転ヴェル、転生したらヴェルドラだった件 P.S.タスケテ (転生しても物書きだった件)
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1話

定命の者という単語がある

とあるすっごい面白いオープンワールドゲームでさんざん聞いた言葉

定められた命で定命

つまりは限られた命で生きる者のことを指す。

 

なぜこんなことをいうかというと

絶賛死んでいるからである。

 

死んでいるのは少し違うか。

今風にいうなら

 

1リビングデッドな名無しさん

今走馬灯見てるけど、質問ある?

 

って感じだろうか。

焼け付くようにあっつい体と冷めた頭が勝手に現実を受け入れる

 

死にたくない。まだ生きていたい。

主人公にはついぞなれなかったけど

せめてあのドラゴンボーンのように武勇に生きてみたかった。

強く、逞しい体と力で弱きを助けるようなそんなカッコイイ英雄に…………

 

 

※※※

 

な れ ま せ ん で し た

 

時は死んでから体感でべらぼうに年が過ぎ去った頃!

異世界転生を果たした僕の身体はドラゴンになっていたのだ!

 

黒い鱗に覆われ黄色い爬虫類のような目

剣も魔法もある世界で今ドラゴンとなった僕がしていることは…………

 

「……くぁぁぁ」

 

ドーム状に覆われたバリアの中で毛繕いならぬ鱗繕いをしている真っ最中。

走馬灯中の誓い通り弱きを助けた。

魔物側だったので加護的なのを与えたり、用心棒みたいなことをしたり

作物が干上がりそうなら死に物狂いで力をつけ雨を降らせたり風を吹かせたり

それはもう何から何まで手を出した。やってないことといえば子孫繫栄と身内への反逆ぐらいだ。

 

「四匹しかいない竜種って言われてもなぁ…普通ドラゴンってたくさんいない?ドラ〇ンボ〇ルでももっといたでしょ。まあもっと正確に言うならドラゴンの姿してる始祖精霊だけど」

 

ちなみに魔物に肩入れし過ぎて人間の反感をあっという間に買ってしまい。

しかもバタフライエフェクト的なあれそれで壊滅的な災害をもたらしていたみたいだ。

助けに来た姉さんにはこの地で眠って力を蓄えてこれを破壊する。

などと大見えを切ってしまったのであと50年ぐらいは顔を見せないだろう。

 

「暇だ…」

 

封印された原因は勇者。

間接的にはおそらく僕を従えようとした国を一つ更地にしてしまったことが原因なのだろう。

大いなる力には大いなる責任が伴うて全人類の隣人の叔父さんが言ってたし、これも一つの罰

そして因果応報でもあるのだろう。

200年ぐらい経過したっぽい世界がどう変わっているか非常に気になる。

どれくらい気になるかというと生前連載していた漫画の最終回並みに気になる。

 

 

 

 

 

こうしてさらに80数年

間違いなく姉さん僕のこと忘れてることが確定して30年。

暇で暇仕方ない。ドへたくそパーカッションを練習し始めた頃変化は起きた。

 

「なにかいる…………?」

 

何時頃からいたかはわからない。そこに何故か一体の魔物がいた。

それは……スライムだった。

 

※※※

 

「もし、そこのスライムさん」

「……?」

「聞こえてますか?」

 

下手にでる巨大な影。初対面にこうするから下手になめられ

それもまた要因となりあれそれがあったことがあるというのに未だに治らない悪癖を披露しつつその影は一匹のスライムに問うた。

 

「魔力を介して話しているため貴方にも聞こえ、しゃべるはずです」

『え、まじ?』

 

胸をなで下ろしてほっとする影。

顔を近づけできうる限り同じ目線であろうとする。

 

「初めましてスライムさん。ここにはどういったごご用で?」

『いえ、特に何も……目も口もないもので』

「目が見えない……スライムというのなら道理ですね」

 

むー……とすこし唸る。そして出た結論は

 

「魔素を感じてここがどこであるか認識してください。こう……頭で広がる何かを受信するような感じで」

『受信……?』

「えと……こうびびっと?」

『ふむ……うーーー…………ん!!』

 

スライムが唸り少しした後

喜び飛び跳ねる。

 

『見える!みえるぞ!……あ、そだ』

 

飛び跳ね水面で己が姿を確認する。

そしてすこし落胆する。

 

『やっぱオレ、スライムか……』

「見えたようでよかったです」

 

そしてスライムが初めて目にしたのは超巨大ともいうべき黒き竜だった



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2話

『ぎえあぁぁぁぁ!?ドラゴンんんん!?!?』

 

すっごい新鮮な反応。300年ぐらいぶりに聞いた。

 

「かわいらしいスライムさんですね。改めて初めまして。僕の名は晴嵐の竜ヴェルドラ。世界に四体しか存在しない竜種の末弟にして雨と風の権化とも呼ばれた竜です」

『かわ……い、いやそれよりも…………』

 

全身を観察され……すこし恥ずかしくなる。

 

「姉さんを除き封印されてから始めて……300年ほどぶりの来客です。すこしお話しませんか?」

『い、いいですけど……』

 

なにせユニーク個体であるスライムは珍しい。

思考すらできないモンスターが思考能力を持ち、言語を介しこんなところまで来る。

何かありそうだと思うのが常だろう。多分

 

「スライムさんはどうやってここへ?外の様子はわかりかねませんが魔素が立ち込め異様に強い魔物もいたでしょう?」

『それが気が付いたらここにいて……実は元は人間だったのですが…』

「となると転生者!?」

 

同類を見つけつい荒ぶってしまう。

落ち着け。落ち着け……勇者の結界あるとはいえ何らかの余波でスライムさんが消えてしまうことも考えられる。それは実に危ない。

 

「こほん、失礼……にしても珍しい。僕以外にも魂だけでこちらに渡った存在がいるだなんて」

『僕以外……ということはヴェルドラさんも?』

「ええ、永い時をこちらで過ごし、元の名は忘れ果ててしまいましたが」

『…不躾ですがおいくつで?』

「………………」

 

気まずい沈黙が流れ

 

「さぁ……?」

『それぐらい長いってことですよね!あ、そういえばいつから封印されていたんですか?』

 

話題転換をしてくれたスライムさんに感謝しつつ舵取りに乗り、話題を広げよう。

 

「300年くらい前、僕は雨と風をもたらす豊穣の竜でいました」

『豊穣の……お優しいのですね』

「見返りを求めてのことですよ。まあ、魔物側を贔屓した結果、どうやらそのしわ寄せが人側に行ってしまったみたいでとある国が僕を捉えようと軍を動かしました」

『それまた大仰な』

「それをちょっと手違いを起こしつい全力でほぼ消滅させてしまい……」

『させてしまい……』

「そのことで危険視され勇者にこうして封印されてしまったのです」

 

とはいうものの半ば定めと受け入れ、割と速攻で戦いは終わり封印されたのだけれど……

 

「それ以来ひとりぼっちで…一度だけ姉さんが来たのですが。それっきり誰も来ずこうして…………」

 

そこから移動し

地面に書かれた文字列を見せる

 

「この結界を解析してたわけです。もっとも解析したところでなにもできないのですが」

『すっごい……なんて書いてあるかわからないけど……ん?』

 

文字列を見たスライムさんがなにか考えごとを始める。

 

「あのー……どうされました?」

『マジで!?』

「んー?」

 

要領得ることができずに頭をかしげる。

 

『出られるかもしれないぞ!』

「……というと?」

『俺の力があればそれらを排除できるかもしれないってことだ』

「ですが悪いですよ。牢獄から解き放たれれば命も助かりますが、人間から狙われると魔物は生きづらいですよ?」

『んー……じゃあそうだな。同じ転生者の好ってことで!』

「なるほど……ではトモダチですね」

『トモ…ダチ?』

「ええ、トモダチです。それとも竜と友人は恐れ多いですか?」

『いえいえ、そんなそんな……』

「じゃあ問題ないですね。では友人に貸しを残すのもあれなので一つ加護を」

『加護?』

「名前を与えるのです。ただ名前を与えるのではなくファミリーネームを与え同格であると示し、僕が名を授けることでスライムさんは名持ち……つまりはネームドになります」

『おお!ネームド!』

 

ネームドというと固有の証でもあり、ゲームなどでは強い魔物の証とも言える。

名前を魂に刻み付けれることで高位の魔物へと進化することもできる。

 

「まずはスライムさんが苗字を決めてくださいな」

『むむ、責任重大だな……二つ名とかないのか?』

「二つ名……晴嵐竜と呼ばれたこともありましたね」

『穏やかな感じだな……穏やか……カームってのはどうだ?』

「ふむ……ヴェルドラ・カーム……良い名です。主に口当たりがいいのが」

 

となると次はこちらの番……スライムさんを見ているときからふと思いついた名があった。

 

「リムル……というのはどうでしょう?リムル・カーム。それが貴方のこの世界での名です」

 

※※※

 

『いいですかリムル。この地はかつて僕が守護し、そして今もなおそ溢れる魔力によって縄張り表明がされていました。ですが……』

「わかってるって。魔物が活発になってたり人間の冒険者やらが実地調査に来るだろうから派手なことはするなってことだろ?」

『ならまずはその溢れ出ている魔力を抑えてください』

「……大賢者、客観的にオレを見せてくれ」

 

名づけの後、より高位のユニークモンスターとなったリムルは無限結界によって守られていることをいいことに僕を保有するユニークスキル【捕食者】により取り込んだ。

無限結界は閉じ込めたありとあらゆる生物の能力を封じる絶対無敵の結界。

しかし外部からの干渉と内側からの分析データがあれば解除するのも夢ではないのだとか。

 

