転生したら暴虐の魔王になれそうな件 (ワラリヲ)
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転生、そして友

初投稿です。ワラリヲです。よろしくお願いします。


 あーあ、こんなことするんじゃなかったよ、素人が登山グッズ揃えて海外の雪山登り行くなんて……凍傷か、クソ痛いわクソ寒いわで笑える状況じゃないのに笑える……

 

≪確認しました、スキル【痛覚無効】【対寒耐性】獲得……

成功しました≫

 

 あ、やべぇ、寒い通り越して熱くなってきた……

 

≪確認しました、スキル【対熱耐性】獲得……

成功しました。

対熱対寒耐性を獲得したことにより、【熱変動耐性】にスキルが進化しました≫

 

 なんか幻聴聞こえてきたな、人生で一度でいいから、アノス様見たく俺TUEEEEしてみたかったな……

 

≪確認しました、アノスを検索……

成功しました。

続けて、エクストラスキル【記憶処理】を獲得……

成功しました。

続けて、ユニークスキル【魔眼】【魔法作成】を獲得……

成功しました。

続けて、アルティメットスキル【混滅の魔眼】の獲得に挑戦……

失敗しました。

続けて、暴虐の魔王アノスに近い肉体を作成します……

成功しました。魂に、<滅び>の属性が追加されました、それにより魔素量と魔力量が上限を超えました。大きすぎる滅びの力を感知、一時的な対抗手段として、滅びと滅びを相殺します……

成功しました≫

 

 あーでも、いきなり力を得てそれだけで頑張ってくださーいじゃキツイから、なんか色々教えてくれる人が欲しいかもな……

 

≪確認しました、ユニークスキル【大教授】を獲得……

成功しました。

続いて、再度アルティメットスキル【混滅の魔眼】の獲得に挑戦……

成功しました≫

 

 全く、なんなんだよ、この声はよ……

 

 ここで俺の意識は途切れた、俺もとい国枝陽太は、雪山で謎の声に対して疑問を持ちながら、息を引き取った。

 

…………

 

陽太「あー、うん、何処だここ? まず今の状況を整理しようか、国枝陽太28歳独身、雪山で凍死。誕生日は9月24日で、好きなラノベは魔王学院の不適合者、書籍化前から見ている。職業は中学校の理科教師、死んだ時は夏の休暇で貯金とボーナス使って海外旅行、素人なのに雪山に登り死亡。で、ここは何処かなっと……見た感じは洞窟、あと体の感じがいつもと違うな、なんかなんでもできそう……いや、それは流石に言い過ぎかな、他にわかることといえば青白く光る鉱石、ところどころ生えてたりする草、それだけだな、これはどう言う状況なんだ? 教えて凄い人!」

 

『解、マスターは死後、今の身体と魂がリンクし、その体に入り込んでいます』

 

陽太「うわっ!? だれ!?」

 

『解、ユニークスキル【大教授】マスターの望むことを教える者です』

 

 なるほど、そりゃ助かるな、聞きたいことは山ほどあるからな、まず、【大教授】と言う言葉は死ぬ直前に聞こえていた、そうなるとその前に聞こえてた事もあるかもな。

 

陽太「俺の……スキル? ってのはどんなのがあるんだ?」

 

『解、【大教授】【熱変動耐性】【魔眼】【滅紫の魔眼】【破滅の魔眼】【魔法作成】【記憶処理】です』

 

 幾つかあるが、その中で俺が注目したのは、【魔法作成】だ、【破滅の魔眼】と【魔眼】に関しては大方予想できる、【滅紫の魔眼】はどんな効果があるのかわからんが、今は置いておく、【破滅の魔眼】は原作そのままで、【魔眼】については相手のスキルとかを視るってところだろうな。【魔法作成】も分かるが、どのレベルの魔法を作れるんだろうか?

 

陽太「【魔法作成】はどんな能力だ?」

 

『【魔法作成】は、指定されている魔法文字と魔素を使い、一定以上のレベルの魔法以外を作ることが可能です。また作った魔法は魔力を使って行使できます』

 

陽太「待った、魔素ってのは?」

 

『解、魔素とは、魔物の身体を構成する生命エネルギーで、スキルの使用等に必要です』

 

陽太「魔力と魔素は何が違うんだ?」

 

『解、魔力は魔素を操る為の精神力そのものです』

 

陽太「つまり、魔素を電子だとすると魔力は電圧で、その魔素の流れが電流、そして流れている体が回路、または、導線ってとこかな?」

 

『是、その解釈で問題ありません』

 

陽太「ありがとう、今から俺が魔法術式を作るってのは出来るかな?」

 

『解、可能です、現時点で使える魔法式をマスターに教えますか? YES/NO』

 

陽太「んー、脳が処理しきれないってのはある?」

 

『解、エクストラスキル【記憶処理】によりありません』

 

陽太「了解、それじゃあYES!」

 

 瞬間、俺の頭の中に大量の情報が雪崩れ込んでくる、こりゃあ、凄い量だな……ただ、この魔法式だと<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>も作れない、<魔炎(グレスデ)>が限界だ、これでは俺の今の実力はゼペス以下ということに……なんとしてでも強くならねば……!

 

陽太「よし、取り敢えず今できる魔法を片っ端から作っていこう!」

 

 その後、俺は思いつく魔法を片っ端から作っていった、攻撃魔法は炎系統と雷系統、補助魔法では<治癒(エント)><解毒(イース)><武装強化(アデシン)>非戦闘系魔法は、これが一番多いのだが、<契約(ゼクト)><飛行(フレス)><思念通信(リークス)><創造建築(アイビス)><幻影擬態(ライネル)><秘匿魔力(ナジラ)><追憶(エヴィ)><解錠(ディ)><追跡(エノイ)><聖別(リヒド)><魔物化(ネドラ)><魔力時計(テル)>だ。

 

陽太「よし、こんなもんかな、次は……【魔眼】使ってみようかな、【破滅の魔眼】と【滅紫の魔眼】はなんか使うのが怖いから使わないけど……」

 

 【魔眼】を開眼する、すると、周辺の魔素の流れや魔素の濃さ、量が視える、取り敢えず魔素が多い方に行ってみようか。

 

 それからは出来ることをとにかく試してみた。例えば、指を切り落としてそれを<治癒>で再生させる事で、それを引き金に【自己再生】のスキルを覚え、他にも色々聞いて、やってみて、【魔力感知】を覚えた。【大教授】と保有している全てのスキル達をリンクさせてみたりした。

 

陽太「んー、一気に魔素量が多くなってきたな、ん?」

 

 視線の先には結界がある、怪しがりて、寄りてみるに、謎の黒龍ありける。

 

 すると、後ろに何かの気配を感じ、咄嗟に回避する。

 

陽太「これは……スライム?」

 

 飛んできたのはスライムだった、魔物に飛ばされたか?

 

???(聞こえるか? 小さき者どもよ)

 

 悪寒が走る、結界の中の黒龍が話している、しかも聴覚的にではなく、直接脳内に!?

 

???(聞こえておるだろう! 返事をするが良い!)

 

スライム(うっさいハゲ!)

 

陽太(このスライム勇気あるな、聞こえてたらどうするつもりなんだよ……ハゲてはないし)

 

???(聞こえておるぞ? 我をハゲ呼ばわりするとはいい度胸ではないか! 久方ぶりの客人と思い、下手に出れば、どうやら死にたいらしいな!)

 

 どうやら聞こえていたようだ、このスライム死んだな。

 

陽太(ああ、聞こえてたのか、まあいいか、俺は別に変なこと思ってないし……)

 

???(ふむ、貴様は……まあ良い、スライムよどう言うことだ?)

 

スライム(すみません! 返事の仕方もわからなかったもので、適当に思ったことを試しに言ってみただけです。申し訳ない!)

 

 適当に出た言葉が、うっさいハゲ! かよ……

 

???(ふふふ、ふはは、ふはははははっ!)

 

 3段活用かな?

 

???(面白い、我の姿を見ての発言かと思ったが、目が見えないのか、スライム種は基本的に思考もせずに、吸収・分離・再生を繰り返すだけのモンスター、自らテリトリーを出ることは滅多にない、それに奴に似た者……か)

 

陽太(奴? 誰の事です?)

 

???(お前がとある知り合いに似ていただけだ。ところで、お前たちはネームドモンスター、もしくは、ユニークモンスターか?)

 

 上手くはぐらかされたな。

 

陽太(ネームドは多分名持ちって意味かな? じゃあ、俺は生まれてから10日程度だからあり得ない、ユニークって方かな?)

 

スライム(俺は90日、名前は付けられてないぞ)

 

 ああ、先輩だったのか。

 

 その後、種族等の説明を聞いたが、長かったので要約すると、生殖能力の持つ種族の中でも、人間に味方するの者は亜人、その他のものが魔物と言うらしい。

次に魔人は、魔素から生まれたり、魔物の突然変異だったり、色々いるらしい。上位の魔人も生殖能力を有するが、圧倒的な魔力に劣化することのない身体を持つため滅多に生殖行為は行わないらしい。

そしてこいつらを総合して魔族というらしい、俺は一応魔人の中の魔族という種族だそうだ。人間が勝手に恐れているだけらしいが……。

そしてここからは続けようか。

 

???(で、我が生殖を必要としない理由だが、必要ないからだ、我は"個にして完全なる者"であり、4体しかいない竜種が1体、"暴風竜ヴェルドラ"とは我のことよ!

我には寿命も肉体も存在しない、魔素の塊であり、意志さえあれば我は不滅なのだ! クアーーーハハハハ!!!)

 

 どうやらこの黒龍はヴェルドラと言うらしい、そして俺最強だから生殖は必要ないのだっ! ってことな?

 

スライム(そ、そうなんすか、大変分かりやすい説明! ありがとうございました! では、自分はこれで!)

 

 このスライムめ、逃げようとしてるな?

 

ヴェルドラ(まて、我のことを話してやったのだ、次はお主らの番ではないか?)

 

 あ、逃げ道塞がれた、まあいいや、取り敢えず話せる部分だけは話しておこうかな。

 

陽太(そうだな、俺は……)

 

 話せる範囲のことは話した、その後スライムの方も転生した経緯を話した、刺殺か……怖い人もいたもんだな。

 

 そのことを話したら、ヴェルドラは、俺らが稀な生まれ方をしたと言う、どうやら異世界から召喚された者はいるに入るようだが、転生者は珍しいらしい、魔物になるのはさらに珍しいらしい、俺なんかは魔人だからまあ、分かると言っていたけど……まあ変わらないだろう。異世界人に日本人もいるかな? 殆どが俺らと違う世界or海外の人だろうけど……。ああ、あと、スライムが目が見えるようになった、【魔力感知】だ、俺はもう持っていたのでご教授いただけなかった。

 

ヴェルドラ(で、これからどうするのだ?)

 

陽太(俺とスライムの二人で同郷の人を探しに行きますかねー)

 

スライム(うん、それならもしかしたら色々教えてもらえるかもしれないからな!)

 

陽太(そーいや、ヴェルドラさんは封印されたって言ってましたよね?)

 

ヴェルドラ(む? まあな、ちょびっと油断していたが、途中からは本気を出したんだが……負けてしまった!)

 

 自信満々に言うなよ……そいつは人間の勇者と呼ばれる存在で、異世界人かも知れないらしい。

 また、異世界人は召喚された者も多くいる。また、異世界人は強く、その人だけのユニークスキルを持つそうだ、召喚の成功率が非常に低いそうだが……だが成功した場合、兵器として使うらしい、同郷の人かもしれないやつが兵器にされてるとは本当に胸糞悪くなってくる。

 300年ほど前とある事件が起き、街を破壊したらしいのだが、それが原因で封印されてしまったらしい、300年間一人ぼっちか……悲しいな、俺とスライムは目を合わせる。

 

陽太・スライム(よし! 俺たちと友達にならないか?)

 

ヴェルドラ(な!? す、スライムと……唯の魔人の分際で暴風竜ヴェルドラとトモダチだと?)

 

スライム(嫌ならいいんだけど)

 

ヴェルドラ(馬鹿! 誰も嫌とは言っておらぬだろう!)

 

陽太(ふむ、ならどうする?)

 

ヴェルドラ(どうしても……と言うならなってやらんこともないが?)

 

スライム(ならどうしてもだ! 嫌なら絶交、二度と来ない)

 

ヴェルドラ(ちょ!? ……仕方ないな、我が友達になってやろう!)

 

 ツンデレは求めてないんだがな……

 

スライム(じゃあ、宜しく!)

 

ヴェルドラ(うむ、宜しくの! そうじゃ、お前達に名前をやる、お前達も我に名前をつけよ!)

 

陽太(名前? それまた何で?)

 

ヴェルドラ(同格ということだ、人間で言うファミリーネームというやつだな、我がお前達につけるのは"加護"になるのだ、おまえ達はまだ名無しだが、これでネームドモンスターを名乗れるぞ!)

 

 なるほど悪くない、契約だな、俺達は最強の竜種が1体と同格と認められるわけだ。

 まあ、ネーミングセンス無いけど……まあ、安直に、暴風、嵐、テンペスト……とか? 流石に安直か?

 

陽太(スライムさん、どうするよ俺にはテンペストしか思いつかなかったんだけど……)ボソッ

 

スライム(奇遇だね、俺の方もテンペストだ)ボソッ

 

 おんなじかよ……

 

陽太(それでいっか?)

 

スライム(だね)

 

陽太・スライム(テンペスト、でどうだ?)

 

ヴェルドラ(うむ! 良い響きだ! 気に入ったぞ!)

 

 気に入っちゃったし……

 

ヴェルドラ(今日から我は、ヴェルドラ=テンペスト! そしてお前達は……

スライムは、リムル=テンペストを名乗るが良い!

そして魔人は、元々決まっている、ユレム=テンペストと名乗るが良い……やはり、上書きになったな)

 

 ん? 上書き? どういうことだ? 俺には既に名前があった? 誰か俺に名前をつけていたのか? まあ、性を同じにしてるから魂では繋がったようだ。

 

 そうして、俺たち、ヴェルドラ、リムル、ユレムは、魂で繋がり、友となった。

 

リムル(それで、行く前に一応聞いておくけど……その封印って解けないの?)

 

ヴェルドラ(我の力では解けぬな、勇者のスキルと同格のユニークスキルを持つ者ならあるいは……)

 

 やってみるかな

 

ユレム(<創造建築(アイビス)><聖別(リヒド)><武装強化(アデシン)>)

 

 <創造建築(アイビス)>で作った剣を<聖別(リヒド)>で強化<武装強化(アデシン)>で更に強化し、切り付けるが無理だった、むしろ折れた。

 

リムル(ちょ!? 何やってんだ!?)

 

ユレム(俺の魔法とかスキルでどうにかできそうなの試してる、次は……)

 

 ここからが本命。

 

ユレム(【破滅の魔眼】)

 

 俺の眼に紋章が浮き出る、視界の全てを破壊因子として破壊し尽くす魔眼、上手く使えれば究極の反魔法となる。

 周囲の壁にヒビが入ったりしてるが結界には傷ひとつつかない。

 

ユレム(これが最後かな【滅紫の魔眼】)

 

 俺の眼に滅紫色の一文字が描かれる、原作だと神の秩序を破壊することが出来たが、これだと、発動中のスキルを破壊することができるらしい。

 が、結界はビクともしない、俺の実力不足だな。

 

ヴェルドラ(いま、かすかにこの【無限牢獄】が揺らいだぞ! 何をしたのだ!?)

 

ユレム(俺のユニークスキルの3つの力の一部、最初のは魔法を作り、使うやつで作った魔法剣、二つ目は視界の全てを破壊因子とする眼で、三つ目は発動中のスキルを破壊する眼だよ)

 

ヴェルドラ(それほどの能力が……)

 

ユレム(リムル、なんか思いついた?)

 

リムル(ああ、ヴェルドラ、俺の胃袋の中に入らないか?)

 

……は?

 

 その後リムルからの説明を受けて理解した、胃袋というのはリムルのユニークスキル【捕食者】の能力で【無限牢獄】ごとヴェルドラを食ってしまうということだ、そして、ユニークスキル<大賢者>とヴェルドラ、内と外から結界を解析して外に出すという算段らしい。

 

ヴェルドラ(フハハハハ! 面白い! 是非やってくれ! お前に全てを委ねる!)

 

リムル(そんな簡単に信じていいのか?)

 

ヴェルドラ(無論だ! ここでお前達が戻るのを待つよりも、お前の中で外へ出るために【無限牢獄】を解析することのほうが面白そうだ! なぁに! お前と2人がかりでやれば【無限牢獄】も打ち破れよう)

 

ユレム(そっか、じゃあ頑張れよ! ヴェルドラ!)

 

ヴェルドラ(フハハハハ! 無論よ!)

 

リムル(行くぞ?)

 

ヴェルドラ(うむ! どんとこい!)

 

 【無限牢獄】がリムルに覆われて、ヴェルドラごとリムルに飲み込まれる、そのうち残ったのは俺たちのみとなった。

 

ユレム(なんとも呆気ないな)

 

リムル(ああ、それじゃあ、外を目指そうか!)

 

ユレム(だね)




なるべく不自然じゃ無いように主人公を入れ込んでいくので、頑張ります。
初回から伏線というか謎というかなんというかを張ってみたけどどうですかね?


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ゴブリンたちとの出会い

魔王学院、15章が楽しみなんじゃー!
アニメ2期も楽しみなんじゃー!
うわぁぁぁぁぁ!!!


 あれから、俺とリムルはこの洞窟を出ることにした、ただこの洞窟はクソほど広くなかなか出口が見当たらない、なので道中出て来た魔物を倒してはリムルが食しを繰り返していた、あと気づいたのだが、どうやら【魔法作成】のスキルは魔法を使えば使うほど、使える魔法式は多くなっていくようだ、あれからどうにか<灼熱炎黒>や、同等クラスの魔法が使えるようになった、これでエミリアレベルかな。それにしても起源魔法はどうやったらできるかな?

 

ユレム「試し撃ちだ、<灼熱炎黒(グリアド)>!」

 

 かなりの高威力で<灼熱炎黒(グリアド)>をゼロ距離で打ち込むと敵の蜘蛛は灰と化す、いい火力だ、早く<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>を使ってみたいものである。

 

リムル「(いつ見てもとんでも火力だな……)」

 

ユレム「(まだ上はあるぞ? <獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>や<極獄界滅灰塵魔砲(エギル・グローネ・アングドロア)>、<覇弾炎魔熾重砲(ドグダ・アズベダラ)>とかな、最終目標は<涅槃七歩征服(ギリエリアム・ナヴィアム)>だな)」

 

リムル「(マジかよ……ユレムはまだまだ強くなるのか)」

 

ユレム「(そういうことだ、他にも色々使いたいからな、日頃から魔法は使っていこうと思うぞ)」

 

 それからもリムルの手に入れたスキルを試しながら洞窟を進んだ。すると出口をついに見つけた、とても大きく、固い扉だ、アノスならぶち壊して仕舞えば良いと言って殴りかかっていそうだが、そんなことはしない、開けることのできぬリムルの代わりに俺が開けることになった、が、俺が開ける前に何者かが扉を開ける、誰だ? 取り上げずリムルは既に隠れているので<幻影擬態(ライネル)>と<秘匿魔力(ナジラ)>で、姿も魔力も隠す、魔素はさっき客観的に自分を見たら馬鹿みたいに漏れてたから引っ込めた、リムルは気づいていないが、後で誰かに会ったときにでも教えようか。

 

冒険者A「やっと開きやがった、鍵穴も錆びついちまってボロボロだったじゃねぇか」

 

冒険者B「まあ仕方ないさ、ここ300年間ついぞ誰もこなかったんだろ?」

 

冒険者C「入ったという記録はありません、でも大丈夫なんですよねぇ!いきなり襲われたりしません?」

 

 どうやらこちらに気づいてはいないようだ、なぜこんなところに来たのだろうか、中には何も無かったが、300年も閉ざされた場所に今更いくなど、よっぽどの理由があるのだろうか?

 

ユレム「ほう? 姿が消えた? 隠密と言っていたな、おそらく隠れるスキルか、かと言っても【魔眼】で見れば簡単にバレるが……」ボソボソ

 

 まあ気にせず先へ進み、迷いそうになりながらも進む。すると洞窟は終わり、青空が広がっている。<魔力時計(テル)>で時間を確認すると今は正午のようだ。

 

ユレム「こんにちは世界」

 

リムル「(何言ってんだ?)」

 

ユレム「(外に出たらいうって決めてたのだ、朝だったらおはよう、夜だったらこんばんはとな)」

 

リムル「(そうなのか……まあいいや、とりあえず森を歩こうか!)」

 

ユレム「(何か仮の棲家となる場所があれば良いが)」

 

 そう言って森を歩いていると、大きな狼とかが襲って来たので凄んだら逃げ出した、洞窟の中の魔物の方が強く、楽しかったな(戦闘狂)。

 

 そういえば何故か口調が変わってしまった、何故か元の口調には戻せぬ。というかこちらの方がしっくり来る。

 

ユレム「さて、と……そこの者ども、何者だ?」

 

 近くで隠れている集団がいた、30人ほどか?俺が気づいているというとその集団は出てきた、ゴブリンだ、ふむ、とてもゴブリンである。

 

ゴブリン「強キ者ヨ、コノ先ニ、ナニカ用デスカ?」

 

リムル「初めまして、でいいのかな? 俺はスライムのリムルという」

 

 声が大きいな、まあ洞窟内では基本的に思念で会話してたから、当然慣れては無いわけか……

 

ゴブリン「強き者よ、声を鎮めてください」

 

ユレム「すまぬな、リムルはあまり声を出しての会話は慣れておらぬのだ」

 

 本当になぜ口調は変わってしまったのだろうか?

 

ゴブリン「畏れ多い、我々に謝罪など不要です」

 

リムル「で、俺に何か用か? この先に用なんかないけど」

 

ゴブリン「左様でしたか、この先に我々の村があるのです、強力な魔物の気配がしたので、警戒に来たのです」

 

 なるほど俺たちこのとか、それは悪いことをしたな。

 

ユレム「そうか、それは悪いことをしたな」

 

ゴブリン「いえ、そんなことは……あの、お二人に我々の村に来ていただきたいのですが……」

 

ユレム「それはありがたいな、俺たちも今しばらくの間でも滞在できる場所を探していてな」

 

ゴブリン「あ、ありがとうございます! こちらです」

 

 するとゴブリン達は歩き始める、それを俺たちは後を追いかける。

 

リムル「そういえば、なんであのゴブリン達は俺に警戒してたんだ? ユレムにも警戒はしてたけど俺ほどでは無かっただろ?」

 

 普通の音量で話しかけてくる、いや、先ほどが異常過ぎだったからか、少し耳が遠く感じる。

 

ユレム「お前のオーラがダダ漏れだからだ、深呼吸のような感じで引っ込められるからやってみろ」

 

リムル「……マジかよ、今客観的に見たけどとんでもないな、深呼吸みたいな感じだろ? スゥーーハァーー、どうだ?」

 

ユレム「まあ、問題ないなこれならよっぽどビビられぬだろう」

 

 と、そうこう話しているうちに村に着いた、なんというか……貧相である。

 

 それと、彼らの話を道中聞いたのだが、彼らの神が消失したらしい。その神の消失に伴って、魔物が活発に動き出したとのこと、さらに人間の冒険者が森に侵入するようになっていたとのことだ。

 

老ゴブリン「お待たせしました、お客人」

 

ユレム「いや、それほど待っておらぬ、気にするな」

 

 リムルがこちらを見てくる。

 

リムル「(おま! それは流石に……!)」

 

ユレム「(自然にこうなるのだ、許せ)」

 

リムル「(全く……)ああ、いえ、お気になさらず……それ程待っていませんから」

 

老ゴブリン「大したおもてなしも出来ず申し訳ございません、私はこの村の村長をさせて頂いております」

 

 お茶が出る、別に色も悪くない、魔眼で成分を調べても毒は入っていない、いきなり疑ったのは失礼だったな。飲んでみるが普通に飲める、流石に日本のお茶には遠く及ばぬがな。リムルは味を感じないらしい、これの味がわからぬのは、気の毒だな、どうにできれば良いが……。

 

リムル「で、自分達を招待したってことは、何か用事があったのか?」

 

 そうだな、先ほどまで警戒していた相手をいきなり棲家に招待するなどあまりないだろう、何かあったのだろうか? いや、恐らく消失した神がいなくなり、魔物が活発化したので、助けて欲しいと言ったところか。

 

老ゴブリン「最近、魔物の動きが活発になって来ているのはご存知ですか?」

 

 予想通りだな。

 

老ゴブリン「我らが神がこの地に平穏をもたらしてくれていたのですが、一月ほど前に姿を隠したのです、その為、近隣の魔物がこの地にちょっかいをかけ始めまして………我々も黙ってはいられないので、応戦したかったのですが戦力的に厳しく……」

 

 神というのはヴェルドラのことだろうな、時期的に合う、悪いことをしてしまったな。

 

リムル「話はわかりました、しかし自分スライムですので期待できるような働きはできないと思うのですが……」

 

 リムルがそういうと付き添いだった若いゴブリンが、話し始める。

 

ゴブリン「ご謙遜を、我々と出会った時に出していたあの妖気、今は隠していらっしゃいますが、ただのスライムにあれほどの妖気は出せません!」

 

 ああ、彼はあの場にいたからな、あのダダ漏れのオーラを見ていたのだろう。それにしても、あのオーラは妖気と言うのか、覚えておいた方が良いな。

 

リムル「ふふふ、君、なかなか見応えがあるな」

 

ゴブリン「そうですとも!そのお姿でさえ、漂う風格は隠せておりません! そこの魔人様も、今の妖気こそスライム様より小さいですが、本気を出せば同等以上の力をお持ちなのでしょう?」

 

ユレム「さあな、比べたことがないからわからぬ」

 

リムル「お前たち、あの妖気に怯えずに話しかけてくるとは見所があるぞ!」

 

 なんの見所だ?

 

老ゴブリン「はは! 有難うございます、……で、本当のお姿をお隠しになっている理由は訪ねませぬ、ただ、お願いがあるのです、なんとかお聞きいただけないでしょうか」

 

ユレム「内容によるな、言ってみせよ」

 

 内容はこうだ、この周辺には幾つがゴブリンの集落があるのだが、東の地から覇権を狙いこの地に新参の魔物が押し寄せて来たらしい。

 その新参の者どもとの小競り合いでゴブリンの戦士が多数戦死していったと言う、だが、この地には名持ちの戦士がいたそうだが、その者も戦死してしまったらしい。

 その者はこの村の守護者のような立ち位置で、その戦士がいるからと、ここに住んでいたゴブリンもいたらしいのだが、その者の戦死を機に、この村を出るゴブリンが多数出たらしい、その後、この村は魔物が他の村を襲っている間に対策を講じると言うことになったらしいのだが、他の者への協力の要請も、冷たくあしらわれ、この村は絶体絶命の状況だそうだ。

 

ユレム「ふむ、まずこの村の人口とその中で戦える者の数を教えてくれ」

 

老ゴブリン「はい、この村には100人くらい住んでいます、戦える者はメスも合わせて60人ほどです」

 

 少ないな、それに一人一人の力もも武具も良いとは言えない、ほんの小勢でも簡単に滅ぼせるだろう。が、それも相手次第だな、相手が強かったら不味いか、まあ、不可能を可能にしないと、アノスを目指せぬ。

 

ユレム「敵の数、種族、敵1人はゴブリン何人分だ?」

 

老ゴブリン「敵の種族は牙狼族、ゴブリン10人で1匹倒せるかどうか、数は100匹ほどです」

 

 むう、なかなか面倒だな。だが、リムルの粘糸、硬糸でトラップ、木の柵でバリケード、堀を作って落とす、そして武器は基本弓のような遠距離武器、これを徹底すればどうにかなるか。

 

ユレム「全く問題ない」

 

老ゴブリン「なんと!?」

 

リムル「大丈夫なのか!?」

 

ユレム「ただ、まず聞いておくことがある、お前たちは、俺たちに、何を差し出せる? 見返りはなんだ?」

 

 別に見返りが欲しいわけではない、単純な確認だ、相手がこの事態にどれだけ本気になっているか、それの確認。

 

老ゴブリン「我々の、忠誠を捧げましょう! 我らに守護をお与えください! さすれば、我らは貴方様方に忠誠を捧げます!」

 

ユレム「フッ、良いだろう! このユレム=テンペストと、リムル=テンペストが! お前たちの願いを聞き受けよう! 俺たちについてこい! そして忠誠を誓え!」

 

ゴブリン2人「はっ!」




アノス様口調、こんな感じでいいかな?


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ゴブリン村の戦い

魔法にルビがつくようになりました。
魔王学院の魔法って一般的な読み方じゃないし……


老ゴブリン「それで、我々はどうすれば?」

 

ユレム「そうだな、まずは人員が欲しい、怪我人を連れて来てくれ、リムル、薬草のストックはあるな?」

 

リムル「あ、ああ」

 

 と、怪我人の場所に案内してもらう、40人ほどの怪我人を前にリムルに確認する、薬草とはあの洞窟の中のヤツで高純度のポーションが作れるそうだ(【大教授】より)。そこで今回は半分は俺が<治癒(エント)>で回復、もう半分はリムルのポーションで回復させる。

 

ユレム「<治癒(エント)>」

 

 怪我人の傷がみるみるうちに回復する、そうして間もなく体が完全に動かせるようになった。リムルの方は怪我人を食べて一瞬で回復させている。

 

老ゴブリン「なんと……!」

 

 そうして全員の回復が終了し、皆に作戦を説明する。

 

リムル「作戦としては、まず堀を作り、堀を飛び越えようとすれば、木の柵によるバリケードと俺の糸で阻み、それすら飛び越えようとすれば木の柵よりも高い位置にある俺の糸のトラップで阻む、そしてユレムの魔法で結界でこちらに有利な戦場を作り出す。攻撃は主に弓矢等の遠距離武器による安全圏からの攻撃だ」

 

 動けないところをチクチクとなど卑怯だと? 正々堂々と受けて立つぞ? 俺たちのフィールドでだがな。言っておくが、このトラップに殺傷性はない、強いて言えば硬糸に勢いよく突っ込めばバラバラになるかも知れぬが、相手がこちらに服従か、この村から手を退くならば、こちらも何もしない、ゴブリンたちとしては同胞の仇だろうが、それが更なる復讐を生むことだってあろう、ここで共存の道ができるのならば、これ以上の事はない。

 

 そうして夜も更け牙狼族の遠吠えが聞こえてくる、開戦の合図だ、牙狼族が約100匹ほど出てくる、情報通りだ。ちなみに結界の性能としては、防御を一切無くして結界内の牙狼族のみに効果が及ぶようにした、効果は思考力、そして運動力の低下だ。一定以上の者には効果はないが、まあ十分だろう。この程度の結界でも維持に少し集中しないといけないので、ここからはリムルに任せる、もっと強くならねばな。

 

リムル「よーし! そこで止まれ、そのまま引き返すなら、こちらも何もしない、さっさと立ち去れ!」

 

 リムルとしてもできれば争いにはなりたくないようだ。さて、このまま退いてくれれば良いが……

 

牙狼族「ウォォォォォン!!!」

 

 遠吠えを上げ、牙狼族たちは襲いかかってくるが、張り巡らされた粘糸で動きが止まった隙に弓矢を放たれ、死んでいく、しばらくすると牙狼族のほうも、これ以上は難しいと判断したのか、ボスが単身突っ込んでくる、が、粘糸で一瞬動きを止められ、リムルの水刃で首を落とされる。

 

リムル「聞け! 牙狼族よ! お前らのボスは死んだ!お前らに選択させてやる! 服従か! 死か!」

 

 沈黙が流れる、さて、どうする? そんな中リムルはボスの死体に近づき、捕食した。牙狼族にはあまり大きな反応はない、リムルはその静寂を破るようにボスに擬態して、【威圧】のスキルで咆哮を放って……

 

リムル「聞け! 今回だけは見逃してやろう、我に従えぬと言うならば、この場より立ち去れ!」

 

 そう、言葉を紡いだ、すると牙狼族は平伏する。

 

牙狼族「我ら一同、貴方様に従います!」

 

 牙狼族は、リムルに従った、そのあと、リムルが俺にも従えと言い、この戦いは幕を閉じた。

 

…………

<翌日>

 

 あの戦いから一晩が経ち、村の全員(牙狼族も含む)が、広場に集められる、確かゴブリンと牙狼族の数は大きくは違わない、ペアでも組ませるのか?

 

リムル「えーと、まず君たちには、ペアを作ってもらい、一緒に過ごしてもらうことにします」

 

 ゴブリンたちは特に嫌そうではない、大丈夫なようだ。

 

リムル「意味は判るか? とりあえずゴブリンと牙狼族で、二人一組になってくれ」

 

 その言葉に従い、ゴブリンたちと牙狼族は、二人一組のペアを作った。

 

リムル「村長、お前らを呼ぶのに不便だ、名前をつけようと思うが、いいか?」

 

 リムルがそう言った瞬間、皆がざわつき始める、どう言うことだ?

 

村長ゴブリン「よ、よろしいの……ですか?」

 

リムル「お、おう、問題ないなら、名前をつけようと思うんだが……」

 

 ゴブリン、牙狼族ともに歓声が上がる、名前を貰うのが嬉しいのか? ならば自分達でつければ……いや待て、何か付けようと思ってもつけれない事情があるのか? 例えば、弱い魔物だと、名前をつけると衰弱するとか、ヴェルドラは俺たちに名前をつけていたがあまり疲労した様子はなかった、そうなると、強い魔物ではなんの気兼ねなく名前をつけることができるが、弱い魔物だとなんらかの大きなリスクを負うと考えられる、そういえば、この村の名持ちの戦士がこの村を守護していたと言っていた、ああ、そう言うことか、名をつけると付けられた側は付けた側から、力をもらい、つけた側は何か、例えば魔素などを大量に消費するのではないか? と、考察を頭の中で繰り広げているとリムルが名付けを開始する、最初の、村長のリグルド、その息子のリグル、に関してはよかったのだが、その後は、ゴブゾウ、ゴブタなど結構適当にやっていた、少し村長に心配されていたが、それを無視して名付けを続ける、やり過ぎれば倒れる可能性だってある、そろそろ止めるか。

 

ユレム「半分くらいは終わっただろう、ここは一旦やめて後で続けた方が良いのではないか?」

 

リムル「ん? 全然大丈夫だぞ? すぐに終わるよ」

 

 ふむ、俺はもう止めぬぞ。

 

 そうして名付けを続けてゆき、ゴブリンが全て終わり、次は牙狼族の方を行うようだ、まあ、この調子ならあと5人分くらいまでなら問題なかろう。

 

リムル「それじゃあ……ランガだ!」フラッ

 

 リムルが倒れる、この表現が合っているのか、いささか怪しいが……ゴブリン、牙狼族一同当然心配する、かく言う俺もだが、リムルを室内に持って行き、拭いたりなどの世話を雌のゴブリンに任せる、おそらく魔物のグレードによって減る魔素量は変わるのだろうな、それと、数日したら、ゴブリンたちが進化していた、リグルドの変わり映えには驚いたものである。

 

…………

<3日後>

 

リムル「お前ら、なんかデカくなってない?」

 

 第一声がそれだった、気持ちはわかる。簡単に言うと、彼らゴブリンは進化した、ゴブリンは、雄がホブゴブリンに、雌がゴブリナになった、さらに牙狼族は、ランガが名前をつけられたことで、全にして個と言う性質のもと、全員が進化して、テンペストウルフに進化した。

 

 それから、リムルはもう一度皆を広場に集めて、3つのルールを出した、1つ、人間を襲わない、1つ、仲間内で争わない、1つ、他種族を見下さない、まあ良いルールだと思う、人間とはもしかすれば有効な関係を作れるやも知れぬ、仲間内で争わぬのは当然だが、他種族を見下さぬのは仕返しをされればつまらぬと言うことだそうだ。

 

 俺か? 俺は基本的な政治等はリムルに任せる、リムルの方が人生経験が豊富なようだからな。




補足ですが、【魔法作成】のスキルは魔王学院に無いオリジナルの魔法も作る事は可能です。


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移住

待たせたな(スネーク風)


 俺たちは、今とある問題に直面していた。

 

リムル「うん、家建てるの下手だな!」

 

 建てられた……家? が、崩れ落ちる、他の物に比べて大きな建物だったため、柱が耐えられなかったのだろう。

 

ユレム「仕方ないといえば仕方ないのだろうな、今まではここまでの建築は必要なかった」

 

リムル「……うーむ……それに……衣類関係だが、ちょっと露出がひどすぎるな、調達できないのか?」

 

 確かに衣類関係もだな、少し露出が多い、俺は創った服を着ているが、そう何着も創っていられぬ。家も然り、調達できる場所……もっと正確にいえば職人、または交易相手が欲しいところだな。

 

リグルド「今まで何度か取引したことのある者達がいます。その者達ならば、衣類の調達なども行えるやもしれませんな! それに器用な者達ですから、家の作り方も存じておるやも……!」

 

 ふむ、ならばこちらから何が差し出せるかだが……。

 

ユレム「その取引の際はどうしていた? 金か?」

 

リグルド「いえ、金よりも、物々交換や雑用で物資を工面して貰っておりました」

 

リムル「ほう、で、何ていう者たちなんだ?」

 

リグルド「ドワーフ族です」

 

 ドワーフか、確かに器用そうではあるな、ドワーフならば武具などの調達もできそうだ。

 

ユレム「成る程な、リムルとランガ、その他幾つか、そうだな、5組ほどで良いか、5組ほどのゴブリンと嵐牙狼のペアで向かうことはできるか?」

 

リムル「ん? ユレムはいいのか?」

 

ユレム「統治者が2人いるのに役割を分担しないでどうするのだ?」

 

リムル「それもそうか、それじゃあ、リグルのペアと……あとゴブタのペア……それと……」

 

 リムルが牙狼6匹(ランガ含め)、ゴブリン5人を率いて村を出た。

 

ユレム「さて、こちらもやれる事はせねばな、リグルド、何かあるか?」

 

リグルド「はい、今の所は特に。ですが、リムル様方が道中で強力な魔物などを殲滅した場合、他のゴブリンの部族が来るでしょう、我々に下るか、はたまた団結して襲ってくるか……」

 

 成る程な、それに関しては準備だけはしておこう、それに他の部族を受け入れるということはさらに数が増えるということだ、1つの部族で100人いない位だとすれば、数は数倍に跳ね上がるだろう。やはり、移住を考えるべきだな、となると行き先は洞窟を出てすぐの場所にあった、近くに水源のある農地に適した開けた土地、そこならば問題ないだろう、さて、此処からは相手の出方次第だな。

 

ユレム「さて、それまでは特にすることも無いか、相手が下ろうが何だろうが、どうせ移住した方が良い、一応の準備は呼びかけておくか」

 

 それから、皆に恐らく移住をするだろうから準備だけしておけと命じ、一通りの準備が終わってから、数日間の間で新しい魔法を作っていた。

 また、気になることとして、俺の力が日に日に強くなっている、魔力もだが、特に身体能力が既に片手で軽々と大木を吹き飛ばせるほどだ。まだ城は持てそうにない。

 また、起源魔法も使えるようになった、300年前の勇者を起源とすることで使えた。勇者に関しての情報が少ないため少々安定性に欠けるが……。

 何故ヴェルドラを起源にしなかったのかだが、それは魔力が暴走する可能性があったからだ。起源魔法は神やその類のものを起源にすると魔力が不安定になり、暴走しやすくなる。だからヴェルドラでも暴走する可能性があると考えたのだ。

 

 リムル達が出発してから、10日ほど経過した。ドワルゴンまでがゴブリンの歩きで2ヶ月程と言っていたから、今のランガ達ならば3日程だろう。

 行きの3日、ドワルゴンにて3〜6日ほどいたとしても、まあ、そろそろ帰ってくるだろうと思っていると、予想通り、他の部族のゴブリン達が来た。彼らが来た目的は、俺たちに下りたいようだ。戦わずに済んでよかったが、裏切る可能性も考慮しながら、接していく必要があるだろう。

 また、名付けなのだが、俺が行った。全てのゴブリンの名前は記憶しているから、リムル用に書き記しておいた。

 そして、ついにリムル達が戻ってきた。

 

リムル「よう、ユレム、無事に職人、連れてきたぞ!」

 

ユレム「そのようだな、さて、いきなりだが、移住する、必要ないと思うが準備するものがあればしておけ」

 

リムル「え……? どういうことだ?」

 

 リムルに事の顛末を話した。

 

ユレム「……というわけだ」

 

リムル「成る程……確かにこれだけの人数いるとなると、流石にもう少し開けた場所がいいか……」

 

ユレム「移住先はもう見つけてある。村の者達の準備もできている、リムルが良いならすぐにでも出発するぞ」

 

リムル「分かった、俺たちは問題ない、行くぞ!」

 

 そうして、そこまで長くはない旅が始まった。

 旅が終わった。目的地に着いたのだ。家に関しては、リムルが連れてきた職人達によって最低限のものは出来上がってきた。これでやっと街づくりのスタートラインだ。

 

ユレム「ああ……そういうば……」

 

リムル「どうした?」

 

ユレム「いや、他の部族だった者達の名付けは俺が行ったのだが、一応言っておこうと思ってな」

 

リムル「そうだったのか……ありがとうな」

 

ユレム「ああ、それに関しては良いのだ、ただ……」

 

リムル「ん?」

 

 そして俺はリムルに数十枚の顔と名前を一致させた紙をリムルに渡す。

 

ユレム「ここに書いてある数100人分のゴブリンの顔と名前を一致させておいてくれ」

 

リムル「……………………わかった………………」




感想を、私に感想をォォォ!
※強制はしません。この作品が良いと思った方だけでも、感想をして頂ければこちらとしてもモチベーションが上がり、投稿頻度が上がるかもしれません。
(尚、確証はない模様)


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客人

うーむ、シズさんの扱いどうしようか……ヒナタがリムル襲わなかったり、色々変わってくるからな……。


 移住してから、カイジン達のお陰で衣食住の問題は解決した。家に関しては先に水路を設置したためまだあまり建っていないが……。

 ああ、もう一つ、<根源接続(リラベブ)>という魔法で俺とリムル、そして魔物達、全員と魔法線をつなげたことで、魂を繋げた。これによって【思念伝達】が繋がりやすくなった。

 さて、これから考えるのはどうこの平穏を維持しつつ、この町を大きくしていくかだが、平穏に関しては近寄る火の粉を払えば良い、だが、大きくするとなると話は別だ。

 暫くは大きくなり続けると思うが、いつしか他の国等に目をつけられる可能性も無いとは言えぬ。その時、ドワルゴンを追放されたリムル達がいるのはかなり印象として悪い気がするな、優先的にドワルゴンと友好関係を結べれば良いのだが、そうも行かぬだろうしな、ならば確実に信用を得る方法として、実際に人間を招くことができれば1番だが……この森に人間が来ること自体珍しいのだ、そう簡単には行かぬだろう。

 

ユレム「さて、どうしたものか……」

 

リムル「そうだな、偶然この近くに人間の冒険者が来て野生の魔物に襲われているところを助けられれば1番なんだけどなぁ……」

 

 そう美味いはない話があるわけがないだろう……。

 

ユレム「今考えることでもあるまい、今はこの町を発展させることが最優先だ」

 

 今の状態では町として欠陥だらけだ、先のことを考えるのはある程度発展してからで良いと現実逃避を行った。

 

リグルド「おお、このような場所に居られましたか! 捜しましたぞ!」

 

 リグルドだ、確かに森の中でこんな会話をしてるとは思わぬだろう。

 

リムル「どうかしたのか?」

 

…………

 

 リグルド曰く、リグルが森で不審な者を発見したそう。

 

 さて、来てみたが、ジャイアントアントか。ひとり、仮面の女性が襲われそうだな。

 

ユレム「<魔黒雷帝(ジラスド)>」

 

 起源魔法、<魔黒雷帝(ジラスド)>を使い、蟻を消し炭にする。

 

ユレム「ふむ、やはり勇者自体、情報が少ないからか、魔力が暴走寸前だな、起源魔法はあまり使わぬ方が良いか」

 

 リムルが、襲われていた女性の仮面を拾い、仮面を渡す。

 

ユレム「すまぬな、怪我はないか?」

 

仮面の女性「ええ、大丈夫」

 

リムル「…………」

 

ユレム「リムル、どうかしたか?」

 

リムル「いや? なんでもない、村に案内するぞ」

 

 ふむ、見た事でもあったのか? そうして、4人を連れて村へ案内した。

 

…………

 

 村に案内したあと、しばらくして、様子が気になったので4人のいる家(天幕と言った方が正確だな)に向かった。

 

「ちょ、お前! それは俺が狙ってた!」

 

「酷くないですか!? それ、私が育てておいたお肉なんですけどぉ!?」

 

「旦那方、こと、食事に関しては、譲れないんですよ!」

 

 賑やかな話し声である。

 

リグルド「すみません。どうやら、ここ最近食事をしていないと言う物ですから、用意してやった物で……」

 

ユレム「構わぬ」

 

リムル「人に優しくする事は良い事だ、これからも続けろよ!」

 

リグルド「ありがとうございます!」

 

 そう言って俺たちは天幕に入った。ふむ、よくよく見ると洞窟ですれ違った3人組が、あの時は仮面の女性は居なかったが……。

 

ユレム「良い食いっぷりだな」

 

冒険者「あ、助けてくれた旦那」

 

ユレム「ああ、ユレム=テンペストだ、この村の主だ。 我が配下になれば、この世界の半分をやろう」

 

リムル「リムル=テンペスト、俺もこの村の主をやっている。 悪いスライムじゃないよ!」

 

 2人してとある王道RPGの台詞を吐くと、仮面の女性が「ぶっ!」と、飲み物を吹き出した。ふむ、これが伝わったのか? 正座もしている、もしや……。

 

 その後、食事が終わった頃、また天幕に来た。

 

ユレム「さて、改めて自己紹介しよう、俺はユレムだ。そしてこのスライムが……」

 

リムル「リムルだ。俺たちは2人ともここの主をやっている。それで、ここには何をしに来たこられたのかな?」

 

カバル「初めまして、俺はカバル、一応、このパーティーのリーダーをやっている。こいつがエレン、こっちがギドだ。俺たちはBランクの冒険者だ」

 

 ふむ、Bランク冒険者、そこそこか? どれくらいが基準なのか分からぬがな。

 

カバル「で、この人は道が一緒って事で臨時メンバーになった、シズさんだ」

 

シズ「シズです」

 

 ふむ、このシズと言う者、日本人なのではないか?

