ありふれ世界のサイヤ人 (M88星雲)
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始動する物語
プロローグ


なんかありふれにハマった結果です。
駄文でもいいよ、という人だけ見て欲しいです。


異世界転生。

これこそ今やありふれたモノなんじゃないかとおもうのだが、俺はその転生者だ。

 

これまたテンプレながら転生特典としてサイヤ人の力を得た。…のだが、俺が飛ばされた世界は「ありふれた職業で世界最強」というクラスメートに裏切られた南雲ハジメという少年(・・)が自身の職業を生かして最強となる世界…のはずだった。

 

俺は轟 彩人という名前の男だ。現在の両親は虐待とかしないまともな人達だった為かサイヤ人特有の凶暴性は地球での生活に絆されたベジータの如く鳴りを潜めた。

 

そんな穏やかな生活により俺は転生したことも忘れて人生を気ままに謳歌していたのだ。

しかし原作介入はある日突然訪れる。

 

それは俺が中学生の時だ。

学校から帰宅途中に、三人組の不良に絡まれるおばあさんとその孫らしき子供と、二組の間で土下座する俺と同じくらいの女子中学生(・・・・・)が居た。

必死に許しを乞う姿は滑稽ではあったがおばあさんと孫を助けようとする意志は伝わってきた。

すると不良の一人が彼女の顔を掴み上げた。

 

「お、割りと可愛い顔じゃねぇか…お前に責任とってもらうぜ」

 

「い……いや……」

 

「あぁ?だったら慰謝料百万払えんのかよ?!」

 

「お願いします、その子は関係ありません…!」

 

「うるせぇぞババァ!テメーのガキがオレのズボンにアイス付けたのが悪いんだろうが!」

 

…話が見えてきた。怖がって震えている孫が持っていたものであろうアイスクリームが不良……もどきのズボンにベッタリて付いている。慰謝料百万とか……、頭の悪さがにじみ出ている。

別にヒーローを気取る訳ではないが俺は不良もどき達の近くに現れる。

 

「あ?んだてめぇ!見せもんじゃねぇぞ!」

 

ガンを飛ばしているつもりだろうが、全く覇気を感じない。まぁ、不良気取ってる奴なんざこの程度だろう。

少女を掴んでいる奴の手首を掴み、握り込む。

 

「ぐわぁぁぁぁぁ!!!いででででででで!!」

 

痛みのあまりそいつは少女から手を離す。それと同時に俺はそいつらに本物の殺気を放つ。心は穏やかでもサイヤの血は変わらないようで、一瞬で三人組は顔を青ざめた。そして三人にだけ聞こえる声で『次は無い』と言った途端に尻尾を巻いて逃げ出した。

とりあえず後ろの三人を気に掛けるが全員怪我は無さそうだった。

 

「危ない所をありがとうございます、お嬢ちゃんもありがとうございました…」

 

「にーちゃんすげー!おねぇちゃんもありがとう!」

 

「……」

 

祖母と孫は問題無さそうだったが当の少女はボーッとしたまま俺を見つめていた。…何故か顔が朱色だったが。

それ以外に異常が見当たらないので立ち去ろうとすると、

 

「あ、あの!ありがとうございました!」

 

何か急にでかい声でお礼を言ってきた。

別に感謝されるものでもないし、むしろ先にあの三人を止めた君のほうが凄いとだけ言った。

 

「そ、そうかな…?」

 

土下座はビビったが、誰かのために全力を出せるのは十分称賛に値する。

 

「で、でも君のほうが凄いよ。あいつらを追い払ったんだから…それに比べてボクは……」

 

随分謙遜するようだが、奴らがあの二人に危害を加える恐れを加味しても十分な働きだ。俺が通らない可能性もあるからな。

 

「…君、優しい人なんだね」

 

…サイヤ人に優しさ、ねぇ。

 

「あ、あの良かったら名前を教えて欲しいな」

 

何故か名前を聞かれた。特に減るものでも無いので教えた。

 

「轟彩人くん…うん覚えておくね。あ、ボクの名前は……南雲ハジメだよ」

 

…………は?

 

※悲報※この世界の南雲ハジメ、女だった。

 

そして俺はこの世界が『ありふれ』の世界であることを思い出した。

そして俺は後悔する。この時点で様々な原作崩壊を起こしていた事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…まぁ、転生者の俺が居る時点で既に原作崩壊なんだが。




飽きるまでは続く。ネタが無くならなければ………。


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サイヤ人(転生者)、再び転生す

筆者のやる気が続く限り続きます。
クオリティは期待しないで。
いきなり異世界へイクゾー

追記:後の展開の都合上オチを無くしました。見切り発車で始めるとこうなるんだよね・・・


現実というものは厳しいものである。あの時本来の主役である南雲ハジメと接触したものの女性ってどういう事なんだよ…。

改めてありふれ世界に居るという事実を実感し、月日は流れいよいよ”あの日”がやってきた。

しかし特に何かをすることもなくいつも通り登校するだけだ。

 

「ア?轟じゃねぇか」

 

学校に着くなり面倒な奴…奴らに絡まれる。

チンピラみたいなこいつの名前は檜山大介。取り巻きの中野信治、斎藤良樹、近藤礼一も一緒にニヤニヤ笑いを浮かべている。

 

「何か用か、檜山」

 

「チッ、なんだその態度は!」

 

「用が無いならどけ(ギロッ」

 

「…っ」

 

こんなのだから人としてもサイヤ人としても嫌なのだ。

こいつらは強者に媚びて弱者を見下す。そんな奴らに時間を割く必要は無い。というよりヘイトを俺に集中させ、間接的にハジメを守る為でもある。情けない話だがこいつらは女のハジメにもちょっかいをかけていたのだから。後ろから敵意を感じるが無視することにした。

 

「おはようございます、と」

 

俺は教室の扉を開けながら挨拶をする。と、

 

「あ、彩人くんおはよう!今日はギリギリじゃないね」

 

「おはよう、轟君」

 

このグラスの二大女神なんて呼ばれている美少女、白崎香織と八重樫雫が笑顔で挨拶してくる。そしてクラスメイトからの嫉妬の視線と敵意。 『なんでアイツが』『調子に乗るな』と言わんばかりの視線である。

 

「あ、おはよう彩人!」

 

「おはようございます、轟君」

 

「お、おはよう二人とも」

 

次いで俺が居るのに気付いた谷口鈴と中村恵里の二人が手を振りながら挨拶してくる。

この二人が友好的なのは原作崩壊の一つだったりする。

…それはそうと、複数の異性に声をかけられた男がどうなるか。

 

『『『『『『『『…チッ』』』』』』』』

 

こうなる。

 

「あれ?彩人くん、ネクタイが曲がってるよ」

 

「これくらい平気だって」

 

「ダメだよ、身だしなみはきちんとしないと!」

 

あれよあれよという間に香織が俺に近づいて若干歪んだ俺のネクタイを慣れた手つきで直していく。

 

「これでよしっ…うん、格好いいよ」

 

屈託の無い笑みを浮かべる香織。その後ろでも何故か満足そうな雫。これで敵意が殺意に昇華したのだが、シカトする。

 

「香織、また彼の世話をやいているのか?」

 

…後ろから嫌な声が聞こえた。俺は小さくため息をつきながら振り返る。

そこに居たのはイケメンとガタイの良い高身長の男。

 

「全く、香織は優しいな」

 

このイケメンの名前は天之河光輝。文武両道、才色兼備と天は二物を与えないのでは無かったのかと言わんばかりのハイスペックイケメンなのだが、思考面が…少々面倒なので正直俺は関わりたくない。

 

「全くだぜ、こんな根性なしに構うなんてな」

 

身長190cm台あるこの男は坂上龍太郎。ガッシリとした外見に違わず熱血漢。そのため(ヘイト集めのため)無気力な俺が気に入らないらしい。

 

「?わたしが好きでやっているんだよ?」

 

きょとんとした顔で香織が当然のように言う。

いや、それ悪化してるんだが………

 

「あ、あぁ……香織は本当に優しいな」

 

どうやら天之河君は香織が俺に気を使ったと思っているようだ。そして頭を抱える八重樫さんとやれやれと言いたげな坂上君が居た。

 

「光輝がごめんなさいね…後で言っておくから」

 

いたたまれない表情で雫が謝罪してきた。そんな彼女を見てなんか姉みたいだと思ったのは内緒だ。

 

「お、サイト珍しいな。お前がこんな早く来るなんて」

 

「おはよう、轟君」

 

「幸利、辻さん」

 

すると清水幸利と辻綾子の二人が教室に入ってくる。

二人は付き合っており、くっつけたのは俺だったりする。前回の原作崩壊の一つだ。

元々幸利はハジメと同様のオタクであり最低限度の受け答えしかしない暗い奴とされていたがオタクが故に小説やイラストを書くのが得意だったので俺はそれを生かせば良いんじゃね、と考え半ば強引に出版社に出したらものの見事にヒット。根暗でも承認欲求があった幸利はこの成功をきっかけに性格が好転。家族との関係も改善したらしい。そして彼の作品のファンとなった辻さんを幸利に会わせたらあれよあれよという間に恋人になっていた。今の彼を最初に見た奴は『誰だお前』状態になったのを今でも忘れない。

 

「…また天之河に絡まれたのか」

 

「あぁ。でも気にしてないから大丈夫だ」

 

「轟君も大変だね……」

 

当の本人は”今日も正しい事をした!”と言わんばかりの表情である。

 

「…おはよぉ……ございますぅ………」

 

すると、我らがまo……じゃなくて南雲ハジメ(♀)の登場である。

 

「あ、おはようハジメちゃん。また夜更かししてたの?」

 

「うん……今やってるゲームが面白くて……つい」

 

「趣味に没頭するのはいいけど睡眠も必要だぞ?」

 

「そうだね…」

 

香織と雫が寝不足のハジメと会話している。これだけならキマシタワーの建設が始まりそうだが…

 

はいこれ。彩人くんの寝顔だよ

 

わっ……撮れたんだね。凄いよハジメちゃん。はぅ……彩人君、かわいいよぉ……

 

ず、ズルいぞ香織!私も見たい……

 

カオリンいいなぁ…後で見せてもらおうっと

 

彩人君の寝顔……ふふッ……

 

どうしてこうなった。

…何故かハジメがストーカー紛いの事をやるようになった。とはいえ家に侵入したり物を取って行ったりはしないのだが普通にこえぇ。オラゾワゾワすっぞ。

しかも周りもそれを咎める処か応援してるフシがある。ここで難聴を発動すればどれだけ楽だっただろう。そして彼女達の変化に関して思い当たる部分が多すぎる。

 

これ以上の悪化は今のところ無いが俺が奈落に落ちたらどうなるか…。

 

五人の会話が聞こえた幸利と辻さんはひきつった表情で

 

「「頑張って(ね)」」

 

と言うのだった。おのれリア充、永遠の幸福を与えてやろう。

 

時は過ぎてお昼。サイヤ人にとって食事は戦闘の次に至高の時間……

 

「な、なんだこれ!」

 

「み、皆さん早く教室の外へ!」

 

教室の床に魔方陣のが現れ、社会科の担当教師、畑山愛子

(通称:愛ちゃん)の声むなしく俺たちは光に包まれた。

おのれエヒト、まずお前から血祭りにあげてやる…

 

 

 




魅力的な文章ってなんだぁ…。
最後のはちょっとした伏線…になるのかなぁ。


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お前達が戦う意思を見せなければ…タヒぬ。

ステータスプレートは次でした。


まさかの転生先からの異世界転移である。

飛ばされ礼拝堂だった。美しいステンドグラスや肖像画が飾られている。

…あの忌々しいエヒトらしき後光を放つ奴が人々を導き、目線の先にある金色のオーラを纏った気持ち悪い造形の猿(?)に立ち向かう姿が描かれていた。

 

「あれは……」

 

「おや、その絵画にご興味がおありかな?」

 

そして現れる一人の老人。

俺たちに深く礼をしながら外見に違わぬ落ち着いた口調で話す。

 

「ようこそ”トータス”へ。私は聖教教会にて教皇の地位に就いております…イシュタル・ランゴバルドと申します。以後どうぞ宜しくお願いいたします……」

 

そしてイシュタル氏に導かれるままに長ったらしいテーブルに座らされた。

全員が着席すると同時に推し量ったように飲み物をのせたカートを押しながらメイド達がぞろぞろと入ってくる。

男子は若いメイドに鼻の下を伸ばし、それを女子がゴミを見るような視線を向けている。

別に見るものでもないと俺は思っているのだが、五つほど視線を感じた。

無論ハジメ達だ、『あーいうのが好きなのか』とでも言いたげだな、オイ。

 

「さぞ混乱なさっていることでしょう、飲み物を飲みながら私の話を聞いて下され」

 

そういってイシュタル氏はこの世界の現状と俺達を召還した理由を語った。

内容は、

 

・この世界はトータスと呼ばれる世界で人間族、魔人族、亜人族が存在する。

・亜人は差別対象であり、亜人側も人間を快く思っていない

・人間族と魔人族は戦争状態で戦況は長らく拮抗していたが魔人族が強力な魔物を使役するようになり人間族が不利な状況

・この世界より上位の世界とされる俺達の世界から勇者候補を喚べというエヒトの導きで俺達は連れてこられた

 

要約すると、ここの人間族がヤバイから君たち戦争に協力しろ。

 

以上。

 

「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

唐突に机を叩きながら立ち上がったのは愛ちゃん先生である。低い身長のせいで迫力は無いがいち教師としてはもっともな意見を言う。素敵な先生だ、感動的だな、だが無意味だ。

イシュタル氏は先生の言葉で顔をしかめた。『エヒト様に選ばれたのに何がそんなに不満なんだ?』と。

ここで下手に反抗すると『異教徒め!反抗する気か!』とでも言われて帰るどころか全滅もありうる。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です。」

 

無慈悲なイシュタル氏の発言に動揺が走る。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな。」

 

「そ、そんな……。」

 

帰れないという事実にクラスメイト達はパニックを起こし始める。

 

「嘘だろ、帰れないだって…?」

 

「戦争なんて嫌ぁ!死にたくない!」

 

「携帯も繋がらねぇ……」

 

「帰りたいよぉ……」

 

「ひ、避難だぁ!」

 

「何処へ行くんだァ…?」

 

「お、お前達と一緒に帰る準備だぁ!」

 

…何か一部変なのが混ざったが。

 

「しかし、エヒト様も寛大なお方。悪いようにはしますまいて」

 

結局エヒト様の気まぐれってことだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!

またまた無責任なイシュタル氏の発言に対し、新たに立ち上がった者がいる。………当然、天之河く……天之河である。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい。」

 

「俺達には大きな力があるんですよね? なんだか、ここに来てから妙に力が漲っている感じがします。」

 

「ええ、そうでしょう。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな。」

 

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

何言ってんだおめぇ……。

これは殺し合いなんだぞ、ゲームじゃないんだ!

と言っても止まる気配なんて無い。むしろ賛同する奴も出てきた。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

 

「龍太郎……」

 

坂上く……坂上が賛同するんだからな……ん?そういえば香織と雫が賛同する気配が無い、と思ったが。

 

「「………(ジーッ)」」

 

なんかこっち見てくるんだけど。

アレか?俺に賛同するって感じか?

 

「…仕方ない、戦う以外に道は無いんだから不本意だが参加する」

 

そして水を差すんじゃえねぇという視線を向けられる。

 

「確かに、今のところ、それしかないわよね。……私も気に食わないけど……やるわ。」

 

「雫……。」

 

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

 

「香織……。」

 

しかし偉大なる二大女神の存在でそれは無くなった。

次々参戦を宣言する生徒達に「ダ、ダメですよ~っ!」と叫ぶ愛ちゃん先生にほっこりした表情を向ける鈴と恵里が居た。

 

「イシュタル氏、俺達は戦いに参戦するに当たって一つ条件があるが、宜しいか」

 

「条件…とは?」

 

「”非戦闘系の者あるいは戦闘に向かない者の前線投入を強制しない”事。武器の量産や食糧の確保は戦争に大きく影響する」

 

「……それも一理ありますな。しかし全員後衛、というのは認められませんぞ?」

 

「構わない。あくまでも犠牲を増やさないためにも約束は守って貰いたい。貴殿方が崇拝なさっているエヒト様に誓って頂く」

 

俺の言い分に天之河が「皆で戦うべきだ!」とか言ってるが無視。イシュタル氏は何処か諦めた表情で

 

「承りましょう……”非戦闘系の者あるいは戦闘に向かない者の前線投入を強制しない事をエヒト様に誓います”。これで宜しいかな?」

 

「ええ。何卒その誓いをお忘れなく」

 

――――――――――――――――――――――――――

さて、俺たちは魔人族と戦争する兵士にされたわけだが元々平和な日本で生活していた善良な市民であった人に殺し合いが出来るなどとそのような事があろうはずがございません。

そのためこの国…【ハイリヒ王国】の兵士が居る王宮へ赴くことになった。

本当は国王への挨拶が先なのだが。

教会の外に出て気付いたがここは【神山】と呼ばれる山の上であり、見たことの無い景色が広がっていた。

指示されるままにクラスメイト達が石の台座に乗ると、

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――〝天道〟」

 

詠唱と共に台座が動きだし、下山していく。まんまファンタジーである。麓に着き、豪華な王宮へ誘われ荘厳な廊下を進むと警備兵やメイド達の好奇の視線を浴びる。特に動揺している様子も無いことから俺達の事はある程度知っているようだ。長い廊下の先に一際大きな扉が見えてくる。

あの先に王が居るのだろう。

 

「「イシュタル様、ならびに勇者様方がご到着いたしました!」」

 

扉の前に居た二人の兵士が叫び、間髪入れずに扉を開いた。多くの生徒が内装の仰々しさのあまり恐る恐る扉をくぐっていく。長いレッドカーペットの先にある玉座の前に威厳ある佇まいで仁王立ちする初老の男性…恐らく彼がこの国の王であろう。

その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。

周りには付き人や文官、護衛の兵士といった人が王室内に居た。

王への謁見後に晩餐会が開かれた。訓練教官の紹介や親睦を深めるためらしい。だが、飯を食いそびれた以上食べずにはいられぬぅ!周りの視線など知らぬぅ!

 

…おい、ハジメ達よ子供を見るような暖かい目で見るんじゃない。香織に(恐らく)惚れてるランデル王子が滅茶苦茶睨んでくるんだが。王家を敵に回すとか嫌なんだが。30年後に復讐しなきゃならなくなるから。

 

色々あったがこれで一日が終了し、個別の無駄に豪華な部屋で天蓋付きベッドにダイブし、寝た。

…夜、息苦しさを感じて目を覚ますと右腕を抱き枕のようにする雫、右半身に抱きつく香織、左腕を抱くハジメ、左半身に寄り添う恵里、腹の上に鈴が居た。う、動けん………。ってかいつの間に侵入したし。鍵かけたはずなんだがねぇ…って動くな………どぉぉぉぉぉうぬぅぅぅぅぅぅぅぅ娘ェに関節をキめられるとは…これもサイヤ人の定めか…………。

 

 

☆―――――――★

 

 

お、思ったより早く来たみたいだね

 

え、僕が誰かって?

 

残念だけどここでは明かせないなぁ。わかる人も居ると思うけど。

 

いずれにせよ、これはラッキーだね。

 

早速行動を起こさなくちゃ。

 

 

☆―――――――★




最後の人は誰でしょう?(わかる人いるんか?)


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戦闘力たったの5か、ゴミめ

ほぼタイトルをやりたかっただけです。


翌日。早速座学+訓練が開始されたが昨夜、寝ようとする度にハジメ達が関節をキめてくるし異性の香りで集中できねぇし…寝不足な上に体のあちこちか痛ぇ……

 

結局手を出してくれなかったね

 

うぅ…彩人くん、私達に興味ないのかな…?

 

そ、そんな事はないと思うぞ…?少し顔が赤くなっていたからな

 

エリリン、もう少し大胆な服が良いのかな?

 

”反応”はしてた、後一息。

 

確信犯かよ。俺、いつか喰われるんじゃね?バリケード張ろうかな。

 

そんな事は露知らず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに眺めるクラスメイト達の前に立った騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

対外的にも対内的にも一応〝勇者様一行〟を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。

 

メルド団長本人も、「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていた。俺は心の中で副団長に敬礼した。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

非常に気楽な喋り方をするメルド団長。彼は豪快かつ人当たりの良い性格で、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告していた。

年上である以上、気さくに話せるのはありがたい。

少なくともイシュタル氏よりは信頼出来る人物だと思う。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

 

「アーティファクト?」

 

アーティファクトという聞き慣れない単語に天之河が質問をする。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

なるほど、と頷き生徒達は、顔をしかめながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。俺も針で指先を傷つけ血を付けた。すると無機質な面に文字が浮かぶ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

轟彩人 17歳 男 レベル:1

 

 

 

天職:武闘戦士

 

 

 

筋力:5

 

 

 

体力:5

 

 

 

耐性:5

 

 

 

敏捷:5

 

 

 

魔力:0

 

 

 

魔耐:0

 

 

 

技能:言語理解

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

戦闘力たったの5か、ゴミめ

 

じゃねぇぇぇよ!!

え、何?確かにサイヤ人は鍛え続ける必要があるのに普通の人の生活続けてたから弱くなるのはわかるよ?でも流石に酷すぎないか?!魔力皆無とか!…ちなみにハジメは、

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

南雲ハジメ 17歳 女 レベル:1

 

 

 

天職:錬成師

 

 

 

筋力:10

 

 

 

体力:10

 

 

 

耐性:10

 

 

 

敏捷:10

 

 

 

魔力:10

 

 

 

魔耐:10

 

 

 

技能:錬成・言語理解

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

純粋に倍でした/(^o^)\魔力持ってる時点で俺は敗北者じゃけぇ…本人はゲームの主人公になったみたいと嬉しそうだった。

自身のステータスに一喜一憂するクラスメイトに再びメルド団長がステータスの説明した。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないようだ。ある意味潜在能力の数値と言える。最長老様呼ばなきゃ。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。やっぱ修行だぁ!

 

「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

まぁ、生産職は普段の生活でも使うし…。武闘戦士がどんなものだろうかねぇ。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

/(^o^)\

 

俺、一般人の半分かよ………。一般人に負けるサイヤ人って一体……。知ってたけども!!

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

 

 

 

天職:勇者

 

 

 

筋力:100

 

 

 

体力:100

 

 

 

耐性:100

 

 

 

敏捷:100

 

 

 

魔力:100

 

 

 

魔耐:100

 

 

 

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

その上天之河は元の通りだが…やはり桁外れ。

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に俺の半分近くとは……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

 

「いや~、あはは……。」

 

桁外れの戦闘力にメルド団長もべた褒めだ。

所詮俺は…足手まといになるだけだ。まぁ、これで奈落行きのフラグが一つ回収できたって事かね。

次々にクラスメイトの規格外の戦闘力にご満悦のメルド団長だったが、諦めた表情のハジメと俺のステータスプレートを見た途端、見間違いか?と自身の目を擦ったりプレートを振ったりあちこちから眺め、黙り込む。数秒後、申し訳なさげに俺達に返した。

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 

そして集まるヘイト。何故か俺の職業は言わない。

そしてこういう時必ず現れる奴。

 

「だっせぇな、南雲。鍛冶職ってことは非戦闘系じゃねぇか、それで戦えんの?」

 

檜山である。

 

「何故戦う必要がある?」

 

「んだと…轟」

 

「鍛冶職人を舐めんなよ?武器や防具を作るのが鍛冶職人なんだよ、それらがなければ戦えねぇ。俺はイシュタル氏に言ったはずだ。ハジメはサポートに回ればいい」

 

「だったらテメェはどうなんだよ!」

 

ま、こうしてヘイトは集めておくに限る。

それと、自分の職業についても一応聞きたい。

 

「……言っても………いいのか?」

 

何故かメルド団長は歯切れが悪い。

録な職業じゃないと見抜いた檜山がニヤニヤしながら「早く聞けよ」とうるさいので構いませんとだけ言った。

 

「…武闘戦士、というのはな魔力を使えない者が主に自衛の為に身につける武道で戦う職業だ。魔法が発達した現在ではほぼ廃れた職業と言える。現在では趣味感覚でその武道を学ぶ人も居るな………」

 

想像以上にゴミじゃねぇか。

そして普段の仕返しと言わんばかりに俺のプレートを奪って絡んでくる檜山。

その後ろの取り巻き達も腹を抱えて笑っている。

 

「廃れた…www廃れた職業だってよ………!!ギャハハハハ!」

 

「しかも見ろよ!ステータス5wwwwww一般人よりも弱ェ!!」

 

「ヒーッヒッヒヒ!!こいつゴミだぜ!囮にも使えねぇって!すぐ死ぬ奴!!」

 

こんなことで笑えるだけこいつらは幸せ者かもしれない……。

 

は?彩人の強さはステータスとか関係ないし

 

ねぇ鈴、アイツら後でシメよっか

 

サイトクンヲバカニシナイデ

 

香織落ち着け!ここでは目立つ!

 

……ウザい

 

ある意味尊敬するよ、この殺気に気付かんとか。

しかしこの空気を壊す者が一人。愛ちゃん先生である。

 

「こらー! 何を笑っているんですか! 仲間を笑うなんて先生許しませんよ! ええ、先生は絶対許しません! 早くプレートを轟君に返しなさい!」

 

ちっこい体で精一杯怒りを表現する愛子先生。その姿に毒気を抜かれた隙をついてプレートを奪還する。愛子先生は彩人に向き直ると励はげますように肩を叩いた。

 

「轟君、気にすることはありませんよ! 先生は非戦系? の天職ですが、ステータスだってほとんど平均です。轟君は一人じゃありませんからね!」

 

そう言って「ほらっ」と愛子先生は俺に自分のステータスを見せた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

畑山愛子 25歳 女 レベル:1

 

 

天職:作農師

 

 

筋力:5

 

 

体力:10

 

 

耐性:10

 

 

敏捷:5

 

 

魔力:100

 

 

魔耐:10

 

 

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

ーーーーーーーーーーーーーーー

【悲報】愛ちゃん先生、チートだった。

てか筋力と敏捷がかろうじて同じとか………。サイヤ人のプライドが傷ついたぜ……

いやそれ、食糧チートやん。それに気付いたメルド団長が報告を急ぐよう要請する声が遠く感じた。

 

☆―――――――★

あれれ~?

 

こんなに弱かったかな?

 

な~んてね。僕の目は誤魔化せないよ。

 

だって、今まで散々見てきたからね。

 

サイヤ人の底力を。

 

でも、人間でサイヤ人なんて、興味あるなぁ。

 

実験したいなぁ~。

 

☆―――――――★




最後の人、こっちなら分かりやすいかな。


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サイヤ人なら鍛えろー!って界王も言ってたぜ

もう答えを出します。


転移してからもうすぐ二週間が過ぎようとしている。

原作と違いハジメは錬成に特化する訓練を行っている。俺がイシュタル氏に言った事で戦闘系と非戦闘系に訓練分けしたおかげか檜山どもに訓練と称したリンチされる事もなく錬成の技術と知識の獲得がスムーズに進んだ。

その甲斐あってか、

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

南雲ハジメ 17歳 女 レベル:5

 

 

 

 

 

 

 

天職:錬成師

 

 

 

 

 

 

 

筋力:14

 

 

 

 

 

 

 

体力:13

 

 

 

 

 

 

 

耐性:21

 

 

 

 

 

 

 

敏捷:12

 

 

 

 

 

 

 

魔力:21

 

 

 

 

 

 

 

魔耐:21

 

 

 

 

 

 

 

技能:錬成・言語理解

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

と、まだまだ低いものの確実な成長を遂げている。

ちなみに勇者様(笑)の天之河は、

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:10

 

 

 

 

 

 

 

天職:勇者

 

 

 

 

 

 

 

筋力:200

 

 

 

 

 

 

 

体力:200

 

 

 

 

 

 

 

耐性:200

 

 

 

 

 

 

 

敏捷:200

 

 

 

 

 

 

 

魔力:200

 

 

 

 

 

 

 

魔耐:200

 

 

 

 

 

 

 

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

こんな感じ。…まぁ、勇者だもん。

そして俺はというと。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

轟彩人 17歳 男 レベル:2

 

 

 

 

 

 

 

天職:武闘戦士

 

 

 

 

 

 

 

筋力:76

 

 

 

 

 

 

 

体力:68

 

 

 

 

 

 

 

耐性:81

 

 

 

 

 

 

 

敏捷:90

 

 

 

 

 

 

 

魔力:0

 

 

 

 

 

 

 

魔耐:0

 

 

 

 

 

 

 

技能:言語理解

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

サイヤ人の特性か、戦闘訓練する事である程度力…というより戦う感覚を取り戻してきた。

とはいえただの訓練では無く、メルド団長との組み手である。

前回の通り、俺は神の使徒の癖に戦闘力ゴミだったのだが、

 

「…初期ステータスや職業は残念だったが、お前には可能性を感じる、一部には無駄と言われたがどうだ…訓練に参加しないか」

 

なんてメルド団長本人に言われた。個人的には信用に値すると思ったのであの名ゼリフで参加した。

 

「ええ、”落ちこぼれでも必死に努力すればエリートを超えるかもしれませんし”。参加します」

 

…だが戦闘力たったの5で対人戦が出来るものかという理由から騎士達に戦闘の基本から叩き直された。早朝とクラスメイトの訓練後なので騎士団の皆様には申し訳ない。しかしDNAレベルに刻まれた戦闘の才能が開花した。

しかし相変わらず魔力適正が皆無であり騎士団は頭を抱えた。

 

これは後で聞いた話だが魔法自体がエヒトのような神が扱う神代魔法の劣化版とされておりいわば神の贈り物という扱いなので魔力を持たない者は異教徒扱いされる恐れがある。実際亜人族が差別対象となっているのは魔力を持たないかららしい。魔物は魔力をもつが害獣扱い。都合良いな…

ついでに敵である魔人族に関しては卓越した魔法適正を持ち本来必要な魔方陣や詠唱を簡略化出来るという。

 

「何か、魔法らしき事は出来ないか?この才能を無くすのは惜しい」

 

話を戻そう。先述通り魔力を持たない事がバレないように何かしらできるほうがいい。

しかし魔力適正が無いのは事実だ。どうしたものかと考えつつ部屋に戻ると、

 

「やあ、お邪魔だったかな?」

 

「お前は…フュー!?」

 

ドラゴンボールの世界にいるはずのフューが部屋にいた。フューは眼鏡の位置を整えながらいつもの含み笑いを浮かべている。

 

「この転移は…まさかお前が」

 

「違う違う、むしろ僕も被害者なんだよ~」

 

「冗談だ。お前がそんな真似をしないって知ってるし」

 

「ふぅん…初対面だけどよく知ってるね。人間なのにサイヤ人の力を持ってる…調べてみたいなぁ」

 

「相変わらず凄い研究熱心な事で」

 

「でも残念だなぁ、"気"の扱いができればもっと強くなれたのに」

 

「気…あ。使えるの忘れてた」

 

「え」

 

この後も色々あったが今回はここまで。

強さの基本である気の解放を忘れていた。普段の生活に支障を出さないように気を限界まで下げていたのを思い出し意識しなおすとすぐに感覚を取り戻した。

翌日、"身体強化"のつもりで気力開放を披露し団長に喜ばれた。周りの騎士たちも目を丸くしていた。

 

「ウム!仕組みはわからんがよくやった、彩人!これからも修練に励むように!」

 

「はい」

 

その足でクラスメイトのいる訓練所に来た。

ハジメ達ヒロインズ(勝手に命名)が談笑していた。

彼女たちにはなしかけようとしたその時、背中をどつかれる。気で犯人はわかっていたが俺は今は一応"足手まとい"なのであえてくらう。

 

当然、檜山共だ。

 

「よぉ、轟。なにしてんの? お前が剣持っても意味ないだろが。マジ無能なんだしよ~」

 

「ちょっ、檜山言い過ぎ! いくら本当だからってさ~、ギャハハハ」

 

「なんでいきなり訓練に出てくるわけ? 俺なら恥ずかしくて無理だわ! ヒヒヒ」

 

「なぁ、大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから、俺らで稽古つけてやんね?」

 

普段勝てない相手にマウントをとれるのが嬉しいらしくいつもより下品な笑みだ。

 

「あぁ? おいおい、信治、お前マジ優し過ぎじゃね? まぁ、俺も優しいし? 稽古つけてやってもいいけどさぁ~」

 

「おお、いいじゃん。俺ら超優しいじゃん。無能のために時間使ってやるとかさ~。轟~感謝しろよ?」

 

 

そんなことを言いながら馴れ馴れしく肩を組み人目につかない方へ連行していく檜山達。それにクラスメイト達は気がついたようだが見て見ぬふりをする。それが正解だろうな。

しかし、抵抗して『こいつ本当は強いんじゃないか?』と勘繰られるのは嫌だなぁ・・・。それに檜山どもがやられるのは知った事ではないがヒロインズを人殺しにはしたくない。

どうこう考えているうちに訓練施設からは死角になっている人気のない場所に来ると、檜山は彩人を突き飛ばし、四人で囲む。

 

「ほら、さっさと立てよ。楽しい訓練の時間だぞ?」

 

檜山の言葉通り立ち上がると背後から殺気。近藤が剣の鞘で殴りつけてきた。紙一重でかわす。

 

「!?」

 

「くっ…」

 

近藤は空振り三振したことに動揺する。

 

「ち、まぐれだよ! ここに焼撃を望む――〝火球〟」

 

中野が転倒寸前の彩人に火球を放つ。…が彩人は気を張って火球を受け流す。

 

「ふざけやがって…ここに風撃を望む――〝風球〟」

 

斉藤が続けて空気弾を放つが彩人は体を捻ってかわす。

 

「轟ィ…調子に乗ってんじゃねえぞ…!」

 

・・・どうやら怒りで周りが見えていないようだ。これなら返り討ちにしても良かった気がする。四人全員が杖や武器を捨て、近藤が後ろから彩人を羽交い締めにし残る斎藤が両足、中野が両腕を押さえる。

 

「へへへ…無様だなァ、轟。だいたいお前は前々から気に入らなかったんだよッ!!」

 

檜山の右手が無防備な彩人の腹部に命中する。つづけて檜山は彩人の顎、顔面などを殴りつける。

 

「まだまだいくぞオラァ!」

 

…正直全然痛くない。急所やられてんのに。気ってすげえな…・・・あ、この気は。

 

「何やってるの!?」

 

その声に「やべっ」という顔をする檜山達。檜山達が惚れている香織だったのだから。香織だけでなく雫や光輝、龍太郎もいる。慌てて三人は彩人を解放する

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、轟の特訓に付き合ってただけで……」

 

「彩人くん!」

 

檜山の弁明を無視して、香織は彩人に駆け寄る。彩人の様子を見た瞬間、檜山達のことは頭から消えたようである。

 

「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」

 

「いや、それは……」

 

「言い訳はいい。いくら轟が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」

 

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

 

三者三様に言い募られ、檜山達は誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去った。香織が治癒魔法を使う。

ノーダメなんでべつにいいんスけど。

 

 

「ありがとな。白崎さ「香織、でしょ?」…香織、助かった」

 

 

 苦笑いする彩人に香織は泣きそうな顔でブンブンと首を振る。

 

 

「訓練終わった後、いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」

 

 

 殺意の波動を放ちながら檜山達が去った方を睨む香織を、彩人は慌てて止める。

 

 

「いや、今回が初だし…気にするな」

 

「でも……」

 

 

 それでも納得できなそうな香織に再度「大丈夫」と言って押し切る。渋々ながら、ようやく香織も引き下がる。

 

 

「さい…轟君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」

 

渋い表情をしている香織を横目に、苦笑いしながら雫が言う。それにも礼を言う彩人。しかし、そこで水を差すのが勇者クオリティー。

 

「だが、轟自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう?俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。轟も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、轟の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

何をどう解釈すればそうなるのか。彩人はやれやれと思いながら、ああ確かに天之河は基本的に性善説で人の行動を解釈する奴だったと苦笑いする。

天之河の思考パターンは、基本的に人間はそう悪いことはしない。そう見える何かをしたのなら相応の理由があるはず。もしかしたら相手の方に原因があるのかもしれない! という過程を経るのである。

しかも、光輝の言葉には本気で悪意がない。真剣に彩人を思って忠告しているのだ。彩人は既に誤解を解く気力が萎なええている。ここまで自分の思考というか正義感に疑問を抱かない人間には何を言っても無駄だろうと。昔からそうだった。

 

「…努力します」

 

としか言わなかった。

訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルド団長は野太い声で告げる。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

さーて、奈落落ちの為に英気を養うとしますか。

・・・ん、手紙が…?

 

『あいつらはきちんとohanasiしといたよ byあなたの恵里より』

 

「奈落行って…大丈夫なのか?内部崩壊の未来しか見えねえ」

 

 




サイヤ人を甘く見るなよ。レベルが上がりにくいのはサイヤ人の可能性。


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幕間:フューは協力者?

はい、フューが居る理由とその他諸々。
設定とか考えんのめんどいから短め。


~前回の続きから~

 

「…まさか気が使えること忘れるサイヤ人が居るとは思わなかったよ」

 

「面目ない…」

 

「まぁ、君ならすぐに慣れるだろうし大丈夫だとは思うけど」

 

「それはそうと、何故ここに居る?」

 

「あぁ、その事はまだ話してないよね」

 

フューの話によると

 

DB時空にていつも通りエネルギーの収集に明け暮れていた。

 

 

自分が使う異空間への入り口とは違う入口を発見。

 

 

興味本位で近づいたら神エヒトを名乗る者が現れて無理やりこの世界に連れてこられた

 

 

時空間移動の入り口も出せない上にエネルギーを失った。

 

 

帰る方法を探っている内に俺を見つけた

 

らしい。

 

「…?だとしたら帰る方法があるのか?」

 

「うん、一応見つけたんだけど…それはこの世界にある七つの迷宮を攻略する必要があるんだ」

 

「(原作通りか)」

 

「でも僕達のような気を扱う人は魔法適正が皆無だから攻略するだけじゃ帰れないんだ」

 

「…あぁ、だから俺にも魔法適正が無い訳か」

 

「しかも迷宮の魔物はかなり強いからね~、僕は一つも攻略出来なかったよ」

 

「…行ったのか」

 

「そりゃあ、帰りたいからね」

 

やはり帰還方法は七大迷宮の攻略だろう。

 

「おっと、これだけは言っておきたかったんだ。…君がサイヤ人だっていうのはこの世界の人には言っちゃいけないよ」

 

「…魔力が無いからか?」

 

「うん、それもあるけど大きな理由は…太古の昔に人間の神、エヒトに傷を負わせたのがサイヤ人らしいんだ」

 

「な…まさか神山の絵画は……」

 

「あの絵を見たんだね?なら話は早い。超サイヤ人がエヒトに牙を向いた所なんだ」

 

「(どうりで…あの絵を見た時、イシュタル氏が一瞬苦々しい表情をした訳だ)」

 

「…詳しい理由は分からないけど、この世界ではサイヤ人は神に逆らって世界を滅ぼそうとした不倶戴天の神敵って所だね」

 

「人間族を敵に回す訳か」

 

「ところがどっこい、魔人族の神にも牙を向いたって話だから、魔人族もサイヤ人を恨んでる」

 

「マジか…でもなんで魔人族の話を」

 

「僕は外見上、人間には見えないでしょ?だから主に魔人族のテリトリーに身を潜めてるんだ」

 

「成る程な。…だったら魔人族が攻勢を強めてる理由は」

 

「うーん、中枢にまで行ってる訳じゃないから詳しい事は分からないけど『強力な戦力を増やす者が現れた』とは聞いたかな」

 

「…(アイツか)」

 

「おっと忘れる所だった、僕達は魔力を持たず気を扱える訳だけど…気は魔力とは別物だけど互いに干渉するんだ」

 

「干渉?」

 

「まぁ簡単に言えば強い気を当てる事で魔法を打ち消したり跳ね返す事が出来るって事かな。でも逆も成り立つから気を上回る魔法は防げないから用心してね」

 

「…そっか。心に留めておく。……で、要件は?」

 

「え、要件?」

 

「とぼけんな、お前が何も考えずにこんな所に来る訳ないだろ」

 

「ありゃ、バレてた?…そこまで分かってるなら話は早いね。この世界を脱出するのを手伝ってほしい」

 

「何となく分かってたが…」

 

「もちろん、出来るだけ僕も君に協力するからさ」

 

「…了解」

 

「それじゃ、これから宜しくね」

 

するとフューは小刀で時空の穴を開け、そこに入っていった。

 

「…やれやれ、忙しくなるな。まずは気を取り戻さなきゃな」

 



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早速迷宮に出掛ける!後に続kふおおぉ!?

展開が早すぎたので書き直し。ガバガバじゃねえか!



 【オルクス大迷宮】

 

それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。

にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。

そのため冒険者などが利用する宿場町、【ホルアド】が存在する。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる事になった。

 

「よく頑張ったかどうかは知らんがとうとう迷宮入りの時が来たようだな…明日だけど」

 

某MADの名言のもじりを言いながら個室で夜景を眺める彩人。他は二人部屋、三人部屋なのだが正直詮索されるのは不味いのでむしろ好都合だった。

原作同様のメンバーで迷宮に入るのだが…。結末が分かっているだけに鬱いなぁ…

そして聞こえるはずのノック音・・・が聞こえねえ。

 

「?このあたりで香織がくるんだが…。ここのフラグがないと奈落行きの確率が下がるんだが…ま、いっか。現実でヘイト溜めたし」

 

ということで寝た。

次の日、起きると。

 

「・・・衣服が減ってる」

 

使用済みの服や下着が消えていた。昨夜感じた複数の気配は洗濯の為と思いたい。

 

そしてオルクス大迷宮の入り口にやってきた。迷宮というより何かの博物館を思わせる文明的な入口である。

メルド団長を先頭に迷宮の中に入っていく。

 

縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり辺りが照らされ、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、オルクス大迷宮は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。皆さんご存じねず〇男です。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

もとい、ラットマンです。筋肉モリモリマッチョマンの変体ネズミDA☆

正面に立つ光輝達――特に前衛である雫の頬が引き攣っている。やはり、気持ち悪いらしい。

 

間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、香織と恵里、そして鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。

全員原作通りの外見、技を披露する。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

 

聖剣で切られるわ籠手越しで殴られるわ、剣で斬り割かれるれるわ螺旋の炎で消し炭にされるわで周りは歓声をあげているもののラットマンが不憫に感じる。今の天之河達にはラットマンなど敵ではない。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

炭化した魔石を持ちながら話すメルド団長の言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

「メルド団長、次俺がいきます」

 

実践訓練のために志願する。

 

「む?彩人、焦らずともお前のパーティーの番は…」

 

「俺一人で行きます」

 

「な…ま、まあここは一層目だから強い敵は出て来んし万が一の時は騎士団が援護に入るからな。しかし無理はするな。危険だと思ったらすぐに下がれ、いいな?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

再び現れたラットマンに歩みをすすめる。

 

「!?あ、アイツ素手だぞ!」

 

後ろから聞こえる声。まあ、そういうことだ。武闘戦士は魔力を持たないがゆえにアーティファクトの武具を使えない。しかも普通の武具では心許ないのだ。しかし俺には気がある。

 

「彩人君…」

 

香織の声が聞こえた。周りもどよめいている。

 

「…はぁっ!」

 

足に纏った気を放って一瞬でラットマンに肉薄する。

いきなり接近されて動揺したラットマンの首を手刀で捉える。首があらぬ方向に変形し絶命させる。

その背後から別個体が飛び掛かってきたがしゃがんでかわし、無防備な胸部に一撃。骨を砕き内蔵を殺傷させその勢いで押しつぶし破裂させる。

さらに左右から二体挟み撃ちで襲ってきたが垂直に飛んでかわし上を向いた瞬間に両手でアイアンクローをお見舞いし頭部を握りつぶす。

 

「…終わりました」

 

「うむ、素晴らしい成長だ…」

 

無表情で返り血を浴びながらラットマンを討伐する姿は戦士というより暗殺者だったそう。

顔を真っ青にするクラスメイトを尻目にもう少し戦う感覚を取り戻すために前線に立つ。問題の20層までに感覚が戻ってきたのだが、ここで問題が。

トラップ対策として〝フェアスコープ〟というものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できる。ただし、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要、というアーティファクトだ。

 

しかしこのまますべてのトラップを解除されると奈落行きが出来ない可能性がある。

その為にも勇者様(笑)の天之河に頑張ってもらわねば。まずは…

 

「メルド団長、少し下がります」

 

「おお、そうか。お前が戦うと魔石を無傷で回収しやすいのだが…まあ無理は禁物だ。下がって良いぞ」

 

「ありがとうございます。失礼します」

 

メルド団長の発言にクラスメイトが苦笑いする。まあ大体オーバーキルして魔石も滅茶苦茶なんて事がある以上、何も言わなかった。

ちなみに魔石とは魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。ある意味魔力の塊と言える。

相変わらず見事な剣さばきの雫、絶大な威力の魔法を放つ香織、鈴、恵里。ハジメは…錬成をフル活用して魔物とわたりあい、騎士団員に関心されていた。

俺が下がった後にとうとう20層。そして、ヤツらの気配。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

メルド団長の忠告が飛ぶ。

 

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

メルド団長の声が響く。天之河達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を坂上が拳で弾き返す。天之河と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

 

坂上の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 

直後、

 

グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!

 

 

部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。すでに知っている俺は奴から離れて耳を塞いだのでなんてことはないがまんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。もっとも、雫は何かを感じて耳を塞ぎ効果を軽減させたようだが。

 

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームで! 咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。

香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。

 

しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。その姿は、さながらル○ンダイブだ。「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。香織も恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

 

「かあっ気持ち悪い…やだおめぇ…」

 

バニッシュ移動で飛び掛かってくるロックマウントの腹部に移動し気を流し込んで内部破裂させ、落下の衝撃を抑えるのと念の為に地面にあおむけで地面につく寸前に背骨を粉砕する。すぐに元の場所にもどる。

 

「な、何…今の」

 

ロックマウントが飛び掛かってきたと思ったら勝手に落ちていったんだからそういう反応になりますわ。

 

「こらこら、戦闘中に何やってる!」

 

メルド団長が一喝する。 

 

香織達は、「す、すいません!」と謝るものの相当気持ち悪かったらしく、まだ顔が青褪めていた。

 

舞台は整った。さあ、やってしまえ~!

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

 どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。 (このご都合解釈)困ったもんだ…

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ──〝天翔閃〟!」

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

凄まじい斬撃が放たれる。さ、奈落落ちの準備だあ!

 




バニッシュ移動:短距離を高速で移動する舞空術の派生。残像が残るほどのスピードがありとっさの回避では瞬間移動より優秀。


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ベヒモス「ここがお前たちのタヒに場所だァ!」

 その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った天之河。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ! と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長に後ろから後頭部を掴まれる。

 

「ヒィッ」

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろう…? 崩落でもしたらどうするんだ!」

 

「す、すいません!」

 

流石の天之河でもまずかったと分かった…かは知らんが謝罪している。「まったく…」と言いつつもメルド団長はそれ以上彼を責めることはなかった。

その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……。」

 

その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

「素敵……。」

 

香織が、メルド団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、チラリとこちらに視線を向けてくる。他のメンツの視線も感じる。・・・運悪く"求婚"というワードで全員顔を赤らめたのに気づいてしまった。俺にとっては絶望の輝きだというのに。

…仕方ない。おめえの出番だぞ、檜山!

 

「香織、アレが欲しいのか?だったら俺らで回収しようぜ!」

 

そう言って唐突に動き出したのはもちろん檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

「団長! トラップです!」

 

「ッ!?」

 

メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅く、檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

というかそんな激レア鉱石がこんなところにあるわけないのだが…香織に良いところを見せたかったのだろうか。知ってるだけに複雑な気分だ。

そう考えてる間に到着。ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

先の魔法陣は原作通り転移させるものだったらしい。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。

もっとも、これはその規格外のほんの一部だが。

 

転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。いかにもなバトルフィールドと言える。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け!急げ!」

 

雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

 しかし、当然ながら迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

──まさか……ベヒモス……なのか……

 

そう、ベヒモスだ。後ろ?骨です。数百ほどの。

 

グルァァァァァアアアアア!!

 

「ッ!?」

 

と、ベヒモスの咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

 

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる天之河。 

どうにか撤退させようと、再度メルドが天之河に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中のクラスメイト達を全員轢殺してしまうだろう。

 

 そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

 

 二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守り(尚奈落では(笑)もの)が顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ!

 

衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

 

「ハジメ!すまないが天之河達を後ろに引っ張ってでも連れてきてくれ!このまま行けば間違いなくパニックになる!最悪の場合、犠牲者が出る!」

 

「……!わかった!」

 

こうなった以上、出し惜しみしている暇は無い。原作でもここはかなりヤバかったのですぐにハジメに指示を出す。彼女は少し驚きながらも行動してくれた。

そもそもガイコツ兵士トラウムソルジャーは三十八階層に現れる魔物だ。今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている。前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は早くも半ばパニック状態だ。

 

 隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。

 

 その内、一人の女子生徒こと投擲師の園部優花が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

「あ」

 

そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされる。

 

死ぬ──彼女がそう感じたのだろう、目を閉じる。

 

しかし

 

「死人を出すわけにはいかないんでね」

 

「あ…」

 

「悪いが協力してほしい。数は多いがこっちには力がある。団結すれば勝てねえ相手じゃない」

 

「う、うん!わかった、ありがとう!」

 

ハジメ達が天之河を説得している間にパニックになって孤立しているクラスメイトを襲うガイコツ共を次々粉砕する。

 

「…!と、轟…なんで俺を」

 

「…今は生きる事だけ考えてな」

 

その内には檜山達もいたが平等に助ける。しかし無限に湧き出る恐怖でまともに動けていない。騎士団員のアランのフォローもあってなんとか犠牲者はいないが長期戦は不味い。

 

「皆、バラけるな!数は多いが一体一体はそれほど強くねえ!動きも単調だ!訓練を思い出せ!」

 

効率を考え一時的に纏めることにした。

なかなかヘイト集めた弊害で『なんでお前が』という顔をされる。

 

「もうすぐ天之河が来る!勇者の力ならこいつらはゴミ同然!犠牲者は出したくねえだろ!!」

 

癪に障るが天之河の名前を出すと目の色が変わった。そして…

 

「幸利」

 

「サイト!どうしたんだ、いつもと様子が違うな…」

 

「轟君…」

 

「…頼みがある」

 

俺は信頼できる親友、幸利とその彼女、辻さんにある事を話した。

 

「…信じたくは無いが・・・嘘とも思えない」

 

「トシくん…」

 

「悪いが本当だ。じゃ、頼むぜ」

 

「…あぁ。だが一つだけ言わせてくれ」

 

「なんだ」

 

「死ぬなよ、親友」

 

「…当然だろ。俺は死なねえ」

 

と同時に駆けつけてきた天之河と入れ違いになる形で俺はハジメのところへ。

丁度ハジメがベヒモスを抑える作戦をメルド団長に伝えている所だ。

 

「……やれるんだな?」

 

「やります!」

 

「…なら、俺も。」

 

「彩人君!?」

 

「後ろはあのチート勇者に任せときゃ大丈夫だ。…やるぞ。」

 

「…うん、君を信じるよ。メルド団長・・・ボク達に任せて下さい」

 

決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくるハジメに、メルド団長は「くっ」と笑みを浮かべる。

 

「まさか、お前さん達に命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

 

「メルド団長、少しいいでしょうか」

 

「どうしたんだ?」

 

俺はハジメの作戦の殿を自分が務めると宣言した。

 

「危険すぎる!オレはお前たちを死なせるわけにはいかないんだ!」

 

「そうだよ彩人君!ボクなら大丈夫だから!」

 

「別に特攻する訳じゃないんスけど…。橋が崩壊したらハジメが逃げ切れない可能性があります。ハジメが安全な所に避難するまで食い止めるってだけで」

 

「し、しかし…出来るのか?」

 

「・・・団長、できるかどうかじゃないんです、やるしかないんです。俺は必ず食い止めます」

 

「…分かった。必ず助けにいくからな」

 

「ありがとうございます。俺が食い止める時に光で合図します。援護攻撃はその時に」

 

「ああ、全員で帰るぞ!」

 

メルド団長はそう言うとベヒモスの前に出た。そして、簡易の魔法を放ち挑発する。ベヒモスは、先ほど自身を攻撃してきた天之河を狙っていた。どうやら自分に歯向かう者を標的にする習性があるようだ。しっかりとその視線がメルド団長に向いている。

 

 そして、赤熱化を果たした兜を掲げ、突撃、跳躍する。メルド団長は、ギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構えている。そして、小さく詠唱をした。

 

「吹き散らせ――〝風壁〟」

 

詠唱と共にバックステップで離脱する。

その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前までメルド団長がいた場所に着弾した。発生した衝撃波や石礫は〝風壁〟でどうにか逸らす。大雑把な攻撃なので避けるだけならなんとかなる。倒れたままの雫達を守りながらでは全滅していただろうが。

 

「ハジメ、行けるか?」

 

「うん、問題ないよ、行こう!」

 

再び、頭部をめり込ませるベヒモスに、ハジメが飛びついた。赤熱化の影響が残っておりハジメの肌を焼く。しかし、そんな痛みは無視してハジメも詠唱した。名称だけの詠唱。最も簡易で、唯一の魔法。

 

「――〝錬成〟!」

 

 石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、ハジメが錬成して直してしまうからだ。

ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、ハジメは、その埋まった足元を錬成して固める。

べヒモスのパワーは凄まじく、油断すると直ぐ周囲の石畳に亀裂が入り抜け出そうとするが、その度に錬成をし直して抜け出すことを許さない。ベヒモスは頭部を地面に埋めたままもがいている。中々に間抜けな格好だ。

 

隙を逃さず気力全開でベヒモスの角をかかと落としで粉砕する。

全力で戦えば橋が崩壊するおそれがあるが天之河の最強の技を受けて某伝説のサイヤ人の如く平然としてたし微調整して戦う。

 

「硬えが問題なさそうだな」

 

続けて反対側の角も破壊する。




やっつけ仕事だからクソなやつしか作れないの。許してください。
長くなったので次に続く。


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いつか地上に帰りたいと天井を眺めていたな・・・

奈落の底へ急降下ジェットコースター~♪
落ちていく、よ~カオスの園へ~♪


彩人がベヒモスに向かっていく間にトラウムソルジャーの方は、どうやら幾人かの生徒が冷静さを取り戻したようで、周囲に声を掛け連携を取って対応し始めているようだ。

 

「待って下さい! まだ、ハジメちゃんと彩人くんがっ!」

 

撤退を促すメルド団長に香織が猛抗議した。

 

「ハジメ達の作戦だ! ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら彩人の合図を確認したら魔法で一斉攻撃を開始する! もちろんハジメ達がある程度離脱してからだ! 魔法で足止めしている間にハジメ達が帰還したら、上階に撤退だ!」

 

「なら私も残ります!」

 

「ダメだ! 撤退しながら、香織には天之河を治癒してもらわにゃならん!」

 

「でも!」

 

なお、言い募る香織にメルド団長の怒鳴り声が叩きつけられる。

 

「二人の思いを無駄にする気か!」

 

「ッ──」

 

メルド団長を含めて、メンバーの中で最大の攻撃力を持っているのは間違いなく天之河。少しでも早く治癒魔法を掛け回復させなければ、ベヒモスを足止めするには火力不足に陥るかもしれない。そんな事態を避けるには、香織が移動しながら天之河を回復させる必要があるのだ。

 

「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――〝天恵〟」

 

香織は泣きそうな顔で、それでもしっかりと詠唱を紡ぐ。淡い光が天之河を包む。体の傷と同時に魔力をも回復させる治癒魔法だ。

 

メルド団長は、香織の肩をグッと掴み頷く。香織も頷き、もう一度、必死の形相で錬成を続けるハジメともう一本を破壊しベヒモスに攻撃する彩人見た。そして、天之河を担いだメルド団長と、雫と龍太郎を担いだ騎士団員達と共に撤退を開始した。

 

トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。

だが、ある意味それでよかったのかもしれない。もし、もっと隙間だらけだったなら、突貫した生徒が包囲され惨殺されていただろう。実際、最初の百体くらいの時に、それで窮地に陥っていた生徒は結構な数いたのだ。

 

 それでも、未だ死人が出ていないのは、ひとえに騎士団員達のおかげだろう。彩人の一声以上に彼等の必死のカバーが生徒達を生かしていたといっても過言ではない。代償に、既に彼等は満身創痍だったが。

 

騎士団員達のサポートがなくなり、続々と増え続ける魔物にパニックを起こし、魔法を使いもせずに剣やら槍やら武器を振り回す生徒がほとんどである以上、もう数分もすれば完全に瓦解するだろう。

生徒達もそれをなんとなく悟っているのか表情には絶望が張り付いている。誰もが、もうダメかもしれない、そう思ったとき……

 

「──〝天翔閃〟!」

 

純白の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。

橋の両側にいたソルジャー達も押し出されて奈落へと落ちていく。斬撃の後は、直ぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、生徒達は確かに、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段を見た。今まで渇望し、どれだけ剣を振るっても見えなかった希望が見えたのだ。

 

「皆! 諦めるな! 道は俺が切り開く!」

 

そんなセリフと共に、再び〝天翔閃〟が敵を切り裂いていく。天之河が発するカリスマ(?)に生徒達が活気づく。

 

 

「お前達! 今まで何をやってきた! 訓練を思い出せ! さっさと連携をとらんか! 馬鹿者共が!」

 

皆の頼れる団長が〝天翔閃〟に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。

いつも通りの頼もしい声に、沈んでいた気持ちが復活する。手足に力が漲り、頭がクリアになっていく。実は、香織の魔法の効果も加わっている。精神を鎮める魔法だ。リラックスできる程度の魔法だが、光輝達の活躍と相まって効果はばつぐんだ。

 

治癒魔法に適性のある者がこぞって負傷者を癒し、魔法適性の高い者が後衛に下がって強力な魔法の詠唱を開始する。前衛職はしっかり隊列を組み、倒すことより後衛の守りを重視し堅実な動きを心がける。

 

治癒が終わり復活した騎士団員達も加わり、反撃の狼煙が上がった。チートどもの強力な魔法と武技の波状攻撃が、怒涛の如く敵目掛けて襲いかかる。凄まじい速度で殲滅していき、その速度は、遂に魔法陣による魔物の召喚速度を超えた。

そして、階段への道が開ける。

 

「皆! 続け! 階段前を確保するぞ!」

 

天之河が掛け声と同時に走り出す。。

…ある程度回復した坂上と雫がそれに続き、バターを切り取るようにトラウムソルジャーの包囲網を切り裂いていく。

 

そうして、遂に全員が包囲網を突破した。背後で再び橋との通路が肉壁ならぬ骨壁により閉じようとするが、そうはさせじと天之河が魔法を放ち蹴散らす。

クラスメイトが訝しそうな表情をする。それもそうだろう。目の前に階段があるのだ。さっさと安全地帯に行きたいと思うのは当然である。

 

「皆、待って!ハジメちゃんと彩人くんを助けなきゃ! ハジメちゃんと彩人くんがたった二人であの怪物を抑えてるの!」

 

香織のその言葉に何を言っているんだという顔をするクラスメイト達。そう思うのも仕方ない。なにせ、ハジメは"無能"、彩人はヘイトマシマシの"足手まとい(?)"扱いだからだ。

 

だが、困惑するクラスメイト達が、数の減ったトラウムソルジャー越しに橋の方を見ると、そこには確かにハジメと私の姿があったことだろう。

 

「なんだよあれ、何してんだ?」

 

「あの魔物、上半身が埋まってる?」

 

「角も無くなってる!」

 

次々と疑問の声を漏らす生徒達にメルド団長が指示を飛ばす。

 

「そうだ!ハジメ達がたった二人であの化け物を抑えているから撤退できたんだ!前衛組!ソルジャーどもを寄せ付けるな!後衛組は遠距離魔法準備!彩人の合図を確認次第一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

ビリビリと腹の底まで響くような声に気を引き締め直す生徒達。中には階段の方向を未練に満ちた表情で見ている者もいる。

無理もない。ついさっき死にかけたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然だろう。しかし、団長の「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように戦場へと戻った。

 

「・・・ハジメ、あと何回いける?」

 

「あと二回…魔力値が増えたからこれなら間に合うね」

 

希望に満ちた表情のハジメを見て、ベヒモスに攻撃しながら俺は少し考えた。ハジメを奈落行きに連れていくべきか。・・・出した答えはNOだ。純粋で優しいハジメをここでも魔王にしていいものか、と考えたからだ。移動面や物品の管理等は色々困るがね。

 

「悪いが次で最後だ。後ろの準備が整ったみたいだしな、次に錬成したら階段に向かって走れ。全力でな」

 

「え、でも…」

 

「魔力がカラになった時に万が一ってことがあるかもしれないだろ?俺の事は心配するな」

 

「…信じていいよね?必ず帰ってきてね」

 

「ああ。生きて、な」

 

「――〝錬成〟!・・・・・待ってるからね」

 

最後の錬成を終えて俺の横を駆け抜けていくハジメ。

自分を拘束し続けたハジメを睨みつけるベヒモスの顔面に俺は右足で回し蹴りを入れた。

 

「何処見てんだ?今の相手は俺だ」

 

ベヒモスの左頬が凹み、長い首がゆっくりと戻ってきて俺にターゲットが移る。

 

グルァァァァァアアアアア!!

 

怒りのあまり咆哮し拘束していた石壁を破壊する。

 

「彩人くん!」

 

「まだだ!彩人の合図が無い!」

 

「でも、このままじゃ…!」

 

今にも突進してきそうなベヒモスの前に立つ彩人を見て香織が飛び出しそうになるがメルド団長が抑える。

攻撃魔法の準備をしている者、階段前でガイコツを抑えている天之河たちも走るハジメも、

 

「はやく逃げて」

 

と叫んだ。

 

「・・・ここだっ」

 

すると彩人は何とベヒモスにむかっていったのだ。

誰もが終わった、と思ったが。彩人はベヒモスの顔の前で両手を額にかざして叫んだ。

 

太陽拳!!!!

 

すると彩人の額を中心に凄まじい閃光が放たれた。ベヒモスは視覚を潰され、橋を破壊しかねない勢いで暴れ始めた。

その隙に地面を蹴って一気に階段方面へ飛ぶ。

 

「今だ!総員、撃てぇぇぇ!!!」

 

合図を確認したメルド団長の合図でベヒモスに無数の色とりどりの魔法弾が放たれる。

 

「彩人君!」

 

助かったと思ったのか命の危険下にあるにも関わらずハジメはこちらを振り返り笑顔で待っていた。

・・・しかし。

 

炎属性の魔法弾がハジメを狙って飛んできた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「…無駄に頭回るな、アイツ」

 

俺は瞬間移動でハジメの背後に回り魔法弾を受ける。

 

「さ、い…と…君?」

 

気を張るのがわずかに遅れ、ダメージをくらう。目を見開いたハジメをよそに振り返るとやっぱりアイツ(・・・)がニヤニヤと笑みをうかべていた。

そいつに気を取られたせいで橋の崩壊に気づけず石畳が揺れ始め、同時に床が抜ける。

ハジメも巻き込んでしまった。

 

「彩人くん!ハジメちゃん!」

 

香織の叫び声が聞こえた。一瞬だが飛び出そうとしている香織が雫や光輝に羽交い締めにされているのが見えた。他のクラスメイトは青褪めたり、目や口元を手で覆ったりしている。メルド達騎士団の面々も悔しそうな表情で俺達を見ていた。

 

「(ヘイト集めしていたから自業自得だが…ハジメは関係ないだろうに)」

 

光が途絶えていく中でそんな事を考えていた。



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設定集

奈落落ち前の設定。


一部ネタバレ注意のためスクロール余白を作ります。

追記 フューの追加


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟 彩人

 

今作のオリ主。サイヤ人の力を得てありふれ世界に転生し腕っぷしと覇気でまかり通って来たが無意識で人助けし続けた結果、ヒロインズにベタ惚れされた。檜山のハジメを狙うという妙策でハジメを連れていかざるを得なくなった。実は生まれに少し闇がある。

 

 

 

 

南雲ハジメ

 

女性です。原作同様、両親の影響でしっかりオタクライフを満喫している。プロローグ編で彩人に好意を持つがオタクであることで馬鹿にされるのではないかと思い、隠していたがバレても否定するどころか何かに熱中できるのは凄いと肯定し、自分をいじめる人から守ってくれたことで陥落。ヒロインズの中で彩人の家に一番近住んでるため”色々”やっては”同盟”に貢献している。

 

 

 

 

 

白崎香織

 

言わずと知れたありふれのチョロイン。原作と違い彩人がハジメを助けた所では落ちず、興味程度だったが高校時に彩人が痴漢から自分を庇った事で陥落。原作以上にスキンシップなどでアピールした為に彩人のヘイト値が原作の倍に。”同盟”に進んで参加した。ヤンデレが進んでおり彩人を否定する人が許せない。趣味は彩人をストー(削除されました)

 

 

 

 

 

八重樫雫

 

こっちもチョロイン。天之河の悪手でイジメが加速し絶望していたが彩人が『逆にその子達を応援するのはどうだ?』というアドバイスを実行するとイジメられる事が少なくなったが無くならず『彼氏でも作るか?』と言われ彩人と一時的に仮の恋人になる。これでイジメが無くなり仮とはいえ自分を女の子として扱ってくれてかわいい物をくれた彩人に惚れる。さほど病んではいない。今は。剣の腕はここでもピカイチ。彩人は剣術がダメダメなので当てられないが当たらないので雫との勝負は全て引き分け。

 

 

 

 

谷口鈴

 

美少女スキー。笑顔を絶やさないがそれは仮面だった。彩人に見抜かれて自身の存在価値に苦悩するものの彩人に『友達になってください』と言われ少しずつ本当の笑顔を取り戻し、原作氷雪洞窟攻略後のような心の底から笑顔になれる明るい性格となった。原作以上に恵里と親しく”百合カップル”なんて言われているが当の本人は自身を変えてくれた彩人に夢中。恵里の影響で病みが侵食している。

 

 

 

 

中村恵里

 

原作でもヤベー眼鏡僕っ娘。救済者。原作同様橋から身投げする寸前に彩人に助けられる。事情を話すと彩人が彼女の両親にカチコミし、説教(ryで改心させ、家庭崩壊を回避した結果、陥落。原作同様彩人に対して独占欲を抱き他の女子と関わる度に闇のオーラを出していたが自分以外のヒロインズが彩人に助けられた事を知り皆で共有しよう、と”同盟”を設立した。外見上は雫と同じ位まともそうだが一番病んでいる。

 

 

 

 

天之河光輝

 

ほぼ原作通り。しかし彩人につっかかるのでヒロインズの好感度は低い。

 

 

 

坂上龍太郎

 

天之河の親友で脳筋。無気力な彩人が気に入らないが、その原因の一つが天之河にある事を知っているので必要以上に責めたりはしない。

 

 

 

清水幸利

 

救済者。原作以前に性格が逆転した。互いに”サイト”、”幸利”と呼び合うほどの親友ポジション。以前は根暗なオタクで必要最低限の会話しかせず、オタクであるため両親から心配され、兄弟から敬遠されていたが彼の才能を彩人が無理やり開花させた事で内に秘めていた承認欲求が満たされ家庭内環境も改善し辻 綾子という彼女も出来た事で陽キャに。その為彩人には深く感謝している。ヒロインズの病みに気付いており彩人を気遣う。

 

 

 

辻 綾子

 

この世界では清水の彼女。清水の作品に魅せられ彩人を介して彼と出会い、恋仲となる。清水同様に彩人を信頼しておりヒロインズの病みに気付いている。

 

 

 

檜山大介

 

全ての元凶。香織のアピールが強いのと多数の異性に好意を向けられている事から彩人を原作の3倍くらい憎んでいる。

 

 

 

 

フュー

 

ドラゴンボールのオリジナルキャラクター。ゼノバースとヒーローズの異変は大体こいつのせい。時空転移の力に目をつけたエヒトに誘拐されエネルギーを奪われたので仕返しを兼ねて彩人に協力する。




オリジナル要素は死にました(白目)

病み具合は

雫<鈴<ハジメ<<香織<<<<<<恵里

こんな感じ。


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所詮、クズはクズなのだ。

とうとう評価1が付きました。まぁ筆者は頭パッパラパーだからね。でも1くれるだけありがたいです。

天之河を天之川と表記して気付かないのは致命的すぎました…。誤字報告ありがとうございました。


橋が崩れる音とベヒモスの断末魔の如き叫び声が洞窟内に響き渡る中、彩人がハジメを抱え、奈落へ落ちていく。

 

「いやぁ!彩人くん!ハジメちゃん!」

 

その光景を見た香織が二人の所へ行こうとする。

 

「ダメよ、香織!」

 

飛び出す前に雫が香織を押さえつける。しかし香織は暴れて拘束から逃れようとする。

 

「嫌よ!離して!彩人くん!ハジメちゃーん!」

 

「香織……」

 

雫も香織の気持ちは痛いほど分かる。自分も二人を助けに行きたい気持ちがあるが、犠牲者を増やす訳にはいかない。しかしかける言葉が分からず、雫は自身の無力さを恨んだ。

 

「香織! 君まで死ぬ気か! 南雲と轟はもう無理だ! 落ち着くんだ! このままじゃ、体が壊れてしまう!」

 

天之河が香織を案じて言葉をかけるがそれは火に油を注ぐだけだった。

 

「無理って何?!二人は死んでない!きっと助けを求めてる!」

 

底の見えぬ奈落の底へ落ちた以上、助かる見込みはほぼ無いだろう。しかし今の香織はそれを受け入れられる状態ではなかった。

香織の変貌に周りはオロオロするばかりだった。

やむを得ずメルド団長が香織を止めようとした時。

 

「「天の伊吹―――満ち満ちて、癒しと安らぎを与えよ―――恵睡」」

 

二つの詠唱の声が重なる。

 

「彩人…く、ん…………」

 

次の瞬間、淡い光が香織を包み込み、香織は意識を失う。眠りの魔法だ。押さえていた雫と天之河は倒れそうになる香織を支えた。

 

「む…中村と谷口か。済まないな」

 

「…いいえ、お気になさらず」

 

「これ以上、カオリンの苦しそうな姿を見たくなかっただけです」

 

毅然とした振る舞いをしていても二人の杖を持つ手が震えているのを雫は見逃さなかった。

 

「ありがとう、二人共。あのままだったら香織は二人の後を追っていただろう」

 

天之河は眠ったままの香織を雫に預けながら二人に礼を言う。

 

「…礼を言う暇があるんですか?」

 

「…え?」

 

恵里の冷たい声が天之河に刺さる。

恵里の反応に天之河が困惑していると香織をおんぶした雫が答える。

 

「今は時間がないの。香織の叫びが皆の心にもダメージを与えてしまう前に、何より香織が壊れる前に止める必要があった。……ほら、あんたが道を切り開くのよ。ハジメちゃんも言っていたでしょう…」

 

雫の言葉で奮起する天之河。

 

「そうだ、早くここを出よう」

 

クラスメイト達は精神的にも身体的にも疲弊しきっていた。目の前で二人も死んだのだから。蹲って恐怖に打ちひしがれる者や「もう、いや!」と叫ぶ者も居た。

 

だからこそ、リーダーが必要なのだ。

 

「皆! 今は、生き残ることだけ考えるんだ! 撤退するぞ!」

 

天之河の一声でゆっくりだが腰を上げるクラスメイト達。

今なお数を増やすトラウムソルジャーを無視し、天之河と騎士団の鼓舞で長い階段を登り、フェアスコープで罠を回避して何とか20層まで戻る事に成功。

 

「帰ってきたの?」

 

「戻ったのか!」

 

「帰れた……帰れたよぉ……」

 

クラスメイト達が次々と安堵の吐息を漏らす。中には泣き出す子やへたり込む生徒もいた。光輝達ですら壁にもたれかかり今にも座り込んでしまいそうだ。

しかし、ここはまだ迷宮の中。低レベルとは言え、いつどこから魔物が現れるかわからない。完全に緊張の糸が切れてしまう前に、迷宮からの脱出を果たさなければならない。

 

メルド団長が心を鬼にして撤退を急がせる中、

 

「まさか本当にやるとはな……」

 

「止めた方が良かったかな……」

 

「いや、アイツの言葉に従おう」

 

「う、うん……」

 

清水と辻の二人は彩人から聞いた通り、彼らを攻撃した犯人を見つめながら彩人との会話を思い出していた。

 

――――――――――――――

 

『…頼みがある』

 

『な、なんだよ急に』

 

『実はな………』

 

彩人は自身が狙われていることを話し、その犯人も告げた。

 

『…はっ?いやいくらなんでもアイツだからって人殺しを?しかもさっき助けられたのに?』

 

『する。この後俺はベヒモスを止めに行くんだが、俺とハジメがベヒモスから離れるときに魔法による一斉攻撃を行う。そのどさくさに紛れて事故に見せかけようって魂胆だろうな』

 

『…そこまで分かってんなら止めればいいじゃないか』

 

『いや、止めたら余計に拗れる。ヤツはそういう人間なんだ。ま、恐らくちょっとどつく程度の感覚でやるんだろうな』

 

『…(ゾワッ)、事情はわかった。それで頼みって……』

 

『万が一俺が本当にやられたら香織を支えて欲しい。依存気味だからな……彼女』

 

『…それならお前が側に居てやれよ』

 

『それが一番なんだろうが……ヤツはかなり追い詰められてる。グランツ鉱石の事があったろ?』

 

『…確かに』

 

――――――――――――――

そう、まだもしもだったから良かった。しかし現実は残酷だった。彩人が言った人物が、炎属性の魔法でハジメを狙った。直接彩人を狙った訳ではないが、彩人は凄まじいスピードで移動が出来る。ハジメを庇わせて道連れにしたのだ。

 

『想像以上の外道だ…』

 

『トシくん……怖いよ』

 

恋敵を消す為に他人を巻き込む必要性はあるのか。清水達はそいつを警戒しながら迷宮を歩くのだった。

 

 

ホルアドの町に戻った一行は何かする元気もなく宿屋の部屋に入った。幾人かの生徒は生徒同士で話し合ったりしているようだが、ほとんどの生徒は真っ直ぐベッドにダイブし、そのまま深い眠りに落ちた。

 

そんな中、檜山大介は一人、宿を出て町の一角にある目立たない場所で膝を抱えて座り込んでいた。顔を膝に埋め微動だにしない。もし、クラスメイトが彼のこの姿を見れば激しく落ち込んでいるように見えただろう。

 

だが実際は……

 

「ヒ、ヒヒヒ。ア、アイツが悪いんだ。雑魚のくせに……ちょ、調子に乗るから……て、天罰だ。……俺は間違ってない……白崎のためだ……あんな雑魚に……もうかかわらなくていい……俺は間違ってない……ヒ、ヒヒ」

 

暗い笑みと濁った瞳で自己弁護しているだけだった。

 

そう、あの時、軌道を逸れてまるで誘導されるようにハジメを襲い、彩人を傷付けた火球は、この檜山が放ったものだったのだ。

階段への脱出と彩人達の救出。それらを天秤にかけた時、彩人達を笑顔で見つめる香織が視界に入った瞬間、檜山の中の悪魔が囁いたのだ。今なら殺っても気づかれないぞ? と。

 

そして、檜山は悪魔に魂を売り渡した。

 

バレないように絶妙なタイミングを狙って誘導性を持たせた火球をハジメに向け、それを庇った彩人に命中した。流星の如く魔法が乱れ飛ぶあの状況では、誰が放った魔法か特定は難しいだろう。まして、檜山の適性属性は風だ。証拠もないし分かるはずがない。

 

そう自分に言い聞かせながら暗い笑を浮かべる檜山。

その後ろから声が聞こえた。

 

「ふぅ……ん、やっぱり君……いや、お前だったんだな

 

「ヒッ……だ、誰だ!!」

 

檜山が振り替えるとそこにいたのは見知ったクラスメイトの一人だった。しかし檜山にとっては最も会いたくない人物だった。

 

「あ……あぁ………なんで、お前が………」

 

そんな事は関係ない。ねぇ、どんな気分?散々ohanasiしたのにまだ懲りてないんだぁ……そっかそっかぁ………この人殺し

 

「ち、違………お、俺は………」

 

何が違うって?

 

その人物に両手で顔を押さえられる檜山。ブラックホールのような暗黒空間のようなハイライトを喪った瞳がこの上ない殺意を突き刺してくる。

 

「あ、あぁ………………」

 

ねぇ、質問に答えなよ。何が違うのかな?

 

「………ご、めん……なさ………」

 

恐怖のあまり檜山は謝罪の言葉を述べる。涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃである。

 

何で僕に謝るの?謝るなら彼…とハジメちゃんに、でしょ?

 

「ア…………」

 

お前にとっては恋敵でも僕にとって彼は生きる理由なんだ。彼の為なら命だって惜しくはなかった。でも死んだら彼が悲しむ。…それなのにお前は僕から彼を奪った。それだけじゃない。彼が黙ってるのを良いことに好き勝手してたよな?

 

「…………」

 

気絶しちゃったか。まぁ彼がそう簡単に死んだりしないよね。ハジメちゃんが少し羨ましいけど…。まぁ、戻ってきたらいっぱい甘えちゃおうっと」

 

するとその人物は気絶した檜山を放置して自分の部屋へ帰っていった。

 

 

「ここここ、怖っ!怖いよ、な、何なのさあの子!彩人くん、あんな危険な子とよく今まで居られたなぁ……」

 

それを目撃してしまったフューが戦慄していた。




最後のは誰でしょう?(白目)


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オルクス大迷宮
宇宙の悪魔、魔王を生み出す。


ハジメちゃん、悪堕ち確定。
悪魔が魔王作り出すとかこれもうわっかんねぇなあ。

若干グロ注意。


地下水が川のように流れている所からハジメをおんぶした彩人が出てくる。周りは薄暗いが緑光石の発光のおかげで何も見えないほどではない。

 

「…本当、運が良すぎだよなぁ」

 

落下途中の崖の壁に穴があいており、そこから鉄砲水の如く水が噴き出していたのだ。ちょっとした滝である。そのような滝が無数にあり、彩人とハジメは何度もその滝に吹き飛ばされながら次第に壁際に押しやられ、最終的に壁からせり出ていた横穴からウォータースライダーの如く流されたのである。とてつもない奇跡だ。

 

「この辺りが一番敵の気配が少ない…よし、ハジメ降りな」

 

「…♪」

 

「…ハジメ?」

 

「え、あ!そ、そうだね、降りるね……」

 

そそくさと降りていくハジメ。小さく「彩人君の匂い…」と聞こえたのは気のせいだ……と思いたかったなぁ。

 

「…ここの詳細が分からない以上、動き回るのは不味い。ハジメ、”錬成”で洞窟を作って欲しい。そこを仮拠点にする」

 

「うん、分かった」

 

ハジメが拠点を作っている間に再び気を張って周りを確認する。…この気は。

ふと気づいた途端に二つの尻尾を持つ狼、二尾狼二匹が紫色の雷を纏って突撃してきた。雷撃を気で弾き飛ばす。

 

「…ここでも通用するのか」

 

雷撃を打ち消されて狼が動揺したのか一瞬動きを止める。

すかさず両手から放った気功波で二匹の頭を吹き飛ばす。

 

「…最初から使ってりゃベヒモスもいけただろうがな、進行上仕方ないが」

 

その後ろから新たな気配。

狼共の血の匂いに引き寄せられたか、彩人が振り返ると蹴りウサギがそこにいた。

 

「居るよな、そりゃ」

 

蹴りウサギは無駄に発達した両足を使ってその場で一回転し衝撃波を飛ばしてくる。

衝撃波が岩壁を破壊する轟音が響く。

蹴りウサギは狩った獲物を確認しようと彩人の居たところにゆっくり歩みを進めるがそこにはあるはずの死体はなかった。蹴りウサギが首をかしげると、その頭が落ちた。

 

「油断しすぎだな、首がもろだしだぜ」

 

グルドを倒したベジータのように彩人は蹴りウサギを一蹴する。

しかし余裕を見せたのが間違いだった。

 

「彩人君、凄い音がしたけど大丈夫?」

 

ハジメが洞窟から出ようとしていた。そして彼女の背後には・・・

 

「ハジメ!!でてくるな!早く洞窟内に隠れ・・・!」

 

「グルルルル・・・・」

 

「・・・え?」

 

強敵、爪熊だ。奴はハジメにロックオンしておりハジメは爪熊の声に振り返ってしまい奴から発せられる殺意の強さのあまり固まってしまう。好機と見たか鋭く伸びた三本の爪でハジメを切り裂こうとする。

 

「ハジメぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

彩人は再びハジメと向き合う形で爪熊との間に割り込む。攻撃の間に合う距離ではなかったため全気力で防御する。爪が気で弾かれる、なんて事はなく。

 

「ガハッ」

 

右肩から自身を切り裂く爪が腹部あたりで止まっていた。爪熊はそのまま袈裟切りにしようと力を込めるが動かない。

 

「やられた・・・まんまで…終わるかよ!」

 

最後の力で爪を粉砕する。右肩から右腕が外れそうにプラプラし大きく裂かれた断面から大量の血液と切られた内臓が見え隠れしていた。

 

「彩人君・・・彩人君!」

 

…目の前の光景が暗転していく中で見たのは絶望に満ちた少女の姿だった。

 

「あ・・・そ、んな・・・彩人君・・・が・・・また、ボクを・・・」

 

ハジメは目の前に倒れた男を抱えていた。ちぎれそうな彼の右肩が外れないように。

 

「嫌だよ・・・君がいなくなったら・・・ボクは・・・ボクは・・・」

 

壊れた人形のように光が消えた瞳で腕の中で徐々に温もりを失う思い人を抱えたままうわ言を繰り返す。

それを意にも介さず思わぬ反撃で右手の爪を失った爪熊が苛立ちながら目を血走らせ二人に近づき左手の爪で纏めて切り裂こうとするが、

 

「・・・(キ゚ッ」

 

これ以上彼を傷つけるなと言わんばかりの殺気に満ちた目で睨まれ流石の爪熊も委縮する。

 

「―------"錬成"」

 

ハジメは彩人を抱えたまま洞窟に逃げ込み、錬成で壁を作る。普段のハジメからは想像できないパワーとスピードだが火事場の馬鹿力というべきか。逃すものかと一瞬あっけに取られた爪熊もハジメ達を追う。

 

「〝錬成〟!〝錬成〟!〝錬成〟!」

 

ハジメは原作よりも錬成の技術が向上し爪熊のパワーでも爪ありきでないと壊せない強固なものとなっていた。しかも右手の爪は彩人に破壊された為効率も悪く二人は確実に爪熊と距離を離す。獲物が遠ざかる感覚を探知したか爪熊の怒号が響く。

ハジメはそれでも錬成を止めない。爪熊への恐怖はあったがそれ以上に彩人を守ろうとする意志が彼女を動かしていた。

 

「〝錬成〟!〝錬成〟!〝錬せ〟…きゃ!?」

 

当然魔力は無限ではなく錬成を行いすぎた結果、ハジメの魔力は枯渇した。

ハジメの身体から力が完全に抜けて、指一本動かなくなり倒れ込む。

 

「……ごめん…ね?」

 

脱力して腕を離してしまい彩人が離れてしまう。遠のく意識の中、ハジメはそう呟いて完全に気を失う。

そんなハジメと彩人の頬にはポタポタと水が滴り落ちていた。

 

ぴちょん……ぴちょん……

 

水滴が頬に当たり口の中に流れ込む感触に、ハジメは意識が徐々に覚醒していくのを感じた。そのことを不思議に思いながらゆっくりと目を開く。

 

(……生きてる? ……助かったの?)

 

疑問に思いながらグッと体を起こそうとして低い天井にガツッと額をぶつけた。

 

「あ痛っ!?」

 

自分の作った穴は縦幅が五十センチ程度しかなかったことを今更ながらに思い出し、ハジメは、錬成して縦幅を広げるために天井に手を伸ばす。

 

そしてハッとする。

 

「・・そうだ、彩人君!」

 

爪熊に右肩から腹まで切り裂かれた彩人の姿がハジメの脳裏に浮かび彼女は最悪の展開を想像し半狂乱になりながら少し離れたところに居る彩人に駆け寄る。彼は自身が流した血だまりの上にいたが裂かれたはずの彼の体は健康体そのもので、眠っているらしく小さな息遣いが聞こえた。

 

「良かったぁ・・・良かったよぉ・・・でも、どうして?血もまだ乾いてないのに・・・」

 

ハジメが彩人の周りの血だまりに触れるとヌルヌルとした感触が返ってくる。まだ辺りに流した血が乾いていないのだろう。やはり、彩人が大量出血したことは夢ではなかったようだし、彼の衣服が大きく割かれているので切られたのも本当。しかし血が乾いていない以上、そんなに時間は経っていないはず。

 

にもかかわらず傷が完全に塞がっていることに、ハジメが疑問を感じていると再び頬や口元にぴちょんと水滴が落ちてきた。それが口に入った瞬間、ハジメは、また少し体に活力が戻った気がした。

 

「……まさか……これが?」

 

 ハジメは先程魔力切れになったことよる気怠さに耐えながら右手を水滴が流れる方へ突き出し錬成を行った。

そうやってふらつきながら再び錬成し奥へ奥へと進んで行く。一応彩人を安全なところへ移動させたあとで。(流石に今のハジメに彩人を担ぐ力は無い)

 

不思議なことに、岩の間からにじみ出るこの液体を飲むと魔力も回復するようで、いくら錬成しても魔力が尽きない。ハジメは休まず熱に浮かされたように水源を求めて錬成を繰り返した。

やがて、流れる謎の液体がポタポタからチョロチョロと明らかに量を増やし始めた頃、更に進んだところで、ハジメは遂に水源にたどり着いた。 

 

「こ……れは……。」

 

そこにはバスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。

その鉱石は、周りの石壁に同化するように埋まっており下方へ向けて水滴を滴らせている。神秘的で美しい石だ。アクアマリンの青をもっと濃くして発光させた感じが一番しっくりくる表現だろう。

 

ハジメは一瞬、その美しさに目を奪われた。

そして縋り付くように、あるいは惹きつけられるように、その石に手を伸ばし直接口を付けた。

すると、洞穴を進んでいたがために所々に出来ていた擦り傷が急速に治っていく。

 

やはり、ハジメが生き残れたのはこの石から流れる液体が原因らしい。治癒作用がある液体のようだ。

 

「もしかしてこれ・・・図書館の本にあった・・・」

 

ハジメはその石は〝神結晶〟と呼ばれる歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物であることを思い出した。ハジメは錬成訓練の他に図書館へ通い知識を身に着けていた。その中にあった知識である。原作のように邪魔されることがなかったのも幸運と言える。

 

神結晶は、大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したものだ。直径三十センチから四十センチ位の大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。

 

その液体を〝神水〟と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。神代の物語に神水を使って人々を癒すエヒト神の姿が語られているという。

 

ようやく死の淵から生還したことを実感したのか、ハジメはそのままズルズルと壁にもたれながらへたり込んだ。

 

「戻らなきゃ」

 

原作ではハジメはここで心が折れてしまうのだが彩人の存在がハジメの支えとなっていた。

それは、迷宮入り前日のイベントに関係している。"同盟"のメンバーでその日も彩人と添い寝しようと彼の個室に来た時、中から会話が聞こえ、新たな同志かと聞き耳を立てたとき、

 

「…詳しい理由は分からないけど、この世界ではサイヤ人は神に逆らって世界を滅ぼそうとした不倶戴天の神敵って所だね」

 

「人間族を敵に回す訳か」

 

「ところがどっこい、魔人族の神にも牙を向いたって話だから、魔人族もサイヤ人を恨んでる」

 

この会話を聞いてしまった。宗教に支配されたこの世界では神の敵など許しはしないだろう。最悪彼が殺される可能性もあった。幸い彼がサイヤ人の力を持つのを知っているのは自分たちだけ。本当はいますぐに乗り込んで協力したかったが自分たちの行動で彩人を不利な状況になるかも知れないとして知らないフリをし、陰から彼を支えようと考えた。(ついでに万が一の為と称して彩人の使用済み衣服を頂いた。)

 

兎に角、そんなことがあったので、ハジメの心は折れずにいる。

 

(でも、どうすれば…)

 

ハジメは今も自分たちを狙っているであろう、爪熊を想像するがどうすれば勝てるのかなんて思い付かない。

そして、原作より黒く染まっているその思考は、原作より圧倒的に早くずれ始める。

戻った先で、ハジメは眠ったままの彩人の頭を優しく撫でながら思考をまとめていく。

 

(そもそも、なんでこんなことになったんだろう?)

 

(なんで彼が苦しまなきゃならないの?彼が何をしたの?)

 

(なんでこんな目にあってるの?なにが原因?)

 

(まず、神は理不尽に誘拐した……)

 

(そして、あいつは彩人君を裏切った……)

 

(あの熊は彩人君を傷つけた……。隠れなかったボクも悪いけど……。)

 

 

次第にハジメの思考が黒く黒く染まっていく。白紙のキャンパスに黒インクが落ちたように、ジワリジワリとハジメの中の美しかったものが汚れていく。彩人の思いとは裏腹に彼女は一つの答えにたどり着いてしまった。

 

(ボク・・・いや、私は(・・)何を望んでる?)

 

(私は彼の幸せを、そして〝生〟を望んでる)

 

(それを邪魔するのは誰?)

 

(邪魔するのは敵。)

 

(敵とはなに?)

 

(私と彩人君の邪魔をするもの、理不尽を強いる全て。)

 

(なら私は何をするべきなの?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──なぁんだ。簡単じゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──全て。私と彩人君の敵を全部。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──神様だって、世界だって、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──殺して、壊して、何も出来なくしちゃえばいいんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──彩人君、私が絶対に……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿は紛れもなく。

 

 

 

 

 

この世界に、魔王が誕生した瞬間だった。




ヤンデレ表現ムズい。


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魔王の生誕とサイヤの力

サイヤの力、覚醒。


「まずは食料集め・・・かな」

 

彩人を起こさぬように静かに洞窟を出て獲物を探す。幸い爪熊はどこかへ行ったようだ。物陰に隠れながら進むと再び二匹の二尾狼を発見。二尾狼は4~6匹群れで活動する習性がある。彩人が倒した狼の片割れである。

ハジメはその二匹をおびき寄せ前もって作っておいた落とし穴に狼たちを落としその上から錬成で岩の雨を降らせる。

 

「悪いけど・・・これも生きるためなんだ」

 

どこか冷めた口調でハジメは錬成で作った螺旋らせん状の細い槍のようなものを取り出す。槍の手元にはハンドルのようなものが取り付けられている。彼女は岩の隙間から狼めがけて槍を突き立て、ハンドルを回して貫いていく。

 

「やっぱり固いね。ドリルにして正解だったよ」

 

魔物は強いほど硬いことは知っていたのでハジメはこの武器を使った。情け容赦なく槍ドリルで貫かれて絶命する狼。もう一匹も仕留める。

 

「・・・さて、これが食べられるか、だけど・・・贅沢いってられないや」

 

岩を排除して獲物を引きずりながらハジメは拠点へ戻り、彩人の無事を確認してから獲物を食す。

 

「う”・・・まっずぅ・・・」

 

硬い筋ばかりで匂いもひどく、しかも生で味も最悪だったがハジメは涙ながらに狼の肉を食す。

神水を飲料代わりにするという聖教教会の関係者が知ったら卒倒するような贅沢をしながら腹が膨れ始めた頃、ハジメの体に異変が起こり始めた。

 

「ん……?──ッ!?うぐぅ!?」

 

突如全身を激しい痛みが襲った。まるで体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚。その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。

 

「ぐぅあああっ。な、何がっ──ぐぅううっ!」

 

耐え難い痛み。自分を侵食していく何か。ハジメは地面をのたうち回る。地面を這いずりながら自作した神水入りの石製試験管の端をかみ砕き神水を飲む。すると痛みは消えた。だが・・・

 

「ひぃぐがぁぁ!! なんで……なおらなぁ、あがぁぁ!」

 

痛みが消えたのは一時的ですぐにまた耐え難い苦しみがハジメを襲う。

ハジメの体が痛みに合わせて脈動を始めた。ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打つ。至る所からミシッ、メキッという音さえ聞こえてきた。

 

しかし次の瞬間には、体内の神水が効果をあらわし体の異常を修復していく。修復が終わると再び激痛。そして修復。

神水の効果で気絶も出来ず、苦しみが長引くばかり。

 

そもそも魔物の肉は人間にとって猛毒だ。魔石という特殊な体内器官を持ち、魔力を直接体に巡らせ驚異的な身体能力を発揮する魔物。体内を巡り変質した魔力は肉や骨にも浸透して頑丈にする。しかもこの変質した魔力が人間にとって致命的なのだ。人間の体内を侵食し、内側から細胞を破壊していくのである。

 

過去、魔物の肉を喰った者は例外なく体をボロボロに砕けさせて死亡したとのことだ。実は、ハジメもこの知識はあったのだが、彩人を助けるという強い思考がすっかりその知識を脳の奥に押し込めてしまっていた。

 

ハジメもただ魔物の肉を喰っただけなら体が崩壊して死ぬだけだっただろう。

しかし、それを許さない秘薬があった。神水だ。

 

壊れた端からすぐに修復していく。その結果、肉体が凄まじい速度で強靭になっていく。

壊して、治して、壊して、治す。

脈打ちながら肉体が変化していく。

 

すると、ハジメの外見に変化が現れ始めた。

まず髪から色が抜け落ちてゆく。甚大なストレスで髪の色素、メラニンの生成が止まり色が抜け落ちていき全て真っ白になっていた。

次いで華奢な体が成長し絶壁の胸部も含めて女性らしい体つきに変わっていく。

 

叫び声をあげながら変化していくその様は、あたかも転生のよう。脆弱な人の身を捨て化生へと生まれ変わる生誕の儀式。ハジメの絶叫は産声だ。

 

やがて、脈動が収まりハジメはぐったりと倒れ込んだ。

 

――――――――――――――――――――――

 

「・・・・・」

 

「スゥ…スゥ…」

 

彩人が目を覚ますと白髪の少女…もとい、魔王モードのハジメが右腕に抱き着いて寝ていた。・・・なんかデジャヴを感じたがそれ以上に心苦しい思いだ。結局ハジメの悪堕ちを回避することはできなかった。他のヒロインズも同じ道を辿りはしないとは思うが…。

 

「…?さい、と君…?」

 

まじまじとハジメを見ていると彼女が目を覚ました。

 

「・・・よお、ハジm「彩人君!」ぐえっ」

 

目を覚ました途端にハジメが抱き着いてきた。・・・なんか色々成長してね?

 

「良かったぁ…彩人君、生きてるよぉ…」

 

「あぁ、生きてるぜ」

 

心配かけさせるまいと笑みを浮かべるがハジメは申し訳なさそうに、

 

「ごめんね…あの時私が隠れていれば…」

 

「・・・過去の事だ。今俺は生きてる。お前が助けてくれたんだろ?サンキューな」

 

「あ・・・えへへ・・・彩人君が褒めてくれたぁ・・・」

 

ハジメの罪悪感を和らげるためとはいえ効きすぎじゃね?というレベルでハジメはデレデレ状態になる。

 

「それはそうとハジメさんよ、その変貌の説明を求む」

 

「ふふふ・・・え?あ、ああ・・・これはね・・・」

 

待つことしばし。

ハジメが魔王モードになった理由を聞くとやはり魔物の肉によるものだった。

 

「ハジメ、魔物の肉は余っているか?」

 

「え・・・まさか食べる気なの?!さっきいったようにアレは・・・」

 

「食べると全身に強い痛みと苦痛、だろ。リスクはでかいがリターンも多い」

 

「・・・・・君が言うなら私は従うけど…コレだよ」

 

「それじゃ、地獄へ行ってくるか。・・・いただきます」

 

ハジメが差し出した魔物の肉を喰らう彩人。

全て食い切ったところで神水を飲む。・・・・が、

 

「・・・グガアァッッ‼!!!!!・・・ア"ッ…ガアァァァ・・・あ"あ"っ"」

 

彩人はハジメ以上に苦しみ始めた。

 

「さ、彩人君!ど、どうしよう・・・私もこうだったのかな・・・でも、なんとか・・神水を」

 

苦しむ彩人を助けようと神水片手に彼に近づこうとするハジメ。しかし・・・

 

「ウゥ・・・アァ・・・グウゥゥゥアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

「きゃあぁぁ!!」

 

彩人を中心にすさまじいエネルギーが拡散していく。見えない壁に突き飛ばされるハジメ。

そのエネルギーを感じ取った魔物は萎縮し洞窟を中心に迷宮全体が地震のように揺れた。地上にまで影響を及ぼしホルアドの町の周りに無数の雷が落ちる。

 

「GHOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAH!!」

 

次の瞬間、天にも轟くような彩人の叫びとともに放たれた覇気が二人の居る岩壁を吹き飛ばしハジメが気が付いたときには彩人を中心としたクレーターがあるのみだった。しかしハジメと違い全体的に戦闘向きな筋肉がついた以外に外見の変化は無く髪も黒のままなのでハジメはすぐに彩人だと気づいた。

 

「こ、これが…サイヤ人の力・・・?」

 

圧倒的なオーラを放つ彩人を見つめるハジメはそっとつぶやくのだった。

 

超回復という現象がある。筋トレなどにより断裂した筋肉が修復されるとき僅かに肥大して治るという現象で骨なども同じく折れたりすると修復時に強度を増す。サイヤ人は死の淵から復活すると強化されるのだがそれも超回復によるものだが一般人の比ではない。ハジメが苦しんだようにサイヤ人にとっても魔物の肉は毒となる。神水との死に際復活が短時間に連続かつ高速で行われた結果、異常なほどのパワ-アップを遂げたのだ。

 

「・・・くっ、無理な強化はやっぱきついな・・・」

 

「もう、無理しすぎだよ!…覚醒した彩人君、かっこよかったけどさ

 

「・・・すまねぇ」

 

拠点が焦土と化したので別の洞窟にてハジメと彩人は休んでいた。

 

「ステータスプレートでも見るか?」

 

「・・・あ、忘れてた」

 

「・・・・・・」

 

こんなやりとりの後、二人はそれぞれのステータスを確認する。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

轟彩人 17歳 男 レベル:8

 

 

 

 

 

 

 

天職:武闘戦士

 

(気力開放時)

 

 

筋力:700(1050)

 

 

体力:650(975)

 

 

耐性:580(870)

 

 

敏捷:820(1230)

 

 

魔力:0

 

 

魔耐:0

 

 

技能:言語理解・胃酸強化

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

南雲ハジメ 17歳 女 レベル:9

 

 

 

 

 

 

 

天職:錬成師 

 

 

 

筋力:170

 

 

 

体力:420

 

 

 

耐性:145

 

 

 

敏捷:380

 

 

 

魔力:500

 

 

 

魔耐:480

 

 

 

技能:錬成・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「「なんでやねん」」

 

二人のツッコミが重なった。




ちなみにマリー・アントワネットもストレスで白髪になったらしい。


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愛銃〝ドンナー〟

宇宙規模の戦いだと銃器が霞む気がしたが知ったことではない。



魔物喰ったらステータスが爆上がりした、まる。

原作を超えた強さなのは気のせいであって欲しかった。

 

「〝魔力操作〟…?なんだろう」

 

「言葉通りなら魔力を直接操れるとかかもしれん。俺に魔力はないから分らんがハジメは何か感じるものがあるんじゃないか?」

 

「・・・そういえば以前と違う感覚があるよ。少し試してみよう…」

 

するとハジメの気力・・・もとい魔力が高まると同時に詠唱なしで地面が盛り上がった。

 

「わわっ、詠唱いらずってこと?魔力は直接操作はできないのが原則。例外は魔物。……やっぱり魔物の肉食べたせいでその特性を手に入れちゃったのかな?」

 

「それ以外に考えられん」

 

「それじゃ、次は・・・〝纏雷〟だけど、雷…だよね」

 

「二尾狼のやつだな。ほんとに雷を纏ってるつもりでやると良いんじゃないか?」

 

「イメージするんだね。よし・・・わっ」

 

ハジメの両手に紫色の雷電が出現した。

 

「最後の〝胃酸強化〟・・・まぁこれはいいだろ。魔物の肉に耐性が出来たってところだろ」

 

「食べる度に苦しむのはもうこりごりだよ・・・」

 

ハジメの〝纏雷〟で新たに狩った二尾狼の肉を焼く・・・前に。

 

「ハジメ、少し試したいことがある。二尾狼を一匹くれ」

 

「・・・?いいけど、何するの」

 

「サンキュ、ちょっと離れてな」

 

彩人は気力を手に集中させる。すると彩人の右手を白い光が包む。彩人は手刀で二尾狼の肉を切るようにそわせた。するとかなり硬いはずの二尾狼の肉が豆腐を切るようにスッと割かれた。

 

「・・・すごい切れ味」

 

「気のエネルギーを纏うことで鎧となり、身体を武器にできる・・・気の消費もヤバいから封印してたが今なら大丈夫そうだ」

 

「だから防具や籠手をつけなかったんだね」

 

改めて綺麗に切り裂いた肉を焼き、食す。・・・今回は時間がたっても痛みや苦しみはなかった。

 

――――――――――――――――――――――

ハジメ達は魔物で食いつなぎながら身体強化、錬成技術向上を進めていた。彩人は気を遣わず腕力のみで魔物と死闘を繰り広げ、サイヤ人の戦闘を取り戻していった。安易に神水には頼らず、本当に困った時のみ使用した。ハジメも彼を気遣い、錬成の強化をしつつも神水を節約し、やがてハジメが〝鉱物系鑑定〟を習得し、いよいよハジメの〝相棒〟誕生のフラグが立つ。

 

その〝相棒〟制作のために鉱物を手あたり次第調べていく。

 

==================================

 

緑光石

 

魔力を吸収する性質を持った鉱石。魔力を溜め込むと淡い緑色の光を放つ。

 

また魔力を溜め込んだ状態で割ると、溜めていた分の光を一瞬で放出する。

 

==================================

 

手始めに緑光石を調べるとハジメのステータスプレートにこう出た。

 

「閃光弾でも作れそうだな」

 

「・・・!」

 

つい言ってしまったがハジメはニヤリと悪巧みを考えついたように笑った。

続けて鉱石を探すと

 

==================================

 

燃焼石

 

可燃性の鉱石。点火すると構成成分を燃料に燃焼する。燃焼を続けると次第に小さくなり、やがて燃え尽きる。密閉した場所で大量の燃焼石を一度に燃やすと爆発する可能性があり、その威力は量と圧縮率次第で上位の火属性魔法に匹敵する。

 

==================================

 

「火薬・・・いや火種、か?」

 

「・・・フヒッ」

 

「・・・ハジメ、今乙女がしちゃいけない顔なんだが」

 

それからというもののハジメは何かに取り付かれたように〝アレ〟の製作に取り掛かった。

彩人はソレが出来るまでひたすら鍛錬を積んだ。

そして、寝食を忘れてひたすら錬成の熟達に時間を費やした上、何千回という失敗の果てに、ハジメは遂にとある物の作製に成功した。

 

音速を超える速度で最短距離を突き進み、絶大な威力で目標を撃破する現代兵器。

 

全長は約三十五センチ、この辺りでは最高の硬度を持つタウル鉱石を使った六連の回転式弾倉。長方形型のバレル。弾丸もタウル鉱石製で、中には粉末状の燃焼石を圧縮して入れてある。

 

==================================

 

タウル鉱石

 

黒色で硬い鉱石。硬度8(10段階評価で10が一番硬い)。衝撃や熱に強いが、冷気には弱い。冷やすことで脆くなる。熱を加えると再び結合する。

 

==================================

 

すなわち、大型のリボルバー式拳銃だ。

 

しかも、弾丸は燃焼石の爆発力だけでなく、ハジメの固有魔法〝纏雷〟により電磁加速されるという小型のレールガン化している。その威力は最大で対物ライフルの十倍である。

 

「この子名前を付けてあげなくちゃ。・・・そうだなぁ・・・よし、この子の名前は〝ドンナー〟だよ!」

 

「カッコいいな。ドンナーって確か・・・ドイツ語で〝雷〟だったか」

 

「ふへへ・・・これでアイツを倒せる・・・彩人君を守れる・・・うふふ・・・んひひ・・・」

 

「おい、トリップするんじゃない」

 

恍惚の表情を浮かべるハジメにドン引きする彩人だった。




爪熊討伐は次回。


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無慈悲なる仇討ちの銃声

ヤンヤン魔王様の全力(現段階)


ハジメはさっそくドンナーの威力を試すべく蹴りウサギを始末する。二尾狼ごときでは相手にならなかった。

秒速三・二キロメートルの弾丸の威力は伊達ではない。

 

蹴りウサギの肉を喰らうとハジメに変化が。(彩人も食べたが死に際復活の恩恵があまり無かったので鍛錬による強化)

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

南雲ハジメ 17歳 女 レベル:12

 

 

天職:錬成師 

 

 

筋力:260

 

 

体力:460

 

 

耐性:300

 

 

敏捷:550

 

 

魔力:700

 

 

魔耐:700

 

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・言語理解

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

轟彩人 17歳 男 レベル:9

 

 

天職:武闘戦士

 

 

(気力開放時)

 

 

筋力:900(1800)

 

 

体力:800(1600)

 

 

耐性:750(1500)

 

 

敏捷:1000(2000)

 

 

魔力:0

 

 

魔耐:0

 

 

技能:言語理解・胃酸強化

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

やはりハジメにのみ技能が追加されている。〝天歩〟というのは高速移動の事蹴りウサギはこれで獲物に急接近する。[+縮地]というのがその派生技で彩人のバニッシュ移動と同じもの。魔力と気力の違い。

彩人というお手本はいるが、ハジメは慣れるまで猛スピードで飛んでは壁に激突していた。

 

次に[+空力]。空に魔力の足場を作り空中に浮くというもの。彩人は鍛錬の過程で習得した舞空術があるが、本当に浮くので空力とは似て異なる。

こちらも足場のイメージと位置調整が困難を極め踏み損ねたり踏み外す事があり彩人がサポートしていたがハジメがわざと失敗しようとするので成功するまで接触禁止と言ったら泣かれた。

 

爪熊を確実に倒すべくハジメは自身を鍛えていた。ドンナーの威力なら勝てるとはいえ負けないとは限らない。さらに強い奴がいないとも限らないし。

 

――――――――――――――――――――――

 

迷宮の通路を、姿をかすませながら高速で移動する影とそれを空を飛びながら追うもう一つの影。

ハジメと彩人である。

 

「・・・舞空術、だっけ?すごいね。私のスピードについていけるなんて」

 

「いや、ハジメの気を探って最短距離を移動してるだけだ」

 

二人は目標である爪熊を捜索していた。本来なら脱出口を探すことを優先すべきなのだろうが、ハジメはどうしても爪熊を殺りたかった。

その理由は、

 

「私なりのけじめってのもあるけど、彩人君を傷つけたんだもん、・・・絶対許さない

 

とのこと。彩人は自分は生きてるから気にするなと言ったがハジメは自分の気が済まなかった。

 

「グルゥア!」

 

途中、二尾狼の群れと遭遇し一頭が飛びかかってくる。ハジメは冷静に、その場で跳躍し宙返りをしながら錬成した針金で右足の太ももに固定したドンナーを抜き発砲する。

 

ドパンッ!

 

燃焼粉の乾いた破裂音が響き、〝纏雷〟で電磁加速された弾丸が狙い違わず最初の一頭の頭部を粉砕した。

そのまま空中で〝空力〟を使い更に跳躍し、飛びかかってくる二尾狼に向かって連続して発砲する。全て命中とまではいかなかったが、どうにか全弾撃ち尽くす前に仕留め切った。

空薬莢を捨て再装填するハジメ。

 

「…お見事」

 

「うん、彩人君と訓練したからね…♡」

 

「・・・その言い方止めて、マジで」

 

サイヤ人も気弾や気功波による遠距離攻撃を行うのでハジメと一緒に訓練しただけである。位置調整の為に二人羽織のような事はやったがそれだけである。ここでもハジメが手を抜くのですぐやめた。

そんなやりとりをしている内に、

 

「この先から強い気を感じる。恐らく奴だ」

 

「分かるの?」

 

「相手の気を覚えれば、な。気ってのはいわば魂のエネルギーでありその人そのものを指す。内面も多少分かるな、悪意と善意の量で」

 

「そうなんだ・・・凄いね」

 

「お、本命が見えてきたぞ」

 

見つけた爪熊は現在食事中のようだ。彩人に折られた爪が若干伸びているが左手よりも全然短い。蹴りウサギと思しき魔物を咀嚼している。その姿を確認するとハジメはニヤリと不敵に笑う。

 

「ねえ彩人君。そこで見てて、あいつがくたばるところ」

 

そう言うとハジメは悠然と歩き出した。

爪熊はこの階層における最強種だ。主と言ってもいい。二尾狼と蹴りウサギは数多く生息するも爪熊だけはこの一頭しかいない。故に、爪熊はこの階層では最強であり無敵。

それを理解している他の魔物は爪熊と遭遇しないよう細心の注意を払うし、遭遇したら一目散に逃走を選ぶ。抵抗すらしない。まして、自ら向かって行くなどあり得ないことだ。

 

「やっほー、久しぶりだね。折れた爪の調子はどうかな?」

 

爪熊はその鋭い眼光を細める。目の前の生き物はなんだ? なぜ、己を前にして背を見せない? なぜ恐怖に身を竦ませ、その瞳に絶望を映すどころか瞳が暗黒に染まっているのだ? 