「とと、なにはともあれ。晴嵐を祀る者っていうのがいるところに行けばいいんだろ?」

『彼らの子孫が未だに残っていれば、の話ですが』

「ちなみにどんな奴らなんだ?」

『晴嵐を祀る者は団体名で個体名ではないですよ。ゆえにミリムの領民と違い様々な種族で構成されてます』

「ミリムっていうのはなんだ?都市の名前か?」

『僕の姪ですよ。【破壊の暴君(デストロイ)】の名を持つ最古の魔王です』

「魔王なんてのもいるのか!益々ゲームっぽいな!」

 

魔王…その昔、ミリムに誘われたこともありましたね。今となってはそれなりにいい思い出ですが。

覚醒するためには多くの人の命を奪う必要がある。

魔王因子とやらを保有してない僕には関係のない話だったのもありますが……無益な殺生はできる限りしたくないもの……

 

「そういえばヴェルドラ。解析の方はいいのか?」

『大賢者の方から情報要求があれば加筆しようとは思いますが、おそらくはないので……』

「……ところでさっきからずっとやってるこの脳内会話何なんだ?」

『ユニークスキル【以心伝心(オモイアウモノ)】によるものです。すこし無限結界が弱まったのでね』

「ほうほう。どういった効果なんだ?」

『強く繋がる者と思念伝達による会話が可能になる……というものです。世に二つしかない名を持つ僕達だからこそできる芸当です。他にも効果はありますが今は話さないでおきましょう』

「ほうほう」

『ところでリムル、思い出したことがあります』

「む、なんだ?」

『……リムルは男か女どちらなのですか?』

「……男なのは前の話だしなぁ。今はスライムだから無性別だろ」

『ふむふむ、異性には違いないですね』

「異性判定雑じゃない!?」

 

異なる性で異性ですから何も問題はないでしょう。

それに【以心伝心】は異性の方が都合がいいですし。

 

『ほら、あれ出口じゃないですか?』

「うむ、そうみたいだなお誂え向きなでっかい扉があるし……どうやって開けよ」

『先の水刃で膾に……するには大きすぎますね』

「だな……ってい開いてないか?」

『む、たしかに。となると……』

「『なんらかの調査員!』」

 

さっと姿を隠し物陰から様子をうかがう。

 

(魔法使いと…戦士二人?)

『なんて変哲のないただの人間ですね』

(ここってやばそうな魔物多いんだろ?あいつら大丈夫か?)

『偵察というなら隠密スキルを持っているのでしょう。自ら攻撃を仕掛けないのであれば問題はないでしょう』

(なるほどな……お、消えた)

『では早く外へ。300年ぶりの日の光を早く……』

(お、おう……)

 

大仰な扉を超えた先には幾百年ぶりの日の光。

森林が立ち込め風の音が聞こえる。

 

『日光浴ができないのは残念ですね』

「そんなに好きなのか?」

『せせらぐ風と共に日の光を受け青空を飛ぶのは気持ちいですよ?無限結界から解放されたらしましょうか』

「ふむ、それは楽しみだ」

『さて、楽しみが増えたところであれですが』

 

僕達……いやリムルの前にはゴブリンの一団がいた。

欠けた剣を精一杯に構えている。

 

『どうかこの場をうまく納めてください』

(丸投げかよっ!)

『ほら、僕は解析で忙しいので』

(ほぼ終わってるって言ってたじゃん!)

『あー、忙しい忙しい』

 

会話を打ち切りリムルの手腕を見ることにした。

魔素は強大、しかもこの地をかつて守護してた晴嵐竜の気配が消え、直前まで大きすぎる気配をさらけ出していた。

 

『ま、ほぼ自業自得ですね』

 

※※※

 

そこからというもの

魔物たらしともいうべき手腕を発揮し

狼の魔物とゴブリンを配下に付けることになった。

 

(なあヴェルドラ)

『ん、どうしました?』

(最近しゃべってなかったけどどうした?本当に不足あったのか?)

『不足はありませんでしたよ。ただまあ……地上に出て二日でこれだけの群れを従えるとなるとさすがというべきか』

(ふーん……あ、そうだ。あいつらに名前を付けようと思うんだけどさ。いいかな)

『リムルが好きにすればいいのですよ』

(おう!そう言ってくれると思ってたぜ!)

『一押しが欲しいだけだったのですね』

 

そして三日後

 

(名付けにリスクがあるなら先に言っておいてよヴェルドラくんさぁ!!)

『大賢者から伺ってるものだと思いますって。なので言わなくてもいいものだと』

(知識人め……)

『まさか。さすがにこの世の全てを知ってるわけないですよ。僕が知っているのは知り得たものだけです。至極当然ですが』

(ぐにに……)



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3話

『衣と住をどうにかしたいと?』

 

ある日、リムルにそう尋ねられた。

 

「ああ、ゴブリンとカームウルフだけじゃ食はどうにかなっても他二つが難しくてな」

『たしかに。文明レベルが低いのは問題ですね』

「ヴェルドラが言ってた晴嵐を祀る者もどこにいるかわからないしな」

『僕の力が戻れば恐らくすぐにでも見つかることでしょう』

「希望的観測だな。ヴェルドラらしくない」

『300年の時は残酷に離別を強要するものですから。それにまあ……』

「それに?」

『よくよく考えたらミリムの忘れられた竜の都に合流するように伝えた気が』

「ダメじゃん!」

『まあ、ですので今しばらく羽根を伸ばして休むのもいいでしょう?』

「……たっく、都合のいいことばかりだな」

『ちなみに忘れられた竜の都は他の国との交流を断っているはずなので接触するのは苦労するかと』

「げぇ……江戸時代かよ……」

『話を本題に戻しましょう。この辺りでなら……獣王国ユーラザニアか武装国家ドワルゴン、あとはブルムンド王国の三つでしょうか』

「おすすめはどこだ?」

『食をさらに発展させるのなら魔王が納めるユーラザニア。住はドワルゴンでしょうか。ドワルゴンならば布もうまくいけば手に入るでしょうし』

「ならドワルゴンだな」

『そういえば以前ドワルゴンから友好の証として貰った大剣どこにやったかな……』

「…なにその重要そうなやつ。ていうか剣使ってたの!?あのサイズ感で!?」

『魔法の武器で伸縮自在なのですよ。それにほら、竜が剣を咥えて戦うってかっこよくないですか?』

「……一理あるな」

『それとひとつ礼を』

「礼?」

 

リムルは頼まれると断れないうえに責任感が強い。それ故にこれまで僕が守っていたジュラの大森林に住まうゴブリンを守ってくれた。それに実質無血開城に近い形で狼……牙狼種をも配下につけた。

 

『ゴブリンたちを助けてくださりありがとうございます』

「照れくさいな……まあ、オレの責任でもあるし、礼はいいって」

『まあ、僕の想定もひとつ』

「想定?」

 

これまでの面倒見の良さを配慮した上、ドワルゴンに行くとするとなると……

 

『リムルはジュラの大森林を治めることになる。ゆえに力も人脈もつけてもらいます』

「……はい?」

『僕の後ろ盾が機能してないのはあれですが、それでも果たせねばなりません。魔物の群れは脅威となり人間や魔王に目をつけられて然りです。その目にリムル・カームを強大に映す必要があります』

「まあ、たしかに……?」

 

※※※

 

というわけでやって参りました武装国家ドワルゴン。

といっても今はリムルがしてやらかしたことの影響でリムルと配下のゴブリンであり道案内役のゴブタは投獄されている。

 

『なにもドワルゴンで暴れてアピールしてこいとか僕いいました?』

(言ってないです……)

『ついでのように人助けまで……さきの回復薬、リムルの体内で抽出したものでしょう?』

(え、まあ、はい)

『あの回復薬は薬草の抽出率が高すぎてオーバーテクノロジーになりかねないのでその方面の希少生物扱いされて捕縛されても知りませんからね』

(そ、そんな……)

 

実際にその夜、瀕死の重体だったドワーフ三名がリムルの薬で復活したらしく

衛兵のドワーフから釈放を言い渡されていた。

 

『いい人でよかったですね』

(あっはっは……面目ない)

『なにかもう疲れそうなので僕は休眠しますが……2日後ぐらいにあいましょう』

(まって梯子を外さないで!?)

『いいじゃないですか。リムルの記憶にある漫画読んだりアニメ見たりするので』

(そんなことできるの!?)

『余裕綽々です』

 

そういうわけで漫画を読みふけり2日後。

久々に覗いたリムルの感覚には

 

『さて、大賢者。報告をお願いします』

『御意』

 

ドワルゴンから技術者4名が移住。

それに伴い集落の発展が期待できるだろうとのこと。

それと……

 

『リムルの運命の相手?』

『黒髪の女と金髪の男が映し出されていました』

『ふむ……運命ですか……』

 

悪くない運命であること祈る。すでにドワルゴンでちょっとした揉め事の渦中にいるのでそれ関連ではないように……

そう思ったのはいいもののそれからとくに何も争いごとはなく、リムルが治める村は周辺にいる小鬼族(ゴブリン)すらも受け入れさらに大きく発展していった。

その際に500名もの人鬼族(ホブゴブリン)の名付けをしてリムルが気絶したりもありました。

運命の人というのがどうなるか……などはまだわからないしかし

用心に越したことはないのであると後の僕は思うのであった。

何故ならその運命の人の片割れがリムルの村に流れ着いたのである。

しかも、その運命の輩…シズエ・イザワが体内に宿したイフリートに乗っ取られてしまったのです。

 

『水蒸気爆発が起こる故に被害が出ぬ水刃は使用不可能。僕由来である黒雨と黒疾風は被害が甚大になるが故にこれも使用は控えたい。守る者の弱さですね』

(冷淡に見るぐらいなら助けてくんないかな?)

『助言以外も求めるのなら簡単に授けれますが……』

(歯切れが悪いな……なにか条件付きなのか?)

『告、個体名【ヴェルドラ・カーム】のスキル【以心伝心】は条件を満たせば満たすほど相互関係が強まるものです』

『説明ありがとう大賢者。まあ、平たく言うなら』

(オレに女の子になれって!?)

