル(あ、オワッタ…)

 

キング(さすがに救えないわよ…)

 

スペ「あはっ!プププ!ふゅーじょん!はあっ!……あはははははっ!」

 

ーーガシッ

 

スペ「ははは………へ?」

 

グラス・スカイ「「………」」

 

スペ「………冗談です」

 

スカイ「そっか。じゃあこれからは冗談を言う時はしっかりと考えてね」

 

スペ「うん。ごめんね」

 

グラス「悟空さん、お願いします」

 

悟空「おお」

 

スペ「ヒッ、い、いや、謝ったじゃn、ーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告:スペシャルウィーク

 

あ"ー、き"も"ち"わ"る"い"…でも楽しかったよ。

みんなといる時、どうでもいい話をしてる時は凄く好き。

毎日楽しい時間だけが続いていた。

 

 

 

 

ーーあの時までは、

 

 

 

……嘘だと思いたかった。けど、目の前で見ちゃったから嫌でも現実が私を襲った。

どこか調子が悪かったのか。実は脚を痛めていたんじゃないのか。

 

私の腕の中で目を閉じる貴女は何も答えてくれない。

 

困った事があるとすぐに貴方を頼る私はずるいですか?でも、ごめんなさい。私には力が無いから貴方に縋りつくしか出来ないんです。

 

 

 

 

「…おねがい、します……わたし、なんでもしますから……ひつようなことぜんぶやりますからぁ………おねがい悟空、さんっ、………たすけて、くだ、さい…」

 

 

「……………………すまねぇな」

 

 

 

 

   

   ー 天皇賞(秋) 出走 ー

 

 



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静まり返った秋の天皇賞 ー 前編 ー





たくさんの意味を込めて、ごめんなさい


注意 

捏造あり






 

 

 

 

 

 

 

 

 

春の天皇賞と並ぶもう一つの天皇賞。秋古バ三冠の一つにも数えられるG1レース。

ーー秋の天皇賞。

中距離最強を決めるレースと言っても過言ではないほどの有力なウマ娘が集う舞台。

現時点、最強と名高いサイレンススズカもこのレースの出走バだ。

パドック前の控室。彼女の元にはチームスピカの面々がそろっていた。

 

 

沖野トレーナー(沖野)「スズカ。お前が一番速く走るには自由である事が最優先だ。しかしグラスワンダーの事だけは忘れちゃだめだ」

 

サイレンススズカ(スズカ)「はい」

 

沖野「恐らくだが毎日王冠の時と同じじゃない。エルコンドルパサーが居ない今、グラスワンダーはお前だけにマークをするだろう」

 

トウカイテイオー(テイオー)「でもさぁ、スズカは大逃げだよ?マークするったって、後方からの走りをするグラスじゃ離れすぎてマークのしようがないと思うけど?」

 

沖野「俺もそう思うが、実行するのがグラスワンダーの恐ろしい所だ。だがその事はあくまで知識として知ってる程度で良い。スズカは好きなように走れば良いんだからな」

 

スズカ「……はい。私は先頭の景色を見続けるだけなので」

 

沖野「!…ははっ、お前も充分恐ろしい奴だったな。スペ!お前から何かないか?」

 

スペ「……………」ポケー

 

テイオー「スペちゃん?」

 

マックイーン「どうしたのでしょうか」

 

スズカ「さあ?朝からずっとこの調子だから、……スペちゃん」

 

スペ「………ほえ?あれ、今呼びました?」

 

沖野「呼びました?じゃねぇよ。もーしっかりしてくれ!これからお前の憧れのウマ娘が走るんだぞ!」

 

スペ「は、はい!」ハッ!

 

沖野「じゃあグラスワンダーの事について何か教えてくれ。癖とか」

 

スペ「はい!グラスちゃんは外差しが得意なので、逆に内に沈めるのも良いと思います!」

 

沖野「お、おぉ……いきなり結構むごいの来たな…」

 

スペ「グラスちゃんの武器は末脚の切れ味。私やキングちゃんとは違い、グラスちゃんはお尻の筋肉を存分に使うので瞬間的な加速が速い。そのため競り合いにはめっぽう強いです!」

 

沖野「な、なるほど…」

 

スペ「だからお尻が大きくなるんだってエルちゃんが言ってました!」

 

沖野「…………ん?」

 

スペ「あと、グラスちゃんはスカート丈にこだわりがあるので、勝負服のスカートの長さを変えると精神面に有効だと思います!」

 

スズカ「す、スペちゃん?」

 

スペ「それに抹茶ラテを"和,,としてか"洋,,としてかを寝不足になるまで考えるという、おバカな所があるので、ゲート前に抹茶ラテは"洋,,だよ。…とか言えば多分出遅れます!」

 

テイオー「なんか……姑息じゃない?」

 

スペ「その中でも1番使える手があるんですけど、」

 

ダイワスカーレット(スカーレット)「…何か聞くのが怖くなって来たわ…」

 

ウオッカ「おれも…、」

 

スペ「意識をグラスちゃんに置く事で、いつスパートかけて来るかが分かります!」

 

沖野「意識を?……悪い、もうちょっと詳しく聞いても良いか?」

 

スペ「詳しく、ですか。んー、……あっ!頭の中でグラスちゃんを考えると、圧力の加減で来るか来ないかが分かるようになります!」

 

『……?………??………???…』

 

マックイーン「……ゴールドシップ。出番ですわよ」

 

ゴールドシップ「え"っ、」

 

マックイーン「スペシャルウィークさんの解読をお願いします」

 

ゴールドシップ「いや無理だろ、無茶振りすんな」

 

マックイーン「あなたなら出来るはずです」

 

ゴールドシップ「どんな自信だよ…。

……………私らが海老で鯛を釣るのだとしたら、スペは鯛を手掴みで捕まえるって感じだな」

 

マックイーン「ありがとうございます」

 

テイオー「え、何か分かったの?」

 

マックイーン「ええ。私達が理解するには早過ぎるという意味です」

 

テイオー「諦めただけじゃんそれ!」

 

 

 

沖野「………すまない、スズカ。お前の大事なレースだってのに緊張感欠けるよな」

 

スズカ「ふふっ、私はスピカの雰囲気が好きなので大丈夫ですよ。1番リラックス出来てます」

 

スペ「さすがスズカさん!私っ、ずっと応援してますから!」

 

スズカ「うふふ、スペちゃんがそう言ってくれるなら百人力ね」

 

 

 

 

沖野「ーーーーーーよし。そろそろ時間だな」

 

 

沖野が腕時計を見ながら告げる。スズカは静かに頷き、スピカの声援を背中で浴びながらドアへと向かった。

すると、ドアノブに手をかけた所で振り返る。

 

 

スズカ「………スペちゃん」

 

スペ「何ですか?」

 

スズカ「良かったら、途中まで一緒に行かない?」

 

沖野「どうしたスズカ?何か、「行きます!!!」…あ、おいっ」

 

スペ「大丈夫です!スズカさんは私に任せてください!」

 

 

そう言うとスズカの手を握りしめて部屋から飛び出した。

声をかける暇がなかったスピカの面々は呆然と佇む中、沖野が項垂れながら口を開く。

 

 

沖野「任せてって………スペだから不安なんだよ…」

 

 

それには全員が共感し首を縦に振った。

感覚が鋭いウマ娘だけでなく、人間である沖野まで感じ取ったのだ。

ーー出走を控えたスズカよりも、荒々しい雰囲気を纏っているスペを。

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

ターフにつづく裏通路。コツコツと足音を反響させながらスペとスズカは歩いていた。

 

 

スズカ「スペちゃん」

 

スペ「何ですか?」

 

スズカ「今日そんなに走りたかった?」

 

スペ「え?」

 

スズカ「今朝から、かしらね。ボーってしてるかと思ったら突然スペちゃんから寒気を感じるの。まるでスペちゃんが出走するみたいに」

 

スペ「っ!あわ、っ、す、すみません!迷惑ですよね!?えと、あのっ、、私離れましょうか!!?」

 

スズカ「落ち着いてスペちゃん。そうじゃないの」

 

スペ「でも…」

 

スズカ「責める訳じゃないけれど、今のスペちゃんは、私やスペちゃんのおかあちゃんを理由に走って無いわよね?」

 

 

スズカは以前スペの口からハッキリと聞いていた。お母ちゃんとの約束で日本一のウマ娘になると。そして、自身のようにカッコ良く走りたいと。

 

 

スペ「そ、それはっ、」

 

スズカ「だから落ち着いて、ね?私はそれが嬉しいんだから」

 

スペ「うれ、しい、、ですか?」

 

スズカ「ええ。もちろん誰かのために走るっていうのは素敵な事よ?先頭の景色が見たいだけの理由で走る私よりよっぽどね」

 

スペ「そんな、ムグッ!?」

 

 

スズカはスペの口に指を当てて黙らせた。

 

 

スズカ「でもちょっとだけ寂しかったわ。もっと欲を出して良いのにって。だけどスペちゃんは変わった。宝塚記念が終わった後からだったと思う」

 

スペ「っ!」

 

スズカ「多分スペちゃんは気づいてないと思うけど、トレーニングをしてる時たまに怖い顔して見てくるのよ?食べられちゃうんじゃないかってヒヤヒヤしてるわ」

 

スペ「えーっ!さすがにスズカさんを食べたりしませんよ!?」

 

スズカ「うん、比喩表現だから落ち着いてね。でもそれが嬉しいの」

 

スペ「……怒らないんですか?」

 

スズカ「怒る理由がないわよ。どうして?」

 

スペ「だって、トレーニングの邪魔をしてますし、スズカさんも落ち着かないんじゃ…」

 

スズカ「ふふっ、私もウマ娘だからね。強いウマ娘にライバル視されて嫌な訳がないわ」

 

スペ「スズカさんっ!」

 

 

スペは感極まって抱きつこうとした。

 

 

スズカ「それもこれも全部、ーー"ゴクウサン,,のお陰かしら?」

 

スペ「え"っ」

 

 

スズカの口から飛び出た思わぬ人物。どこから情報が漏れるか分からないから名前を出すのはやめようと皆で決めたはず。

それなのに何故?…とスペの脳内が困惑で埋め尽くされる中、スズカは口元を手で隠し、クスクスと笑っていた。

 

 

スズカ「当たっちゃったかしら?」

 

スペ「ぇ、、な、んの事ですか?」

 

スズカ「ふふっ、興奮しながら部屋に戻ってくると必ずそのワードが出て来てたもの。隠そうとしてたみたいだけど、それが何回も続くと結びつけるくらい簡単よ」

 

スペ「ッ!?えとえと、…あの、……決してスズカさんに隠し事を、いや、してるんですけどね?してますけど、隠したい気持ちとかじゃなくて、言えない事でもありまして…」

 

スズカ「ええ。とりあえず落ち着きましょ?」

 

 

どこまで計算尽くだったのか。スズカは狼狽えるスペを見て終始笑顔だった。

スズカは以前から話をしたかったのだ。"ゴクウサン,,と呼ばれる彼の事を。何故こんな大事なレースの前で話題に出したのかは不思議だが、スズカはスペの困り顔を見てリラックスした状態になっていた。

 

 

スペ「あのですね?これは誰にも言っちゃダメな事で、」

 

スズカ「そう。………悲しいわ」グスン

 

スペ「ッ!!?あっ!そうじゃなくて!もちろん言いたい気持ちはあるんですけどっ、あのあのっ、……フゥ、……どこまで説明しましたっけ?」

 

スズカ「まだ何一つ説明してないわよ。スペちゃん」

 

スペ「〜〜〜〜ッ!?!?!ーーっ!、ーーッッ、」ワタワタ

 

スズカ「……」(かわいいわね。…ん?)

 

 

スペを見つめるスズカだったが、後ろからやってくる栗毛の彼女が視界に入った。

 

 

グラス「スズカさん?スペちゃんまで」

 

スズカ「こんにちは、グラスちゃん。今日はよろしくね?」

 

グラス「はい。こちらこそよろしくお願いします。……ところでスペちゃんはどうしたんですか?」

 

スペ「ーーそっか!私がゴクウサンなんだ!」

 

グラス「スペちゃん!!?こんな所で何をっ」

 

スズカ「じゃあ私は先に行くわね?スペちゃん、応援お願いね」

 

グラス「え、こんな状態のスペちゃんを置いていくのですか!?」

 

スズカ「ふふっ、私に追いつけると良いわね。グラスちゃん」

 

グラス「この流れで挑発されても乗れませんよ!?何がどうなっているのですか!!?」

 

 

サイレンススズカはマイペースに足を運んだ。

スペの肩を持ってガクンガクンと揺らし続けるグラスを置いて。

 

 

グラス「しっかりしてくださいスペちゃん!」

 

スペ「うん、分かったぁ。……あれ、しっかりって何だっけ?」

 

グラス「スペちゃん!?」

 

 

そんな会話を聞きながらスズカは思う。

スペシャルウィークとグラスワンダー。今もまだギャーギャーと騒いでいる彼女達は、以前ならば人目のつく所で外聞を気にせず騒いだりしなかったはずだ。

加えてグラスはスペの口から出た"ゴクウサン,,という言葉に反応していた。推測するに、彼女達を変えたのは"ゴクウサン,,なのかも知れない。

 

 

スズカ(ふふっ、何だか羨ましい。いつか私にも紹介してくれると嬉しいわね)

 

 

スペが口から溢れた内容をまとめると、とてつもなく強いヒトらしい。それしか分からないが、強さ以外にも彼女達の気を引く魅力があるのだろう。

スズカは自然と足が軽くなるのを感じてウキウキ気分でターフに向かった。

 

そして。

 

 

 

スズカの望みは最悪な形で叶えられる事となる。

 

 

 

 

グラス「もーっ!スペちゃん!!!」

 

スペ「ハッ、た、大変ですグラスちゃん!」

 

グラス「大変なのは百も承知です!何があったんですか!?」

 

スペ「私今日のレースで掛かっちゃうかも知れません!」

 

グラス「スペちゃんは今日走らないではありませんか!」

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

スペ「ご、ごめんね、レース前に…」ゼーハー

 

グラス「い、いえ……何があったんですか?」フゥ

 

スペ「…多分、聞いちゃうとレースに集中出来ないだろうから内緒にさせてください。悪い事ではないので」

 

グラス「まあ、スペちゃんがそう言うのでしたら」

 

 

ようやく落ち着きを取り戻したスペはグラスと共にターフへと歩を進めた。

 

 

スペ「グラスちゃんは調子どう?スズカさんに勝てそうかな?」

 

グラス「コンディションは抜群に良いですが、スズカさんに勝つにはそれだけでは足りません。悔しいですけどね」

 

スペ「あははっ!グラスちゃんってば全然悔しそうな顔してないじゃん!……自信あるんだね」

 

グラス「ふふっ!そうですねぇ〜。………勝ちますよ。黄金世代として同じ相手に2度も負けられませんから」

 

 

グラスの瞳に燃えさかる炎が宿る。

しかしそれとは反対にスペはキョトンとしていた。

 

 

スペ「グラスちゃんから黄金世代って言うの初めて聞いたかも」

 

グラス「あら、そうですか?」

 

スペ「うん。グラスちゃんとキングちゃんは、黄金世代って呼ばれるの嫌ってそうだよねってセイちゃんと話した事あるし」

 

グラス「どんな話しをしてるんですか…。ですが、まぁ、遠からずですかねぇ。ただ一つの世代に実力者が集まっただけなのに、個々の力を纏められてる気がして好みません」

 

スペ「って、言いそうだよねーって話してたんだよ」

 

グラス「………ですが、今は違います。黄金世代という肩書きは私を強くしてくれると気づいたんですよ」

 

スペ「どういう事?」

 

グラス「皆さんにも言える事ですけど、黄金世代って、黄金の力を持つ"あの人,,と類似してるじゃないですか」

 

スペ「ん?んー……、」

 

 

グラスの言う"あの人,,とは一人しかいない。

大地が揺れ、稲妻が走り、暴風が吹き荒れる中に、神々しく存在した黄金の輝きを持つ"あの人,,

 

しかし、

 

 

スペ「類似って、………"黄金,,の字面が一緒なだけだよね?ちょっと無理矢理な気もするような…」

 

グラス「それでも良いんです。想いとは力。あの人との関係性があるってだけで強くなれる気がします。背中を押してもらってるのではなく、共に闘ってる。そんな気がして」

 

スペ「!………そっか」

 

グラス「ご理解いただけましたか?」

 

スペ「うん!グラスちゃんが"あの人,,の事大好きだってよーく分かったよ!」

 

グラス「どこかで歪みが生じましたか!?」

 

スペ「あれ?違った?」

 

グラス「全部ちがっ!…くもないですけど、今はそういう話しではありません。……スペちゃんは思いませんか?」

 

スペ「思うよ」

 

グラス「え、」

 

スペ「えへへ、ごめんね。ちょっとだけ、からかっちゃいました」

 

グラス「っもー!酷いですっ」

 

スペ「ごめんごめん。……実はさっきスズカさんに言われたんだ。私は変わったって。自覚は無かったけどね。考えてみれば最近強気でいられるのは"あの人,,のお陰なんだと思う」

 

グラス「スペちゃん…」

 

スペ「私もグラスちゃんと同じだよ。私も"あの人,,から闘志をもらってる。……だからなのかなぁ」

 

 

スペは想いを込めるようにギュッと拳を握るとグラスへ向けた。

 

 

スペ「負けたままじゃ黙っていられない。

ーーいっちょ、やってやろーぜ?グラス」ニヒッ

 

 

 

今日レース場に来れない悟空の代わりに、活気を付けるための声援を送る。

スペは特徴的な口調を真似した。慣れない言葉使いだが悪くはないだろうと、思っていると…、

 

 

グラス「………………………………、」

 

 

グラスは俯いたまま右の拳をスペの拳にコツンと当て、空いた左手で勝負服を胸元を力強く、しわくちゃになるほど握りしめていた。

 

 

グラス「グッ、…ゥゥッ………ッ…」

 

スペ「!?ぐ、グラスちゃん!どうしたの!?胸が苦しいの!!?」

 

グラス「す、ぺちゃん。私、このままだと…」

 

スペ「大丈夫!?すぐに係の人呼んで、ーー」

 

グラス「今日のレース、掛かってしまいます!」

 

スペ「…………え、どうしたの急に」

 

グラス「スペちゃんが悪いんじゃないですか!あ、あぁっ、どうしたら、心臓がっ、鼓動がうるさいです!」

 

スペ「ちょ、ちょっと落ち着こ?ね?」

 

グラス「ハァーッ、フーッ、……無理です!何で今あんな事言ったんですか!」

 

スペ「えーっ、私のせいなの!?何も言ってないよぉ!」

 

グラス「言ったからこうなってしまったんですよ!」

 

スペ「何の事ですか!?別に普通の…………あ。……あんま気にすんなよ、グラス」

 

グラス「〜〜っ!?!?!?!!!し、心臓が苦しいっ!」

 

スペ「やっぱり"あの人,,の真似がダメだったんですか!?」

 

 

とてもこれから名誉あるG1レースを走るとは思えない程の慌ただしさ。

だけどゆっくりしている暇もない。続々とターフにウマ娘が集まっているのだ。

スペは、荒い息を立てているグラスの手を引っ張って強引にターフへと連れて行った。

 

 

 

      ・

 

 

      ・

 

 

      ・

 

 

 

 

実況「さあ!大外枠13番のグラスワンダーがターフに現れ、全員のウマ娘が登場しました!見たところサイレンススズカは落ち着いているように思えます」

 

解説「良い感じにリラックス出来てますね」

 

実況「圧倒的1番人気のサイレンススズカは絶好調!そしてリベンジなるか!2番人気グラスワンダーは、少し落ち着かない様子っ!」

 

解説「キョロキョロしたり、一生懸命深呼吸してますね。あ、あれは……手のひらに"人,,という字を書いて飲み込んでいるのでしょうか……?」

 

実況「本人は真剣なのであまりよろしくないでしょうが、少し微笑ましい気分になりますね」

 

解説「同感です。しかしグラスワンダーの真骨頂は何と言っても、安定のレース展開から繰り出す末脚。ただでさえ大逃げをするサイレンススズカに対して冷静さを欠いては勝機を見出せませんよ」

 

実況「確かにそうですね。ゲートへ入るまでに何とか出来れば良いのですが…」

 

 

グラスの精神が不安定な状態は誰の目から見てもハッキリ分かった。

それはもちろん観客席でも話題に上がる。

 

 

沖野「あのグラスワンダーが心をコントロール出来てないとは…」

 

スペ「……」

 

テイオー「言っちゃ悪いけどチャンスなんじゃない?」

 

ウオッカ「やっば天皇賞の舞台はグラス先輩でも緊張するんだな」

 

スペ「……………」

 

ゴルシ「? スペ、おまえさっきから黙ってるけど何も言わねーのか?」

 

スペ「ふぇっ、え!?」

 

ゴルシ「スズカが出るからって他のヤツ応援したら駄目って事はないんだぞ?スペがちょっと言ってやればグラスも落ち着くんじゃねーか?」

 

スペ「あー、、、ですか、ね?」

 

テイオー「まあ、この騒がしい中でもスペちゃんの声が聞こえるとは思えないけどね」

 

スペ「! そ、そうですよね!」(もし聞こえちゃったら、"どの口が言ってるんですか!,,とか怒られそうだけど聞こえないなら平気、だよね)

 

 

そう考えると、最前列にいるスペは目の前にある柵に手を置き、少しだけ声を張った。

 

 

スペ「ぐらすちゃーん。おちついてー」

 

ゴルシ「ばっっかスペ!そんなちっせー声で聞こえる訳ねーだろ!」

 

テイオー「そーだよ!もっと大き…く……イワナイト…」

 

ゴルシ「ん?テイオー?」

 

スペ「どうかしましたか?」

 

テイオー「…………あれ、みて…」スッ

 

ゴルシ「なーんだよ」キョロ

 

スペ「あれって?」キョロ

 

 

 

グラス「……………」ジーーー

 

 

 

ゴルシ「っ、………今のでスペの声が分かったってのか?」

 

テイオー「い、いやぁー……そんなわけない、よね?」

 

スペ(………もし聞こえてたらどうしよ…)

 

 

絶対に聞こえないはずの距離と声量。しかし彼女が自分の声を聞き逃すのだろうかと、奇妙な信頼感がスペの不安を煽る。

 

 

 

 

グラス(いま、スペちゃんに呼ばれたような…)

 

 

結論。

聞こえはしなかったが、スペの何かを感じ取ったようだ。  

 

 

グラス(……いえ、気のせいでしょう)

 

 

それより…と、胸元で強く握る。

 

 

グラス(スペちゃんにはやられましたね)

 

 

高鳴る心臓。レース後のような燃える体温。ギャップの恐ろしさを身をもって体験してしまった。

だが声を大にして言っても良い。こんな時じゃなければもっと悦に浸れたと。

怒れば良いのか、喜べば良いのか。今の感情は何かと聞かれれば色々ありすぎて分からない。

 

しかし、総じて言える事が一つだけある。

 

 

ーー自分は今、"興奮,,状態にあると。

 

 

グラス(怪我の功名でしょうか。悟空さんにアドバイスを貰ってから何度か試しましたが特に変わる事はなかった。しかし今なら…。この湧き上がる感情を利用すれば、"あの時のように,,)

 

 

グラスの中で、"アレ,,が品の無い行為だという事は既に脳内のゴミ箱へ捨てている。

宇宙最強の男が言ったのだ。"アレ,,は自分を強くしてくれる武器になると。

 

 

グラス(疑う選択肢など元より無し。……グラスワンダー。いざ参ります!)

 

 

直後に訪れた一瞬の出来事。

時間にしても3秒あるかないかくらいのものだが、グラスの行動により、何十万人といる府中レース場。及び、テレビ中継を見ている不特定多数の人から声を奪った。

 

 

実況「あ、れは……まえかき……ッ!?」

 

 

いち早く我に返った実況は目を疑う光景を説明する。

 

 

実況「"前掻き,,です!グラスワンダーが前掻きをしています!!」

 

 

"前掻き,,。それはウマ娘の精神状態が不安定な時、苛立ちをぶつけるかの如く、地面を強く踏んで足裏を擦り付ける行動の事。

しかしほとんどのウマ娘は極力やらない。ムシャクシャしてようが意地でもやらないウマ娘だっている。

 

単純な話。ーー品の無い行動だから。

 

それを"あの,,グラスワンダーがやるという事は、よほど精神に多大な負荷がかかっているのだと、グラスを見る者全ての人は思った。

 

 

東条ハナ「っ、グラスワンダーッ!」

 

 

もちろん彼女もその一人だ。

グラスワンダー、エルコンドルパサーが在籍するチームリギルのトレーナー。

東条は2階の客席から慌てて駆け寄ろうとした時、彼女の手を何者かが掴み、動きを止められた。

 

 

東条「クッ、離せ!なんのつもりだ!エル!」

 

エル「………、」

 

 

エルは東条を見ずに、今もなお地面に足を叩きつけているグラスを見ていた。そんな二人へ仲裁に入ろうとリギルのメンバーは動くが、同じくメンバーの一人であるシンボリルドルフに止められている。

 

 

東条「エルッ!」

 

エル「…………行っては駄目デス。トレーナーさん」

 

東条「バカな事を言うな!お前だって見えるだろう!」

 

エル「はい。良く見えてマス。ーーグラスが限界の壁を超えている瞬間を」

 

東条「げ、んかいの、壁…だと?」

 

エル「そうデス」

 

東条「………お前は何を知っている」

 

エル「詳しくは何も。ただ、グラスワンダーというウマ娘が誰よりも、レースに真っ正面からぶつかっているという事だけは知っていマス」

 

東条「!!!…………レースの後、ちゃんと説明してもらうからな」

 

エル「! ありがとうございマスッ!」ダキッ

 

東条「くっつくな!」

 

 

 

 

 

一方チームスピカでは。

 

 

沖野「前掻き、かぁ。久しぶりに見たな」

 

ゴルシ「私でもまだやった事ねーぞ…」

 

テイオー「……グラス。あんなに気持ちがブレてたらまともに走れないよ。こっちからしたらチャンスなんだろーけど、複雑だね…」

 

スペ「………………逆、ですよ」

 

沖野「ん?逆って何だ?スペ」

 

 

その問いには応えず、スペは息を吸った。

今度は聞こえるように。力一杯の声を出すように。

 

 

スペ「スズカさああああああんッ!!!!!絶対にっ!油断しちゃダメでぇぇぇす!!!」

 

 

スペは知っている。前掻きをした後のグラスは、孫悟空の"気,,にでさえ立ち向かった事を。

あれは本来の前掻きではない。彼女自身が言ったのだ。

 

ー前掻きは、自分を奮い立たせるためにやったと。

 

ならばグラスの心配をするのは悪手でしかない。焦りを含んだスペの叫びは、比較的近くにいたスズカの耳へと入っていった。

 

 

スズカ(スペちゃん。忠告ありがとう。でもね、)

 

 

スズカは流し見るようにゲート待ちのウマ娘を見た。誰も彼もグラスを見ている。目に宿るのは困惑ではなく、闘争心を持つ鋭い目だ。

 

 

スズカ(今の彼女を軽く見るヒトはここにいない。きっと近くにいるから感じているのかも。練習中にスペちゃんから見られている時と同じ感覚を。

ーー食べられちゃい(噛み殺されそう)だわ)

 

 

ドンッッッ!!!…と、グラスは一際大きく地面を踏むと、ようやく顔を上げて辺りを見渡した。

そして、グラスとスズカの視線は交錯する。

 

 

スズカ(それでも先頭は譲らない。あの景色は…、)

 

グラス(うん、良い気分です。それでは…、)

 

 

目を細めた先には強敵の顔。

弧を描く口元は抑えきれない喜びの表れ。

 

 

 

スズカ「私だけのものよ」

 

 

グラス「とことんやりましょうか」

 

 

 

二人は誰に言う訳ではなく、ボソリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

実況「ーーー皆様お待ちかねのメインレース、秋の天皇賞!係員が誘導してウマ娘がゲートに入っていきます!」

 

解説「1枠1番のサイレンススズカに対して、グラスワンダーは大外8枠の13番。脚質も関係して龍球ステークスのセイウンスカイとハルウララを彷彿しますね」

 

実況「あれは名勝負でしたね。見る者全てを惑わせたセイウンスカイの逃げ。その術中にハマってしまいましたが黄金世代の一角を後一歩まで追い詰めたハルウララ。はたして今回はどんなドラマが待っているのか。期待が募る一方です」

 

解説「グラスワンダーにしても今は落ち着いているようです。そもそも走れるのかどうかの瀬戸際まで考えていたのですが、すんなりとゲートに歩きましたね」

 

実況「今年のクラシック級ウマ娘はナニカが違う!ーーさあ!ゲートに出揃いました!」

 

 

 

 

 

実況「天皇賞秋、……スタートしましたッ!!!」

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

ー タキオン研究室 ー

 

 

 

《ーースタートしましたッ!!!》

 

 

 

タキオン「あぁ、出走してしまった。孫くんは何をやっているんだ」

 

 

テレビの前に齧り付いているタキオンはソワソワしていた。仕事の途中で瞬間移動するから見れるように準備しといてくれと言われたのに、彼の姿が一向に現れない。

 

すると、各ウマ娘が最初のカーブに迫った時だった。

 

 

"シュン!!,,

 

 

悟空「タキオンっ!今どうなってんだ!?」

 

 

珍しく汗をかきながら登場した。慌ててタキオンの横に立ち、テレビへと目を向ける。

 

 

タキオン「最初のコーナーを曲がった所だ。ワンダー君は13番。後ろから4番目の所にいるよ」

 

悟空「あ、いた。……はあ、何とか間に合ったみてぇだな」

 

タキオン「ギリギリアウトだがな。何かあったのかい?」

 

悟空「いやぁな、ウマ娘のヤツが水晶玉落としたっつって泣き叫んでてよぉ。さすがに無視出来ねぇから探すの手伝ってたんだ」

 

タキオン「水晶玉?今時の占いは怪しさ満天だねぇ」

 

悟空「占いは捨てたもんじゃねぇぞ?オラ結構世話になったからな。それに怪しいっちゅーのはおめぇにだけは言われたくねぇと思うぞ」

 

タキオン「失礼な。私は、ーー」

 

 

《速い!速すぎるぞサイレンススズカ!!後続に何バ身つけているんだ!?》

 

 

タキオン「……いくら何でもトばし過ぎなんじゃないのか?」

 

悟空「確かにな。おめぇ達ウマ娘は緩急つけて走らないと最後まで持たないんだろ?」

 

タキオン「ああ。そのはず、なんだけどねぇ…」

 

悟空「すげーなぁ、……って、コイツがスズカぁっ!!?」

 

タキオン「今更かいっ!?ワンダー君やコンドル君と一緒に毎日王冠出てただろう!」

 

悟空「いやー、あん時は速ぇヤツいんなーって思ってたくらいで、後はグラスとエルしか見てな、か、、っ、た……?」

 

 

《サイレンススズカ1000mタイム57.4秒!何という事でしょう!まだまだ加速しています!と、ここでグラスワンダーが外に出た!早くも捉えに行くのかっ!》

 

 

タキオン「57.4秒だってぇ!?信じられん!やはり彼女は逸材だ!断られているが是非とも被験者にしたいものだ!」

 

悟空「……………」

 

 

そこで映像はスズカから全体へと切り替わる。カメラを思いっきり引かないと後方勢が映し出されない程の大逃げ。このままでは逃げ切られると思ったのか、グラスが早くも飛び出して1人2人と抜かしていく。

そんなグラスだけにカメラが注目した。

 

 

タキオン「ほほう。彼女も中々良い位置にいるな」

 

 

十バ身近く離れているのにも関わらず、スズカとのタイミングを測っているグラスのレース感覚を褒めた。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

悟空「クソッタレ!もう一回スズカを映せよ!!!」

 

タキオン「ッ!!?」

 

 

声を荒げる悟空にタキオンは息を呑んだ。

彼らしくない乱暴な言い方に驚いた訳ではない。悟空の言い方から感じ取ったのは怒りではなく、焦りだったからだ。

自然とタキオンにも緊張が伝わる。

 

 

タキオン「…………どうした」

 

 

端的に問う。

険しい顔でテレビに縋り付く悟空の邪魔をしないために。

 

 

悟空「……分からねぇ。オラも何でか分からねぇっ!けど、スズカに違和感を感じた。嫌な予感がする」

 

タキオン「………、」

 

 

もはやレースどころではない。

タキオンもウマ娘視点ではなく、研究者として情報収集するためにテレビを見た。

 

 

《さあ!第3コーナーの入りは依然としてサイレンススズカが先頭!グラスワンダーが前から4番手まで位置まで上がって来ました!》

 

 

映像はグラスからスズカへ。

その瞬間、悟空は戦士へと切り替わる。

 

 

悟空(どこだ、…どこに違和感を持ったんだ。……もしかしてスズカじゃねぇのか?……いや、やっぱコイツからだ。もっと良く見ろっ。トレーナーになったつもりでスズカの動きをっ)

 

 

 

(ーー違うっ、そうじゃねぇ!もしもオラがスズカと敵として戦うんならッ!)

 

 

 

 

(スズカの弱点になりそうな所はッ!)

 

 

 

 

 

悟空「……………左脚、だ」

 

 

 

ボソリと呟く確信めいた声のトーン。

タキオンは全身から血の気が失せ、ガクガクと震える足を必死に堪えた。

 

 

タキオン「ッ!!説明しろ孫くん!」

 

悟空「スズカの左脚にダメージが蓄積されてる!その事に気付いてねぇんだ!このまま走り続けるとスズカの脚はブッ壊れちまうッ!!」

 

 

言いながらも、悟空は人差し指と中指を額に押し当てた。

 

 

悟空「時間がねぇ!オラは行くぞッ!!」

 

タキオン「孫くん!」

 

悟空「止めるなタキオン!オラの存在がバレるだとか気にしてる場合じゃねぇんだ!」

 

 

タキオンは冷静な心と。優秀な頭脳を持ち合わせている。

ゆえに考えてしまう。

孫悟空。瞬間移動。別世界。人の身を超えた力。その全てが世間に晒されてしまうかも知れない。

そうなれば黙秘していた学園はもちろん。ハルウララの事だって、タダではすまない。

 

そこまで考えてタキオンは言った。

 

 

タキオン「スズカ君の"気,,を知らないだろう!ワンダー君の所に飛べ!孫くんならスズカ君の所まで1秒もかからないだろ!その後すぐ私の所に瞬間移動するんだ!」

 

悟空「! 分かった!」

 

 

タキオンの言う通りスズカの"気,,を悟空は知らない。バ群の先頭を走る"気,,を探ればすぐに分かる事だが、ほんの少しのタイムラグが生じる。

それなら慣れているグラスの元へ行った方が1秒でも早くスズカに届くとタキオンは考えた。

 

 

悟空「ーーッ!グラス!!?」

 

 

2秒とかからない内にグラスの"気,,を見つけ出した。

 

 

ーー今にも壊れてしまいそうな程に、か細いグラスの"気,,を。

 

 

直後、2人の耳に入って来てしまった。

 

 

《サイレンススズカに故障発生!!第4コーナーに迫る大ケヤキの向こう側で何があったんだ!!?サイレンススズカ!余儀なく競走中止!!》

 

 

 

 

悟空・タキオン「「ッッッ!!!!!!」」

 

 

2人は画面を見た。

フラフラになりながらもコースの端へ向かうスズカだ。画面越しでも分かる。今の彼女に意識は無い。

 

 

悟空「……………、」

 

 

悟空は額からそっ、と指を離した。

 

 

タキオン「孫くん!?」

 

悟空「………オラが行かなくてもスペが向かってる。すげぇ速さだ。今更オラが行ったって意味はねぇ。場を荒らすだけ。………遅かった…」  

 

タキオン「………………そうか」

 

 

2人は魂が抜けたように画面を見ていた。グラスが1着でゴールしたにも関わらず、泣きそうな顔で後ろを眺めている姿を。

 

 

悟空「………グラス…、スズカ…………ッ!」

 

 

ブワッッッッ!!!!…と、一瞬だけ部屋の中に暴風が吹き荒れた。

実験道具が転がったというのに、タキオンは見向きもせず、自分の脚を押さえている。

 

 

悟空「タキオン」

 

タキオン「孫くん」

 

 

お互いの名を呼んだのは同時だった。

 

 

タキオン「………今、私の名前を呼んだという事は……そういう事かい?」

 

悟空「……だろうな」

 

タキオン「そうか…」

 

 

主語がなくても通じ合えてしまう。

 

 

この時をもって、宇宙最強の力を持つ男と、自他共に認める天才的な頭脳を持つウマ娘は、

 

 

タキオン「……無力だな、私たちは」

 

 

 

"運命,,という力に打ちのめされた。

 

 

 

 

 

 

 

悟空「………………すまねぇ、」

 

 

 

 

 

 



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静まり返った秋の天皇賞 ー 中編 ー



すみません。
長くなりそうなので秋天編は前、中、後と分けます。


捏造あり


 

 

 

 

 

 

 

日本中、さらには世界までもが震撼した。

 

ーーサイレンススズカの故障。

 

倒れる直前、彼女の体をスペが守った事により最悪の事態は防げたが、彼女が目を開ける事は無い。

 

 

スペ「す、ずか、さん……っ、もう、大丈夫ですよ、…トレーナーさんもすぐにっ………来てくれますから」

 

 

意識を失っても彼女に心配かけまいと、ぎこちない微笑みを浮かべるスペ。

 

 

沖野「スズカぁっ!」

 

 

救護班を引き連れて来た沖野はスズカへ駆け寄ると、患部に目を向けた途端に口元を強く抑えた。

 

 

沖野「ッ!!……うそ、だ、ろ…」

スペ(トレーナーさん?)

 

 

目の前の現実から逃げるように後退りする沖野。

周囲には既に救護班と救急車が待機していた。

 

 

救護班「後はこちらで対応します!離れて!」

 

 

患部を応急処置して担架に乗せる。そんな彼らの行う迅速な行動を、ただ見てる事しか出来ないスペは、沖野へと歩み寄った。

 

 

スペ「……トレーナーさん」

 

沖野「ッ!!何だ、……っと、悪いな。トレーナーの俺が取り乱したら不安にもなるよな…。すまない」

 

スペ「……いえ、……………スズカさんの脚。何か分かっていますよね?」

 

沖野「!!?……い、いや……俺は医師じゃないから何とも、」

 

スペ「トレーナーさん」

 

沖野「…………、」

 

 

チームスピカのトレーナーである沖野は、トレーニングに置いて"適当,,だ。リギルのトレーナー、東條からもたまに白い目を向けられている。

しかし、その2人を含む彼の近くにいるヒト達は知っているのだ。

ーー沖野は優秀だからこそ適当なのだと。

だからスペは確信を持って問い詰める。

 

 

スペ「トレーナーさん……っ、あなたは何を知っているんですか!教えてください!」

沖野「…………確証はない。まだアイツらには言わないでくれ」

 

 

こちらに向かって来ているチームスピカの面々を見ながら言うと、スペは頷いた。

 

 

沖野「……ッ、…ぁ、…………くるぶし周辺の、……足根骨って呼ばれる部分。…イヤな腫れ方をしてる。多分………"粉砕骨折,,をしている…っ」

 

スペ「ふんさい………ッ!でもっ、治療すればまた!」

 

沖野「……………分からない」

スペ「そん、なぁ」

 

 

明確な言葉を使わない事こそが沖野の最大限の配慮だ。

沖野は誰よりも分かっている。粉砕骨折をしたウマ娘の末路を。だが全てが分かっていながらも沖野は決して目を背けない。

 

 

沖野「ーーー諦めないからな」

 

スペ「え、」

 

沖野「俺は絶対諦めない。スズカがもう一度走れるように。たとえ可能性が0だとしても、最後まで足掻き続けてやるッ」

 

スペ「トレーナーさん。………、」

 

 

スペの手のひら。力なく開いていた手を強く握りしめると踵を返した。

 

 

沖野「スペ?」

 

スペ「…スズカさんの事、よろしくお願いします」

 

沖野「っ、待て!」

 

スペ「………、」

 

沖野「……病院、ついてこないのか?お前がいないとスズカ悲しむぞ」

 

スペ「…………すみません!私も可能性に縋り付きたいんですっ!」

 

 

潤んだ瞳を沖野に見せ、救急車の中へ運び込まれるスズカへ視線を移す。

それらを振り切るようにスペは駆け出した。遅れてやって来るスピカのメンバーとすれ違いになるように。

 

 

テイオー「スペちゃん!?」

 

ゴルシ「あいつ、どこに行くつもりだ?」

 

沖野(…………スペ)

 

 

 

 

 

混雑した府中レース場を強引に走り抜け、列を作るタクシー乗り場を通り過ぎて"彼,,の元へ一直線に向かう。

 

 

スペ(このままじゃイヤだよぉ。お願いっ、助けて。ーー悟空さん!)

 

 

 

彼女は走る。長い道のりを。肺が苦しくなっても、足が鉛のように重くなっても。

不可能を可能に変えてしまう彼の元へ。

 

 

 

しかし彼女は忘れていた。

 

 

 

 

悟空に傷を治す力は存在しない事を。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

サイレンススズカの故障。それは多くの人を悲しませた。

しかしウマ娘の長い歴史の中では特別な事ではない。

多くもないが少なくもないのだ。ウマ娘の故障というのは。

ゆえにレース上で誰がどのように故障しようが物語は続行される。

システム上。それが例えどんなに辛い心境だとしても、1着を獲った者としての責務がある。

 

 

グラス「………」

 

 

そう。 

責任をもって務める義務。

1着を獲った者として記念を納め、祝いと今後のためのインタビューを受けて、ファンと喜びを分かち合うためのウイニングライブを行う。

 

 

いや正確には、ーー行ったのだ。

 

完璧に、模範になり得る姿で。

 

 

グラス「〜〜〜ッッッッ!!!!!!」

 

 

ーーガシャンッッッ!!!!!

 

 

 

 

エル「……荒れてマスね」

 

東条「…だな」

 

 

控え室の外にいる東条ハナとエルは、そんな衝撃音を耳にした

 

 

東条「…本当に良いのか?」

 

エル「ハイ。トレーナーさんには申し訳ありマセンが、ワタシに任せてほしいデス」

 

 

エルは再三に渡って東条へ伝えていた。グラスの傍には自分がついていると。

もちろん東条はグラスのトレーナーとして受け入れ難いものではあったが、同世代の方が落ち着けるだろうと、しぶしぶ首を縦に振った。

 

 

東条「……これからどうする予定だ?」

 

エル「とりあえず学園に戻ろうかと思いマス」

 

東条「そうか。…もし、ほんの少しでも手が欲しくなったらすぐに連絡しろ。何時でも良いから」

 

エル「ハイ。ありがとうございマス。……トレーナーさんは行くんデスか?」

 

東条「?……あぁ、スズカの所ね。行くつもりよ。スズカの事は心配だし、……あそこのトレーナー、強気で立ち振る舞うくせに根本は弱い人だから付いててあげないと」

 

エル「…そうデスか」

 

 

ヤレヤレとばかりにため息を吐いているが、どこか温かい目をしている彼女は心の底から気掛かりなのだろう。

エルは僅かに口元を緩めると、エルの肩に東条の手が置かれた。

 

 

東条「エル」

 

エル「ハイ」

 

東条「…………すまない。グラスの事、頼んだわよ」

 

 

エルは静かに頷くと、東条はポンポンと優しく2回叩いて去って行った。

 

 

 

エル「……………………さて、」

 

 

グラスの控え室であるドアに目を向ける。

内側からは防音にも関わらず聞こえてくるのだ。彼女の声が。

 

 

エル「…………、」

 

 

カチャリ。

ゆっくりドアノブを下げて部屋へと入る。

 

その瞬間。

 

 

エルの五感全てはグラスの痛みを感じ取った。

 

 

 

グラス「〜〜〜ッッッ、何なんですかあのヒトは!!」

 

 

ダンッ!ダンッ!…と、本来の意味で前掻きをしているグラス。

 

 

グラス「何で怪我なんてしてるんですか!私との勝負はッ、先頭の景色を見続けるのではなかったのですかッ!!!」

 

 

悲鳴にも似た心の叫び。部屋の隅には椅子が転がっている。溢れ出る怒りを自分の中だけに留めて置けないのだろう。

 

 

エル「………グラス」

 

 

静かに呼ぶと、首が捩じ切れんばかりに勢い良く振り返って来た。極限まで開いた目がエルの瞳を貫く。

 

 

グラス「え、、る、………ッ!!!」

 

 

ボソリと呟いたのも束の間。グラスは地面を蹴るとエルへと襲いかかり、肩を持って壁へ押し付けた。

 

 

エル「ッッッッ、…………………グラス」

 

 

とてつもない衝撃がエルに伝わるが、奥歯を強く噛んで我慢すると平坦な口調で名を呼んだ。

俯いていてグラスの顔は見えない。ただ肩を掴む手が震えているのは分かった。

 

 

グラス「エル、……ねぇ、聞いて…エル」

 

エル「…ハイ。ちゃんと聞いてマスよ」

 

グラス「…私は全部見ていたんです。…マークについていたのだから当然ですよね……」

 

エル「グラス……、」

 

 

 

グラス「スズカさんがふらついてからコースを外れる所まで!私は全部見えていたんですッ!様子がおかしいという次元ではない!レース人生を揺るがす程のナニカが起きているという事は一目瞭然だった!他の皆さんの動揺だって感じ取れた!!」

 

 

 

エル「…………、」

 

グラス「にも関わらず!私はゴールを目指した!」

 

エル「………ウマ娘なら、当然の事デス」

 

グラス「私は勝った!力を出し切れなかった先輩方やスズカさんを繰り上がっただけなのに!」

 

 

あの天皇賞を見た者なら言うはずだ。

ちゃんとグラスの実力で勝ったレースだと。確かにグラスの言う通り他のウマ娘もスズカに意識を奪われたが、最終直線には力の限り走っていたのだ。

そして、もし仮に動揺して自分の走りが出来なくなったとしても、それは単なる実力不足として数えられる。

 

しかし、今のグラスは正常な思考回路をしていない。

スズカを見捨てた罪悪感が。

スズカが強制的に戦線を離脱した事が。

1着を"とらされた,,と思ってしまう惨めな現実が。

 

 

グラス「………いで、…」

 

 

日本刀の刀身のように、鋭くも美しかった彼女の心を傷つけた。

 

 

グラス「だれもッ!……わたしの事を勝者って、呼ばないで…」

 

 

懇願するように、エルの胸元へ顔を沈める。

 

 

 

しかしグラスは体ごと引き離されてしまった。困惑しながらも充血した目をエルへ向ける。

 

 

グラス「え、る、?」

 

エル「…………準備」

 

グラス「え?」

 

エル「帰る準備をしてくだサイ!」

 

 

そう言って、着ている勝負服を脱ぐように言い放ち、グラスの私物を鞄に押し詰めていく。

 

 

グラス「エル………?」

 

エル「………グラスの気持ちは良く分かりマス。もしもワタシが同じ立場なら同じような反応をするでしょう。そんなワタシだからあえて言いマス。ーー今こそ前を向け!」

 

グラス「っ!!!」

 

エル「今日のレースが不満なら先輩達に……スズカさんに言ってやれば良いんデス。"来年,,のリベンジ待ってるって。それは1着を獲った者だけが言える言葉。グラスは紛れもない勝者なんデスよ」

 

グラス「ぁ、……、」

 

エル「それなのに呼ぶななどと、……驕りが過ぎマス」

 

グラス「……………」

 

エル「厳しいと思いマスか?…でも、その道を歩くと選んだのはグラス自身です」

 

グラス「………わたし、は、」

 

 

ボスッ。

グラスは当てもなく彷徨っていた視線を自身の胸へと向ける。そこにあるのは学園の制服。

エルが自分の手で持てと訴えてくるようにグイグイと押し付けてきていた。

 

 

 

エル「事故とはいえ、スズカさんの事はワタシもショックデス。………だからと言って立ち止まっているのは性に合わない。ーー行きマスよ。"悟空さんの所に,,」

 

グラス「ッ!?エル、悟空さんは傷を治せないはずではっ、」

 

エル「ええ。承知の上デス。悟空さんには酷な事でしょうが無理なら無理とワタシの耳で聞きたい。それにもしかしたら他に何か手があるのかも知れない」

 

グラス「ほかって…、」

 

エル「………」

 

グラス「いくら悟空さんでも、それは…」

 

エル「ッ、もぉぉおおおおっ!さっきから否定的な事ばかりウザいデェス!!!」

 

グラス「ぇ、う、うざっ、!?」

 

エル「いつまでも待ち切れマセン!エルは手を差し伸べマシタからネ!それでも歩き出せないならボサっとしてれば良いんデェス!ただしその場合はグラスの"不退転,,をマンボに食べさせるので二度と語る事は許しマセン!ではお先に失礼シマス!!!」

 

 

バタンッッッ!!!!!

人よりも遥かに強いウマ娘の力で思いっきりドアを閉めて出て行った。

グラスは思わず肩をすくめて耳を前に倒す。尻尾をへにゃりと垂らしながら渡された制服を見る。傍には既に荷物がまとめられていた。

 

 

グラス「……私も、……行かなくては…」

 

 

正直、未だに目の前は薄暗いままだ。あれだけ言われたにも関わらず心の灯火は今にも消えそう。

それでも彼女が道を作ってくれたんだ。ここで歩かなければ今後エルの隣に立つ事は出来ないだろうし、自身も胸を張って立つ事する出来ないだろう。

 

グラスは、もたつく腕や足を何とか動かして制服に身を包むと慌てて部屋から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「!………行きましょう。グラス」

 

「はい」

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

ー トレセン学園 ー

 

 

 

エルとグラスは無言のままタクシーに揺らされ学園へと帰ると、門の前にはいつも通りたづなが立っていた。

 

 

たづな「お帰りなさい。グラスワンダーさん。エルコンドルパサーさん」

 

 

ただ一つ普段の違う点があるとするなら、優しく温和な笑みが無いくらいだ。

 

 

エル「ただいまデス」

 

グラス「……ただいま戻りました」

 

 

それは2人も同じだった。

特に会話もなく、たづなの横を通り過ぎようとした時、小さな声が聞こえた。

 

 

たづな「"彼,,はタキオンさんの部屋にいます」

 

エル「!!!」

 

たづな「それと、先程スペシャルウィークさんがお見えになりました」

 

エル「!……ありがとうございマス」

 

グラス(……………スペちゃん)

 

 

向かう先が分かっても走る事はしない。2人は導かれるようにフラフラと目的地まで向う。 

 

 

      ・

      ・

      ・

 

 

 

 

 

 

ー タキオン研究室 ー

 

 

 

エル達は扉の前にいた。

この扉を開ければ幸か不幸かの現実がハッキリと分かる。

エルは、不安を胸に抱えたまま静かに扉を開けた。

 

 

瞬間。

 

 

ーーおねがいしますっ!!!