 

カバル「それで、俺たちは……」

 

 話を聞いたところ、ギルドに依頼を受けて、この近くで怪しいことが起きていないか調べていたそうだ。そして、怪しそうな大岩に空いた穴に剣を刺したらジャイアントアントの巣穴だったらしい。どうりで出会った時にジャイアントアントに追われていたわけだ……。やれやれである。

 ヴェルドラの事は人間の国ではかなりの大事になっているようだな。

 また、彼らは洞窟も調査したらしく、異常なほど魔素濃度が低下していたそう。中の鉱石も何もなく、なんの得もなかったようだ。犯人はリムルだろうな。

 

ユレム「もう一つ聞きたい、俺たちはここに町を作っているのだが、ギルドとしてはそれは問題ないのか?」

 

カバル「いや、大丈夫だろ?」

 

エレン「そうねぇ……ギルドが口を出す問題じゃないし、国はどうなんだろう?」

 

ギド「うーん、あっしにはわかりやせん」

 

 ふむ……まぁ、当然といえば当然か。国が動けば、同時にギルドも動かされる可能性はあるやもしれぬな。

 

…………

 

 それから暫く経ち、一つ話がしたかったのでシズの元へ向かった。

 

ユレム「シズ、少し良いか?」

 

シズ「えぇ、どうしたの?」

 

ユレム「聞きたいことがあってな、お前は異世界人か?」

 

シズ「……えぇ、貴方もでしょ? さっきの言葉、あれはゲームの台詞、違う?」

 

 あちらも分かっていたか。

 

ユレム「ああ、そうだ。リムルが先程ここからカイジンに連れて行かれていたが、リムルとも話したのか?」

 

シズ「えぇ……貴方は、どうしてこの世界に来たの?」

 

ユレム「なに、少々雪山に登って遭難、そして凍死しただけだぞ」

 

シズ「雪山……?」

 

ユレム「ああ、海外のな。シズは何故この世界に来た?」

 

シズ「私は……召喚者なの」

 

 召喚者……確か魂に服従の呪いをかけられ、兵器として利用されると言ったか。

 

ユレム「この世界にはいつ呼ばれたのだ?」

 

シズ「ずっと昔、街が炎に包まれて、空から爆弾が降ってきて……」

 

 戦争に空襲か……。

 

ユレム「辛いことを思い出させたな。だが、日本は平和になったぞ。シズが生きていた時よりもずっと」

 

シズ「……えぇ」

 

ユレム「悔しいか? 平和な時代に生まれることが出来ないで……」

 

シズ「いいえ、そんな事はない、もしかしたら、あの時代に生まれたから、この世界に来て、あの子たちにも会えて……」

 

ユレム「あの子達?」

 

シズ「……何でもない。私は、この世界に来たことは後悔してないし、恨んでない」

 

ユレム「そうか、深くは聞かぬ。それではな」

 

シズ「えぇ……」




オリジナル魔法<根源接続(リラベブ)>は、本文で言った通りの効果です。
また、ヒロインなんですが、2人にしたいんですよね、1人はもう決まってるんです、ただ、もう1人は最悪誰でも良いや状態ですと。
ちなみに、1人目のあの人のヒントは、アノス様と貫禄のある喋る方が少し違うベクトルだけど似ているあの人です!
流石に分かったかな? え? 少なくともアンケートの選択肢にない人であるというヒントが既にあるって? そんな! 気づかなかったよ!


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井沢静江

続けて投稿。
シズさん圧倒的だな。まあ仕方ないか、シズさんの好感度が上がる時期だからね。
ここからどう変化していくか……。


 翌日、朝に町を見渡せる丘にリムルと共に来ると、先にシズがいた。

 

リムル「俺たちの町、気に入ってもらえたかな?」

 

シズ「えぇ、とっても!」

 

 シズは振り返り、仮面を外してそう言う。

 

リムル「シズさんさえ良かったら、いつまでもいて良いんだぞ!」

 

シズ「ありがとう、でも、行かなきゃ」

 

リムル「そっか……」

 

シズ「私がここに居たら、迷惑かけちゃうかも……」

 

 ふむ

 

シズ「私の旅の目的は……」

 

リムル「目的……?」

 

シズ「私を召喚した男を探すこと……」

 

 召喚した男……。

 

ユレム「見つけたらどうする?」

 

シズ「………………」

 

 言いたくない……か。

 

ユレム「そうか、深くは聞かぬ、だが、またいつでも来い、歓迎するぞ。だろう?」

 

リムル「勿論だ! な! ランガ!」

 

ランガ「ええ!」

 

シズ「うん。ありがとう」

 

…………

 

 そして、3人組とシズが行く時が来た。

 

エレン「お待たせー」

 

ギド「お、来たでやすよ」

 

カバル「全く……女は支度が遅えよな……」

 

 すると、シズがふっと立ち止まる。

 

シズ「…………」

 

ユレム「シズ? どうした」

 

シズ「…………」

 

エレン「シズさん……?」

 

 シズが苦しみ出す。

 

シズ「グ……そんな……もう……」

 

 シズが倒れ込む。シズの身体を蝕み続けている者、それが暴走しかけているのだろう。

 

シズ「グゥ……ア、ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"」

 

 シズの付けていた仮面にヒビが入り、膨大なエネルギーが放出され、周囲は黒雲に染まり、衝撃波が起こる。

 

ユレム「……」

 

 結界魔法で皆を守る。

 

ユレム「怪我はないな?」

 

リムル「あ、ああ……」

 

カバル「何なんだよこれ……危険手当上乗せしてもらうぜ……!」

 

ギド「だからそれはヒューズの旦那に言うでやすよ!」

 

エレン「シズさん! シズさん!!」

 

カバル「シズ……シズエイザワ!?」

 

 シズエイザワ……井沢静江か。

 

ギド「シズエイザワって……爆炎の支配者か!?」

 

エレン「それって……50年くらい前に活躍したギルドの英雄よね!?」

 

 爆炎の支配者……確かに今の彼女はそう形容するに相応しいか……。

 

リムル・ユレム「リグルド、リグル! 皆を避難させろ」

 

リグルド・リグル「!? しかし……」

 

ユレム「命令だ」

 

リグルド「承りました!」

 

≪ユニークスキル【変質者】を発動します≫

 

 世界の声が響き、同時にシズの姿が炎の巨人へと変質した。

 

カバル「炎の上位精霊……イフリート……!」

 

 精霊……というより、悪魔の方が表現としては合っている気がするが、まあ良い。

 

エレン「あんなの……どうやっても勝てないんですけどぉ!?」

 

ギド「無理でやす……あっしらは、ここで死ぬでやす……。短い人生だったやすね!」

 

 随分と容易く死を受け入れるものだな……。

 

ユレム「……ふむ、【大教授】」

 

『解、精霊は、精神生命体なので物理的な攻撃は聞きません。しかし、弱点の属性や魔法での攻撃ならば攻撃可能です』

 

 弱点の属性……炎という事は、水、又は氷か。いや、氷というより冷気の方が正確だな。

 

 イフリートが魔力波動を放つ。そして、同時に3体のサラマンダーが現れ、町を燃やす。

 

ユレム「まず聞こう。貴様の目的は何だ?」

 

イフリート「………………」

 

 無言で火球を放ってくる。会話は成立せぬようだな。

 リムルが水刃を放つが熱気で蒸発する。ふむ、量を増やせばどうだ? <絶水殲滅砲(リオ・エイアス)>などならば。

 

『解、現在の魔法式では作成不可です。また、<絶水殲滅砲(リオ・エイアス)>を使用した場合、サラマンダーとの接触で水蒸気爆発が生じます』

 

 なるほど、それは確かにやめたほうがいいか……。

 

ユレム「ならば、<魔氷(シェイド)>」

 

 氷魔法の<魔氷(シェイド)>にて、氷のつぶてを放つ。蒸発した。

 

ユレム「ならばもう少し大きければどうだ? <寒冷氷魔(シェリアド)>」

 

サラマンダー「ギャァァァァ!!」

 

 先程よりも数十倍の大きさの氷の塊を放つ。今度は十分な効果があったようだ。

 

 それからは、俺の<寒冷氷魔(シェリアド)>と、エレンといつの間にか覚えたリムルのアイシクルランスにより、サラマンダー2体を撃破、1体を瀕死に追い込んだ。だが、最後の一体がエレン達に近づく。

 

カバル「やばい、こいつ自爆を……!」

 

 カバルがオーラシールドを発動するが、それでも3人を吹き飛ばした。3人を見るとかなりの大怪我だ。

 

ユレム「リムル、お前はイフリートと決着をつけろ。俺はこの3人を回復する」

 

リムル「分かった。頼んだぞ!」

 

 俺たちはランガに乗せてもらい、安全な場所に移動し、<治癒(エント)>を使用してカバル達を直す。腕がちぎれたり、内臓が破裂してたりはしなかったので、<治癒(エント)>でも十分回復できた。

 

エレン「ユレムさん!? リムルさんは? シズさんは……!」

 

ユレム「少し落ち着け、リムルなら問題ない。シズも、

俺が助けると約束しよう」

 

エレン「ユレムさん……!」

 

ユレム「見よ、イフリートが食われていくぞ?」

 

エレン「……!」

 

カバル「す、スゲェ」

 

ギド「イフリートが……消えたでやす!」

 

 そこに残っているのは、シズとリムルだけだった。

 

…………

 

 シズはあれから安静にしている。今は俺とリムルでシズと話をしている。

 

シズ「私は……私はまた、この手で大切な人を殺してしまうところだった……」

 

ユレム「過ぎた事だ。問題ない」

 

シズ「……ありがとう……ねぇ、スライムさん、ユレムさん、聞いてくれるかな?」

 

ユレム「なんだ?」

 

シズ「私という人がいたという事を、覚えていてほしい」

 

リムル「……わかった」

 

ユレム「…………」

 

 シズは語った。召喚され、イフリートを宿され、友達を殺めたこと。勇者と出会い、助けられ、仮面をもらい、旅をして、爆炎の支配者と呼ばれたこと。そして、勇者が姿を消し、何十年も戦い続けたこと。引退して指導者になり生徒たちと過ごしたこと。

 

シズ「思い出したことが、一つだけあったから」

 

リムル「思い出したこと?」

 

シズ「私を、召喚した男、探して……」

 

リムル「復讐したかったのか?」

 

シズ「分からない、でも、会って、確かめたかったことがあったの。だから私は……。本当にいい子たち。ちょっと危なっかしいけど」

 

リムル「そうだな」

 

シズ「楽しかった。でも、もう……」

 

 …………ふむ。

 

シズ「ねぇ、スライムさんとユレムさん。名前はなんていうの?」

 

リムル「え? 俺はリムルって……」

 

陽太「本当の名前だろう? 俺は陽太、国枝陽太だ」

 

悟「ああ……俺は悟、三上悟」

 

静江「私は静江、井沢静江」

 

悟「静江さん、もう眠った方がいい……」

 

静江「お願いがあるんだけど……聞いてくれる?」

 

陽太「…………断る」

 

悟「お前……!?」

 

陽太「ついでに言うが、先程の覚えていてくれと言う願いも断る」

 

静江「…………理由を……聞いていい?」

 

陽太「気に入らぬからだ」

 

悟「陽太、そんな理由で……!」

 

陽太「静江、これがお前の最後の旅だと言うならば、その目的くらい達成しろ。その後にお前が何を選択しようが俺は何も言わぬ。だが、

 人に託した程度で、

お前が満足できるとでも思ったか?」

 

静江「…………」

 

陽太「お前が1番納得するならば、自分自身で言って見せよ、その男に、お前の言いたい事を、聞きたい事を。それまでは、お前が死ぬのは俺が許さぬ」

 

静江「そう言うからには、方法があるんだね?」

 

陽太「当然だ、根源保護魔法、<根源保護(ミリカ)>魂を覆い、リムルが食う事による魂の分解を防ぐ魔法だ。普通の魂ではリムルの胃袋では分解されてしまうからな。

 食った後、何らかの方法で受肉体を作り、その肉体に憑依させてかつ、精霊を宿らせることができれば魂も安定する。それまではリムルの胃袋の中にいてもらうがな」

 

 普通に死んだ魂に使えば、魂が逃げる事を防ぐことも出来る。

 

悟「そんな魔法……いつ……」

 

陽太「静江たちがこの町に来た日、2人で話した後だ。初対面の時点で静江の中に何かがいるのは知っていたしな」

 

 今作ったと言ってもバレはせぬと思ったがな。

 

静江「凄いな……陽太さんは、自分の意思をちゃんと持ってて……」

 

陽太「なに、憧れを追っているだけだ」

 

静江「ふふ……それじゃあ、私はスライムさんに食べられればいいんだね?」

 

悟「いいのかい?」

 

静江「ええ、勿論」

 

陽太「その前に、一つ聞きたい事がある」

 

静江「何かな?」

 

陽太「静江を召喚した者、その者の情報が欲しい。知っていることはあるか?」

 

 これは聞いておいた方が良いだろう。

 

静江「レオン・クロムウェル、最強の、魔王の1人」

 

 魔王か……この世界にいるのか……それに今の言い方だと、何人もいる中の1人の様だな。

 

悟「分かった。覚えておくよ」

 

陽太「始まるぞ」

 

 静江の魂に<根源保護(ミリカ)>を使う。そして、悟が静江の身体を捕食する。

 

悟「これで、良かったんだな?」

 

陽太「ああ、リムル、これでお前も人化が出来るようになったぞ。それといくつかのスキルを手に入れただろう?」

 

悟「お前……ここまで狙って……!」

 

陽太「さあな」




オリジナル魔法
・<寒冷氷魔(シェリアド)
氷の上級魔法、<灼熱炎黒(グリアド)>と同等。
・<根源保護(ミリカ)
根源を纏う結界を常時展開し、魂を守る。

ユレム=テンペスト
種族:浅層魔族

加護:暴風の紋章
称号:魔物を統べる者
魔法:いっぱい
ユニークスキル:大教授、魔法作成、魔眼、破滅の魔眼、滅紫の魔眼
エクストラスキル:魔力感知、記憶処理、思念伝達
耐性:痛覚無効、熱変動耐性

 まだまだ弱いですね。
 今回、アノスっぽさを出せてたかな?


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オーガ

 アンケートですが、少し期間を延長しました。次話が投稿されると同時にアンケートは終了したいと思います。
 シズさん人気が凄いわ……ヒナタも本編に全く出てないのにかなり善戦してるし(シズさん以外全員だけど)、流石の人気だなぁ。


リムル「な、なぁ……」

 

 人間の姿へ擬態したリムルが聞く。

 

ユレム「どうした?」

 

リムル「いや、今シズさんってどういう状況なんだ?」

 

 ふむ、今は<根源保護(ミリカ)>の魔法で魂は守られているはずだ。だが、恐らく魂だけの存在となっている筈だ。

 

ユレム「恐らく魂だけの姿でリムルの胃袋を彷徨っているだろうな、それも結界に入っているからヴェルドラと近しい状態だろう。もしかしたらヴェルドラやイフリートと雑談でもしているかもな」

 

 多分念話くらいは出来るだろう。

 

ユレム「ああ、それといっておくが、<根源保護(ミリカ)>の魔法だが、解除権を持っているのは使用者、つまり俺だけだ。だから肉体と暴走を防ぐ為にシズに適応する精霊を見つけても結界が肉体に入る事を邪魔する可能性がある。シズを復活させるならば俺のいる所でだ」

 

リムル「そうか、分かった」

 

 そういえば、エレンたちだが、事情を説明し、今回危険な目に合わせてしまったお詫びとして、新品の防具一式を全員分渡した。また、ギルドへの報告だが、悪いようにはしないと約束してくれた。

 

ユレム「奴らも気の良い奴らだったな」

 

リムル「そうだな」

 

…………

 

 あれから、起源魔法の安定性が増した。シズを助けた者という認識が増え、より起源が鮮明になったのだろう。

 ちなみに今は軽く森を散歩している。

 

ユレム「今の魔法式では<魔黒雷帝(ジラスド)>までか、流石にそう簡単に時を止めたりされてもな……仕方あるまいか」

 

 そういえば、最近悩みがあるのだ。いや、前からなのだが、俺の身体能力は日に日に強大なものとなっている様でな、最近では軽く握ったつもりで持っていた物が次々と粉砕していくのだ。【大教授】に相談し、原因を解明するようにと命じたが大した他成果は得られなかった為、今は敢えて自分自身に弱体化の結界を張って力を調整している。

 

ユレム「……! ふむ」

 

 町の近くに来ると、【魔力感知】に反応がある。かなり激しい戦闘が行われているようだ。リムルが参戦しているが、一応向かった方が良いだろうな。

 <転移(ガトム)>で近くに移動すると、リムルと6人のオーガ達が戦闘を行なっている。内1人は後方支援のようだが。まあ良い、止めるか。ゴブタ達は大した傷ではないようなので放っておいて問題なかろう。

 

ユレム「何があった?」

 

 まずは状況を聞く。

 

赤髪「何者だ!」

 

ユレム「質問に質問で返すな、先ずはこちらの質問に答えよ」

 

 少々言葉に魔力を込めて言霊とするが効いていないようだな。

 

ユレム「(……リムル、状況を教えてくれるか?)」

 

リムル「(あ、ああ、実は……)」

 

 ゴブタ達が肉を調達していた際、このオーガ達に襲われたようだ。そこに仲裁に入ったが、敵意を剥き出しにされたそうだ。だが誤解があるようだな。

 

ユレム「リムル、俺に任せてくれぬか?」

 

リムル「あ、ああ……良いぞ」

 

 その言葉を聞き、俺は数歩前にでる。

 

ユレム「お前達は何か誤解しているようだ、お互いに一度情報を整理せぬか?」

 

 軽く聞いてみる。

 

赤髪「問答無用、悪しき魔人め! 我が同胞の仇、取ってくれる!」

 

 聞く耳を持たぬな。会話が不可能だったイフリートほどではないが、此奴も此奴だな。

 赤髪のオーガが刀を持って立ち向かってくるが、素手で受け止める。

 

ユレム「なんだ? その程度か?」

 

 【破滅の魔眼】で赤髪の目を直視し、戦闘意思を破壊する。

 

赤髪「あ……あぁ……」

 

紫髪「貴様!」

 

白髪「まて、力を合わせるぞ」

 

 今度は残った4人同時にかかって来る。

 

ユレム「……話を聞け……!」

 

 流石に面倒だ。先ほどより強力な言霊で、全員の動きを止める。

 

ユレム「そこの者、手荒な真似はしたくない、話に応じてはくれぬか?」

 

 桃髪のオーガにそう言う。なるべく妖気も抑え、一才言霊を込めずに、穏やかに話す。

 

桃髪「…………分かりました。話をします。何から聞きたいですか?」

 

青髪「姫様……!」

 

桃髪「問題ありません、今のこの者から、敵意はありません。この者の力ならば、今の瞬間で私達を殺すことは容易かったはず。でもそれをしなかった。それに、私たちの村を襲ったのも、あの方ならば容易いはず、わざわざ豚達を率いる必要はなかったはずですから。

 ただ、話をする前に聞きます。お兄様は、そこの赤髪のオーガは意識を取り戻しますか?」

 

 冷静な物がいて安心した。

 

ユレム「問題ない。此奴の心の表面にほんの少し穴を開けただけだ。すぐに回復する」

 

桃髪「わかりました。それでは話します……」

 

ユレム「ああ、その前に、俺たちの町へ来ないか? 今日は宴の予定だったのだ」

 

 そろそろ言霊の効果が切れる。

心の表面も直る頃だろう。

 

赤髪「……! ここは!?」

 

桃髪「お兄様! 実は……」

 

 桃髪のオーガが誤解のことを説明してくれた。それから村へ向かい、宴が始まる。なんとも豪勢な食事だ。

 リムルは久方ぶりの味覚を楽しんだ。

 

…………

 

<その頃リムルの胃袋では>

 

シズ「王手」

 

ヴェルドラ「なん……だと……」

 

イフリート「まさか!? ヴェルドラ様に勝つとは……!」

 

シズ「こっちに来る前にもちょっとだけやった事があったから……」

 

 シズとイフリートはある程度和解し、将棋を楽しんでいた。

ちなみに、シズの姿は思念によって人間の姿となっている。




活動報告に意見箱を設置しました。ご自由に意見をお願いします。


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森の騒乱

「井沢静江」の回、少々修正いたしました。レオンの名前のくだりが抜けてました。すみませんでした!


 宴の翌日、落ち着いて話を聞く為、俺たちは焼けた広場にできたログハウスにオーガ達とその他リグルドなど30名を集めた。戦闘中の会話の内容から、森でも特に強い力を持つオーガの里が滅ぼされたというかなりの大事だからな、重要な人物は集めた方が良いだろうというリムルの提案だ。

 

ユレム「さて、聞かせてもらうぞ」

 

赤髪「ああ……」

 

 話をまとめるとオーガの里が襲われて敗北した。それだけの事だ。丁度俺たちがイフリートと戦っていた時くらいだな。ただ、オーガはこの森の覇者と言われている。そんな者達を誰が……?

 

赤髪「奴等は、いきなり俺たちの里を襲ってきた。圧倒的な戦力で……忌まわしいあの豚共……オーク共めッ!」

 

 オークのランクはD、オーガはB以上、オーガの里にはそのBランク以上の者達が総数300体もいたのだ。それはランクB-程度の小国の騎士3000人の戦力に匹敵する。

 それほどの戦力を持つオーガの里の者たちに格下のオークが勝負を仕掛けるだけで異常だが、あまつさえ彼ら6人を除いた里の住民が全滅させられているのだ。

 

赤髪「俺に……もっと力があれば……!」

 

 赤髪が力なく呻く。

 その軍勢の中には、異様な妖気と黒い鎧を纏った巨大なオーク、そして赤髪では太刀打ちできぬほどの、仮面をつけた上位魔人。

 

ユレム「なるほど、仮面か、どうりでリムルを襲うわけだな」

 

白髪「申し訳ありませぬ……」

 

ユレム「別に構わぬ」

 

 死者が出たわけでもないしな。

 オーガ達の話は続いた。その巨大なオークに匹敵する者が他に3人いたそうだ。その合計4人に里の精鋭の戦士は皆殺しにされ、その後数千のオークが攻めて来て、蹂躙が始まったとのことだ。オーク達は人間が着るようなフルプレートメイルを身に纏っていたそう。そうなって来ると別の何者かの関与が疑われるな。どこか人間の国と手を組んだと考えるのが妥当か。

 

カイジン「いや、もしかすると、魔王の勢力のいずれかに与していたのかもしれん」

 

 ふむ、魔王……シズを召喚したレオンとやらも魔王だと言っていたな。今回の首謀者が魔王レオンと関係のある者である可能性も十分あるな。

 

ユレム「ふむ……オーク達はこの森の支配が目的か?」

 

 だとするとここも戦火に巻き込まれる可能性はあるな。

 

リグルド「恐らくそうでしょうな……」

 

 ゴブリン達を代表してリグルドが答える。

 

リムル「で、お前達はこれからどうするの?」

 

 リムルがオーガ達に問う。

 

赤髪「どう……とは?」

 

リムル「いや、今後の方針だよ、再起に向けて逃げるか、どこかに隠れ住むか、だとしても当てはあるのか」

 

 尤もな疑問である。

 

赤髪「知れたこと、隙を窺い力を付け、再度挑むまで!」

 

白髪「親方様の仇討ちをせねばなりますまい!」

 

ユレム「さて、勝機はあるのか?」

 

紫髪「だからこそ、力を付けるのです!」

 

リムル「いくら力をつけたとしても、相手は数千人の軍勢に、お前達より格上であるかも知れないやつがいるんだぞ?」

 

 オーガ達は図星を突かれたような表情を浮かべる。

 

ユレム「という事で、俺たちの配下にならぬか?」

 

赤髪「……は?」

 

 素っ頓狂な声を上げる。

 

ユレム「そのままの意味だ。どうせ俺達はここに町を作るのだからいずれはオーク達と戦うことになるだろう。そうなれば俺達としても戦力は多い方が良い。お前達は力をつけたい、ここにはお前達より格上の者が既に2人いる。お前達としても、ここは力をつけるにはもってこいの場所のはずだ。お互いに良い条件だと思うが?」

 

リムル「まぁ、俺達が補償できるのは衣食住だけだがな、それに、オークを始末した後は自由にしてもらって構わないぞ」

 

 オーガ達は考えるような仕草をし……。

 

赤髪「承りました。我ら一同、貴方様方の配下に加わらせていただきます!」

 

白髪「若がそうおっしゃるのなら」

 

 他のオーガ達も頷く。

 

リムル「さて、配下となったお前達に名をやろうと思う」

 

赤髪「は? 一体何を……」

 

リムル「だって名前無いと不便だろ?」

 

 それは良いのだが、今回はゴブリン達よりも遥かに高位の種族だ。消費する魔素量も多くなるのでは無いか?

 

『是、より高位の魔物に名付けをする場合、より多くの魔素を消費します』

 

 だろうな……。ならば、この6人にリムル1人で名前をつけたらどうなる?

 

『解、間違いなくスリープモードとなるでしょう』

 

 ふむ……。

 

ユレム「リムル、半分は俺が名付けるぞ」

 

リムル「ん? 大丈夫だろ、今回は6人だけなんだし、それに良い名前が思いついてるんだ」

 

ユレム「いや今回はゴブリン達よりも高位……」

 

リムル「大丈夫大丈夫、任せとけって」

 

 やれやれ、もう止めんぞ……。

 

リムル「赤髪が紅丸(ベニマル)で、桃髪が朱菜(シュナ)、白髪が白老(ハクロウ)、青髪が蒼影(ソウエイ)、紫髪が紫苑(シオン)で、黒髪が黒兵衛(クロベエ)だ」

 

 案の定、スリープモードとなった……。ただ、オーガ達はそれよりもスライムだった事に驚いているようだった。

 

ユレム「ああ、言っていなかったな、リムルはスライムだぞ。それとこの状態だが、魔素を消費し過ぎたからだな。数日ほど待てば勝手に戻るぞ」

 

 それを聞いて安心したようだ。いや、スライムだった事に対しての驚きは消えぬようだがな。




そういえば、魔王学院第2期のキービジュアルですけど、「世界を盾にすれば、見逃してもらえるとでも思ったか?」ってやつ、まさかエクニス!? って思ったんですよね。流石に無いと思うんですけど……


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鬼人達

今回は本編とはあまり関係ありません。
 平日はやる気が出ないので、基本休日に書いて書いた次の日に投稿する形になります。


 オーガの彼ら彼女らが配下とってから暫くが経ち、オーガたちの役職も大体決まった。

 ベニマルが侍大将

 シュナが巫女姫(かんかぎ)

 ハクロウが指南役

 ソウエイが隠密

 シオンが武士(もののふ)

 クロベエが刀鍛冶

 と言った具合だ。

 今はハクロウと剣のみで戦っている。

 

ハクロウ「ホッホッホ、ユレム様、筋が良いですぞ」

 

 ハクロウはかなりの実力だ。力任せに剣を振れば剣が折れるからな。

 

ユレム「ふむ、流石の実力だな」

 

 収穫もあった。気闘法という技術(アーツ)だ。

 

ハクロウ「まさか気闘法をここまで早く習得されるとは思いませんでしたぞ?」

 

ユレム「ふむ、流石にハクロウには及ばぬな」

 

ハクロウ「ホッホッホ、ユレム様ならばすぐに追い越すでしょうて」

 

 さて、何度もやって見るのが一番良いか。

 

…………

 

 場所は変わってシュナのいる建物にて。

 

シュナ「ユレム様の服はどのように作っているのですか?」

 

 ふむ、<創造建築(アイビス)>で作っているだけだが……。

 

ユレム「魔法で作っているが、特に防御力があるわけでもないぞ?」

 

 普通の布しか使っておらぬ。

 

シュナ「でしたら、今、リムル様の服を作っているのですが、ユレム様の服もどうですか?」

 

 今着ている服のデザインは魔王学院の白服だ。正直コスプレでもしている気分だな。

 

ユレム「ふむ、ならば、この服と同じような服を頼んでも良いか? 見本はこれだ」

 

 <創造建築(アイビス)>で服を作り、シュナに渡す。

 

シュナ「はい! お任せ下さい!」

 

 まぁ、これはシュナならば問題ないだろう。

 

…………

 

 所変わって今度は食堂に来た。するとシオンが先におり、料理をする様だった。

 

シオン「あ、ユレム様、ご飯作りますよ?」

 

 ふむ、シオンは料理が得意なのか?

 

ユレム「そうか、頼む」

 

 この世界の食はどれだけ進んでいるのだろうか、久しぶりにラーメンでも食べたいものだな。

 

ユレム「ふむ、<食糧生成(ロウズ)>を使えば可能ではあるか?」

 

 さて、出来たようだ。

 

シオン「どうぞ、お召し上がりください」

 

 そこにあったのは……禍々しい色の何かだった。

 

ユレム「これはなんと言う料理だ?」

 

シオン「シチューです」

 

 どのような化学変化が起きたらシチューがこの色になるのだろうか? 何やらうめき声が聞こえるが、何が入っているのだ……?

 

ユレム「そうか、では頂こう」

 

 スプーンでそのダークマターをすくい、口へ運ぶ。すると口の中で苦味がどっと溢れた後、ガムシロップのような甘味が遅れてくる。そうすると口の中で何かが着火したような刺激が走る。

 

《確認しました。【毒無効】の獲得……

成功しました》

 

 食事を行なってスキルを獲得するとは……思わぬ収穫があったものである……。

 

ユレム「シオン……」

 

シオン「は、はい!」

 

ユレム「これからお前に料理を教えたいと思う」

 

 その後、完食した。

 

…………

 

 今度は鍛冶屋だ。

 

ユレム「クロベエ、剣を作ってもらえるか?」

 

 俺が欲しいのは気闘法を利用して戦う為の剣だ。気操法や瞬動法、隠形法も駆使し、戦いの幅を広げる為だ。

 魔法で作ることもできるが、あれではどんなに素材を良くしても下位の特上級(スペシャル)しか作ることはできぬようだな。<聖別(リヒド)>などを使えばもう少し変わってくるだろうが、それでも大きくは変わらぬ。なのでクロベエに質の良い武器を作ってもらいたいのだ。

 

クロベエ「良いだよ、どんなのが良いだべか?」

 

 そうだな、振りやすさを重視するか。

 

ユレム「少し短めにして欲しい」

 

クロベエ「分かったべ、任せてくんろ!」

 

…………

 

 今度は街からかなり離れた場所だ。

 

ユレム「どうした、それで終いか? ベニマル」

 

 今はベニマルと制限なしの戦闘を行なっている。ベニマルもかなり動きが良くなっている。気闘法や魔法をフルで使ってもかなり耐えているのだ。

 

ベニマル「まだまだだ……!」

 

 ベニマルが斬りかかってくるが結界魔法で封じ、土手っ腹にすかさず拳をぶち込む。

 

ユレム「お前は剣や妖術だけで無く、体術を使え、でなければ俺と同じ土俵には一生立てぬぞ? 

 それに、俺には魔法というお前よりも特筆する点がある。ならば、自分で探してみよ、俺に無く、お前にある、お前の才能を」

 

ベニマル「は、はい! 俺にしか無いもの……」

 

 ベニマルの才能、それが何か、それは俺は知らぬ。もしかすれば戦闘に向いた才ではないかも知れぬ。だが、どんな形であれ、己が才を見つけることは、己の新たな道を拓くという事なのだ。

 

…………

 

 今は森の中で、ソウエイと共に軽い訓練を行なっている。

 

ユレム「ソウエイ、粘糸と綱糸をうまく使いこなしているようだな」

 

 ソウエイとの戦いでは殆ど地上には降りない。地上は殆どが粘糸で敷き詰められているからだ。<飛行(フレス)>があるので全く問題ないが、木々の間にもいやらしい間隔でトラップが張ってある為油断はできない。

 

ソウエイ「お褒めに預かり光栄です」

 

 そうだな、ソウエイならば<幻影擬態(ライネル)>を使いこなしそうだが……。

 

『告、スキル【魔法作成】のスキルは、スキルを持っていない者でも、その魔法に適性があればスキル所有者がその魔法を教えることができます。また、個体名ソウエイは、魔法、<幻影擬態(ライネル)>に高い適性を持っています』

 

ユレム「ソウエイ、お前に教える魔法がある」

 

ソウエイ「魔法……ですか」

 

ユレム「ああ、<幻影擬態(ライネル)>という魔法でな相手に術者の作り出した幻影を見せる魔法だ。用途としては自分の姿を違うものに見せたり、姿を消したりだな」

 

 それから、<幻影擬態(ライネル)>の魔法を教えたのだが、早速使いこなしていた。<秘匿魔力(ナジラ)>にも適性はありはするようなので、今度教える予定だ。




うーむ、そういえばリムルの魔王覚醒編どうしよう。ユレムが居ると誰も犠牲者が出ずに終わってリムルが魔王になるキッカケが出来ない……。


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リザードマンの使者

ガビルって、書いてて面白いです。


 リムルと共にハクロウに修行を付けてもらっていると、リグルドが走ってくる。いつも走っているな。

 

リグルド「大変です、リムル様、ユレム様。リザードマンの使者が訪れました!」

 

 ふむ、リザードマンの使者か、例のオーク騒動に関係があるのか? そういえばソウエイが、リザードマンが周囲のゴブリン村のゴブリン達を保護? していると言っていたな。それに関係する事か。

 

ユレム「分かった、すぐに向かおう」

 

 町の入り口へ向かう。

 

ベニマル「あれ? シオンはどうしました?」

 

 ベニマルが思い出したように言う。

 

リムル「ああ、シオンなら朝から俺の部屋を掃除してくれているはずなんだが……」

 

ハクロウ「なんですと!?」

 

 リムルが言い切る前にハクロウが驚く。ふむ、まさか、料理だけで無く、掃除も……?

 

シオン「リムル様、ユレム様、お茶をご用意しました」

 

 シオンが、湯呑みに入ったお茶を名乗るダークマターを持ってきた。

 

ユレム「シオン、人に飲食物を作るときは、俺が教えた工程の通りに作ることを命じたはずだが?」

 

 これは、シオンに料理を教えるにあたって最初に言った言葉だ。変なアレンジは加えず、用意したレシピ通りに作れば、ある程度のものは誰でも作れる……はずだが……。

 

シオン「え、えっと……これは……その……お茶に海藻を入れたら美味しいかなと……」

 

 それだけの思いつきでどうしてこのダークマターができるのだ……?

 

『告。理解不能、計算不能、回答不能』

 

 聞いてはおらぬ……。

 

リムル「ま、待ってくれ、どう言うことなんだ……?」

 

 リムルが聞いてくるが、どう言うことも何もない。

 

ユレム「簡単な話だ。シオンの作る料理は何故か暗黒料理となる。それだけだ」

 

リムル「その何故かが聞きたいんだよッ!」

 

 鋭いツッコミが返ってくる。

 

ユレム「何故かわからぬから、何故か、なのだ。手順通りに料理を行えば、こうなることはない事は分かっているが、少しでもそこからアレンジを加えるとこうなる。そこに理屈など無いのだろう、何度【大教授】で解析しても解析不能となる」

 

 リムルが引いている。

 

ゴブタ「あ、お茶っすか! 自分、丁度喉が乾いてたんすよー」

 

リムル「まてゴブタ! 逝くな!」

 

 ゴブタがお茶を飲み干す。2杯とも同時に。するとゴブタが泡を吹いて倒れる。さらには痙攣を起こしている。

 

ユレム「すまぬな、ゴブタよ、まだ<蘇生(インガル)>の魔法は使えぬのだ……」

 

 ゴブタよ、お前の事は忘れぬぞ。

 

リムル「あぁ……シオン、今後お前が作った飲食物を人に出すときは、まずベニマルに許可をもらうように」

 

 ベニマルがリムルに対して目で訴えかけるが、リムルは完全に無視する。もうゴブタのような犠牲は出してはダメだからな……。

 去り際に<解毒(イース)>の魔法を使っておいた。

 

…………

 

 さて、そんなこんなしていると、どうやらリザードマンの使者とやらが来たようだ。

 

使者「出迎えご苦労! お前達にも、我輩の配下に加わるチャンスをやろう。光栄に思うが良いぞ!」

 

 何を言っているのだ? こいつは。

 

リグルド「畏れながら、配下になれと突然申されましても……」

 

 皆が反応に困っていた所、代表してリグルドが言う。

 

使者「ふん。貴様等も聞いておるだろう? オークの豚共が、ここに攻めて来ようとしている。貧弱なお前等雑魚共を救えるのは、この我輩だけだぞ!」

 

 成る程、オークの脅威から身を守ってやるから配下に加われ、というわけだ。

 かと言っても、ここにいる者は、守られるほど弱くはない。【魔眼】で見たところ、おそらくコイツはリグルドよりは強いだろう。だが、ベニマル達なら今すぐ焼き払う事も容易だ。尤も、油断している今なら、ゴブタでも勝てるだろうがな。

 

使者「そうそう、ここに牙狼族を飼い慣らした者がいるそうだな。そいつは幹部に引き立ててやる。連れてこい」

 

 それは目の前にいるスライムだがな……。

 リザードマンとの共闘自体は悪い話ではない。ただ……共闘する者が馬鹿なのは少し厄介だ。下手をすれば相手に上手く利用されるかも知れぬ。

 

ユレム「ふむ、飼い慣らした……というより、仲間にしたのはそこにいるスライムだが……」

 

 俺の場合リムルの友だから忠誠を誓え、という方が正確だ、なので仲間にしたのはリムルだ。

 

使者「はぁ? 下等なスライムが? 冗談を言うな、根拠を見せてみろ。そうしたら信用してやる」

 

 信じぬか……。俺はリムルに目配せをする。

 

リムル「ランガ」

 

ランガ「ハッ、ここに」

 

 リムルの影からランガが現れる。

 

リムル「ランガ、ソイツがお前に話があるそうだ。聞いて差し上げろ」

 

 ランガがリザードマン達に視線を向ける。今のランガはいつもの小型化をしていない本来の姿だ。殆どの相手は萎縮してしまう。

 

ランガ「主より、お前の相手をする命を受けた。聞いてやるから、話すがいい」

 

 ランガは【威圧】しながら言う。使者以外は身体が硬直している。使者はというと、狼狽えはしたものの、なんとか威厳を取り戻したようだ。

 

使者「おお! 貴殿が牙狼族の族長殿かな? 我輩はリザードマンの戦士長ガビルと申す! お見知り置き下され。今申した通り、我輩はネームドである。そこのスライムより、我輩と組まぬか?」

 

 コイツの名はガビルと言うようだ。だが、誰が名を付けたのだろうか?

 

ランガ「トカゲ風情が……我が主達を愚弄するとは……」

 

 ランガが怒っている。下手をすればガビルの命は無いだろうな。流石に止めるか?

 

ガビル「どうやら貴殿は騙されているようだ。良かろう、我輩の力で貴殿を操る者を倒して見せようでは無いか。誰が相手をするのだ? なんなら、全員でも構わぬぞ!」

 

 力の差がわからぬとはな……。ただ、誰に行かせたものか、リグルドでは少し荷が重いようだ。だが、ランガやベニマルなどで行かせればやりすぎる……。

 いや、ちょうど良いものが来たようだな。丁度良いタイミングで目が覚めた様だな。

 

ゴブタ「あれ? 何やってんすか?」

 

 そう、ゴブタである。

 どうやら解毒された事で【毒耐性】を獲得したらしい。

 やはりあの暗黒料理は毒と判定されるようだ。今度<解毒(イース)>の魔法を確かめようと心に誓った。

 

リムル「お前……無事だったのか!?」

 

ゴブタ「それが聞いてほしいっす! 川を泳いでいたら、急に楽になってきて、優しげな声が【毒耐性】を獲得したとか言ったんすよ!」

 

 確実に泳ぎ切ってはいけない川を泳いでいた気がするのだが、気のせいか?