『理解が早くてなにより』

 

無論、それ以外の対処法もある。

しかし、今後を見据えるのならば以心伝心の効果は早く慣れてもらいたい。

 

『運命の人に出会ったから億劫ですか?それとも前の性別が男だったから?』

 

そして今のうちに取捨選択を身に着けておいてほしいのです。

群れを生かすためには多少のいかれ具合が必要となる。

 

(いいぜ、なんだってくれてやる!だからヴェルドラ!オレにオレの望む結末をくれる力をよこせ!!)

『……いいでしょう。このヴェルドラ・カーム。友リムルとの繋がりを強め更なる加護を授けましょう』

 

以心伝心は相手との繋がりに応じてその効力を発揮するスキル

その主な効力とは【お互いが保有するスキルを使用可能にする】

 

『告、ヴェルドラ・カームの【以心伝心】によりスキル【奉公者(アタエルモノ)】【究明者(アバクモノ)】を共有化されました』

(そのスキルをもとに取れる選択肢を教えてくれ!)

『【奉公者】は他者に恵みを授けるスキル。その効力は非生物にも適用できます。まあ、今はそこまで使えないですね。ですがもう一つは……』

『【究明者(アバクモノ)】は得た情報などによる限定的な未来視や知り得ぬことすらも知ることができます』

(それはすごい……じゃあ早速、打開策を頼む!)

 

僕のスキルが共有化され、リムルに新たなる力が宿る。

晴嵐竜である所以のスキル【奉公者】は戦いには使えないのは知っていましたが……

 

『【奉公者】によりこの地に雨の恵みをもたらすことを推奨』

『え、使うのです!?』

 

扱える恵みが雨と風しか今のところはないため予想外だった。

 

『雨の恵みにより、辺り一帯へ火耐性を与えることが可能です』

「つまり被害がこれ以上広がらないってことだな!」

『な、なるほど……』

 

以心伝心以外のスキルは無限牢獄の効果により未だに使用できないがゆえに予測できなかったこと。

犠牲をよしとしないリムルには願ったり叶ったりといったところというわけですか。

 

『被害を抑えた次は打開策……つまりは攻撃手段ですね』

『告、精霊には魔法攻撃が特に有効です。推奨、氷魔法の捕食』

『とんとん拍子で事が進みますね……』

 

元の【大賢者】が優秀すぎるために僕の立場がない気がする……

いや、元より茶々入れるぐらいしかしてないのはそうなのですが。

 

※※※

 

そしてその日の夜。

大賢者による解析をしている間に会話をしていた。

 

『……シズエ・イザワの未来、もう理解してるのでしょう?』

『告、【究明者】だけでは分かりかねます』

『ふむ、確かにアレは【探求者(シラズナシ)】との相乗効果が凄まじいものでもありますが……』

 

それでもなお、である。

大賢者が教えてないだけで……きっとイフリートをリムルに捕食されたシズエ・イザワは少ない寿命を更に短くする。

魔人であった彼女の体内からその力を抜き取った際にリムルは彼女の一部を手に入れたに等しい。

というかイフリートがさっきから隣人になったような感じで胃袋に同居している。

無限牢獄という仕切りはあるものの、きっとリムルは今後イフリートを由来とするスキルを会得していくことだろう。

 

『彼女はきっと死ぬ。でもあれが最善だ。僕の判断に間違いはないと信じている』

『……』

『でもリムルは心優しい。きっと彼女が殺してくれと言ったらその通りにしてしまう。苦しんで死ぬより安楽死の方がいいだろうから。だから僕はリムルを支えたい』

 

無限牢獄は日に日にその綻びを広げている。

今は僕の全てを開放できるわけじゃないけど、それでもすこしだけでも干渉ができるようになっている。

 

『だから次は《以心伝心》で得たスキル《分身》を使わせてもらうよ』



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4話

その後、リムルは想像通りに彼女を……シズエ・イザワを捕食した。

その結果、人間の擬態を手に入れ

この世界で初めての喪失を味わった。

 

『……リムル大丈夫ですか?』

(ヴェルドラ……これしかなかったのか?)

『たらればの話ですが……もし、他の手段を取ったとしてもシズエ・イザワの死亡は免れなかったでしょう。それはなにより……』

(ああ、わかってる。どうしようもない現実だって……お前がくれたスキルが教えてくれる……)

 

それでもなお諦められないのはわかります。ただ……

 

『彼女の最後は安らかで幸せでした。だからしみじみとするのはやめましょう?』

「そう、だな……こんなんじゃシズさん心配するもんな」

『……』

 

分身を用いてリムルの前に現れる。

 

「ヴェルドラ……?」

 

空色の瞳に金色の毛髪。褐色の肌を衣服で隠す。

 

「今は泣きましょう。きっとそれがあの人への弔いにもなります」

「わるい……」

 

リムルは僕の胸に収まり声を殺して泣く。

魔物の長という自負が泣き叫ぶことも許せず、このままだとひどく脆くなってしまうかもしれない。

そして何より、自ら頼まれて殺したのは初めてだからだ。

 

※※※

 

「あー!泣いた泣いた!ヴェルドラありがとうな!……ってヴぇるどらぁ!?」

「大声だしたら不都合が……」

 

落ち着いたリムルはようやく今の異常性に気が付いた。

 

「サラマンダーを捕食しリムルが得た【分身体】のスキルで僕の魔素を使い体を作ってみましたが……」

「いや手段じゃなくて……」

「無限牢獄の解析が進めば進むほどリムルの胃袋から外にスキルを用いた干渉ができるようになったのです」

「なるほど……?でもあの時みたいな威圧感もないし妖気も少なめだな」

「まあ、封印される前の何万分の一程度の魔素で作った分身ですからね」

 

しかも使用可能スキルは【以心伝心】と【捕食者】のみ。

ゆえにできることは劣化版リムルと考えてもらっていい。

【究明者】と【探求者】を僕が使うには無限牢獄の完全解除が前提になりそうだ。

 

「……久々に人の姿で抱き着いたけどやっぱハグはいいな。安心する」

「そうですか。それならこの体も作ったかいがあるというもの。あとそれとですが」

「なんだ?」

「服着た方がいいですよ」

「でてけ!!」

 

というやり取りを経て僕はテントからたたき出され外にいる。

そして

 

グルルルルと唸り声をあげる嵐牙狼(カームウルフ)のランガ。

それと冷や汗をかき頭を垂れる人鬼族(ホブゴブリン)のリグルドが僕を歓迎していた。

 

「ヴェルドラ様であられますでしょうか……?」

 

小鬼族(ゴブリン)のリグルドは無限牢獄があった洞窟に一番近い村の村長でもあったためか

僕がヴェルドラだということを薄々感じているようで。

 

『なれば晴嵐竜がなぜリムル様がいるテントの前にいる!』

 

これはあれだな。リムルの着替えを待って……

 

『ヴェ、ヴェルドラ……リグルドに服持って来させてくれ……』

『今そのリグルドとランガに絡まれてるので無茶です……』

 

この事態を解決し、人間の冒険者三名が去るまでにひと悶着あったのは言うまでもない……が

問題はその後だった。

リグルドやリグル、職人であるカイジンと僕とリムルを含んだ五人による会談が行われた。

 

「議題は言うまでもなくヴェルドラ様らしきお方とリムル様の関係についてです。昨日のイフリート騒ぎに置いてリムル様はかつてヴェルドラ様が用いてたような恵みの雨をお降らせになられました」

 

そこで僕は手をあげる。

 

「なんでしょう」

「そこについては僕から。僕ことヴェルドラは知っての通りその昔勇者により無限牢獄に囚われてしまいました。無限牢獄内からでも漏れ出た魔素による威圧感と以前魔王たちと結んだ不可侵条約により300年はジュラの大森林を守護できました。ですが無限牢獄内で日々弱る力。残すところ50年もあればそこらの名有り(ネームド)程度の力しか残らなかったでしょう」

「そんなに弱ってたのか……」

「まあ、それでも一度解放されたら半年もあれば回復しますが……まあ、それはさておき。数えれるほどの日々を過ごしていたところにリムルがやって来たのです」

「ほうほう」

「リムルに名付けを行い、リムルが元より保有していたスキルでの解析受け続ければ無限牢獄からも出ることができる可能性があると思いリムルに無限牢獄ごと捕食されました」

「それがヴェルドラ様の魔素喪失という形でジュラの大森林に影響を及ぼしたというわけですか」

「ええ、今こうして現身を現わしているのはリムルによる解析が進んだためです」

 

こちらの解説は終わるしかし

 

「もしアンタがかの晴嵐竜っていうならかつてドワルゴンがおくった剣はどうしたんだ?」

 

とドワルゴン出身のカイジンが問いを出してきた。

それに対する答えは……

 

「記憶が正しければ……晴嵐を祀る者の長が持っているはずですが……」

「となると樹精霊(ドライアド)の方が持っているのでしょうか?」

「かと思われます。といってもあの剣の本文である大質量による攻撃は出来ませんが……」

「それで、リムル様とのご関係は?」

「僕からすると友であり命の恩人でしょうか?」

 

そして全員の目がリムルに集まる。

 

「んー……友達ではある。けどなんだろうな……声を聞くと安心するっていうかなんというか……?」

「まあ、ずっと頭の中にいたようなものですし?」

「とりあえず、だ。リグルドも知っての通り、オレはヴェルドラの力をほんの少し得ている。だけどだ。オレはヴェルドラの代わりには成らない。いや、成れない。オレとこいつじゃ何もかもが違うからな」

『とおっしゃいますと?』

「オレは正直、今の集落を守るだけがいい。ヴェルドラみたいにジュラの大森林全域を守護だとか恵みだとかは無理だ。だから友であり目標っていうのが正直なところだな」

 