 

かつて遭遇したことのない事態に、爪熊が委縮する。

 

「それじゃさっそく彩人君を傷つけた愚か者に・・・死を

 

そう言って、ハジメはドンナーを抜き銃口を真っ直ぐに爪熊へ向けた。

 

ハジメの口元が自然と吊り上がり獰猛な笑みを作る。

 

「殺して喰ってあげるね!」

 

その宣言と同時にハジメはドンナーを発砲する。ドパンッ! と炸裂音を響かせながら毎秒三・二キロメートルの超速でタウル鉱石の弾丸が爪熊に迫る。

爪熊は咄嗟に崩れ落ちるように地面に身を投げ出し回避した。

弾丸を視認して避けたのではなく、発砲よりほんの僅かに回避行動の方が早かったことから、おそらくハジメの殺気に反応した結果だろう。流石は階層最強の主である。二メートル以上ある巨躯に似合わない反応速度だ。

だが、完全に避け切れたわけではなく肩の一部が抉れて白い毛皮を鮮血で汚している。

 

ここまでは原作通りだが彩人の目の前に映ったのは攻撃されているのに怒るどころか怯えた表情を浮かべて後ずさる爪熊と小さく笑いながら爪熊ににじり寄るハジメだった。・・・恐ろしい顔になっているのは間違いない。

 

「ほらほら、抵抗しないと喰われちゃうよ~?」

 

するとハジメは何かを投げた。爪熊の足元にカランと音を立てて転がる。釣られて爪熊が足元に視線を向けると直径五センチ位の深緑色をしたボール状の物体が転がっている。爪熊がそのことを認識した瞬間、その物体がカッと強烈な光を放った。

 

ハジメが作った〝閃光手榴弾〟である。

 

当然、そんな兵器など知らない爪熊はモロにその閃光を見てしまい一時的に視力を失った。両腕をめちゃくちゃに振り回しながら、咆哮を上げもがく。何も見えないという異常事態にパニックになっているようだ。

 

その隙を逃すハジメではない。再びドンナーを構えてすかさず連続で発砲する。電磁加速された絶大な威力の弾丸が暴れまわる爪熊の右肩から右腹部にかけて切り落とすように打ち抜いた。

 

「グルゥアアアアア!!!」

 

その生涯でただの一度も感じたことのない激烈な痛みに凄まじい悲鳴を上げる爪熊。その肩と脇腹からはおびただしい量の血が噴水のように噴き出している。吹き飛ばされた右腕がくるくると空中を躍り、やがて力尽きたようにドサッと地面に落ちた。

 

「ねえ、痛い?痛いよねぇ・・・でもお前が先にやろうとしたんだ。文句は言わせない

 

爪熊に見せつけるかのように右腕を持ち上げ掲げた。

そして、おもむろに噛み付いた。魔物を喰らうようになってから、やたらと強くなったあごの力で肉を引き千切り咀嚼する。

 

「あぐ、むぐ、相変わらずマズイ肉・・・」

 

爪熊は動かない。その瞳には明確に恐怖の色に染まっており、さらに己の肉体の一部が喰われているという状況と回復しきっていない視力に不用意には動けないようだ。

それをいいことに、ハジメは食事を続ける。すると、やがて異変が訪れた。初めて魔物の肉を喰らった時のように、激しい痛みと脈動が始まったのだ。

 

「ッ!?」

 

急いで神水を服用するハジメ。あの時ほど激烈な痛みではないが、立っていられず片膝を突き激しい痛みに顔を歪める。どうやら、爪熊が二尾狼や蹴りウサギとは別格であるために取り込む力が大きく痛みが発生したらしい。

 

だが、そんな事情は爪熊には関係ない。チャンスと見たのか悲鳴に似た唸り声をあげて流れ続ける血もそのままに逃げ出した。

 

『アレは化け物だ、殺される』

 

そんな爪熊の心の声が聞こえた気がした。

その時、ハジメの口元がニヤーと裂けた。

 

同時に、右手をスッと地面に押し付けた。そして、その手に雷を纏う。最大出力で放たれた〝纏雷〟は地面の液体を伝い、その場所に踏み込んだ爪熊を容赦なく襲った。

地面の液体とは、爪熊の血液のことだ。噴水の如く撒き散らされた血の海。ハジメは拾った爪熊の左腕から溢れでる血を、乱暴に掲げることで撒き散らし、自分の場所と血溜りを繋いだのである。

伊達や酔狂で戦闘中に食事などしない。爪熊を喰らったことで痛みに襲われるとは思っておらず最初から罠に嵌めるつもりだったのだが爪熊が逃げ出したため予定を早めた。

 

「ルグゥウウウ」

 

 低い唸り声を上げながら爪熊が自らの血溜りに地響きを立てながら倒れた。何処か泣いているようにも見える、怯え切った顔で痺れた体を動かして逃れようとする。

ハジメは真っ直ぐその瞳を睨み返し、痛みに耐えながらゆっくり立ち上がった。そして、ホルスターに仕舞っていたドンナーを抜きながら歩み寄り、爪熊の頭部に銃口を押し当てた。

 

私達の為に死ね

 

無慈悲な銃声が洞窟内に響く。絶望に染まった爪熊の目から光が消える。絶命したのだ。

ハジメはそんな仇敵に興味を無くし、苦笑いを浮かべた愛しい人に顔を向ける。

 

彩人君は私が守る。貴方の敵は私の敵。どんな相手でも殺す・・・貴方は絶対に死なせない

 

先ほどの声とは真逆の純粋で優しい声でハジメは言った。

彩人は爪熊の血で汚れたままの彼女を見て、『とんでもない魔王を生み出してしまった』と思った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

南雲ハジメ 17歳 女 レベル:16

 

 

天職:錬成師 

 

 

筋力:400

 

 

体力:560

 

 

耐性:420

 

 

敏捷:700

 

 

魔力:900

 

 

魔耐:900

 

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・言語理解

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 




ヤンデレ最強。
オリ主、無双・・・出来るかな?


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重い、思い by クラスメイト

今回短めです。クラスメイトの様子・・・の説明です。


時は少しさかのぼり、

 

「「「「・・・・・・・・・・・」」」」

 

「」

 

「」

 

ハイリヒ王国王宮内、召喚者達に与えられた部屋の一室で、八重樫雫、白崎香織、谷口鈴、中村恵里の四人が暗黒のオーラを出していた。

別の部屋で清水、辻カップルが恐怖のあまり昇天しかけている。

 

この四人の変貌ぶりは迷宮での事件の後に姿を現してきた。

あんな事があっては迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気ではなかったし、無能、足手まとい扱いだったとは言え勇者の同胞達が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった為一度王国に帰還した。

 

そこまではよかったが神の使徒の死亡報告時王国側の人間は誰も彼もが愕然としたものの、それが〝無能〟のハジメと〝足手まとい〟の彩人だと知ると安堵の吐息を漏らした事で変化し始める。

 

 

 

ハジメを罵る者が居たのは原作と同じだったが彩人への侮辱はハジメ以上だった。

魔力を持たない事がバレておりやれ天罰だのゴミ掃除が出来て良かっただの。ヒロインズ、〝同盟〟の心中は穏やかでは無く眠っていた香織が彩人のへの侮辱で覚醒しそれを言った人に殺意を向けたのを雫が止めるが自身も剣に手が伸びかけた。

 

最終的に天之河が切れたことで侮辱した者は悪印象を避けたい上位の人々のはからいで処分を受けたものの二人の評価は覆ることはなかった。逆に、天之河は無能にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まり、結局、天之河の株が上がっただけに終わった。

 

 

 

 

あの時、自分達を救ったのは紛れもなく、勇者も歯が立たなかった化け物をたった二人で食い止め続けたハジメと彩人だというのに。そんな彼らを死に追いやったのはクラスメイトの誰かが放った流れ弾(・・・)だというのに。

 

クラスメイトは糾弾を恐れてこのことを話したがらない。対照的にメルド団長は原因究明に積極的だった。生徒達のメンタルの緩和もそうだが何より〝助ける〟と言っておいて、二人を救えなかったことに心を痛めているからだ。

真実を知っている清水と辻はメルド団長に真実を話そうとしたがイシュタルの介入により叶わず。

 

清水たちは約束を果たすべく香織の部屋に行こうとしたが、部屋からおぞましい気配を感じ、踏みとどまる。

中から声が聞こえる。

 

「・・・そうなんだ、檜山くんだったんだぁ・・・彩人くんたちを落としたの」

 

「うん、僕が問い詰めたら気絶しちゃったけど自己弁護してたし、間違いないよ」

 

「そっかそっか・・・私少し用事が出来たの。・・・だから手を離して?雫ちゃん」

 

「檜山の所へ行くつもりでしょう?・・・ホントは私も行きたい所だけど今はダメよ」

 

「鈴もシズシズに賛成。いまやっちゃったらアイツと同類。彩人が喜ぶと思う?カオリン、よーく考えて」

 

「・・・そうね。今は(・・)やめておきましょう、彩人くんを悲しませる事はしたくないもの」

 

「そうそう、今は(・・)、ね!」

 

「ああ。今は(・・)、な」

 

今は(・・)、だけど」

 

 

「「「「フフフフフフフフフ・・・・・・」」」」

 

実はそのあとにも会話があるのだが、清水と辻は恐怖のあまり別の部屋に逃げたのでここまで。

 

「・・・コワカッタァ…」

 

「・・・何で知ってんだ・・・・ほんとに大丈夫なのか・・・?親友」

 

 

―――――――

おまけ 1

 

ホルアドに突如、原因不明の雷、地震が発生。未知の出来事に人々がパニックになる中、フューはその光景を満足そうに眺めていた。

 

「うわぁ、やっぱり凄いエネルギーだ。これならすぐにでもなれそうだけど・・・」

 

しかしフューは同時に疑問を抱いた。

 

「(魔人側にも黄金のオーラを纏った奴が魔人族の神を攻撃してた絵があったけど・・・本当に単なる超サイヤ人なのかな・・・?)」

 

フューはエヒトに引きずり込まれた時のことを思い返す。

 

「(あの時、やつの言葉で僕は少しも動けなかった。僕は戦闘向きじゃないとはいえ、あの力は・・・単なる腕力では勝てない。う~ん、実際試したわけじゃないからなぁ・・・)」

 

「・・・念のために色々仕込んでおこうかな、彩人君の強化のためにも」

 

フューは情報が必要と考え再び消えた。




ゴミ文ですまねえ。
ヒロインズは彩人達が生存している前提で言ってます。


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迷宮攻略の時がきたようだなァ・・・

好きなように書けばいいって誰かが言ってたから好きなように書くだけだァ・・・


「・・・どうしてないんだろう?」

 

そうぼやくハジメ。

原作を知っている人なら分かるとは思うが上に戻る階段が無い。錬成による階段制作も失敗、おまけに舞空術でも天井に引っ掛かり瞬間移動しようにも魔物以外の人の気配が下の〝彼女〟らしきものしか感じない。

 

しらみつぶしに道をさがすも結局見つけたのは緑光石がない真っ暗で足元の悪い下り坂のみ。

 

「この道以外には無いな」

 

「そうだね。何があるか見当もつかないけど私達は止まらない、そうでしょ?」

 

「当然。それじゃ、行くぜ」

 

・・・と、下りたはいいがいかんせん真っ暗なので緑光石を灯りに暗闇を進む。ハジメが辺りを照らして進み、彩人も気配を探って慎重に歩みを進める。

 

「!近づいてきてる・・・ハジメ、油断するな」

 

「分かった」

 

魔物の気を感じ警戒度MAXで進むが壁に体長二メートル程の灰色のトカゲがはりついており奴の金眼にハジメは目が合ってしまう。

 

「ハジメ!」

 

「うっ、石化かぁ・・・」

 

すぐさま彩人が弱気弾でトカゲを丸焼きにする。ハジメは素早く神水を飲んだので石化は解除される。

トカゲは絶命したが奴の見ていた方向にあった岩の色が少し変わり、次いで風化したようにボロボロと崩れ出した。相当強力な石化の邪眼を持っているのだろう。RPGで言うならバジリスクといったところか。

 

「焼きたてだが・・・食うか?」

 

「ホント凄いね、気って」

 

丸焼きのトカゲを一緒に喰らう二人。すると痛みと苦しみが徐々に襲ってくる。爪熊なみの強さらしい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

南雲ハジメ 17歳 女 レベル:21

 

 

 

天職:錬成師 

 

 

筋力:600

 

 

体力:720

 

 

耐性:610

 

 

敏捷:900

 

 

魔力:1100

 

 

魔耐:1100

 

 

 

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・夜目・気配感知・石化耐性・言語理解

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

轟彩人 17歳 男 レベル:12

 

  

 

天職:武闘戦士

 

  

 

(気力開放時)

 

 

筋力:1300(2600)

 

 

体力:1000(2000)

 

 

耐性:900(1800)

 

 

敏捷:1700(3400)

 

 

魔力:0

 

 

魔耐:0

 

 

 

技能:言語理解・胃酸強化・石化耐性・夜目

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

どうやら身体に直接影響するものは取得できるらしい。

 

 

「〝夜目〟かぁ・・・暗闇だと見やすいけど・・・」

 

「〝石化耐性〟、か・・・ありがたいな」

 

「でも耐性なんだね。石化の邪眼! とかカッコイイのに……」

 

「・・・・」

 

気配感知に関してはその名の通り。彩人だけでなくハジメも索敵が出来るようになったのは大きな成果と言える。

 

「さて、消耗品を補充…もとい錬成しなきゃね」

 

「・・・やっぱり難しいか?」

 

「うん…ある程度技術は上がったけど微調整が特にね。でも錬成の鍛錬になるし、早く貴方とここ(・・)を出たいから」

 

〝ここ〟が何処かはさておき弾丸などの消耗品の錬成以外ではひたすらに探索を続けた。夜目と索敵能力で一気に効率は上がり空力と舞空術で下層への坂を発見し先へ進む。が、 その階層は、地面がどこもかしこもタールのように粘着く泥沼のような場所だった。

 

「うう・・歩きにくい・・・」

 

「…?このドロドロ、重油みてえだな…鉱石かもしれん。ハジメ、鑑定してくれ」

 

「うん、分かった」

 

=====================================

 

フラム鉱石

 

艶のある黒い鉱石。熱を加えると融解しタール状になる。融解温度は摂氏50度ほどで、タール状のときに摂氏100度で発火する。その熱は摂氏3000度に達する。燃焼時間はタール量による。

 

=====================================

鑑定結果は以上の通り。

 

「火器厳禁かよ・・・」

 

「レールガンも纏雷も使えないね…」

 

「ああ。使ったらこっちが消し炭になるな」

 

タールの沼を進む二人。しかし彼らに音もなく忍び寄る影・・・そいつはタールの中から飛び出した。

 

「え・・・」

 

「させるかぁ!」

 

ハジメを食らわんと鋭い歯が無数に並んだ巨大な顎門を開いて、サメのような魔物がタールの中から飛び出してきた。ハジメの頭が食われる前にバニッシュ移動でハジメをかばいつつサメを殴り飛ばす。サメの頬がひしゃげ、鋭い歯が数本吹き飛びタールの沼に落ちた。

 

「ありがとう、でも〝気配感知〟にかからなかったのによくわかったね」

 

「いや、気でも探知出来なかった。たまたま出現した位置が良かっただけだ」

 

「で、でも・・アイツは倒したよね?」

 

「残念だが手ごたえを感じなかった…おおかた物理耐性でもあるんだろ」

 

「だったら・・・」

 

「アレくらいだな、奴に効きそうなのは。後は対処する時間を稼ぐ。ハジメ、後ろは任せた」

 

「う、うん!任せて」

 

背中合わせの状態で死角を減らし空力と舞空術で空中を移動しサメがこちらに届くまでの距離を稼ぐ。

しかし警戒しているのか中々出てこない。…そこで、わざと転ぶふりをする。・・・とチャンスと見たか大きく飛び上がり二人まとめて喰らわんと口を大きく開く。そして、口の裂け目を彩人は気の手刀、ハジメはドンナーに纏わせた〝風爪〟で切り裂き、二枚おろしにする。

 

「さて、気配を感じなかった理由、確かめさせてもらうね」

 

サメの一部を食し残りは保管して二人は下層へ歩みを進める。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

南雲ハジメ 17歳 女 レベル:22

 

 

 

天職:錬成師 

 

 

筋力:600

 

 

体力:720

 

 

耐性:670

 

 

敏捷:900

 

 

魔力:1100

 

 

魔耐:1100

 

 

 

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・夜目・気配感知・気配遮断・石化耐性・言語理解

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

轟彩人 17歳 男 レベル:12

 

  

 

天職:武闘戦士

 

  

 

(気力開放時)

 

 

筋力:1300(2600)

 

 

体力:1000(2000)

 

 

耐性:920(1840)

 

 

敏捷:1700(3400)

 

 

魔力:0

 

 

魔耐:0

 

 

 

技能:言語理解・胃酸強化・石化耐性・夜目

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

その先でも困難は待ち受けており50層は進んだといっても迷宮全体が薄い毒霧で覆われた階層では、毒の痰を吐き出す二メートルのカエル(虹色だった)や、麻痺の鱗粉を撒き散らす蛾(見た目モ○ラだった)に襲われた。常に神水を服用してその恩恵に預からなければ、ただ探索しているだけで死んでいたはずだ。

 

神経毒に苦しみながらも蛾とカエルを食す。蛾を食べるのは流石のハジメも抵抗があったが生きるために食した。彩人は気にせず食っていた。サイヤ人は悪食というより何でも食えないと戦地で飢え死にするからだ。

 

また、地下迷宮なのに密林のような階層に出たこともあった。物凄く蒸し暑くうっそうとしていて今までで一番不快な場所だった。この階層の魔物は巨大なムカデと樹だ。

密林を歩いていると、突然、巨大なムカデが木の上から降ってきたときは、流石の二人も全身に鳥肌が立った。余りにも気持ち悪かったのである。

 

しかも、このムカデ、体の節ごとに分離して襲ってきたのだ。一匹いれば三十匹はいると思えという黒い台所のGのような魔物だ。ハジメの乱射でも仕留めきれず〝風爪〟を利用した接近戦を強いられた。気功波なら消し炭にできるもののでかい音で別個体を引き寄せるためキリがない。結局全滅させるまで戦い続けることになった。

 

ちなみに、樹の魔物はRPGで言うところのトレントに酷似していた。木の根を地中に潜らせ突いてきたり、ツルを鞭のようにしならせて襲ってきたり。

しかし、このトレントモドキの最大の特徴はそんな些細な攻撃ではない。この魔物、ピンチなると頭部をわっさわっさと振り赤い果物を投げつけてくるのだ。これには全く攻撃力はなく、二人は試しに食べてみたのだが、直後、数十分以上硬直した。毒の類ではない。めちゃくちゃ美味かったのだ。甘く瑞々しいその赤い果物は、例えるならスイカだった。リンゴではない。

 

ムカデのストレスと魔物お肉以外の美味しい果物。それを逃すわけもなく二人はトレントモドキも根絶やしにした。

 

そうして進んでいくと、二人は不思議な空間にたどり着いたのである。




次回、彼女、出ます。


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囚われの少女

オリ展開があります。






現在の二人のステータスは以下の通り。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

南雲ハジメ 17歳 女 レベル:39

 

 

 

 

天職:錬成師 

 

 

筋力:1200

 

 

体力:1020

 

 

耐性:1470

 

 

敏捷:1500

 

 

魔力:2100

 

 

魔耐:2100

 

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 

轟彩人 17歳 男 レベル:17

 

 

 

天職:武闘戦士

 

 

(気力開放時)

 

 

筋力:2800(5600)

 

 

体力:1800(3600)

 

 

耐性:1430(2860)

 

 

敏捷:2300(4600)

 

 

魔力:0

 

 

魔耐:0

 

 

 

 

技能:言語理解・胃酸強化・石化耐性・夜目・毒耐性・麻痺耐性

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

階下への階段は既に発見しているのだが、この五十層には明らかに異質な場所があったのだ。

 

それは、なんとも不気味な空間だった。

 

脇道の突き当りにある空けた場所には高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。

 

今までに無い変化に二人は期待と嫌な予感を両方同時に感じつつ準備を整えていた。

あの扉を開けば確実になんらかの厄災と相対することになる。だが、しかし、同時に終わりの見えない迷宮攻略に新たな風が吹くような気もしていた。

 

「さながらパンドラの箱かな。……さて、どんな希望が入っているのかな?」

 

早速ハジメが扉の前であれこれやっているのを見届けながら扉の先に感じる高貴な気を読み取る彩人。

 

「(ここまで来てしまった…あのヤンヤン魔王の前であの子が・・・もう、覚悟を決めよう)」

 

彩人が覚悟を決めたと同時に扉の魔術に跳ね返されたハジメが飛んできたので支える。

 

「いたた・・・」

 

「…大丈夫か?」

 

「あ、うん…大丈夫。・・・彩人君こそ大丈夫?この世の終わりみたいになってるけど」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「それ、フラグだと思うんだけ・・・『――オォォオオオオオオ!!』!?」

 

すると突然、野太い雄叫びが部屋全体に響き渡ったのだ。

 

彩人はハジメを抱えたままバックステップで扉から距離をとり、ハジメをおろす。次いで彼女は腰を落として手をホルスターのすぐ横に触れさせいつでも抜き撃ち出来るようにスタンバイする。

 

雄叫びが響く中、遂に声の正体が動き出した。

 

「まぁ、ベタと言えばベタだな」

 

苦笑いしながら呟く彩人の前で、扉の両側に彫られていた二体の一つ目巨人が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた。いつの間にか壁と同化していた灰色の肌は暗緑色に変色している。

一つ目巨人の容貌はまるっきりファンタジー常連のサイクロプスだ。手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。未だ埋まっている半身を強引に抜き出し無粋な侵入者を排除しようと二人の方に視線を向けた。

 

「先手必勝。いいな、ハジメ」

 

「了解・・・っと!」

 

ドパンッ!

 

凄まじい発砲音と共に電磁加速されたタウル鉱石の弾丸が右のサイクロプスのたった一つの目に突き刺さり、そのまま脳をグチャグチャにかき混ぜた挙句、後頭部を爆ぜさせて貫通し、後ろの壁を粉砕した。

左のサイクロプスがキョトンとした様子で隣のサイクロプスを見る。撃たれたサイクロプスはビクンビクンと痙攣したあと、前のめりに倒れ伏した。巨体が倒れた衝撃が部屋全体を揺るがし、埃ほこりがもうもうと舞う。

 

「悪いが、空気を読んで待っていてやれるほど出来た敵役じゃあないんだ・・・よ!」

 

左のサイクロプスが油断している隙に奴のモノアイにエネルギー波を放つ。サイクロプスは素早く両腕をクロスさせ、防壁のようなものでビームを防ぐ。奴がニヤリとわらう。が、

 

「今のは全力じゃねえ・・・ぜ!」

 

彩人が少し力を入れると防壁が一瞬で破られサイクロプスの頭が消し飛び、この層の壁に大穴を開けた。

 

「悪い、やりすぎた」

 

「あぁ・・・うん、これからは気を付けてね」

 

肉の回収をしていたが先に何かを思いついたハジメは彩人にサイクロプスの魔石を扉にはめるよう頼んだ。

 

二つの拳大の魔石を扉まで持って行き、それを窪みに合わせてみる。

ピッタリとはまり込んだ。直後、魔石から赤黒い魔力光がほとばしり魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まった。同時に部屋全体に魔力が行き渡っているのか周囲の壁が発光し、久しく見なかった程の明かりに満たされる。

 

「これで開いたと思うけど…慎重に行こう」

 

ハジメは肉の保存を済ませると彩人と共に扉を開く。扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっているようだ。二人の〝夜目〟と手前の部屋の明りに照らされて少しずつ全容がわかってくる。

 

中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。

その立方体を注視していた二人は、何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がついた。

 

万が一扉勝手に閉じる可能性を考慮して彩人は扉を気功波で吹き飛ばした。

 

「換気よし」

 

「換気・・・?」

 

逃走経路を確保しているとその立方体の方から声が。

 

「……だれか、いるの?」

 

「「!?」」

 

二人が振り向くと先程の〝生えている何か〟がユラユラと動き出した。差し込んだ光がその正体を暴く。

 

「え・・・人?」

 

〝生えていた何か〟は人だった。

 

上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗のぞいている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

流石に予想外だったハジメは硬直し、紅の瞳の女の子もハジメと彩人をジッと見つめていた。

 

「彩人くん…どうするの、この子」

 

「・・・気を探った。悪意は感じない」

 

「・・・助けるの?」

 

ハジメの言葉で少女は何かを期待するような表情になった。原作を知っている以上、助けるべきだが、彩人は額に左手の人差し指と中指を立てた状態で触れたのち

 

「こんなところに封印されて本当に何もないとは言い切れない。封印を解いたら襲ってくるかもしれんだろ?」

 

「…!そんなこと、しない」

 

「・・・確かにそうかもしれないね」

 

「ま、待って! ……お願い! ……助けて……」

 

必死な表情の少女。

 

「・・・だったら教えて欲しい。きみがなぜここにいるのか」

 

彩人の問いかけに少女は驚くものの小さくか細い声で話し始めた。

 

「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

「きみは・・・王族?」

 

「……(コクコク)」

 

「殺せないとは?」

 

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

 

「……そ、そいつは凄まじいな。……すごい力ってそれか?」

 

「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

 

少女の会話を聞いたハジメが彩人に耳打ちする。

 

「吸血鬼族ははるか昔に滅んだって本にあったけど・・・彩人君は信じる?」

 

「・・・悪意を感じない。恐らく本当だ」

 

「だったら・・・助ける?」

 

「そのつもりだが、いいのか?」

 

「うん、私は彩人君の意見に従うよ」

 

「悪いな・・・すまん」

 

「いいよ。(それに、あの子から〝同志〟の気配を感じた。あの子も〝同盟〟に入れちゃえば彩人君を修羅場で困らせない・・・♪泥棒猫だったら排除するけどね)」

 

「・・・・・」

 

ハジメの闇に戦慄しながらも彩人は右手で少女を拘束する立方体に触れる。

 

「待ってな、今解放する」

 

「・・・まりょく、かんじない。・・・できる、の?」

 

「大丈夫、彩人君は特別だからね」

 

「彩人君・・・?」

 

「あ、悪い。彩人は俺の名前だ。」

 

「さい、と・・・」

 

「いくぜ・・・はあっ!!」

 

彩人は気力を開放し少女を抑える立方体を構築する魔力を打ち消していく。

 

「あ・・・このちから・・・さっき・・・」

 

「・・・ここまで届いたのか・・・・・」

 

無論魔力の抵抗もあるがそれも破壊していく。

 

「この程度のパワーで・・・俺を超えることはできぬう!!」

 

全ての魔力を破り、立方体が消滅し少女は解放された。

自身が解放されたのに一瞬気づかず目をパチクリしていたが少女はおずおずと彩人に向き直ると

 

「ありが、とう・・・彩、人・・・」

 

再びか細い声でそう言った。

 

「・・・早速悪いがハジメ、この子を頼む」

 

「あ・・・彩人・・・彩人」

 

彩人は少女をハジメに預けると離れるように指示。

 

「彩人君、どうし・・・!?」

 

ハジメがその存在に気がついたのと、ソレが天井より降ってきたのはほぼ同時だった。

彩人の目の前に落ちてきたのは体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。

 

一番分かりやすいたとえをするならサソリだろう。二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。明らかに今までの魔物とは一線を画した強者の気配を感じる。自然とハジメの額に汗が流れた。

 

「彩人君!」

 

「・・・彩人・・・!」

 

二人は彩人が危ないと思ったが、サソリモドキが動き出そうとした瞬間。

 

「覚悟はいいな?・・・〝魔貫光殺砲〟!!!!!!

 

右手の指先に気を集中させ放つ。螺旋状の気をまとった光線状の気がサソリモドキの体を貫通した。思わぬ一撃でサソリモドキはうごかなくなった。

 

「死体蹴りは基本」

 

念のため弱気弾で本当に死んだか確認。微動だにしない。

そんな彩人をハジメと少女は茫然とした表情で見ていた。




サソリモドキは無念の内に亡くなられた。


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真実と語らい

注意!



今回は原作最終話の重大なネタバレがあります。



未読の方はお気をつけを。



「凄い威力・・・」

 

「……」

 

明らかに強いと判断したサソリモドキを一撃で瞬殺した彩人を見つめるハジメと少女。

 

「ふぅ・・・やっぱ溜めに時間かかるのが欠点だな」

 

「え、いつの間に・・・って指を額に当ててたのって」

 

「まあ、その時からだな」

 

チャージしながら封印を解いていたのだ。サイヤ人の力の可能性にハジメと少女が感動している。

 

「・・・ん?・・・んん!?」

 

すると彩人は少女が封じられていたところにここでは有り得ないモノがあるのに気付いてしまった。

 

「(アレは・・・あの子の封印における真実が・・・・)」

 

本来最終決戦後に明らかになるそのモノ・・・もといアーティファクトが出現していた。

しかし同時に彩人は閃く。「(ここで真実を知ればエヒトの憑依を防げる・・・かはともかく氷雪洞窟で不覚は取らないだろう)」と。

 

「…?彩人…?」

 

彩人の反応に首を傾げる少女。

彩人は素早くそのアーティファクトを回収する。

 

「(…使える状態やんけ・・・、神代魔法が必要だったような・・・後で考えるか)」

 

「彩人君、それ・・・アーティファクト?」

 

「ああ。そしてこれは・・・きみ宛てだよ」

 

「・・・わたし?」

 

少女はきょとんとしながらも彩人からそのダイヤのようなアーティファクトを受け取る。

するとアーティファクトが輝き、ふっと映像を映し出す。そこに現れた相手を見て、少女が驚愕に目を見開き呆然と呟いた。

 

「……おじ、さま?」

 

なんと映像の人物は――少女の叔父、ディンリード・ガルディア・ウェスペリティリオ・アヴァタールその人だったのである。外見は少女と同じ深紅の瞳と美しい金髪であるため血のつながりを感じる。

真実を知っている彩人はともかくハジメと少女は混乱していた。

 

ディンリード氏は少女が言っていたような権力欲に取り付かれる人物とは思えないほど穏やかで荘厳な佇まいで話す。このアーティファクトは映像を残すものらしい。

彼は少女が神に狙われていたことを知り自ら悪役を演じて少女を殺したように見せかけて封印した。いつか神を打倒できる人物が来ると信じて。

それからは少女への溢れんばかりの愛情が語られた。守るためとは言え騙していた事や苦しめた事への謝罪、少女の幸せを願う言葉で締めくくられた。

それを聞いた少女は泣いていた。裏切られたのではなく、自身が愛されていた事に対する喜びと信じることが出来なかった申し訳なさ、もう二度と会えない事の悲しさに。

 

「……おじ、さま。ディン叔父様っ。わたしはっ、私も……」

 

嗚咽をもらしながら光が消えたアーティファクトをしっかりと抱きしめる少女。ハジメは少女が泣き止むまでそっと寄り添った。彩人は静かにその光景を見守った。

 

――――――――――――――――――――――

「ありがとう、彩人・・・と」

 

「私はハジメ。南雲ハジメ、だよ」

 

「・・・ハジメ」

 

泣き止んだ少女に改めて自己紹介する。

 

「あー・・・っと、これからはアレーティアって呼べばいいか?」

 

「ううん、彩人に名前、付けてほしい」

 

なんでや、和解したろ。自分の名前大切にしろよ。・・・でもエヒトに目ぇつけられるか。変わらんけど。

 

「・・・それじゃ、〝ユエ〟ってのはどうだ?うちの世界の言葉で〝月〟を意味するんだ。吸血鬼って夜の王と呼ばれる事があってな。夜の象徴と言ったら月かなって「それがいい」・・・即答かい」

 

というわけで少女の名前はユエになりました。

 

「・・・そういえばどうしてユエちゃんはここに封印されたんだろう」

 

「反逆者……神代に神に挑んだ神の眷属のこと。……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる、その人が作ったから…だって」

 

「・・・まあ、神が敵なら頼りたくなるのも分かるけど…私達をここに連れてきたのも神だよね?」

 

「まともな神なら俺たちみたいな学生を呼んだりしないだろ」

 

「確かに」

 

ハジメも察したようだ。そもそもこの世界の宗教がトチ狂ってるのは周知の事実(主に彩人の周り)。

 

「・・・二人はどうしてここにいる?」

 

ユエが聞いてくる。

 

「・・・聞きたいのか?そんなに面白いものでもないぞ?」

 

「構わない」

 

別に減るものでもないため話す。ここに来るまでの事を話すと「……ぐす……彩人…ハジメ……つらい……私もつらい……」と言っていた。

ついでにどのみちバレるとしてサイヤ人の力についてもユエに話した。魔法とは違う別次元の力にユエは目を輝かせていた。するとユエは不安げな表情で言った。

 

「彩人は…いつか、帰るの?」

 

「元の世界にか?・・・そりゃ帰りたいが」

 

「私は彩人君についていくだけ」

 

「…そう…でももう私、帰る場所、無い」

 

「・・・・」

 

「それじゃ、私達と一緒に来る?」

 

「・・・!」

 

まさかのハジメの提案。

 

「…いいの?」

 

「彩人君次第だけどね」

 

「彩人…」

 

「先に言われるとは・・・。ユエは行く当ても帰る場所もなさそうだしな。ユエがいいなら一緒に行こう」

 

するとユエはパァッと笑顔になり

 

「…行く!一緒に…!」

 

こうして仲間が増えました。

そのあと、ハジメが対物ライフル――シュラーゲンをサソリモドキの鉱物、シュタル鉱石で完成させ、弾丸の強化してフルメタルジャケット作るのををユエが興味津々に見ていた時、ある疑問が。

 

「・・・・そういえばユエはご飯とか食べるのか?魔物肉しかねえけど」

 

「食事はいらない」

 

「300年もあそこに居る時点でお察しだが・・・飢餓感とか感じたりしないのか?」

 

「感じる。だから彩人…こっち来て」

 

「・・・・(察し)」

 

「いただきます」

 

咬まれました。吸われました。・・・ユエさん、目をキラキラさせないで。

 

「彩人君の血のお味は?」

 

「とても美味。何種類もの野菜や肉をじっくりコトコト煮込んだスープのような濃厚で深い味わい・・・」

 

「人の血液で食レポしないで「隙あり!」ハジメぇ!?」

 

ユエが咬んで流れ出した血をハジメが舐めとる。

 

「ハジメ…どう?」

 

「とっても濃厚・・・♡癖になりそう」

 

「ハジメ、分かってる」

 

「おいお前らいつの間にそんなに仲良くなったし」

 

「「〝同志〟だから」」

 

「ワケワカンナイヨー!」

 

仲間が変態化して危機感を募らせる彩人だった。

 

====================================

 

シュタル鉱石

 

魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石

 

====================================

 

一方そのころ。

 

「「「「…ハッ」」」」

 

「・・・感じた?」

 

「鈴も感じた」

 

「僕も」

 

「私もだ」

 

「そう、みんな感じたのね。これは好機。味方は多いに越したことはないもの」

 

「どんな子かな~鈴、楽しみ!」

 

「そうだね。でも万が一彼を困らせたりしたら・・・ふふっ」

 

「その為にも強くなって彼を迎えましょう?」

 

「そうね。でもまずは・・・」

 

「「「「ようこそ、私達の〝同志〟」」」」



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迷宮攻略 by クラスメイト 前編

クラスメイト側の迷宮攻略です。




彩人が吸血姫×2に追い掛け回されているころ。

 

天之河率いる勇者パーティーと、小悪党組、それに永山重吾という大柄な柔道部の男子生徒が率いる男女五人のパーティーだけが再び【オルクス大迷宮】にやって来ていた。

 

理由は単純、彩人とハジメの事でトラウマとなった生徒が続出したからである。

当然、聖教教会関係者はいい顔をしなかった。実戦を繰り返し、時が経てばまた戦えるだろうと、毎日のようにやんわり復帰を促してくる。例の約束についても彩人本人が居ないのをいいことに。

 

しかし、それに猛然と抗議した者がいた。愛子先生だ。

 

愛子は、当時、遠征には参加していなかった。作農師という特殊かつ激レアな天職のため、実戦訓練するよりも、教会側としては農地開拓の方に力を入れて欲しかったのである。愛子がいれば、糧食問題は解決してしまう可能性が限りなく高いからだ。

 

しかし彩人とハジメの死亡が知らされ生徒を無事に帰せなかった事にショックを受けた。彼女は寝込むほどだったが戦えないという生徒をこれ以上戦場に送り出すことなど断じて許せなかった。

 

愛子の天職は、この世界の食料関係を一変させる可能性がある激レアである。その愛子先生が、不退転の意志で生徒達への戦闘訓練の強制に抗議しているのだ。関係の悪化を避けたい教会側は、愛子の抗議を受け入れた。

 

その結果上記のメンツが迷宮攻略に挑むこととなった。当然メルド団長率いる騎士団も一緒だ。

そして迷宮攻略6日目。

 

なのだが天之河たちは立ち往生していた。あの時のような断崖絶壁にトラウマを刺激されているからだ。

香織も底の見えぬ谷を見つめていた。

 

「香織・・・」

 

「大丈夫よ、雫ちゃん」

 

「そう・・・?でも無理はしないで頂戴」

 

「えへへ、ありがとう、雫ちゃん」

 

信頼しあえるからこその会話だが・・・二人の頭の中にあるのはたった一人の人物だけである。

そんな二人に水を差す者。ご存じ勇者天之河(笑)である。

 

「香織……君の優しいところ俺は好きだ。でも、クラスメイトの死に、何時までも囚われていちゃいけない! 前へ進むんだ。きっと、南雲と轟もそれを望んでる」

 

「・・・ねえ、光輝今なんて」

 

「雫は黙っていてくれ! 例え厳しくても、幼馴染である俺が言わないといけないんだ。……香織、大丈夫だ。俺が傍にいる。俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない。香織を悲しませたりしないと約束するよ」

 

殺気を込めた雫に気づかずに香織に的外れの言葉をかける勇者(笑)。・・・香織が闇のオーラを出して杖を握りつぶさんとしているのにも気づいておらず純粋すぎるがゆえに・・・と言ったところか。

 

「どうして二人が死んだようにいうのかな?かな?」

 

「諦めなさい、香織。こいつにはもう何を言ってもかわらないわ・・・」

 

この二人の天之河に対する好感度は地を這っている。雫は厄介ごとを悪化させられ、香織は思い人に難癖つけられる事から最早最低限度の付き合い程度の感覚である。

 

「香織ちゃん、私、応援しているから、出来ることがあったら言ってね」

 

「そうだよ~、鈴は何時でもカオリンの味方だからね!」

 

光輝との会話を傍で聞いていて、会話に参加したのは中村恵里と谷口鈴だ。

 

「うん、恵里ちゃん、鈴ちゃん、ありがとう」

 

高校で出来た親友二人に、嬉しげに微笑む香織。

 

「うぅ~、カオリンは健気だねぇ~、彩人のやつ~! 鈴のカオリンをこんなに悲しませて! 生きてなかったら鈴が殺っちゃうんだからね!」

 

「す、鈴? 生きてなかったら、その、こ、殺せないと思うよ?」

 

「細かいことはいいの! そうだ、死んでたらエリリンの降霊術でカオリンに侍せちゃえばいいんだよ!」

 

「す、鈴、デリカシーないよ! 香織ちゃんは、轟君は生きてるって信じてるんだから! それに、私、降霊術は……」

 

 鈴が暴走し恵里が諌める。それがデフォなのだが・・・

 

「ありがとう二人とも。もう少しで殴り掛かるところだったよ・・・」

 

「ううん、カオリンは悪くないよ。彩人とハジメちゃんを居ないもの扱いしたアレ(・・)が悪いもん」

 

あんなの(・・・・)でも一応勇者だからね・・・彼と再会するまでは我慢しよう」

 

この二人に関しても天之河に対する評価は散々である。とくに恵里は原作と真逆に天之河を嫌っている。自身を本当に救ってくれた彩人に対し天之河は原作同様に他の女子に仲良くするように言っただけ。鈴とは彩人の紹介で親友になったのだが天之河はあたかも自身の行動が解決したと思い込んでしまい、恵里は天之河を見限っている。その反動が彩人への好意の重さに繋がっているのだが・・・天之河は何よりも彼女達を失望させた行いがあった。

 

そんな女子四人の姿を、正確には香織を、後方から暗い瞳で見つめる者がいた。

 

檜山大介である。あの日、王都に戻ってしばらく経ち、生徒達にも落ち着きが戻ってきた頃、案の定、清水と辻の証言と目撃者の恵里によって檜山が起こした事が明らかになった。案の定、あの窮地を招いた檜山には厳しい批難が待っていたが察していた檜山はただひたすら土下座で謝罪するに徹した。こういう時、反論することが下策以外のなにものでもないと知っていたからだ。特に、謝罪するタイミングと場所は重要だ。

 

檜山の狙いは光輝の目の前での土下座である。光輝なら確実に謝罪する自分を許しクラスメイトを執り成してくれると予想していたのである。

恵里達からの殺気に怯えつつ土下座を続けた結果、

 

「檜山は反省しているようだし、俺は許そうと思う。仲間が死んだのはつらいがここで立ち止まるわけにはいかないんだ!」

 

という天之河の一言で有耶無耶にされた。香織も元来の優しさから、涙ながらに謝罪する檜山を特段責めるようなことはしなかった。檜山の計算通りである。・・・と檜山は安心していたが香織達ヒロインズはすでにその事を知っているとは思いもしなかっただろう。

天之河もこの行動が彼女達を失望させた行いであるとは知る余地もない。

 

「おい、大介? どうかしたのか?」

 

檜山のおかしな様子に、近藤や中野、斎藤が怪訝そうな表情をしている。この三人は今でも檜山とつるんでいる。元々、類は友を呼ぶと言うように似た者同士の四人。一時期はギクシャクしたものの、檜山の殊勝な態度に友情(笑)を取り戻していた。

 

「い、いや、何でもない。もう六十層を越えたんだと思うと嬉しくてな」

 

「あ~、確かにな。あと五層で歴代最高だもんな~」

 

「俺等、相当強くなってるよな。全く、居残り組は根性なさすぎだろ」

 

「まぁ、そう言うなって。俺らみたいな方が特別なんだからよ」

 

檜山の誤魔化しに、特に何の疑問も抱かず同調する三人。

戦い続ける自分達を特別と思って調子づいているのは小悪党が小悪党たる所以だろう。王宮でも居残り組に対して実に態度がでかい。横柄な態度に苦情が出ているくらいだ。しかし、六十層を突破できるだけの確かな実力があるので、強く文句を言えないところである。

もっとも、勇者パーティーには及ばないので、彼らも光輝達の傍では実に大人しい。小物らしい行動原理である。

 

表面上は問題なく一行は65層に到達する。

 

「気を引き締めろ! ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」

 

付き添いのメルド団長の声が響く。光輝達は表情を引き締め未知の領域に足を踏み入れた。見たことのある光景に一同が警戒する中、見覚えのある魔方陣が出現する。そしてでてくるのは・・・・もちろんベヒモスです。

 

「ま、まさか……アイツなのか!?」

 

「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」

 

天之河と龍太郎が驚愕をあらわにして叫ぶ。それに応えたのは、険しい表情をしながらも冷静な声音のメルド団長だ。

 

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ! 退路の確保を忘れるな!」

 

いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルド団長。それに部下が即座に従う。だが、光輝がそれに不満そうに言葉を返した。

 

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ! もう負けはしない! 必ず勝ってみせます!」

 

「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」

 

やけに自信満々な二人にメルド団長がやれやれと思いながらも今の皆なら大丈夫だろうとそれ以上は言わなかった。

 

「グゥガァアアア!!!」

 

咆哮を上げ、地を踏み鳴らす異形。ベヒモスが光輝達を壮絶な殺意を宿らせた眼光で睨む。

全員に緊張が走る中、そんなものとは無縁の決然とした表情で真っ直ぐ睨み返す四人の乙女達。

 

香織、雫、鈴、恵里である。

 

香織に続いて四人の声が重なる。

 

「もう誰も奪わせない。あなたを踏み越えて、「「「私達は彼らのもとへ行く」」」」




ヤンヤンヒロインズは全員原作以上に高い技術を持ってます。
これも愛ゆえに・・・(白目)


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迷宮攻略 by クラスメイト 後編

前半の戦闘部分は割愛します。どう頑張っても原文通りにしかならんので。





なので短めです。


こうして始まったベヒモス戦(リベンジ)。

 

坂上と永山の高身長コンビがベヒモスの突進を食い止め、雫とメルド団長の連携で角を破壊する。

 

「(メルド団長の援護がなかったら折れなかった・・・あなたって本当に強いのね、彩人・・・。私ももっと強くならなきゃね)」

 

その直後に四人全員が吹き飛ばされるが香織の援護と回復で持ち直す。その隙をついて天之河の一撃がベヒモスに決まるがカウンターを受けてしまう。香織のサポートで何とか持ち直す。

 

「(もっともっと援護出来るようになりたい!彼を・・・彩人くんを守れるように!!)」

 

ベヒモスが大ジャンプし後衛を狙う。

だがその前に出たのは鈴だった。

 

「(鈴だって・・・やってみせる!彩人の隣に居たいから!!)」

 

鈴の発動した絶対の防御はしっかりとベヒモスの必殺を受け止めた。だが、本来の四節からなる詠唱ではなく、二節で無理やり展開した詠唱省略の〝聖絶〟では本来の力は発揮できない・・・が、鈴はベヒモスの突進と拮抗し、突進攻撃を抑える。

ベヒモスが体制を整える前に天之河の指示の後、後衛5人がチャージした火球がベヒモスに放たれる。

 

「(この程度・・・彼と会う為ならなんてことは無い!!)」

 

火球の威力はすさまじくベヒモスが消し炭になるほどだった。

かつて手も足も出なかった相手に勝利し歓喜するメンバーたち。騎士団も喜んでいる。

 

そんな中、未だにボーとベヒモスのいた場所を眺めている香織に雫が声を掛けた。

 

「香織? どうしたの?」

 

「えっ、ああ、雫ちゃん。……ううん、何でもないの。ただ、ここまで来たんだなってちょっと思っただけ」

 

苦笑いしながら雫に答える香織。かつての悪夢を倒すことができるくらい強くなったことに対し感慨に浸っていたらしい。

 

「この先にきっと二人が・・・」

 

「それを確かめに行くんでしょ?そのために頑張っているんだもの」

 

「そうだね、雫ちゃん」

 

香織の思いを汲んだ雫がそっと寄り添う。親友であり同じ人を想う同志でもある二人は互いを支えあう。

そんな二人の所へ光輝達も集まってきた。

 

「二人共、無事か? 香織、最高の治癒魔法だったよ。香織がいれば何も怖くないな!」

 

爽やかな笑みを浮かべながら香織と雫を労う光輝。

 

「ええ、大丈夫よ。光輝は……まぁ、大丈夫よね」

 

「うん、平気だよ、光輝くん。皆の役に立ててよかったよ」

 

同じく微笑をもって返す二人。しかし、次ぐ光輝の言葉に少し心に影が差した。

 

「これで、南雲達も浮かばれるな。自分を突き落とした魔物を自分が守ったクラスメイトが討伐したんだから」

 

「「……」」

 

光輝は感慨にふけった表情で雫と香織の表情には気がついていない。天之河にとってあのことはベヒモスがやった事、で片付いている。檜山が故意にやった事だとは微塵も思っておらず基本、人の善意を無条件で信じる光輝にとって、過失というものはいつまでも責めるものではないのだろう。

 

再び闇のオーラが香織から出始める。心なしか雫もオーラが出そうになったその時。

 

天之河に割り込むようにクラス一の元気っ子が飛び込んできた。

 

「カッオリ~ン!」

 

そんな奇怪な呼び声とともに鈴が香織にヒシッと抱きつく。

 

「ふわっ!?」

 

「えへへ、カオリン超愛してるよ~!」

 

「も、もう、鈴ちゃんったら。ってどこ触ってるの!」

 

「げへへ、ここがええのんか? ここがええんやっへぶぅ!?」

 

鈴の言葉に照れていると、鈴が調子に乗り変態オヤジの如く香織の体をまさぐる。それに雫が手刀で対応。些か激しいツッコミが鈴の脳天に炸裂した。

 

「いい加減にしなさい。誰が鈴のものなのよ……香織は私のよ?」

 

「雫ちゃん!?」

 

「ふっ、そうはさせないよ~、カオリンとピーでピーなことするのは鈴なんだよ!」

 

「鈴ちゃん!? 一体何する気なの!?」

 

雫と鈴の香織を挟んでのジャレ合いに、香織が忙しそうにツッコミを入れる。いつしか微妙な空気は払拭されていた。

 

「ホントにアイツなんなの?彩人とハジメちゃんの何を知ってるんだか」

 

「鈴ちゃんありがとう。あと少し遅かったら杖で殴っていたもの」

 

「私も礼を言わせてほしい。危うく剣を抜いて襲い掛かるところだった」

 

「・・・・・・・・」

 

 

・・・のは周りだけのようだ。

 

 

一方そのころ。

 

「・・・・(イライラ)」

 

「ハジメ・・・どうしたの?」

 

「ユエちゃん、いま彩人が侮辱された気がしたんだ」

 

「彩人を・・・?…許せない」

 

「おおかた見当はついてる。同志たるもの彩人君を困らせる奴とか、情報は共有しなきゃね」

 

「・・・分かった。ハジメ、教えて」

 

「もちろん」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・

 

「」

 

ヤンデレって怖えぇな、と彩人は思った。



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私は、魔物をコントロールする花粉をばらまいた。

タイトル通りです。


「くそったれぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「彩人君がんばれ~」

 

「彩人…ファイト」

 

「てめぇらは気楽でいいよなぁぁぁぁぁぁ!(#^ω^)」

 

現在彩人はハジメをお姫様抱っこしユエをおんぶしながら舞空術で飛び回っていた。下には160cm以上はある雑草が生い茂っている。

 

「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」

 

その後ろを二百匹以上の魔物が追い駆けてくるが彩人のスピードは桁違いで魔物はどんどん引き離されていく。

 

「あぁクソっ、キリがねえ!」

 

そもそも、この階層につくまでは非常にスムーズだった。ハジメの銃とユエの反則級の魔法のおかげである。・・・魔物倒す度に褒めてオーラを出す二人は可愛らしくある意味心のオアシスとなっていた。褒める度に二人はやる気を出して無駄に張り切ってしまうのがたまにキズだが・・・・

そんな三人が降り立ったのが現在の階層だ。まず見えたのは樹海だった。十メートルを超える木々が鬱蒼と茂っており、空気はどこか湿っぽい。しかし、以前通った熱帯林の階層と違ってそれほど暑くはないのが救いだろう。

 

そこにいたのはお花を生やしたティラノサウルスらしき魔物だったがユエが瞬殺する。次いで現れたチューリップの花をつけた体長二メートル強の爬虫類、例えるならラプトル系の恐竜のような魔物を今度はハジメが撃ち落とす。・・・あえて花だけを。

 

「お花が流行ってるのかな」

 

「…魔物だけど、可愛い」

 

「・・・・そうでもなさそうだぞ」

 

ラプトルは八ツとしたあと、辺りを見回したのちハジメが打ち抜いた花を親の仇を見るような形相で踏みつけていた。

 

「え~、何その反応、どういうこと?」

 

「……イタズラされた?」

 

「いや、そんな生易しいモノじゃないだろ、めっちゃキレてんぞ」

 

ラプトルは一通り踏みつけて満足したのか、如何にも「ふぅ~、いい仕事したぜ!」と言わんばかりに天を仰ぎ「キュルルル~!」と鳴き声を上げた。そして、ふと気がついたようにハジメ達の方へ顔を向けビクッとする。

 

「今気づいたんだ…」

 

「……やっぱりイジメ?」

 

「危機感なさすぎるだろ!」

 

彩人の気弾でラプトルの頭部が爆散する。

 

「・・・何なんだろ、これ」

 

「……イジメられて、撃たれて……哀れ」

 

「いや、イジメから離れろよ。絶対違うから」

 

そしてこの後の展開も知っている。・・・てか大量の魔物の気。

そのまま進んでいくと直径五メートルはありそうな太い樹が無数に伸びている場所に出るがやはり大量のラプトルが襲い掛かってきた。花をつけて。

 

「ホントに・・流行りなんじゃ・・・」

 

「…お花畑」

 

「そんなわきゃないだろー!」

 

ハジメが〝焼夷手榴弾〟を投げ落として低空飛行するラプトルを撃墜し高所は彩人が気弾で吹き飛ばす。

 

「・・・?いくら何でも弱すぎない?」

 

「…!」

 

違和感に気づいたハジメとユエ。二人に正解を言おうとしたが再び魔物の気を感じる。

 

「・・・まだ来るぞ。しかも全方向を囲むようにして」

 

「…逃げる?」

 

「いや・・・こうなったら一番高い樹の天辺から殲滅するのが手っ取り早いだろ。行くぞ、二人とも」

 

三人は素早く大樹に上りわらわらと集まってくる魔物が登れないように枝を切り、地上をティラノが大樹を破壊せんと体当たりし、爪を用いて上るラプトル。

 

気弾と銃弾で登ろうとしてくる魔物を殲滅し集まってきた魔物が全て完全に大樹を包囲した瞬間、

 

「ユエ、いけるか!」

 

「まかせて…〝凍獄〟!」

 

一瞬にして大樹を中心に氷の平原と化す。氷に閉ざされた魔物は白目を向いて絶命する。

 

「ホント、凄いな・・・お疲れ様、ユエ」

 

「…♪」

 

彩人の称賛にご機嫌になるユエ。

しかしまだ終わりでは無い。

 

「・・・二人とも、さらに倍の数が来てるよ」

 

「・・・だろうな。魔物の気を鬱陶しい位感じるぜ」

 

「たった今全滅させたのにさ、そろいもそろって同じ行動・・・これって」

 

「…寄生?」

 

「その可能性が高いね」

 

「だとすれば本体を叩くまで終わらないな」

 

「そうだね」

 

「それじゃ、早速本体を探すか・・・・ってどうして背中によじ登るんですかね、ユエさんや」

 

「・・・おんぶ」

 

「子供か!・・・「魔力使いすぎた、補給」もう勝手にしやがれ!!」

 

半ばヤケクソでユエをおんぶする。

 

「ハジメはいけるよn・・・何、その顔「だっこ」おめぇもかよぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

やけになってハジメをお姫様だっこし本体の気を探りながら舞空術で飛び回っている。後ろからだけでなく前からも来るがハジメが全て撃ち落とす。

 

カプッ、チュー

 

彩人が気を探ると樹海を抜けた先、今通っている草むらの向こう側にみえる迷宮の壁、その中央付近にある縦割れの洞窟らしき場所に強い気をかんじた。原作同様に魔物をそこに近づけないようにしていたので間違いない。

 

カプッ、チュー

 

「なあ、もう回復したろ?あんま吸われると貧血で気が乱れるんだが」

 

「……不可抗力」

 

「嘘つくな。気で分かるぞ」

 

「……ヤツの花が……私にも……くっ」

 

「わざとらしすぎて草も生えない」

 

「・・・今回のお味は?」

 

「とても美味。汗の塩加減が丁度いい刺激となってまったりしつつもコクのある味に」

 

「だから食レポすんな!!」

 

「・・・(じゅるり」

 

「ハジメ・・・その目はなんだ」

 

再びユエが吸血し消毒も兼ねて残りをハジメが舐めとることになった。ストレスマッハになりつつも洞窟に飛び込みラプトルに八つ当たりしたのちにハジメの錬成で穴を塞ぐ。

 

「さっさと降りロットォォォ!」

 

「「・・・・・」」

 

「そんな顔してもダーメだ!降りろ!」

 

二人はホントに渋々といった形で降りる。錬成で入口を塞いだため薄暗い中を進む。十分に警戒しながら広間の中央に着いた瞬間、全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできたのだ。三人背中合わせで迎撃し、気で破片・・・もとい胞子を吹き飛ばした。・・・が、

 

「二人とも…逃げて」

 

やはりユエだけが寄生されてしまった。原作同様だがよく見ると入口付近からすでに胞子が舞っており遅かれ早かれ耐性を持たないユエは寄生される運命にあった。

 

「ユエちゃん!」

 

「・・・クソっ」

 

ハジメに向かってユエが風の刃を飛ばす。なんとかハジメは回避する。

ハジメがユエの頭に咲いたおあつらえ向きと思うほどよく似合う真っ赤なバラにドンナーを向ける。しかしユエの手が花を庇うような動きをしたのだ。

彩人とハジメが動きを止めた途端にユエの背後に現れたのはもちろんエセアルラウネ。醜悪な顔をニヤニヤさせながら『この子がどうなってもいいのか?』と言わんばかりにユエに絡みつく。

 

「彩人…ハジメ…ごめんなさい」

 

申し訳なさげなユエと対照的にヘラヘラ笑いながら彩人とハジメに胞子を飛ばすが効かない。それが面白くないエセアルラウネは不機嫌な顔になりユエを操って先ほどの風の刃を飛ばす。かわそうとすると『避けるな』とユエが自分の頭に魔法を打つ仕草をするので彩人は気合、ハジメは〝金剛〟で持ちこたえる。

 

「ハジメ、大丈夫か」

 

「うん、私は平気。どうやら上級魔法は使えないみたいだね」

 

「だろうな。ハジメの銃や俺の気を警戒してるのに簡単な魔法しか使ってない」

 

二人が策を練っていると、

 

「彩人…! ……私はいいから……撃って!」

 

急にユエが叫んだ。彩人の足手まといになるどころか、攻撃してしまうぐらいなら自分ごと撃って欲しい、そんな意志を込めた紅い瞳が真っ直ぐ彩人を見つめる。

 

「・・・あきらめてんじゃねぇ!すぐにその花をふっとばしてやっからおとなしく待ってろ!」

 

「彩人……」

 

彩人は思わず叫んでいた。心なしかユエの瞳に希望が灯る。

 

「・・・仕方ない、俺があのエセアルラウネをユエから引き離すからハジメ、頼んだ」

 

「・・・(ポー)」

 

「ハジメ?」

 

「え、あ、うん!いけるよ!(ちょっとドキドキしちゃった)」

 

「よし、覚悟しやがれ!」

 

一瞬あっけにとられたエセアルラウネだがすぐにユエを操って人質にする。が、目の前に居たはずの彩人が突然姿を消した。

エセアルラウネが彩人を探してあちこち見回したその時、

 

「吹っ飛べ!!」

 

いつの間にか真横に居た彩人の回し蹴りを喰らいユエから引き離される。エセアルラウネは彩人を睨みつけるが後頭部に何かが押し付けられる。

 

「そんな顔されてもこまるなぁ」

 

ハジメのドンナーが火を吹き、エセアルラウネは汚い断末魔と共に消滅し、ユエのバラも朽ちて消えた。

 

「・・・ユエ、大丈夫「…彩人!」おわっ」

 

「彩人、かっこよかった。私を助けるって言ってくれて嬉しかった。…彩人、大好き」

 

ユエが満面の笑みで抱き着いてくる。・・・外見は子供とはいえ傍から見ればバスタオル一枚状態なのだ。

一方ハジメは。

 

「いい感じ…もっと彩人君に依存してもらわなきゃ・・・♪」

 

・・・とニヤニヤしながら言っていた。

その言葉も聞こえてしまった彩人は難聴系主人公をうらやみながらやけにご機嫌な美少女二人と腕組みしながら下層へ下っていくのだった。




最初からそうしろって言われるかもしれませんが、ハジメの計画通りという訳だァ・・・


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最強の守護者

原作でもアツいところなんですが駄文になるんで悪しからず。


エセアルラウネを銃殺し、彩人達は奴が待ち構えている100層の直前に来ていた。

 

そこでハジメは装備点検、確認、補充を行なっているのをユエが興味津々で見ている。

原作よりはサクサク来ている・・・はずだがそれでもハジメと落ちて、ユエと出会ってそれなりの時間が経っている。

ユエとハジメは傍から見れば姉妹のように仲良しなのだがそれ以上にユエは彩人に懐いており食事や就寝時はとくにべったりでありハジメはそれをほほえましそうに見ているが時々『計画通り』という顔になるのは勘弁してほしい。

 

「ハジメ……いつもより慎重……」

 

「うん? ああ、次で百階だからね。もしかしたら何かあるかもしれないと思ったんだ。一般に認識されている上の迷宮も百階だと言われていたから……まぁ念のため、って所かな」

 

彩人とハジメは出来ることはすべてやった。そして現在の二人は、

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

南雲ハジメ 17歳 女 レベル:70

 

 

 

天職:錬成師 

 

 

 

筋力:3000

 

 

体力:3400

 

 

耐性:3900

 

 

敏捷:4100

 

 

魔力:5000

 

 

魔耐:5000

 

 

 

 

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 

 

 

 

轟彩人 17歳 男 レベル:37

 

  

 

天職:武闘戦士

 

 

(気力開放時)

 

 

筋力:8000(16000)

 

 

体力:7500(15000)

 

 

耐性:6900(13800)

 

 

敏捷:10000(20000)

 

 

魔力:0

 

 

魔耐:0

 

 

 

技能:言語理解・胃酸強化・石化耐性・夜目・遠見・毒耐性・麻痺耐性

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

もうこの時点でだいぶ原作崩壊なんだが、結局彩人には魔力がなく「彩人…かわいそう」とユエに同情されるほどだった。

 

それはともかく準備を終えた三人がその層へ足を踏み入れる。

その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは三十メートルはありそうだ。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。どこか荘厳さを感じさせる空間だった。

 

三人が装飾に目をうばわれつつも先に進むと柱に光が宿り、三人を導くように次々に点灯していく。その灯りに誘われるままに周りを探知しながら進んでいくと全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だった。

 

「これは・・・もしかして」

 

「……反逆者の住処?」

 

「その可能性が濃厚だろうな。嫌な気が迫ってきてる」

 

彩人の一言に答えるように扉の前に見覚えのある魔方陣。奈落行きの時と同じような紋様だがサイズはあの時の三倍あり禍々しい雰囲気を醸し出していた。

 

「想像以上の大きさだね・・・」

 

「……大丈夫……私達、負けない……」

 

「そうだな、コイツを倒さないと先には進めないようだしな」

 

魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにするハジメとユエ。光が収まった時、そこに現れたのは……

 

体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光がハジメ達を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気が彩人達に叩きつけられた。

 

「おでましか・・・行くぞ!」

 

「うん、行こう!」

 

「…勝つ!」

 

三人が奮起した途端、赤い紋章の首が火炎放射で攻撃してくる。

すぐさま飛散しハジメが赤首を打ち抜く。・・・しかし白頭のブレスの白い光が包むと時間が逆戻りしたように再生した。

 

次いでユエと彩人が緑、青を攻撃するも白頭に回復される。

 

『まずはあの白を狙おう、キリがないや』

 

『…分かった』

 

『了解』

 

ハジメが念話で二人に伝える。彩人は念話を使えないがテレパシーで念話の波長を掴んでいるのだ。青が完全に回復する寸前にユエとハジメが白を狙う。が、黄頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させた。そして淡く黄色に輝きハジメのレールガンもユエの〝緋槍〟も受け止めてしまった。衝撃と爆炎の後には無傷の黄頭が平然とそこにいてハジメ達を睥睨している。

 

「バランスがいいな・・・だが、これならどうだ!」

 

すかさず彩人がエネルギー波で黄頭のガードを貫通する。が、ハジメとユエが白頭を攻撃する前に赤、青の炎と氷に阻まれ白頭に黄頭を回復される。

 

「む…」

 

『ならば減らすだけ!ユエ、ハジメ、少し離れろ!』

 

テレパシーで二人に伝え、再び気を溜める。黄色が再びガードし、赤、青は再びユエとハジメを狙い白が準備している。

 

「いけっ・・・!」

 

彩人の気功波が放たれる。黄色がしっかりガードするためにどっしりと構えた瞬間。

 

「〝拡散〟!!」

 

気功波が黄色に衝突する寸前に多数に分裂しヒュドラを襲う。油断していた赤と青を倒すがすぐに黄色が白と緑と黒を庇う。それでも雨あられと降り注ぐ気功波を防ぎきれず黄色を穴ぼこにし残りにそれぞれダメージを与える。

ここだ、とハジメとユエが白を狙うが

 

「いやぁああああ!!!」

 

「!? ユエちゃん!きゃあ!」

 

「ユエ!ハジメ!」

 

突然ユエの絶叫が聞こえ、それに気を取られたハジメが緑の攻撃を受ける。ハジメはなんとかダメージを抑えたがユエはうずくまったまま動かない。そして彩人は黒の能力を思い出した。

 

「彩人君!私は大丈夫だからユエちゃんを!」

 

「・・・っ、すまねえ!」

 

彩人は瞬間移動でユエのそばへ行く。

回復した頭たちがユエを狙っていたが彩人の気弾で吹き飛ばされる。

映ろな瞳のユエを見て歯噛みする彩人。黒はトラウマを引き起こすので、ユエは見捨てられる光景でも見せられたのだろう。「一人はいや…!おいてかないで…!」と言い続けている。

 

「ユエ!しっかりしろ!お前は一人じゃない!」

 

「…!、さ、彩人…?」

 

「そうだ。俺はここにいる」

 

「私…」

 

正気には戻ったが何処か不安げなユエ。そこで彩人は自身の気を与えた。

 

「あ…」

 

「俺の気だが…まだ不安か?」

 

絶えず襲ってくる頭を吹き飛ばしながら彩人はユエを励ます。

 

「彩人を感じる…これなら…怖くない。彩人が…傍に居るって分かる…!」

 

「・・・そうか。アイツを倒して、こんなところはオサラバだ。皆一緒にな」

 

「…うん!」

 

ユエは表情が明るくなり、ヒュドラへ攻撃を仕掛ける。

 

「〝緋槍〟! 〝砲皇〟! 〝凍雨〟!」

 

次々に魔法が放たれる。炎の槍と螺旋に渦巻く真空刃を伴った竜巻と鋭い針のような氷の雨が一斉にヒュドラを襲う。攻撃直後の隙を狙われ死に体の赤頭、青頭、緑頭の前に黄頭が出て咆哮する。

 

「クルゥアン!」

 

すると近くの柱が波打ち、変形して即席の盾となった。彩人とハジメを警戒し時間稼ぎをしようというのだ。

 

「無駄無駄無駄無駄ァ!」

 

即席の盾など紙同然と言わんばかりに彩人の気弾が破壊する。防いだと思ったのかヒュドラは動かず赤、青、緑の頭を吹き飛ばす。

すると黒がユエに再び例のオーラを放つ。・・・が。

 

「…もう効かない!」

 

ユエは体の中から感じる彩人の気を感じながら恐怖をはねのける。

効かないと分かったため今度は彩人とハジメのトラウマを引き起こす。彩人は爪熊に切られた時、ハジメは彩人の死を・・・

 

「それがなんだ!」

 

「よくも私にそんなものを見せてくれたな・・・ぶっ潰す!!」

 

彩人には通じずハジメに至っては怒りでパワーアップしている。彩人が気功波で黒を消し炭にしハジメが背中に背負っていた対物ライフル:シュラーゲンを取り出し空中で脇に挟んで照準する。白を庇うように黄色が立ちはだかるがそんな事はお見通し。

 

「まとめて吹っ飛べぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 ハジメが〝纏雷〟を使いシュラーゲンが紅いスパークを起こす。弾丸はタウル鉱石をサソリモドキの外殻であるシュタル鉱石でコーティングした地球で言うところのフルメタルジャケットだ。シュタル鉱石は魔力との親和性が高く〝纏雷〟にもよく馴染む。通常弾の数倍の量を圧縮して詰められた燃焼粉が撃鉄の起こす火花に引火して大爆発を起こした。

 

ドガンッ!!

 

大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共にフルメタルジャケットの赤い弾丸が、更に約一・五メートルのバレルにより電磁加速を加えられる。その威力はドンナーの最大威力の更に十倍。単純計算で通常の対物ライフルの百倍の破壊力である。異世界の特殊な鉱石と固有魔法がなければ到底実現し得なかった怪物兵器だ。彩人のエネルギー波を上回る威力のレーザーは黄色もろとも白をぶち抜いた。

白によって復活しかけていた赤、青、緑もハジメのドンナー、彩人の気弾、ユエの〝天灼〟で倒された。ヒュドラは動きをとめたが、あらたに銀色の頭が出現する。銀の口から極太のレーザーが三人に向けて放たれる!

 

「ユエ!ハジメ!」

 

彩人が全気力を開放して迎え撃つ。

凄まじい閃光の後、ユエとハジメは無事だったが二人の視界に入ったのは

 

ボロボロで満身創痍の彩人だった。




次回、彩人…覚醒。ぜってえ見てくれよな!


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絶望の銀翼

早くね?とか言わんでください。


「・・・・・!!」

 

大の字に立ちふさがった彩人が倒れこむ。

 

「彩人君!!」

 

「彩人…!」

 

すぐさまユエとハジメが彩人に駆け寄る。四肢はひしゃげており生きてるかどうかさえも怪しい。欠損がないのはサイヤ人の頑丈さか。

ヒュドラが隙を逃すはずもなく無数の光弾を無数に撃ちだしてきた。まるでガトリングの掃射のような激しさだ。

急いで二人は傷ついた彩人を柱の裏に運び神水を飲ませた。しかし内臓にダメージを受けたか飲めない。仕方なく口移しで強引に飲ませ、外傷に神水を流すが、

 

「・・・治りが遅い」

 

「どうして…?」

 

実は、ヒュドラのあの極光には肉体を溶かしていく一種の毒の効果も含まれている。が、サイヤ人の強靭な肉体と神水の回復速度で治りはするが彩人は魔法耐性が無いので十分に効果が発揮出来ない。

治っては来ているのだが彩人が復活するまで柱が持たないと判断したハジメが飛び出した。

 

「ハジメ!」

 

「彩人君をお願い。私、コイツが許せない。それに時間稼ぎにもなるからね」

 

「…私も戦う!私も彩人を守る!」

 

ユエも出てきてしまった。魔力自体は減ってきているが彩人から貰った気によって動けるのだ。

 

「ユエ・・・。うん、行こう、今度は・・・」

 

「「私達が助ける番」」

 

ヒュドラの猛攻をかき分けて何とか反撃を試みるも光弾の弾幕が分厚く中々通らない。

 

「ハジメ!シュラ―ゲン、打てる!?」

 

「あ・・・うん、弾はあるけど・・・ユエ〝纏雷〟使える?」

 

「大丈夫・・・!」

 

「なら、私がアイツを引き付けるから魔力、頼めるかな」

 

「任せて・・・!接近戦は苦手だから・・・」

 

ユエがシュラ―ゲンに魔力を込める。ヒュドラがそうはさせまいとするがハジメのドンナーを受ける。

 

「・・・ッ、なんて硬さ・・・」

 

しかしドンナーでもヒュドラがダメージを受けているように見えなかった。しかしハジメは諦めずにヒュドラの気をそらすために発砲とリロードを繰り返す。ヒュドラはハジメが鬱陶しいと感じたかヘイトがハジメに向かう。ハジメはチャンスと思い強化されてきたとはいえ疲れを感じている体に鞭打って縮地で移動しヒュドラの猛攻をしのぐ。その隙をついてユエがシュラ―ゲンを構える。

 

『今だよ!』

 

『…ん!!』

 

ハジメの合図ですでに弾が装填されていたシュラ―ゲンからレーザー砲の如く弾丸が放たれヒュドラがユエのほうを振り向いた瞬間、弾丸がヒュドラの眉間にヒットする。

 

「やった…!」

 

「よし!」

 

先ほどを上回る威力で命中したが、ヒュドラはピンピンしていた。眉間から血が一筋流れ、それを舐めとる姿は強者の余裕を思わせる。

希望から絶望に変わる二人。ヒュドラは二人が離れた位置にいて自分に対抗する手段がないと判断したか再び光弾の雨を降らせた。

 

「ユエ!」

 

ハジメが縮地でユエを抱えて光弾を避けるがシュラ―ゲンが光弾の雨によって破壊されてしまった。

 

「…!ハジメ…」

 

しかもハジメも魔力を使い切ってしまいユエを抱えたまま動けなくなってしまう。

これで終わりだ、と言わんばかりにヒュドラはゆっくりと極光の準備を始める。

 

「させな…!?」

 

ユエも魔力が枯渇し魔法が空振りする。

ヒュドラの口にあふれんばかりの光が溜まる。そして無慈悲に光がはなたれようとした――――――

 

――――――――――――――――――――――

 

彩人はヒュドラの極光を受け、再び生死のはざまをさまよっていた。

 

「(体が・・・動かねえ・・・息が・・・苦しい・・・こんなとこで・・・)」

 

ハジメ達のおかげで辛うじて意識を取り戻したがいつ神水の効果が切れるかわからない。

 

「(原作でも・・・あの二人でどうにかなったが・・・)」

 

原作ではハジメは右目を失明し、全身に大ダメージを負いながらもヒュドラを倒した。それを思い出していると傷つきながらもドンナーを砲身が焼けるほど打ちまくるハジメと、シュラ―ゲンに残り少ないはずの魔力を懸命に注ぐユエの姿が。

 

「(・・・・目に迷いがない)」

 

圧倒的な相手であっても二人に諦めや迷いが微塵も感じなかった。そして周りを見渡すと神水の入っていた容器が空になってあちこちに転がっていた。

 

「(あの二人・・・そこまでして)」

 

自分を助けようとしているのだ。だが、シュラ―ゲンの一撃でもヒュドラは倒せなかった。

 

「(クソが・・・)」

 

ハジメがユエを庇うも二人はもう限界だった。

 

「(情けねえ・・・二人があぶねえのに・・・!倒れているだけの自分が・・・!)」

 

すると、彩人の周りに金色のオーラが出現し始めた。

 

「(〝守れ〟なくても・・・〝戦う〟ことは・・・出来る!怒れ・・・!弱い自分に!)」

 

そして彩人は完全には治りきっていない体であるにもかかわらず立ち上がった。気が高まると同時に彩人の黒い髪が逆立ち、一瞬金色になる。

 

「(世界の悪だろうが関係ねえ!ハジメを・・ユエを・・・傷つける奴は・・・!許さねえ!!!!)」

 

彩人の中にあるリミッターが外れる音がした。

 

「はぁあああああああああああああああああ!!!!!!」

 

そして溜まっていたものが弾けるように彩人は気力を放出した。その気力は魔物肉を食べたときよりも凄まじく迷宮全体を轟かせた。

 

――――――――――――――――――――――

 

極光がハジメとユエを今度こそ包もうとし、二人は目を閉じた。

 

『『彩人』君・・・ごめんなさい』

 

と心の中で謝罪する・・・が、痛みは全く無く謎の浮遊感に困惑する二人。恐る恐る二人が目を開くとそこにいたのは

 

「彩人・・・君?」

 

黄金の覇気を纏い金髪、緑目となった彩人だった。




超サイヤ人無双です。

ハジメはユエを助ける際、〝天歩〟の最終派生技能[+瞬光]が覚醒しています。


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黄金の戦士と反逆者の隠れ家

超サイヤ人の強さを見よ


「彩人…?」

 

「彩人君・・・なの?」

 

「ああ・・・そうだな・・・オレは彩人だ。」

 

口調に若干変化があったが彩人だった。彩人は二人を別の柱の所へ連れて行こうとするがそうはさせまいとヒュドラが光弾を打つ・・・前に彩人の放った気弾が命中。

 

「ガァアア・・・」

 

「嘘・・・」

 

「ダメージ、受けてる」

 

凄まじいパワーアップに二人が混乱しているがいまはそんな事を言ってる場合ではない。

 

「ハジメ、神水だ。ユエ、血を吸いな」

 

事前に渡されていた神水をハジメに渡し、ユエもおずおずと吸血する。

 

「…!!」

 

「二人ともここで待ってろ」

 

「あ、ちょ・・・彩人君!?」

 

二人を柱の陰に移動させるとヒュドラに突っ込んでいく彩人。ヒュドラが彩人を敵と認識し再び光弾の雨を降らせるが、彩人はすべて回避し、ヒュドラにアッパーカットを見舞う。

さらに両手で大きなこぶしを作り脳天を叩き潰す。先ほどの銃弾による傷から血が流れ、ヒュドラの目にかかる。視覚を塞がれて暴れるヒュドラを意にも介さず仕返しと言わんばかりに気弾をマシンガンのように連射する。視界を塞がれたまま全身に大ダメージを受けたヒュドラはパニックになる。

すかさず彩人は追撃しようとするが、

 

「ぐっ・・・」

 

突如彩人の周りの気が荒ぶり彩人は苦しむ。

 

「大人しく・・・しろっての!」

 

気に振り回されつつもなんとか体勢を整えるが不利を悟ったヒュドラがハジメ達に極光を打とうとする。

 

「させ・・・ぐあっ」

 

そうはさせまいとヒュドラに向かおうとするも再び気が荒ぶる。

 

「彩人君!ユエちゃん、彩人君を!」

 

「ハジメ…大丈夫。〝蒼天〟!」

 

しかしユエの放った青白い太陽がヒュドラに落下し、封じられる。

 

「ユエちゃん・・・その魔法」

 

「…ん、そう簡単には打てない。でも、今の彩人の血で…不完全だけど…打てた。今の彩人は、凄い」

 

暴れる気を抑えながらも立ち上がる彩人を改めて見たハジメは、ある事を思い出しぽつりと呟いた。

 

「・・・あれが〝超サイヤ人〟なのかな」

 

「〝超サイヤ人〟?」

 

「一度彩人君が言ってたんだけど、すっごく強いサイヤ人の事らしいの。・・・もしかして」

 

「…ん!今の彩人は、〝超サイヤ人〟!!」

 

〝蒼天〟により大ダメージをうけたヒュドラ。

その前に立ちふさがったのは彩人。未だに荒ぶる気に翻弄されつつもその緑色の瞳は真っ直ぐヒュドラを捉えている。

 

「・・・っ、おい・・・二人に手ぇだすんじゃねぇよ・・・!」

 

ヒュドラは満身創痍だがなおも極光を打とうとする。しかし彩人も迎え撃つ。

 

「かぁ・・・・・・」

 

両手首を合わせて手を開いて、体の前方から腰にもっていく。

 

「めぇぇ・・・・・・」

 

腰付近に両手を移動させ、

 

「はぁぁぁ・・・・」

 

彩人の両手の中に青い光が。

 

「めぇぇぇぇ・・・」

 

両手を完全に後ろにもっていき、光が最も強くなる。

ヒュドラはありったけの力で極光を打つ。そして同時に彩人の気功波が両手からヒュドラに向けて放たれた。

 

「波っ!!!!!!!!」

 

かめはめ波である。ヒュドラの極光を容易くかき消し、ヒュドラは気功波に飲み込まれ、後ろの扉を吹き飛ばし、後に残ったのはかめはめ波が地面や壁をえぐった跡のみだった。

 

「・・・もう限界、か…オレもまだまだだな……」

 

金色のオーラが消え、元の姿に戻った彩人は再び倒れこむ。遠くから駆けてくる二人の気配を感じながら彩人は意識を手放した。

 

――――――――――――――――――――――

 

彩人はまどろみの中で体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触だ。これは、そうベッドの感触である。頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを。

 

「(あー・・・ここか)」

 

意識を覚醒させ豪奢な天蓋を眺める。ヒュドラは討伐出来たことになる。そして全身包帯だらけの自分を拘束・・・もとい両腕に抱き着く白髪と金髪の美少女。(全裸)

 

「なんで全裸になる必要があるんですか(マジレス)」

 

「・・・んう・・・ぁん・・・」

 

「……んぁ……彩人……ぁう……」

 

「・・・・・オラァ!!」

 

「……!!!」

 

「いったぁぁぁぁぁい!!」

 

二人の足を思いっきりつねる。一瞬で覚醒する二人。真っ赤になった部位をなでたり息を吹きかけていたがこちらに気づくとまだ赤くなっているにも関わらず目を見開いた。

 

「さい、と・・・君?」

 

「彩人…?」

 

「ああ。おれは生きてい「「彩人」君!!」・・・ぐお」

 

すると二人が抱き着いてきた。全裸で。だが、二人が鼻を鳴らし、泣いている以上邪な考えなどない。

 

「二人共、心配かけたな。もう大丈夫だ」

 

「心配したよ・・・」

 

「…んっ、私も……」

 

それから二人が安心するまで頭をなでた。

そして二人が落ち着いたのち今までの説明をしてもらった。

超サイヤ人の反動で気絶した彩人に近づいたとき破壊された扉が元に戻ってから扉が開いた。一度破壊されたので締まらなかった、らしい。

二人が支えて先に進むと広大な空間に住み心地の良さそうな住居があったという。

もちろん反逆者の隠れ家である。

その中に危険がないことを確認した上でベッドルームに運び込み意識が戻るまで看病し続けていたらしい。時々黄金の気が荒ぶるため苦労したらしい。

 

「そっか。迷惑かけたらな、二人共。そして、ありがとう」

 

「ううん、貴方が元気になってくれて良かった」

 

「ハジメの言うとおり」

 

気にしなくても良い、という態度をとりつつも嬉しそうな表情を浮かべる二人。

 

「・・・そして、何故俺達は裸なんだ?」

 

そして聞く。原作でもかなりグレーゾーンな所。彩人は黄金の気で何も出来なかったという反応を待つが、

 

汚れてたから…綺麗にした

 

余すところ無く、ね

 

「・・・は?」

 

ユエは吸血する時のような妖艶な笑みを浮かべ、舌なめずりし、ハジメも似たような表情を浮かべている。心なしか瞳にハートが浮かんでいるようにも見える。

 

「だ、だとしても二人まで裸になる理由は」

 

「「ふふ…」」

 

「おい、なんだその笑みは」

 

その後も何があったか説明を求めても一向に言わないのでスキンシップを禁止したらこの世の終わりみたいな顔をされた。結論から言うと、白でした。

それはさておき反逆者の隠れ家を探索する前に服を拝借する。のだが、反逆者は男性であるため男物しかない。

彩人はともかく女性二人は…と考えていたが、

 

「・・・やっぱ…じゃなくて意外と合うな、ハジメ」

 

「うん・・・、胸が少しキツいけどね」

 

「…むっ」

 

ハジメは性別以外は原作とほぼ同じなので違和感は無い。胸囲を除けば。それを見たユエがジト目でハジメを見ている。

 

「そしてユエ、なぜカッターシャツ一枚なんだ」

 

「…?サイズ、合わない」

 

「そうだったわ」

 

身長140cm位のユエに合う訳がない。のだが、しかし、それなりの膨らみが覗く胸元やスラリと伸びた真っ白な脚線と裸シャツという要素で扇情的な姿なのだ。正直言って目のやり場に困る。

 

「・・・せめてボタンは閉めとけ。風邪ひくぞ」

 

とだけ言っておいた。

さて、隠れ家の探索を行なっているのだが外は地下なのに太陽(アーティファクトの類。ユエ。によると夜は月みたいになる)があったり滝が流れて魚が跳ねたり、畑がある、家畜小屋もある。もうここで自給自足の生活が出来る。

 

その反対方向の石造りの建物は三階建てになっており一階は暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレといった生活感にあふれ、その奥には豪華な風呂まである。湯が出るところにはライオンの頭。これは万国共通なのだろうか。

 

「風呂はありがたい。ゆっくりできそうだな」

 

一応ハジメに頼んで水で洗い流す事はしていたが流石に衛生上良くない。

 

「「皆一緒で「丁重にお断りする」・・・・ケチ」」

 

流れるように二人の言葉が重なる。拒否した途端に不満そうな顔をする。

二階は工房となっていたが書棚も工房の中の扉も封印がされているので後回し。そして三階は一部屋のみで豪奢な服を着た白骨が何かを待つように床の魔方陣を挟んで三人の対角線上にある椅子に座っていた。

 

「・・・ここを死に場所にしている以上、あの魔方陣は〝何か〟あるだろうな。ユエは入口で待ってな、ハジメ、一緒に来てくれ」

 

「彩人…」

 

「う、うん、分かった」

 

原作同様ハジメを魔方陣へ誘導する。彩人は魔方陣に入っても何もなかったが、ハジメが魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

やがて光が収まり、目を開けたハジメの目の前には、黒衣の青年が立っていた。




ヒュドラは無念でした。


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世界の真実

絵画の猿の正体を明かします。


ハジメと彩人の前に現れた青年は白骨と同じローブを着ていた。

 

『試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?』

 

もちろんオスカー氏である。ハジメがオスカー氏に何かを聞こうとするが

 

『ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを』

 

そういう訳なのでオスカー氏による一人語りのお時間ですYO☆

内容はお察しの通りハジメやユエが聞いていた話とは全く別の内容。彩人は知っているが…。神代の後、多くの国々や種族が宗教上の神敵と称して争いを続けていた。その戦いを終わらせるために〝解放者〟(今の反逆者)が立ち上がった。オスカー氏はその一人という訳だ。

 

彼らには共通する繋がりがあった。それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。だからこそあの狂神の企みを知ったのだろう。神は自身の戯れの為にこの世界の人々を争わせていた。神の暴走を止めるべく〝解放者〟達は行動を起こした。神々が居る神域を突き止め〝解放者〟のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。しかし神は人々を操って〝解放者〟達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させ〝反逆者〟にされた。

 

〝解放者〟達が次々に討たれる中、中心となった七人は神の手から逃れることに成功しバラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。

 

なぜ逃れることが出来たのかはとある戦士が殿を務めて神々を食い止めたからだという。

 

『彼が居なければ…私達は全滅していただろう。サイヤ人、ヤモシ

 

「!?」

 

彩人は耳を疑った。それをしりめに話を終えたオスカー氏は満足そうに息をつくと

 

『君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを』

 

するとハジメの脳内にあの魔法が刷り込まれる。ハジメは痛みに苦しんだが何とか耐える。

 

「ハジメ、大丈夫か」

 

「・・・うん、大丈夫、それよりも凄いこと聞いちゃったね」

 

「彩人…ヤモシって…」

 

ここで手に入れた神代魔法は〝生成魔法〟というハジメにピッタリば魔法だった。一応ユエも覚えさせた。その時にもオスカー氏が出てきたのだが割愛。ユエはアーティファクトの生成は難しいらしいが…。それよりも二人がきになるのは彩人と同じサイヤ人が過去にも居たことである。

 

「彩人…ヤモシってどんな人?」

 

「ゆ、ユエちゃん。流石に過去の人を「知ってる範囲なら教える」・・・って知ってるの!?」

 

「・・・とはいっても少しだがな」

 

世界どうこうよりもサイヤ人に興味を示す二人。

 

「前も言ったがそもそもサイヤ人というのは〝宇宙の悪魔〟と恐れられるほどの力と残虐性を持った極悪な種族だ。力のために星々を渡って殺人、破壊活動、略奪。星の民を全滅させて星を売る地上げ屋をやっていて、不要と判断すれば仲間だろうと家族だろうと平気で殺す」

 

「「…」」

 

サイヤ人は彩人しか知らない二人は彩人からサイヤ人の実態を聞いていたとはいえ複雑そうな表情。

 

「だがそんなサイヤ人でもヤモシは正義に目覚めた〝異端〟だった。サイヤ人の残虐行為に反旗を翻し同志5人と共にサイヤ人の切り札と言える大猿の軍団に対抗するために同志の協力でヤモシは超サイヤ人の神・・・超サイヤ人ゴッドとなった。しかし多勢に無勢に敗れた・・・。俺が知ってるのはこれくらいか」

 

「・・・でもなんでトータスに」

 

「それがわからねえ・・・しかも超サイヤ人ゴッドは赤い気を纏うんだ。〝反逆者〟を庇ったんだから神の敵なのは事実だがあの絵はどう見ても金色だ」

 

「〝解放者〟が呼び寄せた…?」

 

「それもあるかもしれんが・・・オスカー氏の話し方からすると呼んだって感じじゃないんだよなぁ・・・」

 

色々話したが情報が少ないので二階を探索した。オルクスの指輪を頂戴し、書斎へ行くとオスカー氏が考案したものであろう様々なアーティファクトの設計図、ユエが見つけたかつての仲間、特に中心の七人との何気ない日常について書いたオスカー氏の手記を見たが前者はハジメの専売特許、後者には満身創痍のヤモシを〝解放者〟達が保護し、同志となって戦った事が判明した。ヤモシ本人は気づいたらここにいた、らしいので原因は不明だが。

 

そして残りの6迷宮の存在と神代魔法についての内容から元の世界に帰還する可能性を見出した。知ってた。

現在、確認されている【グリューエン大砂漠の大火山】【ハルツィナ樹海】、目星をつけられている【ライセン大峡谷】【シュネー雪原の氷雪洞窟】辺りから調べるつもりだ。

 

次いで工房も指輪で開放すると中には様々な鉱石や見たこともない作業道具、理論書などが所狭しと保管されており、錬成師にとっては楽園かと見紛うほどである。ハジメは目を輝かせている。

 

「・・・なあ、少しここに留まらないか」

 

「・・・!うん、貴方が言うなら!」

 

「…ん、彩人に従う」

 

即答だった。安定した拠点だし準備できる。超サイヤ人に慣れる訓練のためにもここにしばらく厄介になるのがベストだろう。

 

――――――――――――――――――――――

~忘れたころに病みはくる~

 

「あ~・・・極楽極楽」

 

一通り探索を終えたのち彩人は風呂に入っている。そらに浮かぶ月のアーティファクトを眺めながらリラックスしている。

 

「贅沢すぎるよなぁ・・・ここ地下だけど」

 

ついこの前死にかけた奴とは思えないほどの余裕で満喫する彩人。突如、ヒタヒタと足音が聞こえ始めた。なん・・・だと・・・

そして入ってくるのはハジメとユエ。当然すっぽんぽんである。さも当たり前のように湯舟につかる彩人の両隣に入る。

 

「んっ……気持ちいい……」

 

「丁度いい湯加減だね~」

 

「なんで入ってるんですか。せめてバスタオル巻いてくれ。目のやり場に困る」

 

「「彩人(君)になら見られてもいい(よ)」」

 

「・・・そういう事はあんまり言わないほうがいい」

 

気持ちは嬉しいが二人を気遣って言った、・・・が。

 

「どうして?私は貴方だからこうしてるんだよ?これは私の意志。他の男になんて見せたくない。見ようとするやつはハチの巣にするだけだから

 

「ハジメの言う通り。私達の身も心も彩人のもの。彩人が望むなら命も惜しくはない

 

「・・・は?」

 

すると目のハイライトを消した二人が両腕を抱きしめる。ハジメの程よいふくらみとユエの幼いながらも感じる柔らかさに彩人は動揺する。

 

「ちょ・・二人共当たって「「当ててるんだよ」」・・・oh」

 

すると右側のハジメが囁く。

 

我慢しなくてもいいんだよ?私達は貴方のモノ。どんな風にしてもどのように扱っても良いの…♡

 

続けて左側のユエも妖艶な囁きを。

 

彩人が喜んでくれるなら…それが私達の幸せ。彩人が私達の生きる意味。どんなことでも…平気

 

「…それは流石に、まずいって。・・・先にあがるぞ」

 

「「・・・」」

 

すると二人はすんなりと拘束を解いた。

彩人はいきなり誘惑してきた割には素直だなと思うが、二人は湯舟から上がろうと腰を上げた彩人の目の前に自身の裸体をこれでもかと晒す。

 

「・・・ホントにどうした二人共」

 

「迷宮に居た時貴方はたくさん私を助けてくれた。でもその分貴方はたくさん傷ついた」

 

「ずっと一人だった私を救い出してくれて、守ってくれた。だからこそ恩返ししたい」

 

「いや・・・流石にそれは「「分かってるよ」」・・・は?」

 

「サイヤ人が善良じゃなくても貴方は優しい。だから私達に対価を求めない」

 

「でも私達は彩人に尽くしたい…ん、彩人じゃなきゃ嫌」

 

「「だからこそ彩人に求められたい」」

 

「・・・どういう事?」

 

「・・・本当は今すぐにでも貴方に奉仕したい。でも貴方はそれを望んでいない」

 

「だからこそアピールする。彩人が私達を求めるまで」

 

「」

 

二人の黒ずんだ瞳には彩人以外の何物も映ってはいない。

 

「強制はしないし強引にもしない。でも私達は何があっても貴方を受け入れる。それを覚えていて欲しいな」

 

「私達は…いつまでも彩人の味方」

 

「・・・あえて聞くが、なぜそこまでするんだ?」

 

彩人はあえて答えの分かり切った質問をする。そして二人・・・いや、〝彼女達〟は答えた。

 

『『『『「「あなたが好きだから」」』』』』

 

この場に居ないはずの人の声も彩人の耳には届いた。




ヤンデレ足りてねえな、と思ったから書いた。


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出発の刻

やっとオルクス編、終わり!


あの夜の後、本当に二人は誘惑はするがそれ以上はしてこない。無償の善意ほど怪しいものはないが、無下にも出来ない。迷宮攻略時に感じなかった闇が臨界点を超えたのだろう。いつ超えたかはわからないが…。しかもこの類のキャラにある自分のプライベートを犠牲にして相手に尽くすとはならずハジメはアーティファクトの生成、ユエはハジメや彩人のお手伝いなどでエンジョイしている。

しかし彩人が呼ぶと最優先で来るのも事実。

 

でも傍から見れば美少女二人を侍らすクズヒモ男にしか見えない。それが嫌なのと超サイヤ人になっても安定させるための修行で下心は吹っ飛んだ。そのころとある少女達が夜な夜な不気味な集会を開いてとあるカップルがノイローゼになっているのを彩人は知らない。

 

ハジメは義手と義眼はしていないが神結晶を使ったスカ〇ターのような眼帯をつけている。魔力を持たない彩人はひたすら修行の身だが装備はハジメのおかげでめちゃくちゃ充実している。そんな中、彩人とハジメのステータスは・・・

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

南雲ハジメ 17歳 女 レベル:????

 

 

天職:錬成師 

 

 

筋力:22312

 

 

体力:27342

 

 

耐性:21050

 

 

敏捷:27300

 

 

魔力:30000

 

 

魔耐:30000

 

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・言語理解

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー 

 

轟彩人 17歳 男 レベル:????

 

 

天職:黄金の戦士

 

(通常時) 

 

筋力:? (45000)

 

 

体力:? (38000)

 

 

耐性:? (30000)

 

 

敏捷:? (50000)

 

 

魔力:0

 

 

魔耐:0

 

 

技能:言語理解・胃酸強化・夜目・遠見・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

こうなった。ハジメが魔物肉での強化によりレベルがバグる。彩人は天職が変化しステータスが異常を起こした。比較対象として勇者天之河はステータス2000である。原作よりは強いが 限界突破によって3倍にひきあがるとはいえハジメは魔力量や体への負担を考慮しても10倍。敵ではない。

一応、比較すると通常の人族の限界が100から200、天職持ちで300から400、魔人族や亜人族は種族特性から一部のステータスで300から600辺りが限度である。片や魔王、片や宇宙の悪魔なのだから普通ではないのだが。

 

装備自体も原作とほぼ相違なし。宝物庫に魔力駆動二輪と四輪、疑似ス〇ウター(魔眼)、強化シュラ―ゲン、メツェライ、オルカン、シュラーク・・・と装備は万全だが神水だけは遂に神結晶が蓄えた魔力を枯渇させたため、試験管型保管容器三十本分でラストになってしまった。

 

節約したおかげである程度残せたが無駄遣いは出来ない。神結晶自体はもちろんアクセサリーに加工して魔力のサブタンクにした。

ハジメが渡したのに彩人に付けてほしいとユエがせがむのでつけてやると「……プロポーズ?」とか言いやがった。

 

かくして三人は厄介になったオスカー氏の隠れ家を去る。いつぞやの魔方陣を起動させる。

 

「よし、これで外に出られるな」

 

「そうだね。・・・おそらく聖教教会や各国がこの力を良しとしないと思うけど」

 

「ん…」

 

「だろうな。宗教が支配しているんだ、下手すりゃ全世界が敵だろうな。まあ俺は今更だが」

 

するとユエとハジメが彩人の両手を握る。

 

「ん…私達も一緒」

 

「私達は絶対負けない。私達は〝最強〟」

 

「・・・だな」

 

そして三人は光に包まれ、出た先は洞窟の中。

 

「・・・ええ~」

 

「そう簡単には出られないよな」

 

「……秘密の通路……隠すのが普通」

 

「あ、ああ、そうか・・・確かに。反逆者の住処への直通の道が隠されていないわけないか」

 

三人は洞窟の中を進んでいく。罠やトラップもあったがオルクスの指輪で全て解除された。その先に小さな光。三人は駆けだした。距離が近づく度にさわやかな風と新鮮な空気。間違いなく外へ通じていると確信し、光へ飛び込むと・・・そこは地上だった。上には澄んだ青空が広がり峡谷を通り抜ける風がとても気持ちよかった。

 

地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。

 

【ライセン大峡谷】と

 

「戻れたみたいだな。日の光がまぶしいぜ」

 

「戻って・・・来れたぁーーー!」

 

「んっ!!」

 

三人、とくにハジメとユエは互いの両手を握り合って喜びを分かち合う。そしてすぐさま彩人に飛びつく。彩人はやれやれと思いつつも二人の頭をなでていた、が。

 

「まあ、来るよな」

 

「無粋な奴ら・・・」

 

周りを囲む魔物。

 

「・・・ここは魔力が分解されるみたいだな」

 

「……分解される。でも力ずくでいく」

 

「力ずくって・・・何倍位?」

 

「10倍」

 

「やめとけ・・・俺達がやるから」

 

「むう…彩人が言うなら」

 

ユエをなだめている間にハジメがドンナー・シュラークでドンパチやり始めていた。

 

「確かに10倍くらい出せば行けるね・・・彩人君とのイチャイチャを邪魔した・・・覚悟はいいな?

 

 スっとガン=カタの構えをとり、ハジメの眼に殺意が宿る。その眼を見た周囲の魔物達は気がつけば一歩後退っていた。しかも、そのことに気がついてすらいない。本能で感じたのだろう。自分達が敵対してはいけない化物を相手にしてしまったことを。

 

そのあとはひたすら蹂躙であった。ハジメが打ち漏らした2、3匹を彩人が気弾で始末したがほぼ全てハジメに殺された。辺り一面に魔物だった肉片が転がる。

 

「もうあいつ一人でいいんじゃないかな」

 

「…私も思った」

 

 

ライセン大峡谷の魔物は相当凶悪と言われていたがそれ以上にハジメが規格外なので雑魚にしか見えなかった。

魔物を全滅させたのち原作同様樹海へ向かう。ハジメが宝物庫から魔動二輪を呼び出し、魔力の減りやすさから効率を考え魔動二輪にはハジメとユエが乗り彩人が舞空術で飛ぶことにした。

 

峡谷自体はまっすぐで迷うことは無い。時々魔物が出てくるので気弾で処理する。しばらく走っていると、魔物の咆哮が聞こえた。その声がする方向に行くと双頭のティラノサウルスもどき・・・とそれから半べそで逃げ回るうさ耳の少女であった。




次回は残念ウサギ・・・ではなくクラスメイト側です。


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帝国の使者 byクラスメイト 前編

ああスマンな、クラスメイト側なんだ。

ほぼはしょっただけなんだぁ・・・


彩人が超サイヤ人に覚醒しヒュドラを瞬殺したころ。勇者一行は、一時迷宮攻略を中断しハイリヒ王国に戻っていた。

 

いまのレベルでは先の攻略が厳しい事とヘルシャー帝国から勇者一行に会いに使者が来るためだ。

エヒトの神託から勇者降臨までの猶予が短く通達が遅れたからだ。そもそも帝国自体が実力主義の国家であり名も知れぬ勇者など興味を示さなかった。しかし前人未踏の階層に到達したことで興味が湧いたのだとか。

 

そんな話を聞きながら帰ってきた天之河達は王宮に到着し全員が馬車から降りると王宮から走ってくる一人の少年、ハイリヒ王国王子ランデル・S・B・ハイリヒである。

 

ランデル殿下は待ちわびた飼い主に飛びつく大型犬の如く駆け寄ってきて叫んだ。

 

「香織! よく帰った! 待ちわびたぞ!」

 

香織以外にもいるのだが彼には香織以外は眼中に無い。 実は、召喚された翌日から、ランデル殿下は香織に猛アプローチを掛けていた。と言っても、彼は10歳。香織から見れば小さい子に懐かれている程度の認識であり、その思いが実る気配は微塵もない。生来の面倒見の良さから、弟のようには可愛く思ってはいるようだが。

 

「ランデル殿下。お久しぶりです」

 

子犬を愛でるような優しいまなざしで答える香織。ランデルも一瞬ドキリとしつつなんとか自分なりにアプローチする。

 

「ああ、本当に久しぶりだな。お前が迷宮に行ってる間は生きた心地がしなかったぞ。怪我はしてないか? 余がもっと強ければお前にこんなことさせないのに……」

 

香織は守られるだけなのは嫌だが子供をあやす母のような顔で相槌を打つ。

 

「お気づかい下さりありがとうございます。ですが、私なら大丈夫ですよ? 自分がやらなくてはならない事なので」

 

「いや、香織が気を張る必要はない。そ、その、ほら、もっとこう安全な仕事もあるだろう?」

 

「安全な仕事ですか?」

 

実らぬ思いをつのらせるランデルに察した雫が合掌する。隣で鈴と恵里も苦笑いしている。

 

「う、うむ。例えば、侍女とかどうだ? その、今なら余の専属にしてやってもいいぞ」

 

「侍女ですか? いえ、すみません。私は治癒師ですから……」

 

「な、なら医療院に入ればいい。迷宮なんて危険な場所や前線なんて行く必要ないだろう?」

 

医療院は王宮のすぐ近く。つまりは離れたくないだけなのだが香織には届かない。

 

「いえ、前線ならば直ぐに癒せますから。心配して下さりありがとうございます」

 

「うぅ」

 

結局惨敗するランデル。そこにやはりKY勇者が。

 

「ランデル殿下、香織は俺の大切な幼馴染です。俺がいる限り、絶対に守り抜きますよ」

 

本人は下心なしに守る、という意味で言っているのだがランデルにはこう聞こえた。

 

〝俺の女に手ぇ出してんじゃねぇよ。俺がいる限り香織は誰にも渡さねぇ! 絶対にな!〟

 

しかも天之河と香織は実に絵になる。それがランデルの嫉妬心を加速させる。

 

「香織を危険な場所に行かせることに何とも思っていないお前が何を言う! 絶対に負けぬぞ! 香織は余といる方がいいに決まっているのだからな!」

 

「え~と……」

 

なぜ怒るのか分からない天之河と喧嘩の原因を理解していない香織、ため息をつく雫。微妙な空気の中、それを断ち切る声が。

 

「ランデル。いい加減にしなさい。香織が困っているでしょう? 光輝さんにもご迷惑ですよ」

 

「あ、姉上!? ……し、しかし」

 

「しかしではありません。皆さんお疲れなのに、こんな場所に引き止めて……相手のことを考えていないのは誰ですか?」

 

「うっ……で、ですが……」

 

「ランデル?」

 

「よ、用事を思い出しました! 失礼します!」

 

姉には逆らえないようだ。逃げるように去っていったランデルを窘めたのは王女リリアーナ。

 

「香織、光輝さん、弟が失礼しました。代わってお詫び致しますわ」

 

 リリアーナはそう言って頭を下げた。美しいストレートの金髪がさらりと流れる。

 

「ううん、気にしてないよ、リリィ。ランデル殿下は気を使ってくれただけだよ」

 

「そうだな。なぜ、怒っていたのかわからないけど……何か失礼なことをしたんなら俺の方こそ謝らないと」

 

全く理解していない天之河に苦笑いするリリアーナ。弟の気持ちを察しているため同情する。彼の不倶戴天の敵はべつにいるのでなおさらだ。

それはさておきリリアーナは14歳だが王女として礼儀正しくもフレンドリー、それでいて国民にも大変人気のある金髪碧眼の美少女である。自身の世界の問題に巻き込んでしまったと罪悪感を抱き一個人で生徒達と関わる彼女はすぐに打ち解けた。特に同年代の香織や雫達との関係は非常に良好で、今では愛称と呼び捨て、タメ口で言葉を交わす仲である。

 

「いえ、光輝さん。ランデルのことは気にする必要ありませんわ。あの子が少々暴走気味なだけですから。それよりも……改めて、お帰りなさいませ、皆様。無事のご帰還、心から嬉しく思いますわ」

 

そんな言葉を言われれば男子はもちろん女子もたちまちリリアーナに見惚れる。・・・約2名(鈴と恵里)を除いて。

その後も天之河の発言にリリアーナが困惑するのだが・・・それはともかく天之河達をねぎらいつかれを癒すように促した。

 

居残り組にベヒモスの討伐を伝え歓声が上がったり、これにより戦線復帰するメンバーが増えたり、愛子先生が一部で〝豊穣の女神〟と呼ばれ始めていることが話題になり彼女を身悶えさせたりと色々あったが天之河達はゆっくり迷宮攻略で疲弊した体を癒した。

 

その後、こっそり迷宮攻略に戻ろうとした香織を雫が連行したり迷宮を去る時に感じた凄まじいエネルギーについて語り合ったりしていた。

 

『うぬぬ・・・余は負けぬぞ!必ず香織の心を射止めて見せる!』

 

その夜にランデルは決意していた、しかし知る余地もない。彼の想い人は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はうぅぅぅぅぅぅぅ~~寂しいよお~~彩人く~ん~~~会いたいよぉぉぉぉ~~~~~!!(スーハースーハー)」

 

・・・彩人の使用済みのシャツを抱きしめてよがっているなど。

 




オチに関していう事はありません。


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帝国の使者 byクラスメイト 後編

後悔なんてしない。


三日後、現れた帝国の使者たち。

 

迷宮攻略組と国の重臣達、イシュタル達司祭が謁見の間に集結し帝国の使者と5人の部下がエリヒド陛下に挨拶を済ませると早速勇者について聞いてきた。

 

名指しで呼ばれた天之河が陛下に促され前に出る。・・・一応顔は整っているし下心なしの言動と勇者の肩書で天之河はこの世界でも人気だった。

鈍感なのは相変わらずだったが。

次いで攻略組の紹介が行われたのち、

 

「フム・・・勇者の割にはずいぶんお若い。本当に65層を踏破したのかね・・・?」

 

使者が訝しげな表情で天之河を値踏みするかのようにジロジロ見てくる。流石の天之河も表情が引きつる。しかし何とかこらえて返答する。

 

「えっと、ではお話しましょうか?「いえ、お話は結構」 どのように倒し・・・え?」

 

光輝は信じてもらおうと色々提案しようとするが使者はあっさり首を振りニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

 

「それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか? それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

 

「えっと、俺は構いませんが……」

 

天之河の了承を聞いたエリヒド陛下がイシュタルに目配せをする。イシュタルはうなづくとエリヒド陛下は許可した。力を示すほうが帝国も納得するからだ。

 

こうして急遽、勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定したのだが・・・

 

「ガハっ・・・」

 

「はぁ~、おいおい、勇者ってのはこんなもんか? まるでなっちゃいねぇ。やる気あんのか?」

 

たかが模擬戦と侮った天之河が苦戦している。相手の兵士はよく見る普通の兵士だが遠慮も情けもなく天之河に襲い掛かる。

 

「すみませんでした。もう一度、お願いします」

 

「戦場じゃあ〝次〟なんてないんだがな」

 

本気になった天之河に「遅い」と言いたげな兵士だったが天之河の動きが変わり、互角以上の戦いとなる。

 

「ふん、確かに並の人間じゃ相手にならん程の身体能力だ。しかし、少々素直すぎる。元々、戦いとは無縁か?」

 

「えっ? えっと、はい、そうです。俺は元々ただの学生ですから」

 

「……それが今や〝神の使徒〟か」

 

その言葉をニヤニヤしながら言う兵士。教会の関係者たちは不機嫌になる。

 

「おい、勇者。構えろ。今度はこちらから行くぞ。気を抜くなよ? うっかり殺してしまうかもしれんからな」

 

「なっ・・・っ!?」

 

今度は魔法を使用してきた。再び劣勢になるがすぐに持ち直す。が、自身を本気で殺そうとする兵士の振る舞いに天之河は恐怖を感じた。

 

「まさか適当に戦って、はい終わりっとでもなると思ったか? この程度で死ぬならそれまでだったってことだろ。お前は、俺達人間の上に立って率いるんだぞ? その自覚があんのかよ?」

 

「自覚って……俺はもちろん人々を救って……」

 

「傷つけることも、傷つくことも恐れているガキに何ができる? 剣に殺気一つ込められない奴がご大層なこと言ってんじゃねぇよ」

 

兵士が天之河に攻撃しようとしたがイシュタルがそれを阻んだ。

 

「それくらいにしましょうか。これ以上は、模擬戦ではなく殺し合いになってしまいますのでな。……ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」

 

「……チッ、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」

 

もちろんヘルシャー帝国皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人である。四十代位の野性味溢れる男だ。短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。魔道具であるイヤリングで変装していたのだ。

 

なし崩しで模擬戦も終わってしまい、その後に予定されていた晩餐で帝国からも勇者を認めるとの言質をとることができ、一応、今回の訪問の目的は達成されたようだ。あまりにもサクサク話が進むので天之河だけでなく周りの人々も置いてけぼりであった。しかしこの皇帝サマはフットワークの軽さに定評がありこのような事は日常茶飯事だ。

それはさておき皇帝の勇者の評価は・・・

 

「ありゃ、ダメだな。ただの子供だ。理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口だ。なまじ実力とカリスマがあるからタチが悪い。自分の理想で周りを殺すタイプだな。〝神の使徒〟である以上蔑ろにはできねぇ。取り敢えず合わせて上手くやるしかねぇだろう」

 

「それで、あわよくば試合で殺すつもりだったのですか?」

 

「あぁ? 違ぇよ。少しは腑抜けた精神を叩き治せるかと思っただけだ。あのままやっても教皇が邪魔して絶対殺れなかっただろうよ」

 

不合格のようです。

早朝、ガハルドが早期練習をしている雫を見かけた。ガハルドは雫を気に入り、彼女に声をかけた。

 

「そこのお前、確か八重樫といったか?」

 

「はい、八重樫は私ですが」

 

「どうだ、俺のつm「お断りします」・・・まだ言ってねえだろうが」

 

話を折られて若干焦る皇帝。雫はわずかなほほえみを浮かべている。

 

「『妻にならないか?』とでも言うおつもりでしょう、皇帝様ともなれば正室や側室もいらっしゃるのでは?」

 

「それはそうだが、俺はお前が気に入った。だから俺の「謹んでお断りいたします」・・・なかなか言うじゃねえか・・・」

 

「それに私には心に決めた方が居ますので」

 

どこかうっとりした表情の雫を見て少し気分が悪くなる皇帝。

 

「はっ、そいつはあの勇者よりも強えのか?」

 

「はい。世界で一番強いです」

 

「ほお・・・断言するとはますます気に入った。今は勘弁してやる。そいつにも会ってみてえしな」

 

皇帝は思った。自分が狙った女にこれだけ言わせた男の実力を見たいと。後にそいつと愉快な仲間たちに黒歴史レベルの大敗を味あわされるとは微塵も思っていない。

ガハルドは去っていったがその後すれ違った天之河を見て鼻で笑ったとか。




雫はヤンヤン度低めですが、彩人以外の異性は眼中にありません。


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フェアベルゲン
美少女?残念、ウサギです


バグウサギです。




三人の視界に映るのは双頭ティラノに追い掛け回されるウサ耳少女。

 

「・・・・・・」

 

「……兎人族?」

 

「なんでこんなとこにいるんだろ? 兎人族って谷底が住処なの?」

 

「……聞いたことない」

 

「じゃあ、あれかな? 犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよ?」

 

「……悪ウサギ?」

 

「容赦ないねキミ達」

 

ライセン大峡谷が処刑方法の一つとして使用されていることからあたかも追いかけられているウサ耳少女が悪人のように考える二人。

ティラノの頭突きで吹っ飛ばされたウサ耳少女が再び逃げ出す。・・・彩人達のほうへ。ここから距離はあるのに彼女の叫び声が響き渡る。

 

「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら必死に走るウサ耳。息切れ寸前で手足がガッタガタになっている。ティラノに追いつかれるのも時間の問題だろう。そんな光景に対し、

 

「・・・トラブルメーカーの要素しか感じないよ」

 

「・・・ん、ハジメに同感」

 

「いや、助けたほうが・・・まってハジメ、ウサ耳ごと撃とうとするんじゃあない!!ユエも魔力をためるんじゃあない!」

 

彩人を困らせる存在と認識し急に殺気立ったハジメとユエがウサ耳少女もろとも攻撃した。ハジメの弾丸はウサ耳少女がこけたことで外れたがティラノの足を吹っ飛ばしティラノが転倒した衝撃でウサ耳少女が吹っ飛び一瞬遅れたユエの魔法がまとめて吹っ飛ばした。

 

「「やったか?」」

 

「それ、フラグ・・・」

 

煙が晴れると上半身が消えたティラノのみ。・・・そして吹っ飛ぶウサ耳少女。

 

「きゃぁああああー! た、助けてくださ~い!」

 

「ちょ・・・」

 

彩人の所へ突っ込んでくるウサ耳少女。衣服がただでさえきわどいのにボロボロであちこち見えてるわ、泣き顔は汚いわで一瞬思考が止まった彩人だが、何とか支える。

 

「た、助けてくれてありがとうございますぅ~~!!あのダイヘドアを一撃なんて!やっぱり当たってましたぁ~!!」

 

「ちょ、しがみつくな!・・・ん?いま当たった(・・・・)って「「おい」」」

 

「・・・え?」

 

「あー・・・悪いがアイツを倒したのはあの二人だ」

 

「あ、すみません。とりあえずありがとうござい・・・「「誰に断って彩人(君)に抱き着いているんだ?」」・・・ひぃッわ、私、わざとでは・・・「「早く降りろ」」はいっ、降ります!降りますからぁ~~!!」

 

ドンナー・シュラーク最大出力でぶっぱしようとしてるハジメと〝蒼天〟を撃とうとしているユエにビビりまくっている。とりあえず死にたくないのでウサ耳少女は降りました。

 

「「よし、覚悟はいいな「二人共落ち着け」・・・彩人(君)が言うなら」」

 

「・・・この二人がスマン。俺は轟 彩人。君の名前は?」

 

「私は・・・兎人族ハウリアの一人、シアといい、ます・・・・」

 

「アカン、完全にビビってる!」

 

この後、何とかウサ耳少女・・・もといシアを何とかあやした。ハジメとユエの視線が・・・シアに向かってるので苦労したが。

 

「・・・落ち着いたか?」

 

「は、はい・・・。えへへ、彩人さんって優しいんですね~そこの二人と違って!」

 

「・・・傍から見ればそう見えるんだろうけどあんまりそういう事言わないで、仲間なんだから」

 

「そうですか・・・、あ、あのお二人の名前を聞いても?」

 

「南雲 ハジメ」

 

「…ユエ」

 

「ハジメさんとユエさんですね!そんなお三方に頼みがあります!私の家族も助けて下さい!」

 

「なんていう図々しさ・・・」

 

「あ、お礼をご所望ですか?私はハジメさんやユエさんよりも胸なら私が勝ってますから!お好きになさってください!」

 

「ねえ君は自殺志願者なの?」

 

「え?」

 

「「お祈りは済ませた?」」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・謝ったら許してくれたり(バンッ)」

 

ハジメの銃弾がシアの頬をかすめる。

 

「〝嵐帝〟」

 

「次は当てるね」

 

「」

 

―――― いやあぁぁぁぁぁぁ!! 死にたくなぁい!