 まあ良い、ゴブタはこのタイミングで来てしまった以上、ガビルと戦うことは決定事項である。

 

ランガ「ククク、良かろう。では、我も認めるほどの男を倒せたら、話を聞いてやろう」

 

 何か喚いているが、問題なかろう、ゴブタならば、この油断したガビルに勝つ事は十分可能だ。

 

リムル「ゴブタ、遠慮はいらん、やれ! 負けたらシオンの料理をたらふくご馳走してやる!」

 

 ただの罰ゲームである。

 

ユレム「問題ない、ゴブタ。お前の実力ならば十分奴に勝てる。それに、勝ったらクロベエにお前専用の武器を頼んでやる」

 

 ゴブタを鼓舞する。

 

ゴブタ「マジっすか!」

 

ユレム「無論だ」

 

 そう言うとゴブタは、とてつもないやる気を出す。背後に炎が見えるほどだ。この分なら問題なさそうだな。

 

ランガ「我に力を貸せと言うならば、貴様の力を見せてみろ。では、始めろ!」

 

 戦闘が開始される。ゴブタは身構え、ガビルは悠然と槍を片手に立っている。

 

ユレム「リムルよ、この戦い、どう見る?」

 

 一応、リムルの意見も聞く。

 

リムル「いや、流石にゴブタに勝機は無いんじゃ……そもそもゴブタの得意武器はナイフだし……」

 

 まずは配下を信じた方が良い気がするぞ……?

 

ユレム「成る程、確かにゴブタの得意武器はナイフ、長物ではあまり距離感を掴めぬかも知れぬな」

 

リムル「だろ?」

 

 だがルールを一つ、見落としている。

 

ユレム「だが、武器を使わなければならぬ。と言うルールは初めから存在しないぞ?」

 

リムル「……あ!」

 

 リムルも気づいた様だ。

 ゴブタは大きく振りかぶり、槍をガビルに思い切り投擲する。勿論ガビルは問題なく槍を叩き落とす。だが、一瞬だけガビルの意識が槍に向いていた。

 その瞬間には既にゴブタは影に潜っている。

 

ユレム「やはり使える様になってた様だな」

 

ガビル「何処へ隠れた!?」

 

 ガビルが慌てて見回すが、その時既に、勝負はついていた。ゴブタはガビルの後ろから伸びている影から飛び出し、ガビルの意識外から首に蹴りを食らわせる。

 ガビルは死んではおらぬ様だ。だが気絶しており、回復には少々時間が必要だろう。

 

ランガ「勝負アリ、勝者ゴブタ!」

 

 ランガのその宣言により、皆、喝采の声を上げる。

 

ユレム「よくやった、流石だゴブタ。約束通り、クロベエにお前の武器を頼んでおこう」

 

リムル「さ、流石だな、ゴブタ。見事だったぞ!」

 

 リムル……棒読みだぞ……。

 

ユレム「さて、勝負はついた。其奴の配下になるのは断る。尤も、オークと戦うのに協力する。と言う話ならば、検討しよう。だが、今日はさっさと帰るが良い」

 

 人騒がせなリザードマンの使者は帰っていった。




次回には多分オークロードの軍と戦い始められるかな?


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方針会議

今回のユレム君はちょっとばかし暴走気味かな……今更だけど【魔法作成】のスキル、汎用性高すぎだろ……。


 騒がしい者達は去ったが、今後の方針は立てねばなるまい。この町の主要な者達、俺とリムルを抜いた総勢12名を集め、会議を始める。議題は大きく分けて3つ、

 

1.ゴブリンの各村の様子。

2.湿地帯の状況。

3.オークの進軍状況。

 

 まず、他のゴブリン村だが、その多くはガビルの下についたようだ。ガビル、奴は部下からの人望はあるようだった。それに実力も不意打ちを喰らわなければゴブタを倒す事も十分可能だったろう、侮りすぎだったな。そういう面ではゴブリン達がつくのも納得できる。

 それ以外の者達は、各地に逃亡したようだ。人間の国の方面へ行った者もいるそうだが、討伐対象になるだろう。そうなれば隠れ住むしか選択肢はない。

 また、ガビルの傘下には7000匹程度の群を組織し、山岳地帯麓の平野に集結して野営をしてるそうだ。

 

 ふむ、【大教授】周辺の地形情報を入手できるか?

 

『了、地形情報を入手します…………

失敗しました。

代案を提案、【魔法作成】にて、周辺察知魔法、

周辺察知(ジリピア)>を作成しますか? YES/NO』

 

 無論、YESだ。どうやらこの魔法は、この世界に魔素が満ちている事を利用し、【魔力感知】のスキルの範囲を拡げた魔法のようだ。

 

『告、<周辺察知(ジリピア)>の作成に成功しました。使用しますか? YES/NO』

 

 YESと念じると、地形情報が頭に入ってくる。ついでにガビル達の野営地の場所などもわかる。

 GPSのように、常に更新し続けるようだ。範囲は誰かを中心に、ではなく、このジュラの大森林を対象にしているようで、俺が森から出たら、俺がいる国や地域の地形情報を察知するようだ。

 

 湿地帯の状況だが、リザードマンの首領が各部族を取りまとめ、1万近くの軍を組織し、自然の迷宮にて立て篭もりながら、オークを各個撃破していく構えのようだ。

 リザードマンは森の中でも上位の種族のはず、そんなリザードマンが堅実に戦うとはな。さらには弱小種族のゴブリンまで戦に巻きこむとは、まさに猫の手も借りたい状況なのだろう……。

 

 最後に、オークの進軍状況だが……。

 

ソウエイ「オークの軍勢、その数……およそ20万……」

 

リムル「はあ? 20万!?」

 

 リムルがあまりの量に声を上げる。

 それにしても、まさか20万とはな、リザードマンの対応も分かる。これでは確かに1万やそこらではな……。

 それに、オーガの里を襲ったのは数千程度……一部の軍を出していただけだったとは……。

 

ユレム「ならば、オークの目的地は分かるか?」

 

 大方予想はついているがな……。

 

ソウエイ「はっ、オークの軍勢はシス湖周辺に広がる湿地帯を抜け、リザードマンの支配領域を突き抜けるつもりのようです。しかし……」

 

 やはりそちらへ向かったか。

 

リムル「しかし?」

 

ソウエイ「その先にあるのは、人間の住まう領域、オークが何処を目指しているのかは不明ですが、このまま突き進むのならば、いずれ人間の国家群との衝突は免れないかと……」

 

 ふむ、人間の国を目指しているのか、それとも、森の支配権を得、リザードマンを滅ぼして侵攻を止めるか。

 

ユレム「さて、皆はどう思う? オークの目的は、リザードマンを滅ぼすことか、人間の国家に侵攻を続けるか」

 

リムル「さあな、現時点では分からない……」

 

 流石にそうか……。

 

リムル「先ずはオーク共の目的が知りたいな、ソウエイ、地図みたいなものって何かあるか?」

 

 地図……<周辺察知(ジリピア)>の魔法で手に入れた周辺情報を地図として創れるか?

 

『是、可能です。しかし、自動更新能力はマスターの魔力の魔力を流し続けなければならないので、離れればその時点での地図のまま変化しません』

 

 初めから自動更新能力など考えてもいない、問題なかろう。

 

ユレム「リムル、地図ならある」

 

 リムルは少々驚いた様子だ。

 

リムル「本当か!」

 

 <混合同化(ジェ・グム)>の魔法で<創造建築(アイビス)>と<周辺察知(ジリピア)>を融合し、融合魔法<地図建築(ジ・リアイビス)>の魔法を使用する。

 すると、机の上にこの森のジオラマが創られる。その地図は俺がここで魔力を流しているため、リアルタイムで動いている。

 

カイジン「なんと……! ここまで精巧な地図が……地図はそもそもが機密情報なのに……!」

 

 成る程、最初、【大教授】が周辺情報を察知出来なかったのはそれが理由か。

 

リムル「なあ、これってリアルタイムで動いてるのか?」

 

ユレム「ああ、俺が魔力を流し続ける事で周辺情報を察知し続けるのだ。ああ、魔力量は気にしなくて良い、対して消費せぬ。これなら自然回復で充分補える」

 

 これほど優秀な地図も無かろう。この森限定、それも俺が魔力を流し続けるという条件付きだがな。

 ただ、これでは今までのオークの進軍経路を確認するには不都合があるだろう。なので、わかりやすくまとめたもう一つの紙の地図もジオラマの横に創る。

 

ユレム「オークの進軍経路を確認するには、こちらの方が分かりやすいな」

 

 皆が感嘆の声をあげる。

 気を取り直して、オークの進軍経路を確認していると、1つ、リムルが違和感を感じた様だ。

 

リムル「なんで別働隊を分けたんだ? 森をそのまま突き進ませると何が不都合になるんだ?」

 

 ふむ、普通に考えれば木々が邪魔だからだろう。ハクロウもそう答えた。だが、そうすると……。

 

ベニマル「何故奴らは、俺たちの里を滅ぼしたんだ? 本隊の移動とは関係無いならば、放置すれば良かったんじゃないか?」

 

ハクロウ「ふむ、そう言われれば、変ですな」

 

 ハクロウも頷く。そう、わざわざ上位種族であるオーガを攻撃する必要がない筈なのだ。食糧が目的だとしても、20万の中の数千など、そんな少数でオーガの里を襲うなど……実際にオークにも多くの犠牲が出たという。ならば何故、必要のない戦いを挑んだのか……。

 曰く、オーク達は初めから敵意しか無かったらしい、つまり、オーガとの交渉が目的では無い。

 やはりジュラの森の支配が目的かと言われると、上位種族オーガを相手させるにはやはり少なすぎる。

 皆も考えるが、どの仮説も決定打に欠ける。

 

シュナ「それに……オーク達はどうやって20万もの大軍の食糧を賄っていたのでしょう?」

 

 その言葉に、皆が固まる。

 

ベニマル「どうやって、だから森で食糧を集めさせ……」

 

 ベニマルの言葉が途切れる。

 

リムル「ソウエイ、オークの別働隊には補給部隊はいたのか?」

 

ソウエイ「いいえ、見かけておりません。本隊の後方には食糧を運搬する部隊が組織されているようでしたが……数が足りません。あの数では20万もの軍を満足させるには不十分だと思われます」

 

 大河で水の補給が出来ても、食糧の補給は精々大河を泳ぐ魚だけ、それでは間違いなく足りないだろう。つまり、オークの軍は飢えながら戦っている……?

 ふと、ジオラマの方に目をやる。オーガの里の跡には、焼け残った家の跡はあっても、死体は一切ない。

 

ユレム「ソウエイ、いや、ベニマル達でもいいが、死んだオーガの同胞達の死体は埋めたのか?」

 

 ソウエイを除く鬼人達が、驚いた様にジオラマを見る。

 

ベニマル「いえ、俺達はオーク共から逃げてきたのでそんな暇は……」

 

 ベニマルが言う。俺はここで1つ仮説を立てた。すると今度はソウエイが口を開く。

 

ソウエイ「憶測なのですが、飢えたり戦死したりした仲間の死体を……食べてるのではないかと思われます。戦場跡なども調査しましたが、死体が1つも……」

 

 オーガの里もジオラマで見た通り、死体は1つも無い。それが意味することは……オーガの死体も食べたであろうと言うこと。

 

リグルド「いくらなんでも……」

 

カイジン「アイツ等は確かになんでも食うが、流石にそれは無いだろう?」

 

 その質問に、ソウエイが答える。

 

ソウエイ「いや、あくまでも憶測です。しかし、奴らの通ったあとには死体は無かった。俺たちの里にも綺麗さっぱり、何も残ってなかった。これは紛れもない事実です。そして1つ、思い当たる能力があるのですが……」

 

 ソウエイが言葉を区切る。するとベニマルがその言葉の続きを口にする。

 

ベニマル「まさか……! オークロード、か?」

 

ソウエイ「そうだ、まだ確認はしていないが、オークロードが出現した可能性がある。少なくとも、高位のオークナイツの存在も確認した。俺たちの里を襲撃したのも、そいつ等だろう」

 

 オークロード?

 

ベニマル「確かにな、あの強さならば、オークナイト、いや、オークジェネラルだったとしても不思議はない」

 

ハクロウ「だとすれば、全ての謎は解けますな……」

 

 鬼人の皆は知っているようで、深刻な顔をしている。

 

カイジン「おいおい、そのオークロードとは一体なんなんだ? 俺たちにもわかるように説明してくれや」

 

 痺れを切らしたように言う。

 

リムル「そうだな、皆にも分かる様に説明を頼む」

 

 リムルが言うと、オークロードについて話し始める。

 

 オークロードとは、数100年に1度、オークの中から生まれるユニークの個体で、必ず強力な支配系能力を持つスキルを持って生まれると言う。そのスキルは、【飢餓者】といい、味方にも周囲のものを喰らい尽くす習性を授け、果てることのない飢餓感に苦しめられると言う。故に、どんな者でも食べる。このスキルの最も恐ろしい点は、喰った魔物の力や身体能力、スキルをも自分のものと出来るようだ。

 

リムル「オークの狙いは、オーガやリザードマンと言った上位種族を滅ぼす事ではなく、その力を奪うためだったのか!?」

 

 沈黙が流れる。その沈黙は、リムルの問いに肯定する事を意味していた。




周辺察知(ジリピス)
 【魔力感知】と同じような原理で、範囲を大幅に拡大した魔法。対象地域は自身が現在いる国や地域で、常に地形情報を更新し続けるので、索敵にも使える。

地図建築(ジ・リアイビス)
 <混合同化(ジェ・グム)>の魔法で<周辺察知(ジリピア)>と<創造建築(アイビス)>を融合させて作った魔法で、<周辺察知(ジリピア)>の魔法で察知した地形情報を、リアルタイムかつ誤差なし更新し続けるジオラマとして創り出す魔法。しかし、術者が魔力を流し続けなければ更新はされない。また、術者が別の国や地域に行ってもジオラマは変わらない。


 思ってたより本編長くなった。本を読み直しながらこの会議こんな長かったっけ? って驚きながら書いてた。


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ドライアド

めっちゃ遅れてすみません! 多分これからも遅れることがあるかもしれませんが、暖かく見守っていただければと思います。
言い訳するとちょっとリアルな方が大変な時期でして、来年の4〜5月辺りには落ち着くと思うので、それまでは申し訳ございませんが、超絶不定期でございます。


 会議室が沈黙に包まれる。

 とは言っても、オークロードが発生したとは限らぬ、それに、本当に発生したのだとしても、対処法もありはするそうだ。

 【飢餓者(ウエルモノ)】は強力なスキルだ。しかし、力の要因となるエサを与えなければ力を得ることも無い。しかし、今回の場合、騎士団を組織するほどに成長してしまっている。さらには、なんらかの後ろ盾が武具を揃えたであろう勢力もいる。下手に対処すればより厄介になる。

 

リムル「ともかくは、オークロードの存在を確認してからだな。本当に生まれているのなら、冒険者のカバル達へ伝言を伝えた方が良さそうだ」

 

リグルド「御意!」

 

 リグルドが頷く。交渉に関しては大して問題はないだろうが、もう少し情報が欲しいところだな……。

 すると、ソウエイが表情を鋭くし、硬直した。

 

ユレム「ソウエイ、何かあったか?」

 

ソウエイ「分身体の一体に接触した者がおりまして……、どうしてもリムル様とユレム様に取り次いで貰いたいとの事、いかが致しましょう?」

 

 ふむ、ここにいるもの以外で俺とリムルの共通の知り合いなど、本当に数えるほどだ。

 

ユレム「接触? 俺とリムルを名指しでか?」

 

ソウエイ「いえ、名指しというわけではなく、主に取り次いで欲しいと、そして相手は、ドライアドなのです」

 

 ドライアド、その名を聞いた皆は驚きの声を上げた。どうやら、ここ10数年間姿を見せておらず、ボブゴブリンの者からすれば、雲の上の存在といった様子だ。

 リムルへ視線を向けると、リムルは頷く。

 

リムル「分かった、会おう。ここに案内してくれ」

 

 すると、すぐに緑色の髪をした美女が現れる。薄らと透けており、肉体を持たぬ事がわかる。

 ドライアドは室内を見回し、隣り合う俺とリムルの方を向いて視線を止める。

 

ドライアド「初めまして、魔物を統べる者及び、その従者たる皆さま。わたくし、ドライアドのトレイニーと申します。どうぞお見知り置きください」

 

 特に敵意は感じない。

 

ユレム「ああ、俺はユレム=テンペストだ」

 

リムル「俺はリムル。魔物を統べる者なんて、そんな大層な者ではないので、普通に接してくれ」

 

 魔物を統べる者とは、確かに周囲が見てみればそう見えるだろうな。

 

ユレム「さて、単刀直入に聞くが、要件はなんだ?」

 

トレイニー「はい。本日参りましたのは、皆様にもご承知の通り、この森で起きている異変についてで御座います。私は森の管理者の1人として、今回の件を見過ごす訳にはいかないと考え、こうして皆様の前に姿を表しました。是非とも、私もこの会議に参加させて頂きたく存じます」

 

 森の管理者ドライアドか、良い情報があるやも知れぬな。

 

ユレム「構わぬが、まず問おう。なぜこの街へ来たのだ?他にも有力な勢力はあっただろう?」

 

 その質問に対する答えは、単純にこの町がこの周辺の最大勢力であった為である。他の勢力はあのガビルに同調したか何処かへ逃げたか、そのどちらかだそうだ。

 また、トレントは自ら移動ができず、移動できる彼女等ドライアドも数が少ない為、トレントの集落を狙われた場合、抵抗出来ないそうだ。

 

ハクロウ「今回の元凶と仰りましたが、貴女は森で何が起きているのか、ご存知なのですか?」

 

トレイニー「はい。オークロードが大群を擁して侵攻中です」

 

 そうか、やはりオークロードが生まれていたのか。

 

ベニマル「それは、オークロードの存在を確認していると受け取っても良いのか?」

 

トレイニー「ええ。ですから、オークロードがトレントの集落を狙えば対抗手段がございませんの。何しろ、トレント達は移動ができませんので」

 

 なるほど、防衛戦をしようにも対抗する力もないか。

 

トレイニー「それに、今回のオークロードの動きの裏に、上位魔人の暗躍を確認しております。私達ドライアドは、それに備えねばなりません。いずれの魔王の手の者かまでは判明しておりませんが、この森で好き勝手な振る舞いを許す訳には参りませんので」

 

 その目には1点の曇りも無かった。流石は森の最上位存在と言ったところか、全身から覇気が迸るかの様だ。

 

ユレム「俺たちの力を借りたいというわけだな、何をさせるつもりだ?」

 

トレイニー「オークロードの討伐を依頼します」

 

 迷いなく言う。これにはリムルも唖然となったようだ。

 

リムル「おいおい、聞けばかなりの化け物みたいじゃないか。そんなヤバそうなヤツを、なんで俺達が相手する必要があるんだよ?」

 

ユレム「何を言っている? リムル。どうせ元オーガの皆は、オークと戦うつもりだっただろう? そして俺達も俺を手助けするつもりだった。なに、ゴブリンの村を助けたのと変わらぬ、ただ今回は相手の数が少々多いだけだ。

トレイニーと言ったか、お前のその依頼、引き受けよう」

 

 リムルが少し慌てている。

 

トレイニー「まあ! やはり、そうですよね。それではオークロードの件、宜しくお願い致します!」

 

 こうして、オークロードの討伐で、話が纏まったのだった。

 

…………

 

 引き続き、トレイニーを含めて会議を続行する。ジオラマの方を見ていると、リムルが何かに気付いたようだ。

 

リムル「なぁ、これって、もしさっきの馬鹿がリザードマンの本拠地を強襲したら、一気に落とせる布陣だよな?」

 

 確かに、ガビルが今リザードマンの本拠地を攻めれば、防備が手薄な本陣が簡単に落とされる布陣だ。

 

リムル「この位置で間違いないんだよな?」

 

ユレム「ああ、タイムラグは一切ない、ソウエイの情報とも一致するしな」

 

 それに対してソウエイが頷く。

 

ユレム「流石にガビルもそんな馬鹿な事はせぬだろうが……奴に裏切りの意思があるなら可能性としては十分にあり得る」

 

トレイニー「なるほど……ひょっとすると、何者かに唆されている可能性もありますね。こちらでも調べて見ます」

 

 こちらに関してはトレイニーが調べるらしい。それは良いとして、俺たちはどうするかだが。

 

ハクロウ「リザードマンとの同盟は結びたいですな。我等だけでは数が少ない。むざむざ見捨てる事もありますまい」

 

 皆が頷く。

 

リムル「だが俺達と同盟といったところで、こちらの数が少な過ぎる。舐められて利用されるだけじゃないのか?」

 

ユレム「いや、それは問題あるまい。まず、考えてもみろ、今のリザードマンは名もないゴブリンを仲間に引き入れるほど切羽詰まっているのだ。対して俺たちは数は少ないとはいえ、皆がネームド、さらには上位種族たる元オーガの者達もいるのだ。

それに、相手がこちらを利用するならばこちらが利用し返せば良い。だろう?」

 

 悪い笑みを浮かべて言う。

 

ソウエイ「でしたら、自分が交渉に向かいます。リザードマンの首領に直接話をつけてもよろしいでしょうか?」

 

 リムルの顔を見るに、「何この自信?」とでも思っているのだろう。

 

リムル「よし、作戦は2段階に分ける。俺を含む先発隊がリザードマンと合流し、オーク共を叩く。この戦で勝利を目指すが、これが難しいと判断した場合、作戦は第2段階へと移行する。この町を捨て、トレントの集落に合流して防衛に力を注ぐように。この場合は、人間の協力を得る必要があるだろう。冒険者のカバルと連絡を取り、人間とも協力の上、オークロードの抹殺を狙う。どちらにせよ、人間にとっても脅威なのは間違いないし、なんとかするしかないだろうな。ただし! この2段階作戦は、リザードマンとの同盟を前提として成立する者である。ソウエイ、お前の働き次第だ。頼むぞ!」

 

ソウエイ「ハハッ!」

 

 ソウエイは力強く頷く。

 

リムル「よし! では、リザードマンの首領に話をつけてこい。くれぐれも同等の関係を保てよ!」

 

 ソウエイは影に溶け込むように消える。

 

ユレム「リムル、万一ソウエイが失敗したならば、そのまま第2作戦に移るということで良いな?」

 

リムル「ああ、皆もそう言う心づもりで、準備を整えるように!」

 

 会議室の者が一斉に頷いた。これにて、方針の会議を締め括ったのである。




そういえば転スラの第3期が制作決定しましたね!
するにしても映画公開してからかなと思ってたので、結構ビックリしました。


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大激突

今回もちょっと難しかった……ユレム君……君自由に動きすぎだ……。
前回は前回でトレイニーさんの「はじめまして」にどう返すか悩みまくった末にああなったからな……。


 ソウエイが帰ってきた。同盟に対しては快い返事を貰うことが出来たそうだ。あとは7日後、首領の下へ同盟を結びに行くだけだな。

 

ユレム「だが、不足の事態でも動けるようにはしておいた方が良いだろうがな……」

 

 また、シュナに頼んでいた服が完成したようで、着てみると、かなり着心地が良かった。服自体も自分の身体の一部かのようだ。流石はシュナである。

 そして、クロベエに頼んでいた刀も出来上がっていたようで、これまでに<創造建築(アイビス)>で創ったどの剣よりも上質で、恐らく希少級(レア)はあるだろう。また、要望通り振りやすく、刀身はリムルの刀に比べると少し短い。

 なかなかどうして、皆良い仕事をしてくれたものだ。

 

…………

 

 ソウエイの会合から4日が経過し、約束の日まで3日となっていた。俺たちは今約束の場所への道中で、もうすぐ湿地帯に着くだろう。リザードマン達は自分達の住む天然の迷路を利用し、確実に侵入したオークを討伐しているようだ。

 だが、そこに異変が起こる。ガビルが父である首領及びその親衛隊を拘束し、自身が指揮を取り、湿地帯を舞台にその湿地帯を埋め尽くすほどのオーク達を相手取ったのだ。

 

ユレム「確かトレイニーから聞いた話では、【飢餓者】の能力の1つ、【食物連鎖】にて、たとえ末端のものが喰った魔物の特性でさえ、全てのオークに共有されるそうだ。今のところは湿地帯での機動力にて相手を上回っているだろうが、リザードマンに戦死者が1人でも出れば、その時点で戦況は変わるだろう。俺が<転移(ガトム)>で先に向かって死者は出さぬように手助けをしに行く、それでも良いな? リムル」

 

 俺はリムルにそう告げる。

 

リムル「ああ、分かった。頼んだぞ」

 

ユレム「それと、ソウエイは首領のいる牢へ行き、首領達を守れ。また、首領の側近がオークの1団と交戦している。そちらも頼む」

 

 <思念領域(リノクス)>にてその位置をソウエイに渡す。

 

ソウエイ「はっ!」

 

 ソウエイが行ったことを確認し、<転移(ガトム)>にて湿地帯に転移する。目の前に広がる光景は地獄絵図である。オークの軍勢が湿地帯を埋め尽くし、オークの死体は同胞であるオークが綺麗に食べている。

 

ユレム「さて、下手に強力な魔法を撃ってリザードマンを巻き込むわけにもいかぬな、そんなヘマはせぬが……。

介入は最小限で良いだろうな、リザードマンに戦死者が出ないことが目的だ。それに、鬼人の者達も戦いたいだろうしな」

 

 それからは、ゴブリンを含むリザードマン陣営の兵へ、止めとなり得る攻撃だけを防ぎ、それ以上の介入は控え、リムル達の到着を待った。

 

ガビル「貴殿は、あのゴブリンの集落にいた者ではないか!」

 

 ガビルが話しかけてくる。

 

ユレム「ガビルか、何故もう少し待てなかった?」

 

ガビル「なんだと? 我等誇り高きリザードマンが、洞窟の中でチマチマと戦うなど、許せるわけがないだろう!」

 

 誇りを持つのは良いがな……。

 

ユレム「戦うにせよ、もう少しオークロードのことを調べるべきだったな、俺がきていなければ、既にリザードマンに死者が出ていたぞ?」

 

ガビル「確かに、何度か我が部下が助けられていた。それは感謝しよう。しかし、皆も死を覚悟してきているのだ!」

 

 それはそうだろうがな……。

 

ユレム「オークロードのスキルの影響を受けたオークは、喰らった魔物の特性を奪う。それも全てのオークに共有されるのだ。それが何を意味するのかはわかるな?」

 

 ガビルが目を見開く。同胞の死体を喰らう行為の異常性は感じていたのだろうが、その答えに辿り着かなかったのだろうな。

 

ガビル「な、ならば……貴殿が部下を助けていなければ……」

 

 自分の犯したことに気がついたようだ。

 

ユレム「奴等は湿地のぬかるんだ地形でも、十分に動けるようになっていただろう。さらには、リザードマンの硬い鱗も手に入れていたやもしれぬな」

 

ガビル「そう……だったのか……感謝する……!」

 

 さて、来たようだな。

 

ユレム「ガビル、安心せよ、この戦いはもうすぐ終わる。それからどうするかは、お前が決めろ」

 

リムル「ユレム! 戦死者は?」

 

 羽を出して飛んでいるリムルが言う。

 

ユレム「ゼロだ」

 

リムル「サンキュー! 戦況はどうだ?」

 

ユレム「問題ない。地の利を利用し、オーク達に対しても有利に戦いを進めている。士気も十分高い。ガビルの将としての才がなせる技だな」

 

 今のガビルには、大局を見る力はまだない。しかし、将としての才能がある。王の器と言われると微妙だが、1軍を任せる将としては十分だと思う。かと言っても、もう少し冷静に戦を見て欲しかったがな……。

 <飛行(フレス)>にて、リムルの下へ行く。すでにベニマル達は戦い始めており、オーク達を圧倒している。中でもベニマルとランガは大技で1度に多くのオークを屠っている。

 

ユレム「……ふむ、何者だ?」

 

 オークロードが前に出てきて、リムルと共に地上に降りて戦おうかと言う時、同時に何者かが高速で接近していることを感じた。その何者かは、湿地帯の中央に降り立った。なかなかの妖気を感じる、恐らく上位魔人だろう。

 

???「これは一体どう言うことだ!? このゲルミュット様の計画を台無しにしやがって!」

 

 随分と簡単に名乗ってくれたものである。




次回、恐らくオークディザスター戦(仮)ですね。
トゥービーコンテニュー


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豚頭魔王(オークディザスター)

今回はちょっと張り切りました! やっとまともなユレム君の戦闘ですからね! では、どうぞ。


 計画……か、此奴がこの騒乱の犯人か。それに、ゲルミュットか、聞いたことがあるな、確かリグルの兄、リグルに名をつけた者だったか……ややこしいな。

 それはさておき、この者、何やら激怒している様子だ。大方、計画がうまく行かなかったからだろうな。

 

ガビル「こ、これはゲルミュット様! 我輩を助けにここまで来て下さるとは!」

 

 ふむ、ガビルはこのゲルミュットとやらを慕っているのか? もしや、ガビルも先代リグル同様にゲルミュットに名を貰ったのか?

 

ゲルミュット「役立たずのノロマが! 貴様がさっさとトカゲやゴミを喰って魔王に進化しておれば、わざわざ上位魔人であるゲルミュット様が出向くことはなかったのだ」

 

 ゲルミュットがオークロードに向かって言い放つ。随分な言い草だな、トカゲにゴミとは……。

 

ガビル「トカゲを喰う……? は、ははは、これは厳しい冗談ですな。このガビル、まだまだのようです。ゲルミュット様に名を頂いてからも、精進を怠ってはいなかったのですが……」

 

 やはり、ガビルはゲルミュットから名をもらったようだな。恐らく狙いは名を付け、強力な個体となった魔物をオークロードに喰わせて、オークロードをより強力にする、そんなところか?

 さて、考え事をしていると、ゲルミュットがガビルに向かって手の平を突き出した。その手には魔力が集まり、弾となり、発射される。

 

ガビル配下「危ない、ガビル様!」「危険ですぞ!!」

 

 ガビルの配下5体がガビルの盾となり魔力弾に吹き飛ばされた。死んではおらぬな。だが、ガビル、本当に部下に信頼されているな、先ほどの指揮を見ても、ゴブリンを捨て駒として扱う素振りはなかった。良い上司だな。

 

ユレム「<治癒(エント)>リムル、ガビル達の守りは任せよ、お前はそこのゲルミュットを頼む」

 

リムル「分かった」

 

 リムルならゲルミュット程度問題なかろう。一方、ガビルは混乱しているようだな。

 

ガビル「お、お前達! い、一体……一体これはどういう事ですか、ゲルミュット様……!」

 

ユレム「簡単な話だ、ガビル、奴は初めから、お前を計画のための道具としか見てなかったのだろう」

 

 その言葉を聞き、ガビルは絶望の表情を浮かべる。

 

ゲルミュット「下等種族の分際で生意気な……! そんなに死にたいなら纏めて殺してやる! そしてオークロードの養分となり、俺の役に立つがいい!」

 

 ゲルミュットはそう言いながら特大の魔力弾を撃ち出そうとする。狼狽えつつも、配下を庇うように座り込むガビルの前に、俺とリムルが立つ。

 

ゲルミュット「ふははは! 上位魔人の強さを教えてやる、死ね、死者之行進演舞(デスマーチダンス)

 

 特大の魔力弾が放たれる。それは空中で分裂し、1つ1つが先程の魔力弾と同等の威力を持って俺たちの方へ降り注ぐ……が、これは【破滅の魔眼】を使うまでもないな。

 リムルが【捕食者】にて魔力弾を残らず吸収した。

 

リムル「なぁ、これがお前の全力か? これでどうやって死ねって言うんだよ、どうやって死ぬか、お前が手本を見せてくれよ」

 

 リムルはそう言って左手を突き出し、魔力を込めるが何も出ない、それはそうだろう……あれは気操法の一種だ、練習もせずに出来てたまるか……長い間をかけて習得した者が不憫だ……。

 それから、リムルとゲルミュットの戦いが始まるが、終始リムルが圧倒していた。リムルも最後に魔力弾をハクロウ曰く荒削りながらも習得し、ゲルミュットの命乞いを無視し、粘糸で拘束する。

 

ゲルミュット「やめろ……来るな……! おい! オークロード! こっちへ来て俺を助けろ!」

 

 先ほどから愚鈍だのノロマだのと言っていた者に助けを求めるとは……救いようがないな。

 

ゲルミュット「クソ……俺を助けろ! オークロード……いや、ゲルドよ!」

 

 オークロードにも名は付けていたようだ。

 オークロードが近づいてくる。ふむ、そのまま助けるつもりなのだろうか?

 

ユレム「リムル、どうする」

 

リムル「大丈夫だろ、本気で戦えば苦戦はしないはずだと思う」

 

 ふむ、オークロード……ゲルドと言ったか……の動き、少々不気味さを感じるな。

 

ゲルミュット「この愚図が、ようやく動いたか……ひゃはは! どこの何者かは知らんが、コイツの強さを思い知るがいい! やれ、ゲルド! この俺には向かった事を後悔させて…………」

 

 瞬間、ゲルミュットの首が切り落とされる、頭が転がっている。ゲルドは、その首を、切り離された胴体を喰う。容赦なく、手に持った肉切包丁(ミートクラッシャー)で解体してゲルミュットの体を喰らう。ゲルミュットはあれでも上位魔人だ、その魔素量は少なくない、それを喰らえばどうなるか……。

 

≪確認しました。個体名:ゲルドの魔素量が大幅に増大しました。魔王種への進化を開始します……

成功しました。個体名:ゲルドは豚頭魔王(オークディザスター)へと進化完了しました≫

 

 世界の言葉が響く。

 

ゲルド「グルァアーーー!! おれは豚頭魔王(オークディザスター)、この世の全てを喰らう者なり!! "名"をゲルド、魔王ゲルドと呼ぶがいい!」

 

 鬼人達が攻撃を仕掛ける。しかし魔王ゲルドは【剛力】と【身体強化】を使ったシオンに鍔迫り合いで勝利し、ハクロウに胴と首を切られても直ぐに治り、ランガやベニマル達の最高火力をも十分な余力を残して耐えてみせた。

 

リムル「嘘だろ……」

 

 リムルが呟く、確かに想像以上の耐久だ。それに、体力の回復の為に同胞をも喰らう。

 

ユレム「俺がやるとしよう」

 

リムル「……勝算があるのか?」

 

ユレム「ああ……」

 

 自身に張っていた、弱体化の結界を外す。これは普段の生活に不自由になる程の力を押さえるためのものだ。今は必要ない。

 

ユレム「そら、どこからでも来い」

 

ゲルド「お前も我がエサとなるが良い! 餓鬼之行進演舞(デスマーチダンス)!!」

 

 ゲルミュットの技と同じ物だ。尤も、威力が遥かに違う上、腐食の効果もついている。

 

ユレム「その程度か?」

 

 【破滅の魔眼】を開眼する。すると瞬く間に魔力弾が霧散する。

 

ゲルド「……! なかなかやるようだな、だが!」

 

 今度は肉切包丁(ミートクラッシャー)を振り下ろしてくる。が、俺はそれを片手で受け止める。

 

ゲルド「なんだと……!」

 

ユレム「どうした、随分と軽い斬撃だな? それに脆い」

 

 少し力をこめると、肉切包丁(ミートクラッシャー)にヒビが入り、砕け散る。ゲルドもこれには驚いたようだ。

 俺も刀を抜き、隠形法と瞬動法で背後に回る。

 

ゲルド「いつの間に……!」

 

ユレム「ゆるりと動いただけだ。そう驚くな」

 

 そう言った後、ゲルドの足を切り落とす。

 

ゲルド「こんなもの……!」

 

 傷口から黄色い触手のような物が出て来るが、一向に足を繋ぎ止めようとしない。

 

ゲルド「何故だ……!」

 

ユレム「【滅紫の魔眼】が、お前のスキルの効力を滅ぼした。俺の前で、魔法やスキルが使えると思うな」

 

ゲルド「……ッ!」

 

 手詰まりだろう。武器も破壊され、魔法やスキルは悉く封じられる。そんな様子のゲルドを見据え、俺はゲルドに突きを入れる、腕はゲルドの皮膚を貫通し、ゲルドの体に突き刺さる。

 

ユレム「少々事情を教えてもらうぞ<追憶(エヴィ)><思念領域(リノクス)>」

 

 

 

 目の前が白く染まる。光が収まると、そこは豊かな草原だった。オーク達が楽しげに暮らしている。が、次の瞬間、その光景はみるみる姿を変え、草1つない荒野へと変貌した。ゲルドは、砂漠を彷徨い、倒れる。そんな状態のゲルドを見つけたのが、ゲルミュットだった……。

 

――俺は……負けたのか――

 

――そうだな、俺が勝った――

 

――俺は……負けるわけには行かない! 

  俺は同胞を喰った。

  俺は魔王にならねばならない!

  ゲルミュット様を喰ったから。

  俺は負けるわけには行かない!

  同胞は飢えている。

  腹いっぱい喰うのだ!――

 

――だが、お前の同胞が飢える理由にはお前もある。

  お前の【飢餓者】の影響だ――

 

――知っている!

  だが負けるわけには行かない!

  それに、俺は同胞を喰った!

  同胞も罪を犯した!

  俺が死ねば、同胞が罪を背負う。

  俺は罪深くとも良い。

  飢えぬ為には、なんでもやる覚悟が必要なのだ!

  俺は魔王になる。

  皆が飢えることがないように、

  俺がこの世の全ての飢えを引き受けるのダ!

  そうだとも。

  俺は豚頭魔王(オークディザスター)

  この世の全てを喰らう者――

 

――ならば、俺は全てを滅ぼす者だ。

  お前の同胞の飢えも俺が滅ぼす――

 

――お前が飢えを滅ぼす……だと?

  そんな事が……いや、仮に出来たとしても、

  我の罪は消えぬ――

 

――なに、我が友は食いしん坊でな、

  奴ならば、お前の同胞達の罪を喰う、

  とでも言うだろうな――

 

――お前も、その友も、

  どちらも欲張りだ――

 

――ああ、欲張りだ、

  その欲張りに任せよ

  直に我が友にお前を喰らわせる

  その時を待っているが良い――

 

――ああ――

 

 

 

ユレム「リムル、喰らうが良い、話はつけてきた。俺とお前でオーク達の罪を背負うとな」

 

リムル「は、はぁ? どう言う事だ!?」

 

ユレム「喰えばわかる、そら、喰え」

 

リムル「まず説明しろ!」

 

 仕方ない奴だな。

 事を手短に説明した。

 

リムル「……大体分かった。あとは俺がアイツを捕食すれば良いんだな?」

 

ユレム「ああ」

 

 リムルがゲルドに近づき、捕食者を発動する。体積は少しずつ小さくなり、そこに残ったのはリムルのみだった。だが、何処からか「ありがとう」と言われた気がした。

 

ユレム「安らかに眠るが良い、あとは任せろ。

気高き王よ」

 

≪確認しました。ユニークスキル【破壊者(ホロボスモノ)】を獲得……

成功しました。≫




新しいスキルについてはまた次回! ヒントを出すならドライアドのフルーツの力は借りずに食糧問題を解決します! え? 分かりやすいって? そんなバナナ!?


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ジュラの森大同盟

紅蓮の絆編、観てきました! 感想は1つ、トワさん可愛かった、ヒイロとくっつきやがれください!
それと最後にいろいろお知らせがあるので、後書きまで見ましょう。


 魔王ゲルドとの戦いの翌日、湿地帯中央に設置されたテントにて、各種族の代表が集まっていた。

 

 俺たちからはリムルと俺、そしてシュナとクロベエを除いた鬼人組である。ランガもリムルの影にいる。

 トレントの代表としてはトレイニーだ。

 オーク達だが、【飢餓者】の効果が切れたことで既に栄養失調などで倒れるものが出始めているようだ。今回の戦争の原因はオーク達になるが、これでは責任を追及することもできまい。

 

 彼らの今回の行動の主な理由は、大飢饉、彼らの住んでいた魔大陸側は豊かな大地であり、魔王の庇護下にある。しかし、高額の税がかけられており、大量の農作物を納める必要があった。そして、税を払えぬ者の末路は、死である。魔大陸には多くの強力な魔物が居る、それにより、魔王が直接手を下さずとも、税を払えなかった者達は死んでいく。大飢饉により税を納める事ができなかったオーク達の中に、オークロードが現れていた、ゲルドである。だが、それでも力は足りなかった。そこに現れたのがゲルミュットであり、そこから今回の事変が起こったのだ。

 

 これらが、俺とリムルの知り得た情報であり、ハクロウが会議の開始を宣言してから、初めに声を上げたリムルが説明した事柄である。その話を聞き、オークの代表は驚きリムルを凝視する。言い訳もさせてもらえずに殺されるとでも思っていたのだろう。

 

ハクロウ「それでは、先ずは今回のオーク侵攻における損害について、確認を取りたい」

 

 会議は進行する。リザードマンの首領が、自分達の被害を報告する。

 

ハクロウ「では首領殿、オークに対して要求はありますかな?」

 

 首領は首を横に振る。今回の勝利は自分達の力では無いからだそうだ。かと言っても、要求があったとして、今のオーク達に出来る事自体少ないだろうがな。そんな事を考えていると、オークジェネラルが口を開く。

 

オークジェネラル「発言をお許しいただきたい! 今回の件、我が命にて、贖わせてほしい……、無論、足りないとは思うが、我等に支払えるモノなど無いのだ!!」

 

 それを聞いているリムルは、何か言いたいようだ。

 

ハクロウ「まて。リムル様がお話があるそうじゃ!」

 

 それを見てか、ハクロウが場を鎮める。なかなかどうして、ハクロウはこのような場にピッタリである。

 

リムル「ええと、こう言う会議は初めてで苦手なんだ。だから思った事を言わせてもらう。そのあとで、俺の言葉を皆で検討してほしい」

 

 そう前置きし、リムルは考えを切り出す。

 

リムル「まず最初に明言するが、俺はオークに罪を問う考えは無い」

 

 リムルの話は、簡潔に言えば情状酌量の余地あり、というものだ。事実、俺がオーク達と同じ立場だったとしたら、同じ判断をしただろう。

 尤も、リムルはゲルドにオークの罪を引き受けると約束したのが大きいだろうがな。

 

リムル「と言うのが、俺の考えだ。皆の思いはあるだろうが、オーク達に対する処罰は行わない。なぜなら、それが魔王ゲルドとの約束だからだ。オークの罪は俺が全て引き受けたから、文句があるなら俺に言ってくれ!」

 

 そう言い放つリムルに、オーク達は驚きを隠せない様子だ。ベニマル達や他の種族の者達にも不満はないようだ。

 

首領「我らにも、そのことに対する不満は御座らぬ、しかし、お聞きしたい事が……」

 

リムル「何か?」

 

首領「オークの罪は問わぬ、それは良いのです。我等もリムル様に救われた身ですし、偉そうな事を言える立場でもないでしょうしな。ですが、どうしても確認せねばならぬ事があります」

 

 確認せねばならぬ事か……。

 

首領「リムル様は、オーク全てをこの森にて受け入れると、そう仰っておられるのですか?」

 

 当然の疑問である。が、その答えは俺とリムルの間で用意してあった。

 

リムル「その通りだ」

 

 リムルは迷いなくそう言い放つ。その一言によって、場は騒然となるが、ハクロウの一喝で静けさを取り戻す。

 

リムル「君たちの考えもわかるし、不安についても理解できる。出来るかどうか不明ということもその通りだ。だが、俺は出来ると思っている。さっきも言ったが、先ずは俺の考えを聞いてくれ」

 

 リムルの提案はこうだ。ただただここで解散したところで、オーク達はすぐに餓死するだろう。生き残ったとしても統率を取れずにゴブリンやリザードマンを襲うだろう。そこでこの、ジュラの森大同盟である。

 リザードマンからは良質な水資源と、魚類の食べ物を。

 ゴブリンからは住む場所を。

 その見返りとして、オーク達からは勤勉な労働力を提供し合う。

 無論、住む場所は各地に散ってもらうだろうがな。これは俺たちにとっても利がある話で、俺たちの町は今の所人口が少なすぎて、労働力が足りない。そこでこのオーク達をこき使おうというリムルの提案である。

 

 その提案に、各種族の代表達は皆、力強く頷いた。

ここに、リムルを盟主とした、ジュラの森大同盟が、成立したのである。

 

 だが、ここで1つ、大きな問題がある。

 

リムル「鎮まれ。さて、と、同盟が成立した所で、最大の問題を解決する必要があると! それは、食糧問題だ。生き残ったオークの15万の民を飢えさせないようにしなければならない。皆の知恵を貸してほしい!」

 

 皆が考え込む、誰もこの問題を他人事と思っていない証拠である。だが……

 

ユレム「それについてだが、問題はない」

 

 皆の視線がこちらに向く。

 

リムル「どういう事か、教えてもらってもいいか?」

 

 その言葉に、俺は答える。

 

ユレム「俺のユニークスキル【破壊者(ホロボスモノ)】の権能は、魂の系譜が繋がった者の魂を掌握し、その魂、及びその魂が宿っている身体の特性や性質を滅ぼす事ができる。無論、魂そのものを滅ぼす事も可能だ」

 

 魔王ゲルドを倒した後に手に入れたスキルである。

 

リムル「つまり、オーク達と魂の系譜を繋げて、オーク達から食欲みたいなのを滅ぼすって事か?」

 

ユレム「ああ、正確には、食糧を摂らなければ死んでしまうという性質を滅ぼす。分かりやすく言えば、リムルの体と近いな。リムルは食糧は必要ないが、食糧を撮ることもできるだろう? それと同じだ」

 

 魂の系譜を繋げる方法だが、<根源接続(リラベブ)>を使えば早い、だが、それでは【飢餓者】の効果が切れたことによりランクがC+からDに下がるオーク達の労働力も落ちてしまう上、名付けて魔物としてのランクを上げることで今回の事変の原因の1つである繁殖のしすぎも防げる。

 なので、名付けはリムルに任せて俺はそれを<根源接続(リラベブ)>にて繋げるだけである。何故ならリムルの方が名付けの効率が良いからだ。

 

 それから、10日かけてリムルが名付け終わった。オークジェネラルにゲルドの名を継がせ、それ以外には数字を利用して対処していた。最後にゲルドへの名付けを終わった時、ついにスリープモードとなった。そして、ゲルドはオークロードと同等のオークキングとなった。

 

 それからさらに3ヶ月後、事変の後処理などが諸々終わり、俺たちの町の体裁も整い、安住の地、魔物の町が完成したのだ。




森の騒乱編、これにて終了。それでは現時点でのユレム君のステータスを

ユレム=テンペスト
種族:浅層魔族

加護:暴風の紋章
称号:魔物を統べる者 ◾️◾️◾️◾️の胚
魔法:いっぱい(<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>が使える位)
ユニークスキル:【大教授】【魔法作成】【破滅の魔眼】【滅紫の魔眼】【破壊者】
エクストラスキル:【魔力感知】【記憶処理】【思念伝達】
耐性:【痛覚無効】【毒無効】【熱変動耐性】

 ん? ちょっと怪しげなものがありますねー(棒)

では、お知らせです。次回から、3話くらい幕間を挟みます。ということで、活動報告の、ご意見箱に幕間について案を下さい! 以上です!