目標……か

そこまですごいものであるつもりはないけど、そう思われるのはいい事のはず。

 

「目標というのなら……大鬼族(オーガ)豚頭族(オーク)蜥蜴人族(リザードマン)を配下にでも付けますか?」

「ジュラの大森林周辺に住まう知恵ある魔物たちか……別に縄張りしえ守れれば……いや、たしかもうジュラの大森林の覇権争いが始まってるんだったな」

「そういうことです。今もなお、牙狼族と小鬼族の群れだと思われているここは取り込もうとする輩がいてもおかしくはないでしょうし」

 

以前の力がすべて戻ったわけではないため現状の僕では付け焼刃程度の手助けしかできない。

それがなによりも悔しかった。

目標とされているのにそれに足る手助けができない。

兄上が知ったらどう思われることか……

 

「それの対策もしないとだな……言っておくがオレは侵略行為はする気ないぞ?」

「もちろん把握してますとも」

 

※※※

 

その後、僕の想定通りというべきか……

宴を開くことになり、食料確保のため狩りにでむく一団に無理を言って付き添い

その結果まさか、いや

やはりというべきか

 

大鬼族(オーガ)……」

 

六名の大鬼族と出くわした。

すでにこちらは複数名が魔法に眠らされここに立っているにはリグルド、ゴブタ、ランガのみ。

 

「ランガは思念伝達でリムルに救援を……ここはどうにか足止めしましょう」

 

支給された盾と剣を構え相手に備える。

 

「何者かは理解しかねますが……とりあえず、責任者が来るまで待つ気は?」

「魔人がよくしゃべる……」

「魔人?」

 

そう首を傾げた結果、老人の大鬼族が刀を抜きはらい襲いかかってくる。

 

「ふむ」

 

落ち着いて剣で斬りはらう。

もし変に刃と刃で撃ち合った場合こちらの剣が斬られる可能性もあるための処置だ。

 

「魔人ではありませんよ。いわゆる擬態です」

「では元の種族を応えてもらおうかの!」

 

元の種族……剣閃を凌ぎながらそう考える。

竜族……と今応えるとさらに波紋を呼ぶだろう。

そもそもあの会議の後、僕はヴェルドラではなくヴァロ・カームという偽名を名乗り、竜族であることは隠すことになった。

 

「さあ、なにでしょう?」

 

ゆえに問いに問いで返すことにした。

答案としては0点だろうが、会話を引き延ばすというのでは問題ないでしょう。

しかし、気を抜いたら切り捨てられると思うほどの剣気はどれほどの魔物だったのだろうか。

この人が配下になってくれればありがたいのだけれど。

 

(300年の鈍りは簡単には取れないか……)

 

そんなことを考えている際にリムルから

 

『おいヴェルドラ!たしかランガたちといたよな!いまどうなってる!』

(狩りをしていたら大鬼族六名と遭遇、ただいま戦闘中です。僕はまだ余裕がありますが……リグルドやゴブタはそろそろ危ないでしょうね。来るなら急ぐことをお勧めします)

 

リムルにそれだけ伝え相手を見据える。

さて、中々楽しくなりそうだ。



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5話

「おいしい……」

 

大鬼族(オーガ)とひと悶着あったのちの宴。久々に味わう肉のうまみにリムルとともに舌鼓を打つ。

 

「獲れたての牛鹿の肉はやはり美味ですね。引き締まって食べ応えもある」

「だな……スライムの時は味覚がなかったから益々美味しく感じる……」

 

もぐもぐと串刺しになった肉を食べる。

 

『……なあヴェルドラ』

『どうされました?』

大鬼族(オーガ)たちのことどう思う?』

『どう……ですか。口ぶりや会話の端から察するに豚頭族(オーク)に里が襲撃されたようなのですが……この時点で妙なのですよね』

『妙……か?』

『ええ、本来大鬼族(オーガ)豚頭族(オーク)に遅れを摂ることはありません。しかし仮面をつけた魔人……可能性があるとすれば中庸道化連なる魔人集団が糸を引いているかもしれないです』

『中庸道化連……?なんだそれ?』

『ピエロマスクを被った悪趣味な奴らです。彼らが豚頭族(オーク)に知恵と武器を授けたとなると納得はできますが……』

『まだなにかあるのか?』

『中庸道化連となると誰かの依頼で動いている可能性が高いのです。もしかしたら豚頭族(オーガ)を率いるないし支配下においた魔王の依頼の可能性もあるのです』

『魔王……か』

『魔王が出てくるとなるとこのジュラの大森林を手中に治めたいとも考えるでしょう』

『放っておいたらこの集落も安全とは言えない……ってことか』

『ええ、近いうちに激突することでしょう。その時のために……』

『戦力は多い方がいいか』

 

リムルは意見をまとめきり宴の端にいる大鬼族(オーガ)の若頭に話を……いや、大鬼族(オーガ)たちを勧誘しに行った。

 

※※※

 

あの後、大鬼族(オーガ)たちはリムルから名を賜り

リムルはまたスリープモードに入った。

毎回の如く回復していた僕の魔素まで消費して名付けしているから弱体化が起きてないものの、初めに僕を捕食していなかったらこのかわいらしい友人はすぐに消えてしまうのだろうな。

と思いながらぷにぷにとリムルを突いている。

 

「ヴァロ様、お代わりしましょうか?」

「そろそろ目覚めるので問題ないですよ」

 

リムルを寝床から拾い上げ高台に置く。

 

「んぁ……ああ?」

「ほら、目覚めましたよ……ってシオンとシュナ近い!」

 

シオンとシュナに圧され、若干後ろに下がる。

 

「申し訳ないヴァロ様……」

「い、いえ……リムルが慕われているようでなにより……クロベエもよく働いてくれてますし皆感謝してますし」

「お、おいヴァロ!この人たちどちらさまだ!?」

「……また考えなしに名前があった方が呼びやすいからで名付けしましたね?」

「リムル様はいつもそうなのか?」

「そうですよ。おそらく今後もリムルは似た乗りで名付けを行うはずなので慣れてくださいベニマル……」

 

衣服を正しテントを後にする。

 

「どちらに?」

「少しばかり偵察に。ベニマルのいう豚頭帝(オークロード)がもし実在していた場合、少しばかり厄介な状況になるので」

 

そう言い残し集落を一望できる高台に向かう。

ここはリムルもよくいるお気に入りの場所だ。

 

大鬼族(オーガ)を勧誘しようとした魔王クレイマンの配下であるゲリュミュッド。たしかリグルドの兄にも名付けをして大鬼族(オーガ)にも………考えられるのは新しい魔王の擁立といったところ?したところでなぜ……?魔王種ではあるはずなのに……配下に欲しいだけなのか?)

 

名有り(ネームド)をばらまいて何をする気なのか……小鬼族(ゴブリン)にも手を出したとなるろ蜥蜴人族(リザードマン)にもすでに接触してると考えて問題ないでしょう。

 

(豚の養殖とは趣味の悪い……まさか豚鬼帝(オークロード)に他の名付け(ネームド)を食わせそのスキルや特性を得ようとしている……?リムルのように?)

 

もしそうならベニマルが持つスキルの一部を持つ可能性もあったということに……

もしシュカのも得たとすればそれはもうどうしようもないことになっていたことでしょう。

 

「不幸中の幸いってやつですか……」

「なーにが不幸中の幸いなんだ?」

「おやリムル。挨拶は済んだのですか?」

「まあな。まったく、目が覚めたらお前がどこかいくもんだから何かあったかと……」

「今のところはまだ、なにも。といったところです。【究明者(アバクモノ)】と【探求者(シラズナシ)】が未だに使えないのでこの広大な大地で僕は手持ちの情報でしか推察することができません」

「そうか。そうなるとさっさと出してやらないとな」

「ゆっくりで構いませんよ。僕が自力で書き起こした解析データがあるとはいえ80年はかかるでしょうし。そもそもユニークスキルの解析を齢1年に満たない魔物に任せるのは本来酷なことです」

「1年って……そっか、まだ1年経ってないんだな」

「ええ、転生してからの日々が濃すぎて忘れちゃいましたか?」

「異世界だから現実離れしてて当然……って所ではあるが、そうだな。まだこの世界に来てそんなに経ってない……か」

「それなのに様々な種族を従えて……今度は大鬼族(オーガ)……いや、鬼人まで。まったくどこまで懐の深さを見せれば気が済むのです?」

「俺の懐はすっごく広いってなによりお前がわかってるだろ?」

「確かに」

 

そこで2人で少しばかり笑い合う。

このスライムがこの世界に来てから退屈がない。

目まぐるしく変わる状況を僕は楽しんでしまっている。

 

「さて、そろそろ戻りましょうか。ソウエイにサボってると知られたらどうなることか」

「だな。さて、じゃあそろそろ聞かせてもらおうか?」

「えーとなにをです?」

「オレをわざわざ女にさせた理由だ!」

 

……そういえば説明してませんでしたね。

これは少し長くなりそう……主に説得に。

 

「いいじゃないですか。リムルかわいいですし」

「お前の言うかわいいって小動物に対するそれだろ!?」

「いやいや、今のリムルは可愛らしくていいと思いますよ。あと50年も経てば妖艶な女型スライムになるでしょう」

「……魔物ってそういうものなのか?」

「種として進化すればその体は成長します。シュナとシオンがいい例です」

「なるほど……いや、だからって……」

「それに以心伝心(ツタエアウモノ)は異性の方が繋がりが強くなるので。その方がリムルのしたいことも出来るようになりますし」

「……ほんとかぁ?」

「2人の姉がいるのですが、そのスキルも元々一部使えてたという話しましょうか?」

 

強すぎる2人の姉さんたち。

究極能力(アルティメットスキル)を兄さんから受け継ぐことが出来なった僕が芽生えさせた家族を繋げる力。

加速と停止、そしてちょっとした絶対防御が使えたのはひとえに兄弟という軛で魂が繋がっているからだ。

 