 

 

そんな彼女の泣き叫ぶ声が部屋中に響いた。

 

 

グラス(…スペちゃん)

 

 

部屋にいるウマ娘はスペだけではない。

 

平静を保つようにカップに口を付けるタキオン。

少し離れた位置から瞳に涙を浮かべて見ているウララ。

 

そして。

 

 

悟空「……っ、………スペ、」

 

スペ「おねがいです!悟空さんっ!スズカさんを……っ、スズカさんを助けてください!!」

 

 

悟空に詰め寄るスペ。

しかしスペと悟空の間には彼女がいた。

 

 

キング「よしなさい!!出来るのならこの人が黙っている訳ないでしょう!!」

 

 

キングヘイロー。彼女は悟空を庇うように力づくでスペを止めている。

 

 

スペ「……んで、どうしてっ!悟空さんは何でも出来るじゃないですかっ!」  

 

キング「だ、からっ、落ち着きなさいっ、て、……言ってるでしょ!」

 

スペ「スズカさんが走れなくなるのに悠長な事言ってる場合じゃないんです!」

 

キング「走れなくなるって…、まだ分からないじゃない!」

 

スペ「分かるよ!!……私のトレーナーさんが見た………足首周辺の…っ、粉砕骨折…だって」

 

 

『ッッッ!!?!?!?』

  

ウララ「そんなぁ…」

 

グラス「粉砕骨折って……ッ、」

 

エル「それじゃあスズカさんは、もう…」

 

タキオン「………………」

 

 

 

 

スペ「だから、……だからっ!」

 

キング「ーー悟空さんに何とかしてもらうって?」

 

スペ「ッ!」

 

キング「あなただってもう分かってるでしょう。いつまでも出来ない事を言ってどうするのよ。冷静になりなさい」

 

スペ「〜〜〜ッッッ!!!!」

 

 

親が子供に言い聞かせるように、穏やかで芯のこもった言葉。

それは今のスペにとって逆上する言葉でしかない。

掴んでくるキングの手を払いのけて、キングの襟元を両手で握りしめた。

 

 

スペ「きっ、キングちゃんはスズカさんの事を知らないから言えるんです!同じチームでもないし!どーせ友達じゃないウマ娘の事なん、、て…………っ!!!」

 

キング「…………」

 

 

そして、ほんの少しも揺るぎない視線を浴び続け、スペはふらつくように後ろに下がった。

 

 

スペ「…………ごめん。言い過ぎた…」

 

キング「別に構わないわ。私も前に同じ事したもの。友達の失言程度は受け入れるわ。でも、少しでも我に返ったのなら考えてみなさい」

 

スペ「え、」

 

キング「あなたは今泣いている。辛くて、悲しくて、何も出来ない自分が嫌なのでしょう」

 

スペ「………………うん」

 

キング「でもね、強大な力を持ちながらも唯一の事が出来ない悟空さんの方が辛いに決まってるはずよ」

 

スペ「ぁ……っ、」

 

悟空「キング、オラは別に、」

 

キング「貴方だって!…特定の場所の中心から物が散乱してる。……抑えきれなかったんでしょ」

 

悟空「………、」

 

キング「なら黙っているのではなく、ちゃんと言葉にして伝えてあげて。そうすれ、ば……っ、歪でも、前を向いて歩けるはず、だから……」

 

 

掠れ気味なりながら伝える。

ーーその瞳から一筋の雫を流して。

 

 

悟空「!…………スペ」

 

スペ「ご、くうさん……!」

 

 

悟空はスペの前まで行くと、スペの後頭部に手を回して抱き寄せた。

 

 

スペ「ぅ、、っ、ぁぁっ、、悟空、さんっ、」

 

悟空「…すまねぇ。オラに傷を治す力はねぇんだ。…力が足らねぇばかりにっ、……ほんと、すまねぇ」

 

 

スペは首を振った。

嗚咽が混ざってまともに話せないからだ。

"ごめんなさい,,…そう伝えるように悟空の背中を強く抱きしめる。

 

 

悟空「……………悪いな、スペ。……そして、」

 

 

"スズカ,,

悟空の口から溢れた彼女の名前を聞いてスペは声を上げた。

 

 

スペ「っ、ぅぁっ、わあああああああああっッッッ!!!!!!」

 

 

憧れのヒトと走る事は二度と叶わないのだ。走る事が大好きなあのヒトが、先頭の景色を見る事は、ーーもう無い。

スペの泣き叫ぶ声は、その場にいる他の者へと伝染した。

 

エルはグラスの震える手を強く握り。

スペと同じように声を出して泣くウララをキングが抱きしめて。

タキオンは壁に背中を預けて、顔を手で覆っていた。

 

 

 

 

 

"彼女,,が部屋の扉を壊す勢いで入ってくる、その時まで。ーー。

 

 

 

「アグネスタキオンッ!!!!!」

 

 

 

同期。友達。ライバル。いつもいるメンバーの最後の1人。

 

 

悟空「スカイ……?」

 

 

トリックスター、セイウンスカイ。

 

 

彼女の登場により全員からの視線を浴びるが、スカイは一目散にタキオンの正面へと移動した。

 

 

タキオン「……スカイ君か。用があるのは私で良いのかい?」

 

 

スカイは息を切らしながら頷いた。

 

 

タキオン「なら先に言っておこうか。私にスズカ君をどうにかする事は不可能だ。そして孫くんにも治せない。……断るにも一苦労でねぇ。申し訳ないがそれ以外で頼むよ」

 

スカイ「ハァ、ハァ……ッ……な、治すのが、スズカさん本人なら、どう?」

 

タキオン「!……どういう事だ」

 

 

スカイは悟空に、そしてスペに目を向けるとすぐにタキオンへ向き直った。

 

 

スカイ「……私は前に悟空さんと山へ遊びに行った。その山の水は綺麗だったけど、魚は少しだけ。木々は少しずつ緑を失くして、生物はお腹を空かしていた。山に慣れている悟空さんでさえ木の実を見つけるのは大変だったらしい」

 

タキオン「……それで?」

 

スカイ「でも、その場所は私の好きな場所だからって、帰り際に悟空さんが山に"気,,を分けてくれた。その時は特に何も変わってなかったんだけど、最近行ったらーー山は、緑で生い茂っていた」

 

タキオン「!!!」

 

スカイ「私でも見つけれるくらいに木の実は成って、以前よりも空気が澄んでいた!」

 

タキオン「まさかっ」

 

スカイ「山は悟空さんが直接なおしたんじゃない!山が、自然が悟空さんの"気,,を養分にして独りでに育ったんだ!!」

 

タキオン「っ、骨を構築する栄養素を"気,,で補うつもりか!?」

 

 

 

キング「………」

 

ウララ「キングちゃん、"気,,を栄養って…」

 

キング「……体は部位に該当する栄養から成り立ってる。この場合で言うと、骨に関係する栄養素。カルシウム、タンパク質。ビタミン系のCや、D、K。それを自然の回復から"気,,でも代用出来ると考えたみたいね…」

 

グラス「でも、それなら日頃ウララちゃんがマッサージを受けているのと同じなのでは。仮に粉砕骨折が治るような栄養なら、もっと、その、、怪物みたいな脚になってもおかしくないかと、」

 

悟空「………やり方が違うんだ」

 

スペ「やりかた……?」

 

悟空「ああ。山には確かにオラの"気,,を分けた。そんでウララにやってるマッサージは、オラの手に"気,,を纏わせているだけ。ウララの体に流し込んでる訳じゃねぇ」

 

エル「それなら!」

 

タキオン「……だが致命的な相違点が多い」

 

スカイ「………、」

 

タキオン「まず、山はあらゆる環境に対応出来るようになっている。膨大な栄養を感じ取れば容易に吸収するだろう。対して人体…もとい、ウマ娘の体は複雑だ。ピンポイントに当てはまった栄養しか吸収しないし、頭では分かっていても体が有害だと判断すれば弾き出す。それどころか"気,,がどんな作用を及ぼすのか検討もつかない」

 

スペ「っ、でも!」

 

タキオン「落ち着きたまえ。いま言った事は考えられる範疇でしかない」

 

スカイ「……答えは?」

 

タキオン「この数ヶ月で調べた私が言うんだ。"気,,の概念はこの世界の常識には当てはまらない!試す価値は充分にあるぞ!!」

 

 

不安要素を多く残すも、暴論だと吐き捨てるには勿体無い例だ。

タキオンの脳内では既に何通りものの、治療に関する案が浮かび上がっている。

だがもちろんの事。

可能性は見出せても喜びの声を上げる者はいない。まだ始まってすらいないのだから。

 

 

それでも、歩き出せる道が存在したんだ。

 

 

スカイ「スペちゃん」

 

スペ「せ、い、、ちゃ、」

 

スカイ「キミに泣いてる暇はないよ。今どうなっているのか分からないけど、壊れた脚をスズカさんが見たら絶望に陥ると思う。それを受け止めるのがキミの役目なんだ。ウマ娘たるもの未来()に走らなきゃ」

 

スペ「う、ん………うんっ!」

 

 

 

悟空「…………、」

 

 

 

 







11月18日
作中の最後にあった下記のセリフ。話しの都合により消させていただきます。

悟空(……………未来、か…)
【歴史を大きく歪めてはいけないッ!!!】
悟空(…………トランクス。おめぇは…)


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静まり返った秋の天皇賞 ー 後編 ー





長くなり申し訳ありません。


注意
・捏造に捏造を盛りました。
・LANE=LINE
・駿川たづな=トキノミノル






 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「しかし材料がまるで足らんな」

 

ウララ「ざいりょーって?」

 

タキオン「ただ全力で"気,,を注ぎ込めば良いと言うわけではない。キャパオーバーすればスズカ君の脚を破壊しかねん。まずは実験用のネズミが必要だ」

 

ウララ「ヒッ…」

 

タキオン「そして、それ以上に必要なのが、カルテだ」

 

ウララ「かる、て?」

 

タキオン「ああ。スズカ君の脚の診療経過記録。怪我の全貌を見なければ、じっけn………治療に取り組めん」

 

スカイ「カルテかぁ…。ルドルフ会長に訳を話して、とかどうかな」

 

タキオン「個人情報プラス医療機密書類だ。会長と言えども絶対に無理だろうな」

 

エル「それならチームスピカのトレーナーに頼めば!」

 

キング「無理ね。カルテは手に入るかも知れないけれど、こちらの詳細を話すことになる」

 

スペ「だよね…。……?…悟空さん?」

 

悟空「…………、」

 

 

明るい未来への活路を見出せたはずだが、悟空の表情は晴れないままだ。

 

 

キング「どうかしたの?」

 

悟空「………1人。話しを付けておきてぇ」

 

 

悟空はそう言うと、開けっぴろげの入り口を見た。

 

 

悟空「たづな。おめぇはどう思う」

 

エル「え?たづなさんって、」

 

 

ここにはいないはずの名を語りかけるように呼んだ悟空。悟空の視線を辿って入り口へと目を向けると、駿川たづなが現れた。

 

 

たづな「………」

 

スペ「たづなさん!?」

 

グラス「一体、いつから…」

 

 

たづなは誰の声にも答えない。

無表情のまま、悟空だけをただひたすらに見ていた。

 

 

悟空「……何か、言いたい事あるだろ」

 

 

真剣な声色。真剣な眼差し。

いつもの2人とは思えないほどにピリついた空気。その雰囲気は宥めようとするスペ達をも黙らせる。

 

 

たづな「…………貴方はこの世界に、……ウマ娘にどこまで関与するつもりですか」

 

悟空「どこまでってのは?」

 

たづな「…複雑骨折、繋靭帯炎。ウマ娘が怪我で走れなくなる数は年間を通して少なくはない。……貴方が助けるのはサイレンススズカさんだけですか?貴方の周りにいるウマ娘だけを優遇するつもりですか?」

 

悟空「…オラの事を知られたくねぇって言ったのは"おまえ,,だろ」

 

たづな「ええ、そうです。だからサイレンススズカさんだけを治すとなると、………道半ばにして引退したウマ娘が報われません」

 

 

どこか責めるような口調。

それに反応したのはスペだった。

 

 

スペ「ッ!!じゃ、じゃあたづなさんはスズカさんの事、「スペ」…!」

 

 

たった2文字だけで声だけでなく、動きまでも止められてしまう。

悟空の声もそれほどまでに真剣だった。

 

口を紡ぐスペを宥めるのはウララだ。

これまで悟空の1番近くにいた彼女は、この話し合いに口を挟んでは駄目だと直感的に察していた。

 

ほんの僅かに眉を顰めて悟空が口を開く。

 

 

悟空「たづな。…おまえはスズカを治すのは反対だって言いてぇのか」

 

たづな「いいえ。私が言った事に貴方が何を考えるのか。その答えを聞きたいだけです」

 

悟空「そんな事聞いてどうする」

 

たづな「…………」

 

 

どこまでもたづならしくない。

無言も。圧力も。…早く言えと催促する視線も。

 

 

悟空「……オラに出来る事があるなら何でもするつもりだ。…けど、怪我した奴を探してまで治すつもりはねぇ」

 

たづな「!………酷い人」

 

悟空「オラはずっとそうさ。これまで色んな戦いがあったけど、最初から全員助けれるとは思ってなかった。それどころか、生かしといたらヤバい奴だって、オラがもう一度戦いたいから逃した事だってある。……自分勝手って何度も怒られた」

 

たづな「…だから今回もその流れで助けると?」

 

悟空「そうだ。おまえが何を思ってんのか知らねぇけど、可能性があんのに黙って見てる選択肢はオラにはねぇ」

 

 

 

 

悟空「そして、何とかしてやりてぇって思う気持ちは、おまえも同じなはずだぞ!ーーたづな!!」

 

 

室内でそよ風が舞う。悟空の"気,,によって吹いた風だ。

悟空は少しだけ怒っていた。

誰よりもウマ娘の事を考えていたはずの彼女が、なぜ反対するような言い方をしたのか。

 

要領は得ないままだが彼女の名を呼ぶと、一呼吸置いて懐からハンカチを取り出した。

 

 

スペ「た、づなさん……?」

 

 

困惑するスペをよそに、たづなはハンカチでスペの目元を優しく拭う。

 

 

たづな「怖がらせてしまい申し訳ありません」

 

 

どうぞ…と、ハンカチをスペに渡す。

 

 

スペ「あ、、ありがとうございます。………その、たづなさんは、スズカさんを治すの……!ぁ、」

 

 

ポン…ポン…。

頭を温かい手が触れる。

沈んでいた顔を上げると、そこにはいつも通りの笑みを浮かべたたづながいた。

 

 

たづな「もちろん大賛成ですよ。ですが、走れなくなったウマ娘が少なくないのは事実。その考えを聞きたくて試しただけですから」

 

悟空「!……何だよそうだったんかぁ。オラとした事がすげぇ焦ったぞ!」

 

たづな「ふふっ、貴方の場合は本気に見せないとのらりくらりと躱されそうだったので、つい」

 

悟空「タチ悪ぃなぁ」

 

たづな「お互い様でしょう」

 

 

さっきまで漂っていた殺伐とした雰囲気は消えている。

不安な表情で見ていたグラス達も自然と落ち着きを取り戻していた。

 

 

グラス「あの……、話しを戻しますがカルテはどうしましょう」

 

たづな「それについては私が何とかします」

 

キング「え、たづなさんとはいってもさすがに…」

 

たづな「ふふふ、大人になれば色々と出来るんですよ」

 

 

目を細めるたづな。ほんのりと大人の黒い部分を垣間見たキングはぎこちない笑みを返す。

 

 

たづな「アグネスタキオンさん」

 

タキオン「何です?」

 

たづな「カルテを入手次第お渡ししますのでこの部屋で待機していただいても良いですか?寮長には私が話しをしておきますので」

 

タキオン「!……分かりました」

 

 

シュン。

 

 

タキオン(よしっ!合法的に研究室に入り浸れるぞ!)

 

 

悟空「ーーーーって、思ってんぞ」

 

タキオン「……は?」

 

たづな「あらあら、…アグネスタキオンさん?」

 

タキオン「ヒィッ!、これは違っ、そ、そそ孫くん!高速移動使ってまで何をしているんだ!反省したまえ!」

 

悟空「よーし!おめぇ達!みんなでスズカの事助けるぞおおお!」

 

『おーーー!!!!』

 

タキオン「おー!…じゃない!私の話しを聞けぇぇええ!」

 

 

 

『あはははははっ!!!!!』

 

 

 

 

日常の笑い声に包まれ、一触即発だった雰囲気は霧散した。

 

 

 

ウララ(……悟空さん?)

 

 

 

ただ1人の弟子に違和感を残して。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

  

 

それから3日後。

 

 

 

スペ「スズカさーん!こんにちはー!」

 

 

病室の扉をあけながら開口一番に元気な挨拶。

 

 

沖野「スペ。病院なんだから静かにな」

 

ゴルシ「そうだぞスペ。いくら1人部屋だとしても常識ってのがあるからな」

 

スペ「えへへ、すみません」 

 

テイオー(ゴルシが言うな!…って言いたい)

 

ゴルシ「だめだ」

 

テイオー「あはは、やっぱり?………え?」

 

 

 

スズカ「こんにちは。トレーナーさん、みんなも」

 

 

落ち着いた声。艶のある長い髪。

ベッドに座っているスズカは笑みを浮かべた。しかし左足は宙吊りに固定されている。

 

 

沖野「ようスズカ。その、調子はどうだ?」

 

スズカ「大丈夫ですよ、トレーナーさん。みんなもこうして来てくれるので寂しくないですし」

 

沖野「そ、そうか。それなら良いんだ…」

 

 

ゴルシ「…見てくれテイオー。これがトレーニングに1番集中出来てなかった男の姿だ」

 

テイオー「すごく……かっこ悪いです…」

 

沖野「なっ!お前ら!?」

 

スズカ「そうなの?」

 

テイオー「ウン!タイム測ってる時とかボーってしてるし」

 

ゴルシ「間違えてスズカの名前を呼んだ時は末期だと思ったな」

 

テイオー「その時のみんなと言えば、」

 

ゴルシ「青汁飲みながらシュールストレミングを開けた時のような顔してた」

 

沖野「やめろやめろ!お前らトレーナーいじめてそんなに楽しいか!?つーか、え?…そんな、史上最大級の酷い顔してたのか…?」

 

テイオー「うん」

 

ゴルシ「悪いな。とても耐えれなかった」

 

沖野「……スズカ、頼む。早く帰って来てくれ。スピカには良心のある奴が必要だ。…主に俺のために」

 

ゴルシ「んだぁっ!?アタシらじゃ不満だってのか!あぁん!!?」

 

テイオー「そーだ!そーだ!ゴルシはともかくボクは良い子って言われてるモン!」

 

ゴルシ「テイオー………おまえ、そこで裏切んのかよ…」

 

テイオー「だって事実じゃん」

 

ゴルシ「頼むスズカ。早く帰って来てくれ…。スピカには天然ボケのスズカが必要なんだ…。主にアタシのために」

 

沖野「そりゃあスズカを天然ボケって言うやつはお前くらいだろうよ」

 

ゴルシ「だって事実じゃん」

 

スズカ「ふふっ、何だか納得しづらいけれど、天然さんならスペちゃんがいるじゃない」

 

ゴルシ「え?天然……なんだって?」

 

スズカ「へ?え、、と、天然、さん……?」

 

ゴルシ「さっきアタシは天然さんなんて言ったか?もうちょい違う言葉だったような…」

 

スズカ「ぁぅ…」

 

ゴルシ「んー?スペが天然……なんだってえぇぇ?ほら、せーの?」

 

スズカ「ぅぅっ、」

 

テイオー「ちょっとちょっとぉ!スズカに変な事言わないでよね!スペちゃんが黙ってないよ!」

 

スペ「…………」

 

ゴルシ「黙ってっけど」

 

テイオー「もおおおっ!スペちゃん!!」

 

スペ「〜〜っ!だ、大丈夫です!私出来ますから!」

 

ゴルシ・テイオー「「何を?」」

 

沖野「ハァ、…まーたおかしくなっちまったよ」

 

スズカ「この数日間来ていた時は普通だったけれど…」

 

 

そう。スペは、タキオンの所で話しをしてから毎日来ていた。

全てはスズカを支えるために。

けれども彼女は弱音を一切吐かないのだ。逆に心配しているコチラを宥める様子。

せめて心配をかけまいと明るく振る舞って彼女を笑顔にするが、帰宅する時病室から出ると聞こえてくるのだ。

ーー彼女の啜り泣く声が。

"何で,,、"まだ走りたい,,……そんな声が。

スペはそれをドア越しに聞き続けた。分かち合えなくとも、彼女の思いだけでも受け止めようと。

涙をこらえ、歯を食いしばりながら。

 

 

だが、ようやく"その時が来た,,

 

 

スズカを治すため、タキオンが推論を導き出したのだ。

 

 

早速、今日悟空とタキオンがスズカの病室を訪ねる。それも面会時間や食事が終わってから消灯までの間。誰も来ない時間を狙って来るのだ。

もちろん瞬間移動で。

驚かせてはいけないからと、スペの口から伝える事になっていたが、

 

 

スペ(スズカさんの複雑骨折を悟空さんが治しに瞬間移動して来るから待っててって?……みんながいるのに言える訳ないじゃん!!)

 

 

誤算があった。

沖野達とは一緒に来た訳ではなく、病院前で鉢合わせしてしまったのだ。

この状況下で説明するのは不可能。しかし、スペに託された皆の想いや、ちゃんと伝えるように…と、グラスから念を押された重圧が、スペに"焦り,,という感情を引き起こさせていた。

 

 

スペ(ぁー……あぁあぁぁぁあ………)

 

 

もう携帯で良いかな。口頭じゃなくても、LANEで細かく説明すればよくない?……そう思っていた時だった。

 

 

テイオー「ーーーーースペちゃん!」

 

スペ「ていおーさん?」

 

ゴルシ「さすがに固まりすぎだろ。そろそろ帰るぞー」

 

スペ「はえ?も、もう帰るんですか!?」

 

沖野「俺達がいたらスズカも休めないだろ。気になるんならまた来れば良いさ」

 

スペ「……え、へへ。そぉぉれもそうですねぇぇぇ」(なぁに言っちゃってるのぉぉぉお!!!)

 

スズカ「いつでも来て良いからね。でも練習はしっかりね?」

 

スペ「はい!」(じゃなーい!スズカさぁん!!今日の夜に戦闘民族の方が来ますよーっ!)

 

 

ただ一言で良い。

 

 

沖野「そんじゃあ帰るけど、何かあったら連絡してくれ。暇つぶしでも良いからな」

 

 

私達が信じる"あの人,,が治しに来てくれる…と。

 

 

スズカ「はい。ありがとうございます」

 

 

だからスズカさんも諦めないでほしいと。

 

 

ゴルシ「とりあえず、おはようと、こんにちはと、おやすみぐらいはやってくれ。じゃないとソイツ寝不足になるから」

 

テイオー「そうそう!ボク達もトレーナーの憂いに帯びた顔とか見たくないしね〜。……いや、本当に」

 

沖野「俺が悪かったからまじで勘弁してくれ…」

 

 

 

言葉に出来ずとも伝える方法があるはずだ。

 

 

 

スズカ「じゃあね、またね。スペちゃん」

 

スペ「…………スズカさんっ!!!」

 

スズカ「!!? すぺちゃん?」

 

 

病室に響く声。

スペは、驚愕に染まった目を向けられながら、全ての意味を込めて、

ーー右手の親指を立てた。

もう大丈夫。よく頑張った。

そんな時に悟空はこのポーズをしていた。だから真似をした。ただそれだけだ。

 

 

テイオー「す、スペちゃん……?ドーシチャッタノ?」

 

ゴルシ「テイオー。お前が理解するにはまだ早かったな」

 

テイオー「へ?ゴルシは分かるの?」

 

ゴルシ「ああ。これは男の中の男だけが通じ合えるポーズだ」

 

テイオー「……そういう事ね。だから、こんなに一緒にいるのにボク達全員何も通じ合えてないんだ」

 

 

 

 

スペ「……スズカさん」

 

スズカ「スペちゃん…」

 

スペ「また明日!」

 

スズカ「あ、うん、…また明日」

 

 

混沌を置き去りにしてスペが病室から出ると沖野達も後を続いた。

1人静かで異様な空気に取り残されたスズカ。

 

 

スズカ(スペちゃん。……何だったのかしら…)

 

 

スペの想いが伝わってない事は言うまでもない。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

ー 20:30分 ー 

 

 

 

スズカ「…………」

 

 

検査や食事などを終えてからの手持ち無沙汰な時間。ベッドに座りながら生気の抜けた目で、ぶら下がった脚を見ていた。

ギプスに覆われた脚。自慢の脚が見えなくなってから3日。

 

 

スズカ「……ねぇ、………もう走れないなんて事、ないわよね…」

 

 

答えてくれない脚へ、思わず問いかける。

トレーナーは必ず走れると言ってくれた。でも医師の言葉や症状を見る限り、とても自分の走る姿を想像出来ない。

 

 

スズカ「ッッッ!…………ふふっ」

 

 

視界がボヤけるのを感じて自嘲気味にわらう。

 

 

あれだけ泣いたのにまだ涙が出るのか……と。

 

 

 

それならいっそ枯れるまで泣こう。

今この場に心配をかけるヒトはいないのだから。ちょっとくらい理不尽な現実に怒っても良いだろう。

 

 

 

スズカ「っ、、ぅ、ぁっ……ック!〜〜っ、まだ走り足りないのにっ、壊れてんじゃないわよ!!……ばかぁ」

 

 

 

顔を手で覆っても隙間から流れる涙。

 

 

そこに。

 

 

 

風切り音を立てながら《ヒーロー》が来た。

 

 

 

悟空「よっ!」

 

スズカ「っ、……ッッッ!!?!?!?!?」

 

 

片手を上げて満面の笑みを浮かべる悟空。

一瞬にして涙が止まったスズカは、ついでに心臓も止まりかけた。

 

 

タキオン「やあやあ、遅れて悪かったねぇ。これでm」

 

スズカ「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

悟空・タキオン「「嘘だろ!!?」」

 

 

想定外のスズカの反応に悟空達は驚きを隠せなかった。

自分達が来る事は知っているのではなかったのか。

 

 

スズカ「こないでぇぇぇええええッッ!!!!」

 

タキオン「な、何でこんなにっ。スペシャル君が伝えてくれたはずじゃなかったのか!?」

 

 

※親指を立てて背中で語りました。

 

 

悟空「ヤベェ…。タキオン!誰か来る!」

 

タキオン「スズカ君の悲鳴に反応したか。ーースズカ君!私だ!アグネスタキオンだ!!」

 

 

ゆっくり説明している暇はない。

タキオンはスズカの顔を手で挟んで強引に目を合わせた。

 

 

スズカ「ふぇ、…?………はひひぉん?」

 

タキオン「そうだ!訳は後で言うから今だけは知らないフリをしてくれ!頼んだよ!」

 

悟空「タキオン掴まれ!」

 

 

タキオンは悟空に手を伸ばすと一瞬にして消えた。

 

 

スズカ「消えっ!!?」

 

 

困惑しながらも部屋中に視線を配るがどこにもいない。最初から存在していなかったかのように、気配そのものがなくなっていた。

 

……と、そこへ。

 

 

看護婦「サイレンススズカさんっ!どうかなさいましたか!?」

 

 

勢いよく飛び込んで来た担当の看護婦。

 

 

スズカ「ぁ、いや…………ゆ、夢が、」

 

看護婦「夢……ですか?」

 

スズカ「!…はい。ちょっと悪夢を見てしまって…。ご心配おかけして申し訳ありません…」

 

看護婦「い、いえっ、大丈夫ですよ。…サイレンススズカさんのように悪夢などで眠れない子もいます。心細くなった時にはすぐに呼んでくれて構いませんので、安静になさってください」

 

スズカ「はい。ありがとうございます」

 

 

そう言うと看護婦出て行った。

スズカは目を閉じて足音を聞いたが、周囲からヒトの気配が消えたのを感じた。

 

そして、入れ替わるようにまたやって来た。

 

"シュン,,

 

 

悟空「とりあえず平気みてぇだな」

 

タキオン「ふぅ。始まる前にゲームオーバーになる所だったよ…」

 

スズカ「タキオン………彼は、」

 

タキオン「ああ。紹介しよう。彼は…」

 

スズカ「……ゴクウサン」

 

タキオン「!……ふむ。知っていたか。スペシャル君からはどこまで聞いたかな?」

 

スズカ「え、スペちゃん?……何も聞いてないけれど…」

 

悟空「ん?何もって、今からする事とかもか?」

 

 

急に話しかけられたスズカは肩をビクつかせる。

 

 

スズカ「は、はい…」

 

悟空「おかしいなぁ。ちゃんと伝えたって言ってたのに」

 

タキオン「どうせ孫くんに似て杜撰な説明でもしたんだろう。最近のあの子はそういう所が目立って来た」

 

悟空「?…やよいにも言われたけど、あんまよく分かんねぇな」

 

タキオン「だろうな」

 

スズカ「あの……?」

 

タキオン「ああ、すまない。本題に入る前に、彼について簡単に説明しよう」

 

スズカ「ええ」

 

タキオン「彼は孫悟空。異次元の地球からやって来た宇宙人だ」

 

悟空「宇宙人っちゅーかサイヤ人だ」

 

スズカ「待って?」

 

タキオン「待たん。そして彼はハルウララをトレーニング指導しながら警備員として働いている」

 

スズカ「お願い。ちょっとで良いから話しを聞いて」

 

タキオン「キミが最後まで聞くんだ。彼が使う技は生命エネルギーを巧みに操る。その正体を"気,,と呼ぶらしい。この場所に来た技はスズカ君の"気,,を追って瞬間移動して来た」

 

スズカ「………っ…痛い…?」

 

タキオン「頬をつねるな。夢じゃない。他にも"気,,を利用して空を飛んだりテレパシーなどをしている。ちなみに素の力は、学園のウマ娘全員束でかかっても月とスッポン。どちらがスッポンかは言うまでもないな」

 

スズカ「タキオンってスッポンだったの?」

 

タキオン「落ち着いて聞いてくれ。彼の素性は学園の極々僅かしか知らない。必要以上に知れ渡ってはいけない存在だ。スズカ君にとっての親友がいようとも彼の事を話すのはやめてくれ」

 

スズカ「……親友、ね…」

 

タキオン「…………すまない。いらない気を使ったようだね」

 

スズカ「親友くらいいるわよ!」

 

タキオン「……ここからが本題だ」

 

スズカ「あ、はい」

 

タキオン「……………スズカ君。……自身の現状はどれほど把握している?」

 

スズカ「ッ!………私の口から言わせるの?」

 

タキオン「………把握ではなく、理解しているのか」

 

スズカ「………ええ」

 

タキオン「なら話しは早い。非公式なりに本人の許可が欲しくてね」

 

スズカ「…何の事?」

 

 

 

タキオン「このまま奇跡を信じて何もしないか。ーー失敗すれば怪物の脚、成功すれば本来の脚を取り戻せるが……どうする?」

 

 

 

スズカ「……………………え?」

 

タキオン「いやねぇ?折れた骨に"気,,という栄養を分け与えたら自然治癒力が常軌を逸すると考えて、ラットで試したんだ」

 

スズカ「え、栄養?それにラットって、実験用のネズミ…だったかしら」

 

タキオン「ああ。短い期間だったが結果を出せた。ちょっと不快に感じるかも知れないが、骨に異常のあるラットを三匹用意した。一匹は"気,,が弱すぎたのか今も治療中。二匹目は強すぎたのか発達した足で二足歩行をはじめた。そして三匹目が、ーー成功。完全回復した」

 

スズカ「! う、そ、、でしょ」

 

タキオン「私は実験に嘘を吐かない事は知っているだろう。まぁ、ラットに比べればスズカ君の患部は大きいし、症状は酷い。治るまでに時間がかかるだろうが、今よりは可能性を秘めている」

 

スズカ「………………治るの?」

 

タキオン「……分からん。あくまで可能性として、」

 

 

科学者たる者"絶対,,の言葉は言えない。だが、ーー代わるように彼が言った。

 

 

悟空「治すさ」

 

スズカ「ッ!!!」

 

 

その人は曇り無き眼で自分を見ていた。

おかしいと思った。

文字にしたらたったの4文字。話しで聞いただけの彼。散々説明してもらってもどこか胡散臭い"気,,。

素人の自分が見ても分かるほど、未来が消えた怪我。

 

それなのに何故だろう。

 

この人には抵抗もなく頼ってしまう。その上で、なんとかなるって思ってしまうのだ。

 

 

スズカ「ほん、とう……?わたしの…っ……あしは、なおるの?」

 

 

意地でもスペやチームのみんなの前では見せなかった涙が簡単に溢れて来た。

 

 

悟空「ああ。そのためにオラが来た。……今までよく頑張ったなぁ。もう耐えなくても良い。これからは前を見ろよ、スズカ」

  

スズカ「!……ご、くうさん。……おねがいしますっ。わたしはまだ、はしりたい。……トレーナーさんにもっ!私が走るところを見せてあげたい!」

 

悟空「おう!一緒に頑張ろうぜ!!」

 

スズカ「はいっ!」

 

 

タキオン(…全く。過度に期待を持たせる事は悪手でしかないと言うのに、……ハァ、失敗は許されない。実験開始だ)

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

 

 

ポワァァァァ…。

悟空の手から発する光がスズカの脚を包み込む。

 

 

スズカ「なんだか温かい。これが……"気,,」

 

 

今にも消えそうなほどの小さな光。

タキオンはストップウォッチを見ながら呟いた。

 

 

タキオン「…55………58.59……よし。そこまで」

 

悟空「……早くねぇか?」

 

 

一応、指示通りに"気,,を送るのをやめたが悟空は少し不満気だ。

 

 

タキオン「多少は早いさ。プラスになるよりはマイナスにして調整した方が良いからな」

 

悟空「?……??…へー」

 

タキオン「うん。分かってないな。孫くん風に言うとだ。骨は"気,,を食べて強くなる。だがお腹いっぱいまで食べてしまうと体調を崩しかねん。もしもそれ以上に食べさせてしまうと胃を破壊する。その容量を超えないために抑えているんだ」

 

スズカ「……先にお腹いっぱいにさせて、骨が好きな時に栄養を取り込む事は無理なの?」

 

タキオン「キミの体はパラメーターの振り分けが出来るのかい?自律神経系はどうにも出来ないだろう。それに、過度に"気,,を送り込んだ末に誕生したのが、二足歩行ラットだ。名前はゴチュウ」  

 

スズカ「そ、そう……」

 

悟空「そんで?明日からはどうすんだ?」

 

タキオン「今日の繰り返しだ」

 

悟空「そっか。んじゃ、スズカ。明日同じくらいの時間に来るから、もうビビるなよー」

 

スズカ「え、、あ、………帰ってしまうの?」

 

タキオン「………、」

 

悟空「ん?おう。用も終わったからな」

 

スズカ「……そうよね」

 

タキオン「ハァ、……スズカ君。この男と話したい事でも紙にまとめておきたまえ。明日からは毎日来るんだ。早い内に全部終わらせてしまうと、ネタが尽きてしまうぞ」

 

スズカ「!……うん」

 

悟空「?…何かよく分かんねぇけど、また明日な!」

 

スズカ「はい!よろしくお願いします!」 

 

 

満面の笑みのスズカ。

悟空は同じように笑って"親指を立てる,,と、その場から消えた。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

ー 学園の屋上 ー

 

 

タキオンを送り届けた悟空はその足で屋上に来ていた。

 

もっと詳しく言うと、屋上に"彼女,,がいるから足を運んだ。

 

 

悟空「ーーーっつー事でスズカの方は一旦落ち着いたぞ」

 

たづな「そうですか。それは良かったです」

 

 

駿川たづな。

遠くの方で鳴る雷の音を聞きながら、手すりに肘をかけていた。

 

 

悟空「おめぇがカルテ?ってのを用意してくれたお陰だ。サンキューな」

 

たづな「ウマ娘のためですからね。これくらいどうって事はないですよ」

 

悟空「そっか」

 

たづな「ええ。にしても、スズカさんはさぞ驚いたでしょうね。皆さんが数日かけて悟空さんの事を理解したのに、彼女は数分で非現実的な事を飲み込んだのですから」

 

悟空「ああ。困ってたけど、タキオンが頑張ってた」

 

たづな「ふふっ、そうでしょうね」

 

 

貴方は口下手ですからと、たづなは微笑む。

悟空はその様子を横目で見ると、また視線を前に戻した。少しずつ雨雲が近いて来ているのが見える。雨の匂いも感じた。

 

 

悟空「………………たづな、…本当におめぇはスゲェ奴だな」

 

 

それでも帰ろうとは言わず、悟空は口を開く。

 

 

たづな「いきなり何ですか?」

 

悟空「そんな完璧に"普通,,を演じる奴は初めてだ。ルドルフでさえ違和感があったしな」

 

たづな「…………申し訳ありませんが、話が見えません。それに、雨が降りそうなのでそろそろ帰りましょうか」

 

 

たづな自身気づいていないだろう。

ーー彼女の声色に冷たさが混ざっている事に。

 

屋上の出口へと踵を返すたづな。

ポツリ。

雫が額に当たる。いつの間にか雨雲が真上に移動して来たらしい。

そして、その拍子に目を瞑った瞬間だった。

 

 

たづな「……………そこを退いてください」

 

 

出口を塞ぐように悟空が立っていた。軽く拳を握りしめて。

 

 

悟空「……たづな。…スズカの事をタキオンの所で話してた時。オラは確かに感じたぞ」

 

たづな「………、」

 

悟空「あの日、おめぇはオラを憎んでいた」

 

 

確信を持って告げる。

だが、たづなは悟空の言わんとしている事を察していたのか、依然として変化はない。

 

 

たづな「………気のせいでは?」

 

悟空「悪いな。敵意や殺意、憎しみの"気,,はこれでもかと言うほどぶつけられて来た。……今更間違える訳がねぇ」

 

たづな「……でしたら、今は感じますか?」

 

悟空「その次の日は少しだけ感じていたけど、今は全くだ」

 

たづな「そうでしょうね。……それなら終わったも同然。後は時が経つにつれて忘れるだけです」

 

悟空「そうはいかねぇ。…あの日おめぇは言ったな?なにが、"オラの考えを聞くために試した,,だ。ーー道半ばに引退したウマ娘が報われない。あれはおまえの本心だっただろ」

 

たづな「ッ!!」

 

 

初めてたづなの表情が歪んだ。

ギョロリとひん剥いた目を見せると、すぐに目を瞑って静かに息を吐く。

 

 

たづな「…………悟空さん。もう終わりにしときましょう。過ぎた話です」

 

悟空「………………今の顔。昔にたくさん見た。……我慢させている顔だ」

 

 

悟空の脳裏に浮かんだ妻の顔。諦めたように息を吐く所まで同じだった。

 

 

たづな「!…貴方が相手です。苦労したんでしょうね」

 

悟空「ああ。本当にそう思う。だけど我慢してもらう以外に方法がなかったんだ。でも、今は違う。話せる事で楽になる方法があるはずだ。おめぇが憎しみを感じる程だ。……オラは一体、何をした」

 

たづな「…………さあ?」

 

 

そう呟いて歩き出す。

目を合わせず、悟空の横を通り過ぎるように。

 

 

悟空「待て!」

 

 

パシッ…と、たづなの腕を掴んだ。

 

 

たづな「…………離してください」

 

悟空「……あの時も言ったはずだ。オラに出来る事があんなら何でもするって」

 

たづな「っ、……貴方にも出来ない事だから話さない。そうは考えなかったのですか?」

 

悟空「!…まだオラは訳を知らねぇ。やってみなくちゃ分からねぇだろ」

 

たづな「は、ははっ、……そう。……そうですよね」

 

 

悟空の手を振り払い距離を開ける。だが出口に向かおうとはしない。

そこまで聞きたいなら言おう…と、たづなは薄い笑みを浮かべた。

 

 

たづな「では悟空さん。ーー今すぐ過去に行って私の脚を治して来てください」

 

 

外では取った事のなかった帽子を外した。

頭頂に現れたのは茶色の耳。その形は後ろ向きに倒れていた。

 

 

悟空「な、、に、、、っ」

 

たづな「どうしました?貴方が聞きたがってた事ですよ?」

 

 

言いながら、帽子を投げ捨てた。

少しの力を込めて叩きつけるように。

 

 

たづな「やってみなくちゃ分からない。もちろんその通りです。不可能を可能にして来た貴方ならやってくれますよね?」

 

悟空「そ、れはっ、」

 

たづな「ん?」

 

悟空「………………すまねぇ、無理だ」

 

たづな「ふふっ、そうでしょうね!」

 

 

明るい声。クスクス笑うと幼さが残る表情。

その反面で上昇する"気,,

 

 

たづな「あはは…は、…っ……ずるい…」

 

 

その"気,,は膨らみ続け、やがてーー爆発した。

 

 

 

たづな「ズルいんですよっ!!貴方達はッ!!」

 

 

 

彼女の声に対して共鳴するように轟く雷鳴。

ポツポツと降り続いていた雨は勢いを増した。

 

 

悟空「……たづな」

 

たづな「何が友達でありライバルですか!私の時はそんな事言ってる暇はなかった!骨折した時だって相談したり想いを受け止めてくれるヒトなんていなかったのにっ!!何で彼女達だけ全部揃ってるんですか!!!」

 

「私は散々我慢をしてきました!もう走る事は出来ないと聞かされた時なんて、抗うことすら許されなかった!そういう運命だったんだなって無理矢理思う事でしか自分の心を守れなかった!!」

 

「……それなのに……っ!」

 

「孫悟空!!貴方が現れた事で!忘れようとしていた気持ちを引き摺り出された!…"気,,を与えれば治るかも知れないですって?そんな事っ、簡単に受け入れれる訳ないでしょう!!」

 

 

悟空「!……だから、あの時、」

 

たづな「そうですよ!報われないウマ娘は私の事です!!」

 

 

激しい雨の中で怒りを露わにするたづな。

その瞳から流れるのは雨か涙かは区別がつかない。

たづなの長年ぶつける所がなかった怒りは更に勢いを増した。

 

 

たづな「どうする事も出来ないからって諦めてきた!歪んでても真っ直ぐ道を歩きたいからって耐えてきた!それが全部台無しだッ!貴方のせいで!!」

 

 

悟空との距離。僅か五歩の空間を埋めると、たづなは悟空の襟を握りしめた。

 

 

たづな「今更私の前に現れて何なんだ!」

 

 

胸の内に押し込んでいた黒い心。その封印を壊したのはこの人だ。憎い。……憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い…、

 

 

たづな「もっ、と早くにっ、私と会っていてくれたら!」

 

 

憎い憎い憎い憎い憎い憎い……………心の底からそう思う、ーー自分が嫌いだ。

 

 

たづな「貴方がっ!私の手を取ってくれていたら!」

 

 

………ごめんなさい…、

 

 

たづな「私はもっと………戦えたのに…」

 

 

……………許して(たすけて)…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悟空「……たづな」

 

 

たづなの肩に乗る大きな手。

 

 

悟空「ーーー怒るんじゃねぇぞ」

 

たづな「……え?」

 

 

夜の雨雲の下。照明のない屋上。

 

近づかなければ顔が見えない程の暗闇で、

 

 

ポワッと光が出現した。

 

 

たづな「これ、は……なにを、」

 

 

その問いかけには応えず、たづなから少し離れた悟空は、小さな光の球体を真上へ投げた。

その光の道筋を辿るように、たづなも見上げている。

ある程度の距離まで行くと見えなくなってしまったが、まだ悟空が手のひらを上に向けている所を見ると、光は存在しているのだろう。

 

 

悟空「ーーーーーーーーハァッ!」

 

 

空に掲げた右手を強く握った瞬間。

 

 

たづな「!…雨が、やんだ?……いや、」

 

 

厳密には止んでいない。

周囲に目を向けると、まるで雨のカーテンのように自分達だけを囲っていた。

 

どうやら真上だけの雨雲を飛ばしたらしい。

…そう結論付ける。

 

 

悟空「……無理矢理聞いといてすまねぇな。やっぱオラにはどうする事も出来ねぇ」

 

たづな「!……やめてください。謝らなければならないのは私の方で…」

 

悟空「そっか。なら他のを言わせてくれ」

 

 

「ありがとな」

 

 

たづな「え?」

 

悟空「あんな想いをしてまでウマ娘の事を1番に考えてくれてる。他の奴を見ていて嫉妬とかもあっただろうけど、それだけじゃあウマ娘を笑顔には出来ねぇ。ちゃんと大事に育てようって気持ちがみんなに伝わってんだ」

 

たづな「っ!そ、れは当然、です。皆さんには、幸せになってほしいので…」

 

悟空「オラも同じだ。アイツら、…ウマ娘達には悔いのねぇように戦ってほしい。…そんで、ウマ娘達とも同じ気持ちだ」

 

たづな「どういうことですか?」

 

悟空「ウマ娘達と同じ。オラも、おめぇには頼りにしてる」

 

たづな「!!!」

 

悟空「たづなが傍にいてくれるから前だけ見てられる。間違ったとしてもおめぇがいるから大丈夫って思っちまう。勇気を貰ってんのはウマ娘だけじゃねぇ。オラもだ」

 

たづな「悟空さん……」 

 

悟空「まぁ、何だ、なんて言えば良いのか知らねぇけど、……おめぇは強い!誰よりも強い!だから!これからも戦ってくれ!!」

 

たづな「………っ……クッ、…ふふっ。女性に対して強いだとか、戦えなどは褒め言葉になりませんよ」

 

悟空「ありゃ、そうか?」

 

 

後頭部をかきながら苦笑いを浮かべる悟空。

その大きく開いた胸元にポスリ…と、たづなの拳が乗せられた。

 

 

悟空「ん?」

 

たづな「……ねぇ、悟空さん」

 

悟空「なんだ?」

 

たづな「ーー"気,,の探知のやり方、教えて下さい」

 

悟空「えっ!本気かっ!?もちろん教えんぞ!それで鍛えればオラと組手を、」

 

たづな「組手はしません。"気,,を扱うではなく、探知の方法だけです」

 

悟空「えぇぇ、それだけ覚えてもしょうがねぇだろ」

 

たづな「大切な意味があります。以前侵入して来た悪質な記者の事を覚えてますか?」

 

悟空「ああ」

 

たづな「感情が"気,,に宿るなら、そういう人の"気,,は普通とは違うはずです」

 

悟空「まぁ、そうだな。……って、まさか」

 

たづな「はい。悟空さんがいなくなってからは私が学園を守ります。言わば私が悪質レーダー探知機ですね」

 

悟空「……なるほどな。でもそれなら修行して戦えた方が良いんじゃねぇか?」

 

たづな「いえ、それ以上の力は必要のないものまで引き寄せるかも知れません」

 

悟空「ははっ、否定できねぇな」

 

たづな「………悟空さん」

 

悟空「ん?」

 

たづな「貴方がいなくなったら、ちゃんと学園を守ります。なので…、」

 

悟空「………ああ」

 

たづな「それまでの間。スズカさんの事を…ウマ娘の事を。どうか、よろしくお願いします」

 

悟空「おう!オラに任せとけ!」

 

 









pixivにて初めてアンケートを実施しました。回答数が多ければ、人気投票をやったり、人気キャラを読者さんが希望するシチュエーションとかで1話(劇場版part2)書きたいと思うのでご協力お願いします。


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オマケ みんなで遊ぼう回





アンケートがあります。ぜひご協力くださいませ!


 

 

 

悟空「なん、だ………ここは……?」

 

 

 

前兆はなかった。

瞬きをしただけなのに、目の前に広がるのは真っ暗な空間。かつて修業した場所である"精神と時の部屋,,とは真逆に存在するものだ。

 

 

悟空「…こうも暗ぇと足元すら見えねぇな」

 

 

地面の上に立っているのは足音で分かる。しかし、この空間がどれほどの大きさか、どんな形状をしているのかはさっぱりだ。何故か自分の体だけが発光していて姿形は分かる。警備をしていたはずなのに道着を身に纏っているのも謎の一つだ。

そして、疑問を全て消し去る程の衝撃的な事実。

 

 

悟空「なんで、…くそっ!なんでアイツらの"気,,を全く感じないんだ……!?」

 

 

ウマ娘だけではない。人や動物。生きているモノなら誰しもが持っている"気,,

それを感じないとあれば、腑が煮えくり返る候補を思いつく。

 

 

悟空「っ、この場所はウマ娘達がいる地球で良いのか?それとも地球はもう、ぶっ壊されてっ!オラだけが違ぇ所にいるってのか!!?」

 

 

悟空の目に鋭さが増す。握った拳からはギチギチと音を鳴らし、髪がふわりと逆立つ。

もしもこれが誰かの仕業によるものなら、黙っているわけにはいかない。

力づくで空間ごと破壊しようと、悟空は"気,,を上げた。

 

 

悟空「誰だか知らねぇけど、アイツらに指一本でも触れやがったら絶対に許さねぇぞッ!!!!!」

 

 

怒りの感情は"気,,に呼応して、地鳴りのような音が響く。

 

 

瞬間だった。

 

 

「ーー悟空さん」

 

 

背後からの声。

誰の"気,,も感じないままだったのに、その声が耳に入ると"気,,が探知出来た。

 

 

悟空「ッ!?……スズカ、なのか?」

 

 

溢れる"気,,を抑えて彼女の名を呼んだ。

すると、今の悟空と同じように体だけが発光した状態のスズカが暗闇の向こうから現れる。ーー車椅子に乗って。

 

 

スズカ「はい」

 

悟空「スズカ……なんでおめぇが、……っ…考える時間はねぇか。スズカ、オラの近くまで来い!この空間何かがおかしい!!」

 

 

警戒心を最大限に上げてスズカに手を伸ばす。

しかしスズカは悟空から少し離れた位置でタイヤを動かすのを止めた。

 

 

スズカ「悟空さん…………ごめんなさい…」

 

悟空「スズカ……?」

 

 

要領得ない謝罪。

不可思議な世界の影響か。悟空はスズカにも警戒し始めた。

 

 

悟空("気,,は確かにスズカのモンだ。けど、アイツはまだ病室から出れねぇはずだぞ……)

 

 

疑うという裏切りにも似た思考。心にズキズキと痛みを受けながら、悟空はスゥッ…と胸の前で拳を構える。

その行動を見たスズカは僅かに目を見開くも、薄く笑みを浮かべて懐に手を伸ばした。

 

そして、

 

スズカが取り出したモノを見て悟空の体は不自然に固まる。

 

 

悟空「なんっ!?そりゃあどういう事だ!!?おめぇは一体、ーー」

 

 

パンッッッ!!!!!

 

 

驚愕を露わにする悟空をよそに、スズカは○○を引いた。

暗闇の中に響く。

火薬が混ざった破裂音。

 

 

スズカ「悟空さん。これが、私の役目なんです」

 

 

 

そう言ったスズカの手には、ーークラッカーが握られていた。

 

 

悟空「…………は?…っ!うわ、眩しっ!!!」

 

 

突然周囲が光に覆われて、咄嗟に目を塞ぐ悟空。

腕で隠した視界を徐々にずらしていくと、何で今まで分からなかったんだ、というような巨大な垂れ幕が吊り下げられていた。

 

 

題して。

 

 

スズカ「ぃ、いえーい……。ひ、ひろいん、人気投票&劇場版第二弾おしらせぇぇぇ……」

 

 

蚊が鳴いたように震えた声がすると、スズカの顔がほんのり赤く染まった。

 

悟空「……スズカ。恥ずかしがってる時に悪ぃけど、色々と聞いていいか?」

 

スズカ「あ、はい。でも…私もあまり良く分からなくって…」

 

悟空「知ってる範囲で良い。とりあえず…最初の時、何で謝ったんだ?」

 

スズカ「?…だって、私が出て来た時にビックリさせてしまいましたよね?」

 

悟空「…確かにおどれぇたけど、あそこで謝られたらオラ、なんかの罠に嵌められたんかと思ったんだぞ…」

 

スズカ「え?何でですか?」

 

悟空「………、」(コイツが天然っちゅーやつか…)

 

スズカ「悟空さん?」

 

悟空「ん、いや……何でもねぇ。…そんで他に何を知ってんだ?オラは気がついたらココにいたんだけどよぉ」

 

スズカ「私もそうです。目が覚めたら暗闇の中に…」

 

悟空「おめぇの役目ってのは?」

 

スズカ「いつの間にか膝の上に置いてあったんです。台本とクラッカーが」

 

悟空「台本?」

 

スズカ「どうやらそれを見ながら話しを進めていくみたいでして、ーーこれが悟空さんの台本です。どうぞ」

 

悟空「お、おお…。サンキュー……」ペラ

 

スズカ「流れだけでも掴めそうですか?」

 

悟空「んー、…まぁ、何とか………とりあえずやってみっか」

 

スズカ「はい!では改めてまして、ーー孫悟空とウマ娘をご覧になられている皆さん。ありがとうございます」

 

悟空「おめぇ達がたくさん読んでくれるからオラ達も頑張れる!ありがとな!」

 

スズカ「そこで今回は特別企画として人気投票をしたいと思います」

 

悟空「ウララ達は本来の性格とは少しズレてるからなぁ。最近たまに、コイツらこんなに血の気多い奴だっけ?って思う時があるもんな」

 

スズカ「私もスペちゃん見てて思います。そんな感じで、この作品ならではの推しがいるんじゃないかという事で、投票していただきます」

 

悟空「1位になったら褒美とかあるんか?」

 

スズカ「はい。そこでもう1つの企画。劇場版第二弾。そこで主役級の立ち位置になってもらう予定です」

 

悟空「へー、すげぇじゃねぇか」

 

スズカ「もちろん主役は悟空さんですけどね。そしてこれには続きがあります」

 

悟空「なんだ?」

 

スズカ「劇場版第二弾の設定を、読者さんに決めてもらいます!」

 

悟空「……本当かあ?……そんならオラの戦いが見てぇって誰かが言ったら書いてくれんのかよ」

 

スズカ「もちろんです。他にもあの子とこの子の絡みを見たいだとか。私としては、恋の話し…とか気になっちゃうかも」

 

悟空「鯉?おめぇ魚食う話しが好きなんか?ははっ!変な奴だなぁ」

 

スズカ「………えーと、内容の都合については、"アグネスタキオンの薬,,で幼児化や惚れ薬、サイヤパワーなど、何とでも出来るので大抵の事は大丈夫です。ただ注意点があって、」

 

悟空「ん?」

 

スズカ「設定は1つではなく、複数いただいた設定条件をまとめます。そのためどこか自身の理想とズレてしまう事があると思うのでご了承をお願いします」

 

悟空「なるほどな」

 

スズカ「このような企画も最初で最後。孫悟空とウマ娘は最終章に突入してますからね。ちょっとくらい読者の皆さんと一緒に遊びたいらしいですよ」

 

悟空「最終章なぁ、……確かに作中では有マまで二ヶ月くれぇしかないけど、実際には半年近くかかんだろ?」

 

スズカ「何だかんだであっという間じゃないですか?。レースの最中、残り100mなのに3分くらい心の声を出していたアレだと思いますよ?」

 

悟空「あー、…ナメック星が5分で爆発すんのに、2ヶ月以上戦ったアレか」

 

悟空・スズカ「「……………、」」

 

悟空「長いようで短かったよな…」

 

スズカ「そうですね…」

 

悟空「…………話し、続けるか」

 

スズカ「…はい。ーーでは、ノミネートする方達を紹介します」

 

悟空「のみねぇと?」

 

スズカ「はい。人数が多すぎると0票になる可能性もあるので厳選しました。呼ばれた方は自己PRを兼ねて一言エピソードをお願いします。では、悟空さんお願いします」

 

悟空「おう!台本読みながら言えば良い……ん、だよ、な…?」

 

スズカ「?……どうかしました?」

 

悟空「いや、スズカ…これ…」

 

スズカ「はい。台本通りに読み上げてください」

 

悟空「……くそ、どうにでもなれ……」

 

 

 

 

 

 

悟空「エントリーNo.1!何となく影が薄いハルウララ!」

 

ウララ「……え、」

 

スズカ「さあ、一言どうぞ?」

 

ウララ「ぁ、……うん。えっと、ウララは悟空さんの弟子で、トレーナーとの夢を叶えようと有マ記念を目指してます!自分で言うのは変だけど、『師匠と弟子』が好きかな。あの回でウララは成長したって思ってるから」

 

スズカ「ええ。私も好きよ。いつか一緒にお話しが出来ると良いわね。ーーじゃあ次」

 

 

ーーーーー

 

 

悟空「エントリーNo.2!色気より食い気!スペシャルウィーク!」

 

スペ「そ、そんな事ありません!私だって!……だって…」

 

スズカ「どうぞ」

 

スペ「うぅっ、わ、私は!お母ちゃんとの約束で日本一のウマ娘になる事が目標です!