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ドワーフ王

お待たせしましたぁぁぁぁ!!! 魔王学院2期のセカンドトレーラーを見て悶絶したワラリヲです!(ちょっと遅い!) ミーシャが可愛すぎた……(尊死)


 魔物の町は、俺やリムルとしても十分満足のいくものとして完成した。特に、トイレや風呂、水周りに虫除け、これはもはや渾身の出来と言って良い、風呂は残念ながらすべての家に繋げることはできなかったがな。

 ただ、恐らくリムルの【大賢者】や俺の【大教授】がいなければ完成することはなかっただろう。それに、オーク達の労働力がなければこの数倍の時間はかかっていた。ジュラの森大同盟の効力を早速実感したのである。

 ああ、それと……

 

ユレム「要らぬと言ったのだがな……」

 

 俺の庵である。執務館で寝泊まりすれば良いだろうに。それと言い忘れていたが、俺とリムルで、内政と外政を分担する事になった。ただ、その時にリムルが何がなんでも俺に外政をさせようとはしなかったのは気になるが……。

 話を戻そう。この庵だが、リムルのものが少し離れた場所にある。正直住み心地は良い、リムルの庵はスライム形に最適化されており、俺の庵は人型、さらに体格によって家具の形が変化するという<成長(クルスト)>や<逆成長(クルスラ)>を使う事を想定に入れているような造りである。

 

 ああ、ガビルも来ていたな。他にも、首領アビルの親衛隊長こと、ガビルの妹も来ていた。そこで皆にリムルが名前をつけ、<根源接続(リラベブ)>にて魂の系譜を繋げた。ガビルは元々名前があったはずだが、ゲルミュットが死んだこともあって名付けが上書きされたようだ。ガビル達だが、ヴェルドラのいた洞窟にて、ヒポプテ草の栽培を任せた。

 

 このように、この3ヶ月間でさまざまな事があったものだ。今日も今日とて、何か起こるのだが……。

 

ユレム「さて、随分な大所帯が来たものだな」

 

 <周辺察知(ジリピア)>に何かが引っ掛かる。数はおよそ千、翼を持つ白馬に跨った軍隊、ペガサスナイツが向かってくる。戦いになった場合、確実に町の住民に被害者が出る。それは避けねばならぬ。そこでリムル達に情報を共有し、いつでも避難が可能なように誘導させる。

 

カイジン「あれ、もしかして……」

 

 何やら呟いている。

 

ユレム「どうした、カイジン、奴らに心当たりでもあるか?」

 

 カイジンが言うには、ドワーフ王国には、ドワーフ王直属の空を翔ける極秘部隊がいるそうだ。アレがそれなら、来るのはドワーフ王その人である可能性も十分にある。何をしに来たのやら……。

 ペガサスナイツが町外れの開けた場所に舞い降りる。問答無用で攻撃を仕掛けて来ているわけでは無いので、俺たちを敵として認識していないのだろう。

 

ユレム「奴がドワーフ王、ガゼル=ドワルゴか」

 

 騎士の中でも一際覇気を放つ男だ。強いな。

 

カイジン「これはガゼル王、お久しぶりで御座います。なにやら物々しい出立ですが、本日は何か御用があるのでしょうか?」

 

 カイジンが前に出て跪きながら言う。

 

ガゼル「久しいな、カイジン、それにスライム。余……いや、俺を覚えているか?」

 

 ふむ、リムル、恐らくカイジンを連れて来た時のことだろうが、なにをしでかしたのだ……?

 鬼人の皆はガゼル王の言葉に殺気を放つ。ガゼル王がリムルに対し、気さくに話しかけ、スライムと呼び捨てたからだろうか? カイジンはその言動に驚いたようだ。

 

カイジン「お、王よ!?」

 

 カイジンは狼狽えたように言う。カイジンがドワーフ王国に居た時はこの様な対応は見せたことがなかったのだろう。

 

ガゼル「ふはははは、相変わらず頭が硬いな、カイジン。見て分からぬか? 今日の俺は一私人としてやってきたのだ。あくまで建前だがな。」

 

 私人として来たにしては後ろに物々しい一団がいるが……気にしたら負けだろう。

 

リムル「ってことは、普通に話しても文句無いよな?」

 

ガゼル「当然だな、堅苦しい形式に囚われている場合ではあるまいよ」

 

 その言い方では彼らにとってかなりの大問題を、俺たちが犯したのだろう。オークロードの件だろうがな。

 

リムル「じゃあ最初に名乗っておこう。俺の名はリムルだ。スライムなのはそうだが、俺をスライムと呼ぶのはやめてもらおう。これでも一応はジュラの森大同盟の盟主なんでね、前の時とは立場が違うんだよ」

 

 リムルが人型に変化する。

 余談だが、俺はリムルが不在の際の盟主代理だ。

 

リムル「これが本性ってわけじゃないが、こっちの方が話しやすいだろう?」

 

 相手がリムルに対して警戒を強める。それにベニマル達のことも鬼人だと言うこともバレている。だが、俺はそれほど警戒されていない様だ。妖気を一切漏らしていないからだろう。別にこの町で魂を偽る必要はないが、彼らが来た時にあらかじめ使っておいたのだ。尤も、ガゼル王には警戒されている様だが。

 

リムル「驚かせたみたいで悪かったな。こっちの方が話しやすいだろうと思って変化しただけだ。そこの婆さんが言った通り、これは俺のスキル【万能変化】による変身で、一種の擬態だからそんなに警戒する必要はないぞ」

 

ガゼル「それを判断するのは俺だ。敵が味方か断定できぬ者の言葉など、信じられる訳もなし」

 

 その通りではある。だが、どう信頼を得るか……。

 

リムル「疑うのはいいが、それじゃあ会話が成立しないんじゃないか?」

 

ガゼル「安心するがいい、貴様を見極めるのに言葉など不要、俺の剣で、本性を見極めてやるわ。この森の盟主になったなどとホラを吹く貴様には、分というもの教えねばなるまい。貴様が盟主と言うならば、貴様の後ろにいるその男が盟主と言った方が信憑性も出よう」

 

 ガゼル王が俺を見ながら言う。やはり、俺は警戒の対象の様だ。

 

ガゼル「その剣が飾りでないのならば、俺の申し出を受けるがいい」

 

手に持っていたハルバードを脇に控えていた騎士に渡し、剣を抜くガゼル王、リムルの刀を見てから目を輝かせていた。見た目に反して意外と戦闘狂なのだろうか?

 

 リムルが申し出に乗る。ルールはガゼル王の一連の攻撃を防ぎ切ったらリムルの勝ち、リムルは攻撃しても構わない、というものだ、この男、恐らく剣の技術ならばともかく、剣だけでも戦闘力ならばハクロウと同等以上はあるの見て良いだろう。そして、

試合が開始すると言うその時……

 

トレイニー「その勝負、私が立ち会いましょう」

 

 トレイニー達が現れた。するとガゼル王はリムルがホラを吹いた、と言う言葉を訂正する。しかし試合は止められぬ様だ。特に止める理由もないが。

 

 開始の合図と共に2人は動く。暫く様子見をし、リムルが斬りかかる。あれは一度ハクロウに攻撃を当てた剣、スライムの特性を活かし、間合いを悟らせない技だが、読まれていたかの様に流される。それから、ガゼル王は【英雄覇気】を使うが、リムルは気合いで相殺する。するとリムルは、迷いを捨てたかの様に剣と一体化する。リムルの刀が重なって見えたほどである。

 

ガゼル「そうだ、それでいい。では、そろそろいくぞ!」

 

 ガゼル王はそう宣言し、視界から消える。ふむ、この感覚には覚えがあるな、ハクロウの隠形法の感覚だ。するとリムルの真下から攻撃が来る。リムルはどうにか対応する。しかし、次の瞬間、上段からガゼル王の剣が振り下ろされる。が、リムルの刀によって受け止められていた。

 

トレイニー「それまで! 勝者はリムル=テンペスト!」

 

 リムルの勝利である。魔物達は歓声を上げるが、ドワーフ達は面白くなかったのであろう。ガゼル王が手加減したのだと言うが、一喝される。

 

ガゼル「それにしても、よくぞ俺の"朧・地天轟雷"を見切ったものよ。見事だったぞ、リムル」

 

リムル「いや、偶然だよ。その技、俺の師匠が使ってたのを見たことがあるんだ」

 

 ハクロウが今の技を使っていたのである。そう、今のと全く同じ技を。

 

ガゼル「なんだと? まさか、その師匠と言うのは……」

 

ハクロウ「ほっほっほ、見事でしたなリムル様、剣の声が聞こえた様で、何よりです」

 

 いつのまにかハクロウが立っていた。どうやら避難誘導を終え、ゴブタ達に任せてきたようである。

 

ガゼル「失礼ですが、剣鬼殿ではありませんか?」

 

かしこまった態度でガゼル王がハクロウに問いかける。やはり知り合いだったようだ。

 

ハクロウ「ほう、あの時の若造が……見違えたぞ。いや、ドワーフ王に対して、失礼でしたな。先ほどの剣気、如何なる猛者かと思ってみれば、ワシ以上の剣士へと成長したようで重畳ですじゃ」

 

 どうやら、300年ほど前にハクロウが幼少期のガゼル王に剣を教えていたようだ。ハクロウは一体何歳なのだろうか……?

 

ガゼル「それと、お前の名も聞いておこう。お前は先ほど、俺の剣を目で追っていたな?」

 

 ガゼル王が俺の方を見て言う。

 

ユレム「ああ、俺もハクロウのあの技は何度も見ているのでな、どう剣が流れるか分かって仕舞えば造作もない」

 

ガゼル「はっはっは、いくらどう来るかわかっていても、俺の剣を完全に見切るのはそう簡単なことではない。素直に誇って良いことだぞ?」

 

ユレム「ふむ、そうなのか? ならばありがたく誇るとしよう」




さて、言い訳するとリアルな都合がキツくて、執筆に手が出せない現状です。ちょっと年が明けてから4月辺りまでは投稿頻度が月一になるかもです。次回はミリム登場までやりたいですね。

 さて、投稿頻度激落ちの数ヶ月間、今度こそ幕間をやりたいと思います。考えている内容はありますが(1つくらい)、読者様方のご意見をお恵みいただきたく思います。ってことで、活動報告の、【ご意見箱】に幕間の案をお願いします! オネガイ


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魔王(ミリム)襲来

あけましておめでとうございます。
忙しいという、何回目かも分からない言い訳で遅れました。アイムソーリー。
さて、今回の回でユレム君の強さをある程度推し量れるかな? と思います。
あ、魔王学院のアニメ見ました? ちょっとだけアノシュが出て来てびっくりしたの私だけですかね? それはそれとして、レイとミサは幸せに<愛世界(ラヴル・アスク)>しやがってください。もう少し後だけど……。


 あの後、場所を移してガゼル王と詳しい話を行った。

 

 ガゼル王達の目的はオークロードを倒した謎の魔人、俺達の調査だ、俺達が味方となるかどうかを見極めに来たらしい。ドライアドが出て来た時点で無害だと確信していたそうだが……。

 話し合いは、そのうち宴会になった。そこではガゼル王の部下が俺達の配下と各々の話題で盛り上がっていた。

 

 しばらくして、ガゼル王が真面目な顔つきで言葉を紡いだ。

 

ガゼル「リムル、ユレム、聞きたいことがある」

 

ユレム「なんだ?」

 

ガゼル「俺と盟約を結ぶ気はないか?」

 

 これは、ドワーフ王国の王としての言葉だそうだ。つまり、お互いの国に利がある話なのだろう。俺個人としては断る理由はないと思うが……。

 

ユレム「どうする? これはリムルの決める事だ」

 

リムル「ああ……まず聞こう。その言葉は、俺たち魔物の集団を、国として認めるのと同義だぞ?」

 

ガゼル「無論だ。この話は、我等にとっても都合が良い。お互いに利がある話だ」

 

 予想通り、ドワーフ王国側にも利があるようだ。

 そして、ガゼル王の提示した条件は、

 

1つ、相互不可侵条約の締結。

1つ、国家の危機に際しての、相互協力。

1つ、後ろ盾となる見返りに、ドワーフ王国までの道路の舗設。

   

1つ、ジュラの大森林内での、ドワーフへの安全保障。

1つ、相互技術提供の確約。

 

 これら5つが大きなもので、その他細かい条件が複数あった。

 全体的に見れば、十分こちらに利がある話だ。字面だけ見ればこちら側の負担が大きいように見えるが、大国であるドワーフ王国が後ろ盾になると言うことは、それだけ大きなことなのだ。

 

リムル「ユレム、その話は、俺に一任してくれていいんだな?」

 

ユレム「ああ、構わぬ」

 

 投げやりではない、リムルならば、最善の選択をしてくれる、そう信じての発言だ。

 

リムル「ありがとう。ガゼル王、この話、喜んで受けたいと思う」

 

 皆も異論ないようだ。ここに、武装国家ドワルゴンと、魔物の国の同盟が結ばれたのである。

 また、その後、この国の名が、ジュラ・テンペスト連邦国と決定し、この町の名が中央都市リムル、となった。リムルが何故ユレムじゃ無いのかと異議を申し立てていたが、ドワーフ王にはリムルが主に外政を担当しているとバレていたようで、逃げ場もなくリムルの名が使われた。しかし、いずれ別の都市の名がユレム、になってもおかしくは無いだろう。

 

…………

 

 2日後、ドワーフ王がまた来た。その場にいなかったので後から聞いた話だが、ベスター、と言うリムル達と一悶着あった者が、連れて来られたそう。カイジン曰く知識や技術力は確かなものだそうだ。ベスターはヴェルドラの洞窟にて、ガビル達と研究を行うこととなった。頼もしい仲間が増えたものである。

 

 それからまた暫く経った。偶に下位魔人が来たがシオンに追い払われたと言う。しかし、ある日、超スピードで飛来する魔素の塊がジュラの森に入り、この町に向かって来ていた。その時一緒に食事をとっていたリムルも、それを少々遅れて感知した。その魔素の塊の向かう先には、俺たちがいる。もしやと思い、リムルと町外れに向かう。すると魔素の塊は軌道を変え、俺たちを追って来た。

 

リムル「狙いは俺たちか……」

 

ユレム「そのようだな」

 

 この魔素量……恐らくリムルの10倍はある。それも、【魔眼】での測定可能な下限段階でだ。

 

『マスターと比べた場合、その数値はおよそ………………計算不能』

 

 どう言うことだ……?

 

『マスターの魔素量限界値が測定不能です』

 

 ふむ……まさか自分のことがわからないとは……。

 

ミリム「初めまして! ワタシは、魔王ミリム・ナーヴァだぞ。お前達がこの町で一番強そうだったから、挨拶に来てやったのだ!」

 

 魔王……何が目的だ……?

 

リムル「初めまして。この町の主、リムルと申します。よくぞスライムである……」

ユレム「何故俺たちが最も強いとわかった?」

 

リムル「お前ぇぇぇぇ!!!! 何言ってんだ! いきなり魔王に啖呵切ってどうするんだよ!?」

 

 リムルが恐らく今までのツッコミの中で最も早いであろう速度で突っ込んできた。

 

ユレム「この魔王に敵意はない。

初めましてだな。ミリム、俺の名はユレムだ」

 

 リムルは既に半分白目を剥いている。スライムだが。

 

ミリム「…………ああ、宜しく。それと要件だったか? そんなもの、挨拶だ!」

 

リムル「………………」

 

 挨拶か……随分と暇な魔王もいたものだ……。いや、魔王だから暇なのか? だが、自国の統治などはどうしているのだ?

 

ミリム「ところで、そこのスライムか? ゲルミュットを圧倒したのは、銀髪の人型の姿は変化したものなのか?」

 

 そうか、確かソウエイが言っていたか、監視されていたと……。

 

リムル「……ハッ、えっと、この姿のことですかね?」

 

 リムルが人型になる。

 

ミリム「おお! やはりお前だったか、では、オークロードを倒したのだな? アレはゲルミュットを喰って、魔王種に進化したはずだが……」

 

リムル「ああ、それは、こっちのユレムが倒しました」

 

 倒してはおらぬ、止めはリムルだろう……まあ良いが。

 

ミリム「成る程、ユレムならばそれくらいは当然か」ボソッ

 

 微妙に聞こえない声で何かを言ったが……良いとしよう、今はそれよりも……。

 

シオン「覚悟!」

 

 シオンがミリムに襲いかかる、ランガもリムルの影から飛び出し、ミリムへと踊りかかった。

 が、流石に魔王。シオン達では歯が立たなかった。それも、ソウエイやベニマル達の本気の技を直撃しても無傷で、さらには妖気を解放しただけで鬼人達が吹き飛ばされ戦闘不能にされたのだ。

 

ユレム「全く……お前達は手が早い、もう少し冷静に物を見よ……」

 

リムル「……ユレム、俺に任せてくれるか?」

 

ユレム「勝つ算段があるのだな?」

 

 おそらく、ミリムは俺が<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>を乱射しようとも、良くて小さな火傷だろう。そんなミリムに勝つ算段とは……何をするつもりだ?

 リムルは、ミリムの正面に立つと、手から金色のドロドロとした液体? を出す。それをミリムの口に放り込む。すると……。

 

ミリム「……なんなのだこれは!! こんな美味しいもの、今まで食べたことがないのだ!!」

 

 美味しい、金色の液体のようなものだと? まさか……ハチミツか? だが、そんなものいつの間に使っていたのだ? いや、なんにせよ、物で釣る作戦とは……悪い大人の考えそうな作戦である。それに、もう無くなるように見せている。実際あまり生産量は多く無いのだろうが……。

 

リムル「いやあ、もう数が少なくなって来たなぁ」

 

ミリム「何ぃ!?」

 

 ミリムが焦ったように言う。

 

リムル「さて、俺の勝ちだと認めるか?」

 

ミリム「まて、提案がある」

 

 負けを認めるわけにもいかぬのだろう。恐らくだが、引き分けというだろうな。

 

ミリム「引き分け。今回は引き分けということでどうだ? これを飲めば、今回の件を全て不問にする。さらに! 今後ワタシがお前達に手出しをしないと約束しよう! ただ……」

 

 提示した条件はかなり良いものだろう。ただ、の先が気になるが……。

 

リムル「ただ?」

 

ミリム「そこの、ユレムと、一度戦わせるのだ! こればかりは譲れないのだ!」

 

ユレム「ふむ……」

 

 さて、どうするか……。

 

リムル「……ユレム、いいか?」

 

ユレム「構わぬ」

 

リムル「わかった。条件を飲もう。ただ、ユレムは殺さないでくれよ?」

 

ミリム「それは……ユレム次第なのだ……」

 

 ミリムがそう言うと、リムルがハチミツを出す。

 

ミリム「わかったのだ! 殺さない、絶対に殺さないのだ!」

 

 かくして、俺と魔王の模擬戦が始まった。

 

ミリム「さあ、行くぞユレム!」

 

 ミリムはそう言うと、目にも止まらぬ神速で近づき、拳を振り抜いてくる。

 が、俺はそれを両手で止めて<飛行(フレス)>で空を飛び、<魔黒雷帝(ジラスド)>を放つ。勇者の知識があやふやなため、ほとんど暴走しているようなものだが……。

 

ミリム「その程度の火力か!」

 

 ミリムも飛び上がり、蹴りを入れてくる。それを躱し、ミリムを中心に360度<獄炎殲滅砲>で囲み、一斉に発射する。魔法陣の数はおよそ100門にも及ぶだろう。

 その上で、<魔岩堕星弾(ギア・グレアズ)>を放つ。収まったところで、右手に<根源死殺(ベブズド)>と<魔黒雷帝(ジラスド)>を纏い、ミリム目掛けて突く。

 

ミリム「なかなかの連撃だったぞ、多分クレイマンならこの手で貫かれ、死んでいただろう。だが! ワタシは強いからかすり傷で済んだのだ! そこそこ楽しめたし……もう終わりでいいのだ!」

 

 あまり長い戦いではなかった、実際の時間にして1分半も使っていない。しかし、それは下で見ていた、リムルや、配下達には強い衝撃を与えた。

 

シオン「流石はユレム様……あの魔王ミリムとここまで張り合うなんて……!」

 

ベニマル「まさか……ユレム様の実力があそこまでだったなんて……! あれなら、豚頭魔王(オークディザスター)を軽々倒したのも生ぬるいと感じるな……」

 

リムル「アレがユレムの本気……! オートバトルモードでも勝てるのか……?」

 

 そう簡単に自信を落とされても困るぞ。

 

ミリム「いやぁ、楽しかったのだ。ところで、ユレムにリムル」

 

 満足したようであるミリムは、ハチミツを舐めながら聞く。

 

ユレム「なんだ?」

リムル「どうした?」

 

ミリム「お前達は、普段何をしてるんだ?」

 

 何をだと?

 

リムル「そんなの……色々だ」

 

 色々、それ以外ないだろうな。

 

ミリム「色々ってなんなのだ! お前達、すごく面白いことをしてるんだろ! ズルいぞズルいぞ!! もう怒った。教えろ。そしてワタシも仲間に入れるのだ!」

 

 満足したり、怒ったり、なかなかどうして、忙しのない魔王だな。

 

リムル「わかった。だが、条件がある。俺たちの事は、リムル"さん"、ユレム"さん"と、さんをつけて呼ぶんだ!」

 

ミリム「何!? ふざけるな! 逆なのだ、リムルがワタシを、ミリム様と呼ぶべきなのだ!」

 

 駄々っ子を食い止めると言うのも、大変である。

 

ユレム「お互いに呼び捨てにすれば良いだろう?」

 

ミリム・リムル「それだ(なのだ)!!」

 

リムル「じゃあ、俺はミリムと呼ぶ、ミリムは俺をリムルと呼ぶ、ユレムも同じだな?」

 

ユレム「ああ」

 

 新たな争いの火種が周りに燃え移る前に消化に成功した。いや、ミリム自体が爆弾なのだろうが……。

 

「ありがとうよ、これで俺たち、友達だな!」

 

「……! そうなのだ、お前達! ワタシと、リムルと、ユレムは、友達! いや、親友(マブダチ)なのだ!!」

 

 ミリムが、先程の戦いを見にきた皆の方を向き、親友(マブダチ)だと宣言する。すると、皆が歓声を上げた。恐らく、ここにはガビル達リザードマンなどを除いて全員がいるだろう。なので、今のミリムの一言だけで町の全ての者が、俺達とミリムの関係を知ったのだ。

 

 その後、ガビルが殴り飛ばされたりと、ミリム旋風が町に問題を次々と投下していったのは言うまでも無い。

 また、親友(マブダチ)であるからと言う理由で、ミリム関係は俺とリムルに丸投げされた。




さて、次回はやっと幕間の時間です。ご意見箱にいつでも幕間の案は募集しているので、ふと閃いた人でも書いていただければ、執筆の助けになります!


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幕間:ユレムくんの楽しい魔法教室

いよいよ幕間でございます。幕間ですが、本編とは殆ど関係はございません。もしかしたら後々幕間の物語の影響が出る可能性はありますが。


 今日は仕事に追われぬ珍しい日である。

 

ユレム「では、初回である今日教えるのは<契約(ゼクト)>だ」

 

 広場に集まった、数十人の者達に対して言う。集まった者の中には、リムルやシュナ、ミリムに、ベニマルなども居る。

 

「おぉぉぉぉ!!」

 

 こうなったのには少々過去に遡る。

 

…………

 

 今日は俺もリムルも休みなので、町を食べ歩きしていた。

 

ユレム「ふむ、リムル饅頭と言ったか、なかなかうまい」

 

 俺はリムルが先日ミリムを餌付けした蜂蜜を利用して作られた饅頭、リムル饅頭を食べている。蜂蜜自体が少なく、多く作れない為、在庫数は多くないらしいが、どうにか買うことが出来た。無料でどうぞと言われた時には流石に遠慮した……。

 

リムル「ああ、このユレッム棒もうまいぞ」

 

 ユレッム棒とは、串焼きの事だ。アノッス棒でもあるまいに……そもそもアノッス棒は食べ物でもないが……。ちなみに、リムル饅頭と違い、ユレッム棒は俺を模して作られているわけではない。ただの串焼きをユレッム棒と名付けただけのようだ。

 

リムル「なぁ、ユレムの魔法ってユレムしか使えないんだよな?」

 

ユレム「いや、俺が教えればその者の適性次第で魔法を得ることも可能だ」

 

 ソウエイなどがそうだ。

 

ユレム「だが、一部の魔法は適性に関係なく習得ができる魔法もある」

 

 <契約(ゼクト)><飛行(フレス)><転移(ガトム)>の様な魔法がそうだな。

 

リムル「ん? それじゃあ、魔法の講習会みたいなのを開いて、皆んなにユレムの魔法を教える事もできるのか?」

 

ユレム「無論だ」

 

 その者が魔法を覚えられるかは、努力次第だが、この町の者達ならば問題あるまい。

 

リムル「それじゃあ、せっかくだし開いてみようぜ!」

 

 と、リムルが言ったことで、町の希望者を集めたのだ。

 

…………

 

 そして今に至る。

 

リムル「それで、その魔法はどんな魔法なんだ?」

 

ユレム「ああ、<契約(ゼクト)>は誰かと約束事をする時に使う魔法だ。契約するには両者の同意が必要で、一方が提示した術式にもう一方が調印することで契約が成立する」

 

 これが基本的な<契約>の情報だろう。

 

シュナ「約束を破るとどうなるのですか?」

 

ユレム「約束を破れば、契約者の根源……魂が自らを罰し、死ぬ」

 

 それを聞いた皆は少々唖然とする。

 

リムル「重すぎだろっ!?」

 

 そうはいっても、そう言う魔法だからな。

 

ユレム「重要な約束をする時にでもすれば良い。お勧めは結婚する際に行えば浮気など出来ぬ様になるぞ」

 

 とは言え、魔物の結婚は結魂である為、浮気なのどできぬだろうが……。

 

ユレム「さて、もう一つ言っておくが、俺の魔法は他の魔法と違い、魔法術式を構築し、それに魔力を流し、行使するという段階を踏まなければならぬ、この<契約>の魔法術式はこれだ。覚えられそうか?」

 

 <契約(ゼクト)>の魔法術式が現れる。皆に見えるほど大きい。

 

ゴブタ「無理っす!」

 

 真っ先にゴブタが言う。俺とて【記憶処理】が無ければそこそこ危なかったところだ。

 

ユレム「だろうな……。だが、それは俺自身がこの魔法をこの世界の魔法律に組み込んでいないからだ。この世界の魔法律に組み込んでいないため、正確にこの世界の魔法と判定されていないのだ」

 

リムル「逆に、その魔法を世界の魔法律に組み込めば、他の魔法と同じ様に使えるのか?」

 

ユレム「ああ、そう言うことだ。無論、習得という過程を踏む必要はあるがな」

 

 余談だが、ソウエイに教えた<幻影擬態(ライネル)>の魔法は魔法律に組み込んでいない。理由としては組み込まない方が効果が高いのだ。例えば<契約(ゼクト)>ならば、強制力がかなり弱まる。それでも、ある程度実力が離れていても効果を発揮するがな。

 

 それから、<契約(ゼクト)>の習得が始まった。1番初めに覚えたのはリムルだ。【大賢者】の恩恵もあるだろう。次点でシュナ、流石である。また、この2人は術式を描いて行っていた。

 皆、やる気は十分で、3時間ほどで全員が覚えてしまった。そう難しく無い魔法とは言え、簡単と言うわけでも無いのだ。

 

ユレム「皆、よく頑張った。最後に、言っておかねばならぬことがある。1つ、絶対にこの魔法を悪用することは許さぬ。1つ、この魔法を覚えたからと言って、怠けることは許さぬ。以上だ」

 

 言ってしまえば2つ目は無いとは思う。<契約(ゼクト)>を覚えだからといって、怠ける理由も思いつかぬしな。

 

…………

 

リムル「なあ、ユレム」

 

 講習会が終わり、皆が解散すると、リムルが話しかけてくる。

 

ユレム「どうした?」

 

リムル「いや、良かったのか? この魔法は、ユレムのスキルで作った、ユレムだけのものだろ?」

 

 それを聞くなら講習を始める前だと思うが……。

 

ユレム「良い。皆の出来ることが増えるのは、俺とて喜ばしいことだからな。それに……」

 

リムル「それに?」

 

ユレム「俺と同じ魔法が使えるからと言って、俺が負けるとでも思ったか?」

 

 地力が違うのだ。魔法を真似ただけで、そう簡単に勝てるほど、俺を超えるのは甘くは無い。

 

リムル「成る程……それでも勝つ自信があるんだな」

 

ユレム「ああ、そう簡単に負けては、国主として立場がないだろう?」




オリキャラ作ろうにもどうしても魔王学院要素を加えようとするとあからさまに魔王学院の誰からインスピレーションを受けているか分かるようになってしまう……。と言うかそのまんまになってしまう……。


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幕間:ユレムは暇を潰す

えー、リアルな方のも大体区切りがついたので、これから投稿頻度は上がると思います。こんなクソみたいな投稿頻度の作品を拝読してくださり、ありがとうございます!


ユレム「暇だ」

 

 そう、暇なのだ。今日は特に仕事はないが、他の者は皆各々のする事がある。街に繰り出し皆の様子を見る、新たな魔法を作る、ハクロウに稽古をつけてもらう、ふむ、意外と出来ることはあるな。1つずつ消化していこう。魔法を作るのは歩きながらで問題あるまい。

 

ユレム「おはよう、精が出るな」

 

 最初に向かったのはクロベエとカイジンの鍛冶屋である。先日ベニマルと試合をした時、刀が少々刃こぼれしてしまったので、研いでもらおうと思ったのだ。

 

クロベエ「おお! ユレム様、どうしたんだべか?」

 

カイジン「ユレムの旦那か、そういや刀が刃こぼれしたって言ってたな、研ぐのか?」

 

 なかなかどうして、話が早くて助かる。それにしても、誰から聞いたのだろうか? 誰かに言った覚えはないが。

 

ユレム「ああ、先日ベニマルと試合をした時にな、頼めるか?」

 

クロベエ「勿論だべ! ほんじゃあ、見せてくんろ」

 

 俺は収納魔法から刀を取り出す。刃を見ると、【魔眼】を使わずとも分かるほどに潰れている。これでは、新品の時の60%の切れ味も出せぬだろう。

 

カイジン「おお、こりゃ派手に潰れてるな」

 

ユレム「ベニマルと正面から鍔迫り合いになることが多くてな、やはり武器を使うのは得意とは言えぬな」

 

 クロベエ曰く、1週間ほどで研げるそうだ。刀を預けた後は、別の場所へ行く。オーク達が土木作業をしている場所だ。

 

ユレム「よう、精強か?」

 

 俺はゲルドに対して言う。

 

ゲルド「ユレム様! ええ、ユレム様のおかげで、皆も空腹に悩まされることもなく、心より感謝申し上げます」

 

 ゲルド以外のオーク達も見回すが、皆真面目に作業に取り組んでくれている様だ。

 

ユレム「そうか、ならば安心だ。ところで……」

 

 少々最近の悩みを打ち明ける。ミリムがよく建物の扉や壁を破壊するので、対処に困っているそうだ。

 

ユレム「すまぬが、昨日も執務館の扉のドアノブが壊されていた様でな、直しておいてもらえるか?」

 

 俺が直そうとしたのだが、「ユレム様のお手を煩わせることはできません」の一点張りで何もできなかったのだ。

 

ゲルド「分かりました。では、俺が直しに行きます」

 

ユレム「ああ、頼んだぞ」

 

 そう言うと、ゲルドは執務館の方へ走っていく。

 

ユレム「全く、ミリムの行動も困ったものだな……」

 

 さて、腹も減った。食堂にでも行くとしよう。

 

 俺は歩いて食堂に向かう。食堂に入ると、丁度昼食時のためか食事を既に食べ始めている者や、食事を待っている者がいる。

 

ユレム「ふむ……では焼き魚を頼む」

 

ハルナ「ユレム様! 分かりました!」

 

 焼き魚はリムルと俺とシュナの根気により、焼き魚に合う魚が取れる様になったのだ。尤も、下手に獲れば生態系を崩しかねないのでそこそこの貴重品だが……。無論、その過程で刺身に合う魚も見つけた。

 

 そう言えば、魚を捌く、という行為だが、魚の様な形態の魔物などを相手取る時は捌く様に戦うと良いのではないか? という仮説を立てたが、なかなか魚のような形態の魔物が居ないのが難点である。

 

 昼食を食べ終わると、ソウエイ達が訓練をしていたので、クナイを投げつけるなどちょっかいをかけながら、ヴェルドラのいた洞窟へ向かった。

 

ガビル「おお! ユレム様! このガビルの働きを見に来てくださったのですね!?」

 

  ガビルは高速で仕事を始めた。しかし数秒でバテた。

 

ガビル「ぜぇ……はぁ、ゆ、ユレム様……このガビル……ユレム様の助けになれ……光栄でした……ガクッ」

 

 死んではおらぬ。放っておいても直ぐに回復するだろう。だが、軽く労いの意味を込めて<坑魔治癒(エンシェル)>をかけておく。怪我などはしていないので効果はないだろうが。

 

 その後、俺はベスターの研究室へ向かう。

 

ユレム「ベスター、順調か?」

 

 ベスターには回復薬の研究を任せている。確か、ハイポーションまでは、ドワーフ王国での従来の技術で作成可能だったそうだが、リムルの体内で生成される回復薬、フルポーションが作れないらしい。

 

ベスター「おやユレム様、やはり、98%が現在の限界で、最後の1%が足りない状態です」

 

ユレム「ふむ、では、1%の不純物が混ざってしまう原因は何か、それは既に分かっているのか?」

 

ベスター「はい、先日リムル様から、抽出液が反応しやすい性質を持っているため、空気中などの不純物と混ざってしまっているのでは? と言われました」

 

 ふむ、その線はあり得るな。例を出すなら、一般的に、水も純度100%の真水などあり得ないと言って良い。何故なら、空気中の気体などと直ぐに混ざってしまうのだ。それに水道水に比べて味気ないらしい。また、その溶解性で体内のミネラルをうばうのでは? と言われていたりするらしい。俺は実際に飲んだことはない。

 

 さて、雑談が過ぎたが、その混ざり合いが起こらない空間を作り出せば良い、ということだ。

 

ユレム「ならば、恐らく条件は真空だな、確かだが、リムルが回復薬を生成している胃袋も真空だった筈だ」

 

ベスター「……! 分かりました、試してみましょう」

 

 そう言うと、ベスターは作業に取り掛かる。それから数時間が経つと、そこには、リムルが作ったものと同じ見た目のポーションがある。【魔眼】で解析するが、純度は99%の、フルポーションだ。

 

ユレム「見事だベスター、間違いなく、これはフルポーションだぞ」

 

 俺は素直に称賛する。

 

ベスター「いえ、ユレム様やリムル様の助言があったからこそ出来たものです……私は何も」

 

ユレム「何を言う、俺やリムルだけではなく再現可能な方法でフルポーションを作ることはできなかった。これは紛れもなくベスター、お前の力だ。誇るが良い」

 

ベスター「……ユレム様……ありがとうございます!」




完全に本編からは外れた話にしようかと思ってたんですが、まあいいや、本編に大した影響もないでしょうし!
あと、水の純度云々は作者自身もあまり詳しくないのでおかしな点などがあったらすみません


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黒豹牙フォビオ

今回のユレム君は……アノス様を重ねるとあまりよろしくないかもです。


 ベスターがフルポーションを完成させた翌日、ベスターはそのフルポーションをリムルにも見せるようだ、それと同時に商品化の戦略も立てるのだろう。

 俺は雑務を終わらせ、街を散策する。すると、テンペストにかなりの魔素量を持つ魔人、恐らくゲルミュット以上の力を持つであろう上位魔人が、街の中に入ってくる。近くにはリグルドがいるな、リグルドなら問題はないだろうが、一応、俺も向かうとしよう。

 あれは……ゲルミュットよりは遥かに強力な力を持っているな。それに、すぐに技を使えるよう、拳に魔素を込めている。

 

上位魔人「――ここは魔王カリオン様が統べるのに良い街だと思わないか?」

 

 魔王カリオン、それが奴の主か。

 

リグルド「ご冗談を……」

 

 リグルドが宥めようとすると、次の瞬間奴は拳に炎を纏わせ、リグルドに殴りかかる。俺はすぐにその間に入り……

 

ユレム「魔王の配下の拳もこの程度か、無論、手加減はしていたのだろうが、シオンより単純な火力では下だな。

 さて、我が配下がそんなに気に入らなかったか?」

 

 奴の拳を止め、引く前に拳を握る。

 

上位魔人「……ッ! 貴様は……この町の主か!」

 

 奴がこちらを睨みながら言う。

 

ユレム「ああ、我が名はユレム・テンペスト、まずはお前の名を聞こう」

 

上位魔人「……魔王カリオン様の三獣士、黒豹牙フォビオだ」

 

 三獣士、となるとフォビオと同格の者が魔王カリオンの配下には3人はいると思って良いだろう

 

ユレム「そうか、してフォビオよ、何故いきなり手を出した? 下手に手を出せば、ジュラの大森林は魔王カリオンの敵となる。それを考えなかったのか?」

 

フォビオ「それは……」

 

 少しフォビオの拳を握る手を強める。骨が砕ける音がする。

 

フォビオ「……クッ!」

 

 フォビオが苦痛に顔を歪める。俺はそれを気にせず、言葉を発する。

 

ユレム「だんまりか、予想だが、お前は自身の力でこの町を支配できると思った、違うか? でなければ唯の気まぐれか? いずれにしてもだ、我が配下に手を出しておいて、無事で帰れるとでも思ったのか?」

 

 俺はフォビオに殺気を向ける。

 ふと後ろを見ると、ミリムから怒気が漏れ出ている。俺が止めたとはいえ、リグルドに手を出そうとしたことに怒っているのだろう。おそらく、俺が止めていなければフォビオは良くて気絶、最悪死んでいるだろうな。

 

ユレム「ソウエイ、リムルを会議室へ呼べ」

 

ソウエイ「御意」

 

 ソウエイは命令を聞くとすぐに消える。それを確認すると、俺はフォビオに目を向ける。

 

ユレム「詳しい話は会議室でゆっくりと聞こう」

 

…………

 

 会議室にて、リムルも含めて皆が集まる。

 

リムル「さて、単刀直入に聞くが、君達は何をしに来たんだ?」

 

フォビオ「フン、下等な魔人風情に、この俺が答えるとでも?」

 

 フォビオのその言葉を聞き、ベニマルとシオンが殺気を放つ。

 

ユレム「くはは、ならばその下等な魔人風情よりも弱いお前は何だ? そこらの羽虫か何かか?」

 

 俺はそれを笑い飛ばす。

 

フォビオ「貴様……!」

 

リムル「落ち着けって……ユレムも、そんなに怒りを煽るな……さて、フォビオ、お前の行動1つで魔王カリオンはジュラの大森林全てと敵対するかもしれないんだぞ?」

 

 リムルがフォビオを諭す。この様な遣いまで出すのだ、魔王カリオンはこちらの出方を見る姿勢だろう。もしジュラの森が魔王カリオンと戦う姿勢を見せれば、戦争になるだろう、そうなれば多くの命が死ぬことは免れない。それは避けたい。

 

フォビオ「ハン! スライム如きが、偉そうにいうものだな、この町はこんな下等な魔物に従うのか? 雑魚ばかりだと大変だな。ミリム様に気に入られているからと調子に乗るなよ?」

 

 全く、コイツはリムルの言葉を聞いていなかったのか?