 

竜巻の音、銃声、シアの断末魔が聞こえる。

 

「…彩人は、おっきいほうが好き?」

 

「本音を言うと好き」

 

「…むう」

 

「でも体だけの奴はお断り。心が大事だろ」

 

「ん…!私も、そう思う」

 

二人のお仕置きでヘロヘロのシアに気を与えて治した。

 

「・・・?さ、彩人さん今何を・・・?」

 

「・・・めんどいから話すわ。そっちの状況も教えてくれ」

 

「は、はい!!」

 

彩人はシアに今までの事を話す。

 

「え・・・あなた方も魔力やアーティファクトを使えるんですね?」

 

「正しくは俺以外だけどな・・・。も、て事はシアさんも「あ、呼び捨てでいいですよ~」・・・シアも魔力を持ってるのか」

 

「は、はい!」

 

「・・・それが家族と関係あるんじゃないか?」

 

「・・・!!なぜ分かったんですか!?まさかあなたも〝未来視〟を!?」

 

「いや、違う。そもそも俺は魔力が無え」

 

〝未来視〟とはシア曰くこれを選択したら、その先どうなるか?という仮定の未来が見えるらしい。危険が迫った時は無意識に出るとか。

意識的に使用可能だが回数制限があり友達の恋路を視たせいで悲劇を避けれなかったとか。

 

「亜人には魔力がない。そこに魔力持ちの異端が現れたらどうなるか・・・予測はできるが詳細を話して欲しい」

 

「は、はい・・・」

 

シアの話によると兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、戦闘能力はすこぶる低く温厚で争いを好まない。一つの集落を大きな家族として扱う絆の強さがある反面、エルフとは異なった愛らしさから帝国の奴隷にされることも多い。

 

そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、シアというイレギュラーが誕生した。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのと魔力を有している事だ。魔物と同じ存在として迫害されるのを恐れたハウリア族は家族ぐるみで隠れてシアを育てたが亜人族の国【フェアベルゲン】にシアの存在がバレてしまいフェアベルゲンを脱出。

 

帝国や奴隷商を警戒しつつ山の幸を求めて山脈地帯を目指したが運悪く帝国兵に遭遇し半数近くが捕らえられた。残った者はライセン大峡谷に逃げたものの帝国兵は入口に陣取ったため戻れず峡谷の魔物に追いやられて離散した。

 

「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

 

今までのおふざけが嘘のように真剣な口調で話しながら頭を下げるシア。

 

それを聞いた彩人は・・・

 

「断る」

 

と即答した。



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お助け出来るといいなあ・・・

少し戦闘民族っぽさが出せた・・・か?な?




「断る」

 

彩人の言葉にシアだけでなくハジメ、ユエも驚いている。

 

「な、どうしてダメなんですか!!」

 

「簡単なことだ。確かに峡谷の魔物も帝国兵も敵ではない。だが、峡谷を抜けた後の事を考えているのか?」

 

「それは・・・」

 

「・・・どうせ山脈に着くまで守れとでも言いたかったんじゃないか?・・・・ふざけるな」

 

「・・・うう」

 

「フェアベルゲンや帝国を敵に回すのは確定するのにお前らは守られるだけか、いいご身分だな」

 

「・・・・・」

 

黙り込んでしまうシア。しかし彩人は揺るがない。その中でシアに助け船が。

 

「彩人、連れて行こう」

 

「・・・」

 

「!? 最初から貴女のこといい人だと思ってました! ペッタンコって言ってゴメンなッあふんっ!」

 

ユエの言葉で調子のいいことを言いだすシアをビンタするユエ。

 

「彩人君、嘘が下手だね」

 

続けてハジメがふふっと笑いながら言う。

 

「は、ハジメさん!嘘とは!?」

 

「シア、別に彩人君は『助けない』とは言ってないよ。峡谷を抜けた後を心配してるだけ」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「・・・・・・・まあ、どのみち樹海の迷宮には必要だしな。だが、ずっとハウリア族のボディーガードは出来ねえ。こっちにもやらなきゃならない事があるんだ(気を探っても善意しかねえ。家族を想う気持ちは本物だしな)」

 

「彩人さん・・・!ありがろうございますぅ~~~!!!」

 

「こうなるから一度断ったんだよ!!!!!」

 

再び彩人に抱き着こうとするシアにまた殺意マシマシのお仕置きが炸裂した。

とりあえず魔動二輪にサイドカーを付け、シアをそこに乗せて行く。

 

「彩人さんはどこに乗るんですか?あ、なんなら一緒に乗りません?私は大じょ「「あ?」」なんでもありましぇん・・・」

 

「俺は大丈夫だ。飛べるからな」

 

舞空術で浮かぶとシアは混乱した。

 

「え、え?彩人さんは魔力無いのに何で飛べるんですか?!」

 

「気の力だが?」

 

「あ、それ先ほどの気、でしたか・・・魔法とは違いますけど、凄いです!」

 

そうしてシアの案内で峡谷を駆け抜けていく。シアは魔動二輪を不思議がっていたが慣れてくると楽しいらしく子供のように目を輝かせて楽しんでいた。

そんなシアを妹を見守る姉のような表情のユエ。彼女は自身の境遇がシアと似ていることにシンパシーを感じている。そして、家族に愛され、守られていた事も。穏やかな表情がそれを物語っていた。ハジメもそれに気づき片手でユエの頭を撫でる。

それを見たシアがハジメ達に絡んでわちゃわちゃしているのを上から見下ろして楽しむ彩人だった。

 

しばらく進むと、

 

「! ハジメさん! もう直ぐ皆がいる場所です! あの魔物の声……ち、近いです! 父様達がいる場所に近いです!」

 

「分かったから暴れないで!」

 

「見えたな、ウサ耳を付けた人が見えるぞ・・・って魔物に襲われてんな、ハジメ、先行くぞ」

 

「う、うん、気を付けて」

 

とはいえすぐに追いつく距離だが、ワイバーンのような魔物…もといハイベリアが岩壁を攻撃して岩陰に隠れた兎人族を追い出したところだ。飯の時間だといわんばかりに口を大きく開き一人の兎人族に襲い掛かる、しかし。

 

「グワェっっっ」

 

「・・・え?」

 

ハイベリアは光の弾に空高く連れ去られ、弾が爆発して消滅した。兎人族の男性は呆然としている。

別のハイベリアも他の兎人族を襲っていたが、銃声と同時に頭が吹っ飛ぶ。こちらも呆然としていた。

同胞をやられてキレたハイベリア達が一斉に咆哮し兎人族は身を震わせるがそれとは別に聞こえる声。それは彼らが捜していた少女の声。

 

「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」

 

「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」

 

シアの名を同時に叫んだ。サイドカーから身を乗り出しているのだがなんとかハジメのドライビングテクニックで事故ってはいない。がハジメの事を考えずにリアクションするためハジメの堪忍袋の緒が切れた。

 

「え、なんで服を掴むんですか?ハジメさん?」

 

「それだけ元気があるなら少しは役に立って貰おうか・・・なっ!!!!」

 

「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

投げました。そして集まってくるハイベリアをハジメと彩人が全滅させる。

双頭のティラノモドキ〝ダイヘドア〟と並ぶ強敵が叩かれたハエの如くやられていく光景に兎人族はただひたすら呆然とするだけだった。

 

「あぁあああ~、たずけでぇ~、彩人さぁ~ん!」

 

「はいはい・・・」

 

落下するシアを受け止めようと走った兎人族より先に彩人がシアを助ける。

 

「やっぱり彩人さんは優しいですぅ~!!ひょっとして私の事、好きになっちゃいました?ダメですよぉ~、私、そんな軽い女じゃないですから、もっと、こう段階を踏んでぇ~」

 

「そういう事言う奴、俺嫌いだな」

 

「ガーン!!」

 

とりあえず地面に降ろした。「乙女の純情を弄ぶなんて・・・」とか言ってたが悪意の気しか感じないのでシカト。

するとシアを見つけた兎人族がシアに駆け寄り無事であることに安堵していた。シアもうれしそうだ。シアから彩人達の事を聞いたのち初老の兎人族が彩人達にお礼を言った。

 

「彩人殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

 

続けて後ろの兎人族も頭を下げる。

 

「亜人は人間を快く思っていないと聞いているがあなた方は俺達を警戒しないのか?」

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

 

絆が強いのはいいのだが少々素直すぎる。これでよく逃げ切れたものだ、と彩人は呆れていた。

 

「えへへ、大丈夫ですよ、父様。彩人さんはとっても優しい人なので約束を利用したり、希望を踏み躙る様な外道じゃないです! ちゃんと私達を守ってくれますよ!」

 

「はっはっは、そうかそうか、紳士的な方なのだな。それなら安心だ」

 

周りも安心しきっている。

 

「彩人君が優しいのは元からだもんね」

 

「…ジェントルマン」

 

「・・・・そんなキャラじゃねえんだが」

 

想像以上に純粋なハウリア族に不安を抱えながら一行はライセン大峡谷の出口目指すが当然魔物が襲ってくる。兎人族を襲う前にハジメが脳天を打ち抜くか彩人に消し炭にされるため兎人族は安全だった。そんな二人を畏敬の視線で見つめる兎人族。子供に至ってはヒーローを見るようなきれいな瞳で見つめてくるので彩人は辟易しハジメは呆れていた。

 

「ふふふ、彩人さんとハジメさん。チビッコ達が見つめていますよ~手でも振ってあげたらどうですか?」

 

彩人に絡むシアだが即ハジメのゴム弾の餌食になる。彩人は頭を抱えた。

いまだに銃撃にさらされるシアをみて目尻に涙を貯めて娘の門出を祝う父親のような表情をしているカム。周りの兎人族も穏やかな視線を向けている。

 

「…感覚がズレてる」

 

ユエの一言で説明がついてしまった。その先へ進んでいくと崖を上るための階段を発見した。



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帝国兵など消し去ってしまえ~!

帝国兵ならやりそうなこと。


階段を上っていく彩人達。

するとシアが不安そうに、

 

「帝国兵はまだいるでしょうか・・・」

 

「・・・この感じ、まだ居るっぽいな。諦めの悪いことで」

 

「・・・!、そうですか・・・彩人さん、いいんですか?」

 

(兎人族は彩人の気探知を知っています)

 

「・・・人間族と対立することか?それだったらお互い様だろう未来を見たんじゃないのか」

 

「見ました・・・。で、ですが・・・」

 

「そもそも樹海までの案内の護衛なだけで私情は挟んでいない。一度無事に送り届けると約束した以上何が立ちはだかろうと吹っ飛ばすだけだ」

 

「・・・・そうですか」

 

一切の迷いのない彩人の言葉にそれ以上言えないシア。彼女の見た未来は絶対では無い。もし彩人たちが帝国側に・・・という考えが浮かんでしまうのだ。自分に責任があるのもシアの不安を増大させていた。

 

対照的にシアの父、カムは下手な正義感よりもビジネスライクのほうが信用に値するとして樹海の案内を快く引き受けた。

飲まず食わずのはずなのに平然と階段を登る兎人族の身体能力に驚きながらも彩人達が登りきると、

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

三十人の帝国兵がたむろしていた。大型馬車数台と野営の跡。何が何でも兎人族を手に入れたいようだ。

帝国兵は彩人の後ろからぞろぞろと兎人族が登ってくるのを見て品定めするように視線を動かす。

 

「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」

 

「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

 

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

 

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

 

「ひゃっほ~、流石、小隊長! 話がわかる!」

 

帝国兵どもは獲物である兎人族だけでなくハジメやユエも狙っているようだ。二人がキレる前に彩人が帝国兵に近づく。テレパシーで動かないように指示をして。

 

「・・あ?なんだてめえ。兎人族・・・な訳ねえよな?」

 

かなり近づいてから彩人を認識した帝国兵に彩人は小さくため息をつく。

 

「人間だ」

 

「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か?まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ「断る」・・・なんだと?」

 

とうぜん拒否。

 

「おいてめえ・・・俺達が誰だか分かってんのかぁ?」

 

「知っている。理解した上で拒否しているんだ、分かっていないのはそっちだろう」

 

「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃん達えらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

 

それを聞いたハジメとユエが殺気立った。しかし彩人を信じて動かない。すでに臨戦態勢は整っているが。

 

「剣を抜いた・・・つまり覚悟は出来たと判断していいんだな?」

 

「あぁ!? まだ状況が理解できてねぇのか! てめぇは、震えながら許しをこッ!?」

 

小隊長が彩人を切りつけるが剣がへし折れた。

 

「なっ・・・・」

 

「話にならんな」

 

武器を失って動揺したところを気で吹き飛ばす。

 

「・・・っ、クソが・・・前衛は囲んでアイツを食い止めろ!後衛は魔法で援護しろ!」

 

小隊長が指示を飛ばす。腐っても軍隊らしい。だが無意味だ。

 

「覚悟しやが・・・うおっ!?」

 

「ちょ、まだ詠唱ちゅ・・・「ぎゃあああああ!!」」

 

前衛が囲む前に気弾で吹き飛ばし後衛にぶつける。一瞬で帝国兵を返り討ちにした彩人をみて歓喜する兎人族。

 

「・・・もう終わりか?」

 

「このガキィ・・・舐めやがっ」

 

彩人が小隊長の頬を掠めるように打った気弾がそいつの真後ろで大きなクレーターを作った。

 

「次は当てるぞ」

 

「た・・・助けてくれぇ・・・お、俺たちが悪かった・・・兎人族には手を出さない!だから・・・殺さないでくれぇ・・・・・」

 

「・・・・もう終わりか、情けない連中だ」

 

情けない声で命乞いする兵士に愛想が尽き彩人が立ち去ろうとしたその時、

 

「今だ!やれえ!」

 

倒れたフリをしていた兵士が弓矢と魔法弾で彩人を攻撃する。彩人のいた位置から大きな煙がもうもうと上がる。先ほどと逆転し兎人族は真っ青に、帝国兵は笑みを浮かべた。

 

「ヒャハハハハハ!騙されてやんのバーカ!これは殺し合いなんだよ!欲しいモノは力で奪う!それがヘルシャー帝国だ!!」

 

「彩人・・・さん・・・」

 

シアが涙を浮かべている。他の兎人族も絶望に染まっている。それでもユエとハジメは無の表情で帝国兵を睨みつけている。

 

「どんな手を使ってでも勝ちゃいいんだよ!おい、ガキは抑えとけよ!へへへ・・・手間取らせやがって・・・てめえらこっちに来・・・グベェ!?」

 

すると小隊長に飛んできたのはボコボコにされた兵士だった。

 

「・・・殺し合い、と言ったな?欲しいモノは力で奪うと言ったな?・・・じゃあ俺がそうしてもいいって事だよな!!!」

 

「な・・・あっ・・・・」

 

それからは阿鼻叫喚の嵐。戦闘民族の力はすさまじく兵士の武器や防具、魔法に至るまで一切通用せず四肢もプライドもズタズタにする。

 

「ぼう・・うぞはづかない・・・がらぁ・・・だづげで・・ぐだざい・・・・」

 

「どの口が言うんだ。そうやって命乞いする亜人をお前らは助けたのか?」

 

気功波で兵士を吹き飛ばした。

 

彩人が無事だったのに安堵していた兎人族だが急に彩人が人が変わったように兵士を追い詰めて一掃したのをみて恐怖心を感じていた。

 

「あ、あの・・そこまでする必要はないのでは・・・」

 

シアの一言で彩人ははぁ、と息をつく。どこまでも優しい・・・いや甘すぎる種族だ。そしてシアの言葉に答えたのはハジメとユエだった。

 

「殺意を持って襲い掛かってきた上にだまし討ちまでしといて見逃すなんて都合よすぎない?」

 

「・・・それは」

 

「……そもそも、守られているだけのあなた達がそんな目を彩人に向けるのはお門違い」

 

「……」

 

二人の静かな怒りに閉口するシア。他の兎人族もバツの悪そうな顔をする。しかし長でもあるカムは彩人に言った。

 

「ふむ、彩人殿、申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ」

 

「彩人さん、すみません」

 

「・・・気にするな。それが本来持つべき感情なんだからな」

 

彩人は背を向けたままそう返した。次いでハジメに頼んで魔動二輪を出し馬が無事な馬車と魔動二輪を連結した馬車を用いて兎人族を全員乗せてその場を立ち去った。彩人の放った気功波の跡のみが残った。




タイトル通りなのに殺伐としてる・・・


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シアの決意とフェアベルゲン

ちょっと長めです。


七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国フェアベルゲンを抱える【ハルツィナ樹海】を前方に見据えて、ハジメが魔力駆動二輪で牽引する大型馬車二台と数十頭の馬が早いペースで平原を進んでいた。

 

相変わらずサイドカーで暴れるシアにハジメがストレスを溜めているがそれ以上にユエに構うので二人は手足をふん縛って引きずってやる、と密かに決心していた。殺気立つ魔動二輪を見下ろす彩人にユエが念話で話しかけてくる。

 

『彩人、手伝わなくてよかった?』

 

『・・・帝国兵のことか?少し試したいことがあった。・・・精神的に』

 

『精神的?』

 

『・・・どのみち人間と戦わなければならないが、殺戮を楽しむ外道にはなりたくねえ。今の自分が戦闘民族の本能にどれだけ耐えられるかを試した』

 

『…大丈夫?』

 

『やっぱしいい気分じゃないな。でも後悔はしていない。大丈夫、俺は戦えるぜ』

 

『…ん』

 

ユエと彩人の会話を聞いていたハジメも上空の彩人に笑顔を向ける。

シアは聞いていなかったが目配せで繋がっている三人を見て疎外感を感じていた。そのためか

 

「あ、あの!良ければお三方の事を教えて下さい・・・!」

 

「・・・?もう話したよね?」

 

「いえ、奈落の底に居た理由とか・・・彩人さんの力とか・・・」

 

「聞いてどうするの?」

 

「た、ただ知りたいだけです・・・この体質で家族に迷惑をかけてしまいましたし・・・みんなは気にしてないって言うんですけど・・・やっぱり仲間外れみたいな・・・でも皆さんと会って仲間外れじゃないって気づけたんです・・・だから・・・その・・・・」

 

もじもじしながら言うシア。あの時は兎人族の探索を優先したので能力も説明しかしていない。疎外感を感じているシアにとって自分と同じ存在が居ることがどれだけ救いになっただろう。

それを察した三人はシアに事細かく話した。

 

「う”ぅ”~酷すぎまずぅ……三人共がわいぞうでずぅ…、それに比べて私はなんて恵まれて………」

 

原作よりかはマシだと思うのだがシアにとっては壮絶な話だったらしく「不幸面してた自分が情けないですぅ」と勝手に反省している。そしてシアが涙を拭い、宣言する。

 

「彩人さん、ハジメさん、ユエさん、私、決めました!私あなた方に「「「断る」」」まだいってませぇん!!」

 

その途中で拒否する。話を折られたのと一緒に行けないことに理由を求めてくる。

 

「どうしてですかぁ!私達は仲間じゃなかったんですかぁ?!」

 

「いつから仲間になったし。付いてきたい、とでも言うつもりだろうが俺達の旅はそんなに甘くないぞ」

 

「正直今のまま脆弱さじゃ完全にお荷物だよね・・・」

 

「…シアは自分の仲間が欲しいだけ」

 

「はうっ!」

 

ユエの言葉が図星だったらしい。

シアは家族を送り届けたら一人ででも旅立つつもりだったが同じ魔力を持つハジメ達に付いていけば家族も納得すると考えたのだ。

 

「・・・ハジメが言ったように今の君じゃ迷宮で無駄死にするのがオチだ。今まで君を守ってくれた家族へ恩を仇で返すつもりか?同行はさせられない」

 

「うう…」

 

彩人の言葉で黙ってしまうシア。その後もシアはサイドカーで静かに座りながら何かを考えていた。

しかし同情で命懸けの戦いに参加させる訳にはいかない。

・・・今のままでは、だが。

 

数時間の移動の果てに一行は【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。外観は樹海そのものだがいざ足を踏み入れると霧に包まれるとか。

 

「それでは、彩人殿、ハジメ殿、ユエ殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。お二人を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

 

「宜しく頼む。迷宮と最も関係ある可能性があるからな」

 

カムが言った〝大樹〟とは、【ハルツィナ樹海】の最深部にある巨大な一本樹木で、亜人達には〝大樹ウーア・アルト〟と呼ばれ、神聖な場所とされている。峡谷脱出時にカムから聞いた話だ。

 

オチは知っているが樹海自体は迷宮ではなく大樹が迷宮となっている。迷宮を隠す為に樹海が存在している、と言うべきか。

 

「お三方、出来る限り気配を消していただけますかな、大樹は神聖な場所でありあまり近づく者はおりませんが他の亜人族と会わないとは限りませんので…」

 

「承知した」

 

カムの指示通りハジメとユエは〝気配遮断〟、彩人は気を限界まで下げる。セルがピッコロ達から逃亡した時の要領で。

 

「ッ!? これは、また……お二方、できればユエ殿くらいにしてもらえますかな?」

 

「えっと……これくらい?」

 

「これくらい、か」

 

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや、全く、流石ですな!………はぁ」

 

兎人族は戦闘能力は低いがその分隠密行動や索敵能力に優れている。ハジメと彩人がそれを凌駕したのでカムは若干顔がひきつっている。ハジメはともかく魔力を持たない彩人にショックを受けたのだ。

 

カムに案内されて樹海を進んでいくと兎人族が耳をピクッと動かし、歩みを止めた。魔物の気配を感じ取ったらしい。一応ハジメが作ったナイフを持っているとはいえ戦闘経験のない彼らにはそれでも心もとない。

 

するとハジメがおもむろに手を振るといつの間にか仕込んでいた小型ニードルガンから針が放たれ魔物達を倒す。

続けて魔物が襲ってくるがユエの〝風刃〟と彩人の手刀でその命を刈り取る。

 

またもやキラキラした瞳で彩人達を見つめる子供達と、とっさに動けなかった事に悔しがるシアが居たが特に反応しなかった。

その後もサクサク魔物を返り討ちにし、樹海の奥へと進んでいく…が、突然兎人族が立ち止まったかと思えば耳を真っ直ぐに立て苦々しい表情を浮かべた。シアに至っては顔が青ざめている。

 

「(…正面から多数の気、亜人達に見つかったか)」

 

彩人は気付いているがハジメとユエも感づいており、やれやれと言いたげな表情を浮かべている。

そして茂みから虎の亜人族が飛び出してきた。

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

大柄で筋肉隆々とした複数の虎亜人達が殺気立った表情で槍や両刃剣を向けて威嚇してくる。

人間と亜人が一緒に居ること自体が不自然である以上、警戒するのも無理は無い。

 

「あ、あの…私達は…」

 

しどろもどろになりながらもカムが虎亜人に話しかける。しかしリーダーらしき虎亜人がカムを見た途端に更に怒りの形相で怒鳴り付けた。

 

「白い髪の兎人族…だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かッ!?」

 

リーダーが兎人族に襲いかかろうとした瞬間、彼の頬を彩人の気弾が掠め、虎亜人達の背後で破裂し、小型のクレーターを作る。

 

「…今のはほんの小手調べだ。その気になればここら辺一帯を吹っ飛ばせる、一瞬でな」

 

「…な、詠唱どころか………魔力も感じなかった……!」

 

反応出来ないスピードと破壊力、そして魔力を持たないのに放たれた未知の攻撃に虎亜人達は恐怖しながら警戒を強める。

 

「俺達は今ここの兎人族を護衛中だ。もし手を出そうと言うなら一切容赦はしない」

 

戦士となっている彩人の放つ殺気に虎亜人達は凄まじいプレッシャーを感じ取り、動きを止めてしまう。

 

(奴ら…いや、奴は一体何者なんだ……?だが、本能が奴と戦っても勝てないと叫んでいる………!本当に人間、なのか………?)

 

「…あくまでも兎人族に手を出さなければこちらも何もしない。戦争をしに来た訳ではない」

 

「…何が目的だ?」

 

若干殺気を弱めた彩人にフェアベルゲンの第二警備隊隊長であるリーダー虎が話しかける。下手に行動すれば部下がただでは済まないと理解していた。だが同時に同胞を守るため討ち死にする覚悟も持っていた。

 

「この先の大樹にある、本当の迷宮へ行きたいだけだ」

 

「本当の迷宮? 何を言っている? 七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」

 

彩人の発言に何を言っているんだ、という表情を浮かべるリーダー。

 

「それは違う、ここが迷宮にしては魔物が貧弱過ぎる。少なくとも俺達が攻略したオルクス迷宮の魔物は多少歯ごたえがあった…、それに亜人族ならば簡単に行けるのなら解放者が与えた試練にしてはあまりにも簡単すぎる」

 

「…(何を言っているんだ……オルクス?試練?解放者?………聞いたこともない話ばかりだ………)」

 

リーダーは理解出来ないが、ここで彩人が嘘をつくメリットなど無いと分かっている。自身が圧倒的有利な状況だからだ。

故にリーダーは悟った。自身の手に余る事と、この男を野放しにしてはならない、と。目的を果たせればなにもしないのならそれに越した事は無い。

 

「……お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」

 

周りの亜人達がどよめく。今までに無い事だからだ。

 

「だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方もおられるかもしれない。お前に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

 

この場における良い判断と言わざるを得ない。目には抵抗の意志が見え隠れしているが。

 

「承知した。先程の言葉を一字一句違えずに伝えて欲しい」

 

「無論だ。ザム! 聞こえていたな! 長老方に余さず伝えろ!」

 

「了解!」

 

すると前衛のその後ろから気が遠ざかっていく。ザムと呼ばれた亜人のものだろう。

それを確認すると彩人は殺気を解く。

その時、今なら殺れるかと亜人達が武器に手を伸ばそうとするが、

 

バンッ

 

「…っ」

 

「お前等が攻撃するより、私の抜き撃ちの方が早い……試してみる?」

 

「……いや。だが、下手な動きはするなよ。我らも動かざるを得ない」

 

「わかってるよ、そっちも変なことは考えないでね」

 

ハジメの早抜きが先手を取った。彩人だけでなくハジメも強いと分かったからか、それ以降は変なことはしなかった。殺意は嫌というほど感じたが。

包囲されたままとはいえ休戦状態になったためカム達兎人族がホッと胸を撫で下ろす。

…が、彩人達よりも強い殺気を向けられているため安心は出来ない。

 

しばらく重苦しい雰囲気だったがユエとハジメが彩人に甘え出し、「私も~」とシアが自然に混ざった。小一時間後、調子に乗りすぎたシアをユエとハジメが追いかけ回してプロレス技をかけるというハプニングで兎人族と虎人族をドン引きさせていた。

そして彩人は森の奥から接近してくる複数の気を感じ取り緊張感を強める。他の亜人達もその気配を察する。

 

そこに現れた数人の亜人。中央にいる長耳で初老の森人族(エルフ族?)が彩人に話しかける。

 

「ふむ、お前さんが問題の人間族かね? 名は何という?」

 

「お初にお目にかかる。俺の名は轟彩人。そちらの名前も伺っても?」

 

亜人族は人間の割には多少は敬語が使えるようだな、と上から目線だった。

 

「うむ…私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。〝解放者〟とは何処で知った?」

 

「オルクス大迷宮の地下奥底にあった〝解放者〟の一人、オスカー・オルクス氏の隠れ家にて聞いた」

 

解放者という単語と、その一人が〝オスカー・オルクス〟という名であることは、長老達と極僅かな側近しか知らない事であるためアルフレリックは平然としつつも内心は驚愕していた。

 

「ふむ、地下の奥底か……聞いたことがないがな……証明できるか?」

 

アルフレリックは万が一他の亜人が洩らした可能性を考慮した。

 

「証明…オスカー氏にまつわる物があれば宜しいか?」

 

アルフレリックは頷く。あれば、の話だが、と付け加えた。

 

「ハジメ、オルクスの指輪を」

 

「うん、これだよ」

 

「…魔石もあると良いかも」

 

「あ、確かに。えっと…〝宝物庫〟から……」

 

ハジメが差し出したオルクスの指輪と魔石を見てアルフレリックだけでなく周りの亜人達も驚愕した。

 

「こ、これは……こんな純度の魔石、見たことがないぞ……」

 

「なるほど……確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

当然亜人族は兎人族も含めて驚きの表情を浮かべる。そして亜人族は猛抗議する。人間をフェアベルゲンに招き入れるなど、前例が無いのだから。

 

「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」

 

アルフレリックの鶴の一声で黙り込む亜人族。

 

「お心遣い感謝する」

 

彩人は知ってる(・・・・)ので素直に感謝し頭を下げる。それに待ったをかけたのはハジメだ。

 

「待ってよ。何勝手に私達の予定を決めてるの? 私達は大樹に用があるのであってフェアベルゲンに滞在する理由は無い。問題ないなら、このまま大樹に向かわせてよ」

 

「いや、お前さん。それは無理だ」

 

「どういう事?」

 

ハジメが殺気を出す。しかしアルフレリックは困惑した表情で、

 

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」

 

それでも向かうのか?とアルフレリックが続けるとハジメはゆっくり案内役のカムを見る。……皆さんお察しの通り、忘れていたのである。

 

「カム?」

 

「あっ、いや、その何といいますか……ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか……私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか……」

 

ユエとハジメのジト目に耐え切れなくなったカムは責任を擦り付けようとする。

 

「ええい、シア、それにお前達も! なぜ、途中で教えてくれなかったのだ! お前達も周期のことは知っているだろ!」

 

「なっ、父様、逆ギレですかっ! 私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って……つまり、父様が悪いですぅ!」

 

「そうですよ、僕たちも、あれ? おかしいな? とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって……」

 

「族長、何かやたら張り切ってたから……」

 

「お、お前達! それでも家族か! これは、あれだ、そう! 連帯責任だ! 連帯責任! 彩人殿、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」

 

「あっ、汚い! お父様汚いですよぉ! 一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」

 

「族長! 私達まで巻き込まないで下さい!」

 

「バカモン! 道中の、彩人殿やハジメ殿の容赦のなさを見ていただろう! 一人でバツを受けるなんて絶対に嫌だ!」

 

「あんた、それでも族長ですか!」

 

この世界でも残念ウサギは変わらなかった。彩人は顔を覆いながら、

 

「ユエ、頼むわ」

 

「…ん」

 

とだけ伝えた。ハジメも参加させようかと思ったがゴム弾でもダメージは大きいのであえて参加させない。ユエが兎人族に近づくと責任の擦り付け合いが加速したがユエはただ一言言うだけ。

 

「〝嵐帝〟」

 

アァァァァァァァァァァァァァ………

 

樹海に竜巻と兎人族の断末魔が轟いた。

 




時間が無かった。


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戦闘民族vs亜人族

暴力はいけないと思います(特大ブーメラン)


濃霧の森を虎の亜人、ジルの先導で進んでいく。

とはいえ一時間以上は歩いているので端麗のザムはよほど俊足なのだろう。

 

その先へと歩いていくと霧が晴れた所へ出た。アルフレリックによるとフェアドレン水晶という鉱石が霧や魔物が寄り付かなくなるという。でも魔物は比較的、らしいが。

しかしそのおかげで街に霧は無いらしい。こんな鬱蒼とした霧の中で生活するとか嫌すぎる。

 

「さぁ、着いたぞ…ここが我らの故郷(ふるさと)、フェアベルゲンだ」

 

樹で出来た巨大な門が開かれると同時にアルフレリックが話す。門の先に広がっていたのはまさに別世界。自然の中での生活模様が木々と融合し、ファンタジックな世界が目の前に。

 

「自然と共に生きてるって感じで・・・とても美しい街だ」

 

「うん、こんな綺麗な街を見たのは始めて。空気も美味しい」

 

「ん……綺麗」

 

三者三様の感想を聞いて亜人族は誇らしげな表情である。耳や尻尾が忙しなく動いている。アルフレリックも

 

「ほっほっほ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」

 

と満足そうに言うのだった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「……なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か……」

 

彩人達はアルフレリックと対面し話をしていた。オスカー・オルクスが語った世界の真実を。

 

「あまり驚かないようだが…」

 

「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ。神が狂っていようがいまいが亜人達の現状は変わらん。あるのは自然への感謝だけだ…」

 

何処か諦めた表情のアルフレリック。

そして今度はフェアベルゲンの迷宮について彩人達に語り始めた。

この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと、そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くこと

という口伝を大迷宮の創始者リューティリス・ハルツィナが代々伝えてきたという。

 

迷宮に挑む為に必要な紋章の一つがオルクスの紋章であった為にアルフレリックは驚いた表情を浮かべたのである。

 

「これの持ち主が資格者……」

 

しかしながら亜人族全員が肯定的とは限らない。その事で相談しようとしていたが、彩人達のいる部屋の階下が騒がしくなったと同時に彩人達とアルフレリックが腰を上げて下の階へ行く。

すると数人の亜人族がハウリア達を睨み付けていた。

亜人の中でも大柄の、熊の亜人がこちらに気付くと憎しみに染まった表情でアルフレリックに怒鳴り付けた。

 

「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

ぎりぎりと歯ぎしりしながらいまにも襲いかからんとしている熊亜人。よそ者が居るのが気に入らないようだ。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

 

「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

 

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

 

「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」

 

「そうだ」

 

フェアベルゲンではその種族の長が長老となりその人をリーダーとして様々な会議を行うがそれも十人十色。口伝を重んじるものもいれば眉唾物と考える者もいる。

熊亜人は人間やハウリアが気に入らない、という部分が多そうだが。

 

「……ならば、今、この場で試してやろう!」

 

熊亜人が彩人に向かって突進し、彩人の身長より長く、太い豪腕を彩人の顔面に叩きつける。

特に力自慢の熊亜人の攻撃にハウリア達は青ざめる。

しかしハジメとユエは平然としている。

 

「フン、避けようともしないとは所詮にんげ………なっ?!」

 

「・・・」

 

熊亜人は絶句した。ハウリア達はおろか他の亜人族も目の前の光景が信じられなかった。

 

「ゆ、指一本で…止めてる………」

 

誰かの一言通り、熊亜人の拳は彩人の右手の小指一本で止められていた。

 

「俺は弱くはありません。ですがあなた方と殺し合いするためにここにいるわけではない、どうか殺意を抑えていただけるか?」

 

「なっ…人間の癖に………へし折ってくれる!!」

 

彩人の発言に気を悪くして更に力を込める熊亜人。

 

「・・・・」

 

「んぐぅぉぉぉぉぉおおおお!!」

 

当然微動だにしない。

 

「そろそろ諦めていただけるか」

 

「まだだぁぁぁぁ!!」

 

今度は拳のラッシュを放つ。が、

 

「がああああああああ!何故だ!何故当たらん!!」

 

「・・・指で止めてますし」

 

一発の威力は落ちてるとはいえ連続で放たれる拳を全て指で止める彩人。亜人族は勿論ハウリアやアルフレリックも驚愕していた。

…何故かドヤ顔するハジメとユエ。

 

「さっすが彩人君、相手にならないね」

 

「…ん!」

 

やけくそで放たれる拳は単調であり怒りに支配されている熊亜人のラッシュ、スタミナが持つはずもなく……

 

「はあっ……はあっ………」

 

「・・・これで認めていただけますか?」

 

しかし熊亜人は更に怒りの形相で、

 

「誰が認めるものか!!…貴様ァ……いつか借りを返してやる!!」

 

と叫んでフラフラの状態で去っていった。

 

「それで、お次はどなたで?」

 

彩人の一言に頷く者は居なかった。

その後、アルフレリックの鶴の一声で一応、会議は始まった。現在、当代の長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、土人族(俗に言うドワーフ)のグゼ、そして森人族のアルフレリックが彩人達の前に座っている。

アルフレリック以外は最強格の熊亜人(さっきのやつはジンという名前)を手玉に取った彩人を警戒している。

 

「俺達はあくまでも樹海の迷宮に向かいたいだけでありあなた方に好き好んで危害を加えるつもりは無い。しかしそちらが殺意を持って襲ってくるとなればこちらも相応の手段を取らざるを得ない…。亜人族皆さんの意見をまとめて頂きたい」

 

「・・・・・」

 

グゼが彩人を睨み付けている。原作と違いジンが自滅しただけなので彩人を糾弾する理由が無い。しかしジンとは親しい関係であったため彩人が気に入らないのだ。

 

「確かに、この少年は、紋章の一つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」

 

続いて狐人族の長老ルアの一言をきっかけに他の亜人族も思う所があるものの同意の意志を見せた。

その意見を総括すべくアルフレリックが彩人に話す。

 

「轟彩人。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを口伝の資格者として認める。故に、お前さんと敵対はしないというのが総意だ……可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。……しかし……」

 

「亜人族にも様々な考えを持つ者がいる。絶対とは言えませんね」

 

「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特にジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな……」

 

「それは周りの反応理解している。本音をお聞きしたい」

 

今の彩人は戦士の顔になっている。敬語を交えても彼の放つプレッシャーがアルフレリックに決意の固さを物語る。

 

「お前さんを襲った者達を殺さないで欲しい」

 

「手加減しろ、と?殺意を持った相手に?」

 

「そうだ。お前さんの実力なら可能だろう?」

 

「…それは可能だ。しかし殺し合いとなれば話は別…、敵に情けなど無用。本当に同胞を守りたいと思うのなら全力で止めて頂きたい」

 

善処はするが全面的に肯定出来ないと彩人が付け加えると

虎人族のゼルが口を挟んだ。

 

「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」

 

彩人は表情をくずさずゼルの方を向く。元よりハウリア達が案内役だからだ。しかしゼルは勝ちを確信したかのような表情を浮かべた。

 

「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」

 

ゼルの言葉を聞いたシア泣きそうな顔をし、他のハウリア達は諦めたような表情だ。情の深さと言うべきか甘さと言うべきか、誰もシアを責めない。

 

「長老様方! どうか、どうか一族だけはご寛恕を! どうか!」

 

「シア! 止めなさい! 皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」

 

「でも、父様!」

 

カムの制止も聞かず涙ながらに土下座するシア。

しかしゼルの話す現実は無慈悲であった。

 

「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」

 

シアは絶望に満ちた表情で泣き崩れた。他の長老も特に何も言わない事から本当であろう。皮肉にもハウリア族の家族を思う行動が自分たちを追い詰めていた。

 

「そういうわけだ。これで、貴様が大樹に行く方法は途絶えたわけだが? どうする? 運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」

 

いつの間にか顔を下に向けている彩人を見て要求を呑んでもらおうかという態度のゼル。…しかし、彩人が顔を上げた途端、ゼルは竦み上がった。

 

いいや、あくまでも俺達の案内役はハウリア族だ

 

「っ………?!」

 

彩人の顔が、戦闘民族サイヤ人となっていたからだ。ユエとハジメは彩人の答えを既に理解しているので黙っている。

特に威圧している訳ではないが圧倒的強者のオーラがゼルに襲いかかる。

 

そちらにも譲れないものがあるのは理解している。しかしハウリア族を処刑するというのなら俺達の行く手を阻むも同然

 

椅子を降りて泣き続けているシアの頭にそっと手を乗せ、長老達を見据える。頭の感触に気付いたシアが彩人を見上げる。

 

それでもハウリア族に手を出すというのなら…俺は一切の容赦はしない

 

「彩人………さん……」

 

彩人は約束は果たすという思いで言っているのだがハウリアの為にフェアベルゲンを敵に回せるという意志がシアの心に響いていた。

 

「………、本気かね?」

 

アルフレリックが鋭い視線を彩人にぶつける。しかし、

 

当然だ

 

更に鋭い目付きで言い返す彩人にアルフレリックはたじろぐ。

 

「…っ、フェアベルゲンから案内を出すと言っても?」

 

断る。ハウリア族以外に頼むつもりはない

 

一切引かない彩人に同胞の助命を約束させようとアルフレリックは凄まじいプレッシャーに耐えながら提案を続ける。

 

「な、なぜ、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう」

 

ふと彩人はシアに視線を向ける。シアはずっと彩人を見上げていたので視線が合う。すぐに彩人は目線を長老達に戻したが普段とは間反対の戦士たる彩人の表情にシアは鼓動が早くなるのを感じていた。

 

約束したからだ。案内と引き換えに助ける、と

 

「……約束か。それならもう果たしたと考えてもいいのではないか? 峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう?」

 

一度決めたら最後まで守り通す、それが約束だ。良い条件があるから鞍替えするなんざ………(戦士)の恥だ

 

彩人はハジメとユエを見た。二人は知っていたように彩人に笑顔を向けていた。

 

「…最早何を言っても無駄か」

 

引かない姿勢を見せた彩人にアルフレリックは諦めたような表情を浮かべ、

 

「ならば、お前さんの奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ。……既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

 

「アルフレリック! それでは!」

 

そう話したアルフレリックに反論するゼル。しかしアルフレリックは曲げなかった。

 

「ゼル。わかっているだろう。この少年が引かないことも、その力の大きさも。ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対することになる。その場合、どれだけの犠牲が出るか……長老の一人として、そのような危険は断じて犯せん」

 

「しかし、それでは示しがつかん! 力に屈して、化物の子やそれに与するものを野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」

 

「だが……死んでは元も子もあるまい?」

 

「ぐっ………」

 

ゼルは納得行かない表情を浮かべながらも同胞が死ぬ可能性を回避したいのは変わらない為、渋々口を閉じた。

 

「……と言うわけだ。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが……」

 

「…気にしないで頂きたい。譲れないものがあるとはいえかなりの無茶振りをしていることは理解している。理性的な判断を下さった事に感謝する」

 

戦士から人に戻った彩人はアルフレリックに頭を下げたのち、席を立つ。ハジメとユエも続いて席を立つ。

亜人達は彩人のプレッシャーにやられ、ほぼ全員がぐったりとうなだれていた。

 

出発の準備をする彩人達をよそにポカーンと呆然としているハウリア族。

 

「…?何をポカーンとしてるんだ、早く行くぞ」

 

彩人の言葉で我を取り戻したハウリア達は慌てて三人の後を付いていく。

一応、アルフレリック達も門まで見送りしてくれる。

 

その途中、オロオロしながらシアが彩人に訊ねた。

 

 

「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」

 

「さっきの話の通りだ。聞いてなかったのか?」

 

「い、いえ、聞いてはいましたが……その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか……信じられない状況といいますか……」

 

シアも含めた全ハウリアが困惑していたが。

 

「素直に喜びなよ、助かったんだからさ」

 

「…ハジメさん」

 

「ハジメの言うとおり。彩人に助けられた、だから喜べばいい」

 

シアの近くに居たハジメとユエがシアに言う。シアはそれを聞いて彩人の方を見る。視線を背中に感じた彩人がシアの方に顔だけを向けて、

 

「約束、したからな」

 

「ッ………」

 

と返した。その時、シアの心臓がドクンと大きく跳ねた。

シアは〝未来視〟が使えるとはいえ未来は確実ではない。その為どこかで彩人が自分たちを見捨てるのではないかと不安しかなかった。にも関わらず彩人は自分たちを守ってくれただけでなく約束を守り通すと宣言までしてくれた。

たとえ他意が無くともユエとハジメの言うとおり、自分たちを守ってくれる存在が居ることを実感した。

その時、シアの心臓が再び大きく跳ねた。それは安堵か、それとも…。

 

シアは二人の言うとおり、喜びを行動表現することにした。

 

「彩人さ~ん!!ありがどうございまずぅ~!」

 

「ごおっ?!いきなり抱きつくなっつってんだろうが!!」

 

「…むっ」

 

「いいなぁ……」

 

絶対放さないと言わんばかりに彩人を抱き締めるシア。その笑顔は緩んでも頬は紅く染まっていた。

 

「…シア、どう?」

 

「いい感じ。でも“同盟“入りにはまだまだ遠いかな」

 

 

二人の会話は彩人のみに聞こえていた。

 

======================

 

「「「「……」」」」

 

「また、感じたね」

 

「ええ。でも、“まだ“早そうね」

 

「やっぱり彩人はスゴいなぁ、どんどん女のコ落としちゃうんだもん」

 

「僕達もそうだけどね」

 

「私達もまだ見ぬ“同志“の為にも強くならなきゃね」

 

「「「「ウフフフフフ………」」」」

 

 

「…俺、迷宮組辞めるわ」

 

「…………うん、私も」

 

 

そんな会話があったとか。




やっぱり長くなりましゅ…


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ウサギィ…戦う気になったかァ?

原作でもなかなかカオスな回。




ハー◯マン軍曹なんて筆者は分かりません。


「早速だがハウリアの皆には戦闘訓練を受けてもらう」

 

フェアベルゲンを追い出されるように立ち去ったハウリア達が拠点…もといハジメがさり気なく盗ん……貰ってきたフェアドレン水晶を使って結界を張っただけの小さな拠点にて、彩人はそう言った。

 

「えっと…なぜそのような事を?」

 

困惑するハウリアを代表してシアが質問する。

 

「・・・10日後、俺達が去った後の事を考えているか?」

 

「それは、まだ…」

 

「少なくとも君たちは逃げたり隠れたりすることしか出来ない。その状態でフェアベルゲンという隠れ家を失った以上、俺達三人が居なくなったら魔人や人間の格好の標的になる。救われた命をみすみす散らす事になる・・・それでいいのか?」

 

彩人の言葉にハッとするハウリア達。しばし考えたのち、

 

「…いいわけ、ありません」

 

「だろうな。だったら成すべき事は一つ、強くなればいい」

 

「…ですが私達兎人族は虎人族や熊人族のような強靭な肉体も翼人族や土人族のように特殊な技能も持っていません……とても、そのような……」

 

兎人族だから弱い、という固定概念で不安げになるハウリア達。そこでハジメに話を振る。

 

「ハジメ、お前が良い例だろう、話してやれ」

 

「はーい。…こう見えても私、かつての仲間から〝無能〟と呼ばれていたんだ」

 

「…えっ?」

 

規格外のアーティファクトを製作し使いこなすハジメが〝無能〟と呼ばれていたという事実に驚きを隠せないハウリア。

 

「無能も無能。ステータスも技能も一般人並だし、戦闘能力は皆無。だから私は仲間内では〝無能〟だった」

 

「・・・ちなみに俺の初期ステータスはハジメの半分。その時だけなら道行く人にも勝てねぇ。〝足手まとい〟だったな」

 

ついでに言った彩人の言葉もハウリアを混乱させた。帝国兵を一方的にボコボコにし、熊人族ですら手も足も出なかった彩人が一般人未満などとは信じられなかった。

 

「でも、奈落に落ちて強くなるために私は必死だった。これも彩人君のためな「・・・つまりは努力次第でどうにかなるかも知れないって事だ」」

 

ハジメの話が脱線しかけたので彩人が無理矢理代わる。

 

「・・・今でこそ化け物…もとい悪魔のような強さな俺でも、奈落では死にかけた。今のハウリアの状況と近い部分がある。絶望を打ち破り、自由を手に入れる手伝いは出来る。嫌なら強制はしない。だが、奴隷か死の二択の中で怯えて過ごすことになるだろうがな、君たちはどうしたいんだ?」

 

シアを含めたハウリア達は互いを見合わせたのち、決意を込めた表情を浮かべた。そして再びシアが代表して言った。

 

「やります。私に戦い方を教えてください! もう、弱いままは嫌です!」

 

「ぼ、僕も!」

 

「俺もやるぞ!」

 

「私もやるわ!」

 

「彩人殿…、宜しく頼みます」

 

シアを筆頭に次々ハウリア達が参加を表明する。それに彩人はただ一言。

 

「・・・良い返事だ」

 

という訳でシアはユエとハジメに、体術と魔力無しの彩人が残りのハウリア達を指導することにした。

とりあえず最初に渡したナイフの他に戦闘向きの小太刀を与えたが、

 

「あ、あの…もっと安全な武器は無いのですか?」

 

「・・・は?」

 

「こ、こんなのが当たったらケガじゃ済まないじゃないですか!」

 

「・・・武器は戦うためにあるんだ。安全な武器ってどんな矛盾だよ。痛いのが嫌でも相手は本気で殺しにくるぞ。家族を守りたいなら覚悟を決めろ」

 

「…わかり、ました………」

 

とりあえず武器を用いた戦闘の基礎を教え、弱い魔物と戦わせてみるが…、

 

「ああ、どうか罪深い私を許しくれぇ~」

 

「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! それでも私はやるしかないのぉ!」

 

「ふっ、これが刃を向けた私への罰というわけか……当然の結果だな……」

 

こうなる。最後のカムに至っては瀕死の魔物の反撃をうけてこの言葉なのだから命がいくらあっても足りない。

魔物を傷つける度にこんなんだからそりゃ原作ハジメもキレますわ。

 

「族長! そんなこと言わないで下さい! 罪深いのは皆一緒です!」

 

「そうです! いつか裁かれるときが来るとしても、それは今じゃない! 立って下さい! 族長!」

 

「僕達は、もう戻れぬ道に踏み込んでしまったんだ。族長、行けるところまで一緒に逝きましょうよ」

 

「お、お前達……そうだな。こんな所で立ち止まっている訳にはいかない。死んでしまった彼(小さなネズミっぽい魔物)のためにも、この死を乗り越えて私達は進もう!」

 

「「「「「「「「族長!」」」」」」」」

 

魔物を友のように扱うハウリア達。本人達にとっては本気でもこちらからしたら三文芝居ですらない。これが生き残るための戦いなんて言ったらバーダック辺りに殴り殺される。

 

「・・・あんたら本当に家族を守る気あるのか?魔物に同情していたら命がいくつあっても足りないぞ?」

 

「そうは言っても……」

 

「だっていくら魔物でも可哀想で……」

 

「・・・・・」

 

甘すぎるハウリアに彩人がストレスを募らせていると、

ハウリアの少年が何かに気付いて飛び退いた。

 

「・・・・何か、あったのか」

 

「あ、うん。このお花さんを踏みそうになって……よかった。気がつかなかったら、潰しちゃうところだったよ。こんなに綺麗なのに、踏んじゃったら可愛そうだもんね」

 

ごめんね、お花さん、と小さな花に頭を下げる少年を見て、彩人は思った。

 

『アカン、想像以上だ』

 

と。…一応、他の事も聞く。

 

「・・・さっきから変なところで跳び跳ねたりするのは花を避けるためか?」

 

「いえいえ、まさか。そんな事ありませんよ」

 

「・・・本当か?」

 

「ええ、花だけでなく、虫達にも気を遣いますな。突然出てきたときは焦りますよ。何とか踏まないように避けますがね」

 

あ、ダメだわ。と彩人は改めてハウリア達の甘さを思い知った。これは生半可な鍛え方では生き残る事は不可能だ。

…仕方ないので荒療治をする。

 

ウウウゥゥゥ・・・

 

「さ、彩人殿?」

 

ウウォォォォォアアアアアアアアアアアア!!!

 

「さ、彩人殿ォ?!」

 

某伝説のサイヤ人もどきになる彩人。

 

クズどもがぁ…その程度の覚悟で家族をまもれると思っていたのかぁ……?おまえたちが戦う意思を見せなければオレはお前達をまずカムから血祭りにあげてやる…こんな風にナァ!テヤッ

 

少年の目の前の花を粉々にする。ついでに周りの花も全滅させる。

 

「何だよぉ~、何すんだよぉ~、止めてくれよぉ彩人兄ちゃん!!」

 

花の為に家族を犠牲にするのかァ……?甘えるのもいい加減にしロットォォォォォォォ!!!またムシケラ一匹にでも気をそらしたら殺してやるぞォ…

 

帝国兵の時とは全く別の変貌にハウリア達はガタガタ震えている。

 

さっさと魔物を血祭りにあげろォォォォォォォ!生きたいのなら…戦う気になれェ!!少しでも甘さが出たら岩盤浴の刑ですYO☆

 

「が、岩盤浴…?」

 

こんな風だァ!

 

「ふおぉ?!」バヒーン ドゴォ……ン………

 

毛布はいかが?(空耳)」

 

突如出現した岩盤に叩きつけられるカム。ダメージと恐怖で気を失いかけている。一応手加減はしているがハウリア達にこの上ない恐怖を与えた。

 

戦う気になったかァ?

その場にいたハウリア全員が樹海に突入して行った。

気絶したカムに気を与えて復活させた。一睨みしたら他のハウリア達を追って逃げるように魔物を狩りに行った。




岩盤浴の第一の被害者はカムでした。


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ハウリアの“覚醒“

正直誰かを好きになる理由なんて後付けでもいいと思います(ヤケクソ)


彩人が甘さの残るハウリア達を岩盤浴させながら鍛えている裏で、シアはユエに戦闘訓練を受けさせてもらっていた。

樹海のあちこちから破壊音が響き渡る。

その音を出しているのがうら若き二人の乙女とは思えぬ規模であるが。

 

「でぇやぁああ!!」

 

主な破壊の理由であるシアが1m以上ある木をほぼ焦土と化した広場に棒立ちしているユエに投げつける。

 

「……〝緋槍〟」

 

ユエが自身に迫る木を豪炎の槍が破壊、消滅させる。

しかしそれは同時に隙となる。

 

「もらいましたよ、ユエさん!」

 

「…!」

 

瞬時にユエの背後に回ったシアがハジメに頼んでつくってもらった巨大な木槌でユエに殴りかかる。

 

「〝風壁〟」

 

だが、ユエは突風の反動で木槌の打ち付けられる場所から移動、回避した。

かわされるとは思ってなかったのか、シアは技後硬直と動揺で大きな隙を晒す。

 

「〝凍柩〟」

 

「ふぇ! ちょっ、まっ!」

 

そんな相手は格好の標的。ユエの冷凍魔法が待ったをかけたシアの意思を無視してシアの頭以外を氷で包む。

 

「づ、づめたいぃ~、早く解いてくださいよぉ~、ユエさ~ん」

 

「……私の勝ち」

 

「わぁ、凄いね二人とも」

 

シアが氷の塊になっている前でピースサインをするユエと破壊活動…もとい訓練の凄まじさを呆然と見守っていたハジメ。

シアへの訓練における最終試験としてシアがユエに一撃でもくらわせたら遊園ch…ではなく合格とする、というものだ。

 

「うぅ~、そんな~、って、それ! ユエさんの頬っぺ! キズです! キズ! 私の攻撃当たってますよ! あはは~、やりましたぁ! 私の勝ちですぅ!」

 

「え、どこどこ?」

 

「………(スッ)傷なんてない」

 

「んなっ!? 卑怯ですよ! 確かに傷が……いや、今はないですけどぉ! 確かにあったでしょう! 誤魔化すなんて酷いですよぉ! ていうか、いい加減魔法解いて下さいよぉ~。さっきから寒くて寒くて……あれっ、何か眠くなってきたような……」

 

遭難者のような振る舞いをするシアにやれやれと思いユエは〝凍柩〟を解除した。

溶けた氷から物凄く期待した瞳でユエを見つめるシア。反対にユエは不満そうである。

 

「ユエさん。私、勝ちました」

 

「………………ん」

 

「約束しましたよね?」

 

「……………………ん」

 

「え、約束って何?ユエちゃん」

 

「……………」

 

「もうハジメさん、決まってるじゃないですか!もし、十日以内に一度でも勝てたら……お三方の旅連れて行ってくれるってことですよ!」

 

「「…………」」

 

「何で二人とも嫌そうな顔をするんですかぁー!」

 

シアが三人の旅に加わりたいのは彩人への好意とユエ達と友達になりたいという思いから。ハジメとユエはシアの思いを察しているしユエにとってはシンパシーを感じる相手でもあるため加わる事自体は悪くは思っていない。

 

しかし二人の行動中心に彩人が居るため貧弱トラブルメーカーウサギ(今までは)が彩人に迷惑をかけるのではないかと思ったからだ。しかし、

 

「…どうだった?」

 

「……魔法の適性はハジメと変わらない」

 

「あちゃぁ、宝の持ち腐れだね……で? それだけじゃないよね? あのレベルの大槌をせがまれたとなると……」

 

「……ん、身体強化に特化してる。正直、化物レベル」

 

「……へぇ。私達と比べると?」

 

「……強化してないハジメの……六割くらい」

 

「え……最大値だよね?」

 

「ん……でも、鍛錬次第でまだ上がるかも」

 

「…それは確かに化物レベルかも」

 

戦闘能力自体が高めなのは事実。鍛えれば光る原石とも言える。サイヤ人が異常なだけでシアは十分戦える力を持っている。仲間にする価値はある。

 

「ハジメさん、ユエさん、私をあなた達の旅に連れて行ってくれるよう彩人さんに頼んで下さい。お願いします!」

 

「「断る」」

 

「即答!?どうしてですかぁ~!」

 

だが、それは戦力としてはアリなだけであり、二人にとっては最も重要な事がある。

 

「シアはさ、彩人君の事、好きでしょ?」

 

「な、なんで分かったんですかぁ~?!」

 

「…分かる。同じ人を好きになった。私やハジメと同じ顔をしてた」

 

「そ、それは………うう。で、でもそれになんの関係があるんですか?」

 

「「大ありだよ」」

最も重要なのは“同盟“としてのありかた、である。好意がある以上、生半可な気持ちは許されない。それらの事を語った。

 

「…つまり彩人が好きなら自分の全てを捧げる覚悟を持って欲しいって事」

 

「惚れた腫れた程度で居られるのは私達にとっても嫌だしね」

 

「し、しょんなことありません!わ、私はぁ…本気で彩人さんが………」

 

「……なら、証明してもらう」

 

「証明?」

 

「…ん、簡単な事」

 

するとユエが小さな袋を取り出した。中には何か入っているようだが外からは見えない。

 

「…この袋の中の香りの感想を言うだけ。嘘は許さない。………未来を見るのも反則」

 

「な、なんだか分かりませんが………ユエさんの目が本気ですぅ…に、匂いの感想を言えばいいんですね?」

 

「…ん」

 

シアはユエから袋を受けとると恐る恐る閉じられた袋口を開く。

 

「勿論覗くのもダメだからね」

 

「わ、分かってますよぉ…」

 

ハジメに念押しされながらシアは恐る恐る匂いを嗅ぐ。すると、

 

「ひうっ…♡」

 

シアはブルッと震えたのち女の子座りでへたりこんでしまった。

 

「…シア、どう?」

 

「な、なんれすかこれぇ…すっごくドキドキしまひゅ………こんな素敵な香り……初めてぇ………れすぅ………♡」

 

息絶え絶えになり、発情しているかのように頬を紅に染め、無意識に匂いを嗅ぎ続けるシア。

 

「ふふ…合格」

 

「…ふぇ?」

 

それを見たユエはボーッとしたままのシアから袋を取ると満足そうに言った。

 

「“可能性“はありそうだね。よし、私からも言伝てしてあげる」

 

さらにハジメも賛同する。

 

「あ、ありがとうございまひゅ………ところで、その中身はなんですかぁ………?」

 

ユエが満足そうに袋を開くと、………中には丸まったシャツが。

 

「……彩人の……脱ぎたて♡」

 

その後、声にならない声をあげるシアに「「ようこそ、こちら側へ」」とハジメとユエがシアに言ったそうな。

 

一方彩人側。

 

「ボス、言われた通り、狩ってきましたぜ」

 

「・・・あぁ、そうみたいだな」

 

彩人はハウリア達への試練としてハイベリア1体(・・)の討伐させた、はずが…

 

「多くないか?10体分位あるんだが」

 

狩った証拠としてハイベリアの尻尾を持ち帰らせたが彩人の前にあるのは数十本の尻尾(血まみれ)。

 

「ええ。一体軽ぅく仕留めたんですがね、アイツら調子にのって複数体で威嚇してきやがったんですよ」

 

「生意気な面だったからついでに始末してやったわ」

 

「へっ、狩られる覚悟も無いくせに襲おうなんざ百年早ぇってもんでさぁ」

 

アカン、バーサーカーになっとる。

サイヤ人仕込みの戦闘訓練の結果、この辺りの魔物は相手にならないレベルに達した。亜人族特有なのか、野生の本能かは分からないが、隠密行動に優れたハウリアに戦闘能力を与えた結果殺戮暗殺者集団となってしまった、戦いを恐れるよりかは生存確率は高いのだが。

 

「ボス!ご報告があります!発言の許可を!」

 

「あ、あぁ…言ってくれ」

 

「ありがたき幸せ!大樹へのルートにて武装した熊人族の集団を確認!」

 

「…ジンの事への仕返しか。目的地目前でざまぁみろをしたいようだな。その隠密行動、見事だ」

 

「はっ!、なんという勿体なきお言葉!感謝いたします!」

 

だが衝突は避けられないと彩人が考えていると、

 

「ボス、ここは我々にお任せ願えませんか?」

 

「…カム、か。初日は済まなかった……見せしめとして岩盤送りにして」

 

「いえいえ、そのお陰で目が覚めましたよ。我々がどれほど脆弱な存在に甘んじていた事に気付きましたから…だからこそ、今の我々がどれだけ奴らに通じるか試したいのですよ………なぁに、そうそうヘマはいたしません」

 

「相当な自信………やれるんだな?」

 

「勿論ですとも!」

 

「・・・なら、任せるとしよう」

 

すると、ハウリア達の雄叫びが響き渡った。

 

「いくぞ野郎共!!」

 

「YA-HAaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

「・・・加減って大事なんだな」

 

その後、大樹へのルートに待ち構えていた熊人族に不意打ちで襲いかかったハウリア族の猛攻で戦闘最強種の熊人族は満身創痍、四面楚歌に陥った。

 

「ど、どうなってるんだ、こいつら本当に兎人族なのか?!」

 

「ヒャッハァ!だらしねぇなぁ!この程度かよ!」

 

「く、最強種を舐めるなよ………って当たらん!」

 

「へっ、力任せの攻撃なんざ当たるかよ!」

 

「こうなれば、皆引け!ここは私がシンガリを……ギャアアアアア!」

 

「お前達が戦う意思を見せなければ俺はお前達を破壊し尽くすだけダァ!」

 

ついに熊人族側のリーダーが膝をついた。

 

「ぬぅ…我々の敗けだ………ハウリアの族長よ、我はどうなっても構わん、だが部下は見逃してくれ、この通りだ!」

 

リーダーの土下座に対してカムは、

 

「断る。貴様らは敵だ、敵は倒さねばならぬ。だがそれ以上に、貴様らを狩るのは楽しい!!!!!」

 

狂喜に満ちた顔でリーダーに手に持ったナイフでトドメを差そうとするが、彩人に止められる。

 

「…何故止めるのですか?ボス………いえ彩人殿」

 

「・・・忘れているようだからもう一度言う。俺は生きるため、家族を守るために力を付けさせた。だが、殺戮を楽しむ今のお前らは………あの“帝国兵“とそっくりだ。そんな顔をシアに向けられるのか?」

 

「………っ!!」

 

カムはハッと我に帰り膝から崩れ落ちた。

 

「初の対人戦としては上出来だ。だが少なくともお前達には真の外道(クズ)になって欲しくはねぇ。…もう少し加減をするべきだった、申し訳ない」

 

「…彩人殿、それはこちらにも非があります。再び、教わってしまいましたな」

 

「……気付けたならそれでいい」

 

彩人は熊人族に向き直ると、

 

「…早急にここを去ると良い。今あった事を出来ればそのまま伝えて欲しい。相違があっても構わないが、その時は樹海が焦土と化すだけだが………宜しいか?」

 

「…………………ありのままをお伝えする事を誓おう」

 

脅しも交えて熊人族を見逃した。

その一方で外れてはいけない一線を越えかけた為青ざめてしまうハウリア族。

 

「ボス、申し訳ない。俺達こそ調子に乗りすぎていたようだ」

 

「帝国兵と同じ事をしかけていたわ…」

 

「すまねぇ、兄貴…いや、ボス、軟弱さを克服するためとはいえ出過ぎた真似をした」

 

「・・・まぁ、強ぇ力ってのは溺れやすいモノだからな。俺の一言で気付けたならそれでいい。これからはそこら辺の精神力も鍛えな」

 

「「「「「「「「「イエス、ボス!」」」」」」」」」

 

「…これで俺もサル山の大将、か・・・」

 

目の前で跪くハウリアを見て呟く彩人だった。



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迷宮攻略などとその気になっていたお前らの姿はお笑いだったぜ

ヤンデレと変態の境目が分からぬ。




お気に入り数が400超えてた。
こんなのでもお待ちしていただけるのが本当に嬉しいです。


カオスな10日間が過ぎたのち、「ボス、霧の様子を見てきます!」というハウリア達を見送ってしばらく一人となっていた彩人だが、

 

「あ、彩人さ~ん」

 

そこにシアが現れた。

その後ろからやたらと目を光らせているハジメとユエも一緒である。

 

「・・・訓練は終わったようだが、何があったし」

 

「…内緒」

 

「それよりも、ほらシア、言わなくていいの?」

 

「え、あ…そうでした。そ、その、彩人さん!実は「ボス!大樹の周りの霧が弱まってきてますぜ」………と、父様?!」

 

シアが彩人に何か言おうとしたが樹海の様子を探りに行ったカムが報告に戻って来たため話は中断された。

 

「ど、どうしたんですかそれは!」

 

「む?おお、シアか。私だけではない、我らハウリア族は彩人殿…もといボスのお陰で生まれ変わったのだ」

 

「本当に何があったんですかーー!?」

 

…一応、精神安定の訓練を行わせたお陰か原作ほど中二病化はしていないが以前の優しげな雰囲気から一転、戦闘民族と差し支えない戦闘向きの外見にシアは驚きを隠せない。

 

「彩人さん、何をしたんですかぁ?!」

 

「サイヤ人流戦闘訓練の結果。……霧が弱まったようだな、今からでも案内を頼めるか?」

 

「何なりとお任せを!」

 

「…そうか。シア、話は後でもいいか?」

 

「え?………あ、はい…………」

 

「そうか、ならば迷宮へ向かうか」

 

ハウリア達の案内で薄くなった霧の中、樹海を進んでいく。

 

「…シアの特訓の方は」

 

「…ん、魔法適正はハジメと同じくらい。でも身体強化に優れてる。鍛えれば化ける可能性を秘めてる」

 

「強化していない私の6割位…。荒削りだけど仲間にする価値はあるよ」

 

「なんか意外だな。二人がそこまで推すなんて」

 

「…ん、戦力としては申し分無い。それに、「私達と一緒」」

 

「“何が“一緒なのかは聞かないことにしよう…二人はそれでいいのか?」

 

「「いい(よ)」」

 

「…そうか」

 

何かサムズアップして太鼓判をおす二人。どのみちシアが強くなるのなら連れていくつもりだったが…。

 

「ボス!大樹が見えてきました!」

 

「そうか、案内ご苦労様。しかし油断大敵だ」

 

そしてたどり着いた大樹は………見事に枯れていた。

フェアベルゲン建国前から枯れているのだが朽ちる事はなく、霧も重なっていつしか神聖なものとされたらしい。

 

「大樹以外には、この石板位しかありませんな」

 

カムが言及した石板には石版には七角形とその頂点の位置に七つの文様が刻まれておりオルクスの扉に刻まれたものと同じだった。

 

「…これ、オルクスの指輪の文様と同じ」

 

「みたいだな。ハジメ、指輪を」

 

「おっけー、…お、光ったよ」

 

ハジメが指輪を文様の所に押し当てると淡い光と共に次の文章が現れた。

 

〝四つの証〟

 

〝再生の力〟

 

〝紡がれた絆の道標〟

 

〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

「…?どういうことだろう」

 

「四つの証ってのは別の迷宮の攻略の証だろう、その指輪みてぇな」

 

「再生の力………私の再生能力ではないみたい。再生にまつわる神代魔法?」

 

一応ユエが石板に触れてみるが変化はない。

 

「…いずれにせよ、今すぐ攻略は出来ないようだな」

 

「後三つの証を探せって事かな」

 

無駄足に終わったがハウリアを鍛えないと後で困るので完全に無駄とはならないのだが。

 

「………えー、という訳で俺達は別の迷宮攻略を行う事にする。大樹への案内も済んだ以上、警護はここまでだ。今のお前らならフェアベルゲンの加護無しでも生きていけるだろうお前らとはここでお別れだ」

 

「あ、あの!彩人さん!お願いがあります!」

 

「…シア、どうせ付いてきたいとでも言うんだろう?」

 

「あ、そ、そうです!でも何で分かったんですか?」

 

「ハジメとユエの推薦だ。…二人が認めた以上、付いてきても構わないが……危険だぞ?樹海の比じゃない強敵が出てくる可能性が非常に高い」

 

「し、承知の上です!どんなに危険であっても足手まといにはなりません!」

 

「…それだけの力なら家族を守れるんじゃないか?」

 

「先程父様と話し合いました。“それでも“です」

 

「俺達の目標は元の世界への帰還。二度と家族に会えんかもしれないぞ」

 

「それも承諾済みです」

 

「…何故そこまで付いてきたいと願う?」

 

答えは察しているが本人の口から言わせる。

 

「さ、彩人さんの側に居たいからです!す、しゅきなんですぅ!」

 

「・・・」

 

大事な所で噛んじゃった!、と焦るシアの後ろでハジメがカッツポーズし、ユエがドヤ顔をしているが話を続ける。

 

「…女性二人を侍らせてるような甲斐性なしに惚れるかねぇ。窮地を救われた恩義や勢いじゃないのか?」

 

「…っ、確かに似た境遇を持った人と会えましたしそれが無いとは言えません。でも、人を好きになるのに理由は要りません!!」

 

「・・・(ウソは付いてなさそうだが…)」

 

念のため気を探るも感じるのは善意。

 

「何といわれようとも私は付いていきます!許可は既にいただいてますし!」

 

「…まぁ、付いてくるなとは言ってない。惚れる理由が分からんだけだ」

 

「今はそれでも構いません!私の思いが本気であることをこれから嫌というほど教えてあげますから!」

 

「…そうかい、好きにしな」

 

あまりにも真っ直ぐな眼差しに彩人はこれ以上の問答は無駄だと判断した。

喜ぶシアの後ろで期待の眼差しを向けるハウリアに言う。

 

「…まさかお前らも付いてきたいと言うんじゃないだろうな」

 

「いいえボス、今の我々はまだまだ未熟です。ボスの期待に応えられるだけの強さを得るためここで修行しながらお待ちしております」

 

「…いつかは付いてこれるといいなぁ………」

 

「そして、娘を頼みます、彩人殿」

 

「…承知した」

 

こうしてハウリア達の見送りを受けて樹海を去ることに。

 

「…それで次の目的地は何処ですか?」

 

先程と同様、ハジメとユエが魔動二輪にニケツ、サイドカーにシア、彩人は舞空術。

 

「ライセン大峡谷に行こうと思ってるが」

 

「まぁここからならそこが一番近いからね」

 

「ライセン大峡谷…ですか………」

 

どこか不安そうなシア。

 

「…シア、もう少し自分に自信を持つべき」

 

「うぅ~」

 

「魔力が分解される以上、まともに戦える力を持ってるのはシアと俺位だ。俺の背中を任せようと思ったが…そんなんじゃダメだな」

 

「…!!い、いえ!このシア・ハウリアにお任せを!!」

 

「…お、おう」

 

期待されてると分かった瞬間にこの変貌。本当に何が彼女をここまでさせるのだろうか。

 

「でしたらこのまま向かうのですか?」

 

「…その前にこの先の街で準備する。準備もあるしもうそろそろ魔物肉はうんざりだ」

 

「はぁ~そうですか……よかったです」

 

なぜかホッとするシア。

 

「ライセン大峡谷でも魔物の肉をバリボリ食べて満足しちゃうんじゃないかと思ってまして……まともな料理を食べれるんですね!」

 

「人の事何だと思ってる」

 

「プレデターという名の新種の魔物?」

 

「「誰が魔物だって?」」

 

「ひいッ!ハジメさんはともかくユエさんには言ってませんよぅ!」

 

「「それは彩人(君)への侮辱ってことでいいんだよね?」」

 

「」

 

いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…

 

再びシアの叫びがこだましたのだった。

その後日が暮れる頃に町に着いたがシアは白目を向いて失神していた。



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ブルックの町でもいかがかな? 前編

ブルックの町という訳だァ!


町も門が近づいてきたので騒ぎを避けるため魔動二輪を〝宝物庫〟にしまって徒歩に切り替える。魔動二輪を気に入ったシアが不満そうだったが。

門に近づくと門番の詰所と思われる小屋から武装した兵士が現れた。ごく簡素な装備だが、兵士は四人を呼び止めた。

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

 

「主に食料の調達で。旅の途中なんだ」

 

兵士がふむ、と相槌をうちながらステータスプレートを確認する。ハジメに頼んで隠ぺい済みなので兵士は特に何も言わなかった。

 

「それで、そちらの二人・・・・」

 

兵士が彩人とハジメのプレートを確認したのちユエとシアに視線を向ける。・・・芸術的な美少女のユエと外見上は神秘的なシアに心奪われていた。

 

「魔物の襲撃のせいで、こっちの子のは失くしてしまって・・・。こっちの兎人族は…察してほしい」

 

「そ、そうか・・・・。それにしても随分な綺麗どころを手に入れたな。白髪の兎人族なんて相当レアなんじゃないか? あんたって意外に金持ち?」

 

そういう事ではないのだが・・・、適当にはぐらかして門をくぐる。

資金収集のために素材の換金場所を聞き冒険者ギルドで聞けばいいという情報を得てギルドへ向かう。

 

ホルアドほどではないにしろ露店がひしめく生活の喧騒は彩人とハジメにどこか安心感を覚えさせ、ユエは表情は崩さないが新たな景色に目を輝かせていた。

・・・シアだけは不満そうにしていたが。

 

「・・・なんでそんな不満そうなの、シア」

 

「この首輪! これのせいで奴隷と勘違いされたじゃないですか! ハジメさん、わかっていて付けたんですね! うぅ、酷いですよぉ~、私達、仲間じゃなかったんですかぁ~」

 

ハジメに付けられた首輪が気に入らないらしい。奴隷用ではないが疎外感を感じるからだそう。

彩人が一応フォローする。

 

「・・・シア。お前は愛玩用として人気高い上に珍しい白髪の兎人族な上に容姿端麗、スタイルも抜群・・・そんなのがうろうろしてたら格好の標的だぞ?いつ誘拐されてもおかしくな・・・・・なんで顔を赤らめてクネクネしてるんだ」

 

彩人のフォロー中に照れたように頬を赤らめイヤンイヤンし始めた。

ユエとハジメも顔が若干引きつっている。

 

「も、もう彩人さんってばこんな公衆の面前でいきなり何言い出すんですかぁ。そんな、容姿もスタイルも性格も抜群で、世界一可愛くて魅力的だなんてぇ、大丈夫ですよぉ~私はすでに彩人さんのモn・・・ぶげら!?」

 

「…時と場合をわきまえて」

 

ユエの容赦ない一撃が入る。

 

「気持ちは分かるけど今じゃないでしょ?」

 

ハジメもシアに説教する。ツッコミ所はあるのだが。

 

「うう、ごめんなさい…彩人さん」

 

「・・・分かったならいい」

 

仲間への強い憧れからそう割り切れない様子のシア。しかし・・・

 

「……有象無象の評価なんてどうでもいい」

 

「ユエさん?」

 

「大切な事は、大切な人が知っていてくれれば十分。でしょ?」

 

「………ハジメさん………そう、そうですね。そうですよね」

 

「……ん、シアは私達が認めた相手……小さい事気にしちゃダメ」

 

「……ユエさん、ハジメさん……えへへ。ありがとうございますぅ」

 

ハジメはともかくユエとシアは境遇がかなり近いのでシアは元気を取り戻していた。

 

「まあ、仮に奴隷じゃないとバレても見捨てはしない」

 

「街中の人が敵になってもですか?」

 

「・・・既に帝国兵とだって殺りあっただろ」

 

「じゃあ、国が相手でもですね! ふふ」

 

「何を今更。俺は世界どころか神の敵だ。手を出そうと言うのなら何であろうと吹っ飛ばす」

 

「くふふ、聞きました? ユエさん、ハジメさん。彩人さんったらこんなこと言ってますよ? よっぽど私達が大事なんですねぇ~」

 

「知ってるよ、彩人君の事だもん」

 

「…ん、それが彩人の素敵な所の一つ」

 

一歩リードしているような二人の発言にシアがムッとするがその瞳は嬉しそうだった。いざとなれば、自分のために世界とだって戦ってくれるという言葉は、やはり一人の女として嬉しいものだ。まして、それが惚れた相手なら尚更であろう。

 

「あ、そうそう、その首輪、念話石と特定石が組み込んであるから、必要なら使って。直接魔力を注げば使えるからね」

 

「念話石と特定石ですか?」

 

念話石は生成魔法により〝念話〟を鉱石に付与しており、込めた魔力量に比例して遠方と念話が可能になり、特定石は、生成魔法により〝気配感知[+特定感知]〟を付与したもので魔力量に比例してビーコンの機能を得る。

 

「ちなみにその首輪、きっちり特定量の魔力を流すことでちゃんと外せるからね」

 

ハジメの説明を聞いていたシアが彩人に気を扱えるのにコレを作らせた理由を聞いた。

 

「気ですぐに探せるとはいえ危険は無いに超したことは無い。ハジメに頼んでおいて良かった。俺は錬成できないからな」

 

「つまりこれはいつでも私の声が聞きたい、居場所が知りたいって事ですね・・・?ふふっもう彩人さんってばこんな回りくどい事しなくてもずっと一緒に居ますってばぁ~でも彩人さんに拘束されるのは悪くありませ・・・ごべばっ!?」

 

「だから自重してって言ってるでしょ?」

 

「…聞き分けなさすぎ」

 

「ぐすっ、ずみまぜん」

 

ハジメとユエのお仕置きと説教がありつつも冒険者ギルドにたどり着いた。ホルアドの物よりは小規模だが、重厚な扉を開くとギルド内は清潔感ある内装だった。入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっているようだ。

当然彩人達に注目が集まる。ユエとシアが規格外なだけでハジメも十分美少女であるため周りの男性冒険者の視線が彼女達に集中し、見惚れて恋人なのか女冒険者に殴られている者もいた。

以外にもちょっかいをかけてくる者は居なかった。

 

カウンターに行くとニコニコと人のよさそうな笑顔を浮かべたおばちゃんが居た。ベテランの風格がある。

 

「そんなに可愛い子達引き連れてるのにまだ足りなかったのかい? 残念だったね、美人の受付じゃなくて」

 

「・・・そんな期待はしてませんが」

 

「あはははは、女の勘を舐めちゃいけないよ? 男の単純な中身なんて簡単にわかっちまうんだからね。あんまり余所見ばっかして愛想尽かされないようにね?」

 

「常に心に留めておきます」

 

その後、年取るとつい説教臭くなっちゃってねぇ~とおばちゃんに謝罪され、周りの冒険者達に同情の目を向けられた。ベテランなのは間違いないようだ。

 

「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」

 

「ああ、素材の買取をお願いします」

 

「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」

 

「承知しました、こちらを」

 

「ん?あんた冒険者じゃないみたいねぇ、買取にステータスプレートは不要だけど冒険者と確認できれば一割増で売れるんだけどねぇ」

 

ギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするよ、とつづけてきたので登録しておくことにした。

 

「どうする? 登録しておくかい? 登録には千ルタ必要だよ」

 

ルタとはこの世界の通貨であり青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなる。価値自体はこっちの世界と変わらない。

 

「せっかくだから登録させてもらいます。連れの一人ももってますのでそちらと合わせて。・・・ですが持ち合わせがないので査定額からの差し引きでお願いできますか」

 

「可愛い子三人もいるのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」

 

面目ないがおばちゃんのご厚意に甘えることにした。ハジメと一緒に隠ぺい済みのステータスプレートを渡す。ユエとシアの分は断った。

返ってきたステータスプレートには今までの職業とは別に〝冒険者〟の表記と青い点が追加されていた。

 

「えへへ、彩人君とお揃い♪」

 

ハジメが嬉しそうにしている。その背後で羨ましそうにユエとシアがハジメを見ている。

これは冒険者のランクで通貨の色と同じ価値となる。非戦闘系の限界は黒らしいが。

 

「男なら頑張って黒を目指しなよ? お嬢さん達にカッコ悪いところ見せないようにね」

 

「え、ええ。それで、買取はここで行えますか?」

 

「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」

 

そして前もって出しておいた獲物袋から中身をとりだし、並べていく。

 

「とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海の魔物だね?」

 

「ええ、そうです」

 

一瞬ここで奈落の魔物出したらどうなるか考えたが騒ぎになるのも面倒なので樹海の魔物にした。

おばちゃんの反応から、やはり珍しいらしい。

 

「樹海の素材は良質なものが多いからね、売ってもらえるのは助かるよ」

 

やはり霧の影響で好き好んで樹海に入る者は居ないため珍しいそうだ。一瞬おばちゃんの視線が彩人の背後に居たシアに刺さり、シアに頼ったと判断されたらしく特に言及はされなかった。

 

それからオバチャンは、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は四十八万七千ルタ。結構な額だ。

 

「これでいいかい? 中央ならもう少し高くなるだろうけどね。」

 

「いえ、この額で構いません」

 

こうして資金を得ることは出来た。異様に硬貨が軽いのが気にはなったがかさばっても〝宝物庫〟があるので問題はない。

 

「そういえば門番の方からこの町の簡易な地図を貰えると聞いたのですが・・・」

 

「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 

そして渡されたマップは精工かつ分かりやすく店の説明もしっかりとしている。おおよそ無料でもらっていいモノではなかった。

 

「このマップ、十分お金が取れますよ、無料でいいんですか?」

 

「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」

 

超人すぎる。彩人はそう思った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その二人もそうだけどそこの白髪のお嬢さんも十分さね。そんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」

 

「お心遣い、ありがとうございます」

 

お礼を言ってギルドを去っていく彩人達。食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後までユエとシア、ハジメの三人を目で追っていた。

 

「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね……」

 

後には、そんなオバチャンの楽しげな呟きが残された。



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ブルックの町でもいかがかな? 後編

続き。



おばちゃんから貰ったガイドマップを頼りに、〝マサカの宿〟に来てしまった。しかし入浴可能なのと防犯性を考えるとここしかなかった。宿に入るとやっぱり美少女三人に向かって視線が集中する。それらを無視して、カウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。

 

「いらっしゃいませー、ようこそ〝マサカの宿〟へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」

 

「宿泊だ。このガイドブック見て来たんだが、記載されている通りで宜しいか?」

 

ガイドマップを見せると女の子は気づいた様子。

 

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

 

「(知ってた。)一泊、食事つき、風呂も頼む」

 

「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」

 

表を見たのち、無駄だと薄々感じているものの男女別で二時間とした。女の子が驚いた表情をしたが気のせいだろう(白目)

 

「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 二人部屋と三人部屋が空いてますが……」

 

好奇心丸出しの表情で続けてくる。周りも聞き耳を立ててくるので彩人は落ち着かない。

 

「三人部屋で、頼む」

 

周囲がザワッとなった。女の子も少し頬を赤らめている。彩人はこの先の展開を知っているが今の状況ではこの発言は不味かった。

 

「……こ、この状況で三人部屋……つ、つまり四人で? す、すごい……はっ、まさかお風呂を二時間も使うのはそういうこと!? お互いの体で洗い合ったりするんだわ! それから……あ、あんなことやこんなことを……なんてアブノーマルなっ!」

 

女の子はトリップしていた。見かねた女将さんらしき人がズルズルと女の子を奥に引きずっていく。代わりに父親らしき男性が手早く宿泊手続きを行った。部屋の鍵を渡しながら「うちの娘がすみませんね」と謝罪していたが、「気持ちは分かる」と言いたげな表情だった。

 

「彩人君・・・とうとうその気に・・・?」

 

「…ん、私達はいつでもウェルカム」

 

「さ、彩人さんに私の処女を・・・!父様、私今夜オトナになりますッ!」

 

「アカン」

 

後悔先に立たず。当然周りからは嫉妬の視線が。彩人は部屋番号を確認したのち逃げるようにトリップ仕掛けている三人を抱えてそのまま部屋のベッドへ三人を放り込み、備え付けのソファーで現実逃避のため念仏を唱え続けていた。食事でも好奇の視線やめちゃくちゃ顔を赤くした宿の女の子が「先程は失礼しました」と謝罪しながら給仕にやって来たけど好奇心を隠せてなかったまなざしで集中できなかった。

 

ストレスと腹を満たして風呂に入れば予感通りハジメ、ユエ、シアが風呂に突入してきた。

 

「彩人さん!私の心の準備はオーケーです!いざ、オトナの階段を登りましょ「断る」何故ですかぁ~!」

 

「そういうつもりじゃないし」

 

「・・・まぁ、そんな気はしてたよ」

 

「…ん、誘うならもっとストレート」

 

「え、二人共気づいてたならなんで言ってくれないんですかぁ!」

 

「"同盟"なら彩人君の事を察するのが基本だよ」

 

「…まだまだ修行が足りない」

 

「むう~・・・」

 

「それに、自分からよりも彩人君から求められる方がドキドキしない?」

 

「・・・します!」

 

「…同志」

 

「ねぇ本人の前で言っちゃうの?」

 

「だって前にも言ったもん」

 

「・・・ソウデシタ」

 

「私達しかいないときだけ君にアピールするの。だから・・・」

 

ハジメはスタスタと入口に歩いていき、ガラッと開く。そこには、

 

「ひゃいッ?!」

 

「覗きは、ダメだよ?」

 

宿の女の子がそこに居た。この後女の子は女将さんに尻たたきの刑に処されたとか。それを見たシアが「精進します!」とか言っていた。

夜寝るときに、彩人はソファで寝ようとしたがユエが誘惑してくるわシアが捨て犬みたいなまなざしで「彩人さんのぬくもりがないと眠れませぇん」とか言ってきた・・・・。

 

「ソファじゃ体が痛くなっちゃうよ。私、やることがあるからソファ使いたいな~」

 

「・・・・・・・・」

 

渋々ベッドに向かう。待ってました!とばかりにユエとシアが両腕に抱き着く。右腕のユエの柔らかと左腕のシアの双丘で頭が沸騰する彩人。

 

「お腹は私・・・早く作ろうっと」

 

ハジメの言葉を聞きながら疲れと現実逃避で眠る彩人だった。

次の日、彩人が起きるとやっぱりお腹の上にハジメが乗っかっていた。

 

「・・・すんごいデジャヴ」

 

ストレスと眠りが浅かった事から彩人は朝食の後、ハジメ達にお小遣いを渡したのちに二度寝した。

ハジメ達はやりすぎたと気づいて謝罪したのちお買い物へ行くことにした。彩人を休ませるためでもあるが・・・

 

私達にお手付きしようとするクズをあぶりださなきゃね

 

…間男死すべし慈悲は無い

 

彩人さん以外に変な目で見られたくありませんが・・・釘は刺しておきましょうか

 

三人は彩人以外の異性(人間族)の卑猥な視線にうんざりしていたのだ。

一応無防備を装いながらおばちゃん改めキャサリンさんのガイドマップをもとに衣服の購入できるとある店に来た。品揃えは素晴らしいのだが三人に前に現れたのが、

 

「あら~ん、いらっしゃい♥可愛い子達ねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん♥」

 

身長二メートル強、全身に筋肉という天然の鎧を纏い、劇画かと思うほど濃ゆい顔、禿頭の天辺にはチョコンと一房の長い髪が生えており三つ編みに結われて先端をピンクのリボンで纏めている、化け物のような店員だった。

 

ハジメ達は硬直した。シアは既に意識が飛びかけていて、ユエとハジメは奈落の魔物以上に思える化物の出現に覚悟を決めた目をして

いる。

 

「あらあらぁ~ん? どうしちゃったの三人共? 可愛い子がそんな顔してちゃだめよぉ~ん。ほら、笑って笑って?」

 

言いたいことは山ほどあるが三人は本能的に逆らってはならないと感じていた。・・・が、とうとうユエが禁断の言葉をはっしてしまった。

 

「……人間?」

 

「だぁ~れが、伝説級の魔物すら裸足で逃げ出す、見ただけで正気度がゼロを通り越してマイナスに突入するような化物だゴラァァアア!!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 ユエがふるふると震え涙目になりながら後退る。ハジメは立ったまま意識を失い、シアは、へたり込み……少し下半身が冷たくなってしまった。

 

「いいのよ~ん。それでぇ? 今日は、どんな商品をお求めかしらぁ~ん?」

 

ユエが辛うじて絞り出した声でシアの服を買いに来たといったおかげか化物改めクリスタベル店長がシアを連れて店の奥へ。粗相をしてしまったのに気づいており着替え場所を提供するためだ。結果として店長の見立ては素晴らしく、シアも満足していた。

 

「いや~、最初はどうなることかと思いましたけど、意外にいい人でしたね。店長さん」

 

「怒らなければ意外と愛嬌あるし、センスも凄かったし」

 

「ん……人は見た目によらない」

 

「だね」

 

「ですね~」

 

そのまま道具屋へ向かう三人。当然目立つ彼女達に何もないはずもなく、多くの男性冒険者に囲まれていた。三人はシカトして買い物を続けていたが、一人の男が三人に話しかける。

 

「ユエちゃんとシアちゃん、そしてハジメちゃん・・・かな?」

 

「…合ってるけど、何か?」

 

ユエのやや素っ気ない返答にも動じず三人の前に並んで立つと、

 

「「「「「「ユエちゃん、俺と付き合って「断る」」」」」」」

 

「「「「「「ハジメちゃん、俺と付き合って「嫌だ」」」」」」」

 

「「「「「「シアちゃん! 俺の奴隷になれ!!「お断りします」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

無論瞬殺。しかも名前を聞かれているときから三人は一切男性の方を見ていない。眼中にありませんと言わんばかりの態度でほとんどの男が崩れ落ちるが諦めの悪い奴はいる。

 

「なら、なら力づくでも俺のものにしてやるぅ!」

 

いつぞやのル〇ンダイブでユエにとびかかる男。

 

「〝凍柩〟」

 

はい、氷の塊です。もちろんこの時も見ていません。・・・が、ユエは氷が落ちた音の方向にやっと体を向けて氷達磨の男に近づく。

男は嬉しそうな顔をするが、

 

「ユ、ユエちゃん。いきなりすまねぇ! だが、俺は本気で君のことが……あ、あの、ユエちゃん? どうして、その、そんな……股間の部分だけ?」

 

男は最悪の結果を予感しユエに話しかける。

 

「まさか、ウソだよね? そうだよね? ね?」

 

黙れ、漢女(おとめ)になれ

 

男の股間へと無慈悲に放たれる風の礫。周りの男性が股を押さえて怯えている。男のムスコが無念の内に亡くなられた。後にこの男が第二のクリスタベル、マリアベルちゃんとなるのだが・・・。

 

「…これは警告。次は無い」

 

そう告げるとユエはハジメとシアと共に去っていった。道中、女の子達が「ユエお姉様……」とか呟いて熱い視線を向けていた気がするがそれも無視して買い物に向かった。

 

・・・その後、催眠やら昏睡やら惚れ薬や媚薬で強引にコトに及ぼうとした悪漢やおっさんが居たそうだが、数時間後に彼らの姿を見たものは・・・・居なかった。

 

――――――――――――――――――――――

 

「彩人君、ただいま。ちゃんと休めた?」

 

「…ただいま。彩人、眠れた?」

 

「ただいま戻りましたぁ!」

 

「お、おぉ・・おかえり。何とか体は休まったよ。それはそうと街でなんかあったみたいだが・・・大丈夫だったか?」

 

「「「ちょっとお掃除して(まし)た」」」

 

「・・・・(察し)、そ、そうか・・・」

 

出発準備は整ったが先行きが不安すぎる、と彩人は思った。




むしゃくしゃして書いた。後悔はしていない。


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ライセン大迷宮~フューレン
ライセン大迷宮の調査DA☆


ヤンヤン度合いのアンケートが拮抗してて反応に困る。


ライセン大峡谷に死屍累々の光景が広がっている。

 

「一撃必殺ですぅ!」

 

ズガンッ!!

 

「……邪魔」

 

ゴバッ!!

 

「うざい」

 

ドパンッ!!

 

「どきな」

 

ボヒュッ

 

もちろん魔物を血祭りにあげながら魔動二輪で爆走するハジメ達、と空爆しまくっている彩人である。

ブルックの街(ユエ、シア、ハジメの親衛隊他に見送られた)を出発しライセン大峡谷に着いた時の横穴を通り過ぎさらに進んで野営も挟みつつ四人は進んでいく。

ライセン大峡谷では相変わらず魔物(ザコ)が死にに来たか状態で無双する四人によって蹂躙された魔物の死体だけが転がっていた。

手がかり無しで峡谷を進んでいるので入口どころか洞窟すらない。

 

「こんな広い峡谷のどこかってだけじゃそう簡単には見つからないよね…」

 

「まぁ、大火山に行くついでなんですし、見つかれば儲けものくらいでいいじゃないですか。大火山の迷宮を攻略すれば手がかりも見つかるかもしれませんし」

 

「まぁ、そうなんだけど……」

 

「ん……でも魔物が鬱陶しい」

 

「あ~、ユエさんには好ましくない場所ですものね~」

 

下の三人から愚痴がこぼれる。そこから数日間走り続け、とある晩の事。

神代魔法をフル活用してハジメが作った野営のテントや調理器具でシアの料理を堪能し、夜の見張り中にソレは来た。

 

「あ、あの~彩人さん」

 

「ん?交代はまだだぞ?」

 

「い、いえ・・・ちょっと、お花摘みに」

 

「・・・行ってきな」

 

シアがそう言って去っていったその直後。

 

「み、皆さん!!!大変ですぅ! こっちに来てくださぁ~い!」

 

「!?」

 

唐突にシアの声が響き渡った。

テントからシアの声で起きたハジメとユエも彩人に続いてシアの所へ行くと壁面と一枚岩の隙間の近くでシアが三人を呼んでいた。

そこに刻まれた文字を見て彩人達は目を丸くした。

 

おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪

 

「これ、どう見ても入口ですよ! 大迷宮の! おトイ……ゴホッン、お花を摘みに来たら偶然見つけちゃいまして。いや~、ホントにあったんですねぇ、ライセン大峡谷に大迷宮って」

 

ドヤ顔で話すシアを無視し彩人達は困惑する。

 

「ツッコミ所が多すぎるが二人共、ここが迷宮だと思うか?」

 

「・・・・・・・・・・・・思う」

 

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

「凄い間が空いたな・・・分からなくもないが、根拠は?」

 

「「ミレディ(・・・・)」」

 

「そこなんだよなぁ」

 

ふざけた入口だがミレディ・ライセンという名はオスカー氏の手記に書かれていたもので〝ライセン〟は知られているが〝ミレディ〟というファーストネームは知られていない。迷惑の入口の可能性は非常に高いのだが外装がふざけにふざけているのでハジメとユエは困惑し彩人は(こういう人だったなぁ・・・)と苦笑いしている。

 

「でも、入口らしい場所は見当たりませんね? 奥も行き止まりですし……」

 

三人の感情に気づくことも無くシアがあちこち壁を触っていると。

 

ガコンッ

 

「ふぎゃっ」

 

…パタン

 

シアがどんでん返しで岩壁の中へ。

 

「・・・どうやら本当らしい」

 

「「……」」

 

ユエとハジメは無表情で固まっていた。「オルクスの苦労を返せ」と言わんばかりの目だ。

とりあえずシアが触れた所を触ってどんでん返しをくぐる。

 

ヒュヒュヒュッ 

 

中は当然真っ暗なのだが闇を裂くような風切り音がひびく。〝夜目〟によってその正体は見抜いている彩人が飛んできた矢を全てキャッチする。

と同時に部屋が明るくなり奥に道が続いていた。その部屋の中央に石板があり、こう書かれていた。

 

ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ

 

それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ

 

「「「・・・・」」」

 

沈黙する三人。特にユエとハジメが「うぜぇ~」と言わんばかりの不快そうな表情に。

彩人に至っては生き死にを笑う事が「引くわ~」と戦慄していた。

 

「・・・そういえばシアが」

 

彩人が気づいてシアを探そうとするがユエに止められる。

 

「…後ろ。でも見ちゃダメ」

 

「・・・流石にこれは・・・・・」

 

「うう・・・ありがとうございますぅ・・・・」

 

ハジメが〝宝物庫〟からシアの着替えを取り出している。・・・・多くは語らないことにした。

 

「……あれくらい何とかする。未熟者」

 

「面目ないですぅ~。ぐすっ」

 

二人の世話になるシア。着替え終わったのでいざ攻略・・・の前に石板に気づいたシアがハジメから与えられていた新武器、大槌ドリュッケンで石板を粉砕する。と、砕けた石板の跡、地面の部分に何やら文字が彫ってあり、

 

ざんね~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~プークスクス!!

 

「ムキィーーーーー!!」

 

余計にブチぎれるシア。

怒りに任せてドリュッケンを振るう振動を感じながら残る三人は、

 

「ミレディ・ライセンだけは〝解放者〟云々関係なく、人類の敵で問題ないね」

 

「……激しく同意」

 

「これでも〝解放者〟なんだよなぁ・・・」

 

オルクスとは別の厄介さを感じていた。

 

_____________________

 

 

何より厄介なのは魔力散霧がより顕著でありユエの負担が凄まじくハジメも〝空力〟や〝風爪〟などの体の外部に魔力を形成・放出するタイプの固有魔法は全て使用不可となっており、頼みの〝纏雷〟もその出力が大幅に下がってしまっている。ハジメの銃器は火薬のみの火力となっている。

その為そもそも影響を受けない彩人と身体強化に特化したシアの二人が要となっている。彩人はともかくシアは・・・

 

「殺ルですよぉ……絶対、住処を見つけてめちゃくちゃに荒らして殺ルですよぉ」

 

バーサーカー化しかけている。もしや兎人族自体戦闘民族の可能性を秘めているかもと考えてしまうほどの変貌だが気持ちは分かる。

 

そもそも完全物理トラップの温床で魔力や気の探知が出来ない。

・・・彩人が破壊するので問題はなかったが、それは破壊できる類の物。例えば・・・階段が坂道になりよく滑る液体が流れたり。

 

「またトラップか!坂に穴開けて登・・・「きゃあああ~~!!」ごべっ」

 

「え、ちょ・・・」

 

「…ドジウサギ」

 

「シア!乗っかるな!仰向けだと坂を叩けねぇ!」

 

「しゅみません~、でも身動きがぁ~」

 

「ああもう!ドリュッケンの杭を打ち付けて!」

 

「ま、任せ・・・み、道がありません!」

 

「どっかに落とす気か・・・!仕方ねえ全員俺に掴まれ!飛ぶぞ!」

 

「うん!」

 

「んっ!」

 

「は、はいですぅ!」

 

「絶対離すなよ・・・せいっ」

 

彩人が三人を抱えて浮遊する。全員がホッとして下を見ると・・・部屋の床はサソリの海。

とっさに上を見上げると

 

彼等に致死性の毒はありません

 

でも麻痺はします

 

存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!!

 

無駄に明るく照らされた文字がメンバーをイラつかせる。

 

「・・・長居は無用だ。穴を戻るか・・・先にある通路へ行くか、どうする?」

 

「わ、私は彩人に従いますぅ…ご迷惑をおかけしたので…」

 

いや、あとでお仕置きするからね?

 

「そ、そんなぁ!!」

 

…言い訳無用。お仕置き二倍

 

「す、救いは無いのですかぁ~!!」

 

「通路行く。気ぃ抜いてっと落ちるぞ」

 

シアをシカトして通路に進む。この先にも嫌なトラップが目白押しだった。

何度破壊しても転がってくる鉄球、シアだけに命中する金タライ、シアだけ引っかかるトリモチ、シアだけ被る妙にドロドロした白い液体など「私ばっかりですぅ!!byシア」一行は着実にストレスを溜めていた。・・・そして、

 

ねぇ、今、どんな気持ち?

 

苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時ってどんな気持ち?

 

ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ

 

あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します

 

いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです

 

嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!

 

ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です

 

ひょっとして作っちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー

 

「スタート地点に連れてこられたという訳だァ・・・・」

 

「「「…」」」

 

「ハジメ?ユエ?シア?」

 

「は、ははは」

 

「フフフフ」

 

「フヒ、フヒヒヒ」

 

「oh……」

 

その直後に怒号が響き渡り、迷宮を揺らした。先ほどの言葉に偽りなし、迷宮を同じルート通っても別の景色が広がるばかり。

シアだけでなく普段冷静なユエとハジメも破壊魔になっていたがシアのキレ具合が二人の度を越えていたので二人は逆に冷静になっていた。

 

「壊すゥ・・・破壊しちゃいますゥよォ・・・・フヒヒヒヒヒ!!」

 

「止めろシア!落ち着けぇ!それ以上迷宮を破壊しつくすな!」

 

「…ここは破壊しても良いんじゃないかな」

 

「ハジメぇ?!」

 

「…私もそう思います」

 

「ユエ?!」

 

・・・のは外見だけのようだ。

_______________________

 

 

???「んー?何か迷宮が騒がしいなぁ・・・?」

 

破壊魔が迫っているのにこの始末☆はてさてこの先どうなります事やら・・・




ミレディ、ハーレム入りの割合がすんごい。



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青銅の騎士団とて、破壊し尽くすだけだァ!

ミレディちゃんが美少女で行くのはいいとして、



おうどん率がヤバいのは笑った。


一度火をいれたおうどんは、バクハツもするんだぞ!


ライセン大迷宮で一人の男・・・彩人に寄り添うようにして眠る三人の美少女、右腕を抱き寄せ彩人の右肩に体を預けるハジメ。左腕を抱くのはシア。そして正面から抱き着くユエ。

そんなに描写していないが事あるごとに添い寝やスキンシップは多いので彩人からは女の子の香りが凄いのだ。ブルックの町に居る時から好奇の視線が凄まじく、宿で親父さんに「昨日はお楽しみでしたね」と言われた時は嫉妬の視線が痛かったのをおぼえている。

 

「緩んだ顔・・・ここは迷宮なのに、そんなに安心できるのか・・・・信頼されてるって事かねぇ」

 

彩人は自身を囲む少女達の髪を順に撫でていく。

 

「「「…♪」」」

 

三人はどこか嬉しそうな表情になる。

特にシアは亜人ということもあり髪とウサミミの感触が違うのもあってか彩人は多めに撫でた。

 

「・・・原作ハジメは厳しい人だったからたまにみせる優しさが光るのに、何で俺のような甘ちゃんに惹かれたんだか」

 

自虐発言をしつつもシアを見つめる瞳は穏やかだった。撫でれば撫でるほどシアの顔はだらしなくなる。よっぽど嬉しいようだ。

 

「・・・さて、ミレディさんの気は、・・・・・・だいぶ近づいてきたな」

 

彩人は見張りついでに原作知識フル活用でミレディの気を探った結果、確実に近づいている。ルートは変化してもいづれは辿り着けるようになっているようだ。

 

「よし、皆起きてくれ!探索を続けるぞ!」

 

「・・・ふぇ?」

 

「……んぅ……あぅ?」

 

「うへへ・・・ほえ?」

 

彩人の声で覚醒する乙女たち。三者三様の声をあげながら準備を整える。シアが「せっかく彩人さんと削除済み出来ると思ってたのに・・・夢でしたぁ」とか言ってたので岩盤浴の刑に処した。ここはR-18世界じゃないんだよ。

 

毛布はいかが?