そして『眠れる本能』では憧れのスズカさんをライバルとして認識し、グラスちゃんに死んでも負けないと決めました!ぜひもう一度読んでください!」

 

スズカ「私も負けないわよ。ーー次」

 

 

ーーーーー

 

 

悟空「エントリーNo.3!アメリカからやって来たエセ大和撫子!グラスワンダー!」

 

グラス「……、………、………、」

 

スズカ「?……どうぞ?」

 

グラス「…はい。……精神一到。"不退転,,の意思とともに己を磨き続けるグラスワンダーです。

オススメの回としては自らの限界に立ち向かった『不退転の覚悟』を好みます。どうかよろしくお願い致します」

 

スズカ「まさに武道ウマ娘ね。私も見習うべき所だわ。ーー次」

 

 

ーーーーー

 

 

悟空「エントリーNo.4!アメリカからやって来たエセカタコト言葉の使い手!エルコンドルパサー!」

 

エル「oh…。グラァス!ネタ被りは最悪デェス!」

 

スズカ「あの子は不服だったけれどね。どうぞ」

 

エル「んーー!気を取り直して!世界最強の座を手に入れる予定のエルコンドルパサーデェス!

ワタシは、『凱旋門賞』より、『世界最強!エルコンドルパサーの素顔』が好きデスね!弱い所も含めてエルはエルデェス!読者の皆さん!エルに1票…いや、100票!お願いシマァス!」

 

スズカ「100は合計でもいくか分からないわね。ーー次」

 

 

ーーーーー

 

 

悟空「エントリーNo.5!笑顔の裏には別の顔!セイウンスカイ!」

 

スカイ「……なんか、腹黒なキャッチコピーじゃない?」

 

スズカ「初めましてね。どうぞ」

 

スカイ「流された…。…どーもー。セイウンスカイだよ〜。

私はやっぱり『悟空とスカイと熊と』かなぁ。ヤジロベェもいるし。そーゆー事だからよろしくね〜」

 

スズカ「うん。必要以上に話さない所が裏の顔を考えさせられるわね。ーー次」

 

 

ーーーーー

 

 

悟空「エントリーNo.6!裏の裏のそのまた裏にいる主人公!キングヘイロー!」

 

キング「目立たないって言いたいのかしら!?」

 

スズカ「スポットライトが当たらないのに存在が強大って意味よ。どうぞ」

 

キング「褒められているか分からない微妙なラインね。………おーほっほっほっ!一流のウマ娘とは私、キングヘイロー!G1で勝つ事が目標だけれど、ライバルの頂点に立つ事が真の目標!

私は……そうねぇ。私だけの回じゃないけれど『頼れるモノ達ー中編ー』かしら。戦うヒト達の背中を見て、自分の弱さを知った。なら次は、私が戦うヒトの背中を見せる番ってね」

 

スズカ「どんな時でもキングヘイローは健在ね。ーー次」

 

 

ーーーーー

 

 

悟空「エントリーNo.7!話しのレベルが高くて8割の奴がよく分かってねぇ。シンボリルドルフ!」

 

ルドルフ「…衝撃な事実に疲労困憊だ」

 

スズカ「心機一転。お願いします」

 

ルドルフ「全てのウマ娘が幸福な世界を目指す。生徒会長シンボリルドルフだ。もちろん全てが無理な事は百も承知。だが諦める理由にはならない。

私が推奨する回はやはりと言うべきか、『皇帝』だ。そこに私の想いが詰まっている。…立場が似ている友人も出来たしな。まぁ、頭が硬いと良く言われているが、よろしく頼む」

 

スズカ「さすが会長。文も硬い。ーー次」

 

 

ーーーーー

 

 

悟空「エントリーNo.8!マッドサイエンティスト!アグネスタキオン!」

 

タキオン「その通りだからつまらないねぇ」

 

スズカ「周知の事実よね。どうぞ」

 

タキオン「この作品では使い勝手の良いアグネスタキオンだ。

泣くわ喚くはしているが『科学者と非科学』が私のデビュー作だな。物珍しい私を見たければどうするか分かるね?」

 

スズカ「捻くれてるわね…。ーー次」

 

 

ーーーーーー

 

 

悟空「エントリーNo.9!実はもう良い歳なんじゃ…、駿川たづな!」

 

たづな「…あらあら………へえ?」

 

スズカ「わ、私じゃないですよ?…お願いシマス…」

 

たづな「コホン、私はまだ○○代。駿川たづなです。私の好きな回は『劇場版DBダービー!』ですね。彼の狼狽える所が心に差さりました」

 

悟空「ぇ、」

 

スズカ「あ、あの…今は自分の良い所を言うコーナーでして……その…」

 

たづな「…………………ふふっ、」

 

スズカ「ッ!!ありがとうございました!ーーつぎぃ!」

 

 

 

 

 

 

スズカ「………?……あ、終わったのね」

 

悟空「みてぇだな。おめぇはエントリーしねぇのか?」

 

スズカ「はい。私は前回出ただけなので、そのために私が進行役に選ばれた理由でもあるんですよ」

 

悟空「へぇ。そういやオグリも出ねぇんだな」

 

スズカ「彼女もちょっとその、出番もそうなんだけど、、ご飯を食べる時以外書き辛いって……」

 

悟空「あー、オグリの奴、食ってる所以外想像つかねぇもんな」

 

スズカ「………オグリキャップファンの方。申し訳ありませんでした」

 

悟空「んじゃ、まとめんぞ」

 

 

 

 

 

 

ー まとめ ー

 

 

・アンケートにより、ヒロイン人気投票を行う。

 

・1番多かったヒトは劇場版にて主役級の立ち位置になる。

 

・劇場版の設定については読者様の意見をまとめたモノ。

 

・活動サイトはpixivとハーメルン。設定の意見は、コメントまたはメッセージ。何でも良いです。

 

・あらかじめ言って置きますと、話しの流れはあくまで、"孫悟空とウマ娘,,の世界観で行う。

 

・意見をいただける場合は、話しのオチなども参考までにいただけたら幸いです。

 

・劇場版はIFの世界。何があっても連載の方には影響しないのでご了承ください。

 

 

 

 

スズカ「それでは、」

 

悟空「これまで読んでくれた読者たち!」

 

 

 

悟空・スズカ『一緒に遊ぼうぜ!/遊びましょう』

 

 

 

 

ー 締め切り ー

 

1週間後。ーー12月8日0時まで。

 

 

 



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人気投票結果! 劇場版オマケ回



………明けましたね…。遅くなりすみません…。

今後とも見ていただければ幸いです。


さて、今回は人気投票の結果とそのオマケ回。
劇場版については次作になるのでご了承ください。

注意
・今作次作の内容は、連載とはIFの世界なので、干渉しません。
・キャラ崩壊



 

 

 

 

 

      

     pixiv + ハーメルン =343

 

 

 

スズカ「この度、複数のご意見と投票にご協力いただきありがとうございます」

 

 

>ありがとねー!

>スズカサーン!

 

 

スズカ「会場も熱がこもってきましたね。早速1人ずつ呼んでみましょうか」

 

 

>イェーイ!!!

 

 

スズカ「大差を付けての先頭でゴールしました!93票!駿川たづなです!」

 

 

>さすがたづなさん!

>痺れちゃう!

>憧れるね!

 

 

たづな「あ、はは…。ちょっと…いえ、かなり恥ずかしいですね…」

 

スズカ「たづなさん。ヒロイン総選挙第1位おめでとうございます」

 

たづな「……ありがとうございます。出来れば、…その…ヒロインというのを止めてほしいのですが…」

 

スズカ「すみません。決まりなので」

 

たづな「………そうですか」

 

 

>カシャシャシャ

>会長、何で写真撮ってるんですか?

>グラス。日頃隙を見せない彼女が顔を赤らめているんだ。写真くらい撮るだろう。

>そういうものですか、ねぇ…?

>不服か。それならスペシャルウィークだったらおまえはどうする?

>撮ります。

>そういう事だ。

>さすが会長です。

 

 

 

 

スズカ「続いて2着。68票!ハルウララ!」

 

ウララ「ぃやったー!みんな応援してくれてありがとねー!」

 

スズカ「安定感のある人気でした。おめでとうございます」

 

 

>カシャシャシャ

>…………キング…。

>ん、…スカイさん。……言いたい事は分かってるわ。でもね?ウララさんが表彰台に立ってるの。つまりそういう事よ。

>……もう自分から親バカ路線走ってんじゃん…。

 

 

 

 

スズカ「半バ身差3着に入りましたのは53票の彼女!セイウンスカイ!」

 

スカイ「いやー、まさかセイちゃんが3着とは。思ったより応援してくれる人がいてビックリしたよぉ。ありがとね〜」

 

スズカ「序盤は控えてたけど、中盤からもの凄い追い込みで票が上がっていったものね。おめでとうございます」

 

 

>さすがセイちゃん!

>…ネタじゃないの?あのヒトが悟空さんに惚れてる疑惑が読者さんの間で流れてるし。1着にさせて劇場版の内容を悟空さんとの恋愛系でもさせようとしたんじゃない?

>えーっ!ふ、ふ、ふ、ふしだらな!

>スペさん!?

 

 

 

 

スズカ「さらに1.1/5バ身ひらきました。39票4着!グラスワンダー!」

 

グラス「ありがとうございます。日々の鍛錬の成果が出ているようで大変嬉しく存じます」

 

スズカ「グラスちゃんが頑張っているのは皆知っているからね。おめでとうございます」

 

 

>…………ん?

>どうかしたのかい?ウララ君。

>んー、何か足らない感じがして…

>………足らない、か….。……まあ今は彼女の名誉を讃えようじゃないか。

>そうだ、ね!グラスちゃんおめでとー!

 

 

 

 

スズカ「ここで来た。まさかの同着!"39,,票4着!シンボリルドルフ!」

 

ルドルフ「同着か。……ふふ、レースなら簡単に納得は出来ないが、この場だと誇らしく思うよ。"サンキュー,,」

 

スズカ「!?…か、会長らしいお言葉ですけど、珍しい言い方しましたね。……おめでとうございます」

 

 

>…………、

>?…たづなさん、頭押さえてるけど痛いの?

>…ええ、とても。………………あれほど人前で言うなと言ったのに…。

 

 

 

 

スズカ「ここから少し離されました。2バ身差19票!5着!キングヘイロー!」

 

キング「まだキングの魅力が伝わってない人がいるのね。…まぁいいわ。知らない人には教えるし、知っている人には余所見すら出来ないよう夢中にさせてあげるわ」

 

スズカ「後方から差すのは得意だものね。おめでとうございます」

 

 

>ありゃりゃ。まーた大きな口叩いちゃってるよ。

>ふむ…。セイウンスカイ。顔が赤いようだが?

>へあっ!?

>それとも、……何か夢中になる事でも…?

>か、かかかカイチョー!?別に何もないですヨ⤴︎

 

 

 

 

スズカ「ここ少し並んでます。クビ差15票!6着!スペシャルウィーク!」

 

スペ「皆さん応援ありがとうございます!……でも、欲を言えばもうちょっと多い方が嬉しかったり、……えへへっ、なんちゃって…」

 

スズカ「好かれたいと思うのは悪い事じゃないわよ。おめでとうございます」

 

 

>カシャシャシャシャシャシャシャシャ!!!!

>知ってた。

>知ってた。

 

 

 

スズカ「さて、前走の影響が出たのか。半バ身差の11票。7着。アグネスタキオン!」

 

タキオン「ふむ。確かに前回の劇場版は私が主役に近い存在だったからねぇ。要所要所も登場してるし妥当な順位かな」

 

スズカ「冷めてるわね。でも、おめでとうございます」

 

 

>…………、

>……ねぇ。

>……なに…?

>…………いえ、……なにも…。

 

 

 

 

スズカ「そして最後尾!番狂せの出来事!ゲートを失敗したのか!それとも道中でモタれたか!コンディションを整えるのがトップレベルの彼女!まさかの失速!」

 

 

>なんか、煽ってる…?

>そうしないとやってられないんじゃない?スズカさんも。……当人にも。

>……………、

 

 

スズカ「では呼びましょう!6票、8着!エルコンドルパサー!」

 

エル「………………、」

 

スズカ「………あ、…え、エル?」

 

エル「………………ぐすっ」

 

スズカ「!!?」

 

 

>居た堪れない!こういう時こそ同室の出番でしょ!

>グラスちゃん!

>ッ!……いえ、エルは落ち込んでいる姿を私に見せたくないと思います。ここはリギルのメンバーであり、生徒の代表であるルドルフ会長にお任せしましょう。

>なッ…!?……コホン。私より適任がいるだろう。ウマ娘の事は彼女に任せておけば大丈夫だ。たづなさんお願いします。

>………勝者が敗者にかける言葉など、……なにも、ありません…。

>…………無力ね。私たちは。

 

 

 

"シュン!,,

 

 

悟空「わりぃっ!遅くなった!」

 

 

>ヒーーーーロォオオオオオオ!!!!

>やだ、カッコいい…!

 

 

エル「………ご、く、……さっ…!」

 

悟空「ん?なに泣きそうな顔してんだ?」

 

スズカ「………これを見てください」ペラ

 

悟空「おう。…………あちゃー…。そういう事か」

 

エル「……悟空さん、……エルは、楽しみにされていないんでしょうか…」

 

悟空「そ、そんな事ねぇって!今回のは人気ってだけじゃなくて、1番だった奴が主役になれんだろ?おめぇの場合は凱旋門で主役に立ったばかりじゃねぇか」

 

エル「でもっ、…その理屈ならグラスはワタシよりも後で主役になってマス…。なのに……」

 

悟空「あー、……、」

 

 

>……悟空さん周り見渡し過ぎじゃない?

>シッ、絶対に目を合わせては駄目よ。

>でも、大丈夫なんですかねぇ。あの人デリカシーないですよ?

>恐らく平気でしょう。下手な事を言わないように助けを求めている訳ですから。

 

 

悟空(…コイツら、誰1人とも目が合わねぇ…。ウララですらそっぽ向いてるって……)  

 

エル「ぁぅぁぅぁぁぁ…………あ、エルは不人気なんだ!」

 

悟空(やべぇな。狂い始めて来やがった)

 

 

 

悟空【おい!おめぇ達!エルが困ってんぞ!】 

 

 

>……、

>…………、

>………………、

 

 

悟空(……だめだ。つーかスペの奴。親指立てて何のつもりだ?頑張れってか?)

 

エル「ふふふ、多分私がキャラ作ってる感じが嫌なんだよね?それじゃあこれなら大丈夫かな?」

 

悟空「………ハァ、ったくしょうがねぇなぁ。よっ、と!」

 

エル「きゃっ!え、ご、悟空さん!?」

 

 

>抱っこやり始めたけど?

>何か思いついたんでしょうか…?

>というよりエルちゃん可愛い声出たね。

 

 

エル「………悟空さん?」

 

悟空「……にひひ、今回はカッコ悪かったな!」

 

エル「ひぐっ、……ぅぅ、」

 

 

>え、やばい?デリ0発揮してる?

>その様に見えるが…、どうしたものか。

>……もう少し様子を見ましょう。

 

 

悟空「エル。おめぇは悲しいんか?」

 

エル「……なんか、恥ずかしいんデス。エルだけ一桁なんて…」

 

悟空「そっか。それならオラが投票してやるよ!」

 

エル「え?」

 

悟空「ひひっ、オラの票は超つえーぞ?だからおめぇの投票数は1000006票だ!」

 

エル「……何ですか、それ…」

 

悟空「それじゃあダメか?」

 

エル「……は、あははっ!すっごく嬉しいデェス!」

 

悟空「よし!良い笑顔だ!そらっ、くるくるくるぅ〜」

 

エル「あははは!目が回ってしまいマスヨ〜」クワンクワン

 

 

>………ふむ。彼らしいじゃないか。

>そうですねぇ。

>良い話なんだが、…二次災害が発生したみたいだ。

 

 

 

スカイ「……私も頑張ったんですけどねぇ〜………ほんとに」

 

グラス「………エルだけ、なんですね…」

 

 

ウララ「あれ?2人ともどうしちゃったの?」

 

キング「心配しなくていいわ。拗ねてるだけだから」

 

スペ(や、やっぱりセイちゃんの噂って…)「こ、の…ッ!セイちゃんのふしだら娘っ!」

 

スカイ「え、どしたの急に?」

 

 

 

 

 

スズカ「さて、皆さんが揃いましたので集まってください」

 

悟空「よっ、スズカ。まとめ役"サンキュー,,な!」

 

ルドルフ「!……コホン。悟空さん。私は39票だったよ」

 

悟空「ん?そっか。中々高いじゃねぇか。良かったな!」

 

ルドルフ「あ、いや……そうではなくて、だな。……39を違う読み方したら、その…サンkyーー」

 

たづな「それでは最後を締め括りましょうか!!」

 

ルドルフ「………わざとですか?」

 

たづな「凍えそうな程の寒気がしたので声を張り上げただけですが何か?」

 

ションボリルドルフ「…………いえ」

 

たづな「よろしい」

 

 

 

エル「なあっはっはっは!エルの投票数は1000006!最強はここにイマシタ!」

 

ウララ「元気になって良かったね!」

 

スカイ「……さっきの状態動画撮っとけばよかった」

 

グラス「同感です」

 

タキオン「条件を呑むならあげよう」

 

グラス「!…撮ってたんですか?」

 

タキオン「もちろんだとも」

 

スカイ「………対価は?」

 

タキオン「なに、簡単だよ。ある物を口に含んで胃に届ければ良い」

 

スカイ・グラス「「悟空さんが飲んでくれるからください」」

 

タキオン「交換条件成立だ。端末に送ろう」

 

 

《ーーーふふふ、多分私がキャラ作ってる感じが嫌なんだよね?それじゃあこれなら大丈夫かな?》

 

 

エル「ひいいい!エルの黒歴史がぁあああああ…!」

 

スカイ「幸せの後には不幸が訪れる。それが世の理」

 

グラス「辛いですねぇ」

 

スペ「こら!エルちゃんをいじめたらダメだよ!」

 

キング「スペさん。ちょっと耳貸して」ゴニョゴニョ

 

スペ「ふむふむ。……………エルちゃんをいじめるからグラスちゃん嫌い」

 

グラス「えっ!わ、わ、私は何もっ。………セイちゃん、だめじゃないですか〜」

 

スカイ「まじか!? 1秒で裏切られた…」

 

悟空「おーい。おめぇ達も遊んでねぇでこっちに来い」

 

ウララ・エル・キング・グラス・スカイ・スペ

『あ、はーい』

 

タキオン(やれやれ。純粋な娘達だ)フフッ

 

 

 

 

悟空「ん、集まったな」

 

スズカ「最後の挨拶をしたら、すぐ劇場版に入るんですか?」

 

悟空「その前に1つやるつもりだ。ほら、今はどうか知らねぇけど、昔の映画って本編入る前に短いやつやってたろ?あれをやろうと思ってな」

 

スズカ「そうですか。凄く楽しみです」

 

悟空「そんでそれが終われば、人気投票1着のたづなが主役だ。頑張れよ?」

 

たづな「ええ、よろしくお願いします」

 

悟空「よし!んじゃ行くぞ?」

 

 

 

悟空「オラ達は何がなんでも最後まで走り抜く!だからそれまではっ!」

 

スズカ「"孫悟空とウマ娘,,を!」

 

 

    『よろしくお願いします!!!』

 

 

 

 

 

投票。pixiv (ハーメルン)

 

駿川たづな  

37(56)=93

 

ハルウララ 

31(37)=68

 

セイウンスカイ 

44(9)=53

 

グラスワンダー

27(12)39

 

シンボリルドルフ

31(8)=39

 

キングヘイロー

12(7)=19

 

スペシャルウィーク

12(3)=15

 

アグネスタキオン

5(6)=11

 

エルコンドルパサー

5(1)=6

 

 

※この投票は12月8日時点の数です。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

オラが小っこくなったぁあああああああ!!!!

 

 

 

 

 

ー ある日 ー

 

 

コンコン、ガチャ。

 

 

悟空「オッス!来たぞ、タキオン」

 

タキオン「やあ。呼び出してすまないねぇ」

 

悟空「おう。何かあったんか?」

 

タキオン「そんな所だ。早速本題に入るがコレを飲んでくれたまえ」

 

 

目の前に置かれたのはコップ一杯入った水。それを見た瞬間、悟空の顔は歪んだ。

それは当然の事だ。

 

 

悟空「………むらさき色になってっけど…?」

 

 

そんな水を見れば顔くらい引き攣る。

 

 

タキオン「? だから何だい?」

 

悟空「飲む気がしねぇって言ってんだ」

 

タキオン「申し訳ないが、この件に関してキミは断れない。交換条件として取引が成り立っているのだから」

 

悟空「交換条件?なんだそりゃ。んなもんやった覚えねぇぞ」

 

タキオン「それはそうさ。キミは担保だからな」

 

悟空「担保って何だ?」

 

タキオン「要するに肩代わりって意味だよ。スカイ君とワンダー君のね」

 

悟空「はあ!?肩代わりって、……アイツらは何が欲しかったんだ?」

 

タキオン「コンドル君の恥ずかしい動画」

 

悟空「……アイツら性格悪ぃな…。……って、そんなくだらねぇ事にオラが巻き込まれたんか!?」

 

タキオン「そうとも。さあ、グイッと一気によろしく頼むよ」

 

悟空「………くそ、恨むぞ。スカイ、グラス…」

 

 

約束を破るのか?…というタキオンの視線に耐えきれず、喉越しを決める悟空。

ごくごくごく、と喉仏が上下すると紫の液体は胃に到着する。

 

 

悟空「んっ、………飲んだぞ。…っ、な、何だこりゃ…!?」

 

 

言った直後。

悟空の体は七色に光り、水蒸気のように吹き出した煙が悟空を包み込んだ。

 

 

 

 

それで誕生したのが、

 

 

 

悟空「………あり?」

 

タキオン「ふむ」

 

 

 

 

 

タキオン「孫くん。何故キミは縮んでいるんだい?」

 

悟空「おめぇがそれを言うんか!?」

 

 

タキオンは至って普通に口を開いたが、その反面、他が普通ではなかった。

冷えた室内に似つかわしく流れ出る汗。泳ぎながらも見開く瞳。縋りつくように振り乱す手。

パニックの時に出る反応が全て出ていた。

 

 

タキオン「こ、こんな筈では…。……とりあえず服を調達しよう…」

 

 

 

そんなこんなで。

 

 

    

     ・

     ・

     ・

 

 

悟空「まあ、小さくなるくれぇ別に良いんだけどな」

 

 

"ま、いっか,,

不可思議な事が起きても悟空は気に留めない。

どこから用意したのか分からないが、悟空は子供用の服を纏いながら学園内を闊歩していた。

 

 

悟空「それにしてもタキオンのやつ。1日で戻るのは良いけど、部屋から出るなってどういう事だったんだ?窮屈で耐えきれねぇよ」

 

 

酷く慌てた様子だったのを思い出す。

まるで外の世界には化け物がいるかの如く。土下座でもする勢いで言っていたのだが、タキオンが余所見した瞬間に飛び出してしまった。

 

 

悟空「……力が大分減ったなぁ。感覚的には……"ウマ娘と同じくらいか,,」

 

 

手をグーパーしたり軽く飛び跳ねてみる。

万全な時の名残りがあるせいか、とんでもなく体が重く感じた。

 

 

悟空「ま、これも修行だな。いっその事ウララ達と走っても面白いかもな!」ニヒヒ

 

 

かつて自分の足だけで世界を旅し、天下一武道会で争った時の姿。自然と燃えさかる気持ちで昂っていた。

 

 

 

その時だった。

 

 

「あなたは……!」

 

悟空「ん?」

 

 

背後から聞き慣れた声。馴染みのある"気,,の横に、知らない2つの"気,,

 

 

悟空「オッス!ルドルフ!」

 

ルドルフ「ぁ……ぇ、……そんな、まさか……」

 

 

フラフラとヨレる体。

現実を直視しないかのように顔を力なく振っている。

そんな姿が異常だと、隣にいる2人は口を挟んだ。

 

生徒会の2人だ。

 

 

エアグルーヴ「会長?この子とはお知り合いですか?」

 

ルドルフ「…………、」

 

ナリタブライアン「………どうしたんだ?アンタにしては取り乱している様子だが…?」

 

悟空「ルドルフ?」

 

 

三人から注目を浴びるルドルフは俯いていた。

 

 

ルドルフ「……ご……うさ……なのか…」ボソ

 

悟空「ん?」

 

ルドルフ「…あなたは、私の知ってる……あのヒトで合っているのかい…?」

 

悟空「あ、ああ…。多分そのオラで合ってっけど」

 

ルドルフ「そうか。……ふ、くくっ、…アハハ」

 

 

ビクリ。

反射的に三人共がルドルフから退いた。

 

 

グルーヴ「………キミは会長とどんな関係なんだ?」

 

悟空「オラか?なんて言えば良いんだろうなぁ…」

 

グルーヴ「?…複雑、なのか」

 

 

ルドルフが異様だと感じた原因が悟空だと判断したグルーヴは悟空へ手を伸ばす。

 

 

ルドルフ「その子に触れるなエアグルーヴッ!!!」

 

グルーヴ「ッ!?」

 

 

強烈な圧力だった。

聞いたことの無いルドルフの激昂。心臓が締め付けられ、それよりももっと深い所にある心も傷付いた。

 

そして。

 

 

ルドルフ「………何のつもりだ。ブライアン」

 

 

悟空を背に立ち塞がったのはナリタブライアンだ。

 

 

ブライアン「今のアンタは普通じゃない。少し落ち着いたらどうだ」

 

 

簡潔な言葉。

大きく見開いた目は真っ赤に充血し、もはや血走っているといっても過言ではない。

 

 

ルドルフ「私に落ち着けだと?…ふふ、偉くなったものだな。ブライアン」 

 

ブライアン「なんだと…?」

 

ルドルフ「ブライアン。君は確かレースで喰らい合いたいと言っていたね。………この私に噛み潰されたいのか?」

 

ブライアン「ッ!!!」

 

 

殺意に似た気迫。無意識のうちにブライアンの足が後ろに下がった。

 

 

ブライアン「く、そ……!」

 

ルドルフ「うん。良い子だ。それじゃあ……って、何をしているんだエアグルーヴゥウウウウ!!!」

 

グルーヴ「ブライアンの言う通りです!子供の前ですよ!?落ち着いてください!」

 

ルドルフ「これが落ち着ける訳ないだろ!」

 

グルーヴ「何故ですか!」

 

ルドルフ「私より先にっ、ーー彼を抱っこするなァアアアアアア!!!!」

 

グルーヴ「ッ、……怖いだろうが心配するな。私が守ってやるからな」

 

悟空「く、くるしっ、」

 

 

誰がどう見ても悟空は呼吸をしていないだろう。否、呼吸が出来ないと言うべきか。

女帝様の豊満なバストは、悟空の鼻と口を完全に塞いでいた。

 

 

ルドルフ「その子は私が面倒見るんだ!歩きながら手を引いて!疲れたら抱っこするのも私だ!頬っぺたを突かせろぉおおお!!!」

 

 

気が狂ったように暴れ出す。

力づくで食い止めているブライアンの筋肉は悲鳴を上げた。

 

 

ブライアン「くっ…!……オイ!子供だけ逃してお前も手伝え!1人では相手に出来ん!」

 

グルーヴ「その様だな。……すまない。会長は私達が何とかするから、この場から離れてくれ」

 

悟空「んんんっ!……ぷはッッッ!ハァハァハァ……この世界で初めて死ぬかと思ったぞ…」

 

 

必死に酸素を取り込み、呼吸を整える。

次第に悟空の目に入り込んできた光景は見覚えがあった。

 

 

悟空(……アレ、腹を空かせた獣に似てんなぁ…)

 

 

言い得て妙な光景。

ルドルフは獣であり、食べられるのは悟空だ。

 

 

グルーヴ「何をしている!」

 

ブライアン「早く行け!」

 

悟空「お、おお。すまねぇ、言葉に甘えんぞ!」

 

 

これまで数多の修羅場を潜り抜けてきた悟空には分かる。

今回は逃げるべきだと。

 

 

ルドルフ「んん?…ふ、ふはっ、ひひひ……!遅い!遅いなぁ! まさかとは思うがそれが本気か!? それならキミは私から逃げられない!逃がさないぞぉおおお!!!」

 

ブライアン「こ、のっ、バ鹿力めっ!」

 

グルーヴ「ォオオオオオオッ!!!」

 

 

エアグルーヴ達は2人がかりでも倒す事は不可能。膠着状態が続き、猛獣の叫び声だけが響いていた。

 

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

悟空(………ここまで来れば大ぇ丈夫か)

 

 

速さでは勝てずとも、一度離れれば"気,,を読んで近づかなければ良い。

 

 

悟空(部屋ん中にいた方がいいんかもな)

 

 

あんなのを見てしまえば思わざるを得ない。

そう考える悟空に近づく1つの影。知っている"気,,を持つ彼女のはずなのに、

 

 

グラス「」ジー

 

悟空(…腹減ったなぁ)

 

 

悟空は気付かずに歩き続ける。

 

 

グラス(………小さい。…普通ならあり得ない。でも、あんな特徴的な髪型は他にいませんし、何より彼はあり得ない事が当たり前)

 

 

背後から突き刺す揺るぎない視線。

なんの反応も示さない悟空に違和感を感じながらも、グラスは足音を立てずに近づいた。

その距離。僅か2mの位置まで。

 

 

悟空「ッ!?」

 

 

バッ!…と勢いよく悟空は振り向いた。

自然な流れで左手は胸の前、右手は腰の位置。緩く握る手は拳を作り、その構えはまさに戦闘態勢だ。

 

 

グラス「きゃっ!」ビクッ!

 

 

悟空の闘気を誰よりも知っているグラスでさえ腰を抜かし、尻もちをついた。

 

 

悟空「ッ!ぐ、らす…?あっ、すまねぇ!」

 

グラス「い、いえ…、私も後ろからなんて失礼な事をしてしまってすみません。………悟空さん、で合ってますよね?」

 

悟空「あ、ああ。…………?」

 

 

悟空は自問自答の渦に飛び込む。

至近距離までグラスの接近には気付かなかった。さっきルドルフの"気,,を特定したばかりなのに。

 

 

悟空(………!もしかして、無意識の時は"気,,の察知が出来てねぇ!? ……体が縮んでも考え方は同じ。だけど"気,,そのものが小さくなってるから、技術が全部中途半端になってんのか…!)

 

グラス「悟空さん?」

 

悟空「ん、どうした?」

 

グラス「何で小さくなっちゃったんです?」

 

悟空「あー、タキオンの薬飲んだらなった」

 

グラス「あ、やはりタキオンさんの仕業だったんですね」

 

悟空「……そんで元々の理由はおめぇとスカイのせいだ」

 

グラス「!!?」

 

悟空「覚えねぇか?ちなみにオラはさっき初めて知ったぞ」

 

グラス「…………あ、」

 

悟空「思い出したか。それなら言う事があるだろ?」

 

グラス「……軽率な事をしてしまい申し訳ありませんでした」

 

悟空「ん。謝ったから許す」

 

 

そう言って悟空は踵を上げて背中を反らした。頑張って伸ばした右手はグラスの胸元付近でさまよっている。

 

 

グラス「……あの、何をしているのですか?」

 

悟空「は、はは……。いやぁ、ちゃんと謝れたから頭撫でてやろうと思ってな。……へへっ、届かねぇや」ニヘ

 

グラス「ーーーーーーコヒュ」

 

 

バチバチバチ!!!!

グラスの脳内で花火のような破裂音が響き渡る。脳の伝達速度が上がったのか。それとも脳内物質が弾け飛んだのか。

何にせよグラスの世界に新たな一面が存在した。

 

 

悟空「そういや聞いてくれよ」

 

グラス「…………、」フー

 

悟空「さっきルドルフの奴に会ったんだけど、何かすげぇ怪物になっちまっててさ」

 

グラス「……………フー…」

 

悟空「アイツが何言ってたか分かんなかったけど、またストレス溜まってんのかなぁ」

 

グラス「…フーッ………フーッ!…!」

 

悟空「グラスってルドルフと同じチームだろ?最近変わった事ねぇかな…って、……おも、って…」

 

グラス「フーッ!フーッ!」ギラギラ

 

悟空「グ、ラス……?」

 

 

血走った眼。半開きの口から漏れる荒れた息。その豹変ぶりは先程のルドルフと酷似している。

思わず後退りする悟空。

その全く同じ歩幅でグラスは詰め寄った。

 

 

グラス「ゴクウ…サン……」

 

悟空「ぐ、ぐらす?落ち着けよ?オラは力も一緒に落ちてるから今までのように遊んだら潰れちまうぞ…」

 

グラス「ーーーッッッ!!?!?!?」ギョロリ!

  

 

孫悟空に絶大な力がない。

それはグラスのリミッターを壊すには充分過ぎる程の破壊力だ。

 

 

グラス「ぁあぁぁぁぁあゴクウサァアアアアン!!!」

 

悟空「ッ!やめっ、」

 

グラス「スペちゃんと写真撮らせてください」

 

悟空「…………え、」

 

グラス「お願いします。悟空さんとスペちゃんが並んでいる写真を。どうか私にっ」

 

悟空「ぁ、、、おう。写真くれぇ構わねぇぞ」

 

グラス「本当ですか!?ありがとうございます!すぐにスペちゃん呼んできますので待っていてくださいね!」パァアアア!

 

悟空「………、」

 

 

よほど嬉しいのか。満面の笑みで走り去るグラス。 

遠ざかる背中を見ながら、悟空は溜め息を溢すと一言言い放った。

 

 

 

悟空「……あんな奴じゃなかったんだけどなぁ…」

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

あれから10分。

ようやくスペを見つけたグラスは手を引きながらスキップしていた。

 

 

スペ「ーーーーへぇ、私と悟空さんの写真かぁ」

 

グラス「はい!」

 

スペ「一緒にいたセイちゃんとエルちゃんは呼ばなくて良かったの?悟空さんが小さくなったの知らないままだよね?」

 

グラス「もちろん後で伝えますよ。でも今はじゃm……スペちゃんにだけ用がありまして」

 

スペ「ふーん。……もう一回聞くけど写真を撮るんだよね?」

 

グラス「はい!」

 

スペ「………体操服、必要だった?」

 

グラス「はい!」

 

スペ「………制服だけじゃダメだったの?」

 

グラス「はい!」

 

スペ「……そっか」

 

グラス「ふふっ、……えへへ!」

 

スペ(この子、こんな笑顔出来たんだ…)

 

 

純真無垢な顔とはこういう事を示すのだろう。

とても複雑な気持ち。

釈然としないのに、悪意の無い笑みを止める術はない。

スペは密かな抵抗として、繋がれた手を離したが即座に握りしめられたので諦めた。

 

 

 

そして悟空のいる所に到着したのだが…。

 

 

 

ウララ「わあっ!何回見ても目の位置が一緒!悟空さんが小さくなっちゃったー!」

 

悟空「ははっ!オラも変な感じがすんなぁ」

 

ウララ「力も下がってるの?」

 

悟空「みてぇだ。多分おめぇ達とそんなに差ねぇから後で走ろうぜ!」

 

ウララ「うん!悟空さんと本気のしょーぶ!ウララ負けないよー!」

 

悟空「オラだって負けねぇさ!」

 

 

 

グラス「これは一体…?」

 

スペ「グラスちゃんが離れてる間に見つかったみたいだね。それに、………」チラ

 

グラス「え?」チラッ

 

 

 

キング「っく…!何で横向くのよ!」カシャカシャカシャ

 

 

 

悟空とウララを離れた場所から携帯を向けるキング。ボソボソと呟いたり角度を変えて悪戦苦闘していた。

 

 

 

キング「このっ…、ん、………あ!今の結構良いんじゃ…!」

 

グラス「……」

 

スペ「………」

 

キング「…………………何よ?」

 

スペ「………私さ。東京には危ないヒトがいるから気を付けろってお母ちゃんに言われてるんだよね」

 

キング「………そう。良いお母様ね」

 

 

キングは携帯をしまうと、息を吐きながら立ち上がった。

 

 

キング「それで、あなた達は何をしているの?」

 

スペ「グラスちゃんが私と悟空さんの写真を撮りたいんだって」

 

キング「ふーん。私と同じね」

 

スペ「いやぁ、キングちゃんのはちょっと犯罪臭が、ーー」

 

グラス「ふふ、…んふふ、……悟空さんを抱っこするスペちゃん。…スペお姉ちゃん。…ひひ」ボソボソ

 

スペ「そうだね。同じだった」

 

キング「それなら悪いのだけど、スペさん達は後にしてちょうだい。今は私の番だから」

 

 

 

ウララ「えへへ!」

悟空「ははっ!」

 

 

キャッキャ!キャッキャ!

 

 

 

キング「まるで穢れが存在しない世界。誰であろうとあの2人に混ざる事は出来ないわ」カシャカシャ

 

スペ「ちょっと言い過ぎな感じするけど、気持ちは分かるなぁ。ずっと笑ってるもんね」

 

グラス「そうですねぇ。そんな所にスペお姉ちゃんが加われば言う事なしです」

 

スペ(ん?)

 

キング「……ふふっ、おばかねぇ。誰であろうとって言ったじゃない。スペさんも例外ではないわ」

 

グラス「あらぁ。キングちゃんにしては読みが足りませんね〜。楽園でさえずる小鳥達の傍には天使が必要なんですよ〜」

 

キング「……」

 

グラス「……」

 

スペ(あ、はじまる)

 

 

スペの脳内で、カーン!という甲高い音が鳴り響いた。

 

 

キング「ねぇ」

 

グラス「何です?」

 

キング「大和撫子って空気を読む事は出来ないの?」

 

グラス「読んだ上で提案をしています。良いとこのお嬢様にはご理解いただけなかったようですが」

 

スペ「あのー、ふ、ふたりとも?」

 

キング「……そういえばスペさんは何故体操服なんて持ってるの?」

 

スペ「へ?…あー、グラスちゃんが体操服姿でも撮りたいって言うから」

 

キング「………ふぅぅぅん。……そ。」

 

グラス「……なにか?」

 

キング「べつに?ただ、グラスさんが加工製を好んでいるとは思わなかっただけ。素材の味を楽しむ方だと勝手に思っていたわ」

 

グラス「か、加工製……ですって?………スペちゃんをバ鹿にすると許しませんよ」

 

スペ「………、」

 

キング「それはあなたの勘違い。私がバ鹿にしているのはグラスさんだけだから」

 

グラス「…………吐いた言葉は飲ませません」

 

キング「もちろん」

 

グラス「では、加工製とはどういう意味か。答えてもらいましょうか」

 

 

 

>こんにちは!悟空さん。ウララちゃん!

>あっ!スペちゃんだー!こんにちわー!

>オッス!……ん?グラスは一緒じゃ、……って、キングと何してんだ?

>………さあ?そんな事より本当に小さくなっちゃったんですね。

>まぁな。

 

 

 

キング「あの2人はね?自由に遊んだり話したりしている所に花があるの。にも関わらず何?衣装…?ポーズ…?意図的に作り出した世界に何の価値があるの?悪いけど正気の沙汰とは思えないわ」

 

グラス「自由=花とは同感です。ただそこにスペちゃんが加われば理想郷になるというもの。言わばスパイス。キングちゃんは、コクが深まるのに調味料を入れないんですか?」

 

キング「調味料は悟空さんが小さくなった事により既に足りている。必要以上に入れたってクドイだけよ。高血圧になりたいの?」

 

グラス「………すみません。今にして思えば前提が間違ってました。悟空さんと写るのはスペちゃんだけで良いです」

 

キング「花が無くて楽園が成り立つ訳ないでしょう」

 

グラス「スペちゃんがお花畑です」

 

キング「……スペコンもいい加減にしなさいな」

 

グラス「ッ!……それはこっちのセリフです。キングちゃんこそ、そろそろ子離れした方が良いのでは?圧力の強いママがいると、お子さんの友達逃げちゃいますよ〜。Ms. Monster Parent?」

 

キング「ッ!……ふと思ったのだけどスペさんって凄いわね。私だったら湿度90%以上の所では平静にいられないもの。スペさんの寛容さに感謝しなければダメよ。…ね?グラスさん」

 

グラス「………私がアマゾンの熱帯雨林だと?」

 

キング「そうは言ってないけれど聞こえたならごめんなさいね。それとも…少しは自覚あったのかしら?」

 

グラス「……」

 

キング「……」

 

グラス「…………投票5着のくせに…」ボソッ

 

キング「ーーーーーッ」プツン

 

 

 

ワー!ワー!、ギャー!!ギャー!!

 

 

 

ウララ「あれ?キングちゃんとグラスちゃん。…取っ組み合いしてる…?」

 

>コノ、ヘッポコォォォ!

 

スペ「………ハァ、」

 

>キングチャンノワカラズヤッ!

 

悟空「………さすがに止めるか…」

 

スペ「あ、悟空さん、ちょっと待ってください!」

 

 

一歩踏み出す悟空を見て呼び止める。ーー否。抱き止める。抱っこしてモギュモギュと反発する幼い体を楽しみ、鼻を寄せると青空の下に広がる草原の風景が浮かんだ。同時に漂うミルクの匂い。

時間にして僅か2秒。スペは静かに悟空をおろした。

 

 

悟空「……?何だ今の…?」

 

スペ「ぁ、お、お気になさらず…。それより、あの2人の事は私とウララちゃんに任せてください!」

 

悟空「オラも手伝うぞ?」

 

スペ「いえ、悟空さんが行くと火に油になってしまうので…」

 

ウララ「悟空さんじゃない方がいいって事かな?」

 

スペ「うん。……あんな事に悟空さんの手を煩わせたくないよ…」

 

ウララ「? ウララはよく分かんないけど、スペちゃんが言うならその通りにするよ!」

 

悟空「ならオラも、おめぇ達に任せるとすっか」

 

ウララ「うん!悟空さんは今小っちゃいんだから気を付けてね!」ニヒヒ!

 

悟空「お?言ったなぁウララ!力が弱くなってもオラはオラだ!上手いことやってみるさ!」

 

スペ「………少しでも様子が変なヒトがいたらすぐに逃げてくださいね?」

 

悟空「なんだよスペまで。でぇじょーぶだって!学園内にそんな奴がいる訳、」

 

スペ「いや、もう、ほんとーーーーっに!お願いします!約束ですよ!?」

 

悟空「スペ?」

 

スペ「確認です!様子が変なヒトがいたら!?」

 

悟空「どうしたんだ、スペ…?圧がすげぇぞ」

 

スペ「変なヒトがいたらどうするんですかッ!!?」

 

悟空「!に、逃げる…?」

 

スペ「………お願いします、ね?」

 

悟空「あ、ああ…」

 

 

有無を言わさないスペの表情。日頃見せる人懐っこい笑みはなく、ただただ"無,,そのものだった。

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

 

悟空(…何か今日はおかしくなる奴が多いなぁ。満月の日に大猿になるのと同じで、ウマ娘にもそういう日があんのかな)

 

 

ルドルフから始まりグラス、そしてキング。

全員が真面目の部類にされるはずなのに…と、悟空は不思議に思う。

だからもちろん。小さくなった自分自身に原因があると1ミリたりとも考えない。

当然だ。

孫悟空は人の気持ちに鈍感であり、

 

 

悟空(!………………何だアイツ…?)

 

 

超戦士は異常を察知するのは敏感である。

 

 

???「……………、」

 

 

悟空と目が合うウマ娘。

歩いているうちに見つけたのだろう。顔だけを悟空に向けたままだ。

彼女の中で衝撃的だったのか、歩行状態で一時停止をするように固まっている。

 

 

悟空(オラの知らねぇ奴だ。……ひょっとしてオラじゃねぇんかな)

 

 

周囲を見渡しても誰もいない。その間も全身を品定めするような視線は止まらない。

すると我に返ったのか。彼女は軽く微笑み、悟空に近づいて来た。

 

 

???「じっと見つめてしまい申し訳ありません」

 

 

礼儀正しく、体の前で手を重ねながらお辞儀をする彼女。

口調はグラスに似ている。が、それ以上にどうしようもなく甘ったるい声と雰囲気。

その温和な彼女の存在に悟空は体の力が抜ける感覚がした。

 

 

悟空「構わねぇけど、オラに何か用か?」

 

???「この学園内に子供がいる事が珍しくて。ご家族の方をお探しでしたらお手伝いしようかと思ったんですよぉ♪」

 

悟空(確かに、よく考えてみりゃあ変な話しだな)

 

 

だからタキオンは部屋から出るなと言ったのかも知れない。

そう考えた悟空は話しを合わせる事に決めた。

 

 

悟空「あー、…母ちゃんが忘れもんしたから届けに来たんだ。場所は分かるからオラ1人でも平気だぞ」

 

???「ッ!か、あちゃん…?…………あらまぁ♡良い子ですねぇ。お母様のためにわざわざ……。でも、1人でなんて寂しいでしょ〜。私にも手伝わせてくれませんかぁ?」

 

悟空「平気だって。寂しくもねぇし」

 

???「うふふ。たくましい子ですねぇ〜。いい子♡いい子………あら?」

 

 

悟空の頭を撫でようとする彼女。

頭頂部分に辿り着く前に、悟空の小さな手が道を阻んだ。

 

 

悟空(………さすがに30過ぎて撫でられんのは勘弁してくれ…)

 

 

もちろんそんな事は言える訳でもなく、彼女の手を絡み取ったまま押し返した。

 

 

???「……え…?……これ、は?」

 

 

彼女が感じたのは驚愕ではなく困惑。

140cmちょっとの男の子に押し返されたのもそうだが、ウマ娘特有の力が出せないのだ。

子供相手に罪悪感を感じつつ、意図的に力を出しても同じ事だった。

動きたい所に動かせない。離れる事も押し返す事も何一つ不可能。

彼女には一生かかっても理解出来ないだろう。

 

力が同格だとしても技術は格が違う。全ては悟空が力の動きをコントロールしているに他ならない。

 

 

悟空「………とにかくオラは平気だ。心配してくれてあんがとな!」

 

???「…あ、」

 

 

悟空は太陽みたいな笑みを浮かべて手を離す。彼女は自身の手を不思議そうに見つめた。

 

そして。

 

 

???「………………ふふ」

 

 

ぞわり。

またも悟空は異常を察知した。

 

 

悟空「!そ、そんじゃあオラはこれで、」

 

???「私とした事が申し遅れましたね」

 

 

偶然か故意か。

遮ってまで話しを続ける彼女。悟空の返答を待たずして口を開く。

 

 

「私の名前はスーパークリークと言います♪あなたの名前をお聞かせ願えませんか?」

 

 

うっとりした声。魂まで引き込まれそうな瞳。

それに反する異様な雰囲気。

 

 

悟空(スーパークリークか…。コイツには悪ぃけど、逃げた方が良いな。多分スペの言ってた変な奴だろうし)

 

 

親切にしてくれているが勘が叫んでいる。

戦いの中、幾度となく頼りにした勘だ。

 

 

悟空「すまねぇな。名前とかそういうのは誰にも言うなって言われてんだ。だから、」

 

 

ーーキュウウウルルルルルル!!!!

 

 

……鳴ってしまった。

悟空の体の中で1番主張の強い部位。我慢の限界だと音を張り上げて来た。

 

 

クリーク「あらまぁ♡可愛いらしい音がなっちゃいましたねぇ♡」

 

悟空「へへっ。みてぇだな」

 

クリーク「良かったら先にお食事しませんか?お母様でしたらその間に来てくれるかも知れませんし。呼び止めてしまったお詫びにご馳走させてください♪」

 

悟空「えっ!良いんか!?」

 

 

異様だ。危険だ。変な奴だ。

そう何度も勘が警報を鳴らしていたのに、悟空の頭の中は肉と魚で埋め尽くされてしまった。

弱点とは、突かれてしまうと抗えなくなるから、弱点である。

 

故に悟空の方からクリークに近づくのは必然の行動だった。

 

 

クリーク「もちろんです。お腹いっぱい食べて、一緒にお母様探しに行きましょうねぇ〜。……だから、」

 

 

 

ーーそれまで私がママの代わりですよ♡

 

 

 

声には出さず心の中で呟いたクリークは、自然と口角が頬まで上がった。

獲物が罠に嵌まったかの如く、目を細める。

 

 

悟空「なあなあ!早く行こうぜ!オラ腹減っちまってよぉ!」

 

クリーク「うふふ。ええ、行きましょうか。はぐれないように手を繋いで♡」

 

 

言いながら、悟空の手を握ろうとした。

 

 

その時だった。

 

 

???「クリーク!!!」

 

 

悟空達の背中に浴びせられた声。

聞き覚えがある悟空は振り返りながら名を呼んだ。

 

 

悟空「お!オグリじゃねぇか!」

 

クリーク「…オグリちゃん?」

 

 

普段はクールというか、何も考えていないような彼女だが、この時ばかりは焦っていた。額に汗粒が滲み、肩で息をする程に。

 

 

クリーク「オグリちゃん。何かあったんですか?」

 

オグリ「ハァ、ハァ、ハァ…ごほ…!……ああ、」チラ

 

悟空「ん?」

 

オグリ「……2人でどこか行こうとしていたのか?」

 

クリーク「はい♪この子、お母様に忘れ物を届けに来たみたいなんですけど、その前にこの子のお腹が鳴ってしまって。それで先に食堂へ向かおうとしてたんですよ〜」

 

オグリ「! それなら私が連れて行こう」

 

クリーク「ッ!?」

 

オグリ「この子とは知り合いなんだ」

 

クリーク「………いえ、私と一緒に行くという話しだったので、私に任せてもらって大丈夫ですよ」

 

オグリ「!…いや、…ほら、……た、タマが、な?」アセアセ

 

クリーク「?…タマちゃんが何か?」

 

オグリ「……………………………無性に甘えたくなったと言って、おしゃぶりを手に持っていたぞ」

 

クリーク「なッ!?それは大変ですッ!」

 

 

クリークはすぐさま膝立ちになり悟空と目線を合わせた。

 

 

クリーク「ごめんなさい。私、急用が出来てしまって…。食堂にはオグリちゃんにお任せしたので安心してくださいね」

 

 

心の底から申し訳ないと思っているのだろう。

タレ目が一段と垂れて耳もペタンと倒れている。

 

 

悟空「おう。何だか良く分かんねぇけど、早く行ってやれ。オラは大ぇ丈夫だからよ!」

 

クリーク「!…ありがとうございます」

 

 

最後に一度抱擁をと思い手を広げると、悟空は後ろに飛び去った。

 

 

悟空「それはもういいや。おめぇ達にされっと苦しくてしょうがねぇ」

 

クリーク「そうですか……。では、私はこれで…」

 

 

去り行く大きな背中。

彼女の心境を表すかのように、チャームポイントでもある三つ編みが悲しそうに揺れていた。

 

その後、地面を強く踏み込むとウマ娘特有の速さで消えて行った。

 

 

オグリ(……すまない、タマよ)

 

悟空「なぁ、オグリ。おめぇ良くオラの事が分かったな」

 

オグリ「ん?ああ、校舎の窓から見つけたんだ。…間に合って良かった……。あのまま一緒に行っていたら危なかったぞ」  

 

悟空「へ?何でだ?」

 

オグリ「彼女……クリークは母性の塊だ。小さい子だけじゃなく、友達や先輩後輩、先生、トレーナー。短い時間を共にすると、まるで本当の親子のような関係になるらしい。そしてキミはもう少しでおしゃぶりを咥える所だったんだ」

 

悟空「……そんな奴、放置してて良いんか?」

 

オグリ「……それさえなければ彼女は頼りになるんだ。私も尊敬している」

 

悟空「そっか。ただ変な奴、だったんだな」

 

オグリ「悪気はないんだろうがな。……それよりタキオンから連絡が来た時は驚いた」

 

悟空「タキオン?」

 

オグリ「ああ。悟空が子供になったから守ってほしいとな。意味が分からないまま走っていた」

 

悟空「ははっ!すまねぇな。オラは大丈夫……なんだけど、他の奴らが変なんだ」

 

オグリ「どういう事だ?」

 

悟空「んー、何で言えば良いんだろうなぁ……。ルドルフは獣になったし、グラスとキングはデケェ声で言い合いしてた。いつもなら真面目な奴らなのにな」

 

オグリ「ふむ。ルドルフまで。………何故だ?」

 

悟空「さあ?分かんね」

 

 

困った時は腹ごなしから始まる。

悟空とオグリはお腹で共鳴すると食堂に向け、歩を進めた。

 

 

 

しかし、その直後。

 

 

 

ルドルフ「見つけたぞ!私の弟!」

 

 

先程会った時と変わらず、獣のように犬歯を剥き出しに嗤う彼女。今度は1人だった。

 

 

オグリ(……これがルドルフか?…ひどいな…)

 

悟空「ルドルフ!一緒にいた2人はどうした!」

 

ルドルフ「ふふっ、愚問だね。落ち着いた姿を見せればあっさり手を引いてくれたよ」

 

悟空「その落ち着いた姿を今見せてくれねぇか?」

 

ルドルフ「無理だ」

 

悟空「断んのはえーよ…」

 

ルドルフ「諦めてくれ。とりあえず私と生徒会室に行こうか」スッ

 

オグリ「待て、ルドルフ」ザッ!

 

ルドルフ「…オグリキャップ。……君まで阻むのか」

 

オグリ「悟空は今から私とご飯食べに行くんだ。邪魔をしないでくれ」グゥゥ…

 

ルドルフ「先程諦めてくれと言ったはずだが?」

 

オグリ「そうか。……だが、私も悟空も空腹なんだ。それを止めるというなら……っ!」  

 

ルドルフ(来るか……っ!)