 

ユレム「ふむ、お前のような話を聞けぬ者が遣いに出されるとは、よっぽど魔王カリオンは見る目がないかよっぽどお前たちの国には良い人材がいないのだろうな」

 

フォビオ「貴様……カリオン様を侮辱する気か!」

 

 椅子から立ち、声を上げる。予想通りの怒り方だ。

 

ユレム「それはお前も同じだろう、なに、目には目を、歯には歯を、侮辱には侮辱をと、昔から言うだろう?」

 

リムル「いや最後のは言わないだろ……」

 

 リムルが高速でツッコミを入れる中、フォビオは舌打ちをして席に座る。俺を親でも殺されたかのように睨んでくるが、気にせぬ。

 フォビオは暫くすると、不機嫌そうに話し始める。その内容は、オークロードと俺たちの戦いにて、勝利した方を配下として誘うよう、魔王カリオンに命じられたそうだ。

 

ミリム「カリオンの奴め、お互い邪魔をしないと言う約束を破りおって……」

 

 昼食を食べ終え、頬を膨らませながら俺の後ろでミリムが声を上げる。フォビオはミリムが先ほど発していた殺気を思い出したのか、目を逸らす。それにしても、お互い邪魔をしないと言う約束か、ミリムから詳しい話が聞きたいが……。

 フォビオには、聞くことは聞いたので帰るよう言った。後悔させてやると捨て台詞を吐き、去って行った。

 

 その後、ミリムに約束について問い詰めたところ、口を割らなかった為、リムルがミリムの為の武器で釣って情報を聞き出す事ができた。魔王が傀儡の魔王を作り出そうとは、クレイマンやカリオンは真面目に取り組んでいたようだが、ミリムは暇つぶしだったようだな。どうやら、ミリムが特別暇人なようで、他の魔王たちはそうでもないようだ。

 

リムル「ってことは、俺たちって他の魔王に狙われることにならないか!?」

 

ハクロウ「これは……トレイニー様にも相談しなければいけますまい……」

 

 全く、此奴らは悲観が過ぎる。

 

ユレム「なに、俺たちの敵となるならば、滅ぼすだけだ」

 

シオン「ええ! リムル様にユレム様ならば、他の魔王など恐るるに足りません!」

 

ユレムとシオン以外「…………はぁ」




活動報告更新しました。少々ご報告があるので、是非見ていただきたいです。


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ヨウム英雄化計画

ちょっと遅れたがセーフ! 決して、ゲームに明け暮れて小説を後回しになんかしてませんよ?


 ある日、ゴブタ達が人間を連れてきた。その中にはエレン達がおり、それ以外にも、ブルムンド王国のギルドマスターのフューズ達だ、こちらはソウエイから聞いていた。

 また、それとは別に、ヨウムという色黒の美丈夫率いる、ファルムス王国の辺境伯から派遣された、辺境調査団達だ。

 

リムル「申し遅れました。私、ジュラ・テンペスト連邦国の代表をしているリムル=テンペストと申します。見ての通り、スライムです! また、こちらはユレム=テンペストです。ユレムには主に内政を担ってもらっており、外政の決定権は私が持っています」

 

 俺は、この会議中はずっと黙っていろと言われた。

 その後、フューズたちの話を聞いた。どうやら、先日のオークロードの一件にて大混乱が起こり、カバル達の案内で、森の騒乱を収めた者達の所に案内してもらったそうだ。

 続けて、ロンメル達――ロンメルとはヨウムの参謀役の様な者だ――の事情も聞いた。大方、フューズ達と同じ様な経緯だ。尤も、フューズ達の方ははここを目標としていたが、ロンメル達はただの調査だった様だが。

 さて、それから話し合いの結果、ヨウム達がリムルと契約し、ヨウム達がオークロードを収めた、そして、俺達はそれに協力した、友好的な魔物という噂を流して貰う事になった。正確には会議の後、リムルとヨウムが個人的に話をして決めたそうだが。対して変わらぬ。また、そのことに関して、フューズ達からも協力が得られる様になった。

 

…………

 

ヨウム「なぁ、ユレムの旦那、ちょっと言いか?」

 

 丘で町を眺めていると、ヨウムが来た。

 

ユレム「なんだ?」

 

ヨウム「アンタって、この前の会議で、1度も発言しなかったよな?」

 

 なるほど、その事か。

 

ユレム「ああ、リムルからそう言われていてな。俺は敬語が出来ぬ、無論、努力はしているがな、なかなかどうして、この口調が身体に染み付いているようだ」

 

ヨウム「へぇ、だから外政も任されないのか」

 

ユレム「ああ、その通りだ。俺は内政でも満足しているがな、外政ができぬからと言っても、公式的な場でなければ別の国の者とも話はできる、特に不満はない」

 

 もちろん事実だ、嘘をつく理由もない。

 

ユレム「そういえば、ハクロウに稽古をつけてもらうそうだな?」

 

 英雄と名乗るにあたり、英雄に相応しい実力を身につけてもらう事となったのだ。

 

ヨウム「おう! 自分がさらに強くなるチャンスだからな、絶対にこの機会を無駄にはしねぇぜ」

 

ユレム「くはは、先ずは生き残る事だな、死んでは元も子もない、精々、足掻くが良い」

 

ヨウム「……? ま、まぁ、確かに気を引き締めねぇとな、それにしたって大袈裟じゃねぇか?」

 

 まあ良い、稽古が始まれば、すぐに分かるだろう、ハクロウ、アイツは容赦というものを知らぬ、ゴブタ達の稽古後の様子を見ればわかるが、この世の何もかもに絶望した顔をしている。

 

…………

 

ヨウム「あ"……じ、死ぬ……」

 

 案の定である。ヨウムの顔には大量のタンコブが出来ており、元の美丈夫はそこにはない。

 

ユレム「気休めの効果だが、多少は楽になるだろう」

 

 ほとんど魔力を込めずに<治癒(エント)>を使う。すぐに回復させては、稽古の意味がないとハクロウは言うだろう。この世界の住民は基本的に生命力が強いので問題ないだろう。

 

リムル「はっはっは、随分してやられたなヨウム」

 

 共に稽古の様子を見ていたリムルが笑いながら言う。

 

ヨウム「リムルの旦那……」

 

ユレム「さて、ヨウム、最後の5秒、お前の視界にはなにが見えた?」

 

 ヨウムはこの稽古の中でかなりの成長を遂げた。最後の5秒は、その時点でのハクロウの剣を見切り、避けて見せたのだ。だが、その後ハクロウの剣に向かっていく様に避けて吹き飛ばされたが。

 

ヨウム「……ああ、最後、ほんの少しだけだけど、師匠の剣が見えたんだよ、1度だけだが、避ける事も出来た」

 

ユレム「ならば、何故それが出来た?」

 

 ここからが重要だ。

 

ヨウム「何故って、俺の目が師匠の剣に慣れてきたからじゃないのか?」

 

リムル「ふっふっふ、20点だよヨウムくん。勿論100点満点で」

 

 確かにそれくらいだな、確かに、ヨウムの目が慣れたというのも少なからずあるだろう、だが、それ以上に重要なロジックがある。

 

ヨウム「はぁ? それ以外になにが……」

 

ユレム「ヨウム、お前は剣の前に何を見ていた?」

 

ヨウム「そりゃ……師匠の目の動きとかか?」

 

 そう、それも1つだ。

 

リムル「70点だ、なんでヨウムはハクロウの目の動きを見たんだ?」

 

ヨウム「師匠がどこを狙ってくるか……でも、どこを狙っているかは最初から注意してたぞ?」

 

ユレム「もう少しだ、お前は無意識のうちに理解した、ハクロウという存在をな」

 

ヨウム「……! そうか、師匠の攻撃のパターン、師匠が何処かを狙った時、殆ど最短の道で剣を振ったんだ! だから、俺の目は師匠の剣が通る道を先回りして、対応することができたんだ! 最後以外は」

 

 理解したか、ハクロウの剣の第1段階を。

 

リムル「100点だ、ヨウム! よく理解した! その上で考えてみてくれ、何故最後はそれが通用しなかったのか」

 

ヨウム「多分だが、師匠はあの時、重心、視線、剣の位置で俺が避ける方向を操ったんだと思う。あの時の師匠の視線は俺の首に向いていて、重心は右足、剣の位置も右にあった、だから俺はしゃがんで1撃を食らわせようとしたが、師匠が実際に取ったのは上段からの振り下ろし……」

 

 そう、1つのコツさえ覚えて仕舞えば、相手の動きの意味を理解するのは難しくない。

 

リムル「それじゃ、今度はハクロウの視線とかに騙されない様にするのはどうするか! 頑張りたまえよ、ヨウムくん」

 

 ヨウム英雄化計画は始まったばかりだ。




作者は武術の達人でもなんでもないです。なのでこの理屈は、そーなのかー程度に思ってもらえれば……
そういえば、魔王学院2期、7月になるだそうですね、新ビジュアルもかっこいい!


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暴風大妖渦(カリュブディス)

 ヨウムを英雄にするという計画が始まり、数週間が経ち、ヨウムはかなり強くなっただろう。無論、たかだか数週間では劇的な身体能力の向上は難しかったが、ハクロウより教わった技術と、クロベエ達が作った武具、さらに、俺の教えた<武装強化(アデシン)>もある。仲間達も同じ様にかなり強くなった。ロンメルには幾らか魔法も教えた。今ならばバッファーと魔法アタッカーの両方をこなせるだろう。

 

ヨウム「それじゃ、行ってくるぜ」

 

 ヨウム達はそう言って旅立った。

 

…………

 

 それから、ミリムという存在に皆が慣れてきた頃。

 

トライア「お久しぶりで御座います。盟主様方」

 

 現れたトレイニーの妹、トライアはかなり鋭い殺気を纏い、ところどころダメージを受けた様子だ。

 

リムル「その殺気と姿はどういう訳だ?」

 

 リムルが問うと、トライアは答える。

 

トライア「……はい。緊急事態です。厄災級魔(カラミティモンスター)物である。暴風大妖渦(カリュブディス)が復活致しました。かの大妖は、魔王に匹敵する力を持ち、我が姉君達が足止めをしていますが、まるで歯が立ちません。そして、あの大妖はこの地に向かってきています!」

 

 カリュブディス、フューズによると、強さは魔王に匹敵するが、言葉が通じず、ひたすらに暴れ回る知恵なき魔物だそうだ。だが、【魔物召喚】によってメガロドンという鮫型の魔物を呼び出して暴れるのだと言う。

 

ユレム「ふむ……」

 

 顎に手を当て考える。鮫型……か。

 

リムル「ユレム……? どうしたんだ?」

 

 リムルはこちらをひきつった顔で見る。どうやら、口角が上がっていた様だな。

 

ユレム「喜べ」

 

リムル「は? 何言ってんだよ……魔王級の脅威がこっちに向かってきてるんだぞ……」

 

 ああ、一応魔王級の力を持つそうだな。

 

ユレム「今日は宴会だ。大量の鯨の刺身が入ったのでな」

 

 周りは唖然としている。ふむ、おかしなことを言ったか?

 

リムル「バカかテメェは!?」

 

 恐らく亜音速級の速度でゲンコツを入れられた。

 

…………

 

 会議室に、ソウエイやガビル達を呼び、会議が始まった。勿論だが、戦うことになった。ミリムが行きたいと言ったが、シュナとシオンによってバッサリと切り捨てられていた。問題はあるまい。

 ああ、そういえば<周辺察知(ジリピア)>が効かなかった理由としては、空中の魔力が乱され、察知ができなかった様だ。仕方がないだろう<周辺察知(ジリピア)>は、<飛行(フレス)>などに比べて魔力の操作が繊細だ、少しでも乱されれば容易に状態が見えなくなるのだろう。おそらく、暴風大妖渦(カリュブディス)の影響だろうな、確か【魔力妨害】の固有スキルがあると言っていた。

 

 ドワーフ王国方面へと伸びる街道上にて、戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。カリュブディスの姿がもうすぐ見える頃だろう。それまでの待ち時間を利用して、トレイニーから色々聞いていた。

 

トレイニー「このカリュブディスですが、遥かなる昔に生まれ、死と再生を繰り返しています。凶暴なる天空の支配者、流石は森の支配者にして守護者たる、"暴風竜"ヴェルドラの申し子と言えるでしょう」

 

リムル「まってくれ! ヴェルドラの申し子……?」

 

 リムルが咄嗟に聞くと、トレイニーは答えた。どうやら、カリュブディスはヴェルドラから漏れ出した魔素溜まりから誕生した魔物なのだそうだ。なるほど、俺とリムルと同じ様な形で生まれてきたのか……。そうなると、此方に向かってきているのにも合点がいくな、俺たちとカリュブディスは兄弟に近いのだから、それに、リムルの中にヴェルドラがいることに気づいたのかも知れぬ。

 

 そんなこんなの会話をしていると、合計14の魔物の群れが現れる。その中で一際大きい魔力を持ち、最も巨大な体長の化け物がいる。カリュブディスである。成る程、少々肉が硬そうだが、食べれなくはないだろう。

 

ユレム「ふむ、これは……」

 

 カリュブディスを【魔眼】で解析すると、その魔素はある者と酷似していた。

 

ユレム「……フォビオか」

 

 前に来た、魔王カリオンの配下である三獣士の1角、黒豹牙のフォビオだ。<思念通信(リークス)>か何かで事情を聞きたいが、少し弱らせたい。今のままでは、聞いてる間に攻撃されるだろう。

 そして、戦端が開かれる。ペカザサスナイツは現在向かってきている。彼らが来ると大規模な魔法は控えねばなるまい、なので、接触と同時に仕掛ける。

 

ベニマル「喰らえ、黒炎獄(ヘルフレア)ッ!」

 

 カリュブディスと1体のメガロドンが、ベニマルの黒炎獄(ヘルフレア)を喰らう。しかし、何事もなかった様に、カリュブディスは悠然と空を泳ぐ。メガロドンは身体の大半を燃焼されたが、それでも、前のオーク達の様に灰燼と化すことはなかった。予想通りだ。いや、メガロドン1匹分が食べれなくなってしまった、流石にあの様子では焼き魚も無理だろう。

 

リムル「それじゃあ予定通り、分散させて各個撃破していくぞ!」

 

 皆はリムルの号令に従い、各部隊で1匹ずつメガロドンを請け負い、撃破を始める。あらかじめ、なるべく原型を留め、そして鮮度を保つ様に言っておいた。無論、全員で生きて撃破することが優先だがな。




食欲は魔王をも滅ぼす。


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魔王の厨房

ごべんなざい! 遅くなりました!


 皆、順調にメガロドンを撃破していく。命令通り、傷は最小限にとどめてくれている。

 

ユレム「さて、そろそろ動き出すか」

 

リムル「だな、味方のメガロドンもほとんど撃破した。恐らく狙いは俺たちだ。自分たちの手でカタをつけなきゃな!」

 

 皆がカリュブディスに攻撃を加えるが、ダメージはほとんどないようだ。次の瞬間、突如カリュブディスの目が一瞬赤く光る。何らかの攻撃のサインだろうな。

 トレイニーも気づいたようで、リムルに報告、リムルがすでにソウエイ達へ警告を終えていた。

 

ユレム「ふむ、あれはかなり大規模な攻撃だろうな。万が一はリムル、食えるな?」

 

リムル「ああ、勿論だ!」

 

 不快な音が響き、カリュブディスの全身を覆う鱗が一斉に放出された。その殲滅力は、ベニマルの黒炎獄(ヘルフレア)やリムルの炎化爆獄陣(フレアサークル)を遥かに超える。それに対し、ソウエイ、シオン、ランガも避けきれず、苦戦している。

 

リムル「行ってくる!」

 

ユレム「ああ、頼んだぞ」

 

 リムルはソウエイ達の下へ一瞬で移動し、カリュブディスの鱗を【暴食者(グラトニー)】にて喰らい尽くす。これは、随分と凄まじいスキルを手にしたものだな。

 さて、カリュブディスを見直すと、全身が微かに煌めいている。恐らくは鱗の再生だろうが、その速さから見るに奴は【超速再生】を持っているようだ。

 

ユレム「リムル、カリュブディスは恐らく【超速再生】を持っている。数分で鱗は回復するだろう。天翔騎士団(ペガサスナイツ)がくる前にその間隔を確認、安全マージンを取れるよう分析するぞ」

 

リムル「了解、一先ずは鱗の修復に気をつけつつ、相手の攻撃を、俺の【大賢者】とユレムの【大教授】【魔眼】で分析だな」

 

 そう言うと、リムルとカリュブディスの攻防戦が始まる。リムルも思ったようにダメージを与えられていないようだな。天翔騎士団(ペガサスナイツ)も到着し、犠牲者を出さぬよう細心の注意を払いながらの戦いが続く。

 

ユレム「さて、やっと参加できるな」

 

 そう言って俺は立ち上がる。俺は、何もせずに見守っていたのではない。カリュブディスの【魔力妨害】に対する対策を練っていたのだ。俺が出した答えは、妨害をものともしないほど強大な魔力で魔法を使う。だ。とはいえ、普段はここまで大きな魔力は使わない。ただ無駄に魔力を消費するだけだからな。慣れないことはするものではないな、想像以上に時間がかかった。

 

ユレム「リムル、気づいているな?」

 

リムル「ああ、フォビオ。だろ?」

 

ユレム「ああ、少々怒りが滲み出ている。俺に対してのな。まあ良い、無理矢理だが、落ち着かせて話をするとしよう。俺が奴を弱らせる。あとはできるな?」

 

リムル「ああ、簡単だ!」

 

 頼もしい限りである。俺は<飛行(フレス)>にてカリュブディスに近づく。魔力の消費が激しい。持って3時間と言ったところか。

 

ユレム「よう。久しぶりだな。フォビオ」

 

カリュブディス「ユ、ユレム……! ユレム・テンペストォ!」

 

 怒りの念がこちらに完全に向けられる。

 

ユレム「さて、料理してやる」

 

 カリュブディスは暴風の乱鱗雨(テンペストスケイル)を俺1人を狙って放つ。

 

ユレム「<魔黒雷帝(ジラスド)>」

 

 黒き稲妻が鱗を落とし続ける。そのうち、鱗は消えていた。

 

ユレム「鱗は十分取った。もう遮るものはないぞ?」

 

 カリュブディスの頭上に立ち、脚を大きく上げる。

 

ユレム「とはいえ、そのまま調理するには肉が硬いな」

 

 そう言いながら踵を振り下ろす。その一撃は、カリュブディスを数秒硬直させる。俺の身体能力は、オークロード戦の時より、遥かに上がっている為だ。

 

ユレム「そら、もう数発行くぞ」

 

 今度は<飛行(フレス)>で高く飛び上がり、落下の勢いで数百発程ラッシュをぶち込む。その火力は【超速再生】を上回り、損傷率をより増加させている。

 

カリュブディス「グァ……ユ、レムゥ……!」

 

 カリュブディスがうめく。体力を削いでる証拠だろう。

 

ユレム「ふむ……活け造りもアリか?」

 

 俺は周囲を見回す。すると、とあるものを見つけた。メガロドンの死骸である。それは、比較的損傷が激しく、かつ、両断などされていないものだ。

 

ユレム「<森羅万掌(イ・グアネス)>」

 

 その死骸を掴み、持ち上げ、カリュブディスに叩きつける。するとカリュブディスは大きくよろめき、メガロドンは全身が少し柔らかくなる。全身の骨が砕けたのだろう。

 

ユレム「質量は十分だ。1匹無駄にしてしまったが……仕方あるまい」

 

 流石に、骨が砕けきって仕舞えば、それは捌いた際に骨が所々混ざる可能性が高い。そのため、料理に使うのは難しいだろう。

 

ユレム「決めたぞ。お前は……焼き魚にしてやる」

 

  俺は巨大な魔法術式を100門、上空に描き出す。

 

ユレム「<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>」

 

 その魔法を行使すると、空から雨にように黒き太陽が降り注ぐ。

 

カリュブディス「ガア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!」

 

ユレム「コレくらいの火力が無ければ、お前にはダメージは入らぬだろう?」

 

ミリム「おお! 前よりも魔力の出力が上がっているぞ! 魔力量も魔素量も変わってはいないはず……なるほど! 魔力の効率が良くなっている。何度も使用したためか!」

 

 ミリムは【竜眼(ミリムアイ)】にて見つめながら、ユレムのさらに火力の上がった<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>を分析する。

 黒き太陽の雨が止むと、そこには至る所が焼け焦げ、殆ど限界をとどめていない、カリュブディスがそこにいた。

 

ユレム「リムル、もういけるか?」

 

リムル「……あ、いや、まだ難しいなもう少しでいい」

 

 もう少し……どうしたものか。

 

ユレム「では、さらに続けるとしよう。だが、また同じことをすると、少々面倒になるかも知れぬな」

 

 今度は1つ、巨大な魔法術式を描く。

 

ユレム「<雷界滅電陣(ギル・デモリア)>」

 

 雷魔法における、<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>と同階級の魔法、<雷界滅電陣(ギル・デモリア)>それの1発の火力は<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>を超える。

 それを喰らったカリュブディスの原型は無く、人型の物体が1つ、落ちていく。

 

リムル「よっしゃ! いけるぞ、ユレム!」

 

 俺とリムルは立ち位置を瞬時に交代し、その人型物体、つまりフォビオに近づき、【暴食者(グラトニー)】にて捕食、それを【変質者】の【分離】にて、フォビオからカリュブディスを引き剥がし、引き剥がしたカリュブディスの部分をリムルが捕食する。

 

リムル「…………終わったぁ……!」

 

ユレム「流石だな。帰ったら魚祭りだ。しばらく刺身には困らぬな」

 

 先ほどは焼き魚と言ったが……やはり刺身に限る。




魔王の厨房には、カリュブディス以上の硬さの器具が必須です。


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魔王カリオン

 元の姿に戻ったフォビオを回復させ、目覚めるのを待つ事となった。

 

ドルフ「さて、説明していただきましょうか?」

 

 天翔騎士団(ペガサスナイツ)長のドルフが俺にいう。

 

ユレム「最後のか? 普通に俺が戦っただけだぞ? 特におかしな事はしていまい?」

 

ドルフ「いや、その普通に戦った内容がおかしいんですよ! 相手は厄災カリュブディス、我々の脅威になり得る相手です。そんな相手を早いうちに討伐できたのは僥倖でしたが、ユレム様のあの力、詳しく説明していただきますよ?」

 

 説明と言われてもな……。

 

ユレム「説明もなにも、俺は特別な事はしておらぬ。俺のスキル【魔法作成】の魔法を十分に活用しただけだ。ただ、【魔力妨害】があったからな、無理やり強大な魔力をぶつけた為。少々溜める時間が必要だったがな」

 

 ドルフは何か諦めたような顔をしている。

 

ドルフ「少々でカリュブディスを討伐されるのは困るんですが……」

 

 確かに、ドルフの目線からすれば、俺は国家の危機たるカリュブディスの体力をほぼ単独で削り切ったという、敵に回るわけにはいかない相手であり、油断できないのは仕方がないだろう。

 

ドルフ「…………はぁ、とはいえ、今回は本当に助かりました。ガゼル王には、俺からも説明する事にしましょう」

 

リムル「ああ、そうしてもらえると助かる。本当にありがとう」

 

 俺からも礼を言う。すると、ドルフが続けて話し始める。

 

ドルフ「礼ならば、ガゼル王に……。ああ、それとここからは独り言ですが……」

 

 そう前置きをして、ドルフは話し始める。

 

ドルフ「王に報告して頂けるならば、是非ともドワルゴンまでお越し願えませんか? 前回はあのような形となってしまいましたし、王も気にしておられます。国外追放や滞在拒否の措置はすでに撤回しておりますれば……」

 

 それを聞き、リムルはそれに了解し、カイジンやガルムを連れて行くことを約束すると、ドルフ達天翔騎士団(ペガサスナイツ)はドワルゴンへ帰っていく。

 

 すると、ある者が目を覚ます。

 

フォビオ「クッ……ここは……どこだ? 俺は、一体何を……」

 

 フォビオである。先ずは記憶の確認が優先だな。

 

ユレム「よう、フォビオ、先ず、お前が何をしていたか覚えているか?」

 

 フォビオは、覚醒した意識で記憶を思い出すようなそぶりをする。すると突然、俺とリムルの前に飛び込むように土下座をする。それは見事な土下座である。

 

フォビオ「す、スマン! いや、スミマセンでした! 俺はあなた方にとんでもないことを……本当にご迷惑をおかけいたしました!」

 

 顔は青ざめており、全力で謝罪をしている。ここまで反省されると、逆のおかしな点が現れる。何故、今回のような騒動を起こしたのか。この魔人のような直情型の者が、ここまでの騒動を起こすのは、不自然に見える。

 

トレイニー「貴方は何故、カリュブディスの封印の場所を知っていたのですか? 偶然見つけたとは言わせませんよ?」

 

 ああ、それもあったか、そもそもカリュブディスの封印場所を見つけた事自体、不可解な点が多い。偶然見つけたでは済まされぬ。

 

 それに、メガロドンに関しては偶然そこにあったレッサードラゴンの死骸を使ったそうだからな。その点も不可解だ。ここまで短い期間では、いくら上位魔人といえど、13体のドラゴンを殺し、カリュブディスの封印場所を見つけて解くなど、出来るとは考え辛い。

 

 つまり、元々死骸を用意し、封印を見つけてあとは依代のみとする所まで準備していた者がいると考えるのが自然だ。

 

フォビオ「ああ、それは……」

 

 フォビオは、仮面を付けた2人組の中庸道化連と名乗る者達に協力を申しつけられたと言う。

 

 すると、トレイニーに思い当たる節があったようで、左右非対称の人を舐めたような仮面を付けた人物でないか? と聞いたが、フォビオの前に現れたのは、怒りの仮面を付けたフットマンと名乗る者と泣いている仮面を付けたティアと名乗る者だったそうだ。

 

リムル「そういえば……ベニマル達の集落を滅ぼした時にいたとか言う……」

 

 ベニマル「ああ、俺もそれを思い出していました。怒りの表情を模った仮面を被った太った魔人、間違いなく、オークを操っていた者の1人です」

 

ゲルド「確かに、オレと別行動を取っていたオークジェネラルの先遣隊に、ゲルミュッドが雇った上位魔人が用心棒として付き添ってました。確か名はフットマンと言ったはず……」

 

 ふむ……。

 

ガビル「そういえば、我輩を助けてくれたラプラス殿も、ゲルミュッドに雇われた者でしたな。確か、中庸道化連とか言う何でも屋の副会長だと名乗っていましたな。それに、トレイニー殿の仰った、左右非対称の人を舐めたような仮面を付けておりました」

 

 ほう? どうやら、点と点が繋がったな。ラプラス、フットマン、ティア、そしてその者達が属する。中庸道化連という何でも屋……。其奴らが一連の騒乱の鍵を握っているの考えるのが妥当だな。

 

 さて、ある程度情報は揃った。それと先ほどから<周辺察知(ジリピア)>にて強大な力の持ち主が接近していることが察知できる。この妖気……恐らく魔王級の実力者か……。

 

 どうやら、フォビオの処遇について話がまとまったようだな。特に罪を問うような事はしないようだ。

 

ユレム「話がまとまったみたいだな。そこにいる者もそれで良いだろう?」

 

???「ほう、気づいていたのか、お前」

 

ユレム「ああ、索敵も多少は得意でな」

 

 とは言っても、此奴の妖気はベニマルやシオンなどに比べれば遥かに小さい。だが、それでは先ほどの接近速度と合わぬ。いくら速さに特化していたとしてもあの程度の妖気しか出せぬのならばもっと遅いはずだ。恐らく、俺も<周辺察知>が無ければすぐそこにくるまで気づかなかっただろう。

 

カリオン「さて、俺様は魔王カリオン。まずは、そいつを殺さずに助けてくれたのは礼を言うぜ」

 

 カリオンは俺とリムルを真っ直ぐ見据える。

 

リムル「わざわざ自ら出向いてくれるとは思わなかったよ。俺の名はリムル=テンペスト。この森の魔物達で作った"魔国連邦(テンペスト)"の盟主だ。そしてこっちが……」

 

ユレム「ユレム=テンペストだ。俺もリムルと共にこの国の盟主をしている。主に内政担当だがな」

 

 カリオン「フッ、たかだか一回の魔人が国を興す。昔ならいざ知らず、今の世で命知らずな野郎どもだ。謎の魔人はオークロードに敗れて死んだと報告を受けたんだが、どうやら間違いだったみてーだな。お前が、ゲルミュッドを殺った仮面の魔人だろ?」

 

 カリオンはリムルを見てそう言う。それを聞き、リムルも人型になる。

 

リムル「そうだが……ゲルミュッドを殺った俺に仕返しにでも来たか?」

 

ユレム「ああ、そういえば、フォビオの前でお前のことを散々煽り散らかした覚えがあるな……それを聞いてか? やると言うならば受けて立つが……」

 

 俺も思い当たる節があったので言ってみる。

 

カリオン「ふははは! 面白い奴らだ。ま、今回は何もしねーよ。俺の部下が暴走しちまったようだ。俺の監督不行き届きって事で、許してやって欲しい」

 

 頭を下げたりはしないものの、彼なりの謝罪を受け取った。

 

カリオン「今回の件、借り一つにしておく。何かあれば俺様を頼ってくれていい」

 

 リムルは、それを聞いてユーラザニアとテンペストの不可侵条約を結んでほしいと要求し、カリオンもそれを飲んだ。一先ずの不可侵条約だ。いずれは国交を繋ぎたいものだな。

 

 フォビオはカリオンに殴られて瀕死の重傷を負いながらカリオンに担がれて帰って行った。

 

…………

 

 それから数日後、俺たちはミリムと手合わせなどをするようになっており、各々のレベルが格段に上がっているのが分かる。そんなある日……。

 

ミリム「ワタシは仕事に行ってくる!」

 

 と言って、飛び去っていった。さて、ミリムが帰るまでに、皆をさらに鍛えねばな。




これにて、魔王来襲編、これにて終了、現時点でのユレム君のステータスをば……。

ユレム=テンペスト
種族:浅層魔族

加護:暴風の紋章
称号:魔物を統べる者 ◾️◾️◾️◾️の胚
魔法:いっぱい(前回までとさして変わらず)
ユニークスキル:【大教授】【魔法作成】【破滅の魔眼】【滅紫の魔眼】【破壊者】
エクストラスキル:【魔力感知】【記憶処理】【思念伝達】
耐性:【痛覚無効】【毒無効】【熱変動耐性】

 まあ、変化なしって感じですね。


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外交

待たせたな(遅れて本当に申し訳ございません!)、ちょっと、ハイラルを救いに行ってたら執筆の時間が溶けてまして……。ちなみにストーリーはゴロンシティの異変とリトの村の異変が終わったくらいです。地底探索楽しすぎだろ!


 ミリムが去ってから、数ヶ月が経過した。特に問題もない、平穏な日々だ。そんなある日、魔王カリオンから使者が来た。

 

 使者曰く、『互いの国から使節団を派遣し、国交を結ぶのが有益かどうか、見極めようではないか』だそうだ。

こちらからは、団長としてベニマル、その補佐としてリグル、その他ボブゴブリンが数名使節団としてユーラザニアに向かうことになった。

 

 早朝、礼服に着替え、演説の準備をする。リムルから、

 

リムル「こういうのはお前のほうが得意だろ? 彼方からの使節団の対応はなるべく俺がやるから、頼んだ!」

 

 と、丸投げされた。問題はないがな、今回の演説は、直接他の国の者へ話すわけではないからな。

 そうして、皆が集まる広場にて、俺は壇上に上がり口を開く……。

 

ユレム「さて、ベニマル、今回の使節団派遣は、今後のテンペストの経済的繁栄、及び、精神的繁栄において、非常に重要性が高い。相手は魔王という、この世界への影響力が高い者が相手だ。特に、ユーラザニアは、弱き者は国にすら入れないという、武力重視の国家だ。故に、決して舐められることのない様にベニマルを選んだ。俺とリムルが選んだのだ。胸を張って行ってこい」

 

 激励の言葉を述べる。

 

ベニマル「ハイッ!」

 

 ベニマルもその言葉によって気合が入ったのか、大きく返事をした。

 

ユレム「そしてリグル、及び同行するボブゴブリン達よ、それはお前達にも言えることだ。決して舐められるな。自信を持って行け。

 それと、多少の失敗は許そう。だが、最近は良くなったとはいえ、ベニマルは激昂すれば相手に手を挙げてしまう可能性がある。それでは、友誼を結ぶどころか、敵対する可能性がある。ベニマルの世話は任せたぞ?」

 

『ハイッ!』

 

ベニマル「耳が痛いな……」

 

 ベニマルは説教をされる子供のような顔をしている。

 

ユレム「だが、相手に認められることが目的ではない。こちらも見定める目で行き、良い友誼が交わせるかどうか、お前達の目でしっかりと確かめてこい。吉報を待っている!」

 

 そう締めくくる。すると溢れんばかりの大歓声が場を支配する。使節団の者達は真剣な顔で、しかし力みすぎず、適度な緊張感を持っているようだ。これなら安心だろう。

 

 それから、ランガがベニマルの影に潜み、盛大に景気良く使節団は旅立った。

 

…………

 

リムル「なあ、ユレム……」

 

 使節団を送った翌日、リムルから話をかけられる。

 

ユレム「どうした?」

 

リムル「いや、今度ドワルゴンに行くだろ? 今回も留守番してもらうことになるんだけど……」

 

 ふむ、そんな事か?

 

ユレム「問題ない。お前が行っている時に使節団が来たら国主がいなくなってしまうしな」

 

 一応、日程の調整は行なっているが万が一ということもある。

 

リムル「まあ……それは期間ずらしてるし大丈夫だと思うけど。その時俺、演説するんだけど……」

 

 なるほど、それの確認か。

 

ユレム「自信がないのか?」

 

リムル「そういう事……。ユレムってこういうの得意だし、見てもらいたいんだ」

 

 リムルが紙を差し出したので、内容を確認する。

 

ユレム「ふむ……」

 

 数秒で読み終える。

 

リムル「どうだ?」

 

ユレム「短い。謙りすぎだ。情に訴えすぎる。の3点だな。総合すると10点だな。無論100点満点中の。良いところは本音が書いてあることくらいか」

 

リムル「随分辛口評価でございまして……」

 

 言いたいことは悪くないのだがな?

 

ユレム「さて、改善点だが、

短いのは努力しかない……1500文字くらいにすれば問題なかろう。それなら5分は稼げる。

謙りすぎは簡単だな。敬語をなくせば問題あるまい。

問題は情に訴えすぎることだが、理想論を語るならば、必ず実現させると宣言せよ、『したい』ではなく、『してみせるから見ているが良い』と言うくらいの方が良いだろう、自信のあるものにしか民はついてこないぞ」

 

リムル「確かに…………ユレムってさ、俺より外交向いてないか?」

 

 ふむ、そうか?

 

ユレム「それほど変わらぬだろう。俺とて、外交と言うものを前世ではまともに見たことがないからな。単なるイメージから語ってるだけだ。ああ、あと心理学を齧ったことがあったか……」

 

リムル「ふむ………ありがとな、ユレム! 助かった!」

 

ユレム「ああ、頑張れよ、リムル」

 

…………

 

 獣王国の使節団の迎え入れは、最初こそ一波乱あったが、それ以降は大きな問題も無く、無事に終わることが出来た。ベニマル達も帰って来て、結果は上場だったそうだ。今のところはお互いに利のある関係が結べそうだ。

 

 そんなある日、リムルがイングラシア王国へ向かうと言った。

 

ユレム「大方予想はつくが、何故だ?」

 

リムル「ああ、実は……」

 

 どうやら、シズの心残りである、生徒達がイングラシアに居るようだ。その事についてリムルは夢を見たらしく、その夢では『時間が無い』と言っていたようだ。どれほどの猶予があるのか分からぬが、シズの魂の受肉はいくらでも時間をかけられるが、これに関してはなるべく早く対処しなければいけないだろう。それに、その生徒達を助ける――そもそもどのような危機なのか分からぬが――過程でシズの魂を呼び戻すのに使う精霊も準備できる可能性もある。

 

リムル「ユレムも行くか?」

 

ユレム「この町の皆ならば問題はないだろうが、流石に国主が2人とも国を開けるのは良いとは言えぬ。それに、俺の場合人間への変装もまだ完全とは言えぬ、魂は<根源偽装(ナーズ)>にてどうとでもなるが、妖気はまだ隠しきれぬ、抗魔の仮面も1つしか無いしな」

 

 それに、イングラシアに行く過程で外交をできるやも知れぬ。

 

リムル「……分かった、俺がいない間、町は頼んだぞ」

 

ユレム「無論だ」




サブタイが外交なのにユレム君一切外交してない件。


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不穏

今回は難産でした……この時点でシズさんに復活されるとちょっと都合上よろしくないので(ヒナタとかシズさんがいたら普通にテンペスト死者ゼロでどうにかなったかもだし)すまないシズさん……そろそろ出番……いや、もうちょい後だな(ヒロインが片方未だに登場すらしておらず、片方が未だ復活してない作品とか……笑える)
かなり短めですが、ご了承ください。


 リムルが暫くの間は平穏な日常が流れる。ある日、ヨウム達が町に戻って来ると、仲間を増やしていた。上位魔人である。

 

ユレム「戻ったか」

 

ヨウム「ああ、ユレムの旦那、俺達に仲間が増えてな、ミュウランっつー、腕の立つウィザードなんだ」

 

 ウィザード、確かに魔法の腕は高そうだな。

 

ユレム「ふむ、ミュウラン、ヨウム達をよろしく頼んだぞ」

 

ヨウム「ちょ……! ユレムの旦那! それは俺が『皆をよろしん頼んだぞ』って言われるやつだろ! 何で新入りのミュウランなんだよ!?」

 

ミュウラン「ええ、お任せください、ユレム様」

 

ヨウム「無視かよ!?」

 

 ヨウムがなにやら異議を唱えている。

 

ユレム「くはは、大方、ミュウランを舐めてかかって痛い目を見たのだろう? お前が新入りにここまでの信頼をおくには、それくらいの理由があってもおかしくあるまい」

 

ヨウム「大正解だよ……」

 

 相手の力量を見誤るようではな。と、そんなことを思っていると、話を聞いていたハクロウがやって来る。

 

ハクロウ「ヨウム、油断して相手の力量を見誤るのは愚か者のすることだぞ? 明日からは訓練を倍にしてやるから覚悟せい」

 

 ヨウムの表情が苦笑いから絶望へと変わる。

 

ヨウム「んな!? そりゃないぜ師匠……」

 

 ヨウムがハクロウに連れて行かれる。

 

ユレム「行かなくて良いのか?」

 

 残されたミュウランにそう問いかける。

 

ミュウラン「ええ、別にやることがあるので……」

 

ユレム「そうか、ああ、聞いておきたい事がある」

 

 そう前置きすると、ミュウランは疑うような目を向ける。

 

ユレム「ミュウラン、お前は上位魔人だな?」

 

ミュウラン「…………はぁ……」

 

 ミュウランはこちらを見据え、暫くすると諦めたようにため息をついた。

 

ミュウラン「やはり……バレていましたか。ええ、私は上位魔人です、ただ、出来ればこの事は秘密にして頂けると嬉しいです。なんて、聞き入れてもらえないでしょうがね」

 

ユレム「構わぬぞ? 別にこの町なら上位魔人でも迫害などせぬ。もっとも……俺たちに危害を加えないのならば、だがな?」

 

 確信を突いた表現をすると、ミュウランも少し焦ったような顔をする。やはり、何か企んでいるか……いや、正確にはまだ何をするかは決めていなさそうだな。

 

ミュウラン「……失礼します」

 

 ミュウランは立ち去る。さて、どうなるか……。

 

…………

 

 リムルから<思念通信(リークス)>が来た。ちなみに<思念通信(リークス)>は予め教えておいた。【思念伝達】よりも広範囲、魔力の届く限りは距離は無制限で通話ができるので教えておいた。ただ、俺が教えた者としか通話が出来ぬのが欠点だが……本題に戻ろう。

 

 リムルからの通話の内容は、シズの心残りである子供たちを助ける手立てが見つかったそうだ。その方法として、上位精霊を宿すとあるらしいのだが、その為に精霊の棲家という場所に行くらしい。その際、俺も来ないか? という内容だ。確かに、俺も行けばシズの受肉も同時に行えるが、まだテンペストは国としては不安定だ。流石に国主が2人とも国を空けるわけには行かぬ。こう言うと、俺がベニマル達を信頼していない様に聞こえるかも知れぬが、決してそういう訳ではない事は伝えておこう。

 

…………

 

 その連絡から更に日が経ち、リムルの帰還がそろそろという時……。

 

ユレム「さて、そろそろリムルも戻って来るか……ただ、それまでに何かありそうか……。ふむ?」

 

 突如、<周辺察知(ジリピア)>にて不審な反応が出る。11人で、個々人が恐らくベニマルやシオンを超える実力を持っているように見える。特に、先頭を歩く短く黒い髪に、黒……よりも少し茶色がかった目。優男な風貌とは裏腹に厳かな動きやすそうな礼服を着る男がいる。コイツは不味いな、恐らく、俺と互角か……いや、身体能力の差があれば問題なく勝利は可能か? なんにせよ、この者が、俺たちに害をなす者ならば、テンペストに近づけるわけには行かぬ。

 

 俺はすぐに刀を手に取り、<転移(ガトム)>にてその者達がいる、整備された街道とは反対の方向、森なり入ってすぐにケモノ道の続く場所へ転移する。

 

ユレム「さて、こちらからテンペストへ向かうのはあまりオススメはしない、魔物も多く生息している上、道も整備されていないのでな」

 

???「……丁寧な対応、感謝する。ただ、我々はこちらから進むので間違いない。だが……お前から来てくれるとは思わなかったぞ。ユレム=テンペスト」




次回、遂にオリキャラ登場!
お楽しみにッ


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八神騎士

ついに登場。ユレム君以外のオリキャラ1号


 ふむ、名指しか。さて、なにが目的だ……?

 

ユレム「テンペスト……と言うよりも、俺本人に用事があるのか」

 

 俺は、その1団の先頭に立つ男に話をかける。この者は、この11人の中で特に危険な者、此奴はその強さは勿論だが、それ以上に、腰にある剣、あれは普通の剣だとは思わぬ方がよかろう。

 

???「ああ、我々の目的は、名目上は魔物の国、テンペストの視察が主な目的だが、同時にユレム=テンペスト本人の調査がある」

 

 その目的を調査対象に言ってしまっては意味が無いのでは無いか? ただ、気になるのは……。

 

ユレム「なぜ俺だ? 俺は表舞台には立っておらぬ。普通に考えれば調査すべきはリムルのはずだが?」

 

???「それは、ユレム=テンペスト、お前の名が、我らが神と同じ名を持つからだ」

 

 ほう?

 

ユレム「我らが神?」

 

 ルミナス教は一神教では無かったか?