「竜種の……末弟だったなそういえば。そんなにお前の姉って強いのか?」

「最古の魔王ギィ・クリムゾンの側近してるヴェルザード姉さん。そのギィに名付けをしてぶっ倒れたバカの側近をしてるヴェルグリンド姉さん。僕の育成方針を巡って色々会った時にどこかの大陸が潰れたぐらいには強いです。今も尚成長してるはず……そう考えたら悪寒が……」

 

今思えば身内にゲロ甘いあの2人の姉さんたちが僕が消えたとなってるのに何も無かったの少し怖い……

あー、死んだか

程度で終わってることを祈ろう……

 

「まあ、とりあえず僕達が何を目指すにせよ力はないよりある方がいい。というのが大きな理由ですよ」

「……そう言われると強くは言えないな」

「ご理解いただき何よりです」

 

なお、少し先の未来でリムルがシュナたちの着せ替え人形にされるという事実を知るのはもう少し経ってからだった。

 

※※※

 

クロベエとカイジンに呼び出され僕は1つの大業物を持つ。

魔鉱塊で作られたクロベエとカイジンの合作第1号なのだとか。

 

「ヴァロ殿が昔持ってたやつに比べたら物足りないだろうがどうだ?」

大鬼族(オーガ)とドワーフの技術による大業物……これほどのものを僕に?」

「そうでもしねぇとヴァロ殿の余力に耐えられないと言われたべな」

「……ああ」

 

そういえばこの前、ハクロウと撃ち合った時に白熱しすぎて変に力をかけてしまって折れてしまったのでした……

 

「虹色の波紋を色付かせる刀身、魔力により増大するこの特性……勿体ないぐらいですね」

「まあ、まだまだ荒削りの逸品だ。豚頭族(オーク)との戦闘の時にバンバン使ってくれや」

 

鞘を受け取り袖口を鳴らし納刀する。

 

「この刀の銘は?」

「ヴァロ殿が好きに決めてくれ」

「……まだ無銘で。カイジンとクロベエの作品とはいえまだ完成とは程遠いのでしょう?納得のいく作品ができた時に豪華な名前はとっておきましょう。それまでゆったりと考えさせてもらいます」

 

さーて、これはこれでうれしいけどどうしたものか……

もしあの剣が帰ってきたらどうしよう

 

その不安は実を結び

リムルに接触してきた樹妖精(ドライアド)でありジュラの大森林管理人でもあり、そして晴嵐を祀る者のトレイニーがドワルゴンから賜った剣を持ってきていたことで

僕の冷や汗となって流れ出た。



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6話

「説明、願えますか?ヴェルドラ様?」

 

僕は只今、樹妖精(ドライアド)のトレイニーに問い詰められていた。

腰に無銘の業物を携え、絹織物をその身に纏ったいわゆる和風スタイルになった僕は

机の上に置かれた以前持っていた剣【大地魔剣(グランドキラー)】の虹色に光を反射する刀身を見ながらこう答える。

 

「ひとまず、久しぶりです樹妖精(ドライアド)トレイニー。息災でなによりです」

「ええ、それについてはヴェルドラ様も何よりでございます」

(どうせ森の全てを把握しているのに説明するもなにも……)

「ご説明、お願いします。我らが神?」

 

封印前も吞気に辺りに恵を与えていた僕を止めたりだとか、ルミナスとも通じてなにやらしていたみたいだし頭が上がらない。

 

「ぜひ復活の吉報をヴェルザード様やルミナス様に伝えてもいいのですよ?」

「そ、それだけは勘弁を!」

 

神妙な面持ちでそれを聞いていたリムルはいよいよにやけが止まらなくなっている。

 

「そこのリムルの方が事細やかに把握してるかと」

「ヴェルドラおまえ!?」

 

互いに足を引っ張りあい、どうにかこうにかトレイニーを説得ないし説明を終える。

それで生まれた結論は

 

「ではこの魔剣はこの村に置いておくとしましょう」

「知る人が見れば晴嵐竜の権威の象徴ですからね……」

「それに全盛期に足らない力しか持たないヴェルドラ様ではどの道、十全に振るえないでしょう?」

「おっしゃる通りで…………」

 

全盛期の何万分の一程度の力しか出せないこの分身体に意識を宿しただけの魔竜では

剣を持ったとしても扱いきれないのはわかりきっていたことだ。

 

「ドワルゴンで造られた竜種専用の大剣……か」

 

この魔剣は別に竜種でしか扱えないというモノではない。

ただ膨大な魔素を有していないのであれば魔素をすべて剣に持って行かれるというだけだ。

空間属性の斬撃を放ち、治癒が難しい深手を大地にすらも与える……実はとある魔王に勝つためにそういったようにした剣。

ゲームならアーティファクトやらなんやら言われたい放題になるであろうそれは

一旦この村に置かれることになった。

 

「話はそこそこに……トレイニー、全盛期の僕を知る君に問います。かの豚頭帝(オークロード)と今の僕ではどちらが強大ですか?」

「残念ながら豚頭帝(オークロード)の方でしょう。打ち合い、相討ちに持ち込むというのなら話は分かりませんが」

「となると……豚頭帝(オークロード)の特性がある以上は……リムル、とりあえず早急に蜥蜴人族(リザードマン)と共闘関係を取り付けた方がいいですね」

「だな。ソウエイがその件は動いてくれている。俺たちは部隊の編成、武装を整えないとな」

 

食べた獲物の能力を得るリムルと同じような能力を持つ彼らにとっては

道行く多種族は進化を促す糧でしかないのだろう。

 

※※※

 

とある魔王の領地にて

 

「ヴェルドラが復活とな?」

「はい、ジュラの大森林に放っていた間者によりますと微量ではありますがかの邪竜と同じ魔素を持つ金髪の男性が確認されたそうです」

「ふむ……肌の色は?」

「色……と申されますと?」

「黒や白、もっと言えば赤などあるじゃろ」

「……確認してまいります」

 

オッドアイの少女はため息をつき、確認に向かった神父を見送る。

 

「数百年前の邪竜との決闘からそなたが恋しいぞ、玲瓏竜ヴェルゼルードよ」

 

※※※

 

軽くて丈夫、それに何よりも生前着慣れ……てはない着物のような衣服はなかなかうまく着ることができない

そもそも人型もつい最近久々になった姿であり、竜の頃と視点が違うからすこし違和感すら覚えている。

で、ひとつ問題が提示された。

 

「上ってつけた方がいいのか?」

「知りませんがぁ!?」

 

女性歴一ヶ月のリムルはそんな疑問を僕にぶつけてくる。

 

「ヴェルドラくんさぁ?オレを女にしたんだからそういうのも考えてるんだよなぁ?」

 

ニヤニヤ顔で僕に近寄ってくる盟友約一名。

こういう時水を得た魚になるのはどうなのですかね!

 

「せっかくだ、大賢者。ヴェルドラ本体から好みの女性をリサーチして姿を真似てくれ」

「ちょっとぉ!?」

 

魔素で構築された黒霧がリムルを包み、その姿を変えていく。

ポニーテイルにくびれた腰、そして豊かな……って!

 

「ストーップ!プライバシーの侵害です!」

「オレを女にしたんだ。責任ぐらい取れ!」

「ヒェェェ!!」

 

その日、リムル・カームが女性であること、そして僕ことヴァロはリムルに大きく出れないことが周知の事実となるのでした。

くそぉ!こうなったらもうやけですよやけ!

 

「じゃあ、子でもなしますか?本来ものすごく危険な行為ですが」

「子どもって……ん?危険?」

「折角なので魔物が繫殖におけるデメリットを伝えましょう」

 

本来ならば名付けと同様に子どもを成すという行為は自身の魔素を子どもに分け与えるため親の弱体化が見込められる行為。

そうでもしなければ子どもは弱肉強食である環境下で生き残ることはできない。

この仕組みは僕の兄であり様々な究極能力(アルティメットスキル)を有していたヴェルダナーヴァにも適応されている。

 

「ここからはただ単純な好奇心ですが、名付けを行ってもリムルは魔素を著しく消費するだけに留まっており、弱体化はおろかメキメキと力を付けています。それが子を残した場合でも適応されるかどうか…………」

「お前今すっごい変態な感じだぞ、大丈夫か?」

「気になったら止められない性分でして」

「ま、まあ……お前の兄さんでも抗えなかった節理に囚われてないのが気になるっていうのはわかるけどさ……」

「学術的興味は以前変わらず尽きませんね」

 

そんな会話をしているとリムルの秘書となったシオンが部屋に突撃してくる。

その手には……メモリが刻まれた紐のようなものが。

……なにを採寸する気で

 

「リムル様!おめかしのお時間ですよ!」

 

さっとリムルと距離を取り

 

「どうぞどうぞ。見違える美人になることを祈ってますよ」

「あら、ヴァロ様もですよ?」

「……はい?」

 

男を着せ替えさせて何が楽しいのやら……

 

「カイジン様やクロベエが試してもらいたい武具があるそうです」

「なるほどそう来ましたか…………」

「……カッコイイ武人になることを祈ってるぞ」

 

大方、例の魔剣を見せた結果、職人魂が刺激されたのでしょう。

となると更なる武装が期待できるはず……?