 

「り・・・理不尽でふぅ・・・」

 

「R-18世界で言うんだな。需要あるかは知らんが」

 

「じゅ・・・需要ってなんですかぁ・・・・」

 

終わったな・・・

 

「むぅ、私だって彩人君とならいいのに・・・」

 

「…エロウサギ。でも気持ちは分かる」

 

そんな会話を挟みつつ迷宮攻略を開始した。(シアはギャグ補正で治りました)

トラップとウザい文をスルーし(いちいち反応するのがバカバカしくなっただけ)肝となるとある部屋にたどり着いた。

無数のくぼみに入った甲冑騎士と祭壇の奥の壁の扉。

 

「あの扉、オルクスの奴と同じだね・・・」

 

「だったらここの甲冑がガーディアンってわけか」

 

「…その可能性が高い」

 

「それって襲われるってことですよね?」

 

シアの言う通り、甲冑、動きます。

 

「動く前に破壊した方がよかったんじゃね?」

 

「今更だよ、彩人君」

 

「ん、早いか遅いかの違い」

 

「か、数多くないですか? いや、やりますけども……」

 

万一の対策として敵の一掃よりも周りに被害を出しにくい方法で迫る甲冑軍団に挑む。

彩人は白い気を纏い、ハジメはドンナーとシュラーク、シアはドリュッケンを構える。魔法重視のユエだが想い人や弟子に無様な姿を見せまいと気合十分。

しかしシアは本格的な対人戦が初なので及び腰になる。ユエとの模擬戦もそう長くはやっていない事、元々温厚な種族であることも要因である。

 

「シア」

 

「ひゃい!な、なんでしょう彩人さん!」

 

「お前は強い。俺が保証する。自分自身を信じろ。万が一の時はフォローする」

 

「そうそう、考えすぎないで思いっきり暴れて」

 

「……ん、弟子の面倒は見る」

 

「彩人さん・・・ハジメさん・・・ユエさん・・・!」

 

シアは三人の言葉に目頭が熱くなった。流れそうになる涙をぬぐい、自分を信じてくれる人達のために気合を入れ直して全身に身体強化を施し、力強く地面を踏みしめた。

 

「彩人さんのデレいただきましたぁーー!」

 

「「……調子に乗るな(、お仕置き三倍)」」

 

「・・・よし、イクゾー」

 

最後で台無しになったが切りかかろうとする大量のゴーレム騎士を迎え撃つ。

騎士たちに特攻するのは彩人とシアだがファーストアタックはハジメ。両手に構えた拳銃が火を吹く。騎士の頭部に当たり転倒させる。それらを飛び越えて先行する彩人を狙うが、

 

「でぇやぁああ!!」

 

彩人に気を取られて上空でドリュッケンを振り下ろすシアに気づかず粉砕される。その隙を狙おうとした騎士はドリュッケンのギミックで弾かれ、その勢いを利用したシアの攻撃で破壊される。その間にも盾を構えた騎士が居るのでシアは先ほどの騎士の剣を投げつけて盾の防御を崩し、直す前にドリュッケンで殴り飛ばし、後ろの騎士も巻き込む。

 

「(凄い…私、戦えてる…皆さんと…彩人さんと一緒に戦えています!)」

 

やっと同じ位置に立てたと喜びに震えるシア。チラリと盾ごと騎士をパンチで貫通させる彩人を見てしまった。その隙を突かんとシアの背後から騎士がせまる。

シアは気づいたがすでに斬られる寸前。痛みに耐えようと目を閉じるが・・・痛みは無く恐る恐る目を開くとレーザーのごとく放たれた水流が剣をへし折っていた。

 

「……油断大敵。お仕置き四倍」

 

「ふぇ!? 今のユエさんが? す、すみません、ありがとうございます! ってお仕置きよ、四倍!?」

 

「ん……気を抜いちゃダメ」

 

「うっ、はい! 頑張りますぅ!」

 

ユエが主にシアの背後をサポートする。ユエの持つ水鉄砲は水が超圧縮されており魔力が微量でも十分な殺傷能力を持つ。

シアは心強さを感じていた。

 

「二人共やるね・・・私も彩人君にいいところ見せなくっちゃ・・・ね!」

 

ハジメも動いた。迫りくる騎士の頭部にゼロ距離射撃で弾丸を叩きこむ。振るわれた大剣を銃撃でそらして回避し囲んでくる騎士を一回転する間に撃ち、〝宝物庫〟から虚空に取り出した弾丸を、ガンスピンさせながら一瞬でリロードし、四方八方からせまる騎士を弾丸で迎え撃つ。

 

「・・・・・、〝ジャン拳〟、〝グー〟!」

 

彩人は無双する三人に負けずワンパンで騎士を粉砕する。頑丈な盾も鎧も気の一撃を防げず障子紙のように大穴が空く。

 

「〝チョキ〟!」

 

続けて空いた手で目つぶし。・・・頭部が吹っ飛んだ。

 

「〝パー〟!」

 

張り手で騎士を吹き飛ばす。破片だらけの騎士を彩人は掴み上げた。観察している間にも騎士が襲ってくるが裏拳や肘打ち、回し蹴りで粉砕する。・・・と、

 

「・・・っ、やっぱりか」

 

彩人の持つ破片が再構築し騎士の姿に戻って行く。完全に戻る寸前から剣が振り下ろされるが剣は彩人を切り裂くどころか折れる。

 

「厄介すぎんよ・・・」

 

彩人は手刀で胴体を真っ二つにしたのちテンションがあがりつつある三人に叫ぶ。

 

「気を付けろ!こいつら復活するぞ!」

 

「!?」

 

「…えっ」

 

「ふ、復活するんですか!?」

 

復活するのは知っていたがシアに自信を付けさせるのと再生速度を確かめるため。気功波で消し飛ばしても追加されたのはビビった。復活するまで5秒前後、完成するまで5秒。10秒で復活できる上に大量に襲い掛かってくるためキリがない。しかも・・・

 

「ハジメ、ゴーレムなら核が…」

 

「・・・それが、魔眼石で見たけどこいつら核が無いんだ。魔力は感じたけどまさか復活するとは思わなかったから・・・」

 

「け、結局どうするんですかぁ! このままじゃジリ貧ですよぉ!」

 

「・・・でも、特殊な鉱石でできてるみたい」

 

==================================

 

感応石

 

魔力を定着させる性質を持つ鉱石。同質の魔力が定着した二つ以上の感応石は、一方の鉱石に触れていることで、もう一方の鉱石及び定着魔力を遠隔操作することができる。

 

================================== 

 

「・・・こいつらを操る存在がいるって事だ。ならばこんな所に居る必要はない。突破するぞ」

 

「突破って、扉ほ閉まってま「破壊したYO☆」い、いいんですかぁ?!」

 

「ま、それしかないよね」

 

「…今に始まったことじゃない」

 

「あれ?これ私がおかしい流れですか?」

 

魔法が使えないことを前提としているためか扉は気弾一発で壊れた。騎士…もといゴーレム達が行く手を阻むも瞬殺されていく。

四人は扉を抜けても重力を無視して壁や天井を走って追いかけてくるゴーレム達。その中には浮遊してくる奴も居たので彩人が三人を抱えて目下に暗黒が広がるだだっ広い空間に浮かぶ足場へ。

浮遊している個体ですら足場に到達出来なかったのでゴーレム達を振り切ることができた。

 

「ここに、ゴーレムを操っているヤツがいるってことかな?」

 

「そうだろうな、唯一俺達以外の気を感じる。“人間“のな」

 

「え、彩人君…人間って「逃げてぇ!!」」

 

唐突に叫んだシアが三人を抱えて倒れこむ。寸前まで四人が居た場所を、赤熱した物体が隕石の如く落下し足場を抉りとって行く。

ここばっかりはシアが居ないとあの世行きである。

 

「間一髪だったな…シア、ありがとな」

 

「助かったよ、シア。ありがとう」

 

「……ん、お手柄」

 

「えへへ、〝未来視〟が発動して良かったです。代わりに魔力をごっそり持って行かれましたけど……」

 

喜ぶのも束の間、四人の前に身長20mありそうな巨大ゴーレム騎士が下の暗黒から浮上してきた。

赤熱した右腕、左手に付けられた鎖に繋がれたフレイル状のモーニングスター。新たに出現した騎士ゴーレムが王を迎えるような仕草が別格感を引き出している。

 

「喜ぶ暇も与えないって所か」

 

「ウソ・・・こんなにデカいの・・・」

 

「……すごく……大きい」

 

「お、親玉って感じですね」

 

その存在感に圧倒される四人だが、この緊張感を壊したのは巨大ゴーレムだった。

 

「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」

 

「「「……は?」」」

 

外見に合わぬ可愛らしい声で話した。

 

「初めまして、轟 彩人です」

 

「「「!?」」」

 

冷静な彩人に動揺する三人。

 

「お、若いのに礼儀正しいねぇ、関心関心。それに引き換えそっちの娘たちはなってないなぁ…もっと常識的になりたまえよ」

 

┐(´д`)┌ ←こんな表情で呆れるドデカゴーレムにイラつく三人。

彩人がなだめて会話を続ける。

 

「俺達はオスカー・オルクス氏の迷宮の攻略者。彼の手記に貴女の事が書かれていた。“人間の女性“であると。そして、貴女からは“人間の気“を感じる」

 

「…!?、い、今、“気“って言わなかった?!」

 

唐突に巨大な顔を近づけてくるゴーレム。

 

「・・・言ったが」

 

「も、もしかしてキミ、サイヤ人?」

 

「・・・そうだ。それがな「………き………」・・・は?」

 

サイヤ人、キターーーーーーー!!!!!!(゚∀゚ 三 ゚∀゚)

 

諸手を上げて巨大ゴーレムは喜びだした。




ミレディちゃんの性格ならこれくらい喜びそう。


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ゴーレムがいくら集まったとて破壊しつくすだけだァ!

言うほど破壊してません。


「サイヤ人キタァァァ!!!これで勝つる!あのクソ野郎がどれだけ強かろうと負けるはずがない!」\(^ω^\)三(/^∀^)/

 

勝手にワッショイしているドデカゴーレムに呆然としている四人。

 

「・・・こほん、まさかヤモシ以来のサイヤ人に再び会うとはねぇ…」

 

「急に戻るな。話はまだ途中なんだ・・・、貴女からは人間の気を感じるんだがそれも神代魔法なのか?」

 

「んー、そだよー?まぁ私の神代魔法はゴーレムのあれこれだし魂の定着の方はラーくんに手伝ってもらっただけだしぃ~」

 

「・・・やっぱり貴女はミレディ・ライセンその人、と」

 

「だからぁ、そう言ってんでしょ?」

 

頭悪いの?と続けるミレディゴーレムへ向かう殺意が後ろから強まった。それに気づいているか分からないがミレディは話を続ける。

 

「ここまで来たってことはさぁ、私の神代魔法を求めてるんでしょ?」

 

「・・・ああ」

 

「…じゃあ今度はこっちの質問。何のために神代魔法を求める?」

 

今までのふざけた言動から一変し真剣な態度のミレディ。こっちが素なのだろう。

 

「・・・元の世界に帰るためだ」

 

「なーんだ、そっか」

 

「驚かないんだな、サイヤ人に期待してる割に」

 

「んー、まぁあのクソ神に対抗できたのはヤモシだけだしもしかしたらって思うよ?でも本人が言ってたもん、"万一わたし以外のサイヤ人が来てもわたしと同じと思わないでくれ"ってさ」

 

「・・・」

 

「で、どうするの?私と戦うの?・・・っていうか後ろの女の子達がすんごい殺意向けてくるんですケド」

 

「ねえ彩人君、私暴れたくて仕方ないんだぁ・・・止めるなら今だよ?」

 

「神代魔法以前に…やらなきゃいけない事がある…」

 

「コヒューッ、コヒューッ・・・彩人さん、戦闘の許可を!」

 

「・・・・・どのみち攻略しなきゃ樹海には行けないから、戦う」

 

「あー・・・やっぱそうなるよね・・・てかホントにその子達大丈夫?」

 

「原因はそっちにもあるんだが・・・。行くぞ、お前ら」

 

「うん!」

 

「…ん!!」

 

「いきますよぉ!!」

 

彩人の合図で飛び出す三人。やはり先手はハジメ。いつの間にか構えていたオルカンの一撃が炸裂し右腕を跡形もなく吹き飛ばす。

 

「やるねぇ、でも私は強いよ~死なないように頑張ってねぇ」

 

しかしミレディは近くの足場を引き寄せ右腕を再構築し、赤熱化させる。

同時にミレディの周りのゴーレムたちも一斉に襲い掛かってくるがユエの水レーザーで破壊される。しかし復活するので油断は出来ない。

 

「今度はこっちからいくよぉ・・・!サイヤ人の力見せてごらんよ!」

 

左手のモーニングスターで彩人を攻撃しようとする。しかし彩人の拳がモーニングスターにぶつかった瞬間、拳が当たった場所を中心にひび割れ、破壊された。

 

「おお~流石サイヤ人。でもすぐ復活しちゃうんだよねぇ、これが」

 

追撃が来ないと油断していたその時。モーニングスターの破壊時に発生した砂煙の中からドリュッケンを縦回転させながらシアがミレディに打ち下ろす。

 

「うおっ、あっぶな~。でもまだまだ足りないよ~」

 

が左腕にヒビは入ったが破壊には至らない。そのまま左腕でシアを薙ぎ払う。

 

「きゃああ!」

 

「シア!」

 

彩人が飛ばされたシアを心配するが、シアはドリュッケンの引き金を引いて爆発を起こし衝撃を和らげた。

 

「どんな戦闘訓練したんだ・・?っと、ユエがきつそうだな・・・よっと」

 

「彩人君!」

 

「ハジメ、ユエの援護を頼む」

 

「う、うん!任せて!」

 

一方、ゴーレムたちを押さえていたユエだったが一人では捌ききれない状況になってきたので、彩人が瞬間移動でハジメにユエの援護を頼む。

ハジメは〝宝物庫〟からガトリング砲メツェライを取り出し弾丸の雨をゴーレムたちに浴びせる。

 

「ちょっ、なにそれぇ! そんなの見たことも聞いたこともないんですけどぉ!」

 

「迷宮攻略だ、それ相応の兵装は必要だろう・・・が!〝ビッグバン・アタック〟!!」

 

「え、ちょ、タンマタンマ!!」

 

ミレディが未知の武器に驚いた一瞬の隙に溜めていた大型の気弾を放つ。両手を前に差し出したのが悪く、両腕どころか肩より上が吹き飛んだ。

 

「やりましたか!?」

 

「……シア、それはフラグ」

 

もちろん浮遊する足場で再構築。

 

「・・・流石サイヤ人。パワフルだねえ。でもタンマって言ったじゃん!」

 

「知らんわ、戦闘中だろう・・・ハジメ!見つけたか!?」

 

「バッチリ!核は心臓と同じ位置だよ!」

 

「え、ちょなんでわかったの?!連携上手すぎない!?」

 

焦るミレディをよそに四人がミレディの核に迫る。

 

「あ、操れるのはゴーレムだけじゃ「知ってんぞ」・・・サイヤ人も飛べるんだったぁ~!!」

 

ミレディはハジメ達の乗る足場を落とそうとするが三人を抱えた彩人が舞空術で接近する。追ってくるゴーレムはユエとハジメに倒される。

 

「で、でもその状態じゃあ避けられないよねえ!?」

 

赤熱化した右手で彩人もろとも叩き落そうとする。が、

 

「うわ熱ちちちちちちち!!」

 

「アッハッハッハ、そりゃ熱いにきまってんじゃん・・・・アレ?君だk「くらいやがれですぅぅぅぅぅ!!」・・・うひゃい!?」

 

殴られる寸前に彩人がハジメ達を投げたのだ。上を取ったシアがドリュッケンを頭部に叩き付ける。

 

「あ、アガァ・・・あ、頭がくらくらするぅ・・・」

 

「ハジメさん!今です!」

 

「オッケー!・・・貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

シュラーゲンの一撃がミレディの核部分に炸裂する。反動でシアが投げ出されるが〝来翔〟で飛んだユエが足場に着地する。

 

『サンキュー、お前ら』

 

「彩人君の作戦通り!」

 

「…ん、私達がゴーレムを引き付けて分断して、左右で隙を作る」

 

「私と彩人さんが直接叩きますぅ!!」

 

戦闘開始前からこのフォーメーションをテレパシーで伝えていた。彩人から一方的だがちゃんと伝わったようだ。

 

「「「好きな人が相手だから(ですし)」」」

 

「さいですか」

 

異口同音の発言。

 

「…ハジメ、どうだった?」

 

「手ごたえはあったんだけどなぁ」

 

「これで、終わって欲しいですぅ」

 

「・・・この感じ、まだピンピンしてんな」

 

すると胸部の装甲を破壊されたミレディが。

 

「いやぁ~大したもんだねぇ、かな~りヒヤヒヤしたよぉ。分解作用がなくて、そのアーティファクトが本来の力を発揮していたら危なかったよぉ~、うん、この場所に苦労して迷宮作ったミレディちゃん天才!!」

 

ホントに冷や汗をかいてるミレディ。しかし、辛うじて核を守っている素材を見たハジメが苦虫を嚙み潰したような表情になる。

 

「……アザンチウム」

 

「おや? 知っていたんだねぇ~、ってそりゃそうか。オーくんの迷宮の攻略者だものねぇ、生成魔法の使い手が知らないわけないよねぇ~、さぁさぁ、程よく絶望したところで、第二ラウンド行ってみよ~!!」

 

早速みが復活したモーニングスターで殴りつけてくる。彩人が破壊しようとするが

 

「おっと、二度目はないよぉ」

 

モーニングスターが"上昇"し彩人の攻撃が空ぶった隙にモーニングスターが"落ちて"きた。

 

「くっ・・・」

 

舞空術と気力で凄まじい重圧に耐える。

 

「追撃は基本だよねえ~?」

 

動けない彩人にフレイムナックルが迫るが、

 

「させませんよぉ!!」

 

シアが右肩をドリュッケンで殴りつけ、軌道を変える。同時にモーニングスターの重心から逃れた彩人がモーニングスターを投げおろし、鎖に引っ張られてミレディがつんのめる。

 

「わわッ」

 

「…〝破断〟」

 

シアが殴りつけた隙にユエが左肩に〝破断〟を発動させるが破損はすれど破壊には至らなかった。しかし左腕を一時的に封じ、ユエは満足そうにする。

 

「やってくれる・・・ね!」

 

「きゃあ!」

 

「…!」

 

だがミレディが身を翻した勢いでシアとユエが放り出される。とっさにユエが〝来翔〟を使おうとするが、ゴーレム騎士に阻まれる。

落下していくシアを抱きとめたのは・・・もちろん彩人。

 

「シア、大丈夫か」

 

「ひ、ひゃい・・・」

 

「まだ戦闘中だ、気ぃ抜くな」

 

「あ、は、はい!」

 

シアもそれは分かっているのだが憧れの抱っこで救出をしてもらい、そんな状況でないとわかっていながら、つい気持ちが高揚してしまう。

 

「っ、このぉ! 調子に乗ってぇ!」

 

すかさず破損した右腕で追撃を試みるも彩人が直りきっていない右肩に気弾を当てて封じる。

そしてシアを抱きかかえたままユエとハジメに合流する。

・・・二人が不満そうだったのは内緒。

そんな隙だらけなのにミレディは再構築せずに上を見上げている。

 

「・・・来るな」

 

彩人のつぶやきにハジメ達が質問しようとすると、

 

「ハジメさん、ユエさん!彩人さんの近くへ!降ってきます(・・・・・・)!」

 

そして降り注ぐ瓦礫。ハジメとユエは分からぬままに彩人の近くへ。

凄まじい量のブロックが彩人達の居た場所に山積みとなった。

 

「う~ん、やっぱり、無理だったかなぁ~、でもこれくらいは何とかできないと、あのクソ野郎共には勝てないしねぇ~」

 

「死体蹴りはしておくんだな。・・・はあっ!」

 

「・・・ええええ!?」

 

大量の瓦礫を吹っ飛ばして出てきたのは無傷の四人。

 

「ど、どうやって・・・」

 

「〝バリア〟だ」

 

すると真上に打ち上げた瓦礫を、彩人を中心とする緑色のドームが彩人を守った。

 

「・・・驚いたよ、〝気〟ってそんなこともできるんだ」

 

「俺に気を取られてていいのか?」

 

「・・・!!「〝破断〟!」しま」

 

ユエの〝破断〟によりウォーターカッターでミレディの全身余すところなく装甲が切り裂かれる。

 

「こんなの何度やっても一緒だよぉ~、両腕再構成するついでに直しちゃうしぃ~」

 

「いや、そんな暇は与えない!」

 

続いてハジメのターン。アンカーを打ち込みながらシュラーゲン片手に接近する。

 

「あはは、またそれ? それじゃあ、私のアザンチウム製の装甲は砕けないよぉ~」

 

「知ってるよ」

 

シュラーゲンの一撃で装甲が吹っ飛ぶ。その勢いでミレディを背後のブロックに埋めこむ形でたたきつける。

 

「こ、こんなことしても結局は……」

 

「ユエ!今だ!」

 

「凍って! 〝凍柩〟!」

 

「なっ!? 何で上級魔法が!?」

 

ハジメの合図でミレディを氷漬けにする。せいかくには表面の水を凍らせただけだがミレディは激しく動揺する。

その隙にハジメは用意していた〝パイルバンカー〟をぶっぱなし核を守る装甲に突き刺す。高速回転して装甲を抉る。……しかし、ミレディ・ゴーレムの目から光は消えなかった。

 

「ハ、ハハ。どうやら未だ威力が足りなかったようだねぇ。だけど、まぁ大したものだよぉ?四分の三くらいは貫けたんじゃないかなぁ?」

 

「シア!お願い!」

 

ハジメが飛び退くと入れ替わりにドリュッケンを振りかぶったシアがパイルバンカーを殴り付け、先程の要領で爆発させて杭を押し込む。

 

ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!

 

「あぁあああああ!!」

 

これで決めるといわんばかりにシアの咆哮が響く。

 

「ま、不味い!こうなったら…」

 

ミレディは再びシアの頭上にブロックを落とそうとするが、気弾がすべて破壊した。

 

「なっ…」

 

「悪あがきはよせよな」

 

そして次の瞬間、アザンチウムの装甲をパイルバンカーが貫き、核を粉砕する。

それと同時にゴーレムの動きが完全に停止し目の光が消えた。

 

それを見たシアがやりました!といわんばかりにサムズアップする。

 

それを見た三人もサムズアップで返した。

 

ライセン大迷宮の試練、クリア。




超サイヤ人にならないのか、とか言われるかも知れませんが、シアに花を持たせたかったんです。


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よく見ろ、こぉんな\カワイイ!/ミレディちゃんという訳だァ!

ミレディちゃん参戦決定。

今後ウルの町での決戦までほぼ原作通りなのであしからず。

クソ雑魚にはこれで精一杯でございます。
































オリヒロ、出ます・・・。(あとネタバレ注意)


ドリュッケンを杖替わりにして肩で息をしているシアに近づく三人。

 

「よくやった、強くなったなぁ、シア」

 

「お疲れ、シア。見直したよ」

 

「……ん、頑張った」

 

「えへへ、有難うございます。彩人さん、私に惚れ直しても構いませんよ!」

 

「・・・・・・・・・・・・おう」

 

「何ですか今の間は!」

 

彩人の反応に頬を膨らませつつもシアの目には喜びの色が浮かんでいた。

 

「シア、ちょっと」

 

「な、なんでしょう」

 

「…よく頑張りました」

 

「ユ、ユエさぁ~ん。うぅ、あれ、何だろ? 何だか泣けてぎまじだぁ、ふぇええ」

 

「……よしよし」

 

するとユエがシアの前に立ちシアをかがませて抱き寄せ、髪が乱れないように頭を撫でた。安心感か喜びか、シアは感極まって泣いてしまった。甘えるシアと受け入れるユエが姉妹のように見えたのは内緒。

その後ろから聞こえる声。

 

「あのぉ~、いい雰囲気で悪いんだけどぉ~、そろそろヤバイんで、ちょっといいかなぁ~?」

 

ミレディの声に再び臨戦態勢になる四人。殺気立った雰囲気でミレディが慌てた表情になって、

 

「ちょっと、ちょっと、大丈夫だってぇ~。試練はクリア! あんたたちの勝ち! 核の欠片に残った力で少しだけ話す時間をとっただけだよぉ~、もう数分も持たないから」

 

言う通り、核のかけらの一つが光を失いかけている。

 

「・・・なんの話だ?」

 

「話したい……というより忠告だね。訪れた迷宮で目当ての神代魔法がなくても、必ず私達全員の神代魔法を手に入れること……君の望みのために必要だから……」

 

「なるほど。しかし場所がほとんど分からないから場所を教えてくれるか」

 

「あぁ、そうなんだ……そっか、迷宮の場所がわからなくなるほど……長い時が経ったんだね……うん、場所……場所はね……」

 

ぽつりぽつりと先ほどまでのふざけ具合からは想像できないほど淑やかな声で一通り場所を言うミレディ。

残り少ない時間の力を振り絞るかの声色にユエとシアが神妙な表情になる。

 

「以上だよ……頑張ってね」

 

「承知した。・・・先ほどのうざったい口調は何かしら意味があったのか?その変わりようだとそう考えてしまう」

 

「あはは、ごめんね~。でもさ……あのクソ野郎共って……ホントに嫌なヤツらでさ……嫌らしいことばっかりしてくるんだよね……だから、少しでも……慣れておいて欲しくてね……」

 

「・・・今の所この世界の英雄になるつもりは無い。もし帰還の邪魔をするというのならその時は跡形もなく吹っ飛ばすだけだ」

 

「ふふ……それでいい……君は君の思った通りに生きればいい…………君の選択が……きっと…………この世界にとっての……最良だから……」

 

ミレディのゴーレムの体が青白い光に包まれていく。どうやら時間切れのようだ。

その時ふとユエがミレディのそばに寄り添った。

 

「何かな?」

 

 

弱弱しいミレディの声。それに囁くようにユエが一言、消えゆく偉大な〝解放者〟に言葉を贈った。

 

「……お疲れ様。よく頑張りました」

 

「……」

 

ミレディは言葉を失った。そのように言われるのが意外だったからだ。しかしユエにとってはこの言葉以外の言葉が見つからなかったのだ。

 

「……ありがとね」

 

「……ん」

 

「……さて、時間の……ようだね……君達のこれからが……自由な意志の下に……あらんことを……」

 

満足そうな声と共に光が消え、ゴーレムの亡骸が残った。

 

「……最初は、性根が捻じ曲がった最悪の人だと思っていたんですけどね。ただ、一生懸命なだけだったんですね」

 

「……ん」

 

余韻に浸りながら言葉を交わすシアとユエ。だが・・・

 

「はぁ、もういいでしょ? さっさと先に行こう。それと、断言するけどがアイツの根性の悪さも素だと思うよ? あの意地の悪さは、演技ってレベルじゃないよ」

 

「ちょっと、ハジメさん。そんな死人にムチ打つようなことを。ヒドイですよ。まったく空気読めないのはハジメさんの方ですよ」

 

「……ハジメ、KY?」

 

「ユエまで……はぁ、まぁ、いいけど。念の為言っておくけど、私は空気が読めないんじゃなくて読まないだけだよ」

 

「彩人さん、何か言ってやってくださいよ!」

 

「・・・演技かはともかくそんなにしんみりとする必要は無いな」

 

「な、彩人さんまで!」

 

「…彩人もKY?」

 

「・・・先に進めば分かるって、ほら」

 

彩人が指さす先の壁が光っていたので一同はその壁に近づくが上の方にあるため近くのブロックに乗るとエレベーターの如く光の扉に運ばれる。

 

「……」

 

「わわっ、勝手に動いてますよ、これ。便利ですねぇ」

 

「……サービス?」

 

「・・・はぁ」

 

嫌そうな顔をするハジメとため息をつく彩人とは裏腹にミレディ・ライセンの住処まで四人を運ぶブロックに心躍らせる二人。

・・・そしてたどり着いた先には。

 

「やっほー、さっきぶり!キュートな美少女、真・ミレディちゃんだよ!」

 

「「……」」

 

「ほらね?」

 

「・・・・・知ってた(虚ろ目)」

 

金髪美少女が居た。キャピキャピポーズは様になっているがなんせ中身を知っている今はそれすらもストレスになる。

彩人は知っていたし人間なのだから人間の気を感じる。そしてミレディゴーレムを倒した時、ハジメは魔力が消えていない事からそれに気づいた。それ以前に分身でなければ一度クリアしたらだれでもここにたどり着けてしまう。

下を向いて表情がうかがえないユエとシアがミレディに質問する。

 

「……さっきのは?」

 

「ん~? さっき? あぁ、もしかして消えちゃったと思った? ないな~い! そんなことあるわけないよぉ~!」

 

「でも、光が昇って消えていきましたよね?」

 

「ふふふ、中々よかったでしょう? あの〝演出〟! やだ、ミレディちゃん役者の才能まであるなんて! 恐ろしい子!」

 

するとユエが岩石の破片を生成しシアはドリュッケンを構え、ついでにハジメも拳を構えている。

ミレディはやりすぎたと思い、顔面蒼白にしながら、

 

「あ、あー、これは"可愛さ余って憎さ百倍"ってやつ?テヘ、ペロ☆」

 

「いや、これは"坊主憎けりゃ袈裟まで憎い(ウザい奴はどんな姿でもウザい)"だな」

 

「ちょ……」

 

「くたばれ」

 

「……死ね」

 

「死んで下さい」

 

「ま、待って! ちょっと待って! 落ち着いてぇ! 謝るからぁ!」

 

ハジメ、ユエ、シアによるリンチが始まった。美少女たちが美少女を痛めつける様はシュールすぎる。

 

「ひ、人の心は無いの!?複数でこんな可愛いミレディちゃんを傷つけてぇ!私女の子なんだよ?!」

 

「・・・そんなものとうの昔に捨てた」

 

「……多数はそっちが先にやったこと」

 

「同性なのでセーフです」

 

「理不尽んんんんんんんんん!!!ね、ねえ君助けて!君なら止められるでしょ?こんな可愛いミレディちゃんが頼んでるんだZO☆」

 

「・・・一度反省した方がよさそうだな(#^A^)」

 

「ああああああごめんなさい調子にのりましたぁ!」

 

汗と涙でぐしゃぐしゃの顔でヘルプを出してきたので仕方なく助ける。

 

「・・・・はあ、三人共とりあえず落ち着け」

 

「彩人君、こんなやつを生かしておいたらダメだよ」

 

「……彩人どいて、そいつ殺せない」

 

「退いて下さい。彩人さん。そいつは殺ります。今、ここで」

 

「・・・いや、神代魔法貰いに来たんだろうが」

 

「「「……」」」(スッ・・・)

 

彩人の一言で三人は武器と獲物を仕舞った。

 

「・・・また三人が暴走する前に神代魔法を」

 

「う、うん・・・流石に消されたら魔法も無くなるし・・・互いにデメリットしかないよね」

 

ミレディがいまだに殺気を放つ三人を魔法陣に連れて行き、起動させる。無論彩人以外。「あ、そういえばサイヤ人って魔法適正なかったよね、プギャー・・・ああごめんなさい!また調子乗りましたァ!!・・・ってなんでさっきよりも怒ってるの!?」と言って余計に三人をキレさせたりしたが何とか神代魔法を得ることは出来た。シアは未知の体験に困惑していたが。

 

「……やっぱり重力操作の魔法だね」

 

「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね…って言いたいところだけど、君とウサギちゃんは適性ないねぇ~もうびっくりするレベルでないね!」

 

「うるさい。それくらい想定済みだよ」

 

「まぁ、ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。君は……生成魔法使えるんだから、それで何とかしなよ。金髪ちゃんは適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ」

 

体重の増減という微妙な能力に困惑するシア。反対にユエは嬉しそうだ。

 

「あ、そういえばヤモシから次に"善"のサイヤ人が来たら渡してほしいってのがあるんだぁ」

 

「・・・?俺が"善"か?「私的に、君なら大丈夫そうだからオッケー!」・・・・もらえるなら、まあ・・・」

 

「えーと、確か・・・・これと・・・これと・・・これ!」

 

「・・・は?」

 

ミレディが彩人の前に召喚したのは、ヴァルキリーのような露出の多い鎧とドレスを着た三人の銀髪美女。目を閉じ、自身を抱え込むようなポーズをとっている。神の使徒やんけ・・・

 

「・・・ナニコレ」

 

「えーっと、私たちの時代に居たクソ神の手下」

 

「し・・・・・ゴホン、なんでそいつらが?」

 

「んー、もともとヤモシがやっつけた奴らなんだけど、"手に余る"だって」

 

「????わけがわからないよ・・・」

 

「そうは言ったってサイヤ人の気じゃないと反応しないようにしたって言ってたし私にはなにもできないもーん」

 

「・・・・、ものは試しだ」

 

正直気を与えたら復活して襲い掛かってくる可能性がある。超サイヤ人で勝てるかはわからないが・・・とりあえずショートヘアーの

娘に気を与える。・・・弱そうだから

 

「彩人…短い方が好み?」

 

「髪・・・切りましょうか・・・」

 

「好みの問題じゃないから」

 

するとショートヘアーの娘が目覚める。両手を広げて立ち上がると彩人を群青の瞳で見つめ、

 

『貴殿は・・・私のマスター。どうぞ名前をお教えください』

 

「・・・は?」

 

と跪いた。

 

「と、轟彩人」

 

無言の圧力に耐えられず言う。

 

『"轟彩人"。マスター、彩人、これより私はマスターのしもべ。名をお与えください』

 

「・・・・・・・・」

 

なんか後ろのユエの視線がやばい。自身以外の名づけが不満らしい。

 

「・・・じゃ、”アクセル”で」

 

『・・・!マスター、感謝いたします。私の名はアクセル、この身はマスターと共に』

 

契約?が完了したらしい。残る二人も

 

『お呼びいただき感謝の至り。マスター、何なりとわたくしにお申し付けください。』

 

『マスター、我の全てを命ある限り貴方に捧げると誓う』

 

といってきたので契約した。前者は”イクス”後者は”ゼータ”にした。

急に美女が増えてしまったが、ハジメ、ユエ、シアは、「敵対しないならオッケー」らしい。

 

「うわぁ・・・渡しておいてアレだけど君、ヒモ男みたい」

 

「大きなお世話だ」

 

その後、敵味方の分別として彩人が許可したか否か、という判断基準があるのでハジメ達や味方、敵に回すと厄介な存在などをインプットさせた。・・・ついでに神代魔法も覚えさせた。適正ありすぎてミレディが引いていた。

 

その後ろでハジメがミレディの持ち物を丸ごと奪い取ってミレディを泣かせていたが原作通りだからセーフ・・・

 

「うわああああああん!!迷宮を修理しないといけないのに全部もってくんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!絶対請求してやるんだからぁ!!払うまでずっとついてくからね!!」

 

「・・・それは勘弁して」

 

「やだ!ついてくったらついてくの!!」

 

「・・・・・エヒト討伐で」

 

「許す!でもこの目で確かめたいからついてく!!」

 

「え~・・・」

 

一気に四人も増えました。・・・宿とかどうするんだ・・・ヴァルキリーたちはそのままだと目立つのでハジメがオスカー氏の隠れ家で発見したメイド服でごまかした。

 

「・・・なんでメイド服?」

 

「あー・・・オーくん、眼鏡やメイド服に情熱注いでたもんなぁ・・・」

 

「・・・うそん」

 

なんやかんやあってハジメがミレディの持ち物を根こそぎ奪った(貰った)のち、ここを出ることに。

 

「はぁ~、初めての攻略者がこんなキワモノだなんて……もぅ、いいや。外に行くよぉ!」

 

そしてミレディが天井から降りてきたヒモを引っ張る。・・・と、トイレで水を流すように部屋のゆかの中心にあなが空き、大量の水で流される。

 

「・・・あ。侵入者撃退用の奴だった、ごっめ~ん☆」

 

「これ撃退用だったのかよ!?」

 

「ごぽっ……私達は汚物じゃない! 外に出たら絶対殺してやる!」

 

「ケホッ……許さない」

 

「殺ってやるですぅ! ふがっ」

 

無表情で同じようにながれていくイクス達を最後に穴がふさがった。




ちょっとだけヴァルキリーたちの紹介。

アクセル・・・ショートヘアーのスレンダー王子様系美少女。実は銃器の扱いに長けている。

イクス・・・セミロングの清楚系美女。魔法に精通しておりユエに引けを取らない。

ゼータ・・・腰も隠すロングヘアでダイナマイトボディの武人美女。ロングソードでの剣術の技術がすこぶる高い。


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水流に流されて

キャラが増やしておいて捌けるかどうかわからん。

そんなカスが書きます。


今回短めです。なので早いです。


水流に押し流されている最中、シアは酸素を逃がすまいと集中していたが、ふと目の前に魚の姿を確認する。と同時に魚がゆっく~りとこちらへ向き直ると、渋いおっさんの顔、人面魚。シアが困惑していると

 

「・・・・ッチ、何見てんだよ」

 

「ゴプッ・・・・・」

 

と一蹴され、衝撃のあまり息を吐ききって気絶してしまった。

 

その後水流は流れて川を経由しブルックの町へ続く街道のほとりの泉から八人飛び出してきた。

 

「・・・思ったより、ヤバかったね・・・・」

 

「お前がやったんだろうが!!・・・ハジメ、ユエ、シア、イクス、ゼータ、アクセルは無事か?」

 

「ゴホッゴホッ・・・うん、大丈夫」

 

「ケホッケホッ……ん、大丈夫」

 

『問題ありません、マスター』

 

『我もここにいる』

 

「・・・?シアとアクセルは・・・!?」

 

「シア!アクセル!」

 

「シア…アクセル…どこ?」

 

残る二人を探すと、シアを抱えたアクセルが。

 

「アクセル!シアは・・・」

 

『ご心配をおかけして申し訳ありません、マスター。シア様は何らかのトラブルにより気を失い川を漂っておりました。故にマスターの呼びかけにお答えできませんでした』

 

「そうか・・・シアを寝かせてくれ」

 

『はい』

 

アクセルがシアを仰向けで寝かせる。気を失ったままだ。・・・とりあえず、心肺蘇生を行う。

 

『マスター、治癒魔法ならばわたくしが「…イクス、待って」・・・ユエ様?』

 

イクスを押しのけたユエに気づかないまま始めてしまう。気道を確保しマウストゥマウスを行う。

何度か行うと気が付いたのか水を盛大に噴き出すシア。

 

「ケホッケホッ……彩人…さん…?」

 

「そうだ。気が付いてよかっ・・・むぐぅ!?」

 

気が付いたシアに安堵する彩人だったが突然シアに抱き着かれ、そのままキスしてきた。両手で首、両足で腰回りを拘束した上に〝身体強化〟まで施しているのでがっちり組み付いている。

 

「んっ!? んぐー!!」

 

「あむっ、んちゅ」

 

実は水を吐き出す前からシアの意識は回復しておりそこから繰り返される口づけに感情が高ぶった結果爆発した。唇をくっつけあうのに飽き足らずシアは彩人の口に舌を滑り込ませるディープなキッスをお見舞いする。

 

「て、め・・・掃除機かっての・・・・」

 

「いいですよ、彩人さん…このまま私のハジメテを…あなたに♡」

 

「・・・・いい加減にしロットォォォォ!!

 

「・・・え、何です?彩人さん、そのお姿は……」

 

血祭りにあげてやる・・・

 

「え、ちょ……」

 

〝スローイングウサギブラスター〟!!

 

「ひええええええええええええええ!!!!!」

 

再び某伝説のサイヤ人モドキになって虚空の彼方へシアを投げ上げた。落ちてきたシアは川に落っこちた。

 

「ご、ごわがっだでずうううううう・・・先に彩人さんがしてくれたんじゃないですかぁ」

 

「・・・気づいてたな?」

 

「う~ん、なかったと思うんですけど……何となく分かりました。彩人さんにキスされているって、うへへ」

 

「・・・救命行動に何言ってんだ」

 

「そうですか? でも、キスはキスですよ。このままデレ期に突入ですよ!」

 

「何をアホな事を・・・「「一回目のキス、おめでとう、シア」」・・・は?なんでお前らが・・・」

 

「え?だって同志の初キスだもん」

 

「……シアは頑張った。だからご褒美」

 

「むふー、これで私もお二方に一歩リードです!」

 

「残念!私は1203回!」

 

「…私は501回。もちろんファーストキスは彩人」

 

「「・・・え?」」

 

唐突にどえらい発言が出たので言葉を失う彩人とシア。

 

「え・・・だってお前ら自分からはしないって・・・」

 

「それは”本番”だよ。君に黙ってそういう事したら流石に不味いから」

 

「…でもそれ以外は別」

 

「・・・・都合よくね?」

 

「「好きな人が相手だからね」」

 

「」

 

呆然とする彩人と、「私も回数を増やしますぅ~!」とか宣言してやがった。

 

『マスター、覗きをしている不届き者が居るのだが、いかがなさる』

 

「・・・は?」

 

ふとゼータの差す方向を見ると、

 

「わっわっ、何!? 何ですか、この状況!? す、すごい……濡れ濡れで、あんなに絡みついて……は、激しい……お外なのに! ア、アブノーマルだわっ!」

 

「あら? あなたたち確か……」

 

「アイツ・・・アイツだけはッ」

 

「”俺達外だけどラブラブで~す”ってか!見せつけてんじゃねええええええ!!」

 

「・・・キモッ」

 

宿の看板娘、ソーナとクリスタベル、嫉妬の炎を瞳に宿し、自然と剣にかかる手を必死に抑えている男の冒険者達とそんな男連中を冷めた目で見ている女冒険者だった。

 

「お、お邪魔しましたぁ! ど、どうぞ、私達のことは気にせずごゆっくり続きを!」

 

「待て待て待てぇ!!」

 

こうしてここがブルックの町の近くだと分かり彼らの乗る馬車に厄介になることにした。

ミレディやヴァルキュリア(彩人命名)をナンパする声が聞こえたが、

 

「・・・フッ」

 

『『『・・・・(シカト)』』』

 

で撃沈していた。



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愛ちゃん護衛隊と忍び寄る脅威

DB要素入れて行こうかねぇ・・・

今回も原文とほぼ変わらんので割愛。


 畑山愛子、二十五歳。社会科教師。

 

彼女にとって教師とは、家族以外で子供達が頼ることの出来る大人で在るべきと考えていた。

だからこそ異世界転生という非常事態に対し戦争断固反対を宣言したが勇者(笑)のせいで参加する流れになってしまった。

ならば生徒を無事送り返すまで守る!と志したのもつかの間、希少な職業に目覚めた結果農地改善及び開拓に駆り出され、しかも生徒の後押しもあって引き受ける羽目に。

騎士団の警護ありきでも彼女は生徒を思うと気が気ではなかった。それでも皆を信じて王宮に帰ってみれば、

 

南雲ハジメと轟彩人の訃報である。

 

この出来事が彼女の心を大きく傷つけた。生徒を死なせておいて自分は安全なところで・・・と。この出来事で吹っ切れた彼女は自身の職業を盾に戦いの継続を拒み、教会・王国関係者に直談判。結果的に任意で戦闘の継続を望むものが迷宮攻略することとなった。そもそも彩人がそれを言っていたのだが死亡した途端に無かったことになっていたのである。

しかもこの行動で自分を護衛したいという生徒が続出したのである。

 

「戦う必要はない」「派遣された騎士達が護衛をしてくれているから大丈夫」と言っても彼らの意志は固く、「愛ちゃんは私達(俺達)が守る!」と余計に奮うのである。彼女の人望もあるが、それ以上に大きな理由がある。それは彼らの次の言葉に込められている。

 

「愛ちゃんをどこの馬の骨とも知れない奴に渡せるか!」

 

実は先生の専属騎士は全員イケメンぞろいなのである。もちろんこれは愛子という人材を王国や教会につなぎ止めるための上層部の作戦であるためそれに気づいた一人の生徒が「愛ちゃんをイケメン軍団から守る会」を結成した。が、思惑がとん挫することになる。それは騎士団の言葉にある。

 

神殿騎士専属護衛隊隊長デビッド

 

「心配するな。愛子は俺が守る。傷一つ付けさせはしない。愛子は…俺の全てだ」

 

神殿騎士同副隊長チェイス

 

「彼女のためなら、信仰すら捨てる所存です。愛子さんに全てを捧げる覚悟がある。これでも安心できませんか?」

 

近衛騎士クリス

 

「愛子ちゃんと出会えたのは運命だよ。運命の相手を死なせると思うかい?」

 

近衛騎士ジェイド

 

「……身命を賭すと誓う。近衛騎士としてではない。一人の男として」

 

まさかの逆堕ち。幼い顔立ち(この世界では幼子でも結婚出来るため年齢はあまり関係ない)に大きな意志とやさしさ、どこかほっとけないドジな部分が逆に騎士団員を虜にしたらしい。

そんなこんなで現在では、【オルクス大迷宮】で実戦訓練をつむ天之河達勇者組、居残り組、愛子の護衛組に生徒達は分かれていた。

 

 

そして現在、愛子達農地改善・開拓組一行は、馬車に揺られながら新たな農地の改善である湖畔の町ウルに向かっていた。その馬車の中では、

 

「愛子、疲れてないか? 辛くなったら遠慮せずに言うんだぞ? 直ぐに休憩にするからな?」

 

「いえ、平気ですよ。デビッドさん。というかついさっき休憩したばかりじゃないですか。流石にそこまで貧弱じゃありません」

 

「ふふ、隊長は愛子さんが心配で堪らないんですよ。ほんの少し前までは一日の移動だけでグッタリしていたのですから……かという私も貴方が心配です。ホント遠慮をしてはいけませんよ?」

 

「その節はご迷惑をお掛けしました。馬車での旅なんて初めてで……でも、もう大分慣れましたから本当に大丈夫です。心配して下さり有難うございます。チェイスさん」

 

流れるように愛子の手を取ろうとするチェイス。だが、「ゴホンッ!」という咳払いと鋭い眼光にその手を止められる。その人物は園部優花。

 

「おやおや、睨まれてしまいましたね。そんなに眉間に皺を寄せていては、せっかくの可愛い顔が台無しですよ?」

 

イケメンフェイスで返すチェイスだが優花は不快感をあらわにした表情を崩さず、

 

「愛ちゃん先生の傍で、他の女に〝可愛い〟ですか? 愛ちゃん先生、この人、きっと女癖悪いですよ。気を付けて下さいね?」

 

サクッと釘を刺した。

ここまで生徒達が愛子に肩入れするのは彩人達の件で心が折れた子達だった。だからこそ諦めずに行動し続ける愛子を支えたいとおもっている。

そして今回同行した愛ちゃん護衛隊の生徒は園部優花の他、菅原妙子、宮崎奈々、相川昇、仁村明人、玉井淳史、とある理由で迷宮組を抜けた清水幸利、辻 綾子の八人である。

 

その数日後、ウルにて農地改革が行われ最近巷で囁かれている〝豊穣の女神〟という二つ名がウルの町にも広がり始めた頃、再び、愛子の精神を圧迫する事件が起きる。

 

 

_____________________

 

それは愛子と生徒達が泊まる宿での事だった。

 

「ここだよなぁ・・・っと」

 

『な、魔物!?す、すぐ連絡だ!』

 

「なんだぁ・・・邪魔するのかぁ・・・?無駄なんだなぁ」

 

『ええい魔物め、覚悟!』

 

騎士が剣や槍でソレに攻撃する、が。

 

「ボクは伸びるんだなぁ・・・だから効かないんだなぁ・・・」

 

『・・・なっ?!』

 

切り裂くどころか刺さりもせず、弾力性のある体で騎士は跳ね返され、壁にたたきつけられる。

 

『だ、大丈夫か!』

 

『は、早く、応援・・・を』

 

『わ、分かっ「おいおいドコへ行くんだ?ヒッヒ」うわぁ!』

 

「わりぃーんだけどよ、ここで大人しくしてくれっか、なァ!」

 

『なっ!?こ、凍る・・・・・』

 

「キヒヒヒヒヒ!どうだァオレの凍結拳はヨウ・・・なんだもう凍っちまったか」

 

応援を呼びに行った騎士が別の魔物の手から放たれた冷気によって氷漬けにされてしまった。

そして・・・

 

「ー!!ーーーーー!!!」

 

「大人しくしなぁ、小僧。今からあの方が来るんだよ」

 

清水がもう一体の魔物によってロープのようなもので拘束されていた。

 

するとソイツと魔人族が現れた。

 

「・・・この少年を使えば最強の肉体が手に入るのだな?」

 

「そうだ。貴様が洗脳能力を持っていたから将軍が貴様をこの作戦に参加させてくださったのだからな、その対価としてだ」

 

「フン、偉そうに貴様らの価値などこの私の頭脳に比べたら塵芥に等しい」

 

「・・・偉そうなのはお互い様だろう、早くやれ」

 

「今は従ってやろう・・・・はあっ」

 

ソイツが清水の頭に装置のようなものを取り付ける。

 

「(綾子・・・サイト・・・すまねえ、俺は・・・・)」

 

清水は拘束されたまま意識を失い、魔人族と魔物たちと飛び去った。

 

そして翌日、辻綾子の口から清水が誘拐されたことを聞くのだった。




魔物と率いていた奴は誰でしょうか?


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フューレンに全速前進出来るといいなぁ…

怒涛の三連続投稿からの投稿じゃい!


「ふふっ、あなた達の痴態、今日こそじっくりねっとり見せてもらうわ!」

 

「この日のためにクリスタベルさんに教わったクライミング技術その他! まさかこんな場所にいるとは思うまい、ククク。さぁ、どんなアブノーマルなプレイをしているのか、ばっちり確認してあげ『何か御用でしょうか』って誰!?」

 

『<〇><〇>』

 

「あ」

 

三階の外の窓、逆さでぶら下がりながら部屋を覗こうとしていたソーナの背後に浮遊するイクス。

 

「み、見逃して!これはほんの出来心なの!」

 

『わたくしはともかく・・・』

 

イクスが下を見る。・・・・と視線の先に笑みを浮かべた女将さん。目が笑っていない。

 

『あの御方はお許しにはならないでしょう』

 

「いやぁああーーー!」

 

無慈悲なイクスの一言に絶望するソーナだった。後日、お尻をパンパンに腫らした涙目のソーナが居たそうな。

_______________________

 

『マスター、任務完了致しました』

 

「・・・ご苦労、イクス」

 

『はい』

 

イクスがお辞儀をしたのち、ハジメが苦笑いする。

 

「それにしても一体何があの子を駆り立てるんだろう……屋根から降りてくるとか尋常じゃないって・・・」

 

「きっと、私達の関係がソーナちゃんの女の子な部分に火を付けちゃったんですね。気になってしょうがないんですよ。可愛いじゃないですか」

 

「……でも、手口がどんどん巧妙になってるのは……心配」

 

「昨日なんか、シュノーケル自作して湯船の底に張り込んでたからな・・・アクセルが女将さんの所に連行してたけど」

 

「う~ん、確かに、宿の娘としてはマズイですよね…一応、私達以外にはしてないようですが……」

 

ハジメを右腕、左腕にシアを抱く彩人の胡坐の上に座るユエ達が会話する。全員寝間着である。

 

「君たち結構余裕でしょ?」

 

そんな姿を呆れた目でながめるミレディ。流れるように三人の乙女を愛でる彩人である。

 

「彩人君の手、温かい・・・」

 

「…ん、大きくて優しい」

 

「んへへ・・・彩人さん、もっとなでなでしてくださぁい・・・」

 

「・・・今日は皆頑張ったしな・・・・・うん」

 

ファーストキスが無念の内に亡くなられていたため諦め気味の彩人だがなんかもう吹っ切れていた。

 

『娘、そこで何をしている』

 

「た、たまたま近くを通っただけなんです!『・・・・こんな針金を持ってか?』それは・・・えっと・・・」

 

扉の外から聞こえる声。

 

「ホントに大丈夫なの?この宿」

 

「終わったな・・・」

 

あのミレディでさえ引くソーナの行動に彩人も諦めた。潜入スキルの高い宿屋の看板娘はどうあっても発生するらしい。

_________________________

 

翌日、冒険者ギルド:ブルック支部を訪れた彩人達。今や有名人となっており彩人に挨拶するものもいるが、男性のほぼ全員がハジメら美女、美少女たちに向けられごく一部が彩人に嫉妬と羨望の目をむける。

ブルックの町に一週間滞在したがユエ、シア、ハジメはもちろんヴァルキュリアやミレディ目的に言い寄る奴は絶えなかったがものの見事に手痛い反撃(股関ブレイク)を受けて撃沈しており、彼女達が気を許している彩人を経由して彼女達に迫ろうとする事が多くなった。

 

そんな下心ありきで決闘を仕掛ける奴など構う価値も無いので悪意の気を持った奴らが決闘の“け“の字を言う直前に手刀を首にヒットさせて意識を刈り取る。

こんなことを続けていれば異名の一つや二つは出てくるが彩人は知らないフリをすることにした。

 

「おや、今回は全員一緒なのかい」

 

受付に居たキャサリンに言われる。

基本的にいつもの四人(たまに暇をもて余したミレディ)

で来るのでヴァルキュリア達も連れてくるのは稀である。

ヴァルキュリアとミレディを連れてきたとき、「あんたまだ足りなかったってのかい?欲張りだねぇ…浮気性は嫌われるよ?」と説教されて泣きたくなったのは内緒。

 

「ええ、明日にでもここを出るので挨拶を、と」

 

世話というのは原作同様ギルドの一室を無償で借りていたことである。ハジメの生成魔法と重力魔法の組み合わせの研究のため。ユエ達は郊外で魔法の試し打ちとヴァルキュリア達の戦闘力の確認をしていた。

 

何故彩人が礼を言っているのかというとその部屋でトレーニングをしていたからだ。宿では流石に出来ないし外に出ると色々やっかいだからだ。ハジメのねっとりとした視線はキツかったが外よりは遥かにマシだった。

 

「そうかい。行っちまうのかい。そりゃあ、寂しくなるねぇ。あんた達が戻ってから賑やかで良かったんだけどねぇ~」

 

「…他人の部屋を覗こうとする宿屋の娘や“蹴ってくれ““踏んでくれ“と言ってくる変態や“お姉さま“呼びして追いかけてきたり決闘を仕掛けてきたり・・・これで賑やかで済むとおもいます?」

 

「町のもんが迷惑かけて済まないねぇ・・・」

 

ソーナの潜入レベルはともかくクリスタベルに関しては感謝する部分がある。最初は肉食獣のような視線を彩人に向けてきたが彩人はクリスタベルの強さを感じ取り、某海賊王のコックよろしくクリスタベル率いるニューカマー・・・もとい漢女軍団との組み手で戦闘力を上げることが出来た。ランク“金“は伊達じゃない。

 

それだけではなく、ブルックの町に出来た派閥、「ユエちゃんに踏まれ隊」、「シアちゃんの奴隷になり隊」、「ハジメちゃんに撃たれ隊」、「ミレディちゃんに貶され隊」、「ゼータ様に斬られ隊」、「イクス様に甘え隊」、「アクセル様にさらわれ隊」、「お姉さまの姉妹になり隊」への牽制にもなった。やはりクリスタベルの存在は凄まじく生身で互角以上の戦いが出来る彩人は尊敬と畏怖の存在となった。

 

「で、何処に行くんだい?」

 

「フューレンへ行きます」

 

するとキャサリンはフューレン関係の依頼を探す。

フューレンは次なる目的地であるグリューエン大砂漠を越えた先のグリューエン大火山への道中にあるためついでに寄ることにした。

 

「う~ん、おや。ちょうどいいのがあるよ。商隊の護衛依頼だね。ちょうど空きが後二人分あるよ……どうだい? 受けるかい?」

 

丁度彩人とハジメの分があるので受ける事にする。

連れの同伴は良いそうだが、数が数だから断られる可能性があるかもしれない。

 

「まぁ、二人分で六人も護衛が増えるんだから断られることは無さそうだけどね」

 

受ける雰囲気になっているが一応皆に聞く。

 

「私は依頼に入ってるし」

 

「……急ぐ旅じゃない」

 

「そうですねぇ~、たまには他の冒険者方と一緒というのもいいかもしれません。ベテラン冒険者のノウハウというのもあるかもしれませんよ?」

 

「なんか楽しそうだからいいよ!」

 

『『『私(わたくし)(我)はマスターの指示通りに』』』

 

「…では、受けることにします」

 

「あいよ。正門まで行っておいで・・・おっと、忘れるところだったよ。少し待っててくれるかい?」

 

「あ、はい」

 

するとキャサリンは何かを書いたのちそれを封筒に入れて彩人に渡した。

 

「あんた達は見込みがありそうだからね、もし他の町のギルドで揉め事が起きたらそれを見せな。…おっと、詮索は無しだよ?いい女には秘密がつきものさ☆」

 

「…承知致しました」

 

その後、明日には去るのでハジメ、ユエ、シアがクリスタベルにお礼を言いに行った。店長が彩人とガッシリと握手を交わした時の三人の驚きぶりは忘れられない。

 

宿ではこれがラストチャンスと思ったかソーナが風呂に突撃しようとしたがヴァルキュリア達に阻まれて文字通り縛り上げられたそうな。

 

翌日、正門に行くと十三人の冒険者達がざわついていたがスルーして依頼人の所へ。

 

「君達が最後の護衛かね?」

 

「はい、これが依頼書です」

 

 

彩人は、懐から取り出した依頼書を見せる。それを確認して、まとめ役の男は納得したように頷き、自己紹介を始めた。

 

「私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。道中の護衛は期待させてもらうよ」

 

「期待を裏切るようなことはありませんよ」

 

「…こほん、少し君に相談があるのだが、よろしいか?」

 

「・・・・・何でしょう」

 

するとユンケル氏はシアの方を見てこう言った。

 

「そちらの兎人族・・・売る気は無いかね?」




ニューカマーは最強よ、ヒーハー!


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乙女を無礼るなよ…

「シアを売れ、と?」

 

「ええ。珍しい青髪に美しい容姿の兎人族。これほどの商品はなかなかありません」

 

ユンケルの視線を怖がって彩人の後ろに隠れるシア。

 

「見れば相当懐かれているご様子。それなりの額は出しますが…いかがかな?」

 

…答えは一つ、断る。たとえ一国の王や神が欲しがったとしても。彼女は俺の大切な(存在)であり、商品では無い以上そもそも交渉になっていない

 

戦士の顔つきでユンケル氏に言い放つ彩人。

 

「…なるほど、ここは引き下がったほうが賢明の様子。ですが、その気になったときは是非、我がユンケル商会をご贔屓に願いますよ。それと、もう間も無く出発です。護衛の詳細は、そちらのリーダーとお願いします」

 

神をも恐れぬ彩人の強者のオーラを感じたユンケルはシアを手放す事はないと判断し、引き下がった。

 

「すげぇ……女一人のために、あそこまで言うか……痺れるぜ!」

 

「流石、決闘ブレイカーと言ったところか。自分の女に手を出すやつには容赦しない……ふっ、漢だぜ」

 

「いいわねぇ~、私も一度くらい言われてみたいわ」

 

「いや、お前、男だろ? 誰が、そんなことッあ、すまん、謝るからっやめっアッーー!!」

 

ギャラリーがうるさいがシカト。

 

「…?なに呆けてんだシア、行くぞ・・・うおっ」

 

「えへへ…彩人さんの大切…んふふ…♪」

 

「…」

 

デレデレ状態のシアが腕に絡み付いてきた。そのままハジメ達の所へ行くと、どこか頬が赤かった。

 

「彩人君、凄く格好良かったよ…!」

 

「…ドキドキした」

 

「ふーん、結構言うんだね、君。・・・・ちょっと見直したよ」

 

「フォローありがとう(白目)」

 

ウサミミ美少女に腕を抱かれ、美少女や美女に囲まれる様を女性陣は生暖かい目で、男性陣は死んだ魚の目で見ていた。

その後出発した時に人数が人数なので彩人とヴァルキュリアは浮遊して後を追った。当然冒険者達は勿論ユンケルも驚きを隠せなかった。浮遊するメイドというシュールな光景と、ヴァルキュリア達のスカートの中を覗こうとして女性冒険者に殴られる男性冒険者が居たとか。

 

その日の晩。

 

「今日はどの程度進みました?」

 

「約1/3といった所ですね。あと4日はかかるかと」

 

「…結構かかるな」

 

「して、食事はどうなさいます?食料の販売も行っておりますが…」

 

「それなら大丈夫。ハジメ、頼む」

 

「はーい、…よっと、シア、お願い」

 

「分かりましたぁ」

 

ハジメが〝宝物庫〟から食料の入った袋をシアに渡す。

 

「な、なんだねその道具は?!」

 

当然ユンケルは見逃さない。

ハジメが言っていいの?と目配せしてくるが、黙ってる理由もないので話すように返した。

 

「これは〝宝物庫〟って言って、見た通り物を自由に出し入れ出来「た、たのむ!言い値でいいから売ってくれ!」…わぁ」

 

「…まぁ、そうなるよな」

 

かなり必死だった。

その後に、簡素な食事しかしない冒険者からシアやイクス、ミレディが作った食事を羨ましそうに見られたのでお裾分けした。

 

「カッーー、うめぇ! ホント、美味いわぁ~、流石シアちゃん! もう、亜人とか関係ないから俺の嫁にならない?」

 

「ガツッガツッ、ゴクンッ、ぷはっ、てめぇずりぃぞ!だったらイクスちゃんは俺の嫁!」

 

「はっ、お前みたいな小汚いブ男が何言ってんだ? 身の程を弁えろ。ところでミレディちゃん、町についたら一緒に食事でもどう? もちろん、俺のおごりで」

 

「な、なら、俺はハジメちゃんだ! ハジメちゃん、俺と食事に!」

 

「ユエちゃんのスプーン……ハァハァ」

 

「ゼータちゃん、次の町に着いたら案内してあげるよ、二人っきりで、ね!」

 

「アクセルちゃん!アクセルちゃんは俺が案内するぞー!!」

 

この食事を最後の晩餐にしたい奴は誰だ

 

「「「「「「調子に乗ってすんませんっしたー」」」」」」

 

こんな問答があったり。

 

「もう、彩人さんったら、そんなに心配しなくても私は彩人さんだけですよぉ」

 

『わたくしはマスターのみに従います故、他の殿方へ向かうつもりはありません』

 

「えー、私も入ってるのぉ?ミレディちゃん、モテモテで困っちゃうなぁ~♪」

 

三者三様の反応。その後にユエやハジメなどに“あーん“される彩人に男性冒険者が内心、「頼むから爆発して下さい!!」と思ったとか。

 

その後、馬車は順調に進み後1日で到着する時、それは起こった。その異変に気付いたのはシア。

 

「敵襲です! 数は100以上! 森の中から来ます!」

 

馬車の屋根の上に乗ったシアの叫びで冒険者に緊張が走る。

 

「くそっ、100以上だと? 最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか? ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」

 

護衛隊のリーダーであるガリティマが苦々しい表情で言う。護衛隊は15人。ユエ達を含めても21人。単純な数では勝てないと困惑する冒険者達。

 

「迷ってるなら俺らがやろうか?」

 

「何を言ってるんだ、相手は100体以上だぞ?!そこまで強くはなくとも数が…!」

 

ガリティマが彩人にそう言うが

 

「…彩人、私がやる」

 

「だそうだ。ユエ、頼む」

 

「…ん、任せて」

 

ユエが宣言し、シアのいる馬車の屋根の上に上がる。

 

「…姿が見えてきました!」

 

正面から狼型の魔物の群れが砂ぼこりを立てて迫ってくるのが見えた。津波を彷彿とさせる光景だ。

 

ユエが無詠唱で魔法を放とうとするが、彩人がテレパシーで伝える。

 

『ユエ、一応詠唱ありきで頼む。目立つからな』

 

『…ん、分かった』

 

ユエは一息つくと、詠唱(もどき)を始めた。

 

「彼の者、常闇に黄金の光をもたらさん、古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん、最強の一片たるこの力、彼の者達と共にありて、天すら穿つ光となれ、〝雷龍〟」

 

黄金の龍が魔物の群れに雷の如く降下して襲いかかり、魔物を一網打尽にし大地を真っ黒に焦がした。

 

「な、なにあれ・・・私ユエと長く一緒にいるのに見たこと無いよ・・・」

「お、私の重力魔法を上手く融合してるねぇ、やっぱり金髪ちゃんは天才だね~」

 

「おー、すげー威力」

 

「…ん、ミレディの言うとおり、雷属性の魔法と重力魔法の融合。ちなみに詠唱は彩人達との出会いを詠ってます(ドヤァ)」

 

その後、フューレンにたどり着いた。

するとユンケルはハジメに話しかけた。

 

「ハジメさん、貴女のもつアーティファクト。やはり譲ってはもらえませんか? 商会に来ていただければ、公証人立会の下、一生遊んで暮らせるだけの金額をお支払いしますよ。貴女のアーティファクト、特に〝宝物庫〟は、商人にとっては喉から手が出るほど手に入れたいものですからな」

 

「…………」

 

しかしハジメは彩人の方に視線を向けてなにも答えない。拒否と見たかユンケルは続けていった。

 

「しかし、そのアーティファクトは一個人が持つにはあまりに有用過ぎる。その価値を知った者は理性を効かせられないかもしれませんぞ? そうなれば、かなり面倒なことになるでしょなぁ……例えば、彼らの身に何かがッ?!」

 

・・・それは宣戦布告ってことでいいのかな?

 

彩人に危害が及ぶと分かった途端に凄まじい殺気を放ちながらユンケルにドンナーの銃口を突きつけるハジメ。

 

「ち、違います。どうか……私は、ぐっ……あなたが……あまり隠そうとしておられない……ので、そういうこともある……と。ただ、それだけで……うっ」

 

「・・・そっか。それじゃ、そういうことにしてあげる」

 

ドンナーをおろして殺気を解くハジメ。恐怖のあまりへたりこんだユンケルに続けて、

 

「でも、もし敵意を・・・特に“彼“に向けたら私は…ううん、私達は国であろうと世界であろうと血の海に沈めるから

 

するとユンケルはハジメだけでなくユエとシアも似た目をしていることに気付く。そして、それに反応したのか無機質な表情で自分を睨むヴァルキュリア達を見て、理解した。彼女達を…特に“彼“を怒らせてはいけない。骨一本も残さないだろう、と。

 

「ま、今回は見逃すよ。次がないといいね?」

 

「……全くですな。私も耄碌したものだ。欲に目がくらんで竜の尻を蹴り飛ばすとは……」

 

竜の尻を蹴飛ばすというのは逆鱗に触れるってことで、触らぬ神に祟りなし、という事である。

ついでにユンケルの話しによると竜(正確には竜人族)はこの世界の宗教上、異端の存在らしいのでユエの先程の魔法は使わないほうがいい、とのこと。

 

…ついでにあれだけ恐ろしい思いをしても彩人達に「ご入り用の際は、我が商会を是非ご贔屓に」と宣伝するあたり、根っからの商人なのだと彩人達は思ったとか。




ヤンデレを敵に回してはいけない。(戒め)


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フューレンの戦乙女?

サブタイが思い付かん。


大陸一の商業都市であるフューレンにたどり着いた彩人達。依頼書片手にギルドへ行きブルックの町と同様に情報を得るため色々聞いて回っていると案内人の存在を知り、リシーと名乗った案内人の女性に料金を支払い、ギルド内のカフェにて軽食を共にしながら都市の基本事項を聞いていた。

 

「そういうわけなので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」

 

「観光区の宿にします。オススメはありますか」

 

「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

 

「そうですか…とりあえず入浴可能で美味いご飯を食べられる所をリストアップして…っと。…………あの、万が一トラブルが起きたら何処へ言えばいいでしょうか」

 

「トラブル…ですか?滅多にあることではないと思うのですが…」

 

「・・・いや、連れが綺麗所ばっかりだから色々考える人が居るんですよ。今だって注目を集めてるんで」

 

リシーがふと周りを見るとスイーツに舌鼓をうつハジメ達とヴァルキュリア達を見つめるギャラリーが大量に居たのに気付く。

 

「そのようですね…それなら警備が厳重な宿でいいのでは? そういうことに気を使う方も多いですし、いい宿をご紹介できますが……」

 

「それでもいいけれど、中には強引な手段を使う者も居ます。そのときには物理的抵抗せざるを得なくなりかねますので…」

 

「ぶ、物理的抵抗、ですか………、では責任の所在を求める場所も、という事ですね?」

 

「…そう。出来れば、でいいので」

 

困惑するリシーだが案内人としてのプライドがあるのか「お任せください!」と言ってくれた。そしてハジメ達にも要望を聞くと、

 

「やっぱりお風呂が欲しいな、混浴で貸切のやつ」

 

「…ハジメに賛成」

 

「えっと、大きなベッドがいいです」

 

「ご飯が美味しい所がいいなぁ」

 

ミレディはともかくハジメ、ユエ、シアを見てからリシーが彩人をチラチラ見てくる。「承知致しました!」といいつつも顔を赤くするのはやめてほしい。一応ヴァルキュリア達にもきいたのだが、

 

『『『マスターの指示通りに』』』

 

とだけだった。これで余計にリシーの顔が赤くなったが、彩人は気にしない。続いて中央区以外の区について聞いていると、“ヤツ“が現れる。

 

「お、おい、ガキ。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。隣の白髪、と、もう一人、の金髪は、そ、側室にしてやる。そ、そこのメイド達も、わ、渡せ。い、一緒に来い」

 

豚が二本足で歩いて喋っていた。…豚さん、ごめんなさい。値段の高そうな服装から貴族か何からしいが、肥えた体に脂ぎった顔、醜悪な表情でヘラヘラ笑いながらユエに近づいてくる。リシーが「げっ!」と何ともはしたない声を上げ、ミレディに至っては「喋る豚とか無いわ~…キモすぎワロエナイ」と恐怖していた。

 

彩人が追い払おうと考えたが、遅かった。

ハジメとユエが殺気を出していたのだ。シアは勿論、普段冷静なヴァルキュリア達も不快な表情で貴族を睨み付けていたのだ。

 

「ひ、ひいっ!き、貴様、私に逆らったな!れ、レガニド!来い!」

 

「お呼びですかぁ、坊っちゃん」

 

するとギャラリーの中から大柄の男が現れた。

色々不味い展開である。

 

「あ、あの娘を捕らえろ!わ、私に逆らったのだ!ば、罰を与えろ!」

 

「…で、あの男はどうしやす?」

 

「こ、殺せぇ!女は私のものだぁ!」

 

「殺すのは不味いですぜ、半殺しくらいにしときやしょうや」

 

「やれぇ! い、いいからやれぇ!」

 

「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」

 

「い、いくらでもやる! さっさとやれぇ!」

 

「おう、坊主。わりぃな。俺の金のためにちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しはしねぇよ。まぁ、嬢ちゃん達の方は……諦めてくれ」

 

レガニドが彩人に近づいてくる。携帯していた長剣は置いてきた。素手の彩人を完全に見くびっている。

 

「お、おい、レガニドって〝黒〟のレガニドか?」

 

「〝暴風〟のレガニド!? 何で、あんなヤツの護衛なんて……」

 

「金払じゃないか?〝金好き〟のレガニドだろ?」

 

周りが好き放題言っているが、そんな事よりも女性陣の殺意がヤバい。ハジメとユエは人を殺せるレベルの覇気を出し、シアとヴァルキュリア達は絶対零度の視線を二人に向けている。ここで人殺しは洒落にならないのだが…。

 

「彩人君、ここは私達に任せて?」

 

「…ん、あいつは私とシアでやる」

 

「…………んえ?わ、私もですかぁ?」

 

ハジメとユエが一転して優しい笑顔で彩人に言う。

止まる気配が無い以上、言えることは一つ。

 

「・・・殺すなよ」

 

「あはは、殺しはしないよ、生まれてきた事を後悔させるだけだから

 

「…ん、手加減はする。私達が守られるだけのお姫様じゃないことを証明する」

 

「あ、そういうことでしたか。ではでは私も!」

 

シアがドリュッケンを担ぎ出し、ユエと共にレガニドに接近する。

 

「ガッハハハハ、嬢ちゃん達が相手をするだって? 中々笑わせてくれるじゃねぇの。何だ? 夜の相手でもして許してもらおうって「……黙れ、ゴミクズ」ッ!?」

 

刹那、レガニドの頬を“何か“が切り裂いた。レガニドは無詠唱で放たれた魔法に動揺する。

 

「あの、長剣つかわなくていいんですか?手加減はしますけど素手だと不味いですよ?」

 

「…へっ、兎人族ごときが大きく出たな。…坊っちゃん、悪いですが傷の一つや二つは勘弁ですぜ!!」

 

レガニドは素早く置いてきた長剣を抜くとシアに切りかかる。が…剣は空振りした。

 

「なっ…」

 

「ん~っ、ほいっ!」

 

「ガッ?!」

 

シアのドリュッケンで殴り飛ばされ、背後の壁にぶつかるレガニド。背面を強かにぶつけたが右腕が痛みで動かない。その目前に偽詠唱するユエが。

 

「舞い散る花よ 風に抱かれて砕け散れ 〝風花〟」

 

(…こりゃあ、割に合わなさすぎる)

 

…お前も漢女になるがいい

 

ユエオリジナル魔法第二弾、〝風爆〟によってまた一人ムスコを無念の内に亡くした漢女が誕生した。

レガニドがフルボッコにされて戦意喪失した貴族に殺気全開のハジメが迫る。

 

「ひぃ! く、来るなぁ! わ、私を誰だと思っている! プーム・ミンだぞ! ミン男爵家に逆らう気かぁ!」

 

……地球の全ゆるキャラファンに謝れ、ブタが

 

「…待った」

 

ハジメがスパイク状の靴でプームを踏みつけようとしたのを彩人が阻止する。

 

「…どうして止めるの?こいつは私達をモノ扱いした上に君を殺そうとしてたんだよ?」

 

「…それはわかってる。だが、貴族を敵に回すのは面倒だ。少し待ってくれ」

 

「………君の頼みなら」

 

ハジメはしぶしぶ戻っていった。

 

「き、貴様、よくやった!あの女達をありがたくも、もらってやる!光栄に思え!」

 

「……………」

 

「な、なんだ!わ、私に近づくなぁ!!」

 

微塵も反省していないプームの耳元で彩人は何かを話す。

 

「―――――――――」

 

「!?」

 

「―――――――、――――――――。――――――――――、――――――――」

 

「な、………や、止めろ!わ、私は………男爵の………!」

 

「―――――――――――、―――――――――――。――――――――――――――、――――――――」

 

「あ…………あぁ…………何と…………私、は…………間違っていたのか……………」

 

「―――――――――――――――――、――――――――――――――――、――――――――」

 

「…………………」

 

彩人の話を聞いている内にプームは絶望の表情で黙り込んでしまった。

 

「…この話を聞いてあんたがどのように生きようが俺には関係ないがな、もし変われるんだったらこれがラストチャンスだ」

 

「…………………」

 

無言のプームを無視して彩人は去っていった。

 

「…彩人、アレに何を言ってたの?」

 

「あんなに風になる話……、聞きたいような聞きたくないような……」

 

完全に沈黙したプームを見て、ユエとシアが質問するが、

 

「彩人君、今のって恵里ちゃんの………」

 

「……恵里から聞いてたか」

 

ハジメは知っているようだった。

ユエ達が聞こうとすると、

 

「そこの冒険者、止まりなさい」

 

ギルド関係者が騒ぎを聞き付けていたようだ。




説得(ryです。誰が何と言おうとも説得(ryです。


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ウルの町防衛戦線
支部長の依頼、いざウルの町へ


もうすぐクラスメイト達と再会しますが・・・良い展開が作れる気がしない。

まあ模造がオリジナルを超えるわけないもんね、仕方ないね。


ギルド職員に呼び止められて事情聴取、ということになった。

彩人はありのままを説明したが

 

「ギルド内で起こされた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので……規則ですから冒険者なら従って頂かないと……」

 

こうなる。しかもプームとレガニドは片や心身喪失、片や半殺しであるため解決までは時間がかかる。彩人はプームを更生させればすぐに解放されるのでは?と安直に考えていたので、プームが心身喪失状態になったことで結局長引くことになった。

 

「何をしているのです? これは一体、何事ですか?」

 

眼鏡をかけた理知的な男性がやってきた。

 

「ドット秘書長! いいところに! これはですね……」

 

職員がドットにこの騒ぎの内容を話すとドット氏は鋭い目つきで彩人に近づく。

 

「話は大体聞かせてもらいました。証人も大勢いる事ですし嘘はないのでしょうね。やり過ぎな気もしますが……まぁ、死んでいませんし許容範囲としましょう。取り敢えず、彼らが目を覚まし一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在はしてもらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが……それまで拒否されたりはしないでしょうね?」

 

彩人とハジメ以外にはステータスプレートが無く周りにバレたらヤバい情報だらけの彼女達への危険性を配慮し、キャサリンの手紙を差し出す。

 

「身分証明・・・かは分かりませんが何かあったらこれを渡すように言われたので、こちらを」

 

「・・・?まあ、拝見しましょう」

 

ドット氏が手紙を読むと驚愕した表情となり手紙を丁寧にしまうと、

 

「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますが……この手紙が差出人本人のものか私一人では少々判断が付きかねます。支部長に確認を取りますから少し別室で待っていてもらえますか? そうお時間は取らせません。十分、十五分くらいで済みます」

 

「あ・・・はい。その程度なら待てます」

 

「職員に案内させます。では、後ほど」

 

そう言って足早に去っていった。

 

「キャサリンさんって何者なんだ・・・」というオーラがハジメ達から嫌というほど感じた。

 

「あの~私はどうすれば…」

 

「ごめんなさい、逃げないでください」

 

「・・・はい。承知致しました…」

 

リシーが厄介ごとを感じて去ろうとしたが彩人の一言でがっくりとうなだれてしまった。

その後ギルド職員に連れられてやってきた応接室で待つこと10分。扉のノック音と共に入ってきたのは金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性と先ほどのドット。

 

「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。彩人君、ハジメ君、ユエ君、シア君、ミレディ君・・・とそちらはゼータ君、イクス君、アクセル君……でいいかな?」

 

「ええ。名前はその手紙に?」

 

「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている……というより注目されているようだね。将来有望、ただしトラブル体質なので、出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」

 

トラブル体質なんてレベルではないのだが、先生の選んだ人達だからこれを身分証明とする、とさらりと言うイルワ氏。絶大な信頼を寄せているようなのでシアが質問する。

 

「あの~、キャサリンさんって何者なのでしょう?」

 

「ん? 本人から聞いてないのかい? 彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の五、六割は先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね。その美しさと人柄の良さから、当時は、僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、王都が」

 

「はぁ~そんなにすごい人だったんですね~」

 

「……キャサリンすごい」

 

「只者じゃないとは思ってたけど……思いっきり中枢の人間だったなんて。ていうか、そんなにモテたのに……今は……いや、止めとこ…」

 

旦那がブルックの町の町長だとは夢にも思うまい。

 

「・・・と、身分証明ができたのなら退席しても?」

 

「実は、君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている」

 

知   っ   て   た   。

非は向こうにあるとはいえ過剰防衛の可能性があるという。法的な手続きを踏むのも面倒だが拒否してブラックリストにでも載せられるのは避けたい。

 

「・・・内容によりますが、聞きましょう」

 

「聞いてくれるようだね。ありがとう」

 

依頼内容は北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例を受けて高ランクの冒険者パーティーが組まれたが、飛び入り参加した者がいる。

この飛び入りが、クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物なのだが、家出同然に実家を飛び出して参加したため伯爵が息子の動向を連絡する者を使わせたがその人の消息が絶たれたために捜索願が出ていた。

つまりウィルの捜索が依頼内容である。

冒険者パーティーが手練れぞろいであったために生半可な冒険者を派遣できず困っていたところに彩人達が来た、という訳だァ。

 

「あの、俺〝青〟なんですが」

 

「さっき〝黒〟のレガニドを瞬殺したばかりだろう?そんな強者を従えてる時点で只者ではない。 それに……ライセン大峡谷を余裕で探索出来る者を相応以上と言わずして何と言うのかな?」

 

「」

 

キャサリンにはそのことは言ってないので手紙に書かれてはいないはず・・・と、手を挙げるシア。

 

「・・・シア、言ったな?」

 

「え~と、つい話が弾みまして……てへ?」

 

「一人だけか?」

 

・・・と黙り込む二人。

 

「言わなきゃ飯抜き、添い寝無し」

 

「ごめんなさぁい!つい口が滑っちゃったの!だからご飯抜きは止めてぇぇぇぇ!」

 

「…!?私も居たのに止めなかった…謝るから…だから添い寝無しはやめて…」

 

「・・・正直で宜しい」

 

彩人達の会話に苦笑いしつつもイルワは話を続ける。

 

「…続けてもいいかな?生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね、できる限り早く捜索したいと考えている。どうかな。今は君達しかいないんだ。引き受けてはもらえないだろうか?」

 

「・・・随分真剣だが、そこまでして頼む理由でも?」

 

「彼に……ウィルにあの依頼を薦めたのは私なんだ。調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思った。実害もまだ出ていなかったしね。ウィルは、貴族は肌に合わないと、昔から冒険者に憧れていてね……だが、その資質はなかった。だから、強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、悟って欲しかった。冒険者は無理だと。昔から私には懐いてくれていて……だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに……」

 

ウィルとイルワは繋がりが深いらしい。

 

「引き受けるのはいいが・・・少し条件がある」

 

「何だね?出来る範囲でなら・・・」

 

彩人が出した条件は原作と同じく、

 

・自分たちが教会と敵対しても後ろ盾となってもらう

・ユエ達のステータスプレートの作成、不都合な内容の他言無用

 

の二つ。

 

「ふむ、個人的にも君達の秘密が気になって来たな。キャサリン先生が気に入っているくらいだから悪い人間ではないと思うが……そう言えば、そちらのシア君は怪力、ユエ君は見たこともない魔法を使ったと報告があったな……となるとミレディ君やゼータ君たちにも…?その辺りが君達の秘密か…そして、それがいずれ教会に目を付けられる代物だと…大して隠していないことからすれば、最初から事を構えるのは覚悟の上ということか……そうなれば確かにどの町でも動きにくい……故に便宜をと……」

 

「はい」

 

「犯罪に加担するような倫理にもとる行為・要望には絶対に応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。だが、できる限り君達の味方になることは約束しよう……これ以上は譲歩できない。どうかな」

 

「それで十分。ウィル氏本人の保護か遺留品の回収すればよろしいか」

 

「本当に、君達の秘密が気になってきたが……それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。彩人君の言う通り、どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい……皆さん、宜しく頼む」

 

「承知した」

 

その後、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取り、彩人達は部屋を出て行った。

静寂の内、ふうと息を吐いたイルワにドットが話しかける。

 

「支部長……よかったのですか? あのような報酬を……」

 

「……ウィルの命がかかっている。彼ら以外に頼めるものはいなかった。仕方ないよ。それに、彼等に力を貸すか否かは私の判断でいいと彼等も承諾しただろう。問題ないさ。それより、彼らの秘密……」

 

「ステータスプレートに表示される〝不都合〟ですか……」

 

「ふむ、ドット君。知っているかい? ハイリヒ王国の勇者一行は皆、とんでもないステータスらしいよ?」

 

ドットはその発言に目を丸くした。

 

「! 支部長は、彼が召喚された者…〝神の使徒〟の一人であると? しかし、彼はすでに教会と敵対しているような口ぶりでしたし、勇者一行は聖教教会が管理しているでしょう?」

 

「ああ、だが彼だけではない。彼の隣に座っていた白髪の少女もそうでないかと思っている。でもね……およそ四ヶ月前、その内の二人がオルクスで亡くなったらしいんだよ。奈落の底に魔物と一緒に落ちたってね」

 

「……まさか、その者達が生きていたと? 四ヶ月前と言えば、勇者一行もまだまだ未熟だったはずでしょう? オルクスの底がどうなっているのかは知りませんが、とても生き残るなんて……」

 

イルワの推測に信じられないと言うかのようなドットの否定。

 

「そうだね。でも、もし、そうなら……なぜ、彼らは仲間と合流せず、旅なんてしているのだろうね? 彼らは一体、闇の底で何を見て、何を得たのだろうね?」

 

「何を……ですか……」

 

「ああ、何であれ、きっとそれは、教会と敵対することも辞さないという決意をさせるに足るものだ。それは取りも直さず、世界と敵対する覚悟があるということだよ」

 

「世界と……」

 

「私としては、そんな特異な人間とは是非とも繋がりを持っておきたいね。例え、彼らが教会や王国から追われる身となっても、ね。もしかすると、先生もその辺りを察して、わざわざ手紙なんて持たせたのかもしれないよ」

 

「支部長……どうか引き際は見誤らないで下さいよ?」

 

「もちろんだとも」

 

あまりに壮大な話に眩暈がするドット。それでも秘書としての忠告は欠かさなかった。

 

その一方、捜索範囲内の場所に最も近いウルの町に向けて爆走する魔動二輪。ライセンの時とは違い、魔力の散霧がないので全力疾走している。が、運転しているシアは不機嫌である。

 

「・・・一度コレ運転したかったんだろう?」

 

「確かに言いましたよ。嬉しくないと言ったらうそになります。でも・・・」

 

シアの後ろに同じく不満そうな表情でシアにしがみつくユエが続きを言った。

 

「…ハジメ、ずるい」

 

「~♪」

 

現在魔動二輪シュタイフに乗るのはユエとシア、サイドカーにミレディ。浮遊する彩人と彼におんぶされているハジメとヴァルキュリアたち。

 

「・・・余計な事言ったろう」

 

「「……」」

 

いわば二人への罰である。

 

「プっ、怒られてるぅ~・・・あああ止めて!ユエちゃん、接続部外そうとしないで!シアちゃん蹴らないで!落ちる!落ちちゃうからぁ!」

 

ミレディが二人を煽って怒らせているが彩人はシカトしてウルの町の情報を話す。

 

「これから行くウルの町は湖畔の町で水源が豊からしい。そのせいか町の近郊は大陸一の稲作地帯なんだそうだ」

 

「……稲作?」

 

「そうそう。つまりお米。私達の故郷、日本の主食。こっち来てから一度も食べてないから・・・同じものかどうかは分からないけど、早く行って食べてみたいな」

 

「へぇ、そうなんですね」

 

「そういう会話は着いてからでもいいでしょぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

「あー・・・うるさいから止めてやりな」

 

「「…」」

 

渋々止める二人。この後文句を言ってミレディがまた同じ目に合うが、彩人は清水幸利を助けたのに魔物が目撃された(・・・・・・・・)ことに不安を抱いていた・・・。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ふむ、凄まじい気を中心に多数の強者の気配。意外に魔人族のやつらも役に立つ」

 

「それで、どの肉体をご所望で?」

 

「当然最も強い者だ。私を変人扱いし闇へ葬った愚者どもに鉄槌をくだしてやらねばならん」

 

「フッフッフ・・・エヒトとやらに感謝せねばなりませんなぁ」

 

「今は従うだけだ。最強の肉体と私の優秀な頭脳があれば奴が神だろうが関係ない。それよりも警戒すべきは我らを呼び寄せた〝奴〟だ」

 

「・・・そうでしたな」

 

「だが、それは後で考えるとしよう。まずは魔物を使役せねば。どれほど溜まったか?」

 

「ざっと7万ほどですな。やつの抵抗が予想以上にしぶとく、目標まではもう少しかかりまする」

 

「やれやれ・・・この優秀な私が使ってやっているのだからありがたく思うべきだというのに・・・」

 

巨大な影と老人の影。二人の視線の先には茨の冠のような装置をつけられ、うめき声をあげながら魔物を洗脳する清水が居たのだった。



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逃れられぬ再会

祝、50話!

・・・でも内容は期待しないで。


「お説教です!そこに直りなさい!轟君!!」

 

目の前で自分を指さして仁王立ちする少女・・・のような恩師に、好奇の視線を向けてくるクラスメイト。そんな光景に彩人は辟易していた。

 

「(どうしてこうなった)」

 

と。

事の始まりはウルの町に到着し、早速全員で米料理が食べられる店に入った時だった。

 

「米か・・・やっぱ日本人は米だよな」

 

「とっても久しぶりだから楽しみ~」

 

「・・・ま、元の世界と同じかどうかはわからんけど」

 

そんな会話をしながら入店したところまでは良かった。

 

「私、〝彩人〟さんの食べてたもの食べたいです」

 

「ん…私も〝彩人〟が食べてた料理、気になる」

 

「香辛料があればカレーとかあるかもな、〝ハジメ〟」

 

「あ、それいいかも!」

 

「なんか辛そうだけど、美味しいの?〝ハジメ〟ちゃん」

 

ミレディの質問にハジメが答えようとしたその時、彩人達が座っていた席の後ろのカーテンがシャーーッと開かれ、社会科教師(担任ではない)の畑山愛子が現れ、

 

「す、すみません!もしかして・・・轟君と南雲さん!?」

 

「な・・・・・・・・先生?」

 

「え・・・・・・・・先生?」

 

と答えてしまった。

 

「二人共・・・本当に生きて「いえ、人違いです」そんなはずありません!そこの男の子は間違いなく轟君です!」

 

ハジメが拒否するがハジメはともかく彩人はほぼ外見が変化してないのでごまかせなかった。

 

「何があったんですか? こんなところで何をしているんですか? 何故、直ぐに皆のところへ戻らなかったんですか? 轟君!南雲さん! 答えなさい! 先生は誤魔化されませんよ!」

 

二人、特に彩人に詰め寄る愛子。大声を出しているので他の客はもちろん、愛ちゃん護衛隊と近衛騎士団も集まってくる。

 

「…彩人から離れて、困ってる」

 

ユエが愛子にジト目で言う。・・・当然愛子はヒートアップし、

 

「轟君!こちらの女性達はどちら様ですか!?」

 

「いや、先生落ち着いて・・・この子たちは」

 

「……ユエ」

 

「シアです」

 

「ミレディちゃんだよ~☆」

 

「「彩人(さん)の女(ですぅ!)」」

 

『ゼータ』

 

『イクスと申します』

 

『アクセル』

 

『『『マスター、彩人のしもべ(にございます)(です)』』』

 

「」

 

とんでもない自己紹介だぁ・・・・

 

「何変な事言ってんだァ・・・・?」

 

「ひどいですぅ!私のファーストキスを奪っておいてぇ!」

 

「それは救命行為だ!」

 

「うう、ミレディちゃん、キズモノにされちゃったのに・・・しくしく」

 

「ミレディてめぇ、さっきの仕返しか!!?ボロボロにしたのはゴーレムのほ「轟君?」・・・・どうしたんスか先生」

 

彩人が愛子に向き直ると目を光らせて怒り心頭といった愛子の姿。

 

「南雲さんという人がありながら女の子のファーストキスを奪った挙句、ふ、二股した上に不純異性交遊なんて!!今まで帰ってこなかったのはお、女の子と遊び歩いていたからなんですか! もしそうなら……許しません! ええ、先生は絶対許しませんよ!」

 

「ちょ・・・」

 

そして、愛子は彩人を指さして、「お説教です!そこに直りなさい!轟君!!」へとつながるわけだ。

ギャラリーが出来て店の迷惑になるのと一度話をするため別室へ。

ニルシッシル(異世界版カレー)を注文し、カレーにそっくりな料理を楽しむ暇もなく愛子や園部優花達生徒から怒涛の質問を投げかけられる。

 

Q、橋から落ちた後、どうしたのか?

 

A、魔物を喰らって生き延びた

 

Q、なぜ南雲さんは白髪なのか

 

A、魔物肉による突然変異あるいは極度のストレスによるメラニンの枯渇

 

Q、南雲さんの右目はどうしたのか

 

A、眼帯です

 

Q、なぜ、直ぐに戻らなかったのか

 

A、戻れなかった

 

「・・・ところどころ気になる部分がありますが大体のお話は分かりました・・・今はとにかく二人が生きていてよかったです」

 

「やっと食えそうだ・・・」

 

一通り話は済んだのでニルシッシルを堪能する彩人。先に食べていたハジメがしつもんする。

 

「それはそうと先生はここで何してるの?」

 

「そ、そうでした・・・聞いていただけますか?」

 

「うん、食べ終わるまでならいいよ」

 

なおざりなハジメに待ったをかけるように愛子の隣に座る騎士がハジメを睨みつけた。

 

「おい、愛子がはなしているんだ、ちゃんと聞け」

 

「は?・・・・先生、誰、その人」

 

「あ・・・紹介しますね」

 

愛子が神殿騎士専属護衛隊隊長のデビッドを紹介した。しかしハジメは興味なしにニルシッシルを食べ続けていた。

 

「ふーん、で?」

 

「なっ・・・・」

 

ハジメの態度にイライラを募らせるデビッド。

 

「まあまあデビッドさん・・・」

 

「あぁ・・愛子、君はなんて優しいんだ。ここは君に免じて矛を収めることに「先生。続きを話して」・・・・っ」

 

「は、はい・・・あの轟君、クラスメイトの清水君を覚えてますよね?彼とは親しいようなので・・・」

 

「・・・?幸利とは親友っスけど・・・迷宮組じゃ」

 

「ええ・・・ですが精神的苦痛を抱えて交際中の辻さんと一緒に私の農地改革のお手伝いに・・・」

 

「(ヒロインズのせいだろうなぁ・・・幸利、済まん)・・・・?ではなぜここに居ないんスか」

 

「彼は・・・誘拐されました」

 

「・・・・?!」

 

親友の危機に戦慄する彩人。原作と違いコンプレックスは解消されてるから魔人族の誘いには乗らない・・・と考えていたが甘かったようだ。

 

「しかも、彼が誘拐される際に氷の魔法を使う魔物や槍や剣でも切り裂けない魔物がいたそうです」

 

「・・・・辻さんは」

 

「・・・彼が居なくなって以降、一人ででもさがしに行こうとしてました。今は厳重警戒中の宿で休んでいます」

 

「・・・」

 

「清水君の職業は〝闇術師〟です。他の系統魔法においても高い適正を持っています」

 

「だから狙われた・・・ってところっスかね」

 

彩人は真剣に犯人を考えるが、唐突にデビッドが吼えた。

 

「おい、お前ら! 愛子が話しているのだぞ! 真面目に聞け!」

 

どうやら彩人以外が聞いていないのが腹立たしいようだ。

 

「聞いてるよ。っていうか今私達は食事中なんだよ?もう少し行儀良くしなよ」

 

デビッドを一蹴するハジメ。するとデビッドは苦々しい表情で、

 

「ふん、行儀だと? その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前の方が礼儀がなってないな。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ? 少しは人間らしくなるだろう」

 

シアの方をみて言い放った。シアは外で初めて亜人差別を体験してしまった。頭ではわかっていてもシアの心はよどんでいく。顔をそむけたシアを見て勝ち誇っている表情のデビッド。周りの騎士もデビッドを咎めないあたりお察しである。そんなデビッドをユエが絶対零度の視線を突き刺す。

 

「何だ、その眼は? 無礼だぞ! 神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか!」

 

「…小さい男」

 

「……異教徒め。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってや・・・グぅっ!?」

 

デビッドがユエに向かって携帯している剣を抜く前に、彩人がデビッドの鎧を掴み上げていた。

 

「な…がっ・・・は、放せ!」

 

「・・・先生の話は俺が聞いた。後は俺がどうにかするから余計な事をするな。不毛な戦いは誰も得しないぞ」

 

「だ、黙れっじゃまをするなら貴様も斬るぞ!」

 

・・・ならやってみろよ

 

「!?・・・て、テラタイト(硬度7)の鎧が!?」

 

すると彩人鎧を掴んだ手を握り、デビッドの鎧が粉々に砕ける。愛子、クラスメイト、騎士団が驚きのあまり目を見開く。

 

これでもやるってんなら、な

 

「・・・・っ、く・・・・・」

 

彩人は戦士の顔になっており、圧倒的な威圧感を放っていた。デビッドが剣を置くと彩人は覇気を収め、小さく震えるシアに話しかける。

 

「つらいかもしれないがシア、これが〝外〟での普通なんだ。いちいち気にしている暇はないぞ」

 

「はぃ、そうですよね……わかってはいるのですけど……やっぱり、人間の方には、この耳は気持ち悪いのでしょうね」

 

自虐気味に言うシア。すると、いつの間にかシアの手を握っていたユエが話す。

 

「……シアのウサミミは可愛い」

 

「ユエさん……そうでしょうか」

 

教会の教えを色濃く刷り込まれた奴ほど亜人への差別意識が高い。デビッドの評価だけが全てではないと彩人は付け加えた。

 

「そう……でしょうか……あ、あの、ちなみに彩人さんは……その……どう思いますか……私のウサミミ」

 

「・・・?可愛いと思うぞ?ふわふわで触り心地がいいしシアの気分でピコピコ動くのも、な」

 

「…ん、彩人、よくシアを撫でてる。彩人のお気に入り」

 

「そ、そうでしたか、彩人さんのお気に入り・・・えへへ」

 

「そうそう、ハジメもシアウサミミすきだったよねぇ。分かるよ分かるよ、あれは癖になるぅ~」

 

「ちょ、ミレディ、それは言わない約束!!」

 

その光景を見ていたクラスメイト達。

 

「あれ? 不思議だな。さっきまで轟のことマジで怖かったんだけど、今は殺意しか湧いてこないや……」

 

「お前もか。つーか、あの二人、ヤバイくらい可愛いんですけど……どストライクなんですけど…しかもあのミニスカ金髪の子も…可愛い…なのに、目の前にいちゃつかれるとか拷問なんですけど……」

 

「異世界の女の子と仲良くなる術だけは……聞き出したい!あと、後ろのメイドさんたちとお近づきになりたい! ……昇! 明人!」

 

「「へっ、地獄に行く時は一緒だぜ、淳史!」」

 

そんな会話する男子にものすごく冷めた目を向ける女子。

その一方でチェイスが、場の雰囲気が落ち着いたのを悟り、デビッドの治癒に当たらせる。と、

 

「お、おい、南雲。それ銃だろ!? 何で、そんなもん持ってんだよ!」

 

玉井の叫びにチェイスが反応する。

 

「銃? 玉井は、あれが何か知っているのですか?」

 

「え? ああ、そりゃあ、知ってるよ。俺達の世界の武器だからな」

 

実は彩人がデビッドを押さえたのはハジメがドンナーを抜いていたからだ。銃の存在がバレる可能性を考慮したが、結局バレた。

制作者はもちろんハジメ。・・・ってか自分で白状した。

戦争において強い武器は重要となるのでチェイスが銃の情報をえようとするがハジメは一切語らない。

 

「それを量産できればレベルの低い兵達も高い攻撃力を得ることができます。そうすれば、来る戦争でも多くの者を生かし、勝率も大幅に上がることでしょう。あなたが協力する事で、お友達や先生の助けにもなるのですよ? ならば……」

 

「なんと言われようと、私は彼以外に協力するつもりはないよ。奪おうというなら敵とみなす。その時は……戦争前に滅ぶ覚悟をしろ」

 

少女とは思えぬ威圧感を出すハジメ。

 

「チェイスさん。南雲さんには南雲さんの考えがあります。私の生徒に無理強いはしないで下さい。南雲君も、あまり過激な事は言わないで下さい。もっと穏便に……南雲さんは、本当に戻ってこないつもり何ですか?」

 

「少なくとも私は戻る気はないよ、先生」

 

「・・・そんな。轟君、南雲さんを「悪いけど俺も戻るつもりはないっスよ」・・・どうしてそんなことを言うんですか?清水君を見捨てるつもりなんですか?」

 

「・・・違いますよ、先生。幸利は俺が助けます。でも、俺は戻れない」

 

「な、なんでですか!」

 

「・・・・・俺が"サイヤ"かもしれないって言ったら?」

 

「な、なにを・・・「愛子!ソイツから離れろ!!」・・・チェイスさん?!」

 

「き、貴様ァ・・・よくも我らの前でその名を口にしたな!!!」

 

気づけば騎士団全員が敵意と殺気を全開にして彩人を睨みつけていた。

 

「チェ、チェイスさん!どういう事なんですか!」

 

「愛子!サイヤ・・・サイヤ人・・・は、我らの神に仇をなした不倶戴天の神敵!!その名を話すだけでも腹立たしい存在なのだ!!」

 

「・・・!!」

 

「・・・あくまでもかもしれない、なんだけどな・・・。つまりはそういう事。俺が居たら、うっかり禁句を言って迷惑になるかもしれない。それじゃあ、な」

 

「ま、待って・・・」

 

愛子の声も虚しく彩人達はその場を立ち去ってしまった。変貌した南雲と神敵の名を出した轟。クラスメイト達はもちろん愛子も重い空気で彩人達を見送った。

 

「・・・っ」

 

「…ミレディ?」

 

「あんのクソ神・・・自分がやられたからって・・・!ほんっと腹立つ!!」

 

「・・・ミレディさん」

 

「まぁ、そんなもんだろうよ」

 

「・・・彩人君?宿はそっちじゃないよ?」

 

「悪い、ハジメ・・・ちょっと寄り道する」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「・・・ふぅ」

 

愛子は、今日の出来事に思いを馳せ、ソファーに深く身を預けながら火の入っていない暖炉を何となしに見つめる。

死んだと思っていた生徒達が生存していたことに喜び、変貌したことを悲しみつつも二人とまわりの女性たちとの関わりから、信頼できるあいてに出会えたことに安堵していた。

 

ふと愛子が窓の外から物音が聞こえたので窓を開けると、浮遊している彩人が。

 

「さっきぶりだな、先生」

 

「と、轟君!?ど、どうして浮いて・・・」

 

「・・・それについても話すからさ、とりあえず落ち着いてほしい」

 

「え、ええ・・・分かりました」

 

そして彩人はオルクスの地下で語られたことを話す。〝解放者〟と狂神との戦い。世界の真実を。サイヤ人の事は上手くごまかした。

愛子はあまりの情報量に混乱していた。

 

「・・・とまあ、これが世界の真実ってこと。このあとどうするかは先生に任せるよ」

 

「と、轟君は、もしかして、その〝狂った神〟をどうにかしようと……旅を?」

 

「・・・まあ約束した人が居るし・・・・そうなるかな」

 

だれかの為になにかを為そうとしていると、愛子は少し安心感を覚えていた。

 

「アテは・・ありますか」

 

「大迷宮がカギだ。オルクスの地下奥底がその一つ・・・今のあのメンツじゃ攻略は不可能だろうけど。あの程度でおどろいてちゃ・・・・死ぬ」

 

話すことは話したと彩人が去ろうとすると、

 

「愛子!大丈夫か!・・・貴様、さっきの!」

 

見回りのデビッドが部屋に入ってきた。

 

「じゃあな、先生。少なくとも今のままじゃ元の世界には帰れない・・・ぜ!」

 

「と、轟君!ま、待って・・・消えた・・・?」

 

彩人は瞬間移動で去った。

愛子は悔しがるデビッドを尻目に彩人から伝えられた事を反芻し、思考の海へ沈んでいくのだった。



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愛ちゃん護衛隊、出動

瞬間移動の利用法。


夜明け前。朝もやが立ち込める中宿でいただいた握り飯を仕舞いこんでウルの町の北門へ歩いていく彩人達。

目的地の山脈は魔動二輪で飛ばせば3、4時間で到着する。

ウィル・クデタ達が、北の山脈地帯に調査に入り消息を絶ってから既に五日経っているため生存の可能性は低いが行かなければならない。・・・のだが。

 

「・・・何してんの?」

 

頭を抱えながら彩人が北門前に立ちふさがる愛子と、園部優花、菅原妙子、宮崎奈々、玉井淳史、相川昇、仁村明人、辻綾子の八人に向かって話した。代表するかのように愛子が答える。

 

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね? 人数は多いほうがいいです」

 

「…清水の情報もこの町だけじゃこれ以上集まらない」

 

「頼む轟、俺たちも清水を探したいんだ」

 

「轟君、お願い。トシくんに会いたいの」

 

愛子に続いて相川昇、仁村明人、辻綾子が彩人に頼み込む。

 

「お願いします、轟君。私は先生として生徒達を元の世界に還す責任があります。…これだけは絶対に譲れません」

 

決意に満ちた眼差しの愛子。彩人がハジメの方をチラッと見るとハジメは諦めたように頷いた。

 

「・・・仕方ない。一緒に行く」

 

「…彩人」

 

「彩人さん、いいんですか?」

 

ユエとシアが彩人に聞く。前日脅したばっかりだからだ。

 

「…この人は突っ走ったら止まらない。そんな人だ。特に生徒の為なら、な。強引に逃げても地のはてまで追ってくるだろうよ」

 

「そういうこと。…よっと、そうと決まったら善は急げ」

 

ハジメが〝宝物庫〟から魔動四輪を出す。

 

「なっ…いきなり車が…?!」

 

「皆に合わせてたら日が暮れちゃうよ。さっさと乗って。余った人は荷台ね」

 

今のハジメを見て誰が〝無能〟と呼べるだろうか。

女性陣は車内、荷台に彩人と男性陣。ヴァルキュリアが彩人と同じ荷台を所望したが男子生徒の下心が騒いだせいで女子生徒達に引っ張り込まれた。

ハジメが運転し、愛子と話をしている間、彩人は男子陣にモテる秘訣を尋問されていた。

車内では園部達がシアやミレディに彩人との関係などを色々聞いている

「迷宮組はまだオルクスに?」

 

「はい。手紙でしたが天之河君を中心に攻略を進めているそうです。…ただ、その中でも白崎さんは轟君と南雲さんを探すことを目的としているようです」

 

「(香織ちゃん…)白崎さんは元気?」

 

「あ、気になりますか?そういえば南雲さんは白崎さんと仲が良かったですもんね!」

 

「…うん、とっても“仲良し“。…でも、次に手紙を返すとき、彼女に『気を付けるのは仲間』って伝えてくれない?」

 

「…え?」

 

「多分私達は事故で落下してる事になってるんじゃない?」

 

「え…はい」

 

「やっぱり。でも私達は事故で落ちたんじゃない、誰かに落とされたんだ(・・・・・・・)彩人君を確実に落とすために」

 

「あ、あれは轟君を狙ったんですか?だったら何故南雲さんを…」

 

「昨日の彩人君のスピードを見たでしょ?避けられる可能性を考えて私を狙ったんだよ。彼が庇うと分かってて」

 

「…!!」

 

「理由は白崎さんにあると思う。彩人君と一緒に居ることが多かったし」

 

「で、ですが…そんな理由で」

 

だからこそ(・・・・・)だよ、先生。嫉妬心で人を殺そうとする奴だから油断出来ないってこと」

 

「…」

 

生徒がそんな事をしていた、という事実に愛子は絶望感を隠せなかった。ちなみにハジメは犯人を知っているがそれを愛子に言うと説得しようと言い出して復讐しにくくなるので黙っていた。

魔動四輪で北の山脈地帯に到着。…と言ってもここからは車ではとても進めない急な坂や崖が多いのでここからは徒歩で行かざるを得ない。

「…」

 

「先生?顔色悪いけど…どうしたの?」

 

「あ…少し車酔いしてしまいまして…あはは」

 

園部が愛子を心配するが、愛子は誤魔化した。まだ気持ちの整理がつかないからだ。

 

「…それで、轟達の依頼ってのはなんだ?」

 

「あぁ、遭難者の捜索だな」

 

「捜索っつっても、山ん中だぜ?どうやって探すんだ?」

 

「私のコレを使う」

 

ハジメが〝宝物庫〟から魔動四輪と入れ替えに取り出して空に浮かべていたのは巨大な鋼鉄の鳥。重力制御式鳥形無人偵察機〝オルニス〟である。

クラスメイト達が「もうなんでもありか」と度肝を抜かれている隙にミレディがハジメに話しかける。

 

「重力制御ってことは、私のを使ってるわけね」

 

「そう。貴女の浮遊するゴーレムを参考にね。目はゴーレム騎士のモノを使ってるから私の眼帯に情報を伝えることも出来る」

 

「…言っとくけど元々私の私物なんだからね?」

 

「そんな事知らない」

 

「ひっどーーい!!訴えてやるんだから!」

 

「…お、山頂付近に大きな破壊の跡がある。八合目と九合目の間だね」

 

「あ、こら無視するな!」

 