 

???「我らが父、ユレム、その存在は我々八神騎士団(グアラ・ディバード・ナイツ)と、聖騎士団、大司教以上の地位にいるものにしか伝えられる事はない。かの神は、神ルミナスの夫であり、8柱の神を従えており、遥か昔に姿を消した。残った8柱の神が祝福を与えた8人の神人、八神選定者が創設された聖騎士団に対をなす騎士団こそ、我ら八神騎士団だ」

 

 八神騎士団……その神ユレムが秘匿されてるならば、八神騎士団も、別の形で他の者たちには伝えられているのだろう。

 

ユレム「お前はなぜ、そこまで俺に秘匿すべき情報を教える? 機密が漏洩するとは考えなかったのか?」

 

???「ああ、だが、その心配は無い。我々の今回の任務は、お前の調査、そして……

捕縛だ」

 

 捕縛だと? 俺が神の名を名乗っていた為に不敬と捉えただけならば、捕縛を確定事項にはしないと思うが……やるとしても、事情聴取だのを挟むだろう。西方聖教会は魔物の敵と聞いたが、此奴らは多少話は分かりそうだからな。問答無用で連行というのも不思議な話だ。

 

ユレム「くはは、俺を捕縛だと? 笑わせるな、お前達に俺を倒せるとでも思っているのか?」

 

???「当たり前だ。もう既に、お前は包囲されている」

 

 此奴の部下であろう10人が姿を消している。周囲を見回すと、俺の逃げ道を断つように位置どりをしている。無論、初めから逃げるつもりなどないが。

 

???「我が名はトウジ、八神透慈(トウジ・ヤガミ) 我らが父の命により、貴様を捕縛する!」

 

 八神透慈……? ふむ、異世界人か。

…………。それにしても、昔の武士でもあるまいに。まあ良い、合わせてやるとしよう。

 

ユレム「我が名はユレム、ユレム=テンペスト。お前達を絶望させ、叩き潰して見せよう」

 

 それを聞き、トウジは剣を抜く。すると、眩い光が漏れる。その光は、魔素を浄化する光、魔物に対して、圧倒的な特攻を持つ、いわば聖剣であった。その光を放つ刃は美しい純白であり、黄金に輝き、鍔の部分に青い宝石が埋まっている柄が付けられた長剣である。俺は、その見た目に覚えがあった。

 

ユレム「霊神人剣エヴァンスマナ……? しかも、本来の柄か……」

 

 そう、あの霊神人剣エヴァンスマナだ。しかも、それは11章以降の本来の柄を取り戻した方だ。アニメの範囲では元の青い柄しか出ていなかったが、13巻(下)の表紙に描いてあったのを俺は覚えていた。

 

トウジ「……!? まさか、この霊神人剣を知っているだと……? お前、何者だ?」

 

ユレム「俺はユレム=テンペスト、それ以上でも以下でもない。1つ聞こう。お前はその剣に本当の意味で選ばれたのだな?」

 

 この世界の霊神人剣がどのように持ち主を選ぶのかは知らぬ。だが、あの剣が本当に霊神人剣と同等の力を持つならば、多少苦戦するかもな。

 

トウジ「ああ、この剣を抜けるのは、俺だけだ」

 

 ……なるほど、ならば……。

 

ユレム「なるほど、では、始めるとしよう。<根源死殺(ベブズド)><魔黒雷帝(ジラスド)>」

 

 剣を出したところで、獲物の力では圧倒的に劣る上、恐らく実践経験も相手の方があると思って良い。ならば、下手に剣を使うよりも強化した打撃で叩くほうが良いだろう。

 

トウジ「……! 速い……だが、<深撃(ゼルス)>」

 

 深層魔法だと? いや、驚いている暇はないか。俺はトウジの斬撃を躱し、距離を取る。が、俺を囲む騎士達が襲いかかる。

 

ユレム「……<雷界滅電陣(ギル・デモリア)>」

 

 近づいてきた者は吹き飛ばす。そこそこの火力を出したが、大きな傷にはなっていない者が多そうだ。やはり、霊神人剣の影響か思ったような火力は出せぬな。それに、恐らく霊神人剣は掠っただけで、致命傷とはいかずとも、俺の精神体にそこそこのダメージが入るだろうな。とはいえ、今使える魔法では決定打にはならぬだろう。

 

トウジ「上手く手が出せないな……だが、勝てない相手ではない! 行くぞ!」

 

 八神騎士団の者達が連携して襲いかかる。魔法は……大した効果は出せぬだろうな。ならば、物理攻めるほかない。騎士の剣を持つ手を蹴り上げ、剣を奪い取り、薙ぎ払う。

 

トウジ「近接戦闘も出来るのか……ユレム=テンペスト、俺はお前を侮っていた。ここからは、本気だ!

聖域(アスク)>」

 

 騎士達の希望が魔力に変えられる。<聖域(アスク)>は作った覚えはないのだがな……。さて、何故この世界にあるのだ? まあ良い、ただ、<聖域(アスク)>か、ならば<聖域熾光砲(テオ・トライアス)>もあり得るか。

 

トウジ「【聖浄化結界(ホーリーフィールド)】」

 

 俺とトウジだけを含んだ結界が展開される。その空間内の魔素が浄化される、それでは俺もまともに魔法が扱えぬ。さて、どうしたものか?

 

ユレム「なるほど、俺を弱体化させるか、だが、1対1ならば俺に分があるぞ?」

 

 そうは言ったが、<聖域(アスク)>の効果もある。力もそこそこ落ちた。だが、まだ問題はない。

 

トウジ「そうかもな、お前は強い。これだけ力を削いでも、恐らく正面から戦えば俺が負ける。だが、次の一撃、僕の全てを出し尽くせば!」

 

 ほう? まさか、<根源光滅爆(ガヴエル)>ではあるまいな? だとすれば、敵とはいえ止めねばな。すると【大教授】が口を出す。

 

『告、強大なエネルギーを感知、

発生源確認……成功しました。

発生源は個体名トウジ=ヤガミ。

原因解明……成功しました。

ユニークスキル【不屈者(クジケヌモノ)】の全身全霊の効果と思われます』

 

 全身全霊、【大教授】曰く、自身の全エネルギーを集約し、1撃に込める。その結果、使用後1時間動くことさえできなくなる。普通に避ければ問題ないが、【大教授】の予測ではその最高速度は光速を超える。弱体化した俺では、来ると分かっていても回避は困難を極めるだろう。ならば……

 

トウジ「!? まさか、正面から受ける気か!」

 

 クロベエ作の刀を出す。<武装強化(アデシン)><聖別(リヒド)><根源死殺(ベブズド)><魔黒雷帝(ジラスド)>などの魔法を剣に使い、気闘法にて剣の強度などを底上げする。

 今の俺に出来る対抗策がコレだ。避けるよりはまだマシだろう。

 

トウジ「………………ッ!!!」

 

 トウジが地を蹴る。霊神人剣が振るわれる先には、俺の刀がある。

 刹那、2つの刃は交差する……。




トウジの強さ的には、現時点のリムルよりは強いです。ただ、ヒナタと比べると、スキル、頭の回転の速さ、戦闘技術などは劣っています。なので、
リムル<トウジ<ヒナタ≦ユレムという感じですかね。
ただ、トウジの場合霊神人剣があるので、そこである程度は日向との実力差が埋められています。


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格上

これから暫くはオリジナル路線です。
あ、今回は特に、アノス様とユレム君は別のものとして考えていただいて……。これからはアノス様とユレム君をなるべく同じような感じになる様に書きますが、それでも少し違うところがある。みたいな感じで書いていこうかなと、勿論、アノス様成分が摂取できた気分になれるよう努力はします!


 八神騎士団は、聖騎士団と違い、西方聖教会ではなく、神聖法皇国ルベリオスに所属している、それには、いくつかの理由があるが、その1つは、神話に直接由来する騎士団であることが大きいだろう。

 

 彼ら八神騎士団の指揮官は8人いる、その者たちは八神選定者と呼ばれており、その実力は、聖人を超える神人であり、その8人がそれぞれ11人の部隊を持つ。総勢88名の部隊の団員は、その全員が仙人へ覚醒しており、各部隊の隊長は皆、聖人へと覚醒している。聖騎士団よりも団員は遥かに少ないが、その戦力は八神選定者を含まずとも、聖騎士団を超えるとされている。

 

 八神透慈(トウジ・ヤガミ)は、各隊の隊長の中でも、最強と言われており、“勇者”と呼ばれている。坂口日向(ヒナタ・サカグチ)には実力で劣るが、勇者であっても真に正義な心を持つ者でなければ抜くことさえ出来ない霊神人剣を振るう彼の勇者たる資質は、目覚めつつあった。

 

 勇者を名乗る者には因果が巡る。彼もまた、数奇な運命を辿るのだろう。

 

…………

 

 膨大な力の衝突により、【聖浄化結界(ホーリーフィールド)】が破壊される。爆風により舞い上がった砂埃が止むと、そこに立っていたのは俺だけだった。トウジは力無く倒れている、全身全霊の効果で、力を使い果たしたのだろう。

 

ユレム「ただ、驚いたな。まさか、腕を切り落とされるとは」

 

 トウジの部下であろう者達は、信じられぬものを見るような目でこちらを見る。鎧で目は見えぬが。

 

ユレム「どうした、かかって来ないのか?」

 

 腕は……聖痕だな、しばらく治せそうに無い。

 

トウジ「まて……! まだだ……!」

 

 トウジが地に伏したまま、こちらを睨む。

 

ユレム「諦めろ、お前には余力は残っていまい?」

 

 全身全霊の効果により、動くことすらままならないトウジに出来ることは何も無い。

 

トウジ「……ッ! ああ、俺はもう戦う力は残っていない、ただ、1つ聞かせてくれ、お前は、シズ先生を殺したのか?」

 

 ふむ、トウジ、シズの教え子だったのか。だが、殺したのか? か、生き返らせるつもりではいるが……。

 

ユレム「見方によってはそうだな」

 

トウジ「曖昧な答えは許さないぞ! グッ、」

 

 傷口が痛むのだろう。体力も残っていないだろうに、これだけ教師想いの生徒を持つとは、シズが羨ましいものだな。

 

『告、スキル、魔法の復旧が完了しました。<周辺察知(ジリピア)>による周辺情報の入手……完了しました』

 

 【聖浄化結界(ホーリーフィールド)】内で封じられていたスキル、魔法が使えるようになったようだ。<周辺察知(ジリピア)>も戻ったので、異変がないことを確認す……。

 

ユレム「八神透慈(トウジ・ヤガミ)、今回は見逃す。帰るが良い、お前は、我が旧友に似てるのでな、さらばだ」

 

トウジ「まて! 話は終わっていない! ゴホッゴホッ!」

 

 トウジの部下が数人、俺を囲む。

 

ユレム「俺は急いでいるのでな、手加減はできぬぞ?」

 

 【破滅の魔眼】により、騎士どもの武器を破壊し、を気絶させる。そして<転移(ガトム)>の術式を描き、魔法を行使しようとするが、術式を破壊される。

 

???「トウジが負けるとは、驚きましたね」

 

 何者かが俺の背後から歩いてくる。銀髪に、一切表情を変えそうに無い無表情の男、かの魔王の右腕、シンを思い出させるその男は、一本の剣を帯刀するのみで、手に握っているわけでも無いのに、全く隙がない。ハクロウ以上の手馴れだ。

 

ユレム「何者だ?」

 

トウジ「ディウス様……何故……?」

 

 ディウス? この男の事か。

 

ディウス「トウジ、お疲れ様です。私も少々、相手の力量を見誤っていたようです。直接対峙して分かりました、今回、貴方では分が悪かったようですね」

 

 あの本物のシンからは絶対に出ないであろう労いの言葉である。いや、出るのだろうが、俺のイメージ上……いや、これ以上無駄な考え事をしていれば、斬られる。

 

ユレム「済まぬが急いでいてな、通してもらえると助かる」

 

ディウス「お断りします。今、貴方に町へ向かわれると、後々都合が悪いので、今、ここで捕縛させてもらいます」

 

 刹那、ディウスの腰にある剣が、目で追うことすらできぬ速度で振るわれる。殺気に反射で後ろへ引いていなければ、首を斬られていただろう。

 

ディウス「今の不意打ちを避けますか……流石です、ただし、次は取り逃がしませんよ?」

 

 今は町に戻らねば……。奴は万全の状態で戦っても勝率は1割も行かぬだろう、戦闘を避けるのが得策か。全く、まだ届かぬものだな。

 

ディウス「……ッ!」

 

 先ほどと同等以上の速度で近づいてくる。そこで俺は、ある魔法を使う。

 

ユレム「<波身蓋然顕現(ヴェネジアラ)>」

 

 可能性を具現化する魔法、<波身蓋然顕現(ヴェネジアラ)>今さっき、トウジとの戦闘を通して手に入れた魔法文字を利用し、【大教授】に最優先で頼んでおいた魔法だ。本来は自分でそれぞれの魔法文字の効果を確認し、自分で作る方が良いのだが、今はそうも言ってはいられぬ、ところだったのでな。

 

 可能性の俺は、ディウスに向かっていき、蹴りを入れようとするが一瞬で切り刻まれ、消滅する。だが、十分な時間は稼げた。町へ向かうため、<転移(ガトム)>の術式を描く。確認の為、<周辺察知(ジリピア)>の脳内マップにて、街の状態を確認……。失敗した。何故だ? <転移(ガトム)>の術式の用意が完了し、行使しようとするが、それも失敗する。

 

『告、転移先の特定が不能です。考えられる原因として、何らかの結界により外界と隔絶されていると推測されます』

 

 ふむ、それでは、ガビル達の洞窟ならば……いや、そこまでの時間はくれそうに無い。

 

ディウス「<波身蓋然顕現(ヴェネジアラ)>可能性を具現化する魔法ですか、ですが、最早同じ手は引っかかりませんよ?」

 

 試しに<波身蓋然顕現(ヴェネジアラ)>の分身を、今度は5人ほど出し、同じように退く。

 

ディウス「洗礼剣、秘奥が壱――」

 

 剣身が、神々しく輝く光を放つ。

 

ディウス「――<光刃明華(こうじんめいか)>」

 

 花の刃が、辺りを照らしながら、高速で乱散る。その光により、<波身蓋然顕現(ヴェネジアラ)>の可能性の俺は次々に消滅する。俺は魔法で相殺したが、転移する時間は無くなっていた。

 

ユレム「(まま)ならぬものだな……<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>」

 

 <飛行(ガトム)>で飛び上がり、100門の術式を描き、<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>を放つ。面倒だが、飛んでいくとしよう。

 

ディウス「<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>程度いくら撃っても、足止めにはなりませんよ」

 

 全く、黒き太陽の雨を容易に抜け、一瞬でここまで来るとはなかなかどうして、格上だ。とはいえ……。

 

ユレム「格上だからと言って、そう簡単に民を捨てさせられるとでも思ったか?」

 

ディウス「捨てさせるつもりはありません。ただ、今行かれるのは困るだけです」

 

 俺にとっては対して意味は変わらぬ。

 

ユレム「単純な予感だ。今俺が町に向かわねば、誰かが死ぬだろう、根拠は無い。だが、確信がある、信頼していないわけでは無いが、今行けば間に合うかも知れぬ。王とは、そういうものだ」

 

ディウス「まったく、やはり、人は変わらぬものですね……ですが、私にも目的があります。今の私は、今の貴方よりも先を見ている。故に、今ここで止めます」

 

 ディウスは先ほどとは違う剣を抜く。その剣は、先ほどのものよりも、圧倒的な存在感に包まれている。

 

ディウス「終王剣、秘奥が参――」

 

 周囲に結界が貼られる。反応が遅れたか、となると、回避は不可能と考えるか、おそらく、このエネルギーは……今の俺の持つ全ての手札を使ったとしても、一撃で俺を葬り去る火力を出すだろう。できる限りの防御魔法を展開する。

 

ディウス「――<冥帝(めいてい)>」

 

 剣先にエネルギーが収束し、周囲の空気が消え去る。別に呼吸ができなくとも生きていけるが、問題はそこでは無い。検査機に集まったエネルギーの量だ。おそらく、俺を除くテンペストの民のエネルギーを全て集めてもここまでは行かぬ。それほどまでのエネルギーが、次の瞬間には、拡散していた。防御魔法は意味をなさず、俺の身体は滅び去る。意識が無くなってきた…………。

 

…………

 

「<根源保護(ミリカ)>……では、帰るとしましょうか、ディウス。ところで、どうでしたか? 強さは」

 

「ええ、想像以上ですね、これなら、これから起こる魔王の誕生の祝福(ギフト)でどれほど進化するか……ところで、本当に起こるのでしょうね?」

 

「起こります。しっかり、その為に誘導しましたから」

 

「確か……魔導王朝サリオンの皇帝の叔父の娘でしたか」

 

「ええ、別に、誘導しなくても勝手に魔王への覚醒について教えに行きそうですけどね」

 

「念には念を……ですよ、エンティ。では、戻るとしましょう」

 

「部下は?」

 

「トウジ以外は大した怪我は負っていませんから、大丈夫でしょう」



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祝福(ギフト)

昨日に続き投稿


《告、個体名:リムル=テンペストの魔王への進化(ハーヴェスト・フェスティバル)が完了しました。

続いて、系譜の魔物への祝福(ギフト)の授与を開始します》

 

 微睡みの中魂にそんな声が響く。俺は、物質体(マテリアルボディ)が意識を失いつつも、星幽体(アストラルボディ)により思考能力のみ保っていた。リムルのスリープモードや夢を見ている状態に近いかも知れぬな。恐らく3日ほどこの状態を続けていた。【大教授】と会話ができたのが幸いである。

 

 しかし、その声……世界の声が響くと同時に、俺の星幽体(アストラルボディ)さえも完全に意識を奪われていく。魔王への進化(ハーヴェスト・フェスティバル)だの祝福(ギフト)だのと言っていたが、テンペストでは何があったのだ? 耐え難い眠気に耐えながら、俺は思考する。

 

《告、個体名:ユレム=テンペスト、祝福(ギフト)の授与が行えません。眠りなさい》

 

ユレム「(断わ……。)」

 

『告、眠ることを推奨します』

 

ユレム「(ふむ、【大教授】に言われてしまってはな……。仕方あるまい。あとは任せたぞ)」

 

『了』

 

 微睡みに身を任せる。すると、すぐに意識が消えていった。

 

…………

 

 ユレムが眠りにつき、祝福(ギフト)の授与が始まる。

 

『告、祝福(ギフト)の授与が開始されました。身体組成が再構成され、新たな種族へと進化します』

 

《確認しました。

種族:浅層魔族から深層魔族への超進化……

成功しました。全ての身体能力が大幅に上昇しました。物質体(マテリアルボディ)精神体(スピリチュアルボディ)の変態が自在に可能となります。

胚が成長しました。

固有スキル【魔力操作】【完全記憶】【記憶処理】【覇気】【統合】【分離】》を獲得しました。

続けて、各種耐性を再取得します……

成功しました。【痛覚無効】【物理攻撃耐性】【自然影響耐性】【状態異常無効】【精神攻撃耐性】【スキル耐性】……以上を獲得しました。以上で進化を完了します》

 

『一部スキルの権能の欠損を確認、ユニークスキル【大教授】の欠損部分を修復、進化の実行を申請……』

 

《受諾します。【大教授】が進化へ挑戦……》

 

『失敗しました。【大教授】の提案、ユニークスキル【破壊者(ホロボスモノ)】を統合(イケニエ)に、再度実行します……

成功しました。

ユニークスキル【大教授(オシエルモノ)】が【薫陶之王(ミネルヴァ)】に進化しました』

 

 通常なら、たとえ祝福(ギフト)があろうと、どんなものを犠牲にしようと、何度挑戦しようとも、到達し得なかった、世界の最高峰、究極能力(アルティメットスキル)。それに行き着いたのは、祝福(ギフト)、スキルの統合以外に、2つの要因があった。1つは、ユレム本人の、自身でも観測しきれぬ膨大な魔素量(エネルギー)、もう1つは【大教授】自身の記憶である。【大教授】には、自身に欠けた部分が何か、どの様な権能かなどを、正確に把握していた。故に、成功率を底上げしていたのである。とはいえ、それを含めても、成功率は1%に満たないものであった。それを引き当てたのは偶然なのか、はたまた何かしらの要因があるのか、それは誰も知らない。

 

 祭りの続きが始まる。

 

《ユニークスキル【魔法作成】によって使用できる全魔法文字を解禁……

成功しました。ユニークスキル【魔眼】【破滅の魔眼】【滅紫の魔眼】を強化……

成功しました。

以上で、祝福(ギフト)の授与を終了します》

 

…………

 

 目が覚める。勿論、肉体的な意味だ。目を開けると、そこは知らない天井だった。特徴といえば、少々色が暗く、かなり豪華な造りになっており、結界が張られていることくらいか、結界の種類は、身体能力低下の結界、魔素浄化の結界、魔法不可の結界か。

 

ユレム「ふむ、やる事を悉く潰されているな」

 

『告、祝福(ギフト)の授与による結果を参照しますか?』

 

ユレム「【大教授】か、ああ、見せてくれ」

 

『…………』

 

 返事がない? どうした?

 

『告、【大教授(オシエルモノ)】は進化し、究極能力【薫陶之王(ミネルヴァ)】となりました』

 

 ふむ……そういえば、少し流暢になったか?

 

『気のせいです』

 

 そうか。では【薫陶之王(ミネルヴァ)】結果の参照を頼む。

 

『了、祝福(ギフト)の結果を参照します』

 

 ……結果を見たところ、少々驚いたな、固有スキルで【統合】【分離】などのスキルが使えるようだ。また、いくつか耐性が増えていたな。【魔法作成】や【魔眼】などの強化もかなり嬉しい。そして注目の【薫陶之王(ミネルヴァ)】だが……権能としては、思考加速(100万倍)、解析鑑定、並列演算、詠唱破棄、自動戦闘状態、森羅万象、魂掌握、継承、だ。

 

 【大教授】の時からあったものは省くとして、

 まず魂掌握だが、自身と魂の系譜が繋がっている者の中で、自身と同格未満の者の魂を掌握することができる。ここまでは【破壊者(ホロボスモノ)】と同じ権能だが、それとプラスして、俺が絶望させた相手の魂も掌握できるようだ。

 そして継承、継承は、自身と魂の系譜が繋がっている者に、自身のスキルの権能の一部や、魔法を授けることができる。逆は不可能のようだ。

 

 と、このような感じだな。

 

ユレム「さて、そもそもここはどこだ? ……誰か来る」

 

 コツコツと、足音が聞こえる。ここの者か?

 

???「失礼致します」

 

 ドアがノックされると、扉が開く。ドアを開けたのは、黒い髪に執事姿の男だ。ディウス程ではないもなの、かなりの実力を持っているようだ。無論、妖気を操り、実力を隠しているのだろうが。

 

???「おや? お目覚めになっていましたか、ユレム様、お久しぶりでございます。いえ、貴方にとっては初めまして。でしたね」

 

 ふむ、俺が覚えていないだけでこの者は俺を知っているのか?

 

???「失礼、自己紹介がまだでしたね、私はリベリオ。貴方が戦ったディウスと同じ、八神選定者の1人です」

 

ユレム「ああ、よろしく頼む。1つ聞くが、お前たちは何故俺を捕縛した? その上、結界が張ってあるとはいえ、牢屋か何かに入れられると思っていたのだが?」

 

 リベリオは何かを考えるような仕草をする。

 

リベリオ「それに関しては、我々全員で話しましょう。他の八神選定者を読んできます」

 

 そう言ってリベリオは部屋から出て行く。暫くすると、リベリオとディウス、そして他の6名で、計8名で入ってきた。

 

リベリオ「我々が八神選定者、遥か2000年前、貴方様に仕えた8柱の神です」




ステータス

ユレム=テンペスト
加護:暴風の紋章
称号:魔物を統べる者、◾️◾️◾️◾️の胚
魔法:全ての浅層魔法(一部を除く)
究極能力:【薫陶之王(ミネルヴァ)
ユニークスキル:【魔法作成】【魔眼】【破滅の魔眼】【滅紫の魔眼】
固有スキル:【記憶処理】【完全記憶】【魔力操作】【覇気】【統合】【分離】
耐性:【痛覚無効】【物理攻撃耐性】【自然影響耐性】【状態異常無効】【精神攻撃耐性】【スキル耐性】

 【記憶処理】と【完全記憶】の違いは、【記憶処理】は、単純に無限に記憶できるというだけで、【完全記憶】は原作にもあった通り、精神体にバックアップしておき、脳が破壊されたりして記憶が消えても、バックアップから復元できるというモノで、それの応用で殺しても余裕で復活できます。
【記憶処理】は拡張メモリ(無限)で、【完全記憶】はバックアップだと覚えておいてもらえればOKです。


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八神

 ディウス、リベリオの他に、6人の者たち。

 

――燃えるような赤い髪に赤い目を持つ、3メートルはあるだろう大男。

――黄緑色の髪を後ろで束ねた、婉容(えんよう)な雰囲気の佳人。

――天色の髪をストレートに下ろした、清楚な淑女。

――柑子色(こうじいろ)の髪で、中学生ほどか? 少し幼さの残る少年。

――明るい金髪のサイドテールに紅い目、8人の中で最も小さい天真爛漫そうな印象を受ける少女。

――ウェーブのかかった藤色の長髪に、妖艶な雰囲気の美女。

 

ユレム「待て、今の言い方では、お前たち自身が神の様に聞こえるが? お前たちは神人では無いのか?」

 

 トウジは八神選定者を神に祝福された8人の神人、それを八神選定者と言っていたはずだ。

 

リベリオ「ええ、神そのものですと、問題が多いので、魂の波長を人間に寄せる事で、神である事を隠しているのです」

 

 なるほど、確かに理にかなっている。宗教において、神は人間では観測、会話などが不可能な上位存在と考えるのが普通だ。それに対して唯一干渉可能であり、対話可能な神人として信者を導けば、神の代弁者という立場を利用し、容易に信者たちを操ることが可能となる。

 

ユレム「成程、ならば、お前たちが2000年前、俺に仕えたとはどう言うことだ? 俺にはそんな記憶はないぞ?」

 

 記憶に欠損があるならば【完全記憶】で再現可能なはずだが……。

 

リベリオ「それに関しては、まだお教えすることはできません。一先ず、今は自己紹介といきましょう。私はリベリオ、銀髪がディウス、赤がバース、黄緑色がアミュレ、天色がエンティ、柑子色がフェリシオ、金髪がセラス、藤色がメア、以上です」

 

 随分アバウトである。

 

バース「おい! リベリオ、もっとちゃんと紹介しろ!」

 

セラス「そうよ! せっかくユレム様に久しぶりに会えたのに、こんなのあんまりだわ!」

 

リベリオ「はて、簡潔でわかりやすい説明でしたでしょう? 各々の紹介は各々で行うべきです」

 

 抗議をするが、リベリオに言い返され、バースとセラスは押し黙る。

 

メア「うふふ、これからまたよろしくね? ユレム」

 

 怪しい笑みを浮かべながら言う。

 

エンティ「改めまして、よろしくお願いします、ユレム様、エンティです」

 

 少々堅苦しい気がするが、そんなものだろう。

 

ディウス「我が君、先日は、無礼な発言や行動の数々……申し訳ございません」

 

 堅苦しいといえば、ディウスが居たか。

 

ユレム「構わぬ。お前もやるべき事をやっただけだろう?」

 

ディウス「寛大なる御心、感謝致します」

 

 無駄のない所作で頭を下げる。流石に顔を上げさせた。

 

フェリシオ「ユレム様! 久しぶり!」

 

 目を輝かせながら言う。近所の子供を見ている感覚だ。

 

アミュレ「ユレム様、これからもよろしくお願いね〜」

 

 おっとりとした口調で言う。

 

ユレム「ああ、だが、俺は皆のことを覚えておらぬ。すまないな」

 

リベリオ「いえ、これは予想通りなので、ユレム様が謝ることはございません」

 

 ならば良いのだが……。

 

ユレム「ところで、お前たちが司る秩序、権能はなんだ?」

 

リベリオ「ああ、そちらがまだでしたね、ではまず、私は背理神、あらゆる起こるべき事象を反対の結果にする権能を持ちます」

 

 背理神……今の話を聞く限りでは、アルカナの権能を拡張したように思える。あれは秩序に対してしか効果がなかったはずだ。

 

ディウス「では、次は私が、私は剣豪神、私の持つ権能は魔剣や聖剣、霊剣に神剣を作り出す事ができます」

 

 あらゆる剣を作り出す権能か、では、あの剣技は自前か。

 

バース「それじゃ、次は俺だな。俺は災害神、災悪級(カラミティ)以下のモンスターを支配する権能だ。ただ、誰かの支配下にあるヤツには効果はない」

 

 なるほど、複数の災悪級を従ることができるのか、なかなかどうして、凶悪だ。

 

アミュレ「今度は私、私は精霊神、あらゆる精霊を使役、誕生させることができるわ〜。ちなみに、精霊王ラミリスは私とはあまり関係はないの。私の使役する精霊たちは特殊で、噂と伝承から産まれるから〜」

 

 イフリートなどとは違う噂と伝承からなる精霊か、なんとも、どこかで聞いたことのある話だな。

 

フェリシオ「それじゃあ、今度は僕だね! 僕は祝永神、善なる存在を祝福し、力の覚醒や、種族としての進化を促す権能さ!」

 

 祝福か……もしや、あの霊神人剣もフェリシオが祝福したのか?

 

エンティ「私は根源神、新たに産まれる生命に祝福し、この世に迎え入れる権能です」

 

 根源……エレオノールやエンネスオーネに近い権能か?

 

セラス「今度はワタシ、ワタシは光明神、光を生み出し、操る権能よ!」

 

 輝光神とはおそらく違うだろう。言うなれば、光の根源といったところか。

 

メア「私で最後ね、私は暗影神、闇を生み出し、操る。セラスとは姉妹で、対となる権能を持っているの」

 

 姉妹神か、姉妹神は対となる権能を持つ姉妹と会うことはできないはずだが……何かあったのか?

 

ユレム「流石は神と言ったところか、俺が今までに会ったどんな者たちより、強力な能力を持つようだな」

 

リベリオ「ええ、私達全員、そこらの覚醒魔王よりも強いですよ。そもそも全員が究極能力(アルティメットスキル)を持っているのですから」

 

 なるほど、各々が持つ究極能力(アルティメットスキル)こそが、皆の権能か。

 

リベリオ「さて、ユレム様、貴方に会っていただきたい方がいます」

 

ユレム「ほう?」

 

…………

 

リムル「まだ、ユレムは見つかっていないのか?」

 

 俺が魔王に進化してから、暫くが経つ。ユレムは、襲撃の際に失踪してから、帰ってきていない。確実に何かがあった。

 

ソウエイ「はっ! 恐らく、ジュラの大森林周辺には居ないかと思われます。また、1つお耳に入れたいことが……」

 

 ソウエイは俺が起きてから、すぐにユレムの捜索へ向かってくれている。復活祭の時も分身に探させていたらしい。

 

リムル「なんだ?」

 

ソウエイ「はい、実は、街道と反対側へ向かって暫く、ジュラの森の整備がおこなれていない場所に、戦闘の跡がありました」

 

 戦闘の!? つまりこれって……。

 

『告、個体名:ユレム=テンペストが何者かと戦闘を行っていた可能性があります』

 

 【智慧之王(ラファエル)】先生も同じ見解のようだ。

 

ソウエイ「さらに、その戦闘なのですが、複数のクレーターがあり、そのクレーターの内部では、我々を弱体化した結界と同質の力の残滓がありました、それも、このテンペストに張られたあの結界よりも、遥かに強力な効果が」

 

 まさか、俺のところに来たヒナタと同じような刺客か? だとしたら不味いかもな……ユレムは俺よりもずっと強かったけど、ヒナタと同等の実力者が来ていたら……。いくらユレムでも……。

 

リムル「ユレム……無事ていてくれよ……!」




オリキャラが増えてまいりました。八神たちのステータスは後ほど……。


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ルミナス・バレンタイン

ユレム「俺に合わせたい者?」

 

リベリオ「ええ、ただ、今はここにいないので、彼女が来るまでは城を案内します」

 

 彼女……一体何者だ? まあ良い。案内されるとしよう。それにしても、城か、随分大きい建物だとは思ったが、城だったか。

 

ユレム「よろしく頼む」

 

 それから、俺とエンティ、ディウス、アミュレの4人で城の散策を始めた。

 

 まず向かったのは、イスやテーブル、暖炉などの生活に必要なものが揃った談話室だ。

 

アミュレ「ここにはいつも誰かしらはいるわね〜、勿論、各々のしたい事をする為に別の部屋に行くことも多いけど」

 

 普段この城には八神騎士団が出入りすることもあるらしい、あまり多くはないため、普段この城を使うのは八神たちだけらしいがな。恐らく、その際に騎士の溜まり場になっていることだろう。

 

 次に案内されたのは、書庫だ。かなりの広さで、ここにある本は軽く2400万を超えるだろう。それに、魔法で気温、湿度、気圧をコントロールして本にとって最も良い状態を保っているようだ。

 

エンティ「ここの本は、人間の国の図書館の児童書から、魔導王朝の禁書まで、あらゆる本があります。もしかしたら、今のユレム様の助けになるものがあるかもしれません」

 

 魔導王朝の禁書? どうやって入手したのだ?

 

エンティ「あ、入手経路は……いろいろです」

 

 つまり聞くなと言う意味か。

 

 次は訓練所だ。訓練所というより、闘技場といった方が正確だが……。

 

ディウス「我々は、戦場を広く使って戦う者が多いので、コレくらいの広さがないと手合わせができないのです」

 

 なるほど、皆の能力故か。しかし、少々見覚えがあるものが多いな……。それに、先ほどから気づいたが、この城、巨大な立体魔法陣だ。まさか……な。

 

ユレム「1つ聞くが、この城に名はあるのか?」

 

ディウス「……ええ、ございます。この城の名、それは」

 

 ディウスが肯定し、続けて城の名を言う。

 

ディウス「魔王城デルゾゲード」

 

アミュレ「2000年前、貴方が破壊神を堕とした際に、その神体を作り替えて、この城を築いたのよ」

 

 まったく、2000年前の俺はなかなかどうして、とんでもないものを作り上げたな。それに、デルゾゲードはこの世界でも同じような方法で造られたのか……。

 

エンティ「その時は私は居ませんでしたが、凄まじい戦いだったと聞いています」

 

 当の俺も知らぬがな。だが、やはりデルゾゲードということは、理滅剣を出すこともできるのか?

 

『告、<理滅剣(ヴェヌズドノア)>を作成……

失敗しました。【魔法作成】で使用可能な魔法術式では、<理滅剣(ヴェヌズドノア)>は作成不可能です』

 

 なるほど、では、【魔法作成】を進化させることが必要不可欠か……待て、そういえば、<深撃(ゼルス)>は作成可能なのか? トウジが使っていたはずだが……。

 

『解、不可能です。

問、ユニークスキル【魔法作成】を進化させ、究極能力【深魔法作成】を取得しますか? YES/NO』

 

 可能なのか?

 

『是、条件を満たしたので、取得可能です』

 

 ならば、YESだ。

 

『究極能力【深魔法作成】を取得……

成功しました』

 

 驚いたな。条件とはなんだったのだ?

 

『解、【魔法作成】で使用可能な魔法文字を全て解放し、さらなる魔法を欲すること、そして一定以上の魔素量を持つことです』

 

 更なる魔法を欲する……<理滅剣(ヴェヌズドノア)>と<深撃(ゼルス)>のことか。では、使える文字はあるか?

 

『解、まだ魔法の熟練度が足りないため、【深魔法作成】の文字は解放されていません』

 

 なるほど、まだ使えぬか。

 

エンティ「ユレム様……?」

 

 しばらく【薫陶之王(ミネルヴァ)】と会話していたからか、皆を心配させたようだ。

 

ユレム「すまぬ、少々考え事をしていた」

 

エンティ「いえ、大丈夫ですが、貴方に会っていただきたい方が来たようですので、お越し下さい」

 

 ああ、そうだったな。では行くとしよう。

 

ユレム「分かった、案内してもらえるか?」

 

 まだこの城の全てを把握できているわけではない。分かるのは大方、城全体の2割程度だろう。

 

 そうして、向かったのは応接室だ。俺がその部屋に入ると、そこにはリベリオともう1人、銀色の髪を下ろし、赤と青の金銀妖瞳を持つ、端麗な美女がソファに座っていた。

 

ユレム「すまぬ、待たせたな」

 

???「いや、良い、2000年も待ったのじゃ、数分程度どうということないわ」

 

 彼女は、威厳のある口調で言った。

 

ユレム「それで、リベリオ、この者か?」

 

リベリオ「はい、彼女は、太陽を克服した吸血鬼(ヴァンパイア)、超克者にして、神聖法皇国ルベリオスや、西方星協会が崇める、神その人……

ルミナス・バレンタイン様です」

 

 吸血鬼(ヴァンパイア)だと? ルミナス教の教義は魔物を敵とみなしていると聞いたが……ルミナス教の神の2柱、俺と神ルミナスは、どちらも魔族だったということか? なんとも不思議なこともあったものだ。

 

ユレム「驚いたな、まさか、魔物の天敵とも言える組織の頂点が上位種族……吸血鬼(ヴァンパイア)だということか?」

 

ルミナス「まさにその通りじゃ、まあ、それに際して魔王の座を配下に譲り、ルミナス教の運営も配下に任せているがな」

 

 では、今は自堕落な生活をしているということか。

 

ルミナス「してユレムよ、妾のことはどれだけ覚えておる? 妾のことくらい、少しは覚えていよう?」

 

ユレム「悪いが全く覚えていない」

 

 キッパリと言うと、ルミナスは少々笑みを浮かべる。目は笑っていないが……シュナを彷彿とさせるな。

 

ルミナス「ほう? 唯一神たる妾とユレム、将来を誓い合い、国を正しく導くため、親愛を深めていった妾のことを忘れたのか……!?」

 

 先程ルミナス教の、もう一つの聖典、つまり唯一神の夫ユレムが出てくるモノに軽く目を通したが、全く同じようなことが書いてあったのを覚えている。おそらく、脚色9割、事実1割と言ったところか。

 

ユレム「それはすまぬことをしたな。それで、どこまでが事実だ?」

 

ルミナス「フッ、流石にバレたか、すべて嘘じゃ。お主と妾は2000年前に結婚などしておらぬわ」

 

 まったく、なかなかどうして、下手な芝居をする。

 

ルミナス「さて、本題に入るとしよう、今回来た目的じゃが、勿論お主に会うためじゃ。じゃが、それ以上に、あることを伝えにしたのじゃ」

 

 あること? 大方、テンペストで何かがあったのだろう。

 

ルミナス「その伝えたいことじゃが、クレイマンという魔王が、魔王が一堂に集まり、話し合いの場を設ける、魔王たちの宴(ワルプルギス)の開催を宣言したのじゃ」

 

 クレイマン、オークロードやカリュブディスの件の実行犯……中庸道化連と繋がっているであろう魔王か……。

 

ユレム「魔王が一堂に集まる……か、そんなこと、1人の魔王の影響力で可能なのか?」

 

ルミナス「いや、不可能じゃ。魔王たちの宴(ワルプルギス)は、発案者と2人、合計3名の魔王の同意がある場合のみ、発動が可能なものじゃ。そして、今回の魔王たちの宴の開催に同意したのは……クレイマン、フレイ、そしてミリムじゃ」

 

 なに? ミリムがだと? ミリムが賛成しているとなると……なにか面白いと感じる何かがあったのか、それとも何か別の事情か……。

 

ルミナス「これには流石の妾も驚いたわ。あのミリムが賛成しておるのじゃ、クレイマン程度に、ミリムの興味を惹かせる何かなど用意するなぞ、不可能じゃからな」

 

 どうやら、ルミナスとしてもミリムの賛成には驚いたらしい。

 

ユレム「1つ聞こう、魔王たちは集まって何をするのだ? ただ集まるだけではないだろう?」

 

ルミナス「そう、魔王たちの宴(ワルプルギス)では、発案者が持ってきた議題について、魔王たちで話し合うのじゃ。そして、今回の議題じゃが……ジュラの大森林に新たな勢力が誕生し、その盟主が魔王を僭称した事について、だそうじゃ。大方、この議題から新たな勢力の盟主、つまりお主の友人、リムル=テンペストを批判しようと言う魂胆だろう」

 

 ふむ、リムルが魔王に進化した事自体初耳だが、寝てる時に聞こえたあの世界の声も、リムルが魔王になっただのと言っていたな。

 

ユレム「それで、俺にそれを伝えて何をさせるつもりだ?」

 

ルミナス「ふ、話が早くて助かるのう。お主には、我が配下のロイの配下として、妾と共に魔王たちの宴(ワルプルギス)に参加してもらう。良いな?」

 

 ルミナスの配下のロイの配下としてルミナスと共に宴に参加する……? かなりややこしいが、たしかルミナスは配下に魔王の役をさせていると言っていた。ロイという者がが、ルミナスの影武者の魔王という訳だろう。そして、表向きではルミナスはその配下として宴に参加している。そして、俺もそれに付いていくということか。

 

ユレム「……分かった。ついて行こう。ああ、言っておくが、俺に敬語を期待するなよ?」

 

 悪戯心を含んだ笑みでそう言うと、ルミナスも挑発的な笑いを飛ばす。

 

ルミナス「ハッ、そんなこと、2000年前から知っておるわ。出会った時はまだ可愛げがあったのにのう?」




31話にして、ヒロイン初登場。なんだこの小説?


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介入

転スラを読み直していたら、なんかルミナスの口調が自分の解釈していた感じとは違いまして、とはいえユレム君ともまた違うので試行錯誤している作者です。


 魔王たちの宴(ワルプルギス)に参加するにあたり、八神たちの作った仮面と服を着ている。ルミナス曰く、正体はできるだけ隠したいそうだ。古参の魔王の一部にはバレるだろうが、それでも、切り札として俺を取り込んでおきたいようだ。

 

ユレム「なるほど、ならば貸し1つだ」

 

ルミナス「無論じゃ、出来る限りの要望は聞くぞ」

 

 魔王と貸し借りの関係とは、贅沢なものだな。そんな事を話しながら、俺は着替え終わる。

 

ルミナス「うむ、なかなか似合っておるぞ」

 

ユレム「何を言う、仮面に手袋を付けているのだ。似合っているも無かろう?」

 

 それに、なかなか窮屈だな……仮面とは。

 

ルミナス「お主こそ何を言っておる。お主の放つ雰囲気が、その服装によって増幅されておる。お主の放つ絶対的な強者の気配には、そのように簡素のように見えるが荘厳な服がよく似合う」

 

 そう言うものか? まあ良い、姿見鏡にて自分の姿を見る。これは……レイやシンが着ていた、アヴォス・ディルへヴィアの服にそっくりだった。それに……。

 

ユレム「変声効果に、魂の隠蔽効果がある。<根源偽装(ナーズ)>などを使う必要がないのは、なかなか便利だ」

 

 これを作ったエンティとフェリシオの技術力は、なんとも凄まじいものだな。シュナやガルム達と会わせてみたいものだ。

 

ルミナス「そろそろ0時じゃな、では、行くとしよう」

 

ユレム「ああ、少し待て。リベリオ、バース、ディウス、3人に、旧オーク王国、オークビックの跡地にて始まる戦の方へ行ってもらいたい。俺の配下達だ。万一にも負けることはないだろうが、死者が出そうな場合は救護して欲しい。敵味方問わずな」

 

 リムルのことだ、敵の犠牲も抑えようとするだろうが、こちらでも犠牲を少なくするように、手を打たせる。リベリオならば、回復魔法も十分に使えるだろう。それに、最悪スキルを使えば死の事象に入りすることも可能か? 2つ目は流石に分からぬが、回復魔法だけでも犠牲は抑えることができよう。

 

リベリオ「了解いたしました。ただ、介入した際に、テンペストの者に気づかれた場合は、どうすれば?」

 

 たしかに、ベニマルなどと邂逅した場合は少し厄介か。

 

ユレム「その場合、敵対行動以外ならば特に指定は無い。ただ、対立はしてくれるなよ? その為ならば、俺の名を出しても良い。尤も、俺とルミナスの関係は秘匿せよ、でなければ、俺が変装する意味がない」

 

 要は対立することと、俺とルミナスの関係(というよりも約束と言った方が正確か)を教える以外ならば、どう接してもらっても構わない。と言うことだな。

 

リベリオ「ハッ! 特にバースには気をつけるよう言いつけておきます」

 

バース「おい! 何で俺なんだよ!?」

 

 リベリオの一言に、バースがすかさず突っ込む。かなりの反応速度だな、リベリオの発言からの誤差が殆どない。

 

リベリオ「だってバース、気性が荒いじゃないですか。私と違って」

 

バース「おい、キレたリベリオに吐かれた暴言を覚えているぞ。たしか……グハッ!?」

 

 バースが何かを言おうとすると、突如バースが倒れる。リベリオだ。恐ろしく速い腹パンだった、俺でなければ見逃していただろう。

 

ディウス「まったく、我が君の前で下らない茶番をしないでください。申し訳ございません、我が君、早急に連行しますので」

 

ユレム「ああ、頼んだぞ……」

 

 ディウスがバースを抱え、<転移(ガトム)>で転移する。バースが暴れていたが、気のせいだろう。リベリオもそれに続き、この場にいるのは俺とルミナスだけとなった。

 

ルミナス「此奴ら、いつも賑やかだの。まあ良い、ではユレムよ、行くぞ」

 

 そういえば、魔王たちの宴(ワルプルギス)の会場はどこにあるのだ? それに、ルミナスの影武者もここにはいないようだな。

 

ユレム「ふむ、具体的にはどこに行くのだ?」

 

ルミナス「魔王たちの宴(ワルプルギス)は別の空間で行う。自力で行けなくもないが、迎えが来るので問題はない。妾たちが今から行くのはルーン近郊の森の中、そこに妾の影武者、ロイがいる」

 

 なるほど、森の中で待ち合わせをするのか。

 

ユレム「そうか、では案内を頼む」

 

 ルミナスについて行き、森の中にて、そうだな、例えるならば、ハリウッド男優のような容姿の大男と待ち合わせる。暫くすると、禍々しい門が出現し、中から暗紅色のメイド服を着こなした緑髪の美女が現れる。悪魔、それも通常よりはるかに強力な上位魔将か? いや、それ以上に強力だ、何者だ?