 

 

 

オグリ「お前を食べる」

 

 

 

ルドルフ「…………ぇ」

 

オグリ「………、」

 

ルドルフ「たべ、……え?…なにを……、いや、どこを?」

 

オグリ「ウマ娘といえばモモ肉だろう」

 

ルドルフ「……私の?」

 

オグリ「ぐきゅるるるるる…!」ウン

 

ルドルフ「ひっ、」

 

 

皇帝にあるまじき情けない声が漏れる。

ウマ娘を食べるなど嘘のような話しだが、オグリの前屈みの体勢が、次々に溢れるヨダレが物語っているのだ。

 

目を離した瞬間に食べてやる…と。

 

 

悟空(…すげー、オグリの奴、完全に押してやがる)

 

 

もはや何の勝負か不明だが、手に汗を握る攻防だ。

劣勢なのはルドルフ。活路を見出すために視界の範囲内で役に立つモノを探した。

だが当然ながら何も無い。反撃の糸口など置いてあるはずもない。

都合良く、立場を逆転する唯一の方法が転がり込んでくるなど"絶対,,にあり得ない。

 

しかし。

 

 

ルドルフ「…………」 

 

 

それなら彼女はどうだろうか。

実力、運、精神、全てを超越し、自他共に"絶対はある,,と言わしめた彼女なら。

 

 

ルドルフ「……………ふふ、」

 

 

絶対に無いと言える事だって、彼女ならあり得るのかも知れない。

 

例えば。

 

 

グラス「会長!」

キング「ルドルフ会長!!」

 

 

一発逆転の手札が向こうからやって来る…とか。

 

 

ルドルフ「ああ。待っていたよ。我が同志達」

 

 

走って来る彼女達。

一目見ればすぐに分かった。

 

視線が"彼,,に集中しているのだから。(もちろん血走った目付きで)

 

 

 

 

 

悟空「スペ?ウララ?」

 

ウララ「ハァ、ハァ、ご、ごめっ、逃げられちゃった」

 

スペ「も、ぉおおおおお!……もーーーっ!!!」

 

オグリ「す、スペシャルウィーク。大丈夫か?」

 

スペ「おぐりさぁん…っ!聞いてくださいよぉ!あの2人ってば、いがみ合ってたクセに急にアイコンタクトして頷いたと思ったら走り出したんです!」

 

オグリ「……仲良しだな」

 

スペ「そーですけど、そーじゃないんですよぉおお!」

 

ウララ「仲直りするならもっと早くにしてほしかったよね。注目浴びて恥ずかしかったよ……」

 

悟空「ちゅーか、そもそも何でアイツらは言い合いしてたんだ?オラはグラスから写真を撮りてぇって言われただけなんだけど」

 

スペ「………自分の考えしか理解出来ないヒト達が醜い争いをしていただけなんです…」

 

 

ともあれ、この場に全員が集った。

悟空の側にウララ、スペ、オグリ。少し間をあけてルドルフとグラス、キングが並んでいる。

 

 

グラス「みにくいとは辛辣ですねぇ。スペちゃん」

 

キング「欲望に忠実になるのは駄目な事なの?食欲なら良いの?」

 

ウララ「もおっ!きんぐちゃん!スペちゃんは食欲だって我慢しているんだから、あんまり言わないであげて!最近ポッコリして来たの気にしてるんだから!」 

 

キング「我慢出来てないじゃない…」

 

スペ(あれ?ウララちゃんって味方だよね?……スパイ?)

 

 

オグリ「ルドルフ…」

 

ルドルフ「再演といこうか、オグリキャップ。ここにモモ肉が6個もあるが……キミの胃袋は持つのかな?」フフッ

 

オグリ「ッ!!!」

 

 

みんなが分かっていた。

ココが運命の境目となる場所だと。

スペ達は少しでも距離を遠ざけようと、悟空の壁になるように立っている。

 

そんなスペ達の背中を見ながら悟空は思った。

 

 

悟空(オラ、全く理解出来てねぇんだけど、良いんかな…?)

 

 

ルドルフが自分に何らかの用事があるのだという事は分かる。

グラスがスペと一緒に写真を撮りたいと言っていたから、それも分かる。

キングに至っては本当に何も分からない。

 

唯一理解出来ているのはルドルフ達が普段と違い、獣化しているという所だけだ。

 

 

悟空(一旦落ち着かせねぇとな)

 

 

決意する悟空。

 

 

ルドルフ「もう少しで"彼,,を手に入れれる!」

 

グラス「スペちゃんとの撮影会をっ!」

 

キング「ウララさんとの撮影会をっ!」

 

 

悪役顔負けに高笑いをする3人。

そんな彼女達の正面に悟空は飛び出した。

 

 

悟空「オイ!ルドルフ!グラス!キング!オラを見ろ!」

 

ルドルフ・グラス・キング

「「「ん?」」」

 

 

悟空は両手を上げてフリフリと動かす。ルドルフ達の視線が注目すると分かると、前頭葉を覆うように両手をかざした。

 

これをする前にスペ達にはテレパシーで伝えておいた。

 

 

 

ーー目を強く瞑って下を向いていろ、と。

 

 

 

悟空「太陽拳ーーーーッ!!!!」

 

 

ーーカッ!!!!!

 

幾度となく窮地を脱した奥の手。悟空を中心に放たれる強烈な光は、視界を奪うだけではない。手加減したとはいえ、その光は脳まで届き、思考能力はもちろん、平衡感覚まで混乱の渦に飲み込まれる。

 

ルドルフ「あああああ!!!!」

 

グラス「め、め、めめめ……!!!!!」

 

キング「目が…!…………………ウ、ララさんは…っ、無事なの!?」

 

 

約一名。五感が狂いながらも手探りでさまよっているが、その姿を見ているものは、誰1人としていない。

 

 

悟空達は既にこの場から立ち去っていた。

 

 

 

 

 

 

悟空「ふぅ。これで少しは落ち着いてくれんだろ」

 

スペ「………、」

 

ウララ「……、」

 

悟空「?……なんでそんな暗い顔してんだ?」

 

スペ「……悟空、さん」

 

ウララ「あの、ね……」

 

スペ・ウララ「「ごめんなさい!」」

 

悟空「お?何でおめぇ達が謝ってんだ?」

 

スペ「だってぇ!…グラスちゃん達のおバカな所見せちゃったし……」

 

ウララ「ウララ達も謝るから嫌いにならないであげてほしいなって……」

 

 

項垂れる2人。

悟空は周囲に気を配ると、軽く微笑んで宙に浮いた。

そして2人の頭に優しく手を乗せる。

 

 

悟空「嫌いになんてなる訳ねぇだろ」

 

スペ・ウララ「「!!!」」

 

悟空「それどころか。おめぇ達はまだ子供なんだから、あんくれぇ弾けた方が良い。良い子でいようなんて思わず好きな事やったら良いじゃねぇか!」

 

ウララ「怒ってない……?」

 

悟空「怒る事がねぇからな!…………いや、ほんとに。オラ今でも何が何だか分かんねぇもん」

 

オグリ「………なぁ、悟空。話をしている最中に悪いんだが…」キュゥウウウ

 

悟空「あ、すまねぇな!すぐに食堂行く…か……!」

 

 

悟空はある事を閃いて満面の笑みを作った。

 

 

悟空「なあ!近くにキャンプするような所とかねぇんか?火起こしても良いような所とか!」

 

オグリ「キャンプ…、………離れに行事用のスペースが設けられていたと思うが」

 

悟空「ならたづなに許可をもらおう!そんでバーベキューでもしようぜ!」

 

スペ「バーベキュー!!!!」キラキラ

 

ウララ「ね!ね!それってみんなも呼んで良いの!?」

 

悟空「あったりめーだ!もちろんルドルフとグラスやキングもな!」

 

スペ「やったー!!」パン!

 

ウララ「いえーい!」パァン!

 

悟空「つー訳で!たづなと話して場所は作るから、スペとウララは他の奴に声をかけといてくれ!」

 

スペ「うん!」

 

ウララ「れっつごー!」ダダダッ

 

スペ「あ、待ってよー!」ダダダダッ

 

悟空「ーーーーーよし!んじゃオグリ!バーベキューの前に腹ごなしだ!食堂行くぞ!」

 

オグリ「ああ!」

 

 

 

      ・

      ・

      ・

 

 

日が暮れ始めた頃。

バーベキュー用のコンロが3台も並び立ち、野菜や肉、焼きそばなどが焼かれていた。

誰がいつ来てもすぐに食べれるように。

そして。

 

 

悟空「ひゃーっ!うめぇ!」モグモグ

 

オグリ「そうだな!」パクパク

 

 

自分達が待ちきれないからという理由でもあったりする。

 

 

「あの……悟空さん…」

 

悟空「んお?…おーっ!やっと来たか!」

 

 

おずおずと。

肩身を狭くやって来たのは、今回のお騒がせウマ娘3人組だった。

 

 

ルドルフ「…今日は申し訳ありません。私とした事が、つい」

 

悟空「そんなん良いって!おめぇがはしゃいでいる所が見れてオラは嬉しかったぞ!」

 

グラス「私も、その………すみません」

 

悟空「んー?まぁ、最初は変だったけど、特に何もなかったし謝んなくていいぞ?」

 

キング「………………あら?……私は何を言えば…?」

 

悟空「おめぇに関しちゃ本当に何も言う事はねぇな。そもそも何でキングが混ざってたのか分からねぇくらいだし」

 

キング「そうよ、ね…?……そうよね!私は何もしてないんだもの!今回はお招きいただき感謝するわ!悟空さん!」

 

悟空「おう!オラは全く気にしてねーから存分に食え!」

 

 

 

 

 

悟空「アイツらとの話しが終わったらな」

 

ルドルフ・グラス・キング「「「え?」」」クルッ

 

たづな・エル・スカイ「「「…………」」」クイッ

 

ルドルフ・グラス・キング「「「」」」

 

 

 

スペ「悟空さん!こんばんわ!」

 

ウララ「みんなにお声かけたよ!キントレさんだけはお仕事で無理だって泣いてたけど」

 

悟空「あちゃあ…。まあキントレは今度でいっか」

 

スペ「あ、グラスちゃん達は来ましたか?落ち込みながら喜んでたんだけど」

 

悟空「おう!さっき来たぞ。ほれ、あっち」

 

スペ「?………あ」

 

 

スペとウララが顔を向ける。

そこには等間隔で正座をするグラス達の前に、腕を組みながら見下ろす彼女達がいた。

 

 

エル「………スペちゃんから全部聞きマシタ。この際、悟空さんが小さくなったのを教えてくれなかった事については何も言いマセン」

 

グラス「………はい」

 

エル「ですが、悟空さんのフォローはせず、スペちゃんに迷惑をかけて、挙げ句の果てには騒ぎ立てる始末。仲裁に入ったウララが恥ずかしかったと言ってマシタ」

 

グラス「………」

 

エル「……もう、マンボに不退転食べさせましょうか?」

 

グラス「……………申し訳ありませんでした。反省しております」ペコリ

 

 

 

キング「わ、私は誰にも被害を与えてないわよ!?」

 

スカイ「そうだね〜。でもさ、普通は悟空さんを助けたりしないかな?」

 

キング「っ、まぁ、そうね」

 

スカイ「それにグラスちゃんと掴み合いは別にいいとして。…ウララ達の事を隠れて撮影って、何…?……盗撮だよ?変態じゃん。そんなんで一流を豪語出来るの?」

 

キング「………軽はずみな行動をしてごめんなさい」ペコリ

 

 

 

 

たづな「………」

 

ルドルフ「……」ガクガク

 

タキオン(なぜ私までっ)ブルブル

 

たづな「……ルドルフさん」

 

ルドルフ「はい!」

 

たづな「あなたは、悟空さんの事になると暴走しやすいから注意しなさいと申し付けたはずですが?」

 

ルドルフ「はい…」

 

たづな「エアグルーヴさんとナリタブライアンさんから聞きました」

 

ルドルフ「コヒュッ」

 

たづな「随分と騒ぎ立てた様で、ねぇ?」

 

ルドルフ「…私の自分勝手な行いが人様のご迷惑に関わり、」

 

たづな「そんなマニュアル謝罪は受け付けてません」

 

ルドルフ「ごめんなさい」

 

たづな「……ハァ、………タキオンさん。あなたもですよ?」

 

タキオン「わ、わたしは孫くんが小さくなった時に部屋から出さない様に努めたよ!」

 

たづな「小さくなった原因を作った事に対して言っています」

 

タキオン「それはちゃんとした対価で…!スカイ君とワンダー君が孫くんにして良いとっ!」

 

 

>あ、悟空さんごめんね〜。薬飲ませちゃって。

>おう!構わねぇけど、今度からは前もって言ってくれ。オラ何の事か分かんなかったんだからよぉ。

>はーい。

 

 

たづな「それでは根本を見ましょうか。………ヒトの恥ずかしい所の動画を交換道具に使うとは何事です?」

 

タキオン「反省してます」

 

たづな「もうやっちゃだめですよ?」

 

タキオン「………」

 

たづな「…………へえ?」ウフフ

 

タキオン「はい!もうしません!」

 

 

 

悟空「さ!もう説教は終わりにして食おうぜ!せっかくのバーベキューなんだからよ!」

 

たづな「貴方という人は、小さくなっても変わらないです、ねっっ!!?」

 

 

振り返ったたづなは瞠目した。

 

 

悟空「ん?どうした」

 

スペ「悟空さん煙出てる!」

 

悟空「えっ!焦げたんか!?」

 

オグリ「違う!悟空から出てるんだ!」

 

悟空「ほえ?ーーわわっ!何だこりゃ!?」

 

 

シュウウウウ!

悟空の体中から吹き出る煙は次第に勢いを増し、収まる様子のない煙は悟空の体全体を覆った。

 

 

悟空「っ、たづなぁあああ!」

 

たづな「ッ…!皆さんこちらへ!悟空さんから離れてください!」

 

 

そう言って悟空の近くにいる彼女達を呼び寄せる。心配で遅れがちなヒトにも、たづなは強引に引き寄せた。

 

 

タキオン「…………………まさか…」

 

 

実験とは、理論や仮説に基づいき事物の確証を得るために人為的な操作を行う事。

もちろん、その過程で頓挫する事もある。結果、考えもしない事が訪れる時もある。

孫悟空が小さくなった時、1日くらいで戻ると言ったが、それはあくまで推論の域でしかない。

 

 

タキオン「ーーーそん、」

 

 

タキオンが切羽詰まった表情で呼びかけた瞬間。

ボンッッッ!

ナニカの衝撃で煙は全て飛び散った。

 

 

悟空「あ、もっ!……戻ったああああああああ!!!」

 

 

見慣れた高さ。

湧き上がる力。

孫悟空は今、完全復活を果たした。

 

 

『!!!!!!』

 

悟空「ひゃっほーい!体が軽いぜぇえええ!」

 

 

喜びのあまり10回宙返りをして飛び去る。

着地したと思えば即座に拳を繰り出した。続く足。四肢が連動するようの次から次に仮想の敵目掛けて撃ち続ける。

 

 

『………………』

 

 

その光景を見ながら誰1人声を出せない。

悟空の体が戻っても、直視する者は誰もいない。

 

何故かなんて、分かりきっている。

 

 

 

キントレのシャツのボタンが耐えきれずに吹き飛んだのに、

 

 

 

子供用の服が悟空の体に耐え切れる訳がない。

 

 

 

悟空「なあなあ!オラ戻ったぞ!これで飯をいっぱい食えるな!」

 

『………ま、』

 

悟空「ん?」

 

 

単刀直入に言えば、ーー彼は裸だった。

 

 

 

『前を隠せぇえええええええ!!!!!』

 

 

 

パシン!

 

 

結果、…本当に最終的には、笑いと笑顔に包まれたバーベキューが行われたのであった。

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

ー スズカ。病室 ー

 

 

シュン!

 

 

悟空「オッス!」

 

スズカ「あら、悟空さん。こんばん、は……?」

 

悟空「おう!ほれ、バーベキューしたから肉持って来たぞ!」

 

スズカ「…あ、ありがとう……ございます…」

 

悟空「? いらなかったか?」

 

スズカ「いえっ!……嬉しいんですけど、その、……頬っぺたに手の跡が付いて…」

 

悟空「あー、………今日はちょっと色んな事があってな」

 

スズカ「何があったんです?」

 

悟空「薬のんで小さくなって、他の奴が獣になって、肝が冷えるウマ娘と出会って、バーベキューをしながら元に戻ったと思えば、裸になって怒られた」

 

スズカ「…………そうですか」

 

 

 

スズカは考えるのをやめて、肉にかぶり付いた。

 

 

 

 

 

       ー 完 ー

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

楽しんでいただけましたでしょうか。

長くなりましたが、劇場版本編前のオマケ回でした。

連載の中では出せないキャラ崩壊具合。新鮮なものだと思います。

 

 

本作では予告をお楽しみくださいませ。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

ー 予告 ー

 

 

 

機会が訪れた。

 

"彼,,を知る。その時が。

 

 

 

「たづなさん。あなたにだけ伝えます」

 

 

 

アグネスタキオン。

彼女にしては珍しく緊張した面持ちだったのを思い出す。

 

 

 

「これは人の記憶を再生出来る装置。この世に出回ってはいけないからすぐに壊す予定です」

 

「……なぜ、私に?」

 

「…………………許可をとっています」

 

 

その一言を聞くとイヤな汗が伝った。

 

 

「なん、…」

 

 

誰に何の許可をとっているのか。そもそも記憶なんて見てどうするのか。

問いただそうにも口が渇いて言葉が出てこない。

 

理解だけは、出来ている。

 

 

 

「孫悟空の記憶。……知りたくないですか?」

 

 

 

 

【孫悟空】

 

この地に現れたのは、おとぎ話にでもいそうな人。

とても強くて、周囲のヒトを笑顔にし、誰もがみんな頼ってしまう。

 

だが、その実。

 

彼に関する事をほとんど知らない。

 

妻と子供、戦いの日々。戦闘民族。

 

大まかな事は知っているが、細かい所は何も知らない。

よくよく考えれば彼の家族。実家にあたる人達の事は聞いた事もない。

 

 

何も知らないんだ。

 

 

「アグネスタキオンさん…。…………私は、」

 

 

 

彼を知りたい。

 

そして。

 

 

残り僅かなこの地球で、何も考えず、何でも話せる同僚として、彼の隣にいたい。

 

 

 

 

     劇場版:孫悟空とたづな 

 

   ー 休み時間のひととき ー

 

 

 

 

ーーねえ、悟空さん。ここでは命なんて賭けなくていいんです。地球の運命も、仲間の命も、勝敗ですら気にしなくていい。

 

 

だから。

 

「悟空さん」

 

昔、戦いを純粋に楽しんでいた心を忘れないでください。

 

 

「一戦、交えましょう。休憩時間が終わる、その時まで」

 

 

あなたの全てを知る私が、遊び相手になりますから。

 

 

 

拳を交えながら怒りも意地もなく、ただただ笑い合いましょう。

 

 



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劇場版延長のお知らせ。 



最後に投稿してから早二ヶ月。
皆様のアンケートを元に劇場版を書いている途中ですが。


申し訳ありません。
終わらないです。


言い訳になってしまいますが、物語の内容が決まってないという訳ではなく、内容のスケールが大きくなり過ぎて単純に時間が足りません。

ズルズルと引き伸ばしても、いつ投稿出来るのか分からないため、連載と並行しながら書こうと思います。
いつかは劇場版の回を投稿するつもりなので、お待ちいただけると助かります。

確定事項でお伝えして申し訳ありませんが、次回は連載の続きを投稿します。

せめてものお詫びとして。
ほんの少しですが、どのような内容かだけでも楽しみください。



 

 

 

 

 

 

「……………はあ、」

 

駿川たづな。

彼女は今、2桁は軽く超える溜め息をこぼした。

というのも、先日。サイレンススズカの一件で悟空に当たり散らした事を根に持っていた。

身勝手の極みともいえる八つ当たり。それに対し悟空は受け止めてくれた。否定する事もなく、すまないと。そして、ありがとう…と。

その後に悟空の気持ちを聞いたたづなは、心に溜まっていた黒いモノが浄化されたようにスッキリとしたのだが、次の日には罪悪感で押し潰されそうになっている。

 

そこで何かお礼を考えているのだが…。

 

 

(彼が好むもの。……………ダメですね。食事しか思いつきません)

 

一言目には腹へった。二言目には修行。三言目には、もうすぐ飯の時間。悟空を知る者なら全員が分かる程の口癖。

加えて彼には物欲というものが無い。強いて言うならウマ娘のトレーニング機材だが、それですら学園の物や彼自身で組み立てたりしている。

貰って喜びそうな物となれば食料以外考えられないのだ。

それならいっその事、満漢全席でも用意して好きなだけ食べてと言ってもいい。しかし、手間暇かけたモノをいつものように食い散らかされては正直不服に思う。

 

(何かさせてくれと頼んでも、どーーーせ笑いながら断ってくるんでしょうね…)

 

他人の気持ちに鈍感な彼は、裏表なく言葉を放つ。

それゆえ、礼はいらないと言われれば本当にいらないのだろう。押し付けの善意ほど厄介なモノはない。

 

「詰みました」

 

たづながそう結論付けるのは当然の事だ。なんせ答えが存在しないのだから。

 

(せっかく仕事に区切りがついて時間が空いたというのに、これでは悩むだけで終わってしまう。…それなら空いた時間で仕事した方が有意、義……?)

 

もはや混沌の渦にのまれそうになっていた時、後ろから声をかける者がいた。

 

「たづなさん」

 

当人達以外に誰もいない学園の廊下。落ち着きのある静かな声に反応し、たづなはゆっくりと振り向いた。

 

「あら?こんにちは。アグネスタキオンさん」

「ええ。こんにちは」

 

何か作業中だったのか、制服の上に白衣を纏うタキオン。

そんな彼女を見たたづなは目を丸くした。

 

「タキオンさん?何やらお疲れのご様子ですが…、大丈夫ですか?」

 

実験実験、さらに実験という日々を過ごすタキオン。日頃から健康第一とは言い難い風貌だが、今日は度を越している。顔は青白く血の気を失った色をしており、目元に隈を出現させ、瞳はどこか濁っているように見える。

痛々しさが満載だった。

 

「……まぁ、…はい」

「……?」

「それよりたづなさんはお手隙ですか?可能ならお時間をいただきたくて」

「………私個人に用事、ですか」

 

嫌な予感が脳内を駆け巡る。

そもそもこんな風にタキオンが話しかけてくる事は今まで無かった。ある日を境に始まったのだ。

 

「……………"彼,,の事だったりします?」

 

正直確認をするまでもない。タキオンは間を置かずに頷く。

非現実的が通常運行の彼…孫悟空。何を聞かされるのかとヒヤヒヤしながら、たづなは口を開いた。

 

「…時間とは、どれほど必要ですか?」

「たづなさんの答え次第です。断るならすぐに終わりますし、受け入れるならば、……1日は必要かも知れません」

「いっ!1日もですか!?」

「はい」

「それはちょっと、……困りましたねぇ」

 

休憩時間の合間どころではなかった。

個人的な仕事だけでなく、他の業務にも影響が出るだろう。それでも即座に拒否出来ない理由があった。

孫悟空と件で1日を費やすと聞けば、ただならない事があるに違いない。

 

「………………先に、お話しだけ伺っても良いですか?」

「もちろんです」

 

タキオンは踵を返すと歩きはじめ、たづなも後を追った。

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

案内されたのはタキオンの研究室だった。

 

「失礼します」

 

中に入るや否や、物の散らかり具合に驚いた。だがそこは無頓着である彼女らしさがある。もちろん褒められたものではないが…。

 

「タキオンさん。話しというのは…?」

「……少しだけ待ってください」

 

そう言ってタキオンは部屋中のカーテンを全て閉めてドアにも鍵をかける。

外の世界と切り離すような空間を作っていくタキオンに、たづなは平静を装いながらも、かなり強めの心音を発していた。

 

(な、何が始まるんでしょうか…。まさかとは思いますが私を実験台にしたりしませんよね…?)

 

ゼロとはいえない可能性が頭をよぎるが、その考えは一瞬にして消えた。

何を考えていても彼女が見せた表情から違和感を拭えないのだ。

 

「お待たせして申し訳ない。こちらにどうぞ」

 

タキオンはたづなに近づくと椅子に座るよう誘導した。たづなは会釈をして座ると、タキオンが持つ機械が視界に入った。

 

「それは……VR、ですか?」

 

目を覆い隠すような形。頭に固定するリング。どう見てもVRゴーグルだった。

ただし世に出回っているものとは少し違い、本体に繋がれたケーブルの先に異様な機材が置かれている。

 

「性能的には似たような物です。中身の容量は桁違いだけど」

 

それより、とタキオンの機材を叩きながら続けた。

 

「本題はここからです」

「流れから察するにソレを見るか見ないか、という事ですよね?」

「そうです。絶対に他言無用。たづなさんが見ても見なくても最後には壊すつもりです」

「壊すって、一体何が入ってるんですか……」

 

タキオンが自分のトレーナーを実験台にして、レインボーに光る体に仕立て上げたのは有名な話しだ。

今度は何をやらかすのか。タキオンの不穏な言葉に、たづなの気分は少しずつ下がっていく。

しかしその反面。

今も尚、青白い表情の中に存在する真剣な瞳から逃れる事が出来ずにいた。

 

「これはヒトの記憶を映し出す機械」

「き、おく……?」

 

ドクンッ……!

一際大きく心臓が飛び上がる。

うっすらとタキオンが言わんとしている事が分かってしまったからだ。

 

「はい。記憶。……そしてその記憶の持ち主が」

 

 

 

「孫悟空。彼が生前…いや、今日まで過ごして来た記憶がインプットされています」

 

 

 

は……、とたづなの口から言葉にならない声が漏れる。百歩譲って記憶を再現する機械の事は理解出来よう。

しかし、これはあまりにも度を超えた実験だ。

 

「タキオンさん!いくら何でも酷すぎます!悟空さんと話し合って記憶を読み取ったのでしょうが、それを他人に見せて良い訳ないでしょう!」

 

DVDの貸し借りではないのだ。モラルに反するとたづなは声を荒げるが、タキオンはゆっくりと首を振った。

 

「孫くんには許可を貰ってます」

「だ、だとしてもっ、」

「それに孫くんにとって記憶を見られる事は何の抵抗もないようだった」

 

タキオンは先日の事を思い出す。

頭に装置を付けるのが嫌だという理由で断られていたが、好奇心から伴う必死な懇願と、一回の食べ放題と引き換えに了承をもらった。

読み取りが完了した直後、タキオンは悟空に、他のみんなにも見せても良いかと聞いた所、あっさりと許可を得た。

 

ただし。

 

 

「孫くん曰く、見せる相手は考えろとの事でした。私としても同じ考えです。なんせ私が見るのを途中で止めてしまったくらいなので」

 

たづなはタキオンの顔をじっと見つめた。

彼女の言動から察するに、顔色が悪くなっている原因は彼の記憶を見たからで間違いはないだろう。さらに掘り下げていくと段々と見えてくるものがある。

 

あのVRもどきを見るか見ないかは自分次第。

1日はかかるほどの内容。

好奇心の塊であるタキオンが見るのを止め、彼を知る者達には見せないと決めているらしい。

 

「………そういう事ですか」

 

要点だけを絞れば理解は出来た。

 

「悟空さんの過去は想像を絶するものであり、彼のイメージを崩しかねないから他の子には見せない。…という事ですね」

「…はい」

 

皆が皆、無意識に深く考えなかったのだろう。

彼は戦闘民族なのだ。拳を振るえば風を起こし、脚を振り回せば空気が裂ける。ヒトの気配を見るより知り、その気になれば音速なんて簡単に超える。そもそも時空すら飛び越えているんだ。

そんな力が必要な世界の戦闘なんて、この世界のフィクション映像でさえ比べものにならない。

 

しかし、1つだけ解せない事がある。

 

 

「タキオンさん。…何故、私なんですか?」

 

言っては何だが、自分も彼に対する価値観は彼女達と似たり寄ったり。自分だけに伝える意図は全く無いと思う。

そんなたづなの質問にタキオンは…、

 

「深い意味はないですよ?」

 

事も無げに、さらっと口にした。

 

「え?」

「消去法みたいな感じです。比較的彼の近くにいる彼女達は論外。言ってもよさそうなのは会長くらいだが、彼女が唯一の甘えれる所を邪魔したくない。その反面。あなたなら彼を知り、受け止める。そう思っただけですよ」

「…………」

 

腑に落ちないが、願ってもないチャンスでもある。

孫悟空という人物を知れば、心に寄り添えるかも知れない。どことなく一線置かれているような距離を埋めれるのかも知れない。恩返し出来る方法が見つかる可能性だってある。

記憶を見るなどとプライバシーの欠片もない行為だが、本人が承諾してくれているなら話しは別だ。

 

「……少し待っていて下さい。理事長に許可を貰って来ます」

 

はたして突然の休暇を貰えるだろうか。

たづなは期待と興奮と不安と罪悪感を胸に、理事長室へと足を運んだ。

 

 

 

そして。

 

 

 

「………………休む気になったのなら早く帰れと…、追い出されました……」

「でしょうね」

 

ルドルフに負けず劣らずのワーカーホリック。嬉々として背中を押す、やよいの姿が目に浮かぶ。

 

「では早速始めましょうか」

 

座らせたたづなの頭にVRもどきを装着し、手には小型のリモコンを持たせた。

 

「これで一時停止と再生。そして早送りで巻き戻し。視聴中は分からないだろうから場所で覚えてください」

「はい。………まるで映画を見る気分ですね」

「臨場感が桁違いだけどねぇ」

「そうなんですか?」

「ええ。これは孫くんの記憶だから、彼の一人称視点。音は脳に直接響くように聞こえてくるから余計に彼の物語を間近で見ている感じになる」

「なるほど。何か注意する事はありますか?」

「特に何もないさ」

「分かりました」

 

ポチポチとタキオンは複数あるボタンを押していく。そして残る最後のボタンに指をかけ、動きを止めた。

 

「…………たづなさん」

「はい?」

「…………、」

「タキオンさん…?」

「これから始まるのは孫くんの記憶。ぼんやりとしか覚えていない所は、チグハグになったり時間を飛び越えます」

「ええ」

「ですが鮮明に覚えている所は、彼の心と共有するようにたづなさんの心にも降りかかります」

「…………承知の上です」

「無理だと思えばすぐにでもゴーグルを外してください。私は孫くんが大人になる前にやめましたから」

「ッ!………はい」

 

たづなの声色に迷いは存在しない。すでに心に誓っているのだ。どんな事が待っていても受け入れてみせると。

そんなたづなを尻目にタキオンは口元を緩め、たづなを孫悟空の歴史の始まりへ送り出した。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

【じいちゃーん!】

【おお!悟空や。こっちおいで】

【にひひ!うんっ】

 

とても幼い彼の声。低い目線。昔だから当然というべきか、飛び飛びに進む映像。お腹にしがみついて戯れている。

 

(祖父と暮らしていたんですね)

 

いきなり新事実が発覚した。

仲が良すぎる人達だ。純粋、無邪気という単語が似合う彼の声色。優しすぎる瞳で見つかるおじいさん。

それでも、ただ優しい訳ではない。

 

【悟空!早く立って構えるんじゃ!敵は待ってくれんぞ!】

【ん〜でもぉ、オラいてぇよ…】

【修行の最中に甘えてはいかん!ゆくぞ!】

 

真剣な眼。迫力のある声。

とても同一人物には見えないが、彼の根本から成り立っているのだという事が分かる。

 

(ゴハンじいちゃん…?確か悟空さんのお子さんの名前も。…………ふふっ、そういう事でしたか)

 

まるで好きな授業を受けているような感覚。彼を知る一つ一つの事が嬉しく思う。

思わずニヤけてしまう。傍から見ているタキオンに気持ち悪いと思われないだろうか。

 

たづなはそんな事を思うも、次の場面で笑みは完全に消え去った。

 

 

【じぃちゃん………たのむよ、め、あけてくれよぉ……っ、じいちゃぁぁあああああん!!!!】

 

 

横たわるおじいさんに覆い被さっている。ポツリポツリと顔に滴るのは彼の涙だろう。

泣きながら彼の体離れる。おじいさんの全身が映し出される。

 

(ッ!!?……う、そ、………)

 

手足の関節なんて無かったかのように、歪な方向に折れ曲がっている。

視界の端には地面が窪んだ跡がある。考えられないが何かとてつもない巨大な落下物に巻き込まれたのだろうか。

いやそれよりも…、

 

(早すぎるっ!こんな別れ…)

 

愛する者との死別。幸せだった日々は一瞬にして帰らないものとなった。

たづな必死で歯を食いしばる。泣こうが喚こうがどうにもならない事なのだ。

 

 

それからというもの、彼はおじいさんに教わった生きる術を頼りに生活していた。

おじいさんの魂を、ーーオレンジ色の球に見立て挨拶をしながら。

 

彼の一日を追う。

起きて、修行して、ご飯食べて、寝る。

娯楽は無い……と、たづなは思っていても、彼にとって動物と戯れる事が娯楽に等しい事だった。

 

 

その時。

 

 

(ん?……車?)

 

 

見慣れた乗り物。

彼の驚いた声がすると、完全に轢かれた。

出て来たのは女性だった。

おじいさん以外の人を見るのが初めての彼は敵意をあらわにしている。

どこか軽そうな話し方や風貌。名をブルマと言った。

 

【あーっ!ドラゴンボール!!】

【これはじいちゃんの形見だ!女だって触っちゃダメなんだぞッ!】

 

彼がおじいさんだと祀っていた星のマークがあるオレンジ色の球体。

語られたのは七つ揃うと何でも願いが叶うという代物。

嘘くさいと切り捨てれる伝説だが、そういう事か…とたづなは納得した。

 

(以前、赤織の悪徳記者が来た時、悟空さん言ってましたね。 "この世界にはドラゴンボールがない。死んだら終わりなんだ,, って)

 

色々とゴタついた事もあり、その後は聞く事もなかった。

だがそれが本当だとすると不可解な事がある。

 

(逆を言えば、ドラゴンボールがあれば亡くなっても大丈夫。つまり生き返れる。……それなら悟空さんも天国ではなく、現世に帰れるのでは…?)

 

 

 

孫悟空の物語は始まったばかり。

駿川たづなは踏み込んでしまったのだ。孫悟空という人物を知ると共に、一歩ずつ迫る地獄へと。

 

 

 

 

BOM…!!!

ブルマの手から放り投げられたカプセルは音を立てて、家が出現した。

 

(…先程もバイクが出て来ましたが、原理がバグってますね。質量保存の法則を無視してるじゃないですか…)

 

それを使った張本人がブルマなのだから尚更意味不明だ。

見た目15.6歳くらいなのに…。

彼の記憶はボヤけている。特に何もなかったのだろう。

次に映されたのは、ベッドでスヤスヤと寝ているブルマだった。

 

(………ハァ、何となく分かってましたけど、ブルマさん無警戒にも程があるでしょう…。下着見えてますし………って、貴方も目くらい逸らしなさい)

 

もう凝視と言っても過言では無い。集中的に見ているのだ。大っぴらげにされたパンツを。

 

【……じいちゃんのフカフカキンタマクラ。思い出すな!】

(………………今、なんて…?)

【ひさしぶりにやってみよっと!】

 

広がる天井。

彼の口から疑問の声が漏れた。

起き上がり、さっきより近くに見えるパンツ。数回股を叩き、あろう事かずり下げた。

 

そして絶叫。

 

【ぎゃあああああああああああああああああ!!!!】

 

飛び上がるブルマ。

 

【なっ、なに!?どうしたの!!?】

 

驚愕に染まるブルマに彼は言った。

 

【たっ、…タマがねぇ。…………チンも…】

 

 

(…………、)

 

 

 

 

 

「あっっったり前じゃないですかぁああああ!!!!」

 

勢いよくゴーグルを取ったたづなは椅子から立ち上がった。向かう先はドア。いざ元凶の元へ。

 

「ちょっ、ちょ、た、たづなさん!落ち着くんだ!!」

 

タキオンはずりずりと引きずられながらも、たづなのお腹にしがみついて必死に食い止めた。

 

「女性にそんなもの付いてる訳ないでしょう!」

「あっ、アレを見たんだね!ほらっ、彼だって女性を見たのは初めてなんだ!付いてる付いてないなんて分からなくて当然だよ!」

「むっ、………ん、まぁ、確かに…」

 

たづなな力を抜くと、タキオンは息をついた。

 

「それに、あれだけ鮮明に覚えていたんだ。彼にはとてつもない衝撃だったと思う」

「………………そう、ですね…。すみません、取り乱しました。再開します」

 

そう言って再びゴーグルを装着した。

 

 

 

 

 

ドラゴンレーダーを頼りに進み、海の事を水たまりと表現する彼。

海亀を助けたら恩返しにと、アロハシャツのおじいさんを連れて来た。

 

(……亀がしゃべった…)

 

設定は竜宮城か、ただその後には筋斗雲と呼ばれる雲が飛んでくる。物語は西遊記なのかもしれない。

 

 

 

「んぶっっっ!」

 

ボヤける映像。

途切れて映るのは、ブルマがスカートを捲り上げて亀仙人に見せている所だった。

途切れがちな映像を推測するに、亀仙人が持っているドラゴンボールと交換する条件なのだろう。

 

(確か、亀仙人といえば彼のお師匠様。そして、す…スケベな方だと言ってましたね…)

 

そう聞いた時には単純におちゃらけて言っているとばかり思っていたが、何も誇張はしておらず、その通りの人だった。

 

 

その後も彼とブルマの旅は続く。

 

 

ウーロンという意地悪でスケベで情けない生物を仲間に加え、

 

(……ブタが、しゃべった…)

 

 

 

盗賊ヤムチャという男との交戦。ここに来て初めて彼はまともに戦った。

 

(盗賊って…、久々に聞きましたね)

 

彼の記憶がぼんやりとする。

また壊れたDVDのように内容が飛びながら進んだ。

そして目にするのは、とんでもない規模の火事。フライパン山という場所一帯を、燃え盛る炎が覆い尽くしている。

ーーしかし。それよりもインパクトの強いものが断片的に映った。

 

(なん、で…、……何でブルマさんはバニーガールになってるんですかぁっ!?)

 

チラッと見えた。胸元の開いた服に黒くて長い耳。まず間違いない。だからこそ尚更意味が分からない。

さらに。

突如、どアップに映し出されたのは牛魔王と呼ばれるヒト?巨大な体格にも関わらず、目線があっているという事は筋斗雲にでも乗っているのだろうか。

どうやら山火事の火を消すための道具を持って来てもらうように頼まれているらしい。

 

【昨日オラの1人娘のチチに武天老師様を探して来てけろって遣いに出しちまっただよ】

 

牛魔王というヒト?娘の写真を見せながらは言った。武天老師というのは亀仙人の本名だったはず。

たづなは答え合わせのように思考を巡らせると、とある名前に注目した。

 

(……チチ?………えっ、チチって…?……チチ、………あのチチさん!?)

 

それは彼の妻の名前だったはず。

こんなに早く出会っていたのか。写真の人物は本当に牛魔王の子供なのか。似ても似つかない女の子だ。

たづなはツッコミどころが多過ぎて脳のキャパシティがショート寸前まで追い込まれていた。

 

 

 

筋斗雲に乗り、天を駆け巡る。

見つけた彼女は、どういう趣味ですか…と、聞きたくなるようなビキニアーマーを身に纏っていた。

そしていつもの。

 

ーーパン、パン。

 

【やっぱりチンチンないな。おまえ女だろ!】

 

やはりやった。

少しずつ性別の判断が出来てきて嬉しかったのか。純粋な動機で不純な行動をする映像は綺麗に再生されていた。

 

「…………、」

 

たづなの手は自然と動く。ゆっくりとゴーグルを外し、席を立つ。

 

「たづなさん」

 

タキオンと目が合う。席に戻れと言わんばかりに椅子を指で差していた。

 

「………なんの事かお分かりですか?」

「ええ。そろそろかと思っていたので」

「…………彼、とうとう足でパンパンするようになったんですけど…?」

「…………………筋斗雲に立ったままだったので、やりやすかったんでしょう。続きをどうぞ」

「……はい」

 

 

 

 

【ふぅううううう……っ、…はぁあああ……】

 

獣のような唸り声。発しているのは上半身裸の亀仙人。大火事と対面するかの如く、不動の構えで佇んでいる。

 

(背中の湿布凄いですね。苦労したんでしょう)

 

呑気に思うたづな。

だが、あえて言おう。これは現実逃避だ。

それもそうだろう。通常の5倍程大きくなった岩石のような腕を見て平常心ではいられない。

 

【あわっ、わわわっ!】

 

当然ながら彼らも同じだった。

彼の視点は亀仙人に釘付けだ。丸太より太い腕を動かし、祈るように両手を合わせ、息を深く吐いている。

 

【フゥ、…………フンッッッ!!!!】

【うわぁあああああ!!!!】

(かっ、亀仙人様ぁあああああ!!?)

 

ボゴンッ!と擬音化出来そうなくらいに膨れ上がる上半身。観客に一体感が生まれた。

亀仙人はもう止まる事を知らない。人外な気迫を発し、腰の位置で両手を構えた。

 

【…かぁ……めぇ…、】

 

薄らと見えてくる光の球。

 

【はぁ……めえ………っ!】

 

それはハッキリと立派な球体になり、青白い光を帯びた状態で両手の中に存在した。

 

【ーー波ぁあああああああ……ッ!!!!!】

 

両手を前に突き出すと光の球は閃光のように発射され、轟音を撒き散らしながら巨大な炎の中へ貫いていく。

辺り一面に衝撃波が襲う。粉塵が舞い、濁った視界が晴れていくと、大規模な山火事は綺麗さっぱり無くなっていた。ちなみにフライパン山も吹き飛んだ。

 

 

 

「……………………、」

 

呆然とたづなは固まってしまう。話しが進んでいても頭の中には入ってこない。

程なくするとゴーグルを外した。

 

「………、」

 

力なく手を動かして目の前へと持って来る。右と左の手のひらを交互に見つめ、口が勝手に動き出す。

 

「……………………かぁ、…め、」

「たづなさん!!!」

 

タキオンの声が響いた。

 

「ッ!?………わ、私は一体…!?」

 

何故か困惑した様子。

完全に無意識の行動だったのだろう。そうでなければ今世の汚点に残る程の恥ずかしい事をする訳がない。

彼女が疲れている事を悟ったタキオンは、慈愛に満ちた笑みを浮かべ、たづなの肩に手を置いた。

 

「もう少し進むとキリが良い所になるので、そこで休憩にしましょうか」

「え、は、はい」

 

やや強引にゴーグルを付けさせ、タキオンは胸に手を当てて深い息をついた。

 

(実行する前に止めれて良かった…。"アレ,,をやって出なかった時の虚しさを知るのは、私だけで充分だからな…)

 

墓場まで持っていくものが増えてしまったと、タキオンは静かに唇を噛み締める。

 

 

 

 

 

冒険の旅の果て。ドラゴンボールが全て集まる時。それは奪われた。彼が持っていた1つのドラゴンボールだけを除いて。

彼らは盗んだ相手を追いかけ、とある城に辿り着いた。

盗人の名はピラフ。ドラゴンボールを使って世界征服を企むという、小さな体の割に大き過ぎる野望を持っていた。

 

(…彼は、………敵だった人達の仲良くなるんですね)

 

そんな中、たづなは少しズレた所に観点を持った。

ブルマやウーロンは別として、ヤムチャと呼ばれた人は殺し合いをしたくらいだ。

彼の視点を見ていれば分かる。何一つ警戒をしていないのだ。彼にとっては些細な事だったのだろうか。

彼を知りたいと思えば思うほど、価値観のズレが邪魔をする。

 

(なんだか、置いてけぼりくらっているようです…)

 

不満を露わに頬を膨らませると、ふと気がついた。

 

【やばーいっ!あいつらドラゴンボール7個揃えちゃった!!】

 

彼らは、いつのまにか捕まっていた。

無数のブロックに覆われた部屋で身動きが取れず、頼みの綱である彼はお腹が減って力が出ないらしい。

 

(アンパンマンの真似ですか。そんな事言ってる場合じゃないでしょうに)

 

それでも世界征服などという野望を叶えさせてはならない。

彼は力を振り絞り、"かめはめ波,,で小さな穴を開けた。そこから飛び出すのはコウモリに変化したウーロンとプーアル。

 

(ま、間に合うのでしょうか…)

 

逆に間に合わなければ、すでに世界はピラフのものになっているだろう。結果的には間に合うはずだが手に汗を握る展開。

彼も、黙っていられないとばかりに、先程よりも大きな "かめはめ波,, が炸裂。見事に壁を破壊して外に出たのだが…、

 

(ッ!……ぁ、あ、……あれ、が…っ)

 

空一面に黒いペンキを撒き散らしたかのような純黒な色。その中に君臨するのは神話の世界で存在した生物。

一目見るだけで分かる。確認をする必要はない。

 

【さあ、願いをいえ】

 

神龍。

どんな願いも一つだけ叶えるという伝説の龍。

その神々しい存在感は映像越しのたづなに畏怖の念を抱かせた。

 

(ま、だ、願いは叶えられてない…?)

 

神龍の言葉から察する。しかし、それも束の間。

 

【私を世界のーー】

 

彼のいる離れた所まで届くピラフの声。

 

(やばいです!早くなんとかしないとっ!)

 

ハラハラと忙しなく手を動かすたづな。

 

【私を世界の王にーー】

 

 

【ギャルのパンティおくれーーーっ!!!!】

 

 

ピラフの声に被せた豚の声を神龍を聞き入れた。

 

【願いは叶えてやった。ではさらばだ】

 

(………………、)

 

 

 

 

 

 

「私の気持ちを返してくださいよ!!!」

 

たづなはゴーグルを外すと開口一番に叫んだ。

 

「ええ!確かにキリが良い所で終わりましたよ!?タキオンさんの言う通りです!ですがこんなの……っ!慌てていた私がバカみたいじゃないですか!」

 

色んな意味を含んだ羞恥心がたづなを襲う。

 

「あー、ま、まぁ、豚くんの願いで世界は救われたのだから、良しとしましょう」

「こんなに後味の悪いハッピーエンドを見たのは生まれて初めてですよ…」

「それについては同感ですが、続きを見ていただいても良いですか?」

「え?キリが良い所で休憩って言ってませんでした?」

「確かに言ったが、私が言っているのはその次なんですよ」

 

たづなは首を傾げてタキオンを見つめた。

 

「……ちょっとした疑問ですが、タキオンさんは私が見ている所がどこか分かっているのですか?」

「確実ではない。経過の予測と貴女の反応で分かる程度です。……それに、」

「?」

「私が言うキリの良い所を見たら、休憩をしたくなりますよ」

 

不穏な空気を漂わせ、笑みをつくっている。だがその笑顔は強引に口角だけを上げており、ひどく痛々しく見えた。

 

 

 

 

 

神龍への願いを横取りされた事に憤るピラフ。怒り狂ったピラフは再び彼らを捕まえた。

今度は先程とは違い、分厚いコンクリートに囲まれている。彼の体力は底をつき、脱出は困難とされた。

しかも天井はガラス張りになっており、真昼間には太陽が真上を通過するらしい。

逃げ場はないから蒸し焼き状態になるだろう。  

 

(中々残酷な事考えますね、ピラフさんは)

 

呑気に思うのは助かる事が分かっているから。もしも自分が一緒に行動しており、あの場所にいたのなら正気ではいられないと容易に想像ついた。

 

結論からいうと全員パニックを通り越して、もはや諦め状態になっていた。

壁に寄りかかり、抵抗すらしない様子。

 

【?…プーアル。おまえは何やってんだ?】

 

ウーロンが微動だにしないプーアルに話しかけた。

 

【お月さん見てたんだ。今日は満月だからきれいだよ】

 

宙に浮いたプーアルの目線を辿って全員が上を向いた。

いや、彼を除いた全員だ。どうやら彼は興味ないらしい。

 

【満月かぁ…、そういや満月の夜ってすんげえ怪物が出るんだぜ!!】

【ふん。狼男じゃあるまいし】

【嘘じゃねぇぞ!オラのじいちゃんはソイツに踏まれてペチャンコになって死んだんだからな!】

 

(なるほど。貴方はそう解釈したのですね)

 

【どんな奴だったんだ?】

【オラは眠ってたから見た事ねぇんだ。でも、じいちゃんよく言ってたなぁ。ーー満月の夜は月を見ちゃダメだぞ!って】

 

 

 

(……………………え?)

 

彼の記憶の始まりは祖父、孫悟飯の死から始まった。

ゆえに孫悟飯との日々の暮らしはもちろん、そんな会話があった事は全くもって知らない。

おそらく自分は彼の瞳に映っているブルマ達と同じ表情をしているだろう。

開けてはならないパンドラの箱に、鍵を差し込んでいるような感覚。

 

【し、質問していいかしら…?】

 

狭い空間。隅っこに固まりながらブルマは尋ねた。

 

【ん?なんだ?】

【……ぉ、…おじいさんが踏み潰された夜、……あんたは、満月を見た…?】

 

核心に迫る問い。

たづなは無意識に胸元を強く握りしめて、暴れ続ける鼓動を抑える。

 

だが、虚しくも。

 

 

【うん!見ちゃダメって言われたけど、しょんべんしに行く時に、つい…な!】

 

 

彼は言った。

残酷すぎる可能性を肯定する一言を。

 

【そっ、孫くん!?あんた満月見ちゃダメよ!】

 

必死に止めるブルマ達。

気になる彼は引き寄せられるように満月へと目を向ける。

 

 

 

 

次に映る彼の記憶では。

 

 

 

 

太陽がのぼり、周囲の建物が全壊していた。

 

 

 

 

「ッ…!…………タキオン、さん」

 

たづなは半ば強引にゴーグルを外した。

 

「………休憩、しましょう」

 

コトン…と、タキオンは湯気の立つカップを机に置いた。ふわっ、と漂うベルガモットの香りは前に彼が淹れてくれたアールグレイだろう。

今はそれが寂しく思えた。

 

「……タキオンさん。おじいさんは、やはり……」

「崩壊後のブルマさん達の反応から察するに、孫くんで間違いないでしょうね」

「彼は知っているのでしょうか…」

「それは分からない。なんせ何十年も前の事だ。それからも色々あっただろうし、知っていてもおかしい事ではないと思う」

「……タキオンさんが見るのをやめたのはココですか?」

「…………残念ながら…」

「そうですか…」

 

これ以上に残酷な事があるのだろう。しかも子供のうちに。

計り知れない過去に恐怖すら感じる。

それでも何とか堪えようと紅茶を口に含み、無理矢理にでも平静を取り戻す。

ただ事実だけを受け入れたら良いんだ。そこに自分の感情や考えなどは必要じゃない。

 

(…………なんて。開き直れたら簡単なんですけどね)

 

口の中の熱気と共に弱音を吐き出す。

祖父を殺めたのは意識の無い彼だと聞いて、誰が平常心でいられるのだろうか。

正直なところ、同情した。

同情したのだが、タチの悪い事に当の本人である彼が、あっけらかんとしているから余計に脳がバグを起こしている。

 

(悟空さんは前しか見ていない。過去を振り返ってもしょうがないって感じ…? でも鮮明に覚えているのだから、切り捨てている訳ではない。………全て受け入れているんでしょうね)

 

否。まだ子供だから上手な生き方を知らないだけかも知れない。

見た感じ、今と比べてもあまり差はないと思うが…。

 

「たづなさん」

「何ですか?」

「その、私から言っといて何ですが、あまりに辛いようなら無理をなさらずに。…彼の世界の事柄は、私達の理解では及ばない世界ですので……」

「ぁ、………すみません。気を遣わせてしまって。ですが大丈夫です」

「なら良いんですけど…。……結構キツイですよ?」

 

再三に渡る問いかけ。

たづなはフッ…と、笑みを返した。

 

「心配ご無用です。私が彼を知りたくてやっている事ですから」

 

そう。これはタキオンの頼みを聞いた訳でなく、絶好の機会に鉢合わせしただけの事。

いくら悲しい現実を目の当たりにしようとも、やめる選択肢は最初から無い。

 

「紅茶、ご馳走様でした。続きを見ますね」

「ええ。お粗末様です」

 

一度休んだ事により心の余裕が出来た。

たづなは再び、彼の記憶の海へと沈んでゆく。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

いかがでしたでしょうか。

全ての記憶を辿っている訳でなく、重点的な記憶だけを知るようにしました。

加えて、オリジナル会話なども用意しており、ドラゴンボール本編では見られない裏側を書いています。

 

 

いつになるか分かりませんが、お待ちくださいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 






誤字脱字、内容の修正などは完成間近に行いますので、こんな話しなんだ…程度に思っていてください。


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鳥山明先生。ありがとうございました。





鳥山明様。
ご冥福をお祈りいたします。

この投稿は、私なりの哀悼作品となります。

本来なら、このような事を創作に手掛ける事は失礼に当たるかも知れません。
ですが私にとっては1から10まで全て。
この連載の中で孫悟空という、鳥山明様が生み出してくれたキャラクターを書き続けてきた情熱があります。

どうか身勝手な作品をお許しください。


※連載には影響しません。
・急いで作成したため、受け入れ難い所があるかも知れません。ご容赦ください。







 

 

 

思えばこの数日、落ち着かない時が何回かあった。

この地で知り合いなどいるはずもないのに、気がつけば "誰か,,を探しているように見渡している。

当てもなく彷徨い歩き、適当に寝そべってみても違和感だけが胸に募る。空に手を伸ばすと、不思議と心が温かくなった。

 

(おめぇは、そっちにいんのか…?)

 

脳裏にぼんやりと浮かぶ人影。

悟空は引き寄せられるように、ふわりと空を飛んだ。

急上昇はしない。まるで海の底へ沈むように、ゆっくりと空に落ちていく。

大空が近づくにつれ、ちらほらと輝く星々が見えてくる。

当然の事だが辺りには人影一つとして無い。"気,,だって感じられない。

 

それなのに。

 

 

(……なんか、落ち着くなぁ)

 

 

何故だろうか。感覚から連想されるのは祖父の懐だ。

どこの誰かも分からない。そもそも気のせいかも知れない。

それなのに、この雲と宇宙の狭間では安らぎへと導いてくれるナニカがある。

 

(姿は見えねぇ。"気,,も感じない。そんでも近くに誰かいる。……多分)

 

いくら考えようとも、これ以上はどうしようもない。

 

 

だから悟空は別の考えを求めるため、額に指を当てて、その場から消えた。

 

  

 

 

 

 

ニャー。ニャー…!