ミレディがハジメに絡んでる間に、ユエとシアが気を探っている彩人と話をしていた。

 

「…彩人、どう?」

 

「・・・確かにその付近で人の気を感じる。だが徐々に弱まってきているな」

 

「…その人がウィル?」

 

「かはどうかは分からんが事は一刻を争う」

 

「な、ならその人の所へ…」

 

「直行したい所だがバカでかい気で直接向かうのはキツいな」

 

「…敵?」

 

「かもな。…アクセル、先に行ってくれ。お前の気を使って瞬間移動する」

 

『承知しました、マスター』

 

アクセルが高速で山を登っていく。

 

「あ、メイドさんが先に…」

 

「早く行くならこっちの方が早い」

 

彩人の発言に怪訝そうな顔をする愛子とクラスメイト。ハジメ達は知っているので無反応。

 

「早いって…あのメイドさんと何の関係があるのよ」

 

園部が質問する。

 

「まあまあ、すぐにわかるさ・・・・よし『着いたか?』」

 

『はい、マスター。ハジメ様の言うポイントに到着いたしております。周りに魔物の姿はございませんが気配を感じますのでご注意を』

 

「『…そうか・・・よし、ご苦労』・・・アクセルの気を捕らえた。つかまr・・・ぐえ」

 

「右腕もーらい!」

 

「…正面…!」

 

「後ろにしますぅ!」

 

いきなりハジメ達が彩人に抱き着いたのでさらに困惑する愛子達。

 

「・・・ふざけてんの?」

 

「違うって。これからあそこに瞬間移動するから掴まれって事」

 

「「「「「「「「「しゅ、瞬間移動!?」」」」」」」」」

 

「ゼータ、イクス」

 

『うむ』 『はい。失礼いたします、マスター』

 

ゼータが左腕、イクスが左手に触れる。

 

『残る者は我とイクスに触れよ』

 

『少しでも離れると移動できませぬ故、しっかりとおつかまりくださいませ』

 

未だに理解に苦しむクラスメイト達だが、

 

「す、すぐ行けることに越したことはないよな・・・」

 

「し、仕方ねえ、轟を信じてやるかー!」

 

「い、イクスさん・・・し、失礼します・・・」

 

玉井淳史、相川昇、仁村明人の三人はおずおずとイクス達に触れる。美人メイドに顔が緩み切っている。それを見て女子がゴミを見るような視線を向けていた。

その後、全員が直接あるいは間接的に彩人に触れたので瞬間移動。

 

「・・・と。着いたぞ」

 

「は・・・?い、いつの間に・・・」

 

「ホントに移動したのk・・・ってうおっ高!!本当に一瞬で移動してるじゃねえか!!」

 

『お待ちしておりました、マスター。それと飛行中にこちらのようなものが・・・』

 

「・・・ペンダント?誰かの持ち物かもな、」

 

アクセルが彩人にお辞儀をしていた。その後ろで、

 

「轟の奴・・あんなかわいい子とハーレム作ってる上にこんな技まで使えるとか・・・チートじゃん」

 

「・・・だな。下手に逆らったら命がねえ」

 

そんなクラスメイトを放置して捜索を開始していたハジメ達だったが、

 

「これ・・・魔物の足跡ですかねぇ」

 

「くぼみの深さと大きさからざっと2~3m位だと思うけど・・・」

 

「こんな破壊出来ませんよね…」

 

大きな川のそばに地面を大きく抉った跡があったからだ。周りの木々は焼け焦げ、抉れた部分が川の支流のようになっている。

続けて川沿いを上っていくと滝つぼを発見する。その後ろから彩人達もついてくるが、

 

「…!やっぱり気配感知にかかった。人間の反応だよ」

 

「生きてる人がいるってことですか!」

 

「うん」

 

「…人数は」

 

「一人」

 

「・・・(道理で気が弱弱しいわけだ)」

 

消息を絶ってから五日経っているため生存は絶望的と考えていた分、愛子たちも驚きを隠せない。

 

「・・・ん、滝の裏に洞窟があるな・・・ユエ、頼めるか」

 

「…ん、任せて」

 

彩人が滝の一部に穴があるのに気づき、ユエに頼む。ユエは彩人の考えを理解し一人歩み出ると

 

「〝波城〟 〝風壁〟」

 

滝の水流をモーセの伝説の如く真っ二つに割り、水しぶきを風で吹き飛ばす。

詠唱なしにこんな芸当を行うユエを見て愛子たちも呆然としていた。が、魔力は無限ではないため全員を洞窟へ移動させる。

洞窟の最奥には20代の男性が倒れていた。衰弱しているが大きなけがもなく、近くの袋には食料が入っていた。

・・・と、ハジメが青年を蹴り飛ばして起こそうとしたので治癒師の辻に任せた。瞬く間に青年は回復した。

 

「・・・?」

 

「気が付きました!轟君!」

 

青年が目を覚ましたので早速聞く。

 

「俺の名は轟彩人。フューレンのギルド支部長イルワ・チャング氏からの依頼で捜索に来た。貴方はウィル・クデタさんですか?」

 

「イルワさんが!? そうですか。あの人が…はい、私がウィル・クデタです。……また借りができてしまったようだ……あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」

 

「いえ、礼は後程。ここでなにがあったかお話いただけますか」

 

「あ・・・そうだった…」

 

ウィルの話によると山道を登っている途中でブルタールと呼ばれる魔物と遭遇。他の冒険者に守られながら逃げている途中で漆黒の竜に行く手を阻まれ、竜のブレスの衝撃で川を流れ、命からがらここへ逃げ込んだらしい。

話している途中でウィルは仲間が犠牲になったのに何もできなかった自分に対する罪悪感を感じ、涙を流していた。

 

「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」

 

ウィルのに誰もがどんな言葉をかければいいか迷っていた。生徒達は悲痛そうな表情でウィルを見つめ、愛子はウィルの背中を優しくさする。ヴァルキュリア達とユエは何時もの無表情、シアはもちろん流石のミレディも困ったような表情を浮かべていた。

その中で言葉を話した者が居る。彩人だ。

 

「・・・生きてほしいから助けるんだよ、ウィルさん。貴方に生きてほしいから他の亡くなった方も命を賭して助けたと思う」

 

「…でも、そうだとしても……!」

 

「・・・同じことがあるから分かる・・・じゃないけど俺もここにいるハジメを助けるために死にかけたことがあるんだ」

 

「・・・ええ!?」

 

驚きを隠せないウィル。愛子やクラスメイトも目を丸くしている。知っているメンバーは黙っていたがハジメがつらそうな顔をしていたのでユエがそっと寄り添う。

 

「その時思ってたんだよね、"死んでほしくない"ってさ。まぁその後にハジメに助けられたから説得力は低いかもな」

 

「・・・・彼らも、そう思っていると・・・?」

 

「少なくとも俺はそうだと思ってる。むしろせっかく助けたのに死んじまったらそれこそ・・・言い方は悪いが"死に損"になる。救った命を散らすことこそ、"最低"な奴なんじゃないか?恩に報いたいのなら死ぬんじゃなく、生き続けるんだ」

 

「生き…続ける…」

 

彩人の言葉を繰り返すウィル。あと一押しかと彩人は畳みかけた。

 

「そもそも、貴方が死んだら貴方を待っている人はどう思う?」

 

「・・・!!」

 

彩人の言葉にハッとするウィル。ついでにアクセルが見つけたペンダントを渡す。・・・とそれはウィルの持ち物であるのだが。

 

「これ、僕のロケットじゃないですか! 失くしたと思ってたのに、拾ってくれてたんですね。ありがとうございます!」

 

「・・・正確には向こうのメイド(アクセル)が拾ったんだが…間違いないか?」

 

「はい、ママの写真が入っているので間違いありません!」

 

「・・・にしては随分お若いようで」

 

「せっかくのママの写真なのですから若い頃の一番写りのいいものがいいじゃないですか」

 

「そ、そうか・・・じゃ、じゃあ・・・母親の為にも生きよう、な?」

 

「はい!彩人さん、あなたの言葉で目が覚めました!本当にありがとうございます!!」

 

知っているとはいえあまりに純粋な笑顔に若干引き気味の彩人。その場にいた全員が「あ、マザコンか」と冷めた目で見ていた。女性陣は冷たい視線を向けていた。

そんな中、

 

「彩人君・・・あの「何も言うな、ハジメ」・・・」

 

「今のは俺の本心だ。熊ん時も。ヒュドラの時もな、ユエ」

 

「あ…」

 

「俺の意志をお前らが否定するわけねえよな?」

 

「・・・・!う、うん・・・」

 

「…んっ」

 

「心配だったか?でも俺は死なねえ、お前らと一緒に居るためにな」

 

「「彩人(君)…!」」

 

彩人は二人に笑みを向け、抱き着いてくる二人を受け入れる。「もちろんシア達もな」と付け加えておいた。後が面倒だからだ。シアはデレデレしながらくっついてきた。その光景に愛子達が目を瞬かせていたとか。

 

早速下山することとした。竜の存在も気になるがウィルを巻き込むわけにはいかないと説明すると彼は納得してくれた。

瞬間移動のために再びアクセルを行かせる。・・・が、

 

『マスター、緊急事態です、"竜"が滝の前に…』

 

「『だろうな』」

 

洞窟の出口に待ち構えていた者が全員の視界に入る。

 

「グゥルルルル」

 

低い唸り声を上げ、漆黒の鱗で全身を覆い、翼をはためかせながら空中より金の眼で睥睨する……それはまさしく〝竜〟だった。




ウルの町からでよくね?と思いましたがハジメと先生の会話を入れたくて。(意味あるかは知らんけど)


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竜を穿つ拳

ケツパイル無し、ドM化しない方向で行きます。

オリ主、原作ハジメと逆になってんなぁ・・・

ユエ→頭皮バーン無し

シア→比較的家族を救うのに最初から前向き+扱いがおざなりでない(但し寄生はお断り)





体長7mほどの黒竜が洞窟の前で待ち構えており、愛子達は恐怖のあまり動けずその強大さをしっているであろうウィルは顔面蒼白になって頭を抱えてガタガタ震える。ハジメ達ですら竜の放つ圧倒的なオーラに気圧されている。

 

「『アクセル、ゼータ、イクス。先生達とウィルを守れ』」

 

『承知…』 『御意』 『承りました、マスター』

 

ヴァルキュリア達が指示通りに動いたと同時に黒竜が川を抉ったであろう、極太のブレスを放った。

先に動いたヴァルキュリア達も流石に一瞬で迫るレーザーから全員を避難させるのはきつく、ハジメが巨大な盾でブレスを迎えうつ。

 

「舐めるなぁぁぁぁぁ!!!」

 

原作よりはるかに成長したハジメの作った盾はブレスのパワーで押されはするものの盾には傷一つない。

 

「ハジメ!少し抑えててくれ、先生達を避難させる!」

 

「・・・、分かった!」

 

イクスとゼータが先生達を鼓舞し、彩人が外に出ているアクセルの気を使って瞬間移動で脱出する。

 

「そ、外へ!?彩人さん、あなたは一体・・・」

 

「話は後だ、ウィルさん」

 

「あ・・・な、なんで・・・こっちに」

 

そう。竜が急にブレスを止め、こちらを睨んでいたのだ。

すると再びブレスを放とうと大きく息を吸い込む。・・・だが、そんな隙を逃すわけもなく、

 

「〝禍天〟」

 

「グゥルァアアア!?」

 

ユエの重力球が炸裂する。襲い来る重力に逆らおうとするが、

 

「は~い、大人しくしてね~」

 

重力魔法を授けた本人であるミレディの援護で動きを封じられる。次いで完全に動きを止めた竜にシアがドリュッケンで殴り掛かる。

 

「トドメですぅ!」

 

ドリュッケンの一撃は確かに竜の頭を捕らえた。・・・が、傷一つつかなかった。

 

「そ、そんなぁ!重力魔法込みなのに!」

 

「グルァアア!!」

 

だがダメージ自体は入ったらしく竜が目を血走らせ、邪魔だと言わんばかりに火炎弾を撃ちまくる。近くにいたシアはもちろん、ユエ、ハジメ、ミレディにも襲い掛かる。

 

「きゃあ!」

 

「…くっ」

 

「〝鑑定〟・・・使えそうな素材は無いね」

 

「わわわっ!」

 

粉塵と煙で辺り一面真っ白になるが竜の羽ばたきで視界が晴れる。竜の瞳はいまだにウィルを捕らえている。今度は火炎弾を放つが、イクスの防壁で防がれる。

 

「く・・・俺達も見てるだけじゃ終わらねえぞ!」

 

「加勢します!」

 

愛子とクラスメイト達が自身の魔法や武器で攻撃するが、黒鋼の如く硬い鱗が攻撃を通さず、羽ばたきの風で吹き飛ばされる。

 

『前に出るな・・・はぁッ!!』

 

ゼータの放つ斬撃が竜の翼を狙うもかわされる。するとユエがクラスメイト達に合流する。

 

『ユエ様、ここは我が』

 

「…彩人に言われた。一緒にって」

 

『・・・承知した』

 

ゼータにそういったのちユエはクラスメイト達にやや冷たい口調で言った。

 

「死にたくないなら…下がってて」

 

ユエのそばに寄る愛子達。彼女たちは弱くはないが敵が桁外れであるためかえって足手まといになると気づいたのだ。

ついでに彩人はアクセルにシアとミレディを任せた。ミレディが重力魔法を使おうとすると感づかれるようになってきたのとシアの攻撃が効いてない感じだったので待機。

 

「・・・ドンナーでも通らないとか・・・硬すぎるよ」

 

「・・・ハジメ、コイツは俺が吹っ飛ばす。アイツらに実力を見せるいい機会だからな」

 

「・・・・ホントは私もさっきからずっとシカトされててイライラしてたんだ。最初の一撃はやらせて?」

 

「お、おう・・・」

 

黒竜は相変わらずウィルを攻撃し続けていたが、ハジメがドンナーを仕舞い、シュラーゲンを構えて準備をすると流石に不味いと感じたか黒竜がハジメにブレスを放つ。同時にシュラ―ゲンが火を吹き、ブレスを貫通して黒竜に命中するが少しのけぞっただけで頭をもとの位置に戻すとハジメを睨みつける。

 

「・・・なんかこの状況、あの時と似てるけど任せていいんだよね?」

 

「任せな。あの時とは違う、アイツをボッコボコにしてやるから待ってな」

 

「分かったよ。信じるって決めたし・・・ね!」

 

ハジメがユエ達の所に向かうと黒竜は再びウィルを狙う。

 

「それじゃあ・・・・・ぶん殴る!」

 

彩人はそっぽを向いてブレスを吐く寸前に竜の右頬に左ストレートを叩きこむ。ブレスが明後日の方向に放たれる。竜が自分を攻撃した者の方を見ると誰もおらず辺りを見回そうとした途端、腹部に強い一撃が入り、体がくの字に曲がり、吹っ飛ばされる。彩人は竜の死角に入って無防備な腹を殴り飛ばしたのだ。

 

そこから真正面に突撃する彩人。とうとう彩人を視界にとらえた竜は仕返しといわんばかりに無数の火炎弾を放つが、彩人は素手で払ったり弾いたり破壊している。流石の竜も驚きを隠せず目を見開くが彩人が自分の顎を蹴り上げたので無理やり上を向かされる。すぐさま頭をおろせば背中に強い衝撃と痛み。気づくと鱗の一部が粉々に破壊されている。さらに動揺してしまい一瞬の無防備が彩人の一撃を喰らう。

 

また腹部に強烈な一撃が入り、血反吐を吐く竜。真上に吹き飛ばされる途中で再び自身に迫る彩人を捕らえ、強風で吹き飛ばそうとするが彩人の姿が消え、理解が追い付かない黒竜はパニックになるがまたまた背中を撃たれ、混乱したまま落下する。ところどころ鱗が砕けているがやむを得ず仰向けで地面に着く・・・わけもなく瞬間移動で真下に移動した彩人が再び死角となる背中を蹴り上げる。

 

「クルゥ、グワッン!」

 

鱗を砕くパワーと仕組みが分からない移動方法を持つ彩人に滅多打ちにされ混乱し泣きの入ったうめき声をあげる黒竜。

 

「つ、強すぎんだろ・・・す、素手で・・・・」

 

彩人の暴れっぷりに唖然とする玉井淳史。周りのクラスメイト達や愛子も無言でコクコクとうなづいている。ウィルに至っては、先程まで黒竜の偉容にガクブルしていたとは思えないほど目を輝かせて観戦しており、ハジメたちはともかく、ミレディは「え?彩人ってあんなに強かったの?」とシアに質問するほどだった。

 

「まだやるのか・・・?」

 

一方で、混乱しつつも敵意を緩めない黒竜に彩人はやや辟易していた。今度は彩人を避けて空中からまとめてブレスで一網打尽にしようとしてきたので彩人は瞬間移動で黒竜の後ろにまわり、尻尾を掴む。当然黒竜は抵抗するが、彩人が気を開放すると黒竜は振り払えなくなった。そのまま彩人は黒竜を豪快に振り回し、崖に叩きつけた。黒竜はほぼ半泣きの表情で地面に落下した。

 

「グゥガァアアアア!!!」

 

ヤケクソといわんばかりの魔力の爆風を放つが彩人が黒竜の上に乗って気合いでかき消す。破れかぶれの攻撃も封じられ、散らばもろともか最後の力でウィルの居る方向へ突進し始めた。・・・が、

 

「いい加減諦めろやぁぁぁぁ!!!」

 

「グゥオァァァァァァン!!??」

 

彩人に脳天を思いっきりぶん殴られ、黒竜は倒れこんでしまった。

 

「…倒した?」

 

「いや。気絶してるだけだな。頑丈なことで」

 

彩人が気を与えると竜はぴくッと反応し、静かに目を開く。ハジメ達は警戒するが、

 

「・・・目ぇ、覚めたか?」

 

〝うむ・・・最悪の目覚めじゃがのう・・・〟

 

「・・・マジか」

 

人の言語を話し始めた竜に彩人以外の全員が「一体何事!?」と度肝を抜かれ、黒竜を凝視したまま硬直するのだった。



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ティオ・クラルス

ドMじゃないティオさんです。どうなることやら・・・(他人事)


若い女性の声が聞こえた。そしてここにいる全員が呆然としている。

 

「竜が・・・喋った?」

 

「…言葉を話す魔物なんて聞いたことがない」

 

ハジメとユエの言葉でシアが何かを思い出して顔色を悪くしていた・・・。

それはともかく竜で人の言語・・・とすると一つの可能性へつながる。

 

「貴女は竜人族か?」

 

〝む? いかにも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ。しかし操られていたとはいえ妾を素手で圧倒する者がいるとはのう〟

 

「操られていた?」

 

やや弱弱しい声で肯定する黒竜。いつの間にか彩人の隣に居たユエが目を輝かせている。絶滅したはずの種族というつながりから興味津々である。

 

〝そうじゃ。仮初の主、あの男にそこの青年と仲間達を見つけて殺せと命じられたのじゃ〟

 

「・・・操られる前は?そもそも竜人族は絶滅したと聞いているが」

 

〝うむ・・・まずはそこから話さねばな〟

 

黒竜の話では異世界の来訪者を探る目的で隠れ里からやってきたという。一族の中で魔力探知に優れた者がおり数か月前に魔力の大放出と何者かがこの世界にやってきたと気づいたらしい。

本来竜人族は外界にかかわらないという掟があるが事の重大さからこの黒竜に白羽の矢が立った。情報収集は人の姿で行っていたがこの山脈の近くで魔物を警戒して竜の姿で体力回復の為睡眠をとっていたせいで敵の存在に気づかず、洗脳されてしまったという。

それでも精神力の強い竜人族はそう簡単にはやられはしない。・・・のだが。

 

〝妾を洗脳した者は闇系統の魔法が天才的であった。妾は為す術もなかった・・・〟

 

それを聞いて彩人は清水の顔がよぎる。しかし黒竜は腑に落ちない顔をして続けた。

 

〝じゃが、その者が妾に「済まない」と言うておったのじゃ。黒いフードで顔は良くは見えんかったが泣いておった・・・もしかしたらあやつも無理やりやらされていたのかもしれん〟

 

「・・・・」

 

抵抗の甲斐なく黒竜は操られ、魔物の洗脳を手伝わされているときにウィル達に見つかってしまい口封じのために戦わされ、彩人にボコボコにされて我に返った・・・という事らしい。

 

「……ふざけるな」

 

事情説明を終えた黒竜に、そんな激情を必死に押し殺したような震える声が発せられた。皆が、その人物に目を向ける。拳を握り締め、怒りを宿した瞳で黒竜を睨んでいるのはウィルだった。

 

「……操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」

 

強い口調で弱っている黒竜に詰め寄るウィル。しかし黒竜は一切反論せず受け入れるかのように黙っていた。しかしその態度がきに触ったのかウィルの怒りは収まらず

 

「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」

 

〝……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない〟

 

「そんなことが理由に・・・「待って」」

 

なおも食い下がるウィルと黒竜の間に割って入ったのはユエ。

 

「……きっと、嘘じゃない」

 

「っ、一体何の根拠があってそんな事を……」

 

怒りをつのらせるウィルに、ユエは諭すように言う。

 

「……竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は〝己の誇りにかけて〟と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに……嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」

 

誤解ではあったが、ユエは嘘つきに対して敏感になっている。だからこそ竜人族の誇り高さを知っているユエは黒竜が嘘をついていないと考えたのだ。

 

〝ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは……いや、昔と言ったかの?〟

 

心なしか嬉しそうな黒竜に、ユエは、

 

「……ん。私は、吸血鬼族の生き残り。三百年前は、よく王族のあり方の見本に竜人族の話を聞かされた」

 

〝何と、吸血鬼族の……しかも三百年とは……なるほど死んだと聞いていたが、主がかつての吸血姫か。確か名は……〟

 

黒竜が名を思い出そうとするとユエは先に話す。

 

「ユエ……それが私の名前。大切な人に貰った大切な名前。そう呼んで欲しい」

 

頬を朱に染めながら両手を自身の胸に添えるユエ。彼女にとって竜人族は見本のような存在であるため所々敬意を交えているのはそのためだ。

突然の惚気に女性陣は何か物凄く甘いものを食べたような表情をし、男子達は、頬を染め得も言われぬ魅力を放つユエに見蕩れている。ウィルも、何やら気勢を削がれてしまっている。だが、ウィルは退けなかった。

 

「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ! ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって言ってたのに!待っている人が居るのに……!彼らの無念はどうすれば……」

 

※ゲイル氏のお相手は男性です。フルネームはゲイル・ホモルカだそうです。

 

彩人から返却されたペンダントを握りしめ、黒竜を殺すべきだと主張するウィル。恨みつらみはそう簡単には消えはしない。

それを聞いた黒竜は懺悔するかのように話す。

 

〝操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、この危機を脱してから頼む。魔物の大群が迫っておるのじゃ。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか〟

 

それを聞いてその場の全員が魔物の大群という言葉に驚愕をあらわにする。自然と全員の視線が彩人に集う。いつの間にかリーダー扱いされていたようだ。

彩人の答えは、

 

「魔物の襲撃の証拠がない以上、嘘をついてないとは言えないな、ここで終わらせる」

 

と気を纏った。

 

〝待つのじゃー! お、お主、今の話の流れで問答無用に止めを刺すとかないじゃろ! 頼む! 詫びなら必ずする! 事が終われば好きにしてくれて構わん! だから、今しばらくの猶予を! 後生じゃ!〟

 

「そんなことは関係ない。再び洗脳されたら面倒だ。周りへの被害がな」

 

とてつもない殺気を放って黒竜に手刀を叩き・・・・・・込まなかった。

 

〝・・・?〟

 

「・・・と言いたいところだが魔物の襲撃が嘘だという証拠もない。ウィルさん、この竜を預からせてもらいます」

 

「さ、彩人さん!?な、なぜ・・・」

 

「もし本当に魔物の大群が攻めてくれば被害は想像もつかない。より多くの命が失われる・・・」

 

「で、でももし嘘だったら」

 

「その時は俺が責任を持って消し飛ばしますよ」

 

「・・・・!」

 

彩人の強いまなざしにウィルは根負けしたのか「お願いします」と言った。

 

〝ほ、本当に殺されるかと思うたぞ・・・〟

 

「済まない。でもこうでもしなきゃ彼は譲らないだろうから・・・。それと、このことを知らせるためにも人の姿になってもらえるか?」

 

〝う、うむ・・・丁度竜化を続けるだけの魔力が少なくなってきておった所じゃ。すぐにでも解こう・・・〟

 

すると黒竜が着物を着た黒髪金眼の女性の姿に変わる。20代前半、170cm近くあり、ゼータに勝てずとも劣らないプロポーションだったので彩人を除く男子生徒が前かがみになり女性陣の目はゴキブリを見る目となっていた。

 

「面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」

 

身なりを整えて背筋を伸ばし、凛とした佇まいはまさしく誇り高き竜人族に相違なかった。

黒竜改めティオの話では黒ローブの男は魔物の群れの主にのみ洗脳を施すことで、効率よく群れを配下に置いているという。ティオが見たときの魔物の数は6000から7000程。

 

そしてその男が黒髪黒目の人間族で、まだ少年くらいの年齢であると聞いて愛子と綾子が絶望感に包まれるが、ティオの話では老人と人型の魔物三体に命令されたその男が「もう嫌だ・・・帰りたい・・・」とつぶやいた途端に悲鳴を上げて魔物の洗脳を再開したらしく操られている可能性がほぼ確定した。

その一方でハジメが遠くを見て「これは・・・不味いかも」とつぶやく。

 

「7000どころかもう一桁追加されるレベルだよ・・・まいったね」

 

「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」

 

ハジメの報告に慌てる愛子。チートスペックとはいえ戦闘に恐怖心を抱く園部達や非戦闘系の愛子、戦闘経験の乏しいウィル。彩人達が桁外れとはいえ戦える状態ではない。一刻も早く町に危急を知らせて、王都から救援が来るまで逃げ延びるのが最善だ。

 

「だが、本当に来てる以上やるしかねえだろ・・・幸利も助けたいしな。とりあえず町に戻る。こんなところで殲滅戦は分が悪すぎる」

 

「轟君・・・ありがとう」

 

綾子に礼を言われつつ、彩人は再びアクセルをウルの町まで行かせる。

 

「まぁ、あるじ……コホンッ、彼の言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何もできん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ。妾も一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの」

 

ティオも賛成する。全員とりあえず帰還で意見がまとまったのでアクセルの気を捕らえ、瞬間移動する。

町の入口前に移動したのちウィルが危機を知らせるべく走り出す。

 

魔力切れのティオをだれが運ぶか男子生徒でじゃんけんになったがゼータが無言でティオを運んで行き、男子生徒たちは「スイカが四つ・・・」と前かがみになったそうな。



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豊穣の女神と女神の剣

ビビってる奴いるぅ!?


「む、無理です~!私が女神になるなんて!」

 

「頼むよ先生」

 

ウィルとティオがウルの町の役場で今なお迫る危機を知らせている間の仕込みを彩人が愛子に頼んでいる。

 

「前にも言ったけど俺やハジメの存在や武器は脅威でしかない。でも女神の奇跡ってことにすれば信心深い人たちは納得してくれる」

 

「それは・・そうかもしれませんが・・・私で・・私なんかが・・・」

 

「それは違う。先生じゃなきゃダメなんだ。生徒や騎士団に慕われる、”愛ちゃん先生”じゃなければ!」

 

「え、ええー?!わ、私、じゃなきゃ・・・?」

 

「頼む、先生。生徒を助けると思って・・・・!」

 

「・・・・・・・・・・・・し、仕方ありません・・・その役を受けましょう」

 

「先生ありがとう!!じゃ、準備してくる!絶対負けねえから!」

 

愛子は渋々引き受け、彩人は去っていった。

 

「轟君・・・あんなに強くなっていたなんて・・・」

 

死亡していたかと思っていた生徒が生存していた。それは確かにうれしい。ウルの町を守ってくれるのもありがたいと思っていたし清水を助けるとも言った。

しかし愛子は彩人に不安感を募らせていた。今は良くても力に酔ってしまうのではないかと。地球に居たときは力は強くともむやみに暴力を振るう事は無く弱き者を守るために力を使う人、というイメージを愛子は彩人に付けていた。だが、ティオとの戦いにおいて圧倒的すぎる力を何処か楽しんでいるように扱う(ように見えた)彼に愛子は彩人の暴走を不安に感じていた。

生徒を疑うなんて、と愛子はその考えを振り払ったが心のわだかまりは残ったままだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「・・・・言えなかったなぁ、お礼」

 

同時刻、愛子と似た考えに至った人物がいる。園部優花だ。彼女はオルクスにて彩人に助けられており義理堅い彼女は彩人に礼を言おうとしていた。しかしレストランでの鎧破壊、ティオとの戦闘で見せた強さを見て、遠い存在に感じてしまった。

そこには恐怖心もあったのかもしれない。

 

「どうしたらいいんだろう、私」

 

モヤモヤが園部の心に溜まっていたが、彼女の問いに答える者は居なかった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

二人の女性が一人の男に対して不穏なモノを抱えていることはつゆ知らず、ハジメは錬成で魔動二輪に乗りながら魔物の襲撃に備えて防壁を丸ッと一周作り上げ、ユエとシアとミレディは粉塵で汚れた体をキレイにし衣服を着替え、ヴァルキュリア達は愛子達と協力し避難勧告と避難誘導をしていたがそれでも町に残ると宣言する者も多かった。

気を安定させるため瞑想する彩人にそっと寄り添うのは準備を終えたハジメ達。そこにいるのが当然と言えるほど自然なふるまいである。

そこへ愛子と生徒達、ティオ、ウィル、デビッド達数人の護衛騎士がやって来た。

 

「轟君、準備はどうですか? 何か、必要なものはありますか?」

 

「ありがとう、でも今は特に無い」

 

瞑想を止め、顔だけ振り返って返答し瞑想を再開する彩人。

 

「そ、そうですか。では南雲さんは「無いよ、先生」・・・はい、わかりました・・・」

 

戦闘準備で集中している彩人とややなおざりの態度に口をはさむ者。デビッドである。

 

「おい、貴様。愛子が…自分の恩師が声をかけているというのに何だその態度は。本来なら、貴様らの持つアーティファクト類の事や、大群を撃退する方法についても詳細を聞かねばならんところを見逃してやっているのは、愛子が頼み込んできたからだぞ? 少しは……」

 

「デビッドさん。少し静かにしていてもらえますか?」

 

「うっ……承知した……」

 

愛子に一蹴され、黙り込むデビッド。その姿はさながら犬のようだったらしい。

 

「轟君・・・あの・・・」

 

「何?先生」

 

「あ、いえ・・・その、黒ローブの男は・・・」

 

「十中八九幸利でしょうね。でも必ず助けますよ」

 

「・・・あ、ありがとうございます」

 

愛子は彩人を信じつつも何もできない自分にふがいなさを感じていた。

 

「妾もあるじ・・・ゴホンッ! お主に話が……というより頼みがあるのじゃが、聞いてもらえるかの?」

 

「ティオさん「呼び捨てで構わぬぞ」・・・ティオ?」

 

「お主は、この戦いが終わったらウィル坊を送り届けて、また旅に出るのじゃろ?」

 

「・・・そのつもりだが、ついてきたいと?」

 

「うむ、察しがよくてたすかるのう。妾も連れて行ってくれぬか」

 

「竜人族の使命は」

 

「それも問題ない。そなたらと一緒に行く方が都合が良い」

 

「・・・・ダメという理由はないが何故俺達と?」

 

「そ、それはのう…」

 

ティオが続きを話そうとするが、防壁の上に立つハジメに阻まれる。

 

「・・・!来た!!」

 

ハジメの魔眼帯に映る無人偵察機の映像には大量の魔物による複合の大群が。数にしてなんと10万。さらに飛行している魔物の上で頭を抱えている黒ローブの男のフード部分が外れて顔が見えた。・・・間違いなく清水幸利である。苦しんでいるような動きに愛子と綾子が不安そうにしている。

 

「・・・みたいだな。悪いけどティオ、話は後で」

 

「う、うむ・・・仕方あるまい」

 

「彩人君、敵は10万。しかも森林を砂漠化させて最短距離で来てる。20分あるかないか位だね」

 

ハジメの報告に青ざめる人々。不安そうに顔を見合わせる彼女達に彩人は

 

「敵が多かろうが関係ない。魔物一匹通さないつもりだけど万が一の時の為に戦う人は防壁の近くで待機してほしい」

 

一切の迷いなき言葉に、愛子はただ一言。

 

「わかりました……君たちをここに立たせた先生が言う事ではないかもしれませんが……どうか無事で……」

 

それでも不安そうな人々。それでも愛子は街に知らせに走った。園部達も一瞬彩人達を見てから愛子を追いかけた。続いてウィルがティオに何か話した後で彩人達に頭を下げると愛子たちに続いて走っていった。

 

「今回の出来事を妾が力を尽くして見事乗り切ったのなら、冒険者達の事、少なくともウィル坊は許すという話じゃ……そういうわけで助太刀させてもらうからの。何、魔力なら大分回復しておるし竜化せんでも妾の炎と風は中々のものじゃぞ?」

 

らしい。なのでハジメに頼んで晶石の指輪を渡す。

 

「ある・・・彩人殿…いきなりプロポーズされてものう・・・もっと段階を」

 

「・・・違うから。あと何かデジャヴ」

 

「…♪」

 

指輪をはめつつソワソワするティオと何処か嬉しそうなユエ。尊敬する存在と同じになったのが嬉しいようだ。

 

「ハジメさん、あの人はいかがでしょうか?」

 

「可能性はある。でも今は初心・・・でも大丈夫そう」

 

「ならしっかりお迎えしませんとね!!」

 

そんな会話があったとか。・・・その直後に〝豊穣の女神〟愛子様演説を行った。

 

「聞け! ウルの町の勇敢なる者達よ! 私達の勝利は既に確定している!なぜなら、私達には女神が付いているからだ! そう、皆も知っている〝豊穣の女神〟愛子様だ!」

 

「我らの傍に愛子様がいる限り、敗北はありえない! 愛子様こそ! 我ら人類の味方にして〝豊穣〟と〝勝利〟をもたらす、天が遣わした現人神である! 私は、愛子様の剣にして盾、彼女の皆を守りたいという思いに応えやって来た! 見よ! これが、愛子様により教え導かれた私の力である!」

 

気功波で上空を飛ぶプテラノドンもどきを消滅させる。え、これじゃ”剣”じゃない?知らんな。

その口上と彩人の力でウルの町の人々による「愛子様、万歳!」コールが響き渡る。

 

後で「許可したのは私自身ではありますが、限度がありますよ!」と言われるのだが知ったことではない。

彩人は背中に町の人々の魔物の咆哮にも負けない愛子コールと、愛子自身の視線と、「何だよ、あいつ結構分かっているじゃないか」と笑みを浮かべている護衛騎士達の視線を感じつつもハジメ達の所へ向かう。

 

すぐさま魔物が一般人でも視認可能な距離にきている魔物たちを迎え撃つべく、メツェライを構えたハジメ、いつの間にか傍に居たユエ、オルカンを装備したシア、静かに魔物を見据えるティオ、長剣を構えるゼータ、ハジメから渡された様々な銃器を背負うアクセル、魔法の準備をしているミレディとイクスを一回り見回した彩人は、一歩先に出て一言。

 

「さぁ、始めっか!」




変に心理描写入れたらこうなった。後悔はしていない。


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ウルの町防衛戦線異状なし

無双タイムという訳だぁ!


「ヒョヒョヒョ、これは驚いた。まさか現代兵器を持ち出すとは・・・」

 

「ふむ、あの技術力、殺すには惜しい。私のもとで有効活用してやるとしよう」

 

あの老人と巨大なロボットが自ら操っている清水を介して集めた魔物たちがウルの町を滅ぼすどころか滅ぼされかけているにも関わらずハジメの兵器を称賛している。

 

「さらに周りの娘たちの"魔法"とやらも凄まじい力」

 

「私の復讐に役に立つだろうな」

 

ユエやティオ、イクスの魔法にも興味を示している。あたかももうすでに自分のモノのように話しているが・・・。

 

「して、貴方がお望みのお体はこの男で?」

 

「そうだ。奴の素晴らしい戦闘力を持つ肉体こそわが頭脳に相応しい。周りの女共は奴に気を許している。体を奪えばすべてが手に入る」

 

画面に映る気功波で魔物を一網打尽にする彩人を見て、ロボットはそうつぶやいた。

 

「やめ・・・ガァ・・・・ろ・・・・」

 

その一方で、彩人の攻撃で乗っていたプテラノドンもどきから落とされた清水はいまだロボットに付けられた冠のような洗脳装置に抗っていた。

 

「おいおい小僧、まだ堕ちてねえのか?あの方に協力してんだからありがたく従ってれば良いんだ・・・よ!」

 

「ガアッ…」

 

緑色の人型の魔物が血管のような電気触手で清水を拘束する。気絶した辺りで拘束を解くと清水は操り人形のように不気味に立ち上がった。

 

「お前にはもう少し働いてもらわなきゃなんねぇからな・・・。行け」

 

そいつの命令で清水が術を唱えると四ツ目の狼が放たれた。

 

少し時間を遡る。

ロボットと老人に監視されているとはつゆ知らず、メツェライを構えて銃弾の雨・・・もとい壁で迫る魔物たちを肉片に変えていくハジメ。魔物が避けようとすれど逃がすはずもなく左右に少し振るだけで魔物は次々と血をまき散らし、魔物"だったもの"が辺り一面に散らばる。

 

その反対側ではオルカンを構えたシアがロケットランチャーを雑に発射している。間の抜けた発射音とは裏腹に着弾すれば半径10mが吹っ飛ぶ。まともに喰らった魔物は粉塵と化し直撃せずとも衝撃波で重傷を負い、後続の魔物の下敷きとなった。

全弾撃ち尽くしても攻撃は終わらない。拡散焼夷弾に入れ替えて発射する。業火の天井が魔物に襲い掛かる。摂氏3000度の炎が魔物を焼き尽くし、暴れた魔物が別の魔物に引火して被害を広げる。

 

同じく銃器を構えたアクセルも小型ではあるがメツェライ、オルカン、シュラ―ゲンモドキなどを装備して魔物を正確に処理する。

弾数が少なく再装填の弾量も少ないため確実に弾丸一発で複数の魔物を始末する。シュラ―ゲンとオルカンはともかくメツェライを一発一発正確に当てる戦法を使うのは彼女だけだろう。

 

ティオもまた、突き出した両手から放つ竜形態時にも放ったブレスで魔物を粉砕、消滅させる。彩人から託された指輪から魔力補給しつつ残る魔力の節約するため火炎の竜巻を放つ。縦横無尽に魔物を巻き込む竜巻は業火で焼き払われ、灰塵となって竜巻から放り出される。後に残るは抉れて焼け焦げた大地のみ。

 

その反対側ではユエ、イクス、ミレディの魔法部隊の独壇場である。ユエとミレディの重力魔法で魔物どころか大地を消滅させ、残る魔物もイクスの重力球で根こそぎ潰される。魔法に関して天才級のユエでも一部の魔法は溜めが必要なのでその隙をミレディとイクスがカバーし、魔物を一切寄せ付けない。

 

そしてそれでも突破したり死にぞこないを刈るのはゼータ。自身の身長を上回る長剣を羽でも持つかのように軽やかに鋭く扱い、魔物を狩っていく。一度振り下ろせば大地が切り裂かれ、横に薙げば森林もろとも魔物を切り裂く。

 

そして彼女たちが心酔する男、彩人は気功波を惜しみなく発射する。門前中央に陣取り、ティオのブレスをはるかに上回る極太のビームで砂漠化した大地もろとも魔物を消し去る。天に手を掲げれば無数の気弾が無数の針に分裂し、魔物たちの命をことごとく散らしていく。

 

そんな彼らの活躍ぶりに町から歓声が上がる。町の重鎮や護衛騎士達も圧倒的な力を目の当たりにし、唖然としている。

クラスメイト達も、彩人たちの強さにただただおののくばかりだった。

 

「あれが・・・轟と南雲か・・・」

 

「もう〝無能〟や〝足手まとい〟なんて言えねぇな・・・」

 

玉井淳史と相川昇が言う中、園部は魔物の大群に立ち向かう彩人と、彼を信じて共に戦う女性たちを見て思った。

 

「(そっか・・・強くなってても轟は轟なんだ。南雲は・・・変わっちゃったけど、轟と一緒だったから今戦ってくれたのかな・・・?だとしても轟は・・・誰かを守るために・・・戦っているんだ。だからあんなに強くなれたんだ)」

 

と。そして園部は自身の心臓がドクンと動いたのを感じた。それは恐怖心を感じたことへの罪悪感か、それとも・・・

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「むぅ、妾はここまでのようじゃ……もう、火球一つ出せん……すまぬ」

 

と、魔力を指輪込みで使い果たしたティオが膝をつく。

 

「ありがとう、十分すぎる強さだ。後は俺達に任せろ」

 

「…心強いのう・・・ますますほ・・・・コホン、しばし休ませてもらおうぞ。そなたの武運を祈っておるぞ」

 

ティオは安心したような表情で座り込んだ。

 

「ユエ、イクス、ミレディ、そっちはどうだ?」

 

「……ん、残り魔晶石2個分くらい……重力魔法の消費が予想以上。要練習」

 

『魔晶石換算でユエ様と同じ位にございます…』

 

「あーもう多すぎ!10万とか何考えてんの?!私もギリギリ!」

 

「いや、かなり数を減らせた。後は直接叩くから援護を頼む」

 

「んっ」

 

『承知いたしました、マスター』

 

「・・・これで負けたら承知しないからね!!」

 

ユエとイクスはともかくミレディも阿吽の呼吸になりつつある。

 

「ハジメ、シア、アクセル、ゼータ、魔物の統率に気づいたか?」

 

「うん」

 

「はい。操られていた時のティオさんみたいな魔物とへっぴり腰の魔物ですよね?」

 

『リーダーを操り、下を動かしています』

 

『アタマを狩れば下級の魔物は逃げ出すだろう』

 

「そうだ。だから残ったリーダーをまとめて仕留める」

 

「なるほど、私の方も残弾が心許ないですし、直接殺るんですね!」

 

ずずいっとシアが彩人に近づく。

 

「そ、そうだ・・・。随分積極的になったな、お前」

 

「はい!彩人さんたちのそばに居るためです!!」

 

シアなら問題ないと感じ、魔物たちの方を見る。ハジメは問題ないと分かりきっているからだ。使っていたメツェライは限界寸前だったのでハジメはドンナーとシュラークを構えた。

 

「リーダー格は後ろに避難したみたい」

 

メツェライとオルカンやティオのブレスが来ないと気づくと魔物は進軍を開始する。

 

「〝雷龍〟」

 

『〝天雷〟』

 

ユエの放った雷の龍とそれを囲むように無数に放たれる(いかづち)。イクスのサポートによる雷の共演が前線の魔物を喰らいつくし、それを合図に彩人、ハジメ、シア、ゼータが突撃する。

 

「落ちるよぉッ」

 

後続の魔物はミレディの魔法で発生した重力に耐えきれず圧死する。とはいえ邪魔になりそうな敵のみを倒している。

前衛の四人が分かれ、それぞれでリーダー格を次々に撃破していく。

 

『彩人君、リーダーたちは私達に任せて!清水を助けるんでしょ?』

 

『ああ、なら頼めるか?』

 

『もちろん。任せてよ』

 

『サンキュ、任せた』

 

ハジメとテレパシーで会話するが、ゼータとシアも気づいているように彩人に目配せした。彩人は小さくありがとな、と言って清水の気を探る。ある程度魔物の数が減ってきているので探知しやすい・・・のだが。

 

「・・・そう簡単にはいかない、か」

 

彩人はいつの間にか4体の四ツ目の狼に囲まれていた。

すぐさま背後の一体が彩人に襲い掛かる。裏拳で迎え撃つが彩人の腕を回転軸にし裏拳をかわした。そしてそのまま彩人の首を食いちぎる・・・ことはなく、彩人はしゃがんで避ける。

 

「・・・っこの!」

 

そのまま伸びあがって頭突きを喰らわせる。狼の首が必要以上に曲がり、息絶えた。

 

「"予測"出来るんだったな・・・あぶねえあぶねえ」

 

三体はカウンターを警戒し周りを回りながら彩人との距離を詰めてくる。だが体術の間合いに入ってはこない。しばらくにらみ合いの我慢比べが続いたが彩人が一体に正拳を放つ。正面の一体は難なく避けて彩人の右腕に牙を突き立てる・・・前に狼の死角から左手で気弾を撃ち込み、上半身を爆破する。

 

「・・・警戒するなぁ」

 

遠距離攻撃を警戒し大きく距離を取る二体。離れれば直線状の攻撃はかわせると踏んだのと空中に飛ばないようにしている。

 

「よし、出来るか試してみるか」

 

彩人はDBの技を試すことにした。左手で右手首を掴み、バスケットボールほどの大きさの気弾を作り出す。

同時に投げてくると判断し狼たちが距離を取る。

 

「〝操気弾〟!!」

 

彩人が気弾を投げると一直線に飛ぶ気弾を難なく避ける狼。連続では打てまいと鋭い歯で彩人の足に食らいつこうとするが、背中に先程の気弾が命中した。もう一匹が〝予測〟し、回避の体勢に入る。

 

「避けてみろ!」

 

縦横無尽に追跡する気弾を紙一重で回避する狼。狼の移動先に置きうちする、が狼はそれすらも予測し、着弾点を回避し気弾が地面を抉る。勝った!と言わんばかりに走ってくるが、狼の真下の地面が盛り上がった。・・・・刹那、地面から飛び出した気弾が狼の腹部を貫通し、空で弾けた。

 

「ふい~、分かってても緊張するなぁ。・・・にしてもどこから連れてきたんだか」

 

実は、この狼は奈落に居た魔物レベル(低層だが)の強さを持っていた。しかし今は清水を探すのが先なので彩人はその場を去った。

 

「・・・!この気は・・・よし、捉えた!」

 

見知った気を感知し瞬間移動する彩人。そして目の前に倒れていたのはもちろん、

 

「幸利!おい、しっかりしろ!」

 

清水である。気絶しており気を与えるが目覚めない。

 

「・・・かなり体力を消耗してる…連れて行くしかねえか・・・大分洗脳に抗ったみてえだしな・・・」

 

清水の頭に付けられた装置を破壊し、彼を背負ってハジメ達と合流し彩人は街へ戻った。

 

「いよいよだ。この私が表舞台に返り咲く時が!」

 

「あなたこそ神、いや神を凌駕する存在・・・!」

 

「復活の時は目前だ」

 

「ヒャハハハハ!楽しみだなァ!!」

 

「ぶへへ・・・」

 

彼らを見つめる存在もまたウルの町へ迫っていた・・・・。




次回、決戦。


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この世で一番強いヤツ 前編

清水を誘拐し魔人と共に魔物を率いた敵の正体とは?(すっとぼけ)


清水幸利にとって、轟彩人という男は一番の親友である。根暗なオタクだった自分を勝ち組にしてくれた。そんな大恩を感じていた彼は彩人の危機には必ず駆け付けたいと思っていた。そしてオルクスで彩人の落ちる光景を見届け、白崎を守ろうとした。・・・それは無駄足だったが。

次いで清水は友の力になれるように自身の職業〝闇術師〟に関する技能・魔法に関する本を読み、積極的に迷宮攻略に参加したがヒロインズの闇に充てられたこと、勇者(笑)たちの活躍で出番が無いため愛ちゃん護衛隊に移った。

 

愛子に心配かけないために自身の恋人である辻綾子のみに修行の事を告げ、夜な夜な〝闇術師〟の技術を高めていた。しかし魔人族に目を付けられ魔人族の協力者によって洗脳装置を付けられた。

 

操られていても残った意識は清水の良心を傷つける。ティオの洗脳、ウルの町襲撃の為の魔物の収集。自分はこんなことをする為に鍛えたのではない、帰りたいという思いと異世界とはいえ多くの人の命が失われることへの罪悪感。

しかも自身を洗脳した者は親友の体を乗っ取ろうとしている。無念さと悔しさばかりがこみ上げ、清水は泣き続けていた。

 

「ーーーーんーーーーシーくーーー」

 

絶望のどん底に居る清水を呼ぶ声がする。清水は暗転しかけた意識を取り戻していく。

 

(そうだ。この声は・・・)

 

清水は眠りから覚醒していきーーーーーーーーーーー

 

「…あや、こ?」

 

「トシ君!良かった・・・!」

 

自身を見つめていた最愛の相手に抱きしめられて生きているのを実感した清水。

 

「ここは・・・?」

 

「ウルの町だよ、トシ君。轟君が助けてくれたの」

 

「サイトが・・・?」

 

ここはウルの町のはずれ。愛子と生徒達の他、護衛隊の騎士達と町の重鎮達が幾人か、それにウィルと彩人達だけが居る。

騎士たちは警戒しているが愛子たちは気が付いた清水に駆け寄る。

 

「清水君・・気が付いて良かった・・・」

 

愛子が辻に支えられて上半身を起こした清水に安堵する。

 

「せ、先生・・・は、早く逃げてくれ・・・!綾子も・・・!奴が・・・来る!」

 

「トシ君?ど、どういう事?」

 

「し、清水君?な、なにを」

 

心配する二人をよそにざわつく周りの中から親友の姿を見つけた清水は危機を伝えようとする。

 

「サイト!奴が・・・お前を・・・!」

 

「・・・ああ。そうらしいな」

 

しかし彩人は一方向を睨んだまま答えた。

 

「そこにいるんだろ?出てこい!!」

 

彩人の怒号で全員の視線が彩人の睨む先の茂みに集まる。

 

「ふん、やはり気づいていたようだな、Dr.コーチン」

 

「ヒョヒョヒョ、なあに問題ありませんとも。これからいただけばいいのですからな、Dr.ウィロー様」

 

そこから現れたのは巨大なロボットと老人。ロボットは大きな図体に細長い手足というアンバランスながら軽快な身のこなしで歩いてくる。だが彩人と知っている清水以外に戦慄したのはロボットのガラスで覆われた部分の中に巨大な人間の脳が入っていたことだ。その不気味さからユエやミレディですら顔が引きつっている。

 

「・・・あえて聞くが何が目的だ?」

 

「決まっている。轟彩人、貴様の体を頂いてやるのだ」

 

「「「あ”?」」」

 

ハジメ達がとんでもない声を出したがDr.ウィローは気づかず彼女達の地雷を踏みぬいていく。

 

「そこの娘たちも私が使ってやろう。特に白髪娘の技術は私の頭脳があればさらなる高みをめざせるだろう、私の為に兵器を作れることを誇りに思え。ウサギ耳の娘のパワーは可能性を感じる。轟彩人よりも上手く使ってやろう。そして金髪の二人、貴様らの魔法は素晴らしい。私の役に立てることを光栄に思うがいい」

 

何でてめぇみたいなガラクタの為に錬成しなきゃならないんだぁ?

 

粉々がいいですかぁ?滅多打ちがいいですかァ?

 

スクラップ…消滅…どっちがいい?

 

「・・・あのクソ神ほどじゃないけどウッザ・・・・てかキモ・・・・」

 

Dr.ウィローよりもハジメ、シア、ユエのブチぎれに戦慄する他メンバー。ハジメはありったけの装備を展開し、シアはドリュッケンを振り回し、ユエに至っては龍のオーラを出している。

 

「待たれよ、ならばなぜ妾と魔物を洗脳した?」

 

冷静なティオがウィローに問う。

 

「簡単な事。魔人族との契約だからだ。ウルの町の壊滅を手伝う代わりに最強の肉体を手に入れる手助けをする、とな」

 

「では、あの者を操ったのもそなたの計画か」

 

「その通りだ。清水という小僧を使えば轟彩人は必ず現れる。私の存在を葬った者達へ復讐するための最強の肉体を手に入れるためのな」

 

「下劣な・・・恥を知れ!貴様のせいで・・・どれだけの命を危機にさらしたと思うておる!」

 

「ふん、知ったことか。私の優秀な頭脳に比べればこの町の人間など、塵芥に過ぎん。そして、人の命の危機と言ったが貴様も同じだろう」

 

「・・・っ」

 

「小型スパイロボットで見ていたぞ?貴様が操られて人を殺すのをな!竜人族よ!」

 

ウィローが次々に暴露していく。ティオへ不信感を帯びた視線が集まる。

 

「これでわかったろう、貴様は誇りなどを掲げているが人殺し。そもそも誇りなどという下らぬものを掲げている存在がこの私にもの申すなど図々しい事この上な・・・」

 

「黙れ!妾は恨まれても構わぬが、妾達の・・・竜人族の誇りを嗤うなッ!!」

 

「ぬ・・・、痴れ者め!」

 

ティオが怒りの形相でブレスを放つがウィローのレーザーに押し返される。魔力が万全ではなかったからだ。

 

「私の偉大さが分からぬ愚者は・・・ここで死んでしまえ!」

 

「く・・・おのれ・・・・!」

 

ブレスがレーザーで押し返され、大爆発が起こる。・・・が、ティオは空に浮かんだ彩人の腕の中。

 

「・・・すまぬ・・・彩人殿・・・今の妾は・・・無力じゃ・・・」

 

良いんだ、ティオ。お前は休め、俺がアイツをぶっ飛ばす

 

「彩人・・・殿・・・・かたじけない・・・っ」

 

彩人は静かに地上に立つとミレディにティオを任せる。

 

「・・・彩人、アイツ、思いっきりやっちゃって」

 

「当然だ」

 

「私達もやらせてね・・・?」

 

「…彩人だけじゃなくティオを…竜人族をバカにした。万死に値する」

 

「さぁて、粉々にしてあげましょうか!」

 

ヤル気満々のハジメ達。

 

『ゼータ、イクス、アクセル。先生達を頼む』

 

『御意』

 

『承りました』

 

『承知』

 

続いてヴァルキュリア達が愛子やウィル達を街中へ避難させる。

 

「と、轟君・・・!」

 

「轟・・・」

 

愛子と園部が避難しながら彩人を呼ぶ。が、彩人は大丈夫というかのように笑顔で手を小さく振った。

 

「サイト・・・済まねえ、俺のせいで・・・」

 

「轟君・・・」

 

「気にすんな、アイツすぐにぶっ飛ばしてくるからな」

 

辻と清水も町に戻って行く。

 

「フン、もはやあの小僧も用済み。貴様の体をDr.ウィロー様に献上せい!」

 

「「「「断る!!」」」」

 

彩人達全員がとびかかる。だが、

 

「・・・邪魔はさせん!来い、キシーメ、エビフリャー、ミソカッツン!」

 

緑、ピンク、黄色の人型の魔物がハジメ達を足止めする。

 

「…邪魔…!」

 

「ヒャヒャヒャ!そんなこと言わずによゥ、凍っていけよォ!!」

 

エビフリャーがユエに両手を突き出し、冷気のビームを放つ。

 

「ううっ、この・・・!」

 

「無駄無駄。その程度じゃオレの電気触手は解けねえぜ」

 

キシーメがシアを血管のようなロープで拘束し電流で攻撃する。

 

「貫けない・・・!?」

 

「でへへ、この程度なら跳ね返せるんだな」

 

ハジメのドンナー・シュラークを弾力性のある体で跳ね返すミソカッツン。

 

「あの娘たちは我が凶暴戦士たちに任せるとしよう。さあ、覚悟しろ轟彩人、あまり私の体を傷つけてくれるな・・・!」

 

彩人は気を開放し、ウィローを殴りつけた。

 

「き、貴様よくもDr.ウィローさm「うるせぇ」・・・ヒぃ」

 

「俺の体は俺のものだ。ハジメ達はモノじゃねえし渡さねえ!そして、てめえは・・・親友の仇、ティオの・・・そして竜人族の仇だ!!!!」

 

「うおおおおおおお!!な、なんというパワー・・・!」

 

彩人の怒りの一撃がウィローを襲う。

 

「ケッケッケ、カチンコチンだn・・・!?」

 

「…閉じ込められるのは、もうたくさん!!」

 

エビフリャーの凍結拳で凍らされたユエだったが氷を粉砕して脱出する。

 

「そろそろ諦め・・・「うぅぅぅぅぅりゃぁぁぁぁぁ!」・・・な!」

 

「ウサミミ舐めるな、ですぅ!!」

 

キシーメの拘束を〝身体強化〟で破るシア。

 

「喰らえ、風船野郎!」

 

「ぬうううううう!!!む、無駄なんだなぁ・・・」

 

ミソカッツンに復活したメツェライをぶっぱなすハジメ。

戦いは始まったばかりだ。




Dr.ウィローでした。


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この世で一番強いヤツ 後編

お気に入り500超えてました。
応援してくださる皆様、本当にありがとうございます。

これからもこんなご都合主義の駄文でも楽しんでいただければ幸いです。


~ハジメサイド~

「貫けぇ!!」

 

「ぬぐぅぅぅぅぅ!!」

 

ハジメは台に固定したメツェライの弾丸で長く伸びたミソカッツンの腹部にシュラーゲンを発射する。

いくら柔らかいとはいえ伸びる量には限界がある。それに直ぐに気付いたハジメがメツェライで限界まで伸ばし、シュラーゲンで貫く算段だった。

 

「そ、そうはさせないん…だな!」

 

「なっ・・・シア!避けて!」

 

しかしミソカッツンは体を捻ってシュラーゲンの一撃をかわし受けた弾丸をシアとキシーメの方に向けて飛ばす。

 

「っと、危ねぇ!」

 

「わわっ!」

 

シアはハジメの叫びでその場を飛び退いて難を逃れる。そしてキシーメは素早さを生かして回避する。

 

「…!」

 

「で、でへへへ、む、無理なんだな。お前は勝てないんだな」

 

ミソカッツンはヘラヘラ笑っているものの焦りを隠せていない。それに気付いたハジメがニヤリと笑う。

 

「お前、さっき位で限界なんじゃない?」

 

「そ、そんな事はないんだな!」

 

「だったら、試させてもらうよ!」

 

するとハジメは飛び上がってミソカッツンの真上でドンナー・シュラークで辺り一面を打ちまくる。ミソカッツンはやけになったかとニヤニヤ笑っているが、ハジメが地面に手を付け、

 

「〝錬成〟!!」

 

「んなっ?!う、動けないんだな?!?!」

 

崩れた地面のわずかな鉱石などを錬成し、ベヒモスの時のようにミソカッツンを拘束する。

受け流せなくした状態でハジメがシュラーゲンの二発目を用意する。ミソカッツンは身をよじるが高い錬成技術によりミソカッツンのパワーではビクともしない。

 

「地面ごと貫いてやるよ」

 

「ヒッ・・・・」

 

再装填されたシュラーゲンがミソカッツンごと地面を貫く。が、やはり貫けない。ミソカッツンが安堵した瞬間、パイルバンカーを抱えたハジメが突っ込んできた。

ミソカッツンが不味いとおもったが時既に遅し。

 

「腹から割れろ、風船野郎」

 

「ギョェェェェェェェェェェェ!!!!」

 

パイルバンカーの一撃でとうとうミソカッツンの胴体が貫通し、ミソカッツンは風船の如く吹っ飛んでいった。

 

~ユエサイド~

 

「ヒャッハァ!凍結拳を破ったからって調子に乗るなよ!」

 

凍結は破ったもののエビフリャーはパワー系の戦士。接近戦を苦手とするユエとは相性が悪い。のだが、

 

「…鬱陶しい。〝城炎〟」

 

「ギエエエエエ!アチチチ!!!」

接近してくるエビフリャーを炎の壁で迎え撃つ。〝禍天〟で距離を離しつつ、ユエが更に攻撃しようとするが、キシーメの電撃血管の鞭でダメージを受けてしまう。

 

「な…!」

 

「なにチンチラやってんだエビフリャー!とっととそのガキを始末しろ!」

 

「…ッわあってるよ!」

 

エビフリャーが身体中から煙をあげながら突進してくる。…が、

 

「…(ギロッ)〝壊劫〟」

 

「…?!な、なんだてめえ…ムギュゥ?!」

 

ユエの鋭い視線に動きを止めてしまったエビフリャーは、重力のキューブに押し潰される。…が、持ち前のパワーで押し返そうとする。しかしユエはどんどん重力を強化しエビフリャーは全身の骨を折り、箱の下敷きになっていく。

 

「ご……が………つ、潰れ…………」

 

「消えろ」

 

ユエの無慈悲な一言を最後に、箱は地面に到達した。箱が消えた跡にはエビフリャーだったものが残された。

 

~シアサイド~

 

「チッ、エビフリャーのヤツ、やられグボベッ?!」

 

キシーメがエビフリャーの死に気をとられた瞬間、ドリュッケンの一撃を喰らう。

 

「随分余裕ですねぇ…余所見をするなんて」

 

「…ケッ、当たったからって調子に乗るなよ、てめぇごとき、オレのスピードにはついてこれねぇ!」

 

キシーメはエビフリャーとは対称的にスピード系の戦士なのでシアの攻撃自体は先程のがファーストアタックとなる。すぐさまキシーメは高速で移動し、シアを狙う。

 

「そのトンカチさえ奪えばてめえは只のウサギだ!」

 

キシーメが不意をついて電撃血管の鞭でドリュッケンを捕らえるが、それが仇となった。シアはそのままドリュッケンを振り回す。エビフリャーほどのパワーではなくともそれなりに強いはずのキシーメは自分が振り回されているのに驚愕していた。シアは〝身体強化〟を使った状態で地面にドリュッケンごとキシーメを叩きつけようとするがキシーメは寸前で解除し、逃れる。

 

「…チッ、パワーはあるってか。だがスピードなら負けねぇ!死ねぇぇぇぇぇ!」

 

ドリュッケンを奪えないと気付いたキシーメは超スピードでシアに攻撃しようとするが、攻撃が当たる前にドリュッケンで叩き落とされた。

 

「…ゴブッ……な、何故分かった…………」

 

「言いましたよね、舐めるなって」

 

シアは容赦なくドリュッケンでキシーメの頭を潰す。

 

「“見えた“んですよ、あなたがどの位置から私に攻撃してくるか…。まぁ、言っても無駄ですね」

 

こうして凶暴戦士は全滅したのだった。

 

~彩人サイド~

 

「…!バカな、凶暴戦士達が敗れただと……貴様らの戦闘データから相性の悪い組み合わせにしたハズ…」

 

「少し見ただけで分かった気になってんじゃねぇ!」

 

流石のウィローも凶暴戦士達が敗北して動揺している。

 

「しかし、私が貴様を倒せば済む話だ、覚悟しろ」

 

「…!」

 

彩人は気力を解放し、ウィローに攻撃を仕掛ける。手足のリーチが敵の方が長く体術のみでは本体に攻撃が届かない。

次いで気功波でウィローに攻撃するが並大抵では通らない。溜めれば勝機があるかもしれないがウィローはそれをさせまいと攻撃してくる。

彩人も負けじと敵の図体のでかさを逆手に取り気弾の雨を浴びせる。ウィローが防御の姿勢に入ったと同時にガードしきれない部分を殴り付ける。

 

「ぬぅっ…小癪な……」

 

「少しは効いたか?」

 

優先的に脳が入ったバイザーを庇った事が仇となり腹部を損傷する。

ウィローは両手を振り下ろすが彩人は舞空術でウィローの背後にまわり、回し蹴りで背中も損傷させる。

ウィローは追撃しようとする彩人を遠ざけるため衝撃波を放つ。

 

「それがどうしたぁ!」

 

「何っ?!」

 

衝撃波を耐えて露出した機械部品に気功波を放つ。背中全体から大爆発が起こり、機械が完全に露出した背中から煙やスパークが発生し、ウィローは倒れ込んだ。

 

「おのれ…かくなる上は!!」

 

「なっ、てめぇ!」

 

ウィローは右手のハサミから三発のエネルギー弾をウルの町に向けて放つ。

…が、

 

『〝聖絶〟』

 

「な、何だと…」

 

イクスのバリアがエネルギー弾を防いだ。一瞬呆然とするウィローの隙をついて彩人がウィローの両手を引きちぎる。

 

「これでもう撃てねぇだろ!」

 

「き、貴様ァ…!よくもこのわ…グボォ!?」

 

足だけで立ち上がろうとしたウィローを殴り付ける。ボロボロになるまで。

 

「これはウィルの仲間の分だ!」

 

「うぉぉぉぉぉぉ!」

 

緑色の装甲が全滅し、バイザーと機械類が剥き出しとなる。

 

「これはティオの分!」

 

「がァァァァァァ!や、止めろ!こ、これ以上は……」

 

「これは、てめぇに貶された竜人族の分だぁぁぁぁ!」

 

「グワァァァァァァ!!」

 

「そしてこれが…幸利の分だぁ!」

 

「ガフッ………!」

 

最早スクラップ同然となったウィロー。かろうじて残っていた両足も破壊され、機械の塊というのが今のウィローの状態だ。バイザーもひび割れて保存液が漏れだしている。ウィローの命はそう長くないだろう。

 

「これで終わりだ、Dr.ウィロー!」

 

「………ぬ」

 

彩人がトドメを差そうとしたその時、

 

「終わるものか……終わるのは貴様らの方だァァァァァァァァァァァ!!!」

 

突如ウィローが赤いオーラを纏って上空に飛び出した。

浮遊した状態で、赤黒いエネルギーを溜める。

 

「ふ、フフ、役立たず共め、はじめからこうすれば良かったのだ。近しいものを感じてあんな小僧を洗脳し、腑抜けの竜を操り、使えぬ魔物を率いて!それこそが無駄だったのだ!フヒヒヒヒヒ!恩を仇で返しおって!」

 

「いい加減にしろよ!勝手に洗脳した癖に近しいもの…?俺とお前を一緒にするな!!」

 

ウィローに怒鳴ったのは清水だった。

 

「ち、近しいだろう!異世界転生したのに勇者は自分ではない。なぜ自分ではないのか、と思ったことがあるはずだろう!」

 

「…確かにサイトと出会う前のままだったらそうかも知れない。でも今は違う。勇者じゃなくても自分のやれることをすればいい!それにサイトは言ってくれた、“お前はお前の人生の主役だろう“と!勇者にはなれなくても、俺は俺の人生を生きる!」

 

「だ、黙れ黙れ!偉そうなことを言うな!私が間違っているとでも言うのか!!」

 

「その通りです!」

 

次に叫んだのはウィル。

 

「あなたは間違っている!自分の欲望の為に清水殿やティオさんを苦しめ、私と一緒に居た彼らの命を奪い、多くの人の命を危険にさらした!」

 

「う、うるさい!そのクズ共を殺したのは竜の娘だろう!」

 

「…確かにそうじゃ。妾は操られておったとはいえウィル坊の仲間の命を奪った。じゃが、そもそもの原因である貴様に言われとうない!」

 

「せ、責任転嫁をするな!わ、私は天才科学者Dr.ウィロー様だぞ!」

 

「………最早何も届かぬ、か。貴様ごときに怒りを覚えた妾が愚かだったのう」

 

強かに冷たい視線で言い放つティオ。ウルの町の人々も口々にウィローを非難する。

 

「そんな事知ったこっちゃねぇよ!」

 

「最低!」

 

「天才だったら何でも許されるのかよ!」

 

目下から放たれる罵詈雑言にウィローはブチギレた。

 

「何故私を認めぬのだ!私は間違っていない!私を拒絶する存在など、消えてしまえェェェェェェェェ!!」

 

ウィローはプラネットゲイザーでウルの町ごと吹き飛ばそうとするが彩人がそれを許すはずがない。…が、

 

「〝元気玉〟は撃たせんぞ!」

 

「…っく」

 

赤いレーザーで彩人の攻撃を妨害する。とうとう極太のレーザーがウルの町に放たれた。

 

「ハハハハ!私の勝ちだぁぁぁぁぁ!」

 

「吹っ飛べ、〝ファイナルスピリットキャノン〟!!」

 

彩人の右手から放たれた気弾がレーザーにぶつかる。一瞬押されたが直ぐに押し返しウィローの元へ。

 

「(な、何故だ…何故勝てぬ……私の計算が………間違ってたとでも言うのか……この私……が……)ギィェアァァァァァァァァァァァァ!!!

 

「……これは俺の大切な存在に手を出したツケだ、Dr.ウィロー。地獄で反省しろ」

 

彩人の視線の先で青白い大爆発が起き、ウィローの姿は無かった。



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決着、そしてさらば

ここの展開ムズイ。


いつもの駄文でもいいのならゆっくりしていってね


Dr.ウィローが敗北しウルの町が守られたと実感した人々は歓声を上げた。

その中で愛子は彩人を見つめていた。

 

「(…私はとんでもない思い違いをしていたようです。もし彼が力に溺れているのなら、南雲さん達に協力を頼んだりはしないでしょう。それに・・・)」

 

愛子の瞳には彩人の勝利を喜ぶハジメ達と彼女達を穏やかな笑みで労う彩人の姿。

 

「(そんな傲慢な人ならあんな顔はしないでしょう…。南雲さんも、変わってしまったと思っていましたが彼の前では・・・あの優しい笑みのままです。大切な生徒達を疑うなんて…教師失格ですね)」

 

愛子は無意識のうちに彩人達のいる所へ歩みを進めた。

 

「轟君!南雲さん!」

 

「先生!」

 

「・・・・先生?どうしたんだろ」

 

愛子が二人に駆け寄ろうとしたその時。

 

「…!!!先生さん、避けて!!」

 

シアが叫ぶと同時に愛子を突き飛ばす。その後ろから白いレーザーがシアを掠めるが愛子は命拾いする。

 

「シア!・・・・クソっ、イクス!治癒魔法を!」

 

『かしこまりました、マスター』

 

「シア、しっかり!」

 

「シア…!」

 

シアの横腹には直径三センチ程の穴が空いていた。身体強化の応用とハジメとユエが素早く止血したため余裕はありそうだ。彩人はイクスがシアを癒している間に〝破断〟魔法を撃ったであろう鳥型の魔物に乗って逃亡している魔人族にシアを傷つけられた彩人の怒りの気功波が魔人族の右腕を吹き飛ばす。

 

「・・・!?」

 

「外れたか!・・・ならもうい「動くな!愚者共め!」・・・しまった」

 

彩人達が振り向くと愛子を人質に取ったDr.コーチン。愛子たちを追ってきた生徒達や町の人々がその姿に驚愕し、怒りの形相をうかべる。

 

「・・・どいつもこいつも我らをコケにしよって!こうなれば魔人共の助けになるのは癪だがこの女を道連れにしてくれる!」

 

「・・・助け…とは…?」

 

「・・・フゥ…自身の力を理解していないとは間抜けめ。食料は戦争において重要となる。その食糧を無限に生産出来うるお前を放っておくはずがあるまい?気づかないのか?貴様が居なければあの小僧と竜の娘が・・・ゴゲブッ!?」

 

コーチンが言ってはならないことを言い出したその時。彩人の拳がコーチンを殴り飛ばしていた。・・・だが。

 

「轟君・・・?轟君!!」

 

「・・・・ガッ・・・・ア・・・・」

 

彩人は痙攣を起こしながら左腕に刺さった小型の注射器を抜き取る。

 

「彩人君!」

 

「…彩人!」

 

「彩人さん!」

 

『『『マスター!』』』

 

愛子に抱えられた彩人の元に集うハジメ達。彩人はなんとか持っている神水を飲もうとしたが・・・痙攣のあまり落としてしまう。

なんとか飲ませようとしてもせきこんでしまう。

 

「フハハハハハ!かかったな轟彩人!他の娘は人質にしても返り討ちにされるからな!どうだワシの特製の麻痺毒は!魔法なんぞ効かん!貴様は死ぬしかないのd・・・・ゴギャグべアガァ!!!?」

 

ハジメ達が鬼の形相で魔法やら武器でコーチンを攻撃する。その隙に愛子が飲ませようとするが、

 

「ギギィ・・・・そうはさせんぞぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

ハジメ達の攻撃で体中の機械が露出しターミネーターのようなコーチンが右手のガトリング砲を乱射する。生徒達やミレディ、ティオ、騎士団を含めた町の人々はイクス(辛うじて残った意識で彩人が命令した)が、愛子をシアが庇い、ドリュッケンを高速回転させて弾丸を弾く。ユエはハジメと共にコーチンへの攻撃を続ける。

 

「先生さん!彩人さんを!!」

 

「・・・!わ、分かりました!」

 

愛子は急いで飲ませようとするがやはり吐き出してしまう。そして愛子は覚悟を決めた。心の中で「これは救命行動」と繰り返しつつ残った神水を口に含み、口移しで彩人に飲ませる。短くも長い口づけの後愛子は唇を離すと僅かに二人の間に銀色の糸が引かれた。青白かった彩人の顔色が戻る。

 

「ぅ・・・・あ・・・・せ、・・・・せんせ、い?」

 

「轟君!」

 

流石のコーチンも神水の力は解析できなかったので「こんな・・・バカな・・・」とつぶやきながら頭をハジメに打ち抜かれ胴体をユエに粉々にされた。

 

「先生が神水を飲ませてくれたんスか?ありがとうございます」

 

「え、あ、いいえ!き、教師として生徒を助けるのは当然ですのよ!?べべべ別に少し気持ちよかった・・・なんてことはありませんからね!?!?!?」

 

「・・・先生、落ち着いて。周りが困惑してる」

 

愛子をなだめた後、彩人はシアに視線を向ける。するとシアは安堵し、泣きながら抱き着く。

 

「わぁ~~ん!!彩人さん!!心配し"ま"し"た"よ"ぉ"ぉ"ぉ"」

 

「済まねえ、でもありがとな。そっちは大丈夫か?」

 

「うう・・・イクスさんのおかげで平気ですぅ」

 

「彩人君、良かったぁ・・・」

 

「…彩人、心配した」

 

「二人共、奴を倒してくれてありがとな」

 

「「彩人(君)を傷つけたから(ね)」」

 

「・・・・」

 

そんな会話するのを見ていた愛子に騎士団と生徒達が駆け寄り無事なことに安堵していた。

そして彩人がその場を去ろうとしたのを呼び止める愛子。

 

「ま、待って下さい、轟君。君があの・・・コーチン?さんを攻撃したのは・・・その・・・」

 

愛子はコーチンが何を言おうとしたか薄々感づいていた。もしかしたら自分に気を使ったのではないか、と。

 

「アイツはウィローの仲間、つまり敵だ。敵に容赦はしない、ただそれだけだ。今までも、これからもな」

 

「轟君…」

 

一切の迷いなき目で言い放った彩人に、愛子は"何か"を感じた。

 

「・・・じゃ、俺行くよ。ウィルさんを連れて行かなきゃならないから」

 

「あ・・・あの・・・ありがとうございました。この町を守ってくれて・・・ついでに・・・私も

 

「どういたしまして」

 

「サイト!」「轟君!」

 

次いで清水と辻が。

 

「またお前に助けられたな。ありがとうな、親友」

 

「轟君、本当にありがとう」

 

「いいんだ、気にすんな。それと、香織達が済まねえ・・・」

 

「あ・・・ま、まぁ、あいつらなら大丈夫だが・・・」

 

「う、うん!香織ちゃんたち凄く強くなってて・・・私達はここに残ろうって事で…あはは・・・」

 

「・・・・ホントにスマン。でもありがとう」

 

そして今度こそ彩人達がハジメの出した魔動四輪に乗り込もうとした時。

 

「と、轟ー!」

 

「園部・・・さん?」

 

園部優花だ。優花は彩人に一人歩み寄ると、

 

「その・・・今言っておきたい事があるんだ」

 

「・・・何?」

 

「あの時、助けてくれてありがとう!」

 

「・・・、オルクスの時か。別に礼を言われるほどでもないけど?」

 

「…でも言いたかった。私は轟みたいに強くないし南雲みたいな凄い魔法が使えるわけでもない。でも、立ち止まることだけはしないから!轟に助けられたこの命、絶対無駄にしないから!」

 

決意のこもった優花の瞳から思いを感じ取った彩人は、笑みを浮かべると

 

「そうか。君はきっと強くなれる。俺が保証する」

 

「轟…」

 

そして彩人が乗り込むと魔動四輪はフューレンの方向へ走っていった。

優花は、清々しい表情でそれを見送った。それを見た菅原妙子と宮崎奈々がそんな優花を見てニヤニヤしているのだが・・・。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

一方彩人達は。

 

「「「~♪」」」

 

「やけに機嫌が良いようだが」

 

「もちろん彩人君の行動がむだじゃなかったってわかったもん」

 

「彩人さんの頑張りがあの人たちに伝わってるのが嬉しくて~ね?ユエさん」

 

「…ん。私達も誇らしい気持ち」

 

そんな中浮かない顔をするウィル。

 

「あの・・・彩人さん、本当に言わなくて良かったのですか?…愛子殿に」

 

「…と言っても・・・先生にはここで折れてほしくない。自分のせいでああなったと理解したら責任感の強いあの人にはキツいだろう。・・・・あの感じだと気づいてるっぽいから何も言えんが」

 

「彩人さん…」

 

「どのみちアイツに攻撃したらあの毒の餌食になっていた。耐性ある俺でも死にかけだ。先生が刺されたら・・・分かりますよね?」

 

「まさか、そこまで読んで・・・?」

 

「…正直言うと読んではいません。結果的に助かりはしましたがもしあそこで先生が折れていたら先生や俺だけじゃなく多くの人が死んでいたかもしれません」

 

「……(ゾクッ)」

 

ウィルはヤケクソでバルカン砲を撃つコーチンの姿を思い浮かべた。

 

「…でも、愛子はきっと大丈夫。彩人の言葉でも目は揺らいでなかった、気づいてても。だから、彩人の望んでない結果には…ならない」

 

「ユエ・・・ありがとな」

 

「…んっ」

 

「わ~、何このあまあま展開」

 

「確かに少し口の中が甘いですね」

 

「ユエさん・・・ずるいですぅ・・・」

 

ユエの言葉に少し安心する彩人。甘い雰囲気にあてられるミレディとウィル。その横で羨ましそうにするシアに、

 

「シアも本当にありがとう。二度も先生と・・・二回目は俺もかばってくれたよな」

 

「ふぇっ・・・・と、当然ですよぉ~彩人さんと彩人さんの恩師さんなんですから!!」

 

そこから一転、デレデレ状態のシア。

 

「もちろんハジメとミレディも。二人共、本当に助かった。ありがとう」

 

「えへへ、どういたしまして♪」

 

「ま、まぁ?このミレディちゃんなら余裕ですけど~?そ、そこまで言うのなら、頑張ってよかったな~と思うかな…へへ」

 

ハジメはもちろんミレディも嬉しそうである。

 

「むろんヴァルキュリア達もな、ご苦労だった」

 

『マスター・・・ご期待に添えられて何よりだ』

 

『マスターのお役に立てたのならこのイクス、至高の極みにございます』

 

『マスター・・・なんというもったいなきお言葉・・・』

 

仕えて当然という考えのヴァルキュリア達も主のお褒めの言葉にリアクションは小さくとも歓喜していた。

 

「・・・で、シア、お礼というか、ご褒美と言うか・・・何かしたいこと、無いか?」

 

「え、い、いいんですか?!」

 

特に頑張ったシアに言うとシアは少し考えたのち、

 

「あの、彩人さんとデートしたいです!」

 

「・・・あ、ああ、いいぞ。なんか意外だな、シアがそういうのを頼むとか」

 

「本当は私のハジメテを捧げたり結納をと・・・考えてましたけどそういうのは彩人さん側からのほうが燃えると思いましたので!」

 

「」

 

それを聞いてハジメとユエがサムズアップし、ウィルに至っては顔を赤くしながら彩人とシアを交互に見ている。彩人が唖然としていると、荷台と車内をつなぐ扉から、

 

「彩人殿、少し話があるのじゃが」

 

ティオが入ってきた。何処か紅い顔を扇子で隠しながら彩人の方を見ている。



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竜の追憶とおまけ

漫画の展開を少しいじったもの。


「・・・ティオ、いつの間に」

 

「彩人殿と園部殿が話をしている時に乗っておったが?」

 

「…気づいてなかった、済まねえ」

 

「・・・う、うむ、こちらも話に入る機会を失っておった」

 

気まずい雰囲気になりつつも仕切り直し。

 

「・・・乗り込んだってことは付いてくるという事でいいんだよな?」

 

「そ、そうじゃが・・・妾が先に言い出したこととは言えど、良いのか・・・?」

 

「ダメとは言ってない。それに皆も納得してる」

 

ティオが周りを見渡すと全員笑みを浮かべていた。

その肯定の意志に、ティオは深くさげて「これからよろしく頼む」とお礼を言った。

とはいっても彼女達が彩人の決めたことだから肯定しているとはティオは夢にも思うまい。

 

「それはともかくなぜついてきたいと思った?」

 

「そ、そうじゃな・・・それを話す前に戦いに入っておったのう」

 

ティオはこほんと咳ばらいをしたのち、

 

「そ、その・・・彩人殿、そなたに・・・惹かれてしまったのじゃ」

 

「・・・え?どこに惚れる要素が?」

 

「まあ、そういうじゃろう・・・。妾、自分より強い男しか伴侶として認めないと決めておったのじゃ……じゃが、里にはそんな相手おらんしの……じゃ、じゃが…そなたに完敗して…あやつの攻撃から妾を救ってくれたしのう・・・その・・・」

 

「…守られたいと思った?」

 

ユエがもじもじしているティオを代弁するかのように言うとティオは小さくうなづいた。

 

「・・・守るというか俺は敵を倒すことしかできないんだが」

 

「そ、それでもその力と心の強さに惚れたのじゃ!守られたいと思うほどに!ただ叩きのめされるだけで惚れるなど、変態ではないか!」

 

「・・・・・・・・・・そ、ソウデスネ」

 

まさかティオに言われるとは思わなかった。

 

「・・・無論力だけではないぞ…、そなたがあやつに貶された我らの誇りの仇を討ってくれたしのう。感謝しておる…」

 

「まあ、ユエが尊敬するほど偉大な誇りをあんなマッドサイエンティストが貶していい訳ない」

 

「そ、そうか…も、もう一つ…お願いがあるのじゃが聞いてくれぬか」

 

「どうぞ」

 

「そ、その…主様(あるじさま)と呼んでも良いかの?」

 

「・・・好きによべばいいさ。これからよろしく、ティオ」

 

「ああ…!感謝するぞ、主様!」

 

比較的にまともな仲間が増えてホッとする彩人だった。

 

「ハジメ、ティオは…?」

 

「悪くはない・・・かな」

 

「なら先輩として教えて差し上げないと!」

 

不穏でもあるが。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

これはまだティオが幼い頃。

故郷の国は竜人族を中心に様々な種族が共に平和に過ごしており、世界一美しい木と水の王国と称されていた。

しかし、突如起きた戦いにより、数百年かけて築き上げられた楽園はたった数年で地獄と化した。

ティオの父の話によると竜人族が神に仇為す"神敵"とされたため、だという。父親は総大将として戦地に赴いていたが結界を抜け出したティオを案じていた。だが、

 

簡素な十字架に磔にされたティオの母の亡骸が見せしめのように置かれていたという。

 

それを見たティオは目を血走らせ、怒りのあまり竜化しかけるティオを抑えるように父はティオを抱きしめ、

 

ー我ら己の存ずる意味を知らず

 

この身は獣か或いは人か

 

この世界の全てに意味あるものとするならば

 

その答えは何処に

 

答えなく幾星霜(いくせいそう)

 

なればこそ人か獣か我等は決意もて魂を掲げる

 

竜の牙は己の弱さを嚙み砕き憎悪と憤怒を押し流す

 

竜の爪は鉄の城壁を切り裂き巣食う悪意を打ち砕く

 

竜の目は一路の真実を見抜き欺瞞と猜疑を打ち破る

 

仁失いし時「…我等はただの獣なり」」

 

その言葉で理性を取り戻したティオは合わせて続けた。

 

されど「理性の剣を振るい続ける限り」」

 

「「我等は竜人である!!」」

 

と誓いを新たにしたティオに父親は本当の敵である"神"の存在を告げ、対策を施したが間に合わず神によって竜人族が滅ぼされる事を告げた。そして父の意志を継いだティオは死んだと思われていた自分の祖父の待つ隠れ里へ身を隠し、父親は戦を終わらせるため満身創痍の状態で戦火に突撃し、戦死したらしい。

 

「生きろ」

 

と言葉を残して。そこから500年後、彩人達の召喚を察知し、ティオがやってきた・・・というものである。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「…(主様…すまぬ…そなたが父上の言っていた"サイヤ人"なのではないかと思うておる。唯一神に傷をつけた伝説の戦士・・・。じゃが、妾の思いもまた事実…許してくれとは言わぬが・・・死ぬときはそなたの手で死にたいのう)」

 

そんな思いを抱えつつもティオは彩人についていくと決心したのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

一方、彩人達が去ったウルの町では、コーチンによって砂漠化したり彩人達の攻撃で荒れに荒れた大地の復興、おびただしい数の魔物の後始末に追われながらも町と人は無傷で済んだので避難していた人々が帰還し家族や友人、恋人との再会を喜んでいた。

 

彩人達の戦いは目撃者の語りで広まり、ハジメの作った防壁は〝女神の盾〟と名付けられた。

彩人達は〝豊穣の女神〟こと愛子の使いとされ愛子はもちろん彩人達も平等に敬われた。しかし騎士団のメンバーは緊急事態とはいえ愛子にキスされた彩人をあまり好ましくは思ってないが、町を救ってくれた恩もあるので考えあぐねていた。

 

清水は辻を始め生徒達の説得と愛子の鶴の一声で残留が認められ、愛ちゃん護衛隊として愛子のサポートをしている。

 

一方で当の愛子はというと、どこか上の空だった。生徒や騎士団員が話しかけてもボーっとしていたり適当な相槌をうったりしていた。

愛子は"戻るつもりはない"という意思のこもった目をした彩人と彼に追随するハジメやユエ達を見て、残念に思いつつも彩人を信じて見送ることにした。

 

だが、その時に胸の奥がチクリと痛んだのだ。見送ると決めたのに、ハジメ達が彩人に寄り添った時に・・・。その理由を考えているとふいに自身の唇に触れてしまいあの事を思い出してしまう。

 

「(あ、あれは人工呼吸! 救命措置! それ以外の何ものでもありません! べ、別に意外と柔らかいとか、まして気持ちよかった何て思ってません! ええ、断じて思ってなどいませんよ!)」

 

と考えて顔を真っ赤にして両手を振り回すので周りの目が凄いのだが逆に話しかけずらい状態を作ってしまっていた。が、〝水妖精の宿〟のオーナーであるフォス・セルオのアドバイスでなんとか落ち着くことが出来た愛子だったが、彼女は彩人に対する痛みに関して一つの仮定にたどり着いてしまい、別の意味で悶々とすることになるのだが・・・・。

 

それはまた別の話。



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決戦!オルクス大迷宮
フューレン帰還、新たなる脅威


フューレン帰還。


久しぶりにフューを出します。


フューレンの町へ近づいてきたが、中央商業都市の名は伊達ではなく商人やら観光客で門前には大行列が。

 

「え~宿で休みたいんですけど…」

 

「まぁ場所が場所・・・というべきかのう」

 

待たされることに不満なミレディと受け入れるティオ。

 

『マスター、わたくし達がイルワ様をお呼び致した方が宜しいのでは…?』

 

「いや、めちゃくちゃ目立つだろ」

 

もう今更な気がするが、空飛ぶメイドってホントにシュールなのだ。

 

「・・・だがあれだけの列を待つのは御免だな。よし、えーと・・・・お、イルワさんの気だ。先に言ってくるぜ」

 

彩人はイルワの気を捕らえ、瞬間移動する。

 

「!?」

 

「あ、どうもお仕事中に失礼します」

 

イルワは書類仕事の最中、突如目の前に現れた彩人に驚きを隠せない。

 

「え・・・なっ・・・何処から…?さ、彩人君じゃないか、君は一体・・・」

 

「ウィルさんを保護したのでその報告に」

 

「な、なんだって!?ウィルは無事なのかい?!?!」

 

「はい。ただいま門前の列に居るので呼んできます」

 

「あ、ああ・・・門を通すように言っておくよ。それと君はどうやっt・・・居ない?!?!」

 

手品か幻覚でも見せられているのではないかと頭を抱えつつも彩人の発言を信じてイルワは部屋を出るのだった。

 

「・・・間に合わなかったか」

 

彩人がハジメ達の所に戻ると股間を抑えて泡を吹きながら気絶しているチャラ男と、猛烈な殺気を放つ美女、美少女と、ドン引きしているティオとミレディが。その周りには怯え切った人々が。

 

「おい、お前! この騒ぎは何だ! それにその黒い箱? も何なのか説明しろ!」

 

「これは私のアーティファクト。あの男は、私達に手を出そうとしたから投げ飛ばしたの。信じられる? いきなり抱きつこうとしたんだよ? 見てよ、この子なんてこんなに怯えて……」

 

「…ん、怖かった」

 

「門番さん、まさかあんな性犯罪者の味方なんてしませんよね? そんなことになったら、私達全員フューレンには行けませんね……男に襲われても守られるどころか逆に犯罪者扱いなんて…」

 

恐らく返り討ちにしたんだろう。周りの目が”どの口が言っているんだ”と言いたげである。すると彩人に気づいたハジメ達が走って「怖かったよ~」と彩人に抱き着いてイチャつくが、嫉妬どころか畏怖の視線が。

 

「むしろキミ達の方が怖かったんですけど?!」

 

「…無作法に異性に声をかけたあやつが悪いとはいえちとやりすぎではないかのう・・・」

 

「さ、彩人さん・・・いつか刺されたりしませんか・・・?」

 

ミレディとティオの言葉にその場にいた目撃者全員がうなづいた。ウィルに至ってはハジメ達の変貌ぶりに顔面蒼白だった。

その後、イルワ氏の言伝を受けた職員が彩人達を例の応接室に案内し、待つことしばし。イルワ氏が応接室に飛び込んでくるとウィル氏を見て安堵した表情をした。

 

「ウィル! 無事かい!? 怪我はないかい!?」

 

「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……」

 

「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」

 

「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」

 

イルワに促されたウィルはさっそく両親の所へ向かう・・・前に彩人達に改めてお礼をすると言ってきた。彩人はやんわり断ったがウィルの気が済まないという。そしてウィルが去るとイルワは改めて彩人達にお礼を言った。

 

「今回は本当にありがとう。まさか…本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」

 

「・・・ウィルさんが幸運だっただけですがね」

 

「ふふ、そうかな? 確かに、それもあるだろうが……何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう? 女神の剣様?」

 

「・・・もうバレてるって事ですかね」

 

「ギルドの幹部専用だけどね。長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。私の部下が君達に付いていたんだよ。といっても、あのとんでもない移動型アーティファクトで常に後手に回っていた上に君がさっき見せた魔法…?で見失った、と。まあその後の戦火で気づいたらしいけど…彼の泣き言なんて初めて聞いたよ。諜報では随一の腕を持っているのだけどね」

 

「あ、そうでしたか。まくつもりでやってたんですが、それは悪いことをしましたね」

 

「き、気づいてたのかい?!」

 

実はその人の存在に気づいていた彩人が瞬間移動の存在がバレないようにしていたが後で味方と気づいたのでイルワ氏に凸したのだ。

 

「本当に君という人は……それにしても、大変だったね。まさか、北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは……二重の意味で君に依頼して本当によかった。数万の大群を殲滅した力にも興味はあるのだけど……聞かせてくれるかい? 一体、何があったのか」

 

「・・・構いませんけどその前にユエ達のステータスプレートをお願いします。あと、こちらのティオは「うむ、皆が貰うなら妾の分も頼めるかの」・・・という事です」

 

「ふむ、確かに、プレートを見たほうが信憑性も高まるか……わかったよ」

 

イルワが7枚のステータスプレートを持ってくる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

ユエ 323歳 女 レベル:75

 

天職:神子

 

筋力:300

 

体力:900

 

耐性:600

 

敏捷:1200

 

魔力:56000

 

魔耐:60000

 

技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40

 

天職:占術師

 

筋力:60 [+最大6100]

 

体力:80 [+最大6120]

 

耐性:60 [+最大6100]

 

敏捷:85 [+最大6125]

 

魔力:3020

 

魔耐:3180

 

技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

 

天職:守護者

 

筋力:770  [+竜化状態8900]

 

体力:1100  [+竜化状態12000]

 

耐性:1100  [+竜化状態11000]

 

敏捷:580  [+竜化状態7500]

 

魔力:4590

 

魔耐:4220

 

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

ミレディ 18歳 女 レベル15

 

天職:重力操作者

 

筋力:150

 

体力:150

 

耐性:150

 

敏捷:150

 

魔力:7000

 

魔耐:900

 

技能:重力魔法・魔力操作・言語理解

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ゼータ ???歳 女 レベル88

 

天職:剣士

 

筋力:9000

 

体力:8600

 

耐性:10000

 

敏捷:7000

 

魔力:5600

 

魔耐:8000

 

技能:全属性耐性・金剛[+部分強化][+集中強化][+付与強化]・威圧・念話・追跡・高速魔力回復[+魔素集束]・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・魔力操作[+魔力圧縮][[+効率上昇]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・限界突破・重力魔法

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

イクス ???歳 女 レベル86

 

天職:魔術師

 

筋力:100

 

体力:200

 

耐性:500

 

敏捷:500

 

魔力:50000

 

魔耐:64000

 

技能:全属性耐性・金剛[+部分強化][+集中強化][+付与強化]・威圧・念話・追跡・高速魔力回復[+魔素集束]・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇]・限界突破・重力魔法

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

アクセル ???歳 女 レベル79

 

天職:銃使い

 

筋力:2300

 

体力:3200

 

耐性:1200

 

敏捷:10000

 

魔力:3000

 

魔耐:3200

 

技能:天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・全属性耐性・金剛[+部分強化][+集中強化][+付与強化]・威圧・念話・追跡・高速魔力回復[+魔素集束]・限界突破・重力魔法

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

桁外れの戦闘力にイルワは開いた口がふさがらない。

 

「いやはや……なにかあるとは思っていましたが、これほどとは……」

 

「……道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。彩人君とハジメ君たちが異世界人だということは予想していたが……実際は、遥か斜め上をいったね……」

「・・・教会や国にでも突き出しますか?」

 

「冗談がキツいよ。出来るわけないだろう? 君達を敵に回すようなこと、個人的にもギルド幹部としても有り得ない選択肢だよ……大体、見くびらないで欲しい。君達は私の恩人なんだ。そのことを私が忘れることは生涯ないよ」

 

「そうですか」

 

「私としては、約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろうと思う。ギルド幹部としても、個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は、上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしないと思うよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員〝金〟にしておく。普通は、〝金〟を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。キャサリン先生と僕の推薦、それに〝女神の剣〟という名声があるからね」

 

その後、イルワの大盤振る舞いのVIP扱いを受けた。次いでウィルの両親であるグレイル・グレタ伯爵とサリア・グレタ夫人がウィルを伴って挨拶に来た。感謝の印として家への招待や金品の支払いを提案したが、彩人は拒否し後ろ盾になると言ってくれた。

・・・ミン伯爵家のご子息が彩人の言葉で見違えるほど更生したと聞いた。三人から尊敬のまなざしを向けられたが、彩人は複雑な気分だった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

魔国ガーランド

 

ここは魔人族の国。潜入捜査をしているフューが、片腕を失った魔人族が逃げ帰る様子を目撃し、気配を隠してついていく。

 

「しょ・・・将軍殿・・・ただいま戻り・・・ました」

 

「レイス・・・!いったいどうしたのだその傷は!」

 

「も、申し訳ございません・・・"豊穣の女神"ならびにウルの町の壊滅に・・・失敗、いたしました・・・」

 

「ウィロー共もか・・・?」

 

赤髪の将軍と呼ばれた魔人族の問いかけにレイスは小さく頷く。

 

「・・・そうか、イレギュラーの仕業か」

 

「はい。…ですが、それとは別に魔力を持たぬ怪しげな男に、この様に・・・!」

 

「・・・まさか、あの忌まわしき"サイヤ人"が現れたと…?」

 

「(多分彩人君の事だろうけど・・・アイツ、ボクのエネルギーでウィローを呼んだんだな。フフ、でももう呼べないはずだから彩人君がやられる心配はないね!)」

 

エヒトにエネルギーを奪われた時、フューは集め始めてすぐだったため強い者を呼び寄せるには足りないと考えていた。それでもトータスでは神代魔法を上回りかねないため警戒していた。・・・が、

 

「レイス、今は休め。今回は失敗したが次がある。ウィローに代わる協力者もすでに呼び寄せている」

 

「・・・はっ」

 

「(協力者・・・?そんなはずは)」

 

フューが困惑していると女性の魔人族が下がったレイスと入れ替えに将軍の前で跪いた。

 

「カトレア・・・準備はいいか?」

 

「はい」

 

「私が遣わした魔物と共に"オルクス大迷宮"へ行くのだ」

 

「はっ」

 

「(うわぁ・・・地上の魔物とは比べものにならない戦闘力だ・・・し、調べてみた・・・・おっと、バレるのは不味い)」

 

フューが好奇心を抑えているとカトレアと呼ばれた魔人族に駆け寄る男。

 

「カトレア!とうとう行くのだな・・・」

 

「ミハイル、来てくれたのね」

 

すると二人は熱い抱擁を交わし、キスをした。

 

「フッ・・・相変わらず仲が良いのだな」

 

「「・・・はッ、も、申し訳ございません」」

 

「構わぬ、健闘を祈っておるぞ」

 

「はっ!・・・行ってくるね、ミハイル」

 

「ああ」

 

カトレアは首から下げたロケットを握りしめ、歩いていく。・・・するとまた別の人物が。その人物をみてカトレアとミハイルは不愉快な顔になる。将軍も何処か表情が厳しい。

 

「(な、なんで・・・?あれ以上呼べるほどのエネルギーは無いはず・・・!)」

 

その人物を見たフューも目を疑った。




今度の敵は誰でしょう?

予想してみてね


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シアとのデートタイム・・・と思っていたのか?

タイトル通りです。


「ふんふんふ~ん、ふふんふ~ん♪」

 

「随分機嫌がいいな」

 

「はい!彩人さんと二人っきりのデートなんですから!」

 

ウサミミをピコピコ動かし「楽しみでたまらない!」を全身で表現するシア。肉付きが良く露出の多い服なのでそういう視線も集まるがそれ以上に彼女の屈託のない満面の笑みが彼女の魅力を引き立て、見る者を魅了しあるいは微笑ましさを感じさせる。

 

「そういえば首のやつ、変えたんだな」

 

「はい。ハジメさんがもう隠す理由もないかなって。…お気に召しませんか?」

 

「いいや、俺も変えたほうがいいかなって思ってたし。無骨な首輪よりもそっちの方が俺は好きだ」

 

「そうですか?えへへ、嬉しいです~♡」

 

好き好きオーラ全開で彩人に甘えるシア。嫉妬の視線が痛いが嬉しそうなシアを可愛いと思う彩人だった。

 

「そういえば何処か行きたい所とかないか?」

 

「はい、メアシュタットに行きたいです! 私、一度も生きている海の生き物って見たことないんです!」

 

メアシュタットは水族館であるが、樹海で過ごしたシアにとって海は憧れだったとか。湖や川の魚はなじみがある分未知なる海の生き物に興味津々であった。

 

「よし、それなら早速行こうか」

 

「はいですぅ!」

 

行く途中でもシアが腕に抱きつくのでシアのたわわが彩人の腕に触れて理性にダイレクトアタックしてくるが指摘しても「?当ててるんですよ」と当然のように返された。

 

そして入口でチケットを買い、水族館に入ると地球にあるのと変わりのない内装で、巨大な水槽を泳ぐ生き物達にシアは目をキラキラさせていた。楽しそうにはしゃぐシアと共に水族館を堪能していると、突然、シアがギョッとしたようにとある水槽を二度見し、更に凝視し始めた。

 

人面魚である。渋いおっさんの顔をした。それを見て戦慄するシア。

 

「な、なぜここに…」

 

「〝リーマン〟固有魔法"念話"で会話が出来意思疎通のできる唯一の魔物だが、めったに話すことは無い・・・か。あー、…うん」

 

彩人は固まったままのシアをよそにテレパシーでリーマンに話しかける。

 

『聞こえるか?俺の名は轟彩人。聞こえているのなら返事をしてほしい』

 

するとリーマンがピクリと反応し彩人の方を見るとニヒルに笑う。

 

『…へぇ。若いのに礼儀正しいじゃねぇか。』

 

『あ、ああ・・・』

 

『見たところお前さんは人間のようだが念話どころか魔力すら感じねえ。お前さん…なにもんだ?』

 

『ちょっと訳ありなんだ』

 

『・・・そうかい、ならこれ以上は野暮って事だな』

 

『それよりもリーマン・・・・さん?』

 

『ハッハッハ、そんな堅苦しい言い方止めな。坊主の好きに呼べばいいさ』

 

『ま、まあ初対面でいきなりなれなれしいかと。じゃ、リーさんで』

 

『いいぜ。・・・なかなかおもしれえ坊主だ。じゃ、こっちはサー坊って呼ばせてもらおうか。…で、どうした』

 

『ここを出たくはないか?・・・というか何故こんなところに?』

 

『ん?そりゃあ出てぇさ。俺ぁ自由気ままな旅をしていたんだが……少し前に地下水脈を泳いでいたらいきなり地上に噴き飛ばされてな……気がついたら地上の泉の傍の草むらにいたんだよ。別に、水中じゃなくても死にはしないが、流石に身動きは取れなくてな。念話で助けを求めたらここに連れてこられたって訳よ』

 

『・・・そうか。なら水面近くまで上がってほしい』

 

『・・・こうか?』

 

彩人は水面付近のリーマンの目の前に彩人が現れ、気の球体にリーマンを包む。すぐさま近くの川に居る人の気で川まで瞬間移動する。

 

『このあたりでいいか?』

 

『あ、ああ・・・ほんとに奇天烈な奴だな・・・。だが助かった。ありがとな、サー坊』

 

リーマンを川に返すとそのまま去っていった。それを見届けると彩人はすぐさまシアに気で帰還する。

 

「あー・・・シア。済まねえ」

 

「い、いえお気になさらず…」

 

とは言いつつも「せっかくの水族館デートが…」と意気消沈しているシアの為に近くにあったアイスクリームをおごった。

 

「ん~♪冷たくておいしいですぅ」

 

「…さっきの詫び・・・だから気にせず食べていい」

 

「・・・!そうだ、彩人さん!あーん、です!」

 

機嫌が直ったシアからの"あーん"。彩人はもちろん受ける。もう間接キスとかどうでもいい。

 

「え・・・?彩人さんが、食べてくれた・・・!」

 

「・・・もうそういうの気にせん」

 

「これはデレ期来てます!ハジメさん!ユエさん!私、がんばりますよぉ~!」

 

買い物中であろうハジメとユエ(とミレディ達)に宣言するように大声をあげるシアだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「・・・!ユエ、感じた?」

 

「…ん。シア、いい感じ」

 

満足そうな笑みを交わすハジメとユエを見たミレディとティオは、

 

「二人共~このままだと彩人君とられちゃうかもよ~?」

 

「二人も主様を思っておるのじゃろ?主様の決定とはいえ不安に思ったりせんのか?」

 

と聞くが、二人は、

 

「・・・確かに最初は彩人君に対して馴れ馴れしいうえに下心丸出しだったなぁ」

 

「でも、あの子はいつも全力。一生懸命。大切なもののために、好きなもののために。良くも悪くも真っ直ぐ」

 

「あー・・・それ、ミレディちゃん分かるなー…」

 

コアを貫かれた時を思い出しているのか胸を押さえるミレディ。

 

「ふむ、それは見ていればよう分かる。・・・だから絆されたと?」

 

ティオは仲間になってまだ間もないが特異的な体質でありながら笑顔が絶えないムードメイカーな少女のシアに気を許している。

だが、彩人に対する思いの強さを考えるとティオは理由としては弱いと考えていた。

 

「それだけじゃないよ。"同志"だから、ね」

 

「ん…。ハジメの言う通り」

 

「"同志"・・・とな?」

 

ハジメとユエのまさかの回答に首を傾げるティオ。するとミレディが顔を真っ赤にして頭を抱えた。

 

「わー!わー!わ、私は違うからね!?」

 

「ミ、ミレディ殿!?いったいどうしたのじゃ!」

 

「違う・・・違うのぉ・・・私は変態じゃないもん・・・」

 

「本当になにがあったのじゃー!」

 

ふと見るとハジメとユエの目のハイライトが消えているのに気づいたティオ。

 

「ふふ…心配することは無い」

 

「ミレディはさっきやったけどティオはまだだったね・・・(謎の袋)」

 

「ゆ、ユエ殿!ハジメ殿!なんじゃその袋は!やめよ!そのような顔で近くに寄るでない!や、やめ…アッーーーーーなのじゃああああーーーーー!!!」

 

こうしてまた一人、"同志"が誕生してしまうのだった。一方そのころ。

 

ヘッヘッへ・・・フンッ

 

ギョウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

 

ハハハハハ!お前たち、大人しく殺されなければオレはお前たちを破壊し尽くすだけだァ!

 

「ば、化け物め・・・!わがフリートホーフg…クソマァ?!」

 

オレが化け物・・・?違う、オレは悪魔だァ・・・

 

「あ・・・悪魔たん・・・・」

 

裏組織を破壊し尽くす悪魔となっていた。




次回、ブロリーmad全開で行きます。


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オレがパパ・・・?違う、オレは悪魔だァ!

犯罪組織は破壊し尽くすだけYO☆





後半カオス注意。


露店の食べ物を堪能しながら歩くシアの横で、彩人はとうとう"あの子"の気を感じ取った。

 

「…?彩人さん、どうしました?」

 

「・・・この下…つまり地下から弱い気を感じる」

 

「誰か居るってことですよね・・・!下は下水道・・・誰か流されているんですか!?」

 

「移動しているからその可能性が高い。しかもこれは・・・子供の気・・・不味いな、どんどん弱くなってきている」

 

「ッ!? た、大変じゃないですか!彩人さん!追いかけましょう! どっちですか!」

 

慌てて救出に向かおうとするシアを止める彩人。

 

「待った、すぐに行けるだろ。・・・・よし、捉えた!掴まれ!」

 

「はい!」

 

彩人が瞬間移動すると通路にシアをおろし、流されてくる子供を濁った水から救う。すぐさま前もってハジメから借りていた〝宝物庫〟をシアの魔力を介して取り出した毛布で子供をくるみ宿に待機させたイクスの気で宿まで瞬間移動する。改めて子供を見たシアは驚きを隠せなかった。

 

「この子、海人族の子ですね……どうして、あんな所に……」

 

海人族は【海上の町エリセン】で生活し海産物を内陸に送るため国をあげて重宝されており亜人族でありながらハイリヒ王国から公に保護されている種族である。

 

『お帰りなさいませ、マスター、シア様。そちらの子供は…?』

 

「下水道に流されているのを保護した。済まないが、この子の衣服を頼む」

 

『承知いたしました』

 

イクスが出ていくと同時に、

 

「…んみゅ…?」

 

かわいらしい声でと共に子供が目覚める。エメラルドグリーンの長い髪と幼い上に汚れているにも関わずわかるくらい整った可愛らしい顔立ちをした3,4歳くらいの女の子である。じーっと彩人とシアを見つめる少女に、

 

「俺の名は彩人、こっちはシア。名前、聞いてもいいか?」

 

彩人がゆっくりと話しかける。すると少女は小さな声で答えた。

 

「…ミュウ」

 

「そうか・・・まずは体の汚れを落とそう。シア、頼めるか」

 

「お任せを!」

 

シアに少女を任せ、彩人は下水道の水を飲んでいる可能性を考慮し解毒薬や殺菌作用のある薬を購入し、ミュウに飲ませた。

 

『マスター、ただいま戻りました。こちらをその・・・「ミュウだ」・・・ミュウ様に』

 

「助かる。シア、着替えを頼む」

 

「はーい」

 

イクスの買ってきた乳白色のワンピースに着替えたミュウはシアの持っていた串焼きを頬張っていた。よほどお腹がすいていたようだ。

 

「・・・さて、これから・・・」

 

「ミュウちゃんをどうするかですね……」

 

「…んみゅ?」

 

彩人達が自分の事を言っていると気づいたのかミュウが二人を上目遣いで見つめてくる。彩人はミュウと視線を合わせるようにしゃがむと

 

「早速だがミュウ、君に何があったのか教えてくれないか」

 

ミュウは少し迷った表情をしたがゆっくりと話し始めた。

 

「ミュウね、近くの海でママと一緒に泳いでたの。でも気づいたらママがいなくなってて…さがしてたら人間のひとがミュウを知らないところへつれていったの」

 

「彩人さん・・・これって」

 

「奴隷商人か何かだろうな」

 

「そこにはミュウとおなじくらいの子がいたの。でもみんないなくなった…おじさん、"うれた"っていってたの」

 

「子供の売買・・・裏の奴隷オークションだろう」

 

「ミュウも連れてかれそうになったの。でも近くでみずの音がきこえて…気づいたらここにいたの…」

 

辛そうな表情で語ったミュウを、シアはそっと抱き寄せた。

 

「ミュウちゃん…怖かったですよね」

 

「!……う、うぇ…うぇぇぇぇぇぇんっ!」

 

シアのぬくもりに安心したのか、今までの思いをぶちまけるように泣きじゃくるミュウ。その小さな頭をシアがそっと撫でていた。

 

「彩人さん…」

 

シアがふと彩人を見つめる。おおかた見捨てられないというつもりだろう。

 

「連れて行くとしても火山の熱にやられる。国が保護しているのだから保安署にあずけるのが一番だ」

 

「そ、そんな・・・」

 

「お兄ちゃん、ミュウをおいていっちゃうの?」

 

不安そうなシアとミュウ。

 

「・・・本来ならな。だがそんな子ですらオークションにかけようとするクズがはびこる町において行けるほど俺は腐っちゃいない」

 

「彩人さん・・・!」

 

「お兄ちゃん!」

 

大喜びで彩人に抱き着くミュウ。「お兄ちゃん、ありがとうなの!」と続けたミュウの頭をよしよししつつ、ゆっくりミュウを離すと部屋を出ようとする。

 

「彩人さん?どこへ・・・?」

 

「大丈夫だ。・・・少し用事が出来た」

 

心配そうな顔のミュウにも必ず戻ると告げ、彩人は宿を出る。・・・と、

 

「みゅ?あの綺麗なお姉ちゃんがいないの」

 

「あ、あれ?イクスさん?」

 

そのころイクスは・・・

 

『マスター、ゼータ姉さまとアクセルの情報により裏組織〝フリートホーフ〟の情報をすでに得ております』

 

「あの子はシアに任せておく。・・・今日が奴らの命日だ」

 

次いでテレパシーでユエ達にも協力をあおる。

 

『…ん、彩人が言うならそうする』

 

『私達が君のお願いを聞かない訳ないよ』

 

『・・・もう勝手にして』

 

『////////////・・・・コホン、主様の望みとあらば仕方あるまい・・・』

 

「サンキュ。さてと・・・」

 

彩人は連絡を終えると三度某伝説のサイヤ人に変貌する。

 

オレはフリートホーフを破壊し尽くすだけだァ!」         

 

そこからはカオスそのものだった。

 

まずお前から血祭りにあげてやる・・・

 

「・・・ア?なんだてめ…\デデーン/」

 

「あ、兄貴ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!よくもてめ\デデーン/」

 

ゼータ達が入手した情報をもとにフリートホーフの構成員のみを血祭りにあげていく。

 

「逃げるんだぁ・・・勝てるわけがない!」

 

「お、お助け下さ・・・door!」

 

フッフッフ・・・仲間が可愛いかぁ?フハハ!