 

???「お迎えにあがりました、魔王ヴァレンタイン様、そしてその従者の方々、こちらへお進みください」

 

 ルミナスもいつの間にかメイド服に着替えており、ロイを先頭に門をくぐる。

 

…………

 

 今は無き、オーク王国、その跡地であるオークビック跡には、3つの勢力があった。魔王クレイマンの5本指が筆頭、中指のヤムザが率いる軍勢。テンペスト、その侍大将たる大将、ベニマル率いる軍勢、そして、たった3名、というより、3柱の神、その総戦力はクレイマンの軍とテンペストの軍、その2つを総合しても及ばぬだろう。そんな3柱の神々の目的は1つ、主たるユレムの命令通り、なるべく犠牲者を減らすことである。そして、眼科にて繰り広げられる戦は、戦争とはとても言えない、ただの蹂躙であった。

 

リベリオ「クレイマンの軍勢はまんまとリムル=テンペストの軍の策に引っ掛かったようですね。まあ、そちらの方が仕事が少なくて助かりますが」

 

 リベリオは、このままでは死ぬが、まだ助けられる者。がいれば助けに行くが、それ以外には見向きもしない。とはいえ、大体が即死なので、介入の余地は殆どなかったが。

 

リベリオ「わざわざバースやディウスを連れて来ずとも、私1人で十分でしたね」

 

バース「だな。骨のありそうな奴はいねぇ、いても支配できそうにはないな」

 

 バースは、自身のスキルにて、支配できそうな優秀な手駒はないかと探しているが、テンペストの軍勢の者は誰もが別の誰かに強い忠誠を誓っているためスキルが効かない。クレイマンの軍勢はそもそも骨のある者がいない。

 

バース「チッ、いっそ暴風大妖渦(カリュブディス)でも出てきてくれりゃあ面白いんだがなぁ」

 

ディウス「理想論は語るだけ無駄ですよ。我が君が我々をここに遣わせたのも、ただの保険でしょう」

 

バース「そうだろうがよぉ……」

 

 バースはつまらなさそうに戦いの様子を見る。魔王カリオンの三獣士、アルビスとヤムザの戦いだ。アルビスが押している……というより、勝負はすでについているようで、別の場所に移そうとしたその時……。

 

バース「おいおい、ありゃあ……!」

 

 膨大な魔素が放出されながら、ヤムザの身体が大きく変化しながら膨張している。

 

ディウス「ほう、バースの理想が実現するとは……明日は火山が噴火しますね」

 

 よっぽど珍しいことなのだろう。通常あり得ないだろう事を予報する。

 

バース「災害神だからな、全然いけるぜ?」

 

 バースに限り、それは実現可能だったが。

 

リベリオ「しかし、どうしますか? まだ完全体では無いようですから、ここの者でも対処可能でしょうが……」

 

ディウス「一先ずは様子見を……」

 

バース「俺の眷属にしてやる。今は不安定だが、後でちょちょいと加工すれば安定してその状態を維持できる。それに、俺の支配下にあればその暴虐的な力を効果的に使える」

 

 バースの言葉を聞き、リベリオとディウスは呆れ果てる。

 

リベリオ「それでは確実にあの者たちも無視しないでしょう」

 

バース「だが、会うなとは言われてねぇだろ。対立しなきゃOKだ」

 

ディウス「まったく、それはやむを得ない場合でしょうに……」

 

 2人に止められては、流石にバースも動くわけにはいかない。嫌そうだが、傍観を選ぼうとするが……。

 

リベリオ「いや、まて、今ここで実力を見せれば、彼らも今後の油断がより少なくなるか……? 仕方ありませんね、バース、行っていいですよ。ただし、彼らに実力差を見せなさい。自分たちの力ではまだ足りないと思わせるのです」

 

バース「あ? 何で急に……ああ、そういう……分かった、力を見せつけてくりゃ良いんだな?」

 

 そう言ってバースは、ベニマルの暴風大妖渦(カリュブディス)に対する攻撃を防ぐ。

 

ベニマル「な!? 貴様ら……ずっと遠くからみていた奴らか」

 

バース「なんだよ、気づかれてたのか、まあいい、ちょいとこいつが完全体になるまで待っててくれや」

 

ベニマル「聞くと思うのか?」

 

 ベニマルはバースに向かって斬りかかるが、バースは魔法も使わず、手も出さずにその神の覇気のみで攻撃を防ぐ。

 

リベリオ「【神族覇気】ですか、確かに格下の攻撃なら無効化できますが……それ程格下じゃなかったらどうするんですか……これでは、力を見せつける。ではなく、ただの舐めプでしょうに……やはりアホですね。まあ、結果オーライなのでよしとしましょう」

 

 リベリオが分析する間にも、暴風大妖渦(カリュブディス)は完全体に近づいていく。

 

バース「来た……! ただの暴風大妖渦(カリュブディス)じゃねぇ、氷結の魔剣を取り込んだ事で、周りの熱を奪う力を手に入れた……暴風大雹渦(カリュブディス)って言ったところか」

 

 暴風大妖渦(カリュブディス)、改め、暴風大雹渦(カリュブディス)は、完全体となり周囲に厄災をばら撒く……はずだった。

 

ベニマル「おいおい……ウソだろ?」

 

 暴風大雹渦(カリュブディス)が力を振るう前に、バースは暴風大雹渦(カリュブディス)を支配し、自身が支配した厄災たちを封じ込める空間に送り込んだ。

 

バース「ふう、支配完了っと、さぁて、これ以上戦いもなさそうだし、これで帰るのかねぇ?」

 

ベニマル「おい、お前……」

 

 ベニマルが満足そうな顔をしたバースに声をかける。

 

バース「あ? どうしたよ」

 

ベニマル「貴様は何者だ? いや、貴様ら、と言った方が良かったか」

 

 ベニマルは臨戦体制になり、バースを最大限警戒しながら質問する。

 

バース「へぇ、良い目持ってるな。リベリオ、ディウス、お前ら気付かれてるってよ」

 

リベリオ「寧ろ、気づかれてないと思っていたのは貴方だけでは? さて、このバカは放っておいて、我々が何者か……ですか、そうですね、いずれわかる、とだけ言っておきましょうか」

 

 リベリオが丁寧な態度で誤魔化す。

 

ベニマル「そんな誤魔化しが許されると?」

 

 しかし、リベリオ達は既に、多くの者達に囲まれていた。紅炎衆(クレナイ)の者達だった。<転移(ガトム)>を使えば容易に退散することは可能だろうが、それは得策とはいえない。

 

リベリオ「(このままでは敵対してしまいますね。確かに、このベニマルと言う者が、この中では圧倒的に実力を持っています。そんな彼を相手に舐めプで戦い無傷、相手からすれば十分な脅威でしょう)仕方ありませんね、少しだけ、教えて差し上げます。まず、我々は貴方がたと敵対する気は毛頭ありません。その上で聞いていただきましょう。我々は……ユレム様の命でのみ動きます。我々を動かせるのは、ユレム様のみです。信じるか信じないか、それは貴方がたに委ねますが、今回ここに来たのも、ユレム様の命です。本来なら貴方がたには直接干渉せず、戦が終わったらすぐ帰るつもりでしたが、そこの阿呆がやらかしたので……」

 

 その話を聞き、ベニマル達は驚愕する。行方不明となっていたユレムの指示しか受けぬ集団が、ユレムの指示によってここに来ていたの言うのだ。そうしていると、3人はすぐに消えてしまった。自らの主人であるユレムがよく使っていた転移魔法を使って……。



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魔王たちの宴

遅れましたああああ!!!! 実は、今回ユレムが殆ど実況しかしてないので、これ面白いか……? って自問自答しながら書いてて、笑っちゃうほど遅くなりました。


 門をくぐり、先へ進むと会場に出る。そこには円卓がある。12席あり、10名の魔王とリムルで1席……ああいや、カリオンが行方不明と言っていたか? となると2席余るわけだ。すでに何名か座っているな。妖艶な赤髪の男……体つきで男と分かるが、そこを考慮しなければ男女の判別がつきずらいな、あれがギィ、最強最古の魔王。それと金色に輝く妖精、ラミリスだったか。バース以上の大きさの巨人、ダグリュール。そして、末席にリムルが座っている。

 

 ロイがラミリスの隣に座る。すると、リムルがこちらを見る。解析をしているのか。

 

『告、複数の者に解析鑑定を行われましたが、【スキル耐性】により抵抗(レジスト)に成功しました』

 

 ふむ、確かルミナスの話だと、古参の魔王は2000年前の俺を知っている者も居るらしい。その者が気づいたか? 見たところリムルにはバレてはいないようだな。それにしても、リムルも前より遥かに強くなっているな。魔王に覚醒したんだったか、魔素量は前の10倍以上に跳ね上がっている……いや、リムルにヴェルドラの存在を感じない……? そうか、【大賢者】が進化したのか、それにより演算能力が向上し、【無限牢獄】の解析の時間を大幅に短縮できた……大方そんなところか。

 

 そうしていると、他の魔王たちも集まってくる。やはり各々がかなりの実力を有している。金髪の魔王、レオンがリムルと何やら話をしていたな……シズ関連だろうが、何を話していたのだろうか? ふむ、ダグリュールの隣が空いているな。カリオンか? いや、それとは別で空いている席がある。まあ良い。すると、最後にクレイマンがミリムを連れて現れる。ふむ、操られているようには見えないが……。

 

『解、個体名:ミリム=ナーヴァに対する呪法を解析……呪法は確認できませんでした。個体名:ミリム=ナーヴァは、呪いやスキルによる干渉は受けていないものと推測』

 

 やはりか……するとクレイマンが口を開く。

 

クレイマン「さっさと歩けッ! このウスノロがァ!」

 

 ミリムに対して怒鳴りつけ、ミリムの頬を殴ったのだ。それを見て、会場の者の殆どが目を見開く。ルミナスでさえ驚きで目を見開いている。他にも周囲を見回すと、クレイマンを睨みつける者も何人かいる。リムルもその1人だ。

 

 まったく、クレイマンも馬鹿なことをする。自身の力を示したつもりだろうが、あれではただ他の魔王のヘイトを買っただけだ。さらにはミリムの支配も出来ていないときた。このまま見ていれば勝手に滅びゆくだろう。

 

 そうこうしたいると、魔王たちの宴(ワルプルギス)が開宴され、クレイマンの演説が始まる。学校の授業のような眠気を感じる。欠伸をしそうになると、ルミナスに脇腹を殴られる。すぐそこで円卓に突っ伏して眠っている魔王もいるというのに、何故だ……。

 

ユレム「(まったく、寝てもいいだろう。どうせ仮面でバレはせぬ)」

 

ルミナス「(阿呆、そう簡単にこの魔王たちの目を誤魔化せたら苦労せんわ)」

 

 <思念通信(リークス)>で話す。ルミナスは2000年前に教えてもらったそうだ。

 

 さて、リムルが動いたな。リムルが出した映像には、オークロードの時のゲルミュットから、今までの事変が映し出された。そして、リベリオ達に向かわせた戦の地で、クレイマンの配下がカリュブディスとなり、それをバースが封じていた。何をやっている……? わざわざベニマルの攻撃を邪魔してまで……。

 

 少々呆れていると、シオンとランガにリムルが、クレイマンの配下たちとミリムを相手に戦うことになっており、円卓は消えていた。リムルが食ったか? リムルが数的不利を悟りラミリス配下の悪魔を呼ぶが、ギィの作った結界により分断される。そうして戦闘が開始するが、ミリムの存在が大きいな、それによりシオンがクレイマンと人形を同時に相手している。ミリムがいない、又はミリムの代わりに別でもう少し弱い者が出てきていたならば、戦況は遥かに変わっていただろう。

 

 そんな中、ラミリス配下の悪魔がギィを説得し、戦いに参戦する。数的不利は無くなったが、やはりリムルにミリム相手は難しいか、苦戦中である。だが、打開策として、おそらく【暴食者(グラトニー)】が進化したものであろうスキルで、ミリムの力を喰らう作戦に出た。が、力が若干鈍るのみのようで、大した効果にはなっていなさそうだ。効果がある以上、このまま続ければいずれリムルが勝てるかも知れぬ。だが、戦いとは移り行くものだ。リムルがミリムの撒いた罠にかかり、モロに攻撃を喰らう……

筈だった。

 

???「グアああああ!!!! な、なんだ!? いきなり酷いではないか!」

 

 突如現れたそれは、金髪に褐色の肌、そしてどことなくリムルの面影を感じさせる男だった。もしや……?

 

リムル「おいヴェルドラ、何でここに出てきたんだ!?」

 

 やはり、ヴェルドラか、ふとルミナスの方へ目をやると、驚き半分に怒り半分という表情で目を見開いている。

 

 どうやら、ヴェルドラがここにきた理由は、マンガがいいところで終わっていたからだそうだ。気持ちはわかるが……。まあ良い、そこからはミリムの相手をヴェルドラが行う事で形勢を逆転させた。九頭獣(ナインヘッド)の無力化、あの悪魔によるクレイマンの魔法人形の解体、そして、シオンによるクレイマンの圧倒。クレイマンは負けを悟り、ミリムに【狂化暴走(スタンピード)】を支持する……。が、

 

ミリム「なんでそんな事をする必要があるのだ? リムル達は友達なのだぞ?」

 

 やはり、操られてはいなかったようだ。一安心したところで、俺はあることを思い出す。

 

ユレム「そういえば、トウジに剣を折られたままだった、用意せねばな……」

 

 <創造建築(アイビス)>で作る事も考えたが、あれでは大した剣は作れない。材料までならば殆ど完璧なのだが……。俺自身があまり剣の構造について詳しく無い為か? もしかすれば深化すれば込められる魔素(エネルギー)も大きくなる為、もう少しマシな出来になるかもしれぬが。

 

 ふむ、俺が思案している間に、なにやら色々進んでいるようだ。カリオンの変装も解けている。ミリムも、以前にリムルがプレゼントしたドラゴンナックルをつけている。獣王国の復興の目処もたった所で、クレイマンに最期の刻が近づきつつあった。

 

 突如、クレイマンから膨大な魔素が溢れ出す。クレイマンは進化した、真なる魔王では無いが、多くの魂を魔素に変換した事により、魔王種を超え得る存在に。しかし、それでもリムルには届かない。抵抗虚しく地に伏した、そうして、リムルによって魂ごと喰われる……。が、

 

 俺は<根源保護(ミリカ)>を使いクレイマンの魂を保護、それと同時に<時間操作(レバイド)>によってクレイマンの時間を止め、こちらに持ってくる。リムルの作った【隔離戦域】には糸ほどの隙間を通し、こちらへ持ってきたクレイマンの魂を、<次元牢獄(アゼイシス)>に送り込み、終了だ。無論、今行った全ての魔法は<秘匿魔力(ナジラ)>によって秘匿されている。ルミナスからは……案の定バレていそうだ。なぜだ……。

 

リムル「……?」

 

 リムルも若干訝しんでいるように見える。あとギィにも見られている。が、すぐに目線を戻し、リムルが魔王になることを認めた。各々が感想を述べる中「ロイが下賎なスライムなどが……」と言うとヴェルドラがこちらに移動してくる。

 

ヴェルドラ「ほう、下郎、我が友を侮辱するか? おいミルスにユレムよ、従者の躾がなっておらんぞ。我が教育してやろうか?」

 

 ルミナスの顔が若干引き攣ったようになるが、すぐに氷のような無表情になる。あとミルスとは誰だ。

 

ルミナス「何の話でしょう? 私は魔王ヴァレンタイン様の忠実なる侍女であり、こちらは執事ですが?」

 

 俺が変なことを口走る前にと思ったのか、ルミナスが俺の事もフォローする。

 

ミリム「おいダメだぞ! バレンタインは正体を隠していて、恐らくユレムの存在も秘匿しているのだ。ヴェルドラよ、それを言ってはダメなのだ!」

 

 その、言ってはダメな事をミリムは自身の口で言っているわけだが……。ルミナスから黒い妖気がドッと溢れる。

 

ルミナス「チッ、忌々しい邪竜め、どこまでも妾の邪魔をするか……。それに貴様、妾の名まで忘れたか。本当に、人を苛つかせるのが上手いものよ。ユレム、もう良い」

 

ユレム「そのようだな」

 

 俺は仮面を外し、刹那のうちに普段の服へ着替える。

 

ユレム「久しいな、リムル。それと正しくは、ミルスでは無い。ルミナスだ」

 

 リムルがこちらを見つめる。

 

リムル「ユレム! 良かった、無事だったんだな……!」

 

ユレム「ああ、すまぬな、心配をかけた。街の皆は元気か?」

 

リムル「ああ。だけど、皆んなユレムのことを心配してる。この魔王たちの宴(ワルプルギス)が終わったら、テンペストに来てくれ」

 

 リムルの言葉に頷く。

 

 その後、ロイが戻り、カザリームのことやカリオンとフレイの魔王の席の返却があった。するとルミナスがこんなことを口走った。

 

ルミナス「ユレム、お主魔王にならぬか? いや、正確には魔王に復帰せぬか? どこぞの邪竜のせいで元の計画は白紙になったが、お主が魔王となり、妾と同盟を組めば、元の計画の代わりにはなる」

 

 なるほど、先の約束の代わりか。俺としては構わぬが……。

 

ギィ「俺は構わないぞ? あのユレムが復帰するとなりゃ、俺としても面白い」

 

ミリム「ワタシも賛成だぞ!」

 

 ギィ、ミリムに続き、主に古参魔王の受諾を得て、トントン拍子で俺が魔王になる。

 

リムル「待ってくれ! 復帰ってなんだ? それじゃ、ユレムが昔に魔王だったみたいな言い草じゃ無いか!」

 

ユレム「リムル、お前は知らなかったな。俺も最近知った話だが、2000年前、ユレムの名を持つ魔王がいたらしい。その者が、俺と同じ魔法を使っていた。何かしらの理由で転生したのだろう。そうしてお前と出逢った」

 

 リムルは驚きを隠せないようだ。それもそうだろう。

 

リムル「そうか……」

 

 少々納得のいかない様子だな。まあ、仕方ないだろう。

 

ユレム「とはいえ、俺とお前の関係は変わらぬ」

 

 俺は、ギィの配下のメイドに案内され、空いていたダグリュールの席の隣の席に座った。すると、ふとリムルがこんなことを言う。

 

リムル「そうか、もう十大魔王じゃなくなったのか」

 

 その言葉に魔王達がぴくりと動く。

 

ダグリュール「困ったな、威厳的な問題で、また新たな名称を考えねばなるまいよ……」

 

ルミナス「幸いにも、いまは魔王たちの宴の最中、ここに全魔王が揃っているのだし、よい知恵も浮かぶと言うものよ」

 

 何を言っているんだこの者どもは……と考えていたが、どうやら魔王の人数がよく移り変わり、弱いものから死んでいく為、気づいた時には既に魔王の上限は10人となっていたらしい。また、人数が変わるたびに名称を変えるが、なかなか決まらず、何度も魔王たちの宴(ワルプルギス)を開くこととなり、気づいた時には人間が勝手に決めているそう。漫才か何かか?

 

 ラミリスが「九大魔王」と言いかけると、無言の圧力でかき消される。身勝手どもめ……。ギィの一言で協調性を見せるかと思えば、一瞬で崩れ去る。そんな中、ヴェルドラがリムルに話を振る。たしかに、いままでに何万体もの魔物に名前をつけてきたが、途中からナンバーをつけ始めたからな。だが、実際真面目につけた者に関してはなかなかネーミングセンスは高い。ラミリスなども賛同し、リムルが決めることとなった。何やらギィが囁いていたが、気にしないほうが得だろう。

 

 暫くリムルが思案する。

 

「"九星魔王(エニアグラム)"なんてどうだ?九芒星から連想したんだけど……」

 

 反対は無さそうだ。そうして、新たな魔王の呼び名が決定した。

それは九星魔王(エニアグラム)

 

悪魔族(デーモン)……"暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)"ギィ・クリムゾン

竜人族(ドラゴノイド)……"破壊の暴君(デストロイ)"ミリム・ナーヴァ

妖精族(ピクシー)……"迷宮妖精(ラビリンス)"ラミリス

巨人族(ジャイアント)……"大地の怒り(アースクエイク)"ダグリュール

吸血鬼(ヴァンパイア)……"夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)"バレンタイン

堕天族(フォールン)……"眠る支配者(スリーピング・ルーラー)"ディーノ

深魔族(ディープデモン)……"暴虐の魔王(キング・オブ・デストラクション)"ユレム=テンペスト

人魔族(デモンノイド)……"白金の剣士(プラチナムセイバー)"レオン・クロムウェル

妖魔族(スライム)……"新星(ニュービー)"リムル=テンペスト

 

 以上だ。俺の支配地はデルゾゲード周辺だそうだ。

 

…………

時は遡る

 

 魔王たちの宴の会場に入った俺は、そこにいる者たちの解析を行う。だが、1人だけ何も分からなかった奴がいた。ソイツは、黒いロングコートを着て、怪しげな仮面をつけており、ヴァレンタインの後ろに立っていたことから配下だとわかる。ソイツに関しては、解析を行なっても抵抗される。妖気も完璧に抑えてるし、何も分からなすぎて怪しげな奴だった。

 

 【暴食之王(ベルゼビュート)】でクレイマンを喰った。のだが、

 

『告、クレイマンの物質体(マテリアルボディ)、及び魔素化された魂は捕食に成功しました。ただし、クレイマン本人の精神体(スピリチュアルボディ)星幽体(アストラルボディ)の捕食に失敗しました。何者かに妨害、及び回収された可能性があります』

 

 なんだと? となると、元々と同じ程度の力で、生き返る可能性があるってことか……?

 

 あの怪しい男、ユレムだった。良かった……。でも、2000年前にユレムがいた……? どう言うことだよ。それに同じ魔王か、ところで、ユレムには二つ名的なのあるのに、俺だけ無い……。




暴虐の魔王のルビ考えるのも色々悩みまくりました。直前まで、暴虐の魔王(キング・オブ・バイオレンス)だったんですが、暴力の王ってなんか違うな……ってなって、暴虐の魔王(キング・オブ・デストラクション)で、破壊の王になりました。どちらかと言ったらこっちの方があってるかなって。

以上、制作裏話でした。ほかにも話すことがあったら後書きに書くかもです。

 【スキル耐性】自身へのスキルを自動で抵抗(レジスト)する。ただし、黒炎獄(ヘルフレア)のような放出系のスキルには効果がなく、【解析鑑定】や【魂喰】【傲慢之王(ルシファー)】のコピーなどに効果がある。ただし、メリットばかりではなく【色欲之王(アスモデウス)】の回復も抵抗(レジスト)する。


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報連相

 最近、ホグワーツレガシーをやっていまして、アバダケダブラを撃つのが楽しいです。それの影響か、ハリーポッターの二次創作書きたいなぁと……。と言っても、ハリポタストーリあんまり覚えてないので、勉強し直さないとなので、まだ計画は白紙です。

あと、今回のタイトルは思いつかなくて、てきとーにつけたので、ごよーしゃください


 魔王たちの宴(ワルプルギス)の会議が終了したので、俺はルミナスと共に帰ることにした。リムルはこのまま残り、茶会に参加するようだが。

 

ユレム「近いうちにテンペストに戻ろう。またな」

 

リムル「分かった。皆んなも心配してたから、きっと喜ぶ。またな!」

 

 リムルに挨拶をした後、元の森に戻る。

 

ルミナス「では、妾はこのままルベリオスに戻る。また会うのを楽しみにしているぞ」

 

 ルミナスとも別れ、俺はデルゾゲードに転移する。すると、リベリオ、ディウス、バースの3人が跪き、待っていた。

 

リベリオ「お帰りなさいませ、ユレム様、先のご命令の件ですが、テンペストの将と接触してしまいました。明確な敵対は防いだものの、バースが一時交戦を。申し訳ございません」

 

 その様子は見ていた。リムルが映したものをだがな。明確に敵対したわけでは無いようなので、軽く注意だけはしておこう。

 

ユレム「全面的な争いは防いだのだろう? ならば良い。だが、注意しておけよ?」

 

 バースの方を見ながら言う。

 

リベリオ「はっ……!」

 

バース「寛大な御心、感謝します」

 

 3人に顔を上げさせる。

 

ユレム「それと訊くが、テンペストの力量、特に将と言える者はどう見えた?」

 

 訊きたかったことを訊く。ベニマルたちの今のレベルの事だ。

 

ディウス「軍としてみれば、皆がかなりの技量を持つ、十分優秀と言えるでしょう。事実、将兵に至っては、仙人程度なら勝利できる実力はあります。ただ、八神騎士団の各部隊の隊長相手では少々分が悪いように思えます」

 

 なるほど、八神騎士団の団員は全員が仙人に至っている。確か、特殊な訓練法を用いているのだったか。前に、その訓練法を聖騎士団(クルセイダーズ)にも組み込まないのか問うたところ、神であるリベリオたちがいなければ行えない上、1度に行える人数も限られる為、今の88人が最善なのだと言う。そうでなければ、個々の練度が落ちるのだそう。

 

 話が逸れたな。八神騎士団の仙人たちを複数人相手しては、流石のベニマルたちでも厳しいのか。それに、隊長たちは仙人の上位から聖人レベルの実力があるらしい。聖人、覚醒魔王と同等と言われているが、正直トウジからは覚醒魔王であるリムルやルミナスほどの力は感じなかったが……。だが、確かにベニマルたちでは彼の相手は少々厳しいか?

 

ユレム「もう1つ、気になることがある。トウジは聖人なのか?」

 

リベリオ「トウジは、種族上は聖人です。ただ、完全ではありません。完全な聖人とは、完全な精神生命体。仙人は半精神生命体ですから、トウジは……いや、トウジを含めた八神騎士団の聖人は、半精神生命体でありながら聖人、少々中途半端な位置にあります」

 

 道理で、だな。今の俺やリムルは、精神生命体、肉体の限界を超えた動きが可能(俺はまだ肉体の限界には至っていないようだが)だ。トウジたちは肉体から離れきれていないと言うことか。

 

ユレム「なるほど、理解した。近いうちに、もう1度話さねばな……」

 

 3人が訝しむ。

 

リベリオ「と、言いますと?」

 

ユレム「ああ、そうか、そこから話さねばならぬか。会議室に八神を集めよ。そこで詳しく話す」

 

 そう命じ、会議室へ向かう。少々待つと皆がくる。

 

エンティ「話し……とは?」

 

 席に着くと、単刀直入に訊かれる。

 

ユレム「ああ、先ほどの魔王たちの宴(ワルプルギス)でな、元の計画では、俺の存在は隠し通すつもりだったのだが、少々不都合があってな、俺が転生したことが知られた上、俺が魔王になった。丁寧に席を開けておかれていてな」

 

 こうなるのだったら、初めから俺を連れて行かなければ良かったのではないか? とも思ったが、おそらく抑止力として誇示するために連れて行ったのだろう。

 

 俺の存在に気付くもの、つまりギィなどは2000年前の俺を知っている。だから抑止力として機能する。

 

 気付かぬものは、解析鑑定などが一切効かぬ俺を、ある程度は警戒するだろう。俺とて警戒する。リムル曰くだが、正体が俺だと知るまでは警戒していたそう。分からぬとはそれ程不気味なものなのだ。

 

 そして、解析などを行わないものは抑止力も何も無く、敵対する危険性が無いと判断できる。と言ったところか? 

 

 仮にこの考えの上でルミナスが動いていたとして、俺を知るものへの抑止力となるのは、2000年前の俺がよっぽどの事を行なっていたからなのだろう。なにせ二つ名が『暴虐の魔王(キング・オブ・ディストラクション)』だ。何をしたのだか……。

 

メア「そう……それじゃあ、仮面で正体を隠す必要はなくなった。と言うことね?」

 

ユレム「ああ、そうだ。それと、支配する地域が与えられた。それがここ、デルゾゲード周辺だ」

 

 机に俺の領地のジオラマを建てる。その領地は、デルゾゲードとその城下にある、八神騎士団が寝泊まりする宿舎が1割を占める程度の土地だ。位置的にはルベリオスの南端の土地を一部拝借した形になる。それも、殆どが草木が生えていない土地だ。東のイングラシアに面している土地はそこそこ栄養がありそうだが……。

 

フェリシオ「あんまり良い土地じゃ無いよね。2000年前はもう少し広かったし、作物も育ったんだけど……災害で枯れちゃって……あの時ほどバースを呪った事はないね」

 

バース「おい」

 

 もう少し広かった? おそらく、今のイングラシアの土地の一部を俺が持っていたのだろう。だが、元々は作物も育ったと言うことは……。ある程度整えれば十分作物を育てられる土台はあるはずだ……。

 

ユレム「この領地の運営は後々考えるとしよう。今は八神騎士団についてだが……」

 

アミュレ「ああ、確かに、いきなりこの土地を魔王が支配し始めたらビックリしちゃうわね〜」

 

 危機感を感じているのか分からない声色で、アミュレが俺の言わんとしている事を代弁した。

 

セラス「ビックリどころじゃ無いんじゃ……?」

 

ユレム「そう、単に驚くだけならまだ良い。だが、八神騎士団が俺に戦いを仕掛けてくる可能性がある」

 

 彼らからすれば、魔王が突如として現れ、城を奪って行ったのだ。武力行使できてもおかしくは無いだろう。

 

メア「多分、そこまで心配しなくても大丈夫だと思うわよ?」

 

 ほう?

 

ユレム「どう言うことだ?」

 

メア「神殿騎士団で功績を挙げたものは、より位の高い騎士団へ入団できる。それは、聖騎士団(クルセイダーズ)だったり、八神騎士団だったりする。でも、その前に必ず、ルミナス教の聖典の、裏の章。つまり神ユレムが登場する章ね、それを読むことになる。その上で、どこへ入団するかを選ぶ。神ユレムは、神ルミナスよりも、魔物に対して寛大だった。知恵ある魔物は人と同じ土俵で、善し悪しを天秤にかけるべきだと言った。最終的には、神ユレムと神ルミナスは喧嘩別れした。魔物を絶対に許さない神ルミナスと、魔物と人間の関係を近づけようとした神ユレム。初めは夫婦として仲睦まじかった2人の意見の相違を書いたのが、聖典の裏の章。八神騎士団とは神ユレムを信仰する。だから、聖騎士団(クルセイダーズ)などに比べて、魔物に対しても赦しを与えることを積極的に行う者も多い。だから、意外とユレムの事も受け入れられるかもしれないわよ? 邪悪な存在で無いと分かってもらえれば……」

 

 なるほど、戦わずして和解する道もありえるのか。だが……何故ルミナスはわざわざ裏の章など用意した? そんな事をすれば、ルミナス派とユレム派で争いになりかねないと言うのに……。

 

ユレム「そうか、では、次彼らがここへ戻る時にでも、話してみようか。集まってもらって感謝しよう。解散して構わぬ、それと、明日テンペストへ向かう。付いてきたい者はいるか?」

 

 エンティとセラスが手を挙げる。

 

エンティ「テンペストはかなり発展して来ているとのことでしたから、そこに住む根源たちの輝きを……」

 

 エンティが言い切る前に、声がフェードアウトしていった。周りから胡散臭いものを見るような目で見つめられている為だろう。

 

エンティ「その……いろいろ、見てみたかったんです……その、食事とか……」

 

セラス「エンティったら、最初から正直に言いなさいよね〜。因みにワタシは甘いものが食べたいわ!」

 

 エンティは少々恥ずかしそうに、セラスは元気一杯に言う。

 

ユレム「分かった。ではエンティとセラスとの3人で、明日の朝にテンペストに向かう。リベリオ、八神騎士団が戻って来る様なら<思念通信(リークス)>で教えてくれ。すぐに向かう」

 

リベリオ「承知いたしました」




実はちょっと八神出したの失敗だったかな? って思ってたり、誰かを立たせようとすると誰かの影が薄くなる……むずいです。


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新たな武器

今回は少ないです。丁度いい区切りがここしかなかったんや……。


 会議が終了した後、俺は城の西のほとんど緑のない地域に来た。そこに降り立ち、先程回収したクレイマンの魂を出す。

 

ユレム「<蘇生(インガル)>」

 

 クレイマンの肉体が現れる。

 

クレイマン「……ッ!? ここは、一体……?」

 

 かなり混乱している様子だな、それもそうだ。奴の記憶は、肉体が喰われた瞬間に止まっている。死んだと思った瞬間、気づけばこんな所にいたのだ。

 

ユレム「よう。気分はどうだ?」

 

 クレイマンがこちらに気づく。

 

クレイマン「貴様は……一体何者だ?」

 

 ふむ、意外だな。俺のことは知っているものだと思ったが……。

 

ユレム「ユレム=テンペストと言えば分かるか?」

 

クレイマン「ユレム……行方がわからなくなったと聞いたが……」

 

 俺のことは知っていたようだな。

 

ユレム「さて、別にお前を滅ぼしたりするつもりはない。実はな、先日使っていた刀が折れてしまってな、新しい武器を探していたのだ」

 

 クレイマンは頭に疑問を浮かべている。

 

クレイマン「なんの話だ……!」

 

ユレム「そこで丁度いい者が居てな。それがお前だ、クレイマン」

 

 クレイマンの疑問は依然消えないようだ。

 

ユレム「俺は魔法が得意でな、対象の体を変異させる魔法などもある。それを使い、肉体を武器に変えると言うことも可能だ。尤も、その剣の能力は変異させた者の肉体の能力や保有している魔素量、獲得しているスキルに依存する」

 

クレイマン「……まさかッ!?」

 

 やっと理解したようだな。そう、俺はクレイマンを武器にする。魔王種を獲得する程の魔素量やスキル、コレが剣の性能となれば、特質級、その中でもそこそこ高い性能を誇るだろう。

 

ユレム「つまり、お前の仲間が俺に敵対するようなら……」

 

 全て告げる前に、クレイマンの顔には絶望を浮かぶ。

 

クレイマン「やめろ……!」

 

ユレム「<身体変異(アテネス)>」

 

 クレイマンは声にならぬ悲鳴を上げ、抵抗もできず、身体が剣に変わっていく。その剣は、白を基調とし、黒い装飾が付いた無骨な片刃の剣だ。

 

 【魔眼】にて剣を視る。かなりの魔素量だ、それに、この剣の力として、クレイマンのユニークスキル【操演者(アヤツルモノ)】を操ることができるようだ。

 

ユレム「銘をつけるならば、傀儡剣クレイマンとでもいったところか」

 

 魔素が持っていかれる。名付け判定になったのか……。この場合、剣としてではなく、元のクレイマンはどうなるのだろうか? いや、俺やリムル、ヴェルドラのテンペストのような、ファミリーネームという判定か。

 

ユレム「まあ良い、城に戻るとしよう」

 

 <転移(ガトム)>にてデルゾゲードに戻る。すると、フェリシオが立っている。

 

フェリシオ「あ、ユレム様、皆んなが玉座の間にユレム様を連れて来てだって……」

 

 駆け寄ってくる。玉座の間? 一先ずすぐに向かう。すると、八神が揃っているな。

 

リベリオ「ああ、お待ちしておりました。こちらへ……」

 

 案内されるがままに玉座のそばに行くと、玉座を【魔眼】にてよく見てみると、なにやら魔力の流れがある。それもかなり暴力的で膨大な……。

 

アミュレ「これは、このデルゾゲードの魔力。デルゾゲードの核となるもので、コレを操るということは、このデルゾゲードを操ることになるの」

 

 なるほど……そう簡単に操れる代物でもなさそうだが……。

 

ユレム「コレを操れと?」

 

 無論可能だがな。

 

ディウス「ええ、元々貴方の物ですから。それに、コレがデルゾゲードの全てではありません」

 

 元々俺の物……か。

 

 その魔力に手を伸ばし、自身へ取り込む。

 

『告、膨大な破壊の力を確認、制御を行います……

成功しました。究極能力【深魔法作成】に統合……

成功しました。新たな魔法術式を獲得しました』

 

 なんとも、仕事が早いな。周りを見ると、皆驚いた顔だ。

 

エンティ「さすが……ですね、私たちが7等分しても、初めは管理に手こずっていたものを、こうも簡単に……」

 

リベリオ「それが、ユレム様ですからね」

 

 【薫陶之王(ミネルヴァ)】が優秀でな。いずれ、自分だけの力で管理出来るようになりたいが……。そうすれば、【薫陶之王(ミネルヴァ)】を、より効果的な場所に温存しておける。そういえば……。

 

ユレム「エンティ、今、コレを管理していたと言ったな? それはディウスも同様か?」

 

エンティ「え……? は、はい、魔法の得意不得意で割合は変えていますが……手こずったとは言え、ここ数百年では、完全に無意識で管理ができるようになっていましたね」

 

 なるほど、だとしても多少の負担はあったはずだ。ディウス、あの時、彼はいわば、両手両足に軽めとは言え重りを装着していた状態だ。王として、超えねばな。




Q:デルゾゲードの魔力を渡すのなら何故ユレムが来てすぐでなく、魔王たちの宴(ワルプルギス)が終わってからなのですか?
A:忘れてt……無意識下で管理していたので、玉座に保管するのに時間がかかってました。常にやってることをやらないようにするの難しいっていうアレです。心臓の鼓動とか。

傀儡剣の見た目ですが、絵心がないので、描きません。


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帰還

以前の話の後書きなどで書いたユレムのステータスのところ、そこの「◾️◾️◾️◾️の種」を「◾️◾️◾️◾️の胚」に変えさせていただきました。


 翌朝、エンティとセラスの3人でテンペストの近くへ転移した。少し進めば街道と、テンペストの街並みが目の前に広がる。大した時間離れてはいなかった筈だが……懐かしいな。

 

エンティ「凄いですね……人と魔物が共栄している。魔物の国というだけあって、住民という意味での人間はまだいなさそうですが……このまま発展すれば、いつか住みたいという人も出てくる筈です」

 

 エンティが目を輝かせる。

 

ユレム「さて、俺はリムルに会いに行くが、セラスとエンティはどうする? 問題を起こさなければ、自由に観光していても構わないが」

 

 別に護衛というわけでは無いのだ。離したとて問題ないだろう。

 

セラス「ほんと!? それじゃあ、ワタシは美味しそうな匂いがするところ全部行く!」

 

エンティ「えっと……それでは、私はセラスについていきます。この子、そういう秩序なのか少し幼いですし」

 

 エンティが心配そうにセラスを見ながら、そう言うとセラスはエンティをじっと見つめる。

 

セラス「エンティ……貴女、ワタシが子供だとでも言いたいの……?」

 

 セラスがそう言うと、エンティの頭には"?"が浮かんでいた。

 

エンティ「違うんですか?」

 

セラス「違うわよ! ただ少し欲望に忠実なだけ!」

 

 エンティが何を言っているのか分からないと言う風答えると、セラスが間髪を入れずに否定する。

 

エンティ「それを世間一般で子供というのですよ?」

 

セラス「それを言ったら、エンティだって昨日、テンペストの食べ物が楽しみでテンション上がってたじゃない! それじゃ、貴女も……こ・ど・も・ね?」

 

 セラスが勝ち誇った顔でそう言い放つ。すると、エンティにも火がついたようだ。

 

エンティ「ふふ、セラス、ここではユレム様がいます。お見苦しいところは見せられませんが、帰ったら覚悟しなさい。絶対に泣かせてやります」

 

 どちらも笑顔だが、その目は明らかに笑ってはいない。なんとも、仲が良いことだな。そんなことを考えていると、大きな力を持つ者がこちらへ近づいてくるのがわかる。

 

リムル「ユレム! えっと……この状況は何だ?」

 

 エンティとセラスの雰囲気を見てそう質問する。意外と説明が難しいな。

 

ユレム「……かくかくしかじかだ」

 

リムル「それで伝わるかよ!」

 

 流石にこれでは伝わらなかったようだ。とはいえ、これを続けさせるのも、どうかと思うか。

 

ユレム「エンティ、セラス、続きは帰ってからにせよ」

 

 それを聞いてエンティとセラスはハッとする。

 

エンティ「す、すみません、ユレム様……私としたことが熱くなってしまいました」

 

セラス「ごめんなさい……」

 

 2人は即座に頭を下げる。

 

ユレム「良い、面をあげよ。仲が良いのは結構だ」

 

 そんな様子を見ていると、リムルがふとこんな質問をする。

 

リムル「そういえば、この2人は?」

 

 ああ、リムルが見たのはディウスとバース、リベリオのみだったな。それではこの2人は知らぬわけだ。

 

ユレム「俺の配下だ。テンペストを観光したいとのことでな、俺が行くついでに連れてきた。護衛というわけではない」

 

リムル「ああ……(解析鑑定しても抵抗される、か)」

 

 特別警戒されているわけでは無いようだ。ただ、力量を計ろうとしたようだがな。

 

ユレム「では、2人はリベリオから連絡が来るまでは自由にして構わぬ」

 

 それを聞くと、2人は嬉々として屋台へ向かって行った。

 

ユレム「では、皆に会いに行くとするか」

 

リムル「待ってくれ、ユレム、お前にはあの時、何があったんだ?」

 

 あの時とは、恐らく俺がトウジと戦っていた時のことだろう。

 

ユレム「ふむ、どこから話したものか……」

 

 トウジ達八神騎士団と戦闘になったこと、その戦闘の後、ディウスと連戦になったこと、その戦闘に負け、気を失っている間に祝福(ギフト)を受け取ったこと、目が覚めリベリオたちと出会ったこと、ルミナスとも会い、魔王たちの宴(ワルプルギス)に向かったこと。まとめるとこんな事を話した。

 

ユレム「……と言ったところか」

 

リムル「ユレム……お前も大変だったんだな」

 

 少し申し訳なさそうな顔で言う。

 

ユレム「リムル、俺がいない間、ここで何が起きたのか、聞いても良いか?」

 

 リムルは頷くと、語り始める。リムルが帰ってこようとした時、ヒナタ・サカグチという者と戦闘になり、圧倒されたものの、どうにか逃げ延びたが、テンペストはファルムス王国の者たちに蹂躙され、シオンを含む100名程度が死んだらしい。だが、ミュウランが作った結界の効果で魂が霧散せず、残っていたようだ。そこでリムルは、エレンから聞いた寓話を元に、魔王覚醒の条件を特定、1週間後に侵攻するため、野営していたファルムス王国のエドマリス王含む主力部隊総勢2万人を虐殺、無事魔王に覚醒し、シオン達を蘇生したようだ。それから、獣王国の難民たちを保護、魔王たちの宴(ワルプルギス)の夜、旧オーク王国であるオークビックにて、クレイマン軍と激突。以降は俺も知る流れだ。

 

ユレム「そうか……すまなかったな」

 

リムル「いや、いいんだ。ユレムは自分にできる事をやっただけだろ? それに、みんな生きてる」

 

 そうかも知れぬな……。

 

ユレム「次はこんなことは起こさせはせん」

 

リムル「ああ」

 

…………

 

 リムルとの話を終え、執務館へ向かうと、鬼人たちを始めとした魔物たちが集まっていた。

 

ユレム「ふむ、皆、久しいな。戻ったぞ」

 

[ユレム様! お帰りなさいませ!]