 

我が愛猫の鳴き声。

彼女はうつらうつらしながら声をかけた。

 

「ん…、……騒然。……まだ朝ではないだろう…」

「ああ。0時前ってとこかな」

「…夜中じゃないか。…まだ寝るじか………ッ!!?」

 

カッ!…と目が大きく開かれる。

彼女は掛け布団を手繰り寄せてバリケードを作った。

 

「な、な、なななッ…!!?!?!」

 

瞠目して見つめる先には、月明かりに照らされながら猫を抱く彼。

 

「オッス。起こして悪いな。やよい」

 

そう。悟空が訪ねた相手とは、日本ウマ娘トレーニングセンター学園の理事長を務める、秋川やよい。そのヒトである。

 

「ぶ、無礼ッ!!いくら悟空さんでも度が過ぎて……、…………何かあったのか?」

 

やよいはすぐさま表情を切り替えて端的に問うた。彼女は既に平静を取り戻している。

 

「……やっぱ分かっちまうのか?」

「違和感程度、だがな」

 

やよいは傍に置いてある肩掛けを羽織ると正しく座り直した。

 

「用件を聞こうか」

「んー、…誤解しねぇでほしいんだけど」

「うむ」

「この世界では死んだ奴をどうやって弔ってんだ?」

「ッ…!?」

 

予想だにしない言葉。やよいは息を呑んだ。

しかし理事長というのは肩書きだけではない。

静かに深呼吸をして、止まりかけていた思考を強引に巡らせた。

 

「……確認。それは、ウマ娘と関係あるのか?」

「いや、全くねぇ。おかしな事言うけど、オラ自身誰を弔いてぇのか分かってねぇんだ…」

「…………ふ、む…」

 

違和感の正体。

普段はあっけらかんとしている彼に、翳りが差しているのだ。

それは以前の、ハルウララの時とは違い、彼自身にも分かっていないから混乱していると見える。

 

「こちらから、いくつか聞いても良いか?」

「ん?ああ」

「弔いという考えが出たのは何故だ?」

「…1週間くれぇ前からオラは妙に落ち着きがなかった。ムズムズっつーか、ソワソワみてぇな。そんで気がつけば誰かを探している」

 

やよいは頷きながら続きを促す。

 

「思ったのはついさっき。空から温かい感じがした」

「…この季節にこの時間。不可解な事だな」

「ああ。そんで感覚だけを頼りにして空に行った時、当たり前だけど何にもなかった。気のせいかと思ったんだけど、これだけは無視しちゃいけねぇ。そう思ったんだ」

「……理解。姿が見えない相手に何かするには、この世界で既存している、亡くなった人に対する所作を(おこな)ったら良い…と、言いたいのだな」

「まぁ、そんなとこだ」

 

まとめてはみたものの暴論極まりない。

とはいえ、彼は至って真剣に言っているのだと身に染みて感じた。

 

「…率直に言うと、この世界で亡くなったヒトは火葬を第一にする。遺骨を骨壺に入れ、家や墓所に置く。姿がなくとも持ち物や写真を使用する事などもあるが、悟空さんのケースにはどれも当てはまらない」

「…………そっか。ならしゃあねぇか」

「だから別のやり方をしようッ!!」

 

ペタン。

やよいはベッドから飛び降りると、ウロウロしている愛猫を捕まえて悟空に預けた。

 

「ちょっとこの子の相手をしていてくれ。準備をしてくる!」

「えっ、や、やよい!?準備って、…………行っちまった」

 

手持ち無沙汰になった悟空は、猫の両脇に手を入れて持ち上げた。

何を考えているのか分からないクリクリとした瞳。液体のように伸びた身体が悟空を和ませた。

 

「なあ…、おめぇの飼い主は何をしてんだ?」

 

>なぁーん

 

「だよな。オラとここにいんだから、そりゃあおめぇにも分からねぇよな」

 

 

 

 

「完了ッ!!待たせて申し訳ない!」

「おう。………お?」

 

戻って来たやよいは、すっかり目が覚めたらしく生き生きとしている。反対に、悟空はやよいを見て目を丸くした。

 

全身黒い恰好など見た事なかったからだ。

 

 

「おめぇ…、何だ、その服…?」

「これはな、この世界で死者を弔う時に使用する衣類で、喪服という」

「……弔うったって、出来ないんじゃなかったか?」

「それは正式な事が出来ないだけで、他をやってはいけないという理由にはならない!」

 

未だ呆けてる悟空の手を引っ張ってベランダへと向かった。

 

「ほらっ、悟空さん!思い立ったら即実行ッ、だぞ!」

「……は、ははっ!そうだなぁ。とりあえず行ってみっか!」

 

悟空はやよいを抱えて暗闇に紛れながら飛んだ。

向かう先は空ではない。

比較的高さがあり、彼らが勤務先となる場所。

 

トレセン学園の屋上である。

 

 

 

 

「っと、寒くねぇか?」

「問題ないッ!それより、今は感じるか?」

「ああ…」

 

やよいは悟空を見ると笑みを溢した。

 

「わははっ!誰だか分からないという割に、随分と穏やかな顔をするではないか!」

「!…うーん」

「どうした?腑に落ちんのか…?」

「ああ。この話しって、正直言うと不気味だろ?」

「まぁ、否定は出来ん。我々ならともかく、悟空さんが探知出来ないんだからなぁ」

「そうだろ?それなのにオラは、この感覚が心地良い。まるでずっと一緒に戦ってきた戦友みてぇにも感じるし、じいちゃんの傍にいるような安心感もある」

 

悟空が空に向かって手を伸ばす。見えない相手にコミュニケーションをとろうとしているようだ。

ほんの少しだけやよいは、居心地の悪さを感じた。

何一つ感じる所がない。それは置いてけぼりをくらっているよう。

 

「やよい。オラ達はこっからどうすんだ?」

「んー…、」

 

けれど、悟空が言うことに疑いはしない。

悟空がナニカを感じて安らぎを覚えるならば、きっと相手は良い人に違いない。

 

「…………問うても答えは返ってこない。ならば、こちらの心を一方的に伝えてしまえば良い」

「え…?」

 

悟空から小さな声が漏れる。

そんな事などおかまいなしに、やよいは空に向かって両手を広げた。

 

息を吸い。吐き出すと同時に想いをぶつける。

 

 

「名前も姿も知らぬお人よ!あなたのお陰で孫悟空という男と出会えた!心より感謝するッ!!」

 

 

夜中、学園の屋上に響く声。

隣にいる悟空は開いた口が塞がらなかった。

 

「ふぅ。…………よしっ!」

「……い、いや、何やってんだ…?」

「ん?ただ礼を言っただけだが?」

「礼って…、………そいつのお陰っつっても、オラ何もしてもらってねぇぞ?この地に来たのはエンマ様のせいだし」

「経緯はそうでも、何かしら悟空さんに関わっとるかも知れんではないか。心地良いのだろ?」

「まぁそうだけど…、んでも気のせいかも知んねぇぞ?」

「先程。気のせいだとしても、無視しては駄目と聞いたが?」

「…言ったなぁ」

「それに、気のせいなら笑い話になるが、本当にいた場合、私達に残るのは後悔だけだ」

「!!!」

 

答えを知る時は来ないかもしれない。

けれど何かの拍子に知る時が来るかも知れない。

そうなったら一言一句、こう思うはずだ。

 

何であの時にああしなかったんだろう、…と。

 

 

「それに私は嘘偽りを言った覚えはない。ずっと誰かに言いたかったんだ。……悟空さん。私は貴方と出会えて良かった」

「やよい…」

「見えないお人には申し訳ないが、この場を借りて伝えてさせてもらったに過ぎん。追悼には程遠いが、なっ!」

 

やよいは小さな体で思いっきりジャンプすると、悟空の背中を叩いた。

 

「いっ、てー……なぁにすんだよぉ」

「今度は悟空さんの番だ!」

「い"い"っ…!オラも言うんかぁ!?」

「当然ッ!!言わなければ、見えないお人が休めんだろう!」

「………もうそれ、死んでる奴前提じゃねぇか」

「私には判断つかないのだから他に選択肢はないッ!ほら!」

「あ、ああ……分かった」

 

悟空が一歩前に出る。

手を伸ばすと、やはり温かい。

何を言えば良いのだろうか。かける言葉が見つからない訳でなく、思う事が多すぎる。

 

温かい。心地良い。頼もしい。………。

 

色々思い浮かぶが、何故だかお礼を言いたくなった。

 

 

「………なあ、やよい。意味分かんねぇ事言ったら、アイツ困るかな?」

「心配無用!意味不明の事なら私が先に言ったぞ!一人から二人になろうが見えないお人は困らんッ!」

「……よし。んじゃオラもーー」

「何だこいつら…と呆れるかも知れんがな」

「おいっ!?」

「ふはははっ!冗談だ!」

「ったく、もー。……、」

 

一呼吸置くと、悟空は手のひらに"気,,を集めた。

ポワッと、輝く小さな光。それはホタルのようにフワフワと、宙を散歩しながら空へ向かう。

 

パチン。

 

悟空は指で音を鳴らした。

屋上からは見えないが、"気,,を破裂させた合図だ。

 

それが悟空に出来る最期の手向けとなる。

 

 

 

 

「え…っと、………オラは!いっぱい戦えて!色んな奴らと出会って!すげー楽しいぞ!だから…、」

 

 

 

 

 

「生んでくれてサンキューな!」

 

 

 

 

 

「……それは"親,,に向かって言う言葉だな…。私以上に意味不明で安心したぞ」

「だぁってよぉっ!これが思った事なんだからしょーがねぇだろ!オラだって変なのは分かってたさ!」

「………うむ。まぁ、内容は置いといて、例の感覚はどうなんだ?」

「ん。……うん?……あ、ちょっと待てよ…?」

 

悟空は手を伸ばすのをやめて、屋上から姿を消した。

次に現れたのは雲の中。腕を広げ、目を瞑る。

 

(………そっか)

 

 

何も感じない。

心安らぐ感覚が消えた。

 

 

でも、それは決して悲しいものじゃない。

 

 

無事に向こう側へ辿り着けた証拠だから。

 

 

 

「……オラは、生きていようと死んでいようと、拳が握れる限り戦い続ける。 だから後の事は、オラに任せてゆっくり休んでくれ」

 



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とうとう"不退転,,がマンボ(鷹)のご飯に!? ライバル達は脚を振るう。




……私は、1話完結を心掛けていますが、すみません。めっちゃ長くなりました。
回を分けようかとも考えたのですが、特別な話しではないため、1話でまとめています。

長文故に文脈がおかしい所があるかも知れませんので、その際は遠慮なく言ってください。可能な限り直します。


注意
・菊花賞と天皇賞秋の順番間違え。







 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

スズカ「…………私はもう走れないの…?」

 

悟空「いや。オラがもう一度、おめぇに先頭の景色を見せてやる」

 

たづな(悟空さん。ウマ娘に幸福な未来を…。お願いします)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

悲劇を生んだ秋の天皇賞。

週刊誌からサイレンススズカの名前が書かれなくなった。

 

 

ある日の午後。

 

 

 

 

ー 病室 ー

 

 

コンコン。

 

 

……コンコン。

 

 

…………カチャ、………ヒョコ。

 

 

 

まるで泥棒が侵入するかのように、恐る恐る病室内を覗き込む栗毛のウマ娘。

 

 

グラス「…スズカさん、いらっしゃいますか…?」

 

 

スズカと同じく天皇賞に出走したグラスワンダーだった。

病室に入るとベッドの上にスズカがいる事を確認する。

 

 

グラス「ぁ、」(お休み中でしたか…)

 

 

昔。短い期間だったがチームリギルに在籍している時、少しだけ会話をした事がある。

しかし会話の内容は面白味のないものだ。なんせ彼女は走る事にしか興味がないのだから。

 

暇つぶしに走る。とりあえず走ってみる。気分が悪かったら走れば治る。

 

彼女の事はそれしか情報がない。

けれども、その頃からずっと分かっている事もある。

 

 

グラス(………相変わらず綺麗ですね。スペちゃんが憧れるのも納得です)

 

 

走る姿はもちろん。

真っ直ぐに伸びた背すじ。何ものにも動じない瞳。艶やかな長い髪。

そして今は、仰向けで微動だにせず瞼を閉じる彼女。毒で眠る白雪姫のモチーフを見ているようだ。

 

 

グラス(少しだけお邪魔させてもらいます)

 

 

そわそわと、尻尾を揺らして椅子に座る。

何をする訳でもなくスズカを見つめ、目線を下の方にずらすと、吊り下げられている左足に注目した。

そこにはお見舞いに来た人達の寄せ書きが記されている。

 

 

グラス(…こんなにも、貴女は愛されているんですね)

 

 

彼女の頬へ引き寄せられるように手が動くと、優しく触れ、うっすらと残っている涙跡を指で伝う。

自分も怪我で休養していたから分かる。 

本当にもう一度走れるのか…。それが頭の中から離れないはずだ。

 

……それでも。

 

 

グラス「……待ってますから。勝ち逃げは許しませんよ」

 

 

彼女には何としてでも戻って来てくれなければならない。

みんなのために。自分のために。

瞬間。

グラスは眉を顰めた。当時の。あの時の天皇賞を思い出してしまったからだ。

 

 

グラス(ッ!……落ち着いて。大丈夫。……スズカさんは、悟空さんが治してくれるのだから)

 

 

最悪な展開を頭から飛ばすように首を振り払う。

 

 

グラス「ふぅ…、…………ん?」

 

スズカ「……………、」

 

 

視界に入り込んだのは、光り輝くエメラルドの瞳……をもつ彼女。

 

 

スズカ「おはよう。グラスちゃん」

 

グラス「…………、」

 

スズカ「その、恥ずかしいから、手…離してもらってもいいかしら…?」

 

グラス「………お、」

 

スズカ「お?」

 

グラス「お…、起こしてしまい、申し訳ありませんでした!!!!」

 

 

飛び退くと、謝罪と同時に頭を下げた。

 

 

スズカ「謝らなくてもいいわよ」

 

グラス「いえっ、スズカさんは休んでいてください、今日はお暇しますので、また後日伺います!」

 

 

言うだけ言うと、ドアへ向かう。

 

 

スズカ「言い逃げなら許されるの?」

 

グラス「!……もしかして、聞いてました」ギギギ…

 

スズカ「ええ。勝ったのは私じゃないから、聞き間違いかと思ったけれど」

 

グラス「………」

 

スズカ「グラスちゃんさえ良ければ少し話さない?このままだとまた、退屈で眠ってしまいそうだから」

 

グラス「……辛くなったら、すぐに言ってくださいね」

 

スズカ「分かったわ」

 

 

グラスは渋々といった様子で椅子に座る。だが、左右に大きく揺れる尻尾がグラスの心情を表していた。

 

 

 

    ・

    ・

    ・

 

 

グラス「その、脚の具合はいかがですか?」

 

スズカ「タキオンが言うには順調みたい。だから最近来るのは悟空さんだけになったわ」

 

グラス「そうですか。…良かった」

 

スズカ「それにしても不思議な人ね。悟空さんは」

 

グラス「え?」

 

スズカ「なんていうか、……気持ちが楽になる。草原の中で何も気にせず、ただ思うままに走っているような」

 

グラス「はい。よく分かります」

 

スズカ「こうして関わったのだから、私も悟空さんに色々話しを聞いたわ。確かに悟空さんの事を他に人に知られたら大変よね」フフッ

 

グラス「そうなんですよ!それなのに当の本人が無頓着というか、警戒心がないと言うか…。一緒にお出かけすると皆さん疲れ果ててます」

 

スズカ「それは、どれだけ気苦労しようと一緒にお出かけしたい。…って解釈で良いのかしら?」

 

グラス「っ!………ぁ、……ぅっ、…………ハイ」

 

スズカ「ふふっ。………私も早く動けるようになりたいわ。凄く楽しそうだもの」

 

グラス「あっ!」

 

スズカ「ん?」

 

グラス「そういえば、私達の間でもスズカさんの話題になる事が多くなったんですよ」

 

スズカ「あら。そんな話題になるような事あったかしら…?」

 

グラス「はい。悟空さんとスズカさん。セントウ民族同士、誰よりも仲良くなるんじゃないかって」

 

スズカ「……ん?………セントウ、何だって?」

 

グラス「セントウ民族ですよ。知りませんか?」

 

スズカ「……悟空さんが戦闘民族っていうのは聞いたけど…」

 

グラス「それと掛けているんです。ほら、スズカさんって、先頭の景色がどうとか言ってるじゃないですか。レース中も他のウマ娘に先頭をとられると機嫌悪くなりますし」

 

スズカ「否定出来ないわね…。……じゃあセイウンスカイさんもそうなの?」

 

グラス「セイちゃんは番手追走でも問題ないので民族外らしいですよ。そう考えると、スペちゃん命名のセントウ民族は的を射てますね」

 

スズカ「スペちゃんが名付けたの!?」

 

グラス「はい。それはもう当たり前のようにサラッと」

 

スズカ「ウソでしょ…」

 

 

不名誉…とは思わないが、受け入れ難い異名が増えた。それがまさかの同室であるウマ娘によるものらしい。

 

 

スズカ(先頭民族ウマ娘サイレンススズカ。……………意外と悪くない、かも…)

 

 

………訂正。

彼女が受け入れるまでに、そう時間は掛からないのかもしれない。

 

 

 

    ・

    ・

    ・

 

 

 

グラス「ーーーさて、私はそろそろ帰りますね」スッ

 

スズカ「あ、じゃあ最後に一つ聞いてもいい?」

 

グラス「はい。何ですか?」

 

スズカ「何で私が勝ち逃げした事になってるの?」

 

グラス「ッ!!……、」

 

 

不意打ちだった。逃げウマ娘に差された気分。

とはいえ。

隠す必要など全くもって皆無。

 

 

グラス「…別に、何もおかしい事ないですよ」

 

 

明るく弾んでいた声から一転。

ぞっとするほど低くこもった声が、静かな病室に響いた。

 

 

グラス「貴女はゴールしなかったでしょう…!

それはレースの世界では競争中止と判定されるっ!」

 

 

あれから2週間弱。幾度なく夢で見た。

レース中に彼女が倒れる所。そして彼女が勝つ所。

自分が彼女に勝った夢は、一度たりとも見ていない。

 

 

グラス「引き分けにすらならない!私達の成績は1勝0敗のままだ!!」

 

スズカ「…………、」

 

グラス「………何度でも言います。私は貴女の勝ち逃げを許しません。必ず、どれだけの刻が過ぎようとも…、私は最高の状態で貴女と決着をつける…!」

 

 

ギラギラと。闘争心剥き出しの眼光がスズカに突き刺さる。

対するスズカは、ただひたすらに見つめ返していた。

 

 

スズカ「………………ねえ、」

 

グラス「………何ですか」

 

スズカ「なんだか、スペちゃんからライバルを取ってしまった感じがして、………ちょっと気まずい…」

 

グラス「ほぇっ!?しゅ、しゅぺちゃ…!!?」

 

 

二人共が台無しだった。

一触即発のピリついた雰囲気なんて元々なかったんだ…と、そう思わされるくらいに重い空気は完全に霧散してしまう。

 

 

グラス「そ、そんな話しではなかったでしょう!私はちゃんとスペちゃんのライバルです!それを取っただの、浮気だの……もっと真剣にっ!」

 

スズカ「ごめんなさい。浮気とは言ってないわ」

 

グラス「〜〜〜ッ、か、帰ります!!!」

 

 

清楚な振る舞いと対極な位置に彼女はいた。

勢いよく立ち上がった拍子に転がる椅子。慌てて片付けるとベッドに椅子をぶつけ、謝り倒しながら足音を大きく鳴らしてドアへ向かう。

 

 

スズカ「グラスちゃん」

 

グラス「!!!」

 

スズカ「今日は楽しかったわ。また、来てくれると嬉しい」

 

グラス「!…………はい」

 

 

落ち着きを取り戻した彼女は、ゆっくりとドアを閉めた。

 

 

スズカ「…………、」

 

 

バフッ。

スズカは起こしていた姿勢から、自由落下に身を任せてベッドに埋まった。

 

 

《必ず、どれだけの刻が過ぎようとも…、私は最高の状態で貴女と決着をつける…!》

 

 

あんな事言われたらウマ娘として興奮しない訳がない。

聞いた瞬間、瞬時に思い浮かんでしまった。

自分の後ろで走る彼女の存在を。そして、そのままゴールする自分の姿を。

 

 

スズカ「………ほんと、早く治さないとね」

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

ー 次の日 ー

 

 

グラス「こんにちは、スズカさん」

 

 

彼女は来た。

 

 

スズカ「ええ、こんにちはグラスちゃん」

 

 

 

ーーーーー

 

 

次の日も。

 

 

グラス「こんにちは。スズカさん!」

 

スズカ「え、ええ。……こんにちは」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

その次の日も。

 

 

グラス「こんにちは。スズカさん!これ、お見舞いの品です。どうぞ!」

 

スズカ「…あ、りがとう。……グラスちゃん?」

 

グラス「何ですか?」

 

スズカ「その、……トレーニング、上手くいってる?」

 

グラス「はい。今日も終わらせて来ましたが…?」

 

スズカ「そう…。それなら良いのだけど…」

 

グラス「???」

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

そして。

 

 

ー チームリギル ー

 

 

 

東条「ーーー今日のトレーニングはここまで!各自クールダウン!自主練をする者は私に報告!以上!!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

 

 

エル「ヘーイ、グラァス!」タッタッタ

 

グラス「エル。お疲れ様でした」

 

エル「何言ってるんデスか!まだまだ一緒に疲れマスよーっ!」

 

グラス「自主練、ですか?」

 

エル「イグザクトリー!!ささっ!早くトレーナーさんの所に、ーー」

 

グラス「あ、申し訳ありません。私は辞退させていただきます」

 

エル「………………また、"用事,,というやつデスか?」

 

グラス「ええ…。すみません」

 

 

エルの眉間に皺が寄せられる。

ここ数日、グラスは "用事,,ですぐに帰る。以前なら自然な流れでやっていた自主練なんて見向きもしない。

 

 

エル「グラス。……一体、何をしているんデスか…?」

 

 

もっともな問いかけ。

当然だ。

グラスの言う用事を明確に言っていないのだから。

 

 

グラス「えっ、と…。……それは、ちょっと…」

 

 

こんなふうに、聞く度に濁す。

そして次に出る言葉がーー。

 

 

グラス「エル。申し訳ありません。私はこれで失礼します」

 

 

そう言ってそそくさと踵を返して立ち去るのだ。

 

 

エル「グラスッ!話しはまだっ…、……………………これ以上、見過ごすわけにはいきマセンね」 

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

20分後。

エルは仲間を集めた。

 

 

キング「もうっ、一体何なのよ」

 

スカイ「緊急事態って聞いたけど」

 

スペ「という事は、サイヤ件かな?」

 

キング・スカイ「「なにそれ…?」」

 

スペ「人前じゃあまり言えないから、悟空さん関係の事とサイヤ人をフュージョンしてみました。ほら、秘密の軍団が使う暗号…?みたいな」

 

スカイ「スペちゃん……」

 

キング「あなた…。先頭民族といい、ネーミングセンスあるわね」

 

スペ「えへへ……、ありがとうございます!」

 

スカイ(マジか…。キング的にはアリなんだ…)

 

エル「いえ!今回はサイヤ件ではありません!」

 

スカイ(使いこなすの早いって)

 

キング「勿体ぶらずに言いなさいよ。このキングの自主練を止める程に大事な話しなんでしょうねぇ?」

 

エル「それですッ!!!!」グアッッ!!!

 

スカイ・スペ・キング『ッッッ』ビクッ

 

 

エル「……1つ、聞こうか。諸君」

 

スカイ「何だい大佐」

 

エル「約10日間。自主練をしないウマ娘をどう思うかね?」

 

スカイ「え、ふつu」

 

スペ「10日はちょっと……。すっごく大事な用とかならしょうがないけど…」

 

キング「考えられない。ただそれは自分で行動する事だから強制しようとは思わない」

 

スカイ「……もうちょっと頑張らないとね〜」

 

エル「うむ。……それでは次に、質問の意図を答えマス」

 

スペ「なんですか?先生」

 

 

 

エル「自主練放棄ウマ娘がグラスなんデス」

 

スカイ・スペ・キング『…………なんて?』

 

 

エル「グラスが自主練を全くしないで帰ってしまうんデスよ…」

 

スカイ・スペ・キング『マジか……』

 

 

 

他人に厳しく、己に超厳しい彼女。

これは一大事だ…と、みんなの心は一つになった。

 

 

スカイ「帰っちゃう用事は?」

 

エル「答えてくれマセン」

 

スペ「チームのトレーニングには出てるんだよね?」

 

エル「イェース。でも、真面目にはやっていますが覇気を感じマセン」

 

キング「心配だけれど……、あまりプライバシーを侵害したくないわね。隠しているみたいだし」

 

スカイ「行き先くらいは知っても良いんじゃない?」

 

スペ「ウララちゃんの時と同じですね。尾行しましょうか!」ワクワク!

 

スカイ「いや、それこそサイヤ件でしょ」

 

スペ「あ…、」

 

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

 

悟空「ーーーそんでオラが、グラスの"気,,を探れば良いんだな?」

 

キング「ええ。何もないなら良いのだけど、あの人がこんなに自主練に参加しないなんて不思議なのよね」

 

悟空「言われてみりゃ確かにそうだな。スカイなら別におかしくねぇんだろうけど」

 

キング「そうなのよ。私だってスカイさんならこんなに考えていないわ」

 

スカイ「すごい風評被害だね。……まぁ、この際それは無視できるけどさぁ…」チラッ

 

 

 

 

ウララ「」グッタリ

 

スペ「ウララちゃーーーーん!!!」キャーー!

 

エル「め、を……っ、目を開けてくだサイ!!!」ウワーンッ

 

 

 

 

スカイ「張本人であろう悟空さんは別として、キングはこの状態につっこもうよ」

 

キング「何で今更…?」

 

悟空「ウララが倒れてんのなんていつもの事だろ?」

 

キング「ええ」

 

スカイ「…………、」

 

 

 

 

スカイ「ウララぁあああああ!!!困った事があったら言いなって言ったでしょ!!」

 

ウララ「…………ぁ、せいちゃ、」

 

スペ「あっ!意識が!」

 

エル「戻りマシタ!!!」

 

 

 

 

キング「今日は何をやったの?」

 

悟空「感覚トレーニング。ウララの奴は感が鈍いから中々上手くいかなくてなぁ。とりあえず残像拳の本物当てゲームを1時間やってみた」

 

キング「………なるほど。残像は"気,,が宿っていないから惑わされないようにって事ね」

 

悟空「やるなぁ、キング。その通りだ」

 

キング「私もやりたいわ」

 

悟空「おしっ!んじゃ早速、」

 

エル「ストーーーップ!!!」

 

 

突然悟空達の間に割り込んで来たエル。

 

 

エル「もーッ!悟空さん!キング!今は緊急事態って言ったじゃないデスか!」

 

キング「あなたもノッてたように見えたけど…?」

 

エル「…エルは、過去を振り返らない主義なので」

 

キング「…………、」

 

エル「そ、それより悟空さん!早くグラスの居場所を!」

 

悟空「んー、探すけど……、大体の見当はついてんだよなぁ」

 

 

悟空にしてみれば、これは捜索ではなくただの答え合わせ。

だからグラスの"気,,を探す前に、特定の場所に意識を向けた。

 

 

スペ「?…悟空さんはグラスちゃんがどこに行ってるか知ってるんですか?」

 

悟空「多分な。………………あ!…やっぱりだ」

 

エル「見つけたんデスか!?」

 

悟空「ああ。グラスはスズカの所に行ってる」

 

スペ「えっ、ずる、ーー」

 

キング「スペさん」

 

スペ「珍しいね。偶然なのかな?」

 

悟空「違うと思うぞ。オラはスズカの所に毎日行ってっけど、その度にグラスの名前が出て来るから、恐らくずっと行ってる」

 

スペ「ッ!……私はこんなに我慢してるのに、ーー」

 

キング「スペさん」

 

スペ「でも何しに行ってるんだろう。………ハッ!もしかしてグラスちゃんは、秋天の後ろめたさを感じて……」

 

悟空「いや。スズカの話しじゃあ毎日すげー笑顔らしい」

 

スペ「はァ?????」

 

キング「スペさん」

 

スペ「聞こえません」

 

キング「落ち着きましょう」

 

スペ「嫌です」

 

 

 

スペ「だって酷くないですか? 」

 

 

 

スペ「私だってスズカさんの所行きたいのに、それを我慢してトレーニングやっているんです。頑張って頑張って…、その後に待っているのは誰もいない暗い部屋。1人部屋じゃないんですよ?ベッドが2つあるんです。それがまた悲しくなっちゃって。 それでも病院では電話しちゃ駄目だからLANEをする。あまり長く続いたら迷惑だから泣く泣く終わらせて、独りぼっちタイムの再開。強引に眠って、朝になる。そしてまたトレーニング。私はトレーナーに言いました。今日オフでお願いします!…と。駄目の一言で終わりました。そんな私を置いて抜け駆けして、ほんとあの栗毛ーーーー」ブツブツブツ

 

 

 

スカイ「でもさぁ、このまま様子見って訳にはいかないよね〜」

 

エル「様子見なら充分デス。一刻も早く鍛え直してくれないと」

 

キング「確かにそうね。強制するのは抵抗あるけど、牙が削れていくライバルを見るのは嫌だわ」

 

悟空「そうだなぁ。………うん、オラに良い考えがある!」

 

 

そう言うと、悟空は催促するように手を叩いた。

 

 

悟空「ほれ。そろそろ起きろぉ、ウララー」パンパン

 

ウララ「!」ピクッ

 

スカイ「え"っ、ウララ倒れてるけど…」

 

エル「もう少し休ませた方が良いんじゃ…」

 

悟空「大ぇ丈夫だ。神経がすり減ってるだけで体力は有り余ってっから」

 

ウララ「ーーーむ、むむむ…っ」グググ…

 

悟空「おー!良い感じ良い感じ!頑張れー!」

 

ウララ「ん、ぎぎっ、………ふんぬっ!」グアッ!

 

悟空「よっしゃあ!はい、せーの?」

 

ウララ「ウララふっかーつ!!!」

 

悟空「おう!お疲れさん!」パァン

 

ウララ「いえーい!」パァン

 

 

悟空の言う通り、疲労を感じさせない太陽のように明るい笑顔。

そんなウララにキングが近づくと、素手で服を払い始めた。

 

 

キング「もー、こんな所で横になるから汚れてるじゃない」サッサッ

 

ウララ「ありゃ、ごめんね。ありがと!」

 

悟空「そんでよ、ウララ。話しは聞いてたか?」

 

ウララ「うん。何となくは分かってるよ。でも……、」

 

悟空「ん、どうした?」

 

ウララ「スペちゃんはどーしちゃったの?」チラッ

 

 

スペ「ーーーーーしかも悲しい事にスズカさんとのLANEでグラスちゃんが来たと言ってくれなかったんです。何で言わないんですか?世間話の1つじゃないですか。もしかして私に内緒ですか?隠しているんですか?……酷い。ハブです。

あ、このハブは蛇の種類の事ではなくて、ハブられたという意味で、ーー」ブツブツブツ

 

 

スカイ「大丈夫。気にしなくて平気だよ〜」

 

ウララ「そうなの?」

 

エル「ハイ。…っと、悟空さん。良い考えとは何デスか?」

 

悟空「多分グラスの事だから普通に言えば簡単に伝わる。けどヤル気を爆発させねぇと遅れた分は取り戻せねぇから、ちょいとウララを使って思い知らせようかなーってな!」

 

ウララ「走るの!?」

 

悟空「おう。思う存分な」

 

ウララ「ぃやったー!!やっぱり精神しゅぎょーよりも走る方が楽しくて良いよ!」

 

悟空(あれも大事な修行なんだけどなぁ…。ま、ゆっくりでいっか)

 

エル「ふっふっふっ!そういう事ならワタシも使ってくだサイ!」

 

悟空「!……エルなぁ、…………んー、」

 

エル「ワタシの脚を気にしているんデショウ?大丈夫デス!有マ記念まではレース無いですし、しっかりと気を遣って走るので!」

 

悟空「んんんんんんんーーー………」

 

エル「エルも一緒になってグラスをけちょんけちょんにすればヤル気は超爆発しますよ?」

 

悟空「…………最後にはオラがケアするから少しくれぇは平気か。……よし分かった!おめぇにも手伝ってもらうけど、絶対ぇ無理はすんなよ?約束だかんな」

 

エル「もちろんデェス!」

 

 

スカイ「ま、これも同期の務めかな」

 

キング「全く。しょうがない子ねぇ」

 

悟空「?…おめぇ達は駄目だぞ?」

 

スカイ・キング『なんでッ!?』

 

悟空「いや、おめぇ達はもうすぐ菊花賞だし、今は調整中だろ」

 

キング「だけどっ、」

 

悟空「キングに至っては絶対に駄目だ。擦り傷1つでもつけちまったら、オラはキントレに顔向け出来ねぇ」

 

キング「ッ!」

 

 

本気だ。

日頃の幼さ残る顔付きが一変。顎を引き、1ミリたりとも揺れる事のない視線。

キングは思わず目線をずらして肩を落とす。

 

直後。

 

ポン…と、キングの肩に何かが当たると、芦毛の髪色がチラついた。

 

 

スカイ「キング」ボソッ

 

キング「?……なによ」ボソリ

 

スカイ「ごねて」ボソッ

 

キング「は?」

 

スカイ「良いからごねるの。ワガママを言う子供のように」ボソボソ

 

キング「い、いやよ。このキングが何故そんな事を……」ボソボソ

 

スカイ「じゃあ諦める?」ボソッ

 

キング「ッ…!」

 

 

引き下がれなかった。

というもの、グラスには借りがある。

スカイが龍球ステークスに出走する時、無様に喚いていた自分を叱ってくれたのが彼女だ。それと同時に理解もしてくれた。

些細な事でも力になれるのなら協力したい。

 

 

キング(……協力っていっても、あの子からすると余計なお世話かもしれないけどね)

 

 

クスッ…と、溢す微笑。

空気が口元から漏れる。体内で蔓延していた悪い空気だ。それと一緒に "プライド,,も外に出した。

 

 

悟空「ッ!!?き、んぐ……?」

 

ウララ「う、そ……」

 

エル「…おーまいごっど……」

 

 

悟空達は瞠目する。

 

 

なぜならば。

 

 

 

キング「わ、…私も一緒に走りたーい!仲間外れは、さ、寂しー!」ジタバタ!ジタバタ!

 

 

 

地面に体育座りをしたキングが、足をバタバタ動かして暴れているからである。

 

 

スカイ「……悟空さん。知ってると思うけどキングは冗談や適当な事なんて言わない。コッ、…こんなにワガママを言うキングは初めて見た、ヨ」

 

悟空「…………………スカイもやるつもりか?」

 

スカイ「つもりです」

 

悟空「ハァ…、キントレに聞いてみる。許可が出たらオラが断る理由ねぇしな」

 

キング「!………ありがとう」スクッ

 

悟空「スカイもトレーナーに併走して良いか聞いてくれ。分かってると思うけど、おめぇのトレーナーが来るのは無理だ。ただ…子供だけだと不安だろうからキントレが見てるって事で良い。

キントレにはオラが説明しとくから」

 

スカイ「はぁい」

 

悟空「ただし!1回でも駄目だと言われたらそれでしめぇだ!分かったな?」

 

スカイ「うん」

 

キング「ええ」

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

結果。

キントレからは難なく了承を得て、スカイはヤル気がある内に走ってくれとお願いされたらしい。

 

 

悟空「そんじゃあまずは、エル!」

 

エル「ハイ!」

 

悟空「グラスの靴と運動着を持って来てくれ。オラが向こうで着替えさせる」

 

エル「オーケーデス!」

 

悟空「んで、やる場所は、離れにあるターフだ。ウララは知ってるな?」

 

ウララ「うん!」

 

キング「そこ使って大丈夫なの?」

 

悟空「ああ。前にタキオンの実験で使ってるし、ウララともそこで走ったりしてる。元は整備不良で使われなくなってたんだけど、オラが整えたから問題ねぇ」

 

ウララ「誰も来ないからスーパーサイヤ人にもなってたんだよ!」

 

スカイ「いや、スーパーサイヤ人になって何するのさ…」

 

悟空「秘密だ。あと、向こうで準備運動もしとくから、おめぇ達も身体温めといてくれ!」

 

ウララ・エル・キング・スカイ『ハイ!』

 

悟空「よし!そんじゃあ!」

 

 

ーーーーでね?

 

 

悟空「ん?」

 

 

彼らはすっかり忘れていた。

この場にもう1人ウマ娘がいる事を。

 

 

スペ「グラスちゃんってば散々な事言うクセに、私がご飯食べてると優しい顔で見て来るの。あれ結構食べづらいんだよねぇ。でもでもっ、悪い気しないっていうのも本音でして……。それでいつかはグラスちゃんとスズカさんの3人でご飯食べに行けたら良いなぁーって考えてたのに!スズカさんと同じ栗毛だからチョーシに乗っちゃってますよ!」ブツブツブツ

 

 

悟空(ひゃ〜。…………うぇっ)

 

スカイ(………オモ)

 

キング(さて、……どうしましょうか)

 

エル(グラス。良かったデスね。スペちゃんとお似合いデスよ……)

 

ウララ「あっ、スペちゃん忘れてたね。おーい!」

 

悟空・エル・キング・スカイ『!!!』

 

スペ「ーーー!」

 

 

キョロキョロと、小動物のように首を振るスペ。

悟空達を視野に入れると、照れくさそうに顔を赤らめた。

 

 

スペ「すみません、つい愚痴を言ってしまって」

 

悟空「い、や…、全然へーき、だぞ」

 

スカイ「……溜め込むのは体に毒だからね〜。スッキリしたなら良かったよ」

 

スペ「ありがとうございます!えっと、グラスちゃんの話し、だよね?どーしよっか」

 

キング「そ、それは……、」

 

 

自分語りに夢中になっていたスペは当然ながら何も知らない。

かと言って、貴女の話しを聞いてませんでした…とも言えない。

どのようにしたら傷付けずに伝えれるのか…。

大人である悟空に頼ろうとした。

 

その時。

 

ブワッッッ!!!!!

突如。突風が巻き起こる。

彼女達は小さい悲鳴をあげた。

程なくしてから、ゆっくりと目を開ける。

 

そこには、エルを脇に抱えた悟空が佇んでいた。

 

 

エル「……………ほぇ?」

 

悟空「スカイ。さっきと同じ説明をスペに頼む」

 

スカイ「んぁ…?」

 

悟空「よろしくな!」シュン!

 

ウララ「行っちゃったね」

 

キング(逃げたのよ……)

 

 

スペ「あれ?悟空さんとエルちゃんは?グラスちゃんの事話すんじゃなかったのかな…?」ンー?

 

 

スカイ(むっ、胸が苦しー!)ズキン

 

キング(これならいっそ、無視しないで!って怒られた方がマシだわ…)ズキンズキン

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

ー 病室 ー

 

 

 

スズカ「ーーーそう。ハルウララさんがねぇ」

 

グラス「はい。凄く会いたがっていますよ。スペちゃんとエルで、スズカさんの事をたくさん教えましたから」

 

スズカ「っもう。……変な事は教えてないわよね?」

 

グラス「事実しか言ってないですよ〜。美しいウマ娘…、とか」

 

スズカ「ウソでしょ!?」

 

グラス「ふふっ、嘘ですよ〜」

 

スズカ「良かった…」ホッ

 

グラス「学園で5本の指に入るほどの美しいウマ娘。……が、実際に言った言葉です」

 

スズカ「盛りすぎでしょ!?……まさか、それを考えたのも、」

 

グラス「スペちゃんです」

 

スズカ「やっぱりそうなのね………」ガクッ

 

 

"シュンッ!!!,,

 

 

グラス「! あら〜、こんにちは」

 

スズカ「え?」

 

 

悟空「よっ!」

 

 

スズカ「悟空さん?今日は随分と早いですね」コンニチハ

 

悟空「いんやぁ、スズカのは別だ。今は…、」チラッ

 

グラス「?………私に何か?」

 

悟空「まぁな。いきなりでわりぃけど、立ってもらって良いか?」

 

グラス「え、ええ。構いませんが…」

 

悟空「もうちょいこっちまで来てくれ」

 

グラス「はい。………この辺りで良いですか?」

 

悟空「おう」

 

 

おずおずと困惑しながら佇むグラス。

ベッドの上でスズカも同じような顔付きで首を傾げていた。

 

 

悟空「………よし。グラスッ!」

 

グラス「ッ、は、はい!」

 

悟空「ばんざーいッ!!!!」

 

グラス「え、、え?」

 

悟空「早くしろって!間に合わなくなる!」

 

グラス「何にですか!?え、っと…、こ、こう?」スッ

 

 

少し気恥ずかしい思いからか、身を捩りながら両手を上げた。

 

その瞬間。

 

悟空の瞳が鋭く光る。

 

 

悟空「ハッーー!!」

 

 

気合いを込めた一声を出すと悟空の体はブレた。

大きな声ではないのに空気を叩くような力強さ。正面にいたグラスは思わず目を瞑ってしまう。

 

 

グラス「〜〜〜〜っも、もういい…ですか?」

 

悟空「おう。良いぞ」

 

 

恐る恐る目を開ける。

見たところ特に何も変わってなかった。

悟空も目の前にいるままで、スズカは、ーーポカンと口を開けている。

 

 

グラス「?……スズカさん、どうかしました?」

 

スズカ「……ぁ、……あのね?」

 

グラス「はい…?」

 

スズカ「ふ、服が、違うの……、」

 

グラス「服、ですか?」

 

 

スズカの指先を追うと、自然と視界に入った。

自分は制服を身に纏ってここに来たはず。だが、見えるのは赤と白を基調とした服だ。

それは制服に使われていない色であり、見覚えのある配色は学園指定のジャージではなかっただろうか。

 

 

グラス「な、ななっ、な!何ですかコレは!?」

 

悟空「見てわかんねぇか?」

 

グラス「分かりますよ!だからこそ訳が分からなくて、……ご丁寧に靴まで…。……一体どうやったんです?私、何も気付かなかったんですけど…?」

 

悟空「大した事はしてねぇさ。服を脱がせて着せた。それだけだ」

 

グラス「な、なるほど〜。並外れた速度だとこれほどまでに凄まじい………………脱がせた?」

 

スズカ(あー……)

 

 

理解をすると羞恥が襲う。

 

これまでには尻が大きいと言われ、頭と背が小さいと言われ。いきなり部屋にやって来たかと思えば下着を見られ。

その度に怒ってきた。

 

 

今後こそ。許す訳にはいかな、ーー

 

 

悟空「グラスッ!!!」

 

グラス「ひゃ、……はい!」

 

 

けれど。悟空の真面目な声に対しては背すじを伸ばし、胸を張って応えた。

 

 

悟空「グラス。これからやるオラの動きを真似してくれ」

 

グラス「……分かりました」

 

 

不服ながらも従う。

すると悟空は僅かに笑うと、屈伸を始めた。

 

 

悟空「いっちにー、さんしー」グッグッ

 

グラス「体操…?」

 

悟空「ほれ、グラスも」

 

グラス「あ、はい」グッグッ

 

悟空「いっちにー、さんしー」グッグッ

 

グラス「ごーろく、しち、はち」グッグッ

 

 

様々な箇所の筋を伸ばす。

腕立て伏せや上体起こし。スクワットなど、適度に筋肉を使い、約30分。念入りに体操をおこなった。

 

 

 

悟空「ーーーこんくれぇで良いかな」

 

グラス「ふぅ。………聞いて良いですか?」

 

悟空「すまねぇけどもうちょい待ってくれ。すぐに分かるからよ」

 

 

そう言うと、悟空はスズカの傍に行きーー、

 

 

悟空「うりうり〜」ワシャワシャワシャ

 

スズカ「きゃっ!悟空、さん!?」  

 

 

ガサツな手つきで頭を撫でた。

意図を聞こうにも、激しく舞う髪の毛で悟空の顔が伺えない。

とはいえ止めてもらおうという考えはなく、どこか温かみのある手のひらに身を委ねた。

 

 

悟空「ーースズカ」ピタッ

 

スズカ「んみゅ………あら?」

 

悟空「楽しんでたんだろうに悪ぃな。グラス借りんぞ」

 

スズカ「はい。私は大丈夫です………けど」

 

 

スズカはグラスに目を向ける。

きょとんとした瞳よりも、ジャージ姿とほんのりかいた汗に注目した。

とある考えが頭をよぎると悟空を手招きする。

 

 

悟空「なんだ…?」

 

スズカ「」チョイチョイ

 

 

用を聞くだけではなく、顔を近づけろとの事らしい。

 

 

悟空「んー?なんだよ」コソ

 

スズカ「もしかして、スペちゃんも関わってたりしますか?」コソコソ

 

悟空「!………だけじゃねぇけどな」ニヒッ

 

 

スズカから離れると、今度は優しく頭の上に手を乗せた。

 

 

悟空「夜になったらまた来るからな。それまでは良い子にして待ってんだぞ」

 

スズカ「はい。よろしくお願いします」

 

悟空「んじゃ、グラス。オラに捕まれ」

 

グラス「? はい」

 

 

瞬間移動でもするのだろう。

待ってくれと言われたからには、聞くのは今では無い。

グラスは悟空の裾を軽く握った。

 

 

スズカ「グラスちゃん」

 

グラス「何ですか?」

 

スズカ「私の責任でもあるからごめんなさい。そして、頑張ってね」

 

グラス「え?それはどういう、ーー」

 

 

最後まで言う事なく悟空達の姿は消える。

この後に待ち受けているものなんて、数日間楽しいだけの時間を過ごして来たグラスには想像もつかないだろう。

トレーニングを終えて帰る背中を、流し目で追っていたウマ娘がいた事を。

 

現時点。それだけにとどまらず。

 

ライバルが強くならない事を許さないウマ娘。

同期として手を貸すウマ娘。

走れる事を喜ぶウマ娘。

ライバルが憧れのウマ娘と密会してる事に嫉妬するウマ娘。

 

それぞれの想いを胸に抱いたウマ娘達と合流するまで、あと二秒。

 

 

 

熱血レース地獄の始まりだ。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

ーーシュンッ!

 

 

悟空「待たせたな」

 

『!!…………、』

 

グラス「?………皆さん揃って、何が…」

 

 

冷たい風が吹く今日この頃。

温めた身体も、じっとしていればすぐに固まってしまう。

だが、グラスはすぐに動けなかった。

 

目の前には湯気が見える程に仕上がったライバル達がいるからだ。

 

 

グラス「皆さんもジャージを………、これから走るのですか?」

 

スペ「…………」

 

エル「…………」

 

グラス「……ぇ、……どうして何も言わないんです?」

 

ウララ「………」

 

スカイ「………」

 

グラス「悟空さん。そろそろ教えていただけませんか?」

 

悟空「…限りなく本番に近いレースをするんだ。おめぇもリキ入れねぇと潰されちまうぞ」

 

 

悟空が一歩前に出る。

同時に動いたのはキングだ。悟空の正面に立ち、息を吸った。

 

 

キング「ーーーー整列ッ!!」  

 

 

鋭い声に反応してキングと横並びになる彼女達。

 

 

スペ「……グラスちゃん」チョイチョイ

 

グラス「わ、たしも…ですか?」

 

エル「……」コクン

 

 

訳もわからず言われた通り列に並んだ。

 

 

キング「悟空さん。ご鞭撻の程をよろしくお願いします」

 

悟空「べんたつって何だ?」

 

スカイ「トレーニングでいこ」ボソッ

 

キング「悟空さん!トレーニングの指導お願いします!」

 

『お願いします!!!!』

 

悟空「おう!…つー訳だ。グラス」

 

 

病室での運動。

スペ達のやる気に満ちた闘志。

そして、いまキングが言った事をまとめると状況は理解した。

 

ーーしかし。

 

 

グラス「トレーニング……。いつもの遊び、ではないんですか?何かあってからでは取り返しのつかない事に…」

 

悟空「心配ぇすんな。オラが本気で見張っとくし、終わってからはちゃんとケアもする」

 

キング「グラスさんも分かるでしょう?この人が本気でやれば私達は躓く事も出来ない。転んで倒れるなんて事はやりたくても出来ないのよ」

 

スカイ「当たり前だけど、自分の体に違和感を持ったらすぐにやめて悟空さんに伝える。我慢をする必要はない」

 

スペ「多分これが最初で最後だからね。気合い入れてやりましょう!」

 

 

クラシック路線最後の一冠、菊花賞を目前に控える者達が言うのだ。

 

 

グラス「……分かりました。悟空さん。私もよろしくお願いします」

 

悟空「ああ。んじゃまず、始める前に誤解しねぇよう1つだけ言っとく」

 

 

彼女達は頷いた。

 

 

悟空「オラがやるトレーニングだからといって特別強くなる事はねぇ。言っちまえば、オラはおめぇ達のトレーナーより大分劣ってる」

 

エル「そんなにデスか?あまりそんな風に思えマセンが…」

 

悟空「それは少なからずウララが結果を出してるから思うんだろ。んでも、その根底にはキントレっちゅー正式なトレーナーの考えがある。オラだけのものじゃねぇ」

 

キング「確かに…。貴方達よく話しているものね」

 

悟空「そういうこった。だから間違っても、おめぇ達のトレーナーよりオラの方がスゲェなんて思っちゃダメだ。ちゃんと師には敬意っちゅーのを払わなくちゃいけねぇ。分かったな?」

 

『はいっ!』

 

悟空「だからオラはオラだけに出来るトレーニングをする。これは普段ウララとやってるけど、ウララも他の奴を混えてやるのは初めてだ。天狗になってっと、龍球ステークスの時みてぇに "また,,痛い目みるから気をつけんだぞ」

 

ウララ「は、はい!………ぅぅ」

 

スカイ「oh…。………ぐ、具体的には何をするの?」

 

悟空「距離を決めてレースをする。その中でオラが色々指示を飛ばすから、その通りに走ってくれ。もちろんオラも一緒に走っから」

 

エル「ヘーイッ!盛り上がって来マシタァ!」

 

スペ「それでこそ悟空さんだよね!」

 

ウララ「距離はどうするの?」

 

悟空「とりあえず1600ってとこかな」

 

キング「マイルね。まぁちょうどいい、ーー」

 

悟空「そんで2000、2200、2500、って順番でやろうと思う」

 

スカイ「ぇ、」

 

悟空「あ、終わる度に着順を聞いてくから覚えていてくれ」

 

スペ「拷問……かな?」

 

悟空「んじゃ楽しく着順を言うにはどうしたら良いんだ?」

 

エル「1着を獲れば良い!」

 

悟空「そうだ!んじゃ気張って行くぞォ!」

 

ウララ・エル・キング・スカイ・スペ

『はーい!』

 

悟空「んー…、なんか違うなぁ…」

 

キング「今度は何よ」

 

悟空「…………あ、気合い入れる時は「おおっ!」って言ってくれ」 

 

キング「……それ、必要?」

 

悟空「すげぇ大事だ。そんじゃあもう1回!気張って行くぞォオオオ!!!」

 

ウララ・エル・キング・スカイ・スペ

『おーッ!!』

 

 

ぞろぞろとスタート地点に向かう彼女達。その1番後ろにはグラスがいた。

どことなく、こわばった表情をしている。

 

 

グラス(………大丈夫。いつものように集中すれば良い…)

 

 

普段なら願ってもない好機だと喜んでいただろうに、今はバクバクと心臓が慌ただしく動いている。

緊張しているのだろう。

しかもその緊張する相手が悟空ではなく、闘争心溢れる彼女達の方だと分かると、余計に鼓動が大きくなった。

 

 

 

      ・

      ・

      ・

 

 

 

悟空「内からウララ、スペ、グラス、キング、エル、スカイに並べ!」

 

スカイ「えー、外かぁ…」スタスタ

 

キング「この人数なら特に関係ないでしょう」スタスタ

 

 

ゲートはなく、ただ線を引いただけのもの。

悟空は彼女達の後ろに立った。

 

 

悟空「そんじゃあまずは1600m。ゴールには白い線を引いてるからそこまでだ!準備はいいな?」

 

スペ「おおっ!」

 

エル「オーケー!」

 

悟空「よし。ーーーースタートだッ!」

 

 

パン!と手を叩くと走り出す彼女達。

早々にバ郡を作り、先頭にスカイが立つと、その後ろにエル。そしてスペがついた。

 

 

エル(……今回は先行策デスか。ワタシに注意を向けたようデスね)

 

スペ(マイルはG1を獲ったエルちゃんをマーク。スパートをかける直前に私が先手をとる!)

 

 

第2コーナーをまわり、頭の中でレース展開図を作る。

ここにいる者達は世代を代表するウマ娘達。それは想定通りに事を運べるだろう。

 

 

悟空「………」

 

 

彼というイレギュラーがいなければ。

 

 

悟空【スカイ。エルとスペがやり合ってる。小細工入れねぇとやられんぞ】

 

スカイ「っ!……………にゃは」

 

 

安定のレース展開を崩しにかかる悟空。

スカイは差し脚のスパートを混乱させるために速度を上げた。

 

 

エル(!?もう決めに…?)

 

スペ(………まだ…、脚を溜める)

 

 

先頭はポツンとスカイが残り、番手追走のエルとスペを置き去りにしていく。

その横を通り過ぎるのは、キングヘイローだ。

 

 

スペ「ッ!」

 

キング(あのヒトを自由にさせたら駄目。多少無理してでも!)

 

 

あっという間にスペ達を抜いてスカイに追い縋る。

スカイは、足音と共に視界に入って来たキングを横目で確認すると、番手に居たのはキングだけではなかった。

 

 

ウララ「おおおおおおおっーーー!!!!!!」

 

スカイ「な、に…っ」

 

 

外から捲るキングに注意をとられ、内から食い込むウララに気付かなかった。

しかもそれはキングの後ろについていたため、キングも驚きのあまり目を見開いている。

 

 

悟空「ぶち抜け!ウララぁっ!」

 

ウララ「行くぞーーー!」

 

 

最後の直線に入る間際、ウララはちゃんと気付いていた。

 

 

ウララ(このまま先頭に行きたかったんだけど……、くっ、)

 

 

マイルのG1を獲った者はエルだけではない。

学園に入った当時。新入生のG1レースである朝日杯FSで勝ち、最強の1人として数えられた怪物が、そこにいた。

 

 

グラス「いざッ!」

 

 

ドンッ!