 

「くそったれぇ・・・ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!」

 

構成員が魔法弾を撃ちまくるが無傷。

 

何なんだァ・・・?今のはぁ・・・

 

「ハッハッハ・・・・(パリーン)」

 

拠点一つ一つ完全に根絶やしにしているのでやられた情報がなかなか広まらないが、気づく奴らも出てきた。

 

「申し上げます!第20~40支部がやられましたぁ!」

 

「ダニぃ!?さっそく征伐しに出かける!後に続け!」

 

「リーダー!やみくもに出かけるのは危険です!もっと情報を集めてからでm「無視」・・・ハァッ☆」

 

「臆病者は付いてこなくてもよい!早くしろっ「やあ、来たYO☆」・・・ふおお!?」(バヒューン・・・・・・・・・ドゴーン)

 

毛布はいかが?

 

「・・・・・」

 

終わったな・・・所詮クズはクズなのだぁ・・・

 

「おーーーーーーーーーーい!そこのお前、今からお前は一瞬で僕に殺される。わかっているんd「シカトォォ!」・・・ハァッ☆」

 

と思っているのか?

 

がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!

 

突如出現した岩盤に叩きつけられたり気功波で虚空の彼方に飛ばされたり・・・

 

「ふん、バケモノめ、好きにしろ」

 

はい

 

「クソマァ!!」

 

だぁっ!

 

「ぐふぁ・・・・・・\デデーン/」

 

蹴り飛ばされた挙句気弾で運ばれアジトと運命を共にする者・・・

 

「ひ、避難だぁ!」

 

どこへ行くんだァ・・・?

 

「じ、自首する準備だあ!」

 

一人用のアーティファクトでかぁ?・・・ぬぅ…うおおおおおおお!

 

「どぅおおおおおおお・・・・・ぬうううう・・・・名も知れぬ奴に殺されるとは・・・これもフリートホーフの定めか・・・」

 

なぁぁぁぁぁぁぁ・・・ぁ!うぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」(キーン)

 

避難用アーティファクトごと押しつぶされて投げられたり、

 

フッフッフ・・・フンっ!

 

ギョウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

 

ハハハハハ!お前たち、大人しく殺されなければオレはお前たちを破壊し尽くすだけだァ!

 

「ば、化け物め・・・!わがフリートホーフg…クソマァ?!」

 

オレが化け物・・・?違う、オレは悪魔だァ・・・

 

「あ・・・悪魔たん・・・・」

 

シンプルに破壊し尽くしたり、もうめちゃめちゃなのだがこれでも構成員と関係する施設のみが消滅しているのである。

 

「兄ちゃん!」

 

「うぶっ、げほっ、だ、大丈夫だ、弟」

 

「小僧、サボるんじゃない!」

 

「お、俺達さぼってるわけじゃねえぞ!兄ちゃんの具合が悪くて・・・」

 

「反抗する気か!・・・「イェイ!」ぎゃあああああああああ!!!」

 

やあ。大丈夫かぁ?

 

「あ、ありがとう!」

 

ハハハハハ!いいってことよ

 

「僕が・・・もっと丈夫なら・・・弟が傷つかずに済んだのに・・・」

 

「兄ちゃん・・・」

 

「心配する必要は無い!こぉんな最低な場所では誰でも病気になってしまうぞぉ!外に出て新鮮な空気とご飯と睡眠をとれば良くなるはずです!今は弱くても鍛えれば強くなれるという訳だァ!さ、こぉんな最低な所から避難するだぁ!」

 

「う、うん!兄ちゃん行こう!」

 

「あ、うん!強いお兄さん!僕、頑張るよ!」

 

奴隷商人を血祭りにあげたりしていた。

 

『皆様お集りいただきありがとうございます。こんかいの商品は・・・』

 

クズ共・・・今、楽にしてやるぞ

 

「あ、オークション会場」

 

\デデーン/

 

オークション会場も消し炭にした。それでも死にぞこなったクズ共と本拠地に居たムシケラとボスムシケラ(ハンセン)はハジメ達によってムスコを潰されこの始末☆

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「消滅した建物20棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員153名、再起不能126名、……で? 何か言い訳はあるかい?」

 

「滅相もございません、あんな最低な組織を生かしておいたら、ダメでございます」

 

「君、口調変わった?」

 

イルワの所へ行くと案の定報告書片手に頭を抱えたイルワが居た。

 

「・・・でも裏組織なんて潰しておくに越したことは無いでしょうに」

 

「まあ、そうだけどね・・・やりすぎ感は否めないけど、私達も裏組織に関しては手を焼いていたからね……今回の件は正直助かったといえば助かったとも言える。」

 

「むしゃくしゃしてたから破壊し尽くしただけです・・・」

 

「八つ当たりでフューレンにおける裏世界三大組織の一つを半日で消滅かい? ホント、洒落にならないね」

 

「見せしめも兼ねたとはいえ暴れすぎたのも事実。今後何かあったら俺の名前を使ってもいい。支部長お抱えの〝金〟ともなればかなりの抑止力では」

 

「それはありがたい」

 

イルワが目を輝かせている。

 

「・・・それと、その子の事だが」

 

「ん、ミュウの事か」

 

彩人の膝の上に座り、お菓子を食べているミュウを見下ろす。

 

「俺らが親の所へ送り届けるつもりだが・・・」

 

「ならば依頼という形にしておくよ。君たちが誘拐犯扱いされないためにも、ね」

 

「ありがとう」

 

イルワの依頼書を受け取り、小さな同行者と共にフューレンを出るはず…だったが、

 

「お兄ちゃん、ありがとうなの!」

 

「…あのな、俺はミュウの兄貴じゃないんだぞ?彩人って呼べばいい」

 

「ん~じゃ、パパって呼ぶの!」

 

「聞いてる?俺はミュウの兄でも父でも無いんだが」

 

「ミュウのパパ、ミュウが生まれる前に神さまのところへ行っちゃったの…だからお兄ちゃんがパパなの!」

 

「…俺、ミュウのお母さんと結婚する訳じゃないんだぞ?」

 

「やっ、パパはパパなの~!!」

 

「oh…」

 

いやいやモードのミュウを彩人が宥めていると感じる視線。

 

「彩人君は何人欲しい?」

 

「彩人…赤ちゃん欲しい」

 

「私はいつでも大歓迎ですよ!」

 

「わ、妾は…主様が望むのであれば…構わぬ」

 

「…まさか私に求めたりしないよね?」

 

『マスター、劣情を感じたのなら構わぬ。子を孕めるかどうかは分からんが』

 

『マスター、わたくしもマスターから名を与えられた時よりマスターのみに捧げます…。心も体も』

 

『マスター…私は姉様のような肉付きの良い体ではないが、マスターが望むとあらば今すぐにでもお応え致します』

 

「あ、そこは“私がママよ!“とは言わないんだね」

 

「当たり前じゃないですか。ミュウちゃんのお母さんはこの世にただ一人ですし」

 

「あ…うん、そうだね」

 

「…ん、それにどうせなら彩人との愛の結晶がいい…♡」

 

「・・・・勘弁してぇ…」

 

完全に乗り気の乙女たち(一人除く)に彩人は不安を感じるのだった。




これがやりたかっただけです。


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緊急事態!? by クラスメイト 

ほぼ原文ですが、それでもよろしければ。


ここはオルクス大迷宮89層。

 

天乃河を筆頭に前衛を務める坂上、雫、永山、檜山、近藤を筆頭に後衛たちのサポートを受けながら襲い来る魔物を撃退し、油断なく周囲を索敵しつつ互いの健闘をたたえ合った。

 

「ふぅ、次で九十層か……この階層の魔物も難なく倒せるようになったし……迷宮での実戦訓練ももう直ぐ終わりだな」

 

「だからって、気を抜いちゃダメよ。この先にどんな魔物やトラップがあるかわかったものじゃないんだから」

 

「雫は心配しすぎってぇもんだろ? 俺等ぁ、今まで誰も到達したことのない階層で余裕持って戦えてんだぜ? 何が来たって蹴散らしてやんよ! それこそ魔人族が来てもな!」

 

「はぁ…まったく」

 

感慨深そうに言う天乃河を窘める雫だが、脳筋の坂上には通じず天乃河と拳を軽くぶつけ合っている。

雫は呆れてものもいえず、その場を離れる。

 

「檜山君、近藤君、これで治ったと思うけど……どう?」

 

「……ああ、もう何ともない。サンキュ、白崎」

 

「お、おう、平気だぜ。あんがとな」

 

「どういたしまして」

 

別の所では香織が〝治癒師〟として檜山と近藤を治癒する。二人は前衛であるため香織の世話になることが多い割に本人を前にするとしどろもどろになる。香織は治療が必要な人を探しにその場を離れようとする。

 

「し、白崎・・・あ「何かな?檜山君…?」・・・・っ、な、何でもない。治療頑張ってな」

 

「・・・うん」

 

「また玉砕したな、お前」

 

「う、うるせえよ・・・」

 

こういう事は一度や二度ではない。元より香織に対して歪んだ独占欲を抱く檜山は彩人達を落としたのち最悪強引にでも香織を手に入れたいと思っていたが、恵里による精神攻撃で怯み強硬手段には出ていないが、恵里の目を盗んでアプローチを仕掛けても雫や鈴に邪魔されたり、先ほどのように香織本人から圧を感じることが多くなっており、檜山は焦りと欲望に沈んでいる。

 

「……」

 

そんな野郎どもは眼中に無いと香織は迷宮の奥を見つめる。今の彼女の頭にあるのは"彼"の事のみである。原作より強い想いで彼らが生きていると信じていても不安は襲ってくるのだ。

 

「カッオリ~ン!! そんな野郎共じゃなくて、鈴を癒して~! ぬっとりねっとりと癒して~」

 

「ひゃわ! 鈴ちゃん! どこ触ってるの! っていうか、鈴ちゃんは怪我してないでしょ!」

 

「してるよぉ! 鈴のガラスのハートが傷ついてるよぉ! だから甘やかして! 具体的には、そのカオリンのおっぱおで!」

 

「お、おっぱ……ダメだってば! あっ、こら! やんっ! 雫ちゃん、助けてぇ!」

 

「ハァハァ、ええのんか? ここがええのんか? お嬢ちゃん、中々にびんかッへぶ!?」

 

「……はぁ、いい加減にしなさい、鈴。男子共が立てなくなってるでしょが……たってるせいで……」

 

そんな空気をぶち壊すのが鈴クオリティー。暴走しすぎて雫に制裁を下され、雰囲気も和やかになる。

 

「鈴ちゃん、いつもありがとう」

 

「気にしないでカオリン、まだ懲りてないアイツが悪いんだから」

 

「彼に会うまでは一応(・・)仲間だから今は我慢しなきゃね」

 

・・・とは限らないのはいつもの事である。

 

「うぅ~、ありがとう、雫ちゃん。恥ずかしかったよぉ……」

 

「よしよし、もう大丈夫。変態は私が退治したからね?」

 

涙目で自分に縋り付く香織を、雫は優しくナデナデした。最近よく見る光景だったりする。

 

「あと十層よ。……頑張りましょう、香織」

 

「うん。ありがとう、雫ちゃん」

 

傍から見れば百合そのものであり、天乃河達がソワソワしているが彼女達は知ったことではない。

 

「今なら……守れるかな?」

 

「そうね……きっと守れるわ。あの頃とは違うもの……レベルだって既にメルド団長達を超えているし……でも、ふふ、もしかしたらハジメや彼の方が強くなっているかもしれないわね? あの時だって、結局、私達が助けてもらったのだし…」

 

「ふふ、もう……雫ちゃんったら……」

 

彩人達の生存を信じ切っている二人は、その会話に冗談は含まれていなかった。彩人がサイヤ人であることを知っているのもあるが、彼らの人知を超えた強さにおののく事になるとは思ってもいない。

 

それでも香織達は60層到達時点で騎士団のほとんどを上回り70層到達時にはメルド団長をも凌駕した。たった4ヶ月の成長ぶりにメルド団長は首を垂れながらも皆の成長を喜んだ。騎士団は現在70層で待機している。実は、70層からのみ起動できる、30層と70層をつなぐ転移魔法陣が発見され、深層への行き来が楽になったのである。メルド本人も戦闘の術を教え尽くしたとして彼らに任せることにした。

そんな彼らの現在のステータスというと・・・

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

天之河光輝 17歳 男 レベル:72

 

天職:勇者

 

筋力:1000

 

体力:1000

 

耐性:1000

 

敏捷:1000

 

魔力:1000

 

魔耐:1000

 

技能:全属性適正[+光属性効果上昇][+発動速度上昇]・全属性耐性[+光属性効果上昇]・物理耐性[+治癒力上昇][+衝撃緩和]・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

坂上龍太郎 17歳 男 レベル:72

 

天職:拳士

 

筋力:900

 

体力:900

 

耐性:800

 

敏捷:650

 

魔力:300

 

魔耐:300

 

技能:格闘術[+身体強化][+部分強化][+集中強化][+浸透破壊]・縮地・物理耐性[+金剛]・全属性耐性・言語理解

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

八重樫雫 17歳 女 レベル:72

 

天職:剣士

 

筋力:?

 

体力:?

 

耐性:?

 

敏捷:?

 

魔力:?

 

魔耐:?

 

技能:剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇]・縮地[+重縮地][+震脚][+無拍子]・先読・気配感知・隠業[+幻撃]・言語理解

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

白崎香織 17歳 女 レベル:72

 

天職:治癒師

 

筋力:?

 

体力:?

 

耐性:?

 

敏捷:?

 

魔力:?

 

魔耐:?

 

技能:回復魔法[+効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・高速魔力回復[+瞑想]・言語理解

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

雫と香織の百合百合しい雰囲気にあてられつつも天乃河達は下層へ進む。・・・が、

 

「……どうなってる?」

 

警戒しながら奥へ進む天乃河達だが、90層は異様な空間となっていた。見かけは80層とおなじだが、進めど進めど違和感は大きくなるばかり。それは・・・

 

「……何で、これだけ探索しているのに唯の一体も魔物に遭遇しないんだ?」

 

そう、どれだけ進んでも魔物一匹現れないのだ。隠れてるだけかと思いきや飛び出してくるどころか気配感知すら引っかからない。

 

「………なんつぅか、不気味だな。最初からいなかったのか?」

 

「あま……光輝。一度、戻らない? 何だか嫌な予感がするわ。メルド団長達なら、こういう事態も何か知っているかもしれないし」

 

不穏さを感じ取る坂上と天乃河に進言する雫。呼び名に違和感があったのに気づかぬ勇者は今の自分たちなら大丈夫と言って先に進む事を選んだ。

 

・・・しかしその先では魔物の血が。よく見ると壁の色に同化した血があちこちについている。

 

「天之河……八重樫の提案に従った方がいい……これは魔物の血だ。それも真新しい」

 

「そりゃあ、魔物の血があるってことは、この辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど……いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」

 

永山の提案にも天乃河のスタンスは揺るがない。

 

「天之河……魔物は、何もこの部屋だけに出るわけではないだろう。今まで通って来た通路や部屋にも出現したはずだ。にもかかわらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が初めて。それはつまり……」

 

「……何者かが魔物を襲った痕跡を隠蔽したってことね?」

 

「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど……人であると考えたほうが自然ってことか……そして、この部屋だけ痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、あるいは……」

 

天乃河が話を続けようとした時、知らぬ声が。

 

「ここが終着点という事さ」

 

天乃河の発言を引き継ぐように聞こえた声の方向を振り向くと、そこに居たのは・・・

 

「……魔人族」

 

誰かの発した呟きに、魔人族の女は薄らと冷たい笑みを浮かべた。




ヒロインズのステータスは未知数です。(白目)


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VS魔人族 by クラスメイト 前編

駄文です。あと短いです。


紅の髪色をした魔人族の女は驚きを隠せない天乃河達を観察するように見ている。

 

髪と同じ赤い瞳に服装は露出が多く艶のない黒一色のライダースーツのようなものを纏っている。

 

「勇者はあんたでいいんだよね? そこのアホみたいにキラキラした鎧着ているあんたで」

 

「あ、アホ……う、煩い! 魔人族なんかにアホ呼ばわりされるいわれはないぞ! それより、なぜ魔人族がこんな所にいる!」

 

もっともな魔人族の女の言葉に激情する天乃河。それを見た魔人族の女ははぁとため息をついて、

 

「はぁ~、こんなの絶対いらないだろうに……まぁ、命令だし仕方ないか……あんた、そう無闇にキラキラしたあんた。一応聞いておく。あたしらの側に来ないかい?」

 

「な、なに? 来ないかって……どう言う意味だ!」

 

飲み込みの悪い天乃河に苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる魔人族の女。

 

「・・・それって私達を勧誘してるって事ですよね?」

 

「なっ…恵里、何を言ってるんだ」

 

「ご名答。そこの勇者モドキよりは察しが良いじゃないか、お嬢ちゃん」

 

代わりに答えたのは恵里。焦る天乃河をシカトし、自分を褒める魔人族の女を睨みつける。天乃河が「誰がモドキだ!」と叫ぶが魔人族の女は続ける。

 

「ま、そういう事さ。今来てくれるなら色々優遇するけど・・・どうする?」

 

「断る! 人間族を……仲間達を……王国の人達を……裏切れなんて、よくもそんなことが言えたな! やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ! わざわざ俺を勧誘しに来たようだが、一人でやって来るなんて愚かだったな! 多勢に無勢だ。投降しろ!」

 

割り込むように天乃河が叫ぶ。恵里を庇うような動きをしているあたり、正義のヒーローぶってるのだろう。当の恵里と言えば絶対零度の視線で天之河から離れた。

 

「一応、お仲間も一緒でいいって上からは言われてるけど? それでも?」

 

「答えは同じだ! 何度言われても、裏切るつもりなんて一切ない!」

 

仲間に相談せずに勝手に話す天乃河。ヒロインズはもちろん、永山たちも不快な表情を浮かべる。敵が一人でこんなところまで来るとは思えないのに。更に今なら捕らえることもできそうなのに天乃河は戦う気満々である。

 

「そう。なら、もう用はないよ。あと、一応、言っておくけど……あんたの勧誘は最優先事項ってわけじゃないから、殺されないなんて甘いことは考えないことだね。ルトス、ハベル、エンキ。餌の時間だよ!」

 

 魔人族の女が三つの名を呼ぶのと、バリンッ! という破砕音が聞こえ、永山と雫に未知の攻撃が当たる。

 

「ぐぅっ」

 

「く・・・!」

 

実際は二人の背後に居る者たちが狙われたのだが二人は最大限の警戒をしていたのでとっさに防御することが出来た。永山は〝重格闘家〟という防御重視の職業であるため何とか耐えた。

破砕音は鈴が張った障壁である。万が一可能性を考えて張っていたため謎の攻撃の威力を大幅に下げることが出来、3つ目の攻撃から皆を守ることが出来た。

 

しかしそれで止まるはずもなく再び見えぬ揺らめきが彼らを襲う、その時。

 

「光の恩寵と加護をここに! 〝回天〟〝周天〟〝天絶〟!」

 

香織がほとんど無詠唱かと思うほどの詠唱省略で同時に三つの光系魔法を発動した。

〝回天〟でダメージを受けた永山たちを回復し、〝周天〟で謎の攻撃の正体を暴き〝天絶〟で攻撃をそらす。姿を消して襲い掛かってきたのはライオンの頭部に竜のような手足と鋭い爪、蛇の尻尾と、鷲の翼を背中から生やす奇怪な魔物だった。命名するならやはりキメラだろう。

 

隙が生じたキメラに切りかかるはもちろん・・・

 

「雫から離れろぉおお!!」

 

勇者(笑)です。その代わりに永山を襲うキメラは坂上が担当してます。

同時に鈴の近くまで来た恵里が〝海炎〟という名の炎系中級魔法で残るキメラを炎の津波で迎え撃つ。

 

「「ルゥガァアアア!!」」

 

「グゥルゥオオオ!!」

 

だが敵がそうやすやすと受けるはずもなく三体の咆哮と共に2体の細身なブルタールモドキがメイスを掲げて天乃河と坂上を襲う。天乃河は空いていた腕で防ぐがバランスを崩し、坂上も何とか防ぐが拳による追撃を受けてしまう。

 

一方、恵里たちはというと、

 

「・・・!やっぱりこういうのも居るみたい・・・」

 

「オッケー、エリリン!鈴にお任せ!」

 

恵里の放った魔法が6足の亀に吸い取られていく。恵里は知っていたわけではないが魔法対策されている可能性を考慮したのだ。亀が吸い込んだ魔法をレーザーのように放ってくる。

 

「にゃめんな! 守護の光は重なりて 意志ある限り蘇る〝天絶〟!」

 

数10枚のシールドを並べてレーザーをキメラの方へ流す鈴。シールドを何枚か破られながらも油断していたキメラにレーザーが襲い掛かる。

 

「ガウォォ・・・」

 

全身を焼かれて倒れこむキメラを見て、恵里と鈴は小さくハイタッチした。

 

「へえ、アブソドの反撃を利用するとはねえ」

 

だが魔人族の女は余裕の表情を浮かべており、恵里たちは緊張感を強める。

 

「なんだ、倒せるじゃねえか!」

 

「あと2体なら余裕だな!」

 

「やってやらぁぁ!」

 

恵里たちがキメラ一体を戦闘不能にして勢いづくメンバー達。しかし、鈴と恵里の表情に緩みは無く、警戒心を強めている。

 

「・・・エリリン、これで終わったと思う?」

 

「思わない」

 

その二人の読みは当たることになる。目の前の焼け焦げたキメラが逆再生したかのように復活したのだ。

 

「はぁっ!!」

 

「グゲバァ!」

 

雫が〝無拍子〟による予備動作のない移動と斬撃でキメラに切りかかり太刀筋を読まれる前にキメラを切り裂く。キメラは切り裂かれた腹部から血を流して絶命した。

 

「キュワァアア!!」

 

突然、部屋にそんな叫びが響いたかと思うと、恵里と鈴の前でキメラの傷が縫い合わさるように治り再び襲い掛かってくる。

 

「・・・あの白い鴉ね。蘇生は出来ないようだけど」

 

高みの見物をしている魔人族の女の肩に停まった白い双頭の鴉の声でキメラを回復させていると気づく雫。周りも気づき始め、なんとか回復役を止めたいところだが動ける者が少ない。雫が動くが他のキメラに足止めを喰らう。キメラはもちろんブルータルモドキに押され、消耗戦を強いられている。

 

「だいぶ厳しいみたいだね。どうする? やっぱり、あたしらの側についとく? 今なら未だ考えてもいいけど?」

 

魔人族の女は半ばあきらめた様子でつぶやく。それに反応するのはやっぱり、

 

「ふざけるな! 俺達は脅しには屈しない! 俺達は絶対に負けはしない! それを証明してやる! 行くぞ〝限界突破〟!」

 

光を纏いブルータルモドキの持つメイスを弾き飛ばし、天乃河は魔人族の女に迫る。



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VS魔人族 by クラスメイト 後編

魔人族の協力者は…?


戦闘力を3倍に引き上げる〝限界突破〟を使用して魔人族の女に向かっていく天乃河に立ちふさがるブルータルモドキ。

 

「刃の如き意志よ 光に宿りて敵を切り裂け 〝光刃〟!」

 

〝限界突破〟によって強化された一撃でブルータルモドキを切り裂く天乃河。これで阻む者は居ないと判断し突撃するが、

 

「「「「「グゥルァアアア!!!」」」」」

 

「なっ!?」

 

新たに5体のキメラが襲い掛かってくる。

 

「光の恩寵よ、癒しと戒めをここに〝焦天〟! 〝封縛〟!」

 

万が一を警戒していた香織が〝焦天〟で援護し〝封縛〟で天乃河を中心に展開された檻がキメラを弾き飛ばす。

 

「〝天翔剣四翼〟!」

 

その隙を逃さず香織の援護もあって4つの斬撃と天乃河の剣撃がキメラを絶命させる。

 

「残念だったな。お前の切り札は俺達には通用しなかった。もう、お前を守るものは何もないぞ!」

 

高らかに宣言する天乃河に何を言ってるんだ状態の魔人族の女。雫が苛立ちながら魔人族の女に切りかかる。が、寸前でかわされる。

 

「…くっ」

 

「あの勇者(笑)を利用したのかい?今のは少し危なかったよ」

 

「利用できるとでも?」

 

「・・・なにか、あったのかい?少しも信用していない目じゃないか」

 

「見ればわかるでしょ」

 

すると天乃河が「正々堂々と戦わなきゃダメじゃないか!」と雫に的外れな事を言っていた。

 

「…敵ながら同情するよ」

 

「・・・貴女の同情なんていらないわ。でなきゃ次で終わらせるもの」

 

「…あの結界師といいあんたといい・・・何者なんだい?…まぁでも、終わるわけにはいかない・・・ね!」

 

「・・・!」

 

危険を感じた雫が魔人族の女に切りかかるも再びかわされ、雫の目の前に背中から四本の触手を生やした体長六十センチ程の黒猫がおそいかかる。辛うじて触手を剣で弾き、距離を取る雫。

 

「雫!だいじょ「きゃあああ!」」

 

天乃河が雫に駆け寄ろうとするが悲鳴が聞こえ、そちらを向くと五体のブルタールモドキとキメラ、そして見たことのない黒い四つ目の狼、先ほどの黒猫と同じ魔物が残るクラスメイトを襲っていた。何とか鈴の防壁が侵攻を防いでいるおかげで負傷した者は香織の治療を受けることが出来た。

 

「なっ、まだあんなに!」

 

「キメラの固有魔法〝迷彩〟は、触れているものにも効果を発揮する。その可能性を考えなかった? ほら、追加いくよ」

 

「ッ!?」

 

更に雫に狼、天乃河に黒猫と狼のコンビが襲い掛かる。黒猫の物理法則を無視した動きと狼の先読みで倒すどころか怪我を負わせるのも難しい。一撃で仕留めなければ回復されるからだ。後方も鈴の防壁が突破され混戦となっている。しかも、とうとう魔人族の女が動き始めたのだ。

 

「地の底に眠りし金眼の蜥蜴 大地が産みし魔眼の主 宿るは暗闇見通し射抜く呪い   もたらすは永久不変の闇牢獄 恐怖も絶望も悲嘆もなく その眼まなこを以て己が敵の全てを閉じる 残るは終焉 物言わぬ冷たき彫像 ならば ものみな砕いて大地に還せ! 〝落牢〟!」

 

長い詠唱の末に放たれた灰色の渦巻く球体が天乃河達に向かって降下する。

 

「ッ!? ヤバイッ! 谷口ィ!! あれを止めろぉ! バリア系を使え!」

 

「ふぇ!? りょ、了解! ここは聖域なりて 神敵を通さず! 〝聖絶〟!」

 

〝土術師〟の野村健太郎が魔法の危険性を察知し鈴に防御するように言う。バリアは灰色の球体とそれから放たれる煙をなんとか防ぐが球体に押される鈴。

 

「鈴!」

 

「谷口を守れ!」

 

恵里が鈴の名を呼びながら魔法を放って接近するブルタールモドキを妨害する。鈴を中心に恵里とは反対側でキメラや四つ目狼と戦っていた斎藤良樹と近藤礼一が、野村の呼びかけに応えて鈴の傍に駆けつけようとする。

・・・が、間に合わず攻撃を潜り抜けた黒猫が鈴に触手を突き刺す。

 

「くぅっ!!」

 

「鈴ちゃん!」

 

「鈴!」

 

腹部と太ももを貫かれながらも鈴は踏ん張り、球体を迎え撃つ。同時に攻撃の隙を突いた野村が地面から放った石の槍で攻撃し、触手を抜かれた鈴に香織の治療が入る。

 

「全員、あの球体から離れろぉ!」

 

野村の警告で、全員が球体から離れる。負傷した鈴は恵里が背負い、離れる。と同時に鈴の防壁が光を失い、魔物たちは素早く距離を取って防壁が消えて地面に着いた球体の出す煙から逃れた。

 

「来たれ 風よ! 〝風爆〟!」

 

天乃河の風の魔法で煙を吹き飛ばしたおかげで全員煙から逃れることが出来た。・・・が、全員ボロボロだった。

 

「へぇ、良く生きて帰れたね。でもそんなボロボロじゃあ死が少し遠のいただけだね!」

 

「貴様! よくも!」

 

ケラケラと笑いながらあざ笑う魔人族の女に天之河がぶち切れそうになる。それを止めるのは我らが雫。

 

「待ちなさい…撤退するわよ」

 

「なっ!? あんなことされて、逃げろってい「話を聞きなさい」・・・っ、しず、く・・・?」

 

天乃河は仲間を傷つけられたことに怒りでヒートアップし、雫にプレッシャーを放ちながら撤退を拒否するが雫の絶対零度の表情にたじろぐ。

 

「香織が居れば治るけどこの状況じゃ満足な回復は出来ない。長期戦になれば犠牲者が出かねない・・・、ここは言一旦引いて体勢を整えるべき」

 

「ぐっ、だが……」

 

「〝限界突破〟が切れたらアンタは殺される。分からないとは言わせないわ。悔しいのはアンタだけじゃないの」

 

「……分かった。撤退する…雫、坂上、頼めるか」

 

「・・・・」

 

「お、おう・・・」

 

冷静さを取り戻した天乃河が〝神威〟の準備を始める。雫の雰囲気に坂上が若干飲まれたが天乃河に向かおうとする魔物を迎え撃つ。

 

「撤退なんてさせると思うかい?」

 

魔人族の女が天乃河達を止めようと詠唱を始めるが、突如天乃河が倒した5体のキメラが一斉に魔人族の女に襲い掛かった。

 

「こいつら、まさか・・・」

 

「邪魔はさせない」

 

恵里の〝降霊術師〟としての降霊術で死体のキメラを操り、魔人族の女に攻撃を仕掛ける。

 

「ちっ! 降霊術の使い手か! そんな情報なかったのに!」

 

恵里は降霊術が苦手と称していたが裏で努力を重ねていたのだ。5体同時の上正確な動きをするので魔人族の女に攻撃が当たる・・・その時だった。

 

「「「「「ハッ!!」」」」」

 

「・・・!?」

 

突如5つの光の玉がキメラを消し炭にしたのだ。恵里が目を見開く。

 

「・・・遅いんだよ、アモンド、ダイーズ、カカオ、レズン、ラカセイ」

 

長髪の巨漢、イヤリングやネックレスを付けた優男、ロボットのような生物、小柄な双子が現れた。

 

「カトレア、魔人族とやらも大した種族ではないようだな」

 

ダイーズが魔人族の女・・・もといカトレアを侮辱する。

 

「何を偉そうに!ターレスはどうしたんだい!」

 

「ターレスさんには用があるんでっせい。ここにはいねえ」

 

「なんだって!?一体どういうつもりなんだ!」

 

5人組とカトレアが争っている間に天乃河が〝天爪流雨〟を放ち、道を切り開く。

 

「・・・!!あんたたちがボサッとしてるから逃げられたじゃないか!!」

 

「何を言ってるんだ?奴らに逃げ場は無いこの〝スカウター〟があるのだからな」

 

「ンダンダ」

 

怒れるカトレアに冷静に返すレズン。カカオは同じ言葉しか話さないが肯定するように頷いている。

 

「…チッ、さっさと探しな!」

 

「フフフ・・・随分機嫌が悪いことで」

 

ラカセイがスカウターで天之河達を探るレズンの横でカトレアを冷やかす。

 

「誰のせいだと思ってるんだい!・・・アタシ達魔人族が、〝神敵〟の仲間に頼らざるを得ない事だよ!!ターレスも、〝サイヤ人〟なんだろ!?」

 

カトレアの怒号が響く中、天乃河達を捉えたレズンが歩き出す。ニヤニヤしながら続くメンバー達に苛立ちながらカトレアは魔物を率いて歩き出した。

 

「(真の〝神敵〟を倒したら今度はお前たちだよ!・・・化け物め)」

 

この時、カトレアは化け物どころか悪魔と出会う事を知らない。



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ホルアド到達

またここら辺の展開に迷うワシ。

いつも通り過度な期待はしないで下さい!おぉぉぉぉねぇがいっ!(ピロロロ


「ヒャッハー! ですぅ!」

 

「わぁお!シアちゃんやるぅ~!」

 

峡谷をかっ飛ばす魔動二輪に二ケツする二人の美少女・・・シアとミレディである。シアは一度乗っているが機嫌の問題で全力で楽しみながら乗るのは今回から。ミレディは面白そうという理由で二ケツしているがシアの危険運転を楽しんでいるあたりノリが合うのだろうか。

 

「どこの世紀末だよ・・・」

 

「……むぅ。ちょっとやってみたいかも」

 

「パパ! パパ! ミュウもあれやりたいの!」

 

当然好奇心旺盛なミュウが目を輝かせながら彩人にねだる。

 

「・・・少なくともシアの運転じゃだめだな。ハジメが運転するなら」

 

「シアお姉ちゃんはダメなの?」

 

「・・・運転中にジョ〇ョ立ちする奴とか信用できない」

 

ふと見るとシアとミレディがジョ〇フ・ジョー〇ターと〇ーザー・A・〇ェペリコンビのジョジョ立ちをしている。・・・どうやって運転してるのかさっぱり分からない・・・。

その時魔動四輪の運転席に座るハジメがミュウ用のチャイルドシートの設計を考案していたとか。

 

『マスター、ラ〇ドチェイサーなら我等でも操縦できる』

 

「ゼータ、今なんつった?」

 

『〇イドアーマーもよろしいかと』

 

「イクス?」

 

そんな会話をしつつ、一行はホルアドに向かう。原作ルートでもあるし、イルワからの頼まれごともあるので寄ることにした。てかそもそもグリューエン大砂漠への道中にあるので問題ない。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

彩人達はホルアドに到着し、ギルド目指して歩いていると彩人とハジメが同じ所を見て立ち止まる。

 

「パパ? どうしたの?」

 

彩人に肩車されたミュウが彩人に質問する。

 

「んあ?・・・まぁ、ここがすべての始まりだったな・・・って思ったのさ」

 

「まだ4ヶ月くらいしか経ってないのに何だか懐かしい・・・ね」

 

「彩人……?ハジメ…?」

 

何処か遠い目をする彩人とハジメを心配するユエ。

 

「大丈夫だ、いきなり連れてこられて・・・迷宮潜って・・・落ちて。・・・でここに戻ってくる、と長いような、短いような・・・」

 

変わらぬ表情で語る彩人の言葉に神妙な面持ちで聞くユエ達。その中でティオが、興味深げに彩人に尋ねた。

 

「ふむ。主様は、やり直したいとは思わんのか? 元々の仲間がおったのじゃろ? 主様の境遇はある程度聞いてはいるが……皆が皆、ご主人様を傷つけたわけではあるまい? 仲の良かったものもいるのではないか?」

 

普段なら聞きにくい質問をズバリとティオがするが、これはティオ自身が彩人達の仲間になりたいと思っているが故の彼女なりの努力なのだ。

 

彩人はティオの考えを理解した上で回想する。清水と辻の事、ハジメの事、香織、雫、鈴、恵里の事、・・・もう一人の姿を思い浮かべたのち彩人は答えた。

 

「・・・確かにすべてが敵かと言われれば嘘になる。でも何があっても俺は同じ道を辿るだろう」

 

「・・・なぜじゃ?」

 

彩人の答えを理解しつつ、何処か浮かない表情でティオは聞く。

 

「それは俺が〝サイヤ人〟だからだ。世界の敵である以上、あのままではいられない」

 

「「・・・・」」

 

ティオだけでなくミレディも少し申し訳なさそうになる。ミレディはともかくティオは多くは無くとも彩人の〝サイヤ人〟の力を借りようと思う所があった。彩人本人からそれを聞いており喜びつつも申し訳ない気持ちが少なからずあった。

 

「無論それだけじゃねえ。お前らに会いてえからな」

 

笑みを浮かべながらそう言った彩人に頬を赤らめるユエ達。心なしかヴァルキュリア達も嬉しそうだった。彩人の本心にティオとミレディは何処か安堵した表情を浮かべた。

 

「もちろんハジメもな。あの時助けてくれてありがとう。おかげで今生きていられる」

 

「彩人君・・・」

 

何処か寂しそうな表情をしたハジメへのフォロー(?)で彩人は美少女たちに囲まれており、街中であるために周りの視線が痛い。・・・のでさっさとギルドに向かう。

 

「そうだミュウ、目と耳を塞ぐんだ」

 

「・・・?パパが言うならそうするの」

 

ギルドに入る前にミュウを抱っこに切り替え、ミュウに指示する。ミュウは不思議そうにしながらも彩人を疑うことなく指示通りにする。ハジメ達も疑問に思ったが特に言及はしなかった。・・・が、いざギルドに入るとハジメたちは納得した。

 

「・・・あ?」

 

「チッ、ガキが調子に乗ってんじゃねえぞ」

 

「自慢かゴラァ」

 

内装は他の町とほぼ同じとはいえオルクス大迷宮の挑戦者が居るため戦闘向きの冒険者や傭兵が当然多くなる。目をギラギラさせた強面集団など、幼いミュウが見たらトラウマものである。その中の一人の生傷だらけの冒険者が彩人の前に立ちふさがる。

 

「おい坊主、ここはてめえみたいな女を侍らせるような奴が来ていい場所じゃねえ。とっとと失せな」

 

「そうはいかない。俺はここに用があって来たんだ。話が済むまでは居させてもらう」

 

「ハッハッハ!てめえのような子連れのガキが用!?寝言は寝てから言うんだな!」

 

「・・・人の話聞いてんのか?」

 

「…っ、て、てめえ・・・俺を誰だと思ってる!オルクス大迷宮20層を攻略した〝紫〟ランクの…「邪魔だ」・・・ヒィッ」

 

穏便に済ませるのは無理なので強者の覇気で黙らせる。目の前に立った男は尻もちをつき、恐怖のあまり失神。そして彩人が男を無視してカウンターに向かうとさっきまでヘラヘラしながら二人のやり取りを見ていたほかの奴らも蜘蛛の子を散らすように道をあけた。

 

「・・・そちらの視点からしたら俺が不愉快に感じるだろうが、仲間に手を出したり、この子を泣かせるようなことをしたら・・・命が無いと思え

 

「「「「「「「は、はい・・・・」」」」」」」

 

ついでに警告しておき、ミュウをティオに預けてからカウンターへ行き、イルワからの用事を済ませる。受付嬢の顔がこわばっていたが気にしない。

 

「こちらの支部長はいらっしゃいますか? フューレンのギルド支部長から手紙を預かっているのですが……本人に直接渡してほしいと言われていまして」

 

「は、はい。お預かりします。え、えっと、フューレン支部のギルド支部長様からの依頼……ですか?」

 

支店部長直々の依頼など個人の冒険者ではありえないので違和感を感じていたが、彩人が渡したステータスプレートを見た受付嬢は驚愕した。

 

「き〝金〟ランク!?」

 

驚くのも無理ない。そもそも〝金〟ランク自体が稀有な存在であるからだ。周りも驚きを隠せず、ざわつき始めている。

 

「も、申し訳ありません! 本当に、申し訳ありません!」

 

「お気になさらず。取り敢えず、支部長へ取り次ぎを頼みます」

 

「は、はい! 少々お待ちください!」

 

遅かれ早かれバレるのだが美女や美少女を侍らせている彩人が金ランクというので注目が集まる。他人の視線に慣れていないミュウが怖がってしまいティオがミレディと一緒にあやしていた。意外とミレディはあやすのが上手だった。

 

数分経たずギルドの奥から駆け足の音が聞こえ、彩人達の前に姿を現した人物、それは意外にも彩人達の知り合いだった。

 

「来たか、〝金〟ランク!!・・・・って、お前、轟か!?」

 

「「・・・遠藤?」」

 

彩人とハジメはクラスメイトでもある遠藤浩介の名を呼ぶと遠藤は轟の手を掴む。

 

「轟!お前生きてたのかよ!!良かったぁ~~!お前が居なくなったら俺を認識できる人物が居なくなるところだった!!」

 

「・・・おい」

 

彩人が小さくツッコミを入れるが、彩人は以前、自動ドアの前で「反応してください、お願いします」と土下座する遠藤を見かけ、声をかけたことがある。その時から自分を認識できる存在としてインプットされたらしい。

 

「つーか、お前と一緒に落ちた南雲は何処だ!」

 

「・・・私ならここだけど」

 

「くそっ! 声は聞こえるのに姿が見当たらねぇ! 幽霊か? やっぱり化けて出てきたのか!? 俺には姿が見えないってのか!?」

 

「いや、目の前にいるじゃん、ど阿呆。つか、いい加減落ち着いたら?影の薄さランキング生涯世界一位」

 

流石にイラっとしたハジメに罵倒される遠藤。

 

「!? また、声が!? ていうか、誰がコンビニの自動ドアすら反応してくれない影が薄いどころか存在自体が薄くて何時か消えそうな男だ! 自動ドアくらい三回に一回はちゃんと開くわ!」

 

「三回中二回は開かないのか……お前相変わらずだな。ってかここにいるのが南雲ハジメだぞ」

 

遠藤を不機嫌なハジメの方に向ける。そこでやっと遠藤はハジメを認識したらしい。

 

「・・・お前ら、生きてたんだな」

 

「・・・まぁ、ここに居るから生きてるだろ」

 

「何か、轟はともかく南雲はえらく変わってるんだけど……見た目とか雰囲気とか口調とか……あとむn「風穴空けるぞ」ヒッ」

 

ハジメが殺気立ったので彩人の後ろに隠れる遠藤。

 

「っていうかお前……冒険者してたのか? しかも〝金〟て……」

 

「そうだ。正真正銘の、な」

 

「……つまり、迷宮の深層から自力で生還できる上に、冒険者の最高ランクを貰えるくらい強いってことだよな? 信じられねぇけど……」

 

「まぁ、そうだな。ってかそんな高ランクを待ってるって事は何かあったんじゃないのか?」

 

遠藤はぽつりぽつりと語っていたが、彩人の言葉でハッとすると彩人のかたを掴み、悲痛に歪んだ表情で告げる。

 

「そうだった!頼む! 一緒に迷宮に潜ってくれ! 早くしないと皆死んじまう! 一人でも多くの戦力が必要なんだ! 健太郎も重吾も死んじまうかもしれないんだ! 頼むよ、轟!」

 

「ま、待て、かなりの緊急事態のようだが一体何が・・・」

 

急な遠藤の変貌ぶりにハジメ達も動揺する。が、その空気を断つ声が響く。

 

「話の続きは、奥でしてもらおうか。そっちは、俺の客らしいしな」

 

声の主は、六十歳過ぎくらいのガタイのいい左目に大きな傷が入った迫力のある男だった。先ほどの受付嬢が傍にいる事から彼がギルドの支部長なのだろう。支部長に連れられた遠藤と共に彩人達はギルドの奥へと案内されるのだった。



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サイヤ人、出陣

なんかどの世界線でも檜山はタヒぬ定めなんだよなぁ・・・



この世界線ではどうなるでしょうか(すっとぼけ)


「魔人族と・・・その仲間が89層に」

 

冒険者ギルドホルアド支部の応接室に響く彩人の声。対面のソファーにホルアド支部の支部長ロア・バワビスと遠藤浩介が座っており、遠藤と対面するように彩人が座り、両隣をユエとハジメ、その隣にシアとミレディ、ティオが座り、その後ろでヴァルキュリア達がソファの後ろで三人並んで立っている。ミュウは彩人の膝の上に座り、ユエ達に餌付けされている。

 

「魔人族が従えていた魔物はどれも今までのとは比較にならない強さだった・・・現在天乃河達はなんとか退避して隠れながら回復に専念してるが・・・」

 

「そういえばお前はどうやってここまで来れたんだ?」

 

「・・・俺の天職は〝暗殺者〟だ。スキルを上手く使えば魔物相手でも隠密情動が出来る。それで地上への転移門がある場所に着いたんだが・・・転移門を守っていた騎士たちは既に全滅していた」

 

「・・・!?それほどにまで魔物が強いと?」

 

ロアが驚愕する。彩人も原作と違う展開に驚きを隠せない。

 

「いえ・・・魔物ではなく、〝人〟でした。たった一人の」

 

「!?」

 

「バカな・・・ハイリヒ王国の騎士団がたった一人に敗れるとは思えん」

 

「でも、事実です・・・そいつが俺に気づく前に辛うじて息のあった騎士が・・・俺を・・・逃がそうとしてました」

 

「そいつの特徴とかは覚えてないか?」

 

「・・・ん、ああ・・・かなり日焼けしてて・・肌が真っ黒だったな。あとは・・・なんか変な片目だけのゴーグル?をしていた。魔人族の仲間も似たようなのを付けていた。後・・・魔人族が〝ターレス〟って言ってたが・・・」

 

「・・・」

 

「ターレス・・・?」

 

ロアは首を傾げているが、彩人は顔面蒼白になりつつある。Dr.ウィローの次はターレスか、と。しかも遠藤の言い分だとクラッシャー軍団も居る。香織達がヤバい。

 

「パパ、具合悪そうなの・・・」

 

「・・・あ、大丈夫だぞミュウ」

 

「ってか誰だよその子。後ろのメイドさんとかもそうだが・・・まさか誰かとヤ「数か月でこんなに大きくならねえだろ」・・・それもそうか」

 

心配そうに彩人を見上げるミュウの頭を撫でて安心させる彩人。「んみゅ~♪」と嬉しそうな声を出すミュウ。

ハジメたちはそんな彩人を微笑ましいと思いつつ「もうパパだね」と言った。

 

「さて、彩人と・・・ハジメ。イルワからの手紙でお前の事は大体分かっている。随分と大暴れしたようだな?」

 

「成り行きですが」

 

「手紙には、お前らの〝金〟ランクへの昇格に対する賛同要請と、できる限り便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていた。一応、事の概要くらいは俺も掴んではいるんだがな……たった数人で10万近い魔物の殲滅、未知の敵の討伐、半日でフューレンに巣食う裏組織の消滅……にわかには信じられんことばかりだが、イルワの奴が適当なことをわざわざ手紙まで寄越して伝えるとは思えん……もう、お前らが実は悪魔、あるいは魔王だと言われても俺は不思議に思わんぞ」

 

それを聞いた遠藤は開いた口がふさがらなかった。元〝無能〟と〝足手まとい〟がそんなに強いとは思わなかったからだ。

 

「悪魔・・・は否定できん・・・」

 

「魔王は否定するんだな。まぁどちらにせよそれが本当なら俺からの、冒険者ギルドホルアド支部長からの指名依頼を受けて欲しい」

 

「勇者たちの救出・・・と?」

 

遠藤が、救出という言葉を聞いてハッと我を取り戻すと彩人に囃し立てる。

 

「そ、そうだ轟!一緒に来てくれ!」

 

「・・・」

 

彩人は断るつもりはないが、あの勇者に会うのがとてつもなく嫌なのだ。ターレスの言動を考えると同じサイヤ人である自分を許すだろうか?・・・しかし、行かなければ香織達が危ない。それを察しているのかユエとハジメが彩人を見つめている。

 

「・・・分かった。行こう」

 

「そうか!ありが「・・・一応言っておくが俺はあの勇者の仲間(お膳立て)じゃない。でもかお・・・白崎たちが居るんだろ?」・・・・轟」

 

「彼女は、大丈夫か?」

 

「っていうか、彼女がいなきゃ俺達が無事じゃなかった。最初の襲撃で重吾も八重樫さんも死んでたと思うし……白崎さん、マジですげぇんだ。回復魔法がとんでもないっていうか……」

 

「・・・そうか」

 

彩人は香織の成長を喜んだが、

 

「…でも彼女時々「補充しなきゃ」って部屋にこもったり八重樫とやけに仲良しだったりたまに般若の霊を出したりしててさ…そういえば彼女の近くの部屋の奴らが迷宮攻略組だったけどリタイアしてたな」

 

「」

 

マジで早く行かないと取り返しがつかなくなると気づく彩人だった。

 

「わ、分かった。それなら・・・」

 

彩人はハジメとユエに目配せすると、

 

「私は大丈夫」

 

「…彩人のしたいようにすればいい。私は何処へでもついていく」

 

いっさいの迷いなき眼で答える二人。

 

「わ、私も! どこまでも付いて行きますよ! 彩人さん!」

 

「ふむ、妾ももちろんついて行くぞ。主様」

 

「行く空気っぽいし、ミレディさんもついていってあげるよ!」

 

『『『マスターのおおせのままに』』』

 

「ふぇ、えっと、えっと、ミュウもなの!」

 

「・・・そっか。ありがとな」

 

謎の一体感に遠藤が置き去りにされるが、確認する。

 

「え、えっと、結局、一緒に行ってくれるんだよな?」

 

「ああ、ロア支部長。一応、対外的には依頼という事にしておきたいのですが」

 

「上の連中に無条件で助けてくれると思われたくないからだな?」

 

「はい。あと、この子を預ける部屋をお貸しいただけると」

 

「その程度なら構わねえよ」

 

ターレス軍団に彩人をパパ呼びするミュウと会わせたらターレスに「なぁ小娘、オレと一緒に来る気は無いか?」とか言いそうなのでティオに子守りさせておく。ミュウは嫌がったが全員で何とかなだめた。

 

「あー・・・待たせて悪かった、遠藤。早く行くぞ」

 

「……お前、本当に父親やってんのな……美少女ハーレムまで作ってるし……一体、何がどうなったら、あの轟がこんなのになるんだよ……」

 

ギルドを出てもオルクス大迷宮の入口に行こうとしない彩人達に遠藤が疑問を抱く。

 

「何してるんだよ、早く行くんじゃないのか?」

 

「んあ?少し待て、今から瞬間移動するから」

 

「しゅ、瞬間移動?!轟お前魔力無かったよな??!!」

 

「ま、気にすんな」

 

「いや気になるって!!「よし、行くぞ」お、おいちょっとm・・・」

 

混乱中の遠藤を無視し、全員纏めて彩人達は瞬間移動した。




短いですが今回はここまでです。


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勇者敗北!急げ戦士よ by クラスメイト

とうとう来たYO☆


時間は少し遡る。クラッシャー軍団とカトレアの口喧嘩のおかげで何とか逃げおおせた天乃河達。しかし敵は息をつく暇も与えない。

 

「フフフ・・・見つけたぞ小僧共」

 

「くそっまだ全快じゃないのに・・・!」

 

レズンのスカウターに捉えられている天乃河達は負傷者は少なくとも劣勢であることに変わりはない。

 

「勇者ともあろう男がこんなところでコソコソしてていいのかい?」

 

「くっ黙れ魔人族!お前は俺が必ず倒す!」

 

クラッシャー軍団の後ろで天乃河を挑発するカトレア。天乃河は聖剣を構えると聖剣に光が迸る。

 

「・・・へぇ、流石は勇者様だ」

 

感心しているカトレアに天之河が切りかかろうとしたその時。

 

「・・・ターレス、今まで何処に行ってたんだい」

 

「そう邪険にするなよ・・・上の騎士団を潰していただけだ」

 

カトレアが心底不愉快な表情を浮かべて天乃河達のうしろに居る人物に話す。天乃河達が振り向くと遠藤が見た男、ターレスがそこに居た。

 

「お、お前は何者だ!」

 

「オレか・・・?オレは、サイヤ人だ」

 

その言葉にカトレアがさらに気分を害するがそれ以上に天乃河達の衝撃が走る。イシュタルから神に傷をつけた不倶戴天の〝神敵〟が目の前に居るのだから。

 

「貴様だけは・・・許さない!」

 

正義中毒の天乃河にとって格好の敵である。天乃河の敵意はターレスに向かっている。天乃河が聖剣でターレスに攻撃しようとするが、

 

「ほう・・・?これでもか?」

 

「・・・!!メ、メルド・・・さん・・・」

 

ターレスが右手で掲げたのは満身創痍のメルド団長だった。首を掴まれているために苦しそうな声を出すメルド。

 

「いい顔をしていたぞ、自分以外の部下が死んだ時のはな!・・・まぁ、オレが殺したんだがなぁ・・・」

 

ターレスはニヤニヤしながら天乃河を見ており、天乃河の頭に血が上った。

 

「貴様ァァァァァ!メルドさんを放せぇぇぇぇぇ!」

 

「…バカめ」

 

「天乃河くん!右ぃ!!」

 

「しまっ・・・ガ八ッ!?」

 

殺意全開でターレスに切りかかる天乃河だったが鈴の声も間に合わずブルータルモドキの攻撃をもろにくらってしまう。

 

「所詮はガキ・・・無様なものだ」

 

「…気に入らないが、お前と同じ意見だよ、ターレス。こんな手に引っかかるなんてねえ」

 

ブルータルモドキがズタボロの天乃河をターレスと同じように首根っこ掴んで持ち上げる。

 

「うそ……だろ? 光輝が……負けた?」

 

「そ、そんな……」

 

「や、やだ……な、なんで……」

 

敗北した天乃河とボロボロのメルド団長に絶望するクラスメイト達。その中で警戒しながら雫がカトレアに質問する。

 

「……それで? 私達に何を望んでいるの? わざわざ生かして、こんな会話にまで応じている以上、何かあるんでしょう?」

 

「ああ、やっぱり、あんたが一番状況判断出来るようだね。なに、特別な話じゃない。前回のあんた達を見て、もう一度だけ勧誘しておこうかと思ってね。ほら、前回は、勇者君が勝手に全部決めていただろう?」

 

「断れば皆殺し・・・ってところかしら」

 

そこまでの会話で寝返った方がいいのではという雰囲気が広がる。

 

「もう、俺達の負けは決まったんだ。全滅するか、生き残るか。迷うこともないだろう?」

 

その中で檜山の発言で坂上が詰め寄る。

 

「檜山……それは、光輝はどうでもいいってことかぁ? あぁ?」

 

「じゃあ、坂上。お前は、もう戦えない天之河と心中しろっていうのか? 俺達全員?」

 

「そうじゃねぇ! そうじゃねぇが!」

 

「代案がないなら黙ってろよ。今は、どうすれば一人でも多く生き残れるかだろ」

 

死ぬのは嫌だが誰かを犠牲にするのも憚られる・・・そんな中、あと一押しと判断したカトレアの提案が。

 

「ふむ、勇者君のことだけが気がかりというなら……生かしてあげようか? もちろん、あんた達にするものとは比べ物にならないほど強力な首輪を付けさせてもらうけどね。その代わり、全員魔人族側についてもらうけど」

 

その提案で空気が変わり寝返得るかと思われたが、

 

「皆・・・誘いに・・乗るな・・・俺の事はいい・・・から・・・一人でも・・・多く・・・に・・げ・・・」

 

天乃河の言葉で再び揺らぐ。・・・しかし檜山は焦った表情で、

 

「……こんな状況で、一体何人が生き残れると思ってんだ? いい加減、現実をみろよ! 俺達は、もう負けたんだ! 騎士達のことは……殺し合いなんだ! 仕方ないだろ! 一人でも多く生き残りたいなら、従うしかないだろうが!」

 

檜山はとにかく香織を手に入れること、生き残ることのみを考えた発言なのだが・・・周りのメンバー達はすこしづつ投降の意志を固めつつあったが、ある人物の声がそれを阻む。

 

「ぐっ……お前達……お前達は生き残る事だけ考えろ! ……信じた通りに進め! ……私達の戦争に……巻き込んで済まなかった……お前達と過ごす時間が長くなるほど……後悔が深くなった……だから、生きて故郷に帰れ……人間のことは気にするな……最初から…これは私達の戦争だったのだ!」

 

「ほう・・・まだ息があったか」

 

メルド団長である。メルドはターレスの手を振り払い、カトレアに向かって突進していく。クラッシャー軍団の間をかいくぐり、〝最後の忠誠〟という自爆用アーティファクトで道連れにしようというのだ。

 

「魔人族……一緒に逝ってもらうぞ!」

 

「……それは……へぇ、自爆かい? 潔いね。嫌いじゃないよ、そう言うの」

 

「抜かせ!」

 

味方がやられそうなのにも関わらずターレスやクラッシャー軍団はニヤニヤ笑みを浮かべ、カトレアも余裕の表情だった。

 

「喰らい尽くせ、アブソド」

 

「なっ!? 何が!」

 

アーティファクトは六足の亀、アブソドに喰われた。

 

「がっ・・・・」

 

次いでメルドはカトレアの作り出した剣に刺し貫かれ、「済まない」と一言残してこと切れた。

 

「へっへっへ、無駄死にでっせい!」

 

虫の息となったメルドをアモンドが蹴り飛ばし、鮮血が舞う。

 

「うぅ、お願い! 治って!」

 

急いで香織がメルドを治療するがほぼ休憩なしで治療を行ってきたため魔力残量が少なく、治りが遅い。

 

「へっ、所詮は雑魚、無様な奴だ」

 

「・・・ターレス、なんで生かしておいたんだ?アブソドが居たとはいえ」

 

「フン、その程度でやられるなら貴様が弱いというだけだろう」

 

「・・・・チッ、まあいいさ、これは一つの末路さ。あんたたちはどうする?」

 

死の恐怖のあまり檜山が代表して受け入れようとするが・・・

 

「……るな」

 

「は? 何だって? 死にぞこない」

 

それを阻んだのは天乃河だ。

 

「クックック・・・さぁ見せてみろ、貴様の本気を」

 

ターレスはスカウターを介して天之河の戦闘力が増大しているのを眺めている。

 

「アハトド! 殺れ!」

 

「ルゥオオオ!!」

 

馬頭の魔物アハトドが二体、〝魔衝波〟で攻撃を仕掛けるが天乃河の周りに光が集い二体の片腕をへし折る。〝限界突破〟終の派生技能[+覇潰]を発動させた天乃河の力であり、メルドの仇と言わんばかりにターレスに切りかかる。

 

「なんだと・・・?」

 

「メルドさんの仇だ!」

 

ターレスは容易く切り割かれ、仰向けで倒れこむ。続いてクラッシャー軍団に襲い掛かる。

 

「なぁッ」

 

「これは・・・」

 

「ンダァッ」

 

「これまでか・・・」

 

「あ、兄者・・・」

 

雫達とは比べ物にならないスピードでクラッシャー軍団を蹴散らし、カトレアを袈裟切りにする。

 

「まいったね……あの状況で逆転なんて……まるで、三文芝居でも見てる気分だ」

 

血を流しながらも胸元からロケットを取り出すカトレア。天乃河はメルドと同じものと思いトドメを差しにかかる。・・・が。

 

「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」

 

「・・・・!?」

 

寸前で止めてしまった。

 

「まさか、あたし達を〝人〟とすら認めていなかったとは……随分と傲慢なことだね」

 

「ち、ちが……俺は、知らなくて……」

 

「ハッ、〝知ろうとしなかった〟の間違いだろ?」

 

「お、俺は……」

 

「ほら? どうした? 所詮は戦いですらなく唯の〝狩り〟なのだろ? 目の前に死に体の一匹がいるぞ? さっさと狩ったらどうだい?おまえが今までそうしてきたように……」

 

「……は、話し合おう……は、話せばきっと……」

 

あろうことか剣をおろしてそんなことを言い出した天乃河にカトレアは呆れてものも言えず、代わりに

 

「アハトド! 剣士の女を狙え! 全隊、攻撃せよ!」

 

「な、どうし・・・ゴフッ!?」

 

天乃河の危険性を感知し発言力のある雫を重点的に、クラスメイト達全員に魔物が襲い掛かった。そして振り向いた天乃河に一撃を入れたのは

 

「今のお前ではオレの相手にはならないぜ」

 

「な・・・なぜ・・・」

 

ターレスだった。勿論、

 

「ダァ―ハッハ!とんだ甘ちゃんでっせい!」

 

「貴様らは〝戦争〟をしているのだろう?」

 

「ンダンダ・・・」

 

「話し合いで解決するのなら、我々はここに居ないはずだ」

 

「未熟な精神に強大な力・・・危険性はあるだろうな」

 

クラッシャー軍団もピンピンしている。

 

「ターレスさん、準備運動(・・・・)はこれぐらいでいいでっせい?」

 

「フン、準備運動にすらならなかったがな(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

その言葉で一気に絶望に叩き落されるクラスメイト達。魔物ですら歯が立たないのにターレス達は本気ではなかったのだから。

それからは魔物とターレス軍団の猛攻で数分経たずに絶体絶命の状況となり、天乃河も覇潰の副作用で動けなくなっていた。

 

「あぐぅう!!」

 

「雫ちゃん!」

 

数少ないアタッカーの雫も重症を負い、周りのメンバーも魔物を防ぐことすら難しいのに更に強いクラッシャー軍団の攻撃でズタボロとなっていた。負傷した雫に寄り添う香織。

 

「か、香織……何をして……早く、戻って。ここにいちゃダメよ」

 

「ううん。どこでも同じだよ。それなら、雫ちゃんの傍がいいから」

 

「……ごめんなさい。勝てなかったわ」

 

「私こそ、これくらいしか出来なくてごめんね。もうほとんど魔力が残ってないの」

 

すると薄いバリアが張られる。二人が振り返ると互いに支えあう鈴と恵里が。

 

「えへへ。やっぱり、一人は嫌だもんね」

 

「どうせなら、一緒がいいかなって」

 

「鈴・・・貴女ってば・・・」

 

「恵里ちゃん・・・」

 

あまりにも心もとないバリアは魔物の攻撃で砕かれようとしている。次の攻撃で香織達は拳の餌食となるだろう。

それ以上に、守ると決めた人に会えぬまま死ぬことに彼女たちは心の中で謝罪し、その人の名を呼んだ。

 

「「「「……彩人(君)」」」」

 

魔物が最後の一撃を放つ・・・その時だった。

 

「グギャァァァァァァァァ!!」

 

何かが魔物の脇腹に蹴りを入れて反対の壁にめり込み、絶命させた。自分たちが歯が立たなかった敵を蹴り一発で倒されたことに驚くクラスメイト達。そしてカトレアも驚きを隠せない。

 

「ほう・・・これはこれは」

 

そんな中スカウターの表示を見てニヤリと笑うターレス。

そして、その人物は四人の方に肩越しで見やると、

 

「呼んだか?遅れて悪い」

 

とだけ話した。白いオーラを纏い、厳しい表情をしていたが、変わらぬ姿に彼女達が気づかぬはずがなかった。

 

「「「「彩人(君)!!」」」」




次回、「オルクスまるごと超決戦! 前編」ぜってぇ見てくれよな!


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オルクスまるごと超決戦! 前編

ターレス軍団&魔人族VSチート軍団です。



駄文+オリ展開ですがそれでも良ければ。


瞬間移動した直後、香織、雫、鈴、恵里が魔物の攻撃を受けそうになったのを見て、彩人は爆速で蹴りを叩きこみ、魔物をミンチにする。

 

「危機一髪だったな・・・済まねえ、遅れた」

 

とりあえず四人の無事を確認する彩人。

 

「本当に…彩人君なんだね?」

 

「ああ、そうだ。ハジメも無事だ。・・・外見は変わったがな」

 

彩人が言うと後からぞろぞろと白髪一人、金髪二人、ウサミミ一人、メイド(戦闘用)三人と遠藤が来る。

 

「良かった、香織ちゃん達、無事だったんだね!」

 

「「「「…誰?」」」」

 

ハジメが四人に話しかけるが彩人と違って外見が変化しているので困惑される。

 

「・・・まあ、説明しておいてくれ。回復はイクスに任せてあるから援護頼む」

 

「オッケー」

 

『承りました、マスター』

 

「ユエは向こうで倒れている奴らを、シアはそっちで倒れている兵士を神水で回復させてくれ。ゼータはシア、アクセルはユエのサポートを頼む。ミレディはイクスの護衛を」

 

「…ん、分かった」

 

「了解ですぅ!」

 

『御意!』

 

『お任せを』

 

「はいはい、っと!」

 

すぐさま彩人の指示で配置に着くメンバー達。周りは混乱したままだが、最後に出てきた遠藤の存在で我に返るクラスメイト達。

 

「お、おい轟!なんなんだよさっきの・・・ってアレお前がやったのか!?どんだけ強くなってんだよチクショー!」

 

「「浩介!」」

 

「重吾! 健太郎! 助けを呼んできたぞ!」

 

助けを呼んだ、と聞いてやっと敵味方両方が状況を理解する。同時にハジメが簡単に香織達に説明する。

 

「ホントにハジメちゃんなんだ…ビックリしちゃったけど無事で何よりだよ」

 

「う~ん、いろいろあったんだけど・・・今は休んでて」

 

「むー、ハジメンったらちょっとお胸大きくなってない?前は鈴と同じ位ぺったんこだったのに…けしからん!」

 

「鈴ちゃん…」

 

「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

 

そんな会話を挟みつつ、彩人はカトレア、そしてターレス軍団を睨みつける。

 

「死にたくなければ今のうちに逃げるんだな」

 

「…なんだって?」

 

「ほう・・・」

 

「今なら見逃してやる、向かってくるなら容赦しねぇぞ」

 

アハトドを瞬殺した彩人は答えが分かりきってるとはいえあえて忠告する。するとカトレアは無言で魔物達に攻撃するように命令を下し、ターレスはハジメ達を襲うようクラッシャー軍団に指示を出した。

 

「敵、なら・・・容赦はしない!!!」

 

魔物自体は彩人達の敵ではなかった。攻撃力防御力共に彩人達が大幅に上回っており蚊を叩き潰すがごとく殲滅出来ていたが、問題はクラッシャー軍団とターレスだ。

 

「だはははは!効かんでっせい!」

 

「・・・鬱陶しい!」

 

気円斬をも跳ね返すアモンドの高速回転にハジメやアクセルの銃弾が弾かれ、中々決定打を決められない。

 

『ハジメ様!』

 

「・・・!!、あ、危ない所だった・・・」

 

しかも弾いた弾丸でカウンターもしてくるので不用意に打てない。

 

「くぅ・・・」

 

『ミレディ様・・・!くっ』

 

「ヘッ、魔法だか何だか知らねえが、これじゃ打てまい?」

 

「ンダァァァァァァァァ!!」

 

重力魔法の使い手であるミレディをダイーズが抑え、イクスの張ったバリアを攻撃するカカオ。

 

「ふはは、顔色が悪いぞ?お嬢さん」

 

「…うるさい」

 

「おっと、ご機嫌斜めかな?」

 

分裂、合体を駆使してユエを翻弄するレズンとラカセイ。

更に、ターレスを含めたクラッシャー軍団が事あるごとに気功波や気弾でメルドを狙うためゼータとシアも緊張感を強める。

 

「・・・ッ、てめっ」

 

「フフフ・・・オレには分かるぞ。なぁ小僧・・・オレと一緒に来る気は無いか?」

 

「戦ってる最中に随分余裕だな。俺の何が分かるって?」

 

ターレスがクラッシャー軍団の方を見ると、ハジメ達の劣勢が覆り始めていた。

 

「ゼータさん、この人を頼みます!」

 

『任された!』

 

神水で何とか命拾いしたメルドは、自分を守る女性を見やる。

 

「・・・き、君は・・・一体・・・」

 

『我の名はゼータ。我がマスター、彩人の命により貴殿の救援を賜った者なり。貴殿はまだ休んでおくといい』

 

「な・・・彩人だと・・・?」

 

メルドは驚きを隠せなかったが、自身や部下がまるで歯が立たなかったターレスと渡り合うのは間違いなく彩人であった。

 

「彩人・・・!ここまで強くなるとは・・・」

 

驚きつつも何処か喜びを孕んだメルドの言葉に、ゼータは僅かに微笑む。自分の主を褒められたからだ。

それと同時にミレディの首を締め上げるダイーズに攻撃の手が迫る。

 

「か・・・は・・・・」

 

「苦しいか?なら今楽に・・・「ミレディさんを放しやがれですぅ!!!!」ぐわあ!?」

 

「ンダ!?」

 

『シア様!』

 

ダイーズの頭をシアが殴り飛ばし、ミレディを助ける。

 

「う・・ケホケホッ・・・シアちゃん、ありがとね・・・」

 

「いえいえ、お気に・・・「ンダァ!!」は、早・・・」

 

が、カカオが外見に似合わぬ高スピードでシアに迫る。が、カカオは突然地面にめり込んだ。

 

「〝黒渦〟!危なかったぁ・・・」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「まだまだ!やられた分はやり返さなきゃね!〝天灼〟!!」

 

「ンダァァァァァァァァ!?!?!?」

 

凄まじい雷を落とされ、黒煙を噴き上げるカカオ。

そして、いい加減レズンとラカセイの挑発に聞き飽きたユエはさっさとケリをつけるべくレズンが一人に戻る瞬間を狙っていた。

 

「…〝天龍〟」

 

「ふはは、血迷ったか?」

 

「合体すればその程度の攻撃などすぐにかわせ・・・「〝蒼龍〟」・・・な、なんだあr・・・ギェェェェェェ!!!」

 

あえて一人に攻撃し合体する瞬間に大技で仕留める。炎の龍は容易くレズンを喰らいつくした。

 

「〝禍天〟」

 

「ぐわあ!?」

 

返す手でユエの魔法がアモンドに直撃する。外野の横やりにアモンドは反応できなかったが、強烈な重力には耐えた。・・・が、

 

「ハチの巣になれ」

 

『トドメ』

 

「ぬぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

回転できねばこちらのもの。アモンドはハチの巣にされて重力によりミンチとなった。

 

「フン・・・なかなか強い奴らだ。今なら貴様と一緒に仲間にしてやるぞ?」

 

「抜かせ。仲間じゃなくて手下になれのまちがいだろう」

 

「ククク・・・そう邪険にするなよ・・・オレ達はこの世界では嫌われ者同士・・・仲良くしようや・・・」

 

「うるせえ、てめえをぶっ飛ばして終わりだ!」

 

「フン、神精樹の実を食べ続けてきたこのオレに、勝てると思うか?」

 

そこから一気に格闘戦となる二人。純粋なサイヤ人+神精樹の実の強化で一進一退の攻防戦を繰り広げる。桁外れのスピードと拳がぶつかる度に凄まじい衝撃が走る。ハイレベルすぎる戦いにクラスメイト達は唖然とし、〝神敵〟同士の戦いにカトレアも恐れおののくばかり。

 

「な、なんなんだ・・・彼は」

 

「はは、信じられないだろうけど……あいつは轟だよ」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

天乃河のつぶやきに遠い目をしながら答えた遠藤の返答に困惑するクラスメイト達。

 

「だから轟。轟彩人だよ。あの奈落から南雲と一緒に這い上がってきたらしいが・・・あれだけ強いとは思わんかった・・・」

 

「と、轟が!?南雲とって・・・何処に」

 

「ああ・・・あの白髪の奴。南雲もとんでもねえよな・・・・ハハ」

 

天乃河の質問に半ばあきらめた様子の遠藤。しかし、遠藤に掴みかかった奴が居る。檜山だ。

 

「う、うそだ。轟は死んだんだ。そうだろ? みんな見てたじゃんか。生きてるわけない! 適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

 

「うわっ、なんだよ! ステータスプレートも見たし、本人が認めてんだから間違いないだろ!」

 

「うそだ! 何か細工でもしたんだろ! それか、なりすまして何か企んでるんだ!」

 

「いや、何言ってんだよ? そんなことする意味、何にもないじゃないか」

 

檜山が焦った表情で遠藤に詰め寄るが、突如檜山は風魔法で吹き飛ばされた。その魔法の主は・・・ユエだ。

 

……鬱陶しいから、大人しくして

 

「…ヒィ」

 

まれに見ない美少女に天之河達は見惚れるがユエはシカトし、とてつもない殺気を檜山にぶつける。檜山は少し離れた所で後ずさった。その瞬間、ターレスはニヤリと悪い笑顔を浮かべた。

 

「轟彩人・・・と言ったな、オレは少し用が出来た」

 

「な・・・逃がすかてめえ!」

 

「・・・ほう?本当にオレに構ってていいのか?」

 

「・・・な」

 

ターレスの見る先には、詠唱を行っているカトレアの姿。

 

「…残るは終焉 物言わぬ冷たき彫像 ならば ものみな砕いて大地に還せ! 〝落牢〟!」

 

「轟!避けろ!石化魔法だ!!」

 

野村が叫ぶが間に合わず灰色の球体が彩人の真上に落下する。避けることもできるが真下には香織達が居る。ターレスはそれを狙っていたのか・・・?

 

「(どうやらアイツが真の〝神敵〟のようだね…それにあの小娘達も桁外れだ。ならばターレスもろとも消えてもらうよ!)」

 

ターレスとの戦いで彩人が〝神敵〟と悟ったカトレアの〝落牢〟が彩人を襲う。空中で球体は停止したが死を運ぶ煙がハジメもろとも香織達を包む。

 

「フッ・・・どれだけアンタ達が強かろうと煙に触れたらこっちのもn・・・!?」

 

カトレアが彩人達の石像を拝もうと近づくが目の前にあるのは銃口。ハジメのドンナーである。

 

「じょ、冗談じゃないよ、一体何をしたっていうのさ」

 

「〝魔力放射〟。煙なら押し流せばいいだけだしね」

 

「上級魔法を押し返すとか・・・アンタ、本当に人間?」

 

「さぁ?でも〝彼〟と一緒に居られるなら化け物でも構わないよ」

 

と、未だ空中に浮いたままの球体に目を向けるハジメ。

 

「へえ、アンタの恋人かい?でも残念だねえ、球体は煙の比じゃない。アンタの愛しい人は石像になってるさ」

 

「そ、んな・・・」

 

「彩人君!!」

 

「嘘、だよね・・・?」

 

「嫌・・・!」

 

カトレアの言葉に青ざめる香織達。だが次の瞬間、球体がはじけ飛んで消滅し無傷の彩人が現れる。

 

「誰が石像だって?」

 

「な・・・なんで・・・」

 

「・・・いちいち説明するのも面倒だ、てめぇで勝手に想像しな」

 

「はは・・・こんなことになるんだったらあの時にげだしておくんだったね・・・」

 

「最後に聞いておくか。なぜこんなところに魔人族が居る?」

 

彩人はカトレアの背後に降り立つ。カトレアは前方のハジメ、後方の彩人に挟まれた形になる。

 

「決まってるだろう?勇者一味の抹殺さ。最初は勧誘目的だったけどあの勇者様にしてやられてねえ。殺される前にやろうと「それだけじゃないよね?」・・・!?」

 

ハジメがカトレアの発言に割り込み、話を続ける。

 

「あの魔物、神代魔法の産物でしょ?「な、なぜそれを!?」・・・図星みたいだね。魔人族が優勢になったのは大迷宮攻略者が居るって事。迷宮攻略と勇者の勧誘を同時並行で行っていたんでしょ?」

 

「・・・・」

 

「言わねえなら代わりに言おうか?お前らの目的はオスカー・オルクス氏の隠れ家を見つけ、神代魔法を手に入れることじゃないのか?だが迷宮攻略は簡単ではない・・・。そこでお前らは勇者パーティーを勧誘し人間族の戦力低下と迷宮攻略を進めるためにここに居るってところだろう?」

 

「その言い方だと・・・なるほどね。あの方と同じなら……化け物じみた強さも頷ける……」

 

「それともう一つ。ウィローやターレスはだれの差し金だ?」

 

「それもあの方からだよ・・・魔物と違って詳しくは知らないけどさ」

 

彩人は気で判断するが嘘をついているとは感知できなかった。

 

「もう、いいだろ? ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね……いつか、あたしの恋人があんた達を殺すよ」

 

「・・・神に躍らされてるだけの存在に出来るとは思えないけどね」

 

ハジメがカトレアにトドメを刺そうとしたが、やはり止めるものが。

 

「待て! 待つんだ、ハジメ(・・・)! 彼女はもう戦えないんだぞ! 殺す必要はないだろ!」

 

その時ハジメが青筋を立てた。周りも何言ってんだおめぇという表情を浮かべている。

 

「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。ハジメも仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」

 

何様のつもりだとドンナーを砕きかねない力で握りしめながらカトレアにトドメを刺そうとするが、

 

「はぁっ!」

 

「!?」

 

ハジメに向かって真上から気弾が放たれた。ハジメは辛うじて回避するがそこにいたのは、

 

「た、ターレス…!」

 

苦虫を嚙み潰したような表情のターレスだった。

 

「よう、カトレア。よくもこのオレを殺そうとしたな?」

 

「ふ、フン!やられるほうがわるいんじゃ・・・ああああああ!!!」

 

「フン、所詮は魔人族。少しでも使えると思ったオレが柄にもなく甘かったのだ!」

 

「あ・・・・ぐ・・・・・」

 

「さぁ跪け・・・跪いて詫びるなら許してやってもいいぞ」

 

「だ、だれが・・・お前なんか・・・に・・・」

 

「ならば・・・死ねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「ああああああああああ!!!」

 

死なない程度に痛めつけたうえでカトレアを暴行するターレス。

 

「止めろぉぉぉぉぉ!彼女はお前の仲間じゃないのか!?」

 

「フン、仲間だろうと親だろうと殺す、それがサイヤ人だ!」

 

「が・・・・・ッ」

 

天乃河の静止も聞かずターレスはキルドライバーでカトレアにトドメを刺した。

 

「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇ!サイヤ人、お前だけは絶対に許さない!」

 

「ほう、このオレに勝てると思うのか?この、くたばりぞこないが・・・」

 

「ガフッ・・・!・・・・ゆ、るさ・・・・」

 

怒りに任せた攻撃が通じるはずもなくターレスにあっさり返り討ちにされる天乃河。

 

「ターレス、今までどこに居やがった。気を消してまですることがあるのか」

 

「フッ・・・やはり探れるか。念の為消しておいて良かったなァ・・・おっと」

 

「・・・質問に答えろ。何をしていた」

 

殴り掛かった彩人の攻撃をガードするターレスはニヤニヤ笑いで答えた。

 

「さぁな。オレは可能性を提示した。そして()はそれを受け取った・・・ただそれだけだ」

 

「奴「〝炎天〟」・・・・!?」

 

その時、彩人の背中に見たことのある(・・・・・・・)火球が命中した。

それを撃ったのは・・・

 

「ヒャハハハハ!ざまあみやがれ轟!俺の香織を盗るからバチが当たったんだよ!」

 

「ひ、檜山・・・?」

 

無詠唱で炎系上級魔法を放った檜山だった。




次回、檜山死す。

デュエル、スタンバイ!


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檜山、タヒす

檜山「俺に生存フラグはあるか?」

パラガス「あろうはずがございません」

檜山「す、少しはあr」

ブロリー「あると思っているのかァ?」

檜山「」


直径8mほどの火球が彩人に命中し、その場にいたほぼ全員が目を見開く。そんな中、狂ったように笑う檜山。

 

「フヒヒヒ・・・想像以上だ、これだけの力があれば香織だけじゃねえ、全て俺のモノに出来る!」

 

「おい檜山!何てことしやがる!轟を殺す気か・・・がぁっ!?」

 

「頭が高ぇんだよ、坂上。俺はてめぇらとは違うんだ」

 

坂上が檜山を糾弾するが坂上が認識できないスピードで檜山はボディーブローを決めて坂上を倒す。

 

「な・・・何故だ・・・檜山・・・・仲間・・・だろう・・・?」

 

「ハッ、何が仲間だ!天乃河、勇者はお前じゃねえんだよ!」

 

「どういう・・・事だ・・・がフッ」

 

仰向けに倒れた天乃河の腹を踏みつけ、下劣な笑みを浮かべる。

 

「俺こそが・・・女を侍らせ、世界を救う英雄なんだよ!!」

 

意味不明な事を言い出す檜山に女性陣は嫌悪と恐怖を交えた視線を向ける。・・・が。

 

「何が英雄だ。不意打ちでしか戦えない奴が偉そうに」

 

「チっ、さっさとくたばってればいいのによ・・・!」

 

上着が燃えて上半身裸の彩人が呆れた表情で出てくる。それを見てしかめっ面をする檜山。

 

「あの時もそうだ!せっかく南雲ごと落とせたのになんで生きてんだよ!」

 

「檜山・・・今、なんて言った?」

 

怒りのあまり口が滑る檜山。途端に非難の視線が強まる。檜山は失言に気づき一瞬はぐらかそうとしたが、今の自分に怖いものはないと考え開き直ることにした。

 

「ああそうだよ!あの時轟達を落とした火球は俺が打ったんだよ!南雲を巻き込めば必ず轟が庇うと踏んでな!」

 

「・・・だ、だが、反省したんだろう・・?」

 

恐る恐る聞く天乃河に対し、檜山は大笑いし

 

「お前ってやつは本当にお人よしだな!お前が許せば周りが許す。そのカリスマ(笑)だけは使えたぜ~?」

 

「・・・・俺を、利用していたのか?」

 

「気づくのが遅えんだよ!」

 

檜山は呆然としている天乃河を蹴り飛ばした。

 

「今まではてめえの方が強かったから従っていたが・・・今は俺の方がはるかに強い!てめえも、轟もぶっ殺して・・・香織を・・・いや、この場に居る女を俺のモノにするんだァ!フヒヒヒヒ・・・」

 

ユエ達を品定めするように見る檜山。彩人にもう勝ったつもりでいるらしい。

 

「それじゃまずは・・・お前からだ轟ィィィ!!」

 

檜山が凄まじいスピードで殴り掛かってくる。彩人はそれをかわして殴り飛ばし、怒りに任せて突っ込んでくる檜山を圧倒する。

 

「な、何故だ!俺は強くなったはずだ!」

 

「強くても当たらなければ意味が無いな」

 

「轟ぃぃぃぃ!てめえだけはぶっ殺す!」

 

力に溺れた檜山は憎しみに任せて拳を振るい、蹴りを放つ。だが単調すぎる動きでは彩人は捉えられない。

 

「クソが!!〝炎天〟!!」

 

やけになった檜山は他のクラスメイト達を巻き込むのを知りつつ上級魔法を放った。

 

「檜山!仲間が居るんだぞ!」

 

「うるせえ!俺の邪魔をする奴は全員死ねぇぇぇぇぇ!」

 

永山の言葉も耳に入らない。特大に火球が彩人に襲い掛かるが、彩人は片手で止めて打ち消す。

 

「殺すと言っておきながら人一人殺せんようだな」

 

「・・・!舐めやがって・・・!てめえさえ居なければ香織は俺のモノだったんだァァァァ!!」

 

「お前が何を思おうと勝手だが人はモノじゃねえぞ」

 

泣きわめきながら彩人に殴り掛かるが腕をつかまれて投げ落とされ、ターレスの近くへ。

 

「フン・・・少しは役立つとは思ったのだが、無駄だったようだな」

 

「うるせえ!さっさとさっきの果実をよこせ!今度こそぶっ殺してやる!!」

 

「‥‥ククッ、いいだろう。これを食え」

 

ターレスが差し出した小さなとげの付いた赤い果実を奪い取り、かじりつく檜山。

 

「お・・・おおおおおおおお!凄いパワーだ!フヒヒヒ・・・これで轟をころせrrrrrrrrrr・・・!?な、なんddddddこれは・・・?」

 

突如檜山の様子がおかしくなった。

 

「フン、やはり何か仕込んでいたな。魔人族め・・・、だがオレのほうが一枚上手だったようだな」

 

「な、てめ・・・・・rrrrrrrrr裏切っttttttttttttttの、kkkkkkkkkkkkか!?」

 

「裏切る?先に裏切ったのは貴様だろう」

 

「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaGeeeeeeeeeeeeeee!!!!!」

 

「・・・おっと、これは想像以上だ」

 

突如檜山は暗黒のオーラに包まれ、目を真っ赤に光らせながら暴れ始めた。正気の沙汰ではない。

 

「この・・・バカ野郎が・・・・」

 

「rrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!」

 

力任せの攻撃やヤケクソで放たれる魔法弾であちこちを攻撃しまくる檜山。とっさに鈴とイクスが障壁を張るが強化バースト状態の檜山による魔法弾は徐々に障壁を抉る。それどころか迷宮が崩落する恐れがある。凄まじい振動が響く中、彩人は風と炎の魔法弾を気合いでかき消しながら檜山を殴り飛ばす。

 

「・・・!?」

 

「gyoaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

ダメージは入ったが檜山はゾンビのように起き上がり攻撃を止めない。生半可な攻撃ではヤツを止められない。自我があるのかは分からないが、彩人に向けた攻撃は激しく、逆にハジメ達・・・特に香織への攻撃は少ないのは偶然か。それを無視し、彩人は檜山に攻撃を続ける。テレパシーでハジメ達に檜山からの攻撃から皆を守るよう指示し、全員が自分の身を守ることが出来た。

 

「てめえ・・・いい加減にしやがれぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「Goaaaaaaaaaaaaァァァァァァァァ!!??」

 

彩人の強烈な攻撃でオーラが歪み、目の赤い光も消え、檜山はボロボロになりながら倒れこんだ。どうやら正気には戻せたが檜山はまだ懲りていないらしく地面に何度も拳を打ち付けた。

 

「・・・クソ・・・クソックソックソッ、クッッソォォォォォォ!!!!!なんでだ!なんで轟を殺せねえ!」

 

「おい檜山・・・いい加減にしろよ!周りの奴らをてめえのせいで危険にさらしたのにまだそんな事を言ってるのか!」

 

身勝手な檜山の振る舞いに坂上が怒鳴るが檜山は知ったことかと顔を背けた。坂上が檜山に詰め寄ろうとするが、先に動いたのは香織だった。檜山は香織が近づいてくると分かったとたんにヘラヘラ笑い、

 

「へ、へへ・・・香織・・・やっぱり轟なんかより俺の方が・・・「勘違いしないでもらえますか?」・・・は?」

 

香織に触れようとしたがその手を振り払われる。

 

「な・・・なん「私が貴方を好きになるなんて未来永劫あり得ません。彩人くんとハジメちゃんを殺そうとした人なんて」・・・」

 

檜山は力に溺れて自身が暴露した事を今更思い出した。弁明しようにも目の前の香織と後ろのハジメ達の心底見下げた、潰れたGでも見るかのような視線に恐怖し、口をパクパクさせる。

 

「・・・ご・・・め・・・な・・・さい」

 

「どうして私に謝るのかな、かな?謝るなら彩人くんとハジメちゃんに・・・でしょ?」

 

「ア・・・・・ア・・・・・」

 

檜山はチラリとハジメを見ると、感情のない瞳でドンナーを片手に無言で歩いてきていた。そこでやっと檜山は自身の行いの恐ろしさを理解した。ハジメが一切許すつもりが無いと分かったとたん、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにし、失禁しながら彩人に縋りついた。

 

「おでがわるがっだァァァァァァァァ!!謝る!もうにどどざがらわねえがらあああ!!!!じにだぐねえよおおおおおお!!どどろきいいいいいい!い、いやどどろぎざまぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「・・・・」

 

彩人が恥も外聞も捨てて命乞いする檜山から目をそらし、無の感情で檜山を睨みつけているヒロインズとユエ達に目配せすると全員一致の答えが。

 

"君の判断に従う"と。それを察知した彩人は答えを出そうとするが、

 

「檜山は・・・贖罪の意がある・・・轟、ここは俺に免じて許してやってくれ」

 

「・・・・」

 

やっと目を覚ました天乃河だ。・・・先ほどの言葉を忘れたのだろうか。ヒロインズは氷河期のような目で天之河を睨みつけ、クラスメイト達もとうとう頭壊れたのかお?と言いたげな顔だ。

 

「光輝!お前何言ってるんだ!アイツは俺達を裏切った!轟が居なかったら俺たちは死ぬ所だったんだぞ!?」

 

「それは・・・ターレスとかいうサイヤ人に騙されただけなんだ。檜山は踊らされてただけ・・・そうだろ?」

 

まさかの助け舟に檜山の目に欲望の混ざった希望が灯る。

 

「そ・・・そうだ天乃河!俺は踊らされてただけなんだ!」

 

「そうか・・・よく言ってくれた。だから轟、お前も・・・」

 

天乃河が彩人にそう言って許すよう進言しようと目を離したその時、檜山が先ほどの神精樹の実のかけらを食べ、先ほどではないにしろパワーアップして香織を抑え込む。

 

「香織!!」

 

「おっと動くなよ八重樫・・・香織がどうなるかなぁ~?」

 

「・・・・!あんたって人は!」

 

雫がハジメから貰った黒刀を抜く。

 

「な、何をしているんだ檜山・・・香織を離すんだ!」

 

「ヒャハハハハハ!お前はホントにバカだよなぁ!こんな演技に引っかかるなんてよ!」

 

「また・・・・俺を利用したというのか・・・!?」

 

「察しが悪いな・・・俺はもうお前らの仲間じゃねえ!香織は俺のモノだ!」

 

「・・・・・!!」

 

「香織!!!!」

 

檜山が香織の唇を奪おうと顔を無理やり向かされる。そして香織の涙ながらの抵抗虚しく二人の顔が重なら・・・なかった。

 

「!?」

 

「・・・・・うぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

…漢女すらも貴様には生ぬるい。…再起不能になるがいい

 

檜山の股間をユエが不能にしたからだ。どれほど強くとも急所に変わりなく、檜山は泡を吹いて倒れこむ。香織は拘束が緩んだ瞬間にシアが救出した。

 

「ウう・・・こノ・・・クソカス共がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

だが、檜山はまだあきらめておらず、ありったけの魔力を込めた〝炎天〟を放つ。が、

 

「いい加減にしろ、このクズ野郎」

 

「ぎえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

彩人の気功波で火球を押し返され、檜山は自分の魔法を喰らった。真っ黒こげになった檜山(ゴミ)の死体があおむけかうつ伏せか分からない状態で残された。

万事休すの状態を覆した彩人だったが、そんな彼を恨みがましく見つめる者が一人。

 

「轟・・・何故檜山を殺した」

 

「・・・」

 

天乃河である。そんな彼を彩人は静かに見下ろしていた。




ああもう無茶苦茶だよ・・・。(白目)


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オルクスまるごと超決戦! 後編

檜山を血祭る事が出来たのでVSターレスです。


「・・・何故、だと?」

 

彩人は親の仇を見るかのような目で睨みつけてくる天乃河に冷めた口調で話した。

 

「当然じゃないか!クラスメイトを・・・仲間を殺したんだぞ!!」

 

「檜山が最後に放った攻撃は障壁を張る時間もなかった。それとも何か?檜山の為に誰か犠牲になれとでも?」

 

「話を逸らすな!人殺しは大罪だぞ!」

 

「それは地球での話だ。それに今は魔人族と戦争中・・・殺すか、殺されるか。いちいちそんな事を言ってるとまた犠牲者が出るぞ」

 

「・・・っ、だとしても!お前は人殺しに変わりはない!」

 

何が何でも天乃河は彩人を糾弾したいようだが、ターレスの気が地上に向かっているのでこんな問答をしている暇は無い。すると助け船が。

 

「……くだらない男。彩人、先に行ってて」

 

ユエが無の表情で天乃河に言い放つ。

 

「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。轟の本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ? 助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないなんて……失礼だろ? 一体、何がくだらないって言うんだい?」

 

「……」

 

天乃河は再び的外れな事を言い出したのでユエはもう構う価値もないと判断し、引きつった笑みを浮かべる天乃河をシカトし、彩人に先に行くように耳打ちする。

 

「おい轟!どこへ行くんだ!話はまだ終わってないぞ!」

 

「・・・今することじゃねえよ。ターレスが地上へ向かってるんだ。後にしてもらう」

 

「な・・・はっ!あのサイヤ人が居ない!?・・・しかし何故轟が・・・って居ない!?」

 

彩人は天乃河を無視し、ヒロインズ、ユエ達、ヴァルキュリア達に天之河と同行させることを詫びながらターレスの元へ瞬間移動する。

 

「ほう・・・意外に遅かったな」

 

「てめえ、転移門の位置を調べるために騎士団を襲ったな?」

 

「さあ、どうだか」

 

「まあ、関係ねえ、ターレス!覚悟しろ!!」

 

「フッ・・・このオレに、勝てると思うか?」

 

ホルアド上空で、激しい攻防戦が始まった。打撃に打撃、蹴りに蹴りとターレスは超サイヤ人に変身可能な彩人と互角に渡り合う。

 

「神精樹の実か・・・」

 

「ハッハッハ、そうだ。神精樹の実を食べ続けてきたこのオレにかなうと思うのか!!」

 

両手で大きなこぶしを作り、彩人を真下に叩き落す。彩人が体勢を立て直した所に蹴りを入れるが足を掴まれて投げ飛ばされる。飛ばされたターレスは追ってくる彩人に気弾でけん制し、距離を離すとリング状の気弾"キルドライバー"を放つ。

 

「死ねぇぇぇぇ!!!」

 

「させるかぁぁぁ!!」

 

彩人も気弾で相殺し辺りが煙で視界がふさがれたがそこから突っ込んできた彩人がターレスを殴り飛ばす。すぐさまターレスは体勢を立て直すが彩人の猛攻にさらされる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「なんだ・・・!?どんどん戦闘力が上がっていく・・・!」

 

ターレスはスカウターに表示された数値がどんどん上昇していくのを見て焦りを感じ始める。徐々に拮抗していた差が彩人側が上回り始め、顔面を狙った右ストレートをガードした瞬間を捉えられ、左のボディーブローが決まる。

 

「何だと・・・!」

 

「まだまだぁ!!」

 

「・・・くっ、このくたばりぞこないがぁぁぁぁ!」

 

「ぐおっ」

 

更に追撃を試みるがターレスの頭突きでカウンターされる。それでは終わらず右足の蹴りが彩人の腹部に命中し吹き飛ばされる。ターレスはそれを追跡し右手で彩人を殴り飛ばす。視界から外れたのをいいことに空中で一回転して地面に向かって叩き落し地面にぶつかる瞬間に背中を蹴りあげ、腹を殴り落とす。

 

「はぁッ!」

 

「ぐう、ごぉっ・・・がっ・・・!」

 

「はぁッ!はぁッ!はぁッ!はぁッ!」

 

倒れこんだ彩人に無数の気弾を撃ち込む。その時、外の騒がしさに様子を見に来てしまった町の人に見つかってしまう。

 

「・・・ひえっ!?」

 

「……なんだ貴様、殺されたいか・・・・ごぉ!?」

 

ターレスが町の人を手にかけようとするが彩人に投げ飛ばされる。

 

「た、助かった・・・・あ、あんた・・大丈夫か?」

 

「俺は、平気だ・・・」

 

「で、でもボロボロ・・・って飛んだ!?」

 

ターレスの討伐が優先といえど町に被害を出すわけにはいかないのでターレスを町から引き離す。

 

「情けない奴だ・・・その力が泣くぞ」

 

「んだと・・・」

 

その姿を見ていたターレスは呆れた表情を浮かべた。どうやら彩人が町の人を庇ったのが気に入らないらしい。

 

「サイヤ人はサイヤ人に相応しい生き方をしろ!」

 

「どう生きようと俺の勝手だ!」

 

ターレスと彩人は再びぶつかりあう。が、突如ターレスの様子に変化が。

 

「ぐぅ・・・・ぐぅおお・・・・」

 

「!?・・・まさか!」

 

彩人がターレスの見ている方向には、太陽ではなく"パワーボール"が浮かんでいた。ターレスは迷宮に入る前にクラッシャー軍団と別れ、パワーボールを打ち上げておき魔人族の罠が仕掛けられた神精樹の実とは別の実を隠しながら迷宮を下り、ついでに騎士団を襲撃したのだ。

彩人はすぐさまパワーボールを破壊するもターレスは、大猿の姿に変わった。

 

ガゥガガァァァァアアアアーーーー!!

 

「くそ、こうなったらとっとと尻尾を切り落とすしか・・・グゥっ!?」

 

彩人はターレスの背後に回って尻尾を切り落とそうとするが、尻尾に弾き飛ばされてしまう。

 

『ククク・・・いつまでもただの猿になるとでも思っていたのか?』

 

「!?理性が保てるのか!」

 

『大猿になったサイヤ人は戦闘力が10倍・・・分かるはずだ・・・』

 

「・・・!」

 

『貴様が中々出来る奴だからな、こちらも全力で行くぞ・・・?』

 

「クッ!!」

 

大猿の巨体が彩人に迫る。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「な・・・なんだ、アレ」

 

大猿ターレスを見た遠藤が震えながらつぶやく。クラスメイト達は勿論、メルドやハジメ達もホルアドの町の外で暴れまわる巨大な怪物に戦慄していた。その中で、ミレディがつぶやく。

 

「"大猿"・・・サイヤ人の変身の一つ・・・」

 

「大猿って・・・ミレディ、知ってるの?」

 

「ええ。ヤモシが言ってたわ。"サイヤ人は月の波長(ブルーツ波)で巨大な猿に変身できる"って・・・でもどうしてまだ昼過ぎなのに・・・」

 

「・・・あ、前、彩人が言ってたよ!パワーボールって言うのを使えば疑似的な月を作れるって!」

 

鈴の言葉で変身した理由は分かったが、ミレディは腑に落ちない顔をしている。

 

「・・・でも、大猿になってるのに理知的な戦いをしてる・・・。ほとんどは理性を失って暴れるだけなのに」

 

「彩人くんは勝てますよね!?」

 

「…ん、でもきつそう」

 

戦いを見ていたユエが焦りを含んだ顔で告げる。恵里が真っ青になる。

 

「嘘・・・・」

 

「今のままじゃかなりきついね。巨体のパワーと見かけ以上のスピードだ・・・」

 

「弱点とかはないのかしら・・・」

 

「・・・確か、尻尾を切れば元の姿に戻るけど…下手に近づくのはかえって危険ね」

 

心配そうに彩人の戦いを見守るハジメ達。町への被害を防ぐため、イクス、香織、鈴を中心に魔法を使える者が協力して強力な障壁を張っているが時折ターレスが放つ口からのレーザーのダメージが凄まじい。・・・ちなみに天乃河は「勇者の俺が倒す!」とか言っていたが、坂上と永山の死にに行く気か!と怒鳴られ、メルドの指示で障壁強化に参加している。

 

「ハジメお姉ちゃん!ユエお姉ちゃん!!」

 

「こ、これ!離れるでないミュウ!・・・・おお、そなたらか」

 

「…ミュウ?」

 

「ティオ!」

 

そこにミュウとティオが走ってきた。ミュウは大猿を見ると驚いて泣きそうになってしまったため、ティオがあやす。ユエがティオに現状を説明した。ティオ曰く、怪物の出現でミュウをかくまっていたが勇者一行の帰還を聞いて彩人達が戻ってきたと感ずいたミュウがここまで来てしまったのだとか。

 

「…障壁の手伝いを」

 

「うむ、助力させてもらおうぞ」

 

「ユエお姉ちゃん!パパは?パパはどこなの?」

 

ティオも障壁展開に参加するとミュウが彩人を探してきょろきょろする。

 

「…ミュウ、パパは今戦ってる。だから待ってて」

 

「パパが!?パパーーー!!負けないでなのーー!!」

 

「「「「パパぁ!?」」」」

 

ミュウが彩人の居る方向に叫んだのを聞いたヒロインズが動揺する。

 

「ど、どういう事なのハジメちゃん!彩人くん、誰を孕ませたの!?せっかく皆でお祝いしようと思ったのに!!」

 

「お、落ち着いて香織ちゃん・・・」

 

「落ち着きなさい、香織。この数か月であそこまで育つわけないじゃない…」

 

「そ、そっか・・・そうだよね・・・あはは」

 

「…既成事実」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ククク・・・今から焦土と化すあの町のど真ん中に、お前の墓を建ててやる』

 

「な・・・!」

 

『同じサイヤ人として生まれたオレからのせめてもの贈り物だ・・・』

 

ターレスが口に全エネルギーを集中させる。彩人は気を溜めて迎え撃つ体勢に入る。

 

「来い!」

 

『・・・町を庇うとはな。サイヤ人の面汚しめ・・・ここで死ねえええええええ!!!!』

 

「う・・・・・ぐ・・・・・・ぐああああああああ!!!」

 

大猿ターレスの放った超魔口砲が彩人を巻き込みホルアドに一直線に飛んでいく。彩人は全力で押すがスピードは落ちない。そして障壁にぶつかる寸前、突如大爆発が起こった。その勢いは常軌を逸しており、まだ耐久力のあった障壁が粉々になったが直撃はしなかったため町は奇跡的に無事だった。・・・が、

 

「彩人くぅぅぅぅぅぅぅん!!!!!!」

 

香織の悲痛な叫びが響く。クラスメイト達も絶望に満ちた表情を浮かべる。

 

『フン、所詮は下級戦士・・・無様なもんだ』

 

ターレスが勝ち誇ったように言う・・・だが。

 

「…!ハジメ…!」

 

「・・・・!」

 

その中でユエとハジメだけは何かに気づき、頬を緩める。と次の瞬間煙が一瞬で払われ、一人の人物が。

 

『・・・何!?な、なんだ・・・その姿は!』

 

その人物は、黄金の光を纏って現れた。

 

「…オレか?オレは・・・(スーパー)サイヤ人、轟彩人だ!!




まだ決着ではないぞ。もうちっとだけ続くんじゃ。


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戦士降臨

文才なんて無いぞぉ!

あ~う☆


(スーパー)サイヤ人・・!?バカな、それは伝説上の存在のはず・・・』

 

「現実だ。そしてキサマは負ける・・・今ここで!」

 

『・・!?(は、早い!)』

 

超サイヤ人は戦闘力が50倍になる。パワーもスピードも、変身前の比にならない。しかも、理性を保っているためある程度拮抗していても大猿はパワー系の変身。対応する間もなく頬を殴り飛ばされる。あまりの速さにターレスは混乱を極めるが彩人がそれを見逃すはずもなくかかと落としを脳天に見舞う。痛みのあまり頭を抱えて叫ぶが、それで隙だらけの腹部を晒し、蹴りを入れられる。巨大な大猿があおむけで倒れこみ、その衝撃で大地が揺れる。

 

腹部の痛みに耐えながらなんとか起き上がろうとするが彩人の追撃がそれを阻む。再び腹部に高速で降下し、腹部のダメージのあまりターレスはゲホゲホとせき込み、唾を吐き散らす。流石にキレたターレスは口からレーザーを吐いて彩人をけん制し無理やり立ち上がり目の前で浮遊する彩人を視界に捉える。

 

『今のは効いたぞ・・・。だが実に勿体ない。それだけの力があって何故あんなモノを守る』

 

「・・・」

 

『宇宙を気ままに流離って好きな星をぶっ壊し、美味い物を食い旨い酒に酔う・・・こんな楽しい生活は無いぞ?』

 

「壊すだけじゃ・・・渇くだけだ」

 

『言ったろう、それがサイヤ人だ。こんな風にな!』

 

「キサマ・・・!」

 

するとターレスはホルアドの町に向けて攻撃を始めた。魔口砲や気弾、気功波を撃ち込む。彩人は瞬間移動で弾いたり無効化していくが、ターレスはホルアドに接近しながら広範囲を攻撃する。

 

『ハハハハハ!どうした、その程度か?超サイヤ人よ!!』

 

「この・・・下種野郎が・・・・!」

 

『ゴブッ!?き、貴様・・・それはヤードラットの・・・』

 

彩人は瞬間移動を駆使して大猿の顔面を殴り飛ばし、攻撃を封じる。今尻尾を狙えばまた町に魔口砲を撃たれる可能性があるからだ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「嘘だろ・・・轟のやつ、あんなバケモノを圧倒してやがる・・・」

 

「ああ・・・。だがあの変化意外とカッコいいな・・・」

 

彩人の強さにこうべを垂れる遠藤と坂上がそれぞれ感想を述べる。その後ろでも呆然とするクラスメイトと、檜山と同じ目にあわされるのではないかと完全に怯え切っている近藤、斎藤、中野の小悪党組。信じられないモノでも見るかのような天乃河。

 

ヒロインズはもちろん、ユエとハジメしか知らない彩人の超サイヤ人の姿に驚きを隠せないシア達。ヒロインズはハジメから、シア達はユエから説明された。ヒロインズはサイヤ人の事を知っていたので混乱はせず、ヴァルキュリア達は主の事、として全て受け入れた。シアはやや混乱していたが。

 

「パパ、キラキラで凄いの!カッコいいの~!」

 

「……そうじゃな」

 

「ふぇ?ティオお姉ちゃんどうしたの?どこかいたいの?泣いてるの」

 

「いや・・・そうではない」

 

ティオは、かつてその"サイヤ人"の存在について聞いたことがあった。強き力を持ちながら正しい心を持ち悪神に立ち向かった誇り高き戦士だと。神の正体に気づいていた一部の竜人族にとってはそれこそ救世主のような存在であった。その戦士が目の前に居ることに感動していたのだ。それが、利用しようとしていた事を知ってもなお自身を受け入れてくれた存在がそうなのだからティオは彩人に深く感謝した。

 

「あはは・・・また見れるなんて思わなかったよ。ヤモシ・・・」

 

ヤモシを知るミレディもまた、感動の涙を流していた。神の悪意に立ち向かい、自分たちでも敵わない相手をねじ伏せるだけの力を持ちながら共にエヒトに立ち向かい極悪のレッテルを張られながらも自分を含めた〝解放者〟を守るためにたった一人で立ち向かい、散っていった・・・そんな戦士が再び現れたのだから。

 

「オーくん、みんな・・・もしかしたら・・・今度は出来るかもね・・・」

 

ミレディはターレスもサイヤ人であると聞いたとき、ヤモシの言葉の意味を察していた。そして、彩人がターレスのようになるのではないかと心配していた。だが、己の身を削って町を守りながら大猿に立ち向かう彩人を見彼なら出来るかも、と希望を見出していた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ハァ・・・ハァ・・・・』

 

「・・・そろそろ限界じゃないのか・・・?」

 

『フン、それは貴様もだろう?』

 

格闘戦では彩人が圧倒的に有利だがターレス不意を突いて町を攻撃してくるためそれを庇う彩人にもダメージが蓄積してきている。せめて大猿化を解除できれば・・・と彩人が考えていると、

 

『…彩人、聞こえる?』

 

「・・・ユエ、どうした?」

 

『私達も手伝いたい。何か出来ること…ある?』

 

「・・・!、まぁ、ターレスの尻尾を切ることが出来れば御の字なんだが・・・また障壁を張れるか?」

 

『…ん、でもさっきの爆発に耐えられるかは分からない』

 

「・・・そうか」

 

『でも、手伝いたいって皆が…香織達が言ってる』

 

「え・・・は!?いつの間に」

 

『…"同志"だから(ドヤァ)』

 

「・・・色々ツッコミどころはあるが・・・ホントに出来るのか?下手すれば死ぬぞ・・・?犠牲者は出したくねえ」

 

『…ん、出来る。いや、やって見せる

 

「心強いな・・・それじゃ、皆に・・・」

 

彩人は申し訳ないとは思いつつも仲間に力添えしてもらうことにした。彩人がターレスを引き付けている間にゼータがターレスの尻尾を切るというシンプルなものだが、一応障壁を張っているとはいえ下手な真似は出来ない。スカウターが無いのが救いとなり、彩人はゼータの接近を感じているがターレスは気づいていない。

 

『(貰ったぞ!)』

 

『ハッ!!』

 

『・・・な!?』

 

しかし、振るった剣は空振りした。寸前でターレスがジャンプしたからだ。

 

『フフフ・・・残念だったな。だが今のはヒヤヒヤしたがな・・・まぁとりあえず貴様も・・・死ん・・』

 

ズバァッ

 

ターレスが勝ち誇った顔をした瞬間、大猿の尻尾が断ち切られた。

 

「八重樫流刀術・・・〝水月・漣〟」

 

『な・・・ッも、もう一匹いただと・・・!おのれぇぇぇぇ!よくもこのオレの尻尾をぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

『見事だ、雫様』

 

「ううん、ゼータが気を引いてくれたおかげよ」

 

『さ、作戦だったのか・・・あ・・・・あ・・・・・・・』

 

「・・・二人共、助かった。ありがとう」

 

『いや、マスターの命に答えるのは我の使命』

 

「どういたしまして♪」

 

半ば申し訳なさそうにしながら彩人は二人に感謝した。一方でターレスは元の姿に戻ったが、大猿の反動と彩人から受けたダメージで少しも動けないようだ。

 

「く、クソ・・・・このオレがこんなやつらに・・・!」

 

「終わりだ、ターレス!」

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・ウワァァァァァァァァ!!!」

 

彩人のエネルギー波がターレスを消し炭にする。すると彩人は超サイヤ人を解除し、その場にへたり込む。

 

「彩人!」

 

『マスター…!』

 

慌ててゼータと雫が彩人に駆け寄るが、彩人は心底疲れ切った顔をしながらも笑みを浮かべ、「勝った・・・でもづがれだ」とつぶやく。

 

「まったく・・・彩人ったら」

 

『マスター、町へ戻ろう』

 

「・・・そうだな」

 

二人に肩を貸してもらいながら町へと戻ると、障壁を張って魔力を消費してへばっている魔法組が出迎えてくれた。

 

「彩人…お疲れ様」

 

「彩人君が勝つって信じてたよ」

 

「わ、私もですぅ!」

 

ユエ、ハジメ、シアが真っ先に彩人に気づき、彩人に抱き着く。彩人は三人を優しく受け入れる。ゼータと雫が協力してくれたからと付け加えながらも彩人は嬉しそうだった。

 

「イクス、アクセル、ミレディ・・・と、ティオも居たか。ありがとな、町を守ってくれて」

 

『マスター…!お褒めに預かり至高の極みにございます』

 

『マスターの役に立てたなら・・・それでいい』

 

「へへっ、この天才ミレディちゃんにかかればこんなもんよ!」

 

「本当に…凄いお方じゃ・・・主様」

 

四人にはもちろん、他の協力者にも感謝の言葉をのべていると、彩人に飛びつく小さな影。

 

「パパー!!」

 

「うおっ、・・・ミュウか。ごめんな、待たせて」

 

「みゃう!キラキラのパパ凄いの!かっこよかったの~!」

 

甘えるようにくっつくミュウの頭を撫でる彩人は笑顔だった。するとその後ろから声が。

 

「彩人くん・・・」

 

「香織・・・?」

 

香織が涙を流しながら彩人に近づく。

 

「ありがとう。メルドさんを・・・私達を助けてくれて。・・・・生きててくれて・・・ありがとう。・・・あの時助けることが出来なくて・・・・ごめんなさい」

 

「ああ。だが俺は生きてる。だからもう泣くな。お前は笑ってる方があってるから、な?」

 

「彩人くん・・・彩人くーーん!!」

 

いつの間にかユエがミュウを、ハジメがシアを彩人から離しており彩人の胸で泣く香織を、彩人は優しく抱き返す。

 

「鈴も、恵里も、もちろん雫もな。待たせて悪かった(・・・・・・・・)

 

「「「・・・!」」」

 

その後ろでソワソワしていた鈴と恵里、少し離れた位置に居た雫にも声をかける。

 

「本当に遅いよぉぉぉぉぉ!!!でも会えてよかったぁぁぁぁ!!」

 

「彩人君・・・!やっと会えた・・・!」

 

「私からも言わせて頂戴。生きていてくれて、ありがとう」

 

鈴は大泣きし、恵里も嗚咽を漏らしており、雫は香織と同じく目に涙を浮かべながら彩人に感謝する。

温かい雰囲気の中、やはり水を差すのは一人。

 

「……ふぅ、香織も雫も、鈴も恵里も本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、轟は無抵抗の相手と檜山を殺したんだ。話し合う必要がある。もうそれくらいにして、轟から離れた方がいい」

 

非難と・・・わずかな嫉妬を交えた瞳で天乃河光輝は彩人を睨みつけた。




天乃河、一体どうしたというのだ?まさか、ご都合主義。

ご都合主義によって常識の壁を乗り越え始めてしまったというのか・・・

もしそうだとしたら・・・何もかもおしまいだァ・・・

(迫りくるムスコ)


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ヘハハ!雑魚が宣戦布告したとて勝つことは出来ぬゥ!