 

 皆が涙を浮かべ、俺の下に集まる。まったく。死んでいたわけでもあるまいに。




セラスですが、実はまだキャラが定まってないんですよね、メスガキキャラにするか妹キャラにするか……。今はどっちとも取れるように書いているつもりですが……。大してフェリシオの書き方は定まっているとか言う……。キャラが定まって、今とは違う感じになる場合、なるべく不自然がないように変えていきますのでユルシテ……。

あと、転スラの書籍7巻の範囲が終わったあたりでオリキャラのステータスを公開しようかなと。


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転生者の会話

今回はなるべくマイナーなネタは入れてはいないはず……多分。


 皆としばらく話し込んだ。内容はそれぞれだ。俺の無事を喜ぶもの、以前より力が増していることに驚くもの、自身のスキルでどんな料理を作っても思い通りの味になるといって暗黒物質を持ち出すもの……。

 

リムル「大変だったな……」

 

 一先ず解散し、今はリムルと2人で話している。

 

ユレム「まったくだ。見た目こそ明らかに毒そのものなのに、味はシュナ達の作ったものと同等……なんとも奇怪な体験だな」

 

リムル「あはは……そういえば、シズさんについてなんだが……」

 

 シズか、そういえば、ヴェルドラを復活させることができたのなら、依代は問題ない、イングラシアの子供達を救う過程で精霊召喚も可能になったらしい、上位精霊の準備も問題ないだろう。ならば、俺が<根源保護>を解けばいつでも解放可能な訳だ。

 

ユレム「ふむ、今すぐにでもやるか?」

 

リムル「いや、それなんだが……」

 

 どうやら、シズは上位精霊を受け取るならばイフリートが良い、そう言ったらしい、胃袋の中で和解したようだな。また、今は胃袋の中で修行を行っているらしい、精神力を鍛え、完全な聖人、精神生命体にするつもりだそうだ。

 

リムル「それももう直ぐ終わるらしい」

 

ユレム「そうか、楽しみにしておくとしよう。そういえば、ヴェルドラが漫画を読んでいたが、アレは何だ?」

 

 確か、魔王たちの宴の時、ヴェルドラが漫画の続きだ何だのと言っていたが……。

 

リムル「それはな、紙を用意すれば、俺の記憶から漫画を再現できるんだ」

 

 なるほど、確かに、この世界は娯楽というものがお世辞にも発展しているのは言えぬ。特に、本などは魔導書だの歴史書だのしか無い。そもそも紙が高価である為だろう。よっぽど重要な書類でもなければ、基本は羊皮紙を使う。とはいえ……。

 

ユレム「紙が不足しているのではないか?」

 

リムル「正直いえばそうだな、普段の執務にも使うし……漫画にばかり使っていられない」

 

 <創造建築>にて大量の紙を出す。

 

ユレム「必要ならば提供しよう。とはいえ、俺も魔王となり、領土を持った。これからはその運営も考えていかねばならぬ」

 

リムル「なるほど、貿易として……か?」

 

 残念なことに、そう簡単な話ではないがな……。

 

ユレム「将来的にはな、だが、今は領土は小さすぎるし、領地に住むものも殆どいない。もしかすれば、村落の1つや2つは見つかるやも知れぬがな」

 

リムル「ふむ……それじゃあ、貿易を本格的に開始するのはもう少し後になるか……」

 

 無論、今の状況では産業だの国の運営だの行うよりも、その土壌が整っていない。だからそれの解決も、今回の目的だな。

 

ユレム「ああ、その為に……少々相談があってな」

 

リムル「なんだ? 出来る限り力を貸すよ」

 

 ここで"なんでも"と言わない辺り、しっかりしている。

 

ユレム「ああ、ジュラの森の土壌を少し貰いたくてな、無論、作物などには影響ない程度だが、一応な」

 

 農産資源による産業には対して期待しておらぬ。ただ、最低限発展するまで、自給自足出来なければどうしようもない。大抵は魔法でどうにかなるが、国単位となれば再現性が無ければ意味は無い。

 

リムル「……まあ、大丈夫だ。というか、影響がない程度でいいのか? 多少の影響はあってもいいんだが……」

 

ユレム「問題無い。ただのサンプルだ。俺が土地を作る為のな」

 

 それを聞き、リムルは目を丸くする。

 

リムル「は? 土地を……作る? そんなの可能なのか?」

 

ユレム「その程度、不可能だとでも?」

 

 試したことはないが、最悪、アレが使える。

 

ユレム「まあ良い。面倒な話はここらで良いだろう。漫画を読んでもいいか?」

 

 そう言うと、リムルは呆気にとられたような顔をして少しするとフッと笑った。

 

リムル「おう、沢山あるぞ!」

 

…………

 

 ふむ、少し古いな、完結していないものもあるが、その中には俺が死んだ時代には完結しているものもあった。

 

ユレム「リムル、お前が死んだのは西暦何年だ?」

 

 リムルは何を聞いているのかよく分かっていないようだ。

 

リムル「え? 確か……2018年だったな」

 

 やはりか……。

 

ユレム「……俺は2023年だ」

 

 リムルが目を見開く。

 

リムル「……あれから何があった?」

 

ユレム「……俺はあまり漫画には詳しくないが、知っていることといえば…………進撃の巨人が完結した」

 

 溜めて答える。

 

リムル「なん……だと?」

 

ユレム「だがONE-PEACEはまだ完結していない」

 

リムル「ああ……流石だな……」

 

 やはり、という風に頷く。

 

ユレム「それと、BLEACHの千年決戦編がついにアニメ化した」

 

リムル「マジかよ! 見たかった……」

 

 ガクッと崩れ落ちる。ふと、マンガに目をやると、ある作品がある。

 

ユレム「そこにある鬼滅の刃はアニメで大ヒットしたぞ。映画の興行収入は……千と千尋の神隠しを超えて400億となった」

 

リムル「嘘だろお前!?」

 

 残念ながら事実だ。

 

リムル「えっと……ゲーム業界はどうなってる?」

 

ユレム「そうだな……ポケモンの9世代は発売3日で発売本数1000万本を超えた」

 

 リムルは、それを聞いて頭に"?"が浮かんだようだ。

 

リムル「あれ? 第8世代は?」

 

 剣盾か……。

 

ユレム「第8世代はBGMが有名になっていたな」

 

リムル「なるほど……」

 

 さて、そろそろあの爆弾を投げるとしよう。

 

ユレム「先ほどのポケモンの記録だが……発売から約半年で塗り替えられた」

 

リムル「そんな簡単に超えられるものじゃ無いだろ……流石に俺をバカにしすぎだ……」

 

 信じていないようだ。

 

ユレム「ブレワイの続編ならば?」

 

 ブレワイ、ゼルダの伝説 ブレス・オブ・ザ・ワイルドの略だな。

 

リムル「……! あのゲームのハードルは超えたのか?」

 

ユレム「ああ、容易に超えた。俺たちの期待を軽々と超えて来た」

 

リムル「恐ろしい……な」

 

ユレム「だろう?」




制作裏話。
実は、元々ユレム君にはドワーフ王国が終わる前に人間の国へ向かって、冒険者登録、そこから何やかんやでルミナスと出会うとか言う、ルートだったんです。なのでシズさんを生存させることもできないルートです。多分こっちは面白く無いですね。


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真実と交渉

ところで思ったんですけど、今更ですがトウジって、どっかの呪力を持ってないcv子安 武人の人と同じ名前ですね。まあいいや。

 遅れたことへの言い訳はございません。


 リムルとの会話を終え、食事でもしようと言う話になり、食堂に来たのだが……。

 

エンティ「美味しい……このお肉も、噛みごたえがあって……それはもう……!」

 

セラス「んん〜! ほっぺ落ちちゃう……こんな美味しい甘味、イングラシア観光以来よ……」

 

 そこに並べられた大量の皿は、2人の少女の目の前にあるもの以外は綺麗に食べ尽くされている。

 

リムル「えっと……」

 

ユレム「ふむ……」

 

 ゴブリナのハルナは驚いた目で喰らい尽くされる食事たちを見ている。

 

ユレム「少々、迷惑をかけたようだな」

 

ハルナ「い、いえ、他のお客様の迷惑にはなっておりませんし、問題ないのですが、少し驚いてしまって……」

 

 そのようだな。周囲を見れば、他の客も驚いてはいるものの、割と普通にしている。

 

ユレム「それならば良いが、俺達も何か貰っていいか?」

 

 その後、リムルと共に久々のテンペストの食事を食べた。以前よりも腕を上げているな。

 

…………

 

 テンペストに戻ってから1ヶ月ほど経った頃、テンペストにヒナタ等数名が街道から、聖騎士団と思われる集団が別方向から向かっていることがソウエイの偵察で分かった。それに警戒を強めている中、遂にリベリオからの連絡が来る。

 

リベリオ「(ユレム様、あと数十分程で八神騎士団が戻ってまいります)」

 

ユレム「(分かった。向かおう)」

 

 そういって<思念通信(リークス)>を切る。

 

ユレム「リムル、少々呼ばれてしまってな。行かねばならぬ」

 

リムル「……分かった。頑張れよ」

 

 俺は頷いた後、エンティとセラスを呼んでデルゾゲードへ向かう。

 

 <転移(ガトム)>にてデルゾゲードに転移すると、リベリオ達が待っていた。

 

リベリオ「お待ちしておりました。もうすぐ来ますよ」

 

 リベリオの言う通り、少し待つと、88名の集団がそこに現れる。<転移(ガトム)>か、皆が使えるとは。

 

トウジ「八神騎士団88名、戻りまし……た……。魔王、ユレム=テンペスト、何故……」

 

ディウス「それに関して……ですが、私から説明いたしましょう」

 

 ディウスは、真実を語る。俺がトウジ達の信じてきた、神ユレムその人であり、転生してこの時代に復活したことを。

 

トウジ「そう簡単に……信じられるとお思いですか?」

 

 だろうな。いくら魔物に対してある程度寛容なもの達でも、自分たちの信じてきた神が魔王であるなど、そう受け入れられる話でもない。

 

トウジ「ディウス様……リベリオ様……あなた達は、我々を騙していたのですか……?」

 

ディウス「ええ、そうなります」

 

 ディウスは否定しない。事実、騙していたのだ。彼らの信仰心に付け込み、利用していたと言っても否定はできぬだろう。

 

ディウス「ただ、我が君、ユレム様は、皆が思うような、邪悪な魔王とは違います。慈悲深く、争いを好まぬ方だ」

 

 トウジも、他の八神騎士団の者たちも、半信半疑といった様子である。

 

ユレム「トウジ、お前達には、2つの選択肢がある。俺に従うか、従わぬか。従うならば、我が配下となり、俺の命令で動いてもらう。従わぬとしても、お前達の生活や仕事を奪うつもりは無い。八神騎士団に残るなり、聖騎士団に行くなり、好きにするが良い。無論、俺の命を狙いにきても構わぬ。その時は相手してやる」

 

 八神騎士団の者達は考える。俺を信じるか、信じぬか。

 

トウジ「皆んな……」

 

 トウジが何かを告げようとするが、言葉に詰まる。

 

「トウジさん、私は貴方の選択に賛成します!」

「俺もだ! どんな道でもついて行くぜ!」

「トウジなら信用できる」

 

 皆、次々とトウジに付いていくと声を上げる。なんとも、人望厚いものだ。人徳だな。

 

トウジ「皆んな……! ありがとう……!」

 

 トウジは皆に礼の言葉を言い、こちらへ向く。

 

トウジ「魔王、ユレム。いくつか聞きたい。まず、シズ先生を殺したと言うのは本当か?」

 

 以前もした質問だな。

 

ユレム「答えは変わらぬ。見方によってはそうだ。ただ1つ付け加えるならば、俺がシズを死なせはせん。もうすぐ、時が来れば必ず、5体満足で戻ってくる」

 

 トウジは少し目を見開く。流石に驚いたようだ。

 

トウジ「……2つ目だ。お前は人にとって悪の存在か?」

 

 人にとって悪かどうか……つまり、人類の敵となるか否かだな。

 

ユレム「今のところその予定はないな。無論、俺に挑むと言うならば命をかけて貰うがな」

 

 これもまあ無難な答えだな。こちらから襲いはしないが、こちらに牙を向くならば相応の覚悟の上でだ。

 

トウジ「次だ。お前は以前、俺を旧友と似ていると言ったが、どう言う意味だ」

 

ユレム「そのままだ。お前は旧友に似ている。だから殺す気は無かった」

 

 俺の感覚と眼が正しければ……おそらくトウジは……。いや、今は関係ないか。

 

トウジ「最後の質問だ。今、俺の魂から湧き出るこの衝動は何だ?」

 

 衝動?

 

トウジ「俺は今。お前のに対して怒りも湧いていないし、憎しみも無い。どころか、敵意すら湧かない。なのに、なのにこの魂は、お前と競いたい。お前との競争を望んでいる。コレは、一体なんだ」

 

 戦いではなく、競争か。

 

ユレム「俺も同じ感覚だ。だから、俺にも分からぬ」

 

 そう答えると、トウジは軽く目を瞑る。そして数秒経ち、開く。その目に迷いはなく、こちらをじっと見据える。

 

トウジ「魔王ユレム。戦おう」

 

ユレム「ああ、勿論だ。そら、3秒以内で支度しろ」




ちょっと急展開な気もしますが、実は、このユレムVSトウジを書くのが我慢できず、コレを書くために、テンペストでの1ヶ月にはまるまるカットの刑が下されました。


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成長者

 ユレムが居ないが、問題は無い。もともとこの戦いには手出しさせるつもりはなかった。

 

リムル「いくぞ、ヒナタ……」

 

ヒナタ「ええ……」

 

 新星(リムル)聖人(ヒナタ)の剣が交差する。

 

…………時を同じくして…………

 

 【魔眼】にて視るが、秘匿力が増しているな。

 

ユレム「1ヶ月と少しで、随分腕を上げたようだな?」

 

トウジ「ああ。以前のようには行かないぞ?」

 

 そう言いながら、トウジは霊神人剣を抜く。その聖なる光は、以前のように俺を弱体化させようと煌々と力を強めるが、そう簡単には行かぬ。俺とて成長する。以前よりも圧倒的に、あの光への耐性がついた。今の俺には、光程度では効果を示さない。

 

トウジ「流石に、以前のような効果はなさそうか」

 

 それくらいは想定済みだったようで、特に焦る様子もなく、こちらに向かってくる。間合に入った瞬間に、残像が見えるほどの速度での連続突き、それにより多少重心がズレたところへ足払いをされるが、飛び上がって顔面へ膝蹴りを入れる。

 

トウジ「……! くっ……」

 

 なんだ? 違和感を感じるな。

 

ユレム「<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>」

 

 魔法術式を100門描き、魔力を込めて行使する。黒き太陽がトウジを襲うが……。

 

トウジ「概念切断……!」

 

 <獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>が術式ごと破壊される。そういうスキルか? ただ切っただけには見えぬ。

 

ユレム「そういえば、最近新しい魔法を覚えてな」

 

 術式を描く。

 

ユレム「<魔炎(グレガ)><魔氷(シェイド)>、<深印(ドラム)>……<深魔氷魔炎相克波(ジェ・グレイド)>」

 

 闇を秘めた炎と魔を宿した氷が交わる。銀に輝く炎と氷の魔法波は、容赦なくトウジを襲う。トウジも先ほどと同じように魔法術式を切る。が……。

 

ユレム「<深源死殺(ベブズド)>」

 

 魂に干渉可能な漆黒に染まった拳にて、トウジの土手っ腹を殴る。

 

トウジ「ぐぅ……。が!? あ゛ぁ゛……」

 

 やはりおかしい。ダメージ以上に痛みを感じているのか?

 

トウジ「はあ……今度は切る……!」

 

 剣を構える。霊神人剣、下手に触ればどれだけダメージを喰らうかわからぬ。折れるやもしれぬが、使うか。

 

ユレム「傀儡剣クレイマン」

 

 収納魔法から取り出す。クレイマンの等級は、特質級(ユニーク)上位、使い続ければ、いずれ伝説級(レジェンド)になるだろう。流石に魔王だっただけはあるな。

 

 お互いが振り抜き、剣が交差する。剣の性能で若干押されるが、身体能力で押し返す。が、トウジの力が急激に強くなり、弾かれる。

 

トウジ「……隙あり……!」

 

 予想外に弾かれたため、隙を作ってしまった。その隙を当時は見逃さない。的確に急所を狙い突く。だが、トウジの剣速ならば、ギリギリ……。

 

ユレム「……なに?」

 

 急所は外せたが、霊神人剣が突き刺さる。それだけでも、魂へかなりダメージが入った。

 

 不自然な身体能力の増加、急速な剣速の上昇。さらに、最初の剣よりも遥かに、無駄な動きが少なかった。無論、元々極まった使い手だったが、それ以上に、重心のブレや癖だったであろう、必要以上の力の入れ方が、一目瞭然というほどに変わった。これ程すぐに剣が変わるなど普通はありえぬ。

 

 もう一度、本気で解析してみるか。【魔眼】に【薫陶之王(ミネルヴァ)】の補助をつけ、再度解析する。

 

抵抗(レジスト)の突破……

成功しました。スキルが以前の【不屈者(クジケヌモノ)】に加え、ユニークスキル【断絶者(タチキルモノ)】と【成長者(ノビルモノ)】を獲得しています』

 

 【断絶者(タチキルモノ)】に【成長者(ノビルモノ)】……か、この短時間で2つもユニークスキルを獲得するとは、驚いたな。

 

トウジ「今……抵抗(レジスト)を破られたな、ということは、このスキルのことも見られたのか」

 

ユレム「ふむ、分かるのだな?」

 

 【大教授】や【大賢者】のようなスキルもないだろうに、よく分かるものだな。

 

トウジ「ああ、昔から、魂のことには敏感でな」

 

 ふむ……まあ良い。一先ず、解析の結果だが……

 【断絶者(タチキルモノ)】は、魔法やスキルを断ち切り、破壊するスキルだ。そして【成長者(ノビルモノ)】は、自身の行動の悪癖や修正点を、魂から改竄・修正するスキル、さらに、同等か格上との戦闘では自身のあらゆる能力をが向上し続けるという、厄介なスキルだ。だがその代償として……。

 

トウジ「……ぐっ、がぁ……!」

 

 魂へ耐え難いほどの痛みが伴う。勿論、自身が発動させている間以外は、痛みも走らぬ……これを知って尚、使い続けるものなど居ないだろう。この男以外はな。今も、恐らく解析に対する抵抗(レジスト)能力を修正しているのだろう。それに、上昇する能力には、魔力量や魔力の操作能力なども入る。

 

ユレム「だが、解せんな、自身と同等、または格上との戦闘中は常に能力が上がり続ける。だから、常にかなりの痛みが走り続ける。だが、お前にはその素振りがないな?」

 

 そう言うと、トウジはフッと笑う。

 

トウジ「それくらいの痛み、とっくに慣れた」

 

ユレム「くはは、全くなかなかどうして、勇者だな」

 

 聞きたいことは聞いたので、再度構える。




トウジ君には、流石に根源を7つ持たせるのもアレだなと思ったので、激痛が走るスキルを獲得してもらいました。


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勇者の称号

 先ほどの攻撃で、霊神人剣の力が直接身体に流された。無論、まだ余裕はあるが、次まともに喰らえば命に指がかかりかねん。それと、少々身体が動かしずらいが、魔力は問題ないな。

 

『告、使用可能な魔法文字が追加されました』

 

 魔法文字の情報が送られる。コレは……使えそうだな。だが、問題はトウジの成長性だ。時間をかければかけるほど強くなる。先程からも、更に右肩上がりに強くなり続けている。

 

トウジ「さっきまでよりも、全然対応できる。これなら……勝てる……!」

 

ユレム「そう簡単に勝ちを譲るほど、俺は甘く無い」

 

 <獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>を乱射する。一部明後日の方向へ飛ばしたが……。トウジの間合いに入ったものは全て断ち切られる。まあ、それは予想通りだ。

 

ユレム「<獄炎鎖縛魔法陣(ゾーラ・エ・ディプト)>」

 

 空中で、しかもトウジの間合いで複数描かれた、<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>の炎を媒介とした魔法術式、黒き太陽の鎖がトウジを包囲する。が、1箇所、逃げ道を作っておいた。鎖を斬られたらと思うが、だとしても俺の方が早く動ける。ならば、罠だと分かっていても、それに敢えて嵌ることで対処可能だと動くだろう。そもそも逃げ道に気づかなければ、それまでだが。

 

 予想通り、逃げ道から脱出を図る。そこを狙う。

 

ユレム「<雷界滅電陣(ギル・デモリア)>」

 

 傀儡剣に黒き雷を纏わせ、切り掛かる。

 

トウジ「そう来るだろうなッ! 」

 

 勿論、それは分かっていただろうな。だからこその、明後日の方向へ飛んだ<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>だ、それらは空中で爆ぜさせ、それでもう幾つかの<獄炎鎖縛魔法陣(ゾーラ・エ・ディプト)>を描いておいた。

 

トウジ「……!?」

 

 トウジは黒き炎の鎖がトウジの動きを止める。

 

トウジ「ぐぅ、ああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 トウジの力が急速に成長する。【成長者】が持ち主の危機を打破するため、その権能を強める。トウジの際限なき力により、<獄炎鎖縛魔法陣(ゾーラ・エ・ディプト)>が破壊される。

 すると、目にも留まらぬ速度でトウジが近づく。これは……少し予想外の成長度だな。霊神人剣の刃が、目前へと迫る。避けられぬか。

 

トウジ「……!?」

 

 霊神人剣が止められる。それは、高い密度を持つ黒きオーロラ。

 

ユレム「<四界牆壁(ベノ・イエヴン)>だ。存外、即興でもなんとかなるものだな」

 

 先程使えるようになった魔法文字、それを利用し、今作り上げた。ただ、魔力効率が悪い。おそらく、デルゾゲードを覆うように出せば、全体の魔力の1割は削られるだろう。こんなもので世界を4つに分ければ、俺1人で足りないだろう。今の2倍あってもおそらく無理だ。

 

トウジ「……まだ、全力を出していないな?」

 

 ふむ。

 

ユレム「何のことだ? 十分本気でやっているが」

 

トウジ「ああ、確かに本気ではやっている。だが、出す手を制限しているだろう? 大方、1つ切り札を隠していると言ったところか」

 

 何故わかる……いや、経験か。確かに、まだ使っていない手はあるが。

 

ユレム「……ああ、いいだろう。使ってやるが、次の攻撃を乗り切ってみせよ」

 

 トウジが剣を構える。それを見て、俺も攻撃を開始する。

 

ユレム「<波身蓋然顕現(ヴェネジアラ)>」

 

 可能性の俺を10人程度作り出し、ある魔法を発動させる。

 

ユレム「<闇矢(エイル)><光矢(セイル)>……<混沌矢(テイル)>」

 

 光と闇が混ざり合い、形容し難い見た目となった矢がトウジ目掛けて放たれる。融合魔法<混沌矢(テイル)>闇の引力と光の発散が混ざり合い、触れるものを全て消滅させて進む。規模を大きくすればメドローアになる。放たれる相手からすれば、死の雨だろう。おそらく、【断絶者】と霊神人剣ならば斬れぬ事はないだろうが、全て斬るのは現実的とは言えぬな。

 

トウジ「この程度か!」

 

 初めは避けるのに集中していたようだが、慣れてきたようで、避けながら近づいてきた。

 

ユレム「これでくたばって貰っては、俺が困る。<圧死領域(アジャイサ)>」

 

 <混沌矢(テイル)>によって開けられた地面の穴がつながり、線となる。その線は1つの魔法陣を描いている。<圧死領域(アジャイサ)>、結界を作り出し、その結界を縮める事で、中の存在を圧死させる。

 

ユレム「さて、どう生き残る?」

 

 結界に一筋の切れ目ができる。ふむ、思っていたよりも力づくだな。それに、意外だ、内側からの攻撃にはかなり強くしたはずだが……。

 

トウジ「お前の手は、全て斬ったぞ!」

 

 さて、

 

ユレム「結界から出たからと言って、安全だとでも思ったか?」

 

 全方向から、<混沌矢(テイル)>が同時に襲いかかる。

 

トウジ「そんな……!?」

 

 自身に迫る矢を見て、彼は何を思ったのだろうか? 俺には分からぬ。だが、それはきっと、お前の更なる成長を見出すための必要な1手のはずだ。

 

トウジ「霊神人剣、秘奥が壱…――」

 

 トウジの魔力が消える。【魔眼】にも映らぬ、なるほど、そう来たか。

 

トウジ「――<天牙刃断(てんがはだん)>」

 

 無数の光の剣閃により、<波身蓋然顕現(ヴェネジアラ)>によって作り出された可能性の俺が一呼吸の間に全て滅ぼされる。

 

ユレム「流石だ、認めよう。トウジ、正真正銘、お前は"勇者"だ。故に、俺の最後の武器を使う。言っておくが、手加減はできぬ、死ぬ気で耐え切れ、でなければ滅ぶと思え」

 

トウジ「ああ、勿論だ。お前の全力に、俺は打ち勝つ!」

 

 それを聞き、俺はフッと笑う。そして……

 

ユレム「来い、<理滅剣(ヴェヌズドノア)>」




光矢(セイル)
 光の矢を放つ魔法。着弾地点で弾けて、小さな穴が開く。破裂の威力は込める魔力(矢の大きさ)に比例する。

闇矢(エイル)
 闇の矢を放つ魔法。着弾した際に周囲のものを引き寄せるので、土などに当てた場合、着弾地点に土が引き寄せられる。引力の大きさは込める魔力(矢の大きさ)に比例する。

混沌矢(テイル)
 闇と光が混ざり合った矢を放つ魔法。触れるものを全て消し去る。魔力を多く込めれば、大きくなり、メドローアや虚式「茈」の様な光景を作り出せる。原理的にもそこそこ似てる。

圧死領域(アジャイサ)
 自動で縮んでいく結界を作り出す。外からの干渉は簡単だが、内側から破壊するのは困難。あれ? 領域展k……何でもありません。

 ちなみに、作者は呪術廻戦は結構好きです。予告しておくと、領域展開みたいな魔法を出す予定があります。今回の<圧死領域(アジャイサ)>もそうですが。詳細はまだ秘密ですし、クロスオーバーにするほどでもないですが「ん? これ、領域展開みたいやなぁ」と思う程度のものが。


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理滅剣(ヴェヌズドノア)

ちょっと今回難しかった……。また、今回は独自解釈がかなり含まれます。


ユレム「来い、<理滅剣(ヴェヌズドノア)>」

 

 膨大なエネルギーが放出される。それと共に、黒い粒子があたりへ散らばる。その黒い粒子が集まり、1本の長剣の形となる。禍々しくも、幻想的な雰囲気を醸し出す闇色の長剣。

 ここ、魔王城デルゾゲードでのみ出せる、魔王の魔剣。破壊神の権能を使い作り出す、理外の代物。その等級は、少なくとも伝説級(レジェンド)以上だろう。

 

トウジ「剣……? 霊神人剣と同等以上のエネルギーだと? それは、一体……!」

 

ユレム「理滅剣ヴェヌズドノア、破壊神の権能により作られる、魔王の魔剣だ」

 

 トウジが向かってくる。トウジが間合いに入るよりも前に、理滅剣を横薙ぎに振る。

 

トウジ「間合いの外で剣を……? なッ!?」

 

 トウジの身体が切り裂かれる。

 

トウジ「これは……一体? 何故……! 間合いの外で振ったはず……!」

 

ユレム「間合いの外だからと言って、相手を斬れぬとでも思ったか?」

 

 これこそが、理滅剣の真価。それは、理を滅ぼす力、この剣の前において、あらゆる理は無に帰す。躱しても避けられぬ。1+1は、0にも3にもなる。ただ滅べ、それこそが理滅剣の前に許される唯一の理だ。

 

トウジ「【成長者】も発動しない……となると、俺の動きに問題はなかった……? だが、攻撃を喰らった、見えないだけで間合いが自由自在の剣……? いや、だとしたら【成長者】は俺の目をその剣が見える眼に作り替えるはず……」

 

 ふむ、【成長者】といえど、理外の事象には対応できぬようだな。そういえば、あの【成長者】、随分と守備範囲は広いようだな。ここまで来ると成長というより、適応の方が正しいかもな……魔虎羅か?

 

トウジ「ダメだ、今は答えは出ない……戦うしか無い!」

 

 気づいた時にはトウジは俺の後ろに回り込んでいる。少々俺の方が遅れて迎撃する。が、

 

トウジ「な!? 確かに今は……」

 

ユレム「先に切った方が早いとでも思ったか?」

 

 さて、どうする? 勇者よ。

 

トウジ「…………」

 

…………

 

 おかしい、明らかに。先に切っても俺の方が切られている。射程外だとしても何故か切られる。いったい何故……いや、まて、ユレムはアレを破壊神の権能だと言った。つまり、何かを破壊する事でこんな現象を実現させているんだ。だとすれば、何を破壊している……?

 

トウジ「分かったぞ……! 魔王ユレム!」

 

ユレム「ほう?」

 

 あの剣が滅ぼしているもの、それは……。

 

トウジ「その剣は、恐らく、法則や道理、そうなるはずの事を破壊している。違うか?」

 

ユレム「正解だ。だが、知ってどうする? 見たところ、【成長者】も発動していないようだが?」

 

 そう、【成長者】は理外の事象には対応できない。おそらく、コレという対抗策がないからだろう。そもそも今回の場合俺の成長関係ないし……。正直、ここからは賭けになる……!

 

 正面から向かっていく。すると、ユレムは先ほどと同じように、剣を振る。が……

 

トウジ「<大覇聖炎(サイフィオ)>!」

 

 聖なる炎を放つ、ユレムは剣で魔法を切る。それによって、攻撃が中断される。その瞬間、俺はユレムのすぐ側に加速する。ユレムも気づいたようで、迎撃を行う。だが、俺の方が速い、だから……

 

 ……途中で剣速を抑えてから振り抜いた。ユレムの剣は先に到達し、俺の身体を斬り裂く……事はなく、俺の剣を素手で掴んでいるユレムがいた。

 

ユレム「なるほど……考えたな。だが、1度勢いを殺してしまった剣など、ただのナマクラも同然だ」

 

 身体が切り裂かれる。嗚呼……負けた。

 

…………

 

 トウジが行ったのは、理を滅ぼした事を逆手に取る戦術だ。理滅剣で滅ぼした理は、滅びたままでは矛盾が生じ、結果が存在しなくなる。だから、滅びた理は本来とは違う結果になる。

 

 例えば「1+1は2である」と言う理を滅ぼせば、その答えは2以外の何か、つまり、1や3、10にも100にもなり得ると言うことだ。

 

 今回の場合、俺は「先に攻撃した方が速い」と言う理を滅ぼした。だから、先に攻撃した方が遅くなる。なので、先に攻撃を当てた俺の攻撃は当たる前に、トウジの攻撃が発生した。俺はその攻撃を防ぎ、その後に俺の攻撃が発生し、トウジを切り裂いた。恐らく、俺に攻撃が防がれていなければ、その後に俺の攻撃が発生することも無かったやもしれんな。

 

ユレム「お前の勝ちだ。トウジ」

 

トウジ「……! 情けのつもりか?」

 

 何を言うか……。

 

ユレム「お前は俺に奥の手を出させ、完全にとは行かずとも攻略してみせた。これを勝ちと言わずしてなんと言う?」

 

トウジ「いや、でも……。譲る気はないか……分かった。今回は勝ちを貰っておく、だが、まだ本当の意味で勝ったとは思っていない。次は勝つ」

 

 それを聞き、俺はふっと笑う。

 

ユレム「ああ、貰っておけ」

 

 そう言うと、トウジは八神騎士団の者たちの方を向き、口を開く。

 

トウジ「皆んな、今、俺が戦ってみて分かった。魔王ユレムは、人に仇なす存在では無い。出来るなら、皆んなにもついてきて欲しい!」

 

 反対意見はなさそうだ。

 

トウジ「では、我々、八神騎士団は、魔王ユレムの麾下(きか)となる。それでいいな!」

 

八神騎士団「はいッ!!」

 

 八神騎士団の者達が俺の前に跪く。<思念通信(リークス)>が来る。

 

トウジ「(ユレム、最後に1つ、聞いてもいいか?)」

 

 ふむ、聞きたいことか……。

 

ユレム「(なんだ?)」

 

 そう問うと、トウジからその質問が来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トウジ「(お前は……国枝 陽太か?)」




トウジとユレムの関係とは!?


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霊神人剣の勇者の追憶

俺はきっと、君と出逢う。
何度離れようとも、君と言う親友に。
例え、死に阻まれても。


 俺には親友がいた。

 

…………

 

 俺は、都内の進学校に通っていた。中学の頃の成績はかなり良く、その高校へも、特に苦労せずに入れた。高校に入ってからも、勉強と部活の両立を十分こなせた。コミュ力はある方だったし、順風満帆な高校生活を送っていた。

 

 ある日、ある男が目に入った。ソイツは、特段誰かと話したりするわけでもなく、自分の机でケータイを弄ったり、読書をしたり、勉強をしたりしていた。誰かと話している時も、あまり盛り上がっている様子はなく、下手な愛想笑いで誤魔化しながらだった。自分でも、なんであんなヤツに目が入ったのか分からない。

 

 10月、1年2学期の中間試験、科目は、数Ⅱ、数B、言国、言文、コミュ英、論表、地理、公民、化学基礎、生物基礎の、主要5教科10科目だった。数学の進みは早めだったので、既に数Ⅱ、数Bへ入っていた。合計は1000点満点中の971点。結果は上々、俺が勝手にライバル視していた相手は誰もこれ以上には行っていなかった筈。1位は貰った。そう思った。

 

 

結果は、2位だった。

 

 

 自分の目を疑った。俺が2位、俺より点数が高い者が、1人いると言うことだ。誰だ!? そう思い、張り出された順位表で、俺の上の者の名前を見る。

 

1位:国枝 陽太:998点

 

 国枝 陽太。気にしていた、彼だ。ちなみに言っておくが、ここは進学校、偏差値は71程で、決してそう簡単には高得点が狙える学校ではない。どの教科でも、平均点が赤点になっているなど、ザラにあった。そんな学校では、80点以上が1つでもあれば、思わずガッツポーズをしてしまう者もかなりの人数いる。そんな学校で、971点、周りからすれば、とんでもない点数だ。3位だって950点ほどだったはず。そんな学校で、ほぼ全教科満点、失点は2点だけなど、イカれている。

 

 早速、彼に接触を図った。軽く話した後、勉強について聞いた。そうして帰ってきた言葉は……。

 

陽太「特別何かしているわけじゃない。軽く教科書を読んでるだけ。国語系は少し苦手だけど」

 

 嫉妬心か、対抗心か、この時、俺には大きな感情の揺れがあった。それは、絶対的な天才を前にした、根源的な恐怖。なによりも……。

 

(コイツ、見えない……)

 

 見えない。どう表現すれば良いか……あえて言うならば、彼の存在感が、これ以上なく希薄なのだ。少し意識から外しただけで、彼のことを認識できなくなる。確かにそこにあるはずなのに、まるで、雨の時に降る雨粒の1つ1つを認識できないように。無意識のうちに、彼の存在が、視界の背景と化していく。

 

 それからと言うもの、俺は彼と良く話すようになった。そうして分かったのだが、彼とて、なんでもできるわけではない。どうやら、生まれつき身体が弱く、運動が大の苦手だそうだ。とはいえ、体育の評価は5だった。そんな時に言っていたのだが「苦手だからと言って、出来ないとでも思った? そんなの努力量と頭でカバーできる」だそうだ。やっぱコイツ完璧超人だと思う。

 

 とはいえ、苦手なものは苦手なようで、実技面では俺の方が全然出来た。陽太も平均以上は普通に出来たけど……。コイツもともと身体弱いって嘘だろ。そんなことを思いながらも、陽太とは仲を深めた。半年で、もはや親友とも呼べる仲になったと思う。彼とは、よく競い合った。本当に、小学生のような、軽い遊び程度だが。俺が勝手に始めるときに、決まって俺は「3秒以内で支度しろ」と言っていた。今思うと本当にガキみたいだな。でも、本当にこの頃が、1番子供みたいに遊んだ気がする。

 

 

 

 

 

 高校2年生の8月、俺はトラックに轢かれて死んだ。

 

 

 

 

 

 陽太と遊んだ帰り、陽太の少し後ろを歩いており、信号が青になったので、横断歩道を歩いていたところ、俺だけが轢かれた。俺が、陽太の後ろを歩いていた時に、陽太にはギリギリ当たらず、俺だけが轢かれた。俺たちの歩く速度がもう少し遅ければ、陽太も轢かれていた。死ぬ間際、俺は何を思ったか……確か……。

 

「(痛い、熱い、寒い……)」

 

《確認しました。【痛覚無効】【対寒耐性】【対熱耐性】を獲得……

成功しました。対熱、対寒の各耐性を獲得、【熱変動耐性】を獲得……

成功しました》

 

「(なんか、痛みも引いたし、寒くも熱くもない。まあ良いか……それにしても、こりゃ、死んだかな……いや、ダメだ。陽太なら、こんなことじゃ屈したりしない。絶対に、まだ、諦めない……!)」

 

《確認しました。ユニークスキル【不屈者(クジケヌモノ)】を獲得……

成功しました》

 

 こんな感じだったか……屈しないとは言ったものの、死んだね……。それは良いとして、そうして、俺はこの世界に転生してきた。そうしてシズ先生に拾われて、ヒナタを追ってルミナス教に入信した。ヒナタに初めて会った時、なんと言うか……言葉にはしづらいけど、何か惹かれるものがあったのかな? だからか、追わずにはいられなかった。まあ、そうして、今に至る。

 

 まさか、また、逢えるとは思っていなかったけどね。陽太……いや、今の名前は、ユレム。だったっけ?




今回は、トウジの過去編ですね。トウジの名前は出してませんが。

あと、前書きにポエム的なの書いてみました。こう言うの書くの初めてなので、上手く出来てるかわからないけど……。見るに耐えないと思ったら、読まなくても対して支障はないです。ちなみに作者はBLEACH結構好きです(誰も訊いてない)


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勇者の友たる魔王の追憶

 皆様、お久しぶりです。ここ数ヶ月ほど、リアルな方が少々忙しかったのと、執筆意欲が軽く消失してたので、こんなにお久しぶりの投稿となりました。心配してくださった方がもし居るのでしたら、本当に申し訳ございませんでした。これからも不定期ながらも投稿は続けますので、よろしくお願いします。


 俺には親友がいた。

 

…………

 

 前世の俺は、子供の頃から何をやっても大抵はうまく行った。運動以外はだが、どうやら、遺伝子的なものか、疾患的なものかは知らないが、周りに比べ身体が弱い方だったので、体育などは誰よりも努力しなければ、人並みには立てなかった。勿論、日頃から鍛えていたので、軽く富士山を登頂する程度には体力がついたが……。

 

 さて、身体の話は置いておこう。何をやらせてもできると言う話だったな。文字通り、大抵はできた。勉強は勿論、ゲーム、楽器、クイズなどだな。特に、暗記系は得意だった。1度見たものなら、絶対に忘れない自信があったほどだ。それはそれとして、"作者の考えを答えなさい"の問題は無くて良いと思っている。

 

 高校1年生の10月27日、確か中間試験の順位が張り出された日だったか、その日、ある人が話しかけてきた。その表情は、敗北感や対抗心に満ちたものだった。その人物の顔には心当たりがあった。その中間試験の順位が2位で、俺の1つ下の人だ。名前は、八神 透慈、彼は俺に、普段の勉強について聞いてきたので、普段通りの勉強について話した所、彼の表情は変わった。屈辱感、劣等感、畏怖、そして、尊敬の念がこもっていた。

 

 それから、透慈は俺によく絡んできた。授業の時の競争などから始まり、彼はその様なことが出来そうな状態になれば、すぐに勝負を仕掛けてきた。初めは「子供かよ?」と思っていたが、俺もそれを楽しむ様になっていた。最初はずっと俺が勝ち続けていたが、回数を重ねるごとに彼は成長し、俺を追い込み、勝利の回数を増やしていった。

 

 それに負けじと、俺も成長していった。透慈から、特に対人関係の技術の多くを盗んでいった。その関係は、もはや好敵手とも言えるだろう。だが、確かに友情が存在していた。

 

 

 

 

 

 ある日、透慈が死んだ。

 

 

 

 

 

 何かの帰り、俺と透慈が2人で歩いていた時、透慈だけが車に轢かれた。なぜ俺が轢かれなかったのか、何も理解できずにいた。ただ、当時が轢かれた瞬間、理解した。「透慈が死んだ」と言うことを、無常な現実を叩き込まれ、ただ呆然と立ちつくした。

 

 それから、俺は何をすれば良いのかもわからず、ただ、何も考えずに大学へ進学した。そのまま、周りから流されるままに教師になっていた。教員採用試験は、透慈から吸収した技術のおかげか、面接でも問題なく立ち回れた。

 

 そんな日々のある日、確か、大学を卒業し、就職をしてから1年が過ぎた頃、通勤時などに読んでいた、某ウェブ小説投稿サイトにて、ある作品が投稿された。

 

 その名は、「魔王学院の不適合者」サブタイトルは省略するが……。俺はその作品に心の底から引き込まれた。何故かはわからない、だが、あの物語は、あの世界は、あの魔王は、俺の泥沼の底に沈んだ心を、日の下に引き上げたのだ。

 

 それからの俺は、そんな日々の楽しみと共に、教員としての人生を歩んだ。透慈の死も、乗り越えることができたと言えるかもしれない。生徒達を沼に引きずり込みながらも、俺は生きた。

 

 そうして、2023年の8月、海外の雪山の登山中に遭難して凍死、そうしてこの世界の転生してきた。

 

 人生とは、なかなかどうして不思議なものだ。まさか、お前と再会することになろうとはな。

 

 心からの親友、八神 透慈よ。



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