鬼の切れ味を発揮するために力強く踏み込んだ。

残り200m

最内で先頭に立ったグラスは最後にスパートをかける。

 

直後だった。

 

ドクンッ…と、鼓動が大きく脈をうった。

 

 

グラス(なんっ…!?)

 

 

ジリジリと背中が熱い。

つい、ゴールから目線を外して辺りを見渡した。

 

 

スペ「行かせるわけっ、ないでしょ……!!」

 

 

グラスの横に並びかける彼女。

食いしばった歯を剥き出しに、充血した目を見せた。

 

 

グラス「ッ!す、ぺちゃんっ」

 

 

だけじゃない。

スペの後ろにはエル、キング。間から抜けようとウララが駆け出し、グラスの真後ろにはスカイがいた。

その時もう一度鼓動が暴れる。

ようやく分かった。

これは彼女達のプレッシャーのせいだ。

 

 

グラス(…ふふっ、面白いです!ここで誰が1番速いかを教えてあげて、)

 

 

 

 

グラス「ーーーーーーあ、れ?」

 

 

 

 

悟空「……………」

 

 

 

 

      ・

      ・

      ・

 

 

 

ーーハァ、ハァ、ハァ、ハァ。

 

 

悟空「んじゃ聞いてくぞ。ーー1着!」

 

エル「世界最強!エルコンドルパサー!!」

 

悟空「さすがエルだ。2着!」

 

スペ「わた、し、だよぉおお!あーん、悔しいぃいい!」

 

悟空「ははっ、惜しかったなぁ。3着!」

 

キング「はぁ、……私よ」

 

悟空「分かりやすく拗ねてんなぁ、次頑張れ。ほい、4着!」

 

ウララ「はーい!」

 

悟空「元気あっていいけど、オラ的には複雑だぞ…」

 

ウララ「えへへ、………やっぱり?」

 

悟空「んでもたりねぇ部分も分かった。やっぱパワーが足んねぇな。これからは、ーー」

 

キング「悟空さん。注意ならともかく、弱点をみんなの前で言うのは駄目よ」

 

悟空「あ、そっか。ははっ、わりぃわりぃ。んじゃ話し戻して、5着!」

 

スカイ「……はぁい」

 

悟空「やっぱ途中でスピード上げたのはマズかったか?」

 

スカイ「んーん。そうしなきゃ駄目だったし、強いて言うならウララに気付かなくて驚いた時かな。あの時にバランス崩しちゃったんだと思う」

 

悟空「そうだなぁ。オラもそう思う」

 

ウララ「やっぱりキングちゃんに隠れて行ったのは正解だったね!作戦通りー!」

 

悟空「あ、こら!」

 

スカイ「…………へぇ?」

 

スペ「んー?どういう事?」

 

スカイ「私にもそうだったけど、指示をするのにテレパシーを使ってるの」

 

エル「だからあの時スピードを上げたんデスか。意表をつかれマシタ……」

 

悟空「ま、まぁ…、ほら!今回はスカイやウララだったけど、ちゃんと全員にするつもりだから、なっ!」

 

スペ「むー…」

 

悟空「ほれほれ、拗ねんなって。……さて、6着!」

 

グラス「…………はい」

 

悟空「おめぇはどうしたんだ?最後に伸びが悪かったけどよ」

 

 

悟空の言う通り、残り100mまでは先頭を走っていた。

けれど気が付けば最後尾でゴールを過ぎ去っていたのだ。

 

 

グラス「……分かりません。言い訳になってしまいますが、脚が思うように動かなくて…」

 

悟空「そうか。念の為に脚の具合は見とくな。大丈夫なら次は頑張ろうぜ」

 

グラス「はい」

 

 

グラスがズボンを捲り上げて悟空が触診する。

 

その背後には。

 

意地の悪いニヤついた笑みを浮かべるウマ娘が4人もいる事をグラスは知らない。

 

 

スペ「トレーニングに力入れてなかったらそりゃあ脚もついて来ないよね」ボソボソ

 

エル「ふっふっふっ。腑抜けワンダーに負けるコンドルではありまセーン」ボソボソ

 

キング「ちょっと可哀想な気もするけど、これも本人のためよね」ボソボソ

 

スカイ「まぁ、これも実力の内ってとこかな」ボソボソ

 

ウララ「でも…、かなり危なかったよね?」ボソッ

 

エル・キング・スカイ・スペ『しぃーっ!!』

 

エル「それを言ってはいけマセン」ボソボソ

 

スペ「そうだよ。体たらくなウマ娘と同等なんて認めちゃダメなんですっ」ボソボソ

 

キング「でも本当に気をつけないと…。1回でもグラスさんの下をとったら全て無駄になるわ」ボソボソ

 

スカイ「私達が圧勝して、怠けた自分が悪いんだって思わせないとね〜」ボソボソ

 

キング「それ、自己紹介?」

 

スカイ「……………」

 

 

 

スカイ「ハァ"ン!?」

 

キング「あ、ごめんなさい。貴女も負けた時にそう思ってる?と、疑問になって…つい」

 

スカイ「ハァ…、全く。キングはさぁ、何かにつけて私をサボりウマ娘に仕立て上げようとしてるよね?」

 

キング「事実を言ったら駄目というルールあったかしら?」

 

スカイ「……いんやぁ、全然オーケーだよ。ね?サボりウマ娘に 一生ッ! 勝てないお嬢様?」

 

キング「……あら?たった今貴女より先着したけれど?」

 

スカイ「すっごいね〜。3着で自信満々に言えるんだ〜。さすがキング!私には出来ないよ!」

 

キング「…………」

 

スカイ「…………」

 

 

キング・スカイ「「ふんっ!」」ガシッ!

 

 

 

 

 

 

悟空「ーーーーうん、問題ねぇな。グラス自身はどうだ?」

 

グラス「大丈夫です。違和感なども特にないので」

 

悟空「そんなら再開すっか」

 

グラス「見ていただきありがとうございます」

 

悟空「気にすんな。そんじゃあ、ーー」

 

 

スペ「悟空さーん」

 

 

悟空「んー、どした?」クルッ

 

 

 

キング・スカイ「「ふむむむむむむむっ!!!!」」ググググッ

 

 

 

スペ「キングちゃんとセイちゃんが喧嘩しましたー!」

 

悟空「こんな短ぇ時間のあいだに取っ組み合いまでして何やってんだ!?」

 

 

 

      ・

      ・

      ・

 

 

続く2000m。

おなじみハナをとったスカイを追ってエル、そしてウララが追走。前走の走り方をやり返すようにウララの後ろにピッタリとついたキング。

そのプレッシャーからウララはジワジワとスタミナを削られるが、悟空との修行で培った超根性を披露して粘り強さをみせる。

しかし、直線にてごぼう抜きをしたスペが見事勝利を掴んだ。

 

 

スペ「やったー!!このメンバーで勝てれば私が2000で最強って事で良いんじゃないですか?

私が皐月賞バって事で良いですよね!」1着

 

スカイ「うん、何一つ良くないね〜。なぜなら私が皐月賞バだから」2着

 

ウララ「んーーーッ!すっごく上手くいったのにぃ!!!」3着

 

キング(ウララさん、掛かってたわよね?)「………恐ろしい子だわ」4着

 

エル「ば、ばかな…、このエルが……っ!」5着

 

グラス(なんでまた脚が……、途中までは普通に走れてるのに、スパートがかけれない…)6着

 

悟空「良くやったなスペ。離されずに脚を溜める。口では簡単に言えても、それが難しい事くらいオラにも分かる。完璧な走りだったぞ」

 

スペ「えへ、……ウヒヒヒヒヒヒ!」

 

キング「嬉しいのは分かったから、もう少し品のある笑いしなさいな……」

 

ウララ「ユーレーかと思っちゃった……」

 

 

なんて事ない会話だが隠しきれない息切れが目立つ。

併走やランニングではなく、中距離のレースもどきを2回も走ればさすがに堪えるのだろう。

 

とはいえ、彼にはランニングにもなりやしない。

 

 

悟空「おーい。早く来いよー。次行くぞー」

 

スカイ「休憩求めまーす」

 

悟空「却下すんぞー」

 

キング「ほらっ、行きましょ」スッ

 

スカイ「ちぇー」ギュッ

 

 

渋々とスタートラインに行く者もいれば、わざと遅く行って体力回復を望む者もいる。

やはりというべきか、1番後ろにいるのはグラスだ。もはや彼女に笑みは無い。

 

 

ウララ「次はどこの枠に入れば良いの?」

 

悟空「そうだなぁ、………好きな所で良いぞ!」

 

スカイ「っし!1枠もらい!」シュバッ

 

スペ「はやっ!?じゃあ、私は4枠かな」

 

キング「私もあまり挟まれる所には入りたくないわね」

 

スカイ「じゃあ内の2枠で逃げれば?…………ダービーの時みたいに」

 

キング「良い度胸じゃないっ、ノッたわ!!」ダービー+逃げ=14着

 

エル「やれやれ、煽り耐性ゼロキングデース。……グラスはどうしマス?」

 

グラス「………6枠もらいます」

 

エル「ふむ。外から捲りマスか。……ではワタシは3枠で」

 

ウララ「5枠!のっこりものには福がある〜」

 

悟空「決まったな。おめぇ達、少し聞いてくれ」

 

 

ウマ娘6人の眼が悟空に向けられる。

 

 

悟空「これまで1600、2000って走ってきたけど、そろそろ疲れたろ?」

 

スペ「まぁ、……ちょっと?」

 

悟空「そうか?」

 

スペ「かなり疲れました」

 

悟空「だよな。けど、そんな時だからこそ、いつも以上に集中しなきゃならねぇ。

そこでだ!スタートの時、オラがテレパシーで誰か1人に対して合図をするから、そいつが飛び出した時が、スタートだ!」

 

ウララ「えーっ!なんかずるーい!」

 

悟空「そんな事ねぇぞ?出遅れる時もあれば上手く行く時もある。けど、めっちゃくちゃすげー上手く出る奴だっているはずだ」

 

エル「実際、開始直後に数メートル先にいるウマ娘もいますから、間違ってないデスネ」

 

悟空「そうだろ?そうなったらまずは冷静に対処しなきゃならねぇ。そんで今回はそれに加えて反射神経を使う」

 

スカイ「飛び出したヒトを瞬時に把握して出なきゃ、絶望的なまでに差が広がるって事だね」

 

グラス「…でも、横ばかり見ていると脚が動かない」

 

悟空「その通り。だからおめぇ達は前を見つつ感覚を鋭く保て!疲れてくると身体は無意識に楽な方へ動いちまうからなぁ。ちゃんと意識しながら行動すんだ!」

 

『はい!』

 

悟空「次は2200m、行くぞ!」

 

 

 

 

荒々しい息。大きく揺れる肩を抑え、ターフには木が囁くような葉音だけが響いていた。

 

 

 

エル(………くっ、変な緊張デス)

 

ウララ(だれ……、いつ出るの…?)

 

 

静まる空間。

体勢を整えるために動いた足がジャリ…という音を鳴らし、誰かと身体がピクリと動く。

 

 

グラス(………)

 

スカイ(うー…、悟空さんってたまに性格悪いよね〜。セイちゃんは待つのが嫌いなんだよ〜)

 

 

何分経ったのだろう。

10分と言われても納得するほどに体内時計が狂い始める。

 

 

 

我慢の限界が来た。

 

 

 

スペ「まだ、ーー」

 

悟空【行け!】

 

???「ッ!」ダッ!

 

 

彼女はしっかりと悟空のテレパシーに反応して飛び出した。

 

 

スカイ「ッ!や、ばッ…」

 

 

スペの声に気を取られ、まさか本当に…と、複数の悪条件が重なり合ったスカイは瞠目した。

 

 

飛び出したのはキングヘイローだ。

 

 

キング「逃げてやるわよ!距離は違うけれどダービーの雪辱を果たすッ!」

 

 

2番手についたウララ。しかし先頭のキングまでは既に6バ身も離れている。

 

 

ウララ(中盤まで脚を溜めて、それからロングスパートをするしか…………って、)

 

スペ(ッ!キングちゃん、飛ばし過ぎじゃない!?)

 

 

ロケットスタートに加えて逃げを選択したなら、差が広がるのは当然の事だ。しかし、差が広がり続けるのはおかしい。

 

それはまるで。

 

 

グラス「す、スズカさん……?」

 

エル(…………最悪デス。嫌な事思い出しマシタ)

 

 

思い出すのは圧倒的な力で潰された毎日王冠。こっちがいくらスピードを上げても遠ざかる背中。

 

 

スカイ(無茶だよ、キング。大逃げは私にも出来ない。それはスタミナを尋常じゃないくらい使うんだよ)

 

 

それでも緩める事をしないキングは第3コーナーを曲がった。

 

 

キング「ハッ、ハッ、ハッ、ーー」(さ、さすがに苦しい…!まだ700mはあるのにっ)

 

 

少しずつ脚の回転が弱まる。口が開いたままになり、頭の中が真っ白になる感覚。

心当たりがあった。

 

 

キング(………ほ、んとうに、ダービーの時と、いっしょ、ね)

 

 

目の前が滲んで見えるのは汗が入ったからなのか。食いしばった歯が痛いのは力を振り絞ってるからなのか。

 

それは違うとキングは即答した。

 

滲むのは目尻に涙が溜まっているから。歯が痛いのは悔しさのあまり、食いしばっているから。

 

 

情けないのは全部分かってる。

 

 

それでも。

 

 

 

キング「これだけは、勝ちたいの…………だから、」

 

 

 

キング「手伝って…!」

 

悟空「おう」

 

 

最後の直線。残り500m。

キングの隣で並走している悟空は後ろを走る彼女達に呼びかけた。

 

 

悟空「おめぇ達!キングの奴がこのまま行くから早めに上がらねぇと負けちまうぞーッ!」

 

 

後方勢、固まるバ郡は一発の大砲のようにキングへと襲いかかる。

 

 

悟空「キング。前にやった走り方を思い出せ。無理に筋肉を使わず脱力すんだ」

 

キング「ッ!くっ、」

 

悟空「力むな。こんな時だからこそ一回深呼吸をはさめ」

 

キング「………、」

 

 

呑気だと思うか。

違う。勝つために無駄にする1秒だ。

そして。あの時の走りを思い出すために0.7秒。身体から力を抜くのに0.5秒。

 

すぐ後ろには足音が響く。プレッシャーが背中に圧迫感としてのしかかる。

 

その背中には大きな手が伝っている。

 

 

悟空「キング。オラが手を置いている部分に集中しろ。肩甲骨の力みを無くす。上下には動くな。そのために腿は、ーー」

 

キング「上にあげず膝蹴りをするみたいに、でしょ?」フッ

 

悟空「!…………おし、勝つぞ!」

 

キング「ええ!」

 

 

悟空の手が離れ、山吹色は姿を消す。代わりに現れたのはピンク色の髪。

 

 

ウララ「ま、けるものかぁあああああ!」

 

キング「…………………いえ、」

 

 

 

キング「負けてもらうわ」

 

 

今、激情に委ねるのは悪手。力みを消すにはリラックスしなければならない。

キングはゴールの白線だけを視野に入れると、奇妙な錯覚に陥った。

 

 

キング(あら、………何だか、…………世界に、1人だけ残された気分だわ…)

 

 

周囲から音が消えた。自分は走っているのに何も感じない。

不思議な事に。

その世界はただ、気持ち良かった。

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

キング「ーーーッしゃあぁあああああ!!!!宝塚記念は私のものよ!」1着 

 

スペ「嘘!私のだもん!」2着

 

エル「スペちゃんは完膚なきまでに負けたじゃないデスか」3着

 

スカイ「くっそー!まさか本当に逃げ切るとは…、恐れ入ったよ」4着

 

ウララ「最後の最後でこんなに差されるなんてことある……?」5着

 

グラス「っ…!」6着

 

悟空「キング。おめぇはすげぇけど、工夫しだいではもっと上手く行けたはずだ。さっきのを忘れねぇようにしねぇとな」

 

キング「当然よ!必ずモノにしてやるわ!」

 

悟空「その意気だ。そんで、エル!おめぇは完璧な走りだったけど、何で3着だ?」

 

エル「ケ?……んー、確かにそーデスねぇ、途中で大逃げ対策に切り替えれたし、勝負所は合っていた。………………あはっ!単純にキングの方が速かっただけデェス!」

 

悟空「……ひひっ、まだまだ行けるな?」

 

エル「当ッッッ然ッ!!」

 

スペ「………、」

 

 

 

スペ「エルちゃん、エルちゃん」チョンチョン

 

エル「どーしマシタ?」

 

スペ「今のレース、私2着だったんだけど?

正しく言うなら、キングと "スペちゃん,,の方が速かった…なんじゃないですか?」

 

エル「……最後2500!気合い入れて行くぞー!」

 

スペ「あれ!?無視!!?」

 

ウララ・キング・スカイ『オー!』

 

スペ「みんなまで!?」

 

 

 

 

グラス「……………」

 

 

1人、離れた所にいるグラスは目を瞑り、呼吸を整えていた。

 

 

グラス(……3戦連続最下位。……脚が重い。でもそれは皆さんも同じ事。ーーーーなんたる未熟かッ!)

 

 

己の無様な姿が許せない。

グラスは足を上げて、怒りのままに地面へ叩きつけようとした。

 

 

悟空「グラス」

 

 

しかしグラスの足は空中でピタリと止まると、静かに、重力に従って地面に降ろした。

 

 

グラス「ご、くう……さん…」

 

悟空「グラス。おめぇのソレは…、前搔きはそんな事に使うんじゃねぇだろ」

 

グラス「………ぁ…、」

 

悟空「勝てねぇのが悔しいか。追いつけねぇのが情けねぇのか。色々思う事があんだろうけど、ソイツを真っ向から受け止めるのがグラスだ。前搔きで当たり散らすのは、おめぇ自身の心を否定する事につながる」

 

グラス「………は、い」

 

悟空「それに、おめぇの前搔きは別に能力が上がる訳じゃねぇ。コントロールした闘志をあえて剥き出しにするためのもの。身も心もついて来てねぇ今やると怪我すんぞ。例えんなら、0から80じゃなく、100から140%に上げる……みてぇなもんかな」

 

グラス「………悟空さん。私は、負けたくないです」

 

悟空「……今日はもうやめだ」

 

グラス「どうしてっ!」

 

悟空「元々最後の2500はおめぇを走らせるつもりはなかった。準備運動したっつっても、いきなり連れて来ちまったから"気,,が出来上がってねぇしな」

 

グラス「…………いやです」

 

悟空「駄々こねんなって。走らなくてもおめぇには大事な仕事が待ってんだからよ」

 

グラス「しごと…?」

 

 

悟空の視線を辿る。

 

 

そこにあるのは……。

 

 

 

ウララ「次で最後かぁ。………もう負けられない」

 

スカイ「宣言して良いよ。私が逃げ切る」

 

キング「私なら全員まとめて差せれる」

 

エル「コンドルの捕食からは誰も逃れられマセン」

 

スペ「2、1、2…」

 

ウララ「なんの数字…?」

 

スペ「………私の着順って成績トップだね」

 

『は?』

 

 

 

グラスから見えるのは彼女達の後ろ姿だけ。

スタートラインに立ち、疲労を感じさせない凛とした佇まいで前だけを見ている。

 

 

グラス「………」

 

悟空「グラス。おめぇが今見なきゃいけねぇのはゴールでもスズカでもねぇ。アイツらなんじゃねぇのか?」

 

グラス「……………はい、……そうです。私の、ライバル…」

 

悟空「そんならおめぇの仕事はアイツらから目を離さねぇ事。ほら、オラに背中に乗れ」

 

 

悟空はしゃがみ込んでグラスに背を向けた。

 

 

グラス「えっ…!お、おんぶですか!?それはちょっと、………色々と恥ずかしいです…」

 

悟空「気にすんな。3戦連続最下位の方が恥ずかしいから」

 

グラス「はうっ!!……………失礼します」ノシッ

 

悟空「おう。………あ、」

 

グラス「ど、どうしました!?やはり汗くさいですか!?」

 

悟空「何言ってんだおめぇ。そうじゃなくてよぉ、最後だし、ちょっと面白ぇ事でもしよーかなーって」

 

グラス「???」

 

 

 

 

スカイ「ねぇ、みんなスタミナどのくらい残ってる?」

 

キング「そんな事バカ正直に言う訳、」

 

ウララ「40くらい!」

 

キング「言うのね…。……ちなみに100ある中の40なのかしら?」

 

ウララ「うん!あー、でも…。やっぱり30かなぁ」

 

スペ「だいぶ下がったね。私は、」

 

 

>よーーーい!ドンッッッ!!!!!

 

 

エル「1抜け!」ギュンッ!

 

スカイ「くっ、遅れたっ!」シュンッ!

 

ウララ「まだウララだけしか言ってないのにぃ!」ドンッ!

 

キング「ずるいわよ!あなた達!」ザッ!

 

スペ「公平に聞こえたから反応速度の問題だと思う!」ビュン!

 

キング「それじゃあスペさんの反応速度はビリね!」

 

スペ「勝負はこれからだよ!」

 

 

 

悟空「おー!想像以上に盛り上がったなあ!」

 

 

スタスタと、ようやくスタート地点に立った悟空は呑気に呟いた。

 

 

悟空「よし。オラ達も行くか」

 

グラス「はい」

 

悟空「走る事とか一切気にしなくて良いから、グラスはアイツらの走りにだけ集中しててくれ」

 

グラス「分かりました」

 

悟空「んじゃ、しっかり捕まってろよー!」

 

 

悟空は成立したバ郡の様子を窺う。

今1番後ろにいるのはスペだ。すぐ隣にはキングがいる。

先頭のスカイが第1コーナーを周った辺りで、悟空はスタート地点から一瞬で最後尾についた。

 

 

悟空「ッ…!!!」

 

 

すると悟空は驚愕に目を見開いて、すぐさま身を翻し、スタート地点へと向かった。

じんわりと悟空の額に汗が滲む。少し息も切らしているようだ。

それもそのはず。

悟空の両手には、背中にいたはずのグラスが挟まっていた。

 

 

悟空「ちゃんと捕まってろって言ったじゃねぇかぁっ!」

 

グラス「悟空さんが速すぎなんですよ!」

 

 

言われた通りグラスはしがみついていた。

しかし、だ。

動物界最速と言われるチーターが100kmの速度を出すのに3秒以上かかると言われているのに対し、初速から100kmオーバーの速度を出されては簡単に振り解かれてしまう。

とはいえ、悟空の戻る速度はそれ以上のもの。

グラスが悟空の背中から離れて地面に落ちるまでにはキャッチされていた。

 

 

悟空「グラス!早く乗れ!今度はオラも持っとくけど、おめぇはもっと力入れろ!」

 

グラス「ですが、どこを掴めば…」

 

悟空「首に手ぇまわせ!おめぇ程度の力なら気ぃ失う事もねぇから!」

 

グラス「首を!?は、はいっ!」

 

 

これでもかという程に力を込めるグラス。傍から見ればチョークスリーパーさながらの締め技だ。

 

 

悟空「第3コーナー手前か」

 

 

顔色一つ変えない悟空は先頭のスカイを視野に入れると、ほんの僅かに目を細めた。

 

 

悟空「ーーーーーキッ!………グラス。スカイを見てみろ」

 

グラス「セイちゃん、ですか?」

 

 

3コーナーを過ぎても依然としてスカイが先頭だ。続くエル。少し離れてスペ、キング。そしてウララがいた。

 

 

グラス「……セイちゃんが何か?」

 

悟空「気付かねぇか。修行不足だな」

 

 

グラスの足を持つ悟空の手に力が込められる。動き出す瞬間の合図だ。

 

 

ーードンッッッ!

 

 

グラス「〜〜〜っ、ぅ、は、や…!」

 

 

瞬間移動やターフの真ん中を突っ切らず、ご丁寧に同じターフを駆け出す悟空。

グラスは悟空の背中に顔をうずめて、荒れ狂う風の暴力から身を守った。

気がつけば3コーナーの入り口。そして、バ郡の超大外を通り、2番手を追走するエルの横にピタリと並んだ。

 

 

エル「!!!」

 

悟空「エル。作戦は?」

 

 

まるで世間話をするように話しかける悟空。

だが分かってほしい。

中距離4戦目に加えレースの終盤に迫ろうとしている所。

口を開けば、ハクハクと声にならない声が漏れるだけだ。

 

 

悟空「エル」

 

エル「っ、……スカ、イっ、はやく、なった…、エル……もっ、」

 

悟空「そうか。でも今は脚を溜めろ」

 

エル「!?」

 

悟空「スカイが速くなったのはオラがぶつけた "気,,で掛かってるだけだ。そのせいで呼吸と手足の連動が噛み合ってねぇ」

 

 

エル。そしてグラスも、スカイを注意して見た。

しかし呼吸と言われても、見えないし聞こえない。手足の連動に関しても悟空を疑うほどに何も変わらない様子。

 

 

悟空「いいか、今は抑えるんだ。必ずスカイに隙ができる。でもヤツはすぐに立て直すから、その瞬間が勝負の決め所だ」

 

エル「…………」

 

 

もはやエルは声を出せない。

来たるべき瞬間を見逃さないようにスカイだけを見張った。

難なく4コーナーを終えて最後の直線。焦りが無意識に脚を早めてしまう。

本来ならばもうスパートをかけているのだ。

 

そしてスカイもスパートをかけた。

 

 

その時。

 

 

スカイ「ッ!?」

 

 

ガクン…と、踏み込んだ右脚が小さく沈んだ。

 

 

悟空「ーー今だ!決めろエル!」

 

エル「ぉ、……オォォケェエエエエ!!」

 

 

残り少ない力を振り絞りスカイへと迫った。

 

もう直線だ。残りも300mほどしかない。

 

後方勢の差しトリオが末脚を爆発させて猛威を振るうだろう。

 

 

悟空「スペ!外ばっか行くな!オラの内から抜けろ!」

 

スペ「っ、はい!」

 

 

3番手悟空の後ろについたスペは、最内、僅かに1人通れるスペースに目を向けた。

身を屈め、力強く踏み込むと一気に悟空に並びかける。

 

 

悟空「ーーそんでオラに並んだっつー事は、だ。スペ」

 

スペ(………え?)ゾワッッッ

 

 

外を走るよりもスタミナの消費を抑えれる最内。

そこはレース終盤には似つかないほど、暗く冷たい場所で、スペの脳裏には地獄という混沌の世界が浮かび上がった。

 

スペには分かる。

 

 

悟空「………この"オレ,,とやり合う気か?」

 

 

全部、彼のせいだ。

 

 

スペ「ひっ、」

 

 

見なくて良いものの見てしまった。

揺らめく金色の髪に、こちらを見下ろす冷徹な碧い眼。

心の最奥部まで刷り込まれた絶対に覆せない力の差。

蛇に睨まれた蛙どころではない。隕石が墜落するのを眺める人間だ。

 

勝負をする気にもならな、ーー

 

 

グラス「スペちゃん!!!」

 

スペ「っ!ぐ、らす、ちゃん……?」

 

 

たった今気づいた。

彼の背中に乗る栗毛の彼女。

 

 

スペ「ーーーぉ、」

 

 

一部始終、彼女が見ているのなら話しは別だ。

 

 

スペ「ォオオオ……!」

 

 

 

止まれない。………負けられないっ!

 

 

 

スペ「オオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!」

 

 

 

彼の気迫が何だ。戦闘民族がなんだ!

レースの上では1人と1人!勝った者が強い!

 

 

スペ「オオオオオオオオオオ!!!」

 

 

さっさとゴールに行ってしまえば何も怖くない。

 

 

あんな冷たい眼なんて忘れる!

 

 

心臓を握り潰される感覚なんて覚えてない!!

 

 

 

死んだかも…なんて考えてない!!!

 

 

 

スペ「オオオォォォォ…ォ………ぉ……」

 

悟空「ん?」チラッ

 

スペ「ひぃっ!」ビクッ!

 

悟空・グラス「「あ……」」

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

スカイ「ど、うだぁあああ!逃げ切ったぞ有マ記念!!」1着

 

エル「掛かってたくせに」2着

 

スカイ「え?バレてたの!?」

 

キング「本当なの?」3着

 

スカイ「うん。今だから言うけど、速く行かなきゃ!って思って」

 

ウララ「…………心臓、ドクンっ!ってならなかった?」4着

 

スカイ「………なった、けど…」

 

エル「それ悟空さんの圧力らしいデス」

 

ウララ「やっぱり……」

 

スカイ「…………悟空さーん!説明ー!」

 

 

悟空「………ちょっと待ってくれー」

 

 

声がしたのは背後からだった。

という事は、たった今ゴールを過ぎた事になるが…。

 

 

スカイ「…………うん。ほんとに説明してもらっていい?」

 

 

ゴールをした者上位4名は悟空から目を離せないでいた。

何故か今でも、背中にしがみついたグラス。

 

さらには。

 

 

スペ「………へぅ…」グスッ、ギュゥゥゥ!

 

 

コアラのように抱っこされているスペがいるのだ。

 

 

悟空「え、と……なんつーか、」

 

キング「……貴方、またやったわね?」ジロッ

 

悟空「は、ははっ、……うん」

 

 

キングには見覚えのある光景だ。

その当時、ピンク色のコアラウマ娘は言った。

 

 

《悟空さんが悟空さんじゃなくなっちゃったよぉおおおおおお》…と。

 

 

ウララ「怖がらせるのはダメって言ったじゃん!」

 

悟空「だってよぉ、アレ乗り越えれたら強くなると思って…」

 

ウララ「それでも、だよ!…………睨んだだけ、だよね?」

 

悟空「…………ほんのちょっぴり付け足したけど、似たようなもんだ」

 

ウララ「何を付け足したのかな?」

 

悟空「………超サイヤ人と脅し文句、です」

 

ウララ「それはダメだよ!慣れて来たウララでも倒れてるじゃん!」

 

悟空「……だって、」

 

ウララ「だっては禁止!ちゃんと謝ってね!?」

 

 

 

エル「オーウ…。珍しい光景デース」

 

スカイ「だねぇ…」

 

悟空「あ、スカイ!」

 

スカイ「んー?」

 

悟空「よく頑張ったな!偉いぞ!」スッ

 

スカイ「!………もー、しまらないなぁ」クスッ

 

 

パンっ!と、手が合わさった音が夕焼けのターフに響く。

これで全てのレースを終えた訳だが、それからが悟空にとって1番大変だった。

 

 

悟空「ほーらスペ。オラを見てみろ。全然怖くねーだろ?」

 

スペ「………ん」モギュ

 

悟空「ダメだこりゃ」

 

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

キング「……せいれつ」

 

『りょーかい』

 

 

ようやく落ち着きを取り戻し、悟空の前に並ぶウマ娘達。

 

 

悟空「まずは、お疲れさん。今回の事で色々と話してぇけど、一刻も早く脚をケアしてぇから、さっさといくぞ」

 

『はい!』

 

 

 

悟空「んじゃ、エル!」

 

エル「ハイ!」

 

悟空「おめぇはやっぱレースの感が群を抜いてる。直す所はねぇけど、筋肉はもう少しつけた方が良いと思う」

 

エル「筋トレデスね!合点承知デス!」

 

 

 

悟空「キング」

 

キング「……ん」

 

悟空「………アレを極めろ。おめぇには素質があるし、もっともっと強くなれる」

 

キング「分かったわ」

 

 

 

悟空「スカイ」

 

スカイ「はいはーい」

 

悟空【頭で戦うには心がブレすぎだ。予定と違うからといって諦めんな。想定外の事にもしっかりとついて来る身体があるんだから、もっと自分を信じろ】

 

スカイ「!……はい!」

 

エル「ケ?」

 

悟空「わりぃ。聞かせられねぇからテレパシーした」

 

キング「そういう事ね」

 

 

 

悟空「スペ」

 

スペ「はい!」

 

悟空「さっきのはオラが悪かったけど、実際に一度は乗り越えたんだ。おめぇは負けてねぇ」

 

スペ「………えへっ、」

 

悟空「んでも忍耐力が低いな。何事にも耐える我慢強さを身につけた方が良い」

 

スペ「あはは、……うん!」

 

 

 

悟空「そんで最後!ウララ!!!」

 

ウララ「は、はい!」

 

悟空「ウ、ララは、……んんんんんっ、………んーーーーー!」

 

エル「あ、これ葛藤中にするやつデスね」

 

スカイ「なんの葛藤してるんだろ…?」

 

悟空「んーーーっ、………修行の成果は出てる。このまま頑張ろうな!」

 

ウララ「〜〜〜っ、はい!」パァァァ!

 

キング(叱るか、褒めるか…って所ね)

 

 

 

悟空「グラスはこの後すぐにマッサージするから残ってくれ」

 

グラス「そんなっ、私は最後で、」

 

悟空「おめぇならそう言うだろうと思ったけど、オラがトレーナーに申し訳が立たねぇ。ここは聞き入れてくれ」

 

グラス「……わかりました」

 

 

 

 

悟空「最後に1つ!今回のレースで勝ち負けに差が出たと思うけど、気にする必要はねぇ。

たった1つの策を使うだけで簡単に戦況がひっくり返るのが闘いだ。

逆に、格下だと思ってる奴らに負ける時もある。オラから言えるのは油断すんなって事だけだ!」

 

『はい!』

 

悟空「よし。……そんじゃあ、終わりにすっか」

 

『ありがとうございました!』

 

 

 

揃って頭を下げた、束の間の出来事だった。

 

 

ーードシャッッッ!!

 

 

グラスを除いた彼女達は膝から崩れ落ちてしまう。

 

 

 

キング「…………気、抜くんじゃなかったわ…」

 

スカイ「どうしよ…。地面が気持ちいい…」

 

スペ「というより動きたくない」

 

エル「………ここがエルの睡眠場所デス…」

 

ウララ「ウララも入れてほしーな……」

 

 

 

ポワァァァ……,

 

 

 

スカイ「セイちゃんも寝r…………やばい。超元気になってきた」

 

ウララ「?……どうしたのいきなり?」

 

エル「エル最強っ!」ビシッ!

 

ウララ「ええええっ…!!?」

 

キング「そうね。もう一度走れるかも」スクッ

 

ウララ「キングちゃんまで…。す、すぺちゃぁん…」

 

スペ「あ、立てた」サッ

 

ウララ「な、何がどーなってるのー!?」

 

悟空「簡単だ。オラの"気,,を分けた。その元気で風呂に入って、部屋にいてくれ。オラが順番にケアをしに行くからよ」

 

キング「ほんと便利ね、"気,,」

 

エル「そういう事なら早く帰りまショウか」

 

ウララ「ちょっと待って!悟空さん!ウララの事忘れてるよ!」

 

悟空「おめぇは修行中だ。ケアはするけど"気,,を分けた時なんて無かっただろ」

 

ウララ「そんなぁ!」

 

悟空「ほれほれ、立たねぇと置いてかれんぞー」

 

ウララ「ううううっ!!」

 

悟空「ほいっ、根性根性!」

 

ウララ「こ、んじょー……!!」グググッ

 

悟空「気力を振り絞ってー、……立つ!」

 

ウララ「………た、たったッッッ!」ビシッッッ

 

悟空「いっせーの?」

 

ウララ「ウララふっかぁつ!」

 

悟空「よし!」スッ

 

ウララ「い、いぇーい…」ペチッ

 

 

悟空との情けないハイタッチが終わり、ふらふらな足のままグラスの元へ行った。

 

 

ウララ「……ぅー、あ、やっぱり気持ち悪い、かも…」

 

グラス「大丈夫ですか?」

 

ウララ「んー、うん!ウララはへーき……だよっ!」ギュッ

 

グラス「きゃっ、ウララ、ちゃん?」

 

 

突然グラスを抱きしめにかかったウララは、ゆっくりと背中をさすり、ポンポンと優しく触れた。

 

 

 

ウララ「………グラスちゃん」

 

グラス「?…なんでしょう」

 

ウララ「今日は、遅かったね!」

 

グラス「…………はい」

 

ウララ「だからね、ウララの元気分けてあげるから、たっくさん元気になってね!」

 

グラス「!………約束します」ギュッ

 

ウララ「うんっ!」

 

 

小さな体が離れると、後ろには列を作った彼女達がいた。

 

 

グラス「キングちゃん……」

キング「貴女、へっぽこね」

グラス「…そうですね。ですが今日で卒業します」

キング「賢明よ」ポン

 

 

 

>帰るわよ、ウララさん

>はぁーい!

 

 

 

スカイ「私達は同志だよグラスちゃん!今度は一緒サボろうね〜」

グラス「ふふっ、申し訳ありません。これからは忙しくなりそうなので、またの機会に」

スカイ「そりゃ残念。……でも、その方がキミらしいよ」ポン

 

 

 

>キング〜、ウララ〜、良かったらセイちゃんをお部屋にご招待してくれませんか〜。

>良くないからしないわ。

>なんっでそんな事言うのさ!悟空さんがマッサージやりやすいように集まってた方が良いって思ったのに!

>それならそうと最初からそう言いなさいな。

>わーい!セイちゃんとお風呂だー!

 

 

 

エル「グラス。今日からマンボのご飯には"不退転,,をあげようと思いマス」

グラス「………とうとう剥奪されてしまいましたか…」

エル「ハイ。なのでもう一度心に刻みたいのなら、マンボに頭を下げて返してもらってくだサイ」

グラス「……エル。面倒をかけてごめんなさい」

エル「………もう、終わった事なのでいいデス」ポン

 

 

 

>ヘーイ!エルも裸の付き合いしマース!

>やったー!エルちゃんも一緒〜!

>このまま大浴場に直行だね。

>今元気だから分からないけど、筋肉や腱は疲れているものね。ゆっくりしたいわ。

 

 

 

 

スペ「…………」

 

グラス「スペちゃん…」

 

スペ「…………グラスちゃんの、栗毛」コツン

 

グラス「ぁぅ、………え?」

 

スペ「『グラスちゃんが私を見てない間に、覆しようがないほどの差つけちゃうから』………そう言った私にグラスちゃんは何と言いましたか?」

 

グラス「ッ!…………『私がスペちゃんから目を離す事はない。故にスペちゃんが私に勝つ事はあり得ない』」

 

スペ「目離したし、あり得たね」

 

グラス「……はい」

 

スペ「……………」コツン

 

グラス「ぁ、いた…」

 

スペ「痛くないくせに」

 

グラス「そうですね〜」

 

スペ「嘘つき」

 

グラス「反省してます」

 

スペ「じゃあ宝塚記念の事、許してくれますか?」

 

グラス「一生根に持ちます」

 

スペ「…では私も、今回の事は忘れませんから」

 

グラス「ええ。私の失態としてずっと覚えていてください」

 

スペ「…ははっ、そうするよ。…………また明日ね」ポン

 

グラス「……はい。また」

 

 

 

>待ってよー!なんで先行っちゃうの!?

>だってスペちゃん話し長いんだもん!

>何をそんなに話していたんデスか?

>エルさん。聞くのはやめましょ。

>そうそう。口から砂糖出る。

 

 

 

グラス「……………」

 

 

遠ざかっていく彼女達。汚れた後ろ姿が語ってくれている。

彼女達は文字通り実力で教えてくれたんだ。

 

このままだと置いて行ってしまうぞ…と。

 

それは警告であり、彼女達なりの愛なのかもしれない。

勝手な解釈をするグラスだが、その表情は清々しいものとなっていた。

 

 

グラス「…………悟空さん」

 

悟空「なんだ?」

 

グラス「私が弛んでいると気づいたのは悟空さんですか?」

 

悟空「いんや、エルだ。自主練をしねぇのはともかく、トレーニングに覇気がねぇってよ」

 

グラス「そうですか。……ウララちゃんや、スペちゃん達まで…」

 

悟空「本当はウララだけに走らせるつもりだったんだ。それなのにエルが参戦して、菊花賞を控えてるアイツらまで。ダメだって言ったのに聞きやしねぇ」

 

グラス「なんで、ですかねぇ。……そのまま放っておけばライバルが1人減るのに…」

 

悟空「何で、かぁ…。……………寂しいんだと思うぞ。ライバルが追いかけて来てくれねぇってのはよぉ」

 

グラス「悟空、さん…?」

 

 

彼に似つかないか細い声。

グラスは覗き込むように見上げると、大きな手が頭に乗った。

 

 

悟空「さぁ、早くケアして帰ろうぜ。この後他の奴らの所にも行かなくちゃいけねぇからな」

 

グラス「……はい!お願いします!」

 

 

足を中心に揉みほぐされながら、グラスは思った。

 

 

ーー今日の借りは必ず返す。

 

 

彼女達の慈愛に満ちた優しさと。コテンパンにされたレース、2つ合わせてきっちりと。

 

 

年末。その舞台が行われる、有マ記念というレースの中で。

 

 

 

 

グラス(そのためにはまず、アレからしないと…)

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

グラス「お願いします!マンボくん!もう一度私に、不退転を掲げさせてください!!」ドケザ

 

マンボ(鷹)「……ケ?」

 

グラス「どうかまだっ、食べないでください!!」ドケザッッッ!

 

マンボ「ケー?」チラッ

 

 

 

エル「〜〜〜っ、ーー!…っ、!!ーー」ピロンッ

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

次回予告:(秋月やよい)

 

とうとう始まったクラシック路線最後の一冠、菊花賞!

スペシャルウィーク、セイウンスカイ、キングヘイローは鎬を削り、栄冠を求めてゴールへ向かうッ!

 

しかしッ!!そのレースを見た1人の女性が動き出す。

 

 

次回ッ!! ウララのママのお母様!

 

 

 

「キング。貴女は学園を辞めてこっちに帰って来なさい」

 

 

 

 






この度!孫悟空とウマ娘のお気に入り登録者が1000人を超えました!
評価も高くしていただき、寛大な皆様のお陰で批判もなく、伸び伸びと書く事が出来ています。

これからもどうぞよろしくお願いします!


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ヘイローの血





この作品はキングヘイローの母が登場します。
そこで提案ですッ!作品を読む前に!

      ーーーーー

『ダスカスキー3世』 様の作品で、「キングとお母さま」という題材をご覧ください。

      ーーーーー

キャラデザインのイメージとしてお借りしてます。
※許可はいただきました。

ちょっとツンとした顔や話し方。見ると見ないとではイメージ具合がまるで違うと思いますので、どうぞそちらから見てください!

ネットで、"ダスカスキー3世。キングとお母さま,,と調べれば出て来ます。



注意
・捏造あり
・トレセン学園の広さは東京ドーム17個分(漫画、ウマ娘 STARTING GATEより参照)
・解釈違いの方はごめんなさい。







 

 

 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

 

グラス「私の怠惰ゆえに、大切な志をマンボくんのご飯にされてしまいました……」

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

その日。

 

京都のレース場は熱狂に包まれていた。

 

 

 

『ーー先頭はセイウンスカイッ!セイウンスカイが4コーナーを単独でまわる!!』

 

 

 

白熱した実況を筆頭に観客のボルテージは高まり続ける。

 

 

『さあっ!残す所404mの直線!クラシック最後栄冠 "菊花賞,,は誰の手に渡るのかッ!』

 

 

スタート地点から先頭を走り続けたセイウンスカイ。道中はなんと8バ身もの差が開き、観客の中では、このまま行ってしまうのではないかという期待が寄せられていた。

 

しかしレースとは何が起こるか分からない。

 

菊花賞を走るウマ娘は出走条件を得た強者達だけだ。

こんなに速いスピードで駆けていくセイウンスカイを捕まえるウマ娘は16人も候補がいる。

 

 

スカイ(やっぱり来るか…ッ!)

 

 

だがそんな事は彼女が1番分かっている。

最後の直線は客席の目の前を走る。そのため爆撃のような声援が直に伝わるのだ。

 

それなのに背後からは、ズンッッッ!!…という地を踏み込んだ音がハッキリと聞こえた。

 

 

スペ「はぁああああああああああッ!!!!!!」

 

 

外に出たスペシャルウィークは全身全霊をかけて末脚を振るう。

 

 

『スペシャルウィーク猛追!セイウンスカイまで4バ身を切っているぞ!』

 

 

だんだんと芦毛に近づく黒鹿毛。

このワンシーンは誰もが1度目にした。

 

日本ダービーの再演。

 

最後の直線で、誰よりも早くセイウンスカイを捕まえたスペシャルウィーク。

 

ご存知の通り、スペシャルウィークはセイウンスカイを置き去りにしてダービーを勝ち取った。

 

 

 

では今回は、……菊花賞ならどうだ。

 

 

 

『逃げる逃げるセイウンスカイッ!スペシャルウィークの追撃を許さない…!!』

 

 

 

スペ「ッ、こ、の……ッ!」

 

 

 

『スペシャルウィークは届かないッッッ!!!』

 

 

 

スカイ「私のっ、勝ちだぁああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

『ダービーの借りは返したぞ!セイウンスカイ逃げ切ったーーーーーッッッ!!!!!』

 

 

溢れんばかりの大歓声が巻き起こった。

 

 

『今日の京都競バ場の上空と同じ!青雲の晴れやかな空の元でセイウンスカイが栄冠を掴んだ!!』

 

 

スカイ「…や、やったああああああ!!!」

 

 

勝った者だけが出来るウイニングラン。

走り終わったターフを折り返し、応援してくれたファンの前をゆっくり歩く。

 

その様子をゴール板を過ぎたウマ娘達は見ていた。

 

 

スペ「……………………おめでと……」ボソッ

 

 

>ね、ねぇ、見てよアレ…。

>うわっ、マジ!?

 

 

スペ「?………………!?」

 

 

白熱したウマ娘達が目を疑った事実。

それは客席や視聴者にも伝わり、実況が口を開く。

 

 

『さ、3分3秒、2………』

 

 

静まる客席。

 

 

『でっ、出ました!セイウンスカイのタイム3分3秒2!」

 

 

それは嵐の前の静けさであり。

 

 

 

『ーーこれは揺るぎない事実ッ!』

 

 

 

次の瞬間、弾け飛んだ。

 

 

 

『ワールドレコードだああああああ!!!セイウンスカイが同期の誰よりも先に世界一の称号を手に入れた!!!』

 

 

 

ドサッ。

黒鹿毛のウマ娘は膝をつく。

 

 

スペ「……ま、まけた………ワールドレコードって…」

 

 

順位だけでなく、称号すら手に届かない位置にある。

完膚なきまでに負けた。

 

 

スペ「……ぅぅっ、……あーーーんっ!私の菊花賞が取られたーーっ!私の二冠目がぁっ!!!」

 

スカイ「だーから私のだってば。この前からヒトのやつを取らないでくださぁい」

 

スペ「せ、いちゃん…ッ!」

 

 

前を見ると肩を揺らして息をする芦毛の彼女。

ほてった顔は興奮を抑えきれないのだろう。

 

 

スペ「むぅぅぅぅ!あんなに大逃げしたくせに何で走り切れたの!」

 

スカイ「ありゃ?お気付きでない?」

 

スペ「む?」

 

スカイ「まぁ、後ろにいたから分かんないか。3から4コーナーに入る時に休ませてもらったんだよ。誰も追いかけて来なかったからね」

 

スペ「なっ…!?」

 

スカイ「逃げて休む展開は龍球ステークスで要点だけ掴めてた。これは完成形だよ。私が休憩を挟んだ瞬間をスペちゃんが見てれば、結果は変わってただろうけど」

 

 

レースの世界に、たらればは存在しない。

その事を分かってて言って、分かってるから反論をしない。   

 

 

スペ「……セイちゃんのお腹まっくろくろすけ」

 

 

ただし悪口は言う。

 

 

スカイ「はっはっは!何とでも言うが良い!この二冠ウマ娘が許してやろうぞー」

 

 

すっかり鼻を高くしたスカイは踏ん反り返った。

当然だが、よほど嬉しいのだろう。尻尾が左右に大きく揺れている。

 

 

スペ「…………」ジー

 

 

その尻尾を目だけで追いかけ、スカイを見上げた。

 

 

スカイ「ふふふっ、やった!私つっっよっ!!」

 

 

天を仰ぐ彼女。

スペは四つん這いになりながら移動した。

 

 

スカイ「こりゃあ主役交代も待ったなし…っ、いだぁあああああぁっ…!!?」

 

 

痛覚が刺激され、突然の出来事にのけ反ったスカイは首だけを動かして後ろを見た。

 

 

スペ「わうわうっ、がうっ…」

 

スカイ「し、しししっ、尻尾っ!私の尻尾がぁ!食べられてるーーっ!?」

 

スペ「ばうわう!ふんす!」

 

スカイ「こ、らっ!攻撃すんのは御法度でしょ!」

 

スペ「ひはふもん。おいひほうはとおほっははへらもん」(違うもん。美味しそうだと思っただけだもん)

 

スカイ「嘘つけ!」

 

 

ぶんぶんと尻尾を振るうがスペは離さない。

 

 

その時だった。

 

 

レース場に新たな刺激の種が落とされる。

 

 

 

『ーーーそして3ハロンが、スペシャルウィークよりも0.1秒早い末脚を披露!最後の直線を34.0秒で走り抜いたのはキングヘイローだ!!』

 

 

スペ「へ?」

 

スカイ「んー?」

 

 

『スペシャルウィークにクビ差まで迫ったが、惜しくも3着!次走に大きな期待が募ります!』

 

 

キング(……悪い所が特にないわね。ステータスの差、かしら……)

 

 

 

スカイ「……」ジー

 

スペ「………」ジー

 

 

 

キング「…………なによ」

 

 

顎に手を当て自己分析をしていたが、湿り気のある視線に耐えきれなかった。

 

 

スペ「……キングちゃん。この前1200走ってなかった?」

 

スカイ「G3だったけど、勝ってたよね?」

 

キング「え、ええ。それがなに?」

 

スカイ「……」チラッ

 

スペ「………」コクン

 

 

 

スペ・スカイ「「はぁぁぁぁ……」」

 

キング「は?」イラッ

 

 

わざとらしく深いため息に青筋を浮かべるキング。

 

 

スカイ「やだやだ、ほんっとにやめてほしいよね〜」

 

スペ「ね〜」

 

キング「だから何だって聞いてるんだけど?」

 

スカイ「あのさぁ、キング。ウララじゃないんだから全部の距離走れるのやめてくれない?」

 

スペ「同世代に2人もいたら、走れない自分が弱いんじゃ…って思っちゃいますよ」

 

スペ・スカイ「「ねー!」」

 

キング「…………ふっ、おーほっほっほっ!この私を誰だと思っているの?キングたるもの不可能なんてないわ!貴女達とは違ってね」

 

スペ・スカイ「「」」イラッ

 

キング「良かったわねぇ。また私のお陰で黄金世代の株が上がったわよ。せっかくだから虎の威を借してあげる」

 

スペ「……確かに、"逃げ,,で走れたりダートも走ってたから凄いと思う」

 

スカイ「うん。逃げて14着とダート13着は凄いね。色んな意味で」

 

スペ・スカイ「「ソンケーシマス」」

 

キング「あ、あなた達…ッ!!!」

 

スペ「ダービーとった私はキングちゃんの威を借ります。私は狐です」

 

スカイ「皐月賞と、た っ た 今 ! "菊花賞で勝った,,私もそうします。無冠キングと違って 二冠 ウマ娘なのに」

 

スペ「!!!」ピクッ

 

キング「………スペさん。二冠ウマ娘の爪の垢を煎じて飲めば、一冠くれるらしいわよ」

 

スカイ「はあ?何言って、」

 

スペ「ほんとですか!?」

 

スカイ「!?」

 

キング「ええ。キング嘘つかない」

 

スカイ「いや嘘しか言ってないから!」

 

スペ「……ですが、どうやって煎じたら良いんでしょうか」

 

キング「今は難しいけど、耳をかじれば3倍の効果を得るんだって」

 

スペ「3、倍…!そ、それじゃあ私はっ…!」

 

キング「そう。…あなたは三冠ウマ娘になる」

 

スペ「キングちゃんは天才ですか!?」

 

キング「まぁね」

 

スカイ「なるかっ!もうバカばっかじゃん!!キングがふざけたら収集つかないんだから自重して、って、いだだだだだっ!」

 

スペ「ひっはほーはわはひのふぁー!」(菊花賞は私のだー!)

 

スカイ「だから私のだって!……ワールドレコード付きでね?」ドヤッッッ

 

スペ「…………」ガブッ

 

スカイ「あ"ーッ!そ、それより称賛はどうしたのさ!栄冠を掴んだウマ娘には褒め称えるべきでしょ!」

 

スペ「はっひいっは!」(さっき言った!)