サイヤ人が悪なんでこいつはどうあがいてもご都合主義を爆発させるだけなんだよな・・・


KICHIGAIですぢゃ、うわへへ☆



追記:仮面ライダーWの名言を無くしました。こいつに使う価値無いわ。


「・・・どうしてそんな事言うの?彩人くんは私達を助けてくれたんだよ?」

 

香織は彩人から名残惜しそうに離れると天乃河に質問する。が、

 

「だが、轟は檜山を焼殺し、あのサイヤ人も殺害した。これは許されることじゃない」

 

「だったら何よ、あの時香織は檜山の襲われたのよ!?しかも今さっきまであのサイヤ人はこの町ごと私達を消そうとしていたじゃない!それでも見逃せと言うの!?」

 

「うっ・・・だがそれでも人殺しじゃないか!」

 

今度は雫が詰め寄るも天乃河は退かない。そこで彩人が割り込む。

 

「天乃河、君は勘違いをしているようだから言わせてもらう」

 

「勘違い…?俺は人として当然のことを言ってるだけだ」

 

「とぼけるな。君は人を殺したことに怒ってるんじゃない、見たくない"人の死"を見せられた事が不快なだけなんだろ?明確な敵を殺すなとは言えないから無抵抗の、と付け加えて論点をずらした・・・。しかもそれが正しいと勘違いしている。そして最も悪いのは・・・・君にその自覚がない事だ」

 

「で、でたらめを言うな!お前が人殺しなのは変わらないだろう!」

 

「言ったはずだ、ここは戦場。殺すか殺されるかのな。俺は敵に一切の容赦はしない」

 

「人殺し・・・だぞ・・・?悪いに決まってるじゃないか」

 

「人には人の考えがある以上、俺の考えを押し付けるつもりはない。だが敵対するならば、覚悟してもらうぞ

 

「なっ・・・」

 

「ついでに言っておくが、俺は君たちの仲間(道具)じゃない。俺には俺のやるべきことがあるんだ」

 

彩人が殺気立てて言ったものの、納得できない天乃河は何かを言い出そうとするが、ユエの冷たい一言が。

 

「……あの時も今も、戦っていたのは彩人。恐怖に負けて逃げ出した負け犬にとやかくいう資格はない」

 

「なっ、俺は逃げてなんて……」

 

天乃河がユエに反論しようとするのを止める声が響く。

 

「よせ、光輝」

 

「メルドさん!」

 

メルド団長だ。

 

「彩人・・・ゼータさんからある程度の事は聞いている・・・。貴重な薬を使わせてしまったようだな。あの時助けると言っておきながら何もできず・・・済まない」

 

「・・・いえ、メルド団長のおかげで俺は戦闘の基礎を思い出せましたし・・・」

 

「そして・・・光輝たちにも済まない事をした。本当に申し訳ない」

 

「メ、メルドさん? どうして、メルドさんが謝るんだ?」

 

「当然だ。俺は教育係として・・・戦う上で"人を殺す覚悟"を教えなかった。本来は時期を見て賊をけしかけるなりして人を殺す訓練を行おうとしていた。魔人族と戦うならば絶対に避けて通れないからな。だが、一緒に過ごすうちに情が芽生え、お前たちにそんな思いをさせていいのかと迷った結果がこれだ。俺の落ち度だ・・・」

 

「そん、な・・・」

 

流石にこれはショックだったのか、固まる天乃河。

 

「・・・話は終わりか?ならそろそろ行かせてもらう。流石にクタクタd…「待って」」

 

膝をついて動かなくなった天乃河を見て、さっさと退散し(休み)たい彩人は立ち去ろうとするが、引き留めるのは香織。

 

「香織・・・どうした」

 

「私、彩人くんについていきたい。……ううん、絶対、付いて行くから、よろしくね?」

 

「・・・・それが香織の意志なら俺は拒まないがあえて聞こう…何故?」

 

「それは勿論…貴方が、好きだから」

 

まっすぐな瞳で香織が告白する。「当然、異性として・・・ね?」と付け加えた。すると、後から鈴、恵里、雫もきて、

 

「だったらす・・・ううん、私も!彩人が大好きだからついていくよ!」

 

「わ・・・僕も彩人君が好き。どこまでも一緒がいい」

 

「私も好きよ、彩人。私も連れて行って欲しい」

 

「・・・、それが皆の意志なんだな?」

 

「うん!」

 

「当然。・・・てかもうあの勇者と一緒なのは嫌だ」

 

「当たり前じゃない。そのために努力してきたんだもの」

 

やっと胸のつかえが降りたと言わんばかりの良い笑顔で告白ラッシュ。

 

「ユエちゃん、これからよろしくね。そしてようこそ、"同志"」

 

「…ん、こちらこそ、香織。そして、"同志"」

 

その後ろで握手する香織とユエだが、二人の背後にいる般若と龍の霊も握手していた。

 

「…主様、妾の目がおかしいのかのぅ?二人の後ろに何か見えるのじゃ」

 

「・・・諦めろ、これが正常だ」

 

「パパぁ~! お姉ちゃん達こわいのぉ」

 

「ホントに君、何で刺されないのか不思議だよ・・・・」

 

戦慄するティオとミレディ、怖がるミュウをあやしながら、遠い目で二人を見る彩人。

その後ろでシアが「ユエさんのように!」と言いながら霊を出す練習をしていたが気のせいだと思いたい。そこでやっと我に返った()が口を挟んでくる。

 

「ま、待て! 待ってくれ! 意味がわからない。香織が轟を好き?鈴が轟を好き?恵里が轟を好き?雫が轟を好き? 付いていく? えっ? どういう事なんだ? なんで、いきなりそんな話しになる? 轟! お前、いったい香織達に何をしたんだ!…そうか、さっきの変身で何かしたんだろう!皆を開放しろ!」

 

「・・・は?」

 

なぜそうなると言いたげな彩人に聖剣を抜きそうになりながら彩人に詰め寄る天乃河。ヴァルキュリア達が臨戦態勢に入ったのでテレパシーで命令して抑えるが、殺気マシマシで天乃河を睨みつけている。

 

「光輝・・・いえ、天乃河さん(・・・・・)彩人がそんなことする訳ありませんよ。気づいて・・・いえ、気づきたくなかったんでしょうけど私達はずっと前から彼を想っています。それこそ、日本にいるときから。どうして私達があんなに頻繁に話しかけていたと思うんですか?」

 

「光輝くん、みんなごめんね。勝手だとわかってるけど…私達…どうしても彩人くんと行きたいの。だから、パーティーは抜ける。本当にごめんなさい」

 

「私も…迷惑かけちゃうけどごめん!それでも私は彩人とがいいの!」

 

「もうこれ以上あのヘボ勇者と一緒に居たくないから僕も抜けるね」

 

恵里が辛辣だった・・・。ほんとに何があったんだか。

 

「嘘だろ…?だって…雫も、香織も、鈴も、恵里も…俺の幼馴染で…今までずっと一緒で…これからも…同じで…俺と一緒にいるのが普通で…そうだろ…?」

 

「は?僕は君を一度も幼馴染と思ったことなんてないよ、この偽善者。それとなれなれしく僕の事を名前で呼ばないでよ」

 

「えっと……光輝くん。確かに私達は幼馴染だけど……だからってずっと一緒にいるわけじゃないよ? それこそ、当然だと思うのだけど……」

 

「私達を自分の所有物か何かと勘違いしていませんか?貴方にどうこう言われる筋合いはありません」

 

「そうだそうだー!勝手に決めるなー!」

 

雫と恵里は勿論、香織と鈴に至っては、言い方は優しいが、顔がめちゃんここわい。どれだけ天乃河がやらかしたのかサッパリワカラナイ・・・

 

「皆。行ってはダメだ。これは、皆のために言っているんだ。見てくれ、あの轟を。女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで……しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪まで付けさせられている。向こうのメイドたちには轟を『マスター』と、黒髪の女性も『主様』って呼んでいた。きっと、そう呼ぶように強制されたんだ。轟は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人だって簡単に殺せるし、ハジメも強力な武器を持っているのに、仲間である俺達に協力しようともしない。皆、あいつに付いて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君達のために俺は君を止めるぞ。絶対に行かせはしないぞ!」

 

支離滅裂な天乃河の言い分にクラスメイトはドン引き、ハジメに至ってはまた気やすく名前を呼ばれた瞬間、無の表情になった。それに飽き足らず天乃河はユエ達にお得意のイケメンフェイスで勧誘し始めた。

 

「君達もだ。これ以上、その男の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう! 君達ほどの実力なら歓迎するよ。共に、人々を救うんだ。シア、だったかな? 安心してくれ。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する。ティオも、もうご主人様なんて呼ばなくていいんだ!イクス、アクセル、ゼータ、だったかな?もうマスターなんて呼ぶ必要なんt・・・・ヒィ!?」

 

『貴様ごときに』

 

『マスターの』

 

『何がお分かりになるというのですか?』

 

天乃河がヴァルキュリア達を勧誘しようと名前を言った瞬間、イクスの魔法で拘束され、ゼータに剣、アクセルに銃を突きつけられる。

いきなり死の恐怖にさらされ、恐怖を覚える天乃河。クラスメイト達はヴァルキュリア達の行動に戦慄していたが、ユエ達はというと、

 

「「「「……」」」」

 

無の表情。ユエとシアはともかく、ティオとミレディに至っては天乃河におぞましさを感じていた。しかも、誰一人として天乃河に殺意を向けるヴァルキュリア達を止めようとしないのがなおさら恐ろしい。

 

『これ以上マスターにトラブルを持ち込むというのなら・・・ここで死ね』

 

ゼータが長剣を振り上げる。その目には一切の容赦も情けもなかった。無慈悲に振り下ろされた長剣が天乃河の首を落とす…その時だった。

 

「…『轟彩人の名において命ずる――〝攻撃するな〝』」

 

『『『・・・・!!!!』』』

 

彩人がそうつぶやくとヴァルキュリア達は動きを止めた。

 

『し、しかしマスター…この男はマスターを…!!』

 

「・・・ゼータ、剣を収めるんだ。殺す理由がない上に"勇者"が死ねば国の大きな損害になる」

 

『『『・・・・・・イエス、マイ、マスター』』』

 

彩人が続けて言うと天乃河を開放した。すると次の瞬間、

 

「轟彩人!俺と決闘しろ! 武器を捨てて素手で勝負だ! 俺が勝ったら、二度と香織には近寄らないでもらう! そして、そこの彼女達も全員解放してもらう!」

 

怒りで顔を真っ赤にしながら聖剣を地面に突き立て、彩人に向かって歩いていく。

 

「何言ってるんだ天乃河!轟はお前を助けようとしたんだぞ!?」

 

「見ていないのか!轟が言った言葉で彼女達は退いた!洗脳している証拠だ!!それに・・・奴はサイヤ人だ!町を救ったのも何かの作戦に違いない!轟彩人・・・!お前を仲間だと思ったのが間違いだった!お前は俺の・・・いや、世界の敵だ!!どうせその洗脳能力で香織達やユエ達も良いように操っているんだろう!?」

 

遠藤の叫びも、"勇者"の天乃河には届かない。あえて素手なのは、ボロボロで超サイヤ人でない彩人なら聖剣なしでも勝てるだろうという油断である。

その発言にハジメたちは勿論、ティオとミレディですら怒りの形相を浮かべた。ヴァルキュリア達がもう一度動こうとする前に天乃河の前に立つ二人の少女。

 

「恵里、雫・・・必ず俺が目を覚ませるから・・・そのためにも轟に勝たなくちゃいけない。だから、どいてくれ」

 

「ううん、僕、目が覚めたよ」

 

「ええ、私も目が覚めたわ」

 

二人は天乃河側から表情が分からないように顔を下げているが、天乃河は自らの過ちに気付いて涙ぐんでると勘違いしており、

 

「そうか!分かってくれて嬉しいよ、直ぐに轟を倒して香織達も助け出してみせ「「あなたに少しでも期待を寄せていた過去の自分が馬鹿だったって事に気付けた」」…へ?」

 

天乃河がすっとんきょうな声をあげた後、

 

「天乃河さん、私はあなたの無責任な行動にうんざりです。私がいじめられた時も中途半端で投げ出してましたもんね、そんな人を少しでも良いと思った私が愚かでした」

 

「な…俺はきちんと注意したぞ!そして、彼女達もちゃんと和解したって……」

 

「いいえ。あなたの見てないところで私へのいじめは続いていました、むしろ酷くなって。ですがあなたは終わったものとして何もしませんでしたよね?そんな人にはもうついていけません」

 

「そんな……待ってくれ!」

 

天乃河は何か弁明しようとしているが言葉が浮かばないのかまごついている。しかし容赦なく恵里のターン。

 

「ねぇ天乃河さん、あなたは僕に“守ってやる“と言ってくれた時僕は凄く嬉しかった。でも、あなたはそれ以降何もしてくれなかった。そんな無責任な人に惚れた僕は大馬鹿者だね」

 

「だ、だが恵里は変われたじゃないか!」

 

「それはあなたがそう思ってるだけ。ってか馴れ馴れしく名前呼びしないでって言ったよね?ああそうか、言われたことをすぐ忘れちゃう頭だからこんなことになってるんだよね、ごめんね~」

 

「う………ぐ…………」

 

無慈悲な恵里と雫の言葉にメンタルボロボロの天乃河。

すると彩人を睨み付け、

 

「轟彩人ぉぉぉぉぉぉ!!!この悪魔がぁぁぁぁぁ!!」

 

少し下がって聖剣を引き抜くと聖剣を振りかぶって襲いかかってきた。

 

「お前のような悪魔は!この俺の手によって!!死ななければならない!俺に…殺されるべきなんだぁぁぁぁ!!」

 

直接的な拒絶すら天乃河には届かず、彩人が二人を陥れ、心にも無いことを言わせていると思い込んでいる。天乃河がジャンプして片膝をついた彩人を真っ二つに切り裂こうとしたその瞬間。

 

バカヤローー!!!!

 

「がああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

突如彩人は超サイヤ人になり、右手のエネルギー波で天乃河を返り討ちにした。




ヴァルキュリアを止めるやつはやりたかった。


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グリューエン大火山危機一髪!?
次なる戦いへの序章曲


原作終了まで!書くのを!辞めない!!(鋼の意志)

ゴミ文章でも大丈夫ですという方、ゆっくりしていってね!


「……」

 

彩人のエネルギー波を受けた天乃河は仰向けになりながら白目を向いて失神している。先ほどまでの天乃河の振る舞いから動揺と恐怖と失望などの感情がぐちゃぐちゃになった顔で残るクラスメイト達がドン引きしている。

そんな彼を神妙な面持ちで担ぎ上げるのは坂上である。

 

「…光輝が済まねえ」

 

「いや、君が謝ることじゃない」

 

彩人はさらりと返すが坂上は失望と信じたい気持ちが織り交ざった複雑な表情をしていた。坂上も天乃河とは幼馴染であり、友でもあるため完全に見捨てきれないようだ。

 

「俺はもう行く。流石にもうここに居たくない」

 

「・・・申し訳ない、轟。戦力が減少するのは痛いが奴らの腐った性根は必ず叩きなおさせる。天乃河のあの振る舞いを見てこっちに来いとは言えぬ」

 

「・・・永山」

 

やっとここから離れられると安堵したのち、さりげなく近藤達がついて来ようとしていたが、恵里が何かを囁くと全速力で帰っていった。恵里曰くこれがohanasiの成果だという。

 

「・・・ヴァルキュリア達、向こうの手伝いをしてほしい」

 

『マスターの命ならば従おう。・・・あの勇者(クズ)と一緒というのが気に喰わんが』

 

「・・・まぁ、アイツの暴走を止めてほしいというのもある。坂上達を信用してないわけじゃないが・・・」

 

『わたくし達のステータスならば瞬時に取り押さえることができましょう』

 

「・・・済まない、迷惑をかけさせるような真似をして」

 

『気にする必要は無い。マスターの役に立てるのなら』

 

「ありがとう・・・お前達。・・・って事だ。この三人を護衛としてそちらに預ける」

 

「轟・・・いいのか?」

 

「・・・まぁ、ヒーラー無しはキツすぎるし…勇者パーティー全滅とか人間族の士気がガタ落ちだ・・・。ただし万が一の時は覚悟してもらうがな」

 

彩人の言葉を聞いて永山が坂上・・・に抱えられてる天乃河を見たのち、

 

「承知した。全力を持って抑えよう」

 

「ああ、頼む。あと、聞く耳を持つかはどうかは分からんが・・・伝えてほしいことがある」

 

「・・・?」

 

彩人が永山にそのことを伝えると永山は大きく動揺したが、彩人の目が本気であると悟ると、黙って肯定の意を示した。そしてハジメが出した魔動四輪にクラスメイト達は驚きつつもハジメに支えられて去っていく彩人を見送った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

魔国ガーランド

 

赤髪の将軍が神妙な面持ちで天を見上げている。その後ろから一人の魔人族の女性が話かけようとした。

 

「…将軍様、人間族の事でお話が・・・」

 

「…済まない、後にしてくれるか」

 

「・・・!!」

 

言葉こそ穏やかだが肩越しに自分を見る目が鋭いものであったため魔人族の女は恐怖で身震いし、「申し訳ございません・・・」と下がった。

 

「フリード様!カトレアが敗れたとは・・・本当なのですか!?」

 

「戻ったか、ミハイル」

 

「はい・・・部下からの報告を受けて・・・」

 

その後ろから割り込むように現れたのはカトレアの恋人であるミハイル。愛する人を失ったという受け入れがたい報告に大きく動揺している。しかし、フリードと呼ばれた将軍は冷徹な表情を崩さず、

 

「事実だ」

 

「そ・・・んな・・・彼女には最強クラスの魔物、"アハトド"が居たというのに!!・・・・・・・・それほどにまで勇者は強いと?」

 

「そうではない、またもや"神敵"とイレギュラーによるものだ」

 

「・・・!!」

 

ミハイルが憎悪と憤怒の表情に染まる。

 

「と言う事は・・・神敵とイレギュラーに・・・」

 

「その可能性は高い。・・・・報告によればターレスが"黄金の戦士"に敗れたらしい」

 

「奴も"神敵"!ターレスがどうなろうと知ったことではありませぬ!」

 

「いずれにせよ、敵は強大だ。早急に新たな神代魔法を手に入れねばならぬ」

 

フリードはミハイルの横を通り抜け、すれ違いに肩に手を置き、離すとそのまま歩いていく。

 

「これより私はグリューエン大火山へ向かう。・・・開戦の時は近い。その時まで牙を研ぎ澄ませておけ」

 

「・・・はっ!カトレアの仇は必ず・・・!」

 

そしてフリードは巨大な扉の前に立ち、大量の魔物を呼びだす。

 

「まだ見ぬ敵よ、この代償は高くつくぞ…異教徒共にこの世界を生きる資格はない」

 

あれよあれよと召喚される魔物を見上げ、フリードはそうつぶやいた。

 

「(・・・あれも神代魔法なのかな?運よくここまで入れたけど…)」

 

部屋の柱に隠れたフューがフリードを監視している。フリードがこの部屋に入った後にターレス達が出てきたという情報からここに潜入したフュー。しばらくするとフリードに近づくフードを被った謎の人物。フューはその人物を探ろうとしていたが・・・

 

「おい」

 

「・・・!?」

 

「そこで何をしている」

 

まさかの人物に呼び止められた。その声でフリードたちにも気づかれてしまい、慌ててフューは脱出する。

 

「ううっ、ここは撤退だ!」

 

「逃がさん!・・・・・・チッ、仕留めそこなったか」

 

「まさか・・・侵入者が居たとは・・・」

 

「フン、魔人族などと聞いてみればネズミ一匹捉えられん無能とはな」

 

「なんだと・・・?」

 

フリードとその人物が小競り合いを起こしかけるがフードの人物が二人の間に立ち、場を収める。

 

「・・・元を言えば貴様がオレを呼び寄せたんだろう、偉そうな口を利くんじゃない!」

 

「貴様は私の魔物よりも強い者を連れてくると言ったが・・・この様ではないか」

 

その人物とフリードの不満も柳に風と言わんばかりにフリードと張り合う人物を推薦するフードの人物。

 

「まあ、あの憎きサル野郎を始末できるのなら何でもいいがな。フリード、オレの邪魔をするなよ」

 

「・・・っ、敵が同じだからといっていい気になるな・・・!クウラ(・・・)

 

宇宙の帝王フリーザの兄ことクウラはフリードと共に火山へと向かうのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

そこから少し時は進み・・・

 

回復した天乃河は勿論彩人を倒しに行くと暴れたが坂上、遠藤、永山らに取り押さえられ、メルドの説教を受けた。納得しきれていない感じだったがヴァルキュリア達たちが黙らせた。天乃河は性懲りもなくヴァルキュリア達を見たときに勧誘を試みてゼータに首を落とされかけたが坂上が辛うじて庇ったおかげで命拾いした。

 

一度王都へ戻り、メルド団長は"人を殺す覚悟"の至らなさを悔やみ、心を鬼にして罪人相手の対人戦闘訓練を行う事にした。

当然天乃河は否定したが、意外にも坂上と永山を中心に多くのクラスメイト達が腹を決めて戦闘訓練に臨んだ。殺さねば殺されるのだから。一部の生徒や近藤達は怯え、天乃河は"殺す"事へのためらいが捨てられず、ここでクラスメイト内で精神的に大きな差が生じることとなる。

 

しかし決意しても人を殺す事は生徒達全員の心に大きなダメージを与えた。雫や鈴が居ないのがかなり大きく、ヴァルキュリア達もメンタルケアはしているが、勘違いする者が出たせいでそれ以降は我関せず状態になった。

そんな中、愛子達が帰還したことである程度精神的余裕が出てきた。愛子はヴァルキュリアの一人であるイクスと再会し、彩人達が戻ってきたと喜んだが、イクスから告げられたのは酷い現実であった。檜山の裏切りと死、ターレス達との戦い、香織達の脱退、天乃河の失態。

その報告は、愛子は大きく心に影を落としてしまった。

 

しかも、彩人とハジメが異端認定されイクスの報告から彩人がサイヤ人であると知ってしまい、彩人達の末路を想像してしまった。生徒を全員無事に還すことが叶わなくなり愛子は悲しんだがそれでも国と教会にそそのかされてまた生徒同士での殺し合いに発展させるわけにはいかないと彩人から告げられたこの世界の真実を話すことにした。・・・しかし

 

「はじめまして、畑山愛子。あなたを迎えに来ました」

 

「えっと、はじめまして。迎えに来たというのは……これから生徒達と夕食なのですが」

 

「いいえ、あなたの行き先は本山です」

 

「えっ?」

 

銀髪、碧眼の容姿端麗な修道女がイクスと別れた愛子の前に立ちふさがり、愛子が抵抗すると・・・

 

「……なるほど。流石は、主を差し置いて〝神〟を名乗るだけはあります。私の〝魅了〟を弾くとは。仕方ありません。物理的に連れて行くことにしましょう」

 

「こ、来ないで! も、求めるはっ……うっ!?」

 

靄のような魔法で愛子を拘束する。

 

「ご安心を。殺しはしません。あなたは優秀な駒です。あのイレギュラー達を排除するのにも役立つかもしれません」

 

愛子は薄れゆく意識の中、脳裏に浮かんだ二人を思いながら意識を手放した。

そして重さを感じさせないように愛子を担いだ修道女が去ろうとすると、

 

『お待ちなさ・・・・!?』

 

「おや、これは懐かしいお方ですね。ミーヌス(・・・・)の姉妹」

 

イクスが駆け付けると修道女は無表情を貫いてイクスに淡々と告げる。

 

『その名はとうの昔に捨てました・・・今のわたくしはイクス』

 

「そうですか。逃げ場所を見つけたようですね。いろいろと聞きたい所ですがまた」

 

『行かせるとで・・・?』

 

「・・・やはり貴女は貴女。真の主には逆らえぬようですね」

 

修道女は倒れこんだイクスを無視し、その場を去った。

 

「……知らせないと……誰かに」

 

それを見てしまった者が走り去る音を最後に、周りは静寂に包まれるのだった。



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グリューエン大砂漠

再追記:書き直しました。

原作崩壊させてる癖に原作寄りに書こうとするからこうなる。

ゴミ文章にクオリティーを求めてはいけない(震え声)


赤銅色の世界・・・もとい砂漠を爆走する魔動四輪。外気温40℃、砂が吹き荒れる中周りの環境など知ったことかと砂を豪快に巻き上げながら魔動四輪は進む。ほぼ変わらぬ景色であるが、車内に設置した方位磁石に沿って進んでいるのでどうってことはない。

 

「……外すっごいなぁ…ここを馬車とかで行きたくないかな……」

 

「全くじゃ。この環境でどうこうなるわけではないが……流石に、積極的に進みたい場所ではないのぉ」

 

後部座席で窓にビシバシぶつかる砂粒を見てミレディとティオがつぶやく。

 

「・・・なんでこんなに集まる必要があるんですか(白目)」

 

最後尾で右腕を鈴、右上半身を恵里、左上半身を香織、左腕を雫に抱かれた彩人が困惑しているが

 

「しばらく会えなかったから君を少しでも感じていたいんだ」

 

「私もすっごく寂しかったんだもん!満足するまでは離さないよ!」

 

「私も彩人くんを感じていたいの…。・・・ダメ?」

 

「あら、好きな人と一緒に居たいと思うのは当然よ?」

 

「・・・」

 

こういう事言うのは反則だと思う。

 

「お~お~モテモテだねえ。そんなんで大丈夫だったのかな~?」

 

ミレディが彩人に抱き着くヒロインズをからかう。

 

「せっかく君の部屋から拝借したブツも香りがしなくなってて欲求不満だったんだ」

 

「そうそう!彩人くんを感じれないと私、おかしくなっちゃうんだよ!?」

 

「・・・・やっぱりあの時俺の衣服持ってったのお前らかよ・・・・・・・」

 

息遣いを荒くする恵里と興奮気味の香織に言われる。

 

「…気持ちは分かる」

 

「私も」

 

「お前ら時々俺の衣服くすねてんの知ってるからな?・・・・あとシアも」

 

「…盲点」

 

「くっ、不覚!」

 

「何故バレたんですか!!?」

 

「いや、何故バレないと思ったし」

 

「「「「ずるい」」」」

 

香織達が言う。鈴と雫まで言ってるのが気になるが・・・。

 

「へ、へぇ~そうなんだぁ。じゃ、ごゆっくり~」

 

ミレディは引きつった顔でミュウを抱っこした。逃げられたようだなぁ・・・

 

「お姉ちゃん達仲良しなの!」

 

「・・・あー、ウン。ソウダネー」

 

仲が良くて嬉しそうなミュウと引きつった表情のミレディ。

 

「ん? なんじゃ、あれは? ハジメ殿。三時方向で何やら騒ぎじゃ」 

 

ふと外を見ていたティオの言葉でハジメがその方向を見ると右手の砂丘の奥に、いわゆるサンドワームと呼ばれるミミズ型の魔物が集まっているのが見えた。

 

このサンドワームは、平均二十メートル、大きいものでは百メートルにもなる大型の魔物だ。この【グリューエン大砂漠】にのみ生息し、普段は地中を潜行していて、獲物が近くを通ると真下から三重構造のずらりと牙が並んだ大口を開けて襲いかかるという。

 

 

一方で近寄らなければ危険性は低いのだがあのサンドワームたちが集まっている所に不幸な獲物が居ることになるが・・・

 

 

 

「…?なんでグルグルまわってるんだろう」

 

 

 

ハジメがポツリとつぶやくがその通りで、囲んでいるサンドワームたちは目の前に獲物があるにも関わらず警戒するように円を描いて回り続けていた。

 

 

 

「まるで、食うべきか食わざるべきか迷っているようじゃのう?」

 

 

 

「・・・好き嫌いとかあるのかな」

 

 

 

「妾の知識にはないのじゃ。奴等は悪食じゃからの、獲物を前にして躊躇うということはないはずじゃが……」 

 

色々と考察するティオ。彼女はユエ以上に長生きな上、ユエと異なり幽閉されていたわけでもないので知識は結構深い。なので、魔物に関する情報などでは頼りになる。 

 

「っ!? 掴まって!」

 

ハジメと彩人の声が重なると同時に魔動四輪が急加速する。その直後に真後ろから四輪の後部にかすりつつ、僅かに車体を浮き上がらせながら砂色の巨体が後方より飛び出してきた。大口を開けたそれはサンドワームだ。

 

その後もハジメがS字を描くように車を進めると避けた所から第二第三のサンドワームが飛び出してくる。

 

「きゃぁあ!」

 

「ひぅ!」

 

「わわわ!」

 

香織、ミュウ、シアの順に悲鳴が上がる。その直後、上半身に抱き着く恵里と香織が彩人の腰に抱き着き直す。緊急事態なのに二人の行動で彩人は逆に冷静になる。

 

「・・・何してんの二人共」

 

「危ないから! 危険が危ないから! しがみついてるの!」

 

「そう・・・これは安全のためなんだよ・・・」

 

「・・・」

 

「「…いいなぁ…」」

 

とか言いながらも表情が緩んでいる二人、両腕の残る二人も何処か顔を赤らめている。サンドワームはハジメが仕込んだロケランで血肉に変わる。教育上良くないとして、ミレディが抱っこしたミュウの視覚をティオが覆う。

 

「あ、あの、彩人くん。ごめんさない。その、つい衝動的に……決してエッチな目的があったわけじゃないの。ただ、ちょっと、抱きついてみたかったというか……」

 

「そうそう、他意はないんだ」

 

「……そして、あわよくば、そのまま彩人を堪能しようと?」

 

「「うん、そうなんだ」」

 

「そこは否定しろよ・・・」

 

「…分かる。でも彩人以外は絶対嫌」

 

「「もちろん!」」

 

最前列のユエと香織達がサムズアップする。左右から雫達も「「貴方だけ・・・だから(ね!)」」とささやいてきた。ついでにシアとハジメまで「「同志…(ですぅ)!」」とドヤ顔している。こんな状況でも四輪内蔵型シュラーゲンでサンドワームを蹴散らしつつ運転しているのだから凄い。

サンドワームを全滅させたのち彩人が二人に言って起き上がらせる。・・・すると香織はハッとして、

 

「ハジメちゃん! あれ!」

 

「……白い人?」

 

香織が何かに気づきハジメに言う。ユエも気づいたらしく、砂嵐で見づらいが白い服を着た人物が倒れていた。彩人が気を探ると先ほどの人物のようだが、

 

 

 

「・・・!」

 

 

 

「どうした主様よ」

 

 

 

「不味いな・・・気が徐々に減っている。このままじゃあの人は死ぬぞ」

 

 

 

真剣な表情でそう告げた彩人の言葉を聞き、香織がハジメの方へ向き直り、

 

 

 

「彩人くん、ハジメちゃん、お願い。あの場所に……私は一応〝治癒師〟だから」

 

 

 

二人は承諾し、付近まで来ると車を止めてうつぶせで倒れたガラベーヤ(エジプト民族衣装)に酷似した衣装を着た人物を仰向けにし、顔を覆うフードを取るとまだ若い二十歳半ばくらいの青年だった。

 

 

 

「! ……これって……」

 

 

 

香織は驚愕する。その青年の容態を見たからだ。苦しそうに歪められた顔には大量の汗が浮かび、呼吸は荒く、脈も早い。服越しでもわかるほど全身から高熱を発している。しかも、まるで内部から強烈な圧力でもかかっているかのように血管が浮き出ており、目や鼻といった粘膜から出血もしている。明らかに尋常な様子ではない。

 

 

 

すかさず〝浸透看破〟を用いて香織は自身のプレートに症状の詳細を映し出す。何かに気づいた様子の香織に彩人が問いかけると香織は自身のステータスプレートを差し出した。

 

そこに書いてあったのは、

 

 

 

====================================

 

 

 

 

 

 

 

状態:魔力の過剰活性 体外への排出不可

 

 

 

 

 

 

 

症状:発熱 意識混濁 全身の疼痛 毛細血管の破裂とそれに伴う出血

 

 

 

 

 

 

 

原因:体内の水分に異常あり 

 

 

 

 

 

 

 

====================================

 

 

 

 

 

「おそらくだけど、何かよくない飲み物を摂取して、それが原因で魔力暴走状態になっているみたい……しかも、外に排出できないから、内側から強制的に活性化・圧迫させられて、肉体が付いてこれてない……このままじゃ、内蔵や血管が破裂しちゃう。出血多量や衰弱死の可能性も……。〝万天〟」

 

 

 

状態異常回復の中級回復魔法を使うが症状こそ緩和しているものの完治には至らない。

 

 

 

「……あまり効果がない……どうして? 浄化しきれないなんて……それほど溶け込んでいるということ?」

 

 

 

青年は呼吸は安定しており出血も収まったがそれ以上は改善しない。香織は一か八かの方法にでた。

 

 

 

「〝廻聖〟」

 

 

 

ドレイン系の上級魔法で強引に魔力を吸い出すという方法だ。青年の体から蛍の光のような輝きが広がり、香織の元へ収束していく様はどこか神々しさを感じる。流れるように無詠唱で上級魔法を使う香織に魔法に精通しているユエとティオが感心し、ミュウはシアに抱えられながら目の前の光景に感動していた。

 

抜き取った魔力は神結晶の指輪に流す。この時またもや「え、プロポーズ?そんな、まだ早いよぉ・・・えへへ」とか言われたが彩人はもう気にしない事にした。

 

 

 

圧迫していた魔力が排出されたことで症状が軽くなったところで止め、初級回復魔法〝天恵〟で身体のダメージを回復させる。魔力は抜きすぎても衰弱死の危険性があるからだ。一応治療は終わったが原因はユエやティオですら分からないという。念の為全員診察するが異常はなかった。伝染しないのか空気感染や接触感染しないだけかは不明ながら青年を休ませる為にハジメが即席の避難場を作る。

 

そこでしばらく青年を休ませていると青年は目を覚ました。

 

「・・・?ここは?」

 

「あ・・・、目が覚めましたか?」

 

「・・・・」

 

香織と目が合ったとたん青年は手で顔を覆った。

 

「どうやら私は天に召されたようだ・・・目の前に女神が居るのだからな」

 

「え?」

 

「…あのー、周りを良く見てくださーい」

 

「うわあっ?!……ここは、現実?」

 

唐突に彩人からの声で現実に引き戻された青年だった。

 

「助けてもらったことに感謝する、本当にありがとう …私の名は、ビィズ・フォウワード・ゼンゲン。アンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ」

 

青年はグリューエン大砂漠最大のオアシスである【アンカジ公国】の領主の息子だった。アンカジはミュウの故郷、エリセンに最も近く、海産物はここを経由して運ばれるらしい。

 

「領主のご子息があんなところで倒れてたという事は、何かあったのでは?」

 

「……」

 

彩人の質問に一瞬口をつぐんだビィズは、反対に彩人達に質問した。

 

「・・・その前に君たちは見た所冒険者のようだ。良ければランクを教えてもらえないだろうか」

 

「"金"だ」

 

「"金"!?」

 

「・・・で、こっちの4人は〝神の使徒〟だ」

 

「これは神の采配か! 我等のために女神を遣わして下さったのか・・・!」

 

香織達の事も伝えるとビィズは祈りを捧げ始めた。

 

「あの・・・ランクを聞いたってことは何かあったと?」

 

「・・・はっ、そうだった・・・」

 

・・・が、我に返ると彩人の前に跪き、

 

「君たち・・・いや、貴殿らに依頼したい。アンカジ公国領主代理としての依頼する・・・、どうか私達を・・・いやアンカジ公国を救って欲しい」

 

そう告げた。




でもめげずに書くのぜ。


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アンカジ公国

ヤンデレ要素が入れにくい・・・

文才ある人、ホントに尊敬します。


国全体の危機であると必死に頼み込んでくるビィズ。次期領主ともあろうお方が頭を下げている以上、かなり追い詰められているのは事実。

 

「ねぇ、助けてあげられないかな…。迷宮攻略が先だとは思うけど・・・」

 

意外にもミレディが言い出す。ウザくても〝解放者〟なのか・・・は分からんが。

 

「パパー。たすけてあげないの?」

 

彩人が答える前にミュウに聞かれる。彩人(達)なら出来ると信じて疑わない純粋な言葉に出鼻をくじかれたが彩人は答える。

 

「もとよりアンカジにミュウを預ける予定だった。幼子を危険に晒すわけにはいかねえだろうし・・・、救える命は救えたほうが良いだろ」

 

シアとティオは、そんなハジメに「ふふ」と笑みをこぼしている。ミレディもどこか安堵した表情を浮かべた。彩人が、ふと傍らに居るユエとハジメ達を見ると、彼女達は……いつも通りだ。彩人が、どんな選択をしても必ず己の全てで力になる。言葉にしなくてもユエ達の気持ちははっきりと伝わった。ビィズも感謝の言葉を述べた。

 

「・・・とりあえずあれに乗って欲しい。話はアンカジに向かいながらでも出来る」

 

「・・・!こ、これは一体・・・」

 

魔動四輪に驚きつつ、室内空間の快適さ、冷たい新鮮な水と、ビィズは驚きっぱなしだったがやがて落ち着くとアンカジに起こった異変の事を話し始めた。

 

四日前、アンカジにてオアシスが汚染され、多くの医療関係者含め、原因不明の高熱を発し倒れる人が続出し、国の危機となった。

 

症状を改善する〝静因石〟はグリューエン大火山で少量採取できる貴重な物でありストックもなくなったためアンカジの領主、ゼンゲン公の代わりにビィズが救援要請しようとしたが自分も感染しており、あそこで倒れたのだとか。

 

「父上や母上、妹も既に感染していて、アンカジにストックしてあった静因石を服用することで何とか持ち直したが、衰弱も激しく、とても王国や近隣の町まで赴くことなど出来そうもなかった。だから、私が救援を呼ぶため、一日前に護衛隊と共にアンカジを出発したのだ。その時、症状は出ていなかったが……感染していたのだろうな。おそらく、発症までには個人差があるのだろう。家族が倒れ、国が混乱し、救援は一刻を争うという状況に……動揺していたようだ。万全を期して静因石を服用しておくべきだった。今、こうしている間にも、アンカジの民は命を落としていっているというのに……情けない!」

 

知らぬうちに話をするビィズの言葉に熱がこもる。よほど人民思いなのだろう。護衛がサンドワームによって全滅したのもあるが・・・。だが、症状が出たおかげでサンドワームが食べるのをためらったのだから不幸中の幸いというべきか。

 

「・・・オアシスがやられてるのなら水源の確保が要るな・・・よし、作るか」

 

「つ、作る!?そんなことが出来るのですか!?」

 

「あー・・・、正確にはそれが可能な人が居る」

 

ビィズは魔動四輪で新鮮な水を運ぼうとしていたが、発症から死まで約2日前後と考えると、アンカジに貯水池を作った方が早い。彩人がユエの方を見ると、

 

「…任せて。でも、彩人にも手伝って欲しい」

 

と、小さくて赤い舌で舌なめずりした。周りの視線が痛いが話を続ける。

 

「・・・そのために広い場所が必要となる。何処か広い場所はありますか」

 

「それなら・・・」

 

そしてアンカジに到着しビィズの案内で砂や敵から守る〝真意の裁断〟と言う名のバリアを抜け、広大な土地のある農業地帯へ到着した。

 

「約500平方mあるはずだが…彩人殿、あまり時間をかけるわけには」

 

「そうはかかりませんよ。・・・ユエ、いけるか?」

 

「ん…でも一度に全部は少し厳しい。だから…彩人、"アレ"お願い」

 

「やっぱりか・・・了解、頼むぜ」

 

彩人は念の為代替案を提示したがユエが拒否したので仕方なく続行する。ハジメ達を安全な場所へ移動させたのち彩人とユエは作業を開始する。

 

「〝壊劫〟」

 

巨大な重力のブロックを落として地面を陥没させ、水を溜める貯水所を作る。ビィズは目が飛び出かけるほど驚愕し、ハジメを除くヒロインズ達も驚きを隠せない。重力のブロックが消えたと同時にふらつくユエを彩人が支えると正面に向かい合うように体勢を整える。

 

「いただきます」

 

首筋を突き出し、ユエに吸血させる。

 

カプッ! チュ~、

 

外見に反して妖艶な雰囲気を纏うユエは吸血時は艶めかしさがより顕著となる。ただ吸うだけでなく喘ぐような声と流れ落ちる血の一滴も逃さないと言わんばかりに彩人の首筋を淫靡な音を立てて舐め回す舌の動きがエロスを引き立てている。しかも心酔する相手だからかユエは恍惚の表情を浮かべている。

あまりに官能的な光景にビィズが前かがみになり、鈴と雫はその光景に顔を真っ赤にしつつも指の間からチラチラ見ており、ハジメ、香織、恵里、シアはうらやましそうに見ており、ティオは扇子で朱に染まった顔を覆いながら「これはなんとまぁ官能的じゃのう・・」とつぶやき、ミレディはミュウの目を塞ぎながらも顔を真っ赤にしてモジモジしていた。

 

〝血力変換〟で魔力の回復(過剰)を終えたユエをやや貧血気味の彩人が離すとユエは名残惜しそうに彩人から離れた。

ハジメが魔動四輪で金属コーティングを施している間にユエが香織達に彩人の血の味の食レポをしていたが彩人は聞いてないふりをした。

・・・舌なめずりの音が聞こえたが知ったことではない。

 

「〝虚波〟」

 

貯水槽に大量の水が流れ、貯水池はものの数十分で完成した。飲み水が確保できた事をビィズの父、アンカジ領主のランズィに報告した。

 

「かたじけない・・・!これで新たな感染者はでないだろう。・・・もしやあなた方は神の使いか?」

 

「女神と・・・その使いの方だったのですか・・・?」

 

「いいえ、ちがいます」

 

貴重なオアシスの所に案内してもらうためにもランズィと会っておこうというもので、ランズィはすんなりオアシスの所に案内してくれた。途中で香織を医療院に向かわせ、シアもサポートとしてついていかせた。

 

だが、当のオアシスは・・・外見上異変が起きているとは思えないほど綺麗だった。・・・外見上(・・・)は。

 

「(魔物の気・・・)領主さん、ここの調査はどの程度調べました?」

 

「……確か、資料ではオアシスとそこから流れる川、各所井戸の水質調査と地下水脈の調査を行ったようだ。水質は息子から聞いての通り、地下水脈は特に異常は見つからなかった。もっとも、調べられたのは、このオアシスから数十メートルが限度だが。オアシスの底まではまだ手が回っていない」

 

続いてオアシスに漂う黒い物体について聞く。

 

「ではオアシスの底には、何かアーティファクトでも沈めてあるんですか?」

 

「? いや。オアシスの警備と管理に、とあるアーティファクトが使われているが、それは地上に設置してある……結界系のアーティファクトでな、オアシス全体を汚染されるなどありえん事だ。事実、今までオアシスが汚染されたことなど一度もなかったのだ」

 

「・・・そうですか」

 

すると彩人はその黒い物体に気弾を撃ち込む。オアシスで小規模の爆発が起こり、水柱が上がる。・・・と言うより彩人にいい所を見せようとハジメがこっそり魚雷を投げ込もうとしていたので先手を打った。

するとオアシスから全高10m程のスライムのような物体が出現する。

 

「なんだ……この魔物は一体何なんだ? バチェラム……なのか?」

 

バチェラムとはこの世界におけるスライムの名称である。

 

「多分こいつが原因でしょうね」

 

「……確かに、そう考えるのが妥当か。だが倒せるのか?」

 

スライムが怒りに任せて無数の触手を伸ばしてくるがユエ、恵里、ティオの氷、炎魔法で砕かれたり蒸発されたり、雫に切られたりハジメに打ち抜かれたりされ、それでも突破した触手はミレディの重力球に吸い込まれたり鈴が完全に防ぎ、ランズィ達を守った。

 

「ええ、全部吹き飛ばせば関係ないっスから」

 

魔石を体中に縦横無尽に動かしていたが、彩人の気功波で跡形もなく蒸発、消滅した。

 

「……終わったのかね?」

 

「ええ。汚染が治ったかはどうかは別物ですが」

 

ランズィたちは国の危機を招いた元凶があっさり倒されたことが信じられなかったが、彩人達の戦闘能力の方が異常なのと目の前で消し炭になったのでとりあえず水質の鑑定を部下の一人にやらせる。

 

「……どうだ?」

 

「……いえ、汚染されたままです」

 

「…そうか・・・」

 

「まぁ、そう気を落とすでない。元凶がいなくなった以上、これ以上汚染が進むことはない。新鮮な水は地下水脈からいくらでも湧き出るのじゃから、上手く汚染水を排出してやれば、そう遠くないうちに元のオアシスを取り戻せよう」

 

汚染自体は残ったが、ティオの言葉で奮起するアンカジの民たち。愛国心の強さを実感させる。

ランズィから礼を言われたのちグリューエン大火山に向かうのだが、シアと合流するため医療院に向かい、患者を診ていた香織から容態を聞いたのち

 

「香織、どれぐらい持たせられる」

 

「少なくとも・・・三日。頑張れば四日の間は持つよ。その間、だれも死なせない」

 

「そうか・・・済まないが、頼む。・・・ミュウもここで待っててくれるか」

 

「えぇ~!?またおるすばん?やなの!パパと一緒がいいの!」

 

「香織お姉ちゃんを助けてやってくれ。これはミュウにしかできない事なんだ」

 

彩人と離れたくないミュウは駄々をこねるが彩人から期待されていると知るとミュウはぱあっと顔をほころばせ、

 

「わかったの!」

 

と了承した。

 

「香織…僕たちも行くよ」

 

「カオリン、手伝えなくてゴメン!!」

 

「ごめんなさい、香織」

 

「ううん、気にしないで、恵里ちゃん、鈴ちゃん、雫ちゃん。これは私にしかできない事だから・・・ね?彩人くん」

 

「そうだ・・・。頼む」

 

「・・・ね?だからみんなも大迷宮頑張ってね!・・・彩人くんの力になるためにも」

 

香織の言葉でサムズアップするヒロインズ。

 

「・・・じゃ、行ってくるぜ」

 

「私も頑張るから……無事に帰ってきてね。待ってるから……」

 

「おう、ミュウを頼んだ」

 

「うん……それで、その……キス、ダメかな? いってらっしゃいのキス……みたいな」

 

「・・・は?」

 

その一言でほぼ全員の瞳がキラリと光った。数分後、恍惚とした美少女たちが居たそうな。




でも好きに書きたいんじゃい!!


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グリューエン大火山

応援して下さる皆さま、本当にありがとうございます。




グリューエン大火山。

 

アンカジの北に存在する溶岩円頂丘に近い形をした火山である。

その火山へ行く道は巨大な砂嵐が行く手を阻む。その姿はさながら某天空の城を彷彿とさせる。

 

砂嵐を魔動四輪で突破しそこから襲い来るサンドワームをユエとティオが蹴散らし、火山へたどり着いた。

グリューエン大火山にある迷宮の入口は、頂上にあるとの事だったので、進める所まで四輪で坂道を上がっていく。露出した岩肌は赤黒い色をしており、あちこちから蒸気が噴出していた。活火山であるにも関わらず、一度も噴火したことがないという点も、大迷宮らしい不思議さだ。

 

やがて傾斜がひどく魔動四輪では進めないところに来たのでここからは徒歩で進む。

 

「あっづう・・・」

 

「これは想像以上ね・・・」

 

「・・・熱すぎる」

 

「うわぅ……あ、あついですぅ」

 

「ん~……」

 

「これは・・・砂漠の日照りとは別物だね・・・これはさっさとクリアするに限るよ」

 

「ふむ、妾は、むしろ適温なのじゃが……」

 

外に出た途端に襲い来る熱気にやられるメンバー達。ティオは平気そうだが、冷房が効いた場所からこの熱気はやる気も失せるというもの。

 

「情けないな~この程度の熱さなんて私はへっちゃらだよ~?wwww」

 

「氷魔法使ってるからだろ」

 

「んな!ずるいよミレディちゃん!」

 

氷魔法で自身を冷やして煽るミレディのカラクリを見破る彩人。その魔法の使い方を吐かせようとする鈴達を尻目に、

 

「ふむ…主様、余裕があるように見えるのじゃがそれも"気"によるものかの?」

 

「いや、熱さに耐える修行をしたんだ」

 

「ほう…修行とな」

 

彩人とティオの会話に、周りも集まってくる。内容を知りたがるが、

 

「後悔しないな?」

 

と彩人に告げられ、やや身構える乙女達だが聞くことを選んだ。好きな人の事は全部知りたいらしい。

 

「そうか。あれは、俺がブルックの町に居る時だ・・・」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あら~ん彩人きゅん♥今日もイイオ・ト・コ♥・・・それはそうと、今回は灼熱の訓練よ~!」

 

「灼熱・・・?」

 

「そう。冒険者たるもの灼熱の大地や極寒も世界・・・ありとあらゆる自然に挑まないといけないのよん!まずは、高温に耐える訓練よ!熱を舐めてはだめよん!」

 

「それはそうだな・・・して、どのような訓練を?」

 

「んん~♥積極的なコね♥いいわ、早速いくわよ~ん!!出てらっしゃ~~い!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「はぁ~~~い♥♥」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

「・・・え、漢女軍団の皆様……何故にブーメランパンツ一丁」

 

「そう、今回の訓練はその名も灼熱の漢女の体温円陣形(ニューカマースチームスクラム)!!アタシ達が彩人きゅんを囲むようにスクラムを組むの。彩人きゅんはその熱に耐える訓練よぉ~ん!!」

 

「・・・なるほど。でも囲んだとはいえ温度は……」

 

「ノンノン!漢女を舐めちゃだめよん!スクラムの温度は、あの【グリューエン大火山】のマグマに匹敵すると言われているのよ!!」

 

「これは修行っすね」

 

「そう!彩人きゅんにはとてつもない可能性を感じるの!!強くなって欲しいのよぉ~ん♥」

 

「それで、耐えればいいんスね?」

 

「そう。でも気を付けてぇ~ん、もしスクラムで気絶しちゃったらぁ~ん・・・」

 

「?」

 

お持ち帰り(・・・・・)されちゃうかも♥」

 

「…」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「もうよいのじゃ!気軽に聞いた妾が悪うかった!」

 

「お願いだから止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!オカマが・・・・オカマの山ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「お、落ち着いてよ鈴・・・で、彩人の自主規制はどうなt」

 

「恵里、貴女もおかしくなってるわよ!?」

 

「あ・・・う・・・・あ・・・・・・・・・」

 

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」

 

「」

 

恐怖のあまりティオとミレディが話を遮断し、鈴と恵里が発狂し、シア、ユエ、ハジメがトラウマを刺激された。

 

「・・・だから言ったろうに。実際ほぼ同じだったからビックリだよ。あと、お持ち帰りとか変な事はされてないから」

 

それを聞いてミレディ以外がホッとし、ミレディがそういう問題!?とか言っていたが無視。これはあくまでも修行なのだから。・・・慣れるまで何回かコレやったけど。

しかし、肝が冷えたからか冷静になれた一行はハジメの〝熱源感知〟を駆使して不意に飛び出てくるマグマを避けながら奥に進みつつ〝静因石〟を探すが、

 

「小さいな・・・」

 

「じゃが、これで間違いないぞ、主様」

 

とにかく見つかる物が小さい。入口付近のは既に取られているらしく、人数が多くても欠片ばかりだった。仕方ないので奥へと進むことにした。

 

ハジメの〝鉱物系探査〟で取れるだけの静因石を回収しつつ先に進んでいくと未踏の階に到達する。しかし環境が環境なので7層位だが、火山に相応しいマグマを纏った雄牛の火炎が彩人達を襲うも

 

「〝絶禍〟」

 

ユエの重力球であっさり無効化される。その炎をレーザー状にして打ち返すが、威力を高めたにも関わらず雄牛はピンピンしている。

 

「むぅ……やっぱり、炎系は効かないみたい」

 

「外見が外見だしな・・・・」

 

炎系統を使う恵里が露骨にがっかりしていたが、

 

「彩人さん、ここは私にお任せを!」

 

シアがふんすっ!と鼻を鳴らして前に歩み出る。近くでハジメがサムズアップしている辺り何かあるのだろうが。

 

「・・・任せた」

 

「よっしゃーですぅ! 殺ったるですぅ!」

 

突進してくるマグマ牛にシアはジャンプしつつ縦回転し勢いをつけてマグマ牛の頭部を捉えると、その瞬間直撃した部分を中心にして淡青色の魔力の波紋が広がると同時に凄まじい衝撃波が発生し、マグマ牛の頭部が爆発したと錯覚するほどのパワーでマグマ牛を絶命させる。

 

シアはその勢いに気圧されるもドリュッケンを支点に回転し地面に着地する。

 

「お、おうぅ。ハジメさん、やった本人である私が引くくらいすごい威力ですよ、この新機能」

 

「〝衝撃変換〟・・・侮れない威力だね」

 

あまりの威力にユエ達も感心する。実は彩人が瞬殺したアハトドの肉をハジメがこっそり回収し得た能力である。ステータスの変化はほぼないが新たな固有魔法を手に入れた。

この〝衝撃変換〟を生成魔法で鉱石に付加し、それを新たにドリュッケンに組み込んだのだ。

 

だが、その先もマグマを纏った魔物のオンパレード。火山のマグマを利用できる上に生半可な魔法は通さないためかなり苦戦を強いられた。炎系魔法をメインウエポンとする恵里はもちろん、近距離戦の雫やシアは苦戦していたが、鈴の結界でマグマを遮断することで逃亡や攻撃を防ぐといった方法で彩人達をサポートした。

・・・しかし進めば進むほど厳しくなる熱さが冷静さを奪っていく。

 

「頭が・・・ぼーーっとしてきちゃった・・・」

 

「うう・・・汗が目に・・・」

 

「・・・っ、柄まで熱が伝わってくるわ」

 

「あーもう熱過ぎ!!」

 

「はぁはぁ……暑いですぅ」

 

「……シア、暑いと思うから暑い。流れているのは唯の水……ほら、涼しい、ふふ」

 

「むっ、主様よ! ユエが壊れかけておるのじゃ! 目が虚ろになっておる!」

 

「これ以上は不味いな」

 

「・・・冷房型アーティファクト、もうちょい作っておくべきだったなぁ・・・」

 

仕方ないのでハジメに頼んで即席の避難所をマグマから離れたところの壁の中に作り、〝鉱物分離〟と〝圧縮錬成〟で安全を確保し、ユエに氷塊を出させてクールダウンする。氷に触れた乙女達が溶けていく。

 

「気持ちは分かるけど汗は拭いておいた方がいいと思うのだけど・・・」

 

「あ、タオルならあるよ」

 

雫が言うとハジメが〝宝物庫〟からタオルを取り出し、全員に配る。

 

「主様は、まだ余裕そうじゃの?・・・・やはり修行とやらの成果が」

 

「余裕・・・とは言えねえ。長時間は流石にキツい」

 

「ふむ、主様でも参る程ということは……おそらく、それがこの大迷宮のコンセプトなのじゃろうな」

 

「コンセプト、か・・・言われてみればそうだな・・・」

 

「うむ。主様から色々話を聞いて思ったのじゃが、大迷宮は試練なんじゃろ? 神に挑むための……なら、それぞれに何らかのコンセプトでもあるのかと思ったのじゃよ。例えば、主様が話してくれた【オルクス大迷宮】は、数多の魔物とのバリエーション豊かな戦闘を経て経験を積むこと。【ライセン大迷宮】は、魔法という強力な力を抜きに、あらゆる攻撃への対応力を磨くこと。この【グリューエン大火山】は、暑さによる集中力の阻害と、その状況下での奇襲への対応といったところではないかのぉ?」

 

「試練そのものが解放者達の〝教え〟って事か・・・改めて考えると考えられてるな」

 

「確かにこれが試練って感じ」

 

ティオの見解に彩人が感心する中、ハジメが嬉しそうに言う。

 

「ハジメ殿、何やらうれしそうなのじゃが、何かあったのかのう?」

 

人の悪意が入ってない試練って素晴らしい!

 

…試練らしい試練

 

どこぞのファッキン迷宮も見習って欲しいものですよ

 

「なんで!?もういいじゃん!仲間でしょぉ~!?」

 

「「「それはそれ、これはこれ」」」

 

「…タスケテ」

 

「自業自得だろうに・・・」

 

「ミレディ殿、こればっかりは主様と同意見じゃ」

 

ミレディが顔面蒼白になって彩人にしがみついている。ハジメ達は未だ根に持っているようだ。

それはともかく、彩人とて一人の男。周りに美女や美少女が肌を晒しているのだから熱さで集中力が落ちているのも重なって無意識のうちに首筋、胸元、腹部、太ももといった部位に視線が向いてしまう。慌てて視線を逸らすが手遅れだった。

不意にハジメが彩人の耳元でささやく。

 

「彩人君のス・ケ・ベ♡」

 

「・・・・済まねえ」

 

「ううん、いいんだよ?むしろもっと見ていいよ」

 

「…彩人、綺麗にしてくれる?」

 

「彩人さん、私はいつでもウェルカムです!お好きなだけ触ってください!」

 

「主様、妾も触っても構わぬぞ?」

 

「」

 

ティオはまんざらでもない様子で、他のメンツはウェルカム状態。彩人が固まっていると今度は後ろから、

 

「君がいいなら僕の事も拭いて欲しいな・・・♡多少変な所に触れちゃっても僕は平気だから・・・♡」

 

「彩人・・・私も大丈夫だよ・・・?」

 

「あ、貴方が良いなら・・・私も触って・・・いいのだけれど」

 

「・・・」

 

完全に受け入れ体勢だった。この後彩人が取った選択は・・・ご想像にお任せします。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

アンカジ医療院にて。

 

「・・・・、すみません、少し休憩を・・・」

 

丸一日ぶっ通しで患者対応をしていた香織はふらつきながらも休憩用の部屋に入っていく。

 

「聖女様も流石にお疲れのようだな・・・」

 

「しかし聖女様に頼りっきりではいかん。少しでもお役に・・・」

 

その時だった。

 

はうぅぅぅぅぅぅぅ~~!!彩人くんのシャツ(スーハースーハー)!!!・・・・・♡♡♡はぁーーーーッ生き返るぅぅ・・・♡(スーッハーーーーーーッスーーーーーーーッ)

 

「「」」

 

少しの間をあけて、扉から元気溌剌の香織が出てきた。

 

「さぁ!もうひと踏ん張りですよ、皆さん!!!」

 

作業効率が爆上がりしたそうな。



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最終試練で待つ者達は

あれからクールダウンとリフレッシュ(意味深)を終えて何処かご満悦の乙女達と思考を放棄した彩人。

 

迷宮攻略と静因石探しを並行で行っていた。マグマの流れに違和感を感じたハジメの〝鉱物系探査〟により、静因石がマグマの複雑な流れを生み出していると分かったので明らかにおかしいマグマの流れの近くの岩を調べると、比較的大きい静因石を発見することが出来た。その方法で静因石を回収し、

先へと進んでいくが・・

 

「行き止まり…?」

 

道なき道を進んだ先にあるのはマグマの川。それ以外に道はなく、舞空術でマグマの川の先を探索すると奥へと続く通路になっていた。

 

「・・・この川を下っていくしかないよね」

 

「そんな事出来るの?」

 

「うん、少し待ってて」

 

ハジメの言葉に鈴が心配そうに言うがハジメは岩壁を船の形に改造し〝金剛〟の派生〝付与強化〟により小舟に金剛をかけマグマの川に浮かべる。ユエ達はすぐに飛び乗り、雫達も後から続いて乗りミレディと彩人も乗ってマグマの上を進む。

だが大迷宮のマグマがそうすんなり流れるはずもなくマグマが空中に舞い上がり、重力で沈みかけたがシアが咄嗟に重力魔法〝付与効果〟で小舟の重さを軽減したのでマグマに乗ることができた。〝付与効果〟は、シアが触れているものの重量を、自身の体重と同じように調整出来るというものだ。

 

「シアちゃんナイス!」

 

「ふぃ~まさかこんなところで役に立つとは思いませんでしたぁ・・・」

 

しかしまだ終わりではない。今までゆっくり坂を下るようだった空中マグマの流れる先が無かった・・・のではなく急こう配の下り坂となっていた。

 

「全員振り落とされるなよ!!」

 

彩人の声で全員が身構える。と同時に船はマグマの坂をス〇ラッシュマウ〇テンもビックリな異常な速度で下っていくがシアの重力魔法とティオの風魔法で安定していた。

 

「彩人!上!」

 

雫の声で上を向くとマグマコウモリの大群が集まってきていた。奴らは群れで襲ってくる上にここのはその比ではない。サンドワームを彷彿とさせるマグマコウモリの柱がよく見ると三方向から襲い掛かってくる。

 

「左と後ろは私とユエが!」

 

「ああ、正面は任せろ!シア、ミレディ、ティオ、船の制御を頼む!雫、鈴、恵里は万が一突破してきた奴を!」

 

「はいです!」

 

「うむ、任された」

 

「はいよ!!」

 

「分かったわ」

 

「りょーかい!」

 

「うん!」

 

それと同時にハジメがオルカンを左から迫る柱に向けてぶっぱなし、

 

「〝嵐龍〟」

 

「かめはめ・・・波!」

 

緑色の風の卵から生まれた風の竜がマグマコウモリをまとめて喰らいつくし、蒼き気功波が残りを消火するようにまとめて一網打尽にする。数匹突っ込んできたが鈴に阻まれ、恵里の風魔法で吹き飛ばされ、雫に一刀両断された。

 

「う~む、主様、そしてハジメとユエの殲滅力は、いつ見ても恐ろしいものがあるのぉ」

 

「流石ですぅ」

 

「向かうとこ敵なしって感じ」

 

「全く、敵わないわね」

 

「凄い・・・」

 

「・・・カッコいい」

 

余裕ありきでマグマロードをすすむが突如マグマの川が下りから上りに変わり、何処かの空間へと続く穴から放り出された。

 

「〝来翔〟」

 

ティオが船の落下速度を下げたことで難なく着水する。ライセン大迷宮の最深部よりも広いドーム状の空間。あちこちではマグマロードが暴れまわっている。地獄の釜のような空間に目を引くのは中央の台座の上にある小型のドーム。

 

「……あそこが住処?」

 

ユエが、チラリとマグマドームのある中央の島に視線をやりながら呟く。

 

「あ、私に聞いてもわかんないから答えられないよ?」

 

ミレディが釘を刺してきた。なので舞空術で中央の島を調べることにする。と、

 

ゴォアアアアア!!!

 

「・・・おっと」

 

突如マグマの蛇が飛び出してきた。元から知っている上に至近距離にいるからか魔物の魂と言える魔石の気を感じた彩人はバニッシュ移動で喰らいつこうとしたマグマ蛇を軽くいなす。しかしマグマを纏っているため熱源感知にも気配感知にも引っかからないのは厄介であることに変わりはないのだが。

その後もバニッシュ移動で皆の所に戻る間に彩人が進む先に次々とマグマ蛇が現れるが彩人のスピードには追い付けない。

 

「…彩人、大丈夫?」

 

「ああ。しかしガーディアンが現れたみたいだぞ」

 

ユエが聞いてくると同時に多数のマグマ蛇がマグマの海から浮上する。

 

「やはり、中央の島が終着点のようじゃの。通りたければ我らを倒していけと言わんばかりじゃ」

 

「・・・倒せるのかなぁ」

 

「いや、倒すことは可能だ。・・・はっ!」

 

彩人がマグマ蛇に気弾を撃つとその衝撃で魔石が露出する。・・・が、すぐに元通りになってしまう。

 

「なるほど・・・たぶん、バチュラム系の魔物と同じで、だからマグマを形成するための核、魔石が見えた。マグマを纏ってるときはマグマが邪魔で私の眼帯でも位置を特定出来ないけど……それをぶち壊すしかない」

 

ハジメが言うのと同時に20体のマグマ蛇が一斉に襲い掛かるが、

 

「久しぶりの一撃じゃ! 存分に味わうが良い!」

 

そう言って揃えて前に突き出されたティオの両手の先には、膨大な量の黒色魔力。それが収束し、圧縮されたかと思うといつぞやの暗黒の咆哮(ブレス)が放たれ8体のマグマ蛇を消し炭にする。ハジメですら防御の選択を取らされたブレスの威力はすさまじい。

しかし残った12体がマグマの海に潜ると再び20体のマグマ蛇が出現する。

 

「・・・?、魔石が吹き飛んだ瞬間は確認したのに・・・ 倒すことがクリア条件じゃないのかな?」

 

ハジメが訝しんでいると、シアが中央の島の方を指差し声を張り上げた。

 

「ハジメさん! 見て下さい! 岩壁が光ってますぅ!」

 

「え?」

 

シアの言う通り中央の島の壁にオレンジ色に光る鉱石が8つ。光ってないが同じ鉱石が中央の島を囲むように規則正しく埋め込まれている。

 

「あの間隔と島の大きさを考えると・・・100体くらいか」

 

「……この暑さで、あれを100体相手にする……迷宮のコンセプトにも合ってる」

 

ここにたどり着くまでにも集中力や体力の低下あるいは消耗が激しいのに一番神経を使う試練が最後に立ちはだかる。

そしてこの場に居る全員がやるべきことを理解した瞬間、彩人達は散開し各々の特技でマグマ蛇を迎え撃つ。

 

まずはティオが〝部分竜化〟で背中に翼を生やし風の刃を纏った竜巻で9体目のマグマ蛇を切り刻む。

 

「これで9体目じゃ! 今のところ妾が一歩リードじゃな。主様よ! 妾が一番多く倒したらご褒美を所望するぞ!・・・できれば二人っきりでのう・・・?」

 

なんか二人っきりの所でごにょごにょしたが、言いたいことは伝わった。

 

「なっ! ティオさんだけずるいです! 私も参戦しますよ! 彩人さん、私も勝ったら一晩ですぅ!」

 

次いでシアも参加する。ドリュッケンでマグマ蛇をぶん殴り、先ほどの〝魔衝波〟の衝撃で纏うマグマもろとも魔石を破壊する。空中に漂うシアを別のマグマ蛇が襲うもハジメ特製〝空力〟を付与した靴で攻撃をかわし、ドリュッケンに内蔵された発射口からスラッグ弾をぶっぱなしマグマ蛇を魔石ごと砕く。

 

「それなら私も参加するわ・・・ね!もちろん二人っきりよ」

 

雫も〝空力〟靴で飛翔しながら黒刀を振るいマグマ蛇のマグマの流れを乱し、見えた魔石を確実に切断する。

 

「あ、シズシズずるい!私も彩人と二人っきりぃ~!!」

 

すぐさま鈴が障壁でマグマをやり過ごし障壁を破裂させてマグマを吹き飛ばし破片で魔石を破壊する。

 

「それなら僕は丸一日彩人と一緒に居たいな・・・んふふ・・・♡」

 

恵里は先ほどと同じく風魔法でマグマを乱し、炎魔法で魔石を砕く。魔石自体に耐性は無いらしい。

 

「・・・ま、いっか」

 

「それなら私達もいいよね?さ・い・と・く・ん♡私が勝ったら一日付き合って!」

 

「……ん!私も二人っきりで一日デート」

 

「・・・・ま、がんばれ~」

 

投げやりな彩人が告げるとハジメとユエも参加する。

 

「・・・私もやる」

 

「ミレディ?別に無理しなくても・・・」

 

「いいの!もし勝ったら一日頂戴!分かった!?」

 

「ウィっス」

 

ここから真打ちの登場である。ユエは〝雷龍〟、ハジメはドンナー・シュラーク、ミレディは重力魔法と雷魔法を駆使してマグマ蛇を蹂躙する。・・・てか地獄絵図だった。3分もかからぬ間にものすごい速さで鉱石が順に光っていく。そして最後のマグマ蛇にトドメを刺そうとしたハジメの頭上からエネルギー弾が飛んできたが瞬間移動した彩人が弾き飛ばす。

 

「!?」

 

「・・・上だ」

 

そして、彩人が見上げている先には、いつの間にか開いていた火口、そしてそこから降りてくる三つの影。彩人達の前で浮遊しながら佇んでいるのはクラッシャー軍団のようにスカウターを装着した美形とレスラーのような大男、両生類のような奴。何者かと聞くと、

 

「サウザー!」

 

「ドーレ!」

 

「ネイズ!」

 

「「「我等、クウラ機甲戦隊!!」」」

 

と、三人揃ってポーズを決めた。




かめはめ波はフライパン山の奴のオマージュ(のつもり)


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とびっきりの最強対最強 

戦闘シーンを上手く書ける人が羨ましいです。

ムシケラの自分にはゴミ文章を量産することしか出来ません。

今回は少し長めです。タイトルほど最強対最強してませんがそれでも良ければ。


「クウラ機甲戦隊・・・?」

 

突如現れた三人組にハジメが警戒している。オルクス大迷宮で戦ったクラッシャー軍団と同じ戦闘服を着ているためだ。

 

「ハッ、女とガキばかりじゃねえか…楽勝だな!!」

 

「驕るなよ、ドーレ。奴らの戦闘力はそこそこだが、"魔法"とやらで何をしてくるか分からんぞ」

 

ドーレが拳を鳴らしながら彩人達を見ている隣でサウザーが警告する。

 

「関係ねえよサウザー!ここは火山!オレの故郷と似た環境だ」

 

「ふぅ、暑くてかなわねえ」

 

と、その横の両生類・・・もといネイズ。元々水の惑星出身のネイズにとって最悪の環境だが、機甲戦隊として様々な星々を制圧してきただけあって余裕がありそうなのが強者感をひきだしている。

 

「だらしねえなネイズ」

 

「んだと・・・?ドーレ、てめえ慣れた環境だからって調子に乗るなよ?この単細胞が」

 

「あ”あ”!?なんだとてめえ!」

 

「よせ、喧嘩をしている場合ではないぞ」

 

ドーレとネイズがいがみ合うのをサウザーが仲裁し、改めて彩人達と対峙し三人同時に襲い掛かってくる。

 

「はあっ!」

 

「・・・っ、確実に強くなってる・・・」

 

サウザーがハジメに襲い掛かる。ハジメはドンナー・シュラークで迎え撃つがサウザーの右手は気を纏っており弾丸を弾いて確実に距離を詰めてくる。〝縮地〟をフル活用しているが〝空力〟の上位互換である舞空術に近い飛行方法を使うサウザーにハジメは未だかつてない苦戦を強いられる。かつてオルクスに居たときに彩人に舞空術で追跡された時の感覚でなんとかサウザーと渡り合えているが、接近戦では勝ち目がないとハジメは察していた。そのためサウザーの攻撃範囲に入る直前に、

 

「〝風爪〟!!」

 

「!?・・・それも"魔法"か・・・だがまだまだだな」

 

ドンナーに纏わせた〝風爪〟でサウザーを薙ぎ払うが戦闘服に傷を入れただけに留まった。しかも彩人と同じく気弾攻撃もしてくるため一瞬の油断も許されない。作中でもピッコロと渡り合った実力者である分、少なからずハジメに焦りが生じていた。

 

「ウオオオ!!こんなもんかよォ!!!」

 

「・・・っ、なんというタフさじゃ・・・!」

 

「故郷と同じ環境と言ってましたし・・・これは不味いかもです・・・」

 

ドーレの強さは言う通り故郷惑星クウラNo.256(旧ベッパー星)の環境にある。マグマの中心にある大陸でドーレは育っており厳しい環境で鍛えられた上に宇宙プロレス連盟の元レスラーとしての耐久性が凄まじく、ティオの火炎は通じずドリュッケンの一撃でもダメージ

が通らない。機動力の低いシアは余計に不利な状況でありティオがなんとかサポートしているが熱耐性で苦戦必至。

 

「これならそうです!!?」

 

「ぐぉぉぉおおおおお!!・・・・少しはやるな・・・だがこれで全力なら足りねえぞ」

 

「〝衝撃変換〟と重力魔法付与でも・・・これだけ・・・?」

 

マグマ牛を一撃で葬った〝衝撃変換〟に重力魔法込みで殴り飛ばすがドーレはダメージが少し入っただけでピンピンしていた。

 

「ひゃっハッ!!」

 

「〝絶禍〟」

 

「お、もーらい!」

 

「…!?」

 

残るネイズがユエにかつてピッコロに放った電撃を撃つがユエは軽くその電撃を打ち返す。作中のように感電死するかと思えば逆に吸収し、パワーアップした電撃を撃ってきた。ネイズは体内に発電器官を持っており、それを利用して電撃を放つのだが、今回は充電も可能のようだ。

 

「〝蒼天そ〟・・・きゃあ!」

 

「いくら魔法が強くても使えなきゃ意味ねえよなぁ」

 

当然ミレディのサポートも封じてくる。

 

「貰っt・・・!?」

 

「おっと、あぶねえあぶねえ。でも縮むだけじゃねえんだぞ?」

 

「あっ・・・・・くぅ・・・・」

 

ユエ達に気を盗られたネイズの背後から雫が切りかかるがネイズは亀のように頭を引っ込めて斬撃をかわす。するとネイズの右手が伸びて雫の首を掴む。・・・が、

 

「ごぶが!?」

 

「でも体は縮められないでしょ?」

 

恵里の〝風球〟を腹部に喰らい雫を手放してしまうネイズ。ここから彼女達の反撃が始まる。ネイズが行動できなくなった隙をついてミレディが雫を奪還し安全な所へ。次いでネイズが電撃でミレディ達を狙うが鈴の障壁がそれを阻む。それと同時にティオが暗黒のブレスをドーレに放つ。

 

「血迷ったか!オレに炎は効かねえ!うおおおおおおおお!」

 

「・・・確かに、"炎”は効かぬ・・・じゃがそれ以外でならどうじゃ?」

 

「な・・・・「〝氷嵐刃〟」うぎゃああああああああああ!!!!・・・・・こ、このアマァァァァ!!!」

 

暗黒のブレスを押し返そうとしたことが仇となりミレディが出した真上から降り注ぐ氷柱と風の刃で切り裂かれるドーレ。だが、ドーレはまだ立ち上がり障壁ごとミレディを殺さんと襲い掛かろうとする。が、

 

「〝雷竜〟」

 

「ごぉああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

そんな隙をユエが逃すはずもなく雷の竜がドーレを喰らいつくし、熱に強いドーレが真っ黒こげになってマグマの海へ沈んでいく。

 

「ドーレぇぇぇぇ!貴様よくも!!喰らえぇぇぇ!」

 

「〝絶禍〟」

 

「またその技か!また吸収してやる・・・!?」

 

ドンッ!

 

ドーレが倒されて怒り心頭のネイズがユエ達に電撃を放ち、ユエがそれを打ち返す。ネイズが吸収しようとした瞬間、銃声が一発分(・・・・・・)響く。

 

「おっと、狙われていたか・・・だが一発位あたらねえよ!」

 

ネイズは一発の銃弾を回避する。

 

「ハッは、残念だっt「ネイズ!今すぐその場を離れろ!!」・・・は?サウザー、何を言っt・・・があああああああ!!!!」

 

サウザーの警告も間に合わずネイズは次の瞬間、身体のあちこちに風穴が空いた。ネイズはダメージと今起こっている現実に混乱しているがこれはハジメの神速撃ち(クイックドロウ)と多角撃ち(バウンドショット)の併用である。神速撃ちで一発だけと誤認させ、一発のぞいた複数の弾丸が多角撃ちで別方向から攻撃する。

 

「くっ・・・ならば私一人でも!もう小細工は通用せんぞ!」

 

サウザーは警戒しながらハジメに接近するが、サウザーの敵は一人ではない。

 

「〝爆嵐壁〟」

 

「ぬうっ!?またこんな真似を・・・!うおっ!?」

 

鈴が張った空気の障壁による破裂。サウザーは空間が歪んだのを見てすぐに飛びのいたが、スカウターの反応ですぐ横に回避する。背後に居たのはシア。ドリュッケンが空振りしたシアをサウザーが返す手で攻撃しようとするが、再び数値が激変しその方向を見るとシュラ―ゲンを構えたハジメ。サウザーは首を傾けてシュラ―ゲンの弾丸をやり過ごすが、スカウターに当たってしまいスカウターが破壊される。

 

「お。おのれぇぇ!貴様ら・・・許さんぞ!」

 

徐々に追い詰められていくサウザーは焦りと怒りで冷静さを失っていく。エネルギー波でまとめて消し飛ばそうとする。が、目の前の視界内に居る人数が足りないことに気づく。ふと視線をそらすと自分の頭上に炎の球。

 

「〝炎天〟」

 

「この程度では、私は倒せん!!」

 

恵里が出した火球を溜めていたエネルギー波で迎え撃つ。が、

 

「スーパーミレディキック!!!」

 

「ゴブゥ!?・・・しまっ・・・た・・・」

 

そのわずかな隙をつかれ、ミレディの強烈な蹴りがサウザーに命中し壁を貫通して飛んで行った。

 

「これで終了、かな?」

 

ふいーっと腕で汗をぬぐいながら終わった気になっているミレディ。しかし・・・

 

「いや、まだいるぞ」

 

彩人のその一言と同時に全員にプレッシャーがかかる。

 

「な、なにこれ・・・」

 

「‥‥さっきの奴とは比較にならない」

 

「もしかして、あの人たちの上が居るって事ですか・・・?」

 

「その通りだ」

 

シアの質問に答えたのは火口から降りてきた人物。

 

「とうとう見つけたぞ、サイヤ人のサルめ」

 

「クウラか・・・」

 

「そういう事・・・だ!」

 

クウラは彩人を睨みつけ、彩人が名前を呼ぶとクウラは彩人にとびかかってきた。彩人はクウラの右ストレートを両手でクロスして迎え撃ち防御する。すかさずクウラが蹴りで追撃するが彩人は右ひざで弾き返す。と同時に彩人が両腕を開くとクウラは距離を取る。

 

「『全員、あのドームの中へ。こいつは俺が倒す』」

 

すぐさま彩人はテレパシーで全員に指示を出し、ハジメ達が移動を開始する。が、すぐさまクウラが立ちはだかる。

 

「何処へ行くつもりだ。このオレから逃げられるとでm・・・ぐぅおおおお!?」

 

そんなクウラの左頬を彩人が殴り飛ばし、壁に叩きつけられるクウラ。すぐにハジメ達は〝空力〟で試練クリアのため(最後のマグマ蛇はハジメが倒していた)漆黒の建物の所へ行き先頭のハジメが建物の七大迷宮を示す文様が刻まれている場所に立つとスっと音もなく壁がスライドし、中に入ることが出来た。

 

「逃がすかァ・・・どわっ!?」

 

なおもクウラが建物ごとハジメ達を狙うが彩人の攻撃で妨害される。その隙に全員が建物内に入ることが出来た。

 

「チィ・・・何故貴様はあんなクズ共を庇う!」

 

「あいつらは俺にとって大切な存在なんだよ。手を出そうとした以上、ぶっ飛ばす」

 

「ケッ!貴様らのその仲間意識には反吐が出る!」

 

クウラは苦虫を嚙み潰したような表情で彩人に再び襲い掛かる。殴り合いとなるが彩人がやや優勢となるとクウラは両目から赤いレーザーを放ち、彩人を牽制する。少し視線をずらすだけで一瞬にして多方向を攻撃できるのはやはり脅威だ。負けじと彩人も気功波でクウラを攻撃する。

 

「忌々しいサルだ。・・・だがオレは二度も同じヘマはせん、遊びはここまでだ。まさかこの究極の変身を二回も見せることになるとはな」

 

「・・・!」

 

気功波が直撃し苦々しい表情を浮かべたクウラだったが気を高め、雄たけびをあげると体が一回り大きくなり全体的に肥大化し、頭部から4本の角が後方に伸び、両肩がプロテクターのように張り出し、背中から2本の角が生え、両前腕部からもナイフ状の突起物が生えた。

 

「さぁ、始めようか・・・」

 

最終形態のクウラと彩人が激突する。ターレスとの戦いが子供の遊びに感じるほどの激戦となった。クウラの放つ〝連続デスビーム〟や先ほどの目から放つ怪光線が岩壁を容易く貫通し、拳がぶつかればその衝撃でマグマの海が荒れに荒れ、火山が崩壊するレベルの振動が響く。勿論彩人も気功波で反撃するが、クウラは気功波を容易く突破し彩人を殴り飛ばす。

 

「キエェェェ!!」

 

「・・・!!しまっ「死ねぇ!!」ぐぅ!?」

 

悟空との戦いから学習したのか、クウラはサイコキネシスで彩人の動きを止め確実に攻撃を当てる。彩人は既に超サイヤ人になろうと気を高めているが、クウラの猛攻に押されなかなか気を溜めることが出来ない。壁に叩きつけられた彩人を片手で抑え込むクウラ。

 

「言ったはずだ、同じヘマはせんと。超サイヤ人になる前に貴様を殺す!」

 

「・・・ぐ・・・が・・・・ッ!」

 

彩人は気を溜めるのを止めてクウラの拘束から逃れようとするがクウラの押さえつける力が強く、中々脱出出来ない。自身の優位を感じ取ったクウラはマグマの海に彩人を叩きこむ。

 

「はあっ!!」

 

クウラはそこに追撃のエネルギー波を叩きこむ。マグマが爆発しマグマの海が更に荒れ、火山どころか地層が揺れ、地震が起こった。

 

「トドメだァァァ!!!」

 

マグマと共に打ち上げられた彩人を見つけたクウラはありったけのエネルギー波を放つ。火山の壁に大穴が空く。

 

「つまらん勝利だが・・・忌々しいサイヤ人を葬れた以上、よしとしよう・・・・ん?まさか、あの光は!!?」

 

「まだ終わってねえぞ・・・」

 

「お、おのれぇぇ!!演技だったのか!!」

 

「終わりだ、クウラ!」

 

彩人のやられたフリに騙されクウラは彩人の超サイヤ人化を許してしまう。

 

「彩人君!皆神代魔法もらえたよ!!」

 

次いで建物の中からハジメ達が出てきた。彩人が一瞬気を取られた瞬間、クウラは彩人に気弾を放つ。

 

「し、しまっ・・・・!」

 

「フハハ!こうなった以上関係ない、貴様ら全員ここで死ねぇぇぇぇ!!」

 

気弾を放った直後、クウラは〝スーパーノヴァ〟で巨大なエネルギー球を作り、彩人達に向けて落としてくる。

 

波ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

悟空と同じく気功波でエネルギー球を押し返す。クウラはまた飛ばされそうになるが、太陽に飛ばされまいと後ろ、つまり空を見上げたその時、クウラの視界が真っ白に染まった。

 

「(な、何故アイツが・・・!奴はオレが消し去ったはず・・・!)」

 

白いレーザーを放つ人物を見てクウラは断末魔と共に姿を消した。彩人側にはそれが見えておらずハジメたちはクウラが自滅したと思いクウラのスーパーノヴァを破壊しかけている彩人を見つめていた。

 

「吹き飛べぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

彩人の気功波がスーパーノヴァを破壊した次の瞬間、

 

 

ズドォオオオオオオオオ!!!!

 

 

彩人の頭上より、極光が降り注いだ。



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絶体絶命包囲網

多勢に無勢なのはどっちなんでしょうかねぇ


今回かなり長いです。


「(・・・・今かよ)」

 

彩人がスーパーノヴァを破壊した途端に降り注いできた白い極光。それが目の前に迫った時に彩人はそうつぶやいた。一刹那の直後、凄絶な熱量と衝撃を伴った破壊の嵐が彩人を飲み込んだ。

 

「「彩人(君)!!!!!!!!!!」」

 

一瞬目の前の現実に気が動転し固まっていたシア、ティオ、ミレディ、雫、鈴、恵里だったがユエとハジメの今まで聞いたことのない悲痛な叫び声で正気に戻される。極光が収まると同時にユエとハジメは〝来翔〟で満身創痍の彩人を支え、近くの足場へ彩人をおろす。

今まさにヒュドラの時の悪夢がよみがえってしまった。

 

「彩人!彩人!!」

 

「・・・!やっぱり効きが悪い・・・!!」

 

ユエが必死に呼びかけ、ハジメが神水を飲ませるもやはり治癒の速度が遅い。全身のほとんどが焼けただれており、反応が無いのも二人の不安を煽る。半ばパニックになりつつあった二人だが、

 

「上じゃ!!」

 

ティオの叫び声と同時に無数の閃光が豪雨の如く降り注いだ。それは、縮小版の極光だ。先程の一撃に比べれば十分の一程度の威力と規模、されど一発一発が確実にその身を滅ぼす死の光であるが、ユエ達は冷静さを失っており気づくのが大幅に遅れてしまう。

 

「させんのじゃ! 〝嵐空〟!」

 

「せ、〝聖絶〟!!」

 

ティオの風系統の中級防御魔法〝嵐空〟と鈴の〝聖絶〟が極光を防ぐ。

 

「〝絶禍〟!!」

 

鈴が障壁を張ったおかげで猶予が伸び、極光をまとめて打ち返す。

 

ドドドドドドドドドドッ!!!

 

しかし攻撃は止まずユエも〝聖絶〟を発動し、白き死の雨をしのぐ。ただ、極光は彩人に集中しティオ達には足止め程度だったが近づけない。

 

「彩人さぁん!!!彩人さぁぁぁぁん!!!!」

 

「落ち着くのじゃ、シア! 今、妾の守りから出てはお主でも死ぬぞ!」

 

「でも・・・彩人さんがぁ・・・!」

 

「我慢して!」

 

そんな状況でも飛び出そうとするシアをティオとミレディが何とか止める。隣でもシアと同じく彩人の所へ向かおうとしている恵里を雫が押さえている。

 

「彩人!!!彩人がぁ・・・!!!」

 

「ダメよ恵里!」

 

「エリリン落ち着いて!皆同じ気持ちだよ!でも今行ったらダメだよ!!」

 

狂ったように彩人の名前を叫び続ける恵里とシア。ティオも雫も鈴も気持ちは痛いほどわかる。今すぐにでも彼のもとへ行きたいと。しかし超サイヤ人でも耐えられない上に神水による治癒効果すら薄れさせるという恐るべき攻撃の最中に無防備で飛び出させるわけには行かない。

十秒か、それとも一分か……永遠に続くかと思われた極光の嵐は最後に一際激しく降り注いだあと、ようやく終わりを見せた。周囲は、見るも無残な状態になっており、あちこちから白煙が上がっている。

 

ユエとティオ、鈴は魔晶石でなんとか魔力を回復する。ユエは未だ意識の戻らない彩人を抱き寄せた。

 

「彩人…貴方は私達が守るから…」

 

同時に、上空から感嘆半分呆れ半分の男の声が降ってきた。

 

「…寝首を掻かれたとはいえ待ち伏せていて良かった。仕留めることは出来なかったが〝神敵〟に裁きの鉄槌を下し、裏切り者のクウラも始末できた」

 

ユエ達がその方向を見ると、大きな白い竜を中心に同じような白い竜が無数に視界を覆い尽くしている。大きな竜の背には赤髪で浅黒い肌、僅かに尖った耳を持つ魔人族の男がいた。

 

「しかし、私の白竜が、ブレスを直撃させても殺しきれんとは……おまけに報告にあった強力にして未知の武器……女共もだ。まさか総数500体の灰竜の掃射を耐えきるなど有り得んことだ。貴様等、一体何者だ? いくつの神代魔法を修得している?」

 

ユエ達の実力を神代魔法だと思っているようで、魔人族の男はティオとよく似た黄金の瞳でハジメ達に質問する。

 

「質問する前に、まず名乗ったら? 魔人族は礼儀を知らないの?」

 

ハジメはドンナーを魔人族の男に向けてそう答えた。

 

「……これから死にゆく者に名乗りが必要とは思えんな」

 

「同感。テンプレだから聞いてみただけ。私も興味ないし気にしなくていい。ところで、お友達の腕の調子はどうかな?」

 

彩人の回復の時間稼ぎのためにハジメが魔人族を挑発する。・・・が、心配なのは変わらずドンナーを握る手がわずかに震えていた。

 

「気が変わった。貴様は、私の名を骨身に刻め。私の名はフリード・バグアー。異教徒共に神罰を下す忠実なる神の使徒である」

 

「神の使徒・・・神代魔法を手に入れてそう名乗るのを許されたって事かな?あんな極光を撃てる魔物がこんなにいるとは思えないから・・・魔物を作る類の魔法かな?協力無比な軍隊を作れるなら、そりゃあ神の使徒くらい名乗れるよね」

 

「その通りだ。神代の力を手に入れた私に、〝アルヴ様〟は直接語りかけて下さった。〝我が使徒〟と。故に、私は、己の全てを賭けて主の望みを叶える。その障碍と成りうる貴様等の存在を、特に主に牙を向いたその〝神敵〟を!!私は全力で否定する」

 

神敵、のあたりの圧が強かった。よほどサイヤ人が憎いのだろう。

 

「え・・・?私の時代では魔人族は神を信仰していないどころか〝アルヴ様〟なんて居なかった・・・!」

 

フリードの発言にミレディが困惑する。

 

「我が主を拒絶するか、不届き者め!ここで死n・・・!?」

 

「ごちゃごちゃうるせえよ・・・妄言吐く暇があるのか?」

 

ミレディの発言に腹を立てたフリードがミレディを攻撃しようとするが気弾に阻まれる。

 

「ぬ・・・貴様!!生きていたのか!!」

 

「彩人君!」

 

「「「「「彩人!」」」」」

 

「彩人さん!」

 

「無事か!主様よ!」

 

何とか上体を起こすがふらつくのでユエに支えてもらう。

 

「ああ・・・俺は大丈夫だ。だから今は目の前の"敵"に集中しろ!!」

 

その言葉で奮起する乙女達。ハジメはクロスビットを召喚しユエが〝雷龍〟を、ティオがブレスを、シアが炸裂スラッグ弾で、ミレディは重力魔法と他属性の魔法で攻撃する。

・・・が、灰竜と呼ばれた小型の竜が射線上に入り背中の亀がバリアを展開するのでなかなか攻撃が通らない。ハジメも〝空力〟で直接叩きに行くものの数の暴力で押される。ハジメは負傷していないので使える武器を反動を気にせずガンガンぶっ放すが灰竜の壁が阻み、フリードに攻撃が入らない。

 

「私の連れている魔物が竜だけだと思ったか? この守りはそう簡単には抜けんよ。さぁ、見せてやろう。私が手にしたもう一つの力を。神代の力を!」

 

グリューエン大火山で手に入れた魔法であろう"ソレ"で彩人の裏をかこうとするが、

 

「「〝界穿〟」!・・・・何!?」

 

フリードが出てきたのは全く的外れな場所。

 

「…私達も、持ってる」

 

「くっ、貴様らもか!!」

 

ユエがフリードの神代魔法、〝空間魔法〟に干渉し位置をずらした。とはいえユエでも発動が安定しないため確実に発動するため気をそらして時間を稼いでいた。フリードが灰竜を呼び寄せて防御しようとするが、灰竜はフリードの乗る白竜を攻撃した。

 

グエエエエエェ・・・・

 

「ウラノス!・・・これは・・・まさか!」

 

「そう、僕の〝降霊術〟だよ~」

 

よく見ると灰竜同士で撃ちあいが起こっていた。倒した(形の残った)灰竜は恵里が降霊術で操り、味方としていた。

 

「おのれ・・・!報告にあった〝降霊術師〟か!」

 

フリードは劣勢になったのを感じているが、彩人だけはどうしても殺したいようでハジメの追撃をいなしながら灰竜で彩人を攻撃するも、

 

「もう彩人は傷つけさせないよ!!」

 

「〝結界師〟・・・!」

 

鈴の障壁が防ぐ。何とか障壁を突破しようとしたが、

 

「彩人の仇よ・・・受けてみなさい!!」

 

「ぐあっ!!!・・・おのれ・・・!!」

 

彩人に気を取られて灰竜に乗って接近してきた雫に攻撃される。残る灰竜もユエ、ミレディ、シア、ティオの攻撃をいなすのが精いっぱいで防御にまわるのが厳しい。フリードに追撃しようとするハジメと雫から主を守ろうとウラノスと呼ばれた白竜が二人を振り払う。その間にもフリードは彩人にトドメを刺そうとするがハジメ達の妨害で一向に狙いが定まらない。

 

「…紙一重で決定打を打てないとはっ!」

 

重症を負っているにもかかわらず彩人に攻撃することすらできず、数では上回っているのに瞬時に劣勢となりフリードは歯噛みし、再び〝空間魔法〟を発動しようとするが、

 

〝そうはさせんよ!〟

 

「黒竜だと!?」

 

ハジメ、雫に続いてフリードを追い詰めるのは〝竜化〟したティオだ。サイズは白竜に若干劣るがそれでも凄まじい存在感を醸し出している。雫とハジメから距離を取っていたところをティオが弾いた。それと同時に巻き込まれないようにハジメと雫が離れたのを見届け、ティオは白竜とフリードを睨みつけた。

 

〝紛い物の分際で随分と調子に乗るのぉ! これ以上、主様は傷つけさせんぞ!〟

 

魔人族側に竜人族の存在を知られるのは避けたかった。また500年前のように淘汰される可能性があるからだ。しかしティオは自分が無敵と信じて疑わなかった彩人が極光で重傷を負ったことで激しく動揺した。そして思い出した。超サイヤ人であれど一人の"人間"であることを。一瞬の油断が命取りになりかねない事を。そのことを忘れるほど自分は彩人に心酔していたのだと、失いたくない存在であると自覚した。

だからこそ〝竜化〟することを選んだ。仲間の命がかかっている以上、出し惜しみなど出来ないし何より竜人族ティオの誇りにかけて仲間の命と掟を天秤にかけることはしてはならなかったのだから。

 

〝若いのぉ! 覚えておくのじゃな! これが〝竜〟のブレスよぉ!〟

 

「ウラノス!!」

 

ティオが暗黒のブレスを放とうとするのを見てフリードはウラノスに指示を出し、白いブレスで迎え撃つ。だが意志と覚悟を持った者とまがい物では明らかな差がある。徐々に白いブレスが押し返されていく。

 

「くっ、まさか、このような場所で竜人族の生き残りに会うとは……仕方あるまい。未だ危険を伴うが、この魔法で空間ごと……!?」

 

撤退の意志を固めたフリードだが、右側に青い光を見た。その方向を凝視すると、両手を上下で重ねた超サイヤ人の彩人が気功波を放つ寸前の状態で急に現れた。

 

「き、貴様も神代魔法を!!??」

 

くたばれフリードォォォ!!!!

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!??」

 

彩人の両手から放たれた〝超かめはめ波〟がティオとのブレスの押し合いで動けないウラノスごとフリードを飲み込み、火山の岩壁にクウラの開けた穴以上の大穴を穿ちまとめて吹き飛ばす。それと同時に主の危機を察したのか灰竜たちも穴から出ていく。

 

「・・・!ブッ・・・ゴホッ・・・ガハッ」

 

〝主様よ! しっかりするのじゃ!〟

 

フルチャージさせたかめはめ波の反動で吐血しながら落下しそうになる彩人をティオが自身の背中に乗せることで救出する。近くの足場に彩人をおろすとユエ達が寄ってくる。

 

「彩人…」

 

「彩人君!」

 

「「「彩人!」」」

 

「彩人・・・!!」

 

「彩人さん!」

 

しかし、彩人達の真上に満身創痍のフリードとウラノスが居た。よく見るとといつぞやの白鴉が10羽ほどぐったりしている。とはいえ飛ぶのが精一杯と言ったところだが。

 

「……恐るべき戦闘力だ。……ハァ、ハァ……侍らしている女共も尋常ではない、な……。よもや、神代の力を使って、なお、ここまで追い詰められる、と、は……最初の一撃を当てられていなければ、蹴散らされていたのは私の方、か……」

 

ボロボロでありながら彩人に殺気を送れるのは大した胆力である。

 

「この手は使いたくはなかったのだがな……貴様等ほどの強敵を殺せるなら必要な対価だったと割り切ろう」

 

「・・・っ、やりやがったなてめえ・・・」

 

少し微笑むフリードと苦々しい表情の彩人の会話に周りがキョトンとしていると突然マグマの流れが激しくなった。

 

「んぁ!?」

 

「「わぁっ!?」」

 

「「「「きゃあ!?」」」」

 

〝ぬおっ!?〟

 

そして、よく見るとマグマの水位が上がっている。

 

「一体何を!?」

 

「要石を破壊しただけだ」

 

ミレディの質問に淡々と答えるフリード。

 

「ここは活火山なのに噴火が一度も起こっていない・・・だとするならマグマの流れをコントロールする"何か"がある。・・・それを破壊したんだろ?」

 

「察しがいいな。マグマ溜まりを鎮めている巨大な要石を破壊させてもらった。間も無く、この大迷宮は破壊される。神代魔法を同胞にも授けられないのは痛恨だが……貴様等をここで仕留められるなら惜しくない対価だ。大迷宮もろとも果てるがいい」

 

そう告げるとフリードはさっさと火口から脱出しようとする。逃がすはずもなくティオが追跡するが灰竜の妨害にあう。ユエの

〝絶禍〟と恵里の傀儡竜の援護で進むが極光のレーザーが行く手をはばむ。同時にハジメから〝宝物庫〟を借りた彩人が瞬間移動でティオの背中に乗る。

 

「ティオ、お前は〝宝物庫〟(これ)を持ってあの出入り口から一人で脱出するんだ」

 

〝主様よ、妾は、妾だけは最後を共に過ごすに値しないというのか? 妾に切り捨てろと、そういうのか? 妾は……〟

 

「違う。〝静因石〟を確実に届けるためだ、俺達は死なねえしアイツは今度会ったら消し炭にする。だが、気が減ってる今じゃアンカジまで飛ぶのはキツい。今頼れるのはお前だけなんだ、ティオ!」

 

彩人の言葉に内心歓喜に震えるティオ。本気で伴侶になりたいと思う相手から託されたのだから。それに対しティオはただ一言。

 

〝任せよ!〟

 

「ついでに・・・香織とミュウに伝言を。〝ちょっと寄り道する〟だ。頼んだぞ」

 

〝ふふ、委細承知じゃよ〟

 

ティオに〝宝物庫〟を託したのち、彩人がティオの背中に触れると黄金の光がティオの周りを包む。

 

〝これは・・・?〟

 

「俺の気だ。俺が生きてる限り気がお前を守る。頼んだぜ」

 

〝・・・!!〟

 

それを言った直後、彩人は再び瞬間移動でハジメ達の元へ。

黄金の気を纏った黒竜は妨害する灰竜のレーザーの雨の中を突き進んでいく。ユエと恵里の援護を受けつつ〝痛覚変換〟で灰竜のレーザーを突破するティオ。しかしフリードに気づかれ、白竜のブレスがティオを襲うが、黄金の気がティオの正面に集中し、ティオを守った。

 

〝(この妾が誰かに守ってもらうとはのう……じゃがとてつもなく嬉しいのう。主様よ、愛しておるぞ)〟

 

「あの状況から出て来るとはっ! 化け物揃いめっ! だが、いかに黒竜と言えど既に満身創痍。ここで仕留めッ!?な、何故貴様が・・・」

 

〝!?〟

 

上空でとんでもないことが起こっていたがそれに気づかず彩人はハジメに頼んで潜水艦をあらかじめ出させておいたのを近くに持ってきていた。

 

「全員乗れたよ!」

 

「彩人…行こう」

 

全員乗り込み瞬間移動で戻ってきた彩人が乗り込もうとしたその時。何者かによって彩人は潜水艦からはじき出される。

 

「逃がしはせんぞ、サイヤ人!!」

 

「なっ・・・サウザー!!」

 

「…!させな…!?!?」

 

「お前たちに用はない!!」

 

ボロボロのサウザーだった。サウザーは潜水艦から出ようとするユエ達が攻撃する前にハッチを閉め、マグマの海に落としてしまった。

 

「フハハハハ!これで貴様も袋のネズミだ!」

 

はっはっは!でかしたぞサウザー!

 

真上を見るとあちこち焼けただれたクウラが再び〝スーパーノヴァ〟を放とうとする。

 

どいつもこいつもオレをコケにしやがって・・・フリード、貴様はさっきの空間魔法とやらで消えたフリをしたらしい・・・まだまだオレも甘い。ここで貴様ら全員皆殺しだァ!!

 

「くっ・・・『ティオ、逃げろ!!生き延びろ!!』」

 

『〝!?何を言うておる!主様!あれを今度喰らったら・・・〟』

 

「『俺は絶対に死なない、俺を信じろ』」

 

『〝…っ、承知した〟』

 

ティオにテレパシーで呼びかけた直後、サウザーの気弾でダメージを受ける彩人。

 

「何をしている?貴様の仲間はもう居ない!・・・だが念の為、ここで死ね・・・・!?」

 

サウザーが確実に彩人にトドメを刺そうとするがマグマが不安定だった為かサウザーの立つ足場が崩れ、サウザーはマグマの海へ落ちて行った。

 

何処へ行こうと同じだ!・・この大地もろとも・・・消えてなくなれぇぇぇぇ!!!!!