 

「……ともかく、互いに何とかしましょう。色々と」

 

※※※

 

豚頭族(オーク)が全身鎧で武装してるのであればこちらは機動性で上回る必要がある。

それは誰もがわかっていた。

こちらの戦力はほぼ人鬼族(ホブゴブリン)であり、そのペアとなる晴嵐狼族(カームウルフ)

まあ、間違いなく防御力は少ない。

故に一撃必殺がいいのだろう。

 

「……となるのはわかるのですが」

 

どこからどう見ても3mはくだらない大太刀が広間に置かれていた。

 

「ささ、ヴァロ殿試し斬りどうぞだべ」

「……まあ、やってやりますか」

 

この程度の重量ならきっと振り回すことは簡単のはず。

試し斬りの相手はそこらに居た魔物の死骸。

 

「……空間断絶は抜きの方がいいですね」

 

踏み込み、斬り払う。

それだけで風が生まれ凪が乱れる。

そして死骸が2枚に切り裂かれる。

 

「おお、さすが……」

「これだけの長さのを扱うことになるのは驚きでしたが……どうにかなるものですね」

 

他にも槍やら斧、様々な武具が置かれている。

 

「ヴァロ殿はリムル様からどんなものでも一流以上に扱えるって聞いてな、武具の試しにはうってつけだろうってな」

「ふむ、たしかに……となると、鍛え方や製法を変えてみたのです?」

「んだべ。刀と同じように打った斧。両刃にした刀もあるべ」

「諸刃!?それはなんとも奇妙な……」

 

面白い武器であるのは確かにそうではある。

鋭く輝く刀……生前読んでた漫画で逆刃なら見た事ありますが、これはどうも扱うのにさらに苦労しそう……

 

「200年は武器に触れてこなかったゆえに、どれも目移りしてしまいますね……」

 

どれもがドワーフと鬼人の合作であり、売ってしまえば家ほどは買えてしまえそうな一品。

……脇差として一本は貰っておこ



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7話

蜥蜴人族(リザードマン)の交渉人としてガビルという名有り(ネームド)の魔物がリムルの村にやってきた。

周りに持ち上げられ不遜な態度を持ったそれなりに強いらしいが、新しく影移動を覚えたゴブタに一蹴され引き返した。

のはいいものの

 

蜥蜴人族(リザードマン)ってそんなに知能低かったかな……」

「どしたヴェルドラ?」

「迷宮のように入り組んだ洞窟を利用し、侵入者を撃退するぐらいの知能は200年前の時点で獲得してるはずなのですよ。それに魔物は一定以上の魔素を有すると言語能力を習得する傾向にあるので……」

「……まあ、自意識過剰なやつだったな」

 

そして結局予想通り名有り(ネームド)の魔物を増やしているのがいるとみて間違いない。

魔素量が多く、そして唯一性の高い強力なユニークスキルを保持していた場合、その魔物は魔王の種である魔王種を有することになる。

魔王種を有した後は数万単位の人間の魂を糧とすることで真なる魔王への発芽が起こる。

 

「魔王を擁立させようとする魔王がいるという推察はほぼ当たってそうですね。魔人ゲルミュッド……たしかクレイマンの配下だったはず……?不可侵条約なんだと思ってるのやら……」

「不可侵条約……?」

「ああ、言ってませんでしたね。ジュラの森は小鬼族(ゴブリン)や牙狼族を初めとする魔物が数多く生息しています。それ故にその魔物を守るために魔王たちと交わしたのが不可侵条約なのですが……」

「その魔王が条約を破ってるっぽいってことか?」

「まあ、そういうわけです。クレイマンとかいう若造ならまだしも……ミリムが来るのはものすごくマズイ……その次にフレイ……カリオンはまあ、いいか」

「……もしかして今言ったのって」

「全部魔王ですが?」

「だろうな!全部マズいと思うんだけど!?」

 

力押しのカリオン

空中戦のフレイ

精神支配のクレイマン

最強と言って差し支えないミリム

面倒すぎる……

 

「頑張っていればクレイマンの精神支配は抵抗できますし、カリオンの力は空気に加護を付与すればどうにでもなりますし……フレイはちょっと飛び回るので面倒なのですよね」

「それってお前が全盛だった時の話だろ?今はそうでも無いんじゃないか?」

「ええ、なのでリムルが頑張ることになりますね」

「……オレ、死なない?」

「そうならないように援護しますよ」

 

とにかくまずは豚頭族(オーク)の脅威を解決してから……

ミリムは弱い魔物には興味を持ちにくいのが唯一の救いでしょう。

……いやでもしゃべれる名有り(ネームド)のスライムは十分に面白いような

 

「魔王なぁ……そこらの身の振り方も考えておかないとな」

「人間を敵視しない魔物の群れというのは難儀なものですからね」

 

ちなみに今はリムル専用の庵で寛いでいる最中。

揺らめく焚き火を見ながら豚頭族(オーク)に対する戦略をねっていた。

 

「ソウエイの報告では20万もの軍勢……現在、蜥蜴人族(リザードマン)の支配領域である湿地に進行中。鬼人たちの戦力があるとはいえ豚頭帝(オークロード)の指揮下にある豚頭族(オーク)の脅威度は測りかねますね……少なくとも蜥蜴人族(リザードマン)が捕食されてないのであれば湿地に対する適正は無いので足は泥濘に取られると思いますが……」

 

トレイニーから正式に豚頭帝(オークロード)の討伐を受けた故に勝ち戦にしなければならないのが面倒……

 

「捕食者と飢餓者(ウエルモノ)……似たようなスキルを持つ魔物の戦い、ここでリムルを失う訳にも行かないですからね。まあ、負けたら皆殺しになるので勝つのは大前提ですけれど」

「ハクロウに稽古付けられてるゴブタ達ゴブリンライダーとランガ、それとベニマルの炎で一気に削るか?」

「耐性を付けられたら厄介ですが大いにありですね。強襲、夜襲。なんだってしましょう」

 

一つ気がかりなのは中庸道化連……彼らの入れ知恵は扇動させるにうってつけと言える。

蜥蜴人族(リザードマン)がどうか賢い種族であることを祈りましょう。

 

※※※

 

ソウエイが蜥蜴人族(リザードマン)の首領と話をつけたことでほぼ間違いなく蜥蜴人族(リザードマン)との合流ができる。

合流まであと五日。

それまでに僕ができることそれは。

 

「……まあ、《以心伝心(ツタエアウモノ)》の強化ですよね」

「すっごい端的に言うがそれとこれはどう繋がるんだ?」

 

夜、僕とリムルは軽装に身を包み森を散歩していた。

見慣れた高台で松明の灯りが夜景を生み出す集落を見る。

 

「《以心伝心(ツタエアウモノ)》の結び付きを強化するにはその対象との繋がりを強くするに限ります……まあ、簡単に言えば唯一の関係性になるとかです」

「ふむふむ」

「というわけで結婚しましょう」

「ふむ……ふむ?」

「ちょうどよく同じ苗字ですし」

「いやいやいや!少し待て!」

 

性癖ピーピングでそんな格好になってるのによく言う……

 

「勝てる確率を上げて勝ち戦を狙うのはわかる!だが……むう……」

 

モジモジとし、リムルは顔を隠す。

 

「それともし魔王種を得、その先の覚醒となった場合。子孫はまず間違いなく残しにくくなりますし」

「そ、そうか……そうだったな。寿命がなくなるし精神生命体になるからな……」

「……ちなみに戦の打算もありますが。それ以外の意図もあるので悪しからず」

「……たっく、合理主義だなお前は」

 

その時、世界の声が響く

【エクストラスキル《以心伝心(ツタエアウモノ)》はエクストラスキル《相思相愛(ラヴァーズ)》へ進化しました】

 

「いいぜ、今生ずっと付きまとわれても文句言うなよ?」

「ええ、望むところです。これでやっとリムルを守れますから」

「言ってろ封印されてるドラゴン」

 

万全を備える性格が故に得たエクストラスキルとこれから愛しいと形容すべきリムル。

これにより強化された僕ら2人は……

湿地帯に展開していたオークを蹂躙したことでその力を無事魔王たちに目をつけられることになるのでした。

 

※※※

 

「……ユニークとエクストラでここまで違うとは」

 

相思相愛(ラヴァーズ)により封印前よりも強くなった他者との繋がりが更なる力を僕に与える。

ヴェルザード姉さんの停止

ヴェルグリンド姉さんの加速

その効果により。

僕を中心とした10数万の豚頭族(オーク)の動きは止まっていた。

 

「生け捕り……はかなり簡単にできてしまいましたか。せっかくの業物がこれでは見せ場がなく泣いてしまうでしょう」

「泣きたいのはこっちだよ。その停止の力をお前以上に使う姉さんとやらに挨拶するのがすっげぇ怖い」

「確かに、それは言えてるでしょうね」

 

豚頭族(オーク)の上位種たる豚頭将軍(オークジェネラル)さえも停止した空間の中では無力。

赤子でさえ泣くことが出来るというのに、それすらも許して貰えぬ停止の力……さすがは畏怖すべき姉さんの力です。

 

「鬼人たちやランガの攻撃で道は拓けました。あとはリムルが豚頭帝(オークロード)に勝つだけですね」

「ああ、じゃあ行ってくる」

 

そんなリムルの額に接吻をする。

 

「……色ボケ」

「夫婦は夫婦らしくですよ」

 

そんな僕たちの近くに飛来する者がいた。

それは魔人。鳥の頭の様なマスクを付けた白いスーツの魔人。

名はゲルミュッド。

名付けを行い続け魔王を生み出さんとしている存在。

 

「貴様らよくも俺の邪魔をしてくれたな!」

 

名付けをした割にはそれなりの魔素量。

そして聞いてもいないのに口を開きその計画を説明してくれる。

 

豚頭帝(オークロード)の養分となりさっさと消え去ればいいものを!」

「勝手に独白してくれる敵ほど面白い見世物はそうそうありませんね」

「まあ、たしかに。にしても頭悪そうだなコイツ」

「実際に悪いのでしょう。種族に対して並々ならぬ拘りを持ってそうです」

「俺を無視して喋ってるんじゃねぇ!」

 

魔王を手駒にしたい上位魔人。数百年前にも似たような事があったことでしょう。

しかし、大前提を知らない魔物が多すぎる。

真なる魔王となり究極技能(アルティメットスキル)を得た存在にはユニーククラスの支配系スキルは効かない。

それに、魔物のルールは一つ。

強いものに従う。

 