 

キング「私も」

 

スカイ「セイちゃんのお耳には聞こえて来てないんですけど!?」

 

 

誇りと名誉をかけたレースの後には似つかないわちゃわちゃ加減。これには多くのカメラが寄せられた。

 

 

実況「は、ははは…。中々シュールというか、あまり見ない場面ですね」

 

解説「異質な状況になりますからね。レースとは己の全てをかけて競う所。負けて笑える者なんてそういません。……ですが、私個人の意見として彼女達の無邪気な心を尊重したいです」

 

実況「本当にライバルであり友達…という感じですよね。あっ!セイウンスカイがキングヘイローに噛みつきました!」

 

解説「普段の威風堂々たるキングヘイローとは思えない光景です」

 

実況「新たな一面が垣間見えた所で、セイウンスカイはウィナーズサークルに連れて行かれるようです」

 

 

 

見ている人からすれば、緊張感が足りない言う人はいるかもしれない。それは多種多様、感じる人はそれぞれだろう。

 

その点。

 

"彼ら,,はテレビの向こう側で頬が攣りそうなくらい笑っていた。

 

 

悟空「あはははっ!いーひっひっひっ!!あー、腹いてぇ!あいつら学園にいるんと間違えてんじゃねぇのか!?はしゃぎ過ぎだろ!」

 

 

腹を抱えて地面にうずくまる悟空。

ベッドにいる彼女も口元に手で隠すようにしていた。

 

 

スズカ「ふふっ、楽しそう。スペちゃんには後で電話してあげないとね」

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

ー キングside ー

 

 

夜11時。

ウララさんが寝静まった頃。携帯が音を鳴らした。

こんな時間に不躾な…。そう思うも相手を確認したら別におかしい事ではなかった。

 

「……ちょっと待ってて。移動するから」

 

そう告げると相手は黙る。

アメリカは日本とは逆の時間だ。お昼前の忙しい時間だろうに電話をして来たのが珍しい。

 

もっとも、用件は分かり切っているのだが。

 

ここで話せばウララさんに迷惑だ。

音を立てずにベッドから降ると起毛のあるシャツを羽織った。廊下に出ると冷たい空気が肌に突き刺さる。

 

(帰ったらウララさんの布団に潜り込もうかしら)

 

いつもは向こうが勝手に入って来るんだ。一回くらいやり返してもバチは当たらないだろう。

そんな事を考えつつ、辿りついたのは真っ暗なロビー。

電気など付ける必要がないから、暗闇に溶け込むように椅子に座る。

 

「待たせたわね。寝る前だったけれど別に気にしなくていいわ」

『あら、そうなの。心底申し訳ないと思っていたのだけど、それなら謝罪する必要はなさそうね』

 

これっぽっちも悪いと思っていない事がハッキリと分かる。

性格の悪そうな言い回し。さぞかし血縁者は苦労しているのだろう。

 

「……用は何なのかしら?お母様」

 

さあ同情してくれ。私が血縁者だ。

今日もまた苦労する時間がやって来た。

 

『レース見たわ。悪くない結果じゃない」

「ええ。そう思うなら褒めてくれていいのよ?」

『…………いつまで続けるの?』

 

やはりコレか。

 

「何の事かしら?」

『クラシック路線G1の白星は無し。黄金世代とかいう実力者の数に加えられても、彼女達とは一線を画す』

 

皐月賞の時だったか、それともダービーの時か。……いや、思えば最初からだったのかも知れない。

 

『これが貴女の限界よ。学園を辞めて私の所に来なさい』

 

私は最初から、このヒトの希望にはなれなかった。

 

「嫌よ」

 

そして私は、応援してくれないこのヒトの希望になるのは諦めたんだ。

 

『それは聞き飽きたわ』

「同感ね」

『……ダービーは心の弱さが原因とはいえしょうがないと片付けれる。でも、皐月では頑張って2着。菊花では頑張って3着。……1着を獲らないと意味がない。そう言ったのは貴女自身でしょう』

 

事実だ。

キングたるもの頂点に立たなければ意味がない。

 

「旅の途中なのにせっかちね。私の脚はまだ動く」

『……聞き飽きたと言えば、もう一つあったわ。ねえ? "期待外れのキングヘイロー,,』 

「ッ…!」

 

確かに聞き飽きた。

初めて聞いたのは、ラジオたんぱ杯というレースでロードアックスさんに負けた時。

次は頑張ってという声援に隠れて、あのヒト達の子供なのに…という声は少なくなかった。

 

元より、私にはずっとそれが付き物だった。

 

キングヘイローとして見てくれる人はいない。記者やトレーナーは私を、偉大なる両親の子供という色眼鏡で見てくる人だけだったのだ。

 

(本当、トレーナーには恵まれたわ)

 

その中で、私を私として見てくれる人の手を取った。いや、取り合った。

 

 

「悪いわね。出来の悪い娘で」

『ッ!!……………そ、ういう事を言ってる訳じゃないわ。そんな風に言われてまで走る意味はあるのかと聞きたいだけよ』

「ある。どんな理由があろうとキングヘイローが退く理由にはならない。……あぁ、不退転ってやつよ」

 

背中が暖かくなる。彼女の信念は私にも有効だった。

 

(ーーッ!………こんな時にエルさんが送って来た動画思い出してしまったわ。鷹に土下座する栗毛って何なのよ。想像を遥かに超える懇願っぷりだったわ)

 

余計な事を考える私は中々成長したと思う。 

ダービーの時の電話では散々怒鳴り散らしてたから。

 

心境の変化?……否。

 

間違いなく、悟空さんと出会ったからだ。

 

 

『じゃあ聞くわ。貴女はあと何度負けるの?」

「ゼロ。自分の勝利を疑う奴は勝てない」

『次走の予定は?』

「有マ記念。そこで私は勝利を掴む」

『無理よ。既にグラスワンダー、エルコンドルパサー。そして菊花賞後のインタビューでセイウンスカイが有マ出走を表明していたわね』

「あとはハルウララさんね」

『………彼女については未知数。憶測にしかならないから控えさせてもらう』

「そう」

『話しを戻すけれど、そんな怪物集団が出走するのに、わざわざ負けに行く思考が分からない』

「会話を振り返りましょ。私は自分の勝利を疑っていない」

『……何でそんなに自信が持てるの?菊花賞で完敗したばかりじゃない』

 

"完敗,,

その熟語を脳内で暗唱した。

即座に口元を手で覆う。こんな時間に叫んではダメだ。

迷惑になるし、寮長にバレたら怒られてしまう。

必死に、全力で、精一杯我慢した。

 

 

「………くっ、あはははっ!」

 

 

無理だった…。だから開き直るように椅子の背もたれに体重をかけて天井を仰ぎ見た。

行儀は悪いが誰も見ていないからセーフだろう。

 

『………何がおかしいの?』

「あはっ、全部よ。せっかくだから今日の事をトレーナーと話した結果を教えてあげる」

『…………』

「まず、私の走りは完璧だった。上手にゲートから出て、道中もバ郡に飲まれる事なく、自分の走りにだけ集中出来た。脚を溜めれて、スパートのタイミングなんてそれはもう絶妙!トレーナーからは絶賛されたわ」

 

ダービー後のトレーナー室は酷く荒れていた。今日は全くの逆。大いに盛り上がった。もしも誰かがその場面を見ていたら優勝したんだと勘違いするくらいに、明るく話し合っていた。

 

『貴女の考えてる事が分からない。そこまで完璧だったのなら、どう頑張っても勝てないって言ってるようなものじゃない』

「ええ、勝てない。認めるわ」

 

情けない事をハッキリと言ってやろう。

 

「3000mは私の負けよ」

 

完敗。ワールドレコードなんて出されたらむしろ、同期として鼻が高いと感じるくらい。

 

『…………………キング』

「決め手はスタミナかしらねぇ。だから菊花より500mも短い有マなら私の本領を発揮出来る」

『彼女達にも言える事だわ。貴女だけ特出する訳じゃない』

「当然よ。そうじゃないと意味がない」

『意味、ですって…?』

「ええ。最高の状態のライバル達に勝つ。G1で勝つ事が全てではないのよ。お母様」

『ッ…!』 

 

息を呑むあのヒト。

 

『………G1で勝つ事は貴女の目標であり、ウマ娘にとっても名誉な事。…あの子達がそんなに重要?』

「そうね。キングヘイローというウマ娘を構成するのに必要不可欠…程度には重要よ」

『馴れ合いが過ぎるのではなくて?だからレースで負けた直後にあれだけふざけれるのよ』

「記憶にないわね」

『惚けてるの?』

「いえ。だってふざけてないもの」

 

とはいえ客観的に見たら、理解し難い行動をしている自覚はある。

 

「私は本当に悲しかった。同時に、ワールドレコードを取った同期が誇らしかった。私はこんなヒト達の頂点に立つんだと血潮が燃えた。私のG1を掻っ攫ったセイウンスカイにムカついた。完璧な走りなのに追い付けなくて悔しかった。そして楽しかった。その結果。私は素の状態でいられた」

『あ、あなた、何言って…!』

 

あのヒトの口から初めて聞く。動揺を露わにする声。

それもそうだろう。"次は勝つ,, "私は諦めない,, バカの一つ覚えに言っていた前回までとは、まるで違う答えなのだから。

負け過ぎて脳みそがおかしくなったと思われないだけマシだ。

 

「感情は一つだけじゃない。全てをぶつけ合えるライバル達に出会ってしまったのよ。私は」

 

……いけない。キングとした事がすっかり忘れていたわ。

 

「ねぇ、お母様。そういえば先程笑ってしまった意味、まだ言ってなかったわよね?」

『…………』

「ね?」

『………さっさと言いなさい』

 

生まれて初めてね。あのヒトよりも優位に立てるのは。

 

「完全敗北したのに楽しいと思えた。それなら完全勝利した暁には、おかしくなりそうなほどの歓喜が押し寄せるんじゃないか。膝をついた同期達の前に立つ私を想像したら笑いが込み上げて来てしまったのよ」

『……中々、稀に見ない歪んだ性格をしているわね』

「ええ。なんたってお母様の血を引いてますから」

 

直後。

電話口から人を小バ鹿にするような笑い声が聞こえた。

 

『キング。貴女は都合のいい妄想を見ているだけ。現実を直視している訳ではない。……レースとは、絶対の強さを持つ者には勝てないように出来ている。貴女はただ、運が悪かったのよ』

 

さすがお母様.私も幾度なく思った事を言う。

ダービー後。強者に勝てない私は、私が弱いんじゃなくて、他が強過ぎるという結論に至った事がある。

スカイさんやスペさんがクラシック路線にいなかったら…って考えたのも片手で数えれる程度じゃない。

 

『もう懲りたでしょう。有マを走る前にさっさと、ーー」

 

 

「『たった一つの策で簡単に戦況がひっくり返るのが闘いよ』」

 

 

先日の、クラスワンダーへっぽこ事件の際に私は聞いた。

彼はサラッと言っていたから、特別深い言葉と思っていないかもしれない。

ただ私にとっては、勇気をもらえる言葉だった。

 

『闘い…?』

「そうよ。死んでも尚、戦い続ける戦士の言葉」

『何を言ってるの?』

「何をって…、徹頭徹尾私はまだ終わってないって話しでしょう」

『まだそんな事を…』

「そうね。そろそろ終わりにしましょうか」

 

息を吐く。

ほんの少しだけ声量に注意した。

 

 

 

「私の戦場は既に用意されているのだから黙って見ていなさい!!」

 

 

 

…………今、言われたあの人はどんな心境なのだろう。私は心臓がバクバクだ。なんだかんだいって母親に強い口調をぶつけてしまったのは事実。

後悔はないが気持ち良いものではない。

 

『……………キング』

「お母様。申し訳ないのだけど、そろそろ眠たくなって来たわ」

 

逃げてない。返答を聞かないために言った訳ではないんだから。急激に睡魔が襲って来ただけなのよ。

 

『あ…、……そうね。分かったわ。でも勘違いしないように。所詮G1白星の無い貴女は、彼女達の虎の威を借りているだけに過ぎないのだから』

「おやすみなさい、お母様。良い夢見るから心配しないでね」

 

プツッ。

返答待たずに切った。

途端に、ただならない疲労が押し寄せて来て、背中に湿り気を感じる。

真っ暗な画面を見ていても連絡はない。一応は無事に終えたという事で良いだろう。

 

(ふんっ、グチグチと。ハッキリ言えばいいじゃない。これ以上家の評判を下げたくないから走るなって)

 

分かってる。

私がどれだけの覚悟を決めようとも結果だけが全てだ。それには私も同意してる。

 

だけど…、

 

 

「自分の娘くらい励ましなさいよ……」

 

 

何となく呟いたものの、暗い空間が私を惨めに感じさせる。

風邪を引く前に早く戻ろう。そう決めて足早に部屋へ向かった。

 

 

 

これまた出る時と同じく、ウララさんを起こさないようにゆっくりドアを開けると、

 

「ーーーッ!!?」

 

部屋のど真ん中に佇む黒い影に、一瞬だけ心臓が止まった。

 

「う、うら、らさん…?」

「!…………きんぐ、どら?」

「違う」

 

寝ぼけているみたい。ポケモンの夢を見ていたのだろう。

 

「んー?………ぁ、きんぐちゃん!」

「正解よ。もう、何やってるのよ。お腹壊しても知らないわよ?」

「えへへ、キングちゃんこそどこに行ってたの?おトイレに行った後見たらいないし、心配だったんだから!」

「寝てたじゃない…。………ちょっと温かい飲み物を飲んできたのよ。寒かったし」

「えー、ズルい!ウララも!」

「また明日ね。今日はもう寝ましょう」

「むー…、うん、わかったぁ…」

 

そうして私達は何故か同じベッドに向かう。

 

「…いや、こっちは私のベッドなんだけど…」

「うん、知ってるよ。それじゃあお邪魔しまーす!」

 

あろう事か、私よりも先にベッドに入る彼女。

 

「おやすみー!」

「ハァ、まぁ良いけどね」

 

続いて私も入った。

 

「冷たっ!なんでこんなに冷えてるのよ!」

「……おトイレ行ったって言ったじゃん」

「全くもぉー。ほら、こっちいらっしゃい」

「はーい」

 

さすがは子供体温。あっという間に熱が広がる。

これなら本当に良い夢が見れそうだと、自らの意思で瞼を下げた。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

ー 同時刻 ー

 

 

「………なんなのよ、あの子」

 

一体自分は誰と話していたのか。分かりきった答えを見に、履歴を確認する。

1番上には "娘,,という一文字で表された登録先があった。

 

「……口だけは成長したみたいね」

 

諦めないという一点張りから、打って変わった物言い。

どこまで貫けるのかは知らないが、心意気だけで勝てる程レースの世界は甘くない。

 

「ふんっ!生意気に育ったもんだわ!そこまで言うなら好きにしなさい!!」

 

歪に絡み合った複数の感情から、八つ当たりするように携帯をカバンの中に押し込んだ。

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

ー トレセン学園 ー

 

 

門前に一台のタクシーが止まった。

自動に開いたドアから出てくるのは、一目で高級だと分かる程のスーツに身を包んだ栗毛のウマ娘。一つ一つの動作に気品が宿るそのヒトは、門で佇むたづなの元へ一直線に向かう。

 

 

たづな「ようこそトレセン学園においでくださいました。本日はどのようなご用件でしょうか」

 

「娘がお世話になっております。先日お電話いたしました。キングヘイローの母」

 

 

 

グッバイ「グッバイヘイローと申します」

 

 

 

母降臨。

凛とした口調とは裏腹に、グッバイヘイローは気まずい思いをしていた。

 

 

グッバイ(くっ…、まさか来てしまうとは…)

 

 

キングとの電話が終わってからは仕事に戻ったものの。頭の片隅の方で引っ掛かっているものがあった。

それは、ーーあのキングを変えたのは誰だ。…という疑問。

我が娘ながら頭の硬さが半端ではない。自我が強く、他人の意見を受け入れないはずだ。

 

 

グッバイ(1番影響力のある人物はあの子のトレーナーだけれど、それにしては好戦的だし…)

 

 

トレーナーとは、キングが契約する際に一度電話で話した事はある。影響を与えるには性格が違うと感じた。

 

 

たづな「ーーーあの、」

 

グッバイ「ッ!な、何か?」

 

たづな「いえ、少し体調がよろしくないように思えますが、大丈夫ですか?」

 

グッバイ「コホン。……お気遣いありがとうございます。少し時差の影響で…」

 

たづな「そうでしたか」

 

 

そこからは、アメリカから持って来た手土産を渡して、簡単な世間話に花を咲かせた。

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

たづな「ーーあ、すみません長々と。そろそろお嬢様をお呼びしますね」

 

グッバイ「その事なんですが…」

 

たづな「???」

 

グッバイ「娘には私が来てる事を知らせないでいただきたいです」

 

たづな「なるほどぉ。………秘密ですか?」

 

グッバイ「秘密です」

 

たづな「分かりました。そういう事情でしたらお約束します。では私が案内を、」

 

グッバイ「実は見学を兼ねて1人で歩きたい……とか?」チラッ

 

たづな「…………在学中のお母様とはいえ、学園内を1人行動するのは看過できないものであります」

 

グッバイ「……そうですよね。セキュリティがしっかりしている証拠です」

 

たづな「ですがそれは学園側のみの意見であり、大切なご息女を預けている親御様にとっては不安かと思います。学園の者が先導すると、都合の良い所だけを案内しているという疑心も生まれるでしょうから」

 

グッバイ「!…それでは、」

 

たづな「はい。いくつかの条件付きになってしまいますが、許可しますよ」

 

グッバイ「……ありがとうございます」

 

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

たづな「ーーと、ここまでで何か質問はございますか?」

 

グッバイ「いえ、何も」

 

 

たづなが出した条件はとてもシンプルなもの。

 

・校舎には入らない。

・電子機器を出さない。

・首から下げた特別入館証のネックストラップを出したままにする事。

 

この3つだけだった。

もしも条件を破ればキングのレース人生に関わる事だと、言わなくても伝わっている。

 

 

たづな「学園内には警備の者が巡回しております。質問や要望などの際はその者達にお声かけください」

 

グッバイ「何から何までご迷惑をおかけします」

 

たづな「とんでもございません。……ではトレセン学園をどうぞ、ごゆっくりご覧くださいませ」

 

グッバイ「失礼します」

 

 

軽く頭を下げて、グッバイは学園の門を潜り、娘がいる地へと足を踏み込んだ。

 

 

 

 

たづな「…………」

 

 

その後ろ姿を見続けるたづな。

 

 

たづな「………雰囲気、似すぎでしょう」

 

 

ボソリと呟く本音。

実の所、一目見た時からすぐに分かっていた。キングヘイローが大人になれば、こうなるって言われたら素直に納得するくらいに面影があるからだ。

しかし、楽観的にはいられない。

キングと母親の関係が上手くいっていない事は知っている。トレーナーの間でも、心無い言葉を出す者がいるのは事実だ。

 

 

たづな(何事もなければ良いのですが…)

 

 

 

 

この時たづなは、たった一つ大きなミスをした。

 

1番注意しなければいけないのは、一体誰か。

 

 

"ソレ,,は学園がもっとも隠さなければいけない存在のはず。

 

 

 

東京ドーム17個分というバカでかい広さの中なら邂逅しないと思うのか。

 

 

 

 

もしそう思ったのなら、たづな唯一の失態である。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

グッバイ(さすがは中央トレセン学園。細かい所まで設備が行き届いているわ)

 

 

ウマ娘からストレスをなくそう!…みたいなキャッチコピーを徹底的におこなっている。

この調子なら膨大な広さの端っこの方でも綺麗に保っているのだろう。

グッバイは立ち止まると学園案内図を広げた。

 

 

グッバイ(……失敗したわ。キングがどこのターフを使っているのか聞けば良かった…)

 

 

 

 

グッバイ(…………別に、見たいとかではないけどね)

 

 

 

 

グッバイ(鉢合わせするとマズいから気になるだけで、走りなんて見ようとも思わないし)

 

 

 

 

 

グッバイ(ただ…、キングに影響を与えた人がいるかも知れないから、仕方がないけど見に行こうかしら。…………顔や走りを見る必要はないから、遠目から周囲の人だけを見れば良いわね)

 

 

とりあえず片っ端からターフを周ろう。 

そう決めた彼女。 

 

 

その時。

 

 

「オッス、キング!今日は随分とおめかししてんじゃねぇか。どっか行くんか?」

 

グッバイ(ッ!しまった!こんなに早くっ、)

 

 

若い男の声がした。

ウマ娘には似たような名前は多いが、この場合別人だとは全く思わない。

すぐにキングから離れないと、そう考えてグッバイは男性の視線の先を見るために振り返った。

 

 

グッバイ「……………………ぇ」

 

「?………どうした?」コテン

 

グッバイ(そんな、………いえ、そういうこと!?)キョロキョロ

 

「何やってんだよ、キング」

 

 

周りには誰もいない。そして、この警備員と思わしき男とは視線が交じり合っている。

 

結論はこうだ。

 

 

グッバイ(こ、この人!私をキングと間違えてる!?)

 

 

若く見られていると思って喜んで良いのか。娘が大人びて(老け気味)に見られているのか。

複雑な気持ちが交錯して動けないでいた。

 

 

「んー?………あーっ、おめぇ!」

 

グッバイ(……まぁ、そうよね。分からない方がおかしいわ)

 

「真ん中の髪だけ白く染めて何やってんだ!スペの真似だか知んねぇけど不良だって言われちまうぞ!」

 

グッバイ「誰によ!」

 

 

もう耐えきれなかった。

 

 

「おめぇなぁ、ウララだって真似したら困んだろ。そうなったらおめぇが1番怒、る…って、………なんか髪伸びたか?」

 

グッバイ「それ以外にも違う所があるでしょ!」

 

「?………まぁ、髪は伸びたとして…、声も変だな。風邪引く前にゆっくり休め。そんでもう腹出して寝ねぇように気ぃつけろよー」スタスタ

 

グッバイ「なんで寝てる所まで知って、ちょ、っと、待ちなさい!」

 

「……?………っ、……はあ!?」バッ!

 

 

男は突然立ち止まり、驚愕の一声を上げると明後日の方向へ見上げた。

 

 

「えっ!?こりゃどういう……?」

 

 

初対面だが、途轍もなく困惑している事が分かる。

直後、男はボソリと呟いた。

とても小さな声。しかしウマ娘であるグッバイの耳にはしっかりと聞こえた。

 

 

グッバイ(キガチガウ…?)

 

 

日本語を熟知しているグッバイでさえ解読不可能な言葉だ。

 

 

「…も、しかして………!」ギギギ…

 

 

バツが悪そうに首をすくめた男はゆっくり振り返る。

 

 

「な、なぁ…、おめぇ…いや、あんたさぁ、………この学園の中に娘はいるか?」

 

グッバイ「…………さあ?この学園の中に失礼な警備員がいるのは知ってるわ」

 

「だめだ、大当たりだチクショウ…。こんな嫌味ったらしい言い方は間違いねぇ。何から何までそっくりだ」

 

グッバイ「自己解決に浸っている所悪いのだけど、そろそろ良いかしら?」

 

「な、にが、だ………ですか?」

 

グッバイ「ただの警備員にしては随分キングヘイローと親しげね。……貴方、何者?」

 

「おら、あ、違っ、……私は孫悟空と言います!」

 

 

グッバイが学園に入ってから30分。

宇宙最強の彼……もとい。トレセン学園警備員所属兼ハルウララ非公式トレーナー、孫悟空と出会った瞬間だった。

 

そして今の悟空の心境は、というと…。

 

 

悟空(やっ、べぇな…!こりゃあ、かなりマズい事になっちまったぞ…)

 

 

普段は能天気な悟空だが、こればっかりは危機感をつのらせた。

相手は大人で、しかもよりによって頭の硬いキングの母親ときた。

もしも悟空の正体がバレてしまえば…。

 

・得体の知れない人を匿った事として学園が全責任を負い、大変な目に。

・トレーナー知識の無い者にウマ娘を託すという学園の杜撰な対応が公に。

・ハルウララの能力が純粋なものではないと疑われる羽目に。

・洗いざらい調べられると存在していない事が分かり、世界中を巻き込む大騒動へ。

・娘であるキングヘイローに何かがどうかなるのかも知れない。←new

 

 

 

悟空(……………ウララの心が折れた時よりもピンチだな…。…………くそ。さっき連絡が入ったのはコイツの事だったんか。しくじった…)

 

 

それこそ30分前だ。

巡回中インカムに連絡が入った。しかしちょうどその時、悟空はーーダルマさんが転んだ…をしていた。

相手は青髪でオッドアイの元気なウマ娘と、保護者のような振る舞いだが、転んで鼻血を出して泣いていたウマ娘の2人。

警備員の契約通り、ウマ娘との遊びを優先して、機器の音量を小さくしていた。

 

途切れがちに聞こえた内容は話しかけられたら対応しろ、程度の事。

まさかそれがキングの母親で、その上キングと間違えて声をかけるなど想像すら出来ない。

 

 

悟空(つっても、なっちまったもんは仕方ねぇ。いつまでもオラが足を引っ張る訳にはいかねぇからな。……気合い入れんぜ)

 

 

生まれはサイヤ。育ちは地球。

闘いの中で生きた彼は、本気で社会人を演じる事に決めた。

 

 

グッバイ「そん、ごくう。…………偽名じゃ、ないわよね?」

 

悟空「はいっ!本当の名前!です!」

 

グッバイ「そう。………それで?」

 

悟空「それで…って。……何を聞きてぇのか分からないです!」

 

グッバイ「………キングヘイローとは、よく話すのかしら?」

 

悟空「誰だか知りません!」

 

グッバイ「嘘おっしゃいッ!」

 

悟空(ここで惚けんのはマズッたな…)

 

グッバイ「私と間違えたのでしょう?何で隠すの?それとも……、隠さなければいけない関係、なのかしら?」

 

悟空「ッ!」ピクッ

 

グッバイ「反応したわね?」

 

悟空「してねぇ、です!」

 

グッバイ「そのふざけた口調も気になるわ。天下の中央トレセン学園に居ていい人材ではないでしょう」

 

悟空「実際にいるから私に言われても知りません!」

 

グッバイ「……はっ、貴方みたいなのを雇うとは、中央トレセン……いや、"ジャパン,,そのものの格が落ちたわね」

 

悟空「?………そのパンの事は知りませんけどっ、学園のパンは美味しいと思います!」

 

グッバイ「え?」

 

悟空「………え?」

 

グッバイ「……………」

 

 

沈黙状態が続く。

グッバイの視線が悟空の上から下を何度も往復した。

その間、悟空は姿勢を崩さず、背すじを思いっきり伸ばした状態で堂々としている。

 

慌てているのは心の中だけだ。

 

 

悟空(…なんか、ミスったか?いきなりパンの事言って来たから意味分かんねぇけど…)

 

グッバイ「………ねえ、」

 

悟空「はい!」

 

グッバイ「このままふざけるようなら、上の人を呼んでもらうけど」

 

悟空「一切ふざけてない、です!」

 

グッバイ(………そう、なのよ、ねぇ…)

 

 

グッバイはデザイナーの社長を務め、人を見る目に関して超一流だ。

ある人の才能を見抜き、ある人の欠点を捉える。そして、ある人の虚勢や嘘を見極めれる。

 

 

グッバイ(この人は隠し事が出来ないタイプ。取り繕う事も下手ね。………それなら、今のは本音?)

 

悟空「???」

 

グッバイ「…………ジャパン」

 

悟空「…………そのパンは食べた事がないので分かりません!」

 

グッバイ「!…………貴方、ここがどこだか分かる?」

 

悟空「ここ?……トレセン学園」

 

グッバイ「そのトレセン学園がある場所は?」

 

悟空「日本です!」

 

グッバイ「……では日本の首都は?」

 

悟空「しゅっ、シュト!?」

 

グッバイ「ええ。………かなり難しい質問だったかしら?」

 

悟空「!そ…、そうですね。私には難しい、です!」

 

グッバイ「分かったわ。次々に聞いて悪いのだけど、首相って誰だったかしら?」

 

悟空「………しゅしょー…?」

 

グッバイ「偉い人よ」

 

悟空「ああ、えっと……春……夏?………あ、秋川やよいだ!じゃなくて…、秋川やよい…さま?です!」

 

グッバイ「秋川やよい……学園の理事長ね?」

 

悟空「はい!めっちゃくちゃ偉い人で、しゅしょーです!」

 

グッバイ「………ふふっ、では最後に1つだけ…」

  

 

 

グッバイ「聞かせてちょうだいッ!!」

 

 

地面を蹴るとグッバイの姿はブレた。

 

 

悟空「なっ…!?」

 

 

バシッッッ…!

突き出された拳。受け止めた手のひら。それは悟空の顔の前で拮抗している。

 

 

グッバイ(一歩も下がらずウマ娘の力を!?)「………貴方、本当に何者なの?」

 

 

目を大きく見開いた後、グッバイの目付きは鋭さを増した。

受け止められた拳を引こうとはせず逆に押し込めるが、それ以上ピクリとも動かない。

 

 

悟空「……………警備員だ。そっちこそ、いきなりコレとは随分な事するじゃねぇか」

 

グッバイ「偽物の警備員を成敗するだけよ」

 

悟空「偽物?…質問にはちゃんと答えてただろ」

 

グッバイ「そうね。答えてはいたわ。小、中学生でも分かるような問題が正解率0%だったけれどね」

 

悟空「マジかよ…」

 

グッバイ「その程度でエリート揃いの中央トレセン学園に入る事は出来ない。………さっき言った事は訂正する。お前は学園に居て良い人ではなく、学園にいるはずの無い人間ッ!」

 

 

先程の突きを簡単に受け止められた事に、孫悟空という人物を只者ではないと判断。

グッバイは拳を引き戻すと同時に脚を振りまわす。狙うは側頭部。手加減無用の一撃が悟空に迫った。

 

 

悟空「…………」

 

 

当然。悟空にしてみれば止まって見える速度。

のけ反る形で避けた後、その勢いを利用して後方宙返りを披露する。

しかし、足が地に着地する前にグッバイは間合いの中に入って来ていた。

 

 

グッバイ「フッ…!」

 

 

吐いた息は身体の緊張をほぐす。

ウマ娘の猛スピードで短い距離を即座に詰め、体重を乗せた前蹴りが炸裂した。

脱力に加え見事な体捌き。"普通,,の人間ならば、即刻病院送りになるだろう。

 

 

だがそれでも。

 

 

悟空「やめだ。少し落ち着け」

 

 

彼の腕一本ですら乗り越える事は出来ない。

 

 

グッバイ「無理よ。私は止まるわけにはいかない」

 

悟空「…何でそこまで、」

 

グッバイ「娘がいるのよ。この学園にっ!しかもその娘は、お前のような得体の知れない怪物と繋がっている…!」

 

 

溢れ出る感情を必死に押し殺す。

信じて送り出した場所には警備員を名乗る正体不明の男。その男にウマ娘の力など遠く及ばない。

疑問が増える。

この男が侵入者なら理解は出来る。しかし、トレセン学園に侵入する力はあれど、頭脳は持ち合わせていない。

 

考えられるのは、学園側が認知しているという事。

 

目的は何だ。

世界中どこを探してもウマ娘を軽くあしらえる人間なんて存在しない。

そんな男を受け入れている学園は、本当に信じられるのか。

 

 

グッバイ「でも、この一連で分かったわ。私ではお前をどうする事も出来ないって。……そして、貴方も力を振るうつもりはないって事も」

 

悟空「…………」

 

グッバイ「それでも、これ以上キングに関わるのなら私は意地でも引く訳にはいかない」

 

 

 

グッバイ「だから教えなさいよ。私が求めている答えを」

 

 

 

悟空(…………ああ、そっか。"おめぇ,,に似てんのか)

 

 

既視感。

途中から悟空を悩ますナニカがずっと引っ掛かっていた。

それが今、ようやく分かった。

 

自分の子供を守るため必死に拳を振るい。

絶対的な力の差を理解しながらも、睨み続ける強い意志。

 

それは生前、同じ道を歩いた妻の姿ではなかったか。

 

 

悟空(通りで手を出したくなかった訳だ)

 

 

対処法なら既に思い付いていた。

テレパシーでたづなを呼んでも良いし、この女性が気付かない速さで昏倒させてもよかった。

だけど自分の心が受け止めろ…と指示して来たからそれに従ったんだ。

 

悟空は目を瞑り、自分の中だけでたづなに謝った。

 

 

悟空「オラも、あんたには変な事言いたくねぇ。けど、全部話す代わりに約束してくれ」

 

グッバイ「!………内容を先に聞くわ」

 

悟空「オラはちゃんと話す。確認したければ、やよいとたづなを連れて来ても良い。それこそキングでも良いさ。ただし部外者の奴に言うのだけはやめてくれ」

 

グッバイ「理由は?」

 

悟空「話しが広まると取り返しのつかねぇ事になる。やよい達には迷惑をかけたくねぇんだ」

 

グッバイ「……約束する。納得出来なくても第三者には話さない」

 

 

ただの口約束に過ぎないが、相手はキングヘイローの母。

その肩書きだけで信用性は格段に高くなる。

 

 

悟空「よし。んじゃ、話す」

 

 

とは言ったものの。話す所と話さなくていい所の境目が分からない。

とりあえず最初の頃みんなに言っていた事を伝えた。

 

自分は戦闘民族サイヤ人で五年前に死んでいる事。

えんま様の手によって自分の知る地球と異なる地球に送られた。

ウララと知り合い、鍛え、やよいに雇ってもらい。

 

それからはーーー……。

 

 

 

      ・

      ・

      ・

 

 

 

悟空「ーーと、まぁこんな感じなんだけど…」

 

グッバイ「…………」(なるほど…。あの子が言っていた、死んでもなお闘い続ける戦士とは実話だったって事ね)

 

悟空「な、何か言うんなら先に言ってくれ…」ビクビク

 

グッバイ「?……何で耳塞いでいるのよ」

 

悟空「だって、どーせ騒ぐんだろ?信じらんねー!とか、嘘つけー!とか。……あれ結構ビックリするんだぞ」

 

グッバイ「そうでしょうね。容易に想像出来るわ」  

 

悟空「ん…?あんたは普通だな。オラが言うのも何だけど驚かねぇんか?」

 

グッバイ「驚いてはいる。でも、貴方が学園にいる理由やウマ娘よりも遥かに強い力などを考えると、そうでなければ説明がつかない。私はこの世の常識よりも自分の心を信じるわ」

 

悟空「はえー、キングが言いそうな事だけど、アイツは最初から最後まで叫んでたなぁ。やっぱさすがは母ちゃんって所だな」

 

グッバイ「その母から質問があるのだけど」

 

悟空「何だ?」

 

グッバイ「キングに変な事してないわよね?」

 

悟空「出たな、変な事…」

 

グッバイ「何その反応…………まさかっ!」

 

悟空「なんもしてねぇって。あれだろ?スケベなやつの事言ってんだろ?」

 

グッバイ「まぁ、いかがわしい事ね」

 

悟空「オラがそんなのする訳ねぇだろ」

 

グッバイ「………寝てる時とか、お腹を出してとか言ってたじゃない」

 

悟空「それが?」

 

グッバイ「…あの子の寝顔、見たの?あとお腹」

 

悟空「ああ。ちょっと用があって部屋に行った時にな。ちゃんと布団は着してやったぞ」

 

グッバイ「………」ジー

 

悟空「???」

 

グッバイ「………下心は無さそうだし、良しとするわ」

 

悟空(コイツ。頭ん中覗けるなんてことねぇよな…?)

 

 

察しが良過ぎて怖い。

並外れた理解力と、敵とあらば即座に拳を出す行動力。表情の変化から心理を読み取る読心術。

一流の者が成長し続けると限界の壁は存在しないらしい。

 

 

悟空「まぁ、誤解だと分かってくれたんなら良いや」

 

グッバイ「ええ。………ごめんなさいね。急に殴りかかってしまって…」

 

悟空「気にすんな。自分の子供がいる所に変な奴がいたらオラだってそうする………かな?」

 

グッバイ「あぁ、やっぱり子供いるのね」

 

悟空「やっぱり?」

 

グッバイ「なんとなくそんな気がしてたのよ。そして今のセリフ。同意するのに悩んだという事は、正確に自分に置き換えれる場面を想像出来たって事でしょう?」

 

悟空「…………あんた、頭大丈夫か?」

 

グッバイ「貴方は言葉を間違えて損するタイプね。ちゃんと褒め言葉として受け取っておくわ」

 

 

どんな縁が引き寄せたのかは知らないが、これで娘を変えたであろう人物に出会う事が出来た。

 

 

グッバイ「ねえ。この後付き合ってもらっても良いかしら?」

 

悟空「あちゃー、すまねぇ。この後は用事があんだ。必要なら別の警備員連れてくっけど?」

 

グッバイ「貴方が良いのよ。用が終わるまで待たせてもらうわ」

 

悟空「そっか。そういや、あんた名前はなんだ?」

 

グッバイ「グッバイヘイローよ」

 

悟空「!………ふーん」

 

 

懐かしい記憶。けれども喜べない出来事。

 

 

 

《ーーここまで良くやったなぁ、悟飯》

《お、とうさん…?》

《………母さんに、すまねぇって言っといてくれ。いつも勝手な事ばかりしちゃってよ》

《ッ…!?》

《グッバイ、悟飯!》

《おとうさ…ッ!》

 

 

 

悟空(……………悟飯…)

 

グッバイ「……ちょっと。ヒトに名前聞いておいて、ふーん…は失礼ではなくて?」

 

悟空「あ、わりぃわりぃ。んじゃ、ヘイロー。用事済んだら戻ってくっから待っててくれ。それか西のターフでキングがトレーニングしてるから、そこに行ってても良いし」

 

グッバイ「ふん。別にキングに会うつもりはないわ。仕事の邪魔して悪かったわね。孫悟空」

 

悟空「構わねぇさ。休憩入った所だしな」

 

 

そう言って悟空は背を向けて歩き出した。

 

 

 

悟空「そんじゃあ、出来る限り早く食い終わるからなー!」グゥウウウ!!!

 

グッバイ「待ちなさい、孫悟空!!」

 

 

 

遠ざかる悟空に待ったをかけた。それも1番大きな声で。

 

 

悟空「なんだ?」クルッ

 

グッバイ「……ごめんなさい。用事って何をするのか聞いても良いかしら?」

 

悟空「飯食うんだよ。オラ腹が減っちまってさぁ。ずーっと我慢してたんだ」

 

グッバイ「後にしなさい」

 

悟空「はあぁっ!?やだよ!」

 

グッバイ「やだじゃないわよ!客人放って食事なんて許される訳ないでしょう!」

 

悟空「あんたが勝手に来たんじゃねーか!オラは呼んでねーもん!」

 

グッバイ「自分が今どんな格好しているのか見なさい!学園に迷惑をかけたくないのなら出来る限りの義務は果たすべきよ!客人をおもてなししなさいな!」

 

悟空「うわっ、あんた本当にキングの母親だな…。怒った所がそっくりだ」

 

グッバイ「何うちの娘を怒らせてるのよ」

 

悟空「アイツがすぐ怒るんだよ」

 

グッバイ「例えば?」

 

悟空「んー、夜に後ろから話しかけただけで怒られたぞ」

 

グッバイ「……………情けない娘だこと…」ハァ…

 

悟空「なぁ、もういいか?さすがにもうぶっ倒れそうだ」グギュゥウウウ!

 

グッバイ「さ、さすがに倒れられるのはゴメンだわ…」

 

悟空「ちゅーか話しがしてぇんならヘイローが来いよ。食いながらでも平気だろ?」

 

グッバイ「どこで食べるの?」

 

悟空「食堂」

 

グッバイ「それなら無理ね。校舎に入る事は契約違反になる」

 

悟空「契約?誰と何の?」

 

グッバイ「秘書の方よ。私が1人で学園を周る条件として決めていたの」

 

悟空「そんならオラがいれば問題ねぇんじゃねぇか?1人じゃねぇし、オラ警備員だし」

 

グッバイ「……際どいわね。実際に許可がほしいわ」

 

悟空「許可か、オラが取ってやるよ」

 

 

そう言って悟空は無線に電源を入れて、ボタンを押した。

 

 

悟空「こちら孫。栄澤さんはいますか?」

 

 

繋いだ相手は古くから学園に仕える警備長である。

 

 

栄澤『孫さん、栄澤です。今は私1人なのでいつも通りで良いですよ』

 

悟空「ん。そりゃ楽で良いや」

 

栄澤『それでどうしたのですか?今は休憩中のはずでは?』

 

悟空「ああ、その事なんだけど、さっきグッバイヘイローと会ってさぁ」

 

栄澤『なんとっ!だ、大丈夫でしたか?』

 

悟空「…………たづなには後で謝るさ」

 

栄澤『あぁ…、やはり。という事はグッバイヘイロー様と?』

 

悟空「おう。食堂を使いてぇから、校舎に入ったら駄目っちゅー契約を無視していいか?ずっとオラがついてるからよぉ」

 

栄澤『良いですよ。他の者には私から連絡しておきますので、孫さんはグッバイヘイロー様のご対応をお願いします』

 

悟空「サンキュー!」

 

栄澤『あ、ただ注意として食堂では中央付近の使用は避けてください。目立つと、その…、色々と大変なので』

 

悟空「分かったぞ」

 

栄澤『それとグッバイヘイロー様については、孫さんがお見送りまでお願いします。くれぐれも途中で別れるなどと失礼な事をしてはいけませんよ』

 

悟空「そ、そうなんか?」

 

栄澤『はい』

 

悟空「…りょーかい」

 

 

会話は終わり、無線をポケットに仕舞い込んだ。

 

 

悟空「さて、行くか!」

 

グッバイ「孫悟空。そういう時にはテレパシーとかいうのは使わないのね。そうすれば直接話せるでしょうに」

 

悟空「………あんた…、仕事とぷらいべーとはちゃんと分けなくちゃダメ、なんだぞ…?」ヒキッ

 

グッバイ(あ、怒りが沸いたわ)

 

 

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

 

ー 食堂 ー

 

 

栄澤の助言により、人目につく事を避け、端の方にひっそりと座る2人。

しかし、机の上には何十枚とある空き皿に加え、片や警備員。片やオーラのある高貴な婦人。目立たない事が出来ない2人であった。

 

 

グッバイ「ねえ、孫悟空」

 

悟空「ん、なんは?」ガツガツガツガツ!!

 

グッバイ「さっきも思ったのだけど、死んでてもお腹は減るの?」

 

悟空「っん、……ふぅ、………いや、聞いた話しじゃ減らねぇらしいぞ」

 

グッバイ「でも貴方は?」

 

悟空「すげぇ減る。んでもって食わねーと力入んね」

 

グッバイ「戦闘民族……だったわね。身体が強さを維持するために空腹現象が起きるのかしら?」

 

悟空「さぁな。考えた事もねぇや」

 

グッバイ「でしょうね」

 

悟空「………」ガツガツガツガツ

 

 

 

 

悟空「うまいなコレ!!」

 

グッバイ「…………ハァ、」

 

 

肘をつき、悟空に呆れた目線を送る彼女。

ほどよい熱さのコーヒーを飲むと静かに息をつく。

 

 

悟空「…………ん…?」ジー

 

グッバイ「…なによ」

 

悟空「なんふぁ、ーー」

 

グッバイ「待つから。口の物を飲み込んでから話しなさい」

 

悟空「ん。…………むぐっ!?」

 

グッバイ「?」

 

悟空「むぐぐぐぐっ…!!!」ジタバタ!

 

グッバイ「えっ…!ちょ、詰まらせたの!?」ガタッ!

 

 

椅子が倒れるほどの勢いで立つと、机を回り込み、悟空の背中を叩き出した。

 

 

グッバイ「お皿の上で良いから吐き出しなさい!」バンバンッ!

 

悟空「むむ、っ、〜〜〜っ!」ゴキュリ!!

 

グッバイ「………の、飲み込んだの?」

 

悟空「………死ぬかと思った…」

 

グッバイ「………」ペシッ

 

悟空「あたっ」

 

 

ガタリ…!と少し乱暴な動作で椅子に座り直す彼女。

 

 

グッバイ「それで、何を言おうとしてたの?」

 

悟空「ああ、あんたがオラに用があるって言ってた割に何も言わねぇからさ、どうしたって思って」

 

グッバイ「目の前で大食い選手以上のものを披露されたら言葉だって詰まるわよ」

 

悟空「へへっ、そいつは悪かったなぁ」

 

グッバイ「気にしないで。私から頼んだ事だからゆっくりで大丈夫よ」

 

悟空「そうけ?んでもオラも落ち着いたから何でも聞いて来て良いぞ」

 

グッバイ「なら聞くわ。キングに何を伝えたの?」

 

悟空「…って、言われてもなぁ。まるっきし何の事か分かんねぇぞ」

 

グッバイ「あの子は変わった。負けて笑えるなんてあり得ない」

 

悟空「……菊花賞のアレの事言ってんのか?」

 

グッバイ「そうよ」

 

 

テレビ中継が捉えた。菊花賞ゴール直後に流れた映像。

セイウンスカイ、スペシャルウィーク、キングヘイローが仲睦まじく戯れあっていた件だ。

 

 

悟空「そんで?」

 

グッバイ「キングは私に言ったわ。自分に勝つライバル達が這いつくばる時を想像したら笑いが込み上げる…と」

 

悟空「ははっ、言うじゃねぇか」

 

グッバイ「G1よりも同期達に勝ちたいんだって」

 

悟空「へえ。まぁそれももうすぐだろ。オラから見てもそんなに差はないと思うぞ」

 

グッバイ「あの子はどうしてそんな考えに至ったの?貴方は何て言ったのよ」

 

悟空「………いや、知らねぇけど…?」コテン

 

グッバイ「は?」

 

悟空「ちゅーかオラ、キングと2人だけの時ってあんまりねぇし、そういう気持ち?みてぇなのは話した事ねぇぞ」

 

グッバイ「………嘘よ」

 

悟空「そう思うか?」

 

グッバイ「………………思わない」

 

悟空「だろ?」

 

グッバイ「……それじゃあ普段キングと何を話しているのよ」

 

悟空「普段…。2人の時か?」

 

グッバイ「ええ」

 

悟空「ならウララに渡す小遣いの管理かな。一気に渡して金使い荒くなったら大変だかんなぁ。オラもどんくれぇ渡したら良いのか知らねえし」

 

グッバイ「……財布をキングが握ってるってわけ?」

 

悟空「一部だけな」

 

グッバイ「…………他には?」

 

悟空「んー、たまに修行は一緒にするけど根本はキントレが教えてるし、後は他の奴もいる時に話すくれぇだ」

 

グッバイ「あまりキングとは近い仲って事ではないのね」

 

悟空「んな事もねぇぞ。ウララを除いて次に一緒にいる時間が長ぇのはキングだ。あいつがウララの近くにいるってのもあるけど横見りゃあ大体いる」

 

グッバイ「………」

 

悟空「あ…、でもあれだ。あいつが有マで勝ったら一緒に喜ぼうぜって話しをした。抱っこして、上空に飛ばして、やったな!って褒めてやんだ」

 

グッバイ「!……ハルウララと師弟関係になっておいて、キングの勝利を喜ぶのはどうなの?」

 

悟空「もちろん最初は悔しいって思うさ。オラ達の力が負けたんだから」

 

グッバイ「でしょうね。それが当たり前、ーー」

 

悟空「んでも多分、そのすぐ後には誇らしく思う。やる事全てやったオラ達に勝った奴はとんでもなく鍛えたんだろうからなぁ」

 

グッバイ「ッ!…そ、れが………貴方の考えている事なのね」

 

悟空「まぁな。つっても、もしキングが勝ったらウララが先に喜びそうだけどな!実際ウララにも負けられねぇ理由があるからどうなるかは知らねぇけどよ」

 

グッバイ「………そう、………そういう事、ね」

 

 

結び付いた。

孫悟空の言う事に嘘やデタラメは無い。そしてキングが言った、あのセリフ。

 

 

《私は本当に悲しかった。同時に、ワールドレコードを取った同期が誇らしかった。私はこんなヒト達の頂点に立つんだと血潮が燃えた。私のG1を掻っ攫ったセイウンスカイにムカついた。完璧な走りなのに追い付けなくて悔しかった。そして楽しかった。その結果。私は素の状態でいられた》

 

 

グッバイ(キングは特別な事を教えられた訳じゃなくて、孫悟空の生き様に影響された)

 

 

孫悟空から聞いた生前。

闘いを好み、命の危険さらされながらも強い者を求める思想は自分からすると狂戦士でしかない。

だけどそれが全てではない。

この男は、偶然、好きな事が闘いだったに過ぎないのだ。蹂躙して、支配して、頂点に立つ事を目的としていない。

純粋に強くなる事だけを求めたのだろう。

 

 

グッバイ(背中を見る相手が学も無い男とは。ーー観る眼だけは付けたようね)

 

 

肩書きに目を取られず、本質を見極める能力。

それは一流になる者にとって大切な事だと、グッバイはトレーニング中の娘を想像して軽く笑みを作った。

 

 

 

 

      ・

      ・

      ・

 

 

 

悟空「あ、そういやさぁ」

 

 

悟空はオレンジジュースをストローで飲みながら口を開く。

 

 

グッバイ「?」

 

悟空「何であんたはキングに会わねぇんだ?」

 

グッバイ「いきなり何よ…?」

 

悟空「いやさっき、会うつもりがねぇとか言ってたからさ。せっかく来たんなら顔くれぇ見せても良いんだろうに」

 

グッバイ「ふん。そんな事、あの子の方が嫌がるわよ。私だって来た目的は会うためではないし」

 

悟空「なーんだよ。喧嘩でもしてんのか?」

 

グッバイ「ただ意地をぶつけ合ってるだけよ」

 

悟空「ははっ、あんた達みてぇな頑固が意地張ったら一生終わらねぇな!」

 

グッバイ「ほっといてちょうだい。………って訳にもいかないわよね…」

 

悟空「ん?」

 

グッバイ「……私はね。キングをレースの世界から遠ざけようとしていたのよ」

 

悟空「!!!」

 

グッバイ「有マ記念には出ず、私の所に来るように言ってね」

 

悟空「…………それは…、あんたがキングの負ける所を見たくねぇからか?」

 

グッバイ「なっ…!何、で……そう思ったの?」

 

悟空「少しだけヘイローに似てる奴を知ってんだよ。それを軽く置き換えただけだ」

 

グッバイ「……半分正解。残りは、負け続きになるとキングがレースを嫌いになる可能性があったから」

 

悟空「だから、嫌いになる前に強引に辞めさせようって思ったのか」

 

グッバイ「元々あの子には障害が多すぎる。走る前からくだらないプレッシャーに襲われたはずよ」

 

悟空「何だそりゃ?」

 

グッバイ「ウマ娘は血統の能力が強く引き継がれる。G17勝の私といった一流の血が、多くの人に色眼鏡をかけさせた」

 

悟空「えっ、ヘイローってそんなに強かったんか!?」

 

グッバイ「ふふっ、これでも若い頃は…ってね」

 

悟空「はえー、そりゃあ注目されんのも無理はねぇな」

 

グッバイ「トレセンに入る前は純粋に夢を語っていたわ。私を目標にしてくれて、とても嬉しかった。……でも、成長につれて私は現実を知った」

 

悟空「………」

 

グッバイ「夢を語る笑顔を曇らせたくない。

………好きなものを嫌いになるのなら、強制的に親が止めて来た…という口実を逃げ道に作ってやれば良い。そう考えたわ」

 

 

その考えを認めてもらおうとは思わない。どんな気持ちを秘めていようとも、娘の道を壊している事実は変わらないのだから。

 

 

悟空「ーーーははっ!」

 

 

でも、この笑いには黙っていられない。

 

 

グッバイ「………孫悟空。私は面白い話をした覚えはないけれど?」

 

悟空「い、いや、すまねぇ。おかしくて笑った訳じゃねぇんだ」

 

グッバイ「じゃあ何よ」

 

悟空「あんたは、いつからキングをやめさそうとしてたんだ?」

 

グッバイ「最初からよ。本格的に言い出したのは4戦目の弥生賞が終わってから。同期達に怪物がいる事も分かったしね」

 

悟空「4戦目か…。ならやっぱヘイローにそんな気は無かったんじゃねぇか」

 

 

ざわ…ッ!