 

クウラはありったけの力を込めたスーパーノヴァを放つ。火山に接触すると同時に閃光と共に大爆発が起こった。

クウラ本人も爆発に巻き込まれ、爆風でフリードたちは勿論先に移動を開始したティオにまで影響し、吹き飛ばされた。閃光が止むと同時に吹き飛ばされながら視界に入った光景に目を疑った。

砂嵐が消え、火山が丸ごと消失し広大な砂漠の大地に巨大なクレーターが出来ていた。

それでもティオは黄金の気を感じ、彩人の生還を祈った。・・・が、次の瞬間、

 

〝!?な、何故じゃ…気が…どんどん弱く……!!〟

 

ティオの周りの黄金のオーラがなくなっていく。

 

〝嫌じゃ…嫌じゃ…!!主様!!妾を置いて行かないでおくれ……!!!主様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!〟

 

虚空の彼方にティオの声がこだました。




クウラのしぶとさと因縁を考えたらこれくらいするよな・・・って思う。


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青海の町へ

相変わらずのゴミ文です。


再会は次回です。






グリューエン大砂漠を高速で飛行する存在が居る。勿論ティオである。

 

〝主様……妾は信じるぞ〟

 

減少していく黄金のオーラに動揺してしまったが主からの指令を完遂すべくアンカジを目指していた。ユエ達の援護の甲斐あってほとんど極光を受けてはいないが極光の毒素がティオの体を蝕む。

 

〝むぅ……これはちとマズイのじゃ……全く、厄介なブレスを吐きおって……致し方ない。主様よ、許してたもれ〟

 

やむを得ず〝宝物庫〟から神水を取り出して使用する。即回復とはいかずとも傷ついた体が確実に癒されていく。

アンカジの傍まで来るとアンカジの民がグリューエン大火山の異変に気付いたのか町の外に出ており攻撃されるのを避けるため迂回してから着地した。

武器や杖を所持した兵士がじりじりとティオに近づくがその兵士をかき分けるように割り込んだ一人の少女、香織である。彼女はティオが竜人族であることを知っているので竜が向かってきているという報告を聞き彩人達が帰還したと思い、慌てて出てきたのだ。

 

「ティオ! 大丈夫!?」

 

「むっ、香織か……うむ、割かし平気じゃ。ちと疲れたがの」

 

〝竜化〟を解いたティオに駆け寄り未だ毒素が残るところに治癒魔法を使うが治りが悪い。

 

「そんな……浄化が遅い……」

 

「心配するでない、もうすぐ浄化できるのじゃ」

 

焦る香織の頭を撫でて安心させるティオ。香織はティオが大丈夫であると悟るとあちこち見回した。

 

「ティオ……あの、彩人くん達は?一人なの?……火山が消滅したって……何があったの?」

 

「落ち着くのじゃ香織。全部説明する。まずは、後ろの兵達を落ち着かせて、話せる場所に案内しておくれ」

 

「あっ、うん、そうだね」

 

香織は、ビィズや駆けつけたランズィ達のもとへ戻り、事情説明をしながらティオを落ち着いて話のできる場所に案内した。

 

「・・・そっか……魔人族とその変な奴に・・・」

 

「あ、ああ…そのクウラとか言う者の攻撃で火山が消滅してしもうたのじゃ」

 

「そっかそっか・・・魔人族と言い、クウラだかクーラーだか知らないけどまた私と彩人くんの仲を裂こうとするなんて・・・」

 

「か、香織?」

 

「あ、大丈夫。恵里ちゃん程じゃないけど個人情報を集めるのは得意だからすぐに摘発して懲らしめるだけだから・・・

 

「」

 

埴輪のような顔で背後に般若の霊を発現させ両手をうねうねさせる香織に、ティオはドン引きした。

 

「そ、そういえば主様から伝言があったのう!」

 

「・・・え?」

 

「うむ。正確には香織とミュウにじゃが……〝ちょっと寄り道する〟じゃ」

 

「そっか、なら大丈夫だよね」

 

「うむ、例え傍から見れば絶望的な状況でも、主様なら普通にひょっこりと生還する。無条件にそう信じられるのじゃ……」

 

無理やり話題をそらしたことで香織の表情が穏やかになる。

その後、持ってきた〝静因石〟により治療が大幅に進んだ。ランズィ達は大いに感謝し、ティオが竜人族と知っても他言しないと誓った。

領主の娘であるアイリー(十四歳)に構われているミュウに彩人達の事を話すと泣いてしまったが戦士の娘がすぐに泣いてどうする、と言われるとミュウはほっぺを膨らませて涙をこらえた。

 

そこから2日でほぼ治療が完了し、その晩に香織はティオとミュウに提案する。

 

「今日で、私の処置が必要な患者さんはいなくなったと思う。あとは、時間をかけて安静にするか、医療院のスタッフに任せれば問題ないよ。だから……彩人くん達を探しに行こうと思うの」

 

「パパ? お迎えに行くの?」

 

「ふむ、そうじゃな。妾も、そろそろ動くべきかと思っておった」

 

「先にエリセンに行ってミュウちゃんをママさんに会わせようと思うの」

 

「ふむ、それが妥当じゃろうな……よかろう。ならば、妾の背に乗っていくがよい。エリセンまでなら、急げば一日もかからず行けるじゃろう。早朝に出れば夕方までには到着できよう」

 

話についていけないミュウにきちんと説明すると直接彩人に会えない事にしょんぼりしたがママに会いたいのもあるので一緒にパパを待つ、と言う事で決着がついた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

一方こちらは潜水艦。スーパーノヴァの爆発で押し流されたマグマもろとも海に叩きこまれた事で消滅を逃れた。とはいえ衝撃は凄まじくあちこち故障と破壊でほぼ大破寸前なのだがなんとかなった。

海底で襲い来る魔物達に対抗しようにも兵器自体はほぼ使い物にならないのでユエとミレディが必死に守った。ミレディはありったけの魔晶石、ユエはシアとハジメ、雫などから吸血してなんとか補った。

 

魔物の襲撃を乗り切ったハジメ達は比較的穏やかになった海上を進んでいる。

 

「・・・・」

 

「ミレディ、お疲れ様」

 

「ほんとそれ・・・!こんなに魔法使ったの久しぶりだよ?〝黒天窮〟使った時以来の」

 

「…ん、確かに怒涛の展開、だった」

 

海面に浮かぶ潜水艦の上で会話する功労者二人。

 

「・・・で?他の皆は?」

 

「シアと雫は寝てる。恵里と鈴も…お休み。ハジメはもうすぐ来る」

 

「あ、二人共日向ぼっこ?私もいいかな」

 

ハッチを開けてハジメが二人の横に座る。兵器を使えるのはハジメだけなので本当はこの三人が真の功労者だったりする。

 

「・・・にしてもあんまり動揺してないねキミ達ィ」

 

「え?」

 

「だってさ、彩人があんなことになってからのドッカーンだよ?もしものことが・・・あるかもしれないじゃん」

 

「…ミレディ、彩人が心配?」

 

「そりゃ・・・まぁ・・・人の生き死にを笑えるほど私は腐ってないよ・・・・」

 

「「……」」

 

ミレディはかつてライセン大渓谷の処刑人だった時があるため人の死を何度も見てきた。一度は感情を失うほどの過酷さだった。

 

「…彩人はちゃんと生きてる」

 

「別に死んだと決めたわけじゃないけど・・・。ユエちゃんは何か根拠でもあるの?」

 

「ある。…彩人の、コレがあるから」

 

ユエが両手で作った器の中に小さな光が。

 

「これは・・・・?」

 

「彩人の……気。オルクスで私にくれた。この光が消えない限り、彩人は死んでない」

 

「・・・へぇ、便利なものだね・・・」

 

「…ん、だから信じる」

 

「あ、そういえばシアも貰ってたね」

 

「あー・・・だからシアちゃんも諦めてなかったんだぁ・・・」

 

愛おしそうに光を見つめるユエを見てサウザーに投げ落とされても、火山が消滅しても諦めなかったのを思い出し気が繋いだ絆に小さな感動を覚えたミレディだった。

 

「だとしても彩人は何処にいるかまでは「分かるよ?」・・・え?」

 

「私の魔眼帯が彩人君の感応石を捉えてるからね、エリセンに向かってるよ」

 

「・・・え、いつの間に」

 

「万が一のことがあるし・・・好きな人の事は知りたいじゃん♡」

 

「…同感」

 

「」

 

ミレディは一瞬で背筋が凍った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

時は遡り、クウラがスーパーノヴァを放った直後。潜水艦はマグマに沈み、ティオは去った。瞬間移動する間も無い。

万事休すかと思われたが、彩人の目の前に一人の人物が現れた。

 

「・・・・?あ、貴方は・・・」

 

その人物は中央の建物の前に立っていた。なぜあの人がここに居るのかは分からないが、彩人は最後の可能性にかけ、その人物のそばへ飛んだ。

 

「・・・!?」

 

すぐそばまで行くとその人物が彩人に右手を向けると目の前に白い扉のようなものが現れる。勢いあまってその扉に飛び込むと目の前に海。だが次の瞬間スーパーノヴァの爆発による影響で凄まじい水圧が彩人を襲った。辛うじてバリアで防ぐが気を使い果たし、意識が遠のいていく。

 

サイヤ人の少年よ・・・自分にできるのはここまでだ

 

「・・・どう、して・・・・・」

 

ヤモシへの借りを返しただけだ・・・君はここで死んではならない

 

「・・・・・」

 

さらばだ、サイヤ人の少年・・・人の未来が 自由な意思のもとにあらんことを 切に願う

 

その言葉を最後に彩人は意識を失った。



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海底に沈む狂気と奇跡の邂逅
親方!空から女の子が!(娘ェです)


全員集合でございます。




しばらく気絶していた彩人だったが神水のおかげでなんとか復活し水面まで浮上する。しかし、

 

「お前は人間のようだが、何者だ?ここで何をしている」

 

先が三股になっている槍を突き出した複数の人が彩人を囲んでいる。人数は10人と少ないがその誰もが、エメラルドグリーンの髪と扇状のヒレのような耳を付けていた。どう見ても、海人族の集団である。

 

「見ての通り漂流中で・・・」

 

「騙されんぞ! そうやって近付き、あの子を攫ったのだろう!?」

 

「そうやって、あの子も攫ったのか? また、我らの子を攫いに来たのか!」

 

話が通じない。ミュウの事を言っているのだろうがとぼけても正直に言っても捕まる未来しか見えない。舞空術で逃げてもいいがやましい事があるに違いないと思われるだろう。

 

「逃げようとしても無駄だぞ!海原は我々海人族の庭だ!」

 

「手足を切り落としてでも、あの子の居場所を吐かせてやる!」

 

「安心しろ。王国に引き渡すまで生かしてやる。状態は保障しないがな」

 

海人族は結束力が強く、情も深いため仲間の敵は自分の敵、という訳なのだ。抵抗しても不利になるだけなので降参の意を込めて手を上げる。

 

「潔いな・・・だがそれで罪が軽くなると思うなよ!!」

 

一人の海人族が怒りの形相で彩人の両手両足を拘束しエリセンへ連行する。海上を引きずられた上に桟橋に投げ落とされる彩人。

 

「・・・っ」

 

「さぁ、吐いてもらおうか。ミュウちゃんは何処に居る?」

 

桟橋に連行してきたのもあわせて20人、桟橋の周りに15人ほどの海人族が待機している。何が何でも逃がさないつもりらしい。

 

「アンカジに居る。仲間が保護しているはずだ。フューレンのギルド支部長からの依頼で送還中で」

 

「嘘をつくな!」

 

「ここで嘘をつくメリットはない・・・。アンカジに行けば証明できる・・・ここに居るだれかを行かせれば・・・がっ!?」

 

「黙れ!無駄口を叩くな! 質問だけに答えろ! ミュウちゃんは何処だ!?」

 

彩人はなんとか潔白を証明しようとするが海人族は彩人が犯人だと信じて疑わないため嘘を言っていると思いトライデントの柄で彩人を殴る。

 

「アンカジに・・・グフッ・・・」

 

「いい加減にしろ!!」

 

今度は石突で腹を突かれた。くの字に曲がる彩人の胸倉をつかみ、海人族は尋問を続ける。組織の人数、仲間の名前など。彩人は正直に答えたが海人族は断固として信用しなかった。ミュウの故郷でありメルジーネ海底遺跡攻略のためにもエリセン・・・もとい海人族との衝突はさけたかったのだが・・・

 

「ええい強情な奴め!腕の一本でも落とせば少しは素直に‥‥ゴベバァ!!?」

 

業を煮やした海人族の一人が強引な手段を取ろうとしたその時巨大な魚をぶつけられて吹っ飛んだ。

 

「な、なんだあれは!?」

 

背後からの声で振り返るといつぞやの潜水艦・・・の上に立つハジメが魚を投げつけたのだ。しかし問題なのはハジメの目に光が灯っていないのだ。

 

「おのれ、仲間を呼んでいたのか!この犯罪者m・・・アガッ!?」

 

彩人が救援を呼んだと勘違いした海人族がトライデントで襲い掛かるが空気の結界で弾き飛ばされた。冷や汗が止まらない彩人だったが、急に自身を拘束していたロープが切り裂かれ、開放される。海人族が混乱しているが、次の瞬間彩人の周りに6人の少女が。

 

「ねえお前ら、彩人君に何するって?」

 

「…いい度胸」

 

「腕を落としていいのは落とされる覚悟がある人だけですよぉ?」

 

「彩人は・・・私が守る!」

 

「彼に手を出すというのなら容赦しないわ」

 

「ウフフフフフフフフフhhhhhhhhhhh!!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇ!」

 

遅れてミレディがハジメ達を止める。

 

「どいてくださいミレディさん、私達は後ろの・・・・・上?」

 

シアがミレディに詰め寄った瞬間ウサミミがピコピコ動き、上を見あげた。そして聞こえる声。

 

「――ッ」

 

「・・・・ちょ、」

 

「――パッ!」

 

「今かぁぁぁぁぁ!!!?」

 

「――パパぁー!!」

 

彩人が声の方向にロケットの如く舞空術で飛び出す。落下しているのに満面の笑みを浮かべる幼子――――――ミュウだ。

彩人が焦りながら受け止めるとミュウは嬉しそうに彩人の胸に顔をすりすりする。

海人族はハジメ達や空中を自由自在に飛ぶ彩人、ミュウの帰還、その後ろから黒竜が・・・という理解しがたい現実に頭を抱えた。

 

ミュウは彩人に甘えようとするが桟橋に着いた直後、彩人に諭すように説教された。勿論飛び降りたことだ。特に怒鳴ったり怒った顔はしていないが、ミュウは事の重大さを感じ取り泣きながら謝罪した。

 

「ぐすっ、パパ、ごめんなしゃい……」

 

「もうあんな事しないと約束できるか?」

 

「うん、できる」

 

「そうか、ならいいんだ。おいで、ミュウ」

 

「パパァーー!!」

 

素直に反省し涙を流す幼子を受け止める彩人は父親にしか見えなかった。幼子の"パパ"呼びも拍車をかけているのだが。

彩人が反省したミュウを抱き上げてあやしていると背中に抱き着く人物、香織だ。

 

「よかった……よかったよぉ~、ぐすっ」

 

「香織・・・お前も心配かけたな、済まねえ。だからもう泣かないでくれ、俺は生きてる」

 

生存はティオから聞いていても、道中で光が強くなってもやはり感じた不安はあったのだろう。涙を流しながら彩人にしがみついている。

 

「うっ、ひっぐ、じゃ、じゃあ、もう少しこのまま……」

 

余計に抱き着く力が強くなり彩人は若干苦しいが、正面からまた別の人物。竜化を解いたティオだ。安堵した表情で彩人の顔を自身のたわわな胸に抱き寄せる。

 

「信じておったよ? 信じておったが……やはり、こうして再会すると……しばし時間をおくれ?主様…」

 

「むぐっ・・・ティオ、言ったろ?俺は死なねえ」

 

ティオの豊かな双丘で話しにくいが彩人はティオを安心させるべく笑みを浮かべた。その直後にミュウも参加しその勢いでユエ達にも抱き着かれた。美女と美少女たちにもみくちゃにされた後、海人族のリーダー、サルゼに依頼書とステータスプレートを提示し、細かい事情は後で説明するとしてなんとか誤解は解けた。・・・が、

 

「それはそうと、どうして彩人君を痛めつけてたのかな?

 

「そ、それは何と言いますか…………お互いの認識の相違があり…………」

 

〝威圧〟全開のハジメが彩人に尋問していた海人族を問い詰める。恐怖のあまり海人族はでまかせを言ってしまう。流石の彩人もそれには待ったをかける。

 

「・・・待った、そちらは俺の言い分を一切聞かず一方的に暴力を振るっていただろうに」

 

「「「「「「へぇ……?」」」」」」

 

彩人の証言にハジメだけでなくミレディを除いた潜水艦組全員がキレた。

 

「そ、それについては謝罪する! 賠償金を払ってもいい! しかし、こちらもその子を攫われて気が立っていたのだ! それだけは分かって欲しい!」

 

途端に謝罪する海人族。彩人に謝罪しているだけマシだが、一切こちらの言い分を聞かないというのはあまりにも理不尽だ。

 

「いえ、賠償金はいりません。家族を攫われたらそりゃあキレる。俺だってキレる。・・・・・でも一方的に暴力を振るっていい理由にはなりませんよね?・・・なので」

 

「……なので?」

 

「彼女達に処罰を受けて下さい。俺はいいですが、皆は許せないそうなので」

 

「」

 

その直後、目麗しい美少女たちによる海人族水切り大会が開かれた。雫達ですらこの世界では超人なのにそれをはるかに上回るハジメ、ユエ、シアの飛距離は異常であった。

ティオがミュウの視界を塞ぎ、ミレディは彩人の後ろに隠れた。香織は参加していなかったが「それはそれ、これはこれ」として海人族のSOSを拒否した。桟橋の周りに海人族が辺り一面に広がった。(手加減したので死んではいません)



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母娘再会~ミュウのパパはサイヤ人なの~

せっかくだから見せたかった・・・。


「パパ、パパ。お家に帰るの。ママが待ってるの! ママに会いたいの」

 

「そうだな、・・・っとそんなに急ぐと危ないぞ」

 

処罰が済んだのでミュウが彩人の右手を引っ張りながら家の方向へ誘導する。二か月ぶりに会えるので焦るのも無理はない。道中でも普段は明るくとも夜になると母親を思って泣いてしまう事もあった。一番母親に雰囲気が似ているというイクスと一緒に寝ることが多く、イクス離脱後は香織、ユエ、ティオが添い寝していた。ただ・・・

 

「彩人くん、さっきの話・・・」

 

「ああ、兵士の人・・・サルゼさんから聞いた話では命には別状がないが怪我をしていて精神的にもキツいらしい。精神的な面はミュウが居ればいいが・・・、怪我の方は頼む」

 

「任せて」

 

香織と会話しつつ先に進んでいくと複数の声が聞こえる。

 

「レミア、落ち着くんだ! その足じゃ無理だ!」

 

「そうだよ、レミアちゃん。ミュウちゃんならちゃんと連れてくるから!」

 

「いやよ! ミュウが帰ってきたのでしょう!? なら、私が行かないと! 迎えに行ってあげないと!」

 

壁に手を付けおぼつかない足取りで家から出てくる女性と女性を抑える複数の男女が。ミュウの帰還の知らせで出ようとしているのだろう。レミアと呼ばれた女性を見たミュウは満面の笑みを浮かべ、ダッシュでレミアに駆け寄った。

 

「ママーー!!」

 

「ッ!? ミュウ!? ミュウ!」

 

レミアは膝から崩れ落ちながらも走ってきたミュウを抱きとめる。ミュウももう離さないと言わんばかりにレミアを抱きしめる。

 

「ごめんなさい・・・・!そばに居てあげられなくて・・・・」

 

娘が無事であった事に対する安堵と守ってあげられなかった罪悪感からレミアの瞳からポロポロと涙がこぼれる。そんな彼女を心配し、ミュウはレミアの頭を撫でた。

 

「大丈夫なの。ママ、ミュウはここにいるの。だから、大丈夫なの」

 

「ミュウ……」

 

レミアを見つめるミュウの瞳は気遣いの色が含まれていた。レミアは怖い思いをしただろうと今まで不安に侵された日々を思い出し、改めて成長して帰ってきた愛娘を見てしっかりしないといけないと自分を恥じて涙をぬぐい、母娘は再び抱き合った。・・・が、

 

「ママ! あし! どうしたの! けがしたの!? いたいの!?」

 

レミアの足に包帯が巻かれているのを見たミュウが心配そうに叫ぶ。サルゼの言っていた事はこれである。海人族が殺気立ってたのはミュウの誘拐とレミアの負傷の為らしい。

 

だが私は謝らない。

 

ちなみにレミアは誘拐犯と接触してしまい誘拐犯による炎魔法で足を負傷し、自警団に助けられたためミュウが誘拐されたと分かったという。しかし発見が遅れたためレミアの足のやけどは神経にまで到達してしまい泳ぐどころかまともに歩けない状態だった。

しかしレミアは母親として娘に心配をかけさすまいと大丈夫と言いかけたその時。

 

「パパぁ! ママを助けて! ママの足が痛いの!」

 

「えっ!? ミ、ミュウ? いま、なんて……」

 

「パパ! はやくぅ!」

 

「あら? あらら? やっぱり、パパって言ったの? ミュウ、パパって?」

 

ミュウがこの世で最も信頼している最強の〝パパ〟に助けを求めるとレミアは少なからず動揺した。周りも当然動揺し、

 

「レミアが……再婚? そんな……バカナ」

 

「レミアちゃんにも、ようやく次の春が来たのね! おめでたいわ!」

 

「ウソだろ? 誰か、嘘だと言ってくれ……俺のレミアさんが……」

 

「パパ…だと!? 俺のことか!?」

 

「いや、俺でございます」

 

「親父ィ・・・なんだぁ・・?」

 

「きっとクッ○ングパパみたいな芸名とかそんな感じのやつだよ、うん、そうに違いない」

 

「おい、緊急集会だ! レミアさんとミュウちゃんを温かく見守る会のメンバー全員に通達しろ! こりゃあ、荒れるぞ!」

 

とんでもない誤解がまかり通る。それも当然、レミア、ミュウ親子はエリセンでも人気がありレミアは20代半ばと若くやつれているが美人である。この母にしてこの娘ありと言うべきか。

 

「パパぁ! はやくぅ! ママをたすけて!」

 

ミュウが彩人の手を取ってレミアの所へ行かせようとするので誤解が加速する。仕方なくレミアの近くまで歩み寄る彩人。

 

「パパ、ママが…」

 

「心配するなミュウ、必ず治る。だから泣きそうな顔をするな」

 

「はいなの…」

 

不安そうなミュウの頭を撫でて安心させる彩人。周りの視線が痛いが放置する訳にもいかないのでレミアに歩み寄り、

 

「・・・失礼します」

 

「え? ッ!? あらら?」

 

彩人がレミアをお姫様だっこするとレミアは勿論周りもどよめくが彩人はシカトして家に入り、近くのソファーに座らせる。次いで香織を呼んで診察させる。

 

「香織、どうだ?」

 

「ちょっと見てみるね……レミアさん、足に触れますね。痛かったら言って下さい」

 

「は、はい? えっと、どういう状況なのかしら?」

 

レミアが混乱するのも無理はない。娘が帰って来たかと思えば娘がパパと呼び慕う男が現れ、見知らぬ美女と美少女がぞろぞろ現れたのだから。それはそうと香織の診察の結果神経にダメージはあるものの治せないほどではないが、デリケートな部分であるため時間がかかるのだとか。

 

「・・・そうだ、レミアさん少し宜しいか」

 

「え…?その光は一体…?」

 

「少なくとも害にはなりませんから。・・・香織、これならどうだ?」

 

「え、あ、うん。えーっと・・・」

 

彩人がレミアに足に気を送り込む。

 

「・・・治癒力が上がってる・・・?これなら直ぐにでも治せそう。・・・これも気の力?」

 

「そうだ。簡単に言えばバフみたいなもんだな・・・この場合は"治りやすく"しただけだ」

 

「あらあら、まあまあ。もう、歩けないと思っていましたのに……何とお礼を言えばいいか……」

 

彩人の与えた気で治癒能力がアップした。香織が治療を行っている間に彩人は今までの出来事を伝えた。

 

「本当に、何とお礼を言えばいいか……娘とこうして再会できたのは、全て皆さんのおかげです。このご恩は一生かけてもお返しします。私に出来ることでしたら、どんなことでも……」

 

「そ、そこまでする必要は・・・」

 

あっという間に足が完治したのもあってレミアの感謝が止まらない。彩人はこれを折に別の宿を取ろうとするもレミアは自分の家を使って欲しいと言い始めた。

 

「どうかせめて、これくらいはさせて下さい。幸い、家はゆとりがありますから、皆さんの分の部屋も空いています。エリセンに滞在中は、どうか遠慮なく。それに、その方がミュウも喜びます。ね? ミュウ? 彩人さん達が家にいてくれた方が嬉しいわよね?」

 

「? パパ、どこかに行くの?」

 

レミアの膝枕でうとうとしていたミュウがレミアの一言で飛び起きる。

 

「あらあら、パパが娘から距離を取るなんていけませんよ?」

 

「・・・しかし俺は・・・それに俺達は行かなければ・・・」

 

「いずれ、旅立たれることは承知しています。ですが、だからこそ、お別れの日まで〝パパ〟でいてあげて下さい。距離を取られた挙句、さようならでは……ね?」

 

「・・・それを言われちゃ・・・」

 

「うふふ、別に、お別れの日までと言わず、ずっと〝パパ〟でもいいのですよ? 先程、〝一生かけて〟と言ってしまいましたし……」

 

「」

 

そんな事を言って、少し赤く染まった頬に片手を当てながら「うふふ♡」と笑みをこぼすレミア。・・・原作ではブリザードが吹きすさぶのだが、周りを見ると乙女たちはなにやらレミアを観察していた。それをどうとらえたか知らないがレミアは続けて

 

「あらあら、おモテになるのですね。ですが、私も夫を亡くしてそろそろ五年ですし……ミュウもパパ欲しいわよね?」

 

「ふぇ? パパはパパだよ?」

 

「うふふ、だそうですよ、パパ?」

 

と返してきた。

 

「これが・・・妻力」

 

「凄まじい余裕…でも参考になる」

 

「情報収集は基本ですぅ!」

 

「夫をたてる妻か…見習わねばのう」

 

「余裕・・・奥さん・・・」

 

「外見では勝てないけど・・・振る舞いなら!まず真似ることから・・・」

 

「いつか彩人と・・・うう、想像したら顔が熱いわ・・・」

 

「研究研究・・・」

 

「」

 

この始末☆

だが、迷宮攻略の為にも準備期間が必要なのでご厄介になることにした。

 

「パパ、パパ、キラキラのパパ、ママに見せてあげたいの!」

 

「キラキラ・・・(スーパー)サイヤ人の事か・・・」

 

「ミュウ?キラキラのパパってなぁに?」

 

「すっごくきれいでかっこいいの!あと、とっても強いの~!」

 

「あらあら、それは見てみたいわね~」

 

見せる雰囲気を出されているが、エリセンでサイヤ人の扱いどうなってたっけと不安になるがいつかはバレる以上披露することにした。・・・ついでに彩人は自分に嫉妬の視線を向ける海人族(主に男性)への牽制になると思ったのだ。

 

家の外に出て、開放時の影響を考えてエリセン上空に浮遊し、気を限界まで高め・・・放つ。まばゆい閃光と衝撃波の末黄金の戦士は再び舞い降りた。

 

「・・・"キラキラのパパ"こと、(スーパー)サイヤ人だ」

 

「わぁ~やっぱりきれいなの~」

 

「まぁまぁ・・・」

 

ホルアドで見ているミュウは目を輝かせ、レミアも黄金の戦士に驚きつつも感動している。浮遊する彩人に驚いていたギャラリーも黄金の戦士に驚きを隠せなかった。・・・が、一人の海人族がハッとした次の瞬間、

 

「ま、まさかその姿は!ホルアドの町を救った〝黄金の英雄〟か!金髪にエメラルドの瞳・・・纏うは金色の光・・・・間違いない!ホルアドで聞いた通りの特徴だ!!まさかこんなところで見れるとは・・・」

 

ターレス戦の事が広まっていたらしい。それを聞いた周りの海人族も賛同し始める。

 

「あれが・・・改めて見ると神々しいな・・・」

 

「うおっ、眩しい!!あれが戦士の輝きか!!」

 

「最強の戦士が父親か!くっ…これは認めざるを得ないっ」

 

「素敵・・・私もあんな人に守られてみたい・・・戦士さま・・・」

 

「ありがたやありがたや…」

 

牽制どころか誤解が加速した。

 

「やっぱりパパはすごいの!!」

 

「そうね、凄いわね…♡」

 

レミアの声に熱が入っており、何処かぼーっとした表情で彩人を見つめているので誤解が事実になりつつある。ハジメたちはドヤ顔していたが。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

それ以降、嫉妬の視線は無くなったがレミアの距離感が近くなり、レミアさんとミュウちゃんを温かく見守る会のメンバーから「レミアさんとミュウちゃんをよろしくお願いします」と言われ、ホルアドの噂が一瞬で広がったせいかおかげかエリセンにめっちゃ受け入れられていた。

 

・・・・ただ、夜寝るときにレミアから「夫婦なら一緒にしますか?」と言われたり「パパとママと一緒に寝る~」とミュウに言われて冷や汗をかいたが乙女達は特に何も言わなかった。仕方なく三人川の字で寝ているのだが・・・・

 

<Φ> <〇><ジーッ

 

<〇>× <〇><ジーッ

 

U<〇> <〇>U<ジーッ

 

<〇> <〇><ジーッ

 

<●> <●><ジーッ

 

川<〇> <〇><ジーッ

 

ζ<〇> <〇>ζ<ジーッ

 

 <●----●> <ジーッ

 

 = _ =<zzz

 

「(視線が痛い・・・・)」

 

研究の為に彩人達を囲む乙女達なのだった。



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月夜の道しるべ

ありふれた職業で世界最強 零

のネタを取り入れてます。


メルジーネ海底遺跡攻略の為修理済みの潜水艦に乗り込む。見送りに来たミュウとレミアだが、

 

「パパ…本当に行っちゃうの?」

 

「ミュウ、パパはやらなきゃいけない事があるの」

 

「ミュウ、心配するな。必ず帰るからな」

 

やはり寂しいミュウが半べそになるも彩人とレミアの言葉で我慢する。

 

「パパ、いってらっしゃいなの!」

 

気丈に叫ぶミュウに手を振り彩人が潜水艦に入ろうとするが、

 

いってらっしゃい、あ・な・た♡」

 

レミアのその一言で彩人はずっこけた。本気なのか冗談なのか分かりやしない。生暖かい視線を受けながら海底の迷宮の入口があるエリセンから西北西に約300m地点を目指す。原作ではやや迷ったが今回はミレディ本人がいるので確実にたどり着ける。タイミングはやや早いが日没までにそのポイントにたどり着いた。

 

女性陣は現在シャワールームにて汗を流している。連れ込まれることは無かったが鍵をかけてなかったのは偶然と思いたい。

一方月が登るまでの間、彩人は水平線の彼方に沈む夕日をぼんやりと眺めていた。

 

「彩人くん?どうしたの?」

 

「香織か。いや、自然の風景ってどこでも綺麗なんだな・・・ってさ」

 

「……そっか。うん、そうだね。向こうの海で見た夕日とそっくり……なんだかすごく懐かしい気がするよ。まだ半年も経っていないのにね」

 

「ここでの生活が濃すぎるだけだと思うんだが、な」

 

そんな会話をしていると後からあとからぞろぞろと彩人の周りを囲む乙女たち。

 

「なんかいい雰囲気だったのでぶち壊しに来ました!」

 

「んっ!」

 

「おい」

 

その後、地球での様々な話で時間を潰す。ヒロインズは故郷の思い出を語り、ユエ達は目を輝かせて聞いていた。時は過ぎて海原は漆黒の闇に変わり満月の光のみが辺りを照らす。

 

「「『月がきれいですね』」」

 

「・・・」

 

唐突に香織と恵里がそんな事を言い出す。頬を朱に染めながらチラチラと彩人の方を見ている。ハジメと雫が『その手があったか!』と納得している。鈴は理解できていないようで「・・・?そうだね?」と返していた。彩人は黙っていたが二人の視線がキツいので

 

「『私、死んでもいいわ』とでも言えばいいのk」

 

「彩人さん!死ぬなんて言わないで下さいぃぃぃぃぃ!!」

 

「ダメ…!彩人は死なせない…!!」

 

「主様よ!言うて良い事と悪い事があるじゃろう!?」

 

「なんかあったの!?ミレディちゃんが聞いてあげるから早まるなーーー!!!」

 

返答で誤解を招いた。後できちんと説明したらものすごい勢いで謝罪された。・・・・気を取り直してグリューエンのペンダントを月に向かって掲げるとペンダントに刻まれた女性の持つランタン部分(穴あき)に月の光が集まり、光で満たされると道しるべのように一本の光が放たれた。

 

「……なかなか粋な演出。ミレディとは大違い」

 

「ねえそれはどういうことかね?」

 

「とっても幻想的ですぅ・・・ミレディさんと違って」

 

「んな!?」

 

「うん、すごくファンタジーで・・・私少し感動しちゃった。・・・・ミレディと違って」

 

「・・・・う"ぇ"~~ん"!!私だって演出頑張ったのにぃ!!メル姉との扱いの差が酷いよぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"」

 

おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪なんて書くからだろ・・・」

 

涙目のミレディをあやしながら全員潜水艦に乗り込み、海底を指し示す光を頼りに進むと岩壁の亀裂に光が差し込む。潜水艦が近づくと扉のように左右に開かれた。

 

「これじゃそう簡単には行けないよね」

 

「でも異世界で海底遊覧なんてそうそうできる体験じゃないよ!」

 

岩壁の割れ目から奥へと進んでいくが辺りは真っ暗。辛うじて潜水艦のライトが照らしているが一寸先は闇である。

 

「う~む、海底遺跡と聞いた時から思っておったのだが、この〝せんすいかん〟? がなければ、まず、平凡な輩では、迷宮に入ることも出来なさそうじゃな」

 

「……強力な結界が使えないとダメ」

 

「空気や水分、海流にも気を配らなきゃならないな」

 

「でも、ここにくるのに【グリューエン大火山】攻略が必須ですから、大迷宮を攻略している時点で普通じゃないですよね」

 

「もしかしたら、空間魔法を利用するのかもね」

 

奥へと進みながら迷宮攻略の見解を述べていると突然横から強い力がかかる。

 

「うおっ!?」

 

「んっ!」

 

「くうっ!」

 

「「「わわっ!」」」

 

「「きゃっ!」」

 

「ひゃっ!」

 

「何じゃっ!?」

 

水流により船体が回転するものの重力石で体勢を立て直す。

 

「うっ、このぐるぐる感はもう味わいたくなかったですぅ~」

 

「うん、あの時も凄かったぁ・・・」

 

「あれはもうこりごりだよ・・・・」 

 

「直ぐに立て直したでしょ…もう、大丈夫だって。それより、この激流がどこに続いているかだけど……」

 

マグマに押し流された時もそうだったらしくシア、鈴、恵里が顔を青くしている。そんな三人に苦笑いしつつもハジメは水流にのってバランスを崩さないように潜水艦を制御する。

しばらくそうしていると、船尾に組み込まれている〝遠透石〟が赤黒く光る無数の物体を捉えた。

 

「なんか近づいてきてるね……まぁ、赤黒い魔力を纏っている時点で魔物だろうけど」

 

「……殺る?」

 

ユエが物騒なことを言い出すがハジメは新武器の試し打ちをするためユエのサポートを断る。

そして潜水艦に襲い掛かろうとしているトビウオの魔物の群れに無数の魚雷が炸裂した。すぐさまトビウオは血肉をまき散らしながら絶命していく。

 

「うわぁ~、ハジメさん。今、窓の外を死んだ魚のような目をした物が流れて行きましたよ」

 

「シアよ、それは紛う事無き死んだ魚じゃ」

 

「改めて思ったのだけど、ハジメの作るアーティファクトって反則よね。」

 

それ以降もトビウオ共の襲撃を返り討ちにしつつ五十センチくらいの大きさのメルジーネの紋章が刻まれている岩壁に光を注いで奥へと進む。8つほど抜けると溜まった光は残りわずかとなり、おそらく最後の扉がひらかれると光は底をついた。

 

「これ、魔法でこの場に来る人達は大変だぁ……直ぐに気が付けないと魔力が持たないよ」

 

〝結界師〟である鈴が自身がバリアを張ることを考えて顔を青ざめた。

そのまま奥へと進んでいくと水路の途中に穴がありそこから落下した。そこは洞窟になっており上を見ると落ちてきた穴の上を水流が流れていた。

 

「ここからが本番みたいだな」

 

「……全部水中でなくて良かった」

 

船外に出ながらつぶやく彩人とユエ。ハジメが潜水艦を〝宝物庫〟にしまうと奥へと足を進める。フジツボのような魔物による〝破断〟をユエが防ぎ、手裏剣のように飛んでくるヒトデを雫、ハジメ、シアが返り討ちにし水中はユエ、他の魔物は恵里とティオの火炎で焼き尽くされた。

 

「恵里、そなたもやるのう」

 

「彩人のそばに居るのなら当然。ふふ」

 

「雫さんも流石ですぅ」

 

「まぁ、いつまでも傍観者じゃいられないもの」

 

ユエ達が異常なのであって雫達もかなりの強者だ。もはや無敵の布陣と言えるが、

 

「「……」」

 

香織と鈴は心中穏やかでは無かった。香織は詠唱速度が速く、鈴はより強力なバリアが張れるがユエがその両方を上回っており攻撃力でも他に劣る。

 

「・・・二人共、大丈夫か」

 

「ぅええ!?、だ、大丈夫だよ、あはは・・・」

 

「えっ? あ、ううん。何でもないよ」

 

「・・・そうか。なにかあったら必ず言えよ?」

 

彩人の心配に安堵と寂しさを覚える鈴と香織だった。二人からわだかまりを感じつつも先へと進んでいくと大きな空間に出た。全員が入ると半透明のゼリー状の物体が入口を塞いだ。すぐさま雫が切り裂くが、

 

「・・・っ、量が多い」

 

「助太刀しますぅ!うりゃあ!!」

 

とめどなく流れてくるのでキリがない。すかさずシアがドリュッケンで殴りつけるが飛び散ってしまう。

 

「ひゃわ! 何ですか、これ!」

 

「シア、動くでない!」

 

見るとシアの衣服がどんどん溶かされていた。ティオが絶妙な加減でゼリーのみを焼き払い、事なきを得たがシアの胸の谷間に小さなやけどの跡が付いた。だがその間に無数の触手が彩人達に襲い掛かる。すかさずユエが障壁を張り恵里が焼き尽くす。シアについたゼリーを焼き払い終えたティオも参加し、全てを焼き払う。

 

「このコンボ強すぎな」

 

「分かる」

 

反則級の組み合わせに彩人とハジメが呆然としているとシアがあざとい顔で彩人に自身の胸を突き出す。

 

「あのぉ、彩人さん。火傷しちゃったので、お薬塗ってもらえませんかぁ」

 

「今は戦闘中なんだが」

 

「いや、ユエさんとティオさん達が無双してるので大丈夫かと……こういう細かなところでアピールしないと、香織さん達の参戦で影が薄くなりそうですし……」

 

「・・・・香織、頼む」

 

「え、あ、うん・・・ごめんね、シアちゃん。〝天恵〟」

 

「あぁ~、お胸を触ってもらうチャンスがぁ!」

 

半泣きのシアに周りがジト目で見つめるが、異変が起きる。

 

「む? ……彩人、このゼリー、魔法も溶かすみたい」

 

「うん、僕の炎も威力が落ちてる」

 

「ふむ、やはりか。先程から妙に炎が勢いを失うと思っておったのじゃ。どうやら、炎に込められた魔力すらも溶かしているらしいの」

 

見れば障壁がどんどん溶けている。するとミレディはあることを思い出す。

 

「これ…〝悪食〟かな」

 

「〝悪食〟?」

 

ミレディによると〝解放者〟集めの際メイル・メルジーネを勧誘するためにこのあたりを訪れた時に現れた存在が〝悪食〟と呼ばれた魔物らしい。

 

「その時はどうやって倒したんだ?」

 

「・・・倒したっていうか…あの時は一回目はヤモシが気のバリア?で吹き飛ばして二回目はオーくんと一緒に海ごと凍らせてメル姉たちを逃がしただけだったなぁ…」

 

「爆発波か・・・・」

 

「・・・あ、そういえば〝悪食〟は魔力に反応して姿を現すってメル姉言ってたなぁ・・・あの時は私の魔力に反応しt」

 

「「「「「「「「「それを早く言え!!!!!!」」」」」」」」」

 

「ひぃん・・・」

 

ミレディ以外の全員の声が重なった。と同時にゼリー状の物体が巨大なクリオネ・・・ではなく。

 

ウボォウエエエエエエエエエエ!!!!

 

「」

 

ゼリー状の物体を纏ったバイオブロリーが現れた。




ふと思いついた。


ここでドロリー出したらおもろくね?


と。


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海底に眠る狂気

「な・・・なにあれ・・あんなの・・・知らない・・・」

 

ミレディが顔面蒼白でつぶやくが、女性陣は全員顔を青ざめている。茶色の培養液に覆われ、頭部は辛うじて金髪が見えるが赤い瞳、胸部の発光体を除けばおどろおどろしいゲル状のバケモノである。香織達はもちろん、ユエ達ですら気を失いかけるほど醜い外見だった。

 

グルエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 

バイオブロリーが雄たけびを上げるとゼリーの触手が魔物を吸収し、バイオブロリーに届けられている。

 

「……、ど、どうやらここの魔物はこやつのしょ、食料のようじゃな…な、内部の輩が操っているようじゃ……」

 

「ハジメさん!!魔石は何処ですかッ!!」

 

よろめきながら分析するティオと泣き叫びながらハジメに問いかけるシア。

 

「……ない。あいつには、魔石がない」

 

「ハ、ハジメちゃん? 魔石がないって……じゃあ、あ、あれは魔物じゃないってこと?」

 

「わからない・・・。でも、強いて言うなら、あのゼリー状の体、その全てが魔石だよ。私の魔眼帯には、あいつの体全てが赤黒い色一色に染まって見える。あと、部屋全体も同じ色だから注意して。あるいは、ここは既に奴の腹の中だよ!」

 

ただでさえバイオブロリーが計り知れないのにゼリー体も厄介。食事を終えたゼリー体がハジメ達に攻撃を仕掛けてくる。

 

「だったら焼き払うだけ・・・『グエエアアアアアアアアアア!!』・・・な!?」

 

ハジメが火炎放射器で迎え撃とうとするがバイオブロリーの目から放たれたレーザーが火炎放射器を破壊した。

 

「皆下がれ!!ハジメ、床に穴開けろ!今のままだと俺でも勝てねえ!!」

 

「え・・・わ、分かった!!」

 

彩人の言葉に一瞬戦慄するが彼の指さす方向に水流渦巻く亀裂があるのに気づいたハジメは〝錬成〟で穴を広げる。

続いてパイルバンカーで穴を広げようとするがバイオブロリーがそれを許すはずもなく両手に気弾を作り出す。

 

「!?まさか、アイツもサイヤ人!?」

 

「……なら、あの金髪は…!」

 

ガウルルルルルガァァアアアアアアア!!

 

「!?」

 

「そんな・・・っ!」

 

「嘘・・・」

 

ハジメに向かって気弾が放たれる。ユエ、香織、鈴は協力して障壁を張るも容易く突き抜けてしまう。

 

「波ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

彩人は速攻でかめはめ波を放つも、何とかずらすので精一杯だった。それた気弾が壁に当たり、海水が飛び散ったその時、バイオブロリーは慌てて飛び退きゼリー体で自分を守らせた。

 

「開いた!皆、息を止めて!」

 

それと同時にハジメが空けた穴に水があふれ出し吸い込まれていく。バイオブロリーは水流に呑まれる彩人達を攻撃しようとするが海水から離れる仕草をしている。

 

「(やっぱり海水が弱点か)」

 

彩人は水流に流され、水中を漂う香織と鈴を抱える。テレパシーでユエ達と別れる事を伝えると『……分かった』と返した。

水流の勢いが弱くなったタイミングで彩人は二人を抱えたまま舞空術で一気に浮上し砂浜へ運んだ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

砂浜以外はうっそうとした雑木林が広がっていた。周りに敵の気を感じなかった彩人は二人を介抱した。やがて二人が目覚めると、

 

「「ねぇ、彩人」くん」

 

「ん?」

 

「どうして……私達を助けたの?」

 

「エリリンやおね・・・ユエさんじゃなくて良かったの?」

 

「・・・あのメンツでやられるわけないだろ。さっきのは例外だがな・・・。それに二人が心配だったからだ」

 

「・・・そうだよね」

 

「・・・」

 

「それよりもハジメからミニ〝宝物庫〟を預かってる。二人共風邪ひくから着替えな」

 

「う、うん・・・ありがとう・・・」

 

「あ、そ、そうだね・・・」

 

彩人から指輪をわたされていそいそと岩陰に行く二人。ここぞという場面でアプローチしないのとさっきの反応から二人の内心を察する彩人。彩人自身は気で水分を吹き飛ばしたので必要なし。

 

「お、おまたせ・・・」

 

「着替え終わったよ」

 

「よし、じゃあ皆と合流するぞ。・・・と言ってもこの密林を抜けるしかないがな」

 

「ひぅっ…虫はいやぁ・・・・」

 

「悪いが我慢してくれ、鈴。密林以外に進める場所は無いんだ」

 

「・・・・分かった」

 

意気消沈しながらも彩人のそばに寄りそう鈴。香織も彩人達に続くも彩人の近くに居るのにも関わらず二人の心は晴れなかった。

 

「これは・・・まるで船の墓場(サルガッソー)だな」

 

「すごい……帆船なのに、なんて大きさ……」

 

「でもなんでこんなに…」

 

密林を抜けた先には数百メートル以上ある巨大な帆船が大量に放置されていた。大砲の有無はあれど激しい戦闘の跡が多く残っているため戦艦がほとんどを占めている。

 

「中央の船・・・客船か?」

 

「多分そうかも。装飾とか見ても豪華だし……」

 

「ひょっとして襲われてたのかな」

 

三人が客船に近づいた次の瞬間。

 

――うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 

――ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

「!!」

 

「彩人くん!ま、周りが!」

 

「な、何!?何が起きたの!?」

 

多くの人間の怒号と同時に空間が歪みだし三人は戦いの最中の船の甲板の上に居た。ボロ船どころか多くの新品の船上で兵士が武器片手に戦いを繰り広げている。

 

「な、何がどうなってるの…!?」

 

「私、夢でも見てるのかな?」

 

「・・・残念ながら現実みてえだ」

 

武器がかち合う音、飛び交う魔法弾、燃え上がる船体、石化するマスト、飛び散る血しぶき、海へ落下する者の断末魔。間違いなく戦火の真っ只中だ。そうしているうちに火球が三人に向かって飛んでくる。彩人は気弾で迎え撃つが、すり抜けてしまう。

 

「・・・っ、面倒な・・・!」

 

「私に任せて!〝光絶〟!」

 

鈴の障壁が火球を防ぐ。またもや飛んでくる火球を彩人は殴り飛ばすと、

 

「・・・!・・・っつ・・・・」

 

「彩人くん!〝天恵〟!!」

 

普段なら余裕で弾き飛ばせるはずの低級魔法で拳を焼かれた彩人。すかさず香織が傷をいやす。

 

「厄介だな・・・ここで魔力無しが効いてくるとは・・・」

 

「どういう事?」

 

「香織、鈴、ここはお前らが頼りだ。俺の気がまるで通じねえ。だが魔法なら通用するみてえだ」

 

彩人が言うと同時に三人の後ろで一人の男性が倒れた。

 

「だ、大丈夫ですか!?い、今回復を『うがぁ…』・・・・え?えっ? ど、どうして……」

 

香織は確かに〝回復魔法〟を使った。だが次の瞬間男性はうめき声をあげて消滅してしまった。

 

「・・・どうやら魔法なら何でも効くらしい」

 

「……それじゃあ、わ、私……あの人を殺し……」

 

「香織、回復魔法をかけられて消滅する人が居るか?」

 

「あ…うん、そうだね…ごめんなさい。ちょっと取り乱しちゃったけど、もう大丈夫」

 

「・・・、まずいな。鈴、香織、俺に掴まれ。飛ぶぞ」

 

「「・・・え?」」

 

鈴と香織が周りを見ると武器を持った男たちが三人に襲い掛かろうとしていた。慌てて彩人に抱き着く二人を何とか支え、舞空術で飛び去る彩人。しかし

 

『全ては神の御為にぃ!』

 

『エヒト様ぁ! 万歳ぃ!』

 

『異教徒めぇ! 我が神の為に死ねぇ!』

 

囲んでいた男たちが目を血走らせ涎をまき散らしながら三人を見上げて叫んだ。今の状況を一言で表すのなら"狂気"だろう。よく聞けば他の兵士も神の名を叫んでいる。名は違うのだが一部の兵士は彩人達を標的にしているため狂気にとらわれた表情で届きもしないのに三人に攻撃しようと武器を振り上げ、マストからジャンプして海へと落ちていく。時間が経てば経つほど狂気の兵士たちは増えていく。

 

「・・・二人共、悪いがこの場一帯に魔法を撃ってくれ」

 

「え・・・あ・・うん、回復魔法なら・・・」

 

「障壁でもいいならいけるよ!」

 

「そうか、なら頼む。この戦いを終わらせるにはそれしかねえ・・・!」

 

ふたりの魔法で狂気の兵士たちは一掃されたが目の前で仲間がやられているのに狂った笑いを浮かべながら魔力の壁に特攻し、消滅していく。行き過ぎた信仰の末路と言うべきか。味方を巻き込む前提の魔法もそれを裏付ける要因にほかならず無残にも消えていった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

兵士を一掃したのち空間が歪み元の砂浜に戻された。

 

「……うっ、げほぉ、かふっ、ごめ゛……」

 

「…かはっ…ごぷっ……ゲホゲホ……」

 

「・・・二人共、よく頑張った」

 

もどるやいなや鈴と香織は恐ろしさのあまり嘔吐した。彩人にこんな姿を見られたくはなかったが二人を心配する彼が背中をさすってくれたおかげで二人は楽になった。

 

「ごめんね…彩人くん」

 

「彩人・・・ごめんね・・・」

 

「・・・まぁ、あんなのを見たらな・・・・俺も流石に恐怖を感じたぞ。妄信的な奴は何人か見てきたがあそこまで行くと最早狂気だ・・・とりあえず今は休め。魔力も回復させておくんだ」

 

「…うん、そうだね。…でもさっきのは何だったんだろう」

 

「ここの廃船と関係があるのかな?」

 

「可能性は高い。周りの戦艦に近づいた時戦争の世界になった・・・しかも俺達に襲い掛かるというおまけつき。試練としては勿論、これがこの迷宮のコンセプトなのかもな」

 

「コンセプト?」

 

「あ、【グリューエン大火山】でティオさんが言ってたのだね?」

 

グリューエン大火山に同行していない香織に鈴が補足説明をする。

 

「だとしたらここのコンセプトは……狂った神がもたらすものの悲惨さを知れ……かな?」

 

「まあ、そんなところだろうな」

 

そういうと二人は先ほどの光景をおもいだしたのか再び口を抑える。彩人が香織と鈴の手を握ると二人は少し驚いたがすぐに安堵と嬉しさが混ざった顔になり冷静さを取り戻す。

 

「彩人くん、ありがとう」

 

「そういえば彩人もキツかったんじゃないの?」

 

「まぁ、キツくないかと言われれば嘘になる。でも見慣れているし・・・奈落の底で魔物に襲われて死にかけたときハジメが変貌してさ・・・俺が正気を失ったらどうなることやら」

 

「「その話詳しく」」

 

「・・・いや、その魔物はハジメがズタボロにしたから・・・」

 

先程までの弱弱しい雰囲気から一転表情を失う二人をなんとかなだめた。気を取り直して問題の豪華客船に足を踏み入れる。全長300m超、10階建ての巨大な帆船である。見事な外観に三人は目を奪われたが彩人の舞空術で船に乗り込むと空間が歪んだ。

 

「二人共、気を引き締めろ。碌な世界じゃないだろうしな」

 

「……うん。大丈夫だよ」

 

「私も平気」

 

覚悟を決めた三人の眼前に広がる光景は・・・煌びやかなパーティーの光景だった。星の輝く夜に巨大な帆船の上で人間族、亜人族。魔人族が楽しげに談笑しながら所せましと並んだ料理を食している。

 

「パーティー……だよね?」

 

「なんだかとっても楽しそう」

 

「気で探って・・・悪意を感じないな」

 

船上に居る者から見えない位置で様子をうかがう三人。すると船員らしき人物が数人、テラスで一服しながら談笑していた。

 

『ようやくこの時が来たな』

 

『ああ、長かったぜ。でもこれで戦争とはオサラバだ』

 

『なんか和平条約?かなんかで決まったらしいぜ。ま、何にせよ今夜で全て終わる』

 

そんな会話が聞こえた。甲板でも異種族同士で和気あいあいとした会話が行われている。皆笑顔だった。

 

「こんな時代があったんだね」

 

「なんだかこっちまで嬉しくなっちゃうよ」

 

「条約で終戦か・・・憎しみもあるだろうにここまで穏やかになるとは・・・相当な苦労があったんだろうな」

 

「きっと、あそこに居るのは、その頑張った人達なんじゃないかな? 皆が皆、直ぐに笑い合えるわけじゃないだろうし……」

 

「そうだろうな」

 

和やかな雰囲気に三人の頬も思わず緩む。すると甲板に用意された壇上に荘厳な服装の初老の男性が登った。彼がてを振るとその場にいた全員の表情が真剣なものになり敬意を込めた目で彼を見つめる。その彼の傍らには側近の男とフードを被った人物が。

すると初老の男性がスピーチを始めた。

 

『諸君、平和を願い、そのために身命を賭して戦乱を駆け抜けた勇猛なる諸君、平和の使者達よ。今日、この場所で、一同に会す事が出来たことを誠に嬉しく思う。この長きに渡る戦争を、私の代で、しかも和平を結ぶという形で終わらせる事が出来たこと、そして、この夢のような光景を目に出来たこと……私の心は震えるばかりだ』

 

どうやら一国の王である彼が中心となり和平へと導いたらしい。周りの彼に向ける敬意の理由を察したが、彩人は彼の気が徐々に悪意に染まっていくのを感じていた。

 

『――こうして和平条約を結び終え、一年経って思うのだ………………実に、愚かだったと(・・・・・・)

 

王の言葉に騒然とする一同。しかし演説は終わらない

 

『そう、実に愚かだった。獣風情と杯を交わすことも、異教徒共と未来を語ることも……愚かの極みだった。わかるかね、諸君。そう、君達のことだ』

 

『い、一体、何を言っているのだ! アレイストよ! 一体、どうしたと言うッがはっ!?』

 

アレイスト王に質問した一人の魔人族が背後に居た兵士に胸を剣で貫かれる。

 

『陛下ぁ!』

 

『しっかりなさってください!』

 

『くそっ、心臓を刺された!血が止まらん!!』

 

倒れた魔人族に複数の男女が駆け寄る。それを見ている王はそれでも演説を止めない。

 

『さて、諸君、最初に言った通り、私は、諸君が一同に会してくれ本当に嬉しい。我が神から見放された悪しき種族ごときが国を作り、我ら人間と対等のつもりでいるという耐え難い状況も、創世神にして唯一神たる〝エヒト様〟に背を向け、下らぬ異教の神を崇める愚か者共を放置せねばならん苦痛も、今日この日に終わる! 全てを滅ぼす以外に平和などありえんのだ! それ故に、各国の重鎮を一度に片付けられる今日この日が、私は、堪らなく嬉しいのだよ! さぁ、神の忠実な下僕達よ! 獣共と異教徒共に裁きの鉄槌を下せぇ! ああ、エヒト様! 見ておられますかぁ!!!』

 

狂気にとらわれた表情でにへらと笑いつつ恍惚の表情で天を仰ぐアレイスト王。彼の合図と共に複数の兵士が現れて参加者に襲い掛かる。マストの上に陣取った部隊の魔法攻撃、甲板上の武器を持った兵士。海上にもボートに乗った兵士が待ち構えており何が何でも逃がさないという意思が伝わる布陣だった。

 

「ひ・・・・」

 

「ううっ」

 

「鈴、香織」

 

再び目の当たりにした狂気に充てられる鈴と香織。彩人が船内に入っていくアレイスト王の後に続くフードの人物から銀色のきらめきを見たが何かを判断する前に空間が歪んで船上へと戻された。



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"大切"な存在(ひと)

本当に申し訳ありません。

仕事に葬式、コロナのトリプルパンチで時間が取れず

しかもゲームに没頭した結果でございます。



相変わらずのゴミ文ですがそれでもよろしければ見てください。


明けましておめでとう(遅い)


「二人共、大丈夫か」

 

「う、うん…平気」

 

「私も大丈夫」

 

「そうか・・・しかし、今のは衝撃的だったな・・・。俺達はともかくこの世界の住人にはキツすぎる。しかもだ」

 

彩人が指さす先はアレイスト王が入っていた船内へ続く扉。

 

「アレを見る前はあの扉は開いていなかった。・・・で、今は開いてる」

 

「それって…」

 

「もしかして」

 

「・・・入ってこいって事だろうな」

 

二人は一瞬怯えたが気合いを入れ直し、船内へと足をふみいれる。中は真っ暗なので香織に頼んでミニ〝宝物庫〟から緑光石の疑似ライトで探索する。

 

「さっきの光景……終戦したのに、あの王様が裏切ったっていうことかな?」

 

「…でもそんな人には見えなかったよ」

 

「洗脳されたのかもしれねえ。気を探ったらあの王様とは別の気が混じっていた。洗脳されると洗脳した者の気が混ざるが・・・正体は突き止められなかった」

 

「へ~、気ってそんなことまでわかるんだ」

 

「だとしても神絡みなのは間違いないな」

 

「うん、イシュタルさんみたいだった……トリップ中の。痛々しいよね」

 

イシュタルもなかなかの盲信者なので女子生徒には引かれていたようだ。鈴も全力で肯定している。そのまま先へと進んでいくと手足が折れ曲がった女性の霊が出現する。曲がった手足で不気味に笑いながら彩人達に突進してくる。

 

ケタケタケタケタケタケタ

 

「いやぁあああああああああああ!!!!」

 

「ぎゃぁあああああああああああ!!!!」

 

「」

 

全力で香織と鈴に前後で挟まれて一瞬意識が飛ぶが彩人は幽霊に気弾を撃ち込み爆散させる。

 

「・・・・おまえら、こういうの苦手だろ?」

 

「……得意な人なんているの?」

 

「怖いに決まってるよぉ……」

 

「・・・おそらくこの後も出てくるだろうから頑張れ・・・・。魔物と思えばいい」

 

「……ぐすっ、頑張る」

 

「うぅ……」

 

とはいえ二人は彩人にしっかりと抱き着いており(正面は邪魔なので左右)霊が出る度ビビってしまうがほとんどは彩人が消し炭にする。・・・のだが。

 

「きゃあああああ!!!!」

 

ガスッボコッ

 

ギエエエエエ・・・・・

 

時々香織の背後の般若が幽霊を殴り倒すのがシュール過ぎた。

 

「カオリン・・・時々アレを出すんだよ……」

 

「ヤバいな☆」

 

それでもやっぱり怖いものは怖いらしく香織は半泣きで彩人に抱き着く。

 

「やだよぉ……もう帰りたいよぉ……雫ちゃんに会いたいよぉ~」

 

「ここをクリアすれば会えるからもう少し我慢だ」

 

幼いころから天之河達に連れられてお化け屋敷などの怖い所は雫と一緒に居たため香織は無意識の内に彼女の名前を言ってしまう。(彩人は雫から聞いたことがある)

最奥の船倉にたどり着き積み荷をどけて中へ進むと急に扉が閉じてしまう。

 

「ぴっ!?」

 

「ひうっ!?」

 

「閉じ込められたか・・・」

 

しかし間髪入れずに濃霧の暴風が三人を襲う。鈴は彩人にきつく抱き着いたが香織は力を緩めたのが仇となり風で飛ばされてしまう。彩人は舞空術で香織の所へ向かおうとするが、

 

「彩人!危ない!!〝光絶〟!」

 

「・・・っ!こんな時に・・・!」

 

突如彩人の正面から矢が飛んできた。鈴の障壁でなんとかしのいだが香織とはぐれる。

 

「香織!!何処だ!!返事をしろ!!・・・・くそ、気を探っt・・・!?」

 

彩人が気を探るとたくさんの気を感じる。と同時に兵士の霊が彩人と鈴に襲い掛かる。彩人はすぐさま鈴のそばに移動した。

 

「鈴!俺のそばを離れるなよ!!」

 

「うん!!」

 

攻撃手段の乏しい鈴を守りながら格闘、気弾、気功波で兵士を迎え撃つ。

 

「お前ら・・・邪魔だぁあああああああああああ!!!!!!」

 

複数で囲い込んで襲ってくる兵士をまとめて吹き飛ばし、香織を探す。

一方香織は彩人達とはぐれて冷静さを失いそうになる。

 

「どうしよう…彩人くんと鈴ちゃん……何処……?」

 

するとふいに肩を叩かれ香織は振り返る。・・・と、

 

ウヴァアアアアアア

 

「あふぅ~」

 

禍々しい顔の幽霊を見て香織は気絶してしまった。

 

「香織!何処だぁ!!」

 

「カオリン!返事をして!!」

 

幽霊兵士を血祭りにあげ尽くした彩人達は香織を探して船内をさまよっている。鈴も恐怖心はあるが今一人の香織を思うと焦らずにはいられない。霧を気で払いながら進んでいくと。

 

「ここに居るよ、彩人くん、鈴ちゃん」

 

「カオリン!よかった……え?」

 

鈴が香織に駆け寄ろうとするが彩人が止めた。

 

「・・・香織、怪我はないか」

 

「大丈夫だよ、でも…すごく、怖かった……」

 

「・・・・・そうか」

 

「うん。だからね、慰めて欲しいな」

 

香織が彩人に抱き着こうとしたその時。彩人はこめかみに青筋を立てて香織に気功波を放った。

 

「かはっ…さ、彩人くん、なにする「黙れ、香織の体で動くな、香織の声で話すな!!」…っ」

 

彩人は激怒していた。普段冷静な彩人が本気でキレており香織がたじろぐと袖から錆びたナイフが落ちた。鈴が驚愕するが彩人は表情を崩さず香織に歩み寄る。

 

「さ、彩人くんやめ「話すなって言ってんだろうが!!オレには見えるぞ、香織の魂に纏わりつく腐りきったクズの気がな!!」・・・・・」

 

その通り、彩人が気を探ると香織以外の気を感じ取れた。彩人にとって不愉快でしかない気を。バレてると理解したのか香織・・・に取り付いた者が話し始める。

 

「ウフフ、それがわかってもどうする事も出来ない……もう、この女は私のものッ!?」

 

人質をとって余裕の表情だったが彩人は気弾を容赦なく叩き込んだ。

 

「まてっ! なにをするの! この女は、あんたの女! 傷つけるつもりッ!?」

 

この気弾はてめえのみを攻撃する。香織を傷つけるわけねえだろ

 

「私が消滅すればこの女の魂も壊れるのよ!?」

 

・・・

 

「フフ、嫌でしょう?だったらさっさと降伏「黙れ」…ヒぃッ!?」

 

香織・・・に取り付いた霊は戦慄した。彩人の瞳に憤怒と殺意が宿ったのだ。

 

「あ、あんた、…正気なの…?この女がどうなっても…い、いいnッ!?」

 

お前が居る限り香織は無事では済まねえ。それとさっき言ったよな?この気はてめえのみを傷つける。出ていきたくなるまでてめえを攻撃する

 

超サイヤ人でもないのに彩人の放つ圧倒的な強者のオーラと殺意に幽霊は言葉を失い、半泣きになる。

 

俺の"大切"な人の命を脅かした・・・、だったらてめえも命の危機にさらされる覚悟があるんだろ?人質を取ればオレが降参するとでも思ったか!!どんな理由があろうとも大切な存在に手を出した貴様を・・・・オレは絶対に許さん

 

「ご、ごめ……な……『…んっ♡』」

 

「・・・今一瞬素の声が聞こえなかったか」

 

憑依した霊が恐怖のあまり先ほどまでの余裕を無くして彩人に命乞いをしようとすると一瞬だが香織の顔が赤くなって顔を背けた。すると次の瞬間香織の体が光りだし香織が静かに倒れこむ。

 

「か、カオリン…?」

 

「・・・奴の気が消えた・・・・恐らく成仏したようだが」

 

光が消えると同時に亡霊の気が消失したので彩人は香織の様子を伺うために顔を近づけると香織が目を覚ます。すると香織は瞳を閉じ彩人の唇に自身の唇を重ねた。

 

「・・・大丈夫そうだが、どうした急に」

 

「分かったから、かな」

 

「・・・何が?」

 

「私ね、ちょっと思ってたんだ…もしかして今の自分は彩人くんの役に立ててないんじゃないかって…捨てられちゃうかもって不安になってたの」

 

「・・・」

 

「でも、あなたは私を"大切な人"って言ってくれた。それが凄くうれしくて・・・ねえ、これからも一緒に居させてくれる?」

 

「当然だろ。それが香織の意志なら否定しないしむしろこっちからお願いする」

 

「…♡」

 

二人きりの世界ができていたが、

 

「ね、ねえ彩人…私も大切…?」

 

「ああ、当然だろ。鈴もそれでいいのか?」

 

「当たり前だよ!!これからも一緒に居たいよ!」

 

「そうか・・・なら来な・・・むぐっ」

 

「んむーー!!」

 

鈴も半泣きで彩人にキスをする。しばらくもみくちゃにされたのち魔法陣が現れたので進もうとするとだっことおんぶをせがまれたので小柄な鈴を背負い香織をお姫様抱っこして歩みを進める。

 

「カオリンいいな~」

 

「えへへ。でも鈴ちゃんも彩人くんとくっつけるでしょ?」

 

「・・・後でやったるから」

 

魔法陣に着くと転送魔法らしく周りが光に包まれる。

 

「香織、いつ気が付いたんだ?一瞬素が出てたが」

 

「え?最初から」

 

「・・・は?」

 

「すぐにでも追い出そうとしたけど私のために怒ってくれてる彩人くんにキュンキュンしちゃって…♡"大切"だって言われた時につい…」

 

「」

 

「彩人くんに迷惑かけたからいっその事心中してやろうかと思ったけど彩人くんが望んでないから〝万天〟で成仏させたよ」

 

「」

 

「彩人くんを困らせるものは何であっても許さない。それは私自身も同じこと。だから安心してね、彩人くん♡」

 

「ウッス」

 

暗黒に染まった瞳で彩人を見つめる香織に彩人は背筋が凍った。

 

「…私も彩人のためなら…いいからね?」

 

「オッフ」

 

更に鈴が彩人にそうささやくので腕と背中に感じる湿度とサイヤ人にはなんてことないはずなのに感じる重さに彩人は改めて彼女たちが味方で良かったと思いながら転送され、気付くと別の場所にいた。




ロックマンXたのちい。(X3までクリア済み)

仕事の都合でまた書くのが遅れるかもしれませんが一応完結はさせるつもりですので今後ともよろしくお願いいたします。


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よっ☆ドロリーが来たYO☆

ドロリーが出ますが過度な期待はしないでちょ。


自己満足駄文にクオリティを求められてもどうにもならない。(迫真)


三人を包む光が晴れると神殿のような場所に出た。

 

「・・・これでクリアか。なんだかあっけないような・・・」

 

「彩人、私達は潜水艦で来れたからいいけど本当は海底を歩いていかなきゃだし…亡霊も魔力でなきゃ倒せなかったもん、全然簡単じゃないよ?」

 

「それにこの世界の人なら信仰心が強いだろうし……あんな狂気を見せられたら……」

 

「ああ・・・そうだな」

 

鈴と香織が指摘したように彩人達が異常なのであって攻略難易度自体は実際相違ないのだ。すると別の通路から光が迸りそれが消えるとハジメ達が。

 

「あ、彩人君、そっちは大丈夫そうだね」

 

「その言い方だと何かあったのか?」

 

「ううん、こっちも平気だったよ」

 

「ん…問題ない」

 

「…?香織さんと鈴さん、何かありましたか?」

 

「怪我でもしたのかの?」

 

彩人に担がれている二人を心配するが、

 

「心配してくれて、ありがとう。でも、大丈夫だよ。半分は甘えているだけだから」

 

「私も平気だよ、でも今は彩人と一緒がいい…」

 

朗らかな笑みで答える香織と照れ気味の鈴だった。それを見てティオは「ほほう…」と笑みを浮かべ、シアと恵里はうらやましそうに二人を見つめ、雫は「香織らしいわね」と苦笑し「リア充爆発しろ!的な?」と煽るミレディ。先に堪能しているハジメとユエは余裕の表情だった。

 

「流石にもういいだろ?」

 

「えへへ、実は最初から歩くくらいなら問題なかったり……ごめんね?」

 

「私も…ごめんね?」

 

「んじゃ、降ろすぞ」

 

彩人が腰を下げると二人は名残惜しそうに彩人から離れた。そのまま神殿の所で合流する。

 

「主様よ、香織達と何かあったのではないかの?二人の行動と言い表情も明るくなっておる」

 

「…ん、確かに」

 

「ふふ、なんとなく想像できるけどね」

 

続いてティオが質問してくる。ユエとハジメも聞いてくるが何かを察しているようだ。

 

「うん、ちょっと彩人くんにキスしちゃった。鈴ちゃんもね」

 

「ちょ、カオリン!ストレートすぎるよぉ!!」

 

「……ほぅ」

 

「えっ!? ホントですか!? どっちから! どっちからですか! まさか、彩人さんから!?」

 

「私からだよ。……彩人くんが私の為に怒ってくれて……我慢できなくて奪っちゃった」

 

両手で頬を挟みながらいやんいやんする香織。鈴も顔を真っ赤にしつつも同意する。

 

「へぇ~彩人が寝てても恥ずかしがってたあの鈴がね~」

 

「ちょ、エリリン!?」

 

すると恵里がニヤニヤしながら鈴をからかう。その後ろでは

 

「で、キスの感触は?」

 

「意外と彩人くんの唇柔らかかったな…♡」

 

「…ん、同感。ハムハムしたくなる」

 

「肉厚っていうのかな?」

 

「ちょ、ちょっと!生々しい話は止めなさい!本人の目の前でしょ!?」

 

「あ、雫ちゃんも参加する?」

 

「ふむ、妾も気になるのう」

 

ガールズトーク。彩人はアンカジでの事を思い出し疎外感を感じたフリをして現実逃避した。その後気を取り直して祭壇に行くと魔方陣が展開されユエ達が体験した世界の記憶が刷り込まれる。こちらの体験したことも向こうに伝わったのだろう。

 

新たな記憶は、魔人族の征討を目的に魔人族の侵略をでっちあげて侵攻したが返り討ちに会い王都まで侵攻されたところからで、光教教会(現聖教教会)の陰謀によるものだった上に神頼みとして子供たちを生贄にするという暴挙に出て教会の大聖堂で幼い命が無残に奪われるという凄惨な事態となった。

 

どうやらこれは記憶の刷り込みだけでなく再確認も兼ねているようで恐ろしい記憶が蘇りほぼ全員が表情を歪め、一部は顔を青ざめていた。やがて記憶の確認が終わると全員認められたようであった。

 

「ここでこの魔法か……大陸の端と端じゃん。解放者め」

 

「……見つけた〝再生の力〟」

 

手に入れた【メルジーネ海底遺跡】の神代魔法が〝再生魔法〟であった。【ハルツィナ樹海】の大樹の下にあった石版に書かれていた〝再生の力〟がこれである。ハジメが悪態をついたのはここが樹海と真反対かつ大陸の端同士だったからだ。

やがて魔法陣が消えると小さな台座がせり上がり、そこから放たれた光が女性の姿に変わる。

 

祭壇に腰掛ける彼女は、白いゆったりとしたワンピースのようなものを着ており、エメラルドグリーンの長い髪と扇状の耳を持っていた。

 

「メル姉…」

 

ミレディが呟いた通り、メイル・メルジーネその人であった。彼女はオスカー氏と同様に解放者の真実を語った。おっとりした女性のようで、憂いを帯びつつも柔らかな雰囲気を纏っている。一通り告げた後、次の言葉を残した。

 

「……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」

 

するとメイル氏は光と共に消え、台座にはメルジーネの紋章が掘られたコインが置かれていた。

 

「証の数も四つですね、彩人さん。これで、きっと樹海の迷宮にも挑戦できます。父様達どうしてるでしょう~」

 

「暴れまわってるんじゃね?(白目)」

 

「…否定しきれません」

 

コインを回収すると神殿の周りの水位が上昇してきた。

 

「また…!皆離れないで!」

 

「……んっ」

 

「わわっ、乱暴すぎるよ!」

 

「ライセン大迷宮みたいなのは、もういやですよぉ~」

 

「強制排出といったところかの…」

 

「え?ミレディちゃんの所もこうだったの?」

 

「ち、違うもん!」

 

「侵入者撃退方式で出たの忘れてないからな?」

 

互いに服を掴みあい全員一体となって酸素ボンベを咥え満たされる水と開いた天井から流れる海水の勢いで迷宮を追い出されるように外へ出た。ハジメが潜水艦を出そうとすると

 

ウウ"アアアアアアア!!!!

 

水中に響くくぐもった声。無論そこに居たのはゼリー体の身を包んだバイオブロリー。全員が気弾攻撃を警戒するがバイオブロリーは雄たけびをあげてゼリー体から伸びた触手で潜水艦を攻撃しようとする。

 

『ユエ!!』

 

『〝凍柩!〟』

 

テレパシーでユエに指示しとっさに海水を球体上に凍らせて障壁を作る。触手が直撃しその衝撃で全員がシェイクされるが何とか耐える。

海水が弱点なのは知っているがバイオブロリーは水中の為以前とはくらべものにならない量のゼリー体をその身に纏っている。

 

『ユエ。〝界穿〟、いけるか』

 

『…ん、でも少し時間がかかる』

 

『僕も手伝うよ』

 

『…助かる』

 

〝界穿〟とは、【グリューエン大火山】で修得した神代魔法である空間魔法の一つだ。空間の二つの地点に穴を開け、二点の空間を繋げる。要するに、ワープゲートを作る魔法である。二人で二点をつなぐことで短縮できる。

当然バイオブロリーが逃すまいと無数の触手をけしかけるが彩人の気弾、ミレディの重力魔法、ティオのブレスで阻まれる。

それでも突破した触手は氷の障壁を溶かすがハジメが錬成した障壁に阻まれる。するとバイオブロリーが再び咆哮しさらに無数の触手が迫る。魔力すら溶かす触手が連続で襲い掛かってくるが、ハジメが錬成し続け念のため鈴が障壁を張ってしのぐ。

 

たった10秒間の出来事だったが、

 

『『〝界穿!〟』』

 

ユエと恵里が完成させたゲートにすぐさま飛び込むと同時海の上空に飛び出した。すぐさま〝竜化〟したティオが全員を乗せる。・・・が、

 

ドォゴオオオオオオオ!!!

 

ザバァアアアアアア!!!

 

轟音と共に高さ500m幅1kmある巨大津波が彩人達を襲う。高さ100mの位置に居る彼らに逃げ場はない、ならば。

 

「ティオ!!」

 

『承知っ!』

 

巨大津波に一瞬面食らったティオだが彩人の声で我に帰ると前進した。それと同時に、

 

「波っっっっっっっっっっっっ!」

 

「――〝縛印〟〝聖絶〟!」

 

「「〝聖絶〟」!」

 

舞空術でティオの前に出た彩人が気功波で津波に大穴を開け、光のロープで互いを繋ぎ念のために防御を固めておく。

 

「ティオさん、気をつけて! 津波の中にアレがいます! 触手、来ます!」

 

津波から飛び出す触手をハジメの火炎放射と彩人の気弾が焼き払う。減った触手をかいくぐり穴を抜けて津波をやり過ごす。その先に居たのは、バイオブロリーの顔。・・・もといゼリー体を吸収して巨大化していたのだ。

 

グウウウアアアアアアアアア!!!!!!!

 

「!!」

 

巨大な口からいつぞやのレーザーが放たれた。一枚目の障壁は破壊され二枚目は大破したが三枚目は辛うじて無事だった。

 

「威力が落ちてる…?」

 

『ふむ、ゼリー体を纏っておったから障壁を貫通したのかもしれんのう』

 

「で、でもこのままじゃ…」

 

「もし上半身にゼリー体を纏っていないなら勝てる可能性がある」

 

明らかに威力が落ちているビームに違和感を覚えるユエ。

ティオの発言に対して言った彩人の言葉に全員の注目が集まる。

 

「彩人くん、何か方法があるの?」

 

「ああ。最初にアイツと会った時、やたらと海水を嫌う動きをしていた。水中の時は厳重にゼリー体に守らせてな」

 

「なら海水をぶっかければアイツを倒せるかも!?」

 

したがってやることは一つ。ゼリー体が張っていない部分に海水をかけること。・・・しかしゼリー体が都合よく邪魔をするためなかなか当たらない。

 

「くそっ、全身を覆えないってことは限界のはず・・・」

 

下半身に集中したゼリー体が上半身を防御する際薄くなるのだが接近しようにも巨大なバイオブロリーの反撃で近づけない。どうしたものかと考えていると

 

『よぉ、サー坊。ヤバそうじゃねぇか。おっちゃんが手助けしてやるぜ』

 

『この声は・・・リーさん!!』

 

『おうよ。サー坊の友、リーさんだ』

 

よく見ると水中に見たことのある人面魚が。

 

『サー坊、あのデカブツを海水に触れさせればいいんだろ?下を薄くしてくれるか』

 

『あ、ああ』

 

彩人は全員に指示して上半身に海水をぶつけまくる。ゼリー体が阻むが当然下半身のゼリーが薄くなり・・・

 

『行きな』

 

リーマンの操る魚群がゼリー体に突撃した。バイオブロリーがそれに気づいて片足を上げようとするが時すでに遅し。露出した部分から凝固し始め慌ててゼリー体を取り込むが防御が減った部分にハジメ達が海水を浴びせて全身が凝固していき最終的に怪物の塊となったが彩人の気功波で粉々にされた。

 

『おーおー、悪食を取り込んだあのバケモンを悪食ごと倒すとはな』

 

『リーさん、助かった。ありがとう』

 

『どういたしましてだ。まぁ、仁義を貫いただけさ。気にするな』

 

『相変わらずハードボイルドなお方だな・・・』

 

人面魚と和気あいあいと会話する彩人を見て、

 

「……なんじゃ、あれは。何か、やたらと通じ合ってないかのぉ?」

 

「……漢の友情?」

 

「・・・なぜだろう、あんまり違和感を感じない」

 

「彩人くん……異世界で出来た友達がシーマ○なの? あんなに誰かと意気投合してる姿なんて日本でもあんまり見たことないよ!」

 

「前もあんな感じでしたよ。ガールズトークならぬボーイズトークってやつですかね? まぁ、相手はおっさんですが……」

 

「前もって…何があったんだろう…」

 

「ま、まあ彼(?)のおかげで勝てたのだしあまりどうこう言うのも…」

 

「清水と同じくらい親しげ…」

 

「ホントに退屈しないねえ、キミぃ」

 

一通り会話したのち、リーマンは去ろうとするがシアに気づくと彼女に呼びかけ、

 

『嬢ちゃん、ライバルは多そうだが頑張れよ。子供が出来たら、いつか家の子と遊ばせよう。カミさんも紹介するぜ。じゃあな』

 

と言い残して今度こそ立ち去った。

そして一瞬の沈黙の後。

 

「「「「「「「「結婚してたのかよぉーーー!!」」」」」」」」

 

「(そういえば妻子持ちだったなぁ・・・・)」

 

そんなハジメ達の盛大なツッコミだった。風来坊を気取っていたが、家庭持ちと考えると、タダのダメ親父にしか見えない。しばらく、大海原にハジメ達のツッコミが木霊していた。




〝界穿〟のやつは独自設定です。


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思い出作りは奇跡へのいざない


OVAネタを少しいじったものです。

ややネタバレ注意?


バイオブロリーを撃退しティオに乗せてもらいながらエリセンへと帰還した彩人達。今回は潜水艦はバイオブロリーの攻撃の余波で破損こそしたがハジメによれば数時間で直せるそうだ。

 

エリセンに着くや否やレミア、ミュウだけでなく多くの海人族に迎えられた。どうやら"悪食"ことバイオブロリーが暴れていたためにエリセンにも影響が出ていたらしい。不審者から一転、英雄扱いされる形での帰還となりつつも次なる迷宮に向けて準備を整え次第出発する……はずだった。

 

「一体・・・どうしろと言うのだ・・・」

 

彩人は桟橋に腰掛け項垂れていた。あれから5日経ったが神代魔法の修練と装備などの準備は既に済ませた。・・・が、なんやかんやここに居続けている。

海に囲まれたエリセンでバカンス気分にはなるし、全員海産料理や海を楽しんでいた。そこまでは良かった。しかしいざ出発するかと思えど残る迷宮は【ハルツィナ樹海】以外では一つは魔人族の領土にある【シュネー雪原】の【氷結洞窟】。そしてもう一つは、何とあの【神山】なのだ。敵の本拠地に子供を連れて行くなど言語道断なのでミュウとはここで別れる手筈なのだが

 

ミュウの無言の懇願が強すぎた。

 

"真に恐ろしきは無垢なる者なり"彩人はその言葉の意味を痛いほど理解した。

ふと桟橋からミュウと海で遊ぶ乙女達を眺める。全員当然水着でありひたすら眼福ではあった。

 

「不味い・・・このままでは時間ばかりが過ぎていく・・・きちんと約束すればいいものの・・・純粋さは恐ろしい」

 

ミュウにちゃんと話せばいいとは分かっているのだが純粋な眼で決意が揺らぐのだ。この年で魔性の可能性を秘めているとは・・・・と、彩人がチート集団を海人族の強みを活かして鬼ごっこ(一方的)をしているミュウを見て対応を考えあぐねていると彩人の目前の水面から顔を出す人物、レミアだ。

 

「あ・な・た♡」

 

「その呼び方は勘弁してほしいんだが・・・?」

 

「うふふ、すみません」

 

エメラルドグリーンの長い髪を背中で一本の緩い三つ編みにしており、ライトグリーンの結構際どいビキニを身に付けている。初対面時にはやつれていたが再生魔法も重なって急速に回復し健康体を取り戻した結果、女神が降臨したかと思えるほどの魅惑の美女となった。これが一児の母なのか・・・?と思えるほどに。

彩人はレミアが近づいているのを気で感じていたが自身の股の間から顔を出す美女と言う光景には少なからず動揺している。

そんな彩人に穏やかなほほえみを浮かべたレミアは彩人を気遣うような口調で、

 

「ありがとうございます、彩人さん」

 

「・・・?いや、そこまでの事は・・・・」

 

「うふふ、娘のためにこんなにも悩んで下さるのですもの……母親としてはお礼の一つも言いたくなります」

 

「バレてたか・・・・流石は母とほめてやりたい所だァ・・・」

 

「あらあら、知らない人はいませんよ? ユエさん達もそれぞれ考えて下さっているようですし……ミュウは本当に素敵な人達と出会えましたね」

 

レミアはシアから奪った水着(上)を振り回しながら手ブラで追い駆けてくるシアから笑顔で逃げ回るミュウを肩越しに見てふふ、と笑みをこぼす。そして彩人に向き直ると今度は真剣なまなざしと口調で話す。

 

「彩人さん、もう十分です。皆さんは、十分過ぎるほどして下さいました。ですから、どうか悩まずに、すべき事のためにお進み下さい」

 

「レミア・・・」

 

「皆さんと出会って、あの子は大きく成長しました。甘えてばかりだったのに、自分より他の誰かを気遣えるようになった……あの子も分かっています。彩人さん達が行かなければならないことを……まだまだ幼いですからついつい甘えてしまいますけれど……それでも、一度も〝行かないで〟とは口にしていないでしょう? あの子も、これ以上、彩人さん達を引き止めていてはいけないと分かっているのです。だから……」

 

「・・・分かってる。俺がヘタレてただけなんだ。言わなきゃならないのにな」

 

「まぁまぁ…娘の事を分かっていたんですね。流石はパパ♡」

 

「・・・・」

 

「でしたら、ちゃんと言ってあげてくださいね」

 

「ああ」

 

いたずらっ子のような顔になったかと思えば真剣な顔になる。改めてこの親子の魔性の魅力に恐れをなす彩人。ふと気づくと彩人達をジト目で見つめる乙女達。

 

「何かいい雰囲気じゃん」

 

「…レミア、何か距離が近い。…ずるい」

 

「レミアさん…いつの間に……お世話にはなってますけど独り占めは良くないと思う」

 

「もしかしてキミ、年上好き?」

 

「ふむ…見る角度によっては主様にご奉仕しているようにも見えなくはないのう」

 

「な…っ、彩人、レミアさんは未亡人とはいえ人妻なのよ?そ、そういう事は…」

 

「N〇Rなんて許さないから…!」

 

「やっぱりおっきいほうがいいのかな……」

 

一部へんな会話が混ざったがハジメたちはレミアが彩人を再婚相手にしようとしてるのでは?と警戒し始めている。最初こそレミアの妻力の研究をしていたが何かにつけて彩人に向けるアピールがエスカレートしてきている。彩人がレミアを呼び捨てにしているのもその一つである。

しかしレミア本人が「あらあら、うふふ」と微笑むばかりで特に引いた様子は見られないためさっぱり意図が分からないのだ。

そんなレミアを牽制するかのようにハジメ達が彩人を囲み、抱き着くわしがみつくわ。上を取られたシアまでもがくっついてくるので乙女の肉塊に呑まれる彩人。彼のムスコがアップを始めそうになり彩人は焦るが

 

「パパ、これ、あげるの!」

 

「・・・え?」

 

レミアと彩人の間から浮上したミュウがシアの水着を彩人の頭に乗せた。どうやらプレゼントのようだ。

 

「ミ、ミュウちゃん!? なぜ、こんな事を……はっ!? まさか……彩人さんに頼まれて? も、もうっ! 彩人さんたら、私の水着が気になるなら、そう言ってくれれば……いくらでも……」

 

「彩人君!私のもあげる!!」

 

「……彩人、私のもあげる」

 

「わ、私だって! 彩人くんが欲しいなら……あ、でもここで脱ぐのは恥ずかしいから……あとで部屋で、ね?」

 

「ふふ…なら私も。あ、でもこれ上下一体だから裸になっちゃうな~」

 

「あ、主様…そういう趣味なのかの?な、ならば妾も…」

 

「そ、そんな破廉恥な…で、でも彩人が欲しいなら…ってダメよ!?」

 

「さ、彩人が欲しいなら…あ、あげる!」

 

「あらあら、じゃあ、私も……上と下どちらがいいですか? それとも両方?」

 

「引くわ~~~wwww」

 

「・・・・」

 

四方から自分の頭に水着を献上される男、彩人。それを見た男たちが"規格外の戦士は性癖も規格外"であることを広めようとしたが突如出現した岩壁に全員が叩きつけられ、記憶を失った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

その日の夜に出発することをミュウに伝えた。するとミュウは泣くのを必死にこらえながら彩人を見つめて言った。

 

「……もう、会えないの?」

 

「そんなことは無いぞ」

 

「……パパは、ずっとミュウのパパでいてくれる?」

 

「ミュウがそれでいいなら俺はそうするさ」

 

彩人がそう言うとミュウは溜まった涙をぬぐい、無理やり笑みを浮かべた。

 

「なら、いってらっしゃいするの。それで、今度は、ミュウがパパを迎えに行くの」

 

「大丈夫だミュウ。全て終わったらすぐに来る。俺には瞬間移動があるからな、必ず帰ってくる」

 

「……ホント?」

 

「ああ、本当だ」

 

眼を輝かせるミュウの頭を彩人は優しく撫でた。

 

「そうだ、どうせなら俺の故郷に行くか?こことは全くの別世界だが」

 

「パパの生まれた所…、行きたいの!」

 

嬉しそうに飛び跳ねるミュウを尻目に周りの乙女達にテレパシーで自分の都合で決めた事を謝罪する彩人だが、誰一人として異を唱える者は居なかった。続いてレミアにも目配せすると"お気になさらないでください"と言いたげなまなざしで彼女は返した。

 

「パパ、ママも? ママも一緒?」

 

「あ~、それは・・・レミア?」

 

「はい、何ですか、あなた? もちろん、私だけ仲間はずれなんて言いませんよね?」

 

「こことは環境がまるで違うんだが・・・いいのか?」

 

「あらあら。娘と旦那様が行く場所に、付いていかないわけないじゃないですか。うふふ」

 

「誰が旦那様ですか!」

 

「…いい度胸だね……フフフ」

 

レミアの発言でひと悶着あったが伝えることが出来た。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

本来なら翌日に出発するのだが、即バイバイというのもアレなので、レミアからエリセンの近海にある"きらめく海"の噂を聞いた。

彼女の話によれば海のどこかに輝きと共に現れる存在が居てその存在に会った者の願いをかなえるというもの。

全員がそれに興味を示しせっかくなので全員でその存在を確かめようかという話になった。

当然ミュウは大喜びし、レミアも誘って彼女も同行することになったが、

 

「うふふ、初めての家族旅行ですね、あ・な・た♡」

 

この一言で和やかな空気が乱れた。




以降、OVA+オリ展開注意・・・。


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奇跡の邂逅?

ギャグ多め

原作寄りだけどカオスだYO☆

追記:またまた書き直しました。今後の展開が面倒になるので。突発なネタはダメってはっきり分かんだね


レミアの提案もあって彩人達は再び夜の海へと繰り出し、例のきらめく海の場所へとやってきた。ついでに腹ごなしとしてBBQをしている。

 

「まさか異世界でこんなことまでできるなんてね~」

 

「もう驚かないわよ」

 

「魔法と言うより錬金術師かもね」

 

もはや青い猫型ロボットの如く様々なものを作り出すハジメに染まりつつあるヒロインズ。

 

「う~ん、もう少し技術が上がれば飛空艇でも作れそうなんだけどなぁ」

 

「パパ、"ひくうてい"ってなぁに?」

 

「ああ・・・空を飛べる船、ってところだな」

 

「パパみたいに?」

 

「舞空術ほど自由じゃないが・・・まぁそんな感じだ」

 

ハジメの呟きにミュウが彩人へ質問する。

 

「空と言えばさ、さっきの凄かったよね」

 

「…彩人が投げたやつ?」

 

「そうそう」

 

するとミレディが話題を変え、ユエが答える。それはレミア親子共々エリセンを出発するとき、ほとんどの住民から認められたとはいえレミア親子を連れて行って欲しくない男性の一団が"運搬用のポッドブラスター"で水平線の彼方に消えたというもの。

 

※ある種の"ぜったいあ〇ぜんカプセル"なので怪我はありません。あとで救出できるようにしてあります。

 

「…そもそもなんであんなモノがあるのかしら……」

 

「え?私が作ったんだよ?」

 

「そういう事ではないのだけど……」

 

雫がツッコミを入れようとしているが、自分も似たようなことをやったので強く言えなかった。

 

「それにしてもレミアさんとミュウちゃんは街の人から愛されてますよね」

 

「あまり人数は多くありませんでしたけど彩人さんへの嫉妬は少なからずありましたね。私と同じ亜人族なのに人間の殿方からも好意を向けられてましたし」

 

「香織さん、シアさん…私達、いえ私はそんな……ただ、仕事柄他の方と接する場面が多いだけで…」

 

「…ん、レミアは魔性の女」

 

「ゆ、ユエさんまで…」

 

「ふむ、王国とエリセンとの調整役なのじゃから分らんでもないのう」

 

ティオの言うようにレミアはエリセンの親善大使の仕事をしており人間族との関わりも深い。

 

「多分、それだけじゃなさそうだな・・・"一家に一人、レミアちゃん"なんて言葉を聞いたし」

 

「彩人さん、それはあまり言わないで欲しいです…」

 

「パパ、パパ、あと"鉄壁のレミアちゃん"もあるの!」

 

「容姿端麗、清楚で穏やか、家事もできて家族思い・・・無敵じゃん」

 

ミュウと彩人の会話を穏やかな笑みで見つめるレミア。それを見ていた香織はレミアに顔を近づけた。

 

「レミアさん?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「…ホントに彩人くんの事狙ってませんよね、よね!!?」

 

「……」

 

詰め寄られているにも関わらずレミアはキョトンとした顔で一瞬チラリとミュウを見た。ミュウはポカンとした表情でレミアを見つめ返している。するとレミアは香織に視線を戻し、いつもの笑顔を浮かべた。

 

「うふふ」

 

「そのうふふは何かな、かな!?」

 

「…レミア、いい度胸」

 

香織だけでなくユエまで警戒心を強めるが意外にも強硬手段に出る様子は無かった。

 

「・・・・・」

 

しかし彩人は何かを感じ取った表情でレミアを見つめるのだった。

かくして腹ごなしも済んだのでその時を待つだけなのだがなんせ夜遅く。月明りの程よい光と波に揺れる潜水艦の振動がゆりかごのように揺れ、信頼するパパの膝に座るミュウはウトウトし始める。

 

「……ミュウ、お姉ちゃんと一緒に寝る?」

 

「…!、ここはミュウに任せて先にベッドへ行くの!」

 

ユエが寝かしつけようとするとミュウははっきりと言った。

 

「ミュウ、無理して起きてなくても「やなの!」・・・ミュウ」

 

「寝ちゃったら…朝が来ちゃうの。終わっちゃう…の…」

 

一応翌日出発のため一秒でも長く彩人達と居たいミュウは眠気をこらえる。その健気さにムードメーカーの鈴やミレディ、シアまでもが閉口してしまう。

 

「ミュウ」

 

「やっ!まだ寝ないの!」

 

「すげぇ綺麗だな・・・海」

 

「ふぇ?」

 

彩人が言ったのは目の前の光景。雲は出ているが天には星々の輝き、正面にはまん丸の月がきらめき揺れる波に反射して幻想的な風景が広がっていた。

 

「うん、こんなに綺麗なの見たことないかも」

 

彩人の言葉で改めて自然の美しさにハジメがつぶやくと周りも同意する。

 

「え、迷宮こうryーーくぺっ!?」

 

「ミレディさん、空気読んで下さい」

 

「・・・・あーーー、オホン。こうして綺麗な景色を見られるのはミュウが連れてきてくれたおかげなんだぞ?」

 

「ミュウのおかげ?」

 

「ああ、そうd「彩人君!前!」・・・な!?」

 

ミュウの言葉に肯定しようとしたその時、ハジメの声で前方を見ると突如雲が空を覆い、霧が辺りを包み込む。

 

「あれ…なんだろう」

 

「魚…?クジラかな」

 

霧の中に浮かぶ大きな影を見つけた香織と鈴が言う。

 

「ティオ、アイツについてなんか知ってるか?」

 

「主様、済まんが妾にもわからぬ…」

 

「そうか・・・ってうお!?」

 

すると突然巨大な竜巻が発生し彩人が迎撃しようとするとミュウが彩人の服を引っ張る。

 

「攻撃のつもりか・・・?なら気功波で「パパ!やめて!」ミュウ!?」

 

「ちがうの!あの子がパパとハジメお姉ちゃんを呼んでるの!あの子は悪くないの!」

 

「俺と・・・ハジメを・・・?」

 

疑うつもりはないがミュウがなぜそんな事を言うのか理由を聞こうとするが、

 

「彩人くん!」

 

「・・・っ、仕方ない、お前ら全員俺から離れるなよ!!」

 

竜巻が彩人達に迫ってきたため全員彩人に寄り添う。蒼き竜巻が彼らを巻き込み・・・姿を消した。

 

「アレ!?ミレディちゃん置いてかれた!?」

 

ミレディを残して。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「…ぅう……」

 

竜巻に呑まれて一瞬気を失いつつもレミアは目を覚ます。・・・が、周りには誰もおらず海上に居たはずなのに人気を感じない廃墟の町に居た。建物自体は形を保っているがあちこち損傷しており地面の石畳もひび割れていたり不安定であった。

 

「ミュウーーー!!どこなのーーーー!!?ママはここよーーーー!!」

 

レミアは素足だったために割れた石畳の上を歩いていく。美しい足に傷が付き、増えていくがレミアは気にせずミュウを探し続ける。

 

「二度と一人にしないと…誓ったのに……。……あら?」

 

歩き回っているとフードを被った人がレミアに背を向けて道の真ん中で佇んでいるのを見つけたレミア。住民かもしれないと考えレミアはフードの人物の背中越しに話しかける。

 

「あの、私と同じ蒼い髪の女の子を見ませんでしたか…!!?」

 

『・・・・・』

 

レミアが話しかけるとそのフードの人物は振り返ったが、顔が無かった。更に言えばローブで見えていなかったと思っていた足も存在せず幽霊のようであった。

さらにフードの人物・・・いや魔物は何処からか死神の鎌を出現させるとレミアに接近してくる。

 

「な…ああっ!」

 

レミアは距離を取ろうとするが石畳の亀裂に足が引っかかり尻もちをついてしまう。命を狩らんと魔物が鎌を振りかぶるもレミアは恐怖することなく魔物を睨みつけた。そして魔物が鎌を振り下ろそうとしたが、

 

「はぁっ!!」

 

「……!!」

 

レミアの背後から飛んできた気弾が魔物を消し飛ばした。

 

「彩人さん!ご無事で何よりです…それと、ミュウは…?」

 

「悪い、一番近くに居たのがレミアだったんだ。気を探っても魔物の気が強すぎる上に・・・何かが邪魔・・・?してるのかミュウの位置がつかめなかった」

 

「そうですか…」

 

少し残念そうにするレミアだったがその後ろから先ほどの魔物が多数出現した。

 

「空からなら探索もしやすい・・・レミア、ちょっと失礼」

 

「え、あ、はい…」

 

再びレミアをお姫様抱っこし舞空術で飛んで魔物を気弾で蹴散らしながらミュウを探しに行くのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

一方ミュウは一人で町を歩いていた。

 

「ミュウは強い子!サイヤ人の娘なの!ミュウならできるの!」

 

恐怖もあったが彩人達との旅で精神的に成長したミュウは自身を奮い立たせ合流するために移動していた。

 

来たか、海の幼子よ

 

「ぴぃ!?」

 

突如ミュウに話しかける謎の存在。慌ててミュウは柱の陰に隠れる。

 

「だ、誰…なの?」

 

急ぐのだ、海の幼子よ。強き同胞の元へ向かうのだ

 

「ママの…事?」

 

ミュウは謎の存在が言う同胞がレミアの事と思い柱のそばを離れて道を進むとと大きな建造物が。

 

「大きなお城…あそこに行くの?」

 

そうだ。猶予はない…

 

「あなたのお名前は…?香織お姉ちゃんの言ってたクジラさんなの?」

 

済まない…答えられないのだ

 

「どうしてここに連れてきたの?」

 

……済まない

 

「声が弱ってるの…何かしてほしいの?」

 

求むるは創造する者、混沌を穿つ者。異なる時、同じ場所に重なりし者…主と同意の者たちを…我が元へ

 

「二人?……、とにかく行ってみるの!」

 

謎の存在の言葉の意味は理解できなかったがミュウは今はこれしかないと城の方向へ走り出す。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

舞空術で全員の所在を確認し合流するよう指示した後彩人は応急処置だがレミアの足の傷の対応をしていた。

 

「あの…彩人さん、私は大丈夫ですからミュウを…」

 

「やっとミュウの気も探れた、直ぐにでも行ける。俺がミュウを間違えるわけが無ぇ」

 

「まぁ…娘の事をよくわかっているのですね、あなた…」

 

レミアがいつも通り彩人をそう呼ぶが、

 

「・・・ミュウはここには居ないんだが?」

 

「……」

 

彩人がそう答えるとレミアは少し申し訳なさそうにしてと

 

「気づいていらっしゃったのですね……」

 

「・・・まぁ最初はビビったがな。ミュウの為とはいえど嘘はつきたくない。だから曖昧な言動をとっていた、て所か」

 

「彩人さん…」

 

「・・・あいつらも分かってんじゃないかね。詰め寄ることはあってもそれ以上の事はしてない」

 

「怒らないの…ですか……?」

 

「ミュウの為だしな」

 

「彩人さん……本当にありがとうございます」

 

「気にしなくていい。……よし、ミュウの所へ行くぞ」

 

「は、はい!」

 

ある程度改善したところで瞬間移動するために彩人の手を両手で包むレミア。彩人が瞬間移動した先では・・・、

 

「あ、パパ、ママ!やっと会えたの!」

 

「ミュウ!無事でよかったわ…!」

 

「また一人サイヤ人が来たようだな・・・・」

 

「え?ミュウちゃんのお父さん、本当にサイヤ人だったのね…」

 

「・・・・え、なんで」

 

メルジーネ海底遺跡にて会ったメイル・メルジーネとブロリーがミュウを保護していた。




やっぱりブロリーが最初の方がいいよね・・・・(白目)


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もしもブロリーがありふれに乱入したら(やっつけ)

ブロリー「楽しい時間のはじまりDA☆」


マジで申し訳ありません。


散々お待ちくださっていた皆さまに届けぇぇぇぇ!(ピロロロロロ)


時は少し遡る。城を目指して進んでいたミュウがある程度進んでいくと、

 

もうすぐだ、もうすぐ強き同胞と会える

 

「は、はいなの!……ひゃう!」

 

謎の存在の声に従って進んでいくが、足元が悪くミュウは転んでしまった。痛みに耐えて立ち上がるが、

 

グルルルルルルルル・・・・

 

「……!!」

 

いつの間にか背後にケルベロスのような大型かつ三つ首の狼の魔物と配下だろうか、小型の狼の魔物が出現していた。ボスがミュウに襲い掛かろうとするが、

 

ガウッ!・・・・・グギュウウウウンン!!?

 

「……!、く、クジラさん?!」

 

突如白いクジラがボスべロスを弾き飛ばしミュウを庇った。ボスべロスは着地したのち白クジラに威嚇していたが、白クジラは光と共にサイズダウンしてしまう。

 

ウゥオォォォォォォォォォォンン!!!

 

ガルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!

 

好機と見たかボスべロスの遠吠えと共に配下の狼が白クジラに襲い掛かるが白クジラは自身から光を放ち狼を退けるがまたサイズダウンする。クジラが自分を助けようとしていると気づいたミュウはクジラに向かって叫んだ。

 

「クジラさん!ミュウは大丈夫なの!だからもういいの!!」

 

クジラはミュウの言葉に応えるように空中を移動してミュウのそばに来た。・・・が、確実に仕留めんと狼たちがミュウ達の周りを取り囲んでいた。

 

「~~~~~っ!く、来るなら来やがれなの!!」

 

ミュウが叫ぶと狼たちが一斉にミュウにとびかかるが・・・・

 

「〝氾禍浪〟」

 

若い女性の声と共に津波・・・もとい水の壁が狼達を飲み込む。ミュウが驚いているとクジラがぬいぐるみサイズにまで縮小しミュウの頭に乗った。

ミュウ達には当たらないようにドーナツ状の壁になっており狼たちが溺死したのち水の壁が消えた。

 

「幼いのに中々根性ある啖呵を切るじゃない」

 

「あ、あの…助けてくれてありがとうございます、なの!み、ミュウはミュウなの。お姉さん、お名前は何ですか?」

 

すると浮遊する水の球体に乗った海人族ことメイル・メルジーネがゆっくりとミュウのそばへと降りてくる。

 

「あら、お礼も言えて自己紹介まで出来るなんていい子ね。初めまして、同族のお嬢さん。私の名前はメイル・メルジーネ。海賊団の船長よ」

 

「メイル…?」

 

「それでミュウちゃん、ここはどういうところなのかしら?実は…お姉さん迷子なのよ。お友達ともはぐれちゃって…」

 

メイルがミュウに質問するがミュウはなぜか敬礼し、

 

「メイルお姉さん!ミュウも迷子です!」

 

「この町の子…じゃないのかしら?」

 

「メイルお姉さん、ここに住むのは無理があるの」

 

「そ、そうね………あら?」

 

ミュウの正論に苦笑いするメイル。するとミュウを見てあることに気づく。

 

「ミュウちゃん…私の妹のディーネとそっくりね…妹に似た子に正論を言われるなんて……」

 

メイルががっくりとすると同時に。二人の背後に目玉が大量についた芋虫のような魔物が出現する。

 

「!?、ミュウちゃん、私のそばから離れちゃダメよ」

 

「は、はいなの…」

 

心は強くともまだまだ幼いミュウはメイルにぴったりくっつく。メイルが安心させようとミュウを見下ろすとミュウは瞳を潤ませて上目遣いでメイルを見つめる。

 

「…はっ!!(やだ、この子ディーネとタイマン張れるくらい可愛いわぁ…♡なんていうかもう天使よ天使!しかも頭のマスコット…?みたいなのをのっけってるのもレベルが高いわ…♡ああ、妹にしたい…ってかしちゃってもいいわよね…?)」

 

とミュウに庇護欲以上の感情を向けるメイルが涎を垂らしてミュウを見つめていたが、

 

「イェイ!」

 

そんな声と同時に魔物の上に何かが落ちてきて魔物は倒された。

 

「ひゃう!」

 

「……はっ!?何かしら、何かが落ちてきたようだけど…」

 

衝撃とミュウの声で正気に戻ったメイルはミュウを庇いつつ砂煙に近づくと、

 

「ハハハハハハ!所詮ムシケラはムシケラなのだぁ・・・・」

 

「……!」

 

魔物を踏み潰したのはかの伝説の超サイヤ人、ブロリーだった。ブロリーは魔物を足蹴にして降りるとギュピ、ギュピという特徴的な足音でメイル達に近づいた。

 

「・・・・ん?フッフッフ、カワイイ!!娘ェ達が来たようだな・・・フフフ!」

 

「何者かは知らないけれど、只者ではなさそうね。…でもなぜかしら、何処かヤモ君と雰囲気が…」

 

メイルがブロリーを見て知人と近い何かを感じていると、

 

「あの、大きなお兄さん!助けてくれてありがとう、なの!」

 

「ヘハハ!なぁに、いいって事YO☆サイヤ人がこの程度のムシケラに負けると思っているのかぁ?」

 

「「!!」」

 

ブロリーがサイヤ人と名乗ったことでメイルとミュウは驚きを隠せない。

 

「え、あのサイヤ人?ヤモ君以外にも居たなんて…」

 

「サイヤ人!ミュウのパパもサイヤ人なの!」

 

ミュウが興奮状態でブロリーに話した。ブロリーは愉快そうに笑い、メイルはミュウがサイヤ人とのハーフなのかと誤解している最中に、

 

「んん?サイヤ人の気を感じるな・・・」

 

ブロリーがそう言うと同時に彩人達が瞬間移動してきたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「そうでしたか…お二方共、ミュウを助けて下さりありがとうございました。私の名はレミア。この子の母です」

 

「ミュウなの!」

 

「・・・轟彩人です」

 

状況説明の後、お礼と自己紹介を行う。

 

「メイル・メルジーネよ。海賊団の船長をしているわ」

 

「サイヤ人のブロリーです…」

 

互いに自己紹介を終えたが、彩人はなぜこんなところにブロリーがいるのかさっぱり分からない・・・彩人は二人に質問しようとするが、

 

「あわわわわわわわわわわわわ~~~!!」

 

情けない声と共にブロリーに潰された魔物の上に何かが落ちてきた。見慣れた金髪・・・ミレディである。同時に廃墟の奥からこちらに駆けてくる二人の男性、オスカー・オルクスとナイズ・グリューエンが魔物の体液でべとべとになったミレディをみている。

 

「ふぇ~ん、ミレディちゃん汚されちゃったよぉ~オー君慰めてぇ~」

 

「うわぁっ」

 

「ふぎゅっ…なんで避けるのさ」

 

「ミレディ、そんなべとべとなら誰でも避けるって…」

 

「同感だ」

 

「んなっ!?ナッちゃんまで!?」

 

体液まみれのミレディがオスカーとナイズに拒否られているとさらにその後から新たなサイヤ人…ヤモシも現れた。

 

「皆、ここにいたのか…!?お、お前、その姿は…超サイヤ人か!?」

 

「違う…オレは伝説の超サイヤ人のブロリーだァ!」

 

「く・・・まさか伝説の存在が本当だったとは・・・!皆に手出しはさせん!」

 

「戦う気になったようだが・・・その程度のパワーでオレを倒せると思っているのかぁ・・・?」

 

ヤモシとブロリーが戦闘態勢に入ってしまう。一触即発の雰囲気になるが・・・突如銀色の球体が総員の近くに落下し中からパラガスが現れた。

 

「探しましたぞ、ブロリー」

 

「親父ィ・・・なんだァ……」

 

「また、サイヤ人だと・・・?一体どうなっているんだ・・・」

 

カオスになって来たのでとりあえず互いに状況確認と自己紹介をやり直した。

 

「僕はオスカー・オルクス」

 

「自分はナイズ・グリューエンだ」

 

「私の名はヤモシ。サイヤ人だ」

 

「サイヤ人のパラガスでございます。ところでそちらの美しい大人のお姉さん方、私と夕食でもいかがかな?」

 

「遠慮させてもらうわ」

 

「夕食はもういただいてますので…」

 

「あ~う☆(泣)ワァハッハッハ・・・フゥゥゥゥゥハッハッハッハ・・・・」

 

「親父ィ・・・みっともないYO☆」

 

メイルとレミア二人をナンパして撃沈するパラガスであった。ブロリーの父、つまり既婚者なのに何故うまくいくと思ったのだろうか。

 

「ま、変態親父は置いといて…(ええ!?byパラガス)この私こそ、究極天才美少女、ミレディちゃんだよ!!」

 

「ミレディさん?何処へ行ってたんですか?」

 

「もう知ってるの!」

 

「ふざけるのは迷宮だけにしておきな」

 

「・・・あれ?」

 

「ミレディちゃ~ん??どうしてミュウちゃんと既に知り合いなのかしらぁぁぁ?」

 

「ひぃ!知らない知らない!メル姉、誤解だってば!」

 

ミュウが知っている感じなのが気に入らないのか引きつった笑顔でミレディに詰め寄るメイル。

…しかしミレディの雰囲気から、嘘を言っているようには見えない。

 

「そんな事ないの!いつも一緒に居たの!抱っこしてもらって…一緒に寝たこともあるの!ミレディお姉ちゃん、嘘はめっ!なの!」

 

「へぇ~そんな羨ましい事をしておいてその上嘘までつくなんてミレディちゃんはい・け・な・い・子・ねぇ~~~!!!!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!助けてぇぇぇぇ!メル姉のシスコンが度を超え「"氾禍浪(はんかろう)"」えちょやめがぼぼぼぼぼぼぼ」

 

突如出現した水柱に飲まれるミレディ。その最中にもメイルの尋問が続くがミレディは頑なに否定している。

 

「もしかしたらパラレルワールドのミレディって事かもな」

 

「パラレルワールド?」

 

彩人の発言にメイルが反応する。詳しく説明すると何とか誤解は解けたようだった。

 

「えーっと、ミュウ達の世界のミレディお姉ちゃんとは別人なの?パパ」

 

「そういう事だ。気づくのが遅れて申し訳ない」

 

「ミュウもごめんなさいなの。」

 

「あ…うん、分かってくれたなら…もう、いいや…あはは」

 

「…ごめんなさい、私もムキになりすぎたわ」

 

びしょ濡れで放心状態のミレディを囲む彩人達。

 

「何か…僕たち蚊帳の外だね…」

 

「…下手に巻き込まれたくはないだろう」

 

「それは…そうなのだが…」

 

オスカー、ナイズ、ヤモシが苦笑いでその光景を見ていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フゥア・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンワクセイベジータノオウニナッテイタダキタク・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サガシマシタゾベジータオウジ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その裏でそんな事を話す異形の生物が周りの魔物を取り込んで増殖していた。




急にやる気が出なくなってました・・・。

今後も時と場合によっては期間が空く上に相変わらずのゴミ文です。

それでもいいと言う読者様が居ればM88星雲は頑張ります。


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