「考えることもどうやら小賢しい魔人のようです」

「ちぃ……!」

 

赤い魔力の小粒を何粒も出しそれを一斉にこちらに放ってくる。

それを背から生えた空色の翼が防ぐ。

 

「矮小ゆえに威を借る……。貴方が欲しがってた威はこうして放つものですよ?」

 

返しとしてこちらの魔力を解き放つ。

リムルの黒稲妻、黒炎。

そして僕が持っていた水と風の力。

それはを統合して放つ今できる最大の威。

 

四剛竜陣(クアドラルサークル)

 

炎、水、風、空間

四つ属性が竜となり、戦場を轟かせる。

黒き破壊の塊となった4体の竜が魔人ゲルミュッドへと襲いかかった。

 

「久々の戦闘……滾らせるという段階には到達することはありませんでしたが……ご苦労様でした。おやすみ、魔人ゲルミュッド」



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8話

伏線貼るのがめんどうになりました


マスクが粉微塵になり現れた顔。

焼け焦げ、雷に撃たれ、激流に揉まれ、声すらも届かぬ空間を体感した魔人は地に伏せる以外の選択肢は無かった。

 

「ゲルドォォ……俺を…………父を助けろぉぉぉぉ!!」

 

声色すらも変わり、自分が擁立した豚頭帝(オークロード)に未だ指図をする姿は滑稽と言えるだろう。

……どれかの耐性は獲得するかと思ったのにそれすらも無いのか。

 

「ヴァロ、やりすぎ」

「やりすぎぐらいが丁度いいのですよ。少なくとも僕はこの地を守る存在として鉄槌を下す責務があるものですから……おや?」

 

瀕死のゲルミュッドに対して行われたこと。

それは……格好の養分と判断した豚頭帝(オークロード)にその体を生きたまま頭から食われることだった。

ベキッボキャと食われ嚥下され胃袋に接種された魔素は魔物を進化へと至らせるに充分なほどだ。

 

「……少々面倒な。魔王種を獲得される前に討伐したかったものですが」

「いいさ、どっちにしろ仮面の魔人も倒さないといけなかったからな。むしろ、ひとつになってくれて好都合と考えようぜ?」

 

魔王種と化した豚頭魔王(オークディザスター)ゲルドが吼える。

種のため、己が欲望を満たすため。

この地を踏みにじり蹂躙した後に目指すものは……

人間への侵攻かそれとも……

どっちにしろ、どんな道筋を辿ろうとも多くの魔物や人間の命が失われるだろう。

豚頭魔王(オークディザスター)の性質上、人間の魂が集まるのは一瞬だろう。

その魂を糧に真なる魔王へと覚醒されると戦火はさらに大きくなるだろう……

 

「となるとギィが出てくる可能性も……」

 

究極技能(アルティメットスキル)獲得には至って無いもののユニークだけで本来は警戒すべき脅威のはず。

確実にここで倒すためにはリムルとゲルドを食わせ合わすことが1番でしょうか……

 

「なぁヴァロ、一緒に死んでくれるか?」

「心中ですか、流行りませんよ?」

 

まあ、リムルが死ぬとリムルの腹の中にいる僕の本体も消えるので死ぬのは変わりませんが。

 

「たっく、ロマンが分からないやつだな。こんど漫画でも読んどけ」

 

バシッと背を叩かれリムルは前に出る。

しかしだ。

その時、ぞわりと精神体が揺さぶられた。

 

聞こえるのは懐かしい声

そして、イラつきすらも覚える

『貴様、まだ目を通しておらんのか!』

轟く風まとわりつくアホさ

 

「……ッ!」

 

頭を抑える。

僕はヴェルドラ。この世に現存する竜種の末弟。

水と風、祝福を司る存在。

そのはずだ。

 

「な、なんだ。当たりどころまずかったか!?」

「違う……僕の……僕は……ヴェルドラ……?」

 

兄さんが死んだ時。唯一究極能力(アルティメットスキル)を受け継がれられなかった竜種。

いまだにその域に達せれぬ封印された邪竜……

邪竜……違う。僕は加護を与えた。それ故に彼女に付けられた渾名は晴嵐。

あの勇者……●●●●に付けられた。

晴れ渡る霞とも呼べる加護の竜……

兄を吸収した竜屠者(ドラゴンボーン)……

兄を……?星の竜たる兄さんに僕が勝てるはずがない。

僕は何に勝った……

何を得た?

 

「リムルごめん……少し眠る……勇姿は見とくから……」

 

それだけ言い残しボクは本体へと戻る。

齟齬の発生した記憶のピースをはめ直すために。

 

※※※

 

リムルの体内にて目を開く。

そこにはイフリートと……もう2体の竜。

黒き鱗を持ち空色の瞳を持つ、翼と腕が同一化した竜。

僕の本体。

そして、何かを読んでいる翼と腕が別の一般的な黒い竜。

黄色い瞳を持つ邪竜。

 

「ようやっと帰ってきおったか。愚弟よ」

「うるさいよクソ兄貴」

 

僕の兄ヴェルドラ。

そして僕は玲瓏竜ヴェルゼルード。

()()の竜種の末弟にして、空間と水、土を司る加護をもたらす賢竜。

僕はひとつのスキルを使う。

数百年使うのを封じていたスキル。

無貌之王(ファラオ)それを使う。

黒い鱗は輝く。パキパキと空色に亀裂が走る。

 

「寂しいでは無いか。我に勝利してから380年もシカトとは」

「……イフリート、兄貴と将棋でもしてて」

「……はい?」

「いや、あの兄貴と話すのも面倒で」

「兄と弟の語らいぐらいしようではないか!ヴェルゼルードよ!」

「やだ!絶対にヤダ!」

「わがままを言うでないわ!」

「その言葉そのまま返す!」

 

ギャイギャイと数百年ぶりの兄弟喧嘩を行う。

 

「貴様、兄上に次いで婚姻を結ぶとは思うておらなんだわ!」

「奥手なヴェルザード姉さんと貧乏くじ担当のヴェルグリンド姉さんがおかしいだけだろそれ」

「お前それ姉上達の前で言うでないぞ!死ぬぞ!?」

「うっさい!どうせここの会話は大賢者とここにいる3人しか知らないからいいんだよ!」

「ヴェルゼルード殿……?話口調が違いすぎませんか?」

「……」

 

顔を真っ赤にする。

そうだった。この兄と喋るといつも知能指数が下がってしまう。

 

「落ち着け……今日は記憶の再生をしに来たんだ。落ち着け……」

 

無貌之王(ファラオ)の力を使い、別人格として分けていた記憶を呼び起こす。

あやふやだったことが鮮明に過ぎる。

僕は死に、竜としての生を受けた。

持ってたスキルは

他者との繋がりを恋焦がれたスキル以心伝心(ツタエアウモノ)

そして、英雄への憧れから生まれたスキル竜屠者(ドラゴンボーン)

 

「して、リムルがいっておった漫画だが。お前には明治剣客……」

「邪魔するなよ!?」

 

バラついた思考をもう一度まとめる。

 

「イフリートよ……弟が怖い……あれは反抗期と言うやつか?」

(ちゃらんぽらんな兄が嫌いなんだろうな)

 

僕が身を寄せたのは吸血鬼の国。そこに居たのは真祖の姫。

彼女と交友を含め、彼女の理想に共感し

それを叶えた。加護を与え、第二の生にたしかな感触を感じてる時に●●●●がいった。

この国はヴェルドラに攻め込まれて焼け野原になると。

 

「……それを阻止しようと決闘して勝ったのはいいけどスキルが発動したのか……」

 

強烈な兄の意識ごと魂や魔素を使いどころが全くない竜を食べるスキル竜屠者(ドラゴンボーン)が発動。

それにより兄がこうして体内にいるのだった。

 

「なあなあ。イフリートは我の方が付き合い長いよな?どう思う?」

「ヴェルゼルード殿の苦労は理解しております」

 

ひとつの体に2つの意識は不要。それにより解離性同一性障害を参考に生まれた精神の檻に兄を投獄、ないし封印し。

その時に僕だけの僕による究極能力(アルティメットスキル)を得た。

 

「して、リムルに我のことはいつ紹介してくれるのだ?」

「ちょっと立て込んでるから後にして……」

 

無貌之王(ファラオ)により世界全域の究極能力(アルティメットスキル)を持たぬものを初めとした一部以外にヴェルドラとヴェルゼルードは同一の存在であると誤認させることだった。

 

「……それは僕自身すらも対象だった?馬鹿なの死ぬの?」

「ほら、今も頭を抱えておりますよ」

「あやつは昔からケアレスミスが多かったからな。まあ、可愛げのある弟だろう?」

「数百年も気が付かないのはもはや天然では?」

「天然ジゴロだしな」

「外野二人うっさい!」

 

こーんなことをしてる場合じゃない。

リムルは魔王種との戦闘を開始してしまった。

それをどうにか援護しなければと言うのに……

 

「無限牢獄の解析など暇だからとはいえ我はせぬしなぁ……やはり根が真面目なのだろうな」

「なるほど。確かに、ヴェルゼルード殿が残した指南書はだいぶわかりやすくまとめてられましたね」

「……何の話?」

「ヴェルゼルードよ。自身のスキルは把握した方が良いぞ」

 

何をどうすればいいのか何も分からない……

 

「しかし、吸収されたとはいえ我がスキルを我流に昇華して自分のものへとするとは脱帽したぞ。さすが兄上に究極能力(アルティメットスキル)は不要と判断された逸材だな!」