ピリついた雰囲気が悟空を襲う。しかし悟空は顔色一つ変えずに、瞳孔の開いたグッバイをひたすらに見つめた。

 

 

グッバイ「………孫悟空。今話した程度で私の事を知った気でいるなら間違いよ。私は本気で、ーー」

 

悟空「じゃあキングは既に学園を去ってなきゃおかしい」

 

グッバイ「だからあの子がそれを認めないから、」

 

悟空「それが変なんだって。あんた程の奴がキングを言いくるめられない訳がねぇ」

 

グッバイ「ッ…!!」

 

悟空「確かにヘイローとは会ったばっかだけど、拳を交えたから分かる。その気になりゃあ、キングなんて一言も言い返させずに連れて帰るくれぇ朝飯前だろ」

 

グッバイ「…………………」

 

悟空「なんだかんだ言ってもやっぱ、走る所を見ときてぇんじゃねぇか」

 

グッバイ「………しょ、しょうがないじゃない!私の娘だもの!でも楽観視して取り返しのつかない事になったら…」

 

悟空「そん時は一緒になって困ったら良いんじゃねぇか?」

 

グッバイ「!……いっ、しょに…?」

 

悟空「ああ。あんた達2人で考えれば出来ねぇ事なんかねぇだろ。……意地さえ張らなきゃな」

 

 

最後の一言は置いといて。その考えは盲点だった。

親たるもの子を引っ張る存在でいなければならない。その固定概念が、柔軟な考えをなくしてしまったのかもしれない。

 

 

グッバイ「…………ふん。やめよ」

 

悟空「へそ曲げちまったんか?」

 

グッバイ「私の事ばかり話すのは不公平よ」

 

悟空「不公平たって、ヘイローが勝手に話し始めた事なのに」

 

グッバイ「もう充分。今度はそっちの番」

 

悟空「へっへーん!わりぃけど、オラは子供と仲良しだったもんねー!あんたみてぇに困ってねぇよーだ!」

 

グッバイ「………グッバイ」ボソッ

 

悟空「なあっ、ん!?」

 

グッバイ「………ふふっ、気のせいかと思ったけど、やっぱり反応してたのね」ニタァ

 

 

妖艶。不敵……否。率直に言うと、グッバイは気持ちの悪い笑みを浮かべた。

 

 

悟空「ずりぃぞヘイロー!狙ってやがったな!」

 

グッバイ「さあ?その時偶然感じて、今偶然思い出しただけよ。さあさあ教えなさいな。こういうのは相手の事を何も知らない者同士の方が話せるもんよ」

 

悟空「そりゃあヘイローは話し終わったばっかだからなぁ!」

 

グッバイ「ふふん。それで?グッバイがどうしたのよ」

 

悟空「くそ…。……………死ぬ直前、息子に言ったんだよ」

 

グッバイ「あら…。それは心に残るわね」

 

悟空「まぁな。後悔はしてねぇし、強くなったアイツを見れて嬉しくも思う。けど、もうちょい遊んでやりたかったなーって、な」

 

グッバイ「さっき仲良しって言ってたじゃない」

 

悟空「仲は良いさ。んでも死んでたり、戦いだったりでアイツとの時間が少なかったんだ」

 

グッバイ「そうなの?まぁ、でも守れたなら貴方の勝ちでしょ」

 

悟空「それまでにアイツにはすっっっげぇ助けてもらったけどな」

 

グッバイ「もらう?助けたんじゃなくて?」

 

悟空「ああ」

 

グッバイ「…………聞いていい?」

 

悟空「…………オラが聞いた話しでもあんだけど、」

 

グッバイ「え、ええ…」

 

悟空「4歳ん時に悪い奴に攫われて。強くなるために、微妙に悪い奴との修行で、半年間1人で荒野をさまよった」

 

グッバイ「よ、4歳!?………その時孫悟空は、」

 

悟空「死んでた」

 

グッバイ「……深くは聞かないわ。……でも、それで成長したなら………まぁ、」

 

悟空「…………まだ終わりじゃねぇぞ」

 

グッバイ「キュッ!」(………変な声出たわ…)

 

悟空「5歳、悪い奴と命を懸けて戦った。そして宇宙に飛び立ち、違う星でまた命懸けの戦い。オラが見つけた時は首の骨が折れてて、んで、何とかして生き延びてもらった」

 

グッバイ「ま、待って!そもそも5歳の子にそんな力って、」

 

悟空「………」

 

グッバイ「………なるほどね。戦闘民族サイヤ人の血」

 

悟空「……ヘイローの血と似てんな」

 

グッバイ「いえ、これっぽっちも似てないわ。一緒にしないでちょうだい」

 

悟空「…‥……まぁ、そんな状態が何回もあったって感じだ」

 

 

 

悟空「最終的には9歳で地球の運命を背負わせて戦わせちまった」

 

 

 

悟空「あ、ちなみにアイツは偉い学者になりたいっちゅー夢があったぞ」

 

 

グッバイ「…………ねぇ、」

 

悟空「なんだよ」

 

グッバイ「その、……自棄になってない?」

 

悟空「なってる」

 

グッバイ「……フッ」

 

悟空「!…ヘイロー、オラは面白ぇ話をした覚えはねぇぞ」

 

グッバイ「ごめんなさいね。……うふふ、孫悟空。貴方も力はあれど親としては三流みたいね」

 

悟空「お互い様だろ」

 

グッバイ「全くだわ」

 

 

 

 

 

悟空「上手くいかねぇもんだな」

 

グッバイ「いつの間にか私自身が、あの子の障害になってるんだもの」

 

 

 

 

 

グッバイ「上手くいかないものね」

 

悟空「何かにつけて地球ぶっ壊そうとしやがって。オラに用があんなら決着つけてさっさと帰れってんだ」

 

 

 

 

 

 

悟空「お疲れさん」

 

グッバイ「それこそお互い様よ」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

グッバイ「ーーねぇ、本当に良いの?」

 

 

話しは終わり、用事が済んだグッバイは帰路につく。

悟空の案内で向かった先は裏門だった。

そして、今。グッバイの手には入館証のネックストラップを掲げられている。

 

 

悟空「平気だって。たづなにはオラから言っとくからよぉ」

 

グッバイ「私としては挨拶をしたいのだけど」

 

悟空「それもオラから言っといてやる」

 

グッバイ「いえ、杜撰な貴方には分からないだろうけど、こういう時はちゃんと私の口から言うべきだわ」

 

悟空「心配ぇすんな」

 

グッバイ「無理よ。……孫悟空。貴方、私を会わせないようにしてないかしら?」

 

悟空「っ、そ、んな事ねぇぞ!」

 

グッバイ「はい、反応ありね。理由は?」

 

悟空「……………オラがココにいる理由をヘイローに話したからだ。あん時も言ったけど、他の奴に知られんのはヤバくてな」

 

グッバイ「私のせいでそうなったじゃない。尚更私からも謝らせて」

 

悟空「ばっっかやろぉっ!客に謝らしたらアイツすげぇ怒るぞ!明日から食堂禁止にされちまうよ!」

 

グッバイ「…清々しい程の保身ね。………けど、分かったわ。これ以上貴方に迷惑かけたくないし。ただし!絶対にお礼言っときなさいよね!」

 

悟空「任せとけ!」

 

グッバイ「………不安だわ…」

 

 

その時。

あらかじめ呼んでおいたタクシーが到着した。

 

 

グッバイ「…………じゃあ行くわね」

 

悟空「おう」

 

 

自動に開くドア。

グッバイは導かれるようにタクシーへ乗り込もうとした。

 

 

悟空「あ、ヘイロー!」

 

グッバイ「っ、……なによ」

 

悟空「意地張んのも程々にな!死んじまったら何も言えなくなんぞー!」

 

グッバイ「ッ!…………貴方がそれを言うのは卑怯ではなくて?」

 

悟空「……………」

 

グッバイ「…………承知したわ。………孫悟空。貴方が娘と出会ってくれて良かった」

 

悟空「……オラもさ」

 

グッバイ「ありがとう」

 

悟空「ああ。またな」

 

グッバイ「ええ」

 

 

遠ざかるタクシーを見えなくなるまで見送った悟空。

これで栄澤より伝えられた任務を達成し、たづなをどうにかして怒らせないように。という新たな任務に向けて足を進めた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

ー その日の夜 ー

 

 

 

キング「げっ…!」

 

 

ベッドに寝転がりながら着信相手を見て奇妙な声を発した。

 

 

ウララ「どうしたの?」

 

キング「……いえ、ちょっと出てくるわね」

 

ウララ「うん。………、」

 

 

部屋から出るキング。

まだ廊下は明るいままだ。

話しながらで良いだろうと考えて応答ボタンをタッチする。

 

 

キング「ーーご機嫌ようお母様。ついこの前話した気がするけど何か用かしら?」

 

グッバイ『ご機嫌よう。電話というのは用があるからするのだけど、それ以外に何かある…?』

 

キング「最近ではヒマ電話というのがあるのよ、お母様。時間潰しに話すのですって」

 

グッバイ『あら、そうなの。まぁ、そんな事するつもりないし、私には関係のない事だわ』

 

キング「でしょうね。私としてもその方がありがたいわ。…で、用件はなんなの?」

 

グッバイ『……貴女、有マ出るのよね?』

 

キング「はぁ…、またその話し?……出るわよ」

 

グッバイ『そう。……12月の最後の日曜日よね?』

 

キング「予定ではそうよ」

 

グッバイ『……仕事で日本に行く用事があるから、ついでに見に行くわ。みっともない所は見せないでちょうだいね』

 

キング「…………………………あ、そう。用はそれだけ?」

 

グッバイ『え、ええ…』

 

キング「なら切るわ。おやすみなさ、ーー」

 

グッバイ『ちょ、ちょっと待ちなさい!』

 

キング「……何なのよ…」

 

グッバイ『…………ごめんなさい。嘘ついたわ』

 

キング「はあ!?」

 

グッバイ『…有マ記念の日、休暇届出したの。その……応援に行くから、……が、頑張んなさい』

 

キング「ッ!」

 

 

返答する前に切れる電話。

放心状態で暗い画面を見つめると。

 

 

キング「き、気持ち悪っっっ!!え、なに!?別人?詐欺?母親詐欺なの!?」

 

 

もはやパニックだ。

まだ廊下で周囲の事など気にも止めずに叫び散らす。

 

 

キング(………な、んなのよ……今更…)

 

 

やるせない思いのまま、キングは部屋へと戻った。

 

 

 

ーーガチャリ。

 

 

 

キング「………ただいま」ハァ

 

ウララ「おかえ、りぃぃいいい!?」

 

キング「?……今度はなによ。悪いけどちょっと疲れて、」

 

ウララ「ね!ね!何があったの?電話だったんでしょ!?」

 

キング「何もないわよ。というよりテンション高いわね…」

 

ウララ「だぁって!キングちゃんが凄く嬉しそうな顔してるんだもん!何があったのか聞きたくなっちゃうじゃん!」

 

キング「………はっ、はぁああああああっ!!?そんな顔してないわよ!」

 

ウララ「してるから言ってるんだよぉ!顔赤いし!頬っぺたなんてダルダルじゃん!」

 

キング「し、しししし、してない!ぜーーったいしてない!そんな顔してないんだから!!」

 

 

 

必死に表情を隠すキング。

隙間から見える赤く染まった皮膚は羞恥か、それとも歓喜のせいか。

 

 

キングはベッドに飛び込むと布団に包まった。

 

 

 

年相応の、子供のように笑ってしまう顔を見せないように…。

 

 

 



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誰にも見せれない裏の顔




注意
・キャラ崩壊あり。


 

 

 

 

 

 

 

ー 前回のあらすじ ー

 

 

 

キングヘイロー(ふん。どうせ私に期待なんてしてないくせに)

 

グッバイヘイロー(ふん。生意気な子。………………楽しくやれているのなら好きにすれば良いわ)

 

悟空(……やっぱ似過ぎだよなぁ)

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

11月上旬。

ほんのり冷たい風が吹き始め、薄手のアウターを羽織る人達が増えて来た今日この頃。

 

トレセン学園の門前にはチームスピカの面々が揃っていた。

 

 

スペ「あの、れ、連絡はまだ無いですか…?」ソワソワ

 

マックイーン「まだありませんわ」

 

ゴルシ「つーより、スペ。何分置きに聞くつもりだ?」

 

テイオー「病院を出たって連絡来てから3分間隔くらいで聞いてくるよね」

 

スペ「ううううぅぅ…、だって……」

 

スカーレット「気持ちは分かるわ。私もちょっと緊張してきたもの」

 

ウオッカ「だよな。………あのさ、本人の前じゃ言えないけど、おれ…、今でも信じれてねーんだ」

 

マックイーン「…………そんな事、全員が思っていますわ」

 

テイオー「うん…。……心の底から嬉しいって思うけど、それ以上に理解が追いつかないっていうか…」

 

スペ「…………………………………」

 

スカーレット「お医者さんだって何度も調べなおしたって聞いたわ。でも結果は全部同じ」

 

ゴルシ「……アレから半月くらいか。生涯歩く事すら危ういと言われ車椅子生活。それがものの数日で松葉杖…‥……ハッ…、もしかしたら宇宙人の仕業なのかもな」

 

マックイーン「なにふざけた事を………とは言えない。むしろそう言われた方が納得出来ますわね」

 

スペ「…………」

 

 

 

 

スペ(……大当たりです。宇宙人の仕業ですよ…)

 

 

先程までの不安が吹き飛び、スペは真顔で遠い景色を見つめた。

心を無に。そうしないとチームメイトに隠し事をしている罪悪感で押し潰されそうになるからだ。

 

というのも。

 

 

本日は、サイレンススズカの退院日なのだ。

 

 

タキオン、そして悟空から聞いていた途中報告。

1日の早朝と夜の合計2回。3分間"気,,を当て続けるようにしていたらしい。

さらには上半身は元気だからと、宙に浮いた悟空を持ち手のバーに仕立てて懸垂をしたり、腕立て伏せ、上体起こしなど、下半身を使わないトレーニングを悟空監視の元でやっていたとの事だ。

 

 

スペ(悟空さんにお風呂に入れてもらったと電話で聞いた時には反応に困ったけど…)

 

 

そこだけは深く追求して聞いてみたが、どうやら髪の毛を洗ってもらったらしい。

ガサツだと思っていたら丁寧で、ドライヤーの最中に思わず寝てしまったのだとか。

 

 

スペ(スズカさん楽しそうだったし、私としてもスズカさんが笑ってくれて嬉しいんだけど)

 

 

正直に言おう。

 

その時と同じテンションで帰って来られたら、このチームメイト達との寒暖の差で気持ち悪くなりそうだ。

 

 

スペ(ここは私が皆さんに元気を付けないと…!)

 

 

そう考えてスペは手を鳴らして注意を引こうと両手を広げた。

 

すると。

 

 

ゴルシ「ーーーうん、考えんのもメンドクセー!スズカが化け物並みの回復力があるってだけだ!」

 

テイオー「そーだよ!さっすがスズカだよねー!」

 

マックイーン「意地でも走るのという気持ちが起こした奇跡ですわ!同じチームとして祝いましょう!」

 

ゴルシ「よっしゃ!オメーら辛気クセー顔すんじゃねーぞ!スズカが車から降りて来た時が勝負だ!誰1人遅れんなよ!」

 

スカーレット「ええ!」

 

ウオッカ「任せとけ!」

 

スペ「は、はい!」(あれ!?私が1番引っ張られてる!!)

 

 

ーーピコンっ!  

 

 

ゴルシ「ん?……………あっ、トレーナーから連絡来たぞ。そろそろ着くってよ」

 

スカーレット「ってことは…………………あれじゃないかしら?」

 

 

タイミングよく一台のタクシーが向かって来る。

他に車は無く、信号もない一本道。タクシーはあっという間に学園の前に停車した。

 

 

ーーガチャ。

 

 

ドアが開くと運転手にお礼を言う彼女の声。そして、先に降りるように告げるトレーナーの声がした。

 

 

スズカ「よ、いしょ…、……あら?……………ふふっ、お出迎えしてくれたのね」

 

ゴルシ「おうよ。そんで、せーの!」

 

『おかえりなさい!チームスピカへ!』

 

 

横1列に並び、清楚な振る舞いでお辞儀をする。

それはチームスピカが歓迎をする際に使う動作だった。

 

 

スズカ「ええ、………ただいま」

 

 

自然と笑みを溢すスズカの元にスペが近づいた。

 

 

スペ「スズカさん。荷物持ちますよ」

 

スズカ「ありがとうスペちゃん。まだ杖が慣れてなくて、助かるわ」

 

 

着替えなど私物の入ったボストンバッグをスペに渡す。

その時、会計を済ませたトレーナーがタクシーから降り立った。

 

 

沖野「今スズカが言った通りだが、日常生活を許されてもスズカは楽に動ける訳じゃない。お前達みんなでフォローしてやってくれ」

 

スペ「当たり前ですよ!私が付きっきりでお助けします!」

 

テイオー「熱意凄いね…」

 

ゴルシ「盲導犬ならぬ盲導スペだな」

 

スズカ「うふふ、頼もしいわ」

 

沖野「いや、みんなでな?スペがのめり込むと他の事が疎かになるから程々にしてくれ」

 

スペ「大丈夫ですよ!私だって限度は分かっていますから」

 

沖野「そうか?なら良いんだが、……とりあえず部室に行くか」

 

スペ「はい!それではスズカさん。手をどうぞ」

 

スズカ「手?……繋ぐって事かしら?」

 

スペ「はい!」  

 

スズカ「でも、杖ついているから危ないわ」

 

スペ「だから私が杖の代わりになるんです。そんなのよりも丈夫ですから安心してください!」

 

スズカ「ええっ…!?」

 

沖野「ほらみろ!初っ端訳の分からん事を言い出した!」

 

スペ「訳分からんとは失礼な!私は本気です!」

 

沖野「尚更駄目だ!………スペ、お前はスズカのリハビリの妨げになるから必要以上に接するの禁止な」

 

スペ「!…そんなぁ…、スズカさぁん………」

 

スズカ「スペちゃん。私も、その……トレーニングがてら動きたいから、そっとしてくれると…ね?」

 

スペ「」

 

スズカ「スペちゃん…?」

 

 

スズカの手がスペの目の前を往復しようとも、視点が一向に動かない。

 

 

ゴルシ「心が真っ白な灰になって燃え尽きたとさ」ボソ

 

スカーレット「行き過ぎた手助けだったけど、本人に断られたらキツイわよね」ボソボソ

 

ウオッカ「スペ先輩、やっと会えるって楽しみにしてたもんな…」ボソリ

 

 

 

      

      ・

      ・

      ・

 

 

 

部室に向けて歩を進めるチームスピカ。談笑をしながらのんびりと歩いていると。

 

 

スズカ「あ…!」

 

 

カツカツ…と、杖の音がピタリと止まる。

 

 

スペ「?……どうかしました?」

 

沖野「スズカ。痛むのか?」

 

 

誰も彼も、へにょりと曲げた眉に不安そうな瞳でスズカを見つめた。

 

 

スズカ「い、いえ、足は全然問題なくて、………すみません。何でもないです」

 

沖野「……そうか。もし痛みが出ても我慢はしなくて良いからな。すぐに言ってくれ」

 

スズカ「はい。……………、」チラッ

 

 

またも鳴り出す杖の音。

スズカは誰にもバレないように視線を投げた。

 

 

スズカ(……悟空さん)

 

 

かなり離れた所にいるが、彼の特徴的な髪型は間違いようがない。

警備の服に身を包み、隠しきれない筋肉が強く主張している。

ふらふらと、後頭部で手を組みながら歩く姿はとても職務中には見えないが、おそらく巡回中なのだろう。

 

 

スズカ(挨拶したいけど、……今はダメよね)

 

 

彼の理由を聞いて、スペやグラスが隠していた意味を理解した。

警備員としてなら他の者にも紹介は出来るだろうが、付き合いが続くと必ずバレる時が来る。

そうならないために、極力関わる事を避けているとの事だ。

 

 

スズカ(皮肉だわ…。悟空さんと話せて嬉しいのに、その機会を作ったのが "コレ,,なんだから)

 

 

今もギプスに包まった左脚。

複雑な感情が胸の内を蠢いた。

 

 

【よっ!】

 

 

スズカ「えっ…!!」

 

沖野「どうした!やっぱり痛いんだろ!?」

 

スズカ「す、すみません!本当に何でもないんです!」

 

ゴルシ「つってもスズカちゃんよー、2回続けて奇妙な声出すのは反則じゃねーか?」

 

テイオー「そうだよ。ゴルシじゃあるまいし」

 

ゴルシ「そうそう。私ならともかく…って、オイ」

 

スズカ「違うの。声が……」

 

スペ(声?……………まさかッ!)

 

ウオッカ「声って…、う、うそだろ…」

 

スカーレット「な、なによウオッカ…。怖いの?ふ、震えてんじゃない……」

 

ウオッカ「そ、ういうスカーレットだって…!」

 

沖野「俺には何も聞こえなかったけどなぁ」

 

マックイーン「私もですわ。ちなみにどんな声なんです?」

 

スズカ「えっ、と……」

 

 

【今朝ぶりだな!順調みてぇで良かったぞ!】

 

 

スズカ「!……………ぁ」

 

 

今ようやく分かった。

それと同時に訳が分からない。今も離れた所を歩いているのに、何故こんなにもハッキリ聞こえるのだろう。

彼の有する能力の1つだろうが、何をどうしたら良いのかサッパリだ。

 

そんな時。

 

 

スペ「スズカさん!酷いです!」

 

 

突然スペがスズカに抱きついた。

 

 

スズカ「えっ?」

 

スペ「聞き流してくださいよー!私のお腹の音くらいっ!」

 

ウオッカ「お腹って………ぶっ!」

 

スカーレット「ちょっとウオッカ!笑っちゃダメでしょ」プルプル

 

ウオッカ「い、いや、だってよ」クククッ

 

テイオー「モー!スペちゃん!驚かさないでよー!」

 

スペ「わ、私が悪いんじゃないですよ!スズカさんが皆さんに言うから!」

 

沖野「はははははっ!確かにスペはジャパンカップに向けて食事制限していたな!くくっ、声と間違えるって相当だぞ」

 

スズカ「あ、スペ、ちゃん……」

 

スペ「うぅぅ…、スズカさんのばかぁ…」ムギュ

 

 

腰に手を回し、自分の体に身を預けるようにしながら、負担をかけないようにスズカの胸元に顔を押し付けた。

 

 

スペ「……………心の中で語りかけてください」ボソッ

 

スズカ「!!!」

 

 

さっきまでとは違い遊びを無くした低い声。背中をポンポンと叩いて彼女は離れていった。

 

 

スズカ【…………悟空さん?】

 

悟空【おう】

 

スズカ【…………ビックリしました…】

 

悟空【何がだ?】

 

スズカ【だって私、コレされたの初めてなんですよ?】

 

悟空【ありゃ、そうだっけか?………あ、確かにオラが行く時は勝手に行ってたもんな】

 

スズカ【そうですよ。こんな事出来るならもっとお話ししたかったです】

 

悟空【そいつはすまねぇな。んでもこれからはスペがいるから暇じゃねぇだろ?】

 

スズカ【暇が理由じゃありませんよ。楽しいからです】

 

悟空【ん。そっか。まぁこれからはする必要がねぇな。すぐに会えば良いんだしよぉ】

 

スズカ【っ、はい!】

 

悟空【学園でもよろしくな】

 

スズカ【はい】

 

 

 

 

 

スズカ「これからもお願いします!」

 

沖野「おわっ!い、いきなりだな…」

 

スズカ「あ……、」

 

スペ「ひゃわっ、え、お、お願いしますね!スズカさん!!」(うそでしょぉおおおお!!!)

 

 

物語に宇宙最強の男が関わる事で、波乱の学園生活が幕を開いた。

 

 

 

そして、悟空はと言うと。

 

 

 

悟空(ったく。またかぁ……)

 

 

テレパシーを終えた直後。校舎を睨む悟空の姿。

深く大きい溜め息をつくと無線を繋いだ。

 

 

悟空「ーーこちら孫。ウマ娘の対応で巡回を中止させてもらう…ます」

 

『ーーはい。了解しました。よろしくお願いします』

 

 

プツッ。

 

 

悟空「………とりあえず着替えて、……いや、この恰好の方が都合いいか」

 

 

警備員が校舎に入っても何らおかしくないだろう。そう考えて校舎に向かう悟空。

その足取りは彼にしては珍しく、不満を露わにしていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

ー 生徒会室 ー

 

 

エアグルーヴ(グルーヴ)「ーーーー会長。こちらの業務は終わりました」

 

ルドルフ「ありがとう。では一先ずエアグルーヴは休んでくれ」

 

グルーヴ「まだまだ業務は残っていますよね?」

 

ルドルフ「残ってはいるが急ぎじゃないんだ。それよりはスズカの所へ顔を見せに行ったらどうかな?」

 

グルーヴ「スズカ……。…………会長はスズカの回復にどうお考えですか?」

 

ルドルフ「!……どう、とは?」

 

グルーヴ「率直に申し上げますが、異常です」

 

ルドルフ「ふむ」(分かるぞエアグルーヴ)

 

グルーヴ「私が見舞いに行った時にはベッドの上で脚を吊り上げた状態でした。それが今や松葉杖…。常識では考えられません」

 

ルドルフ「だが起きた事だ。誰が何と言おうと現実が全てを物語っている」(仕組まれた事ではあるがな)

 

グルーヴ「それはそうですが……!」

 

ルドルフ「エアグルーヴが感じる疑問は私も重々承知している。だが、それとスズカの退院を祝わないとは別の問題じゃないのか?」

 

グルーヴ「!!!」

 

ルドルフ「業務はまだ残っているとはいえ、一区切りはついてる。罪悪感を抱く必要もないさ」

 

グルーヴ「会長……」

 

ルドルフ「スズカのためにも行くと良い。チームの者だけでなく、仲の良いヒトが来たらスズカも喜ぶだろう」

 

グルーヴ「……分かりました。ではお先に失礼します」

 

ルドルフ「ああ。お疲れ様」

 

 

…ガチャ…………バタン……。

 

 

エアグルーヴが生徒会室から出るとルドルフは背もたれに体重をかけた。

長所と短所に真面目過ぎるという言葉が登録されているエアグルーヴ。休ませるためには、このようなやり取りが必要なのだ。

 

 

ルドルフ(そういう所は、休めと言わなくても休んでいるブライアンの方がやりやすいな)

 

 

というのも。

日頃から生徒会として働いてくれている2人には、業務よりも学生生活を楽しんでもらいたいというのが本音である。

 

 

ルドルフ「さて、一意専心!自分で決めたノルマをこなそうか!」

 

 

机の上には積み重なった書類。

ルドルフは自分の頬をパチン!と叩いて喝を入れた。

 

 

その時だった。

 

 

ゴン!ゴン!

 

 

生徒会のドアにノックのような音が鳴った。

 

 

ルドルフ「?………どうぞ」

 

 

カチャ…。

静かに開くドア。

 

 

 

そこには…。

 

 

ルドルフ「誰もいない……?」

 

 

ノック音は気のせいだったのか。しかしドアは開いた。

不可思議な現象に目を丸くするルドルフは、恐る恐る近づいて廊下を見渡した。

右、左、前…。何度も首を振る。

 

"得体の知れない,,感覚に、ゾクッ…と背中に冷たいモノが走った。

 

 

ルドルフ「…ん?得体の知れない………ッ!!」

 

 

1つ。確信めいた予想が浮かび上がると、答え合わせをするために勢い振り返った。

 

 

悟空「おめぇにしちゃあ気付くのが遅かったな!」ニヒヒ

 

ルドルフ「とうさ、………悟空さん…」 

 

 

会長席に座る彼がいた事で、予想は的中となった。

 

 

ルドルフ「お(たわむ)れを。…瞬間移動かな?」

 

悟空「いんや、ちょっと本気で動いただけだ。ほんの少しドアを開けた時にな」

 

ルドルフ「残像すら見えないとは。いやはや、改めて能力の高さを実感したよ」

 

悟空「………そいつはどうだろうな」

 

ルドルフ「え?」

 

悟空「さっき言ったろ?おめぇにしちゃあ気付くのが遅かったって。オラとしては、おめぇが姿を捉えられなくても、ちゃんと気付くくれぇの速さで動いたつもりだった」

 

ルドルフ「ぁ…!」ダラダラ

 

悟空「ルドルフ。問題だ。オラがココに来た理由は何だと思う?」ガタッ

 

 

悟空は席を立つと、石化の如く固まったルドルフの元に近づいた。

 

 

ルドルフ「あ、あそびに、来てくれた……とかかな?」

 

悟空「それは2番目の理由だな。1番は他にあんぞ」

 

 

悟空が一歩踏み出すとルドルフは一歩下がる。

文字通りの一進一退だ。

 

 

ルドルフ「他…、あ、はは……私には皆目見当がつかないみたいだ…」

 

悟空「………ハッ、嘘つけ。…………とっくにご存知なんだろ?」

 

 

シュン!

悟空の姿がブレるとルドルフは宙に浮いていた。

 

 

ルドルフ「ッ…!」

 

 

両脇には大きな手でガッシリと掴まれている。

プラーンとぶら下がったまま移動をすると、手を離されて急落下。

着地地点はソファの上だった。

 

 

ルドルフ「うっ…、」ボフッ

 

悟空「おめぇさあ!」ズイッ

 

ルドルフ「!!!」

 

 

 

悟空「"気,,ッ!また弱くなってんじゃねぇか!!」

 

ルドルフ「……ふむ、やはりな」

 

悟空「開き直るな!」

 

ルドルフ「うぅっ、…………申し訳ない…」

 

 

しょぼん…。

ソファに座るルドルフは小さく身を縮こめた。

 

 

悟空「オラは別に普段から"気,,を探ってる訳じゃねぇ。何か違和感を感じたら注意してるだけなんだ。おめぇはそこに引っ掛かった」

 

ルドルフ「…以前、忠告された時から適度な休憩を心掛けていたんだが……」

 

悟空「……張り切っちまったんだな」

 

ルドルフ「……」コクン

 

 

仕事が嫌いという訳ではない。むしろ好きだ。

好きな物に没頭するのは仕方のない事。

 

 

悟空「まぁ、前と違うのは "気,,が乱れてるんじゃなくて弱くなってるだけだから、休むと治るはずなんだけど」

 

ルドルフ「もう少しで区切りがつくんだ」

 

悟空「本人がコレだもんなぁ…。……一応聞くけど、"焦ってる,,訳じゃねぇよな?」

 

 

以前のルドルフはURA本部のトップに立つために、無茶な仕事漬けの生活を送っていた。

しかし現実はそう簡単な事でなく、仕事に明け暮れたからといってトップの座には絶対立てない。

その事はしっかりと悟空に怒られている。

 

 

ルドルフ「もちろんだとも。私の疲労は自己管理不足のせいさ」

 

悟空「中身は違ぇけど、ほとんど前と同じじゃねぇか」

 

ルドルフ「……そのようだ」

 

悟空「ハァ…。もう止めはしねぇけど、とりあえず一回飯行くぞ」

 

ルドルフ「まだ区切りが…!」

 

悟空「だーから止めてねぇんだから後でやりゃあ良いだろ。おめぇ1人だと休憩と言いつつ紙切れ見てそうだし」

 

ルドルフ「むぐっ…!」

 

悟空「途中でモヤモヤすんのは分かるけど、めいいっぱい休んでから仕事した方が、力も出て効率っちゅーのが上がるんじゃねぇんか?」

 

ルドルフ「………至極、的を射てる」

 

悟空「ならもう良いな?オラに掴まれ」

 

ルドルフ「しゅ、瞬間移動で食堂に行くのはマズいのでは!?」

 

悟空「ちょっとばかし寄り道する。………おめぇと似た状態の奴が1人いんだよ」

 

ルドルフ「似てる……………………いや…まさか、な」

 

 

心当たりがある。というか、条件に合う者が1人しかいない。

疲労した姿が想像つかない彼女。ルドルフは半信半疑のまま悟空に触れた。

 

 

"シュン!,,

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

ー とある部屋 ー

 

 

 

一瞬にして切り替わる視界。

移動した先でルドルフは瞠目した。

 

 

ルドルフ(こ、んな事が……!)

 

 

視線を外す事が出来ない。

ソファに横になっているのは想像した通りの彼女だ。

しかし、状態があまりにも酷い。

 

チャームポイントの緑の帽子はそのままだが、仰向けで寝ている彼女の目元にはタオルが置かれている。湿り具合からみて目を保養しているのだろう。

 

だがそんな事は全然優しい。

問題はこれからだ。

 

緑のジャケットは机に雑に置かれ、ワイシャツのボタンが上から2つほど外されている。おまけにシャツの裾はスカートから出されていて、パンプスという右左揃って役に立つ代物が離ればなれになって床に転がっていた。

 

彼女にしては、……いや、世間一般的の中でも充分だらしない。

 

そして。

 

彼女の口からボソボソと聞こえる言葉に、ルドルフはお腹を押さえてプルプル震えた。

 

 

たづな「……ちー。チアガールが立ちあがーる。………つー。妻はつまらん。………てー。…でー。出禁には出来ん。………とー…」ボソボソボソ

 

 

ルドルフ(女子会の時にあげたダジャレ本を暗記してくれているとは!さすがたづなさんだ!)

 

 

そう。

悟空が察知した弱々しい"気,,の正体とは駿川たづなの事である。

 

 

たづな「とー。…十日まで待とうか……」ボソッ

 

悟空(………見ちゃいけねぇもんだな、コレ)【ーールドルフ】

 

ルドルフ(テレパシー…!)【なんでしょう?】

 

悟空【一旦出直すぞ。声をかけてから来ねぇと駄目だ】

 

ルドルフ【ですね。お手を失礼します】

 

 

物音を立てないようにルドルフはゆっくりと悟空に手を伸ばす。

 

 

たづな「なー。………………なー…?」

 

ルドルフ(むっ!)ピタッ

 

たづな「……なー…………………なー……」

 

ルドルフ「………」ソワソワ

 

悟空(ルドルフ?)

 

たづな「なー。……………ない…」

 

ルドルフ「ナースのなすがまま…というのはどうですか!?」キタッ

 

たづな「ッ!?」ビク

 

悟空「あ、こら!喋っちゃ駄目だろ!!」

 

たづな「ッッッ!!!!!?」ビクビクビクッ!

 

ルドルフ「しまった!私とした事が…」

 

たづな「…………」

 

 

ノロノロと動き出すたづなの手。

目元の濡れタオルを外して、悟空とルドルフを視界に入れた。

 

 

たづな「…………………あなた達だけ、でしたか…」

 

 

それならどうでもいいやと言わんばかりにもう一度タオルを目に被せる。

 

 

悟空「おめぇ限界来てんじゃねぇか」

 

たづな「……来てません」

 

悟空「横になってる所、初めて見たぞ」

 

たづな「…見なかった事にしてください」

 

悟空「……まぁ、黙って来たオラも悪ぃから忘れるようにはするけどさぁ」ハァ…

 

ルドルフ「たづなさん、失礼します」

 

 

一向に動く気配のないたづな。

ルドルフは彼女の、はだけた胸元を整えてボタンを閉めた。

そこまでしてもたづなは無抵抗だ。女子会を通じて余程近い仲になったとみえる。

 

 

たづな「ん、んん…………………起きます」

 

ルドルフ「ええ。手をどうぞ」  

 

たづな「ありがとうございます」グイッ

 

 

起き上がるとジャケットに袖を通してソファに座った。ルドルフもその隣に腰を下ろしている。

 

 

たづな「それで。お二人はどうしたんですか?」

 

悟空「おめぇ達2人とも "気,,が弱くなってっから強制休憩だ。飯行くぞ」

 

たづな「私、ご飯食べましたよ?」

 

悟空「あり?そうなんか?」

 

たづな「はい」

 

悟空「あちゃあー、それで休んでたんか…。すまねぇ、早とちりしちまった。オラてっきり飯も食わずに仕事してたんだと思って…」

 

たづな「エネルギー摂らないと思考は巡りませんからね」

 

ルドルフ「ちなみに何を食べたんですか?」

 

たづな「カロリーメイトをいただきました」

 

悟空(カロリーメェト?)

 

ルドルフ「ほう?………して、何味が好きですか?」

 

たづな「バニラです」

 

ルドルフ「………ふっ、」

 

たづな「あら…、何か?」

 

ルドルフ「いえ別に。……バニラ、か」

 

たづな「……ルドルフさんは?」

 

ルドルフ「チョコレートこそ至高だと思ってます」  

 

たづな「へえ?ルドルフさんにしては、ふ つ う ですね」

 

ルドルフ「……悪いですか?」

 

たづな「滅相もありません。…………フフッ…」

 

ルドルフ「……では2番目に好きな味は?」

 

たづな「……ルドルフさんからどうぞ」

 

ルドルフ「……………シロップ味」

 

たづな「私達は同志です」スッ

 

ルドルフ「肝胆相照の関係に一歩近づきましたね」ギュ

 

 

悟空(バニラ?……チョコレートに、シロップ…)ウーム

 

 

たづな「悟空さん?首を傾げてどうしました?」

 

悟空「んー、…たづな。おめぇは "飯,,を食ったんだよな?」

 

たづな「え、そうですけど…?」キョトン

 

ルドルフ「実は言うと私も済ませてはいたんだ」

 

悟空「……おめぇは何を食ったんだ?」

 

ルドルフ「もちろんカロリーメイトさ」フンスッ!

 

悟空「…………なあ、ちょっとその、カロリーメェトっちゅーのを見せてくれねぇか?」

 

たづな「そこは食わせてくれー…じゃないんですね」

 

 

ガサゴソと漁るのは鞄の中。

たづなは小さな黄色い箱を悟空に渡した。

 

 

悟空「」

 

たづな「その子、優秀なんですよ?」

 

ルドルフ「栄養、価格、味、手間、全てにおいて他の商品を凌駕している」

 

たづな「食事の時間を設ける必要はないですからね。サクサクっと食べれるんです」ドヤッ!

 

ルドルフ「カロリーメイトのおかげでソウルメイトも出来ました」ドヤッッッ!

 

たづな「っもー、照れ臭いじゃないですか〜」

 

ルドルフ「ふふっ」

 

悟空「…………こ、」ワナワナ

 

ルドルフ「ん?」

 

 

悟空「こんなんで腹が膨れるわきゃねぇだろーーーッ!!」

 

 

廊下まで轟く激昂。

悟空の怒りを目の前で見た彼女達は、怯えを緩和させるために手を握り合った。

 

 

悟空「おめぇさぁ!これっぽっちで飯とか言ってっからぶっ倒れてたんだろ!?」

 

たづな「え、ーと…………あは、は…」

 

悟空「ルドルフも!カロリーメェト食っただけで偉そうな顔すんな!」

 

ルドルフ「はい……」

 

悟空「ハァァ…、………あのなぁ、休むってのは何もしねぇって意味じゃねぇんだ。身体をほぐして、腹いっぱいにして、そんで寝る。そんくれぇ分かってんだろ」

 

たづな・ルドルフ「「…………はい」」

 

悟空「んじゃさっさと行くぞ」

 

たづな「あ、あの…、その事なんですが……」

 

悟空「何だよ。こんだけ言っても食わねぇ気なら、オラも怒っちゃうぞ」

 

たづな「いえ、食べようとは思ってますが……その、」

 

悟空「じれってぇなぁ。早く言えよ」

 

たづな「……あ、足に力が入らなくて…」カァァ

 

悟空「…………………ルドルフは?」

 

ルドルフ「問題ないさ」

 

悟空「ここで隠し事したらオラ知らねぇかんな」

 

ルドルフ「………ギリギリ歩ける状態です」

 

悟空「ほんとにおめぇ達ときたら、…………ウララ達より手ぇかかんぞ」

 

 

悟空はため息混じりに手をかざす。

そこから"気,,が発射されて、彼女達の身体を包み込んだ。

 

 

たづな「こ、れは、……視界が綺麗にっ!」

 

ルドルフ「肩も軽い…。というより全盛期の…、レースに出ていた頃の力がみなぎってくる…!」

 

たづな「そうですねぇ」

 

ルドルフ「え?」

 

たづな「…………肩が軽いです」

 

悟空「オラの"気,,を分けた。ただこれは特別な事がない限りするつもりはねぇから、今後は期待しねぇでくれ」

 

たづな「ありがとうございます」

 

ルドルフ「肝に銘じよう」

 

 

 

 

    ・

    ・

    ・

 

 

ー 食堂 ー

 

 

彼といる時には珍しく、机の上には人数分だけのご飯があった。

 

 

たづな「悟空さん。お蕎麦一杯だけって足りなくないですか?」

 

悟空「もう3時だぞ?飯はちゃんと食ったさ。……誰かさんと違くてな」

 

たづな「うぅ…、チクチク刺して来ますね…」

 

悟空「言われたくなけりゃあ飯はちゃんと食え」

 

たづな「はい…」

 

悟空「ルドルフ。おめぇもいっぱい食うんだぞ。さっき抱えた時に思ったけど、軽すぎだ」

 

ルドルフ「は、はい」

 

悟空「まぁ飯が不味くなるから、これくれぇにしとくけどよぉ。単純な話、腹減んねぇのか?」

 

たづな「もちろん減りますよ」

 

悟空「だよなぁ。我慢してんのか?」

 

ルドルフ「我慢ではなく、後回しってところかな」

 

たづな「仕事をしていると、とあるサイクルが発生するんです」

 

悟空「さいくる…?」

 

ルドルフ「はい。仕事の最中は様々な現象が起きます。眼精疲労、頭痛。そして空腹。しかし空腹を感じる時は仕事の区切りが悪い」

 

たづな「そこで思います。キリの良い所までやってから食事にしよう、と」

 

ルドルフ「予定を組み、何を食べようかと悩みながら手を動かす。時々鳴るお腹の音を恥ずかしく思っていると、ある時ふと感じる」

 

たづな「あれ?私、お腹空いていない…?」

 

ルドルフ「これは空腹を過ぎると起こる現象で、私達からするとそれは好機。次に空腹が訴えかけてくる間に仕事を進めよう」

 

たづな「しかし、また空腹がやってくる頃には区切りが悪い」

 

ルドルフ「どうしてもそこで中断をする訳にいかないから、また範囲を決めて仕事を続ける」

 

たづな「けれどさすがにお腹が減りすぎて集中出来ない。その時に食べるのが、」

 

ルドルフ「calorie mate」

 

たづな「空腹時って少しでも食べると満腹に感じるんですよ」

 

ルドルフ「それを繰り返した際に待ち受けているのが、アレという訳さ」

 

悟空「………あったまいてー…」

 

 

スープまで飲み干した空き皿を前に、悟空は項垂れた。

 

 

悟空「キングはたまに暴走するし、グラスは服選びに着物きせてこようとするし、そんでおめぇ達はこれか。……普段しっかりしてる奴らって、どっかしらぶっ飛んでなきゃいけねぇのか?」

 

ルドルフ「し、辛辣だね…」

 

たづな「少しくらいはご容赦ください…」

 

悟空「んでもさっきのたづなには、オラたまげたぞ」

 

たづな「わっ、忘れてくれると仰ったじゃないですか!」

 

悟空「まあまあ。おめぇにもあんな所があんだなーって思うと、なんだか忘れんのももったいなくねぇか?」

 

たづな「いえ全く?」

 

ルドルフ「私は同感です」

 

たづな「ルドルフさん!?」

 

ルドルフ「お休みしながらもあんな事を言ってたなんて、私は感動しましたよ」

 

たづな「え、私変な事言ってました?」

 

ルドルフ「変ではないさ!…そう。たづなさんはダジャレを口ずさんで、ーー」

 

悟空「あー、何かバカな事言ってたなぁ」

 

ルドルフ「ばっ…!」ギョッ

 

たづな「そういえばそうでした。……恥ずかしい所を見られてしまいましたね」

 

ルドルフ「は、恥じることなど1つも、」

 

たづな「くだらない事考えてると落ち着くんですよねー」

 

ルドルフ「」

 

悟空「あ、それ分かるかもしんねぇ」

 

たづな「おや、共感していただけますか?」

 

悟空「まぁな。界王さまがダジャレ言って1人で笑ってんの見てっと、平和だなーって思うもん」

 

たづな「それは平和そのものですね。ちなみに界王様という方は初めて聞きましたが?」

 

悟空「だっけか?んー、地球の神さまがちっぽけになんのが、えんまのおっちゃんで。そのえんまのおっちゃんがちっぽけになんのが、界王さまだ」

 

たづな「………で、そんな偉大なる界王様の好きな事が?」

 

悟空「ダジャレ。あとドライブ」

 

たづな「………………………親しみやすいお方ですね」

 

悟空「だろ?………んで、おめぇは一体どうしたんだ?」

 

 

ルドルフ「別に…。何でもないさ」ムッスー

 

 

悟空「頬膨れてんじゃねぇか」

 

たづな「?………あ、」

 

悟空「ん?」

 

たづな「あの、ルドルフさん?」

 

ルドルフ「………何ですか?」

 

たづな「お、怒っちゃいました?」

 

ルドルフ「……………私はくだらない物をあげた覚えはない…」フン

 

たづな「ッ…!で、ですよね!ダジャレ本のおかげで私も脳がスッキリと、」

 

ルドルフ「………せっかくカロリーメイトのお陰で距離が近づいたというのに、今では対岸にいるようだ」

 

たづな「遠っ!!じゃなくて、…………ルドルフさん。不適切な言い方をしてしまい申し訳ありません。ダジャレを軽んじていた事は事実ですが、奥深いと感じたのもまた事実」

 

ルドルフ「!!!」

 

たづな「よろしければ今度ダジャレ勝負でもしませんか?」

 

ルドルフ「相手になりましょう!」キラキラ

 

悟空(あー、確かルドルフもダジャレ好きだったなぁ…。すっかり忘れてた)

 

 

 

     

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

お腹を満たして3人がやって来たのは先程までたづなが休んでいた部屋だ。

そしてルドルフの肩には鞄いっぱいに詰め込まれたファイルが入っている。

 

 

たづな「さて!区切りが良い所まで!」

 

ルドルフ「心満意足を目指して!」

 

たづな「ファイ!」

 

ルドルフ「オー!」

 

悟空「なあ」

 

たづな「悟空さん、心配無用です」

 

ルドルフ「そうとも。回復した私達に死角はない。とうさ…、悟空さんには話し相手にさえなっていただければ」

 

悟空「それなんだけど、オラにも手伝える事はねぇか?」

 

たづな「えっ、……そんな、付き合っていただくだけでも恐縮ですのに…」

 

悟空「いやー、何だかんだ言ってもおめぇ達の邪魔をしちまった事に変わりねぇからさ。つってもオラ難しい事は分かんねぇから出来る事があれば、なんだけどよ」

 

ルドルフ「………ふっ、本当に頭が上がらないな。たづなさん。厚意に甘えましょう」

 

たづな「そうですね。無下にしたくないので是非。…

なんですけど、何をしてもらいましょうか…」

 

ルドルフ「悟空さんはパソコンを触れるかい?」

 

悟空「機械はいじった事ある程度だな」

 

たづな「文章を打ち込むとかは……」

 

悟空「漢字分かんねぇぞ」

 

たづな「ふむ。………あっ!では数字だけを打ち込んでもらいましょうか!」

 

 

そう言ってたづなは鍵のついたロッカーを開けると、中程度な大きさの箱を取り出した。

 

 

たづな「ん…しょっ、と」

 

 

ドサッ。

机に置かれた箱。悟空はソファに座りながら前のめりになって覗き込んだ。

 

 

悟空「数字だけならオラにも出来そうだけど。こいつを何かすんのか?」

 

たづな「はい」

 

 

たづなは上蓋を外した。

 

そこにあるのは。

 

 

悟空「ほぇー……」

 

 

小、中、大…といった不規則な大きさで乱雑に詰め込まれた紙切れである。

そして悟空の目を奪うのは、圧倒的なほどの数。

両手足の指では全く数え切れず、紙を何度かずらしても底が見えないのだ。

 

悟空は目の前の状況を少しずつ理解すると、どんどん顔が青白いものと変化していく。

 

その紙切れ1枚1枚の一番下には、数字が記されているのだから。

 

 

悟空「……た、たづな?オラは、何を…」

 

たづな「今説明しますね!」

 

 

爽やかな笑顔を披露すると、机でパソコンを起動させた。

 

 

たづな「ーーでは、悟空さん。画面を見てください」

 

悟空「お、おう」

 

たづな「1枚の紙には一行使ってください。終われば一行開けてから、また入力」

 

悟空「一個飛ばしっちゅー訳だな」

 

たづな「はい。そしてキーボードの打ち方ですが、数字はココ。終わったらコレ。間違えたらココ。行を変える時もココです」

 

悟空「分かった。……ああ、分かったんだけど…、」

 

たづな「何ですか?」

 

悟空「紙ってのは、箱の中に入った紙…全部か?」

 

たづな「はい」ニコッ

 

悟空「は、はは…、おめぇ達はこんな事ずっとやってんのか?」

 

ルドルフ「そうだね」

 

たづな「これでもまだ氷山の一角で、やれと言われたら時間が掛かってしまうんです。本当に助かります!」

 

悟空(そりゃあ、くたびれる訳だ)「……おしっ!いっちょやっか!」

 

たづな「あ、悟空さん。注意していただきたい事がありまして」

 

悟空「なんだ?」

 

たづな「ゆっっっくりで良いので間違えないでくださいね?」

 

悟空「が、頑張るぞ…」

  

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

 

悟空「んー、と……」カタ…………カタ…………

 

ルドルフ「悟空さんは元いた世界では、あまり仕事に携わってないと言っていたね」

 

悟空「あまり…、ってか、………全く、だ」カタ…………………カタ…

 

たづな「全く、ですか。そういえばチチさんに怒られていたって言ってましたね」

 

悟空「………まぁな。………野菜でも、…育てようって、……なってたんだけど、……死んじまった」カタ……………カタ……

 

ルドルフ「は、反応に困るな……」

 

たづな「ですね。…あれ?となると機械はどこで操作してたんですか?」

 

悟空「宇宙船……だ。………ブルマは、簡単に……してくれたけど、…微妙に覚える事も、あってな」カタ…………カタ………カタ…

 

たづな「宇宙船?……それだけ聞くと規模が半端ではないですね」

 

ルドルフ「ブルマ、さん。……確かアグネスタキオンから聞いた事があるような」

 

悟空「…ああ。……タキオンに、ブルマの事を話したら、完全に打ちのめされてたかんな。……愚痴でも言いたかったんだろ」カタ……カタ…カタ……

 

たづな「タキオンさんが負かされるとは…、凄い方なんですね」

 

悟空「だな。んでもちょっと、……いや、かなりやかましい奴だけど」カタ…カタ……カタカタ……

 

ルドルフ「悟空さんの知人だと逞しいというイメージがあるね」

 

悟空「ははっ。アイツはすげぇ逞しい奴だぞ!なんたって違う星で1人になっても生き延びてたかんな!」カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ

 

たづな「ッ!ちょ、ちょちょ、!!!」ガタッ

 

ルドルフ「ストップ!父さん!ストップだ!!」ガタッ

 

 

椅子が倒れようと関係ない。

たづなとルドルフは悟空に詰め寄り、動きを止めた。

 

 

悟空「っ、何だよ。ビックリしたなぁ」

 

たづな「こちらの方が驚きましたよ!?」

 

ルドルフ「た、大驚失色…。心臓が止まりかけたのは悟空さんが5tのタイヤを持ち上げた以来か」

 

悟空「あぁ、あったな。そんな時も」ハハッ

 

ルドルフ「って、笑っている場合ではなく、たづなさん!チェックを!」

 

たづな「今やってます!」

 

 

入力済みの紙が入った箱から一枚ずつ見比べるたづな。

 

 

悟空「オラまだ間違ってねぇはずだけど?」

 

ルドルフ「一応…その、念の為に、ね?…………少し聞きたいんだが、」

 

悟空「ん?」

 

ルドルフ「タイピング。急成長じゃないかい?」

 

悟空「たいぴんぐ?」

 

ルドルフ「キーボード………ボタンを打つ事さ。何故こんな短時間で速く打てたんだ?」

 

悟空「なぜって…、慣れたからだけど?」

 

ルドルフ「慣れ、か?」

 

悟空「ああ。だってボタンの場所は変わんねぇし、紙は1番下に書いてある数字を打つだけだろ?」

 

ルドルフ「論理的に言えばそうだが…。う、打つのが速い理由は分かったが、数字を見るスピードだって!そもそも紙を取る動作が…!」

 

悟空「ああ。悪くねぇ修行だ!」

 

ルドルフ「修行?………ッ!…そういう事か」

 

悟空「???」

 

ルドルフ「ふむふむ、…紙を取る反射神経。数字を捉える動体視力。場所の位置を覚える空間把握能力。五指を繊細に操れる動きは武術の基本?……それが全て超越していれば造作もない事なのか」ボソボソ

 

 

自分の世界に入ったルドルフを困惑気味に見つめる悟空。

 

その時。

 

 

たづな「ーー悟空さん。失礼しました」

 

悟空「ん。大ぇ丈夫だったろ?」

 

たづな「はい。疑ってすみません」

 

悟空「良いって。そんな事より早く終わらせちまおうぜ!」

 

たづな「はい!」

 

 

悟空のとんでも能力により、発破をかけられた彼女達。

なぜだか悟空に対抗心を抱き始め、先程までののんびりした会話が一転。

部屋にはタイピングの音と、ペンでなぞる音。紙を捲る音だけが鳴る始末となった。

 

 

 

      ・

      ・

      ・

 

 

 

そして。

 

 

 

事件は起こる。

 

 

 

本来、瞑想などにより集中力がある悟空は既に作業を終わらせていた。

 

 

何度目か視界に入れる時計。

 

 

 

それまでにも何度か言ったのにも関わらず。

 

 

 

時計の針は、とても綺麗な90度の形をしていた。

 

 

 

 

悟空「オイ!いつまでやってんだ!」

 

 

彼の目の前には、髪がボサついた生徒会長と、服を着崩した秘書がいる。

 

 

ルドルフ「も、うちょっとだ!あと少し!」

 

たづな「今はダメ!ダメなんですよ!!」

 

 

忙しなく手を動かす2人。まばたきという概念を知らないかのように閉じる事のない瞼。 

もはや戦場だ。

 

そして、戦場には活力が必要だ。

 

そのため。

 

 

たづな「ルドルフさん!栄養補給です!」

 

悟空「ッ…!」

 

 

悟空の目の前を飛来する黄色い塊。

 

 

ルドルフ「ありがとうございます!」

 

 

戦友はそれはキャッチすると、無駄をなくした動きでスティック状の塊を口へ向けた。

 

 

ルドルフ「……ん?」

 

 

ピタリ。

ルドルフの手が止まる。

 

 

悟空「…………よお」

 

 

違う。

止められていたのだ。

 

 

発光した黄色い髪を靡かせている彼の手によって…。

 

 

ルドルフ「」

 

たづな「ぁ…………、」

 

悟空「すげぇな。お前達。さすがのオレも驚いた」

 

 

彼女達の髪が揺れる。

窓は閉まっていて風がないはずなのに。

 

 

悟空「なあ、そろそろ腹減ったから飯を食おうと思ってんだけど、お前達はどうする?」

 

ルドルフ「お供させていただきます」

 

たづな「同じくです」

 

悟空「仕事はしなくて良いのか?」

 

ルドルフ・たづな「「はい」」

 

悟空「そうか」

 

 

スゥ…と、部屋から金色の光は消えた。

 

 

悟空「なら食いに行くか!」

 

ルドルフ「是非!」

 

たづな「ん?…………あ"ッ!」

 

悟空「どうした?」

 

たづな「………しょ、食堂、閉まってます」

 

ルドルフ「」ヒュッ

 

悟空「………」

 

 

轟ッッッ!!!

 

 

たづな「私達で作りましょう!」

 

ルドルフ「そうしましょう!」

 

悟空「……ハァ、っもー!………まぁ…、これも癖なんかな」

 

たづな・ルドルフ「「あ、はは………すみません」」

 

悟空「オラのも少しで良いから頼んで良いか?料理は苦手でよぉ」

 

たづな「もちろんです!お礼も兼ねて普段お召しになられている量作りますよ」フンス!

 

悟空「いや大変だから良いって。それよりは早く食って風呂入って寝ろ」

 

ルドルフ「うぅ、面目ない……」

 

 

 

そして。

悟空曰く、彼女達のご飯は美味しかったとさ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

\ 次回予告 /

 

 

 

サイレンススズカが退院した事により、一段とトレーニングに力が入るスペシャルウィーク。

 

次走は、世界から強者だけが集まる舞台。ーージャパンカップ。

 

勝利に向けて日々鍛錬に励むスペシャルウィークだが、トレーナーの口から予想だにしない言葉が飛び出した。

 

 

 

 

 

『スペ、選ぶんだ。ジャパンカップか…、有マ記念。2つに1つしか俺は許可しない』

 

ーーチームスピカのトレーナー:沖野

 

 

 

 

『……トレーナーさん。……私と一緒に、地獄に落ちてください』

 

ーーチームスピカのメンバー:スペシャルウィーク

 

 

 

 

『…………………す、スペたん…?』

 

ーー黄金世代:グラスワンダー

 

 







読者様より、ご指摘がありました。
曰く。

感想を書きたいのだが、回の中で気になる部分が多くて書くことに困る。

との事でした。
とても嬉しいメッセージです。

アンサーとしては。

改行をして、アレは良かった。コレが気になった…などをしていただければ、私も改行ごとに返信します。(長文喜んで)
無理に文章にしなくても箇条書きで良いので、読者の皆様もよろしくお願いします。


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