「え、そうなんです!?ヴェルダナーヴァ兄さんがそんなことを!?」

「やはり兄上の話には食いつくな……どうせ数百年もせぬうちに身につけるだろうと与えられなかったのだ。現にすぐに身につけよったしな」

「なるほどなるほど……僕は兄上に見捨てられたものだと……」

「いや、お主を見捨てようとしたのはあの勇者ぐらいじゃろう。しっかもやけになっておったしな」

「勇者……?」

「そこは覚えておらぬのか」

「●●●●のこと?」

「扱いが名前を言ってはいけないあの人と同義なのか……?」

「……なるべく思い出したくない」

 

黒髪のあの子のことはなるべく後回しがいい。

今はなんというか……触れるべきじゃない。

 

「自認したとなると……いやでも。表社会に彼女は面倒だから出てこないしいっか……」

「にしても人間の体か。羨ましい限りだ」

「羨ましい……?出力も全然出ないし、小さくて空飛ぶのも一苦労だけど」

「何を言うか。この漫画(セイテン)に記載されている技は人間のものが大半なのだぞ!お前も卍解などしてみるといい!」

「バンカ……なにそれ?」

「貴様転生者なのに忘れおったのか!」

「いやだって何百年前のことだと……」

「ええい!その体貸してみよ!」

「うわっ!入ってくるな!」

「その刀は飾りでないだろう!」

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしてるうちにリムルは魔王種を捕食。

全ての事なきを得、夫となった初仕事の最中なぜか消えた魔人の名を手にしたのでした。

ユルシテ



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9話

ヴェルゼルードいじめるぞひゃっほい


「さて、ヴェルドラ改めヴェルゼルードくん。なにか申し開きはあるかね?」

 

リムルの庵にて僕は正座で彼女の前に座らされていた。

白装束で短刀を近くに置かれ、リムルの側には秘密裏に作られた刀がある。

罪状は無論、リムルの腹の中で大暴れ兄弟喧嘩をした結果。

僕のスキル無貌之王(ファラオ)が解除され、経歴詐称が露見したから。

それも先に結魂をしたため日本人的な観点ではまあ不味いのでしょう。

 

「……いやだって」

「言い訳は求めてないから」

 

 

さすがは豚頭族(オーク)を加え、蜥蜴人族(リザードマン)とも協定を結び、ジュラの森大同盟の盟主となった魔物。

圧が凄まじい。

 

「仕方ないことはわかるそれでもだな」

「……ですね。親しき仲にも礼儀ありです」

 

指を揃え地面に付け頭を下げる。

 

「今まで騙してしまい、申し訳ありません」

「それでいい。大賢者も不本意って言ってるからな」

 

リムルはため息をつき

 

「貸しひとつな。それで許してやる」

「ありがとうございます……」

 

そしてリムルは庵にとある結界を貼る。

にやりと微笑むその顔は女狐と形容するのが相応しいかもしれない。

 

「じゃあ早速貸し使うか」

「早くないですか?」

「ヴェルゼルードにも利がある事だから安心しろって……な?」

 

僕に近寄り頬に手をやるリムル。

あ、コレ女狐じゃなくて……

 

「な、何をする気で……?」

「子どもを作ったらどうなるか気になるって言ってただろ?」

 

※※※

 

豚頭族(オーク)が進化した豚人族(ハイオーク)の労働力が手に入り、集落の発展予想図は町と呼ぶにふさわしいものになった。

採石場で得た石を切り出し石畳を作り、セメントなども用意し木の家から大幅に住み心地と耐久性が良くなった。

樹妖精(ドライアド)から木々の実りを貰い、美味な魔物も判明し始め食生活の品質もかなりのものとなった。

それはいいのですが。

 

「そういえばヴァロ殿は役どころはあるのですか?」

 

ある日、訓練と称してベニマルと模擬戦を行い一段落した所でそう聞かれた。

そう、僕はまだ役どころはない。リムルは考えているだろうが何を与えるきのなのだろうか。

 

「リムルも決めあぐねているようです。侍大将ほどの大役ではないといいのですが」

「何を言いますか。間違いなくリムル様と同等以上の力を秘めているヴァロ殿に俺なんかは及びませんよ」

「侍大将……戦いにおける指揮は力も大事ですがそれよりも大切なことが複数あります。それを加味した場合、ベニマルの方が向いていると思いますよ」

 

視野の広さ、部下の得手不得手を見極める観察眼。

そして何よりもこの人について行きたいと思わせるカリスマ。

リムルの分身体を依代として顕現している今の状態では分身体へ蓄えた魔素を使い切ると本体へと戻されてしまう。

そんな奴が大将を務めてしまうのはさすがにまずい。

 

「リムルより勝利を優先する気が僕には無いのもありますからね」

「将としては間違っていても夫としては正しいと思いますよ」

「……まあ、強ければ1匹ぐらいなら守れるでしょうから」

 

リムルの町は開発途上。

やっと水道の整備が始まりろ過した水を通す上下水道を設置している最中だ。

リムルの前世の知識があるとはいえ流石と言わざるを得ない。

そんなことをしているとハクロウとの鍛錬を終えたリムルがやってきた。

 

「さらしいってぇ……」

「別に縮ませればいいのでは?」

「お前が好きそうなのを頑張ってんだよ言わせんな。ほら行くぞ」

「ハイハイお姫様」

 

この後の予定はリムルと各現場の視察。

どうなってるかや職人たちの関係性を除くには持ってこいだろう。

そんな時にソウエイが現れた。

その顔は変化は少ないが少し強ばっていた……ソウエイの顔が!?

 

「リムルさま、ご来客です」

「来客……今日はそんな予定無いはずだけど」

「厳密にはヴァロ殿に対する来客です」

「僕?……絶対ろくでもないことになりますよ」

「あら、なにがろくでもないのかしら?」

「僕を指定するということは祀る民関連かルミナス関連か。1番ありそうでありえないのは北の国から姉さんが来ること……」

 

懐かしい声につい答えてしまったが首元に突き刺さる寒気を感じ声の主を確認する。

そこには銀色の頭髪に青い瞳。透き通るような白い肌を持つ僕の姉、白氷竜ヴェルザードその人がいた。

 

「ね、姉さんお久しぶりです……」

「結魂おめでとう、姉弟のお話しましょうか。小姑みたいでごめんなさいね、この子借りてくわよ」

「ちょ、この後オレたちには用事が……」

「今の私はそれなりに機嫌が悪いの、ここ全てを凍らされたくないなら従った方がいいわよ?」

「リムル、ここは従った方がいいです……実際にそれをするだけの魔素もスキルも姉さんありますから……」

 

微笑みながらも冷気を立ち込めさせる姉さん。

そんな身内の来訪で僕の平穏は一旦の終りを迎えたのでした。

 

※※※

 

建造途中の迎賓館を使うわけにもいかず、ひとまず例の丘に姉さんを案内する。

お茶は出ませんがまあいいでしょう。

 

「さて、あんなにかわいかった弟がスライムと結魂したと聞いてはさすがに黙ってられない姉さんになにか説明はあるかしら?」

「えっとですね……話せば長くなりますが……」

「そういった貴方の話が長かった試しはないわ。全部洗いざらい話なさい?」

「はい……」

 

寿命が極端に長いがゆえに起こる弊害。

月単位で話さなければ長くない……正直やめてほしい。

まあわからなくはないですが

 

「それに私よりあのスライムの方が繋がりが強いってどういうことかしら?」

「それはまあ……妻ですし……」

「お姉さん寂しいわ。姉上と永劫一緒にいたいと言っていたヴェルゼルードはどこにいったのかしら?」

「何百年前の話ですかそれ!」

「それともヴェルドラみたいに私も食べて一緒にいるつもりかしら?」

「……それは」

「ふふ、意地悪だったわね」

 

姉さんは自身の力で氷のイスを作り腰を掛ける。

 

「ギィはね。貴方が新しい魔王にならなかったことを残念がっているのよ」

「それは原初の赤が自分を倒せる可能性を持つ存在を気に入るが故でしょう?」

「疎ましいことにね。最上位精霊である竜種を吸収した竜種なんてこの世界に一匹しかいない。そうでしょう?」

 

竜屠者(ドラゴンボーン)で兄貴を吸収した僕はその結果、無貌之王(ファラオ)とは別の究極能力(アルティメットスキル)暴風之王(ヴェルドラ)】を獲得、スキルを起点に兄貴の力を振るえるようにもなっていた。

おそらくは倒せればの話ではありますが、姉上たちも吸収できるはず。しかし……

 

「これ以上の力はいりません。人間の脅威となるわけには……」

「それでも邪竜と呼ばれたヴェルドラを倒した竜なの?」

「それでも、です。兄貴から奪ったモノは力だけではないですから」

「森林の守護ね……昔から生真面目ね貴方」

「姉さんは興味を持つこと以外知ろうとしなさすぎです」

「あら、悪いかしら?」

「……悪くはないですが。ゴホン、結局何用で?僕の様子を見に来ただけじゃないでしょう?」

「傷心旅行よ。そのついでに愛しい弟が復活したらしいから立ち寄っただけ」

「傷心……?」

「そ、傷心。ギィにフられちゃった」

「………」

 

姉さんがギィに告白したことが意外だった。

姉さんは停滞を好むから……なぜ……?

 

「だからまあ、死に場所探しとかも含めてね。貴方の中で終えるのもいいかと思ったけど……」

「僕ら竜種はそもそも物質肉体(マテリアルボディー)を失った程度では死にませんからね。兄貴の魂は無限牢獄のせいで今はある程度自由ですが、本来は精神の檻に入ってます」

「そ、さすがね。やると決めたらとことんやる性格も変わってないみたい」

「なので僕の中で終えようとするのはやめてください」

「貴方になら私の全部あげても良かったのだけど……まあ、いいわ。それならそれで考えがあるもの」

「考え……?」

 

姉さんの瞳が妖しく光る。

 

「私も貴方と結魂するわ」

「……いまなんと?」

「結魂するっていったのよ?何か問題あるかしら?」

「おおありですがぁ!?!?!?!?」



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